星の巫女は貴方を待ち続ける (アステカのキャスター)
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ギルガメッシュ叙事詩
始まりは突然に……


 

 古代メソポタミア文明

 

 

 神代の時代を綴ったギルガメシュ叙事詩

 

 

 神代の時代を統一し、神と人の間に生まれた半神半人

 

 

 ウルクを治めた人類最古の王、名をギルガメッシュ

 

 

 彼はあらゆる財、この世全ての財を我が物とした

 

 

 古今東西、あらゆる贅沢をつくし、あらゆる財を手にした王

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、彼にも唯一手に入らなかったものがある

 

 

 

 彼は手に入れる事が……いや、彼の手にも余る程のものだったと後に気付く事になった。

 

 

 

 英雄王たる彼は欲した

 

 

 だが、彼女は断った

 

 

「私は貴方の財になるつもりなどない」と頑なに断った不敬な女が居た

 

 

 

 

 

 これは、彼が唯一手に入れられらなかった女の話である

 

 

 ────────────────────

 

 

「ギル、今日は何処に行くの?」

 

「そうだな……東の街へ行くぞ。確かあの場所で売る至高の酒は確かに旨いからな。久方ぶりに空を肴に飲むとしよう」

 

 

 ウルクの王ギルガメッシュは親友のエルキドゥを連れて東の街を歩いた。因みに仕事は文官に押し付けたまま、自由奔放にウルクの街を歩いていた。

 

 

 若き日のギルガメッシュは傲慢独善であり、自由奔放。

 しかし実力はウルクの王として君臨するだけのことはある程の傲慢たる強さがある。隣を歩くエルキドゥは()()()()()()()()()()。その力は神の折り紙付きだ。

 

 

 エルキドゥは神々が用意した神の兵器、ギルガメッシュを殺さんとばかりに向けられた刺客だ。だが、2人は殺し合いの果てに友となった。互いに互いを認め合ってこその友だ。

 

 

 だが、エルキドゥは造られてから世界を知らない。

 生きる糧であったギルガメッシュの抹殺も失敗に終わり、何をしていいか分からないし、何があるのかさえまだ分からない。

 

 

 ギルガメッシュはそんなエルキドゥを連れ出し、外の世界を見せているのだ。まあその対価は文官達の胃にストレスをマッハで与えているのだが。

 

 

「むっ……?」

「んっ……?」

 

 

 そんな2人の耳に何かが聞こえてきた。

 綺麗でいて澄んでいるような、優しい声が歌に乗って響き渡る。

 まるで癒しそのものを街に届けているようだ。

 

 

「これは……魔術?」

 

「ふむ、恐らく拡声の魔術を使っているのだろう。どれ、少し見に行ってみるか」

 

 

 ギルガメッシュとエルキドゥは声の発生源の場所に向けて歩き出した。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 

 長い銀髪が風で棚引いて揺れる。

 

 彼女は歌を歌った。今日もウルクに平和がありますようにと願いを込めて歌っていた。風が歌を運び、太陽が彼女を照らし、大地が彼女を祝福しているかのように騒ぎ出すようだ。

 

 それでいて優しく、海の小波の音より落ち着く声に誰もが癒されながらも暖かさに満ちている。

 

 その声から傷を負っていた者達の傷が癒えていくのをみて、見物していた人々が感嘆の声をあげるのが聞こえた。

 

 それはまるで聖女のようで、その声、その蒼い瞳に()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ギルガメッシュには初夜権で抱いた絶世の美女も居ただろう。だがそれとは比べものにならない程の可憐さと儚さのような雰囲気を持つのだ。

 

 隣にいるエルキドゥでさえ、その歌が頭から離れない程の強烈な経験が刷り込まれた。その歌声はまるで天上から降りた天使の祝福にも思えた。

 

 歌を終えると、銀髪の少女は一礼して木材で作った舞台から降りていた。

 

 

「先程の歌声は貴様のものか」

 

 

 その言葉に振り向く銀髪の少女。

 ウルクの王であるギルガメッシュに目を見開く。いやそもそもこんな所に来ているとは思わなかった。

 

 

「……面白い。まだ20も生きておらぬだろうに、そこまでの魔術が使えるとは見事なものよ」

 

 

 不思議と視線が奪われて離せなくなった。

 こんな経験は初めてだ。ギルガメッシュが聴いたどの歌よりも透き通り、ギルガメッシュが抱いたどの女より可憐だった。

 ギルガメッシュは銀髪の少女をみると、ふっと可笑しそうに笑った。

 

 

「貴様の歌声は何物にも勝る美酒のようだ。良いぞ。貴様にこの我の財となることを赦そう」

 

 

 ギルガメッシュは銀髪の少女に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、普通に嫌です」

 

「そうかそうか。ならば我の元に………………はっ?」

 

 

 ギルガメッシュはポカンと呆気に取られた。

 自分はこのウルクを統べる王であり、王は絶対の存在でその自分からの命をこの銀髪の少女は正面から断ったのだ。

 

 隣にいるエルキドゥさえその事に驚いている。

 

 

「私の歌は誰か1人の為に歌うんじゃありません。私は私が歌いたいから歌ってるだけで、強要されて歌うものじゃない」

「お、おい!? この方はこの土地を統べるギルガメッシュ王だぞ!? お前さん死にたいのか!?」

「この程度の事で殺すなら王の器が小さいだけでしょ」

 

 

 ブチッとギルガメッシュの何かが切れた。

 王を前にしてこの不敬。だが、たかが子供に怒号でも浴びせたら負けな気がするので黙っている。エルキドゥは中々豪胆な少女だと思いながらも少女は続ける。この不敬で殺されないか否かと側にいた男の人が心配する。

 

 

「私の理想の王は寛大でちゃんと民を考えて行動する人だし、器が狭くて、民に仕事を押し付けて自由奔放な穀潰しみたいな人に仕えたくはないし」

 

「ぐっ……!」

 

「それにウルクだって女神イシュタルが管理しているとはいえ人口が増えて土地も狭くなってるから問題多いし、このままじゃ国全体が人に食い尽くされて自然崩壊、貴方は今何やってるの?」

 

「ぐぬぬぬ……!!」

 

「確か初夜権だっけ? 抱いた女の人も居るのに見境なく誰かを指名って猿じゃないんだからそれよりやる事くらいあるでしょ」

 

「言い方はアレだけど確かに正論かもね、ギル」

 

「ぐはっ……!?」

 

 

 空気の読めないエルキドゥが少女の言葉の後にとどめを刺す。

 少女の言っている事は紛れもなく正論だ。この程度の不敬で殺せば王の器が知れると言うもの。幾ら天上天下の王とは言え自由奔放が過ぎて、他者に仕事を任せて遊ぶ穀潰しと言えば確かに正論だ。

 

 更にはウルクの土地問題、人口が増え過ぎたせいか土地をどうしても増やさねばならないが、神が管理する土地への侵略は不可能。唯一あるのはフンババの森くらいだが、アレは人が勝てるほど容易い存在じゃない。

 

 更には初夜権にギルガメッシュは寵愛を授けているかもしれないが、見境なく授けているならドン引きである。まるで性欲を処理する道具のように聞こえる(少女の持論)

 

 因みに隣の男の人はガタガタと震えながら何処かに行ってしまった。まあ気持ち分からない事もない。原初の王を前にしてこれだけの不敬をかました少女の未来は無いのかもしれないし、巻き添えは食いたく無いのだ。

 

 流石の原初の王も跪いていた。天に仰ぎ見るギルガメッシュを同じ大地に立たせた上でねじ伏せた。まあ半分は少女が魔術の探知で知った事の愚痴なのだが……

 

 

「…………フフ」

 

 

 何処か壊れたような王は笑った。

 

 

「フハハハハハハハハハハハハ!!! 良いではないか雑種、どうやら簡単には財にはならんと言う事か!」

 

「……? ギル、なんか嬉しそうだね。 マゾにでも目覚めた?」

 

「そんな訳あるか戯け! この天上天下の王を前にしてこの不敬、本来なら万死に値するが、その姿にして豪胆さは見事と言うべきよ。ならば王命として貴様に命ずる」

 

「はっ? 私は別に貴方の命令なんて」

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは少女の予想していたものとは別の命令だった。

 少なからず処女を捧げろとか、鞭叩きした後殺せとか言われたら全力で逃げていた。まあエルキドゥや至高の財を持つギルガメッシュから逃げられるとは思ってないが。

 

 

「私が……宮廷魔導師? いや、何でそうなった」

 

「ふっ、貴様の拡声は魔術によるものであろう?」

 

「まあそうですけど、まさかそれだけで?」

 

「我にも魔術の心得はあるが、ウルクの中では魔術を使えるものは数少ない。貴様には我が城で宮廷魔導師として働いてもらう。無論、歌いたい時に街に出るのは構わん」

 

「いやいや、高待遇かもしれないけど、結局は王様の手元に置きたいだけでしょ?」

 

「その通りだ!」

 

「言い切っちゃったよこの人!!」

 

 

 駄目だこの人。結局自分の事しか考えてない。

 まあ確かに高待遇ではある。他の所で働くよりかは恐らくいいのかもしれない。歌いたい時に歌う事が許されているわけだし。

 

 

「とは言え、貴様も魔術を独学で学ぶのに限界を感じていたのだろう? 我が城や俺の財には魔術の書物が山ほど置いてある。どうだ? 悪い条件ではなかろう?」

 

「私を貴方の財に出来なくとも?」

 

「それとこれとは話は別よ。何せ我でさえ聞き惚れたその美声に容姿、いつか必ず我が財に加わりたいと貴様から言わせてやるとするよな」

 

 

 ギルガメッシュが他に目を付けたのは、その魔力だ。

 歌が聞こえたのは数キロ先に歩いていた所だ。そこまで声を届けるのは並の魔術師でも不可能だ。生まれながらにして膨大な魔力を持ち、国全体を見て述べた感想から聡明さも感じられる。文官に仕事を押し付けた甲斐があったものだ。

 

 

「……ハァ、分かった。とりあえずはその王命に従いましょう」

 

 

 悪い条件ではないし、何より魔術の書物には興味がある。

 そもそもの話、歌に癒しを込める自体でも規格外なのだが、銀髪の少女は自ら魔術を生み出したのだ。とは言え独学では手詰まりだ。銀髪の少女も逆にギルガメッシュを利用しようとするのがせめてもの抵抗だった。

 

 

「小娘、名は何と言う」

 

「……リィエルよ」

 

「ではリィエルよ。貴様は宮廷魔導師として励むがよい。エルキドゥ、一度城に戻るぞ。良い拾い物をしたのでな」

 

「分かったよ。リィエルもついて来て」

 

「はいはい。行きますよ」

 

 

 ぶっきらぼうに答えながらも2人について行くリィエル。

 

 この後に彼女はギルガメッシュ叙事詩において『星の巫女リィエル』と名を綴られるのだが、今はまだ知る由もない。

 

 

 




 真名 リィエル
 身長/体重:163cm・50kg
 出典:ギルガメシュ叙事詩
 地域:バビロニア、ウルク
 属性:善・秩序 性別:女性

・魔術で拡声し、癒しの歌を届ける街角に住む小娘
・長い銀髪に蒼い瞳と少女のような可憐さを持つ。
・生まれつきの魔力量ならギルガメッシュを超える。
・???




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『天』『地』『人』の3人

いきなりフンババ討伐まで書いてしまったが、これで良かったのかと悩む作者。まだ2話目なのにギルガメッシュ叙事詩の3分の1くらいまで来てしまった。

まあ後悔はない。リィエルの戦闘描写は後の展開に回すとしよう!

それではどうぞ!!


「こらー! 待ちなさい!」

 

「フハハハ! だが断る! 今日は劇を見に行くのでな!」

 

「仕事サボるんじゃありません! シドゥリさんが過労死しちゃうでしょうが!! エルー! あの馬鹿王様を止めて!!」

 

「なっ……! 我が友を使うのは狡いではないか!」

 

「知るかー! ならせめて仕事してから行きなさーい!」

 

 

 ヴィマーナで逃げるギルガメッシュに音速を超えた速度で追いかけるエルキドゥと魔術によって()()()()()()()()()()姿()がウルクの空で目撃された。目撃と言っても民達には目にも追えない速度で昼間から流れ星かと騒いでいる程だ。

 

 宮廷魔導師になってから半年が経った。

 

 リィエルは殆どの書物を読み漁り、魔術の知識は今やウルクで一番と言った所だろう。読んだ魔術も殆ど会得して今では簡易的とはいえウルク全体に魔除けの結界を半永久的に張り続ける事も可能なくらいだ。

 

 だが、宮廷魔導師になってからもギルガメッシュは自由奔放にエルキドゥとどっかに行ってしまうので、実戦的な魔術、『強化』『加速』『相乗』『飛行』と言ったものを覚えて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 前までは空中散歩で興奮していたし、あまりの高さに恐怖もあったが空を飛べるエルキドゥに支えてもらいながらも今は時速500キロもお手の物だ。少し人間を止めた気がした。

 

 その代わり月一で性能を競い合う約束をした。

 今の所全部負けている。しかし、それでも神の兵器たるエルキドゥに善戦したリィエルも強さならウルクで2、3番目に強いだろう。

 

 

「ハァハァ……捕まえた!!」

 

「ぬぅ……! 貴様! いつの間に『束縛』の魔術を覚えた!?」

 

「王様が仕事サボってる時に決まってるでしょ! ほら戻るよ! 国の為にシドゥリさん達が働いてるんだから、王様がそれでどうするのよ!」

 

「ハハハ……!! もういつもの習慣になって来たね」

 

「貴様引き摺るではない! この美しい王の玉体に傷でもついたらどうするのだ戯け!! エルキドゥ、貴様も鎖で縛るではないわ!!」

 

 

 ズルズルとエルキドゥの鎖で縛りながら魔力枷で四肢の動きを封じて地面を歩く。とりあえず帰り道にウルクの文官達に差し入れ物を買わないとと考えながら辺りを見渡す。

 

 

「とりあえず、バターケーキを20ください。勘定は王様持ちで」

 

「貴様何を勝手に……!」

 

「シドゥリさん達が働いてるんだから、民を愛しているならちゃんと形に表しなさい! シドゥリさん達王様のせいで睡眠時間削ってるんだよ?」

 

「……はっ、仕方のないやつよな」

 

「ギル、それ君が言う?」

 

 

 空気の読めないエルキドゥがツッこむが、実際にリィエルの言っている事も確かだ。王の責務には王としての下賜はつきものだ。ギルガメッシュを縛る鎖や魔力枷を外し、ギルガメッシュは立ち上がり、宝石と交換した。

 

 

「買わせたのは私だから持つのは手伝うよ」

 

「はっ、当然だ。我に荷物持ちさせるなど不敬な事よ」

 

「ハァ……『風のさえずりよ』」

 

 

 買ったバターケーキが風によって宙を舞い、浮いている。

 魔術師としてのリィエルは最早天上の神に届くのではないかとギルガメッシュは遠目で思いつつも、城に帰ったら仕事以上にやらなければいけない事を思いついた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ウルクの城に帰り、リィエルがバターケーキを配ると文官達は泣きながらリィエルを抱きしめた。文官達にとって常識人たるリィエルはウルクの天使らしい。

 流石に苦笑いしながらもシドゥリさん達に癒しの魔術をかけた後、ギルガメッシュはバターケーキを配り終えたリィエルの襟を掴みながら王の寝室に引っ張った。

 

「ちょっ、王様?」

 

「確か王たる者は王に仕える者へ下賜をやるのが道理だと言ったな?」

 

「ま、まあ特にシドゥリさん達には必要でしょ」

 

「ならば、貴様にも下賜を与えるとしよう」

 

「えっ?」

 

 

 ギルガメッシュはリィエルを思いっきり宝物庫に投げ入れた。

 咄嗟に物理保護の魔術をかけて受け身を取ろうとするとそこには既にエルキドゥがいてリィエルを受け止めていた。

 

 

「あ、ありがとうエル」

 

「どういたしまして」

 

 

 リィエルが辺りを見渡す。

 そこは寝室とはまた違った膨大な装飾が部屋を鮮やかに飾られている。

 そしてそれだけの黄金があるのに狭いと感じないだだっ広い空間に居た。

 

 リィエル、エルキドゥ、ギルガメッシュだけしか居ないし、部屋というより何か巨大な宝物庫を連想させる。広間の床には、無数の武器らしきものが突き刺さっていた。他にも弓、斧、槍、槌、鎌など、剣に至っては種類が多すぎて何本あるのか分かったものではない。

 

 ただ、どれも一本で国が動くほどの価値があるのは素人目で見たリィエルでさえ理解した。

 

 

「王様? なんでこんな所に私を?」

 

「貴様は分かっておるだろう? 近々、我が何をするのか」

 

 

 少しリィエルは悩み始める。

 最近王様はサボってばっかだからやるつもりはないのかと思った。

 

 

「……木材や土地の確保……フンババの討伐……」

 

「分かっておるではないか。我とエルキドゥ、そして貴様を含めた3人でフンババを討伐する」

 

 

 ウルクで最近起こっている問題は多いが1番の問題は木材の価格上昇である。木材の用途は建物や家具などでは需要は多い。だが、前回も言った通りウルクの人口は増えてから、現在の木材の量では供給が追いついていない。更には人口に伴った土地の確保もしなければならない。

 

 となればフンババが守護する杉の森しかない。だが、フンババは声は洪水、口は火、息は死、と言われた厄災そのもの。神の一柱や二柱程度跳ね除ける最強の獣だろう。

 

 へぇーいつかやると思って…………

 

 

「って私も!?」

 

「当然よ。貴様は我が友に何度も善戦したではないか」

 

「いや、まあ確かに善戦したかもしれないけど全敗してるし……」

 

「貴様が何を言おうがこれは決定事項だ。貴様には我が宝物庫から一つ好きな武器をくれてやる。それを一週間で使いこなしてみせよ。その後、フンババの討伐へ赴くぞ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、リィエルは叫びだす。

 どんな鬼畜だ。私まだ半年しか経っていない街角の小娘にいきなり怪物退治に派遣させるとかどんな無理ゲーだ。

 

 

 

「嫌だ!!」

 

「戯け! 王命だ!! 何の為に貴様を宮廷魔導師にしたと思っている!!」

 

「手元に置いときたいだけでしょーが!!」

 

「その通りだ!! そして今こそ貴様に知識を与えた意味を存外なく発揮せよ!!」

 

「理不尽!!」

 

 

 いやそもそも原初の王だ。理不尽なんて当たり前だ。

 おのれ神様、何故ギルガメッシュをこんな性格にした(白目)。このままじゃ私の胃に穴が開き、ストレスで髪が抜けてしまいそうだ。

 

 はっ、ここがローマか(錯乱)。

 

 だがリィエルは諦めずに説得を続ける。まあ半分説得は諦めている。理不尽の塊たるギルガメッシュに説得など無理な話だ。

 

 

「いやだってフンババってアレでしょ!! 声は洪水、口は火、息は死、とか言うヤバい奴じゃん! 私死んじゃう! 16歳で死んじゃう!!」

 

「我は18で年齢も対して変わらんだろうが!!」

 

「仕事は!? シドゥリさん達が過労死しちゃうじゃん!!」

 

「戯け! その事もあって先の仕事など済ませておいたわ!!」

 

「嘘でしょ王様!? 頭でも打った!?」

 

「正常に決まっておろうが! どう足掻こうがエルキドゥと我が引き摺ってでも連れてくわ!!」

 

「ぐぬぅ……! この鬼畜、悪魔、金ピカ!」

 

「フハハハ! なんとでも言うが良い!」

 

 

 リィエルの歪んだ顔を見て愉悦するギルガメッシュ。

 とは言え宮廷魔導師となった今は民の事も考えなくては行けない。とは言え地獄の具現みたいな怪物に三人で勝てるか不安しかない。

 

 だが、結局いつかはやらなければならない事だ。2人が死ねば国は終わり、ウルクの土地を他国に奪われてしまう。勝率を1%でもあげたければ王様の言う通りにするしかない。

 

 

「ハァ……ええいこうなったら早速選ぶよ!!」

 

 

 正直言ってヤケクソになっている。

 しかし王様は言い出すと曲げない性格だ。となれば武器を早急に選び、特訓するしかない。

 

 

「と言っても……私に合う武器なんてあるのかなぁ……」

 

 

 早めに選ぼうと思ったその矢先、一つだけ一風変わった武器が刺さっているのに気がついた。

 

 

「ん? これは……?」

 

 

 リィエルの目に止まったのは魔杖だ。

 見た所、自分より身の丈が長い魔杖で装飾は白さが強調されていて、何より自分の瞳と同じラピスラズリの宝石が埋め込まれている。

 

 魔術師において魔杖と言うものは魔力の増幅や、詠唱の省略など様々な効果をもたらすが、リィエルはこの魔杖がそれとは全く違う力を持つと直感で理解した。

 

 

「……これって、もしかして」

 

 

 リィエルはその魔杖を掴むと、その魔杖から魔力が溢れ出た。

 リィエルの中で魔杖は()()()()()()()。これは恐らく()()()()()()()()。リィエルが触れたのは一つの世界に過ぎない。

 

 これは……『()()』を超えた『()()』の域だ

 

 

「むっ……その魔杖に認められるか」

 

「ギル、あの魔杖はどんなものなんだい?」

 

「さてな。我が触れた所で何も感じはしなかったが、リィエルの才か、はたまた魔杖が主を認めたと言う所か」

 

 

 自分より大きいのに軽いし、魔力は増幅してさっきの数倍は魔力を感じる。自ずと、これしかないと言う直感があり、これ以上の代物はないと確信した。

 

 

「王様、これにする」

 

「その魔杖にはまだ名がない。貴様が名付けてみよ」

 

「無いの!? ……そうねぇ」

 

 

 少女は真剣に考えてた。

 ラピスラズリが目を惹き、()()()()()()()()()と言う魔術を超えた力を持ち、そして自分が生涯持つとされるこの魔杖の名前だ。

 

 隣にいるエルキドゥを見る。エルキドゥは確か星の力を使う事が出来る神造兵器だ。

 

 そして前に立つギルガメッシュを見た。ギルガメッシュは原初の地獄を再現する『乖離剣エア』を持つ原初の王だ。

 

 なら、それに並び立つのにふさわしい名前は……

 

 

 

「『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』……なんてどうかしら?」

 

「ほう……『()()』と来たか。その名は重いぞ」

 

 

 ギルガメッシュが『天』の力、エルキドゥが『地』の力であるならば、リィエルの持つそれは『人』の力を束ねるものだと考えた。

 ギルガメッシュが目を細めながら口にするが、リィエルはため息を吐いた後に差も当然のように口にする。

 

 

「今更何言ってんの? 星を見定める王、ギルガメッシュの宮廷魔導師ならそれくらいの覚悟がなくちゃ、笑われるでしょ?」

 

 

 あくまでリィエルは王の財にはならない。

 けれど半年が経ってから、色々と背負う物が出来たらしい。

 原初の王は星の裁定者であり、その友はエルキドゥ、そして『()()()()()()()()()()()()』こそリィエルであるならば、リィエルの行く道は世界すら背負う過酷な道になるだろう。

 

 だが、それも不思議と悪くないと思うのはギルガメッシュとエルキドゥという大切と思える存在が出来てしまったからだろう。

 

 

「フッ…………」

 

 

 ギルガメッシュはそれに笑い、王命を下す。

 

 

「フハハハハハハハハハ!! よくぞ言ったリィエル!! ならばそれを使いこなして見せよ! 期限は一週間、それまでにその魔杖を使いこなし、フンババ討伐に行く! その命を曲げる事は赦さぬぞ」

 

「当たり前、私も死にたくないしね」

 

「なら、僕も手伝うとするよ」

 

「ありがとうエル」

 

 

 エルキドゥが手伝ってくれる事にありがたみを感じながら笑うリィエル。因みにギルガメッシュにそれだけの見栄を張ったが実は内心、結構必死だった。死にたくないので全力で頑張るしかないと感じているリィエルだった。

 

 その後、エルキドゥにズタボロにされながらもその魔杖を使いこなし、5日が経った頃、リィエルは初めてエルキドゥに勝ったのだ。その事に泣きながら喜び、その2日、フンババ討伐は苦もなく行われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何というか……拍子抜けにも感じたのは私だけ?」

 

「いや、我もそう思うな」

 

「僕もそう思う。もっと苦戦するかと思った」

 

 

 フンババの討伐はあまりにも早く討伐された。

 

 その日、人類は初めて『森』という場所へ進出した。森の主人フンババは英雄王ギルガメッシュ、天の鎖エルキドゥ、星の巫女リィエルによって討伐され、人類が新たな一歩を踏み出したのだが……ギルガメッシュは後に粘土板にこう綴る。

 

 

『我、宮廷魔導師としてのリィエルがえげつないと思った』

 

 

 この時、原初の王はリィエルの全力を垣間見た。

 あの魔杖を手にしたリィエルに逆らったら死ぬかもと後に酒で酔ったギルガメッシュを介抱するエルキドゥが聞いていた。

 

 こうして三人は互いに肩を並べる存在へとなり、『原初の王は国の心臓』、『天の鎖は国の手足』、『星の巫女は国の頭』と言う3人を称えられるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





真名 リィエル

☆5(Lv90)HP14863 ATK11508

 身長/体重:163cm・40kg
 出典:ギルガメシュ叙事詩
 地域:バビロニア、ウルク
 属性:善・秩序 性別:女性
 適正クラス:キャスター

宝具
白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)

 * ランク:EX
 * 種別:対界宝具
 * レンジ:──
 * 最大捕捉──

 
ギルガメッシュの宝物庫に持て余していた魔杖。
ギルガメッシュでさえ素材すら千里眼で見通す事が出来なかった魔杖であり、その力だけ言えばギルガメッシュの『乖離剣エア』に匹敵する。

詳しく詳細は未だハッキリしていないが、ギルガメッシュの持つ乖離剣が『全てを破壊するもの』ならリィエルの持つ魔杖は『全てと繋がるもの』だと言う。

だがその正体は……




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『天』は神に嘘をつき『人』は天に振り回される

 フンババ討伐から数ヶ月が経った。

 

 

 ここウルクの街は活発になり、木材や土地を増やしてから発展が他国と比べて目を見張る物となった。人口問題や資材の確保などは今はとりあえず安定期に入っている。

 

 

 ギルガメッシュは珍しく暫くの間は自由奔放に城を抜け出す事はなく仕事の粘土板に目を通し、数週間は王としての責務を果たしていた。

 

 エルキドゥについてはリィエルと一緒に仕事の勉強だ。偶にリィエルと街を回って外の世界を見て周った。暫くギルガメッシュが遊び呆けないようにリィエルがエルキドゥに声をかけては外に出てウルクの外に空中散歩に出かけたりなどする。

 

 リィエルについては偶にギルガメッシュやエルキドゥ、文官達に歌を聞かせていた。本来なら宮廷魔導師と言う立場は王の仕事までしないし、何より自由をギルガメッシュ自身が保証していたのだが、シドゥリさん達を見たらそうは言ってられなかったから手伝っていた。 

 

 フンババ討伐から随分と国が落ち着いてきた。

 

 騒がしいウルクの街に平和が訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな平和は徐々に崩壊へと続いていくことに今は誰も知る由はない。

 

 ただそんな中、リィエルは魔杖を持った瞬間に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に嫌な予感を覚えながらも、その時はまだ何も分からないままで何も考えていなかった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「王様ー? エルー? 何処に行ったのー?」

 

 

 リィエルは2人を探していた。仕事はあらかたリィエルが終わらせたが、ギルガメッシュとエルキドゥは最低限の仕事を終えて何処かに消えていた。前に比べればサボりと言う程ではないが、流石にいきなり消えると心配もする。

 

 面倒だが、探知の魔術で城を見渡したら、城の屋根に2人ともう1人浮遊している女神のような女性がそこにはいた。

 

 リィエルはとりあえず浮遊の魔術で城の屋根にたどり着いた。

 

 

「王様、エル、探したよ」

 

「あっ、リィエル」

 

「むっ、リィエルか。丁度良い。イシュタル、貴様の婚儀など受ける気はない。何故なら、我の相手は既に決まっているのだからな」

 

「えっ? どう言う状況? 王様何して──きゃっ!?」

 

 

 ギルガメッシュがリィエルを抱きしめる。

 エルキドゥとギルガメッシュに会えたと思えば今度は急に抱きしめられ、それを浮遊した美の女神に見せつけているようだ。流石に状況が飲み込めず、抱きしめられた事に驚いたリィエルがギルガメッシュに()()()()()()()()念話で事情を聞いた。

 

 

『ちょっ……!! どう言う状況!?』

 

『この女神が我に求婚してきたのでな。流石にしつこいと思ったその矢先にリィエル、貴様が来たのだ』

 

『ええぇ、嫌ならハッキリ断りなさいな。私を持ち出さないでよ』

 

『戯け。貴様は我が友であり我が財になる予定であろうが』

 

『友は良くても財になる予定はないよ。ハァ……フリをすれば良いの?』

 

『分かっておるではないか』

 

『全く……後で何か奢ってよ?』

 

 

 リィエルは内心ため息をつきながらも、目の前に浮かぶ女神に丁重な口調で挨拶をする。

 

 

「初めまして女神様。私はギルの婚約者のリィエルと申します。以後お見知りおきを」

 

「なっ……! アンタこんなガキと結婚する気!? 悪い事は言わないわ、今すぐ私と婚約しなさい! 女神と婚約出来る事自体が栄誉なのよ? それを断ると言う事がどう言う事か分かってるのかしら!?」

 

「そんな栄誉など微塵も要らん。我はこの女と決めたのだ。我と対等に存在し、我と共に世界を背負うと言う覚悟を持った我が妻だ。幾ら貴様とて侮辱は神であろうが万死に値すると知れ」

 

 

 わあ流石王様。女神だろうと容赦ないな。

 と言うか我が妻という言葉は嘘でも照れるからやめて欲しい。自由奔放の王に少しでもときめいたら黒歴史を粘土板に綴っている所だった。

 

 まあ無駄に顔はいいからね。この王様。

 

 

「この……! 覚えてなさい!!」

 

「フハハハ! 貴様の事など覚えるつもりは微塵もないわ!」

 

 

 女神は金色の波紋から天界へと消えていった。

 いやー、しかし修羅場だったな。あんな弓みたいな乗り物に乗って金色の波紋から天界まで一直線。何というかお転婆な女神だったなー。

 

……いやちょっと待て、なんかその女神もの凄い心当たりあるんだけど。

 

 

「ね、ねえ王様。今の女神の名前は……?」

 

「むっ、知らなかったのか? 金星の女神イシュタルだ」

 

 

 物凄い心当たりのある女神様だった。

 

 えっ、イシュタル様だったの? 一応、 ウルクの土地神はイシュタル様で作物とかが育つのは神の加護みたいなものがあるからだ。そのイシュタル様に喧嘩売った事になる。てか完全に巻き込まれたリィエルにとって中々デカいとばっちりである。

 

 

「何してんのぉぉぉ!?」

 

「うおっ!? 急にでかい声出すな戯け!」

 

「じゃなくて! あれ曲がりなりにもイシュタル神でしょ!? 神様に喧嘩売ってどうすんのよ!? 土地や作物とか不作になったら文官達の仕事がまた増えるでしょーが!!」

 

「戯け! 貴様はイシュタル自身が我など眼中にない事くらい今ので分かったであろうが!」

 

「いやまあそうかもしれないけどさ……」

 

 

 イシュタル神の目的はギルガメッシュの容姿につられて求婚を申し出たわけでない。恐らくはギルガメッシュの『宝物庫』だろう。

 

 ギルガメッシュの『宝物庫』には古今東西、人類が生み出すものであれば、遥か遠い超未来のものまで過去未来の時間軸すら超越して財宝が追加され続ける神秘の蔵だ。

 

 無論、宝石や純金なども山のように置いてある。イシュタルはそれを目当てに求婚したのである。リィエルもエルキドゥも何となく察してはいたのだが……。

 

 

「……と言うか私結構なとばっちり食らったんだけど……女神に嘘とは言え恨まれる羽目になったんですけど……」

 

「知らん」

 

「横暴!! これでイシュタル様がウルクを襲ったら王様が何とかしてよ!?」

 

「フハハハ!! その時どうせ貴様も対処に回るから不可能に決まってるわ!!」

 

「大丈夫だよリィエル、その時は僕も何とかするから」

 

「ううう……エルが優しくて尊い。正直王様よりエルの方が好きになりそう」

 

「リィエル貴様!! この我のどこが不満か!?」

 

「性格、横暴さ含めて全部だよ!!」

 

 

 ギャーギャーと騒ぎ合っている2人に笑うエルキドゥ。

 兵器として心を知らないエルキドゥが作られた心の底から笑う事が出来るようになっていたのを2人は気付いていなかった。

 

 リィエルもギルガメッシュも大切だと思えるからこそ、この暖かい感情を理解して笑い合う事が出来る。エルキドゥ自身の性能を競い合える友が2人もできた。エルキドゥの知らない事を教えてくれる2人に抱く感情はいったい何なのだろうという気持ちさえエルキドゥは心地よいものだった。

 

 

「エル、王様、仕事も終わったしバターケーキでも食べに行こうよ。私が出してあげるからさ」

 

「ほう……貴様がか。珍しい事もあるよな」

 

「いいでしょ偶には。暫く仕事ばっかりだったし、シドゥリさんにはちゃんと言ってあるんだから」

 

「ならば良し。エルキドゥ、リィエル、さっさと行くぞ」

 

「……うん。そうだね」

 

 

 この3人が揃えば乗り越えられないものなどない。

 そう思わされる程、手にした『心』がそう感じさせていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 イシュタル神の求婚を断ってから一週間が経った。

 

 

「っっ……!」

 

 

 ウルクの天候がやけに酷い。

 雨は降り続き、雷が轟き、風が吹き荒れる。しかしリィエルがウルク全体に張った強固な結界のおかげで作物や建物の被害やウルクの民達は無事だが、明らかにおかしいのだ。

 

 何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。誰も見た事のない異常事態だ。

 

 

「リィエル、エルキドゥ」

 

「ああ、()()()()()が近づいて来てる。それも()()()()()()()()()()()()ものだね」

 

「確定ね。あの台風から()()を感じるし……」

 

「イシュタルめ……『天の牡牛(グガランナ)』を引き連れて来たか」

 

 

天の牡牛(グガランナ)

 隕石落下にも等しい大破壊を巻き起こすシュメル最大の神獣。暴風だけで物体を吹き飛ばし、雷鳴で神の力さえ打ち砕き、全盛期ならティグリスも干上がらせる力を持っている天災の化け物。

 

 人間にとって事実上無敵の神獣であり、勝ち目がないとイシュタルが自負するほどの究極の暴獣、神々ですら手懐けられないが、イシュタルは時に厳しく、時にもっと厳しく扱うことでグガランナを自在に操れるとギルガメッシュは口にした。

 

 金星の女神だけあってその力は折り紙付きだ。

 

 

「やっぱ求婚断ったせいじゃん」

 

「乗っかった貴様も同罪だ戯け。どの道このままでは貴様の張った結界が保たぬからな。我とエルキドゥ、リィエルで大元を叩くぞ」

 

「はいはい。まあこれだけ強固な結界を維持するのも疲れるし」

 

「リィエル、だんだんギルに似てきた?」

 

「ヤバい死にたくなってきた」

 

「貴様後で覚えておけよ……」

 

 

 いつものように軽口を叩いている。

 リィエルは2人に風避けの魔術をかけて、ギルガメッシュが出したヴィマーナにエルキドゥと一緒に乗って天災の中心地へと飛び込んだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

「へぇ……これが『天の牡牛(グガランナ)』」

 

 

 見た感じ全長100メートルはある巨大な牛、蹄は更に大きく踏み潰されれば即死どころか跡形もなく消滅するだろう。

 

 

「へぇ、よくノコノコと3人で来たわね」

 

「イシュタル様、ウルクの土地神である貴方が何故ウルクに『天の牡牛(グガランナ)』と言う天災を持ち込んだのですか?」

 

 

 念の為、リィエルが説得の為に質問する。

 まあ何となくだが説得は無理だろうと内心諦めている。だが、会話こそ人間の真心であり優しさだからだ。ダメ元でやってみた。

 

 

「決まってるじゃない。貴方達3人を殺すためよ」

 

「それは何故?」

 

「神の命に逆らった咎人だからよ。ギルガメッシュは私の求婚を断り、未だウルクの土地に踏ん反り返って、エルキドゥはいつまで経ってもギルガメッシュを殺さない。貴方は私が求婚するにふさわしいギルガメッシュを奪った。既に咎人なのよ」

 

 

 イシュタルは3人を見ながら嘲笑う。

 確かにフンババを討伐出来たことは見事と称してやろう。だが、神でさえ手を焼いたグガランナなど幾らあの三人でも倒す事は出来ないだろう。

 

 この中で3人の決断は早かった。

 3人の中でのイシュタルの意識は「あっ、コイツ敵だ」と言う認識に瞬時に切り替わった。悲しいがイシュタルの考えが大体分かるので冷酷無慈悲である。

 

 

「よし、なら遠慮は要らないね」

 

「ああ。エルキドゥ、リィエル、お前達2人で時間稼ぎをせよ。業腹だが、我も宝物庫の鍵を開けるとしよう」

 

「相変わらず無茶な命令……。もう慣れたけど」

 

 

 既に戦闘態勢に入り、エルキドゥは大地に手を当てて真名を開放する。

 

 

『呼び起こすは星の息吹。人と共に歩もう、僕は。故に──』

 

 

 エルキドゥ自身の体を一つの神造兵器と化す能力。

 アラヤやガイアといった抑止力の力を流し込む光の楔となり、膨大なエネルギーを世界が認識できる形に変換して相手を貫く一撃の再現。

 

 

人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)!!』

 

 

 天の鎖でグガランナを縛る。エルキドゥの天の鎖は神性を持つものによく効く。グガランナは特性上、最強の()()である以上、エルキドゥの天の鎖には逃れられない。

 

 

『私の声は世界を繋ぎ、私の世界は私という可能性の一つ──』

 

 

 リィエルが魔杖をグラガンナに向けて、巨大な魔法陣を組み上げる。込められた魔力量からそれは対軍宝具の域にある。

 

 

私を繋ぐ世界の全て(アナザー・オブ・バビロン)!!』

 

 

 リィエルの魔杖が真名を解放する。

 そして次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それら全てから風の刃が飛び出して、グラガンナの胴体を切り裂いていく。

 

 

「ハアアァァ!? 何よそれ!?」

 

 

 イシュタルすら予想していなかっただろう。

 

 リィエルの魔杖『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』。

 

 その力は「()()()()()()()()()()()()()()()()」する事だ。

 

 それはつまり自分がこうしていたらというifの世界や、自分に起こり得た別の可能性。即ち並行世界だ。

 

 リィエルの魔杖は幾多の並行世界に接続し、自分がこの場所で「()()()()()()()()()」という「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と言う事が可能なのだ。

 

 勿論、並行世界から大気中の魔力を取り出して持ってくる事や、今みたいにグラガンナに「こういう攻撃を並行世界でしていた」と言う結果を引っ張り出して魔法陣を多数、しかも詠唱なしで出現させる事も可能だ。

 

 これは魔術とリィエルは称しているが、後世ではこう名付けられる。

 

()()()()()()()」、即ち()()()()である。

 

 

「うわぁ、流石リィエル」

 

「と言っても全然効いてないわ。グガランナにとって風の刃は切り傷程度にしかならないよ。

 ────まあ、もう決着はついたんだけどね」

 

 

 リィエルが確信する。

 ギルガメッシュが何故時間稼ぎをさせたのか、その意味はギルガメッシュが持ち得る最大の攻撃の時間を稼ぐためにあったのだ。

 

 

『元素は混ざり』

 

 

 それはリィエルの『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』とは真逆の性質と言える力。

 

「全てに繋がる力」の逆は「全ての破壊」司る『乖離剣エア』を引き抜き、掲げるギルガメッシュの姿があった。

 

 

「ついでに言っちゃえば王様に強化の魔術もかけたし」

 

「うん。案外呆気なかったね」

 

 

 エルキドゥもこの瞬間、勝利を確信した。

 リィエルは地面に降りて、余波に巻き込まれないように結界を何重にも張る。最大級の宝具にリィエルの支援、これで死ななかったら逆に拍手を送りたいくらいだ。

 

 

『固まり』

 

 

 かつて混沌とした世界から天地を分けた究極の一撃。それは神であろうが星であろうが切り裂く原初の地獄の再現。

 

 

『万象織りなす星を生む!』

 

 

 天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった原初の地獄そのもの。その道理であるならば、ギルガメッシュは『天の理』によって全てを開闢をもって切り裂く。

 

 

 

『死して拝せよ!』

 

 

 混沌とした世界から天地を分けた『乖離剣エア』

 ギルガメッシュはそれをグガランナに振り下ろした。

 

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!』

 

 

 エアから放たれた原初の地獄はグガランナ相手に塵すら残さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、イシュタルを嘲笑う2人の姿とそれに苦笑いしながらも助ける気はないリィエルの姿がそこにあった。嵐は止み、暴風は消え、空が明けたように日が地上を照らす。

 

 暖かな空の日差しにリィエルは笑いながら2人に抱きついた。

 

 

「王様、エル! 今日は飲もう! シドゥリさん達も明日くらいなら休日にするくらい許してくれそうだし!」

 

「フハハハ!! 良いぞ! 今日は最高に良い気分だ! 我が蔵からとっておきを出してやろう!!」

 

「飲み比べと行くかい2人とも?」

 

「良かろう!」

 

「いやそれ絶対エルが勝つじゃん!?」

 

 

 笑い合いながらウルクの城に帰る3人を見てイシュタルは血が滲むほど拳を握り締めた。そしてほくそ笑む。

 

 神でさえ止められる術を知らない3人。この3人なら天上の神々さえ殺せる程、驚異であると再認識させられたのだ。

 

 これが後にどうなるか、まだ3人は知らなかった。

 

 




宝具
白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)

 * ランク:EX
 * 種別:対界宝具
 * レンジ:──
 * 最大捕捉──

 
ギルガメッシュの宝物庫に持て余していた魔杖。
ギルガメッシュでさえ素材すら千里眼で見通す事が出来なかった魔杖であり、その力だけ言えばギルガメッシュの『乖離剣エア』に匹敵する。

詳しく詳細は未だハッキリしていないが、ギルガメッシュの持つ乖離剣が『全てを破壊するもの』ならリィエルの持つ魔杖は『全てと繋がるもの』だと言う。


宝具
私を繋ぐ世界の全て(アナザー・オブ・バビロン)

 * ランク:EX
 * 種別:対界宝具
 * レンジ:10〜200
 * 最大捕捉:10000


真名開放したその能力は「()()()()()()()()()()()()()()()()」する力。

それはつまり自分がこうしていたらというifの世界や、自分に起こり得た別の可能性。即ち幾多の並行世界に接続し、自分がこの場所で「()()()()()()()()()」という「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と言う事が可能とする宝具。

勿論、並行世界から大気中の魔力を取り出して持ってくる事や、グラガンナに「こういう攻撃を並行世界でしていた」と言う結果を引っ張り出して魔法陣を多数、しかも詠唱なしで出現させる事も可能だ。

これは魔術とリィエルは称しているが、後世ではこう名付けられる。

()()()()()()()」、即ち()()()()である。

余談ではあるが、リィエル自身は並行世界を移動出来ず、あったであろう現象や過程、もしくは並行世界の大気中のエーテルを引きつける事しかできない為、リィエル自身が魔法使いと言われるとそれは違うらしい。



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『地』は『天』と『人』に抱かれ空に消える

 

 

 

 それは突然だった。

 

 

 エルキドゥが倒れた。

 

 

 ギルガメッシュとリィエルと一緒に街を歩いていた時、突如エルキドゥは電池が切れたかのように倒れたのだ。

 

 エルキドゥの容体は……最初に診察したリィエルが確信した。

 

 

 それは『神の呪い』だ。

 

 それも()()()()()()()()ような高度な呪い。それは宮廷魔導師のリィエルでさえ解く事が出来ない程強く結びつかれた呪いだ。

 

 それを知ったギルガメッシュは、すぐさま天界へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 エルキドゥが倒れて三日後、ギルガメッシュがウルクへ帰還した。

 

 ……顔面蒼白な彼の顔を見て、悟ってしまったのだ。エルキドゥが助からない事に嫌でも気付いてしまったのだ。

 

 

『森番フンババと聖牛グガランナを倒した三人のうち、誰かが死なねばならなかった』

 

 

 エンリル神から伝えられたのは、それだけだったらしい。

 フンババ討伐に協力したシャマシュ神は、グガランナを差し向けたイシュタルの画策によるものではないかと予想を口にしたそうだ。

 

 

『リィエル……貴様は出来る限りの事をせよ。我が宝物庫の全ての魔導書をウルクに置いておく。我は必ず……』

 

 

 イシュタルを見つけてみせる。そう言ってギルガメッシュは執念を燃やしていた。だが残念な事に結果は得られなかった。いつもなら週に一度は顔を見せるあの女神は、一週間が経っても現れはしなかった。

 

 そして不幸が畳み掛けるように、外交関係も著しい悪化の一途を辿っていたのだ。前にリィエルが言った通り一応、 ウルクの土地神はイシュタルだ。

 

 そのイシュタルが居なくなった事により、ウルク自体が『神に見捨てられた国』と他の国がこちらを見下し、輸入や輸出に問題が発生していた。当然だ、神に加護された土地から神が消えるという事は土地自体が加護を失うようなものだ。

 

 アレだけの偉業を成し遂げた三人は動けない。

 

 ウルクの土地の輸出、輸入問題。

 

 イシュタルの失踪による国力の低下。

 

 

 ウルクは徐々に崩壊への道に足を踏み入れていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

『アアア──!』

『ニンゲン!! ニンゲンのニクだァァァ!!』

『キサマ! ニクタイヲモチナガラ!』

『コノチニアシヲフミイレタフケイ!』

 

 

 リィエルはシドゥリ達に仕事を任せて冥界に来ていた。

 クタの地面を魔術で掘り進め、魔杖を持ちながら冥界に足を踏み入れた。しかし居たのは死霊やらクタで死んだ戦士の死骸。

 

 

「私が用があるのは貴方達じゃない。だから退いて」

 

 

 リィエルの忠告を無視して死霊達は襲いかかる。

 

 

「……もう一度言うわ。退()()

 

 

 力の入った怒気だけでクタの死霊達がリィエルの前から消えていた。それにため息をつきながらも冥界の奥に進むリィエル。

 

 

「……エル、待っててね」

 

 

 7つの門を潜り抜けて、襲いかかる死霊は跳ね除けてリィエルは遂に冥界の最深部まで到達した。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「……()()()()()があって来てみればこんな場所に何のようかしら?」

 

 

 冥府の女主人エレシュキガル

 この冥界を統べる女神の一柱であり、あらゆる『死』について詳しい存在である。イシュタルとは違い、勤勉でしっかりした女神だ。

 

 だが、その前に一つだけ冥府の女神の言葉に引っかかった。

 

 

「精霊? 私、精霊なんて引き連れてないですよ?」

 

「違うのだわ。貴女よ貴女。貴女の半分から()()()()を感じるのだわ」

 

「精霊の血? ……じゃあ私は『半精霊(デミ・スピリット)』と言う事ですか?」

 

「知らなかったのかしら? まあいいわ。要件は何なのかしら? わざわざ冥界に足を踏み入れるなんて何かあったんでしょ?」

 

 

 冥府の女神としての彼女は『死』という存在を多数見て来た筈だ。その中には神の呪いで死んだ人間もいる筈だ。だから、リィエルは冥界に赴いた。生者は冥界の法に縛れない。なら、無理矢理権能を使う事はないだろう。

 

 

「エルが……天の鎖にして神々が生み出した神造兵器エルキドゥが、神々の傲慢によって今、呪われているのです」

 

「…………!」

 

「画策をしたのはイシュタル神であり、自由気ままなあの女神は我が王、ギルガメッシュの財を狙い求婚を申し出ました」

 

「あの女神……本当に自由奔放なのだわ」

 

 

 エレシュキガルでさえ呆れている。

 イシュタルとエレシュキガルは天と地、即ち表裏一体とも言える存在だ。イシュタルが天の女主人ならエレシュキガルは地の女主人、性格すら反対なエレシュキガルはイシュタルに呆れて物も言えない。

 

 

「しかし、王はその求婚を断り、それに激怒したイシュタル神は『天の牡牛(グラガンナ)』を引き連れウルクを襲いました。我が王とエルキドゥ、そして私の三人で撃退しましたが、憎しみに囚われたイシュタル神は遂に『神の呪い』を使い、エルキドゥを呪ったのです」

 

「……事の顛末は分かったわ。大体イシュタルが悪い事も、要するに私への頼みはエルキドゥの呪いを解けないかと言う事かしら」

 

「はい」

 

「無理よ」

 

 

 皮肉にもエレシュキガルは即答した。

 

 

「対価も無いし、神の呪いは私一柱で解けるものではないわ」

 

「……私が対価としてなら?」

 

 

 リィエルは自分の身体に手を当てる。

 『星の巫女』と称される自分はどうやら精霊に近い存在だ。精霊ともなれば貴重な存在だ。自分の死後を売り払う事を対価とするなら、対等な条件にはなる筈だと思っていた。

 

 けれどエレシュキガルはそうじゃないと告げた。

 

 

「……確かに貴女にはそれだけの価値はあるかもしれないのだわ。けど、それでも無理なの。『神の呪い』は神にさえ通用する呪い、一度かけてしまえば『死』は免れない」

 

 

 ガラガラと何かが崩れる音がした。

 

 既に魔術を全て理解しているリィエルにとって、リィエルでは『神の呪い』は解けないと知っていた。

 

 だから神に頼った。その神様でさえお手上げの状態だ。それは余りにも辛い現実だった。

 

 エルキドゥは助からない。

 

 それが決まってしまったのだ。

 

 

「まあ、私に出来る範囲でなら何とかはしてあげるけど、エルキドゥの呪いを解く事は不可……って貴女! 泣いてるのだわ!?」

 

「えっ……?」

 

 

 ポロポロと涙が溢れ落ちていた。

 止まらない。止められない。辛い現実を認識してしまったリィエルからポタポタと目から雫が落ちていく。

 

 

「あ……ああ……」

 

 

 視界が揺れる。

 自分の立つ地面さえ分からなくなる程、見えなくなっていく。光が閉ざされていく。魔杖は既に手から離されていた。ガシャンと言う音さえ彼女には聞こえない。

 

 

「……ぁぁ……あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

 嗚咽は、慟哭に変わった。

 惨めに泣き叫び、のたうち回り、腕を地面に叩きつける。

 

 何故自分ではなかったのだろう。何故自分はこんなにも無力なのだろう。何が宮廷魔導師だ。何が『星の巫女』だ。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

 友1人救えない自分が許せない。

 

 結局、何の成果も得られずにただ時間だけが消費してしまった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 リィエルは冥界から帰った。

 

 シドゥリ達は赤く泣き腫れた目を見て何も言わなかった。リィエルは睡眠も取らずにエルキドゥが眠る寝室に移動した。夜だからとっくに寝ているのだろうと思いながらリィエルは寝室の扉を開けた。

 

 

「……やぁ、待っていたよリィエル」

 

「……こんばんは、エル」

 

 

 なんだ、起きていたのか。

 随分とエルは変わってしまっていた。緑色で艶やかな髪は傷んで、身体にヒビが入ってしまっている。千里眼の無いリィエルでさえ、いつエルが死ぬのか分かってしまったのだ。

 

 もう……後、数時間の命だ。

 

 

「随分……無茶をしたようだね……人の身で冥界降りなんて……僕も驚きだよ」

 

「エル……けど私は……私は貴方を救う事が出来ない」

 

「なんとなくだけど……分かってたよ。『神の呪い』は強力だ。いくら精霊の半身を持つ……君でも無理難題だ」

 

 

 涙が溢れそうになった。

 アレだけ泣いたと言うのに涙は枯れる事を知らないようだ。エルキドゥは知っていたのに少し驚いた。

 

 

「……エルは私が精霊の半身である事を知っていたの?」

 

「僕は大地から……生まれた存在さ。なら……知らない訳がないじゃないか。ギルも……それを知っていたようだけど、口には出さなかった。自分が人ならざる者と知ったら……リィエルが悲しむんじゃないかって」

 

「……そんな訳ないでしょ。私は、私なんだから」

 

「ハハハ……確かに、リィエルはそう言う……人間だからね」

 

 

 力無く笑うエルキドゥにリィエルは優しく手を握る。リィエルはある事を決意し、そしてエルキドゥに最後の我儘を口にした。

 

 

「エル、最後でもいい。空を見に行こう」

 

「……ゴメンよ。僕はもう……動く事すら出来ないんだ」

 

「私が連れてく。……お願い」

 

「……分かったよ」

 

 

 リィエルはエルキドゥの身体から重力を無くして、エルキドゥを抱えたままウルクの夜の空へ飛び始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「エル……見える?」

 

「ああ……満天の星空だね」

 

 

 空中にいながらも優しく抱えているリィエルがエルキドゥに見せたかったのは、この星空だけではない。エルキドゥはもう少しで死んでしまう。お別れを言わなければならない。

 

 けど、1人で死ぬのは寂しい。

 

 寂しいから()()が見届ける。

 

 

「エル、見ててね」

 

 

 リィエルが魔杖を振るうと、辺り一面が優しい光に包まれていく。ウルクの街が照らされて幻想的な世界を映し出していた。その光は蝋燭のように弱く、蛍のように優しく光る癒しの光。

 

 リィエルが宮廷魔導師になった時に最初に覚えた魔術だ。

 

 

「ハハハ……綺麗だ。世界が照らされて……見えるみたいだ」

 

「エル、下を見てごらん」

 

 

 エルキドゥの視線が下に向く。

 そこには深夜にも関わらず、()()()()()()が集まってリィエル達を見届けていた。

 

 

「なんでこんなに……もう全員寝ている時間じゃ……」

 

「私が呼んだのよ。エル、貴方の為にこんなにも人が集まってくれたの」

 

 

 リィエルの魔杖の力で()()()()()()()()()()()()()()エルキドゥの最後を見届けて欲しいとリィエルは願ったのだ。寂しくないよ、とエルキドゥに言いたかったのだ。

 

 神の兵器に『心』はなかった。

 何故なら兵器と人間は分かり合えない存在だと、経験した記憶からずっと決め付けていた。

 

 ──違ったのだ。

 

 分かり合えないと思ったのは自分自身、人間と分かり合える訳が無い道理など存在しなかったのだ。

 

 

「僕は…………」

 

 

 エルキドゥの目からは涙が溢れていた。

 やっと気付く事が出来た。これが『心』なんだと、気付く事が出来たのだ。

 

 そして手にした『心』がそれを理解した。

 民全員が集まる理由は自分には無いと思っていた。

 

 

「……そっか……僕は……愛されていたんだね……兵器である僕を……愛してくれる人が居たんだね……」

 

「……当たり前じゃない。私も、王様も、ウルクの民全員が貴方の事を好きでいたの。だからね、エル……寂しくなんかないよ。私も王様も、決して1人ではない。だからエルも、寂しいと思わないで……私達がここに居るから……」

 

 

 リィエルの手が暖かく感じた。

 なのに、徐々に自分の身体に罅が入っていく。現実は非情だ。やっと手にした『心』すら、気づいてしまったのは死ぬ前のほんの僅かなのだから。

 

 

「……うん……リィエル……」

 

 

 エルキドゥの手は震えていた。

 それは、恐怖だった。兵器として『心』がないエルキドゥに感じる事が出来なかった生の渇望。死にたくない。死ぬ事がこんなにも怖いと感じてしまうのだ。

 

 

「……死にたくない」

 

「うん……」

 

 

 どうしても本当の気持ちが隠せないでいた。

 隠してしまえば、口に出さなければ潔く死ぬ事が出来たかもしれない。それでもエルキドゥは本音を隠せなかった。

 

 

「死にたくない……!もっと、ギルと、リィエルと、みんなと一緒に生きていたい……!もっと……もっと笑って……!3人で……笑い合いながら……!もっと、生きていたいよ……!」

 

 

 生にしがみつく事の浅ましさがエルキドゥの人間としての『心』からの本音だった。まだ3人で笑い合っていたい、終わりなんて来て欲しくなかった。涙が溢れて止まらない。この苦しみさえ人間と自覚させてしまう。

 

 その涙を掬い取って、リィエルの反対側からエルキドゥを抱える。

 

 

「我も……同じだ。友よ」

 

 

 そこに居たのはエルキドゥの最初の1人の友、ギルガメッシュだった。

 

 ギルガメッシュはエビス山の周辺を探していた所を()()()()()()()()()()()()によって、この場所に繋げて転移させていたのだ。

 

 

「私も……私もだよ。エル……!」

 

 

 リィエルも泣きながら口にした。

 ずっと一緒に笑い合っていたい。それはリィエルもギルガメッシュも、ウルクの民達も全員が望む事だ。

 

 だが、エルキドゥの身体はヒビ割れて腕は既に風化してしまっている。

 

 

「エルキドゥ、お前は1人ではない。我も1人になる事はない。貴様は我が生涯で最初の友であるのだからな。いずれ遠い未来で、また会おう友よ」

 

 

 それを優しく、そして辛くないようにギルガメッシュは約束をした。

 

 

「エル、私達は貴方を愛してる。だから、だからね……! いつかまた、明日を見に行こう……!」

 

 

 リィエルはいつまでも忘れないように明日をまた生きる事を約束した。

 

 

 2人は最後まで笑顔で居た。涙に濡れて酷い顔でも構わない。それでも笑って友を送り出したかったのだ。

 

 2人が口にした遠い未来の約束。

 人と共に歩む未来の話だ。それはエルキドゥを縛る新しい鎖であり、エルキドゥが望むいつかの未来の話だ。

 

 

「…………あっ……」

 

 

 リィエルもギルガメッシュも忘れない。

 

 

「……そうだね…………僕も……忘れない……」

 

 

 私達にはこんな友達が居たんだよ、と笑って未来で誰かに語れるような。そんな未来の約束を自分は忘れないでいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ギル……リィエル……ありがとう……僕も……2人……を忘れない…………大好き………………だよ」

 

 

 

 最後に人間らしい笑顔で笑った。悲しまないように、忘れないように、笑い合ったあの頃をずっと大切に……未来に繋いで行こう。

 

 

 だから……これは寂しいんじゃない。

 

 未来でまた逢える事の嬉しさだ。

 

 

 

 

 

 

 

 エルキドゥの身体は崩れて、土に還っていった。

 

 風化した土は風に運ばれてウルクの街に落ちる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の腕にいたエルキドゥはもういない。

 

 感じていた僅かながらの重みと暖かさが消えていった。

 

 

「……リィエル……」

 

 

 ギルガメッシュはリィエルを抱き締めた。

 

 力強く抱き締めた、リィエルの有無など気にする事も出来ないまま、それでも抱き締めた。

 

 

 

「……王……様……」

 

「少しでいい……こうさせてくれ……頼む」

 

 

 ギルガメッシュが初めて見せた弱みにリィエルも涙を流してギルガメッシュと同じく泣き叫んでいた。

 

 エルキドゥは死んだ。死んでしまったのだ。

 

 その温度を忘れないように抱き締めて守ろうとするギルガメッシュと、友を失った悲しみに泣いているリィエルは王様の背中に手を回して抱きしめた。

 

 

「……リィエル……」

 

「……なに……王様……」

 

 

 抱き締めたまま、ギルガメッシュは口にした。

 

 

 

「貴様は、貴様だけは……我を置いて死ぬな」

 

 

 ギルガメッシュの唯一はリィエルだけになってしまった。エルキドゥはもう居ない。ただ、3人で笑い合っていた事を忘れないように生きていく。ただそれでも同じ思いはしたくない。

 

 だから……ギルガメッシュは口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束するよ……()()()()()()()

 

 

 リィエルは初めて、王様と呼ぶ事を止めた。

 

 約束した。決してギルガメッシュを置いて死なないと、リィエルがギルガメッシュと共にあり続ける事を約束した。

 




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『天』は不死を求め『人』は国を背に戦う

赤バーがあるだと!?なんと作者自身もビックリ、いつも読んでくれてありがとう!!あと2話くらい続くので応援よろしくお願いします!!感想や評価をもらえると嬉しいです!!

では五話目!!言ってみよう!!


 エルキドゥが死んでから数日が経った。

 

 

『我は旅に出る。我が友であるエルキドゥと同じ死に怯えて生きるのだろう。我はそれを望まない』

 

『……そう……永遠を望むのね』

 

『ああ、我は必ず不死の草を持って帰ってくる。リィエル、貴様も来るか?』

 

 

 リィエルは首を横に振った。

 

 

『……ううん、私は残るよ。この国の宮廷魔導師だし、この国を守る責任が私にはあるから』

 

『……貴様は止めないのか? 我の旅を』

 

『今回は許すわ。私も同じだもの、ただエルが愛し、貴方が王である故郷を放っておいては行けないわ』

 

『……そうか』

 

 

 ギルガメッシュはリィエルに3つの宝剣とギルガメッシュの()()()()()()()()()を渡した。渡されたリィエルは驚愕していたが、ギルガメッシュはこう言った。

 

 

『いくら貴様とて1人では限界があろう。だからこれは我の旅路の間、貴様に使用する事を許す。宝剣は結界の触媒にも何でも使え』

 

 

 リィエルなら任せられる。

 ギルガメッシュは恐らく、リィエルの分も持ってくるつもりだろう。リィエルは去りゆくギルガメッシュの背中を見つめながら最後の別れを口にした。

 

 

 

『……()()()()()()()

 

『……?』

 

『必ず、帰って来なさい。私も、置いてかれるなんて許さないから』

 

『……戯け、死なぬわ』

 

 

 旅路は三年だ。三年で必ず戻ってくる。

 そう告げてギルガメッシュはウルクの街を去っていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「…………うっ」

 

 

 目を覚ますと知っている天上があった。傍らには涙を流しながらリィエルが目覚めたのを喜ぶシドゥリが居た。どうやら気を失っていたようだ。おかげで旅路のギルガメッシュの背中が見えた気がした。

 

 

「リィエル()! 目覚めたのですね……!」

 

「……シドゥリさん、私どれくらい気を失ってました」

 

「丸2日です。ああ立ち上がらないで! 今は夜遅くですし……民達や文官の人達も眠っている時間帯です」

 

 

 リィエルがやっていた事はルーン魔術による作物の安定化だ。大地自身にリィエルの魔杖を繋げて、()()()()()()民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)』を再現に成功した。

 

 リィエルの原初のルーンを()()()()()()()()として書き記し、その土地に癒しの力を分け与える事で作物の生産の安定化をしてきた。

 

 並行世界に繋げれば魔力は無限にあるリィエルなら可能な話なのだが、リィエルも精霊の血を宿していても人の身では負担が大きい。

 

 魔術回路が休みを取らずに働いて、その上、魔獣避けの結界を宝剣を触媒にして張り巡らせ、更に仮としての王の責務にいよいよリィエルが倒れたのだ。

 

 

「……2日か……ごめんシドゥリさん」

 

「謝る事ではありません。王が不在の中、私達を支えてくれているのはリィエル様なのですから」

 

「……あと……何ヶ月後だっけ」

 

「8ヶ月と3日です。ギルガメッシュ王が帰ってくるのは」

 

 

 既に二年と四か月が経過した。

 ウルクの街は土地神のイシュタルが居なくなった事により、作物問題や輸入、輸出に問題が多発する。王が居る事をリィエルの幻術で誤魔化せては居るが、バレるのは時間の問題だ。

 

 ギルガメッシュが帰ってくる前に攻められたらウルク全体の兵を集めても5桁が精一杯だ。対して他国は6か7桁、いくら対集団戦に魔術を惜しみなく使えるリィエルでさえ勝てない可能性がある。

 

 

「シドゥリさん……こんな時間まで私を看病してくれてたんですね。大丈夫なのですか? 寝た方がいいですよ」

 

「大丈夫です。このくらい自由だった時の王に比べれば軽いものです」

 

「……シドゥリさん。入ってください、今日だけでいいので一緒に寝ましょう」

 

「そんな、恐れ多い……」

 

「私が許してるんですから、それにシドゥリさんに倒れてもらっても困りますから」

 

 

 リィエルは掛けでいた毛布を広げ、シドゥリを招く。

 シドゥリは恐る恐る毛布に入った。その瞬間、リィエルはシドゥリに癒しと眠りの魔術をかけて眠らせていた。

 

 

「……実はもの凄い疲れてるのに、私の為にありがとうございます」

 

 

 リィエルは布団をシドゥリに掛けて、魔杖を持ち文官達が働いている所に向かった。今は文官達も眠っている。それは嘘だ。単にリィエルを休ませる為の嘘なのは分かっていた。

 

 2日休んだ分の遅れを取り戻さないと、とリィエルは再びウルク全体に結界を張り始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 4ヶ月が経過した。

 

 ウルクでは、免れる事の出来ない他国からの宣戦布告を受けた。

 

 国内での不作、外国から全く物が入ってこなくなったことが宣戦布告の合図だった。土地や作物はリィエルの力でどうにか出来ても外国に関しては全く別問題だ。

 

 ……無論、ウルクの周辺国が敵に回ったことが原因だ。周辺国のいくつかではない。周辺国が全て、それも連合を組んで、ウルクに戦争を持ちかけた。

 

 リィエルが1番恐れていた事態だ。幻術や催眠による傀儡の魔術である程度の事はしていたのだが、とうとうそれが解けてしまったらしい。

 

 こちらがいくら拒否しようと、『神から見捨てられた』とされるウルクの土地を擁護する国などあるわけがない。開幕の火蓋が切って落とされたのは、当然の流れと言えた。

 

 リィエルは周辺国の近くに地雷の魔術を掛ける事でどうにか戦況を慎重に行動させる事が出来たが、それでも20万は下らない兵士がウルクに襲い掛かるのは時間の問題だった。

 

 戦況は……当然ながら、ウルクの圧倒的不利だった。

 

 こちらの持つ兵力は5桁、リィエルの強化をした所で焼け石に水だ。数で圧倒されれば是非もあるまい。どの道以前不利なのに変わりないのだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

「防衛戦……それで行くしかないわ」

 

 

 リィエルはウルク全体に巨大な外壁を二重に作り、兵達をそこに配置させた。リィエルについては空から遊撃、全体の指揮はこの国の一番兵に任せた。リィエルは軍師ではないし、恐らくウルクへの被害を最小限にする為にウルクから遠い場所から待ち構える事になるだろう。

 

 

「まあ、とっておきをあれだけ作ったから、恐らくは問題ないと思うけど……」

 

 

 魔道具生成で兵士一人一人にこの時代では珍しい手榴弾のようなもの渡した。近づかれたら迷わず投げるように指示し、周辺国に対する威嚇にもなる。十全な準備は整えたつもりだ。

 

 

「……準備はできた」

 

 

 リィエルは一人。戦場となるだろう平原で、敵を待ち構えていた。

 

 避難やら住民への説明やらに追われる文官達。

 兵達を前線には上げられない。魔獣避けの結界は一度解除しなくてはならないからだ。ウルクに張った防衛戦用の外壁がある以上、無駄に魔力を消費できない。

 

 戦闘力と呼べるものはリィエル以外には人を襲う魔獣のみ。

 

 だから、()()()()()()()()。故に防衛戦。魔獣は見境なく攻めてくるなら、両者を巻き込んで戦局を掻き乱そう。

 

 

 この戦争に絶対に勝つ、そして……

 

 

「私達が愛した国を渡さない」

 

 

 ギルガメッシュ、エルキドゥ、力を貸してね。

 魔杖を強く握り、リィエルは戦場へ向かった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 目の前には、人の海。大凡見果てぬ人の塊。向こうも焦れてきたのだろう、最大規模の戦力だった。人の波がウルクを襲えば、一溜りもないだろう。

 

 数の暴力とはよく言ったもの、ウルクを取り囲んでもまだ余りありそうな戦力が、リィエルの前には立っていた。数は黙示しただけで予想より遥か上の40万はいるだろう。

 

 

 勝鬨のような雄叫びが鼓膜をビリビリと震えさせた。リィエルはそれに臆す事なく、空に浮かんでいた。こんなもの、ギルガメッシュやエルキドゥの性能の競い合いに比べれば恐れるものなどなかった。何だか笑ってしまいそうだ。

 

 

 進軍を続ける隊が、ピタリとある一点で止まった。

 

 太陽を背に浮かんでいるリィエルの姿を見つけたのだ。

 

 それを見た兵達は嘲り、憐憫、同情、怒り。舐められていると思ったのだろう。だが、数少ない兵士にはこう見えたのだ。

 

 

 まるで、神の化身であると。

 

 

 

「私の名はリィエル。ウルクの宮廷魔導師にしてウルクを護る『星の巫女』。お前達を冥界へ送る女の名前だ。覚えておくがいい!!」

 

 

 リィエルは魔杖を軍全体に向けた。

 もう詠唱など要らない。対集団戦に於いて、リィエルの右に出るものはあの2人以外存在しないだろう。

 

 そしてこれが、開戦の狼煙を上げるのだ。

 

 出し惜しみなど、する訳ない。

 

 

私を繋ぐ世界の全て(アナザー・オブ・バビロン)!!』

 

 

 フンババの時に使用したリィエルの切り札。

 空に浮かぶ無数の魔法陣から、流星群にも等しい攻撃が軍に襲い掛かる。それも雨のように降り注ぐ為、避ける事など無理な話だ。

 

 

「ぐああああああっ!!?」

「ほ、砲撃だ!! 全軍退避!!」

「ぐがあああああ!? 腕が……! 腕がああああ!!」

 

 

 戦場は阿鼻叫喚、地獄絵図である。光が肉体を貫き、風の刃が肉体切り裂き、炎の海が大地もろとも焼き焦がした。

 

 今ので、20分の1くらいは削れたであろう。

 

 今のは初手の奇襲だ。次はそうはいかないだろう。

 

 打ってくる弓矢は自分の周りに張った結界で防ぎ、リィエルは一方的に攻撃を続ける。

 

 

接続完了(セット)!」

 

 

 魔杖から大量の魔力を引っ張り出してリィエルは3万の群勢の周りに結界を張り、閉じ込める。

 

 

「な、なんだ!?」

「閉じ込められました!!」

「今すぐ結界を破壊しろ!!」

 

 

 兵達が結界に攻撃しても、びくともしない。

 リィエルは結界を徐々に狭めて、兵士達を圧殺する。それはまるで巨大なプレス機のようで、囲まれた兵士達に逃げる術などない。リィエル以上の魔術が使える人間はこの時代には存在しないからだ。

 

 

「あ……がぁ……!」

「あびゃびゃ────ぁ」

「あが、あぎゅ、ごふ」

「あびゃ──た、たす、たすけ」

 

 

 グチャ、と結界の中が見えないほどの血みどろと圧殺された兵士達の肉塊が転がっていた。唖然とする兵士達、リィエルがまるで悪魔のように見えていた。

 

 

「うっ……ぷ」

 

 

 吐き気がする。血みどろの戦場に潰した兵士の肉の感触が結界越しに伝わってきた。リィエルは戦場に出るのに向いていないと自覚する。対集団戦に於いてリィエルは最強の力を持っているが、リィエル自身が人を殺すのに躊躇があったからだ。

 

 リィエル自身の優しさがそれを阻害する。だが、侵略されればもっと多くの人間が死んでいく。心を鬼にしてそれを無視し、さらに爆破範囲の広いルーンで人を殺していく。

 

 

(殺している……私が彼らを殺してる)

 

 

 相手は血も涙もない侵略者だ。少しでも慈悲を残せば、逆にこちらが滅ぼされる可能性だってある。それでも、それでも何の為に戦うのかの意義すら忘れてしまいそうな程、戦場は血に染まっていた。リィエルは血が滲むほど魔杖を握りしめながら、次の術式を作り上げた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 兵が半数以上減ってから、リィエルに異変があった。

 

 

「ゴホッ……! ハァ……ハァ……!」

 

 

 リィエルが吐血し出したのだ。

 魔杖から魔力を引っ張り出して自身の魔力として術式を作り上げていたリィエルだったが、魔術回路の酷使による身体への負担がいよいよ限界に近づいていた。魔獣寄せの魔術を使ってから身体から途方もない疲労感に襲われ、いよいよ空中に浮遊することさえ維持できなくなっていた。

 

 

「くっ……!」

 

 

 既に戦闘開始から一時間が経過していた。

 敵兵からしたら勝機だ。すぐ様兵達を突撃させる。

 

 

「っっ……はああああああっ!!」

 

 

 リィエルに向けて剣が、槍が、槌が、振り下ろされる。それらの衝撃をある程度の障壁魔術で躱しながら、()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()周囲にいた十数名を吹き飛ばした。

 

 リィエルの魔杖が並行世界から結果のみを引き摺り出すなら、「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」に接続し、その世界のリィエルから戦い方、戦闘経験の起源すら譲り受けた。

 

 

「私が白兵戦が弱いといつ錯覚した!!」

 

 

 魔力を回すだけで身体が軋む感覚に襲われる。だが、リィエルは『強化』の魔術で戦場を駆け抜け、黄金の長剣でなぎ払い、切り開く。

 

 

「くっ…………! はああああああ!!」

 

 

 障壁の対応が遅れて、矢や剣が身体に刺されるが、リィエルはそれを意にも返さない。エルキドゥとの性能比べの方がもっと痛かった。ギルガメッシュの剣技の方がまだ重かった。自分は断じてこの程度の傷で倒れる程柔ではない。

 

 

「ゴホッ……! ハァ……ハァ……! まだまだぁ!!」

 

 

 血を吐きながらも、限界だと知りながらもリィエルは剣を振るう。魔力の生成も強化も身体が拒絶する程の痛みに気を失いそうになる。それでも剣を振るい、気づけばリィエルは1000という屍の山を積み上げた。

 

 

「リィエル様!!」

 

「っっ!? 貴方達……! 防衛戦の筈では!!」

 

「戦力を半分割いて参りました。リィエル様の奮闘により、兵士達にも勝機が見えたと思い、我等五千の兵士が貴方に加勢しに来ました!」

 

 

 馬鹿じゃないの、と罵る力もない。防衛に徹すれば死ぬ可能性は存分に減るというのに、私の為にわざわざ加勢してきてくれた事に文句すら言えない。それでも力を貸してくれたのは、私を信じてくれているからだろう

 

 

「……分かったわ。…………っっ、『接続開始(セット)』!!」

 

 

 リィエルは身体が悲鳴を上げながらも、兵士全員に繋げて身体強化のルーンをかけた。かなり大量の血を吐いたが、今、気にする事ではない。

 

 気を失いそうな激痛に身体を蝕まれながらもリィエルは立ち上がり、兵士達の指揮を上げた。

 

 

「全員、生きて帰りなさい!!後方支援はこの『星の巫女』たるリィエルが引き受けるわ!!今此処にウルクの民は健在であると!!ウルクの兵士としての意地を存分に発揮しなさい!!」

 

 

 その怒号のような指揮に全員が雄叫びを上げる。

 これが最後の戦いになるだろう。兵士は10万程度とは言え此方より数が多い。ただ、ウルクの民は此処に健在だと。あの王は必ず言った筈だ。

 

 リィエルは軋む身体に耐えながら、兵士達の後方支援として魔術を使い続けた。血を吐きながら、激痛に駆られながら、それでもリィエルは最後まで立ち続けた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 

 ウルクの兵士は三桁になった。

 

 だが、最後の敵兵をリィエルが斬り殺し、敵兵の全てを殲滅した。

 

 

 勝ったのだ。この戦い、ウルクが勝利したのだ。

 

 

「……終わった……これで……私達の国は……」

 

 

 全員が喜びに満ち溢れた。

 アレだけの絶望を覆したのだ。ギルガメッシュ、エルキドゥがいない中、リィエルの力で国を守り抜いたのだ。最早戦場に血に汚れていない場所などないくらいの過酷な戦場を生き延びたのだ。

 

 

 

「……守り抜いたよ……エル、ギルガメッシュ」

 

 

 安堵しながら、魔杖に身体を支えながら天を見上げた。

 

 

 パチパチパチ

 

 そこに水を差す拍手が聞こえた。

 ウルクの兵士達がその方向を見る。青い巨大な弓に乗って、悠然と座りながら見下ろす女神が1人、そこにはいた。忘れはしない。エルキドゥを殺した神の一柱。

 

 

「この場合、お疲れ様とでも言えばいいのかしら? ウルクの人間達」

 

「イシュタル……!!」

 

「もう様は付けないのね。不敬だわ」

 

「エルキドゥを殺し、ウルクを滅ぼそうとした頭のイカれた神に今更敬語使わなければいけない方が頭イカれてるわ。今更貴女が捨てたこの地に何の用かしら?」

 

 

 イシュタルは鼻で笑いながら口にした。

 リィエルはイシュタルを目に移した瞬間、激昂し魔力が溢れ出た。自分の身体の痛みなど知った事ではない。エルキドゥを殺した張本人だ。今すぐに殺したいくらい憎んでいた。

 

 

「当然、ウルクを滅ぼしに来たのよ」

 

「はっ……幾ら神とは言え所詮一柱、私1人で十分。恐れるに足らないわ」

 

 

 地上において神の法や権能が使えない中で、神一柱などリィエルには及ばない。イシュタルは戦と美の神であろうが、エルキドゥやギルガメッシュと対等に張り合ったリィエルには及ばないだろう。

 

 身体に負担が大きいが、自分が倒れる前にイシュタルを殺す自信がある。最悪、相打ちに出来るくらいの余裕がリィエルにはまだあった。

 

 

 

「ああ、安心しなさい。戦うのは私1人じゃないわ」

 

 

 だがイシュタルはそれを否定した。

 イシュタルは笑いながらリィエルを見下していた。

 

 

「まだ気付かないのかしら。今、この場所で1匹たりとも魔獣が現れない事に」

 

「っっ!? まさか……!」

 

 

 リィエルは感知の結界でウルクを見渡す。身体の痛みなど気にしている暇などなかった。思わず目を見開いた。

 

 外壁に魔獣が押し寄せてくる。まるでそれは()()()()()()()()()()()()()()にリィエルは少なからず焦りが生まれる。今のウルクの兵士達は五千、今攻められたら守り切れないし、陣形が崩れたら更に崩壊していく。

 

 魔獣を押し寄せない為に魔獣避けの結界を張ったが意味すらない。まるで()()()()()()()()()()()()()にリィエルはイシュタルに叫んだ。

 

 

「イシュタル!! 貴女一体何をしたぁ!!」

 

「三女神達が誰がウルクを滅ぼすか競い合っているのよ。まあ、私も貴女を殺す為にわざわざ天界からエンリル神に許可を貰って持ってきたわけだけど」

 

「なにっ!? っっ……!!」

 

 

 空が曇っていく。一瞬にして空は曇天に変わり、風が吹き飛ばさんとばかりに吹き荒れた。そして雨が降り戦場の爪痕を濡らし、血の海がまるで地獄を連想させる。

 

 これは忘れもしない2年前の……

 

 

「絶望なさい。地を這う虫ケラが如何に群れようと天に届かない事をたーっぷり教えてあげるわ」

 

 

 

 嫌な笑みを浮かべ、イシュタルが更に上に飛ぶ。

 雷が轟く。風が吹き荒れて立つ事すらままならない。

 曇天から現れたのは黄金の蹄、身体が、足が、胴が、頭が、全て黄金のような巨大な牛。

 

 それは忘れもしない2年前に()()で討伐した……

 

 

「……嘘でしょ……」

 

 

 それは()()()()()()()()()()()存在。

 

 ()()()()天の牡牛(グガランナ)』がリィエル達の前に絶望を与えに現れたのだ。

 

 

 

 

 





イシュタル「グガランナが何故二体目が居ないと錯覚した?」


いやー明日から学校で投稿が2日後になるかもしれません。本当にすいません。忙しくなりそうなので投稿したいけど出来ない可能性があります。それだけ覚えておいてください。


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『人』は神の時代を終わらせ『天』は空を仰ぎ見る

次回が、多分最終話です。

やべ、結構設定入れるのに無茶振りした気がする。

だが後悔はない。





天の牡牛(グガランナ)

 それは神々でさえ従わせる事の出来ない聖獣であり、時にイシュタルが厳しく躾ければ、従わせる事が出来る神の暴獣。シュメル神話において、天災の魔獣であり、天界の聖獣である。

 

 だが、それは三人で塵すら残さずに殺した筈だ。天界に()()()が居るなんてリィエルは予想だにしていなかった。

 

 

「二体目のグガランナですって……!?」

 

「蹴散らしなさい!!」

 

「っっ!!」

 

 

 リィエルはウルクの兵士、そしてウルクの街全体に強固な結界を張った。グガランナの豪雷や嵐と言う天変地異を引き起こしながらも進む暴獣。リィエルの結界でも防ぎ切れずに兵士達は吹き飛ばされる。

 

 

「マアンナ!! 放て!!」

 

「っ……!? (兵士達を……!?)」

 

 

 イシュタルが放つ矢は明らかにリィエルではなく兵士達に向いていた。リィエルは一瞬にして兵士全員に物理保護の魔術をかける。しかし、次の瞬間、ドクンッ!! と心臓の音が頭に響く程巨大な音に聞こえるくらいに揺さぶられた。

 

 

「かはっ……! あ……! ゴホッ……ゴホッ……!!」

 

 

 リィエルは大量の血を吐き出した。

 身体からどれ程の血を吐いたのだろう。どれ程の魔力を使っただろう。身体は激痛に駆られ、目を瞑れば永眠してしまいそうだ。

 

 

「それが貴女の弱点よ。リィエル」

 

「……弱……点?」

 

「貴女は精霊に愛され、半身として生まれた受肉精霊よ。けど、それ故に民を愛し、自分の残り少ない力でさえ弱き民達を護るために無茶をする。その甘さこそ、貴女の最大の弱点なのよ」

 

 

 イシュタルの言う通りだった。

 後ろにいる兵士達がリィエルの足枷となっている。それどころか既に限界のリィエルに無理をさせてまで結界を張らせている。そうしなければ死んでもおかしくないからだ。

 

 リィエルの優しさを漬け込んだ最悪の一手は、イシュタルにとって最高の攻撃となってしまっている。

 

 どうしようもない。逃げようとしてもイシュタルはウルクの兵士達を狙い、リィエルはそれを守るために無理をするだろう。

 

 リィエルは意を覚悟して兵士達に告げた。

 

 

「……貴方達、撤退しなさい」

 

 

 それは、リィエルの口から1番聞きたくなかった言葉だ。リィエルを残して自分達は戦場から去る。リィエルはとっくに限界だ。それを見殺しにして自分達の我が身可愛さに逃げるしかない。当然兵士達は困惑する。

 

 

「リィエル様! しかし……!」

 

「こんな事言うのは悪いけど、イシュタルの言う通り、貴方達は弱い。貴方達が束になってもグガランナはおろか、イシュタルにさえ歯が立たない」

 

 

 それは余りにも現実的で、正論だった。

 イシュタルは曲がりなりにも豊穣と美、そして()()()なのだ。グガランナは人の力で勝てる領域ではないし、神であるイシュタルに真っ向から挑んでも潰されるのが目に見えている。

 

 

「──今、私の事を思って動いてくれるなら、お願い」

 

 

 リィエルはウルクの街と今ここに立っている戦場を繋げてワープゲートのようなものを作った。走れば数秒で全員が撤退できる程の大きさで。

 

 

「──行って!! 早く!!」

 

 

 その怒号にウルクの兵士は血が滲むほど唇を噛みしめながらも決断した。そのワープゲートさえリィエルの身体に激痛が走るくらいだ。結界を張る余裕など当然ない。

 

 

「っっ!! 撤退だ! 撤退せよ!!」

 

 

 ウルクの兵士達はワープゲートに飛び込むように潜り抜けた。

 イシュタルのマアンナが光の矢を撃つが、リィエルが魔杖を黄金の長剣に変えて、兵士達に当たる矢全てを切り裂いた。

 

 マアンナの矢を全て切り裂いた頃には既にウルクの兵士達の撤退が完了していた。

 

 

「……チッ、逃げられたか。まあいいわ」

 

 .

 イシュタルの目的はウルクを滅ぼす事だ。リィエルさえ死ねばギルガメッシュの居ないウルクの均衡は破綻する。魔獣達が押し寄せるし、グガランナは未だ健在。

 

 

「(……耳が……聞こえなくなったかな……)」

 

 

 リィエル自身、豪雷の掠れた音しか拾えなくなっていた。風やイシュタルの声も最早リィエルに届かない。

 

 

「ハァ……ハァ……!! っ……! ハアアアァァ!!!」

 

 

 リィエルは魔杖を黄金の長剣に変えたまま、自身に飛行の魔術をかけて、イシュタルを狙う。グガランナはあくまでイシュタルの手によって管理されている状態だ。

 

 ならイシュタルさえ死ねばグガランナは暴走する。暴走した後は他国にでも転移させて時間を稼げばまだ勝機はある。

 

 

「甘いわね。私を狙う気持ちはわかるけど、そんな悠長に攻撃させると思う?」

 

 

 グガランナが脚を上げた。

 2年前は脚を上げる事さえなかったが、その脅威はギルガメッシュが口にしていた。

 

 踏めば豪雷、豪嵐、そして()()()()()()()()()()

 

 

「っっ!!」

 

 

 リィエルは瞬間的に結界を張ったが遅かった。

 

 かろうじて拾えていた音さえ、リィエルから消えた。

 

 

 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!! 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「キャッ!?」

 

「な、なんだ!? この揺れは!!」

 

 

 避難していたウルクの民達でさえ聞こえた大きな轟音に、巨大な地震。正直な話、リィエルが張った結界さえなければウルクはこの地震でさえ壊滅的な被害を及ぼしていただろう。

 

 

「た、大変だ!!」

 

「どうした!?」

 

「ウルクの兵士達が帰ってきたんだ!! さっき突然空間が歪んだと思ったら、そこからリィエル様を助けに行っていた兵士達がいきなり現れたんだ!!」

 

「じゃあ! 戦争には勝ったのか!!」

 

「いや!! まだリィエル様が、イシュタル様が連れたグガランナに1人で立ち向かってる!!」

 

「何!?」

 

 

 そして、それは突然だった。

 パリンッ!! と硝子が割れたような音がウルクに響き渡る。それは、ウルク全体を守っていたリィエルの結界が消えたと言う事だ。

 

 そしてその理由は二つある。

 

 今の地震に結界が耐えれなくなったか。

 

 リィエル自身に何かあったのか。

 

 又はその両方か。

 

 

「シドゥリさん!!」

 

「離してください!! まだ……! まだ戦場にリィエル様が……!」

 

「貴女1人が言ったところで何になると言うのですか!! リィエル様を困らせるだけです!! イシュタル様は我らを躊躇なく狙ってきたのです!! 貴女が行っても足手まといにしかなりません!!」

 

「っっ!!!」

 

 

 結界が割れてから、リィエル自身が生きているのかさえわからない。だが、今行った所でリィエルの邪魔にしかならない。戻ってきた兵士達が必死にシドゥリを止めた。

 

 

「リィエル様……!!」

 

 

 ────────────────────

 

 

 砂煙で随分と周りが見えない。

 

 リィエルがかろうじて張った結界は砕けてリィエルは吹き飛ばされたのは目に見えたが、砂煙で辺りが全く見えないのだ。イシュタルはマアンナの矢でここら一帯を吹き飛ばそうと考えたその時、突如イシュタルの目の前に宝石が現れた。

 

 

 カッ!! と割れた宝石から閃光が出た。

 イシュタルの弱点である宝石に一瞬でも目が眩んだせいか、その閃光をモロに見たイシュタルは目を抑えていた。

 

 

「あああっっ!? 目が……!!」

 

 

 今の一撃で()()()()()()()()()

 頭から血が出て銀色の髪は血に染まり赤くなっている程だ。だが、まだリィエルは倒れなかった。この一瞬、この一瞬を狙って右手に持つ黄金の長剣でイシュタルの喉元を狙う。

 

 

「っっ! 甘いわ!!」

 

 

 しかし、それを読まれていたのか。

 マアンナが剣の太刀を止める。グガランナにやられた一瞬の隙でさえ、止められてしまったのだ。

 

 

「グガランナ!!!」

 

 

 グガランナが口を開くと嵐がリィエル目掛けて襲いかかる。

 イシュタルが躾けたグガランナはイシュタル本人のみ一切ダメージを受けない。嵐はイシュタルすら巻き込むが、イシュタルには通用しない

 

 

「っっ!!! ハアアア!!!」

 

 

 リィエルはそれを魔力砲で吹き飛ばし、イシュタルに距離を詰めた。グガランナの攻撃を吹き飛ばしたなら、イシュタルと一対一だ。

 

 しかし、リィエルが剣を振い出した瞬間、

 

 ドクンッ!!!と心臓の鼓動が身体から魂を引き剥がすかのように音を立てた。

 

 

「がっ……!!ああああっっっ!?!?」

 

 

 それは、リィエルにも誤算だった。

 

 身体のダメージが深刻な状況の中、リィエルは魔術を使い続けた代償で全身の骨が折れたかのような激痛が走り、身体の魔術回路は幾つか断線し、身体の皮膚から血が吹き出す。

 

 だが、それが決定的な隙だった。

 

()()()()()()()()()()()の死角からマアンナの矢は既に充填していた。

 

 

「マアンナ!!!」

 

「っっ……!!」

 

 

 それに気づいた時にはもう手遅れだった。

 

 充填されたマアンナの矢は放たれ、リィエルの胴体を引き摺りながらも貫いたのだ。リィエルが持っていた魔杖は手元から離れて、

 

 

「カハッ…………!」

 

 

 数百メートル程引き摺られて胴体を貫いた。

 かろうじて自分にかけた物理保護など紙装甲にも等しく意味をなさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今の一撃は間違いなく致命傷だ。

 

 

「(…………ま……だ……)」

 

 

 リィエルは地に倒れ、起き上がる事さえ出来なかった。

 

 胴体には魔術でも塞ぐ事のできない程、大きな穴が開きそこから止め処なく血が流れ落ちる。けれどリィエルはまだ生きていた。身体を引き摺りながらも魔杖のある方向へ片腕で這い蹲る。

 

 

「……まだ生きていたの。しぶといわね」

 

 

 地上から降りたイシュタルが這い蹲るリィエルの頭を踏みつける。最早勝敗も格の違いもついた。リィエルが死ぬ事によりウルクが滅ぶ事が決定したイシュタルは笑う。ゴリッ、ゴリッと頭蓋骨を踏み潰さんとばかりに力を入れる。

 

 

 

「………………あ…………」

 

「んっ? 何? 聞こえないわ。もっとちゃんと喋って頂戴。ああ、頭を踏みつけられてちゃ喋れないわよね」

 

 

 イシュタルはリィエルの髪を掴んで持ち上げる。

 面白そうな顔をしながらも泣いて許を請うリィエルの姿を想像しながらも、リィエルが口にした言葉に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「…………『接続……崩壊』」

 

 

 ────その言葉と同時に、イシュタルが気付かなかったリィエルの切札、既に千切れた筈の()()()()()()()が爆発した。

 

 

「なっ……! っあぁ──!?」

 

 さっき左腕を失った時に、密かに魔杖で()()()準備しておいた切り札。魔杖を離していても繋がっている以上、持たずともその力を発揮する。

 至近距離の爆発。イシュタルの体が吹き飛び、顔面から少なくない血が流れていた。顔を抑えて膝を着いている姿が目に入った。

 

 

「神なら……特にアンタなら……慢心するよね」

「っっアンタ……!! 美の象徴であるこの私の顔に……傷をっ!!!」

 

 

 イシュタルは右手で焼かれたような痛みが走る顔を押さえていた。顔の半分程に軽度の火傷を負ったのだ。美の象徴である自分の顔を傷つけたその不敬に怒り震えるイシュタル。

 逆にリィエルは痛みで思考が上手く回らない、零れ落ちる血、僅かながらの動揺をしながらも、怒りに震えるイシュタルにリィエルは何もできない。血を流し過ぎて、魔術を使えば命を枯らす。

 

 だから、アレが今出来る精一杯だったのに、殺せなかった。リィエルは見上げて、口元を歪めて笑う事しかできない。

 

 

「ザマア……ミロ……お、似合いの……顔、にな……ったわね」

 

「っっ……!! マアンナ!!」

 

 

 イシュタルはマアンナに乗り、空高くからリィエルを狙う。

 否、正確にはリィエルの死体を残さない程の威力で、この一帯を全て消し去るつもりだ。

 

 

「(ああ……もう……身体が……冷たい……)」

 

 

 身体は血を失い、体温を奪っていく。

 激痛で指一本動かせる気がしない。

 

 

「(……私は何、してたんだっけ……?)」

 

 

 考えている間にも、身体は深く、深く。重力に押し潰され、飲み込まれるような勢いに逆らうこともせず、リィエルは諦めたように流されていた。

 

 

「(眠いなぁ…………)」

 

 

 酷く、疲れている。喉の奥が焼け付くように何かを叫ぼうとしていたが、そんなこともどうでもよく感じてしまっていた。

 

 意識など要らないくらいに思考を放棄したい。今はただ、泥のように眠っていたい。

 

 リィエルの意識はここで途絶えた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 声が聞こえた。

 

 何か懐かしい声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様の歌声は何物にも勝る美酒のようだ。良いぞ。貴様にこの我の財となることを赦そう』

 

 

 気が付けば、私はそこに居た。

 

 そこには……誰だっけ? 

 

 顔が見えない。まるで思考がモヤにかかったように働かない。

 

 

『えっ、普通に嫌です』

 

『そうかそうか。ならば我の元に………………はっ?』

 

 

 それが私と×××××××の始まりだった。

 

 ……名前、なんだったかな。思い出そうとしても顔が見えない。

 

 

 

 

『こらー! 待ちなさい!』

 

『フハハハ! だが断る! 今日は劇を見に行くのでな!』

 

『仕事サボるんじゃありません! シドゥリさんが過労死しちゃうでしょうが!! ××ー! ×××××××を止めて!!』

 

『なっ……! 我が友を使うのは狡いではないか!』

 

『知るかー! ならせめて仕事してから行きなさーい!』

 

 

 それから私は×××××××と×××××をいつも追いかけて居た。

 

 あれ? 私は誰を追いかけて居たんだっけ……? 

 

 

 

 

 

『ほう……『()()』と来たか。その名は重いぞ』

 

「今更何言ってんの? 星を見定める王、×××××××の宮廷魔導師ならそれくらいの覚悟がなくちゃ、笑われるでしょ?」

 

 

 それから私は誇りを持った。×××××××の背中を追い続けた。

 

 確か……王様だった……けど、名前が分からない。

 

 

 

「××、××! 今日は飲もう! シドゥリさん達も明日くらいなら休日にするくらい許してくれそうだし!」

 

「フハハハ!! 良いぞ! 今日は最高に良い気分だ! 我が蔵からとっておきを出してやろう!!」

 

「飲み比べと行くかい2人とも?」

 

「良かろう!」

 

「いやそれ絶対××が勝つじゃん!?」

 

 

 それから私達は誰にも負けなかった。

 フンババにもグガランナにも負けなかった。

 

 あの2人の名前が思い出せない……

 

 

 

 

「×××××、お前は1人ではない。我も1人になる事はない。貴様は我が生涯で最初の友であるのだからな。いずれ遠い未来で、また会おう友よ」

 

 

 

 それを優しく、そして辛くないように×××××××は約束をした。

 

 

 

「××、私達は貴方を愛してる。だから、だからね……! いつかまた、明日を見に行こう……!」

 

 

 

 私はいつまでも忘れないように明日をまた生きる事を約束した。

 

 誰……? 誰だったかな……? 

 

 

「……××……リィエル……ありがとう……僕も……2人……を忘れない…………大好き…………だよ」

 

 

 

 

 私と×××××××は×××××と未来の約束をした。

 

 

 何か……大事な事を忘れてる気がする。

 

 

 忘れてはいけない。大事な約束を……

 

 

 

「……リィエル……」

 

「……なに……王様……」

 

 

 私を抱き締めたまま、×××××××は口にした。

 

 

 一体誰だった……? 私は……誰に抱き締められた? 

 

 

 

 

 

「貴様は、貴様だけは……我を置いて死ぬな」

 

 

 あの時、……私と王様は泣いていた。

 

 

「約束するよ……

 

 

 

 

 

 ああ、そうだ思い出した。

 

 あの時、私に約束させた人の名前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 そうだ。そうだったよ。

 

 思い出したのだ。私の起源(ルーツ)が……

 

 私の歌が王に届いたから、今の私はここに居る。

 

 私の力が認められたから、私は2人と肩を並べた。

 

 私を信じて託してくれたから、今の私は背負っているのだ。

 

 世界の理も、友の約束も、ウルクを守る事も、

 

 そしてギルガメッシュを置いて死なないと。

 

 

 

 

 

「……漸く、気づいたようだね」

 

 

 世界が真っ白に変わった。

 

 そこには何も無かった。自分の世界はいつも空っぽだった。

 

 

 

「君は一体何なのか。何者なのか」

 

 

 

 私は歌が好きだった。

 

 ただ()()()()()()()のだ。

 

 歌う事に意味なんてなく、歌が好きだったからそれしかなかった。

 

 

 けれどギルガメッシュが色を与えてくれた。エルキドゥが筆を持たせてくれた。それは絵具のように私の心を彩るような刺激的な毎日があったのだ。

 

 ギルガメッシュとエルキドゥと共に肩を並べあって、世界を背負ったのだ。それは重くとも支え合って、繋ぎ合って、それでいて辛くなかった。誇りに思えた。

 

 

 私が今、ここに居るのは……

 

 

「うん。全部分かったんだ。私はギルガメッシュとエルキドゥの側に居たから、今の私の全てがあるって、気付けたんだ」

 

 

 もう全部分かった。

 

 リィエルと言う1人の人間を認めてくれた王がいた。

 

 リィエルを親友と呼ぶ兵器がいた。

 

 片方は無知にして私と同じかもしれなかった存在、神の兵器として生まれながらも、私と共に空を見た大切な友達。

 

 片方は傲慢で、自由で、横暴で、食えない王だった。それでも気高く、神すら恐れない王が居た。

 

 2人が私を認めてくれたから、今の私はここに居る。

 

 

 

「私は……ギルガメッシュの側に居たい。ギルガメッシュと一緒に世界が見たい。だから私は……ギルガメッシュと約束した事を()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 振り返ると、そこには懐かしく感じた。

 

 大事な約束をしたもう1人の『()()

 

 『心』を手にし、私とギルガメッシュが約束したもう1人の友が居た。ゆらゆらと棚引く緑色の長い髪、宝石のような金色の瞳、天の鎖としてギルガメッシュとリィエルと共にあった存在。

 

 

「私はまだ生きるよ。約束はまだ先になっちゃうね」

 

「構わないさ。ギルを1人にしたくないのは僕も同じさ」

 

 

 リィエルは大事な人に大事な約束をしていた。

 

 それを邪魔する神が居る。いや、神が人と共にあるなら、あの神はこの世界に存在してはいけない神だ。

 

 だが、神の時代である以上、天の法には逆らえない。民達は怯え、恐怖してしまう。今の人間はグラガンナも私利私欲で持ち込んだあの女神に逆らえない。

 

 だからリィエルは考えた。

 

 この先をどうすればいいか。

 

 

「私は今から、大馬鹿な事をするよ? ギルガメッシュでさえ驚く程の大馬鹿を」

 

「ハハハ……! 良いんじゃないかな? それが()()()()()()()()()だよ。きっと」

 

 

 お互いに笑い、リィエルは手を伸ばした。

 そうだ。いつも大馬鹿やらかして、私が追いかけて、捕まえて、それでいてまた繰り返し。けれど偶に一緒に馬鹿をやらかして、笑い合う。

 

 それが私達の在り方だった。()()()()()()()だったのだ。

 

 

()()、力を貸してくれる?」

 

 

 

 恐らくは()()になるだろう。

 

 意気込んでも風前の灯のような命だ。大馬鹿やらかしても後など殆どないだろう。約束は守れない。けど、無かったことになんかさせない。

 

 ならば燃やすとしよう。最後の命の蝋燭が切れるまで、最後まで醜く生きよう。それが、(リィエル)の在り方だ。

 

 ギルガメッシュ、そしてリィエルの友である()()()()()は手を取った。

 

 

「勿論さ。リィエル」

 

 

 2人が手を繋ぎ合わせると、白い世界は何処か懐かしい金色の光と共に消えていった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 イシュタルのマアンナが最大出力まで魔力を溜めている。

 

 生きしぶといリィエルでさえ、この一帯すら消し飛ばす対山宝具には耐える事すら出来ないだろう。

 

 

「…………何? この歌は?」

 

 

 それはまるで幻想的な歌だった。惹き込まれるような優しくも可憐で、美しい声で歌われている。まるで魅了されたかのように大地が、空が、風が音を止めるようだ。

 

 リィエルではない。リィエルを見ても口すら動いていない。イシュタルは歌が聞こえる方向を見た。そこにあったのはリィエルの魔杖である『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』だ。持ち主が何もしていないのに浮かんでいたのだ。

 

 あの魔杖から歌声が聞こえる。

 

 それも、何十、何百もの声が重なって紡がれた歌にイシュタルでさえ聞き惚れてしまうほどだ。

 

 

「……っ!? なっ!? この私が聞き惚れたですって!? 認めるもんですか!! マアンナ!!」

 

 

 それは美の象徴からすれば一瞬の敗北。

 イシュタルはマアンナの矢を撃つ方向をリィエルから魔杖に変える。ここでリィエルを殺すなど造作も無いが、屈辱だが自分でさえ聞き惚れてしまったリィエルの歌声に苛立ち、魔杖を先に破壊する為にマアンナを向けた。

 

 しかし、その杖の後ろに誰かが立っている。

 

 

「……無粋な事を……しないでほしいわね」

 

 

 いつの間にか倒れていたリィエルが浮いた魔杖を手に取った。

 見るからに致命傷、なのにまだ立ち上がり魔術を使って浮いている。吐き出す血はもう無い。身体を走る激痛などもう忘れた。

 

 何故死なない。何故立ち上がるのか。どちらにせよマアンナが狙う方向にリィエルが居るなら一石二鳥だ。

 

 

「マアンナ!! 全力掃射!!」

 

 

 マアンナの矢はリィエルを定めて放たれた。

 

 しかしリィエルは避ける素振りすらなかった。

 

 ただ、リィエルは叫んだ。

 

 自分の友の名を……! 

 

 

天の鎖(エルキドゥ)!!!」

 

 

 マアンナから放たれた矢は天の鎖が完全に縛った。

 それだけでは無い。全力を放ったイシュタルに出来た隙に天の鎖は捕らえていた。イシュタルもグガランナも天の鎖に縛られて動けなくなっていた。

 

 

「なあっ……!?」

 

 

 イシュタルは驚愕した。

 アレは自分が殺した存在だ。なのに何故、リィエルが持っている? 更には、何故グガランナを縛れる程の力を持つ? 意思のない神造兵器如きに何故自分は縛られている? 

 

 訳が分からない。

 

 あの小娘に何故これ程の力を持っているのか。

 

 

「貴女には……永遠に分からないでしょうね、イシュタル」

 

「たかが精霊の半身程度が、なんでこれだけの力を……!!」

 

 

 リィエルは笑った。

 

 その理由はきっと永遠に手にする事は無いだろう。エルと私にあった縁や絆が繋がっているから、エルが私を()()()()()()()から私はまだ立ち上がれたのだ。

 

 兵器に心は無い、なんて神の常識を覆した。

 

 人が神すら凌駕した。なのに神はそれを認めない。

 

 人間は神に逆らえない、それが今の世界の理ならば……

 

 

 

 

 

 ……私は叫ぼう。世界に届くように。

 

 

 ……あの、偉大な王のように!! 

 

 

 

 

 

「天上の神々よ!! 今、この時をもって神代の時代は終わりを告げよう!! 此れより紡ぐは人の時代、神の要らない世界を我等は紡ぎ出す!!!」

 

 

 

 

 此れより()()()()は幕を閉じる。

 

 

 此れより始まるは()()()()だ。

 

 

 リィエルは考えた。神と人は共にあるべき存在だとエルキドゥが言っていた。それはリィエル自身も同じ事を考えていた。だが、神は気まぐれにしか人を見ない。故にイシュタルのような傲慢な神や、三女神と言う人間を滅ぼす事を楽しむ神が生み出してしまったのだ。

 

 そしてそれが神の傲慢さを招いてしまった。天界も冥界も決して人が自分から立ち入る事が出来ない場所だ。にも関わらず神は人間の世界で自由に生き、自由に殺し、自由に全てを我が物にしようとしている。

 

 

「(神の傲慢で……人を傷つける神が居る)」

 

 

 神が人間を見下しているなら、リィエルは神に頼らない。

 

 共にあり続ける神を待ち、見下している神を……

 

 

()()()』を持って裁きを下す。

 

 

 

「我が名はリィエル!! 原初の精霊の半身にしてウルク一の宮廷魔導師!!『星の巫女』にしてギルガメッシュと共に世界の理を背負った人の時代の開闢者よ!!」

 

 

 

 これは禁忌に近い力だ。

 

 ()()()()()()()()であるリィエルに宿っている力は「()()()()()」事にある。惹き寄せると言う事はつまり「誰からも愛されて、誰からでも全てを手に入れる」と言う事が出来てしまう。自分と言う人間に惹かれてしまえば、相手を思うがままに出来る恐ろしい力だ。

 

 

 ────私は世界と共に在り

 

 そしてリィエルの歌は全てを惹き寄せ魅了する。人も、風も、大地も、空も、それは()()()()魅了する。しかし、リィエル1人では力が足りない。

 

 

 ────私は歌い、世界は踊る

 

 

 故に『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』は()()()()()()()()()()に接続し、並行世界にいる()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ────私は星の灯火を人の時代に移し

 

 

 惹き寄せるものは既に決まっている。ただし、それは世界を滅ぼしかねない最悪の一手、『星の巫女』として最後の願い。世界すら崩壊へ導き、抑止力すら動き兼ねない裁きの鉄槌。

 

 

 ────神の時代の最後の星となろう

 

 

 ───あぁ、そうだ。

 

 

 もし、名前をつけるなら

 

 

 あの2人と同じが良いな。

 

 

 

 

 

 

 

神代の終幕を告げる(エヌマ)–––––

 

 

 

 

 

 

 ねえ、エルキドゥ。ギルガメッシュ。

 

 

 

 私ね。やっと……

 

 

 

 

–––––––人理の裁き(エリシュ)!!!』

 

 

 

 

 遠かった2人に追いつけた気がするよ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 それはリィエルが惹き寄せた星の鉄槌。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()が、今まさにイシュタルとグラガンナを捉えていた。

 

 そしてそれは名を馳せる英雄の中で、リィエルしか使う事の出来ない領域の魔術、他に使うのが可能だとするならば、『原初の一(アルテミット・ワン)』を持つ月の最強種(タイプ・ムーン)である『朱い月』くらいだろう。

 

 

 放たれたのは最早、宝具の枠に収まり切らない質量の塊。

 

 世界すら崩壊しかねない禁断の力をリィエルは使用したのだ。リィエルの魔術回路の殆どは千切れ、壊死して、それでもウルクの街にリィエルが使える最大硬度の結界を張った。

 

 

『朱い月』が放つのが『月落とし』ならば『星の巫女』の放つそれは『()()()』と言えるだろう。

 

 

 リィエルが命をかけて紡いだ歌に惹かれて、落とされた星は()()()()()()()()()()の第二宝具。

 

 

 

 そのランクは抑止力すら動きかねない『()()()()』である。

 

 

 

 原初の魔術を全て理解し、人々の絆を繋ぎ、幾多の世界に干渉し、幾多の世界から可能性を惹き寄せ、星さえも魅了する存在ならば、それは天上の神々を超える存在。

 

 名付けるなら『星の最強種(タイプ・ステラ)』とでも言うべきなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 そして、そのリィエルが惹き寄せた星は……

 

 

 イシュタルとグガランナには止められない。

 

 

 天の鎖で抵抗する事も出来ないまま。

 

 

 圧倒的質量でイシュタルとグガランナを押し潰した。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 そしてイシュタルは人界で死んだ事により天界から二度と出る事は出来なくなった。

 

 惹き寄せた星は奇跡的にもウルクに何一つ被害を及ぼす事は無かった。それは偶然なのか、リィエルの力なのかは知る由も無い。

 

 

 イシュタルが天界に送還されたことによって、人の時代の幕を開けた。神の時代は此れより終わり、人が世界の歴史を紡ぐのだ。

 

 

 そしてその予兆に気が付いたのは、

 

 

 

 

「…………?」

 

 

 ウルクから遠い場所に居たギルガメッシュ一人のみであった。

 

 

 




 第二宝具

神代の終幕を告げる人理の裁き(エヌマ・エリシュ)

 * ランク:EX
 * 種別:対粛正/対星宝具
 * レンジ:測定不能
 * 最大捕捉:測定不能


存在しない筈のリィエルの第二宝具。
リィエルの原初の精霊としての本質が「惹き寄せる力」であったことで、リィエルはありとあらゆる全てを惹き寄せる。「惹き寄せる」と言う事はつまり「誰からも愛されて、誰からでも全てを手に入れる事」が出来てしまう。自分と言う人間に惹かれてしまえば、相手を思うがままに出来ると言う規格外の力を持つ。

リィエルはそれを()()()()()()()()()()()()()()()()()事が出来ていたが、自分の意思で使用出来るものではなく、あくまで歌うときのみそれが発揮されていた。

リィエルは幾多の世界の自分と繋がり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事によって、星という巨大なものまで惹き寄せたのだ。

だが、強大すぎる力のせいか、魔術回路が殆どが壊死している上に威力が強すぎて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

弱点としては、発動時間が長すぎる事にあり、歌で星を呼び掛ける事自体が規格外ゆえ、発動される前に攻撃されたら使えないのが弱点。

ただ一度発動されれば、対抗できるのはあの2人を置いて居ないだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

感想、評価よろしくお願いします。



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『人』は彼方の『天』に歌を捧げる

すまん。最終回にならなかったわ。
あと一話だけ書きます。期待してた人、すみません。

改変が酷いです。嫌な人は回れ右でお願いします。
それでも気に入ってくれる方は感想や評価をお願いします。





 

 ────私は世界と共に在り

 

 

 

 ねえ、ギルガメッシュ。

 

 

 

 ────私は歌い、世界は踊る

 

 

 

 ねえ、エルキドゥ。

 

 

 

 ────私は星の灯火を人の時代に移し

 

 

 

 私ね……やっと

 

 

 

 ────神の時代の最後の星となろう

 

 

 

 遠かった2人に追いつけた気がするよ。

 

 

 

 

神代の終幕を告げる(エヌマ)–––––

 

 

 けど、私の役目はここで終わりよ。

 

 

 神と人の時代を隔てて、少し疲れたわ。

 

 

 だから、私は少し休むわ。

 

 

 責務を投げ出して、貴方みたいに少しだけ自由に……

 

 

 

 

 後は……そうね……

 

 

 

–––––––人理の裁き(エリシュ)!!!』

 

 

 

 貴方を……待ち続けるとするよ。

 

 

 貴方が1人にならないように、星の上から貴方を待つよ。

 

 

 これは別れではないわ。

 

 

 約束したでしょ? 3人で。

 

 

 遠い未来でまた会おうって……

 

 

 だからね……ギルガメッシュ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 ギルガメッシュの旅路は約束通り三年で終わった。流石に途方に暮れ、苛立ちを感じながらもウルクに帰っていった。

 

 不死の草は狡猾な蛇に喰われてしまったのだ。リィエルの分も取ろうとしたが、残念ながら手に入れたのは()()のみだ。

 

 ()()()()奪われた筈の不死の草は2()()()()()()()()()ギルガメッシュ叙事詩においてズレがあったのだろう。

 

 それでもギルガメッシュはここで使う事は無かった。ギルガメッシュが不死になってしまえば、リィエルと一緒に生きられない。不死とは()()()()()()()()()()()()()()()()事をギルガメッシュは知ってしまったからだ。

 

 持っていた2つの内、一つを不死の草を蛇に奪われ途方に暮れた英雄王は、仕方なく故郷へと戻ることになった。

 

 

 ギルガメッシュはリィエルを信じていたが、幾らリィエルとて王不在の中、ウルクを守る事は不可能だと感じていた。

 

 リィエルは確かに強いが、他国との摩擦に土地神のイシュタルが消えた問題、国の発展には流石のリィエルでも無理があると思っていた。

 

 渋々。渋々ながらも、諦めてはいたのだ。三年間自分がいない状態でウルクを守るなど、とてつもない無茶を押し付けた自分にも非がある。だから、例え他の国に都を移していようと、仕方がないと。

 

 

 

「……むっ?」

 

 

 ウルクに戻る道に誰かが立っていた。

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 それは忘れもしない自分が旅をするきっかけを作った存在、神々によって命を落とし、遠い未来でまた会おうと約束した友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エル……キドゥ……?」

 

「久しぶりだね。ギル」

 

 

 そこには()()()()()が立っていた。

 その隣にはシドゥリと呼ばれていた女性。数年が経ち、妖艶な雰囲気を醸し出す美女となった彼女はエルキドゥの隣に立っていた。

 

 

「何故貴様がここに……貴様は神の呪いによって死んだ筈……!」

 

「それは、彼女から聞くといい」

 

 

 エルキドゥは隣に目を移した。

 シドゥリは黒いベールで顔を隠している為、表情すら見えない。だが、ギルガメッシュには心当たりがあった。祭祀長であり、リィエルが母親のように懐いていた人物。

 

 

「貴様は……確かシドゥリ、だったか」

 

「…………」

 

「ギル……不死の草は使ったのかい?」

 

「いや……手に入ったのは一つ。帰ったらリィエルと使うか考えていたのだが……それがどうしたと言うのだ」

 

「……いや、まだ使わなくてよかったよ」

 

「…………? それはどういう──ー」

 

 

 

 

 

 パァン、と言う音が空虚に響き渡った。ギルガメッシュは、何をされたのかわからなかった。目の前の人物がそんな短慮ではないと知っていたから。そんなことをする人間ではないと知っていたから。

 

 いつもリィエルが言っていた。シドゥリさんは優しい人で平気で誰かのために無理しちゃう。だから王様はちゃんと見ていてね、といつも自分の事のように言っていた。

 

 今の彼女からは優しさの欠片も感じない。感情は怒りとなり、激情に駆られている。

 

 

「……王の帰還を迎える者が、こんな不敬者とは。貴様、首を出す覚悟はあるようだな」

 

 

 静寂に響き渡る音と、振り抜かれた拳。そして自身の頰の熱を以ってして、ようやくギルガメッシュは理解した。目の前の女性が、シドゥリが、自分を殴った事を。いきなり殴られた事に少々戸惑ったが、その不敬は許せなかった。

 

 ただ、殴った彼女が何故泣きそうなのか分からないのだ。

 

 

「ええ、首など後で幾らでもくれて上げます!! けど!! 私はやはり、貴方を許せない!!!」

 

「……何?」

 

 

 出迎えにしては些か奇妙だ。

 そもそもエルキドゥが居て、シドゥリがこの場所に居るのは何故か。国が滅んだならリィエルが別の場所に移している筈だ。幾ら王ではないリィエルでさえそれくらいの事は思いつく筈だ。

 

 シドゥリが一体何に許せないのか理解出来ないのだ。

 

 

「私は……貴方を殴る為に!! 貴方を叱る為に!! ウルクから貴方を探し続けた!!! それが……それが()()()が最後に私に託した事だから!!!」

 

 

 最後、と言う言葉に何か嫌な予感がした。

 

 ギルガメッシュの思考は、最悪の結論を導き出そうとしていた。エルキドゥが居るのに見当たらない彼女に、怒りと後悔で泣き崩れるシドゥリ。全ては、そう考えれば辻褄があう。あってしまう。

 

 

 

 

 

「…………おい……リィエルは? リィエルはどうした?」

 

 

 

 そしてギルガメッシュの優秀な頭脳は、無情にも正解をはじき出す。更に極め付けは()()()()()()()()()()()()だ。エルキドゥが居たせいか気付かなかったが、シドゥリが持っているソレはギルガメッシュがリィエルに渡した『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』だ。何故、それをシドゥリが持っているのか。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 沈黙。それこそが、答えに他ならなかった。泣き崩れるシドゥリも隣に居るエルキドゥも何も言わない。ただ悲しそうに、目を伏せるだけ。

 

 

「……何が、あったと言うのだ。答えよシドゥリ!!」

 

 

 嫌な予感がした。

 ギルガメッシュは声を荒げざるを得なかった。約束した筈のリィエルが、この3年に一体何があったのかどうなったのか。その疑問だけが、頭から離れない。答えてすらくれないのに苛立ちを感じてしまう程に。

 

 

「……ギル、疑問に思う事は分かる。だけど今は帰るよ」

 

「エルキドゥ……リィエルはどうしたのだ」

 

「……もう一度言うよギル、()()()()()()()()()。僕が何故居るのか、今ウルクがどうなっているのか。そして、彼女が何をしたのか」

 

 

 ギルガメッシュは宝物庫からヴィマーナを取り出した。

 一体何があったのか最悪の予想がついていた。帰ったら全部分かると言う以上、此処で聞いたところで理解出来ないかもしれない。ギルガメッシュはエルキドゥとシドゥリをヴィマーナに乗せてウルクに戻っていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……っ!?」

 

 

 ウルクからあと数十キロと言う所でむせ返る程の色濃い血の臭いが漂った。ギルガメッシュも顔をしかめるほどだ。一体何人で殺し合いをすればこれだけの惨劇の後のような血臭がするのだろうか。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 ()()はなんだ。

 

 どうしてあの場所にあれ程大きな()が存在しているのか。そしてその下敷きになっているのは、すでに腐り果て、その血の神秘が大地に流れて血を吸い、赤い草木を生やしている。

 

 アレは、イシュタルが引き連れた『天の牡牛(グガランナ)』だ。アレは3年前、3人で殺した筈だ。アレが何故死体となってこの場所に存在するのか。

 

 

「アレは……シドゥリよ、何故グガランナの死骸がこの場にある?」

 

「……アレは4ヶ月前、()()()()()()()()()1()()()イシュタル神ごと倒したものです」

 

「何っ……!? 幾ら我でも、アレを単独で倒すのは無理がある。まさかリィエルは、()()()()()()()と言うのか!?」

 

「……はい」

 

 

 シドゥリは肯定した。

 ギルガメッシュはリィエルの力を理解していた。「惹き寄せる力」に置いて、リィエルは自分の持つ財より輝きを見せる。それが歌となって無意識のうちに使えていたのは知っていた。

 

 だが、ギルガメッシュでも目を見開いた。

 星を惹き寄せるなんて、規格外な事を出来るなんて誰が予想できた。

 

 

「フッ、フハハハハハハハ!! 流石は我の見込んだ女よ!! 我でさえ為すことの出来ない事をやって退けた!! 一体誰が予想した!?」

 

 

 ギルガメッシュは高笑いした。

 リィエルがこれ程の力を持っていたとは誰が思っただろう。世界を見定め、裁定を下し、自分と共に星を背負う覚悟を持つ彼女は文字通り、星を背負いイシュタルとグガランナを殺した。

 

 

「神か!? それとも世界か!? 誰があの暴獣をイシュタルごと殺れる!? 全く持って我の斜め上の予想を裏切ってくれる!!」

 

 

 リィエルはギルガメッシュの約束通り、国を守ったのだ。

 イシュタルと言う悪神からウルクの地を民を守ったのだ。グガランナを引き連れたイシュタルをたった1人でリィエルは守り抜いたのだ。

 

 

「ギル、降りるよ」

 

「むっ……? ウルクまで数十はある筈だ。何故降りる?」 

 

「いいから、行くよ」

 

「なっ……!? ちょっと待てええええええ!?」

 

 

 エルキドゥはギルガメッシュの首襟を掴みながら、グガランナを潰していた山の頂点に空中から紐無しバンジーで降りていった。

 

 

「エルキドゥ貴様!! いくら我とて何も無しにこの高さから飛び降りるのは一度とはいえ冥界が見えたではないか!!」

 

「ギル」

 

「せめてヴィマーナをしまう位の時間を寄越すがいい!! アレは存外に壊れやすいのだぞ!! 二度と飛べなくなったらどうするつも──ー」

 

「ギル!!」

 

「っっ!?」

 

「前を見て」

 

「前をだと……? 一体何があると言うの……」

 

 

 そこにあったのは大量の花と突き刺さった()()()()()()()と、そして()()()()()()()()()だった。

 

 それはまるで誰かの墓のようだった。

 嫌な予感がした。ウルクに帰る途中に寄らなければならないのは何故か。今になって分かってしまったのだ。

 

 何故、この場所なのか、優秀な頭は嫌でもその答えに辿り着いていた。

 

 名前はこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リィエル』

 

 

 ……そう書かれていたのだ。

 

 

 

「はっ……?」

 

 

 ギルガメッシュは目を擦った。

 痛くなるまで擦った。幻覚か夢か、はたまた旅路の疲れが目がおかしくなったのか。見違えている筈だと、そう思っていた。だが幾ら擦ろうが目の前の文字は変わらない。

 

 

「……嘘だ。嘘だよな友よ……」

 

「…………」    

 

「……リィエルが……死んだのか?」

 

「…………」

 

 

 ギルガメッシュの問いかけにエルキドゥはただ沈黙だった。それが答えだった。現実が飲み込めず、立っている地面さえ歪んでいるような感覚、ただ無情にも沈黙を続けるエルキドゥ。

 

 

「頼む……! エルキドゥ! 嘘だと言ってくれ!!!」

 

「……ギル」

 

「……いいえ、嘘でも間違いでもありません」

 

 

 その現実を叩きつけたのはシドゥリだった。

 涙を拭い、墓の前で膝をつき、シドゥリは真実を隠す事なく告げた。

 

 

 

 

「……4ヶ月前、リィエル様はお亡くなりになりました」

 

 

 それは最悪の現実だった。

 ギルガメッシュは身体から力が抜け落ち、跪いていた。リィエルが居たであろう世界は真っ黒に染まったようだ。白く、可憐に笑う彼女はこの世界から居なくなった。

 

 悪い夢なら覚めて欲しかった。

 

 

「何が……何があったのだ!!」

 

 

 激昂したところで、何も変わらない。そう知っていても、ギルガメッシュは声を荒げざるを得なかった。あの可憐な少女が、いつもギルガメッシュを叱る彼女が、どうなったのか。その疑問だけが、狂ったように頭を回り続ける。

 

 シドゥリは何があったのか全て話した。

 

 4ヶ月前、リィエルに何があったのか。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ウルクの街に一つのワープゲートが繋がった。

 それは先程まで居た戦場から帰ってきた兵士と同じ、星が落ちる場所からリィエルが繋げたのだろう、

 

 

「リィエル様……!!」

 

 

 ワープゲートから姿が現れた。

 それは身体中の殆どが血で赤く染まり、背中には矢や剣の刺し傷、両耳は掠れるような音しか聞こえていない。右足の骨はは完全に砕けて片腕と片目を失い、更には腹部にマアンナの矢で貫かれ、吹き飛ばされた臓器。

 

 

「っ…………」

 

 

 そんな中よたよたと歩きながらも、未だに生きていたリィエルの姿だ。生きているのが不思議なくらいだった。

 

 

 

「リィ……エル……様」

 

「……シドゥリさんか……ただいま……」

 

「っっ!! 喋らないでください! 医者の方を呼んで来ま──」

 

「無理よ……もう。無理なのよ」

 

「無理ってそんな……事…………」

 

 

 リィエルは自分の死を悟った。

 リィエルは幾多の並行世界に繋ぎ、ギルガメッシュの財宝選びからその武器や薬を持っていた可能性に接続すれば、真名開放出来ずとも武器を手にし、薬ならギルガメッシュと同じレベルのものを引っ張り出せる。だが、それでも無理だとリィエルは断言した。

 

 

「……城まで行かなくちゃ……」

 

「リィエル様!!」

 

「シドゥリさん……悪いけど一緒に来てくれないかしら」

 

 

 リィエルが喋れているのも、エルキドゥの力で命を()()()()()()からだ。戦闘が終わり、魔術回路の殆どが断線した以上、繋ぎ止める時間も残り少ない。

 

 

「その身体で何をなさるつもりですか!? リィエル様……!」

 

「あの場所に……私がやらなきゃいけない最後の役目があるから……」

 

 

 ウルクの城の自分の工房に足がもたつきながらも向かっていた。するとシドゥリは膝をついてリィエルの前に背中を向ける。

 

「……乗ってください。城の工房ですよね?」

 

「……血で汚れちゃうよ?」

 

「構うものですか!!」

 

「ハハ……じゃあお願い」

 

 

 シドゥリはリィエルを背負って城の工房へ向かった。その時のリィエルはシドゥリがゾッとするくらい軽く、血も肉も失っていた。吐きそうなくらい恐ろしいリィエルの現状に歯を食いしばりながら城にリィエルを背負って急いで向かった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 リィエルの工房は少し特殊だった。

 

 シドゥリ自身、何度か訪れた事はあるが、巨大な魔法陣が地面に幾つか書かれているだけ、本や机、魔道具など一切ない。代わりにギルガメッシュが旅に行く前に渡した宝剣が3つ、結界の触媒として突き刺さっている。

 

 魔術師ならもっと揃えているものだと思っていたが、ここまで殺風景なのは特殊と言わざる得ない。

 

 

「……うっ…………」

 

「着きました。リィエル様」

 

「……ああ……少し寝ていたわ……ありがとう……シドゥリさん」

 

 

 リィエルは魔杖にもたれかかりながらも立ち上がった。

 この魔法陣はリィエルにしか分からない。ただ、リィエルは虚数空間にしまっているだけである程度の道具をいつも取り出している。

 

 

「……接続……開放」

 

 

 リィエルが魔杖を地面に当てると、魔法陣から現れたのはギルガメッシュの中でも特別な財であり、()()()()()()にリィエルに預けたものだ。

 

 光が一つに集い、現れたのは、

 

 

 

 

「……ウルクの大聖杯」

 

 

 ギルガメッシュが持つウルクの大聖杯だった。

 

 ギルガメッシュが旅路に行く際に渡した特殊な財だ。ギルガメッシュが持つウルクの聖杯は特殊で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだ。色々あって少量しか中身がなかった状態で渡されたが、それでも使い切る事を許されたものだ。

 

 

「それでリィエル様の傷を……!」

 

「ううん……無理……中身がないから……」

 

 

 ギルガメッシュがリィエルに渡した時に聖杯には()()があった。

 

 精々、些細な願いを叶えるくらいしかなかったが、聖杯の中身である無色の魔力は確かにあったのだ。

 

 

 だが、()()()()()。理由は分かっていた。

 

 

 リィエルは聖杯に一つ魔術をかけていた。もしも自分の思惑を超え、自分でもウルクを守る事が出来ないと判断した時、聖杯が()()()()()()()()()()()()に細工をしていた。

 

 リィエルが落とした星はリィエル自身でさえウルクを守れないと判断し、その結果、聖杯に願われた『()()()()()()』と言う願いが自動的に起動したのだ。

 

 アレだけの質量がウルク周辺で起きたのに被害が無いのは聖杯の力だ。だが無色の魔力が枯渇してしまうほどにリィエルの星の災害は酷かったのだ。

 

 

「……シドゥリさん、よく聞いて」

 

「……リィエル様…………」

 

「今……魔獣がウルクを襲ってるのは……恐らく三女神の1人が魔獣を生み出し……操っているからよ」

 

「三女神……ですか?」

 

「多少……予想は付く。私の予想でしかないけど、魔獣を生み出し、操れる存在なんて私には1人しか思い浮かばない……」

 

 

 ここ数ヶ月で魔獣の数が劇的に増えた。

 倒しても倒してもキリが無い程に、魔獣は増え続けている。凶暴な魔獣をこれ程の数生み出し、それを使役できる存在は1人……いや、一体と言うべきだろう。

 

 原初の母にして、人界創生の神である存在は1人しかいない。

 

 

 

 

 

「……()()()()()……私の予想ならそれが……蘇ろうとしている」

 

 

 ティアマト。

 古代メソポタミア神話に登場する原初の大地母神にして、『人類悪』の一つ。ティアマトは生み出した神々を愛したが、神々は母であるティアマトに剣を向けた。ティアマトは嘆き、狂い、新しい子供として十一の魔獣を産みだし、神々と対決し、戦いの末、ティアマトと十一の魔獣は敗れた。

 

 神々は彼女の死体を二つに裂き、天と地を造り、これを人界創世の儀式とした。つまりは世界創生の神話を持つ原初の母と言える。

 

 だが、彼女は人類に必要とされなかった。

 

 生命を生み出す土壌として使われたが、地球の環境が落ち着き、生態系が確立された後に、不要なものとして追放された。並行世界でもなければ、一枚の敷物の下にある旧世界にでさえない、世界の裏側──生命のいない虚数世界に存在する。

 

 

 それが世界の外側に蘇ろうとしているのだ。いや、正確には回帰すると言った所か。

 

 人類を愛すが故に人類を滅ぼす獣、それが『人類悪』だ。なんとも皮肉めいている。

 

 

「そんな……あり得ません!! ティアマト神はイシュタル神やエンリル神とは違い過ぎる程、格が違い過ぎます!! 世界を創生した神が蘇ろうだなんて……!!」

 

「……多分、三女神は何かを賭けて……ウルクを滅ぼそうとしてるの……それはこの聖杯か……世界の覇権かは分からないけど」

 

 

 それならティアマト神が一人勝ちしてしまう。

 これも推測だが、()()()()()()()()()()()()()()()()が存在している。三女神も分からない。自分が殺したイシュタルなのか、エンリル神なのか、冥界の女神かは分からない。

 

 

「っっ!! ゴホッゴホッ……!!」

 

 

 リィエルは血を吐いた。

 もう原因は分かってる。エルキドゥの繋ぎ止める力が切れてきたからだ。当然だ。既に死んだも同然、生きている方が不思議なくらいなんだから。

 

 

「リィエル様……!!」

 

「……シドゥリさん」

 

「何か……何が無いのですか!? 貴女自身が助かる術は無いのですか!?」

 

 

 シドゥリは叫んだ。

 どんな些細な可能性でもいい。これではいつもウルクを支え、王を叱り、偶に無茶をしながらも笑って、王の帰りを待つリィエルが報われないではないか。

 

 だが、リィエルは首を横に振り申し訳なさそうに言った。

 

 

「……ごめんね……私自身はどうしようもないの……」

 

「……っ! そんな……そんなの貴女が報われないではないですか!? 王が帰ってくるのを、待ち続けているリィエル様が……!!」

 

()()()()

 

 

 リィエルは初めてシドゥリを呼び捨てにした。

 その事に戸惑ったシドゥリはただ泣くしかなかった。それを母親のように頭を優しく撫でるリィエルが居た。

 

 

「……泣かないの……これは別れなんかじゃないわ」

 

「ですが……ですがリィエル様は死ぬより辛い事になる!! 私は……!」

 

「……シドゥリ……私は死なないわ」

 

「死んだも同然になります!! 私は……! 貴女が()()()()()になって欲しくない!!」

 

 

 シドゥリは分かってしまったのだ。

 

 今のリィエルには守る術が無い。魔獣戦線も兵士が奮闘しているとはいえ長く持たない。守る術があるとするならただ一つ。ウルクの大聖杯の中身を満たし、ウルクを守護する者。即ち()()を召喚する他ないのだ。

 

 ギルガメッシュの文献にあった7つの人類悪に打倒するために用意された七騎の英霊、それを世界の意思ではなく人の身で召喚出来る儀式が存在する。

 

 

 その名は聖杯戦争。

 

 

 七騎の英霊が聖杯を奪い合う儀式だ。それを利用し、人類悪対抗の手段として呼び出すなら、七騎は殺し合いをせずに人類悪を倒す為にウルクを守護する形に持っていくのだ。

 

 

 

 だが、中身が無ければ話にならない。

 

 

 

 中身は調()()しなければならない。

 

 

 

 では中身となるのは何だ? 

 

 

 

 無色とまではいかないが、英霊を召喚するのに充分過ぎる魔力を保有し、純粋な魂を持ち、汚れない強靭な精神を持つ人間は1人しかいない。

 

 もう答えは分かっていた。

 

 

 

 

 

 

「気づいていたのね……シドゥリ」

 

 

 ()()()()だ。

 

 リィエルが聖杯の中身となれば、それが可能となる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があった。

 

 

「……私は……私は貴女の犠牲を踏み台に……ウルクを守りたいだなんて思えません……」

 

「……そう」

 

 

 静かにその言葉を呑み込んだ。

 リィエルはシドゥリの事を優しく抱きしめた。シドゥリが血に濡れようと構わなかった。リィエルの友がギルガメッシュであるようにシドゥリもリィエルの事を大切に思っているのだ。

 

 気付けなかった訳ではない。ただ、それは相手を傷付けると言う事なのだ。

 

 

「シドゥリ……私の最後の我儘を聞いて……もらってもいい?」

 

 

 シドゥリは首を縦に振った。

 泣いて言葉も出ないまま、ただ頷くしか無かった。本当は聞きたくない、けれどシドゥリはリィエルから聞こえる心臓の鼓動が徐々に聞こえなくなっていくのだ。

 

 リィエルの最後は変わらなかった。

 

 せめて、リィエルの最後を見送るくらいしか出来ない自分が恨めしくて仕方なかった。

 

 

「はい…………」

 

 

 シドゥリは覚悟した。

 その返事がリィエルに届くと、リィエルは最後の我儘を口にした。

 

 

「私はもう……居なくなってしまう……ギルガメッシュを叱ってやれる……人が居なくなる……だから……貴女が……シドゥリが……王様を叱ってあげて……」

 

 

 リィエルが思い出したのはあの王の顔だ。

 結局、願いは叶わなかった。自分を置いて死ぬなって言われてたのに、叶わなかった。だから、託すのだ。

 

 ギルガメッシュを叱るのはいつもリィエルだった。

 

 

「……ギルガメッシュは……あの人は寂しがり屋だから……私が居なくなったら……後悔すると思う……だから……お願い」

 

「…………リィエル……様」

 

「……それと……シドゥリ……」

 

 

 リィエルは自分が長く愛用していた魔杖

白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』をシドゥリに渡した。

 

 それはウルクでギルガメッシュに認められた唯一の『巫女』たるリィエルが、シドゥリに『巫女』の称号を渡したと言う事でもある。

 

 

「これを……貴女に託す……」

 

「……わたしには……貴女のようにはなれません……」

 

「ならなくてもいいわ……貴女に託すのは私の意思……ウルクを守りたいと言うその想いよ……それをどうか忘れないで」

 

 

 リィエルはシドゥリの額に自分の額を押し当てた。

 もう、限界だ。リィエル自身の中にいるエルキドゥの存在が消えかかっている事を理解した。

 

 

「リィエル様……」

 

「もう……時間ね」

 

 

 泣き崩れながらもシドゥリはリィエルを見送ると決意した。それがリィエルに託された事なのだから……リィエルの我儘なのだから。

 

 

「シドゥリ……今までありがとう……またいつか」

 

 

 またいつか……星の下でまた会いましょう。そう告げたリィエルはシドゥリから離れて聖杯の前に最後の力を振り絞る。

 

 

「『星の巫女』としての最後を……我が身を聖杯に捧げよう……」

 

 

 リィエルは片腕を掲げ、聖杯と繋がった。

 魂が引き込まれそうになる。自分という人間が徐々に溶け合って消えていくのを感じる。

 

 けれどリィエルは踏みとどまった。

 

 

「だから……一時だけ……私は歌う。彼方の王に届ける為に」

 

 

 『星の巫女』としての最後の歌を聖杯に捧げた。

 

 それは優しく可憐で、何処か儚さを感じ、何処か寂しさを感じ、そして別れたくない後悔を感じた。

 

 それは誰かに届いてほしいと言う願いだった。

 

 

 

 

「(ねえ……ギルガメッシュ……)」

 

 

 

 私の役目はここで終わり、

 

 

 

「(最後まで……口に出来なかったけど……)」

 

 

 

 神と人の時代を隔てて、

 

 

 

「(あなたが……いてくれてよかった)」

 

 

 

 変わらなき意思を託し、

 

 

 

「(多分、私……あなたの事が…………)」

 

 

 

 世界を見守り続ける。

 

 

 

「────────」

 

 

 

 蒼い瞳から溢れた涙を流しながらそう最後に呟くと、リィエルは聖杯の前から消えていった。

 

 身体も、血も、歌の音色すら全てが光り輝き、聖杯へと集まって、それは流れ星のように儚さを感じさせながら消えていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またね。

 

 

 またいつか、星の下で……

 



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『天』は託された星を背負い『人』は世界に微笑む

最終回です。


大学の課題がようやく終わって書く事が出来ました。

遅くなってすいません。

感想、評価があればよろしくお願いします。




 

 

 シドゥリはただ泣いた。

 

 涙など枯れ果ててしまうほどに泣いていた。リィエルが無力な自分なんかに託して、聖杯の中身として消えていったのに、悲しみしかなかった。

 

 それでも……

 

 

『貴女に託すのは私の意思……ウルクを守りたいと言うその想いよ……それをどうか忘れないで』

 

 

 リィエルが守ろうとした事を()()()()()()()()()()()()()。シドゥリは立ち上がり、左手を聖杯に掲げる。自分は余りにも無力で、リィエルのようにはなれないだろう。

 

 

「──告げる!」

 

 

 それでも、そんな自分にリィエルは託したのだ。泣いてもいい、まだ弱くてもいい。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。次に自分が何をすればいいか分かった。リィエルがそこまでの道を繋げてくれた。

 

 だから、今自分に出来る事をシドゥリは右手にあるリィエルの魔杖を触媒に詠唱を紡ぎ出した。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!! 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!!」

 

 

 リィエルが指し示してくれた道を無駄にはしない。紡ぎ出した詠唱は加速する。

 

 

「誓いを此処に! 

 我は常世総ての善と成る者! 

 我は常世総ての悪を敷く者!」

 

 

 シドゥリはリィエルに託された最後の巫女。

 シドゥリは星を背負う事はできない。非力な自分ではリィエルに及ばない。それでも、リィエルが託したのは星を守りたいと思うその意思だ。故にシドゥリは新たな詠唱を紡ぎ出した。

 

 

「我は星より世界を賜りし者、

 人より星を授かりし最後の巫女」

 

 

 シドゥリを信じてくれたリィエルを忘れない。

 リィエルが王を待ち続けて、ウルクを守った事を無駄にしない。リィエルの願いは必ず自分が叶える。

 

 

『私はもう……居なくなってしまう……ギルガメッシュを叱ってやれる……人が居なくなる……だから……貴女が……シドゥリが……王様を叱ってあげて……』

 

 

 それが願いだ。

 恐らく民達は最後まで王の事を思いながら国を守った偉大な英雄に敬意を表するだろう。けれどシドゥリはそれを望んでいない。望んでいるのは、英雄の称号ではない。最後の最後に王に逢いたかったと願った1人の女の子だと知っていたから。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!」

 

 

 今でも胸が張り裂けそうだ。

 リィエルの魔力で英霊を召喚するのはリィエルを利用しているようで狂いたい程、悲しさに押し潰されそうだ。

 

 それでも、それでもリィエルが託した事をシドゥリが為さなければならない。託されたと言うのはそう言う事だ。

 

 膨大な魔力が魔法陣を通じて溢れ返る。

 

 そこに召喚された幾多の英雄が姿を表す。筋骨隆々で盾を持つ兵士のような男、刀を携え見た瞬間に手練れと分かる侍みたいな女、その後ろに立つ巨漢の男、そして白い長髪でフワフワと花を連想させる男。

 

 だが、シドゥリが驚いたのはそこでは無かった。

 

 召喚された英雄達の()()()()()()()に思わず目を見開く。

 

 

 

「……サーヴァント、エルキドゥ。召喚に応じ参上した。どうか無慈悲に使ってほしい」

 

 

 そこに居たのは、2年半前に神の呪いによって死んだ筈のエルキドゥだった。それはリィエルが触媒になった影響か、リィエルがギルガメッシュの為に願ったのかは分からない。

 

 それでも目の前にいるエルキドゥは紛れもなく本物だった。

 

 どうして、エルキドゥが召喚出来たか分かってしまったシドゥリは大声を荒げてみっともなく泣き叫んだ。

 

 リィエルの願いを叶える事とは言え、リィエルを犠牲にした自分が許せなかった。ただ、ただ泣くしかなかった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

「これが……リィエル様の最後でした」

 

 

 シドゥリは涙を流しながらも顛末をギルガメッシュに全て打ち明けた。ギルガメッシュはただ呆然と、世界が黒く染まっていく。

 

 

「……無理もないよギル、僕も君と同じくらい悲しいよ」

 

 

 エルキドゥはそれを見て、同情するしかなかった。

 いや、()()()()()()()()()()。エルキドゥが召喚された理由はリィエルだ。リィエルの力があるからここに居る以上、エルキドゥにはどうする事も出来なかった。

 

 

 

「…………あ……」

 

 

 涙が溢れた。

 

 自分を待ち続けるが為にウルクを護り、神の時代と人の時代を文字通り命をかけてまで成し遂げた彼女に一体自分は何をしてやれたのか。

 

 何もしてやれなかった。気付けなかった。

 

 いや、気付けた筈だ。エルキドゥを失い、不死に縋る自分とは違い、彼女はきっと()()()()()()()()を。

 

 死とは悲しく、生物全てが囚われてしまう物だ。けれど、死なないと言うのは、いずれ誰かを置いて生き続けなきゃならない死より悲しい現実だと言う事に、気付けた筈なのだ。

 

 届かない。届く筈が無かったのだ。

 

 ギルガメッシュでさえ届かない高嶺の花に思えてしまう程にリィエルが遠かったのだ。

 

 

 

 アレだけの偉業を誰が成し遂げられる? 

 

 自分が任せた国を自分だったら護り通せた? 

 

 もし、自分が不死なんかに縋らなければ、

 

 

 

 リィエルは死ななかったのか? 

 

 

 

「あ……ぅぁ……あぁ……」

 

 

 エルキドゥを召喚出来たのはリィエルが願ったからだ。

 

 寂しいと思わせないように、支えになってくれる存在がギルガメッシュの隣に居る事をリィエルが願ったからだ。彼女は最後の最後まで王の為に在り続けたのだ。

 

 ギルガメッシュには分からない。

 

 分からない程遠すぎた。一体どうしてそこまで王の為を思えたのか。託されたシドゥリにもギルガメッシュからしたら遠く、託したリィエルの背中は余りにも遠すぎる。

 

 追いつけない。追いつける気がしない。

 

 リィエルと言う一つの星に届く気すらしない。

 

 

 

「うああ……あああああ……」

 

 

 ギルガメッシュの口から、獣にも似た呻き声が漏れた。

 再びその場から崩れ落ち、地面を何も考えずに見下ろした。

 

 

「あああ……ああああああ!!」

 

 

 どうしてリィエルはこんなにもウルクを思える事が出来たのだろうか。どうして自分が人柱になってまで守りたいと思えたのか。何故未だに帰らぬ王の為にここまで戦い、ここまで人として誇らしく在り続けたのか分からない。

 

 狂っているのかもしれない。

 ウルクを守りたいと思うそれは狂気の沙汰かもしれない。

 

 それでもその在り方は美しく、一切の後悔すら残さずに誰かの為に次に託した。そんな在り方を誰が真似できるのだろう。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 漏れ出たのは、慟哭だった。

 

 頭を抱え、涙を流し、喉が枯れてしまう程に叫びながら、絶望する。

 

 自分は一体何をしていた。大切だった彼女さえ死にゆく時すら見届けられず、何も出来ない無能の王の為に彼女は死んだのだ。

 

 約束の為にと酷い枷で縛って国を守らせて、手に入れた不死の草さえ最早意味などない。ただ彼女を置いていき国を守らせ、神の時代を終わらせて、国の為に命を捧げた彼女に自分は何もしてやれなかった。

 

 何も出来なかった自分の為に彼女は死んだのだ。自分が不死に縋るから彼女を見殺しにしてしまったのだ。

 

 

「何故だ……何故そこまで我の為に、我なんかの為に!!」

 

 

 ギルガメッシュはただ泣くしかなかった。

 自分の人生で唯一の光だったリィエルが消えた世界に絶望し、今の自分には後悔しかなかった。無能の王に付き従えた偉大な巫女は最後まで国を想い、王に託した。

 

 約束も叶わなかった。

 

 自分が居たら、あの時自分が居たら、こんな結末は無かった筈なのに。千里眼で見通せば、こんな最後は無かった筈なのに……

 

 

「何故……何故貴様が命を落とす!?不死に縋る道化の我に……!!何故お前が死ななければならない……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギィ!! 

 

 

 突如、鋭い痛みがギルガメッシュを吹き飛ばした。

 

 ギルガメッシュが言葉を詰まらせ、空気を静寂にする。

 ビクリと肩を震わせ、その目を大きく見開いた。

 ギルガメッシュは頬の痛みを与えたエルキドゥを呆然と見ていた。

 

 ────その身体は、震えていた。

 

 エルキドゥは、呼吸を荒くし、肩で息をしながらも、また殴りかからないように必死に抑えていた。

 

 

「……フー、……フー!!」

 

「っ……エルキ、ドゥ……」

 

 

 ギルガメッシュは、自分がずっと放ち続けてきた言葉を止め、出会ってから一度も見た事の無いエルキドゥのその表情に驚いていた。

 

 

「……エル……っ!」

 

 

 ────エルキドゥの瞳は、涙で潤んでいた。

 エルキドゥの、その冷たい目は、確かに怒りを帯びていた。それはリィエルを死なせた事に対してでは無かった。ギルガメッシュの胸元を掴み、持ち上げる。

 

 

「……“全部、我の所為”だって……? ……自惚れるなよ……ギル!!」

 

「……っ」

 

「っ……たかが、君一人の責任で、リィエルが死んだだなんてっ……! リィエルが思っていた事はそうじゃないだろ……!!」

 

 

 ────ギルガメッシュのその言い方は、まるで。

 自分がリィエルに託さなければ、リィエルは死ななかったと。そう言っているみたいで。エルキドゥは殴らずにはいられなかった。

 

 リィエルがどんな思いでウルクを守ったのか、帰りを待ち続けたのかは知らない。けれど、ギルガメッシュに託された事を誇りに思ったからこそ、リィエルはウルクの全てを守り切ったのだ。

 

 

 

 

「────馬鹿にするなよギル!! 僕の友達は、()()()()()()()()()()()()()()()と言うつもりか!?」

 

 

 守らせなければ死ななかった? 確かにそうかもしれない。けれど、それでは、今のリィエルは何の為にウルクを守った? 無能の王? 不死に縋る道化? 

 

 違う。そんな王の為にリィエルが犠牲になったのならば、リィエルの死は一体何だったのか。リィエルは最後まで、そんな男の為に戦ったのではない。

 

 

「リィエルが……リィエルが何を想って守っていたのか……!! 君には分かる筈だろう!!」

 

 

 ()()()()()()()だからだ。

 いつもと変わらないギルガメッシュを待っていたのだ。傲岸不遜で天上天下、それでも国の為に戦い、エルキドゥと3人で笑い合ったギルガメッシュを、ずっと待ち続けていたのだ。

 

 

 

「立ちなよギル……! 君は王だ、リィエルが全てを捧げてまでその玉座を守った()()()()()()()なんだ……!!」

 

 

 エルキドゥの潤んだ瞳から涙は零れ落ちていた。

 立ち上がらなければ、リィエルが求めたギルガメッシュはこんな所で折れるはずがないと信じて守り続けたリィエルが惨めに思えてくる。

 

 もう分かっている筈だ。

 

 

「……ギル…………立って……立ってくれ……!」

 

 

 エルキドゥではない。

 リィエルが待ち続けた人はエルキドゥじゃない。今を生きる人達の上に立ち折れないと信じて託したなら、立ち上がらなければリィエルの全ては無駄になる。

 

 故にエルキドゥは必死に懇願するように力が抜け落ちたギルガメッシュに言い続ける。

 

 抜け殻のように、ただ呆然として何も見えていないギルガメッシュにそれだけしか今のエルキドゥには伝えることが出来ない。

 

 

 

 

 

「…………っ……」

 

 

 ギルガメッシュは立ち上がった。

 そこには王としての覇気は無く、失ってしまった悲しみに顔は酷く見えた。だが、それでも立ち上がらなければいけないのは分かっていた。

 

 リィエルが待ち続けた自分はここに帰ってきたのだ。

 

 

「リィエル…………」

 

 

 自然と、墓に突き立てられた斧のような魔杖に手を伸ばした。

 どうしてこの時手を伸ばしたかは分からない。けれど、ギルガメッシュはそこに誰かが居た気がしたのだ。

 

 その魔杖に触れた瞬間、ギルガメッシュの視界から世界が消えた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

「…………ここは……」

 

 

 空も、地面も何も無い白い世界だった。見渡す限り何一つ存在しない空虚な世界だ。けれど何処か懐かしく思えてしまうような世界にギルガメッシュは困惑する。

 

 

「…………」

 

 

 目の前に一つの扉があった。

 装飾も色もなく、真っ白な扉が目の前にあった。それ以外何一つ存在しない。けれど、その扉の先に居る。

 

 

「そこに……居るのか」

 

 

 ギルガメッシュは直感で分かってしまった。

 この扉を開けたら待ち続けてくれた人が居る。こんな自分を支えてくれた高嶺の花のような女が居る事を。

 

 ギルガメッシュは扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……ああ」

 

 

 そこは壁も無く、城も無ければ、国どころか地面さえ無い世界だった。けれど無限を思わせる程の星空に、優しく可憐で儚さを感じる懐かしい歌声、そしてその先には1人の女がいた。

 

 あの時と変わらない長い銀髪に蒼い瞳と少女のような可憐さを持つ女が振り向いた。

 

 

 

 

 

 

「──おかえりなさい。ギル」

 

 

 あの時と全く変わらないリィエルが居た。

 柔らかな笑みでギルガメッシュに伝えた言葉、そこに皮肉は全く無く、何も言わないギルガメッシュを見据えて悲しそうな顔をしていた事に困惑していた。

 

 

「あ、あれ? 何か間違えちゃった?」

 

 

 何一つ変わらなくて、美しいままだ。

 

 会いたいと、望んでいた。それと同時に責められると思っていた。いや、責めてほしかった。それに例えリィエルに殺されるなら、それも良いかもしれないと、そう思えた。

 

 けれど、彼女は責めなかった。

 

 

「……怒らないのか?」

 

「怒れないよ。私は貴方を置いていったから」

 

「……貴様の……所為ではないだろう」

 

「それでもだよ。約束を破った。ごめんなさい」

 

 

 

 リィエルはそれだけ言うと、少し悲しい顔をして苦笑していた。

 

 

 

「……は」

 

 

 

 ギルガメッシュはその動きを止めた。一瞬、何を言われたのか分からなかった。泣きそうだった涙は消え去り、頭がぐらつく。リィエルの謝罪にギルガメッシュはただ、呆然とした。

 

 

 ────今、なんて? 言ったんだ? 

 

 

 ギルガメッシュには分からなかった。謝らなければいけないのは自分の方なのに、何故彼女が謝っている? 

 その言葉だけは、どうしようもなく受け入れ難かった。言葉が出てこない。身体を震わすだけ。

 

 

 

「……我を、責めないのか……?」

 

「……責められないよ。私も貴方もエルの友達だったんだから」

 

 

 

 エルキドゥが死んでから、リィエルもギルガメッシュも辛かった。あのままではギルガメッシュは壊れてしまうと知っていたリィエルはギルガメッシュを送り出した。

 

 確かに押し付けられたのかもしれない。けれどリィエルはそれでもギルガメッシュのあんな顔は見たくなかった。だから寂しさも在りながらも、ギルガメッシュの旅を止めなかったのだ。

 

 

「恨んで、ないのかっ……! 我は、お前に、ただ押し付けた……! ウルクの危機にすら駆け付けてやれなかった……! それでも我を責めないのか……!」

 

「……うん。私が貴方ならそうしていただろうし」

 

「っっ!」

 

「それに、貴方は多分不死を得ずに帰ってくるって、心の何処かで分かっていたから……不死になるって事はエルの約束を無かった事にしてしまうから、いつか貴方がそれに気づくって分かってたから」

 

 

 死と生は表裏一体。死ぬから、生きていられる。生きるという始まりがあるからこそ、死という終焉が存在する。不死といえば聞こえはいいが、それは終わりがある者を置いていく事に他ならない。

 

 リィエルは不死になりたいと思わなかった。

 

 

 けれど止めなかった自分にも責任があるから。

 

 

 

 

 

「ギル、聞いて」

 

 

 リィエルは真剣な顔になり、ギルガメッシュに近づいた。

 

 

「今、私は聖杯の中に生き続けてるの」

 

 

 リィエルは聖杯の中身になっただけではない。

 その魂は聖杯の中に留まり続け、ウルクの大聖杯は起動し続けている。聖杯戦争を関係なく、英霊を長く現界させる事は普通の聖杯では不可能で、巨大な力が働かなければ普通は無理なのだ。

 

 

「ウルクを滅ぼす三女神、魔獣の母ティアマト、どちらにせよ脅威である事には変わらない。今のままじゃエルが居ても勝てるか分からない」

 

 

 ティアマト神については原初の母であり、生物の存在がティアマトの存在理由になる程の脅威的な存在だ。神話の始めはティアマトから始まったと言っても過言ではない。

 

 そんな存在が起動すれば……世界の終わりだ。

 

 

「今、ウルクは英霊達に支えてもらってる。けれど鍍金(メッキ)はいつか剥がれる。だからギル、貴方がウルクを支えてあげて。あの場所は私が愛した場所で、失くして欲しくない場所なの。そしてそれが、私の最後の我儘」

 

 

 リィエルはもうウルクを自分で守れない。

 だからこれは我儘だ。ギルガメッシュに守ってほしいと言うリィエルの我儘だ。

 

 

「もし、もしね。全てが終わって、貴方がウルクを守らなくてもいいって、そう思える時が来たら───」

 

 

 王が居なくとも、今を生きる人間達が支え合える時が来たら。人の時代を築き上げたリィエルに何か意味があったと伝える事が出来たなら。

 

 その時は────

 

 

「私を聖杯から解き放って」

 

 

 それは、自分を殺せと言う意味だった。

 その言葉を聞いた瞬間、ギルガメッシュは目を見開いた。震える身体を抑えながら、それを許したく無かった。

 

 

「出来るわけが……ないだろう!!」

 

「……いつか、貴方にも私と同じくらい大切な友達が出来る。いつか、私と貴方とエル、3人で生きる時が来る。貴方が死ぬ時は私も一緒に行きたいの」

 

 

 ギルガメッシュはまだ生き続ける。

 だが、全てが終わり、王としての責務が無くなり、人の世の始まりを見定める事が出来たのなら。リィエルもその役を終える時なのだ。

 

 ギルガメッシュは分からなかった。自分を見殺しにした相手と一緒に死にたいなんて正気の沙汰ではない。狂気かもしれないだろう。

 

 

「何故……何故そこまで……」

 

 

 

 今はまだ言えない。

 本当は言いたいけれど、今の気持ちを足枷にして欲しくない。本当は待ち続けたくない。寂しくて、1人は悲しい。けれど、いつかまた星の下で会える時が来るのなら……

 

 リィエルは嘘をついた。

 

 

()()だからだよ。ギルガメッシュ」

 

 

 ギルガメッシュの身体が光り始めた。

 それはリィエルが創ったあの魔杖に残した僅かながらの力が失われているのだ。あの魔杖に込められた繋がる力は、聖杯まで繋がっているが、それももうお終いだ。

 

 

「繋がれるのは、ここまでみたいね」

 

「…………」

 

 

 ギルガメッシュは何も言わなかった。

 この別れは永遠の別れではない。遠い未来でまた逢う誓いだ。それを分かっていたから

 

 

「……リィエル、最後に一つ聞かせよ」

 

「?」

 

「貴様は我が……我が王でよかったか?」

 

 

 その言葉にリィエルはクスッと笑いながら口にした。

 

 

「当然だよ。貴方なら越えられるって信じてるから」

 

 

 額を当てて、リィエルは当然の如く言った。

 その言葉にギルガメッシュの目からは涙が溢れていても、笑っていた。これは最後なんかじゃないって、分かっていたから。

 

 ギルガメッシュはリィエルを力一杯抱きしめた。

 

 

「──リィエル、我は必ずお前を迎えに行く。だから、待っていろ」

 

 

 遠い星だろうと、どんな所に居ようと必ず迎えに行く。

 ギルガメッシュはまた遠い未来の約束をした。

 

 

「ははっ、待ってるよギルガメッシュ。星の下で、私は貴方を───」

 

 

 最後に笑いながら泣いていた。

 最後に告げたリィエルの言葉が途切れ、ギルガメッシュの身体は白い世界から消えていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 目を覚ますと、自分の右手にはリィエルの創った魔杖が収まっていた。神々が用意した鎧はもう無く、人としての王の姿にギルガメッシュは変わっていた。

 

 後ろに立つエルキドゥはギルガメッシュに問う。

 

 

「……もう、良いんだねギル?」

 

「……()()()()()()()

 

 

 それ以上の会話は、必要なかった。ウルクに向かって歩き出すギルガメッシュとエルキドゥ、託された巫女であるシドゥリは静かに後ろへと付き添った。

 

 

「……どうするおつもりですか」

 

「決まっておろう。リィエルが成した事を引き継ぐ。神の時代は終わった。これより人の時代を築き上げる。我は、王なのだからな」

 

 

 最後まで自分を友達と呼び、最後まで自分の国を守り続けた巫女が居た。自分が王でよかったと心の底から言ってくれた人が居た。

 

 だからもういいのだ。後悔なんてすることが惜しいくらいだ。

 

 

「民は、反対するでしょう」

 

「わかっている。シドゥリ、エルキドゥ、手を貸してもらうぞ」

 

 

 リィエルが守り続けたあの場所を無駄にはしない。

 三女神にティアマト神、異端の存在に人類史の崩壊、定められた未来を覆さなくてはいけない。

 

 命をかけて守り抜いたリィエルの行為を無駄にはしたくない。だから、千里眼で見える未来の絶望など覆して見せる。

 

 

 

「行くぞエルキドゥ、シドゥリ、今こそ王の帰還だ。託された物を手に出来たのだからな」

 

 

 託された想いも、願いも我儘も、ギルガメッシュは全て受け止めよう。それが王の度量という物だ。

 

 ギルガメッシュはもう失敗しない。

 

 この先に何が起きようと、

 

 

「待っていろ。必ず───」

 

 

 約束を違わないと誓ったのだから。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったな……」

 

 

 私は未だに白い世界で立ち続けていた。

 

 聖杯の中は何も無くて、自分が描いた星の空を眺め続ける。

 

 

 

「ギルガメッシュ……」

 

 

 この気持ちは、まだ閉まっておこう。

 

 今の私には似合わない。この感情も、胸の痛みも、愛おしく思えてしまうから。今はそれだけでいいのだ。

 

 

 約束したのだから。

 

 

 星の下でまた会えると約束したから。

 

 

 だから……

 

 

 

 

「次逢う時は、必ず伝えるから……」

 

 

 

 

 全く、厄介な人を好きになってしまったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、英雄の物語ではない。

 

 

 国を愛し、彼女は戦ったかもしれない。

 

 

 けれど、それは1人の王の為に、と。

 

 

 

 彼女はただ待ち続けた。

 

 

 

 

 彼女が彼の前から居なくなっても。

 

 

 

 彼女は今も、変わらず待ち続ける。

 

 

 

 ただ恋焦がれた女の子の物語だった。

 





次回リィエルのプロフィールを公開し、本当の完結とさせていただきます。アンケートへのご協力、よろしくお願い致します。


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設定集
星の巫女リィエルのプロフィール


これが私の全力だああああああっっ!!!







 リィエルとは

 

 

 

 

 

 

 

 人間として生まれ、精霊として人を惹き、偉大な王と優しき友と一緒に明日の世界を約束した星の巫女。

 神々により生み出された2人に比べたらちっぽけな存在かもしれない。

 それでも遠い2人の隣を歩き、最後は人の時代を世界に示したウルクの宮廷魔導師として戦った。

 私が愛した世界から消えたとしても────

 私は星の彼方で彼を待ち続ける────

 

 

 プロフィール

身長、体重163cm、50キロ
出典ギルガメッシュ叙事詩
地域ウルク・バビロニア
属性秩序・善
性別女性
イメージカラー銀・蒼
特技業務・魔術理解
好きなものウルクの全て
嫌いなもの傲慢に天上から見下ろす神

 

 

 人物:

 優しくて人間味が溢れた女の子。長い銀髪に星のように輝く蒼い瞳、可憐さとギルガメッシュさえ見惚れる美貌を持ち、真面目で怒る時はしっかり怒り、笑う時は楽しく笑う。ギルガメッシュを叱る事も多々あってお母さんのような存在に見えるとの事。

 

 やったねエミヤ!お母さん属性が増えたよ!!

 

 原初の魔術師であるリィエルは魔術構造を数秒で理解し、自分の魔術として扱う事が出来る。魔術を研鑽する魔術師にとって、リィエルは魔術の原点を見ただけで理解し、あらゆる知識を持って同じ原点を再現するチート巫女。まあギルガメッシュの宝物庫にある全ての魔導書を理解したから是非もない。

 

 判断力、知識量は凄いがギルガメッシュに振り回されていたせいか偶にやらかす。イシュタルの求婚の時とか、あの時は凄い後悔して寝れなかったらしい。

 

 もし召喚されたらマスターに従いはするが、人道に背く行為を命じられたら一切従わない。そういう意味では魔術師と相性が悪い。召喚されたら自分で魔力を補えるから大したデメリットではないらしい。

 

 聖杯に願う事は2人に会うか、受肉の2択。待つか、会うかは2人の内1人でも召喚されたらその時の聖杯戦争による。

 

 

 

 正体:

 『惹き寄せる力』を持つ精霊と人間の混血。正確に言えば半受肉精霊。

 

 だが、自分が精霊だと言う自覚は全く無く、幼少期はただ歌う事が自分の喜びであり、登場してはいないが街角の花屋のお婆さんに育ててもらい、14歳にしてギルガメッシュに宮廷魔導師としての道を示され、住む場所を城へと移された。お婆さんには週に3回は会いに行ってた。

 

 『惹き寄せる力』は精霊の中では異端であり、魅了とは違い『そのものを見ただけで勝手にかつ強制的に好き』と認識してしまうらしく制御かつ制限が出来ない。リィエルは半受肉精霊である為、その力は歌う時のみ発揮していた。

 

 『星の巫女』の名は『天の楔』と『天の鎖』に並ぶように民が吹聴したものだ。ただ本人は照れ臭いながらも気に入っており、ギルガメッシュやエルキドゥも似合っていると言われた。

 

 同じ天の文字をつけるなら『天の誓い』と言うべきかもしれない。約束を守り抜き、誓いを守り抜いた彼女にふさわしい名前だ。

 

 

 

 能力:

 キャスターと言う枠組みで考えるなら全てにおいて一線を画す。ありとあらゆるものに繋がる魔杖を使いこなし、近接戦はエルキドゥと対等に渡り合え、遠距離戦では物量で圧倒するギルガメッシュに物量の魔術をぶつけて相殺する。更には宝石剣と同じように『並行世界から大気のマナを収束』が出来たり、魔杖の力を自分に繋げ、集めた魔力を我が物として使える。回路の強度はEXと言うべきだ。

 

 

 Arts2 Quick1 Buster2

 

 適正クラス:キャスター・ルーラー

 ☆5(Lv90)HP14863 ATK11508

 

ステータス筋力耐久敏捷魔力幸運宝具
リィエルCBBEXBEX

 

 

原初の

魔術師(EX)

リィエルは神代における原典クラスの魔術を全て行使できる。それは未来の世界の魔術であろうが、魔術の原点を全て記憶している以上、どんな魔術でも基盤が見破られ、行使された魔術をそのまま返されてしまう。ソロモンが魔術を人の領域として築き上げたならリィエルは魔術の全ての原典を人の身で理解した同じく常識を超えた魔術師なのだ。

 

・味方全体の宝具威力をアップ(3T)&宝具使用時のチャージ段階を1引き上げる(1T)&スター獲得(15個)《チャージタイム7→5》

精霊の

魅了

(D〜EX)

この力に関してはリィエル自身が歌わなければ使う事が出来ない上に、精霊としての自覚が薄い為ランクは低い。しかし、それでも「ありとあらゆるものを惹き寄せる力」はランクが低くとも歌を並行世界上で束ねる事でランクが変わる。

 

・敵全体に中確率魅了付与(1T)敵全体の防御力ダウン(3T)2ターン後、宝具『神代の終幕を告げる人理の裁き(エヌマ・エリシュ)』の発動をセット。《チャージタイム8→6》

星の巫女(EX)ギルガメッシュに宮廷魔導師として命じられたリィエルの逸話がスキルになったもの、ウルクを防衛する為に戦士たちにリィエルの力を持たせる事で兵士達は一騎当千の力を発揮し、数の不利を覆した逸話はリィエルがウルクを愛し、ギルガメッシュとの誓いを守り抜いたと言うリィエルの最大の神話である為、ランクは規格外とされている。

 

・味方全員の(ウルクを愛する者)のNPを増やす(50%)。自身にガッツを付与(3T・HP1) 《チャージタイム8→6》

道具生成(B)魔術師の保有スキル、リィエルはある程度なら何でも作る事が出来るが、必要性を感じないものを造らない為、ランクはそれ程高くない。

 

・自身の弱体付与確率を少しアップ。

陣地作成(A++)魔術師の保有スキル、自らに有利な陣地を作り上げる。 “工房”の形成が可能。Aランクともなると「工房」を上回る「神殿」が作成可能となる。リィエルの場合、ウルクの領域そのものを工房とする事で半永久的にウルクに結界を張り続ける事が可能だった。

 

・アーツ性能を少しアップ。

半受肉精霊(B)虞美人と同じく自然界とマナを共有できる精霊種であるため、魔力を自らの体内に蓄えるのではなく、外界から無尽蔵に汲み上げることが可能。リィエルの場合は惹き寄せる事によって外界から魔力を得る事が可能だが、それは歌を歌ったときにしか発動しない上に、意識的にそれを制御出来ない。まあ魔杖があるから問題はないらしい。

 

・自身に毎ターンNP獲得状態を付与(獲得量3%)

星の(タイ■)

■強■(ス■■)

(■■)

リィエルの中で唯一理解不明のスキル、神でもなければ吸血鬼ですらない。半受肉精霊とは言え人の身で天上すら届き、世界さえ1人で滅ぼす力を持つ存在が何故生まれたのか。ギルガメッシュもリィエル自身も知る由はない。「世界が生み出した一つの存在であるにも関わらず、世界を滅ぼす力を持つ存在」と認知され「圧倒的な知識から圧倒的な不条理を覆す力は抑止力の干渉すら超えた異端な存在か、世界を見定め護る為に存在するにも関わらず、自身が望むものの為に世界すら敵に回す矛盾を抱えたナニカ」と言う意味合いらしい。ある意味世界のバグに近い。結局の所、スキルの詳細については未だ正確に判明はしていない。

 

・確率でスター獲得(5個)自身に『人類の脅威』特攻を付与(30%)

 

 

 

 

 

 宝具 :

白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)

 

 * ランク:EX

 * 種別:対界宝具

 * レンジ:──

 * 最大捕捉──

 

 

ギルガメッシュの宝物庫に持て余していた魔杖。

ギルガメッシュでさえ素材すら千里眼で見通す事が出来なかった魔杖であり、その力だけ言えばギルガメッシュの『乖離剣エア』に匹敵する。

 

詳しく詳細は未だハッキリしていないが、ギルガメッシュの持つ乖離剣が『全てを破壊するもの』ならリィエルの持つ魔杖は『全てと繋がるもの』だと言う。

 

 宝具 :

私を繋ぐ世界の全て(アナザー・オブ・バビロン)

 

* Arts宝具

 * ランク:EX

 * 種別:対界宝具

 * レンジ:10〜200

 * 最大捕捉:10000

 

『私の声は世界を繋ぎ、私の世界は私という可能性の一つ──』

 

真名開放したその能力は「()()()()()()()()()()()()()()()()」する力。

 

それはつまり自分がこうしていたらというifの世界や、自分に起こり得た別の可能性。即ち幾多の並行世界に接続し、自分がこの場所で「()()()()()()()()()」という「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と言う事が可能とする宝具。

 

勿論、並行世界から大気中の魔力を取り出して持ってくる事や、グラガンナに「こういう攻撃を並行世界でしていた」と言う結果を引っ張り出して魔法陣を多数、しかも詠唱なしで出現させる事も可能だ。

 

これは魔術とリィエルは称しているが、後世ではこう名付けられる。

 

()()()()()()()」、即ち()()()()である。

 

余談ではあるが、リィエル自身は並行世界を移動出来ず、あったであろう現象や過程、もしくは並行世界の大気中のエーテルを引きつける事しかできない為、リィエル自身が魔法使いと言われるとそれは違うらしい。

 

・味方全員の攻撃力アップ(3T)&敵全体に超強力なダメージ&自身にNPを少し増やす(10%)

 

 

 

 第二宝具

神代の終幕を告げる人理の裁き(エヌマ・エリシュ)

 

 * Buster宝具

 * ランク:EX

 * 種別:対粛正/対星宝具

 * レンジ:測定不能

 * 最大捕捉:測定不能

 

 ────私は世界と共に在り

 

 ────私は歌い、世界は踊る

 

 ────私は星の灯火を人の時代に移し

 

 ────神の時代の最後の星となろう

 

存在しない筈のリィエルの第二宝具。

リィエルの原初の精霊としての本質が「惹き寄せる力」であったことで、リィエルはありとあらゆる全てを惹き寄せる。「惹き寄せる」と言う事はつまり「誰からも愛されて、誰からでも全てを手に入れる事」が出来てしまう。自分と言う人間に惹かれてしまえば、相手を思うがままに出来ると言う規格外の力を持つ。

 

リィエルはそれを()()()()()()()()()()()()()()()()()事が出来ていたが、自分の意思で使用出来るものではなく、あくまで歌うときのみそれが発揮されていた。

 

リィエルは幾多の世界の自分と繋がり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事によって、星という巨大なものまで惹き寄せたのだ。

 

だが、強大すぎる力のせいか、魔術回路が殆どが壊死している上に威力が強すぎて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

・神性特攻を付与(200%)&『星の脅威』特攻を付与(200%)&敵全体に超強力な攻撃&自身に即死付与【デメリット】

 

 

 

 メリット

・単体でもクソ強い。

・ギルガメッシュとエルキドゥが居る時、絶大な力を発揮する上にエルキドゥのNPの問題とギルガメッシュのスキルの為のスター獲得の問題を埋めている。

・周回でも高難易度クエストもどちらにも運用できる。

・キャスタークラスで珍しい攻撃型のサーヴァント。宝具もArtsやBusterに変わるから組み合わせ次第では面白い。

・星の脅威(ビーストや吸血鬼)に対する特攻が場面で刺さる。

 

 デメリット

・呪い、火傷攻撃には弱い。弱体耐性や無効がない上に回復手段を持ち合わせていない。礼装はアトラス院がベスト。

・ギルガメッシュとエルキドゥが居ないと十分な力を発揮しない。

・最大宝具の使用条件が2ターン後だから使い所が難しい。

 

 

 

 

 会話集

 

 召喚時

「サーヴァント・キャスター。真名はリィエルよ。星の巫女と言えば分かるかしら……?まあ、よろしくねマスター」

 

 通常会話

 

「私の歌が聞きたいの?ふふっ、じゃあ周回が終わった後にマリーとアマデウスと一緒に歌ってあげる」

 

「あまり無理はダメよマスター。貴方は私と違って人間なんだから。えっ?私に言われたくはない?私無理してるかしら……」

 

「これでも神代に生まれた魔術師だもの。教え方が上手いのは魔術の全ての原典を知ってるからよ。少しずつ教えてあげるわ」

 

「少し疲れたわ。周回も楽ではないのね……まあギルに比べたらまだ優しい方だわ」

 

 聖杯にかける願い

 

「そうね……受肉かしら。受肉した後に約束を果たしたいから、あの2人が召喚されるのを待ち続けたいかな?まあ現代を見てみたいと言う欲もあるけど」

 

 好きなもの

 

「好きなもの?そうね……ウルクは当然として、子供とか可愛い動物とか好きよ。意外かしら?えっ、猫カフェというものが現代にはあるって?詳しい話を聞きたいわ」

 

 嫌いなもの

 

「うーん。名指しならイシュタルだけど、イシュタルの器の子は嫌いになれないというか。と言うよりあのイシュタルをあそこまで抑えられてるのは凄いと思うわ。まあ、でも好き勝手やる馬鹿な神は嫌いよ」

 

 イベント

 

「騒がしいけど……また新しい出会いの予感がするわ。少し楽しみね」

 

 誕生日

 

「誕生日おめでとうマスター。今日はマスターがしたい事を手伝ってあげるわ。プレゼント?……ふふ、今は内緒。生まれた時間にちゃんと渡すわ」

 

 

 ギルガメッシュ(子ギル)

「………嘘でしょギル。いや貴方にこんな可愛い時代があるなんて…!どうして子供の頃に出会えなかったのかしら……!!まあこれを見たら成長する過程を知りたくないというか……」

 

 ギルガメッシュ(弓)

「この頃のギルはまあ我儘だったしね。何となくだけど帰ってきた気分だね。まあ、エルと3人で組んだら怖いもの無しだし、また3人で時間を過ごせるなんて思わなかったわ。ありがとうマスター。……久しぶりにバターケーキでも作ろうかしら」

 

 ギルガメッシュ(術)

「ハァ……必死に目を逸らしちゃって。私は気にしないって言うのに。あの人が真面目になって、私も大人になったから会う事に未練があったりするけど、私は私がしたかったからウルクを護ったのに。まあ、その時に多分私はあのギルを好……やっぱなんでもないわ。乙女の秘密よ」

 

 エルキドゥ

「マスターありがとう。エルを召喚してくれて、私と戦ったりいろんな所に連れ出したり思い出が多い私の大切な友達なの。約束、果たせそうで嬉しく思うわ。2人が揃えばどんな敵も倒せる気がするの」

 

 イシュタル

「……普通に嫌いだわ。まあ好き勝手やる女神の代表だし。パーティーを組んだら狙っちゃいそうだもの。あっちは怯えてるようだし、出来る限り同じパーティーに入れないでほしいわ」

 

 エレシュキガル

「あの神は好ましいわ。私が冥界で絶望した時に慰めてくれたし、冥界を繋ぐ鏡をくれたの。アレだけ優しくてしっかりとした女神はあの馬鹿女神とは全く違う所ね。今度お茶でもしようかしら」

 

 ジャンヌ

「わあ、可愛らしい聖女さんね。真面目そうでしっかりしていて、でも少し迷いを抱えて、それでも強く有り続ける……ああごめんなさい。私にもそう言う存在が居たから、少し思い出しただけよ。これからもよろしくね」

 

 『両儀式』

「何というか……私と性格が少し似てるかしら。まあパーティーの時はお互いにやりやすかったし、えっ?あのパーティーでなんか負ける気がしない?どう言う事なのマスター?」

 

 アナ(メドゥーサ)

「大人っぽく振る舞っているように見えるけど、やっぱり子供ね。あの子には花が似合いそうだわ。今度、花の冠でも作ってあげようかしら。私昔に母親の代わりをしてくれたお婆さんに教えてもらったの」

 

 絆Lv1

「私と友達になりたいの?ふふ、まだ駄目よ。ギルやエルと同じくらいの心の強さがないとね」

 

 絆Lv2

「中々、男前になってきたじゃないマスター。あっ、今のはギル達には内緒ね。あの人なら嫉妬しそうだし」

 

 絆Lv3

「ん……ああ何でもないわマスター。ただ、懐かしい人と貴方が少しだけ重なっただけよ」

 

 絆Lv4

「大丈夫?無理はしないでね。私も貴方に倒れてもらうのは心が痛むもの。自分の限界以上を考えても空回るだけよ。私も手伝ってあげるから」

 

 絆Lv5

「ウルクに居た時もここまでの友達はあの2人以来よ。マスター、貴方はこの星の巫女リィエルが認める友達だもの。だから、頼りたい時は遠慮せずに言ってね。私も力になるから」

 

 

 

 絆礼装

 

 礼装:未来への星の誓い

 レアリティ:☆4

 コスト:9

 

 

 詳細情報

そこに描かれているのは3つの拳が合わさっている情景だ。1人には赤い刺青のようなものがあり、1人には腕が鎖に巻かれていて、1人には腕に蒼のラピスラズリが埋め込まれたブレスレットががある。

 

 それはまるでいつかまた会おうと言う別れにも見え、遠い未来への約束のようにも見える。この絵を見て分かるのは約束した3人しか居ないだろう。

 

 

 スキル:リィエル[キャスター]装備時のみ、味方全体の弱体耐性をアップ(30%)Buster、Arts、Quickの攻撃力アップ(8%)

 

 




如何だったでしょうか!!
これにてギルガメッシュ叙事詩、星の巫女は貴方を待ち続けるを完結させて頂きます。

時間から新シリーズを描きたいと思います!!

っとその前に少し甘めのリィエルとギルガメッシュの幕間を入れたいと思うんですけど、それでもいいですか!?


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幕間の物語
貴方を待つのを終えた日 前編


いやー甘々な話にしたいが、作者の文才があって前編後編に分けちまったぜ!しかも少し短い!!

……いや本当マジですいません。

後編を出来る限り甘々にするので許してください。

前編はリィエルがカルデアに召喚された賢王ギルガメッシュとの関係です。では行こう。


 場所は召喚部屋、触媒は自分自身の縁、召喚サークルに石を投げ入れ詠唱を開始する。

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 ────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷しく者。

 

 汝 三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―!」

 

 

 詠唱が終わると召喚サークルが虹色に回り出す。

 そこに姿を現したのは1人の女性。長い銀髪に星のように輝く蒼い瞳、可憐さと思わず見惚れてしまうほどの美貌を持つ女の人だ。

 

 目を開けて、召喚された女性は告げる。

 

 

「サーヴァント、キャスター。リィエルよ、星の巫女と言えば分かるかしら?」

 

 

 カルデアに召喚された星の巫女リィエルは朗らかに笑いながら知っているか質問する。

 

 

「リィエルさん! 召喚に応じてくれてありがとうございます!」

 

「あら、あの時のカルデアのマスターさんじゃない。私で良ければ力を貸しましょう」

 

 

 カルデアのマスター、藤丸立香は召喚サークルからリィエルを呼び出した。絶対魔獣戦線バビロニアで共に戦った時に縁が結ばれ、既にイシュタルやケツァルコアトル、エレシュキガルにエルキドゥ、何とシドゥリさんまで呼び出せていた。

 

 英雄王に子ギル、そして賢王も既に召喚され、ウルク出典のサーヴァントはリィエルが最後になっていた。どれだけ石を注ぎ込んだかは聞かないでおこう。

 

 

「……ねぇマスター」

 

「賢王なら東のルームに居ますよ」

 

「まだ何も言ってないんだけど……」

 

「顔に出てました」

 

 

 少し顔を赤くして睨むリィエル。

 リィエルの全盛期は17歳だ。現代で言えば高校2年生、恋というものを意識し始める思春期でもある。ギルガメッシュ叙事詩のリィエルの伝承は自身を聖杯に捧げた後、その聖杯はギルガメッシュが死ぬ前に聖杯を壊す事で魂は解放される筈だった。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが()()()()()()だ。

 

 リィエル程の素質があれば『冠位(グランド)』にまで昇華される筈だが、それがされなかったのはギルガメッシュが()()()()()()()()()()()()()()()()()にある。故に魂は永遠にギルガメッシュの財の中の聖杯に眠る。永劫と言う長い年月をただ待ち続けた。それでもギルガメッシュと会う事は叶わなかった。

 

 それが()()()()()()()()()だった。

 

 

 永劫と待ち続けた彼女の魂は()()()()()()()()()()()()以上、英霊の概念に昇華される事はない。

 

 スカサハに似てはいるが、全くの別物だ。自分で死ぬ事すら出来ないと言う意味ではスカサハと同じ。ただ魂がそこにあり、マーリンのように世界を眺める事も出来ず、魂という意識に形は殆どなく、ただ星の下で悠久を過ごしたら普通の人間では発狂どころではない。

 

 魂には限界があるし、摩耗というものが存在する。聖杯の中で不死になろうとそれは変わらない。だからリィエルは聖杯の中でただ迎えに来るのを待つ為に、聖杯で眠り続けていた。

 

 

 リィエルは賢王のギルガメッシュを探すべく、カルデアを歩き始めた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 たったった、と何かが近づいてくる気配を感じて、音のする方に視線を向けた。そうして、彼はゆっくりと目を見開いた。

 

 

「ギル!!」

 

「……!」

 

 

 夢を見ているのだろうか、そう思って。けれど、それがすぐに錯覚だと理解もした。そんな、そんな彼女を見たギルガメッシュの胸に広がるのは、静かな絶望であった。

 

 

「やっと……やっと逢えた……!」

 

 

 久しぶりに話したかった。自分が居ない中でウルクはどうなったのか、エルキドゥはカルデアに来てからどうなのか、色々とまた逢って話したかった。

 

 だが、

 

 

「…………えっ?」

 

 

 リィエルが伸ばした手をギルガメッシュは振り払った。

 それに対して動揺を隠せないリィエルがいた。何かを間違えたのか。賢王のギルガメッシュはただ静かに悲しそうな眼をしながら、少しの怒りを目に浮かばせながらもリィエルに告げた。

 

 

「ギ……ル……?」

 

「……今の貴様に話す事はない」

 

 

 自分が伸ばした手を振り払われた事に困惑する。一体何が間違えたのか。一体何故振り払われたのか理解できないまま、リィエルはただ固まった。

 

 

「……済まん」

 

 

 ギルガメッシュらしくない謝りをしながら、そう言って賢王は背を向けてリィエルから離れていった。ただ、振り払われた手を見ながらただ何がいけなかったのか理解できないまま、涙が溢れ落ちていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「むっ?」

 

「んっ?」

 

 

 英雄王のギルガメッシュとエルキドゥはただ呆然としながらも歩くリィエルを見つけた。2人が声をかけるとリィエルは俯きながらも足を止めていた。

 

 

「おお、貴様も召喚されたのか、リィエルよ」

 

「久しぶり、リィエル。君もマスターに召喚されたんだね」

 

「…………」

 

 

 リィエルが顔を上げると、ポロポロと涙が溢れ落ちていた。

 それにギョッとする2人。リィエルは無言のままエルキドゥの胸に顔を埋めて泣きついた。

 

 

「……? どうしたと言うのだ。貴様らしくない顔をしおって」

 

「リィエル、どうしたんだい? 悲しい顔をして」

 

 

 2人は心配し、リィエルに声をかける。だがリィエルは泣いていて声すら出せないでいた。英雄王のギルガメッシュは大丈夫なのに何故賢王であるギルガメッシュはリィエルを払い除けたのか分からない。

 

 だから無意識にギルガメッシュではなくエルキドゥに泣きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂でギルガメッシュとエルキドゥ、リィエルは座り、リィエルはチビチビと紅茶を飲んでいた。エミヤの作った紅茶なせいか、ギルガメッシュは要らんと一蹴し、エルキドゥはココアを貰った。

 

 一体何があったのかをリィエルは話した。

 

 

「成る程、賢王の我が貴様を拒絶した、と。

 –––––––死罪(ギルティ)だエルキドゥ。早速賢王の我を潰しに行くぞ」

 

「ギルだけにかい?」

 

「誰が上手いことを言えと言った戯け。幾ら我とて我が友を泣かすとは万死に値する」

 

「ちょちょ、ちょっと待った! 物騒過ぎるしマスターさんに怒られるからダメ!! 私は、何で賢王のギルが私を拒絶したのか知りたくて……」

 

「……まあ、あのギルは僕も避けているからね」

 

 

 このカルデアでは「我にエルキドゥと話す自由はない」と語り、距離を置こうとしている。 それはエルキドゥの死をきっかけに、賢王として成長した彼にとって、それは許されざることであると見なしているからだ。バビロニアのレイシフトでも未だに杉の森には行ったことがない。

 

 エルキドゥも「自分はただのシステムであるべき」「きっと彼と一緒にいたら、また共に冒険の旅に出て、彼を連れ出してしまうだろう」と遠慮している。そこは英雄王のギルガメッシュを連れて冒険の旅を誘っているからエルキドゥは気にはするが大した関係ではないのだ。

 

 

「まあ……大体は理解した」

 

「本当かいギル?」

 

「恐らく、リィエルを拒絶と言うより、果たせなかった事への悔恨がリィエルと我自身が逢ってはいけないと思わせているのだろう」

 

「悔恨?」

 

「我も賢王時代の記憶は持ち合わせている。その中でリィエル、貴様自身と約束した事があったであろう」

 

「…………そう言う事ね」

 

 

 ギルガメッシュとリィエルが約束した事はギルガメッシュが聖杯のリィエルと話した際に『必ず迎えに行く』と約束していた。

 

 だが、賢王ギルガメッシュの結末は『()()()()()()()()()()()』こそ本来の叙事詩である為、ギルガメッシュはリィエルを拒絶したのだ。特異点ではリィエルの魂が眠るウルクの聖杯は消えて、リィエルは死後の世界と契約し、英霊に昇華したのだ。

 

 だが、それは稀中の稀で特異的にならなければ、リィエルと賢王ギルガメッシュは会う事は2度とない。だから賢王は避けたのだ。正確に言えば、自分に対する戒めのようなものだ。

 

 

「……馬鹿みたい」

 

「リィエル、一応とは言え同等の存在が目の前に居るのを忘れるな戯け」

 

 

 ベシッとチョップされた。

 大した痛みはないが、頭を押さえながら軽く睨む。ギルガメッシュはギルガメッシュと言うべきなのだろう。葛藤しているのもしょうがないのかもしれないが、私が許してるなら問題ないのに。

 

 

「……ギルのバーカ、過労死して剥げちゃえ」

 

「剥げぬわ、そして同じ事を2度言わすな戯け」

 

 

 

 再びチョップされた。今度は痛かった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「…………らしくないわね」

 

「むっ、貴様かイシュタル。何用だ、我に首を差し出す覚悟は出来たと言うことではあるまい」

 

「物騒だわ!? じゃなくて、あの子の事よ。アンタは頑なに避けてるけどあっちはそれで泣いたのよ? ただでさえ私と戦った時すら泣きもしなかったあの子が」

 

 

 わざわざイシュタルが賢王ギルガメッシュの前に立つ。イシュタルと賢王ギルガメッシュは関係上最悪なのだが、見たら殺しにかかるエルキドゥのような感じにはならない。あくまで王、度量も器も大きくなくて王など務まらない。

 

 ため息をつきながら口を開いた。

 

 

「……我が友を傷つけたのは認めよう。だが、よもや貴様がそれを言いに我の前に来るとは思えん。何故貴様が奴を構う? 殺されたせいで会う度にトラウマに怯えていると雑種から聞いたぞ」

 

「うっ、てかそれはしょうがないでしょ!? アンタも一回星に潰されてみれば分かるわよ!!」

 

「……で、2度も問いが必要か?」

 

「……まあ、今はこの依代のせいで性格が引っ張られるのよ。反省くらいはしてるつもり。まあ、だからと言う訳ではないけど、私を負かしたあの子のあんな顔見たくないだけよ」

 

「フン……」

 

 

 イシュタルを無視してギルガメッシュは仕事に戻った。

 ギルガメッシュ自身も理解している。本当は傷つけたくはなかった。だが、リィエルの死をきっかけに賢王となり、リィエルを迎えに行く事すら出来なかった自分にその資格はないのだ。

 

 約束を破った自分にリィエルと言う存在は遠すぎる。

 ギルガメッシュでさえ唯一届かなかった高嶺の花のような彼女を自分は愛してはいけないのだ。

 

 

 2人の関係は未だ拗れたままだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何処かで覗いていた夢魔が視ていた。

 

 星の巫女リィエルと賢王ギルガメッシュの関係を1番知られたくないロクデナシに知れ渡った事を2人は知らない。

 

 

 

「おやおや、コレはまた面白……少し悲しい事が起きてしまったね。ようし! この私が一肌脱いであげよう!!」

 

 

 ロクデなしの夢魔がハッピーエンドを作る為、鼻歌を歌いながらカルデアを歩き始めた。

 

 

 この後、盛大にギルガメッシュに殺されかける事になるのを彼はまだ知らない。




ハッピーエンド好きの夢魔「すれ違う2人の話をしよう」

通りすがりの過労死王「……………」ゴゴゴゴ

文才なしの作者「あっ、死んだなコレ」


 如何だったでしょうか。賢王としてのギルガメッシュとリィエルの関係は今はまだ拗れたままですね。ハッピーエンドの夢魔は次の話に何をするのか。次の投稿にご期待ください。





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貴方を待つのを終えた日 後編


これが幕間の最後です。
後半戦!!では行こう!!

コメント、評価、感想よろしくお願いします!!





 

 

 星の巫女リィエルは特異な存在だ。

 

 その例えの代表が出典だ。ギルガメッシュは神に創られた星の抑止力を背負わされ、『天の楔』として世界を見定める半神半人。エルキドゥは神々によってギルガメッシュを諫めるために造られた『天の鎖』。この2人に関しては神から造られた存在である為、強さも納得出来る。

 

 だが、リィエルは精霊である事は判明しているとはいえ、どんな精霊から生まれた受肉精霊なのか判明していない謎の少女なのだ。

 

『惹き寄せる力』を持つ精霊に名前はなく、邪精霊と言うには邪な雰囲気を持つような存在でもない。精霊の世界ですら異端な存在は一体どこからやってきたのか。

 

 それが関係しているせいか巡り会う事はすれ違いで終わってしまう。

 

 それはバッドエンドかも知れないが、それが現実だ。

 

 ならば、ハッピーエンド好きの夢魔はバッドエンドで終わらせない。

 

 

 理由は簡単だ。

 

 

ハッピーエンドが見たいから(面白そうだから)☆」

 

 

 理由は本当にクズでロクデナシだ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

「リィエルさん!」

 

「任せて」

 

 

 一瞬で構築された魔方陣から大量の魔弾を射出される。

 それだけで敵が一掃されていく。破壊力、判断力はギルガメッシュ叙事詩の中でも最高位の存在であるリィエルにとって、この程度造作もない。圧倒的な物量、全知たる慧眼はギルガメッシュ、戦闘力、天性の勘、戦場を駆け抜ける圧倒的膂力に関してはエルキドゥが上だ。

 

 

「エル、行くわよ」

 

「ああ、分かったよ」

 

 

 マスターである藤丸立香はリィエルとエルキドゥと一緒に種火周回にレイシフトしていた。因みに英雄王は「何故雑種の手伝いをせねばならん」と拒否し、隣にいたエルキドゥが代わりに行く事になった。

 

 

「…………」

 

「リィエル、大丈夫かい?」

 

「えっ? ああ、大丈夫よ」

 

 

 リィエルは最近、やけにボーッとして上の空だ。

 別にボーッとしながらも敵を倒しているけれど、何というか空元気に見える。判断力、思考力、聡明さならギルガメッシュの次にある彼女だが、あれこれ考えているけど纏まらないから力任せに攻撃し、それでも倒せている状態だ。

 

 

「エルキドゥ、あれ大丈夫なの?」

 

「問題はない……と言いたいけどアレばかりは時間との問題だしね」

 

 

 エルキドゥも最初は渋々だったが受け入れるのに時間を要した。賢王ギルガメッシュはかつての友を乗り越えて進んだ事を許せない以上、関わる事はないだろう。

 

 

「ハァ……」

 

「リィエルさん、大丈夫ですか?」

 

「ん。大丈夫よマスターさん。そっちは怪我してない?」

 

「は、はい大丈夫です」

 

 

 藤丸立香(マスター)でさえ気付いているリィエルの空元気な振る舞い。まあ気を遣わないように元気なフリをしているようだけど、気を抜くとため息をついている。

 

 

「フムフム」

 

 

 それを後ろから見るロクデナシが1人。

 当然周回で王の話をしたマーリンはリィエルやエルキドゥと同じく種火周回で来たのだが、マーリンの場合いつも乗り気じゃなかったのに今回ばかりは少し乗り気だ。

 

 空元気なリィエルの後ろ姿を見ていると、首筋にジャキッ! っと言う音が聞こえた。エルキドゥが腕を剣に変えてマーリンに向けている。

 

 

「あまり不埒な視線を向けない方がいい。貴方は油断ならないからね」

 

「おや酷い。私はあの空元気な少女を励まそうとしているのに、ご不満かな?」

 

「彼女に手を出してみるかい? 胴体と首が離れても構わないなら別にいいけど」

 

 

 エルキドゥは今回ばかりはマーリンを警戒していた。

 マーリンはリィエルと同じ『冠位(グランド)』の素質を持っている。リィエルの強みは魔術もそうだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を引き出せる事だ。

 

 リィエルはギルガメッシュに下賜としてあの魔杖を選んだが、並行世界では英雄殺し、龍殺し、神殺し、聖人殺し、数え上げればキリの無い程の武器を手にしていた。

 

 ギルガメッシュと同じく弱点となる原典を引っ張り出し、あらゆる敵の弱点を引き出せると言う事だ。

 

 逆にマーリンは対照的な存在で、実質的不死身であり、アーサー王のように『人為的に王を作り上げる』と言う世界有数の『英雄作成(キングメーカー)』であり、世界すら欺く幻術の使い手。

 

 その力はあのティアマトさえ夢に引き込み、眠らせると言う規格外な事をやって退けた。魔術も剣の腕も超一流、リィエルが力をなす魔術師ならば、マーリンは心を掌握する魔術師だ。根本的な違いと言えるだろう。

 

 だが、性格については趣味で人をかき乱すクソ野郎なので、エルキドゥは今回ばかりはリィエルに悪影響と思い、警戒していた。

 

 

「ヤケに好戦的だね。今の彼女を私がどうにか出来る方法を知っていると言うのに」

 

「……信用ならないね」

 

「結構さ。信頼があるなら信用は不要さ。何せ私は夢魔だからね」

 

 

 夢の中を渡り歩く悪趣味な悪魔。

 夢魔と人間の混血であるマーリンはハッピーエンドが見たい為に動く。エルキドゥはリィエルをあのままにするのは少し嫌だと感じている。互いにリィエルの問題を解決したいという意味では利害は一致している。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ふああ」

 

 

 リィエルは目を擦り、ベッドから起き上がる。

 サーヴァントに睡眠は必要ないが、最近のモヤモヤした感情がストレスになり、眠る事に躊躇が無くなっていた。

 

 上半身を起こすと、リィエルはカルデアが用意した部屋ではない事に気付いた。

 

 

「っ!?」   

 

 

 敵襲に反応出来なかった。

 幾らなんでも気が抜け過ぎだ。辺り一面には何もない空間、星空しかない白い世界。それはリィエルが永遠と居続けたであろう場所。

 

 

「聖杯の……中?」

 

「ご明察」

 

 

 リィエルが振り向くと、そこに居たのはマーリンだった。

 マーリンの十八番である夢へ引き摺り込む夢魔としての力をリィエルに使った後、結界を張っていたであろう聖杯の保管庫に侵入し、無断でレイシフトを使い、リィエルを聖杯の中に閉じ込めた。

 

 カラカラと笑いながら近づくマーリンにリィエルは警戒しながら片手を向ける。魔杖は無いし、呼び出せない。マーリンの策略か知らないが黙っているほどリィエルは気が長くない。

 

 

「……何のつもりかしら。同じ『冠位』に選ばれる私が気に食わないからとか言うつもりじゃないわよね?」

 

「いやいや、そんな訳ないさ。私も目的があってやっているが、私個人の私怨や感情は一切ないよ」

 

「こんなもの……っっ!?」

 

 

 聖杯から抜け出そうと外部に干渉しようとするが、弾かれた。

 魔杖が無い今、リィエルの繋がる力は強くない。とは言え、抜け出せるほどの干渉は可能な筈だ。だが、外部に干渉した瞬間、まるで雲を掴むような感覚に襲われる。

 

 

「結構苦労したんだよ? 聖杯に君を封じ込めた後、外の世界を夢の世界で閉じ込めて、内部干渉が出来ないようにするのは私でも骨が折れる作業だったよ」

 

「……何が目的?」

 

「さてね? ウルクの聖杯の時は君の魂があったから聖杯の中でも長く存在したけど、今の君はサーヴァントだ。魔力も1日したら限界を迎える」

 

「っっ!!」

 

 

 それはつまり座に帰ると言う事だ。

 冗談じゃない。やっとギルガメッシュに会えたのに、やっとエルキドゥに会えたのに、やっと想いを伝えられると思ったのに、何も無く座に帰り、悠久の時をまた過ごさないといけないなんて……

 

 

「ふざけるなっ!! 夢魔のロクデナシ!!」

 

「精々、迎えに来るのを期待して待ってるといい。じゃなきゃ、君はサーヴァントとして死ぬからね」

 

「待っ––––––!」

 

 

 魔術で拘束しようとしたが、時既に遅く……いや、最初から幻術で話していたのだろう。今の自分は聖杯の中、自力で抜け出そうと内部から干渉するが、触れようとしているものに触れられない感覚で出る事は難しい。いっそ第二魔法を行使して、聖杯を壊そうと考えるが、魔術王の聖杯が内部から暴走したら大変な事になりかねない。

 

 リィエルは魔力を出来るだけ外部に漏らさないように、誰か助けに来てくれる事を信じて待っていた。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ハァ……よもや夜が明けるとはな」

 

 

 賢王ギルガメッシュはカルデアに来てから、現場を指揮している。七つの特異点が消えた後の空白の一年、魔術協会の報告は勿論レイシフトについてや、サーヴァントの確認、機材の確保に夥しい数の書類整理、それはウルクと変わらず忙しいものだった。

 

 

「流石に我も疲れた……寝るとするか」

 

 

 賢王が宝物から取り出したベッドに身体を沈めようとした時、部屋の扉が勢いよく開き、肩で息をするマスター、藤丸立香がギルガメッシュの元に走り込み、部屋に押しかけた。

 

 

「ギルガメッシュ王!!」

 

「……雑種、今の我は機嫌が悪い。寝間に押しかけたその不敬、貴様一体何をもって償う」

 

「リィエルさんが……リィエルさんが居ないんです! カルデアの何処にも!!」

 

「っっ!?」

 

 

 賢王は立ち上がり、マスターに近づく。

 リィエルが突然居なくなっただと? あり得ない。リィエルは突然居なくなるような人間じゃないし、座に帰るにしてもマスターに一言も言わずに帰るなんてあり得ない。

 

 ギルガメッシュは徹夜明けの頭を目一杯回しながら考える。

 

 

「居ないとはどう言う事だ……」

 

「他のキャスター達に調べて貰いましたけど、カルデアにリィエルさんの魔力は感知できない上に、消えた後の痕跡すら無いんです!!」

 

「となると……高位のキャスターかアサシンに大体絞られる筈だ。情報抹消の力を持つアサシンでリィエルを襲う程の私怨を持つような輩は居ない。ならば……あの夢魔か」

 

「マーリン……! そう言えば今朝から見当たらない!?」

 

 

 マーリンならばリィエルに気づかれないで消えれる手腕があるだろう。腐っても『冠位(グランド)』。ギルガメッシュより英霊としてはマーリンの方が上だ。夢の世界を渡り歩き、夢の中で感情を喰らう人の皮を被ったエイリアン。非人間なら罪悪感もギルガメッシュへの恐怖心も無く、リィエルを連れ出す事が出来るだろう。

 

 

「王様、千里眼は?」

 

「……ノイズで見えん。マーリンが何か細工したな。雑種、令呪を使いマーリンを呼び出せ」

 

「はい! 令呪をもって命ずる! 来い! マーリン!」

 

 

 令呪が赤く光り、マーリンが呼び出される。

 しかし出てきたのはマーリンではなく、一枚の紙だった。令呪による干渉が効かない例外はBBやギルガメッシュの他にも少数居る。マーリンも例外ではない。

 

 

「紙?」

 

 

 代わりに出てきたのは折り畳まれた紙だ。ギルガメッシュは拾い上げ、広げる。そこにはマーリンが書いたような字でこう書かれていた。

 

 

『面白そうだから手を出しちゃった☆』

 

 

 ブチッ!!!! 

 賢王の顔は見た事のない程、青筋を浮かべ精神が蝕まれるような圧倒的な静寂。それがどのくらい続いただろうか。

 実際にはおそらく数秒といったところなのだろうが、藤丸立香には数分以上にも感じられた。もし本当に数分間も続いていたなら発狂していたかもしれない。

 

 

「……フッ、フフハハハハハハ」

 

「お、王様?」

 

 

 ギルガメッシュから溢れたのは乾いた笑いだった。

 笑いながらも部屋から出て歩き始める。向かう先は分からないが、通りすがった子供のサーヴァントはその顔を見て、恐怖心で泣き出す程だ。

 

 

「マーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺すマーリン殺す!!!!!」

 

「ああ!? 王様がXみたいに!?」

 

 

 ただならぬ殺意と繰り返す呪詛のようにマーリンへの怒りが激増する。徹夜明けのギルガメッシュには応えたのだろう。急いで管制室に向かうギルガメッシュについて行く藤丸、リィエルがカルデアに居ないのならばレイシフトしたに違いない。

 

 

「……万能の!!」

 

「来ると思ったよ賢王様、リィエルの事だろう?」

 

「我を今すぐバビロニアにレイシフトさせよ!! 奴の事だ、大方リィエルを隠した場所くらい分かるわ!!」

 

「はいはーい。藤丸くん、ついていってあげて。幾ら賢王と言えどマスター無しじゃキツいだろうから」

 

「分かりました」

 

 

 2人はリィエルを探すべく、バビロニアにレイシフトした。賢王は既にリィエルが何処に居るか分かっていた。それは最後にリィエルと別れを告げたあの場所しかない。

 

 マーリンは後で殺す事を決意したが、リィエルがカルデアから消えたのが分かったのは半日前だ。急がないとリィエルを維持している魔力が消え始めてしまう。

 

 

 ────────────────────

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 何度も干渉するが綻びが少し出来ただけだ。綻びから結界を破る程の魔力は無い。あったとしても使い切って外に出てもカルデアとは限らない。

 

 

「……くっ!」

 

 

 魔杖の魔力供給無しで長い時間粘ったが、リィエルに単独行動のスキルはない。マスターの藤丸が近くに居なければ魔力の維持が出来ない。このままでは確実に消えてしまう。

 

 

「っっ……ギル」

 

 

 もう待つのは嫌だ。

 待ち続けるのは寂しい事だ。悠久の時を生きるのは果てしなく辛い事だ。やっと会えたのに、すれ違ってサヨナラなんてしたくない。

 

 

「ギル…………!」

 

 

 魔力体であるリィエルの体が徐々に薄れてきている。

 時間にして18時間、綻びを作るのでさえこれだけ時間がかかったのだ。マーリンが厳重に結んだ結界に内部から干渉して綻びを入れるだけ、偉業とも言えるが魔杖による魔力供給も出来ないリィエルにとってこれが精一杯だった。

 

 

 

 

 

「ギル…………助けて……」

 

 

 ウルクで一度も弱音を吐かずに守り続けたリィエルから溢れた小さな本音。消えていく身体に恐怖を覚えながら、涙が流れはじめた。魔力が無くなっていく。

 

 ギルガメッシュに伝えられない事がまだ沢山あるのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………弱音など、貴様らしくないわ戯け」

 

 

 突如、白い世界に罅が入る。

 

 

「我との約束を忘れたつもりか?」

 

 

 そこから聞こえた懐かしい声。

 青年のギルガメッシュより少し低く、リィエルが待ち続けていた存在。来て欲しかったが、来ると思わなかった。自分のせいで私が死んだと思っていたから。もう関わる事すら無くなってしまうのかと思っていた。顔が涙でぐしゃぐしゃだ。もう一度だけ、ごく僅かな可能性に期待していたリィエルにとって、1番に来て欲しかった相手。

 

 

「迎えに来たぞ。リィエルよ」

 

 

 賢王ギルガメッシュがリィエルの前に立っていた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 数分前の事だ。

 

 ギルガメッシュはヴィマーナを取り出してウルクから外れた土地。イシュタルとグガランナを星で潰し、リィエルが最後にギルガメッシュと約束を告げた場所に向かった。その場所の名はカラヴィ、星の墓場と象徴としてシドゥリが名付けた場所だ。

 

 

「やあ、待ちくたびれたよ」

 

 

 ラスボス気取りにその場所に立つマーリン。

 バビロニアにレイシフトした後、マーリンはこの場所でリィエルを閉じ込めていたのだろう。夢の世界に綻びが生じる程、リィエルの干渉は強かったのが予想外だった為、マーリンが近くで修復していくしかなかったのだ。

 

 まあ、そんな事情はブチ切れの賢王と、聖杯を勝手に持ち出されて勝手使われている事を知ってブチ切れの藤丸と仕事に追われて忙しいダヴィンチに更に仕事を増やしたロクデナシに一切容赦をする気がない。

 

 

「藤丸、やれ」

 

「令呪をもって命ずる。マーリン、その場から絶対に動くな!」

 

「なぬっ!? ちょっ、それはズルいんじゃないか!?」

 

「令呪をもって命ずる。王様、宝具開放」

 

「フッ、分かっておるではないか」

 

 

 一気に令呪を使った藤丸。

 だが仕方ない。このロクデナシのせいで色々大変になっているのだから。もはや手加減無し。出張ってきたラスボス感も強キャラの伏線も全力で無視。

 

 

『––––––矢を構えよ。我が許す』

 

「えっ、う、嘘だよね。いや確かに悪い事をしたと思ってるよ? けど、ほら。来るって分かってたから……」

 

『至高の財を以ってウルクの護りを見せるがよい、大地を濡らすは我が決意!!』

 

「ちょっ!? 待って! 本当に待って!! 幾ら不死身の私でもギルガメッシュ王の宝具は!!」

 

 

 ギルガメッシュの号令で弩に装填された財によるウルク城塞からの遠距離爆撃。ギルガメッシュのみならず、神代を生きたウルクの民の総力までもが結集された驚異の砲撃。 「王の財宝」を弩に装填し放つ使い捨てだが、ギルガメッシュの財宝の中には当然不死殺しが混ざっている。

 

 一見不死身なマーリンだが、それを打ち込まれたらどうなるか。

 

 

 

王の号令(メラム・ディンギル)!!!』

 

 

 

 だがそんな事一切気にせずにギルガメッシュは宝具を向ける相手に対する0.1割の敬意と9.9割の殺意をもって最大威力をマーリンに叩き込んだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……これが、リィエルを閉じ込めた聖杯か」

 

「ふぁい」

 

 

 マーリンは宝具を打ち込まれた後、天の鎖で縛り顔面が見る影なく腫れ上がるまで殴られていた。まあ今回ばかりは藤丸も止めるつもりはなかった。

 

 聖杯の中にリィエルを閉じ込め、何重にも張られた結界の中に夢の檻を仕掛けている。ティアマトの時と同じくらいの強度を成しているが、外部からの干渉はかなり弱い。恐らくわざとマーリンがそう作ったのであろう。

 

 

「……雑種、そのロクデナシを連れて先に行け。其奴なら敵に遭遇しても回避できるであろうからな」

 

「……1時間待ちます。それまでに来てください」

 

「よかろう」

 

 

 藤丸はマーリンを引き摺ってカラヴィを降り始めた。

 ギルガメッシュは膝をついて、結界を破り聖杯に触れる。そこから聞こえたのは、リィエルの泣き声だった。

 

 ずっと悲しかったのだろう。

 ずっと寂しかったのだろう。

 もしかしたら泣いていたのかもしれない。

 

 それでも変わらず自分を待ち続けてくれた女が居た。あの時の約束は皮肉にもこの状況と同じ、いつか辿っていたかもしれない聖杯に眠る彼女を解き放つギルガメッシュ叙事詩の最後の1ページの神話。

 

 

「…………弱音など、貴様らしくないわ戯け」

 

 

 それはずっと叶わなかった。

 叶う事のなかった最後の神話。

 

 

「我との約束を忘れたつもりか?」

 

 

 いつも可憐で星のように輝く蒼い瞳で、綺麗な声で歌っていた彼女をもう離したくない。約束はこの時、果たされたのだから。

 

 

「迎えに来たぞ。リィエルよ」

 

 

 ギルガメッシュがリィエルを迎えに行く最後の神話。

 最後のページにはそうであって欲しいというウルクの願いが込められている。神話の終わりは悲しいが2人の永遠の別れだった。けれど、もしも最後の1ページが書き加えられたなら……

 

 ハッピーエンドで終わってほしかった、とある人は言っていたのかもしれない。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……長い間、待たせてしまったな」

 

 

 賢王とリィエルは藤丸達の所に歩いて向かっている。ギルガメッシュがリィエルの魔杖を持ってきてくれて魔力の心配もなくなった。だから少しだけゆっくり歩いている。

 

 

「……少し、寂しかった」

 

「……そうか」

 

「でも……迎えに来てくれるって、信じてたから。迎えに来てくれた時は嬉しかった」

 

 

 形はどうあれ、賢王としてのギルガメッシュはリィエルを迎えに行く事が出来たのだ。リィエルは悠久の時を経て、ギルガメッシュに会う事が出来た。ギルガメッシュがリィエルを解き放つ事が出来なかった過去は確かに存在した。

 

 けれど、いいのだ。

 

 賢王としてのギルがリィエルを想ってくれていた事は理解出来たから。リィエルにとってはそれだけで充分だったのだ。

 

 

「ギル」

 

 

 てくてくと歩きながら、再び背後からリィエルの声が。今度は一体何なんだと思いながら賢王は背後を振り返えると────両手を広げて飛び込んでくる彼女の姿があった。 

 

 予想外の事態に少し動揺するが、不意打ちにも関わらずリィエルの身体をしっかりと受け止めることができた。

 

 

「いきなり危ないであろうが……戯け」

 

「ごめんね。でもね、私どうしても伝えたいことがあったのよ」

 

 

 長い間、ずっと伝えられなかった言葉。

 永遠に伝えられるはずの無かった事だったが、この物語に存在しない最後の1ページがあるならば、最後のシーンの相場は決まっている。見せ物じゃないけれど、物語の終幕になる。

 

 

 

 

 

「迎えに来てくれてありがとう」

 

 

「約束……だったからな」

 

 

「あともう一つ」

 

 

「?」

 

 

 

 

 頬は林檎のように赤くなりながらも、最後に伝えたかった小さな言葉を静かに耳元でリィエルが伝えたかった愛をギルガメッシュに囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、貴方の事が────―」

 

 

 

 

 

 それが、2人の最後の神話だ。

 君たちに幸運がありますようにと、星空が2人を祝福してくれているようだった。

 

 幾千もの星を眺め、星の彼方にて待ち続けたリィエル。

 最後に約束した願いを拾い、迎えに来たギルガメッシュ。

 

 その2人の手が重なった長く短い時だった。

 

 

 



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イベント会話集
リィエル バレンタインイベント


 バレンタインデー、皆さんは誰からもらいましたか?
 僕は当然ZEROですありがとうございました。(泣)
 
 超短いですが、バレンタインデーのリィエルです。
 ゲーム的に会話を書いてみました!では行こう!!


 

 

 

 

 

 

 ––––誰かがいる……

 

 

 

 

 

 

  ────────────────────

  ────────────────────

 

 

 

 

 マスターである藤丸立香はカルデアの廊下を歩いていた。

 

 

「あっ、マスターさん。止まって」

 

 

 後ろから声がしたので振り返ると、そこには紙袋を持ってとてとてと近寄るリィエルだった。紙袋には綺麗な包装で包まれたものが多く入っていた。

 

 

 ▶︎どうしたのリィエルさん? 

  もしかしてまた王様達が? 

 

 

「はい、これ。今日はバレンタインなんでしょう?」

 

 

 リィエルは藤丸立香に紙袋に入っていたチョコレートの中で、少し大きめの箱に包まれたものを渡す。それはウルクでシドゥリさんが用意してくれたバターケーキにチョコレートがトッピングされている。

 

 

「もし量が多ければマシュちゃんと一緒に食べて構わないわ。まああの子にはあの子で友チョコくらい用意してるんだけどね」

 

 

  紙袋の中、全部チョコレート? 

 ▶︎誰に渡すつもりなの? 

 

 

「そうねぇ、先ずエルとギルは当たり前だけど、小さなギルくんとあの人にも、渡すつもり。あとは友チョコでエレシュキガルとゴルゴーン、ケツァルコアトル、シドゥリ、さっき言ったマシュちゃん、『式』さん、あとは……まあ余ったらイシュタルにでもあげるわ」

 

 

 大分作ったな。と心の中で呟く藤丸。

 リィエルはウルクでは料理上手、シドゥリさんにバターケーキを教えてもらったのもあるが、歳が離れたお婆さんに料理を振る舞っていたのもある為、家事はだいたい何でも出来る。

 

 

 ▶︎成る程、賢王には特別なんだね。

  流石、リィエルさんだね。

 

 

「ちょっ!? そう言うのは言っちゃ駄目!! 私だって、全盛期で召喚されてるから貴方と同じくらいの歳なんだし……その……恥ずかしい……って言うか……」

 

 

 リィエルは俯いて指が不規則に動き回ってる。

 こう見ると恋する乙女に見えて、藤丸でさえ恥ずかしくなってきた。リィエルが可憐で儚さを持つ一端を垣間見た気がした。

 

 

 ▶︎可愛いですよ。リィエルさん。

  これが萌えと言う奴か。

 

 

「あのねぇ……!! マスターさん揶揄うのはやめて……! 私だって、そっちの方面には疎いんだから……その……ああもういいからニヤニヤしないでさっさと自室で食べなさーい!!」

 

 

 顔を真っ赤にするリィエル。

 ただ照れ隠しでマスターを自室に繋げた転移門に押し込んだ。全く、恋愛に関しては魔術より難解だと誰が予想していたか。

 

 ただ廊下で跪いて顔を押さえる。

 ただ顔が真っ赤になっていると鏡を見なくても分かってしまう程熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

「全く……魔術より、この感情の方が難解よ……」

 

 

 マスターの居ない廊下で1人呟いていた。

 

 

 

 

 

『星の可憐な乙女より×1』を

 プレゼントボックスに送りました。

 

 

 ────────────────────

 

 

【チョコレートを渡した会話集】

 

 

 子ギル

「わあぁぁ!! ありがとうございますリィエルさん! わざわざ食べやすい大きさに作られてるし、とっても美味しいです!! ホワイトデーに期待しててください!!」

 

 

 ギル(弓)

「ほう、バターケーキにチョコとは。あの頃は偶に作っていたよなぁ。ふむ、美味い。しかも現代のコーヒーや紅茶の味にも変わっているとは面白い。良い献上物であったなリィエル」

 

 

 エルキドゥ

「バターケーキかい? リィエルの作る物は美味しいからね。えっ? バレンタインデーで異性にチョコレートを渡す? 現代の極東は不思議な事をするんだね。うん、あの頃を思い出すよ。ありがとうリィエル」

 

 

 エレシュキガル

「えっ? 私に? バレンタインって異性にチョコレートを渡すってマスターから聞いたのだけれど……。えっ? 友チョコ? 友達に贈るチョコレートですって? ……こんな私を友達と思ってくれているの? ……そう、ありがとうリィエル。今度、お茶会でもしましょう」

 

 

 ゴルゴーン

「むっ、何のようだ? 何? チョコレートだと? 私にか……? ……酔狂な人間も居たものだな。まあ、いいだろう。女神の捧げ物としては上々のものと見える。有り難く受け取ってやろう」

 

 

 ケツァルコアトル

「ハーイ! 私、リィエルにプレゼントがあるのデース!! あら? リィエルも私に同じチョコレートを、じゃあ交換しましょう!! 友チョコって何だか楽しい催しなのデース!!」

 

 

 シドゥリ

「リィエル様? ……これは、チョコレートですか? バレンタインの友チョコと言うものですね? なら私も用意しております。これが私の友チョコです。……ふふ、なんか照れ臭いですね」

 

 

 キングゥ

「……何のようかな星の巫女? ……何これ? チョコレート? バレンタインだからチョコを送る? はっ、やっぱり旧型の考えは理解が出来ないね。……まあ、渡してくれただけ感謝してやるよ。……その、ありがとう」

 

 

『両儀式』

「あら、私にチョコレート? バレンタインは異性に贈るものなんじゃ……友チョコねぇ。有り難く受け取るわ。こんな夢のような存在を友達と思ってくれているなんて、嬉しいわ」

 

 

 イシュタル

「げっ……何のようかしらリィエル。はっ? 私にチョコレート? 毒でも入ってるんじゃないでしょうね!? これ余ったからくれてやる、ってアンタ私の時だけギルガメッシュみたいじゃない!! い、いや別に文句はありません……はい……」

 

 

 

 賢王ギルガメッシュ

「むっ、何の用だリィエル。我は今忙しいと言うのに……。何? チョコレートだと? ああ、雑種どもの言っていたバレンタインと言う奴か。……ほう。宝石箱のように色々と入れたのだな? 着いてくるがいい。我の部屋で一緒に食べるとしよう、我直々にココアくらいなら出してやる。何? 少し恥ずかしいだと? 全く……愛い奴め」

 




『星の可憐な乙女より』

リィエルが賢王ギルガメッシュと和解した後に少しだけ、この感情に戸惑っていた。ギルガメッシュの求婚とは違い、恋仲から始まった事で恋を知らないリィエルはあたふたしてしまって、落ち着きが無くなってしまった。よくある彼氏の顔を直視出来ないと言う奴だ。そんな恋をする少女からの贈り物がチョコを使ったバターケーキなのだろう。

逆にギルガメッシュはそんなリィエルが可愛さが増したようで愛いと言って、揶揄っている。振り回すギルガメッシュに振り回されるリィエルにはもしかしたら、こんな光景は2人にとって当たり前なのかもしれない。


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Fate/Zero編 約束を果たす刻まで
それぞれの始まり


 お久しぶりでございます。
 アステカのキャスターです。最近大学の遠隔授業が忙しい!!そう思いながらも、星の巫女は貴方を待ち続けるをいつか書きたいなと思い、漸く書く事になりました。

 ごめんなさい。絶対魔獣戦線の方はネタが多過ぎて思い付かなかった部分もあり、半端な作品になってしまうと思い、先にFate/Zeroの方を見る書かせていただきました。スローペースになるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 良かったら感想、評価お願い致します!それでは、どうぞ!!

 


 

 

 メソポタミアの時代、神々が存在し、怪物が猛威を振るった時代を統べた王がいた。王は友と出会い、巫女と出会い、怪物を倒し、友と別れ、巫女と共に約束した。

 

 彼方にこそ約束した三人の英雄達。

 バビロニアの神話に相応しい三人の英雄。

 

 神々により生み出され、星を見定める為に王として君臨した男が居た。

 

『英雄王』名をギルガメッシュ。

 

 王を諫める為に生み出され、友として王の隣に立ち共に世界を見た兵器が居た。

 

『天の鎖』名をエルキドゥ。

 

 王に出会い、宮廷魔導師として2人の隣を歩く為、国を愛しては護り抜いた巫女が居た。

 

『星の巫女』名をリィエル。

 

 

 三人は約束した。

 遠い未来であってもまた巡り合う。また三人で明日の世界を見ようと約束した。

 

 

 コレはそんな三人が彼方の約束を果たす為に紡がれる物語である。

 

 

 

 ★★★

 

 

「F○ck!! まさか生徒に聖遺物を盗まれるとはな! ああ苛立って仕方がない!!」

 

 

 ケイネスは内心苛立っていた。

 時計塔鉱石科の君主(ロード)、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは第四次聖杯戦争の参加者としてサーヴァント召喚の聖遺物、アレキサンダーの布を手にしていた。だが、生徒のウェイバー・ベルベットに聖遺物を盗まれ、ウェイバーは冬木へ先に向かわれたのだ。

 

 

「落ち着き……そうだ、まだ聖遺物として残されたものはある。だが、この英雄は英雄ではなく()()()()()()()()()()()。天才たる私とて、御し得る事が出来るか些かの不安はある」

 

 

 聖遺物はもう一つあった。

 古代メソポタミア文明を記された石版の近くから見つかった()()()()()()()。その聖遺物から察するに召喚されるのは、その鎖に関連した人物達か、本人か。恐らくは本人の方が強いだろう。

 

 古代メソポタミア、ギルガメッシュ叙事詩出典で鎖に関連する存在と言えば、3人にまで絞られる。

 

 英雄王ギルガメッシュ。星の巫女リィエル。そして……

 

 

「天の鎖、エルキドゥ……クラスによっては御し得ない存在ではあるが、これ以外の触媒では些か弱いか」

 

 

 ケルトに関連する触媒ならあるが、2択を取れば神代の時代を生き延びたエルキドゥの方がケルト神話に登場する英雄より知名度も高い。ケルト、アルスターと考えれば当たりはクーフーリンだが、それ以外の英雄、例えるなら女王メイヴなど戦闘に向かないサーヴァントと言うのも召喚される危険性がある。

 

 

「いいや、だからこそだ。これは試練!私にとっては試練なのだ!」

 

 

 一流の魔術師、鉱石科の君主(ロード)として名高い彼の聖戦は聖杯戦争が始まる前から始まっているのだ。そう言い聞かせながらも、高らかに覚悟を決めた。

 

 

「何を迷う事がある! このケイネス・エルメロイ・アーチボルト、一流の魔術師としての自負を此処で曲げる訳にはいかない! 呼び出そうではないか! 神代の時代を生きた英雄を!」

 

 

 ケイネスにとって聖杯戦争は魔術師の誇り高き儀式であり、魔術師としてのプライドを貫き頂点に立つ為の聖戦。ならば、召喚する英雄を御し得る事こそ始まりに過ぎないのだ。

 

 更にはソラウとの婚約もあり、彼女も連れて行く。

 男として情けない姿は見せられない。そんな思いを抱きつつ、ケイネスは戦場である冬木へと向かった。

 

 

 ★★★

 

 

 素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する。

 

 ────告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝 三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──―! 

 

 

 

 遠坂の工房にて2人の男が立ち尽くしていた。

 右手に令呪を宿し、聖杯戦争に勝利し根源へと到達すべく、究極のサーヴァントを呼び出す為に此処に詠唱を完成させた。

 

 呼び出されたサーヴァントは紛れもなく一級のサーヴァント。その風格、その王気、紛れもなく最強のサーヴァントだ。

 

 

「勝ったぞ綺礼、この戦い我々の勝利だ!」

 

 

 そして目の前のサーヴァントに対し、一礼する。

 英雄王ギルガメッシュ、かつて世界の全てを手に入れた男、原初にて君臨した王を呼び出した遠坂時臣は内心、狂喜乱舞だが常に優雅を心がけながらも敬意を持って目の前の王に一礼する。

 

 

「招きに応じていただき感謝致します、王よ」

 

「……ふん。そんなちっぽけなもので雑種ごときに呼ばれたかと思うと腸が煮えくり返りそうだ」

 

「この度は私共の行う聖杯戦争に王の力をお借りしたく、召喚させていただいた次第にございます」

 

「なぜ我が貴様なんぞのために力を貸さねばならぬ。我は王だ。力を貸すかどうかは我が決める」

 

「大変失礼致しました。おっしゃる通りかと」

 

 

 遠坂時臣が謝ると、ギルガメッシュは不機嫌な顔をしたまま腕組みをした。王として人を見る価値があるギルガメッシュにとってこの男は好かない。従うつもりはないが、遊興もない為男を殺して座に帰ろうと宝物庫を開けようとしたその時。

 

 

「────!?」

 

 

 突然、驚いたような顔を見せ後ろを振り向き窓を見た。

 時臣は焦った。何せ傲岸不遜である王が自分たちの前で驚いた顔を見せたのだから。

 しかしその顔を見せたのは本当に一瞬。一瞬驚いた顔をして呟く。

 

 

「もしや……お前なのか? 我が友に……まさか……」

 

 

 そう言ってギルガメッシュは『宝物庫』に手を伸ばす。無くなっている。自分が生涯大切に保管していた一つの財が消えている。だが、その事実こそギルガメッシュも予想だにしなかった事だ。

 

 

「我が手に入らなかった財も……よもや、フッ、フハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 そう呟き、そしてすぐに高らかな笑い声と共に叫ぶ。

 この懐かしい感覚は、この忘れられない想いは、今も昔も変わらない。だからこそギルガメッシュは笑った。

 

 

「喜べ時臣! この聖杯戦争、我が本気になる理由ができたぞ!」

 

 

 遠坂時臣は話がすぐに理解できなかったようで少し呆けた顔を見せたが、すぐに整える。

 

 

「この上ない幸せであります、王よ!」

 

「下がって良いぞ、時臣。明日からの聖杯戦争が楽しみだろう? ならば今ここから出て我の気分を損ねるような真似はするなよ」

 

「では……失礼します」

 

 

 そう言って時臣は一礼し出て行った。

 部屋に独りとなった王は友との軌跡を振り返りながら独り言を漏らす。

 

 

「……よもや我だけでなく彼奴らまで召喚されているとはな。運命とは実に気まぐれなものよ」

 

 

 だが面白い。

 そう呟きながらもギルガメッシュは聖杯戦争の幕を開けようとしていた。

 

 

 ★★★

 

 

 彼女は分からなかった。

 何故ここにいるのか、何故裸にされているのか、何故口をガムテープで塞がれているのか、何故縛られているのか、何故こんな目に合わなければならないのか。分からない事だらけだ。

 

 

「みたせ、みたせみたせ、みたせ~、みたせっと」

 

 

 分かるのはここが暗くてジメジメしていて、自分が裸で縛られていて、それをしたのが学校からの帰り道で彼女に道を聞いてきたこの青年だと言う事だけだ。

 

 

「だけど満ちた時をはきゃくする~♪」

 

 

 だけれど、変な歌を口ずさむその青年が道を聞いてきた時と同じ笑顔を浮かべたまま何か準備している。それが分かればコトネにとって十分すぎた。

 

 

「ひっ……!」

 

 

 青年は真っ赤な血で何かの陣を書いていた。

 その周りに居たのはお母さん達の首や身体がバラバラにされて既に死体となり、死体を弄びアートと称した地獄が目の前に広がっていた。

 

 

「あっ、起きたー?」

 

「まずこのメスでコトネちゃんのおなかを切ってねー、腸って解る? 解んないか? お腹の中にある大事な物なんだけどね、その腸を引きずり出しまーす。そして、それをこの板にくっ付けて鍵盤代わりにしたら出来上がり! わくわくするでしょ!」

 

 

 その瞬間、少女の頭の中は恐怖で埋め尽くされた。

 青年の手に持つメスが少女に向けられていた。腹を切り裂かれて腸を抉り出される。それがどれほど痛いのか、どんな状況になるのかまだ子供の少女には予想が付かない。

 

 

「いや……いや……! たすけ……て!!」

「んー、無駄だよ? この場所には誰も居ないし、もう夜中だよ? こんな場所に人が来るわけないしねー」

 

 

 そこには死ぬ未来が見えた。  

 助けを呼ぼうにも夜中の3時、誰もが就寝している時間帯に少女の叫びは届かない。ニヤニヤとしながら青年はメスを少女の腹に向けた瞬間、

 

 

『止めなさい──不届き者』

 

 

 とても冷たい声が聞こえた。

 メスがお腹に触れようとしたその瞬間、バヂッ! と言う音がメスを弾いた。咄嗟の事で弾かれた青年は驚いて尻餅をつく。少女も一瞬何が起きたかわからなかったが、頭の中で声が聞こえ始めた。

 

 

『──生きたいですか?』

「えっ……?」

『母を失い、父を失い、絶望に苦しめられて尚、生きたいですか?』

 

 

 少女の両親は殺された。

 この目の前の青年に殺された。優しかった母も父も居ない。生きる希望なんて湧かないだろう。少女には酷な選択だ。それでも、少女は叫んだ。

 

 

「しにたくなあ……しにたくないよぉ! わたしはいきたいよ!!」

 

 

 少女は生きたいと叫んだ。

 右手が熱くなる。まるで焼印を押されたかのような激痛が走るが、それよりもこの場の恐怖が勝る。

 

 だが、聞こえた事に不思議と恐怖は無かった。

 

 

『ならば告げなさい、貴女にはその資格がある。私の名は──』

 

 

 縛られながらも少女はその言葉に耳を傾けた。

 唯一の助かる道はこれしかないと、小学生くらいの年齢の少女は直感で理解した。

 

 

「あっれ、何だったんだろ? 今の……静電気?」

 

 

 青年は再びメスを持って近づく。

 さっきはメスがまるで何かに弾かれたような衝撃に手首を軽く痛めたが、それ以上に今、少女がやるべきことは決定した。

 

 縁は彼方から結ばれた。

 紛い物とは言え召喚陣は存在する。

 そして右手の痣が赤く浮かび出した。

 

 条件は揃った。

 本来なら選ばれない筈の少女に()()()()()()()()英雄の残滓から聞こえた声を信じて少女は力強く叫び出した。

 

 

 

 

 

 

「たすけて! ()()()()!!」

 

 

 

 

 ゴオッ!! と血で描かれた召喚陣に魔力が吹き荒れる。召喚に大した魔力は必要ない。聖杯からバックアップされ、未だ『座』が存在せずとも、存在する触媒はこの世界の近くに存在する。

 

 待ち続けるのも、もう疲れた。

 だから、自分から彼に会いに行く事を決意し、『宝物庫』から一つの財が消失した。

 

 だが、それでも逢いたいと思うのが罪だと言うなら、多分私は戦う為に呼び寄せられたのだ。

 

 長い透き通った銀髪で星のように輝く蒼い瞳に純白の羽衣が目を惹きつける。パチッと眼を開けると少女の前に現れた。

 

 

「初めましてマスター、召喚に応じ参上しました」

「ま……すたぁ……?」

 

 

 少女は聖杯戦争の事を良く知らない。

 召喚されたリィエルは頭を軽く撫でて「今はわからなくていい」と告げて、メスを持った青年の前に立つ。

 

 

「COOOOOL!! スゲーやっ! まさか天使を召喚しちゃうなんて、やっぱりこの世界は面白すぎるっ! 神様がこんなイカしたサプライズを用意してるなんて俺、想像もしてなかったっ!」

 

「貴方が私のマスターをこんな目に合わせた人?」

 

「そうそう、俺さぁ。悪魔を召喚しようとしたんだよねぇ、その為には怨嗟とか色々必要じゃん? だからその子を人間オルガンにして色々試してみようと──」

 

「もういいわ。そんなに悪魔が見たいなら会ってきなさい。──地獄でね」

 

「へっ?」

 

 

 リィエルが手を振りかざすと青年は燃えた。

 地獄の業火の再現、再生と破壊を繰り返すその炎は本人の魂が燃え尽きるまで消えはしない。厳罰には火刑、火刑の意味は罪深き者に与える神に捧げる意味合いを持つ。

 

 

「ぎゃあああああああああっ!! 熱い!! 熱い!!」

 

「そのまま残り少ないこの世の生を懺悔し、悔い改めなさい。命を玩具にするその冒涜はこの私が許さない」

 

「嫌だああああああ!! 死にたくない!! だってまだ俺はああああああっ!!」

 

 

 命を冒涜する者。

 リィエルが最も嫌うものだ。イシュタルのような人間を下に見る存在が嫌いな彼女にとって、この男は生かす価値もなかったのだろう。

 

 指を鳴らしてこの場所から別の場所に繋げた。この男は1時間もすれば死に絶えるだろう。

 

 

「悔い改めなさい。それが貴方の罪よ」

 

 

 リィエルは冷たい眼をして、繋げた空間へ男を吹き飛ばしていた。翌日、殺人鬼であった雨生龍之介は翌日焼死体となって発見されたのは別の話だ。

 

 

「おかあ……さん……おとお……さん……」

 

 

 拘束を解いたリィエルは少女を拘束台から下ろし、母親と父親の亡骸の近くにまで寄った。少女には分かっていた。もう2人はこの世に居ないのだと……。

 

 リィエルは少女の前で膝をついた。少女の目線と同じ高さで肩を優しく掴んで告げる。

 

 

「マスター、貴女はこれから辛い生き方をしなければいけないかもしれない。両親を失って、この先に絶望があるかもしれない。けど、それでも私がこの世界に居る間、私は貴女を護るから」

 

 

 生きる者への味方として、リィエルは少女に誓った。

 母親を、父親を失って悲しくて死にたいと思っているのかもしれない。だが、現実は残酷にも2人を甦らせる事は出来ない。

 

 

「だから、今は好きなだけ泣きなさい」

 

 

 ぽすっ、とリィエルの胸元に少女の顔を寄せると、少女は耐え切れずに泣き叫んだ。もっと早く召喚出来ていたらなんて考えても無駄な話だ。辛くとも受け入れなければならない時だってある。

 

 だが、それでもリィエルは少女の味方をしようと決意した。そして、少女を抱き寄せながらもこの部屋の窓に振り向いて呟いた。

 

 

「まさか、貴方達まで召喚されるとはね。ギル、エル」

 

 

 運命とは面白いものだ。

 そう呟いたのち、リィエルは泣き疲れて眠った少女を抱き抱えて、この部屋から外へと進み始めた。

 

 

「ギル、エル、約束は必ず──」

 

 

 あの時の思いは今も昔も変わらない。

 だからこそ、リィエルはここに存在するのかもしれない。星の巫女リィエルと少女コトネの聖杯戦争は今、幕を開こうとしていた。

 

 

 

 ★★★

 

 

「サーヴァント・ランサー、エルキドゥ。キミの呼び声で起動した。どうか自在に、無慈悲に使って欲しいな。マスター」

 

 

 ケイネスの予測通り、エルキドゥの召喚に成功した。

 溢れ出るような魔力にその存在感を前に怯む事なくケイネスはエルキドゥに質問した。

 

 

「ランサー、貴様に問う」

「何だい?」

「聖杯にかける願いとは何だ」

 

 

 そう、サーヴァントが招かれる原因は聖杯にある。未練があったり、果たせなかった事を聖杯を使って望みを叶えると言う事が聖杯戦争に召喚されるサーヴァントだ。むしろ願いが無いと言われた瞬間、信用ならないサーヴァントに背中を預けなくてはならない。ケイネスは魔術師としては大胆な所はあるが、基本は冷静なタイプだ。

 

 

「うーん、そうだなぁ。ギルやリィエルが居るなら、受肉したいかな。彼らと僕は明日を見る約束をしていたから」

 

「明日を? どう言う意味だ?」

 

「あの2人は、僕が神の呪いによって死ななければならない時に、僕を生かそうと懸命に呪いを解く方法を探してくれたんだ。けど、僕は結局死んでしまった。でも死ぬ前に約束したんだ、もしまた出会う事が出来たならその時は明日の世界を共に生きようって、約束を」

 

「あら、ロマンチックじゃない」

 

 

 ソラウは少しだけ羨ましいと感じた。

 それは女として、憧れるような約束が死んで英雄となっても続いている約束、確かにロマンチックな話だ。

 

 

「ふむ、良いだろう。私はケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。私達の槍として、お前を我がサーヴァントとして認めよう」

「よろしく頼むよ。マスター」

 

 

 そして、エルキドゥは握手をした後に空を見上げて眼を見開いた。遠くからでも分かる、この懐かし感覚が胸を満たす。

 

 

「まさか、2人も召喚されているなんてね。ギル、リィエル」

 

 

 運命って面白いものだね。

 そう呟いてエルキドゥはケイネスと共に聖杯戦争の幕を開こうとしていた。

 

 




 奇しくも同じ聖杯戦争に同時に別の場所で召喚された3人。お互いの約束の為に3人の聖杯戦争が、今幕を開こうとしていた。
 


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原初の英雄達は来たるべき時に備える。



お待たせしました。
星の巫女のzero第二話です。良かったら評価、感想お願いします。では行こう!!


 

 

 

 リィエル達はあの後森の中で仕方なく野宿をし、朝になった後に質屋に持っていた宝石を何個か売り出して資金にした。身分はとりあえず、暗示で騙し戸籍を軽く作って工房に必要な家を買った。因みにここまでで3日で揃えた。ギルガメッシュやエルキドゥもそうだが、リィエルも規格外だ。要領が良すぎる。

 

 

「現代って神秘の代わりに科学が発展したようね」

「リィ……キャスターさんははじめて?」

「ええ、そうね。この街を見たのは初めて」

 

 

 家を構えた後、服を買って現代の街を歩いていた。

 それは単純に興味があったのと、必要最低限のものを買う為、服に食材に寝具などは当然ながら必要だ。特にコトネはまだ子供で、両親を失ってしまい心を閉ざしてしまっている。

 

 リィエルがそれを癒せるかと言えばまだ分からない。ただ暗示で記憶を改竄するのは酷な話だ。リィエルはいつか消えなければいけないのだから。

 

 

「人も多いし売ってるものも最新型、ウルクじゃ『てれび』とか『くーらー』とか無かったしね。現代って科学文明は凄いのね」

「ウルクってどんなところなんですか?」

「遠い昔の国よ。まだ電気が発展してなかったくらい古い時代」

 

 

 まああの時代は神秘が存在し、誰もが生きる為に働き、神様や王の恩恵、カリスマによって動いていた時代だから現代とは似つかない。『王』も居なければ神秘も薄い。そんな世界は惰弱と言わざるを得ないが、知恵を磨いた叡智の結晶なのだろう。

 

 

「マスター、食べたいものはあるかしら?」

「ん、んーと、あれ」

「たい焼き屋?じゃあ行きましょう」

 

 

 コトネとリィエルは手を繋いでたい焼きを買う為に店に並び始めた。

 

 

★★★

 

 

「ここが日本なのね!」

「アイリスフィール、あまりはしゃぎ過ぎないでください」

「ごめんねセイバー、でも私嬉しくってね」

 

 

 アイリスフィールは柄にもなく日本の街を歩いて興奮していた。彼女は聖杯の器としてアインツベルンの城から出た事が無い。箱入り娘と言われたら肯定される。

 

 それは聖杯の器(アイリスフィール)にとって仕方ないのだ。当たり前だが始まりの御三家は人類がいずれ立ち向かうであろう厄災に寄越す世界の抑止力(カウンター)を模して生み出した儀式であり、マキリは令呪、遠坂は霊脈、そしてアインツベルンは聖杯の器を生み出す為にホムンクルスを生み出すのだ。その先に願うのは第三魔法(ヘヴンズフィール)根源の到達(アカシックレコード)かは今はまだ知る由もないが。

 

 

「ねぇセイバー、アレは何かしら?」

「アレですか?たい焼き……と言うものらしいですが」

「良かったら買って食べない?セイバーも一緒に……」

「…分かりました。では行きましょう」

 

 

若干の呆れは有るが、暗い表情をされるのはエスコートする騎士として失格だ。アイリスフィールは城の中で少しだけ暗い表情をしていたからこそ、仕方ないと思いつつもたい焼き屋に並び始め……

 

 

「あっ」

「ん?……っっ!?」

 

 

 異常事態(イレギュラー)と遭遇した。

 

 

 

★★★

 

 

 日本の冬木に到着し、事前に予約したホテルの階層で魔術工房を作るケイネスの後をつけて興味深そうに見るエルキドゥがいた。エルキドゥは魔術自体は殆ど使えない。兵器としての爆発力が高い為、魔術に変換するのは効率が悪い。とは言えリィエルから教わった魔術、基礎程度は使えるくらいだ。リィエルのありとあらゆる魔術を見てきた故にある程度の魔術は理解出来るようで、見ていて飽きないのだ。

 

 

「成る程……現代の魔術はこうなってるのか……中々興味深い」

「神代の基盤の当て付けのつもりかランサー。貴様が生きていた時代からすれば矮小に見えるかもしれぬが、私はそこらの魔術師の上位に位置する者だ」

「それは間違いないとボクでも思うよ。この神秘が薄れた時代でこれだけの事をやれる魔術師はそうそう居ない」

 

 

 この時代では魔術より技術でどうにか出来てしまう為、多大な神秘はこの場所では見る影もない。神代の時代と一緒にしたら比較するまでもないのは事実だ。

 

 

「貴様の時代に居たのだろう。魔術師の中でも原点であり頂点に君臨した魔術師、星の巫女が」

「うん。そして恐らくは召喚されている」

「英雄……いや、兵器としての直感であるならば考慮せざるを得ないが、星の巫女リィエル、そして英雄王ギルガメッシュとはな……」

 

 

 流石にケイネスも頭を痛めた。

 英雄や騎士と言った名を残した人物は神秘が蔓延し、この時代ではあり得ない力を奮っていた。アーサー王伝説やギリシャ神話、神を連なるオリュンポスの時代では神の力すら記される。

 

 オリュンポスと比べたらと言う訳ではないが、バビロニア神話に出てくる神や魔獣も大概だ。豊穣と戦の女神イシュタル、天の牡牛グガランナ、森の守護獣フンババなど、神が存在し力を奮っていた時代を経った一人の魔術師が終わりを告げ、神の天罰として星を降らせたと言う。そして人の世を築き上げた始まりの英雄、原初の王だ。

 

 

「しかしその神話は本当なのか?」

「本当さ。––––じゃなきゃウルクはギルが帰る前に滅んでいた」

 

 

 リィエルは星に止まらない小惑星を落とした神話。女神イシュタルを諫める為にリィエルが命をかけてイシュタルを天界に封印したと言う。

 ギルガメッシュが帰ってきた後、王の帰還を果たしギルガメッシュが過労死した後にウルクは後を追うように滅んだ。聞いた話、リィエルは精霊に近い存在であり、第二魔法に近い原理で世界に名を残した原初の魔法使い。

 

 

「マスター、お願いがあるんだけど」

「……言ってみろ」

 

 

 ケイネスはその言葉を聞いて苛立ちを感じながらも、ランサーが言った弁明を聞くとため息をついてそのお願いを聞き入れた。

 

 

★★★

 

 

 近くの喫茶店に入り込みココアとカフェオレを頼むリィエル。コトネ達の前には令嬢を思わせる白いコートに身を包んだ女性、アイリスフィールと黒いスーツのSPが漂う格好だが、さながら姫を守る騎士のようなセイバーが座っていた。

 

 

「……?キャスター、このキレーなおねーさんとしりあい?」

「あー、知り合いと言うか、倒すべき敵と言うべきか……」

 

 

 聖杯戦争は基本的に殺し合い。

 血生臭い事実を子供のコトネに伝えるべきか否か、少し悩みながらはぐらかした。

 

 

「キャスター、貴女は何故私達とこんな場所に入った?」

「……暇だったから?」

「そんな理由で誘ったと言うのか?随分と危機感のない、私達は敵同士なのは重々承知な筈だ」

 

 

 その言葉にリィエルはため息をつく。

 確かに殺し合う相手に変わりはない。だが、今はまだ昼間、太陽が出ている時だ。にも関わらず目の前のサーヴァントは血気盛んだった。

 

 

「まさかと思うけど夜に戦う聖杯戦争で真っ昼間から始める気だったの?今はまだ時じゃない、それともそこの()()()()()()()の待ても出来ない血の気の多い子だったら謝罪するわ」

「貴様…私を愚弄する気か!」

「ここ店内、叫ばない」

 

 

 ぐっ、とセイバーが大声で叫んだのを他の客が注目している。その視線からゆっくりと渋々ながら座る。どうやら冷静さや風格はリィエルの方が上のようだ。まあ当然と言えば当然だ。唯我独尊天上天下の始まりの英雄王ギルガメッシュの宮廷魔導師であり旅路をしていたギルガメッシュに代わって国を支えた最優の持ち主。騎士王と言えど送ってきた人生の濃さが違う。

 

 と言うか唯我独尊の英雄王に出会い頭から反抗していたリィエルはある意味物事を客観的に見るギルガメッシュの俯瞰に近いのだ。

 

 

「別に何かしようなんて思ってないわ。偶然会って単純にお茶しましょうと誘っただけだし。どの道、聖杯戦争の勝利者は()()()()()()()()()()()()

「何……?」

「まあ、そこら辺は置いといてマスター、美味しい?」

「うん」

 

 

 それは良かったと頭を撫でる。

 コトネは聖杯戦争の危険性を知らないから目の前の二人の前でも平然としながらパフェを食べている。セイバーからしたら「こんな幼子が……」と思うことはあるが、キャスターが洗脳しているわけでも無い。それだけは分かる事だ。恐らくはこのキャスターは善性寄り、騎士に近しい精神を持っているようにも感じる。

 

 逆にセイバーは顔を顰める。

 騎士王が認める騎士のような精神と見た目からの高潔さは英霊の上位に位置する存在。それでいてセイバーの出す風格より上に感じる。言ってしまえば同族嫌悪に近いのかもしれない。

 

 もしこの英霊が自分のいた時代に居たら……悲劇を覆す事が出来た。出来た筈と言う確信があった。

 

 

「(私が召喚された原因はあの人だし……それに多分私の親友も召喚されてる。後は……マスターの事かな)」

「えっと、キャスターさん?」

 

 

 考えこんでいると白いご婦人、アイリスフィールがキャスターに話しかけた。

 

 

「ん?何でしょうマダム」

「一応参考までに聞きたいのだけど、貴女が聖杯に懸ける願いについて聞いてもいいかしら?」

「聖杯に懸ける願い……特には無いですよ?」

 

 

 その言葉にセイバーは目を細める。

 直感からして嘘はついていない。それは分かる。だが、聖杯戦争に呼び出されるサーヴァントと言うのは未練や後悔、聖杯によって叶えたい理由がある願望を持って召喚される。

 

 それを持っていないこのキャスターはいったい何なのだろうか。

 

 

「なら何故貴女は召喚されたの?」

「私は……余興かな?いや、違うな?娯楽……?いやそれもなんか違うし……まあマスターが襲われてたからこの子によって召喚されて助ける事が出来たなら後は余興を楽しもうかなと思ったから?」

 

 

 約束だからと言ってしまえば真名の足掛かりになる可能性がある為言わない。まあ実際、彼と会い、友と会い、その後についてはまだ何も考えていない。

 

 

「全部建前ではないか」

「寧ろ願いを言ってしまったら真名がバレちゃうからね。そう言う貴女は願いと言うか……いや、()()()()()()()()()()()()を持ってるようだけど、それを()()()()()()()()()()。違う?」

「っっ……!?」

 

 

 リィエルの指摘は的を射ていた。

 リィエルは僅かながら感じ取っていた。本質的に言えばギルガメッシュに似ているのかもしれないが、そこは比べようがギルガメッシュに劣るのは必然。ハッキリ言って()()()()、王の風格はあるが王であるその重圧に耐え切れる器ではない。

 

 

「まあ、そう言った英霊はある程度該当するけど、私からしたら貴女より隣にいるマダムさんの方が興味あるわ。一種の世界、いや()()()()()()()()()()()なんて興味深いわね」

「!?」

「?」

 

 

 アイリスフィールは軽く驚愕する。

 キャスターの瞳は魔眼ではないが、()()()()()()()には長けている。当然と言えば当然かもしれない。リィエルは原初の世界に存在した魔術師であり、あらゆる魔術の基盤を知っている。つまり、あらゆる魔に関する事に関してはギルガメッシュと同じ、原典を手にした女、かつて全ての魔術を手に入れた魔術師とも言える。

 

 

「まっ、深く追求はしないわ。後世に生まれたソレは私も初めて見たから」

「キャスター、たべおわった」

「クリームついてるわよ。拭いてあげるから動かない」

 

 

 持っていた紙ナプキンでコトネの口元を拭くキャスター。

 カフェオレを飲み、会計伝票を持って席を立つ。これ以上は夜に行うものだ。殺しあう相手の事を一々理解しても情が湧くだけで意味はない。

 

 

「お互いに悔いのないように。私達はもう行くわ」

「いいの?はなしがあるんじゃ」

「無いから、それにマスター暇そうだったし、いいわよ」

 

 

 マスターと手を繋ぎ、店を出る二人。

 その後ろ姿にアイリスフィールとセイバーは親子みたいだと思いながらも、あれ程の英霊が相手だと言う事に気を引き締めていた。

 

 

 

★★★

 

 

「……やはりな」

 

 

 英雄王ギルガメッシュは宝物庫に眠る2つの財を見つめていた。ギルガメッシュの宝具は無限にも及ぶ原典の宝具、だがその中で一際輝きを放ち、ギルガメッシュが真の英雄、来たるべき厄災に抜くと決めた宝具は3つ。

 

 その内の()()()()()()()()()()

 故に友に通用することはあり得ない。若かりし頃に肩を並べたあの頃を思い出すこの状況、英雄王としての友とぶつかり合ったあの日々、目を瞑れば目蓋の裏にしかと焼き付いている。

 

 

「此度の聖杯戦争とやら、運命に導かれたように思えてならんのが気に食わんが、これもまた王の務め」

 

 

 ギルガメッシュは世界を背負う王。

 誰かに指図されたような上からの意図的な導きがあるように思えるのが多少気に食わないが、約束の三人は揃った。

 

 

「精々、我を楽しませてもらうとしよう」

 

 

 恐らくは次と無い圧倒的な遊興であり、二度とない遊興だ。楽しまなくては愉悦する機会がない。神々に生み出されし兵器、星に生み出されし精霊、唯一無二とも呼べる宝に会うこの高揚感にギルガメッシュは酒を煽りながら笑っていた。

 

 

 



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