川神アンダードッグ (ナバター)
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女神は敗者に微笑む

注意

この作品は自分が過去に読んで面白くない、地雷だと感じた要素を片っ端からぶち込みどの程度読めるものとして物語が成立するか試そうとした作品です


 川神院の師範代ルー・イーと門下生が見守る中行われた立ち合いは、同じく川神院門下生の一人である犬沢長門とスグルと名乗る筋骨隆々の偉丈夫との間で行われた。

 

 川神百代との対戦を希望し、道場破り同然の勢いで押しかけたスグルに対し、百代と同い年であり川神院で十年以上鍛えている長門がまずは自分を倒せと名乗り出たのだ。

 

 序盤に流れを掴み、立ち合いを優勢に運んだのは門下生の長門だった。

 

 身長はほぼ同じ、しかしはち切れんばかりに発達した筋肉を持つスグルに、力で劣るであろう事を想定した長門は素早さと技術でスグルを終始圧倒、勝負を決める為に左のジャブをスグルの顎を掠める様に当て脳を揺らし、スグルの膝から一瞬力が抜けたタイミングで右のストレートを放つ為に踏み込んだ長門に、観戦する門下生達は勝利を確信したが、次の瞬間長門は空を舞っていた。

 

 長門の攻撃は確かに効いていた、的確に急所を狙う拳、同一箇所に執拗に当てられるローキック等、スグルの体力と機動力を大きく奪っていたが、最後の詰めでスグルが見せた鋭い右アッパーを避ける事が来なかった。

 

 辛うじてガードした左腕は痺れ、殴られた勢いで空へと20メートルは打ち上げられた長門。

 

 無手である為誰もがスグルが着地の瞬間を狙うと思っている中、当のスグルはすかさず長門を追って空高くジャンプした。

 

「うおりゃぁぁぁ!!キン肉バスタァァァ!!」

 

 筋骨隆々としたスグルがその重さを感じさせぬ俊敏さでもって空中の長門に追いつくと、両足を素早く掴みそのまま素早くホールド、逆さまにした長門の頭を右肩に乗せ、ホールドした両足を開脚させると雄叫びと共に地面へと尻から落下した。

 

 複雑な技を空中で流れる様に決めたスグルの着地と共に地面が揺れ、土煙と衝突で発生した衝撃波が突風となって辺りに広がった。

 

 自身の尻から直接地面へと落下したスグルにダメージは見受けられないが、キン肉バスターと叫ばれた技を受けた長門は首、背骨、腰、股に落下の衝撃により深刻なダメージを受け、技を解かれた後はただ重力に従ってスグルの体をズルズルと滑り落ち、体は僅かに痙攣するばかりだった。

 

「そこまで!勝者スグル!」

 

 すかさずルーがスグルの勝利を告げ、立ち合いを終わらせると、観戦していた門下生達は意識の無い長門に駆け寄るなり流れる様な動作で担架に乗せた。

 

 川神院では立ち合いはもちろん厳しい稽古による怪我は付きものであり、誰もがその対処には慣れきっていた。

 

「ふん!これで川神百代と俺の試合を認めてくれる訳だな!」

 

「百代本人の意思も確認する事になるけど、ほぼ確定と見ていいヨ」

 

 運ばれて行った長門には興味もないのか、ルーに詰め寄ったスグルは埃を払うとふてぶてしい態度を崩さず腕組みし、反対する者を探す様に辺りを見回した。

 

「空から美少女登場!なんだ長門が空を舞ってると思って見に来たら終わった所か」

 

 そんな時、妹と買い物から帰宅中だった百代が川神院を囲む塀より高く舞った長門を視界に収めた為、文字通り飛んで現れた。

 

「ぬ!川神百代!」

 

「スカートで飛ぶのは良くないヨ。でも良い所に来たネ、彼は君への挑戦者でスグル君だヨ」

 

 ジロジロと百代を頭の先からつま先まで視線を彷徨わせるスグルに、ルーは事の成行きを説明しつつ頭の中で百代とスグルの試合を何時執り行うか考えていた。

 

 スグルの力は明らかに壁を超えており、その実力は今の立ち合いで分かっている範囲でも後半の爆発力が本来の実力であるとすれば、ルー自身周囲への影響を考慮せずに勝てるかと聞かれると答えに窮するレベルだった。

 

 まるでプロレスラーの様な立ち回りを行うスグルは基本的に技を受け、そして返す大雑把な動きが多かったが、繰り出す技の破壊力や防御のテクニックにはルーをも唸らせるモノがあった。

 

 守りに入ったスグルのガードを正面突破不可能と判断し、削りに行った長門の判断はルーから見ても間違ってはおらず、初見なら自身でも同じ展開になった可能性は否定出来なかった。

 

 全くの無名でありながら壁超えでも高位の実力者であろうスグルに、ルーは警戒と共に世界の広さを実感している中、百代に闘志を燃やしているだろうと思っていたスグルは闘志など一切滲ませず、百代の胸や太ももに視線を巡らせていた。

 

「いくら私が美少女だからって、立ち合いに来た人間にそうジロジロ見られるのは不愉快だな」

 

 軽口を交えながらも武に対しては真摯に取り組み、武を極めんとする百代ははっきりと不快感を表すが、当のスグルが反省した様子はない。

 

 他人に視線を向けられるのは慣れているし、ある程度仕方ない、むしろ誇らしく感じる事もあるが、同じ武人として戦いを求めておきながら、闘志を見せる所か明らかに自分に欲情しているスグルに百代はふつふつと怒りが湧き上がるが、それをそのまま冷静に闘志へと変えていった。

 

「ふふふ、強気でいられるのも今の内よ、俺が人生初の敗北をプレゼントしてやろう!!勝負だ!」

 

 腰を落とし、今にも飛びかからんとする

「ふぅん?私相手に連戦とは舐められたものだな」

 

「ふん!あんな相手に疲れもダメージもないわ!」

 

 スグルの言葉に百代が闘気を放出するよりも早く、川神院の門を潜った第三者の凍てつく様な殺気を受けて、ルーと百代は苦笑いを浮かべた。

 

 二人の反応に首を傾げるスグルをよそに、川神院の門から修練場までの道が文字通り氷付き、周囲の温度が一気に氷点下まで冷え込む。

 

 今の季節が5月も末の事を考えずとも、自然ではあり得ない異常な気温の変化だった。

 

「今誰か、お兄様を笑いましたか?」

 

 凍った道を静かに歩いて来る人物は百代に瓜二つの少女であり、外見的な差異は百代よりやや低い身長と髪型程度のもので、頭の後ろで束ねた髪を解き前髪を交差させれば百代と判別するのは難しい程だった。

 

 彼女の名前は川神十花、百代の血の繋がった妹であり次期師範代候補にして壁超えの実力者だ。

 

「おいおい妹ぉ、私の挑戦者だぞ?」

 

「手は出していません、セーフですセーフ」

 

 出鼻を挫かれ呆れ顔の百代に苦言を呈され、やや拗ねた様にそっぽを向く十花、闘気で凍り付いていた地面は瞬く間に溶け出し、気温は上がり数秒まで凍っていた形跡は湿った地面を除けば完全になくなった。

 

「妹?十花だと?武神に妹など、まさか俺が知らない続編が?」

 

 一方のスグルは右手を口元に当て、酷く混乱した様子で何事かを呟いていたが、それを追求する者はいなかった。ただ一人を除いて。

 

「川神院に乗り込んで来て勝負を挑む命知らずの割に、姉さんを知っていて私の事は知らないんですか?まぁ悪名は姉さんの方が轟いているでしょうけど」

 

「なんか物凄いナルシストみたいだぞお前、後姉をディスるな」

 

 ジト目を向ける百代を無視し、無視された百代に後ろからポニーテールをグイグイ引かれながら十花は目を細めてスグルを観察した。

 

「し、姉妹がいる事は知っていた」

 

「ふむふむ。あ、姉さん邪魔してすみませんでした、私はお兄様の様子を見に行ってきますのでこれで」

 

「ふぎゃぁ!や、やめろ!こら!」

 

 スグルの言葉に相槌を打った後、髪を掴んでいた百代の前髪を闘気で熱を纏い、擬似的にヘアーアイロン代わりとした右手で強制的にストレートにすると慌てる百代からするりと自分の髪を抜き、長門が寝ているであろう部屋へと小走りで走り去った。

 

「あでゅー」

 

 

 

 川神院にて与えられた自室にて、五体を破壊された長門は汗も流せぬままベットに寝かされ天井を眺める置物と化していた。

 

 命に別状は無い為、ここまで運んでくれた門下生仲間も道着の帯と上着を脱がせた跡はベットへ寝かせ稽古に戻っている。

 

 川神院で一番怪我をするのは長門であり、長門の怪我は命に別状が無い限りは治療は十花の仕事だった。

 

 十花は精鋭揃いの川神院でも繊細な気の扱いに長け、自身ではなく触れた相手に瞬間回復をかけられる程の天才だった。

 

「お疲れ様です、お兄様」

 

「お帰り十花ちゃん」

 

 換気の為に開けたままだった扉から部屋へ入った十花は、そのまま枕元に腰掛け視線を向けた長門の前髪を掻き分けた。

 

 汗で湿り気を帯びた前髪を弄ばれ、時折指が小人が歩く様なテンポで額を這う感覚に長門は目を閉じゆっくり息を吐き出す事で羞恥心を軽減する事に努める。

 

 目を開けなくとも先程よりも近く感じる息遣いから、顔を覗き込まれている事を確信しつつ長門はひたすら平常心を心掛けた。

 

「赤くなってますよ」

 

「息がくすぐったいよ」

 

 クスクスと笑いながら十花の顔が離れたのを感じた長門は目を開け、深くため息を吐いた。

 

「勝ちましたよ、お姉様」

 

「知ってるよ」

 

 十花の左手が軽く長門の額を平手で叩く事で発生した小気味よい音と共に、長門の体から痛みが消えた。

 

 どうやら今回のお仕置きは終わったらしいと察した長門はベットから起き上がり、体の調子を整える様に軽く関節を動かす。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 瞬間回復で怪我が癒えた長門はタンスから引き出したタオルで汗を拭い、十花は本棚から抜き出した漫画をパラパラと眺める。

 

 他人から見れば親しい男女の関係であるかの様なやり取りと、熟練夫婦の様な自然な空気を醸し出す二人だが、互いを異性として意識していないからこその行動だった。

 

 長門が感じる羞恥もあくまで一般的な気恥ずかしさから来るものであり、異性として十花にときめいている訳ではないのだ。

 

「あれってキン肉マンですか」

 

「マスクは無かったからなんとも、多分そっち系の能力だと思うよ」

 

 二人は特殊な生まれから来る因縁に由来した、深い友情で結ばれている。

 

 二人には前世の記憶があり、そして授かった規格外の力があった。

 

 そしてそれは二人に限った事ではなく、特別な力を持った人間は多く存在した。

 

 この世界の権力者、闇の住人の間では既に存在を知られている『転生者』、『能力者』、『突然変異』等と呼ばれる特異な者達。

 

 様々な能力や突出した力を持つ者がここ数年の間に数多く確認され、一部の人間からは混沌の世代と呼ばれ危惧されている現在、その混乱の中心となっているのが川神市だった。



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負け犬の日常

 翌朝、月曜の朝という事もあり川神の街全体にどこか気だるげな雰囲気が漂うものの、学園までの道を行く翔一、百代、一子、京、大和、由紀江、卓也、岳人、クリスティアーネからなる風間ファミリー一行は和気あいあいとした様子で通学路を進んでいく。

 

「むむむ、むーんんん!」

 

「さっきからワン子は何してんだ?修行のし過ぎでおかしくなっちまったのかよ」

 

 川沿いの通学路に入った所で一子は仕切りに右手を川に向け、何やらいきんでいる姿に岳人は完全に変人を見る目を向けた。同時に尻を百代にしばかれていたが。

 

「誰がおかしくなったって!?違うわよ!失礼しちゃうわ!」

 

「川神波、と言うか気の放出の修行なんだがもう昨日から夢中になってるんだ」

 

 気によるほぼ無意識で行われる身体強化から、意識的に気を一定部位に集める、又は放出する基礎的な修行に入った一子だが、川神院の修行はまだまだ気の扱いより身体的基礎の鍛練が主流であり、加えて気の修行は鉄心、ルー、百代、十花のいずれか立ち会いの元でしか行ってはならないと厳しく言い付けられている為、通学中を使っての鍛練を行うことにした経緯があった。

 

「へー、それで今日はタイヤもダンベルも持ってなかったんだ(なんか昔拗らせてた時の大和みたいだけど、流石に言わないでおこう)」

 

 モロが気を使った事で事なきを得たとは露知らず、一子の奇行が中二的なものだった場合下手に指摘すると飛び火する、という保身から成り行きを見守っていた大和はホッとした様に息を吐いた。

 

「早くお姉様みたいに川神波とか十花の雪達磨みたいな技を使ってみたいわ!」

 

「百代さんの川神波は分かるのですが、十花さんの雪達磨はまだ見た事がないですね」

 

「そう言えば私もないな、噂くらいは聞いた事があるが」

 

 風間ファミリーでも最近加入した由紀江、クリスの両名は技名からついつい頭の中で雪達磨を転がし相手にぶつける十花を想像している。

 

「川神流雪達磨、気を冷気に変換して相手を凍らせる技なんだが、十花のは範囲が桁違いで最早別の技だからな。ざっくり言うと十花の雪達磨は発動すると周囲の対象が一瞬で凍り付いて雪達磨になる広範囲殲滅の技だな。相手は死ぬ」

 

「むむ、冷気は流石の私もレイピアで防ぐのは無理だ」

 

「と言うか怖すぎぃ!そしてクリ吉以外驚いてないって事は全員存知かよ!使用頻度どうなってんだよ!エターナルフォースブリザードかよ!!」

 

 松風を使って由紀江がオーバーに驚くものの、十花の雪達磨を見たことがある面々は全くの無反応、平常運転であった。

 

「トーカはモモ先輩と違って肉弾戦より気を使った攻撃が多いからね、打撃より加減が楽出来るって言ってたし」

 

 歩きつつ器用に文庫本を読みふけっていた京は十花とは読書仲間であり、密かにカップリング談義などをする仲でもある為、ある意味で百代、一子の姉妹より十花に関して詳しい所がある。

 

「そういや今日は十花はどうしたんだ?ワン子がいて十花が遅刻とは珍しいな」

 

「私はキャップと違って遅刻なんてしてないわ!」

 

「長門と一緒に朝早く通学したぞ」

 

 変態橋に辿り着く頃になると、まばらだった他の生徒の姿も変態達と比例する様に増え、学園でも美少女揃いの風間ファミリーへ向けらる視線も増えて行く。

 

「あの二人ってまじで付き合ってないのかよ?いくらなんでも一緒に居すぎだろ、羨ましいぃぃ!」

 

「男の嫉妬はみっともないぞ~ガクト。本人はきっぱりと否定しているが、なんであんな距離感なのかは姉の私にもわからん」

 

「十花が長門さんの事だけは兄さんって呼ぶから、お姉様と長門さんが付き合ってるんじゃないかって噂もあるわよねぇ」

 

「私は私より強い男でないと認めない!等とは流石に言う気はないが、男として認めた相手でないとな」

 

 百代の中の長門の評価は今一つ何かが足りない武芸者という所だった。

 

 修行には真摯に取り組んでいるものの、決闘では明らかな格下にしか安定した白星を拾えておらず、長門が負けた相手はそのまま百代や十花との決闘を行う事があるのだが、その相手の実力も高く見積もってせいぜいが一子クラス、壁超えには程遠いレベル。

 

 共に修行している為動きは良く見ている、その身体能力は壁を超えているのは確実なのだが、何故か壁超え未満の相手に頻繁に負ける為、勝負所や本番に弱いイメージが強かった。

 

 

 

 川神で見かける九鬼のメイド達がここ最近で数倍となり、街の治安が劇的に向上し始めたことで動向を探っていた長門と十花は校内を巡回しつつあることを確信した、それは。

 

「やはり時系列に乱れが出ていますね、天神館との交流戦前に転入してきますよ、具体的には来週です」

 

「やっぱり原作知識は役に立たないな」

 

 これまでに多くの転生者と戦い、そして調べて来た長門はこの世界が現状で原作より混沌としてはいるものの、情勢は悪化していないと言うことが奇跡だと思っていた。

 

 それと言うのも、この世界は真剣で私に恋しなさい!と言う作品に様々な人間が転生している蟲毒の様な世界だからだ。

 

 望んだ能力を与えられ転生するが、能力はマジ恋世界の法則に落とし込まれる。

 

「宮本武蔵のクローンがいますよ」

 

「どっちのパターンかな、研究者か、本人なのか」

 

 宮本武蔵が転生者なら話は早いが、クローンを作った研究者が転生者の場合対処が面倒だった。

 

 転生者の持つ能力には致命的な欠陥があり、原作キャラの前で使う、一定以上の目撃者(知名度)が出る、人的、物的に大きな被害を出す等の条件に一つでも当てはまると力をほぼ失うのだ。

 

 鍛えていない肉体は相応に弱り、明晰だった頭脳は鈍る、素養は残るので相応の努力をすれば再び力は取り戻すことが出来るが、大抵は才能を生かせず平凡な生活に戻って行く。

 

 授かった力をチートとは誰が呼んだのが始まりだったのか、この世界は転生者が持ち込んだ異物である力を観測すると当然修正を加える。

 

 才能としては認知してくれるが、一度初期化されたものを再び鍛えあげる様な根性のある人間は極々少数だった。

 

 生まれた時からカンストしていた力がある時初期化され、地道な努力を乗り越えても再びカンストするまでどれだけの月日が必要か分からない。

 

 幸いほどほどの努力で一般人よりマシ程度には成長する才能があるとなれば、大抵は身の丈にあった生活で満足できるものだ。

 

 職員室へと姿を消したクローンから視線を戻し、新人用務員としては殺気があり過ぎた事を踏まえ長門は早々に仕合を申し込んだほうが良さそうだと警戒度を引き上げた。

 

 武士道プロジェクトが動いている以上彼が危険人物なら九鬼が野放しして置かないだろうが、転生者には厄介な点がある。

 

 能力に修正が入るのは事が終わった後、どれだけ目立とうと仕合であればその一戦が終わるまでは力に変動は起こらない。

 

 そして大抵の転生者は【最強】を望んだ。

 

 この最強と言うのが曲者で、この世界に生まれた瞬間か前世の記憶を取り戻した瞬間に存在する者達の中での最強と設定される。その為原作より百代や釈迦堂、ヒュームが強くなっていたとしても、原作スタート後に覚醒する様に設定を希望した転生者がいた場合後から出て来たぽっと出が最強の力を持ちそれを振るってしまうのだ。

 

 故に長門は転生者に対し必ず初戦を自らが行う事を心に決めていた。

 

 死にかけたのも、無様になぶりものにされた経験も数えてなどいない、負け犬、咬ませ犬と嘲笑されることも気にしていない。

 

 病弱で遂に日の光を浴びながら大地を駆けてみたいと言っていた妹、その願いを叶えてくれたこの世界に感謝の念を抱き、この世界の住人が自分たちの様な部外者のせいで被害を被ることのないよう、妹に被害が及ばぬようデバッカーの様な真似を辞めるつもりはなかった。

 

 そこに苦痛はなく、あるのは妹を受け入れ幸せにしてくれているこの世界への感謝のみだった。

 

 原作キャラと呼ばれる少女達を力や怪し気な能力で我が物にしようとする者、闘争がありつつ平和な世界観を死と悲しみで染めたいと思う者、世間一般的に【悪】とされる者に必ず立ちはだかるも負け続ける事から、長門は裏社会ではアンダードッグと呼ばれる一方、関わりを持った転生者達からは酷く恐れられた。

 

 長門と十花は転生者でありながら努力し壁を越えた稀有な存在であり、誇張なく世界のバランスを支える存在だった。

 

 九鬼、不死川、綾小路の御三家にその血筋として悪意を持って転生した者達の野望を止めたばかりではなく、騒動の中心となるであろう川神のパトロールすら行っている。

 

 長門と十花の考えでは転生者が現れるピークが原作で一番描写された学園時代であり、それを過ぎればある程度落ち着くと判断しており、直江大和の卒業が一種の区切りであると思っていた。

 

 ある程度小刻みに目標を定めねば人は力と熱意を維持する事は難しいからだ。

 

 予鈴が鳴り始めたところで二人はそれぞれの教室へ別れ、そしてまた騒がしくも楽しい日常が始まった。

 

 

 

 

 

 

 




続かないです


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