アムロの帰還 (ローファイト)
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謎のパイロット

ご無沙汰しております。
漸く、書くことが出来ました。
短編扱いです。



宇宙世紀0123年3月下旬

コスモ貴族主義を掲げたクロスボーン・バンガードは、フロンティア・サイド(新サイド4)のコロニーフロンティアⅣに対し電撃襲撃を成功させ、その後わずか1か月でフロンティア・サイドのすべてのコロニーから連邦軍を駆逐し占領掌握を完了させる。

そして、総帥マイッツアー・ロナはコスモ・バビロニアの建国をこの地に宣言したのだった。

 

 

現在宇宙世紀0123年4月上旬

フロンティア・サイドよりクロスボーン・バンガードの攻勢から辛くも脱出した連邦軍所属練習艦 スペース・アークは難民船を装い月へと撤退の途についていた。

フロンティア・サイドは月からも近い上に、月にはまだクロスボーン・バンガードの手の者が入っていない都市がいくつか存在した。

さらにその都市にはF91を開発したサナリィの本部もあり、連邦軍の大部隊も駐留している。

 

スペース・アークには先の戦いで巨大モビルアーマー ラフレシアをF91を駆り、打ち破ったシーブック・アノー少年と同級生のセシリー・フェアチャイルドが同乗していた。

 

しかし、月に向かう道中にクロスボーン・バンガードの残党狩りに遭い、襲われる。

残党狩りの戦艦二隻は難民船を装ってるスペース・アークにお構いなしに攻撃を仕掛けて来たのだ。

スペース・アークは元々サナリィ所属のモビルスーツ試験運用艦だ。

大した武装もない上に、既に稼働できるモビルスーツは残っておらず、半壊したF91一機のみ。戦う戦力はもはや無かった。

 

さらに飽くまでも難民船を装っているため、ミノフスキー粒子の散布を行っていなかった。

もしミノフスキー粒子を散布し、隠密行動を取りつつ移動したならば、見つかった場合、戦闘行為とみなされ、攻撃の対象となるからだ。

また、ミノフスキー粒子の散布は状況によってはそこに戦艦がある事を逆に知らしめてしまう。

ミノフスキー粒子をそこら中に乱発されてる大規模な戦闘宙域やその前後で在れば有効ではあるが、何もない宙域でのミノフスキー粒子の高濃度散布はそこに何かがあると容易にしらしめてしまい、このような単艦での撤退では逆効果になる事が多い。

 

今回の場合、難民船の信号を出してるにも拘らず、攻撃を仕掛けられる場合はどちらが有効なのかは結果次第だが。

 

 

残党狩りを必死に振り切ろうとするスペース・アーク。

何れにしろ難民船を主張し続けるためにも、偶然居合わせた味方に見つけてもらうためにも、今更ミノフスキー粒子の散布は出来ない。

そして、敵はもはやミノフスキー粒子の散布も行わず堂々とスペース・アークを追う。

余程自信があるのか、既にスペース・アークに戦力無しと見抜いているのか、難民船と分かって攻撃を開始しているのか、何れにしろ怠慢であろう。

 

 

スペース・アーク艦長代行のレアリー・エドベリ中尉は神にもすがる思いで、全速離脱の指示をだす。

残党狩り戦艦はクロスボーン・バンガードの主力モビルスーツ、ベルガ・ダラス3機とデナン・ゾン9機の中隊規模の部隊を投入する。

スペース・アークは万事休すであった。

 

 

 

 

そんな状況下で、スペース・アークに所属不明の音声通信が入って来たのだ。

比較的若い男性の声だった。

『貴艦は追われてるようだが、貴艦の所属次第では援護する』

しかも、最新技術であるはずの高出力レーザー通信でだ。

高出力レーザー通信はミノフスキー粒子の影響が通常通信に比べ受けにくいとされているが、それは飽くまでも比較した場合である。

ただ、今回はミノフスキー粒子の散布もされていない宙域である。

通信はクリアーだった。

 

レアリー中尉はその通信を受け、通信先の位置を検索するようにブリッジオペレーターに指示を出すとともに、現在の状況を素直に答える。

通信の相手が敵か味方もわからない相手ではあったが、今さら敵が増えたところでこの絶望的な状況が変わるわけもない。味方で在れば助かる可能性が高くなるからだ。

「本艦は地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属、モビルスーツ試験運用艦 スペース・アーク。現在多数の民間人を収容し撤退中、クロスボーン・バンガードを名乗る賊に襲撃されています。先の賊によるフロンティアサイド襲撃によりモビルスーツを全て失い、戦力は皆無、救援願う」

 

『了解した。直ちに援護に向かう』

返事と共に相手からの通信が切れる。

 

その返事を聞き、レアリーは何故か緊張が幾分か取れる思いをし、次の指示をブリッジに出す。

「所属は不明、最新型の高出力レーザー通信を送って来たわ。どういう事?私達を救援に………副長、ただいまより所属不明の通信者を友軍と認識。観測士、敵モビルスーツをマークしつつ友軍観測、目視観測360度密に!」

 

 

その間も徐々に迫る敵モビルスーツ部隊、さらに威嚇するかのような敵艦からの艦砲ビーム照射が艦をかすめる。

 

所属不明通信先の部隊をまだ確認できない。

 

「観測士!友軍はまだなの!」

 

「目視確認できません、敵艦砲ビーム照射停止、当艦は間もなくMS部隊の射程圏内です」

 

「……さっきのはまさか、敵の通信?私達は遊ばれている?」

レアリーは友軍が来る気配がない現状に、先ほどの通信は敵がふざけて送って来た通信だと脳裏によぎり、冷や汗を背中に感じながら声に出ていた。

 

しかし……

「敵MSの一機が停止……二機!超高速で何かが敵MS部隊に突入いたしました!!」

ブリッジの観測官の一人がそう叫び報告する。

 

「何かとは何ですか!報告は明確に!」

 

「敵MSよりさらに小型の……これは戦闘機!?……たった一機の白い戦闘機が敵MS部隊と交戦開始いたしました!!」

 

「戦闘機?たった一機で?映像送りなさい!?」

 

「望遠映像映します」

 

観測士がブリッジ正面スクリーンに映しだした映像には、10m強の純白の戦闘機が敵モビルスーツ部隊と交戦してる様子だった。

だが……それも束の間、見る見るうちに敵のモビルスーツは半壊し、行動不能に陥って行くのだった。

そして、1分も経たずして12機有ったモビルスーツ部隊は全機沈黙した。

 

「………な、なんなの?あの戦闘機は?………ジェガン系が全く歯が立たなかったあの敵小型モビルスーツ12機をたった一機の戦闘機で……」

レアリーは茫然と戦闘が終了した空域映像を眺めていた。

信じられない光景を目の当たりにしていたのだ。

他のブリッジ要員も同じくであったのは言うまでもない。

 

あの敵小型モビルスーツはフロンティアサイドの防衛戦力であるジェガン系などの連邦モビルスーツを手玉に取り、あっという間に制圧したのだ。

同じく、連邦製小型モビルスーツのヘビーガンすら上回る性能だった。

それをたった一機の戦闘機が、その敵モビルスーツ12機全てを1分も経たずして戦闘不能にしたのだ。

これだけでもあり得ない光景だったのだが、さらにどうやらモビルスーツの核融合炉を爆散させず、敵を行動不能にさせただけの様なのだ。

そんな事は普通では考えられない。

いや、常識では考えられない事なのだ。

 

戦闘機の性能だけでなく、パイロットの技量も全く想像が出来ない程凄まじいものだったのだ。

 

 

『敵モビルスーツ部隊は沈黙させた。敵艦がモビルスーツを回収する間に、この宙域を離脱することを勧める』

そして、先ほどの所属不明通信者、いや、目の前の光景を作り出した戦闘機のパイロットから通信が送られてくる。

 

「あ……その、失礼いたしました。援軍感謝いたします。命拾いいたしました」

レアリーは呆けていたのだが、その声で我に返り、所属不明パイロットに礼を言う。

 

『ああ、では……』

 

「その、失礼ですが、貴殿はどこの所属の部隊なのでしょうか?助けていただいたという事は友軍とお見受けいたします」

レアリーは所属不明パイロットが通信を切ろうという前に、大声を出し早口に所属を聞いた。

 

『………民間軍事会社所属だ』

相手は一瞬の沈黙の後、答える。

 

レアリーはその答えを聞いて、通信制限をかけるように通信士に指示する。

そして、レアリーは艦長席にある小型の通信機器を耳に装着し、レアリーと民間軍事会社所属と名乗った所属不明パイロットと一対一の通信で再び話し始める。

民間軍事会社所属と聞いての処置だった。

レアリーはこれから話す内容を部下にも聞かれるわけにも行かないことになるだろうと……

 

「もしよろしければ、当艦に着艦され、補給でも受けていただければ、……補給物資は豊富にあります」

 

『機密で動いている身だ』

 

「幸い私共のサナリィは連邦の中央に位置する組織ではありません。貴殿の情報は報告いたしません。ですから……その、すみません。本音を申し上げますと貴殿にこの艦の防衛をお受けしていただけないかと、……防衛依頼料としてお支払いいたします」

民間軍事会社は確かに存在するが、正式登録された企業ではない。

本来、モビルスーツは連邦軍しか所有出来ないのだ。

何らかの理由でモビルスーツを保持が許されたりと表向きはカモフラージュされている。

それが大手軍事会社だったり、星間運送会社だったり、財閥や財団も民間軍事会社を保有してるケースは多々あった。

さらに、連邦軍ではそんな民間軍事会社を採用し利用する事もあるのだ。

公然の事実として存在していたのだ。

レアリーはその事実を知った上で、この民間軍事会社所属を名乗るパイロットに道中の護衛依頼をしたのだった。

 

『……行き先は?』

 

「月面都市フォンブラウン近接の私共の研究所です。月面上までで離脱して頂ければと……」

 

『了解だ。条件にこの機体には触れない事、研究所出身という事でおわかりだろう。……それと情報提供も願いたい』

 

「わかりました。契約は必ず履行いたします」

 

此処で一度通信を切り、白い戦闘機がこの艦に着艦する事を部下に告げ、格納庫の一部に立ち入り禁止区域設け、さらに白い戦闘機には整備班に触れさせないようにと指示を出す。

 

 

真っ白の戦闘機がスペース・アークに接近着艦コースをとる。

その姿を望遠映像で眺めるレアリー。

 

しかし……その戦闘機のコクピット下に描かれてるエンブレムを見て……驚きのあまりその目は大きく見開かれていた。

 

赤字にAに似た一角獣を象ったエンブレムを……

 

 

 

そうこれは……連邦軍の長い歴史の中で最強のパイロットが使用していたエンブレムだった。

一年戦争では若干15歳という年齢で数多の強敵を倒し、グリプス戦役では各地の火消し役となり、30年前のシャアの反乱の際にはネオ・ジオン総帥シャア・アズナブルを討ち取るという快挙を成し遂げ……そして行方不明となった人物。

レアリーはその伝説のパイロットの名を口ずさむ。

「…アムロ……レイ」

 




2話連続投稿です。


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アムロ再び宇宙世紀へ

1話より、時間を遡ります。
宇宙世紀に戻る前からのお話になります。
なるべく、前作を読まなくてもわかるようにはしたいと書いてます。


西暦2060年2月

とある第一級機密情報が開示される。

それは星間に激震が走る事実だった。

技術将校 アムロ・レイ准将の真実の経歴だった。

それはとても信じられないような経歴だったのだ。

西暦2009年~2010年

人類の99%を死滅に追いやったゼントラーディ軍との第一次星間戦争にて、数々の開発に携わり、更にバルキリーのパイロットとして、幾度もその類まれなる戦闘センスでマクロスを窮地から救う。

最終決戦では、ボドル基幹艦隊400万の艦隊の凡そ100万から200万の艦隊の中をアムロは専用バルキリーを駆り、無人機数機を引き連れた単独編隊で突破し、ボドル基幹艦隊旗艦1400㎞級超巨大空母を単独撃破の快挙を成し遂げ、圧倒的な不利な状況を覆し勝利に導く。

僅かに生き残った地球人類を救った、まさに英雄だったのだ。

そこでの撃墜スコアはもはや、今まで撃墜王だったマクシミリアン・ジーナスの桁を遥かに上回る物であった。

 

そう、ゼントラーディ人の間に伝わる恐怖の象徴、白い悪魔は実在したと……

 

ただ、一点彼について、真実が伝えられていなかった。

彼は、平行世界から転移した人間だったということを……

その真実を知る人物の3人のうち2人は既にこの世にはいなかった。

 

そして、アムロ・レイは西暦2016年7月に突如として歴史から姿を消す。

 

 

 

メビウスの輪が再び廻り出す。

 

 

 

西暦2012年9月

人類の種の補完と第2の母星を探すべく、第一次超長距離移民船団はメガロード-01を旗艦とし地球を出発する。

メガロード-01はSDF-1マクロスの後継機ではあるが、居住空間や備蓄などを優先し、透明スクリーンに包まれた都市区画を中心とした作りとなっている。

更にSDF-1が全長1200mに対しメガロード-01は1770mと巨大化されている。乗員は25000人と減少しているが、民間人収容人数は最大50万人とマクロスの凡そ10倍の収容が可能であった。但し、実際には乗り込んだ人数は30万人と少ない。

メガロード-01の艦長及び船団の提督に早瀬未沙大佐(代将)。

船団の技術開発部門のトップは最近結婚したばかりの未沙の夫のアムロ・レイ准将。

直衛防衛部隊バルキリー隊のトップに一条輝少佐が就任している。

その他に、メガロード-01を護衛する戦艦が地球製とゼントラーディ製あわせて十数隻となっていた。

 

民間人と乗務員はゼントラーディ人と地球人の融和計画の一環として、全体の凡そ4割ものマイクローン化したゼントラーディ人が乗船している。

最初の長距離移民船団は地球人だけにする意見も出ていたが、それでは中々融和政策が進まないとして、最初からこのような割合となった。

彼らは箱庭のような空間での生活を余儀なくされる。

その中で、お互いを認め合って生活するしかないのだ。

色々なトラブルはあるだろうが、それを一つ一つ解決していけばいいと……

初めての長距離移民船団。すべてが手探りの状態だ。

このような試みや案件は幾つもあった。

 

 

色々な問題を一つ一つ解決し、大きな問題も無く4年の月日が経った。

 

 

西暦2016年7月

「艦長、予定通り2000m級護衛艦二隻がフォールドで地球圏に戻りました。改めて明日、代わりの護衛艦がフォールドで到着する予定です」

 

「わかりました。一時速度を緩め、その護衛艦を待ちましょう」

艦長席に座る早瀬未沙大佐は、若い女性のブリッジオペレーターの報告を聞き、指示をだす。

 

「了解です。艦長」

 

ここはメガロード-01の発令所ブリッジ。

マクロスのブリッジに比べれば一回り狭いが人員も少なくて済むように簡略システム化されていた。

 

「地球へ定時連絡を行います」

「フォールド通信の準備完了いたしました。艦長」

「結構」

「相互通信ON」

未沙はブリッジオペレーターと言葉を掛け合い、地球への定時連絡を始める。

 

「こちらメガロード-01早瀬です。応答願います」

『新統合政府情報部クローディア・ラサール。通信良好です』

地球側の通信者に新統合政府の要職についているクローディア・ラサール大佐が出る。

メガロード-01が地球から発ってからの定期連絡は未沙とクローディアの間で行われていた。

 

最初は定時連絡のための堅苦しい話をよそよそしく行っていたが、後半は……

「クローディア、悪阻はどう?」

『大分ましになったわ。安定期に入ったみたいね』

「よかったわ」

『未沙の所の双子ちゃんもお母さんが恋しい時期じゃないかしら?勤務中はどうしてるの?』

「艦内の託児所に預けてるけど、アムロさんがなるべく勤務時間をずらして見てくれてるわ」

『いいわね。未沙の旦那様は。ロイはどうかしらね。子供が出来たと知った時は大喜びはしてたけど』

「ふふっ、フォッカー中将もきっとそうなるわ」

『だといいけど』

未沙とクローディアの世間話にいつの間にか変わっていた。

ブリッジオペレーターもこの事にとやかく言う事も無く、聞かないふりをしてくている。

 

『未沙……休暇で……球へ……戻り…』

「クローディア?……通信状況が安定しないわね」

突如としてフォールド通信が乱れだす。

 

「艦長!前方に重力波及び時空反応あり!!」

ブリッジオペレーターの一人が未沙に大きめの声で報告する。

 

「え?まさかゼントラーディ軍基幹艦隊がフォールドアウトして来る?直ちにスクランブル警報を!!」

 

「フォールド反応とは異なります!反応が急激に大きく……計器が異常反応を示しております!!次元波と予想されます!!」

 

「宇宙に亀裂が…エキセドル参謀閣下が仰ってた宇宙の次元波?いえ次元断層!?こんなところで!メガロード-01居住区に緊急避難勧告!!メガロード-01は緊急回避!!各護衛艦にも通達を!!」

正面の宇宙空間に亀裂が現れた事に、未沙は驚きを露わにするが、冷静に各担当に命令を下す。

 

「「「了解!」」」

 

「艦長!!重力及び時空反応さらに上昇!!このままでは巻き込まれます!!」

 

「各員!!ショック体勢を!!」

未沙は艦長席にしがみ付きながら叫ぶ。

 

 

 

 

体感的に10分程度だろうか、メガロード-01に激しい揺れが襲う。

 

そして、揺れが収まる。

 

「……各員状況報告を!」

未沙は誰よりも早く言葉を発し指示を出す。

ブリッジ強化ガラスの外は、先ほどとは打って変わって宇宙は静けさを取り戻していた。

「時空反応正常値」

「各種センサーは正常値です」

「メガロード-01居住区及び各ブロック電源及びライフラインはすべて正常値」

「護衛艦隊すべて確認。大きな被害はありません」

ブリッジオペレーターから次々と各部署クリアな情報が上がって来る。

今の所、問題は見当たらなかった。

 

だが……

「……艦長。……現在地。99.7%の確率で太陽系、……火星圏内です」

 

「え?……どういう事?太陽系に戻って来た?次元の波に飲まれてワープしたとでもいうの?」

未沙はその報告に驚きながらも冷静に考えをまとめようとする。

 

さらに……

「艦長…時間軸が異常値を……西暦2166年…」

ブリッジオペレーターの一人が恐る恐る未沙に報告したのがこれだった。

 

「計器の異常ではないの?」

未沙がこう言うのも無理はない。

つい先ほどまでメガロード-01の計器類は西暦2016年7月を示し、間違いなくその時を過ごしていたのだ。

 

「計算を数度実施しましたが……同じ答えしか……」

 

「まさか……未来へ次元跳躍を?…フォールド通信で地球に通信を!」

銀河の中心に向かっていたはずの第一次長距離移民船団及びメガロード-01が次元断層に嵌り太陽系に飛ばされるという事態は、まだ起こりえると頭で理解できる。

だが、計器類が指し示している西暦2166年という異常な数値は非現実過ぎる。

その数値は150年先の未来へと飛ばされた事を示しているからだ。

未沙は困惑しつつも、計器類が指し示した150年先の未来に飛ばされた事を否定する材料を探し、首を振り、次の確認をする。

そう母星である地球に通信し、現状の確認をとる事だった。

 

しかし……

「艦長!フォールド通信に返答ありません」

 

「通常通信は?」

 

「反応はありますが、暗号受け入れられません」

 

「どういう事?」

未沙は次々と起こる事態に焦りを感じながら、冷静に考えをまとめようとする。

 

だが……

「か、艦長……超望遠で確認……ち、地球が青いです」

ブリッジオペレーターの一人は驚きを隠せず、上ずった声で報告する。

超望遠で確認した地球が青かったのだ。

なぜ地球が青い事に驚くのか。

6年前の第一次星間戦争で地球はボドル基幹艦隊によって徹底的に破壊され、緑は消滅、海は蒸発し、茶色い大地に覆われた死の星さながらとなり、とても青いとは表現できない状態だった。

多少の海の水が戻り、点在しているとはいえ、宇宙から見た地球は茶色の天体と言った方が良いだろう。

これらが回復するには、人工的に行ったとしても100年以上はかかるとされていたのだ。

 

映像に映し出される青く輝く地球を見た未沙は、背中に冷たい物を感じた。

これで、現在の時空が西暦2166年という時間軸であることに信憑性が出てきたのだ。

 

「未来へ本当に飛んだとでも言うの?……皆さん只今を持って箝口令を敷きます。現在起きてる事象はすべて解除命令を下すまで口外無用とします」

未沙は目の前の現実を否定したい気持ちをグッと抑え、冷静に判断する。

太陽系に戻り、さらに未来へ飛んだ可能性があるという非常にデリケートな案件に対し、ブリッジオペレーター要員に箝口令を敷く。

 

「只今から一時間後、最上位会議を開きます。レベルクラス8に通達を」

未沙はさらにこの緊急事態に対し非常呼集を掛ける。

クラス8とは、第一次長距離移民船団各部署の未沙を含めたトップ8名の事である。

提督の早瀬未沙、副提督、居住区管理責任部長、資源管理部部長、参謀部部長、護衛艦統括部長、バルキリー防衛部隊長の一条輝、そして第一次長距離移民船団の最上位階級の准将であるアムロも含まれていた。

 

 

そして、最上位会議が始まり、未沙から現状報告を行う。

参加者皆は一様に、太陽系に戻り、さらに150年後の未来に飛ばされた可能性が高い現状に驚きを隠せないでいた。

こんな異常事態だが、超望遠で映し出される現在の青く輝く地球の様子を見れば、皆は納得せざる得なかった。

場の空気は静まり返る。

 

沈黙を最初に破る声…

「地球の映像をもっと拡大できるか?」

アムロは何かに気が付き地球の詳細映像を求める。

会議室の超大型スクリーンに映し出された地球の様子を更に拡大する。

 

「……こ、これは……スペースコロニー群だと……」

アムロは珍しく焦ったような表情で手元のタブレット端末を動かし、さらに手元で画像を拡大し始める。

 

「レイ准将、聞きなれない言葉ですが……何かありましたか?」

 

「………いや、まさか」

アムロは手元のタブレットの画像を見ながら今二つの可能性を頭に思い浮かべていた。

手元の画像には画質が荒いながら、アムロが良く知る宇宙世紀のコロニー群が見て取れたのだ。

一つの可能性は第一次長距離移民船団が150年後の未来に飛び、150年後の世界にはアムロの居た宇宙世紀と同じような歴史を辿り、宇宙世紀と似たようなコロニー群が地球圏に誕生した可能性である。

だが、西暦2000年以降の歴史が余りにも宇宙世紀とこの世界では異なっていた。

この世界の人々は辛い戦いを経て、異星人と手を携える事を決めた。

広い外宇宙に目をやり、外へ外へと新天地を目指す意思が強い。地球に縛られる宇宙世紀の人々とは根本的な意思の違いを見せていたのだ。

そんなこの世界の人々が地球の周りに箱庭のようなコロニー群を作るだろうかという根本的な疑問があるのだ。

もう一つの可能性はアムロが元居た世界、宇宙世紀の平行世界に第一次長距離移民船団が飛ばされた可能性だ。アムロはこちらの可能性が高いと踏んでいたのだ。

 

「レイ准将?」

未沙は心配そうにアムロの顔を見つめていた。

自分の最愛の夫であるアムロのこれほど困惑した顔を今迄見た事が無かったのだ。

 

「すまん。みんな少し時間をくれ……考えをまとめたい」

アムロはそう言うと、未沙は10分間の休憩を取った。

 

アムロはスッと席を立ち会議室を出る。未沙もそれに続く。

隣の空いてる談話室に入り……

「アムロさん…どうしたの?」

「未沙…落ち着いて聞いてくれ。地球の画像を拡大し映しだされていたものに、俺が良く知る物があった。スペースコロニー。地球を周回する数千、数百万人規模の人間が生活できる巨大居住施設だ。……俺が元居た世界の……」

「え?……アムロさんが元居た世界という事は平行世界の……」

「ああ……まだ確証は得られないが恐らくは」

「そんな事が……」

「もしメガロード-01の計器が指示した西暦2166年で、俺の元居た世界とリンクしているという前提であれば、元居た世界の元号に直せばUC0123年か0124年という事になる。俺が飛ばされた年はUC0093年。元居た平行世界の30年後の世界の可能性がある……これも確証が得られない推測ではあるが」

「え?」

「もしかすると、俺という存在が次元の座標軸となって、ここに船団が飛ばされた可能性がある……すまない」

「アムロさんが悪いわけじゃないわ。アムロさんが元の世界にそのまま戻ったと仮定したならば、座標軸で言うとその元のUC0093年から私達と過ごした時間の7年後のUC0100年に飛ばされているはずよ」

未沙はアムロを優しく抱きしめる。

「ありがとう未沙……だが、皆には俺が平行世界から来た人間だという事を話した方がいいだろう。そうすれば理解も速い……」

アムロはそう言って未沙を抱きしめ返す。

アムロが平行世界から飛ばされた人間だという事実を知ってる此方の人間は、未沙とグローバル、ロイ・フォッカーの3人だけだった。

「大丈夫よアムロさん。例えアムロさんが平行世界の人間だと知ったとしても何も変わらないわ。私達はゼントラーディの人々も受け入れたのよ。平行世界のアムロさんよりもよっぽど大変な事だわ。しかもアムロさんは私達人類を救った英雄なのだから……」

未沙はアムロが不安に思っている事を先読みし、優しく諭す。

「そうだな……君にはいつも救われる」

 

 

 

未沙とアムロは程なく会議室に戻り、アムロは語り出す。

アムロが平行世界の人間である事と、第一次長距離移民船団は次元断層に巻き込まれ、アムロがいた平行世界の30年後の世界に飛ばされた可能性がある事を……

クラス8の面々はアムロが平行世界の人間である事をどこか納得したような表情を浮かべ、平行世界に飛ばされた可能性がある事も容易に受け入れる。

彼らは第一次星間戦争を生き延び、地球潰滅の目に遭い、さらにゼントラーディと手を携える事を受け入れて来た人間だ。

このような非常事態が起きようとも、それを柔軟に受け入れる度量があった。

 

そして、これからの動きについて話し合う。

その結果、移民船団は火星と地球の間にあるアステロイドベルトに身を隠し待機。

アムロの推測の確証を得るべく、アムロが地球圏におもむき、情報収集を行うことが決定される。

宇宙世紀では地球〜火星間は2~3ヶ月の道程を要するが、マクロス時空の技術では高速航行で1週間とかからない。

転移先空間状況を把握できる場所ならばフォールド航法で一瞬だろう。

さらに、アムロがゼントラーディの技術を応用しバルキリー用に開発した試作フォールドブースターが有れば、バルキリー単独でもフォールド航法で一瞬で戻ってこられる。但し使用回数は1回のみと制限がある。

 

船団上層部では次元断層で平行世界に飛ばされた可能性があり、現在調査中とする。

居住区の住民には次元断層に巻き込まれ、想定外の場所に出たとし、現在調査中と説明した。

流石に確定事項ではない平行世界に飛ばされたという推測は住民にはまだ言えなかった。

 

第一次長距離移民船団はアステロイドベルトへと移動を開始。

アムロは地球圏に赴くため、護衛艦の一艦であるゼントラーディ製の800m規模の高速機動輸送艦に乗り込み、途中まで送ってもらう事になった。

なぜこの艦が選ばれたかというと、護衛艦の中で一番小さいからだ。輸送艦と言えどもミサイルやビーム砲を搭載し、高速移動が可能だ。

ゼントラーディの技術が盛り込まれ、ステルス性能も高く、フォールド航法も搭載されている。さらに艦内部はマイクロンサイズに変更され、居住空間も十分にある。

護衛艦の中で一番小さな規模と言えども、宇宙世紀の軍艦でいうとラーカイラムの凡そ倍の大きさがある。

高速機動輸送艦にはバルキリー用試作フォールドブースターとYF-5 シューティングスター、ゴーストVQ-4000無人機12機そして、護衛大隊として12機のVF-4ライトニング、16機のVF-1Jを再改修し強化バージョンアップさせたVF-1Z スーパーパック部隊を乗せ出発する。

 

高速機動輸送艦はフォールド航法で地球圏ギリギリの座標にワープする。

 

高速機動輸送艦はこの場で待機し、地球圏の様子を伺い情報収集を行う。

この情報はリアルタイムでメガロード-01に届けられる仕組みだ。

アムロのYF-5は補給用無人機3機と工作用無人機2機を引き連れ、生まれ故郷である地球に向け、高速機動輸送艦を出発したのだった。

 




後2話で完結したい病。
投稿は随分後になりそうです。


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アムロの帰還

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はアムロ側から見た1話の話+αです。

後1話で終わりたかったのですが……もうちょっと続きそうです。


高速機動輸送艦を地球圏境界宙域の現在地に止め置き、アムロはYF-5 シューティングスターに乗り込み、補給用無人機3機と工作用無人機2機を引き連れ、地球に向け出発する。

 

アムロは青く輝く地球を目の前に思いを馳せる。

推測が正しければ、今から戻る地球は自分が知る地球の、しかもシャアと戦った宇宙世紀0093年の30年後の世界なのだ。

そしてこの地球の様子を見るに、巨大隕石が落ちた様な影響は見られない。

アクシズは地球に落ちなかったのだろうと。

νガンダムでアクシズを押し返そうとしたあの時、意識を失う直前に確かに感じた。

アクシズが地球から離れていく感覚を……

 

(あの後、ロンド・ベルはどうなったのか?皆は無事なのか?あいつは、シャアはどうなったのか?)

平行世界に飛ばされた当時、アムロは元の世界に戻れるなど思ってもいなかった。

残してきた友人やシャアとの決着の後のことも気してはいたが、宇宙世紀での自分の役割は既にあの戦いで終わったと、マクロスの世界で骨を埋める事を決心していたのだ。

だが、30年後の世界とはいえ、元の世界に戻って来た可能性が出て来た事に、割り切っていたはずの当時の思いが沸き上がっていた。

 

 

そんな時……

アムロは急速に人の命が奪われて行く感覚に囚われる。

アムロの鋭敏なニュータイプとしての感覚は、まだ遠く離れた地球軌道上のコロニーで今現在起こってる戦いを感知したのだった。

(……何だこれは?戦い……戦いが起きてる。悪意だ。これは明らかに人を害する悪意だ)

(まさか、奴か!シャアなのか!?……いや、奴じゃない、これは誰だ?誰なんだ?まるで殺戮マシーンのような冷たい感覚は?……)

今、アムロが感じた感覚は、フロンティア・サイド(新サイド4)にクロスボーン・バンガードが侵攻し占拠、さらには無人殺戮兵器バグを使い、幾つかのコロニー内に住まう人間の無差別虐殺を敢行したことを感じたのだ。

 

(……この世界の地球はまだ人間同士が争いを行っているのか)

アムロが飛ばされた平行世界の人々は地球壊滅の憂き目にあったのだが、人々は手を携え、敵であった異星人とも共に明日を生きようとしていたのだ。

だが、自分の故郷であるこの世界の地球人類は未だ同じ星の人間同士で戦い、争い傷つけあっていた。

 

アムロは導かれるかのように、戦場と化しているフロンティア・サイド(新サイド4)へとYF-5 シューティングスターを向ける。

 

徐々に近づく地球。

新たにアムロは何かを感知する。

(仄暗い欲望がサイド全体を覆い被さっている。……いや、光だ。そこに小さな光が見える。二つの光が一つに重なり、より強い光に……。)

まさに今、新サイド4 フロンティア・サイドの宙域では、鉄仮面が操る大型モビルアーマー ラフレシアとシーブック・アノーが駆るF91、セシリー・フェアチャイルドが操縦するビギナ・ギナが死闘を繰り広げていた。

(光が大きな欲望の闇を切り裂いた……希望の光はまだある)

そして、シーブックが駆るF91がラフレシアを打ち破ったのだった。

 

 

 

アムロがフロンティア・サイド宙域に接近する頃には既に戦いは終わり、クロスボーン・バンガードによって抵抗していた連邦軍部隊やゲリラ活動を行っていた部隊はすべて駆逐され、排除されていた。

 

(………間に合わなかったか…いや、今の俺が介入していいものか。……それよりも今は、情報を得ることが先決だ)

アムロはこの混乱の乗じて、フロンティア・サイドのどこかのコロニーに降り立ち情報を得ようかとも考えていたのだが、戦端が開かれた詳細が不明であり、戦乱に巻き込まれる可能性を考慮し、他のサイドに移動を決める。

ここまでの道中、アムロのYF-5や追従するVQ-4000無人機工作バージョンは飛び交う通信電波を傍受し情報取集を行い、高速機動輸送艦にフィードバックし解析をリアルタイムで行っていた。

詳細は不明だが、現在地球圏は連邦軍の統治下にある事が凡そ推測することが出来た。

これは、アムロが宇宙世紀に戻って来た可能性が非常に高い事を示している。

そして今現在、このフロンティア・サイドはクロスボーン・バンガードなる軍に占拠され、建国宣言を行った事までは把握していたのだ。

 

アムロはフロンティア・サイドから近い月を避け、新サイド6に舵を取ろうとする。

月は監視体制も厳しく降り立つのは容易ではないためである。その点コロニー群は何らかの監視の穴があるため、潜伏しやすいのだ。

 

 

 

新サイド6へと移動開始するため、月とフロンティア・サイドの中間宙域にアムロはYF-5を進めるが、難民船の救難信号を傍受する。

 

「救難信号がここまで届く、電波干渉も少ない。ミノフスキー粒子も殆ど散布されていないのだろう。難民船の可能性は高いな。どうするか?介入してもいいものか。……ふっ、未沙であれば直ぐに救助に向かうだろう」

アムロは今の自分の立場で介入していい物か悩むが、アムロはメガロード-01で今も指揮を執る最愛の伴侶を思い出し、自嘲気味に救助に向かう事を選択する。

 

「ハロ、無人機を非干渉宙域に移動、ダミーバルーンでデブリに偽装し待機。救難信号を発信し続けている艦に通信開始だ」

アムロはYF-5の進路方向を、救難信号を発信し続けている艦に向け、コクピットシート後部台座に体半分埋め座するハロに指示を出す。

 

「リョウカイ・リョウカイ」

ハロはアムロの指示に従い、引き連れていた5機の無人機を移動開始させ、救難信号を発している艦に通信を開始した。

 

「貴艦は追われてる様だが、貴艦の所属次第では援護する」

アムロは難民船の救難信号を発してる先の艦に、音声通信のみでこう声をかける。

本来こちらの身分を明かして通信すべきではあるが、流石に今の自分の身分(マクロスでの身分)をさらすわけにも行かず、そうかといって自分が元居た宇宙世紀の30年後の世界である可能性が高い状況下で、30年前の連邦軍士官時代の身分をさらすわけには行かなかった。

 

『本艦は地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属、モビルスーツ試験運用艦 スペース・アーク。現在多数の民間人を収容し撤退中、クロスボーン・バンガードを名乗る賊に襲撃されています。先の賊によるフロンティアサイド襲撃によりモビルスーツを全て失い、戦力は皆無、救援願う』

 

(モビルスーツか、懐かしい響きだ。サナリィ、聞いたことが無い部署だが地球連邦軍所属か、接触は最低限の方がいいようだな。……戦力皆無に民間人の収容。軍艦の様だが、ミノフスキー粒子の散布も無し、難民船の要綱には抵触しないか……ん?この艦には……)

アムロは若い女性の士官らしき人物からの返信を聞きながら、考えを巡らせていたのだが……、アムロはこの艦から何かを感じる。

 

(先ほど感じた光がこの艦に)

 

「了解した。直ちに援護に向かう」

アムロは返事を返す。

アムロが感じた光とはシーブック・アノーとセシリー・フェアチャイルドの存在だった。

 

アムロはYF-5 シューティングスターを加速させる。

既にYF-5は敵の軍艦2隻と小型モビルスーツ12機に追われるスペース・アークを、有視界センサー及び高性能望遠カメラで捉えていた。

ミノフスキー粒子という例外があるにしろマクロス世界の索敵関連技術は、明らかにこの宇宙世紀の技術を凌駕している。

銀河を舞台に星間戦争を行ってきたゼントラーディ軍の応用技術が凝縮されているからだ。

未だ太陽系を脱していないこの世界とのスケール感の違いは否めない。

 

 

(従来のモビルスーツに比べ随分と小さい。15m前後、スピードはジェガンを上回っている。だが、行動不能にさえすればいい。…そこか!)

アムロは隊列を組んでいるクロスボーン・バンガードの12機のモビルスーツ中隊を確認し、ファイター形態のまま突撃を敢行する。

YF-5の機体胴体下部に装着されたVF-5専用狙撃連射兼用ガンポッド改を狙撃モードで単発発射し、隊列後方に位置するデナン・ゾンの背後から背部外部パックジェネレーターと連結された胴体内部に存在するジェネレーターコントロール部を一発で射貫く。

核融合ジェネレーターは誘爆することなくデナン・ゾンは停止状態に陥った。

ガンダリウム合金と同程度の装甲を持つと言われたクロスボーン・バンガード(ブッホ・コンチェルン)製次世代型モビルスーツと言えども装甲の薄い場所が存在する。装甲の可動域やスラスター部、背部ジェネレーターとの連結部等だ。

ジェネレーター本体を撃ち抜き爆散させることなく、コントロール部に弾を達せられるには、絶妙の角度でのピンポイント射撃が必要だったのだが、まさに神業の如く狙撃で打ち抜いたのだった。

現在装備してる高威力の高集束ビームキャノン×2門では、口径を絞っても、他の場所まで焼き切ってしまうだろう。

貫通威力は低くなるが実弾を選んだのはそのためだ。

 

アムロはさらにもう一機、背後から襲い掛かり、デナン・ゾンを機関停止状態に陥らせる。

 

そこでようやく敵部隊は、背後からアムロのYF-5 シューティングスターに襲われていることを認識し、迎撃態勢をとるのだが、既に手遅れだった。

 

(認識が遅い。……だが機体の反応速度は速い。VF-1Zに匹敵する。いや、あの指揮官機の機動性はVF-4に近い。小型化高機動をモビルスーツに実現させたか。だが練度が甘い……迂闊な!)

 

アムロは迎撃態勢をとろうとするデナン・ゾンと指揮官機ベルガ・ダラスに反撃の機会をほぼ与えずに、次々と背後に回り、ファイター形態のまま、YF-5専用狙撃連射兼用ガンポッド改だけで、12機すべてを機関停止に陥らせ、制圧したのだった。

 

クロスボーン・バンガードの中隊部隊は敵襲を受けた事は認識できたが、何が起こったのか分からずに、自分のモビルスーツが停止してしまった事に、茫然とするしかなかった。

 

 

(この部隊は実戦経験が浅いようだが、機体はかなりの高スペックだ。30年前のモビルスーツとは段違いだ。小型化高機動モビルスーツか……VF-1初期中期型では少々荷が重い。航行速度は遅いが旋回能力、機動性はかなりの物だ。近接戦闘では分が悪いだろう)

アムロは素直にこう感想を漏らす。

次世代VFシリーズの開発に携わってきたアムロだからこそ、この1分程の戦闘で正確に小型モビルスーツの性能を図る事が出来たのだ。

 

 

アムロはこの後、スペース・アークとの通信で民間軍事会社の者だと咄嗟に答えると、スペース・アーク艦長代理レアリー・エドベリ中尉に月までの護衛を依頼される。

アムロは一瞬考えこむが、幾つかの条件を付け、この依頼を受けいれる。

 

(月の重力圏内にリスク無しで入れるのは大きい。民間軍事会社を名乗ったのは咄嗟とは言え良かっただろう。いい距離感だ。疑われはするが、向こうも踏み込んだことは聞いてこないだろう。それが暗黙の了解というものだ。それに、勘だがこの艦に便乗した方が良いような気がする)

アムロが依頼を受けた理由として、低リスクで月に潜り込めるのと通信者であるレアリー・エドベリ艦長代理に好感を持てた事、さらにアムロのニュータイプの勘がこの艦に留めさせたのだ。

アムロは待機させている無人機をハロを通じて、月軌道上のデブリに身を潜めさせる指示を出し、YF-5 シューティングスターをスペース・アークに着艦させる。

 

YF-5を着艦させた後、約束通り簡単な天幕のバリケードで外部からこの機体を隠してくれたが、パフォーマンスに近い。アムロの意向に沿う形を示したという事だろう。

こういうモビルスーツ試験艦には検査設備は多数存在する。撮影などはされて当然だろう。

アムロはアムロでハロにこの艦についての調査を指示していた。

抜き出せる情報は抜き出すようにと、但しバレない事が前提でだ。

同時にYF-5がもし何者かに触られることがあれば、抵抗していいとも。

 

 

アムロがYF-5を降りると、丁度連邦の士官服を着た若い女性が1人で天幕の中に入り、出迎えてくれていた。天幕の外には勿論護衛か控えの兵士が付いている。

「地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属 モビルスーツ試験運用艦 スペース・アーク艦長代理レアリー・エドベリです。本艦を助けて頂き、ありがとうございます」

アムロと通信のやり取りを行っていた艦長代理のレアリー中尉が握手を求める。

 

「早瀬レイいや、レイ・早瀬だ」

アムロは握手をしながらも咄嗟に偽名を名乗る。自分のセカンドネームと妻の未沙の苗字を組み合わせただけのものだが……

 

「民間軍事会社の方、少なくとも今回のクロスボーン・バンガードの方ではない事はわかります。見事な操縦技術ですね。戦闘機のようにお見受けしましたが……」

 

「そのようなものだ。それも詮索は無しにしてくれ」

 

「わかりました」

そう言って、レアリーはアムロを格納庫の付属する休憩室に案内する。

 

「すみません。このような場所で、此処ならばハヤセさんも安心できるかと」

この休憩室は整備班が使う場所がら、少々雑多である。

だが、ここからはYF-5を覆った天幕が見える位置にあった。

これはレアリーの気遣いだろう。

 

「いや、かまわない」

 

「補給はいいのですか?」

 

「それもかまわない。いや、何か飲み物があれば……」

 

「失礼しました。食事も持ってこさせます」

 

「民間人もかなりいるようだな……」

アムロはここの休憩室に歩む道中にも民間人と思われる人々が格納庫で項垂れる姿を見ていた。

 

「はい、何せ本艦は試験艦でして、移住性は低く、居住ブロックにも入りきらない有様です……敵はコロニーの住人だけを無人兵器で殺戮を……残った人々はこれだけです」

 

「………そうか」

 

「本艦は既に弾薬は底を尽きました。食料やモビルスーツ用の補給物資は現地協力者のお陰でふんだんにあるのですが、肝心のモビルスーツは……」

レアリーが差し示した先にはハンガーに無残にも頭部の一部や足や手が欠損したモビルスーツが一機立てかけられていた。

フォーミュラ計画でサナリィが建造した現時点での最高機体F91だった。

 

「ガンダム……か」

 

「ハヤセさんもガンダムをご存知でしたか。正式にはガンダムの名を冠してはいないのですが、私が士官学校時代の資料で見ました44年前の一年戦争時のガンダム2号機や36年前のグリプス戦役で活躍したZガンダム、30年前の第二次ネオ・ジオン紛争のνガンダムや歴代のガンダムと顔が似てますよね」

 

「ああ……少しは知ってはいる」

アムロは内心苦笑しながら、そう答えるにとどめる。

ガンダム2号機とは凡そアムロが一年戦争時に乗機としていたRX-78-2ガンダムの事だ。

そして、アムロが最後に乗った機体はνガンダムだ。誰よりも知っているはずなのだ。

 

「少しですか……あの機体のエンブレムは?」

 

「ああ、……これは憧れのようなものだ。表に出ない民間の試験機だからな自由さ」

アムロはその質問に焦りを覚える。多分彼女はあのエンブレムが誰の物なのかを知っていて、そして自分が疑われているのではないかと、あのアムロ・レイだと。

だが、今の自分があのアムロ・レイだとは考えにくいだろう。もし生きているのであれば、59歳の還暦前だ。今のアムロはどう見ても30代そこそこにしか見えない。

 

「士官学校時代に憧れたものです。あのユニコーンを象ったエンブレムの主、伝説のガンダムのパイロット、アムロ・レイを」

レアリーはまだこの話を続ける。

 

「ああ、だがアムロ・レイは戦死した」

 

「でも、あのシャア・アズナブルと相打ちでです。実際にはMIAらしいですが」

 

「シャア・アズナブルもエースパイロットだった」

 

「レイ・ハヤセさんの先ほどの戦闘はその伝説のパイロット達にも勝るとも劣らない活躍でした」

 

「そうかな?流石にそれは言い過ぎだ。それに俺の場合は機体のお陰だ」

アムロはまさかここまでこの話を引っ張られるとは思っていなかった。

相当怪しまれてるのではないかと……この話題は切った方がいいのだが、アムロは口が達者な方ではないため、中々話題の切り替えタイミングを得られない。

 

そこに丁度、大人しそうな少年と美少女が二人分の食事を運んで来た。

 

「ハヤセさん紹介します。彼があの半壊したモビルスーツに乗って、彼女と共に本艦を救ってくれた、本艦の英雄です」

 

「レアリー艦長、英雄だなんて言い過ぎです。シーブック・アノーです」

「セシリー・フェアチャイルドです」

少年は謙遜気味に、美少女の方は少々困ったような顔をしながら自己紹介をした。

アムロはこの二人からニュータイプの力を感じていた。

 

「こちらはハヤセさん」

 

「レイ・早瀬だ」

 

「先ほどの戦闘機に乗ってた人ですよね。戦闘機でモビルスーツを12機も、しかも、パイロットを生かしたまま!どうすればそんな事ができるんですか!」

シーブックは興奮気味にアムロに訪ねる。

 

「お客人なのですから……シーブック何故それを?」

レアリーは半ば驚きながらシーブックに訪ねた。

レアリーはシーブックらには先程のアムロの戦いを知らせてはいない。

知っているのはブリッジ要員だけのはずだったからだ。

 

「F91のコクピットで一応待機してたので、バイオコンピュータで確認を」

 

「そうですか……二人ともありがとう。下がって良いわ」

レアリーがそう言うと、シーブックとセシリーは軽く頭を下げ、休憩室を後にした。

 

「すみません。今のシーブックの話は聞かなかったことにして頂けませんか?」

レアリーはアムロに苦笑気味にお願いする。

バイオコンピュータはサナリィが開発した独自のシステムだからだ。

サイコミュシステムの一種で操縦者の意思をモビルスーツにダイレクトに伝える装置だった。因みに開発者はシーブックの母親でモニカ・アノー。

元々は、軍事利用目的で開発したものではなかったが、サナリィがモビルスーツ管制システムとして組み込んだ最新技術だった。

また、パイロットの技量によりリミッターが設定されている。

これによりF91は優れたパイロットや優れたニュータイプが搭乗することにより、最大限の力を発揮するのだ。

 

「バイオコンピュータ?」

 

「はい…その」

 

「言葉だけでは何の事かわかりかねる」

アムロはそう言いつつも半壊したF91からサイコフレームの存在を感じていた。

やはり、シーブックがあの悪意を撃ち払った優れたニュータイプだと。

そして、一緒にいたセシリーからも同じくニュータイプの優れた素養を感じる。

 

「ありがとうございます。月までもう少しあります。私はブリッジに戻らなければなりません。敵襲の際はお願いいたします。それまでこんな所で申し訳ないですが、ゆるりとは行きませんが待機して頂ければ助かります。報酬の方は……」

 

「君らの言い値で構わない。相場通りだと助かる」

 

「ありがとうございます。では……」

そう言って頭を下げ、レアリーは休憩室を出て行く。

 

 

「ふぅ」

アムロは肩の力を抜き、息を吐く。

(危なかったな、まさかあのエンブレムを知ってるとは思わなかった。あれは隠さないといけないか……いや、今更か)

 

アムロは再びハンガーに立てかけられたF91を見上げる。

(サイコフレームを搭載したガンダムか……シーブック・アノーにセシリー・フェアチャイルド。この艦はどこかホワイトベースと似ている。……艦長は全く違うか)

アムロは嘗ての仲間の顔を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

アムロはしばらくして一度、YF-5に戻る。

「ハロ、この艦のデータを抜き獲れたか?」

 

「カンリョウ・カンリョウ」

 

(スペース・アーク級巡洋艦……地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属。設計思想はクラップ級の様だ。現在では練習艦扱いか。竣工は宇宙世紀0115年。戦闘データは……)

アムロはハロが得た大まかな情報をヘルメットの投影型ディスプレイで確認していた。

 

その時だ。ハロが天幕内に人が入って来た事を知らせる。

 

「ここでしたか。ハヤセさんすみません。また少しお話をいいですか?」

レアリーがコクピットに乗るアムロに声をかけて来たのだ。

 

「ああ、構わない」

 

「こちらにどうぞ」

そう言って、レアリーに先ほどの休憩室を案内される。

 

「なにか?」

 

「現在月軌道上まで来ることができました。もう逃げ切ったと考えていいでしょう。その……大変申し上げにくいのですが……依頼料支払いの件、上司に相談した所。上司が是非ハヤセさんに会いたいと。サナリィの本部まで同行して頂きたく、もちろんハヤセさんの意向を重視したいのですが、どうしてもと……」

 

「さもないと、拘束するとでも?」

アムロは眉をひそめる。

 

「いえ、決してそのような事は致しません。ただ、上司が自分の名前を言えばきっと来て下さると」

 

「誰だ?」

 

「ジョブ・ジョン開発室室長です。サナリィにおいて大きな発言権を持つ重役の一人です」

 

「……………わかった。但しこの艦内で会おう」

アムロは暫く考えこみ、その名を聞いて直ぐに思い出せなかったが、過去の記憶を手繰り寄せようやくその名を思い出した。

嘗てのホワイトベースの仲間であった人物の温厚そうな顔を。

アムロは嘗ての仲間であったジョブ・ジョンが、自分をアムロ・レイだと認識している可能性は高い事と判断し、あの人物ならば自分の立場を理解してくれるだろうとも考えていた。しかし、同時にジョブ・ジョンと別れてから44年も経っており、既に当時の温厚で仲間思いのジョブ・ジョンとは異なり、自分に対して害する可能性もあるだろうと警戒もしていた。

そのため、この艦内でと条件を付けたのだ。

 

レアリーはこの少し前、クロスボーン・バンガードとのここに至るまでの凡その経緯と民間人保護について、このプロジェクトの上司であるジョブ・ジョンに通信にて報告した後、アムロの件について相談をしたのだった。

その際に、12機のモビルスーツを相手取るアムロが操る戦闘機の映像データと、休憩室で会話をしていたアムロの姿の映像と共に送信していた。

ジョブ・ジョンは最初は初期のアムロとの口約束通り、依頼料を相場の通りの支払いと月面着陸前にアムロと別れる手立てを了承していたのだが、レアリーが送信した戦闘データと休憩室のアムロの姿を確認した後、急にアムロを引き留めるためのあらゆる手立てを行えと指示されたのだ。但し手荒な真似は絶対するなとも言われていた。

 

「わかりました」

アムロにレアリーはそう返事を返し、ブリッジに戻る。

そしてジョブ・ジョンとの通信で、アムロの意向が通ることとなった。

 




今回はアムロ無双は無かったですね。
残念です。
まあ、本気アムロだと、ちょっとやばいですからね。
クロスボーン・バンガード涙目もいい所です。


設定とかは、原作と異なる部分が出ちゃうかもです。
モビルスーツの設定でおかしなところがあればご意見よろしくお願いします。
次はジョブ君との邂逅ですね。
それ以外は誰がくるのでしょうか?




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再会

ご無沙汰しております。
漸く続きが書けました。

ゆっくりですが、書ききろうと思っております。

今回もアムロ無双は有りません。


 

宇宙世紀0123年4月上旬

モビルスーツ試験運用艦スペース・アークはクロスボーン・バンガードの襲撃を辛くも脱し、フロンティア・サイドから月面都市フォンブラウンにほど近いサナリィ本部月面基地に帰還を果たした。

 

スペース・アークには、クロスボーン・バンガードの残党狩りを退けたアムロ・レイが民間軍事会社所属レイ・ハヤセと偽名を名のり乗艦していた。

 

アムロは宇宙世紀0093年3月 アクシズショックにより、平行世界のマクロスの世界に飛ばされたのが29歳。

マクロスの世界で7年過ごし現在36歳、次元断層に巻き込まれ奇しくも30年後の宇宙世紀0123年4月に帰還を果たしたのだ。

もし、アムロがマクロスの世界に飛ばされる事なく、生存していたと仮定すれば、宇宙世紀0123年4月現在、59歳となっていたであろう。

アムロ自身の時間の流れのずれは凡そ23年の月日となる。

 

 

月面基地に到着したアムロを待ち受けていたのは、嘗てホワイト・ベースで共に戦ったジョブ・ジョンであった。

ジョブ・ジョンは現在、サナリィ重役という立場にあった。

ジョブ・ジョンはスペース・アークから送られた報告書、アムロがクロスボーン・バンガードの残党狩りを退けた映像データとアムロ本人の映像データを確認し、ある種の期待をして、民間軍事会社所属のレイ・ハヤセと名乗るアムロとの面会を望んだのだ。

アムロは警戒をしながらも、ジョブ・ジョンの名を聞き、面会に応じたのだった。

 

 

アムロはレアリーの案内の下、スペース・アークの会議室に通される。

アムロ自身、レアリーの人柄と実直さから幾分かは警戒を解いてはいたが、YF-5に残したハロには何時でもスペース・アークをハッキングし掌握できるように指示を出していた。

 

しばらくし、サナリィのカーキ色の制服を着こんだ老人がレアリーと共に現れる。

老人はアムロに軽く頭を下げてから、レアリーに指示する。

「レアリー君ご苦労、この区域の監視カメラ等を全て遮断。周囲30m範囲を立入禁止にしなさい。私が解除するまで厳守です。もちろん君もです」

 

「ですが……室長」

レアリーはその老人の命令に戸惑う。

前代未聞の処置だからだ。

さらにアムロに護衛依頼を頼み、ジョブとの仲介役を行った自分もこの話し合いに参加するものだと思っていたのもある。

 

「これは命令です。何かあれば、私の方から出向きます」

 

「…了解いたしました。私はブリッジに待機しております」

レアリーは一息間を開け、了承し、一礼して会議室から出ていく。

 

「……これで心置きなく話せる。私はサナリィ所属、開発室長ジョブ・ジョンです」

ジョブは手を前に出し、アムロに握手を求める。

 

「レイ・ハヤセです。申し訳ないですが所属は申し上げられません」

アムロはソファーから立ち上がり、握手を返す。

アムロは紳士然としていたが目の前の深い皺に頭も寂しい老人に、嘗ての美少年といっていい顔立ちのジョブ・ジョンの面影を全く感じなかった。

 

「いえ結構です。先ずはスペース・アークのクルーをお救い頂き、感謝いたします」

ジョブ・ジョンはアムロにソファーに座る様に促し、自らも対面のソファーに腰を掛ける。

 

「たまたま通り掛ったまでです」

 

「申し訳ないですが、あの戦闘データを拝見させていただきました。見事です。モビルスーツを破壊せずに急所のみを撃ち抜き、停止状態にと。あの戦闘機の機動力も素晴らしいですが、貴方の技量はもはや誰も手が届かないでしょう。……ただ、私は貴方と同じような技量を持つ人物を一人知っております。………君の御父上、アムロ・レイはご存命なのですか?」

ジョブの目は真正面でアムロを見据えながら、こんな質問をして来たのだ。

どうやらジョブは目の前の、レイ・ハヤセと名乗る人物をアムロの息子だと判断したようだ。

アムロ並みの戦闘センスによく似た風貌に年齢的にも辻褄が合う。

 

「………」

アムロはそれにどう応えるか答えに窮する。

 

「答えられないと。……それで十分です。しかし、貴方は見れば見る程、御父上アムロ・レイと瓜二つだ。貴方の御父上の最後の記録写真と寸分もたがわ……………いや、……………アムロ……そんなはずは………」

ジョブ・ジョンはじっとアムロの顔を見ていたのだが、途中から目を見開き驚愕の表情に変わり、手が震えていた。

 

「………ジョブさん。ご無沙汰してます。あの頃はお世話になりました。貴方のお陰で当時ホワイト・ベースでギスギスしていたカイさんやハヤトとの関係も随分と円滑になりました」

アムロは優しい笑顔をジョブに向ける。

アムロはジョブとの僅かな会話の中にも、部下やこちらに向ける細かい配慮や優しさはホワイトベース時代となんら変わらないと感じ、ニュータイプの勘も目の前の人物が信に足る人物だと……、この一つ年上の優しき戦友に真実を語る事にしたのだ。

 

「アムロ……なのか?いや、そんなはずは…………先ほどの戦闘データはまさしくアムロ・レイを彷彿されるものだった。だがしかし………」

ジョブは目を見開いたまま……震える手を前に出し、アムロを指さしていた。

 

「アムロ・レイです。……信じられないでしょうが」

 

「………アムロ・レイは0093年にシャアとの激闘でMIAと認定され、亡くなった事になっていた。私も当時の戦闘データを穴が空く程確認し、精査した。サイコ・フレームのオーバーロードによるサイコフィールドが生成され……アクシズを……。しかしνガンダムは見つからなかった。残骸もなにも……だから、わたしはひょっとして生きているのではと思った……が。君がアムロだと言うのであれば……君は当時の姿のままだ……どういう事なのか」

ジョブは一息ついた後、早口で語りだし、そして、狐に抓まれたような表情をしていた。

 

「俺もよくわかりません。俺もシャアと決着をつけ、地球に落ちるアクシズをνガンダムで受け止めようとしたのです。サイコフレームが感応し、凄まじい力があふれ出で、アクシズが押し戻されて行くのを薄れゆく意識の中で感じました。……そして俺自身は死んだと。ですが、俺は生きてました」

 

「…………まさか、時間移動?いや、あり得る。サイコフレームがオーバーロードして起こる現象サイコフィールド。それを応用したサイコシャードは時すら操る現象が確認されている。あのアクシズショックのサイコフィールドの中心に居ただろうアムロやνガンダムに何が起きてもおかしくない。……となるとアムロ、君はこの時代に時間移動を?」

ジョブはそのアムロの話を聞き、思い当たる事があったのだ。

サイコフレーム自体偶然の産物で出来たようなもので、サイコミュシステムにしろまだ解明されていない事が多い。

ただ、アクシズショックのデータにラプラス事変やユニコーンガンダムのデータ等から、サイコフレームが相当不可解な現象を起こすデータは得られたようだ。

 

「サイコフレームはそんな現象まで可能なのか……。いえ、違います」

アムロはジョブのサイコフレームにまつわる話の一端を聞き、流石に驚きながら時間移動説を否定する。

 

「どういうことか?それとも君は年をとらないとでもいうのか?」

 

「……俺は平行世界へと飛ばされた。ジョブさんの言う通り、サイコフレームの共振が何らかの現象を起こした可能性が高いと俺も考えていました」

 

「平行世界ということは………別世界………信じられないが……否定する要素も無い」

 

「俺も最初は信じられませんでした。俺は平行世界に行き、最近再び戻って来たんです。そこに時間的なズレが起きたようです。平行世界の証拠として俺が乗って来た戦闘機が証拠です」

アムロが乗って来たYF-5 シューティングスターにはこの世界にはないゼントラーディの技術も多分に積み込まれていた。

 

「そうか、君は本当にあのアムロ・レイなのだな……」

 

「そうです」

 

「神はこの世界を見捨てなかった……」

ジョブは何故か涙ぐんでいた。

 

「………ジョブさん」

 

「アムロ、よく生きていてくれた。よく帰ってきてくれた」

ジョブは再び立ち上がり、涙ながらにアムロに両手で握手を求める。

 

「ジョブさん、申し訳ないが、この30年何があったか教えてもらえないだろうか?」

アムロはそんなジョブの涙に少々大げさに思いながらも、肝心な事を聞く。

 

「時間がかかるぞ。君の平行世界とやらの話も大いに興味がある……場所を変えよう」

ジョブは涙を拭き、大いに頷きこういった。

 

 

ジョブはアムロが乗って来たYF-5を一目見せてもらった後に、YF-5を基地の現在使用していない空ドックに置いておくように言う。

その際、YF-5には誰も手出しさせないように伝えた。

 

アムロはその後、ジョブの案内で基地内にあるジョブの私室に案内される。

 

「……そうか、シャアは行方不明……ネオ・ジオンは崩壊」

アムロはラプラス事変、ジオン共和国の連邦への帰属。マフティー動乱、連邦の衰退。宇宙依存拡大。各サイドの権力増大。ブッホ・コンツェルンの台頭などなど、概略ではあるが、ジョブに語り聞かせて貰った。

 

「もはや、地球連邦は形骸化してしまっている。この30年連邦政府は何もしなかったのが原因だ。いや、行った事といえば、私腹を肥やす連中を増やしたと言う事だろう」

 

「クロスボーン・バンガードとは?」

 

「ブッホ・コンツェルンの私設軍隊だよ。前々から連邦軍に警告はしていたのだが、連邦は動かなかった。ついには総帥のマイッツアー・ロナがコスモ貴族主義を掲げ、つい半月前に新サイド4 フロンティア・サイドにコスモ・バビロニアなる国を建国した。スペース・アークはそこから逃れる途中で、君に助けられた。新サイド4は完全に抑えられ、月のグラナダは落ちた。他のサイドも追従し、傘下に入るか、連邦から独立し、同盟を結ぶ動きまである」

 

「一年戦争の再来か……」

 

「一年戦争時との大きな違いは、経済は完全に宇宙で回っていると言う事だ。産業、資源や食料、人口全てがだ。宇宙は既に地球無しで回っているのだよ。連邦の連中はそれでも地球に固執し、自らの首を絞め続け、結果がこれだ」

 

「………連邦宇宙軍は何をしていたんですか?」

 

「連中の鼻薬で、骨抜きにされている。それだけじゃない。モビルスーツの性能差も明らかだ。アナハイムの連中がのらりくらりと自己の金儲けだけに力を入れた結果でもある。連中は今回もコスモ・バビロニアと地球連邦ともに兵器を売りさばくつもりだ」

 

「連邦はまだ、アナハイムをのさばらせているのか。アナハイムはコスモ・バビロニアにもモビルスーツの提供を……」

 

「いや、コスモ・バビロニアの前身であるブッホ・コンツェルンは独自に小型モビルスーツの開発を成功させた。元々はアナハイムの下請けで兵器の部品なども作っていたのだが、20年ほど前に本格的に自社開発を行ったようだ」

 

「よく連邦が許したものだ。それ程腐ってると言う事か……」

 

「そうだ。民生品として売り出す名目で許可を取り今に至る。我々(サナリィ)の技術も流用されている事は見るからにわかる。モビルスーツ開発技術力は今ではアナハイムよりも上だろう。部品などはアナハイムから今も多量に供給を受けているだろうが………」

 

「ネオ・ジオンを、シャアを止めたとしても……無駄だったと言う事なのか………」

 

「……………いや、30年間は大きな戦いは無かった」

 

「宙域にジェガンタイプの残骸が何体も見えた。連邦はモビルスーツに対し何もしてこなかったのですか?」

アムロは新サイド4 フロンティア・サイド宙域までYF-5を飛ばせた際、ジェガンタイプの残骸や放置された物を多数目の当たりにしていたのだ。

初期生産されてから35年経った今も、その形状をほとんど変えることなく。

 

「いいや、ここ最近漸く、小型モビルスーツにシフトしつつあった。ここサナリィはアナハイムから独立した連邦のモビルスーツ研究開発機関を担い、30年前から小型モビルスーツの開発研究を行っている。技術力では既にモビルスーツ小型化を渋るアナハイムを上回っている事は間違いない。但し、生産力は乏しく、結局アナハイムに外部生産を委託してる状況だ。これも連邦のお偉方がアナハイムとは結び付きが強いからだろう。自らの首を絞める結果は目に見えているのにだ」

 

「では、あのスペース・アークに搭載されていた小型のガンダムタイプは……」

 

「ああ、私の主導下で開発した現段階ではサナリィ最高峰のモビルスーツ F91だ。まだ試験運用段階ではあるが。あれはニュータイプが搭乗することにより、最大のパフォーマンスを発揮するように設計されている。今は開発封印処置を施されたサイコフレームをこっそりコクピット周りに埋め込んでいるのだよ。そう……私はこの暗雲としたこの世の中を切り開く、君のようなパイロットが生まれる事を望んで……私は君が乗り戦う姿を想像しながら、このF91を設計したのだよ」

 

「……ジョブさん」

 

「あの12機のコスモ・バビロニアのモビルスーツを打ち倒す映像データを見て、私はどれだけ心躍ったか……君の再来だと思ったのだよ……だが、本人がこうして目の前に……」

ジョブの目尻にはまた涙が溜まっていた。

 

「……そういえば、ブライトはどうしてます。ブライトが居れば、こんな暴挙を許すはずが無い」

アムロは一抹の不安を抱えながらジョブにブライトの事を聞く。

もしかすると、あのシャアとのアクシズの攻防戦で、ブライトも命を落としている可能性があるからだ。

 

「ブライトさんは……18年前に軍を辞めてしまった」

 

「……やめた…なぜです?」

ジョブのその答えにホッとすると同時に、あのブライトがそんなに早く軍を辞める事に訝し気に感じた。連邦軍のやり様にいいかげん嫌気を差したという可能性はあるが……

 

「………あの人にとって耐えがたい事件があった。……今はこの隣のフォンブラウンで静かに暮らしている」

 

「ブライトに何が?」

 

「………アムロ、これからどうするつもりかい?」

ジョブはアムロの質問をはぐらかし、逆に今後の事を聞く。

 

 

「ジョブさん……その前に俺の話も聞いてもらえますか?」

 

「平行世界の話だったか、実に興味深い」

先ほどまで暗い話で陰鬱とした雰囲気だったが、アムロがそう切り出すとジョブは少年のように目を輝かせていた。

 

アムロは平行世界に転移してから、今に至るまでの大まかな話をジョブに聞かせる。

「銀河の覇権を賭けた星間戦争に異星人、しかも巨人族。500万の艦隊に、地球潰滅。異星人との共存。外宇宙に向け第2の故郷を探す旅……あまりにもスケールが大きすぎる。にわかに信じられないが、今こうして若いアムロと話している現状を見れば、真実なのだろう。だが我々の地球圏では未だ人同士の諍いが絶えない現状は余りにも情けない」

 

「俺は向こうの世界で骨を埋めるつもりでした。いや、今も埋めるつもりです。火星圏に一緒に転移してしまった船団を残し、本当に元居た宇宙世紀の時代に転移してしまったのか、確かめるためにここに来ました」

 

「アムロ………君は英雄なのだろう。向こうの世界でもこの世界でも……30年前、君はこの世界に希望の光を見せてくれた。サイコフィールドが放つ希望の光を……あの時にここでの君の役目は終わったと言う事なのだろう」

 

「………しかし、今のこの地球の現状を放っておくことも俺には……」

 

「アムロ……君には君の使命があるのだと私は思う。それはこの世界の為ではないだろう。一緒にこちらに来てしまった向こうの世界の人々には君が必要だ。この世界は君を貶めて来た、君が助ける義理は無い」

ジョブは切なそうな表情を浮かべながら、アムロにこう言い切った。

 

「ですが……」

 

「君はこのサナリィを自由に使いたまえ、情報も提供する。今迄この世界の為に力を尽くしてきてくれた君にはその権利がある。…………ブライトさんに顔を出してあげてほしい、きっと喜ぶ」

 

「わかりました………ありがとうございます」

アムロはジョブの言葉を今は素直に受けとることにした。

 

アムロがここに来た目的は既に達していた。

この世界が元居た宇宙世紀の世界の30年後の世界であることは判明し、この世界の今の情勢もここで知る事が出来るだろう。

ただ、肝心の向こうの世界に帰る手立ては今の所ない。

 

アムロはジョブから社員証を受け取り、サナリィ内での自由を許される。

さらに、サナリィ内の宿泊施設の提供とスペース・アークの護衛料をカードごとアムロに渡した。

 

アムロはYF-5に一旦戻り、未沙に通信を行う。

「未沙……俺の故郷だったよ。30年後の……」

『アムロさん帰れたのね。でも浮かない顔よ』

「ああ」

『YF-5のデータをライブ通信で確認したわ……戦闘になったのね』

「ああ、未だ人々が争っていた……」

『アムロさん……』

「未沙……俺は……」

『一度地球に行って空気を吸って来てください。青い地球があるのだから、私や子供たちにも地球の様子を映像で見せてください』

「………」

『アムロさんはちょっと我がままになってもいいと思うわ』

「未沙、ありがとう」

アムロは未沙のその言葉に心を落ち着かせることが出来た。

 

 

アムロはジョブの言葉と未沙の言葉を心に留め、サナリィ内の宿泊施設へと……。

アムロは早速、サナリィの社内ネットワークを使い、ライブラリー検索を行う。

ここ30年の出来事を自らの目で確かめる。

(やはり、シャアはあの時に死んだとみていいだろう……。しかし、俺がこうやって生きている。もしやという事も無きにしも非ずか………)

アムロは第二次ネオ・ジオン抗争と呼ばれるシャアとの戦いを調べていた。

サナリィは元々戦術研究を行っていた機関だけあって、この抗争について細部にわたって調べ上げていた。

(サイコフレームのオーバーロードによるサイコフィールド……それが地球に落下するアクシズを押し戻したと……あの時感じた力はたしかにこれだろう)

(……ラー・カイラムは無事だったが、戦死者はかなり出たようだ。あの時感じたチェーンの存在は……やはり……)

ラー・カイラムに戦友も多く乗艦していた。嘗て、恋人未満だった関係のチェーン・アギの事を調べるが……MIA(戦時行方不明兵)扱いになっていたことが判明する。

アムロは静かに目を瞑り、既にこの世にいないだろう彼女の魂に思いを馳せる。

 

アムロはラプラス事変などの事件も目を通し、そして、マフティー動乱に目を向ける。

そこには信じがたい内容が書かれていた。

連邦高官の粛清をモビルスーツを使って行っていたマフティー・ナビーユ・エリンのリーダーが、ブライトの息子ハサウェイ・ノアだと言うのだ。

しかも、捕えられたハサウェイの処刑を行ったのがブライト・ノアと……。

 

アムロは背中に冷たいものを感じる。

ジョブが言い淀んでいたのはこういう理由からだった。

「ブライトに……ブライトに会わなければ………」

 

 

アムロは翌日、ジョブに面会しフォンブラウンに行く事を告げる。

元々潜入用に用意していた私服に着替える。どうやら宇宙世紀のこの時代にも十分通じるファッションの様だ。

道中、なんとなしにサングラスを購入し……ジョブに教えてもらったブライトの家へ向かう。

 

 

閑静な住宅街の一角にブライトの家はあった。

アムロは電動自動タクシーを降り、ブライトの家に近づく。

庭先には、見覚えのある女性が花壇の世話をしていた。

アムロのイメージからは幾分か年を重ねていたが間違いないだろう。

 

「ミライさんかい?」

アムロは女性の後ろからサングラスを外しながら声をかける。

 

「………え?…………うそ……アムロ?……いえ、そんなはずは………」

ミライは振り返り、声を掛けたアムロの顔を見上げ、その顔を見つめながら驚きの声を上げ立ち上がり、両手で口元を抑える。

 

「ミライさん……アムロです」

 

「………そ、そんな、でも………あなた!あなたっ!ここにアムロが!」

ミライは困惑した表情をしながらも、家に向かって叫ぶ。

 

「なんだ?ミライ騒々しい……アムロだと、冗談も休み休みにしてくれ………!?」

そう言いながら、玄関から出てきたのは、頭髪には白いものが目立ち、鼻下に髭を生やしたブライトだった。

玄関先に立っているアムロを見て、目を見開き持っていた剪定鋏を地面に落とす。

 

「あなたっ!……」

ミライはブライトに駆け寄り、アムロの方に振り向き指さす。その表情にはまるで幽霊を見ているかのように………。

それもそのはず、死んだと思っていた人物が、その当時の姿のまま現れたのだから。

 

「ブライト……久しぶりだな。ちょっと老け込んだか?」

アムロはブライトに声をかけ、ワザとユーモアを含んだ言葉を投げかけた。

 

「………ア…アムロなのか?……いや、しかし」

 

「ああ、アムロだ。30年ぶりになるのか、長らく待たせた」

 

「あ、アムロっ!……生きていたんだな……アムロ!」

ブライトはアムロに近づき、彼には珍しく、酷く興奮したようにアムロに抱き着いた。

 

「ああ、俺はこうして生きてる。すまなかった」

暫く、2人は抱き合っていた。

ブライトにとって30年ぶり、アムロにとっては7年ぶりの再会だった。

 

落ち着いたところで、アムロは家に上がり、アンティーク調のダイニングテーブルの席に座る様に促される。

「アムロ、飲み物は何がいいかしら?」

「コーヒーで」

「さっきは取り乱してしまってごめんなさいね」

「いや無理もない」

ミライはキッチンへと入る。

 

対面に座るブライトは未だ興奮が冷めない様子でアムロに訪ねる。

「アムロ……今の今迄どこに行っていたんだ。それにあの当時のままだ」

「いや、俺も幾分か年をとった。ブライトほどじゃないが」

「お前が死んだと思って俺がどれ程悔しんだか……」

「すまなかった。俺もシャアとの決着をつけ、νガンダムでアクシズを押し返そうとし、死を覚悟したさ」

「だが、お前は今俺の目の前にこうして生きている。当時と変わらない姿のままで、どういうことだ?」

 

ミライがコーヒーの入ったカップを3つ、それぞれの席に置き、ブライトの横に座る。

「アムロ、生きていてくれて嬉しいわ。でもどうして?」

「ブライト、ミライさん、信じられないだろうが、まずは聞いてくれ」

アムロはブライトとミライに、アクシズを押し返そうとし、死を覚悟した瞬間に、平行世界へと跳ばされたことを語り出す。

大まかな経緯と7年間平行世界で暮らし、そして、つい先日、宇宙世紀の今の時空に自分が所属する船団ごと飛ばされたと……。

 

「アムロはそれで若いままなのね。私なんてすっかりおばあちゃんよ」

ミライはアムロのその話をすんなりと受け入れていた。

 

「信じられん。この地球とよく似た世界…平行世界に飛ばされ、そこでは銀河を跨ぐ異星人達の星間戦争が繰り広げられ、それに巻き込まれた形でそっちの世界の地球人類が……地球を覆う500万の艦隊か……想像がつかんな。地球は壊滅、人類と異星人が手を取り合うか………いやはや、映画の世界だな」

 

「人類は異星人と手を取り合って、共に生きていく事を決めるなんて、素敵な話よブライト」

 

「ミライ……その話を信じられるのか?」

 

「だって、アムロが若いまま現れたのよ。こうして私達の目の前で話をしてくれてるわ」

ミライはアムロの荒唐無稽な話を信じているようだが、ブライトはまだ受け入れられていないようだ。

 

アムロは会話をしながら、おもむろに情報端末機を取り出し、立体投影映像をテーブルに浮かびあげる。

そこには、アムロと優しい笑顔を浮かべる若い女性と双子の子供が写っていた。

「俺の嫁と子供達だ」

 

「アムロお前…そうか、あのアムロが結婚して家庭を持ったのか、そうか……」

感慨深そうにそう言うブライトの目尻には涙が溜まっていた。

 

「随分若い奥さんね」

「ああ、俺が今36で、彼女は、未沙は26だ。32の時に結婚した」

「ふふふふふっ、アムロの奥さんはきっと若いけどしっかり者なのね」

「ミライさんの言う通りだ。しっかりもので、俺は彼女に助けられてばかりだ」

ミライとアムロは暫く、未沙と子供たちの事で盛り上がる。

 

「……真実なのだなアムロ。……向こうでも戦って……そして、今もこうやって戦乱のさなかのここに……」

 

「ああ、真実だ。だが俺はある種幸せだ。こうやって家庭を持てるなどとは思っていなかった。今も彼女と子供たちは俺と一緒に歩んでくれる。それに人類と異星人が手を取り合い互いに努力する姿は何とも言えない」

アムロは今の自分は幸せだとブライトとミライに告げた。

 

「そうか……」

「アムロ……」

ブライトとミライは笑みをこぼしていた。

 

アムロは、多少老け込んでしまったようだがブライトとミライが夫婦で仲良く過ごしている事にホッとする。

アムロはハサウェイの事を話題にすべきなのかと思考を巡らせるが、こちらからは触れない方が良いだろうと判断する。

2人の話から、今は年金生活をおくっているらしい。

仮にも連邦軍の艦隊の指揮官までにのし上がった人物だ。

年金も十分にあるだろう。

 

 

アムロはそのまま夕飯を馳走してもらう。

ミライが何時また会えるかとアムロに訪ね、

「また、寄らせてもらうさ。今の俺の名はレイ・ハヤセという事になってる。何かあったらここに連絡してくれ」とアムロは返答する。

先日からサナリィのジョブ・ジョンのもとで世話になってる事を告げ、ジョブに渡された携帯端末の番号を知らせ、ノア家を後にする。

 

(ブライトとミライさん……ブライトは多少老け込んでしまっていたが、仲良く暮らしていた。話の筋から娘のチェーミンは結婚して近所に住んでるようだ。孫も居るようだし大丈夫だろう)

 

 




〇ジョブさんの設定は色々あるようですが、一つ上の先輩という設定に準拠させてもらってます。ジョブさんは随分と紳士な感じで、尊敬できる先輩として魔改造。
〇F91にはサイコフレームが搭載されてる記述があったり、なかったり。
此処ではサイコフレームをコクピット周りにのみ使用してる説を採用しております。

次はシーブック達との話を書ければなと思ってます。
それと……どうやってあの化け物バルキリーが生まれるかも今後書ければと思ってます。

私事ですが、もう一作のアムロとのギャップにちょっと苦しんだかな?


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世界の情勢を知る。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

もうちょっと続く感じになりそうです。
ストーリーは作っちゃってます。
設定とかはちょっと弄ってますが、あらかたは原作設定に沿ってるとは思ってます。
映像化や小説化もされていない部分なんで、結構あやふやですが……


アムロはブライト、ミライ夫婦と再会を果たしたその日の晩、ジョブ・ジョンにあてがわれたサナリィ基地内の宿泊部屋で思いに更けていた。

 

(俺は確かにこの世界での役割を終えたと思っていた。今では向こうの世界こそが俺にとっての帰る場所だと思っている。今この世界の地球圏は俺が居た30年前よりも状況は明らかに悪化している……しかし、この世界にとって俺は既に死んだ人間だ。俺が干渉すべきではない事は理屈では理解している。だが……)

アムロは思い悩んでいた。

先日ジョブ・ジョンから聞いた現状の地球圏の概要、今日会った苦難を乗り越え穏やかに生活していたブライト夫婦を思い起こす。

 

翌日、早朝にアムロはジョブ・ジョンに呼ばれる。

丁度アムロも会おうと考えていた所だった。

 

開発室長室とプレートに名が刻まれてる部屋では、ジョブが待っていた。

「アムロ、先日君には君の使命を優先するべきだと言った手前申し訳ない。だが、君の意見を聞きたい案件が出来た」

 

「いや、こちらも世話になってます。俺が答えられる範囲なら……」

 

「早速だがこれを見て欲しい」

ジョブはそう言って、室長室の壁一面の巨大なディスプレイにとあるデータと映像を次々と見せる。

 

「これは……」

その映像にはモビルスーツを次々と倒し、小型の自動機動兵器らしきものを複数破壊し、最後には花のような巨大モビルアーマーを打倒す様が映し出されていた。

 

「そう。F91の戦闘データを編集したものだ。搭乗者はシーブック・アノー」

ジョンからその名を聞き、アムロは先日スペース・アークで会った大人しそうな少年の顔を思い浮かべる。

 

「彼は……」

 

「彼は一般人だ。フロンティアサイドのハイスクールに通うごく普通の学生だった。だが彼は、まともな訓練を受けずしてF91を乗りこなし、最大の戦果を挙げている。まるで一年戦争時の誰かを彷彿させる戦いだ」

ジョブが言う誰かとは、もちろんアムロの事だ。当時16歳だったアムロはモビルスーツの搭乗経験が無いにも関わらず、初めて乗ったガンダムで2機のザクを撃退している。

 

「これは……俺の時とは桁違いだ。既に彼はニュータイプとしての力を十分に発揮している」

アムロはシーブックの戦闘データを見て、こう評価した。

当時のアムロはニュータイプとしての能力を有していたかもしれないが、発現させてはいなかった。

 

「いやF91にはサイコフレームやサイコミュと連動させたバイオコンピュータが搭載されている。ニュータイプの能力を十分に発揮できる土壌が既にF91にはあった。一年戦争時のあの時のガンダムとはシステムやモビルスーツの性能も何もかも異なるよ。だが、君が言う様に、このデータからは明らかに彼が高いニュータイプ能力を有していることが分かる」

ジョブはサイコミュの概念が無い当時のRX-78-2 ガンダムと、ニュータイプの力を十二分に発揮できる機能を搭載しているF91では比較対象にならないと、ガンダムに乗ったばかりの当時のアムロと今のシーブックとは環境が大幅に異なるため、対比はナンセンスだと言ったのだ。

当時のRX-78-2 ガンダムにはサイコミュシステム等は一切搭載されていない。

ZガンダムやZZガンダムにはファンネル等の火器管制システムを省いた簡易サイコミュシステムであるバイオセンサーが搭載され、ニュータイプ能力を発揮する土壌はあった。

νガンダムやユニコーンガンダムにはサイコフレームが搭載され、フルサイコフレームのユニコーンガンダムに至っては、通常ではありえない事象まで起こすに至っていた。

一年戦争当時のアムロは戦場の最中、ニュータイプ能力を徐々に高め、ジオン系のサイコミュ搭載兵器を自らの技量とニュータイプ能力のみで打ち破るに至っていた。ア・バオア・クーでの戦場に至っては、一個人でホワイト・ベースのクルー全員に未来予知と言っていい内容をテレパスで全員同時に伝えていた。

以降、アムロは大人になり、様々なしがらみにより、ニュータイプ能力を発揮することを恐れるかのように、使用すること自体を躊躇するようになる。

そして末期には、観測された中、史上最大のニュータイプ能力を発揮した事象、アクシズショックは間違いなく、サイコミュシステムを搭載したνガンダムに乗ったアムロがもたらせたものだろう。

それにジョブにとって一緒に数か月過ごし、自らの目で見て来たという贔屓目もあるだろうが、アムロは彼にとって史上最高のモビルスーツパイロットにしてニュータイプであり、英雄だったのだ。

 

 

「バイオコンピュータとは?」

アムロは聞きなれないその言葉の意味をジョブに問う。

 

「モビルスーツ管制用の教育型コンピュータのコンセプトは一緒だ。こちらはサイコミュと連動しパイロットとモビルスーツをダイレクトに意思疎通を図るシステムだ。リミッターを解除し最大化稼働時にはパイロットはモビルスーツと一体感を得られるだろう事は想定していたが、まさかリミッターを解除出来る程のニュータイプが現れるとは……彼の母親がバイオコンピュータの開発者だと言う事も関係してるのかもしれない」

そう言って、ジョブはアムロにタブレット端末を渡し、極秘であるはずのバイオコンピュータの資料をアムロに見せる。

ジョブはアムロとの比較など関係無しに、シーブック自身が高いニュータイプ能力を有している事を認めている。

 

「サイコミュと一体型の管制システムか……。なるほどこれならば、パイロットの負担を減らし、サイコミュを稼働させる事が出来ると言う事か、パイロットの能力に合わせリミッターとしての役割もある……。パイロットに調整処置を施す必要が無いということか」

 

「私はこう見えても人道派でね。強化人間否定派なのだよ。ただ乗り手を選ぶ。リミッターを限界まで解除し、最大稼働まで発揮したのは今回が初めてだ」

 

「……ジョブさん。俺の意見を聞きたいというのは?」

 

「そうだ。ニュータイプとして、いや、パイロットとして、彼をどう思うかと参考に意見を聞きたかったのだが……もう答えが出ている。君の話を聞くに合格の様だ」

 

「彼は最近まで一般人だと……彼は自らの意思でモビルスーツのパイロットになる事を?」

 

「彼はそう希望した。何がそうさせたのかは、想像に易い。彼はこの戦いで故郷を追われ、父親を亡くした」

ジョブは少々眉を顰めながら、シーブックがモビルスーツパイロットを志願したいきさつを推測し、アムロにそう語った。

 

「いや、彼からは復讐というような激しい感情を感じなかった。彼からは光のような物を感じた。……そうだジョブさん。もう一人ニュータイプが……たしか、スペースアークでシーブックと一緒にいたセシリーという少女だ」

アムロはシーブックに会った際、復讐などという負の感情は一切感じられず、希望の光のようにも感じていたのだ。それは、一緒にいたセシリーに対してもそうだった。

 

「それは本当なのか?アムロ?確かに、セシリー・フェアチャイルドは、モビルスーツを短期間で乗りこなしていたという報告を受けているが……」

ジョブはセシリーがニュータイプであることを知らなかったようだ。

そのような報告は受けていない。いや、ニュータイプという概念自体殆ど持っていないレアリーら、スペース・アークのクルーに求めるのも無理難題だろう。

シーブックについてはF91のデータを解析した結果、シーブックが高いニュータイプ能力を有していると判明したが、セシリーが搭乗していたコスモ・バビロニア側のモビルスーツ ビギナ・ギナは回収できずに、大破のまま宇宙に漂っているだろう。

実際にはクロスボーン・バンガード、現コスモ・バビロニア国軍に回収されていたのだが……。

 

「ああ、間違いない。俺は彼女からも高いニュータイプ能力を感じた」

 

「アムロが言うならそうなのだろう。だが彼女は……」

ジョブはここに来て言い淀む。

 

「何か問題でも?」

 

「彼女はコスモ・バビロニアの総帥、今や国王というべきか、マイッツァー・ロナの孫娘 ベラ・ロナだ」

 

「……どういうことですか?」

 

「これはかなりデリケートな問題だ。今の所この事実はサナリィでも一部の人間しか知らない。……レアリー君から報告を受け、セシリー君自身にも直接話を聞いたのだが、彼女は元々シーブック君と同じ高校に通っていた。彼女の母親は幼い彼女を連れロナ家を出て、彼女を育てた。だが、マイッツァーは建国に当たって彼女をロナ家へと連れ戻した。コスモ・バビロニア建国式典の映像にも一族の人間として確かに彼女は映っていた。だが、彼女はコスモ・バビロニアを抜け、再びセシリー・フェアチャイルドとして、現地レジスタンスやスペース・アークに協力したとの事だ」

セシリーはカロッゾ・ロナ(鉄仮面)とマイッツァーの娘 ナディア・ロナとの子で、本名はベラ・ロナだった。

だがセシリーが4歳の頃、貴族主義に反感を持っていた母 ナディアはセシリーを連れて家を出、シオ・フェアチャイルドと駆け落ちをしフロンティアⅣに居住してきたのだ。ナディアとシオの元、パン屋の娘として17歳まで育てられてきた。

コスモ・バビロニアの建国に当たって、総統 マイッツァーは自分の血筋を持つセシリーを連れ戻し、その美貌と共に国のアイドル的な役割を期待し、王女に据えたのだ。

セシリー自身は貴族主義を容認したわけでもなく、大人の都合と時代の流れに翻弄され、さらに友人であるシーブックが自分をロナ家へと連れ戻すために寄越した部隊によって目の前で死んでしまったと思い、自分がロナ家に戻らなければ、さらに自分の親しい人たちが被害に遭うと、諦め、祖父 マイッツァーに従っていたのだ。

だが、シーブックは生きていた。

ベラ・ロナとなったセシリーはコスモ・バビロニアのプロパガンダの一環として、モビルスーツ ビギナ・ギナを駆り戦場に出ていたのだが、偶然にもF91に乗るシーブックと再会を果たしたのだ。

セシリーはシーブックの説得の元、再びロナ家を抜け、ベラ・ロナからセシリー・フェアチャイルドに戻ったのだった。

そして、人々の抹殺を図る悪意の権化にへと変貌してしまった実父、鉄仮面 カロッゾ・ロナとシーブックと共に対決し決着をつけ、今に至っている。

 

このような経緯がセシリーに有り、ジョブはレアリーからの報告を受けた後、直ぐにセシリーについて箝口令を敷き、情報漏洩を防ぐ手立てを行った。

もし、連邦軍にこの事が知れ渡れば、セシリーを引き渡すように要求されるだろう事は火を見るよりも明らかだった。

連邦に引き渡されたセシリーの末路は分かり切っている。

人質として政治利用される彼女には過酷な運命が待っているだろうと。

ジョブにとって望ましいものでは無い。

セシリーは現状、サナリィ、いや、ジョブの元で保護されていると言って間違いないだろう。

 

「ジョブさん彼女を……」

 

「連邦に引き渡すつもりはない。だが、彼女をどうすべきかは、図りかねている」

ジョブはそう強く断言するが、手を顎にやり、思案に暮れるような表情をしていた。

その答えに、アムロは内心ホッとするとともに、ジョブに対してますます好感を持ったのは言うまでもない。

 

「………ジョブさん、俺をシーブックとセシリーに会わせてくれないか」

 

「どういう事だアムロ?……いや、元々私は君にシーブック君にアドバイスをあげて欲しいとは思っていた。君の経験から出る言葉は彼にとって何よりの金言になるだろうと」

 

「俺は会って、話してみたいと思ったまでです。俺のアドバイスが参考になるかは分からないが、それは話しておきますよ」

シーブックにセシリー、あの若者達に会い、何かを伝えなければと漠然と思っていた。

 

「わかった。そのように直ぐに手配しよう。それと、君も私に話があるのだったな」

 

「はい、今の地球圏の情勢を詳しく知りたいと……」

 

「私が言うのもおかしな話だが……現在の地球圏に関わるつもりなのかね」

 

「わかりません。ですがここは俺の故郷であることは間違いありません」

アムロには確かにこの世界に干渉していいものか迷いがある。だが、何か出来る事はないかという思いも強く持っていたのだ。

 

「わかった。こちらが把握してる事を全て話そう。サナリィは戦略研究を得意としている。連邦のどこよりも正確性の高い情報を持ってると自負しているのだよ」

サナリィは海軍戦略研究所の名前の由来通り、軍略に関するアドバイスを連邦軍に行って来た機関だ。元々はコロニー公社と結び付きの強い民間企業だったが、連邦軍に買収され半官半民の立場で現在に至る。

さらに、正式に現在のモビルスーツ開発研究を開始したのは、奇しくもアムロとシャアが対決した第二次ネオ・ジオン抗争の半年後となる。

 

 

ジョブは語りだす。

現在、地球連邦軍はほぼアナハイムからモビルスーツの供給を受けている状態だ。

所有モビルスーツを含む機動兵器の数は凡そ5400機、艦船は約800隻。

これは連邦軍が一年戦争後からグリプス戦役までに所有していた戦力とほぼ同じだ。

だがこれでも、時代と共に軍縮の流れにより一時期に比べ、数を減らしている。

そして、コスモ・バビロニアが所有する戦力はアナハイムの動向や先の戦い、過去の動きを見て、多く見積もってこの時点で、凡そモビルスーツ700機、艦船は80隻だろうと推測していた。これは嘗て第一次ネオ・ジオン抗争時にアクシズ(ネオ・ジオン)及びジオン残党軍が所有していた戦力よりも明らかに多い。

因みに第二次ネオ・ジオン抗争時に、シャア率いる新生ネオ・ジオンの戦力は艦船14隻、モビルスーツ及びモビルアーマー合計86機という連邦の一師団程度の寡兵だった。

更に一年戦争開戦時のルウム戦役でのジオンの戦力は艦船158隻(+補給艦240隻)モビルスーツは約3000機だったと。

対する連邦は艦船565隻(+補給艦1280隻)と戦闘機多数。モビルスーツは存在しない。

 

 

コスモ・バビロニアと連邦軍との単純な総戦力差は7~8倍の差がある。

だが、連邦軍は5400機の内、90%以上が旧式のジェガンからなるモビルスーツであった。

コスモ・バビロニア側の最新鋭の小型モビルスーツの性能は既に、ジェガンを圧倒的に凌駕していることが実証済みだ。

単純な数での戦力差では既に測れない状態だ。

 

マイッツァーは下準備を水面下で30年以上前から行っていたとサナリィは見ている。

26年前にマイッツァーが関わっただろう私設モビルスーツ部隊の動きを把握したのを皮切りに、コスモ・バビロニアの前身でもあるブッホ・コンツェルンは幾度となく、モビルスーツのテストを行いつつ、軍備の拡大を行い、ついには私設軍隊クロスボーン・バンガードを設立させたのだ。

だがサナリィは、ブッホ・コンツェルンによるモビルスーツの本格量産体制が整ったのはこの5~6年だろうと見ていた。

 

 

余談だが、メガロード01率いる第一次移民船団の機動兵器は地球連邦の所有してる全モビルスーツの数よりも多い。

メガロード01のバルキリー及びデストロイド搭載数は凡そ800機。

10隻の護衛艦隊に搭載されたバルキリー及びゼントラン系機動兵器は合計で9000機と、既に地球全体のモビルスーツの数を上回っていた。

艦船こそ少ないが、護衛艦はゼントラーディ製を改良したものが主で4000m級戦艦1隻、3000m級戦艦1隻、3000m級強襲揚陸艦を改造した空母艦が2隻、2000m級戦艦2隻、中型砲艦1500m級3隻、補給艦2隻。護衛艦隊の数にカウントされていないが、地球製のアームド級空母艦2隻がメガロード01に常時接合されている。

 

これ程の戦力をもってしても、ゼントラーディの分岐艦隊には及ばない。

ゼントラーディの分岐艦隊は凡そ2000~4000の艦船からなり、機動兵器に至っては20万を余裕で超えているのだ。

開戦当時はこの1分岐艦隊に、当初の地球統合軍は手も足も出なかったのだ。

 

さらにその上位組織である基幹艦隊に至っては、500万~600万の艦船に、さらに1400㎞級超巨大空母を擁している。

これらの集中攻撃により、地球は死の星へと変貌を遂げる事となった。

 

本来なら、数の上でメガロード01の船団はゼントラーディの分岐艦隊に劣っているが、兵器の性能がゼントラーディに比べかなり向上しているのと、バルキリー隊の練度、さらに此処にはアムロが居るのだ。

寡兵と侮って、攻撃を加えれば痛い目にあうのはどちらかというのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

 

話は戻すが、コスモ・バビロニア建国前、新サイド4 フロンティア・サイドの掌握する際にクロスボーン・バンガードの親衛隊のみで敢行されていた。

住民やコロニーや施設になるべく被害が出ないように配慮して動いていた。

新サイド4内での物損、人的被害は駐留連邦軍部隊が拡大していたと言っていい。

コロニー内でビームライフルやミサイルなどの爆破を伴う兵器を躊躇せずに使用する連邦駐留軍。

一方、クロスボーン・バンガードの親衛隊は、実弾とショットランサーのみで対応しようとしていた。

守るべきコロニー内の人々の被害を拡大する連邦駐留軍に対して、マイッツァーが呆れたのは言うまでもない。

 

 

クロスボーン・バンガードは新サイド4 フロンティア・サイドを掌握に乗り出すと同時に、月のグラナダとルナツー及び資源衛星の幾つかを占拠している。

ルナツーに向かわせた部隊がクロスボーン・バンガードの鉄仮面 カロッゾ・ロナ率いる本隊だった。

ルナツーの連邦軍艦隊はほぼ潰滅。一方コスモ・バビロニアのクロスボーン・バンガード軍は被害は5%も満たない。

電撃襲撃というのもあるが、ルナツーの駐留艦隊が一番薄いタイミングを狙っていた。

既に、連邦の動きは筒抜けであったようだ。

 

その他のサイドには手を出さないのは、マイッツァーの意思、コスモ貴族主義に則った行動でもあった。

マイッツァーは先ずは、コスモ・バビロニアを建国し、宇宙に知らしめ、その他のサイドに連邦からの独立やコスモ・バビロニアへの追従を促そうとしたのだ。

一年戦争時のジオンとは明らかに異なり、脅しによる宇宙統治を望んでいない。

理想の国家建立と経済での宇宙統治を望んでいた。

最終的な目標は連邦の解体ではある。

これはある意味、サイド3のモナハン・バハロが構想していたサイド共栄圏に近い。

いや、参考にしたのかもしれない。

 

 

因みにフロンティア・サイドを占拠・掌握し、コスモ・バビロニア建国後、レジスタンスの抵抗を沈下させるため。

レジスタンスが潜むコロニーに対して、鉄仮面はフロンティア・サイドの幾つかのコロニーで殺戮マシーン バグを使い、レジスタンスごと住人を虐殺したが、マイッツァーの意思ではない。明らかに鉄仮面率いる一部の艦隊が暴走したに過ぎない。

この事はコスモ・バビロニアに大きな傷をつける結果になるのだが……。

 

 

 

「マイッツァー・ロナはかなり切れる男の上に、この時の為に慎重に下準備を行ってきたのだろう。ルナツーとグラナダを占拠されれば、連邦宇宙軍は動きにくい。ルナツーと月の拠点であるグラナダを失ったとしても連邦宇宙軍の4分の3は無傷で健在だ。だが現在各サイドは連邦を煙たがっているため、宇宙における拠点をほぼ失ったに等しい。サイド7ぐらいだろう」

 

「アナハイムや他の月面都市は?」

 

「アナハイムか……あそこは連邦宇宙軍が駐留しているのは間違いないが、あの駐留軍はほぼ、アナハイム・エレクトロニクスの私設軍隊と化している。連邦の為に動かないだろう。アナハイムは今回の抗争……いや、既に戦争か。戦争が長引けば長引く程、金儲けが出来る。アナハイムは連邦のモビルスーツの生産を一手に担い、コスモ・バビロニアに部品を多量に供給している自分たちが軍事バランスをコントロールできると踏んでいるだろう」

 

「………そこまでに」

アムロはその次の言葉をあえて発しなかった。

アナハイムを野放しにして来た連邦の無能さと、腐り具合に。

 

「連邦軍が総力戦を行えば、流石に物量で押し切るだろう。一年戦争時のルウム戦役のように連邦は敗退しない。物量差はあの時よりもさらに上であり、旧型が多いとは言えモビルスーツというカテゴリーの戦力は十分に有している。だが、直ぐには動けないだろう。

各サイドにも連邦宇宙軍が駐留しているが……。うまく機能していない」

 

「…………」

 

「予想だが、コスモ・バビロニアは各サイドの連邦の駐留軍を叩く名目で侵攻する恐れがある。各サイドの占拠ではなく、飽くまでも駐留軍を打倒する名目だ。連邦駐留軍が居なくなったサイドは独立、又は追従状態になれば、コスモ・バビロニアにとって占拠するよりも意味が大きい。ジオンは少ない人員で戦線を拡大したがために膠着状態に陥り、身動きが出来なくなった。ならば、最初から占拠せず、連邦からの独立を促すだけで連邦の動きを止める事が出来、自分たちの軍隊を効率よく動かせる。ジオンの失敗と同じ轍を踏まないだろう」

一年戦争時のジオンの戦略について、軍事評論家や連邦軍、サナリィも盛んに研究していた。

もちろん、マイッツァーらも研究していただろう。

 

「…………」

 

「コスモ・バビロニア建国から、ルナツーもグラナダに駐留させている軍にも動きが無い。内部掌握を確実にするためだろう。長期戦を視野に入れている可能性が高い。無理に地球を占拠するつもりはないだろう。今や経済圏の中枢は宇宙にある。じっくりと連邦の力を削ぐつもりなのかもしれない。数年、いや10年20年と……」

 

「………ジョブさん。コスモ・バビロニアという国が、連邦を倒せば、地球圏には明るい未来はあるのだろうか?」

アムロは暫く黙って、ジョブの話を聞いていたが、此処でこんな事を聞いた。

自らの経験とジョブの話から、連邦という組織が、この先地球圏に明るい未来を築いていけるとはとても思えなかった。

だから、こんな質問をしたのだ。

 

「……それは、わからない。コスモ・バビロニア宣言を見るに、貴族社会を基本とした社会を構築するつもりの様だ。それが実現した際、明るい未来になるものなのかは、未来の歴史家が判断する事だろう。ただ、万人が受け入れる事は難しい。貴族社会中心の中世ヨーロッパは瓦解し、民主主義へと移行してきた歴史が物語ってるようには思う。だが今の連邦がどうかというと……」

ジョブは最後には言い淀んでいた。このまま連邦が続いたとしても、とても良い未来とは言えないと感じているからだ。

 

「………俺は」

アムロは苦しそうな表情を浮かべていた。

ある記憶を脳裏に浮かべていた。

それは第二次ネオ・ジオン抗争時のシャアとのやり取りだった。

シャアは隕石を落とし、地球を人が住めない地にしようとした。

それは地球を私物化する連中をのさばらせないという強い意志の表れでもあった。

地球に人が縛られるからだと……

シャアは連邦の腐敗ぶりに絶望し、徹底的に叩くつもりだったのだ。

 

アムロはアクシズ落下を阻止し、シャアを止めた。

その結果、連邦の腐敗ぶりは拍車がかかり……マフティーの動乱を招き、そして、今の状況を産んでしまったのではないかと……。

シャアのやり方については許せるものでは無かった。

だが、それでも今の現状は見るに堪えるものでは無かったのだ。

 

「アムロ………」

 

「ジョブさん。サナリィはどういう立場に。連邦の外郭団体とお聞きしましたが」

 

「今の所、フォンブラウンの連邦宇宙軍駐留艦隊からは、防衛に専念しろとだけ通達があったが、サナリィは連邦の要請に従わざるを得ないだろう。出来る事と言えば多くはない。モビルスーツの生産設備はあるが、月単位で10が限界だ。ほぼ試作機か既存機の改良をメインに行っていると言っていいだろう。それらの提供とテストパイロット、テスト艦が3隻と開発中の新型艦船1隻の提供だろう。その前に懸念もある。コスモ・バビロニアが、ここもターゲットにする可能性が在ると言う事だ。ここはモビルスーツ開発の最新鋭研究所だ。それと……アナハイムが手を出してくると言う事も考えられる。今しばらくは動きは無いようだが、何れにしろここも安全ではない」

 

「…………」

 

「アムロ、君は君の使命を全うするがいい。もはや地球圏は混沌としている。何が正しいのか正解なんてものは存在しないだろう」

 

「ジョブさん……あなたは」

 

「コスモ・バビロニアが本格的にここに攻めて来れば、ひとたまりも無いだろう。防衛能力は高くない。フォンブラウンの駐留艦隊も当てにならない。だが目的は技術や設備の奪取のための占拠であって、殲滅させられることは無い。奴らにとっても欲しい情報や技術がここにはある。命は助かるだろう。だが、その前になるべく、此処の若者たちを逃したい」

苦笑気味にそう答えるジョブ。

 

「………」

ジョブのそんな言葉を聞き、アムロは声を掛ける事が出来なかった。

 

 

そんな時だ。

ジョブの元に緊急連絡が入る。

「何?……どういうことですか?……わかりました。フォンブラウンの連邦軍駐留艦隊にも通達を……非戦闘員は研究所から退避し、フォンブラウンへ。テスト艦及びテストパイロットの人員は防衛準備。こちらから手を出してはいけません」

そう言って、ジョブは通話を切る。

 

「何があったんですか?」

 

「アナハイムから艦隊の発進を確認した。艦隊を二手に分けてはいるが、進路方向からおそらく、ここだろう。………さっそくアナハイムの連中が手を出してきたということだ。予想よりも随分早い。しかもこうもあからさまにとは、連中にとって余程このサナリィが目障りなのだろう。大方サナリィがコスモ・バビロニアと手を組んだとでも、連邦宇宙軍に嘘の密告をしたのだろう。自分達こそ、コスモ・バビロニアと裏で手を結び、兵器を流していたと言うのにだ。となるとフォンブラウンの連邦軍駐留艦隊は救援要請を行ったところで無駄だろう」

連邦の兵器開発生産を長きに渡って担ってきたアナハイムは、15年前サナリィに新世代型モビルスーツ開発のコンペに負け、連邦のモビルスーツの設計開発権利をサナリィに奪われた形になった。それをかなり恨んでいるだろう事は明らかだ。

連邦への癒着体質が招いた怠慢だったのは間違いないだろうが、当時はモビルスーツの性能差があろうとも、負けるとは全く思っていなかっただろう。

それでも、連邦の裏側から手をまわして、外部委託という形態でサナリィが開発した量産機の生産だけは行えるように根回しは行ったようだ。

それ以降、サナリィに対して、ハッキングや嫌がらせを常駐的に行って来た。

F90やF91のデータを非合法な手段で奪取し、そっくりなモビルスーツをこっそり作り出している。だが、それはあくまでもハードの部分だけであって、肝心なバイオコンピュータ等は再現出来なかった。

また、コスモ・バビロニアのブッホ・コンツェルンからも過剰部品供給を行う代わりにこっそり技術提供を受けていた。

 

「……そこまで」

アムロはその後の言葉を出せなかった。そこまで腐っているのかと。

サナリィは半官半民とはいえ正式な連邦の外郭団体であり、連邦のモビルスーツ開発を任された機関だ。それを民間企業とは言え連邦の主要兵器生産を担ってきたアナハイム・エレクトロニクスが私欲の為に、これ程の行為に至ったことに………これも連邦の不甲斐なさが招いた結果なのだが。

 

 

「アナハイムは裏取引が得意なのはアムロ、身に染みて知っているだろう。奴らはアナハイムの駐留軍と共にこっちに向かってる。艦隊数12、一個師団とは随分と大仰な事だ……2時間半後には射程内だ。こちらが現在出せる艦は旧式のテスト艦2隻、新造戦艦が未完だが1隻、動くことは出来る程度だ。モビルスーツは新旧試作機・改装機合わせて42の内、現在まともに動くのは20機程度だろう。しかもベテランパイロットやベテラン乗員は先の戦いで亡くし、不足している」

 

「俺も出ます……」

 

「こんなくだらない事に君は付き合う必要はない。新造艦と幾つかの開発中のモビルスーツや若者や技術開発者を逃がし……サナリィは降伏する。それまでの時間稼ぎをするだけだ。奴らには適当な技術だけを提供し、最新技術は渡さんよ。特にバイオコンピュータやF91…開発中のF92とF93の設計図だけはな……。逃がす新造艦は捕えられる可能性がある。無事に脱出できる保証はない。アムロ、最新の開発データを君に渡す。君ならば間違いなく奴らの手から逃れられるだろう」

 

「ジョブさん………いいえ、俺はここを、守りますよ」

 

「いいや、奴らは抵抗し追い詰めれば、フォンブラウンを盾にするかもしれない。フォンブラウンの駐留艦隊をも抱き込んでいる可能性が高い。何れにしろ降伏しかないのだよ。そうなれば全てが水の泡だ」

 

「くっ……」

 

「アムロ……一つ頼まれてくれないか。逃がす新造戦艦の護衛を頼みたい……」

 

「………ジョブさん」

 

「頼む」

 

「……わかりました」

 

「ありがとうアムロ」

ジョブはどこかホッとした表情をし、両手でアムロの手を掴み、強く握手をする。

 

 

アムロは、ジョブの室長室から出てから、躊躇しながらもある人物に電話をしていた。

 

 

そして………、脱出劇が始まる。

 




次回は戦闘シーンがありますね。
さて、何処に逃げれば……
次回、あの人が出るかも。


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月からの撤退

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回はちょぴっり戦闘あり。
無双じゃないかな?
文はちょっと長めです。


サナリィが独自に開発竣工したサナリィ初の艦船、モノケロース(一角獣)級大型戦艦は、少々横幅は細身ではあるがアーガマ級やアイリッシュ級を彷彿させる外観をしていた。

大型戦艦と銘打っているだけあって全長510mとラー・カイラム級より少し大きい。しかも、艦内容積量はラーカイラムの2倍以上ある。

特徴としては推進力はラー・カイラム級の1.27倍、火力は主砲の威力は殆ど同じだが、多彩な武装があるため総合的には高くなっていた。

左右対称の大型カタパルトデッキが上下に存在し、宇宙空間では最大4か所からのモビルスーツ射出が可能となっている。上下のカタパルトデッキに挟まれる形で格納庫が存在し、モビルスーツ積載能力は非常に高く、最大18機モビルスーツが搭載可能。

左右の大型カタパルトデッキの間にハイパー・メガ粒子砲が装備されている。

そして、この艦最大の特徴は、初の高出力I・フィールド搭載艦である事だ。

そもそも連邦宇宙軍がサナリィに連邦宇宙軍の旗艦として発注した新規設計の新造戦艦であった。

 

 

 

月面都市 フォンブラウン近郊にあるサナリィ月面本部基地に、月面都市アナハイムから連邦宇宙軍のアナハイム駐留軍艦隊が12隻一個師団が二方向から迫っていた。

裏ではアナハイム・エレクトロニクスが一枚噛んでおり、恐らくはサナリィの占拠が目的だろう。

アナハイム・エレクトロニクスは新世代型モビルスーツのコンペに負け、技術力でサナリィに追い越されたとあって、サナリィは目の上のたんこぶどころではない存在だ。

サナリィを潰し、さらに技術も盗用吸収出来れば一石二鳥どころの利益ではない。

 

一個師団相手にサナリィ月面本部基地の防衛力ではとても抵抗できるものではない。

しかも、なまじ抵抗出来たとしても、フォンブラウンを盾にされる可能性があるのだ。

アムロはジョブにこの新造戦艦 モノケロースの月からの脱出を頼まれる。

モノケロースには技術漏洩に繋がるF91を始めとする試作モビルスーツや改良型モビルスーツを詰め込み、前途のある若いモビルスーツパイロットや乗組員を乗せる事になっている。

そして、サナリィ月面本部基地は、モノケロースが月からの無事脱出を見届けた段階で降伏する段取りとなっていた。

 

余談だが、サナリィ所属の軍人は名目上連邦宇宙軍の出向扱いにはなっているが、研究施設の機密性保持のため、実質サナリィ直属の軍人という待遇だ。

そのせいか、連邦大学や士官学校からサナリィに送られてくる軍人は女性が多いのも特徴である。

特に連邦宇宙軍は閉鎖的な風潮があり、指揮官によっては女性を拒否する艦や艦隊もある位だ。女性士官候補は優秀な人材だろうと特にコロニー出身者の女性は、連邦宇宙軍にとって窓際部署もいい所のサナリィのような外郭機関などに送られることが多いのだ。

同じように、テストパイロットも問題を起こしたパイロットが送られるケースも多々ある。

 

 

 

 

アムロは早速モノケロースの連絡小型艇用の格納庫にYF-5に着艦させる。

モビルスーツ用のカタパルトデッキ及び格納庫とは場所は異なり、連絡小型艇用の小さな格納庫が艦中央の左右下部に存在し、その右部を専用に使わせてもらう事になった。

 

アムロはその後、モノケロースの発令所ブリッジへと上がり、ブリッジで忙しなく指示をだしているスペース・アークからそのままモノケロースの艦長代理に任命されたレアリー・エドベリ中尉に挨拶をする。

 

「レアリー艦長、また世話になる」

 

「こちらこそ、こんな事態でハヤセさんに防衛に回っていただき、これほど心強い事はありません。私は引き続きこの新造戦艦の艦長代理の任を任されました。しかし、先の戦いでは上官が亡くなられ、私が便宜上引き継いだだけで、経験も浅く若輩者です。室長からはハヤセさんは佐官待遇でとお聞きしております。なにとぞよろしくお願いいたします」

レアリーは先の戦いでは、スペース・アークの指揮を毅然と行っていたが、現在22歳。士官学校を卒業して1年も経っておらず、艦の全体の指揮も先の戦いが初めてだったのだ。

突然の指揮の移譲に、変化著しい先の戦場で柔軟に艦の運営を行っていたことから、優秀な士官であることが伺える。

 

「よろしく。だが俺は艦の扱いには疎い」

 

「いえ、その件に関しては室長のお知り合いでもあり、ハヤセさんとも面識がある方で歴戦の艦長がオブザーバーとして乗艦していただけるとか……」

 

丁度その時、年老いたと言えども歴戦の戦士の風格を漂わす人物が、乗組員に案内され発令所ブリッジに入ってきた。

「この程、オブザーバーを引き受けた元連邦宇宙軍大佐 ブライト・ノアです。よろしく」

その人物とはブライトだった。だが、現役の頃の尖った居丈高さは鳴りを潜め、その場にいたブリッジ要員に敬礼し丁寧に挨拶を行った。

そう、アムロがブライトに電話をし、躊躇しながらもこの新造戦艦に乗り込んでもらえるように頼んだのだ。

先のスペース・アークを見るに、レアリーはよくやっていたが、経験値の高い軍人がほぼ居ない様子だった。

それに、アムロはブライトに会いに行った際、確かにミライと幸せに余生を過ごしているように見えたが、それと同時に、ブライトの中にまだ何かが燻ぶったような感情が見受けられたのだ。

ブライトはアムロからある程度の事情を聞いた後、ミライの顔色を伺うも、引き受けると直ぐに返答した。

電話でそう返事をしたブライトの顔は若返ったように見えたとか。

その代わり、ミライも乗艦させるという条件が付いたのだが……。

 

ブライト・ノアの名を聞いて誰もが作業を止め、敬礼するブライトに注目し、しばらくして皆慌てたように敬礼を返していく。

「……ブ、ブライト・ノア大佐?あの……連邦宇宙軍最強と名高いロンド・ベルの……失礼いたしました。艦長代理という立場ではありますが、本艦を預からせていただきますサナリィ所属レアリー・エドベリ中尉です。お会い出来て光栄ですブライト・ノア艦長」

レアリーもジョブからブライトの名前までは聞いていなかったようだ。

これは連絡ミスなのか、ジョブのちょっとした悪戯心だったのかは分からない。

 

「艦長は飽くまでも君だ。私は横に座っているだけのつもりだ。既に引退して18年も経つロートルだが、経験だけは豊富にある。何かあれば質問してくれればいい」

ブライトは年若いレアリーに対し、昔では考えられないような一歩も二歩も下がった対応をしていた。既に引退して18年という年月が経ち、年相応に丸くなったのもあるだろう。

だが、その細い目の奥にはギラギラと光るものがあった。

 

因みにミライは第一線から離れすぎ、さらに年齢も年齢のため流石にブリッジ要員としては厳しいため、医務課の手伝いを行うことになっていた。

後程、カウンセラーのような役割を果たすようになり、ひっきりなしに男女問わず若者が押し寄せるようになるのだが……

 

アムロはそんなブライトに目配せし、ブライトもアイコンタクトで返した後、アムロはブリッジから出て、モビルスーツの格納庫へと向かう。

 

アムロは本艦のモビルスーツ隊の隊長に任命された赤髪ショートカット、活発そうな顔立ちの20代中頃の女性、サナリィ所属テストパイロット サラサ・マイル中尉に挨拶をし、打ち合わせを行う。

既にマイルはレアリーからレイ・ハヤセ(アムロ)について外部協力者の凄腕のパイロットであり、さらに佐官扱いである事が伝えられていたため、アムロの意見を素直に聞き入れる。

 

現在、格納庫には18機程のモビルスーツが運び込まれていたが、稼働できるモビルスーツは8機との事だ。

それ以外は試作開発中の物だったり、改良調整中の物だったりと、見るからに稼働できる状態ではないのもある。

 

アムロはF91のハンガー前の技術スタッフらしき若者と何やら相談しているシーブックとセシリーに声を掛ける。

「シーブックとセシリー、君らはまたモビルスーツに乗ると聞いた」

 

「はい。自分が今出来る事をやりたいんです」

「私も……同じです」

シーブックははにかみながら、セシリーは少々答え難そうにしていた。

セシリーはシーブックと同じ思いを抱いている事も確かだろうが、迷いがあった。

自分がロナ家の人間であることが心に重く圧し掛かり、セシリー自身本当にこのまま、ここでパイロットを続けていてもよいのだろうかと思い悩んでいた。

また、実父 カロッゾ・ロナとの決着も彼女の心の重しにもなっていた。

アムロはそんなセシリーの迷いを感じ取るが、今はそっとしておくことにした。

 

「そうか……、先ほどマイル中尉に話をつけた。出撃する際は、二人は俺の指示に従ってくれ」

 

「ハヤセさんも一緒に来てくれるんですか」

シーブックは屈託のない笑顔をアムロに向ける。

 

「ああ、F91はどうだ?」

 

「何とかなりそうです。流石に胴体フレームの傷の修理は今は厳しいですが、頭部や腕や足の交換などは終わってます」

 

「セシリー、君は?」

 

「私はF90の5号機Nタイプに乗るようにと」

セシリーはF91の右隣りのハンガーを指さす。

 

「これは………」

ハンガーに立つガンダムタイプを見て思わずアムロは声を漏らす。

F90は初期の1号機が宇宙世紀0112年に正式にロールアウトしてから0120年まで10号機まで作られている。

既に1~4号機と6~10号機は連邦の手に渡っており、5号機だけはサナリィに残していた。

いや、連邦に見せられなかったと言っていいだろう。

形状は異なるがF91の元となった機体であり、他のF90とはそもそものコンセプトが異なっていた。

5号機NタイプのNタイプとはニュータイプ専用試作機の事を指していたからだ。

F90シリーズにはミッションパックと呼ばれる武装装甲を運用に応じて容易に変更できるパック装備がAタイプからZタイプまで構想されていた。

但し、N(ニュータイプ専用)タイプだけは他のパーツとは異なり、F90本体自身を変更する必要があった。特にコクピット周りのサイコミュ連動装置や開発封印されているサイコフレーム、サイコミュ兵器が搭載できる外装躯体やそれに合わせた反応系設定など、他のF90とは共有できないパーツが35%近くを占めていた。

5号機開発当時はF91のようにリミッターを設けておらず、ニュータイプ専用機としてかなり尖った性能となっていため、所属するテストパイロットの誰もがまともに乗りこなす事が出来なかった機体でもあった。

その後、バイオコンピュータを取り入れ、リミッター設定等、パイロットの負担を減少させる設定を行う試験運用が試されることになり、それがのちのF91に生かされていた。

 

そして、先ほど思わずアムロが声を漏らした理由は………

5号機N(ニュータイプ専用機)タイプは、ジョブがνガンダムの形状に似せて作らせたからだ。

よく見るとフレーム形状等異なる場所も多くあるが、ガンダムの顔とνガンダムと同じ白と黒の塗装がそう見せている。

アムロが一瞬言葉に詰まり、そう見えてしまっても仕方がないだろう。

たが、バックパックには放熱板のようなフィンファンネルは取り付けられていなかった。

 

「武装を選択できると仰っていて、何にすればいいのか私には判断がつかなくて、相談していたところです」

セシリーはアムロにそう答える。

 

「……ファンネルはないのか?」

シーブックとセシリーが相談していた技術スタッフに、このνガンダムに似せられて作られた5号機を見て、アムロはつい聞いてしまう。

 

「ええっと、あなたは?」

此処はいわば機密情報が多数集まる場所だ。

技術スタッフが顔を知らないアムロに訪ねるのは当然である。

 

「俺はレイ・ハヤセ、外部協力者だ」

 

「あなたが……室長から聞いています。何かあったらあなたに相談しろと……ファンネル?………ああ、ええっと、これですか?フィンファンネルリファイン?サイコミュ兵器とありますね。Nタイプ専用……へえ、初めて見ました。どうやら動かせる者が居なくて、テストも出来ずに不適合品扱いでお蔵入りです。この艦に積み込んだ機材の中にあるとは思いますが、何せアナハイムに渡したくない試作品や開発途上の兵器や、はたまたこのような不適合品などは数多くありますから、とりあえず、この艦に急いで積み込まないといけないので、直ぐに使わないものはどこにあるか現状は把握できないです。………ファンネル?なんだこれ?こんなのどうやって稼働させるんですか?」

その技術スタッフはアムロが言うファンネルという言葉になじみが無く、持っていたタブレット端末で調べる。

あるにはあるようだが、現在どこにあるのかも分からない状態のようだ。

緊急脱出というこんな事態だ。直ぐに必要な物の以外は、詰め込めるだけ詰め込むように押し込んでいるような状態であった。

しかも不適合品のレッテルを張られたものらしいのだから、なおさらだ。

そもそも、ニュータイプの素養があるテストパイロットが居ないと、テストどころかまともに稼働すらできないものだ、致し方が無いだろう。

 

「そうか……できれば、それを探し出してきてほしい」

 

「わかりました。落ち着いてからで」

 

「他の装備は?」

 

「こいつはF91の試作機にあたりますんで、武装は基本F91と共用です。それ以外にもF90の装備も出来るんで……」

技術スタッフはアムロにタブレット端末を渡す。

 

「……V.S.B.R(ヴェスバー)可変速ビームライフル、これは凄い」

アムロは5号機に装備可能な兵器群の中からヴェスバーを見つけ、その性能に目を見張る。

ヴェスバーはサナリィが開発した最新兵器の一つだ。

取り回しがし易いビームライフルのカテゴリーに入るが、構造はメガ粒子砲に近く、現在の戦艦の主砲に匹敵する威力を持つ。

さらに、発射するビームの収束率や、射出速度が無段階で調節が出来ることから多種多様なビーム発射兵器をこれ一つで賄える優れものだった。

 

「これはサナリィが開発した新世代型のビーム兵器です」

技術スタッフは自信満々に応える。

 

「……F91はバックパックから可動式で腰部にスライドさせ、腕(マニュピレ―タ)で照準が可能か……F90 5号機はバックパックからの可動式で肩越しに固定、照準はセミオート若しくは脳波連動サイコミュか……」

アムロはタブレットでヴェスバーの技術資料を確認する。

F91は背中のバックパックに装着したヴェスバーを腰の位置にスライドさせ、手(マニュピレ―ター)に持って、照準を合わす事が出来る。ビームライフルに近い感覚で扱う事が出来るため、高機動時にも照準を合わす事も容易で、扱いやすい。

F90 5号機Nタイプ、背中のバックパックに装着したヴェスバーを肩の位置にスライドさせ、ガンキャノンのような体勢であるため、通常は照準は躯体本体を固定して撃つことになるだろう。要するに止まった状態での発射が基本となる。

但し、ヴェスバーは完全固定ではなく、上には90度、左右には15度、下には5度程度の角度がつけられ、さらにサイコミュと連動し、ニュータイプならば、F91と似たような感覚で照準発射できるだろう。

オールドタイプの操縦者も視野に入れて作られたF91はヴェスバーの位置は肩口から、扱いやすい腰位置へと変更したのだろう。

 

「あのー、サイコミュの理論がいまいちわからないんですが……ニュータイプ専用だとしか」

この時代、サイコミュ兵器自体封印兵器に近い扱いを受けていた。

ユニコーンガンダムに纏わるサイコフレーム関連について、当時の連邦上層部は危険視し、サイコフレームの開発封印処置を命令したのだ。

サナリィではジョブの下の極一部の技術スタッフしかサイコミュ関連について携わっていない。バイオコンピュータの開発を隠れ蓑にし、連邦に秘密裏に行っていたのだ。

この年若い技術スタッフがアムロにこんな質問をしたとしてもおかしくはない。

 

「ハヤセさん、ニュータイプをご存じなのですか?ニュータイプとは……どういう人たちですか?」

技術スタッフの質問にかぶせるようにセシリーがアムロに迫る様に聞いてくる。

 

「ニュータイプとは、ジオン・ダイクンが提唱した宇宙に適応した人のことだよ」

アムロはまずは一般論を答えて見せる。

 

「それは知っています。そうではなくて、シーブックや私がニュータイプじゃないかと………変に思われるかもしれませんが私、わかってしまうんです。でもこの感覚……とても怖いんです。私が私でなくなるのではないかと」

セシリーは自身のニュータイプ能力に戸惑いと不安、恐怖まで感じていた。

 

「セシリー……」

隣でシーブックは心配そうにセシリーの顔を伺う。

 

「その感覚は大切だ。セシリー。君は君だ。君自身が自分を見失わなければ大丈夫だ。それにニュータイプと言っても、そういった感覚が鋭くなるだけのただの人間さ」

アムロは今迄、ニュータイプの能力に溺れ、自分を見失って行く人間や、他者との境界があやふやになり、精神に異常をきたしてきた人間を見知っていた。

アムロ自身もそれに長らく悩まされてきた。

だが、ニュータイプの素養が徐々に高まっていく感覚を怖いと表現するセシリーは、肥大化する能力に取り込まれずに、それに対する疑問を抱いていた。

自分を見失わない彼女なら、きっと大丈夫だろうとアムロは感じていた。

 

「ハヤセさん……ありがとうございます。気持ちが少し楽になりました」

 

「あの……ハヤセさんは、もしかしてニュータイプなんですか?」

シーブックはアムロのセシリーへのアドバイスを聞き、思った事をそのままアムロに聞いた。

 

「……ああ、そうだ」

 

「やっぱり、そんな感じがしてました」

「やはり……」

シーブックとセシリーもどうやら、感覚的にアムロがニュータイプではないかと感じていたようだ。

ニュータイプ同士はお互いを認知すると言うが、それと同じなのだろう。

 

「あの、話聞いてます?」

技術スタッフは話に置いてきぼりにされ不満げにしていた。

 

 

結局セシリーが搭乗するF90 5号機Nタイプの武装は、ヴェスバーとビームライフル、F90専用実弾バズーカ、バルカンにビームシールド、ビームサーベルとメガ・マシンキャノンとビームランチャーの違いはあるが、ほぼシーブックが搭乗するF91と同じ構成になった。

 

 

 

急ピッチに発進準備を進めていた新造戦艦 モノケロースはアナハイム駐留艦隊の到着予想時間の15分前に出発する事ができた。

 

だが、アナハイム駐留艦隊はそれを察知し、艦隊を半分に分けて月の衛星軌道から侵攻してきた艦隊が、こちらの頭を取ろうと月からの脱出を阻止する動きを取る。

元々艦隊を分け、さらに片方の艦隊は月衛星軌道上まで上がりサナリィに侵攻したのは、脱出を謀る艦がある可能性を視野に入れていたからだ。

 

モノケロースは何とか頭を抑えられる前に月衛星軌道上に上がる事ができたが、月衛星軌道上でアナハイムの6隻の艦隊とモノケロースは正面で両者射程圏内に入ってしまい、有無も言わさずにアナハイム側の艦隊から艦砲射撃を受けていた。

艦砲射撃を行って来たアナハイムの艦隊に抗議の通信を行うが、無視をされる。

相手はやる気満々のようだ。

 

敵の射撃をやり過ごしつつ、反転して推進速度を生かして撤退を図りたいところだが、アナハイムとは別の連邦月軌道艦隊がモノケロースを遠方から囲むような位置取りを行っている事が判明する。

アナハイム側が根回しを行ったのだろう。

さらに、後方から別動艦隊の6隻がサナリィの月面基地を抑えずに、そのままモノケロースを追うように月衛星軌道上に上がる様子を見せていた。

 

もはや相手との交戦は避けられない。

モノケロースはブライトのアドバイスの下、正面突破を図ることになる。

正面突破と言っても、敵艦隊とすれ違うほど接近するわけではない。

真正面に進み、敵の距離4分の1まで近づいた段階で、月衛星軌道を脱するように上方に一気に脱出する。

レアリーはその判断に驚くが、ブライトは反転して撤退を図ったとしても、他の連邦月軌道艦隊に退路を断たれる可能性が高いと判断し、敵に囲まれるよりはマシだとアドバイスをする。

ブライトは一年戦争から今迄、敵よりも艦船が少ない状態でいつも戦ってきた。

特に一年戦争末期には敵の艦隊を引き付けるという任務のため、多数対ホワイトベース一隻などという場面を何度も経験してきたのだ。

 

レアリーはブライトが示したアドバイスを元に、コンピュータで戦況予測演算を行うが、ブライトの指示は実に的確だった。

さらに、このモノケロースには大出力Iフィールドが搭載されている。

正面で戦ったとしてもある程度距離を保てば相手のビーム攻撃が被弾する可能性は通常の艦に比べ圧倒的に低い。

 

 

 

一方月衛星軌道上に上がり、モノケロースと対峙していたのはアナハイム駐留艦隊のラー・カイラム級旗艦艦長 ダグラス・クライス大佐。

御年58歳のグリプス戦役が初陣という大ベテランの艦長だった。

「ふむ。こちらは威嚇射撃を行ったが、相手は反撃にでないか、さらにミノフスキー粒子の散布も無しか……飽くまでも味方を装うか」

「はい、艦長、相手艦から先ほどから通信が来ております。恐らく抗議であろうかと」

「引き続き無視をしろ」

「はい、艦長」

「ほほう、正面から来るとは驚きだ。抗うつもりか?よほど素人と見える。新造戦艦と言えどもたった一隻で何が出来る。しかもこちらのモビルスーツはアナハイム製小型モビルスーツが30機もある。副官、艦の捕縛と言えども今回の任務は余裕だな」

「はい、艦長」

「だが、こちらもちゃんと相手をしなくてはな、ミノフスキー粒子散布後、味方艦同士の距離を保ち、こちらは微速で前進しつつモビルスーツ隊を発進させ、あのデカブツ艦を行動不能にしろと各艦に指示をだせ」

「はい、艦長」

「落とすなよ。落とせば元も子もない。ああ、そうだな。一応降伏勧告とやらを出してやろう。先に回線まわせ」

「はい、艦長」

「実戦データも取れ、さらにアナハイムにも恩が売れるか」

降伏勧告を行うと同時に、42機有るモビルスーツの内小型モビルスーツの30機全機を発進させ、モノケロースを戦闘不能にさせる指示を出す。

 

 

『連邦宇宙軍アナハイム駐留軍艦隊、連邦宇宙軍大佐 ダグラス・クライスだ。所属不明艦、直ちに降伏せよ』

「こちら、地球連邦軍海軍戦略研究所(サナリィ)所属艦、試験艦 モノケロース。私は連邦宇宙軍出向サナリィ所属、当艦艦長代理のレアリー・エドベリ中尉です。何故貴艦は同じ連邦軍所属の当艦に攻撃をされるのですか?」

『女か……ふっ、サナリィがコスモ・バビロニアを名乗る逆賊と手を組んだという情報を得ている』

「そんなはずはありません」

『確かにその艦からは連邦軍のシグナルがでているが、モノケロースという艦は登録されていない。貴艦が逆賊だという証ではないかね?』

「当艦は試験艦として登録されているはずです」

『はて、そのようなデータは無いが?……何にしろ、降伏勧告は済ませた。抵抗はするなよ』

そう言って、アナハイム側のクライス大佐は一方的に通信を切る。

艦長席に座るレアリーは余りにものその対応に憤りを感じる。

少し離れた横の席に座るブライトは呆れかえり、自分が顔を出して、叱ろうかとも考えたのだが、無駄だろうとやめておく。

 

アナハイム駐留艦隊がミノフスキー粒子を散布するのと同時に、モビルスーツを発進させたことを感知する。

 

モノケロース側もミノフスキー粒子を散布を行い、交戦準備を行う。

モビルスーツ隊にも発進指示がでた。

基本指示はモノケロースの敵モビルスーツ隊からの防衛だった。

 

サラサ・マイル中尉率いるモビルスーツ隊6機はモノケロースの直衛を行うことになる。

因みにサラサはF70Ⅱ キャノンガンダムⅡに搭乗、サナリィの初期の小型支援モビルスーツの試作改良型だ。

残りはF70の量産型であるF71 Gキャノン(サナリィ生産型)2機に、F90の量産試作機であるF80シリーズ3機。

 

発進前のアムロはブリッジのレアリーに艦内通信でこんな提案をする。

「俺が敵モビルスーツ隊と艦隊に突っ込みかく乱する」

 

『単騎でですか?そんな……』

 

「目的は飽くまでもかく乱だ。まさか敵も攻めてくるとは思わない。そこに隙が出来る。相手の攻撃が鈍くなれば、正面脱出は容易だ。シーブックとセシリーを連れていく」

 

『ハヤセさん……余りにも無茶では?』

レアリーがそう言うのも無理もない。

アムロは敵モビルスーツ部隊と6隻の艦船相手に立ちまわると言っているのだ。

少なくとも30機以上のモビルスーツとも相手どる事になる。

 

『レアリー艦長代理、彼なら大丈夫だ。敵モビルスーツ部隊は既に発進している。ここは経験の高い彼に任せるべきだ。この艦も初陣で、マイル中尉率いるモビルスーツ隊も初陣だ。初陣では実力を発揮できないケースは多い。モビルスーツ隊は落ち着いて艦の防衛だけに専念させる方が良い。実際戦闘が行われなくとも次の実戦に繋がることになる』

ブライトが横でレアリーを説得するようにアドバイスを送る。

アムロに対して絶対の信頼感を持っているため、これは当然の指示であった。

実際にアムロは一年戦争のア・バオア・クーや第二次ネオ・ジオン抗争の艦隊戦の最中、それ以上の数を相手取り単騎で戦っていたのだ。

さらに言えば、マクロスの世界では3000隻擁する分岐艦隊を相手に立ちまわったり、無人機付きとは言え、少なくとも数十万から100万の犇めく艦隊を突っ切っている。

 

『……了解いたしました』

レアリーはブライトにそう説得されれば従わざるを得なかった。

 

 

アムロのYF-5 シューティングスターはシーブックのF91とセシリーのF90 5号機Nタイプを率い、モノケロースの前方へと出撃する。

 

 

アナハイム駐留艦隊から出撃したモビルスーツは、サナリィから盗用したF90VやF91の設計図から作られたRXF-91 シルエットガンダム1機と昨年採用されたばかりのRGM-122 次世代初期量産型ジャベリン3機、RGM-109 ヘビーガン、RGM-111 ハーディガン及びF-71G キャノン、モビルスーツ合計30機編成だ。

 

現在の所、アナハイム駐留艦隊の各艦から出撃した30機は3中隊に振り分け、前方、右翼、左翼と多少距離を詰めてモノケロースに侵攻していく。

この状況で向こうからもモビルスーツが攻めてくるとは思ってはいなかったが、一応マニュアル通りモビルスーツ戦を想定し、敵方のモビルスーツ隊と出くわした場合、隣の部隊が応援に向かい、余った1部隊はそのまま戦艦へと迫る作戦だ。

アナハイム駐留艦隊は敵方のモビルスーツは多くて9機前後だと考えていたための対応だ。

実際9機だったのだが……。

 

そして、ラー・カイラム級旗艦ブリッジでは……

「艦長、左翼モビルスーツ部隊 アンケロ中隊、交戦!」

「なんだと?打って出てきたのか?バカな。何機だ?まさか全機という事はないだろうな。自らの艦は丸裸ではないか」

「いえ、超望遠観測では3機の敵機影を確認」

「たった3機か、破れかぶれもいい所だ。信号弾を打て、一応中央のレオポルド中隊を応援に向かわせろ」

「はい、艦長。信号弾発射」

「まさか、打って出るとはな。防衛されるよりも個別で叩く方が楽だな。相手はド素人もいい所だ」

クライス艦長は副官に少々ボヤキなら、指示を出していた。

 

「か、艦長!!」

「なんだ、右翼にでもモビルスーツ小隊が現れたか?」

「い、いえ……左翼アンケロ中隊9機、全滅です」

「バカな……1分も経っていないぞ!」

「正式には6機行動不能で救援信号、3機は不明……」

「………な、なんだと、敵は本当に3機なのか?」

「はい、間違いありません。反応から小型のモビルスーツと思われます」

「……エース級の奴がいるのか?」

クライスは先ほどまで余裕の態度を表していたが、一転、その報告に焦りだす。

 

「応援移動開始中のレオポルド中隊、先ほどの敵3機と思われる機影と戦闘開始……超望遠カメラでとらえる事が出来ました。映像出します」

 

「なっ!?戦闘機だと?……ばかな!!変形した!?あのサイズで変形しただと!!シルエットガンダムが一瞬で!?……あっ……ああ……ああ………まさか、あの真っ白な機体……まさか、まさか!!あり得ない!!あれは……白い流星は30年前に………!?」

クライスはその戦闘映像を艦長席から立ちあがり、食い入る様に見ていた。

白い戦闘機が次々とモビルスーツを一瞬で行動不能にさせ、さらにかなり細身だがモビルスーツ形態に変形し、虎の子のシルエットガンダムの四肢を一瞬で切り落とし、行動不能にする姿を……。

クライスは、戦闘機から変形した白いモビルスーツが目を光らせ、まるでこちらを見据えているような錯覚に陥っていた。

背筋が凍るような恐怖と共に、ある過去の記憶が蘇る。

それは36年前のグリプス戦役後の第一次ネオ・ジオン抗争のとある宙域戦闘の記憶。

真っ白なZガンダムタイプを駆る白い流星が敵陣内を無人の荒野の如く駆け巡る様を……。

当時は味方であったが……もし、あの白き流星が敵に回ったとしたら…………

 

「か、艦長!レオポルド中隊、全滅です……」

「………」

「艦長、艦長!ご指示を!!」

「…………ありえない!!ありえないーーっ!!う、右翼モビルスーツ中隊を直ぐに呼び戻せ!!防衛のモビルスーツを全機出せ!!艦砲射撃で狙い撃て!!あの白い奴を近づけさせるなーーーっ!!」

クライスは暫く茫然としていたが、副長の呼びかけに我に返り、狂乱するように叫びながら副官に怒鳴るように指示をだす。

 

「艦長!!右翼中隊間に合いません!!……敵機こちらに向かって…いえ左翼6番艦に取りつかれました!!あっ……左翼6番艦クラップ級ノルダウス、メインエンジン損傷行動不能!!5番艦……あっ……グラメウス、行動不能!!」

 

「し、白い……流星……あ、悪魔だ」

映像情報と報告を聞き、クライスは顔面蒼白になり、艦長席に腰を落とす。

 

「艦長!艦長!ご指示を!!」

 

「ぜぜぜぜぜ全艦急速反転撤退!!」

 

「お味方はまだ、残ったままです!!」

 

「撤退だ!!撤退しろーーーーっ!!」

ラーカイラム級旗艦は、行動不能となった5番艦と6番艦を残し、反転撤退行動に移った。

 

 

 

 

 

 

 

アムロ達のYF-5とF91、F90 5号機Nタイプは小隊を組み、モノケロースに向かうアナハイム駐留艦隊の左翼モビルスーツ中隊を目指し、かなりのスピードで移動していた。

「左翼中隊の中央小隊から俺が叩く、左側小隊を2人に頼む」

「了解」

「了解です」

 

射程距離に入るとアムロのYF-5はファイター形態(戦闘機形態)で一気に加速し、左翼のモビルスーツ中隊9機の中央小隊に正面からガンポッドを放ちながら突っ込む。

「遅い!」

YF-5に気が付いた中隊は散開迎撃行動を取ろうとするが、既に中央の小隊3機はアムロの的確過ぎる射撃によって行動不能に陥らせられていた。

散開した左側小隊はシーブックとセシリーのF91とF90に撃ち落とされ、残りの右側小隊はアムロによって後ろを難なく取られ、行動不能にさせられる。

 

 

そのまま中央を進む中隊へと向かう。

12機のモビルスーツを確認し、先制の狙撃遠距離ビーム射撃でYF-5が2機、F91とF90 5号機Nタイプのヴェスバーで各1機づつ、敵モビルスーツの足を狙い吹き飛ばし、半壊状態に……。

その後、モビルスーツ同士の射撃戦状態になるが、敵方を一方的に落としていく。

そんな中、敵方のシルエットガンダムがビームを乱射気味に発射させながらYF-5に迫ってくる。

明らかに敵方パイロットもエース級が乗っているだろう反応だった。

 

「いい反応だ。だがっ!」

アムロのYF-5も迫るシルエットガンダムに向かって行き、眼前でバトロイド形態に変形、高周波イオンソードでシルエットガンダムの四肢を円を描く様に切り裂いた。

そして、頭部のメインカメラを破壊し、行動不能に……

 

残りのモビルスーツも行動不能にし、艦隊に向けて移動。

艦砲射撃を避けながら敵機艦隊に取りつき、敵艦クラップ級2隻のメインエンジンのみを破壊したところで、敵は撤退行動に移った。

 

 

アムロは敵艦隊撤退の様子を見て、シーブックとセシリーにも帰還指示を出し、モノケロースへと帰還する。

(小型モビルスーツか……、単純なスピードではバルキリーの方が上だ。ましてやYF-5とは歴然の差がある。だが、反応速度や旋回能力はかなり高い。ガンダムタイプ以外の敵パイロットの練度は低かったな。それに比べシーブックとセシリーは良い動きをする。F91とF90も敵方のモビルスーツに比べかなり高性能だというのもあるが、モビルスーツの性能を引き出している。サイコミュの反応も安定してる様だ。うちの(メガロード01)若い連中がVF-4 ライトニングⅢに搭乗しドッグファイトを行っても間違いなく負けるだろう。……あの二人にはまだ及ばないが……思い出す)

アムロは今回の戦闘を振り返りながら、シーブックとセシリーの戦闘センスに、5年前の事を思い出していた。

自分を先生と呼び、小隊を組み、幾度も戦闘を共にしたマックスとミリアの事を。

 

(それにしてもヴェスバーというビーム兵器、あれはすさまじい。艦隊クラスのビーム攻撃と小威力の連射まで、自由自在に切り替え可能だ。機動兵器武装に関しては、モビルスーツの方が性能が高い……中将が知れば飛びつくだろう)

そして、もう一人。何かとお騒がせな人物であった嘗ての上司であるタカトク中将の事もふと頭によぎる。

 

モノケロースはアナハイム駐留艦隊の追撃を難なくかわし、月衛星軌道から脱したのだった。

 




アムロにモビルスーツを乗せるか迷いましたが……
まあ、こんな感じに。

早くあのとんでもガンダムバルキリーを出したいw


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新たな希望の光

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

前作は一話ごとに戦闘シーンをと思って書いてましたが、今作はなかなかそうはいかないようです。



アムロの活躍でアナハイム駐留艦隊を退け、無事月を脱出したモノケロース。

だが、16時間後、早速問題が起こる。

 

艦長室の応接セットにレアリーと対面にブライト、アムロが座っている。

「モノケロースは月を脱し、コスモ・バビロニアの本拠地フロンティア・サイドや連邦宇宙軍の哨戒艦隊を避けるため、迂回し遠回りにて地球への突入を予定しておりました。室長からは地球にあるサナリィ試験研究所に向かえと言われておりましたので……、ですが先ほど地球のサナリィ試験研究所に通信を行ったところ、月の本部基地同様、サナリィ試験研究所は連邦軍に抑えられておりました」

厳しい表情で語るレアリーは、非常に厳しい状況下での判断を迫られる中で不用意にブリッジ要員を不安がらせないためにも、早速起こったこの問題について先ずはブライトとアムロに相談すべく、艦長室でこの場を設けたのだ。

 

「そうか、ではサナリィの関連部署は連邦、いや、アナハイムの息のかかった連中に全て押さえられたと見た方が良いな。アナハイムの連中は余程サナリィを目の敵にしている様だ」

すでに、サナリィ月面本部基地は降伏し、アナハイムに抑えられているだろう。

勿論、ジョブ他残った重役などは全て拘束され、尋問を受けている事は想像に易い。

この様子だと、サナリィの関連部署は抑えられ、モビルスーツ技術関連での出向スタッフも拘束されているだろう。

 

「ああ、そう言う事だ……ハヤセ」

ブライトはアムロという名前を飲み込み、偽名であるハヤセの名を口にする。

 

「はい、室長もこういった事態を想定されていたのでしょう。サナリィ関連部署以外の場所も指定されておりました。新サイド6の33バンチコロニーと」

 

「レアリー艦長、そこには何がある?」

 

「わかりません。ただ、シュトレイ・バーンなる人物に接触しろと……」

 

「どういう人物なんだ?」

 

「いえ……室長からはきっと協力してくれると…それだけしか」

 

「ハヤセ、新サイド6、33バンチコロニーは片田舎のコロニーだ。調べて見たが農業関連のコロニーで人口も少ない。もしかするとジョン室長の個人的な繋がりがある人物なのかもしれん」

どうやらブライトもその人物について知らないようだ。

有名な人物ではないと言う事なのだろう。

ジョブが何故その人物を指定したのか、今は定かではない。

 

「もう一つ大きな問題があります。当艦モノケロースに拿捕命令が下りました。当艦の連邦宇宙軍所属軍人は全員反逆者扱いとの事。この事を知っているのは私とブリッジ要員の数人だけです。箝口令を敷きましたが……いずれは皆に話さなければなりません」

 

「そこまでするとは……しかし、連邦にしては動きが早いな」

 

「ふっ、確かにな。誰かさんが頑張り過ぎたのではないか?」

ブライトはユーモアを交えてアムロにそう言った。

頑張り過ぎたとは先ほどの戦闘の事だろう。

たった3機のモビルスーツに一個師団の半分が這う這うの体で撤退したのだから。

 

「俺か?」

 

「確かに状況は最悪だが、拿捕命令だということは、幸いにも撃沈される可能性が低いと言う事だ。余程この艦とサナリィの技術が欲しい様だ」

ブライトの言葉ももっともだった。

この広い宇宙空間で逃げる戦艦の拿捕は撃墜させるよりも数段困難なものだからだ。

そうかといって、状況は最悪の一歩手前ぐらいマシだと言う程度だが。

 

「……はい」

 

「だが、隊の士気は落ちるだろう。さらに艦内で暴動や反乱が起きる可能性もある。連邦軍から反逆者のレッテルを張られてしまっている。名誉挽回の為とこの艦の乗っ取りを考える乗務員が現れる可能性も十分ある」

アムロは内部からの崩壊を懸念する。

実際に起こり得る話だった。

それをもアナハイムは想定しての事だったのだろう。

 

「はい、確かにそうなのですが、サナリィ所属の軍人は……その…連邦宇宙軍からは疎まれておりまして、私もそうなのですが、連邦宇宙軍ではなくサナリィ所属であるという意識が高いのです。しっかりと皆と話し合いをすれば、そこまではいかないとは思います。……現在この艦は私も含め若い軍人が多く、しかも女性率が80%です。それよりもメンタル面が心配です」

前述にも記したが、サナリィに送られてくる連邦宇宙軍の軍人は女性の率が非常に高い。

レアリーもしっかりしているが、まだ22という年齢だ。

一方、サナリィ本体の技術開発者や職員はどちらかというと男性の方が少し多い。

因みにアムロはレアリーに対してかなり好感を持っていた。

このような事態でも毅然と対応する姿が、タイプは異なるが、自分の妻である未沙と重なるからだ。

未沙も22歳という年齢で大佐という地位になり、しかもメガロード船団の提督として、毅然と職務に当たっていた。

アムロが出会った頃の19歳の未沙は、確かに職務では大人の対応をしていたのだが、少女の感情がちらほらと現れ、どこか微笑ましいものがあった。

この事もアムロが積極的にこの艦を助けたいと思う理由の要因であるのだろう。

 

「ふぅ、なるほど、……レアリー艦長に任せるしかない。私ではその辺りは疎いものだ。うむ……ミライを連れて来て正解だったか。私の妻も乗艦している。ああ見えて一年戦争ではホワイトベースのメイン操舵士として従事していた。相談してみるといい。私からもそう言っておこう」

ブライトはレアリーに、女性のメンタルケアについて自分では役に立たないと、ミライを推す。

ミライは嘗てホワイトベースのおっかさんと呼ばれた程に当時のホワイトベースの若者たちの精神的な支柱であった事は言うまでもない。

それを横で聞いていたアムロは、ブライトならばそうだろうなと思いながらも、ブリッジ要員が全員若い女性だったマクロスのグローバル艦長が、如何に気遣いが出来る人物だったかと、改めてその精神性に感嘆の思いを送る。

 

「助かります」

 

「目的地は新サイド6か……だが、容易ではない。各サイドには連邦の駐留軍が目を光らせているだろう。元々、宇宙の最大拠点であるルナツーとグラナダからコスモ・バビロニアに追い出された連邦宇宙軍は、反攻作戦を実施するまで各コロニーの防衛を密にしている可能性が高い。さらに各サイドがコスモ・バビロニアに迎合しないように取り締まりもよりいっそう厳しい物になっているだろう」

ブライトはマップ表示にこの艦の現在地を記している手元のタブレットを眺めながら、目的地の新サイド6に向かうに当たって、現在の状況を整理しながら話す。

 

「コスモ・バビロニアが動いてくれれば向いやすいですが、幸い新サイド6は昔から連邦に対して中庸な立場をとっているサイドです。他のサイドに比べればまだ希望はあるのではないでしょうか?」

 

「しかし、何の対策もなしにこの大型戦艦が新サイド6宙域に向かえば、嫌でも連邦の駐留艦隊に見つかるだろう。今やお尋ね者のこの艦が、誰の手引きも無しに33バンチコロニーに寄港できるものでは無い。先ずは人を向かわせシュトレイ・バーンなる人物に接触するのが先手か」

アムロはブライトやレアリーの意見を聞きながら、考えを導き出す。

 

「そうだな。レアリー艦長、食料はどのくらいの貯えがある?」

ブライトもアムロの意見に同意しつつ、艦の備蓄状況をレアリーに確認する。

 

「半月分です。緊急脱出でしたので、基地や他の艦の保存可能な食糧を出来るだけ積み込んだのですが、これが限界でした」

 

「その間に新サイド6近辺L5宙域に隠れながら、シュトレイ・バーンなる人物と交渉しなければならないと言う事か……いや、そもそもシュトレイ・バーンなる人物が今も33バンチコロニーに本当に存在するかも確認しようが無い。どういう立場の人間なのかも分からず、接触手段も分からない。なかなか厳しいか」

ブライトはさらに思考を回し、アムロの意見をまとめて整理するが、厳しい状況は変わらない。

 

「俺が行こう。俺の可変戦闘機ならば33バンチコロニーに潜り込める」

アムロは自分が行く事を提案する。

アムロにはシュトレイ・バーンなる人物を探す手立てがあった。

33バンチコロニーにYF-5とハロとでハッキングを掛け探せると踏んでいた。

 

「ハヤセさん……お一人でですか?」

 

「レアリー艦長、ここはハヤセに任せよう。彼の経験値ならば可能だろう。但しハヤセ、期限は4日間だ。それ以上は厳しい。シュトレイ・バーンなる人物に接触できなくとも、4日後には戻ってきてくれ、その間に次の手立てでも考えておく」

ブライトはレアリーに進言し、アムロに期限を切って同意した。

確かに、食料の制限もあり、それ以上の時間を取ると次の行動に移るには手遅れに成りかねない。

 

「ああ、シュトレイ・バーンが居ないと分かれば直ぐに戻るさ」

 

こうして、モノケロースは新サイド6のL5宙域から少し離れたデブリ帯に移動し、身を顰める。

レアリーはアムロが出発した後に、艦内の軍人を集め、連邦宇宙軍から自分達が反逆者の扱いを受けている事を伝え、この難局を皆で乗り越えようと訴えかけた。

艦内から降伏をと声を上げるものや、不安の声が上がっていたが、レアリーや年長者スタッフやミライたちの声掛けや説得で、艦内での不満を柔らげる事に成功する。

この様子を見るに、しばらくは暴走する心配は無いだろう。

 

 

アムロは新サイド6 33バンチコロニーへと出発する前にブライトに声をかけていた。

もし、自分が4日間で戻って来なければ、この宙域に行けと……。

そこにはメガロード01の護衛艦の一つ、地球圏ギリギリに待機させていた補給艦も兼ねた800m級高速機動輸送艦が今もアムロの帰りを待っていた。

アムロが考えうる最終手段だった。

メガロード01を自分の都合で巻き込みたくないという思いが根底にある。

さらに、この世界の事はこの世界の人間が解決すべきだと言う思いもあり、アムロ自身関わる事を躊躇していたきらいがあった。

だが、この世界の現状を憂う気持ちも大きく、ブライトやミライ、シーブックにセシリー、それに既に関わってしまったジョブを始めレアリーやサナリィの人達を見捨てる事も出来ない。

そんなジレンマを抱えながら、アムロはブライトに自分の認識タグを渡す。

これが有れば、自分にもしもの事があったとしても、メガロード01は受け入れてくれるだろうと……。

もちろんアムロは死にに行くつもり等毛頭ない。

自分が行くのが一番いいだろうという判断からだ。

ブライトは最初は認識タグの受け取りを拒否していたが、自分一人であればどうとでもなると、保険のような物だと説得され渋々受け取った。

そこには准将を示す(brigadier general)が刻まれていたことに驚いてはいた。

だが、アムロは分かっていなかった。

もし、アムロに何らかの事があった場合、メガロード01の取る行動を………。

 

 

 

 

アムロはシーブックとセシリーにも声を掛けるために、格納庫に降りたのだが……。

技術スタッフや開発陣に取り囲まれる。

「は、はや、ハヤセさんーーーっ!あれは何ですか!?あの戦闘機、モビルスーツに変形しませんでしたか!?」

「F90シリーズよりも小さい!!どこの技術ですか!?」

「あの大きさで、変形にあのF91に劣らない機動力!!」

「推進剤はなんですか!?とても、アポジモーターだけであの機動は!?」

「ぜぜ是非、あの戦闘機を見せてくださーーーい!!」

サナリィは言うならば技術開発集団の塊のような組織だ。

こうなるのも仕方がない。

アムロは苦笑しながらも、何となくこの雰囲気を懐かしく思う。

アムロは機密情報だとやんわり断るが……技術スタッフや開発陣は諦めきれずにアムロの後ろへとぞろぞろとついてくる有様だ。

 

「シーブックとセシリー、俺は暫く出る。この艦の事は任せた。君らなら大丈夫だ」

「ハヤセさんが戻って来るまで、何とかやってみせます」

「ハヤセさん……」

シーブックとセシリーに声を掛けた後、アムロは直ぐにモノケロースを出発した。

 

 

 

YF-5 シューティングスターは33バンチコロニーに向かう途中で、宙域で待機させていた無人機を呼び寄せ、推進剤と弾薬の補給を済ませ、偽装バルーンでデブリに擬態しステルスモードでゆっくりと33バンチコロニーに近づき接岸する。

無人機も擬態させ少し離れた場所で待機させる。

 

アムロのニュータイプ能力は33バンチコロニーに近づくにつれ、強い力を感じていた。

(……間違いないニュータイプが居る。凄い力だ。カミーユか?いや……この感じは違う。何かを包み込み守ろうとする意志を感じる。……俺を見ている?)

 

アムロ自身は33バンチコロニーに侵入し、待機させていたハロにシュトレイ・バーンについてコロニーにハッキングさせると同時に、コロニー内の様子を見るために、携帯端末でマップを確認しながら中心街に向かうアムロだが、何者かに後を付けられている事を感じる。

だが、その何者かからは悪意をまったく感じなかった。

アムロはワザと人通りの少ない場所に移動し待ち構える。

 

「………あなたは何者だ?なぜこのコロニーに侵入したのか?」

その青年、いや年のころはアムロと同じぐらいだろうか、ジーパンにジャンバー姿の男がアムロに声を掛ける。離れた場所にこの男の仲間と思われる人間が数人こちらの様子を伺っているのも感じていた。

警戒はされているが、アムロは目の前の男からは大きな敵意を感じなかった。

 

「何故俺の後を?」

 

「あなたは、正規のルートでこのコロニーに入ってきていない。……それよりもあなたはニュータイプだ。これ程凄まじい力は……今迄感じたことがない。あの赤い彗星の再来すら軽く凌駕する凄まじい力だ……。だが悪意をまったく感じない。貴方は何者だ?」

目の前の男がこう語った事で、アムロはふと思い出す。

バナージ・リンクスと言う名を……。ジョブから提供してもらった極秘資料にその名が載っていた。ラプラス事変当時のユニコーンガンダムのパイロット少年の名だった。

フルサイコフレームのユニコーンガンダムを乗りこなし、考えられないような不可思議な事象を起こしていたことが極秘資料に記させれていた。

先ほどからずっと感じていた強いニュータイプの力は目の前の男のものだと……

アムロのニュータイプとしての直感も、彼こそがバナージ・リンクスだと訴えかけていた。

 

 

「バナージ・リンクスか?」

アムロは思わずその名を口にする。

 

「………なぜ、その名を」

 

「いや……すまなかった俺はレイ・ハヤセ……シュトレイ・バーン氏か?サナリィのジョブ・ジョン氏の進言により、あなたに会いに来た」

この男がバナージ・リンクスであり、ジョブがこのコロニーに行き、人と会えと……導き出される答えとしてバナージこそシュトレイ・バーンではないかという、単純な紐づけの考えの元にその可能性を口にした。

 

「ジョブさんの………だが貴方は何者だ?」

アムロの判断は正しかったようだ。バナージこそ、ジョブが会えと言ったシュトレイ・バーンだった。

だが、目の前の男はもう一度アムロに聞きなおした。

 

 

「レイ・ハヤセだと名乗ったが。正確にはサナリィの直属の者じゃない。立場的には協力者という事になる」

 

「……いや、あなたの名は俺の感覚にズレを感じさせる」

 

「本名を名乗った所でどうなる?……あなたもシュトレイ・バーンでいいのだろう?」

 

「確かにそうだが………俺の本名を言い当てた貴方を警戒しないわけにはいかない。それにその凄まじいまでのニュータイプの力……これ程の力を感じた事が無い。これ程の力を持っているのなら、俺や彼女がどこかであなたを感じていたはずだ」

 

「そうか、君もニュータイプだったな、それも凄まじいセンスの持ち主だ………だが、名など意味がないと思うが」

 

「………」

バナージはじっとアムロを見据える。

 

「わかった。………ファミリー・ネームはハヤセでもいいのだがな。俺の名はアムロ・レイだ」

アムロはバナージの様子を見るに、名乗らない限り話が進まないと観念し、少々おどけてみせてから本名を名乗る。

 

「…………」

バナージはその名を聞いて、目を大きく見開く。

バナージも当然その名は知っていた。

その名を聞いて、反射的に思い起こす程に。

アムロ・レイの記録と自らが調べ上げた資料を……実際に会った事は無いがバナージにとっても特別な存在だった。

だが、その人物は30年前に死んでいるはずだった。

 

「どうした?」

 

「…………その名は……確かに、だが……その力……いや」

バナージはその名に衝撃を受け、かなり困惑しているようだ。

 

「名など名乗った所で意味はないと言ったのだがな」

 

「……アムロ・レイは死んだハズだ。しかも30年も前に…だが……その顔に…そしてなによりもひしひしと感じる途轍もないニュータイプ能力はそれ以外考えられない。アクシズショックを発動出来る程の力など……だが、年齢が合わない。いや……コールドスリープか?」

バナージは本人を目の前にして、必死に思考をまとめようと独り言のように呟く。

アムロ・レイは正式には30年前に死んでいる事になっている。

その人物が当時の若い姿のまま自分の目の前に現れたのだ。

この時代、コールドスリープの技術はある程度進んでいたが、まだ試験レベルで試験的に何人かが臨床試験を受けているだけの、実用されていない技術であった。

だが、マクロスの世界では既に実現レベルであった。

どのバルキリーのコクピットにも一般的に搭載されている代物だ。

バルキリーのコクピットはそれ自身が脱出ポッドの役割をし、本体が破壊されても、コクピット部分だけが分離できる。分離したコクピットは救難信号を出し続けるが、救助されずに数時間経つとコールドスリープが発動し、パイロットは眠りに付き救援を待つ事になる。初期型は持って半年程度だったが、ゼントラーディの技術を取り入れ、機器が正常に稼働する限り100年以上眠りにつくことが出来るとされている。

もし生きていたとしても、脱出ポッドは広大な宇宙をさまよい続ける可能性があり、いつ救助されるかも分からない。それが1時間後なのか、はたまた100年後なのか……

銀河を舞台に戦いを繰り広げる世界だからこそ、この装置は必要不可欠であった。

勿論この装置は各戦艦やメガロード01にもその設備が整っており、メガロード01は窮地に陥り機能が停止した場合、避難シェルターのコールドスリープ装置が稼働することになる。

 

アムロに関しては、コールドスリープという技術や概念を通り過ごした奇跡に近い事象で、今この場に居るのだが……

 

 

「今はレイ・ハヤセで通ってる」

アムロはまだ困惑の中のバナージに対し、何事も無いように再度偽名を名乗る。

 

「……すみません。失礼しました。私の名はシュトレイ・バーン、今は新サイド6のコロニー公社からコロニーの管理を請け負ってる管理会社を経営してます。……英雄と会えるとは光栄です。………その、バナージ・リンクスの名はここでは表沙汰にしないで頂けると助かります」

バナージは落ち着きを取り戻し、アムロに対して敬語を使い、握手を求める。

 

 

バナージは場所を変え、アムロを案内し、とある会社の応接室へと通す。

「サナリィの事は知ってます。月の本部、地球の支部も連邦に抑えられたことを……それでジョブさんは?」

 

「ジョブさんは恐らくアナハイムか連邦に捕まっているだろう。俺達を逃がすための囮に……」

 

「そうですか……あの人らしい」

 

「ジョブさんはサナリィ月面本部基地から新型戦艦で俺達を逃がし、逃亡先としてこのコロニーと君の名を上げていた。だが……サナリィのスタッフも君の名を知らない。どういう関係なのか……」

 

「27年前の話です。ジョブさんは……俺が連邦に拘束されそうになるところを救ってくれました。ロンド・ベルの司令官ブライト・ノア大佐とで……。その後もジョブさんは色々と便宜を図ってくれて……今の俺があるのもジョブさんのお陰です」

バナージの口からブライトの名が出た事に少々驚くが、アムロはジョブから渡されたサナリィの極秘資料には、バナージ・リンクスという少年について、ラプラス事変以降消息不明とだけ、記されていた事を思い出す。

バナージのこの言い回しだと、ジョブがバナージに対して何らかの隠蔽工作を行い、その後もサナリィとは無関係に個人的にバナージと繋がりがあったと推測できる。

実際にジョブはバナージに個人的に手を差し伸べていた。

それはバナージ自身の優しさと勇気に触れ、その優れたニュータイプ能力が大人に翻弄されないようにという事もあった。何よりジョブ自身、バナージにアムロの面影を重ねていたのだ。

 

「君は今は何を……」

 

「英雄である貴方なら……それに俺のニュータイプ能力が貴方が信用に足る人物だと訴えています。……俺はある人物を守るためにここにいます」

 

「……その人物もニュータイプか……君以外にもニュータイプの存在をこのコロニーから感じていた」

それよりも、アムロはこのバナージから何かを守ろうとする意志をこのコロニーに侵入する前から感じていた。

 

「やはり、貴方には分かってしまうんですね。ここではそれだけしか言えませんが……」

 

「いや、構わない」

アムロは凡そ理解していた。

バナージ・リンクスが守ろうとしている人物を……サナリィの極秘資料にも記されている人物だ。恐らくミネバ・ラオ・ザビだろうと……。

 

「ハヤセさんがここに来た理由も凡そ分かってます。サナリィから逃れて来た戦艦の受け入れですね」

バナージはどうやら、凡その情報を持っているようだ。

それは一般に公開されているはずが無い情報だ。

連邦内部で流れている情報を何らかの形で取得していると言う事になる。

 

「話が早くて助かる」

 

「その件ですが……結論から申し上げますと、申し訳ないですが、今の情勢下では受け入れは厳しい状態です」

バナージは俯き加減になり、申し訳なさそうにモノケロースの受け入れを拒否する。

 

「そうか………」

アムロの顔も多少曇る。

アムロも情勢が厳しい事は理解しているため、無理強いは出来ない事は分かっていたが………。

 

「新サイド6は連邦宇宙軍艦隊が現在5師団集結しております。コスモ・バビロニアの新サイド4 フロンティア・サイドからも近く、月からも比較的近い。月の拠点を失った連邦宇宙軍はここ新サイド6をしばらくのL5宙域の根城にするつもりです」

受け入れ拒否の理由としてバナージはここに逃げ込むのは危険だと説明する。

 

「しかし新サイド6に5師団とは……、同じL5宙域にはサイド1やコンペイ島(旧ソロモン)があるがそっちではないのか?」

バナージの説明を聞いて、アムロがそう言うのも無理もない。

5師団は単純に計算すると艦船が70隻前後、補給艦も合わせると100前後、モビルスーツに至っては300~600機程度存在することになる。地球連邦の戦力の10分の1が終結していることになるからだ。

サイド1と新サイド6は同じL5宙域で地球を周回する軌道を取っており、新サイド6と最短で半日とかからない距離にサイド1が存在し、同じL5宙域外縁に嘗ての古戦場であり拠点であったコンペイ島宙域が存在していた。

アムロの時代では、サイド1のロンデニオンコロニーにロンド・ベルの本拠地があり、当時の連邦に新サイド6よりもサイド1を抑える事が重要視されていたからだ。

 

「サイド1にも駐留艦隊は存在しますが、周回軌道の関係で今はこの新サイド6がコスモ・バビロニアのフロンティア・サイドや月に近い。コンペイ島も有りますが、いざコスモ・バビロニアが攻めて来れば新サイド6の住人を盾にするつもりかもしれません。一応コスモ・バビロニアのコスモ貴族主義は人道派という事になってますからね。それを見越しての事なのでしょう。

それにサイド1は伝統的に連邦を嫌ってるサイドですからね。サイド1は居心地が悪いのでしょう」

バナージは苦笑気味に返答する。

アムロの時代と異なり現在、新サイド6は地球の軌道周期の関係で、サイド1よりも月とフロンティア・サイドに近い位置にあった。

サイド1が連邦を嫌っていると言うのは確かだが、こちらは半分冗談なのだろう。

 

「なるほど」

 

「連邦はコスモ・バビロニアによって、身動きがしにくい状態が今も続いてます」

 

「確かにそうだな……。コスモ・バビロニアはしたたかだ。嘗てのジオンよりも……最小限の戦闘行為と占領地域で、連邦の動きを止めた」

アムロはジョブからもらった極秘資料や直接受けたレクチャーで、コスモ・バビロニアと現在の地球連邦の勢力図をある程度把握していた。

コスモ・バビロニアの主な占領地域は、新サイド4 フロンティア・サイドとルナツー、月のグラナダ。

フロンティア・サイドは月と地球の中間地点に存在する。これで地球と月の航路を大きく抑える事が可能だ。グラナダを占拠したことで、月における重要拠点を手に入れたと同時にサイド3及びサイド1、新サイド6にも睨みを聞かせる事が出来る。

ルナツーを抑える事によって、どのサイドからも一番遠い位置にあり月の周回軌道の反対側にあるサイド7を抑えると同時に、L4宙域のサイド2、サイド5の裏を取る事になる。

さらに、それ以外に各サイドにほど近い資源衛星なども占領している。

アムロが言う最小限の占領で宇宙のすべてのサイドに睨みを利かせる事が出来たと言えよう。

裏を返せばこの3つのどこかを連邦が奪い返せば、コスモ・バビロニアの勢威は落ちるのだが、連邦は中々動くことが出来ない。

宇宙を蔑ろにして来た連邦は、各サイドが何時コスモ・バビロニア側に付くか、はたまた独立されるかと戦々恐々としているからだ。

だから、今もこうして大戦力を各サイドや宙域に置き、それを阻止する動きを取っている。

コスモ・バビロニアが嘗てのジオンのように、反抗するサイドを全滅させれば、連邦も防衛面も後方の憂いも少なくなり、かなり楽になるのだろうが……。

 

それにたった1隻とはいえ、連邦にとってもサナリィの新造戦艦 モノケロースを無視できないのも、こういう情勢下であり、どこかのサイドの勢力下に入る事を阻止したいのだ。

そもそも、アナハイムの言いなりで、アナハイム駐留艦隊がサナリィの月面本部基地を攻めたのが間違いだったのだが……。

しかも、一個師団を送り込んでおきながら、無傷で逃げられた上に、モビルスーツや艦船を半壊させられ、一個師団の半数とは言え無様に追い払われたという失態付きで。

 

 

「確かに厳しいな。理解した」

バナージの受け入れ拒否を、アムロは納得せざるを得なかった。

 

「すみません。今はまだ早いんです。……ですが……」

 

「一つ質問をしていいかい?」

 

「どうぞ……」

 

「君が守りたいものはサイド3ではなく、この新サイド6なのか?」

アムロはワザとこんな言い回しをする。

バナージが守りたいものがミネバ・ザビだと分かっていた。

だが、本来彼女を匿うべきは、嘗てザビ家がジオン公国を立ち上げたサイド3のはずだからだ。

だが、バナージの話では、どうやらここに、大切なもの(ミネバ)が居るような話しぶりだった。

 

 

「……貴方に隠し事はまったく出来ないと言う事ですね。俺が守りたい人物は貴方が推察されてる通り、俺は彼女を何としても守りたい。リスクはなるべく避けたい」

バナージはアムロがその名を出さずとも、言いたい事を理解し肯定する。

 

「追手のかかってるサナリィの新造戦艦がこのコロニーに入港したとバレる。もしくはバレなくとも、疑いをかけられれば彼女に被害が及ぶかもしれないということか……。連邦はジオン残党狩りは今も行っていると資料にもあった……そういう事か……しかし、何故彼女はサイド3ではなくこの新サイド6なのか?」

 

「彼女自身はサイド3とは決別しています。ただ今も彼女を慕って元ジオンの将校や兵士がついてますが……、彼女はジオンを復活させるつもりなどサラサラないのですがね。ついてくるものを拒めないのは、彼女の美徳であり、欠点でしょうか……」

 

「ここで静かに暮らしているということか……すまなかった。他を当たるとしよう」

アムロはすっきりした面持ちで、そう言って立ち上がりバナージに握手を求める。

 

アムロは少しの間であったがバナージは好感の持てる青年であり、ミネバを守りたいと言う思いがヒシヒシと伝わってきていた。

しかも、あのザビ家の忘れ形見がこの長閑なコロニーで静かに暮らしているとなると……アムロも感慨深いものがあった。

この二人を戦場に戻してはいけないと……。

 

「待ってください。………L5宙域から外れた廃棄同然の資源衛星があります。そこに行ってください。少しの間位は隠れ蓑になるかもしれません。補給もある程度用意させてもらいます。………受け入れについての事ですが、今はと言ったのです。彼女は武力での解決は望んではいませんが……この世界を憂いています。そのために今迄活動してきました。……それも漸く実を結ぼうとしてます。………その時は是非この新サイド6に来ていただきたい」

 

「それはありがたい申し出だが………彼女は、いや君たちは立ち上がるとでも?サイド3と袂を分け、ジオンを復活させる事も無く」

 

「正確には異なりますが凡そ近いものがあるでしょう。情勢は刻一刻と変わってます。こんな事を言ってはいけないのでしょうが、コスモ・バビロニア建国は各サイドにはいい刺激だったでしょう……流石にコスモ・バビロニアの理念には賛同しがたいですが」

 

「そうか……健闘を祈る」

アムロはバナージ達がこの混乱した世界に何かを成そうとしている事に理解する。

それは嘗てのジオンなどとは全く別の方法で……

 

「またお会いましょう。それまで耐えてください。貴方ならばきっと」

そう言ってバナージは立ち上がり、改めてアムロに握手を求めた。

 

 

アムロはバナージから見送りをと申し出を受けたが、やんわり断り、徒歩で街を出る。

長閑な街並みや田畑を見ながら思いにふける。

ジョブから提供された極秘資料の中のラプラス事変について。

27年前、当時16歳の少女だったミネバ・ザビは真の宇宙世紀憲章を公開し、自らの言葉で人々の平和を訴えた……。

優しく、真に平和を望む言葉だった。

その言葉が今も人々の記憶に残っている事を切に願う。

 

嘗てジオンの姫君だったミネバ。

ジオンというしがらみを脱し、人々の平和への願いを実現させようと今も進んでいる。

そのミネバを27年もの時を経て必死に守ってきたバナージ。

 

そして今自分の元には、コスモ・バビロニアの王女という立場でありながら、貴族主義を否定し、迷いながらも前に進もうとするセシリー。

そのセシリーを守りたいシーブック。

 

まだ、希望と言う光は人々の中に生き続けていると……。

アムロはそんな思いを噛みしめていた。

 




大人のバナージくん登場です。
今も、ミネバ…オードリーを守っています。

因みに、この世界線には鈍感な街医者やツンデレの元鉄の女や赤いダメンズやモビルスーツ拾ってくる幽鬼じいさんやらは存在しませんので悪しからず。


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30年前との邂逅

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

ようやくこの話を書くことができました。
色々と悩みましたが、こんな感じにしあがりました。
しかも長くなっちゃいました。

後半は逆襲のシャアのメインのテーマを脳内再生して頂きながら、読んで頂くとちょっとは其れらしくなるかもしれません。


モノケロースはL5宙域の外れ、廃棄された資源衛星へ向かっていた。

 

新サイド6、33バンチコロニーからモノケロースに戻ったアムロは、レアリーとブライトに33バンチコロニーでの出来事を報告する。

シュトレイ・バーンと会えた事。

受け入れを拒否された事。

廃棄資源衛星で補給を受けられる事。

シュトレイ・バーンがバナージ・リンクスだった事。

ミネバ・ザビがあのコロニーに居るだろう事。

更にアムロの推測を交え、新サイド6は恐らく連邦政府から独立するだろうと。

 

ブライトにとって懐かしい名が出て来た事に驚き、感慨深そうにしていた。

バナージが今もミネバを守り、ミネバは今も地球の行く末を考えている事に……

一方レアリーはミネバ・ザビの存在に新サイド6の独立と、予想外の大きな話に困惑気味であった。

 

 

 

アムロがモノケロースに戻ってからの二日後。

バナージが示した日時通りに指定宙域に到着。

そこには見るからに放置され幾年か経ったような資源衛星があった。

 

アムロはこの廃棄資源衛星から何かをニュータイプの能力で感じとっていた。

 

 

モノケロースはバナージからの指定通り廃棄資源衛星の宇宙港へと進入を試みる。

しかし、資源衛星内部は綺麗に整備されており、宇宙港内部に進入するとガイドビーコンが点灯し、オートでドックへの着岸が可能な状態だった。

 

ブリッジではレアリーが警戒気味にこの様子を眺めながら、ブリッジスタッフに資源衛星に対し通信で呼びかけるように指示を出す。

 

『ようこそ、第7資源衛星へ、あなた方を歓迎いたします』

呼びかけに対し直ぐにモノケロースへ有線式接触通信で返事が返って来た。

この声に、アムロは聞き憶えがあった。

それもそのはず、先日あったばかりのシュトレイ・バーンことバナージ・リンクスの声だった。

 

レアリーは横に座るブライトと、その後方の補助席に座るアムロに目配せをしてから、その声に応える。

「艦長代理のレアリー・エドベリです。よろしくお願いいたします」

 

モノケロースはガイドビーコンとオート進行に任せドックに到着、着岸する。

ドックには輸送艦2隻と、驚く事に嘗てのネオ・ジオンの戦艦 サダラーン級が停泊していたのだ。

停泊したドックには多数の人が見受けられる。

 

この資源衛星は明らかに稼働状態だった。

一見、放置されたように見えてはいたが、内部は今も整備され、人の行き来もある。

しかも、戦艦や輸送艦まであった。

 

 

モノケロースのハッチに屋根のない簡易なボーディング・ブリッジ(搭乗橋)がドッグから伸び、接続する。

そのボーディング・ブリッジを渡り3人の男がモノケロースのハッチまで歩いてくる。

モノケロースのカメラからは、そのうちの緑のジャケットを着た男がバナージだと確認できた。

 

ハッチを開放し、モノケロースの応接室にバナージを通す。

 

「初めまして、シュトレイ・バーンです」

「当艦艦長代理レアリー・エドベリです」

「貴艦の境遇はお聞きしてます。補給等当面に必要な物資を用意させていただきました。ジョブ・ジョン氏とは古くから親交があり、色々とご好意に甘えてきました。ようやく幾分かは恩情をお返し出来る機会が巡って来た事に、ほっとしてます」

「このような事態の中、当艦に補給物資の提供を申し出て頂き、感謝いたします」

先ずは、バナージとレアリーが挨拶し、軽く握手を交わす。

 

次に、レアリーの右後ろに立っていたブライトは、バナージの前に歩みを寄せる。

「バナージ、随分と久しいな。あの少年が随分と立派になった」

「ブライト艦長……長らく連絡もせずにすみませんでした」

「いや、こちらの方もいろいろあった。随分と前に軍は辞めている。今はこの艦のオブザーバーだ」

「聞き及んでます。それと今はシュトレイと呼んで頂けると助かります」

26年ぶりの再会を果たしたブライトとバナージはがっしりと握手を交わす。

 

「ハヤセさん、また会いましたね」

「ああ、ここはやはり……」

「その事も含めてお話します」

バナージとアムロも握手を交わし、お互いソファーに座る。

 

バナージは自分の表の身分であるコロニー管理会社の代表とは別に、裏の身分である非合法民間軍事会社の代表を務めている事を明かす。

それと共に、この基地と化した廃棄資源衛星について語った。

この資源衛星はアムロが言いかけた言葉通り、連邦の目を欺き戦力を隠ぺいするための秘密基地だった。

 

この時代、民間やコロニーが護衛用のモビルスーツを所有することはあるが、そのモビルスーツは軍が所有するモビルスーツの能力を半分程度に抑えたものと決まっていた。

武装も貧弱で、しかも全て登録制である。

 

それでは、宇宙海賊やジオン残党兵が所有するモビルスーツに対応は難しい。

そもそも宇宙航路の安全の確保は宇宙連邦軍の主要な任務の一つだ。

だが、実際にはそれらが守られているのは、地球、月、各コロニー間の主要航路ぐらいだ。

木星間航路や火星間航路などは、地球連邦所有の木星船団や火星船団には、連邦軍の護衛が付くが、民間や各サイドの船は自己防衛が基本だ。

一応頼めば、護衛をしてくれるが、莫大な金銭を要求される。

また、アステロイドベルトなどから資源衛星をけん引するのにも、護衛が必要だが、やはり自己防衛が基本となる。

 

そこで民間警備会社は登録されたモビルスーツを登録後に改造を施したり、軍事用のモビルスーツに入れ替えたりという事を日常的に行っていた。

さらに、地球連邦軍に認められていない非正規の民間軍事会社が、各サイドに公然の事実として存在したりしている。

ここもそんな非合法民間軍事会社の一つとして機能しており、新サイド6コロニー公社が全面バックアップをしていたのだ。

 

各サイドは自分の身は自分で守るという意識がこの30年間、日に日に高まる一方だった。

第二次ネオ・ジオン抗争から30年間、何も改革を進めず、自らの懐を肥やす事のみに費やしていた連邦政府や連邦軍の無能ぶりがそうさせていた。

 

この廃棄資源衛星偽装基地は、元々新サイド6が所有していた資源衛星であったものを、再利用し基地と化したものだ。

この偽装基地には、戦艦3隻、輸送艦2隻とモビルスーツが22程あり、小規模艦隊の戦力を所有しているとの事だ。

このような偽装基地が新サイド6には他にもあると……

 

バナージはさらに語る。

補給だけでなく、この基地にずっと滞在しても構わないと言うのだ。

いや、口ぶりから滞在を願っていた。

 

モノケロースにとって滞在について渡りに船だが、レアリーは明言を避けクルーと相談の上に答えを出すとその場ではそうバナージに返事をする。

ブライトもモノケロース内部で意思確認を行ったうえで答えた方が無難だろうと考えていたため、レアリーの答えに、黙ってうなずいていた。

その場での明言を避けたレアリーは、漠然と不安に駆られていた。

この艦が利用され、何か大きな事に巻き込まれるのではないかと……。

 

モノケロースという戦力は、この地球圏を取り巻く現情勢下ではどこの勢力も欲しがる存在であった。

連邦宇宙軍やアナハイムが必死になり捕縛しようとする程の価値があると、各勢力に知らしめていたからだ。

 

 

モノケロースへの補給の件と、この基地での行動制限について話し合いを終えようとした段階で、バナージは、この偽装基地にレアリーとブライト、アムロを招き、とある人物に会って欲しいと願い出た。

 

 

モノケロースの発令所要員に待機指示を出した後、レアリーとブライト、アムロは下船し、バナージに連れられ、基地内にある官舎のような建物に案内され、応接室に通される。

 

そこでバナージに紹介された人物とは……

「ブライト・ノア艦長、その節はお世話になりました。レアリー・エドベリ艦長、レイ・ハヤセ様…お初にお目にかかります。このような場所までおいでくださり感謝いたします。わたくしはオードリー・バーンと申します」

上品でありながら凛とした佇まい、その意志の灯った大きな目に吸い込まれそうになる錯覚まで覚える。この目の前の美女こそが、ザビ家の忘れ形見、ミネバ・ラオ・ザビだった。

ミネバは、会う前に先にバナージからこの3人の事を聞いていたようだ。

 

レアリーとアムロは自己紹介をし、ブライトも声をかけ、お互い席に着く。

 

「さて、お二方には先に知って頂きたく、わたくしは、かつてミネバ・ラオ・ザビという名でした」

ミネバはレアリーとアムロに顔を向けそう語りだした。

レアリーはこれからバナージが会って欲しいと願う人物とは恐らくミネバ・ザビだろうと、事前にアムロとブライトに伝えられていたとはいえ、本人からその事実を聞き、目を大きく見開く。

だが、目の前の佇まいの人物ならば、そうなのだろうとある意味納得もしていた。

 

「わたくしはザビ家の名を捨て、シュトレイ…いえ、バナージと共に生きると決めました。ですが……、残念ながら地球圏を取り巻く環境は決して安定したものとは言えません。宇宙と地球は今も尚、水面下でいがみ合っております。わたくしはオードリー・バーンとして、何とかしたいとここまで来ました。この30年間、地球連邦政府はますます宇宙市民を締め付けるばかり、それどころか地球に住まう人々まで……。そもそも地球連邦政府は人々の声を聞く耳をもってはいなかったのです。

ここ最近、各サイドの独立の機運が高まっていました。その矢先、フロンティアサイドでのロナ家によるコスモバビロニア建国です。武力による制圧での………

わたくしはこの数年間、将来を見据え、各サイドとの連携をと、懸け橋を作ることに専念してきました。各サイドが一致団結し、連邦政府に対し声を上げていくようにと……、30年前とは異なり、産業や経済は既に宇宙だけでも完結できる時代です。連邦政府も無視できないでしょう。後数年あれば実現できるところまで見えてきたのですが……。

そんな最中でのフロンティアサイドは武力による独立、さらに地球連邦政府に対しての宣戦布告を行いました。

フロンティアサイドの代表の方々とも何度もお話しましたが……、やはりロナ家を止める事が叶わなかったようです。

いえ、既にロナ家とフロンティアサイドは蜜月の関係だったのかもしれません。

わたくし共がこうして連携を取るのを良しとせず、今回の独立に踏み切ったのかもしれません。

ロナ家が宇宙全体の舵取りを行うために……。

この情勢下では、各サイドもこの機会にと独立へと急ぐでしょう。それはもはや止めようがありません。

これも時代の流れなのかもしれません」

オードリー・バーン、いやミネバ・ザビは凛とした声色で一気に語る。

意志の籠ったその目には、たびたび憂いが見て取れる。

そんなミネバの言葉に、この場の誰もが一言も口を挟まず耳を傾けた。

 

「各サイドの独立……そんな事が……いえそれは」

レアリーはミネバの語る話に衝撃を受けていた。

各サイドの独立などとは、今の今迄考えもしていなかったのだ。

そもそもレアリーは連邦軍の士官であり、さらにサナリィというある種の狭い世界の中で過ごしてきた人間だった。地球連邦とスペースノイドとの関係がこれ程まで悪化していたとは思っても見なかったのだ。

だが、クロスボーン・バンガードによる襲撃からのコスモバビロニア建国が目の前で起きた事を直ぐに思い起こし、ミネバの語る話は起こりうる現実だと考え直す。

 

そして次の言葉を語るミネバの表情には悲しみの色が濃く現れる。

「ここ新サイド6議会も独立の方向で動く予定です。しかし、各サイドが個々に動いては、地球連邦政府とは対等な立場での交渉は望めないでしょう……。これ以上人の血を流す事は……」

 

このままだと、また戦争が起きる。

いや、既に戦争は始まっているのだろう。

それはクロスボーン・バンガードが新サイド4フロンティアサイドを襲撃した時から……。

 

しばしの沈黙の後、ブライトはミネバとバナージを交互に見据え、ゆっくりとした口調で聞いた。

「オードリー、……シュトレイも…君らはこれからどうするつもりか?」

 

「この新サイド6の独立に参加します。厄介者でしかない俺やオードリーを受け入れてくれた人たちの思いを無下には出来ません」

ブライトの言葉にバナージは真っすぐに応える。

それにオードリーも深く頷いていた。

 

「……独立に当たっての独自戦力がこの偽装基地という事か」

今度はアムロがバナージに対し、質問をする。

 

「先ほども話した様に、元々はそれが目的ではなかったのですが、今はそう言う事です。ただ、独立に当たって武力行使は避けたい。クロスボーン・バンガードのフロンティアサイド襲撃を見るに、クロスボーン・バンガードは初期戦術に置いて、最小限の戦力を導入し、コロニーとコロニーの住人に被害が出ない様に最大限に考慮したようですが、防衛側の連邦軍が、守るべきコロニーの住民の事等一切考慮せずに、戦線をコロニー内に拡大させ、いたずらに犠牲者を増やしたのみでした。

それに、こちらはクロスボーン・バンガードとは異なり、大した戦力はありません。この廃棄資源衛星を利用した偽装基地は現在戦艦3隻に輸送船2隻のみ、新サイド6が各所に隠している全戦力を集結させても一個師団にも満たない戦力です。軍事力を行使するにしても、厳しい状況にはかわりありません。滞在中の連邦軍艦隊がコスモ・バビロニアに戦力を全て割いてくれれば、まだ、事を成し遂げやすいのですが……」

 

「なるほど。それでモノケロースも戦力として欲しいところか」

ブライトは身もふたもない事を言う。

この最新鋭戦艦モノケロースの戦力は今の新サイド6の情勢下では喉から出る程欲しいものだろう。

 

「申し訳ないですが、渡りに船だと思ってます」

バナージもそれに率直に答える。

 

ブライトは横に座るレアリーの表情を確認してから、バナージとミネバに顔を向きなおす

「レアリー艦長が先ほど伝えたが、滞在の件、少し待ってくれないか?モノケロースの乗組員はサナリィ、ようするに元々連邦軍の人間だ。今となってはお尋ね者ではあるが、そう早く割り切れるものでは無いのでな」

 

「はい、ゆっくりと考えて頂ければ」

「ここを離れられるという結論を出されても、補給だけは行わせてください」

ミネバとバナージはほぼ同時にそう答えた。

 

ミネバとの会談を終え、レアリーとブライトはモノケロースに戻る。

早速、今の件について打ち合わせと、乗組員の意思を確認するためと、補給の受け入れ準備を行うためだ。

 

アムロはというと、バナージに是非見て欲しいものがあると引き留められる。

 

 

アムロはバナージに連れられ、とある施設に向かう。

この偽装基地には、モビルスーツの整備及び組み立て施設が有るとバナージに説明を受けながら到着した工場のような場所には、モビルスーツが何体かハンガーデッキに立っていた。

おそらくここがモビルスーツの整備施設なのだろう。

ギラドーガ系譜が見て取れるモビルスーツ等、ネオ・ジオン系のモビルスーツの姿をしたモビルスーツが立っていた。

 

さらに、バナージは整備施設の奥にアムロを連れて行き、モビルスーツが余裕で通れるぐらいの大きな扉の前に来る。

 

「あなたに会った時から、これを貴方に見せたかった。ハヤセさん…いえ、アムロ・レイさん」

バナージがアムロにそう言いながら、扉の横にある操作盤に手を触れると、その大きな扉は左右へと開かれる。

 

そして、扉の奥に現れたのは……。

 

「まさか!?……なぜ……これが………」

アムロは思わず驚きの声が漏れる。

 

白と黒を基調としたモビルスーツがそこに立っていた。

シンプルでいてバランスの良い完璧なフォルムに、頭部の4つに分かれた黄色のアンテナが際立つ。

見る人を魅了してやまないだろう堂々たる姿は、神々しさまで感じられるだろう。

白地の肩口には、朱色に塗装されたAに似たユニコーンのマーク。

 

そう、アムロが最後に乗ったモビルスーツ、30年前にシャアとの死闘を演じ、アクシズを押し返した愛機νガンダムがそこに悠然と立っていたのだ。

まるで、アムロの帰りを待っていたかのように……

 

「νガンダム。……バナージ、これが何故こんな所に……」

 

「15年前の事です。この資源衛星付近のデブリに漂着したこのガンダムを見つけました。外郭フレームには傷が多数ありましたが、稼働可能な状態で……、そして後で知ったのです。これがあの伝説のパイロット、アムロ・レイが乗った最後のガンダムだと……」

バナージはこの廃棄資源衛星を偽装基地に改装中、モビルスーツによる哨戒を行ってる際にνガンダムを見つけたのだ。

アムロとシャアとの決着の15年後にバナージの目の前に現れたのだ。

それは偶然なのか、必然だったのかは分からない。

あの時、アムロは単独でマクロスの世界に飛ばされた。

主を失ったνガンダムはサイコフレームの共振作用でアクシズから離れ、しばらく宇宙にさまよっていたことになる。

 

「そんな事が……」

 

「申し訳ないですが、このガンダムに残っていた貴方の戦闘データを拝見させてもらいました。……衝撃的でした。アムロ・レイを越えるパイロットは居ないと確信しましたよ。ニュータイプという以前に、貴方の圧倒的な技量は、もはや誰も追いつけないだろうと……、その伝説が今目の前に」

バナージは淡々と話してはいたが、その内心は興奮を抑えるのに精いっぱいだった。

 

「だが……これはいったい」

アムロはνガンダムが今にでも稼働できそうな状態であることをバナージに聞いたのだ。

すでに製造から30年が経った年代物なのだが、見るからによく整備されているのが分かる。

 

「整備は完璧ですよ。直ぐにでも動きます。各種武装も当時の物がそのままです」

 

「よくあったな」

 

「偶然ですね。フィンファンネルというファンネルは、このνガンダム専用で、アムロさんしか扱えないような癖が強すぎる一点物の兵器だったそうです。それを偶然アナハイムの倉庫で凍結中の廃棄同然のとあるモビルスーツを奪いに行く際に、一緒に拝借させてもらった兵器群の中にありました」

バナージは、16年前にアナハイム・エレクトロニクスが所有する倉庫から、とある兵器を奪いに行った。いや、正確には奪還と言った方が良いだろう。そのモビルスーツは元々バナージ・リンクスが譲り受けたものなのだから。

 

「だが、なぜこれの整備を?」

 

「俺にもよくわかりません。ただ、このガンダムを見てると、まだ戦えると言っているのではと感じたんですよ。それに今になって思うんです。俺がこのガンダムを拾い、こうして貴方に会えたのは、貴方とこのガンダムを引き合わせるためだったと……いや、逆なのかもしれない、このガンダムが俺に貴方を引き合わせてくれたのだと」

バナージはνガンダムを見上げながら、どこか嬉しそうに微笑み語る。

 

「………」

 

「このガンダムは貴方にお返ししますよ」

 

「いや、それは……」

 

 

そんな時だ。

警報があちらこちらから鳴り響く。

 

バナージの元にも直ぐに連絡が入り、内容をアムロに伝える。

「アムロさん、どうやら連邦軍の艦船がこの宙域に近づいてきているようです。ミノフスキー粒子の散布も有りませんし、何時もの巡回行動だとは思われます……俺は発令所に戻り一応様子を確認しますが、アムロさん……ハヤセさんはここにいてもらっても問題ありません」

バナージはそう言って、整備施設から駆け足で出て行った。

 

 

「…………ハロ、この廃棄資源衛星周囲の状況を確認してくれ」

アムロはバナージの背中を見送りながら、YF-5のハロと通信を行う。

 

『了解、了解』

ハロはYF-5のセンサー類とこの宙域に待機させている無人機で索敵を行う。

因みに、YF-5の索敵能力はこの宇宙世紀のセンサー類に比べ圧倒的に精度が高い。

 

『アムロ、アムロ、ラーカイラム級艦船1、クラップ級艦船2ガ、128.64.127方向宙域デ待機、クラップ級戦艦5ガ、当宙域ニ向ケテ移動中。傍受データ、新サイド6カラ2師団艦隊出撃……データ送信』

しばらくして、ハロからの通信とデータを確認し、アムロは焦る。

ハロから送られたデータは、明らかにこの廃棄資源衛星偽装基地が連邦にバレ、大規模な襲撃の準備を進めていると出ているからだ。

 

 

アムロはモノケロースにも通信を行い、現状況と、この廃棄資源衛星偽装基地からの早急な脱出の準備を進めるようにと通達。

モノケロースもそれを受け、バナージ側との相互通信を行い、情報交換を行う、そこにアムロも通信で介入していた。

 

バナージはモノケロース側の情報提供に対し返答する。

「連邦軍の戦艦が3隻、この宙域を伺う様に待機していたのは確認いたしましたが、新たに5隻が移動中とはこちらでは確認できませんでした。流石は最新型の戦艦ですね。新サイド6からの2個師団が出撃をしたことはこちらの工作員からの通信で今確認しました。

どうやら、敵艦のコースから、こちらの輸送艦がつけられていたようです。………まずい状況です。いまここで、こちらの戦力を知られるわけには……、しかし……いや、モノケロースは撤退準備を……いざとなれば、こちらで敵戦力を引きつけるまでです」

連邦軍艦隊はバナージの考え通り、バナージ達が乗って来た輸送艦をつけてきていたのだ。

そもそも、新サイド6駐留連邦軍は新サイド6の独立運動の中心人物としてシュトレイ・バーン(バナージ)をマークしていた。

そのシュトレイ・バーンの動きが、連邦軍が張った網にかかったのだ。

輸送艦につかず離れず、斥候艦を動かしていた。

今の今迄、バナージ達に気づかれずに追跡を行った斥候艦の艦長はかなり優秀のようだ。

そして、この廃棄資源衛星がある宙域に潜伏先があると目星をつけ、艦隊を集結させ、襲撃の準備を着々と進めていた。

 

バナージ側からすると、新サイド6が独立を果たすまで、当然保有する戦力を見られたくはない。

だからといって、この宙域にモノケロースが存在する事がバレるのも不味い。

反逆の疑いをかけられてるモノケロースがこの宙域に留まってるとバレてしまうと、新サイド6がモノケロースを匿ったと見られ、連邦はそれを反逆者の幇助とみなし、堂々と新サイド6各施設に強制捜査、検閲を入れる口実とするのは明らかだ。

連邦としては、実際に新サイド6とモノケロースの関りの有無は関係ない、強制捜査により、新サイド6の独立運動の上層部を適当な罪状で拘束し、独立の阻止に動くだろう。

アムロもブライトもバナージやオードリーの話と連邦軍の今迄のやり口から、この事も十分に理解していた。

 

「いや、モノケロースが囮になる方が良いのではないか?少なくとも、新サイド6直接の疑いは避けられる。バナージ達の戦力が連邦に見つかれば、新サイド6が非合法戦力を隠し持っていたと、新サイド6の議会や公社に難癖を付け、抑えられてしまう」

ブライトは通信でバナージにこう提案する。

 

「いや……しかし」

バナージはその提案に渋る。

 

アムロがそこに更なる案を出す。

「レアリー艦長、ブライト、それにシュトレイ……聞いてくれ……俺が囮になる。今ならこの宙域に留まっているのは連邦軍の斥候艦隊は3隻のみだ。だが、巡回中の戦艦が5隻こちらに向かい、さらに新サイド6から二個師団が発進している。集結次第、この宙域は囲まれ、逃げ場はなくなるだろう。だが、幸いにも敵はこの廃棄資源衛星偽装基地の正確な位置は把握していないようだ。俺が集結する前に斥候艦隊3隻に突貫し牽制し、集結前に斥候艦隊を崩せば、モノケロース、さらにこの廃棄資源衛星偽装基地からシュトレイの艦船も撤退可能だろう」

 

「ハヤセ……、既に巡回艦隊の数隻は斥候艦隊に合流しつつある。いくらお前でも……厳しい。それにお前が前に出ようと、既にお前の戦闘機はモノケロースの戦力として連邦側にバレている。どうせバレているのならばモノケロースで、斥候艦隊を叩いた方が良いだろう。幸い、モノケロースは直ぐにでも出撃可能な状態だ」

ブライトは、どうせモノケロースの存在が連邦にバレるのであれば、モノケロースごと突貫

し、斥候艦隊3隻に巡回艦隊の5隻が合流したとしても、囮をしつつ、撤退も可能だろうと踏んでいた。

流石にアムロと言えども8隻の艦隊と対峙するのは無茶が過ぎると思っていたのだ。どんなに優れたモビルスーツだろうと、どんなに優れたパイロットだろうと、最終的には物量にはかなわない。弾丸やエネルギーが尽き、補給を受けられない状態では、いずれ力尽きると……。

だが、ブライトは知らない。YF-5シューティングスターの正式なスペックと、さらに、それを取り巻く無人機の存在を……。

 

「いいや、俺はあれで出る」

しかし、アムロはここでとんでもない事を言い出す。

 

「……まさか?」

「どういうことだ?」

バナージにはアムロの言葉に思い当たる節があったが、ブライトには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

シュトレイ・バーンの行動を監視していた新サイド6駐留軍の斥候艦隊を指揮していたライル・パーシャル中佐は、シュトレイ・バーンが乗船した輸送船の航路を予想しながら遠巻きに尾行し、この宙域にたどり着いたのだ。

ライルは15年前に解体されたロンド・ベル艦隊、クラップ級ラー・テイムの副官を務めていた。

0093年時の第二次ネオ・ジオン抗争時はラー・カイラムにクルーとして搭乗し、ロンド・ベル艦隊解体後はラー・テイムの艦長に就任し第三軌道艦隊に編入される。

現在、新サイド6駐留艦隊に編入され、ラー・カイラムの艦長に就任、3隻の艦を率い、新サイド6の独立運動の監視任務に就いていた。

 

「シュトレイ・バーンか……、駐留艦隊エース部隊キルケーユニットのレーン・エイムがかなり警戒していたが………ブライト司令がいらっしゃれば、今の我々の事をどう思うやら、クロスボーン・バンガードにはいい様にやられ、守るべきものを守らずして、このような監視を………」

ライル・パーシャル中佐は、シュトレイ・バーンが潜んでいる宙域を見据えながら、ため息をついていた。

ライルはシュトレイの輸送艦はこの宙域のどこかにある秘密基地に向かったと予想していた。周囲の巡回艦に援軍を要請し、包囲網を敷きながら、駐留艦隊の本艦隊の到着を待っていた。

 

 

しかし……

「艦長、熱源を感知!反応からモビルスーツを乗せたベースジャバーと思われます」

ブリッジに索敵担当主任から声が上がる。

 

「こちらの位置が特定されたか?それとも偵察隊か?何れにしろこちらの動向が向こうに知られるのは時間の問題だ。迎撃準備だ。随伴艦及び友軍艦にも伝え、モビルスーツ隊の発進準備を。ミノフスキー粒子の散布はまだまて……敵は何機だ?」

ライルはモビルスーツ偵察部隊だと判断し、各方面に指示を出す。

偵察隊にこちらの位置がバレるまでは、手を出さず、出撃及び攻撃準備だけを進めた。

ここで言う随伴艦とはライル指揮下にある斥候艦隊、グラップ級二隻の事だ。

友軍艦とは、この宙域に援軍に集まってきている。新サイド6の各コロニーの巡回監視任務を遂行し、こちらに合流予定の5隻の事だ。

 

「それが……一機だけです」

 

「たった一機?偵察機か?それにしては堂々とし過ぎている」

 

「友軍艦、セレティウスから打診、モビルスーツ隊で対応するとの事」

この宙域に集まりつつある巡回艦の5隻の内の1隻が、先ほどのベースジャバーに乗ったモビルスーツを戦闘域に捉え、モビルスーツ隊を発進させようとしていたのだ。

 

「勝手な事を……、包囲網の完成を優先させろと返信しろ。モビルスーツの相手はこちらで対応するとな。……連携という言葉を知らないのか」

ライルは友軍艦の協調性の無さにさらに呆れながらも、バックアップ体制をこちらでとる事を思案し始めていた。

セレティウスはこちらの言葉に耳を貸さないだろう事は分かっていた。

そもそも、指揮系統が異なる上に、立場はセレティウスの艦長の方が上だからだ。

セレティウスの艦長は、ジオン残党狩りを主な任務としていた第三遊撃機動艦隊の出身だった。

幾度もジオンの残党と対峙し戦闘経験があった。

だが、それは戦闘とはもはや言えるものでは無かった。

物量に物を言わせ一方的に殲滅するだけだったのだ。

そんな経験がセレティウスの艦長の自信となり、自らの能力を過信し、このような勝手な行動に出たのだ。

 

 

「セレティウスからモビルスーツ隊8機でました。ジェガンタイプ6機リゼルタイプ2機を確認」

 

 

「ふぅ、聞く耳もたずか……、たった一機のモビルスーツに何が出来るものではないが……致し方が無い、包囲網の穴はこちらで埋めるしかないな、随伴艦にポイント5-57に移動開始すると伝えろ」

ライルは通信士にそう命令を下した矢先に……

 

「か、艦長!せ…セレティウスのモビルスーツ隊、次々に沈黙です!」

 

「なにをやってる?たかが一機に?モビルスーツ隊の質もお粗末だということか?」

 

「艦長!戦闘宙域を超望遠カメラで捉えてます。映像だします!」

索敵主任が叫び気味でライルに伝えると同時に、正面の空間に、戦闘宙域の映像が大きく映し出される。

そこには白と黒を基調としたモビルスーツが次々とモビルスーツを行動不能にする姿が映し出されていた。

 

「な!?……あれは!?あり得ない!!νガンダムだと!?バカな!!」

 

「艦長!あのモビルスーツを知っているのですか?」

 

「いや……あの動き………まさか?いやあり得ない!!アムロ大尉は30年前にMIA(戦場行方不明者)に!?いや……あの状況で生きておられた?いや、ありえない!……νガンダムに似せただけだ。こちらの戦意を削ぐつもりか?いや、独立の象徴にするつもりなのか!?」

ライルは次々と友軍艦のモビルスーツを無効化していく、ガンダムタイプのモビルスーツを目の当たりにし、混乱に陥る。

そう、そのガンダムタイプは、ライルが30年前ロンド・ベル艦隊のブリッジ要員だった頃に、艦隊の絶対的エースにして、連邦最強のパイロットとして名を馳せていたアムロ・レイの乗機νガンダムだったのだ。

当時のラー・カイラムのブリッジから、νガンダムの勇士をその目に焼き付けていた。

 

「か……艦長……、セレティウスモビルスーツ隊全機沈黙。さらにセレティウスはメインエンジンを破壊され、行動不能に………。たった一機で……まるで、伝説の白き流星……」

通信士は驚きと共に恐る恐るライルに報告する。

 

 

「フィン……ファンネル…だと………まずい。全艦戦闘準備だ!ミノフスキー粒子散布!迎撃態勢!戦闘域に突入後モビルスーツ隊出撃も絶対にあのモビルスーツに近づくな!遠距離射撃に従事しろ!相手の射線に入れば即撃墜される!ランダム機動を忘れるな!艦は全方位対空砲火を絶やすな!敵が見えなくとも弾を撃ち尽くすまで撃て!随伴艦及び友軍艦にも伝えろ!!」

ライルの命令は、まだ遠方で、しかもたった一機のモビルスーツに対してとるようなものではなかった。

だが、ライルは焦っていた。もし、あれが本物のνガンダムで、操縦者があのアムロ・レイだったのなら……。

第二次ネオ・ジオン抗争時、シャアの新生ネオ・ジオン掃討作戦のアムロ・レイの扱いは異様だった。

たった一機で大隊扱いだったのだ。

実際に、新生ネオ・ジオンのモビルスーツ隊の凡そ半分、νガンダム一機で引き受けていたのだ。

その上で、敵のエースや総帥であるシャア・アズナブルを撃墜という戦果を挙げている。

そのアムロ・レイとνガンダムがもし敵として、目の前に現れたのなら……笑えない冗談にも程があるのだ。

 

「え?……」

ライルの命令にブリッジ要員は皆、戸惑っていた。

それは当然だろう。モビルスーツ一機に対する迎撃態勢ではないのだ。

艦隊戦、しかも、こちらが圧倒的に不利な状態での迎撃戦を想定するかのような命令だった。

 

 

「何をやってる準備を急げ!!但し、命令まで絶対に動くなよ!!随伴艦にもだ!!」

ライルは立ち上がり怒声を上げて、叱咤する。

 

「「「りょ、了解」」」

 

「………アムロ大尉のはずが無い…だが」

ライルは叱咤した後に、ポスンと艦長シートに背中を預け、一人呟いていた。

 

 

 

 

 

少々時間を遡る。

 

「νガンダム……コクピットも当時のままだ。操作性も問題なさそうだ。よく整備されている」

アムロはνガンダムの各種機動を確認しながら、呟いていた。

 

今、アムロはνガンダムに乗り、ベースジャバーで斥候艦隊へと単騎で向かっていた。

アムロはバナージとブライトを説得し、囮及び殿(しんがり)をかって出たのだ。

アムロのνガンダムが斥候艦隊と対峙し、引き付けている間に、廃棄資源衛星偽装基地から、モノケロース及びバナージが率いる艦隊を脱出させるという物だ。

もちろん、証拠隠滅のために偽装基地内部を爆破し破壊を行う準備も行っていた。

 

νガンダム単騎が斥候部隊や連邦宇宙軍に接触した所で、新サイド6側のバナージの艦隊やモノケロースとの関係性は分かり様がない。

既に連邦と対峙してしまったYF-5、F91、F90が出てくれば、モノケロースがこの宙域に居たと言う証明になってしまうが、νガンダムは30年前にロスト機として登録除外され、それ以降表に出て来ていないモビルスーツだ。所属不明機と認識されるだろう。

この宙域に現れた事から状況的に新サイド6側が隠し持っていたと疑われるだろうが、鹵獲しない事には確たる証拠とはなりえない。

 

こうしてνガンダムが殿を行う事で、新サイド6が非合法戦力を隠し持っているという直接的な証拠が残る事は無くなる。

ある程度の状況証拠として疑われはするが、新サイド6側に臨検を行う程のものとはならないだろう。

 

アムロはそこまでの考えを伝え、ブライトとバナージを説得し、νガンダムと共に宇宙空間を突き進む。

 

 

「ハロ、無人機を誘導し、バックアップを頼む」

『了解、了解』

アムロはモノケロースで待機しているYF-5のハロに通信を行う。

この宙域に警戒網を張っていた無人機4機は、ハロに従い、νガンダムのバックアップを行うために、つかず離れずで追従していた。

 

(新サイド6を出た二個師団が合流する前に、斥候艦隊を排除、いや排除できなくとも交戦し、斥候艦隊が次の行動に移す事が阻止できれば、モノケロースとバナージの艦隊は容易に撤退出来る)

 

νガンダムが斥候艦隊の索敵宙域に入った頃、斥候艦隊への援軍移動中のクラップ級セレティウスが8機のモビルスーツを出撃させ、νガンダムに横やりを入れて来たのだ。

 

(ジェガンタイプが6機、あれはリガズィ2機、いやZⅡの改良機か……ジョブさんの情報通りか、未だに30年前の設計思想のモビルスーツがこうして現役とは………いや、こちらも同じか……)

連邦軍のモビルスーツの90%以上が未だ30年前と設計思想が同じ旧世代型のモビルスーツだ。それどころか30年前に作られたモビルスーツがそのままマイナーチェンジを繰り返し現役で配備されていた。

アムロは目の前に現れたモビルスーツ隊が30年前の第二次ネオ・ジオン抗争時の編成と変わらない事に、眉を顰めていたが、自分の乗機も同じだと思い起こし苦笑する。

月を脱出する際、アナハイム駐留艦隊との交戦は、新世代型の小型モビルスーツ部隊同士の戦闘であったが、今回はまるで30年前に戻ったかのような様相にさらに苦笑する。

 

 

(行くぞ!)

νガンダムはベースジャバーから離れ、上下から挟み撃ちのようにビームキャノンを撃ちながら突撃を敢行するモビルアーマー形態のリゼル2機に対し、アムロはビームキャノンを避けながら、上から突撃するリゼルに突っ込み、ビームライフルでの精密射撃で、リゼルの左足部に当たるユニットを吹き飛ばし、バランスを崩した所を、後ろに回りもう一機のリゼルの射線の盾にしながら、ビームサーベルで上半身両翼部に当たる腕部を素早く切り落とす。

 

(ビームサーベルはやはり使い勝手が段違いか……甘い!)

 

一機のリゼルを盾にしながら戦闘不能にした後、下から迫って来るモビルアーマー形態のリゼルをビームライフルで、左足部、右腕部、接続部を正確に撃ち抜き、行動不能にする。

 

まるでその場所にνガンダムが来るのが分かっていたかのように、ベースジャバーがその場に現れる。

 

再びベースジャバーに乗ったνガンダムは、遅れ来るジェガン隊にビームライフルだけで、次々と急所を撃ち抜き、行動不能に陥らす。

 

砲撃タイプのジェガンが2機残った所で、アムロはフィンファンネルを分離し、戦艦へと飛ばし、砲撃タイプのジェガンもビームライフルで急所を撃ち抜き、行動不能に。

それと同時に、クラップ級戦艦セレティウスのメインエンジンはフィン・ファンネルの高出力ビームにより、破壊された。

 

(ZⅡタイプの兵士は多少戦い慣れはしていたが、ジェガンタイプはまるで素人のような動きだった)

 

(νの反応速度が以前より上がってる?……フィン・ファンネルも以前よりも反応もいいようだ。サイコミュの出力が上がっているのか?)

アムロがそう思うのも無理もない。

はた目から見ると今のνガンダムのコクピット周りからエメラルドグリーンの光が漏れているように見えているはずだ。

サイコフレームがアムロのさらに高まったニュータイプ能力に反応し、オーバーロードに近い反応を示しているのだ。

実際に今のνガンダムはスペック以上の能力を発揮していたのだ。

 

 

 

 

アムロは再び、斥候艦隊にνガンダムを向けるが、途中で、斥候艦隊に合流し包囲網を築くはずの巡回艦2艦が無謀にもアムロのνガンダムに攻撃を仕掛けてくる。

 

だが、2艦のモビルスーツ隊、戦艦共に、アムロのνガンダムに苦も無く淡々と行動不能に陥らされていく。

1艦に限っては、全く攻撃も出来ずに、フィン・ファンネルの餌食に……

 

 

アムロはさらに進行し斥候艦隊を攻撃射程圏内に捕らえたのだが……、

「ラー・カイラムか?形状は変わっているが……停戦信号?」

 

斥候艦隊の先頭艦(ラー・カイラム)から停戦を示す信号弾が放たれ、さらにライトによるモールス信号で停戦の意思を伝えて来たのだ。

 

モールス信号の内容はこうだった。

『我ガ艦ハテッタイ・貴官ノ武運ヲイノル』

 

斥候艦隊ラー・カイラムの現艦長ライル・パーシャル中佐は、次々に艦を無力化するνガンダムの戦闘を見て確信した。

あのνガンダムは本物で、パイロットはアムロ・レイだと。

そう確信したライルは、アムロ・レイに弓を引くことは出来なかった。

あの第二次ネオ・ジオン抗争をロンド・ベル艦隊の一員として参加していたライルの中では、アムロ・レイの存在が大きかったのだ。

実際にあの抗争の最大の功労者はアムロ・レイであったのは、ロンド・ベル艦隊の誰もが知っていた事実である。

それに、アムロと交戦したとしても被害が拡大するだけのことだと……

ライルはこの地球圏を取り巻く情勢下で、アムロの存在は再び希望の光となるだろうと、出来れば自分も一緒に戦いたいという思いを秘め、そして撤退を決断したのだった。

 

 

斥候艦隊は反転し撤退。

 

 

 

 

(何とかなったか…………。νガンダムはしっくりくる。サイコミュシステムにサイコフレーム、フィン・ファンネルの有用性は高いな。やはり近接戦闘ではビーム・サーベルは必須か)

アムロのνガンダムはモノケロースの元へと戻っていく。

 




次はいよいよ。
アムロばれがちょっとあるかも?
前作に出て来たあの人がでるかも?


補足説明。
〇レーン・エイム(閃光のハサウェイ)
ペーネロペーのパイロット
劇中後半ではハサウェイに太刀打ち出来る程の力量にまで成長していく。
一応強化人間らしいですが、昔のような強化人間特有の精神的不安定さは低減されてる。
0123年だと、ハサウェイの同じ歳だとすれば、43歳。


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接触

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

今回は無双も戦闘は有りません。
つなぎ要素が大きいお話です。



斥候艦隊を撤退させたアムロとνガンダムは、モノケロースが退避している宙域へと進む。

モノケロースの退避位置はあらかじめブライトと打ち合わせ済みだった。

だが、それは連邦軍艦隊の追撃や追跡が無いのが前提の場所だ。

 

アムロはYF-5 シューティングスターとハロをモノケロースに置いてきており、νガンダムには無人機が追従しているため、モノケロースの正確な位置を把握することが出来ていた。

モノケロースは打ち合わせ場所通り、L5宙域の外延外側ギリギリの位置に退避していた。

 

モノケロースとバナージの艦隊は撤退途中まで行動を共にしていたが、他の連邦軍巡回艦との遭遇等を考慮し、別行動に移った。

一番まずいのはモノケロースとバナージの艦隊が行動を共にしている事が見つかる事に他ならないからだ。

 

更にバナージは何としても、艦隊を新サイド6の他の偽装基地にたどり着かせなくてはならなかった。最悪オードリーだけでも、新サイド6のどこかのコロニーに送り届けなければならない。

 

バナージの艦隊も輸送船と戦闘艦を途中で分け、行動を別にする。

戦闘艦の影をチラつかせ囮役にしながら、輸送艦を規定宇宙航路に乗せ、無事にオードリーと輸送艦は新サイド6のコロニーに到着。

 

バナージの艦隊も途中、バナージがユニコーンガンダム1号機で囮となり出撃し、キルケーユニットのレーン・エイムと対峙する一幕があったが、なんとか偽装基地にたどり着くことが出来たようだ。

 

 

しかし、この事態を受け、新サイド6があるL5宙域は連邦軍が最大限の警戒と網を張っているだろう。

モノケロースは新サイド6の宙域、L5宙域に迂闊に入る事が出来なくなった。

要するに当面の退避場所を失ったことになる。

新サイド6の廃棄資源衛星偽装基地でまともに補給を受ける間もなく撤退を余儀なくされ、食料も心許ない状況だ。

 

 

 

 

アムロとνガンダムはモノケロースに帰還し、右側上部カタパルトデッキに着艦、格納庫へと収納される。

 

アムロがνガンダムを降りると……

「ハヤセさん、な、なんですかこのモビルスーツは!」

「ジェガンタイプじゃない?まさか!?」

「かっ、カッコいい!ガ、ガンダムタイプだ!」

「ハヤセさん!あの後ろの放熱板はなんですか!?」

「大きい……」

「このシンプルなフォルムは、芸術的だ!」

若い整備兵がわらわらとアムロに集まって来て質問攻めにする。

流石に隠密撤退中のモノケロースから先ほどのνガンダムの戦闘シーンは確認できなかったようだが、格納庫に収容されるνガンダムの存在感に彼らは興奮気味であった。

アムロは苦笑気味にジェガンタイプのカスタム機だとお茶を濁し、そそくさと格納庫の出入口に向かう。

 

だが……

「ハヤセの旦那……ありゃ、νガンダム…RX-93シリーズだよな。30年前に量産計画があって、僅かだが作られた奴だ。高価な上に相当な技量が無いと乗りこなせないってなことで、直ぐに量産型の製造もストップされたとんでもないガンダムタイプだ。俺は若い頃、量産型を整備したことがあるが……こりゃ、オリジナルじゃないのか?あれはぶっ壊れたと聞いていたが……あんた何もんだ?」

格納庫の出入口に差し掛かったところで、古参の整備兵長にアムロは声をかけられた。

流石のアムロもこれには答えを窮し、そうなのか?としらばくれる。

 

(流石に不味かったか……)

アムロはνガンダムで直接戻って来た事に少々後悔していた。

 

 

アムロは報告や今後のモノケロースの方針について打ち合わせのために艦長室に呼ばれていたが、一度与えられた自室に戻り、軽くシャワーを浴びる。

着替えを行ってる最中に、ブライト夫妻の訪問を受ける。

「アムロ、しばらく食事を摂ってないでしょ?サンドイッチ作って来たわ」

「ありがとう、ミライさん」

ミライがアムロの為に手軽に食べられるサンドイッチを用意してくれていた。

アムロはコクピット内で栄養補給用のドリンクは口にはしていたが、この半日以上まともな物を何も口にしていなかった。

 

「νガンダムがまだあったとはな。俺もあの後に散々探したのだが……」

「ああ、15年前にバナージがさっきの廃棄資源衛星近隣宙域で見つけたらしい」

「あれから、主を失ったνガンダムは15年間宇宙を彷徨っていたと言う事か……」

「そうらしい。俺もまさかこうしてまた乗る事になるとは思いも寄らなかった」

ブライトの口振りから、アムロとνガンダムが行方不明になってから、νガンダムの行方を捜していたようだ。

 

「アムロ、それとだ。レアリー艦長はお前の事を気にしている様子だ。疑ってると言う感じではないが、俺にお前の事を何度か聞いてきた。それに今回のνガンダムだ。……これ以上隠せば、疑いの目で見られるだけだ」

「……確かにそうだが」

「彼女は信用できる。事情を話した方が良いだろう」

「わたしもそう思うわ。彼女、若いけどしっかりしてるもの、クルーにも慕われてるのもわかるわ」

ブライトとミライはレアリーにアムロの出自の真実を語る様に説得する。

二人ともレアリーをかなり買っているようだ。

それにレアリーは実際に、アムロが何者なのかとかなり初期から疑問に思っていた。ブライトとの交友に、ジョブ・ジョンからの信頼も厚く、さらに凄まじい技量のパイロットだ。何よりYF-5にマーキングされてあるあのユニコーンマークが頭から離れないでいる。

今はアムロが元ロンド・ベルのパイロットではないかと推測していた。

しかも、ありえないかもしれないが、もしかするとあのアムロ・レイかもしれないとまで……

 

「……事情を話した方がいいな。それにこの艦の行先の事も有る。彼女には全て話そう。信じてくれるかは疑問だが……」

「彼女なら大丈夫よ」

「だったらいいですが」

アムロは二人の説得に応じ、レアリーに真実を語る事にした。

 

「アムロ、行先とは……お前が所属しているという平行世界の長距離移民船団のことか?」

「いいや、その中継地点だ。高速機動輸送艦、補給可能な大型艦が待機している場所だ」

「緊急避難先として俺に知らせてくれた場所か」

「そうだ。流石に長距離移民船団は、モノケロースのクルーにはショックがデカすぎるだろう」

「巨人の異星人が生活していると聞いたが、流石にそれは俺やミライでもショックはデカいだろう」

「いや、長距離移民船団は基本、全員マイクローン化、要するに人間サイズに遺伝子組み換え処理を行ったゼントラーディ人しかいない。見た目はそれ程俺達と変わらない。耳の形が多少特徴がある程度だ」

「それにしてもだ。巨大宇宙船に街があるとかだけでも想像がしにくい」

「それだけじゃない、中継地点に待機させてる高速機動輸送艦はこの艦よりも更に大きい、800m級だ。しかも可変戦闘機が最大200機搭載可能だ。これだけでもどう思われることやら」

「……輸送艦一隻で、二個師団から三個師団クラスの機動兵器が搭載可能とは……」

「ああ、前にも言ったが、俺が居た世界の物量は凄まじい。500万からの敵艦隊が存在したからな。旗艦空母は1400㎞級だ。まるで月がもう一つ現れたと錯覚してしまう程だ」

「そこまで来ると、想像ができんな」

ブライトはアムロの話を聞き、ため息をついていた。

因みに長距離移民船団の旗艦メガロード01は1800m弱、護衛艦には4000m級戦艦まで存在する。

 

現在、火星と地球の間のアステロイドベルトに待機しているメガロード01率いる長距離移民船団にはモノケロースを直接連れて行くわけには行かないだろう。

本来交わるはずの無い、長距離移民船団のマクロスの平行世界の住人と宇宙世紀の住人を接触させるのは憚れる。

それに、アムロ自身、地球のいざこざに自分の都合で長距離移民船団を関わらせたくはなかった。

だが、モノケロースを助けたい思いもあり、妥協点として地球圏の外延部に待機している高速機動輸送艦での補給処置を考えていた。

これもアムロの一存で決める事は出来ないが、メガロード01の上層部は快く了解してくれるだろう。

 

アムロは自室でブライトとミライと打ち合わせを済ませた後、ブライトと共に艦長室に向かう。

 

 

 

「ハヤセさんよくご無事で、殿を任せてしまいまして、申し訳ございません」

「いや、俺から買って出た事だ。艦長が責任を感じる事じゃない」

「いえ、何度も救っていだたいて、感謝しきれません」

「ジョブさんに頼まれたことだ」

レアリーは開口一番に、アムロに頭を下げ礼を言う。

 

「それと……ハヤセさん、こんな事を聞くのはルール違反なのかもしれませんが……あのモビルスーツはガンダムではないですか?……あの朱色のユニコーンマーク……貴方は」

遂にレアリーから、アムロについて直接聞いてきたのだ。

やはりレアリーは勘づいているようだ。

 

「……その事だが、レイ・ハヤセは偽名だ。俺の本名はアムロ・レイだ」

アムロは一呼吸おいて、本名を名乗る。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「いえ、余りにも衝撃的で……そうかも知れないと、頭の片隅には思っていたのですが、その伝説のモビルスーツパイロットが目の前に……しかも30年前に亡くなられたと……生きておられたとしても年齢が合わないです。失礼ですが、ブライト元司令と年齢がそれ程変わらないはずなのに……余りにもお若いので……」

 

「それも理由がある。俺の実年齢は36歳だ。本来なら59歳でなければならないが、時間にラグが大きくある」

 

「……コールドスリープですか?あの技術は何十年も研究、試験されてきましたが、未だに技術が確立されていないと……」

 

「いいや……、信じられないかもしれないが、レアリー艦長には聞いて欲しい」

そう言ってアムロは30年前に平行世界へ飛ばされ、そして最近、この時代に戻って来た経緯を語りだす。

平行世界では同じ地球が存在し、同じ言語を話し、同じような歴史を紡いできたこと。その世界では銀河規模で異星人同士の戦いが起きており、地球も巻き込まれ、地球は壊滅、人類は絶滅一歩手前まで行ったが、今は異星人と手を携え、共に生きていく事を決め、広大な宇宙へ第二の母星を求め旅立ったことなど………。

普通に聞けばとても信じられないような話だ。

アムロはブライト夫婦に説明したのと同様に、情報端末の映像を見せながら語った。

 

「……その、どう言ったらいいのか」

 

「信じられないだろうが、真実だ。出来れば今はレアリー艦長の心の中で留めて欲しい。俺が乗って来た可変戦闘機は平行世界の技術で作られたものだ。そもそもこの世界のモビルスーツのコンセプトとは全く異なる発想で開発されたものだ」

 

「信じる信じないといよりも、理解が追い付いていない状態です。……しかし、そんな重要な事をどうして、私に話を……」

 

「レアリー艦長は違和感、いや疑問に思っていただろう。俺の事やあの可変戦闘機、そしてジョブさんやブライトとの関係に……」

 

「……確かにそうですが……ハヤセさん……いえ、そのアムロ・レイ中佐が誰であろうと、信用しようとは思っておりました。あの室長が太鼓判を押すような方です。それにとても悪い人には見えませんでした」

 

「それはありがたいが……中佐?」

 

「お前は30年前に戦死したことになってるからな、殉職し二階級特進している。記録のお前の最終階級は中佐だ」

ブライトが補足説明をしてくれるが、それにはアムロは苦笑するしかなかった。

因みにブライトの最終階級は准将であったが、連邦宇宙軍最強と呼び名の高いロンド・ベル艦隊と司令官としての階級が大佐であったため、一般的にはブライト大佐と認識されている。

 

「そのような、世界情勢が一変するような重要な話をなぜ私のような者に……」

 

「レアリー艦長は信頼できる人物だ。堅物のブライトでさえそう言っているんだ。間違いない」

 

「恐縮です」

 

「それと、モノケロースのこれからの事もある……提案なんだが、今、俺が所属してる長距離移民船団の補給可能な輸送艦が地球圏の外延部に待機している。そこで補給を受けてほしい。弾薬だとかは規格が異なるものが多いだろうが、エネルギー関連ならば、何とかなるだろう。食料や生活物資は全く問題ない。あの場所ならば安全面も保証される、今後の行く末を考える時間も作れる。どうだろうか?」

 

「その、とても助かりますが……。平行世界から来られた長距離移民船団の方々も補給に困っているのではありませんか?それなのにご迷惑がかかるのでは?」

 

「ふっ、艦長はやはり信が置ける人物だな、逆に気を遣わせてしまったか。長距離移民船団は広い宇宙の中、人類が住める惑星、要するに第二の母星を探すために地球を発った船団だ。それこそ目的を達するまで何十年、何百年かかるか分からない旅だ。自給自足は勿論、独自の戦力も備えている。たかだか700名程度の人員は全く問題にならない」

長距離移民船団、特にメガロード01は長距離航行で起こりえるあらゆる障害を想定し、設計運営されている。ただ流石に次元断層に飲み込まれるとは想定外だったのだが。

モノケロースは乗員凡そ480名で標準稼働が想定された艦だ。最低人数は180名とかなり少ない人数でも航行運営可能である。現在は、サナリィの若い技術者やスタッフも月の基地から逃げるために乗船しているため、700名程の人間が乗っている。そもそもモノケロースはかなり内部が広く、元々連邦宇宙軍の旗艦として設計されているため、内装も豪華で、居住性も十分確保され、福利厚生施設も十二分にあり、700名もの人間も十分収容できた。

 

「そ…そうなんですか」

 

「宇宙航行に慣れてないスタッフも多いだろう。この辺で休ませないと後々に厳しい」

 

「わかりました。ですが、皆にどう説明すれば良いでしょうか?」

 

「ああ、俺が所属する民間軍事会社の基地とでも言っておけば大丈夫じゃないか?」

 

「基地ですか……」

 

「ああ、先にいっておくが、輸送艦と言ってもモノケロースよりも大きい。モノケロースを収容は流石に出来ないが、民間のシャトル程度であれば、数機収容できるスペースは十分ある」

 

「それ程の大きさが……わかりました。その、何から何まで……ありがとうございます」

レアリーはモノケロースの今後の行く末で悩んでいたが、当面の補給については解決を見た。だがそれよりも、アムロから聞いた平行世界の話に、頭の中を時間をかけて整理する必要があった。

 

 

モノケロースは地球圏を離れるコースを取り、地球圏外延に待機している高速機動輸送艦に向かう。

 

レアリーは発令所ブリッジの艦長席に座り、指揮を執るが、どこかうわの空だった。

当然だろう。レイ・ハヤセの正体が伝説のモビルスーツパイロット アムロ・レイだったのだ。それだけだったらまだいい、そのアムロは平行世界に飛ばされ、この世界に戻ってきたのだ。しかも平行世界の船団を引き連れて……。

レアリーの中で、この事実は暫く消化しきれなかったのも言うまでもない。

 

 

 

 

アムロはその間に、YF-5に戻り、メガロード01と通信を行う。

勿論、その相手は長距離移民船団の提督であり、最愛の妻でもある未沙だ。

アムロはこれまでの経緯を未沙に話し、改まった口調で願いでる。

「早瀬提督、勝手な申し出だとは承知している。戦艦級一隻分の補給を願いたい」

 

「アムロさん………わかりました。レイ准将、当船団は宇宙で困難な立場にある者を見捨てるような事は致しません。それが異星人だろうとです。それはこの船団の設立宣言に謳われている条文にも記されております。許可致します。但し、詳細についてはこちらで検討し、追って知らせます。先に高速機動輸送艦との連動、補給及び人員移動は許可します。人員移動の際は条例に則って、安全面を考慮し対象者の遺伝子検査をお願いいたします」

未沙も船団のトップとして、姿勢を正し、アムロに許可を出す。

 

「感謝する」

アムロは映像通信越しに敬礼を返す。

 

「アムロさん、大変なのは十分わかっているのだけど、こちらもトラブルが発生して……」

未沙は凛とした佇まいとは打って変わって、申し訳なさそうにアムロにそう告げる。

 

「未沙、何があった?」

 

「その………、タカトク中将がアムロさんに会わせろと、再三に渡りブリッジに……」

 

「いや、ちょっと待て、なぜタカトク中将がメガロード01に乗船している。中将は月基地にいらっしゃるはずだぞ」

新統合軍、技術開発関連の全責任者であるタカトク中将は月基地にラボを置き、今もバルキリーや宇宙戦艦等の開発や研究を行っているはずなのだ。

 

「それが……半年前の護衛艦入れ替えの際に、密航されたらしいの。予備のバルキリーのコクピットの中に隠れられていたらしいのだけど、暇を持て余して、コクピット内部を解体され、緊急脱出用のコールドスリープモードが発動したらしく、いままで護衛艦内の予備のバルキリーコクピット内で眠られて……どうやら、次元断層の影響で意識を取り戻されて、それで……」

タカトク中将はメガロード01が次元断層に落ちる前まで、メガロード01の来訪を再三申請していたが、そのたびに却下されていた。

新統合政府において技術開発関連のトップなのだから、わざわざ危険が及ぶ可能性のある宇宙探索移動中のメガロード01に行かせるわけにはいかないだろう。

それに、長距離移民船団トップの未沙も受け入れに困る。

そこで、しびれを切らしたタカトク中将は長期休暇を取り、今回の密航騒ぎだろう。

なぜ、そこまでしてタカトク中将はメガロード01に来たかったのか?

勿論アムロに会うためだ。

新たなインスピレーションを求め、アムロと技術開発についてじっくり語り合いたかったのだ。

タカトク中将は技術開発については天才的ではあったが、それ以外にはほぼ興味が無く、新たなバルキリー開発の為には凡そ軍人とは思えないとんでもない行動を起こしてしまう程なのだ。

そして、密航を敢行したのだろうが、誤ってコールドスリープ状態になり、さらに次元転移に一緒に巻き込まれたようだ。

 

「………………それで、中将はなんと?」

アムロは、頭痛がするかのように額に手をやる。

 

「アムロさんを出せの一点張りで………ここは平行世界の可能性が在る事も、地球に偵察に行った事もお伝えしたのだけど………」

未沙の言葉に、アムロはタカトク中将がどんな行動に出たのか、容易に想像が出来た。

 

ブリッジではなく通信室でアムロとの通信中の未沙の元に、ブリッジ要員から緊急連絡があると、直接声がかかる。

アムロとの回線をそのままにしたまま、緊急連絡の内容を聞く。

『艦長、通信中に失礼します。一条少佐からの緊急報告です』

『いいわ、この場で報告を』

『タカトク中将が許可なく、フォールド可能な中型連絡船に勝手に乗り込もうとしたそうです。それを何とか阻止したのは良いのですが……。その……中将はレイ准将の元に行くとばかり、話が噛み合わないそうです』

『……分かったわ、一条少佐には丁重にと伝えてください』

『了解』

 

「………アムロさん」

 

「未沙……中将と話そう」

アムロは困り顔の未沙の顔を通信画面越しに見て、こう答えるしかなかった。

 

 

30分後。

タカトク中将はアムロと映像通信を行うのだが……

「アムロ君!平行世界とは恐れ入った!YF-5とこの世界の機動兵器との戦闘映像は確認したが、平行世界の機動兵器とはまさしく人型なのだな!これならば近接戦闘は必須と言えるだろう!まあ、君が乗った私のYF-5とでは、相手として不足のようだったが!はははははっ!それよりもだ!君だけズルいではないか!私も平行世界の兵器群に触れさせてくれてもいいのではないかね!確かに5年前の時点で、YF-5シューティングスターは3世代を悠に越えた究極の可変戦闘機として完成を見た。だがもうそろそろアレを超える物を作ってみたいではないか!自身の限界を超えた先を見たいではないか!!それなのにだ!!近頃新統合軍は私を月基地に押し込め!先に、どんなパイロットでも使い勝手がいいVF-4の後継量産機を作れだの!ステルスに特化した次世代可変戦闘機を作れだのと!!面白くもない開発を!ステルス機は多少楽しめたが!!やはり私は究極の可変戦闘機が作りたいのだ!!だから奴らの要望通り!!VF-4ライトニングⅢの後継機としてYF-5のフレームを元にVF-1の簡便性とVF-4 の使い勝手の良さをミックスさせたVF-5000を完成させた!!次世代ステルス機としてVF-11の試作機、VFX-11も完成させた!!ようやく次の究極の可変戦闘機に着手できると息巻いていたのにだ!!君に会う事が出来ないではないか!!だから私は長期休暇を取り、こうしてメガロード01に到着したのだ!!そして気が付けば次元断層に落ち平行世界に転移!!アムロ君は平行世界の機動兵器と対峙していたと!!何たる天祐!!何たる偶然!!私のインスピレーションは高まる一方だ!!是非!!この世界の機動兵器群に触れさせてくれ!!」

タカトク中将は通信越しにアムロに開口一発目から一息で語った。

要するに、YF-5の次の究極可変戦闘機を設計するために、この世界のモビルスーツに触らせろと言っているのだ。

 

「……タカトク中将、ご無沙汰しております。……わかりました、但し条件は付けさせてください」

 

「流石はアムロ君!!話が早い!君の奥方は相変わらず頭が固くて困る!!君を見習って貰いたいものだ!!ははははははっ!!では、早速この世界の地球へと!!」

 

「待ってください。今は危険です。………メガロード01で待ってください。この世界の兵器群の技術書や開発設計図などを送信しますので」

 

「いや!私のこの目で見たいのだ!!君だけズルいではないか!!君もわかるだろう!同じ技術者として!!自分の目で確かめたいのだよ!!」

こうなるとタカトク中将はテコでも自分の意思を曲げないだろう。

アムロもそれを重々承知していた。

 

「わかりました。但し、今私が向かう高速機動輸送艦までです。そこに私も戻ります。こちらの世界の機動兵器も用意します」

 

「致し方が無い!それで手を打とう!!はははははっ!!」

タカトク中将のテンションは上がりっぱなしだ。

 

「……では、お待ちしてます」

 

「うむ!!」

タカトク中将は満足そうに頷き、通信を終了させる。

アムロは悩みの種が一つ増えた事に、珍しくため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

1日半後、モノケロースは高速機動輸送艦に到着し、弁当箱のような形をした高速機動輸送艦の上部に乗ったような形で固定される。

 

固定から2時間後、アムロはモノケロースから高速機動輸送艦にレアリーとブライトと共に移動する。

その前にレアリーとブライトからは髪の毛を二本程、預かり、先に高速機動輸送艦に送る。

遺伝子検査を行い、伝染病や未知のウイルス、アレルギーなどを持っていないか等を調べるためだ。

その結果、簡易検査では問題無しと出たため、乗艦許可が下りたのだ。

 

「レイ准将、おかえりなさい」

「准将、ご苦労様です」

「准将、お待ちしておりました」

アムロは敬礼と共に乗組員に出迎えられる。

 

「アムロ、随分と慕われてるようだな」

ブライトは通路を歩きながらそんな感想をアムロに漏らす。

「………」

レアリーはその横で恐縮していた。

 

 

この後、会議室のような場所で高速機動輸送艦の艦長と補給等の打ち合わせをする。

そして、正面の大画面スクリーンで、映像通信が行われた。

そこには白を基調とした制服を着た年若い落ち着いた雰囲気の美女が映し出される。

『新統合宇宙政府(新統合政府の正式名称)第一次超長距離移民船団提督の早瀬未沙です。貴艦を歓迎いたします』

「サナリィ所属、モノケロース艦長代理レアリー・エドベリ中尉です。受け入れ感謝いたします」

「モノケロースオブザーバーのブライト・ノアです」

 

『条件付きではありますが、滞在と補給の件に関しましては保証させていただきます。貴艦につきましてはレイ准将に一任しております』

 

「何から何まで、このご好意をどう受け止めれば……いいのか」

未沙の言葉にレアリーは感謝しつつも、この好意に報いる物がない事に、心を重くしていた。

 

「その件だが、俺からレアリー艦長に頼みたいことがある」

そこでアムロが横からレアリーに何やら頼みごとをしようとする。

 

「何なりと言ってください。我々で出来る事がありましたら」

レアリーはアムロの言葉に幾分か心を軽くするが……

 

「そうか……」

頼み事をするアムロの顔はあまり浮かないものだった。

 

 

未沙との通信会合を終え、一度モノケロースに戻り、会議室でモノケロースの各部署の責任者を集め、会議を行う。

補給の受け渡し、しばらくこの場で待機出来る事、これからの方針について……。

今後のモノケロースの方針については、二日に1回定期会合を行い、皆の意思決定を行う形をとる事となった。

ひとまずはこの場所はレイ・ハヤセが所属する民間軍事会社の基地であることにしている。

 

 

この後、レアリーはアムロとブライトと共に艦長室で雑談を交えた話し合いを行った。

「早瀬提督は随分とお若い様ですね。私とそれ程変わらない様に見えましたが、なんといいますか綺麗な方なのですが歴戦の艦長にも劣らない風格のような物を感じました」

先ほどのモノケロースの責任者会議についての意見交換を行った後、レアリーはアムロになにげなく未沙について聞いた。

 

「ああ、早瀬提督は26歳だ。君の方が若いだろう」

アムロはそう答える。

レアリーは現在22歳で中尉の立場だ。

それだけでも、優秀な士官だろう事はわかる。

 

「レアリー艦長もなかなかのものだと思うが」

ブライトはレアリーを褒める。

 

「恐縮です。でも私はまだまだです。今もブライト元司令やレイ准将がいらっしゃらなければ、何をどうすればいいのかも……」

 

「今まで通りハヤセでいい。それと彼女の事だが、経験の差だろう。彼女は19歳時に君と同じ中尉という立場で、最前線の艦で戦って来た人間だ。あちらの世界の人類は、異星人との戦いで生き残った人達は1000万人も居ない。軍人に至ってはほぼ全滅に近い。人材がいない中、彼女自身も優秀だったため、若くして上の重責を担う立場に収まるしかなかったと言う事だ。俺達大人が不甲斐ないばかりに……」

 

「1000万人も生き残れなかった………」

レアリーは驚きの声を上げる。

 

「ああ、一年戦争では人類の半分を失ったが……それ以上の経験をするとは思ってもみなかった……」

アムロは眉を顰めながらそう答える。

 

「そ……そう言えばレイ准将の偽名……ハヤセ……早瀬提督と同じですね」

 

「ああ、俺の妻だ。子供も二人いる」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「アムロが若い姿で現れただけでも驚いたが、さらに若い嫁と子供まで居ると聞いた時はそれ以上に驚いたぞ」

ブライトはユーモアを交えてこんな事を言う。

 

「それはどういう意味だ?ブライト」

 

「そのままの意味だ」

 

 

 

「そういえばレイ准将、先ほどの会合で頼み事とおっしゃってましたが……」

 

「ああ、それを言わなくてはならないな。君たちにとってはあまりいい気分の話じゃないのだが……。モノケロースのモビルスーツを見せて欲しいという要望なんだが……」

アムロが躊躇気味に要望を伝える。

 

「レイ准将はモビルスーツについては把握されているのでは?」

 

「いや……そのだ。船団、いやあちらの世界の技術者なんだが……」

アムロは躊躇気味だった理由は、サナリィの技術を見せてくれという物だった。

サナリィの技術は地球の最新技術だ。それこそライバル社のアナハイム・エレクトロニクスが喉から手が出る程のものだ。

サナリィはアナハイムに技術を取られまいとして、こうしてモノケロースを脱出させたのに、その最新技術を見せてくれなどとは流石に言い難いだろう。

 

「いえ、室長からお伺いしましたが、レイ准将にサナリィのマスターデータをお渡ししたと聞いてます。レイ准将なら有効活用してくれると、私には異存はありません。ここまで助けて頂いて、私どもに渡せるものは何もないので……」

 

「いや……いいのか?俺はデータは預かったが、封印か処分しようと考えていたのだが……」

 

「室長はレイ准将に有効活用していただくことを見越して、レイ准将にマスターデータを渡したのだと思います。護衛代金の代りにとでも思っているのだと思います」

 

「そうか……だが、本当にいいのか?」

アムロはレアリーが余りにもあっさり了承するため、サナリィの技術のすべてが入ったマスターデータの重要性に気が付いていないのではないかと、再度念を押す。

 

「私は技術者ではありませんが、レイ准将なら悪用される事はありませんし、そもそも地球連邦には遅かれ早かれ報告しなければならない技術です。アナハイムともコスモバビロニアでもない勢力で、しかも平行世界の方々なら、あまり問題にならない気がしますが」

 

「アムロ、お前は気にし過ぎだ。お前が居なかったら、俺もミライも乗船していなかった。モノケロースは駐留艦隊に鹵獲され、既にアナハイム・エレクトロニクスに奪われていた可能性が高いものだ」

 

「そうか、助かる。モノケロースに使えそうな技術もある程度こちらも提供しよう……いや、それだけならばいい。……そのだ。その技術者は本来俺の上司に当たるのだが……技術畑の人間で、機動兵器を見ると周りが見えないというかだ。迷惑をかける」

そう、アムロはタカトク中将の事を言っているのだ。

 

「ふっ、それはお前も一緒だろ。アムロ」

ブライトは昔のアムロを思い出し、笑っていたが……。

タカトク中将はそれよりも飛んでもない人物であることを、後で知る事になる。

 

「技術提供は助かります。サナリィの開発・技術スタッフも似たようなものですので、意気投合するのではありませんか?」

レアリーは、なぜか狼狽するアムロの姿と、ブライトとアムロのユーモアたっぷりの掛け合いに、微笑んでいた。

 

 

 

 

 

1日後……

「アムロ君!!これは凄いぞ!!サイコフレームとはなんだ!!ミノフスキー粒子とは!!これがビームサーベルの完成形か!!この世界には君のような天才が溢れているのだな!!」

フォールドブースター搭載の中型連絡船で、高速機動輸送艦に到着したタカトク中将は早速、モビルスーツを……

とりあえずは、νガンダムがその最初の餌食となったのは言うまでもない。

 

 

傍迷惑な技術者の乱入に最初は戸惑うサナリィの技術開発スタッフだったが、この事でモノケロースにも思わぬ恩恵が得られることになる。

 

 

そう、サナリィで開発途中であったモビルスーツが加速度的に完成していくのであった。

 




次回。

タカトク中将のお陰で、F92等の開発中のMSが完成に!?
νガンダムが魔改造!?
遂にあのとんでも機動兵器の開発着手に!!

とりあえずの安寧の地を得られたモノケロース。
そんな中、地球圏では、さらなる戦いが………。
地球に戻るモノケロースの明日は?


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ブライトとアムロの決意。

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


ようやく書けました。
最初の方のお話がちょっと、コスモ・バビロニアの背景を語るだけのものになってまして、思う様に書けなくて、毎日消しては書いての連続でしたが……、まあ、マシなものにはなったかと……自信無し><

というわけで続きをどうぞ。




モノケロースは難を逃れ、地球圏外延部宙域に待機中の平行世界(マクロス側)の高速機動輸送艦と接続してから1カ月が経とうとしていた。

 

その間地球圏は静かなものだった。

バナージとオードリーが潜伏し、地球連邦からの独立を目指す新サイド6も大きな動きを見せていない。

同じように各サイドや月面都市も大人しいものだ。

それどころか、地球圏の今の状況を作ったコスモ・バビロニアも、建国以降、行軍どころか軍を大きく動かしていない。

 

しかし水面下では、各サイドや月面都市は地球連邦とコスモ・バビロニアの動向を注視しつつそれぞれの思惑で動いており、コスモ・バビロニアも他のサイドの取り込み工作や、連邦政府の内部からの切り崩しの準備を着々と進めていた。

 

さらに、コスモ・バビロニアの国王となったマイッツァー・ロナは、国是ともいえる自ら掲げたコスモ貴族主義を国民に浸透させ、全世界に知らしめるべく、様々なメディア戦略を行っていた。

コスモ貴族主義とは、貴族の責務・ノブレス・オブリージュ(高貴なるものは、その地位に見合った責務を全うしなければならない)を根本に置いた思想であった。

マイッツァーは『高貴たる者、戦時には民衆の盾となり国のために剣となり戦い、平時には自らを律し民衆を導く存在とならん』と語っている。

貴族主義とはあるが中世の貴族主義とは異なり、『有能な者こそが高貴たれ』と、血筋よりも実力が伴ったものこそが、貴族となるべきだと。

要するに、有能で優れた精神性を持った人間は、それ相応の身分となる事が出来ると言っているのだ。逆説的に言えば、貴族は常に有能であるべきだと言っているのだ。

さらに、『人間は生まれや立場が違えど平等である』とも語っている。

 

解釈としては、有能な人材はそれ相応の身分(貴族)に取り立てる。

但し、身分に応じた精神性と重責を担い、全うできなければ、剥奪するという物だ。

 

貴族主義といいつつも、封建社会を目指していない。

自由資本主義経済を基本としつつも、身分制度のような縦割り制度のような物が存在した。

嘗てギレン・ザビが提唱した国家概念とも共通するものがある。

要するにいいところ取りであった。

このコスモ貴族主義がどの様に機能し有用であるかは、今後のコスモ・バビロニアの歴史が語るだろう。

 

 

マイッツァー自らも貴族主義を体現するため、自ら先頭に立ち、諸悪(連邦政府)に立ち向かう姿勢をメディアを通じて国民や全世界に示していた。

マイッツァーは貴族主義を体現するため、軍事力という分かりやすい形でそれを指し示す。

それが私設軍隊クロスボーン・バンガードであり、現コスモ・バビロニア王国軍であった。

 

だが、マイッツァーは優秀な企業人でもあり経済戦略家でもある。

軍事行動だけでは、地球連邦政府を抑える事が困難である事も十分理解している。

そもそも、モビルスーツなどの機動兵器の性能の差があるとはいえ、コスモ・バビロニアと連邦軍の戦力物量差は7~8倍以上の開きがあるのだ。

単純には計算できないが、艦船の数だけで比較すると一年戦争時のジオンと連邦軍よりも、物量差は激しい。

マイッツァーの真骨頂は金と経済を動かし、経済的な策略を仕掛けていき、じわりじわりと相手にダメージを与えていく経済侵略戦こそ彼の得意とするところだ。

新サイド4 フロンティア・サイドを軍事的に占拠せしめる数年前から、その下地は出来上がっていた。

地球連邦政府や連邦軍、アナハイム・エレクトロニクスを始めとした各財界などにも彼の手が入り、裏工作を万全に行ったうえでの軍事行動であった。

連邦駐留軍の被害を拡大させるだけの無意味な抵抗はあったものの、大きな混乱もなく、新サイド4 フロンティア・サイド中央議会を掌握し、短期間で建国宣言まで成しえた事からも伺える。

 

コスモ・バビロニア建国から2カ月が経とうとしていたが、コスモ・バビロニアに対し、連邦軍は纏まった動きを未だに見せていない。

その理由の一つに、連邦軍の大元である連邦議会では、コスモ・バビロニアを独立国と認めるか否かを、議会内部で未だに意見が分かれ、大荒れし、決定が大幅に遅延しているためだ。

議会の意思決定がなされないこの状況下では、連邦軍はコスモ・バビロニアに対し、正式に攻撃が出来ないのだ。

これもマイッツァーが各方面に裏から手を入れ、内部工作を行った結果であった。

もう一つの理由は、連邦宇宙軍は各サイドの独立阻止のために7つあるサイドの内、サイド1、サイド2、サイド3、新サイド5、新サイド6、さらに月面都市群の駐留艦隊を動かす事が出来ないのだ。

独立気風が高いサイド1、新サイド6やサイド3には駐留艦隊以外にもまとまった艦隊を送り込まなければならないため、フロンティア・サイドやルナツー奪還のための大規模艦隊を編成するだけの余裕がないのだ。

特に宇宙要塞であるルナツーを初手で占領されたのは連邦にとってかなりの痛手だった。

 

連邦宇宙軍は政治的にも軍事戦略的にも、ほぼ動きを封じられたに等しい状況に置かれていた。

 

ここまでの事は、凡そマイッツァーが練った戦略通りであった。

優秀な人材を集め、事前に何度も戦略を検討し、繰り返しシミュレーションを重ね、最適解を出した上で、今回の軍事行動からの建国に踏み切ったのだ。

 

そんなマイッツァーだが、カロッゾ・ロナの暴走と死、ベラ・ロナの行方不明は想定外だった。

この事が後にじわりじわりとマイッツァーを締め付ける結果となるのだが……

 

 

そして、マイッツァーの戦略は第二段階へと移行する。

それは宇宙の掌握だ。

 

その手始めとして、コスモ・バビロニア一国で連邦と対峙するのではなく、地球圏全体を巻き込み、連邦とスペースノイドのより強力な対立構造を作り出そうとしていた。

それを連邦政府内部が混乱し足並みがそろっていない内に、各サイドと月面都市をコスモ・バビロニアに取り込み、コスモ・バビロニアが宇宙側の最大勢力として、宇宙側の意思を取りまとめる地位に持って行く事だ。

 

そのためには、各サイドや月面都市の従属又は同盟、若しくは独立させ、宇宙全体を連邦と対峙させる必要がある。

直接コスモ・バビロニアの傘下に収めなくとも、全てのサイドと月面都市が連邦政府から独立出来たとすれば、地球連邦軍は宇宙における力を大幅に弱める。

マイッツァーは各サイドや月面都市の動向を常に注視していた。

オードリー・バーンが各サイドに宇宙圏で連携を取る様に働きかけていた事は、勿論知っている。そのオードリー・バーンの正体が何者かもだ。

マイッツァーは時世を読み、この今のタイミングでフロンティア・サイドに独立国家を立ち上げれば、他のサイドと月面都市は、地球連邦政府に反旗を翻す可能性が高いと踏み、実行に移したのだ。

 

そして現在、コスモ・バビロニアは宇宙における最大拠点である宇宙要塞 ルナツーを抑え、月面都市 グラナダも抑え、さらに要所要所の資源衛星や軍事衛星なども抑えている。

それだけでも連邦宇宙軍は身動きが取りづらい状況に陥っている。

 

各サイドと月面都市が一斉に独立に成功すれば、それこそ宇宙における拠点は連邦宇宙軍の支配下にあるサイド7と宇宙要塞のゼダンの門(ア・バオア・クー)、コンペイ島(ソロモン)、ドーザぐらいだ。

サイド7は同じL3宙域にある宇宙要塞 ルナツーをコスモ・バビロニアが占領しているため、睨みを利かす事が出来る。

各要塞はゼダンの門がサイド3のL2宙域、コンペイ島がサイド1と新サイド6のL5宙域外延の月との間にあり、ドーザがサイド2、新サイド5のL4宙域、月寄りの位置にある。

上記の各要塞は、月面都市と各サイドが独立すれば、身動きは取りにくく、実質地球からの補給のみが生命線となり困難な状況に陥る。

 

連邦軍参謀本部もその事を理解し、最悪のシナリオとして予想していた。

そうなる前に、現在、連邦宇宙軍は各サイドやその宙域と月面都市に纏まった戦力を置き、独立を阻止するために奔走している。

必然的に、各宇宙要塞の戦力が薄くなるのは致し方が無いが、月面都市や各サイドが独立されて、補給線がか細くなるよりはましだ。

 

マイッツァーはそんな連邦宇宙軍の動きも読み、各サイドの独立の動きを読みつつ、個別に戦力が薄くなった宇宙要塞の攻略を狙っている。

宇宙要塞全てをコスモ・バビロニアが手にすれば、各サイドや月面都市が従属しなくとも、軍事力で睨みを利かす事が出来る。

スペースノイドと地球連邦政府の対立構造も相まって、各サイドと月面都市はコスモ・バビロニアとの対立は避けるだろう。

コスモ・バビロニアは宇宙における発言力が高まり、宇宙に置いて優位な立場を手に入れる事が出来る。

そうして、徐々に宇宙における実効支配を強めていき、最終的には各サイド、月面都市を掌握する。

 

これがマイッツァーのこれからの第二段階のシナリオだった。

 

 

 

 

連邦軍も今のままでは、戦力的には圧倒的に優位に立っていても、戦略的不利である事は把握している。

この戦略的不利を解消する一番シンプルなやり方は、一年戦争時のジオンの様にサイドの二つや三つ壊滅させることだ。

独立し対立する可能性のあるサイドをコロニーごと、有無も言わさずに艦隊の一斉攻撃で壊滅させれば、近い将来の敵も減り、守るべき場所も減るため、戦力の分散も避けられる。

よって、コスモ・バビロニアに対しての反攻作戦のための戦力を集結させ大規模艦隊を形成させることが出来るのだ。

 

地球連邦政府はかつてのジオン同様、多量殺戮の汚名を受け、スペースノイドと地球連邦政府との決別は決定的なものとなるだろう。

だが、効果は非常に高いのも事実だ。

コスモ・バビロニアを早期に叩く事も可能となるだろう。

さらにコスモ・バビロニアを叩いた後の、宇宙における実効支配も楽になるだろう。

反抗すればいつでもコロニーを焼くと、見せしめともなる。

そこには、恐怖による支配が蔓延るだろう。

人の幸せがそこにあるのかは甚だ疑問ではあるが……

 

だが、今の地球連邦政府や地球連邦軍にそれ程の大胆かつ苛烈な手段を、覚悟を決め実行できる人物は居ない。

過去には、グリプス戦役時のティターンズ、その首魁であったジャミトフ・ハイマンならば躊躇なく実行できただろうが……。

 

 

よって今の連邦宇宙軍は各サイド、月面都市の独立阻止に躍起になっており、連邦議会はコスモ・バビロニアに対しての対応について、荒れに荒れている。

議会はマイッツァーの内部工作によるものだけでなく、コスモ・バビロニアを独立国家として容認させる派閥もある。

独立を認め、国交を開く代わりに、ルナツーとグラナダを返還させる交渉を行うという考え方だ。

だが、その交渉はマイッツァーは絶対に受けないだろう。

マイッツァーの理想は連邦政府を打倒し、コスモ貴族主義を世に浸透させることなのだから。

 

 

今の地球圏は、まさに嵐の前の静けさだった。

 

 

 

 

 

 

そんな中、モノケロースでは……

「反応が遅い、相手の初動をよく見ろ」

「はい、ハヤセさん」

「セシリー、ファンネルの調整はどうだい?」

「まだ思うようには……」

「焦る必要はない。徐々に慣れていけばいいさ」

アムロはシーブックとセシリーにモビルスーツの訓練教育を行っていた。

シーブック達だけでなく、モノケロースのパイロット全員に指導を施していたのだ。

実戦経験がほぼ無い若いパイロットばかりなため、シミュレーターではなく、モビルスーツによる実戦演習が主だった。

 

アムロはそれ以外にも情報収集のため、YF-5で無人機を引き連れ、地球圏に足を運んでいた。偵察に特化した無人機を地球圏の各所に待機させ、リアルタイムで情報収集を行っている。

 

 

それと……

「アムロ君!!サイコフレームの調整を行いたい!!これはとんでもないものだ!!この世界の兵器はなぜこうもアンバランスなのだろうか!!ミノフスキー粒子もそうだがこのサイコフレームは別格だ!!脳波を拾うだけのシステムなら、ゼントラーディの兵器網にもそう言った技術が現存する。だがこれはそんな生易しいものでは無い!!まるでゼントラーディの過去の記憶の断片にあるプロトデビルンなる敵が使用する未知の現象を起こすエネルギーのようだ!!」

 

「中将……ここでは、ハヤセでと何度もお願いしましたが」

 

「はははははっ!失敬失敬!そんなどうでもいい事は直ぐに忘れてしまってな!!それよりもだ!!ミノフスキー粒子理論は理解した!!応用も効きそうだ!!あれならば、量産機の低出力エネルギーでもピンポイントバリアを展開出来る!!いや、いずれはバリアでバルキリー全体を覆う事も可能だ!!しかもサーベル状に変形収束させる事によって、ビームサーベルがこちらの技術でも再現できる!!いや、バリアサーベルとでも名付けるか!?いや、いや、ビーム理論はほぼ同じなため、わざわざバリアをサーベルにしなくともよいのだが!!時にはロマンも必要だろう!!しかし、モビルスーツはエネルギー効率が悪い。最大出力が劣っている私が開発したバルキリーの方が機動力や連続航行能力、連続戦闘能力、最高速度と全て上回っている!!私が開発したバルキリーが如何に優秀かわかるだろうアムロ君!!」

タカトク中将は相変わらずだった。

モノケロースのサナリィ技術開発スタッフを巻き込んで、1日中居座っているのだ。

しかも、開発途中であったF92をサナリィ技術開発スタッフと共に組み上げだしていた。

F92の開発コンセプトは可変モビルスーツの小型化だった。

要するにF90シリーズのZタイプ版と言ったところだ。

だが、その変形機構を小型化するのに難航し、中々開発が進まなかった。

中々進まない中、複雑な変形機構をあきらめ、リ・ガズィのように飛行ユニット脱着型にする案も出ていたが、開発室長であったジョブがZガンダムに拘り、それを許さなかった。

ジョブの言い分として、F90シリーズは最高機体を目指したもので、妥協などあり得ないという物だった。

 

だが、そこに可変戦闘機であるバルキリーを開発したタカトク中将が首を突っ込んだのだ。

あのZガンダムより複雑怪奇な変形機構を持ち、さらに新世代型小型モビルスーツよりもサイズが小さいバルキリーの開発を行ったタカトク中将だ。

そのノウハウは誰よりも持っていた。

タカトク中将はF92の開発に最も難航していた変形機構問題をあっという間に解決して見せたのだ。

さらに、長距離移民船団から資材開発用の大型3Dプリンターのような装置を取り寄せ、フレームパーツまで作り出していく。

 

「中将……無闇にこちらの技術を見せてしまうと、混乱をきたします」

「はははははっ、十分承知している!心配無用だ!!使用している鋼材や資源は全てこちらのものだ!!限定された資材と技術で新たな物を組み上げるのもまた一興!!さらに、こちらの技術体系も理解できるという物だ!!そもそもF92とやらのメインジェネレーターの試作品だけは出来上がっていたのでな!!ジェネレーターの核融合炉には少々問題があるが!!いいだろう!!」

 

「それならばいいですが、……核融合炉に問題とは?」

 

「なーに!!ジェネレーターの燃料バイパスを破壊され圧縮燃料が大出力エネルギーに晒されれば、大規模核爆発を起こす危険性をはらんでるだけだ!!」

 

「それはまずいのでは?」

理論上はモビルスーツのジェネレーターの核融合炉が破壊されたとしても、燃料の核反応は凍結するため、通常、核爆発等は起こらないとされているが、一年戦争時のモビルスーツは核反応による爆散を起こしていた。

モビルスーツ用のジェネレーター自身が急造品で十分な検証が行われないまま、投入されていたため、欠陥品が紛れていたとか、設計段階で問題があったとか、そもそも耐久度が低いとか。

だが、一年戦争後はその欠陥を解消されていた。

 

 

「確かにそうだ!!だが安心したまえ!!君のνガンダムとやらは核融合爆発はしない!!よっぽどの事が無い限りだ!!このフォーミュラ計画やF90シリーズとやらの開発コンセプトやら、設計思想を閲覧したが!!ジェネレーターの小型化に失敗したのではないか!?いや、小型化させ、出力をさらに高めたための弊害という物だろうか!!技術者は時には更なる高みを目指すために、多少のリスクにも目を瞑るものなのだろう!!はははははっ!!」

確かに小型化された第二期モビルスーツ群の小型ジェネレーターの核融合炉には欠陥があり、そう言う危険性を伴っていた。

特にF90シリーズの最新の高出力小型ジェネレーターに顕著に表れている。

 

「中将、その欠点を向こうの技術者に指摘されたんですか?」

 

「うむ!!やつら焦っていたぞ!!やはり知っていて搭載しているようだ!!」

 

「何とかならないでしょうか?」

 

「君は不用意な技術提供は如何のだと言っていたではないか!!だが、安心したまえ!!指摘し、改善案を連中に示した!!次からはマシなものが出来るだろう!!」

 

「現行の小型モビルスーツは今もその危険性を?」

 

「特に顕著なのはF90シリーズだけのようだ!!なーに、危険度が高いと言うだけだ!!要するに撃墜されなければどうってことは無い!!どうせ脱出機構も惰弱な兵器だ!!その上に、メインジェネレーターとコクピットは近い位置にある!!撃墜されれば、核爆発云々の前に、パイロットはお陀仏だろう!!その点、私のバルキリーは素晴らしい!!そんな懸念はまったくない!!まあ、撃墜する程のダメージを喰らえば、どんなことをしてもパイロットはお陀仏だろうが!!」

 

「………」

 

「ジェネレーターシステム管理ソフトを多少弄った!!それだけではあの欠点を完全には払拭できはしないが!!マシにはなるだろう!!」

 

「ありがとうございます。中将」

なんだかんだとタカトク中将は天才肌の技術者である。

 

「それよりもだ!!νガンダムとやらは君が譲り受けたモビルスーツなのだろう!!」

 

「そう言いましたが」

 

「そうかそうか!!」

タカトク中将はアムロのその答えに満面の笑みで大きく頷いていた。

 

 

 

 

その頃、レアリー・エドベリはモノケロースの艦長代理から正式に艦長を名乗る事となった。連邦軍から裏切りの烙印を押された今では、連邦軍の階級や役職など意味をなさなくなったための処置だ。

ブライトの勧めもあって正式に艦長を名乗る事となったレアリーは、モノケロースの今後の方針について、サナリィの上級士官や職員とブライトを交えて、何度も話し合いを行っていた。

因みにアムロはこの話し合いに一度も参加していない。アムロは飽くまでも外部協力者という扱いだからだ。

 

モノケロース及び乗組員は連邦軍からは賊艦や反逆者扱いされているため、このままだと地球圏に戻る事すら出来ない状況だ。

そんな中様々な意見が飛び交う。

 

まずは、地球に戻り連邦に降伏するという意見だ。

降伏した後、サナリィがコスモ・バビロニアと手を結んだのはデマだと、身の潔白を明かすというものだ。

ただ、既にアナハイム・エレクトロニクスが根回しをし、連邦軍も大々的にサナリィをコスモ・バビロニアと手を結んだ裏切者と公表しているため、身の潔白を明かすのは困難だろう。

もし、身の潔白を明かす様な証拠があったとしても、連邦軍がそれを認めないだろう。

そうだとしても、降伏さえすれば即殺される事は無い。

だが、レアリー以下サナリィ所属の元連邦軍士官は軍事裁判をかけられ、処刑されるのはあり得るのだ。

 

また、レイ・ハヤセが所属する民間軍事会社にこのまま受け入れてもらうという意見もでた。

特に技術系の職員にその意見が多い。

確かに現状のこの場所は安全ではある。生活物資にも困らない。

だが、いつまでもここにというわけにもいかないだろう。

故郷に戻りたいものも多数居る。

 

各サイドが独立した後に、どこかしらのサイドに身を寄せるという意見も出る。

いっそ、コスモ・バビロニアにという意見もあった。

連邦に降伏するよりはましだろうと言う事だった。

確かに、サナリィの技術者や技術はどの勢力も喉から手が出る程欲しいだろう。

連邦よりも優遇されるかもしれないという期待もある。

だが、コスモ・バビロニアのコスモ貴族主義に対しては、拒否感が出てくるのは否めない。

どこかしらのサイドに身をよせるのなら、コスモ・バビロニア以外でという意見も多い。

ただ、どのサイドが良いのかは検討の余地がある。

地球連邦から独立したサイドが、連邦やコスモ・バビロニアに攻め込まれ、直ぐに落とされるかもしれない。もしかするとサイドが連邦やコスモ・バビロニアに屈した場合、その手土産としてモノケロースは売られるかもしれないなど、不安の種は尽きない。

 

最も過激な意見として、月のサナリィ基地を奪還し、徹底抗戦という物もあった。

 

結局、答えが纏まらず。一か月以上が過ぎていた。

 

ブライトはこの話し合いに毎回参加はしていたが、自らの意見は一切語らず、質問された事に対して答えるのみだった。

 

 

 

 

 

地球圏で動きが無い中、アムロはブライトとミライをメガロード01の自宅に招く。

フォールドブースター搭載の中型連絡船で、長距離移民船団が身を隠しているアステロイドベルト帯に到着したブライトとミライは、メガロード01の超大型艦船の前方3分の2がガラス張りに覆われた街が形成されている姿に「まるで半分コロニーのような艦船だな」「でも何かしら、幻想的な感じがするわ。空に浮かぶ浮遊城みたいよ」と驚いていた。

 

メガロード01のドックから居住区間へと入り、アムロが住むマンションまで電動自動車で中空道路を移動中に、ブライトとミライは街並みを眺めていた。

「随分と近代化された街並みのようだ」

「山城や城塞のような印象ね」

ブライトが言う様に、この居住区表層階層の街並みは、巨大なビルやショッピングモールのような建物が並んでいるような姿だ。ここが人々が生活を行う空間だ。

ミライが山城や城塞という表現を使っているのは的を射ている。

メガロード01の居住区はコロニーと異なり、艦船の下部に重力装置が設けられ、幾重の階層が積み重なった構造を形成していた。

住民の生活圏である表層部は段々畑のような構造となっている。

内部階層には工場や農地、畜産場、各種生産施設などが形成されており、表層部の下方には緑地帯や公園など設けられている。

 

「ああ、メガロード01は大気圏内でも活動できるようにと、重力装置は下部に設置されてる。コロニーに比べればかなり手狭な全長1200m、幅300m程の空間にはすべての機能と各種施設を積み込み、できるだけシンプルな形にと設計したがために、このようなデザインとなっている。この艦は最初の長距離移民船の1番艦だ。試験要素が多分に含まれている。この1番艦の教訓を生かし、既に作り始められているだろう2番艦は居住区間の横幅が倍以上の規模になり、緑地部分を大幅に増加させる予定だ」

アムロはブライトとミライにそう説明する。

メガロード01は初の長距離移民船であり、いろんな試みが施されている。

ノウハウは殆ど無い状態で、参考は宇宙を漂うマクロスの内部に形成された街の運営ぐらいだった。

 

 

「街に行く人々は、俺達と変わらんようだな」

「本当ね。平行世界の人と言っても全く私達と同じよね。耳がちょっと尖っている人達が、巨人族の人達かしら?」

「遺伝子的には俺とあちらの世界の人間は全く一緒だ。それと巨人の…ゼントラーディ人も根幹の遺伝子情報は変わらない。色々と分かって来た事だが、過去に存在したプロトカルチャーなる人類が、戦闘に特化するために遺伝子操作して生まれた人種のようだと言う事だ」

街行く人々を見たブライトとミライの感想にアムロは真面目に答える。

 

自宅マンションに到着したアムロ一行を、私服姿の未沙が出迎える。

「ようこそ、お越しいただきました。アムロさんの妻の早瀬未沙です」

「前は通信越しでしたが、ブライト・ノアです」

「ブライトの妻のミライです」

 

「まさか、こうしてアムロさんのご友人を出迎える事が出来るなんて、思いもしませんでした」

「私もこうして、アムロから伴侶を紹介される日がくるなどとは、ついこの間まで思っても見ませんでした」

「可愛らしい奥さんねアムロ。未沙さん、私達はアムロが15の頃からの付き合いだから、聞きたいことがあったら何でも聞いてね」

「是非お願いいたします。私も昔のアムロさんの事を聞いてみたくて、この日を楽しみにしていました」

「未沙……ミライさんも、お手柔らかに」

挨拶もそこそこに、困り顔のアムロを余所に、そんな他愛もない会話から楽しい一時が始まった。

アムロは、未沙に昔の事を知られ、気恥しい思いをする。

特に一年戦争時のアムロの話題は尽きない。

 

はしゃぎ疲れた双子の我が子をベッドに寝かしつけた後、未沙はブライト夫婦に夕飯を振舞うためにキッチン入る。

 

「そういえば、カイは今頃木星ね」

ミライが思い出した様に話し出す。

カイとは一年戦争での嘗ての仲間、カイ・シデンの事である。

一年戦争後は軍を辞めジャーナリストを生業としていた。

 

「カイさんが?」

 

「木星の動きが気になるとかなんとか、2年位前かしら、家に来てそんな事を言っていたわ」

「そういえばそうだな。彼奴もいい年なのに、相変わらず世界中を駆け回っている」

 

「カイさんらしい」

 

因みにミライは、セイラとフラウについては既にアムロに語っていた。

セイラは今は地球で静かに暮らしている。大資産家であり、独り身との事だった。

フラウは地球で養子のキッカの家族と一緒に暮らしているとの事だ。

 

「カミーユは月のグラナダだったな、コスモ・バビロニアに占拠されているが、無茶をしなければいいが」

ブライトはカイの話題が出た事により、アムロと面識があるカミーユの事を思い出す。

 

「カミーユが?…その、カミーユは」

アムロはカミーユの状態の事を気にしていた。

カミーユの繊細な心は、肥大化するニュータイプ能力と戦争に溢れる悲しみに耐えられず、心が壊れてしまったのだ。

アムロがまだこちらの世界に居た頃には、精神は完全には戻ってきていなかった。

 

「ああ、あの0093年のシャアとの戦いの後、カミーユは元に戻った。その後大学を出て、グラナダで医者をやってる。ファの献身によるものだ。二人は結婚して子供が1人いる」

実はカミーユは、アムロとνガンダムが起こした地球を覆うサイコフィールドの煌めく希望の光が、目から脳裏に投影し、精神奥底に沈んでしまった自我を再び呼び起こし、覚醒したのだ。

 

「そうか…カミーユは……しかし、グラナダか」

アムロは安堵と共に、ブライト同様にカミーユがまた無茶をしなければと言う思いと、当時のカミーユの顔を思い出していた。

 

「アムロ……お前に話しておきたいことがある……息子の………」

先ほどとは打って変わって、ブライトは沈んだ表情を見せ、言い淀む。

横に座るミライも自然と俯く。

 

「いいんだブライト」

アムロはブライトが次に語ろうとする内容を察し、ブライトが話すのを止めるために、正面に手を掲げ、左右に首を振り、ブライト本人の口から言わせまいとしたのだ。

ブライトが語ろうとした内容は、息子のハサウェイ・ノアの死についてだろう。

ブライトとミライにとって辛い記憶であり、一生消えない心の傷だ。

だが、アムロには伝えるべきだとブライトもミライも思ったのだろう。

既にアムロはサナリィのデータベースにより、ハサウェイの死の概要を把握していた。

ハサウェイはマフティー・ナビーユ・エリンと名乗り地球連邦政府に反旗を翻し、そして捕まり、父親ブライト・ノアに処刑されたと……。これがアムロが知る概要だ。

だが、真実は異なっていた。ブライトはマフティー・ナビーユ・エリンの銃殺処刑に立ち会ったに過ぎず、しかも、マフティーの正体が息子のハサウェイ・ノアとも知らずにいたのだ。

 

「………アムロ」

 

「分かっている。だからいいんだ」

どちらにしろ、アムロにとっても、その事実はショッキングであることは確かであった。

それを、ブライトとミライの口から言わせるわけにはいかなかったのだ。

 

未沙が明るい笑顔を振りまきながら、皆をダイニングテーブルへと誘い、食事を始める頃には、暗く沈んだ雰囲気は払拭され、また、和やかな時が過ぎていく。

 

ブライト夫婦はメガロード01に4日程滞在し、モノケロースに戻る。

 

アムロはというと、メガロード01にしばらく残っていた。

地球での報告と、こちらはこちらでメガロード01の行く末について等、考えていかなくてはならない事が山ほどあったためだ。

 

その間、地球圏での情報収集は各宙域に配置させている無人機が行っていた。

情報収集と言っても、各サイドの電波や光通信の情報をジャックし、解析する程度のものだが、大まかな情勢の予測が立つ。

 

2週間後……

アムロがモノケロースに戻ってすぐに、アムロの部屋にブライト夫妻が訪れ、ブライトはアムロにこう切り出した。

「アムロ……モノケロースを頼めるか?」

「ブライト?」

「俺は、地球に戻る」

「どういうことだ?」

「モノケロースは地球圏に戻り、新サイド6に合流するつもりだ。それは地球連邦ともコスモ・バビロニアとも敵対することを意味する」

「なぜブライトが1人、地球へと?」

「……連邦をのさばらせ、今のこの地球圏の状況を作ってしまったのは俺達、老人の責任だ。彼ら未来ある若者がこんなところで命を賭けるのは間違っている。彼らはここで戦乱が収まるのを待つべきだ」

「一人で戦うつもりか?」

「俺は新サイド6に向かう。バナージとオードリーと合流するつもりだ。この老骨に何が出来るかわからんがな」

「いや、しかし……」

「モノケロースの事は頼む。レアリー艦長は有能な士官だ。戦乱を乗り切った後に、彼女のような若い人材が必要となる。こんなところで死なせるわけには行かない」

モノケロースをアムロに託し、ブライトは一人地球圏に戻り、バナージとオードリーに合流し新サイド6の独立運動に参加するつもりなのだ。

アムロは困惑気味にブライトと寄り添うミライを交互に見据える。

 

ブライトはミライの顔を見つめてから、意を決したように語りだす。

「アムロ、聞いてくれ。……俺はハサウェイを信じてやれなかった。今になって思う。あいつがやりたかった事を……、連邦の暴走を止めたかった事を………だが、俺はあいつの心の奥底に眠る熱い思いを気づいてやれなかった。………その結果、あいつを…息子を死なせてしまった」

そして、ブライトはあのマフティーの動乱の真実を語りだす。

 

「………」

アムロは黙って聞くしかなかった。

アムロはサナリィ本部の過去の資料からハサウェイ・ノアの死の顛末を知っていたが、ブライトが語る真実とは異なっていたのだ。

 

「息子は18年前に死んだ。ハサウェイ・ノアとしてではなく、地球連邦を混乱に陥れた反逆者マフティー・ナビーユ・エリンとしてだ。

ハサウェイは今の地球圏の未来を見据えていたのだろう。こうなる事を……。やり方は褒められたものでは無かったが……あいつは本気で連邦の暴走を止め、地球と地球圏に住む人々を救いたかったのだと思う……伝え聞いた話だが、息子は処刑される間際まで、地球圏の行く末を案じていたそうだ」

 

「………」

 

「今の地球圏をあの世とやらから、ハサウェイが見ればどう思うだろうかと……」

 

「………」

 

「モノケロースの若い連中を見てふと思う。あの時ハサウェイと腹の底を割って語り合うべきだったと……」

ブライトのハサウェイを死なせてしまった後悔の念がアムロの心に突き刺さる。

 

「………ブライト」

 

「アムロ……俺を新サイド6に送ってくれ」

ブライトはアムロに頭を下げる。

 

「待ってくれブライト。ミライさんもそれでいいのか?」

 

「……私もブライトを止めたい気持ちは有るわ。でも………」

 

「モノケロースの連中やレアリー艦長には話したのか?」

 

「いいや……」

 

「……俺は、ブライトにはモノケロースの未来ある若者たちを導いて欲しいと思っている」

 

「……アムロ、だが俺は……」

 

「どうしてもか、ブライト」

 

「ああ」

 

「ふぅ、水臭いぞブライト、俺について来いとぐらい言ったらどうだ?」

 

「いや、お前には向こうの世界の人々を導く役目があるだろう」

 

「俺だって、この世界の人間だ。それに今のこの地球圏の状況を作ったのがブライト達だと言うのであれば、俺にも責任がある」

 

「いや…しかし……」

 

「それに、モノケロースの連中は若いが、自分の信念を持って戦いに身を置こうとしているんじゃないのか?かつて、ブライトや俺がエゥーゴやカラバに参加し、ティターンズの世に地球の未来は無いと信じて戦ったのと同じだろう。彼らは戦えない子供じゃない。自分たちの未来は自分達で切り開こうとする気骨が伺える。確かに、経験不足や若さゆえの過ちなどもあるだろう。だが、その彼らを正しく導くのも老骨の俺達の役目ではないのか?」

アムロは少なくとも、訓練等で接してきたシーブックやセシリー、それにモビルスーツ隊の隊員や整備兵からは戦う意思を強く感じていた。

 

「……アムロ」

 

「いざとなれば、身を挺してでも彼らを守ればいい」

 

「アムロ……いかんな、年をとるとはこういう事か……。彼等を若輩者と見くびっていたのかもしれん。わかった。だがアムロ、本当にいいのか?」

 

「確かに俺に迷いがあった。だが、νガンダムが俺の目の前に現れた際に悟ったよ。俺にはこの世界でまだやるべきことが残っているという事を……、未沙やメガロード01の皆にも俺がこれからこの世界の戦いに出ると話をつけてある。だからといって、俺は死ぬつもりなど毛頭ない、子供や未沙を悲しませるわけにはいかないからな」

 

「アムロ、お前は……」

 

「ブライト、レアリー艦長やモノケロースの皆と腹を割って話し合うべきだ。それと、俺はアムロ・レイとして参加させてほしい」

 

「わかった。だが覚悟しておけ、俺はお前を遊ばす様な真似はしないぞ」

大きく頷くブライトは、まるで30年前に戻ったかのようなギラついた眼をしていた。

 

「そういうブライトこそ、早く勘を取り戻せ、ブリッジで叫ばないブライトはブライトらしくないからな」

アムロもアムロでブライトに言い返す。

 

横でその様子を見ていたミライは、何故か微笑ましい物を見るような目をしていた。

 

こうして、ブライトは改めてモノケロースと共に戦いに身を置く事を決意し、アムロもこの戦いに身を投じる事を覚悟する。

 

 

 

アムロはモノケロースへの本格参加表明をする前に、やっておかないといけない事があった。

そのために、アムロはモノケロースのモビルスーツデッキへと向かったのだ。

そう、モノケロースに入り浸っているタカトク中将を、メガロード01、少なくとも高速機動輸送艦には戻ってもらわないといけないのだ。すでに多少関わりを持ってしまってはいたが、この世界の戦いにマクロス世界の人間を巻き込むわけには行かない。

タカトク中将が素直に戻ってくれるとは思ってはいないが、ここから始めなければ、アムロがこの世界の戦いに安心して赴く事が出来ない。

アムロ自身はこの世界の人間としてアムロ・レイを再び名乗り、νガンダムで戦いに赴くつもりだったのだ。

 

「タカトク中将……モノケロースは暫くして地球圏に向かう予定です。中将はメガロード01に戻ってください」

 

だったのだが………

「アムロ君!戻ったか!!サイコミュシステムとは中々のものだった!!君がハロと脳波だけで意思疎通出来ていた理由とそのシステムが理解出来た!!」

νガンダムの前で何やら調整を行っていたタカトク中将は満面の笑みでアムロにこう答える。

 

「中将……νガンダムに何をしたのですか?」

しかし、タカトク中将が今調整を行っているνガンダムは、3週間前とはどこか様相が異なっていたのだ。

 

「この世界の機動兵器にこちらの技術は使用するなと言っていたのは君ではないか!!確かにそれには理解できる!!この世界においてパラドックスが起きかねん事案だ!!だがこのモビルスーツは君の物なのだろう!!君の物であれば、私の物でもある!!だから改装を施した!!いや、実にいいデータが取れた!!ジェネレーターは総入れ替えを行った!!搭載スペースは有り余るほどあってな!メインにYF-5用の交換用ジェネレーター2機とサブにVF-4用のジェネレーターを合計4つ搭載した!!これで推進力は3倍、戦闘持続能力4倍だ!!突貫改装のためここまでだ!!もっと時間があればよかったのだが!!ファンネルラックにも独立させた超小型ジェネレーターを搭載!!関節部の負担を軽減させるため!!バルキリーのフレームに一部変更!!ビームライフルもV.S.B.Rの理論を再構築し!私なりに改造を施してみた!!はははははっ!!この君のガンダムは生まれ変わった!!いわばHi-νガンダムと言ったところか!!実に有意義であった!!これでYF-5を超える次世代バルキリーが構築できる!!私はメガロード01に戻り、早速設計に掛かる!!」

そう言って、タカトク中将はスタスタと、高速機動輸送艦に戻って行く。

 

「遅かったか……」

アムロは茫然とνガンダム……いや、Hi-νガンダムを見上げていた。

 




やばい、なんだかんだと長期連載に><
三話ぐらいでさくっと終わるつもりが><

ついにHi-νガンダムがって……あれ?
配色はνのまま、形はHi-νガンダムなんだけど。
中身は僕が知ってるHi-νガンダムじゃない;;

F92が遂に完成。
ZタイプのF90シリーズってどうなのよ?

天才(変態)科学者がとんでもない事を……。


次回は再び地球圏へ。
もちろん戦闘シーンあります。

訂正があります。
ペズンは0123年時点で消滅していたので、ペズンを消して、ドーザとい勝手に宇宙要塞を作らせてもらいました。L4宙域を抑える宇宙要塞は連邦にとって必要ですよね。


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嵐の前の静けさ

沢山の感想ありがとうございます。
返信せずに申し訳ございません。
全部読ませていただいております。
沢山あり過ぎて、どう手を付けたらいいのかと……すみません。
誤字脱字報告ありがとうございます。
非常に助かります。

もう一つ謝らせてください。
前回の最後に記載しましたが、戦闘シーンは、次回にお預けに……。
すみません。

途中挿絵を追加しております。
この時期の地球圏の勢力図です。
作ってみました。だいたいこんな感じかなと。
下手なのはお許しを。



モノケロースが地球圏外延部で高速機動輸送艦と接続してから2カ月が経過しようとしていた。

モノケロースでは、今後の行く末について、頻繁に会議が開かれていた。

メンバーは艦長のレアリーを筆頭に、モノケロースの主要部署やサナリィの上役12名で構成されている。そこにブライトがご意見番として参加していた。

モノケロースで月基地を脱出する際、年若い人員が優先的に選ばれていたため、上役と言っても36歳のアムロよりも若いメンバーが殆どだ。

 

そんな上層部会議だが、会議を重ねこの2カ月でようやく今後の方向性が纏まったのだ。

『新サイド6に合流する』

連邦でもコスモ・バビロニアでもなく、これから独立し新興勢力となるだろう新サイド6と共に戦い歩むという物だった。

 

理由としては、2カ月前の接触時に、新サイド6は連邦政府からの独立する意思が強く、さらにその準備も着々と進んでいるように見えた事。

新サイド6は連邦からお尋ね者のレッテルを張られたモノケロースを歓迎してくれた事。

さらに率直に戦力としてほしいと請われた事により、モノケロースを連邦やコスモ・バビロニアとの裏取引や政治的に利用する意思はなく、純粋に独立のための戦力として必要とされていると判断できる事。

レアリーは、新サイド6側の代表格であるオードリー・バーン、シュトレイ・バーンとの会談に当たって、2人は信頼できると判断し、何よりも二人の人柄はブライト・ノアのお墨付きであった事。

勿論、オードリー・バーンがミネバ・ラオ・ザビである事と、シュトレイ・バーンことバナージ・リンクスが、ジョブ・ジョンと昵懇の関係であった事は、モノケロースの上層部には伝えてある。

 

色々と理由はつけているが、そもそもモノケロースが取れる選択肢の幅は狭い。

理不尽な理由で逆賊のレッテルを張られた連邦に投降するなどという選択肢はもはやない。

そうかといってコスモ・バビロニアのコスモ貴族主義は得体がしれない上に、レアリーがスペース・アークで経験した、無差別殺人兵器バグによるコロニーの住人抹殺、難民船信号を発し実際難民を乗せていたスペース・アークを弄ぶように攻撃を仕掛けて来た等、コスモ・バビロニアも信用できるものでは無かった。

ならば、第三勢力となり得て、モノケロースの事情を知って受け入れてくれる組織ということとなると、現段階では新サイド6ぐらいなものだ。

 

 

モノケロースは新サイド6との合流という目標は決定していたが、具体的な方法や戦略等、実際の行動について、これから練っていく必要がある事項は多岐に渡る。

サナリィは現在でこそ、モビルスーツや兵器研究開発で名高い組織であるが、もともとは戦略研究に特化した組織ではあり、それが派生してモビルスーツの開発に携わることになった歴史がある。

だが、モノケロースのように単艦で、しかも最大勢力の組織を敵に回した行動を起こす様な戦略シミュレーションを行った事はない。

過去に近い事例はあるが、一年戦争のホワイトベースはバックアップには一応連邦軍がついていたし、グリプス戦役のアーガマはエゥーゴのバックアップや艦隊が存在した。第一次ネオ・ジオン抗争の際のネェル・アーガマも囮役ではあったが、バックアップにエゥーゴがついていた。

現在、補給を受けられる状態ではあるが、モノケロースを戦略的にバックアップする組織は無い状況だ。(実際にはアムロがここに居る事で、長距離移民船団が裏についているようなものだが)

しかも、モノケロースで脱出したメンバーは年若く経験も少ない。

ある程度の戦略は立てられるが、机上の空論となる可能性が高い。

これからのモノケロースの実際の行動には武力だけでなく、外交能力や政治能力等も必要不可欠となる。新サイド6と合流を目指すだけでも、外交能力が必須だからだ。

彼らにはそのような実務的な経験はほぼ無い。

 

特にレアリーは自身の実力不足とこの事について痛感していた。

モノケロースが月から脱出し、ここにたどり着くまでにも、各種行動に移すタイミング、新サイド6での交渉などなど、細かい所から大きな事柄まで、自分の力だけではとても成しえなかったと………。

ブライト・ノアの存在が如何に偉大かと………

 

ブライトは司令官としてロンド・ベルという最前線の軍事組織をまとめ、連邦政府や連邦軍上層部や財閥からの政治的案件や思惑にも、柔軟に対応してきた。

いわば、生き字引のような存在だった。

現在の地球連邦にこれ程の人物は中々見当たらないだろう。

 

レアリーは常に思っていた。

ブライトに表に出て貰い、モノケロースを、自分達を導いてほしいと……

 

そんな時だ。

レアリーに、ブライトとアムロから正式にモノケロースの一員として参加させて欲しいという話が合ったのは。

 

 

 

 

 

「訳あって偽名を使っていた。本名はアムロ・レイ、元連邦宇宙軍大尉、ロンド・ベル所属モビルスーツ隊隊長を務めていた」

アムロはモノケロース上層部会議の冒頭で本名を名乗ったのだ。

アムロ自身今迄、外部協力者という立場上、モノケロース上層部会議には参加していなかった。

だが、モノケロースの一員として戦う決意をしたアムロは、今後共に戦う者として、本名を名乗った。

 

上層部会議に参加していたブライトとレアリー以外の12人の上役たちは、ある者はポカンと口を開け、ある者は目を大きく見開き、皆一様にそのような驚きとも困惑とも、とれないような表情をしていた。

 

「……アムロ・レイってあの伝説のパイロットの?ハヤセさんが……そのアムロ・レイ大尉ということですか?」

参加メンバーの一人であるモビルスーツ隊隊長のサラサ・マイル中尉は呆けた表情でこんな事を聞く。

それを皮切りに、皆は首を傾げたり考え事をしながら次々と言葉が飛び交う。

「違うわ。戦死されて、二階級特進で中佐になられたはずよ。教科書に載っていたわ」

「でも、目の前に生きておられるから……」

「いやいやいや、こんな若いはずないだろ。大尉の息子さんか何かだろう」

「でも、ロンド・ベル所属のモビルスーツ隊隊長と……」

「ハヤセさんってブライト元司令とため口だし、何かおかしいと思ってた……」

「でも、あの戦闘スキルはある意味納得できるというか」

「戦死されたはずでは?」

「正式にはMIAだから、どこかで生き延びられて、……でも若すぎる」

 

皆がざわつく中、ブライトはアムロの代わりに皆の疑問に答える。

「皆が混乱するのは分かる。だが、彼は間違いなくアムロ・レイだ。30年前の戦いで死にかけ、当時の医療技術では回復不可能だったためコールドスリープ処理を施し医療技術の進歩を待っていた。まだ技術定着していないコールドスリープ処理を行ったのはある意味賭けだった。そして数年前、漸く目途が付き、賭けに勝ち回復したというわけだ。この事は連邦軍にも知られていない。本名を名乗れなかった事は察して欲しい」

流石にアムロが、平行世界に転移し船団を率いて戻って来たとは言えないため、こうして生きて、しかも若い状態なのは、大怪我のためコールドスリープ処置を施され、数年前目覚めたばかりだというでっち上げた嘘を話すしかなかった。

しかし、一年戦争時からアムロと共に戦って来たブライトが言うのならば、説得力は非常に高い。

 

「俺はこの民間軍事会社に拾われ、九死に一生を得て今ここに居る。皆を騙すつもりはなかった。すまなかった。……それと正式に君らの戦いに参加させてほしい」

アムロは皆に詫びを入れてから、皆に参加意思を伝えた。

民間軍事会社(マクロス)に拾われたと言うのはあながち間違いではない。

但し、平行世界のだが……。

 

すると、先ほどよりも大きなざわめきが起きる。

「本物のアムロ・レイ大尉!?」

「あの伝説のエース・パイロット!!」

「地球連邦軍歴代最強艦隊と呼び声が高いロンド・ベルのブライト・ノア元司令に、地球連邦軍歴代最強のエースパイロット、アムロ・レイ大尉がご一緒に?」

「これは凄いわ……」

「何とかなるんじゃないか!?」

「しかも、アムロ大尉はお若いままで!?」

「やはり、只者じゃないとは思っていたわ。でもまさか、アムロ・レイ大尉だなんて!!」

 

レアリーは軽く手を叩き、皆を静めてから話し出す。

「皆さん、静粛に……ブライト准将閣下もアムロ・レイ中佐も正式にモノケロースの一員になって下さります。そこで私から皆さんに提案です。戦力としてモノケロース一隻しかありませんが、ブライト・ノア准将閣下には艦隊司令を、アムロ・レイ中佐には、モビルスーツ隊隊長及び副司令を務めて頂きたく、皆さん、どうでしょうか?」

レアリーは既に退役及び戦死扱いで効力もない二人の最終階級を、あたかも現役であるかのように呼び、こんな提案を皆にする。

 

「何も聞いていないが?」

「いや、ちょっと待ってくれ」

ブライトとアムロはそのレアリーの提案に慌てる。

ブライトとアムロはレアリーには、事前に正式にモノケロースと共に戦う意思を伝えてはいたが、レアリーのこの提案を二人共、聞いてはいなかったのだ。

 

レアリーは二人から正式参加の申し出を受ける前から、この事について考えていた。

 

新サイド6に合流するに当たって、元サナリィ所属の新造戦艦というよりも、勇名をはせたブライト・ノアが指揮する戦艦である方が、モノケロースの立場が優位になるだろう事は、

明らかだからだ。

レアリー本人としても、自分自身が実力不足であることは痛感していた。

この艦と乗組員が今後の戦いにおいて生き残るためにも、ブライトに指揮を執って貰いたかったのだ。

だが、肝心のブライトが一歩も二歩も下がった態度で、この上層部会議に参加していたため、

もしかすると、モノケロースと共に行動してくれないのではないかと、不安に思っていたのだ。

その不安はブライトとアムロの正式参加意思を伝えられ取り除かれるが、今までのブライトの態度から、指揮を執ってもらいたいと事前に願い出たとして、自分一人ではブライトやアムロの説得は困難ではないかと踏み、レアリーと同じような立場のモノケロース上層部が居るこの場のこのタイミングで提案したのだ。

 

レアリーの狙い通り、上層部会議に参加していたメンバー全員が拍手をし、レアリーのこの提案に賛成と歓迎の意思を示した。

 

「ちょっと待て、確かに君らと共に戦う事を決めたが、この艦はサナリィの君らの艦だ。そもそも私はジョブ・ジョン氏とはプライベートで付き合いがあり、この艦のオブザーバーとして乗船したが、飽くまでも外部の人間だ。君らが指揮を取るべきだ」

ブライトはレアリーと上層部のメンバーを見渡し、反論する。

 

だが、レアリーはそのブライトの反論に真っ向から意見を述べた。

「ブライト司令は当艦の一員に正式になられると仰っていただけました。当艦は新造艦であり、私も含めた元連邦軍乗組員やサナリィ月基地から共に脱出した職員、技術者は皆経験も浅く、若輩者ばかりです。退役されたとはいえ、百戦錬磨の艦隊ロンド・ベルの司令官であったブライト准将閣下が、当艦の指揮をとられるのは当然であると考えます」

レアリーがこう述べると、上層部のメンバーは皆、頷きながら、ブライトに期待の目を向ける。

 

「………だが」

 

「当艦は既に連邦から逆賊の誹りを受けております。現在私共の階級や立場ははく奪されていることでしょう。それでしたら、最終階級が最上位者でいらっしゃる准将閣下が指揮をとられるのは、極自然の流れだと愚考いたします」

レアリーは追い打ちを掛けるように続けて述べた。

 

「………」

 

「ブライト、負けだ」

アムロは、レアリーの意見に沈黙し渋るブライトの肩にポンと手を置き、こう言った。

 

「アムロ……しかしだな」

 

「レアリー艦長も中々頼もしいものだ」

 

「出過ぎた事を申しまして、申し訳ございません。ですが、私共は能力や経験も乏しく、この難局を乗り越えるには、歴戦の勇士である准将閣下に頼るほかありません。お聞き届け願いませんでしょうか」

レアリーは少々だまし討ちのような形となってしまった事に謝り、改めてブライトに艦隊司令を引き受けてくれるように願い出る。

モノケロースの上層部メンバーも皆立ち上がり、真剣な表情でブライトに願い出る。

 

「ブライト、年長者が若者を導くのではないのか?」

 

「……ふう、アムロ、そう言うお前も副司令と言われているぞ」

 

「どちらにしろ俺はモビルスーツ隊の指揮をとらせてもらうつもりだった」

 

「良いだろう。了解だ。艦隊司令としての役目は果たさせてもらう。……但し、条件がある。モノケロースの艦長は飽くまでもレアリー少佐だ」

ブライトは観念したかのように了承するが、レアリーにこんな事を言う。

 

「え?私がですか?それに少佐とは?それはどういう事でしょうか?」

レアリーはブライトが了承してくれた事にホッとするが、それも束の間、ブライトの口から思わぬ話が出てきて戸惑う。

 

「君は艦長代理として、艦の指揮を二度行っている。艦長となりこの艦の最高責任者として今迄任を全うしている。佐官教育を受けてはいないが、君は連邦軍における佐官の要件を大雑把ではあるが一応満たしている。そんなものが無くとも、君が優秀な士官であることは誰もが認めるところである。私が准将としての最初の任は、君を略式ながら少佐へと昇進させ、一隻しかない艦隊ではあるが、旗艦モノケロースの艦長に正式に任命する」

 

「……私がですか?」

レアリーは、戸惑いの表情を浮かべたままだ。

まさか、このような流れになるとは思っても見なかったのだ。

 

「君は十分その素質は持っている。旗艦モノケロースと乗員の指揮は任せたぞ。レアリー・エドベリ少佐」

 

「いえ、それでは……」

 

「何かあれば私が今迄通りフォローする」

ブライトはレアリーにそう言うが、これでは今迄のオブザーバーと艦長代理の立場とたいして変わらないのだ。

 

「その……」

これでは、ほぼ今迄通りと同じなのだ。

一応、上下関係ははっきりし、それぞれの役割が明確化はされるが……。

レアリーは、ブライトに艦の指揮をお願いするためにちょっとした駆け引きを行ったのだが、逆にそれを利用され、元の鞘に収まってしまったのだ。

これが経験の差という物だろう。

 

「レアリー・エドベリ少佐、艦の行く末は艦長である君に掛かっている。頼んだぞ」

ブライトはレアリーの正面に向かい、威厳のある声色でそう告げて、敬礼する。

これが正式な辞令となるだろう。

 

「了解いたしました。期待に応えられるよう、謹んでお受けいたします」

レアリーも敬礼で返すが、こうなってしまった以上、心とは裏腹に、こう返礼するしかなかった。

しかも、レアリーは上層部メンバーに拍手を送られる事に……。

 

 

この後、ブライトは艦隊司令として、上層部メンバーに改めて辞令を行う。

上層部メンバーはそれぞれ、身が引き締まった思いをしたことだろう。

勿論、アムロは艦隊副司令兼、モビルスーツ隊隊長に就任。

階級は中佐という事になる。

大尉のつもりでいたが、ブライトに強く言われれば従わざるを得ない。

 

ブライトが先ず行った事は、モノケロースの組織再編だ。

モノケロースの現在の乗員700人のうち5割がサナリィの研究者や技術者関連で、さらに調達部や総務関連の事務方職員が2割程度いる。

更に、スペース・アークから脱出した難民の民間人が数人乗っていた。

シーブックの友人と妹もその中に含まれている。

本来、難民は月面都市フォン・ブラウンに送ったのだが、諸事情によりサナリィの基地に残っていた内のさらに数人が巻き込まれて、モノケロースに乗る事に……。

因みにサナリィの研究員であるシーブックの母親のモニカ・アノーもモノケロースに乗艦していた。

よって、実際に艦を運用できる人員は現在3割の200人もいなかった。

モノケロースの標準運用人員は480人程度、最低運用人数は180人だが、やはりモノケロースが100%のパフォーマンスを維持させようとすると、480人の運用人員の確保は必要だ。

 

パイロット又は元パイロットは現在、シーブックとセシリーも含め15名程いる。

モノケロースのモビルスーツ最大運用数は18機だが、現在稼働できるモビルスーツは全部で12機、タカトク中将のお陰で、組み立て中や解体中、開発中の機体が完成し、月を脱出した当初に比べ、追加で4機程運用可能状態となった。

但し、追加の4機の内の1機であるF92は、とてもじゃないが普通のパイロットでは乗りこなせない。

一応、セシリーが候補に挙がっているが、今漸くF90Nタイプのファンネル運用に慣れてきたところのため、新たな全く異なったコンセプトの機体を預けるのは、彼女に負担が掛かり過ぎる。

よって、F92は現在乗り手がいないことになり、運用できる機体は11機となる。

これにアムロのHi-νガンダムが加わり、12機のモビルスーツ中隊が編成可能だ。

パイロット15名+アムロを加えて16名、運用可能なモビルスーツ12機と、とりあえずは今の所モビルスーツ人員はこれで行くしかない。

 

各種整備人員については、サナリィの研究者や技術者が有り余るほど乗船しているため、人員転換は直ぐにでも出来るため、全くの問題がない。

 

兵器調達・生活物資調達配給関連や乗員の生活環境管理は、サナリィの総務や調達部の人員で賄った。

 

ブライトは新たに参謀戦略室を設け、多数の人員配置を行った。

役割は情報収集と作戦立案と戦術シミュレーションだ。

モノケロース一隻とはいえ、相手どる事になる敵は地球圏最大勢力の連邦軍と二番手のコスモ・バビロニアだ。人員はいくらあっても困らない。

 

更に新たに正式に設けたのは、研究開発室だ。

言うまでもなく、ここは希望者が多かった。

サナリィから開発中のモビルスーツや兵器、その部品や、連邦やアナハイムに渡せないようなものが、所狭しと搬入されている。

これらの中から使えるものの再検証や整理、開発中の物の完成等を行う部署だ。

当然ながら、アムロの副司令としての管轄下となった。

タカトク中将に影響された人員が多数在籍しており、彼らの暴走を抑えるのもアムロの役目だ。

 

 

新サイド6への合流へ向け、準備が着々と進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、地球圏では……

連邦軍はコスモ・バビロニアへの対応を巡り、連邦議会の承認が得られぬまま、時が過ぎていた。

今、連邦軍はコスモ・バビロニアへの警戒はもとより、各サイドや月面都市の独立運動の取り締まりや監視を全力で行っていた。

 

だが、そんな中、新たな不安要素が上がってきたのだ。

それは、ブライト・ノアの失踪だ。

 

連邦宇宙軍はこの緊急事態において、退役将校であるブライトに対し再招集を行うべく、フォン・ブラウンのブライトの家に直々に制服組を訪問させたのだが、もぬけの空だったのだ。

妻であるミライだけでなく、娘の家族も失踪していたのだ。

 

特にこの報告を受けた連邦軍本部の将校達は焦りを覚えた。

 

もしかすると、あのブライト・ノアがコスモ・バビロニア側に付いたのではないかと……

 

それは由々しき事態だった。

現連邦軍本部の将校はブライトと同世代の人間が多く在籍している。

当時、ブライトの華々しい活躍に対し、嫉妬や妬みと同時に恐れも抱いていた。

その表面上の戦果を見るだけでも異常なのだ。

一年戦争から第二次ネオ・ジオン抗争まで、どれを見ても圧倒的に不利な状況からの奇跡的に近い戦果と言わざるを得ない。

当時の連邦軍本部が極端にブライトを恐れていたのも頷ける。

そのブライトがこの事態のこのタイミングで失踪。

最悪な事態を想定しないわけには行かなかった。

 

もし、ブライト・ノアがコスモ・バビロニアに付いて、連邦にその鋭すぎる牙を向けたのなら………

それを考えるだけでも頭が痛いどころではない。

 

連邦軍本部は、元ロンド・ベル艦隊の士官や将校を、コスモ・バビロニア関連の防衛戦略から外し、権限を違和感ない程度に下げ、各サイドや月面都市の独立運動取締等に回した。

 

更に、ホワイト・ベースやアーガマの生き残りの監視まで指示を出す。

 

 

また、ある噂が連邦宇宙軍の将兵の間で出回っていた。

アムロ・レイの亡霊が出たと、まことしやかに囁かれていたのだ。

噂の出どころは勿論、L5宙域新サイド6の外れでの宙域戦闘に関わった艦からだ。

『白い旧型のモビルスーツが一機突如として、宙域に現れ、艦隊は手も足も出ずにやられた』と……。

 

実際の戦闘記録データを確認すると、突如現れたνガンダムと目されるモビルスーツ一機に3隻の戦艦と24機のモビルスーツが行動不能状態にされていたのだ。

これだけでも相当な異常事態だ。

モビルスーツ単機で戦艦3隻とモビルスーツ24機を破壊せず行動不能にするなど、常識的にあり得ないのだ。

 

だが、噂どおりの人物であれば……アムロ・レイならばあり得ると。

 

アムロは過去に、一年戦争時の最終決戦(ア・バオア・クー)、第二次ネオ・ジオン抗争において、これに匹敵又はそれ以上の撃墜スコアを上げていたのだ。

 

だが、アムロ・レイは30年前にMIA(戦時行方不明)とされ、既に連邦軍内では死亡が確定されていた。

 

この報告を受けた連邦宇宙軍の上層部は直ぐに箝口令を出すが、目撃者が多すぎる。

何せ、行動不能にはされたが、艦の乗務員やモビルスーツパイロットは全員生きているのだ。

箝口令を出す前にも、既に噂が広がり始めていたのだ。

 

この事態を重く見た連邦宇宙軍は改めて戦闘データの検証を行い、νガンダムを制作したアナハイム・エレクトロニクスにも問い合わせる。

 

アナハイム・エレクトロニクスからの返答により、モビルスーツは間違いなくνガンダムだと判明する。

しかも、パイロットは高度なニュータイプ能力を発揮していたと、それもアムロ・レイに匹敵するほどの能力だと言うのだ。

 

当初、連邦宇宙軍では、ニュータイプと目しているシュトレイ・バーンが関わっているのではないかと疑っていた。

何処からか得た嘗ての英雄の乗機であるνガンダムを新サイド6独立の旗頭にするために、シュトレイ・バーンが搭乗していたという可能性だ。

だが、そのシュトレイ・バーンは同じ頃に、近い宙域ではあったが、キルケーユニットのレーン・エイムの部隊とユニコーンガンダムで交戦していたのだ。

 

 

『νガンダムには誰が乗っていたのか?』

 

 

本当に亡霊なのか?

 

実はアムロ・レイが生きていたのではないか?

 

生きていたとして、何故連邦軍の艦隊と敵対行動をとったのか?

 

結論が出ない中、噂だけは広がって行った。

 

 

 

 

一方コスモ・バビロニアでは、元クロスボーン・バンガード、コスモ・バビロニア国軍のトップだったカロッゾ・ロナの死亡により、軍上層部の再編を行っていた。

カロッゾ・ロナの後は、そのままマイッツァー・ロナが臨時に引き継いだ形を取り、ルナツー及び地球方面軍をそのまま№2の歴戦の勇士然としたレオナルド・ファルガー将軍が率い、グラナダ駐留軍はカロッゾ・ロナの懐刀と呼ばれていた、顔の上部を覆う仮面を常に被っているシアノ・マルティス大佐が任につく。

フロンティア・サイドに駐留する本軍は、マイッツァーの代理として、エドガー・ロンデル将軍が率い、本軍第2師団にカロッゾの連れ子で、セシリーの異母兄にあたるドレル・ロナが中佐に昇進して就任した。

大佐に昇進したザビーネ・シャルが引き続き親衛隊の指揮を執る。

 

コスモ・バビロニア国軍は、サイド7及び連邦の宇宙要塞ゼダンの門(ア・バオア・クー)、コンペイ島(ソロモン)、ドーザへの攻略の準備を着々と進めていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

更に1か月が経過する。

アムロは現在YF-5に乗り、新サイド6に向かっていた。

シュトレイ・バーンことバナージにモノケロースの合流の意思を伝え、交渉するためだ。

なぜνガンダムではなくYF-5なのか?

ステルス性や持続航行能力の高いYF-5ならば、連邦やコスモ・バビロニアの警戒網を人知れずに突破が可能であるからだ。

アムロはこの戦いに身を置く事を決意し、YF-5を使うつもりはなかったのだが……。

 

アムロはモノケロース参加に当たって、メガロード01上層部や未沙に話しをつけてはいたのだが……、条件を出されていた。

YF-5シューティングスターと無人機24機を携行する事、ハロとのリンクは常に行い、状況をリアルタイムでメガロード01に送信する事だ。

さらに、アムロがピンチに陥った場合、メガロード01の長距離移民船団を動かすとも……。

最後のはアムロにとって、脅しのような物だ。

長距離移民船団をアムロ個人の問題で、戦乱に巻き込むわけには行かないと言う思いが強い。

さらにこの世界の問題はこの世界の人間が解決すべきだと思っていた。

 

だが未沙に……、夫を心配しない妻はいないと……、貴方の妻は夫が苦境に陥る所を黙って見ているような女に見えますか?と……微笑みながらそう言われた。

アムロは微笑む未沙から、何故かプレッシャーのような物を感じ、承諾するしかなかった。

 

そんなアムロだが、戦いにおいてはνガンダムで前に出る腹積もりである。

この世界でやり残した事をνガンダムでやり遂げたいという思いが強い。

既にタカトク中将にHi-νガンダムに改造されてしまってはいるが……。

 

 

 

この1カ月、ブライトが艦隊司令に就任し新体制に移行したモノケロースは、ブライトの指揮の元、新サイド6への合流に向けて各種準備を進めてきた。

特に戦略については何度も検証を重ねる。

既に新サイド6合流については、凡その戦術は決まっていた。

後は新サイド6との交渉を行い双方の同意が必要となる。

今丁度アムロがYF-5で向かっており、ほぼ確定だろう。

ブライトは新サイド6との合流後の戦略について、検証を重ねていたのだ。

 

現在、地球圏の勢力図では、地球は全て地球連邦が握っている。

宇宙では、コスモ・バビロニアが主に、月と地球の間のL1宙域新サイド4フロンティア・サイドと、月とは正反対のL3宙域の宇宙要塞ルナツー、そして月面都市グラナダを押さえている。

それ以外のサイド、月面都市、主要宇宙要塞は地球連邦の勢力圏ではあるが、これがひっくり返る可能性がある。

各サイド、月面都市が地球連邦から独立しようとしている事はどこの勢力も把握済みだ。

今は、サイド7以外の各サイド・月面都市は独立の機会を伺い、コスモ・バビロニアは各サイド・月面都市の取り込み又は独立を促す戦略を進め、地球連邦はそれを阻止するために動いている状況だ。

 

コスモ・バビロニアは事実上の独立を果たした状態なのが現在で、勢力図から見ると、たかだかサイド一つに、月面都市一つと宇宙要塞一つのコスモ・バビロニアは何時でも連邦に潰されるように見える。

だが、各サイド・月面都市が独立を果たした場合。

宇宙は国家が乱立する群雄割拠の時代に突入する。

それでも勢力としては連邦が一強であることは変わらない。

しかしながら、宇宙における勢力図は完全に翻り、予断を許さない状態となる。

コスモ・バビロニアの目論見通り、コスモ・バビロニアが宇宙の独立したサイドを束ねれば、地球圏を地球と宇宙を二分する勢力図が出来上がる。

この後は地球と宇宙、アースノイドとスペースノイド、連邦とコスモ・バビロニア率いる宇宙サイド連合軍という構図になる。

一年戦争時の連邦は圧倒的な資源と物量差により、力ずくでジオンをねじ伏せたが、今回はそうはならないだろう。

初期兵力の物量差はあるだろうが、資源という意味では、今や宇宙全体の方が上である。

さらに、連邦は月面都市アナハイム、アナハイム・エレクトロニクスを抑えられると、戦力の増産が困難に陥る。連邦がモビルスーツ生産をアナハイム一社に任せていたツケである。

元々モビルスーツの性能差もある上に、兵力の物量差も埋まってしまうのだ。

 

そう単純なものでは無いが、凡そコスモ・バビロニアのマイッツァーが描いた戦略通りに事が進むことになるだろう。

 

そうなってしまっては、連邦政府とコスモ・バビロニアの二強となり、地球圏の人々は、このまま連邦の腐敗した支配制度か、もしくはコスモ・バビロニアのコスモ貴族主義のどちらかに属する選択を迫られる事になる。

最終的にどちらかが地球圏の覇権を握ったとしても、人々に平和と安寧が得られるのだろうか?

 

ブライト、いやアムロも、少なくとも彼女『オードリー・バーン』の理想なら、賭けても良いだろうと思えていた。

オードリー・バーンの理想とは宇宙から新たな統治制度を作る事、そのためには宇宙の各サイドが連携を取り、経済交渉などで、宇宙における連邦の支配体制を緩め、最終的には連邦政府に地球からの統治を捨てさせ、新たな統治機構に生まれ変わる事を望んでいた。

だが、今となっては戦わずしてそれらを得る事はまず不可能だろう。

コスモ貴族主義を掲げているコスモ・バビロニアがオードリーの民主的な構想に賛同するわけもない。となると宇宙全体で連携が取れなければ、連邦政府の力を削ぐこともかなわないからだ。

彼女自身もそれは理解しているし、何よりもいつも隣にいるバナージがそれを一番理解しているだろう。

オードリーとバナージは、その理想を胸にしまい、今は新サイド6の独立運動に力を注いでいる。

 

だが、ブライトは新サイド6が第三の勢力となる可能性を見出していた。

オードリー自身のカリスマ性や新サイド6の政治的要因だけではない。

宇宙における新サイド6の位置についても関係している。

 

新サイド6の独立後に、コスモ・バビロニアに取り込まれず、一勢力として維持するにはどうすべきかと、連邦とコスモ・バビロニアとどう対抗すべきかと……。

ブライトは24年前の、ハサウェイが地球に降りる前に撮った二人で肩を並べている写真を眺めながら、思考を巡らせる。

 




次回こそは戦闘シーンを!
NEWキャラ登場予定。
ヒントは今回のお話にちょっとありますね。



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ブライト立つ

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


ちょっと文章で分かりにくいので、宇宙圏の勢力図を作ってみました。
文章の途中にチョイチョイ挟んでますので、参考までに……
因みに今回のお話前の勢力図をここに貼っておきます。


【挿絵表示】



アムロは一人、地球圏外縁部に待機するモノケロースから発ち、YF-5で連邦の警戒網を気づかれる事なく突破し、新サイド6の33バンチコロニーに到着する。

目的はモノケロースが新サイド6に合流する意思がある事を伝えるためだ。

そして、33バンチコロニー周囲に浮遊する農業用プラントの一つにて、オードリーとバナージと3カ月ぶりの再会を果たし、古びたレンガ造りの一軒家で話し合いの場が設けられた。

 

アムロは先ずは、モノケロースがブライトを頭に置き、一勢力の名乗りを上げ、その上でオードリーとバナージ達新サイド6独立運動派と合流する旨を伝えた。

 

「わたくし達に協力していただけると……ブライト艦長、……ブライト准将は立ち上がってくださいましたか……」

「ああ、俺もアムロ・レイとして、ブライトと共に戦うつもりだ」

「アムロさん……よく………」

オードリーは胸元で小さく祈る様な仕草をし、目を瞑りながら静かに言葉を口にする。

バナージもアムロのその言葉に感慨深かったのか、言葉が続かない。

 

この後、特殊な通信ルートで地球圏外縁部に待機中のモノケロースのブライト達と、通信による会談が行われた。

現在、連邦軍が全力で警戒している中では、通常通信や最新型のレーザー通信でもハッキング又は妨害される可能性が高い。

だが、中型高速輸送船とYF-5の間にフォールド通信を行う事で、中型高速輸送艦と接続しているモノケロースと、YF-5が待機しているこの農業用プラントとのリアルタイム通信を可能とした。

フォールド通信技術とは電波を空間転移させ通信可能とする技術である。

ワープ航法(空間歪曲型ワープ)の通信版と認識すればわかりやすいだろう。

超時空間内を通して電波を送るため、途中の障害物だろうが、妨害電波だろうが、通常空間での障害は全く受け付けない。

接続する超時空間に、時空波等を利用した直接超時空間に作用させるような妨害方法でなければ阻害出来ないのだ。

そもそも通常空間で電波を飛ばしていないため、宇宙世紀の技術ではハッキングどころか阻害すら不可能だ。

だが、この施設に直接盗聴器などを仕掛けられていたならば、ここでの会話は筒抜けとなるだろう。

バナージはここでの盗聴の心配はないとは言ってはいたものの、アムロは念のためYF-5に待機しているハロを通じて周囲の電波や通信網を監視させていた。

 

モノケロースの合流についての交渉は問題無く進み、次に情報交換を行う。

オードリー達は連邦宇宙軍の監視が厳しい中でも各サイドとも、連絡を取り合っていた。

凡そ、各サイドは独立を行う事が決定しているらしいが、連邦の監視や締め付けが厳しいため、中々困難な状態だと言う事だ。

バナージ達の独自調査によると、L4宙域のサイド2及び新サイド5はコスモ・バビロニア側に付く可能性がある事が判明している。

実際に、コスモ・バビロニアはサイド2、新サイド5と盛んに交渉を行っていた。

多数の交渉カードを巧みに使い、議会を抑えにかかっていたのだ。

特に軍事支援という交渉カードは大きい。

サイド3にもコスモ・バビロニアに追従しようとする大きな勢力があるとの事だ。

元々、ジオン公国を名乗っていた頃のサイド3は階級社会であり、当時の上流階級達にとって、コスモ貴族主義は魅力的に映ったのだろう。

サイド1はコスモ・バビロニアに対し明らかに拒否反応を示していた。

サイド1は労働者層が多いサイドだ。

元々連邦の支配に対しても反発が大きく、階級社会を構築するコスモ貴族主義を受け入れるような事は無いといえるだろう。

連邦の支配に各サイドに比べ抵抗は少ない月面都市も、この機に独立を目指している事は判明している。

但し、連邦側なのかコスモ・バビロニア側なのか、さらには単独での独立なのかは各都市で意見が割れているという。

だが、バナージ達も月面都市については噂程度の情報しか手に入れる事が出来ず、正確な内情を把握しきれていない。

 

 

 

実際には月面都市は、各サイドとは別の動きを見せていた。

アナハイム市を実質支配しているアナハイム・エレクトロニクスがこの戦争を大いに利用するために、各月面都市において暗躍していたのだ。

 

月において、アナハイム・エレクトロニクスの力は絶大だった。

アナハイム市以外にも月面大都市 アンマンやフォン・ブラウン、グラナダにも工場があり、その他の月面都市にも何かしらの部品工場などが存在している。

月面都市の殆どが、何らかの形でアナハイム・エレクトロニクスと関りがあると言っていいだろう。

 

特にコスモ・バビロニアが占拠したグラナダにはアナハイム・エレクトロニクスの大工場があり、占拠される十数年前からコスモ・バビロニア(クロスボーン・バンガード)製のモビルスーツ主要部品の殆どを生産していたのだ。

勿論、連邦政府や連邦軍はこの事を把握などしていない。

しかもアナハイム・エレクトロニクスは、コスモ・バビロニアがグラナダを占拠する事を事前に知っていたどころか、情報を流し、手引きすらしていたのだ。

この事からも、アナハイム・エレクトロニクスは既にコスモ・バビロニアとも相当深いつながりがある事がわかる。

 

アナハイム・エレクトロニクスの暗躍はこれだけではない。

月面最大都市 フォン・ブラウンと関りが深いサナリィがコスモ・バビロニアと繋がっていたというデマを広げ、サナリィ本部基地を解体に追い込み、さらにフォン・ブラウン市議会議員を買収し、実効支配を着実に進めていたのだ。

 

月面都市の殆どを経済で支配しているアナハイム・エレクトロニクスだが、月に自分たちの新たな国を作ろうなどとは考えていない。

目的は月面都市を個々に独立させる事だった。

一見アナハイム・エレクトロニクスには利益は無いように見える。

だが、独立させた月面都市には役割を与える。

アナハイムを中立都市としアナハイム・エレクトロニクスは表面上中立の立場を維持する。フォン・ブラウンには連邦側に、アンマンをこれから独立するだろう各サイド側に付けさせる。

これに既にコスモ・バビロニアに実効支配されているグラナダとで、地球圏の各勢力に各月面都市から安定的に兵器を売りつける算段をつけていたのだ。

最終的に連邦が倒れようが、コスモ・バビロニアが倒れようが、アナハイム・エレクトロニクスは生き残り、利潤を得られるようにと……。

企業の生き残りを掛けた壮大な戦略ではあるが、巻き込まれる月面都市の住人からすればたまったものではない。

それどころか世界の人々からすれば、地球圏全てに武器を売りさばく死の商人そのものに見えるだろう。

 

 

 

それはさておき、バナージが得た情報とアムロが無人機で収集した地球圏の情報を突き合わせ、新サイド6の独立のタイミングについて話し合いが進む。

 

バナージ達は既に新サイド6の独立のタイミングを凡そ決めていた。

決めてはいたが、具体的な日時は計りかねていた。

それはコスモ・バビロニアが動き、連邦の宇宙要塞やサイドに攻撃を仕掛けたタイミングであるがためだ。

コスモ・バビロニアの動き次第という事だが、独立を行うには絶好のタイミングであり、成功する可能性が極めて高い。

新サイド6の駐留艦隊や周囲宙域に展開する連邦宇宙軍はコスモ・バビロニアが戦端を切れば、迎撃や防衛に戦力を送り込むだろう。

新サイド6が手薄になった頃を見計い、残った連邦駐留軍の動きを抑え、独立宣言を行うという物だ。

大方他のサイドも同じ動きをするだろう事は予想済みだ。

ほぼ、同じタイミングで各サイドが次々に独立を行えば、コスモ・バビロニアの行軍対処と合わさり、連邦も手が回らなくなる事は想像に易い。

コスモ・バビロニア側も、コスモ・バビロニアが動けば、十中八九各サイドが独立に走ると予想しているだろう。

今コスモ・バビロニアと深いつながりがあるサイド2、新サイド5には、コスモ・バビロニアの行軍が事前通達され、独立のタイミングを測るため歩調を合わせている可能性が高い。

それどころか、その他のサイドにも独立を促すために、何らかの方法で行軍予定を事前通達する可能性もある。

 

ただ、コスモ・バビロニアがどこを攻めるかで、詳細な戦術は変わって来る。

バナージ達は、コスモ・バビロニアが何処を攻めたとしても、対処できるように複数のプランを練っていた。

 

そんなバナージ達の計画に対し、ブライトからは意外な戦略が示される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙世紀0123年8月19日

コスモ・バビロニアが建国宣言を行ってから5カ月、宇宙は静けさを保っていたが、遂にコスモ・バビロニアが沈黙を破り、隠し研いでいた爪を振るった。

新サイド4、現コスモ・バビロニア本国からL4宙域に向けて3師団クラスの艦隊(艦船36隻相当)、コスモ・バビロニアの全戦力の半分弱と想定される艦隊が出撃を開始したのだ。

 

対する連邦はその動きを早期に察知し、迎撃態勢を整える。

現在L4宙域には宇宙要塞 ドーザには3師団程、サイド2、新サイド5にはそれぞれ2師団クラス(艦船24隻相当)の戦力が整っており、L4宙域だけで7師団クラスの艦隊が待機していることになる。

コスモ・バビロニアの侵攻と各サイドの独立運動に備え、連邦軍は地球に待機する艦船を宇宙に上げ、各宙域の戦力を増強させたのだ。

さらに連邦は月周回軌道に遊撃艦隊4師団を待機させ、新サイド4のコスモ・バビロニアに対し、警戒網を敷くと同時に他の宙域をいつでもカバーできる体制を整えていた。

 

コスモ・バビロニアは3師団で、最大11師団クラスを相手どることになる。

奇襲でL4宙域のサイド2・新サイド5・宇宙要塞 ドーザのいずれかを攻撃したのならば、制圧可能だったかもしれないが、早期発見された時点で連邦は迎撃態勢を整え、宙域での艦隊戦となるだろう。

いくら最新の小型モビルスーツを擁するコスモ・バビロニアとはいえ、この戦力差では不利は否めない。

 

長引けば、月面都市や他のサイドや宇宙要塞からも援軍が現れるだろう。

そうなれば、コスモ・バビロニアは敗退を免れない。

 

 

 

L4宙域外縁部に、コスモ・バビロニアの艦隊を迎撃すべく、宇宙要塞ドーザ、サイド2、新サイド5、月軌道遊撃艦隊が次々と合流ポイントに到着。

サイド2と新サイド5には1師団弱の戦力を、宇宙要塞 ドーザには僅かな手勢を残し、大凡9師団相当の戦力が集結した。

迎撃艦隊の指揮官となったディーロ・マサン大佐は、コスモ・バビロニアの艦隊が接触予想時間となっても現れない事に、副官のミケロ・スコビッチ中佐に愚痴をこぼしていた。

「まだ現れないのか?まさかやつらめ、こちらの動きを察知し、撤退したのではあるまいな」

「確かに、ここに来て敵の進行速度が鈍っておりますな」

「まあいい、向こうの進行が遅れればそれだけ、こちらが有利になる」

「そうですな。レバント中将はこの隙に、コスモ・バビロニア本国である新サイド4包囲艦隊を形成するとの事でしたが……、」

「ふう、レバント中将は少々功を焦っているのではないか?」

「確かに、未だ議会の承認が得られず、敵本国には直接攻撃は出来ませんからね。ただ、向こうから攻撃を仕掛けてくれば別の話です。こちらの迎撃艦隊と敵艦隊が交戦状態になれば、それを口実に、包囲網を敷く予定の艦隊で新サイド4に直接攻撃を仕掛けるかもしれませんね」

「………中将ならばやりかねん。議会の承認が得られず、今迄歯痒い思いをしておられたからな。言い訳など後から付け足す事がいくらでもできる」

「ただ、心配なのは戦力をつぎ込みすぎれば、各サイドの防衛が手薄になります。そうすれば、各サイドのスペースノイドに独立の隙を与える事になりかねないと……」

「その位は中将も考えておられる。出撃は地球のオークリーとコンペイ島、ゼダンの門からだ。気にかけて置くべきサイドは新サイド6ぐらいだ。それでも各サイドには最低でも一師団レベルの戦力は残すだろう。宇宙要塞が手薄になるだろうが、ルナツーはサイド7が睨みを効かせてある。グラナダの戦力はそれほど多くはない。コスモ・バビロニア本国以外で、宇宙要塞を攻略出来る程の戦力を保持している勢力など、どこにもないだろうからな」

現在、コスモ・バビロニアは正式に独立国として認められていた。

しかも、連邦議会側はコスモ・バビロニアに対し宥和政策まで打ち出していたのだ。

(妥協点を探り、協議と譲歩によって武力衝突を避ける外交政策)

実際に、連邦議会は使節団を送り、捕虜交換以外に、複数の資源衛星譲渡や幾つかの利権と引き換えにルナツーとグラナダの返還を求めていた。

コスモ・バビロニアと和平交渉を進めようとしていた連邦政府から、連邦軍はコスモ・バビロニア本国への攻撃はおろか、敵対行動を慎むようにとまで通達を受けていたのだ。

連邦宇宙軍を指揮する強硬派のレバント中将が、この事に歯軋りをしていたことは想像に易い。

連邦軍首脳も、コスモ・バビロニアとの和平交渉が纏まる可能性は低いと考え、いつでも対処できるようにと防衛戦略はしっかりと組んでいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして……

「大佐!緊急通信です!………ド…ドーザがモビルスーツ大部隊に襲撃を……すでに内部まで侵入を許し、陥落寸前です!」

迎撃艦隊を指揮するディーロ・マサン大佐の元に緊急事態を知らせる暗号電文で送られてきたのだ。

宇宙要塞 ドーザが突如としてモビルスーツの大部隊に襲われたと言うのだ。

しかも、陥落寸前と……。

 

「な……なんだと!?どういうことだ?敵は!?」

ディーロ大佐は突然の事に動揺を隠せない。

宇宙要塞 ドーザから出発しこの宙域に到着するまで、ドーザ及び周辺宙域には異変が無かったのだ。

 

「いえ、詳細は……次の電文が来ました!コスモ・バビロニア製のモビルスーツです!」

 

「バカな!?どういうことだ!?奴ら、どうやってドーザに!?……目の前の艦隊はどうなっている!?」

 

「新サイド4から進軍した艦隊はゆっくりとこちらに向かったままです」

 

「奴らは囮か!?狙いはドーザだったか?しかし、どうやって!?……反転!!進路をドーザに!」

 

「大佐、落ち着いてください。今反転すれば、後方から狙われます!」

ミケロ中佐はドーザに救援に向かう指示を出すディーロ大佐を諫める。

 

「ええい!4個師団はここで殿だ!後はドーザに救援に向かう!!」

迎撃艦隊は9師団の内4師団をこの宙域に残し、宇宙要塞 ドーザに向かった。

 

だが、既に遅かった。

救援に向かった艦隊は道中半ばで、宇宙要塞 ドーザが、コスモ・バビロニア製モビルスーツを扱う集団によって陥落したことが判明した。

 

宇宙要塞 ドーザはどうして落ちたのか?

宇宙要塞 ドーザ周囲宙域は警戒を怠っていなかった。

敵艦隊が近づけば、射程範囲に入る前に判明するはずだ。

だが、緊急電文からはモビルスーツ大部隊が突如現れ、大した抵抗も出来ずにドーザ内部に入り込まれたような有様だった。

 

実際の状況はこうだった。

コスモ・バビロニアの艦隊がL4宙域に向かっているという情報が入ると同じ頃、木星からヘリウム3を2年かけて輸送するジュピトリス級超大型輸送艦ジュピトリスVが定期輸送のため宇宙要塞 ドーザに到着し、ドーザの外郭指定個所に接岸する。

宇宙要塞 ドーザから、コスモ・バビロニアの艦隊を迎撃するために、9割以上の戦力が迎撃のため出撃。

迎撃部隊がL4宙域外縁部に到着の頃を見計らい、ジュピトリスVからコスモ・バビロニアのモビルスーツ大部隊と制圧機械歩兵部隊(歩兵と小型艇や戦闘車両)が出現し、ドーザ内に容易に侵入を許し、瞬く間に制圧されたのだ。

ジュピトリスVは4カ月前の段階で火星圏から地球圏に向かうアステロイド宙域で、コスモ・バビロニアに掌握されていたのだ。

コスモ・バビロニアはジュピトリスVには予めスパイを送り込んでおり、既に内部掌握もほぼ済ませ、戦闘もなしにモビルスーツ部隊と制圧部隊を潜り込ませる事に成功していた。

その後、何もなかったかのように、予定通りに地球圏へ向かい宇宙要塞 ドーザに到着。

そして、事を起こしたのだ。

 

この計画は、コスモ・バビロニアが建国宣言を行う前から実行されていたものだった。

その間、状況に合わせ戦術の細かな調整や修正は行っていたが、既にドーザの命運は決していたと言う事だ。

 

 

更に、サイド2と新サイド5は連邦政府からの独立宣言を順次行ったのだ。

駐留していた連邦軍の艦隊は、コロニーの宇宙港内に閉じ込められ、身動きが出来ない状態に陥る。

艦船が駐留していた幾つかのコロニーは、コロニー側の工作員とコスモ・バビロニアのMS小隊により宇宙港を完全にロックし、さらに艦船が停泊しているドックに事前に爆薬を仕掛け、降伏勧告を行い、次々と艦船を無力化していった。

宙域の巡回警戒を行っていた艦船は、何処からか現れたコスモ・バビロニアのMS部隊に攻撃を受け撃沈又は行動不能となり、コロニーや住民に被害を殆ど出す事もなくあっさりと駐留艦隊は制圧されたのだった。

これはコスモ・バビロニアが新サイド4制圧時に、連邦の無謀な反撃により、コロニーや住民に被害が拡大したことを教訓に練られた戦術であった。

 

 

コスモ・バビロニアに宇宙要塞 ドーザが占拠された直後、コスモ・バビロニア側から占拠宣言は無かった。

よって、現段階では正式には宇宙要塞 ドーザは何らかの賊かジュピトリスVの反乱によって占拠されたと言う事になっている。

コスモ・バビロニアがサイド2、新サイド5の独立に関わったという確たる証拠もない。

コスモ・バビロニア製のモビルスーツが確認されたとしても、本当にコスモ・バビロニアの手の物なのかは正式に証明できないのだ。

現在の認識では、コスモ・バビロニア側は新サイド4の本国からただ艦隊を動かしただけ、しかも連邦が支配する宙域には踏み込んでもいない。

 

これでは新サイド4のコスモ・バビロニア本国をどさくさに紛れて攻撃することも出来ない。

 

それどころか1日も経たずに、地球連邦は宇宙要塞 ドーザ、サイド2・新サイド5とL4宙域の全てを失ったのだ。

 

レバント中将は歯ぎしりしながら新サイド4周辺へ展開しつつあった大規模艦隊を戻し、宇宙要塞 ドーザ奪還へ向けたのだった。

 

だが、宇宙要塞 ドーザをモビルスーツ部隊での奇襲で奪取したコスモ・バビロニア側だっただが、所詮は寡兵だ。

連邦宇宙軍の大規模艦隊にはなすすべもなく、宇宙要塞 ドーザの奪還は容易に進んでいく。

艦船が多数ドーザに取りつき、要塞内での制圧戦に移行し、奪還間近に迫ったその時。

宇宙要塞 ドーザは大爆発を起こし、粉々に粉砕したのだ。

勿論、ドーザに取りついた艦船は全滅、ドーザ周囲に展開した艦隊も大ダメージを受ける。

 

これは、宇宙要塞 ドーザの移動用核パルスエンジンを暴走させたのだ。

更に核反応に使用する燃料は、現在多量に存在していた。そうジュピトリスVだ。

それだけでなく、ドーザ内に残っていた連邦の艦船もエンジンを暴走爆発させ、連鎖的に大規模爆発を起こさせたのだ。

 

ここまでがコスモ・バビロニアの今回の作戦だった。

サイド2、新サイド5の独立だけでなく、今回の作戦の中枢は連邦宇宙軍に大打撃を与える事だったのだ。

 

 

 

 

 

しかしこの時、別宙域ではコスモ・バビロニアにも予期せぬ事態が起こっていた。

 

「元連邦宇宙軍准将 ブライト・ノアだ。故あって、貴軍と敵対する事となった。敵対の意思無き者は直ぐにこの場を離れよ。降伏する者は地球連邦政府の規約に準じた扱いを約束しよう。敵対の意志ある者は全力を持って相対しよう。以上だ」

ブライト・ノアは連邦軍管轄の宇宙要塞 コンペイ島(旧ソロモン)に対し、オープンチャンネルでこう宣言したのだ。シンプルではあるがブライトらしい宣戦布告だ。

 

モノケロースは単騎で宇宙要塞 コンペイ島の直下Sフィールド外縁に突如として現れ、攻撃の構えを見せたのだ。

 

この宣言の直後、慌てて、コンペイ島から映像通信がモノケロースに入る。

『わ、私はコンペイ島基地司令代行のベルファル・フェルナンド大佐です。ブライト・ノア准将、正気なのですか?貴方ほどの方が何故、連邦に反旗などを』

 

「ブライト・ノアだ。先ほど宣言した通りだ。今の連邦に義は無い。貴官に対し遺恨は無いがこれは将兵の定めだ。抵抗するならば全力を持って粉砕する」

ブライトの鋭い目つきが、画面越しのフェルナンド大佐に突き刺さる。

 

『……そ、それにたった一隻の戦艦で何が出来ると言うのです。貴艦を一瞬で宇宙の藻屑に出来る戦力は十分にこちらにあるのですぞ。降伏をされるのが賢明です』

フェルナンド大佐は、ブライトの眼光に怯みながらも、説得しようとする。

 

「貴官の懸念には及ばない。一年戦争、グリプス戦役、ハマーンにシャア、このような状況は幾度も経験してきている。勝算無くしてここには立たん。さあ、覚悟を持って全力で来るがいい」

数多の戦いに勝利した歴戦の勇士 ブライト・ノアが醸し出す雰囲気と眼光、さらには言葉の圧力は凄まじい物だった。

その圧力は、ブライトの隣の艦長シートに座るレアリーやブリッジ要員も気圧される程だった。

 

『か………、こ、後悔めされるな」

その圧力にフェルナンド大佐は思わず息をするのを忘れ、発令所司令官席から崩れ落ちそうになるが、何とか堪え、こう言って通信を切る。

通信を終えたフェルナンド大佐は、全身から冷や汗が吹き出し、息も絶え絶えであった。

あのブライト・ノアが敵として目の前に現れた……。

これだけでも十分動揺すべき問題ではあるが、宣戦布告を映像越しではあるが目前でされたのだ。

この映像通信を見ていたコンペイ島の発令所要員も、同じく動揺の色が濃く、意気消沈していた。

 

 

そして……

コンペイ島とモノケロースとの戦闘が始まった。

コンペイ島の兵力は現在1師団クラス。艦船13隻、モビルスーツ78機だ。

コンペイ島の主戦力はコスモ・バビロニア本国、新サイド4の包囲艦隊に組み込まれ、現在L4宙域の宇宙要塞 ドーザ奪還戦に参加していたため、戦力は最低限であった。

それでも、この戦力差は普通に考えれば戦艦一隻など一瞬で塵となるものだ。

 

コンペイ島からの一斉射撃によるビーム攻撃がモノケロースに飛んでくる。

ミノフスキー粒子は戦闘レベルまでに達しつつあり、ビームの射線がぶれる。

幾つかのビームはモノケロースに掠るが、展開されている高出力Iフィールドに弾かれ又は貫通することができず、ダメージを与える事が出来ない。

 

続いてコンペイ島から艦船が出撃を開始した。

だが、そのうちの2隻がモノケロースの正面宇宙港から出撃開始したのだ。

普通ならば、艦隊戦が行われているフィールド面から出すものでは無い、戦闘が行われていないフィールドから出すのがセオリーだ。

だが突如として起こった戦闘だった。

他のドックに内部移送する時間が惜しかったのだろう。

艦の艦長も敵が一隻と侮って現在停泊しているドックからそのまま出てきたのだ。

 

「主砲発射!」

レアリーの掛け声と共に、モノケロースの主砲が火を噴く。

高出力ハイパー・メガ粒子砲の直撃により、迂闊に正面から出て来た艦船は爆散。

 

「レアリー艦長!直下に潜り込め」

「司令、了解です。主砲は宇宙港に狙いを定めたまま、ポイント22に移動開始」

 

 

その頃、モノケロースの反対側に位置するNフィールドでは、コンペイ島から艦船が続々と出撃を開始していたが、突如として一隻の艦のメインエンジンと主砲が攻撃され、行動不能状態に追いやられたのだ。

 

とある艦のブリッジでは……

「何?どこだ!?どこからの攻撃だ!?」

「艦長!!また一隻やられました!!」

「観測士!!敵は見つからんのか!!」

「いえ………発見しました!!直上です!!映像だします」

「………白いモビルスーツ……まさか!!噂のアムロ・レイの亡霊か!?ぐっ……何があった!!」

「当艦メインエンジン被弾!!沈黙!!左右主砲沈黙!!」

「な、なんだと……」

「……艦長……当艦戦闘継続不能です」

「ば、ばかな」

「ダメージコントロール……当艦は爆散の危険性はありません」

「……どういうことだ……助かったのか?……まさか、ピンポイントに急所だけを狙ったのか……」

 

 

 

アムロが駆るHi-νガンダムは、モノケロースがコンペイ島に到着するかなり前に出撃し、単独でモノケロースの侵攻予定であるSフィールドの正反対位置であるNフィールドへと向かっていた。

奇しくもこのルートは、デラーズフリートの反乱時にアナベル・ガトーがコンペイ島に核を放つために通った道筋だった。

 

アムロの役目はNフィールドから出撃するだろう艦船とモビルスーツの無力化だった。

Hi-νガンダムから放たれる12基のフィンファンネルは次々と出撃する艦船のメインエンジンと主砲を貫き、いとも簡単に行動不能に陥れていく。

アムロの戦闘センスもあるのだが、出撃前後の艦ほど無防備なものは無い。

 

「ソロモンがこれ程脆いとは……」

アムロは複雑な気分であった。

嘗て、このコンペイ島がソロモンと呼ばれた一年戦争時、連邦とジオンはここで死闘を演じてきたのだ。

双方にかなりの犠牲が出た。

勿論当時のホワイトベースも手痛い犠牲を被ったのだ。

だが今回は……。

 

Wフィールドには、今もシーブックのF91とセシリーのF90NF(ニュータイプ仕様ファンネルラック搭載)が陣取り、出撃する艦船とモビルスーツを次々と無力化する。

シーブックとセシリーはアムロの教導により、確実にパイロットの腕は上がっており、この重要な場所を任せられるまでに成長していた。

 

こうして、コンペイ島の戦力をあっという間に無力化し、コンペイ島司令官代行のベルファル・フェルナンド大佐は白旗を上げたのだった。

 

モノケロースがコンペイ島の索敵に気が付かれずにSフィールドに現れた時点で勝敗は決

していたと言っていいだろう。

 

この後、待機させていた制圧人員を乗せた新サイド6輸送艦2隻がコンペイ島に入り、ブライトの指示の元、コンペイ島を掌握し占拠せしめたのだ。

 

コンペイ島のモノケロースによる単独攻略。

これが、ブライトのバナージ達を驚かせた戦略だった。

賭け要素も大いにあった。

コスモ・バビロニアと連邦の戦闘ありきの戦略であるからだ。

コスモ・バビロニアが次に攻め込むの場所はL4宙域か月だと、膨大な情報から予想していた。

そして、コスモ・バビロニアが実際攻め込んだのはL4宙域、ここまでは予想通りであった。

だが、大きな誤算もあった。

コスモ・バビロニアが半日もかからずに、宇宙要塞 ドーザを占領するなどとは思ってもみなかったのだ。

計画ではコスモ・バビロニアと連邦の戦闘が長引いている間に、コンペイ島を漁夫の利で掠め取る算段であったのだ。

しかし、結果的に連邦軍はドーザ奪還の為にコンペイ島から戦力を割いてくれたため、最速で行動に移すことにより、コンペイ島を攻略が可能となった。

 

 

 

その頃、新サイド6では……

連邦軍の駐留艦隊の半数が出撃を開始。

宇宙要塞 コンペイ島で戦闘が行われている事を観測したためだ。

通信はミノフスキー粒子にて遮断され、それ以外の妨害電波もあり、コンペイ島とは音信不通状態であったため、直接援軍を送りだしたのだ。

 

これもブライトの戦略通りであった。

 

新サイド6からの援軍がコンペイ島に到着する頃を見計らって、バナージ達が残った駐留艦隊を掌握。

コスモ・バビロニアが行った作戦とほぼ同じで、コロニー内のドックに艦船を閉じ込める作戦だ。

駐留軍艦隊の中には協力者も存在し、あっさり決着がついた。

 

コンペイ島に向かった援軍の中には、元ロンド・ベル艦隊の士官であったライル・パーシャル中佐率いる艦隊も含まれていた。

コンペイ島を占拠したのは、あのブライト・ノアだと知り、ブライトの呼びかけにより、ライル・パーシャル中佐の艦隊は降伏。

事実上の恭順だった。

残りの艦隊とは戦闘にはならず、月へと撤退していく。

同じくして、サイド1からの連邦軍の援軍が到着するも3隻は降伏。

残りの艦隊はゼダンの門へと撤退していった。

計7隻の艦が降伏したのだった。

ブライト・ノアの呼びかけにより、降伏した艦はいずれも恭順の意思を示しているが、降伏という処置を行ったのは、艦内には恭順をよしとしない将兵も多数いるからだ。

降伏した将兵を一時的に全員降伏捕虜扱いとし、恭順の意思を確認し、恭順の意思のある者はそのまま登用し、恭順の意思のない者は捕虜扱いとし、そのまま月等に送り届ける処置を行うことにしていた。

恭順を示した艦には、元ロンド・ベル出身の艦長が5人居たとは言え、如何にブライト・ノアの勇名が連邦宇宙軍にとって影響力が高かったという表れだろう。

 

 

 

この二日間でサイド2、新サイド5に続いて、新サイド6、サイド1、サイド3も独立宣言を果たし、地球圏の勢力図は大きく塗り替えられる。

後に、二日間動乱と呼ばれる歴史のターニングポイントとなった。

 

 

 

 

 

 

 

そして5日後……

連邦政府、コスモ・バビロニアも予想だにしない事態が起こったのだ。

 

新サイド6とサイド1が世界に向けて共同声明を発信。

「サイド1、新サイド6は新たな共和制連合国家、宇宙連合を建国いたします」

オードリー・バーンはサイド1の代表と共に壇上に立ち、高々と建国宣言を行ったのだ。

 

 

 

 

月面都市 グラナダ、コスモ・バビロニア駐留軍基地の一室では、目元を覆う仮面を装着した男がアンティーク調の執務席に座り、投影機で壁一面に映し出されたこの宇宙連合建国宣言の映像を見ながら、薄ら笑いを浮かべていた。

「裏切者のお姫様が良く言う、君もそう思うだろう」

 

「…………」

執務席前に立つ男は、そう尋ねられたが、無言でその映像見ていた。

 

「この展開は読めなかった、L5宙域の連合国家とは。……しかもあのブライト・ノアが表に出て来るとは面白い。連邦は手ごたえが無くていかん」

映像では丁度、ブライトが宇宙連合の軍のトップとして演説を行っていた。

 

「………」

執務席前に立つ男はその様子に拳を強く握っていた。

 

「君にはこの男を倒して欲しい。近い将来、必ず我が艦隊の障害となろう。連邦にはアムロ・レイの亡霊が現れたと言う噂が立っているが、アムロ・レイはこの世にいない。さしずめ奴の仕業だろう。この男の名はシュトレイ・バーン」

映像には宇宙連合の初代首相となったオードリーの横に肩を並べるバナージの姿が写っていた。

 

「………」

 

「奴は君と同じニュータイプだ。しかも高位の力を振るい、モビルスーツパイロットとしても一級品だ」

 

「………」

 

「君だったらできるだろう?」

 

「………」

 

「君が嫌というのであれば、彼女を行かすことになるが?」

 

「やってやるさ」

執務席の前に立つ男はようやく口を開く。

 

「いい返事だ」

 

「但し、俺を生かしておいた事を貴様に後悔させてやる」

 

「そう睨まないでくれ、君はこうでもしないと、言う事を聞いてくれないだろう?」

 

「くっ、やればいいのだろう!」

その男は唇を強く噛み、拳を戦慄かせながら、捨て台詞のように言葉を吐き、執務室から出て行った。

 

 

執務室で一人残った仮面の男は、映像を見上げながら……。

「グリプスの隠れた英雄と、ラプラスの一角獣のナイト……時を超えた死闘とは、いささか出来過ぎているか………ふふふふっはーっはっはーーーっ!」

酔いしれるように高々と笑っていた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




前回NEWキャラ登場と宣言いたしましたが……
すみません。
名前をだすまでに至りませんでしたが、皆さん誰だかお判りですよね。


因みに、連邦軍のディーロ・マサン大佐、ミケロ・スコビッチ中佐、レバント中将はオリジナルですよね。

あっ、仮面のあの人はまだ秘密です。


それと、前作の番外編みたいな今作ですが、前作より長くなりそうなのはご愛敬。


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宇宙連合

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。


この間の続きです。
ようやく、本格的に彼を参入させることが出来ました。

現状を参考までに挿絵です。

【挿絵表示】



宇宙世紀0123年8月26日

新サイド6とサイド1を元に共和制連合国家、宇宙連合が建国。

正式名称を宇宙連合共和国としなかったのは、これからも全ての国や地域を受け入れ、連邦に変わる地球圏統治機構を目指すという意思の表れだった。

初代首相にオードリーが就任、宇宙連合軍の総司令にブライトが就任した。

現在、大統領制を採用しておらず、完全な三権分立とは至っていない。

将来的には市民選挙により大統領を選出する予定ではあった。

 

宇宙世紀0123年8月28日

サイドが独立宣言を行ってから1週間後。

宇宙世紀0100年1月に自治権を放棄してから凡そ23年半の時を経て、ジオン共和国の名を復活させる。

 

宇宙世紀0123年8月30日

独立宣言を行ったサイド2、新サイド5は正式にコスモ・バビロニアに対し恭順の意思を示し、傘下に下る。

この事によりコスモ・バビロニアは宇宙における最大勢力となる。

 

宇宙世紀始まって以来、地球圏には地球連邦、コスモ・バビロニア、宇宙連合、ジオン共和国の4つの国家統治機構が存在することとなった。

 

 

 

宇宙連合は建国に当たって先ず行った事は、スペースノイドに対しての締め付けともとれる連邦政府による不平等な法令や税制の解消であった。

それらの不平等な法令や税制は、地球よりも豊かになりつつあるコロニーにおいて、スペースノイドが日常生活を送る上で大きな弊害ではなくなってきてはいた。

だが、今日(こんにち)に至るまでアースノイドとスペースノイドの軋轢を生み出す一助を担い、スペースノイドの心の奥底に劣等感を与え続けて来た象徴でもあった。

これらの解消はスペースノイドにとって長年の願いであり、地球連邦に勝利したと同等の意義があった。

 

それ以外にも、早急に解決すべき問題は山積みである。

実務的な問題として、新サイド6とサイド1の法令関連の統合だ。

新サイド6とサイド1の各サイド独自の法令などが存在し、それらを調整し新たな統一した法律が必要不可欠となる。

 

現在、市民生活を支えるライフラインは、各サイドは自国で全て賄える体制を元々整えており、今の所、大きな混乱は起きてはいないが、経済活動においては諸所の問題が起き始め、改善や復旧が急務であった。

地球連邦から独立するという事は、地球連邦との国交も遮断され、経済的結びつきは全て遮断されることになる。地球との経済活動はそれほど大きくは無いため当面は大きな問題とはならないが、月との経済活動遮断は影響がでる事は間違いない。

特に交易関連は大きなダメージを拭えない。

決して多くはないとはいえ月との輸出入に頼っていた物も幾つかある。

地球連邦と国交を閉じてしまった現在、輸入品に関しては自国での生産や増産にシフト、輸出品に関しては、生産調整又は代替えを行う様に各界と連携をとり、問題解消へと進んでいる。

交易関連企業のダメージだけでなく、長距離輸送・旅客業界は大打撃を受ける事は想像に易い。

幸いにも、木星間輸送については元々新サイド6のコロニー公社は独自ルートで行っていたため、モビルスーツや艦船の燃料に関する問題は今の所クリアーしている。

但し、この状況下では木星間輸送船団には今まで以上の護衛戦力が必要となるだろう。

 

現行は国交断絶状態ではあるが、地球連邦との窓口を開く事となるだろう。

それは捕虜交換交渉だった。

現在、宇宙連合は多数の連邦軍捕虜を得ていた。

ここでの捕虜とは、コンペイ島での戦闘と新サイド6とサイド1での独立の際に捕えた連邦軍の将兵の事である。

コンペイ島でブライトの呼びかけにより恭順した艦内の将兵の中で、恭順に添わなかった者は含まれていない。

彼らは移送という形で、コンペイ島に残っていた輸送船で月面都市に既に帰している。

 

連邦軍将兵の捕虜の返還に対して、こちらからの要求は独立運動の中で逮捕移送された人物、サナリィ関係者の逮捕者の返還だ。

 

この交渉のテーブルに地球連邦が付くと言う事は、宇宙連合を一つの国家として事実上認めた事にもなり、何らかの形で国交を開く事ともなる。

 

地球連邦政府は、今のこの情勢下ではこの交渉に乗るしかないだろう。

一つに、連邦宇宙軍はコスモ・バビロニアが宇宙要塞ドーザを使った巨大規模のブービートラップと言える自壊大爆発で大打撃を受けた事。

二つに、宇宙での拠点を一気に失い、宇宙での軍事バランスが完全に崩れた事。

三つに、宇宙連合側が捕縛した連邦軍将兵の捕虜の人数が多い事。

コンペイ島での戦闘では死者は少なかった。

撃墜された戦闘艦船は1隻、モビルスーツ3機であり、残った12隻の艦船と75機のモビルスーツは行動不能にし、乗組員はほぼ全員無事であるからだ。

コンペイ島だけで2万人近くの捕虜が出ている。

そこに新サイド6とサイド1での捕虜を含めると3万人強の捕虜がいることになる。

四つに、連邦宇宙軍から宇宙連合へと離反者が出ている事。

ブライト・ノアの勇名によるものが大きい。

さらには、コスモ・バビロニア建国から始まる失敗続きの地球連邦軍上層部への不信感や、コロニー出身者への不遇など、潜在的に不平不満を持った将兵などの受け皿ともなった。

大きくは宇宙連合建国宣言前に7隻、宣言後に5隻程、宇宙連合側に艦ごと離反者が流れる。

また、輸送船に乗って亡命を希望する将兵まで出て来る始末だった。

 

 

 

ここまでは新サイド6首脳陣やオードリーとバナージが考えていた以上の成果であった。

この流れはブライトが提案した戦略を元に進めたものだった。

 

そのブライトの戦略の肝は宇宙要塞コンペイ島の攻略にあった。

モノケロースの戦力を新サイド6から連邦軍を追い出すために使うのではなく、コンペイ島と戦闘を行うことによって、新サイド6の連邦軍駐留軍をコンペイ島へと誘い出し、新サイド6から引き離すことで、独立をより優位に進める事が出来ると踏んでいたのだ。

最悪、コンペイ島に大戦力が存在した場合、戦闘を行うふりだけをし、全力で逃げる事も考えていた。

 

しかし、コンペイ島の占領が成功すれば、新サイド6の独立が優位に進むだけでなく、連邦の将校等を取り押さえる事ができれば捕虜交換交渉で、ジョブ・ジョン以下月に残してしまったサナリィの職員達を取り戻せるとも踏んでいた。

更には、L5宙域から連邦軍を完全に排除できれば、新サイド6の防衛に厚みが出来、サイド1とサイド3とも同盟が結べる可能性も出て来る。

 

ブライトの戦略について、新サイド6側では最初は無謀な賭けではないかという反対意見が半数以上占めた。

だが、オードリーやバナージと共に更に詳細に戦略戦術を練り、反対意見派を納得させるだけのプランを提示したのだ。

それが新サイド6とサイド1との連合国家プランだ。

このプランが成功すれば独立国家として、地球連邦やコスモ・バビロニアと同じ交渉のテーブルに付けるだけの力を得られ、その意義は誰が見ても余りにも大きい。

その後、オードリー達はサイド1と粘り強く交渉を行い、サイド1連邦軍駐留艦隊の排除の協力に連合国家構想をまとめ、今日に至ったのだ。

 

 

 

 

 

宇宙世紀0123年9月2日。

コスモ・バビロニアのグラナダ駐留軍は月面都市アンマンを占領。

連邦宇宙軍が大きなダメージを受け再編する間の隙を突いた、シアノ・マルティス大佐率いる少数精鋭部隊での電撃作戦だった。

 

「リリィ少尉、ロンギフローリムの具合はどうだったか」

グラナダ駐留艦隊司令官 シアノ・マルティス大佐は、横に並び歩くコスモ・バビロニア軍特殊部隊の赤を基調とした隊服を着た黒髪の年若い東洋の血が入っているだろう美女に声を掛ける。

リリィ少尉がアンマン攻略の際搭乗したニュータイプ用モビルスーツ、ロンギフローリムは初実戦だった。

ロンギフローリムはラフレシアプロジェクトの一環で開発された試作モビルスーツである。

一対多数の殲滅戦を想定し作成されたモビルアーマー・ラフレシアは規格外の性能が故、ラフレシアの性能に合わせて強化処置を施した鉄仮面 カロッゾ・ロナしか操る事が出来なかった。

このロンギフローリムはそのラフレシアをスケールダウンさせ、モビルスーツに置き換えるための試験機の位置づけだ。

ラフレシア同様にネオ・サイコミュシステムが搭載されてはいるが、ラフレシアの死角を埋めていた125本のテンタクルロッドは廃止され、12基のファンネルが搭載されている。

全高はこの時代のモビルスーツとしては大きく18m、ラフレシアの花弁ユニットの様な大型バインダーを四つ装着されている。

外観は、モビルスーツ本体はビギナ・ギナ系列の姿をしているが、大型バインダーを装着した姿は、嘗てネオ・ジオンが開発したクシャトリヤを彷彿させる。

だが、赤と白を基調とした塗装を施された装甲はロンギフローリムの名前の由来どおり、テッポウユリの花にも見えない事もない。

 

「シアノ大佐、申し訳ございません。まだ、スペック性能の70%も引き出せずに……」

リリィ少尉の切れ長の目は、シアノ大佐の仮面の奥にある瞳を一瞥し、申し訳なさそうに項垂れる。

 

「君は十分やってくれてる。焦りは禁物だ」

シアノは慰めるかのような口調でそういい、リリィの肩にポンと手をやる。

リリィ少尉はネオ・サイコミュシステム搭載モビルスーツ ロンギフローリムのパイロットに抜擢されるぐらい優秀なニュータイプの素養があったが、今回の作戦では、ロンギフローリムのネオ・サイコミュシステムに適応しきれず、技術士官が提示した性能を発揮させることが出来なかった。

だが、最先方に立ち、連邦軍防衛隊モビルスーツを単騎で6機落とすという実績をあげ、アンマン陥落に十分貢献していた。

ロンギフローリムの初実戦としては、十分な戦果と言えるだろう。

 

コスモ・バビロニアによるアンマン占領は連邦に対してと言うよりも、アナハイム・エレクトロニクスへの警告であり、脅しであった。

5か月前にアナハイム・エレクトロニクスは地球連邦から要請を受け、地球のオーガスタ基地等3か所に大規模な次世代型小型モビルスーツ生産工場を立ち上げたのだ。

急ピッチで建てられた生産工場は、この10月始めには稼働開始の予定であり、この工場がフルに稼働すれば、コスモ・バビロニアにとっても脅威になるだろう事は明らかだ。

連邦にばかりに肩入れするなという警告と共に、アンマンのアナハイム・エレクトロニクスの工場をコスモ・バビロニア系のモビルスーツ部品生産拠点とするためであった。

コスモ・バビロニアは、モビルスーツ自体は自身の傘下であるブッホ・コンツェルンの子会社であるブッホ・エアロダイナミックス社に生産させていたが、部品はアナハイム・エレクトロニクスに大きく依存していた。

モビルスーツを増産させるためにも、部品自体も増産させる必要があったのだ。

しかもグラナダにはコスモ・バビロニア系のモビルスーツを生産するための工場(ブッホ・エアロダイナミックス社)が既に稼働状態であり、月での量産機の増産を始めていたのだ。

 

 

「シアノ大佐……父と母は……」

リリィ少尉は項垂れたままシアノに聞きづらそうに、自分の両親について尋ねる。

 

「健康状態は問題なく、健やかに過ごしていると報告にある。君の事もある。私からも扱いは丁重にと指示を出している。生活には不自由しない様にね」

 

「ありがとうございます……父と母に会う事は?」

 

「父君と母君のスパイ容疑が晴れていない。私の一存では難しい。ただ君の活躍次第では、閣下も恩赦を与えて下さるだろう。そうすれば顔を合わす事だけでなく、釈放もあり得る」

 

「……はい、必ず」

 

 

リリィ少尉の両親はコスモ・バビロニアがグラナダ占領後、不穏分子として逮捕されたのだ。

彼女の父は医者、母が看護師として夫婦で小さな診療所を営んでいた。

父の名はカミーユ・ビダンに母の名はユイリィ・ビダン。

彼女のフルネームはリリィ・ビダン。

嘗てグリプス戦役でZガンダムを駆りエウーゴを勝利に導いたカミーユ・ビダンと、幼馴染で同じくグリプス戦役でカミーユと共に戦い抜いたファ・ユイリィ、2人の22歳になる一人娘だった。

 

リリィは母親であるユイリィの反対を押し切って連邦軍大学医学部へ進学し、地球に降りていた。

元々は父の診療所を継ぎたいという純粋な思いだった。

だが、連邦軍大学の内部では、差別意識や権力闘争が根付いており、スペースノイドであったリリィは辛い思いをしたことは一度や二度ではなかった。

そんな中、コスモ貴族主義と出会い、その思想に染まって行ったのだった。

そして、両親に黙ってクロスボーン・バンガードに参加し、今に至る。

 

コスモ・バビロニア軍の前身であったブッホ・コンツェルンの私設軍隊 クロスボーン・バンガードは、優秀な将兵を得るために、連邦軍大学や連邦軍士官学校を大いに利用していた。

コスモ貴族主義教育を施した若者を連邦軍大学や連邦軍士官学校に送り込み、最新の軍事教育を受けさせていたのだ。

また、連邦軍大学や連邦軍士官学校内部から、スペースノイド出身者やコスモ貴族主義に賛同しそうな若者を引き抜く事も盛んに行っていた。

リリィ・ビダンはその後者だった。

 

リリィはクロスボーン・バンガードに入隊し、程なくしてシアノ・マルティス大佐にニュータイプ能力の素養を見初められ、直属の特殊部隊に抜擢されたのだった。

リリィはそのまま5カ月半前のコスモ・バビロニアの独立戦時にグラナダ攻略戦に参加し、初実戦を経験する。

リリィは直ぐに、両親の元へ駆けつけ、自分がコスモ・バビロニアの将兵となり、連邦政府からグラナダを開放した事を伝えたのだが……。

良かれと思っていたリリィは、父カミーユに生まれて初めて叱りつけられたのだ。

リリィは父がこれ程怒っている姿を見た事がなかった。

リリィにとって父は甘やかしてくれる存在であって、このように叱りつけられた事は一度もなかったのだ。

口うるさく叱ったり注意する役目は母ユイリィであった。

 

リリィはそのまま両親と喧嘩別れのようになるが、しばらくして、シアノ大佐から両親が不穏分子として逮捕された事を伝えられる。

リリィは何かの間違いだと、両親に合わせてくれるようにと、頭を下げ頼み込むが、シアノ大佐の管轄外であるため、難しいと、カミーユ夫妻の娘であるリリィに対しての疑惑を回避するのが精いっぱいだったとの返答だった。

更に、シアノ大佐はリリィに対し、功績を上げれば、両親を開放することが出来るだろうとも伝えている。

リリィはこの事により、より一層、コスモ・バビロニア軍人として、励むことになる。

 

 

しかし……

これは裏でシアノ・マルティス大佐が全て仕組んだ事だった。

連邦軍大学在学中のリリィをコスモ貴族主義に洗脳し、コスモ・バビロニアに引き込む際に、担当官に経歴は全て調べられていた。

シアノ大佐は、リリィの経歴書を目にした途端に、仮面の奥底の目は見開かれ、次には口を歪ませていた。

リリィがあの36年前のグリプス戦役の隠れた英雄と名高いカミーユ・ビダンの娘である事を、この当初から知っていたのだ。

カミーユはグリプス戦役に置いて、若干17歳という年で華々しい戦果を挙げ、エゥーゴを勝利に導いたモビルスーツパイロットだったが、一般的にカミーユ・ビダンの名は知られていない。

カミーユがグリプス戦役終結と同時に再起不能となったこともあるが、カミーユが所属していたエゥーゴが第一次ネオ・ジオン抗争(アクシズ戦役)後に実質の解散となり、そのほとんどが元連邦軍艦隊に再編入されたからだ。

その際、エゥーゴに所属の連邦軍人らは閑職等に追いやられることになり、実績も公けにはされなかった。

そのいい例がブライト・ノア本人だった。

グリプス戦役や第一次ネオ・ジオン抗争での勝利の立役者であったのだが、エゥーゴ解散後は再び閑職に追いやられる羽目になったのだ。

連邦政府にとって、エゥーゴとティターンズの戦いはスペース・ノイドと地球至上主義との戦いでは無く、飽くまでも連邦軍内部抗争として収めたのだ。

スペース・ノイドとアースノイドとの確執をこれ以上広げないための処置だった。だが、その傷はあまりにも大きく、内部抗争を止められなかった当時の連邦政府の上層部は責任を取らされる羽目になる。

グリプス戦役は連邦軍にとっても汚点としか言いようがない戦いであった。

よって、連邦軍からすれば、正式な軍人でもない少年兵であるカミーユの実績などとても公表できるものでは無かった。

但し、戦績は記録としては残っており、また、カミーユの名は当時の連邦軍上層部やエゥーゴ所属の連邦軍人、はたまた、敵であったはずのネオ・ジオンの残党などからは記憶として残ることになる。

 

 

 

話を戻す。

シアノ大佐はグラナダ占領後にリリィに次いで、そのカミーユを懐柔し引き込もうとしたのだが、カミーユは首を縦に振らないどころか、シアノ大佐に対し反抗的な態度を取る。

 

シアノ大佐はカミーユに対して、懐柔策から180度方向転換をし、妻のユイリィと娘のリリィを人質にし、カミーユを脅したのだ。

当のリリィは自分がカミーユに対しての人質などにされているとは思いもしていない。

だが、カミーユはこれには流石に従うしかなかった。

 

シアノ大佐はカミーユの優れたニュータイプ能力を利用し、今後現れるだろう強敵に捨て駒同然に当てようとしていたのだ。

当初は、無敵と称されたモビルアーマー ラフレシアを操る鉄仮面 カロッゾ・ロナを打ち破った何者かに当てようとしていたのだが……、その何者かの正体は突き止められなかった。

差し当たって、強敵として再び現れたバナージ・リンクスに当てる算段をしていたのだ。

カミーユは軟禁状態で、モビルスーツのシミュレーター訓練を受けさせられ、流石に53歳となった今では肉体的な衰えは否めないが、嘗ての勘を徐々に取り戻しつつあった。

 

 

 

 

 

宇宙世紀0123年9月14日

連邦政府と宇宙連合との正式会談の場が設けられる事となった。

主には捕虜交換交渉と停戦協定であった。

 

連邦政府は5月の段階では強硬派の意見が押し気味だったが、コスモ・バビロニア軍との宇宙要塞ドーザでの戦いで、連邦宇宙軍は大打撃を受け、更にはサイド7を除くサイドすべてが地球連邦から独立又は離反してしまったのだ。

現在は穏健派が地球連邦政府議会を主導している状態である。

地球連邦政府はコスモ・バビロニアと宇宙連合の両方と敵対する事は得策ではないとし、どちらかと手を携える事を検討していた。

コスモ・バビロニアと宇宙連合を天秤にかけた場合、地球連邦にとって都合が良いのは明らかに宇宙連合側であった。

コスモ・バビロニアは戦力も充実しており、地球連邦政府を明確に敵として見ている。

一方宇宙連合は、戦力としてはコスモ・バビロニアの四分の一も満たないと踏んでおり、地球連邦との捕虜交換の交渉にも積極的であり、対話が可能な相手であった。

同時に、コスモ・バビロニアさえ如何にかすれば、後は圧力さえかければ与易い相手であるとも考えていた。

 

会談は通信で行えばいいものの、連邦政府はコスモ・バビロニア等に盗聴される可能性が在るとして、旧態依然とした直接の話し合いの場を希望し、地球圏の緩衝宙域での会談が行われることとなった。

直接と言っても、代表者同士が席を並べ直接顔を合わせて話し合いをするわけではない。

お互いの艦を近接させ、有線回線での話し合いを行うのだ。

儀礼的な意味が大きいのだろう。

実際にはお互いの代表者を乗せた艦を一隻、有線回線が届く距離まで接近させる。

護衛戦艦は、距離を離し待機させるとしている。

一般的な主砲の射程圏外とされている距離である。

会談の場の緩衝宙域については、入念に交渉を重ね決定した。

宇宙連合が支配下に置く宇宙要塞コンペイ島と、地球連邦の宇宙における最後の要となってしまった宇宙要塞ゼダンの門との間の宙域だ。

この二つの宇宙要塞の間の宙域が選ばれた理由がある。

コスモ・バビロニアの支配下であるL1・L4宙域からは離れており、宇宙連合と地球連邦の両方の要塞が控えているこの宙域は、コスモ・バビロニアが容易に手が出せない宙域だからだ。

更には、宇宙要塞ゼダンの門には連邦宇宙軍の最大戦力が集結しており、その後方には、サイド3のジオン共和国、次に近い月はアナハイム・エレクトロニクスが幅を利かせているとはいえ、まだ多くは地球連邦の支配下だ。

因みにこの宇宙要塞ゼダンの門は二代目である。

初代は一年戦争時にア・バオア・クーと呼ばれジオン公国が手掛けた宇宙要塞で、一年戦争後は連邦軍がそのまま運用していたが、グリプス戦役時にアクシズ(ネオ・ジオン)によって破壊された。

今の物はサイド3に睨みを利かすためにも、この宙域に宇宙要塞が必要であったため、新たに再建されたものだ。

 

 

宇宙連合側の代表は首相のオードリー・バーンと同行者として軍トップのブライト・ノアが、レアリーが艦長を務める宇宙連合の旗艦モノケロースに搭乗し、約定通り護衛艦隊一個師団を引き連れ現れる。

地球連邦側の代表は副首相及び連邦軍大将格の一人が同行し、ラー・カイラム級を旗艦とし、同じく護衛艦隊一個師団を引き連れ登場した。

 

護衛艦隊を残し、双方の代表を乗せた戦艦が徐々に近づき歩み寄る。

 

この会談の方法について、当初バナージは難色を示していた。

オードリーに危険が及ぶ可能性が高いからだ。

だが、当のオードリーはこの会談にリスクを承知で積極的に臨む。

バナージはオードリー本人が望むのであれば、後は全力で守るのみと覚悟を決める。

ブライト・ノアを始め上層部はあらゆる危険性を想定し、会談を進めていた。

連邦軍の裏切りによる奇襲や攻撃、はたまたコロニー・レーザーによる攻撃の危険性、第三者(コスモ・バビロニア)の介入についても。

最終的にこの宙域のこのポイントを選んだのは、コロニー・レーザーによる攻撃を受け難い位置である事が挙げられる。

周囲には所々、小惑星群等が漂っており、位置的に他のサイドのコロニー群から照準が捉えられない場所である。

連邦軍の裏切りによる奇襲についても、旗艦モノケロースの性能であれば、逃げ切れるだろうと踏んでいた。

現在唯一の高出力Iフィールド搭載艦であり、サナリィが手掛けた最高峰の戦艦にして、他の戦艦に追従を許さない航行スピードに武装群、更にマクロス側から提供を受けたこの世界では破格の各種センサー類が搭載されているのだ。

単艦で戦場を突き切る事も可能だろう。

 

 

そんな準備を行ってきたが、お互いの艦は近接し、会談は問題無く始まった。

 

 

 

だが……

コンペイ島宙域では、突如としてコスモ・バビロニアの艦隊が現れたのだ。

シアノ・マルティス大佐率いるグラナダ駐留艦隊だった。

 

シアノ・マルティス大佐は地球連邦と宇宙連合の会談を正確に察知し、宇宙連合を一気に叩く絶好の機会として、宇宙連合の要であるこの宇宙要塞コンペイ島に奇襲を仕掛けてきたのだ。

 

絶妙なタイミングでの奇襲だった。

 

現在宇宙連合の戦力は多く見積もっても4個師団にも満たない。

地球連邦から離反し、合流した戦艦が丁度一個師団相当の12隻、元々新サイド6とサイド1が隠し持っていた戦艦は各一個師団12隻にも満たない。

先のコンペイ島での戦いで鹵獲した艦が12隻程度あるが、全て修理中で稼働できる状態ではなかった。

実質3個師団相当が関の山だった。

 

宇宙連合は地球連邦との約定で、会談に当たって一個師団を割く必要があった。

そうなると各サイドに護衛のための艦船を残すと、コンペイ島はほぼ丸裸状態となるのだ。

 

宇宙連合の防衛の要であるコンペイ島を落とし、コスモ・バビロニアが占拠すれば、宇宙連合の防衛網は瓦解する。

さらに、コンペイ島を落とした後、地球連邦と会談を行っている宇宙連合の精神的支柱であろうオードリーとその護衛艦隊を後ろから襲い壊滅させれば、もはや宇宙連合は立ち行かなくなり、そうなればコスモ・バビロニアに屈せざるを得ない状況となるだろう。

 

シアノ・マルティス大佐はそこまで読み切っての奇襲だった。

 

だが、そのシアノ・マルティス大佐にとって唯一の不安要素と言えるのが、シュトレイ・バーンこと、バナージ・リンクスの存在だった。

コンペイ島攻略後、地球連邦と交渉中のオードリーを襲えば、必ずバナージが出て来るだろうと踏んでいた。

その為のバナージ対策を用意していたのだ。

 

「カミーユ・ビダン君……君の出番はまだだ、君はコンペイ島、いやソロモンが落ちる様をそこでゆっくり見ておくといい」

シアノ大佐は通信越しに、モビルスーツデッキで待機するノーマルスーツを着込んだカミーユに不敵な笑みを浮かべる。

 

「くっ………」

カミーユは顔を歪ませ、歯を食いしばる。

御年53ではあるが、元々中性的な顔立ちのカミーユはその年齢を感じさせない。

30代中頃だと言っても分からないだろう。

 

因みに、リリィ・ビダンはこの戦場には同行していない。

流石に、カミーユと同じ戦場に出すわけには行かないため、リリィは月面都市アンマンの護衛に回していた。

 

「降伏勧告などは不必要だ。まずは前哨戦と行こうではないか、攻撃開始だ」

シアノ・マルティス大佐は、2個師団を前衛・後衛と分け、2段構えの陣形で、宇宙要塞コンペイ島へ正面から攻撃を開始する。

 

前衛の一個師団がコンペイ島に接近しながらモビルスーツ隊を展開、後衛は艦砲射撃でソロモンの砲撃をけん制。

だがコンペイ島からはまだ、艦隊は出撃していない。

コンペイ島は予想通りもぬけの殻だったのだろう。

 

この様子をシアノ大佐は余裕の笑みを浮かべ、旗艦ザムス・ガル級ザムス・ガイオンのブリッジの指揮官シートで、戦場を眺めていた。

 

直ぐにでも決着がつくだろうと誰もがそう思っていたのだが……。

 

「大佐、先方モビルスーツ トレラス中隊壊滅!!……前衛艦ザムス・ギリアス沈黙!!」

ブリッジ要員から戸惑い気味に報告が上がる。

 

「ん?……どういうことだ?」

シアノ大佐はその報告を聞き、少々前のめりになり聞き返す。

 

「いえ、自分には……あっ、続いて、モビルスーツ マーベル中隊壊滅!?……前衛艦ザムス・ガイン沈黙!!」

 

「何?……何が起きている?やつら、艦隊などないはずだ」

 

「………ラスタ中隊壊滅……前衛艦ザムス・グエン沈黙……た、大佐!?」

ブリッジ要員はその報告を読み上げるが、顔色は見る見るうちに悪くなる。

 

「どういうことだ!?何がある!?まさか……奴が裏切者の姫君から離れるなど」

 

「大佐!当該箇所の映像捉えました!!映像出します!!」

観測兵から、シアノ大佐に対し興奮気味に報告する。

 

すると………

そこには白を基調とした大型モビルスーツが縦横無尽に宙域を駆け巡り次々と味方のモビルスーツが撃破されていく様が映し出される。

だが、観測カメラが追いきれないのだろう、度々そのモビルスーツは映像から消える。

旗艦ザムス・ガイオンの望遠カメラ6機がそのモビルスーツを追っているのだが、そのスピードや切れのある変則的な機動を捉えきれないのだ。

 

「あのモビルスーツはサイコフレームの共振反応の光を……シュトレイ・バーンか!?なぜここに!?……おのれバナージ・リンクスッ!!!……いや、良いだろう、姫君の前に無残な躯を晒してやろう」

シアノ大佐はそのモビルスーツからエメラルドグリーンの光が漏れ出る姿に戸惑い、怒りの声を上げた後、再び冷静な声色に戻す。

 

そして、専用回線に繋ぎ……

「カミーユ・ビダン君。少々早まったが、君の出番だ。ターゲットは白色のモビルスーツだ。君がこれを撃つことが出来たのならば、君の願いを一つ叶えよう」

 

「………………」

カミーユはその通信映像に映るシアノ大佐の仮面の顔を一瞥し、黙って漆黒のモビルスーツに乗り込む。

 

 

しかし……

シアノ・マルティス大佐は最大の勘違いをしている事にまだ気が付いていない。

白を基調とした大型モビルスーツを駆り、縦横無尽に宙域を駆けるパイロットが誰であるかを………、

その様は嘗て、味方からは白き流星と呼ばれ、そしてこの宙域がソロモンの名だった頃、他の追従を許さない圧倒的な力を振るい白い悪魔の異名で呼ばれた伝説のパイロットであることを………。

 




次回はやっとです。
やっとできますアムロ無双
そ、そういえば、今回アムロの名が一度も出ていない。
でもちゃんと活躍してますよ。モビルスーツ中隊3つと戦艦3つ落としてるんで><
え?それじゃまだ足りない?……まあ、ここのアムロ君は、分岐艦隊を一人で何とかできちゃうんで……
まだ途中ですけど、Hi-νガンダム(Ver TK)の活躍は次回w
それと、このお話の中盤の肝であるアムロVSカミーユも実現か!?

さてさて、カミーユは何に乗っているのでしょうか?
漆黒のモビルスーツとは!?
皆さんの予想は如何に!?

シアノ大佐の正体は?そして明日は有るのか?

ファ・ユイリィさんの名前についてなのですが、設定では漢字で書くと、花園麗さん。
要するにファミリネームが花(ファ)でファーストネームが園麗(ユイリィ)となるそうです。
ですが、ガンダムの世界では、日系も中国系の方も、全てファーストネームが先に来ていて、ファ・ユイリィだけ何故かこんな設定に><
例:ハヤト・コバヤシ ステファニー・ルオとか……
しかし、ファ以外にもルオ・ウーミンはファミリネームが前に……
これ如何に?

そんなファさんですが、TV版では母親にまでファ呼ばわりされてます。
これって……

もしかしたら、TV版スタッフはファ(花)がファーストネーム設定にしちゃったと。
私もずっとそう思ってました。

だから、思うんです。
どうすればいいのこれ?
ファ・ユイリィのひとくくりにすれば違和感ないんですが、結婚して男性性を名乗った場合は……

質問です。
どうしたらいいのか?多数決で決めさせてください。





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35年の月日

感想ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。

やっとですね。
長らくお待たせしました。
アムロの戦闘が書けました。



宇宙世紀0123年9月15日 PM1:30

地球連邦と宇宙連合との捕虜交換及び停戦協定に関する交渉は、地球連邦の宇宙要塞ゼダンの門と、宇宙連合の宇宙要塞コンペイ島間の宙域で行われていた。

宇宙連合側からは、首相のオードリー・バーンと軍トップのブライト・ノアが旗艦 モノケロースに搭乗し、会談に臨む。

地球連邦側からは、副首相と大将格の一人がラー・カイラム級に搭乗し、指定場所に現れる。

それぞれ引き連れて来た護衛艦隊一個師団を遠方に待機させ、お互いの旗艦一隻を近接させ、有線接続をし、会談が始まった。

 

当初は会談に対して、様々な障害が懸念されていたが、今のところ問題も無く進む。

 

 

 

しかし、時を同じくして、宇宙連合の防衛の要である宇宙要塞コンペイ島がコスモ・バビロニア軍に急襲を受けたのだ。

設立したばかりの宇宙連合にとって、最大のピンチが訪れる。

 

コスモ・バビロニア軍 グラナダ駐留艦隊司令 シアノ・マルティス大佐は、宇宙連合は地球連邦との会談交渉で一個師団戦力を割かざるを得ないという情報を察知していた。

宇宙連合は全戦力を持っても3個師団程度しか現存しない事も凡そ把握し、サイド1と新サイド6の防衛戦力を動かす事は出来無いと踏み、今現在、コンペイ島には残存戦力が殆ど残っていないという結論を導き出したのだ。

 

実際、宇宙連合に現存する戦力は3個師団にも満たない。

そもそも、建国間もない宇宙連合の戦力は、サイド1と新サイド6が独立前から用意した戦力である各1個師団弱とモノケロース単騎に連邦軍からの離反組を合わせて3個師団弱、この戦力で何とか防衛網体裁を整えるのがやっとであった。

時間があれば、モノケロースが行動不能にした連邦軍の元コンペイ島駐留艦隊の戦艦やモビルスーツを修理し再編出来たのかもしれないが、この短期間では到底不可能だった。

さらに、宇宙連合の基盤であるサイド1と新サイド6からそれぞれの防衛戦力を割いてまで地球連邦の会談へと向かわせる事は諸所の反対が大きかったのだ。

となると、コンペイ島に駐留するモノケロースと地球連邦の離反組からなる宇宙連合の中核艦隊を地球連邦との会談に向かわせるしか選択肢はなかった。

 

その結果、シアノ大佐の分析通り、現在宇宙要塞コンペイ島には申し訳程度の防衛戦力しか残っていなかったのだ。

 

 

だが、シアノ大佐の戦略はコンペイ島の奪取だけでは無かった。

本命はオードリー・バーン及び宇宙連合上層部の抹殺。

ほぼ戦力が残っていないだろうコンペイ島の攻略は前哨戦に過ぎず。

宇宙要塞コンペイ島を占領することにより、会談に向かった宇宙連合の退路を断ち、それと同時に、地球連邦と交渉中のオードリーとその護衛艦隊を別動隊と挟撃奇襲し、壊滅させるのが戦略の真の目的であった。

 

防衛の要である宇宙要塞コンペイ島と精神的な支柱であるオードリー・バーンを失えば、宇宙連合にとって痛烈な痛手となる事は間違いない。

宇宙連合は空中分解状態となり、サイド1と新サイド6を容易に取り込む事が出来ると、ここまで読んでいたのだ。

 

このタイミングでのコンペイ島の急襲は、まさに宇宙連合を一気に瓦解させる渾身の一手となりえた。

 

この戦略はコスモ・バビロニアの高度な諜報能力と分析能力があったからこそ実現可能となった。

コスモ・バビロニアが地球連邦に対し、軍事戦力的に圧倒的な不利な状況で、ここまで優位に事を進める事が出来たのは、まさに情報収集能力の差だろう。

コスモ・バビロニアの国王となったマイッツアー・ロナは、経済戦略を得意としていた。

それは情報収集能力と分析能力が高い事を意味している。

世界各所に多数の諜報員を潜伏させ、常に情報収集を行っている。

その対象は新興国である宇宙連合も例外ではない。

特に地球連邦の中枢にはコスモバビロニアの息の掛かった人物が食い込み、地球連邦及び連邦軍の動きをほぼ正確に把握できていた。

地球連邦と宇宙連合の交渉日時や条件、実施場所(宙域)までも正確に把握できたのもこの事からだ。

 

 

 

そして、シアノ大佐率いるコスモ・バビロニア軍 グラナダ駐留艦隊コンペイ島攻略に向け、意気揚々と攻撃を開始した。

この時、コスモ・バビロニア軍の誰もが勝利を確信し疑わなかった。

 

 

しかし、そこにはシアノ大佐、いやコスモ・バビロニア軍の誰もが予期せぬ大いなる誤算が存在したのだ。

宇宙世紀のこの時代の最大の特異点と言うべき存在を………。

平行世界に飛ばされ、時を経て舞い戻ってきた奇跡の存在を、流石のコスモ・バビロニアも予測は出来なかっただろう。

 

 

 

コスモ・バビロニア軍 グラナダ駐留艦隊前衛師団先方隊はコンペイ島に戦力無しとして正面から一気に侵攻する。

だが、何の前触れもなく先方艦隊は攻撃を受け、2隻の艦が壊滅状態に陥ったのだ。

 

そこにはサイコフレームの共振により、エメラルドグリーンの光を帯びた白を基調とした大型モビルスーツが縦横無尽に宙域を掛け巡り、次々とモビルスーツ隊と戦艦を行動不能に陥らす姿があった。

 

 

「白いガンダムタイプ!?バナージ・リンクスか!?まさか奴が、裏切姫から離れるなどとはな……良いだろう。多少計画は前倒しになるが、先に貴様を葬り去ってやろう」

シアノ大佐は旗艦ザムス・ガイオンの望遠カメラで捉えた映像に映る白いモビルスーツを鋭い目つきで見据え、呻く様に言葉を漏らす。

シアノ大佐は前線で猛威を振るうガンダムの姿に、バナージが駆るモビルスーツだと判断し、次の一手を投じる。

この時、シアノ大佐はまだ修正が効く誤差範囲と見做していた。

まだ、大いなる間違いに気が付いていない。

白いモビルスーツの肩口に描かれた朱色のAに似たユニコーンエンブレムが誰のものなのかを……

 

専用回線に繋ぎ……

「カミーユ・ビダン君。少々早まったが、君の出番だ。ターゲットは白色のガンダムタイプのモビルスーツだ。君がこれを討つことが出来たならば、君の願いを一つ叶えよう」

格納庫で待機するカミーユ・ビダンにガンダムタイプの討伐を命令する。

 

「…………」

通信越しのカミーユはシアノ大佐の仮面の顔を一瞥し、返事をせずに漆黒のモビルスーツに乗り込む。

 

シアノ大佐は正面を向き直りブリッジ要員に命令を下す。

「バンシィ出撃後、後衛師団は左翼に急速旋回、バンシィ及び前衛師団が敵を引き付けている間にコンペイ島を叩く」

 

「「イエス・サー」」

ブリッジ要員は声を揃え返事をし、命令を履行する。

 

「カミーユ・ビダン、精々頑張りたまえ」

シアノ大佐は旗艦ザムス・ガイオンのブリッジから、出撃する漆黒のモビルスーツの後姿を見据えながら、口元を歪ませていた。

 

 

カミーユが乗り込んだこの漆黒のモビルスーツの名は、ユニコーンガンダム2号機。

28年前に建造されたモビルスーツだった。

とある理由からアナハイムのグラナダ工場奥深くに封印処置を施されていたこのモビルスーツを、シアノ大佐が再び世に解き放ったのだ。

近代化改修が行われてはいたが、普通ならば骨董品扱いもいいところであるが、このモビルスーツにはある特殊な装置が搭載され、ある目的の為に建造されたモビルスーツだった。

 

特徴的なのはこのモビルスーツの駆動式内骨格であるムーバブルフレームは全てサイコフレームで構築されていたことだ。

所謂フル・サイコフレームである。

フル・サイコフレームを採用した機体は、初にして現在まで3機のユニコーンガンダムだけ。

この機体がニュータイプや強化人間の能力を最大限に引き出すための物である事がこの事からも容易に分かるだろう。

 

更に搭載されている特殊な装置の名は『NT-Dシステム』ニュータイプ・デストロイヤー。

ニュータイプを抹殺するために設計されたシステム。

そう、このユニコーンガンダムは対ニュータイプ用に建造されたモビルスーツだった。

NT-Dシステムを発動させたユニコーンガンダムはデストロイ形態に移行し、ニュータイプ・デストロイヤーとしての本領を発揮する。

しかし、このシステムには矛盾がある。

ニュータイプを抹殺する為のシステムを搭載した本機の搭乗者は、強化人間やニュータイプ能力者を想定し作られているからだ。

 

 

NT-Dシステムを作動させたユニコーンガンダムは、フル・サイコフレームとサイコミュコントロールシステムであるバイオセンサーシステムを機体とパイロットとを完全同調させ、通常のモビルスーツではあり得ない反応速度と……そして、奇跡を起こす。

それは、27年前ラプラスの箱を巡る戦いで、二機のユニコーンガンダムが実現し証明してみせている。

 

嘗てこのバイオセンサーシステムを搭載したガンダムタイプを駆り、スペック以上いや、スペック外の力を発揮させたニュータイプパイロットが過去に二人いた。

カミーユ・ビダンとジュドー・アーシタ。

 

 

そして、カミーユ・ビダンは35年の月日を経て、バイオセンサーを搭載したユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ハデスを駆り再び戦場へと舞い戻る。

 

 

 

 

 

一方……。

「ブライトの懸念が当たったか。2個師団……コスモ・バビロニアはコンペイ島、いや宇宙連合を一気に叩きに来たと言う事か……しかし、やらせるわけには!」

アムロはHi-νガンダムを駆り、12隻の戦艦擁するシアノ・マルティス大佐率いるグラナダ駐留軍前衛師団に突撃を敢行する。

 

アムロはブライトの指示により、コンペイ島に待機していた。

警戒警報が鳴り響く中、警戒宙域内に侵入するコスモ・バビロニア軍の艦隊機影を超望遠カメラで確認し、周辺宙域のミノフスキー粒子濃度が一気に上昇したと報告を受け直ちに出撃したのだ。

 

 

ブライトは自分であれば、地球連邦との会談で手薄になるコンペイ島を攻略するだろうと言い、コスモ・バビロニア軍または、暴走した連邦軍の強硬派が攻めてくる可能性を考慮し、アムロを防衛のために残したのだ。

因みに、現在のコンペイ島の戦力は、戦艦級が2隻にモビルスーツは18機と申し訳程度しかなかった。

本来ならグラナダ駐留艦隊にいとも簡単に陥落させられただろう戦力だ。

 

だが、かつてこの宙域がソロモンと呼ばれた一年戦争時、ジオン将兵から「白い悪魔」と恐れられたパイロットが、異世界で更なる高みを経て、今ここに……

 

 

「やはりコスモ・バビロニア軍の小型モビルスーツは機動力、スピード、パワー、全てジェガン系やリガズィ系を上回っている。パイロットの熟練度も連邦に比べて高い。しかし、その程度ではゼントラーディとの戦いでは生き残れはしない。……そこっ!」

アムロのHi-νガンダムは、敵艦隊の先方部隊に猛スピードで突貫しながら、専用ビームライフルで次々とコスモ・バビロニアのモビルスーツの急所を正確に撃ち抜き無効化していく。

そのスピードと機動力はもはや現行のモビルスーツを軽く凌駕し、敵は照準を合わす事すらもかなわずに倒されて行く。

 

別部隊がHi-νガンダムの後ろを取ろうとするが、そのスピードについて行けず、さらにはフィン・ファンネルのビーム攻撃の餌食となる。

 

遠距離からの一斉攻撃もスピードに乗ったHi-νガンダムを全く捉える事は出来ない。

 

コクピット周りから漏れ出るサイコフレームの共振によるエメラルドグリーンの淡い光は、縦横無尽に宙域を駆けるHi-νガンダムの軌跡をたどり、薄暗い宇宙に光の帯を演出していた。

 

「……殺意、いや悪意を感じる。だが同時に宙域に懐かしい気配が漂う。これはまさか?」

アムロはコスモ・バビロニアのグラナダ駐留艦隊がこの宙域に現れてから、ニュータイプ能力で突出した二つの存在を感じ取っていた。

 

 

敵前衛師団12隻の戦艦の内、5隻を無効化した段階で、アムロが駆るHi-νガンダムに漆黒のガンダムが迫り来る。

「バナージのユニコーンガンダムと同系か……それよりもこのプレッシャー……カミーユ、何故君が?」

アムロは迫り来る漆黒のガンダムにカミーユが乗っている事をニュータイプ能力で既に把握していたが、敵として現れた事に戸惑いを感じる。

 

カミーユが操縦するユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ハデスは縦横無尽に宙域を駆けるHi-νガンダムに照準を合わせると同時にビームマグナムを発射。

「全く捉えきれない!なんてスピードだ!この感じ、只者じゃない!凄まじい力を感じる!この気配……俺は知っている?……誰だ!?」

カミーユもHi-νガンダムから今迄感じた事もない凄まじい力と、嘗て感じた事がある気配に戸惑っていた。

 

 

「カミーユ……今はこの艦隊を抑えなければ!」

アムロは迫りくるバンシィ・ハデスを巻きつつ距離を取りながら、前衛師団の中枢に切り込み、次々とモビルスーツと戦艦を無効化していく。

 

「………なんて技量だ。モビルスーツを爆散させずに、正確に駆動部だけを撃ち抜き無効化するとは…………この動きは!?まさか!?アムロ・レイ?……いや、アムロさんは30年前に亡くなったはずだ!」

カミーユはHi-νガンダムに追いすがり射程に捉えようとするが、まるで捉えられなかった。

それどころか、今は味方陣営であるグラナダ駐留軍前衛師団のモビルスーツが破壊されずに次々と無効化されて行くのだ。

そのHi-νガンダムの姿を見てカミーユは過去の記憶が蘇る。

グリプス戦役時に地球を降り立ったカミーユはアムロと出会い、当時アムロが空中戦で敵を爆散させず、正確に敵モビルスーツのバックパックだけを破壊し、無効化していく姿に感銘を受けた事を……。

その姿が、今目の前のHi-νガンダムと重なる。

 

「………カミーユから焦りと怒り、苦悩の感情が伝わって来る。何があった?……しかし今は……敵の後衛艦隊は左翼に回る。コンペイ島を抑えに来たか、敵の指揮官は判断が早い、しかしやらせるわけには!」

アムロはカミーユを気にかけながらも、コスモ・バビロニアのモビルスーツや戦艦を無効化させながら、グラナダ駐留艦隊の後衛師団がこの前衛師団を囮にし、迂回し直接コンペイ島制圧に乗り出した事を察知する。

 

一方Hi-νガンダムを捉えきれないでいるカミーユは……

「アムロさんのハズがない!迷うな!今はユイリィとリリィの身の安全を……俺には…守らなければならないものがある!!」

感情を高ぶらせ、NT-Dシステムを起動させる。

バンシィ・ハデスはデストロイモードに移行し、むき出しとなった全身のサイコフレームが赤く光を帯びる。

カミーユはバイオセンサーからサイコフレームを通し、意識をHi-νガンダムに全て向けた。

 

「……アムロさんなのか!?どういうことだ!?アムロさんが何故!!」

NT-Dシステム起動によって、カミーユの意識はバイオセンサーとサイコフレームを通し増幅され、白いガンダムタイプ、Hi-νガンダムを駆るパイロットがアムロだという事を正確に認識したのだ。

 

それと同時に、そんなカミーユの意識にアムロが語り掛けたのだ。

『カミーユ……』

『アムロさんの意識……生きて……しかしなぜ?』

『カミーユ……何故?コスモ・バビロニアに?』

『俺には、守らないといけないものがある!』

『カミーユ、感情に押し流されている……何があった?』

『ユイリィとリリィを守るためなんだ!!』

『人質か……』

『こんな事は間違っているとは分かってる!だが…今の俺は戦う事でしか……大切な家族を守れやしない』

『カミーユ……』

『………アムロさん、俺が死ねばユイリィは開放されるかもしれない、だがリリィはあいつの操り人形に……アムロさん娘を…リリィを…俺が死んだ後に助けて欲しい……』

『それは出来ない相談だ』

『……だったら俺と本気で戦えっ!』

『いいだろう……だがカミーユ、娘は自分の力で助けるべきだ。…そのためにも今は負けて貰う』

アムロとカミーユは意識の流れの中で意思を疎通させ、語り合ったのだが……。

 

Hi-νガンダムは突如として反転し、バンシィ・ハデスに迫る。

バンシィ・ハデスはビームマグナムで狙いをつけ迎撃するが、Hi-νガンダムは全て避けながらも尚も迫り、一瞬でバンシィ・ハデスとの距離が詰まる。

バンシィ・ハデスは大鎌状のビームサイズを展開し、眼前のHi-νガンダムを切り裂こうとするが宙を切る。

Hi-νガンダムは一瞬でバンシィ・ハデスの後ろを取り、ビームサーベルを抜き払う。

しかし、バンシィ・ハデスはサイコフレームの共振により発振させたサイコフィールドをバリアとして展開し、ビームサーベルを拒んだ。

ビームサーベルを防がれたHi-νガンダムはバリアごと、バンシィ・ハデスを蹴り飛ばし、更に自らも追走する。

「ぐっ!なんて力だ!あの時のアムロさんとは桁が違う。それでもっ!!」

「ユニコーンガンダム…ニュータイプデストロイヤーとはよく言ったものだ……だが、これで」

 

最高のニュータイプと呼び声高いカミーユ・ビダンと歴代最強のパイロット アムロ・レイ……。

しかし、カミーユはグリプス戦役終結へと導いたが、その繊細な心は折れ、元に戻るのに6年を要し、その後は医者としての道を歩み、戦線から36年も離れていた。

5カ月間の再訓練を経て復帰を果たしたが、当時の力には及ばない。

一方アムロは、第二次ネオ・ジオン紛争にてシャアとの決着をつけ、更にマクロスの世界に飛ばされてからは、銀河規模の戦争に巻き込まれ、500万の艦隊と相対する事となるが、しがらみが無くなったアムロはそのニュータイプ能力を更に高め、膨大な経験を経て、パイロットとしてもニュータイプとしても、宇宙世紀時代に比べるべくもなく高みに登っていったのだ。

現在のカミーユとアムロにはパイロットとして埋めようがない歴然とした差があった。

更に、モビルスーツの性能の差も明らかだ。

Hi-νガンダムのベースとなったνガンダムとユニコーンガンダム2号機は共にニュータイプ専用機とは言え凡そ30年ほど前に建造された旧世代のモビルスーツ。

因みに当時はスペック的にはユニコーンガンダムの方が勝っていた。

共に現代技術を組み込む近代化改修を施されてはいたが……近代化改修を行った経緯や組織、人物に差があった。

ユニコーンガンダム2号機はラフレシアを作り上げたコスモ・バビロニアの技術開発チームメンバーが改修案を提示し、グラナダ工場で近代化改修が行われた。

ラフレシアにはカロッゾ・ロナを中心に開発が行われたネオ・サイコミュシステム、次世代型のサイコミュシステムが搭載されている。

サイコミュやニュータイプ用専用機については、コスモ・バビロニアはアナハイムよりも高い見識と技術力を持っていたのだ。

現在の地球圏に置いて、ユニコーンガンダム2号機を適切に近代化改修を行えるのは、コスモ・バビロニアか、サナリィのジョブのチームだけだろう。

そんな高い技術力によって、30年も前のモビルスーツであるユニコーンガンダム2号機は近代化改修を行われバンシィ・ハデスとして、蘇ったのだ。

一方、νガンダムも同じく近代化改修……いや、近代化改修と言ってもいいものだろうか?

異世界の技術を取り入れ、しかもマクロスの世界でも最高の技術者が自ら昇華させたのだ。

マクロスの世界でも40年先を行く技術がふんだんに盛り込まれているYF-5のジェネレーターを搭載し、機動力からスピード、戦闘持続能力等、ほぼ全ての項目に置いて大幅にパワーアップを果たしていた。

YF-5はアムロ専用に単騎で分岐艦隊(戦艦3000隻級の艦隊:現在の地球連邦が保有する軍艦の約半分)を相手取る事を想定されたとんでもないバルキリーだ。

そもそも、宇宙世紀のモビルスーツに単騎で艦隊規模と相対するという思想は無い。

通常のバルキリーもそうなのだが……。

そんなとんでもないバルキリーのノウハウがタカトク中将により、νガンダムに移植され、Hi-νガンダムへと進化したのだ。

モビルスーツ単体においても、もはや差は歴然としていたのだ。

 

 

 

バンシィ・ハデスは追撃に迫るHi-νガンダムに対し、右腕部に装着されているビームガトリング砲でけん制射撃するが、Hi-νガンダムは目の前からすでに姿を消していた。

そして、バンシィ・ハデスの周りに三角錐(四面体)のIフィールドバリアが展開し、更に全方位からビーム攻撃がバンシィ・ハデスに襲い掛かる。

Hi-νガンダムの4基のフィンファンネルにより、Iフィールドバリアを展開しバンシィ・ハデスを囲み、更に残りのフィンファンネルは全方位からのビーム攻撃を仕掛けたのだ。

 

逃げ場を完全に失ったバンシィ・ハデスはサイコフィールドによるバリアを展開するが、何故かフィンファンネルによるIフィールドバリアの中ではサイコフィールドの出力は低下し、バリア形勢が維持できなくなったのだ。

そして……フィンファンネルの攻撃により、バンシィ・ハデスは次々とビームの直撃を受け、爆発を起こす。

 

「カミーユすまない。今はまだ……」

 

 

 

 

コンペイ島に迂回しながら侵攻を進めるシアノ大佐率いるグラナダ駐留軍前衛師団は、順調に進んでいたが突如としてこんな報告が上がる。

「大佐!?本艦隊後衛師団後詰のザムス・ガリが攻撃を受け機関停止!」

 

「敵の伏兵か?兵力を隠していたのか?……だが所詮寡兵だ。このまま進む」

先ほどまでコンペイ島からは砲撃は受けていたが、回避可能な十分な安全マージンを取りながら進軍していたのだが、突如として後衛師団最後方の艦が攻撃の直撃を受けたのだ。

コンペイ島からの攻撃は無いと判断し、自問自答しながらそう言葉に発する。

 

「大佐!伏兵戦力ではありません!前衛師団戦闘宙域からの超遠距離砲撃です!」

そんなシアノ大佐のつぶやきの様な言葉に、ブリッジ要員から返事が上がる。

 

「前衛師団宙域からだと?前衛師団とバンシィはどうなってる?」

「前衛師団は壊滅!!バンシィ……反応はロスト!!」

「バカな!?たった一機のモビルスーツで……どういうことだ!?バナージ・リンクスは化け物か!?」

前方スクリーンに前衛師団とバンシィを送り出した宙域には、先ほどまで騒がしく光が明滅していたが今は静かになっていたのだ。

シアノ大佐はその報告を聞き珍しく狼狽える。

さらに、望遠カメラには一筋の光がこちらに向かって伸びてくる映像が届くと同時に前衛師団後詰艦に直撃したのだ。

 

「………更に後詰艦ザムス・バインが行動不能に!!」

「なっ!?あの距離からの正確な狙撃だと!?」

その様子にシアノ大佐はこれがモビルスーツからの狙撃であると瞬時に判断するが、動揺を隠せないでいた。

 

これはアムロのHi-νガンダムからの狙撃だった。

狙撃に使用されたのはハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーをタカトク中将がヴェスバーの理論を応用し小型改良したスナイパービームライフルだった。

本来、アクシズの核パルスエンジンを狙撃で破壊するために急遽開発された超大型ビーム兵器で、その出力故にラー・カイラム級戦艦からエネルギー供給しながらでないと運用できない兵器だった。

しかし、タカトク中将は、機動兵器は其れ単体で完結しなければならないという理念と、サナリーから提供された技術を応用し、破壊力は維持したままνガンダムのビームライフルを一回り大きくしたようなサイズにまでダウンサイズさせたのだ。

流石に連射は厳しいが、最大出力で2発発射可能、さらにエネルギーマガジンを交換することで、継続射撃能力を高めていた。

 

 

「大佐!?」

「撤退だ……これ以上の損耗は無意味だ。全艦直ちに全速撤退!」

「「イエス・サー」」

シアノ大佐は作戦失敗を悟り、冷静に撤退命令を下し、直ちにグラナダ駐留艦隊は撤退を開始したのだった。

 

 

 

「撤退したか……。残弾関連は20%…無理に追撃する必要は無い。戦闘継続能力はやはりモビルスーツ単騎ではこれが限界か、無人補給機が欲しいところだが……」

アムロは撤退するコスモ・バビロニアのグラナダ駐留艦隊をHi-νガンダムの望遠映像で確認しながら、つぶやきを漏らす。

マクロスの世界で銀河を股に掛ける戦線にどっぷりつかってしまってるアムロの感覚は、宇宙世紀の世界での戦争常識とズレを起こしているのだろう。

モビルスーツでのそんな運用方法は無い。

そもそも、モビルスーツ単騎で一個師団相手取る事自体が常軌を逸しているのだ。

 

アムロの活躍のお陰で、コンペイ島は守る事ができた。

だがその戦後処理が大変だろう。

相対したコスモ・バビロニア側のモビルスーツと戦艦は、アムロのHi-νガンダムによって戦闘不能に陥っているが、パイロットや乗組員は無事なのだ。

それが凡そ一個師団分あるのだ。

戦後処理にかかる仕事量は撃墜するよりも数倍に膨れ上がる事は間違いない。

 

 

「カミーユ………」

アムロのHi-νガンダムは先ずは、無残な姿となったバンシィ・ハデスの回収を行う。

コクピットコアは無傷であり、搭乗者のカミーユも無事であった。

アムロはワザと派手な攻撃を演出し、バンシィ・ハデスを爆散させたかのように見せかけたのだ。

コスモ・バビロニアにバンシィ・ハデスが爆散し、カミーユが死亡したと見せかけるために……。

 

 

 

 

 

地球連邦と宇宙連合の交渉は何事も無く終わりを迎え、地球連邦側の代表である連邦議会副首相と宇宙連合側の代表である首相のオードリーが世界に向け共同表明を行う。

事実上の地球連邦と宇宙連合の停戦宣言である。

 

これにより、双方に対しての表立った軍事行動は規制される。

表向きには……。

他国の立ち合いも無く二国間だけで執り行われた停戦宣言だ。

実質的な効力は何処まで有効に働くかは不明である。

どちらかが一方的に停戦宣言を撤回したとしても、相手国からの非難を受けるだけの話である。

それも撤回した側は、それらしい理由を付け非を相手国に押し付けるだろう。

他国からもなんらかの非難は受けるだろうが、停戦撤回を止める事は出来ない。

過去の歴史がそれらがまかり通ってきた事を語っている。

ただ、お互いの利害が一致している限りは停戦協定の効力は続くだろう。

 

 

 

 

 

 

シアノ大佐率いるグラナダ駐留艦隊は2個師団24隻の戦艦を擁していたが、グラナダに帰還できた艦は後衛師団10隻と何とか撤退出来た前衛師団の旗艦1隻の合計11隻、半数も無かった。

 

シアノ大佐は地球連邦と宇宙連合の停戦調印式の報道映像で、シュトレイ・バーンを名乗るバナージ・リンクスが、オードリー・バーンの後ろに控えている姿が映っていた事に顔をしかめていた。

調印式は丁度グラナダ駐留艦隊が宇宙要塞コンペイ島を攻撃している時間帯を示していた。

映像を分析に回したが、映像に映ってる人物はバナージ本人に間違いないと出たのだ。

「バナージ・リンクスではない?……あの白いガンダムタイプは誰が乗っていたのだ?あの戦闘力は常軌を逸していた。まるでラフレシアプロジェクトを実現させたかのように、しかも我々がやられる側として………まさか、連邦での噂は本当だったのか?連邦の白い悪魔 アムロ・レイが生きているだと?笑えん冗談だ。……だがしかし………」

シアノ大佐は今回の敗因について分析を行うが、モビルスーツ1機が2個師団を相手取り、1個師団のモビルスーツと戦艦を壊滅させてまだ余力を残しているなどとは……普通はあり得ないのだ。

だが、シアノ大佐はそれに近い事例を知っていた。

カロッゾ・ロナが駆る大型モビルアーマーラフレシアだ。

ラフレシアのコンセプトは無敵……対艦・対機動兵器に対し、一対多数を想定されたモビルアーマーだった。

そのコンセプト通り、ルナツー攻略やグラナダ攻略の際、カロッゾ・ロナ操るラフレシアは大いに猛威を振るったのだ。

そんなラフレシアだが、唯一の弱点があった。

ラフレシアを100%のスペックで駆動させるには通常の人間の脳では到底情報処理しきれないのだ。

そこで、カロッゾは自らをラフレシアの生体ユニットとすべく、徹底的に強化処理を施した経緯がある。

 

 

シアノ大佐の分析ではバナージがニュータイプとして凄まじい力を持っている事は分かっていた。

その為に新たな戦術と、対バナージ対策としてカミーユとユニコーンガンダム2号機を用意したのだ。

だが、バナージが今回の様に二個師団を単騎で抑えるだけの力があるとは想定していなかった。全くの誤算と言っていいだろう。

シアノ大佐は撤退中に、何か見落しがあったのではないかと絶えず思考を回していた。

そして、今回の中継であの白いガンダムタイプのパイロットがバナージではないと判明……。

 

シアノ大佐は、ここでようやく大いなる間違いに気が付き、アムロ・レイの生存について、意識をし出したのだ。

 

 

 

 

その一方で……

「カミーユ………」

「……アムロさん」

最強のパイロット アムロ・レイと過去に最高のニュータイプと呼ばれたカミーユ・ビダンは、実に35年ぶりに再会を果たしたのだった。

 




次回はカミーユのお話からかな?

後残り2話で一旦区切りをつけようと。
といいつつ、いつもだらだらと長くなっちゃうんですが><


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戦場の涙

明けましておめでとうございます。
ご無沙汰しております。

漸く書けました。
何だかんだと長くなってしまいました。
さらに……次話で一区切りしたかったのに……伸びそうです><


 

「……父が……父が死んだなんて何かの間違いではないでしょうか!?」

リリィ・ビダンは、執務室から出てきたシアノ・マルティス大佐に縋りつく様にこんな事を聞く。

普段は気丈とした佇まいを見せる彼女には珍しく、瞳は揺れ顔全体に動揺の色が見て取れる。

 

「……リリィ・ビダン少尉、残念ながら事実だ。君の父上は亡くなられた」

 

「そんな……、大佐は……獄中の父を守って頂けると!」

 

「君の父上カミーユ・ビダン氏は戦場で亡くなられた」

 

「どう…いう事ですか?獄中の父が何故戦場に!?」

 

「君には知らせない様にとビダン氏からは言われていたのだが……君の父上は自らの疑いを払拭するために、モビルスーツで前線に立たれる事を決意し、先のコンペイ島攻略作戦に参加されていたのだよ」

 

「……父がモビルスーツに!?」

 

「君も知っているだろうが、君の父上は若かりし頃、モビルスーツパイロットとして活躍されていたという事を」

 

「それは……でも35年も前の話です!なぜそんな無茶を!」

 

「……それは私にも分からない。ただ、わかっている事は、ビダン氏は自らの意思でコスモ・バビロニアの理想の為に立たれたという事………今回の作戦、何者かの裏切り行為により、作戦が漏れ、作戦参加した艦隊の半数を失う程の敗退を期した。だが、君の父上は率先して殿を務め、最後の最後まで立派に戦われ、敵の強力なニュータイプとの激しい攻防の末、力尽き……亡くなられたのだ。そのおかげで我々はこうして生きて月に戻れた。君の父上には感謝してもしきれない」

シアノ大佐は神妙な声色でこう語り、リリィに頭を下げる。

 

「そ、そんな事が……父が……亡くなったのは事実なのですね……」

 

「事実だ。…惜しい人物を無くした。お悔やみ申し上げる」

シアノ大佐は仮面の上からでもわかるような苦渋に満ちた面持ちで、再度リリィに頭を下げた。

 

「………お父さん……すみません。失礼します」

リリィは父の死が事実だと知り、涙をこらえ切れなくなり、俯きながらシアノ大佐に辞し、通路を駆け抜ける。

 

リリィは自室に戻り、堪えきれず声を上げて泣く。

カミーユはリリィにとって優しい父であり、甘えさせてくれる存在だった。

叱られた記憶などほとんどない。

それこそ、リリィがコスモ・バビロニア軍の兵士となって帰って来た時ぐらいだ。

それが、父カミーユ・ビダンと顔を合わせた最後となるなどとは、思いもよらなかっただろう。

 

だが、シアノ大佐が語った言葉は真実には程遠い。

シアノ大佐自身がカミーユを娘であるリリィと妻のユイリィを人質にし、無理矢理戦場に出したのだ。

しかも、最後は捨て駒同然の扱いをしたのだ。

真実を隠し、平然と嘘を並べ、マインド・コントロールを掛け、リリィの怒りの矛先を宇宙連合へと向かわせ、戦場へと誘う。

 

 

 

 

 

しかし、カミーユ・ビダンは生きていた。

先のシアノ・マルティス大佐率いるコスモ・バビロニア国 グラナダ駐留軍による宇宙要塞 コンペイ島急襲戦にて、攻撃側のカミーユが操縦するユニコーンガンダム2号機 バンシィ・ハデスは、防衛側のアムロのHi-νガンダムからの激しい攻撃により爆散したかのように見えた。

機体の損傷は激しいがコクピットには損傷は無く、パイロットのカミーユも無傷だった。

アムロはカミーユが死亡したと見せかけるために、絶妙な攻撃コントロールでバンシィ・ハデスに損傷を与え、派手に爆散したかのように見せかけたのだ。

アムロの隔絶した操縦技術があってこそ成立する絶技と言っていいだろう。

 

但し、バンシィ・ハデスは大破状態で、自力で動く事すらままならない状態ではあった。

 

「アムロさん……」

「カミーユ……久しいな」

コンペイ島のモビルスーツドッグに運ばれ、寝かされた状態の大破したバンシィ・ハデスのコクピットブロックから、両手を上げ、降参のポーズを取りながら出て来るカミーユにアムロは話しかける。

アムロは他の兵には、銃口を向けなくともいいと指示を出し、自分一人で大破したバンシィ・ハデスの前まで歩んでいた。

 

「生きていたんですね……しかも若いままだ。どういう……?」

「ああ、いろいろとあった」

「いろいろですか……完敗です。あの凄まじいまでのプレッシャー、今まで感じた事もなかった。まるで宇宙そのものと戦っているような感覚に陥りました」

「まさか、カミーユと戦場で会うとは思いもよらなかった」

「……アムロさん…俺はユイリィと娘を………」

「カミーユ……事情は大方理解したつもりだ。今は大人しく捕まってくれ、悪いようにはしない」

アムロとカミーユ、最強のパイロットと最高のニュータイプと呼ばれた二人は、実に36年ぶりの再会を果たすが、皮肉にも戦場で敵として出会ってしまった。

 

カミーユの身柄は事情があるにせよ、敵方のモビルスーツパイロットであったため簡単なメディカルチェックを受けた後、捕虜として収監される。

アムロの計らいで捕虜用の収容施設ではなく、独房へと収監されることとなった。

他のコスモ・バビロニア軍兵捕虜にも、カミーユが捕らわれ生きている事を秘匿する意味もある。

コスモ・バビロニア軍にカミーユが死亡していると見せかける必要があったからこそのこの処置である。

 

 

翌日、宇宙要塞 コンペイ島基地内の小さな談話室で、アムロと捕虜となったカミーユ、そして地球連邦政府との停戦交渉を終え、帰還したばかりのブライトと話し合いの場が設けられた。

 

「ブライトさん、お久しぶりです」

「カミーユ、数年ぶりか……」

「ブライトさんはやはり軍服が似合ってますよ」

カミーユはコスモ・バビロニア軍の黒を基調としたノーマルスーツから、灰色の捕虜用の収監服に着替えさせられてはいるが、本来、独房から外に移動する場合、嵌めるべき手錠は今は外されている。

対するブライトは、白を基調とした宇宙連合軍将校用の重々しい儀礼用制服に身を包んでいる。

アムロも同じく白を基調としたものだが宇宙連合将校用の動きやすさを重視した軍服を着用していた。

 

「アムロからは多少事情は聴いたが、まさかコスモ・バビロニア軍でモビルスーツに乗っていたとはな」

「グラナダを占拠したコスモ・バビロニア軍の司令官 シアノ・マルティスに、ユイリィと娘が人質に取られ……脅され、モビルスーツに……」

「そうか、ファ…いや、ユイリィと娘は軍に収監されているのか?」

「ユイリィは軍施設に軟禁状態です。娘のリリィは……俺が知らない内にコスモ・バビロニア軍の兵士になっていました」

「カミーユどういうことだ?そもそも娘さんは地球に居るはずじゃないのか?連邦軍大学の医学部に所属していたと聞いていたが」

「俺にも分からない。この戦争が始まって、グラナダがコスモ・バビロニア軍に占拠され……俺達の前にコスモ・バビロニア軍の兵士となって帰って来たんです……何故そんな事になったのか……」

カミーユは頭を抱え、苦し気に言葉を紡ぐ。

 

「カミーユ……」

アムロはブライトとカミーユの話を黙って聞き、苦悩するカミーユに慰めの言葉をかけようとするが、言葉が出なかった。

 

「そうか……コスモ・バビロニアの前身、クロスボーン・バンガードとブッホコンツェルンは、連邦軍大学に深く入り込んでいたと聞いている。コスモ貴族主義に染まった若者を送り込み、軍の最新知識を学ばせ、又は軍大学内のめぼしい人材をスカウトし、クロスボーン・バンガードに取り込むなどと……」

ブライトはこの事について、宇宙連合に所属してからバナージなどから聞かされていた。

 

「でもなぜリリィが!?」

 

「それはわからん。だが多くの若者がコスモ・バビロニア側に付いたと聞いている。コスモ・バビロニアは連邦内部に深く入り込み根を張っている。それだけではなく各業界やコロニ―にもな。厄介な事に人心掌握術にも優れている。コスモ貴族主義やそれに類するコスモ・クルス教の布教もその一つだ」

ブライトが語る様に、コスモ・バビロニアは建国以前に連邦軍や連邦政府、各業界などに深く根を張っていた。

更にここ数年、コスモ貴族主義を元としたコスモ・クルス教なる教団の名が徐々に巷に聞こえだしていた。

この教祖はコスモ・バビロニア国王 マイッツアー・ロナの亡き長男の娘、若きカリスマ シェリンドン・ロナが立ち上げた教団であった。彼女はマイッツアーの孫にして、セシリーの従姉妹に当たる。

この教団をコスモ・バビロニアが全面的にバックアップしている事は間違いないだろう。

 

「くそっ!!」

カミーユは悔し気に拳を握り自分の膝を強く叩く。

 

「……カミーユ、コスモ・バビロニア軍内では娘さんはどういう立場なのかわかるか?」

アムロはカミーユを見据えて聞く。

 

「グラナダ駐留軍司令官 シアノ・マルティスの直属の部下でモビルスーツのパイロットをやらされている。彼奴に踊らされ……リリィは!」

カミーユは徐々に怒りがこみ上げてきたのだろう。語気が強まっていく。

 

「シアノ・マルティス大佐か、…鉄仮面 カロッゾ・ロナ将軍の懐刀と呼ばれた男だ。ルナツー攻略戦でも戦果を挙げ、寡兵によるグラナダやアンマン占領の手際を見るに優れた将校だ。……カミーユは会った事があるのか?」

ブライトはデータベースにあったシアノ・マルティス大佐についての情報を思い浮かべながら、カミーユに聞く。

 

「コンペイ島攻略司令官として、彼奴も居た。俺に出撃を命令し、リリィやユイリィを人質にして脅してきた奴ですよ!奴はニュータイプ、いや強化人間だ。力はそれ程感じないが、紳士ぶった仮面の裏にはどす黒い感情が蠢いていた」

 

「このタイミングでのコンペイ島急襲の手際、アムロが居なければコンペイ島はとうにシアノ大佐の手で落ちていただろう。しかもこの時代に強化人間とはな……。そういえば鉄仮面 カロッゾ・ロナも強化人間だったそうだ」

ブライトはセシリーやシーブックから、カロッゾ・ロナも強化人間であるという事を聞いていた。そのカロッゾ・ロナをシーブックが討った事や、セシリーがカロッゾの実の娘であることも……。

 

「………カミーユ、娘さんはニュータイプなのか?」

アムロはこの話の中、ふと思い浮かべた事を、カミーユに聞く。

 

「……そうです。今はそれ程力は無いかもしれない。戦争でその力が肥大し……そして……リリィには俺の様なあんな思いをしてほしくないのに……彼奴はリリィを戦争の道具に!!……くっ!!」

カミーユはリリィが自分の二の舞になるのではないかと危惧し、それを誘うシアノ大佐に対し怒りをこみ上げる。

カミーユがリリィのニュータイプ能力がそれ程でもないと評したのは5カ月前の話だ。

今では、コスモ・バビロニア軍の元で、素質を開花しつつあった。

 

「カミーユ、落ち着け」

アムロは激高に駆られそうになるカミーユを見て、間髪入れずに言葉を挟む。

 

ブライトはカミーユが落ち着くのを見計らって、質問を続ける。

「カミーユ、そもそもだが、カミーユの娘と知って取り込んだのか?」

 

「わかりません。…だが少なくともグラナダが占領されるまでは俺には何もアプローチは無かった」

カミーユはそう語ったが、シアノ大佐はリリィを正式にコスモ・バビロニア側に引き込む際に担当官が調べ上げたリリィの経歴を閲覧し、カミーユの娘である事を知っていたのだ。

 

「カミーユ、調べさせて貰ったがあのモビルスーツはユニコーンガンダム2号機だな、カミーユの経歴を知ったうえで、ニュータイプデストロイヤーと呼ばれるあの機体に乗せたのだろう」

アムロはカミーユが乗っていた機体からデータを取り出し、調べていた。

 

「……シアノ・マルティスは俺にシュトレイ・バーンを倒すようにと、何度も言って来た。俺にモビルスーツの訓練を施し、あのガンダムに乗せたのはシュトレイ・バーンを倒させるためだった。今回のアムロさんのガンダムもシュトレイ・バーンが乗ってると踏んで俺を出撃させた」

 

「どういうことだ?」

 

「シアノ・マルティスはシュトレイ・バーンに固執していた……嘗ての俺に匹敵するニュータイプだとも言っていた」

 

「シュトレイを知ってる奴か」

「本人に聞いた方がいいだろう」

アムロとブライトもシアノ大佐がシュトレイ・バーンことバナージ・リンクスに関わりのある人物の可能性が高いと踏む。

 

「……虫のいい話ですが、俺を開放してくれませんか?ユイリィとリリィを俺の手で何としても助けださなければ」

カミーユは神妙な面持ちでブライトとアムロに訴えかける。

 

「カミーユ、一人グラナダに戻ったところで、また人質を盾に意に沿わない戦いをさせられるだけだぞ」

 

「カミーユどうだ?ここで、宇宙連合で戦ってみないか?どうやらアムロが上手くカミーユを戦死したように見せかけたようだ。それに戦場で娘さんに会う機会があるだろう。グラナダ奪還の機会もあるかもしれん……いや、状況が許せば、現地諜報員を使いユイリィの情報も掴ませよう」

 

「ブライトさん……それは……少し考えさせてください」

 

後日カミーユは、宇宙連合軍に参加することを決断し、アムロとブライトにその事を伝えることになる。

 

 

 

 

 

 

地球連邦と宇宙連合の会談の1週間後。

取決め通りに捕虜交換が執り行われた。

 

サナリィの月面基地スタッフの殆どが、地球連邦から宇宙連合に引き渡された。

因みに、サナリィの地球支部スタッフは、半数以上連邦側に取り込まれていた。

月面基地のサナリィは連邦と距離を置いていたきらいがあるが、地球支部は連邦との橋渡し的立場から、連邦の一員であるという意識が高いため、地球支部のサナリィスタッフは地球連邦にそのまま付き従う事に拒否感を感じる者も少なかったのだろう。

これにて、サナリィの研究成果は地球連邦側にも渡ったと見ていいだろう。

但し、サナリィは研究をほぼ月面基地で行っていたため、未発表な物や最新の研究中の物などは渡ることはないと思っていい。

 

そして、引き渡されたサナリィのスタッフの中にジョブ・ジョンの姿も……。

「アムロ、ブライトさん、サナリィの若人達を守って頂き、感謝する」

「ジョブさん…こちらこそ長らくお待たせしました」

「……いや、君が囮となりモノケロースを逃がしてくれたお陰だ」

アムロとブライトとがっしり再会の握手を交わす。

 

「ジョブさん、ご無事で何よりです」

「シュトレイ……ようやくここまで来たな」

「これも、ジョブさんが今迄裏から手を回し助けて頂いてきたお陰です。ありがとうございます」

そして、シュトレイ・バーンことバナージとも握手を交わし、お互い頷き合う。

ジョブはバナージとオードリーが表舞台に立ち、今迄の苦労が実りだした事に、労いの言葉を掛けたのだ。

ジョブ・ジョンとバナージとはラプラスの箱を巡るラプラス事変後から実に27年の付き合いとなる。

その間ジョブは、バナージに対し廃棄処分すべきモビルスーツやパーツ等の提供や、各種情報提供を行っていたのだ。ユニコーンガンダムの封印先もジョブからの情報であった。

ジョブはバナージとオードリーの影の協力者と言ってもいい立場の人物であった。

ジョブはバナージやオードリーの境遇に同情していたという事も有るが、特にバナージに対しては当時、連邦軍内で不遇な扱いを受けながらも地球の為に戦い、そして最後には地球を救うために命を落としたアムロの面影を見ていたようだ。

 

 

ジョブはこの後、宇宙連合の兵器開発局の局長に就任することになるが……

「F92(フォーミュラ92)が完成しているだと?……な、何だこれは!?こんな設計思想が、完璧だ!……誰が?……アムロか?アムロなのか?」

F92はまさにZタイプのような飛行形態への変形機構を持つモビルスーツの小型化を目指し設計開発が行われていたが、変形プロセスの調整や剛性の確保に難航し、ここ数年ほぼ開発が止まってしまっていたのだ。だがジョブが再びF92の設計をやり直すために開発状況を確認しようとしたのだが、モノケロースのドッグに何時の間にか完成されているF92が立っていた事に腰を抜かすほどの衝撃を受けたのだ。

最初はアムロが携わったと思っていたのだが、サナリィの月面基地からモノケロースで逃れた若手技術スタッフに聞くと、タカトクなる人物の名が上がり、更に混乱する。

 

ジョブは早速アムロに火急の要件だと、呼び出した。

「アムロ。F92が完成していたのだが、あの変形機構はどういう事だ?あんな設計思想は今迄なかった!……まさしくミノフスキー博士に匹敵する天才的な発想だ。モノケロースに乗船していたスタッフに聞くとタカトクなる人物の名が挙がっていたのだが、アムロ、君は知っているのか!?」

ジョブにしては珍しく興奮気味にアムロにこう切り出した。

 

「……そ、それは、すみませんジョブさん。そのジョブさんに渡されたサナリィのマスターデータを……その平行世界の俺の上司に見せる羽目になりまして……その上司がその」

返事をするアムロの方も珍しく歯切れの悪そうに答えていた。

そう、F92はタカトク中将がいつものノリでモノケロースに乗船していたサナリィの技術者を巻き込み、バルキリーの変形機構を応用させて完成させてしまったのだ。

 

「それはいい、君に渡した時点で君の好きな様にしてもらってよかった。その君の上司というのがタカトクという人物なのだな!」

 

「タカトク中将、向こうの世界では各種技術開発及び研究の最高責任者であり、可変戦闘機…機動兵器開発の第一人者です。一応俺の直属の上司にもなる人物です。……本来、向こうの世界に居るはずだったのですが、何故か移民船団に乗り合わせ、ここに……。ご迷惑をおかけいたしました」

興奮気味のジョブに若干身を引きながらアムロはそう答えて、ジョブに頭を下げる。

 

「んんっ……アムロ、タカトク中将に会わせてくれまいか?」

ジョブは居ずまいを但し、アムロにこんな事を頼む。

 

「……いや、それは」

しかし、その言葉にアムロは言葉を濁し難色を示す。

アムロがジョブをタカトク中将に会わせる事に躊躇したのだ。

マクロス世界の技術が宇宙世紀に流れる事に対しての恐れも、確かにある。

だが、それが最大の理由で躊躇しているわけではない。

タカトク中将だからだ。

確かにタカトク中将は技術者として最高峰の人物であろう。

アムロは技術者としてのタカトク中将を最大限に評価していた。

天才というよりも、飽くなき探求心を持った努力型の秀才だと感じていた。

だが、その底知れぬ探求心から開発研究以外の事は見えていないというよりも、まるっきり興味が無いのだ。他の事も嫌々ながら取り組むと人並み以上にこなす事ができてしまうがため、今の中将という地位があり、それがまた厄介でもある。

そんなタカトクを目の前のジョブと会わせてしまうとどうなってしまうのか……、アムロはこの一瞬でタカトクに振り回され、過労で倒れるジョブの姿や、はたまた、タカトクのあのノリがジョブ以下、元サナリィのスタッフでほぼ構成されている技術開発局の技術開発者に伝染してしまうとんでもない光景を想像してしまっていた。

 

「アムロ……モノケロースに送り込んだ若手技術スタッフは、タカトク中将と凡そ2カ月程共にしていたそうだが、以前に比べ皆、目に見えて発想力や技術力が高まり、特に意欲と士気が異様に高い。是非私もその薫陶を授かりたい」

 

「その……ですね」

アムロはそのジョブの言動に、先ほど想像したタカトクのノリに汚染されるジョブの姿が目に浮かび、背筋に寒気を覚える。

 

「それだけではない。F90シリーズのジェネレーターの欠点を指摘し、改善案もだされたとか、それに…アムロあのHi-νガンダムはなんだ?あのメンテナンスはほぼ君が取り仕切っているらしいが、ちょっと覗かせてもらった。外装は確かに30年前の設計思想そのものだ。だが中身は従来のモビルスーツどころか近代のモビルスーツとも別物だ!特にジェネレーター、あれは何だ?あれは何なのだ?しかも兵装はサナリィの技術が使われているようだが、より洗練されている!あれもタカトク中将が携われたのか!?」

ジョブは話すにつれ徐々に興奮気味になり、遂には立ち上がり対面に座るアムロの両肩を掴んでいた。

 

「それは……」

 

「アムロ!後生だ!是非タカトク中将に会わせてくれ!」

 

「………わかりました。何時とはお約束はできませんが」

アムロはジョブの圧に押され、約束をしてしまう。

普段物静かなジョブだが、やはり技術屋なのだろう。

だが、タカトク中将をこれ以上、こちらの世界に携わらせていいものなのかと、目の前のジョブに会わせていいものなのかを、アムロはしばらくその事で悩むことになる。

 

 

その問題のF92だが、カミーユが乗る事が決まったのは言うまでもない。

 

 

 

地球連邦との停戦協定を結び、コスモ・バビロニア軍を退けたところだが、建国間もない宇宙連合政府は一息つく暇もなく、山積みとなった課題を次々とこなさなくてはならなかった。

 

地球連邦と停戦協定を結んでから1カ月が経過した頃、宇宙連合の初代首相となったオードリーは、とある人物と積極的に話し合いの場を設けた。

 

「初めまして、わたくしはオードリー・バーン。オードリーと気軽にお呼び下さい。セシリー・フェアチャイルドさん。セシリーさんとお呼びさせていただいてよろしいでしょうか?それともベラ様と」

「私はセシリー・フェアチャイルドとして、ここに居させて頂いております。セシリーとお呼びください」

オードリーはセシリーとの会談を前々から熱望し、忙しい中実現したのだった。

ここは、新サイド6イチバンチコロニーにある宇宙連合政府、中央官舎群区域内にある宇宙連合軍官舎の応接室。

この応接室にオードリーとセシリーの2人はソファに座り、談話を始めていた。

隣の控室には、バナージと付き添いでブライトとシーブックも待機していた。

 

「ブライト提督とレアリー少佐に貴方の境遇をお聞きしておりました。コスモ・バビロニア国の姫君、国王 マイッツアー・ロナ様のお孫様だと」

 

「それは事実です。ですが私の半生以上は、養父シオ・フェアチャイルドの元でパン屋の娘として、世人として暮らしてきました」

 

「そうなのですね」

 

「私は確かにコスモ・バビロニア建国時に、祖父に請われ……いえ、強制的に家に戻され、ロナ家の一族として世に出されましたが、私がコスモ・バビロニアに戻された時間は僅かです。コスモ・バビロニアについては詳しくは知らないのです」

セシリーは自然と口調は強くなっていた。

セシリーは警戒をしていたのだ。

レアリーやブライトは信用できる人物だとセシリーは感じていたが、宇宙連合政府が自分を知れば、交渉の材料にされるのではないかと危惧していたからだ。

 

「どうやらわたくしはセシリーさんに不快な思いをさせているようですね。申し訳ございません。わたくしは宇宙連合政府の首相としてではなく、今はオードリー・バーン一個人として、貴方とお話をしたかったのです。ただ、わたくしの今の立場がこんな仰々しい場所でお話をしなくてはならなくて、本来ならば喫茶店などでお話をしたかったのですが……」

 

「それはどういうことでしょうか?私がロナ家の人間だと知って、政府と関係無しに個人的な興味という事でしょうか?」

 

「そう言う事です。わたくしと貴方は似てると思いまして……、すみません。そう言えば申し遅れましたね。わたくしは以前、ミネバ・ラオ・ザビという名でした」

 

「え!?」

セシリーはその名を聞き大きく目を見開き驚く。

 

「そうです。サイド3、かつてのジオン公国国王 デギン・ザビの孫になります」

 

「……どういうことですか?ここはジオンの残党が組織、それだったらサイド3で……」

セシリーは大いに狼狽し、あれこれと思考を巡らせていた。

まさか、宇宙連合の代表であり首相であるオードリー・バーンが、ジオンの姫君だったとは思いもしなかったからだ。

しかも、この事は宇宙連合でも上層部の一部の人間しか知らない事実でもある。

 

「わたくしは幼い頃から、ジオンの残党組織に担がれてきました。ですがラプラス宣言を行った後、わたくしはジオンとザビ家を捨てたのです。ラプラス宣言はご存知ですか?」

 

「はい、中学校の教科書に載っておりました。誰もが知ってる歴史的な出来事です……その…捨てたとは?」

 

「当時わたくしは16歳でした。今の貴方より一つ下ですね。その時までわたくしは世事に疎く、世界を何も知りませんでした。いえ知識としては知っていたのですが、体感するのとは全く違っていました。そんなわたくしの前にシュトレイ、いえバナージが私の前に現れたのです。……わたくしはバナージと一緒に生きる事を決め、ジオンとザビ家を捨てたのです」

 

「え?……シュトレイさんと…ということですか?」

 

「バナージは、わたくしの話を何時も真剣に聞いてくれました。そしていつも一緒に考えてくれます。時にはモビルスーツに乗りわたくしを守ってもくれました。そして私と共に名を捨てシュトレイ・バーンと……」

 

「………」

 

「私はバナージと一緒に居られればそれで良かったのですが、そうもいかずこうした立場となりました。でも今も彼が名を変えてまで隣に居てくれるので……」

 

「お二人は強い絆で結ばれているのですね」

 

「貴方は違うのですかセシリーさん、あなたの隣にも素敵な方がいらっしゃるではないですか?」

 

「その……シーブックとは……その……そこまでの関係では……それに私は……」

セシリーは自分に話しを振られるが、その顔には影が落ちていた。

 

「セシリーさん?シーブックさんがお好きではないのですか?」

オードリーはそんなセシリーの反応に、少々首を傾げながら聞き返す。

 

「……私にはその資格が無いんです。シーブックを好きになってはいけないんです!」

セシリーは徐々に語気を強めていた。

 

「どういう事でしょうか?」

 

「ロナ家が起こした戦争で……シーブックのお父様は亡くなられました。シーブックは住む家も学校も友人も亡くしました。私の……流れる血がシーブックを……不幸に……」

 

「そうですか、……シーブックさんは貴方にその事で何か言いましたか?」

 

「いいえ、何も言わないんです。……それどころか私を守るためにモビルスーツに乗って戦うと」

 

「貴方はシーブックさんと一緒に戦うためにモビルスーツに今も乗っているのではないのですか?」

 

「違うんです!シーブックは戦い続けて、今度は私の為に死んでしまう。それが耐えられない!私がシーブックの隣で戦うのは……彼を死なせないために、いざとなれば私が彼の盾にっ!」

 

「落ち着いてくださいセシリーさん」

 

「私の実父、カロッゾ・ロナは!!私とシーブックの故郷であるフロンティアⅣに大量殺戮兵器を使い沢山の人を!!……もしかしたら隣の花屋のおばさんやご近所の知り合いや…同級生や学校の先生も!!」

セシリーは取り乱し、涙を流し泣き叫ぶ。

 

「落ち着いて、落ち着いてくださいセシリーさん」

オードリーは立ち上がり、そんなセシリーに駆け寄り強く抱きしめる。

 

「……母は軟禁され!養父は行方不明と!!きっと父が父が!!お養父さんを殺したっ!!私は私はその父を殺してっ!!」

セシリーは今迄誰にも語らなかった秘めた思いを、我慢していた感情を爆発させ、泣き叫ぶ。

 

フロンティア・サイドにクロスボーン・バンガードが侵攻し、戦闘に巻き込まれ、人々や友人の死を目の当たりにし、さらにロナ家に王族の姫として連れ戻され、モビルスーツに乗る羽目になった。そして再びシーブックと出会い、実父カロッゾ・ロナと対決をし、スペース・アークと共に月からの脱出劇に至るまで、わずか1カ月の間に激動の時間を過ごしてきたのだ。

たった17歳の少女には重すぎる濃密な時間だった。

 

セシリー自身、複雑な家庭環境で育ち、それを薄々感じていたのだろう。

セシリーの母、ナディア・ロナはマイッツアー・ロナの長女であった。

カロッゾとは大学時代に知り合い、カロッゾが婿養子としてロナ家に入った。

そのカロッゾだが、コスモ貴族主義に深く心酔するようになり、元々マイッツアーの考えやコスモ貴族主義に反発していたナディアはカロッゾから心が離れ、セシリーが4歳の頃に、セシリーを連れ、シオ・フェアチャイルドと駆け落ちし、野に下る。

その後、セシリー自身はパン屋の娘として育つ。

そして、セシリーはロナ家に連れ戻された際、無力な自分に何もかも諦め、心を閉ざし、祖父 マイッツアーの言いなりになりかけていた。

しばらくし、母が祖父に軟禁された事を知る。養父も行方不明だと聞いてはいたが、セシリーの開花しつつあったニュータイプ能力は実父カロッゾ・ロナが憎悪に駆られ、養父シオ・フェアチャイルドを亡き者にしたイメージを感じ取っていた。

だが、その頃のセシリーは心を閉ざし、それすらも無色に見え、流される日々を過ごしていたのだ。

そんな時、戦闘中に再びシーブックに出会う。

シーブックはそんなセシリーを優しく出迎え、セシリーもシーブックに心を救われた思いがしたのだろう。

再びセシリーの心が動きだし、シーブックと共に戦場の憎悪の元凶であった実父カロッゾ・ロナを討つに至った。

しかし、すべてが終わった後、セシリーはシーブックに対する淡い恋心を抱いていたが、それ以上に懺悔と後悔の念と心に何ともしがたい葛藤が残った。

今、図らずともオードリーの前で、今まで抑え堰き止めていた感情が決壊し、激流の様に取り止めとなく流れ出した。

 

アムロは前々からこれらのセシリーの感情を迷いという形で感じ取っていた。

アムロはブライトやレアリーにも相談し、オードリーの耳にも入る。

元々、オードリーは一段落付いた所でセシリーに会いたいとは思っていたが、これを耳にし、急遽会う事を決め、今回の話し合いの場が設けられたのだ。

オードリーもニュータイプであり、セシリーに対し何かを感じていたのだろう。

 

「大丈夫です、大丈夫ですから……」

「私は……私は………シーブック……私は……」

オードリーに抱きしめられ、その胸の中で嗚咽を漏らし泣き崩れるセシリー。

 

「今迄無理をなされていたのですね」

オードリーは涙を流しすすり泣くセシリーを抱きしめながら、背中と頭を優しくなでる。

 

 

 

隣の部屋で待機していたシーブックは、セシリーの泣き叫ぶ声に、談話室に乗り込む勢いだったが、バナージは首を横に振り「ここはオードリーに任せてくれないか」とシーブックの両肩を掴み制止する。

 

「セシリーが何かに悩んでいた事は知ってました。こんなに苦しんでいたなんて、俺は…隣に居ながら…何もわかっちゃなかった!」

シーブックは拳を強く握り、苦渋な面持ちで俯きながら悔しそうにこう語る。

 

「シーブック、自信を持て、お前が隣に居たからこそ、セシリーは今迄耐える事が出来たんだ」

「君は強い。なにより心が強い。君がいれば彼女も大丈夫だ」

ブライトとバナージはそんなシーブックに慰めの言葉を掛ける。

 

セシリーのすすり泣く声が聞こえなくなるまで、随分と時間を要した。

 

 

そして、セシリーが落ち着いたところを見計らい、オードリーは凛とした佇まいから少々崩し気味にセシリーにこんな話をする。

「ブライト提督やレアリー少佐から貴方の境遇をお聞きした時に、わたくしと似ていると感じたものです。でもわたくしは貴方のようにモビルスーツに乗り、思い人と一緒に戦う事は出来ませんでしたから、一緒に同じ場で共に戦えるあなた方を少し羨ましいとも思いました」

 

「すみません。取り乱してしまい……私はシーブックに迷惑ばかりかけて……そんな私がシーブックの隣に居てもいいのですか?」

 

「良いのですよ。それにわたくしなど、バナージ無しでは生きていけないぐらいに迷惑をかけてますよ」

 

「そうなのですか?」

セシリーには、目の前の凛とした佇まいの淑女が、伴侶に迷惑をかけている姿が想像できなかった。

 

「そうです。わたくし達は似たもの同士、セシリーさん、わたくしとお友達になって頂けませんか?」

 

「私とですか?」

 

「はい、わたくしは貴方とお友達になりたくて、この場を設けさせて頂きました。それとも親子程年が離れておりますわたくしとは、お嫌ですか?」

 

「いえ……その……」

 

「貴方のお立場は分かります。わたくしの実家は既に滅びましたが、貴方のご実家は健在です。もしかすると貴方は、ご実家に戻らなければならない時が来るかもしれません。それでもかまいません。お友達になるのに、家の事は関係ありませんもの。もし、そのような時が来たとしても、わたくしはセシリーさん。いえ、セシリーを送り出すつもりです」

 

「……本当にいいのでしょうか」

 

「それに、女同士でしか話せない事もあるでしょ?事情が分かっているわたくしならば、色々とお話が出来ると思います。わたくしも伊達に傀儡の姫を16年以上やっていたわけではありませんよ」

 

「ありがとうございます………首相……いえ、オードリーさんとお話が出来、閊えていたものが少し取れたように思います」 

 

「それは何よりです。今度はこのような場ではなく、わたくし共の家にお招きします」

 

「ありがとうございます……」

セシリーは礼を言うが、オードリーの家という事は首相官邸ではないかと頭によぎる。

ここよりも、仰々しい事になりはしないかという懸念だ。

 

「結構、古いお家ですよ。何せ隠れ家ですから。連絡先は……そうですね。後程秘匿回線用の情報端末をお渡しいたしますね。これならいつでも連絡がつけられます」

オードリーはそんなセシリーの様子を察して微笑みながら答える。

オードリーが言う家とは、オードリーとバナージが過ごした33バンチコロニーの隠れ家の事だった。

 

こうして、オードリーとセシリー、ザビ家の元姫君とロナ家の姫君、新旧姫君達の会談が終わりを告げた。

 

 

 

 

数日後、マイナーチェンジを施したF90N改とF91の宙域航行訓練に勤しむセシリーとシーブックの姿があった。

 

モノケロースのモビルスーツデッキから風格のある二人のパイロットがそんな若者二人の様子を眩しそうに眺めていた。

「二人とも良いセンスだ。最近セシリーの方は何か晴れやかな気を発している、何か吹っ切れたような感じですね」

「ああそうだな。彼らの未来は希望あるものへと進むだろう。だが、せめて若者達にその道筋を示すのが俺達大人の仕事だ」

白色のノーマルスーツを着こんだカミーユとアムロだ。

アムロはカミーユに、自身のこれまでの経緯を知らせていた。

ブライトもカミーユならば知らせても問題は無いと判断してのことだ。

流石のカミーユも平行世界に飛ばされ、戻ってきたことには驚きを隠せないでいた。

それどころか、興奮気味にアムロに質問攻めをする有様だった。

アムロは情勢が落ち着いた所で、バナージやオードリーにも真実を語るつもりでいた。

そして、シーブックやセシリーにも……。

 

「何を年寄りくさい事を言ってるんですか?アムロさんも十分若いじゃないですか、何時の間にか俺よりも若いとか、俺こそこんな事が無ければ、モビルスーツなんて御免被りたいですよ」

 

「そうだな…カミーユ、その為にも嫁と娘を取り戻さなければな」

 

「ええ、必ず……だから、アムロさんにはとことん訓練に付き合って貰いますよ」

「ふう、これで50を過ぎてるとは……」

カミーユとアムロはそれぞれF92とHi-νガンダムに乗り込み、モノケロースの1番カタパルトデッキから訓練のため発進準備を進める。

 

 





遂にカミーユがF90のZタイプ?F92に……
よく考えれば、アムロとバナージと年はいったとはいえ怒れるカミーユって、さらに若くて生きのいい優等生タイプのシーブック……これって宇宙世紀最強の組み合わせじゃ……。
シアノ大佐に明日はあるのか?
これに木星に行ったきりの人とか……それはないよね。

もうそろそろ、究極のマンマシーンの話をチョロっと出したいところです。


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群雄割拠へと

ご無沙汰しております。
漸く続きを書けました。

今回はアムロ本人はでません><
アムロの話なのにすみません。
だから、中々アップするのに躊躇を……。
思いっ切りつなぎ回だと思って読んで下されば助かります。



コスモ・バビロニア国王 マイッツァー・ロナは、シアノ・マルティス大佐率いるグラナダ駐留艦隊による宇宙要塞コンペイ島の攻略失敗の一報を聞き、珍しく驚きの表情を隠せないでいた。

 

シアノ大佐が立案した宇宙連合瓦解作戦案は、対宇宙連合戦略を一気に進めるための軍事作戦だった。

それは宇宙要塞コンペイ島奇襲攻略から始まり、連邦との交渉中にある宇宙連合旗艦艦隊との直接対決による殲滅までに至る作戦だった。

旗艦艦隊にはオードリー・バーン及び宇宙連合の主要メンバーが搭乗しており、彼女らを捕縛又は殲滅となれば、宇宙連合は軍事力だけでなく政治的求心力、指導者のオードリーを失う事で精神的にも追い詰められ、大幅に弱体化は避けられないだろう。

その後は弱体化した宇宙連合首脳部をじりじりと切り崩し懐柔し、宇宙連合そのものをコスモ・バビロニアに取り込む事が容易にできるだろう。

マイッツァーはこの立案を受理し、コスモ・バビロニア本国作戦室にて何度もシミュレートを重ね、様々な戦術を練り込み、精巧な作戦へと仕上げたのだった。

この作戦で一番の不安要素は、旗艦戦力との直接対決のタイミングだった。

連邦との交渉中にある宇宙連合旗艦艦隊がコンペイ島の奇襲の知らせを受け、どの様な動きを取るかのシミュレートが一番難航したと言っていいだろう。

コンペイ島の奇襲の知らせが交渉中のどの段階で知られる事になるかによって、大幅に攻略難易度が変わるからだ。

コスモ・バビロニアにとって最悪のシナリオは、交渉中の連邦艦隊と宇宙連合旗艦艦隊が連合を組み、グラナダ駐留艦隊がコンペイ島攻略中又は攻略直後に戻って来る事だ。

この場合、グラナダ駐留艦隊はコンペイ島攻略中断又は占拠後破棄して撤退となるだろう。

最高の出来では、交渉中の宇宙連合や連邦に知られる事なくコンペイ島を攻略占拠し、何も知らずに帰還する宇宙連合旗艦艦隊を奇襲同然で叩く事だ。

少なくとも、交渉終了し帰還中の宇宙連合旗艦艦隊にコンペイ島の占拠を知られたとしても、宇宙連合旗艦艦隊をそのまま叩く事は可能だと踏んでいた。

その為にもグラナダ駐留軍は隠密行動でコンペイ島に近づき、交渉終盤時に攻略を開始し、即落とす必要があった。

だが、旗艦艦隊が出払ったコンペイ島に余力戦力は無い事は確実視していたため、コンペイ島攻略自体は問題ないと踏んでいた。

少なくともこの作戦の緒戦とも言えるコンペイ島攻略占拠までは確実視していたのだ。

 

だが、蓋を開ければグラナダ駐留艦隊はコンペイ島攻略もままならず艦隊戦力の半数を失う大敗を喫したのだ。

敗退も計算に入れ作戦を立てていたが、マイッツァーでさえこれ程の大敗を喫したのは想定外もいいところだった。

しかも、コスモ・バビロニア軍がクロスボーン・バンガード時代も含め、初めての大敗となる。

 

今回の作戦自体、誰が見ても精巧な作戦であると言えるだろう。

あのブライト・ノアでさえ、見事な作戦だと称える程だ。

 

では、何故大敗を喫したのか?

 

要因はたった一つの見落し……

 

シアノ大佐もマイッツァーやコスモ・バビロニアの作戦室も、そのたった一つの要因を見逃したがために、大敗を喫したのだ。

 

 

 

マイッツァーは大敗を喫し月面都市グラナダに帰還したシアノ・マルティス大佐を即本国に召還し、直に説明と報告を求める。

マイッツァー自身シアノ大佐の手腕を高く評価し、さらにはコンペイ島攻略までは確実視していただけに、この大敗の要因が何であったかを把握し戦術分析しなくてはならなかった。

 

「貴公、たった一機のモビルスーツに敗退したというのか!?」

シアノ大佐の口から大敗の要因を直接聞き、マイッツアーは衝撃を受ける。

 

そして、戦略室でシアノ大佐や主だった戦略官、情報官と共にコンペイ島攻略時の映像などのデータから戦術分析を行うが……。

どう考えても、一機の光を纏う白いモビルスーツが圧倒的な力を振るい、コスモ・バビロニアが用意した戦術ごと噛み切ったとしか言いようが無かったのだ。

 

「……なんて事だ。これは」

マイッツアーはこれらの映像データや分析データを目の当たりにし、ある記憶が蘇る。

 

作戦室の面々はたった一機のモビルスーツに自軍のMSや艦船を次々と行動不能され、グラナダ駐留艦隊二個師団を翻弄させられる様を映像データで見せつけられ、しばらく声もでなかった。

その一機のモビルスーツはまるで戦場を支配しているかの様に……

 

そんな中、情報官の一人がデータベース端末からこの一機の白いモビルスーツを検索にかけ、報告を行う。

「データベースから検索した結果が出ました。この機体は30年前アナハイム・エレクトロニクスで開発されたガンダムタイプ、RX-93 νガンダムに間違いありません」

 

「なんだと?それは本当なのか?30年前の機体だと?ガンダムタイプとは言え、我が軍の最新鋭モビルスーツや戦艦がやられたというのか?」

作戦室室長である准将が情報官の報告に疑問の声を上げる。

 

「映像の機体情報とほぼ一致しております。ですが、中身は最新鋭の技術が使われているかもしれません。さらに、データベースにはこの機体に関しては多量の情報が掲載されております。第二次ネオ・ジオン抗争の立役者である連邦宇宙軍独立機動艦隊ロンド・ベルに収められ、………いや、これは……なにがなんだか」

情報官はデータベースに記載されてるデータを目で追いながら報告するが、徐々に顔が青ざめ、言葉がうまく出せないでいた。

そのνガンダムの異様な戦績と搭乗パイロットの経歴に……。

 

「第二次ネオ・ジオン紛争のガンダムタイプだと?……まさかパイロットは?」

作戦室室長がその報告を聞き何かを思い出し、さらに情報官に聞き返すが……

 

「アムロ・レイか……」

情報官が返答する前にマイッツアーがその名を口ずさむ。

宇宙連合殲滅作戦の唯一の敗因要因であるその存在の名を……

 

 

 

マイッツアーは過去の記憶を遡る。

マイッツアーは二十数年前、コスモ・バビロニア軍の前身であるブッフォ・コンツェルンの私設軍隊クロスボーン・バンガードを立ち上げる際、一年戦争から第二次ネオ・ジオン抗争まで、戦争から局地的な紛争まですべての情報を手に入れ、戦略研究室なる物を立ち上げ、戦時戦略や戦術について熱心に研究を行っていた。

将来的には地球連邦打倒もこの時から既に視野に入れてのことだった。

 

その際、必ず出て来る名前がアムロ・レイだった。

一年戦争時のターニング・ポイントに必ず彼の名前が出て来るのだ。

たった一人の戦士が戦場を一変するなどセオリーではあり得ないが、マイッツァーはどう考えても、アムロ・レイが絡む戦場ではそのセオリーが全く通じていない様に思えてならなかった。

オデッサでの戦術核ミサイルの撃破から始まり、コンスコン艦隊の撃破、敵のニュータイプ用戦略モビルアーマーの撃破、ドズル中将の撃破、ア・バオア・クーの最終決戦まで、全てアムロ・レイが携わっていたのだ。

どれも、これら要因が無ければ一年戦争は更に長引き、最悪ザビ家のジオン公国が今も独立国として存在し、更には地球連邦を追い込んでいる可能性まであった。

 

マイッツァーはアムロ・レイを何時しか戦術キラーと心の中でそう名付けていた。

 

マイッツァーは一時期アムロ・レイについて、さらにはニュータイプや強化人間についても大いに調べる事となる。

アプローチの一つとして、単独で戦術を切り裂く個の力が存在すれば、少ない戦力でも連邦に対抗できるのではないかと……。

この時、既にアムロ・レイは第二次ネオ・ジオン抗争において、大戦果を挙げながらも帰らぬ人となっていた。

 

さらには第二のアムロ・レイとして優秀なニュータイプを人工的に作れはしないかという検討も行っていた。

アムロ・レイのデータを入力し、AIで疑似ニュータイプ能力を得る方法や強化人間による人工的なニュータイプそのものを作る等などと……。

 

当時連邦でも同じ様な検証や研究が様々な角度から行われて来た。

最高の兵器を作成するために……。

 

マイッツァーはそれらの研究データを裏ルートから入手。

人工AIについては、連邦が既に作成研究していたアムロ・レイのAIへの転用検証データとMSシミュレーター用のプログラミングデータを入手する事ができた。

入手したアムロ・レイ関連の研究情報には一年戦争時のサイド7からジャブローまでのデータを学習コンピュータに反映させたものは検証が完了し、実際にMS用AIやシミュレーターAIに組み込まれていたが、ジャブロー以降のアムロ・レイのデータは取り込むことができなかったと記されていた。

その検証記録によると、ニュータイプとして覚醒したと思われるジャブロー以降のアムロのデータをAIに組み込むとエラーが続発し正常に機能しないというものだった。

ニュータイプとして覚醒したアムロの戦闘機動はAIからすると戦闘セオリーから逸脱した動きとなり、AIが論理的な思考が出来なくなりパンクしてしまう事が詳しく書かれている。

ジオンとのア・バオア・クー最終決戦で見せたアムロの一つ一つの動きをシミュレートしてみると、ビームライフルを撃つ動き一つをとっても通常では考えられない様な機動をしていた事が分かる。

メインカメラやサブカメラに映らず、各種センサーにも敵が示されていない状況で、ビームライフルを放っている。この際、ガンダムに組み込まれている学習型コンピュータは敵の存在を把握していない。

だがその直後、サブカメラにガンダムがビームライフルを放った方向で、ゲルググが爆散する映像が微かに映し出されていた。

この撃墜は学習型コンピュータには把握できずに撃墜記録としては残ってはいないが、間違いなくアムロが撃墜したものだった。

アムロが作成した報告書とガンダムに組み込まれた学習型コンピュータのデータとの撃墜数の差異が出ているのはこのためだ。

学習型コンピュータでは、アムロが撃墜したMSや艦船のすべてを把握できなかったのだ。

 

これはガンダムに搭載されているカメラやセンサーでは感知できなかった敵を、アムロ自身が把握していたとしか言いようが無かった。

 

仮に、先ほどのビームライフルを放つ動きをAIに入力すると、AIにとって敵の居ない場所にビームライフルを放つ無駄な動きと捉えてしまう。

実際アムロ・レイが何をもってそこに敵がいるのかを判断し、ビームをそのタイミングで放っているのかが全く分からないのだ。

 

ただ単にアムロの動きをトレースさせ学習させたとしても、アムロの動きをマネるだけで、敵を正確に撃ち落とす事が出来ないのだ。

少なくとも、ジャブロー以前までのアムロのデータを学習させたAIに負けてしまう結果となるのだ。戦場に耐えうるものにはまるでならない。

 

これらのアムロの動きはニュータイプ能力による未来予測、または空間把握能力と仮に位置付けていた。

アムロ、強いてはニュータイプ能力はAIで再現できないと結論付け、ニュータイプを人工的に作り出す他の手立てとして、連邦の各研究所では強化人間の研究が盛んに行われるようになった。

その後、強化人間として人工的なニュータイプを作成することに成功しているが、アムロ・レイに匹敵する程の者は出来なかった。

 

マイッツァーはそれでも第二のアムロ・レイに拘り、ラプラス事変以降にはネオ・ジオン系の残党やニュータイプ研究所の人間を積極的に取り込み、研究を活性化させていく。

余談だが、ネオ・ジオンの残党の中には名を変える前のシアノ・マルティスの顔もあった。

その後、しばらくニュータイプや強化人間に関しての研究は頭打ちとなり停滞していたが、そんな中、マイッツァーの娘であるナディア・ロナが大学在学中に恋人としてカロッゾ・ビゲンゾン、後の鉄仮面を紹介したのだ。

当時カロッゾは大学の研究機関で人間の意識を拡大制御するコミュニケーションツールとしてバイオコンピュータの研究を行っていたことにマイッツァーは目をつけ、カロッゾの実直な性格も気に入り、ロナ家の婿養子として受け入れ、莫大な研究予算をカロッゾに与え、バイオコンピュータだけでなく強化人間についての研究を行わせたのだ。

これが後のネオ・サイコミュシステムやラフレシア・プロジェクトへと変貌していく。

ネオ・サイコミュとラフレシアの完成は戦術キラー、兵器としての第二のアムロ・レイの創造という理想を、ある意味体現したと言っていいだろう。

強化人間 カロッゾ・ロナとラフレシアはルナツー攻略戦に置いて、師団クラスの艦船を単騎で壊滅させたのだ。

そんなカロッゾ・ロナも最後には憎悪や嫉妬と言った人間的感情を捨てきれず、シーブックに討たれる事となるのだが……。

 

 

話を戻すと、マイッツァーはアムロ・レイについて、綿密に調べていたのだ。

 

 

「閣下、確かに連邦最強と言われたモビルスーツパイロット アムロ・レイを彷彿させますが、アムロ・レイは30年前の第二次ネオ・ジオン抗争にて死亡しております」

50代半ば程度の神経質そうな顔立ちの情報部部長が、考えに更けているマイッツァーにこう意見を言う。

 

「正確にはMIA(戦時行方不明者)だ、生きていたという可能性があるのではないか?」

作戦室室長が情報部部長に聞き返す。

 

「仮に生きていたとしても、既に還暦です。あれ程の機動に耐えうるものではないかと」

情報部部長は、アムロが例え生きていたとしても、60前後の人間に映像データのような機動に体が耐えきれないだろうと言い、映像のνガンダムのパイロットはアムロではないと判断する。

 

「うむ」

マイッツァーは二人のやり取りを聞き、静かに頷いていた。

 

シアノ大佐がここで挙手をし、とある情報をこの場に上げる。

「閣下、連邦宇宙軍に潜伏中の諜報員からの報告の中に、アムロ・レイの亡霊が現れたという噂が軍内で囁かれているとありました」

 

「その噂の信憑性はどうなのか?」

マイッツァーはシアノ大佐の情報に対し興味深そうに聞き返す。

 

「確かにそのような噂がありましたな」

情報部部長の耳にもアムロの亡霊について情報が入っていたようだが、その時は特に重要視していなかったのだ。

 

「検索します……ありました。作戦中に突如現れたνガンダムと思しきモビルスーツ一機に、艦船三隻、モビルスーツ24機が行動不能に陥ったとの事です……」

情報部官の一人が端末を操作し、情報を開示し、その戦績に驚く。

 

「……続けよ」

 

「連邦宇宙軍はアナハイム・エレクトロニクスにこの件について見解を求めていました。その返答は、νガンダムで間違いないとの事で、さらに高レベルなニュータイプが搭乗していたと推測されております」

 

「偶然にしては出来過ぎているではないか……、アムロ・レイの亡霊か……」

 

「閣下、アムロ・レイの亡霊などありえません。連邦の腰抜けどもの戯言です」

 

「ふむ、だが実際に我が軍の一個師団を屠っておる」

 

「それは……」

 

「シアノ大佐。直接対峙した貴公はどう思う」

 

「はっ、初めはシュトレイ・バーンが搭乗していたものと思っておりました。かの者は凄まじいまでのニュータイプ能力を秘めております」

 

「貴公がこだわっていた男だな。バナージ・リンクス。ラプラスの箱、ビスト家の血筋を持つサイコミュを操る男か……」

マイッツァーはバナージの事も相当調べていた。

ニュータイプやサイコミュ兵器を語るのに、ラプラス事変での戦闘記録を外すわけにはいかない。

勿論ニュータイプキラーであるユニコーンガンダムについても調べ尽くし、その技術についても研究を行ってきている。

 

「ですが……、バナージ・リンクスはコンペイ島には居ませんでした。連邦との交渉の場に出席していたことが判明しております。あれ程の力を発揮するニュータイプの存在となると、アムロ・レイの亡霊の噂はあながちデマとは言い切れません」

シアノ大佐自身もアムロ・レイが生きていている事を疑問視はしていたが、そう判断せざるを得なかった。

 

「シアノ大佐、しかしアムロ・レイの生存情報どころか噂すらこの30年全くと言っていいほどなかった。これは如何に?」

情報部部長がこう疑問を持つのももっともだ。

この30年間アムロ・レイの生存の痕跡すら全くなかったのだ。

 

「ふむ、アムロ・レイが生きていようがいまいが、何れにしろアムロ・レイに匹敵するニュータイプが宇宙連合には二人も存在するということだ。ラフレシアを撃墜した存在も気になる。今更ながらカロッゾを失ったのは大きな痛手であったな」

マイッツァーは大きく頷き、宇宙連合には驚異的なニュータイプが存在することを認め、それらに匹敵する存在であり、パイロットだけでなく軍を預かるカリスマ的なリーダーとしても優秀だったカロッゾ・ロナを失った事に嘆いていた。

因みに、ラフレシアを擁する鉄仮面カロッゾ・ロナを討った存在についてはまだ、調べがついていなかった。

 

「………」

「………」

マイッツァーのこの発言で作戦室の面々は沈黙する。

この場の面々はマイッツァーのこの嘆きを痛いほど理解していたからだ。

 

「うむ。宇宙掌握戦略を大幅に修正せざるを得ないようだな。宇宙連合への対応について、意見を述べよ」

マイッツァーは沈黙を破り、この議論の結論を述べ、宇宙掌握戦略の練り直しを指示する。

 

 

 

 

数日後、シアノ・マルティス大佐はコンペイ島攻略作戦の敗退の責任を取る形で、月面都市グラナダとアンマンの都督代行及びグラナダ駐留艦隊司令の任を解任され、本国への帰還命令を受ける。

だが、これは表面上の処置であり、実際は次の作戦への配置換えであった。

 

 

更に1か月半後、コスモ・バビロニアは宇宙連合に対し、捕虜返還及び停戦協定を申し出た。

コスモ・バビロニア上層部でもこの決定には流石に反対意見もかなり出たのは言うまでもない。

一個師団を失う大敗は喫したが、コスモ・バビロニアと宇宙連合との戦力差は現段階で4倍から5倍以上あると見積もっているからだ。

確かに、宇宙連合と全面戦争を行えば、コスモ・バビロニアが十中八九勝利するだろう。

宇宙連合のサイド1と新サイド6を物量で包囲し攻めれば、いくら一個師団を相手取る優れたニュータイプが二人いようとも、全てを守る事は出来ない。最終的には物量で押され、宇宙連合の本国であるサイドは落ちるだろう。

しかし、コスモ・バビロニアの最大の敵は地球連邦であり、宇宙連合との全面戦争は出来ないのだ。

宇宙連合に大戦力を注げば、その隙に地球連邦軍は必ず動くだろう。

腐っても地球連邦軍の物量は大きい。

コスモ・バビロニアは大きな痛手どころか、新サイド4フロンティア・サイドの本国やルナツーなどが落とされ、回復不能な痛手を負うだろう。

 

地球連邦側から見ても、最大の敵はコスモ・バビロニアだ。

連邦宇宙軍の全戦力を集中させれば、いとも簡単に宇宙連合を屠る事が出来るだろう。

だが、その隙にコスモ・バビロニアに月面都市や宇宙要塞やサイド7などが奪われ、宇宙での連邦の力は地に落ち、コスモ・バビロニアにその後は宇宙連合も併合され、宇宙での覇権を完全に握られてしまう。

 

宇宙連合は連邦軍とのコンペイ島攻略戦、コスモ・バビロニアとのコンペイ島防衛戦で、コスモ・バビロニアや地球連邦の両陣営に戦力としては小さいが、片手間で倒せる様な相手ではないと認識させたのだ。

 

更に宇宙連合は地球連邦との停戦協定に逸早く取り組み成功させている。

これはコスモ・バビロニアにとって、宇宙での戦力バランスの優位性が損なわれる結果となる。

地球連邦にとって、後顧の憂いが一部解消され、連邦宇宙軍は戦力をコスモ・バビロニアに大きく向ける事が出来るからだ。

それを理解しての、早期決着のためにコスモ・バビロニア、グラナダ駐留艦隊による宇宙連合のコンペイ島急襲だったのだが、結果的に返り討ちに合った。

 

こうして、宇宙連合は現在たった三個師団しか擁しない小さな戦力ではあるが、宇宙の軍事バランスを見計らい、何とか主権独立国家として立場を守る事が出来ているのだ。

裏を返せば、かなりの綱渡りを経てようやく、独立国家として成り立っていると言えるだろう。

 

 

 

防衛戦力もままならない宇宙連合にとって軍備増強は何よりも急務である事は周知の事実である。

そもそも、宇宙連合の前身であるサイド1、新サイド6には本格的な兵器生産施設が存在せず、連邦の目を逃れ、アナハイムの横流し兵器やジオンや連邦の旧型のモビルスーツ等の兵器を改造整備し、隠し持っていた程度だ。

それらの生産施設を一からの立ち上げが必要な状態であった。

幸いにも、ジョブ・ジョン以下元サナリーのスタッフが多数宇宙連合に合流したため、モビルスーツや戦艦などの兵器生産工場建設の目途が早々にたつことは出来た・

だが、兵器増産よりも軍の人員確保が何よりも困難であった。軍人育成には時間がかかる。モビルスーツパイロット一人育てるにも少なくとも半年は要する。

育てたところで実際に使える戦力となるのに更に時間が必要となるのだ。

それだけではない、宇宙連合軍ではモビルスーツパイロットだけでなく、ありとあらゆる人材が不足している。

地球連邦やコスモ・バビロニアとの戦闘で奪った鹵獲兵器群が凡そ二個師団分あるとしても、それを運営する人員がいないのだ。

十数年も水面下で準備を行って来たコスモ・バビロニアと異なり、宇宙連合軍はほぼ一から、軍を構築しなければならない状況だ。

鹵獲兵器群を運営させるだけでも人員確保にも少なくとも1年以上は要するだろう。

宇宙連合軍総司令となったブライトは少しでもそれらを解消するために、元連邦軍兵士や元エゥーゴ、更には元ジオン残党等の伝手を使って人員確保に動いてはいるが、全く間に合わない。

更にコスモ・バビロニアの捕虜にも手を伸ばすが、コスモ貴族主義にどっぷりつかっている彼らは、全くと言っていいほど懐柔にはのってこなかった。

 

軍備増強や人員確保もままならない現状である宇宙連合にとって、このコスモ・バビロニアからの停戦協定は渡りに船であったのだ。

 

 

 

コスモ・バビロニアと宇宙連合の停戦協定交渉は、地球連邦との交渉とは異なり仰々しいものでは無かった。

お互いレーザー通信を使っての交渉だ。

コスモ・バビロニア側は新サイド4の本国から、宇宙連合は宇宙要塞コンペイ島から、それぞれのトップが顔を出す。

「ご無沙汰しております。マイッツァー国王陛下」

「久しいな。オードリー首相、お互いこのような立場で再び話し合うとはな」

「そうですね。これも時世というものではないでしょうか?」

「いや、違うな。貴女の力量によるものだ。貴女の力量を十分買っていたが、まだ過小評価していたようだ。表舞台には出したくはなかったのだ」

「わたくし一人ではとても、成しえなかった事です」

「ふっ、貴女の様な娘がおれば、もう少し楽が出来たのだが、そううまくはいかないということなのだろう」

こうしてオードリーとマイッツァーとの挨拶から和やかに交渉が始まる。

しかしながらマイッツァーの娘云々の話は本音だった。

目の前の凛とした佇まいのオードリーを目の当たりにし、つい漏れてしまった言葉だった。

優秀だった長男は議員として連邦議会に発言力を高めていたが、それを良しとしない勢力の政変に巻き込まれ、十数年前に亡くしている。

実の娘のナディアは何かとマイッツァーと反目し合い、遂には男と家を出て行ってしまう始末であった。その娘の役割を孫娘のベラ(セシリー)にと思っていた所、父親カロッゾとの戦いで行方不明となった。状況から生きている可能性は低いと判断せざるを得ない。

マイッツァーの落胆は言うまでもない。

 

このトップ会談に至る前に既に交渉内容はほぼ決定している。

前段階に於いて、既に数度外交官や官僚による交渉を行っていた。

その初期の交渉に於いて、捕虜返還だけでなく鹵獲兵器の返還も入って来ていたのだが、コスモ・バビロニア側が最初に提示してきた条件の中に驚きな物が入っていた。

月面都市アンマンを引き渡すという物だった。

今回の交渉、そもそも優位に立っているのは宇宙連合側だ。

宇宙連合側はコスモ・バビロニア側に捕虜などのマイナス面が全く存在しないため、宇宙連合の要求が通りやすい状況ではある。

流石に向こうから月面都市を引き渡すという話が出たのには驚きを隠せない。

宇宙連合にとって喉から手が出る程ほしいものである。

だが、宇宙連合は閣僚会議により月面都市アンマンについては却下することに決定した。

確かに月面都市アンマンを得る事で、月の地下資源及び兵器工場まで手に入る事になる。

経済的にもその地理的な意味合いでも欲するだろう。

だが、防衛面を考慮すると、今の宇宙連合の軍事力では、防衛戦力を回せないのだ。

無理に回したとしても戦力の分散により、本国のL5宙域の防衛能力が著しく低下するというリスクがある。

もし、アンマンを得て、防衛能力が低下した本国に地球連邦やコスモ・バビロニアが停戦協定を破って攻め込んできた場合、それこそ片手間の戦力でも落とされてしまう可能性が十分にあるのだ。

この辺は、コスモ・バビロニアの強かさが垣間見える。

結局、資源衛星の提供と月と火星、木星航路の確保を条件に、鹵獲兵器の返還はせず、捕虜返還と、期限を1年とした停戦協定を結ぶことになる。

停戦協定については、連邦と比べ事細かく条件を付ける事となる。

 

この後、マイッツァーは名指しでブライトに正式に会談を申し込んだのだ。

ブライトも勿論この交渉に顔を出していたが、まさか名指しに会談を申し込まれるとは思いもよらなかったが、断る理由もなかった。

停戦協定締結後直ぐに、異例であるがそのままブライトは会談に臨む。

個人的な会談とはいえ、実際に話し合うのはブライトとマイッツァーではあるが、周りには補佐官等もおり、勿論、顔を出さないがオードリーや両陣営の官僚クラスがこの会談を見守る。

 

「マイッツァー国王陛下に於かれましては、ご健勝のことと……」

「良い、既に挨拶は交わした身だ」

「ではご無礼を承知でお聞きいたします。何故私を名指しで会談を望まれたのですか?」

「これを言いたかったのだ。ブライト・ノア将軍、その手腕あっぱれである」

「……恐縮であります」

「まさか、あのブライト・ノアが再び世にでるとは読めなかった。いや、連邦は貴公を冷遇し、押しとどめていたのが理解不能である。今更ながら、貴公を早く引き込むべきだったと後悔しておる。どうだ?こちらに鞍替えしないか?貴公ならば、軍部のトップの席を用意する」

マイッツァーは公式な会談の場で、堂々とブライトへ引き抜きの言葉を発したのだ。

これには、流石に宇宙連合の面々は面を食らう。

本来なら相手国に対して相当無礼な話ではある。

 

「それ程の評価を頂き恐縮の極みです。しかし、今の立場は宇宙連合の軍事を預かる身であり、慎んでお断り申し上げます」

「今の宇宙連合の戦力では貴公にはもったいない。我が軍の軍力であれば、貴公ならば地球連邦打倒も可能であろう。同じ地球連邦打倒を掲げるのであれば、当然我が軍の方が有利であろう」

「本来、わたくし程度のものは師団をまとめるのがやっとです。貴国の大兵団をまとめる等身に余ります」

「ふむ、袖にされたか、まあよい。だが、貴公を欲したのは本心である」

マイッツァーの本心ではあったが、ブライトが今更こちらに靡くとは思ってはいない。

マイッツァーなりのブライトへのユーモアを交えた賛辞なのだろう。

ブライトはブライトで冷静に対処する。

宇宙連合側からすれば、たまったものでは無いが……。

 

「ところで、貴公の朋友アムロ・レイは健祥か?」

「はて」

「コンペイ島で我が軍を悉く屠った白色のモビルスーツは、アムロ・レイを彷彿させた」

「彼は30年前の第二次ネオ・ジオン抗争にてMIAとなりました」

ブライトはアムロの名が出たが顔色を変えずに、冷静に答える。

アムロの存在は対外的にはなるべく隠していたい。

何れは判明するだろうが、特に連邦に対しては、生存しているのか居ないのかと思わせる程度の亡霊という事にしておいた方が効果的であると判断していたからだ。

 

「ふむ、そうであったな。貴公にとっても辛き思い出であった。無礼を許されよ」

マイッツァーはブライトにこの話をぶつけ、反応を見てアムロ・レイの存在を確認したかったのだ。

だがブライトの冷静さに、どちらか測りかねた。

 

この後は、当たり障りのない話が続き、会談を終える。

 

ブライトやオードリー達は、コスモ・バビロニアがアムロの生存をほぼ確信していることだろうと判断せざるを得なかった。

 

 

 

 

 

宇宙連合はこれにより、地球連邦とコスモ・バビロニア両陣営と停戦協定を結ぶ事ができ、当面の軍事的脅威は去り、人材育成に力を入れる事が出来る。

だが、コスモ・バビロニアに付いては停戦協定を1年とは言え結んだが、まったく油断が出来ない。

いつその鋭い牙を向けてくるかわかったものでは無い。

こうしている間でも、コスモ・バビロニアは水面下では経済面などで圧力をかけて来ていた。

軍事に関しても、停戦協定ギリギリの所で何かと偵察機などを送り込んで来る始末。

コスモ・バビロニアとは近い内にまた一戦あるだろう事は明らかだ。

 

宇宙連合はそんな中、次なる戦略としてサイド3ジオン共和国との協定若しくは同盟まで視野に入れた関係構築を模索し、進めていくのだった。

 

そのサイド3ジオン共和国では、上層部で主権争いが盛んに行われていた。

独立国家として単独で突き進むにしても、コスモ・バビロニアと同盟又は庇護をうけるか否かが論争の中心だが、この頃台頭してきた宇宙連合との共闘を訴える勢力も徐々に表れる。

 

そして、地球連邦は連邦宇宙軍の再建に力を注ぎ、コスモ・バビロニアは宇宙連合と停戦協定を結んだ直後、次なる動きを見せる。

そこにはシアノ・マルティス大佐とリリー・ビダンの姿があった。

 

 

こうして宇宙世紀における群雄割拠時代が始まる。

 




次こそはアムロでます。
カミーユとシーブックも!

次で一度話を終わらせたい病です。



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サイド3ジオン共和国

長らくお待たせしました。
実は、この話で終わりにしようとしたのですが、もう一話長くなりそうです。
今回はタイトル通りのお話です。

では続きを……


宇宙世紀0123年11月

宇宙連合とコスモ・バビロニアとの1年間の停戦協定が結ばれ、宇宙は静けさを取り戻したかに見えた。

だが、各勢力は水面下では次なる作戦行動を起こし、争いの火種は燻ぶり続けていた。

 

 

年が明け宇宙世紀0124年1月

アムロはこの機に一度、火星と地球の間のアステロイド帯で身を潜めているメガロード01へ戻る事にした。

「未沙、こちらの状況は?」

「目立った動きは無いわアムロさん。今の所市民の皆さんも落ち着いてるわ」

「そうか……」

「状況確認のために、太陽系の各所に調査隊を派遣したのだけど」

「どうだった?」

「木星と火星には基地や都市があり、木星の衛星に幾つかのコロニーが存在。資料はこちらに」

「資源基地だけではないな……明らかにコロニー群だ。そこそこの規模だ」

「そうですね。地球圏のサイドと呼ばれるコロニー群に比べれば規模は小さいですが」

「ちょっとした国家レベルだ……この30年でここまで発展したのだろうか?」

「アムロさんが元居た時代ではこんな規模ではなかったの?」

「俺が知る限りだが、これ程の規模とは聞いた事が無い。世間には知られていないだけで、もしかすると昔からこの規模はあったのかもしれない」

「それと、こちらの世界に飛ばされた要因は依然不明のまま。今の所帰還の目途は経ちませんね」

「そうか……すまない」

 

「……アムロさん、しばらくはこちらでゆっくりしてください」

浮かない顔のアムロに微笑む未沙。

 

「いや、そうもいかない。早く長距離移民船団を元の時空に戻る手立てを……」

「こちらの事は私達に任せてください。そもそも長距離移民船団は広大な宇宙の中、第二の母星を探すために宛のない旅の真っただ中。それこそ海の底の一粒の砂を探す様な旅です。私達の世代で目的を達成できないかもしれない。この子達、いえ、孫やひ孫の代までかかるかもしれない。そんな道中で少しぐらい寄り道をしてもいいではないですか。考えようによってはこの平行世界も、私達が探すべき第二の地球なのかも知れないわ」

未沙は、自身の我がままで宇宙世紀の地球圏に携わり、しかも自分の存在のせいで長距離移民船団が宇宙世紀のこの平行世界に飛ばされたのではないかと責任を感じているアムロに、優しい微笑みを湛えながら諭す。

 

「……未沙」

その未沙の言葉にアムロはどれだけ救われる思いがしたか。

 

「大丈夫ですアムロさん。それにタカトク中将も兵器工場で何かの開発を行っているようで大人しいものです」

「……そうか……そうだといいが」

確かにメガロード01にとってもトカトク中将が大人しく過ごしている事はいい事なのだが……アムロは何らかの嵐の前触れのように感じてならなかった。

 

アムロは2週間程メガロード01で休養を取り、再び地球圏へと戻る。

 

 

 

 

 

宇宙連合では次なる戦略として、宇宙連合に続く第四国であるサイド3ジオン共和国との同盟まで視野に入れた国交樹立を目指すべく、外交開設方法を模索していた。

首相のオードリーの側近であり、政府情報局のトップであるシュトレイはサイド3と外交を開くべく情報収集対策チーム立上げ、ジオン共和国について調査を行っていた。

調査と言っても既に現在のジオン共和国の内情はほぼ把握している。

元ジオン公国の姫であるオードリーに対し、未だに敬意を払い繋がりがある人物達がジオン共和国の政府、議会、軍部と幾人か要職についているため、精度が高い情報が得る事が容易であった。

 

 

 

サイド3、ジオン共和国。

地球連邦とコスモ・バビロニアとの戦争の混乱に乗じ独立を果たす。

宇宙世紀100年に地球連邦に自治権を返還してから23年ぶりに独立国として返り咲いた。

かつてジオン・ダイクンがスペースノイドの自立を促し、反連邦を掲げ独立運動を行い宇宙世紀0058年にサイド3にて建国宣言を行ったのがジオン共和国である。

地球連邦政府としては独立を認めてはいなかったが、事実上この時点でジオン共和国(サイド3共和国)としてサイド3が独立したと、後の歴史家も認めている所である。

その後、連邦から一方的な経済制裁等などの圧力を受けてきたが、内需に特化した経済成長戦略や連邦との粘り強い交渉を行い、独立国としての体裁を整えるまで至った。

だが、依然と地球連邦政府はジオン共和国の独立国と認めてはいなかった。

そして、宇宙世紀0068年、ジオン・ダイクンは志半ばで死を遂げる。

その後、ダイクンの意志を継ぎ、ダイクンの側近であったデギン・ザビがジオン共和国の実権を掌握し、翌年0069年ジオン公国と国号を変更し、公王デギンを中心としたザビ家による独裁政権が誕生することになる。

ジオン公国は軍事化が進み、宇宙世紀0079年1月3日、ジオン公国は完全な独立国家を目指すべく地球連邦に宣戦布告を行ったのだ。

後に一年戦争と呼ばれる戦争の開戦である。

戦争初期はジオン公国の電撃作戦やモビルスーツザクを擁するジオン公国が地球連邦軍に対し優位に進め、宇宙をほぼすべて掌握し、一時は地球の3分の1以上を抑えるまでに至ったが、如何ともしがたい物量差を覆す事が出来ず、連邦軍に盛り返され形勢は逆転し、不利に陥って行く。

遂には、ジオン公国本国サイド3の最終防衛ラインである宇宙要塞ア・バオア・クーまでもが連邦の手に落ち、更に総帥ギレン・ザビやキシリア・ザビが相次いで死亡し、ドズル・ザビの娘幼いミネバが生き残ったものの、統率可能なザビ家の人間は全て死亡し、壊滅状態となりザビ家による独裁政権は瓦解する。

サイド3本国の中央議会は徹底抗戦を訴える本国に残った軍部を抑え、ザビ家による独裁国家だったジオン公国の名を廃し、再びジオン共和国を名乗り、宇宙世紀0080年1月1日に地球連邦政府と実質敗北を認める終戦協定を結び、ここに世界人口の半数を失う有史以来最大級の戦争が終結する。

そして、同年2月18日に地球連邦とジオン共和国との間で終戦条約(グラナダ条約)を締結させた。

この時ジオン共和国を再び名乗ったのは、独裁者であるザビ家が起こした戦争であり、サイド3もある意味被害者であると地球連邦政府にアピールする目的であった。

特に議会は早期戦争終結を望み、ギレン・ザビ総裁の徹底抗戦を国民に強いる方策には拒否感を示していた。

実際、グラナダ条約では、ザビ家がサイド3を巻き込んで起こした戦争であり、地球連邦政府はジオン共和国に対し戦争責任の不問とし賠償請求権の放棄も盛り込まれていた。

要するに、ザビ家の独裁国家ジオン公国が起こした戦争のつけ(戦争責任)を、民主制へと再建したジオン共和国が払わなくてよいという物だ。

さらには、条件付きではあるがジオン共和国を独立国家として自治権を認めている。

地球連邦政府はかなり譲歩したと言ってもいいだろう。

ジオンは敗戦国ではあるが、独立の体面を保つことが出来たのだ。

戦争では負けはしたが外交的勝利と言っていいのだろう。

サイド3議会上層部の迅速な対応が功を奏したといえよう。

宇宙要塞ア・バオア・クー陥落とザビ家が壊滅したその翌日には、中央議会をまとめ公国から共和国制へと鞍替えし、地球連邦を交渉のテーブルに付かせ、終戦協定を早急に締結させ、サイド3本国への総攻撃を回避し、サイド3本国は無傷のまま終戦へと向かわせたのだ。

さらに最終的にはほぼ属国に近い扱いではあるが地球連邦政府に独立自治権を認めさせた。

これはデギン公王の側近にして元ジオン公国首相、後のジオン共和国初代首相ダルシア・バハロの手腕によるところが大きい。

 

だが、この事が後々までの紛争の火種となった。

ザビ家を廃しジオン共和国を名乗ったサイド3本国は、終戦と共に宇宙や世界各国に散らばる生き残ったジオン公国軍将兵達に直ちに戦闘行為を停止し投降を促したのだが、ほとんどの将兵らは反発し共和国政府を認めず、軍事力を維持したままジオン公国残党軍として世界各地の闇へと潜む事となった。

因みに混同されやすいがジオン残党軍とジオン共和国が自衛のために再編した軍隊ジオン共和国軍とは全くの別物である。裏で繋がりがある事もあるが、基本的にジオン共和国はジオン残党軍を公式に認める事は無い。

こうして各地に散らばったジオン残党軍は、宇宙世紀0083年にはエギーユ・デラーズによるデラーズ紛争、その4年後の宇宙世紀0087年にハマーン・カーン率いるアクシズ残党集団がグリプス戦役に乗じ第一次ネオ・ジオン紛争を起こしている。

ジオン共和国は、デラーズ紛争時はデラーズとは同調せず地球連邦に恭順し、グリプス戦役時はティターンズの要請に応じ、ジオン共和国軍を派遣している。第一次ネオ・ジオン抗争時には、地球連邦の方がハマーン率いるネオ・ジオンを名乗るアクシズのジオン残党集団に軍事圧力に負け、サイド3ジオン共和国をネオ・ジオンに譲渡してしまったが、ジオン共和国政府はネオ・ジオンと同調を最後まで拒否していた。

そのような経緯があり、結局ハマーンはジオン共和国政府及び議会を政治的に掌握しきれずに、グレミー・トトによる反乱が勃発し、両者ともエゥーゴに敗れるという結果に終わる。

この時、グレミー・トトはハマーンが本拠地を置いていたサイド3コアⅢサイドにアクシズをぶつけるという暴挙に出て、コアⅢに住まう500万の住民が被害に会う。

ジオン共和国住民の大半にとってジオン残党軍は迷惑でしかない存在としか言いようがなかった。

ザビ家の系譜ともいえるジオン残党軍はサイド3に固執するが、サイド3ジオン共和国住民にとってもはやザビ家は不要な存在となりつつあった。

 

宇宙世紀0093年1月

シャア・アズナブルがジオン残党組織をまとめ、ネオ・ジオン総裁として地球連邦政府に対し宣戦布告を行ったのだ。

しかし、シャアはサイド3では無く、サイド1スイート・ウォーターを本拠地とした。

それには理由があった。

一つに、サイド3のジオン共和国の殆どの国民に地球連邦に対し戦争を行うだけの支持を得られないからだ。

国家を掛けた戦争を起こすには国全体が戦争に対しての熱量(モチベーション)が必要であるが、サイド3の住民にはもはやその情熱は無い。

一年戦争の敗戦から第一次ネオ・ジオン抗争まで、彼らの精神は疲弊し戦争への拒否感は言うまでも無い。

また、サイド3の住民は前述の通りジオン残党組織に対しても快く思ってはいない。

サイド3は一年戦争後、地球に住む住人からだけでなく他のスペースノイドからも色眼鏡で見られ、後ろ指を指され続けてきたのだ。

ジオン残党組織が騒ぎを起こすたびにその見えない憎悪の視線は突き刺さる。

もう一つは、シャアの戦略として、地球連邦とジオンという対立構造ではなく、地球連邦とスペースノイドという対立構造を作り上げたかったという理由が大きい。

こちらの方が本命だろう。

シャアはそのためサイド3の独立等の言葉を一切語っていない。

その事が逆にサイド3でシャアへの支持が上がったと言える。

そもそもサイド3ではジオン・ダイクンの息子であるシャア個人への拒否感は少ないどころか好感度は高いのも要因ではあるが……。

それはさておき、一年戦争はまさしく、サイド3ジオン公国と地球連邦との戦いだった。

ジオン公国が独立を掛けた戦いなのだから当然ではあるが、開戦当初ジオン公国は地球連邦の瓦解まで狙ってはいない。

地球連邦に力を見せつけ、優位な条件で独立を行う事が目的だった。

途中までは上手く事を運んでいたのだが、地球連邦軍総司令のレビル将軍の激により、戦争を継続せざるを得なくなったのだ。そして徐々に物量で押され敗戦へと……。

だが、シャアの目的は最初から地球連邦政府の瓦解、いや、地球に住む人間への制裁が目的であった。

そしてシャアは父ジオン・ダイクンの息子、キャスバル・ダイクンの名で、宇宙移民(スペースノイド)の代弁者とし、地球連邦に不満を持つ難民や労働者階級を扇動し、地球連邦とスペースノイドとの戦いと名をうち地球連邦に対し、サイド1スイートウォーターから宣戦布告を行ったのだった。

父ジオン・ダイクンを凌駕するかのような凄まじいまでのカリスマを武器に、シャアは地球連邦に強い不満を持つ労働者階級のスペースノイドから圧倒的な支持を受け、さらには財団や各サイドの上層部、又は地球連邦内部にもシャアを信奉する者も現れ、戦争の機運を高め、遂には戦端を開く事になる。

 

だが、そのシャアもかつての戦友ブライト・ノア率いる独立機動艦隊ロンド・ベルにアクシズ落下を阻止され地球連邦に敗れる事となった。

シャア自身は行方不明と、ほぼ死亡が確定視されていた。

 

当然ではあるが、サイド3ジオン共和国はこのシャアの敗戦で痛手を被る事はほぼなかった。

 

その数か月後、一年戦争後からジオン共和国を支えて来たダルシア・バハロがこの世を去る。

ダルシアの死去はジオン共和国にとって痛恨の極みと言っていいだろう。

ダルシアの功績はあまりにも大きかった。

地球連邦との終戦交渉だけでなく、一年戦争後の経済復興はサイド3が地球各地や月面都市、他のサイドの何処よりも早く成し遂げている。

ジオンの国営軍事産業を民営化し株式市場に出し、多量の資金を調達し、資源衛星や資源惑星の確保から、火星や木星航路の再建まで、さらには議会内のザビ家派やダイクン派、民主派をまとめ上げ、その政治手腕をいかんなく発揮する。

そもそも、ダルシア・バハロはデギン・ザビからその政治手腕を買われ、側近となった。

そのデギン・ザビはダルシアと共に政治や経済と行った方面から、ジオン・ダイクンを支え、サイド3独立へ大きく貢献していたのだ。

ジオン公国が連邦へと戦争を仕掛けられるだけの軍事力を得たのは、デギン・ザビや側近のダルシア・バハロがサイド3の経済を大きく成長させ、軍事開発や兵器生産を行えるだけの経済力と資金力を得たからだ。

 

ダルシア・バハロはジオン・ダイクンやデギン・ザビ等とは比較して派手さは無いが、堅実かつ実直が売りで、決断力と迅速力を兼ね備えた稀代の政治家でもあった。

一年戦争から十数年、曲がりなりにもジオン共和国を一独立国として維持出来たのはひとえにダルシア・バハロのまさに命を削る働きがあったからこそだと言える。

 

ダルシア・バハロが亡くなった後は、後継者に息子のモナハン・バハロが推しだされるが、有能な政治家ではあるが、父ダルシア・バハロには遠く及ばず、ジオン共和国議会はダルシア政権下では大人しくしていたザビ家派が息を吹き返す等、統率が困難な状況になり徐々にバラバラとなって行く。

因みにここでのザビ家派はザビ家復興を目指しているわけではない。

ジオン公国下の名家による統治、縦割り社会の復興を目指していた。

根本の思想は別にして、貴族社会を目指すコスモ・バビロニアと近しい集団と思っていいだろう。

議会の統率が困難に陥り、モナハン・バハロは自身も自らの力不足だと肯定していた。

サイド3、しいてはスペースノイドをまとめる力のあるシャアの様なカリスマを求め、グラナダ条約を破り、ネオ・ジオン残党軍と結託し、シャアに似せた強化人間を作り出したのだ。

だが、そんな思惑もとん挫することになる。

バナージとオードリーが関わったラプラス事変などを経ても計画は進めていたが、遂に、ジオン共和国に連邦政府が圧力をかけてきたのだ。

グラナダ条約違反……。

最大の違反は、反連邦組織、ようするにジオン残党との接触である。

今迄は少々の事は見逃してきたが、ダルシア・バハロ死後、モナハン・ハバロだけでなく、ジオン共和国議会の一部の派閥議員や有力者もグラナダ条約を破り、ジオン残党軍を動かし、テロ活動をおこなうなど、事件を起こしていたのだ。

ジオン共和国議会も収集が付かず、地球連邦政府はそんなサイド3にここぞとばかり圧力をかけ、ジオン共和国は自治権を放棄せざる得ない状況に陥る事となった。

 

そして、宇宙世紀0100年1月1日、ジオン共和国は自治権を放棄し、地球連邦に帰属、凡そ建国40年でその幕を閉じる事となった。

 

その後サイド3は、議会はそのままに、地球連邦政府によるサイド3行政府が置かれ、サイド3は連邦政府の監視下に置かれる事となる。

そして、23年の時を経て宇宙世紀0123年9月この戦乱に乗じ再び独立を果たし、ジオン共和国を名乗ったのだ。

 

 

 

 

宇宙連合政府情報局局長のシュトレイ・バーンことバナージはサイド3の対応について、宇宙連合軍に協力を求めなくてはならない事案が新たに発生し、情報局と外務省、宇宙連合軍との会議を開く事と提言した。

宇宙連合首相官邸の会議室では、首相のオードリー、情報局局長のシュトレイ、外務大臣のエルドア・ヒスローと外務次官、軍部のトップであるブライト、さらにはアムロもこの会議に呼ばれていた。

 

先ずは外務次官が現在のジオン共和国の政府の内情を改めて説明する。

「現在サイド3ジオン共和国では、大きく党派が二つ存在することはご存知でしょう。民主党と改革党です。簡単に説明しますと民主党は労働者層の支持を得ており、改革党はコロニー公社や有力企業等、どちらかと言うと富裕層から支持を受けております。地球連邦統治下からジオン共和国となった今も、民主党が6割程度の議席を確保し、政権を担っており、首相にはモナハン・ハバロが再び就任しております」

改革党という名ではあるが、これはほぼザビ家派である。

要するにジオン公国時代の縦割り社会の統治方法を推進する派閥だ。

コスモ・バビロニアとの同盟を望む派閥でもある。

民主党は労働者からの圧倒的に支持を受けていたが、内部でも大きく派閥が二つに分かれている。

反地球連邦派と現状維持派である。

今回の地球連邦からの独立は、民主党の反地球連邦派と改革党が利害の一致を見て実現したのだ。

但し、民主党の反地球連邦派は独立という一点の置いて改革党と利害は一致したが、基本的には改革党との政策は異なるため、改革党と合流することは無かった。

因みに反地球連邦派は現在でもシャアの信奉者が多数在籍している。

地球連邦との友好関係を重視する現状維持派の筆頭はあのモナハン・ハバロであるが、そもそもモナハン・ハバロは明らかに反地球連邦の思想を持っている。

それは地球連邦政府に目を付けられないためのカモフラージュであり、民主党全体をコントロールするために現状維持派の筆頭となっていたのだ。

 

外務次官は現状説明を続ける。

「我々外務省は情報局と協力し、サイド3ジオン共和国との交友を模索しております。ジオン共和国の議会も現在どの国と友好を結ぶかが第一の議題に上がっておりますが、議会内で激しくもめている状態です。現在は民主党が政権を担っておりますが、民主党反地球連邦派はコスモ・バビロニアと我々宇宙連合、その両方と割れており、民主党現状維持派は地球連邦もしくはすべての国と友好結ぶ派閥があり、改革党は当然コスモ・バビロニアと、荒れに荒れている状態です。情勢を見るにコスモ・バビロニア派が僅かですが優勢に立っている状況です」

 

「どこと交友を結ぶかで自分たちの派閥の今後の立場が決まるのだから、荒れて当然ではあるが……他国の事とはいえいかんともしがたいですな」

元サイド1の議長であった外務大臣のエルドアは苦笑気味に感想を漏らす。

元々サイド1も新サイド6と合流し国を興す提案を新サイド6側から伝えられた際、サイド1の議会でも現在のジオン共和国議会と同じような状況に陥っていた事を思い出していた。

 

「情勢は厳しいという事か」

この場の最年長であるブライトは誰と無しにこう聞いた。

 

それにシュトレイが答える。

「いや、そうでもないです。状況はマシになっていると言っていいでしょう。元々宇宙連合との友好関係を結ぶ派閥は少なかったが、徐々に増えてきています。ただその背景にはあのモナハン・ハバロが噛んでいるのが気にかかる」

 

「情報局から軍部に協力要請をというのは?」

アムロがここで今回の議題であるこの質問を投げかける。

 

「はい、アムロ大佐には是非出向に協力願いたいのですが、その前に現在ジオン共和国では盛んにある噂が出回っており、それについてまずは聞いていただきたい。事の真偽がつかめず、もし噂が本当であれば、今までの対ジオン共和国との対話の進め方を大幅に変更しなければならない」

シュトレイは情報局として軍部とよりもアムロに協力を要請したいようだ。

因みにアムロが大佐という立場を得たのには理由がある。

宇宙連合軍を編成する際、歴戦の元ロンド・ベル組を中枢に組み込むのは当然であるが、元ロンド・ベルの将兵はアムロよりも高い立場など恐れ多いと拒絶を示す者が殆んどであったためだ。

アムロを将軍位をという話も出たが、飽くまでもモビルスーツを率いる立場という理由でとアムロが難色を示し、大佐と言う立場に収まった。

だが、アムロは1人で一個師団と同等の戦力と宇宙連合軍内で数えられているため、少なくとも少将や准将等の立場でもおかしくはないだろう。

そもそもマクロスの世界、宇宙統合政府内では、アムロは一個師団(戦艦約12隻)どころか、複数の分岐艦隊(戦艦約3000隻)から基幹艦隊(戦艦約500万隻)に対応できる戦力としてカウントされているのだが……

 

「うむ、噂とは?」

ブライトは腕を組み直し、シュトレイの次の言葉を待つ。

 

「シャア・アズナブルが生きている」

 

「「!?」」

そのインパクトのある言葉にアムロとブライトは一瞬驚愕の表情を浮かべる。

 

シュトレイはそんなアムロとブライトの反応を確認した後に、言葉を続ける。

「シャア・アズナブルが再びジオン共和国を率い、宇宙をまとめ、地球連邦を正すと」

 

「………」

「バカな!?」

アムロは沈黙を守り、ブライトは怒声に近い声を上げる。

 

「ジオン共和国では、シャアを取り上げる情報番組や、地球連邦に宣戦布告を行った映像がこの頃よく流れております。噂は市中まで回っている状態で、住民の中でもシャアの復活を期待する声がちらほらと上がって来ている状態です」

 

「シャアは死んだはずだ」

ブライトは声を低くし呻くように声を絞り出す。

 

「……アムロ大佐はこうして生きています。ならばシャアが生きている可能性も無視できない」

シュトレイがそう言うのも無理もない。

死を確実視されていたアムロがこうして目の前に生きているのだ。

同じ戦場で行方不明死とされていたシャアが生きている可能性を考えてもおかしくない。

 

外務大臣のエルドアがシャアの生存について私見を述べる。

「シャアが本当に生きていたとしたら、かなり大ごとですな。お恥ずかしい話、シャアがサイド1スイートウォーターで地球連邦に宣戦布告をした際、私はまだ若手議員でして、シャアの演説に参ってしまっていました。私もシャアに賛同しそうになりましたが、何とか思いとどめたものです。あのカリスマ性は凄まじい、今でもあの演説を聞くと震えが止まらない」

エルドアは現在57歳、シャアが反旗を翻した第二次ネオ・ジオン抗争時には、サイド1中央議会に27歳という若さで初当選をはたしたばかりだった。

シャアの演説に魅入られ、賛同し協力しそうになったと自嘲気味に語るが、実際サイド1の議員で若手から大御所までシャアに賛同した議員は多数いたのだ。

当時のサイド1の、民衆がシャアの言葉に大波のように飲まれて行くようなあの熱烈な空気感を、エルドアは思い出し身震いをする。

それほどシャアのカリスマ性は圧巻だったのだ。

 

「そのシャアがもし本当に生きていたとすれば、唯では済まないでしょう。今度はジオン共和国を巻き込み、再び地球や地上の人々に牙を向くかもしれない」

シュトレイはシャアがもし生きていたとしたら、再び地球に隕石を落とすのではないかと危惧する。

 

「シャアは危険な方です。当時シャア・アズナブルが大義の為にと嘯く姿がどうしても真実には見えませんでした。あの瞳の奥底には仄暗い感情が蠢いているように感じてならなかったのです。わたくしは当時のシャアの前では恐ろしくて口を開く事もできませんでした」

そう話すオードリーの表情は強張っていた。

当時、ミネバ・ザビであったオードリーはシャアの元に居た。

ミネバの発達しつつあるニュータイプ能力はシャアの裏の顔が見えていたのだ。

シャアは確かに地球連邦政府と地上に住む人々に制裁を与えるために行動を起こしていた。だが、シャアの心奥底ではアムロとの決着を考えていたのだ。

 

「シャアが本当に生きていたのなら放っておくわけにはいかんか……、今の連邦では奴を止める事は出来ないだろう」

ブライトはさらに目を細め、眼光が鋭くなる。

 

「シャアと幾度も死闘を繰り広げられてこられたアムロ大佐なら、シャアの噂の真偽について何か感じる物があるのではないかと」

シュトレイはアムロにシャアの生存の噂について聞く。

 

「……地球圏に奴の…シャアの意志を感じない」

アムロは一息ついてからシャアが生きている可能性を真っ向から否定する。

アムロは宇宙世紀に帰ってからシャアの生存の可能性について考えていた。

だが、アムロの優れたニュータイプ能力はシャアの存在を完全に否定していたのだ。

 

「では、火星や木星に逃れていた可能性は?」

シュトレイはそのアムロの言葉に間を置かずに質問を返す。

シュトレイは最初からシャアの生存の可能性についてアムロに聞きたかったようだ。

一年戦争からシャアとの数々の因縁を持つニュータイプのアムロならシャアについて何か感じられるだろうと。

 

「そこまでは分からないが……」

アムロは心の中では(もしシャアがこの宇宙で生きていれば感知できないはずがない)と続けていた。

だが、ニュータイプ能力ではシャアの生存を否定したが、アムロの感情ではこうも考えていた。

もしかすると、(奴の事だ。どこかで生きているのかもしれない)と……

 

「わかりました。それと、ジオン共和国軍の一部とまだ共和国軍には合流していないモナハン・バハロと手を結んでいるジオン残党軍の一派の動きが活発化してます。シャアの生存の噂が広がりだすと同時に共和国軍とジオン残党軍の活発化、やはり何かあると思いませんか?」

シュトレイはブライトとアムロの顔を見ながら質問する。

 

「シュトレイが危惧するのもわかる。確かに意図的に感じられる。シャアの生存の可能性は低いだろう。だが、かつてシャアの再来と言われたフル・フロンタルに匹敵する人物を用意している可能性がある。仕掛けたのは……やはりモナハン・バハロか」

ブライトはシュトレイの質問の意味を汲み取り、こう答える。

27年前のラプラス事変の際、モナハン・バハロはシャアに似せた強化人間フル・フロンタルを使いジオン残党軍をまとめ、ラプラスの箱を利用し、再び宇宙に反地球連邦の機運を高めようとしていた。

 

「私もブライト将軍と同じ意見です」

 

「シュトレイが、アムロの派遣要請を出したのは、それだけじゃないだろう」

 

「コスモ・バビロニアもジオン共和国を取り込むために動いております。現地調査員から、既に軍上層部の人間と軍船が秘密裏に現地入りしているとの情報も……」

 

「きな臭いにも程があるな。了解した。シャアの万が一の生存の有無も含め、アムロは情報局と協力しサイド3ジオン共和国の軍部の動きを探ってくれ」

ブライトはアムロの派遣を了承する。

 

「了解した」

アムロの心中は複雑だったが、アムロは自分が行くべきだと判断する。

シャアの万が一の生存もそうだが、シャアを模した人間を世に送り出すモナハン・バハロに嫌悪感に近い何かを感じていた。

アムロにとってシャアとは何度も死闘を演じて来た相いれない存在であり、まさしく強敵であった。

そのシャアを模した人間が再び、シャアと同じ役割を果たそうとする姿を見るにしのびなかった。

シャアは確かにその圧倒的なカリスマで人々を導き、地球の将来のためにと地球連邦を粛清しようとしたが、シャアの本音を唯一本人から聞いたアムロからすると、シャアこそが自身を導いてくれる人間を求めていたことを知り、人の温もりを求めていた一人の人間に過ぎなかったと……。

 

 

 

 

 

時を同じくして、コスモ・バビロニアのシアノ・マルティス大佐は、リリィ・ビダン少尉と少数の隊員を引き連れ、サイド3に足を踏み入れていた。

実に28年ぶりの帰還である。

 




シャアは生きている?
生きているはずがない。
ならば、何が起きているのかサイド3
というのが今回の問題提起でした。
次回、アムロはどう解決するのか!
アムロ無双が実現するのか!
シアノマルティス大佐とは!?



サイド3やシャアについては私的意見なのでご了承を……

モナハン・バハロ
ガンダムUCで出てきた政治家です。
シャアを模倣させた強化人間フル・フロンタルを作り出し、ラプラスの箱を求めたりと数々の暗躍を行っておりました。
ただ、ちょっと悪役としては影が薄い人物です。

モナハンの父、ダルシア・バハロの死亡年月は公式には語られておりません。
ただ、ダルシアがかなり有能な政治家である事は確かで、息子の代では徐々に共和国に力は落ちて行ったようです。
というわけで、ダルシアについては私的意見を交えて、死亡年月等を改変しております。

次回戦闘あるよ。
きっと、次回で一度終了です。


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