妖精の尻尾のサイヤ人 (ノーザ)
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其の1 火竜と尻尾の少年

 

 

 

 

………誰かが言った。

 

その者はドジで明るく、優しい者と。

 

 

誰かが言った。

 

穏やかで、自身より強い者と戦うのが大好きだと。

 

 

誰かが言った。

 

その者は強くなることを決して止めることはないと………。

 

 

誰かが言った…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その者は神と一つになったのだと。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ここは港街ハルジオン。

魔法よりも漁業が盛んな街。その為この街の人で魔法を使える人は一割もいないとのこと。

その街の駅にて。

 

「お〜い、ナツ。着いたからいい加減起きろよ」

 

黒いツンツン頭が目印で、下に黄色の長袖に赤い道着を着た少年『ビート』が、顔色が悪い桃色の髪の少年『ナツ』を起こしていた。

 

 

「あ、あのお客様………大丈夫ですか?」

 

 

「あい。いつもの事なので」

 

ビートの隣にちょこんといる青い猫の『ハッピー』が駅員に伝えた。

 

「無理!もう列車には二度と乗らん………うぷっ」

 

 

「そのセリフ何回聞いたことか」

 

 

「ちょ、ちょっと休ませてくれ………」

 

 

そう。ナツは極端に乗り物がダメで、毎回乗り物酔いを起こしている。うっかりしているとこっちも酔ってしまう。

 

 

ガタンッ

 

 

「「あ………」」

 

 

そうこうしていると列車が動き出した。因みにナツはまだ列車の中である。

 

 

「いっちゃった」

 

 

「待て待て行くな行くな!!止まれ〜!!」

 

 

列車を追い掛けるようにビートは走り出した。

その後、列車の窓からナツを引きずり出したとか。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あーあ。初っ端から付いてねぇ〜。列車には2回乗っちまうし………」

 

 

「それはナツがもたもたしてたから………」

 

 

「ハラは減ったし………」

 

 

「うちらお金ないもんね………」

 

 

先程から二人の腹から虚しい音が鳴り響く。行く前に弁当を貰ったが、列車の中で食べたのでずっとお腹が空いていた。特にビートは大喰らいなのであれだけでは足りなかったらしい。

 

 

「なぁハッピー。火竜(サラマンダー)ってのはイグニールの事だよな?」

 

 

「うん。火の竜なんてイグニールしか思い当たらないよね」

 

 

「だよな」

 

 

「そっか………それならワクワクしてきたぞ!」

 

 

「あい!」

 

 

空腹なことも忘れるぐらいに元気を取り戻した二人。すると彼らの先に人だかりが出来ていた。

 

 

「ホラ!噂をすればなんたらって!」

 

 

「行こう!!」

 

 

二人は人混みの中に入って掻き分ける。ようやく最前列に着いてその名を叫ぶ。

 

 

「イグニール!」

 

人混みの中心には顔に刺青を入れた男が立っていた。そしてしばしその男を凝視し、放った言葉が。

 

 

「………誰だお前?」

 

 

唐突に誰と言われて男はショックを受ける。しかしすぐに立ち直って顎に手を添える。

 

 

火竜(サラマンダー)と言えば、わかるかね?」

 

 

「何だよ違うじゃねーか」

 

 

「いこいこ」

 

 

「早やっ!?」

 

 

どうやら違ったので二人(と一匹)は早々と人混みから抜け出した。

 

 

「ちょっとアンタ達失礼よ!」

 

 

「そうよ!火竜(サラマンダー)様はすっごい魔導士なのよ!」

 

 

「謝りなさいよ!」

 

 

「お?お?」

 

 

「何々?」

 

ギャラリーから相当なお怒りを買ったらしく引きずって戻って来た。

するとどっから持ってきたのか色紙にペンを走らせる。

 

 

「僕のサインだ。友達に自慢するといい」

 

 

「いや、いらん」

 

 

「右に同じ」

 

 

「何よアンタら!!」

 

 

「もうどっか行きなさい!!」

 

 

「うお!?」

 

 

「ふげ!?」

 

 

頂点に達したギャラリーに投げ飛ばされた。その後男は夜の船上でパーティーをやると言い残し、自ら炎を生み出すとそれに乗って何処かに行った。

 

 

「なんだアイツ?」

 

 

「さぁ?」

 

 

「本当いけすかないよね」

 

 

「「ん?」」

 

 

知らない声が聞こえ、振り向くとそこには金髪の少女がにこやかな笑顔で立っていた。

 

 

「さっきはありがとね♪」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あんふぁいいひほがぶぁ(アンタいい人だな)」

 

 

「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!」

 

 

金髪の少女『ルーシィ』はお礼がしたいと言い、レストランでご馳走させて貰ったが、二人の食欲に引きつっていた。兎に角口の中に放り込むと言うぐらいに料理を食らっていた。特にビート。ナツよりも身長は低いのに何処にその小さな体に料理が入るのかと言うぐらいがっついていた。

 

 

「あはは………ナツとビートとハッピーだっけ?わかったからゆっくり食べなって………なんか飛んできてるし………」

 

 

「ふぉんふぉふぁふふぁっふぁ!ふぉうふぁらふぇふぃふぎふぇふぁふぇふぁふぉふぉふぉっふぁふぇ!!」

 

 

「く、口の中全部無くなってから喋ろうね………。何いっているか全然わからないし」

 

 

そう言われると口の中にあった料理をゴクリと飲み込んだ。

 

 

「……ちゃんと噛みなよ………」

 

 

「ぷは!本当助かった!もう腹減りすぎて駄目かと思ったぜ!!」

 

 

「あ、そうですか………」

 

 

「おう!それだけ!ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!!」

 

 

再び箸を走らせてがっつき始めるビートに苦笑いを浮かべた。

話によると先程の火竜(サラマンダー)と名乗っていた男は魅了(チャーム)という魔法を使っていたのこと。魅了(チャーム)は人の心を術者に引きつける魔法である。ルーシィは掛かってしまったが、二人が飛び込んだお陰で魔法が解いたのだ。

 

 

「そういえばアンタ達は誰か探していたみたいだけど………」

 

 

「おう、イグニールだ」

 

 

火竜(サラマンダー)がこの街に来るって聞いたから、来てみたはいいが、別人だったよな」

 

 

火竜(サラマンダー)って見た目じゃなかったんだね」

 

 

「てっきりイグニールかと………」

 

 

「見た目が火竜(サラマンダー)って………どうなのよ人間として………」

 

 

「ん?人間じゃねぇよ?」

 

 

「ゑ?」

 

 

「イグニールは本物の(ドラゴン)だ」

 

 

瞬間ルーシィはギョッとする。

つまり彼らは本物の竜と会いに来たということになる。というか………。

 

 

「そんなの街にいるはずないでしょ!!」

 

 

「「「…………はっ!」」」

 

 

「オイイ!今気づいたって顔すんなー!はっとするな!」

 

 

そもそもそんなのいたら街がパニックになっている。嘆息をついたルーシィはポケットからお金を出してテーブルに置いた。

 

 

「じゃあ私はそろそろ行くけど………ゆっくり食べなよね。」

 

 

「「「……………」」」ぶわっ

 

 

「え?」

 

 

急に涙を流し始めた一行に肩を震わすと、彼女に向けて土下座した。

 

 

「ご馳走様でした!!」

 

 

「この御恩は一生忘れませんっ!!」

 

 

「せんっ!!」

 

 

「ちょ、恥ずかしいからやめて!い、いいのよ私も助けて貰ったし………おあいこでしょ?ね?」

 

 

苦笑を浮かべながら一刻も早くこの場から出たい気持ちでいっぱいだった。

 

 

「でもあまり助けた感がないのがなんとも………」

 

 

「あい。歯痒いです」

 

 

「そうだっ!」

 

 

ナツが手をポンと叩くと懐から何かを取り出し、それを彼女に渡す。

 

 

「これやるよ」

 

 

「いらんわっ!」

 

 

それは先程の男から貰ったサイン色紙だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぷはー食った食った」

 

 

「ナツ、食べすぎ………」

 

 

「お前も人のこと言えたことじゃねぇだろ」

 

 

その後一行は渡してくれたお金を全額使って料理を頬張った。厨房の料理人はぐったりしていたとか。

一行が食べ終えた頃には辺りはすっかり夜になっていた。するとハッピーは海の上にポツンとある船に気がついた。

 

 

「そういえば火竜(サラマンダー)が船上パーティーやるって………あの船かな………」

 

 

「うぷっ、気持ち悪い………」

 

 

「想像しただけで酔うのやめようよ」

 

 

「とうとう丘酔いまでするようになったか………」

 

 

ビートがナツの背中をさすりながら船を見つめる。しばし眺めていると通行人の会話が耳に入ってきた。

 

 

「見て!火竜(サラマンダー)様の船よ!」

 

 

火竜(サラマンダー)?」

 

 

「知らない?今街に来ている凄い魔導士なのよ」

 

 

あの有名な妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士なんだって。

 

 

一行は妖精の尻尾(フェアリーテイル )という言葉に反応した。

ナツが船の方を一瞥すると再び酔い始める。その中でもビートは船の方を睨み付けていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場所は変わって火竜(サラマンダー)の船。

甲板には昼間のギャラリーがドレスを着て船上パーティーを楽しんでいた。

その船の内部では同じくドレスを着たルーシィがソファに座っていた。

一行と別れた後、火竜(サラマンダー)の男と会い、船上パーティーに誘われた。始めは断っていたが、男が魔導士ギルドの妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士だと言ってきた。一緒に来れば妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入れてやるという条件で船上パーティーに付き合うことになったのだ。

 

 

「さぁ、パーティーを楽しもうじゃないか。口を開けてごらん。ぶどう酒の宝石がゆっくり入っていくよ」

 

 

「(うざぁぁぁぁ!?でもルーシィ、ここはガマンよ。これも全ては妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入るためよ………)」

 

 

魔法でビー玉ぐらいの大きさのぶどう酒の雫がルーシィに近づいてくる。それが口に入ろうとした途端、彼女はぶどう酒を払い除けた。

払ったぶどう酒は虚しく床に落ちる。

 

 

「どういうことかしら?睡眠薬を飲ませるなんて。言っておくけど私はアンタの女になる気なんてないわ」

 

 

「………しょうがない子だなぁ。素直に眠ってれば痛い目に合わなかったのに…………」

 

 

「え?」

 

 

すると彼女の背後から厳つい男達が現れ細い腕を掴んだ。

 

 

「ちょ、何なのよコレッ!?」

 

 

「ようこそ我が奴隷船へ。他国に着くまで大人しくしてもらうよ」

 

 

「へ!?ふ、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )は!?」

 

 

「言っただろ奴隷船だと。はじめから商品にしようと君を連れ込んだんだよ。諦めな」

 

 

「そんな………」

 

 

男はルーシィの腰に手を伸ばすと、閉まって置いた (ゲート)の鍵を取られ、海へ投げ捨てた。

 

 

「(こんな………これが妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士か!!)」

 

 

「それじゃあ手始めに烙印を入れようか。熱いけど我慢してネ?」

 

 

男は暖炉から焼印を取り出し、ルーシィに迫る。魔法を利用し、人を騙し、挙げ句の果てに奴隷商を行なっていた………。

 

 

「最低の魔導士じゃない………」

 

 

彼女の瞳から涙が落ちた瞬間、天井が破れた。そこから現れたのは昼間の少年、ナツだった。

しかしここは船の中、海の上、揺れる。即ち………

 

 

「うぷ………駄目だやっぱ無理………」

 

 

「ええっーーーーーカッコ悪っーーーー!?」

 

 

彼特有の乗り物酔いを起こした。

折角いい感じに登場したのにこれだ。突然のことで男達は怯んでいるが、ナツは伸びたままだ。

 

「ルーシィ、何してるの?」

 

 

「ハッピー!?って言うかアンタ羽なんてあった?」

 

 

ナツが突き破った天井から羽を生やしたハッピーがひょっこり出てきた。ハッピーは尻尾でルーシィの腰を巻くと穴から飛び去った。

 

 

「ちょ、ナツは!?」

 

 

「二人は無理。」

 

 

「あらら」

 

 

「………はっ!?逃すかぁ!」

 

 

呆気に取られてた男は正気を取り戻し、火炎放射を放つ。しかし命中せずに二人は船から出て上空に避難した。しかし、男の仲間が銃を用いて狙撃を仕掛けてきた。

 

 

「ルーシィ聞いて」

 

 

「何よこんな時に!」

 

 

「変身解けた」

 

 

さっきまで生えてた羽が綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

「くそネコーーーー!!」

 

 

二人は仲良く海に落ちた………かに見えた。目を開けると海の上、スレスレで止まっていた。ハッピーは変身が解けたと言っていた。一体だれが………?

 

 

「ふぃ〜。なんとか間に合ったな」

 

 

「え、ええ!?ビート!っていうか浮いて!?」

 

 

そこにいたのは同じく昼間に合ったビートだ。彼は背中に羽が無いのに宙に浮いていた。

 

 

「すまんな。出るタイミング完全に見失ってて………」

 

 

「いいわよそんなこと!それよりも私の(ゲート)の鍵探してくれる!?アイツら海に捨てて………。アレが無いと私ほぼ丸腰なのよ!」

 

 

「わかった!そこで待ってて」

 

 

「………ん?そこで?」

 

 

ビートがパッと離して海へと潜る。

結局二人は海に落ちることになった。

 

 

「あのガキーーーー!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ぷはっ!」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

数秒後、彼女目の前にビートが海から出てきた。

 

 

「鍵ってコレ?」

 

 

「そうそうソレソレ!!見てなさいアイツら!星霊魔導士の力を見せつけてやる!」

 

 

ルーシィに渡すと輪に付いている6本のうち1本を外して海に突き刺した。

 

 

「開け!宝瓶宮の扉!アクエリアス!!」

 

 

海が輝き出すと壺を持った水色の髪の人魚が現れた。

 

 

「すげぇー!」

 

 

「に、人魚だ………。」

 

 

ルーシィは星霊魔導士である。星霊魔導士は、 (ゲート)の鍵を用いて星霊界にいる星霊を従えて戦う魔導士である。

 

「さぁアクエリアス!貴女の力で船を岸まで押し寄せて!!」

 

 

「…………ちっ」

 

 

「今舌打ちしたっ!?ねぇっ!!したでしょっ!!」

 

 

「今そんなのいいだろっ!」

 

 

「うるさい小娘だ………。」

 

 

見た目とは裏腹に結構性格が荒んでいたアクエリアス。彼女は渋々壺を掲げる。

 

 

「一つ言っておく…………」

 

 

「な、何………?」

 

 

「今度鍵落としたら殺す」

 

 

「ご、ごめんなさい…………」

 

 

そして彼女は『オラァッ』の掛け声と共に壺を振り下ろした瞬間、大波が発生した。あまりにも大きすぎてルーシィ達をも呑み込んだ。

 

 

「私まで流さないでよぉぉぉぉ!!」

 

 

「あばばばばば!?!?」

 

 

彼女が起こした大波のお陰で船は港まであっという間に着いた。

 

 

「アンタ何考えてんのよ!普通私まで流す!?」

 

 

「不覚。ついでに船まで流してしまった………」

 

 

「私を狙ったのかーー!!」

 

 

「時間だ。しばらく呼ぶな。1週間彼氏と旅行に行く。彼氏とな」

 

 

「2回言うなっ!!」

 

 

そう言い残すとアクエリアスはフッと姿を消した。どうやらあまり関係が良好ではないらしい。

しかしこの騒ぎを聞きつけて軍の者も来て、騙されたギャラリーも助かるだろう。

ハッピーは置き去りにしていたナツのことを思い出し、再び船の中に向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

3人は先程ナツが現れた部屋に入るとすっかり酔いから復活したナツが佇んでいた。ルーシィは声を掛けようとしたが、彼から放たれる怒りに声も出せなかった。

 

 

「小僧……勝手に人の船に乗ってきちゃ駄目だろ?あ?」

 

 

ナツは答えずに羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。助けようとルーシィは鍵を取り出すが、ハッピーに静止させる。

 

 

「お前が妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士か………」

 

 

「それがどうしたっ!」

 

 

「よぉくツラ見せろ………。」

 

 

取り押さえようとする二人の男がナツに向かって来るが、それを彼は右腕だけで払い除けた。

 

 

「オレは妖精の尻尾(フェアリーテイル )のナツだ。お前なんか見たことねぇぞ」

 

 

そして露わになった彼の右肩に紋章が刻まれていた。あれこそ妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士である印だ。

 

 

「ナツが………妖精の尻尾(フェアリーテイル )!?」

 

 

「あ、あの紋章………本物だぜボラさんっ!」

 

 

「バッ!?その名を言うな!!」

 

 

「ボラ………紅矢(プロミネンス)のボラ。数年前「巨人の鼻(タイタンノーズ)」っていう魔導士ギルドから追放された魔導士だね」

 

 

「聞いた事ある!確か魔法で盗みを繰り返して追放されたって………」

 

 

どうやら火竜(サラマンダー)と名乗っていた男………もといボラは妖精の尻尾(フェアリーテイル )の名を騙っていたようだった。

 

 

「そんなこたぁどうでもいいんだよ。お前が何者なのか知らねぇが、妖精の尻尾(ウチ)に泥を塗るようなマネは許さねぇ………」

 

 

「ええい!ゴチャゴチャうるせぇガキだっ!!」

 

 

ボラは得意の炎をナツに向けて放った。しかしナツは避けずに炎を喰らってしまう。

助けに入ろうとするがまたしてもハッピーから静止させられる。

 

 

「不味い………」

 

 

炎の中から声が聞こえた。ナツの声だ。ハッピーとビート以外首を傾げているとゆらりと立ち上がってこちらに近づく。

 

 

「何だこれぁ?お前本当に炎の魔導士か?こんな不味い炎は初めてだぜ………」

 

 

『なっ!?』

 

 

なんと彼は炎を食べていた。食べ物のように、もぐもぐと口に頬張っていた。纏っている衣類は勿論焦げてもいなかった。

 

 

「ナツに火は効かないよ」

 

 

「こんな魔法見たことない!」

 

 

「食ったら力が湧いてきた………」

 

 

「お、来るか!」

 

 

「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

息を大きく吸って両手を筒状に構えた。その中の一人があることに気付いた。

 

 

「ボラさんっ!コイツ見た事あるぞ!」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「桜色の髪に、鱗みてぇなマフラー………間違いねぇ!!コイツが本物の………」

 

 

瞬間。

ナツの口から膨大な炎が放たれた。ボラが放った炎より比にならない程。

その姿、火竜の咆哮の如し。

 

 

「よぉく覚えておけよ?これが妖精の尻尾(フェアリーテイル )の………」

 

 

炎の中から現れたナツがボラに向かって炎を纏った拳を放って殴り飛ばした。

 

 

「魔導士だっ!!!」

 

 

ルーシィは未だにその光景が現実として受け入れずにいた。

 

 

「火を食べたり、火で殴ったり………本当にこれ魔法なの?」

 

 

「竜の肺は焔を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う。これは自らの体を竜の体質へと変換させる太古の魔法(エンシェントスペル)………」

 

 

「なにそれっ!?」

 

 

「元々は竜迎撃用の魔法だからね」

 

 

「あれま………」

 

 

滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)。イグニールがナツに教えたんだ」

 

 

「…………竜が竜退治の魔法を教えるってのも変な話よね」

 

 

「…………ハッ!」

 

 

「ハッとするなっ!」

 

 

「こりゃ俺の出番ないな………」

 

 

「ホント、アンタ何もしてないじゃん」

 

 

「はっきり言うな………」

 

 

「アンタも魔導士?」

 

 

「いや、俺は…………」

 

 

ビートが言いかけた途端、背後にいた男が懐から銃を取り出した。せめてものの思いだったのだろう。男が引き金を引くと弾丸は真っ直ぐビートの方へ向かった。

 

 

「危ないっ!」

 

 

「へ?何が………」

 

 

弾丸はビートの眉間に命中した。

思わず口を抑えるルーシィだが、次の行動ですぐに驚く。

 

 

「イッテェェェェッ!?誰だ石投げたヤツはっ!!」

 

 

「「えええええええええええええええええっ!?!?」」

 

 

思わず放った男も驚愕する。

弾丸は確かに命中した。しかし、彼の眉間を貫通せずに潰れていた。しかもそれを痛いで済ませたのだ。

 

 

「お前か、石投げたヤツは………!」

 

 

放った男に近づくが、今度は両サイドから残っていた男が取り押さえようと向かってきた。

 

 

「な、何なのアイツ?」

 

 

「言っとくけどビートも魔導士だよ。本人は武道家って言ってるけど………」

 

 

ビートは両サイドから向かって来る男を確認すると、腰を落として腕をクロスさせる。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

そして勢いよく広げるとたちまち男達は吹っ飛ばされた。

 

 

「えっ!?何アレ!?」

 

 

「"気合砲“。掌に気を集中させてそれを相手に放つ技。」

 

 

「気?」

 

 

「生き物に流れている体内エネルギーの概念。魔力と大差ない存在だね。ビートはこれを気って言ってるけど………。ビートはそれを攻撃に転用したり防御に転用したりして戦うんだ」

 

 

「じゃあ、さっきのは………」

 

 

「アレは体が硬いだけだね」

 

 

「…………」

 

 

よっぽどさっきので感に触ったのか結構怒り浸透である。

 

 

「ちょっとイラついたから久々に暴れちゃおっかな〜」

 

 

するとルーシィはまたしても驚愕する。

彼の腰に巻いていた茶色の帯が動き、尻尾のようになった。いや、生えていた………猿の尻尾が彼のお尻から。

 

 

「あ、あぁ!!思い出した!!こ、コイツは妖精のサイヤ人の………」

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

 

 

男が言いかけた途端、彼の両手から水色の光の球を作り出し、マシンガンの如く連続で放った。

 

 

「えええええええええええぇ!?!?ナニアレェェェェェェ!?」

 

 

思わず声が裏返ってしまう程衝撃的だった。残りの半数の男達をあっという間に吹っ飛ばした。

 

 

「気功弾。気を形として発言させたエネルギー玉。魔力弾と大差ないよ」

 

 

「そ、それを連続で………」

 

 

「本人は偶にグミ撃ちって言ってる」

 

 

「グッ!?えっ!?ていうか尻尾………」

 

 

「あーそこら辺はまた今度ね」

 

 

「………す、凄い。二人とも凄いけど………やりすぎよぉぉぉぉ!!!」

 

 

二人は止まらず大暴れしていた。

その所為で港が半壊状態になってしまった。すると騒ぎに気付いた軍隊がこちらに向かってきた。

 

 

「やばっ!?軍隊の人………って!?」

 

 

「やべ、逃げるぞ」

 

 

「逃げろや逃げろーい!」

 

 

「何で私までーーー!?」

 

 

ルーシィの腕を引っ張って逃げ出した。しかしナツとビートは屈託のない笑顔を向ける。

 

 

「ルーシィは妖精の尻尾(ウチ)に入りたいんでしょ?」

 

 

「なら来いよ!楽しいトコだぜ?」

 

 

「あい!」

 

 

「………!うんっ!!」

 

 

彼らに賛同してルーシィも笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは妖精の尻尾にいる、変わった武道家のお話である。

 

 

 




簡単なオリ主紹介
名前:ビート 年齢:15歳
CV:入野自由
好きなもの:強いヤツと戦うこと 嫌いなもの:仲間を傷付けるヤツ
備考
今作のオリ主。見た目はドラゴンボールヒーローズのヒーローアバターのサイヤ人男のヒーロータイプ。
ひょんなことから赤ん坊のまま地球に飛来して来たサイヤ人。とある人物の因子を引き継いでいるらしい………。


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其の2 ようこそ妖精の尻尾へ

ルーシィはナツ達がいるギルド、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )へ足を運んでいた。

見た目は何処か中華な感じのする大きなギルドであった。ここに憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士がいる。

 

 

「ただいまー!!」

 

 

「ただー」

 

 

「んちゃ」

 

 

「ナツ、ハッピー、ビート。おかえりなさい」

 

 

迎えてくれたのは銀髪の女性のミラジェーン。他の仲間もナツ達に反応する者もいた。

 

 

「おお、ナツ!お前またやらかし「てめぇ!火竜(サラマンダー)の情報ウソじゃねぇか!!」ぐほっ!?」

 

 

ナツに情報を提供した男が飛び蹴りを喰らっていた。しかしこんなことは日常茶飯事。他の者も暴れ始める。

 

 

「ミラ、早速だけど腹減った」

 

 

「はいはい、待っててね。今から作って来るから」

 

 

ビートは参加せずにテーブルに座って食事を始めようとしていた。

ルーシィは妖精の尻尾(フェアリーテイル )に来たことに未だに感銘を受けていた。すると奥から誰かが走って来た。

 

 

「ナツが帰ってきたってぇ!?この前のケリつけるぞオラァッ!!」

 

 

「グレイ………あんた服」

 

 

「はっ!?しまった!」

 

 

やって来たのは黒髪の青年グレイ。しかし何故かパンツ一丁だった。

 

 

「全くこれだからここの男はイヤだわ」

 

 

そう言って酒を飲み始める茶髪の女性カナ。だが、飲んでいるのは彼女よりも大きな酒樽だった。酒樽を軽々と持ち上げてグビグビ飲んでいた。

 

 

「くだらん………昼間からギャーギャーと………漢なら拳で語れ!!」

 

 

「結局ケンカなのね………」

 

 

「「邪魔だっ!!」」

 

 

「しかも玉砕っ!!」

 

吹っ飛ばされた漢は学ランを来た銀髪の大男エルフマン。しかしナツとグレイに吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「何だぁ?騒々しい」

 

 

「あ!『彼氏にしたい魔導士』の上位のロキ!!」

 

 

「ちょっと混ざってくるね〜♪」

 

 

「(ハイ!消えたっ!!)」

 

 

上位魔導士はここでは女たらしだったことに落胆するルーシィ。というかここに来てまともなヤツなんて誰一人もいなかった。

 

「新入りさん?」

 

 

「ほ、本物のミラジェーンッ!!はっ!あ、あのアレ止めなくてもいいんですか?」

 

 

「いいのいいの。いつもの事だからぁ、放っておけばいいのよ♪」

 

 

「は、はぁ」

 

 

「それに………」ガンッ

 

 

彼女の横から酒瓶が流れ弾のように喰らい倒れてしまう。

 

 

「楽しいでしょ?」

 

 

「(怖いですううううううう!!)」

 

 

屈託のない笑顔を見せるが、頭部から流血していた。ギルド内の者は益々暴れ出し、色んな物が飛び交う。酒瓶、テーブル、ハッピー。

その中にいたカナの怒りが頂点に達した。

 

 

「あー、うるさい。落ち着いて酒も飲めないじゃない………あんたらいい加減に………しなさいよ?」

 

 

「アッタマきた!」

 

 

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「困った奴等だ………」

 

 

「掛かってこぉい!!」

 

 

カナの片手に握っていたタロットカードが光り、グレイが右拳を左の掌に添えると光出し、エルフマンの右腕が形を変え、ロキの指輪が輝きを放ち、両手から炎を纏い始めるナツ。

もしやここで魔法を使うつもりだろうか。流石にそんなことをすればギルド自体が倒壊しかねない。

ミラジェーンも冷や汗を掻き始めると大きな足音が聞こえた。

 

 

「やめんかバカタレッ!!!」

 

 

「でかーーーーーーー!?!?」

 

 

現れたのは読んで字の如く巨人だった。大きすぎて顔も見えないぐらいだった。

暴れていた者もピタリと止まって食事を再開したり、酒を飲み始める。一人を除いて………。

 

 

「なーはっはっはっ!!みんなビビリやがってこの勝負!オレのか………」ぺしゃん

 

 

勝ちと言おうとした途端、巨人から踏み潰されて静止させられた。

巨人はルーシィを一瞥すると急に力を溜め始めた。何か気に触ることでもしたのだろうか?ルーシィは恐怖で口をパクパクさせると巨人は風船のようにどんどん小さくなっていき、やがてルーシィよりも小さい小人みたいになった。

彼こそがこの妖精の尻尾(フェアリーテイル )のギルドマスターのマカロフだ。

 

 

「ふぃーふぁんふぉふぁふぇふぃ!(じーちゃんおかえり!)」

 

 

「ビート、口の中全部無くなってから喋れ」

 

 

そう言うとマカロフは忍者の如く二階の手すりに向かって飛んだ。しかし、手すりに頭を打ち付けてしまった。

なんとか気を取り直して手すりに立ち上がる。彼の左手には何やら紙の束を持っていた。

 

 

「ま〜たやってくれたのう貴様等。見よ、この評議会からの文書の量を!」

 

 

評議会とは全ての魔導士ギルドを束ねている最高機関のことである。マカロフは一枚ずつ読み上げていく。

 

 

「まずグレイ!」

 

 

「んあ?」

 

 

「密輸組織を検挙したまではいいが………その後街を素っ裸でふらつき、挙げ句の果てに干してある下着を盗んで逃走」

 

 

「いや、だって裸じゃマズイだろ………」

 

 

「まず裸になるなよ………」

 

 

「エルフマン!要人護衛の任務中、要人に暴行」

 

 

「男は学歴よなんて言うからつい………」

 

 

「………カナ・アルベローナ。経費と偽り、某酒場で呑むこと大樽15個。しかも請求先が評議会」

 

 

「………バレたか」

 

 

「ロキ!評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。某タレント事務所からも損害賠償の請求が来ておる………」

 

 

「可愛かったからつい………」

 

 

「そしてナツ………デボン盗賊一家を壊滅するも民家7軒も壊滅。チャーリィ村の歴史ある時計台倒壊。フリージアの教会全焼。ルピナス城一部損壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。ハルジオンの港半壊………」

 

 

「(本で読んだ記事はほとんどナツだったのね………)」

 

 

ほぼナツが一番多かったが、ここで以外な人物の名が上がる。

 

 

「ビート!」

 

 

「ふぁい?(はい?)」

 

 

「まだ無くなっていないんか!!お前さんに関してはレッドリボン軍の首領を捕まえる任務じゃが、軍そのものを壊滅とはどういうことじゃ!!」

 

 

「軍を壊滅ぅっ!?」

 

 

「だってアイツらチマチマ石投げくるから頭きて基地をぶっ飛ばしてやったぞ。そしたらアイツら勝手に降伏してきた」

 

 

「(そりゃあね。)」

 

 

尚、軍の者は奇跡的に無事だったという。その後も何人ものも名前が挙げられた。次第にマカロフは怒りで震える。

 

 

「貴様等ぁ………ワシは評議員に怒られてばかりじゃぞぉ………」

 

 

…………“だが”

 

 

「評議員などクソくらえじゃ」

 

 

「え?」

 

 

左手に持っていた文書を燃やし、放り投げるとナツが犬の如くかぶり付いた。

 

 

「よいか、理を超える力は、全て理の中より生まれる。魔法は奇跡の力ではない。我々の内にある“気”の流れと、自然界に流れる“気”の波長が合わさり、はじめて具現化されるのじゃ。それは精神力と集中力を使う、いや、己が魂全てを注ぎ込む事が魔法なのじゃ」

 

 

「上から覗いている目ン玉気にしてたら魔道は進めん。評議員の馬鹿共を怖れるな」

 

 

「自分の信じた道を進めェい!それが妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士じゃ!!」

 

 

皆が喝采を上げる。

これこそが妖精の尻尾(フェアリーテイル )。誰の指図も受けず、自身の信じた道を進む。

ルーシィはここに来て本当に良かったと思った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その夜。

 

「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!」

 

 

「相変わらず良く食うな………」

 

 

「ナツこそそれ良く食べられるね………」

 

 

ビートは相変わらず多くの料理をがっつき、ナツに関しては料理どころか飲み物まで燃えていた。彼専用メニューらしい………。

 

 

「ナツー!ビート!見て見て!妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマーク入れて貰っちゃった!」

 

 

ルーシィが嬉しそうに右手の甲に妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマークを見せるルーシィ。因みにビートも同じ右手の甲にある。

 

 

「おう、よかったなルイージ」

 

 

「ルーシィよ!」

 

 

「これからも宜しくマリオ」

 

 

「だからルーシィって言ってるでしょ!!配管工から離れてっ!!」

 

 

軽いボケをかました後再び箸を動かして食べるビートとは裏腹に食べ終えたナツはリクエストボードへ向かう。リクエストボードには色んなところから依頼が掲示されいる。ナツは盗賊退治の依頼を取ろうとするとカウンターの会話が聞こえた。

自身の親が未だに帰ってこないので探すように要求するロメオだが、断られて泣きながら出て行った。

それを見たナツは依頼をボードに突き破る勢いで戻し、食べ終えたビートは箸をテーブルに叩きつけると二人は出て行った。

 

 

「マスター、アイツらちょっとやべぇんじゃねぇの?マカオを助けに行く気だぜ?これだからガキはよぉ」

 

 

「んな事したってマカオの自尊心がキズつくだけなのに………」

 

 

ギルドの者がそう言うもの、マカロフは煙管を咥えて一服する。

 

 

「進むべき道は誰が決める事でもねぇ。放っておけ」

 

 

その様子を見ていたルーシィはぽつりと溢す。

 

 

「2人とも………何で………」

 

 

「ナツもロメオくんと同じだからね」

 

 

「?」

 

 

「自分とだぶっちゃったのかな。ナツのお父さんも出て行ったきりまだ帰って来ないのよ。お父さんって言っても育て親なんだけどね。しかもドラゴン」

 

 

「ドラゴンッ!?ナツってドラゴンに育てられたの!?そんな信じられないっ!」

 

 

「ね。小さい頃そのドラゴンに森で拾われてね。言葉や文化、魔法を教えてもらった。でもある日ナツの前からそのドラゴンは姿を消した」

 

 

「………そっか、それがイグニール」

 

 

ハルジオンで会った時に言っていたイグニールとはそのドラゴンのことだったのである。しかし彼女はあることを思い出した。

 

 

「そうだ、ビート!アイツ………何で尻尾が………」

 

 

「…………ルーシィ。これは貴女が妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士だから言うけどね」

 

 

ビートは宇宙人なのよ。

 

 

「…………え?う、宇宙人?宇宙人ってあの?」

 

 

「言い伝えでしか知らないけど、サイヤ人っていう戦闘民族の子なのよ。

私やナツが小さい時に突如、森に空から白いボールが落ちてきたの。その中に赤ん坊の彼が乗っていて、名前の書いた紙もあった。始めは中々打ち明けられなかったけど、一緒に過ごしている内に優しい強い子に育ったわ。言わば彼は私達にとって弟みたいな存在なのよ。逆に彼にとって私達は大切な家族のようなもの。だからロメオくんのことも放っておけないって思ったのでしょう」

 

 

「はぁ…………」

 

 

2人のことを改めて知った瞬間であった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「…………で、何でルーシィもいるの?」

 

 

その後、二人(と一匹)の跡をついて来たルーシィは馬車に乗って山へ向かっていた。ナツはいつもの乗り物酔いを食らっている。

 

 

「何でって、そりゃあ 妖精の尻尾(フェアリーテイル )の役に立ちたいから〜なんて………」

 

 

「(株を上げたいんだ!絶対そうだ!!)」

 

 

「マカオさん探すの終わったら住むとこ見つけないとなぁ」

 

 

「オイラとナツん家住んでもいいよ」

 

 

「本気で言ったらヒゲ抜くわよ猫ちゃん」

 

 

「(怖っ!?)」

 

 

サラッと怖いことを言うルーシィを尻目に馬車が止まった。

 

 

「止まったっ!!」

 

 

「着いたの?」

 

 

「す、すみません。これ以上は馬鹿では無理です」

 

 

外に出るとまだ夏季だというのに季節が逆転したのではないかぐらいの吹雪に見舞われていた。その寒さに思わず凍える。

 

 

「だらしねぇな」

 

 

「そんな薄着してっから」

 

 

「アンタらも似たようなもんじゃないっ!!」

 

 

馬車の運賃車はさっさと街へと戻って行った。

暫く雪道を進んでいくと、とうとう寒さに耐えなくなったルーシィがナツの荷物から毛布を引っ張り出す。

 

 

「ひ、開け、時計座の扉『ホロロギウム』!」

 

 

「おお!?」

 

 

「時計だぁ!」

 

 

「こんなんまで………」

 

 

出て来たのは目を瞑った人がすっぽり入る大きさの時計だった。ルーシィは堪らず中に避難する。

 

 

「『私ここにいる。』と申しております」

 

 

「何しに来たんだよ」

 

 

「『何しに来たと言えばマカオさんはこんな場所に何の仕事をしに来たのよ!?』と申しております」

 

 

「知らない?凶悪モンスターのバルカンの討伐クエスト」

 

 

「『…………私帰りたい。』と申しております」

 

 

「はいどうぞ と申しております」

 

 

「それでも俺達は行くよ と申しております」

 

 

「あい」

 

 

動かないルーシィは置いて行き、二人はマカオを探し始めた。

すると崖の上から雪が落ちて来ると、それ共に何かが飛来して来る。

彼らより一回り大きい猿型モンスターのバルカンだ。二人は身構えるが、そんな彼等を目も暮れずに一直線に走り出す。その先には動かないでいるルーシィが入ったホロロギウムだった。

 

 

「人間の女♪」

 

 

バルカンはホロロギウムを担いで彼方へ行った。

 

 

「ビート、聞いたか?」

 

 

「あぁ、アイツさっき喋った!」

 

 

「あい!」

 

 

「『アンタら助けなさいよぉぉぉぉ!?』と申しております」

 

 

 

 



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其の3 追ってハコベ山

ロメオの父親マカオを助けに行こうとハコベ山へ向かったナツ達。しかし探しているうちに凶悪モンスターのバルカンに遭遇してしまう。バルカンはルーシィが入ったホロロギウムごと奪い去った。ルーシィはバルカンの手から逃れることができることやら。

 

 

「『ことやらじゃなくて、早く助けに来なさーーーい!!』と申されましても………」

 

 

現在ルーシィはバルカンに連れ去られて洞窟の中にいた。未だにホロロギウムの中にいるから多少安全だが、さっきからバルカンがハイテンションでホロロギウムの周りを踊っていた。

すると時間が来たのかホロロギウムが消えて外に出させるルーシィ。その所為でバルカンは更に興奮し、鼻息を荒くする。恐怖で震えたその時奥から走って来る音が聞こえた。

 

 

「マカオはどこだぁぁぁ!!あぁ!?あ〜!?」

 

 

「ほよよ〜!?」

 

駆けつけて来たのはナツとビートだが、ナツが滑って転び、ビートもそれに巻き込まれて壁にぶつかった。

 

 

「おいサル!マカオを何処にやった?」

 

 

「ウホ?」

 

 

「言葉わかるんだろ?人間の男」

 

 

「男?」

 

 

「そうそう男!」

 

 

「何処に隠した!?」

 

 

「うわー!?隠したって決めつけているし!?」

 

 

というかそもそもマカオは生きているのだろうか?バルカンはニタリと笑うと二人を奥へ誘った。張り切ってついていくとそこは絶壁だった。何もないだろと言おうとした途端にバルカンに突き落とされた。

 

 

「男いらない………オデ、女好き♪」

 

 

慌ててルーシィは駆けつけてみるが、谷の底は雪の所為で見えなかった。

ハイテンションで再び踊り出すバルカンにルーシィは反撃を仕掛ける。

 

 

「このエロザル!二人が無事じゃなかったらどーしてくれるのよ!!」

 

 

腰に携えていた鍵を一つ取り出して星霊を召喚する。

 

 

「開け金牛宮の扉、タウロス!!」

 

 

「MOーーーーー!!」

 

 

現れたのは逸話に登場するミノタウロスのような二足歩行の牛が現れた。その背中に大きな斧を装備している。彼女が保有している星霊の中で一番パワーがある星霊だ。バルカンに攻撃するように命令するが………。

 

 

「ルーシィさん!相変わらずいい乳してますなぁ。MOーステキです!」

 

 

「そうだ………コイツもエロかった………」

 

 

先程のバルカン同様鼻息を荒くする。それを見たバルカンは怒る。

 

 

「ウホッ!オデの女を取るな!!」

 

 

「オレの女………?それは聞き捨てなりませんなぁ………」

 

 

「そうよタウロス!アイツをやっちゃって!!」

 

 

「『オレの女』ではなく、『オレの乳』と言ってもらいたい!!」

 

 

「もらいたくないわよ!!」

 

 

タウロスの発言で思わず自分の体を抱くルーシィ。しかしホロロギウムの召喚時間を限界まで使い、タウロス分の魔力が持つかどうかわからない。

バルカンを倒して二人を早く探すことが先決である。今度こそタウロスはバルカンに攻撃を仕掛ける。

 

 

「よーくも落としてくれたな………」

 

 

すると何処から声が聞こえた。

声の主は先程の穴から聞こえる。そのシルエットは見覚えのある者だった。

 

 

「ナツ!!」

 

 

「ん?なんか怪物増えてるじゃねぇーか!!」

 

 

「おいいいいいいいい!!?」

 

 

駆け出してタウロスの顎に飛び蹴りを放つナツ。その所為でタウロスは一発KOとなって伸びる。

 

 

「弱ーーー!?人が折角心配してあげたっていうのいうのに何すんのよーー!?てゆーかどうやってここまで!?」

 

 

「ハッピーのお陰さ、ありがとうな」

 

 

「あい、どーいたしまして」

 

 

上を見上げるとハッピーが羽を生やして飛び回っていた。能力系魔法の一つの(エーラ)である。というか………。

 

 

「あんた乗り物ダメなのにハッピーは平気なのね………」

 

 

「何言ってんだお前………ハッピーは乗り物じゃなくて“仲間”だろ?引くわー」

 

 

「そ、そうね。ごめんなさい………(引かれた!)」

 

 

「いいか?妖精の尻尾(フェアリーテイル )のメンバーは全員仲間だ」

 

 

彼の背後からバルカンが迫るが、それでもナツは続ける。

 

 

「じっちゃんもミラも………」

 

 

「来てるわよ!?」

 

 

「ウゼェ奴だが、グレイやエルフマンも………」

 

 

「わかったから!ナツ後ろ!!」

 

 

「ハッピーもビートも、ルーシィも仲間だ」

 

 

「っ!」

 

 

「だから………。オレはマカオをつれて帰るんだ!!」

 

 

バルカンの下を潜って顎に蹴りを入れた。バルカンはその勢いのまま壁に激突する。

 

 

「早くマカオの居場所言わねぇと黒コゲになるぞ!」

 

 

バルカンは更に怒り狂って再び突っ込んでくる。ナツも戦闘態勢に入ろうとすると………。

 

 

「ダァリャアッ!!と出してきたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「ヴホォッ!?」

 

 

「んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

ナツの頭上からビートがミサイルの如く現れ、謎の叫び声と共にそのままバルカンの腹に突っ込んだ。バルカンは再び壁に激突する。

 

 

「お前〜〜。痛かったんだぞ?頭打ってタンコブ出来たらどうすんだよ!!」

 

 

というか彼の頭上にもうできていた。

ビートも加わって今度こそ戦闘態勢に入る二人。バルカンは天井に生えている氷柱を外して二人に向かって投げた。

 

 

「火にそんな物は効かーん!!」

 

 

「よ、ほ!はっ、ふんっ」

 

 

自ら熱を出せるナツは動かずに氷柱が当たってもすぐに溶けた。ビートは軽い身のこなしでどんどん避ける。

すると何処から持ってきたのか斧を持ち出した。その斧はタウロスが使っていた斧だった。流石のナツも避けることに専念した。

バルカンの剣戟が二人を襲う。避けている内にビートが足を滑らせてしまう。

 

 

「やっべ!?」

 

 

「ビート!!」

 

 

好機と見たバルカンは大きく斧を振り下ろした。しかしそこにはビートの姿が何処にも見当たらなかった。必死に探そうとするバルカン。

 

 

「こっちこっち!」

 

 

「あ!尻尾!!」

 

 

ビートは自身の尻尾を使って氷柱に巻き付いて逆さまになっていた。

ムキになったバルカンは斧を振りまくるが別の氷柱に移動して中々当たらない。

 

 

「グヌヌ!この猿ぅ!」

 

 

「誰が猿だ!とうっ!!」

 

 

「ギャギャギャギャギャ!?」

 

 

ビートはバルカンの頭部に飛びかかってバリバリ引っ掻いた。

何処からどう見ても猿なんだよなぁ………。とルーシィは一人思った。

それでもバルカンは怯まずに今度こそ彼を捉える。迫りくる斧にビートは白刃取りをする。どっちも引かない攻防。しかし体格差の所為か徐々に押され始める。

それでもビートはニヤリと笑った。

 

 

「いいのか?俺ばっかり相手をしていると………竜の餌食になるぜ?」

 

 

彼の背後から腕に炎を纏ったナツが現れる。

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

 

拳はバルカンの右頬に命中し、吹っ飛ばされたバルカンは穴に挟まった。

今の攻撃で完全に気絶したバルカンだが、突如として輝き始めた。

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

ナツは身構えるが、光が晴れると現れたのはボロボロになったマカオだった。彼はバルカンに体を乗っ取る魔法、 接収(テイクオーバー)をかけられていたのだ。

元に戻ったので挟まったスペースが無くなって穴から落ちようとする。

 

 

「あーーー!!」

 

 

「不味いっ!!」

 

 

駆けつけたナツはマカオの足を掴むが、ナツ自身も落ちそうになる。羽を生やした現れたハッピーだが、魔法が切れそうだった。

ギリギリに駆けつけたビートはハッピーの尻尾を掴むが、彼も落ちそうになる。

ルーシィも駆けつけて足を掴むが、男三人分の体重を支えるのは難がある。

万事休すかと思ったが、復活したタウロスがルーシィの腕をがっしり掴んだ。

 

 

「MOー大丈夫ですよ」

 

 

「「牛ーーーーーーー!!」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ハコベ山から帰還して来たナツ達一行はロメオの元へ向かっていた。

マカオの姿を見たロメオは笑顔を見せるが、すぐに曇った。どうやら友達から散々からかわれ、それが悔しくてマカオに仕事を頼んだ。

そしたら自慢出来ると思ったがいつまで経っても帰ってこなく、自分がマカオを殺したのだと自負していた………。

 

 

「父ちゃん………ごめん………俺………」

 

 

しかしマカオは彼を優しく抱きしめた。

 

 

「心配かけたな………すまん」

 

 

「………いいんだ。オレは魔導士の息子だから………」

 

 

 

「…………今度クソガキ共に絡まれたら言ってやれ」

 

 

“お前の親父は怪物19匹倒せんのか?ってな。”

 

 

「………うんっ!!」

 

 

その様子を見ていたナツ達に気が付いてロメオは手を振った。

 

 

「ナツ兄ー!ビート兄ー!ハッピー!!ありがとうー!!それと………ルーシィ姉もありがとうー!!」

 

 

ルーシィも笑顔で手を振り返した。

7月4日、晴れ→吹雪→晴れ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)とてもぶっ飛んでいるギルドだが、楽しく、暖かく、優しいギルド。

まだまだ新人の彼女だが、このギルドが大好きになれそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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其の4 チーム結成

フィオーレ王国東方、マグノリアの街。

人口6万人古くから魔法も盛んな商業都市である。街の中心にそびえ立つ教会『カルディア大聖堂』を抜けると街唯一の魔導士ギルドの妖精の尻尾(フェアリーテイル )が見える。

 

その街の一角にルーシィは住んでいた。

家賃は7万J(ジュエル)で少し高めだが商店街が近い理由で選んだそうだ。

風呂から上がったルーシィは体を拭いていた。

 

 

「7万にしては間取りもいいし、収納スペース多いし!真っ白な壁、ほのかに香る木の香り。ちょっとレトロな暖炉に、竈までついている!そして何より一番素敵なのわ〜〜………」

 

 

タオルを巻いてトテトテ向かった先には………。

 

 

「よっ!」

 

 

「んちゃ」

 

 

「私の部屋ーーーーー!?!」

 

 

スナック菓子を頬張っていたナツとビートに魚を食べていたハッピーがいた。しかもテーブルが菓子クズで散らばっていた。

 

 

「何でアンタ達がいるのよーーーーーー!!」

 

 

「「ぐぇっ」」

 

 

三人の顔目掛けて回し蹴りを放つルーシィ。三人はまとめて壁に叩きつけられた。

 

 

「だってミラから家決まったって聞いたから………」

 

 

「聞いたから何!?勝手に入ってきていい訳!?」

 

 

彼女は怒りを露わにヅカヅカナツ達に迫る。

 

 

「親しき仲にも礼儀ありって言葉知らない!?アンタ達のしている事は不法侵入!!犯罪!!モラルの欠如もいいとこだわ!!」

 

 

「オイ………そりゃあキズつくぞ………」

 

 

「キズついてんのは私の方よーーーーーー!!」

 

 

「まぁまぁ落ち着いて………飴ちゃんあげるから………」

 

 

「いらんわ!!」

 

 

「それにしてもいい部屋だね」ガリガリ

 

 

「爪を研ぐなネコ科動物!!」

 

 

白い綺麗な壁が早速傷付いて新品じゃなくなる。

するとナツは机に置いてある物に気付いた。

 

 

「何だコレ?」

 

 

「文章か何か?」

 

 

「っ!ダメェーーーーーーー!!!」

 

 

それをひったくるように取り上げると我が子のように抱く。

 

 

「なんか気になるな。何だよソレ?」

 

 

「何でもいいでしょ!ていうかもう帰って!!」

 

 

「やだよ遊びに来たんだし」

 

 

「右に同じ」

 

 

「超勝手っ!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私服に着替えたルーシィは渋々二人に紅茶を出した。

 

 

「特に遊ぶモンなんて無いんだからそれ飲んだらさっさと帰ってよね!」

 

 

「残忍な奴だな」

 

 

「そーだソーダ」

 

 

「あい」

 

 

「紅茶出しといて残忍って………」

 

 

プルプル震え出すが、どうでもよくなったのか嘆息を付いた。

 

 

「あ、そうだ!ルーシィの持ってる鍵の奴等全部見せてくれよ!!」

 

 

「いやよ!すごく魔力を消耗するじゃない。それに鍵の奴等じゃなくて星霊よ」

 

 

「思ったがルーシィは何人と契約してるんだ?」

 

 

「6体。星霊は基本1体って数えるの」

 

 

そう言って腰に携えていた鍵をテーブルに出す。銀色の鍵が3本。金色の鍵も3本あった。

 

 

「銀色はお店で売ってある鍵。時計座のホロロギウム、南十字座のクルックス、琴座のリラ。金色は黄道十二門っていう(ゲート)を開ける超レアな鍵。金牛宮のタウロス、宝瓶宮のアクエリアス、巨蟹宮のキャンサー………」

 

 

「巨蟹宮!!カニかっ!?」

 

 

「カニーーーーーー!!」

 

 

「うわーまた訳わからないトコに食いついてきたし………」

 

 

「なぁ、ルーシィちょっとそいつ出してくんない?ちょいと味見………じゃなくて拝見したくて………」

 

 

「アンタ絶対食べる気でしょ!?」

 

 

ヨダレをダラダラ流すビートに葛藤する。

するとルーシィはある事を思い出す。ナツ達と初めて会った街で買った星霊との契約がまだ済ましていなかった。

 

 

「丁度良いわ。今から召喚から契約の流れを見せてあげる」

 

 

「血判とか押すのかな?」

 

 

「痛そうだな………ケツ」

 

 

「ケツで血判をするのか?」

 

 

「お尻は関係ないわよ………見てて」

 

 

我……星霊界との道を繋ぐ者……汝………その呼びかけに応え、 (ゲート)をくぐれ。

 

 

鍵の先端から波紋が広がって光輝く。

 

 

「開け!子犬座の扉『ニコラ』!!」

 

 

そして光からニコラらしき者が現れた。

 

 

「プーン!」

 

 

『ニコラーーーーーーー!?』

 

 

何と言えばいいのだろう……。

大きさはハッピーと同じぐらいで、全体的に白く、黄色いドリルみたいな鼻をしていた。

というかこれは…………。

 

 

「なんつーか………」

 

 

「ド、ドンマイ!」

 

 

「失敗じゃないわよーーーーー!!」

 

 

思っていたのと違うのが出てて呆気に取られる二人だが、そんな二人を尻目に彼女はニコラを抱いて頭を撫でる。

 

 

「あーんかわいい♪」

 

 

「プーン」

 

 

「そ、そうすか?」

 

 

「ニコラはあまり魔力を使わないし、愛玩星霊として人気なのよ」

 

 

「ナツ〜、人間のエゴが見えるよ〜」

 

 

「うむ………」

 

 

「エゴだよそれは!」

 

 

「やかまし!」

 

 

ビートが何処ぞの某人物の台詞を言っているうちにルーシィはメモ帳を取り出した。

 

 

「じゃあ契約に移るわね。月曜は?」

 

 

ニコラは首を横に振る。

 

 

「火曜日」

 

 

今度は縦に振った。

 

 

「水曜」

 

 

また縦に振る。

 

 

「木曜日も呼んでいいのね?」

 

 

「思ってたのと………」

 

 

「地味だな」

 

 

「あい」

 

 

「はい。契約完了!」

 

 

「ププーン!!」

 

 

「随分簡単なんだね」

 

 

「確かに見た目はそうだけど大切なことなのよ。星霊魔導士は契約、即ち約束ごとを重要視するの。だから私は絶対約束だけは破らない………ってね」

 

 

これが後に起こる悲劇を招くことになる。

 

 

「そうだ!この子に名前付けてあげないと」

 

 

「ニコラじゃないのか?」

 

 

「それは総称。そうね………プルーってとこかしら」

 

 

「プーン!」

 

 

ニコラも気に入ったようで両手を上げた。何でも由来はプルプル震えているところを取ったとか。

するとプルーは突然ナツ達に向けてジェスチャーを送った。

両手を右に持って右に移動し、今度はしゃかしゃか両手を振る。最後に大きく丸を描いた。

 

 

 

「お前いいこと言うなぁ!!」

 

 

「見た目の割に!」

 

 

「なんか伝わってる!?」

 

 

二人はよくよく考えてみるとこの間のハコベ山の件ではタウロスに助けて貰った。それはルーシィがいてくれたから。もしいなかったら事態は大変なことになっていた。

 

 

「お前、変な奴だけど頼れるしいい奴だ」

 

 

「うんうん、変な奴だけど………」

 

 

「(変な奴らに変な奴って言われた!)」

 

 

「よし決めた!オレたちでチームを組もう!!」

 

 

「だな!!」

 

 

「チーム?」

 

 

「あい!ギルドメンバーはみんな仲間だけど特に仲のいい人同士が集まってチームを結成するんだよ!一人じゃ難しい依頼もチームでやれば楽になれるしね!」

 

 

「良いわねそれ!面白そう!!」

 

 

ルーシィも了承し、ここに三人(と1匹と1体)のチームが結成した。早速ナツは依頼を持ってきたとのことで懐から依頼書を出した。

その内容はと言うと………。

 

 

「うっそ!?エバルー公爵って人の屋敷から一冊の本取ってくるだけで20万J!?!」

 

 

「な!おいしい仕事だろ?」

 

 

これなら約2ヶ月分の家賃は稼げるが、彼女はある点に着目した。依頼書の注意書きにはエバルー公爵のことについて書かれていたが『兎に角女好きでスケベで変態。ただいま金髪のメイドを募集中。』と。

 

 

「ハメられたーーーーーーー!?」

 

 

「星霊魔導士は契約を大切にしてるのかぁ………」

 

 

「騙したなーーーー!?サイテーーーーーーー!!」

 

 

「君のような勘のいいガキは嫌いだよ………」

 

 

「誰のマネよソレ!?」

 

 

「ホラ、練習としてハッピーに御主人様って言ってみな?」

 

 

「ネコにはイヤーーーーーーー!!」

 

 

 

そんなこんなで無事?チームが結成した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

行きの馬車にて。

 

 

「乗り心地はどうですか御主人様?」

 

 

「め、 冥土(メイド)が見える………」

 

 

「うまいこと言うなぁ(のび太感)」

 

 

「御主人様役はオイラだよ!」

 

 

「うるさいネコ!!」

 

 

ワイワイと騒ぐ一行だが、報酬金が跳ね上がっていることなどこの時は知る由もなかった。

 

 

 

 

 



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其の5 日の出(DAY BREK )

前回のあらすじ

まんまと二人の策にハマってしまったルーシィ。ザマァないぜ!(毒電波感)

 

 

「うるさいわよ!」

 

 

はっ!?手が勝手に!?

 

 

「ちょっと真面目に書きなさいよ作者ぁーーーーーーー!」

 

 

へーへー、出直しマッスル。

 

 

「ウザァァ!?」

 

 

「さっきから誰と話してるのルーシィ?」

 

 

「とうとう幻聴まで………」オヨヨッ

 

 

「そこっ!!お黙りなさい!!」

 

 

コホンッ

馬車で出発すること小一時間。

一行は目的の街に順調に進んでいた。相変わらずナツは酔ってぐったりしているが。

 

 

「要は屋敷に潜入して本を持ってくればいいんでしょ?」

 

 

「おう。スケベで変態な奴からな」

 

 

「私こう見えても色気には自信あるのよ?うふん♪」

 

 

「ネコにはちょっと判断出来ないです」

 

 

「俺もそういうのはあんまり………」

 

 

誘惑するように自身の胸を強調するルーシィだが、ハッピーとビートには効果は今ひとつだった。

 

 

「言っておくけどアンタらやる事ないんだから報酬は7、1、1、1だからね」

 

 

「ルーシィ1でいいの?」

 

 

「優しい!」

 

 

「私が7よ!!」

 

 

「ちょ、ちょっと待て………オレたちもやる事がある………」

 

 

「何?」

 

 

「もしも捕まったら助けてやる………」

 

 

「そんなミスしません」

 

 

「ルーシィ、魚釣りでもね、エサは無駄になることが多いんだよ………」

 

 

「私はエサかいっ!?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そんなこんなで一行は目的の『シロツメの街』に到着。

ナツはお決まりの台詞を吐いて気を落ち着かせていた。ルーシィは街の様子を見てくると言って先に街の中に入ってしまった。

残された二人(と1匹)はレストランで食事を取っていた。

 

 

「この脂っこいのルーシィに残しとこうぜ!」

 

 

「脂っこいの好きそうだしね」

 

 

「あ、これとかは?」

 

 

「おお!それ超脂っこい!!」

 

 

「…………私がいつから脂好きになったのよ」

 

 

「あ、ルー……………シィ?」

 

 

さっきまで進んでいた二人の手が止まる。そこにはメイド服姿のルーシィがいた。二人よりも先に街に入ったのはこの服装に着替える為であったのだ。

 

 

「お食事はお済みですか御主人様?まだでしたらごゆっくり召し上がってくださいね♪」

 

 

満面な笑みを見せるルーシィに二人は集まった。

 

 

「どーしよ、冗談で言ったのに本気にしてるよメイド作戦………」

 

 

「しかも本人は相当やる気でっせ………?」

 

 

「今さら冗談とは言えないしな………これでいくか!」

 

 

「聞こえてますがっ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一行が向かったのは大きな屋敷だった。始めに依頼主の方と挨拶をし、依頼を再度確認してもらった後に依頼を実行するという流れである。

ナツがドアのノックすると向こうから声が聞こえた。

 

 

「どちら様で?」

 

 

「魔導士ギルドの妖精の(フェアリー)「しっ!静かにっ!!」?」

 

 

「すみませんが裏口から入っていただけますか?」

 

 

声の主からして依頼人だろうか。

一行はその言葉に首を傾げるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「先程は失礼しました。わたくし、依頼人のカービィ・メロンと申します。こちらは私の妻です」

 

 

「美味そうな名前だな!」

 

 

「メロン!」

 

 

「俺はどちらかと言うとスイカ派」

 

 

「ちょっと失礼でしょ!」

 

 

「はは、よく言われます」

 

二人は依頼人の名前で食べ物を連想しているが、その中でルーシィは疑問に思った。

依頼人の名前とこの名称が何処かで聞いたことのある。それに仕事の内容と報酬が釣り合ってないこと。こんな仕事が残っていたのも皆警戒していたのだろう。

ふと気が付くとカービィから視線を感じた。こちらをじっと見た後に言葉を溢す。

 

 

「その服装は趣味か何かで?あ、いえいえ別にいいんですがね………」

 

 

「………ちょっと帰りたくなってきた………」

 

 

今の自身はメイド姿である。そりゃ言われても何も言えない。彼女は今更ながらも後から着れば良かったと軽く後悔した。

仕事の話を戻すと、内容はエバルー公爵の持つこの世に一つしかない『日の出(デイ・ブレイク)』という本を破棄か焼失すること。

盗るのではないかとナツは言うが、実質他人の所有物を無断で破棄する訳なので盗るのと変わらないと言うと納得した。

 

 

「そしたらよぉ、屋敷ごと燃やせば良くないか?」

 

 

「それだっ!」

 

 

「楽ちんだね」

 

 

「ダーメ!!確実に牢屋行きよ!!」

 

 

ナツの提案にビートとハッピーは賛同するが、ルーシィが即却下した。

 

 

「一体何なんですか?その本は………」

 

 

「どーでもいいじゃねーか。20万だぞ、20万!」

 

 

「…………いえ、その倍をお払いします。報酬金は200万Jです」

 

 

「にっ!?」

 

 

「ひゃっ!?」

 

 

「くぅ!?」

 

 

「まんっ!?」

 

 

あまりにの金額に一行は驚愕する。依頼書には確かに20万と書いてあったが、それの倍の金額を払うとはどう言うことだろうか………。

 

 

「ちょ、ちょっと待て!3等分すると………おおお計算出来ん!!」

 

 

「簡単です!オイラが100万、ナツとビートが50万ずつ、残りがルーシィです」

 

 

「頭いいなハッピー!」

 

 

「残らないわよ!!」

 

 

「何言ってんだよハッピー」

 

 

「そうよ!ビートも反論して!」

 

 

「俺、ナツ、ハッピーで50万ずつ、残りはジャンケン大会って決まってるよ」

 

 

「決まってないわよ!!!」

 

 

「み、みなさん落ち着いて………」

 

 

200万と聞いて軽くパニックを起こす一行。何故報酬金を上げたのかはそれだけあの本を破棄したいためだと。存在自体が許せないからその倍を出すとのこと。

するとあまりにも興奮で顔自体が燃え始めたナツはルーシィとビートの腕を掴んで飛び出す。

 

 

「行くぞルーシィ!ビート!!燃えてきたぁ!!」

 

 

「ちょ、ちょっとナツ!!」

 

 

「ワックワクしてきたぁ!!」

 

 

一行が部屋から出て行き、残されたのはカービィとその妻だけになった。

 

 

「貴方、本当にあんな子供達に任せて大丈夫なの?警備の強化は当然です。屋敷に入るすらどうか………」

 

 

「わかっている………だが………あの本だけは………この世から消し去らねばならないのだ………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一行はエバルー公爵の屋敷まで到達し、ルーシィが玄関前で声を掛けていた。ナツ、ビート、ハッピーは近くの木の陰に隠れてその様子を見守っている。

要はエバルー公爵に気に入って貰えればの話。全てはルーシィに掛かっていた。

すると彼女の足元が急に盛り上がり、何かが突き破って出てきた。

 

 

「アンタがメイド志望の女?」

 

 

それは軽く2メートルは超えの巨漢に見間違えるぐらいの女性だった。誰でもその者の第一印象はこう言うだろう。

ゴリラ女と。

 

 

「御主人様、募集広告を見て来たそうですが………」

 

 

「うむ」

 

 

彼女が現れた穴から声がするとその者も穴から飛び出て来た。

ニンマリとした顔立ち、ダルマのような体躯に細い四肢。中央に大きなボタンが特徴的である。

この者がエバルー公爵であろう。

 

 

「ボヨヨーン!我輩を呼んだかね?」

 

 

「(で、出た!!)」

 

 

見た目からしてスケベ臭が漂うエバルー公爵。彼はルーシィを自身のメイドに相応しいか見定める。

彼女はにこやかな表情でアピールする。彼から放つ視線に思わず鳥肌が立つがなんとか耐えろと必死に自身を応援する。

そして出た結果が………。

 

 

「いらん!帰れブス」

 

 

「ブッ!?」

 

 

玉砕であった。

何故なら………。

 

 

「我輩のような偉〜〜〜〜〜〜い男には、美しい娘しか似合わんのだよ」

 

 

彼の鯖の地面から4人の女性が現れる。

 

 

「まぁ、御主人様ったらぁ」

 

 

「お上手なんだからぁ」

 

 

「うふ〜ん」

 

 

「ブスは帰んな!しっしっ!」

 

 

しかしどれも顔の凹凸が激しい女性であった。100人中100人がブスと答える程の。エバルー公爵は異常性癖だった。

 

 

「あちゃーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

元の私服に着替えたルーシィは二人が見守っていた木で膝を抱えて泣いていた。

 

 

「使えねぇな」

 

 

「違うのよ!!エバルーって奴、美的感覚がちょっと特殊なの!!!」

 

 

「言い訳だ」

 

 

「キィーーーーーーー!!くやしーーーーーーー!!」

 

 

相当悔しかったのか自身の髪をバリバリ掻く。

そしてビートに向き変えると迫るように近づいた。

 

 

「ねぇ!私かわいいよね!!かわいいよね!!よね!!」

 

 

「す、すまねぇ。俺そう言うのはちょっと分かんなくて………ルーシィがかわいいと思ったらかわいいと思うよ」

 

 

「一番ムカつく返しされたーーー!?腹立つーーーーーーー!!」

 

 

恋愛感情やかわいいものなどにあまり興味なかったビートに悪意のない返事をされて余計に怒りが上がった。

 

 

「こうなったら作戦Tに変更だ!!」

 

 

突撃(TOTUGEKI)ーーーーーーー!!」

 

 

「あのオヤジ絶対に許さん!!………って言うかそれって作戦?」

 

 

「突撃ーーーーーーーー!!」

 

 

「まだ行くな!!」

 

 

こうして一同は屋敷に乗り込んで本を盗むことになった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

屋敷内

 

 

「性懲りもなくまた魔導士どもが来おったわい。さーて、今度はどうやって殺しちゃおっかね。ボヨヨヨヨ!」

 

 

エバルーが高らかに笑う玉座の後ろに3人の男が佇んでいた。

 

 



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其の6 潜入、エバルー邸

エバルーの屋敷に直接乗り込むことになった一行。

ビートの背中にナツが乗り、羽を生やしたハッピーがルーシィを抱えて屋敷のバルコニーに着地した。

 

 

「何でこんなコソコソ入らなきゃいけねぇんだ?」

 

 

「決まってるじゃない!依頼とはいえ泥棒みたいなモンなんだから」

 

 

「わかってないなぁルーシィは。作戦Tは突撃のTだ。真正面から突き破って邪魔する奴はぶっ飛ばす」

 

 

「ダメッ!!」

 

 

「んで、俺の炎で本を燃やす」

 

 

「だからそれじゃダメだって!!アンタら今まで盗賊退治やら怪物退治やらいくつかの仕事をしていたか知らないケド、今回は街の有力者よ!下手したら軍が動くわ」

 

 

「何だよお前だって許さんとか言ってたじゃないか」

 

 

「ええ!許さないわよ!!あんな事言われたし、だから本燃やすついでにアイツの靴とか隠してやるのよ!!」

 

 

「うわー小っさ………」

 

 

「あい」

 

 

「弱気すぎる………」

 

 

拳をプルプル震わすルーシィだが、発想が小学生以下である。

 

 

「とにかく暴力ば絶対にダメよ?わかった?」

 

 

「「…………( ・᷄ὢ・᷅ )」」

 

 

「何よその顔は!!」

 

 

むっすりする二人の頭上に手刀を入れるルーシィ。言っている事とやっている事が逆である。人はそれを矛盾と言う。

結局ナツが熱した手で窓ガラスを溶かして鍵を開けて一行は侵入した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

うまく屋敷内に潜入できた一行は日の出(デイ・ブレイク)がありそうな部屋を一つ一つ見回っていた。

 

 

「なぁ、これを毎回するのか?」

 

 

「当たり前でしょ」

 

 

「誰かとっ捕まえて本の場所聞いた方が良くね?」

 

 

「あい」

 

 

「見つからないように任務を遂行するのよ。忍者みたいでカッコいいでしょ?」

 

 

「忍者………」

 

 

「忍者かぁ………」

 

 

忍者と言うワードを聞いて二人は若干テンションが上がった。壁に張り付いて次の部屋に進もうとすると床が盛り上がった。

床を突き破って5人のメイド達が一斉に飛び出して来た。

 

 

「侵入者、発見」

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「ハイジョ、シマス………。」

 

 

「おおおおおおっ!」バッバッバッ

 

 

「かぁ、キメェ!!ヤダお前!!」ガッポチッ

 

 

凄まじい絵面に驚愕しながらもナツはマフラーを顔に巻きつけ、ビートは何処から持ち出したのかガスマスクのような仮面を付ける。

 

 

「「忍者ぁ!!!」」

 

 

『ウゴォッ!?』

 

 

「はいいいいいいいい!?」

 

 

ナツは足に炎を纏って、ビートも拳を使ってメイド達を吹き飛ばした。

 

 

「まだ見つかる訳にはいかんでござるよ。にんにん」

 

 

「その通りでござる!」

 

 

「にんにん!」

 

「普通に騒がしいからアンタ達………。って言うかビートのソレは何処から………?」

 

 

「さっきの物置にあった」

 

 

「そ、そう………って、いけない!きっと誰か来るわ!どっかの部屋に隠れましょ!」

 

 

「来るなら来いでござる」

 

 

「返り討ちにしてやるでござる」

 

 

「いいから隠れるの!!」

 

 

ルーシィは二人を引きずるように連れて行き、近くの部屋に隠れた。一行が入った部屋は部屋の周りが沢山の本棚が置いてある書斎だった。

ナツとビートは興奮して本を探りまくる。一方でルーシィは一つ一つ見て回った。

 

 

「エバルー公爵って頭悪そうな顔してるけど蔵書家なのね。」

 

 

「探すぞーーーーーー!!」

 

 

「あいさーーーーーーー!!」

 

 

「よっしゃーーーーーーー!!」

 

 

「これ………全部読んでるとしたらちょっと感心しちゃうわね………」

 

 

「うほっ!エロいのみっけ!!」

 

 

「魚図鑑だ!!」

 

 

「何だこれ………Dr.スランプ?変な名前の科学者」

 

 

「はぁーこんな中から一冊を見つけんのはしんどそう………」

 

 

「何だこれ、字ばっかだな」

 

 

「ナツ………普通はそうだよ」

 

 

「おおおっ!?こっちには金の本がーーーーー!!」

 

 

「ウパーーーーーーー!!」

 

 

「アンタら真面目に探しなさいよ!!ていうかウパ?」

 

 

ビートが持っている金色の本をタイトルを見るとそこには………。

 

 

日の出(デイ・ブレイク)………。あ!これじゃないか!?探してる本って!!」

 

 

「それだ!!」

 

 

「見つかったーーーーーー!!」

 

 

「こんなあっさり見つかっていい訳!?」

 

 

「よし!早速燃やすか!ビート、その本くれ。」

 

 

「うい。」

 

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

 

ビートがナツに渡そうとするとルーシィがビートから取り上げて本の筆者に注目した。

 

 

「こ、これケム・ザレオンのじゃない!!」

 

 

「ケム………?」

 

 

「知ってんの?」

 

 

「魔導士でありながら小説家だった人よ!何でこんなところにケム・ザレオンの本が!?私この人の本は全部読んだつもりなんだけど………もしかして未発表の小説かしら!?」

 

 

「なぁ………盛り上がってるところ悪いけどそれ早く燃やさない?」

 

 

「何言ってるの!?燃やすなんてとんでもない!!」

 

 

「仕事放棄だ」

 

 

「未発表だって言ってるでしょ!?」

 

 

「今度は逆ギレか………」

 

 

ルーシィが本を燃やしたくないとごねていると何処からともなく声が聞こえた。

床が盛り上がってそこから現れたのはやはりエバルー公爵だった。

 

「ボヨヨヨヨ。泳がしていた甲斐があった。貴様らの狙いは日の出(その本)だったんだな?」

 

 

「出た!!」

 

 

「もたもたしてっから!」

 

 

「ご、ごめん………」

 

 

「(この屋敷の床って一体どうなってるの………?)」

 

 

「魔導士が必死になって何を探しているのかと思ったら………そんな下らない本を………」

 

 

「下らない?」

 

 

依頼主が200万ものの大金を払ってでも破棄したい本なのにエバルーまでも下らないと言う本に益々ルーシィは疑問に思う。

 

 

「そ、そんなに言うんならこの本もらっていいでしょ?」

 

 

「ヤダネ。下らない本でも我輩のものは我輩のもの」

 

 

「ケチ」

 

 

「うるさいブス」

 

 

「燃やしちまえばこっちのもんだ!」

 

 

「ダメ!絶対ダメ!!」

 

 

「そんなこと言っている場合か!」

 

 

「ルーシィ!仕事だぞ!!」

 

 

「……………じゃあせめて読ませて」

 

 

『ここで!?』

 

 

正座して読み始める彼女にエバルーも驚愕する。

 

 

「ええい!この我輩の本に手を出すとは!!来い!バニッシュブラザーズ!!」

 

 

彼の声と共に本棚の一部が動き始める。

本棚が横に動くとそこは隠し扉になっていて中から二人の人影が現れる。

 

 

「やっと仕事(ビジネス)時間(タイム)か………」

 

 

「仕事もしねぇで金だけもらってちゃママに叱られる………」

 

 

「グッドアフタヌーン。」

 

 

「こんかガキ共があの妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士かい?そりゃあママも驚くぜ………」

 

 

隠し扉から出てきたのは顔に左右上下と書かれて背中に巨大なフライパンを背負った男とバンダナをした大男だった。

 

 

「あの紋章!傭兵ギルドの南の狼だよ!!」

 

 

「傭兵か………」

 

 

「こんな奴等を雇っていたのか?」

 

 

「ボヨヨヨヨ!南の狼は常に空腹なのだ覚悟しろよ?」

 

 

新たに敵が現れたことによってナツとビートは戦闘態勢に入る。向こうも身構え始める。互いに交錯し緊迫な空気が流れる。

 

 

『…………………』

 

 

 

「…………」ジィー

 

 

 

『おいっ!!』

 

 

そんな中でまだ正座して黙読するルーシィに全員がツッコんだ。

彼女の態度が気に食わなかったのかイライラし始めるバニッシュブラザーズ。

 

 

「バニッシュブラザーズ!あの本を奪い返し、殺してしまえ!!」

 

 

エバルーの指示により、今度こそ戦闘態勢に入る。するとルーシィは何かに気付きその場を離れる。

 

 

「二人共!時間を頂戴!!この本には何か秘密がある!!」

 

 

「は?」

 

 

「秘密?」

 

 

「ルーシィ!何処行くんだよ!!」

 

 

「どっか読ませて!!」

 

 

「時間稼ぎか……わかった!!」

 

 

「(ひ、秘密だと……?も、もしや()()()財宝の地図でも隠したか!?こうしちゃおれん!)作戦変更じゃ!あの娘は我輩が追う!バニッシュブラザーズはそっちの相手をしておれ!!」

 

 

そう言うとエバルーはドリルのように床を掘って消えていった。

ナツとビートは準備運動をし始めるが………。

 

 

「ビート、ハッピー。お前らはルーシィを追え」

 

 

「な、ダニィ!?」

 

 

「向こうは二人だよ!?オイラ達も加勢する!」

 

 

「んや、一人で十分だ」

 

 

「…………わかった!!でもナツも気をつけろよ!!」

 

 

「頼んだぞ二人共ーーーーーー!!」

 

 

ビート、ハッピーは彼女が出て行った扉から飛び出して行った。

 

 

「さてと………ようやく落ち着いたな」

 

 

来い(カモン)!火の魔導士!!」

 

 

「ん?何でそんなこと知ってるんだ?」

 

 

「フフフ、物置に置いてあった監視水晶で見ていたのだよ……」

 

 

「あの娘は鍵………所有(ホルダー)系魔導士だな。契約数は7。空を飛んだ猫は疑うまでもなく能力(アビリティ)系の(エーラ)………。もう一人の小僧は格好からして武道家………」

 

 

「そしてお前はガラスを溶かして足に火を纏った………能力(アビリティ)系の火の魔導士で間違いないだろう………。」

 

 

「よく見てんなぁ」

 

 

最初に侵入した物置から全ては見透かされていたのだ。しかしナツは右手に炎を纏って挑発する。

 

 

「じゃあ覚悟はできてるってことだな。黒焦げになる………」

 

 

「残念ながらできないと言っておこう」

 

 

そう言うと背中に携えていた巨大なフライパンを取り出す。

 

 

「何故なら火の魔導士は(ミー)の最も得意とする相手なのだからな」

 

 

「…………ふーん」

 

 

果たして一行はエバルー邸から脱出出来るとだろうか?次回を待て!

 

 

 



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其の7 バニッシュブラザーズ

エバルー邸に潜入し、目的の 日の出(デイ・ブレイク)を手に入れたナツ達。しかしそれは一行を泳がすための罠だった。エバルーはナツ達の為に傭兵ギルドの南の狼『バニッシュブラザーズ』を仕向けた。

ナツはバニッシュブラザーズに勝つことが出来るのだろうか………。

 

 

 

「どうやら妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士は自分達こそが最強と勘違いしているらしい……」

 

 

「まぁ確かに噂は色々聞く。魔導士ギルドとしての地位は認めよう」

 

 

「…………が、所詮は魔導士」

 

 

「戦いのプロの傭兵には敵わない………」

 

 

「だったら早くかかって来い。二人一緒でいいぞ?」

 

 

ナツは挑発するかのように、指から炎を出して『come on』と文字を出す。

 

 

「………兄ちゃんマジでコイツ舐めてるよ………」

 

 

「相手が(ミー)の得意な火の魔導士とあっては、簡単(イージー)仕事(ビジネス)になりそうだな………」

 

 

そう言うと三つ編みの男はフライパンを構えてナツに駆け出す。振り下ろされるフライパンを跳躍して躱すが、大男がナツの襟元を掴んで壁に向かって投げつけた。

壁を突き破って書斎から広間に移った。落ちそうになりながらも手摺りを掴むが、空かさず三つ編みの男がフライパンを振り下ろす。

手摺りから離れて一階に着地する。三つ編みの男が大男と並んでナツを見下ろすように佇んだ。

 

 

「………貴様は魔導士の弱点は何なのか知っているか?」

 

 

「の、乗り物に弱い事か………!?」

 

 

「…………それは個人的な事では?」

 

 

自身の弱点を突かれたと思って焦るナツだが、答えが違ったようだ。

 

 

「正解は………肉体だ」

 

 

「肉………体?」

 

 

三つ編みの男と大男が攻撃を仕掛けながら話し出す。

魔法とは知力と精神力を鍛練せねば身につかないもの。その結果、魔法を得るには肉体の鍛練は不足とする。即ち、日々肉体を鍛えている彼等には、『力』も『速さ』も遠く及ばない。

昔こんな話があった。相手を骨を砕く呪いの魔法を何年もかけて習得した魔導士がいた。

彼等はそんな魔導士と対峙した時に、呪いをかけるより早く一撃で逆に骨を砕いてやった。何年ものの努力がたった一撃で崩れ落ちた。

 

 

「それが魔導士というものだ」

 

 

「魔法がなければ普通の人間並みの力も持ってねぇ」

 

 

「…………そーゆーワリには全く攻撃が当たってねぇぞ?」

 

 

実際にそうである。彼等が長々と話している際には全然彼等の攻撃は一度たりとも当たっていなかった。

 

 

「………成る程、スピードは大したものだな。少しは鍛えているな?」

 

 

「ならば…………合体技だ!!」

 

 

「OK!!」

 

 

「?」

 

 

「余裕こいてられるのも今のうちだ小僧!!オレたちが何故バニッシュブラザーズと呼ばれているかわかるか!?」

 

 

「『消える』、そして『消す』からだ」

 

 

「ゆくぞ!!天地消滅殺法!!」

 

 

「HA!!!」

 

 

大男が三つ編みの男のフライパンの上に乗ると、料理をひっくり返すが如く高く打ち上げた。ナツは打ち上げられた大男の方に視線が行く。

 

 

(うえ)を向いたら(した)にいる!!」

 

 

「ごあっ!?」

 

 

横薙ぎにされてフライパンをモロに喰らったしまう。ナツは三つ編みの男を向くが、大男が既にナツを捉えていた。

 

 

(した)を向いたら(うえ)にいる!!」

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

落下してきた大男に床に叩きつけられた。

 

 

「相手の視界から味方を消し、敵は必ず消し去る………」

 

 

「これぞバニッシュブラザーズ合体技『天地消滅殺法』!!」

 

 

「これを喰らって生きた奴は………」

 

 

「………よっ」

 

 

「「っ!?」」

 

 

「生きた奴は………何?」

 

 

「ば、馬鹿な!?コイツ本当に魔導士かっ!?」

 

 

あれだけの攻撃を喰らってもなお、彼はケロっとしていた。ナツは反撃するかの如く口を膨らませて炎を放つ。

 

 

「火竜の咆哮!!」

 

 

「来た!火の魔法!!」

 

 

「終わったな」

 

 

三つ編みの男はフライパンを裏にするとナツの放った炎がどんどん吸い込まれていく。

 

 

「対 火の魔導士専用、兼必殺技!火の玉料理(フレイムクッキング)!!」

 

 

「っ!?」

 

 

(ミー)の平鍋は全ての炎を吸収し………。威力を倍加させて噴き出す!!」

 

 

そのまま一回転してフライパンの表から炎が噴き出た。ナツは全身に浴びてしまう。

 

 

「妖精の丸焼きだ!飢えた狼には丁度いい!!」

 

 

「炎の魔力が強ければ強い程自身の身を滅ぼす。グッバイ………」

 

 

勝利を確信したバニッシュブラザーズ。

しかし炎から何かが飛び出してきた。全身に炎を纏ったナツだった。その放った炎が自身のであれば平気なのだ。

 

 

「何!?」

 

 

「火が効かないだと!?いくら火の魔導士でもそれは………!!」

 

 

「聞こえなかったか?」

 

 

ナツは二人の顔を鷲掴みにする。

 

 

「吹っ飛べ!!」

 

 

瞬間、彼の両手に炎が纏われる。噴き出た炎、火竜の翼の如し。

 

 

「火竜の翼撃!!」

 

 

バニッシュブラザーズはナツの炎によって丸焼きにされた。

 

 

「な、何だこの魔導士は………」

 

 

「マ、ママァ………妖精さんが見えるよぉ………」

 

 

「しっかりしろ!ていうかもう無理か!?」

 

 

打ち上げられた二人は虚しく地面に落ちた。ナツは一息つくとルーシィ達を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くに伸びていたメイドゴリラの目が光ったことも知らず………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「クッソ!!何処に行ったんだルーシィの奴!!」

 

 

「魔力を探れない?」

 

 

「小さすぎて分からん!!」

 

 

「サラッと失礼なこというねビート」

 

 

一方ナツと別れたビートとハッピーはルーシィを探していた。エバルーから守る為だが、当のルーシィが見つからずにいた。色んな場所を走り回っていたが、中々見つからない。

 

 

「ルーシィとやらは地下の下水道に行ったぜ?」

 

 

突然知らない声がして警戒するビートとハッピー。すると柱の陰から一人の男が現れた。

緑色の道着を身に纏い、胸の中央には大きい丸の中に『樂』とマークが入っていた。更にはザンバラの長髪であった。

 

 

「あのマーク………アイツ『砂漠の狼』のヤムチャだよ!!」

 

 

「また狼かよ………。お前もアイツらの仲間か?」

 

 

「バニッシュブラザーズのことか………アイツらとはよく仕事仲間として会っているが、アイツらのギルドに入ってはない。ただの傭兵さ」

 

 

「気を付けて!アイツは相当の手練れだよ!!あのバニッシュブラザーズ以上だとか!」

 

 

「………成る程な………。ハッピー、お前は先に行け」

 

 

「え!?でも………」

 

 

「何でかな………コイツと戦うと考えると体が疼いてたまらねぇんだ」

 

 

「………わかったよ!でもビートも気を付けてね」

 

 

「おう」

 

 

ハッピーは羽を使ってヤムチャの横を通り過ぎる。

 

 

「………追わないのか?」

 

 

「いいんだ。俺もお前と戦えるとなると心が疼いてしょうがないんだ。だろ?『妖精のサイヤ人』さんよぉ?」

 

 

「………知ってるんか?俺のこと」

 

 

「それなりに知れ渡っているさ。相当な腕を持つ武道家だと………。さてと………そろそろ始めるか」

 

 

両者身構えて戦闘態勢に入る。ビートも巻いていた尻尾を外す。

 

 

「お遊びはいい加減にしろってところを見せてやるぜ」

 

 

「へへっ。オレ、ワクワクして来たぞ!」

 

 

妖精のサイヤ人対砂漠の狼。どちらが勝つのか!?ビートの運命はいかに!?

 

 

 

 




ちょっとした豆知識。
ビートは普段は目立たないように尻尾を腰に巻いているが、戦闘になると腰から外す。


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其の8 本の真実

拳と拳がぶつかり合って凄まじい破裂音が響き渡る。ビートが対するのは砂漠の狼ことヤムチャ。自身よりも大きな体躯で壮絶な戦いを繰り広げていた。

 

 

「妖精のサイヤ人と戦えるなんて光栄に思うぜ!!」

 

 

「それは嬉しい限りだ………なっ!!」

 

 

正拳を放つビートだが、跳躍して宙返りし、彼の裏を描き、逆に正拳突きを喰らって柱に激突する。背中をさすりながらも床を蹴ってヤムチャに攻撃を仕掛ける。

飛び蹴りを放つが、少し動いただけで躱され、足を掴まれて投げられる。横転しながらも体勢を立て直し、再び対峙する。

 

 

「どうした?もっと本気でやっていいんだぜ?」

 

 

余裕を見せるヤムチャ。その言葉にビートは驚愕する。

 

 

「え?いいの?じゃあ………」

 

 

ビートの両手が青色の光が纏い、気功弾を作り出す。

 

 

「え?」

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

 

「ほんぎゃああああああああああああああああああ!?!?」

 

 

呆気に取られていたヤムチャに容赦なくグミ撃ちをした。煙が晴れると中から少し汚れたヤムチャが出て来た。

 

 

「お、お前!!気功弾を使うなんて聞いてないぞ!!」

 

 

「え、だってお前が本気で来いなんて言うから………」

 

 

「俺は拳法家なんだぞ!?そんなマシンガンみたいに撃ってきたら流石の俺でも対処出来んわ!!」

 

 

「マシンガン撃ちじゃない、グミ撃ちだ」

 

 

「どうでもいいわ!!」

 

 

何処かギャグ調になってしまって調子が狂うヤムチャ。しかし向こう本気になったのか見たことのない構えをする。

 

 

「しょうがない………もう少し長引こうと思ったが終わらせて貰うぞ!」

 

 

「!?」

 

 

「喰らえ!狼牙風風拳!!」

 

 

獣のような低姿勢から高速で間合いを詰め、ビートに拳のラッシュを浴びせる。それは幻か、彼の背後に一匹の狼が現れていた。胸に集中的に拳を浴びせ、最後には両腕を合わせて吹き飛ばした。

 

 

「はいぃぃぃぃ!!」

 

 

石柱に激突し、亀裂が走って崩れる。ビートは瓦礫に埋もれる形になってしまった。

 

 

「終わったな………。悪く思うなよ?お前が俺にマシンガンみたいに撃って来るから「マシンガン撃ちじゃないグミ撃ちだ。」!?」

 

 

瓦礫からにゅっとビートが出て来る。しかもその顔は怒っていた。

 

 

「お前〜。タンコブ出来たらどうすんだよ!!」

 

 

「いや、出来てるぞ………」

 

 

「あったま来た!!お前が狼牙ほにゃらら拳ならこっちは………『ジャン拳』だ!!」

 

 

「ジャン………ケン?」

 

 

「行くぞーー最初は………」

 

 

ヤムチャに向かって駆け出す。

 

 

「グー!!」

 

 

拳を放つビートだが、ヤムチャは同じく拳を突き出して防御する。ニヤリと笑うがこれだけではない。

 

 

「チョキ!!」

 

 

潰れないようにヤムチャの両眼にチョキの形をして目に触れる。

 

 

「ぐぁっ!?目がっ!?」

 

 

「パーー!!!」

 

 

最後には掌底打ちを放って吹き飛ばし、石柱に激突してしまった。

ヨロヨロと起き上がって再び対峙する。

 

 

「ふ、ふざけた技を………」

 

 

「あり?まだ倒れねぇか」

 

 

「当たり前だっ!!そんなふざけた技で倒されちゃ俺の名が廃る!!」

 

 

「………よぉーし、なら俺のとっておきを見せちゃるわ!!」

 

 

「とっておきだと………うおっ!?」

 

 

「そぉーい!!」

 

 

ビートは一瞬にしてヤムチャとの距離を詰め、彼を高く投げた。そして自身も跳躍してヤムチャよりも高く上がる。両腕をXのようにするとそのまま落下し、ヤムチャを捉える。

 

 

「しまっ!?」

 

 

「天空X(ペケ)字拳!!!」

 

 

両腕は腹にめり込み、彼を地面に叩き付けた。

 

 

「………つ、強いな………お前………」

 

 

「………いや、まだまださ。もっともっと強くなって強い奴と戦うんだ!!」

 

 

「へ、へへっ。そういうところ嫌いじゃ………ないぜ」

 

 

そう言い残すとガクリとヤムチャは気絶した。

 

 

「ふう………やっべ!ルーシィのところに行かないと!!」

 

 

ビートは大急ぎで地下水へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「最低よアンタは!!文学の敵ね!!」

 

 

「ボヨヨヨヨ。我輩が文学の敵だと?」

 

 

地下水道にてルーシィはエバルーと対峙していた。ハッピーとは無事に合流し、2対1となって形成逆転に見えるが、ルーシィはエバルーに対して葛藤した。

彼女はエバルーに見つかる前に日の出(デイ・ブレイク)を全て読み終わったが、あることがわかった。本の内容はエバルーが主人公の冒険小説だが、酷かった。構成もめちゃくちゃで普通のファンならガッカリするレベルで。

この筆者のシリーズを全部読んだつもりのルーシィだが、この本の存在は知らなかった。

何故ならこの日の出(デイ・ブレイク)は無理矢理書かせたものだから。

 

 

「それが何か?書かぬと言う方が悪いに決まっておる!!」

 

 

「なにそれ………」

 

 

「偉ーい我輩を主人公に本を書かせてやると言ったのに、あの馬鹿断りおった」

 

 

そしてエバルーは言ったのだ。

書かないのなら親族全員の市民権を剥奪すると。市民権を剥奪されると商人ギルドや職人ギルドすら加入することが出来ない。普通はあり得ないだが、封建主義の土地はまだ残っているのだ。エバルーでもこの辺りだと絶対的な権力を奮っている。結局彼は書いた。ただし独房で書かされた。それも3年も。

 

 

「彼がどんな想いでいたのかわかる!?」

 

 

「我輩の偉大さに気付いたのだ!!」

 

 

「違う!!自分のプライドとの戦いだった!!書かなければ家族の身が危ない、だけどアンタみたいな大馬鹿を主人公にした本なんて………作家としての誇りが許さない!!」

 

 

「………貴様、何故それほど詳しく?」

 

 

「全部この本に書いてあったわ」

 

 

「それなら我輩も読んだが、ケム・ザレオンなんて一回も出なかったぞ!!」

 

 

「勿論普通に読めばファンもがっかりな駄作よ。でも、ケム・ザレオンは元々魔導士」

 

 

「ま、まさか!?」

 

 

「彼はこの本に魔法をかけた」

 

 

「ま、魔法だと!?それを解いたら我輩への怨みを綴った文章が現れる仕組みだったのか!?なんともけしからん!!」

 

 

「発想が貧困ね。確かにこの本が完成するまで経緯は書かれていたけどそんなものじゃないわ!本当の秘密は別にあるんだから」

 

 

「何!?」

 

 

「だからこの本は渡さない!!て言うかアンタが持つ資格無し!!開け巨蟹宮の扉!!」

 

 

6つのうちの金色の鍵が光り出して星霊が現れる。

 

 

「キャンサー!!」

 

 

背中に6本の蟹の足に、蟹の手のような髪型を持ち、床屋のような格好をした男が現れた。

その両手には散髪用のハサミが握られていた。

 

 

「オイラ知ってる!絶対語尾に『カニ』って言うんでしょ!!お約束って奴だね!」

 

 

「ルーシィ、今日はどの髪型にするエビ?」

 

 

「エビーーーーーー!?」

 

 

「戦闘よ!あのヒゲオヤジをやっつけちゃって!!」

 

 

「OKエビ」

 

 

想定外の語尾に一人しょんぼりするハッピーを尻目にキャンサーは構える。

 

 

「(別の秘密だと!?まさか我輩の事業の数々の裏側でも書いてあるのか!?マズイぞ!評議員の検証魔導士にそれが渡ったら我輩は終わりだ………!!)」

 

 

そう思ったエバルーはポケットから何かを取り出した。

 

 

「開け処女宮の扉!!」

 

 

「え!?」

 

 

それはルーシィと同じ星霊の鍵だった。しかも黄金十二門の。エバルーはルーシィと同じ星霊魔導士だったのだ。

 

 

「バルゴ!!」

 

 

現れたのはあのメイドゴリラだった。彼女は星霊だった。

 

 

『あ!?』

 

 

そして一同は別の意味で驚愕する。メイドゴリラもとい、バルゴの背中にナツもいた。

 

 

「アンタ何で!?」

 

 

「いや、コイツが動き出したから後つけてきたらいきなり………」

 

 

「つけてって言うか………掴んででしょ!?まさか星霊界を通過して来たの!?ありえないって!?」

 

 

「ルーシィ!俺はどうすればいい!?」

 

 

「そいつをどうにかして!!」

 

 

「おう!!オラ、眠っとけやぁっ!!」

 

 

ナツは火竜の鉄拳でバルゴを殴り付ける。しかしバルゴはすぐに起き上がった。

 

 

「はははは!!そんな程度で沈まん!!行けバルゴ!!邪魔者を一掃して………」

 

 

「ダァリャアッ!!と出してきたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「ウゴォッ!?」

 

 

「んなーーーーーーーーー!?」

 

 

「わーーーーーーどっかで見たことあるーーーーーーーーー!?!?」

 

 

今度は何処からともなくビートがバルゴの腹部に向かってミサイルのように突っ込んで来た。

 

 

「よっしゃあ!!着いたぜ!!ん?この状況は何だ?」

 

 

「ビート!アンタもアイツをどうにかして!!」

 

 

「そうはさせんぞ!!バルゴよ!やってしま「ぬおおおォォォォォォォォ!!」お、お、お?」

 

 

エバルーが命令する前に彼は両腕でバルゴの右腕を掴む。するとだんだんバルゴが宙に浮き始める。

 

 

「オラァッ!!!」

 

 

「なぬーーーーーーーーー!?!?」

 

 

そしてそのまま一本背負いの形でバルゴを地面に叩き付けた。流石のバルゴも耐え切れず失神してしまう。なす術が無くなったエバルーにルーシィが腰に携えていた鞭で彼の首に巻き付け、宙に投げる。

 

 

「アンタなんか脇役で十分よっ!!」

 

 

「ほぎょおぁっ!?」

 

 

瞬間、宙に舞ったエバルーをキャンサーが切り刻んだ。他に落ちた途端、髪や髭が無くなり、綺麗な坊主が出来た。

 

 

「つ、強ぇーーー………」

 

 

「流石は妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士だな!」

 

 

「あい!」

 

 

ルーシィは大事に日の出(デイ・ブレイク)を抱いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「これは………どういう……私は本の破棄を頼んだのですが………」

 

 

エバルー邸を後にした一行は本は燃やさず、カービィの元に向かった。

 

 

「破棄するのは簡単です。カービィさんだってできます」

 

 

「………なら私が焼却します」

 

 

彼女から本を奪うが、話を続ける。

 

 

「貴方が何故この本を許せないかわかりました…………父の誇りを守る為です。貴方はケム・ザレオンの息子ですね」

 

 

「父って………」

 

 

「パパーーー!?」

 

 

屋敷に戻る時もルーシィは二人に話さなかったので驚愕する。カービィも例外ではなかった。

 

 

「………何故それを?」

 

 

「この本を読んだことは?」

 

 

「………父から聞いただけで一度も………。しかしこんなの読むまでもありません。駄作だと父が言っていた」

 

 

「だから燃やすって?」

 

 

「………そうです」

 

 

「つまんねぇから燃やすってそりゃああんまりじゃねぇのか!?おおっ!?父ちゃんが書いた本だろ!!!」

 

 

「待て待て落ち着けナツ!!言ったろ誇りを守る為だって!!」

 

 

掴みかかろうとするナツをビートが必死に押さえつける。

 

 

「彼の言う通りです………父は日の出(デイ・ブレイク)を書いた事を恥じていました………」

 

 

遡る事31年。

失踪した父が3年ぶりに突然帰宅して来た。彼は物置から縄と斧を持ち出し、自身の右腕を縛って自ら斧で切断した。

その後直ぐに病院に搬送した。その際に尋ねた。何故日の出(デイ・ブレイク)を書いたのかと。

父は言った、金が良かったと………。その結果、最低の駄作に仕上がったと。

 

父が自殺したのは病院から立ち去ってすぐ後だった。死んだ後も3年間も家族を放っておいた父を憎んでいた………。

 

 

「………しかし憎しみは後悔に変わってしまいました………。私があんな事言わなければ父は死んでなかったかもしれない………。だからせめてもの償いに父の遺作となったこの駄作を……父の名誉の為、この世から消し去りたいと思ったのです」

 

 

カービィはポケットからマッチを取り出して火をつけて本に近づける。

 

 

「これできっと父も………」

 

 

火が接触しようとした瞬間、それは突如として起きた。本が輝き出し、表紙の文字が浮かび出した。

 

 

「ケム・ザレオン………いえ、本名はゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけました」

 

 

「ま、魔法?」

 

 

浮かんだ文字が入れ替わり、違うスペルになる。『DAY BREAK』から『DEAR KABY』へと。

 

 

DEAR KABY(親愛なるカービィ)?」

 

 

「そう……彼のかけた魔法は文字が入れ替わる魔法です。中身も同じく………」

 

 

本が一人でに開き、中の文字が飛び出して来た。文字が宙に舞うその光景は何処か幻想的に感じた。

 

 

「彼が作家をやめた理由は………最低な本を書いてしまった事の他に………最高の本を書いてしまったかもしれません………カービィさんへの手紙という最高の本を………」

 

 

「すげぇ!!」

 

 

「文字が踊ってるよ!!」

 

 

文字が再び本に戻ってカービィの手に渡る。

 

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

 

彼は1ページずつ見てみるとそれは最高の傑作だった。

 

 

「………私は父を……理解できてなかったようだ………」

 

 

思わず涙してしまう程の。

 

 

「当然です作家の頭の中が理解できたら、本を読む楽しみがなくなっちゃう」

 

 

「………ありがとう………それならこの本を燃やせませんね………」

 

 

「じゃあオレたちも報酬はいらねーな!」

 

 

「あい!」

 

 

「え?」

 

 

「はい?」

 

 

「俺達の依頼は『本の破棄』。依頼が達成してません」

 

 

「い、いやしかし。そういうわけには………」

 

 

「そ、そうよ。好意なんだし………ここは頂いて………」

 

 

「あーールーシィがめつーーー!さっきまで結構いい話だったのに全部チャラだ」

 

 

「それはそれ!!」

 

 

「そんなんじゃ筋斗雲に乗れないぞ」

 

 

「何を言ってるのよアンタは!!」

 

 

「兎に角いらねぇもんはいらねぇよ。おっさんも早く帰れよ?()()()

 

 

「っ!」

 

 

「え?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「信じらんなーい!普通チャラにするかしらー!!200万よ200万!!」

 

「依頼達成してねーのに金貰ったら妖精の尻尾(フェアリーテイル )の名折れだろ?」

 

「あい」

 

 

「全部上手くいったんだからいいじゃないのーーー!!」

 

 

「そんなこと言ってるとアクマイト光線で体が破裂するぞ?」

 

 

「だから何を言ってるのよアンタはーーー!!」

 

その後一行は徒歩で帰路に着いていた。

実はあのカービィの屋敷は友人から借りていたらしい。今は本当の家であの本を読んでいるだろう。

 

 

「にしてもあの小説家、実はすげぇ魔導士だよな」

 

 

「あい、30年も昔の魔法が消えないなんて相当な魔力だよ………」

 

 

「若い頃は魔導士ギルドにいたみたいだからね………そしてそこでの冒険の数々を小説にしたの。あー憧れちゃうなー」

 

 

それを聞いた途端二人はニンマリした。

 

 

「やっぱりな」

 

 

「何が?」

 

 

「この前ルーシィが隠して奴って、自分で書いた小説だろ?」

 

 

「やたら本の事に詳しい訳だぁー!」

 

 

二人がそう言うと彼女は顔を真っ赤にする。

 

 

「ぜ、絶対他の人に言わないでよ!?」

 

 

「ま、まだ下手くそなの!読まれたら恥ずかしいでしょ!?」

 

 

「いや、誰も読まねーから」

 

 

「それはそれでちょっぴり悲しいわっ!!」

 

 

「大丈夫だって、自信を持てよ。そしたら指でレンガも割ることが出来るんだから………」

 

 

「ホントアンタは何を言ってるのよーーーーーー!!!」

 

 

 

報酬は貰わなかったが、依頼人を笑顔に出来た一行。この先どうなる事やら………。

 

 

 

 



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其の9 エルザ帰還

前回ナツと共に依頼を達成(?)したルーシィ。現在は一人でも出来そうな依頼をリクエストボードから探していた。

 

 

「んー、何か良いの無いかなー………。にしても沢山あるわね」

 

 

腕輪探しや呪われた杖の魔法解除、はたまた悪魔退治の依頼まであった。

 

 

「決まったら私に言ってね。今マスターは定例会でいないから」

 

 

「定例会?」

 

 

「地方のギルドマスターが集まって定期報告をするの。評議会とはちょっと違うんだけど………リーダス、光筆(ヒカリペン)貸してくれる?」

 

 

「ウィ」

 

 

カウンター席で酒を飲んでいた帽子を被った大男のリーダスから光筆(ヒカリペン)を受け取った。光筆(ヒカリペン)とは空中に絵や文字が描ける魔法アイテムの一つ。72色まで発売されている。

彼女はサラサラと簡略図を書いた。

 

 

「魔法界で一番偉いのが政府との繋がりも評議院の10人。魔法界における全ての秩序を守るために存在するの。犯罪を犯した魔導士をこの機関で裁く事も出来るのよ。その下にいるのがギルドマスターで、評議会での決定事項など通達したり、各地方のギルド同士のコミュニケーションを円滑したり私たちをまとめたりと………色々大変な仕事なの」

 

 

「知らなかったなぁ。ギルド同士の繋がりがあったなんて………」

 

 

「ギルド同士の連携は大切なのよ。これをお粗末にしてると………ね」

 

 

「っ?」

 

 

「黒い奴等が来るぞぉぉぉぉ!!」

 

 

「ひいいいいいいっ!?」

 

 

突然背後からの声に悲鳴が上がるルーシィ。振り返るとナツとビートにハッピーが腹を抱えて笑っていた。

 

 

「あははは!ルーシィビビりすぎ!!」

 

 

「ビビりルーシィ、略してビリィーだね」

 

 

「勝手に略称つけんな!!」

 

 

「でもホントにいるんだぜ、黒い奴等」

 

 

「連盟に属さない闇ギルドのことね」

 

 

「アイツ等法律無視だからおっかねーんだよ」

 

 

「………じゃあいつかアンタにもスカウトが来そうね」

 

 

これまでのナツな所行を振り返ってみると(報告でしか聞いて無いが)文化遺産を破壊したり、港を半壊したりなどかなりやっていた。

 

 

「それより早く仕事選べよ」

 

 

「この前はオイラ達が勝手に決めてたからルーシィが選んでいいよ」

 

 

「何言ってるのよ。チームなんて解消よ解消!」

 

 

「え、何で?」

 

 

「あい」

 

 

「大体金髪の女だったら誰でもよかったんでしょ!?」

 

 

前回の依頼ではナツ達が持ちかけたが、それは彼女をハマる形で誘ったのだ。もうあんな仕事はごめんだった。

 

 

「何いってんだ……その通りだ」

 

 

「ホラーーーーーー!!」

 

 

「でも俺達はルーシィを選んだんだよ。だってルーシィっていい奴だし」

 

 

「………ふ、フン!そんなこと言って許す訳じゃなんだからね!」

 

 

「ツンデレだ」

 

 

「うるさいネコ!」

 

 

ビートの無邪気な笑顔で答えるビートに若干顔を赤くしてそっぽ向いた。

 

 

「なーに無理にチームなんか決める事はねぇよ。聞いたぜ大活躍だってな。きっとイヤってほど誘いが来る」

 

 

そう言ってきたのは煙草を咥えた黒髪の青年、グレイだ。その隣でサングラスをかけた青年、ロキがルーシィを勧誘した。

 

 

「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい?今夜二人で『イヤ』」

 

 

「な?それに南の狼二人にゴリラ女を倒したんだろ?すげーや実際」

 

 

「あーそれナツだよ」

 

 

「てめぇかこの野郎!!」

 

 

「文句あっかおお!?」

 

 

さっきまでのクールさとは一転してナツにつかみかかるグレイ。ナツも彼のケンカを買い描ける。

 

 

「て言うかグレイ、服は?」

 

 

「え?あ"あ"あ"あ"!?またか!!」

 

 

「………ウゼェ」ボソッ

 

 

「今ウゼェつったかクソ炎!!」

 

 

「超ウゼェよ変態野郎!!」

 

 

遂にケンカになった二人は殴り合いを始めた。止めても無駄と思ったのか、或いはただ単に腹が減ったのかテーブルに座って食事を始めるビート。

その間にロキが再びルーシィに近づく。

 

 

「君、ホント綺麗だね………サングラスを通してもその美しい………って!?」

 

 

彼女の腰に携えていた星霊の鍵が目に入った瞬間遠ざかった。

 

 

「き、君は星霊魔導士!?」

 

 

「え、まぁ」

 

 

「凄いんだよ!牛とか蟹とか出したりして」

 

 

「な、なんたる運命の悪戯!!ごめん、僕たちはここまでのようだ!!」

 

 

そう言い残して逃げるようにロキは何処かへ行ってしまった。

 

 

「何だったのかしら………」

 

 

「ロキは星霊魔導士が苦手なのよ」

 

 

「へ?」

 

 

「きっと女の子絡みで何かあったのでしょう」

 

 

「おろ?戻って来たぞ」

 

 

再びギルドに戻って来たロキだが、その様子は何処か慌ただしかった。未だにケンカをしているナツとグレイに駆け寄る。

 

 

「おい!大変だぞ!!」

 

 

「「あ?」」

 

 

「エルザが帰って来た!!」

 

 

「「あ"!?!?!?」」

 

 

「え!?ホント!!」

 

 

大量の汗が顔から噴き出る二人に対し、ビートは何処か嬉しそうにキラキラさせる。

するとギルド内に大きな音が響いた。全員入り口を見ると巨大な角を肩に担ぎ、鎧を纏っている紅髪の女性が入って来た。目が鋭く凛々しい風貌を持ちミラとは違った美しさを持っていた。

 

 

「今戻って来た。マスターはおられるか?」

 

 

「お帰りエルザ。マスターは定例会よ」

 

 

「そうか………」

 

 

ミラとの会話を静かに他の者は見ていた。中にはビクビクしている者もいる中、ビートが彼女の元にトテトテ駆け寄った。

 

 

「エルザお帰り!!その大きなのはどうしたの?」

 

 

「ビートか。これは討伐した魔物の角を地元の人々が飾りを施してくれたのでな………。土産として持って帰ってきた」

 

 

「わぁ〜!やっぱりエルザは凄いなぁ〜!!」

 

 

「他の人はビビってるけどアイツは平気なのね………。」

 

 

「ビートはエルザのことを慕ってるからね。それにエルザはビートのことが気に入っているのよ」

 

 

今でも二人とも仲良く世間話をしていた。するとエルザがあることに気が付いた。

 

 

「おいビート。頰に米粒が付いているぞ?」

 

 

「え?」

 

 

「動くな、私が取ってやろう」

 

 

彼女が来る前に食事をしていた際に付いてしまったのだろう。右頬に付いたご飯粒を取るとそのまま口に運んだ。

 

 

「え!?ちょっとあれって………」

 

 

「大丈夫よ。エルザにとって彼は弟みたいな感じだからああいうのは序の口よ」

 

 

「じょ、序の口………」

 

 

「ところでナツとグレイはいるか?」

 

 

「あぁ、二人ならそこに………」

 

 

ビートが指を指す方には滝のような汗を掻く二人が互いに肩を組んで握手していた。

 

 

「や、やぁエルザ………今日も俺達は仲良しだぜ………」

 

 

「あい………」

 

 

「ナツがハッピーみたいになった!?!?」

 

 

あまりにも二人の変貌に驚きを隠せないルーシィ。さっきまで殴り合っていたのに今じゃ他の者のようにビクビク震えていた。

 

 

「そうか……親友なら時には喧嘩もするだろう。しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」

 

 

「い、いや……俺たち別に親友って訳じゃ……」

 

 

「あい………」

 

 

「こんなナツ見た事ない………」

 

 

ミラによるとナツはエルザに挑もうとしたが返り討ちに合い、グレイは半裸で歩いているところを見つかり半殺しにされ、ロキは口説こうとして半殺しにされ各々トラウマになったという………。

 

 

「ナツ、グレイ。お前達に頼みたいことがある。仕事先で厄介な話を耳にしてしまった。本来ならマスターの許可をあおぐ事だがなんだが、早期解決が望ましいと私自ら判断した。力を借りたい、付いてきてくれるな?」

 

 

「「ええーーー!?!?」」

 

 

「それとビート、今回はお前も協力してくれ」

 

 

「ホント!やった!!」

 

 

二人は嫌そうに叫ぶがビートは嬉しそうにジャンプした。会話を耳にした一同はざわつき出した。そんな中ミラは顎に手を当て何か思いつく。

 

 

「どうしたんですか、ミラさん?」

 

 

「エルザとナツとグレイ………それにビートまで入ると………今まで想像したこともなかったけど、これって妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強チームかも……!」

 

 

「!?」

 

エルザが3人に頼みたい仕事とは?次回へ続く!

 

 

 

 

 



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其の10 鉄の森(アイゼンヴァルド)

妖精の尻尾(フェアリーテイル )に帰還した魔導士エルザからナツとグレイ、ビートに仕事に協力を頼んだ。3人は(内2人は渋々、1人はノリノリで)承諾し、現在はマグノリア駅で待ち合わせをしていた。

そんな中でナツとグレイは絶賛ホームで喧嘩中だった。

 

 

「だったら一人で行けよ!!オレは行きたくねぇ!!」

 

 

「じゃあ来るな!!そんでエルザに殺されちまえ!!」

 

 

「迷惑だからやめなさい!!もぉ!なんでそんなに仲が悪いのかしら!?」

 

 

「何でルーシィがここに?」

 

 

「頼まれたのよ、ミラさんに」

 

 

4人が組めば最強のチームだが、問題なのはギクシャクしているナツとグレイだ。不安だからついて行って仲を取り持って欲しいと頼まれ、今回も同行することになった。

 

 

「ミラさんの頼みだからついて行ってあげるのよ」

 

 

「本当は一緒に行きたかったりして……」

 

 

「まさか!てか、仲を取り持つならアンタがいたじゃない!うわーかわいそっ!ミラさんに存在忘れられるし」

 

 

「あい」

 

 

ハッピーとの会話をしていると向こうでは再び喧嘩になりそうな二人。ビートは持たされたおにぎりをムシャムシャ食べていた。

するとルーシィは何か思いつき、わざとらしく声を大きく上げた。

 

 

「あ!エルザさん!!」

 

 

「さ、さー今日も仲良く行ってみよー!!」

 

 

「あいさーーー!」

 

 

「あははは!これ面白い!!」

 

 

直ぐに喧嘩を中断して肩を組んで仲が良い程を見せる。その様子にルーシィは腹を抱える。

 

 

「「だ、騙したお前!!」」

 

 

「アンタら本当は仲良しだったりして……」

 

 

「冗談じゃねぇ。何でこんな面子で出かけなきゃいけねぇんだ………。胃が痛くなってきた………」

 

 

「魚食べる?」

 

 

「いるか!!」

 

 

「おにぎりは?」

 

 

「いらん!!」

 

 

「そんでルーシィ、何でここに?」

 

 

「話聞いてなかったの!?」

 

 

そんな会話を繰り広げているとようやくエルザがやって来た。………大荷物をリヤカーで引っ張って。

 

 

「すまない待たせたか?」

 

 

「荷物、多っ!?!?」

 

 

「む?君は昨日の………」

 

 

「あ!新人のルーシィと言います。ミラさんに頼まれて同行することになりました。今回はよろしくお願いします」

 

 

「私はエルザだ。こちらこそよろしく頼む。そうか、皆が騒いでいた娘とは君のことか。なんでも傭兵ゴリラを倒したとか………」

 

 

「それやったのナツだし、事実と少し違ってる………」

 

 

大分話がズレたが、ようやく本題に入った。

 

 

「今回は少々危険だが、その活躍を聞くと平気そうだな」

 

 

「き、危険!?!?」

 

 

「フン。何の用事か知らねぇが、今回はついてってやる………条件付きでな」

 

 

「条件?」

 

 

「バッ!?お前何言って!?お、オレはエルザの為なら無償で働くぜ!?」

 

 

「………言ってみろ」

 

 

さっきまでビビっていたとは思えないくらい強気でいた。ビートは飯でも奢ってくれと言い出すのかと思ったが、彼の口から思い掛けないことを言う。

 

 

「帰ったらオレと勝負しろ。あの時とは違うんだ」

 

 

「っ!?」

 

 

「お、オイ!早まるなっ!!死にてぇのか!?」

 

 

狼狽るグレイだが、エルザは自身の紅髪を掻き上げて微笑む。

 

 

「………確かにお前は成長した。私はいささか自信はないが……いいだろう、受けて立つ」

 

 

「自信がねぇって何だよっ!!本気で来いよな!!」

 

 

「フフ、わかっている。だが、お前は強い。そう言いたかっただけの事………。グレイ、お前も勝負するか?」

 

 

そう尋ねる彼女に首をブンブン横に振るグレイ。そんな中一人、体を震えている者がいた。

 

 

「だ、駄目だ!!」

 

 

『っ!?』

 

 

一同がその声の主に視線を移した。その者はビートだった。心なしか若干半泣きだった。

 

 

「か、家族同士で戦っちゃ駄目だ!!俺はそんなの見たくない!!!」

 

 

「…………大丈夫だビート。誰も死にやしない。ほんの少し手合わせするだけだ。お前の言う組み手と同じようなものだ。だから安心しろ」

 

 

「…………うん」

 

 

エルザは柔らかく微笑んで彼の頭を優しく撫でた。ルーシィはその様子を疑問に思ったが、ナツが顔面ごと燃え出して咆哮を上げる。

 

 

「よっしゃあ!!燃えて来たぁぁぁぁ!!やってやろうじゃねぇかぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「うう………気持ちワリ………」

 

 

「い つ も の」

 

 

「だらしねぇなナツ。鬱陶しいから別の席に行けよ。つーか列車に乗るな走れ!」

 

 

最早お決まりとなった彼の乗り物酔い。さっきまでのやる気は何処へ行ったのか。ナツはぐったりしていた。

 

 

「しょうがない奴だ。ホラ、私の隣に来い」

 

 

「あい………」

 

 

ヨロヨロとエルザと隣に座る。するとあろうことか急にナツの腹部を殴るらせて気絶させた。

 

 

「これで楽になっただろう」

 

 

「えぇ………」

 

 

エルザのあまりの強引さに一同戦慄した。そんな中でビートは外の景色を見ながら相変わらずおにぎりを食していた。まるでその光景が見慣れていたように。

 

 

「そ、そういえば私妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士でナツ以外の魔法は見たことないかも………。エルザさんはどんな魔法を使うんですか?」

 

 

「エルザでいいぞルーシィ」

 

 

話題を変えるように彼女がエルザに尋ねると横からハッピーが教えた。

 

 

「エルザのはね、キレーなんだ。相手の血がいっぱい出て」

 

 

「それって綺麗なの………?」

 

 

「大したことはないが、私はグレイの魔法が綺麗だと思うぞ」

 

 

「そうか?………ふん」

 

 

そう言うとグレイは掌に拳を添えると何も無い空間から氷で出来た妖精の尻尾(フェアリーテイル )の紋章と同じものが出てきた。

 

 

「わぁ!氷の魔法ね!アンタには似合わないケド」

 

 

「ほっとけ」

 

 

「…………ん?グレイ()………ナツ()………あ!!だからアンタ達仲が悪いのね!」

 

 

「そうなのか?」

 

 

「そうだったの?」

 

 

「………ど、どうでもいいだろそんなこと!」

 

 

自身とナツの仲が悪い理由を把握する一同にグレイは気を紛らすように外をそっぽ向いた。

 

 

「それより本題に入ろうぜ。一体何事だ?お前程の奴が力を借りたいって………」

 

 

「そうだな、じゃあ話しておこうか………」

 

 

それは仕事の帰りに酒場での出来事だ。

店内には柄の悪い4人組がいた。その一人が声をデカくして()()()()の隠し場所を見つけたと。

また違う一人が言った。3日以内ララバイを持ち帰るとエリゴールに伝えてくれと。

 

 

「ララバイ?」

 

 

「何それ?」

 

 

「子守歌のことね………眠りの魔法か何かな?」

 

 

「そこまではわからない。ただ封印されているとなるとただの魔法ではないことが分かる」

 

 

「話が見えてこねぇな。得体の知れない魔法の封印を解こうとしてる奴等がいる………ただそれだけのことだろ?仕事かもしれねぇし………」

 

 

「私も初めはそう思っていた………。()()()()()という名を思い出すまではな…………」

 

 

 

エリゴール。

魔導士ギルド鉄の森(アイゼンヴァルド)のエース格の魔導士。『死神』の二つ名を持つ。

由来は暗殺系統の依頼を遂行し続けた結果ついた名だという。

本来は暗殺系の依頼は評議会の意向で禁止されているが彼等はそんなことに気を取っていなかった。

その結果6年後に魔導士ギルド連盟を追放。現在は闇ギルドのカテゴリーに分類されている。当時の鉄の森(アイゼンヴァルド)のマスターは逮捕されてギルドは解散命令を受けた。しかし闇ギルドの大半がそれを無視して活動しているという。

 

 

「か、帰ろうかな………」

 

 

「でぇた」(のぶドラ感)

 

 

「不覚だった………あの時エリゴールの名に気が付けば………全員血祭りにしてやったものを」

 

 

「ひいっ!?」

 

 

一瞬放たれたエルザの殺気に身震いをするルーシィ。闇ギルドよりも彼女の方がよっぽど恐ろしいことを身に染みた。

 

 

「………だな。その場にいた奴らなら一人で何とかなったが、ギルド一つまるまる相手となると………」

 

 

「奴等はララバイなる魔法を手にして何か企んでいる。私はこの事実を看過する事は出来ないと判断した」

 

 

「と、いうことは………?」

 

 

「私達で鉄の森(アイゼンヴァルド)に乗り込むぞ」

 

 

「へっ、面白そうだな」

 

 

「よっしゃあ!かかって来い!!」

 

 

「く、来るんじゃなかった」

 

 

「ルーシィ、汁が出てるよ?」

 

 

「汗だっての!!」

 

 

「しょっぱそう………。」

 

 

「そりゃ汗はしょっぱいわ!!」

 

 

一同列車に降りてホテルへ向かおうとするとルーシィが何か思い出した。

 

 

「ヤダ………嘘でしょ!?」

 

 

「どうした?」

 

 

「ナツがいないんだけどっ!!」

 

 

『あ』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

列車内。

 

 

「お兄さんここいいかな?」

 

 

髪を後ろに一つに纏めた男が未だに酔っているナツの向かい側に腰をかけた。

 

 

「あらら、辛そうだね?大丈夫?」

 

 

しかしナツは苦しくて会話も出来ないのか口を開かない。男は彼の右肩の紋章に目が入った。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )………正規ギルドかぁ。羨ましいなぁー」

 

 

そう言って微笑むこの男は鉄の森(アイゼンヴァルド)の魔導士のカゲヤマだった。

 

 

 

 



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其の11 呪歌(ララバイ)

オニバス駅にて。

うっかりナツを連れ出すのを忘れてしまった一行は再び駅に戻っていた。

 

 

「なんという事だ!話に夢中になるあまりナツを置いてきてしまった!アイツは乗り物に弱いというのに!取り敢えず私を殴ってくれ!!」

 

 

「ま、まぁまぁ落ち着いて………」

 

 

ナツを置いてきたことを自分に非があると自虐するエルザにルーシィは宥めた。

しかし下手をすれば列車は隣町まで行ってしまってめんどくさくなる。

 

 

「そういう言う訳だ!列車を止める!!」

 

 

「どう言う訳………?」

 

 

唐突に言う彼女に駅員はただ困惑していた。

 

 

「………妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士ってみんなこういう感じなんだなぁ………」

 

 

「オイ!オレはまともだぞ!!」

 

 

「グレイ、ブーメランって知ってる?」

 

 

「仲間の為だ!わかって欲しい」

 

 

「そんな無茶言わないで下さいよ!一人のお客さんの為に列車を止めるなんて………」

 

 

すると彼女は駅員の背後にあるものが視線に入る。レバーのようなもので下には『緊急停止信号』と書かれていた。

 

 

「ハッピー!!」

 

 

「あいさー!」

 

 

「あ!ちょっと!!」

 

 

エルザの指示によりハッピーは羽を生やして駅員の頭上を通り越し、レバーを下に下げる。

ホーム内に警報ベルが鳴り響き、エルザは次の指示をする。

 

 

「ビート!舞空術でナツを!!」

 

 

「了解!レッツGO!!」

 

 

水色のオーラを纏ってビートは高く跳躍して猛スピードで列車を追って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方列車内ではカゲヤマがナツに色んな話を持ちかけていた。ミラジェーンのことや、最近入った新人の女の子(恐らくルーシィ)のことなどを話して来るが今のナツはそんなこと出来る状態でない程苦しんでいた。

 

 

「ホントいいよなぁー妖精の尻尾(フェアリーテイル )。かわいい子が沢山いてさ………少し分けてよ」

 

 

「ハァ………ハァ………ハァ………」

 

 

「……………なーんてね。キーーーーック!」

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

急に立ち上がってナツの顔面に蹴りを入れた。そしてさっきまでとは一変、気が優しい男から怪しく笑う男へとなった。

 

 

無視(シカト)はダメだなぁ~。闇ギルド差別だよ?」

 

 

「………あ?」

 

 

「お、ようやく喋ってくれたかハハハ!」

 

 

「な、何しやがる………」

 

 

「なに?小さすぎて聞こえないよ?」

 

 

蹴り出された脚を邪魔そうに退けるナツ。それでもカゲヤマは言葉を続けた。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )って随分目立ってるギルドだけどさ、正規ギルドだからってちょっと調子に乗りすぎじゃない?うちらがそっちのことなんて言ってるか知ってる?妖精(ハエ)だよ妖精(ハエ)。ハエたたきーっ!えいえいっ!!」

 

 

そう言ってナツの頭をペチペチと叩く。その行動によって彼の怒りが更に増す。

 

 

「てめぇ!」

 

 

「お?やる気?」

 

 

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉ………うぷっ」

 

 

「アハハ!何だよそれは!魔法ってのは………こう使うんだよ!!」

 

 

「うごっ!?」

 

 

カゲヤマの足の影が伸びるとそこから拳が飛び出してナツにアッパーカットを繰り出した。

 

 

「ヒャハハハハハハ!いい気味だ!ハハハハハハ………あっ!?」

 

 

腹を抱えて笑っていると急に列車が止まった。緊急停止信号を受け取って止めたのだろう。慣性の法則により置いていた荷物から中身が出てしまう。

 

 

「き、急に止まりやがってさっさとしまわないと「迎えの時間だコラァ!!」なっ!?」

 

 

すると急に窓ガラスが割れて一人の少年が入って来た。言わずと知れたビートだった。

 

 

「ビート!何でここに!?」

 

 

「そりゃお前を連れ戻す為に………ん?何だコリャ?」

 

 

ビートは鞄から出てきた一つの笛に着目した。

 

 

「笛?」

 

 

「み、見たな貴様!!」

 

 

「そういえばまだやってなかったな」

 

 

「へ?」

 

 

「お返しだコラァ!!」

 

 

「ぐほっ!!」

 

 

ナツはカゲヤマに向かって火竜の鉄拳を放った。殴られたカゲヤマは後ろの車両まで吹き飛ばされた。

 

 

「ハエパーンチ」

 

 

「て、テメェ!」

 

 

「ナツ、アイツは?「先程の急停車は誤報によるものと確認出来ました。間も無く発車します」あ、やっべぇ!」

 

 

「まずい!また揺れる!」

 

 

ナツは自身の荷物を取り出してビート共にずらかろうとする。

 

 

「貴様ら!鉄の森(アイゼンヴァルド)に手を出してただで済むと思うな妖精(ハエ)共がぁっ!!」

 

 

「こっちもテメェのツラ覚えたぞ!散々妖精の尻尾(フェアリーテイル )を馬鹿にしやがって!!今度は外で勝負してや………うぷっ」

 

 

「ああもう行くよナツ」

 

 

また酔いそうなナツを担いで外に出る。外に出た時には列車が動いていたのでそのまま後ろに飛ばされてしまう。すると列車の後ろからエルザ達が四輪車でこちらに向かって来てるのが見えた。それに丁度屋根にグレイが乗っている。

 

 

「グレイ!ナツ頼む!」

 

 

「は!?ちょっとま………」

 

 

グレイ向かってナツを投げると二人は顔をぶつけて仲良く四輪車から転落した。それを見たエルザが四輪車を停止する。

 

 

「ナツ!無事だったか!!」

 

 

「いってぇぇ!?何しやがるテメェ!?」

 

 

「今のショックで記憶喪失になっちまった。誰だお前?クセェな」

 

 

「何ィ!?」

 

 

「すまんナツ。色々と間違えた」

 

 

「ハッピー!エルザ!ルーシィ!ビート!ひでぇぞオレを置いてくなんて!!」

 

 

「おい………随分と都合のいい記憶喪失だな………」

 

 

「無事でなによりでよかった」

 

 

「硬っ」ガンッ

 

 

エルザが彼を胸に押し付けるが今彼女は鎧を纏っているので普通に痛かった。するとナツは何か思い出したように話し出す。

 

 

「そうだ!オレ列車に変な奴に絡まれたんだよ!」

 

 

「変な奴?」

 

 

「なんつったけ………鉄の森(アイゼンヴァルド)?って言っていたような」

 

 

「えっ!?」

 

 

「それって………」

 

 

「バカモノ!!」

 

 

「ゴエッ!?」

 

 

さっきの優しさは何処へ行ったのか。エルザはナツを思い切り平手打ちを放って彼の頬に大きな紅葉が出来た。

 

 

鉄の森(アイゼンヴァルド)は私達の追っている者だ!」

 

 

「そ、そんな話始めて聞いたぞ?」

 

 

「何故私の話を聞いていない!」

 

 

ナツは分からずに首を傾げる。それはエルザがナツを気絶させたからと敢えて口にしないルーシィであった。彼女は四輪車に向かい、供給用の腕輪を付け直す。

 

 

「兎も角奴等を追うぞ。そいつはどんな特徴をしていた?」

 

 

「あんまり特徴なかったような」

 

 

「強いて言えば黒髪で後ろで一つ纏めていたぐらいかな?あと変な笛も持っていた」

 

 

「変な笛?」

 

 

「うん。三つの目があるドクロっぽい笛」

 

 

 

「何だそりゃ。趣味悪りぃな」

 

 

「三つ目のドクロの笛………ううんまさかね、あんなの作り話よ。でも………」

 

 

 

「ルーシィ?」

 

 

「もしその笛が呪歌だとしたら………子守歌(ララバイ)……眠り……死……そうか!その笛がララバイだ!呪歌(ララバイ)………『死』の魔法!」

 

 

「何っ!?」

 

 

「呪歌?」

 

 

「死の魔法?」

 

 

確信したルーシィの言葉に一同反応するが、ナツはイマイチ理解できなかった。

彼女が知っている限り、禁止されている魔法に呪殺というものがある。呪殺とは言葉通り対象を呪い、死を与える黒魔法のことだ。それに対してララバイはもっと恐ろしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何とか封印は解きました。これが例のものです、エリゴールさん」

 

 

「ふむ………」

 

 

ナツと交戦したカゲヤマが向かった駅でエリゴール達と合流して列車をジャックした。

彼から渡されたララバイをじっくり拝見するエリゴール。銀の長髪に目の下に刺青のようなものが刻まれ、身の丈程の鎌を携える姿はまさに死神のそれだった。

 

 

「これがあの禁断の魔法の呪歌(ララバイ)か………」

 

 

『おおっ!』

 

 

「この笛は元々|呪殺の為の道具に過ぎなかったが、偉大なる黒魔導士ゼレフが更なる魔笛へと進化させた………。この笛の音を聴いた者全てを呪殺する………『集団呪殺魔法呪歌(ララバイ)』!!」

 

 

他の仲間達が感嘆の声を上げる中、カゲヤマがボソリと呟いた。

 

 

「これで妖精(ハエ)の奴等も………」

 

 

「…………妖精(ハエ)?」

 

 

「え?ええ。さっきまで列車に乗ってましね。全くふざけた奴等っすよ」

 

 

するとエリゴールが鎌を振るとカゲヤマの耳が切り裂かれた。両耳から血が溢れながら苦痛の声を上げた。

 

 

「いぎぃぃぃぃ!!」

 

 

「まさか感づかれちゃいねぇよな?」

 

 

妖精(ハエ)なんかに感づかれたところで!この計画は止められやしないでしょうが!!」

 

 

「当たり前だ」

 

 

耳を抑えながら若干キレ気味で応えるも、彼はララバイをペン回しのようにくるくる回す。

 

 

妖精(ハエ)が、飛び回っちゃいけねぇ森もあるんだぜ?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方エルザ達はルーシィの話を聞いた途端すぐに次の駅のオシバナ駅まで向かった。駅が見えた時には煙が上がっていた。

駅に着くと騒ぎを聞きつけた者達が大勢いて、出入口を封鎖する形で集まっていた。

それでも中に行かなければいけない一行。何とか人混みを避ける。

最初に着いたエルザが駅員に尋ねた。

 

 

「中の様子は?」

 

 

「な、何だね君は『ゴンッ!』うほっ!?」

 

 

『!?』

 

 

答えなかった駅員に向かって彼女は頭突きを繰り出す。そしてすぐに近くにいた駅員に尋ねる。

 

「中の様子は?」

 

 

「は?『ゴンッ!』ゴエッ!?」

 

 

「中の様子は?」

 

 

「ヒェッ」

 

 

「そ、即答出来る人しかいらないって事なのね………。」

 

 

「段々わかってきたろ?」

 

 

答えられた駅員の情報を頼りに駅の中へ走る一行。ホームへと続く階段には戦闘で敗れた軍隊がやられていた。

相手は全員が魔導士。軍の小隊では歯が立たないのがよくわかる光景である。

倒れている兵士を避けながらホームへ向かうとそこには何十人者の魔導士がいた。この全員が鉄の森(アイゼンヴァルド)であろう。列車の上には鎌を肩に担ぐエリゴールの姿が。

 

 

「待ってたぜ妖精(ハエ)共」

 

 

「貴様がエリゴールか」

 

 

「ちょっとナツ起きて仕事よ!」

 

 

「無理だよ列車→魔動四輪車→ルーシィの3コンボだ!」

 

 

「私は乗り物なの!?」

 

 

最早ナツを運ぶ係と化していたルーシィがナツを揺さぶるが本人は未だにぐったりしている。

するとエルザが殺気を放ちながらエリゴールに聞く。

 

「貴様等の目的は何だ?返答次第ではただでは済まさんぞ」

 

 

「遊びだよ。あ・そ・びぃ。俺達も仕事が欲しいからサ」

 

 

彼は鎌を魔女の箒のように乗って風の魔法で飛び始める。

 

 

「問題。駅には何があると思う?」

 

 

「駅?」

 

 

エリゴールはゆっくりと列車の上にある物まで飛ぶ。そこでビートが気付いた。

 

 

「スピーカー?」

 

 

「ご名答」

 

 

「まさかララバイを放送する気かっ!?」

 

 

「ええ!?」

 

 

「何だと!?」

 

 

「ふはははは!!この駅の周辺に何百もの野次馬共が集まっている………いや、音量を上げれば町中に響くか………」

 

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

 

激を上げるエルザに対しエリゴールを含め、その仲間達もケタケタ笑う。

 

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに権利を掲げ生活を保全している愚か者どもへのな。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ。よって死神が罰を与えに来た。『死』という名の罰をな!」

 

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

さらに激を上げたのはビートだった。全員が彼に着目する中続ける。

 

 

「不公平にされたお前達は何をした?暗殺?殺人?そんな事した罰せられるのは当たり前だ!!お前等はそれを逆恨みしてるだけだ。何が死神の罰だ!そんなのただ人の所為にしている子供だ!!」

 

 

「ふっ、違うなサイヤ人。お前も世界に洗脳された哀れな奴にしか過ぎない。俺達が欲しいのは権利じゃない権力だ!それがあれば全ての過去を流し、未来を支配する事も出来る!!」

 

 

「戯言を!」

 

 

「そういう事だ妖精(ハエ)共。闇の時代を見る事なく信じまうとはな!!」

 

 

「きゃあ!」

 

 

「しまったルーシィ!!」

 

 

カゲヤマが自身の影を伸ばして鋭い腕がルーシィを襲う。

 

 

「やっぱりお前かぁぁぁぁ!!」

 

 

すると酔いから復活したナツが腕に炎を纏い、影の腕を切り裂く。

 

 

「ナツ!」

 

 

「今度は地上戦だな!」

 

 

ナツが復活したことによって全員が戦闘態勢に入る。その中でエリゴールだけが不気味に笑っていた。

 

 

「(かかったな妖精の尻尾(フェアリーテイル )。多少の修正はあったが、これで当初の予定通り。笛の音を聴かせておく奴がいる。必ず殺さねばならねえ奴がな!!)」

 

 

 

 

 

 

 



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其の12 妖精の女王

鉄の森(アイゼンヴァルド)の居場所を突き止めたナツ達一行。彼等の目的はララバイを使って放送し、大量無差別殺人を試みようとする恐ろしい計画を立てたいた。一行は彼等の企みを食い止めることが出来るのだろうか?

 

 

 

両陣営、身構えて戦闘態勢に入る。しかしエリゴールだけ不気味に笑っていた。

 

 

「後は任せたぞお前ら。俺は笛を吹きに行く。身の程知らずの妖精(ハエ)共に鉄の森(アイゼンヴァルド)の力を思い知らせるのだ!」

 

 

風の魔法でさらに上昇し窓ガラスを割って向こうのブロックに飛び立った。

 

 

「ナツ、グレイ、ビート!3人で奴を追え!!」

 

 

「っ!」

 

 

「「む」」

 

 

「お前達が力を合わせれば、エリゴールにだって負ける筈が無い!」

 

 

「エルザ……」

 

 

「「むむ……」」

 

 

「ここは私とルーシィでなんとかする」

 

 

「女子二人で!?」

 

 

「エリゴールはララバイをこの駅で使うつもりだ。それだけはなんとしても阻止せねばならない………」

 

 

「…………わかった!行ってくる!!」

 

 

ビートはすぐにエリゴールへ向かったが、ナツとグレイは今にも喧嘩が勃発しそうになっていた。

 

 

「聞いているのか二人共!!」

 

 

「「も、勿論!!」」

 

 

「なら行け!」

 

 

「「あいさー!!」」

 

 

二人は仲良く肩を組んでビートの後を追った。向こうもカゲヤマともう一人がナツ達を追って行く。これで妖精の尻尾(フェアリーテイル )側で残ったのはルーシィとエルザにハッピー。鉄の森(アイゼンヴァルド)はまだ大勢いた。

 

 

「にしてもコイツらいい女だなぁ………」

 

 

「殺すには惜しいな………いっちょ脱がすか?」

 

 

「下劣な………」

 

 

向こうの魔導士達が下心丸出しで二人ににじり寄ろうとする。いい女と言われてルーシィは明後日の方向を見てるが、エルザは睨みついて右腕を突き出す。

 

 

「これ以上妖精の尻尾(フェアリーテイル )を侮辱してみろ………貴様らの明日は約束出来んぞ………」

 

 

すると何処から出て来たのか彼女の右手に片手剣がしっかりと握られていた。

一般的には魔法剣と呼称する。

 

 

「それがどうした!!こっちだって魔法剣士はいるぜぇ!!」

 

 

「その鎧ひん剥いてやらぁ!!」

 

 

向こうも魔法剣を召喚させてエルザに向かって駆け出すが、彼女はもっと速かった。床を蹴って一気に駆け出すと魔法剣士達を斬り裂き、アクロバティックな動きで次々と斬り伏せる。

 

 

「くそぉ!遠距離魔法(飛び道具)ならぁ!!」

 

 

一人が腕に魔力を集中させるが、彼女手にいつの間にか剣ではなく槍が握られていた。放とうとした男を薙ぎ払う。更には双剣に果ては巨大な斧までも使っていた。

それは彼女は凄まじい速さで換装しているからだ。

魔法剣はルーシィの星霊と同じく別空間にストックされている武器を瞬時に呼び出しているのだ。その武器を持ち替える事を換装と呼ぶ。

 

 

「す、凄い………」

 

 

「エルザの凄いとこはこれからだよ」

 

 

「え?」

 

 

「まだこんなにいるのか………」

 

 

持っていた大剣を仕舞うと驚愕の現象が起こった。

 

 

「面倒だ………悪いが一掃させて貰う」

 

 

彼女が纏っていた鎧が光って剥がれて行く。それを見た向こうは舌を出して興奮する。

 

 

 

「魔法剣士は通常は武器を換装しながら戦うんだけど、エルザは自身の能力を高める『魔法の鎧』にも換装しながら戦うんだ。それがエルザの魔法『騎士(ザ・ナイト)』」

 

 

光が晴れると彼女は翼が生えた全身銀の鎧を纏い、周りには剣が浮遊していた。

 

 

「舞え、 (つるぎ)達よ」

 

 

循環の剣(サークルソード)

 

 

浮遊していた剣が一気に他の魔導士達を斬り裂いた。かなりの実力を持った大男が右手に魔力を集中させて殴りかかろうとする。

しかし一人の魔導士がエルザを見て何かを思い出した。

 

 

「ま、間違いねぇ!コイツは妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強の女……妖精女王(ティターニア)のエルザだ!!」

 

 

向かって来た大男を一撃で吹き飛ばして沈めた。気が付けばさっきまで大勢いた魔導士達が倒れ伏していた。

しかし生き残っていた一人が恐怖で逃げ出した。

 

 

「エリゴールの所に向かうかもしれん。ルーシィ、追うんだ!」

 

 

「えーー!?私!?」

 

 

「頼む…………!!」

 

 

「はいいいい!!行ってきまーす!!」

 

 

若干声色を凄ませるとルーシィは彼方へ消えていった。鎧を解いて元の格好に戻る。

 

 

(やはり魔動四輪を飛ばしすぎたのが応えたか………ナツ、グレイ、ハッピー…………ビート。後は頼んだぞ)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ケンカの話の時間だ!コラァ!!」

 

 

怒鳴りながらドアを蹴破るビート。しかし中は間抜けの殻だった。最後に左右確認し次のドアの前に立つ。

 

 

 

「えーと………お仕置きの話の時間だ!コラァ!!」

 

 

先程同じくドアを蹴破った。その様子をカゲヤマは影に潜んで見ていた。

 

 

(い、一々ああ言わないといけない決まりでもあるのか?全くめちゃくちゃ奴め………)

 

 

「うーんと………料理の時間だ!コラァ!」

 

 

(しかしエリゴールさんはもうこの駅にいないよ………いくら探しても無駄だ。もう放っておいても問題ないけど………。それじゃあ僕の………)「気が治らないんでね!!」

 

 

「ホォッ!?」

 

 

背中に不意打ちを喰らわせてビートを機材に吹き飛ばした。

 

 

「いちちちち………あ!お前は列車の時の!!」

 

 

「君は魔力弾を出したり、拳法を使ったりする武道家と見た。」

 

 

「そうだ!お前に聞きたいことがあった!エリゴールは何処に行った!?」

 

 

「さぁて、何処かな?もし僕に勝ったら教えてあげるよ」

 

 

「言ったな?もし嘘ついたらお前の頭輪切りにしてパフェに乗っけて食ってやる!!」

 

 

「誰がパイン頭だ!!」

 

 

カゲヤマは自身の影を伸ばして攻撃を仕掛けるが、ビートの軽い身のこなしであっさり躱される。

 

 

「クソッ!すばしっこい奴め!!だがこの八つ影(オロチシャドウ)は躱せまい!!逃げても何処までも追いかけてくるぞ!!」

 

 

カゲヤマが地に両手を叩き付けると8匹の蛇が具現化される。その姿はまさに八岐大蛇だった。しかしビートは逆にニヤついた。

 

 

「オロチィ?甘いな。どうせくるなら狼連れて来い!!」

 

 

そう言うと彼は一気に駆け出して一匹目の蛇を殴り倒す。二匹目の蛇は蹴りで、三匹は手刀で切り倒す。そして最後に両手を合わせて大きめな気功弾を放った。放たれた気功弾は5匹纏めて倒した。

 

 

「ば、馬鹿な!?全部倒しただと!?」

 

 

爆煙を突き破ってビートがカゲヤマを捉える。

 

 

「喰らえ!見様見真似!!『狼牙風風拳』!!」

 

全身にラッシュを浴びせる。かつて戦ったヤムチャが使用していた拳術だ。胸に集中的に拳を浴びせ、最後には両腕を合わせて吹き飛ばした。

 

 

「はいぃぃぃぃ!!」

 

 

なす術なくカゲヤマは後ろの壁に激突して倒れ伏せる。

 

 

「うーんアイツの方がまだ早いな。もっと修行しねぇと………。あ!そうだ!おい、俺が勝ったからエリゴールの居場所を教えろよ!!」

 

 

「ふ、ふふふふ」

 

 

不気味に笑うカゲヤマに首を傾げるビート。やられた筈なのに勝ったと確信したような笑いだった。

 

 

「エリゴールさんはもうここにはいない………」

 

 

「何!?それはどう言う「ビート!!」んお?」

 

 

「でかした!今そいつが必要なんだ!」

 

 

「クッソ!殴り損ねた!」

 

 

「よくやったビート」

 

 

後から来たナツ、グレイに残って戦っていたエルザがこっちに向かって来た。

エルザがカゲヤマの前に来ると、彼を無理矢理立たせ、剣を出して首に突き立てた。

 

 

「大人しく魔風壁を解いてもらう。1回NOと言うたび切創が一つ増えるぞ」

 

 

「うぅ………」

 

 

「なぁ、どう言う事なんだ?」

 

 

「実は………」

 

 

あの後駅に群がっていた住民達を避難させたが、エリゴールが作り出した風の壁、『魔風壁』なるものを作り出した。この魔風壁は外からの一方通行で、中から出ようとすれば風が体を切り刻む。更にはエリゴールの本当の目的はクローバーの街を襲うことだった。

クローバーの街にはマカロフとはじめとするギルドマスター達が定例会を開いている場所だった。

 

 

「成る程だから………」

 

 

瞬間何かが吐き出される音がした。振り返ると背中にナイフが刺さったカゲヤマに、その背後には仲間らしき男が壁から出ていた。

 

 

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 



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其の13 禁断の技

ララバイを放送を阻止すべくエリゴールを追うナツ達だったが、彼の本当の目的は定例会にいるギルドマスターを呪殺する為だった。

エリゴールが張った魔風壁を解くため解除魔導士(ディスペラー)のカゲヤマを問い詰めるが、仲間である魔導士が彼を闇討ちしてしまう。果たして彼等はエリゴールを追えるのか?

 

 

「その前にこの魔風壁ってのをどうにかしねぇと………」

 

 

「よーし!どいてろ!!おおおおおおおおおお………ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

突っ込もうとしたナツだが、直ぐに弾き出された。

 

 

「うおおおおお!諦めるかぁぁぁぁ!!」

 

 

再度突っ込むが再び弾き出される。それでも彼はめげずに魔風壁に突っ込み始める。ルーシィはグレイに氷の魔法でどうにか出来ないか促すが、彼は既に実施済みだった。

そうしているうちにもナツにダメージが入る一方だ。何か策が無いか思考する一同。するとビートが何か思い出しでルーシィの肩を掴んだ。

 

 

「そうだルーシィ!この前みたいに星霊界通るってのは!?」

 

 

「え?」

 

 

「ほら、俺とナツがエバルーの屋敷でやったみたいな………」

 

 

「それだ!流石ビート!」

 

 

「無理よ」

 

 

ビートの考えに賛成するナツだが、彼女はすぐに却下する。

 

 

「何で!?」

 

 

「本来(ゲート)は星霊魔導士がいる場所でしか開けないのよ。つまり星霊界を通ってここを出たいなら最低でも駅の外に星霊魔導士が一人いなきゃ不可能なのよ」

 

 

「ややこしいな、いいから早くやれよ!」

 

 

「できないって言ってるでしょ!それに人間が星霊界に入る事自体重大な契約違反!あの時はエバルーの鍵だからよかったけど………」

 

 

3人の会話を聞いていたハッピーがぶつぶつ独り言を言うと、彼も何か思い出した。

背負っていた荷物から何か取り出してルーシィに見せる。

 

 

「ルーシィ!これ!!」

 

 

「っ!これってエバルーの鍵じゃない!どうしたの!?」

 

 

「バルゴ本人がルーシィへ、って」

 

 

「おい!こんな時に下らねぇ話してんじゃねぇよ!!」

 

 

「バルゴ………ああっ!メイドゴリラの!」

 

 

「あ、あいつか………」

 

 

バルゴの名前を聞いた瞬間ビートは少し震える。バルゴの見た目が衝撃過ぎた為軽くトラウマになってしまったのだ。

 

 

「エバルーが逮捕されたから契約解除になって今度はルーシィと契約したいって!」

 

 

「あれが来たのね………。でも今はそれどころじゃないの!ここから出る方法を考えないと!」

 

 

「でも「うるさい!ネコは黙ってニャーニャー言ってなさい!!」」

 

 

「辛辣過ぎないか?」

 

 

「いつもこんな感じだよ?」

 

 

ハッピーの頰をつねるルーシィを見てビートとグレイはヒソヒソと話した。

 

 

「でも、バルゴは地面に潜れるし、魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ………」

 

 

「何!?」

 

 

「本当かっ!」

 

 

「そっか!やるじゃないハッピー!!もう、何でそれを早く言わないのよぉ!」

 

 

「ルーシィがつねったから………」

 

 

「またアイツを呼ぶのか………」

 

 

早速ハッピーから鍵を貰って詠唱をし始める。

 

 

「開け!処女宮の扉!『バルゴ』!!」

 

 

鍵が光って現れたのは桃色の短髪でルーシィより少し背の高い美女だった。

これにはルーシィとビートもポカンとしていた。あの強烈な見た目が現れると身構えていたが、全くの別人が現れた。そんな彼女にビートは恐る恐る尋ねる。

 

 

「あの〜束の間を伺いますが、どなたでしょか?」

 

 

「バルゴです」

 

 

「「バルゴ!?!?」」

 

 

無機質な声音で発せられた彼女に二人は驚愕した。

 

 

「痩せたな」

 

 

「痩せたって言うかトランスフォームだろ!!」

 

 

「最早別人レベル!!」

 

 

「私は御主人様の忠実なる星霊。御主人様の望む姿にて仕事をさせていただきます」

 

 

「前の方が迫力あって強そうだったぞ」

 

 

「では………。」

 

 

「わぁぁぁぁぁぁ!!やめろナツ!!また魔族を召喚するな!!」

 

 

ナツの余計な一言でまたあの魔族(メイドゴリラ)になりそうなのを必死止めるビート。

その様子にエルザとグレイはルーシィを改めて評価する。

 

 

「時間がないから契約は後回しでいい!?」

 

 

「かしこまりました御主人様」

 

 

「御主人様はやめてよ!」

 

 

彼女はルーシィの腰に携えていた鞭を一瞥する。

 

 

「では女王様と………」

 

 

「却下!」

 

 

「では姫と………」

 

 

「そんなところかしらね」

 

 

(そんなところなんだ………)

 

 

「それでは行きます!」

 

 

入水するように地面に向かって飛び込むとあっという間に地面を掘り始める。

一同は彼女が作った穴に入ろうとするが、ナツが負傷したカゲヤマを肩に担ぐ。

 

 

「コイツに死なれちゃ後味悪いんだよ」

 

 

敵であるカゲヤマだが、仲間に騙し討ちされて死んだら本当に後味が悪い。

カゲヤマ含めた一同が外へと出る。駅にはまだ魔風壁が張っていた。

 

 

「あれ?ナツは?」

 

 

「ハッピーもいないぞ?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ところ変わってエリゴールはマカロフのいるクローバーの街に向かっていた。

 

 

「見えた!あの町にジジイ共が………」

 

 

キイィィィィン

 

 

すると何処からか何かが飛んでくるような音が耳に入った。チラリと振り返るとそれは見覚えのある者だった。

 

 

「これがハッピーのMAXスピードだっ!!」

 

 

羽を生やしたハッピーに捕まっていたナツがエリゴールに飛び蹴りを喰らわせた。

攻撃を受けたエリゴールはすぐ下の線路に落ちる。全ての力を出し切ったハッピーも落ちるが、ナツにキャッチされる。

 

 

「き、貴様………何故ここに………」

 

 

「お前を倒す為だ!そよ風野郎!その物騒な笛ごと燃やしてやる!」

 

 

両手に炎を纏ったナツが彼と対峙する。

 

 

(魔風壁は?カゲヤマ共はどうした!?あと少しでジジイ共のいる街に着くっていうのに………。本当に邪魔な妖精(ハエ)共め!!)

 

 

エリゴールは宙に指で術式を描くと風の刃が吹き荒れ、鎌鼬に合うナツ。その拍子に線路から落ちてしまう。下は底が見えない谷底。落ちたら到底戻ることは不可能だ。ハッピーに助力を求めるが、さっきので魔力が空になっている。エリゴールは更に追い討ちをかける如く風の刃を喰らわせる。とうとう線路から離れて谷底に落ちるナツ。

すると何かが高速で横切った。

 

 

「ビート!助かったぜ!!」

 

 

その正体は舞空術を使ってここまで飛んで来たビートだった。

 

 

「からの………」

 

 

「何っ!?」

 

 

「そのまま人間ミサーイル!!」

 

 

「ゴホゥッ!?」

 

 

エリゴールに向かってナツごと投擲する。ナツは拳を突き出してエリゴールを殴り付けた。

 

 

「間に合った!」

 

 

「お前……めちゃくちゃだぞ?」

 

 

「ナツ程じゃないと思うけど………」

 

 

「てめぇら!!調子に乗んじゃねぇ!!」

 

 

土埃からエリゴールが復帰する。それを見たビートがニヤリと笑ってクラウチングスタートのような構えをとる。

 

 

「よーい………ドンッ!!」

 

 

地面を蹴ると彼の懐に飛び込んで頭突きを喰らわせた。その拍子で吐血するが、更に背後からナツが現れる。

 

 

「火竜の鉤爪!!」

 

 

炎を纏った蹴りが彼の後頭部を蹴り上げる。そこからビートの追撃が来るが跳躍して躱す。再び宙に術式を描くと一つの竜巻が二人を襲う。

 

 

暴風波(ストームブリンガー)!!」

 

 

「「あばばばばばば!?!?」」

 

 

竜巻に巻き込まれてグルグルと回るナツ達。竜巻中は先程の風の刃が飛び交う。

 

 

「小僧!まずお前からだ!!」

 

 

鎌を振りかざすエリゴールの先にはビートが。彼の首を刈り取る如く振り払った。

 

 

「フギッ!」ガギンッ

 

 

「なっ!?」

 

 

しかし彼はすぐに復活して歯で鎌を受け止めた。その背後には口を膨らませたナツがいた。

 

 

「火竜の………」

 

 

「まさか口から魔法を!?」

 

 

「咆哮!!」

 

 

ナツの口から炎のブレスが吐き散らされるが再び上昇してそれを回避する。

 

 

「くっそ!アイツチマチマ飛んで逃げてやがる!」

 

 

「降りて戦えー!!」

 

 

(なんて奴等だ………やること全部無茶苦茶だ………これが妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士………。)「………どうやら俺はお前らを舐めていたらしい………。こっからは本気で行くぞ………」

 

 

「そうか………燃えて来たぜ!」

 

 

「ワクワクして来た!」

 

 

両者身構えて三度戦闘態勢に入る。

 

 

暴風衣(ストームメイル)

 

 

そう呟いた途端、彼の周りに風が現れまるで鎧のようにエリゴールを纏った。

怪訝そうな顔をするビートだが、ナツは構わず突っ込んだ。

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

 

拳を放つがエリゴールの手に触れた途端に炎が消えた。それでも片腕で再び放つがまた消えた。

 

 

「どうなってるんだ!?ナツの炎が………」

 

 

暴風衣(ストームメイル)は常に外に向かって風が吹いている。炎は向かい風に逆らえない。わかるか?炎は風には勝てねぇよ。」

 

 

「クソッ!」

 

 

「ナツ!!離れろ!!」

 

 

振り返るとビートのりよ両手に水色の光の弾が集まっていた。

 

 

「オラオラオラオラオラオラ!!」

 

 

エリゴールに向かってグミ撃ちをするも、気功弾は軌道がそれて、数発は逆に返ってきた。

 

 

「魔力弾も無意味だ。貴様らは何も出来ない!死ねぇっ!!」

 

 

今度は目で見えるぐらいの大きな風の刃を放って来た。連続で飛び交う刃にギリギリで躱す二人だが、それでも止むことは無い。

脚から火を吹いて一気にエリゴールに接近して火竜の鉄拳を放とうとするが、強風で逆に押し返された。

 

 

「喰らえ!全てを切り刻む風翔魔法!『翠緑迅(エメラ・バラム)』!!」

 

 

「か、体が!?」

 

 

「死ね!!妖精(ハエ)共!!」

 

 

斬撃に似た竜巻が二人を呑み込んだ。

避ける間の無く斬撃を喰らい、土煙が晴れると倒れ伏していた。

 

 

「体が残っただけでも大したものだ。若い奴にしては中々のものだったぞ」

 

 

「ナツー!ビートー!起きてよー!!」

 

 

「ジジイ共もすぐにそっちへ送ってやる。ララバイの音色でな。」

 

 

「………何がララバイだ………」

 

 

「っ!?」

 

 

「そんなセコイ手を使わないで正々堂々戦え!!」

 

 

裂いた服を破って上半身裸になるナツと、同じく赤い道着を破って下の黄色の長袖が露わになるビート。二人はまだまだ戦える様子だ。

 

 

「くっそ!しぶてぇガキ共め!!」

 

 

「くっ!」

 

 

三度強風に押される二人。

これではいつまで経っても拉致があかない。

 

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!どうして近づけねぇんだぁぁぁぁ!!」

 

 

(クソッ。こうなったら()()を使うしかねぇか………。使ったら動かなくなるぐらい力使うけど……)

 

 

逆上して燃え上がるナツに対してビートは何か思考していた。

 

 

「わかったろ?お前達が俺に勝つことなんて不可能「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」なっ!?」

 

 

ビートは水色のオーラを出しながら気を溜め始めた。ナツに負けないぐらいの大きさのオーラだ。

何をするかわからないエリゴールを尻目に両手に光を集め始める。

また気功弾を放つかと思ったが、彼の予想を大きく裏切る。自身の両手を握り、彼の前に勢いよく突き出した。その光は白く輝き出す。

 

 

「魔封波だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「何ぃぃぃぃっ!?」

 

 

手をパカッと開くとエリゴールの纏っていた風が吸い込まれるかの如く、光に向かって集まり出した。

やがて纏っていた風が剥がれて元の姿になる。

 

 

「今だ!!やれっナツッ!!」

 

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

集まった風を手に集めたままナツにバトンを渡す。巨大な炎を纏って地を蹴ってエリゴールに向かって突進する。

 

 

「火竜の劍角!!」

 

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

ナツの一撃により上空へ打ち上げられるエリゴール。

二人は苦しくも鉄の森(アイゼンヴァルド)のエリゴールに勝利した。

 

 

 

 

 




魔封波
ビートの技の一つ。エレメント系の魔法を纏っていた相手に使う技。使用すると相手の魔法を剥がすことが出来る。しかし剥がしている間は動けず、大きく気を使う技なので暫くの間は動けない。


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其の14 ゼレフ書の悪魔

鉄の森(アイゼンヴァルド)のエリゴールに苦戦したナツとビートだが、ビートの魔封波で纏っていた風を剥がし、ナツで止めを刺して見事に勝利した。

 

 

「や、やべぇ………調子に乗りすぎた………せ、仙豆を………」

 

 

残った体力を振り絞ってポケットから一つの豆を取り出して口に運んだ。するとたちまち体力が回復して起き上がった。

 

仙豆。

ビートが密かに育てている不思議な豆。食べるとどんな傷も一瞬で治る。しかし生産が難しく、作れたのが最大で3個だけだった。仙豆は残り2つ。

 

 

「ナツー!ビート!!」

 

 

「あ、ルーシィ達だ。」

 

 

「遅かったな、もう終わったぞ」

 

 

「あい」

 

 

「そ、そんな!?エリゴールさんが負けたのか!?」

 

 

魔動四輪車からカゲヤマの驚愕の声を漏らした。四輪車は一時停止し、腕に繋げていたプラグをエルザは外した。

ここまで来るのにかなり魔力を消費したのかエルザはふらついていた。ルーシィの肩を貸してナツ達に駆け寄る。四輪車から降りたグレイはナツと口論しかけていた。

 

 

「こんな相手に苦戦しやがって………ウチの格が下がるぜ」

 

 

「苦戦?圧勝だったろ?なぁビート」

 

 

「いや、結構いっぱいいっぱいだったぞ」

 

 

「ハッピーもそう思います」

 

 

グレイはナツの今の格好を改めて見た。

 

 

「お前………裸にマフラーとか変態かよ」

 

 

「お前に言われたらおしまいだ。つーことだからルーシィ、服貸してくれ」

 

 

「いやよ!なんで私なのよ!?」

 

 

「譲ってやりなよ。減るもんじゃないし」

 

 

「減るもんでしょ!?」

 

 

少し揉めたが何はともあれこれで事件は解決した。この後直接定例会に行って事件の報告をし、ララバイの処分についてマカロフに聞くことになった。

一同は四輪車に乗り込もうとすると、四輪車が一人でに動き出した。

 

 

「油断したな!ララバイはここだぁぁっ!!ざまーみろっ!!」

 

 

カゲヤマが地に落ちていたララバイを拾い上げて四輪車を起動させたのだ。

ずっとエルザに運転をさせていたので自身の魔力はすっかり回復していた。四輪車さあっという間にクローバーの街に向かって言った。

 

 

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

クローバーの街に着いたカゲヤマは定例会を開いている会場まで足を運んでいた。木陰に隠れて窓から各地方のギルドマスターを覗いていた。

 

 

(よし、まだ定例会は終わっていない。それにこの距離なら充分にララバイが聞こえる!遂にこの時が………)

 

 

ララバイを持ち出して吹こうとする。すると突然肩を叩かれた。恐る恐る振り返るとその直後に人差し指で頰を突かれた。

 

 

「なっ!?」

 

 

「ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃゴホッゴホッ!!」

 

 

やったのはマカロフで悪戯が成功して笑い転げるも笑いすぎてむせた。

 

 

「い、いかんいかん。こうしちゃおれん………急いであの4人を止めねば………」

 

 

「…………」

 

 

「お前さんも早く帰れ。病院にな」

 

 

「(こ、コイツは 妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマカロフ………。ちっ、つくつぐ妖精(ハエ)に縁がある1日だ………。しかし!)あ、あの………」

 

 

「む?」

 

 

「一曲聴いていきませんか?病院では楽器が禁止されてまして………」

 

 

そう言ってララバイを見せた。ここでマカロフを呪殺しようと言う算段である。怪訝そうにするマカロフだが、なんとか誤魔化して説得した。

 

 

 

「なら、一曲だけじゃぞ?」

 

 

「ええ………。(勝った………!)」

 

 

彼は内心ほくそ笑んだ。これでようやく正規ギルドに粛清を与えることが出来るのだから。

演奏しようとララバイに口を近づける。

そして遂にララバイが吹かれ………。

 

 

『正規のギルドは何処も下らねえな!』

 

 

『能力が低いクセにイキがるんじゃねぇよ!』

 

 

『これはオレ達を暗い闇へと閉じ込め、生活を奪った魔法界への復讐なのだ!!手始めにこの辺りのギルドマスターどもを皆殺しにする!!』

 

 

脳裏に浮かんだのは今回の事件が始まる前にやった会議での内容だった。

 

 

『そんな事したって権利なんて戻らない!』

 

 

『カゲ!お前の力が必要だ!!』

 

 

『もう少し前向いて生きろよ。お前ら全員さ』

 

 

『同じギルドの仲間じゃねぇのかよ!!』

 

 

今度は妖精の尻尾(フェアリーテイル )の一行が言っていた言葉が浮かんだ。

その所為で中々吹けずにいた。

 

 

その頃ナツ達はカゲヤマとは別の草むらからその様子を見ていた。

 

 

「いた!」

 

 

「やばい!!もう吹こうとしてる!!」

 

 

ナツ達がカゲヤマの元に行こうとするが、ある者から静止させられる。

 

 

「今いいところなんだから見てなさい♪」

 

 

「だ、誰?」

 

 

青い天馬(ブルーペガサス)のマスター!?」

 

 

「あらエルザちゃん大きくなったわね」

 

 

一同は再度カゲヤマの方へ見るが、まだ彼は吹かずにいた。

 

 

 

「どうした?吹かんのか?」

 

 

「う………。」

 

 

「さあ」

 

 

「っ!(ふ、吹けば……吹けばいいだけのことなのだ!!それで全てが変わる………なのに!)」

 

 

「………何も変わらんよ」

 

 

「っ!!」

 

 

「弱い人間はいつまで経っても弱いまま。しかし弱さの全てが悪ではない。元々人間なんて弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だからギルドがある。仲間がいる」

 

 

「っ………」

 

 

「強く生きる為に寄り添いがあって歩いていく………。不器用な者は人より多くの壁にぶつかるし、遠回りをするかもしれん。しかし明日を信じて踏み出せば、おのずと力は湧いてくる。強く生きようと笑っていける」

 

 

「…………」

 

 

「そんな笛に頼らなくても、な」

 

 

彼は全てお見通しだった。マカロフは試したのだ。エリゴールなら吹いていたかもしれない。しかしまだ善の心があった彼でこそ笛を吹かなかったのである。

握っていたララバイを落として彼に平伏した。

 

 

「ま、参りました………」

 

 

今度こそ本当にララバイ事件が終わったのである。

 

 

「マスター!!」

 

 

「じっちゃん!!」

 

 

「じぃちゃん!!」

 

 

「おおおお!?お、お主らいつから!?」

 

 

「流石です!今の言葉、目頭が熱くなりました!」

 

 

「痛っ!?」ガンッ

 

 

今まで見ていたナツ達は草むらから飛び出してマカロフに飛びついた。

エルザがマカロフを抱きしめようとするが鎧の箇所に当たってしまう。

 

 

「いや〜やっぱじっちゃんはすげぇな〜。」

 

 

「わかったからペチペチするをやめい!」ペチペチッ

 

 

「一件落着だな」

 

 

これでようやく事が終わったと誰もがそう思っていた。

 

 

『カカカ、どいつもこいつも根性のねぇ魔導士共だ………』

 

 

それは突如として聞こえた。一同声の主を探すが何処にも見当たらない。しかしそれは近くにいた。

 

 

『もう我慢できん………ワシ自らが喰ってやろう………』

 

 

声の主はなんと笛から発せられていた。笛から煙が出て来るとどんどん煙が形作っていく。

やがて煙は巨大な樹で出来た怪物となった。その姿はまさに悪魔そのものだった。

 

 

「こ、コイツは!?」

 

 

「ゼレフ書の悪魔だ!!」

 

 

ゼレフ書の悪魔。

魔法界の歴史上最も巨悪の魔導士であるゼレフが作り出したのがララバイなのだ。

 

 

『さて、どいつから頂こうか………面倒だ、まとめて喰ってやる!!』

 

 

「いかん!呪歌じゃ!!」

 

 

ララバイが大きく口を開けて音色を吐き出そうとする瞬間、ナツ、エルザ、グレイが一気に駆け出した。エルザは天輪の鎧に換装してララバイの左脚を切り裂いた。

さらにナツが駆け上って直接蹴り上げる。ララバイも負けじと魔力弾を吐き出すもナツは難なく躱す。しかし魔力弾はそのままギルドマスター達に向かっていた。

 

 

「アイスメイク……(シールド)!!」

 

 

「氷の造形魔導士か!?」

 

 

「でも間に合わん!」

 

 

右手で作った拳を左手に添えて広げると巨大な盾が一瞬にして出来上がった。

 

 

「早い!一瞬でこれほどの造形魔法を!?」

 

 

「造形魔法って?」

 

 

「魔力に形を与える魔法だよ。そして形を『奪う』魔法でもある」

 

 

「アイスメイク、槍騎兵(ランス)!!」

 

 

両手を突き出すと掌からいくつもの氷の槍がララバイに被弾した。煙が晴れると胴体の半分が失っていた。

 

 

「よし!どいてろみんな!!」

 

 

声を上げたビートが皆に呼びかける。姿勢を低くして溜めの姿勢に入ると巨大な水色のオーラが現れる。

 

 

「な、何!?」

 

 

「来た!ビートの大技!!」

 

 

「かめはめ波だっ!!」

 

 

「カメ………ハメ………波?」

 

 

聴き慣れない言葉を聞いてルーシィはエルザにオウム返しする。

 

 

「体内の潜在エネルギーを凝縮させ、一気放出させるビートのとっておきだ」

 

 

気を溜め終えたビートが両手首を合わせて手を開いて、体の前方から腰にもっていく。

 

 

「か………」

 

 

そこから腰付近に両手を持っていく。

 

 

「め………」

 

 

両手を完全に後ろに持っていき、掌に水色の光が宿る。

 

 

「は………め………」

 

 

そして両手を上下に開いた形で前方に突き出し、掌から閃光が溢れた。

 

 

「波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

放たれた一筋の閃光はララバイの頭部を呑み込んで大爆発を起こした。

爆煙が晴れるとララバイの頭部が無くなっていた。

 

 

「よっしゃぁ!!久々に決まったぜ!!」

 

 

「こ、これが………」

 

 

これが妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強のチーム!!

 

目の前の光景にカゲヤマは涙した。それ程に4人の力に感動したのだろう。

 

 

「いやぁ今回の件で妖精の尻尾(フェアリーテイル )には借りが出来ちまったな」

 

 

「なんのなんのー!!ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……ぁ………あっ!?!?」

 

 

マカロフが何かに気付き、ギルドマスター達も釣られて振り返るとララバイが倒れた拍子に定例会の会場が粉々に倒壊していた。

 

 

「つ、捕まえろー!!」

 

 

「おし!任せとけ!」

 

 

「お前は捕まる側だー!」

 

 

「マスター………申し訳ありません」

 

 

「い、いーのいーの。もうどうせ呼ばれないんだし!!」

 

 

「もうダメだぁ………おしまいだ………。逃げるんだぁ」

 

 

『早っ!?』

 

 

脱兎の如く逃げたビート。

かくしてララバイ事件は解決された………?

 



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其の15 ナツVSエルザ

鉄の森(アイゼンヴァルド)によるギルドマスターの定例会を狙った事件は一躍大ニュースとなり国中に知れ渡ったの。

あんな大事件の中心に自分がいたなんて未だに信じられないけど、私はいつもと同じ日常を送ってます。たまにあの時の事思い出してドキドキしてるけどね。

風の噂じゃあのカゲって人や鉄の森(アイゼンヴァルド)のメンバーがほとんど捕まっちゃったみたい。まぁ当たり前だけど………。

でもエリゴールだけは捕まってないらしいの。妖精の尻尾(フェアリーテイル )に復讐とか考えているとゾッとするけど、大丈夫。妖精の尻尾(フェアリーテイル )にはナツ、グレイ、エルザ、ビートの最強チーム+(ハッピー)と私がいるからね♪

このギルドはとても最高よ。だからママも心配しないでね。私は元気にやってます。

P.Sパパには秘密にしててね。

 

 

一筆書き終えたルーシィは手紙を便箋に入れる。ここ数日でかなり大冒険したルーシィは自身の母に手紙を綴っていた。

 

 

「やっぱり自分の家は落ち着くなぁ〜」

 

 

「これで家賃7万は確かに安いな」

 

 

「へ?」

 

 

「いいとこ見つかったなルーシィ」

 

 

「不法侵入ーーー!!」

 

 

振り返るといつの間にかソファで寛いでいたグレイがいた。しかも上半身裸で。

 

 

「人ん家で服脱ぐなー!!」

 

 

「グハァッ!?ま、待て誤解だ。脱いでから来たんだが」

 

 

「どっちにしても迷惑!帰って!!」

 

 

蹴りを入れられた首筋をさすりながら誤解を解こうとするが、どっちにしろ弁解出来てない。

 

 

「例の()()今日だぞ。忘れてんじゃねーかと思って来たのによ」

 

 

()()?」

 

 

「ほら忘れてる。出発前に言ってたろ?」

 

 

 

 

ナツとエルザが戦うって。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )のギルドの入口にギルドメンバーの殆どが外に出ていた。今日がナツとエルザが対決する日なのである。

 

 

「ちょ、本気なの二人とも!?」

 

 

「本気も本気、本気でやらねば漢ではない!」

 

 

「エルザは女の子よ」

 

 

「だ、だって最強チームの二人が激突したら………」

 

 

「最強チーム?」

 

 

「グレイ知らないの?アンタとナツとエルザにビートのことよ!妖精の尻尾(フェアリーテイル )トップ4でしょ?」

 

 

「はぁ?誰がそんなくだらねぇことを………」

 

 

彼の背後にいたミラジェーンが顔を覆って泣いた。

 

 

「あ、ミラちゃんだったのね………」

 

 

「あーあーグレイが泣かしたー。先生に言ってやろー」

 

 

「先生って誰だよ!?」

 

 

横からニュッと出てきたビートがポツリと言った。それに心なしか何処か沈んでいるように見えた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「二人が対決するって事だからハラハラしてんだよ」

 

 

「そうなんだよ。もうその所為で夜しか眠れんかった」

 

 

「寝れてんじゃない!!」

 

 

そうこうしていると対決がもう少しで始まりそうになっていた。

エルザは紅い鎧に換装して構える。彼女が纏った鎧は炎帝の鎧。耐火能力を持つ鎧で炎を使うナツの攻撃が半減にされる程の強力な鎧である。彼女が相当本気である事がわかる。それでもナツも両手に炎を纏って身構える。

 

 

「始めいっ!」

 

 

マカロフの合図により対決の火蓋が切られた。最初に仕掛けたのはナツ。地面を蹴って火竜の鉄拳を放つが、バックステップで躱される。そこから横薙ぎに剣を振るうが、ナツはそれをしゃがんで回避。両者一歩も譲らない戦い。

そこでエルザの足払いで態勢が崩れるが、口から炎を放って応戦する。顔を横に向いて放射範囲を広げるも避けられてしまう。

そしてほぼ同じタイミングで剣と拳を振り放たれ激突する瞬間だった。

誰かが手を叩いて対決を中断させた。その者は裁判員のような服装をしたカエルだった。

 

 

「全員その場を動くな。私は評議院の使者である」

 

 

「評議院!?」

 

 

「どうしてここに!?」

 

 

「あのビジュアルについてはスルーなのね………」

 

 

インパクト大な見た目を尻目に使者は鞄から一枚の紙を広げて全員に見せる。

 

 

「先日の鉄の森(アイゼンヴァルド)テロ事件において、器物損害罪他11件の罪の容疑で………」

 

 

“エルザ・スカーレットを逮捕する”

 

 

「何だとぉぉぉぉ!?」

 

 

「っ!?」

 

 

突然の宣告にナツの怒号が空の下に響いた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

先程までとは一変してギルド内は静寂に包まれていた。しかしその中で騒いでいる者が二人。否、()()

 

 

 

「出せっ!ここから出せよ!!」

 

 

「ナツ、ビート。うるさいわよ」

 

 

「出せーーー!!」

 

 

「出したら暴れるでしょ?」

 

 

「暴れねぇよ!!つーか元に戻せ!!」

 

 

現在ナツはトカゲに、ビートはカエルに変えられてコップの中に閉じ込められていた。

あの後暴れ出した二人をマカオにトカゲやカエルに変えられてしまったのだ。

 

 

「今回ばかりは評議院相手じゃ、手の打ちようがねぇ」

 

 

「出せーーー!!俺は言ってやるんだ!!エルザは何も悪くないって!!間違ってのはあっちだって!!」

 

 

カエルになったビートが叫ぶも向こうは魔法界でも上位に位置する評議院。下手に手を出せばギルド全体に影響が及ぶ。

 

 

「出せーーー!!ここから出せーーー!!」

 

 

「本当に出しても良いのか?」

 

 

マカロフが二人に尋ねた途端、ビートが急に黙り込んだ。

 

 

「どうしたビート?急に元気がなくなったかの?」

 

 

片手に魔力を生成させて二人に向けて放つと元に姿に戻った。ただしカエルはビートではなくマカオだった。

 

 

「すまねぇ。アイツには借りがあってな。ビートに見せかける為に自分でカエルに変身したんだ」

 

 

「本当は俺が行きたかったけどな………」

 

 

「じゃあ本物のビートは!?」

 

 

「全員黙っておれ。静かに結果を待てばよい」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

評議院フィオーレ支部。

そこの裁判室では約10名の評議員とエルザが裁定を受けていた。

 

 

 

「被告人エルザ・スカーレットよ。先日の鉄の森(アイゼンヴァルド)によるテロ事件において、主はオシバナ駅一部損壊。リュシカ峡谷鉄橋破壊。クローバーの洋館全壊………これら破壊行為の容疑にかけられている。目撃証言によると犯人は鎧を着た女魔導士であり………」

 

 

瞬間、エルザの背後にある扉が破壊された。評議員は皆ざわつき、その破壊した張本人が現れた。

 

 

「ふー………ふー………」

 

 

「ビ、ビート!?」

 

 

そこには半泣きで評議員達を睨むビートが佇んでいた。戸惑う評議員達を尻目にビートはわなわなと震える。

 

 

「エ、エルザを………」

 

 

「?」

 

 

「エルザを返せーーーーーー!!!」

 

 

ビートが大声を上げた瞬間、評議員の中の若い女性がある異変に気付いた。

 

 

カタカタカタカタ

 

 

「なっ!?」

 

 

置いていた水差しが揺れ、遂には亀裂が走った。それだけではなく、窓ガラスまでも割れ始めた。

 

 

「うおおおあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

「こ、この魔力は!?」

 

 

 

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

怒号を響かせる度に彼の魔力がどんどん上がって行くのを感じた。このままだとこの部屋が崩れかねない。

 

 

「絶対に許さないぞ!お前t「やめろビート!!」door!?」

 

 

膝蹴りで彼の腹部に一撃を喰らわせて気絶させた。

 

 

「ふ、二人を牢へ!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

牢屋にぶち込まれた二人は現在エルザからの説教を受けていた。

 

「全く何をやっているのだお前は………。これはただの儀式だったのだ」

 

 

「ぎ、ギシキ?」

 

 

正座して聞いていたビートがオウム返しをする。

 

 

「形だけの逮捕だ。魔法界全体の秩序を守る為、評議会としても、取り締まる姿勢を見せておかねばならないのだ」

 

 

「え、えっと………」

 

 

「つまりお前があんなことしなければ今日中に帰れたんだ」

 

 

「え、えーーー!?そんなぁ………」

 

 

自身がやった事が逆に迷惑をかけてしまったことに落ち込んだ。

するとエルザが自身の額を彼の額にくっ付ける。

 

 

「でも、嬉しかった。ありがとうビート」

 

 

「…………うん。ごめんなさい…………」

 

 

優しく微笑む彼女に身を預ける。

その様子を青髪の男が静かに見ていた。

 

 

「感情によって魔力を高めたあの子供………妖精の尻尾(フェアリーテイル )にいたかサイヤ人………」

 



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其の16 S級魔導士

「ご迷惑をおかけしてごめんなさい………」

 

 

あの後一夜牢屋で過ごしたエルザとビートが帰ってきた。沈んだ様子でギルドメンバーに頭を下げていた。

 

 

「顔上げろよビート。牢屋1日で済んだのが逆に奇跡だぞ」

 

 

「結局形だけの逮捕だったなんてね………心配して損した………」

 

 

「そうか!カエルの使いだけにすぐに『帰る』!」

 

 

「さ、流石氷の魔導士、ハンパなくさみィ!」

 

 

「温暖化ならぬ地球冷凍化待ったなし!」

 

 

グレイのギャグのセンスの無さに思わず身震いするビートとエルフマン。するとエルフマンがある事を思い出した。

 

 

「ところでエルザとナツの勝負はどうなったんだ?」

 

 

「あ!そうだった!つーわけでエルザー!勝負しろーーー!!」

 

 

「よせ、今疲れているんだ」

 

 

「行くぞーーーーーー!!」

 

 

「聞いてねぇ!?」

 

 

「………やれやれ」

 

 

腕に炎を纏ったナツが向かってくる中、静かに立ち上がると槍を召喚して横薙ぎに吹き飛ばした。

何度か横転してテーブルにぶつかったところでようやく止まった。

 

 

「仕方ない始めようか」

 

 

「終ーーー了ーーー!!」

 

 

「PERFECT!!」

 

ノーダメージで勝ったエルザに妙に発音の良い声で言い放つ。周りがゲラゲラ笑う中、カウンターに座っていたマカロフがコックリコックリと俯く。

 

 

「マスター、どうしました?」

 

 

「いや、眠くてな………奴じゃ」

 

 

「え?」

 

 

すると全く同じタイミングでマカロフ以外のギルドメンバーが眠りについた。さっきまで騒いでいたギルドが一瞬で静かになる。そして入り口から黒いローブを纏った男が入って来た。

 

 

()()()()()

 

 

「…………」

 

 

ミストガンと呼ばれた男はそのままリクエストボードから依頼書を剥がしてマカロフの元に添えた。

 

 

「行ってくる………」

 

 

「これっ!眠りの魔法を解かんか!!」

 

 

マカロフを一瞥すると翻して入り口に向かう。

 

 

「伍………四………参………弐………壱………」

 

 

霧に紛れるように消え、ギルドメンバーは眠りから覚めた。ナツとビートを除いて。

 

 

「この感じはミストガンか!」

 

 

「相変わらず強力な眠りの魔法だ………」

 

 

「ミストガン?」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強候補の一人だ」

 

 

「えっ!?」

 

 

「どういう訳か誰にも姿を見られたくないらしく、仕事を取るときはいつもこうやって全員を眠らせてしまうのさ」

 

 

「何それ!?」

 

 

「だからマスター以外誰もミストガンの顔は知らねぇんだ」

 

 

「いんや、オレは知ってっぞ」

 

 

突然知らない声が聞こえた。見上げると二階に黒マントにヘッドホンをし、葉巻を咥え顔に傷を持った金髪の男が手摺りに寄り掛かっていた。

 

 

「だ、誰?」

 

 

「もう一人の最強候補のラクサスだ」

 

 

「っ!!」

 

 

「ミストガンはシャイなんだ。だからあんまり詮索してやるな」

 

 

「ラクサスーーー!!オレと勝負しろーーー!!」

 

 

ラクサスの声に反応して眠りから覚めるナツとビート。目覚めてすぐに勝負を挑もうとする。

 

 

「さっきエルザにPERFECT取られたでしょ?」

 

 

「そうそう。エルザ如きに勝てねぇようじゃオレに勝てねぇよ」

 

 

「それはどういう意味だ………?」

 

 

「お、落ち着いてエルザ」

 

 

殺気を放つ彼女をなんとか宥めるビート。その様子に嘲笑うかのように見下ろす。

 

 

「まぁ、つまりこのオレが最強ってことさ」

 

 

「降りてこいこの野郎!!」

 

 

「お前が上がってこいよ」

 

 

「上等だ「駄目じゃ」ぶぇっ!?」

 

 

左手だけ大きくしたマカロフがハエを叩くようにナツを沈めた。

 

 

「2階に上がってはならん………まだな………」

 

 

「ははっ!怒られてやんの!」

 

 

「ラクサスもよさんか」

 

 

「どっち道妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強の座は誰にも渡さねぇよ。エルザにも………ミストガンにも………あのオヤジにもな。オレが最強だ!!」

 

 

マントを翻して奥に消えて行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

マスターが2階に上がってはいけない理由。

2階にもリクエストボードがあるが、1階と比べてとても難しい仕事が貼ってある。それがS級クエスト。

一瞬の判断のミスが死を招くような危険な仕事である。その分報酬が良い。S級の仕事はマカロフに認められた魔導士にしか受けられない。その資格があるのはエルザ、ラクサス、ミストガンと他2名の計5人。

 

 

ビートは一人山に来ていた。自身もかなりの力を持っているのにも関わらずあの時ナツの隣にいたのに見向きもしなかった。

それは舐められているからだ。ビートはナツ達と比べてまだ15歳だ。その為には修行あるのみ。最近は仕事続きであまり行っていなかったから久々に体を動かすことにした。

 

 

「よっしゃあ!!取り敢えずここに1週間ぐらい住むか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

3日目の朝。

 

 

「バクバクバクバクバクバク」

 

 

種が食せる木の実を一心不乱に食らっていた。すると周りが級に暗くなり、見上げると恐竜がヨダレを垂らしながらこちらを見ていた。

 

 

「また君か壊れるなぁ………」

 

 

噛み殺さんとばかりに襲い掛かるも跳躍して避けた。しかし恐竜は彼が着地した途端すぐに追い掛ける。それを察知したビートはすぐに走り出す。

恐竜との追いかけっこが続き、あと少しで彼に追いつきそうな距離で岩に激突した。

この隙に恐竜の背後に回るとそこには尻尾がなくて断面部分があった。

 

 

「さて、あの技使うか………」

 

 

右腕を上に向けて突き出すと魔力弾を作り出す。それを段々形を細くして円盤状に変えた。

そして再び高く跳躍し、半分無くなった尻尾を捉える。

 

 

「気円斬!!」

 

 

円盤状の魔力弾を投擲すると尻尾が切断されて大きな肉となる。

 

 

「お前そのうち尻尾なくなるんじゃね?」

 

 

恐竜にそう一言だけ残すと近くにあった木の枝を燃やして肉を焼き始める。

 

 

「おーいビート!!」

 

 

「ん?あ、お前!!」

 

 

焼いている最中に誰が彼を呼び掛けた。それはかつて戦ったヤムチャだ。あの後ヤムチャも心を入れ替えたまにビートと相手をして今ではすっかり友になっていた。

 

 

「どうしたんだヤムチャ?つーかよくここがわかったな」

 

 

「それどころじゃないんだ!エルザがお前に用があるって………」

 

 

「んえ?エルザが?」

 

 

エルザの用とは一体?次回に続く。



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其の17 満月の化物

「馬鹿だなぁ、何でお前S級クエストなんて挑戦したんだよ………。」

 

 

「うぅ………だってナツが………」

 

 

エルザの頼み事はと言うとハッピーが2階に侵入してS級クエストの依頼書を盗み、ナツ、ルーシィ、ハッピーの3人で勝手にS級クエストに行こうとしていたのだ。そこでグレイは3人を捕まえに行ったが中々帰ってこなく、 ビートと共に依頼のガルナ島に向かったのだ。

そこで巨大なネズミに襲われそうになったルーシィをジャン拳で助けるも、ハッピーを捕まえたエルザにルーシィも捕まり、現在はナツとグレイを待っていた。

 

 

「でもエルザ………流石に縄で縛るのはやりすぎじゃ………」

 

 

「コイツ等はマスターを裏切ったのだ。いくら仲間でも掟を破る者は誰であろうと許さん」

 

 

冷たく言い放つエルザ。ここに来るまで彼女は機嫌は悪いままだ。確かにS級魔導士でもないのに勝手に依頼書を取り、勝手に依頼を引き受けたのだ。怒るのも無理も無い………。するとテントの入口から包帯を巻いたグレイがやってきた。

 

 

「エルザ!?ビート!?何でお前等が………」

 

 

「えっと………」

 

 

「大体の事情はルーシィから聞いた」

 

 

ナツ達が受けた依頼は呪われた島ガルナ島。別名『悪魔の島』。その島に住む住民は皆体の一部が異形と化していた。それは月の魔力による影響だと言うこと。更にこの島の月は紫色になっている。そして月が出ている間は住民は悪魔のような異形へと変貌する。この呪いを解くには月を壊すしかないとのこと。

 

 

そしてもう一つ。

この島の中心に位置する神殿の奥深くに厄災の悪魔『デリオラ』が氷漬けに封印されている。

デリオラはグレイに氷の造形魔法を教えてくれた師匠にあたるウルという女性が命をかけて氷に封じたのだ。

しかしこの魔法を解く方法があった。

月の雫(ムーンドリップ)。月の魔力を一つに収束することによっていかなる魔法を解除する力を持つ。

それを企むのは零帝もとい、グレイと同じく氷の造形魔法を教わったリオンという者だ。彼の目的はデリオラの封印を解いて自分の手で倒すこと。そうする事で自身はウルを越えられたと証明出来るからだと。

 

 

「お前はナツ達を止める側だろう?何故ここにいる?呆れてものも言えんぞ」

 

 

「ナ、ナツは?」

 

 

「それは私が聞きたい」

 

 

ルーシィによるとナツは零帝の手下と戦っていたが、倒した筈なのに彼の姿が見当たらないとのこと。

足を組んで座っていたエルザが立ち上がる。

 

「つまりナツはこの場所がわからなくてフラフラしていると見た。グレイ、ビート、ナツを探しに行くぞ。見つけ次第ギルドに戻る」

 

 

「な、何言ってんだ………事情を聞いたなら今この島で何が起こっているのか知ってんだろ………?」

 

 

「それが何か?」

 

 

「なっ!?」

 

 

「私はギルドの掟を破った者をつれ戻しに来た。残るはナツ一人。それ以外には一切興味がない」

 

 

冷たく答えるエルザにビートの表情が曇った。

 

 

「依頼書は各ギルドに発行されている。正式に受理されたギルドの魔導士に任せるのが筋ではないのか?」

 

 

「……………………それはおかしいと思う。」

 

 

発したのはグレイではなくビートだった。グレイは驚愕するが、エルザは変わらず低い声音で尋ねる。

 

 

「理由を聞こうか」

 

 

「………確かにじいちゃんの許可無しに勝手にS級クエストを挑んだのは悪いよ。だけどさ、俺は掟よりも困っている人を助けるのが良いと思う。報酬とか関係なしで………」

 

 

そう言い終えると彼の首筋に魔法剣が向けられた。

 

 

「たとえお前でもただではすまさんぞ」

 

 

「…………」

 

 

すると彼の表情が一変し、真剣な眼差しで彼女の剣を掴んだ。

掴んだ手から鮮血が流れる。

 

 

「な!?」

 

 

「悪いけどエルザ。今回ばかりは俺も本気(マジ)だから。俺だってたとえエルザでも相手になるぞ」

 

 

剣にピキリと亀裂が走って彼女の剣を押し退けてテントから出て行った。呆然としていたグレイは我に返り、エルザを一瞥すると後をつけるように出た。

 

 

「え、エルザお、落ち着いて………」

 

 

「グレイは昔の友達に負けて気が立ってんだよぉ〜」

 

 

「…………」ギロッ

 

 

「エルザーーーーーー!!?」

 

 

「ナツーーーーーー!!助けてーーーーーー!!」

 

 

彼女が剣を振り下ろすとルーシィ達の縛っていた縄が切られた。

 

 

「私達も行くぞ」

 

 

「へ?」

 

 

「これでは話にならん。まずは仕事を片付けてからだ。」

 

 

「エルザ!」

 

 

「勘違いするなよ?罰はしっかり受けて貰う」

 

 

「は、はい…………。」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「やってくれたな小僧………」

 

 

「これで月の雫(ムーンドリップ)は当たらねぇ。お前達の思いになんかされてたまるか」

 

 

一方ナツは神殿の支柱を半数破壊してデリオラから月の雫(ムーンドリップ)を遠ざけた。

 

 

「だが一人で何が出来る?」

 

 

リオンはアイスメイクで氷の野鳥を作ってナツに向かわせる。

 

 

「一人じゃないぜ!!」

 

 

しかし横から水色の気功弾でそれが破壊された。やったのは無論ビートだった。

 

 

「ビート!?お前何でここに!?」

 

 

「本当はエルザと一緒に連れ戻しに来たんだけど、気が変わった!俺も戦うよ!」

 

 

「あいつは妖精のサイヤ人か………」

 

 

リオンの隣にいた仮面をつけた男がビートを一瞥すると何処か嬉しそうに笑った。

 

 

「零帝様。私にあのサイヤ人の相手をさせて下さい」

 

 

「珍しいな、お前が乗気で戦うなんて………」

 

 

「わたくし少々考えがありましてな………」

 

 

「ゴチャゴチャ話してないで降りてかかって来い!!」

 

 

ビートが声を荒げて言うと仮面の男は軽い足取りで下に降りて来た。

 

 

「ナツ!お前は上の奴を!」

 

 

「合点承知!」

 

 

脚から炎を噴射させて上昇するナツ。丁度入れ替わりで仮面の男と対峙する。

 

 

「お前が俺の相手か」

 

 

「あまり見かけで物事を判断しないように。貴方が思っているよりも遥かに強いので」

 

 

「誰が!!」

 

 

仮面の男に向かって飛び蹴りを放つも軽々と避けられる。めげずに地を蹴って再び接近し、あの技を使った。

 

 

「喰らえ!!狼牙風風拳!!」

 

 

あれから修行してオリジナルに近づけた形にした狼牙風風拳を放つ。しかしこれも軽く躱されてしまう。

 

 

「ホイ!」

 

 

「ぶっ!?」

 

 

仮面の男から放たれた水晶玉が顔面にめり込んで吹き飛ばされた。

 

 

「クッソ!まだまだだ!っておお!?」

 

 

攻撃を仕掛けようとすると急に神殿が動き出した。さっきまで斜めだった足場が水平に戻った。

 

 

「ど、どうなっているんだ?」

 

 

「ホッホッホッ。失われた魔法(ロストマジック)を少々………。」

 

 

「ろ、ロストマジック?」

 

 

「強力すぎる上副作用の深刻さにより歴史から抹消された魔法のことでござい」

 

 

「そ、そんなものが………」

 

 

「それは私だけでなくあの滅竜魔法(ドラゴンスレイヤー)の使い手も然り………」

 

 

そう言い残すと煙幕を張って彼の目の前から忽然と消えた。

 

 

「何処だぁぁぁぁ!姿を見せろぉぉぉぉ!!」

 

 

彼の叫び声が虚しく響いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

仮面の男は氷に封じられたデリオラの所にいた。

 

 

「いよいよか………」

 

 

すると何処からともなく何かが飛んでくるような音が耳にはいった。

 

 

「ダァリャアッ!!と出してきたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「ホッホッホッ!面白い掛け声ですな」

 

 

最早お決まりとなったビートの突然攻撃が炸裂するもまた躱される。

 

 

「何故ここがおわかりに?」

 

 

「ロストマジックを使ったのが運の尽きだな!お前から発する気はモヤモヤするんだ。それを辿って来ただけだ!」

 

 

「成る程成る程………」

 

 

「何でこんなことをする?」

 

 

「………私はどうしてもデリオラを復活させたいのですよ」

 

 

「そんなのさせると思うか?」

 

 

「それはどうでしょうかねぇ?」

 

 

「ん?なっ!?」

 

 

仮面の男が天井を見上げ、それに釣られて見ると上から紫色の一筋の光が氷に当たっていた。

 

 

「一人の儀式による月の雫(ムーンドリップ)は弱いのですが、切っ掛けさえ与えてあげれば簡単に」

 

 

「くそっ!上にいる奴を倒さねぇと………ってがっ!?」

 

 

上に向かおうとすると仮面の男から発射された水晶玉に吹き飛ばされた。

 

 

「誰が逃げていいと言ったのかね?」

 

 

「あぁもう!その玉スゲェムカつく!」

 

 

再び向かってくる水晶玉を拳で粉砕すると仮面の男が手を動かして元通りになった。

水晶玉は軌道を変えて彼の腹部にめり込む。

 

 

「私は物体の時を操れます。即ち水晶を壊れる前の時間に戻したのです」

 

 

「時を操る!?それがお前か魔法かっ!?」

 

 

「『時のアーク』。ロストマジックの一種です。お次は水晶の時を未来へ進めてみましょうか?」

 

 

手を翳すと水晶玉の速さが更に上がって縦横無尽に彼を攻撃する。反撃して割るもまた再生され、今度は当たる直前に止まった。

 

 

「勿論時を止めることも可能」

 

 

「………やっぱりわからん」

 

 

「っ?」

 

 

「リオンって奴はデリオラを復活させて倒す。本人はそれでいいと思うけど他の仲間に何の得があるんだよ?」

 

 

「さぁ?私、最近仲間になったばかりなので………」

 

 

「………ならお前に聞く。本当の目的は何なんだ?」

 

 

「…………まずはっきり言って零帝様……いやあんな小僧如きにデリオラは倒せませぬ」

 

 

「っ?じゃあどうすんだよ?」

 

 

「ただ我がものにしたい」

 

 

「っ!?」

 

 

「たとえ不死身の怪物であろうと操る術は存在するのです。あれ程の力を我がものに出来たらさぞ楽しいと思いませぬか?」

 

 

「いいや、楽しくないね!そんな邪悪な力なんて………」

 

 

そんなビートを仮面の男はほくそ笑んだ。

 

 

「何が可笑しい!」

 

 

「貴方にはまだわかりますまい………。『力』が必要な時が必ず来るというのが………」

 

 

「そんなの修行して身につけて、後は仲間の思いを乗せればいい!!それが妖精の尻尾(フェアリーテイル )の武道家だ!!」

 

 

「自惚れは身を滅ぼしますぞ」

 

 

腕を掲げると天井が崩れて岩片が宙に浮かぶ。

 

 

「後、残念だったな」

 

 

「む?」

 

 

「俺も時を操れるんだぜ?自分にな」

 

 

「何を!」

 

 

岩片がビートに真っ直ぐ向かうと彼も同じ真っ直ぐ向かう。互いに激突する瞬間、岩片が彼の体をすり抜けた。

 

 

「何!?」

 

 

「高速移動だよ。残像を作れる程のな!」

 

 

これぞビートの残像拳。

彼の凄まじい速さで残像を作り出して相手を惑わす技だ。至近距離まで近づいて眼前に手を翳す。

 

 

「波っ!!」

 

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

 

気合砲を放って吹き飛ばして壁に激突させた。

 

 

「やったぜ!」

 

 

「ふ、ふっふっふっふっ。」

 

 

「何だ?まだやるのか?」

 

 

ビートが身構えると仮面の男はゆっくりと腕を上げて指を指す。指した方向には………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今宵は綺麗な満月ですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドックン………。

 

 

満月を目にした途端彼は硬直した。まるで金縛りにあったように。仮面の男が何かしたのではない。

 

 

ドックン…………ドックン…………。

 

 

彼の黒い瞳が赤くなってジッと満月を見ていた。

 

 

 

ドックン……ドックン……ドックン………。

 

 

心拍音が離れても聞こえる程大きくなっていく。

 

 

 

ドックンドックンドックンドックンドックンドックンドックン。

 

 

そして時は来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「デリオラは俺が倒す!!」

 

 

「させねぇ!!」

 

 

一方ナツはグレイと合流して儀式を始めている者を倒しに外に向かわせ、リオンと対峙していた。互いに譲らぬ攻防が続き、両者の拳が振るわれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオオオオン!!!!」

 

 

 

神殿内に響き渡る怒号。二人のいた足場が崩れて下へと落ちる。

ギリギリ飛び越えて着地したグレイはその声の主を見て絶句した。

 

 

 

デリオラと同等の体躯、濃い茶色の体毛。ヒヒのような顔つき。血のように真っ赤な目。そして見た事ある尻尾。

グレイ自身も初めてではない。それはまだ自身やナツが小さかった頃、満月の日に現れた化物。

 

 

「ビートッ!!」

 

 

「グオオオオオオン!!!!」

 

 

それは大猿と化したビートだった。

丁度この怒号に気が付いたナツや、ルーシィ達がグレイと合流した。

 

 

「な、何あの化物っ!?」

 

 

「………ルーシィ、落ち着いて聞けよ?あれはビートだ」

 

 

「ビ、ビート!?何であんな姿に!?」

 

 

「昔、ビートがまだ小さかった時、一回抜け出して満月を見ようってなった時に変身した………。サイヤ人は満月を見ると大猿つう化物に変身するんだ」

 

 

「そ、そんな………」

 

 

「面白い………」

 

 

『っ!?』

 

 

声がした方を見るとグレイと同じく飛び越えて着地したリオンが歩み寄った。

 

 

「デリオラの前のウォーミングアップでコイツを倒してやる………」

 

 

「無理だ!!逃げろリオン!!」

 

 

「黙って見ていろ!!アイスメイク『大鷲(イーグル)』!!」

 

 

無数の氷の大鷲を作り出してビートを怯ませる。更に追い討ちをかける如く次の造形魔法を唱える。

 

 

「アイスメイク『大猿(エイプ)』!!」

 

 

ビートとは違って氷で出来たゴリラが頭部を叩きつけた。

 

 

「終わりだ!!アイスメイク『白竜(スノードラゴン)』!!」

 

 

今度は氷の竜を作り出してビートを襲った。土煙が大きく舞い散った。

 

 

「ふっ、終わった………やはり俺はウルを超えてしまったようだ………な………」

 

 

土煙が晴れるとビートは健在していた。額から血が流れて逆に怒っているように見えた。

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

「グオオオオオオン!!」

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

放たれた拳に氷のゴリラを作って防ぐも、簡単に砕かれて壁に激突した。

 

 

「リオン!!」

 

 

「ガオオオオオオオオオ

ン!!!!」

 

 

『っ!?』

 

 

別の叫び声が聞こえ、そこには氷から出たデリオラが現れた。

 

 

事態は最悪に陥っていく………。

 



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其の18 誰かの声

「グオオオオオオン!!!!」

 

 

「ガオオオオオオオン!!!!」

 

 

二体の巨大な悪魔と怪物が咆哮を上げ、洞窟内に反響する。デリオラが氷から出て事態は悪化していっていた。

 

 

「ま、まずいぞ!あんな巨体が洞窟内で暴れ回ったら!」

 

 

「間違いなくここは崩壊する!」

 

 

「ど、どうするの!?」

 

 

一同が揉めている中、二体は対峙して今にも戦いが始まろうとしていた。

デリオラが拳を振り上げ、ビートに叩き落とそうとしていた。

 

 

『…………だ』

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

『胸だっ!奴の胸を狙え!!』

 

 

突然頭の中で誰かの声がした。それに従ったのか、本能的に動いたのか、即座にデリオラの懐に入って右拳を中心部に叩き付けた。

デリオラの拳が彼の頭部に叩き付けられる直前に止まった。疑問に思う一同は暫くすると胸部から亀裂が走った。

 

 

「なっ!?」

 

 

更には腕が砕け、足も割れて顔も崩れ落ちる。

 

 

「ま、まさか………。デリオラは………既に死んで………」

 

 

そう、10年間ウルの氷の中で徐々に生命力を奪われ、丁度その最後をリオン達は見ていた。

 

 

「………敵わん……俺にはウルを超えられない…………」

 

 

溶け落ちた氷が水に還って流れていくのをグレイは見るとウルの顔が過った。

 

 

『お前の闇は私が封じよう………』

 

 

「…………ありがとうございます………師匠…………」

 

 

右手で顔を覆ってグレイは一人涙した。

だが、事態が終わった訳ではない。

 

 

「グオオオオオオオン!!!!」

 

 

「やべぇっ!!まだビート(コイツ)がいた!!」

 

 

慌てふためくナツに一同は気がつく。デリオラを倒してもまだ大猿のままになったビートが残っていた。

口を開けて光を収束させ始める。負傷したリオンの肩を担いで逃げようとするもまもなく放射される寸前であった。

瞬間。

 

 

ザンッ

 

 

「っ!!」

 

 

太刀音が反響する。

エルザが黒羽の鎧を纏って彼の尻尾を切断したのだ。尻尾が無くなった大猿は段々小さくなって元の姿のビートに戻った。

 

 

「エ、エルザ………何をしたの?」

 

 

「尻尾を切断した」

 

 

「尻尾を!?」

 

 

「本当なら小一時間程で元に戻るが、いつまでも経っているとここが崩壊しかねん。だから止むを得ず尻尾を斬った」

 

 

「ん………うーん」

 

 

目を覚ましたビートに一同警戒するが、すっかり元の彼に戻っていた。

 

 

「あれ?どうしたんだみんな………あ!そうだデリオラはどうなった!?」

 

 

「お、覚えてないの………?」

 

 

立ち上がって周りを見渡すビート。自身で倒したとも知らずに………。

 

 

「安心しろ。デリオラは既に死んでいたのだ。氷の中で徐々に命を奪われていたみたいだ」

 

 

「そ、そうか。成る程………ん?何かスースーするような………」

 

 

そしてここで気が付く。彼は今全裸になっている事を。

 

 

 

「なぁぁぁぁぁぁぁぁ!?俺の服がなぁぁぁぁい!?!?ていうか尻尾もなぁぁぁぁぁい!?!?」

 

 

グルグル走り回ってパニクるビート。先程の事を言うべきか一同は迷う。

 

 

「ま、いっか」

 

 

彼の軽い一言で一同ズッコケた。

 

 

「いや!やっぱ良くねぇぇぇぇぇぇ!!このままじゃグレイ(変態)みたいになっちまうぅぅぅ!!」

 

 

「おい!そりゃどう言う事だ!!」

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!グレイみたいになるなんていやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「おい………そんなに嫌か………」

 

 

頭を抱えてグレイと同類なってしまう事に絶望するビート。そんな彼の様子にグレイは少し傷つく。

そして立ち上がったかと思いきやルーシィに飛び付いた。

 

 

「頼むルーシィ!何か服出してくれぇ!!」

 

 

「ちょっと何で私なのよ!?ていうか近づくな!!」

 

 

「頼むよ!!これじゃグレイ(変質者)と同じだよ!!」

 

 

「お前そろそろ怒るぞ?」

 

 

「頼むよルーシィ!後生だから!!」

 

 

「わかった!わかったから!!これ以上近付かないでぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えへへ!貰っちゃった!」

 

 

「変な格好だな……」

 

 

「アンタ達ねぇ………」

 

 

現在ビートは上に白い長袖に下は山吹色のズボンに左肩のみに肩当てがある藍色の鎧のようなものを着用していた。ルーシィ曰く星霊界のヤードラットという種族の衣装だとか。

 

 

「俺は知らんぞ」

 

 

「何だと!?」

 

 

一方向こうではリオンに村の呪いをどうやって解けるか書き出そうとしていたが、知っていなかった。彼等は三年前に来ていたが、村の住民達には干渉しなかった。それに三年間彼等も同じ光を浴びていたが身体に変化は無かった。

 

 

「ど、どうする?」

 

 

「…………奴にも奴なりの正義があった。過去を難じる必要は無い。行くぞ」

 

 

エルザが洞窟から出るのを見て一同もそれに続いて出る。

 

 

「…………あれ?」

 

 

すると急にビートは振り返った。しかしいたのは岩にもたれ掛かったリオンだけだ。

 

 

「何だよ」

 

 

「いや、なんもない………。」

 

 

再度周りを確認して今度こそ出た。

 

 

「今………誰かに肩を置かれたような………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

洞窟から出たナツ達はテントに向かったが、誰もいなかった。しかし住民の一人が慌ててやって村に来るようにと言われ、行ってみると驚愕する。

リオン達にボロボロにされていた村が元に戻っていた。まるで時が戻ったように………。

その時ビートは戦った仮面の男の姿が過ぎった。

 

 

「魔導士殿!一体いつになったら月を破壊してくれるのですかーーー!」

 

 

すると向こうで何やら揉めていた。村は元に戻っても彼等の姿は元に戻っていなかった。

どうしたものかと悩んでいるとエルザが村長に伝える。

 

 

「月を破壊するのは容易い。しかし確認したいことがある。村のみんなを集めてくれないか?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「話を整理すると紫の月が出てからその姿になってしまった。間違いないか?」

 

 

「えぇ………。正確にはあの月が出ている間だけこの姿に………」

 

 

「そしてそれは3年前からだと言う」

 

 

「確かにそれぐらい経ちます」

 

 

エルザは腕を組んで歩き出す。

 

 

「しかし、この島では3年間毎日 月の雫(ムーンドリップ)が行われていた。遺跡には一筋の光が毎日のように見えていたハズ………ってきゃあ!」

 

 

すると突然エルザの姿が見えなくなった。それはルーシィが作った落とし穴に落ちたからだ。

 

 

「き、きゃあって言ったぞ………」

 

 

「か、可愛いな………」

 

 

「私の所為じゃない!私の所為じゃない!」

 

 

そんな感想を残すナツ達だが、ビートは一人トテトテエルザの元にいって舞空術で彼女を引き上げる。

引き上げられながら話を続ける。

 

 

「つまりこの島で一番怪しい場所ではないか………。何故調査をしなかったのだ?」

 

 

村長が言うには何度も調査に行こうとしたが、遺跡に向かって歩いても気が付けば村の門にいる。住民達は遺跡に近づけないでいた。

それを聞いたエルザは鎧を換装しながら歩き出す。

 

 

「ナツ、ビート。ついて来い」

 

 

「「?」」

 

 

「これから月を破壊する」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルザとナツは高台に、ビートはそのすぐ下に佇んでいた。彼女が先程纏った鎧は『巨人の鎧』。投擲力を上げる能力を持ち、続けて魔を祓う槍『破邪の槍』を取り出した。

この槍を投げる瞬間、石突きに向かってナツの火力で投擲力を更に増し、下のビートのかめはめ波で第二ブースターとして飛ばす。

そして遂にその時が来た。投げのモーションに入ってナツに呼び掛けて石突きを殴り付ける。

更に槍は速さを増して月に向かう。

 

 

「ビート!」

 

 

「よし来た!!」

 

 

「え?でもあの構えじゃないよ………?」

 

 

かめはめ波特有の大きく腰を落とすモーションがなく人差し指を突き出して石突きを捉える。

 

 

「どどん波!!」

 

 

彼の人差し指から細い一筋の閃光が一直線に向かった。石突きに命中すると更に槍は加速する。

どどん波。

かめはめ波よりも指先に一点に集中して放つエネルギー波。燃費も良く、連射可能だが指が熱で火傷する怖れがある。

凄まじい速さで一直線に月に向かって槍は突き刺さり、亀裂が走った。

しかし月は壊れず、割れたのは空だった。紫の月から本来の満月が現れた。

 

 

「ど、どうなってるんだ?」

 

 

「この島は邪気の膜で覆われていたのだ」

 

 

月の雫(ムーンドリップ)によって発生した邪気、分かりやすく言えば排気ガスが結晶化して空に膜を張っていたのだ。その為に月は紫に見えた。

邪気は晴れて村人達は光に包まれる。しかし光が晴れると村人達の姿は変わらなかった。

 

 

「邪気の膜は彼等の姿ではなく、彼等の記憶を冒していたのだ。」

 

 

「記憶?」

 

 

「『夜になると悪魔になってしまう。』という間違った記憶だ」

 

 

「………え、て言うことは………。」

 

 

つまり彼等は元々悪魔だったのだ。悪魔の姿が本来の姿だったのだ。流石の村人達も混乱している者もいた。リオン達に影響が無かったのは悪魔にしか効果が無かったからだと言う。神殿に近づけなかったのは聖なる力が発生されていた故だからだ。

 

 

「流石だ、君達に任せて正解だった」

 

 

「だ、誰?」

 

 

「ボボ!?」

 

 

バンダナを巻いた男がビートの隣に現れると村長は涙した。彼は村長の息子でナツ達をこの島まで運んだ船乗りだ。胸を刺されて死んだと思っていたらしいが、悪魔はその程度では死なないと笑い飛ばした。

村長は嬉しさの余りに彼に飛びついた。村人も同様に羽を生やして笑い合う。

それは悪魔というよりも天使達のように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その様子を大樹の枝に座って見ている者がいた。例の仮面の男だ。ビートの予想通り彼がこの村を元に戻したのだ。

 

 

『何故村を元に戻した?』

 

 

「サービスですよ♪」

 

 

『…………そうか』

 

 

水晶に写っていたのは評議員のジークレインという青髪の男だ。

 

 

『……奴は大猿と化したか………』

 

 

「はい。しかしあの女が切断して元に戻りました」

 

 

『これでまた大猿になることは無いな。驚異となる可能性は潰しておかねばならない………』

 

 

付けていた仮面を剥がすと段々姿が変わり、白い着物のような姿の女性となる。彼女も同じく評議員の一人のウルティアという女性だ。

 

 

「だけどジークレイン様、彼は絶対に()()にはなれませんよ」

 

 

『………何故そう思える?』

 

 

「あの子は強いけど善い心が強すぎる。あの心の持ち主では到底なれるとは思えないわ………」

 

 

『フフ、だと良いけどな…………』

 

 

水晶には不気味に笑うジークレインが写っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後ナツ達はマグノリアの街に帰った。

今回はナツ達が勝手に引き受けた依頼なので報酬は貰わない方向だったが、村人達はギルドとしてではなく友人のお礼として受け取って欲しいと言われ、報酬金は受け取らずに追加報酬の黄道十二門の星霊の鍵を貰った。

 

 

「結局得したのルーシィだよね………」

 

 

「今回は何の鍵だ?」

 

 

「えっと、人馬宮のサジタリウスよ」

 

 

「人馬!?」

 

 

グレイは頭が馬で、体が人間の生き物を想像する。

 

 

「いや、普通のケンタウロスでしょ………」

 

 

「こんなんとか?」

 

 

「最早馬ですらないじゃないそれ!!」

 

 

ビートは想像した絵をルーシィに見せるがそこにはがっつり怪獣ギランと書かれた人型のプテラノドンのような絵だった。

 

 

「さて、早速だがお前達の処分を決定する」

 

 

「あ!そうだった!」

 

 

「ビート、お前も入ってるからな」

 

 

「デスヨネ………」

 

 

あんな反抗をしたんだ。グレイ達と同罪になる。

 

 

「まさか()()をやらされるんじゃ!?」

 

 

「ちょっと待て!!アレは絶対になられたくねぇぇぇぇ!!」

 

 

「アレって何!?」

 

 

慌てふためくグレイとハッピーにその罰が気になって不安になるルーシィ。

しかしナツは逆に笑顔でフォローする。

 

 

「大丈夫だって!逆によくやったって褒めてくれるよ!」

 

 

「いや、アレはほぼ決定だろう。ふふ、腕が鳴るな………」

 

 

そして徐々に彼の顔が曇って同じく慌て始める。

 

 

「いやだぁぁぁぁぁ!!アレはいやだぁぁぁぁ!!」

 

 

「諦めなってナツ。修行と思って耐えるんだ………アレを………」

 

 

 

「だからアレって何ーーーーーー!!」

 

 

彼のマフラーを引っ張って引きずってギルドに向かう一行。

しかし街の住民はナツ達を見るたびにヒソヒソと話していた。

何だろうと疑問に思った一行だが、ギルドに着いた途端驚愕に包まれる。

鉄の柱のような物が突き刺さってボロボロにされていたのだ。

 

 

「オレ達のギルドがっ!?」

 

 

 

この時誰もが思っていなかった。

二つのギルドがぶつかり合う全面戦争と言える程の戦いになることを………。

 



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其の19 もう一人のサイヤ人

ガルナ島から帰ってきたナツ達。しかしギルドに戻るとボロボロにされて倒壊しかけていた。

現在ミラジェーンの案内により地下1階に移動した。そこには他のギルドメンバーが悔しそうにしていた。

そしてカウンターの中心にマカロフがジャッキを片手に酒を飲んでいた。

 

 

「よっ、おかえり」

 

 

「じいちゃん!大変なんだ!ギルドが!!」

 

 

「酒なんか飲んでる場合じゃないだろ!!」

 

 

「おーそうじゃったな………お前達勝手にS級クエストなんかに行きおってー!」

 

 

「え!?」

 

 

「罰じゃ!今から罰を与える!!」

 

 

右腕を掲げてナツ、グレイ、ハッピーの頭上に手刀を落とした。何故かルーシィにだけは尻を叩いた。さりげないセクハラである。

 

 

「マスター!今の事態がわかっているんですか!?」

 

 

「ギルドが壊されたんだぞ!!」

 

 

激を上げるエルザとナツだが、頬杖をしてどこ吹く風だった。

 

 

「まぁまぁ落ち着け、騒ぐほどの事でもなかろうに………」

 

 

「何っ!?」

 

 

「ファントムだぁ?あんなバカタレ共にはこれが限界じゃ。誰もいないギルドを狙って何が嬉しいのやら………」

 

 

ギルドが襲われたのは夜中で、怪我人が出なかったのが不幸中の幸いだった。

 

 

「不意打ちしかできんような奴等に目くじら立てる事はねぇ。放っておけ」

 

 

そこで我慢の限界だったビートがカウンターテーブルを叩いた。

 

 

「何で笑っていられるんだよ!!じいちゃんは悔しくないのかよ!!」

 

 

「話は終わりじゃ。上が直るまで仕事の受注はここでやるぞい」

 

 

「仕事なんてしてる場合じゃねぇだろ!!」

 

 

「ナツ!いい加減せんか!」

 

 

「何で私のお尻?」

 

 

再びルーシィの尻を叩くマカロフ。そしてずっと我慢していたのかトイレに駆け寄った。

 

 

「じいちゃん………何で………」

 

 

「ビート、悔しいのはマスターも一緒なのよ。だけどギルド同士の武力抗争は評議院で禁止されているの………」

 

 

「先に手ぇ出してきたのあっちじゃねぇか!」

 

 

「そういう問題じゃないのよ………」

 

 

「…………マスターの考えがそうなら………仕方ないな………」

 

 

話が終わった後も一同は何処か悔しそうにしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「で、何でみんな私も家に集まってんのーーー!?」

 

 

その後荷物を取りに行って自身の家に帰宅すると既にナツ、グレイ、ハッピー、エルザ、ビートが夕食を食べながら待っていた。

エルザ曰くファントムがこの街に来たという事は自分達の住所も調べられているかもしれない。しばらくは一緒にいた方が安全だと。他のギルドメンバーもそうしているらしい。

 

 

「お前も年頃の娘だしな。ナツやグレイ、ビートだけここに泊まらせるのは私として気が引ける。だから同席する事になった」

 

 

「ナツとグレイとビートは泊まるの確定しているだ………」

 

 

「気晴らしになっ!」

 

 

「プーン!」

 

 

「おお!何だプルー!その食いもん!オレにもくれ!」

 

 

「オレはもう寝るから騒ぐなよ」

 

 

「エルザ見て〜エロい下着見つけた」

 

 

「す、すごいな………こんなものを付けるのか………」

 

 

「モグモグ………」

 

 

「清々しい程人ン家でエンジョイするわね………」

 

 

すると何かに気付いたのかエルザはナツ達男性陣に告げる。

 

 

「お前達臭うぞ。同じ部屋で寝るから風呂ぐらい入れ」

 

 

「やだよメンドクセ」

 

 

「オレは眠ぃんだよ………」

 

 

「どうしようかな………」

 

 

「仕方ないな。昔みたいに入ってやってもいいんだぞ?」

 

 

「アンタら一体どんな関係よ!?」

 

 

「やっぱ俺入る。この服首辺りがなんか痒い………」

 

 

「人に服貰っといて何文句言ってんのコイツ!?」

 

 

閑話休題

 

 

「ねぇ、例のファントムって何で急に襲って来たのかな?」

 

 

「さぁな、今まで小競り合いはよくあったが、こんな直接的な攻撃は今回が初めてだ………」

 

 

「本当いきなりすぎる………」

 

 

風呂から上がったルーシィとエルザ、ビートが呟いた。現在ビートはヤードラットの衣装から白Tシャツに青の半ズボンといったラフな格好で、エルザはパジャマに換装していた。

 

 

「じっちゃんもビビってねぇでガツンとやっちゃえばいいんだ」

 

 

「じーさんはビビってる訳じゃねぇだろ。あれでも『聖十大魔道』の一人だぞ」

 

 

「聖十大魔道?」

 

 

「あ、おい見せろよ。この後イリスはどーなるんだよ?」

 

 

「ボブに強引に色々(意味深)される」

 

 

「な訳あるか!」

 

 

「あ、その前にマーガレットにもしてるからねボブは」

 

 

「誰も聞いてねぇよ!つーか最低過ぎるだろボブ!」

 

 

「うるさいボブに色々(意味深)されてしまえ」

 

 

「何言ってんだお前!?」

 

 

「そこ!ちょっとうるさい!」

 

 

ビートのいらないボケの所為で本題がズレてしまったがエルザは冷静に説明する。

 

 

「魔法評議会議長が定めた大陸で最も優れた魔導士10人のことだ」

 

 

「ファントムのマスター・ジョゼも聖十大魔道の一人なんだよ」

 

 

「(そしてあの男も………)」

 

 

エルザの脳裏にジークレインの顔が浮かんだ。彼は評議員でもあり、聖十大魔道でもある二つの称号を持つ者だった。

話を聞いていたナツが我慢ならなくなったのかテーブルを思い切り叩く。

 

 

「ビビってんだよ!ファントムって数が多いだけだ!!」

 

 

「ナツ、落ち着いて………」

 

 

「だから違ぇだろ。マスターもミラちゃんも二つのギルドが争えばどうなるかを知っているから戦いを避けるんだ。魔法界全体の秩序の為にな…………」

 

 

「そ、そんなにファントムって凄いの?」

 

 

「大したことねーよ!あんな奴等!!」

 

 

「いや、実際に争えば潰し合いは必至。戦力は均衡している………」

 

 

マスター・マカロフと同等の魔力を持つと言われる聖十大魔道の『マスター・ジョゼ』。

 

S級魔導士の4人『エレメント4』。

 

 

「一番厄介とされているのが鉄竜(くろがね)のガジル。今回のギルド強襲犯と思われる男。鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)………」

 

 

「え!?ナツの他にも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)っていたの!?じ、じゃあそいつって………鉄とか食べる………とか?」

 

 

「それだけではない」

 

 

「っ?」

 

 

「ガジルの他にも、もう一人厄介な者がいる。彼の弟分に当たる超戦士………」

 

 

“サイヤ人のバサーク”

 

 

その者の名前が出た瞬間、ビートの顔が曇った。

 

 

 

「え、えええええ!?サイヤ人!?ファントムにもサイヤ人がいるのっ!?」

 

 

「…………」

 

 

「ビート?どうしたの?」

 

 

「………俺………アイツ嫌いだ………。本当に同じサイヤ人なのか思うぐらい………」

 

 

彼の答えにルーシィはただ黙っているしかなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

とあるギルドにて、一人の男が食事をしていた。しかしその男が食しているのは鉄だった。

ネジに鉄パイプ、果ては鉄板まで頬張っていた。そこに仲間の一人が話し掛ける。

 

 

「ガジル〜聞いたぜ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に攻撃を仕掛けたんだって!?スゲェよハハッ!アイツら今頃スゲェブルーだろうな!!ザマァみろってんだ!!」

 

 

瞬間………。

 

 

ズドンッ

 

 

男の左腕が鉄柱のようになり、話し掛けていた男を吹き飛ばした。

吹き飛ばされた男はテーブルに激突して気絶する。

 

 

「メシ食ってる時は話し掛けるなっていつも言ってるだろうが、クズが………」

 

 

腰まで伸びた黒髪に所々鉄の飾りを施した男、ガジルが仲間を睨む。

すると入口から巨大なバッタのような生き物『ペッパーホッパー』を肩に担いでそのバッタの脚をちぎって食す者が現れた。目の前に吹き飛ばされた男が目に入ると邪魔そうに蹴って遠くに飛ばす。

ガジル程では無いが黒の長髪に引き締まった肉体が目立つ上半身裸で下には黄色の道着を身に付け、腰には猿のような尻尾が巻かれている少年『バサーク』が夕食狩りから帰ってきた。

 

 

「そうそう。妖精の尻尾(シリ)が何だってんだよ。強いのは俺達だ」

 

 

そして入口からもう一人男が現れる。

 

 

「火種は撒かれた。見事ですよガジルさん………」

 

 

「甘ぇよマスター。あれくらいじゃクズ共は動かねぇ………」

 

 

「だから置き土産をして来た………」

 

 

「それはそれは………但し、間違っても『奴』を殺してはいけませんよ?」

 

 

マスターと呼ばれた男が言うと二人は不気味に笑っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翌日マグノリアの街の南口の公園に人だかりが出来ていた。どの者も悲惨な目で中央に立つ大樹に注目していた。ナツ達は人だかりを割いて近づく。

そこには3人の魔導士がボロボロになって貼り付けられていた。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のレビィにジェットとドロイだ。特にジェットとドロイは顔の原形がとどめてない程顔が腫れて流血していた。レビィよりもこの二人が特に酷かった。

 

 

「レビィ……ジェット……ドロイ………」

 

 

ビートが一人ずつ名前を言う度に拳を握り締める。ナツに至っては今にもキレそうだった。よく見るとレビィの腹部にギルドマークらしき物があった。そのギルドマークはファントムのものだ。

騒ぎを聞いたであろうマカロフが3人に歩み寄った。一瞥すると顔を覆う。

 

 

「ボロ酒場までなら我慢出来たんじゃがな………ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ…………」

 

 

持っていた杖を握撃で握り潰すとその顔は怒りに満ちていた。

 

 

「戦争じゃ………」

 

 

 




オリキャラ紹介
名前:バサーク 年齢:16歳 
CV:森田成一
好きなもの:戦い 嫌いなもの:弱いヤツ
備考
ファントムに所属するサイヤ人。見た目はドラゴンボールヒーローズのヒーローアバターのサイヤ人男のバーサーカータイプ。
ビートより早く地球に降り立ったサイヤ人。ビートとは別の人物の因子を引き継いでいる………。


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其の20 妖精の尻尾VS幽鬼の支配者

フィオーレ王国、北東の地オーク街の中央に立つ巨大な城と見間違えるくらいのギルド『幽鬼の支配者(ファントムロード)』では宴を上げていた。

 

 

「だっはー!最高だぜ!妖精の尻尾(ケツ)はボロボロだってよ!!」

 

 

「ガジルの奴。そのうえ3人もやったらしいぜ」

 

 

「その内二人をバサークは顔の原形変わるぐらいボコしたとか」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドを討ち、ギルドメンバーを討ち取ったことを祝っていたのだ。

いい気味だ、ザマァみろと罵倒が飛び交う中、一人の男が仕事に出ようとした瞬間だった。

 

 

突如として入口が吹き飛んで破壊された。ギルド内はざわめき出し、爆風が晴れてそこにいたのは………。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃあああぁぁぁぁ!!!」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドメンバー全員が憤怒の顔で佇んでいた。

ファントムは突然のことでもたつくが、そんなのお構いなくナツが先陣を切って飛び出した。

 

 

「誰でもいい!!掛かって来いやあぁぁぁぁ!!」

 

 

彼の初撃によって戦闘の火蓋が切られた。ギルド内は一気に戦闘を開始する。

ファントム側の魔導士数名がマカロフを狙うも、目が光ったと同時に巨人となって掌で押し潰した。

 

 

「ば、バケモノッ!!」

 

 

「貴様等はそのバケモノのガキに手を出したんだ………。人間の法律で自分(てめぇ)を守れると夢々思うなよ…………」

 

 

「ひ、ひぎぃ!!」

 

 

鬼の如くの威圧に恐怖で体が動かないでいた。

皆が奮闘している中でビートは戦わず一人探していた。

そしてそれは突然感じた。膨大で邪悪な気を………。上を見上げると天井の木組みに長髪の少年が腕を組んで佇んでいた。

 

 

「よぉ。妖精の………」

 

 

「バサークゥゥゥゥ!!!」

 

 

彼が視界に入った瞬間床を蹴って一気に天井に跳躍して彼の顔面目掛けて拳を放った。

凄まじい破裂音が響き渡るも、顔の直前で片手で止めていた。

 

 

「随分派手な挨拶だな?そんな荒いヤツだったかお前?」

 

 

「黙れ!!よくもレビィ達を!!」

 

 

「おいおい……一応言っとくが女の方は俺じゃなくてガジルだぜ?痛めつけてる間アイツらがうるさくてなぁ………。二人の相手をガジルから譲られたから遊んでやっただけだぜ?だがあまりにしつこかったから少し強くやったらピクリとも動かなく………」

 

 

経緯を話している最中にビートは空いた手で気合砲を放った。

 

 

「………そうか。そんなに遊びたいか………」

 

 

「き、効いて………!?」

 

 

「あと言っとくけどよ………コレはこうするんだぜ!!」

 

 

ビートを蹴り離すと合わせた両手を突き出した。

 

 

「破ぁっ!!」

 

 

瞬間、物凄い爆風が彼を襲った。その威力は壁を突き破ってギルドの外にやってしまう程………。

 

 

「クソッ!」

 

 

態勢を立て直して猛スピードで突き破った穴を通って殴り付ける。

 

 

「だぁっ!!」

 

 

今度はまともにバサークの腹部に拳打が入るが、しばらくして逆にビートは腕を抑えつけた。

 

 

「何だ今のは?まさかそれが渾身の一撃じゃないよな?」

 

 

あまりにも実力の違いにビートは噛み締めるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方マカロフは二階に足を運んでいた。彼の凄まじい魔力により、扉が破られて色んな物が壊れ始める。その中央に足を組んで座っている男がいた。

 

 

「ジョゼ……あれは何のマネじゃ……お?」

 

 

「………これはこれは、久しぶりですねマカロフさん………。6年前の定例会以来ですか。いやぁ、あの時は参りましたねぇ。ちょっとお酒が入ったもので………」

 

 

ジョゼと呼ばれた男に向かってマカロフは腕を巨大化させて殴り付けた。

 

 

「世間話しに来た訳じゃねぇんだよ」

 

 

「ほほほ、それはそれは………」

 

 

すると彼の姿が映像のようにブツブツ切れていた。

 

 

「思念体じゃと!?貴様このギルドから逃げたのか!?」

 

 

「聖天大魔道同士の戦いは天変地異さえ起こしかねない。私はただ合理的な勝利を好むものでしてね………」

 

 

「何処におる!?正々堂々と来んかい!!」

 

 

するとジョゼの足下に誰かが現れる。それは腕を縛られて気絶しているルーシィだった。

彼は片手にナイフを持ち、それが勢いよく振り下ろされた。

 

 

「っ!!よせぇっ!!」

 

 

マカロフが駆け寄ろうとした瞬間背後から気配を感じた。振り返ると帽子を被り、目を隠した神父のような大男が立っていた。彼こそエレメント4の一人『大空のアリア』。

 

 

「かっ………かっ………かっ………悲しいっ!!」

 

 

彼が涙したと同時にマカロフは膨大力に吹き飛ばされた。ジョゼは手からナイフを離してそのまま床に突き刺さった。

 

 

「まさか自分のギルドの仲間だというのにルーシィ・ハートフィリア様が何者かご存知ない?まぁ、貴方にはもう関係の無い話ですがね」

 

 

落ちゆくマカロフをただ彼は不気味に笑うのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

視点は一階に変わる。

突如上から誰かが落ちてきた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)側はそれが何なのかすぐにわかった。ジョゼの方に向かったマカロフだ。しかし何か彼に違和感を感じた。

 

 

「じ、じいちゃんの気が………感じられねぇ?」

 

 

「ああ、アリアにやられたか。アイツは相手の魔力を空っぽにしてしまう魔法を使う………。これでお前等の戦力は半減したと言うわけだな」

 

 

その所為かさっきまで優勢だったのが急に押され始めた。マカロフがやられたことにより士気が一気に低下した。そして………。

 

 

「撤退だ!全員ギルドに戻れっ!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

エルザの指示により一同たじろいだ。中には反論する者もいたが、マカロフという戦力が失った今、防戦一方だ。

 

 

「全くお前といい 、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の奴等、ちょっと油断しすぎなんじゃないの?きっとそっちのマスターも大したことじゃないだろうなぁ」

 

 

嘆息混じりに吐いた彼の言葉にビートが怒号を上げて殴り掛かる。

 

 

「じいちゃんを悪く言うなぁ!!」

 

 

何度も掛かる彼に飽きたのか、軽く避けると彼の腹部にとてつも無い程の威力の拳打を放った。

重たい音を立てながら拳が減り込む。

 

 

「あ………ああ………あ………」

 

 

「お前もお前でしつこいぞ。大した力も持ってない癖に。俺ともっと戦いたけりゃもっと力付けて出直して来い!」

 

 

腹を抑えているのにも関わらず両手を組んで彼を床に叩き落とした。

2、3回バウンドし、止まった頃にはピクリとも動かなくなった。

それを一瞥していると横からガジルが現れる。

 

 

「よぉ、そっちはどうだバサーク?こっちはまだまだ楽しめそうだが………」

 

 

「………とんだ期待外れだぜ。だが、もっと力を付けたらやっと俺と戦えるレベルぐらいまで成長するだろう………」

 

 

「ギヒッ、流石本物のサイヤ人だな………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ビート!?ビート!しっかりしろビート!!」

 

 

意識が朦朧とする中、上から叩き落されたビートを介抱していた。

しかし彼は返事も言えずにそのまま意識は途絶えた。

 

 



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其の21 ジュピター

昔からバサーク()の事が嫌いだった。

 

 

ごく偶に見かける程度だったが、彼の戦い方はかなり乱暴だった。周りの被害のことを考えずに気功弾を放ったり、相手が再起不能なのにも関わらずなぶり殺しするなど容赦極まりない行いを平然とやる男だった。

それでも彼は強かった。自分より遥かに強い力を持ち、それを駆使して戦う姿はまさに強者だった。

自分も同じサイヤ人なのにどうしてここまで差が開いてしまったのだろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それもそうだ………アレが本来のサイヤ人だからだ………。

 

 

突然知らない声が響いた。この前聞いた声とは全く違う。知らない男の声だった。

 

 

サイヤ人とは戦いを好む種族だ。戦うことでしか己を満たす事が出来ない………。お前のような甘ったれたヤツがアイツに勝てる筈もない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、お前はあの頃の『?????』のようだ………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

勢いよく起き上がり、目が覚めるとそこは 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の地下ギルドだった。

医務用のベッドに眠っていたようだ。他のギルドメンバーは戦闘の準備を整えていた。

 

 

「あ!ビートが目覚めたよ!」

 

 

ずっと診ていたハッピーがギルドメンバーに伝えた。

 

 

「目覚めたか………」

 

 

「グレイ、今の状況はどうなっているの………?」

 

 

「…………はっきり言って最悪だ」

 

 

マカロフはエレメント4たるアリアに魔力を空にされて現在治癒魔導士のポーリュシカの元で診て貰っている。

他の者も頭や足に包帯を巻いて悔しがっている様子だった。中には再度攻撃を仕掛けようとする者までいた。

 

 

「それだけじゃねぇ………ルーシィが拐われちまった」

 

 

「えっ!?」

 

 

「でもすぐナツが救出したがな………」

 

 

周りを見渡すと沈んだ表情をしたルーシィが椅子に座っていた。

拐われた理由は彼女はハートフィリア財閥の令嬢であり、その父親がルーシィを連れ戻すようにとファントムに依頼したのだ。

それをルーシィは自分に責任を感じていたのだ。

 

 

「みんな………本当にごめんね………」

 

 

「………」

 

 

「何だろうなぁ………ルーシィに『お嬢様』ってのも似合わねえ響きだよな」

 

 

「ナツ?」

 

 

「この汚ねー酒場で笑ってさ……騒ぎながら冒険してる方がルーシィって感じだ。ここにいたいって言ったよな?戻りたくねぇ場所戻って何があるんだ?お前は何処のお嬢様でもねぇ、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィ』だろ?ここがお前の帰る場所じゃねぇか」

 

 

ナツの言葉にルーシィの目頭が熱くなり、泣き出した。普段滅茶苦茶な彼だが、仲間の事になると頼れる男になる者だ。そんな会話を聞いていたら自分が情けなく感じてしまった。圧倒的な力の前に敗れてしまったビートはどうすればあんな力を身に付ける事が出来るのだろうか………。

 

 

「なーにお前も暗くなってんダヨ」

 

 

「おわっ!?」

 

 

沈んでいた彼の頭をナツはガジガジと撫でまくる。

 

 

「一回負けたからって何だよ。どうやって強くなれるか考える前に何がなんでも諦めないことを考えろ。そうすればアイツにだってきっと勝てる」

 

 

「ナツ………」

 

 

「おいおいお前もかよ………」

 

 

彼の言葉に感銘を受けてビートも涙した。

すると突如ギルド内が揺れた。しかも揺れが段々大きくなって行く。何事かとギルドメンバーは外に向かうと、何と言ったらいいのだろうか………。

海には城、というより要塞に蜘蛛のような6本足で海を渡って妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドに近づいていた。

あれこそファントムの6足歩行ギルド『幽鬼の支配者(ファントムロード)』。

ある程度離れた場所に止まると門から巨大な砲台が出現する。

 

 

「魔導集束砲『ジュピター』用意………」

 

 

砲台に光が集まっていき、先端に光の球が出来始める。

 

 

「消せ………」

 

 

ジョゼの低い声音によって今にも放たれようとしていた。

 

 

「全員伏せろぉぉぉぉ!!」

 

 

エルザが駆け出すと鎧を換装し始める。装備したのは黄金が目立つ『金剛の鎧』。超防御力を誇る鎧でジュピターを受け止めようとしていた。

 

 

「「エルザァ!」」

 

 

「ナツ!ビート!ここはエルザを信じるしかねぇ!!」

 

 

飛び出そうとする二人をグレイは押さえつけて無理矢理地面に伏せさせる。

やがて砲台から眩ゆい閃光が放たれ、一直線にギルドに向かった。ギルドの前にエルザが立ちはだかって耐えようとする。鎧に亀裂が走って粉々になり、彼女自身も吹き飛んだ。

爆煙が晴れると崩壊寸前のギルドは何とか無事だった。その代償としてエルザはボロボロになった。ファントムのギルドからジョゼの声が響き渡った。

 

 

『一度しか言わねぇ。ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐにだ』

 

 

他のギルドメンバーは渡してたまるかと文句を言う中、ルーシィは未だに迷っていた。

事の発端は自分で、家出しなければこんなことにはならなかった。これ以上ギルドに迷惑をかけたくないと思ったその時だった。

 

 

「仲間を売るくらいなら死んだ方がマシだ!!」

 

 

傷だらけになりながらもジョゼに向かってエルザは叫んだ。

 

 

「オレ達の答えは何があってもかわらねぇ!!お前等をぶっ潰してやる!!」

 

 

「たとえ一度負けたとしても次は絶対に負けない!!返り討ちにしてやらぁ!!」

 

 

3人の怒号によってギルドメンバーの士気が高まる。そんな仲間の思いルーシィは再び涙した。

 

 

『そんなに死にたければ特大のジュピターを喰らわせてやる!!装填までの15分の間恐怖の中であがけ!!』

 

 

するとファントムのギルドの門からフードを被った兵士達が一斉に湧き出した。

 

 

 

『貴様等に残された道は我が兵に殺されるか、ジュピターで死ぬかだ』

 

 

「仲間ごと焼き払う気か!?」

 

 

「お、脅しさ。きっと………」

 

 

「いいや撃つよ」

 

 

ギルドメンバーが騒つく中門から出たフードの兵士を見たカナが静かに呟く。

 

 

「あれはジョゼの幽兵(シェイド)っていう魔法でアイツが作り出した幽鬼の兵士さ」

 

 

「幽鬼!?つまりおばけ………ってか!?」

 

 

「ジュピターをなんとかしないとね………」

 

 

カナの言葉にビートとナツか前に出た。

 

 

「俺達が出るよ」

 

 

「15分の間なんとかアレをぶっ壊せばいいんだろ?やってやる」

 

 

「………あぁ、頼んだよ………」

 

 

「俺達も乗り込むぞ!」

 

 

「応っ!!」

 

 

ナツはハッピーによって飛行し、ビートはクラウチングスタートの構えをとって一気に飛び立った。二人の後にグレイとエルフマンも続いて駆け出した。

ナツは砲門に、ビートは幽兵が溢れ出る門に向かった。彼の向かったのは一番敵戦力がある場所である。予想通り幽兵はビートに向かって飛び掛かる。だが………。

 

 

「邪魔だぁぁぁぁ!!」

 

 

雪崩れ来る幽兵に向かって気功弾を放つ。倒すべきバサーク()を倒すべく、ファントムの城へと侵入した。

 



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其の22 大火の兎兎丸

ファントムによる魔導集束砲ジュピターを放たれるもエルザの活躍によって防ぐことが出来た。

しかしその一撃により戦闘不能になってしまうが、彼女達の強い意志は決して崩れなかった。次のジュピターの発射まで15分。急げナツ!ビート!

 

 

ハッピーと共に砲門に向かったナツは、着地すると砲門を殴り付けていた。

 

 

「くはーーーーー!ビクともしねぇぞコイツ!!」

 

 

「やっぱり内部から壊さないとダメじゃないかな!?」

 

 

「そうか………よし!行くぞ!!」

 

 

二人は砲門の中から侵入して乗り込む。狭い通路を屈んで通り抜けると広い制御室のような場所に出た。

目の前には巨大な球体がいつものパイプに繋がれていた。

 

 

「な、何だコリャ!?」

 

 

「魔力を集める魔水晶(ラクリマ)だね………」

 

 

「こんな巨大なの初めて見た!」

 

 

魔導集束砲は弾丸の代わりに圧縮した魔力を発射させる兵器である。あの威力も納得のいく構造であった。

 

 

「アレを壊しゃーいいんだろ!カンタンカンタン!」

 

 

「そうはさせない………」

 

 

すると魔水晶(ラクリマ)の側に人影が見えた。恐らく見張りの者だろう。ナツは飛び降りると同時に腕に炎を纏って殴り掛かる。

 

 

「時間がねぇんだ!そこをどけ!!」

 

 

しかし殴る直前に拳の軌道が変わって自身の顔を殴った。

 

 

 

「邪魔なのな君のほうだよ………」

 

 

白と黒に別れた髪に後ろにちょんまげのように纏め、腰に刀を携えた男、ファントムのエレメント4の一人『大火の 兎兎丸(ととまる)』が彼の前に立ち塞がった。

 

 

「どけ!オレはその大砲をぶっ壊すんだ!!」

 

 

「そうはさせない、と言っただろう?」

 

 

「時間がねぇんだ!!モタモタ喋ってんじゃねぇ!!」

 

 

再び左腕に炎を纏って殴り掛かるが、またしても軌道が変わって自分の頰を殴った。

 

 

「イッテェ………またコレかよ!何なんだ一体!!」

 

 

「ナツ!こんなの相手にしてる場合じゃないよ!早くジュピターを壊さなきゃ!」

 

 

「このヤロォッ!」

 

 

「ナツってば!!」

 

 

ハッピーの忠告を無視して三度突撃するが、彼が睨むと炎が膨大になってナツを巻き込み、跳び膝蹴りを喰らってまたしても吹っ飛んだ。

 

 

「私は火のエレメントを操りし兎兎丸。全ての炎は私によって制御される」

 

 

「何だとォ!?」

 

 

「敵であろうと自然であろうと全ての炎は私のものだ!!」

 

 

「オレの炎はオレのもんだ!!」

 

 

「相性が悪かったな、炎の魔導士くん………」

 

 

すると巨大魔水晶(ラクリマ)に光が集まり、輝きが増し始めた。

 

 

「ジュピターが動き出したーーー!!」

 

 

ジュピターの発射まで残り5分。

 

 

「喰らえ青い炎(ブルーファイア)!!」

 

 

「うおっ!?」

 

 

読んで字の如く兎兎丸から青い炎が放たれてナツはそれに呑まれる。しかし口を大きく開けてムシャムシャ口の中に運び全部食べた。

 

 

「ふう、冷てぇ!こんな火は初めて食った!」

 

 

「成る程………君が噂の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったのか………。相性の悪さはお互い様という訳か………」

 

 

「あぁ?」

 

 

「お互いに炎が効かないのだからね」

 

 

「勝手に決めんなよ!まだ喰らってもねぇだろ」

 

 

「だから私に炎は当たらない」

 

 

暫く兎兎丸を一瞥してるとナツは何かを思い付いた。そうと決まると口を膨らました。

口から炎を吐き出す魔法と察知して身構えるが………。

 

 

「火竜の………」

 

 

(来るなら来い!操ってや………)

 

 

「つば!!」

 

 

吐き出されたのは炎でなくつばだった。彼のつばが兎兎丸の顔にベットリと付いた。

 

 

「はっはっはっ!どうだ!!」

 

 

「……………(#^ω^)ビキビキ」

 

 

彼の地味だが嫌らしい攻撃に対して青筋を立てる兎兎丸。

 

 

「おのれよくも騙したな!!橙の炎(オレンジファイア)!!」

 

 

「火の魔法はオレの食いモンだ!!今度はどんな味だ!?」

 

 

彼から放たれた橙色の炎を食らおうとするが鼻に強烈な臭いが刺した。

 

 

「ギャアアアアア!?鼻がもげるぅぅぅぅぅぅ!?!?」

 

 

「はっはっはっ!クソの臭いの炎だ!!」

 

 

「なんて下品な奴だ!!」

 

 

「さ、先にやったのは君だろ!!」

 

 

どっちもどっちである。

ジュピターの発射まで残り2分半。

 

 

「あったまきた!!」

 

 

「ナツ!もういいってば!!落ち着いてよーーー!!」

 

 

「黙ってろハッピー!!」

 

 

今度は炎を纏わずに殴り掛かる。

 

 

「魔法は諦めて素手か?ならば刀を持つ私の方が有利」

 

 

腰から刀を抜いて斬りかかって来た。なんとか躱すが彼の剣戟の所為でこちらの攻撃が出せないでいた。

 

 

 

「ちっ!」

 

 

「学習能力のない人だね………」

 

 

炎を纏ったナツが飛び掛かるも軌道が変わって自身を殴ろうとするが、直前に炎を噴射させて彼を炎に巻き込んだ。

 

 

(コイツ……私の届く距離まで炎の範囲を大きく………)

 

 

そうこうしていると魔水晶(ラクリマ)の輝きが限界まで達していた。

ジュピターの発射まで残り1分を切っていた。

ナツは炎を大きく噴射させるが、それを読んだ兎兎丸は彼から大きく離れる。そして再び操ろうとするが………。

 

 

「う、動かないだと!?」

 

 

「ぬおおおおおおおおお!!」

 

 

(ま、まさか制御し返しただと!?戦いの最中に会得したのか!?)

 

 

「ナツーーーーーー!!」

 

 

ジュピターの発射まで残り30秒。

 

 

「オレの炎だ!勝手に動かすな!!」

 

 

怒号を上げた瞬間、炎は大きく噴射させる。しかしそれを兎兎丸は難なく躱した。

 

 

「はっはーーーーーー!!当たらなければ意味があるまい!!」

 

 

ジュピターの発射まで残り10びょ………。

 

 

最初(ハナっ)からお前なんか狙ってねぇよ!!!」

 

 

炎は真っ直ぐ兎兎丸の背後にあった魔水晶(ラクリマ)も破壊した。粉々になった魔水晶(ラクリマ)が崩れ落ちる。

 

 

(考えてみたらあいつ倒すか制御を克服しなきゃここを壊すのは無理だったんだ………。冷静さを欠いてたのはオイラの方か………)

 

 

と、ハッピーは一人思うのであった。

何はともあれナツの活躍によりジュピターの発射は阻止された。

 

 

「次はお前達を潰す番だ!ファントム!!」

 

 

(お、オイオイマスター話が違くないか!?妖精の尻尾(フェアリーテイル )にまどこんなヤバイ奴がいたなんて………!!)

 

 

ナツが段々彼に近づいて彼は後ずさる。万事休すかと思いきや突然部屋が揺れ始めた。

その途端ナツは口を抑えて気持ち悪さを我慢していた。

 

 

「しめた!コイツ乗り物に弱いのか!これは逆転のチャンス!!」

 

 

彼は空中に7つの火の玉を生み出すとそれが大きくなって一つの炎となる。

 

 

「いくら炎が効かないと言ってもその状態で喰らったらひとたまりのない!我が最強の魔法七色の炎(レインボーファイア)!!終わりだぁ!妖精の尻(フェアリーテ)ホォッ!?!」

 

 

兎兎丸が放とうとした直前に彼は何者かに壁に叩き付けられた。

 

 

「もう終わりか?」

 

 

「フ、フゴォ………」

 

 

力尽きた兎兎丸はなす術なく床に落ちた。

 

 

 

「終わったな………所詮クズはクズなのだ!」

 

 

勿論やったのは無論ビートだった。

 

 

「誰の真似してんだお前?」

 

 

「ブロリーです………」

 

 

「余計誰だよ!?」

 

 

彼に続いてグレイとエルフマンも現れた。

 

 

「おお!お前ら来てくれたのか………うぷっ」

 

 

「さっきから傾いたり動いたりしてんだ?」

 

 

すると今度は大きな音を立てて揺れが止まった。気になったハッピーとビートは様子を見に外に向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方外ではファントムのギルドの足が立ち上がると姿勢を変える。

6本の足に更に足が現れ、足が外れると胴体が飛び出し、両腕が生えて頭も現れる。

その姿はまさに鉄の巨人『超魔導巨人ファントムMKⅡ(マークツー)』。

その巨人が進みだすと妖精の尻尾(フェアリーテイル )のギルドの手前まで止まり魔法陣を描き出した。

 

 

「あの魔法陣は煉獄砕破(アビスブレイク)!?禁忌魔法の一つじゃない!!」

 

 

「このサイズはマズイ!!カルディア大聖堂辺りまで暗黒の波動で消滅するぞ!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「大変大変!!ギルドが巨人になって魔法を唱えているんだ!!」

 

 

「ウソつけーーーーーー!!」

 

 

「ウソじゃないよーーーーーー!!」

 

 

「まさにあれは凄まじい破壊力を持つロボットの兵隊だよ」

 

 

「いや、あながち間違ってないけどさ!!そいつが唱えてる魔法はカルディア大聖堂まで消えちゃう程なんだ!!」

 

 

「街の半分じゃねぇか!!」

 

 

「そんな魔法ありえねーーーだろ!!」

 

 

「ど、どうする?」

 

 

5人はしばし考えると分散した。

 

 

「止めるぞーーー!!」

 

 

「手分けしてこの動くギルドの動力源を探すんだ!!」

 

 

「次から次へととんでもないことしやがってぇ!!」

 

 

「はっはっはっはっ、何処へ行こうと言うのかね?」

 

 

「目ぇ潰すぞお前!!」

 

 

三つの道のうち、ビートとエルフマンはペアとなってそれぞれ分かれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ミラ………あの魔法が発動するまでどれくらいかかる?」

 

 

カナは窓から医務部屋の中にあるルーシィ……ではなく、変身魔法でルーシィに変装したミラジェーンに話しかける。

 

 

「およそ10分ってところかしら………。なんとかアイツの動力源を壊さないかな」

 

 

「中にいる連中も同じことを考えているはずだよ………」

 

 

「ナツとビート以外いるの?」

 

 

「うん、グレイとエルフマン………」

 

 

「エルフマン!?何でっ!?」

 

 

「何でって事もないでしょ、あいつだって「無理よ!」」

 

 

「エルフマンは戦えないのよ!?カナだって知ってるでしょ!?」

 

 

「戦えるわよ……カチコミの時だって活躍してたしね」

 

 

「そんな………兵隊相手なら兎も角………向こうの幹部との戦闘になったら今のエルフマンじゃ………」

 

 

「………ねぇ、ミラ。()()()()があってあんたもエルフマンも深く傷付いたけどさ………あいつはあいつで前へ進もうと努力してるんだよ………」

 

 

実際ファントムのギルドに乗り込む際にも戦闘に加わっており、今回も幽兵も蹴散らしていたのだ。

そんなエルフマンと自身を比べると、ミラジェーンは決意すると医務部屋から飛び出して外に躍り出た。

 

 

「貴方達の狙いは私でしょ!?今すぐギルドへの攻撃をやめて!!!」

 

 

ファントムのギルドの動きが止まると乗組員が彼女を確認する。

 

 

「マ、マスター!あれは………」

 

 

慌てる乗組員だが………。

 

 

『消えろ』

 

 

「っ!!」

 

 

『ニセモノめ………』

 

 

彼の目は誤魔化せなかった。流石は聖十大魔導の一人と言ったところか………。

 

 

「初めからわかっていたんですよ。そこにルーシィがいない事は。狙われてると知っている人間を前線に置いておく訳がない………とね」

 

 

なす術無く彼女の返信魔法が解き、元のミラジェーンに戻った。

 

 

(私は………なんて無力なんだろう………)

 

 

なにも出来ない自身に彼女は涙するのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方エルフマン、ビートペアはファントム内を駆け巡っていた。

 

 

「ぬおぉぉぉぉ!漢エルフマン!妖精の尻尾(フェアリーテイル )はこの命にかえても守ってみせるぅ!!」

 

 

「それにしてもここ広すぎねっ!?」

 

 

大分色んな場所を走ったと思うが、未だに止める方法が見つからないでいた。

すると二人の背後の地面が蠢いた。そしてそこからブラウンのコートを着た男が生えるように現れた。

 

 

やあ(サリュ)

 

 

「お前は!」

 

 

その男も兎兎丸と同じくエレメント4の一人『大地のソル』であった。

 



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其の23 大地のソル

エルフマンとビートの前に現れた男はファントムのエレメント4の大地のソルであった。彼がルーシィを拐った犯人でもある。

 

 

「私の名はソル。ムッシュ・ソルとお呼び下さいまし」

 

 

「丁度いい。この巨人の止め方を吐かせてやる!」

 

 

エルフマンは纏っていた学ランを脱ぐと右腕が黒い鉄腕に変化する。

 

 

「ビーストアーム『黒牛』!」

 

 

「おやぁ?()()だけでよいので?あの噂は本当だったのですな?」

 

 

「む?」

 

 

「噂?」

 

 

「貴方達の事は知っていますよ………いや、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )の全魔導士の情報は全て頭の中にあるのですよ」

 

 

「ごちゃごちゃうるさいんじゃい!!」

 

 

黒腕を振り下ろすもソルはひらりと躱してビートの背後に回った。彼はすぐに反応して蹴り回すが跳躍して躱される。

 

 

「たとえば……貴方、妹様がいたでしょう?」

 

 

「「!!」」

 

 

砂の舞(サーブルダンス)!!」

 

 

二人の周りに砂嵐が巻き起こった。その所為でソルを見失ってしまうが、彼等とは少し離れた場所に出現した。

 

 

岩の協奏曲(ロッシュコンセルト)!!」

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

真正面から岩の雪崩れが飛び交い岩片が体を掠める。

 

 

 

「貴方は昔全身接収(テイクオーバー)に失敗し、暴走を起こした………。妹様はそれを止める為に命を落としてしまった………違いますか?貴方はその時のトラウマで全身接収(テイクオーバー)が使えなくなってしまった………」

 

 

「黙れ!!」

 

 

エルフマンに対して言っているのにビートが激を飛ばして殴り掛かるがすらりと避けられる。

 

 

「おやおや?よく見ると貴方尻尾が無くなってますね?前まで生えていましたのに………」

 

 

「それ以上喋るな!!」

 

 

「ビートさん……貴方は過去に大猿になったことがありますね?それもまだ幼い時に………。いつの日でしたかな?満月が綺麗な日でしたねぇ」

 

 

「やめろっ!!」

 

 

「そう、エルフマンの妹様と月を見ようとしたばかりに貴方は大猿になってしまった………エルフマンはそれを止める為に全身接収(テイクオーバー)を使って阻止出来ましたが、今度はエルフマン自身が暴走してしまった。わかりますよね?貴方が大猿にならなければあんなことにならなかったものを!」

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

ビートは気功弾をソルに向かって乱射する。しかしひょいひょいと躱して彼の腕に巻き付く。引き剥がそうにも離れず、逆に蹴りを喰らった。

 

 

 

「どうしました?もう終わり(フィナーレ)で?」

 

 

「クソッ!!」

 

 

(この魔導士、見かけに寄らずに強い………あのビートをここまで追い詰めるなんて………くそ!俺は何をやっているんだ!!漢エルフマン!今こそやるしかない!!)

 

 

決意すると彼は構え、全身が構築を変え始める。だが、途中で彼女の…………『リサーナ』の顔が過ぎって構築しかけていたのがら解かれてしまう。

その拍子に魔力が枯渇してしまった。

 

 

「ん〜出来ないことはやるもんではありませんなぁ。今ので貴方の魔力は大幅にダウンしてしまったようですぞ」

 

 

ソルの飛び蹴りがエルフマンの腹部に深々と減り込んだ。

 

 

 

「エルフマン!!」

 

 

「ん〜紳士たるもの止めは最大の魔法で刺してあげましょう」

 

 

腕を交差させて宙に術式を組み始めると魔法陣が現れる。

 

 

石膏の奏鳴曲(プラトールソナート)!!」

 

 

『ぐあああぁぁぁぁ!!』

 

 

拳が形作られた砂に二人は吹き飛ばされて壁を突き破り、外に這い出された。

 

 

「く、クソ………」

 

 

「まぁだ立ち上がるのですか?しぶといですねぇ………」

 

 

「ガァッ!?」

 

 

立ち上がろうとするビートにソルは頭を踏んづける。

 

 

 

「いくら立ち向かうとしても無駄ですよ。貴方は何も出来ない。ほら、現に今も失いそうですし………」

 

 

 

巨人の手に誰かが握られていた。長い銀髪女性、忘れるはずもない。

 

 

()()()()!!」

 

 

エルフマンが姉と呼んだ女性、ミラジェーンが今にも握り潰されそうでいた。

 

 

「ほう……姉上というとあの方がかつて『魔人』と恐れられたミラジェーン様ですかな?おやおやすっかり魔力は衰えてしまって………かわいそうに………」

 

 

「ど、どうするつもりだ!!」

 

 

「彼女には我々を欺いた罰を受けてもらってます………。じきに潰れてしまうでしょう………」

 

 

「そ、そうはさせる……か………」

 

 

「無駄だと言っているのに………」

 

 

「ガハッ」

 

 

踏む力が更に加わって踏み潰されそうでいた。

 

 

「まだおわかりで無いのですか?ビートさん、貴方は弱い!!そんな力では誰一人守れることは出来ない!!ルーシィ様も!!ミラジェーン様も!!そしてリサーナ様のように!!」

 

 

ドックン………。

 

 

 

 

彼にとってリサーナとは大きな存在であった。地球に飛来して来た彼は周りの環境に慣れずに関わるのが難しかった。

しかし、一番最初に話しかけて来たのがリサーナだった。ミラジェーンと同じ銀色の髪を持ち、いつもビートの世話をしていた。

そんな彼女に自身は好かれた………。大切な存在だと思っていた………。

だが、あの夜。一度でいいから月を見てみたいと言ってしまったばかりに、自分は大猿になった。

なんとかエルフマンが全身接収(テイクオーバー)を使って阻止したが、今度はエルフマン自身も暴走してそれを止める為に彼女が命を落としてしまった。

そしてその日から誓った………家族を守りたいと………。その為に彼は強くなった………。

それなのに……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も守れないだと…………?

また繰り返すのか…………?またあの時と同じ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

 

 

「む?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

彼が巨大な咆哮を上げるとたちまち彼は水色の光に包まれた。

 

 

「な、なんだこの魔力は!?こんな情報私は知らないぃ!?」

 

 

「ビート………」

 

 

「うおおおおおおああああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「ヒイッ!!」

 

 

拳を突き出して真っ直ぐ彼に駆け出した。一見すれば隙だらけの攻撃で簡単に避けられる。しかし………。

 

 

(う、動かない!?この感じ………私は知っている!!この威圧感は………バサー)

 

 

瞬間、放たれた拳ソルの鳩尾に減り込んだ。甲高い轟音が響き渡ると壁に叩きつけられた。

 

 

「ごあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

一撃。たった一撃でこの威力である。さっきまでの余裕が無くなって焦り始める。

 

 

(ま、不味い!!このままでは、私は間違いなく「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」ホアッ!?」

 

 

今度は別の方向から叫び声が耳に入った。

振り返ると全身接収(テイクオーバー)をしようとするエルフマンの姿が目に入った。

 

 

「オレは姉ちゃんを守る強い男になるんだ!!姉ちゃんを放せええぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「まさか!!」

 

 

彼の姿段々異形に変化していく。

体格が大きくなって全身に体毛が生え、頭に二本の角が生える。これぞエルフマンの全身接収(テイクオーバー)獣王の魂(ビーストソウル)』。

 

 

「ヒィ!!」

 

 

彼から繰り出される猛撃にソルはただ打たれるだけだった。今のエルフマンの姿はまさに獣に等しい。

殴られ続けたソルは力尽きて倒れ伏した。

 

 

「エ、エルフマン?」

 

 

彼女の呼び掛けに反応して瞬時に巨人の腕を走り渡る。

 

 

「聞こえてる………?」

 

 

四足歩行で彼女の目の前まで駆け寄る。

 

 

「貴方………まさか理性をなくして………」

 

 

彼がミラジェーンに手を伸ばす瞬間目を瞑るが、彼は彼女が掴んでいる指を押し除けて優しく抱き抱えた。

 

 

「ごめんな姉ちゃん………こんな姿見たくなかっただろ?コイツをうまく操れなかった所為でリサーナは………」

 

 

「………リサーナは貴方の所為で死んだんじゃないわ。勿論ビートでも無い。あの時だって貴方は必死に私達を守ろうとして………」

 

 

「………守れなかったんだ………リサーナは死んじまった………」

 

 

「私は生きてるわ。二人で決めたじゃない。あの子の分まで生きようって………」

 

 

「う、うう………姉ちゃぁぁぁぁん!無事で良かったぁぁぁぁ!」

 

 

エルフマンはらしくも無く滝のように涙を流した。

 

 

「もう、貴方が泣いてどうするのよ。…………ありがとうね、エルフマン」

 

 

ビートはその様子を静かに見ていた。

すると奥から呻き声が聞こえた。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐぐ………私は………私はまだ………」

 

 

既に虫の息となっているソルであった。すると彼の目の前に見覚えのある者が現れた。

 

 

「バ、バサーク!!」

 

 

「………」

 

 

「ちょ、丁度良かった!私を助けごばッ!?」

 

 

そんなソルを目もくれず、蹴って退かした。

 

 

「ど、どうして………」

 

 

「動けない魔導士など必要ない………」

 

 

彼の一撃よって今度こそソルは力尽きた。

 

 

「よぉ、見ない間に随分戦闘力を上げたようだな………」

 

 

「………」

 

 

「来いよ、特別に戦ってやろう」

 

 

そう言い残すと彼は部屋の奥に向かった。

 

 

 

「ビート………」

 

 

「大丈夫だよミラ。俺、絶対に負けないから………」

 

 

「………うん、わかったわ」

 

 

「勝てよビート!漢の意地を見せてやれ!!」

 

 

「うん!頑張る!!」

 

 

そしてバサークの後を続くように彼も部屋の奥に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでにない超決戦が始まるとも知らずに………。




※ビートにとっては魔力=気。バサークにとっては魔力=戦闘力と呼んでいる。


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其の24 天下分け目の超決戦

二人が来たのは先程ナツが破壊した巨大魔水晶(ラクリマ)が備えられていた場所であった。

 

 

「ここなら人も動物もいないだろ?」

 

 

「確かにそうだな………」

 

 

「………あ、あの、俺がまだいるんですが」

 

 

「うるさい!」

 

 

「ホォッ!?」

 

 

そこら辺に転がっていた兎兎丸をまた壁に叩き付けて黙らせる。

 

 

閑話休題

 

 

 

「ここなら人も動物もいねぇだろ」

 

 

「くっくっくっ……喜ぶがいい、貴様のような下級戦士が………この俺に遊んで貰えるのだからな………」

 

 

外からの風が対峙する二人の周りに流れる。

 

 

「サイヤ人は生まれた環境によってその強さが変わる………。その時お前の行き着いた妖精の尻尾(フェアリーテイル )がお前を甘くした。要するにお前は落ちこぼれだ………」

 

 

「そのお陰で、俺は強くなる理由を見つけられたんだ。感謝しなきゃな。それによ………落ちこぼれだって必死に努力すれば、エリートを超えることだってあっかもよ?」

 

 

「くっくっくっ、面白い冗談だ………。では努力だけではどうやっても超えられない壁をみせてやろう………」

 

 

初めてのやり取りなのに何処かで既視感を感じるやり取りだった。

それは過去、とある二人が死闘を始める前の会話と同じような………。

構えを取ると一気に空気が緊迫する。

しばしの睨み合いが続き、最初に仕掛けたのはビートだった。

まず左の拳を放つが当たる直前に躱され、カウンターを貰いかけるが、右手で受け止めて肘をぶつけ合う。

 

 

素早く離れたビートが左の回し蹴りを放つが、バサークはフットワークのようにバク宙して躱す。

それに続いて床を蹴ってバサークに向かうが、途中で切り返して逆に向こうがこっちに向かって来て左の肘打ちを顔に受けた。

 

 

吹き飛ばされるも彼もバク宙して跳躍して上空に避難する。しかし上に達した時にはバサークの姿はなかった。

背後から気配を感じてしゃがむと風を切る音が入った。彼が瞬時にビートの背後に高速移動をして手刀を横薙ぎに振るった。

振り返って蹴り上げるも避けられてまた逆に蹴りを放たれる。ギリギリまで見切ってなんとかこちらも躱した。

 

 

そして上昇しながらも拳打や蹴りの乱打を繰り広げた。

 

 

「どうしたビート!そんな程度じゃないはずだ!!」

 

 

彼の腹部に左蹴りを入れてすぐにもうひと蹴り浴びせるがすこし降下して躱した。

 

 

「ソルの奴を倒した時はこんなもんじゃないはずだ!!」

 

両手を組んで彼の頭上に叩き込んだ。

 

 

「もっと見せてみろ!!」

 

 

叩き落とされたビートは床に激突する寸前で受け身を取ってダメージを軽減した。

壊された魔水晶(ラクリマ)にバサークは立つ。

 

 

「成る程………あの時とは違ってかなり成長したと見える。俺達のギルドにいたらもっと強くなっていただろうに………」

 

 

「ソイツはどうも………」

 

 

「どうだ?今からでも遅くないぞ?俺達のギルドに入るか?」

 

 

 

「冗談言うなよ。俺がそんな誘い受けるとでも?」

 

 

「だろうな、俺達サイヤ人は馬鹿が付くぐらい頑固らしいからな」

 

 

互いにまた対峙するもこれまでの流れからして到底勝てる見込みが無い。

ここで一気に力を解放するべきだと決断する。あの時のイメージを思い出せ………爆発するようなイメージを………。

 

 

両手を交差させ腰を低くして溜めの姿勢になると一気に広げて気を解放した。

彼から水色のオーラが溢れ返る。

 

 

「ほう………中々のものだな………」

 

 

「つぇい!!」

 

 

左腕を勢いよく突き出すとバサークの足場が弾け飛んだ。それよりも早く彼は避けるも、それに反応して地を蹴って一気に上昇した。

彼に数発の攻撃を放って蹴り飛ばした。吹き飛ばした彼に追撃しようと飛ばすが、直前で折り返して来て逆に蹴りを入れられた。

 

 

「くっくっくっ、今のが限界だとしたらとんだ期待ハズレだぜ?」

 

 

(な、なんて野郎だ………へへ、でもよ、こんなやばい時だってのにわくわくしてきやがった!)

 

 

一刻も争う時だと言うのにビートは口角を上げていた。

 

 

「笑ってやがる……諦めて開き直ったか?それとも更に戦闘力をアップする余裕でもあるのか?」

 

 

ビートはこれほどの窮地に立たされてながら何故わくわくしてしまうのか自分でも分からなかった。

だが、これこそがビートにも流れている戦闘を好むサイヤ人の血なのだ。

 

 

「どうやらそこまでが限界らしいな………ではこの俺がお前の死に土産に見せてやろう……生粋のサイヤ人の圧倒的パワーを!!」

 

 

「へへっ、面白え。見せてみろよ!」

 

 

「くっくっ、その薄ら笑いもたちまち消えさるぞ………」

 

 

ビートと同じく溜めの姿勢に入って両拳を強く握りしめた。

 

 

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

するとバサークから紫色のオーラが溢れ出す。

その凄まじい力は周りに落ちている石が揺れ始めた。彼の近くにあった魔水晶(ラクリマ)の残骸が次々と割れ始める。

 

 

「な、なんて気だ!まるでこのギルド全体が揺れてるみたいだ………」

 

 

更には彼から溢れる気によって風が吹き荒れた。

 

 

「台風だなまるっきり!」

 

 

「はああああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

両腕を広げるとこの場の空気が変化を起こした。

 

 

「く、空気が止まった………外から流れていた風も吹き飛んだ…………」

 

 

そして一瞬身震いするとバサークがこちらを見て口角を釣り上げていた。

 

 

「終わりだ、ビート………」

 

 

瞬間、彼は凄まじい速さでビートに頭突きを繰り出した。更に高速移動をして腹部に肘打ちを叩き込む。

打ち落とされるビートはくるりと身を翻して上空を睨むも彼の姿は居なかった。

 

 

「馬鹿め後ろだっ!!」

 

 

再び高速移動で彼の背中に蹴りを浴びせた。魔水晶(ラクリマ)があった場所にぶつかりそうになるが、軽い身のこなしで上手く上に着地した。

すぐに背後を警戒したがバサークの姿はおらず、気を察知すると彼より上に飛んでいた。

 

 

「プレゼントしてやる!!」

 

 

掌から大きな気功弾を作り出してビート目掛けて投擲する。反射的に跳躍して避けて魔水晶(ラクリマ)が破壊されるが、そこからバサークは更にさっきより早い弾を放った。

しかも丁度彼と激突するタイミングで。

無理矢理体をずらして着弾を免れる。気功弾はそのまま彼の後ろの壁に轟音を響かせながら被弾した。そこに大穴が空いて一瞬ゾッとした。

 

 

「ふっふっふ………よーしいいぞ、よく避けたな」

 

 

直撃では無かったが、気功弾が彼と道着をかすって右側の袖から右の胸筋にかけて道着が無くなっていた。

 

 

「くそっ!なんてパワーとスピードだ………」

 

 

降下して再びバサークと対峙する。

自身はさっきの戦闘でかなり気が上がったと思い込んでいたが、彼は更に自分を上回るほどの力を隠し持っていた。互角まで持ち込んでいたがこれでまた差が大きく開いた。どうしたものかと考えていると突然ギルドが大きく揺れた。

 

 

「何だ!?」

 

 

「どうやらエレメント4が全員やられたようだな………ジュビアはともかくアリアを倒すとはな………」

 

 

「じ、じゃあ煉獄砕破(アビスブレイク)は防がれたってことか!!やったぜ!!」

 

 

「そうなるな。」

 

 

「これで俺達は優位に立てたぜ!!どうするファントム!?」

 

 

「………果たしてそうかな?」

 

 

バサークの余裕の表情に怪訝すると突如スピーカーから少女の悲鳴が響いた。

その声の主は誰なのか一瞬でわかった。

ルーシィだ。

ルーシィが何者かに暴行を受けてた声だったのだ。

 

 

「ガジルが捕まえたんだろう………滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は鼻がいいから………」

 

 

「お………お前まさかルーシィをアイツに探させる為に俺と戦って………時間稼ぎを…………」

 

 

「さあ?どうだろうな?」

 

 

「何やってんだテメェ!!!」

 

 

彼の怒号が廃虚と化した部屋にビリビリと響き渡った。

 

 

「おお、更に戦闘力が上がったな。まだまだ出せるじゃないか」

 

 

「俺だってサイヤ人だ………速攻でこの戦いを終わらせてやる………」

 

 

互いに戦闘力を出せる分だけ出した二人は再び対峙する。ただでさえ一人が膨大な力を持つサイヤ人がぶつかり合うとどうなるのだろうか………。

戦いは第二ラウンドに突入しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

激突したのはほぼ同時だった。

その瞬間強風が吹き荒れた。バサークの放つ拳打を腕を交差させて防御する。

甲高い音が鳴り、ミシミシと腕の骨が軋む。常人なら複雑骨折は免れない。

そこから頭突きを繰り出して地面に叩き付けて再び拳打を放つ。飛び退けて躱すとビートのいた床が砕かれた。

そして両者掌にそれぞれ水色と紫色気功弾を作り出す。

 

 

「プレゼントしてやる!!」

 

 

「波あっ!!」

 

 

水色と紫。

二つの気功弾が激突して巨大な爆発を産んだ。部屋中に土煙が舞い、そこに二人の男が立っていた。

 

 

「俺はまだまだやれるぞ幽鬼の支配者(ファントムロード)のバサーク。お前等にルーシィはやらせない………」

 

 

「………この世界に二人もサイヤ人はいらねぇ………ぶっ潰してやるよ妖精の尻尾(フェアリーテイル )のビート………」

 

 

瞬間、二人は高速移動をして互いの拳が激突した。

それだけで先程よりも巨大な爆発が起こった。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

「はああああああああああああああ!!!」

 

 

拳と拳の打ち合いが始まって部屋全体に亀裂が走り出す。

そしてビートの拳がすり抜けて彼の懐に入った。だが、鉄のように硬い腹筋で威力が半減されてしまう。

吹き飛んだ彼に向かって跳躍して踏み潰そうと降下と共に蹴りを落とすが後転して躱される。

 

 

「そろそろ飽きてきたな………終わりだビート………」

 

 

「?」

 

 

そう告げた瞬間、彼の気が跳ね上がった。床を蹴ったと思ったら彼の顔を殴り付けていた。先程よりもとても重い攻撃だった。

さらに彼の上を通り抜けて背後に回ると組んだ両手で叩き落とす。

さらに両足で腹部を踏みつけた。

 

 

「がはぁっ!?」

 

 

激痛で悶える暇も与えずに彼の片足を掴んで壁に向かって投げ出した。

そこから両手に気功弾を作り出して合わせると巨大な閃光を放った。

たちまち轟音が鳴り響いてまたしても大穴を開けた。

 

 

「くっくっくっ、はーーはっはっはっはっ!!どうだビート?この俺の圧倒的パワーの味は!!」

 

 

土煙が晴れるとビートは穴の手前で倒れ伏していた。

 

 

「姿形が残っただけでも中々のものだな………。それにしてもここはよく景色が見えるな」

 

 

彼が大穴を開けた場所から今の戦況がよく見えていた。

 

 

「そういえばソルに何一つ守れないって言っていたな………アレを見ろよ」

 

 

薄れゆく意識の中、彼が見たものは………。

 

 

「お前が守ろうとした物が壊れる瞬間を…………」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )のギルドが倒壊する瞬間だった。

 

 



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其の25 奇跡の炎よ燃え上がれ

妖精の尻尾(フェアリーテイル )

妖精には尻尾があるのかないのか………。もっとも妖精自体がいるのかどうかさえ誰にもわからない。

永遠の謎………。

永遠の冒険………。

そんな意味が込められていた………。

 

 

そこでは色んな者と出会えた。

いつも半裸なグレイに、生真面目なエルザ、そしてナツ………。

仲間でもあり……家族のような存在だった。

自分を変えてくれた居場所、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )

 

 

 

それがたった今壊された………。

 

 

絶望するギルドメンバーに、泣き叫ぶカナ………。

 

 

跡形もなく崩れたギルド………。

 

 

 

彼にとって大切なものが、また壊されてしまったのだ………。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ギルドは崩れた………てめぇらは負けたんだよ………。いい加減諦めろよ火竜(サラマンダー)!!」

 

 

「ぐはぁ!?」

 

 

二人が戦っていた二階ではナツとガジルが激闘を繰り広げていた。

しかし途中で鉄を食べたガジルがパワーアップして一気に不利になった。

ジュピターの破壊にエレメント4との激闘の所為で今の彼の魔力は枯渇していた。

 

 

「く、クソッ!!火さえあればお前らなんか!!」

 

 

「そうそう諦めなよドラゴン野郎」

 

 

「お」

 

 

入口から少し汚れたバサークが現れた。

 

 

「アイツは?」

 

 

「ちょっと飛ばし過ぎたらくたばっちまったよ」

 

 

「そんな!ビートが!?」

 

 

「もう終わりだよ妖精の尻尾(フェアリーテイル )。ギルドは崩れ、ビートも死んだ………。虫の息の火竜(サラマンダー)に何が出来る?どの道お前らは助からない………。そこにいる妖精共も………」

 

 

 

“全員死ぬんだから………”

 

 

 

瞬間地面から何者かが突き破って現れた。

全員が驚愕する中、バサークの攻撃によって上の道着が吹き飛んで上半身裸のビートが額に青筋を立てながら現れた。

 

 

「ビート!」

 

 

「野郎………まだ生きてやがったか!」

 

 

「……………さねぇ………」

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜってぇに許さねぇぞお前等あああああ!!!!」

 

 

怒号と共に巨大な水色のオーラが巻き起こる。これまでにないとてつもない気だ。

 

 

「な、何だ!この戦闘力は!?確かにくたばったはず………。なのに何故………」

 

 

「うおおおおりゃああああああああ!!!」

 

 

「!!!」

 

 

床を蹴ったビートが先程のバサークより速く重い拳を顔に目掛けて放った。

その拍子にバサークは壁を突き破って隣の部屋まで吹き飛んだ。その後を追うようにビートも移った。

 

 

「な、なんだ今のは………」

 

 

ガジルが驚いている中、彼の目の前に一つの矢が通り過ぎた。

矢はスピーカーに命中すると発火する。

 

 

「よっしゃあ!火だああ!!」

 

 

それに飛びついて炎を食べるナツ。更にその隣の機材も矢で発火してかぶりつく。

矢を放ったのはルーシィが報酬で貰った星霊の人馬宮のサジタリウスだ。見た目は馬の被り物をしたアーチャーだが、その腕は名手だ。

 

 

「私は射抜き方一つで貫通させることも、粉砕させることも、機材を発火させる事も可能ですからして、もしもし」

 

 

「ご馳走様。ありがとうなルーシィ………」

 

 

「火を食ったぐらいでいい気なるなよ!これで対等だと言う事を忘れんな!!」

 

 

ガジルが駆け出して来る中、ナツは彼に向けて怒りの眼光を飛ばす。

そして向かって来る彼をアッパーで停止させる。

 

 

「レビィ……ジェット……ドロイ……じっちゃん……ルーシィ……みんな……そして妖精の尻尾(フェアリーテイル )………」

 

 

「んぎぃ!鉄竜の咆哮!!」

 

 

ナツと同様に口から鉄の破片が混ざったブレスを放射させるが、ナツは両手で跳ね返した。

 

 

「どれだけのものをキズ付ければ気が済むんだお前等は!!」

 

 

「バ、バカな!?このオレが………こんな奴に………こんなクズなんかに!!」

 

 

「今までのカリを全部返してやる!!妖精の尻尾(フェアリーテイル )に手を出したこが間違いだったな!!!」

 

 

「オレは………最強の………!!!」

 

 

「紅蓮火竜拳!!!」

 

 

「あああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

炎を纏った拳がガジルを殴打する。

その凄まじい火力に部屋全体が震えて一画を破壊した。

彼の猛攻は止まず、遂にはギルドを真っ二つに割れた。

土壇場でナツが形勢逆転をして勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時間は戻ってバサークが吹き飛ばされた部屋。そこでバサークは驚愕の顔を浮かべていた。

 

 

「馬鹿な………確かにアイツは俺が倒したはず………なのに!?」

 

 

そう思った矢先に背後に回ったビートに蹴り上げられる。くるりと回って態勢を立て直すも、真っ直ぐこちらに向かってくるビート。両手を合わせて掌に力を集中させる。

 

 

「破ぁ!!」

 

 

「かっ!!」

 

 

気合砲を放ったが、彼の怒号に逆に跳ね返された。更に上空に吹っ飛ぶが、無理矢理止まって気功弾を放とうとする。

すると途中で軌道を変えて彼の背中に回った。

捉えたビートに向かって気功弾を投げつけた。しかし残像のように彼は突然消えた。

驚愕するが、ビートはまた背後に回って蹴り落として瓦礫の山に突っ込だ。

 

 

「がああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

瓦礫を吹き飛ばして向かってくるビートを殴ろうとするが、直前で宙返りして後ろに回って頭突きを喰らわせる。態勢を立て直した頃にはビートは彼の懐に入っていた。

 

 

「うえあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「ごぁ!!!」

 

 

いつかのお返しと言わんばかりに彼に重い、強烈な一撃が腹部に減り込んだ………。

流石に応えたのか、腹を抑えながら一歩、二歩と後ずさる。

 

 

(ば、馬鹿な………ビートの奴、お、俺の戦闘力を……こ、超えやがった………)

 

 

ビートが黙って近づこうとすると突然辺りが激しく揺れてガジルがいた部屋から半分に割れた。

 

 

「こ、これは!?」

 

 

「ナツがやったようだな………ガジルを倒したんだろう………」

 

 

「何!?ガジルを!?」

 

 

「もう終わりだバサーク………。お前達にもう勝利はない」

 

 

ガジルがやられた事によって彼はわなわなと震える。ガジルにとっては兄のように慕っていた。

それなのにあの火竜(サラマンダー)の男に負けた………。

 

 

「き、貴様等〜!!」

 

 

彼は降参を促すビートを激しく睨んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

場所は切り替わって別の一室では、復帰したエルザがジョゼと対峙していた。

アリアを倒した後にファントムのマスターのジョゼとの対決でかなり体力を消耗していた。

するとギルドが崩れた事にエルザは気付いた………。

 

 

「ナツがやっただろうな………それにさっきの巨大な魔力はビートのだろう………。後はジョゼ、お前だけだ………」

 

 

「…………果たしてそうでしょうか?」

 

 

「何………?」

 

 

「貴方達はまだわかっていない………バサークという男を………」

 

 

「何が言いたい!?」

 

 

「彼が本気になればジュピター並みの火力を出せるということを!!」

 

 

「何だと!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ゆ、許さん………絶対に許さんぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

怒号を上げてビートと同じぐらいの大きさの紫のオーラを出すと上空に飛び立った。

嫌な予感がしたビートは超速でファントムのギルドから抜け出して目の前に降り立った。

 

 

「避けられるものなら避けてみろ!!お前は助かっても!!妖精共は消し炭だぁ!!」

 

 

「か、考えたな畜生!!」

 

 

紫色のオーラを出しながら上空で身体を大きく左側にひねって独特な手の組み方をする。その様子に慌てるギルドメンバー達。

 

 

「お、おいどうする!?逃げるか!?」

 

 

「逃げても無駄さ!ありゃさっきの煉獄砕破(アビスブレイク)並みの威力と見た!!」

 

 

「そ、そんな!!」

 

 

カナに容赦無く現実を叩きつけてさらに絶望してしまう。

 

 

「………か、賭けるしかねぇ!!おいカナ!!みんなを安全な場所に避難させろ!!」

 

 

「え、でも「早く!!!」わ、わかった!!おい!みんなここから可能な限り離れるんだ!!」

 

 

ギルドメンバーは一斉に安全な場所まで逃げ込んだ。誰も居なくなったことを確認したビートはバサーク同様に気を溜め始める。

 

 

「渾身のかめはめ波だあああああ!!!」

 

 

両手を天に突き出して右側の腰まで持って来る。

 

 

「かぁぁぁぁめぇぇぇぇはぁぁぁぁめぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

彼の激しい気が周りの瓦礫を吹き飛ばす。大地が揺れ、空が荒れる。

 

 

 

「俺のギャリック砲は絶対喰い止められんぞ!!妖精共々、宇宙のチリになれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

「波ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

二人同時に紫と水色のエネルギー波が放たれた。衝突した閃光は眩ゆい光を掃き散らす。

 

 

「な、何ぃ!?俺のギャリック砲とそっくりだっ!?」

 

 

「うぐえええええ!!!!」

 

 

互いのエネルギーが空中でぶつかり合って押し合う。

 

 

 

「ぬおおおああああああああ!!!」

 

 

「うあああああああああああ!!!」

 

 

若干ビートが押され始めて水色の光の束が短くなってきはじめる。

 

 

「も、もう駄目だぁぁぁぁ!!俺達は終わりだあああああ!!」

 

 

「諦めるじゃないよ!!ビートならやれる!!私はそう信じるんだ!!だからお前もアイツを信じろぉ!!」

 

 

カナの一喝によってビートを応援し始めるギルドメンバー。

その想いに応えて踏ん張るビート。

 

 

 

か、かめはめ波……… 全力全開(フルパワー)だあああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

叫んだ瞬間、片足が浮く程の巨大な光が溢れた。一直線に伝って紫の光とぶつかった瞬間にぐんぐん押し始めた。

 

 

「うぐおおおああああおおお………お、押され………」

 

 

 

水色の閃光はあっという間に紫をかき消してバサークまで向かった。

 

 

 

「あああが、うあああああああああああああああ!!?!?!?」

 

 

水色の閃光に包まれてバサークは上空に吹き飛んだ。

ギリギリの接戦でなんとかビートはバサークに勝利を収めた。

 

 



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其の26 妖精の法律(フェアリーロウ)

風が靡く森林の中、ローブを着た一人の老婆が空を見ていた。彼女は治癒魔導士のポーリュシカ。先程までマカロフを診ていた。

診ていたということは彼は飛び出して行ったのだ。

 

 

「これだから人間ってのは!争う事でしか物語を結べぬ愚かな生き物共め!マカロフのバカタレ!そんなに死にたきゃ勝手に死ねばいい!!」

 

 

行き場のない怒りを木箱にぶつけながら箒を振り回す。彼女は人間嫌いな所があり、妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士が何人か来ていたが、少しだけ説明してすぐに追い出す程だ。

木箱に入っていたリンゴが転げ落ち、それを誰かが静かに手に取った。

黒いローブを見に纏って素顔を隠しているミストガンだった。

 

 

「いただいても?」

 

 

「そうか……こんな早くマカロフが回復するのはおかしいと思った………マカロフの魔力をかき集めてきたのはあんただね?」

 

 

「…………」シャリ

 

 

「勝手に食うんじゃないよ!」

 

 

彼はリンゴを口にしながら話す。

 

 

「巨人は動いた………戦争は間も無く終結する………」

 

 

「人間同士の争いを助長するような発言したくないけどね、あんたも一応マカロフの仲間だろ?とっとと出ていきな!そして勝手に争いでもしてるんだね!」

 

 

すると彼から何枚ものの旗が舞い上がった。

その旗にはファントムのマークが刻まれていた。彼は一人でファントムの支部を潰し回っていたのだ。

 

 

「リンゴをもう一ついただきたい………」

 

 

「こんな(ゴミ)を置いておく気じゃないだろうね!!…………本当、あんた達には呆れるよ。強すぎる力は悲しみしか生まない………そしてその悲劇の渦の中にいることを怒りが忘れさせてしまう………」

 

 

「…………私はそれをも包み込む聖なる光を信じたい………全てを導く聖なる光を…………」

 

 

彼の言葉にポーリュシカは黙って俯くのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

倒壊したファントム内では、マカロフとジョゼが対峙していた。戦っていたエルザ達を避難させて1対1の戦いに持ちかけてようとしていた。

 

 

「こうして直接会うのは6年ぶりですね。その間に妖精の尻尾(フェアリーテイル )がここまで大きなギルドになっていたとは………まぁもう潰れちゃいましたけどね」

 

 

「ギルドは形などではない、人と人との和じゃ………」

 

 

彼は右手で星座のような術式を組み始める。、

 

 

「しかし嬉しいですねぇ、聖十天魔道同士がこうして優劣をつけあえるなんて………」

 

 

「全てのガキどもに感謝する。よくやった………」

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )である事を誇れ!!!”

 

 

彼の怒号が轟くと空が荒れ、大地が揺れる。そしてその刹那ジョゼの肩に一閃の光が左肩を貫いた。

しかし向こうも同じく左肩から血が噴き出る。ジョゼは踏ん張って止まると片腕に霊を纏わす。

 

 

「デッドウェイブ!!」

 

 

地を削りながら向かって来る霊に対し、マカロフ両手で術式を組み、最後に両手を合わせて三角の形を作る。

 

 

「はああああああああああ!!」

 

 

瞬間ファントムのギルドから巨大な波紋が広がった。

 

 

「大したモンじゃ………その若さでその魔力………聖十の称号を持つだけの事はある………その魔力を正しいことに使い、さらに若い世代の儀表となっておれば魔法界の発展へと繋がっていたであろう………」

 

 

「説教………ですかな?」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )の審判のしきたりにより、貴様に三つ数えるまでの猶予を与える………」

 

 

彼の体躯がどんどん大きくなって巨人の姿と化した。

 

 

「跪け………」

 

 

「は………?」

 

 

「一つ………」

 

 

「ははっ、何を言い出すと思えば跪けだぁ!?」

 

 

「二つ………」

 

 

巨大な手から一つの光が生み出されるも、ジョゼは続ける。

 

 

「王国一のギルドが貴様に屈しろだと!?冗談じゃない!!私は貴様と互角に戦える!!いや、非情になれる分私の方が強い!!」

 

 

「三つ………」

 

 

「跪くのは貴様等の方だ!消えろ!!塵となって歴史上から消滅しろ!!フェアリィィティィル!!!」

 

 

「そこまで」

 

 

両手を合わせると地面から光が漏れ出す。

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)、発動。」

 

 

瞬間、天から光が放たれて世界に広がった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

眩ゆい光は外にも影響していた。

ギルドメンバーはその光を眩しがっていたが、 幽兵(シェイド)がその光に当たると小さな音を立てた消滅していく。

ギルドメンバーにはなんともなく、逆にその光に優しさを感じた。

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)だ」

 

 

「フェアリーロウ?」

 

 

この光を知っているエルザにグレイがオウム返しをする。

その魔法は聖なる光を持って闇を討つ。術者が敵と認識したものだけを討つ。

それは伝説の一つに数えられる超魔法なのだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ファントムのギルド内では石のように固まっていたジョゼが立っていた。

 

 

「二度と妖精の尻尾(フェアリーテイル )に近づくな………」

 

 

彼がそう告げると振り返って静かに歩み始める。

 

 

「ここまで派手にやらかしちゃあ評議院も黙っておらんじゃろ………これからは一先ずてめぇの身を心配することだ。お互いにな………」

 

 

土煙が吹く中、彼の背後から大男が飛び出て来た。それはエルザに敗れたはずのアリアであった。

 

 

「(あの時と同じ隙だらけ!!貰った!!)」

 

 

しかし察知していたのか、マカロフの裏拳により沈んだ。

 

 

「もう終わったんじゃ。ギルド同士のケジメはつけた………。これ以上望むならそれは『掃滅』。跡形もなくけすぞ。ジョゼをつれて帰れ………今すぐに………」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方ビートは残っていた体力を振り絞ってとある場所にと向かっていた。

ファントムのとある一画に進んでいると一人の男が倒れ伏していた。

その者はバサーク。彼の全力のかめはめ波を受けてもなお、しぶとく生きていた。空に打ち上げられ途中で体を逸らしていたのだ。だが、そのダメージは決して軽いものではなく、ビートと同じぐらいボロボロになっていた。

そんなバサークを見てポケットからとあるものを取り出す。仙豆だ。万が一の為に一粒だけ持ち込んでいたのだ。それを二つに割って一つは食べて彼に近づいた。

 

 

「おい、しっかりしろ!」

 

 

「う、うう………。」

 

 

「まだ息はあるな。ほれ、これを食え」

 

 

割った仙豆を無理矢理口の中に入れるとそれを噛み砕いて飲み込む。するとたちまち傷が治って目を見開くとビートから遠ざけた。

 

 

「き、貴様………何の真似だ………?」

 

 

「いやな………お前が死にそうになってるのを見て思っちまったんだ………もったいねぇ………って」

 

 

「も………もったいないだと?」

 

 

「俺は色んな冒険をしたり修行をして頂点を極めたつもりでいたんだ………。だけどお前は俺よりずっと上を行っていた。びびったよ……正直言って参っちまった………だけどよ、心の何処かで嬉しくてワクワクしたんだ………やっぱり俺もサイヤ人だからかな………悪い癖だな………」

 

 

 

「………」

 

 

「今回は仲間のお陰で勝てたと思ってる………けど今度は自分の実力でお前を倒す!」

 

 

「………やはりお前は甘い………」

 

 

「?」

 

 

「そんな様子じゃ()()にも到底なれないだろう………」

 

 

「アレ?」

 

 

オウム返しするがバサークは翻して奥に歩み始めた。

 

 

「よく覚えておけよ?今度はお前達に奇跡はない………。お前が強くなっている頃には俺はもっと強くなってると思え………」

 

 

歩んでいく彼の背をビートは見ることしか出来なかった。元から強い彼がさらに修行をするととんでもない強さになるかもしれないのにその顔はニヤついていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕日がマグノリアの街を差す中、ギルドメンバーは倒壊したギルドの前にいた。

 

 

「こりゃあまた、派手にやられたのう………」

 

 

「あ、あの………マスター………」

 

 

「んー?お前も随分大変な目にあったのう………」

 

 

「…………」

 

 

押し黙るルーシィに歩み寄る者達がいた。

 

 

「そーんな顔しないのルーちゃん」

 

 

それは負傷していたレビィ、ジェット、ドロイに彼女を保護していたリーダスだ。

 

 

「みんなで力を合わせた大勝利なんだよ」

 

 

「ギルドは壊れちゃったけどな………」

 

 

「そんなのまた建てればいいんだよ」

 

 

「ウィ」

 

 

「レビィちゃん………リーダス………ジェット……ドロイ…………」

 

 

「心配かけてゴメンね。ルーちゃん」

 

 

「違う………それは私の………」

 

 

「話は聞いていたけど誰もルーちゃんの所為だなんて思ってないんだよ」

 

 

「オレ………役に立たなくて……ゴメン………」

 

 

それでもルーシィは自分の所為だと思い込んでしまう。そんな彼女にマカロフは静かに語る。

 

 

「楽しい事も、悲しい事も、全てとまではいかないが、ある程度は共有出来る、それがギルドじゃ。

一人の幸せはみんなの幸せ………。一人の怒りはみんなの怒り………。そして一人の涙はみんなの涙………。

自責の念にかられる必要はない。君にはみんなの心が届いているハズじゃ…………」

 

 

「…………」

 

 

「顔を上げなさい………君は妖精の尻尾(フェアリーテイル )の一員なんだから………」

 

 

今まで堪えていた涙が溢れて彼女は泣き叫んだ。そんな彼女は暖かく笑う。

 

 

(それにしてもちと派手にやりすぎたかのう………。こりゃあ評議院も相当お怒りに………いや待て、もしかしたら下手したら禁固刑かも!?)う、うわーん!!」

 

 

段々不安になってしまったマカロフも泣き出した。

ようやく長い長いファントムとの戦いは幕を閉じた。

 

 



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其の27 私の決意

ファントムとの戦いが終わって1週間。

と言ってもあの後すごく大変だったの。私達は事情聴取の為軍の駐屯地に連行されちゃったのね。毎日取り調べを受けて、1週間経った今やっと落ち着いてきたってわけ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル )に対する処分は評議会の後、後日下されるらしいの。

でも心配しないでねママ。そんなに重たい処分は下らないと思うんだ。だって状況証拠や目撃証言はファントムの襲撃を立証してるからね。

 

 

ルーシィは手紙を書いていた筆を止めると横腹に痛みを感じた。服をめくると痛々しいアザが出来ていた。

 

 

「ファントム………かぁ」

 

 

筆を取ると再び書き始める。

 

 

“ねえ………ママ………これは本当に裏で()()()が裏で操っていた事なのかな?

いくらあの人でもここまでやるなんて………”

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

脳裏に浮かぶのは幼少期の時代の事である。

 

 

『ねぇパパ。わたしおにぎりつくったんだよ』

 

 

『…………』

 

 

金髪の少女が机で書類を纏めている男に呼びかけるが、男は筆を止めずに書類を書いていた。

 

 

『あのね………』

 

 

『仕事中だ。向こうへ行け』

 

 

冷たく対応する父にルーシィは落ち込んで部屋から出ようとする。

しかし振り返ってまた呼びかけようとした。

 

 

『あのね………』

 

 

『邪魔だと言ってるのがわからないのかルーシィ!!』

 

 

『っ!!』

 

 

『料理は専属のシェフが作る!!そんな事をしてる暇があったら少しでも帝王学を学ぶんだ!!出て行け!!』

 

 

怒鳴る父に怯えて少女は部屋から出て行った。

自身の部屋に行かずに扉の前に座り込み、一人寂しそうに呟いた。

 

 

『あのね………今日………わたしの誕生日………』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

やるのねあの男なら………これくらい平気で………。

でも何で今さら急に私をつれ戻そうとするの?私になんて興味ないくせに………。

妖精の尻尾(フェアリーテイル )には迷惑かけちゃったなあ。

…………ママ、あの人ならまたやるよね。同じ事を………お金の力で………それだけは私………。

 

 

ルーシィは手紙を書き終えると別の紙を出して再び何かを書き始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お〜もぉ〜て〜えぇ〜……」

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )跡地では倒壊したギルドの再築作業をメンバー総出で行っていた。

その中でナツが何十本ものの角材を背負って運んでいた。

 

 

「一度にそんなに持つからだよ。馬鹿じゃねぇの?」

 

 

肩に角材を担いで運ぶグレイがナツに言う。ナツは負けじとグレイと言い争い始めた。

 

 

「おめぇは軟弱だからそれが限界なんだろーなぁ!」

 

 

「あ!?オレがその気になればてめぇの倍はいけるっての!!」

 

 

グレイは近くにあった角材の束を背負うとする。

 

 

「ど、どうよ!」

 

 

すると何処からかパチパチと拍手が聞こえた。グレイは振り向くが誰もおらず、その拍子にバランスが崩れて角材の下敷きになってしまった。

 

 

「なっさけなーー!見たかハッピー今の!」

 

 

「あい」

 

 

「おいお前達!」

 

 

「うっ」

 

 

恐る恐る振り返るとそこには土木作業着に換装したエルザと同じく作業着に着替えたビートが角材を担いで佇んでいた。

 

 

「遊んでる暇があったらさっさと運ばんか!一刻も早くギルドを修復するだ!」

 

 

「そーだソーダ!バカなことやってねぇで働け!」

 

 

「………お前達気合入ってるな」

 

 

「マスターもね」

 

 

マカロフも巨人化して修復作業を手伝っていた。さらにこれを機に改築まですると図面まで描いたのだ。

だがパースが下手いとかなんとか。

 

 

遠近法(パース)なんて昔の画家の目の錯覚じゃ!芸術は自由でなくてはならん」

 

 

「いや、建物の設計図がこんなんじゃ完成する訳ねーだろ!!」

 

 

そこには子供が頑張って書いたとしか思えない完成図のギルドの絵が置かれていた。

 

 

「監督、この角材は何処へ?」

 

 

「おーあっちじゃ」

 

 

「了解です監督」

 

 

「何だよ監督って………」

 

 

ビートとエルザは指示された場所へ角材を運んで行った。すると残されたナツとグレイの元にロキがやって来る。

若干げっそりしてそうに見えるが、片手には何本も鍵が付いたリングを持っていた。

 

 

「お前……しばらく見ねえと思ったらずっと星霊の鍵(コレ)探してたのか!?」

 

 

「いやあ、つらいねフェミニストは………。それよりルーシィはどうしている………かな?」

 

 

「多分家にいると思う」

 

 

「そっか………」

 

 

「よし!今から遊びに行くか!」

 

 

「だな。ちょっと心配だしな」

 

 

「あい!」

 

 

「ロキも行こうぜ!」

 

 

「いや、僕は遠慮してくよ………知ってるだろ?星霊魔導士にはやな思い出が………」

 

 

「そっか………ルーシィはルーシィなのになぁ………」

 

 

ナツがルーシィの家に向かおうとしたその時、遠くから誰かが走って来るのが見えた。

 

 

「貴様等何処に行くつもりだ!働けぇ!!」

 

 

「やっべ!エルザだ!!」

 

 

「逃げろーー!!」

 

 

「働くでござる!絶対に働くでござる!!」

 

 

「ビートがわけわかんないこと言ってる!?ていうか仕事の鬼になっとる!?」

 

 

 

トンカチを片手に向かって来るエルザとビートから逃げるナツ達。その様子をロキは何処か遠い目で見ていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ルーシィ!元気かーー!?」

 

 

「元気かあ!?」

 

 

勢いよくルーシィ宅のドアを開けるナツだが、家の中はしんとしていた。

 

 

 

「返事がない。ただの留守のようだ」

 

 

「なんだかかんだ言ってお前らもついてきたのかよ………」

 

 

「私も気がかりだからな」

 

 

「でもホントにいないよ?」

 

 

「風呂か!?お約束の展開が待ってそうで申し訳ないが………」

 

 

「いねえ」

 

 

「風呂のチェックはええよ!」

 

 

バスルームからナツが顔を覗かせる。さっきまで入口にいたのにこの身の早さである。

 

 

「どうやら出かけてるようだな」

 

 

「ルーシィどこ〜?」

 

 

「そんな場所にいたら逆に怖いよ………」

 

 

ハッピーは上の棚の扉を開けようとするとそこから大量の手紙が溢れ返った。

一同はそれに手をつき始める。

 

 

「何々………『ママへ………私遂に憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入る事が出来たの………』」

 

 

「おいおい勝手に読むもんじゃねえぞ」

 

 

「勝手に家に入って言う奴等のセリフじゃないけどな」

 

 

「『ママへ………今日はエルザさんって人に会ったの………カッコよくて綺麗で………あのナツがね………』」

 

 

「む」

 

 

内容を聞いていたエルザは少し顔を赤く染めた。

一通り見てみたがどの手紙も宛先がママへと書いていた。

 

 

 

「何で送ってねーんだ?」

 

 

「家出中だからに決まってんだろ」

 

 

「じゃあ何の為に?」

 

 

「………」

 

 

「エルザ?」

 

 

彼女は机にあったあるものを注視していた。

 

 

「ルーシィの書き置きだ。『家に帰る。』だ、そうだ」

 

 

『ダニィ!?』

 

 

ビートとナツ、グレイ、ハッピーの声がハモった。

 

 

「帰るって何だよオイイイイ!!何考えてんだアイツは!?

 

 

「ま、まさかまだ責任感じてるのかなあ………」

 

 

「わからん………とにかく急いで追うぞ!!ルーシィの実家だ!!」

 

 

「よし!そうと決まれば、みんな丸太は持ったな!!イクゾォ!!」

 

 

「「「「へ?」」」」

 

 

どっから持ってきたのかビートが両手に丸太を抱えると次の瞬間驚きの行動に出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

長旅の所為で普段着となっている服を身に纏って慣れない気持ちになっていたルーシィは静かに廊下を歩いていた。

彼女は家を出て自身の家まで戻って来ていた。自分が帰ってきた時は屋敷の者達が涙目になって出迎えてくれた。

そして父からは部屋に来なさいと伝言を受けて現在は父のいる書斎へと向かっていた。

 

 

「失礼します、お父様………」

 

 

ゆっくり扉を開けるとそこには黒服を着た白髪の男性が後ろに手を組んで立っていた。

 

 

「よく帰ってきたな、ルーシィ………」

 

 

「何も告げず家を出て申し訳ありませんでした。それについては深く反省しております………」

 

 

「賢明な判断だ。あのままお前がギルドにいたのなら、私はあのギルドを金と権威の力を持って潰さねばならないところだった………」

 

 

ルーシィは何も言わずに視線を下げる。

男から発せられる冷たい声が続く。

 

 

「やっと大人になったなルーシィ。身勝手な行動が周りにどれだけの迷惑をかけるのかいい教訓になったであろう………。お前はハートフィリアの娘だ。他の者とは住む世界が違うのだよ」

 

 

「………………」

 

 

「今回連れ戻したのは他でもない。縁談が纏まったからだ。ジュレネール家御曹司のサワルー公爵。以前からお前に興味があると言っていただろう?」

 

 

「言ってましたね」

 

 

「ジュレネール家との婚姻によりハートフィリア鉄道は南方進出の地盤を築ける。これは我々未来にとって意味のある結婚となるのだ。

そしてお前には男子を産んで貰わねばならん。ハートフィリアの跡継ぎをな………。話は以上だ、部屋に戻りなさい………」

 

 

「お父様………」

 

 

ルーシィは一度大きく深呼吸をして目をカッと開いた。

 

 

「勘違いしないでください」

 

 

「!?」

 

 

「私が戻ってきたのは自分の決意をお伝えする為です。確かに何も告げず家を出たのは間違ってました。

それは逃げ出したと変わらないですから………。

だから今回はきちんと自分の気持ちを伝えて、家を出ます!」

 

 

「ル、ルーシィ………?お前何を言って………」

 

 

「私は私の道を進む!結婚なんて勝手に決めないで!!そして妖精の尻尾(フェアリーテイル )には二度と手を出さないで!!

 

 

彼女は胸元に手を付けると自身の纏っていた服の上半身を破り始めた。

 

 

「今度妖精の尻尾(フェアリーテイル )に手を出したら、私が……ギルド全員が敵とみなすから!!」

 

 

「っ………!!」

 

 

「あんな事しなければもう少しきちんと話し合えたかもしれない………でももう遅い!貴方は私の仲間をキズつけすぎた!!私に必要なものはお金でも綺麗な洋服でもない!私という人格を認めてくれる場所!

妖精の尻尾(フェアリーテイル )はもう一つの家族……ここよりずっと暖かい場所なの………」

 

 

さっきまでと違って焦りを露わにする男だが、それでも彼女は続ける。

 

 

「僅かの間だけど、ママと過ごしたこの家を離れる事はとても辛いし、スペットさんやベロ爺や、リボンさんエイドさん……みんなと別れるのもとても辛いけど………でも、もしもママがまだ生きていたら……貴方の好きな事をやりなさいって言ってくれるの………」

 

 

その時男の目には何が写っていたのだろう。

今は亡き自身の妻の面影がルーシィと重なって見えた。

 

 

「さようなら………パパ………」

 

 

そう言い残したとルーシィは書斎から出る。

男は何も言えない顔のまま、閉ざされた扉を見てるだけだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

屋敷の者にも挨拶をした後、彼女は自身の母の墓に来ていた。

 

 

(そうだよね?ママもそう言ってくれるよね?)

 

 

レイラ・ハートフィリアと刻まれた墓をしばし眺めてもし母が生きていたらと思っていたその時だった。

 

 

 

…………シィーー………

 

 

 

何処から声が聞こえた。

彼女は今までの経験で何かを察する。絶対にロクでもない光景が繰り広げるだろう。

恐る恐る声の発生源に向き変えると…………。

 

 

「ルーーーーーーーーーシィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

「ファーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!」

 

 

振り返ると丸太の上にサーフィンのように乗ったビートがこちらに向かって飛んで来ていた。

ちゅどーんと大きな音を立て、土煙が晴れると丸太の端っこにビートが両手を後ろに組んで立っていた。

 

 

「ア〜ロ〜ハ〜」

 

 

「ア〜ロ〜ハ〜じゃないわーーーーー!!なんてもので家に来てんのよ!!」

 

 

「丸太で来た」

 

 

「見ればわかるわ!!なんて方法で来たのよ!!」

 

 

「そうだ!この機会に『誰でも簡単!飛行方法』を教えてしんぜよう」

 

 

まず、手頃な丸太か石柱の柱を用意します。

 

 

「なんか始まった!?」

 

 

次に、行きたい方向に角度を調整します。

そして柱をその方向に目一杯投擲して下さい。

最後に素早く柱の上に乗ればあら不思議。簡単な飛行機になりました。

 

 

「という具合に………」

 

 

「それほぼアンタしか出来ない方法じゃないのーーーーーー!!」

 

 

「そんなことより」

 

 

「そ ん な こ と!?」

 

 

「みんなも来てるぜ」

 

 

「へ?」

 

 

「「「「ルーーーシィィィィィ!!」」」」

 

 

「えええ!?」

 

 

ビートの奥からナツ、グレイ、エルザ、ハッピーが駆け寄って来たのだ。

家に置いていた書き置きを見たのだろう。ハッピーが泣きながら胸元に飛んで来た。

大丈夫かとみんな心配してくるが、さっきまでの事を話すと安堵の声を出したり、ナツは少し怒っていたが、最終的に笑い合った。

その時窓際に父親の姿が見えた。その顔は厳格な雰囲気が少し緩んでいた気がした。

 

 

“天国のママへ”

 

 

「それにしてもでけー街だな」

 

 

「流石お嬢様だね」

 

 

“私はね………”

 

 

「あ、ううんここは庭だよ。あの山の向こうまでが私の家」

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

“みんなとじゃなきゃ生きていけないと思う”

 

 

「あれ?どーしたの?」

 

 

「お嬢様キター!」

 

 

「さりげ自慢キター!」

 

 

「はえ^〜。ルーシィって銀河ギリギリぶっちぎりの凄い金持ちなんですねぇ……」

 

 

「?何言ってるのビート?」

 

 

「ナツとグレイがやられました!ビートは辛うじて健在です!エルザ隊長!一言お願いします!」

 

 

「空が………青いな………」

 

 

「エルザ隊長が故障したぞー!」

 

 

 

“だって妖精の尻尾(フェアリーテイル )はもう私の一部なんだから。”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ささ、お嬢様。俺の体にしがみついてください。誰でも簡単飛行方法で帰りますので」

 

 

「絶っ対イヤ!!」

 

 

 



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其の28 遠い昔の夢

「ゑゑゑゑ!?ロキって星霊だったの!?」

 

 

「うん、まぁね」

 

 

今まで星霊魔導士が苦手だったロキの謎が解けた。

彼は元々カレンと言う魔導士の星霊だった。彼女は星霊を間違った使い方をしていた。白羊宮のアリエスという星霊を男性をめてなすのに使っていた。

そんな彼女を見ていられずにロキが無理矢理入れ替わり、自身の魔力のみで現れた為強制閉門も封じた。そして自分とアリエスとの契約の解除を要求したが受け入れて貰えず、ならば承諾するまで人間界にいると宣言し、3ヶ月経った頃にはカレンは仕事先で亡くなった事を告げられた。

彼が人間界にとどまっていた所為で他の星霊を呼ぶことが出来ず殺したのは自分に責任を感じていた。

自分が消えていく中、ルーシィが説得した際に星霊王が現れてロキが犯した罪を免罪し、ルーシィと契約した。

だが、疑心暗鬼なナツは彼をジロジロと見る。

 

 

「でも、お前星霊って感じじゃあねぇぞ?」

 

 

「ロキは獅子宮の星霊『レオ』よ」

 

 

「獅子ーーー!?」

 

 

「獅子ってアレ!?大人になった猫!?」

 

 

「そうだね」

 

 

「違ーう!!」

 

 

「つまりアレか!?固有能力で太陽並みの熱を発することが出来る的な!?」

 

 

「それ何処のニチアサ!?」

 

 

ルーシィは頭がライオン、銅がトラ、脚がチーターな黄色の仮面の戦士を頭に浮かべた。

 

 

「つーかお前、今まで通りで大丈夫なのか?」

 

 

「これからはそうはいかないね。ルーシィが所有者(オーナー)になってくれたからね。ルーシィのピンチに颯爽と現れる。さしずめ白馬の王子様役ってとこかな?そういう訳で二人の今後について話し合おうか」

 

 

「コラコラ下ろしなさい!!」

 

 

ルーシィをお姫様抱っこして何処かへ行こうとするロキを見てナツは呟く。

 

 

「いいなー、オレも星霊欲しいなあ」

 

 

「どんなの?」

 

 

「そりゃあ(ドラゴン)だろ!!せっかく滅竜魔法覚えたのに本物の(ドラゴン)と戦えねーのは甲斐がねえってモンだ!!」

 

 

「星霊は力比べの為に呼び出すものじゃないの!!」

 

 

「呼び出された(ドラゴン)困惑しそう(小並感)」

 

 

シャドウボクシングをするナツにルーシィとビートが突っ込んだ。

 

 

 

「そうそう、星霊は愛を語る為に………」

 

 

「アンタももう帰りなさい………」

 

 

「あ、待ってくれ」

 

 

ルーシィが鍵で閉じようとした瞬間ロキはポケットから4枚の紙を取り出してナツ達に渡した。

 

 

「何コレ?」

 

 

「もう人間界に長居する事もないからね。ガールフレンド達を誘って行こうと思ってたリゾートホテルのチケットさ。君達には色々世話になったし、これあげるから行っておいでよ。」

 

 

「おおおおっ!」

 

 

「こんな高ぇホテル泊まった事ねえぞ!!」

 

 

「ドラ○もんでも出してくれないぞこんないいモノ!!」

 

 

「誰ソイツ!?」

 

 

「ジャンピング潜水艦〜(ダミ声)」

 

 

「どっから出してんのその声!?」

 

 

「エルザにもさっき渡しておいた。楽しんでおいで」

 

 

「わーい!」

 

 

「貴様等何モタモタしている。置いて行かれたいのか?」

 

 

『気ィ早ェよ!!』

 

 

「洗濯洗浄ワールドタイプ〜(ダミ声)」

 

 

「意味がわからん!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

そんな訳でロキから貰ったチケットを用いて一同はアカネビーチリゾートホテルに来ていた。

 

 

「ホラ!ルーシィもっと右右!!」

 

 

「上上!!」

 

 

「上って………えい!!」

 

 

スイカ割りをしていたルーシィだがナツの策略により、スキンヘッドの男性に棒が命中して怒られた。

 

 

「ギャアアア!!助けてーーー!死ぬーーーーーー!!」

 

 

「ん?」

 

 

「何だ何だ?」

 

 

「泳いでたら何故かサメがいたーーーーーー!!」

 

 

「いや、何でだよ!?」

 

 

海ではビートがサメに追いかけ回されていた。

 

 

 

「そうだ!今こそ!『ジャンピング潜水艦〜』(ダミ声)」

 

 

「それ技だったの!?」

 

 

ビートは飛魚のように跳ねると再び海に潜った。

その後もビーチバレーをしたり、かき氷を食べたり、ナツをボートに乗せて乗り回したりなど色々と遊び尽くした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

周りに映るのは自身と同じ年や、年上の者たちが囚人服を着て労働をする姿だった。

それは自分も例外ではない………。

 

体中に打たれる鞭。泣いても逆に打ち付ける回数を増やしていくばかり。

 

 

“エルザ………この世界に自由などない…………”

 

 

そして最愛の友から告げられた冷たい言葉が頭の中に響いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

エルザは勢いよく椅子から起き上がった。

疲れたので少し眠りについていたが、周りを見るといつの間か辺りは真っ暗になっていた。

ベランダから部屋に戻って戸を閉めると窓が自身の姿を写す。

今の姿は水着だが、しばらく見ていると嘆息していつもの鎧を纏った姿になった。

 

 

「やはり鎧の方が落ち着く………ふふ、私という女はつくつぐ仕方がないな…………」

 

 

「エルザーーー!!」

 

 

振り返ると部屋の扉からルーシィが出てきた。

ホテルの地下にカジノがあるらしく、ナツとグレイとビートは既に遊びに行ってるので一緒に行こうと誘いに来たのだ。

エルザは柄にもなくくるりと一回転すると鎧姿から紅い綺麗なドレスに身を包んだ。

そんな自分をまた写っていた窓を一瞥する。

 

 

(たまにはいいじゃないか。自分に優しい日があっても………)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

カジノ。

賭博を行う施設の一つ。ルーレットやブラックジャックなどのゲームで金銭を賭ける場。

中には当たれば天国。負ければ地獄になるほどの高レートが存在する。

そんな中ビートが挑むのは………。

 

地下のカジノで悪魔が誘う(いざな)。サイコロ賭博『チンチロリーン』!!

 

 

ざわ…………ざわ…………

 

 

向こうの出た目は『5』。俺は『6』か『4、5、6(しごろ)を出せば勝ち………。

逆に言えばそれ以外の目、最悪『1、2、3(ひふみ)』が出たら即死………。

だが、アレが出れば…………全ての目が『1』になった時、奇跡は起こる…………。

 

 

ざわ…………ざわ…………

 

 

喰らえ………天上天下………唯我独尊…………!!

 

 

「あの………お客様そろそろ振ってくれません?」

 

 

「待ってくれ!!今集中しているんだから!」

 

 

「もう5分も経ちますよ………」

 

 

ビート、奇跡を起こせるか………?

 

 

結果…………。

 

 

1、2、3(ひふみ)

 

 

「どおおおおおおしてだよおおおおおおおおお!!!!」

 

 

ビート、迫真の咆哮!2倍払い!!

 

 

「悔しい………」

 

 

悔しい!

 

 

「悔しい………」

 

 

悔しい!!

 

 

「悔しい!」

 

 

悔しい!!!だが、これでいい!!

 

 

「大人の世界に子供が挑むようなモンじゃねえぜそれは………」

 

 

「!?誰だ!?」

 

 

振り返るとそこには何と表現すれば良いのだろうか。

全身が角ばってあろうことか顔も角ばっていた。所謂全身ポリゴン体と言った方がわかるか………。

ダンディーな格好をした男が葉巻を吸いながら足を組んで座っていた。

 

 

「ん?どうしたんだビート?っておお!?かくかくだコイツ!!」

 

 

両替に行っていたナツと合流するとその男を目撃して同じく衝撃を受ける。

 

 

 

「ボーイ、一つ良い事を教えてやるぜ。男には二つの道しかねえのサ。ダンディに生きるか…………」

 

 

椅子をくるくる回すと跳躍してなんとナツに飛び乗る。

 

 

「止まって死ぬかだ」

 

 

懐から出したのはリボルバー式の拳銃。

それに気付いた客は一斉に逃げ出した。

 

 

「ナツ!!」

 

 

「聞きたいことがある…………」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「聞いたよ。ファントムは解散したんだって?」

 

 

「はい。ジュビアはフリーの魔導士になったのです」

 

 

「うわあ………それで妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入りてえっての?」

 

 

「ジュビア入りたい!」

 

 

「しっかしあんな事の後だからなあ………。オレは構わねーがマスターが何て言うか………」

 

 

今グレイがカウンターのバーで話しているドレスを着た青髪ロールの女性はジュビア。

かつてグレイと戦いを繰り広げたエレメント4の一人。あの後ファントムは解体。これを機に彼女は戦いで好意を抱き、グレイと一緒に居たい為勇気を出して直接彼に申し出たのだ。

そんな彼女の対応に困惑していると横から大男が現れ彼女を平手打ちをして吹っ飛ばした。

 

 

「何だてめえ!!」

 

 

見上げると頭にターバンを巻いて顎に鉄の金具を備え、眼帯をした大男がグレイに尋ねた。

そしてあのポリゴンの男も同じ事を尋ねた。

 

 

「「エルザは何処にいる?」」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「すごーい!エルザ!」

 

 

「ふふ、今日はついているな」

 

 

一方エルザはルーシィと共にブラックジャックを行なっていた。

ロイヤルストレートフラッシュで圧勝。一気に手持ちは倍に。するとディーラーの横から別の男が割り込んで半ば強引にディーラーを変えられた。

 

 

「今なら誰が相手でも負ける気がせんぞ」

 

 

「なら特別なゲームでもしてみるかい?」

 

 

交代したディーラーがカードを配り始める。だがそれは表向きで配ってきた。

そしてそのカードにはアルファベットが並んでいた。

 

 

『DEATH』と

 

 

「命、賭けて遊ぼ?」

 

 

エルザはゆっくり見上げる。

 

 

「エルザ姉さん」

 

 

「…………ショウ?」

 

 

そこには褐色肌に下唇の右に刺青のようなものが刻まれた白髪の男が不気味に笑いかけていた。

 



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其の29 楽園の塔

リゾート地に遊びに来たナツ達一行。

その地下カジノにて、一行は思いもよらない出来事に立ち会おうとしていた。

 

 

「エルザは何処にいる?」

 

 

「あ!?何だお前!?」

 

 

ターバンの大男がグレイの前に立ちはだかる。すると同じくグレイを守るように水化したジュビアが現れた。

 

 

「グレイ様には指一本ふれさせない。ジュビアが相手をします」

 

 

「ジュビア………」

 

 

「グレイ様はエルザさんの下へ、危険が迫ってます!」

 

 

大男が左の人差し指と中指を揃えて頭に添えて誰かと話し始めた。

 

 

「もう見つかっただと?ほう………そうか。じゃ、片付けていいんだな?」

 

 

すると周りの視界がどんどん暗くなって、遂には何も無い闇に変わってしまった。

 

 

「闇系譜の魔法『闇刹那』」

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

「きゃあ!!」

 

 

暗闇で二人の悲鳴が響いた。

 

 

が、がんが!?こんごわ!?(な、なんだ  今度は  )

 

 

「ナツー!!何処ーーー!?」

 

 

「おいナツーーー!!」

 

 

「グッナイボーイ」

 

 

拳銃を口に突っ込まれたナツから発砲音が響き渡った。それを直感的に感じたビートは殴り掛かる。

 

 

「テメェ!!」

 

 

「おっと、見えてるぞ」

 

 

「ガッ!?」

 

 

「ビート!?」

 

 

再び発砲音が響いて誰かが倒れる音がハッピーの耳に入った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

それはエルザ達の場所でも例外ではない。

彼女達の視界も暗闇に呑まれていたが、視界に光が戻ってくるのを感じ、しばらく経つと後に戻った。

だがショウと呼ばれる男は何処にも見当たらなかった。エルザは懸命に辺りを見渡す。

 

 

「こっちだよ姉さん」

 

 

振り返ると彼は両手を広げてカードをばら撒いていた。しかしルーシィはカードをよく見てみると中には他の客やディーラー達が入っていた。

 

 

「不思議?オレも魔法が使えるようになったんだよ」

 

 

「魔法だと!?お前………一体?」

 

 

「みゃあ」

 

 

何処からか声が聞こえるとルーシィの背後から突如紐状のものが巻きついてきた。

巻きつけた犯人はテーブルの上に座っている少女だった。頰に三角形のような模様に猫耳を生やしてまさに猫と言った少女『ミリアーナ』だった。

 

 

「お前も………魔法を?」

 

 

「久しぶり〜エルちゃん」

 

 

「何をしてる!?ルーシィは私の仲間だ!!」

 

 

「仲間?」

 

 

「僕達だって仲間だったでしょ?姉さん」

 

 

(仲間()()()?)

 

 

「う………ああ………」

 

 

「姉さんがオレ達を裏切るまではね」

 

 

「っ………!」

 

 

ショウの言葉を聞いた瞬間彼女は震えを止めるかのように自身を抱いた。

すると空間に小さな立方体がいくつも現れ、人の形を作っていく。

 

 

「よう、エルザ。すっかり色っぽくなったな」

 

 

「その声ウォーリーか!?」

 

 

「無理もねえ。狂犬ウォーリーと呼ばれたあの頃に比べてオレも『まる』くなったしな」

 

 

「驚く事はない」

 

 

今度は地面に円形が描かれるとターバンの大男が現れる。

 

 

「コツさえ掴めば誰にでも魔法が使える。なあエルザ?」

 

 

「シモン………?」

 

 

「エルザ………コイツら何なの!?姉さんってどう言うこと!?」

 

 

「………本当の弟じゃない………かつての仲間達だ………」

 

 

「仲間って………エルザは幼い頃から妖精の尻尾(フェアリーテイル )にいたんでしょ!?」

 

 

「それ以前………という事だ。お前達が何故ここに?」

 

 

「それはアンタをつれ戻しにサ………」

 

 

「みゃあ」

 

 

「さあ………帰ろう姉さん………」

 

 

「言う事聞いてくれないと………こうするゼ?」

 

 

「ひっ!?」

 

 

ウォーリーが縄に縛られたルーシィに向かって銃口を向ける。

 

 

「よ、よせ!頼む、やめてくれ!!」

 

 

エルザが叫んだ途端、別の方向からウォーリーの手が現れて腹部に向かって撃った。

 

 

「エルザ!!」

 

 

「安心しナ。催眠弾だゼ」

 

 

倒れる彼女をシモンが支える。

なんとかしようとルーシィは縄を解こうと悶える。だがミリアーナが指を指すと縄の締まりが更にキツくなる。

 

 

「あと5分で死んじゃうよ〜君ィ〜」

 

 

「あ、そういやミリアーナ。君にプレゼントがある。ホレ」

 

 

「わぁ!ネコネコ〜!貰っていいの!?」

 

 

いつの間にか同じ催眠弾で眠らされたハッピーをミリアーナは頬ずりする。

 

 

「姉さん。帰ってきてくれるんだね…………」

 

 

『楽園の塔』へ………きっと『ジェラール』も喜ぶよ………。

 

 

 

(楽園の塔?完成していたのか…………?)

 

 

 

次第に彼女の意識が薄れて行く中、とある塔が浮かび上がった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

エルザが連れて行かれた後、ルーシィは必死に縄を解こうと悶えていた。

しかし解くどころかだんだん縄の締まりがキツくなっていくだけで拉致があかない。

このままだと絞め殺されてしまう…………。

 

 

「そうだ!星霊の鍵!ひ、開け巨蟹宮の扉!!」

 

 

だが、いつまで経ってもキャンサーは出てこなかった。他の者も呼んでみたが返答なし。

すると全身に締まりが強烈にキツくなってきた。

 

 

 

「だ、誰か………。」

 

 

瞬間、向こうのエリアのテーブルが吹き飛んだ。

そして何かが宙返りしながらこちらに向かって来た。

 

 

「あ、ああ………ビート!!」

 

 

「オッス、俺ビート」

 

 

「知ってるわよ!!いや、違うの!そんなことよりもコレを解いて欲しいの!」

 

 

「別にいいけど、どうしてそうなったの?新しい遊び?」

 

 

「いいから急いで!!」

 

 

「わ、わかったよ…………」

 

 

彼はルーシィに寄って縄を解こうと力を入れる。

 

 

「い、痛い!痛い!痛い!」

 

 

「え、俺引っ張っただけだけど………。」

 

 

「そ、そうか!これ無理に引っ張ったら逆に締め付けられるんだわ!!」

 

 

「ん〜どうしよ………あ!」

 

 

「な、何ビート?何かいいことでも思いついた………ひゃあ!?」

 

 

突如ビートは彼女の両足を持ち上げた。

 

 

「な、何するの!?」

 

 

「うえへへへへへへへ(⌒∀⌒)。大丈夫だって安心しろよ」

 

 

「全然安心出来ないような笑いだったんですがそれは!?」

 

 

「引っ張っるのが駄目ならやることは一つ………こうじゃ!」ガブッ

 

 

「え、ええ!?」

 

 

 

「ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ!!!」

 

 

彼は縄をリスのようにかじり出した。

すると徐々に縄が削れていき遂には千切れ、他の縄も千切れた。

 

 

「やった!助かった!!」

 

 

「…………」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「………ルーシィって思ってたより足臭い「サイテー!!」door!?」

 

 

涙目になりながらルーシィはビートの顔面に拳を減り込ませた。ビートに制裁を喰らわせた後、二人はナツとグレイを探し出した。

 

 

「あ!グレイだ!!」

 

 

「え!?」

 

 

ビートが見つけ出したのは胸に鉄パイプが刺さって倒れているグレイだった。

彼女は慌てて寄るが体温がとても冷たく手遅れかと思ったが、体に亀裂が走って遂には砕けた。

 

 

「ル、ルーシィ………なんてことを……。」

 

 

「私じゃないわよ!!」

 

 

「安心して下さい……」

 

 

「「!?」」

 

 

振り返ると水溜りから女性が現れ、更にその女性の中からグレイが出てきた。

 

 

「グレイ様はジュビアの中にいました………」

 

 

「ジュビア?………あー、バサークが言ってた人?」

 

 

「はい。バサークくんがお世話になりました」

 

 

「バサーク()()?」

 

 

「突然の暗闇だったから身代わり造って様子を見ようと思ったが………」

 

 

「敵にバレないようにジュビアが水流拘束(ウォーターロック)でグレイ様をお守りしたのです!」

 

 

「余計なことしやがって………流しちまったじゃねーか!」

 

 

「ガーン!」

 

 

「それよりもナツやエルザは?」

 

 

「ナツはまだ見つかってないけど………」

 

 

「エルザは………」

 

 

すると向こうから巨大な炎が噴き上げられた。

無論その中心にいたのはナツだ。

 

 

「いってええええええええええ!?」

 

 

「ナツ!!」

 

 

「普通人の口の中に鉛玉なんかぶち込むかよ!!ア!?痛えだろ!!下手すりゃ大怪我だぞ!!」

 

 

「普通の人間なら完全にアウトなんだけどね………」

 

 

「おいそれ言ったら俺も酷いぞ」

 

 

「へ?わあああああああああああああああああ!?」

 

 

ビートが前髪を上げると彼の額の中心に弾丸の型がくっきり刻まれていた。

 

 

「こういうのを不幸中の幸いといったところか。奴の弾丸は俺の皮膚と頭蓋骨を削っただけで済んだな。」

 

 

「済んだなじゃないでしょ!?明らかに重傷じゃない!!」

 

 

「まあ直そうと思えば治るけど………」

 

 

鼻を摘んでフンッと息を吹くと凹んだ箇所がポコッと膨らんで元通りになった。

 

 

「ふう………これでよし」

 

 

( ( ( (もはや人間じゃねぇ………) ) ) )

 

 

「畜生!待ってろ四角野郎!!」

 

 

「あ、ちょっとナツ!!」

 

 

ナツは火を吹きながら怒号を上げてカジノから出て行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とある島にそびえ立つ塔。

その王座に黒いフード付きのローブを纏った男が足を組んで座っていた。

 

 

「エルザの捕獲に成功したとの知らせが。こちらに向かってくるようです………」

 

 

「そうか………」

 

 

「しかし何故今更あの裏切り者を?貴方程の魔力があれば始末するのは容易かった筈だ」

 

 

「ふふ、それじゃあ駄目なんだ」

 

 

「?」

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

「………はぁ」

 

 

「しかし『楽園の塔』が完成した今、これ以上生かしておくと面倒な事になりかねん。時は来たのだ」

 

 

“オレの理想(ゆめ)の為に生贄となれ。エルザ・スカーレット”

 

 

王座で笑う男『ジェラール』は何処か楽しむようにこの場にいない彼女に向かって告げた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「………ん。ここは?」

 

 

目が覚めるとエルザは木の柱に腕を縛られていた。すると階段からショウがゆっくり降りてくる。

 

 

「船の中だよ姉さん」

 

 

「船………?」

 

 

「そう、楽園の塔へと向かう船サ」

 

 

「………そうか、そうだったな………。すまないがコレを解いてくれないか?抵抗する気は無い」

 

 

「そうはいかないよ。姉さんは裏切り者だからね」

 

 

エルザはなんとか自力で解こうとするが解ける気配すら無い程ガッチリ固められていた。

 

 

「無駄だよ。ミリアーナの(チューブ)は魔法を封じる力がある。自分の力じゃどうにもならないよ。いくら姉さんでもね」

 

 

「………わかった。じゃあせめて鎧に換装させてくれないか?…………怖いんだ………あの塔へ戻るのが………」

 

 

「…………」

 

 

「鎧を纏っていないと………不安で………」

 

 

「………その綺麗な服も似合ってるよ姉さん」

 

 

震えるエルザにショウは優しく身を包んだ。

 

 

「ショウ………」

 

 

「本当はこんな事したくなかったんだよ………」

 

 

「…………」

 

 

「会いたかったんだ………本当に…………」

 

 

次第に彼の瞳に涙が溜まって流れ落ちる。

 

 

「姉さん…………なんで………オレ達を…………」

 

 

 

“ジェラールを裏切ったぁ!!?”

 

 

しかしその涙は怒りに変わって彼女を怒鳴った。

 

 

それは遠く昔の事………

 

 

『大丈夫、怖くないよ』

 

 

それはかつての友の事………

 

 

 

『オレ達は『自由』を手に入れるんだ。未来と理想(ゆめ)を………』

 

 

少女に優しく語りかけたあの日の事………

 

 

『行こう、エルザ』

 

 

想い人が変わってしまったあの日の事………

 

 

 

 

 

 

 

 



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其の30 偽りの楽園

かつてのエルザの仲間のショウ達はエルザを楽園の塔へと連れて行かれる。

復帰した一行は後を追うように楽園の塔へ向かった。

 

 

「で、どこだよここ!?」

 

 

「ジュビア達迷ってしまったんでしょうか?」

 

 

ナツの鼻を頼りに小船で海に出た一行だが、辺りを見渡しても何もなく本当に迷ったように不安になる。当の本人は例の如く酔ってダウンしてる。

 

 

「くそっ!オレ達がのされてる間にエルザとハッピーが連れてかれたなんてよ!全く情けねえ話だ!!」

 

 

「本当ですね………エルザさん程の魔導士がやられてしまうなんて………」

 

 

「やられてねぇよ。エルザの事知りもしねぇくせに………」

 

 

「ご、ごめんなさい………」

 

 

「グレイ!落ち着いて!!」

 

 

ジュビアの発言に対してキツく対応するグレイにルーシィが宥める。

するとずっと表情が沈んでいたビートがボソリとこぼした。

 

 

「俺、ずっと昔からエルザと一緒にいたつもりだった………でも、エルザ事何一つわかってなかった…………」

 

 

本当の姉のように慕っていた彼にとって、エルザという存在は大きかった。

一番多く接したのは彼女だった。彼女もビートを弟のように可愛がり、組手の相手だってしてくれた。だけども彼女の過去なんて知りもしなかった。そんな自分が恨めしく思えて来た。

すると突然背筋がゾワリとした。そしてある方向へ勢いよく振り向く。

その先には一つの塔が建っていた。

 

 

「ビート?」

 

 

「あれだ………あの塔から不気味な気を感じる………」

 

 

「あれが楽園の塔………」

 

 

一行はそれを確認すると小船を漕ぎ始めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

塔の中の地の底の底。エルザはショウとシモンに連行されて牢屋に入れられた。

 

 

「『儀式』は明日の正午。それまでそこにいろ」

 

 

(儀式?Rシステムを作動させるのか!?)

 

 

「しょうがないよね?裏切った姉さんが悪いんだ。今もジェラールはお怒りさ。そして儀式の生贄は姉さんに決まったんだよ」

 

 

「…………」

 

 

「もう姉さんには会えなくなるね。でも全ては楽園の為………」

 

 

吊るされた彼女腕が小刻みに震える。

 

 

「もしかして震えてる?生贄になるのが怖い?それともここが()()()()だから?」

 

 

シモンだけは出て行って現在二人がいる場所はかつて自分達が閉じ込まれていた牢屋だった。

ある日彼女達は脱走を企てたが、失敗して懲罰房へと連れて行かれた。その時連れて行かれたのはエルザだ。

 

 

「あの時はごめんよ………立案者はオレだった………でも怖くて言い出せなかった…………本当、ズルいよね………」

 

 

「………そんな事はもういい。それよりお前達は『Rシステム』で人を蘇らす事の危険性を理解しているのか?」

 

 

「へぇ、Rシステムが何なのか知ってたのか。こりゃまた意外だね」

 

 

「『R(リバイブ)システム』。一人の生贄の代わりに一人の死者を蘇らす………人道を外れた禁忌の魔法………」

 

 

「元々魔法に人道なんて無いよ。全ての魔法はヒューマニズムを衰退させる」

 

 

「黒魔術的な思想だな。まるで()()と同じだ」

 

 

「奴等はRシステムを生き返りの魔法としか認識してなかったんだよ。だけどジェラールは違う………その先の楽園へとオレ達を導いてくれる」

 

 

「楽園?」

 

 

「ジェラールが()()()を復活させる時、世界は生まれ変わるんだよ。」

 

 

オレ達は支配者となる。

 

 

「自由を奪った奴等の残党に……オレ達を裏切った姉さんの仲間達に……何も知らずにのうのうと生きている愚民共に……評議院の能無し共に……全てのものに恐怖と悲しみを与えてやろう!!そして全てのものの自由を奪ってやる!!オレ達が世界の支配者となるのだァァァああアァあァーーー!!!」

 

 

狂ったように笑う彼を見限り、その拍子に顎に向かって膝蹴りを繰り出した。

隙だらけで喰らったショウはなす術なく失神する。縛っていた縄を自力でかじって解いた。

 

 

「なにをすれば人はここまで変われる?ジェラール…………貴様の所為か………」

 

 

いつもの鎧を纏って普段の姿になった彼女は牢の檻を蹴破って牢から出た。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「四角ーーーーーー!!何処だーーーーーー!!」

 

 

「エルザーーーーーー!!いるなら返事してくれーーーーーー!!」

 

 

「ちょっと二人とも声がデカい!!」

 

 

 

「「ほがっ!?」」

 

 

楽園の塔に着いたナツ達はジュビアが作った酸素を閉じ込めた水の球を用いて海を潜って地下から潜入した。

そこに警備兵がいたが全員で一人残らず倒した。その時に上に続く扉が開いて現在そこにいるのだが………。

 

 

「この扉誰かがここから開けたものじゃありませんよ。魔法で遠隔操作されています。」

 

 

「つまり俺達の行動は筒抜けってところか………」

 

 

「ところでお前のその格好はなんだ?」

 

 

グレイは先程のラフな格好とは違ってシャランとした綺麗な服を身に纏っていた。

 

 

「星霊界の服よ。濡れたままの服着てんのも気持ち悪いからさっきキャンサーに頼んだの。水になれるジュビアはともかく、アンタ等よく濡れたままでいられるわね………」

 

 

「こうすりゃすぐ乾く」

 

 

「あら!?こんな近くに乾燥機が!?」

 

 

ナツ自身が燃え上がってグレイのスボンやビートの道着がすぐに乾いた。因みにグレイはカジノを出る前に既に上半身裸になっている。

すると奥からさらに兵士が向かってきた。

 

 

「また奴等か!」

 

 

「下がってろ!あんな奴等俺のグミ撃ちで………」

 

 

両手に気功弾を作り出そうとすると兵士の奥から誰かが兵士を斬り裂いて行った。

次々と斬り裂き、遂には兵士全員を倒した。その者は両手に双剣を持ったエルザだった。

 

 

「エルザ!」

 

 

 

「よかった!無事だったんだね!」

 

 

「か、かっこいい………」

 

 

「!?お前達………何故ここに!?」

 

 

「決まってんだろ!お前とハッピーを取り返しに来たんだ!!」

 

 

「そうだ!なめられたまま引っ込んでたら妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだろ!あの四角だけは許さねぇ!!」

 

 

すると奥にいたジュビアに気付くと彼女はビクッと震える。元々彼女はファントムの魔導士だ。直接では無いにしろギルドを潰した集団の一人だ。

 

 

 

「あ、あの………ジュビアはその「帰れ」」

 

 

『!?』

 

 

「ここはお前達の来る場所ではない」

 

 

「なんでだよエルザ!それにまだハッピーが捕まってるって………」

 

 

「ハッピーが?まさかミリアーナが………」

 

 

「ソイツは何処にいる!?」

 

 

「さ、さあな…………」

 

 

「よし!わかった!!」

 

 

「何が!?」

 

 

「今ので何がわかったんだ!?」

 

 

ナツの発言に流石のビートも驚愕するも、彼はズカズカと歩み始める。

 

 

「ハッピーが待ってるって事だ!!」

 

 

「あ、おいナツ!」

 

 

「私達も後に「駄目だ。帰れ」っ!?」

 

 

彼を追おうとするもエルザが剣で行手を阻んだ。

 

 

「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーに危害を加えるとは思えん。ナツとハッピーは私が責任を持って連れ帰る。お前達はすぐにここを離れろ」

 

 

「そんなの出来る訳ない!エルザも一緒じゃなきゃ嫌だよ!」

 

 

「これは私の問題だ。お前達を巻き込みたくない………」

 

 

「もう十分巻き込まれてんだよ。あのナツを見ただろ」

 

 

「…………」

 

 

「エルザ………この塔は何?ジェラールは誰なの?」

 

 

ルーシィの問いに対して彼女は沈黙を押し通す。そんな彼女にビートが静かに告げる。

 

 

「エルザ………言いたくない気持ちもわかる。でも、俺達はエルザの仲間だ。どんな時だってエルザの味方だよ」

 

 

「………帰れ」

 

 

先程よりも震えた声で尚も拒絶する彼女に痺れを切らしたグレイが後から言った。

 

 

「らしくねぇなエルザさんよぉ。いつもみたいに四の五の言わずについて来いって言えばいーじゃんヨ。オレ達は力を貸す。お前にだって偶には怖えと思う時があってもいいじゃねーか」

 

 

グレイの言葉にようやくエルザはこちらを振り返るが、その顔には涙を流していた。

 

 

「エルザ………」

 

 

「………すまんなビート。お前の前でこんな姿を見せぬとは決めていたのに………」

 

 

涙を拭って話始める。

 

 

 

「この戦い……勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消す事になる………」

 

 

「え!?」

 

 

「どういう事だ!?」

 

 

「これは抗う事の出来ない未来。だから………だから私が存在している内に全てを話しておこう………」

 

 

この塔の名は楽園の塔。別名『Rシステム』。10年以上前に黒魔術を信仰する魔法教団が『死者を蘇らす魔法』の塔を建設しようとしていた。

政府も魔法評議会も非公認の建設だった為、各地から攫ってきた人々を奴隷にして塔の建設にあたらせた。

 

 

「幼かった私もここで働かされていた一人だった………」

 

 

「え!?」

 

 

「エルザが………奴隷………?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

脱走がバレたエルザは懲罰房へ連行されたのをジェラールが救出しようとした時だった。

助けに来た時は既に看守にボロボロにされていたが、息があった彼女に告げたのだ。

 

 

戦うしかない。

 

 

そう言った直後に他の看守に見つかって彼はエルザの身代わりとなって罰を受けることになった。

牢屋に帰ってきたエルザだが、その時にショウが泣き出してまた看守がやって来て制裁を与えようとした。

彼女の脳裏にジェラールの言葉が浮かび上がり、看守の持っていた槍を奪い取って薙ぎ倒した。

 

 

従っても逃げても自由は手に入らない。

 

 

そしてエルザ達は自由の為、ジェラールを救う為に反乱を起こした。

その頃のジェラールはみんなのリーダーで正義感が強く、彼女の憧れでもあった。

 

 

だが、ある時を境に彼は変わってしまった。

もし人を悪と呼べるなら………エルザは彼をそう呼ぶだろう………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お前が神を崇めるその日までここから出さないからな!!」

 

 

罰を与えた看守が暴徒鎮圧の為に懲罰房を後にした。

そこに残っていたのはボロボロにされて宙吊りにされたジェラールだった。

 

 

「神………か………そんかものはいない。子供一人助けられない神などいてもいられない………憎い………」

 

 

憎め。

 

 

「全てが憎い………奴等も神もこの世界も全てが………」

 

 

人の憎しみが余を強くする………。

 

 

「!?」

 

 

『声』に気付いたジェラールは辺りを見渡すもその主は何処にもいない。

 

 

愉快な奴等よのう………余はここにいるというのに………。

 

 

「だ、誰だ!?」

 

 

わざわざ復活………『肉体』をくれるといのか………

 

 

「何処にいる!?出て来い!!」

 

 

いくら信じても無駄な事………強い憎しみがなくては余の存在は感じられぬ………うぬは運が良いぞ小僧………奴等の崇める神に会えたのだ………。

 

 

『我が名はゼレフ。憎しみこそが我が存在………』

 

 

その時、彼の中の何かが反転した………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

反乱の中、魔力が目覚めたエルザは看守達を蹴散らして懲罰房まで辿り着いた。

そこに宙吊りにされたジェラールを見つけ出し、剣を用いて縄から解放した。

 

 

「もう大丈夫だよ!全部終わったの!ジェラールが言ったように私達は戦った!シモンは重傷だし、ラブおじいちゃんは私を庇って…………。他にも犠牲になった人は沢山いる!」

 

 

「…………」

 

 

「でも勝ち取った!私達は自由になれる!行こう!ウォーリー達が奴等の定期船を奪ったの!この島から出られるんだよ!!」

 

 

ジェラールは静かに立ち上がると彼女を抱きしめた。

 

 

「もう逃げる事は無いんだ………」

 

 

「え?」

 

 

「本当の自由はここにある。」

 

 

一思いに抱きしめた後、彼女を離して奥に歩み始めた。

 

 

「ジェラール?何言っているの?一緒に島から逃げようよ………」

 

 

エルザ……この世界に自由などない。

 

 

その声は彼から発せられたものにも聞こえ、別の誰かが言ったようにも聞こえた。

 

 

「オレは気付いてしまったんだ………オレ達に必要なのはかりそめの自由なんかではない」

 

 

“本当の自由………ゼレフの世界だ”

 

 

振り返った彼の顔は自身の知っていたかつてのジェラールは残っていなかった。

そして歩み寄った先にはエルザが倒したが、まだ息のあった看守達が倒れ伏していた。

そんな彼等を彼は一人の頭を踏み潰した。看守の鮮血が足に飛び散るがそんなものに目をくれず今度は別の看守に腕を払うと体が破裂した。

エルザと同じく魔力が目覚めたが、彼のは根本的に何かが違った。

次々と看守達を殺して狂笑する彼をエルザは止める。

 

 

「ジェラール………しっかりしてよ………きっと何日も拷問を受けた所為で………」

 

 

「………オレは正常だよ?エルザ………一緒にRシステム………いや、楽園の塔を完成させよう………そしてゼレフを蘇らすんだ」

 

 

「馬鹿な事言ってないで!私達はこの島から出るのよ!!」

 

 

瞬間、彼はエルザに向かって魔力弾を放った。吹き飛ばされた先は土砂の山だったのでなんとか軽傷で済ませた。

 

 

「そんなに出て行きたければ一人でこの島を離れるといい………」

 

 

「一人………?」

 

 

「他の奴等は全員オレが貰う………楽園の塔の建設には人手が必要だからな。心配するな奴等とは違って服を与えたり食事を与えたり休みを与えたりなど不自由のないようにする。恐怖と力での支配は作業効率が悪すぎるからな」

 

 

「ジェラール………お願い……目を覚まして………」

 

 

彼が指を動かすと影から腕が伸びて彼女の首を絞め始める。

 

 

「お前はもういらない。だけど殺しはしないよ………邪魔な奴等を排除してくれた事には感謝してるんだ………。島から出してやろう。かりそめの自由を堪能してくるがいい」

 

 

「ジェ……ラール………」

 

 

「わかってると思うがこの事は誰にも言うな。楽園の塔の存在が政府に知れると折角の計画が水の泡だ。もしバレてしまったらオレは証拠隠滅の為にこの塔及びここにいる全員を消さねばならん………お前がここに近づくのも禁ずる。目撃情報があった時点で一人殺す。………そうだなまずショウ辺りから殺そうか………」

 

 

「ジェラール………」

 

 

「それがお前の自由だ!仲間の命を背負って生きろエルザァァァァ!!はははははははは!!」

 

 

最後に写ったのはジェラールではない誰かが狂ったように笑う姿だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「そんなことが…………」

 

 

「私は………ジェラールと戦うんだ………」

 

 

ビートの目の前には自身の知ってるエルザではなく、一人の少女が涙を流す姿にしか見えなかった。

 

 



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其の31 希望の星

エルザの過去に触れたビート達は黙っていた。

いつもは風紀委員と言った感じでみんなを引っ張っているイメージだが、壮絶な過去を持っているなんて知りもしなかった。

 

 

「畜生!ジェラール奴め………ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

「落ち着けビート!……いいんだ。私がジェラールを倒せば全てが終わる…………」

 

 

だがその中でグレイは疑問に思うことがあった。

『この戦い………勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消す事になる』

先程の会話にあった言葉が妙に引っかかった。

 

 

「姉さん……その話ど、どういう事だよ………?」

 

 

「ショウ………」

 

 

気絶から目覚め、後を追って来たショウが驚愕の眼差しで彼女に歩み寄った。

 

 

「そんな与太話で仲間の同情をひくつもりか!?ふざけるな!!真実は全然違う!

8年前姉さんは脱出船に爆弾を仕掛け、一人で逃げた!ジェラールが姉さんの裏切りに気づかなかったら全員が死んでいた!!

ジェラールは言った!これが『魔法』を正しい形で習得出来なかった者の末路だと!!姉さんは魔法の力に酔ってしまってオレ達のような過去を全て捨て去ろうとしたんだ!!」

 

 

「ちょっと待て……ジェラールが()()()?」

 

 

「…………あ」

 

 

「お前の知ってるエルザはそんな事をするのか?」

 

 

「〜〜〜っ!お、お前達に何がわかる!?オレ達の事を何も知らない癖に!オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだ!だから8年も掛けてこの塔を完成させた!!ジェラールの為に!!

それなのにその全てが嘘だって………?正しいのは姉さんで、間違ってるのはジェラールだと言うのか!?」

 

 

「…………」

 

 

「そうだ」

 

 

ショウの背後からターバンの男のシモンがやって来た。グレイはすぐに身構えるが、ジュビアが止まる。

彼はカジノの時身代わりの氷を知ってて攻撃したのだ。暗闇の術者が辺りを見えてない訳がないのだ。

 

 

「ジュビアがここに来たのはその真意を確かめる為でもあったんです」

 

 

「流石は噂に名高いファントムのエレメント4だな………。実際にオレは誰も殺す気はなかった。ショウ達の目を欺く為に気絶させるつもりだったが、氷ならもっと派手に死体を演出出来ると思ったんだ」

 

 

「オ、オレ達の目を欺くだと!?」

 

 

「お前も、ウォーリーも、ミリアーナもみんなジェラールに騙されているんだ。機が熟すまでオレも騙されてるフリをしていた………」

 

 

「シモン………お前………」

 

 

「オレは初めからエルザを信じてる。8年間ずっとな」

 

 

彼の言葉に再び涙するエルザ。そんな彼女を優しく抱きしめた。

 

 

「会えて嬉しいよエルザ、心から」

 

 

「シモン………」

 

 

周りが暖かい空気に包まれる中、ショウは未だに信じられないでいた。

 

 

「なんでみんなそこまで姉さんを信じられる………何で………何でオレは姉さんを信じられなかったんだ………くそぉおおおおお!!何が真実なんだ!?オレは一体何を信じればいいんだ!!」

 

 

遂には彼は膝をついて泣き叫んだ。

ジェラールを信じるかエルザを信じるかでここまで大きく真実が違っているのだ。こうなってしまうのも無理もない。

 

 

「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だが、これだけは言わせてくれ。私は8年間お前達の事を忘れた事は一度もない」

 

 

エルザ歩み寄って泣く彼を抱きしめてあやす。

 

 

「何も出来なかった………私はとても弱くて………すまなかった」

 

 

「だが、今なら出来る。そうだろ?」

 

 

「………」コクッ

 

 

「ずっとこの時を待っていたんだ………強大な魔導士がここに集うこの時を………」

 

 

「強大な魔導士?」

 

 

「俺一応武道家なんすけど………」

 

 

「ジェラールと戦うんだ。オレ達の力を合わせて………。まずは火竜(サラマンダー)とウォーリー達が激突するのを防がねば………。ジェラールと戦うにはあの男の力が絶対に必要なのだ。『火竜(サラマンダー)のナツ』。そして………」

 

 

シモンがある者を見ると皆もそれに釣られて注目する。その者とは………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方一人突っ走ったナツはとある部屋に潜り込んでいた。そこは猫のぬいぐるみが沢山ある猫だらけの部屋だった。

そこでナツは猫の被り物を被って遊んでいた。その被り物が外れないと知ったが開き直っていた。

 

 

「うひひ、ハッピー驚くだろうなコレ。ついでにエルザも脅かしてやっかな………いや待てよルーシィの方がリアクション面白そうだな………」

 

 

などと悪戯を考えているナツ。背後にウォーリーが拳銃を構えてるとも知らずに…………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場面は移って再びエルザ達へ。

一同はナツの方へ向かっていた。

 

 

「くそっ!ウォーリーもミリアも通信を遮断してやがる!これじゃ何処にいるのかわからねえ!」

 

 

「思念伝達魔法ですね」

 

 

カジノの時に指を頭に添えていた魔法の事だ。

エルザは一番後ろについて来てるショウを一瞥した。

 

 

「大丈夫かショウ?」

 

 

「………うん。姉さんがいてくれるから………」

 

 

「………」

 

 

信じてくれた彼に微笑むエルザ。そんな中、グレイはまだシモンを半信半疑でいた。

 

 

「なぁ、あいつ本当に信用していいのか?確かにオレ達を殺そうとしなかったのは認めるが、あの時ナツとビート、ルーシィは死んでもおかしくねえ状況だった………」

 

 

「言い訳をするつもりはない」

 

 

「聞いてやがったか………」

 

 

「あの程度で死んでしまうような魔導士ならば到底ジェラールとは戦えない。それにオレには確信があった。ナツとビートは死なない」

 

 

「あの………私は?」

 

 

「お前達はナツの本当の力に気付いてないんだ」

 

 

ナツに真のドラゴンの力が宿る時、邪悪は滅びゆく。

 

 

「そしてビート。お前もだ………ってあれ?」

 

 

シモンが後ろにいたビートを向くが何処にも居なかった。

 

 

「おいビートは!?」

 

 

「ビートさんなら『わっはー!見つけたぞ!!』と言いながら丸太を投げて飛んで行きました」

 

 

「「「「「ダニィっ!?」」」」」

 

 

「ていうかまだ使ってんの簡単飛行方法(アレ)!?」

 

 

そこで一同の声が初めてハモった。簡単飛行方法が知りたい方は其の27の終盤をチェック。

 

 

「さらっと宣伝すな!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「へっくし!うわっ口のまわりが拭けねぇ!気持ち悪ィ!!くそ!やっぱ取った方がいいかコレ?ていうか取れねえ………」

 

 

「終わりだボーイ。死n「ダメーーー!!」ミ、ミリアーナ!?」

 

 

突然ミリアーナがウォーリーに飛びついて来たので弾丸はナツの真横を通り過ぎた。

それで背後にいたウォーリー達にナツは初めて気付いた。

 

 

「あ!四角テメェ!!」

 

 

「見ろ!折角のチャンスが………」

 

 

「ネコネコはいじめちゃダメなのーー」

 

 

「よく見ろ!アイツはネコじゃないゼ!」

 

 

「…………にゃー」

 

 

「ホラー(⌒▽⌒)!」

 

 

「テメェコラ!!」

 

 

「あ!そうだ!あん時はよくもやってくれたな四角野郎!!」

 

 

「どけミリア!奴は敵だゼ!!」

 

 

「みゃあ!」

 

 

ウォーリーは彼女を押し退けて自身の体を分解し始める。

 

 

「喰らえポリゴンアタック!!」

 

 

ポリゴン体の彼特有の技で自身の体をナツにぶつけさせる。

なんとか躱し、時には猫のぬいぐるみを盾にして防いでいた。

 

 

「てき?ネコネコじゃなくて?」

 

 

「だからネコじゃねぇって言ってるだろ!中に人が入ってんだゼ!」

 

 

「みゃっ!?」

 

 

そこでようやく気付いたミリアーナが怒りを露わにナツにぶつける。

 

 

「みゃあ!人なのにネコネコのフリするなんて元気最悪ーーー!!」

 

 

「………そういうお前はどーなのよ?」

 

 

「ネ拘束チューブ!!」

 

 

腕から黒い縄を放つとナツの腕に巻きついて纏っていた炎が消えた。

 

 

「秒間32フレームアタック!!」

 

 

「ぐおおっ!?」

 

 

横から流れるポリゴン体にナツは吹っ飛ばされる。

 

 

「な、何だコレ!?急に魔法が………!?こいつの所為か!!」

 

 

巻き付いた縄を剥がそうとすると別の方向から縄が飛び出て足に巻き付き、遂には身体全体を縛られる。

 

 

「しまった!?」

 

 

「終わったな。パリレンダリングポリゴンショットでも喰らいやがれ」

 

 

「ウォーリー!早くやっつけて!!」

 

 

「おっとダンディな決めゼリフを忘れてたゼ。お前の運命はオレと出会った時に終わっぶべら!?」

 

 

「にゃああああああああ!?!?」

 

 

突如一本の丸太が彼を吹き飛ばした。丸太はそのまま壁に突き刺さる。

 

 

「お待たせ致しました猫の間〜。猫の間でございます〜」

 

 

丸太の上で寝転んで漫画を読んでいたビートが駅員のような声で言う。それによく見ると隣にはハッピーが居た。

 

 

「ビート!ハッピー!来てくれたんか!!」

 

 

「ナツーーー!ていうかその被り物何?」

 

 

「新しい遊び?」

 

 

「な訳あるか!取れねえんだよコレ!外すの……あ、いやまず縄を解いてくれ!」

 

 

「不味い!ミリア、あの黒髪のガキの相手をしてくれ!」

 

 

「みゃあ!」

 

 

「うお!?」

 

 

標的をビートに変えた彼女が拘束しようと縄を飛ばす。

ミリアーナの放つチューブは魔力を奪う性質を持っている。捕まったら気功弾は勿論、最悪の場合縛られて動きが封じてしまう。

躱しながらないか打開策が無いか思考するビート。その時エルザの発言が脳裏に浮かんだ。

 

 

『ミリアーナは無類の愛猫家だ』

 

 

「愛猫家………猫好き………そうか!」

 

 

くるりと彼女とは逆に向いて部屋の隅に逃げ出した。

 

 

「逃がさないにゃー!」

 

 

すぐに追い掛けてあっという間に追い詰められる。

それでもビートはミリアーナの方へと向かずに立ち止まる。

 

 

「ふっふっふっ。これぞまさしく袋のネズミだにゃー!」

 

 

「…………ううううう」

 

 

「にゃ?」

 

 

突然プルプルと震え出して喉を鳴らし始めるビート。小首を傾げるミリアーナだが、ゆっくりとこちらに振り向いた。

 

 

「がるるるるるるるるる………」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

するとどうだろうか。ビート白目に歯を剥き出し、四足歩行となった。口から若干ヨダレが出ている。

 

 

「も、もしかして………イヌイヌ?」

 

 

涙目になりながら恐る恐る尋ねるも大口を開けて飛び掛かって来た。

 

 

「ぅぉワぁン!!!」

 

 

「みゃあああああああああああああ!?!?!?」

 

 

泣きながら彼女は遠く離れたウォーリーに向かって抱き着いた。

 

 

「うお!?なんだよミリア!」

 

 

「ウォーリーウォーリー!!イヌイヌがー!イヌイヌがー(T△T)!」

 

 

「は?犬?」

 

 

「お(アタ)ああああああ!!!」

 

 

「ぶべ!?」

 

 

掌底打ちに近いお手を彼の顔面に放った。

そしてこの隙にハッピーによって縄から解放されたナツが両手に炎を纏って二人に駆け出す。

 

 

「火竜の翼撃!!」

 

 

「イエーース!?」

 

 

「みゃあああ!?」

 

 

彼の攻撃によって二人を同時に倒した。

 

 

 

「ふいーーー!四角へのリベンジ完了したぞー!」

 

 

「ソレ被って決めポーズしてもねぇ……」

 

 

「あ、そうだった!!早くコレを!」

 

 

「しょうがねえなぁ。どれどれ……」

 

 

「ふぎぎぎぎぎぎ!?」

 

 

ビートが被り物に手をつけると思い切り引っ張るも中々外れない。仕方なくドアの淵に捕まって外す事に。

 

 

「イクゾォ。ぬおおおおおおおおおお!!」

 

 

「あああああああああああ!?もげるもげる!!」

 

 

首が伸びかけるがなんとか抜け出すことが出来た。そして被り物はそのままウォーリーの頭に入った。

しかし自身の体がポリゴン体になっているのは魔法の為、頭の形を変えてすぐに外した。

 

 

「ま、まだ勝負はついてない………ぐっ」

 

 

立ち上がろうとするも、ダメージが深かったのか膝をついてしまうウォーリー。

 

 

「もう諦めろよ。エルザもハッピーも無事ってんならこれ以上戦う意味はねえ」

 

 

「うんうん」

 

 

「オ、オレ達は楽園へ行くんだ……ジェラールの言う真の自由。人々を支配出来る楽園へ………」

 

 

「………そのことなんだがもうアイツについて行かない方がいい」

 

 

「な、何!?それはどう言うことだ!?」

 

 

ビートが説明しようとした瞬間、壁や天井に口が生えてきた。そしてそこから男の声が発せられた。

 

 

『ようこそ皆さん。楽園の塔へ』

 

 

「ジェラール………?」

 

 

『知ってるだろうがオレはジェラール。この塔の支配者だ。互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか。』

 

 

楽園ゲームを。

 

 

「ゲームだぁ?」

 

 

『ルールはいたって簡単。オレはエルザを生贄とし、ゼレフ復活の儀を行いたい。即ち楽園の扉が開けばオレの勝ち。もし、それをお前達が阻止出来ればそちらの勝ち。

………ただ、それだけでは面白くないと思ってな。こちらは3人の戦士を配置する。そこを突破出来なければオレには辿り着けん。つまり3対8のバトルロワイアルさ。

………それと最後に一つ、評議院が衛星魔法陣(サテライトスクエア)でここを攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法『エーテリオン』だ」

 

 

「何だと!?煉獄砕破(アビスブレイク)の何倍をも超える魔法じゃないか!!」

 

 

「何っ!?」

 

 

『残り時間は不明。しかしエーテリオンが落ちる時。それは全員の死。勝者なきゲームオーバーを意味する』

 

 

さあ………ゲームを楽しもう…………。

 

 

そう言い残した途端、口は消えた。

 

 

「何が何だがわからねえが、ジェラールって奴倒せばこのケンカは終わりか………おし!燃えて来たぞ!!」

 

 

「やっぱり一番上にいるのかな………」

 

 

「な、何なんだよジェラール。エーテリオンって………そんなの喰らったらみんな死んじまうんだゼ?オレ達は真の自由が欲しいだけなのに………」

 

 

「…………ウォーリーとか言ったな」

 

 

「う?」

 

 

ビートが彼の前に立って倒れている彼と話しやすいようにしゃがむ。

 

 

「俺頭足りてないからあまり難しい事は言わないけど………真の自由ってより魔導士ギルドにいた方がそれよりも良いと思う」

 

 

「!」

 

 

「そうそう!妖精の尻尾(フェアリーテイル)も良いところだぜ!」

 

 

「あい!」

 

 

「そんな訳で俺は先に行かせてもらう。片っ端から倒さねえとみんなが危ない」

 

 

そう言って壁に突き刺さった丸太は抜いて投擲のモーションに入る。

 

 

「よし!じゃあオレとハッピーは一気に上に行くからな!気を付けろよビート!」

 

 

「おう!そっちもな!」

 

 

ビートは丸太を思い切り投げてそれに乗って移動し始めた。

 

 

 



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其の32 合体魔法(ユニゾンレイド)

突如ジェラールが開始した楽園ゲーム。

それは彼が配置した3人の戦士とナツ達8人と戦い、評議院のエーテリオン発射前にジェラールを倒すというゲームだ。勝つのはジェラールか、ナツ達かはたまた全滅か。生き残りを賭けたゲームが始まっていた。

 

 

投擲した丸太の上にサーフィンのように乗り越していると見たことのある人影に出会う。

 

 

「お?あれは………」

 

 

乗っていた丸太から降りて人影の所に向かうと案の定知ってる者だった。

 

 

「ルーシィ!と………誰?」

 

 

「あ!ビート!丁度良かった!大変なのジュビアが!!」

 

 

彼女の奥にいる人物が目に入った瞬間、誰もわかるぐらい動揺し始めた。

奥にいる男。長い髪にロックな格好をして派手なメイクをしている男『ヴァルダルダス・タカ』に動揺していた。

 

 

「ウィーハー!!また獲物が来やがった!!」

 

 

「そ、そんなまさか………」

 

 

「お?ほーうオレも有名人になったものだな。オレを知っているな………」

 

 

「忘れもしない………その派手なメイク………そのロックな格好!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デーモン閣下!!」

 

 

「…………は?」

 

 

「お前もロウ人形にしてやろうか!の人でしょ?」

 

 

「いや、元ネタ的に合ってると思うけど違ーう!!」

 

 

メタイ事を言いながらもルーシィはビートに突っ込む。

大きな勘違いをされたヴァルダルダスはポカンとしていた。それでもビートは彼に詰めかかる。

 

 

「あ、あの!自分も一曲だけロックを歌っていいですか!?」

 

 

「ちょっと何言ってるのよこんな時に!!」

 

 

「…………しょうがねぇ、オレも男だ。但し一曲だけな?」

 

 

「許可すな!許可すな!」

 

 

「あ、でもコレ一人じゃ出来ないから一人追加していいですか?」

 

 

「うーむ………許可しよう」

 

 

「するな!!」

 

 

「じゃあ………」

 

 

ビートが指名しようとした瞬間、とある人物がビートに飛びかかって来た。

 

 

「ヘーイ!クレイジーボーイ!!やられる覚悟は出来てるかぁ!?」

 

 

それはメタル系な格好をした変わり果てたジュビアだった。ヴァルダルダスによってサキュバスとなってしまったのだ。

 

 

「おお、ジュビア。見ない間に随分派手になったね?あ、丁度いいやちょっと手伝ってくれる?」

 

 

「誰がお前なんかと!」

 

 

ベシッ

 

 

「オブッ」

 

 

「「「!?」」」

 

 

絡んでくるジュビアに対して極力手加減したビンタが彼女を襲う。

 

 

「え!?………え!?」

 

 

「はい、あまり時間掛かるとオプション付くからねー。この紙の通りにやるだけでいいから」

 

 

「あ、はい………」

 

 

「アンタ元に戻ってるでしょ!!」

 

 

「はい、お待たせ致しました。皆さん生暖かい目で見てあげてくださいね〜」

 

 

「また何か始まろうとしてる………」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彼が指パッチンをするとジュビアがどっから持って来たのかハリセンをビートの頭をリズム良く叩き始めた。

 

 

 

「♪YOそこの道行く兄ちゃん姉ちゃん♪」

 

 

「♪突き進むスタイル確立、独立♪時代の反響 一人の絶叫♪」

 

 

「♪この亀社会に生まれたウチ達若者♪それでも耐え抜くスピリット、デメリット♪」

 

 

「♪これって友情?愛情?亀参上!Yeah!♪」

 

 

「♪この矛盾の中で生きている僕たちの苛立ち♪ 許せな〜く!やるせな〜く!亀助け人生♪ 」

 

 

「♪これって純情?正常?亀参上!Yeah!♪」

 

 

ビートは何処からか水槽を持って来て、ジュビアがバケツに入った亀(水入り)を水槽に投げ入れる。数匹の亀が沈んだ。

 

 

「♪理不尽な、貴婦人なエンジン全開!♪」

 

 

すると何故かジュビアが泣き出した。

 

 

「なんで亀ラップ〜なの?なんで亀ラップ〜なの?」

 

 

「なんでかな〜?」

 

 

「なんでだろ〜?」

 

 

「それはね それはね」

 

 

「それは?それは?」

 

 

「メケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケ (☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎」

 

 

「んーーーーまじでーーーー!?んーーーーまじでーーーー!?」

 

 

「うそ うそ 本当ね 本当はね」

 

 

「本当は?本当は?」

 

 

「メケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケメケ (☝︎ ՞ਊ ՞)☝︎」

 

 

そしてこれまた何処から持って来たのかジュビアが大きなプラカードを上げるとそこには『御開き』と書かれていたが。

 

 

「やっだもーーーん☆やっだもーーーん☆ 」

 

 

「ん~~しょうがない子ねーー」

 

 

プラカードを二つに破って放り投げた。

 

 

「じゃあ最後までつきあってあげるわ♪ 特別よ♪」

 

 

「嬉しいでございまーす!嬉しいでございまーす! (°∀。)」

 

 

「パラレルやっちゃってーー!パラレルやっちゃってーー!(°∀。)」

 

 

二人が狂ったように踊りだすと水槽から亀達が飛び出して甲羅にこう書かれていた。

 

 

『今度こそ御開き』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ラップじゃねぇぇぇか!!!」

 

 

散々二人のラップを見せつけられたヴァルダルダスが怒り出す。側で見ていたルーシィも突っ込みだす。

 

 

「これだけやっておいたまさかのラップ!?しかも何処かで聞いたことあるし!」

 

 

「因みに元ネタの原作者はこの時40度の熱になっていた時に考えたとか」

 

 

「聞いとらんわ!!ええい、サキュバス!やってしまえ!!」

 

 

「ヌオオオオオオ!!」

 

 

「うお!?ジュビア!!」

 

 

飛びかかってくるジュビアと取っ組み合いになるビート。しかし上から段々押されて片膝を着いてしまう。

 

 

「おおおお!?貴女力強くなってない!?」

 

 

「当たり前だ!今の彼女はオレのサキュバス!!オレの思い通りに操れる!即ち力も倍にすることも可能!!」

 

 

「なにそれずっこ!!」

 

 

「ビート!」

 

 

ぐぐと押され続けてると彼女がビートの額に頭突きを繰り出した。

しかし痛みは来なく、パシャリと水面に当たった音が立った。

 

 

『………ートさん………ビートさん!聞こえますか?』

 

 

(!その声ジュビアか!?)

 

 

『今、私は水となって貴方に話してます』

 

 

(あの………さっきはあんなことさせてすみません………。悪ノリが過ぎました………)

 

 

『………いいんです。実はジュビアはさっきのラップ。楽しかったです。あんなにはしゃいで踊ったのは初めてでした。それに私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)が大好きになりました………。仲間想いで………楽しくて………暖かくて雨が降っててもギルド中はお日様が出てるみたい………』

 

 

(ジュビア………)

 

 

『せっかく皆さんと仲良くなれそうだったのに………ジュビアはやっぱり不幸を呼ぶ女………』

 

 

彼の脳裏に涙を流す彼女が浮かび上がったのだ。

彼女の本音を聞いたビートはニッと笑う。

 

 

「なーんだ。そんなことか………」

 

 

「あ?何だって?」

 

 

「不幸を呼ぶ?知るか!不幸上等!!そんなことは日常茶飯事!妖精の尻尾(フェアリーテイル)に居たいんなら胸を張れ!!誰もお前を責めない!!」

 

 

「なにを言ってやがるんだこのクレイジーボーイ!ジュビアちゃん!今度はあの星霊使いをやってしまえ!!」

 

 

水流激鋸(ウォータージグゾー)でも喰らいな!」

 

 

「っ!!」

 

 

水流体となり、鋸を作り出してルーシィに向かって突撃する。恐怖でしゃがみ込むがビートが彼女に叫んだ。

 

 

「ルーシィ!ジュビアの水を使ってあの人を!」

 

 

「っ!そうか!!」

 

 

突撃してくる彼女を真正面に受け止めて星霊の鍵を取り出してジュビアの胸元に差し込む。

 

 

「開け!宝瓶宮の扉!『アクエリアス』!」

 

 

ジュビアの背中から壺を掲げたアクエリアスが現れた。

 

 

「アクエリアス!やっちゃ「やかましいわ小娘どもがぁ!!」やぁぁぁぁ!?」

 

 

「あばばばばばば!?」

 

 

「ぬおおおおお!?」

 

 

その場にいた全員がアクエリアスが起こした波に呑み込まれるが、ヴァルダルダスの髪に水が吸われる。

 

 

「効かんなぁ!オレの髪は水を吸収すると言っただろうがぁ!!」

 

 

妖精の尻尾(ウチ)の魔導士を舐めるなよ!!」

 

 

「ジュビア!」

 

 

「ルーシィ!」

 

 

水の渦の中、二人が手を取り合うと水の量はだんだん増えていき、ヴァルダルダスに向かって突き出すと巨大な水流の渦を起こした。

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)だとぉ!?!」

 

 

やがて彼の髪の容量を超え、彼の頭皮が抜け落ちて綺麗なスキンヘッドが完成した。

その拍子でジュビアも元の姿に戻って自我を取り戻した。

 

 

「やった!!」

 

 

「ジュビア元に戻れた!!」

 

 

勝利を喜んで抱き合う二人だが、アクエリアスがルーシィに詰め寄って来た。

 

 

「とんでもない所から呼び出しやがって………しまいにゃトイレの水から呼び出す気じゃねえだろうな?殺すぞてめぇ………」

 

 

「ご、ごめんなさい………」

 

 

「ま、まぁまぁ落ち着いてポカリ姉さん」

 

 

「ア ク エ リ ア スだ。二度とまちがえるなくそが」

 

 

「ふ、ふぁい………すみませんでした……」

 

 

「素で怖い………」

 

 

ビート向かってアイアンクローをする彼女にジュビアはボソッと呟いた。

 

 

「これから2週間(カレ)と旅行に行くから絶対に呼ぶなよ。いいな?」

 

 

「は、はい」

 

 

「お前も早く男つくれ………ま、無理か」

 

 

「ほっといてよ!」

 

 

「ルーシィさん恋は大切よ」

 

 

「くそっ………ムカつくなあのダカラ姉さん………」

 

 

「なんか言ったか?」

 

 

「イエ、マリモ!」

 

 

「戻って来た!?」

 

 

一回帰ったアクエリアスはまた名前をわざと間違えたビートをこらしめに来たが、完全に萎縮していた彼を確認すると今度こそ星霊界に帰って行った。

 

 

「とにかく、私達が一人やっつけたのよ。ジェラールの思い通りになんかならないわよ」

 

 

「いいえ、倒したのはルーシィさんですよ」

 

 

「二人で……よ」

 

 

「っ!」

 

 

「あの時()()()()って叫んだよね?私も仲良くなれた気がして嬉しかった。()()付けなんかしなくていいよ。私達もう仲間じゃない」

 

 

彼女の言葉にジュビアの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。

 

 

「……あれ?ジュビア………目から雨が降って来ました………」

 

 

「あはは!面白い表現ね」

 

 

「あ!俺次の奴倒しに行かなくちゃ!丸太流されたけど………」

 

 

「普通に飛んでいきなさいよ………」

 

 

二人に別れを告げてビートは普通に飛んで次の敵に向かった。

 

 

 



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其の33 心の鎧

お気に入り100人突破いたしました!ありがとうございます!!これからも妖精の尻尾のサイヤ人をよろしくお願いします。


「もう一度やれよ!何でオレの今日の運勢最高なんだよ!?」

 

 

「何度やっても結果は同じだし、『最高』何だから喜べばいいじゃない」

 

 

テーブルでは一人の少年がタロットカードで占ってた少女に文句を言っていた。

 

 

「最高なもんか!今日は朝からドブにハマったり!サイフ落としたりでロクな事がねぇ!!大体お前は………」

 

 

「あーもううるさいなぁ」

 

 

すると周りが騒つき出した。その騒つきに気が付いた彼が入り口を見るとボロボロの衣服を纏って片目に眼帯を付けた紅髪の少女が見渡していた。

これが彼、グレイと少女、エルザとの初めての出会いである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

グレイはルーシィ達と別れた後ショウを追っていた。

ジェラールが告げた楽園ゲームの内容を聞いた途端、エルザはカード中に閉じ込めて自身がジェラールを倒すと言い放って先走ったのだ。

走っていると舞空術を使って通路を飛んでいたビートを発見した。

 

 

「おいビート!」

 

 

「グレイ!他のみんなは!?それにエルザは………」

 

 

「………ちょいと厄介な事になった」

 

 

彼はビートにこれまでの経緯を説明すると驚愕の声を漏らす。

 

 

「なに考えてんだよアイツ!?ジェラールから発してくる不気味な気を感じてで行った行動か!?

 

 

「やっぱそう思うよな。アイツじゃとてもじゃないけどジェラールには勝てないって………」

 

 

「………とにかくアイツを追おう。やられたら困るし」

 

 

グレイは頷くと二人は通路を走り出す。しばらく進んでいると広間に着いた。

そこには膝を着いているシモンと焼け焦げたハッピーが倒れていた。

 

 

 

「何やってんだお前!ショウってのを追ってたんじゃねぇのか!?」

 

 

「………足止めを喰らってんだ」

 

 

奥には顔が梟で屈強な体をした男。その見た目の名と同じ『梟』がこちらを睨む。

 

 

「ジェラールはエルザを生贄にするとか言ってんだぞ!はっきり言って本気のエルザに勝てる奴がいるとは思えねーが、あんなカードにされたエルザは無防備過ぎる!!」

 

 

「………ショウに全てを話す時期を誤った……まさかあんな暴走を起こすとは………」

 

 

「グレイ……ビート。ナツがアイツに食べられちゃったんだ………」

 

 

「え!?」

 

 

「何だと?」

 

 

梟の方へ向くとニヤリとクチバシを釣り上げる。

その事を聞いたグレイは壁を殴り付けた。

 

 

「テメェがそんなんでどうするんだよクソ炎!!」

 

 

「消化が始まった。後10分もすれば火竜(サラマンダー)の体は溶けて無くなる。そうすれば奴の魔法は完全に私のモノになる」

 

 

「そんなことさせるか!!消化する前にお前からナツを吐き出させてやる!」

 

 

両手に気功弾を作り出して連続で放つ。グレイもそれに続いてアイスメイク槍騎兵(ランス)を放つ。

 

 

「火竜の咆哮!!」

 

 

「なっ!?」

 

 

「奴は火竜(サラマンダー)の魔力を吸収しているんだ!!」

 

 

ナツと同じ技を繰り出され気功弾と氷の槍は溶かされて二人は炎の中に呑まれた。

グレイは炎を凍らせようとするがナツと同等の炎を持つ梟の前では立ち打ち出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かに見えた。

一気に炎が凍りついてビートが気合い砲で吹き飛ばした。

 

 

 

「こんなのがナツの炎だぁ?笑わせんな」

 

 

「お前なんか別物だよ!」

 

 

「ホホウ!素晴らしい魔力だ!まずはサイヤ人!貴様からキャプチャーしてやる!!」

 

 

それを見た梟は大口を開けてビートに駆け出した。

大口はすっぽりとビートを包み込む。なんとか助け出そうとすると、突如梟の口内で爆発が起こった。その拍子でビートは遠くに吐き出される。

 

 

 

「ガハッ!?テメェ!!」

 

 

「そんな大口開けてたから気功弾をプレゼントしてやったぜ!」

 

 

煙が上がりながら梟が激を飛ばす中、吐き出されたビートと入れ替わるようにグレイが駆け出した。

 

 

「こんな所でモタモタしてる場合じゃねぇんだ!!」

 

 

幼少時代、グレイは最初エルザの事を嫌っていた。そして突っ掛かってはやられ、突っ掛かってはやられていた。それが悔しくて毎日繰り返していたが、返り討ちに遭う。

 

 

「エルザを連れて帰るんだ!!」

 

 

しかしある日、川辺で座り込む彼女を見つけて勝負を挑もうとしたが、思いとどまった。

泣いていたのだ。いつもは冷たく返す彼女が一人で泣いていた。そして聞いた、何でいつも一人なのかと。彼女は静かに返す、一人が好きだと。人がいると逆に不安になると。

 

 

『じゃあなんで一人で泣いているんだよ?』

 

 

そう言ったら彼女は何も言わずに驚いた顔をした。いつも突っ掛かって来る彼にこんな事を言われるなんて思ってもなかったからだ。

 

 

「どけっ!!」

 

 

両手に氷の刃を作って剣戟が飛び交った。

 

 

「氷刃・七連舞!!」

 

 

「ホボォホォォ!?!」

 

 

グレイの猛撃によって梟の口からナツが吐き出された。

 

 

アイツはいつも孤独で……心に鎧を纏い、泣いていたんだ………

 

 

「エルザは妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいなきゃいけねぇんだ………涙を流さない為に………」

 

 

(グレイ・フルバスター………オレの集めた情報より遥かに強い………いや、仲間(エルザ)への想いが彼の魔力を高めているのか………いいギルドに入ったな………エルザ………)

 

 

梟を倒したグレイを見てシモンは一人思った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ジェラール!くそっ!くそっ!!よくもオレ達を騙して………!姉さんを傷つけて!!」

 

 

「ショウ!落ち着け!私をここから出せ!!」

 

 

怒りを露わにショウはジェラールの元に向かっていた。胸ポケットにはカードの中に封じられたエルザが宥めていた。それでも彼は止まらずに前に突き進む。

するとショウの前に一人の女性が現れる。何処からか三味線の音が聞こえるような容姿だった。肩まで露出した着物を纏い、長刀を携えた女剣士だった。

 

 

「うちは斑鳩(イカルガ)と申しますぅ。よしなに」

 

 

「どけよ………何だこのふざけた奴は………」

 

 

「あらぁ、無粋な方やわぁ」

 

 

「テメェなんかに用はねぇ!!」

 

 

ショウは斑鳩と名乗る女性に向けて無数のトランプを投擲する。すると彼女の目付きが変わって刀に手をつける。

一瞬。一瞬だった。剣閃が一瞬だけ写るとトランプは綺麗に表と裏に斬られた。

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

「うちに斬れないものはありませぬ」

 

 

「ガハッ!?」

 

 

そしていつの間にかショウ自身も斬り付けられて腹部から血が溢れる。

その拍子に胸ポケットに入れていたエルザが入ったカードが出る。

 

 

「あらぁ?そんな所におりましたん?エルザはん」

 

 

「ショウ!今すぐここから私を出せ!お前の勝てる相手じゃない!!」

 

 

「安心して……そのカードは強力にプロテクトしてある。絶対に外からの攻撃を受ける事はないんだ………」

 

 

「へぇ」

 

 

それを聞いた斑鳩が抜刀の構えを取ると斬撃を放った。カードに命中するも、金属音を響かせて形を保っていた。

しかしカードの中ではエルザが剣で斬撃を受け止めていた。

 

 

「カードの中を………空間を超えて斬ったぁ!?」

 

 

彼女はどんどん斬撃を飛ばしてカード中に侵入させる。斬撃がどんどん増えて行き、受け止めるのもやっとになる。

その時カードからエルザが飛び出して現実世界に現れた。

 

 

「貴様のお陰で空間に歪みが出来た。そこを斬り開かせて貰った」

 

 

(………空間を超える剣も凄いけど………あの一瞬でそれを利用した姉さんはやっぱ流石だ………見事すぎて言葉が見つからない………)

 

 

「貴様に用は無い。消えろ」

 

 

「………果たしてそうですか?」

 

 

彼女が口角を上げるとエルザの鎧に亀裂が走り、遂には砕けて下の洋服が露わになった。

 

 

「ほんの挨拶代わりどす。………もしかして見えませんでしたか?」

 

 

エルザの鎧の残骸が虚しく地に落ちる。

流石の彼女も驚愕を隠し切れないでいた。斑鳩の放った斬撃がエルザでさえも見えなかったのだ。

 

 

「見つめるは〜霧の向こうの〜物の怪か〜♪

………ジェラールはんを探すあまり今、自分が見えない剣閃の中にいる事に気が付いてない………」

 

 

短歌を唄う彼女にエルザの目付きが変わる。

 

 

「うちは路傍の人ではありませんよ」

 

 

「そのようだな………お前は敵だ」

 

 

「参ります」

 

 

天輪の鎧に換装したエルザは駆け出す。

激しい剣戟が飛び交い、両者一歩も譲らない。エルザは跳躍すると輪に繋がった剣を放った。

 

 

「天輪・循環の剣(サークルソード)!」

 

 

「無月流………」

 

 

再び抜刀の構えを取ると円形に回って斬撃を放つ。

 

 

 

「夜叉閃空!」

 

 

循環の剣が一瞬にして砕かれる。更にその余波で天輪の鎧も砕けた。彼女の猛攻は止まらない。

 

 

「無月流、迦楼羅炎!」

 

 

「換装!炎帝の鎧!!」

 

 

彼女刀から放たれる炎に対して炎帝の鎧で防御するも、壁に叩き付けられる。

 

 

「耐火能力の鎧どすか?よくあの一瞬で換装出来たものどす」

 

 

しかしそれも砕かれる。

 

 

「殿方の前でそんな格好では身もしまらないでしょう?どうです?そろそろ最強の鎧を纏ってみたら………?」

 

 

「………いいだろう。この姿を見て立っていた者はいない………後悔するがいい。『煉獄の鎧』換装!!」

 

 

空気が変わる程の魔力を放つ黒い鎧を纏い始めた瞬間。

一瞬にして駆け出して最強の鎧でさえも砕いた。

内部にもダメージを負ったのかエルザは倒れ伏した。

 

 

「おわかりになったでしょう?どんな鎧を纏おうがうちの剣には勝てませんよ。もう諦めなさい」

 

 

彼女の言葉に噛み締めてなんとか立ち上がると今度はサラシに下は炎の模様を施した装束となった。その両手には二刀の刀が。

 

 

「………何のマネどす?その装束からは何の魔力を感じない………ただの布切れどす」

 

 

「ただの布切れ!?」

 

 

「あれだけの剣閃を見せてあげたのに、うちもなめられたものどす………」

 

 

エルザの行動に斑鳩は青筋を立てる。

 

 

「姉さん!どうしたんだよ!!まだ強い鎧は沢山あるんだろ!!姉さんはもっと強いんだろ!!」

 

 

「…………私は強くなどない」

 

 

彼女の目の前で大勢の仲間が死んだ。

大切な人達を守れなかった。

そして……大切な人を止める事も出来なかった。

彼女はいつも泣いていた。自分を強く見せようと、自分の心を鎧で閉じ込め、泣いていた。

 

 

「弱いからいつも鎧を纏っていた……ずっと脱げなかったんだ」

 

 

「たとえ相手が裸だろうと、うちは斬ります」

 

 

「鎧は私を守ってくれると信じていた………だが、それは違った。人と人との心が届く隙間を、私は鎧でせき止めていたんだ………妖精の尻尾(フェアリーテイル)が教えてくれた。人と人との距離はこんなにも近く、温かいものなのだと………」

 

 

「覚悟ぉ!!」

 

 

「もう迷いは無い!私の全てを強さに変えて討つ!!」

 

 

二人同時に駆け出してすれ違う刹那、金属音が響き渡った。

その後、不気味なぐらい静かな時間が訪れる。

先に異変が起こったのはエルザ。右肩から斬り裂かれて鮮血が噴き出す。

勝利を確信した斑鳩だが、こちらにも異変が起こった。彼女の腹部からエルザよりも大きな斬り口ができ、鮮血が溢れ出た。

 

 

「ああああああああああ!?」

 

 

苦痛の叫びと共に斑鳩は仰向けに倒れる。なんとかエルザがこの勝負を制した。

 

 

「み、見事どす……うちが負けるなんてギルドに入って以来……初めてどす。しかし貴女もジェラールはんも負けどすわ………」

 

 

「!?」

 

 

「15分。…………落ちてゆく〜正義の光は〜皆殺し〜………ぷ、酷い詩………」

 

 

自嘲の笑いを浮かべると今度こそ彼女は力尽きた。

 

 

「………ショウ、怪我は平気か?」

 

 

「う、うんなんとか………」

 

 

「今すぐシモン達や私の仲間達を連れてこの塔を離れるんだ」

 

 

「!?で、でも………」

 

 

「私の言う事が聞けるな、ショウ………」

 

 

「………うん」

 

彼女の優しい微笑みに対してショウは頷く事しか出来なかった。

 

 

「姉さんは?」

 

 

「………決着を………つけてくる」

 

 

彼女の瞳に再び灯火がついた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………ん………うお!?」

 

 

「あ、ナツ!」

 

 

「目が覚めたか………」

 

 

シモンに背負われていたナツが目覚めた。

ナツは辺りをキョロキョロ見渡す。現在、ビートとシモン、ナツがいるのは広間を抜けて通路にいた。

 

 

「確かオレ変な乗り物に乗せられて………お、お、おぷぅ………」

 

 

「よせ!!思い出して酔うんじゃねぇ!!」

 

 

「貰いゲロしそうだから辞めろ!!」

 

 

酔いかけるナツに二人は必死に止める。

ナツに説明すると、梟と戦ったグレイはダメージが深かったらしく、ハッピーが塔から出して貰ったのだ。

 

 

「だーーー!?ありえねぇ!?オレが負けてグレイが勝っただとぉ!?」

 

 

「別に負けた訳じゃねーだろ食われたんだ」

 

 

「このネタで一ヶ月はいじられんぞ!アイツネチっこいからな〜」

 

 

「「オイオイ」」

 

 

「こうしちゃいられねぇ!リベンジだ!あの梟ともう一回戦って来る!!今度は片手だな!それくらいのハンデがなきゃ………」

 

 

「そんなことしてる暇ないだろ!!」

 

 

「今の状況わかってる!?」

 

 

流石のビートもシモンと共に突っ込んで彼の首根っこを掴んだ。

 

 

「つーかソイツ誰?」

 

 

「エルザの昔の仲間のシモンだよ」

 

 

「………う!?」

 

 

「シモン!?」

 

 

突然腹部を抑えて膝を着いた。彼は梟の攻撃をまともに受けたのだ。

 

 

「オ、オレの事はいい、よく聞けナツ。さっきウォーリーとミリアから通信があった。倒れてるルーシィとジュビア、そして 三羽鴉(トリニティレイヴン)の一人を見つけたとな。事象はさらねぇあいつ等は戸惑っていたが、ルーシィ達を塔の外へ連れ出して貰った………

そしてすぐにショウの通信で三羽鴉(トリニティレイヴン)が全滅した事を知った」

 

 

「オレ何もしてねぇ!!」

 

 

「大丈夫だって、俺も梟の口に気功弾ぶち込んだり、亀ラップしかやってないから」

 

 

「亀ラップ!?何だソレ!?」

 

 

「前の話参照ね」

 

 

「誰に言ってんだお前!?」

 

 

「話を戻すぞ………残る敵はジェラール一人。そこにエルザが向かっている。アイツは全ての決着を一人でつけようとしてるんだ」

 

 

「…………」

 

 

「あの二人には8年に渡る因縁がある。戦わなければならない運命なのかもしれない………だが、ジェラールは強大すぎる。頼む、エルザを助けてくれ!」

 

 

「あぁ!勿論「やなこった」」

 

 

「「ええ!?」」

 

 

ビートが承諾しようとするが、拒否するナツに二人は驚愕した。

 

 

「え、ちょ、ナツ……今の冗談だよね?」

 

 

「貴様………仲間を………エルザを助けないと言うのか?」

 

 

「エルザの敵はエルザが決着をつければいい。オレが口挟む問題じゃねぇな」

 

 

「エルザではジェラールに勝てない!!」

 

 

「アイツを馬鹿にするなよこの野郎!!」

 

 

「違う!力や魔力の話じゃねぇんだよ!!」

 

 

シモンはナツの胸倉を掴んで一喝する。

 

 

「エルザは………アイツは未だにジェラールを救おうとしてるんだ!!」

 

 

「「!?」」

 

 

「オレにはわかる!!アイツにジェラールを憎む事など出来ないから!!」

 

 

何故彼がそこまで言えるのかは、彼はエルザの事を好いていたからだ。

だが、彼女の本命はジェラールであり、二人でいる時にはとても幸せだった。

 

 

「ジェラールは狡猾な男だ………エルザのそういう感情をも利用してくる………。

状況は更に悪い。評議院がここにエーテリオンを落とそうとしているのは知っているな?勿論そんなもの落とされたら塔の中の人間は全滅。ショウの話では後15分………いや、もう後10分か………」

 

 

「何!?」

 

 

「そんな………」

 

 

「エルザは全員を逃がせと言って一人で向かった………エルザの事はよく知っているだろ?まさかとは思うが………エーテリオンを利用してジェラールを道連れに死ぬ気かもしれん………」

 

 

「………なんでそれを先に………」

 

 

彼女の行動を知らなかったナツは歯を噛み締める。ビートに至っては血が出るんじゃないかというぐらい手を握り締めた。

 

 

「エルザァ!何処だぁ!!」

 

 

ビートの叫び声が通路全体に響き渡った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とある一室。

フードを被った男、ジェラールは騎士の形をしたチェスの駒で同じく着物を着た女性の駒を片手で倒した。

カコンと軽い音が響く。

 

 

「やれやれゲームはもう終わりか………」

 

 

「人の命で遊ぶのがそんなに楽しいか?」

 

 

ひたりと裸足で静かに部屋に入って来たエルザがジェラールに問う。

 

 

「ああ、楽しいねぇ。生と死こそが全ての感情が集約される万物の根源。逆に言えば命程つまらなく虚しいものもない」

 

 

ゆっくりと彼女の方へジェラールは振り向いた。

フードから覗かせる彼の目は8年前とは違った者の目をしていた。

 

 

「久しぶりだな、エルザ」

 

 

「ジェラール………」

 

 

「その気になればいつでも逃げさせた筈だが?」

 

 

「私はかつての仲間たちを解放する」

 

 

「構わんよ、もう必要ない。楽園の塔は完成した」

 

 

「後10分足らずで破壊されるとしてもか?」

 

 

「エーテリオンの事か?」

 

 

「その余裕………やはりハッタリだったか………」

 

 

彼女が持つ刀に握る力が加わる。そしてジェラールはフード外して素顔を露わにさせる。

 

 

「いや、エーテリオンは落ちるよ………」

 

 

「それを聞いて安心した!10分!貴様をここに足止めしておけば、全ての決着がつく!!」

 

 

「いや………お前はゼレフの生贄となり、死んでいく………もう決まっている、それがお前の運命(デスティニー )!!」

 

 

8年に渡る因縁が今、ここで果たせようとしていた………。勝つのはエルザか、ジェラールか、エーテリオンで全滅か………。

 

 

 

 

 

 

 

 



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其の34 喪失までのカウントダウン

遂にジェラールの元に辿り着いたエルザ。全てを消滅するエーテリオン発射まで残り時間が迫っていた。

 

 

「後7分だ。後7分でエーテリオンはここに落ちる。この7分間を楽しもう。」

 

 

「今の私に怖れるものは無い。たとえエーテリオンが落ちようと、貴様を道連れに出来れば本望!」

 

 

「行くぞ!!」

 

 

ジェラールの左腕から死霊如しの魔力弾を放つ。

飛び交う魔力弾を潜り抜けて死霊を刀で斬り裂いた。だが、その隙に右手から放った魔力弾に被弾して外壁を突き破って外に放り出される。このままだと間違いなく転落死。

しかし彼女は崩れ落ちる外壁を足場にして駆け上がった。

 

 

「せっかく建てた塔を自分の手で壊しては世話が無いな!」

 

 

「なに、柱の一本や二本、ただの飾りに過ぎんよ」

 

 

「その飾りを造る為にショウ達は8年もお前を信じていたんだ!!」

 

 

「一々言葉の揚げ足を取るなよ………。重要なのはRシステム。その為の8年なんだよ。そしてそれは完成したのだ!!」

 

 

再び死霊を作り出すと彼女を包むように拘束する。

だが、彼が想像していた以上にエルザは凄かった。完全に包まれる前に全ての死霊を薙ぎ払い。一瞬にして彼の懐に入って腹部を斬り裂いた。

 

 

(これが……あのエルザだと!?)

 

 

そしてその勢いのまま腹部に馬乗りして身動きを封じた。彼の喉元に刀を突き付けられる。

 

 

「くっ………」

 

 

「お前の本当の目的は何だ?」

 

 

「………何が言いたい?」

 

 

「本当はRシステムなど完成していないんだろう?」

 

 

「!!」

 

 

エルザの言う通り、8年の間Rシステムについて調べていたのだ。構造や原理は当時の設計図通りで間違いは無いが、それ以前に足りてないものがあった。

 

 

『魔力』

 

 

Rシステムを発動するには27億イデアもの魔力が必要になる。それは大陸中の魔導士を集めても足りるかどうかと言うほどの魔力だ。

それを知ってでの上でジェラールは評議院からのエーテリオンから逃げようとしない。

 

 

「お前は一体何を考えいるんだ?」

 

 

「………エーテリオンまで後3分だ………」

 

 

「ジェラール!お前の理想(ゆめ)はとっくに終わっているんだ!!このまま死ぬのがお前の望みか!?」

 

 

彼の腕を掴んでいた左手に力が加わる。

 

 

「ならば共に逝くのみだ!私はこの手を最後の瞬間まで離さんぞ!!」

 

 

「……あ、ああ…………それも悪くない…………」

 

 

「……………」

 

 

「オレの体はゼレフに取り憑かれた。何も言う事を聞かない。ゼレフの肉体を蘇らす為の人形なんだ………」

 

 

「取り憑かれた………?」

 

 

「オレはオレを救えなかった………仲間も……誰もオレを救える者はいなかった………楽園など………自由など何処にもなかったんだよ………全ては始まる前に終わっていたんだ………」

 

 

「っ…………」

 

 

「Rシステムなど完成する筈がないとわかっていた。しかしゼレフの亡霊はオレをやめさせなかった………もう止まれないんだよ。オレは壊れた機関車なんだ………。

エルザ、お前の勝ちだ………オレを殺してくれ。その為に来たんだろ?」

 

 

「…………私が手を下すまでもない。この地鳴り、既に 衛星魔法陣(サテライトスクエア)が塔の上空に展開されている………」

 

 

掴んでた手を離し、刀も手から抜け落ちる。

 

 

「終わりだ………お前も………私もな」

 

 

「不器用な奴だな………」

 

 

部屋全体が揺れてパラパラと天井が崩れかける。外には巨大な魔法陣が現れ、光の大きな球体が出来ていた。

 

 

「お前もゼレフの被害者だったのだな………」

 

 

「………これは自分の弱さに負けたオレの罪さ。理想(ゆめ)と現実のあまりの差にオレの心がついていけなかった………」

 

 

「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが、仲間という存在ではないのか?」

 

 

「エルザ……」

 

 

「私もお前を救えなかった罪を償おう………」

 

 

「いいや……オレは………救われたよ………」

 

 

互いに抱き合い、二人は最期の時を迎えようとしていた。光が二人を包み込み、エーテリオンは塔全体を覆った。

楽園の塔は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

「…………え?」

 

 

エルザは辺りを見渡し、自身の両手を見つめる。透けてないし霊体になってなどはいない。

 

 

「生きてる?」

 

 

「…………くっくっ」

 

 

「ジェラール………?」

 

 

「はははははははははははは!!」

 

 

高々と狂笑するジェラールにエルザは呆然としていた。

 

 

「遂に……遂にこの時が来たのだ!!」

 

 

「お前………」

 

 

「くくく……驚いたかエルザ?これが楽園の塔の真の姿。巨大な魔水晶(ラクリマ)なのだ!そして評議院のエーテリオンにより、27億イデアの魔力を吸収する事に成功した!!ここにRシステムが完成したのだぁ!!」

 

 

外装が無くなって、島の中心には巨大な水晶の塔がそびえ立っていた。

 

 

「だ………騙したのか!?」

 

 

「可愛かったぞエルザ」

 

 

「!?」

 

 

突如背後からの声に反応して振り返るとそこにはジェラールとそっくりの容姿を持つ男が現れた。

 

 

「ジェラールも本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」

 

 

「ジークレイン!?何故貴様がここに!?」

 

 

評議員である青髪の青年、ジークレインが歩み寄りながら昔の事を語り始めた。

 

 

「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か?ジェラールと間違えてオレに襲い掛かって来た。まぁ………同じ顔だし無理もないか………。双子と聞いてやっと納得してくれたよな。しかしお前は敵意を剥き出しにしていたな………」

 

 

「当たり前だ!!貴様は兄の癖にジェラールのやろうとしている事を黙認していた!!いや、それどころか私を監視してした!!」

 

 

「そうだな………そこはオレのミスだった。あの時は『ジェラールを必ず見つけ出して殺す』とか言っておくべきだった。しかし、せっかく評議院に入れたのにお前に出会ってしまったのが一番の計算ミスだな………」

 

 

「とっさの言い訳程苦しいものはないよな」

 

 

「………やはり…………お前達は結託していたのだな………」

 

 

「結託?それは少し違うぞエルザ」

 

 

するとジークレインの体が映像を切るようにブツブツ切れ始める。

 

 

「オレ達は一人の人間だ。最初からな………」

 

 

やがてジークレインとジェラールは徐々に融合して一人の男の姿となった。

その光景に彼女は開いた方が塞がらない。

 

 

「そ………そんな……まさか………思念体!?」

 

 

かつてマスタージョゼも使った魔法である。自身を映像として作り出し、それを自在に操る魔法である。

 

 

「馬鹿な!ならばエーテリオンを落としたのも自分自身!!その為に評議院に潜り込んだと!?」

 

 

「かりそめの自由は楽しかったかエルザ?全てはゼレフを復活させる為のシナリオだった………」

 

 

「貴様は一体どれだけの者を欺いて生きているんだぁ!!」

 

 

ゆっくりと腕を持ち上げ、握りしめると不気味な魔力が溢れ出す。

 

 

「力が………魔力が戻って来たぞ………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔法評議院『ERA(エラ)』。

そこではエーテリオンを発射した様子を伺っていたが、巨大な 魔水晶(ラクリマ)と化した塔に驚愕していた。

その中の一人の評議院のヤジマはジークレインが消える瞬間を目撃していた。

 

 

「やられたっ!!くそぉ!!」

 

 

すると彼が掴んでいた手摺りに亀裂が走り、天井もパラパラと石粒が落ち始める。

 

 

「こ、これは!?建物が急速に老朽化してる!?」

 

 

失われた魔法(ロストマジック)時のアークじゃと!?」

 

 

「いかん!崩れて来てる!!みんな逃げろぉ!!」

 

 

他の神官達も大慌てで逃げ出そうとする。

そしてヤジマは見た。崩れ落ちる評議院の中心に立つ着物を着た女性、ウルティアの姿を。

 

 

「ウルティア………」

 

 

「全てはジーク様………いえ、ジェラール様の為。あの方の理想(ゆめ)は今ここに、叶えられるのです………」

 

 

その目映るのは悪魔に取り憑かれたかのような不気味な瞳をしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「さっきまでの威勢はどうした?斑鳩との戦いで魔力を使い果たしていたか?」

 

 

エルザは地面から大剣型の魔法剣を取り出してジェラールに向かって駆け出す。

 

 

「ジェラァアァアァァル!!」

 

 

振りかざすが片手で簡単に弾かれる。

 

 

「今頃評議院は完全に機能を停止している。ウルティアには感謝しなければな」

 

 

剣を増やして斬りかかるエルザに対して余裕で剣戟を避ける。

 

 

「あいつはよくやってくれたよ。楽園にて全ての人々が一つになれるのなら、死をも怖れぬと………全く、馬鹿な女である事に感謝せねばな………」

 

 

「貴様が利用してきた者達全てに、呪い殺されるがいい!!」

 

 

両方の剣を振りかぶった直後に背中に痛みが走った。よく見ると体に蛇のような模様が生きているかのように蠢いていた。

 

 

拘束の蛇(バインドスネーク)。さっき抱き合った時につけておいた」

 

 

「か、体が!?」

 

 

蛇はやがて体中を巻きつくように動き、両手から剣が落ちる。

 

 

「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。後は生贄があればゼレフは復活する。もうお前と遊んでる場合じゃないんだよエルザ。

この27億イデアの魔力を蓄積した魔水晶(ラクリマ)にお前の体を融合する。そしてお前の体は分解され、ゼレフの体へと再構築されるのだ。」

 

 

蛇が動いて背後の魔水晶(ラクリマ)に触れると水に入るかのように呑まれ始める。

 

 

「お前の事は愛していたよ、エルザ」

 

 

「くそっ!くそっ!!」

 

 

「偉大なるゼレフよ!今ここに!!この女の肉体を捧げる!!」

 

 

両手を大きく広げると塔全体が震え出して綻びが生まれる。

 

 

「ジェラール………ジェラァーーールゥゥーーーーーー!!!」

 

 

悔しさのあまり、涙を流して魔水晶(ラクリマ)に呑みこまれた…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると誰かが呑まれる彼女を引っ張って出した。

ゆっくり上を見上げると、黒のツンツン頭がトレードマークの少年が立っていた。

 

 

「ビート………?」

 

 

「俺だけじゃない………」

 

 

「オレもいるぜ」

 

 

彼の背後に笑顔を見せる桜色の髪の少年、ナツがしゃがんで彼女の顔を覗いていた。

 

 

「ビート、ナツ………今すぐここから離れるんだ………」

 

 

「………………」

 

 

「相手が悪い………アイツはお前が戦ったバサーク以上の相手だ…………」

 

 

「エルザ………でも…………」

 

 

「…………頼む。…………言う事を聞いてくれ…………」

 

 

泣いて懇願する彼女を見ると、起き上がらせて優しく抱きしめた。彼の体温が伝わって暖かさに包まれる。

 

 

「ん…………」

 

 

「……………大丈夫だよエルザ」

 

 

「え?」

 

 

するとビートはあろうことかエルザの首筋に手刀を振り下ろした。

突然の不意打ちに彼女は気を失い、彼の腕の中で眠った。それを確認すると安全な場所まで抱き抱えて運んだ。

その時に流れていた涙を拭う。

 

 

「随分荒いな。身動き出来ない仲間を痛めて満足か?」

 

 

背後から語りかけるジェラールに、頭をポリポリ掻く。

 

 

「…………俺はさ………正直言ってゼレフとかそういうの云々はどうでもいいんだよ………多分俺が頭足りてないからこんなこと言えるんだけどさ………」

 

 

「…………?」

 

 

「けどな………俺がお前にぶん殴る事が一つある」

 

 

二人はジェラールの方へ振り向くと激しい怒りに包まれていた。

 

 

「エルザを泣かした。お前を殴る理由はそれだけで十分だ………」

 

 

(悪い夢)が覚めた時、いつものエルザでいて欲しいから、オレ達は戦うんだ」

 

 

そんな二人に対してジェラールは怯むどころか逆に笑っていた。

 

 

「面白い。見せてもらうぞ………ドラゴンとサイヤ人の力とやらを…………」

 

 

二人はほぼ同時にジェラールに向かって駆け出した。

今度こそ本当の最終決戦が始まろうとしていた。

 



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其の35 界王拳

楽あの塔の正体は巨大な魔水晶(ラクリマ)の塔だった。

そしてエーテリオンが放たれた事によりRシステムに必要な魔力が溜まって完成した。

エルザを使ってゼレフを蘇らそうとするジェラール。彼女の涙が落ちた時、二人の怒りの戦士が立ち上がる…………。

 

 

「「ジェラァアァァァルゥゥゥゥゥゥ!!」」

 

 

怒号を上げながら二人はジェラールへと突っ込む。

火竜の鉄拳を放つナツだが、片手で弾かれる。しかし後からビートの鉄拳が彼の顔に命中する。

そこからナツが腹部を殴り、二人の息の合ったコンビネーションでジェラールを押し始める。

 

 

「火竜の翼撃!!」

 

 

「狼牙風風拳!!」

 

 

ヤムチャから直接伝授した乱打技を放つビート。二人の猛撃に吹き飛ばされたジェラールに向かってナツは口を膨らまし、ビートは両手を合わせた掌を突き出す。

 

 

「火竜の咆哮!!」

 

 

「波ああぁぁぁ!!」

 

 

簡略版かめはめ波とナツの放射された炎がジェラールを襲う。被弾して爆煙を上げる中、二人は様子を伺った。

そして予想通り中から黒いローブが破れてボディスーツ姿のジェラールが現れた。

 

 

「その程度か?」

 

 

「くっ!」

 

 

「ヤロウ…………ケロッとしてやがる………」

 

 

「この手で消滅させちまう前に、一度 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の破壊力を味わってみたかっただがな。この程度なら怖れるに足らんな」

 

 

「なんだとぉぉ!!」

 

 

「よくも儀式の邪魔をしてくれたな。オレの天体魔法のチリにしてやるぞ………」

 

 

「っ!待てナツ!何かヤバい気がする!!」

 

 

ビートの静止を聞かずにジェラールに突っ込むナツ。そして彼の予想は的中する。

 

 

流星(ミーティア)

 

 

彼の体が光り出すと一気にナツの背後に回って肘打ちを放つ。更に高速移動をして膝蹴りを喰らわせる。

バサーク以上のスピードだった。反撃しようにも尽く躱され、返り討ちに遭う。

 

 

「くそ!速すぎる!!こういう時は目で追っちゃいけねぇ!臭い、感覚、音!動きの予測!集中!!」

 

 

普段ガラにもない事を言って目を閉じて全神経を集中させる。

 

 

「そこだっ!!」

 

 

そして捉えたように振り返って拳を放つも、彼は更に速度を上げる。

 

 

「お前の攻撃など二度と当たらんよ」

 

 

「があああああああ!?」

 

 

袋叩きにされるナツに、何者かが横槍を入れる。彼の鋭い蹴りがジェラールの横腹を突いた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

一撃を喰らったジェラールはナツに向けての攻撃をやめて距離を取った。

 

 

「貴様………どうやって流星(ミーティア)の速さを………」

 

 

「…………やっぱ駄目だな」

 

 

「何?」

 

 

「俺はこのままじゃ駄目だ」

 

 

「………何が言いたい」

 

 

「………バサークとの戦いでわかったんだ。この先また強え奴がいるってんなら、俺はもっと強くならなきゃ、大切な人も守れねえ」

 

 

「…………」

 

 

「ビート………」

 

 

「俺には一緒にいて欲しい人が沢山いる………だから俺が強くならなくちゃ、みんな失っちゃう………」

 

 

「………じゃあどうするのだ?」

 

 

「お前………俺が何もしていなかったと思ったら大間違いだぞ?俺は寝る間も惜しんで新開発した技があるんだ………今ここで見せてやるよ………」

 

 

溜めの姿勢に入って力を溜め始めるとナツを含めて驚愕の現象が起こる。

 

 

 

「界王拳を………!」

 

 

彼の身体が赤く光り輝き、いつもは水色のオーラから赤いオーラを放つ。

 

 

 

「カイオウケン?」

 

 

ジェラールがオウム返しするも、彼は答えずニヤリと口角を上げる。

そして一瞬。ほんの一瞬であった。

ジェラールの懐に入って腹部に拳打を放った。閃光が弾ける音を立てながら背後に回って蹴り上げる。

ジェラールは空中で止まるもビートも跳躍し、目の前に現れたと思ったら大きく旋回してまたしても背後を取って蹴り落とした。

受け身を取ってバックステップで再び彼等と距離を取る。界王拳を解いて着地して対峙する。

 

 

「成る程な………自身のスピードを上げる技か………だが俺の流星(ミーティア)にはついて来れまい」

 

 

「………試してみるか?」

 

 

瞬間。

ナツの視界から二人が消えた。辺りを見渡すも何処にも居らず、戸惑うナツ。すると遠くにある水晶の柱が砕ける。

更に地面がえぐれ、彼の近くにあった地面から生えた魔水晶(ラクリマ)も砕けた。

目を懸命に凝らして見ると二人はそれぞれ流星(ミーティア)と界王拳を使って戦闘を繰り広げていた。自身でさえも捉えられなかったジェラールの速さにビートは追いつけているのだ。

今の二人にとって周りは最早スローモーションの世界。砕け散った魔水晶(ラクリマ)でさえも映像をスローにしたかのようにゆっくりと宙に舞っている。そんな中でも彼等は激闘する。ジェラールの回し蹴りを躱し、ビートの拳打が避けられる。その際に魔水晶(ラクリマ)に拳や蹴りが当たって砕かれるが、それもゆっくりと宙に舞う。

そしてほぼ同時に解除するとガラガラと魔水晶(ラクリマ)の残骸が崩れ落ちる。

 

 

「す、すげぇ……… あ、アイツら………一体どんな動きをしてやがるんだ………?!」

 

 

「お、ナツもヤムチャ視点になってた?」

 

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

 

ヤムチャ視点。

 

極端にレベルの高い実力者同士の対戦を人並みの傍観者が見た際に起こりうる現象。当事者たちからすれば普通だが、傍観者のから見てその激しい攻防に動体視力が追いつかず、戦況どころか両者の姿すら目視することが出来ない状態の事である。

実際にヤムチャ本人にも界王拳を見せたところ、ナツと同じ感想を述べていた事からビートが勝手に命名した。

 

 

「そんな余裕を言ってられるのかサイヤ人。お前は今ので大分体にガタが来てんじゃないのか?」

 

 

「……………バレてた?」

 

 

「え!?」

 

 

そう。界王拳は上手くいけば力・スピード・破壊力・防御力が全て何倍にもなる技。しかしその分気を激しく消耗して最悪の場合、しっぺ返しを受ける事もありうるハイリスクハイリターンな技である。

先の戦闘の中で、徐々にスピードを上げた事により更に自身の体を虐める事になる。

 

 

「次にその界王拳とやらを使ってしまったら間違いなく立っていられるのもやっとの状態になる………違うか?」

 

 

「ちっ………勘のいいヤツ………」

 

 

「そんな………」

 

 

「もうお前達は終わりだ………本当の破壊魔法を見せてやろう………」

 

 

再び流星(ミーティア)で跳躍すると上空に7つの魔法陣を描く。

 

 

「七つの星に裁かれよ………」

 

 

七星剣(グランシャリオ)!!』

 

 

7つの凄まじい閃光がナツとビートを包み込んだ。その威力は塔の一部から光が吹き出る程である。

爆煙が晴れると二人は地に倒れ伏していた。

 

 

「隕石にも相当する破壊力を持った魔法なんだが………よく体が残ったものだ………」

 

 

激しい戦闘によって地面などがえぐれたRシステムに目をくれると気絶しているエルザに近づく。

 

 

「少し派手にやりすぎたか………これ以上Rシステムにダメージを与えるのはマズイな………。魔力が漏洩し始めてる………急がねば」

 

 

えぐれた地面から綻びのような浮かび上がっているのを視認出来た。

 

 

「なぁ、エルザ」

 

 

黒い笑いを浮かべてエルザに触れようとした瞬間だった。

背後からパラパラと崩れる音が耳に入った。振り返るとボロボロになりながらも何とか立ち上がろうとしているナツとビートだった。ビートの上半身の道着がボロボロになったのを破り捨てる。

 

 

「おいおい、何勝手に終わろうとしてんだ………?」

 

 

「男の意地なら………こっちも負けちゃいねぇ………俺達はまだ戦えるぞ………」

 

 

「………しぶとい野郎だな……………」

 

 

「………この塔、つーか水晶?壊されちゃマズイって訳か………運が悪かったな!!」

 

 

「よせ!!」

 

 

ナツが力一杯自身の近くの地面を叩き割る。それに反応しているところを見ると本当にマズイようだ。

 

 

「ナツや俺じゃなくてこういうのは得意なんだよ………妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士はな………」

 

 

「燃えてきたぞ………今までで最高にだ!!」

 

 

「このガキ共がぁぁぁぁ………」

 

 

ニヒルは笑いを浮かべる二人に対して青筋を立てて怒りを露わにするジェラール。

そこで気を失っていたエルザが目覚める。

 

 

「一瞬で終わらせてやる………立ち上がった事を後悔しながら地獄へ行け」

 

 

「残念だったな、サイヤ人はどうも馬鹿が付くぐらいガンコらしいぜ?」

 

 

「オレもしぶとさには自信があるんだ………やれるモンならやってみやがれ」

 

 

「ほざけ!!」

 

 

ジェラールの腕から高速の魔力弾を放つもしゃがんで躱したり、横転して避ける。

 

 

「どうしたどうした!?」

 

 

「もっと来い!!」

 

 

お望みならばと言わんばかりの巨大な魔力弾を放つ。ガリガリと地面を削りながら二人を押し始める。

 

 

「「はあっ!!」」

 

 

しかし二人の怒号で魔力弾を掻き消した。

 

 

「どうした!?塔が壊れんのがビビって本気が出せないのか?」

 

 

「全く効かなぜ!」

 

 

「いつまでも調子に乗るなよガキ共!!」

 

 

気合砲混じりの衝撃波を浴びせられて吹き飛ばされる。

 

 

「ナツ!ビート!!」

 

 

目が覚めたエルザが叫ぶも、転がりながらもナツは両手の炎を合わせる。

 

 

 

「体持ってくれよ………界王拳!!」

 

 

「何!?」

 

 

ビートは再び界王拳を使うとナツと同じモーションに入って思い切り地面を叩き付ける。

 

 

「火竜の煌炎!!」

 

 

「破あああ!!」

 

 

 

二人の猛撃によって巨大なクレーターが出来上がってニヤリと笑う。

 

 

「オ、オレが………8年もかけて築き上げてきたもの………貴様等ぁ………!!」

 

 

ふるふると震えるジェラールに対して二人の息は既に上がっていた。

 

 

 

(………二人共………立っているのもやっとじゃないか………)

 

 

ビートに至っては全身の骨が悲鳴を上げる程激痛が走っているのだ。

 

 

 

「許さん………許さんぞぉ!!」

 

 

交差させた腕を天高く掲げると膨大な魔力を放った。

 

 

「何だこの魔力!?気持ち悪ィ………」

 

 

「こんな不気味な気………初めてだ………」

 

 

しかもよく見ると彼等の影が光源と逆に伸びる程の魔力量である。

 

 

「無限の闇に落ちろオオ!! 妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士ィィ!!」

 

 

攻撃準備に入ろうとしたその時、二人の前にエルザが両手を広げて守るように立つ。

 

 

「貴様に私が殺せるか!?」

 

 

「エルザ!?」

 

 

「ゼレフ復活に必要な肉体なのだろう!?」

 

 

「………ああ、おおよその条件は聖十大魔道にも匹敵する魔導士の体が必要だ。しかし今となっては別にお前でなくても良い」

 

 

「!!」

 

 

「三人揃って砕け散れ!!」

 

 

「エルザ!どけっ!!」

 

 

「どいてくれエルザ!!俺達がなんとかする!!」

 

 

「………お前達は何も心配するな。私が守ってやる………」

 

 

「「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

 

「天体魔法『暗黒の楽園(アルテアリス)!!』」

 

 

ジェラールから巨大な黒い魔力弾、否小さな宇宙の球体が放たれる。それでも彼女は逃げない。

やがて命中して内側の小惑星が連鎖するように爆発して轟音に包まれる。

 

 

「「エルザァァァァァ!!」」

 

 

二人の哀しみの叫びが響く中、やがて爆煙が晴れる。

そしてそこに立っていたのはエルザではなかった。

ターバンを巻いた大男、シモンが三人の代わりに攻撃を受け止めたのだ。

 

 

「エル………ザ………」

 

 

「シモォォォン!!」

 

 

仰向けに倒れるシモンに彼女が駆け寄って介抱する。

しかし今の彼は最早蝋燭の残り火だ。視界もボヤけ初めて来ている。

 

 

「何でお前が!?逃げなかったのか!?」

 

 

「よ………よかった………いつか………お、お前の……役に…立ち……たかった………」

 

 

「わかった!いいからもうしゃべるな!!」

 

 

薄れる意識の中、彼は涙を流す。

 

 

「お前はいつも………優しくて………優しくて………」

 

 

「シモン ………」

 

 

最後に彼の脳裏に写っていたのは何だろうか。

そこには笑っている一人の少女の姿が写っていた。

 

 

大好き………だった………

 

 

想い人(エルザ)の腕の中で彼は息を引き取った。

 

 

「イヤァァァァァアアア!!!」

 

 

彼女の悲鳴が天高く響く中、男は笑っていた。

 

 

「くだらん!!実にくだらんよ!!そういうのを無駄死にって言うんだぜシィモォォーン !!」

 

 

…………ドックン………ドックン…………

 

 

「大局は変わらん!!どの道誰も生きてこの塔に出られんのだからなァ!!」

 

 

 

 

ドックン………ドックン………

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いた。

 

 

エルザがまた泣いた。

 

 

何で?何で泣いているのエルザ?

 

 

シモン が死んだから。

 

 

誰がやった?

 

 

誰が泣かした?

 

 

 

 

 

何でコイツは笑っているんだろう?

 

 

何で泣いているエルザに向かって笑っているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツが殺したから。

 

 

コイツがシモン を殺した。コイツがエルザを悲しませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コイツがエルザを泣かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブツッ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ゾクッ

 

 

 

「!?」

 

 

一瞬背筋が凍った。

それは何故か?反射的にビートの方へ向いた。

 

 

彼の体からユラユラと帯のような魔力が立ち上っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間。

 

 

彼は金色のオーラを纏った。

 

 

その直後、彼の周りにあった一つの魔水晶(ラクリマ)に稲妻が走って砕けた。更に別の場所が砕け、遂には周囲の魔水晶(ラクリマ)が連鎖的に割れる。

 

 

 

「うあああああああああああああ!!!!」

 

 

髪が逆立ち、白目を向く。

それを見た直後彼は恐怖した。だが、それだけで終わらない。

 

 

「うがあああああああああああああ!!!!」

 

 

獣のような怒号を上げるナツ。ナツから巨大な魔力を放っていた。

 

 

(コイツ………エーテリオンを喰ってやがる!?いや、まだそれならわかる!だが………アイツに何処にこんな魔力が…………!?)

 

 

サイヤ人は大猿にしか変身しないし、彼の尻尾はウルティアの報告によればエルザが切った。

そこで思い出す、彼の脳裏にもう一つの仮説が………。

 

 

 

「ま、まさか!!貴様がそうなのか!?貴様が………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スーパー)サイヤ人なのか!?!?”



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其の36 (スーパー)サイヤ人だビート

彼の目の前に立つ二人はありえない現象を起こしていた。

ナツはエーテリオンを喰らって巨大な魔力を放っているに対し、ビートに至っては金色のオーラを纏い、両者咆哮を上げていた。

どちらも死にかけだったはずなのにこの魔力の量である。ナツはエーテリオンを喰って魔力を上げたのはまだわかる。

しかしビートの場合は自ら魔力を跳ね上げた。それもナツに劣らない、否下手すればそれを越える程の………。

そんなナツは更に魔力を上げようと地面を叩き割り、漏れた魔力を喰らい続ける。

 

 

「なんて馬鹿な事を!エーテルナノには炎以外の属性も融合されているんだぞ!?」

 

 

苦し始めるナツを尻目に、金色のオーラを纏ったビートがジェラールに突っ込んで来る。

ナツに気を取られていたのか一瞬遅れて彼の拳が左頰に命中する。地面を削って吹き飛ばされた。

頰に命中した際に金色の光がユラユラと傷痕のように残っていた。そこから更にビートは駆け出して飛び蹴りを喰らわせる。

吹き飛ばされたジェラールは塔から放り出されるも、急速に彼の背後を取って蹴りでまた塔の中へと投げ入れた。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

 

 

雄叫びを上げてジェラールに突っ込むビートを見てエルザは彼の変化に驚愕する。

 

 

(な、なんと………ビートにこんな力がまだあったとは………。ま、まさか!?マスターが言っていた(スーパー)サイヤ人の力だというのか!?)

 

 

両手を組んでジェラールに振り下ろし、地に叩き付ける。

そこに今まで苦しんでいたナツに変化が訪れる。彼の背後から(ドラゴン)を形作った炎が翼を広げて吠えるように現れる。

さらに彼の顔に(ドラゴン)の鱗のようなものも浮かび上がっていた。エーテリオンを完全に取り込んでジェラールに飛び膝蹴りを喰らわせ、地面に叩き付けて床を突き破る。

 

 

「お前がいるから!!エルザは涙を流すんだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「があああああああああああああ!?!?」

 

 

「オレ達は約束したんだ………」

 

 

ここに来る前にシモンに言われた一言。

 

 

エルザを頼む。

 

 

それだけの言葉が彼等に取ってはどれだけ重い言葉か………。

 

 

「約束したんだあああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「くっ、 流星(ミーティア)!!」

 

 

下に落とされるナツから脱出して上昇するジェラール。自身のスピードには流石のナツにも追いつけやしない。

しかし彼は忘れている。

もう一人の超戦士を。

界王拳の何倍ものスピードでジェラールに追い付いてビートの鉄拳が減り込んだ。

 

 

 

「でえありゃあああああああああ!!!」

 

 

「ごばぁ!?」

 

 

彼は高く打ち上げられるも態勢を立て直す。

 

 

「オレは………オレは負けられない!!自由の国を作るのだ!!」

 

 

巨大な魔水晶(ラクリマ)の柱を壁蹴りするように駆け登り、上空にまで達する。

 

 

「痛みと恐怖の中でゼレフは囁いた!真の自由が欲しいかと呟いた!!そう………ゼレフはオレにしか感じる事が出来ない!!オレは選ばれし者だ!!オレがゼレフと共に真の自由国家を創るのだ!!」

 

 

「それは人の自由を奪って創るものなのかぁぁぁぁ!!」

 

 

「世界を変えようとする意志だけが歴史を動かす事が出来る………貴様等には何故それがわからんのだぁ!!」

 

 

宙に素早く術式を組むと巨大な魔法陣を描いた。

 

 

煉獄砕破(アビスブレイク)!?塔ごと消滅させるつもりか!?」

 

 

「なっ!?」

 

 

ビートが驚愕したほぼ同時に金色のオーラが解かれた。そしてとてつもない脱力感に見舞われる。

それを見た瞬間ジェラールはほくそ笑む。

 

 

「どうやらそれは長くはもたないようだな………残念だったなサイヤ人。また8年………いや、今度は5年で完成させてみせる………ゼレフ……待っていろ………」

 

 

「まだだぁ!!」

 

 

ビートは天高く両手を広げる。

 

 

(ナツはエーテリオンを喰らって魔力を上げた。なら俺にも出来るはず!!頼む!エーテリオン!!ほんの少しでもいい………俺に()()を分けてくれ!!)

 

 

「それは何の真似だサイヤ人?お手上げの降参のつもりか?だが、残念だがお前達はここで死ぬのだ!!」

 

 

ビートがしようとしている技。それは『元気玉』である。

元気玉。

草や木、人間や動物。果ては物や大気に至るまでのあらゆるエネルギーをほんの少しずつ分けて貰いそれを集合して放つ技。現段階でビートが作れるのはソフトボール程の大きさ。それでも威力は下手をすれば山を消せる程の威力を誇る。

ただしこれは作るのに時間が掛かる技である。最短でも5分は必要だが、彼は大量の魔力を保有しているエーテリオンから元気を貰おうとしていたのだ。

 

 

(頼む!僅かでもいい!!俺に………俺に力を!!………俺はエルザの事は何も知らなかった。一番一緒に居たのに彼女の壮絶な過去を知るよしもなかった………。だから………だからこそエルザが泣かないようにする為に力が必要なんだ!!)

 

 

“どうか護らせて下さい………”

 

 

 

「俺の!!大切な人をおおお!!

 

 

瞬間。

エーテリオンの下から一筋の光が駆け昇り、彼の足元に集まった。そして伝わる、元気が溜まった感覚を。

右手に集中させると純白の光の球を作り出した。混じり気のない綺麗な白い球を………。

そしてジェラールという悪の気を捉えると目一杯投げ付けた。

 

 

「喰らえ元気玉!!」

 

 

元気玉は真っ直ぐにジェラールに向かう。

そして元気玉は彼に直撃………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニッ」

 

 

しなかった。顔の横をスレスレで躱したのだ。

 

 

「残念だったな………折角の元気玉を…………」

 

 

「何勘違いしてるんだお前ぇ?」

 

 

「何っ!?」

 

 

振り返ると跳躍したナツが両手を組んでジェラールを捉えていた。

 

 

「自分を解放しろぉぉ!!ジェラァアァァアァァル!!!」

 

 

向かって来る元気玉を打ち下ろして再び彼へ真っ直ぐに向かった。そしてそれが接触した瞬間だった。

 

 

 

「ガア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!?!?!?」

 

 

まるで天変地異が起こったように稲妻が彼を襲った。それはまるで雷雲の中に入ってしまったかのように、全身に激痛が走る。

 

 

 

「ヴオ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

 

 

膨大な光に包まれ、ジェラールは天高く打ち上げられてやがて光が晴れるとエーテリオンに突っ込むように落ちて行った。

 

 

(これが………二人の真の力………)

 

 

佇む二人の背を彼女は静かに見ていた…………。

ゆっくりとこちらを向くとナツの顔に浮かんでいた竜の鱗がいつの間にか消えていた。

 

 

(私の………8年にわたる戦いは終わったんだ………これでみんなに本当の自由が………)

 

 

嘆息をするとナツが糸の切れた人形のように急に倒れる。

 

 

「ナツ!!」

 

 

ビートが何とか支えてエルザも駆け寄り、二人を抱きしめた。

 

 

「エルザ………」

 

 

「お前達は凄い奴だ………本当に…………」

 

 

安堵している周りに地震が起こる。

さらに魔水晶(ラクリマ)に充満していた魔力が弾けるように漏れ出す。

エーテリオンが暴走し始めているのだ。元々大量の魔力を一箇所に留める事自体が不安定だったのだ。

 

 

「ビート、急ぐぞ!!」 

 

 

「うん!!」

 

 

飛んで脱出する手も考えたが、元気玉を使用した際にもう舞空術を使う気も残っていないのだ。仮に出来たとしても弾け飛ぶ魔力に被弾する可能性もある。ビートはナツを背中に担いで彼女と脱出を試みる。

その場から離れようとした時、二人の目に倒れ伏すシモンが目に入った。実質彼のお陰でジェラールに勝てたのだ。亡骸は役目を終えたようにズルズルと溝に落ちて言った。

二人はその様子を現実だと受け止めて脱出して行った。ナツをおぶりながら崩壊する塔を駆ける。不安定な足場を飛び越えて更に進もうとすると塔が大きく肥大化する。

 

 

「うぉあっ!」

 

 

「ビート!」

 

 

不安定な足場でこけてしまうビート。エルザが駆け寄ると、周りも肥大化し始めてきた。このままでは外に出ても全員暴発に巻き込まれてしまう。

 

 

「くそっ!!ここまでかよ!!」

 

 

跪きながら地面を殴って悔しがるビートに彼女はある事を決意する。

目の前にあった表面が鏡のように綺麗に写る魔水晶(ラクリマ)の前に歩み寄る。

小首を傾げていると彼女はその魔水晶(ラクリマ)に手を突っ込んだ。水の中に入るように波紋ガ広がって彼女を取り込もうとする。

 

 

「エルザ!?何を!?」

 

 

「な、何してんだよ………お前……体が水晶に………」

 

 

気絶から目が覚めたナツもビート共々驚愕する。

 

 

「じきにこの塔はエーテリオンの暴走により大爆発を起こす………。しかし私ガエーテリオンと融合して抑える事が出来れば………」

 

 

「バカヤロウ!そんな事したらお前がっ!!」

 

 

魔水晶(ラクリマ)が彼女と認識し始めて体がどんどん吸い込まれるように水晶に入っていく。それを目撃した二人は駆け出す。

 

 

「エルザ!!」

 

 

「何も心配しなくていい。必ず止めてみせる………」

 

 

「やめろおおおおおおおおおおお!!」

 

 

取り込まれている水晶の前に来るとビートの頰を優しく撫でる。

 

 

「私は妖精の尻尾(フェアリーテイル )無しでは生きていけない………仲間のいない世界など考える事も出来ない………。私にとってお前達はそれ程に大きな存在なのだ………」

 

 

「エルザ……」

 

 

「私が皆を救えるのなら……何も迷う事はない。この体など……」

 

 

くれてやる!!

 

 

その声と共に完全に彼女は水晶の中に呑みこまれた。二人は水晶を壊さんとばかりに殴り付けるも、既に両者魔力がほぼ無くなっている今、ただ水晶を響かせる事しか出来なかった。

 

 

「エルザ!出て来いエルザ!!」

 

 

「こんなのぶっ壊して…………」

 

 

「………ナツ……ビート。皆の事は頼んだぞ………私はいつもお前達の側にいるから………」

 

 

片方の瞳から涙を流し、水晶の奥へと消えていく彼女を見て、二人の叫びが崩壊する塔に響いた。

 

 

 

「「エルザアアアアアアアアアアアア!!」」

 

 

やがてエーテリオンは空に。空中に流れていき、エーテリオンは天に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああ!?!?」

 

 

それは遠い記憶の話。

修行をしていた小さな少年のビートが恐竜に追われていた。全力疾走で逃げてるが恐竜と人間では差がありすぎてあっという間に距離を詰められる。

大口を開けて彼を捕食しようとしたその時である。恐竜の頭上に轟音が響いた。強烈な一撃を貰った恐竜はなす術なく白目を向けて気絶した。その者が綺麗に着地すると少年に歩み寄る。

 

 

「大丈夫だったかビート?」

 

 

「うう………エルザ〜」

 

 

ひしっと泣きながら少年、ビートは紅髪の少女、エルザに抱きついた。そんな彼をエルザは宥めるように優しく撫でた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「何やってんだよアホビート!!」

 

 

「いでっ!?」

 

 

銀髪の少女がビートの頭上にゲンコツを下す。銀髪をポニーテールにまとめてパンクな格好をした以下にも不良少女と言わんばかりな彼女こそミラジェーンである。

 

 

「お前はまだ小せぇから山で修行するなって言ってんだろ!!」

 

 

「うぅ〜だってだって………もっと強くなくて………」

 

 

「そしたらナツとかグレイとかで対決すりゃあいいじゃねぇか!」

 

 

彼女が指を指す方向にはいつものように喧嘩をしているナツとグレイがいた。

 

 

「やだよ………家族同士で喧嘩しちゃダメだ…………」

 

 

「お前!男のクセになんて弱気なヤロウだ!エルフマンか!!」

 

 

「え!?」

 

 

奥にいたエルフマンがビクッと震える。

 

 

「だって………だって………」

 

 

「まぁそう責めるな」

 

 

「むっ」

 

 

泣きかけるビートの前にエルザがミラジェーンと対峙する。

 

 

「ここは私の顔に免じて許してやらないか?」

 

 

「エルザァ………」

 

 

「但し」

 

 

「ひっ」

 

 

振り返ってビートに向いて優しく頭を撫でる。

 

 

「山に行くにはせめて大きくなってからにするんだ。できるな?」

 

 

「…………ふぁい………ごめんなさい」

 

 

また泣きついて彼女に抱きつく彼女にミラジェーンは舌打ちを立てて奥に行った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「エルザ〜!」

 

 

「む、ビートか。どうかしたか?」

 

 

剣の素振りをしているとトテトテとビートがやってくる。

ニコニコと笑う彼に首を傾げてると手に持っていた代物をエルザに見せた。

 

 

「コレ!リサーナから教えてもらって作ったんだ!!」

 

 

手に持っていたのは花冠だった。

 

 

「何回も練習してやっと綺麗に出来たよ!」

 

 

「そうか………それは凄いな………」

 

 

「うん!コレ、エルザにあげる!!」

 

 

「い、いいのか!?折角綺麗に出来たものを………」

 

 

「うん!だってエルザにプレゼントしようと頑張って何回も練習したから!!」

 

 

彼の無垢な笑顔にエルザは思わず涙した。

 

 

「ビート………ありがとう………」

 

 

「………あれ?エルザ………」

 

 

「どうした?」

 

 

「なんで………なんで片方涙が流れてないの?」

 

 

「え、あぁ…………いいんだ。私はもう半分の涙は流しきったからな………」

 

 

「………」

 

 

それを聞いた彼はしばしエルザを見つめると、自身の両の頬をつねった。

 

 

「うううううう」

 

 

「な、何を!?」

 

 

「エルザは半分の涙は流しきったんでしょ?」

 

 

「う、うむ………」

 

 

「じゃあエルザがもう片方から涙が流れる分だけ俺が泣いてあげる。そしたらエルザは両方から涙が出た事になるから………」

 

 

「………ふ。お前と言う奴は………」

 

 

頑張って泣こうとするビートに彼女は優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「………………!ここは………」

 

 

彼女が目を覚めると星空が広がっていた。満月が写る綺麗な空が。

するとバシャバシャと海を駆ける音が耳に入った。

そちらの方に向くとルーシィ達が駆け寄って来ていた。

 

 

「良かった無事で!」

 

 

「どんだけ心配したと思ってんだよ!」

 

 

「姉さーーん!!」

 

 

「ど、どうなっているんだ………生きているのか私は………」

 

 

そして今の自分に気付く。自身の姿勢が横になっている事に。別の方へ顔を向けると、満月を背に彼女を横に抱えているボロボロになったビートの姿が………。

普段は鎧を身に纏っていてわからなかったが、今だと細くて華奢な彼女を彼はしっかりと抱えていた。

 

 

「ビート………。お前が私を?それにナツは………」

 

 

彼が顔を横に向け、それに釣られて向くと海に浮かんでいる薄い気の膜に入ったナツがこっちに手を振っていた。

その中には息を引き取ったシモンも入っていた。

 

 

「アイツにはせめて………ちゃんとしたところで眠らせようと思って………崩壊する中で見つけたんだ………」

 

 

残った気を振り絞ってナツとシモンを膜に入れて救出。その後、渦巻く魔力の嵐の中でエルザを見つけて助けたのだ。

 

 

「………夢を………見たんだ………」

 

 

「夢………」

 

 

「小さい俺が泣いているエルザに俺も泣いてあげるって言ってる夢………」

 

 

先程自身も見た夢の内容だった。

 

 

 

「今だって泣いているでしょ?だから今回俺も泣いてあげるから約束してくれ………二度とあんな事をしないで………」

 

 

「ビート………」

 

 

「わ"がっだ!?」

 

 

既に顔が涙まみれになっているビートはエルザに葛藤する。

そんな彼に彼女は微笑んで自身の額とビートの額をくっつける。

 

 

「うん………ビート………ありがとう」

 

 

そう………仲間の為に死ぬのではない………仲間の為に生きるのだ…………。

それが幸せな未来に繋がる事だから…………。

 

 

その時の彼女は両方の目から涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 



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其の37 強く生きよ

ジェラールとの激闘の後、一行はリゾートホテルに戻っていた。

ほぼ全員が怪我をし、治療を施したが特に酷かったのは彼だった………。

 

 

「んごぉぉぉぉぉ………」

 

 

「ナツーー!ルーシィがメイドのコスプレで歌って踊ってみんな引いてるよ!」

 

 

「そんなんで反応されて起きてもらっても優しくだけど………」

 

 

「…………ぷ」

 

 

「寝ながら笑うな!!」

 

 

ベッドで大の字でイビキを掻いて爆睡してるナツである。あの戦いから3日も起きてないのだ。理由は一つ、エーテリオンを摂取したからだと思われる。エーテリオンには炎の以外にも属性が混じっていた為、普通は炎以外受け付けない彼にとって毒そのものである。下手すれば生死を彷徨っていたかもしれない………。

 

 

「そういえばあのエレメント4の娘は?」

 

 

「ああ、ジュビアなら 妖精の尻尾(フェアリーテイル )に一刻も入りたいって言って先に帰っちまった」

 

 

「そうか………聞けば世話になったようだし、私からマスターに稟請してもよかったのだがな………」

 

 

「つーかエルザ、お前は寝てなくてもいいんか?」

 

 

「ん、見かけ程大した怪我ではない。エーテリオンの渦の中では体は組織レベルで分解された筈なのだがな」

 

 

「分解って………本当に奇跡の生還だったんだな………」

 

 

正直彼女にも何が起こったのかわからなかった。しかしあの時見た昔の出来事が頭の中で浮かんだのは覚えている。

 

 

「何はともあれ流石はエルザだな。勝手に毒食ってくたばってる間抜けとはえらい違いだ」

 

 

「今なんつったグレーーーイ!!」

 

 

「起きたーーーー!!」

 

 

どんなに声を掛けてもテコでも起きなかったナツがグレイの言葉に反応して眠りから覚めた。

 

 

「素敵な食生活デスネって言ったんだよバーカ。てかお前フクロウのエサになってなかったか?食う方か?食われる方か?どっちなんだよ食物連鎖野郎」

 

 

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ………くかー」

 

 

「寝たーー!?絡む気がねぇなら起きんじゃねぇ!!」

 

 

その様子に一同は笑う。その時、ルーシィは何かに気付いてエルザに尋ねた。

 

 

「エルザ、ビートを見てない?なんかアイツ朝から見てない気がするんだけど………」

 

 

「あぁ、ビートなら………」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

海岸の奥のヤシの木の森林。

その中心に木を組んで十字架にさせたものを立てた前にビートは手を合わせていた。エルザを守ってくれたシモンにせめてちゃんとした場所で眠って欲しいと思い、彼の遺体をナツと共に気の膜で覆っておいて、その後墓を建てたのだ。

綺麗な海が見える位置に………。

 

 

「……………」

 

 

彼が居なかったからジェラールに勝つことが出来なかったし、下手すれば全員死んでいた。それを彼が身を挺して守り抜いたのだ。シモンという人物は立派な魔導士であり、偉大な漢である。

手を合わせ終えたビートはエルザ達の元に帰ろうと立ち上がった。

 

 

『ビート………エルザを頼んだぞ』

 

 

「えっ!?」

 

 

声が聞こえ、ばっと振り返るが誰もいない。気のせいかと思い、彼はその場を後にした。

その声の主は亡霊から解放されて清い心になった者に聞こえた気がした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「本当に俺達やっていけるのかナ?外の世界でヨ」

 

 

「みゃあ」

 

 

「やっていけるかどうかじゃないよ!やっていかなきゃ」

 

 

ショウ達はナツ達と脱出した後、今後はどうしようかと悩んでいたところ、エルザが 妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入らないかと提案して初めは喜び、ナツ達とも打ち解けていった。

しかし彼等が取った選択肢は自分達の意思で外の世界を渡ることである。これ以上エルザに迷惑をかけるわけにはいかない。ショウ達は荷造りを終えると小舟に乗り始める。

 

 

「行こう!姉さん達がオレ達に気付く前に出発するんだ!」

 

 

「だな!なんとかなるゼ!」

 

 

「元気最強ーー!」

 

 

「お前達!」

 

 

「お前達!!」

 

 

『!!』

 

 

聞き覚えのある声に振り返ると、やはりバレてしまってここまで来たエルザだった。

ショウ達は驚愕するも、黙ってこちらを見る彼女に物申した。

 

 

「と、止めても無駄だゼ………。オレ達は自分で決めたんだ………」

 

 

「…………」

 

 

「オレ達はずっと塔の中で育ってきた。これから始めて外の世界に出ようとしてる………。わからない事や不安な事がいっぱいだけど、自分達の目でこの世界を見てみたい。もう誰かに頼って生きていくのは嫌だし………誰かの為に生きていくのも御免だ………」

 

 

「…………」

 

 

「これからは自分の為に生きて、やりたい事は自分の手で見つけたい。」

 

 

それがオレ達の自由なんだ。

 

 

決意したショウの瞳を見ると彼女は微笑む。

 

 

「その強い意志があればお前達は何でも出来る。安心したよ………。だが妖精の尻尾(フェアリーテイル )を抜ける者には三つの掟を伝えねばならない。心して聞け」

 

 

「ちょ!?抜けるって入ってもないのに………」

 

 

ラフな格好から換装すると鎧の姿になるが、その姿は式典で見るような何も能力の無い鎧で、右手には 妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマークが入った旗が握られていた。

 

 

「一つ!妖精の尻尾(フェアリーテイル )の不利益になる情報は生涯他言してはならない!

二つ!過去の依頼者に濫り接触し、個人的な利益を生んではならない!!」

 

 

「姉さん………」

 

 

「三つ………!」

 

 

彼女は今まで我慢して溜めていた涙が溢れる。

 

 

「たとえ道は違えど………強く、力の限り生きなければならない!決して自らの命を小さなものとして見てはならない!!」

 

 

その言葉にショウの瞳からも涙が溜まる。

 

 

「愛した友の事を生涯忘れてはならない!!」

 

 

黙って聞いていたウォーリーやミリアーナも涙が出始める。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )式壮行会!!始めェ!!」

 

 

「お前等ーーー!!また会おうなーーーー!!」

 

 

「達者で暮らせよーーーーーー!!」

 

 

 

彼女が声高らかに旗を上げると背後にいたナツとビートが手を振り、ナツは口から小さな炎の球を空へ打ち上げると橙の花火が広がった。

 

 

「心に咲けよ!光の華!!」

 

 

さらにそこからグレイが氷を打ち上げると雪の結晶のような花火が広がり、ルーシィは星霊の鍵を上に向けると光の花火が広がる。

 

 

「じゃあ俺も………」

 

 

ビートは右手でピストルの形にし、上に向かって放つと一筋の光が昇る。

 

 

「弾けろ!どどん波!!」

 

 

光に向かって叫ぶと弾けて黄色の花火が出来る。

 

 

 

「私だって本当はお前達とずっといたいと思っている………だが、それがお前達の足かせになるのなら………この旅立ちを私は祝福したい………」

 

 

「逆だよぉぉエルちゃぁぁん………」

 

 

「オレ達がいたらエルザは辛い事ばかり思い出しちまう………」

 

 

「何処に居ようとお前達の事は忘れはしない………そして、辛い思い出は明日への糧となり、私達を強くする。誰もがそうだ。人間にはそうできる力がある。

強く歩け。私も強く歩き続ける………。この日を忘れなければまた会える………」

 

 

元気でな。

 

 

「姉さんこそ…………」

 

 

「バイバイエルちゃーん!」

 

 

「ゼッタイまた会おうゼ!約束だゼ!!」

 

 

「あぁ………約束だ…………」

 

 

その日は空に煌びやかな色とりどりの花火が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で、評議院は責任問題が大きすぎて暫く正常に機能しないでしょうね。もしかしたら組織解体もありえるわね」

 

 

 

とある屋敷の中のバスルームにて黒髪の女性、ウルティアが通信魔水晶(ラクリマ)で誰かと話していた。

魔水晶(ラクリマ)から男の声が発せられる。

 

 

『ご苦労だったなウルティア。…………で、ジェラールはどうなった?』

 

 

「さぁ?死んだんじゃないかしら?」

 

 

彼の側近だったのにも関わらず素っ気なく返す。

 

 

『利用していると思っていた女に逆に利用されていたとも知らずに……気の毒な男よ………』

 

 

「ふふ、私は楽しかったわよ。彼かわいいんだもん」

 

 

そう。

彼、ジェラールはそもそもゼレフの亡霊など取り憑いていない。楽園の塔に忍び込んでいた彼女が亡霊のフリをしていたのだ。簡略的に言えば洗脳。8年間ジェラールは洗脳されていただけにすぎなかった。

 

 

『評議院全体を巻き込んだ騒動。エーテリオンの投下。全ては計画通り………』

 

 

「そう………ジェラールが暴走している隙に貴方は自由に動けるものね」

 

 

『お陰で封印を解く鍵が一つ我がものに………』

 

 

「おめでと♪」

 

 

風呂から上がったウルティアは通信を切って自身の体を拭いてバスタオルを巻く。

 

 

 

「ふふ、ごめんなさいねジェラール()。貴方には初めからゼレフを生き返らす事なんて出来なかったの。………いいえ、誰にもゼレフを生き返らす事なんて出来ないのよ………」

 

 

 

“だってゼレフはずっと生きているんですもの………今はまだ眠っているだけ………”

 

 

彼女は机に開いてある本の一文を撫でる。

 

 

 

「それにビート………貴方はまだなれてないのよ………(スーパー)サイヤ人にね………」

 

 

撫でた文の隣には金色のオーラを纏って雄々しい背を見せる男の絵が描かれていた………。

 

 

 

 



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其の38 ビートの愉快な一日

ショウ達と別れ、アカネビーチから帰ってきたナツ達。マグノリアの街に着き、ギルドがある場所へ行くと一行は驚愕する。

 

 

「おお!?」

 

 

「完成したのか!?」

 

 

「新しい妖精の尻尾(フェアリーテイル )!!」

 

 

目の前にあったのは前のよりも大きく、ギルドというよりもちょっとした城っぽいデザインとなっていた。

ギルドメンバーがナツ達に気付いて出迎える。ナツに至っては口を開けて呆気に取られていた。

入り口にはオープンカフェがあり、グッズショップまであった。Tシャツやリストバンド、果てはナツ達のフィギュアまで売ってあった。

 

 

「お、帰って来たか。中も凄くなってるよ」

 

 

「カナ!」

 

 

彼女の後をついて行くと以前よりも遥かに広くなって中央にはステージがあった。他にもウェイトレスの格好も何処と無くレースクイーン感があった。さらに酒場の奥にはプール。地下には遊技場。一番大きく変わったのは2階。S級魔導士でなくても行けるようになり、S級クエストに行くにはS級魔導士の同行があれば行ける事が可能になった。

新たなギルドに興奮しているとマカロフが一人の女性とやって来る。

 

 

「帰ってきたか。早速じゃお前達に紹介しよう………」

 

 

「あ!」

 

 

「新メンバージュビアじゃ。かわええじゃろぉ」

 

 

マカロフの隣には藍色のコートではなく水色の半袖の洋服を纏い、髪もロール髪からショートになっていたジュビアだった。

胸元には妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマークの飾りをつけていた。

 

 

「はは!本当に入っちまうとはな!」

 

 

「アカネビーチでは世話になったなジュビア」

 

 

「およ?知り合いか?」

 

 

「皆さんのお陰です!ジュビアは頑張ります!」

 

 

にこやかな笑顔を見せる彼女にマカロフはエルザに耳を貸す。

 

 

 

「知っとると思うがこやつは元々ファントムの………」

 

 

「ええ、心配には及びません。今は仲間です」

 

 

「そーかそーか。ま、仲良く頼むわい。それならもう一人の新メンバーも紹介しとこうかの………ホレ!挨拶せんか」

 

 

「他にもいるの!?」

 

 

マカロフから呼ばれたテーブルに座っていた男がこちらに振り返って向かって来る。そして一行はその人物に驚愕する。

鉄の飾りのをした黒い袖無しコートに腰まである黒髪の男、『鉄の 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)(くろがね)のガジル』である。

 

 

「何でコイツが!?」

 

 

「マスター!こりゃあ一体どういう事だよ!」

 

 

「待って!ジュビアが紹介したんです!」

 

 

「ジュビアはともかく。コイツはギルドを破壊した張本人だ」

 

 

警戒する一同にガジルはそっぽ向いた。ギルドを破壊したのはジョゼの命令によるものなので彼の好意で行ったので仕方なくやった事だ。マカロフ曰く『昨日の敵は今日の友』という事で入れたそうだ。

柱の陰でレビィもビクビクしながら気にしてないと言っているが、その側にいたジェットとドロイは彼を睨んでいた。

そんな彼にナツはヅカヅカと怒りを露わにしながら突っ掛かる。

 

 

「冗談じゃねぇ!!こんな奴と仕事出来るか!!」

 

 

「安心しろ、慣れ合うつもりはねぇ」

 

 

「なっ!?」

 

 

「オレは仕事が欲しいだけだ。別にどのギルドでもよかった。まさかムカつくギルドで働く事になるとはうんざりだぜ」

 

 

「んだとォ!?」

 

 

睨み合う二人にジュビアがグレイに伝える。

 

 

「ガジルくんっていつも孤独でジュビアは放っておけなくて………あ、あの!好きとかそーゆーんじゃないんです!」

 

 

「道を間違えた若者を正しき道に導くのもまた老兵の役目……彼も根はいい奴なんじゃよ……と信じたい」

 

 

 

「それがマスターの判断なら従いますが、暫くは奴を監視した方がいいと思いますよ」

 

 

「……はい」

 

 

少しイザコザがあったが一同は改めて新しいギルドを楽しむ。するとルーシィはある事に気付く。

 

 

「あれ?ビートは?」

 

 

「ビートさんなら依頼書持って張り切ってクエストに行きましたよ」

 

 

「早くないアイツ!?」

 

 

ジュビアの言葉にガジルはニヤリと口角を上げた。

 

 

「そーかそーか。クエストに行ったのか………」

 

 

「何が言いたい?」

 

 

「いやぁ………もしかしたらアイツと会うかもしれないぜ?」

 

 

彼のアイツという言葉に全員の脳裏にある人物が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ビートは山の小道をウキウキして歩いていた。新しくなったギルドに嬉しさのあまり、その勢いのままクエストに行っているのだ。

クエストの内容は薬草を採取するという至って簡単な仕事だが、彼ならすぐに終わるだろう。だから今日はノルマ5個の仕事をこなそうと考えていた。

 

 

「さーて薬草くんは何処かな〜」

 

 

抜けた声で返事もしない薬草を探していると…………。

 

 

「随分気の抜けたセリフだな。旅行に行って浮かれすぎてんじゃないのか?」

 

 

聞き覚えのある声が耳に入った。

その声の方向にバッと向くと、木の枝に仁王立ちでこちらを見下ろすたくましい腹筋を持つ黒の長髪の少年、バサークがいた。

 

 

「バサーク!?何でここに!?」

 

 

「夕飯を狩っていたところに誘われたんだ。ジュビアやガジルもそこに入ると聞いて少しはメシに困らないと思って入った。ま、味次第だがな」

 

 

「そ、そんな………バサークが入るなんて…………」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ !!!」

 

 

どっから出してんだその声という程の嘆きの叫びをする。すると彼が珍しく慌て始めた。

 

 

 

「ば、馬鹿!大声を出すな!!」

 

 

 

「んぇ?」

 

 

バサークの言葉に首を傾げると背後から虫の羽の音が耳に入った。恐る恐る振り返ると通常よりも何倍もの大きさの巨大カブト虫『ギガホーン』がこちらを見ていた。

 

 

「ギャアアァァァァァ!?ムシーーーーーー!!」

 

 

 

「だから言っただろうがああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

ギガホーンから吐き出される炎から二人は仲良く逃げて行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「うぅ……こんな事になるなんて……… あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ !!!

 

 

 

「だから大声出すなって!!」

 

 

「え………ギャアアァァァァァ!?ニワトリィィィィ!!」

 

 

バサークによって倒したギガホーンの後ろからこれまた巨大な鶏『グランドチターキー』が大きな足音を立てて二人に襲い掛かって来た。二人はまた仲良く逃げ出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………もうやだぁ…… あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ !!!

 

 

「いや、もう絶対無駄な体力使ってるってコレ!!」

 

 

 

首がキリンのように長く首を曲げて一つの輪を作り、キリンの黄色を緑にし、馬のような動物『ジラフットホース』に追いかけ回される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「あ ァ ァ ァ ん ま り 「黙れもうテメェ!!」

 

 

また大声で叫ぼうとするビートにバサークが激を飛ばす。その背後にら巨大な芋虫『タイラントワーム』が体を大きく反って迫り来る。

二人の目の前には大樹があり、その先は崖ではあるが飛んで垂れていた蔓にしがみつく。

 

 

「わあああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「危ねぇ!!」

 

 

掴むのを失敗して落ちそうになるビートを右脚を掴んで難を逃れる。タイラントワームは彼を食べようと飛んでしまい、崖から真っ逆さまに落ちる。

 

 

「全く……こんなんで死ぬんじゃねぇ。お前を倒すのは俺だからな………」

 

 

「う、上!バサーク上!!」

 

 

「はぁ?上?………っておお!?」

 

 

逆さまで青ざめるビートを怪訝しながら上を向くと、青い毛並みが特徴的な巨大な虎『ブルーノートタイガー』が二人を睨むように見下していた。理由は簡単。バサークが掴んでいるのは蔓ではなくブルーノートタイガーの髭だからだ。木で寝ている所を彼が引っ張った所為で眠りから覚めてしまった。

錆びたブリキの人形のような音を立てながらゆっくり前の蔓を見る。すぐその蔓に飛び移ると向こうも木から降りようと立ち上がる。

揺れる中もう1本の蔓に飛び移った所でビートを向こうへ投げた。頭から着地し、すぐに起き上がると彼の眼前には青の虎が回り込んでこちらを見ている。バサークはすぐに蔓をよじ登って枝に辿り着く。そしてそのまま走り出して飛ぶ。

 

 

「そこ動くんじゃねぇぞオラァァァァァ!!

 

 

ぐるぐる回転して虎の頭上にかかと落としを喰らわせた。

 

 

「このドラネコが………」

 

 

強烈な一撃を喰らったブルーノートタイガーが白目を向いて沈んだ。

 

 

 

「あ、危ねぇ〜。助かった………早いとこここからもう出よう。デカいやつに追い掛けられるのはたくさんだ………」

 

 

「お前………フラグ立てんなよ」

 

 

「大丈夫だろもうこの辺りにデカいやつが現れるような感じはないし………」

 

 

瞬間。

ピストルが発射された音が耳に入った途端、ビートの頬を横切った。

 

 

「今度は何!?」

 

 

放たれたのは大樹の周りの木の枝にワラワラと小柄な赤い二つの角を持った猪が出て来た。

 

 

「げっ!?『バレットボア』!!」

 

 

「バレットボア?」

 

 

「『弾丸(ダンガン)イノシシ』とも呼ばれる奴だ………」

 

 

何故そう呼ばれているかと言うと。

一匹のバレットボアが後ろに引いて駆け出そうとすると、弾丸の如く発射されて地面に減り込む。弾丸イノシシと呼ばれているのはそう言う意味。

次々と砲弾が高速で発射されて二人を狙う。流石のバサークでもどうにも出来ない速さで二人は大樹を背にしてやり過ごす。

弾幕が止んだかと思ったら地盤が割れて二人は森に向かって真っ逆さまに落ちた。

 

 

 

「わあぁぁぁぁあぁぁぁあああぁぁ!?!?」

 

 

 

「ぬおぉぉぉぉおぉぉぉおおおぉぉ!?!?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「全くクソガキ共め!片せ片せ!!」

 

 

あの後、ミラジェーンのバラードで場が盛り上がってたところ、ナツとガジルの喧嘩が元で暴れて普段の妖精の尻尾(フェアリーテイル )に戻ったが、マカロフが明日取材が来るから早急に片付けろと喝を入れ、全員で掃除に取り掛かっていた。

モップで床を拭いていたルーシィがポツリと呟く。

 

 

「そういえばビートは大丈夫かしら………」

 

 

「まさかバサークも入っていたなんて………」

 

 

「あの二人がまた本気で戦ったら山とか吹っ飛ぶんじゃね?」

 

 

「怖いこと言わないでよ!!」

 

 

同じくモップをくるくる回しながら言ったナツの言葉に彼女は軽く恐怖した。ジュピター、いやそれ以上の威力の魔力砲が放てる二人がまた戦ったら冗談ではなく本当に消し飛ぶかもしれない。

 

 

「さ、流石にバサークくんもいきなりは襲わないと思いますよ………?」

 

 

「それでもあそこまで死闘を繰り広げた奴等だからなぁ………」

 

 

ジュビアの言葉にグレイが溢すと入り口から二つの人影が現れた。一同はそれを見ると驚愕する。

髪に枝が刺さり、肩には木の葉が付いていたりとボロボロの姿のビートとバサークが息を切らしながら帰って来た。

 

 

「ビート!?」

 

 

「バサーク!?お前らその怪我は!?」

 

 

グレイの言葉に二人の眉がピクリと動く。

 

 

「元はと言えばお前の所為だろうが!!」

 

 

「お前がいきなり現れた所為だろ!!もう少しで死ぬ所だったんだぞ!!」

 

 

「あーあー死ね死ね!!このへっぽこクソガキ!!」

 

 

「なんだとこのM字ハゲ!!」

 

 

「やるかゴラ"ァ!!」

 

 

「やぁぁってやるぞゴラ"ァ!!」

 

 

と、普段はバカ騒ぎは避けてるビートが珍しくナツとグレイの喧嘩の如くバサークと暴れ出す。

バサークも気功弾の類いや本気の打撃などではなく、まるで兄弟喧嘩のようなものを彷彿させる。バサークはビートよりも歳は一つ上。本当にバサークが兄のように見えて来た。

ビートに新たな一面が出来た一日であった。

 

 

「やめんかクソガキ共!!」

 

 

その後、マカロフの一喝により二人共罰当番をされた。そこでも喧嘩になったとか。

 

 

 

 

 

 

 



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其の39 妖精の共喰い(バトル・オブ・フェアリーテイル )

とある酒場の一区。

そこでは男達の笑い声が響いていた。一人の男の片手には雑誌を持ち、指を指す内容には新しくなった妖精の尻尾(フェアリーテイル )について記載していたが、オープンカフェやプールなどとてもギルドに必要なさすぎるものが沢山あってギルドを別の物だと思い込んでいるのではないかと笑い飛ばしていた。

そんな中、彼等の背後に一人の男が近寄る。振り返ると顔に傷を持った金髪の男、ラクサスが見下すように睨んでいた。男達はラクサスだと分かるとすぐにその席から逃げ出すように離れた。

そして側には彼等が読んでいた雑誌が落ちる。新しい妖精の尻尾(フェアリーテイル )のギルドが表紙を飾っていた。

 

 

「馬鹿丸出しもいいトコだぜジジィ………」

 

 

「いっやー!ぎゃっほっほー!流石は有名人。睨みで人を蹴散らすなんて………痺れますな〜。」

 

 

パチパチと拍手を送る声に向くと壁に寄り掛かり、サングラスを掛けた大男『ザトー』が挑発するように声を掛けた。

 

 

「マスターマカロフの孫……でしたっけ?こういうのなんて言うんです?親の七光でいいのかな?ぷぅ〜ダッセェ」

 

 

「…………」

 

 

「おお、怖い怖い」

 

 

興味なさそうにラクサスは黙って見つめるが、そこには何処か威圧感を感じさせる物があった。周りの客達が騒めき出す。

ウェイターがザトーに近寄って耳打ちをする。

 

 

「ザトー、揉め事はやめてくれよ………」

 

 

「こんな腰抜けギルドと揉めても一銭にもなりゃしねぇよ」

 

 

「ザトー?聞いた事ねぇ名だ」

 

 

「ええ、そりゃそうでしょうねぇ。ウチらは暗闇でこっそり仕事してますからねぇ。本に載って醜態晒す事も叶いませんわ〜」

 

 

即ちザトーは闇ギルドの一人という事になる。

 

 

「そんなに死にてぇなら手伝ってやろうか?外に出ろよ」

 

 

「ぎゃほー………外に出るのは………テメェ一人だヨ」

 

 

「!!」

 

 

ザトーのサングラスが光ったと同時にラクサスは壁を破って外に放り出された。

 

 

「ぎゃほほほほほ!!弱すぎるぜ妖精の尻尾(フェアリーテイル )!!明日はボインの妖精狩りにでも行っちゃおうかナー!!」

 

 

瞬間。

彼は()から雷に打たれた。打ち上げられ、そのまま落下して地に着いた時には焦げて戦闘不能になっていた。

 

 

「くだらねぇ………」

 

 

焼け焦げた雑誌の妖精の尻尾(フェアリーテイル )の写真を一瞥しながら顔に青筋を立てた。

 

 

「いつから()()のギルドはこんなになめられるようになりやがったァ……ジジィ………」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

新たに建った妖精の尻尾(フェアリーテイル )にて。ルーシィは一人でも出来るような依頼を探すべくリクエストボードと睨めっこしていた。

隣にいたナブが話し掛ける。

 

 

「どうしたルーシィ。ナツやグレイは一緒じゃねぇのか?」

 

 

「それがねぇ〜」

 

 

グレイはマカロフからしばらくの間ジュビアの面倒を見ろと言われ、エルザは新しい鎧の不具合を注文した会社に抗議をしに。そしてナツは………。

 

 

 

「ナツ!ホラ、火だよ食べて」

 

 

「食欲ねぇ」

 

 

「どーしちまったんだナツ!?」

 

 

今頃になってエーテリオンの副作用が出たのか、ともかく朝からあんな感じである。

 

 

「ん?じゃあビートは?」

 

 

「あぁ……ビートなら…………」

 

 

数十分前の事。

 

 

『おい、このクエスト最低二人必要なんだが、内容はタックルバイソンを討伐するっつんだがやるか?まぁ、やらんなら俺一人で蹴散らすのだがな』

 

 

『あ?やるわボケ。どっちが何キロ狩れるか勝負じゃ勝負』

 

 

『何トンの間違いだろ?クソが』

 

 

『へーへーサーセン、サーセン』

 

 

などと会話しながら出て行ったのを目撃した。

 

 

「ここ最近ビートもナツ化していってるね」

 

 

「ナツ化って何!?それよりナツ!!一緒に仕事行こうよー!」

 

 

「パス。そんな気分じゃねぇ。今日はもう寝る………」

 

 

「その方が良いよ」

 

 

「うん」

 

 

「ナツってば〜!!」

 

 

千鳥足気味で彼はハッピーと共にギルドを後にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「こんな所に呼び出して何のつもりよぉ。オレぁこれから仕事なんだヨ」

 

 

ガジルと対峙するのはジェットとドロイ。彼が妖精の尻尾(フェアリーテイル )に入って以来、二人は彼が仲間になった事を認めずにいた。一度、なす術なく叩きのめされてレビィに更に暴行を加えようとした途端、バサークに弄ばれて木に括り付けられた。

 

 

「ギルドを潰した張本人が何言ってんだ」

 

 

「仕事なら何処のギルドでも出来るだろ」

 

 

「器の小せぇ奴等だなぁ……過去の事をネチネチと………大人になれよ」

 

 

その様子をレビィは木の陰で隠れていた。彼女はもう気にしてないと言っていたが、彼はレビィの制止も聞かずにガジルに詰め寄る。

 

 

「オレ達のケジメだよ…………」

 

 

「やられたままじゃ妖精の尻尾(フェアリーテイル )の名折れだ」

 

 

「フン。やれるもんからやってみろよ」

 

 

「余裕かましてられるのも今のうちだ!!」

 

 

ジェットが駆け出してガジルを殴り付ける。ドロイは腰からある物を取り出し、地面に撒く。

 

 

「秘種!」

 

 

巻かれた種が土に埋まって植物に成長し、先端に拳が出来る。

 

 

「ナックルプラント!」

 

 

「ぐっ!」

 

 

「隼天翔!!」

 

 

「ごはっ!?」

 

 

無数の拳が飛び交う中、ジェットの強烈な飛び蹴りがガジルの腹部に減り込んだ。

しかし散々やられても彼は二人に手を出さなかった。

 

 

 

「おいコラ何のマネだ」

 

 

「てめぇの力はそんなモンじゃねぇだろ」

 

 

「これは何のイジメだ?あ?」

 

 

すると二人の背後から聞き覚えのある声が耳に入る。振り返ると黒のコートを肩にかけた金髪の男、ラクサスがガジルに詰め寄って来た。

 

 

「成る程………こいつがオレのギルドに上等かましてくれたガキか。ジジィの奴……またやられねえ為に仲間にしやがったのか?そんなんだからなめられんだよ!!クソが!!!」

 

 

次の瞬間、地面から雷撃がガジルを襲う。それと二回、三回と繰り返す。それでもガジルは手を出さない。

 

 

「いくらラクサスが強ぇからって……こうも一方的なものなのか……?ま、まさかガジルの奴、始めから…………」

 

 

「私達の仲間って認めて欲しいから……手を出さずに耐えようと………」

 

 

倒れ伏せるガジルにラクサスは蹴たぐる。

 

 

「てめぇの所為でオレ達はなめられてんだァ!!死んで詫びろやオオ!?妖精の尻尾(フェアリーテイル )に逆らう奴ァ全員殺してやるぁぁ!!」

 

 

「やめろラクサス!もういい!!」

 

 

「うるせぇ!雑魚は黙ってろ!!」

 

 

片手から放たれた稲妻がレビィを捉える。

 

 

「レビィ!!」

 

 

「ひっ」

 

 

恐怖で目を閉じた瞬間、ガジルが彼女の前に現れて雷撃を受けた。彼はレビィを庇ったのだ。

散々やられてボロボロにも関わらず、ガジルは荷物を持ってその場を後にした。

 

 

「もういいか?こちとら仕事があるんだ………」

 

 

「あ、あの………ありが………」

 

 

「放っておいてくれ………」

 

 

ヨロヨロと立ち去るガジルを一瞥すると舌打ちしながらラクサスはその場を去った。

 

 

(くだらねぇ……妖精の尻尾(フェアリーテイル )………オレが目指すギルドはこんなんじゃねぇ!!)

 

 

我慢の限界だ!

妖精の尻尾(フェアリーテイル )は俺が頂く!!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

今日はマグノリアの収穫祭。その祭りにも妖精の尻尾(フェアリーテイル )が参加する。

 

『ミス・フェアリーテイル 』。

妖精の尻尾(フェアリーテイル )の女性達の美人コンテストであり、優勝者には50万を授与される。

ギルド内はそれを見物する為に街の住民達が集まっていた。

 

 

『お待たせしました!我が妖精の尻尾(フェアリーテイル )の妖精による美の共演!!ミス・フェアリーテイル コンテスト開催でーーす!!司会はオレ、砂の魔導士のマックスが務めます!!』

 

 

彼はグッズを考案したり、店主も務めていたのだ。

 

 

「あいつ売り子やったり色々大変だな……。つーかお前等興味ねぇだろコレ………」

 

 

グレイの横には未だに気分が沈んだナツと、何故か焼き鳥やらつくねやら片手に持ち、片手には炭酸飲料の入ったジャッキを持つ、ビートとバサークがいた。

 

 

「エルザも出るって言うから仕方なくみるんだよ」

 

 

「ジュビアも出るって言ってたからな、ついでだついで」

 

 

「オヤジが摘むようなモン食いながら!?」

 

 

グレイが突っ込んでいると早速一人目が現れる。

 

 

『エントリーNo1!異次元の胃袋を持つエキゾティックビューティ!カナ・アルベローナ!!』

 

 

普段は酒ばかり飲んでいる彼女もこのコンテストに参加していた。基本参加者はアピールタイムを設けている。

片手からカードを撒くと彼女を包むように回る。カードが弾けるとラフな格好から一転。

セクシーなビキニに変わった。

 

 

「50万……いや、酒代は頂いたわ」

 

 

彼女の大胆なアピールに会場に熱気が湧き出す。

 

 

「ゑゑゑゑ!?カナも参加してるの!?(おっぺぇデカい………)」

 

 

「落ち着けよ……こんなの大したことじゃないだろ」

 

 

「ウム……良きかな」

 

 

「鼻血垂らしながら何言ってんだこの人!?」

 

 

マカロフがご満悦な表情をしながら鼻血を垂らす。カナが終わって二人目が現れる。

 

 

『エントリーNo2!新加入ながらもその実力はS級!雨も滴るいい女、ジュビア!!』

 

 

「来たか」

 

 

彼女は得意の自身の体を水に変換して波を作る。そして波から現れたのはこれまた水玉模様のビキニ姿だった。

 

 

「ま、またビキニ………流行ってるのかな?」

 

 

「色仕掛けで来たか………(着痩せするタイプか?意外とデケェな)」

 

 

冷静に振る舞うが頭の中は煩悩まみれである。二人の頭の中は思春期の男子のそれだった。

まだまだ出てくる三人目は。

 

 

『エントリーNo3!ギルドが誇る看板娘!その美貌に大陸中が酔いしれた!ミラジェーン!!』

 

 

彼女が登場した瞬間、観客の熱気は一気に上がる。ミラジェーンは雑誌のグラビアに出る程の人気であり、優勝候補とされている。早速彼女がするアピールはと言うと……。

 

 

「顔だけハッピー!」

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

 

「顔だけガジルくん!」

 

 

「ぶーーーー!?」

 

 

彼女の得意の変身魔法を見せるが、顔だけハッピーになったり、ガジルになったりとして観客達を驚愕させる。

そんなこんなで四人目が登場する。

 

 

『エントリーNo4!『最強』の名の下に剛と美を兼ね備えた魔導士!妖精女王(ティターニア)のエルザ・スカーレット!!』

 

 

「きたぁ!!エルザだぁ!!」

 

 

「落ち着けよ………」

 

 

ガタッと立ち上がるビートにグレイが落ち着かせる。そして彼女のアピールタイムが始まる。

 

 

「私のとっておきの換装を見せてやろう」

 

 

くるりと翻しながらその身に纏う鎧を変える。換装し終えると普段は凛々しい印象を持つ彼女とは打相まって可愛らしい姿になった。俗に言うゴスロリである。

 

 

「フフ、決まった!」

 

 

凛々しい彼女が可愛らしい姿になった途端、観客の熱気はこれまで以上に上がった。

 

 

「スゲェなエルザ。ゴスロリで来たか………ん、ビート?ってうお!?」

 

 

二人の方に向くと、二人は顔を真っ赤にし、目をギラギラさせながら鼻息を荒くしていた。

 

 

「成る程………逆に隠して来るとは。アイツも中々なモノだけど逆に隠す事によってエロさを倍増させる………そしてゴスロリと来た!アイツ………出来る!!」

 

 

「あの辺がセクシー………エロい!!」

 

 

「煩悩に冒されすぎんだろお前等!!ていうかホントは仲良いんだろ!!」

 

 

冷静に分析するバサークに、小学生並みの感想を漏らすビート。どちらも鼻息が荒い。こういう時だけ二人の気持ちが合致する。

やっぱ好きなんすねぇ。

 

 

「「当たり前だよなぁ?」」

 

 

「誰に話してんだお前等!?」

 

 

その後もレビィや、ビスカと言った顔馴染みの女性陣がそれぞれアピールし、遂に最後の七人目が出る。

 

 

『エントリーNo7!我らがギルドのスーパールーキー!!その輝きは星霊の導きか?ルーシィ・ハートフィ「だーー!!ラストネームは言っちゃダメェ!!」』

 

 

最後はルーシィ。彼女はここ最近仕事に行ってなかった為、家賃が払えずに悩んでいたところ、ハッピーがこのコンテストを教えて息巻いていたのである。優勝すれば七ヶ月分賄えるとか。

そしてマックスが自分の名前を遮ったのは自分がハートフィリアのご令嬢だと知られたら賞金が取れなくなるからである。

 

 

「えーと、私は星霊と一緒にチアダンスします………」

 

 

上着を脱いで準備しようとした途端、彼女の背後に一人の女性が歩み寄る。

 

 

「エントリーNo8……」

 

 

「ちょ、ちょっと私、まだアピールタイムが………」

 

 

「妖精とは私の事。美とは私の事。そう……全ては私の事。」

 

 

ルーシィの後ろから現れたのは背中に妖精の羽が付いた翠色のドレスを身に纏い、青の薔薇の髪飾りに眼鏡をし、扇子を持った茶髪の女性だった。

 

 

「優勝はこの私、エバーグリーンで決定〜♪ハ〜イ下らないコンテストは終了で〜す♪」

 

 

「なっ!?」

 

 

「エバーグリーン!?帰ってたのか!?」

 

 

「ちょっと邪魔しないでよ!私の生活が掛かってんだからね!!」

 

 

「ルーシィ!ソイツの目を見るな!」

 

 

「え?」

 

 

「なに?このガキ?」

 

 

グレイがルーシィを止める前にエバーグリーンが眼鏡を上げ、その瞳を見た途端たちまちルーシィの身体が石になった。

観客達は騒めき、遂にはパニックを起こす。マックスが観客達を避難させてギルドメンバーだけが残る。

その中にいたマカロフが彼女に喝を上げる。

 

 

「何をするエバーグリーン!祭りを台無しにする気か!?」

 

 

「お祭りには余興が付き物でしょ?」

 

 

彼女が扇子を閉じるとステージの幕が燃えるとそこには控え室にいた参加者が全員足になっていた。さらにそこから一つの雷が落ち、そこから三人の男が現れる。

 

 

「よォ、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )のヤロウ共………祭りはこれからだぜ」

 

 

現れたのはラクサスに赤い軍服を纏った緑髪の男『フリード』に、目を隠すように仮面を付けた大柄な男『ビッグスロー』だった。エバーグリーンを含め、フリードとビッグスローの三人はラクサス親衛隊、通称『雷神衆』とも呼ばれている。

 

 

「遊ぼうぜ、ジジィ」

 

 

「馬鹿な事はよさんか!!こっちはファンタジアの準備も残っとるんじゃ!今すぐ皆を元に戻せ!」

 

 

「ファンタジアは夜だよな?さぁて何人が生き残れるかねぇ………」

 

 

石化したルーシィの頭上から一つの稲妻が落ちる。

 

 

「よせぇ!!」

 

 

しかし稲妻は彼女の右隣に落ちて難を逃れる。

 

 

「この女達は人質に頂く。ルールを破れば一人ずつ砕いていくぞ。言ったろ余興だと」

 

 

「冗談で済む遊びとそうはいかぬものがあるぞラクサス」

 

 

「勿論オレは本気だよ」

 

 

「ここらで妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強は誰なのかをハッキリさせようじゃないか」

 

 

「ーーつう遊びだヨ」

 

 

「ルールは簡単。最後に残った者が勝者。その名も………」

 

 

 

バトル・オブ・フェアリーテイル 。

 

 

ラクサスがそう告げた瞬間、一つのテーブルが吹っ飛んだ。吹き飛ばした張本人はずっと沈んでいたナツがいつもの調子で腕を掲げていた。

 

 

「いいんじゃねぇの?わかりやすくて。燃えてきたぞ!」

 

 

『ナツ!!』

 

 

驚愕する一同の中、雷神衆とラクサスは逆に口角を上げた。

 

 

「ナツ……オレはお前のそういうノリのいいところは嫌いじゃねぇ」

 

 

「祭りだろ?行くぞ!!」

 

 

「オメェ、昔ラクサスにどれだけ酷くやられたか覚えてねーのかよ!」

 

 

「ガキの頃の話だ!」

 

 

「去年くれぇの話だよ!!」

 

 

「去年はガキだったんだ!!」

 

 

上着を脱いでラクサスに駆け出す。だが彼は全く動じず話し掛ける。

 

 

「だが、そういう芸のねえトコは好きじゃねぇ」

 

 

「オラァ!!」

 

 

「まぁ、落ち着けよナツ」

 

 

「びぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

火竜の鉄拳を放とうとしたナツが彼の雷撃により沈んだ。折角復活したのにこの始末☆

 

 

「この子達を元に戻したければ私達を倒してごらんなさい」

 

 

「オレ達は4人。そっちさ100人近くいる。うっわぁ!こっちの方が不利だぜギャハハハ!!」

 

 

ビッグスローの周りに飛んでいる顔の描かれた小さな樽達が『フリだー』と言って茶化す。

 

 

「制限時間は3時間。それまでに私達を倒せないとこのコ達……砂になっちゃうから」

 

 

「ラクサス………」

 

 

「バトルフィールドはこの街(マグノリア)全体。オレ達を見つけたらバトル開始だ」

 

 

全て説明し終えたラクサスに一人の男が彼に近づく。そしてステージの上に上がった。

 

 

「ラクサス………やめてくれ。俺はこんな事したくない」

 

 

言ったのはビートだった。その様子にギルドメンバーはステージから降りろと慌て始める。

 

 

 

「何コイツ?こんな時にそう言っていられるかしら?」

 

 

「まぁ、待てエバ」

 

 

エバーグリーンが眼鏡を上げようとするが、ラクサスが制止させてビートの前に立つ。かなりの身長差のある二人が対峙する。

 

 

「ビート。お前はサイヤ人だろう?サイヤ人は戦いを好む種族じゃないのか?」

 

 

「だからなんだ。サイヤ人でも俺は俺だ。みんなと居たいし、内戦(シビルウォー)なんてゴメンだ」

 

 

内戦(シビルウォー)……昔見せた映画か…………。確かその時のお前言ってたな、『なんで仲間なのに戦うんだろう』って。それはな」

 

 

眼前まで近づいてビートに言い放つ。

 

 

「『意見が喰い違うから』サ」

 

 

「意見が喰い違う?」

 

 

シビルウォー。

それは暇な時に一人で観てた所、ビートが一緒に観たいと言って来た。その時はまぁ、何となくのノリで一緒に見た。

内容は正義の味方が、仲間内で分断して争い合うという内容だった。普段は見事なチームワークで巨悪を倒して何度も世界を救った。

だが、ある日二人が論争をし始めた。仲間が仲裁するも段々エスカレートしていき、遂には争いを始めた。

見終わったビートは複雑な顔をして先程のラクサスが言った通りに聞いたのだ。その時は適当にさぁなと答えたが、今ここで答えを出したのだ。

 

 

「ああ、アイツ等は意見が喰い違ったらあんな事をした。今も同じ。オレとジジィの意見が喰い違ったからこんな結果になったのさ」

 

 

「…………」

 

 

「だが、この状況を止める方法が一つある…………オレに勝つ事だ。まぁ、できたらの話だがな。さぁ楽しもうぜ」

 

 

指鳴らすと眩ゆい光がギルドメンバーの視界を襲った。光が晴れるとラクサス達の姿は居なくなっていた。

 

 

 

「バトル・オブ・フェアリーテイル 、開始だ!!」

 

 

ラクサスの掛け声によって妖精の内戦が始まった。

 

 



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其の40 (スーパー)サイヤ人!?

ラクサスによって石化された女性魔導士達を賭けた戦い、『バトル・オブ・フェアリーテイル 』が開始された。ルールは雷神衆を含めた4人を倒す事で人質が解放される。

彼の掛け声によってギルドメンバーが一斉にギルドから出て行く中、マカロフだけが出られなかった。

それはフリードが作った一種の結界、『術式』によって出られずにいた。術式に踏み込んだ者はルールが与えられる。

 

 

『80歳を超える者と石像の出入りを禁止する』

 

 

術式のルールは絶対。いかなる攻撃でも通さない。

一人残されたマカロフは見えない壁に手を置いて悩んでいた。

 

 

(あんなバカタレだが、強さは本物じゃ……ラクサスに勝てる者などおるのか?エルザならもしかしたら………しかしこの状態では………)

 

 

すると入り口の扉の陰に大柄の男を見つける。他の皆が息巻いて駆け出していた中、彼は怖くてギルドから出ずにいたのだ。マカロフは彼にポーリュシカの元に行って石化を治す薬を取りにいかせようと頼む。

行こうとした途端気絶していたナツが目覚めた。

 

 

「(ナツが本気になれば………もしかして………)祭りは始まった!ラクサスはこの街(マグノリア)の中におる!!倒してこんかい!!」

 

 

「おっしゃあ!!待ってろラクサスゥゥゥゥ!!」

 

 

口から炎を吹きながら入り口から出ようとする。その瞬間、硬い音を立ててズルズルと落ちる。

 

 

術式のルール。

8()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なにコレ?」

 

 

『ええええええええええ!?』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ヒャッホーー!!」

 

 

「くっ!」

 

 

一方、出て行ったグレイは服屋で遭遇した雷神衆の一人のビックスローと戦っていた。

 

 

「いきなベイビー!!」

 

 

小さな樽達が口から細い光線を出して彼を襲う。グレイは軽快な動きで光線を躱していく。

 

 

「ラインフォーメーション!!」

 

 

彼の掛け声により樽達が縦に合体して巨大な斬撃を放つ。マナキンの頭上に乗って避けるも、斬撃によってマネキンの腕や、後ろの棚も真っ二つにしてしまう。

 

 

「年下のクセになるなぁグレイ!次はビクトリーフォーメーションだ!!」

 

 

シィン………。

彼が指示したのにも関わらず動かない樽達。

振り返ると4つとも氷漬けにされていた。

 

 

「なっ!?いつの間に!?ぐほっ!?」

 

 

油断していたところをグレイの膝蹴りが炸裂する。さらにそこから造形魔法で追い討ちを掛ける。

 

 

「アイスメイク『大舘兵(ハンマー)』!!」

 

 

「エックスフォーメーション!!」

 

 

ビックスローの頭上に巨大なハンマーが振り下ろされるも、4つのマネキンが守るように現れた。

 

 

「何っ!?」

 

 

「オレのセイズ魔法『人形憑(ひとつき)』は魂を人形に憑依させる魔法。人形(からだ)は氷漬けにされても魂は無理。別の体に移ることが出来る」

 

 

「だったらてめぇ本体を凍らせてやるァ!」

 

 

「やれるもんならやってみな!」

 

 

再び人形達がグレイの攻撃を防いで本人は店から出た。後を追い掛けるように店に出て鬼ごっこの状態が続く。二人は街を駆け巡りビックスローは裏路地に入った。

グレイも入るがそこにはもうビックスローの姿はなかった。

 

 

「こっちだこっち」

 

 

見上げると彼は建物の間に足を広げて引っ付き、グレイを見下ろしていた。

 

 

「てめぇ、一体何がしてぇんだ?」

 

 

「言ったろ?遊びたいんだヨ。ベイビー達も」

 

 

「っ!?これは!?」

 

 

グレイの前後に術式が現れる。その内容は………。

『この中にいる者は戦闘終了まで魔法の使用を禁ずる』

 

 

「こういう時に遠隔操作系の魔導士は有利だね」

 

 

路地の影から先程のマネキンが現れてグレイに光線を放つ。直撃して意識が朦朧とする中更に他のマネキンが追い討ちを掛ける。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?」

 

 

「うひゃははははは!残念残念!流石のグレイも魔法が使えないんじゃねぇ?話にならないぜ!」

 

 

爆煙が吹き荒れる中、そこから何かが飛び出す。壁を蹴ってビッグスローに近づく。ボロボロなりながらもグレイはビックスローを殴り付けた。

ビッグスローは落ち、殴った彼も他に落ちた。

 

 

「こいつ!ベイビーの攻撃をあれ程喰らって…………?」

 

 

「……………」

 

 

「なーんだ。もう終わってんじゃねーか」

 

 

彼の人形達の攻撃が応えたのかグレイは倒れ伏していた。

勝者ビックスロー

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ギルドは現在の状況が入り口に表示されていた。フリードの術式により、他のギルドメンバーは潰し合う事になり、84人いたのがもう31、否グレイが敗けて30人になってしまった。

 

 

「グレイが負けた!?」

 

 

「くっそぉ〜!オレも参加して〜!」

 

 

「何言っとるんじゃナツ!この状況がわかっとらんのか!?」

 

 

「最強決定トーナメントだろ!」

 

 

「違うわ!何処がトーナメントじゃ!」

 

 

マカロフはナツの頭上に手刀を振り下ろす。

 

 

「喧嘩だろ?いつもの事だ」

 

 

「皆が砂になるかもしれんのだぞ!?」

 

 

「流石にラクサスもそこまでしねぇよ。ハッタリだよハッタリ」

 

 

『何がハッタリだ?ナツ?』

 

 

「ラクサス!?」

 

 

背後から思念体のラクサスが不敵に笑いながらナツに語りかける。

 

 

「て言うか何でまだいるんだよ?」

 

 

「出られねぇんだよ!!」

 

 

「ふ、まぁいい。それにしてもジジィ。グレイもやられちまったなぁ。ナツもエルザも参加出来ねぇんじゃもう雷神衆に勝てる兵はもう残ってねぇよなぁ?」

 

 

「ま、まだビートがいるよ!」

 

 

「ビートォ?ただでさえ身内の馬鹿騒ぎも避ける奴が仲間同士で戦えるかな?」

 

 

抗議するハッピーに彼は笑い飛ばした。確かにビートにとってギルドメンバーは家族同然。そんな彼が仲間同士の潰し合いで到底戦えるとは思えない。するとまた入り口に状況が表示される。

 

 

「お、また誰かやられたようだな?さぁて今度は一体誰が………なっ!?」

 

 

驚愕するラクサスに一同は表示に着目し、彼同様驚愕する。そこに表示されていたのは………。

 

 

『勝者ビート。ビックスロー戦闘不能。残り29人。』

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「さぁてグレイも倒した事だしどんどんいくかぁ」

 

 

翻して次の標的に向かおうとした瞬間、背後から轟音が聞こえた。振り返ると土煙を上げてゆっくりと立ち上がるビートの姿が目に写った。

 

 

「おお?こりゃあ思わぬ収穫が出たな!」

 

 

「ビ、ビート………」

 

 

「仲間と戦いたくないって言ってたビートちゃん、結局戦う事を選んだのかなぁ?」

 

 

挑発するようにビックスローは尋ねるが彼は倒れ伏してるグレイを介抱していた。

 

 

「立てるか?」

 

 

「な、なんとかな………」

 

 

「じゃあ壁にでも立てかけていてくれ。出来るだけここから離れて」

 

 

「おい。シカトかコラ」

 

 

怒りの篭った声に彼は振り返ってビックスローと対峙する。

 

 

「に、逃げろビート………。たとえお前でもアイツは倒せない………」

 

 

「そうだそうだ!ソイツの言う通りお前では俺を倒す事は出来ない!!」

 

 

舌を出し、周りにいる人形も『デキナイー』と連呼する。

しかし彼は逆に口角を上げてビックスローに言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

「お前じゃ俺には勝てねぇ。戦わなくてもわかる」

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

「ぶわぁーはっはっはっはっ!何を言い出すと思ったら!とんでもねぇホラを吹きやがったぜ!歳下がよぉ!!」

 

 

人形達が一斉に光線を放つ。一直線に向かってくるが、彼は全く動かずに土煙が舞った。

 

 

「ホラ見ろぉ!結局口だけで手も足も出ずにやられやがった!!これでまた減ったなぁ妖精の尻尾(フェアリーテイル )ぅ!!」

 

 

勝利を確信して笑いこげると背中に気配を感じた。恐る恐る振り返ると背中合わせに彼が立っていた。

 

 

「お、お前!?どうやってあの状況中で脱出を!?」

 

 

「だから言ったじゃん。お前じゃ俺には勝てねぇって」

 

 

「ぐ、偶然だ偶然!やってしまえベイビー!!」

 

 

彼が指示を出した瞬間、バキバキと一つずつ音が鳴った。気が付けばマネキンに亀裂が走ってボロボロになった。

 

 

「なっ!?いつの間に!?」

 

 

「さっき避ける時に一体ずつ4発殴った」

 

 

「こんな事が………ま、まさか!?お前がアレなのか!?」

 

 

「?アレって?」

 

 

「お前が………(スーパー)サイヤ人だと言うのか!?」

 

 

(スーパー)サイヤ人………確か昔じいさんがエルザやミラちゃんに話していたのを盗み聞きをしていた時に言っていたな………。(スーパー)サイヤ人って一体?)

 

 

「スーパーサイヤジン?よくわからねぇけどこれでわかっただろ?もう降参しろ。俺は出来れば戦いたくねぇし。それにお前さっきから指示してるだけにしか見えないけど、もっと自分を鍛えればいいと思うぞ。デケェ体が勿体無いぞ。そしたら遠隔操作だけじゃなくて攻撃の幅も広がる。頑張れ!」

 

 

「て、テメェ舐め腐りおって………!だけど安心したぜぇ………お前は(スーパー)サイヤ人にじゃないと言う事を!!」

 

 

そう言うと今まで付けていた仮面を剥がした。眉間に人が大の字になった模様が入っていて不気味な雰囲気が漂わせる。

 

 

「ビート!ソイツの目を見るな!!ソイツの目を見たら人形化して魂を操られるんだ!!」

 

 

「もう遅ぇよ!!オレの造形目(フィギュアアイズ)に勝てる奴なんていねぇんだよ!終わりだビーオ"ボォッ!?」

 

 

彼の名前を言う前に、懐に入っていたビートの肘打ちがビックスローの腹に減り込んだ。ミシミシと音を立て、一瞬目玉が飛びかけた。喰らわせたビートはすぐに離れて構える。

 

 

「お前のその体格から見てまだ戦えるハズだ!来るならこい!!」

 

 

「コ………コノヤロ…………」

 

 

やがてビックスローは腹を抑えながら白目を向いて倒れ伏した。

 

 

 

「あり?もしかして俺の勝ち?威張っていた割には大した事なかったな…………」

 

 

 

(い、一撃………一撃でビックスローを………でも何でアイツの目を見ていたはずなのに………そうか!残像拳か!!一瞬のうちに残像を作って高速移動で懐に入ったのか………も、もしかしたらアイツの言った通り………(スーパー)サイヤ人なのか………?)

 

 

彼の変わりようにグレイは内心驚愕するのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ビートがビックスローを倒した事を知らずに、エバーグリーンは石化させたエルフマンの前に立って呟いた。

 

 

「私、石像も好きよ。どんなに醜い獣でも石像となれば美しいと評価される事もある。さぁ、私を見つめなさい………美しいものに身を委ねるように…………」

 

 

「おやぁ?こんな所にデケェ妖精さんがいるなぁ?」

 

 

「!?」

 

 

勢い良く振り返ると道の真ん中に片手にねぎまを食べているバサークが視界に入った。

 

 

「お前を倒せばアイツらは石化を解除出来る………で合ってるか?」

 

 

「バサーク………聞けばアンタこの前ビートにやられたらしいじゃない。アイツにやられるようじゃ、実力は明白ね………。貴方も石像にならない?」

 

 

彼女が眼鏡を上げようとした瞬間だった。

 

 

「くっくっくっ………」

 

 

「ん?」

 

 

「はっーはっはっはっはっはっはっ!!」

 

 

「な、何!?これからやられるってのに何でそんな笑ってられるの!?」

 

 

「お前、一応聞くがサイヤ人とは何なのか知っているのか?」

 

 

「そんなのラクサスも言ってたでしょ?戦いが好きな種族だって………」

 

 

「0点だ妖精女」

 

 

「何を!?」

 

 

「なら答えを教えてやろう………サイヤ人は死にかけてそこから復活すると大きく力が上がる………この意味がわかるか?」

 

 

「ま、まさか………」

 

 

「そうだ。俺はこのギルドに入ってからわざとアイツと死にかける場面を作ってきた。そして何とか生き延びて今日を過ごして来た………。即ち今の俺はお前達が思っている倍以上の力を持っていると言う事なのだ!!」

 

 

「……………ふ、ふふふ。何かと思えばそんな事。たとえ貴方に力が有っても私の眼からは逃れられない………」

 

 

「いいのか?もしかしたら俺はアレかもしれないんだぞ?」

 

 

「アレ?」

 

 

 

 

 

 

 

「貴様等が恐れている(スーパー)サイヤ人かもしれないと言っているんだ」

 

 

 

 

「!?」

 

 

「お?さっきまで違って動揺したな妖精女………」

 

 

「あ、貴方何処でそれを………」

 

 

「俺が何も調べられないと思ったら大間違いだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル )に本好きの奴がいてなぁ。ソイツが通ってる図書館で調べたんだ」

 

 

「レビィか………」

 

 

「どうする?それでもやるか?」

 

 

「たとえアンタがそれでもこの眼から逃れられない!!」

 

 

眼鏡を上げたと同時に彼は瞑目してエバーグリーンに突っ込む。彼のストレートを頰ギリギリで避けて跳躍する。

 

 

「成る程………エルフマン(アイツ)と同じ野生のカンって奴?だけど貴方は既に妖精の鱗粉の中………」

 

 

目を閉じている彼の周りに粉末のようなものが舞う。

 

 

「妖精爆弾グレムリン!!」

 

 

粉塵爆発を起こして、彼女は爆風に乗って蝶のように舞った。

 

 

「残念ね………たとえサイヤ人でも視界がなければこっちのモノ………」

 

 

「満足したか?」

 

 

「なっ!?がぁっ!?」

 

 

いつの間にか背後にいたバサークは彼女の両手を後ろから掴んで引っ張る。

 

 

「イヤ"ア"ア"ア"ア"!?千切れる!千切れる!!」

 

 

「あんな子供騙しで俺を倒せると思ったか?馬鹿め。目に頼らずとも戦闘力の動きや、肌の感触でいくらでも避けられるわ。どうだ?降参するか妖精モドキ?まだやるなら肩の関節が外れるまで引っ張るぞ?」

 

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!?待って!待ちなさい!!言い忘れてたケド………私の魔法は遠隔操作出来るのよ!もしこのまま引っ張るのならアイツ等を全員砂にするわ!!」

 

 

「………………そうか。それは困るな」

 

 

パッと離すと彼女は地べたに着く。

 

 

「俺はこう見えて女には優しいんだ。だから顔を殴るなんて事は絶対にしないさ」

 

 

「……………」

 

 

「ん?どうし「妖精機銃レブラホーン!!」」

 

 

黙っていた彼女に声を掛けようとすると立ち上がってバックステップしながら彼女から無数の針が放たれた。バサークの姿が見えなくなる程の爆煙が舞う。

 

 

「あはははははははははは!!何が『女には優しい』よ!アンタみたいなサルモドキが軽々しく私に触る事自体間違っていたのよ!!何故なら………私は世界一美しい妖「気が済んだか?」せ……い」

 

 

聞き覚えのある声に、ギギッと首を動かすと案の定そこには仁王立ちしているバサークの姿が。

 

 

「学習しねぇなお前………パワーも上がってるって事はスピードも当然上がっていると言う事だ」

 

 

「あ、アンタ………本当に信じているの!?(スーパー)サイヤ人は存在するって!!」

 

 

「今お前の目の前にいるじゃないか」

 

 

「馬鹿馬鹿しい!!そんな事、幻想!夢!幻よ!!座に乗るなサルモドキが!!」

 

 

 

 

 

「サイヤ人は戦闘種族だ!!なめるなよ!!」

 

 

そう叫んだ瞬間、彼は彼女の眼前まで迫り二つの指を突き出す。すると指先が眩ゆい光を放つ。

 

 

「あああああああああああああ!?目がああああああああ!?」

 

 

「ファイナルインパクト!!」

 

 

一瞬だけ気を溜めると彼女に向かって乱打する。4連撃を喰らわせた所で蹴り上げる。そして人差し指と中指を合わせて彼女に向けて突き出す。

 

 

「弾けろォォ!!」

 

 

「きゃああああああああああああ!?」

 

 

まるで稲妻が走った如く、エバーグリーンの体中に衝撃が走って爆発するように弾いた。

地に落ちた時には体中痙攣して力尽きた。

 

 

「俺、花火は好きだぜ?野郎は汚くて全然関心が持たんが、女が散りゆくその姿は芸術と同等の価値がある………」

 

 

彼女と似たような事を言ってバサークはその場を去った。

 

 

勝者バサーク。エバーグリーン戦闘不能。残り28人。




バサークのファイナルインパクトはドラゴンボールヒーローズのやつを想像して下さい。


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其の41 魔人見参

カルディア大聖堂にて。

そこでラクサスは柱を殴り付け、今の状況に怒りを露わにしていた。

 

 

「何でエバもビックスローもアイツ等如きにやられるんだよ!!相手はまだガキなんだぞ!?アァ!?」

 

 

「彼等が強すぎるんだ。俺があの時エバの元に行けばよかった………」

 

 

表示で状況を知ったフリードが彼の元に戻って来た。ラクサスは後ろを向いたまま尋ねた。

 

 

「何故戻って来たフリード?」

 

 

「ゲームセットだからな。人質が解放されたらマスターはもう動かない………」

 

 

そう言った途端、彼の右隣に雷が迸った。

 

 

「終わってねぇよ。ついてこれねぇなら消えろ。俺の妖精の尻尾(フェアリーテイル )には必要ねぇ」

 

 

「ラクサス………」

 

 

「………こうなっちゃ仕方ねぇ。()()を起動させる」

 

 

「アレを!?しかしそんなことしたら………」

 

 

「俺の言ったことが聞こえなかったのかフリード!!」

 

 

彼の雷が入り混じった怒号が教会中に響き渡った。

 

 

「…………わかった。お前がその気なら地獄まで付き合おう」

 

 

「流石は『暗黒のフリード』だ。早速だがお前は復活したカナとファントムの女と戦ってこい。殺してもいい」

 

 

「…………承知した」

 

 

厳しい面持ちと化したフリードは身を翻してマグノリアに向かって行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

エバーグリーンの呪縛から女性陣は解放された。しかし表示ボードからラクサスが直接告げる。『神鳴殿』たるものを起動したと。上空に街を囲むように雷が帯電した魔水晶(ラクリマ)を配置されていた。

それを直接ビスカが一つの魔水晶(ラクリマ)を破壊した所、彼女にもダメージを負った。魔水晶(ラクリマ)には攻撃した者と自分のダメージを連結させる生体リンク魔法が掛けられていた。

一先ずラクサスを探す事にした一部の女性陣達はギルドから出て行った。そしてその中でミラジェーンは倒れ伏していたエルフマンを見つけた。

 

「エルフマン!」

 

 

「ね………姉……ちゃん………よかった……元に、戻れ………たんだ………」

 

 

「ごめんねエルフマン………ごめんね………」

 

 

「何で………姉ちゃんが謝るの?」

 

 

「私………ファントムの時も……今回も……何も出来なくて………それで………」

 

 

泣きかけるミラジェーンに彼は優しく語る。

 

 

「何も、しなくていいんだよ姉ちゃん………。このくだらねぇ喧嘩が終わったら、笑顔でみんなで迎えてくれればいい………頼むよ姉ちゃん………泣かないで………」

 

 

泣き続ける彼女をエルフマンは宥めるだけだった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ジュビア、神鳴殿発動まであとどれくらい?」

 

 

「30分くらいだと思います………」

 

 

一方ギルドを出たカナとジュビアはラクサスを探していた。彼とは昔からいる古株であるカナ。彼の性格からして行き着く場所は大体把握しているつもりだ。

広い街から彼を探していると石橋の上から声が発せられる。

 

 

「ラクサスは魔力を溜めている」

 

 

『!!』

 

 

「本気でマスターと戦うつもりなんだ。その為に力を今、溜めている」

 

 

緑色の長髪で赤い軍服を纏ったフリードがこちらを見下ろしていた。二人は慌てて身構えるが、彼は翻して橋の向こうへと走り出す。橋を登って追い掛けるも、急に立ち止まる。すると二人の足元から囲むように術式が現れる。

その内容は『どちらかが戦闘不能になるまでこの術式から出る事を禁ずる』。

 

 

「勝った方と相手をしてやる。さぁ、始めろ」

 

 

「卑怯よフリード!一対一(サシ)がいいならこんな事しなくても私が相手になるよ!ここから出しなさい!!」

 

 

「こうやって仲間同士争う事に………」

 

 

「それとも何?二人同時に戦うのが怖い?女二人にビビっちゃって情けないわねフリード!」

 

 

若干挑発気味で突っ掛かるカナだが、フリードはそんな彼女に冷たく返す。

 

 

「オレ自身の殺傷人数を極力減らしたいだけなんだがな」

 

 

「なんだとてめぇ!!」

 

 

「…………こうなった以上………仕方ないですね」

 

 

「ジュビア………アンタ………」

 

 

「フリードさん。本当にどちらかが倒れれば潔く戦ってくれますか?」

 

 

「オレは約束も絶対に破らない」

 

 

「………よかった」

 

 

「本気なのジュビア!?こんな所でやりあっても奴の思うツボなのよ!?」

 

 

カナの制止も聞かず、身体を水に変える。そしてそのまま彼女に突っ込もうとすると思いきや、カナの頭上をすり抜けて術式を壁を蹴るように駆け昇る。しかしどんなに高く昇っても術式からは出られない。

だが、彼女の目的は術式から出る事ではない………。

 

 

「誰かをキズ付けるくらいなら………仲間をキズ付けるくらいなら………」

 

 

「やめなさいジュビア!!それに攻撃しちゃ………」

 

 

「ジュビアはこの道でいい!!」

 

 

術式の真上にあった雷の魔水晶(ラクリマ)を砕いた。しかしこれは生体リンク魔法が掛けられている。攻撃した者に帰るように攻撃を受ける。即ち………。

 

 

「あああああああああああ!?」

 

 

全身が水になっていた彼女に雷が全身に通った。雷を直撃したかのように等しい彼女はそのまま地に落ちて行った。カナは駆け寄って介抱すると囲んでいた術式が解かれた。

 

 

「何考えているのアンタ!」

 

 

「ジュビアは………早く……認めて欲しい………妖精の尻尾(フェアリーテイル )の仲間だって………みんなが大好き…………」

 

 

「とっくに仲間よ!認めるも何もとっくに仲間なの!アンタは立派な妖精の尻尾(フェアリーテイル )の魔導士なのよ!!」

 

 

「よかった…………嬉し………」

 

 

涙を流し、何処か嬉しい表情を見せて彼女は力尽きた。

 

 

 

「ジュビアァァァァ!!」

 

 

(な、なんだこいつは…………自分が生き残るより仲間を生かす道を………)

 

 

傍観していたフリードにカナは怒号を上げて彼に駆け出す。

 

 

 

「フリィィドオォォオォォォォ!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「くそ!人が多すぎる。ラクサスの臭いが見つけらねぇ」

 

 

石化から解かれたレビィが術式を解読したお陰でギルドから出れたナツ。ついでにガジルもギルドにいたが、何故か彼も術式から出られずにいた。街にはまだフリードの術式が張り巡らせているので高い所から探していた。

 

 

「おーいナツー !」

 

 

「ん?おお!ビートじゃねぇか!」

 

 

背後から飛んで来たビートと合流する。

 

 

「お前見たぞ!スゲェなビックスローを倒すなんて!」

 

 

「ああ、アイツ?アイツ体デケェくせに腹パン一撃で倒れちゃったんだもん………。勿体ねぇな、体も鍛えたら絶対に強えのに………」

 

 

「一撃で倒したのか!?スゲェ!!今度勝負しろよ!!」

 

 

「ヤだよ!絶対に俺が負けるよ!」

 

 

「そんなことねぇって!いいセン行くよ!!」

 

 

「ヤだって!それに俺家族同士と戦いたくねぇし!」

 

 

「でもお前ビッグスロー倒したじゃねぇか」

 

 

「それは………あ!ていうかあの上空にある黒いのって?」

 

 

上手い具合に話を逸らすビートに簡単に説明する。

 

 

「ゑゑゑゑ!?それって不味くね!?」

 

 

「だからとっととラクサス倒してアレを停止させる」

 

 

「でも残り時間少なくね?」

 

 

「…………ヤバい。そこまで考えてなかった…………」

 

 

「どーすんだよ!?残り時間多分30分ぐらいだよ!?こんな広い街からアイツ探すの難しいよ!?」

 

 

「だぁぁ!うるせぇな!!お前、魔力探れるんだろ!?それで探せば…………」

 

 

「アイツ上手い具合に気を小さくしてみんなと紛れて何処かわかんねえ…………兎に角まだ術式の中で戦ってるみんなを解放しよう」

 

 

「どうやって?」

 

 

「腐☆腐。実はさっきバサークと合ってこんなの貰ったんだよ」

 

 

ポケットからある物を取り出してナツにそれを説明するのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「姉ちゃんもう良いよ………一人で歩けるって」

 

 

「私、何も出来ないから。せめてこれくらいは…………」

 

 

エルフマンと合流したミラジェーンは彼の肩を担いでギルドまで運ぼうとしていた。すると目の前の石橋が崩れ、それと共に苦痛の叫びを上げるカナが落ちてきた。橋の上にはフリードが細剣を突きつけていた。

 

 

「しぶといな……流石ギルドの古株といった所か」

 

 

「取り消しなさい…………ジュビアを『ファントムの女』と言った事を取り消しなさい!!」

 

 

立ち上がってさらに声を上げようとすると再び苦しみ出し、吐血して倒れ伏した。

 

 

「ちくしょう!」

 

 

ミラジェーンから離れて階段を登って橋に行こうとするが…………。

 

 

「エルフマン………お前はエバに負けた。ゲームへの復帰権は無い」

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

「いい加減にしなさいフリード!私達仲間じゃない!!」

 

 

「かつては………な。しかしその構造を入れ替えようとしてるこのゲーム内ではその概念は砕け散る。ラクサスの敵はオレの敵だ」

 

 

向かってくるエルフマンに細剣を払うと彼の胸元に文字が刻まれる。

 

 

「一度敗れた駒がゲームへ復帰する事は禁ずる。その掟を破りし者は死より辛い拷問を受けよ。闇の文字(エクリテュール)『痛み』」

 

 

「ぐっ!?か、体が………」

 

 

「その文字は現実となりお前の感覚となる………」

 

 

「うがああぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「エルフマン!!」

 

 

「闇の文字(エクリテュール)『恐怖』!」

 

 

「ああぁぁぁあああぁぁ!!?」

 

 

「やめてフリード!エルフマンはもう戦えないの!!」

 

 

ミラジェーンが泣き叫ぶも、彼は聞く耳を持たずにエルフマンを傷み付ける。

 

 

「闇の文字(エクリテュール)………『痛み』『痛み』『痛み』『痛み』『痛み』」

 

 

「があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!?!?」

 

 

「いやぁぁぁ!!」

 

 

体中に文字が刻まれた彼に、フリードは細剣の切っ先に魔力を集中させる。

 

 

「闇の文字(エクリテュール)………」

 

 

「やめてぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「『死滅』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………死?

 

 

 

その時彼女の脳裏に何が写ったか。血を流す自身と同じ銀の短髪の少女の顔が写った。

 

 

 

「!?」

 

 

背筋が凍ったフリードは攻撃をやめた。中断されたエルフマンは倒れ伏す。それよりも彼が背筋が凍った理由。膨大な魔力を感じたのだ。

 

 

「ミラジェーン………?」

 

 

そして………

 

 

 

 

ブチッ

 

 

 

「あああああああああああああ!!!」

 

 

少女の叫びと共に大地が震えた。舞い散る土煙に少女の姿が見えなくなる。フリードは反射で顔を覆って自身を守る。

そして土煙から出て来たのは、ミラジェーン・ストラウスという少女ではなくなり、靡いていた銀の長髪が逆立ち、尾が生えた紅い衣服と認識出来る物を身に纏う、一人の『魔人』が現れた。

魔人はフリードを捉えて地を蹴って跳躍する。

 

 

「くっ!闇の文字(エクリテュール)『翼』!」

 

 

自身に文字を書き込んで黒い半透明な翼が生える。彼女攻撃から上空へ逃げるも、彼女の背中から悪魔の羽が生える。それを見て驚愕するも、殴り付けられる。態勢を整えて対峙すると魔人から冷たい言葉を放たれる。

 

 

「消す」

 

 

これぞ『魔人ミラジェーン』と呼ばれた彼女のテイクオーバー。『サタンソウル』。

驚愕していると魔人の蹴りがフリードの腹にミシミシと減り込む。叩き付けられると思いきや、なんとか態勢を立て直して橋の下を通る。それを見た魔人は恐るべき速さで彼を追う。

 

 

「禁じ手だが仕方あるまい………『魔』には『魔』を持って制す。闇の文字(エクリテュール)………『暗黒』!!」

 

 

再び自身に文字を刻むと彼の姿は一変して悪魔の姿となった。

魔人と悪魔の拳が激突して衝撃が響く。二体は昇りながら激しい打ち合いを繰り広げる。

悪魔が魔人の尾を掴むと振り回して川へと投げ出した。側に落ちたかと思いきや川の水を纏い、激流を悪魔へとぶつける。

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

空に打ち上げられた悪魔に向かって魔人は両手を腰に持っていって巨大な魔力弾を作り出す。それを放つとたちまち巨大な爆発が空を包んだ。悪魔から人間の姿に戻ったフリードが地に落ちる。同時に着地した魔人が倒れるフリードの胸倉を掴んで拳を振るった。

 

 

(こ、殺され………)

 

 

しかし、眼前まで迫っていた異形の拳は止まり、魔人からミラジェーンの姿に戻った。

 

 

「勝者の驕りかミラジェーン………とどめを刺せ………」

 

 

「私達は仲間よ。同じギルドの仲間………一緒に笑って、一緒に騒いで………一緒に歩いて………」

 

 

「う、うるさい!オレの仲間はラクサス一人だ!」

 

 

「一人じゃないでしょ?貴方はとっくに気付いているわ」

 

 

「…………っ」

 

 

一人の人物に依存する事の全てを悪とは思わないけど、貴方の周りには沢山の人がいる………人と人はいつでも繋がっている………。

 

 

「ほら、手を伸ばせばこんなに近くに………。一人が寂しいと気付いた時、人は優しくなれるの………。貴方はそれに気付いている…………」

 

 

フリードの脳裏にギルドメンバーの言葉がよぎる。カナに、リーダスに、エルザに、ナツに、マカロフに…………。

彼女の優しさに彼の瞳から一筋の涙が流れた。

 

 

「こんな事………したくなかったんだ…………」

 

 

 

「うん、わかってるよ。来年こそは一緒に収穫祭を楽しもう?ね?」

 

 

 

「うん………ぐす………」

 

 

 

フリードVSミラジェーン。

共に戦意喪失。そして…………バトル・オブ・フェアリーテイル 、残る敵ははラクサスの一人となった。

果たして彼を止める事が出来るのか………。



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其の42 ミストガン

モンストコラボおめでとうございます!
ウェンディ運極しなきゃ(使命感)………


カルディア大聖堂にて、黒の上着に袖を通さずに肩に掛け、金髪の男が佇でいた。彼の目の前の表示板にはこう書かれていた。

 

 

『神鳴殿発動まで残り6分』

 

 

「降参する気はねぇって………相変わらずの頑固ジジィめ………」

 

 

背後から重たい扉が開かれる音を耳に、振り向くと口角を上げた。その男は背中に4つの杖を携え、顔を迷彩柄の布で隠し、黒のローブを纏う男………。

 

 

「来たかミストガン………まさかお前がこのゲームに参加するとは思ってもいなかったぜ………」

 

 

不敵に笑うラクサスに落ち着いた声音を発する。

 

 

「今すぐ神鳴殿を解除すればまだ余興の範疇で収まる可能性もある………」

 

 

「おめでたいねぇ………知ったんだろ?妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強は誰か………オレかお前かって噂されている事は………」

 

 

「興味がないが、私はギルダーツを推薦しよう………」

 

 

「アイツは駄目だ、()()()()()()。同じくエルザもいいセンは行ってるがまだ弱い」

 

 

「エルザが弱い?フッ、とんだ節穴だなお前の目は………」

 

 

「オレはお前を認めたんだよミストガン。今、この 妖精の尻尾(フェアリーテイル )最強の座はオレかお前のどちらかなんだ」

 

 

「そんな事にしか目がいかんとは………おめでたいのはどっちだ?」

 

 

「白黒つけようぜ、最強の座を賭けて………ミストガン。いや………アナザー………」

 

 

彼が言おうとした瞬間ミストガンの血相が変わって片手の杖で魔力弾を放つ。それを同じタイミングで雷を放って相殺した。二人の衝撃で周りの窓が割れる。

先程とは違い、威圧的な声音で彼に尋ねる。

 

 

()()()を何処で知った?」

 

 

「さぁね………オレに勝てたら教えてやろうか?」

 

 

二人の場の空気が一変し、殺伐と化する。

 

 

「後悔するぞラクサス。お前は未だかつて見た事ない魔法を目の当たりにする」

 

 

「来い。格の違いを見せてやる」

 

 

対峙する二人に、先に動いたのはミストガンだ。背中に携えていた4つの杖を地面に突き刺し、手持ちの杖も刺し、計5本の杖が設置される。

 

 

「摩天楼」

 

 

彼が静かに口にするとラクサスの地面が膨れ上がる。やがて教会を消し飛ばす程の爆発が生まれ、彼は上空へと逃げ出した。しかし、それだけで収まらず、爆心地から巨大な光の柱が現れて彼を包み込む。そこは暗黒、何もない無だが、見上げると切れ目が生じ、禍々しい手が覗く。

そこから現れたのはこの世のものとは思えない化物が現れた。

 

 

「こ、この魔法は!?」

 

 

彼を食らわんとばかりに大口を開けて迫り来る。

 

 

「うおおおおおおおお!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

パリィン

 

 

化物は硝子細工のように割れた。それどころか教会も壊れていなかった。

 

 

 

「ははははははは!くだらねぇな!!こんな幻覚でオレをどうにか出来ると思ったかミストガン!」

 

 

「流石だな………だが、気付くのが一瞬遅かったな。お前は既に私の術の中………」

 

 

ラクサスの頭上に大きな5つの魔法陣が浮かび上がる。

 

 

「眠れ!五重魔法陣『御神楽』!!」

 

 

「気付いてねぇのはどっちだ?」

 

 

「っ!!」

 

 

ミストガンの足元が光ったと同時に下から雷に打たれる。ラクサスの方も魔法陣から放たれた閃光に被弾する。

打たれながらも、ミストガンは次の行動に出た。腕を素早く組み合わせるとラクサスの地面がえぐれる。しかし彼は稲妻となって駆け巡り、柱を伝ってミストガンを攻撃する。だが、被弾したミストガンの姿が薄れていき、彼の目の前に本物が現れる。

 

 

「チッ、やるじゃねーか」

 

 

次の攻撃に身構えると教会の扉から3つの人影が現れる。

 

 

『ラクサス!!』

 

 

「!?」

 

 

「「エルザ!」」

 

 

「ナツ!ビート!!」

 

 

3人の姿が視界に入った途端、ミストガンは慌てて顔を隠す。その隙をラクサスは見逃さなかった。左腕から放たれた雷に顔に打たれた。その拍子で覆っていた布が焼け焦げる。そして彼の素顔を見て3人は驚愕する。

忘れもしない。顔に刺青が入っている青髪の男。ついこの前までナツとビートと激闘を繰り広げた男………。

 

 

「ジェラール………」

 

 

「お前………!」

 

 

(……………?何か………変だぞ?)

 

 

「生きて………」

 

 

「おや?知っている顔だったのか?」

 

 

「ど、どうなってんだ!?ミストガンがジェラール!?」

 

 

「いや、待てナツ!何かおかしい!」

 

 

ジェラールは崩壊する楽園の塔の中で確かにビートが作った元気玉で倒したはずだ。それが何故目の前にいるのだろうか。

 

 

「エルザ………()()にだけは、見られたくなかった………」

 

 

「え?」

 

 

「私はジェラールではない。その人物を知っているが、私ではない」

 

 

(やっぱりか………)

 

 

ビートは彼から発する気であの時のジェラールでない事を知っていた。あの時の不気味な気が感じず、それどころか別の人物の気と感じていた。

死んだと思っていた想い人が現れて涙を溜めるエルザ。

 

 

「すまない、後は任せる」

 

 

彼は一言残して一同の前からフッと姿を消した。

 

 

「だーー!ややこしい!後回しだ!!ラクサス勝負しに来たぞ!!エルザ、いいよな?オレがやる!!」

 

 

「あ………ああ………」

 

 

「っ!エルザ!!」

 

 

呆気に取られていた彼女にビートは飛び掛かって放たれた雷から逸らした。

 

 

「ボケッとすんじゃねーよ。来な………」

 

 

「くそ!」

 

 

「ラクサスーーーー!!オレが相手をするって言ったんだろ!この野郎!!」

 

 

「ん?いたのかナツ?ついでにビートも」

 

 

「んなっ!?」

 

 

「ええ………」

 

 

目もくれてなかった彼に二人はショックを受けるが、それでもナツは右腕に炎を纏って彼を殴り掛かる。

 

 

「オレと勝負しろやぁァ!!」

 

 

「よせ!ナツ!!」

 

 

ビートの制止も聞かずに突っ込んでくるナツに彼は溜息をつく。

 

 

「てめぇのバカ一直線もいい加減煩わしいんだよ………失せろ雑魚が!!」

 

 

放たれる雷に彼は一度立ち止まってサイドステップで躱し、そのまま彼に火竜の鉤爪を入れる。しかし、腕に雷を纏って防御フィールドのようにしていたのか、弾かれる。そしてそのまま蹴ると同時にナツの腕を掴む。

 

 

「逃さねぇぞコラ」

 

 

自身より小さいナツを嬲りつける。だが、掴んでいた手を彼は更に掴む。

 

 

「逃げるかよ………てっぺん取るチャンスだろ!!」

 

 

炎を纏った左拳が彼の顔面に入る。ラクサスの掴む手が強まり、お返しと言わんばかりに3発返した。ナツも負けじと手に力を入れて殴り付ける。暫しこの状況が続き、途中で腕を思い切り引っ張ってナツをこけさせる。ナツも炎を纏った脚で足払いをしようにも飛んで躱され、後頭部を踏み付けられる。さらにそこから彼のアッパーカットが入った。

横転しながらもなんとか立て直そうとすると彼の頭を踏んでラクサスに駆け出す者がいた。

 

 

「あ!ナツの頭を踏み台にした!?」

 

 

その者は新たな黒羽の鎧を纏ったエルザだった。振り下ろされた剣を躱されるも彼に尋ねる。

 

 

「あの空に浮いているものは何だ!」

 

 

「神鳴殿………聞いた事あるだろ?」

 

 

「まさか街に攻撃するつもりか!?」

 

 

「ははっ!新しいルールさ!オレも本当は心が痛むよクックックッ………」

 

 

「貴様!!」

 

 

怒りと共に回し蹴りを入れるも掴まれる。

 

 

「あと2分だぞ?」

 

 

「ナツ!ビート!!全て破壊するんだ!!」

 

 

「無理だ!破壊したらこっちまでやられるんだよ!!」

 

 

「生体リンク魔法!?」

 

 

「そう………アレは誰にも手出しはできない魔水晶(ラクリマ)

 

 

「卑劣な!」

 

 

「フンッ!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

彼の雷を受けるも、被弾する直前に換装したのかダメージを軽減した。そして煙が晴れると彼女は別の鎧に換装していた。

その名は『雷帝の鎧』。炎帝の鎧は炎を軽減する鎧なら雷帝はそれの雷版。雷を軽減する鎧である。

 

 

「なにラクサスとやる気マンマンになってやがる!コイツはオレがやるんだ!!」

 

 

「落ち着けぇ!」

 

 

ヅカヅカ彼女に歩み寄るナツを宥めるビートに、彼女は振り返って口角を上げる。

 

 

「信じていいんだな?」

 

 

「へ?」

 

 

抜けた声を出す彼に構わずエルザは教会から飛び出した。

 

 

 

「まさか神鳴殿を!?」

 

 

「無駄だ!一つ壊すだけでも生死に関わる!今、この空には300の魔水晶(ラクリマ)が浮いている!時間ももうない!!」

 

 

ほくそ笑むラクサスに彼女は一つも表情を変えずに言い放つ。

 

 

「全て同時に破壊する」

 

 

「不可能だ!出来たとしても確実に死ぬ!!」

 

 

「だが、街は助かる」

 

 

「っ!」

 

 

「ラクサスを止めておけナツ、ビート!!」

 

 

「て、てめぇゲームのルールを壊す気か!?」

 

 

「こっちも信じていいんだなエルザ?」

 

 

ナツの言葉に彼女はコクリと頷く。

 

 

「可能、不可能とかじゃねぇ!お前の無事をだぞ!!」

 

 

「………あぁ」

 

 

「クソッ!させるか!!」

 

 

「火竜の………咆哮!!」

 

 

「波ぁっ!!」

 

 

ナツは炎を、ビートは気功弾をラクサスに放った。

 

 

「行かせるかよラクサス………」

 

 

「お前をエルザの元には行かせない………」

 

 

「このガキ共が………てめぇらも知ってる筈だ!今このギルドがどれほど腑抜けた状況か!オレはこのギルドを変える!その為にマスターにならなきゃいけねぇんだよ!!」

 

 

「…………そんなに焦んな」

 

 

「ア?」

 

 

「どうせなにも起きねぇから」

 

 

「何だと?」

 

 

「街を壊したってお前には何の得にもねぇ。今さら引くに引けなくて焦ってんだろ?」

 

 

「て、てめぇ!」

 

 

「大丈夫さ、エルザが止めてくれる………意地を通すのも楽じゃねぇな!ラクサス!!」

 

 

「てめぇが知ったような口を………聞くなぁ!!」

 

 

これまでにない巨大な雷を放つラクサス。ギリギリで躱した二人のうちビートは口角を上げた。

 

 

「何がおかしいビート?てめぇの大好きなエルザが死ぬんだぞ?焦っているのはそっちじゃねぇのか?」

 

 

それでも彼はニヤリとする。

 

 

「何とか言えや!!」

 

 

彼の言葉にビートはポケットからある物を取り出す。

 

「…………これ、何か知ってる?」

 

 

「ア?」

 

 

彼の右手に持っていたのは雷のように屈折していた小型ナイフのようなものだった。

 

 

「何だそのチンケなオモチャは?それを使ってオレを倒そうってか?」

 

 

「こりゃあバサークから渡された物でね、何つったかな………確か『 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』とか言ったかな」

 

 

「ルールブレイカー?」

 

 

「攻撃力は普通のナイフと変わりないけど………コイツはあらゆる術式を初期化出来る」

 

 

「何っ!?」

 

 

「俺が何もせずのこのことここまで来ると思ったか?」

 

 

「てめぇ………それはどういう………」

 

 

彼が言い掛けようとした瞬間、表示板からブザーが鳴り響く。表示板には『神鳴殿、機能停止』と書かれていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

「エルザがやったのか!?」

 

 

「エルザだけじゃない………みんなだ」

 

 

「みんな………?」

 

 

バサークと合流した彼はルールブレイカーを渡された後、未だに戦闘をしているギルドメンバーの元に行って術式を解き、事情を説明。

始めはウォーレンの所へ向かった。彼は念話(テレパシー)が使えるので、一通り説明した後、ギルドメンバーに発信。今頃エルザにも伝えて同時に魔水晶(ラクリマ)を破壊するように頼んで破壊させた。

 

 

「始めは俺もやろうと思ったが、お前はやるなって言われたよ………何故かッて?それは託されたからだよ………ラクサス(お前)を倒す為になぁ!!」

 

 

「ちょ、ラクサスを倒すのはオレだって………」

 

 

「お前は人を傷付けすぎた………「聞けよ!?」ギルドを手に入れる?最強のギルドにする?

ふざけるな!!俺は力で捻じ伏せるギルドより、みんなが楽しく分かち合えるギルドを取る!だってみんなは俺の大切な家族だから!!…………安心しろラクサス、お前も家族の一人だ………ただてめぇのドタマにお仕置きのゲンコツを喰らわせるだけだぁ!!」

 

 

珍しくビートが怒りを露わに言い放つ。ラクサスはわなわなと震え、次の瞬間轟雷が落ちた。

 

 

「支配だ」

 

 

「て、てめぇ………」

 

 

「いい加減にしろよラクサス………妖精の尻尾(フェアリーテイル )はもうお前のものにはならねぇ………」

 

 

「なるさ……そう、駆け引きなど初めから不要だったのだ……… 全てをこの力に任せればよかったのだ!圧倒的なこの力こそがオレのアイデンティティーなのだからなぁ!!

 

 

「そいつをへし折ってやれば、諦めがつくんだなラクサス!!」

 

 

炎を纏って彼を殴り付けようと駆け出す。

 

 

「火竜の鉄拳!!」

 

 

拳は彼の左頬に確かに命中した。

だが、何も無かったかのように口角を釣り上げる。

 

 

「まずは貴様等だ………… かかって来い妖精の尻尾(フェアリーテイル )!!オレが全てを呑み込んでやる!!

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

放たれた稲妻にナツは吹き飛ばされた。

 

 

「ナツ!」

 

 

「人の心配をしてる暇があんのか?」

 

 

「しまっ、あがぁぁっ!?」

 

 

ナツに気を取られていたビートも同様に雷を喰らって吹き飛ばされた。彼の猛撃は止まらない。雷で麻痺している二人を嬲り付け、追い討ちの如く雷を喰らった。

 

 

 

「つ、強ぇな………やっぱり……」

 

 

「お、思っていた以上に奴のパワーが上だった………」

 

 

倒れ伏す二人にラクサスはとどめを刺す。彼の左腕に魔力が集中する。

 

 

「鳴り響くは召雷の轟き………」

 

 

「か、体が………」

 

 

「くそぉ………」

 

 

「天より落ちて灰燼と化せ………」

 

 

 

『レイジングボルト!!』

 

 

二人の頭上にこれまでにない程の巨大な轟雷が落ちた。

 

 

「フフ、フハハハハハハハハハ!!ナツゥ………ビートォ………このギルドの最強は誰だ?」

 

 

土煙が晴れるとそこには二人の姿は残っていなかった。

 

 

 

「ハハハハハハハハハ!!粉々になっちまったら答えられねぇか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「満足したか?馬鹿笑いしやがって………」

 

 

「仲間を消して喜んでるとぁどうかしてるぜ」

 

 

「アァ?」

 

 

振り返ると長髪の二人組、ガジルとバサークがそれぞれ二人を雑に抱えていた。

 

 

ビート(コイツ)を倒すのは俺の役目だ」

 

 

「てめぇなんかが勝手に決めんな」

 

 

「また獲物が二匹………ククク、消えろ消えろォ!オレの前に立つ者は全て消えるがいい!!」

 

 

「ガ、ガジル………んが!?」

 

 

「バサーク、お前………ふげっ!?」

 

 

目が覚めた二人を離すと地面と激突する。

 

 

「ラクサスはオレがやる………引っ込んでろ………」

 

 

「コイツには個人的な借りがあるんだヨ。だが、奴の強さは本物のバケモンだ。マカロフの血を引いているだけの事はある」

 

 

「気に入らないがやるしかない………」

 

 

「な、何を………?」

 

 

恐る恐る尋ねるビートに二人はほぼ同時に答えた。

 

 

「「共闘だ」」

 

 

「「ダニィッ!?」」

 

 

二人の言葉にナツとビートも声がハモる。それぞれ死闘を繰り広げた仲であり、ビートとバサークに至ってはジュピター並の魔力砲をぶつけ合う程の死闘を繰り広げた。

そんなのが組める訳が無い………。

 

 

「お前等よく見ろ。あれがお前達の知るラクサスとやらか?」

 

 

バサークが首で向けると二人は驚愕する。

 

 

「ハハハ………消えろ………消えろ………」

 

 

そこにはもう彼の面影が無いほど変わり果て、狂人と化したラクサスの姿が………。

 

 

「あれはギルドの敵だ!ギルドを守る為にここで止めなきゃならねぇ!他の奴等は神鳴殿の反撃で全員動けねぇ。今ここで奴を止めねぇとどうなるかわかってんのか!?」

 

 

ガジルの発言にナツは少し考える。

 

 

「お前がギルドを守る?」

 

 

「守ろうが壊そうがオレの勝手だろーが!」

 

 

「ジャ◯アンかな?」

 

 

「この空に竜は二頭いらねぇんじゃなかったか?」

 

 

「いらねぇな。だが、こうも雷がうるせぇと空も飛べねぇ………」

 

 

「今回だけだからな」

 

 

「当たり前だ!てめぇとはいずれ決着をつける!!」

 

 

そんなこんなでナツとガジルは結託した。一方ビートとバサークは………。

 

 

「………どういう風の吹き回しだ?」

 

 

「勘違いするんじゃない……この俺が平和に目覚めたわけではない。お前のギルドも本当はどうでもいい。けどな、お前を倒すのに奴が邪魔だ!!

お前と組み、奴を片付けたら………勿論その後はお前をぶち倒して俺がサイヤ人最強をいただくつもりだ!!」

 

 

「そうはさせねぇ………そうはさせねぇけど二人が組むってとこまではいい考えだ………。その方法しかねぇみてぇだな………」

 

 

「そういうことだ………。我慢するんだな………俺だってお前と組むなんてヘドが出そうだぜ………」

 

 

これまでにない最強のコンビが誕生した。これでビートとバサークの方も結託した。

 

 

「「行くぞ!!」」

 

 

「「応ッ!!」」

 

 

それぞれの掛け声と共に二頭の竜と二人のサイヤ人が轟雷(ラクサス)に駆け出した。

今ここに歴史が変わる壮絶なる闘いが始まろうとしていた。

 

 

 

 



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其の43 共通の大敵

神鳴殿を止める事に成功したビート達。しかし、ラクサスのパワーに捻じ伏せられ、駄目かと思ったその時、ガジルとバサークが現れる。

二人が出した案は共闘。始めは嫌がっていたナツも次第に結託する。険しく尋ねていたビートも理由を聞いて納得し結託する。

今、二頭の竜と二人のサイヤ人が轟雷に立ち向かう。

 

 

まず、ナツとガジルが先陣を切る。二人はラクサスに向けて猛撃を振るう。

二対一なのにも関わらず、ラクサスは二人と渡り合っていた。ナツの拳を、ガジルの蹴りを、跳ね除ける。

そして反撃の雷撃がナツに被弾してガジル諸共吹き飛ばす。

 

 

そこで入れ替われるようにビートとバサークが突っ込む。

ビートの乱打がラクサスを襲う。拳打や蹴りを喰らわせて左拳を放つとがっしりと拳が掴まれる。

ニヤリと笑うが、彼はまるで想定していたように蹴り離す。

 

 

 

「バサーク!!」

 

 

「だららららららららららららららららららららら!!!!」

 

 

蹴り離してバサークと攻撃ポジションを入れ替わると彼の紫の気功弾の乱射する。

一発一発にかなりの気を凝縮させているので相当な爆発力を生む。土煙が晴れると服が少しボロくなっただけで本人はピンピンしている。

お返しと言わんばかりの電気弾が放たれる。

 

 

「ぬおおおおおおおおおおお!!」

 

 

それをバサークは避けずに真正面から受けると電気弾が薄い紫の膜に包まれる。掌に薄く気の膜を張って電気弾をそれで包んだのだ。

 

 

 

「喰らえぇぇ!!はっ!!」

 

 

それを片手に構えるとラクサス自身に返すように放った。

薄い気の膜でも強力に練った気の膜には先程の魔力弾と変わりない程の爆発力を持つ。巨大な爆発を起こし、土煙が晴れると自身の雷に少し怯んだラクサスが現れる。それをバサークは見逃さない。

 

 

「ビート!」

 

 

「波あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

彼の背後で溜めていたかめはめ波を放ち、彼に被弾してさらに爆煙を上げる。しかし爆煙が収まるとそこには彼の姿はいない。、

 

 

 

「こっちだ馬鹿め!」

 

 

「なっ!?うあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

いつの間にか跳躍してビートの頭上にいたラクサスは彼に向かって電気弾を乱射させる。

被弾したビートは地に落ちる。しかし彼は柱を走って登っていたナツに気付かずに背後を取られる。

 

 

「右と左の炎を合わせて………火竜の煌炎!!」

 

 

巨大な爆炎を喰らわせて叩き落とし、下で構えていたガジルが右腕を槍に変えて降下するラクサスに駆け出す。

 

 

「鉄竜槍!『鬼薪』!!」

 

 

槍の猛撃に彼の体に突き刺さる。上空にいたナツに合図を送り、それを見たビート達もラクサスを囲むように四方につく。

 

 

「火竜の………」

 

 

「鉄竜の………」

 

 

「か……め……は……め………」

 

 

「はぁぁぁぁぁ…………」

 

 

 

ナツとガジルは口を膨らまし、ビートとバサークは気を溜め始め…………。

 

 

 

 

 

『咆哮!!』

 

 

「波あああぁぁぁぁ!!」

 

 

「ギャリック砲!!」

 

 

 

四方からそれぞれ炎、鉄のブレス、水色、紫の閃光がラクサスを襲う。巨大な爆発が起こって教会全体に響き渡る程だった。

ラクサスと言えど、二人の 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と二人のサイヤ人の全力の猛攻に流石の彼も…………。

 

 

「全員合わせてこの程度か?」

 

 

煙から上半身が露わになったラクサスが現れる。その屈強な体に少し土をつけただけである。

 

 

「馬鹿な!?いくらコイツが強ぇからって……竜迎撃用の魔法をこれだけ喰らって………ありえねぇ!!」

 

 

「そいつは簡単な事さ………。ジジィがうるせぇからずっと隠してきたんだがな………特別に見せてやろう………」

 

 

「まさか………」

 

 

「嘘だろ………!?」

 

 

彼の歯が鋭く伸びる。それはナツとガジルのような竜の歯のように………。

先程二人がしたよりも大きく息を吸う。

 

「雷竜の………」

 

 

「お前も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったのか!?ラクサス!!」

 

 

「咆哮!!!」

 

 

彼の口から稲妻の嵐が放たれた。4人はなす術なく嵐に巻き込まれる。

 

 

『あああぁぁぁぁああああ!?』

 

 

『ぐあああぁぁぁああああ!?』

 

 

まともに喰らった4人は全身が麻痺して地に倒れ伏す。これまでにないとてつもない感電に痙攣してしまう。

 

 

「まだ……生きてんのかヨ…………いい加減くたばれよ…………。お前等も………エルザも……ミストガンも………ジジィも、ギルドの奴等も、マグノリアの住人も………… 全て消え去れェッ!!!

 

 

瞬間、彼の周りにとてつもない魔力が溢れる。4人はこの感じを知っている。

術者が敵と認識した者全てが標的。マカロフの超絶魔法『妖精の法律(フェアリーロウ)』。

 

 

「反則だろ………『敵と認識した者全て』が攻撃対象なんて………」

 

 

「こ、ここまでなのか………」

 

 

「くそぅ………!!」

 

 

「おおおおおおおおおおお!!!」

 

 

両手に魔力を集束し始めるラクサスに意外な人物が現れる。

 

 

「やめてラクサス!!」

 

 

『!!』

 

 

全員が声の主に着目すると柱の影に水色の髪の少女のレビィが息を切らしながら現れた。

 

 

「レビィ!」

 

 

「馬鹿が……何しに来た………」

 

 

「聞いてラクサス!マスターが…………貴方のおじいちゃんが………危篤なの!!」

 

 

「………っ!」

 

 

「だからお願い!もうやめて!!マスターに会ってあげてぇ!!」

 

 

「き、危篤………?じっちゃんが………死ぬ………?」

 

 

ピクッ

 

 

「ラクサスゥ!」

 

 

彼女の言葉にしばし硬直したが、逆に口角を釣り上げた。

 

 

「丁度いいじゃねぇか………これでオレがマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ………」

 

 

「っ…………!!」

 

 

ギリリとビートは歯を噛み締める。これが………マカロフの孫なのか?こんなのがマスターの孫というのか………?

 

 

「ふははははっ!消えろ妖精の尻尾(フェアリーテイル )!!オレが一から築き上げる!!誰にも負けない!皆が恐れ(おのの)く最強のギルドをなァァ!!」

 

 

「そんな………」

 

 

「お前は………何でそんなに………」

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)!!発………」

 

 

ズドォォン!!

 

 

『!?』

 

 

ラクサスが妖精の法律(フェアリーロウ)を発動する前に二つの気功弾が顔面に直撃して術がキャンセルされた。

その方向にはボロボロになりながらも腕を構えていたビートとバサークの姿が。

 

 

「あいつら………残り少ねぇ魔力で無理しやがって………」

 

 

しかし。

それが彼の逆鱗に触れたのか煙から二つの雷が飛び出す。

 

 

「がっ!?」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

被弾した二人は吹き飛ばされる。

 

 

「てめぇ………よくも妖精の法律(フェアリーロウ)を………」

 

 

「クァンタムキャンセルって言うのがあってだな………それを思い出してやったのさ………」

 

 

「…………いいだろう………そんなに死にたきゃテメェから殺ってやらぁ!!」

 

 

「ラクサスもうやめて!!」

 

 

「雑魚はすっこんでろっ!!」

 

 

制止するレビィに向かって雷を放った。

 

 

「やっ、やめろぉぉ!!ラクサスゥゥゥゥ!!」

 

 

反射的にしゃがんでなんとか難を逃れたが、雷は柱に直撃して崩れ落ちる。その下にはレビィが………。

 

 

「きゃあああぁぁぁぁああああ!!」

 

 

悲鳴を上げて彼女は崩れた柱の瓦礫の下敷きとなった。

 

 

 

 

 

ドックン………ドックン…………。

 

 

 

「ふ、ふははははははははははははっ!馬鹿め!また無駄死にしやがった!!そんな奴がいるからこのギルドは駄目なのだ!!どうせアイツもギルドにいらねぇ奴だったから丁度良かった!!もうオレを止める者は誰もいない!!オレこそが………最強の………!!」

 

 

ゾワッ

 

 

「!?」

 

 

その時、ラクサスの背筋が一瞬凍った。

一瞬。一瞬だけとてつもない魔力を感じた。それも近くから…………。その持ち主は…………。

歯をギリギリと噛み締めてこちらを睨むビートだった。

 

 

「ゆ……ゆ……許さんぞ…………よ、よくも……よくも…………」

 

 

パラパラと周りに落ちていた無数の小石が浮かび上げ始める。

交差した両手を前に持って来る。そこから覗く彼の額には青筋が立っていた。

 

 

 

「いい加減にしろ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このクズ野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

怒号を上げると同時に大地が割れ、鳴り響く。彼に巨大な水色のオーラが浮かび上がると一つの窓が割れ、次々と残りも窓も全部割れる。

 

 

「罪もない者を次々とやりやがって…………レ、レビィまで………」

 

 

文字を教えてくれた少女の顔が頭によぎる。笑う顔が銀の短髪の少女と重なって…………。

 

 

ブチンッ

 

 

 

「オレは怒ったぞおぉぉ!!ラクサスウゥゥ!!!

 

 

気が満ちる音がすると、彼は腰を深く落としてさらに溜めの姿勢に入る。水色のオーラがだんだん変色して黄金となり、髪が逆立ち、そして…………そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その地響きは外までも伝わっていた。

 

 

「うおっ!?なんだよこれ!?」

 

 

気絶したジュビアを横に抱えていたエルフマンが驚愕する。その中でミラジェーンは何か察したように俯いて目を瞑る。

 

 

(あぁ………ビート。とうとう………とうとうなってしまったのね…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(スーパー)サイヤ人に…………”

 

 

 

ラクサスの目の前には髪が逆立って金色に輝く怒りの戦士が彼を睨みつけていた。





覚醒演出はスパーキングメテオのストーリーモードで悟空が超サイヤ人になるのを準拠としております。


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其の44 伝説の(スーパー)サイヤ人

ウェンディがあと4体で運極なのに………オーブが足りん………。あと、ナツしか当たらんかった………。


それはビートが初めて大猿になった日の翌日の事。急遽エルザとミラジェーンとラクサスが呼び出された。

ラクサスはヘッドホンをしてあまり聞く気がないが、マカロフは続ける。

 

 

「よいか?今後ビートを絶対に夜には出すな」

 

 

「それは重々承知です」

 

 

「ええ、勿論よ」

 

 

「…………」

 

 

「それともう一つ、()()()()()()()()()()

 

 

「それはどういう事ですか?」

 

 

エルザの質問にマカロフは顔を伏せる。

 

 

「古い伝説があってな………」

 

 

通常サイヤ人は満月を見ると大猿に変身する。

しかし稀に………ごく稀にその中で別の形態が存在する。

 

 

 

(スーパー)サイヤ人。

 

 

 

怒りによって目覚めた戦士。

(スーパー)サイヤ人に覚醒したサイヤ人は破壊と殺戮を好む超戦士となる。

 

 

「これは千年に一度しか現れない存在じゃが、くれぐれも彼を怒らせるな」

 

 

「わかりました」

 

 

「わかったわ」

 

 

「………へっ。くだらねぇ」

 

 

『!?』

 

 

今まで素っ気なく聞いていたラクサスが嘲笑った。

 

 

「千年に一度だろ?そうそう奴が(スーパー)サイヤ人になれるわけねぇ。それにアイツは心が優しすぎる。そんな簡単に(スーパー)サイヤ人になるはずもねぇ」

 

 

「ラクサス!!」

 

 

エルザが激を飛ばすが、立ち上がって部屋から出た。

 

 

(第一そんなモンになったらオレがぶちのめしてやる。そしたらオレが最強だ………)

 

 

廊下を歩きながら一人、ラクサスは口角を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

オレの目の前にいる奴はなんだ?

サイヤ人はサルにしか変身しないハズ………。だが、目の前のコイツは………。

 

 

髪が逆立って黒から金色に変わり、碧の瞳となったビートにラクサスは驚愕していた。無論彼だけでなくナツ達も同じ反応をしていた。

 

 

「ビ、ビート………なのか?こんな魔力感じた事もねぇ…………」

 

 

「あの変わりよう………まさか…………」

 

 

「ナツー!ビートー!」

 

 

『!!』

 

 

ビート以外その声に反応し、振り向くとボロボロになっていたフリードに抱えられていたレビィが別の柱から現れた。

 

 

「フリードが………瓦礫から私を助けてくれたの………」

 

 

「このくらいどうという事は無い………それよりもあれは………ビートか?」

 

 

彼女の無事を確認し、少し短息すると改めてラクサスを睨む。

 

 

「ナツ………ガジル………バサーク………オレは今から奴と戦う………。邪魔にならないように離れてくれ………」

 

 

「なっ!?何言ってんだ!!ラクサスはオレがたお………」

 

 

「オレの理性がちょっとでも残っているうちに、とっとと消えるんだ!!」

 

 

「な、なんだよ………急にキレやがって………お前らしくないぞ………」

 

 

「…………火竜(サラマンダー)……ここは奴の言う通りにしろ」

 

 

「だな、今の奴だと逆に俺達が邪魔になる………」

 

 

「お、おい勝手に決めん「ゴチャゴチャ言うな!オレを困らせたいか!!」わ、わかった!わかったから大声出すなよ!まるで別人だな………」

 

 

彼の激に渋々引き下がる。ビートとラクサスの一対一となって対峙する。

 

 

「………フン。随分と荒くなったな………だが、オレには妖精の法律(フェアリーロウ)がある………わかるか?たとえお前がどんな姿になろうとオレには勝て……」

 

 

彼が言い終わる前に恐るべき速さで駆け出し、殴ってカチ上げる。そこからさらに飛び出して両手を組んで叩き落とした。

叩きつけた地面の瓦礫を吹き飛ばした。

 

 

「……本当に手荒い挨拶だなビート………お前等サイヤ人は罪もない奴を殺さなかったとでもいうのか?」

 

 

「オレは違う………」

 

 

「いいや違わない………お前も残忍非道のサイヤ人の一人だ………。そしてここでお前とバサークはオレの手によって滅ぼされる………」

 

 

「オレがお前を滅ぼす………」

 

 

「このラクサス様を?くっくっくっ………図に乗るのもそれぐらいにしておくんだな………。このオレに勝てるわけがない………もし、本当にお前が(スーパー)サイヤ人であったとしてもだ………!」

 

 

左腕を腰まで持っていき、ビートに向けて野太い雷を放った。彼は全く動かず呑まれる。その後も次々と雷を放つラクサス。土煙で見えなくなったが、無くなると先程と姿が変わらず直立不動のビートが現る。その様子に流石のラクサスも驚きを隠せないでいた。

 

 

「お前はもう謝っても許さないぞ………」

 

 

右手を彼に向けると気合砲を放つ。凄まじい衝撃波に両腕を交差させていたラクサスもガリガリと地面を削って耐え切るもその顔は驚愕のまま、対照的にビートはニヤリと口角を上げていた。一同も彼の様子に驚きを隠せなかった。

 

 

彼の猛撃は止まらず、ラクサスに突っ込むと肘打ちを顔面に放つ。態勢を立て直すもアッパーカットで上空に打ち上げられ、再び猛スピードで突っ込んでロケット頭突きを喰らわせる。

 

 

「ぎっ!!」

 

 

くるりと身を翻したラクサスは負けじと回し蹴りを放つが左腕で防がれ、肘打ちを放つも右腕で防がれる。

しばしの打ち合いが繰り広げるも、諦めたのか彼から距離を離すと刹那の如くの雷撃を放った。ギリギリ視認出来るか出来ないかの速さの稲妻が彼を襲う。

だが、ビートは直立不動のまま右にスライドするように避けた。

 

 

「何っ!?避けただと!?そんなはずはねぇ!!」

 

 

通常なら回避不可の超速の稲妻を躱したのだ。その後も連続で放つがまたスライドするようにスラスラと避ける。

 

 

「お、おのれ………当たりさえすれば....。て、てめぇなんか………」

 

 

歯を噛み締める彼に嘲笑した。

 

 

「当ててみろよ」

 

 

「っっっ!!!ふ、ふざけやがって………後悔しやがれぇぇえっっっ!!!」

 

 

 

左腕を掲げて魔力が集束される。バチバチと稲妻を纏うと一気振り下ろした。

 

 

「レイジングボルト!!」

 

 

ビートの頭上に巨大な轟雷が落ちた。

 

 

「うそ………」

 

 

「直撃だ………流石のビートでもあれは………」

 

 

涙を流すレビィに目を背けるフリードだが、爆煙が晴れると一同驚愕する。

 

 

「街を壊そうとしても、たった一人の人間は壊せないようだな………」

 

 

直立不動のまま健在のビートだった。変わったのは彼の雷撃によって上の赤の道着が焼け焦げ、下の黄色の長袖が露わになったぐらいで、彼自身は殆どダメージを受けていなかった。

 

 

「な、な、何者だ………お前は………」

 

 

「とっくにご存知なんだろぅ?オレは………貴様の野望を打ち砕く為に立ち上がったサイヤ人…………。穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士…………」

 

 

(スーパー)サイヤ人、ビートだぁっ!!」

 

 

怒号を上げた途端に足元が割れた。怒号だけでこの魔力である。

 

 

「や、やはりな………どうやら本当に(スーパー)サイヤ人らしいな………。『穏やかな心を持ちながら怒りによって目覚めた』か………成る程……いくら頑張ってもバサークがなれなかったわけだ………」

 

 

ヒクヒクと口を引きつらせると拳を地面に叩き付けた。

 

 

「ち、ちくしょう!!ちくしょおおおおお!!(こ、このオレが何という屈辱だ………このラクサスがぁ〜!あ、あんな奴に……あんなサイヤ人なんかに………。し、信じられん……こんな事が!!あるはずもないと思っていた事が………!!)

 

 

「…………終わりだ、ラクサス」

 

 

静かに言った彼に対し、ラクサスは立ち上がって睨みつける。

 

 

「………こうなったら見せてやるぞ!!オレのフルパワー(100%の力)を!!オレを倒せるわけがないんだ!覚悟しろ!!」

 

 

ビートと同じように溜めの姿勢に入るラクサス。その様子を怪訝しながらも静かに見ていた。

 

 

「気が膨れ上がって充実していく………遂に100%パワーちゅう奴のお出ましか…………」

 

 

屈強な体に更に筋肉が付き、両腕に竜の鱗、両の頬にも竜の鱗のようなものが浮かび上がった。

 

 

「待たせたな………こいつがお望みの……フルパワーだ!!」

 

 

「………時間が勿体ねぇ。はやいとこ決着(カタ)をつけようぜ…………」

 

 

「…………いいだろう。なら、少し見せてやるか…………」

 

 

瞬間、彼は高速でビートの懐に入って腹部を殴りつけた。更に顔を掴んで顎に膝蹴りを放ち、拳打や蹴りを放ってされるがままになるビート。

 

 

「ぐ……ぐふ…………」

 

 

「くっくっくっ………どうだ?今のはこれから見せる最終攻撃の為の準備運動だぞ………」

 

 

「……だろうな。そんな程度じゃガッカリするところだ………」

 

 

「………っ!ふふっ………お前、内心焦ってんだろ?オレは強くなりすぎたのさ。今のお前なんかすぐに消せる…………。少しでもオレの魔力を消費させる為に時間稼ぎでもするか?」

 

 

「時間稼ぎだと?そんな必要は無い。お前はぶっ飛ばされる。これからここで………」

 

 

「でかい口を聞くのもそこまでだ!!今すぐ黙らせてやるぞ!!」

 

 

怒号を上げた途端、地を蹴って猛スピードでビートに突っ込む。身構えたが、激突する直前に跳躍。そして真上から気合砲と変わりない衝撃波を浴びせる。両腕で防いですぐに上を見るがそこにはもう彼は居なくなっており、背後からビートを殴り掛かる。腕を上げる事によって彼の拳がすり抜ける。そしてそのまま脇で挟んで左腕を固めて頭を後ろに下げて頭突きを喰らわせる。

彼が怯んだのを見計らって挟んだ腕を両手で掴み、何倍もある体格のラクサスを軽々と振り回した。

 

 

「はあああぁぁぁぁ!!」

 

 

そのままハンマー投げの要領で遠くに投げ飛ばす。このままいけば柱に激突するが、直前で雷撃を放ってブレーキ代わりして止まった。

憤怒の表情で息を荒くしてビートを睨む。それに対し、両手を合わせたまま腰まで持っていき、かめはめ波の構えを取るビート。

 

 

「があああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

獣のように吼えると全身に雷を纏い、地面を蹴ってビートに殴りに掛かった。

 

 

「オレの前から消えろビートォォォォォ!!」

 

 

「くたばれラクサァァァァァス!!」

 

 

彼の両手から放たれたかめはめ波にラクサスは突貫する。二つのエネルギー体がぶつかり合って雷の余波が周りに及ぼす。柱が、地面に亀裂が走る。通常の教会とは違って特殊な素材を使って作られたカルディア大聖堂でもこれぐらいで済むのが奇跡だ。

ぶつかる中、途中でラクサスは軌道を無理矢理変えてかめはめ波から外れて本人に直接攻撃を仕掛けた。

雷を纏った拳打を叩きつけられ、柱に連鎖的にぶつかりながら吹き飛ばされた。ようやく止まるも、ガラガラと瓦礫が彼の上から落下して呑まれた。

 

 

「どうだっ!ざまーみろ!!お前如きがこのオレに勝てるわけがなかったんだ!!ふははははははははは!!」

 

 

「ビート!!」

 

 

「クソッ!!」

 

 

「さぁてようやく邪魔者は消えた………今度はお前等の番だ………」

 

 

ナツとガジルが飛び出して身構え、ゆらりと歩み寄るラクサス。

すると何かが落ちる音が聞こえた。まさかと思い、振り返ると崩れた瓦礫の山の上からビートが息を荒くしながら這い出てくる。

黄色の長袖も無くって上半身裸になり、下も右脚の肌が露わになる程ボロボロになっていた。

その様子にギリギリと歯を噛み締める。

 

 

「………このくたばりぞこないめ……………。いいだろう!!今度こそ再起不能にしてやる!!あの、老いぼれのように!!」

 

 

「“()()()()()()()()()()”………?じいちゃんのことか………?」

 

 

 

“じいちゃんのことかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!”

 

 

黄金のオーラを纏い、彼に向かって駆け出す。ラクサスも駆け出して二人は激しい打ち合いに持ち掛けた。

拳と拳が飛び交う中、その勝負を制したのは………。

 

 

「うらぁっ!!」

 

 

金色の戦士だった。

顔面に拳を放って吹き飛ばす。それで収まらず、彼は更に追撃を加える。

一撃、二撃、三撃、四撃、五撃と何処かリズミカルだが、一発一発が重い音を響かせる。吹き飛ばされたラクサスに向かって飛び蹴るも直前で躱される。

ところが躱されたところで止まって反対の脚で蹴り飛ばす。

ガリガリと地を削り、額に血を流しながら起き上がるも、そこにビートはいなく、背後から両手を合わせて叩きつけた。

 

 

「そりゃっ!!」

 

 

バウンドした彼を殴り飛ばして柱に激突し、崩壊した柱の瓦礫に埋もれた。

 

 

 

「ちっくしょおおおおおお〜〜〜!!ちっくしょおおおおおおおおおお!!!」

 

 

瓦礫の山を破って血を流しながら怒号を上げて起き上がるラクサス。ビートの怒涛の乱撃が彼の怒りが頂点に達した。

 

 

「お前なんか………お前なんかいなければ……… オレは………オレはああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

彼の周りにとてつもない魔力を浴び始める。この魔力量、再び打つ気なのだろうか………。

 

 

 

「今度こそ終わりだビートォッ!!妖精の法律(フェアリーロウ)発・動!!

 

 

 

両手に溢れんばかりの光を合わせると、眩ゆい光が溢れた。その光は教会を飛び出し、街全体を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はぁ………はぁ………オレは………ジジィを超えた………」

 

 

妖精の法律(フェアリーロウ)が発動成功し、ビートどころかナツ達も葬った事にラクサスは喜んでいた。特にビート。(スーパー)サイヤ人に覚醒した彼を倒せた事により、自身は伝説をも超えたのだと思っていた。

 

 

 

しかし………。

 

 

 

しかし……………。

 

 

 

「っ!?」

 

 

煙が晴れると目の前には相変わらず雄々しいで佇むビートに、その周りには咳き込むナツ達が視界に写った。

 

 

「そ、そんなバカな………何故だ!?何故誰もやられてねぇんだ!?あれだけの魔力を喰らって平気なわけねぇだろ!!」

 

 

「いいや、ラクサス。誰一人もやられてはいない」

 

 

「フリード!?そんなはずはねぇ!!妖精の法律(フェアリーロウ)は完璧に発動した!!」

 

 

「それがお前の『心』だ………」

 

 

「こ……こ……ろ………」

 

 

オウム返しする彼にフリードは続ける。

 

 

「お前がマスターから受け継いでいるものは力や魔力だけじゃない………。

仲間を思う、その心。

妖精の法律(フェアリーロウ)は術者が敵と認識した者にしか効果がない………。言っている意味がわかるよなラクサス」

 

 

「心の内側を魔法に見抜かれた………」

 

 

「魔法に嘘はつけないよなラクサス………これがお前の『本音』という事だ………」

 

 

つまり、彼は内側に誰も死んで欲しくないという気持ちが魔法に見透かされ、ビート達を敵と認識しなかったのだ。

彼にも仲間を思う心があったのだ…………。

 

 

「…………違う………違う!!オレの邪魔をする奴は全て敵だ!!敵なんだ!!」

 

 

「もうやめんだラクサス……………マスターの所に行ってやれ…………」

 

 

「ジジィなんかどうなってもいいんだよ!!オレはオレだ!!ジジィの孫じゃねぇ!!ラクサスだっ!!ラクサスだああぁぁぁぁ!!

 

 

怒りと共に彼の周りに雷が迸る。

心の隅では仲間を思う心があるが、本人の意思は変わらずだった。それの様子を見ていたビートは嘆息をつくと振り返って歩き出す。それもラクサスのいる逆の方向に。

 

 

「おい………何処に行くつもりだっ!!まだ勝負は終わってねぇだろ!!」

 

 

荒げる彼の声にビートは立ち止まり、バッと振り返ってラクサスに一言言った。

 

 

()()()

 

 

やめ。

それは終了、投了を意味する言葉。彼はこの戦いは終了だと言ったのだ。

 

 

「なっ、なんだと!?や、やめとはどういう事だ!?」

 

 

「お前は100%パワーを使った反動で、ピークを過ぎ、気がどんどん減ってる………これ以上戦っても無駄だとオレは思い始めた………」

 

 

彼の言う通りラクサスの魔力は妖精の法律(フェアリーロウ)を発動した後、魔力が段々減って腕や頰に浮かんでいた竜の鱗も消えていた。

 

 

「もうオレの気は済んだ………お前のプライドは既にズタズタだぁ………。この世で誰も越えるはずもない、 ラクサス(自分)を越える者が現れたちまった………。しかも、そいつは()()()サイヤ人のガキだった………。

今の怯え始めたお前を倒しても意味は無い………。ショック受けたまま生き続けるといい………ひっそりとな」

 

 

「な………な………」

 

 

「二度と悪さすんじゃねぇぞ………修行して出直して来るんだな…………」

 

 

そう言い残すと身体を出口に向き変えて再び歩き出した。自身の血の滲んだ右の掌を見つめる。

 

 

(オレのこの姿を見てお前はどう思うかな…………リサーナ…………)

 

 

今は亡き彼女を思い浮かべて何処か悲しい顔を見せる………。

その背後には怒りに満ちた憤怒の顔のラクサスが身を震わせていた。自身よりも遥かに歳下にこれでもかと言う程下され挙げ句の果てに見逃されたのだ。

 

 

(オ、オレは最強なんだ!!だから………だから貴様はこのオレの手によって死ななければならない………)

 

 

「オレに………オレに………殺されるべきなんだああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

両手に魔力を集中させて巨大な雷の一刺しの槍を作り出した。

 

 

「よせ!ラクサス!!今のビートにそんな魔法を使ったら………」

 

 

「雷竜方天戟!!」

 

 

「殺す気かぁ!!」

 

 

フリードの制止も聞かず、凝縮された稲妻を彼の背に向けて投擲した。向かって来る槍に振り向き、放った彼に向けて歯を噛み締めた瞬間………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカヤロオオオオオォォォォォ!!!!!!」

 

 

彼の咆哮と共に右手から放たれた『怒りのかめはめ波』は、あっという間に槍を呑み込み、一瞬顔が歪む程の閃光にラクサスは呑み込まれ、大爆発が起こった。

爆煙が教会の割れた窓から噴き出る。とてつもない量の煙が晴れると、教会の奥には白目を向けて力尽きたラクサスに何処か空い(むなし)表情を浮かべたビートは今度こそ教会から出て行った………。

 

 

 

勝者、(スーパー)サイヤ人ビート。ラクサス戦闘不能。バトル・オブ・フェアリーテイル 、閉幕…………。

 



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其の45 幻想曲(ファンタジア)

バトル・オブ・フェアリーテイルの件で、ファンタジアは明日の夜に延期になった。

ギルドメンバーもビートの呼び掛けで神鳴殿からのダメージは受けたものの、何とか軽傷で済んだ。

ナツやガジルは体のあちこちに包帯を巻いていた。ナツに至ってはは口まで包帯をしていた。バサークは頭にだけ包帯をしていた。

その中でルーシィはキョロキョロと周りを見渡していた。

 

 

「ねぇ………あれからビートを見かけた?」

 

 

「全員総出で探し回ったが、これを見つけた時にはもう何処にもいなかった」

 

 

エルザの手には急いで書いたのか汚い字で書かれた一枚の紙にこう書かれていた。

 

 

『しゅぎょうにいってくる。そのうちもどる』

 

 

「ビートも大分怪我していたんでしょ?ナツ以上に戦って………」

 

 

「ふぉい、ふぉふぇふぁふぉーふぅふぉふぉふぁ!」

 

 

「全然聞こえないわよ!?なんて!?」

 

 

「『おい、それはどう言う事だ』だとよ」

 

 

「なんでわかんのよ!?」

 

 

ナツの隣に座っていたガジルが代わりに翻訳した。

 

 

「それにしても(スーパー)サイヤ人かぁ………。ビートが伝説の戦士ねぇ………」

 

 

「今でも信じられねぇよな。アイツが伝説とか大層な二つ名持つ事になるなんて………」

 

 

「オイラも二つ名欲しいな〜。『ネコマンダーのハッピー』とか」

 

 

「そのまんまじゃない!!」

 

 

ルーシィがハッピーにツッコミを入れてると入り口から誰かが現れる。服の下に同じくナツ達のように包帯を覗かせるラクサスが入って来た。事件の首謀者が現れた事により一同は警戒する。

 

 

「………ジジィは?」

 

 

「てめぇどのツラ下げてマスターに「よさないか」っ!エルザ!?」

 

 

声を上げるギルドメンバーを彼女は制止させ、彼の顔を見る。厳格な表情だが、何処か落ち着いた面持ちをしていた。

 

 

「………奥の医務室だ」

 

 

「…………そうか」

 

 

たったそれだけ残すと彼女の横を通り抜ける。するとナツが立ち上がって彼の前に立ちはだかった。

 

 

 

「ふがふがふがふがふがふがふがふがふがぁっ!」

 

 

包帯で口が塞がれている為何を言っているかわからなかったが、それでも彼はラクサスの目を見て宣言するように言い放った。

 

 

「『次こそはぜってー負けねぇ。いつかもう一度勝負しろラクサス!』………だとよ」

 

 

ガジルが代わりに翻訳するとラクサスは何も言わずに彼の横を通り越す。

 

 

「ふぁぐぁぐ(ラクサス)!!」

 

 

声を上げると少し遠く離れると彼は片手を上げてヒラヒラさせた。たったそれだけでもナツにとっては嬉しかった。

 

 

「さぁ、みんな!ファンタジアの準備をするぞ!」

 

 

「オイいいのかよラクサス行かせちまって!」

 

 

「ナツ……お前ラクサスよりひでー怪我ってどういう事よ…………」

 

 

「んがごがー!」

 

 

「『こんなの何ともねーよ』だとよ」

 

 

「ナツー!血ィ!血出てる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ギルドメンバーの騒ぎは医務室まで聞こえていた。

ラクサスの目の前のベッドにマカロフが寝込んでいた。しばしの沈黙の後、マカロフは起き上がって話を切り出した。

 

 

「お前は……自分が何をしたかわかっているのか?」

 

 

「……………」

 

 

「ワシの目を見ろ」

 

 

そっぽ向いていた彼はマカロフに向き変えると語り出す。

 

 

「ギルドというのはな、仲間の集まる場所であり、仕事の仲介所であり、身寄りのねぇガキにとっては家でもある。お前のものではない。ギルドは一人一人の信頼と義によって形となり、そしてそれはいかなるものより強固で堅固な絆となってきた」

 

 

「…………」

 

 

「お前は義に反し仲間の命を脅かした。これは決して許される事ではない」

 

 

「わかっている………オレは………このギルドをもっと強くしようと………」

 

 

顔を強張らせて握り締める拳を見つめる彼に嘆息する。

 

 

「まったく不器用な奴じゃの………。もう少し肩の力を抜かんかい」

 

 

マカロフの言葉に彼は再び押し黙った。

 

 

「そうすれば今まで見えなかったものが見えてくる。聞こえなかった言葉が聞こえてくる………。人生はもっと楽しいぞ。

ワシはな………お前の成長を見るのが生きがいだった力などいらん。賢くなくてもいい………。

何より元気である。それだけで十分だった…………」

 

 

「………………」

 

 

「ラクサス………」

 

 

握り締めた拳を震わせながらマカロフは彼に告げる。

 

 

 

“お前を破門とする”

 

 

 

『破門』

その言葉がどれほど重い言葉か。自身の父親も破門とされたが、あの時は危険だからと判断して破門にしたと言っていた。しかし彼は自分が受けた破門の意味を理解した。

 

 

「世話になったな………()()()

 

 

身を翻し、医務室に出る前に一言告げる。

 

 

「体には気をつけてな」

 

 

「………出てい"げ……………………」

 

 

彼の背から涙声のマカロフの声が耳に入るとそっと医務室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翌日の夜になると街では妖精の尻尾(フェアリーテイル )による煌びやかなパレードが行われていた。

盛り上がっている住民の中、ラクサスは木の陰に身を隠してそこから見ていた。ルーシィが、レビィが、ビスカがチアの格好で踊ったり、エルフマンが全身テイクオーバーで迫力のある演義を繰り広げ、グレイとジュビアはペアとなって氷の城をバックに王子と姫の格好でパフォーマンスを披露する。

エルザは剣達と共にその身を舞う。換装して踊り子のような姿に。彼女の踊るその美貌に誰もが目を奪われた。

そして炎の中からナツが現れ、大きく息を吸うと………。

 

 

「ぐほぉっ!?」

 

 

思い切りむせた。まだ完治してないのに無理してパフォーマンスをしようとしてる彼の姿に笑いに包まれた。

そしてマカロフも出て来たが、ファンシーなネコのような格好をしてコミカルな動きで観客達を笑わせた。

元気そうな姿にラクサスも思わず頰が上がる。思えば小さい時に、自身がファンタジアに出る時に、パレードの最中に左拳を握りしめ、右手で銃の形を作ってそれを上に掲げると言っていた時期があった。

この意味は『マカロフを見つけられなくても、自分はいつもマカロフの事を見てる』という思いが込められたメッセージだと言った。

破門になっていなければ自分もあの場所にいたのかもしれない………。しかし、マカロフの元気そうな姿が見られただけで満足し、身を翻して街へ出ようとしたその時だった。

 

 

 

パレードの光はたちまち眩しくなり、振り向くとそこには右手で銃の形にし、真っ直ぐ上に掲げていたマカロフの姿が写った。

それだけでなく他のギルドメンバーも全員が右手を掲げていた。

 

 

「じーじ………」

 

 

たとえ姿が見えなくとも………。

たとえ遠く離れていようと…………。

ワシはいつでもお前を見てる。お前をずっと、見守っている…………。

 

 

「あぁ、ありがとな…………」

 

 

仲間の思いに涙するラクサスは涙を拭って何処か嬉しい表情を浮かべて今度こそ街を出た。

マグノリアは煌びやかな光に包まれていた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ファンタジアも無事に終えたものの、もう一人はまだ帰って来なかった。

ラクサスとの戦いで(スーパー)サイヤ人に覚醒したビート。1週間が過ぎても帰っては来なかった。

彼の家に行っても、もぬけの空。書き置きには単に修行してその内帰って来るとしか書かれていなかった為、マカロフの指示によって再び捜索が始まった。

念の為マカロフはナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、ガジル、バサーク+ハッピーに西地区の捜索を頼み、現在魔道四輪で荒野を走っている。

 

 

「はぁ〜。何で帰って来ないのかなビートは………。帰りたくないのかなぁ?」

 

 

「そんな事言うなハッピー。きっと何処かで腹を空かしているのだろう」

 

 

「野垂れ死んでいたりしてな………」

 

 

「ちょっとアンタなんて事言うのよ!!」

 

 

「ラクサスとあんだけ戦って治療もせずに相当なダメージを受けたままだからな………。バサークの事も一理ある」

 

 

「アンタまで何言ってんのよ!アイツがそんなんで死ぬわけないでしょ!!」

 

 

「だな、アイツが簡単に死ぬわけねぇ………」

 

 

「ナツ、お前の鼻で探れんか?」

 

 

「む、無理言うなよ………。離れ過ぎてに、匂いが探れねぇ………うぷっ」

 

 

なんていざこざやっているとナツはとある異変に気付く。

 

 

「な、なぁ?なんかスピード落ちてねぇか?」

 

 

「む?そんな筈は………」

 

 

しかしナツの言う通り、魔道四輪は次第にスピードが落ちて遂には止まってしまった。

 

 

「な、何だ!?」

 

 

「ちょっと待てこれパンクしてないか!?」

 

 

「え!?あ!ホントだ4つともパンクしてる!?」

 

 

「4つ同時とかどんな奇跡だ!?」

 

 

「いや………どうやら奇跡なんかじゃないぜ…………」

 

 

ガジルがタイヤを見るとそこには数個程穴が開いていた。つまりこれは誰かが意図的に仕掛けた罠にかかってしまったのだ。

よく見ると先程通った岩と岩の間に釘が沢山付いた縄があった。その岩の間からゾロゾロとモヒカンヘッドの男達が現れる。

 

 

「久々に獲物が来たわね………」

 

 

「てめぇらは!?」

 

 

「なぁに、しがない盗賊よ………。早速で悪いけど金目の物を置いてきな。出来ないのら………わかってるわね?」

 

 

オカマ口調のリーダー格の一人が釘が沢山刺さったバットをポンポンと叩く。他の者も銃やら剣やら出す。

 

 

「こっちは急いでるんだ。てめぇらこそ覚悟出来てんだろうな?」

 

 

ポキポキとバサークが指を鳴らすと男達はニヤニヤする。

 

 

「わかってないの?この数を。圧倒的にそっちが不利じゃない………。貴方達こそ覚悟はできて?」

 

 

再びニヤニヤする男達にエルザは舌打ちをして剣を出して構える。緊迫した空気が流れる中、何処からか声が聞こえた。

 

 

 

「待て!」

 

 

全身がその声に反応すると先程の岩の上に一人の男が立っていた。その者は蒼い鎧を纏い、ツンツン頭が目立つ男だった。

 

 

「その人達から離れろ………」

 

 

「なぁに貴方?わたし達が何者か知って?」

 

 

「知っているさ………砂漠の盗賊『サヴァ』だろ?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

砂漠地帯に暮らすサヴァ達は通りかかった者を罠にハメて金目の物を奪って殺すという典型的な盗賊集団だ。男は岩から降りてサヴァに近づく。

 

 

「わたしの事を知っているのは光栄だけど、目障りなの。消えなさい。おい、片付けろ」

 

 

「ヘイ。へっへっ、残念だったゴミめ」

 

 

屈強なモヒカンが男に銃を向けて狙い撃ちにする。

 

 

「ダメ!避けて!!」

 

 

ルーシィが叫ぶが、男は避けずに銃弾を喰らった。ニヤニヤするモヒカンだが、すぐ異変に気付いた。

()()()()()のだ。確かに銃弾は彼を貫いた。そこで一同は気付く。彼に姿がユラユラと動いている事を。

 

 

「まさか………残像拳か!?」

 

 

エルザが声を上げた瞬間、いつの間に屈強なモヒカンの背後に男が移動していて、肘打ちでモヒカンを沈めた。

 

 

「い、今のは高速移動………もしかして…………」

 

 

「コイツ!やっちまえ!!」

 

 

「お、愚か者!迂闊に近づくな!!」

 

 

サヴァの制止も聞かず、残りのモヒカン達が突っ込むも、彼の姿が一瞬だけ消えてモヒカン達の後ろに移動すると、次々とバタバタ倒れ始めるモヒカン達。

 

 

「あの動き………もしかして………もしかして…………」

 

 

「な、中々やるじゃない人間の癖に………」

 

 

「次はお前の番だ…………」

 

 

「フン!たとえ部下を倒した所でわたしを倒す事は出来ない!」

 

 

釘バットを地面に叩き付けるとバットが槍に変わってぐるぐると回す。エルザが使う武器の換装と同じ部類に入る物だ。

 

 

「アイツ!見た目に反して相当な腕を持っていると見た!」

 

 

「あのオカマ野郎が!?」

 

 

「聞こえているわよ!桜ボーイ!!」

 

 

驚愕するナツにサヴァは激を飛ばす。気を取りに直して男に向き直す。

 

 

「そういう事よ………本当に残念ね、私はそこにいる髪長サイヤ人よりも強いかもよ?」

 

 

「……………ふっふっふっ」

 

 

「あら?気でも触れたかしら?サイヤ人よりも強いって事に…………」

 

 

「そうじゃない。俺が笑った理由を教えてやろうか?」

 

 

「?」

 

 

「サイヤ人……いや、 (スーパー)サイヤ人はビートさん一人じゃない。………ここにもいたとうことだ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

「アイツ、今なんと…………」

 

 

男が為の姿勢に入ると大気が荒れ、大地が揺れ出す。そしてみ空色のオーラが浮かび上がり、髪の毛が揺れ出す。

 

 

「かぁっ!!」

 

 

掛け声を上げた瞬間、み空色のオーラから黄金のオーラに変わり、髪が逆立って金髪になる。

その姿にナツ達は驚愕する。特にナツとガジル、バサークは知っていた。忘れもしない………ラクサスと死闘を繰り広げた金色の戦士………(スーパー)サイヤ人の姿を…………。

 

 

 

「くたばれ!!」

 

 

「くたばるのはそっちの方よ!!」

 

 

槍の先端が光り出すと一筋の閃光が放たれた。彼のいた場所に爆煙が巻き上がる。

 

 

「どうだ!ザマァみやがれ!このサヴァに逆らうとどうなるか「サヴァァァァァ!!」!!?」

 

 

声がした場所を見ると、別の岩の上に立っていた男が、両手を突き出しながらこっちを向いていた。

両手から一つの気功弾が真っ直ぐサヴァに向かう。被弾してサヴァよりも巨大な爆煙が巻き上がる。

サヴァ本人はなんとか跳躍して避けたが、気配を感じると頭上に両手を組んで降下してくる彼の姿が視界に入った。

 

 

「しまっ!?」

 

 

重い音が響くと、サヴァは白目を向いてそのまま落ちて力尽きた。男が着地すると(スーパー)サイヤ人から元の姿に戻る。

一息つくとナツ達の方へ顔を向ける。

 

 

「これからビートさんを出迎えに行きます!一緒に行きませんか!」

 

 

「な、なに!?」

 

 

「何でアイツビートの事を………」

 

 

「このすぐ近くですから!俺についてきて下さい!」

 

 

男の言葉に一同驚愕する。 (スーパー)サイヤ人でもあるのも驚愕だが、ビートの居場所も知っているのだ。

驚愕する一同の中でバサークは怪訝な顔をする。

 

 

 

「な、何者だ奴は………。それにス、 (スーパー)サイヤ人だと。………奴が?ふざけるな。…………サイヤ人は俺とビート以外いるわけないんだ………」

 

 

 

この男の正体とは?次回を待て!



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其の46 帰って来たビート

ビートの捜索中、盗賊集団のサヴァに遭遇したナツ達。その時、謎の男が一同の前に現れた。

その男はなんとビートと同じく(スーパー)サイヤ人となったのだ。男はあっさりサヴァを倒すと、ビートの居場所を知っているとナツ達に伝える果たして彼は一体何者なのだろうか………。

 

 

「ど、どうする?アイツについて行く?」

 

 

「オレは行くぜ……。ビートと同じ(スーパー)サイヤ人になったりして興味が湧いてきたぜ」

 

 

「ビートを出迎えに行くって本当かなぁ………。それに何で知ってんのかしら…………」

 

 

「私も行くぞ。行って奴の正体をあばいてやる」

 

 

疑心暗鬼なルーシィに、興味を持つナツ、彼の正体を確かめようと意気込むエルザ。それぞれ意見は割れたが、同行する事になった。先頭に男、その後ろにナツ達がついて行く形で徒歩で荒野を歩く。

 

 

「ほんっと何者なんだろうなアイツ………。なんかどっかで嗅いだ事ある匂いだけど…………」

 

 

「ビートの知り合いとか?」

 

 

「だけどアイツもサイヤ人だろ?バサークでも知らなかったし、あんな強さならギルドに入ってもおかしくないのに肝心のギルドマークが見当たらない」

 

 

冷静分析していると男が立ち止まって岩の上に腰を落とした。

 

 

「ビートさんがここに来るので少しの間待ってて下さい」

 

 

「おい、少しいいか?」

 

 

「何ですか?」

 

 

エルザが尋ねた途端、剣を取り出して男に突きつけた。

 

 

「ちょっとエルザ!」

 

 

「お、おいおい流石に………」

 

 

「…………お前は何者だ?何故ビートの事を知っている?」

 

 

「………すみません、言えないんです」

 

 

「言えないってどういう事だ?お前は一体何者だ?どうやってあんなパワーを身に付けた?」

 

 

バサークも加わって男に問い詰めるが、男は剣を突きつけられているのにも関わらず、少し暗い表情で同じように答える。

 

 

「す、すみません、それも………」

 

 

「ねぇ、さっきの奴倒した時は貴方は(スーパー)サイヤ人になったわよね?」

 

 

「あ、はい。そうです………」

 

 

「ふざけるな!サイヤ人は俺とビートの二人!!もうこの二人しかサイヤ人は存在しないぞ!!」

 

 

「でもさっきピカッーて光ってモヒカン集団を倒してたよ?」

 

 

抗議するバサークに側で見ていたハッピーが事実を伝える。

 

 

「第一お前、尻尾はどうした?」

 

 

「それは………俺が物心つく前に切ったらしいです………」

 

 

「………む?お前のその鎧、ハートクロイツ社製の物か?オーダーメイドする時に見かけたが………。お前も常連か?」

 

 

「…………そういうわけじゃないんですが」

 

 

「では、名も年齢も言えないのか?」

 

 

「名前はまだ言えませんが、年は18です………」

 

 

「名前も言えないなんて益々怪しいぞ。隠す意味はないだろう?」

 

 

エルザの問いに答えた男にガジルは意見する。普通なら名乗って素性を明かす事によって警戒心を解くのだが、余計に警戒心が増してしまう。

エルザはしばし、男を見定めるように見つめると、突き付けていた剣を下ろした。

 

 

「お前はビートの事を知っているんだな?」

 

 

「はい。と、言っても話で聞いた事あるだけで、会った事はないんです…………」

 

 

「………わかった。お前は悪い奴じゃ無さそうだ。今は信じよう」

 

 

「ありがとうございます………」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

少しトラブルがあったが全員は男の言われた通りその場で待機する事になった。

岩の上に腰をかけていたエルザにグレイが尋ねる。

 

 

「なぁ、何でアイツが悪い奴じゃないって言ったんだ?名前すら言わない奴だぞ?」

 

 

「………なんだか似てないと思わないか?」

 

 

「何が?」

 

 

「アイツの雰囲気が何処と無くビートと似てる気がするんだ。無邪気さを感じるというか………」

 

 

「うーん………そうか?」

 

 

男に目をやると丁度男もこちらに目を向けていた。

 

 

「な、なんだ?おい!何か言いたい事があるなら言ったらどうだ?」

 

 

「す、すいません………何でもないです…………」

 

 

男は慌てて目を背けた。

 

 

「なんなんだアイツは………」

 

 

「それよりお前、服は?」

 

 

「はっ!?いつの間に!!」

 

 

上半身裸になっていたグレイが慌てて脱ぎ捨ててあった上着を拾う。もしかしたら彼が目を背けたのはグレイが半裸だったからなのだろうか。敢えて言わなかったのも初対面で半裸ですよなんて言えないから言わなかったのだ。

その様子を見ていたガジルとバサークは少し離れた岩に座っていた。

 

 

ビート(アイツ)が依頼の時にたまたま出会って知り合った………そう考えられないか………」

 

 

「だが、奴は話で聞いた事があるだけと言っていた………。とにかくアイツが帰ってきたら奴の事もわかるだろう………」

 

 

二人が考察をしていると男が立ち上がる。それに釣られてナツ達は注目する。立ち上がって上空を見ると全員が感じた事のある魔力を感知する。

 

 

「こ、この魔力は………」

 

 

「ビートだ!この匂い、ビートしかいねぇ!!」

 

 

だんだんこちらに向かって飛来する者に全員が注目した。その者が両手から少し気を吹かして落下スピードを緩めて静かに着地する。

 

 

「あれ?」

 

 

その者は、黒髪のツンツン頭が目立ついつも通りのビートだった。だが、今着てるのはいつもの道着ではなく、いつかルーシィがくれたヤードラッドの民族服を着ていた。

 

 

「ビートッ!」

 

 

「本当に来やがった………」

 

 

「丁度帰ろうとしてたらみんなの気を感じたんだけど、どうやって俺の事がわかったんだ?」

 

 

「それはね、この人がビートの居場所を知ってるって言ったの!知ってるんでしょ?」

 

 

ルーシィの背後にいた男に視線を移すが、小首を傾げて告げる。

 

 

「いや………誰?」

 

 

『へ?』

 

 

全員の声が重なる。彼は今確かに知らないと言ったのだ。

 

 

「こ、この人の事……知らないの?」

 

 

「うん。全然知らない」

 

 

「ビートがここに来るって知ってたのよ」

 

 

「ホントか!?妙だなぁ……丁度俺もそろそろ帰ろうかなって思ってたんだけど…………」

 

 

「あ!それよりお前!!いつ帰るかぐらい書いとけよ!!あの後総出でお前の事探したんだからな!!」

 

 

「え!?そ、そんな………俺いつの間にか迷惑掛けたんだ………ごめん………」

 

 

しゅんと小さくなるビートにエルザが手を彼に頭に置く。

 

 

「何よりもお前が無事で良かった。だが、何でも一人でやるんじゃなく、私達の事も頼るんだぞ」

 

 

「はい………ごめんなさい…………」

 

 

ラクサスと戦った雄々しい姿は何処に。微笑ましい光景なるが、本題に入る。

 

 

「それにしてもここに来る前に物凄いデカい気を感じたんだけど誰だ?バサーク?」

 

 

「ここに来る前に盗賊に出くわしたが、その男があっという間に倒したんだ………。お前のように(スーパー)サイヤ人になってな」

 

 

(スーパー)サイヤ人に!?」

 

 

ルーシィの背後にいた男をまじまじと見つめて驚愕の声を漏らした。

 

 

「す、すげぇや!それに俺達の他にもサイヤ人がいたなんて知らなかった!」

 

 

「違う!サイヤ人は絶対に俺達以外にはいない!絶対にな!!」

 

 

「ふぅん…………ま、細かい事はいいや!兎に角俺と同じ(スーパー)サイヤ人なんだろ?」

 

 

「どうでもいいわけないでしょ!?ホントアンタって相変わらず軽いわね………」

 

 

彼の気の軽さにルーシィが突っ込む。男はしばしビートを見つめると話を切り出した。

 

 

「ビートさん、実は話があります。なので少しいいですか?」

 

 

「なんだよ、オレ達には内緒ってわけか?」

 

 

「大丈夫、悪いけどちょっと待っててね」

 

 

男とビートはナツ達から大分離れた場所に移動した。二人の姿が視認できるぐらいの距離まで離した。そこならナツ達でも万が一の時にすぐ動けるからである。

 

 

「この辺りでいいでしょう………」

 

 

「そいえば礼を言わないとな………。みんなを助けてくれてありがとう。俺がもっと早く修行を切り上げておけばみんなを危険にさらさずに済んだ。本当に感謝するよ」

 

 

「いいんです。あれくらいの敵、なんともありません」

 

 

「いやぁ、新しい技を使えるのに苦労してな」

 

 

「新しい技?」

 

 

「そ、所謂『瞬間移動』を手に入れてさ…………」

 

 

「瞬間移動!?」

 

 

「そう、それ使って帰ろうとしたけど急に巨大な気を感じて慌ててそっち向かったらお前がいてさ…………」

 

 

「…………そ、そうだったのですか。俺は無意味に歴史を変えてしまったのか……………。その所為でビートさんだけに会うつもりだったのにみんなと出会ってしまったし…………」

 

 

「『歴史を変えてしまった?』それってどういう…………」

 

 

「…………説明する前に伺いますが、貴方は自分の意志で(スーパー)サイヤ人になることが出来ますか?」

 

 

「え?ああ、最初は全然駄目だったけど、苦労してコントロール出来るようになったよ」

 

 

「今ここで、なっていただけませんか?」

 

 

「え……」

 

 

「お願いします…………」

 

 

少し戸惑ったが、男の真剣な目を見てビートは頰を緩める。

 

 

「…………わかった」

 

 

少しの間彼が目を瞑ると大気が揺れ始める。彼の周りに落ちてた小粒の石が浮き始め、ユラユラと髪も揺れる。

 

 

「ふんっ!!」

 

 

カッと開眼すると髪が逆立って金色に、黄金のオーラを纏って碧眼となり、ビートは (スーパー)サイヤ人に変身した。その様子を見ていたナツ達は驚愕する。

 

 

「な、なに……あれ?あれって本当にビートなの?」

 

 

「あん時と同じやつだ………相変わらずスゲェ…………」

 

 

「闘ってねぇのになんて魔力だ…………」

 

 

それぞれ驚愕の声を漏らす中、バサークは舌打ちする。あれ程の魔力が有ればラクサスに勝ったのも納得せざるを得ない。

 

 

「これでいいか?」

 

 

「ど、どうもありがとうございます………。これは驚いた。(スーパー)サイヤ人になった俺とそっくりだ…………」

 

 

「一応なったけど………どうするんだ?」

 

 

「俺も(スーパー)サイヤ人に………」

 

 

男も力を入れると、一瞬にしてビートと同じ(スーパー)サイヤ人となる。

 

 

「成る程………ホントにそっくりだな………」

 

 

ビートが感嘆の声を出すと、静かに一言告げた。

 

 

「失礼します」

 

 

「へ?」

 

 

抜けた声を出すと彼の右拳がビートの顔面に迫る。しかし拳は激突せず、眼前で止まる。

 

 

「な、何で避けなかったのです?」

 

 

「それりゃあ簡単だ。アンタに殺気がなかったからだ。止めるとわかっていたから避けなかったんだ」

 

 

「………成る程。ですが、今度は止めません。いいですね?」

 

 

「おう、来い」

 

 

男が深く腰を落として回し蹴りを放つも、片手で防ぎ、男の乱打も全て片手で防ぐ。少し跳躍して飛び蹴りが放たれるが、これも片手でがっしりと掴んで防いだ。

掴んだ手を離して着地すると男は元の姿に戻った。

 

 

「流石です……噂は本当でした………。いえ、それ以上の強さです………」

 

 

「いいや、アンタが本気じゃなかったからだ」

 

 

「これならば貴方には話してもいいでしょう………。これから起こる事を」

 

 

「これから起こる事?」

 

 

男は一息つくと真剣な眼差しでビートに話し出した。

 

 

「この時代の貴方達には信じられないかもしれませんが………俺は約30年後の未来からやってきたのです」

 

 

「み、未来!?30年後のっ!?」

 

 

「はい。申し遅れましたが俺の名は『シャロット』。俺が何でサイヤ人の血を引いているのかというとビートさん………いや、()()()。貴方の息子だからです」

 

 

「…………………」

 

 

少しの間ポカンと口を開けるビートだが、すぐに納得する。

 

 

「あ、そっかそっか。俺の息子だからね、納得…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!?!?!?

 

 

やっぱり驚愕した。




オリキャラ紹介
名前:シャロット 年齢:18
CV:赤羽根健治
好きなもの:平和な世界 嫌いなもの:大切なものを傷付けるヤツ
備考
約30年後(正確には28年後)の未来からやってきたビートの息子。見た目はドラゴンボールレジェンズのシャロットから尻尾を取り除いた姿。荒々しい性格から礼儀正しい性格に変更。
ビートの息子の為、サイヤ人の血を引いてるうえ、(スーパー)サイヤ人に変身可能。ビートにとある事を知らせる為に現代に来たのだが………。


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其の47 未来からのメッセージ

モンストのゼレフ難し過ぎ………


ビートと同じく(スーパー)サイヤ人となった男の正体は約30年後の未来からやって来たビートの息子のシャロットだった。

シャロットはある事を知らせる為に現代にやって来たのだが、その内容とは…………。

 

 

「ほ、本当に俺の息子なのか!?」

 

 

「ええ」

 

 

シャロットが自分の未来の息子だと言って彼は衝撃を受けていた。改めて彼の顔をまじまじと見る。

 

 

「に、似てる………そういえば俺に………。そ、そっか………俺が父親になるなんて………」

 

 

「しかし、これを言いにタイムマシンで来たわけじゃありません。是非貴方に知って欲しい重大な事を知らせる為に来ました」

 

 

「え、あ、ああ………」

 

 

「今のこの時代から13年後の午前10時頃、マグノリアの街から南西9キロ地点の街に恐ろしい二人組が現れてます………。この世の者とは思えない程の凄まじいパワーを持った怪物が………」

 

 

「………何者だ?何処かの闇ギルドとか?」

 

 

「いえ、この地球で生み出されてた『人造人間』。所謂サイボーグというヤツです。造り上げたのは元レッドリボン軍の狂人的科学者『ドクター・ゲロ』」

 

 

「え!?レッドリボン軍って………」

 

 

「そうです。軍そのものは貴方が叩き潰したらしいが、ドクター・ゲロは逃亡し、研究を続けていた………」

 

 

レッドリボン軍はルーシィが来る前にレッドリボン軍の首領を捕まえる任務で基地を破壊して降伏させたつもりだが、その時にどさくさに紛れてドクター・ゲロなる者は逃亡したのだ。

 

 

「一体ソイツは何の為に?世界征服とか?」

 

 

「目的はよくわかりませんが、少なくとも彼の狙いはそうだったと思います………。しかし究極の殺人マシンとして造られてしまったその人造人間19号と20号は生みの親のドクター・ゲロをも殺してしまった………。つまりただ殺戮と破壊だけを楽しむ人造人間だけが残ってしまったのです………」

 

 

「………(スーパー)サイヤ人のお前でも怪物って言うぐらいだから相当なんだろうなソイツ等………」

 

 

「はい………立ち向かったのですが、残念ながら何しろ相手は二人。1対1でも逃げるのがやっとでした………」

 

 

「………ん?ちょっと待て。相手は二人って……お前の味方は?」

 

 

彼の顔が曇って俯かせながら重い口を開いた。

 

 

「…………いません。30年後に戦士は俺を含めた二人しか残ってないんです………」

 

 

「っ!?」

 

 

「この戦いでそこいるナツさんもグレイさんも、ルーシィさん、ガジルさん、 妖精の尻尾(フェアリーテイル )のマスターマカロフも………皆殺されてしまったのです………。辛うじて生き延びたエルザさんも、俺ともう一人の仲間に闘いを教えてくれた師でした。この鎧もエルザさんから貰い受けました……。けれどもやはり4年前に………」

 

 

「そ、そんな………エルザが…………」

 

 

「信じられないかもしれませんが全部事実なのです………年月をかけ楽しみながらじわじわと命を奪っていく人造人間の所為で俺のいる未来は地獄のようなものです………。強すぎる!強すぎるんですよヤツ等は!!」

 

 

悔しそうに声を上げるシャロットにビートはある疑問が思い浮かんだ。

 

 

「な、なぁ。そういえば俺は?俺はどうなったんだ?俺もやられたの?」

 

 

「いいえ、貴方は闘っていない。その時病気に侵されてしまい………」

 

 

“死んでしまわれる”

 

 

「…………………え?」

 

 

死。

ビートは殺されたんでなく、病気で死んでしまっていた。驚愕の連発でポカンと口を開けてしまう。

 

 

「ウイルス性の心臓病です。流石の(スーパー)サイヤ人も病気には勝てなかったんです………」

 

 

「ま、まいったな……仙豆も病気には効かねえのか………。くっそ!俺死んじゃうのか………何やってんだよ俺!あれだけ病気には気を付けろってエルザが言ってたのに!!ソイツ等とも闘えないなんて!!」

 

 

悔しそうにするビートだが、シャロットは意外そうな顔を浮かべた。

 

 

「た、闘えないのが残念なんですか………?恐怖とかは………」

 

 

「そりゃあるよ、死ぬのは嫌だけどさ………ソイツ等(スーパー)サイヤ人よりも強いんだろ?なら、それより強くなればいいだけの話だし、何より闘ってみたい気持ちも実はある………こんなの言うのもなんだけど………」

 

 

「………やはり貴方は本物のサイヤ人の戦士だ。母さんや、エルザさんの言った通りの人だった………なんて頼もしいですよ。来てよかった………」

 

 

安心した表情をしてシャロットは腰巾着からある物を出した。

 

 

「それは?」

 

 

「貴方の薬です。この時代には不治の病でも30年後には特効薬があるんです。この薬で貴方は死なずに済みます………。症状が出たら服用して下さい」

 

 

「ほ、本当!?サンキュー!!それ早く言えばいいのに!!」

 

 

彼から受け取った小瓶を見つめて安堵するとまた少し暗い顔になる。

 

 

「こう言う事は本当ならまずいんです………。歴史を変えてしまうなら………。ですが、あんな歴史なら…………」

 

 

「………ん?ちょっと待て」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「その人造人間が来るのは13年後だろ?なら、わざわざ15歳の俺じゃなくてえっと………25歳だっけ?その俺に渡した方がいいんじゃない?」

 

 

「………始めは俺もそうしようとしたんですが。()()()()んです。」

 

 

「行けない?なんで?」

 

 

「えっと………並行世界って知っていますか?」

 

 

並行世界。

ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界を指す。たとえばビートは未来から持って来た薬によって命を取り止めることができるが、シャロットのいた未来ではビートは過去に心臓病で死んだ者となっている。

即ち助かったビートがいる未来もあれば亡くなってしまう未来ある。

 

 

「母さんが作ったタイムマシン………正確には『時空移動装置』はその世界の時間を移動する事は出来ず、別の世界の時間を移動する事が出来るのです。そしてこの世界では………言いにくいのですが1週間後に人造人間が現れる世界なのです」

 

 

「い、1週間後!?すっげぇ急過ぎない!?」

 

 

「落ち着いて聞いて下さい!………その条件下の中、母さんが必死で移動できる世界を割り出したのがこの世界なのです。母さんが作った時空移動装置は母さん自身の特殊な魔力を燃料として動くので帰りを合わせて1往復がやっとなのです。その所為で寝込んでしまいましたが、ポーリュシカさんの所で1週間も有れば回復出来ると言って今は彼女の所に居ます」

 

 

「な、なんでそこまで…………」

 

 

「…………それは、母さんが一番貴方を信頼していたからです」

 

 

「っ!」

 

 

「俺が小さい時に言っていました。『私はビートのお陰で自分を変えられた』と、私にとってかけがえのない存在だと言っていました。それ程貴方は母さんに信頼されていた存在なのです………」

 

 

「そっか………。俺、結構悪い事したな………そんな信頼していた人を置いて死んじまうなんて…………。…………1週間後だったな?」

 

 

「はい。1週間後、俺の世界と同じ方角から二人の人造人間が…………」

 

 

「…………わかった!病気治してその人造人間をぶっ飛ばしてやる!父ちゃんに任しとけ!」

 

 

「………ふふ、頼もしい小さなお父さんですね」

 

 

少し空気が和むと、ビートが別の話題に切り替える。

 

 

「ところで思ったんだけど…………」

 

 

「何ですか?」

 

 

二人しかいないのにキョロキョロと周りを見渡してシャロットの耳を貸すように促す。わからないまま取り敢えず貸す事にしたシャロットは耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の将来の嫁って………誰なの?」

 

 

「…………へ?」

 

 

「いやだってそこまで信頼されてんのはホント嬉しいんだけど相手が誰なのか気になるジャン!?一体その人は誰なんだ!?頼む!教えてくれ!!このままだと夜しか寝れない!!」

 

 

「一回落ち着いて下さい!!こればかりは言えないのです。もし知ったらその人と気まずくなって関係が悪くなったら俺の存在が消えかねませんので」

 

 

「おお、マジか!?なら聞かないどこ…………」

 

 

「では、俺はこの辺りで失礼します。早く母さんを安心させてあげたいし………」

 

 

「ああ、この薬助かったって伝えてくれ」

 

 

「はい。父さんの強さを知って少し希望が見えました」

 

 

「また会えるか?」

 

 

「わかりません………装置の魔力を溜めるにはかなりの時間が必要ですが、母さんがまた改良すると思うのでもしかしたら1週間後に会えるかもしれません」

 

 

「そっか………なら、お前に一つ言っておく」

 

 

「?」

 

 

シャロットの瞳を真っ直ぐ見つめてビートは少し頰を緩めて言い放つ。

 

 

「生きろよ。いい目標が出来た。こっちもそのつもりで1週間たっぷりと修行するよ」

 

 

その言葉でシャロットも頰を緩め、サムズアップするとみ空色のオーラを纏って飛んで行った。

シャロットを見送るとビートの中に別の問題が発生する。この事を皆に言うべきか………。シャロットはビートだけに伝えようとしていたが…………。そうこうしてる内に皆がいる場所に着いた。

取り敢えずビートはない頭の知恵を絞ってシャロットの事は上手く謎のままにして全てを話した。流石に誰もがショックの色を隠せなかったようだが………。

 

 

「………でも、ちょっと嘘くさいよね………。未来から来たって言われてもねぇ………」

 

 

「ホントだもん!トトロいたもん!」

 

 

「誰よソイツ!?」

 

 

「あ!ねぇ、アレ!!」

 

 

ハッピーが指を刺す方に目を向くと、一人乗りの小型の飛行船に乗っているシャロットが上空に佇んでいた。

 

 

「父さん……母さんの言った通り、とても頼もしい人でしたね。どうか死なないで。若い師匠も頑張って下さい」

 

 

防音で聞こえてないが、シャロットは皆に手を振ると飛行船は光輝いてふっと消えた。誰もがその光景に口をポカンと開けていた。

 

 

(くそったれ………1週間後には必ず俺が生き残ってやる…………)

 

 

そんな中バサークは一人歯を噛み締めながら決意した。

 

 

 



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其の48 一週間の賭け

シャロットが伝えた1週間後に現れるという恐ろしい二人の人造人間。歴史に逆らい、その人造人間との闘いに生き残るべく、それぞれが厳しい修行をする決意でいた………。

 

 

「ところでビート、お前なんでまたそんなもの引っ張り出して着てんだ?」

 

 

「ああ、これ?道着のストックが無くなったからこれを着たんだ。まともに動ける服はこれしかないし………」

 

 

ナツの他にも今まで疑問に思っていたビートの服装、ヤードラッドの民族服を着ていた理由が判明した。

ラクサスとの戦いの後、ボロボロになった彼の道着は修行に行く前に誰にも見つからずに服を持っていこうとしたがヤードラッドの服しかなく、仕方なく修行の際はボロボロの道着のままし、帰りの時に着替えたのだ。

 

 

「あ、そんでよ。修行する最中にもう一つ新しい技を身に付けたんだよ。“瞬間移動”ってのが出来るようになったぜ」

 

 

「「「「「しゅ、瞬間移動!?」」」」」

 

 

瞬間移動。

それは誰もが欲するであろう能力。自分の行きたい所に瞬時にその場所に移動出来る能力。テレポーテーションとも言う。

 

 

「ホ、ホントか!?ちょっとやってみろよ!」

 

 

「お、みたい?いいよ。因みにこれはな、場所じゃなくて()を思い浮かべるんだ。そしてその人の気を感じとる………。だから知った人のいない場所にはいけないんだ。さてと………何処に行こうかな…………。よし!」

 

 

ビートは人差し指と中指を揃えて左の眉の上に添えるとピシュンと音を立てて消えた。

数秒経つとまた皆の前に現れた。

 

 

「フッ、何が瞬間移動だ。そんなもの高速移動で誤魔化したに過ぎん………」

 

 

「ヘッヘッヘッヘッ。これ、な〜んだ?」

 

 

鼻で笑うバサークに対してビートは右手にくるくると黒い魔法使いの帽子を出して回す。

その帽子が何なのかルーシィが気が付いた。

 

 

「あ!?それってリーダスの帽子!?」

 

 

「ピンポーン♪」

 

 

「ちょっと待て!?ここから妖精の尻尾(フェアリーテイル )までかなりの距離があるぞ!?」

 

 

「スゲェ!ホントに瞬間移動だ!!」

 

 

皆がはやし立てる中、彼の技が本物の瞬間移動だと認知するとまた一つ抜かれたとバサークは歯を噛み締めた。

 

 

「よし、なら1週間後に現地で集合しよう。ビート、場所は何処に行けばいいんだ?」

 

 

「あ、えっと………。確か1週間後の午前10時頃のマグノリアから南西9キロ地点の街だね」

 

 

「なら1時間前の午前9時に集合する事にしよう。予め言っておくが自信のない者は来ない方がいい。今度の敵はこれまでにない程の力を持った奴だ」

 

 

「何言ってんだ!オレは行くぜ!!」

 

 

エルザが皆に忠告するとバサークが鼻で笑う。

 

 

「へっ、笑わせやがって。一番自信がないのはお前じゃないのか?」

 

 

「ほう?試してみるか?」

 

 

「まぁまぁ落ち着いて………」

 

 

険しくなるエルザにビートが宥めて制止する。するとルーシィがとある妙案を思いついた。

 

 

「ねぇ!ちょっと考えたんだけど、その人造人間を造った科学者を今のうちにやっつけたら?そうすれば何も1週間後に戦わなくてもいいんじゃない?」

 

 

「そうか………そうすればその人造人間?って奴とも戦わずに済む………」

 

 

グレイが少し納得していると彼女に向かって激を飛ばす者がいた。

 

 

「そんな余計な事をしたらテメェをぶっ飛ばすぞ!!いいな!!」

 

 

しんと数秒の間静寂が続くと負けじとバサークに噛み付いた。

 

 

「な、なにが余計な事よ!!これはゲームじゃないのよ!!人類の命運が掛かってんの!!」

 

 

バッとビートの方に振り返ると詰めかかるように近付く。

 

 

「ビートだってそう思うでしょ!?ねっ?ねっ!?」

 

 

「………わ、わりぃルーシィ。正直言って俺も戦いてぇ………。第一その科学者は今はまだ何にも造ってないだろうし、それをやっつけるのはちょっと…………」

 

 

ガクリッ

 

 

ビートも心優しい少年だが、彼もサイヤ人だ。強い者と戦い気持ちがいっぱいでルーシィの考えは流石に無いと思った。

 

 

「み、みんな!!こんな戦闘マニアに付き合う必要ないわよ!!下手したらホントにみんな死んじゃんだから!!」

 

 

「…………やっぱりオレも戦う。死んだらそれまでだったて事だ」

 

 

「あ、呆れた………わかったわよ!好きにしたら良いわよ!!」

 

 

 

「未来の平和は闘って勝ち取るのだ!!」

 

 

「おおー!!」

 

 

「あい!!」

 

 

元気よく腕を上げて士気を高めるビートにナツとハッピーをそれに応えて腕を上げる。その中でグレイも戸惑いながらも軽く腕を上げた。

 

 

「まるで何処かのヤバイ独裁者みたい………絶対に間違ってるわよ…………」

 

 

「じゃあ、1週間後の午前9時にその場所で!本当に自信のある奴だけで構わないからな!」

 

 

「ビート」

 

 

「ん?」

 

 

「……(スーパー)サイヤ人になったからっていいなるなよ…………。この俺はそのうち必ずお前を叩きのめしてみせる…………。最強のサイヤ人は俺だって事を忘れるな…………」

 

 

「…………あぁ」

 

 

バサークはそれだけ残すと紫のオーラを纏って一人飛び立った。 

 

 

「さてと………なぁ、ナツ。帰ったら修行の相手してくれないか?組み手とかしてえし…………」

 

 

「ああ良いぞ…………ってえぇえぇ!?」

 

 

「何だよそんな驚く事か?」

 

 

「だってお前、基本馬鹿騒ぎには参加しなかったのに………よぉーし!そうと決まれば勝負だビート!!」

 

 

「おう!10戦でも100戦でもやらぁ!」

 

 

「まずは皆にお前の報告をしてからだ」

 

 

「うっ、そうだった…………」

 

 

「それから私もその組み手の相手をして良いか?」

 

 

「えっ!?エルザもか!?」

 

 

「うん!良いよ!!」

 

 

「ふふ、腕が鳴るな。グレイ、お前をやるか?」

 

 

「い、いやオレは自分のペースで修行すっから………」

 

 

「わ、私もいいかな………」

 

 

「そうか………まぁ、3人でも十分に特訓出来るな。ビート、ナツ。覚悟しておけよ?私の特訓は甘くないぞ」

 

 

「よっしゃぁ!掛かって来い!!」

 

 

「あ、悪夢だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

俄然やる気のビートにさっきまでの熱は何処に行ったのかナツは絶望的な顔になる。

そんな様子を一瞥すると、ガジルはバサークと同じく一人立ち去ろうとした。

 

 

「あ、おい待てい(江戸っ子)。何処に行くんだあ?」

 

 

「帰るんだよ。特訓なんて勝手にやってろ」

 

 

「は?何言ってんだお前?ガジルも参加すんだよ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

「相手はもっといた方がいいしな!お前も10戦でも100戦でもやるぞ」

 

 

「俺の身が持たねえよ!!」

 

 

なんやかんやでガジルも特訓メンバーに参加する事になり、ナツ、ビート、エルザ、ガジルの4人のメンバーは厳しい修行に取り組むのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

1週間が過ぎ、一行はマグノリアから南西9キロ地点の街に向かっていた。移動手段は魔道四輪でナツはお決まりの如く酔っていた。

 

 

「うぷ………まだかよ…………」

 

 

「もうちょいだから戦う前からダウンするなよ」

 

 

「この1週間地獄みたいな特訓だったてのに何ともないのかよお前………」

 

 

「全然?逆に組み手の相手がいてくれてやる気出るんだけど」

 

 

「特に私とビートの時は中々のものだったぞ」

 

 

「足の指で剣を握るなんて発想は無かった。初見の時びっくりした」

 

 

「しっかしお前は何処まで強くなるんだ?」

 

メンバーはバサークを除いて新たにヤムチャが加わった一行は目的の街が見える場所まで移動して停車させた。その街はとても発展した街で大きかった。ここに人造人間が現れるとなると他の場所に誘い出さないと大きな被害が出る。

すると遠くから飛行音が耳に入り上を見上げると一人乗りの飛行機のような乗り物に誰かが乗ってやってきた。

 

 

「あ!ヤジロベー!!」

 

 

「知り合いか?」

 

 

「あぁ、クエストを依頼された時に知り合った奴だよ」

 

 

彼が乗っている飛行機、“魔道駆動飛行機”は魔道四輪の技術を応用して作られた簡易的な飛行機である。現在では一人乗り用しか開発されてないが、時期に複数人が乗れるタイプも開発されるだろう。

着陸すると腰に刀を携え着物を着たザンバラ髪の少しふくよかな男が降りてきた。ジロリとビートを一瞥すると懐から腰巾着を彼に渡す。

 

 

「ホレ、カリン様からの差し入れの仙豆だ」

 

 

「え!?いいの!!ラッキー!!丁度ラクサスの戦いの後切らしてたんだ!」

 

 

ビートが育てていた仙豆は元々カリンと呼ばれる仙人から貰ったのだが、育てるのが難しく中々出来ずにいたが、カリンはその仙豆は最大10粒以上作れていた。

彼に仙豆を渡すとヤジロベーはさっさと飛行機に乗り始めた。

 

 

「じゃあな頑張れよ」

 

 

「え?ヤジロベーも戦ってくれるんじゃないの?」

 

 

「あほぬかせ。オレはおめえ達のような馬鹿と違って死にたくないんだよ。一々付き合ってられっか」

 

 

それだけ残すと彼は飛び立っていた。

取り敢えず万が一やられたとしても仙豆で回復出来るので一先ず安心だ。

 

 

「…………なぁ、妙だと思わねぇか?10時はとっくに過ぎてんのに敵の気配が全く感じられん」

 

 

「やっぱりあいつのデタラメじゃなかったのか?人造人間なんて………」

 

 

「だけど10時頃って言ったのよ?今10時17分だからわからないわよ」

 

 

懐中時計を見て時刻を確認するルーシィにヤムチャが続けて言う。

 

 

「それに強い気なんて感じられないんだ。そんなにすげぇ奴ならこの地球の何処にいたってわかるさ」

 

 

そう言った矢先に突如爆発音が耳に入った。見上げるとヤジロベーが乗っていた飛行機が煙を上げて墜落していた。

 

 

「っ!見ろ、何かいるぞ!!あれが攻撃したんだ!!」

 

 

煙が晴れると二つの人影が上空に佇んでいた。そしてすぐに落ちるように街に降下した。

 

 

「み、見えたか!?」

 

 

「いや、どんな奴かわからなかった!」

 

 

「ど、どういう事だ?まるで気を感じなかったぞ………」

 

 

「オレも………あいつらからは何にも匂いがしなかった」

 

 

「人造人間だからだ………人間じゃないから魔力なんてない………」

 

 

「な、なんだと…………」

 

 

一行が驚愕する中、街に降り立ったのは一人は帽子を被り、浅黒い肌に腰の辺りまで伸びた白髪、髪の毛と同様に白い髭を蓄えた老人とそれと似たような服装をした肌色が真っ白なふくよかな男だった。二人は無機質な瞳で標的を探していた。

 

 

 



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其の49 人造人間の脅威

遅れてしまって申し訳ございません。
あと超今更ですが、ビートの身長は少年期悟飯と同じぐらいの身長です。バサークはそれより3cmぐらい足した身長です。


シャロットから教わった街に向かうとヤジロベーが襲撃を受けた。その二人は気を感じない人造人間であった。一行は街に降り立った人造人間を阻止すべく街へ向かう。

 

 

「何処だ!?何処にいる!?」

 

 

「魔力を感知出来ないので有れば直接目で探すしかない!」

 

 

「なら、手分けして探そう!ただし、深追いはするな!発見したらすぐにみんなに知らせるんだ!!ルーシィはヤジロベーを頼む!アイツは頑丈だからまだ生きてる筈だ!!」

 

 

「わ、わかったわ!」

 

 

「よし、散るぞ!!」

 

 

街に入ると、一同は一斉に散らばった。空が飛べるビート、ナツ(ハッピー有り)、舞空術が使えるヤムチャは屋根の上から、グレイ、エルザ、ガジルは陸から探し出す。

 

 

「くっそ〜!どいつだ!?何処にいる!?シャロットに奴等の写真でも見せて貰えればよかったかな………!」

 

 

屋根の上から街を見渡すが、ここ街はかなり発展していて人口も多い為中々見つけられない。

 

 

「チクショウ!何処だ!!何処にいるんだ!!」

 

 

「と、飛んで………!?」

 

 

「あ、おい!お前!!怪しい奴を見なかったか!?」

 

 

「み、見た!アンタだ!!」

 

 

「そりゃ空から降りて来たからね………」

 

 

通行人に聞こうとするナツだが、上空から降下して来た自分達が逆に怪しまれた。他の者も必死に街中を駆け出す。事態は一刻を争うものだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おい、おめぇらも見たか!?今魔道駆動飛行機が爆発したのを!!」

 

 

爆発を目撃した二人の男性の内、一人の老夫が他の者に声を掛けた。その声に万能した一人の男がゆっくりと近付く。

 

 

「な、なんだよ?」

 

 

その男もとい白い肌の人造人間19号は老夫に頭突きを喰らわせた。近くにいた帽子を被った男が驚愕するも、瞬時に接近して男を殴り飛ばした。吹き飛ばされた男は建物の外壁に激突して体がひしゃげる。

19号は殴った手を広げて何処か満足そうに口角を釣り上げた。すると近くにクラクションの音が耳に入る。横を向くと魔道四輪に乗った眼鏡をかけた男が苛立っていた。

 

 

「おい!さっさと退けと言ってるんだ!バカタレが!!道のど真ん中につっ立ってんじゃ………」

 

 

ドガッ

 

 

浅黒い肌の人造人間20号が右手を魔道四輪のエンジン部分にぶっ刺した。破壊されたエンジンから手を抜き出し、今度は眼鏡の男の首を掴んで持ち上げる。メキメキと骨が軋む音を立て、遂にはゴキリと鈍いがすると眼鏡の男は白目を向いて絶命した。それにニヤリと口角を上げると通行人の女性の悲鳴が上がった。

それと同時に脳のセンサーが鳴る。

 

 

「エネルギー値の異常に高い人間がこっちに来る………サーチシステムの故障か?」

 

 

「故障ではありません20号。私も同じエネルギーを捉えました」

 

 

「人間のデータを大きく超えている………」

 

 

「いきなり見つかった…………ビートだ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

女性の悲鳴を聞きつけてやってきたヤムチャはそこで起こった光景を目の当たりにした。頭から血を流して壁にもたれている男、額から流血をして仰向けで倒れている老夫に、奥には煙を上げる魔道四輪が。

 

 

「ど、何処だ!?何処にいやがる!!」

 

 

周りを見渡すと建物の窓に怯えている市民が覗かせていた。

 

 

「おいっ!この人達を殺したのは誰だ!?見たか!?」

 

 

「あ、ああ………おかしな二人だった………」

 

 

「さっきまでそこにいたが……き、消えちまった…………」

 

 

「消えただと…………?くそ………!取り敢えずみんなを呼ぶか………?だが肝心の奴等がいないんじゃ………呼んでも意味は無いか………」

 

 

悔しそうにするヤムチャに背後にとある二人組を見つけた。

 

 

「なぁ、アンタらは見なかったか?殺人をやらかした二人組は何処に行ったか………」

 

 

その二人組もとい白い肌の人造人間は此方に向けて口角を上げるだけだった。

 

 

「ま、まさか………」

 

 

「私達だ」

 

 

「くっ!!み、みんな!!」

 

 

距離を取って皆を呼ぼうとするが20号に口を塞がれてしまう。凄まじい握力でそのまま持ち上げられる。なんとか剥がそうとするがその時のヤムチャは力がうまく出なかった。それはまるで…………。

 

 

ズンッ

 

 

重い音がすると20号の左の手刀がヤムチャの体を貫いていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「!!」

 

 

ヤムチャ(アイツ)から血の臭いがする!?」

 

 

「遂にお出ましか!!」

 

 

ビート、ナツ、グレイ、エルザと合流してビートを先頭に気が乱れる場所に向かうと20号に胸を貫かれたヤムチャを目の当たりにした。

 

 

「ヤ、ヤムチャ!!」

 

 

傷口からポタポタと血が流れ、20号は差し出すようにビート達に投げ付けた。

 

 

「ナツ!ヤムチャはまだ生きている!仙豆を魔道四輪に置いてきちまったから連れて行って食べさせろ!!」

 

 

「お、おう!急ぐぞハッピー!」

 

 

「あい!」

 

 

咄嗟のビートの指示によりナツはそれに促してヤムチャを引っ張って飛んで連れて行った。

 

 

「貴様等が人造人間か。ようやく顔を拝められたぞ」

 

 

「っ?不思議だ?何故私達が人造人間だと言う事がわかったのだ?それにここに現れる事も………何故だ?答えて貰おうか」

 

 

「さぁな、力ずくで聞いてみやがれ」

 

 

「…………そうさせて貰おうか」

 

 

ガジルの挑発に乗ろうとする20号だが、そこでビートが制止させる。

 

 

「待て!ここじゃ犠牲が大き過ぎる!誰もいない場所に移ろう!………お前等もそれでいいな?」

 

 

「誰もいない場所へか…………いいだろう。だが、わざわざ移動する事はない…………」

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 

ビート達が頭に疑問符を浮かべていると20号の両眼から細い閃光が放たれた。咄嗟にしゃがんで避けたビートとエルザだが、次の瞬間背後にあった住宅地が消し飛んだ。更に顔を動かして閃光を拡散して次々と住宅地が爆発する。

 

 

「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 

人造人間の無差別攻撃に見かねたビートは怒りを右拳に乗せて殴り飛ばした。その拍子に20号の帽子が取れる。その頭部はドーム状のガラスの中に脳味噌が覗かせ、如何にも改造人間であるという事がわかる見た目だった。

殴ったのにも関わらず何事も無かったように帽子を拾って被り直した。

 

 

 

「誰もいない場所を作ってやろうと思ったのだが………どうやらここは気に入らないらしいな………」

 

 

「ついて来い!!テメェ等纏めてぶっ壊してやる!!」

 

 

「………いいだろうついて行ってやろう。好きな死に場所を選べ。ビート…………」

 

 

「っ!?な、何で俺の名を!?」

 

 

「それだけじゃない。お前達もわかるぞ。グレイにエルザ、ガジルだろう?」

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

ビートのみならず他の者の名を知っている事に一同は驚愕する。すると向こうから兵隊達の怒号が聞こえてきた。

 

 

「訳は後で聞く……いくぞ!」

 

 

ビートが飛び立つと20号と19号も続けて彼の後を追う。エルザ達は魔道四輪に戻って彼等の後を追うのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あ!アレってビートじゃねぇか!」

 

 

「人造人間もいるよ!!」

 

 

「場所を変えて戦うんだな………よし!俺達もいくぞ!」

 

 

「あい!」

 

 

「ま、まずいぞ!ビート達に伝えないと………奴等は()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

「「「え!?」」」

 

 

ヤジロベーを救出したルーシィも驚愕する。あの爆発に巻き込まれても本人は軽傷で済んだ。

 

 

「魔力を吸い取るって!?」

 

 

「ああ、掴まれただけで俺の魔力がどんどんなくなっていったんだ!」

 

 

「それが本当だとしたら凄い発明をしたものねドクター・ゲロって…………」

 

 

「なら、尚更アイツ等の所に行って伝えねぇと!!」

 

 

「急ごう!!」

 

 

ナツとハッピーは猛スピードで飛び立つ。

 

 

「みんなわかってねぇんだ………人造人間の恐ろしさを…………ちきしょう!俺はやらねぇぞ!!見物だけだからな!!」

 

 

そう言いつつもナツの後を追うように飛び立った。残されたのはルーシィとヤジロベーのみ。

 

 

「………ね、ねぇ?アンタは行かないの?」

 

 

「当たり前だ行かん!」

 

 

「行かんって……こういう時には1人でも多い方がいいんじゃない?仲間もみんなピンチの時なのよ?」

 

 

「だろうな…………」

 

 

「だろうなって………アンタ何とも思わないの!?サイテーよ!!」

 

 

「飛べねえんだよ。オレは…………」

 

 

「………ど、どうも……………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ビートが誘導した場所は街から大分離れた高原地帯だった。丁度エルザ達とも合流してそこへ降り立つ。

高原ではあるが周りは岩山に囲まれている。いざという時に岩に隠れて闘うという向こうの計算である。

 

 

「はぁ、はぁ…………さぁ戦う前に教えろ。何故俺達の事を知っているんだ?」

 

 

「………?」

 

 

「いいだろう教えてやる。恐らく聞かなければ良かったと後悔する筈だ」

 

 

(どういう事だ?ビートが息を切らしてる?ただ飛んで来ただけなのになんで………)

 

 

息が少し上がっている様子にグレイは疑問に思った。普段ならどんなに遠くに飛んでも息を乱さないビートが珍しく息を切らしていたのだ。

 

 

「ビート、貴様をずっと偵察していたのだ。超小型のスパイロボットを使ってな………。ファントムの戦いの時も、ジェラールの戦いの時もな。

つまり貴様が我がレッドリボン軍を滅ぼして以後研究をし続けたわけだ。如何にすれば貴様を倒す事が出来るか………どういう人造人間なら勝てるのか………」

 

 

「……俺への恨みか…………」

 

 

「そうだ!!貴様の所為でレッドリボン軍の夢は潰え、ドクター・ゲロだけが残った!!」

 

 

ビートの言葉に初めて感情が入った言葉を叩きつける20号。その言葉にエルザは怪訝に思う。

 

 

「まるで貴様がドクター・ゲロのような言い分だな?」

 

 

「っ!バ、バカを言うな!私はドクター・ゲロが造りし人造人間20号だ。ドクター・ゲロは既に死んでもうこの世にはいない…………」

 

 

「………成る程、そしたらラクサスとの戦いも監視していたのか?」

 

 

「その必要はない。バサーク達との戦いまでで貴様のパワーや技は完全に把握した。その後、更に腕を上げたとしても年齢から考えてそれまでのような大幅なアップは無理だという計算だ………」

 

 

彼の問いに答えた20号に対して逆にビートは口角を上げた。

 

 

「それを聞いて安心したぜ。一番肝心な事を調べ忘れたようだな………お前等の負けだ………」

 

 

「なに?」

 

 

「致命的だったな。(スーパー)サイヤ人の事を知らなかったとはな」

 

 

「スーパーサイヤ人?」

 

 

20号が尋ねるも、ビートの周りに落ちていた小粒の石がパラパラと浮き上がる。ユラユラと髪が揺れ始め、瞳が変色し始める。

 

 

「はあっ!!」

 

 

開眼と同時に彼の髪が金色に変わって碧眼となり、黄金のオーラを纏う。その魔力にグレイは改めて驚いた。

 

 

(あ、相変わらずすげぇ………。これが(スーパー)サイヤ人のビートか………)

 

 

「お前等手を出さないでくれ………こいつ等の一番の目的はオレらしいからな…………」

 

 

口調が変わってエルザ達に手を出さないようにと促す。20号はそれでも口角を上げて余裕の態度を見せる。

 

 

「確かにかなりのパワーアップを果たしたようだな………だが我々が慌てるほどのものではない。私は当然として19号でも倒せるレベルだ…………」

 

 

「………へっ。じゃあ早速、その強さを見せて貰おうかな…………」

 

 

地面を蹴って始めに19号に突貫する。対して掌底を放つが、直前で宙返りをして背後に回り込み、背中に鋭い肘打ちを放つ。

吹き飛ばされた19号は岩に激突し、煙を巻き上げる。しかし、煙を破ってミサイルの如く突っ込んでくるも、頭部を両手で受け止めて上空に向かって蹴り上げる。

更に跳躍して19号よりも上につく。負けじと19号も猛撃を振るうがことごとく躱される。逆に腹部に膝蹴りを入れ、顎に肘打ちを喰らわせる。

彼の圧倒的な戦いにグレイとガジルは戦慄していた。

 

 

「す、すげぇ……あれが(スーパー)サイヤ人…………オレ達とは比べ物にならねぇ強さだぜ…………」

 

 

「この1週間でここまで強くなるとは…………」

 

 

「…………」

 

 

ただ、その中でエルザだけは怪訝そうな顔をして彼の戦いを窺っていた。すると背後からナツとヤムチャが着地してエルザ達と合流した。

 

 

「ビート!!」

 

 

「心配ならいらねぇぜ。すげぇぞ(スーパー)サイヤ人は。奴等デカい口を叩いていたが手も足も出ねえぐらい強いぞ」

 

 

上空を見てビートの猛攻の様子にヤムチャも納得する。

 

 

「ほ、本当だ………魔力を吸い取られるというのは俺の勘違いか?」

 

 

「…………?」

 

 

「ナツ、お前も気が付いたか?」

 

 

「え?あ、ああ………」

 

 

「ビートは何故か勝負を焦っている。既に全力に近い飛ばし方だ………なのにあの様は一体どういう事だ」

 

 

「あ、あのザマ?圧倒的にアイツが押してるだろ」

 

 

「あんなものでは無い。(スーパー)サイヤ人になったビートの力はもっととてつもない筈だ」

 

 

「なあエルザ。アイツ等魔力を吸い取るんじゃないかってヤムチャが言ってたけど………」

 

 

「何?魔力を?」

 

 

「ああ、顔を手で掴まれた瞬間、何もしてないのにこう、どんどん吸い取られていく感じで………」

 

 

「…………」

 

 

ヤムチャの証言にエルザが怪訝そうにしていると突如爆風が吹き荒れる。上空からビートが蹴り落とし、19号が地面に激突したからだ。しかし本人は何事も無かったように起き上がってジッとビートを見上げていた。あれだけの猛攻に少し衣服が破れて汚れただけで人造人間はケロッとしていた。

 

 

「だああぁぁぁーーー!!」

 

 

止めを刺すが如く、簡略版のかめはめ波を放つ。

 

 

「しめた!」

 

 

だが、その選択が命取りとなった。

それを待っていたと言わんばかりに右手を掲げると撃ったかめはめ波がみるみる19号の掌に吸い取られて行った。やがて彼がかめはめ波は19号が全て取り込む形となった。

その様子に一同は驚愕する。上空にいるビートに向かってエルザが叫ぶ。

 

 

「ビート!気功波の類いは撃つなーーー!!奴等、魔力を吸い取るらしいぞ!!」

 

 

「ハァ……ハァ…………き、気い吸い取る?じょ………冗談じゃねぇぜ…………」

 

 

息を切らしならがらも19号に冗談はやめてくれと言うように笑う。だが、彼の状態はとてもキツそうでいた。

 

 

「お、おい。ビートの奴様子が変だぞ?もうそんなに魔力を奪われていたのか?」

 

 

「いや、直接は一度も吸い取られてない筈だ………」

 

 

そしてその19号は高く跳躍する。一瞬にしてビートの目の前に現れた彼は拳を放つ。ギリギリで躱すビートは反撃として殴り掛かるが躱され、腹部に膝蹴りを貰う。

ギリギリと歯軋りをして顔に肘打ちを入れるが、まるで効いてなく平手打ちの要領で顔を弾かれる。そこから両手を組んで地面に叩き落とした。

なんとか受け身を取って態勢を立て直すビート。

 

 

「このっ!!」

 

 

「撃つなビート!!」

 

 

「っ!!」

 

 

半ばヤケにまたかめはめ波を撃とうとするビートにエルザが叫んで止めた。悔しそうに上空にいる19号を睨み付けるが、息が先程よりも上がっていた。

 

 

「お、おい……アイツかなり辛そうだ………そんなに魔力を吸い取られちまったのか?」

 

 

ヤムチャの疑問に一同はそう思いかけたが、ナツがビートの仕草に目をつけた。胸を強く抑えていたのだ。そしてとある事を思い出す。

 

 

 

「や、やっぱりだ!!アイツ、病気なんだ!心臓の!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「心臓!?未来から来た奴の言っていたウイルス性の心臓病か!?」

 

 

「馬鹿言え!アイツ薬貰ってとっくに治したんだろ!?ビートは魔力を吸われちまっただけさ!」

 

 

ヤムチャが言うが、本人は内心苦しんでいた。

 

 

(く、苦しい………どうなっちまったんだ………オレのカラダ………)

 

 

「ビート、仙豆だ!受け取れ!!」

 

 

ヤムチャが腰巾着に入った仙豆を一粒、ビート目掛けて投げる。

 

 

「た、助かったぜ…………」

 

 

(あれがどんな大怪我も治してしまう仙豆とやらか………死にかけだったヤムチャ(アイツ)が普通に生きているというのも納得出来る)

 

 

仙豆を噛んで飲み干すと19号の両眼から閃光が放たれる。彼のいた場所が爆煙に覆われるが、煙を突き破って跳躍するビートが現れる。しかしいつの間にか回り込んでいた19号に殴打で地上に落とされる。

なんとか着地するも、さっきよりも息が上がって苦しい様子でいた。

 

 

「せ、仙豆が効いてない!!」

 

 

「や、やっぱり病気なんだ!」

 

 

「薬で治したんじゃねぇのかよ!!」

 

 

「な、ならなかったんだよ………病気には…………いつも元気でナツ達と組み手をやってて………だから薬は飲まなかったんだよ…………」

 

 

ハッピーの言う通りここ1週間、ビートは何事も無くナツ達と修行をしていたが、あの貰った特効薬は症状が出たら服用するようにと言われていた。それまで症状が出なかったので彼は飲まなかったのである。

降り立った19号に蹴り飛ばされ地面を削りながら横転するビート。そしてフッと金髪からいつもの黒髪に戻ってしまった。

 

 

「お、おい!遂に(スーパー)サイヤ人じゃなくなっちまったぞ!!」

 

 

倒れている状態から19号は腹の上に飛び乗り、ビートの首が掴む。

 

 

「あ………ああ…………」

 

 

「まずい!!」

 

 

一同が駆け付けるも20号がその行く手を阻む。

 

 

「く、どけよじいさんよぉ!!」

 

 

「ここから先は1cmも進ません。試してみるか?」

 

 

「面白れぇ………」

 

 

「待て!ガジル!!」

 

 

瞬時に20号に接近して蹴り上げるも、直前で躱され逆に両眼からの閃光で胸を撃たれた。

 

 

「ガジル!!」

 

 

「今の彼の行動は勇気とは言えんぞ………ただの無謀な愚か者と言うわけだ…………」

 

 

「くっ!!」

 

 

そうこうしている内にもビートの魔力が吸われようとしていた。

 

 

(ま、まさかこんなタイミングで症状が出るなんて…………す、すまんな未来の嫁さん………俺……一足早くアンタを1人にしてしまいそうだ…………)

 

 

意識が朦朧とする中、自身のまだ見ぬ妻に謝っていると突如19号が吹っ飛ばされた。

それは何者かが19号の顔に飛び蹴りを放ったからだ。一同はそれに反応してビート達の方へ向く。

 

 

「ソイツを倒すのはこの俺の役だ。テメェ等ガラクタ人形の出る幕じゃねぇ」

 

 

蹴り飛ばした張本人はもう一人のサイヤ人のバサークだった。

 

 



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