艦娘たちのPacific war (ツカス)
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第一章 制空権確保
第一話 北太平洋ハワイ諸島沖


今回は、真珠湾攻撃です。太平洋戦争の火蓋を切ります。


海は酷く荒れていた。その荒れた海を大きな飛行甲板を構えた艦が6隻、最大戦速で波を蹴立て、直進する。第一航空戦隊「赤城」「加賀」、第二航空戦隊「蒼龍」「飛龍」、第五航空戦隊「翔鶴」「瑞鶴」。

帝国海軍の正規空母、その全力6隻を投入した世界初の機動部隊である。

「艦首風上!第一次攻撃隊発艦準備!」

艦隊の先頭に立つ空母「赤城」…その艦橋に立つのは第一航空艦隊司令長官南雲忠一、そして「赤城」の艦娘である。

この「艦娘」とは、一隻に一人づつ存在する艦の魂のことであり、人間の女性のかたちをしていることからこう呼ばれている。魂なだけあり艦の損害に応じて傷を負い、艦が沈む時には艦と必ず運命を共にする。

艦娘は海の仕事に携わる者達にのみ見える。海軍軍人や漁船、商船の乗組員などである。当然、赤城艦橋に立つ南雲忠一も例に漏れず、隣に立つ赤い袴を履いた少女が見えている。

「赤城さん、艦載機の発艦はあと何分くらいかね」

「あと、5分くらいで終わるのではないでしょうか。そんなに心配なら、飛行甲板に降りて確かめてきたら良いのに」

「しかし、艦隊長官が持ち場を離れるわけにはいかんのだよ」

ときに昭和16年、12月8日。日本時間にして午前1時30分であるが、艦隊がいるハワイ北方160浬の地点では間もなく夜明けを迎える。あと二時間弱もすれば送り出した第一次攻撃隊がハワイ上空に到達し、この歴史に残る日米間の戦いが始まるのだろう。

それを前にして、長官が旗艦艦橋を離れるわけにはいかなかった。

「それもそうですね。では提督、発艦終わり次第艦隊航路に復しますので私がお茶でも淹れましょうか。第二次攻撃隊の発進まで、あともう少し時間がありますから」

「では会議も兼ねてそうすることとしよう。元の航路に戻ったら草鹿くんと源田くんを呼んでくれないか」

「承知しました」

日米開戦の火蓋を切るべく、攻撃隊は発艦を続ける。当時の日本において、最も熟練した搭乗員が集められた第一航空艦隊航空隊が組んだ美しい編隊は朝焼けに映え、見た者の記憶から永く離れなかったという。

 

「水木、奇襲や!アメ公のアホども、まだ攻撃隊に気づいとらんねん!トラトラトラ、最大出力で発信やで!」

第一次攻撃隊総隊長の淵田美津雄、その搭乗機である九七式艦攻はハワイ、オアフ島上空を巡航速度で飛行していた。関西訛りで淵田が後部座席、電信員の水木兵曹に命じる。

「了解、トラトラトラ発信します」

 

・・ー・・ ・・・ ・・ー・・ ・・・ ・・ー・・ ・・・

 

ハワイ北方を航行中の第一航空艦隊全艦、駆逐艦霞に護衛されて本隊との合流点を航行する一航艦附属補給隊、そして広島は柱島に碇泊する聯合艦隊主力・第一艦隊の戦艦群の無線機が、一斉に単調なモールスの音を奏で始めた。

「無線員、よくやったぞ!直接傍受だろう」

「はい、機上から発信されたものを直接、傍受しました」

「聞いたか長門秘書艦!南雲長官、そして赤城たち一航艦がやってくれたぞ!」

「感無量です、提督」

聯合艦隊旗艦、長門の艦上で子供のように無邪気に手を叩いて喜ぶのは聯合艦隊司令長官、山本五十六である。彼の傍で腕を組み、電文に目を落とす女性は戦艦長門の艦娘。

「攻撃隊からの電文、米国の緊急電報も多数入ってきています」

無線員が更に告げる。机上に並べられた電文には

「我『ヒッカム』飛行場を爆撃す」

「我『メリーランド』級戦艦を雷撃す、効果極めて大なり」

「Mayday!Jap bombing our airfield」

「SOSーPearl harbor air raid,not on drill」

といった日米双方の電報が並べられている。余程余裕がなかったらしく、米国の電報は平文である。

「宇垣くん、戦果の集計を急いでくれ。漏れのないように、しかし過大に見積もるなよ」

「了解しました、長官」

聯合艦隊参謀長、宇垣纒が電報を持って引き下がる。

「さて、我々も出港するとするか」

山本が長門に合図する。

「艦隊出港、艦隊出港、一水戦対潜哨戒続行。一戦隊、二戦隊、三航戦罐焚け。全艦、艦内第三警戒配備となせ」

長門が、威厳を持った声で柱島泊地に碇泊中の全艦に告げる。

「抜錨、一艦隊出撃!」

 

柱島泊地を出てしばらく、見慣れた風景が続く。周防大島を右手に見る頃に取舵を取り、豊後水道を抜ける頃に正面から艦が一隻接近してきた。

「全艦隊に告ぐ。正面より大型艦一隻接近中、警戒せよ」

後にたらいと評されるその幅広の艦は、巨大ながらも控えめな波を立てて直進してきた。近づくにつれ、その艦の全容が明らかになる。

一番に目を引く、巨大な三連装砲塔。その口径は見ただけではわからないが、見る限り自分の41cm砲より大きそうだと長門は思った。そして、その後ろに続く小さめの三連装砲。後ろに傾斜した流線型の煙突。周囲に配された高角砲、機銃群は中世の城塞を思わせる。しかし、どことなく近代的だ。

「貴様が、噂の新型戦艦か」

長門は、すれ違いざまに声をかけた。

「ええ。大和型戦艦、一番艦の大和です」

「そうか。近々、貴様に聯合艦隊旗艦を引き継ぐことになるだろう。栄光ある帝国海軍の名に恥じぬよう、頑張りたまえ」

「長門さん、ありがとうございます。では、お互いの武運長久を…」

相対速力、36ノット。巡航速度で航行していても、双方18ノットは出ているので駆逐艦並みの速さですれ違う。

「新型戦艦…か。私も、もはや世界最強ではないのだな」

 




次回はウェーク島攻略です。


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