災禍は舞う (mistaloma)
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prolog
始まりは、白
なので早速本編どうぞ(始まりの始まりなのでクッソ短いです)
..............................例えばの話だ
もし世界に否定された存在が生きる方法として手っ取り早い方法は何だろうか。
恐らく大半が世界のどこか片隅で息をひそめる。それが手っ取り早いという結論になるだろう。
だが、『彼女』は違った。あろうことか、彼女は............................
生きる世界を変えた、彼女の意思とは関わりなく。
「…っ」
(頭が響くように痛い、何が起こった…)
今は激しく、だが恐らくしばらくすれば鈍い痛みに頭は見舞われるだろうと悟りながら彼女は目が覚めた。
まず目に入ったのは無機質な白色。腕に目をやると小さくだが針とその針に繋がるように管が通され上へ目をやると何やら透明な梱包容器に水のようなものが入っている。そして指には痛くはないが何やら怪しげな機械に通じる紐のようなものが繋がれた洗濯ばさみの様な器具が。
そして自分が横たわる様式の寝具から少し奥にある棚の上には、自身が着ていたはずの黒を基調としている衣服と、大幣がきれいに折り畳まれた衣服の上に置かれていた。
腕や足には枷の様な拘束するような器具は一切取り付けられておらず、彼女は疑問に思った。
何故、私をこのような状態に放置してあるのか…と。
身を起こそうとするもまるで背中に重石を乗せられているかのような倦怠感に襲われ起こす気にもならずにしばらくは周囲を見渡すことにした。
しかし、しばらくもせずに、突如として引き戸が引かれる音が耳に入る。
目に入ったのは白衣を着用し、金髪に翡翠色の目を持ち、右手の人差し指と薬指に指輪をはめ出るところは出て、引き締まっているところは引き締まった体形の女性だ。
「…!目が覚めたのね!よかったぁ…」
と、女性は彼女に向かって話す。まるで母親のように。
「5日も目が覚めないから、心配していたのよ。しかもあんな海岸線沿いの街道で倒れているなんて…」
と、彼女にとっては矢継ぎ早にしゃべる女だな…と、聞き流し…倦怠感等を、なんとか気力を振り絞って振り払い
「こ…こ、は…?」
と、しゃがれた声で目の前にいた女性に聞いた。
「あ、ご、ごめんなさいっ。つい喋りすぎちゃったわね。ここはミッドチルダ。えーっと、貴女にとって信じられないだろうけど、別世界…というべきかしら。そこの治安維持組織にある医療施設の一室よ」
そう言って一回小さく謝るように軽く手を重ねて小さく背を丸める。その後小さく笑みを
浮かべたまま床に伏せた彼女の身体をチェックするためのホログラム画面を映し出し、
注意深く項目一個一個とにらめっこをして、やがてすべて見終わるとバイタルも安定してるわね…と、再度胸をなでおろしながら、また彼女に向かって小さく微笑んだ。
勿論彼女にしたら、いったい何を見て何をやっていたのかはさっぱりだが、身を案じてはくれているという事だけは理解はしている
…つもりだ。
「ああ、そうだ。自己紹介、忘れてたわ」
そういうと顔を床に伏せている彼女の顔とできるだけ同じ高さにまで近づけて
「私はシャマル。皆からはシャマル先生って呼ばれてるわ。」
と、彼女に向って言った。
「シャ…マル…?」
「ええ、そうよっ」
自分の名をとぎれとぎれで、しゃがれた声ではあるものの、自身の名を呼んでくれた彼女に対して女性、シャマルは喜ぶように喜色を含んだ声で言う。
「じゃあ、次は貴女ねっ。名前、教えてくれるかしら?」
そういわれると無意識のうちに彼女は、皆から。あの世界では畏怖と嫌悪の象徴として呼ばれた名を言った
「
…と。
一週間後までには投稿できるように努力はします。では、今回はここまで。
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接触。
一通りの話を終えたシャマルは霊夢のいた部屋を出ると。またバイタルをチェックする。
五日も寝ていた患者なのだ、今は特に異常はないが、もしかしたらという、可能性程度ではあるが、突然何が起きてもおかしくない
「…それに」
と、もう一方のホログラム画面に目をやる。今までのものと違うそれは、まるで機械の出力を測定するための目盛のように微々たるものだが上下していた。
「…魔力は、日常生活で支障が出ない程度。その程度のはずなのに」
魔力を示すメーターは平均値を示す真ん中よりもやや下の部分を上下に細動していたが、
「純粋なエネルギーの量じゃ、リミットリリースした時のはやてちゃんやなのはちゃん、フェイトちゃんを軽々と上回っているなんて、いったいあの子、何者なのかしら?」
純粋なエネルギー量を示すメーターは、振り切る一歩手前だったのだ。それこそ彼女の主のモノを易々と上回っていたのだ。
管理局でもSSランクを誇る、自身の主を超えるかもしれない存在。
そんな考えが頭を通り過ぎると一瞬、背筋が凍るような寒気がシャマルを襲った。
まるで、生物学的本能が警鐘を鳴らしているかのように…
「…でも、悪い子じゃなさそうだし。大丈夫、かしらね?」
そう言い聞かせるように霊夢は決してそこまでの危険性を持っていないと言い聞かせるかのように呟く、が…
「でも、あの筋肉のつき方といい、回復スピードといい…でもっ、うーん」
と、悩み、むしゃくしゃしていると…。
「どうかしたんですか?」
「ひゅいっ!?」
と、急にかけられた声に驚きビクッ!と小さくだがシャマルの身体が跳ね上がる。
「あ、えっと…ごめんなさい。驚かせちゃいましたか?」
てへっ、とでも言いそうな朗らかな笑みを浮かべる橙色に近い茶髪をサイドポニーに纏めた、自らの主の信頼する部下であり、同時に主にとっても自身にとっても恩人である人物。高町なのはだった。
「い、いえ、だ、大丈夫よ?ほら、前の急患の子、目が覚めたから少し色んなデータ見てただけだから」
「ああ、あの巫女の様な服着てた子ですか?」
「ええ、五日間も寝てたから、どうなることやらって思ってたけど。回復スピード、だいぶ速いのよ…。普通だったら筋肉が全く動いてなかったらちょこっとリハビリとか要るかな?って思ってたんだけど…全く問題なしで…。それに…」
「…レリック、ですよね」
「ええ…」
レリック。それはロストロギアと呼ばれる異世界で高度に発達した魔法技術の一つ。一見するとただの赤く輝く宝石のようにも見えるが、その実態は超高密度の魔法エネルギーの結晶体。もし封印せずに、刺激を与えてしまえば大爆発しかねないとても危険な代物である。
「…爆発した直後の爆心地に、居たのよね。あそこまで頑丈な子なんて、高ランクの魔術師だってなかなかいないのに」
「気絶はしてたけど、傷は受けていなかったんですよね。それも、爆発に対抗してのガードじゃなくて、慢性的な。その上、レリックの爆発時の瞬間に生まれた次元のゆがみから出てきて」
「その上、その衝撃も受けきる。なんて、昔や今のなのはちゃんでもそんな芸当無理、よね?」
「…限定解除したとしても、無理、ですね」
はぁー…、と霊夢の頑丈さに半ば呆れるように、確認する二人。
そう、五日前。霊夢は居たのだ、いや、来させられたのだ。爆心地に。周囲は工場が隣接する地域だったため。爆発が一つ起きればたちまち連鎖爆発、大火災が発生。周囲はさながら阿鼻叫喚の地獄ともいえる状態だった。
…そんな生存確率がゼロに等しい環境で爆発をもろに受けていたのが霊夢だったのだ。
「…まぁ、でも生きているならそれに越したことは、無いですしね」
「ええ、おまけに五体満足、内臓はともかく外傷も皆無。多少筋肉のコリをほぐさないといけないけど、それもすぐに終わるはずよ」
これ以上踏み込んでしまうとこの場の空気が重くなってしまうことを察したのか、慌ててなのはが前向きに話を転換させる。
シャマルも無意識のうちに俯き気味だった顔を前に向けて、声音も心なしか明るいものになっていく。
「そうですか、良かった。ところで、あの子、どこの世界の子かわかりました?」
とりあえず、シャマルから身体に異常がないことを聞くと安心したのか、ほっと胸を撫で下ろす。
そして彼女の出身地を聞き出せたのか聞いた。数多に渡る世界を管理する管理局。今回の霊夢のような突発的な事故などで世界間を本人の意思とは関係なく渡ってしまった場合は、次元漂流者という、ありきたりな言葉を言うなら、世界を又にかけた迷子の様な処遇を受ける事になる。処遇と言っても、寒いコンクリ―トの床で塀の中で過ごすようなモノではなく。一時的な保護、といったほうが良いだろうか。そして本人のいる次元世界に送り届けるのも管理局の仕事なのである。その為、霊夢の生まれ故郷を聞き出さなければならなかったのだが、シャマルは少し困ったような様子を浮かべて…
「それが、故郷についての記憶だけが。すっぽり抜けているようなの…」
と言った。
「ん~~~っっぅ」
と、声を出しながら腕を上に伸ばした青紙の少女。スバル・ナカジマは医務室の近くを歩いていた。5日前に保護した、自分の戦技教導を行ってもらっている上司の、歴史的意味合いを持つ衣類によく似たものを着た少女が目を覚ました、という事で慌てて駆け出そうとしたが、同僚でパートナーでもあるオレンジ髪の少女に半ば引っ張られるように止められたため、落ち着きを持った様子を作り、歩いてきた。
…心の中では『相棒』を使ってでも駆け付けたい気持ちだったのだが。
……部屋の前にたどり着く、今は起きているとのことだったので眠っているから静かに…と考える必要はないと判断し『ノック』をせずに勢いよく…
「失礼しますっ!」
と、笑みを浮かべながらよく言えば元気な声、悪く言えば五月蠅い声で病室へと入った。
そこで見たものは…
ベッドや、サイドカーテンで大事な部分は隠れていたが…
生まれたままの姿になり今ちょうど下の恥部を隠すための衣類を穿こうとしていた自身が救助した少女が居た。
「…!?」
勿論少女はまさか来客が突然やって来るとは思っていたのか一瞬呆けた様子になり。
「はへ…?」
勿論まさか着替えをしているなどと思っていなかったのかスバルも固まり呆けた様子になる。
…一瞬だが二人にしては長すぎる間、その静寂を打ち破ったのは
「…っっ!!きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
という、恥ずかしさ故に息を詰まらせた直後、甲高い叫び声をあげた目の前の少女。
その瞬間に、自衛するかのように現れた、黒々とした紫電を放つ、まるで自身の直属の憧れの上司の友人の執務官の放つ魔法によく酷似した黒い三発のエネルギー弾が、まるで…
『死ぬがよい』
と、語るが如く、スバルの、額、顎、脳天を鋭く、さながら一閃、と言えるような勢いで直撃
「ぐほぁっ!?」
勢いよく吹き飛ぶスバルの体。壁にめり込むことはなかったが、 床に重力によって叩きつけられた…。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「「!?」」
先ほどまで話題に上がっていた少女のものと思われる叫び声を聞きシャマルは血相を変えて霊夢のいる医務室へと走り出す。
次いでなのはも、何かしらの敵が来たのかと思い相棒である赤い宝石のような丸い小さな球をポケットから取り出すと
「レイジングハート、いつでも変身できる様に準備して」
と、告げる。直後球がピンク色の光を放ちながら
『ALL RIGHT』
と、告げる。
そしてシャマルを追い抜き
「私が先導します、何があったのかわからないので、シャマルさんはクラールヴィントの準備を!」
と、告げてさらに足は速く動かして、加速する
シャマルも置いて行かれるまいと、慌てて加速する。
「大丈夫ですか!?」
と、言いながら先になのはが霊夢の病室にたどり着く。少し焦げ臭いにおいが立ち込める。何かしらの衝撃故か、砂埃も立ち込めていた。
(…もし、『アレ』がいるなら)
と、気を引き締めて警戒し、奥へと入ろうとした時だった。
足元に人影が、煙はそこまでのものでは無かったのかすぐに晴れ倒れているであろう人物の姿を見せる。
……そこに居たのは
「きゅ~…」
と見事に気絶し大の字になり目を回しているスバル。
そして部屋の奥には、顔を真っ赤にさせ蹲り、目に涙を溜め、身を隠すように蹲らせた体に両手で恥部と胸部を隠した、霊夢の姿があった。
「え、え~っと…」
「こ、これは…どういうこと、なのかしらね」
…エース・オブ・エースも夜天の書の守護騎士も、こればかりはさすがに思考停止せざるを得なかった……。
次の話は一週間前後でまた…
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非帰還者
「いたっ!う~…」
「沁みるかもしれないけど、少し堪えてね?」
「はいぃ…」
消毒液をしみこませた綿をスバルの顔の切り傷に当てながらそんなやり取りをするシャマル。
一方、霊夢となのはは
「すみません…」
「いえ、スバルも少し舞い上がっていた節もありますし…」
「だけど…」
「目が覚めたら知らないところで、おまけにこんなアクシデントに遭遇してしまったんですし、仕方ありませんよ」
「…けど、もう少し、冷静だったら」
謝罪とフォロー、その繰り返しだった。
「…まぁ、それはさておき。とりあえず、この異世界にいるかなんだけど。これ、あまり一般の人に話しちゃいけないんだけど、事が事だし…」
そういうと、ホログラムウインドウを霊夢の眼前に浮き出させ…
「これは…宝石…?」
「見た目はね、けどその正体はロストロギアの一つ、要は古代の危険な兵器やそれに近い遺物の一つ、って考えてくれればいいかな」
「ロストロギア…それと私に何の関係が?」
「…このロストロギアは超高密度のエネルギーの結晶体なの、それにコレには特殊な封印やこれ様のケースに入れないと暴発する、危険な代物なの…」
「エネルギーの結晶体…」
一瞬はそういうものなのかと、レリックが映し出された画面を眺めるがすぐに、その答えが霊夢の中で導き出され、はっとした様子でなのはの方を見て
「まさか、暴発…?」
と、霊夢に想像できる中で最悪のケースを口にした
「ええ、しかも臨海部に位置する工場地域でね。現場は騒然としてたし、私たちも出動命令が出たの」
「火傷や、二次災害による負傷を含めればミッド最大レベルの大事故だったし、私のような医療スタッフも大立ち回りを余儀なくされたし、鎮火したのも昨日にやってようやくだし。でも、爆心地のど真ん中に居た霊夢ちゃんを含めて全員意識は回復してるし、今回は本当についていたわ」
なのはとシャマル互いに当時の状況を思い出したのか疲れ顔で話す。現場に居合わせていなかった人物であろうとその時の凄惨さが思い浮かべられるかのように。
はっと気が付いたように疲れ顔を頭を振って吹き飛ばすかのようにした後、霊夢に顔を改めて向けて。
「兎にも角にも貴女にはこの後、事情聴取になっちゃうんだけど。ごめんね?いきなりこんなところに飛ばされた上にしばらくは事情聴取だなんて。なるべく負担をかけないように担当の人に入っておくからっ」
「い、いえ…。大丈夫ですし、それに」
と、なのはの気遣いを無下に扱うこともできずに、気にしないでほしいという意味を込め大丈夫と言った後…。
「それに、私。あの時何があったかなんて覚えてないですし」
と、呟いた。
なのはとシャマルがその後霊夢の病室から出た後。
スバルと霊夢は二人きりで何も話さず、ただまるで拘束されているかのように、スバルは椅子に、霊夢はベッドの上に座っていた。
「…怖くないのか、私の事」
そんな沈黙を破ったのは霊夢の呟きだった。
「え…?」
霊夢の呟きが一瞬何を言っているのかわからなかったスバルは呆けた様な声を出してしまう。
「怖くないのか、と聞いているんだ。私の事を」
「怖くなんかないですよっ!?さっきの事は私の注意不足が原因でしたし…」
「そうじゃない…」
…と、先ほどはなった攻撃に対しての罪悪感からではないことをスバルに明かし…
「危険な古代兵器のエネルギーの暴発…真正面から受けたら死んでしまうような爆発の中でさえ生きてしまうような、まるで化け物の様な私を怖くないのか?お前は」
と、改めてスバルに問う。
一瞬考えるようにしてスバルは目を閉じ、答えが出たかのように目を開け口を開いた。
「…怖くはないですよ、誰だって時に人から恐ろしく見えてしまう自分の力ってあるとは思うけど、でもそれは使い方を間違ったから。そういう力の使い方をしたからなんじゃないかなって、私は思います」
「…そうか」
スバルのそんな答えを聞いた後、流すかのような口ぶりで霊夢は言う。
「その、霊夢さん…もしかして…」
と、スバルが言いにくい疑問を霊夢に問いかけるかのように口を開けた次の瞬間。
『スバル!緊急出動かかったわ。恐らくレリック絡み!至急六課に戻って!』
と、スバルが首からかけていたデバイスから女性の声がひびく
「ティア!?わ、分かった。すぐ行く!」
―すみませんっ、と霊夢に声をかけ部屋を出ようとする。
が、部屋の出入り口で止まり…
「悪い人じゃ、ないって。私思ってますから」
そう、独り言のようにつぶやくと駆け足で霊夢の病室から出て行った。
その姿を見送り、人影が消えた病室で一人。ベッドに横になった霊夢は
「不思議な奴…」
と、呟いた。
日は西に傾き空を赤く染まった頃。病室で軽くだが事情聴取を受け終えた霊夢はふと、スバルが受けた通信のある言葉に頭の中で引っ掛かりを覚えていた。
「レリック…」
…それがもし私を此処に引き込んだなら、私にとってきっとそれは…幸運をもたらす古代の遺物か、はたまた災禍の渦へ引き込む祟り付きか
そんなことを思いふけっていると。
三回扉を叩く音とともに、失礼しま~す…、とまるで息を殺して入るかのようにおとなしい様子でスバルが戻ってきた。
「なんだ、さっきのような豪快さはどうした?」
皮肉のように霊夢はそう呟きふと気が付く
私はいつの間にこんなにも軽口を叩くほど精神が緩んでいるのだ、と
「あ、いやそのっ!さっきのは事故というか、あははははは…」
と、困ったように頭を掻きながら苦笑いをするスバル。
「さっきの招集。何かあったようだったが…大丈夫か?」
「あ、はい。すみませんさっきは急に飛び出したりして…」
「構わない。それに、私に固い口調で話さなくてもいいんだぞ…?敬うような人間でもないんだし」
「え…」
と、驚くスバルに、霊夢は自分の気を許しているさまを嘲笑するかのようにほほ笑む。
「で、私はいつまでここに居ればいいんだ…?」
「え、えっとそれはね、じゃなくて、それはですね…」
「硬い口調じゃなくていいといったよな…」
「あ、はい。じゃなくてっ!うん。それでね?」
と、霊夢は同級生のように話すスバルの話に耳を傾ける。
今の霊夢が知る由もないがこの時霊夢は恐らくだがはじめて友人というモノを手にしたのだろう。
博麗霊夢とはちがう禍霊夢の…
その後スバルの口から離されたこの後の予定ではミッドチルダに戸籍を移すならしばらくはスバルの所属する機動六課か陸士108部隊という所でこの世界で生活する上の知識。そして、霊夢の中にある魔力の検査、魔法の最低限の運用方法とルール。そして、高レベルの魔法の素質を持つなら機動六課に配属される嘱託の魔導士として生活もできる。との事だった。
無理に籍を移す必要もないと言われたが。元居た世界に興味はないと告げ。霊夢はミッドチルダに籍を移すこととなった。
二日後…
「へぇ~。籍を移すことにしたの?アンタの助けたあの救助者。珍しいわね。普通なら帰りたいっていうのが筋なのに」
「なんでも、元居た世界に興味がない、だって」
「不思議な人もいるもんなのね~…。で、今は魔力測定の最中だっけ?」
と、スバルとその同僚であり一歳年上の友人、ティアナ・ランスターは機動六課の食堂内でランチを楽しみながら話していた。
「多分、魔力値は高いかもね。霊夢、あんな光弾を打てたんだし」
「あ~、アンタが見境なしに突っ込んで受けたっていう?」
「う“っ。それはその、焦り故と言いますか…」
と、ティアナの的を射た言葉にしどろもどろしていると。
「あ!霊夢~!」
と、見知った病衣を着た黒髪の少女が目に止まり。話を逸らすように声をかける。
露骨に話の腰を折られた事に一瞬ムッとしながらティアナも霊夢の方を見る。
「…スバルか。」
「お疲れ、霊夢。食事~…はまだ病院食だから駄目でも、お茶くらいならいい?」
「別に構わんが…そっちの…」
と、霊夢はティアナのことを気遣うかのように言う。
「あ、いえ。構いませんよ。一昨日はスバルがご迷惑をおかけしました」
「ティ、ティア!それを今言う!?」
「言うわよ、そりゃ。同僚の失態なんだし…」
と、呟く様子はスバルには宛ら、厳重忠告する会社の上司の姿にも見えなくはなかった。
「あ、いや。それは、私の気が動転してたのもあるし…」
「仕方ありませんよ、タイミングが悪いのもありましたし…。改めまして、スバルの同僚のティアナ・ランスターです」
「禍霊夢だ、よろしく…」
スバルの友人という事もあったのか、打ち解けた様子でその後は三人で話を続けた。ちょうど今日は午後がオフだったスバル、ティアナの二人にとってはちょうどいい時間つぶしにもなった。
「そういえば霊夢。魔力測定。どうだった?」
「ああ、あれか。確か【CかよくてB】だったそうだ」
そう言いながら簡易検査書と書かれた紙を二人に見せる。
そこにはC~Bと魔力測定の欄には書かれていた。
「「えっ!?」」
と、思わず知らず声を出す二人に、霊夢は何かおかしなことを言ったか?…と考えるしかなかった。
それもそうだCかよくてBは凡人、若しくはそこからほんの少ししか高くないという結果なのだから。
サムスになったわ
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不動、無風。安定也
「CかBって……」
「そういう事だろう……?これが正しいのなら」
円卓の周りに座る三人の少女
青髪ショートの少女は【ありえない!!】と言わんばかりに一枚の紙を穴が開かんと言わんばかりに開いた眼で見ていて
【どうでもいい……】と言わんばかりに薄目開きで、ぼ~っ……と外の方を見るのは病衣姿の黒髪ロングの少女
【ふぅん……?】と、少し興味はあるが世間話程度に髪を横からのぞき込むのはオレンジ髪のショートツインの少女
スバル、霊夢、ティアナは三者三様の表情を浮かべながらその場にいた。
そしてスバルが持つ霊夢の魔力測定の結果には【暫定:C-~Bランク】という結果が書かれていた。
常人にしては高い方ではあるものの、管理局の戦闘人員やその他魔力を用いる職種に従事している人間の中では平均的かそれよりも多少高い位と書かれていたのだ。
しかし、先日の不慮の事故の際発せられた前衛であるスバルが不意打ちとはいえKOを入れることが出来た射撃魔法、そしてレリック爆心地において仮に防御魔法を用いたとするなら、圧倒的に力が足りない。
と、なると管理局の検査機器に何かしら不具合を疑うモノだが、どうやらそれはとうに検査していた医師全員が思っていたらしく、よくよく検査結果の書かれた紙を見ると日を跨いで計5回もの測定を行ったが多少の増減は合ったものの一貫して突飛した力を持っているとの結果は出なかった。
そんな事が書かれた検査結果をスバルの横からティアナもみるも何か思い当たる節があるらしく、スバルとは対照的に落ち着いた表情をしていた。
「でも……単純な魔力の測定なら、そこまで驚かなくてもいいんじゃないの?」
はむ……っとフォークに刺した緑黄色野菜の集まりを口に運びながらティアナは言う。
「え、でもあそこまで強力なのを瞬時にって……」
納得いかないスバルが首を横にかしげながらじ~っと、まるでテストの点数に不服そうな学生の様に霊夢の魔力測定の結果紙を見つめる
「確かにそりゃあ、魔力が大きければスバルの言う通り簡単に打てるだろうけど、魔力を瞬時に打ち出すのは単純な魔力値で決まるわけじゃないでしょ?」
「……つまり、魔法の質が高いってこと?」
「そういうこと、霊夢さんもまだその検査はしてないんですよね?」
……と、仮定を話したティアナは霊夢に問いかけるが
「え……まだあるのか?あのよく解らない時間は」
当の本人、何も把握していないようでした。
「え“、霊夢まさか何も知らずに検査受けてたの??」
「ああ、それどころかさっきまでいったい何のための検査をしていたのかも全然知らない」
「「ええ~……」」
と、半ば呆けたような瞳で驚くスバルとティアナ。だが霊夢本人はどうでもいいと言わんばかりにスバルとティアナから視線を外し、外をまた薄目開きで眺めていた。
すると……霊夢の病衣の右袖が緑色に光る。
面倒くさそうにモタモタ……と袖の内側にある腕輪型の医療用デバイスの応答スイッチを押すと
『霊夢ちゃん、次の検査30分後に始まるから、準備、お願いね~』
という主治医事シャマルの声が聞こえてきた……
「はい……分かりました。それで、次は何を……」
『えっと、次は魔力循環の検査ね。そこまで身構えなくても機会が体の周りをグルってするだけだからっ!じゃ、よろしくね』
―ピッ
という音と共にCALLINGとデバイスから浮き出ていた空間モニターは消えた。
「……その回っているのがあまり好きじゃないんだがな」
と、ぼそり独り言をつぶやくと
「それじゃ、私は検査だから、また今度」
そう二人に言うと席を離れ病棟の方へと戻っていった
「なんかティアナ、変な感じだったよ?」
「え、そ、そう……??」
「うん、まるで一対一で八神隊長と大事な話をしてたそんな感じというか……」
「どんな感じよ、それ……」
コンソールやキーボードを触りながら書類仕事を片付けるスバル、ティアナの二人。その間に話されるのはずっと霊夢の話でもちきりだった。
「霊夢、六課に来るのかなぁ?もしよかったら一緒に模擬戦でもしてみたいなぁ……」
「いや、出向とかじゃなくて仮にも保護なんだから……それに、霊夢さんに迷惑でしょ??」
「そ、それはぁ……そのぉ……ほ、ほら聞いてみないと分からないじゃんっ」
「仮に本人がいいといっても、隊長陣とか、シャマル先生がダメって言いそうだけど??」
「う“、それもそうだった……」
「それに病み上がり……というか、事故後なんだから。少なくとも当分は無理じゃないかしらね」
「う“う”っ!事故許すまじ……」
と、言いながら机の上に顎を置いて心底残念そうな表情を浮かべるスバル。
「一番言いたいのは霊夢さんでしょ……あまつさえ、別世界から次元漂流者として迷い来るのはいいとしても、いきなり爆心地に放り込まれるなんて……」
「それもそっかぁ……」
まったく……と言わんばかりにあきれた様子で言うティアナの言葉を聞きようやく折れたかのようにむくっ……と顔を上げるスバル。
「爆心地で思い出したんだけど……霊夢、どんな魔法を使って防いだのかな……」
「……確かにそこは気になるけど」
「せっかくなら見てみたいなぁ……実戦とか模擬戦で」
前言撤回、全然折れていなかった
そんな同僚を呆れ顔で見つつも何処か釈然としない様子のティアナ。
(…力では劣ってても、魔法を操る面では天性の才能がある、か…)
そんな事を考えた彼女の口の中から一瞬だけ軋むのような音が聞こえた
「ㇰシュン……ッ」
『大丈夫、霊夢ちゃん?風邪でも引いた??』
「い、いえ……大丈夫です」
(何処かで、噂でもしているのか……?)
そんなことを思いながら自身の体の周りをひたすらに動く機械に監視されているかのような感覚により多少の嫌悪感を抱きながらそんな考えを浮かばせる霊夢。
・・・・・・・その考えはあながち間違いでもないのだが
(それにしても……)
検査はただじっと下着姿で横になるだけであるが故に暇である。その間霊夢はずっと一つの考えを巡らせていた
(……この組織とレリックとやらの関連性は何だ?)
仮にレリックが、ただの大爆発しかねないエネルギーを持つ考古物なら、もしもの事故に備えて救助スタッフ、医療スタッフが常駐しているのはわかる、だが事情聴取までをもこの組織が営むであろう場所で行われた。ただの救助部隊でここまでするのだろうか…?
そう考えるに至る理由を霊夢は思い返す。
少し時を遡り、午前10:00
「……」
狭い点を除けば決して不快感を覚えない部屋、しかしどこか緊張感を持たせるような場所に霊夢は居た。
無機質な机が眼前にあり、ヒンヤリとした冷たさを持つ椅子の上に腰を掛け、しばらく待っていると……
「失礼します」
と、穏やかな声とともにやってきたのはスバルが着ていた服を黒く色を変えたような服を着た金色のポニーテールヘアーに髪を結った女性だった。
ゆっくりとなれた様子で椅子に腰を掛けると、
「この前はスバルがごめんね?私はフェイト・T・ハラウオン。フェイトで良いよ」
と、優しく少し申し訳なさそうな笑みを浮かべながら口を開いた
部屋のイメージと相まって自然と強張っていた体全体を一瞬で解凍され驚く様に口を一瞬だけパクパクさせるもののすぐに落ち着きを取り戻す
「…それで、取り調べって,一体何を…?」
と、霊夢は口を開く。私を犯人とでも疑っているのかと思う感情は精一杯自身の懐に押し込めて。
「そう身構えないで、あの事故の時のことをできるだけ教えてほしいだけなの。勿論、無理にとは言わないけど」
と、対照的に目の前の穏やかな口調で小さく笑みを向けられながら霊夢に言う。
警戒心を出していても意味はない、と思ったのか。強張った背を少しだけ緩めて握りしめていた膝の上の拳も緩めた
「じゃあ、サクッと終わらせちゃおっか」
「じゃあ、結局あの時は無我夢中で何も覚えてなかったと…」
「まぁ…はい。ひたすらに自分の身体を守るのに精いっぱいで…」
「そっか…」
結局、霊夢に話せることなど何もなく、フェイトにとっても有力な情報は手に入ることはなかった。
「すみません…あの時はそもそも何も見えてなくて…」
「いいの。貴女が生きている、それだけで十分だよ。寧ろ、私たちの方こそゴメンね?」
そう話すフェイトの顔は穏やかだが、それ以上にどこか暖かいものに霊夢には見えた。
その後、何事もなく聴取は終わり、フェイトは資料作成のため、霊夢は検査の為に分かれた。
…私が生きているだけで十分、か
何処か無図痒い感覚を覚えた霊夢は軽く咳ばらいをした。
その時に無表情で検査に臨んでいた霊夢の顔が少し緩くなったのをシャマルは見ていた。本人は気が付いていないだろうが。
そして検査は何事もなく終わり、いつもの病室に戻る霊夢。
いつの間にか日も暮れはじめ、病室から見える白色の施設達が温かなオレンジ色に包まれつつあった。
やがて日が暮れれば外は月と星々の輝きを得ていながらも黒く染まる。
病院食を済ませれば消灯の時間までは暇になる。
医療用デバイスを付けると、この世界の事について調べ始める。この世界に来てからはや5日、ただ淡々と検査を受けるだけの日々もどうかと思い、少しだけだがこの世界について知ろうとした。
緑の空間モニターに幾つものニュースがまず出てくる。だがどれも一遍して霊夢が巻き込まれた爆破事故の情報が最初に出てくる様子から、あの事故がどれだけ深刻なものなのかを改めて知る。
次にその他の事件や政治動向、特に何か深い考えを霊夢にもたらすきっかけにはならないものの、知ること自体が習慣となりつつある。
そして…
「ベルカ…古い歴史…か」
最近特に気になっていたのはベルカと呼ばれる古い動乱の時代の歴史。
一時期は世界には毒があふれ人が常に死に続けるという一種の地獄のような、そんな時代ともいえる。
その地獄のような騒乱の時代を終えたのが…
「聖王家の聖女、オリヴィエ…聖王のゆりかご、か」
聖王のゆりかごと呼ばれたその戦艦はベルカ時代に聖王軍の戦況悪化に伴って若き聖女・オリヴィエが核になって起動させ、見事聖王軍を勝利に導いたとされる。
その後、世界の戦争を終わらせ神格化したものの血が絶えた聖王家は信仰の対象となり聖王教会が発足、その後も世界の安定のために
「…管理局という平和組織樹立にも協力した結果、ミッドチルダの一部区域に【ベルカ自治区】という国家を発足させた…か」
何とも言えない終わり方であるものの今のこの世界の平和はこのように気づかれた。本人にとってはきっと望んだ終わり方だろう、だが残された者たちはどうなったのだろうか。
記事の中では、覇王と言われたイングヴァルトとも友好関係にあったらしい。
彼は最後にどのような気持ちでゆりかごを見送ったのか。
その後、残された世界で彼はどう生きたのか。何時の間にやら霊夢は古代ベルカに興味を惹かれていた。
…今度、本でも読んでみるか。
そう思い、消灯時間の少し前に空間モニターを消せば、布団の中で目をつむる。
変わらない平和を続けるのであろう明日に少し楽しみを残して。
二年ぶりです
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