クロノマギア Beast side (ぱし)
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ep.1

「わらわは、どこで道を間違えたんじゃろうか…」

 

 

♠♥◆♣♠♥◆♣

 

「半端者の獣人は出ていけ!」

人間と獣人の混血であるライザーに、容赦ない言葉が浴びせられる。

もともと人間と獣人は仲が悪いわけではなかった。しかし、いまの獣人の国の女王ガメイラは人間を憎み、獣人の国に人間の侵入を拒む大きな門を作った。

ガメイラの率いる国王軍は、ライザーが純粋な獣人ではないことを知った途端、除け者にし、自分たちの国から追い出したのである。

 

「どうして俺だけが…俺だってこんな血を望んではいない…」

ライザーは誰もいない静かな門の外で呟いた。しかし誰にも、門の中にも届かない。

このまま項垂れていたいが、そういう訳にもいかない。混血でも立派な生き物だ。腹は減るし、喉も渇く。どこかの街へ行くしかない。そう彼は考えた。しかし獣人の国には戻れない。

「クッ…生きるためだな…」

彼は人間の街の方向へ歩き出した。

 

♠♥◆♣♠♥◆♣

 

ライザーはそれからしばらくの間、人間の国で細々と暮らしていた。

顔を見られてはいけないので常に麻のローブを被り、食料を買う時以外はなるべく外に出ず、近くにあった洞穴で生活をしていた。文化的とはほど遠い生活ではあるが、生きるために必死でそんな悠長なことを考える余裕もない。どうにかして今の状況をなんとかせねば…毎日同じことを考えているが特に何もいい案は浮かばない。夜も更ける。今日はとりあえず休もう。そう思って寝床に入ろうとしたとき

「お宝はどっこかな〜♪」

呑気な声が聞こえた。恐らく人間だろう。いや、ここには獣人はいない。絶対に人間だ。

ライザーは慌てふためいた。逃げ場はない。ここはやり過ごすしかない…

「おっ、着いたかな〜… ん…?おい、誰かいるか?」

「俺だ。怪しい者ではない。」

ライザーはそう返した。麻のローブを被り、焚火を最小限にして顔を見られないように。

「な〜んでこんな所にいるのかな?オレと同じ、お宝を探しに来たってわけではなさそうだけど。」

「俺は居場所を失った。行き場がないからここで過ごしている。」

「ふーん。大変な目に合ったんだねぇ。同情するよ。…キミが人間だったらねぇ。」

「…!?」

「え、何?バレてないと思ってたの?入った瞬間匂いで気づいたよ。まぁ、オレは何もしないけどね。興味あるのお宝だけだし。でも、オレ以外は見逃してくれないと思うよ?」

そう言って人間は去っていった。もうここにはいられない…

満月が煌く暗闇の中、ライザーは洞穴から外に出た。獣人の国から追い出され、人間にも拒絶される。彼にはもう、居場所はなかった。

「何故だ!何故俺だけが虐げられなければならない!俺だって望んで生まれた訳ではない!どうして…」

ライザーは項垂れ、涙をひと粒零した。

「…あなた、どうしましたの?」

不意に声をかけられ、驚きつつさっと顔を上げる。

そこにいたのは、月の光を受けて輝いている、フリルのついた赤いドレスを着た少女だった。



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ep.2

「あなた…泣いていますの?」

「…何も言うな!お前には関係ないだろう!」

少女の言葉に対して気づいたら尖った言葉で返していた。

「すまん…だが、放っておいてくれ。人間でも、獣人でもない俺には孤独がお似合いなんだ…」

もはや助けを求めることすらできないほど、ライザーの心は深く傷ついていた。自分で望んで半獣半人になろうとしたわけではない。人間に対しても、獣人に対しても何も悪いことはしていない。それなのに、獣人からは追い出され、人間からは虐げられる。彼の心は、真夜中の暗闇のように深い絶望に沈んでいた。

「半獣半人の何がいけなくて?」

「…え?」

少女の口から出た予想外の言葉に思わず顔を上げて聞き返してしまった。今までの自分の悩みを根本から否定された怒りと、人間である少女が何故そんなことを言ったのかという疑問が頭の中をかけめぐった。

「わたくしには獣人の友達がいますの。昔偶然出会って、ずっと一緒に遊んでましたわ。でも、獣人の王が変わってから獣人の国から出られなくなってしまい、ずっと会えていませんの…でも、その時その友達が言った言葉を今でも覚えていますわ。「例え会えなくても"とも"だ。人間だからとか獣人だからとか関係ない。」って。私はその言葉を信じていますの。」

ライザーは心底驚いた。今までに自分を肯定してくれた言葉をかけられたことは初めてだった。

「お前…名前は?」

「私はエレナ。エレナ・ブリリアントですわ。」

「…エレナ。みんなお前のような人間で、お前の友のような獣人なら、俺は虐げ、蔑まれなかったんだろうな…そんな世界があれば…」

「ないなら、作ればいいんじゃなくて?」

「は?何を言っている。俺には世界を変える力どころか、世界に居場所すらない。そんな俺に、世界を変えることなんかできるわけがないさ」

「できますわ。…これを使えば」

そう言ってエレナは何かを差し出してきた。これはなんだ…?歯車か?

「これは…なんだ?」

「これはスキルギア。これを使えばあなたは異世界に行くことができますの。そこにいる時の番人を倒せば、あなたの望む未来を作ることができますわ。」

「つまりこれを使えば、俺は作れるのか…?俺の居場所を…」

「ええ。あなたに作って欲しいのです。人と獣人が共に笑って暮らせる世界を…そのためにこれを託しますわ。」

「…わかった。約束しよう。必ずお前たちが望んだ世界を作ってみせる。」

「期待してますわ。…さぁ、このギアを手に取って…」

ライザーはエレナから差し出されたギアを手に取った。

その刹那、ライザーの視界が白に包まれ、そのまま意識を失った。

 

♠♥◆♣♠♥◆♣

 

「…ここは、どこだ?」

ライザーが目覚めたとき、そこには見たことのない世界が広がっていた。全く見覚えがない。あの川も、あの森も、あの動物も…

「一体…なんなんだ?」

「あれ?なーんでキミがいるのかな?」

不意に後ろから声が聞こえた。思わず振り返ると、そこにはあの洞穴で会った青年が立っていた。

 



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