ドラゴンボール~フリーザの世話役~ (bridge)
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フリーザの世話役

 

 

――フリーザ軍…。

 

 

宇宙にその名を轟かせる、フリーザ率いる大規模な組織であり、数多くの部下を従え、様々な惑星を破壊或いは地上げ行為を繰り返していた。

 

フリーザ軍のあまりの力と規模の大きさから、宇宙の平和を守る銀河パトロールでさえ手に負えず、その悪行を見て見ぬふりをせざるを得ず、界王神等の神々にもその悪名は轟いていた。

 

何十年もの間宇宙のトップとして君臨し続け、確実にその規模を広げるフリーザ軍。そのフリーザ軍には1人、奇妙な人物がいる。

 

戦闘員でもなければ科学者でもない。にもかかわらず、フリーザ軍の王であるフリーザに一目置かれ、果ては不敬とも言える発言でさえ許される人物がいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――その名はベリブル…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ここは惑星フリーザ。フリーザ軍の総本部のある惑星である。

 

フリーザ軍は定期的に戦闘員、非戦闘員の幹部を集めての定例会議を行っており、戦闘員なら戦果や現在目標としている星の経過報告、非戦闘員なら発明品の制作状況や占領した星の収益の報告がされる。

 

専用の小型ポッドに座るフリーザに対し、戦闘員、非戦闘員の幹部達が各々報告を続け、フリーザは報告を聞いては頷き、時折質問をし、定例会議は続いていった。

 

幹部の報告が終わると、フリーザが今後の方針を口にした。

 

「グルタミ星の進攻に手こずっているようですね。…目障りですね。そろそろ攻め落とすべきだとは思いませんか?」

 

フリーザが幹部達に尋ねる。

 

「ハッ! そのとおりかと!」

 

幹部の1人が賛同する。

 

「では、これより兵士達を動員して直ちに攻め滅ぼします。何か異論はありますか?」

 

再度、フリーザが幹部達に尋ねる。

 

グルタミ星はその星でしか取れない鉱物があり、その希少な鉱物は高値で取引出来る為、かねてより攻略対象にされていた星である。

 

だが、グルタミ星は、過去に何度か攻め立てるも失敗に終わっている。理由は、グルタミ星人の中には高い戦闘力を持つ者が幾人も存在していたからだ。その者達の手によって過去の進攻は失敗に終わっていた。

 

現在、フリーザ軍ナンバー2の戦闘力を誇るギニュー及びギニュー特戦隊は別の星に進攻中で惑星フリーザにはおらず、その後に参加するにしても時間がかかってしまう。ギニュー特戦隊と肩を並べるアボとカドも任務で外している。次いで高い戦闘力を誇るキュイもおらず、せめてギニュー特戦隊の帰還を待ってから進攻を始めるべき、と具申したいのだが…。

 

フリーザは『直ちに攻め滅ぼす』と言った。フリーザは決して暴君でもなければ独裁者でもなく、部下の意見に耳を傾けたり、間違った提案をされても頭ごなし否定せず、失敗した部下にも挽回のチャンスを与える等といった面も持ち合わせている。

 

そんなフリーザが嫌う事の1つに、『自分の決めた決定に異を唱えられる事』である。過去にフリーザの決定に異を唱えた幹部の1人がその場で粉々にされている。隣にいた幹部を巻き添えにして。

 

その為、フリーザの決定には従わざるを得ない。ある程度の失敗には寛容であるフリーザであっても、次に失敗すれば命はない。だが、意見する事も出来ない。幹部達がその決定に了承しようとしたその時…。

 

「それは如何なものでしょう」

 

フリーザからもっとも離れた席に座っていた1人がフリーザの決定に異を唱えた。その者は背丈の小さい、ベリブルと呼ばれる幹部の定例会議に出席している者の中でひと際異彩を放つ者であった。

 

『…っ!?』

 

その瞬間、幹部達が一斉にそちらに向き、息を飲んだ。

 

「我が軍は現在、戦闘力の高い戦闘員は軒並み不在。残った戦力でグルタミ星を制圧するのは困難であるかと。攻め落とすならギニュー特戦隊が帰還するまで待たれるのが定石かと…」

 

尚も進言を続けるベリブル。

 

「…」

 

フリーザがジロリと視線をそちらに向ける。

 

その瞬間、この定例会議に出席していた1人の幹部は悟った。あの者はこの場で殺されてしまうだろうと…。

 

『…っ』

 

幹部達の間で張り詰めた空気が支配する。どうにか巻き添えを食らわないよう立ち回ろうと心の準備を進めていると…。

 

「…ふむ。ベリブルさんがそう仰るならギニュー特戦隊が戻るまで待ちましょうか」

 

と、フリーザは進言を聞き入れたのだった。

 

『(…ホッ)』

 

その言葉と同時に張り詰めたものがなくなり、幹部達は心中で安堵の溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後、定例会議はつつがなく進み、やがて終了した。会議が終わり、解散となり、幹部達が退室すると、1人の若手幹部が古参の幹部に尋ねた。

 

 

――先程フリーザ様に意見をしたベリブルとは何者なのかと…。

 

 

フリーザ軍の先代の王であるコルド大王の時代から幹部を務める古株の幹部によると…。

 

 

曰く、フリーザ様の世話役であるという事。

 

曰く、自分が幹部に任命された時には既に存在しており、コルド大王様からも一目置かれていたという事。

 

曰く、幼少のフリーザ様の教育係であったという事。

 

曰く、フリーザ様もベリブル殿を信頼しており、フリーザ軍で唯一フリーザ様の決定に異論を唱える事を許されている存在である事。

 

 

これが、古参の幹部から教えられたベリブルという存在である。その正体を知る者はフリーザ軍におらず、長年、謎に包まれている存在なのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

時はエイジ779。

 

「だらぁぁぁぁっ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

場所は地球。カカロットこと孫悟空とフリーザが死闘を繰り広げている。

 

かつてナメック星にて致命傷を負わされ、その復讐を果たす為に地球にやってきたフリーザ。だが、その復讐は未来からやってきたベジータの息子であるトランクスに阻まれ、フリーザは無残な死を遂げた。

 

しかし、フリーザ軍の復興を目論む、フリーザ亡き後にフリーザ軍の残党を指揮するソルベとその部下の手によって復活を果たし、フリーザは再びその復讐の為に地球へとやってきた。

 

奇しくも、フリーザとその一味が地球に進攻時、孫悟空とベジータが不在であった為、フリーザの圧倒的な力で地球の戦士達を苦しめるも間一髪の所で孫悟空とベジータが地球へと帰還を果たし、そこから孫悟空とフリーザの戦いが始まった。

 

開戦当初は悟空がフリーザを相手に優勢に戦いを進めていたが、悟空が新たなサイヤ人の力であるスーパーサイヤ人ブルーに変身し、フリーザが新たな変身形態であるゴールデンフリーザに変身し、互いが本気になると、今度はフリーザが優位に戦いを進め始めた。

 

戦いはさらに激しさを増していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…」

 

悟空とフリーザが激しい戦いをしている最中、フリーザ軍の1人であるベリブルが宇宙船から降り、1人歩いている。

 

ベリブルが歩くその先に、大きな容器に盛られたイチゴサンデーを食べている破壊神ビルスとその付き人のウイスの姿があった。

 

「お久しぶりでございます。ウイス様」

 

「おや? ……これはこれは! ベリブルさんではありませんか!」

 

話しかけられたウイス。スプーンを止め、暫し観察すると、話しかけれた人物の正体に気付いた。

 

「いやいや、どなたかと思ったらまさかベリブルさんだったとは。まさかこんな所でお会い出来るとは! 最後に顔を合わせたのはいつの事だったでしょうか?」

 

「さて……、遠い昔の事過ぎて覚えておりませぬ」

 

久しぶりの再会に喜びを露にするウイス。

 

「…ハグハグ! ……何だ婆さん。今は食事中だ。話なら後にしろ」

 

傍らでイチゴサンデーを食べていたビルスが手でシッシッとあしらいながらベリブルに告げた。

 

「この出で立ち。…そうですか。この方が…」

 

「はい。現在の破壊神であらせられますビルス様です」

 

ベリブルの言葉に答えるようにウイスが説明する。

 

「左様ですか。……フフッ、破壊神も随分と質を下げられましたな」

 

その言葉を聞いてビルスはイチゴサンデーを食べるスプーンを止める。

 

「おい婆さん、ウイスの知り合いだか何だか知らないが口の利き方に気を付けろ。…破壊しちゃうぞ」

 

目を細め、威圧するような視線を浴びせながらベリブルに告げる。

 

「それは失礼致しました。何分歳を取り過ぎました故、つい本音が出てしまいまして…」

 

当のベリブルはビルスの脅しを受けてもどこ吹く風。肩を竦め、薄く笑みを浮かべながら返した。

 

「…そうか。そんなに破壊されたいなら望み通りにしてやろう」

 

その言葉に機嫌を損ねたビルスはスプーンを置き、右の手のひらをベリブルに向ける。

 

「…破壊――」

 

その瞬間、ベリブルは自身の右手の人差し指と中指を揃えて伸ばした2本の指を上に向けて曲げた。

 

 

――ドォッ!!!

 

 

「なにっ!? うおっ!? おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

 

同時にビルスが何か見えない力で遙か上空へと吹き飛び、やがて見えなくなるまで飛んでいった。

 

「ここではフリーザ様の戦いの邪魔になります故、場所を変えさせていただきます。…それではウイス様。暫しの間、失礼致します」

 

ベリブルは両腕を後ろに組みなおすと、その場から瞬間移動したかのように消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…ぐっ! あの老いぼれぇっ…!」

 

成層圏にまで吹き飛ばされた所でようやく止まったビルス。

 

「呼びましたかな?」

 

直後、そこへ現れるベリブル。

 

「っ! 貴様…、何をした?」

 

「別に、ただあの場ではフリーザ様の邪魔になりますからね。少々強引ではありますが、ここまで御足労頂いた次第でございます」

 

憤怒の表情を浮かべるビルスに対し、相変わらずの薄い笑みを崩さないまま答えるベリブル。

 

「もう許さんぞ…! お前は2度と生まれ変われないよう魂諸共破壊してやる!」

 

全身に力を集めたビルスはベリブルに飛び掛かる。

 

「…いいでしょう。当代の破壊神がどれほどか、拝見させていただきますよ」

 

後ろに組んでいた手を放すと、小さく腕を広げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ハァ…ハァ…ハァ…!」

 

両膝に手を置き、肩で大きく息をするビルス。

 

「ハァ…ハァ…、貴様、何者なんだ…!」

 

呼吸がある程度整うと、顔を上げ、ビルスは尋ねた。尋ねられたベリブルは両手を後ろで組んで余裕の表情で佇んでいる。

 

ビルスが先に仕掛け、戦いが始まった。だが、ベリブルはビルスの放つ打撃をことごとく最小限の動きでかわし、いなし、隙を付いて一撃を撃ち込んでいった。どれだけビルスが打撃を放ってもベリブルには掠りもせず、気弾を放っても直前で爆散するか、撃った本人に跳ね返されてしまう。

 

どれだけ攻撃を仕掛けようとベリブルに当たる気配がない。まるで、身体が勝手に攻撃を避けているかのように…。

 

「許さん…! この僕をここまでコケに…! こうなったらお前諸共――」

 

「――ダメですよ」

 

ビルスが再び全身に力を集めようとすると、それをいつの間にか現れたウイスが止めた。

 

「それをしてしまうと地球だけではなく、周辺の星々が破壊されてしまいますからね」

 

「…ちっ」

 

邪魔が入り、舌打ちをするビルス。

 

「それにしても、相変わらずの技の冴えですねぇ。さすが、かつての破壊神候補だっただけの事はあります」

 

「なに!? この婆さん、破壊神候補だったのか!?」

 

ウイスの言葉を聞いて驚くビルス。

 

「えぇ。正確にはビルス様の先代の時代の破壊神候補ですけど」

 

補足するようにウイスが続ける。

 

「昔の話ですよ。…フリーザ様の戦いが気になりますので、これで失礼させていただきます。…それと」

 

ウイスの頭を下げた後、ベリブルはビルスに向き直った。

 

「破壊神であるビルス様に対しての数々のご無礼、大変申し訳ございませぬ」

 

ペコリと頭を下げた。

 

「それでは」

 

そう告げ、ベリブルはその場から消えた。

 

「…あれで破壊神の成り損ねなのか…」

 

「あれでも全力ではありませんよ。破壊神候補として修業されてた時は私でも油断するとヒヤリとさせられましたからねぇ」

 

かつてを懐かしみながら話すウイス。

 

「あいつ、何でフリーザ何かに仕えているんだ?」

 

ふと、そんな疑問が頭に浮かんだビルスであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

このベリブルが何故フリーザに仕えているのか、それはそこから100年近く前に遡る。

 

破壊神になるべく修業をしたベリブルだったが、結果は振るわず、破壊神となる事は出来なかった。その後、ベリブルは辺境の小さな星に移り住み、そこで土いじりをしながら余生を過ごしていた。

 

作物や植物を育て、自前の水晶で宇宙の星々の様子を観察しながら数千年…数億年過ごしていた。そんな生活をしていたある日、ベリブルに住まう星にとある来客がやってきた。

 

「ほう? 小さな星だが、なかなか良い星ではないか」

 

一隻の宇宙船が着陸すると、その宇宙船から数人の部下を引き連れて1人の男が現れた。それは、ここ数年、宇宙の星々を荒らしていた宇宙海賊、コルドであった。

 

盗賊家業をしていたコルドとその一味。宇宙を移動中、この星を見つけ、興味本位で着陸したのだった。

 

「私の別荘替わりにするには丁度いいな」

 

過ごしやすそうな環境を見て思わずほくそ笑むコルド。

 

「おやおや、来客とは珍しい」

 

そこへ、ベリブルがやってきた。

 

「貴様、この星の住人か?」

 

「如何にも」

 

「では、この星は今より、このコルドの所有物とする。…私はこれでも慈悲深いのでね。1分ほど、この星から逃げる時間をくれてやろう。それとも、私の下で奴隷として働くか?」

 

コルドと共に傍にいた部下達が下卑た笑い声を上げる。

 

「…やれやれ。突然人様の星に上がり込んだと思ったら、とんだ礼儀知らずときたもんだ」

 

後ろに手を組みながら薄く笑みを浮かべるベリブル。

 

「まずはお前達に、礼儀を叩き込まないといけないみたいですねぇ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「本日は、あなた様の星に無断に降り、あまつさえ無礼な口を聞いてしまい、申し訳ありませんでした…!」

 

地面に両膝を付け、頭を下げるコルド。周囲にいた部下達も同様に土下座の態勢で頭を下げていた。

 

ベリブルは人差し指を下に下げると、コルド一行は一斉に地面に叩き伏せられた。唯一コルドのみが立ち上がり、ベリブルに立ち向かうも手も足も出ず、あっという間に叩き伏せられてしまった。

 

「よろしい。折角来られたのですからお茶の1つでも出しましょう。さあ、中へいらしてください」

 

「は、はぁ、それでは…」

 

言われるがまま、コルド達はベリブルの家に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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家に入ると、人数分お茶を淹れてコルド達に振舞った。

 

「あなた方は最近星々を荒らしまわっている宇宙海賊コルド一行でしたな?」

 

「は、はい!」

 

慌てて飲んでいたカップを置いて答えるコルド。

 

「フフッ、あなた方の事は水晶で見ていたので知っていますよ」

 

「ご、ご存じで何よりで…」

 

「しかし、宇宙最強を自称しながらやってる事がただの略奪とは、みみっちいにも程がありますねぇ」

 

「な、なに…! ……いえ、すいません」

 

一瞬怒りを露にするもベリブルに睨みを利かされ、すぐに怒りを収めるコルド。

 

「それだけの力をお持ちならもう少し野望を大きく持たれたならどうですかな?」

 

「大きく、ですか?」

 

言っている事がよく理解出来ず、コルドは聞き返す。

 

「良いでしょう。この私が、あなたをもっと大きな存在にしてさしあげましょう」

 

そうコルドに告げたベリブル。

 

「フフッ、ちょうどいい暇潰しになりそうだねぇ」

 

と、密かにほくそ笑むベリブルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベリブルはひとまず、コルド達の活動の拠点とする場所を作る為、とある星を制圧させた。そこは後の惑星フリーザと呼ばれる星となるのだが、そこを拠点として次々と星を占領してまわった。

 

ただ奪い、滅ぼすだけではなく、星を制圧し、管理し、再開発や売買した。見込みがある者はすぐさまスカウトしてコルドの配下に組み込ませた。戦闘員だけではなく、科学者や学者も引き入れ、その規模が膨れ上がると、コルド軍としてコルドに支配させた。

 

もちろん、コルドにも軍を束ねる王となるべくみっちり教育を施し、制度や環境、果ては褒章から給金まで軍レベルではなく王国としての基盤まで創り上げさせた。

 

こうしてベリブルの入れ知恵によって、ものの数年でコルドの名は宇宙全土に轟き、その支配圏を広げていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

コルド軍が勢力を伸ばし始めてから年月が過ぎたある日の事…。

 

「こちらにおいででしたか、ベリブル殿!」

 

拠点の星に建つコルドの城の一角にて、コルドがベリブルを見つけ、声を掛ける。

 

「これはこれはコルド様。私はコルド様の付き人故、もっと威厳を持って話しかけてくだされ。でなければ部下達に示しが付きませんよ」

 

「ハハッ。これは失礼」

 

懐から取り出したハンカチで額の汗を拭うコルド。

 

「…して、この私めにどのような要件で?」

 

「実は、ベリブル殿に1つ、お頼みしたい事がありまして…」

 

「頼み事ですか?」

 

「えぇ、実は――」

 

 

――ゴォォォォォォォォッ!!!

 

 

突如、城の一角で大きな爆発音と震動が響き渡った。

 

「あぁ。またあの子は…」

 

同時にコルドが額に手を当てた。

 

「おや?」

 

窓から外を覗くと、城の一角から煙が上がっていた。

 

「以前に私に子供が産まれた事は話していた思いますが…」

 

「えぇ、存じております。フリーザ様ですね?」

 

「そうです。…で、お頼みしたいのはそのフリーザの教育についてです」

 

「ほう? 教育ですか」

 

「しっかり育てたつもりだったのですが。…何をどう間違ったのか、少々我が儘に育ってしまいまして…」

 

再びハンカチで額の汗を拭うコルド。

 

「ゆくゆくは私の後を継いでこの軍を継がせる事を考えると、今のままでは問題だらけでして、そこで、ベリブル殿にあの子の教育係と世話役を頼みたくここに参った次第で…」

 

「なるほど。…では、フリーザ様のお顔を拝見しに行きましょうか」

 

そう告げると、ベリブルはその場からフッと消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「ひ、ひぃぃっ!!!」

 

1人の兵士が悲鳴を上げる。

 

煙が上がっていた一角。城の壁が一部、消し飛んでいる。

 

「…」

 

その消し飛んだ一角に人差し指を向けている1人の子供。そう、コルドの息子であるフリーザである。

 

フリーザは城を1人見物していると、突如、1人の兵士に指先を向け、指からビーム出して消し飛ばした。理由はただその兵士の目付きが気に入らなかった。それだけであった。

 

「フ、フリーザ様! ご、御自重を!!!」

 

1人の兵士がフリーザに制止を促す。

 

「…お前、ひょっとしてこのボクに指図をしているのか?」

 

ジロリとその兵士に視線を向けるフリーザ。

 

「お前、生意気だよ」

 

制止を促した兵士に人差し指を向けると、指先からビームを放った。

 

「ひぃぃぃぃっ!!!」

 

ビームが放たれると、兵士はその場から逃げ出した。しかし、ビームの方が断然スピードが速く、瞬き間にその兵士に迫り寄った。ビームが兵士に着弾する直前、そのビームは突如として停止した。

 

「やれやれ。あまり城を汚されると後で掃除が大変なのですがね」

 

そこへ、軽く嫌味を言いながらベリブルが現れた。同時に停止したビームが明後日の方向へと飛んでいった。

 

「ひぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

狙われた兵士は四つん這いのままその場を逃げていった。

 

「何だお前は?」

 

軽く不機嫌になったフリーザが尋ねる。

 

「人様に名前を尋ねる時はまず自分から名乗ると教わらなかったのですか?」

 

「聞いているはこのボクだ! さっさと答えろ!!!」

 

完全に怒りを露にしたフリーザが目に血柱を立てながら怒鳴りつける。

 

「…なるほど、コルド様の仰っていたとおり、大層我が儘にお育ちなられたご様子ですな」

 

そんなフリーザを見て軽く笑みを浮かべるベリブル。

 

「お前…! このボクをコケにしているのか!? だったらこの場で粉々に――」

 

次の瞬間、フリーザが何か見えない力で地面に叩き伏せられた。

 

「がっ! お、お前…! このボクに…!」

 

「おや? まだそんな口が利けるとは。これは教育のし甲斐がありますね」

 

地面に這いつくばっても尚も反抗的な態度を崩さないフリーザに関心するベリブル。

 

「ベ、ベリブル殿! …フ、フリーザ…!」

 

そこへ、コルドが慌てながらやってきた。

 

「コルド様。先程頼まれました御子息であられるフリーザ様の教育のお話、しかと承りました。このベリブルめ、コルド様の後継が務められるよう、きっちり教育させていただきます」

 

やってきたコルドに向き直ったベリブルは頭を下げながら先程の頼み事を了承する旨を伝えた。

 

「お前…! 絶対ジワジワと嬲り殺しに…!」

 

「フフッ、まずは口の利き方から教えて差し上げる事から始めなければならないようですね」

 

フリーザの目の前まで歩み寄ったベリブルは薄い笑みを浮かべながらそう告げた。

 

「早速始めさせていただきます。…では、これにて失礼致します」

 

ペコリとコルドに頭を下げると、ベリブルはフリーザと一緒にその場を消え去った。

 

「…フリーザ。逞しく成長するのだぞ」

 

消し飛んだ壁の外から見える星を見上げながらコルドは一人呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

フリーザを連れてコルドが統治する星へとやってきたベリブル。

 

到着して早々にフリーザへの教育が始まったのだが、当初、フリーザはベリブルに反抗し、暴れまわろうとしたが、すぐさまベリブルに仕置きと称して叩き伏せられた。何度も反抗する内に逆らうのは無理と判断したフリーザは隙を見て逃げ出そうとしたがその度に見つかって仕置きをされ、最終的には何をしても無駄と判断したフリーザは素直にベリブルの指導を受けたのだった。

 

教育が始まって3ヶ月程が経過したある日…。

 

「これはこれはコルド様。わざわざここまで御足労いただき、感謝の極みでございます」

 

コルドが公務の合間を縫ってフリーザの様子を見にやってきた。

 

「フリーザの様子を見に来たのだが、…どうでしょうか?」

 

恐る恐るコルドが尋ねると…。

 

「フフッ、さすがはコルド様の御子息でございます。聞き分けの良い御子様であらせられます」

 

嬉々として告げるベリブル。

 

「…ハハッ、良い子ですか…」

 

思わず額の汗をハンカチで拭うコルド。

 

フリーザの我が儘ぶりはコルドが良く理解しており、かつてコルドもベリブルから指導を受けた経験がある為、フリーザがどのように過ごしてきたのか容易に想像が出来てしまった。

 

「御無礼を承知で申させていただきますと、フリーザ様はコルド様を凌ぐ資質を持つ御方。ゆくゆくはコルド様以上の王と成られるでしょう」

 

「そうか! ハハッ、ならば安心してフリーザに王の座を譲る事が出来よう」

 

ベリブルの言葉を歓喜の声を上げるコルド。

 

「おや? コルド様はもう御隠居為されるのですか? お言葉ですが、王位を退かれる程衰えているように見えませぬが?」

 

「えぇ。…ベリブル殿のおかげで我が軍もここまでの規模になりましたが、…やはり私には自由気ままに動く方が性に合っているようでして、息子が産まれたのを機に気ままな隠居生活を送ろうかと…」

 

「左様ですか」

 

申し訳なさそうに語るコルド。ベリブルはただ頷いた。

 

「後一月程あればフリーザ様の教育も終わります故、一月後にフリーザ様をコルド様の下へ送り届け致します」

 

「うむ! 楽しみに待っていますぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それから1ヶ月が経ち、フリーザの教育を終えたベリブルは当初の宣言通りフリーザをコルドの下へ送り届けた。

 

フリーザの変わりように驚いたコルドだったが、予定通りフリーザに王位を告げる事を宣言し、晴れてコルドは隠居の身となった。

 

王位をフリーザが継いだ事により、コルド軍はフリーザ軍に名称を改め、新たに始動した。

 

ベリブルの指導の甲斐もあり、フリーザはコルドを凌ぐ指導力で支配域を拡大していった。そして遂に宇宙最強の名を手に入れたのだった。

 

フリーザに王位に代わった当初、ベリブルも世話役兼相談役としてフリーザの傍に仕えていたが、その手腕を目の当たりにし、当時、頭角を現していたザーボンとドドリアを自身の代わりとして側近に推薦し、その後は時折定例会議に顔を出す程度に留め、半隠居生活をしていた。

 

順調に勢力を拡大するフリーザ軍だったが、ある日突然、その勢いが止まる事になった。

 

…エイジ762

 

不老不死の願いを叶える為、ドラゴンボールを求めたフリーザがナメック星へと進攻した。同時にドラゴンボールを求めてやってきた地球人とドラゴンボールを巡って争う事となった。

 

ベジータの裏切りが重なり、フリーザ軍の中でも上位の戦闘力を持つキュイ。側近のドドリアとザーボン。地球から救援にやってきたサイヤ人の生き残りの1人である孫悟空の助力もあり、ギニュー特戦隊までもが倒される事となった。

 

その後、ナメック星人であるピッコロを加わったZ戦士達とフリーザが戦闘になり、一時は重傷を負った孫悟空が傷を完治させ、フリーザと交戦。途中、フリーザがその圧倒的な力で悟空を圧倒するも、伝説のスーパーサイヤ人に覚醒した悟空を相手にフリーザは敗北を喫するのであった。

 

悟空に負わされた怪我を癒し、その復讐を果たす為、父コルドを連れて地球にやってくるも、未来からやってきたサイヤ人の血統であるトランクスによって返り討ちとなり、フリーザは死亡。フリーザという圧倒的なカリスマを持つ指導者を失ったフリーザ軍はその勢力を失っていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

フリーザ死亡の報せを聞いたベリブルはフリーザ軍に興味を失い、人知れず惑星フリーザを離れ、コルドと出会う前に住んでいた星へと戻り、再び隠居生活を始めた。

 

再び隠居生活を初めて17年程の年月が経過したエイジ779。

 

ベリブルの住まう星に一基の宇宙船が着陸した。宇宙船のハッチが開くと、そこから現れたのは…。

 

「これはこれは! 見覚えのある宇宙船でしたので、もしやと思いましたが、やはりフリーザ様でしたか!」

 

「お久しぶりですねぇ。ベリブルさん」

 

「お亡くなりになられたお聞きしましたが…」

 

「…えぇ。部下のソルベさん達のお陰でこうして生き返る事が出来ましたよ」

 

少々不機嫌な表情で告げるフリーザ。

 

「それは何よりです。…して? わざわざフリーザ様がこの星まで足を運ばれるとは。この私めに何か用でもおありですかな?」

 

「もちろんです。……ベリブルさん。折り入って頼みがあります。この私を、鍛えてはいただけませんか!?」

 

自身の胸に手を当てながら頼み事をするフリーザ。

 

「………よもや、フリーザ様の口からそのようなお言葉が出るとは。…このベリブル、耳を疑いましたぞ」

 

「本来ならそのような惨めな真似はしたくはないのですが、憎きサイヤ人共に復讐を果たすには今の私では不可能であると判断しました」

 

「…確かに、あのサイヤ人達は聞くに、あの魔人ブウを退けたと聞き及んでおります。失礼ながら、今のフリーザ様では埃1つ付ける事も困難であるかと…」

 

ベリブルの単刀直入な言葉に一瞬青筋を立てるフリーザだったがすぐさま平静を保った。

 

「えぇ。…ですので、あのサイヤ人共を超える力を手に入れるべく、こうしてベリブルさんの下に恥を忍んでやって来たのですよ」

 

「左様でございますか。…分かりました。フリーザ様直々の頼み事とあらば、このベリブルめ、不肖ながらフリーザ様の修業にお付き合い致しましょうぞ」

 

「ありがとうございます! ベリブルさん!」

 

「でしたら、ここでは修業を行うには何かと手狭故、場所を変えましょう。…それと、修業は厳しいものとなりますので、お覚悟の程、願います」

 

「……えぇ、よく理解していますよ」

 

フリーザは背筋に冷たいものを感じたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

フリーザの修業も熾烈を極めた。

 

何度もベリブルに倒され、ボロボロにされたが、サイヤ人への復讐を果たす一心で歯を食い縛って修業を耐え抜いた。

 

そして、修業が始まってから4ヶ月後…。

 

「フッフッフッフッフッ、ホーホッホッホッ!」

 

フリーザは高笑いを浮かべた。

 

「お見事でございます。フリーザ様」

 

ベリブルは賛辞の言葉を贈った。

 

全身を黄金色に輝かせるフリーザ。ベリブルとの過酷な修業の末、フリーザは新たな変身形態を取る事に成功した。

 

基本敵な戦闘力を向上に加え、かつての最終形態を超える変身形態を身に着けた事で、フリーザは以前とは比べものにならない程にパワーアップした。

 

「この全身からみなぎるパワー! もはやサイヤ人など目ではありません! 再びこの私が宇宙最強となったのだ!」

 

「仰るとおり。フリーザはかのサイヤ人を超えておられるかと…」

 

「そうでしょう! ならばもう、これ以上トレーニングをする必要はありませんね」

 

フリーザは変身形態を解き、第一形態にまで姿を戻した。

 

「ありがとうございます、ベリブルさん。これでようやくあの憎きサイヤ人共に復讐を果たす準備が出来ました」

 

「もう行かれるので?」

 

「えぇ。サイヤ人共にいつまでも生きていられると寝覚めが悪いですからね。…すぐに血祭りに上げねば…!」

 

かつての屈辱を思い出したフリーザは表情を憤怒のごとく歪ませた。

 

「それでは失礼します。次は吉報を届けに参りますよ! ホーホッホッホッ!」

 

フリーザは宇宙船に乗り込むと、この星を後にしていった。

 

「やれやれ、相変わらずせっかちな御方ですねぇ。私はサイヤ人を『超えた』とは仰いましたが『勝てる』とは申しておりませんのに…」

 

先程見せたフリーザの新しい変身形態には、強大な戦闘力を誇る反面、とある弱点が存在する。ベリブルはその弱点に気付いている為、もう少し修業を続けるべきであると告げようとしたのだが…。

 

「…フフッ、あのプライドの高いフリーザ様の御気性では御忠告しても無駄でしょうな」

 

サイヤ人を超える力を手に入れた事は事実。ならば後はフリーザ次第。

 

「フリーザ様の戦いがどのような結末となるのか、見届けに行くとしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

ベリブルは身支度を整え、地球へと向かうフリーザに合流した。

 

フリーザとサイヤ人、孫悟空の戦いはお互いが新たな変身形態に姿を変えると、当初は戦闘力で上回るフリーザが孫悟空を圧倒した。しかし、フリーザの新たな変身形態、ゴールデンフリーザの弱点に気付いた孫悟空は弱点を突く戦い方に切り替えた。結果、戦況はひっくり返り、孫悟空が優勢となった。

 

奇策を用いて1度は孫悟空を追い詰めたが、最後は孫悟空の手でフリーザは再び地獄へと落とされたのだった。

 

フリーザの戦いを見届けたベリブルは元居た星へと戻り、隠居生活を再開した。

 

その後は、隠居生活をしているベリブルの下をウイスが尋ね、8つの宇宙の猛者達が集まり、それぞれ宇宙の命運をかけた力の大会が行われる事を聞かされ、それとなくメンバーに勧誘されるもそれを辞退した。

 

力の大会の様子を水晶で観察している中で、破壊神をも上回る力を持つジレン。そのジレンを圧倒した、フリーザを2度も退けた孫悟空に興味を抱いた。

 

神々でさえも習得するのが困難であるあの身勝手の極意を、領域に足を踏み入れるだけではなく、完成させるまでに極めた孫悟空に…。

 

力の大会で活躍した功績を称えられ、再度生き返ったフリーザの下に合流し、辺境の小惑星バンパでサイヤ人の生き残りであるブロリーとパラガスを見つけ、フリーザ軍に組み込み、その後はドラゴンボールの回収のついでにブロリーの力試しも兼ねて地球へ向かった。

 

そこで戦いながら進化し、遂には破壊神をも上回るまで進化したブロリー。そのブロリーを孫悟空とベジータがフュージョンをし、撃退した。これを見たベリブルは孫悟空だけではなく、サイヤ人そのものに興味を抱いた。

 

「…フフッ、私がここまで興味を持ったのは初めてですね」

 

コルドやあのフリーザ以上に興味の対象となったサイヤ人という生き物。数億年生きてきた中でベリブルがこれまでに滅多に抱かなかった感情である。

 

「孫悟空、ベジータ。…一目、会ってみましょうかね」

 

ベリブルは人知れず、瞬間移動したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





映画を見に行って、『あのフリーザにあんな事言ってよく許されるな…』から始まり、そこから色々想像を膨らませて最終的にこのような形になり、いつか時間があったら書いてみようと思い、昨年と今年の年末年始を利用して書きあげました。

短編としては第3弾で、良い気分転換となりました…(^-^)

ただ、もうちょっとコンパクトに収めたかったと言うのが本音だったりします。まさか、この短編が過去最高の1話の総文字数となるとは…(;^ω^)

願わくば感想をいただければと思います…m(_ _)m

それではまた!


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世話役の過去と未来


投稿します!

気分転換に投稿したこの作品が想定以上に好評だったので、テンションが高い内にもう1話投稿です。

ちょっと今回はやり過ぎた感が否めなかったのですが、まあ、短編だしとそのままの勢いで突き進みました。

あとめっちゃ長文orz

それではどうぞ!



 

 

 

1人の子供がいた…。

 

その子供は1人だった…。

 

気が付けばそこにいて、自分が何故ここにいるのか、分からなかった。辛うじて分かるのは自分の名だけだった。

 

周囲を見渡しても誰もおらず、声を出してもどこからも返事が返ってくる事はなかった。

 

幸い、生きる為に必要な物と術はあったので生きる事に不自由する事はなかった。

 

自分以外に誰もいないこの星で、その子供は1人、生活を始めた。

 

生きる希望があるわけでもなければ、生きる意味があったわけでもない。だが、その子供は生き続けた。

 

…自分の存在する意味を見つける為に。

 

この星で生活を始めて10年が経ったある日の事…。

 

 

――誰だい、あなた?

 

 

何かに気付いたその子供が振り向くと、そこにいた。音も気配もなく、その男はそこに居た。

 

その子供にとっては自分以外の初めて会う存在だったが、そこに喜びも恐怖もなく、あったのは胸の内に生まれた僅かな興味だけだった。

 

 

――突然の訪問、失礼します。…さらに突然なんですが、あなた、今、お暇ですか?

 

 

その男は質問に答える事はなく、子供にそう尋ねた。

 

 

――そうだね。忙しくはないね。

 

 

質問に質問で返されても特に憤る事もなく、その子供はそう返した。するとその男はにこやかに笑みを浮かべ…。

 

 

――それは良かった! …あなた、破壊神を目指してみる気はありませんか?

 

 

その男はそう尋ねた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「休暇が欲しい?」

 

場所は宇宙の銀河系を移動する、フリーザ軍の宇宙船内。そこの1番高い座席に腰掛けているフリーザがそう聞き返す。

 

「はい。少々、済ませたい所用の方がありまして、数日の間、お暇をいただく事は出来ないかと…」

 

フリーザの傍に控えるベリブルがそう願い出た。

 

「ふむ…」

 

その願いを聞き、フリーザは顎に手を当てて考える。

 

「構いませんよ。ベリブルさんには隠居の身でありながら無理を言って現場に復帰していただいてますからね。今は特に急ぎの仕事もありませんからどうぞごゆるりと」

 

「お気遣い感謝致します。…それでは失礼致します」

 

ペコリと頭を下げ、礼の言葉を告げると、ベリブルはその場を後にしていった。

 

「あのーフリーザ様…」

 

「何ですか、キコノさん?」

 

ベリブルが退室した直後、同室内にいたキコノが恐る恐るフリーザに話しかけた。

 

「私が先日、申請致しました休暇願はいつ受理されるのでしょうか?」

 

「休暇届け? あなたもフリーザ軍の今の現状をよくご存じでしょう? 我がフリーザ軍は慢性的な人手不足。休暇の申請なんて受理するわけないでしょう」

 

鼻で笑いながらフリーザはそう返す。

 

「そ、そんな~。…そもそも人手不足なのはフリーザ様が地球で大勢お消しになったのが原因なのに…(ボソッ)」

 

「おやキコノさん。そんなに休暇が欲しいのですか? でしたら永遠の休暇をプレゼントして差し上げましょうか?」

 

ボソッと呟いた愚痴が聞こえてしまったフリーザは醜悪な笑みを浮かべる。

 

「じょ、冗談でございます! ですからそれだけはご勘弁を!」

 

慌ててキコノはその場で両膝を付いて頭を下げながら懇願した。

 

「理解しているのならさっさと働きなさい。休みはあげられませんが、働いた分は報いますし、働き次第では取り立ててあげますから感謝なさい」

 

「ははー! ありがたき幸せ! それでは失礼致します! …トホホ、またしばらく妻と子供の顔を見れそうにない」

 

泣きべそを掻きながらキコノは自身の担当部署に向かっていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

休暇の許可を貰い、自室に戻ったベリブルは早速荷造りを始めた。それが済むと部屋のテーブルに置かれている水晶の前に立った。

 

「さて、何処におられるかな」

 

水晶に手を翳し、目当てのものを探し始める。

 

ベリブルが探しているもの、それは先の地球に立ち寄った折、辺境の小惑星バンパで見つけたサイヤ人の生き残りブロリーと激闘を繰り広げた2人のサイヤ人、孫悟空とベジータである。

 

「………見つけました。フフッ、よもや、そこにおられるとは」

 

先の地球で2人の姿を捉える事が出来ず、暫しの間探し続けた結果、見つけた。そこはベリブルにとっても馴染みがある場所であった。

 

「では、向かいますかな」

 

荷物の袋を背負ったベリブルは、その場からフッといなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

場所は変わり、破壊神が住まう星…。

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!!」

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!!」

 

悟空とベジータがウイスに打撃を繰り出し続けている。ウイスは2人の打撃を避けるか払うか受け止め続けている。

 

地球でのブロリーとの檄戦後、2人は再びこの星へとやってきてウイスに稽古を付けてもらっている。

 

「ハグハグ…」

 

2人が稽古を付けてもらっている傍らで、破壊神であるビルスが木陰で腰掛けて寿司を食べている。

 

「ハグハグ…! おおっ! 以前とんでもなく辛かったから避けていたが、あのワサビとか言う奴を付ける量を間違えなければ上手いではないか!」

 

寿司の味に満足したビルスは次々と寿司を平らげていく。これはこの星にやってきた2人がビルスとウイスへの手土産として持ってきたものだ。当初、寿司を渡されたビルスは以前の事もあって憤慨したが、2人に強く勧められて仕方なく食すと、即座にその味を気に入ったのだった。

 

「前のはウイスに全部食べられてしまったからな。今度は全部僕がいただいてやろう」

 

稽古が始まる前に『私の分も残しておいてくださいね』とウイスに釘を刺されていたが、そんなものはお構いなしにウイスの分の寿司にも手を付けるビルス。

 

「ハグハグ……ぐっ! い、いかん、あまりの上手さについ一辺に食べ過ぎた。…み、水…!」

 

1度に寿司を口に入れ過ぎ、胸に詰まらせて胸を叩きながら水を探すビルス。

 

「こちらをどうぞ」

 

「んぐっ! すまないウイス。……ゴクッゴクッ…ふぅ、危うく詰まらせる所だった。助かったぞウイス……ん?」

 

ここでビルスはある事に気付く。ウイスは今現在悟空とベジータに稽古を付けている最中。では、この水は誰が…。

 

「うおっ!? 貴様はあの時の婆さん!?」

 

振り返るとそこには、ベリブルの姿があった。

 

「お久しぶりでございます。ビルス様」

 

驚くビルスを他所にベリブルは動じる事なくビルスに挨拶と共に頭を下げた。

 

「…ん? おや…」

 

そんなビルスに気付いたウイスがビルスのいる方へ視線を向けた。

 

「おやおや、ベリブルさんではないですか!」

 

ベリブルに気付いたウイスは即座にその場からフッと消え、ベリブルの前へと降り立った。

 

「ん? 誰だあの婆ちゃん?」

 

「ムッ? あいつ、何処かで…」

 

2人もベリブルの方へ視線を向けた。ベジータは何処かで見覚えがあったのか、思い出すべく記憶を辿っていた。

 

「わざわざここまで足を運んでいただいて、いったいどうされたんですか?」

 

「少々用がありまして…。それにしても、ここは変わりませんね。あの時と…」

 

「そうでしょう。ここはかつて、あなたがここで修業されていた時と変わっていませんよ」

 

昔を思い出し、懐かしむベリブル。そんなベリブルに笑顔で返すウイス。

 

「オッス! 誰だこの婆ちゃん? ひょっとしてウイスさんの知り合いか?」

 

続いて地面に降り立った悟空とベジータ。

 

「えぇ、古い知り合いですよ。この方は――」

 

「思い出したぞ。貴様は確か、フリーザの下で世話役をしていた奴だな」

 

思い出したベジータはウイスの言葉を遮りながら言った。

 

「久しぶりですね、ベジータ王子」

 

声を掛けられたベリブルは薄く笑みを浮かべながら返事をする。

 

「ふん。フリーザの世話役ごときがここに何の用だ。まさか、俺達を倒しに来たなどと言う世迷い言を言いに来たわけではあるまいな??」

 

修業を中断されたベジータは苛立ちながら尋ねる。

 

「それはフリーザ様の悲願であり、フリーザ様が為される事。私ごときがやる事ではありませんからねぇ」

 

「では、何しに来た。返答次第では許さんからな」

 

「えぇ。先日、あなた方が住まう星、地球でのサイヤ人同士の戦いを見させていただき、少々あなた方に興味が湧きましてね。こうして足を運んで来たのですよ」

 

半ば威圧しながら話すベジータだったが、ベリブルはのらりくらりしながら言葉を返していく。

 

「ならばもう用は済んだだろう。さっさと失せろ。修業の邪魔だ」

 

早く修業を再開したいベジータはベリブルを追い払おうとする。

 

「フフッ、それにしても、フリーザ様に良い様に顎で使われていたあのベジータ王子がウイス様の稽古を受けられる程に成長するとは。…この宇宙は何が起こるか分からないものですねぇ」

 

そんなベジータを煽るようにベリブルは言葉を口にする。

 

「貴様、殺されたいのか…!」

 

その言葉と態度に怒りを露にするベジータ。

 

「変わりませんね。心の底では反抗しつつも結局はフリーザ様に平伏していたあの時と。…そのような強そうな言葉をあまり口にしない方がよろしいですぞ? 弱く見えます故…」

 

「貴様ぁっ!!!」

 

遂に怒りを爆発させたベジータがベリブルに掴みかかろうとする。

 

「はいストップストップ♪」

 

そんなベジータを制止するウイス。

 

「喧嘩は駄目ですよ。良いことを思い付きました。どうせなら2人で手合わせをしてはどうですか?」

 

「手合わせだと?」

 

制止されたベジータは1度ベリブルを睨み付け、再度ウイスに視線を向けた。

 

「冗談だろう。こんな奴と手合わせをしても時間の無駄だ」

 

「そう言わずに。…ベリブルさんはどうですか?」

 

「願ったり叶ったりです」

 

快く了承したベリブル。

 

「では決まりですね♪」

 

「ふざけるな! 何故この俺がそんな事をしなければならない!」

 

本人の意思に関係なく決まった事に再び憤るベジータ。

 

「まあまあ、きっとベジータさんにとって良い経験になると思いますよ? ほら、既にベリブルさんもああやって待っている事ですし」

 

とある一角を指差すウイス。そこにはベリブルの姿があった。

 

「ありゃ? あの婆ちゃん、いつの間にあんな所に移動したんだ?」

 

つい先程まで傍にベリブルが50メートル程離れた位置まで移動していた事に今気付いた悟空が思わず声を上げた。

 

「っ!? あの老いぼれ、いつの間に…」

 

同じく今気付いたベジータも同様に驚いていた。

 

「さあさあベジータさん。あまり待たせてはいけませんよ?」

 

背中を押しながら催促するウイス。

 

「…ふん。いいだろう。貴様がそこまで言うならやってやろう。ただし、あまりにつまらなかったら一瞬で消し飛ばしてやるからな」

 

渋々であるが手合わせを了承したベジータはベリブルのいる所まで足を歩き出した。

 

「ベジータさん。初めから本気で戦った方が賢明ですよ」

 

「…冗談にしては笑えんな」

 

「すぐに分かりますよ」

 

すれ違い様にウイスが助言すると、ベジータは鼻を鳴らしながらベリブルの下に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

先程の位置から少し離れた所で対峙するベリブルとベジータ。

 

「一瞬で終わらせてやる」

 

ベジータが構えを取った。

 

「…フフッ」

 

ベリブルは後ろに組んでいた腕を放し、だらりとさせた。

 

「どうした? こっちは忙しいんだ。さっさと構えろ」

 

一向に構えを取らないベリブルに苛立ちながら忠告するベジータ。

 

「どうぞ。いつでも…」

 

言われても気にする素振りも見せないベリブル。

 

「……ちっ」

 

忠告を聞かないベリブルに思わず対して思わず舌打ちが飛び出た。

 

「…」

 

「…」

 

10メートル程の間隔を空けて対峙する両者。構えを取ってからまもなく1分程が経とうとしていた。

 

 

「あのベリブルとか言う婆ちゃん、ホントに構えを取らねえつもりか?」

 

離れた位置で手合わせを観戦する悟空。

 

「構えていますよ? あれがベリブルさんの構えなんですよ」

 

薄く笑みを浮かべながら悟空の疑問に答えるウイス。

 

「全身の力を抜いて自然体に構える事で如何なる攻撃にも対応する事が出来る。あの構えこそ、ベリブルさんにとっての究極の構えなんです」

 

「へぇー。そうなんかー」

 

解説を聞いた悟空は感心しながら頷く。

 

「それにしてもよう、ベジータの奴、全く動かねえな」

 

ベジータを良く理解している悟空は全く動きを見せないベジータに違和感を覚えた。

 

「動かないのではなくて、動けないんですよ。…これは、ベリブルさんと対峙しなければ分からないと思いますよ」

 

「?」

 

 

「……っ」

 

構えを取ってから1分が経過した。だが、ベジータは未だ構えを取ったまま動けずにいた。

 

「(…何だこいつは…! 隙だらけだ。あいつからさっきから何も感じん。…だが、動けん!)」

 

目の前のベリブルからは強者が放つ強大な戦闘力を感じない。神が放つ気のように感じ取れないわけでもない。例えそうだとしてもベジータが感じ取れない事はない。

 

「…」

 

相変わらず腕をだらりと降ろした態勢で佇むベリブル。

 

何処からでも仕掛けて来いと言わんばかりの隙だらけのベリブルなのだが、ベジータは動けずにいた。サイヤ人としての勘とこれまで戦い抜いてきた経験がベジータの動きを止めていた。迂闊に仕掛けるのは危険だと…。

 

「(…このまま睨み合っても埒があかん。目くらましにエネルギー弾を打って奴の動きを――)」

 

「おやおや、拳は交えずとも手合わせは始まっているのですよ? あまり考え事をし過ぎて気を抜かれますとほら――」

 

「――なっ!?」

 

直後、ベリブルの姿を見失う。

 

「――手合わせは終わってしまいますよ?」

 

いつの間にかベジータの懐に飛び込んでいたベリブルがベジータの胸に手のひらを当てた。

 

「うごっ!」

 

次の瞬間、ベジータは凄い勢いで後方に弾き飛ばされていた。

 

「…ぐっ!」

 

20メートル程弾き飛ばされた所でベジータは両足を地面に付けて踏ん張って勢いを殺し、停止させた。

 

「(何だ!? 今奴を何をした!? 俺は考え事はしていたが、奴からは一瞬たりとも目を放したりはしなかった!)」

 

ベジータは、ベリブルのただならぬ気配を感じ取り、警戒を怠らなかった。だが、ベリブルは気が付いたら自分の懐に飛び込んでいた。

 

「(この俺様が動きを追えなかった? いやありえん! それとも奴が何かしやがったのか!?)」

 

必死に今起こった事の正体を暴くべく、分析を始める。だが、答えは見つからなかった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

まだ録に動いた訳でもなのに息が上がるベジータ。

 

 

――初めから本気で戦った方が賢明ですよ。

 

 

ここで思い出したのは手合わせが始まる前にウイスがベジータにした忠告だった。

 

「(…気に入らん。気に入らんが! ……ここは大人しくウイスの忠告を聞くか)…はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ベジータは全身に力を込めると、水色のオーラが現れ、全身を包み始めた。オーラが晴れると、ベジータの髪と瞳が青色へと変わった。

 

「言うだけの事はあるようだな。だが、ここからは油断はせん。本気で戦ってやる」

 

「フフッ、楽しみですな」

 

余裕の態度を変えないベリブル。

 

「その余裕がいつまでも持つか、見物だな!」

 

そんなベリブルに再び怒りを爆発させたベジータはベリブルへと向かっていった。

 

 

――ブォン!!!

 

 

間合いに飛び込んだベジータが拳を振るう。その拳は首を傾げてかわすベリブル。

 

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!!」

 

その後も拳と蹴りを間髪入れずに撃ち込み続けるベジータ。だが、ベリブルはその打撃をことごとくかわしていく。

 

「どうした!? 避けてばかりではこの俺は倒せんぞ!」

 

反撃の隙を与えないとばかりに打撃の弾幕を浴びせるベジータ。

 

「なかなかですね。…では、今度はこちらから」

 

次の瞬間、ベリブルの腕が僅かにブレた。

 

 

――ゴッ!!!

 

 

同時にベジータの顎が跳ね上がった。

 

「がはっ!」

 

ベジータはたたらを踏みながら2、3歩下がり、膝が曲がった。

 

「何だ…!? 奴の腕が僅かにブレたと思ったら俺の顎に……はっ!?」

 

自分が何をされたのか理解出来ないベジータ。顔を上げると、ベリブルが距離を詰めていた事に気付き、慌てて両腕でガードを固めた。

 

「がっ!」

 

しかし僅かに間に合わず、後方へと飛ばされてしまう。

 

「…くっ!」

 

一瞬意識が飛びそうになるも、ベジータはすぐに正気に戻り、バク転をしながら距離を取り、態勢を整えた。

 

「この感じ、ヒットの時飛ばしのような類ではない…。こいつは…!」

 

自分が何をされたのか、ベリブルが何をしたのかが理解出来たベジータは表情を引きつらせた。

 

 

「スゲー! あの婆ちゃん何したんだ!? オラさっぱり見えなかったぞ!?」

 

集中して戦いを見ていたのにも関わらず何も見えなかった悟空。

 

「ムムゥ…!」

 

その横で表情を強張らせるビルス。

 

「どうやらビルス様は理解出来たようですね」

 

「…あぁ。距離があったからな」

 

笑みを浮かべるウイス。

 

「ビルス様分かったんか? なぁ、オラにも教えてくれよ!」

 

謎を知りたい悟空はビルスに頼み込む。

 

「…」

 

「彼女は特別な事はしていませんよ。ただ速く動き、速く拳を撃ち込んだだけです」

 

答えないビルスの代わりにウイスが答えた。

 

「なっ!? ホントにそうなんか!?」

 

答えを聞いても納得出来ない悟空。

 

「それだけです。…ただ厄介なのは、彼女の動きには予備動作がないんですよ」

 

手合わせを見届けながら解説を始めるウイス。

 

「普通、大きな力だったり動きをしようすれば反動や勢いを付ける為に身体に予備動作のようなものが出てしまうものなんです。悟空さんも予備動作から相手の動きを予測して戦いを進めているはずです」

 

「…」

 

「ですが、ベリブルさんの動きにはその予備動作がない為、動きの予測や対応出来ず、反応が遅れてしまうんですよ。それともう1つ、悟空さん。先程からベリブルさんの気を感じ取れないのではありませんか?」

 

「あぁ。さっきからあの婆ちゃんの気が捉えらんねえ」

 

「もちろん彼女は気を抑えているわけではありません。彼女は気を身体の外に出さずに展開する事が出来るんです。その為、気の流れを読む事が出来ない」

 

「…」

 

「悟空さんとベジータさんは身体の予備動作と気の流れで相手の動きを読む事に慣れすぎています。そのせいでベリブルさんの動きが見えないのですよ」

 

相手の目で見てから対応していたのでは間に合わない。その為、悟空やベジータは相手の動きを僅かでも見逃さない鍛錬を積み、気の流れで相手の動きを予測する訓練を積んできた。しかし、ここに来てそれが通じない相手が現れた。

 

「目視でベリブルさんの動きを捉えるか、あるいは身体の予備動作と気の流れ以外で動きを予測するか。…いずれにしても、分が悪い事には変わりませんねぇ」

 

 

「くそっ!」

 

悔しさを露にしながらベジータが拳を振るう。

 

「ぐわっ!」

 

しかし、その拳はかわされ、直後に3発の打撃を撃ち込まれてしまう。

 

「(ダメだ…、奴の動きが全く見えん! しかも、奴の一撃一撃がさっきから身体の芯に響きやがる!)」

 

相手の動きが全く見えず、対応出来ない。一撃を食らうとその衝撃が全身に駆け巡り、ダメージがなかなか抜けない。

 

「奴の動きが見えないのならば…!」

 

ベジータは身体を屈ませ、さらに両腕でガードを固め、ヒットゾーンを極力減らしながらベリブルへと突進していった。

 

攻撃をかわす事を諦め、被弾覚悟で距離を詰める。

 

「ごはっ…!」

 

ダメージ覚悟での突撃も固めたガードの僅かな隙間から捻じ込まれ、遂に膝を付いてしまう。

 

 

 

「アイディアは悪くはないのですが、相手が悪いですねぇ」

 

ぼやくようにウイスが言うと…。

 

「ベジータの奴、とうとう膝を付いちまった…。あの婆ちゃんの一撃はそんなに重いんか」

 

ジレンやブロリーと言った実力者に攻撃にもある程度は耐え抜いたベジータだけに、驚きを隠せない悟空。

 

「いえ、単純な一撃の重さなら力の大会の折のジレンさん。それこそ、先日戦われたブロリーさんの方が上ですよ」

 

「そうなんか!?」

 

「えぇ。通常、打撃と言うのは当てた時に結構威力が逃げてしまうんです。ですが、ベリブルさんが振るう一撃は威力がほとんど逃げないんです。ですから一撃の威力では劣っていても、与えるダメージは上なんです。しかも、威力が逃げない一撃はなかなかダメージが抜けてくれませんからねぇ。貰い続ければダメージがどんどん蓄積していきますからこれ以上貰うのは、得策ではないですねぇ」

 

「…」

 

解説を受けて、悟空は手合わせに集中し始めた。

 

 

「くそったれ…、これ以上、奴の一撃を貰うのはマズイ…!」

 

膝に手を置き、力を込めて立ち上がるベジータ。

 

「何故それほどの力を持ちながらフリーザに付き従ってやがるんだ…!」

 

「フフフッ」

 

苛立ちながら問いかけるもただ笑みを浮かべるだけのベリブル。

 

「迂闊に近付くのは危険。…ならば!」

 

空へと飛び上がり、距離を取ると、両腕、両足を広げたベジータ。エネルギーを溜め、両手を前に突き出して溜めたエネルギーを両手に集め、両手首をくっつけた。

 

「これを受けられるか!? くらえ!!! ファイナルフラァァァァァァァァシュッ!!!」

 

両手に溜め、集束したエネルギーを一気に放出。強力なエネルギー波を撃ち出した。

 

「(こんなものが通じる訳がない事は分かっている。だが、これなら何かしら動きを見せるはず。避けるか弾くか。その瞬間を見極め、一撃くれてやる。…さあ、どうする!?)」

 

グングンファイナルフラッシュがベリブルに迫っていく。

 

「…」

 

ベリブルは何も動きを見せるわけでもなく、変わらず笑みを浮かべている。

 

「(何故動かん!? まともに受けるつもりか!?)」

 

全く動きを見せないベリブルに戸惑いを隠せないベジータ。ファイナルフラッシュがまさに直撃しようとしたその時!

 

「なにっ!?」

 

突如として、ファイナルフラッシュが方向転換し始め、これを撃った本人であるベジータへと向かっていった。

 

「身動きせずに俺のファイナルフラッシュを!? …くっ!」

 

慌ててその場から飛びのき、ファイナルフラッシュをかわすベジータ。

 

「何て奴だ……っ!? しまった、奴はどこだ!?」

 

かわす為に一瞬ベリブルから目を放した隙に姿を見失うベジータ。辺りを見渡しながらその姿を探す。

 

「ベジータ! 後ろだぁっ!!!」

 

「なにっ!?」

 

悟空の声に反応し、振り返るベジータ。しかし、そこにベリブルの姿はなかった。

 

「こちらですよ」

 

背後から声が聞こえ、さらに振り返るベジータ。

 

「なっ!?」

 

そこには、ベリブルの顔が目の前にあり、驚いて顔を放すベジータ。

 

 

――スッ…。

 

 

ベリブルが手を差し出し、ベジータの耳元に近付ける。そして、パチン! と指を鳴らした。

 

 

――ゴッ!!!

 

 

すると、鳴らした指を中心に衝撃波のようなものが発生した。

 

 

「うぎっ!」

 

「ぐっ!」

 

突然耳に激痛が襲い、両耳を塞ぐ悟空とビルス。

 

「出ましたね。ベリブルさんの得意技の1つが…」

 

同じく両耳を塞ぎながら喋るウイス。

 

 

「がはっ…」

 

白目を向きながら苦悶の声を上げ、意識を失うベジータ。スーパーサイヤ人ブルーが解除され、通常の状態に戻ると、そのまま地面へと落下していった。

 

「おっと、危ない」

 

地面に落下する直前、ベジータの身体が止まり、そのままゆっくり地面に落ちた。

 

 

「ベジータの奴があんな一方的にやられちまった…。ウイスさん、今のは何だ?」

 

「指を鳴らして空気を震動させ、鼓膜から脳へ直接ダメージを与えるベリブルさんの技の1つです。耳を塞ぐ以外にかわす術がありませんから相手からすると厄介な技ですよ」

 

悟空の質問に答えるウイス。

 

「さてさて、ベジータさんはやられてしまいました。…悟空さんはいかがされますか? 彼女と手合わせ致しますか?」

 

「当然、オラもやるぞ!」

 

肩を回し、準備運動を始める悟空。

 

「あんなつえー奴がまだいるなんてな。オラワクワクしてきたぞ!」

 

不敵な笑みを浮かべながら悟空はベリブルの方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「次はオラの番だ。少し休憩してからにすっか?」

 

「構いませんよ。身体も温まってきたところです」

 

「そうか! なら、始めっとするか! …はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

気合いを込めると、水色のオーラが現れ、全身を包み始めやがて晴れると、悟空はスーパーサイヤ人ブルーとなった。

 

「まだまだ! はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

さらに気合いを込めると、水色のオーラの周囲を赤いオーラが覆い始めた。

 

 

「スーパーサイヤ人ブルーに20倍の界王拳。悟空さんは始めから本気で戦うつもりですね」

 

「当然の選択だ」

 

 

「行くぞ!」

 

構えを取る悟空。

 

「いつでもどうぞ」

 

先程と同様、両腕を下げたまま返事をするベリブル。

 

「なら遠慮なく。…ハァ!」

 

悟空は右の手のひらを突き出すと、そこからエネルギー弾を発射した。放たれたエネルギー弾はベリブルに向かい、当たる直前で急停止、撃った悟空へと戻っていった。

 

「ハァ!」

 

 

――ドォッ!!!

 

 

戻ってくるエネルギー弾にエネルギー弾をぶつける悟空。辺りが爆煙に包まれると、悟空は瞬間移動でベリブルの背後に移動する。

 

「おりゃ!」

 

拳を振るう悟空。その拳は空を切った。

 

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!!」

 

その後も拳や蹴りを振るい続ける悟空。しかし、その全ての攻撃は空を切る。

 

「…っ」

 

悟空は一度距離を取り、エネルギー弾を地面に撃ち込み、煙を周囲一帯に漂わせる。同時に飛び上がり、ベリブルの頭上からエネルギー弾を放ち、反対側に着地。そのまま再度ベリブルに仕掛ける。

 

「…ムッ」

 

頭上から撃ったエネルギー弾が転進して悟空へと向かっていく。

 

「おりゃ!」

 

そのエネルギー弾を右手で弾き飛ばし、射程距離へと入ると再び拳を振るった。

 

「りゃりゃりゃりゃりゃりゃ…!!!」

 

先程と同じく拳と蹴りを振るい続ける悟空。

 

「(懐に入られっと見えない攻撃を貰っちまう。とにかくオラの攻撃だけが届く位置でひたすら攻撃だ!)」

 

先程のベジータの戦いの際、悟空はベリブルの攻撃をまともに目で捉える事は出来なかった。もし放たれればかわす事は困難。そこで悟空はベリブルの打撃の射程距離外から攻撃を仕掛ける事にした。

 

ベリブルは悟空より一回り以上も身体が小さい。その為、リーチの長さは悟空の方が長い。悟空の攻撃だけが届く距離を常に保ち、さらに踏み込まれないようにベリブルの周囲を円を描くように回りながら攻撃を仕掛けていった。

 

「…」

 

手を出すことなく悟空の攻撃をかわし続けるベリブル。

 

「…っ!?」

 

悟空が拳を突き出すと、ベリブルが懐に飛び込んでいた。

 

「やべぇ!」

 

慌てて距離を取った悟空。

 

 

――バキッ!!!

 

 

「がっ!」

 

距離を取ったの同時に悟空の顎に衝撃が走り、顎が跳ね上がる。

 

「(動きが見えなかった…! いつ踏み込まれた分かんねえ。けど…)もう一度だ!」

 

気持ちを切り替え、再びベリブルへと突っ込む悟空。ベリブルの周囲を円を描きながら悟空の間合いで攻撃を仕掛け続ける。

 

「っ!?」

 

ベリブルが1歩、悟空を先回りして動き、悟空の円の動きを止める。

 

「くっ!」

 

慌ててベリブルを避けて再び円を描くように動こうとする。

 

「ごほぁ!」

 

今度は腹に衝撃が走った。

 

「(まただ! また、距離があったのにいつの間にか……距離を取らねえと…!)」

 

慌てて後ろへと飛び退く悟空。

 

 

――バチバチバチバチ…!!!

 

 

「うあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

悟空の全身を何十もの衝撃がぶつかった。

 

「…くっ」

 

受けたダメージが大きく、悟空は片膝を付いてしまう。

 

「オラは何されたんだ…。あの婆ちゃんは動いてねえはずなのに…!」

 

射程距離外にも関わらず、エネルギー弾以外のものを身体にぶつけられた事に理解が追い付かない悟空。

 

 

「今のは…」

 

「空気を殴り、空気の弾を飛ばして離れた相手を攻撃するベリブルさんの技の1つです」

 

悟空に起こった事の正体を掴み切れなかったビルスにウイスが解説をする。

 

 

「おー! いつつ、…へへっ、こんなにつえー奴がまだいるなんてよ。ワクワク止まらねえぞ…!」

 

圧倒的な劣勢であるにも関わらず、新たな強敵が現れた事に興奮を隠せない悟空。

 

「フフッ、嬉しそうですね。何か秘策でもあるのですかな?」

 

「残念だがそんなもんはねえ。当たって砕けるしかねえな」

 

何とか立ち上がり、強がりを見せる悟空。

 

「では、今度は私からいかせてもらいますよ」

 

「っしゃぁっ、こい!」

 

気合いを込めて構える悟空。

 

「…」

 

「…」

 

ベリブルの僅かな動きをも見逃さないよう集中して構える悟空。

 

「……集中が、足りませぬな」

 

 

――ボグッ!!!

 

 

「うごぉっ!」

 

悟空の腹に衝撃が走るのと同時に身体がくの字に折れ曲がる。気が付けばベリブルは悟空の目の前に立っていた。

 

「こん…の…!」

 

すぐさま目の前に立っているベリブルに拳を振り下ろす。

 

「ぐほっ!」

 

だが、振り下ろした拳はさらに懐に入り込んでかわされ、逆に顎にカウンターの一撃を貰い、上空へと跳ね上げられてしまう。

 

「や、やべえ…」

 

途切れそうになる意識を何とか繋ぎ止め、瞬間移動でその場を離れる。

 

「…っ!?」

 

移動したのと同時に構える悟空。しかし、ベリブルの姿を見失ってしまう。

 

「こっちですよ」

 

「…なっ!?」

 

振り返るとそこにはベリブルが立っていた。その直後、悟空の顔が左右に弾け、身体がくの字に曲がり、最後は顎が跳ね上がり、宙高く跳ね上がり、地面に叩きつけられた。

 

「ウ…ウイスさんの言ったとおり…だ。スゲー効く…」

 

倒れこむ悟空。だが、ダメージが大きくなかなか立ち上がる事が出来ない。

 

「これで終わりに致しますか?」

 

「何の…、まだ…まだ…」

 

ギブアップはせず、よろけながらも何とか悟空は立ち上がった。

 

「(つえー。スッゲーつえー。けど、ジレンやブロリーとは何かちげぇ、異質の強さだ…)」

 

ベリブルの強さを先の戦いの2人とは違うと断ずる悟空。

 

「(情けねえ話だが、今のオラじゃこの婆ちゃんには勝てねえ。勝つには、あれしかねえ!)」

 

ここで起死回生の策としてあるものが浮かぶ。

 

「(…だが、あれは力の大会以降全くなれねえ。ブロリーと戦った時も結局なれなかった)」

 

悟空は力の大会の折に圧倒的な力を持つジレンを相手に互角以上の戦いを披露したある力を思い浮かべる。

 

「(どうすりゃまたあの力を出せるんだ…)」

 

必死にその方法を探る。

 

「…フフッ、何やら、お求めのようですが、求めていらっしゃるのは――こちらですかな?」

 

すると、ベリブルを青白いオーラが包み始めた。

 

「なっ!?」

 

その様子を見て悟空は言葉を失った。

 

 

「っ!? あの婆さん、前にあった時から薄々感じてはいたが…!」

 

「えぇ。彼女は完全な形で会得しています。――身勝手の極意を…」

 

 

「あっ…あっ…」

 

唖然とした様子でベリブルを見つめる悟空。

 

「いくら求めてようとも縋りつこうともこの領域に入れませんよ。これは求めるものではなく、ただそこにあるものなのですから」

 

「…っ」

 

「今一度この領域に踏み込みたくば、ご自身の心を無とし、宇宙を、真理を感じ取りなさい。…と、フリーザ様の宿敵にこれ以上塩を送るのは従者として相応しくありませんね。あなた方サイヤ人と手合わせが出来て、満足致しました。…それでは、そろそろ幕を閉じましょうか」

 

次の瞬間、ベリブルの姿が消え、悟空の背後に現れる。

 

「がはっ…!」

 

同時に悟空の身体に数度衝撃が走ると、悟空は意識を失って倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お見事です! 全く腕は落ちてないじゃないですか!」

 

「いえいえ、寄る年波には敵いませんよ。最近、フリーザ様のトレーニングに付き合いましたので、少し勘が戻っただけですよ」

 

高いテンションで称えるウイス。謙遜しながらベリブルは返した。

 

「なるほど、短期間で随分フリーザさんが強くなったとは思いましたが、ベリブルさんが鍛えられたのですね? お見事です。もしかしたら私より育成が上手なのではないですか?」

 

「そのような事はありませぬ。あれはフリーザ様の才能と努力があってこそでございます」

 

「久しぶりにベリブルさんの戦いと技が見れて感激の嵐です! …ところでビルス様もリベンジなさいますか?」

 

「……やらん」

 

ウイスの提案もビルスはそっぽを向いて断った。

 

「さて、随分と長い事お邪魔してしまいましたので、そろそろお暇させていただきます」

 

「またいつでもいらしてくださいね」

 

「ビルス様。突然の来訪と御無礼、申し訳ありませんでした。それでは失礼致します」

 

一礼をすると、ベリブルはその場から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「いやー、彼女がここにいると昔の記憶が蘇ります。またいつか彼女とお茶を飲みながらお話がしたいです」

 

「……ウイス」

 

「何でしょう?」

 

「何故あの婆さんを破壊神にしなかった?」

 

「…」

 

真剣な表情でビルスがウイスに尋ねる。

 

「あれだけの強さは現役の破壊神にもいない。僕の先代の破壊神もあれ程の力があったとは思えん。あいつの何が不満だったんだ?」

 

「何故、と申されましても、私が決めた訳ではありませんからねぇ」

 

頬に手を当て、困った表情で答えるウイス。

 

「なに? お前が見つけてきたんじゃないのか?」

 

「はい。彼女を見つけて育成したのは確かに私です。ですが、ビルス様の先代の時は破壊神候補が彼女の他にもう一方おりましたから。破壊神候補が2人以上存在する場合は大神官様がお決めになられるのですよ」

 

「そうだったのか。ではいったいどうして…」

 

「私も未だに分かりませんね。破壊神は強ければ務まる訳でもありませんが、彼女も十分適性があると思ったんですけどねえ」

 

「あれだけの力を持った種族など僕は見た事もない。あの婆さん、何者なんだ?」

 

「それもよく分からないんですよねぇ。小さな星で1人で暮らしていたのをスカウトしたら二つ返事でオッケーをいただけたんですが、彼女の事は遠い遙か太古の昔に滅んだアンヘルという一族の唯1人の生き残りとしか…」

 

「アンヘル? そんな一族僕も聞いた事ないぞ」

 

「私もさーっぱり。何せ、私が生まれるずーっと前に滅んでしまっていますからねぇ」

 

肩を竦めて答えるウイス。

 

「あれだけの強さを持つ一族が簡単に滅ぶのか?」

 

「もしかしたら、悟空さんやベジータさんのように彼女だけが特別だったのかもしれませんねぇ」

 

「…いずれにしても、あの婆さんとは2度と会いたくはないな」

 

険しい表情をしながらビルスは呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「長い間手入れをしていませんでしたからね。しっかり手入れをしておきましょうか」

 

ビルス達が住まう星から自身が住んでいた星に戻ったベリブルは畑の作物や花の手入れをしていた。

 

「…」

 

花壇の花に水をかけてまわっていく。

 

「……っ!? …よもや、このような所であなた様とお会い出来るとは…」

 

背後に気配を感じ、振り返るとそこにはベリブルですらも驚愕させる人物が立っていた。

 

「お久しぶりでございます。――大神官様」

 

「おや、随分昔に顔を合わせただけでしたが、覚えていていただけましたか」

 

「御戯れを…、遙か昔の事であっても、あなた様を忘れる事など土台無理なお話でございます。…大したおもてなしは出来ませんが、お茶をお出し致しますので、どうぞこちらへいらして下さい」

 

「いえいえ、お構いなく。ここで結構ですよ」

 

自宅へと案内しようとしたが、大神官は手で制した。

 

「あまりお時間がありませんので単刀直入にお聞き致します。…ベリブルさん、――私達を憎んでいますか?」

 

「……それは、私を破壊神の候補から外した事に対して、ですかな?」

 

尋ねられた質問に対し、ベリブルはその真意を尋ねた。

 

「…もちろん、その事についてもあなたには申し訳ない事をしたと思っています。…ですが、私が聞いているのはその件ではありません」

 

「…」

 

「あなたは、ご自身の一族の事はご存じですか?」

 

真剣な表情で尋ねる大神官。

 

「……はい。存じております」

 

少し溜めてから返事を返すベリブル。

 

「ならば、私の言った言葉の意図も理解しておられるでしょう? 遙か太古の昔に、我ら天使と共に全王様にお仕えしたアンヘル。その一族を滅ぼした我ら天使の事を、です」

 

その瞬間、2人の間を一陣の風が吹き抜けた。

 

「……その問いにお答えさせていただくなら、憎んではおりませぬ」

 

「それは何故?」

 

「全てを知っておるからです。我が一族が何故滅びねばならなかったのかを。そして、あなた方天使の方々が苦渋の決断でそれを行った事を…」

 

「…」

 

「我が一族アンヘルは、全王様に牙を向けられてしまった。この世の全ての宇宙を全王様の手から解放を謳って…」

 

「…」

 

ベリブルが話すと、大神官は静かに瞳を閉じた。

 

「その結果、多くの神を巻き込んだばかりか、全王様のお怒りを買っていくつかの宇宙を消滅させることとなってしまいました」

 

「…えぇ、そのとおりです。全王様は全ての宇宙の楔なられる御方です。全王様無くして宇宙の存続はあり得ません。故に彼らの行いは容認出来るものではありませんでした」

 

「私も同意見でございます」

 

ベリブルも大神官の意見に頷いた。

 

「戦いは凄惨な者でした。我ら天使もそのほとんどをあの戦いで失ってしまいました。全ての宇宙を巻き込んでの戦いをしてしまった結果、3つの宇宙が破壊され、残りの宇宙も多くの星が巻き込まれ、さらには多くの神々もあの戦いで失ってしまった」

 

「…」

 

「我ら天使の2つの掟も、あの凄惨な戦いを2度と起こさない為に作られたものです。2度とあのような悲劇を起こさない為に戦いを禁じ、秩序を守る為に常に中立の立場を維持する事を掟に定めました」

 

「御立派であられます」

 

「あの戦いの後、アンヘルの生き残りの探索も行いましたが結局見つからず、全て滅んだものと思っていましたが…、まさか生き残りが存在していたとは夢に思いませんでした」

 

「私はその時はこの世に生まれ落ちたばかりでございまして、一族が叛乱を起こす直前に私は数億年先の未来に送られておりましたのでこうして存命させていただいております」

 

「なるほど。それでいくら探しても見つからなかったわけですね」

 

顎に手を当てて感心する大神官。

 

「いくら正当な理由や大義があったとしても、我々があなた方一族を滅ぼした事実は変わりません。…かつて、あなたが破壊神候補として私の下を訪れた時は平静を保つので精一杯でした。あの時はお互いの立場故、個人的に言葉を交わす事が出来ませんでしたのであなたの真意を測る事が出来なかった為、不本意な形であなたを破壊神候補から外すこととなってしまいました」

 

「大神官様の御立場を考えれば仕方のない事でございます」

 

半ば私情で破壊神候補から外されたのだが、特に気にする素振りを見せないベリブル。

 

「そう仰っていただけると心が救われます」

 

申し訳なそうな表情で大神官は軽く頭を下げた。

 

「いつの日か、あなたとこうして言葉を交わす機会を作らなければと思っていましたが、こうして機会を設けられて良かったです」

 

「私も、大神官様自ら足を運んでいただき、感謝の御言葉しかありませぬ」

 

ベリブルは深く頭を下げて礼の言葉を述べた。

 

「お話は以上です。本日は突然の来訪、失礼致しました。それでは私はこれにてお暇させていただきますね」

 

踵を返し、数歩歩くと、大神官は足を止めた。

 

「…お1つだけ、よろしいですか?」

 

「何なりと」

 

「これは必要のない事かと思いますが、もし、これからあなたの中に我らに対する復讐心が生まれたのなら…」

 

「…」

 

「その時は私の下を訪れてください。あの戦いを経験をした最後の1人として、あなたの復讐に応えましょう」

 

にこやかに伝える大神官。

 

「…肝に銘じておきましょう」

 

軽く頭を下げて返事をした。

 

「私からもお1つよろしいですかな?」

 

「どうぞ」

 

了承されると、ベリブルはとある方向を指差した。

 

「ここより西へ1万光年程進んだ所の小さな星に、我ら一族の慰霊碑がございます。私が一族を慰める為に建てた簡素なもので御霊や亡骸が眠っている訳でもありませんが、私が一族の為に建てたものでございます。もし、許されるなら、御時間があります時に一族の為に黙祷だけでも捧げてはいただきませぬか」

 

心からの願いを大神官にするベリブル。大神官は暫し考え…。

 

「残念ですが、その願いを聞き届ける訳にはいきません」

 

「左様ですか…」

 

半ば返ってくる返事が分かっていたのか、ベリブルは特に気にする素振りを見せなかった。

 

「必ずお時間を作り、彼らの慰霊碑の前で祈りを捧げさせていただきます」

 

その言葉を聞いた瞬間、ベリブルは目を見開いて大神官を見つめた。仮にも自身が仕える全王に反旗を翻した一族の慰霊碑に参拝するという事は、全王に対する不敬とも取られかねない行為だからだ。

 

大神官はにこりと笑みを浮かべ、その場から消え去った。

 

「……感謝致します」

 

ベリブルは深々と頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

あれから1週間が経ち、ベリブルはとある星の、自身の一族の為に建てた慰霊碑の前へとやってきた。

 

「名も知らぬ父上、母上、そしてご先祖の方々。あなた方が何故私1人を遙か未来へと飛ばしたのか、もはやその答えを聞く事は叶いませぬ」

 

慰霊碑を見つめながら1人語り出すベリブル。

 

「復讐心はなくとも、あなた方の魂に何か報いたいと思っていました。…ですが、それが思い付きませんでした。それを見つける為に破壊神を目指し、大神官様や全王様にお会い致しましたが、それでも答えは出ませんでした」

 

誰がいるわけでもない。それでも亡き一族に語り掛けるように続けていく。

 

「ですが、つい先日、ようやく私なりの報い方を見つける事が出来ました」

 

視線を落とすと、慰霊碑の前に一輪の花が供えられてあった。この花は全王の宮殿にしか咲かない花であり、先日交わした約束のとおり、大神官が供えていったものである。

 

「かつての盟友であり、あなた方を滅ぼした天使の長である大神官様がこうして足を運び、祈りを捧げていただきました。これが私に出来る一族の魂に報いる唯一の事でございます」

 

ただ1人生き残った最後のアンヘルの末裔として、自身が定めた役目が果たせた事を報告する。

 

「ここから先の全ての宇宙の平穏に過ごせるよう御見守り下さいませ」

 

手を合わせ、静かに頭を下げて祈りを捧げた。

 

「…さて、十分に休みを満喫出来ましたし、そろそろフリーザ様の下へ帰りましょうか」

 

ベリブルは踵を返し、フッとその場から姿を消したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回はベリブルがどれだけ強いのかと何故そんなに強くなれたのかを独自設定を交えて投稿しました。書いてみて、悟空の口調が想像以上に書くの難しかった…(;^ω^)

ドラゴンボールは基本的に戦闘力を前面に押し出してのごり押しの敵ばかりなんですよね。それがドラゴンボールの醍醐味なのかもしれませんが、テクニックや特殊能力をベースに戦うタイプ。例えるなら禁書目録のアクセラレータみたいな敵がいないので、ベリブルは単純な殴り合いではなく、テクニックで押すタイプにしてみました。悟空やベジータからすればなかなか戦った事のないタイプだと思います。

短くあっさり終わらせるつもりでいたら、まさかの15000字オーバーという、過去最高の文字数になってしまった。普段なら2つに分けているところですが、短編なのでこのまま投稿です。これでも結構削ったんですが、それでも長い…(>_<)

一応、ここから続く物語のプロット的なものも思いついてはいるんですが、これ以上はメインの二次が疎かになってしまいますので、好評だったら投稿するかもしれません。とりあえず、この作品の投稿はここでやめます。ここまで読んでいただけた方、誠にありがとうございます…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちおります。

それではまた!


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