仮面ライダーディケイド オウへの旅路 (茶々様)
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プロローグ

 

 

 

 

 ーーこの胸に…… 永遠に刻み込んでおく

 

     ーー人間の自由のために戦っているのだと

 

  ーー悪を倒すためならどんなに汚れた泥でもかぶる

 

    ーーこの世界を救えるのは…… 君だけだ

 

 ーー『    』の物語はここから始まる

 

 

 

 

 

 カシャッ

 トイカメラのシャッター音が人混みの中を小さく鳴り響く。

 人気の多い広い公園。

 園内を散歩したり家族や友人と遊ぶ人々をふてぶてしい顔で見まわす男が一人。

 首にトイカメラをぶらさげた男は特に許可を撮るわけでもなく写真を撮影していく。

 

「やはりこの町も俺に撮られたくはないらしいな」

 

 行き交う人々。飛び交う野生の鳥。風に吹かれる葉っぱやゴミでさえもカメラのレンズ、いや男を避けている。

 何となくではあるが男はそう感じ、つまらなそうにするもシャッターを押し続けた。

 レンズを覗き込んでいると人の波を映していた光景を太めの女性の姿が遮った。

 

「ちょっとアンタ!」

 

 女性は厳つい顔で男にいきなり怒鳴り声を上げた。

 しかし男は涼しい顔で答える。

 

「なんだ? 写真を撮ってほしいのなら構わないぞ。最高の写真を提供してやる」

 

「なにバカなこと言ってるのよ! あんた今、私を盗撮したでしょうが!」

 

 女性の言葉に男は意味がわからないと片眉を上げると、直ぐにああそうかと納得したように頷く。

 

「なんだ。ただの当たり屋か。悪いが俺にはお前に慰謝料を払うほどの金はないぞ」

 

「だ、誰が当たり屋よ! さっきから許可を得るわけでもなく写真を撮っているのはあんたでしょ!」

 

 女性は顔を真っ赤に染め上げて金切り声を上げた。

 男本人としては女性のことなど興味もなかったが、相手からしてはそんなことはどうでもいい。とにかく勝手に撮影されたということが気にくわなかった。

 

「とにかく! 警察につきだしてやるわ。さあ来なさいよ!」

 

「すっ、ストップ! ストッープ!」

 

 女性が男の腕を掴もうとする。しかしそこに遮るように間に一人の少女が割って入ってきた。

 突然の少女の乱入に女性は驚き目を丸くする。思わず出していた手も引っ込めていた。

 少女は走っていたのか息を荒らくし、手に膝をついていた。

 ゼーゼーと呼吸をしながら顔を上げる。

 

「あ、あの、うちの士が何かやらかしたんですか……」

 

「ひっ!?」

 

 女性は少女の顔を見ると低い悲鳴を漏らした。

 茶色の瞳に特徴的なアホ毛の目立つ橙色のセミショートヘアー。歳は高校生位だろうか。

 整った顔立ちに小柄な体型は小動物は愛らしく感じる……

が、それらのイメージを吹き飛ばす程に少女の目は血走り、女性に鋭い眼光を向けていた。

 

「もし何か、はあはあ…… ご迷惑をおかけしたのなら、はあはあ、お詫びしますので…… どうか……」

 

「も、もういいわよ! それじゃあ!」

 

 少女の鬼気迫る表情に女性は恐れをなしたのかそそくさとその場を離れていった。

 しかし女性がどうして離れていったかなど知るよしもない少女は呼吸を落ち着かせると額から垂れた汗を拭いほっとする。

 

「はあ、よかった〰️。謝っただけで許してもらえて」

 

「いや今のはお前のその顔のせいだと思うぞ……」 

 

 流石に男、士と呼ばれた彼も少女を見て頬をひきつらせる。

 

「ちょっと士! どうして貴方はいっつも問題を起こすのさ! 家に居候しはじめてから一体何度目?」

 

「俺は起こしてるつもりはないんだけどな。向こうから勝手にやってくるんだ。仕方がないだろ。そんなことよりもリツカ。お前はなんだってそんな汗だくなんだ?」

 

 少女、リツカは士の物言いに顔を真っ赤にする。

 

「なんでって…… ! 士が変なこと言い出したと思ったら急にいなくなったからじゃん! だから私は士を探して走り回って……」

 

「ああ、大体わかった」

 

「あ、ちょっと!」

 

 士はそれだけ言うと立夏から背を向けて歩き始めた。リツカは慌ててその背を追う。

 

「もう、また勝手に行かないでよ!」

 

「放っとけばいいだろ。俺のことは」

 

「そうなんだけど…… なんか放っとけないの!」

 

 実際何故、士のことを放っとけないのか。リツカにはよくはわからなかった。

 ある日、腹が減ったとふらりと現れたかと思えばいつの間にか家に住み着き、共に過ごしていた男、門矢士。

 名前以外の記憶がないらしく身分を証明する物もない。怪しさ満点の男ではあるものの料理の腕前が中々であることを知ると母親は気を良くし何時までも居ていいなとど言ってしまった。

 父親にいたっては士の掴み所のない性格と士の撮る写真を気に入り話の相手に丁度いいと完全に受け入れてしまっている。  

 こうして士は藤丸リツカの家族の一員として共に今日まで過ごしてきた。

 なのだが、今日の朝になって突然『ここは俺の世界じゃない』等と言い出し出ていってしまった。

 士は飄々としていて掴み所のない男だ。いつも軽口を叩き冗談を言っていつもはリツカも頬を膨らませるのだが、今回ばかりは冗談の気がしなかった。

 狼狽える両親に迷惑ばかりの居候などいなくなった方がいいと立夏は言い放ったが当の本人がどうにも気になってしまい町中を探し回ったのだった。

 

(でも…… どうしてこんなにも士のことが気になるのだろう)

 

 リツカも青春真っ盛り。花の女子高生だ。顔立ちもよく何気にスペックの高い士に実は自分も惚れてしまっているのではないかと一瞬危惧するが、それも違うとリツカは首を横にふる。いや…… 確かに気が無いわけではないのだが…… 

 士は、この男は絶対に一人にはしていけない。

 まるで誰かにそう刷り込まれたのかのような。どうしてたがそんな気がして仕方がない。特にあんな言葉を聞いた後では。

 

「いいから子供はさっさと帰れ。俺と関わると録なことがないぞ」

 

「自覚あるんだ…… いや、急になんでそんなこと言うのさ」

 

「決まってんだろ。なにせ俺はいい男だからな。いい男に危険はつきものだ」

 

「そういう冗談はいいから! なんか嫌なことでもあったのかって聞いてるの」

 

 心配する自分のことなの知らず、相変わらずふざけた態度をとる士にリツカは思わず声を荒らげた。 

 それでも士は涼しい顔を崩すことなく、

 

「ここも俺の世界じゃない。だから町を離れることにした」

 

「俺の世界って…… 今朝も言ってたけど、それどういうこと?」

 

「俺の写真のこと知ってるだろ」

 

 士は立ち止まり、リツカにカメラを向ける。

 

「まあ…… うちは喫茶店だけどお父さんの趣味で写真の現像もしてるし。士のあのひど…… 個性的な写真についてはよくわかってるけど」

 

「お前酷いって言いかけたな」

 

 藤丸家は喫茶店を経営している。しかし父親の趣味は写真であり、普段から自分で撮影しては現像していた。

 ある日、友人の写真もついでに現像を、とやっていたらいつの間にか多くの人間の写真を請け負うことになり本業の喫茶店よりも熱中するようになっていた。

 そこに現れた士。彼の撮影する写真はかなり独特なものだった。人も動物も建物のも、光でさえもが歪み、良く言えば芸術的な写真を作り出していた。 

 父親はそれを気に入り士を受け入れたのだ。父親以外からはあまりにも不評で金を取られた客からは訴訟されかけたが。

 

「世界は俺に撮られたがっていない。だからこの世界は俺の世界じゃないんだ」

 

 シャッターを押し、リツカの姿を撮影する。 

 リツカは士を避けるつもりはない。それでも写真は酷く歪んでしまうのだろう。

 だとしても……

 

「私は…… 撮られたいよ。士のこと…… あ、いやっ、士の写真はまあ嫌いじゃないし」

 

 リツカは危うく口走りかけた台詞を慌てて止めた。顔を赤らめ背け、また士にからかわれると横目で睨むが士は呆けた顔でリツカの頭上を見つめていた。

 

「え、なに?」

 

 リツカは士の視線の先へと目を向ける。

 陽の元を雲を背に飛ぶヘリが一機。それだけならばなんてことない普段の風景。

 だがその風景を乱す異常な存在が、この日はあった。

  

 ーーーーガアァァァァァ!!

 

 ヘリどころか鳥でも虫でもない。恐竜を思わせる翼の生えたトカゲがここにまで聞こえてくる巨大な雄叫びを上げていた。

 やがて恐竜擬きはヘリの回転する翼に目もくれず突進する。

 結果は当然。トカゲ擬きは鱗を砕かれ、ヘリは空中で爆発する。

 トカゲ擬きの死体とヘリの破片が落下し町中に轟音を響かせた。

  

「キャアアア!!」

 

 誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 人々は次々に駆け出していく。

 

「え? ちょっと、なにこれ。嘘でしょ!?」

 

「っ! おいリツカ!」

 

 士がリツカの腕を握る。今すぐこの場から離れなければならない。

 そう判断したからこその動きだった。

 そして士の判断は正しいということが直ぐにわかった。

 青空に銀色に鈍く輝くオーロラのようなものが現れる。

 オーロラはユラユラと波を起こし、そこから次々に先程のトカゲ擬きの大群が出現した。

 中には、巨大な鳥やトカゲ擬きよりも巨大なドラゴン。多種多様な怪物がいた。

 

 日常が壊れる。世界が破壊される。

 リツカはただただ、終末を傍観するほかなかったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「かくして、門矢士の歴史は、物語はこれで完結となるのです」

 

 マフラーを首に巻き、本を片手に男は一人語る。

 

「おっと、申し訳ありません。どうやらこの物語には続きがあるようだ」

 

 男は懐からもう一冊、本を取り出した。

 

「この本によれば、門矢士はこの世界の藤丸リツカと…… おっといけない。これ以上は皆さんにとってはまだ先のお話しでしたね」

 

 ネタバレ厳禁。男は人差し指を口に当てて、そう呟いた。

 



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第一話 世界の終わり、旅の始まり

 

「行くぞ!」

 

「う、うん!」

 

 リツカは士に引っ張られ町を駆けていく。

 走っていく内に所々で瓦礫や破損した車が見られた。いやそれだけならば良かった。

 中には焼け焦げた死体。溶かされたのかグチャグチャに歪んだ死体。体を引きちぎられた死体。

 たくさんの死体が転がっていた。

 

「ひっ…… うぐ、おえ」

  

 思わず士の手をはらい、道端の隅でしゃがみこむ。 

 流石に見かねた士がリツカの背をさすった。すると口から今朝食べていた物が半分液状になって地面へと落ちていく。

 

「うぇ、ぐえぇ……」 

 

「リツカ、吐くもの吐いたら直ぐにここを離れるぞ」

 

「うぐぅ、う、うん」

 

 士の意見は最もだった。こんなに死体があるということはさっきのような化け物が近くにいるというのとだ。

 逆に何故、今はいないのか不思議な位だ。新しい獲物を探しに別の場所にでも行ったのだろうか。

 早く吐き出して直ぐに離れよう。リツカが思いかけた、その時、ふと足元に落ちていたガラスの破片が視界の中にうつった。

 

「あっ」

 

 リツカは思わず声を漏らす。

 ガラスの破片に映るリツカの姿が酷く歪んだからだ。

 その瞬間、破片から糸のような物が飛び出しリツカの手首を掴んだ。そのまはまリツカは悲鳴を上げることもなく引っ張られ破片の中へと吸い込まれていった。

 

「なっ!? リツカぁ!」

  

 突然のことに反応できず士は慌てて声を上げるが、もう遅い。

 リツカを追いかけようにもガラスの中への入り方など士が知るよしもないからだ。

 

 

 

 

 ーーいや、君は知っているはずだ。

 

 

「……なに?」

 

 士の頭の中に声が直接響いてくる。 

 その瞬間、士の体はあの銀色のオーロラに包まれた。

 場所は変わり、そこは業火によって焼き付けされた何かの施設を思わせる部屋だった。

 しかし熱は感じられず士は苦しむことなく辺りを見渡す。

 見ると巨大な地球儀のような物が炎の中を浮かんでいた。

 

 

「初めまして、門矢士」

 

 炎の中から声がした。目を向けると炎のことなど気にもせず歩いて来る男が一人。

 白衣と首にガスマスクをぶら下げた科学者のような出で立ち。

 男は特徴的なつり目を士に向ける。

 

「初めましては語弊かな? いや、今の君には知るよしもないか」

 

「お前、誰だよ?」

 

「また一つ。世界は破壊された」

 

 士の問いかけに男は答えない。淡々と勝手に話を進めていく。

 

「かつて君は世界を旅し破壊し結果的に世界を救った」

 

「破壊だと…… 何のことだ!」

 

「だがそれも全て無意味となった。ある者がある世界を破壊し、多くの平行世界を繋いでしまった。身勝手にも干渉を繰り返し続けた世界は巨大な矛盾を抱え崩壊していく。そしてその影響は本来ならば仮面ライダーも魔術も存在しないこの世界にも及ぼした」

 

「ライダーに魔術?」

 

 ライダー。何故だがその言葉には聞き覚えのある気がした。だが魔術には今一ピンとこない。魔法ならば何となく覚えがある気がするのだが。

 

「世界を救うには新たな破壊が必要だ。破壊の上書きを行い世界の創造を施さなければいけない。本当に残念なことだが…… 創造は破壊からしか生まれないからね。だから君には再び世界を旅をしてもらう必要がある」

 

「そんなのどうやって」

 

「藤丸リツカ。この世界の藤丸立夏である藤丸リツカが一つの鍵だ。そして鍵は君の力となる」

 

 それだけ言うと男の姿はゆらりと歪み消えようとしていく。

 

「おい待て! リツカのやつは変なガラスに吸い込まれたんだぞ! あいつを救うにはどうしたら……!」

 

 ーー既にその力ならある。君の腰に

 

「なに……」

     

 見ると確かに腰には何かがあった。白く真ん中の窪みに赤い宝石のようなものを拵えたベルト。更に手には一枚のカードが握られている。

 カードには仮面の戦士の顔が写っていた。そして書かれた名前は、

 

「ディケイド……」

 

 十年。とてもしっくりくる名前。このカードを見ると自然と体が動く。

 そしてカードを構え、こう言った。

 

「……変身っ!」

 

 KAMEN RIDE DECADE

 

 カードがベルトに挿入され、機械的な音声が響く。プレートの用な物が周囲を飛び交い、浮かび上がった虚像が現れる。

 虚像は重なり身を守る鎧となり顔にはプレートが突き刺さった。

 マゼンダカラーへと色付けされ、士の体は仮面の戦士、仮面ライダーディケイドへと変身していた。

 

 

 

 

 

 

「はあっ、はあ!」

    

 リツカは走っていた。

 突然、鏡の中に吸い込まれたと思ったら巨大な蜘蛛の化け物に食べられかけた。

 しかしすんでのところで獲物を奪いとろうとした他の化け物と蜘蛛が争いになり、隙をついて逃げたのだ。

 急がなければ。さっきから体の様子がおかしかった。

 指先からさらさらと砂のように透けているのがわかる。もしかしたらこの世界には長くいられないのかもしれない。

 

「だからってどうすれば元の世界に…… うわ!」

 

 リツカが顔を青ざめ立ち止まる。逃げ込んだショッピングモールの中。

 そこでは大量のトンボのような青い二足歩行の怪物がモール内を飛び交っていたからだ。

 

 

「やばっ」

 

 リツカは踵を返し、モールを出ていく。

 しかし怪物たちはリツカの存在に気がつきモールを飛び出してリツカを追いかけた。

 相手は空を飛ぶ。元々体力を削がれていたリツカなど怪物は手こずることなく直ぐに追い付いてしまう。

 

「こ、こないで!」

  

 怪物に言葉など通じず青い腕がリツカを掴もうとする。

 その瞬間。

 

 

 ATTACK RIDE ADVENT

 

  

 突然聞こえてきた機械音声と共に巨大な赤い龍が現れトンボの怪物を吹き飛ばした。

 赤い龍はリツカを一瞥するとリツカを守るように前に浮かぶ。

 

「な、なんで!」

 

「リツカ、無事か!」

 

「その声…… もしかして士ぁ!?」

 

 リツカの元へと駆け寄る赤い鉄仮面の戦士のような姿。そこからは聞き覚えのある士の声がした。

 

「よ、よかった…… なんだかわからないけどよかったよぉぉ…… 士ぁぁ!!」

 

「うわっ!? バカ、離れろ! 鼻水つけるな!」

 

 抱きつき顔を士へと擦り付ける。鉄の鎧はゴツゴツとしていたが士の温もりを何となく感じられたリツカは安堵し涙していた。

 

「たくっ。ここはミラーワールドだ。普通の人間がいたらまずい。さっさと戻るぞ」

 

「やっぱりそうなんだ。ってなんでそんなこと知ってるの? ミラーワールドなんて名前まで」

 

「知らん。何故か頭に思い浮かんだ。とにかく出るぞ」

 

 士はそのままリツカを抱え、鏡を通して再び現実の世界へと戻った。

 現実も変わらず瓦礫や死体が転がってはいたが、近くには怪物はいなかった。

 リツカが周りを警戒しているとどこから持ってきたのか、士はマゼンダカラーの目立つバイクに股がり、乗れと首を動かす。

 見ると士の姿も赤い騎士からバイクと同じマゼンダカラーの戦士に変わっていた。

 

「あれさっき赤じゃなかった? なんでピンク色に……」

 

「ピンクじゃなくてマゼンダだ。マゼンダ。仮面ライダーディケイド…… とかって名前らしいが、それくらいしかわからん。さっさと乗れ」

 

 かなり気にはなったが時間もないのでリツカはディケイドの後ろに股がり、体に寄りかかる。

 バイクは発進し、死体の中を走って行った。

 

「お父さんとお母さん…… 大丈夫かな……」

 

「取り敢えず、家に帰るぞ…… っ!?」

 

 バイクを走らせていると遠くに再び銀色のオーロラが突如として現れた。

 慌ててブレーキをかけるが、バイクは止まりきれずにオーロラの中へと突入する。

 

「うわっ!? 雨!?」

 

 突然降り注いだ雨に打たれリツカは悲鳴を上げた。

 さっきまで晴天だったはずなのに、不自然にも降り注ぐ雨にディケイドは眉を寄せる。

 

「平行世界…… あいつの言ってた通りってことか」

 

 ここは恐らくは別の世界。あの怪物共も様々な世界からやってきたのだろう。

 

 ーーガガがガガ!!!!

 

 ディケイドが考察していると建物の影から音が響くと同時に多量の銃弾がバイクの足元に着弾した。

 火花が飛び散り、ディケイドはバイクを降りて、構える。リツカも慌ててバイクの後ろに回って身を屈めた。

 銃撃が鳴りやみ物陰から次々に鉄の装甲に身を守られた怪物が銃を片手に現れた。

 今までの怪物とは変わり、生物感のないロボットのような怪物だった。

 中には、銃を持つ腕を失う変わりに直線ガトリング銃を取り付けた個体もいた。

 ディケイドは直ぐに適当にカードを取り出し構える。

 

「取りあえず…… こいつだ」

 

 カードに写っているのは、ギリシア文字のΦを思わせる仮面の姿。

 ディケイドはベルトにカードを挿入する。

 

「変身」

 

 KAMENRIDE FAIZ

 

赤いラインがディケイドの体に走り電子音と共に瞬く間に姿を変える。

 それはカードと同じ仮面ライダー『仮面ライダーファイズ』

 

「姿が変わった! さっきの赤いやつ以外にもなれるんだ……」

 

 リツカが驚きの声を上げた。

 

「あれは仮面ライダー龍騎…… らしい」

 

 何故だか知らないはずの言葉を知り、戦いかたを熟知している。その奇妙な出来事にディケイドは気味が悪いと思いつつも敵を倒すべく更にカードを取り出す。

 

 ATTACK RIDE AUTOVRJIN

 

カードを読み取り音声が鳴る。すると今度はディケイド本人ではなくディケイドのバイク『マシンディケイダー』の姿が変化した。 

 マゼンダからシルバーを主体としたメタリックな姿になり、そこから更に人形のバトルモードへと変形した。

 左腕には盾にガトリング砲を兼ねた前輪が装着されている。

 前輪は回転し、次々に銃弾を放った。

 放たれた銃弾は怪物たちへと着弾し、その大半が火花を散らして地に倒れ付した。

 

「リツカ、お前はそいつの後ろに隠れてろ」

 

「わかった! …… えーとよろしく、バジン…… ちゃん?」

 

 カードの読み取り音声から名前を確認したリツカは恐る恐るオートバジンに声をかけた。

 さっきの赤い龍、ドラグレッターは鳴き声を上げていたがオートバジンには声を出す機能はないらしい。

 その代わりに駆動音を鳴らし、リツカに小さく頷いた。

 

「なにやってんだお前は……」

 

 ディケイドは呆れながら、オートバジンに近づき左ハンドルのグリップからブレードを出現させる。そして超高熱のエネルギーが放出されフォトンブラットの刃を作り出された。

 『ファイズエッジ』と呼ばれる剣を握り、生き残るも銃弾の余波を受けてよろけていた怪物たちへと突っ込んでいく。 

 高熱のブレードは金属でできた怪物の体をバターのように斬り裂いていった。 

 怪物たちは次々に破壊されていく。戦いの優勢はリツカからみてもディケイドの方にあるのは明らかだった。 

 しかしそんな中でもディケイドは妙な違和感を感じていた。

 

(何故だ。別に苦戦しているわけでもない。なのにコイツらにこの力は違う…… そんな気がするのはどうしてだ?)

 

 どうにもしっくりとこない。謎の感覚にとらわれているディケイドに再び男の声が直接響いてくる。

 

 ーーそれは君が真の力を得られていないからだ

 

 答えになっていない答え。それはディケイドを、士をより一層、戸惑わせただけだった。

 オーロラが再び出現し、ディケイドとリツカを包み込むと雨が消え晴天に戻った。

 しかしそこにはディケイドを待っていたかのように怪物たちが一斉に現れる。

 そこには、脳みそを剥き出しにし、筋骨隆々な黒い体と巨体が特徴的な者に、宙を浮かび体が透けて見えるゴーストのような巨大な骸骨が。

 さらには見た目は人間に近いが頭から角を生やし赤い瞳がギラギラと輝く者たちや、顔に血色がなく、呻き声を漏らしながらゆっくりと歩く者たちまで、多種多様な怪物が出てきてディケイドへと向かって行った。

 

「変身」

 

 それでもディケイドは狼狽えることなく次なるカードを取り出しベルトに差し込む。

  

 KAMEN RIDE HIBIKI

 ディケイドの体に変化が起き、今度は鬼を模したような仮面の戦士、仮面ライダー響鬼へと姿を変えた。

 

 ATTACK RIDE ONGEKIBOU REEKA

 

 再びカードを入れることにより、ディケイドの両手には響鬼の武器、音撃棒が握られた。

 音撃棒に炎の気が纏わる。

 

「はっ!」

 

 音撃棒を大きく振り上げ、纏った炎を弾にして無数に怪物たちへと放った。

 響鬼の技の一つ、音撃棒・烈火だ。

 炎の攻撃を受け怪物たちは瞬く間に消滅していった。

 見た目からして恐らく、出現元の世界もバラバラ。それぞれ固有の弱点もあっただろうし、もしかしたら不死身の怪物もいたのかもしれない。

 だがディケイドのベルトにある3つの輝石『シックスエレメント』がライダーの持つ変身や攻撃に必要な力を代替えする能力がある。

 だからこそあらゆる事への対応が可能であり応用が効く。 

 ディケイドには通常の法則は意味がなく。全ての敵が等しく倒される。

 やがて全ての敵が燃えつき、ディケイドは音撃棒・烈火を止めた。

 しかし攻撃を終えたと同時、ベルトからカードが飛び出た。

 

「なに!?」

 

 ディケイドの変身は強制的に解除されてしまう。士はカードを見て驚愕の声を上げた。

 仮面ライダー響鬼の姿がカードから消えてしまったのだ。

  それだけではない。さっきまで使っていたファイズや龍騎のカード、攻撃用などのATTACK RIDEに基本形態となるディケイドのカードまで消えてしまていた。

 

「まさか力が消えたのか?」

 

「消えたってどういうこと!?」

 

 リツカは狼狽える士に問いかけると再びオーロラが出現し、二人を通りすぎた。

 今度は交差点の真ん中に二人は立っていた。大きなビルが立ち並ぶ都会の街並みには人影はない。 

   

「士、あれ!」

 

 リツカが空に向かって指をさす。その先には、オーロラが雲を覆い隠すように浮かんでいた。

 オーロラの先にはうっすらと向こう側の景色が見えてきた。

 空のように青い水。そこに浮かぶのは時代錯誤な巨大な帆船。

 どこか神秘的な光景にリツカは口を開け、呆けた顔になり、士は天を睨み付ける。

 

『仮面ライダーディケイド。君の悪しき物語は私が終わらせる』

 

 オーロラの向こうから声が聞こえた。それは冷たく突き放すような、しかしどこか慈悲も感じられる不思議な男の声だった。

 

『ーーーーーーー冠位指定/人理保障天球(グランドオーダー/アニマ・アニムスフィア)

 

 男が何か呪文のような物を言い終えるとオーロラから何かが飛び出してきた。 

 また怪物かと身構えるがそんなことは意味はなかった。

 

「隕石…… ?」

 

 リツカの言う通り、オーロラが飛び出してきた物は巨大な石の固まり。それが数えきれない程の数となり空から落ちていく。 

 隕石は次々にビルや周辺の建物を破壊していく。隕石や瓦礫が降り注ぎ、士は守るようにリツカに被さった。

 

「くそっ! こんなものなのか…… 世界の終わりは!」

 

 士は悲痛の声を漏らす。それはリツカにとって初めて聞いた士の弱音だった。

 あの皮肉屋が。あの弱味など見せずにいつも偉そうにしていた士が身を呈してリツカを守ろうと、世界の終わりに諦めたように目を閉じている。

 …… 本当に終わってしまうのか。士の姿を見てリツカも諦め目を閉じた。

 士と一緒ならば世界の終わりでも怖くないのかもしれない。

 …………いや

 

「そんなのは嫌! だって士はこんな物に負けないから! 士はきっと、どんな終わりだって、どんな結末だって壊してくれるって信じてるから!」

 

 それはリツカの心からの叫びだった。

 士はいつだって誰かに負けたことはなかった。いや、正確には負けを認めることはなかった。

 例え自分が窮地にたっても負けじと反論し、最後には実際に勝って見せる。

 それがリツカの知る門矢士だった。

 

「まあ、ほとんどゲームでの話だけどさ……」

 

「お前……」

 

「いつだってそうだったでしょ? ゲームで私に負けそうになると直ぐに、それチートだろ! っていいたくなるような手を使って勝つ。それが門矢士でしょ?」

 

 反則技。いったいそれどうやった。そう言いたくなるようなことを士はいつも、見事にやってのける。

 だから今回も、

 

「きっと見せてよ」

 

 リツカの手が士のベルトに触れる。

 するとベルトを起点に淡く赤い光が放たれた。

 二人が目を丸くしていると、白のベルトが色告げされていく。派手なピンク、いやマゼンダカラーへと。

 次の瞬間、腰にぶらさげていたカードを収納しているライドブッカーからカードが次々に飛び立つ。

 

 クウガ アギト 龍騎 ファイズ ブレイド 響鬼 カブト 電王 キバ

 

 9枚のカード。九人の仮面ライダー。消えたはずの姿はカードに戻っており、それそれが天へと飛びだった。

 そして、

 

「止まっただと……」

 

 隕石が瓦礫が。全てが停止していた。音も風もなくその場には士とリツカの声や息する音しかしない。

 二人が困惑しているとコツコツと音が聞こえてきた。

 音の方へと顔を向けると、科学者の様な男が再び姿を現し、士たちの前で止まった。

 

「君は真の力、の一端を手に入れることができた。しかしその代償は大きい。君はディケイドとしての力以外を失うこととなる」

 

「なんだと?」

 

 それは恐らくはさっきの9枚のカードのことだろう。

 

「仕方がない。僕にとってもこれは予想以上のことだった。本来ならば君には全ての力を持って挑んでほしかったが、過ぎたことだ。その代わり、僕と僕の仲間たちがしばらくの間、この世界の破壊を食い止める。その間はよろしく頼むよ」

 

「あ、おい!」

  

 科学者の様な男は消えてしまった。そして士とリツカの二人はオーロラに包まれ、場面を藤丸家へと移す。

 テーブルやイスが並べられ、カウンターの奥からコーヒーの匂いが香る。 

 間違いない。いつもの喫茶店。だがそこは静寂に包まれていた。

 

「お父さんとお母さんは!」

  

 リツカは両親を探して家中をまわる。だが二人は見つからなかった。

 項垂れリツカは士の元へと戻る。

 

「二人ともいなかった…… もしかして私たちを心配して探しに行ったんじゃ……」

 

「リツカ…… こんなもの、うちにあったか?」

 

「へ?」

 

 喫茶店の奥。そこには巨大な一枚の絵が。

 それもただの絵ではない。写真館にある写真を撮影する際に背景にするための絵だ。

 

「なによこれ……」

 

 リツカは絵を見て歯噛みする。

 それは怪物が人を襲い、隕石が街を破壊する絵だった。

 今の状況を表した絵を見て、リツカは怒りを覚える。

 誰がこんなふざけたものを。誰がこんなふざけたことを!

 リツカは怒りに任せ、絵を破ろうと近づく。

 すると上から別の絵が降り、世界の終わりの絵を覆い隠した。

 

「え?」

 

「これは…… !」

 

 新たな絵。そこに描かれているのは大きく並んだたくさんの風車。その風車の下をバイクで駆け、背中を見せる緑と黒の仮面の戦士。

 

「旅が始まるのか」

 

 何も覚えていない。そのはずの士の口からは自然と言葉が漏れていた。

 

 



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