ネトゲ系主人公他が大変雑に異世界に放り込まれたようです (ぱちぱち)
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大変雑な異世界に放り込まれたらしい

思い付きを書きなぐったので大変雑な仕上がりになってますご了承ください

1日経ったので匿名解除。思った以上に見てもらえてよかった。

誤字修正、あんころ(餅)様ありがとうございます!


 頭痛と眩暈になんなら気持ち悪さもプラスしたような最低の気分だった。

 最初は友人に誘われて参加した『The World』。初めてプレイした日に起きた怪現象……意識不明の未帰還者になった友人ヤスヒコ。

 自分を救ってくれたアウラに与えられた腕輪。冒険を助けてくれた仲間達。

 走馬灯のようにそれまでの冒険が頭を過り、ふっと全身を貫く不快感が消え去り――

 

「……ここは、どこだ?」

 

 鼻を擽る様な草の香りに、カイトの意識は現実(リアル)へと戻ってきた。

 

「よう、目を覚ましたか」

 

 起き上がり、周辺を見渡すカイトに背後から声がかかる。慌てて立ち上がり背後を見やると、そこには自分と同年代位の少年が立っていた。

 黒いコートに身を包んだ彼は、驚くカイトの様子に苦笑を浮かべると敵意がない事を示すように両手を上げる。

 

「あ~、まぁ警戒するなよって、言っても難しいか」

「君は……」

「キリト。これ以上近づかないから、少し話そうぜ」

「……わかった。僕は、カイト」

 

 両肩の剣に目を向けるカイトにさもありなん、と頬を引きつらせてキリトは両手を下す。

 現実世界にもし彼のように2本も剣を抱えている奴がいれば通常は警戒する。当然のことだ。

 そして、そんなカイトの態度に彼がこの場に放り込まれたばかりだと確信を抱き、キリトは口を開く。

 余計な乱入者(クソ馬鹿野郎)がやってくる前にある程度話しておかねばいけないのだから。

 

 

 

「そんな、バカな」

「俺も同じように思ったし同じ事を言ったよ」

 

 この世界(ここ)についての話を進めていく内に怪訝そうな顔つきから詐欺師を見るような視線に変わってきたカイトに、キリトは頬を掻きながらどう説明していくべきかと頭を巡らせる。

 彼の存在は、自分や仲間達にとっても死活問題。正直ついてきて貰えなければ非常に困るのだ。

 

「まぁ、落ち着いて考えてみてくれ。周囲を見て、ここが日本のどっかだって思うか?」

「……それは、難しい、けど」

 

 周囲――木々に囲まれた森を指さしてそう言うキリトに、カイトは不承不承といった体で頷いた。

 何故か鋼鉄で出来たそれらの木々は、その鈍色の樹肌で日光を反射し、深い森の中であるというのに不思議と周囲を明るく照らしている。

 鋼鉄の樹肌……である。

 少なくともカイトの知る現実世界のどこにも――それこそ無限とも思える『The World』の世界のどこかにはそんな場所もあるかもしれないが――存在しない代物である事は一目瞭然だった。

 カイトの表情を見ながら、キリトは再び。受け入れきれないカイトに理解できるようにゆっくりと、先ほどと同じ説明を繰り返す。

 

「信じがたいかもしれないが……ここは現実世界(リアル)だ。でも、俺たちの世界じゃない」

「……そう、……だね」

 

 キリトの言葉に頭を悩ませるように眉を寄せ、帽子を脱いで(・・・・・・)頭をかいた。

 そう、これだ。この帽子を脱ぐという行為。

 自分の記憶ではデータでしか存在しなかったはずの帽子の肌触り、重さ。それらがカイトを悩ませる。

 なんなら自分が来ている服や、グローブ。そして、意識すれば取り出せる双剣。それら全てから感じる確かな質感。

 これこそが全てを物語っている。

 このアバターは『The World』で自分が使用していたカイトの物だ。

 だが――『The World』には5感なんて機能は実装はされていなかった。

 それに近いような物は存在していたが。

 

「へぇ、自由に取り出せるんだな。それがそっちのシステム(・・・・)なのか」

「うん。あと、スキルやアイテムも使えるみたいだ」

「そりゃ良い。戦力になる奴なら大歓迎だよ……俺らも余裕がないからな」

 

 感心したようなキリトの声に頷きながら、彼に目を向ける。

 一時の混乱が収まってくると、今度は他の事が気になってくるものだ。

 彼の格好を見る。黒いコートに肩に担いだ2本の剣。自分と同じく双剣使いなのかと思ったが恐らくは違う。少なくとも彼のジョブは自分と同じ『双剣士』ではないだろう。

 いや、同じ『The World』とはまた別のゲームのアバターの可能性もある。現に彼は幾度となく「そちらの」という言葉を使っている。

 ここから推測できるのは恐らく自分と彼以外にも似たような境遇の者がいて、彼はそちらや自身と己を比べているのだろう。

 

 つまり、だ。

 

 今現在彼は、何故か自分本来の体ではなく自身がゲームでプレイするアバターのカイトの中に精神を同化させ、そして縁も所縁もない少年を命綱に良く分からない世界の森の中を歩いている、という訳だ。

 

 ここまで考えて己の絶望的な状況を思い知り、カイトは深く息を吸い込んだ。深く、深く……そして、吐き出す。

 いきなり深呼吸を始めたカイトにキリトが怪訝そうな表情を向ける。懐疑の視線、これはいけない。彼との友好関係は先ず最優先でキープするべきだ。頭の中でスイッチが切り替わる。

 同年代である彼とは話しやすいだろう。まずは彼の言う仲間達の人物を把握し、その上で自身の役割を決める事だ。キリトは話す限り善良な人格のように思える。仲間達という人々がどのような人間か分からない以上彼との関係性は重要だ。

 大丈夫。いつだって諦めなければ乗り越えることが出来たんだ、どんなに絶望的な状況でも。それがまたやってきた、それだけの話だ。

 

「ごめん、ちょっと頭が混乱していたから」

「ああ、いや。良いよ、俺もそうだったから。俺たちが拠点にしてる場所まで少し歩くから、ちょっと考えを纏めてても大丈夫だ」

「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ、それよりも余裕がないって言ってたけど」

「ああ、それは――」

 

 二人がその場から飛んだのはほぼ同じタイミングだった。

 

 ズバンッ、という乾いた破裂音の後。彼らが先ほどまで自分が立っていた場所を見ると……土埃の中から大きな、人一人は楽々と入りそうな穴が開いているのが目に入った。

 双剣を取り出していたのは恐らく反射のなせる業だろう。カイトはとっさにアイテムから騎士の血――物理防御力を一時的に引き上げるアイテム――を取り出し、自らへ振りかける。

 

「キリト、バフアイテムだ!」

「! 了解、頼むっ」

 

 叫び、投げる動作をするカイトにキリトは一瞬身構え、躊躇しながらも了承の叫びを返す。投げつけられた血液の入った小瓶に眉を顰めながらもそれを自らに振りかけ、バフがかかったという実感を感じる間もなく残った小瓶をキリトは前に向かって投げつける。

 

 それを剣ではじき返して、それは表れた。

 

「ちっ……索敵漏れてんじゃねーか」

「なんだ、こいつは」

 

 悪態をつくキリト。目を見開き、目の前の異物を凝視するカイト。共に目の前の存在に対して脅威を感じながら、二人は剣を構える。

 

 それは、異形だった。

 大きな体は人体のような形をしているが人間よりもはるかに大きい。恐らくは3、4メートルはあるだろうか。その肉は緑色で、ぶよぶよとうごめいているかと思えば鱗のような皮膚になっている場所もある。

 極めつけは眼だろう。本来なら目がある筈の顔の部分には代わりに触手のような物が生えており、それはキョロキョロと周囲を見回すような動作を繰り返している。

 

「……気持ち、悪い」

「だろうな。モドキを見た奴はみんなそう言うぜ」

 

 吐き気をこらえるように呟くカイトに、キリトはそう答える。軽口のような口調だが、その表情は重く、暗い。

 モドキと呼ばれる魔物の中でも、この巨人モドキは強敵だ。一撃の重さが尋常じゃなく、ゲームではほぼ限界まで鍛え上げたキリトのアバターですら一撃貰えば危ういほどの。

 今日、こちらに墜ちてきた(飛ばされた)カイトが実は大出力の魔法を扱えるというなら話は変わるが、それを確認する前に面倒な手合いに遭遇してしまった。

 

「カイト、こいつは出来れば魔法か何かでぶっ飛ばすのが一番だ!」

「つまりそれが無ければ?」

「気合だな」

「りょうかい……きたっ!」

 

 モドキと呼ばれたソレは右腕をぶゆぶよと動かしながら変形させ、槌のような形にした後。その巨体からは信じられないほどの速度でカイトに向かって走り始めた。

 思った以上の速度。だが、対応できないほどのものではないそれにカイトは動きを合わせる。振り下ろし、そしてそのまま巨体をまっすぐ倒れこませての押しつぶし。

 自身よりも巨大なモンスターとの戦闘経験はリアルとなった現状でもカイトの血肉となって動いてくれる。

 すれ違うように身をかわし、足を双剣で薙ぐ。バランスを崩した所に交差した剣を突き立て、切り飛ばす。

 直後、彼は背後に大きく後ずさる。

 切り飛ばされた足の断面から自身に向かって伸びる触手に気づいたからだ。

 

「ナイス! 援護入れる必要はなさそう、だな!」

 

 そう言いながらキリトは懐から小瓶のような物を取り出し、カイトが切り裂いた断面に向かって投げつける。

 

「火炎瓶だ、破片に気をつけろ!」

「なんでそんな物」

「焼かねーといつまでも再生するんだよ!」

 

 キリトの叫びを理解した瞬間にカイトは身を翻してその場から離れる。直後、背後で爆発音。とっさに身を地面に投げ出し、カイトは爆風から身を守った。

 

「すぐに復活するぞ!」

「あーもー、こいつ嫌いっ!」

 

 両手に剣を構えたキリトがそう言ってモドキに向かって剣を振るい始める。地面から飛び起きたカイトは周囲の状況を見回し、モドキが起き上がろうと両手を地面についているのを見て取ると、即座にその手の腱に当たるだろう部分に斬撃を加える。

 

 カイトはちらりとキリトに目をやると、彼もカイトの言いたいことを察したのだろう。反対側に回り込み、そちらの手に攻撃を加えてくれる。

 モドキは両手に攻撃を加えられて耐えられなかったのだろう、再び地面へとその体を横たえる事になった。

 咄嗟の連携であったが、上手くいった。互いに熟練のプレイヤー、戦士であった事が大きいだろうが……後は再生に気を付けて、

 

「圧倒的にまずいからどけっ!」

 

 背後から飛んだキリトとは違うその声にびくり、と体を震わせ――

 

「あ……」

 

 自身に向かって行われている、攻撃のモーションへの反応が一歩遅れてしまった。

 モドキの体が槍状に変形し、真っすぐにカイトに向かって猛烈な速度で伸びてくる。だが、一瞬。ほんの一瞬だけ硬直してしまったカイトの体はその動きに反応できなかった。

 己を貫かんとする長大な肉槍。ゲームであればHPがあれば助かった。では、今は? これを受けて自分は生きられるのか。先ほどの穴は。死。

 様々な考えが頭をめぐり、そして。

 

 黄金の鉄の塊が、カイトの前に立ちふさがるように現れた。

 

 ズガンッ

 

 まるで城に破城槌をぶつけたかのような轟音。真後ろに居たカイトまで身震いするそれに、受けた本人は小揺るぎの一つもせずに盾を構えたまま佇んでいる。

 騎士、だろうか。彼の知る騎士、バルムンクを思わせる佇まい。それに、白い髪……バルムンクと違うと言い切れるのはその髪の長さと、特徴的な長い耳だ。

 

「エルフの……騎士?」

 

 カイトの言葉に騎士は意識を前に向けたままちらり、と後ろを振り返る。

 端正な顔立ちの男だった。肌は浅黒く、長い耳。ダークエルフとか、そういった種族なのだろうか。年のころは20から30の間の青年に見えるが、エルフという事は実年齢が幾らなのかは想像もできない。

 いや、もしかしたらカイトやキリトのようにこの世界の漂流してきた、ゲームのアバターを持った人なのかもしれない。キリトも数名の仲間が居ると言っていた。もしや彼も。

 

「あ、ありがとうございました!」

「気にするべきなお前を守ったわけじゃない。守ってしまうのがナイト」

「……あ、はい?」

 

 カイトの礼に対してエルフの騎士が答えるも、良く言葉の意味が分からずにカイトは曖昧な笑顔を浮かべたまま困ったように首を傾げた。

 そんなやり取りの中もモドキはうねうねと触手を操り彼らに対して攻撃を仕掛けてくるが、モドキ狩りに慣れているキリトはすでに距離を取っており、またカイトのそばに居るエルフの騎士はカイトと自身を盾と剣を用いて守り切っていた。

 

 そろそろ、頃合いだろう。エルフの騎士は木々に隠れて見えない上空に目をやり、背後に居る少年に優しく声をかける。

 

「お前俺を後ろから離るるなっよ」

「え、あ、はい! 離れません!」

「それで良いお前は本能的に長寿タイプ」

「あ……ありがとうございます?」

「おう目を閉じろ」

「へ?」

 

 カイトの返事に満足げに騎士が頷き、そして唐突に目を閉じろと言いだした事にカイトが思わず呆気にとられた時と。

 辺りを強烈な光が包み込み吹き飛ばすのはほぼ同じタイミングであった。

 

 

 

「えっ、この子新しい子なの!?」

「そうですよ……どうすんですかモモンガさんまたいきなり吹っ飛ばして」

「えぇ~。これ、俺が悪いの?」

「仏の顔を三度までという名セリフを知らないのかよ」

「「お前が言うな」」

 

 余りの光量と衝撃に気を失っていたカイトは、周囲のけたたましい程の喧しさに意識を取り戻した。この世界に降り立った時に匹敵する頭痛に思わず頭に手をやり、帽子がどこにもない事に気づく。

 あれっと周囲を見渡すカイトの目の前に、すっと煤や埃で薄汚れた彼の帽子が差し出された。

 

「あ……ありがとうございます」

「いやちょとアドバイスが遅かったからな」

「いえ……僕も油断があったので。生きてるだけめっけもんですよ」

「……今度の子すっごく良い子じゃない?」

「これは当たりですね」

 

 騎士の後ろ側で魔法使いらしいローブを付けた……骸骨? と眼鏡を付けたこちらもエルフだろう青年がぼそぼそと話し合っているのをしり目に、汚れた帽子をパンパンと叩いて被り直し、カイトは立ち上がる。

 

 周囲を見渡す。先ほどまで鬱蒼とした森だった場所は今や開けた広場のようになっている。文字通り、粗方吹っ飛ばされたのだろう。こんな惨状の爆心地に居たというのに頭痛がする程度で済んでいるのは、恐らく目の前に立つ彼のおかげだ。

 

「情けない所をお見せしてすみません。そして、ありがとうございました」

「気にするな俺は気にしない」

「あはは、はい。僕はカイトです、よろしくお願いします」

 

 すっと右手を差し出す。少し気難しい風に見えるが、彼の行動には一貫して気遣いの色が見えた。善良な人物なのだろう。言語は少し分からないが、そういう方言なのかもしれない。

 カイトの差し出した右手をじっと眺める騎士。彼は難しそうに眉をひそめた後、そっとカイトの右手を取った。

 

「俺はブロんトだよろしくカイト」

「あ、はい。ブロントさん」

「お前は長寿タイプ間違いない」

 

 カイトの返事を聞いたブロントは眼を細くした後。ふっと笑って彼の頭を帽子ごとぐりぐりとなで始める。

 ちょ、止めてくださいよと悲鳴を上げるカイトをしり目に、普段はちょっかいをかけられる担当であるキリトが安堵のため息をつき。

 骸骨と眼鏡が「これはもしかしたら数少ないブロントのストッパーが?」と熱く期待する中。

 大変雑に混ぜ込まれた彼らはまた一人かけがえのない仲間を手に入れ、今日も大変雑な世界を生き抜いていくのでした。

 

 

 

「ところで喉が渇いたな。どこか水場に」

「あ、それなら僕のアイテムボックスにジュースが」

「9本で良い」

「えっ?」

 

 

終わり。




一人だけ主人公じゃないって言われるかもしれないが主人公他となっているので嘘じゃないです(キリッ)
やろうと思いついてから半日くらいで書き上げたのでところどころ無理くりな所があると思いますが仕様です(土下座)



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ネトゲ系アイテムは意外と食べられそうなものが多い

続かないと言ったな。
あれは嘘だ。

誤字修正。赤頭巾様、あんころ(餅)様ありがとうございます!


「精霊のオカリナ? ほうほう、ダンジョンからフィールドへ戻る。これは後で森の内部で検証しなければいかんな。そしてこちらは……獣油? 油か! これは料理番のアース君が喜ぶぞ」

 

 そこは、小さなログハウスのような建物だった。

 

「種類は少ないけど、どれもはっきりとした効果のあるアイテムだ。これはありがたいですね」

 

 彼らが拠点と呼ぶ建物の中に案内されたカイトは、その中でも会議室とされている広めの部屋に連れてこられ。

 

「なんとか複製できないか試してみないといけませんね」

「そうですね。カイト君、すまないがしばらく君のアイテムは預からせて欲しい」

「あ、あはは。はい……」

 

 にこやかな表情を浮かべるエルフの術者と何故かアイコンで顔文字の笑顔を浮かべる骸骨に、絶賛アイテムをむしり取られていた。

 

 

 

「ああ、俺もやられた。俺はちょっとだが食べ物持ってたからシロエさん大喜びだったな」

「キリトも?」

「ああ。俺は一週間前に墜ちてきたんだけど、その時にはもう今みたいに後から来た奴のアイテムはシロエさんかモモンガさんが管理するようになってたよ。まぁ、最初はムッとするかもな」

「ううん、アイテムは良いんだよ。話を聞いたら、確かにって思ったから。でも、いきなりだったからびっくりしてね」

「ああ……まぁ、説明は受けたと思うけどさ。食い物、手に入らねぇんだよ。この辺りは」

 

 粗方のアイテムの説明と消耗品の提供(強奪)を行った後。

 ふらふらと会議室から出てきたカイトに、部屋の前で待機していたキリトが苦笑しながら話しかける。

 どうやらカイトがこの拠点内で落ち着けるまでの数日は、こういった形でキリトが補助に入ってくれるらしい。

 

「ま、俺もまだ落ちてきて間もないからあんまり力にはなれないかもしれないが」

「いや、ありがたいよ。同年代の人ってだけでも大分」

「ああ、それはわかるわ。俺はほら、ブロントが世話役だったから大変だった」

「おいィ?俺を呼びすてにするべきんじゃないさんを付けろよデコ助野郎」

 

 思い出したくもない、と顔を手で覆いため息をつくキリト。その様子にカイトが苦笑を浮かべようとした時、背後から絶妙に特徴的な言語が繰り出される。

 その声にキリトが再び深くため息をつく横で、カイトが背後を振り返る。

 

「あ、ブロントさん」

「カイと用事はもう終わったをか」

「はい。消耗品は全部預けてきました」

「おう。なら行くべ」

 

 カイトの言葉にむすっとした表情を浮かべたままブロントは小さく頷くと、くいっと自分の背後を親指で指さした後にそう告げて、くるりと背を向ける。

 その唐突さにキリトとカイトがきょとんっと互いの目を見合わせていると、付いて来ていない事に気づいたのかブロントは振り返り、二人に声をかける。

 

「ノロノロしてるとバラバラに引き裂いて死ぬ早くすべき」

「あ、はい」

「りょーかい」

 

 バラバラに引き裂かれては堪らないと二人は苦笑を浮かべ、先行するブロントを早足で追いかける。

 

 

 

 拠点と呼ばれる区域は、精々小さな集落位の大きさだった。

 ログハウスから出て周囲を改めて見回すと、近くの木々からどうにか伐採してきたのだろう、鈍色に輝く丸太が柵代わりに周囲をぐるりと囲む形で打ち込まれており、森と拠点を隔てている。

 柵がない部分は恐らく出入口なのだろう。少し大きな門のような物があり、2mは優に超えそうな巨躯の骸骨姿の騎士がいつでも門を閉じられるように控えている。

 また、内部に目をやると畑作を試みているのだろう区域があり、これまた骸骨姿のモンスターがせっせと鍬のようなものを使って土を掘り返す姿も見受けられる。

 

 ブロントの背を追いながらカイトはそれらの様子を眺め、この拠点という場所には人がほとんどいないという事に気づいた。

 骸骨はすべてモモンガと呼ばれる骸骨の魔術師が作成したモンスターで、足りない人力の穴埋めは彼がほぼ行っている。

 彼が一日に生み出せるアンデッドモンスターは中々の数にわたるそうで、周辺の見回りや先ほどの巨躯の骸骨騎士のように警備・農耕などの力仕事に重宝しているそうだ。

 

「拠点というか……中世の農村みたいだね」

「陽ロッパをど田舎であるかもしうぇん」

「昔の名残でってのは確かにそうですね。後は、外周に堀とか作っても良いかもしれませんね」

「それだつサとルの胃がマッハな目に合うことは火を煮るよりも確定的に明らか」

「サトル……?」

「モモンガさんのリアルの名前だよ。というか何で会話成立してんだお前ら」

 

 取り留めのない話を行いながら3人の歩みは進み、出入り口に近い場所に立つ小屋の前でブロントが足を止める。

 入り口に掛かっている暖簾のようなものに大きく【飯】と書かれたそこは、恐らく食事処なのだろう。

 ブロントはちらりとカイトやキリトを見ると、そのまま小屋の中へと入っていく。ついてこい、というのだろう。

 

「ここは食堂?」

「ああ。そういや俺も今日は何も腹に入れてなかったな」

 

 隣に立つキリトにカイトが尋ねると、キリトはそう答えてカイトを促しながら暖簾をくぐっていく。

 キリトの後に続く形でカイトが暖簾をくぐると、そこは思っていたよりも食堂らしい、それこそ日本でも良く見かけるような内装の場所だった。

 四角く切りそろえられたテーブルに合わせて作られたのだろう椅子。それらが2列4卓程並んでおり、調理場だろう場所とはカウンターのような物で仕切られている。

 小屋は切り出してきた材木で出来ているらしく、全体的に鋼鉄の鈍色で違和感があるがこれは仕方のない事だろう。それと、少し寒い気がする。

 ブロントは並ぶテーブルの一つにドカリッと自分が持つ剣を置くと、調理場へと足早に歩いていく。

 恐らく席を取った、という意思表示なんだろうが、他に客は見えない。まぁ一々別の場所に座る意味もない。キリトとカイトはおとなしく彼が指定した席に座った。

 

「俺を奢りだ飲め」

「あ、ありがとうございます」

「いやそれ、モモンガさんの無限の水差しだろ。ここの備品じゃねーか」

「黒。お前には心を広くすることが必要不可欠」

「意味わかんねーっつってんだろうがっ」

「まぁまぁ少し落ち着きましょう。今日は色々あって……うわ、この水美味しい」

 

 険悪なムードになりかけた二人の間に割り込むようにカイトが入り、二人の会話を途切れさせる。

 そして、カイトは水差しからコップに注がれた水を一口口に含み……あまりの水の美味しさに驚きの声を上げる。

 カイトもリアルでは様々な水を飲んできた。カルキ臭のある水道水やすっきりとした味わいの天然水。それに少し硬質なミネラルウォーターといった物も。

 だが、今この水差しから注がれた水はそれらのどれとも違う。ただの水に豊穣な味わいを感じたのは初めての経験であった。

 

「ああ、俺も最初は驚いたよ。ここの主食だからしっかり味わってくれ」

「シマの命水よりも美味いおれもそう思います」

「主食って……」

 

 カイトの反応に毒気を抜かれたのか。先ほどまでの一触即発な空気を霧散させたキリトとブロントの言葉に、カイトが苦笑いを浮かべる。

 

「あながち間違ってないから困るね。ここ、食材が取れないから」

 

 そんな3名に、厨房側から声がかけられる。

 そちらに目を向けると、料理着のような物を身に着けた黒髪の青年が人の良さそうな笑顔を浮かべてこちらに目を向けていた。

 

「アースさん」

「ブロント君。水差しは持っていったら戻してくれよ。ここには他に水源がないんだから」

「すいまえんでした;」

「うん」

 

 アースと呼ばれた青年が一言ブロントに苦言を言うと、存外ブロントは素直に頭を下げる。

 アース、という名前には心当たりがあった。彼がここの料理担当者という事だろう。

 彼はブロントの謝罪に一つ頷くと、すっと目をカイトに向ける。

 

「君が新しく落ちてきた子かな?」

「あ。はい、カイトです。よろしくお願いします」

「よろしく。俺はアース」

 

 にかっと笑ってアースは軽く手を振り、そのまま振り返ると厨房へ引っ込んでいった。

 そういえば先ほどからいい匂いがする。もしかしたら調理中だったのかもしれない。

 

「いい匂いだな。今日は何のスープだろ」

「スープは確定なんだ……」

「少しでも嵩増ししないとあっという間に食材が尽きちまうんだよ」

 

 今日何度目かも分からない苦笑をカイトが浮かべると、キリトは渋い表情のままそう答えてコップの中の水を飲みほした。

 

「俺も29日間スープしか飲んでないしなんなら半分は水を飲んでいた」

「それは流石に……ご飯とかは食べなくても、大丈夫だったんですか?」

「ナイトは高確率で最強だからご飯も我慢できるし水も美味い」

「水、美味しいですよね」

「うみ」

 

 ずずっとコップの水を啜り、3人は無言で頷きあう。そのまま数杯お代わりをして水差しを厨房に返した後に外に出る。

 これが大体のお昼替わり、らしい。

 

「食材……なんとかしないといけませんね」

「ああ。せめて3食食べてーよ……」

「30日スープしか飲まにいのは空腹が鬼なるし腹がはじけて死ぬ」

 

 口々に腹が減ったと呟きながら彼らは拠点の外周部沿いに歩き始める。

 食堂から少し歩いて到着したそこは、レンガで作られたのだろう小さな小屋だった。

 ここが彼らの寝床であり、これからカイトが寝泊まりすることになる宿舎だという。

 

「中は広いから安心してくれ。マジックアイテムなんだって」

「メガトンパンチでも壊れにい最高のナイトの寝床も最強だというのは分かり切った事ですね(実話)」

「……あんた、モモンガさんが見逃してるからって大概にしろよ」

「お前調子ぶっこき過ぎると怒りのパワーの力が全快になって隠された力を発揮する披露宴となる」

「あはは……二人とも落ち着いて」

 

 口元をひくつかせたキリトの言葉にブロントが普段と変わらないむすっとした表情で返すと、二人の間に一触即発の空気が流れ始める。

 間に挟まれる形になったカイトは引きつった笑みを浮かべたまま空を見上げ――そこで上空を飛ぶモモンガの姿を発見する。

 

「あ」

 

 何やってるんだあの人、とカイトが半ば現実逃避気味にそちらを見ていると、向こうもこちらに気づいたのか手を振り上げ。

 カイトの周囲を確認したのだろう、上げた手をそっと降ろして両手を合わせ「ごめんね」とでも言うかのように頭を下げた。

 

「いやいやいやいや」

 

 その様子に思わず口に出しながら首を横に振って助けてくれとジェスチャーのように手を振ると、無理無理とモモンガもジェスチャーで手を横にバタバタと振り始める。

 流石にその様子に気づいたのだろうブロントとキリトはカイトが手を振る方角へ目を向ける。

 二人に気づかれた事にモモンガは慌てたのだろう。わたわたと遠目で見ても分かるほどに慌て始め。

 背後から高速で飛んできた何かに激突されて大きな音を立て、そのまま墜落していった。

 

「……えっ」

 

 1秒から2秒の間の出来事だった。それこそ、少しゆっくり瞬きをする程度の時間。

 その間に激変した状況に、カイトとキリトが意識を一瞬飛ばした時。

 

「ちょとこれはsYレにならんでしょ」

 

 傍にいたブロントの一言で二人は我に返った。

 

「そうだ、モモンガさんは」

「サとルは頑丈だkら不安が鬼なるのはわかるがまずは自分を心配しる」

「でも、ブロントさん!」

「おまえもし化して言葉が、理解できない馬鹿ですか? 上、狂ぞ!」

 

 いつの間にか盾と剣を身に着けたブロントの言葉にカイトとキリトが身構える中。

 ドンッと上空から落下してきた何かが地響きを立てて地面に大穴を開ける。

 

ピィーッ!

 

 キリトが指笛を吹き鳴らす中、剣を構えたブロントはカイトとキリトを守るように盾を構えて二人の前に立つ。

 土煙が薄くなり、やがて晴れた後。それは、地面の中からもぞもぞとした動作で這い上がってきた。

 言葉にするならば、それは蝙蝠だとか、そういった存在が元になっているのかもしれない。

 恐らく元は翼なのだろう肉で出来た細長い骨のような物をぐしゃぐしゃと再生させながら、うじゅるうじゅると全身から生える肉の触手を手の代わりに使って、這い上がってきたそれは豚のような顔をしていた。

 前回遭遇した巨人モドキのように失った目の部分から伸びる触手をキョロキョロとさせ。大きくあいた口から声とも呻きともつかない音を響かせながら。

 

「ブロント、あいつ口がある」

「なにいきなり話しかけてきてるわけ?」

「口があるとどう変わるの?」

「統一性はないけど厄介な能力を持ってたりする。鳴き声で体が動けなくなるとか、口から高速の毒玉を吐くとか」

「ダイアモンド・パワーの精神力を持つおれれでもストレスで寿命がマッハなるんだが」

 

 軽口を叩きながらキリトは両肩に担いだ剣を構える。

 

「増援はすぐに来る。なんせ拠点内だからな、むしろ俺たちはあいつを他所に行かせないように引き付けておかないと」

「惹きつけるんじゃない惹きつけてしまうのがメイン盾圧倒的な戦力を見せせやう」

「……よし、触手は出来るだけ削いで、移動を邪魔しよう!」

「オッケー。正面は頼む、ブロント!」

「黒あとで屋上誤っても時すでにおすし(激怒)」

「喧嘩は後にして!」

「「hai!!」」

 

 二人に指揮を飛ばしてカイトは懐からスクロールを取り出す。

 生活物資になりえるアイテム以外は一部を見本として渡しただけでほぼ返してもらっており、こういった魔法使用のスクロールは戦闘時に惜しむことなく使用しても良いと言われている。

 ここでの最優先事項は生き残る事。そして、仲間を死なせない事。ここの指導部であるモモンガとエルフの術師シロエはカイトに対してそう伝えた。

 アイテムを惜しんで人を死なせてはいけない。この世界では、それがどういう結果になるかが分からないのだから。

 

「爆炎の魔法を撃ちます。その後に、キリトと僕で左右から触手を削いで移動手段を潰します。ブロントさんは相手の注意をひき続けてください!」

 

 カイトのスキルは使用時に若干の硬直時間がある。

 前回の戦闘ではこの世界で初めての戦闘に気が動転していたのとその硬直時間を気にして使用できなかったが、今は目の前に優秀なタンクが居る。

 この世界で自分の持つスキルが通用するのか。それを確かめる意味も声に含めて、カイトは爆熱地獄の巻物を開く。

 

【オラバクローム】

 

 カイトがアイテムを使用しそのスキル名を唱えた瞬間に、モドキの体の周囲に小さな炎が出現する。

 その小さな炎にキリトとブロントが怪訝そうな顔をした瞬間。

 

 ギュオオオオオオオオォ!

 

 小さな炎が回転し、そしてどんどんと規模を増していき。大きな炎の竜巻となってモドキを包み込むと、焼き尽くさんとモドキの全身を炎で削り始める。

 絶叫のような声をその醜く開いた口から垂れ流すモドキにカイトは手ごたえを感じてぐっと拳を握りしめた。

 少なくとも、彼自身の持つアイテムやスキルはこの敵に対しても有効である。これを確認できたのは大きい。

 

「キリト、油断せずに散開。ブロントさん、返しに気を付けてください!」

「あいよ!」

「黄金の鉄の塊で出来ているナイトが皮装備のジョブに遅れをとるはずは無い」

「それでも気を付けて!」

「ありあとu;」

 

 モドキが炎の竜巻に囚われている間に二人の剣士は左右に分かれ、攻撃の機会を伺うように剣を構えた。

 正面に一人残されたブロントはジリジリと距離を詰めるように近寄りながら、いつ何が起きても対処できるようにすっと剣を引き盾を構える。

 変化は、竜巻が晴れる前に訪れた。

 

 キュインッ

 

 という甲高い音が響いたと思った瞬間。

 一筋の閃光がブロントの構えていた盾に直撃する。

 その圧力に見る間に押されていくブロント。光というよりも高圧縮された何かだろうか。周囲に飛び散る液体のような物がカイトやキリトの目に入る。

 

「ふっ!」

 

 押されるままになっていたブロントが息を吐き、そして少しだけしゃがみ込むように体勢を入れ替える。

 彼の姿勢変化に合わせて盾も少しだけ上向きに変わり、横合いから噴射されていた何かは上空へとその力を逃がされ上空へと飛び散っていく。

 一瞬の盾捌き。妙技ともいえる技だ。

 

「上手い!」

「カイト、竜巻が途切れるぞ!」

 

 思わず感心の声を上げたカイトにキリトの声がかかる。その声に頭を切り替えてカイトはモドキへと意識を集中させる。

 竜巻が晴れたそこにいたモドキは、先ほどまでとは随分と様変わりをしていた。

 恐らく完全に削げ落ちたのだろう羽のような部位が焦げ落ちて、モドキの全身は芋虫のように細長い肉の塊のような姿になっていた。

 いや、一部分、顔の部分だけは先ほどと同じ形で、若干の焦げ跡はあるが豚の顔のような形を維持している。

 先ほどまで大きく開いていた口からは噴射口のような細長い管が伸びていて、そこからは未だに何か液体のような物が圧縮され、ブロントに向けて発射されている。

 

「あの口から出ているあれ。当たると不味い気がする!」

「完全鎧装備のブロントが一瞬で押し込まれたんだ。俺らじゃ貫通してもおかしくない」

「俺の寿命がストレスでマッハなんだがあやく助けてください;;」

「わかってる! スターバーストッ」

 

 ブロントの声に答えるようにキリトがモドキに向かって間合いを詰める。目にあたる部分の触角を再生させたモドキはそれに気づいたのか、その細長い体をくねらせてキリトへ頭を向けようと蠢き。

 

 ヒュンッと飛んできた一本の矢が、噴射口を打ち抜く形でその動きを食い止める。

 

「おっさん! 後でジュースをおごってやろう!」

「水ならいらないよっ!」

 

 ブロントは弓が飛んできた方角を見ずに盾を構えたまま真っすぐに突き進み、それを援護するように数発の矢がモドキの頭に突き刺さる。

 ちらりとカイトが矢が飛んできた方角を見ると、料理人風の衣装を着たアースが弓を持ち、飯どころの屋根の上に立っているのが目に入る。

 カイトがこちらを見たことに気づいたのか。彼はウィンクを一つするとまた矢をつがえて弓を射る。

 

「ストリームッ!」

 

 モドキの攻撃をカウンターでアースが潰した瞬間。

 キリトの斬撃の嵐がモドキを16度に分けて削ぎ落す。

 肉が触手となって自身を襲う前に斬り落とす。魔法を使えない、使わない剣士がモドキを狩る上で最もオーソドックスな対処方法。

 手数の多さでは恐らく拠点でも最速に近いキリトの斬撃は、モドキに反撃を許すこともなくモドキの右半身を刻んだ。

 痛覚はあるのか悲鳴を上げるモドキ。噴射口に矢が刺さったままゆらゆらと揺れる頭。

 

「魔双邪哭斬!」

「ハイスラァッ!」

 

 そんな好機を見逃すはずもなく。ブロントのグラットンソードがモドキの頭に叩き込まれ、間髪入れずにカイトの魔双邪哭斬が左半身を切り刻む。

 叩き潰された頭。刻まれた全身。再生する間もなく寸刻みにされ続け一撃必殺の威力を持つ一撃も弓矢に封じられた。

 モドキは足掻く様に全身から触手を伸ばして彼らから逃げようとするも、それらの動きは全て輝く糸のような魔法で防がれる。

 

「《アストラルバインド》。間に合ったか、良かった」

「シロエさん!」

「皆、助かったよ。モモンガさん、迎撃に出るって飛び出してったんだけどね……」

「あっちの森に……落ちてきました」

「ははは……後で探しに行かないと」

 

 頬をひくひくとさせながら笑うシロエ。雑談に興じるようにしながら、彼の指と杖は淀みなくモドキを拘束するように魔法を飛ばしていく。

 継続ダメージのある魔法を使ったのだろう。再生する度にダメージを与えられ、触手を生やす事も出来ず。

 剣士たちからの追撃も受け、モドキはどんどんその体積を削られていった。

 

「このまま削り切って、カイト君の魔法で終わらせるのがベストだね」

「そうですね……いえ、待ってください」

「うん?」

 

 詰んだ。そう確信したシロエの言葉に周囲が安堵する中、一つある事を思いついたカイトが己の右手を見る。

 或いは、もしかしたら。この体はアバターであるカイトの物である。その服装や所持品から、それは間違いないと彼は確信していた。

 だったら。出来るはずだ。

 己のアバターに宿るイリーガルスキル。TheWorldの女神アウラから託されたもの。一度は失い、そして再び授けられた腕輪の力。

 そして、現状をもしかしたら打破できるかもしれない。恐らく自身がここで行うべき役割。

 

「シロエさん、そのまま、拘束していて貰えますか」

「……カイト君、それは」

「もしかしたら、皆の助けになるかもしれない。試したいんです」

 

 輝く様に現れた巨大な”腕輪”を右手に宿し、カイトはシロエを見る。

 そんなカイトの様子。そして”腕輪”の存在にシロエは少し考えるように口元に手をやり、すぐにカイトに頷く形で返事を返した。

 

「なら、任せよう」

「おいぃ真っ黒クロエ」

「拘束はそのまましておくよ。後今度それ言ったら飯抜きって約束したよね」

「ごえんあさい;」

 

 黄金の鉄の塊が物凄い勢いで折れ曲がっているのを尻目に、カイトは”腕輪”の感触を確かめるように右腕を見る。

 予想以上に違和感がない。まるで元から自分に備わっている器官であるかのように腕輪が彼と一体化しているのを感じる。

 これなら、恐らくは問題なく使える。

 後は、結果次第だろう。

 右腕を拘束されたモドキに向ける。巨大化し、広がる腕輪の端末。

 周囲の人々が何事が起きるのかと息を呑む中。カイトの呟くような声が響く。

 

「データドレイン」

 

 右腕から青い電脳の奔流が放たれた。それはレーザーの様にモドキを貫き、そして何かを引きずり出すようにモドキの中を駆け巡ると、今度は逆流してカイトに向かい迸る。

 

「カイト!」

 

 キリトはその光景に焦りの声を上げた。そんな彼の声にカイトは笑みを浮かべて、心配ないと目で答える。

 事実、痛みはなかった。ただ、力。流れ込んでくる純粋な力の塊の扱いに苦慮しながら、カイトは右腕の腕輪を操る。

 少しずつ、青い電脳の奔流は腕輪の中に消えていき。やがて全てが腕輪に納められたとき、カイトの右腕には一振りの剣が握りしめられていた。

 少し残念に思いながら手の中の剣を見る。これはモドキから力――データを抽出し作り出したアイテムだ。

 場合によってはこれで食料が手に入らないかと思ったのだが、そう上手く事は運ばなかったらしい。

 

「カイト君」

「シロエさん。すみません、思った結果が」

「素ん晴らしいっ!」

「へ?」

 

 シロエはカイトに駆け寄って両手を握ると、ぶんぶんと上下に振り回す。握手なのだろうか、やたらと大仰である。

 

「こんな事が出来るなんて君はなんて素晴らしいんだ! ブロント係が出来そうなだけで大当たりだというのに」

「おいぃ」

「あ、いえ。喜んで貰えたら……いや、でも結果食べ物じゃ」

「十分すぎるよ、あれだけ大きな豚なら!」

「へ?」

 

 叫ぶシロエの言葉に呆気にとられたような顔をするカイト。

 シロエが指さす方を見ると、そこには先ほどデータドレインを行ったモドキ……ではなく、大きな体躯の豚が一匹横たわっていた。

 その首筋には一本の弓矢。アースの技が光る光景である。

 

「豚は食べられる個所がたくさんあるんだ。油も取れるし骨もトンコツスープに使えるし何よりも肉が食べられる!!! 久しぶりに!!!」

「待て、まずは血抜きだ! 処理を怠ったら折角の新鮮な肉が駄目になってしまう!」

「キリト君、ブロント、急いで飯所に運ぶぞ!」

「「アラホラサッサー」」

 

 駆け寄ってきたアースの指示に従い、剣を収めたキリトとブロントが豚を抱えるようにして急ぎ足で去っていく。

 その後ろをスキップするような足取りで歩いていくシロエとアース。いや、実際に途中からスキップしていたのかもしれない。

 後に残されたカイトは事態が飲み込めずにぱちくりと瞬きをし、自分が持っている剣を見て――難しい事を考えるのは一先ずやめておこうと結論を下し、シロエ達の後をついていった。

 

 

 完全に忘れ去られた形になるモモンガが戻ってきて早々祭り状態になっている食堂で盛大に機嫌を損ねる事になるのは、また別のお話。

 




記憶の底から引きずり出しているので各キャラの口調やアイテムが出てこなくて困る(白目)
情報提供してくれた皆さん、ありがとう!ありがとう!


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ブラック労働は撲滅されなければいけない

誤字修正。酒井悠人様、あんころ(餅)様ありがとうございます!


「ハイスラァッ!」

 

 ブロントの雄たけびと共に放たれた剣撃が巨人の姿をしたモドキの足を切り裂き、モドキはガクリと膝をつく様に地面に倒れこむ。その隙を逃さずにキリトが逆の足を刻み、体勢を立て直そうとするモドキの動きを阻害する。

 

「おつさん!」

「あいよ。おっさん……か。とほほ」

 

 ブロントの言葉に嘆くような言葉を呟きながら、アースの指は慣れた手つきで矢を放ち続けモドキの視界と行動の起点を潰し続ける。

 

 彼ら二人がここに墜ちてきて早数週間。幾度も繰り返したモドキに対する対処法は、すでに体に染みついたと言えるレベルにまで発展している。

 

 稀に良く出る口ありの上位種――先日のごちそう()のような奴は兎も角として、ただその体のみを武器とする通常のモドキ等は全身から湧き出る触手にさえ気を付ければ怖い相手ではない。

 

 まぁ、これまでは騎士であるブロントと狩人スタイルのアースでは基本的にモドキを削り殺す事が出来ず千日手となってしまう為に、ある程度削った辺りでモモンガ等の大規模破壊が可能な人物の止めを、というのがこれまでのスタンスだった。

 

「そろそろ良いかねぇ」

「今のハメは俺のシマでも有効」

「ま、リスクは限りなく抑えるのが狩りだしね。カイト君!」

「はい!」

 

 最もそれはつい数日前までの話。

 

 カイトが落ちてきたあの日から、貴重な資源獲得手段を手に入れた彼ら墜落者達にとって、モドキは脅威から採取に手間がかかる資源へとその価値を変貌させていた。

 

 削り役二人の声に答える様に今回は控えに甘んじていたカイトの声が森を走る。ヘイトを集めないように二人への支援に徹していたカイトは完全にノーマークの状態で右手の腕輪を発動させ。

 

 一度発動してしまえば同じ能力の持ち主でなければまず回避できない、改変の砲撃がモドキを貫いた。

 

 

 

「で、出てきたのが彼ら、と」

「放置しとくわけにもいかんしなぁ」

 

 手に持つ羽ペンを悩ましそうに指で弄りながら、シロエは報告に来たアースの言葉に口をへの字に曲げながら頷きを返し、彼の後ろで震える様にこちらを見上げる毛深い犬顔の小人(推定コボルト)に視線をおくる。

 

「こぼぉ……」

「ああ、大丈夫。君の事を食べようとしてるんじゃないから」

「こぼっ!?」

 

 へらっと笑うアースの言葉に驚愕した、とばかりの声を上げるコボルト。そのやり取りを眺めながら、シロエは最近日に何十度も呟く「物資がなぁ」という言葉を呟き、小さくため息をついた。

 

 もしもこれが一人二人ならシロエもここまで悩まなかった。だが、一匹二匹で済まなかった事が現状の問題なのだ。

 

 データドレインという新たな可能性を手に入れてから彼らは積極的に周辺のモドキを狩り続けた。結果、巨人型モドキは10ちょい、四足獣のような姿をしたモドキが8、そして口ありの上位種が3、という結果になった。

 

 四つ足のモドキは良かった。馬や牛、豚。それに中には熊といった存在もおり、後々にも役立ちそうな馬や牛以外は早速彼ら墜落者達の空腹を満たす為にここにいるアースの手で食料へと姿を変えている。

 

 そう、四つ足のモドキまでは良かったのだ。

 

 問題は巨人型と……そして上位種。いや、上位種3体の内の1体の中身。未だに眠り続けている”彼”の存在。

 

「モドキに取り込まれたらどうなるか……か」

 

 目の前でシロエとアースの会話を震えながら見るコボルトに視線を向け、シロエは眉を寄せる。

 

 人手が増える事自体は歓迎すべきことだ。いつまでもモモンガの生み出すアンデッドに頼り切りというのも問題があるし、コストなしで生み出せるアンデッドは正直それほど強いものではない。

 

 モドキの特性――恐らくだが他の存在を取り込む――といった物が明らかになった以上、無駄に弱いアンデッドモンスターを増やしてモドキの数を増やすのも面白い話ではないのだ。

 

 勿論アンデッドがモドキに取り込まれるかは不明であるが、可能性が出てきた以上は対処を考えておくのがシロエの性分であり、この拠点を維持している者としての責務でもある。

 

「家畜の数がもっと多ければ文句はなかったんだけどなぁ」

「そりゃあな。ま、だがこの近隣のモドキは粗方狩り尽くしたし……悪い話ばかりでもなかったろ?」

 

 そう言ってアースは手に持った”赤い木の実”をシャクリと齧り、ひょいっとシロエに向かって放り投げる。

 

 それを左手で受け取ったシロエは戸惑うことなく木の実を齧り……数週間ぶりの甘味に表情を綻ばせた。

 

「モドキをデータドレインで駆逐した周辺の木々は、鋼から普通の樹木に姿を変えていった。その木の実……多分りんごの仲間もな。そして、樹の一部だと思っていた小動物たちが姿を現した。こっからは俺の推測なんだが」

 

 戦闘班と同行する形で周辺の地形を認めていたのだろう。手書きらしき地図を手に取り、シロエの前に広げながらアースは言葉を続ける。

 

「ここと、ここ。それと、ここ。何だかわかるか?」

「いや……すみません、分かりませんね」

 

 彼の広げた地図に書き込まれたポイント。モドキが陣取っていた部分に〇のマークを付けられたそれにシロエは「後でこれ写本させてもらおう」と考えながら首を傾げる。

 

 シロエの言葉にさもありなん、と頷いてアースはその〇の近くに☆のマークを書き込んでいく。

 

「この☆のマークが入ってる所な」

「ええ」

「俺らが落ちてきた場所」

「……マジっすか」

「ああ。少なくとも俺とブロント、それにカイト君は間違いない。後の子は微妙に合流前に動いてたからわからん。あ、カイト君の場合も相手が移動してきたから正確にここかはわからんがまぁ連中の知覚範囲だったのは間違いない」

 

 現在判明している限り、連中の知覚は視力や聴力に頼っている場合が殆どである。

 

 つまり、ごく限られた範囲でしか連中はこちらの姿を確認する事が出来ていない、という事になるわけだ。

 

「連中から解放した範囲の状況を見るに、明らかにあいつらはこの世界にとって異物だ。この世界がどういった世界かは知らないが、幾ら何でもあんなのが自然に発生するとは考えられないからな。で、そのすぐ傍に俺らが墜ちてきた……と」

 

 ポリポリと頭を掻きながら、アースは小さくため息をつく。

 

「俺達がこの世界に墜ちた理由、何となくわかってきた気がしないか?」

 

 その言葉にシロエは頷きを返し――そして本日何度目かもわからないため息をついた。

 

 

 

「おまえもっと権虚さを見せるべき。こnままだと闇に塗れて死ぬ」

「いきなりどうした」

 

 シロエとの相談を終え、さてこのコボルトをコボルト達の為に立てた犬小屋と名付けられた(ブロント命名)平小屋に連れていくかとログハウスを出たら、待ち構えていたブロントがアースの行く道を遮るように立つ。

 

 眉を寄せるアースにブロントは再度同じ言葉を繰り返し、その返事を待つように彼の顔を睨みつける。

 

 態度と口調こそ悪いが、この浅黒い肌を持つエルフ?がそれほど悪意ある人物じゃない事はアースも理解している。ただ、彼の特徴的すぎる口下手とむすっとしたデフォルトの表情のせいで彼が言いたいことを理解するのは非常に難しいのだ。

 

 背後に連れているコボルトの「コ、コボォ~?」という戸惑いの声に頷きを返し、さてどうしたものか。と頭を悩ませるアースの視界の端に、特徴的なオレンジの色をした少年の姿が入ってくる。

 

「ああ、ちょうどいい所に。カイト君。ちょっと来てもらえないか?」

 

 餅は餅屋。何故か彼の言いたい事が理解できるらしいブロント係(カイト君)に間に入ってもらうとしよう。

 

 呼び止められたカイトはキョトン、とした表情でこちらを振り向き――そこに居る人間たちの姿に苦笑を浮かべて歩み寄ってくる。ええ子である。同じ状況なら他の人々は大概足早に去ろうとするだろう。

 

「いえ……前の仲間達でこういった事は慣れてますんで」

「それ慣れちゃダメな奴じゃないかな?」

「ハァ? ナイトはさらに憧れられるぞんざいだから」

「勝っちゃダメな勝負だぞ!?」

 

 無駄に対抗心を出そうとするブロントに言葉を返して、アースははたと気づく。

 

 今のやり取り、普段は理解するまで時間がかかるのにするっと自分の頭の中に入っていった。これがブロント係(カイト君)の力という事か。

 

 自身も無駄に戦慄しているアースを尻目に、カイトはブロントに話しかけ彼に対してブロントも一言、二言といった形で返事を返す。

 

 やがてブロント側から必要な事を聞いたのか。「成程」と小さく頷いて、カイトはアースに視線を向ける。

 

「アースさん」

「うん?」

「アースさんの今の受け持ちの仕事って、お伺いしても良いですか? 食堂と、後戦闘班の補助は僕も分かるんですが」

 

 言いづらい事を尋ねるようにカイトはそう尋ね、上目遣いでアースに視線を向ける。

 

 その言葉に正気に返り、アースはぽりぽりと顎下を指で掻きながら宙に視線を這わせる。果て、食堂と戦闘班の補助。それ以外の仕事、というと。

 

「鍛冶スキル持ちが居ないから鍛冶師だろ、それに木工スキルもあるから大工もやってるな。あ、あと森の状況が戻ってきてるから群生してる薬草の種類によっては薬剤師の手伝いも」

「わかりました。ちょっとシロエさんに文句言ってきますね」

「待った待った待った!」

 

 拳を握りしめてずんずんと歩き始めるカイトを背後から羽交い絞めにしてアースはそう叫ぶ。

 

 その叫びに周辺を歩いていた人々が何事かと彼らに視線を向けているが、ヒートアップしたカイトは止まらない。

 

「いやいや待ったじゃないですよ。一人に振られる役割が余りに多すぎる。アースさんが倒れたら何もできなくなるじゃないですか!」

「あー、うん。いや、俺元々一人で何でもできる器用貧乏型でロールプレイしてたからそういったスキルがあるけど、他の皆は難しいだろ。こういうの」

「それなら今から覚えていけばいいじゃないですか。少なくとも戦闘班の補助は削って、後の仕事も適性を見て少しずつ覚えれば」

「それは勿論俺達も考えたよ。でも、出来ないんだ」

 

 カイトの言葉に、アースではなく別の方向から声が飛んだ。

 

 その場にいた全員の視線がそちらに向き、そしてその場にいた人物の名をカイトが口にする。

 

「シロエさん!」

 

 その声に右手を軽く上げて答えて、さて困ったぞ。とばかりにシロエは苦笑いを浮かべる。

 

「いや、うん。カイト君が言いたいことも分かるし、俺達だってただ時間を過ごしていたわけじゃないんだ」

「でも!」

「失敗するんだよ。スキル持ち以外がやると」

 

 シロエに食って掛かるようにカイトが声を上げるが、アースの言葉が響く。

 

 再び周囲の視線を集めたアースは眉を寄せて言葉を続ける。彼にとっても今の現状――生産能力を持った人物の少なさは問題だと感じているのだ。

 

 だが、彼らもここまで遊んでいたわけではない。カイトが来る前、人員の割り振りに関しては何度も彼ら全体で話し合っていたし、何ならここで問題提起をしたブロントだってその話し合いには参加していた。

 

 だが、それらの話し合いを何度持っても結果は同じだったのだ。

 

「スキル持ち以外が料理を行おうとしても味は変わらない。精々塩を上からかけて塩味にするくらいだし、塩だって貴重品だからそうそう試せない。鍛冶はマジックハウス内の簡易炉で行っているが、こっちは良くて武器が劣化。悪ければ壊れちまう。大工に至っては材料を切り出す以外の作業を行えば材料自体が壊れちまう」

 

 ハハハ、と乾いた笑いを浮かべるアースは少し疲れた顔でそう言いながら一つ一つの理由を指折り数え、そして最後にため息をついた。

 

「おまえそれでいいのか? このmま寿命がマッハするのは火を見るより確定的に明らか」

「いいわけないだろ。こんな日本のブラック企業並みの状況ごめんだっつーの……どうしようもないんだよ」

 

 ブロントの言葉に苛立ちながらアースがそう返すも、その言葉には力がない。アースの体は現実の彼の体よりも体力にあふれた肉体だが、それとて限界がある。割と初期に墜ちてきた彼はそろそろひと月、この自転車操業のような状況を走り続けているのだ。

 

 いつか自分にだって限界は来る。多少余裕が出来た今こそ対策をしなければいけない。だが、その対策を打ちようがない。

 

 どうしようもないという危機感と閉塞感だけが彼らの胸を満たしていく。

 

 

「だが、ブラック労働は根絶せねばいけない!」

 

 

 ただ一人を除いて。

 

「モモンガさん!」

 

 うつむく一同の頭上から響き渡る力強い声。見上げると、そこには周辺の見回りから戻ってきたのだろうモモンガの姿がある。

 

 小脇に少女を抱えたモモンガは自身に視線が向かっているのを見回して確認すると、小さく頷いて自由な右手を天に振り上げ、大きく声を張り上げる。

 

「くたばれブラック企業! ホワイト労働万歳!」

「え、えっと。ば、バンザーイ」

「バンザイすればいいのか?」

「トラウマ掘り返されてるだけだからカイト君もそこの君も付き合わないで良いよ」

 

 稀に良くあるモモンガの奇行にやれやれと首を振りながら、シロエは付き合い良く両手を掲げる二人に言葉をかける。

 

 そしてモモンガの連れてきた少女に目をやり、それが自分の知らない人物だと気づいたシロエはパチクリと眼鏡の奥の目を瞬かせると未だに演説を行う骨に声をかける。

 

「モモンガさん。いやさサトルさん。少女を誘拐してくるなんて見損ないましたよ」

「ちょおおおっとシロエ君外聞が悪すぎるなぁその言い方は」

「俺この骨に誘拐されたの?」

「いや違うからね!?」

 

 慌てたように少女を地面に下し、モモンガはあたふたと手を振って自分の無実をアピールし始めた。

 

 まぁこの何だかんだで人間味を捨てきれないアンデッドがそういった犯罪チックな行為を行う事はないだろうと、ここにいる面々は理解しているのだが。

 

 とはいえ落ち込んだ空気を入れ替える良いタイミングでの乱入だったため、シロエはモモンガの存在を最大限生かす方向に舵を切り。結果モモンガは少女誘拐の濡れ衣を全力で弁明する羽目になった。

 

 勿論誤解はすぐに解けるのだが。

 

「酷いよ皆。一生懸命仕事して帰ってきたのに……」

「すみません、つい乗ってしまって」

「権力者にはへたにさかららない方がいいとおもう」

「俺一応ここのリーダー格だよね?」

 

 自分の扱いにモモンガが疑問符を上げる中。少女があのぉ、と小さく手を上げて周囲に声をかける。

 

「モモンガさんから、軽くお話を聞いたんですが」

「あ、ああ。君もどこかのゲームのPCかな。ええと、僕はシロ」

「生産職が足りないんですよね。俺、状況はまだ理解できてませんが料理とかお役に立てると思います」

「総員、全力で確保だっ!」

「落ち着け。お前さんが犯罪者になってどうする」

 

 飛び掛かろうとしたシロエを背後から羽交い絞めにしてアースが落ち着くようシロエに声をかける。

 

 尚もわめきたてるシロエに「彼も追い詰められていたんだなぁ」と後でコーヒーでも差し入れてやろうと決意し、アースは少女に視線を向けた。

 

 成程、パッと見では分からなかったが、恐らく魔法を付与された武具を身に着けているため彼らと同じ墜落者だろうか。生産職という事はこれらも自作の可能性がある。期待できそうだ。

 

「ええと、俺が今ここの拠点の生産関係を一任されてるアースだ。まだ状況を呑み込めてないと思うが、よろしく」

 

 自身のブラック労働状況を改善できる可能性にアースの声も少しだけ弾ませて少女に声をかける。

 

「あ、はい。俺の名前はユン、です。よろしくお願いします!」

 

 シロエとアースのやり取りに若干引いた様子を見せながら、少女――ユンは、そう元気よく名乗りを上げた。

 




若干尻切れトンボな感じですがここでいったん区切り。

ユン:オンリーセンスオンラインの不遇スキルマニア(違)
   尚中身は男。


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