戦姫絶唱シンフォギア 赤き弓兵 (一時凍結) (戒斗)
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無印 ルナ・アタック編
プロローグ
他作品に似ていると報告を受けたので各話を照らし合わせて、改訂版に差し替えていきます。
私立リディアン音楽院にほど近い一角にそれはひっそりと佇んでいた。
喫茶emiya
赤褐色のレンガ造り、店先に並べられた純白のテーブル席、店内では落ち着きのあるクラシックが流れ、ゆったりとした時間が流れている。
カウンター席の向こう側では黒いワイシャツ、同色のスラックスと白いエプロンで身を固めた褐色白髪の青年がなにやら調理を行っていた。
「エミヤさーん!」
「ふむ……そろそろ来る頃合いだとは思ってはいたが、存外お早いお着きだな、立花」
「えへへ~エミヤさんの新作デザートが楽しみでつい……」
ヒマワリのような笑みを溢す少々は立花響。
リディアン音楽院に通う花の高校一年生である。
「まったく……いくら楽しみだとは言え、果たすべきを果たす事が先にあるのではないかね?」
「え?それって───」
「はぁ、はぁ、やっと追い付いた……」
「親友と共に来ると言っていたのはどこの誰だっかな?」
「あぁ!ごめん未来ぅ!」
響の絶叫に僅かな笑みを溢しながら二人をカウンター席へと促す。
「さて、こちらが親友よりも優先された──」
「もう!エミヤさん!」
「失礼。生地に紅茶葉を混ぜて焼き上げた新作シフォンケーキと付け合わせの生クリーム、そしてアールグレイになります」
「わぁ!いい香り~!」
「流石ですね、エミヤさん」
「口に合えば幸いだが──」
フォークを手に取り、まずは生クリームをつけずにそのまま一口。ふんわりとした生地が口の中で解れ、生地に混ぜられた紅茶の香りとシフォンケーキのくどすぎない甘さが口の中に広がる。
次の一口は付け合わせの生クリームに浸けて口へ運ぶ。
きめ細やかな生クリームの食感がケーキと合わさり、また違った顔を覗かせる。
「「ん~~!!」」
「──その顔を見るに手を加えずとも問題ないようだ」
美味しさを体全体で表現する二人を見、やや大袈裟過ぎないかと思いつつも野暮なことは言うまいと微笑ましく見守る。
「これ絶対売れますよ!」
「それは重畳。お代わりもあるから、ゆっくりしていくといい」
「はい!」
「もう、響ったら……」
「構わんさ、小日向もどうだ?」
「……頂きます」
幾ばくか逡巡したもののデザートの誘惑の前に屈服するのだった。
「さて……」
新作ケーキを堪能し、日も暮れたため店内をあとにする二人を見送り、ポケットの中で振動する通信機を手に取った。
「仕事か?弦十郎」
『ああ』
ノイズだ
「撃て!撃て!撃てぇぇ!!」
隊長らしき男の号令に幾重もの火線が伸びる。
歩兵火器に戦車砲、まるで戦争でもしているかのような濃密な弾幕は標的を捉えることなく通過し、その後方へと消えていく。
「ちぃ!やはり通常兵器では歯が立たないのか……!」
極彩色の体を持つ異形、ノイズ。
体を別空間に跨がせ二つの世界での存在比率を操作することで物理的な攻撃を透過し、自身と共に触れた対象を炭化させる生物であり特異災害。
通常兵器であっても殲滅は可能ではある。
存在比率が増す瞬間にタイミングを合わせたり、効率を考えず間断なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能。
しかし、どちらも効率的かつ有効な対策とは言えず、特に後者に関しては周囲にノイズよりも深刻な被害をもたらす結果となった事例も報告されている。
既に防衛線は容易く突破され、部下達へとにじり寄る。
もはやこれまでかと諦めかけたとき、数条の閃光が部下に迫るノイズを射ち貫いた。
それも一度ではなく、まるで紅い流星のようにノイズへと降り注いでいく。
視線を上げればヘリからその流星が放たれており、よく目を凝らせば弓を携えた青年が放ったものだと分かるが、どう見ても番えた矢は一つ。しかし放たれた途端、複数に分裂したかのように見える。
矢を射続ける青年を押し退けるように一人の少女が姿を現し、そして──
──Imyuteus amenohabakiri tron
唄が聞こえた。
降り立ったのは蒼を基調とした刀剣を思わせる少女。
そしてその隣に降り立ったのは黒いアンダーの上に赤い外套を着込んだ青年。
特異災害対策室二課に所属する対ノイズの切り札。
『翼、エミヤくん。まずは一課と連携しつつ相手の出方を見て───』
「いえ、私一人で問題ありません」
『翼!』
「では私は援護に回ろう。ノイズが相手では私には荷が重い」
「ッ!誰が貴方の手など……!」
『すまん、翼を頼む』
翼と呼ばれた少女が苦虫を噛み潰したような顔のまま脚部のブレードを展開、小型ノイズを切り刻んでいく。
エミヤと呼ばれた青年が少女の殺傷範囲外及び攻撃の間隙を狙わんとするものを悉く射ち果たす。
「未だ信は得られん、か」
「奏を見殺しにした貴方を誰が!」
歌を口にしつつ気炎を吐くという器用な一面を見せつつ、攻撃の手を緩めない。
少女が手にした刀が巨剣へと変貌、人型ノイズを切り裂く。
青年は矢を番え放ち、また矢を番えて放つ。一ヶ所に留まらず絶えず、最もノイズを射抜きやすいポイントへ移動していく。そして放たれる矢は光を纏い一矢として外れることなくノイズを貫く。
かくして特異災害対策機動部二課参戦から十分と経たず、ノイズを一掃せしめた。
「状況終了、回収を頼む」
『了解』
インカムの通信を切り、身に纏う鎧……シンフォギアを解除した翼に視線を流すが、拒絶の空気を身に纏う少女の背に口にする言葉もなくその場をあとにした。
遠ざかっていく気配に人知れず息を溢した。
──あぁ、私はまた……。
奏を失ってしまった二年前の事件。
私と奏の《ツヴァイウィング》のコンサートに出現したノイズ。
奏は負傷した民間人を守り、彼もまた避難する人々を守りながらこちらを援護する戦働きをしたと言うのに私はただ自分の身を守るので精一杯だった。
泥沼の混戦を打破するために奏は自らの命と引き換えに絶唱を口にした。
結果は人的被害を最小限に留めつつノイズの殲滅に終わった。
『私が天羽を引き留め、あの娘を保護させていればこのようなことにはならなかった。どんな罵詈雑言も怨みも甘んじて受けよう』
確かに彼がその気ならば奏が絶唱を口にするよりも早く、彼女を止めることも出来た。出来ていた筈なのに……。
しかし彼は逃げ惑う人々を守りながらこちらを援護していたのだ。人一人が抱えられる物事には限界がある。
分かってはいるのだ。
彼は自分という怒りの矛先を作ることで、引き裂かれてしまいそうな私の心を守った。
弁明も釈明もせず、ただ私が口にする……してしまう心ない言葉を彼はそれが当然だと肯定する。
その事に私は甘えてしまっている。
「人を守護する筈の防人がこの様とは……」
口を突いた言葉は夜空へと溶ける。
喫茶emiyaに明かりが灯っていた。
店内には店長兼コック兼ウェイターのエミヤと巨漢の男性というアンバランスな組み合わせ。
エミヤがコーヒーを差し出すと「ありがとう」と口火を切った。
「すまない、エミヤくん。本当ならば憎まれ役は大人である我々が引き受けるべき役回りなのだが……」
「構わんさ、そちらは大人と子供そして上司と部下、そして叔父と姪。それに引き換えこちらは司令が連れてきた記憶の無い何処の誰とも分からない馬の骨。どちらが恨みやすいかと問われれば間違いなく後者だ」
そう、私が司令……風鳴弦十郎に拾われたのは二年前、あの事件の数ヵ月前。
それ以前の記憶は曖昧で不明瞭。エミヤという名もなにも思い出せない記憶の中に残された記号であり、自身の名であるのかですら分からない始末だ。
分かっていることは、料理の腕が確かなこととシンフォギア以外でノイズに対抗できる魔法のような力を行使し戦えるということ。
そしてこの力がなんなのかを理解できているということだろうか。
魔法ではなく魔術。
一度見た物品を鏡に写る虚像として実体化させる《投影》。
造り出せる物は刀剣ならば自身の消耗を気にせず扱えるが、それ以外となればそれ相応の体力と魔力……とも言える何かを消耗する。
刀剣を矢として射るのもノイズとの接近戦を避けるため。自分が何者なのかを思い出せるまでは死ぬつもりはない。
そして体の奥深くで誰かが叫ぶのだ。
この力で誰かを守れと。
「それに私は成人しているのかどうかすらも定かでない。ともすれば、とっくに司令の言う大人の仲間入りを果たしているかもしれん」
十代後半から二十代後半、そんなナリだ。
「どうにかせんといかんな。君と翼も」
「そしてノイズのことも」
この先の未来を暗示しているかのような黒いのコーヒーを飲み干し、空になったカップにまたコーヒーを注いでいく。
改訂版への差し替えが終わり次第、最新話を投稿します
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