大英雄のデスゲーム (ユフたんマン)
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始動

突然だが俺は転生した。本当に唐突だとは思うが許してほしい。

目覚めたら既に赤ん坊になっていたのだ。死んだ記憶はない。ない…よな?うん、ない。

 

初めは困惑していたが、今ではもう既に慣れた。現在、この世界に生まれて20年。西暦2022年、前世で俺が生きていた時代と大差ない世界だ。しかしこの世界は前世よりも科学技術が優れている。

あと少しでソードアート・オンライン、略してSAOというVRMMORPGのサービスが開始される。この技術が前世との大きな違いだ。

それは五感を接続し、電脳世界に入り込むという『フルダイブ』といい技術だ。俺にはそういう知識は無い為、詳しくは語れないが、要するにゲームの世界に入れるという、小さい頃の夢が叶うということだ。まあアニメや漫画などではログアウト不可などがお約束な展開なのだが…まぁ現実では流石にないだろう。

 

名乗り忘れていたが俺の名前は神田真人(かんだまさと)。生粋の日本人…である筈なのだが…

 

 

 

 

 

 

身長約250cm…体重約300kg…肌は鉛のような色…溢れんばかりの筋肉で、巨人と見紛う巨躯を持った巌のような肉体…

 

 

 

そうだ…Fateのヘラクレスになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでさ!?因みに親は平均の身長に体重、どこからどう見ても平凡な日本人である。何故俺だけこんな巨漢なんだ!?こんな平和な世界で不便すぎるんだが…服に筆記用具…全てが全てオーダーメイドだ。

まぁそんな俺を育ててくれた両親に感謝だ。

しかしバーサーカーのヘラクレスの容姿だが普通に話すことができる。そして人外染みた怪力も宝具『十二の試練(ゴッド・ハンド)』ない…と思う。死にかける程の重傷を負ったことがない為わからないが…

 

さて、そろそろサービスが開始されるな…そろそろ準備するか。

 

運良く手に入れたSAOを、起動用の機械『ナーブギア』に差し込み、ベッドに寝転がる。

 

「リンクスタート」

 

そう声を発すると、ヘルメット型のナーブギアは起動し、視界が光に覆われる。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

まずはキャラクター作成だ。名前をヘラクレスにし、次は容姿の設定に入る。といっても元より容姿は別にリアルのもので構わないので、容姿はリアルと同じにする。ロールプレイしたいな…けどヘラクレスってずっと◼️◼️◼️◼️◼️ッーーー!!!って言ってるしな…どう話せばいいのだろうか…

 

設定を終了するために、決定ボタンが現れ、俺は《YES》を押すと、英語で《ようこそ、ソードアート・オンラインへ!!》と浮かび上がる。日本語で書いたのは面倒くさかったからだ。許して欲しい。

 

次の瞬間、視界は暗転し、喧騒が耳に入り、目を開ける。そこには中世のヨーロッパ風な外観をした街並みが。

 

「…………。」

 

今日は大学があった為、ログインするのがかなり遅くなった。既にかなりのプレイヤーがレベルを上げて次の街に行っていることだろう。俺もすぐに追いつかなければ…

 

俺はメニューを開き、ひとまず片手用斧の《ブロンズ・ハチェット》を装備し、街の外へと出ようと足を進める。

すると…

 

 

突如リンゴーン、リンゴーンという鐘のようなサウンドが大音量で鳴り響き、俺や周りのプレイヤー達は飛び上がった。

 

「んな……っ」

「なんだ!?」

「なんじゃこりゃあ!!?」

 

 

周囲のプレイヤーも急な鐘の音に驚きの声を上げている。そういう俺もまだ心臓がバクバクとしている。はて…電脳空間に心臓はあるのか…?

まぁいいか。難しいことはわからないしこういうのは専門外だ。

 

 

 

ん?周囲のプレイヤーの体が青い光を纏っている?いや…俺もだ!!?

青い光の柱が俺を包み込み、街並みは薄れ、次に視界に映ったのは先程このゲームの世界に入った時にいた広大な広場だ。周りには先程と比べ物にならない程のプレイヤー達で犇いている。

 

「あっ……上を見ろ!!」

 

その叫びを聞き、俺は反射的に視線を上向けた。視線の先、広場の中央の上空には真紅の市松模様が染め上げていく。

そこに出現したのは身長20m以上ありそうな、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人の姿だった。

いや、違う。フードの中身は何もない。即ち空洞だ。そこにある筈の顔が無いのだ。

 

そしてその巨人の頭上には、赤いフォントで単語が綴られている。それは《System Announcement》と読める。

一瞬驚愕したが、運営のアナウンスか…と肩の力を抜く。先程から周りでログアウトが出来ないと騒いでいたが本当なのだろうか…

 

メニューを開き、ログアウトボタンを確認すると、確かにない。

 

広場のざわめきが終息し、皆が耳をそばたてる気配が満ちる。

そして、低く落ち着いたよく通る男の声が、遙かな高みから降り注いだ。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

そして“それ”は両腕を下ろしながら続けて言葉を発する。

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』

 

はぁー…茅場晶彦って確かこのSAOやナーブギアを製作した人だったよな…そんな人がGMで出てきたのか?

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》の仕様である。

諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

この城?この街に城はなさそうだが…

それにログアウト出来ないだと!?

 

俺の戸惑いは、次の茅場の言葉によって一瞬で吹き飛ばされてしまう。

 

『……また、外部の人間の手による、ナーブギアの停止、あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合ーーー』

 

 

わずかな間…

そこにいる全てのプレイヤーが息を詰めた、途方もなく重苦しい静寂のなか、その言葉はゆっくりと発せられた。

 

 

『ナーブギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

全てのプレイヤーが呆然とする。俺も茅場が言い放ったマイクロウェーブとかの意味はあまり理解されなかったが、そんな俺でも最も重要な点は理解出来た。

それはつまり、殺す、ということだ。

 

ナーブギアの電源を切ったり、ロックを解除して頭から外そうとしたら、着装しているユーザーを殺す。茅場はそう宣言したのだ。

周りはザワザワと集団のあちこちでさざめく。

 

茅場は嘘をついていない…そう考えた俺の動きは早かった。中央方面にいた俺はすぐに武具屋に向かう。

俺は何故かこの状況でも冷静だった。何故だかわからないが、取り乱すよりはいいだろうと思いながらも、プレイヤー達の間をするりするりと抜けていく。

 

広場の端に着いたが、何やら見えない壁でここから出られないようになっている。どうやら茅場の話が終わるまで出られないようだ。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君かのナーブギアかろ強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の体は、ナーブギアを装着したまま、二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して…ゲーム攻略に励んでほしい』

 

「何を言っているんだ!ゲームを攻略しろだと!?ログアウト不能の状況で呑気に遊べってのか!?こんなの、もうゲームでもなんでもないだろうが!!」

 

人混みの中で、一人のプレイヤーが叫ぶ。それが聞こえたかのように茅場は穏やかに告げた。

 

『諸君にとって《ソードアート・オンライン》は既にただのゲームではない。もう一つの現実というべき存在だ。

……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君らアバターは永久に消滅し、同時に

 

 

 

 

 

             諸君らの脳は、ナーブギアによって破壊される』

 

 

即ち…ゲーム内で一度でも死ねば…現実でも死ぬ…

 

先程、ログインする前に言っていた言葉が本当になってしまった。あれが正しくフラグという奴なのだろう。

この世界から抜け出すにはこの浮遊城アインクラッドの最上階、頂上の百層にいるボスを倒す必要があるそうだ。

ならば悠長に時間を使っていられない。俺達の体はどんなにいい施設でいい器具を使ったとしても限界がある。

持って…1年か…2年ぐらいだろう。

 

そして最後に配られたアイテム、現実の姿に戻る《手鏡》を渡されたが、現実とほぼ変わらない容姿をしている俺は殆ど変わらない。

 

 

『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君…健闘を祈る』

 

最後の一言が、僅かな残響を引き、消えた。

 

それと同時に見えない壁は消え去り、それと同時に武具屋へと駆け出す。

 

 

 

背後では悲鳴、怒号、絶叫、罵声、懇願、そして咆哮。

それを背に受けながら走った。

 

その時俺は死ぬことに関して何も思わなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

青いイノシシのエネミーに片手棍を振り上げ、叩き付ける。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッーーーーー!!!」

 

咆哮を上げ、叩き潰したイノシシは、ぷぎーという断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散った。

 

…◼️◼️◼️◼️◼️◼️(…少し戦い難い)◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️(リアルの方がもっと動けるな)…」

 

ん?待てよ…今俺って話せているのか?

 

◼️◼️◼️◼️◼️…◼️◼️◼️(あいうえお…やはり)◼️◼️◼️◼️◼️◼️(正常に言葉を発することが出来ない)…!?」

 

 

大きく息を吸い、吐く。もう一度息を大きく吸い…叫ぶ。

 

 

◼️◼️◼️◼️(なんでさ)ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出会い

現在、このデスゲームが始まってから一ヶ月が経った。

しかしまだ一層も攻略されていない。この調子でこのアインクラッド百層を攻略出来るのかと不安になってくる。

そして今日、遂に一層のボス攻略会議が、ここトールバーナの噴水広場で行われようとしていた。

 

「はーい!それじゃ、五分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!」

 

そう叫んだのは青髪の片手剣使いだった。顔はイケメン、そして俺には及ばないが長身と、女性がいれば惚れていたかもしれない。それにレアアイテムである髪染めアイテムを使用しているため、かなりの強者だろう。

 

「今日は、俺の呼びかけにに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

すると、噴水近くの一団がどっと湧き、拍手や口笛に混じって野次を飛ばす。どうやら顔見知りのようだ。そういう冗談を言えるほどに余裕が出来ていると考えると、喜ばしいことだ。

 

「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、言わずもがなだと思うけど……」

 

ディアベルはさっと右手を振り上げ、街並みの彼方に聳える巨塔、第一層迷宮区を指し示しながら続けた。

 

「…今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には遂に辿り着くってことだ。第一層の……ボス部屋に!」

 

どよどよ、とプレイヤーたちが騒めく。俺は驚いた。まだ彼らは二十階に到着していなかったのか、ボス部屋を見つけてなかったのかと。

俺は先程まで迷宮区に潜っていたのだ。俺が今装備しているのは片手用斧の《ハード・ハチェット》は、耐久値が現在確認されている武器の中で一番高く、三日三晩戦ってやっと使えなくなるくらいだ。攻撃力は並以下だが…

俺はそれを幾らか買い占め、迷宮区に三週間程篭っていたのだ。そのため、既に二十階のマッピングが終わっているのは必然と言っていいだろう。

そして納得する。道理で迷宮区で他のプレイヤーを見なかったわけだと。

 

「一ヶ月。ここまで、一ヶ月もかかったけど……それでも、オレたちは、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリア出来るんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

再びの喝采。今度はディアベルの仲間たち以外も手を叩いている者がいるようだ。

ディアベルは人をまとめる、人を率いる才能があるようだ。

俺は手を挙げマップデータを提供しようとするが、ある男の声に遮られる。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

歓声がぴたりと止まり、前方の人垣が二つに割れる。空隙の中央に立っていたのは毬栗を連想させる髪をしている男だ。彼は一歩踏み出し、ディアベルの美声とは正反対の濁声で唸った。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこは出来へんな」

 

「こいつっていうのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

 

唐突な乱入にも、表情を変えずに手招きしながら言う。

 

「わいはキバオウってもんや」

 

話が長かったため、短く伝えよう。キバオウと名乗った男が言いたいのは、この一ヶ月で死んだ二千人に、自分らだけ得してた元ベータテスターたちに金やアイテムを献上させて詫びを入れろ!ということだ。

名前のとおり、牙の一噛みにも似た糾弾が途切れても、声を上げようとする者はいない。

周りを見るに、言い返したくても言い返せないであろうプレイヤーが多数目に入る。

というかその二千人の中にベータテスターは入っていないのか?まぁそういうことは情報屋とかに聞かないとわからないが…

 

「発言いいか」

 

その時、豊かな張りのあるバリトンが、夕暮れの広場に響き渡った。うん、いい声だ。

声を発したのは身長百九十はあるだろうという巨漢だ。まあ俺の方がずっとデカいが…

肌はチョコの色で髪はなく、所謂スキンヘッドというやつだ。

噴水の傍まで進み出た筋骨隆々たる彼は四十数人のプレイヤーに頭を下げると、身長差の激しいキバオウに向き直った。

 

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」

 

「そ……そうや」

 

一瞬気圧されたように片足を引き掛けたキバオウだが、またすぐに威勢を取り戻し、爛々と光る小さな眼でエギルという男を睨め付け叫ぶ。

ふとそこで《隠密》を使いこの場を離れていく女性プレイヤーが目に入る。フードを被っていて顔は見えず、誰も気づいていないことから、彼女はかなり《隠密》の熟練度が高いのだろう。

俺も何度か噂で聞いたことがあるが、おそらく彼女は優秀な情報屋の鼠と呼ばれるプレイヤーだろう。小柄で頬に髭のようなペイントがあることからそう名付けられたらしい。唯一のフレンドが、彼女が攻略本を作成したと教えられた。

ひとまず俺も彼女を追いかける。今ディアベルたちに、このマップデータを渡すより、彼女に渡して攻略本を作ってもらうことを先にしておいた方が何かと早くなると思ったからだ。

 

まぁ人違いだったら人違いだったでまたこの広場に戻ってくればいい話だ。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

彼女、情報屋のアルゴは、現在、攻略会議が行われている広場から見えない位置で会議の行方を見守っていた。

 

「………………」

 

すると、突如気配を感じ、後ろをバッと振り返るとそこには鉛色の壁があった。

 

「こんな場所に壁なんかあったカ?」

 

そしてその壁を見上げると、そこには人の顔が…

 

「うおっ!?さっきまで広場にいたデカいオニーサン!?」

 

するとヘラクレスは驚くアルゴを無視し、指をススっと動かすと、アルゴにフレンド登録の申請が送られてくる。

アルゴは個人としてヘラクレスに興味があったため、これ幸いと承諾する。

 

彼、ヘラクレスは、このSAOの中でもかなり話題になっている。プレイヤー名は知れ渡っていないが、その巨躯から街に巨人が現れたなどで有名だ。

しかし、目撃情報がかなり低く、アルゴも何度かネタを手に入れようと彼を探し回ったが何処にも現れなかった。

恐らく迷宮区に篭っているのだろうとアルゴは踏んでいる。

 

「ヘラクレス、か…ヘラクレスのオニーサンはオレっちに何の用だイ?オレっちとフレンドになったのは何か依頼があるからじゃないのかナ?」

 

「………」

 

無言。圧倒的無言。彼は口を開こうともしない。彼は指は動かし、メニューをずっと弄っている。何かアイテムを出そうとしているのか、いや…指の動かし方を見るに文字を打っているのだろう。誰かと相談しているのだろうかとアルゴは待つ。

 

するとメッセージがアルゴに送られ、それを確認すると、差出人は何と目の前にいるヘラクレスからだった。

 

『俺は訳あって正常に声を発することが出来ない。よって君に伝えたいことはフレンドメッセージを介して行わせてもらう』

 

そこでアルゴはなるほどと理解する。正常に話せないということは、《FNC》と言われるフルダイブ不適合者である可能性が高い。確か五感のどれかが機能しなくなったりと、なかなかに致命的な障害だが、中にはフルダイブ不可という例もあるらしい。

 

「わかっタ。じゃあまずオレっちに何の用かを教えてくれないカ?」

 

『迷宮区の二十階のマップデータ及びポップするエネミーとボス部屋の情報を売りたい』

 

アルゴは驚愕する。先程のリーダー格で、最も攻略が進んでいたであろうディアベルが、二十階に続く階段を発見したばかりだというのに、もう既にヘラクレスはマッピングを終わらせ、ボス部屋を既に覗いているという。

アルゴとしては是非欲しい情報だ。しかし、無いとは思うが嘘の情報でないとは断言出来ない。そのため容易に買うことは出来ない。

 

『警戒しているようだな。まぁそれが当然だろうな。俺も君の立場なら警戒するさ。先にマッピングデータを渡す。それを見れば虚偽ではないと安心出来るだろう。代金は後払いでいい。』

 

「いいのカ?オレっちが逃げるかもしれないゾ?」

 

『そうなれば俺に人を見る目がなかったということだ』

 

「にゃはは、なんか面白いオニーサンだナ!まあそんなことするわけないけどナ。商売ってのは信頼が大事だからナ。」

 

ヘラクレスからマップデータを受け取り確認すると、二十階は全てマッピングが完了していた。

そしてボスの情報を聞くに、βテストの時とは変わらず、名前は《インファング・ザ・コボルドルド・ロード》、そして取り巻きの《ルインコボルドルド・センチネル》が三匹だ。そこからボスのゲージが一つ減るたびに三匹ポップし、合計十二匹倒さねばならない。

βの時とは仕様が変わっている可能性が高いが…

 

『金は1000コルでいい。それ以上は不要だ』

 

ヘラクレスはアルゴに1000コルを要求する。本当は無料で提供してもいいのだが、アルゴは借りを余り貸したくないだろうと配慮し、この金額にした。

 

「ちょっ!?それじゃ安すぎるゾ!?この情報なら2〜3000くらいの値が付くんだゾ!?いいのカ!?」

 

『いい。俺にそのデータの価値はない。無料でもいいが情報屋的には借りは無いほうがいいだろう?』

 

「むむむ…わかったヨ。それでいいなら…はイ、毎度あリー」

 

彼はコルを受け取ると、すぐに宿屋に向かって行った。

 

「ありがとナー!これからはヘラさんって呼ばせてもらうゾー!」

 

彼は眠そうに手をヒラヒラと手を振り、その場を去った。いつまで経っても彼が小さく見えることはなかった…

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

そして翌々日。トッププレイヤー全員は、アルゴが出版した攻略本を手にし、ボス戦に挑むためにレイドを組むことになったのだが…

 

 

俺にはフレンドがいない。

 

 

そう、俺がフレンドになったプレイヤーは二人、その内一人は故人、そしてもう一人はアルゴだ。

このゲームが始まってから少し経ったある日、βテスターのとある男と遭遇した。その男は、βテストの時は最前線で戦っていたという。

チャット越しだったが、話が合ったことにより、一時的にパーティーを組むことになったのだが…

 

彼は《アニール・ブレード》を入手出来るクエストで、実付きのネペントの実を割ってしまい、その臭いに釣られて集まったネペントに圧倒的物量により死んでしまった。彼が《隠蔽》で俺を見捨てて逃げようとした時点で区切りをつけ、俺はそこから木などの障害物を利用して逃げ果せた為、彼が俺を見捨てていなければ彼はまだ生きていたかもしれない。

まあ結果論なんてものは今更意味の無いことだがな。

 

さて…もう既に殆どのプレイヤーがパーティーを結成しているようだ。見事にあぶれてしまったな。

 

「なあ、アンタもあぶれたのか?」

 

急に話しかけられた。振り返るとそこには若干女よりの顔の少年と、フードを被った栗色の髪のロングヘアの少女、そして銀髪に赤い瞳が特徴的な小柄な少女の三人が目に入った。

あぶれているため、コクリと頷いておく。

 

 

最後の少女…何処かで見た覚えが…

 

 

「なら俺たちと組まないか。レイドは八パーティーまでだから、そうしないと入れなくなるぞ」

 

別に断る理由もないため、パーティー申請を送ると、すぐに承諾され自己紹介が始まった。

 

「俺はキリトだ。よろしくな。で、こっちのフードを被っている彼女はアスナだ。」

 

「私はイリヤ!よろしくねオジさん!」

 

 

 

 

 

イリヤ…?

 

 

 

嘘だろ…?

 



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