剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ (炎の剣製)
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001話 プロローグ

ある意味黒歴史を投稿していきます。


あの死が常に隣り合わせだった聖杯戦争が終結した。

俺の従者でありともに死戦を潜り抜けてきたセイバー………そして俺がもっとも愛した女性……ブリテンの英雄、アーサー・ペンドラゴン王。

真名をアルトリア・ペンドラゴン。

武装が解かれ青いドレス姿でともにその場にいた俺のほうを向きながら笑みを浮かべていた。

あれほど力強かった彼女のその姿は、今はもうまるで幻想のように儚く、

現界していられるのももうあと数分が限度だというのに彼女は微笑んでいた。

なにか言わなければいけないと言葉を捜すがどれも口には発せられない。もし今言葉を発したら俺は彼女を迷わせてしまうかもしれない。

そしてそんな俺の心情を察してくれたのか、彼女はゆっくりと口を開き、

 

「シロウ―――――」

 

きっとこれが最後に言葉なのだろうと俺は確信した。

 

「―――――貴方を、愛している」

 

その言葉とともに、

まばゆい朝焼けがさして俺は一瞬目を瞑ってしまった。

そして目を見開いたときには俺の前から彼女は姿を消していた。

自然と涙は出てはこなかった。

これが俺と彼女の別れとなるのだった。

 

 

 

 

 

そこで目を覚ます。そこはあの武家屋敷の俺の部屋ではなくどこかの森の中に佇む古い小屋の中だった。

体のあちこちから溢れている血が原因で気を失っていたのだろう。

 

「ッ……ああ、あのときの夢か。なんでこんな死に際のときに見たんだろうな?」

「やっと目が覚めたのね、シロウ……」

「イリヤ……」

 

俺の隣には俺ほどではないがボロボロになっていたイリヤの姿があり、残った魔力で俺の体を治療してくれていた。

しかし塞がらないほどに傷はひどく、だがイリヤは必死に魔力を流してくれていた。

 

 

だがなぜイリヤがここに一緒にいるのかというと、聖杯戦争が終結した後に、遠坂が聖杯の為だけに生きたイリヤの体を調べて判明した事なのだが、イリヤはホムンクルスの母親と切嗣とのハーフであり、生まれる前から魔術的な処置を施され、生まれ出た時には既に人間離れした魔術回路を持っていて、小聖杯として育てられた。

その後も、何重もの処置の結果、成長は10歳前後で止まり、長生きも出来ない体になり果てた。

それで遠坂は、封印指定を受けて日本に隠れ住んでいる高名な人形師『青崎橙子』を探し出してイリヤの新しい体を作ってもらうよう交渉した。

だがそう簡単に事が運ぶわけがなく等価交換でとんでもない金額を出された。が、俺の魔術特性を知り目を光らせて、

 

「知り合いの欲しがっている刀と他いくつかの額に見合った概念武装品を投影してもらえればこの件はチャラにしてやる」

 

と、言われ投影品を渡したら「これは確かに封印指定物だな……」と言われかなり冷や汗を掻いたが内緒にはしてやると言われ、なんとか難関をクリアしてイリヤの新しい体を手に入れ魂を移し変えたのだが、そこからが問題だった。

学校を卒業後に俺は切嗣の夢でもあった正義の味方を目指す為に世界に出ると話を持ち出したのだが当然、反対されどうしたものかと考えていたところで、

 

「それなら私がついていくわ。シロウ一人じゃアーチャー街道まっしぐらしちゃうからちゃんとお姉ちゃんが見張ってなきゃね」

 

と、イリヤから驚愕の真実を教えられた。どうやら聖杯としての機能でアーチャーを倒して吸収したときに得た情報でアーチャーが未来の俺の姿と分かったらしい。

そしてレイラインがアーチャーと繋がっていて聖杯戦争中に夢で過去を見たらしく薄々感付いていたらしい遠坂も、

 

「……確かに」

 

なんておっしゃられた……。

なんでさ……?

それで結局断ることもできずに仕方なくイリヤを連れて世界に出た。

 

それから5年が経過し、確かに今の俺はアイツと同じくらいの180cm代前後の身長、脱色した白い髪、そして、投影の酷使の代償として起こったのであろう、肌が浅黒く、瞳が銀色に変色して、黒いボディーアーマーに赤い聖骸布によって編まれた外套を纏ってまさにアーチャーそのものの姿になっていた。

夫婦剣の干将・莫耶を主に使うのも嫌になるがまさにアーチャーのそれである。

 

 

閑話休題

 

 

そしてなんでこんな小屋の中で二人そろってボロボロになっているのかというと、すでに俺の魔術の“投影”を隠匿もしないで何度も使っていた結果、当然と言うべきか封印指定をうけてしまい、幾度もの襲撃で何度も逃げに逃げて、今回もなんとか襲撃者から逃走することは成功できたが代償に致命傷を受けて今がその現状である。

 

「くっ……今度こそ、やばいかもな、これは」

「しゃべっちゃ駄目よシロウ。まだ血が止まっていないんだから……まったくあの時にわたしを見捨てていれば……」

「…それ以上はいっちゃ駄目だ、イリヤ。でないと怒るぞ?」

「うっ……ごめんね、シロウ……」

「いや、謝るのは俺のほうだ。イリヤをこんな危険なことに巻き込んでしまって……」

 

俺はなんとかまだ力が入る腕をイリヤの頭に乗せて撫でてやりながら謝罪した。

 

「そんなことはないわ! だってついていくって言ったのは私なんだからシロウが責任を感じることはないんだから!」

「それでも、だ。俺がもっとまわりに気を使っていればこんな事態にはならなかったんだからな」

「確かにシロウのしたことは認められるものではないわ……でも! シロウは今まで頑張ってきたわ。それだけは誰にも否定はさせない」

 

イリヤはこんな俺のために泣いてくれている。親父に女の子は泣かしちゃいけないと言われていたのに、ほんとダメだな、俺って……

 

「ありがとうイリヤ……でももう俺の体は動けそうにない。だから―――……」

「それ以上は言わないで」

 

せめてイリヤだけでも逃げてくれ、と言おうとしたが手で口を塞がれてしまった。

 

「なにか言おうとしているのはわかっているんだから」

 

むぅ、やっぱり顔に出てたか……あからさまに怒っているな。

 

「死ぬときは一緒だよ、シロウ……約束したでしょ?」

「……すまない」

「いいのよ。それよりお話しよう。幸い結界はまだ持続しているから襲撃者はまだ来ないと思うわ」

「(こんなときに……? いや、こんな時だからか)……わかったよ、イリヤ。じゃ何の話をするか」

「そうね……今、リンやサクラ、バゼット、カレン、それにタイガは何をしてるとかなんてどうかしら?」

「それはいいな。じゃまずは藤ねえからいってみるか」

「そうね」

 

それからイリヤとはいろんな話をした。

その中で特に遠坂の話題が出たらイリヤは過敏に反応して「いまだに金欠生活をしているんじゃないかしら?」

などとろくでもない話をしていたとき、

 

「それで……、……!?」

 

突然イリヤは話を中断して険しい顔をしだした。

 

「どうしたイリヤ?……まさか!?」

「……えぇ、いきなり結界が消滅したわ。それもたった二人の魔術師によって」

 

その事実に俺は驚愕した。イリヤの魔力量は聖杯戦争の時と比べれば小聖杯としての機能を無くし落ちたもののそれでもそのキャパシティは遠坂を上回るものであるがために、並みの魔術師が結界を破ろうとしても最低5人以上は必要でそれにかなりの時間を消費しなければそうそう破られるものではないからだ。

 

「まずいわね……あれ、でもこの魔力はどこかで―――……」

 

イリヤがなにかを言いかけた次の瞬間、ドカ――――ンと扉が蹴破られる効果音とともに、

 

「やっと見つけたわよ、二人とも」

 

そんな懐かしい声とともに二人いる一人が羽織っていた黒いフードをはずしたら、出てきた姿は最後に会ったときはまだ少女としての幼さが残っていたが、今では見違えるほどに大人の女性として成長した遠坂の姿があった。

 

「遠坂……?」

「リン……?」

「なに呆けてんのよ、二人して? そんなにわたしがここにいるのがおかしいかしら?」

「いや、だってな……」

「えぇ……」

 

俺とイリヤの反応に遠坂はため息をつきながら、

 

「はぁー……まぁ、ここは久しぶりと言うべきでしょうけど、イリヤがいてもやっぱりこんな結果になっちゃたのね?」

「「うっ!」」

「まぁどうせ士郎のことだからイリヤが止めるのも振り切って飛び出していったんでしょうけどね」

「うぅ……面目ない」

「別に、もう気にしていないわよ。でもね……士郎にイリヤ、あなた達はやりすぎた。いえ、名を知らしめすぎた、といったほうが正しいわね。

魔術の隠匿無しでの行動は、協会にも目に余るものがある。二人の行動で表に出ないでいい人物の名前まで出る始末だから。

ま、でもまだ世界とは契約していないみたいだからよかったわ」

「………それで? リン、あなたは私達を消しに来たのかしら?」

 

イリヤは平然とした態度をとっているが言葉には鬼気迫るものがあった。

それに対して遠坂は顔色も変えずに、

 

「ん―――……半分正解で半分ハズレといったところね」

 

なんて中途半端な返事を返してくれますよ。あ、なんかイリヤの背後に “ぎんのあくま” が降臨しているような気がする?

いや、きっと怪我のせいで目がかすんで見間違えたんだ。そうだ、そうしておこう。

 

「それじゃどうするんだ? 遠坂がここにいるってことは協会から大方『俺達の死体を回収しろ』とか命令を受けたんだろ?」

「えぇ、まぁね。でも私達は今は独断で動いてる身よ。情報はもらってないわ」

「は? なんでさ? じゃどうやってここに……」

「無論、独断で君達二人を探し出したのさ。私のルーン魔術でなら容易いことだ」

 

俺の疑問にもう一人まだフードを羽織っている人が答えてくれた。しかしこの声って、

 

「やっぱりトウコね?」

「やはり衛宮とは違い気づいていたか、イリヤスフィール」

「ええ、結界が破られたときにはもう気づいていたわ」

「そうか。しかし久しいな、衛宮にイリヤスフィール」

「はい。橙子さんもお変わりなく。しかし、よくばれませんでしたね? 仮にも橙子さんも俺達と同じ封印指定の身でしょう?」

「なに、わたしにとっては容易いことだ。三下の魔術師などに捕まるほど衰えてはいない。ま、話は変わるが二人にはこれに入ってもらう」

 

そういって橙子さんはトランクからどうやって収納していたのか分からないが二つの人形をとりだした。

 

「え! また体を変えることになるの!?」

「そうだ。お前たちの体を協会の連中に引き渡すにはこれしか方法はないからな」

「なるほど………ですが等価交換はどうしますか?」

「心配ない。これに見合うものを遠坂嬢が見せてくれるそうだからな。前払いとして素直に受け取っておけ」

 

それを聞いて俺とイリヤは遠坂の方を見ると遠坂はおもむろに一つの宝石を取り出した。

だが、しかし形状が変だな? まるで剣のような……? ん? 剣状の宝石? まさか!?

 

「リン? まさかそれって……」

 

イリヤもさすがに驚いているようだ。なんせ解析してみたらそれは頭が割れるような痛みが走ったがなんとか理解できた。

 

「宝石剣……か?」

「ご名答。まだ試作の段階だけどあなた達を送り出すだけの力は秘めているわ。でもさすがね、士郎。もうこれも解析できちゃうなんてね」

「まぁな。ん?……ちょっとまて、じゃなにか?もしかして俺達を平行世界に飛ばそうとか考えてないよな?」

 

できれば間違いであってほしかった。だが現実は実に非情である。

 

「また正解ね。士郎冴えてるわね。私もこんなことはしたくはないわ。でもね、もうこの世界には裏表どちらにもあなた達の居場所はないわ。だから並行世界に飛ばすわ」

「そうか」

「そう」

「案外反応薄いのね。これでも相当ショックを受けると思ってたんだけど」

「いや、もう俺もイリヤも分かりきっていたことだからな。むしろ現実を突きつけてくれてありがたいと思っているのさ」

「そう……わかった。じゃ、橙子さんお願いします」

「わかった」

「すみません。では、お願いします」

 

イリヤとともに頭を下げた。

そして橙子さんが詠唱を始めると、意識が途絶えそうになる。

イリヤは一回体験したから慣れてるらしくすました顔をしていた。

そして完全にそこで俺は意識を失い、気がついたときには目の前の地べたに俺とイリヤのもとの体がまるで死んでいるように横になっていた。

否、抜け殻だから実質は死んでいるといっても差し違えないだろう。

 

「成功だな。どうだ衛宮にイリヤスフィール?」

「大丈夫みたいね。でも変な感じがするわ」

「確かに……それになぜか懐かしさを感じるぞ」

「当然よ。なんせあなた達の今の体にはセイバーの鞘が分けて埋め込まれてるんだから」

「えっ!?」

全て遠き理想郷(アヴァロン)が! どうして!?」

「どうせあなた達は異世界にいっても無茶しそうだから餞別に入れさせてもらったわ」

 

それは否定できないところだな……じゃなくて!

 

「そうじゃなくてなんでアヴァロンがあるんだ!? あれはセイバーに返したはずだろ?」

「そう。士郎は確かにセイバーに鞘を返したわ。だからね……その、ね」

 

なんだ?急に歯切れが悪くなったぞ。それに心なしか顔が引き攣っている。

 

「………リン、もしかしてアーサー王の墓を荒らしたんじゃないでしょうね?」

「は?」

「うっ! やっぱりわかっちゃった?」

 

バツの悪そうな顔をしながらテヘッ♪なんて顔をしてやがりますよ。あ、なんか今頭のどこかで何かが切れる音がした。

 

「……遠坂? セイバー、いやアルトリアの墓を荒らしたってのは本当か……?」

 

あ―――、ついドスの入っている殺気を出してしまった。遠坂が思いっきり引いてるよ。

でも、しょうがないよな? なんせ墓荒らしなんてアルトリアに対しての冒涜以外のなにものでもない。

体が移ってアヴァロンもあることだし魔力も心なしか全快しているみたいだから前はそうそう出来なかったけど一回くらいカリバーンでも投影しちゃおうかな―――?

 

(ちょっ!? ねぇイリヤ! なんか士郎の魔力が私以上あるのは気のせい?)

(当たり前よ。私との魔術の訓練のときに正式な方法でパスをつないで無理矢理2本しか開いていなかった魔術回路に魔力を流し込んですべて開いたんだから。

最高27本はあったわ。それにパスを繋いでわかったことなんだけど本来魔術回路は擬似神経じゃない? でもシロウは神経そのものが魔術回路なのよ。だから常に魔力を流し込んで鍛えてあげてたの)

(なにそれ!? そんなに回路あったの? それに神経そのものが魔術回路っていったいどんな出鱈目な体なのよ!!)

(そうね。わたしもそれで最初は本気で解剖してやろうか? とも思ったけどシロウは特別だからなんにもしなかったわ。

あ、それと世界に出てすぐに一時期はいろんな国をまわって遺産巡りをしてたから宝具の数は神剣・聖剣・魔剣・銘剣と後、剣以外にも槍とか防具とかもなんでもありよ?)

(なっ!?)

 

「……もう話は終わりかね?」

「ひっ!?(アーチャー口調!?)」

 

 

その後、必死の遠坂の説得によりどうか落ち着きを取り戻したがどうにもいかんな。アーチャーもこうして摩耗していったのだろうか?

 

 

「じゃ、じゃぁもういいわね?」

「あぁ、私の気が変わらんうちにやってくれれば実に嬉しいがね?」

「シロウ……まるで本当にアーチャーよ? まぁわたしは仕事柄慣れてるからいいけどね」

「これはこれは……また面白い一面なことだな」

「(イリヤ? 慣れてるって……それに橙子さんも人事だと思ってタバコを吹かしながらけらけらと笑ってないでください……士郎本当に怖いから)…まぁ、いっか。あ、それと士郎に最後に聞いておきたいことがあるのよ」

 

怯え顔から一変して真剣な顔になり遠坂は話しかけてきてくれた。

きっと大事なことなのだろう。

 

「なんだ?」

「平行世界にいってもやっぱり戦いはやめるつもりはないの? まだ正義の味方はあきらめきれないの?」

「……そのことか。確かにこの世界に入ってアーチャーがなぜ摩耗したのか嫌でも思い知らされた。最初はそんなつもりはなかった。でも九を助けるために、一を捨てるという親父の理想もわかった節もあった。そしてさっき遠坂がいった世界って奴だけど、一度は声をかけられた」

「!?」

 

遠坂は驚いてるな。それはそうだよな。

 

「だけど、俺は受け入れなかった。結果、たくさんの人が死んだこともあった。

だから何度も挫折しかけたけど……でも、イリヤに励まされて立ち上がってきた。

そしてこれが理想の果てかはわからないけど、手が届く範囲だけでも助け続けようという一つの結論があった。

でもまだ迷っている。だから……まだわからない、何年かかるかわからないけどきっと自分にとっての答えを見つけてみるよ。それに……」

 

俺はイリヤを見て、

 

「イリヤが一緒にいてくれる限り俺は絶対に挫折はしない、夢はあきらめないよ」

「シロウ……うん! 絶対シロウの答えを一緒に見つけてあげる」

「……妬けちゃうな。いいパートナーじゃない。じゃ絶対に挫折なんかしちゃダメよ!

それと私からも大師父じゃないけど課題を追加ね。正義の味方もいいけどまず自分の幸せも考えなさい。最後の師匠命令よ。

もし挫折なんかしたらイリヤに変わって私が平行世界だろうとなんだろうと叩きのめしに行くんだから」

「あぁ、肝に免じておくよ。それとありがとな、遠坂、橙子さんも」

「なに、これが若さかってところを見せてもらって私としても見物代くらいはあげたいところだな。

そうそう、見物代ではないが私からも餞別だ。あちらにいって当分は苦労するだろうしね。紙幣じゃ心配だからいくつか宝石をやろう」

「あ、ありがとうございます」

 

渡された袋には高価そうな宝石がいくつも入っていた。

それをリュックに詰め込んでいたが、遠坂が物欲しそうに見ていたがここはあえて無視するのが懸命だな。

 

「じゃそろそろ時間も惜しいからここでお別れね」

 

そして遠坂がおもむろに宝石剣を俺とイリヤに向けた。

一応心配なので聖骸布でイリヤを俺の体に縛りつけた。

するとイリヤは嬉しそうに笑みを返してきてくれた。

すると宝石剣から七色の光が漏れ出して俺達を包み込んだ。

そして少しずつ視界が薄れていく中、

 

「しっかり士郎を支えてやるのよ、イリヤ」

 

と、いう遠坂の声が響いてイリヤが「ええ」と返事を返したところで完全に視界がシャットダウンした。

 

 

 




テンプレ内容ですねー……。恥ずかしいです。


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002話 始まりはお空の上…?なんでさ!

更新します。


 

 

 

遠坂の宝石剣(試作品)により並行世界に飛ばされた俺とイリヤの視界が戻った最初の感情は確かに凄いという感動だった。

そして次に沸いてきた感情は、もし自分達にも素質があるのなら宝石剣を投影して一度もとの世界に戻って遠坂に真名開放でもなんでも喰らわしてやりたいという恨みだった。

え?なんでそんなことを思うかって? 当然だ。

なんせ今、俺とイリヤは月が輝く夜空のもと、地上から約100mくらいある上空にいるのだから。

しかも下を見たら見回すだけみてすべて森、森、森。かなり遠くに光が見えるくらいだ。

……俺の強化された目で見た限りでだが。

 

「あのっ…………うっかり娘め――――!!」

「こんなときにうっかりのスキルなんて発動させてんじゃないわよ――――! リンのバカァァァァ―――!!」

 

叫んでいる間にもどんどん俺とイリヤは地面へと落下していく。

 

「くっ! しかたがない。イリヤ、しっかり掴まっていろ!」

「うん!」

 

―――同調開始(トレース・オン)

 

とりあえず身体と衣服をすべて強化して自身の体に縛り付けていたイリヤの聖骸布を瞬時にして解き、また瞬時にしてイリヤを外敵から守るように覆って、真下に存在する落ちるのに邪魔になる木々は次々とイリヤを抱えていない右手に投影した干将で切り裂いていった。

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 

「カカカ! さすがの神鳴流の剣士とてこれだけの数に囲まれてしまえば手出しができまい!」

「くっ!」

 

とある森の中、1人の肩くらいまでの髪を左に方結びをした容姿はまだ中学生くらいの少女……桜咲刹那は、鬼や鴉、狐といった面相をした人外である日本特有の妖怪に囲まれて焦りを必死に隠しながら次々と襲い掛かってくる異形の衆を切り伏せていた。

だが、やはり先ほどの一匹の鬼の発言どおり苦戦を強いられて八方塞りの状態にあり神鳴流の技を放つ隙すらも与えてもらえずに悪戦苦闘していた。

 

(……どうする? 三下のやつらが召喚したもの達と思い侮っていた。

このままでは遅かれ早かれやつらを潰しきる前にこちらが力尽きるのは目に見えている。

高畑先生はまだ合流できる距離にはいない……どうすればこの窮地を切り抜けられる…………ん? なんだ……上からすごい音が……)

 

私はその枝を何度もへし折るような音が聞こえてきて一瞬だけ上を見るとなんと人二人が降ってきていた。

 

「なっ!?」

 

そして二人のうちの赤い服装をした褐色の肌に白髪の男性の人が、一匹の鬼を踏み潰し、たちまち鬼は重力だけで押し潰され煙になって還されてしまった。

……その光景を見て私はなんて理不尽な、と潰されてしまった鬼に一瞬同情してしまった。

だが、気を持ち直していると先ほどの男性は銀髪の綺麗な女性の人を地面に降ろすと、

 

「女の子一人に対してこの物量は多勢に無勢……いささか反則気味だ。君、状況はわからないが倒してしまって構わないのなら加勢しようか?」

 

と、言ってきた。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

俺とイリヤはなんとか無事地面に降りようとしている寸前のこと、イリヤが「下から“下級な”幻想種の気配がする」と言ってきて、

 

「本当か、イリヤ?」

「ええ」

 

俺はあえてイリヤが微妙にそこだけ意識して言った“下級な”という単語には触れないことにした。

 

「……そうか。まったく遠坂のやつ、いきなりデンジャーな場所に飛ばしてくれるものだな」

「まったくね。後、一人だけ人間なのかよく分からないけど、とりあえず人の気配がするみたいよ? かなり苦戦をしているようね。それで、どうするの、シロウ?」

 

イリヤが俺にとっては当たり前のことを聞いてきたので、

 

「当然助けるさ!」

 

と、いったら「やっぱりね」とため息をつかれてしまった。

ま、もうイリヤも慣れているらしく反論はしないで変わりに、

 

「それじゃまずはその人間に戦っている理由を聞くのよ?」

「わかっているさ。ま、ちょうどいいクッション(?)があるからそいつには心の中で謝罪をしておこう」

 

考えがまとまった俺は一匹の幻想種に強化をかけた足で勢いのついたまま踏み潰した。

そして一人で戦っていた少女と、まわりすべての幻想種にも語りかけるように、

 

「女の子一人に対してこの物量は多勢に無勢……いささか反則気味だ。君、状況はわからないが倒してしまって構わないのなら加勢しようか?」

 

語りかけた少女はやはり、というべきか状況についてこれていないみたいで唖然としていたが俺の語りに反応したのか、

 

「え? あ、はい! このモノ達は関西呪術協会のものが送り込んできた刺客です。

それと倒してしまっても死なずに故郷に還るだけですから安心してください。それより、あなた達は……」

「それだけ分かれば十分だ。俺達のことについては終わったら話す。それでイリヤ、彼女を守っていてくれないか?」

「わかったわ、シロウ」

 

イリヤが結界魔術を発動するのを確認するとまわりの幻想種達が話しかけてきた。

 

「なんだ、兄ちゃん? いきなり現れて……一人でワシ達の相手をするというのか?」

「そのつもりだが? そちらになにか不都合でもあるというのかね?」

 

自然に返事を返してやった。当然皮肉も含んでだ。

 

「そんなことはねぇさ……召喚され役目を果たすのがワシ達の契約だからな。敵対するなら兄ちゃんでもそれ相応の覚悟をしてもらうぞ?」

「……ふ、そうか。ならばこちらも手加減無用といくとしよう。ああ、一つ言っておくが……そちらも最悪消滅する覚悟は持って挑んでくるがいい」

「言ったな小僧? 野郎ども、こいつにワシらの恐ろしさを死を持って刻んでやるぞい!」

 

そして幻想種の異形の衆は雄叫びを上げながら一気に士郎に飛び掛って言った。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

「あの! 加勢してやらなくてよろしいのですか!? あなたのお仲間なのでしょう?」

 

一人であの数を相手にするにはさすがに無理だろうと私は思い、パートナーらしきイリヤさんという名の女性に問いかけてみた。

真名のように遠距離からすべて撃ちぬき撃退させるというならば安心だろうが、今のあの人の行動は無謀と言ってもいい。

 

「問題ないわよ。あんな低級の幻想種ごとき、私が加勢したら逆にシロウの邪魔になるだけよ。見なさい?」

 

だが、イリヤさんは余裕の表情でそんなことを言っていた。逆に邪魔になる……?

イリヤさんの言うことを確かめる為にシロウと呼ばれる男性の方を見ると私はその動きにたちまち目を疑った。

ある鬼が二mはあるであろう金棒をその巨体な体で振り下ろしてきたが、いとも容易く右手の白い中華刀で受け流し左手の黒い亀甲紋様が描かれているもう片方の中華刀で切り伏せる。

または黒い中華刀を回転をかけながら左方向に投擲し遅れて白い中華刀も同じように右方向に投擲して、「なぜ武器を投擲するのだろう?」と思ったが、すぐにその意味がわかった。

その二刀はなんらかの効果で引き合う性質があるらしく次々と幻想種を切り裂いていき、

2本の中華刀がシロウさんのもとに戻ってくる前に仕掛けてきた幻想種は、いつの間にかシロウさんの手にあった先ほど投擲したものと同じ中華刀を握っていてそれに驚いたのか幻想種の動きが一瞬止まりその隙に切り裂かれてしまっていた。

そしてまた接近戦に持ち込み見た目殺傷能力は低そうな中華刀なのに簡単に敵の得物ごと切り裂いて還してしまっていた。

 

「すごい……」

 

私はその光景を見てまるで剣舞を見ているかのような感動を覚えた。

だけど一つ不思議な点があった。だから私はイリヤさんに疑問点を聞いてみた。

 

「すみません。あのシロウさんという方ですが、どこか戦い方に違和感があるのですが。

技術は確かに凄いですが失礼だとは思うのですが剣を嗜んでいる私から見ても一流とは思えないんです」

「そのことね。やっぱりわかる人にはわかるものね。それは当然のことよ。シロウには剣の才能なんてないんだから。せいぜい鍛えても二流止まり。

シロウ自身も「一流になれないなら二流を極限まで鍛えてやる」って自身で認めていたから。

だからあるのは今までの必死の修行と戦闘経験から瞬時に自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、活路を見出す“戦闘論理”、つまりその場その場で臨機応変に対応していくっていうのがシロウの戦闘スタイルなのよ」

 

……なるほど。イリヤさんの言っていることは確かに理にかなっている。

だがそれを差し引いてもあの戦闘力は凄まじいものがある。

手加減無用と言っていたがきっと実力の一部も出していなかったのだろう……。

殺気や闘気といったものもほとんど感じられなかったことですし、もしかしたら本気を出したら学園一の実力者である高畑先生とも互角の戦いができるのではないか?

いや、それ以前に才能が無いのだとしたらどれほどの血の滲む努力をしたらあれほどの力を得られるのだろうか?

私には、とうてい想像できない。

 

「終わったぞ」

 

私が考えに耽っていたときに、シロウさんは「終わった」と言った。

あれだけの数を? 私ですら苦戦を強いられたと言うのにシロウさんはものの数分で終わらせてしまった。

 

「ご苦労様、シロウ」

「ああ」

 

シロウさんは息切れもしないでこちらに戻ってきた。

すると突然、シロウさんが持っていた武器が幻想のごとく消え去った。

アーティファクト!? いや、でもそれならカードが出てくるはず……いったい何者なんだ?

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

《さて、厄介事はひとまず終わったからこの少女に色々聞きたいことは聞いておきたいがどうする、イリヤ?》

《そうね。ひとまずこちらの世界の状況を把握しなければいけないわ。トウコとリンの餞別があるけどいつまで持つか分からないことだしね》

《そうだな。じゃ取り敢えずまずはこの少女と……もう一人(・・・・)の人間と交渉といこうか》

《そうね》

 

イリヤとのレイラインでの会話を終了させてまずは状況説明と交渉をしようとしたが、うん、やっぱりそううまくいかないね。

やっぱりいきなり現れた俺達に対して警戒心を抱いているようだ。

どうしたものか? とりあえずは語りかけは大切だよな?

 

「さて、すまないが話をしたいのだがまずは警戒を解いてくれるとありがたい」

「……助けて頂いた事には感謝します。ですが、私はまだあなた達を信用したわけではありません。できれば投降してこの敷地に侵入した理由は聞かせてくれませんか?」

「やはりそうなるよな。できれば穏便に話を終わらせたいのだが……そうは思わないか? そこの木の陰で気配を消して俺達の様子を伺っているこの少女となにかしら関係があるらしい人物さん?」

 

とりあえず今いる人物は全員あぶりだしておく必要があるよな。

今の言葉で動揺したのが目に見えるようだ。

少女も今気づいたみたいで驚きの表情をしているようだった。

するとしばらくして一人の見た目三十歳くらいの眼鏡をかけている男性が木の陰から出てきた。

 

「いや~、完全に気配を消していたつもりなんだけどね」

 

男性はハハハと笑いながらこちらに歩いてくる。

一見軽そうに見えるが歩法に隙がない。

そしてポケットに手を入れて油断を装っているがあれもなにかの仕様かなにかだろう。

相当の実力者のようだ。こちらも警戒はしたほうがいいだろう。

とりあえずすぐに戦闘できるように設計図は用意しとくか。

 

「高畑先生? いつからいらしたんですか?」

「ついさっきからだよ。加勢しようとしたら……」

 

少女に高畑と名乗られたものはこちらを向いて、

 

「突然君達が現れて一掃してしまったのでね。出るタイミングを逃してしまったんだよ」

「余計なお世話でしたか?」

「そんな事はないよ。むしろ教え子を助けてくれたことには感謝しているんだよ。

それで折りいった話なんだけどね、君達の素性が分からない以上は拘束しなければいけないんでね。

僕としては助けてくれた恩人にそんなことはしたくないんだ。できればそちらの事情を聞かせていただけないかな?」

 

くっ……完全に後手に回ってしまったな。

イリヤの顔を窺うがどうやらイリヤもお手上げのようだ。

しかたがないか。

 

「……分かりました。事情は説明します。ですがまずはちゃんとした自己紹介をしてくださればこちらとしては助かるのですが」

「そうだね。でも……」

「分かっていますよ。俺の名は衛宮士郎。こんななりだが一応日本人で年は23だ」

「私はイリヤ。イリヤスフィール……いえ、衛宮イリヤよ。これでもシロウの一つ上の姉です」

 

《イリヤ、本名は名乗らないのか?》

《ええ、私はもうアインツベルンとは縁を切ってるし、それにもう異世界で名乗っても意味無いことだわ》

《そうか。イリヤがそれでいいなら俺も何も言わないよ》

《ありがとシロウ……》

 

「衛宮士郎君に衛宮イリヤ君か。わかったよ。それじゃ次はこちらの紹介をしようか。

僕の名前はタカミチ・T・高畑っていうんだ。

タカミチでかまわないよ。それと後別に敬語は使わなくて結構だ。

そして先ほども言ったけどこの子は僕の教え子の……」

「桜咲刹那です」

「了解した。ではさっそくなんだが、大変申し訳ないのだがここは日本のようだが地理的にどこなんだ?」

「「は?」」

 

 

それからというもの念入りに理由を聞かれたが俺達はできれば裏の世界に通じていてそしてなるべく偉い地位についている人に会わせてくれないか?

と相談したらさらに桜咲という少女は警戒を強めてしまった。

そりゃ当然の反応だが……なんでさ?

イリヤからもいきなりそれは早すぎよ? とダメだしをされてしまった。

それで絶対になにもしないと何度も説得してなんとか了承を得られた。

そして現在、夜間の電車に揺さぶられながら俺達は話をしていた。

 

 

「それにしても、本当に士郎君達はここがどんな場所か知らないのかい?」

「ああ。それについてはその人物に会うまで黙秘させていただけると助かる」

「本当ですか? もしその言葉が嘘だとしたら……」

 

なおも警戒を解いていない桜咲はどうしたものか?

するとイリヤが桜咲に、

 

「本当よ。でなけば先ほどシロウは低級の幻想種ともどもあなた達を本気で潰しにかかったでしょうね。

一応言っておくけどシロウはかなり強いわよ? なんでもありならきっとあなた達二人がかりで束になっても負けるかもね」

「イリヤ、あまり挑発的なことは言わないでくれ。余計警戒されたらこちらの立場がさらに危うくなる」

「あら、いいじゃない。本当に嘘はついていないんだから」

「だからさ……はぁ、すまないタカミチさん」

「別にかまわないよ。本当に嘘はついていないようだしね。それじゃ一応説明をしてあげようか。

今僕達が向かっているのは埼玉県の麻帆良学園という場所で小・中・高・大学までエスカレーター形式で、幅広くいろんな施設もたくさんあり別名学園都市とも言われているんだよ」

「……とりあえず凄い場所ということだけは分かったよ」

「今はそれだけで構わないよ。そして麻帆良学園の校長だが、会ったら紹介するとしよう」

「了解だ」

「それで刹那君はどうするんだい? もう仕事も終わったことだし寮に帰ってもかまわないよ?」

「いえ、お供します。まだ信用に足る人達なのか見切れていませんから」

「さすがにそこまで信用されないというのも堪えるものだな……」

「あ、いえ……そんなことはないのですが念の為です。気分を損ねたのなら謝罪します」

「いや別に構わない。疑われて当然の立場なのは俺もイリヤも承諾ずみだからな」

「すみません……」

「だからいいといっただろうに……」

「ふふふ、シロウが久しぶりに狼狽えているわ。面白いわね?」

「ははは、まだ若いってところだろうねぇ。あ、そろそろ着くみたいだよ」

 

 

 




今回はここまでですね。なにかむず痒い。


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003話 麻帆良の仙人

更新します。


 

 

 

到着した場所はまだ夜中の為、暗くてまだ場所は把握できないが確かに広かった。

確かに学園都市という言葉にも頷ける。

しかし、それでも気になるものは気になってしまう。

なんだ……あの巨大な大樹は?

 

「なあタカミチさん、あの木はいったい何なんだ? 見た限りでは齢三百から四百はあると思うのだが」

「まるで御伽噺の世界樹よね」

 

イリヤと俺は冗談交じりにそんな話をしていたが、なにかおかしかったか?

普通なら笑い飛ばされるところだろう会話をなぜタカミチさんは神妙な顔をしているのか?

 

「一つ確認を。もしかしなくてもあの木は世界樹なんてことはありませんよね?」

「実はそのとおりなんだよ。まあ驚くのも仕方がないよね」

「驚きね。ほんとに実物をこの目で見るときがくるなんて。リンが見たらどんな反応見せるかしら? 見た限りあれ大聖杯の数十倍以上の力を秘めているわ」

「なに!? それじゃあの木は神秘の塊っていうのかイリヤ?」

「そうね。そこのところの詳しい事情はやっぱりその学園長とあって聞くのが得策よ、シロウ」

「だな」

「話はまとまったかい? それじゃ行こうか」

 

タカミチさんが話の区切りがついたことを確認するように道を進んでいった。

それでまだどういった世界か把握はできてないがとりあえずはついていくことにした。

 

 

 

 

 

「ここが麻帆良学園の学園長室だよ。さっき連絡はしておいたからいると思うから入るとしようか」

「そうですね《じゃ、いくかイリヤ》」

《そうね。私達の世界の協会の連中みたいな人物ではないことをせつに祈るだけ》

 

そして意を決して俺達は中に入っていくとそこには……仙人がいた。

いや妖怪か? なんだ、あの頭は? まるで崑崙の仙人じゃないか。

 

「フォフォフォ、待っておったぞ。案内ご苦労じゃったなタカミチ君に刹那君。

それで君達が先ほどタカミチ君から報告があった衛宮士郎君と衛宮イリヤ君じゃな?

ワシの名は近衛近右衛門。私立麻帆良学園の理事長と、関東魔法協会の理事も兼任しておるものじゃ」

「関東魔法協会? 魔術ではないんですか……?」

 

何かが引っかかってつい聞いてみてしまった。

イリヤもさすがに驚いているようだ。

魔術ではなく魔法。これは一体?

 

「ふぉ? 魔術とな、君たちが使うものは魔法じゃないのかね……?」

「それは……」

「シロウ、どうやらここはまだ私も早計だとは思うけれど真実を話して納得してもらうしかないわ。かみ合わないんじゃ話も一向に進展しないわ」

「そうだな。だけどいいのか?」

「ええ。この世界では私達は異物かなにかに過ぎないんだから、だから早いうちに信用できる人物は確保しておいたほうが得策よ」

「なにやら込み入った話がそちらにあるようじゃな? できれば話してくれればこちらとしても君達を信用できることができるんじゃが、どうじゃろう?」

「そうですね。では話す前にいくつか約束を守っていただけませんか?」

「かまわんよ」

「そうですか。ではまず一つ目は自分達が使う魔術、こちらでは魔法ですね。その事をここにいるもの以外にはできるだけ秘密にしていただけると助かります」

「それはどうしてなんじゃ……?」

「その理由が二つ目になりますが自分とイリヤは、多次元世界―――……簡単に言えばいわゆる平行世界、もしくは異世界の人間だからです」

「え!?」

「なっ!?」

 

それで驚きの声をあげるタカミチさんと桜咲。

 

「む? それは本当のことなのかね?」

「はい。自分達は事情は話せませんが世界に居場所を無くして、自分達の世界に唯一存在する五つの魔法のうちの一つ『第二魔法である平行世界への移動』を限定的にですが使える師匠とも言える友人の助けでこの世界に飛ばされてきました」

「シロウ、そこまでしゃべる事はないんじゃないのかしら?」

「いや、できる限り信じてもらわなきゃいけないからな」

「そう」

「ごめん、イリヤ。また悲しそうな顔をさせてしまったな」

「ううん、気にしてないよ」

 

やっぱり女性のこんな顔は見ていたくないからなにかできないかと思ったがなにも思いつかなかったのでとりあえず頭を優しく撫でてやると幾分イリヤの表情が戻った。

 

「……そうじゃったんか。すまんのぅ、つらい話を聞いてしまって」

「こんな突拍子もない話を信じてくれるんですか……?」

「うむ。普通ならそんなほら話など信じないだろうしな。じゃが、儂とて今までいろいろな者の目を見てきたからじゃが、君達の目は嘘をついてないと確信を持ったからの」

 

こんな、まだ顔をあわせて数分の関係なのに受け入れてくれるのは嬉しいものだな。

つい涙腺が緩みそうになってしまった。

 

「ありがとうございます」

 

だからできるだけ感謝の気持ちを込めてその言葉を俺は言った。

するとタカミチさんと桜咲も事情を理解してくれたのか、

 

「疑ってすみませんでした、士郎さん」

「僕も謝るよ。すまなかったね。事情も知らず一方的に警戒してしまって」

「いえ、その気持ちだけで十分ですよ。それで話の続きをしたいんですがよろしいですか?」

「うむ。かまわんよ。今ならなんでも君たちの力になってやろうと思っているからのぅ」

「度々すみません。それでさっきの二つ目の理由ですが自分達が使う魔術はこの世界ではどうかはわかりませんが体系がまったく違うと思うんです」

「ふむ。確かにそうかもしれんな」

「それに加えイリヤはともかく自分の使う魔術ははっきり言って異端ですから口外は避けたいんですよ。

自分達の世界では魔術の存在を隠匿し『 』を目指す為に工房に篭って研究をしているものがほとんどです。

ですが根源に近づきすぎた者や異端の魔術師には封印指定というありがた迷惑な称号のレッテルを貼られてしまうんです」

「封印指定? いったいどういったものなんだい?」

「そうね。封印指定を受けた魔術師は捕まったが最後、一生幽閉されて最悪脳だけホルマリン漬けにされて研究の対象にされてしまうわ。

そしてもっとも最悪のケースは、封印指定魔術師や死徒といった吸血鬼やその死徒に噛まれて同じく死者と化した人間の皮を被った化け物を、神の名の下に狩る為だけの代行者という人間離れした集団に抹殺指定されて殺されてしまうわ」

 

イリヤが俺の変わりにタカミチさんに俺達の世界の真実を説明してくれた。

するとやはりというべきか学園長をはじめタカミチさんや桜咲の息を呑む声が聞こえてきた。

それで一つ分かったことはこの世界はそんなに厳しくはないのだろう。

 

「それでは士郎君はその封印指定とやらを受けておったんかの?」

「ええ。俺の魔術は本来ありえないものなんですよ」

「それは……先ほどの中華刀のことも含まれているんですか?」

 

そこで桜咲がそう聞いてきた。よく見ているな。

 

「ほう? よく分かったな、桜咲。俺の魔術は一点特化型で身体や物の強化、物質の解析、物質の変化、そして投影というものなんだ」

「他はなんとなくわかりますが投影とはなんですか?」

「投影というのは別名グラデーション・エア。

ランクは落ちるがものを本物と一寸違わず複製する能力のことだ。大抵効果は数分と持たないものだがね。

だから本来は一時的な触媒にしか使われない低ランクの魔術のことだ」

「私が試しにやってみるわね」

 

するとイリヤが一本のナイフを投影してあろうことか学園長に向かって投げた。

さすがにそれはまずいだろ、イリヤ?

 

「なっ!?」

 

当然桜咲は瞬時に学園長を守ろうと動こうとしたが、タカミチさんは桜咲の肩を掴んで平然としていた。

投げつけられた学園長も表情一つ崩すことなく椅子に座り込んだままだ。

そして当のナイフは学園長に当たる前に幻想のごとく崩れ去ってその姿を消した。

 

「えっ?」

 

突然消えたナイフに桜咲は唖然としていた。

 

「だから言ったでしょ? 魔力を少ししか込めてないからすぐに消えたけど全魔力を行使しても持って数十分がいいとこね?」

「なるほどのぅ。では士郎君が使うとそれはどう違うんじゃ?」

「今から見せますよ。桜咲、君の刀を見せてくれないか? 悪いようにはしない」

「あ、はいわかりました」

「では、やるとしようか」

 

俺はすぐさま魔術回路を開き桜咲の持つ刀の解析をするために俺の始動キーを紡ぐ。

 

「――投影開始(トレース・オン)

 

――創造の理念を鑑定

――基本となる骨子を想定

――構成された材質を複製

――制作に及ぶ技術を模倣

――成長に至る経験に共感

――蓄積された年月を再現

――全ての工程を凌駕して幻想を結び剣と成す。

 

「――投影完了(トレース・オフ)

 

そして俺の手には桜咲が持つ刀と寸分違わぬ刀が握られている。

 

「この刀の名は『夕凪』というのか。どうやらかなりの年期が入っているようだな。主に幻想種を滅ぼす為に年代を越え桜咲に受け継がれてきたのだろう」

「そんなっ!? それはまさしく夕凪! しかし名も教えていないというのに…それにどういったものかも見抜くなんて」

「持って見比べてみるがいい」

「は、はい……」

 

桜咲は恐る恐る『偽・夕凪』と自身の夕凪を見比べて、そして驚愕した。

 

「た、確かに……少し精度が落ちるようですがそれでも夕凪と同じ力を感じます」

「そう。これが俺の投影。作られた工程、技術、経験、年月を解析し幻想を現実のものとして、やはり1ランクは落ちるが物の経験に最大限共感すれば担い手には及ばないが動きを模倣することもできる。

担い手本人が持てば本物と違わず操ることが可能の代物だ」

「さらにシロウの投影の非常識さはさっきの私のナイフと違って、一度投影してしまえば壊れるか消そうと思わない限り“幻想は所詮幻想”という道理又は摂理に逆らって現実にいつまでも存在し続けるのよ」

 

「そう、こんなふうに―――

 

俺は指をパチンッと鳴らした。そして桜咲に渡した夕凪の贋作はたちまち幻想となって消え去った。

 

―――俺が消えろと思えば存在が気薄になって幻のように消滅する」

 

「すごいなぁ」

「はい」

「ふむ。確かにこれは異端な魔法…いや魔術じゃな」

「やっぱりこの世界でも異端ですか?」

「そうじゃな、確かにこのような魔法はこちらの世界にもあるかどうかの不確かなものじゃ、じゃが安心せい」

 

学園長は長い髭をいじりながらフォフォフォと笑い出し、

 

「確かにこの世界も異端を嫌うものはいるが大抵は大丈夫じゃろ。

それにじゃ、アポーツ……いわゆる物質引き寄せの魔法だとごまかして言わせておけば大丈夫じゃろ?

じゃが、当然こちらにも魔法の隠匿が存在しておる。

ばれれば本国に強制連行で移送されて数年オコジョ姿にされてしまう。じゃから一般人の前では目立つ行動は控えることじゃな」

「そこら辺は大丈夫よ。私が認識阻害の魔術を行使すれば大抵はばれないから」

「それに俺自身それは直に何度も味わってきましたから心の隅に留めときますよ。しかし、それにしてもこちらの世界は罰がずいぶんと優しいんですね」

「そうね、確かに生ぬるいわ。私達の世界じゃ会った瞬間即どちらかが死ぬか撤退するまで戦う羽目になっていたからね~…」

「ふむ。その考えは捨てておいたほうがいいの。もう君達は帰ることはできんのじゃろ?」

「そうですね」

「で、じゃ。これからどうするんじゃ?」

「どうする、とは?」

「戸籍とかのことじゃ。これからこの世界で生きていくにはさすがになにもないのじゃどうしようもないしのぅ」

 

確かにそうだ。あっちとは勝手が違うからどこになにがあるのかすらわかっていない。

そうなれば海外に行くにもそれなりに密入国も考えなければいけないしな。

働くにもやっぱり戸籍が必要だし、橙子さんや遠坂からもらったものだけじゃ数ヶ月と持たない。

……これはいきなりピンチ到来といったところか?

 

「ふむふむ、やっぱり悩んでいるようじゃな。それでワシからの提案なんじゃがここ麻帆良学園で教職と一緒に警備員をやってみるのはどうじゃ?」

「は?」

 

俺はそのことに反応できなかった。

だけどイリヤは考えがすぐついたらしく、

 

「それじゃ私達の戸籍を偽造していただけるのかしら? コノエモン?」

「確かに、って! イリヤ、学園長を名前で呼び捨てにするのは失礼だろ!?」

「いやかまわんよ。最近は誰もワシのことを名前で呼んでくれんからの。いつでもそう呼んで構わんぞ、イリヤ君」

「ありがとーコノエモン!」

 

………なんかもう親しげな関係を構築できそうだな。

そういえばイリヤは雷画じーさんの事をライガと呼び捨てにしていたしなぁ。

 

 

閑話休題

 

 

「それより教員って、自分は教員免許なんて持っていませんよ?」

「うむ、そのことなんじゃが、士郎君は英語は得意かの……?」

「英語ですか? 読み書きは大丈夫ですよ。それにこれでも世界をまわっていましたから大抵の言葉くらいは書きは無理ですが話すことならできますよ」

「ほう、それは心強いの」

「ですがそれならイリヤのほうが適任では? イリヤのほうが経験は豊富ですし」

「イリヤ君には刹那君達が暮らしておる女子寮の寮長をしてもらいたいんじゃ。

それと今、教員棟はいっぱいじゃから士郎君もイリヤ君と同じ部屋で一緒に寮長として暮らしてもらうことになるが、まぁ姉弟じゃから問題はないじゃろ。

士郎君は誠実そうじゃから問題は起こさんじゃろうしな」

「はぁ……?まぁ……」

「それでの、理由は明後日から刹那君のクラスにしょっちゅう海外に出張しているタカミチ君の代わりに一人の魔法使い見習いの先生がやってくるんじゃ。

その子は男の子でまわりが女の子だけじゃ不安じゃろうから士郎君には副担任として私生活の指導や魔法関連の補佐をしてもらいたいんじゃ」

「そうですか、それじゃ心細いですね。女子寮でしかもイリヤと同じ部屋でというのはかなり作為的なもの感じますが、わかりました、引き受けましょう」

「学園長? 私は初耳だったんですが?」

 

そこにどうやら事情を知らないらしかった桜咲が学園長を問い詰めていた。

 

「ふぉ? タカミチ君まだ伝えてなかったのかの?」

「すみません。うっかり忘れていましたよ」

 

タカミチさんはハハハと笑いながら答えていた。……意外に大物かもしれない。

 

「それでその方の名前はなんていうんですか?」

「ネギ・スプリングフィールド君というんじゃ。この世界には魔法使いを育てる学校があってのう、そこで卒業時に卒業証書に書いてある修行内容をこなすことになっておるんじゃが、修行内容が『日本で先生をやること』らしいのじゃ。

だから今年で数えて“十歳”じゃからいろいろと手助けを頼むぞ」

「はい。…………はい? 学園長、今なんと……?」

「ごめんなさい私もよく聞こえなかったわ。もう一度言ってもらえるかしら、コノエモン?」

「私もです」

「じゃから十歳じゃと―――……」

「はい!?」

 

思わず大声を上げてしまった。イリヤと桜咲も同様のようだ。

 

「労働基準法違反ではないですか、さすがに?」

「そこは大丈夫じゃ、手回しはしてあるしの。それに彼自身学力は大学生クラスはある天才じゃからの」

 

なにやら犯罪チックな言葉が聞こえてきたがそれは戸籍を作ってもらう自分達も言えることなので反論はしないことにした。

 

「はぁ……わかりましたよ。ならばその任がんばって果たすとしましょうか」

「うむ。承諾してくれてうれしいぞい。それでは明日は前準備として衣服や食事関係など揃えてきたほうがいいじゃろ。これが前金じゃ」

 

学園長に封筒を渡されて中身を見ると中には諭吉さんが10枚ほど入っていた。

 

「って、こんなにいいんですか!? 言ってはなんですがまだ初対面に等しいんですよ!?」

「構わんよ。それは働きで返してくれれば構わんしの。それで刹那君、これもなにかの縁じゃ。明日は二人を案内してやってもらっても構わんかの?」

「はい、わかりました。それでは士郎さんにイリヤさん。明日になりましたら寮長室に迎えにいきますよ。あ、それと今日は寮までご案内します」

「すまんな、桜咲」

「ありがと、セツナ」

「いえ、助けてもらったお礼ですから気にしないでください」

 

 

 

──Interlude

 

 

 

……刹那君が士郎君達を連れて学園長室から出て行った後のこと、

 

 

「しかし、世界に居場所を無くしたとは……悲しいことじゃな」

「そうですね。まだあんなに若いというのにどれだけの修羅場を掻い潜ってきたんでしょうね? 想像することも難しいですね。できればいつまでも平和に過ごしてもらいたいですね」

「そうじゃな……だがそれは難しいじゃろう。イリヤ君と士郎君には内緒で小声で聞いた話なんじゃが、士郎君は正義の味方を目指していると聞いたんじゃ」

「それは……では彼は、もとの世界ではイリヤ君を守りながら一人世界と戦っていたということですか!?」

「そういう事になるんじゃろ。彼らの裏の世界の話でおおよそ見当はつくんじゃが、たった一人の立派な魔法使い(マギステル・マギ)……いや、立派な魔術使い(マギステル・マギ)だったんじゃろうな」

「世界は、不公平ですね。あんな真っ直ぐな青年に死に急ぐことをさせるなんて」

「そうじゃな。だからできる限り手助けをしてやろうと思うんじゃよ、ワシは」

「僕もその意見には同感ですよ」

 

 

 

ここにもとの世界では決して報われないであろう青年に対しての二人の決心がついたのだった。

 

 

 

Interlude out──

 




うーん……内容が若いな。


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004話 お買い物

更新します。


 

 

学園長室を後にしてから桜咲に女子寮まで案内させてもらった。

だがやはり男である俺が普通なら男としては楽園な場所にイリヤがついているとはいえ、大丈夫なのだろうか?

桜咲に聞いてみたところ、

 

「だ、大丈夫ではないでしょうか?」

 

と、疑問系で言葉を返されてしまった。

現在俺はライブで先行きが不安です。

そこにイリヤが心配(?)してきたのか………いや、むしろ脅しか?

 

「ふふふ……もしもシロウがおかしな行動するんだったら、コロスワ」

 

ワ~オ、びっくりだ。久々に“ぎんいろのあくま”が降臨しちゃっていますよ。

桜咲も引いてる引いてる。

……ゴッド、俺はなにも悪いことはしていませんから、できることならこれ以上俺を女難の相という不幸の谷に落とさないでください。

いや、本気と書いてマジで。

 

「で、では。私はこれで失礼します。……頑張ってください士郎さん。微力ですができる限りお助けしますから」

 

そういって桜咲はそそくさとまるでイリヤから逃げるように自分の部屋に戻っていった。

うぅ~、ええ子や。俺の中で桜咲の印象は急上昇中だ。

さて、それより中に入るとしよう。

 

「おー、やっぱり寮長室だけあって結構広いな」

「そうね。これなら不自由しなくて済みそうだわ」

 

部屋の中はさすが寮長室だけあって部屋二つ分以上の広さがあり、しきりもできるので滅多なことがない限り問題はないだろう。

イリヤの行動によって落差はするだろうが。例えば俺の寝床に侵入してくるとかしてくるかもしれない。

と、それより。そういえばこんな普通の部屋にゆっくりと居座ることになるなんていつぶりだろうか?

そんなことを考えていると、

 

「こんな部屋で眠ることができるなんていつぶりかな、シロウ……?」

「同じ事考えてたか。ごめんな、イリヤ、俺のわがままで今まで苦労のさせっぱなしで……」

「ううん、そんなことはないわ。本当なら私はもう死んじゃってこの世にいない運命だったんだから、シロウにはほんとうに感謝してるんだから」

「そうか。それじゃこれから新生活が始まるけどなるべく前の世界みたいにイリヤには負担をかけないよう心がけるよ」

「ありがと、シロウ。あ、そうだ! いい事思いついちゃったわ」

 

ッ!? な、なんでありましょうかイリヤ様?

とてつもない寒気が体を突き抜けていったのは今は幻覚だと信じたい。

変に直感スキルが上がったのかこういうときにはまずいい事なんてあったためしがない。

 

「これからは戸籍上だけど本当に私達は姉弟になるんだから、色々と呼び方は修正した方がいいわよね。主にシロウだけだけど。これからは私のことはお姉ちゃんと呼びなさい」

 

はい正解。これはもう回避不可能だな、コンチクショー!

 

「却下だ。この歳になって、しかもこのなりでいまさらそんな恥ずかしい呼び方できるか」

「えー? 別にいいじゃない?」

「ダメだ。それだけは勘弁してくれ。しても姉さんで許してくれ。でないと俺は恥ずかしさのあまりなにかの宝具の真名を開放するかもしれない」

「ぶー……まぁそれでもいっか。これからずっと姉さんと呼ばれるんだー……」

 

どうやらイリヤ、もとい姉さんは夢心地のようだ。

だが、すぐに現実に戻ってきてとあることを聞いてきた。

 

「そういえばシロウ? 心象世界と宝具、そして真名開放とかのことは言わなかったらしいけど、よかったの……?」

「そのことか。ああ、なにも全部教えることはないだろう? 全部明かしてしまっては情報が漏れたときに対処が難しいからな」

「そうね。聖杯戦争のときと比較してやっぱりシロウは成長したわよね。昔のシロウじゃそんな先のことなんていちいち考えないで猪突猛進していたもんね」

「ぐっ!? まさに正論で反論の言葉がでてこないな。あ、そういえば気になっていたことがあるんだが?」

「なに、シロウ?」

「それがさ、魔術を使ったときに感じたことだがどうも前以上に動きがよくなっていた。それに加え投影も負担が軽くなっていた」

「トウコがなにか人形に細工を施したのかしら?ちょっとメモがあるかもしれないからもらった宝石の袋を開けてみたらどうかしら?」

「わかった」

 

それから俺とイリヤは宝石の袋の中、リュック、身体周辺を探してみたが特にめぼしい物は発見されなかった。

しばらくして解析もつかって見たがやはり発見できなかった。

なんだ? 橙子さんにかぎってこんな重要なミスをするとは思えない。

なにか、どこかに仕掛けがあるはずだ。

どこかに、

 

「あ! そういえばアヴァロンを埋め込んだって言ってたわよね、トウコ?」

「確かに言っていたな。だがそれが……まさか体に刻み込んだとか言わないよな?」

「わからないわよ? トウコはシロウの解析能力のことも知っているからもしかしたらって事もあるじゃない?」

「……確かに。遠坂も関わっていたんだからその可能性は十分に考えられるな。よし、ひとまず体を解析してみるとしようか」

 

 

――同調開始(トレース・オン)

 

体内の27本の魔術回路通常稼動。

全て遠き理想郷(アヴァロン)の半分の存在を確認。現在正常に稼動中。

無限の剣製、現在体内封印中。武具のデータに一切の破損無し。

宝石剣(試作品)、夕凪の登録を無事確認。

各部分の再確認。

確認中……、

 

 

「む?」

「どう? なにか発見できた?」

「ああ、なにか暗示みたいなものが発見できた。解析次第開いてみる。えー、なになに?」

 

解析して開いてみると橙子さんのメモらしきものが発見できたので呼んでみることにした。

 

『ああ、このメモに気づいたって事は体の違和感に気づいたようだね?

それじゃ説明をしてやろう。その素体の人形の体にはアヴァロンを埋め込んでと遠坂嬢に頼まれてな。

それで私はそんな高価なものを埋め込むのにただの人形では私のプライドが許さないと判断してね、今までの作品の中で最高級品の出来のものを使わせてもらった。

まずだが衛宮の魔術は投影した武器に共感して模倣することができると聞いたが、同時にもとの体は決して戦闘者のものではないとも聞いた。

だからどうせこれからも戦い続けると判断した私と遠坂嬢とで戦闘者に向いている体にしてやったよ。

それなら今からでも一つのものを極めようと思えばいずれは一流になることができるだろうよ。何十年とかかるか知らんがな。

ま、衛宮の性格からして今の戦闘スタイルは変えないだろうからこれから生きていく為の保険と受け取っておいてくれ』

 

俺は途中で一息ついて読むのを中断した。

この体は本当にすごい。読んでみて改めて実感できた。

 

「トウコって気前がいいわね。これなら今まで二流止まりだったシロウの剣技も共感していけばどんどん成長していくってわけね」

「しかも俺の性格も先読みした上での保険とは本当に助かるな」

「ええ、リンにも感謝しなくちゃね。きっと今頃は“心の贅肉よ”なんて呟いてるに決まっているわ。それでシロウ、続きを読んでくれない?」

「わかったよ」

 

 

 

『そして次は魔術のほうだが投影はもう試してみたのだろう?

ならもうわかったはずだ。以前より魔力の負担が軽くなっていることに。

それと剣以外のものもそれなりに魔力の負担は小さく投影できるよう調整してみた。

衛宮のふざけた投影の魔術理論は解明したとか言っていた遠坂嬢に説明してもらったからなんなくできたよ。

無論、イリヤスフィールが使う魔術も負担は軽いはずだ。

……だが、だからといって英霊エミヤが使ったという“無限の剣製”はそうそう使うんじゃないよ?

負担が軽くなったとはいえ所詮付け焼刃に過ぎん。

もとは妖精や悪魔、死徒が使う禁忌中の禁忌の大魔術。人間が使うには過ぎた代物だ。使用は時と場合を選ぶことだ』

 

 

 

「なるほど。だから違和感があったのか。にしても俺がもう無限の剣製を使えることがわかりきっている言い様だな」

「そうね、実際条件が揃えば発動は可能だもんね。アーチャーと違って時間の制限は短いけど」

「なあ姉さん? アーチャーはアインツベルンの城で発動したときどのくらい持ったんだ? 改めて聞いておきたいんだが?」

「わからない。あの時は無限に時間が過ぎるのを感じたから……でもかなり保っていたはずよ。

英霊で、それに単独行動のスキルがあったから。おかげで倒すまでにバーサーカーは6回も命を減らしたわね」

「そうか。まだまだあいつの領域には程遠いな」

 

アーチャーとの実力の差はまだまだある。それこそ天地の差だ。

だが決して挫折はしないで進んでいこう。

遠坂にも約束したしな、必ず答えを見つけ出そう。

それで決心を新たに俺は残り少ない文章を呼んでみた。

 

『そうそう、それといい忘れたことがあるから書いて置こう。

アヴァロンを埋め込んだときの副産物で、まずアヴァロンに魔力を流し込めば大抵の傷の修復はできるようになった。

そしてもう一つは老化の遅延だ。

羨ましい事にたとえば50代を過ぎても今の若さは保っていられるだろう。

だからよほどのことがない限り実力は落ちることはないだろう。

さて、私が言えることは大体は言い終わった。

後は君達しだいというところだ。私が言えることは無茶はほどほどにしろよ、いうことだ。

では、これで本当の意味で最後になるが達者に暮らすことだ。

 

 

 

…………それと、追伸だがこのメモに遠坂嬢がなにか細工をしていたが、私はなにも関与していないから恨むなら遠坂嬢を恨むことだな』

 

 

 

「なに? あの遠坂が細工だと!?」

 

そして暗示のメモが俺の中で燃え上がったと思ったと同時に、

 

『ガ―――――ンドッ!!』

 

「ぐほぁ!?」

「し、シロウ!?」

 

その雄叫びのような叫びが頭に響き、それとともにとてつもない衝撃が体を貫通するような痛みを覚えて俺は床にうずくまってしまった。

なっ……なんでガンド、が……?

 

「………やってくれるわね、リン。私達を空に飛ばす、メモに爆弾を仕掛けておくなんてほんとうに憎しみがわいてくるわ」

「な、なるほど……暗示にガンドを付属させておいたの、か……」

 

くそぉ、遠坂の奴め! 本気で殺意を抱いたぞ!?

くっ……意識が遠のいてきやがった。

 

「すまん、イリ、じゃなくて姉さん……桜咲が来たら起こしてくれ。もう、意識が………落ち、る……」

「シロウ!!」

 

姉さんがなにか叫んでいたがもう俺には聞こえてこない。

そして俺の意識は深い闇へと落ちていった。

 

 

 

 

……翌日、

 

 

刹那はいつの間にか俺達の部屋に来ていた。

どうやら俺はそれまで気絶していたらしい。

それでイリヤに何時だと聞いてみたらもうお昼過ぎだという事が判明し、

 

「……戦場ならもう寝首を取られて殺されていたな。それにしてもまだ痛みが残っているなんて、遠坂の奴め!」

「遠坂? 誰のことでしょうか?」

「いや、桜咲は特に気にしなくていい。それよりずいぶん待たせてしまったようだな。すまないが案内をしてもらって構わないか?」

「はい、わかりました」

「でもシロウ? さすがにその格好は目立つんじゃないかしら?」

「む? そうだな、姉さん」

「あれ? イリヤさんの呼び方を変えたんですか?」

「ああ、あっちの世界では本当の姉弟だけでなく初めて会ったときも自分の姉とは知らなかったからな。

だが、もうこちらの世界では戸籍上だが正式に姉弟になったわけだから呼び方は変えておいたほうがいいと提案されてな」

「なるほど、そうでしたか」

「ああ、それより確かにこの赤い外套は目立つな。……そうだな。試しにやってみるか」

「あ、試してみるのね」

「なにをですか?」

「見てればわかるわよ」

 

ま、とりあえずまだ目立ちたくないから地味目にやってみるか。

 

「――投影開始(トレース・オン)

 

それで俺がなにを投影したのかというと黒のパンツにシャツだ。

とりあえず洗面室で着替えて戻ってくるとイリヤに、

 

「まるでホストみたいね?」

 

なんて、言われてしまった。

しかも理由が白髪に褐色の肌、そして黒い服装。

それでそのまま繁華街に放り込めばあら不思議。ホストの出来上がり。

らしい。

なんでさ……?

 

 

それから桜咲と一緒に町を歩いているのだが、

 

「それにしても本当に便利な能力ですね。昨日、私の夕凪を、投影魔術ですか? それで作り出して、そして経験に共感できるんですよね」

「ああ。昨日は勝手に複製してしまって悪かったな。お詫びとして、もし刃こぼれとかができたのなら俺に言え。

これでも鍛冶師の仕事も俺の能力ゆえに一時期やったことはあるから力になれるだろう」

「そんなことまでしていたんですか?」

「シロウの作る武器や装飾品はほんとにすごいのよ? まだ封印指定をかけられる前は裏市場で資金を稼いでいたんだから。しかもどれも一級の魔術品だったからシロウのように戦闘向けの魔術師には高額で売れていたしね」

「はぁ、驚きです」

「まあ投影品を売るという手もあるにはあるんだが、俺はそんな道徳に反したことはしたくないからな。ほぼ自前で稼いでいたものだ。

それと学園長にも伝えておくつもりだが剣以外にも修理なども解析能力を使えばできる。

だからなにか壊れたものがあるのなら伝えてくれ。

学園長に姉さんとともに寮長にもされてしまったからな。

仕事はしっかりやるつもりだ」

「わかりました。頼りにしています」

「うむ。ではまずは衣類などと職員用のスーツなどを買うとしようか」

「そうね。案内頼むわ、セツナ」

「わかりました。ではまいるとしましょうか」

 

 

それから桜咲の案内により街の案内などもかねて衣類の購入などをしていった。

姉さんなんかはやはり男の俺とは違いかなり時間をかけていたものだ。

そして後は食品関係なども購入していった。

その結果、俺の両手はもういっぱいいっぱいの状況になっていた。

 

「士郎さん、持つのを手伝いましょうか?」

「いや、構わない。これでも力には自信はあるからな。これくらいならまだ軽いほうだ」

「そうそう、シロウはこれでも二メートルはある大剣も軽々と持っちゃうんだから」

「ま、持つコツもあるが今まで古今東西なんでも見てきたからな」

「そ、そうですか(この方は本当に底が見えませんね……)、その、聞いていいでしょうか? ほんとうに士郎さんは才能はないんですか? それだけの実力があれば十分の才能だと思うのですが」

「いや、才能がないのはほんとうだ。師匠にあたる人にも姉さんにも、それと今まで交流があったものには大抵才能はないと言われてきたからな。

その当の師匠にも真面目な顔で『へっぽこ』なんていわれていた始末だしな。

だから俺にあるのは実践で得た知識をフルに活用する心眼というスキルで、そしてその心眼を活かして攻めるのではなく守ることに重点を置いた戦法をとる。

中国拳法で例えるなら“重の八極拳”ではなく“柔の八卦掌”が主体と思ってくれればわかるか?」

「はい、なんとなくですが」

 

なんとなくだが理解したのか桜咲は頷いていた。

 

「まぁシロウの場合はそれでわざと隙を作ってそこに敵を誘い込み叩くって戦法だからいつも冷や冷やモノなのよね」

「それはしょうがないだろう? 俺は攻めることに関してはなんでもあり以外なら早々できることではないからな」

「では投影魔術を使えば率先して攻めることもできるのですか?」

「まぁ投影した武器の経験に共感すればな。

例えばかの有名な戦国時代の九州の武将、立花道雪が持っていたといわれる名刀『千鳥』を投影して、経験に共感すれば一個師団に一人で突撃し猛威を奮い『雷神』とも評された立花道雪の動きを担い手には及ばないが再現できる」

「それは!?」

「だが、やはりリスクはあるからそんな無茶はしないけどな」

「そのリスクとは?」

「共感できたとしても担い手の動きに体がついていかなければたちまち自滅してしまうからだ。だから俺は今でも鍛錬はかかさず行って体を鍛えているわけだ」

「なるほど、確かにそれは利点でもあり欠点にもなりますね。ですがそんなに私に情報を与えても平気なんですか?」

「ん? なんでだ。別に桜咲と敵対するわけでもないのだから話しても構わないだろう。

それにもし万が一敵になったと仮定……いや、そんなことは考えないほうがいい。

これから副担任とはいえ実の教え子になる生徒に手を上げると考えると嫌になってくるからな」

「わかった、セツナ? シロウはね、度が過ぎたお人好しなのよ」

 

横から出てきたイリヤの言葉に俺は乾いた笑みしか浮かべることしかできなかった。

自覚はしてるんだがそれでも性分は変えられないからな。

 

「ですが、私はその士郎さんの人となりはとてもいい事だと思います」

「そうか? そういってくれるなら俺としても救われるが」

 

俺としては桜咲の言葉は嬉しかったが、それを聞いていたイリヤはお気に召さなかったのか、

 

「はぁ~、どうやらセツナもお人好しなところが少しあるみたいね」

 

と、目を瞑って呟いていた。

そんな時だった。

誰かが近寄ってきて声を掛けてきたのは、

 

 

「あれ、そこにいるのは桜咲さんじゃん? どうしてこんなところにいんの? しかも連れているのは美男美女ときてるし」

「あ、朝倉さん!?」

「……知り合いか、桜咲?」

「あ、はい。報道部で同じクラスの―――……」

「朝倉和美っていいます」

 

朝倉という子が元気そうに挨拶してきた。うむ、活発そうで何よりだ。

 

「俺の名は衛宮士郎だ」

「私は衛宮イリヤ。シロウの姉よ」

「士郎さんにイリヤさんね。わかりました」

「それより、では明日からよく顔を合わせることになるな。いや、どうやら寮で暮らしているようだから今日からお世話になるのかな?」

「え? どういう事ですか?」

 

それで朝倉は首を傾げているが、まぁそういう反応をするよな。

 

「ああ、それはね。私とシロウは学園長に頼まれて女子寮の管理人になったのよ」

「それと明日からは俺は教員免許などは持ってはいないが君達のクラスの副担任につくことになっている。だからよろしく頼む」

「へぇ~、それはいい情報を手に入れました」

「朝倉さん、できればそんなに大きく話題にしないでくれると助かります。急にこんな話が浮上したらイリヤさんはともかく男性である士郎さんは奇異な目で見られてしまいますから」

「了解了解っと。それじゃ質問は明日にしても構わないですか?」

「ああ、構わないぞ。あ、そうだな。桜咲に朝倉、時間に余裕があるのなら食事でもご馳走するが、どうかね?」

「え? 士郎さん料理まで作れるんですか?」

 

桜咲はもちろん朝倉も相当驚いているようだった。

 

「ああ、これといって趣味が俺にはなかったのでね。

唯一の取り柄が小さい頃から一人暮らしをしていたのがきっかけで覚えた料理くらいだ。

昔は和食だけだったが、姉さんとともに世界を回っていたからな。和洋中なんでもできるぞ」

「そーなんですかー。またまたいい情報です。それじゃゴチになりますよ、士郎さん」

「それじゃお世話になります士郎さん、イリヤさん」

「ああ、今日は桜咲の案内がてら食材は購入しておいたから任せておけ」

「シロウの料理は本当においしいから覚悟しておくのね」

 

 

その晩、今日は久しぶりに和食を食べたいわ。との姉さんの希望で軽く和食料理を振舞ったが、朝倉は料理を食べた瞬間、

 

 

「なにこれ!?これどこぞの高級料亭の料理!?」

 

と、言っていた。俺はそんなものは作った覚えはないのだが、同席した桜咲もすごい驚いていたようだ。

まぁ気にしないことにした。

さあ、二人も帰ったことだし鍛錬をしてから寝るとしよう。

明日から初出勤だから早めに学園長室にいっておいたほうがいいからな。

 




あ、感想で指摘されましたが、イリヤは人形に魂を移す際に年齢相応に成長しています。
それとレイライン方式はレアルタ方式ですのでイリヤの魔術刻印の一部を士郎に移植しています。


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005話 2-Aと10歳の魔法使い

更新します。


 

さて、イリヤに寮のことは任せて早めに来たが、学園長室にはすでにタカミチさんがもういた。

むぅ、さすが本職だな。少しずつ俺も時間を調整していかなければいけないな。

 

「やぁ、士郎君。来るのが早かったね、もっとゆっくり来てもよかったんだよ?」

「いえ、さすがに遅れてはまずいと思ったので早めに来ました」

「うむ、士郎君は真面目じゃな。さて、これが君達の偽造した戸籍書類じゃ。後で目を通しておいておくれ」

「もうできたんですか、学園長? 恩にきます」

「いやいや構わんよ。それじゃタカミチ君、士郎君。ネギ君を迎えにいってくれないかの?」

「わかりました」

 

それから俺とタカミチさんはネギ・スプリングフィールド君を迎えに門の前まで向かったが、途中でタカミチさんにネギ君のことを軽く聞かされた。

どうやらネギ君は『ナギ・スプリングフィールド』という今は生死は不明だが、10年前に死んでしまったという伝説的な英雄の人の子供らしい。

英雄か……。

 

「それではネギ君をここ麻帆良学園に来させたのは外敵から身を守るという役目も担っているというわけですか? 英雄と呼ばれるものの血族はなにかと裏のものから狙われる確率が高いですから」

「さすが、というべきかな? 確かにそれもあるが基本はやっぱり修行だからそんなに気を張らなくても大丈夫だよ」

「そうですか」

「なにか考え込んでいるようだが根をつめないようにね? そこらへんも僕達がフォローすればいいじゃないか」

「確かに」

「では僕のクラスは少々元気すぎる子が多いが、頑張ってフォローを頼むよ、士郎君」

「はい」

 

そうだな。くだらなくもないがそんな理由で未来ある少年が命を落とすなんてあってはならない。

俺達が守らなければいけないな。

しかし、タカミチさんの苦笑いはなにを意味するんだ?

 

「さて、ここまで来たがネギ君はっと? あ、いたようだね」

「あの子が……」

 

そこには赤髪で鼻の上にちょこんと小さい眼鏡をかけている少年がいた。

背中に背負っている杖が特に目立っているな。

そして確かにまだ幼い。

 

「しかし何か一方的な喧嘩に巻き込まれているように見えるのは気のせいですか?」

「ははは、ネギ君と一緒にいるのは刹那君と同じクラスで、神楽坂明日菜君に学園長の孫娘の近衛木乃香君だよ」

「余裕ですね? なんか頭を掴まれているように自分には見えますが?」

「おおっと。そろそろ助けたほうがいいね。いこうか士郎君」

「はい」

 

 

 

 

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

(突然なんだろうこの女の人は? ただ親切に教えてあげただけなのに……)

 

この乱暴な女の人に頭を掴まれていた僕はあわあわしながらされるがままだったけど、そこに知り合いの声が聞こえてきた。

よかった、助かった。この声はきっとタカミチだ。

 

「久しぶりだね、ネギ君」

「え゛!?」

 

僕を掴んでいた女の人は急にタカミチのいるほうへ向き「おはようございます!」って言っていたので、僕も同じように、

 

「お久しぶりタカミチー!」

 

と、いったら「え、知り合い!?」って女の人はこっちを睨んできたけどなにか変かな?

それとタカミチと一緒にいる白髪の男性は誰だろう?

 

「麻帆良学園へようこそ。ここはいいところだろう、ネギ先生?」

「え……先生?」

 

乱暴な女性と一緒にいた女の人が困惑しているようだ。

それはそうだよね。僕はまだ子供だから。だから、

 

「はい、そうです。この度、この学校で英語の教師をやることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」

 

と、答えたまではいいんだけどなんかまた首を絞められた。うう~、僕なにも悪いことしてないのに……。

タカミチともう一人の男の人が説明してくれているがどうにも放してくれないよ。

それで僕をいつまでも掴んでいる女の人に対して腹が立ってきた。

反論しようと思ったらついくしゃみをしてしまいその風で女の人の服を飛ばしてしまった。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

白髪の男の人がすぐに上着を女にかけていたがまだ僕は腹が立っていたのか怒ってしまっていた。

……思えば、最悪の第一印象だなと感じたのはまだ先の話なんだけど。

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

……おいおい、いきなり魔力が感じたと思ったら神楽坂という少女の制服が突風で吹き飛んでしまったぞ。

タカミチは呆然としていたのでしかたなく俺はすぐに上着を神楽坂にかけてやった。

 

「大丈夫か?」

「あ、はいありがとうございます。って、あなた誰ですか?」

「すまない、いきなりこんな騒動になるとは思わなかったので紹介が遅れたが、俺は衛宮士郎。

ここにいるネギ君の補佐を今日からすることになった副担任だ。

それより風邪を引いてしまう。だから早く何か着たほうがいい。それまで俺の上着を羽織っていればいい」

「は、はい。私は神楽坂明日菜です、衛宮先生」

「士郎でいい。俺は正式な教師ではないからな、神楽坂。それともう一人はタカミチさんから聞いたが近衛といったな? 悪いが彼女の服を拾ってきてやってくれないか?」

「わ、わかりました」

「あ、いや。すまなかったね士郎君。本来なら僕の役目なんだが……」

 

近衛が神楽坂の服を慌てて拾いにいった後、そこでやっと正気に戻ったのか、タカミチさんはその言葉を言ってきた。

 

「いえ、今日から副担任ですからこれくらいできなくては。それで、君がネギ君だね?」

「あ、はいそうです」

「さっきも言ったと思うが俺の名は衛宮士郎。君の補佐をするものだ、これからよろしく頼むよ」

「あ、はい。よろしくおねがいします、衛宮さん」

「士郎で構わないよ」

「はい、では士郎さん」

 

そしてどうにか紹介が終わったが学園長室にいくまで体操着に着替えた神楽坂はネギ君をにらんでいた。

まぁ、それはそうだろう。原因はどうあれ神楽坂の服を吹き飛ばしてしまったんだから。

しかし、あれは俺の目で見てみた限りでは暴発したのか?

 

(タカミチさん、さっきのは暴発と考えていいんですか? しかも原因はくしゃみ……)

(そ、そうだね多分……)

 

やっぱり、か。まだネギ君は魔法を使いこなしていないということだろうか?

そして学園長室まで戻ってきたところで、

 

「フォフォフォ、君がネギ君かね。ワシは学園長の近衛近右衛門じゃ」

 

ネギ君が挨拶している途中で神楽坂が割り込んで、どういうことか追求していた。

確かに俺も最初は驚いたからなぁ……。

それから色々話し合いが続いていたがやっと話がまとまってきたのか、

 

「しかしまずは教育実習で3月までやってもらうことになるのう?」

 

なるほど、まずは教育実習からか。

しかし、いきなり孫を彼女に誘うのはどうかと思うぞ、学園長?

そして、なんだ!? あの近衛が学園長を叩いたトンカチは!? 本気で殴っても重症は決して負わないという概念を持っているぞ!

そんなどうでもいいことを考えていたら神楽坂が、

 

「大体、士郎先生ならともかく、子供が教師っておかしくありませんか!?」

「そこらへんは俺が言わせてもらう。俺はあくまでネギ君の補佐、副担任だ。それに一応は教師だが教員免許は持ってないからな。逆にネギ君はまだ見た通り少年だがちゃんと教員の訓練は受けているという話だ」

「むむぅ……」

「すまんな、悩ませるつもりはなかったんだが」

「いえ、士郎先生は気にしないでいいですよ?」

「そうか」

「いいかの?」

「はいどうぞ」

 

そして話は進み「はい、やらせてもらいます」とネギ君がいって一旦話は終了した。

そうだ、まだ二人には伝えていないことがあったな。

 

「神楽坂に近衛、ちょっといいか?」

「はい、なんでしょう?」

「学園長、一応俺の事も言っておいた方がいいと思います。急に寮で会ったら混乱させますから」

「む、そうじゃな」

「なんのことなん、じいちゃん?」

「いやの、士郎君はな、今は寮の方の仕事でここにはいないが、姉の衛宮イリヤ君という女性と一緒に昨日から管理人の仕事も兼任してもらっておるんじゃ」

「ええー!? そうなんか士郎先生?」

「ああ、姉さんと一緒に女子寮の管理人室に住んでいるからなにか困ったことがあるなら言ってくれ。それに男の俺が管理人でなにか不都合があるようだったら学園長に言ってくれ。すぐに変えさせてもらうからさ」

「いえ、士郎先生なら信用できそうだから大丈夫そうじゃないですか?」

「そうか。では後で姉さんも紹介するからいつでも来るがいいさ。

あ、そうそう学園長。昨日言い忘れたがなにか機械類で直してほしいものがあったらいってください。ここに来る前は修理業などもやっていたから大抵の機械類は直せる自信がありますから」

「わかったぞ。そうじゃ! このか、アスナ君。しばらくネギ君を泊めてやってくれんかの?」

「げ!?」

「え゛!?」

 

そしてまた神楽坂の怒声が響いてきた。

しかし、俺の話にうまく割り込ませたものだな。

学園長、俺のときといい実は確信犯ではないだろうか?

それから先に神楽坂と近衛は学園長室を出て行ったが、やはり、俺のことはネギ君に一応知らせるんだろうな?

 

「学園長先生、もう話は終わったんじゃないですか?」

「いやまだあるんじゃ。士郎君のことなんじゃが、木乃香達がいた手前、話せなかったんじゃが、一応こちらの関係者になる」

「え!? そうなんですか!」

「そうだよ、ネギ君。だからなにか困ったことがあったらすぐに相談に乗ってもらうといいよ」

「そうなんですか~、よかった。実はかなり不安だったんだよ、タカミチ」

「まあ、そういうことだから気兼ねなく相談に来てくれ、ネギ君。まだこっちは俺もそんなに詳しくないが力にはなるよ」

「はい! よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく」

「それじゃもういいかの。しずな君、もう入ってきてよいぞ」

 

するとしずなという眼鏡をかけた女性教師が入ってきた。

どうやら指導教員の先生らしい。

話が終わった後、この部屋に呼んだことからきっと一般の教師なのだろう。

 

 

 

しずな先生に連れられて学園長室から出ると神楽坂達が待っていてくれたらしく、

 

「あ、お話は終わったんですか?」

「ああ、ではいくとしよう。しずな先生、案内お願いします」

「わかりました。ではいきましょうかネギ先生、衛宮先生」

 

 

そして教室まで移動中なのだが、やはり神楽坂とネギ君の関係はまだ悪いままだ。

どうしたものか……一応、近衛に相談してみるか。

 

 

(なあ、近衛? 神楽坂とネギ君の関係はどう思う?)

(そうやなぁ、朝のこともあるやろうしプチ喧嘩ってところやろうな? アスナ、意地っ張りなところあるし)

(……そうか。できれば仲良くしてもらいたいものだが)

(そうやねぇ)

 

「あの……」

 

お、どうやら話しかけるようだな?

だがやはり一筋縄ではいかないようだ。

 

「いーい!? あんたと一緒に暮らすなんて私はお断りよ!! いくよ、このか!」

 

(やっぱりまだダメか)

(そうやね。それじゃすまんけど士郎先生、また教室でな~)

(ああ)

 

さて、どうしたものか?

やはりここは慰めるべきだろう。

 

「ネギ君、そう落ち込むことはない。これから信用を得ていけばいいじゃないか」

「そうよ、ネギ先生。ほんとはアスナちゃんもいい子だからね」

「は、はい……」

「それよりこれがクラス名簿よ。授業のほうだけど緊張しないでいきましょうね。衛宮先生もいるんだから安心していきましょう?」

 

それでネギ君は一度クラス名簿と教室を交互に見渡して驚いているようだった。

確かにこれは俺も驚きだな。やはり女子だけの学校だけはあるな。

よし、なんとかだが全員の顔と名前はキャッチできたな。

 

「そ、それじゃいきます」

 

ネギ君は率先して教室に入ろうとした。

が、なにか俺の直感がよくないことがおきる前兆だと叫んでいるような?

む? あ! 扉を開ける隙間に黒板消しがある!

ぬうぅ、これはいかん! いきなりトラップとはさすがタカミチさんが苦笑いするほどだ。

止めようとしたがネギ君は扉を開けてしまった。

すまんネギ君、止められなかった不甲斐ない俺を、って!

ネギ君、いきなりだったとは言え黒板消しを空中で止めてはいけなーい!

だが、すぐ気づいたらしくそのまま黒板消しを受け、さらに足に紐がありそのまま引っかかって、お次は水の入ったバケツを被り、追加とばかりにゴムの弓矢が何発も命中しそのままネギ君は教壇まで突撃していった。

……なんて、巧妙に先の先を組まれたトラップだ。ほんとうに中学生の考えたものか?

雛見沢の某トラップマスターもびっくりものだ。……俺はどこの電波を拾っているんだ……?(ネギがトラップに引っかかってから約1秒)。

それより、

 

「ネギ君、大丈夫かね?」

「は、はうう……」

「「「「「子供!?」」」」」

 

それから一騒動あったが結果、しずな先生が静めた為なんとか自己紹介までこじつけたようだ。

 

「ええ、と……あの、あの……僕は……きょ、今日からこの学校でまほ……英語を教えることになりました、ネギ・スプリングフィールドです」

「そして俺はこのクラスでネギ君の授業の補佐として副担任をすることになった担当は同じく英語の衛宮士郎だ。よろしく頼む」

「…………」

 

どうやら皆俺はともかくネギ君のことで頭の処理が追いついていないようだ。

だがすぐに、

 

「キャアアアア――――!!」

「かわいい――――――!!」

 

と、まあネギ君はもみくちゃにされているようだった。

 

「今何歳!?」

「じゅ、十歳です」

「どこからきたの!?」

「ウェールズの山奥の……」

「今どこに住んでるの!?」

「い、今はまだどこにも……」

 

どうやら安心のようだ。さっきは魔法と言いかけて焦ったがなんとか自制できたようだ。

しかし、やはり俺にも質問の嵐はやってくるだろう身構えておくと。

 

「今何歳ですか!?」

「朝倉か、今は23だ。得意分野は昨日伝えたとおりだ。ちなみにもうこのクラスには俺の住んでる場所は伝わっているのか?」

「それはもちのろんですよ。衛宮先生」

「昨日も言ったとおり正式な教員ではないから士郎で構わない。ならもうみんな納得しているのか?」

「はい、まあ、そこそこは……」

「じゃあ俺の口からも一応言っておくか。もう身構えているようだしな」

「へ?」

 

朝倉が後ろを向くとネギ君をもみくちゃにしながらもこちらにも興味津々ですといった視線が飛んできていた。

 

「では、朝倉から伝わってると思うが俺はイリヤという姉とともに今は君達の女子寮の管理人室に暮らしている。

だからなにかあったらいつでも相談に来てくれて構わない。

それと朝に神楽坂達にも言ったがもし迷惑であるのならいつでも言ってくれ。

学園長に相談しすぐに場所はうつろう。

そしてなにか壊れたものがあればすぐにいってくれ。手入れはしてやるから。

俺のことは以上だが、なにか質問はあるかね?」

「特にはないと思いますよ? ただ、目的はあるでしょうが?」

「目的? それはなんだ、朝倉?」

「いえ、昨日の料理のことを話したらみんな目の色を変えてしまいまして。

士郎先生は和洋中さらにはデザートもなんでも作れるわ、あまつさえ軽く作ったといったものがあんな味をほんとうに出せるのかとか、料理を教えてほしいというものも何名か」

「ふむ、そうか。では近いうちになにかを作ってやろうか? 食材さえあれば何でも作ってやろう」

 

「「「「やった――――――!!」」」」

 

するとその言葉を待っていたが如く、大抵のものは叫んでいた。

ほんとうに元気なものだ。今ならあの虎の気持ちも少しは理解できるかもしれないな。

だが、ね。やっぱり平穏はもろくも崩されるものだ。

俺の話が終わったと同時に動いたのか神楽坂がもみくちゃ状態のネギ君を強引に引っ張り出してあろうことか、

 

「士郎先生の話が終わったから聞くけど、あんたさっき黒板消しになんかしなかった!?」

 

なかなか鋭いなぁ神楽坂は。あの一瞬で一般人が気づいたのはすごいと思うぞ?

 

「士郎先生もなにか変だと思いませんでしたか!?」

「いや? 俺は普通にネギ君がトラップに引っかかったくらいとしか見当はつかないが?」

「そうですか……でも! ほんとになにかしたでしょ、あんた!?」

「あうううう!」

 

やばいな、もうネギ君も限界のようだ。ここは俺が―――……

 

「おやめなさい!」

 

と、キッ!とした声が響いてきた。その声の主は確か出席番号29番の雪広あやかか。

委員長でもあるから当然の行動か。

 

「すまん雪広、先に止めてくれて」

「構いませんわ、士郎先生。それよりもうお名前を覚えていただいてもらって嬉しいですわ」

「ああ、先ほど名簿を見せてもらったからな」

「まぁ! さすがですわね。それで話は戻りますが、アスナさん? その手を離したらどう? もっともあなたのような凶暴なお猿さんにはお似合いのポーズでしょうけどね?」

 

……余計、火に油を注いでどうする?

結局、この場はしずな先生が止めたが三つわかったことがある。

一つ目は、神楽坂はタカミチさんの事が好きだということ。後、渋いおじさん系?

二つ目は、雪広はショタコンであること。なにか理由持ちではありそうだが。

そして最後の三つ目はこのクラスの半分以上はお祭騒ぎが好きな人種ということ。これでは虎が何人もいるようなものではないか!?

まあ特例として、何名かは桜咲を含めこちら側の人間というくらいか?

ロボットなんてのもいるしな。それが普通に授業を受けているなんてずいぶんハイテクな世界なことだ。

 

 

それで授業が始まってしばらくして神楽坂はまだ諦めていないのか消しゴムを何度もネギ君に飛ばしてきていた。

そしてまた雪広がネギ先生に神楽坂のよくない噂を吹き込もうとしていたらそこに筆箱ごと飛んできて、と。

また喧嘩が始まるのかとため息をつこうとしたその瞬間。

神楽坂の放った筆箱の中身のシャーペン一本が誰にも気づかれないように俺のほうに角度を変え飛び掛ってきた。

それを瞬時に指で掴み魔力の感じるほうに目だけ向けると一番後部座席に座っている少女。

出席番号26番のエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルがこちらを見て目で、

 

『ようこそ。歓迎するよ、衛宮士郎』

 

なんて言ってきた。上等ではないか。

見てみぬ振りを決め込もうと思っていたがやはりいずれはぶつかることになるだろう?

だから仕返しに、

 

『いい覚悟だ、吸血鬼。こちらからは仕掛けはしない。が、そちらが動いた時は……楽しみにしているがいい』

 

と、一瞬だけ威圧をこめて返してやった。するとエヴァンジェリンは本当に楽しそうな笑みを浮かべてそのまま顔を自然に逸らした。

 

 

 

そして授業は喧嘩が続く中でいつのまにか終了してしまい、ネギ君はがっかりしていたがなんとか慰めた。

 

その後、姉さんに連絡を取ろうとしたがなぜか不穏な視線を感じ振り向くが、そこにいたのは2-Aの近衛他クラス達数人だった。

なにかを仕掛けてくるのか? と思ったが、ある頼みでなぜか俺は抵抗もできず拉致される形でどこかに連行されてしまった。

そして到着したのはなぜが調理場がある教室、そしてそこにある余りある食材の数々。

 

……いいだろう。作れというのだな? ならば全員の舌をとろけさせてやるとしようか?

そして俺は教師から料理人へと変わるスイッチの撃鉄を落とした。

エプロンをかけ、調理道具を並べ、調味料を確認し、まわりすべてのもの(食材)に語りかけるようにある言葉を紡ぐ。

 

 

「いくぞ具材ども……鮮度の状態は新鮮か?」

 

 

戦いの火蓋は切られた。

なぜか俺を連れてきた生徒たちは顔を引き攣らせていたが、まあいい。

すぐにその顔を歓喜に変えて見せよう。

 




はい。最後にネタ発言ですね。


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006話 歓迎会

更新します。


 

 

Side 近衛木乃香

 

 

士郎先生を調理室に連れてきたのは正解だったようや。

本人もどうやらやる気のようやしね。

でも、エプロン姿がまったく違和感なく、逆に似合いすぎや。

そしてまだ教えてもないゆうのにすぐに調理道具を並べて、調味料もその場にあるものだけすべて集めて、最後にまるで戦いにおもむく様な台詞を言っていた。

一緒に連れてきた朝倉さんやパル、ユエは顔を引き攣らせとったが、古ちゃんや超さん、楓さんはその気迫に口を揃えて、

 

「只者ではないアルネ?」

「まさに料理人の姿ネ」

「楽しみでござるな~!」

 

と、言っていた。料理を作るものにはわかったような台詞を言っていた。

確かにうちもそれは士郎先生から感じたんや。

 

そして士郎先生による調理が始まった瞬間、みんなが息をのんだ。

そう、士郎先生の料理の手捌きはとても速い。

が、なによりもその繊細さがすごいんや。

切った野菜は見た限り一ミリもずれがなくて、そして切られた野菜はまるで自分から飛び込むように切りかごに収まっていっとる。

次にお肉や魚なども調理し始めたんやけどまたすごいものが見れた。

お肉は士郎さんの顔の前まで浮かぶと目にも止まらぬ速さで牛角にされ、魚も同じ要領で刺身にされていた。

焼き方やフライパンの返し、そして数々の調味料の使い分け。

そして全員のお口に応えられるように和洋中と次々と料理が作られていく。

しかもや! いつの間に作ったんやろかオーブンの中にはスポンジケーキが焼かれていて、他にもプリンやお団子といった様々なデザートが作られていっとる。

デコレーションも半端やない。

 

その光景を朝倉さんは興奮しながらデジカメに収めていて、パルも感化されたのか今度の漫画のお題はとかブツブツいっとる。

ユエも声がでずにいたが驚愕しているのがようわかった。

そしてうちと、それに他の料理を作るみんなもきっと思ったんやろうな?

 

「後で調理法を教わろう!」……と!

 

最後にすべてのものをお皿に移して、すぐさま調理道具などを洗い終わった士郎先生の顔は実に満足そうにしていて、

 

「ふっ……こんな料理を作ったのは黒い月の姫君の時以来だな」

 

と、なにかを思い出しているようなのか窓の外に浮かぶまだ夜ではなくて薄い月を見ながらいっとった。

黒い月の意味はよーわからんけど、姫君って……士郎先生、以前はいったいなにをしていたんやろ?

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「これで終了だ。さて教室に運ぶのだろう? 手伝ってくれないか?」

 

しかしつい久しぶりにまともな団体料理を作れると思って熱くなってしまった。

姉さんに先に念話をしておいてよかった。

これをもし後で伝えていたとしたら、きっと半殺しにあうだろうからな。

 

「し、士郎先生! 料理が昨日の比率じゃないっすよ!? なんですか今の調理の仕方は!」

「すごいね士郎先生! なんか脳髄にピキーン!と来るものがあったよ!」

「すごいです!」

「こ、このプリンは味見してもいいでござるか?」

「この肉まんいいアルカ!?」

「これはとてもいい人材ネ? ぜひ超包子に誘いたいよ……ふふふ」

「まだダメだ。ネギ君が来たら行う歓迎会の為なのだから早めに運ばなければいけない」

 

味見をしたいといってきたものもいたがざっくりと切り捨てた。

だがシニョンの少女、出席番号19番の超鈴音からは寒気がしたのは気のせいだろうか?

 

「でもな、それは士郎先生も言えることなんよ?」

「別に構わないさ。メインはネギ君なのだから俺は二の次でいい。それと俺の姉さんを呼んであるからそちらも歓迎してやってくれ」

「え、イリヤさんも来るんだ。それじゃみんなきっと驚くね? かなりの美人さんだから」

「そうなん?」

「そりゃもう私たちとは比較にならないくらい。まるでお人形さんみたいだったよ」

「………朝倉、姉さんにその手の話はしないでくれると助かる。俺も気にするが、姉さんは俺なんかとは比較にならないものがあるからな」

 

俺は朝倉の言った“人形”という言葉に反応してしまいつい顔を顰めて言ってしまった。

そう、姉さん……いやイリヤは過去、アインツベルンの使い捨ての小聖杯(にんぎょう)として一生を終わる運命にあったのだから。

たやすく人形という言葉は口にしてほしくない。

それは姉さんの古傷をえぐるものに他ならない。

その事は口を割っても他人に教えるつもりはないが、それが伝わったのか朝倉は少し顔を俯かせながら謝ってくれた。

 

「ごめんなさい、士郎先生。訳ありみたいだったのに考えもなく口走っちゃって」

「いや、気にしないでくれ。わかってくれればそれでいいんだ」

 

俺はなんとか空気を取り繕うと笑顔を見せたが、次にはどうにも暗かった雰囲気が一転しみんなは顔を赤くしてしまった。……なぜだ?

 

(朝倉さん、それに皆さん。あの士郎先生の笑顔は反則だと思うのは私だけでしょうか?)

(いやいや、そんなことないってゆえ吉! あれはある意味魔性の笑みよ? あんな笑顔されたら最悪落ちちゃうよ!?)

(はわ~……うちも一瞬ドキッとしてもうた)

(士郎殿はどうやら無自覚らしいでござるな?)

(天然アルか?)

(きっとソウネ)

(くそう~……今の笑顔はベストショット確定だったのに、この朝倉和美一生の不覚だったわ!)

 

「?」

 

その中で一人やはり気づかなかったのか士郎はその朴念仁ぶりを大いに発揮しているのであった。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

その後、数々の料理が教室に運ばれていく度に士郎の料理現場に参加していなかった面々はその料理に目が釘付けになっていた。

朝倉が俺が集中していたのかいつの間にか撮影していた映像を、ネギ君が来るまでといって一部始終をみんなに見せていたが、すごい目で見られているのは気にしない方針にした。

しばらくするとタカミチさん、しずな先生が校舎で俺達の教室が分からなかったらしく迷っていたらしい姉さんを連れてきてくれた。

 

「あ、シロウ! 呼んでくれたのはいいけどちゃんと居場所くらい教えときなさいよ?」

 

姉さんが俺に気づいたらしく少し怒り顔で迫ってきた。

 

「ああ、すまなかった姉さん。伝え忘れていたよ。それより、ありがとうございます、タカミチさん。姉さんを案内してくれて」

「いや、構わないよ。それよりまだネギ君が来ていないようだね? よし、ちょっと迎えにいってくるよ」

「わかりました。じゃ俺はその間に姉さんをみんなに紹介しておきますよ」

 

そしてタカミチさんは教室を出て行った。

一方、姉さんの方はやっぱりというかアインツベルンの名は捨てたとはいえ、その気品さはまったく損なわれていなかったのでかなり人気が出たようだった。

姉さんがいうには今の姿は実の母の姿とほぼ一緒なのらしいから十分美女の部類に入るのだろう。

実際姉さんは綺麗だからな。

 

「……士郎さん?」

「ん? なんだ、桜咲、険しい顔をして」

「いえ、大丈夫そうならいいんですが、エヴァンジェリンさんに敵意の目を向けられていましたが大丈夫でしたか?」

 

騒がしい中、気づかれないように桜咲が小声で話しかけてきた。

やっぱり気づいていたようだ。だから俺も小声で会話した。

 

(やはり気づいていたようだな。そこのところは今は大丈夫だ。威圧で返してやったからな。『いい覚悟だ吸血鬼、こちらからは仕掛けはしない。が、そちらが動いた時は……楽しみにしているがいい』とな)

(エヴァンジェリンさんが吸血鬼だと気づいていたんですね)

(まあな。ああいった類は前の世界でも何度も相手をしたことがあるから教室に入ったときに気配ですぐに分かった。

だが、なにかしら力を封印されているようだな? 全盛期はどうだったか知らないが今は極限まで魔力が落ちているみたいだ。

だからあっちから仕掛けてくることはないから一応は安心している)

(そこまでわかったんですか。さすがですね)

(そんなことはない。その代わり力をもし取り戻した時には本気で相手はするつもりだ。あくまで“つもり”だがな。甘いといわれても仕方がないが、まだ悪なのか決めかねている節がある。だからそのときが来たらまずは話し合いから挑もうと思う。それから一応だが、生徒なのだから殺す心配はしなくてもいいぞ? やって戦闘不能までには追い込むつもりだがね?)

(あはは……士郎さんが言うと冗談に聞こえませんね?)

(まあ、そうならないことを祈るよ)

(そうですね)

 

するとタカミチさんが少し赤い顔をしながら一人教室に戻ってきた。

なにかあったのか?

 

「どうしたんですか、タカミチさん?」

「いや、なんでもないよ。士郎君は気にしなくてもいいよ? ははは……」

「はあ……? 声がかわいてますがタカミチさんがそういうならもう聞きません」

「助かるよ」

 

なにか俺の勘がこれは触れないほうがいいなと語りかけている。

だからもうこの話は終了した。

そしてネギ君と神楽坂が教室に入ってきた瞬間、

 

「ようこそネギ先生―――ッ!!」

 

ネギ先生はいっせいにクラスの生徒たちに大声で熱烈歓迎されていた。

どうやら無事に迎え入れてもらえた感じだ。

俺と姉さんはその光景をタカミチさん達と一緒に笑っていたが、

 

「そして士郎先生にイリヤさんもようこそ―――ッ!!」

 

俺達も続いて歓迎された。む、なにやら虎の気持ちが本気で分かってきたかもしれない。

 

「元気があって結構なことだな」

「そうね。でもいいんじゃないかしら、こーいうのもたまには?」

「そうだな、姉さん。ではネギ君も来たことだ。もう待ちきれないのだろう?もう始めようとしよう」

 

その俺の声を合図にみんなはネギ君を中心に持っていき歓迎しながらも俺の作った料理を口に運び楽しんでいた。

 

「え? これ全部士郎さんが作ったんですか!?」

「ああ、久しぶりに満足のいくものを作らせてもらったからネギ君も神楽坂も遠慮せず食べてくれ」

「士郎先生ってなんでもできるんですねぇ」

「ほかに趣味はこれといってなかったからな。だからこんなことしかできないが楽しんでいってくれ」

「ありがとうございます士郎先生。ほんとこのガキとは大違いね」

「そ、そんなぁアスナさん…」

 

ネギ君は少し泣き顔だったがすぐに生徒の波に連れてかれて普段どおりになっていた。

それからネギ君はどうやら助けたらしい宮崎にお礼を言われていたり、雪広にはネギ君の顔にそっくりな銅像をもらいあたふたしていた。……いつの間にあんなものを?

そのうち、ネギ君が神楽坂になにかを握られているのかしょうがないといった顔でタカミチさんに何度か読心術を試していた。

姉さんも気づいたのか神妙な顔をしていた。ネギ君、君は魔法を隠匿する気はあるのか?

そして何度か小言で言い争いをしていきそのまま神楽坂は教室をネギ君はそれをあわてて追っていった。

なにか妙だと思っていたが理由がなんとなく見当がついた俺は姉さんにレイライン越しで表面上は普通に装い会話をした。

 

《なあ姉さん少しいいか?》

《なにシロウ? もしかしてあの二人のこと? もうばれたのかしらね?》

《だと思う。実は今朝ネギ君はただのくしゃみで魔力が暴発して神楽坂の服をわざとではないが吹き飛ばしていた。制服が今は完全に新しくなっているのだから今度はおおかた記憶を消そうとして失敗し吹き飛ばすのではなく消し飛ばしたかなにかしたのだろう?》

《く、くしゃみで? どれだけ素人なのよ? ほんとうに魔法学校を卒業したっていう実力は持っているのかしら?》

《まあ、まだ子供だからな》

《それだけの問題なのかしら? にしてもあの二人が出て行ったほうが騒がしいわね?》

《さて、またなにをやらかしたのやら?》

 

そして騒がしい一日はやっと終わりを告げ、それぞれ帰っていっている中、俺と姉さんはネギ君と神楽坂を引き止めた。

 

 

「ネギ君に神楽坂……もし今日暇で夜、部屋へみんなで来るのなら、先に二人だけで管理人室に来てくれ。なんとなくだが二人の関係には見当はついた。なにか訳アリなのだろう?」

「士郎さん、それは……!」

「えっ!? じゃもしかして士郎先生やイリヤさんも―――むぐ!?」

 

 

咄嗟に神楽坂の口を手でふさいだ後に、

 

(今ここでは言えないが関係者ではある。だからこんな往来で叫ぶのだけは自制してほしい)

(は、はい)

(ネギ君もなにがあってこうなったのか教えてくれると助かる)

(……わかりました)

 

「よし、では帰り支度を済ませて帰るとしようか」

「そうね、シロウ」

 

それだけ伝え神楽坂を待っていた近衛とともに寮へと帰った。

 

(なんていうか士郎先生とイリヤさんはわざとあんたのために正体ばらしてくれたんだから大人の対応しているわよね? あんたも見習いなさいよ?)

(はい、精進しますぅ…)

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

時は過ぎ、今は日も沈んでやっと二人が来たのを確認したので、

 

「姉さん頼む」

「わかったわ、シロウ」

 

姉さんが二人が扉を閉じたのを確認した瞬間、人がこの部屋に近寄ってこれないという暗示をこめた人払いの結界を展開した。

神楽坂は気づいていないようだったがネギ君は驚いたらしく、

 

「これは……無詠唱で結界を張ったんですか!」

「そうよ。士郎は戦闘面に特化してるけど、私は逆に補助系全般といった感じかしら?」

「え?え?なんのこと?イリヤさんなにかやったの?」

「姉さんがやったのは人が近寄ってきてはいけないという暗示をこめた魔術だ。それと声が外に漏れないように部屋全体を強化して音声認識阻害の魔術も俺が展開させている」

 

いやぁ、昔の俺はこんな初歩級の魔術すらもろくに使えなかったのだから恥ずかしい話だ。

それも卒業するまでは遠坂に時間がある限り魔術理論を一から片っ端にしごかれ、そして世界に出てからは姉さんに暇さえあればずっと教授してもらっていたのだから実に情けない話だ。

俺の武器である投影も昔は本能というか感覚というか、それだけで作り出していたが今はちゃんと投影魔術の基礎も学んで知識と経験を組み合わせて使用している。

あの地獄の特訓はかなり堪えたと今も自負している。

とある意見が合った古参の死徒との模擬戦という名の死闘はそれを駆使して戦わなければほんとうに死ぬかと思ったものだ。

当然その持ち主の剣はもう俺の心象世界の剣の丘に突き刺さってはいるが、

 

 

閑話休題

 

 

「さて、これで今は邪魔は入らなくなったからどういった経緯で存在がばれたのか話してくれないか?」

 

それでネギ君はゆっくりと語りだし、最初の宮崎を助けたあたりはまだまじめに聞いていたのだが、いきなり杖を開封するなり浮遊魔法を使いあまつさえまわりに認識阻害の魔法もしていなかったなんて。

そして見られたために記憶を消そうと魔法は使ったがいいが失敗、服を吹き飛ばし、あまつさえ神楽坂の片思いしているタカミチさんにその醜態を見られた。

などと、よくそんな短時間でそれだけ奇想天外なことをしたものだ。

 

「ネギ君、さすがに俺でもフォローができない領域なのだが」

「私も無理ね。記憶を消しても完全には消えたわけではないからタカミチの顔を見た瞬間、フラッシュバックしてくるわよ、きっと」

「やっぱりそうなっちゃいますか?」

「だからここは最後の手段として神楽坂にお願いしたいのだが、できればネギ君の秘密は守ってやってほしい。まだ未来ある少年の道を奪うのはさすがに忍びない」

「そ、そんな頭を下げないでください士郎先生! 大丈夫ですよ、私はそんなに口は軽くないですから。だから頭を上げてください。私が悪者みたいでなんか嫌ですから」

「そうか。すまんな、神楽坂。それとネギ君、さすがに使うなとはいわない。……が、もう少し回りを見て行動をしてくれれば俺としてもフォローできるから頼むよ」

「は、はい! それにしてもなんか士郎さんもイリヤさんも僕達が使う魔法とは違う感じがしますね?」

「まぁ似て非なるものだからな。気にしなくて構わない。ではそろそろ外の者達も違和感を感じ始めている頃だし、姉さん?」

「ええ」

 

俺と姉さんはすぐに魔術を解いた。

するとやっと部屋に近寄れるようになったのか、何人かの生徒が部屋に押しかけてきたので俺は料理指南してきたものには簡単に教えながら、今日のような豪勢なものではなく普段作るような中華料理を作ってやった。

……決して泰山のようなマーボーではないぞ? 誰が好き好んであんな冒涜中華料理を作るものか!

 

 

ちなみに、翌朝俺の料理の記事がすでに作成され掲示板に張られたから噂が立ち始めるまで俺は気づかないでいた。

知った日に朝倉を締めるはめになるだろうがまだそれは先の話である。

 

 




超高校級の料理人 エミヤ……。


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007話 ホレ薬の悪夢

更新します。


 

教師生活一日目が終わり、ネギ君が神楽坂にそうそうに魔法がばれるというハプニングがあったが口止めはしておいた。

よって俺はあせることもなく朝の日課に励めるものだ。

姉さんが目を覚ます前のまだ日が昇り始めて間もない四時ごろのこと。

俺は寮の外の森の中に入っていき干将・莫耶を投影して自然体で構える。

最強の剣士、サーヴァント・セイバーの称号を持つアーサー王ことアルトリアを仮想相手に決めて、シャドーとして剣技は雷のように速く、そして重い攻撃を何度も繰り出してくるものをなんとか捌き受け流す。

セイバーの剣は少しでも油断すればすぐさま得物ごと叩き割られてしまう。

昔の道場での稽古と聖杯戦争での経験でそれは悲しいくらい思い知らされた。

基本、俺の攻撃法はみずから隙を作り出し相手の攻撃を捌いてカウンターとして一撃のもとに切り裂くものだ。

だがシャドーはそれをも力押しですべて弾かれてしまうから一度の油断が死に繋がるものだ。

だから型を崩されたらすぐに体制を立て直し次の攻撃へとすぐさま戦闘経験を踏まえて対処するといった行動を何度も繰り返していた。

 

そして全力でシャドーに挑み10分以上が過ぎ、ついにやられたところで鍛錬を終了したところで、

 

「俺の鍛錬がそんなに面白かったか、桜咲?」

「え? い、いつごろから気づいて……」

 

思ったとおり桜咲が木の陰から出てきた。

 

「始めて三分くらいしたくらいからだな? 視野を広げてシャドーと対峙しながら桜咲を第二者と想定して警戒しながらも打ち込みをしていた」

「はぁ……感嘆の声しかでません。それよりどんな人物を仮想して相手をしていたのですか?

今の士郎さんの動きはそれこそ死合いを想定されたハイレベルなものでしょうが、見ていた限り本気そのものでしたから気になりまして」

「……そうだな。俺の知る限りでは世界でもっとも最高の剣士に位置づけられるものだ」

「最高の剣士……その方はどれほどの実力を秘めていたのですか?」

「そうだな。全身に西洋の青いドレスの上に銀の甲冑を身にまとっているというのにそれすらも苦にせず、まるで雷のごとく速く動き、そしてその一撃一撃は本気でなくても岩盤をも見事粉砕する威力を秘めている。

それでもまだ本気ではないのだから驚くべきところだが、もし本気が垣間見れることがあるのなら俺とは違い実力のある百の兵士をたった一人でも軽く乗り切れるだろう。

なにより奥の手を使ったならばまばゆい極光とともにすべてを無に帰す力を発揮する。

これは誇張ではなくまぎれもない真実だ。だから、俺はその人を目標にしていつか対等に戦えるようになりたいとも思っている」

「そんな素晴らしい人物が士郎さんの世界にいたんですね」

「いや、この世界にももしかしたらいるかもしれないぞ? 誰かとかは言わないがな」

「そうですか。それより本日はお願いがあってここに参りました」

「ん? どうしたんだ? 急に改まって」

「はい。士郎さんは自身が実力は二流と評していますが様々な戦闘ができると私は判断しています。ですから勝手な話だとは思いますが稽古の相手をしていただけませんか?」

「いいのか? 桜咲にも師はいるのだろ? これといって攻めるといった型がない俺に教授しても得はないと思うが?」

「そんなことはありません。士郎さんは型がないからこそなにをしてくるのか私にも判断できないところがありますから」

「ふむ、なるほど。実績を積みたいといったところか?」

「はい。士郎さんは本当の戦場で実績と様々な戦闘理論を学んだといっていましたが、私は……京都神鳴流という剣技を日々研鑽していますが、実戦といったことは師により聞かされた事と、前の夜のように学園内に侵入してきた魔物達との戦闘経験くらいしかありません」

「それはそうだな。戦闘に年齢は関係ないがまだ桜咲は中学生だ。そうそう本場に立ち会うことはないだろうしな。

できればそんな現場には桜咲に対して侮辱になるかもしれないが、まだ学生なのだから表の世界を普通に楽しく過ごしていってほしいのが本心だ。

だが、桜咲はもう自身の決意でこの世界に足を踏み入れている。

俺には理由はわからないが相当な覚悟を持ってな。

なら俺は止めることはしない。それこそ本当の意味で侮辱になってしまうからな。

だから俺でいいのならいつでも付き合ってやろう。

たいていこの時間にはこの森でやっているからいつでも来るがいいさ」

「はい、ありがとうございます! そして私のことも念頭にいれて考えていてくださり感謝します」

「そんな褒められたものではない。俺は考えが甘くて馬鹿なだけだ。昔も、そして今もな。

俺自身はただひたすらに無意味な戦場にかけていき、いざとなれば魔術がばれてもいいという考えで戦争によって虐げられている人達を救い続けて、結果、封印指定をかけられて姉さんにも迷惑をかけ、そして世界からも見放された身だからな。

桜咲はもちろん他のものにも俺のようなすべてのものを救いたいという“正義の味方”を理想にしていて人生を蔑ろにしている無鉄砲で命知らずな奴にはなってほしくないというただの我侭だ」

「士郎さん……」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

……やはり、そのような理由でしたか。

ですが士郎さん、あなたの考えは決して間違ってないと思います。

そもそもすべてのものを救いたいという問いに正解か間違いかなんて存在しないのです。

だから私にはその愚直ですがまっすぐに想いを貫いていける士郎さんの姿は眩しいものがあります。

私もお嬢様を守りたいという考えはありますが、“あの時”から再会してからはつい避けてしまい、影からしか守れないということしかできない臆病者になってしまいましたから。

 

「桜咲、俺には君の気持ちは理解できないかもしれない。だが相談なら乗ってやるから思いつめたような顔はしないでくれ。まだ桜咲は後悔しても振り返り、そして何度でもやり直すことはできるんだからな?」

(ッ!)

 

まさか顔に出ていたなんて、まだまだ修行がたりませんね。

それに士郎さんの言葉はまるで自分自身に問いかけているようなもので聞いていてとてもせつない。

 

「それとこの世界に来る前に最後に師匠に言われたことだが、『人助けを続けるのはいい、だけど同時に自分の幸せも見つけなさい』と、言われたんだ。

だからもう後戻りはできない以上、この世界で姉さんと一緒にそれを探そうと考えている。

……すまないな、愚痴っぽく一方的に話しこんでしまって。考えは人それぞれだ。

だから桜咲は決して道は誤らず人生を進んでほしい。

さて、つい話し込んでしまったな。鍛錬を始めるとしようか」

 

……この人は強い。体ではなく心が。

私もいつか士郎さんのような強い心を持ちたいと心から思った。

たとえこの身が人間じゃないとしても。

だから、

 

「はい、お願いします!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

桜咲との実戦を想定した訓練が終わった後、二人で寮に戻った。

しかし、他人にこんな簡単に愚痴のように話してしまうなんて俺もまだまだだな。

自制しなければな。

シャワーを浴びて食事を作り、早めに姉さんと食べて二人して学園に向かった。

しかし姉さんは教師として通っている俺とは違い何をしにいくのだろうか?

聞いてみたが、内緒よと、ふふふと笑いながら言われてしまった。

寒気を感じたのは気のせいということにしておこう。

 

とりあえず二日目の授業が始まり、ネギ君は昨日とは違い緊張はなくちゃんと授業はできているようで安心した。

だが、また雲行きが荒れてくるような気がした。

ネギ君……実は自覚しているのではないか?

神楽坂は答えたくないといった感じで精一杯顔を逸らしているが当てるのはかわいそうであろう。

どうやら昨日のお礼というか善意らしいがそれが裏目に出たようだ。

 

「アスナさん、英語がダメなんですね」

 

と、クスッと悪げもなく笑ってしまったのが原因だった。

それから芋づる式にほかの教科もほとんどダメだとみんなに暴露され挙句の果てには、

 

「ようするに体力バカなんですわ」

 

と、まで言われてしまっていた。哀れでしょうがなかった。

そしてまた神楽坂はネギ君に掴みかかったが神楽坂の髪がネギ君の鼻に触れた瞬間、

俺は同時に神楽坂の前に飛び出しくしゃみという突風を代わりに受けた……いや今回は突風なんてレベルではない!

 

(ぐうぅう!!)

 

なんとか服は強化したので吹き飛ばされずにすんだが、体のほうは間に合わずまるで重鈍器で殴られたような衝撃をもろに鳩尾を中心にくらってしまい俺は意識を手放しそうになった。

 

「はぁ、はぁ……な、なんだったんだろうな今の強烈な突風は? そ、そうは思わないかね神楽坂?」

「は、はい……そうですね。だ、大丈夫ですか?」

「心配ない。とりあえず、俺は後ろに戻っているからネギ君は授業を進めて、くれ……」

「…………」

 

みんなの視線が気になったが今は気にしてはいられない。

なんとか足に力をこめて後ろに置いてある椅子になるべく自然に座ったが、それからはどうなったかは朦朧としていていつ意識を失っても過言ではない状況だった。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

 

 

あわわ! ついまたくしゃみをしちゃって士郎さんに至近距離であてちゃった!

平気だったようだけど椅子に戻った士郎さんはなんか片手でお腹を押さえて痛みに耐えてるように見えちゃうよ!

ああぁぁぁ、アスナさんもものすごくこちらを睨んできてるよ~……どうしよー?

とりあえず後で士郎さんには謝ったほうがいいよね!?

 

そしてしばらく時間がたって今日の授業が終わると士郎さんは幽鬼のようにふらふらと一言いってから教室を出て行ったので、僕は心配になってすぐに後を追った。

どうやらアスナさんも一緒に来てくれるようだった。

士郎さんが向かったのはやっぱり保健室だった。

保健の先生は非番でいなかったようでアスナさんが士郎さんの肩を持ちゆっくりとベッドに横にしてやっていた。

どうやら回復してきたのか士郎さんは魔法を使って防音の結界をはったようだった。

 

「し、士郎さん……大丈夫ですか?」

「ばか! あんなのがもろに直撃してしかも耐えたのに平気なわけないでしょうが、この馬鹿ネギ!

それよりすみません士郎先生、私の代わりに怪我を負わせちゃって……」

「ぐっ……気にするな。あれくらいの痛みなら慣れてるからすぐ痛みはとれる。

だからそれまで横になってることにするよ。それよりネギ君、あの暴発はどうにかならないものかね?

さっきの魔力の塊はもし耐性がない神楽坂が受けていたら服どころか体が壁まで吹き飛ぶほどの威力だったぞ?」

 

それを聞いてアスナさんは顔を引きつらせているようだった。

そんなつもりはなかったんだけどさっきは一際大きくくしゃみをしちゃったからかな?

 

「……はうぅ、すみません。わざとじゃないんですけどつい……」

「なんなら魔力が制御できるまでなにか魔力をコントロールする礼装の指輪でも作ってやろうか?」

「あ、いえ大丈夫です。でも士郎さんてそんなものも作れるんですか?」

「たしなみ程度にはな。魔具製造の仕事をしていた時期があったからな」

「すごいですね士郎さん、そんなこともできるなんて」

「ほんとネギ坊主と違って優秀ですよね」

「そんなこというものじゃないぞ、神楽坂。これでもネギ君はネギ君なりにがんばっているのだからな」

「あ、はい」

 

うう、迷惑かけちゃったのに逆に慰められてしまいました。

僕もこれから気をつけなきゃ。

それで放課後になって噴水の近くで反省していたら、宮崎さんと早乙女さんと綾瀬さんが話しかけてきて、ふと宮崎さんの髪型が変わっているのに気づいて似合ってますよ、といったら宮崎さんは急に顔を赤くしてどこかにいってしまった。

お二人も追っていったけどなんだったんだろう?

 

「ん?」

 

そこで僕はカバンからなにかが転がり落ちてきたので拾ってみるとそれはなんと、昔おじいちゃんがくれた『魔法の素 丸薬七色セット(大人用)』だった。

そうだ! これならアスナさんがいっていたホレ薬が作れるかもしれない!

それに士郎さんにもお詫びを込めてあげてみよう。

そうと決まったら、

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……」

 

そして出来上がったホレ薬をさっそくアスナさん達に持っていくことにした。

教室に入るとアスナさんはいたけどまた睨まれてしまった。

怖いけど、なんとか挽回しなきゃ!

 

「あ、あのアスナさん……アレが出来たんですよ」

「アレ?」

「はい、ホレ薬ですよ」

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ふぅ、なんとか痛みは治まったな。さて残りの生徒はいるか見てみるか。

ん? ネギ君がいるようだ。……神楽坂と。いつも喧嘩しているわりになにかと一緒にいるものだな?

なにかまた騒動がおきそうだったので近寄ってみると、

 

「あ、士郎さん! ちょうどよかった」

「どうした、ネギ君?」

「はい、さっきの傷のお詫びにある薬を作ってみたんですけど……」

 

(ちょっと! さっきと言ってること違うじゃない!?)

(あ、はい。士郎さんにもお詫びをしたいので)

 

「そうか。ではいただくとしようか」

「ちょうどいいわね。どうせデマに決まってんだからあんたも一緒に飲みなさいよ?」

「え? むぐっ!」

 

ん?神楽坂はネギ君にも飲ませたようだが……そういえばなんの薬かは聞いていなかったな。

 

「なあ神楽坂、今飲んだ薬は何の効果があるんだ?」

「あ、それはですね。どうせデマに決まってますけどネギがいうにはホレ薬だそうですよ? きっと違う効果の薬だと私は思ってるんですけど」

「……は? ホレ薬!?」

 

神楽坂は信じてないのかやっぱりなにも起こんないじゃない?といっているが、周りの様子が少しずつおかしくなっているのを気づけ!

 

「士郎先生って、ハンサムやねぇ?」

「近衛? ッ!? いかんっ!」

 

近衛の俺を見る目が虚ろになっているぞ!?

ネギ君はネギ君で雪広や他に柿崎などにも迫られあたふたしている。

神楽坂はなに舌打ちをしているか!?

これは、まずい!

 

「ネギ君! ひとまず逃げるぞ!」

 

俺はネギ君を抱えて足に強化を施し瞬時に教室の外にでた。

だが、そこで俺は固まった。

そこには桜咲、古菲、龍宮、長瀬と麻帆良武道四天王と言われている集団と鉢合わせしてしまった。

しばし時が停止したが次の瞬間、俺を含め全員の足が地を爆ぜた!

 

「士郎さん! 待ってください!」

「まってくれないかい衛宮先生!」

「待つでござるよ、士郎殿!」

「まつアルヨ! 士郎先生!」

「だあぁぁぁ! なんで全員俺目当てなんだ! ネギ君この効力はいつぐらいで切れる!?」

「さ、三十分くらいかと……」

 

なんでさ――――!!?

思わず心の中で叫んだ!

それでもどうにもならないと分かった俺はひとまず標的ではないネギ君を図書室に入れて、一人リアル鬼ごっこが始まった。

って、いうか弾丸や剣気が普通に飛んでくるのはどうにかならないのか!?

 

 

 

 

 

そしてしばらくするとなんとかまけたのかと一安心したのも束の間、目の前にはここにはいないはずのぎんのあくまこと姉さんが立ちふさがっていた。

 

「ねえシロウ? 私が愛してあげるわよ?」

 

……終わた。

ゴッド。俺、なんか悪い事しましたか?

 

結局姉さんは薬の効果が切れた後も腰にしがみついていた。

どうやらわざとかかったふりをしていたらしい。

そしてこの騒動の元凶であるネギ君と神楽坂が目の前に見えた瞬間――――………なにかが、はずれた。

 

「ネギ君、神楽坂……懺悔の覚悟は十分か?」

 

二人の顔が青くなったが構わないだろう。

さすがにもう我慢することないよな? まだ新品のスーツも切り傷やなにやらが原因で所々がボロボロだしな。

俺はそれから三十分弱二人、とくにネギ君にはきつい説教を与えてやった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

ううう、士郎さんにおもいっきり怒られちゃったよう。

あの士郎さんの目は怒ってますよ? って感じがまじまじと出ていた。

まるで鷹に睨まれているようだった。

三十分くらいほどしてやっと開放してもらったけど今でも恐怖心が残ってるよ。

アスナさんも気力を無くしたのか恐怖で体を震わせていた。

 

「……もう、士郎先生を怒らせんじゃないわよ、ネギ坊主!? あれはもう怒りメーターをはるかに振り切っていたわ。服もボロボロだったし……」

「後で弁償しなきゃダメですよね……」

「当たり前じゃない! 誰のせいであの優しい士郎先生がキレたと思っているのよ!?」

「す、すみません……僕のせいです」

「わかればいいのよ。本屋ちゃんにも迷惑かけたんだからもっとしっかりしなさいよ、ネギ先生!」

 

そういってアスナさんは僕のお尻をたたいてきました。

そうですよね。もっとしっかりしなくちゃ!

 




女難の相は伊達ではない。


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008話 夜空を照らす剣製の弓

更新します。


 

 

 

教師になって俺はネギ君をフォローしながらもなんとか平和な日常を送っていた。

だが、この世界にもなにかしら争いは起きているだろう……。

救いにいきたいがまだこの世界のことは把握していない。歯がゆいものだ。

だが、姉さんもここ最近俺の知らないところで楽しんでいるようでここにいるのも悪くないかなとも思い始めている。

そう、俺はこの学園の教師なのだから今は生徒達を守るのが義務というものだろう。

そして放課後に学園長に頼まれた機械類を修理しているといつの間にかタカミチさんがやってきていた。

 

「精が出るね、士郎君。しかし言ってはなんだけど僕から見る限りほとんどは寿命じゃないのかい?」

「そんなことはないですよ。確かに見た目はこれですが回線が切れているとかそんなとこぐらいでまだ状態的には仮病といったものだ。

それにここにあるのは解析してみればほとんどが今までこの学園の人たちに大切に使われてきたものばかりだ。

だからまだ活躍してもらいたいじゃないですか」

「そうか。士郎君はとても優しいね。

今のご時世じゃすぐに捨てられてしまうものがほとんどだ。

だから士郎君のような人がもっと増えてくれればうれしいところだね」

「そうですね。ものにも意思は宿るもの……だから命尽きるその時まで役目を全うし、そして最後は安らかに眠ってほしいと考えているんです」

「……驚いたよ。そんな考えまでもっているなんて」

「まぁものの年月に共感できるぶんそこらへんが普通の人とは感覚が違うんでしょう。前の世界でもなかなか捨てられなくて土蔵にものがたまっていく一方でしたから。それよりタカミチさん、なにか話があったんではないですか?」

「あー、そうだった。学園長が呼んでいるから来てくれないかい?」

「わかりました。少し待ってください」

 

俺はまだ修理途中のものを部屋の片隅に運んで作業着からスーツに着替えてタカミチさんとともに学園長室に向かった。

着くとそうそう学園長から携帯電話を渡された。

なにかの連絡用だろうか?

 

「学園長、これはなんのための奴ですか?」

「ふむ、それは警備員としての仕事用のものじゃ。なにか用があり次第、連絡しようとおもっとる。

それで今夜早速だがほかのこちらの世界の生徒や教師とともにまた現れるだろう妖怪達の退治をしてほしいんじゃ。

もちろん西の手下の召喚者も捕まえることが出来ればベストじゃが、なかなか用心深く姿は見せようとせん。だから退治だけに専念してくれれば十分じゃ」

「わかりました。俺で手助けできるのなら手伝います」

「うむ、それと一緒に今度からタカミチ君と広域指導員もしてもらいたいんじゃ。

最近グループ同士の闘争が絶えんで困ってたんじゃ。行き過ぎとったら鎮圧も構わんぞい?」

「はぁ、広域指導員ですか? 別に構いませんが鎮圧はさすがにまずいんじゃないですか?」

「なに、うちの生徒たちはそんなやわな者達じゃないから軽くもんでやってくれないか? さすがに僕1人じゃ鎮圧がせいぜいだからね」

「そうですか……なら、なにかちょうどいい戦闘不能な道具はあったか? 少し待っててください」

 

 

俺はそのまま心象世界に沈みなにかめぼしのものはないか探したが、しっくりくるものが二つあった。

虎(藤ねえ)が愛用していた虎のストラップがついた命名『虎竹刀』。

……ネーミングセンスがまんまじゃないかほんとうに。

しかしこの竹刀は実はかなり性能だけはよかったりもする。

なんせ、気絶はしなくても戦意を根こそぎ奪うという概念があるのだ。

……さすが藤ねえが愛用していた竹刀だ。

 

そしてもうひとつは、あまり思い出したくもないがあの毒舌シスターこと、カレンが使用していた『マグダラの聖骸布』。

これは捕まればその包容力とともに絶対に逃がさないというものがある。

とくに男にはとても効果があり使えばたちまち力を奪われ抵抗はできなくするものだ。

魔術も使うことが出来なかったからかなり強力だ。

……これは使うのはよしておこう。俺には苦い経験しかない。

いざという時に使うとしよう。

 

あとは武器なしだとあれだな。遠坂に半ば罰として受けに受けていて覚えてしまった『ナンチャッテ八極拳』。

ほかにも独自で柔道、ボクシング、ムエタイ、本格的な中国拳法も干将・莫耶をうまく使うために二流だが覚えたっけ?

こうして今までしてきたことを全部並べてみるとほぼ二流で埋まっているような? 決して悔しいわけではないぞ!?

 

 

閑話休題

 

 

俺は気を取り直して『虎竹刀』を投影した。

 

「これでいくとしましょう。

これならどんな不条理なことをしても気絶程度ですむ概念がありますから。

ちなみに学園長、聞きたかったんですが近衛が持っているトンカチもなにか施しましたか?

絶対に重症は負わないという暗示がかけられてますよね?」

「そ、そうじゃよ。あれでこのかも過激なところがあるから、ああでもせんとワシ死んじゃうもん」

「やはり。では今度からなにかあったときは使わせてもらうとしますよ」

「ふぉ?」

 

学園長は疑問の表情をしていたが、あのトンカチを投影して不適に笑ってみせた瞬間、脅したつもりは別になかったが学園長はなぜか顔を青くしてしまった。

さて、それはともかくさっそく夜より先に生徒指導員の仕事をしようじゃないか。

 

「じゃいきましょうか。タカミチさん」

「あ、ああそうだね」

 

 

ちなみに俺たちが部屋から出て行った後、学園長は…

 

 

「白夜の鷹に標的にされてしもうた……」

 

とかわけがわからないことを、しずな先生に話していたとかなんとか。

 

 

とりあえず俺は騒がしいらしいとこに連れてきてもらい来てみると、どうやら学園外のものと生徒達が言い争いをしているようだった。

 

「さて、じゃさっそく士郎君のお手並み拝見といこうじゃないか」

「わかりましたよ。できるだけ話で解決はしてみますよ」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 神楽坂明日菜

 

 

もう……最近ネギの奴にふりまわされっぱなしよ。

士郎先生はあんなにしっかりしているのにネギはどこか抜けてるところがあるから。

これだからガキは嫌いだわ。

今もこのかと一緒に三人で帰りの途中だけど疲れるわ。

 

「なぁなぁアスナ?」

「ん? なに、このか?」

「あそこにいるの士郎先生とちゃうの?」

「あ、確かにそうですね。でもなにか生徒の人たちと話をしているみたいですね」

「あれは大学の工学部の人達ね。あと、もう一方はたぶんこの学園外の人じゃないかしら?」

 

あ、工学部の人達は士郎先生を見た瞬間、

 

「(白夜の鷹だ……)」

「(おい、ここはおとなしくしていたほうがいいぞ?)」

 

……どうやら士郎先生のことを知っているようで少し後ずさりしている。

でも白夜の鷹って……あぁ、士郎先生の目のことね。私もネギのとばっちりであの目をされたわね?

確かにあれは鷹の目みたいで怖かったわ。

それと白夜っていうのはきっと白髪に褐色の肌から来たんでしょうね。

 

「そうなんですかぁ……あ! もう片方のグループが士郎さんに襲いかかりました!?」

「えっ!?」

 

正直一瞬あせったわ。

でも士郎先生はネギと同じこっちの世界の人間だから冷静になってみればあんな人達に負けるわけがないわよね。

その答えとして襲い掛かった人達は士郎先生のすごい踏み込みとともに竹刀を突かれ吹き飛ばされていた。

……五メートルくらい飛んでるけど平気なのかしら?

そんなことを思っていると、

 

「あれは中国拳法の震脚を加えた突きネ。すさまじいものがアルよ」

「古菲さん?」

「お邪魔するアルよ。ネギ坊主にアスナ、このか。それにしても士郎先生はすごいアルな。

相手の攻撃をカウンターでまったく力をかけずに突き返してるし、加えて太極拳の震脚による足の踏み込みで力を倍増してるからあの人たちはたまったものじゃないヨ」

 

太極拳って……くーちゃんがほめるほどなんてどれだけ強い突きをしているのかしら?

学区外の人たちは全員気絶してるし。

それで工学部の人たちは事情を説明して少し説教を受けてから気絶した人達を連れていっちゃった。

 

「おつかれ士郎君、さすがだね」

 

って、高畑先生!?

あ、そうか。高畑先生も広域指導員の先生だったっけ。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「終わりましたよ。しかしほんとによかったんですか? 襲いかかられてとはいえ撃退してしまって」

「なに、構わないよ。あんなことはこの学園じゃ日常茶飯事だからね」

「なら構いませんけど」

 

この学園は荒れているのかいないのかわからないな。

広すぎる分指導が大変そうだ。

 

「タカミチー、士郎さーん!」

 

ん? あれはネギ君に神楽坂、近衛、古菲か。

 

「どうしたんだ、みんなして」

「士郎さんはタカミチと一緒になにしているんですか?」

「広域指導員の仕事だよ、ネギ君。学園長に頼まれたものでな」

「そうなんですか」

「士郎先生、中国拳法を使てたアルけどどれくらいできるアルか?」

「よく気づいたな古菲。まあたしなみ程度にはできるくらいだ。

基本技は大体できるが上級になってくると俺には才能はなかったらしく会得は困難だから一時期だけだったこともあり諦めた。

その代わりとはいってもいいが様々な武術と併用させて活用させてもらっている。

たとえば先ほど見てたのならわかると思うが剣道などにな」

「なるほどネ。つまりいろんなところから足りない部分を補ってきてるアルね?」

「そういうことだ」

「興味がでたネ。士郎先生、いつか手合わせ願いたいアルよ」

「暇があったらな。今は1人鍛錬に付き合ってるものがいるのでな」

「そうアルか?」

「ああ、名前はあえて控えさせてもらうよ」

「残念アル……」

「まあそう落ち込むな。それはともかく四人とも遅くならないうちに帰るんだぞ?」

 

俺の言葉に「はーい!」といって帰っていったことを確認してその後もいくつか回った後、

俺も寮に帰ってきた。

 

「ただいま。姉さんいるか?」

「あ、シロウ? おかえりなさい。最近はネギの様子はどう?」

「今のところは安定しているようだ」

「そうなの? この間のお風呂の件もあって内心は心配していたんだけどね」

「お風呂の件……?」

 

なんのことか聞いてみたところ、ネギ君がお風呂嫌いで神楽坂が水着を着用して無理やり連れて行ってそこでまた魔法を使って一騒動あったらしい。

その内容はさすがに教えてくれなかったがまたすごいことをしたんだろうと考えていた。

 

「ああ、それと前に学園長がいっていた警備員の仕事だが今夜から参加することになるそうだ」

「ふ~ん? そうなんだー。この学園もほんとうに物騒ね。魔法の隠匿はどうなるのかしら?」

「その辺は心配ないらしい。結局相手もこちらの世界のものらしいからな。それにすべて幻想種まかせらしい」

「そうなんだ。めんどうくさいわね。一気に大本を叩けばそれで終わっちゃうのにね」

「それはダメだろ。聞いたがここ関東魔法協会の学園長と西の関西呪術協会の長である近衛詠春は親類関係にあたるらしい。

そして名前どおり近衛木乃香の親だそうだ。だからむやみやたらに事は起こさないでくれと頼まれてしまった」

「そうなんだー。じゃ西の刺客っていうのは西の長が抑えられていない結果、勝手に動いていることなのね。難儀なことね」

「まったくだな。それで、今日なんだが姉さんはどうする?」

「そうね。私はまだ静観しているわ。あの吸血種がどこで見てるかわからないし。

シロウと違ってれっきとした魔術を使うところは見られたくないから。

でも、シロウならこちらでいうマジック・アイテムやアポーツっていう魔法でごまかしがきくしね」

「確かに。今はまだあちらも静観しているようだから油断はならない。

だから宝具関係は使わない方針でいく。

それと二人行動で組むことが多いらしいからアーチャーではないが前衛がパートナーの場合は後衛で弦を引くことにしよう」

「間違ってもカラド・ボルクとかは使っちゃダメよ?」

「わかっている。せいぜい矢に使うとしても黒鍵くらいだ。ただの矢でも平気だろうが相手は幻想種だからいざというときに、だな」

「そう、それなら平気そうね。それにもし見ているんだったとしたら黒鍵は魔的のものには有効という恐怖を植えつけられるしね」

「ま、逆の考えだとそれもありだな。接近戦でも剣に魔力を通すことだけが得意な俺にとって徹甲作用は最大の武器になるからな」

「それにしても今思い出しても信じられないわよね。埋葬機関第七位の“弓”のシエルが実は大のカレーマニアだなんて。

まだシロウが封印指定かけられる前に町一つを死の町にして根城にしていた中級の死徒を滅ぼすため、共闘した時に戦闘前にシロウがカレーを作ってあげて調理法も教えてあげたら、それだけで『等価交換です』といってご機嫌な顔をして埋葬機関では秘儀とされているはずの黒鍵の使用方法を色々教えてくれたもんね。きっとリンがこの話を聞いたら『それのどこが等価交換よ!?』とか怒りながら言うでしょうね」

「ありえそうで怖いな。まあそのおかげで戦いのレパートリーが増えたから感謝はしているよ」

 

ピピピッ!

 

姉さんと話をしていたら携帯が鳴ったので出てみると相手は桜咲だった。

 

『士郎さん、学園長から話は聞いていると思いますが今日は私と組んでもらいます』

「そうか。わかった、では待ち合わせの場所でまたな」

『はい』

 

要点だけの話が終わり携帯を切り俺は黒いボディーアーマーに着替えて、赤い聖骸布の外套を纏い戦闘準備を完了させた。

 

「では行ってくるよ、姉さん」

「ええ、無茶だけはしちゃダメよ?」

「ははっ、わかっているさ」

 

苦笑いしながら俺は姉さんに見送られながら桜咲が待っているであろう場所に向かった。

そして待ち合わせ場所に到着したが、まだ桜咲は来ていなかったようなのでしばらく話しておく内容をまとめていた。

ちょっとして桜咲も来たのでさっそく作戦会議に入った。

 

「さて、では桜咲。行く前に聞いておきたいんだが後衛向きの術や技などは持ち合わせているかね?」

「いえ、これといってありません。できても斬撃を数メートル放つくらいでしょう」

「なるほど。やはり桜咲は純粋な剣士のようだ。ならば今日は俺が後衛に回らせてもらおう」

「士郎さんが、後衛ですか?」

 

桜咲が聞いてきたので俺は黒い洋弓を投影して、

 

「ああ、言ってなかったが俺はどちらかといえば後衛向きだ。

昔から弓道だけは自信があったからな。

まぁ、魔術鍛錬の意味合いもあったんで正式な弓道ではないが射法八節はしっかりしている。

それに俺は千里眼というスキルも持ち合わせていて目に魔力を集中すれば約4km先の標的までなら捕捉可能だ」

「4キロですか!?」

「ああ、だから背後は気にせず己の倒しきる敵を各個撃破してくれ」

「はい、わかりました。ですがもうその目は魔眼並みではないですか?」

「確かにそうだがあまり気にしないでくれ。では所定の位置についたらまた連絡する」

 

最後にそれだけ伝え俺は目星のついていた鉄橋の一番高いところまでジャンプして登り敵が来るまで待機することにした。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

しかし本当に士郎さんはすごい。今までずっと前衛タイプだと思っていた私の考えを一気にひっくり返してくれた。

真名ですらスコープ越しで2キロがやっとだと聞いていたのに裸眼で4キロだなんてすご過ぎる。

もし今私と士郎さんが敵同士だったのなら一瞬で貫かれていることだろう。

それは召喚された妖怪達と戦っている時に何度も思ったことだ。

私に真正面から迫ってくる敵を捉えて言われたとおり各個撃破をしていたが、気づいたときにはまるで連射しているかのように次々と魔力の篭った黒塗りの矢が私の横を秒単位で何度も通過している。

士郎さんがいる場所はかなり後ろだというのに威力はぜんぜん落ちていないようで、貫かれた妖怪達はその悲鳴すら上げずに一瞬で還されていた。きっと気づく前の段階で終わっていたのだろう。

その正確なまでの命中率に守られているという安心感が浮かんでくるが、同時に恐怖すら沸いてくるようだ。

そして最後の標的が目前に見えて私は神鳴流を使った。

 

「神鳴流奥義! 斬魔剣!」

 

最後の一体を斬魔剣で滅ぼし任務は終わった。

そして私達の担当していた場所に進入してきた妖怪達はすべて潰えたので士郎さんに連絡を入れようとした瞬間、突如、滅ぼしたはずの妖怪達の残り香が集まりだして2m以上はある巨大な大妖怪が出現して、夕凪をもう鞘に納めていたのでその妖怪との距離もそんなになく一気に距離を詰められてしまいやられる!? と思ったが、

 

 

ズドンッ!

 

 

「え?」

 

私がその衝突音とともに攻撃がなぜ止まったのかを確認すると妖怪の胸にはよくシスターなどが首にかけている十字架のような剣が突き刺さっており、その妖怪は人には理解不能なうめき声をあげ、次の瞬間には剣を中心に炎が広がって全身を燃やしながら妖怪は塵となって消えた。

いや、あれは消えて還ったのではない。まさしく消滅したのだ。

その光景に呆気にとられていると携帯が鳴っていることに気づいて出た。

 

『大丈夫だったか桜咲!?』

「あ、はい……私はなんともありませんでした。ですがあの剣は一体……?」

『黒鍵という俺達の世界では魔的なものを滅ぼす概念を持っているんだ。それを矢として放った。奴には申し訳ないが咄嗟のことでもあり火葬式典という術を使い消滅させた』

「やはり…」

『とりあえず合流しよう。そのときにまた詳しく話すとしよう』

「わかりました」

 

私は士郎さんと合流した後、士郎さんのその命中精度について聞いてみた。

 

「俺の放つ矢は中てるんじゃない。すでに中っているんだ」

「中っている、ですか?」

「そう、標的を目に捉え瞬時に中っているイメージをしてから矢を放つ。

だから中るのは必定。

外れるのならば、それは何処かで失敗しているだけか、もしくは桁外れの標的に中るというイメージがわかない時だけなんだ」

「そうですか、勉強になりました。それで次に先ほどの剣のことですが……」

「さっきもいったが俺達の世界には概念武装というものが存在する」

「概念武装ですか?」

 

そういえばよく士郎さんは概念とかを説明していたな。

 

「例えばだ。吸血鬼といったものは銀の鉛玉というものを受ければ死ぬという仮説があるが実際そんなに効果はない。

だが、概念武装とは決められた事柄を実現にするという固定化された魔術礼装。

物理的な衝撃ではなく概念、つまり魂魄の重みによって対象に打撃を与えるという物をいうんだ。

だから先ほどの黒鍵には魔的なものを滅ぼすといった概念武装が備わっているから最後の奴はその概念ゆえに消滅したわけだ。理解できたか?」

「ええ、なんとなくですが……ならば先程の例を言いますとその概念がこもっていれば吸血鬼も倒せるということですか?」

「結果的には、な。強力な敵ではそう簡単にいくものではない。まあ、とりあえず今日はここまでにしておこう」

「わかりました」

「では、学園長に連絡し帰るとしようか」

「はい」

 

やはりこの方に師事して正解だったかもしれない。

まだ隠しているものがありそうですが信用に足るに十分な方だ。

……この方になら私のことを話しても、いや、止めよう。

このような話をしても士郎さんを困らせてしまうだけだ。

だから……。

 




昔からなにかと都合がよく便利な人、シエルさん。


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009話 怒路暴琉(ドッチボール)

更新します。


 

 

いや、時がたつのは早いものだな。

かれこれもう二週間くらいはたって、いつの間にか桜咲以外にも俺のことを先生ではなく“さん”づけで呼んでくれる生徒が増えた。

しいていうなら神楽坂や近衛を中心にお祭騒ぎが好きな連中に集中しているが、だから最近は俺も結構何名か名前で呼ぶことが多くなってきている。

 

それはともかくこの間のネギ君により開かれた居残り授業はひどい結果だったな。

メンバーは馬鹿レンジャーの異名を持つ、

バカレッドこと勉強が大の苦手なアスナ(名前で呼ぶようになった一人)を筆頭に、

バカブルーの長瀬、

バカイエローの古菲、

バカピンクの佐々木、

バカブラックの綾瀬、

の計五名で開かれた居残り授業で俺とネギ君による指導でアスナ以外はなんとか合格点は取れたのだが、アスナだけは何度も不合格になり落ち込んでいるところに、

 

「大丈夫ですよ! こつさえ掴めばなんとかなります。僕だって日本語は三週間でマスターしましたし……」

 

ネギ君、君の頭脳の基準を他のものに当てはめてはいけない。

今の発言は慰めどころかさらにどん底に落としているぞ?

 

そしてタイミングが悪いのかタカミチさんにその現場を見られて思わず飛び出していってしまったアスナをネギ君は追いかけたのだが、アスナを追うためとはいえ杖を使って校内を飛び回るのはよそう!?

そしてそれに追いつかれず突っ走っていったアスナの脚力は一体? 車以上のスピードを出していたぞ?

しかたなく俺も身体を強化しすぐに追いかけたが、はぁ……学園長にあっちの考えは捨てたほうがいいと言われたがいまだにこちらの非常識さにも慣れないものがあるな。

だがそこでネギ君の目指す夢が聞けたのはよかったかもしれない。

サウザンド・マスターか……まるで俺と親父みたいな間柄なのだろうな。

それを聞いてアスナもやる気を出してくれたようで今のところはいいとしとこう。

当然、ネギ君には校内を杖で飛ぶのはよろしくないと釘はさしておいたがね。

 

 

 

 

──Interlude

 

 

学園の中庭では明石裕奈、和泉亜子、大河内アキラ、佐々木まき絵の運動部の四人がソフトバレーをしながら遊んでいた。

 

「ねぇねぇ、ネギ君と士郎さんとイリヤさんが来てから少し経ったけどみんな三人のことどう思ってる?」

「ん…………いいんじゃないかな?」

「そうだね~、ネギ君は教育実習生として頑張ってるし、士郎さんは副担任と広域指導員、それにイリヤさんと一緒に管理人の仕事もしていて忙しいはずなのによく相談乗ってくれるしね。それにイリヤさんもすごい美人さんだし、ほんと学園長はどんな裏技使ったんだろうね?」

「それに士郎さんの料理の腕は凄いし、ウチ料理を学びたいわ」

「あ、たしかにあの料理はうまかったもんね。後で聞いた話なんだけどあんなに豪勢だったのにカロリー計算もしっかりしてあったらしいね。朝倉の撮影したものを見せてもらったけどいまだにどこに手を加えたかわからないしね」

「うそ! あれで!?」

「そうみたい……」

「興味あるね……あ、それより話は戻ってネギ君だけど士郎さんとは違ってまだネギ先生は子供やし、うちら来年受験だけど大丈夫かな?」

「そこはほら、ここは大学までエスカレーター式だから大丈夫じゃない?」

「でもやっぱり10歳だし士郎先生や高畑先生とは違って相談しにくいよね」

「逆に相談に乗ってあげちゃおうか?」

「経験豊富なお姉サマとしてー? あ!?」

 

そこでまき絵は変なほうにボールを飛ばしてしまい拾いにいったらそこには何名かの制服が違う生徒が立っていた。

 

「あ、あなたたちは!?」

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

「ネギ先生」

「あ、しずな先生」

「最近の授業の調子はいかがですか?」

「うーん……まだまだですよ。士郎さんに助けてもらってなんとか頑張っていますから」

 

うん、自分で言っていてちょっとだけ情けないよね。

実際士郎さんには何度も助けてもらったことがあるし。

そんなことを考えてるとまき絵さんと亜子さんが傷だらけで職員室に駆け込んできた。

 

「ネギ先生助けてぇ…!」

「校内で暴行されて……」

「見てよこの傷…!」

「えっ!? 誰ですかそんなひどいことをする人たちは!」

 

早く向かわなきゃ!

まだ裕奈さんとアキラさんが残っているっていうし。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

俺は今タカミチさんと一緒に修理用品を運んでいた。

 

「いや、すみませんでした。手伝ってもらってしまって……」

「ハハッ。構わないよ。それより最近のネギ君の調子はどうだい?」

「はい、最近はやっと慣れてきたのか頑張ってますよ。アスナとも仲はよくなってきてますしね」

「そうか。それより士郎君? いつからアスナ君の呼び方を変えたんだい?」

「あー……それはなんというか神楽坂や近衛に他人行儀みたいと言われてしまって、それで最近は何名かは名前で呼ぶようになってきたんですよ」

「ふふ、士郎君も慕われるようになってきたね」

「姉さんのおかげでもありますけどね。自分の生徒なんだからできるだけ名前で呼んであげなさいと言われてしまって」

「そうなのかい? そういえば最近イリヤ君は見かけないけどなにをしているかわかるかい?」

「それはこっちも聞きたいところですね。よく学園長と話をしているらしいんですが内容はうまくごまかされてしまいまして……あの学園長にあの姉さんだからなにか裏でしているかもと思うとゾッとしますよ」

「そんなにイリヤ君は怖いのかい?」

「ええ、姉さんの性格は天性のあくま属性ですから。だからあの、人をおちょくるのが三度の飯より好きそうな学園長とは気があってまして」

「それは……たしかに怖いね」

「ですよね」

 

俺はため息をついていると中庭が騒がしいのに気づいたので目を凝らしてみてみるとなにやらアスナ達が高等部の生徒と喧嘩をしているようだった。

それでなぜか高等部の女子達の中心ではネギ君がもみくちゃにされていた。

 

「はぁ~……またなにをやらかしたのか? すみませんタカミチさん。荷物は後で運んでおきますのでここに置いておいてください。これでもネギ君の補佐をするのも仕事ですから少しいってきます」

「わかったよ。すまないね、それじゃ僕は用があったんでここで失礼するから後は頼んだよ?」

「了解した」

 

それでとりあえず俺は一番騒がしいアスナと雪広の二人の制服の襟部分を掴んで、

 

「そこまでだ。アスナに雪広」

「士郎さん!」

「あ、士郎さん!?」

「士郎先生!?」

「とりあえずなんでこんな喧嘩に発展したのかわからないが女の子同士が喧嘩なんてはしたないぞ?」

「でも士郎さん!」

「でも、もなにもない。まず喧嘩は先に始めたほうが負けだぞ? 雪広も委員長でみんなをまとめる立場にあるのだからまずは場を収めることが大事だぞ?」

「……すみませんでしたわ、つい頭に血が上っていました」

「反省しているならそれでいい。それと君達は高等部の生徒だね? 少し、いきさつを見ていて察するに彼女達の遊んでいたところに横槍して追い出そうとしていたところか? 上級生なのだから順番は守らなければいけないぞ?」

「さ、さっきからなんですかあなたは? いきなり現れて説教なんて……」

 

(英子! あの先生、広域指導員の白夜の鷹というあだ名で不良生徒に恐れられてる衛宮先生だよ!?)

(えっ!)

 

「おや? 知らなかったかね? 俺はネギ君と一緒に副担任として2-Aで働いている衛宮士郎というものだ。とりあえずいっておくが下級生相手に手を出すのは大人気ないと思う。だから以後、気をつけてくれたまえ」

「ッ……すみませんでした」

 

どうやらしぶしぶ納得したのか高等部の生徒達は帰っていった。

 

「さて、みんな怪我はないか? なにか痛みがあるのならすぐに保健室に向かうといい。それじゃネギ君、後は頼んだよ。俺はあれを運ばなければいけないから」

「あ、はい…………あれを?」

「そうだが?」

「でも、さすがにあんな重そうなストーブを1人では……」

 

俺は平気だといって約20kg位ある大きいストーブを持ち上げると、後ろで「すご……」とかいう驚愕の声が聞こえてきたが気にせず所定の場所まで運んでいった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 神楽坂明日菜

 

 

どうにか士郎さんのおかげでなんとかなったけど、やっぱりネギだけじゃああなっちゃうよね? 先生とはいえまだ子供だし……。

 

「士郎先生ってやっぱり頼りになるよね~?」

「うんうん、特にあの目は射殺すみたいな眼光で頼りがいがあってあの上級生怯えてたよね?」

「うんうん!」

 

なんて、士郎先生は好評価だけど、

 

「でも……少しネギ君は頼りなかったよね」

「まあ、それはしょうがないんじゃないかな?」

「そうそうまだ10歳だしー」

 

ネギはこういわれているからね。現実はやっぱこんなものよね?

そこにいいんちょが、

 

「なんですのみなさん、あんなにネギ先生のこと可愛がっていたくせに!」

 

ま、それを言われるとみんな否定できないよね? 私は別として。

そんなことより早く体操着に着替えて屋上に向かわなくちゃ!

 

「はいはい早く授業が始まっちゃうんだから屋上向かうわよ?」

「はーい」

 

 

 

そして屋上に着いたは、いいんだけど………なんでまた昼間の上級生達がいんのよ!?

 

「あら、また会ったわね、あんた達?」

「な、なんであんた達がここにいんのよ!?ここは今日は私達が使用するはずのコートでしょ!?」

「あら?私達自習だからレクリエーションでバレーをやるのよ。どうやらダブルブッキングしちゃったようね?」

「なんでいつもいつも……!」

 

裕奈やみんながいやな目で見てるわ! 当然私もだけど、っていうかよく見ればなんでネギが捕まってるのよ!?

 

「ちょっとネギ! なんであんたがそこにいんのよ!?」

「い、いえその……体育の先生が来れなくなったので代わりに来たら、あの……」

「もうなんなのよ……」

 

ほんと頭痛がしてきたわ。

 

「とにかくそういうことだから今回私たちが先だからお引取り願おうかしら?」

 

くっ! いちいち頭にくるわねこのババ……じゃなくて女は!?

 

「そうだわ! 大体あんた達の校舎は隣の隣じゃない? わざわざこっちにくることないじゃない!?」

「今度は言いがかり?」

「なっ!?」

 

そしてとうとう乱闘騒ぎになった。

私も加勢しようとしたけど、ふとネギを見たら止めようと頑張っているが捕まえている奴の髪が鼻に触れてしまった。

まずいッ!?

 

「は、ハクシュン!!」

 

思ったとおり突風が巻き起こりネギの足元の地面にひびが入っている。

……ほんと、あの時士郎さんにガードしてもらって助かったと今改めて実感したわ。

 

「あ、あの……アスナさん、それに皆さん。どんな争いごとも暴力だけはいけないと思います!」

「それじゃどうしろっていうのよ?」

 

 

「………ならばスポーツで決着をつければいいことではないか?」

 

 

え? この声は……もしかして、士郎さん?

なんか声に怒気こもってない?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「……まったく、またなにをしているのだね?」

「あ、士郎さん……」

「刹那か。これはどういうことか説明してくれないか?」

「わかりました」

 

それから刹那に事情を聞いたがまるであきれる内容だった。

 

「しかたがない。止めるとしようか」

 

俺は頭が痛くなるのを我慢しながら騒ぎの中心に向かい少し怒気を出しながら、

 

「………ならばスポーツで決着をつければいいことではないか?」

「し、士郎さん……なにか、怒ってません?」

「そんなことはないぞ、アスナ。俺はいたって平常心だ」

 

嘘だがね。

だからできるだけ作り笑いを見せてやった。

 

「さて、ではここはバレーボールといきたいとこだが高等部と中等部では力の差はあるだろう? ならばドッチボールで勝負をつけてはどうだね?」

「い、いいですよ衛宮先生。でしたらハンデとして私達は11人、そちらは倍の22人で挑んできて構いません。もしそちらが勝てたならもうこんなことはいたしません」

「よかろう」

「ですが私達が勝ったらネギ先生は譲っていただきますわ」

 

「「「え――――――!!?」」」

「ほう……?」

「ちょ、ちょっと士郎先生! なんでそんなに冷静になっているんですの!?」

 

雪広が話しかけてきたので俺の考えを言ってやった。

 

「ならば勝てば問題はなかろう? 俺が少しだが勝てるよう手ほどきをしてやる」

 

俺の発言が聞こえていたのか英子という生徒が、

 

「もちろん衛宮先生も入っても構いませんよ?」

「俺が? いいのかね? だが、どうやら君達は実力を計りかねているようだ。俺を入れたらどうなるか見本を見せてやろう。古菲、少しいいか?」

「なにあるか、士郎老師?」

「…………その呼び方は今は気にしないことにしよう。なに、簡単なことだ。お前の中国拳法の実力を見込んで頼みたいんだが。ぜひ俺の放つボールをどんな手段を使ってもいい。受け止めるもよし、避けるもよし、もしよかったらぶち割っても構わんから受けてくれないか?」

「いいアルヨ! 老師! 強者の一撃をこんな遊びで受けられるなんてまさに役得ネ!」

「よし、ならば行くぞ?」

 

俺はみんなが見守る中、ドッジボールを彼の槍の英霊の構えをしながら構えた。

 

(ッ!?なにアルカ!?この圧迫感……!)

 

「見よう見まねだが受け取れ!やばかったら必ず避けろよ!」

「はいアル!」

 

俺は空中に飛翔し腰を思いっきり捻り、心の中で叫ぶ。

 

 

 

 

―――――空間貫く剛速球(ゲイ・ボルクもどき)!!

 

 

 

 

「!!? あれはいかんアル!!」

 

俺の放ったボールを古菲は直感と危機能力ですぐに察知し、

 

崩拳(ボンチュアン)!!」

 

拳を思い切り引いて一気にためた力を解放し中国拳法の崩拳をボールに向かって放ち衝突した瞬間、少し拮抗してそのままボールは破裂した。

 

「……やるアルネ老師。まさか本気で崩拳を放つことになるとは思わなかったネ」

「俺もまさか真正面からあれに挑んでくるとは思ってなかったぞ? さて、これで証明できたようだな。顔を見ればわかる」

 

と、いうか強化なしであれだけの剛速球を放てるとも俺は思っていなかった。

新しい体でこちらにきてからいろいろ鍛錬していたから戦闘者としての技量が上がってきたのか?

今度から力加減を把握してから使うことにしよう。

 

それから俺はみんなに短時間で基本を頭に叩き込ませた。

そして始まった試合は、なぜかネギ君も参加していたがまぁ、いいだろう。

 

 

「ふぅ……さて後は審判のものに任せて見学しているとしようか」

(士郎さん?先ほどのは?)

 

壁に背を預けながら試合を見学していたらあまったらしい刹那が話しかけてきた。

 

(刹那か。ああさっきのは強化もなしにただ放っただけなんだがな、どうもこちらにきてから世界の修正とは関係はないらしいが身体能力が上がってきているらしい。だから加減ができずに放ってしまってな。だがそれを砕き割る古菲も結構な実力者なのだろう? 一般人レベルで、だがな)

(はい。一般レベルでは最高がつくほどでしょう)

(あれは鍛えれば育つぞ)

(ええ)

 

 

「それより……なにがあったのか荒れてきたな?」

 

なぜかアスナは一回受ければ退場のはずなのに二回攻撃を受けているな?

……そこまでして勝利を手にしたいか?

俺は水面下で怒りをため始めていたがネギ君が魔法を使い始めようとして、それは霧のようにとけて代わりに焦りがわいた。

だがそこでアスナが頭をこついてネギ君を止めて、

 

「スポーツでズルして勝っても嬉しくないのよ。正々堂々いきなさい……男の子でしょ?」

 

どうやらネギ君はそれを聞いて考えが甘いと自覚して、残りのメンバーに激励をしてやる気を取り戻させたようだ。

やればできるではないかネギ君。

それからというもの、もうなんでもありなのか弾丸ボレーやダンクシュート、挙句の果てにはリボンを使った連続攻撃。チャイナダブルアタックなど…………なんだ、このクラスは? 超人集団の集まりなのか?

というかリボンはもう反則とかの次元ではないのでは?

結果、追い込まれていたにもかかわらず2-Aは勝利を納めていた。

だがロスタイムとかぬかしてリーダーらしき生徒が後ろを向いて油断しているアスナに向かってシュートを放とうとしていた。

さすがに俺もキレかかったのだが、先にネギ君が動いてそのボールを止めて、

 

「こんなことしちゃ……!」

「これはやばい!」

 

俺は間に合わないと即座に判断しせめて被害は受けたくないという思いで後ろに振り向いた。

 

「ダメでしょ――――ッ!!」

 

案の定、というか俺は見てはいないが高等部の生徒達の服はネギ君の放ったボールの与圧に吹き飛ばされ下着姿になってしまったらしい。

高等部の生徒達は逃げるように出て行き、ネギ君はみんなに担がれて褒められていたが、当然、しかったが今回はアスナの為ともあり穏便にしてやった。

 

 




魔法の隠匿とは……?


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010話 図書館島へいこう!

更新します。


 

 

「……学生の本分とは勉学である、というのはいい言葉だと思わないかね? なあ、ネギ君?」

「…………」

 

なぜ俺の発言にネギ君が顔を青くして無言で突っ伏しているのか?

それはなぜか?

理由は数時間前にさかのぼる。

 

 

 

それは学園長に突然俺は呼び出しをくらい学園長室に来たことの折、

 

「士郎君、ネギ君に最初の試練を与えたいと思うんじゃが?」

「試練、とは……?」

「うむ、しずな君の話によれば士郎君は当然じゃが、ネギ君も生徒たちとしっかり打ち解けていて授業内容も頑張っていると聞くんじゃ」

「たしかにそうですね。多少まだ危うい点は見られますが、ネギ君はとても10歳とは思えない技量を持っていますよ」

「それはいいことなんじゃが。だが、それだけではまだいかんのじゃ。交友も大事じゃがもうひとつ大切なことがある。それはなにかわかるかね士郎君?」

「……まあ、思い当たる点はあるにはあるんですがね。うちのクラスは頭のいいものはかなりいいんですが、言ってはなんですが逆に悪いものは特に悪いという両極端。

この学園は大学まではエスカレーター式という安心感があるのかは別として、もう期末テストも近いというのにうちのクラスには他のクラスとは違い緊張感というものが今のところ見られませんね?」

「そう、それなんじゃよ……いってはなんだがあのクラスは毎回テストは最下位なんじゃよ」

「それはまた……なんといいますか予想通りのことを平然とのたまってくれましたね、学園長? ではなんですか? その最初の試練はもしかして?」

「うむ、その試練の内容は今度の学期末テストで2-Aが最下位から脱出できれば、ネギ君を新学期から正式な教師として迎え入れたいとおもっとるんじゃ。もちろん士郎君も正式に副担任にしてあげるぞい?」

「最下位脱出ですか。そんな簡単な……いや、うちのクラスは油断できないものが多すぎる!」

「そうじゃ。だから最善を尽くしてあのクラスを最下位から脱出させてくれないかの? ネギ君には言葉より早く伝えるためこの手紙を渡しておいておくれ」

「手紙、ですか? 俺が直接言えば済むことでは?」

「何事もサプライズが必要だとワシは思うんじゃが?」

「…………」

 

…………、よし学園長。命を落とす覚悟はできているだろうな?

窮地に陥れておいてなにが、サプライズ?

だがほんとうに死なれては困るなぁ?

よし。アレを使うとしよう。

 

「―――投影開始(トレース・オン)

 

心象世界より映し出すはあのトンカチ。

それを、

 

―――基本骨子、解明

―――構成材質、解明

―――基本骨子、変更

―――構成材質、変更

―――基本骨子、補強

―――構成材質、補強

 

「―――投影完了(トレース・オフ)

 

そして俺の手に握られているのは、このかのトンカチの数十倍はあるもうハンマーと呼んでもおかしくないもの。

これを使えばたとえ学園長とて……フフフ。

 

「……シロウクン? ソノキョダイナハンマーハナニカノ?」

 

「どうしたんですか学園長? 口調が片言ですよ? ただこのかのトンカチに技術や経験を追加しただけですよ?

いや、しかし久しぶりにいいものを作りましたよ。

それとご安心を。アダマンタイト(偽)使用ですが致命傷を負わないという概念武装はしっかりと残っていますから、本気で叩きつけたとしてもせいぜい気絶程度でしょう?

……さて、覚悟はできたかね学園長?」

「ヒィィィィイイイイイイッ!!!???」

 

俺はそれを振りかぶり勢いをつけながら学園長に振り下ろした。

だが、俺は当たる寸前で動作を停止した。

そしてハンマーは霧のように消えていった。

 

「……へ?」

「今のは冗談ですよ。ですが度が過ぎれば今度はほんとうに打ち下ろすことを約束しましょう」

「う、うむ……気をつけよう」

「では、手紙をネギ君に渡しにいきますのでこれで失礼します」

 

顔を青くしている学園長を尻目に俺は学園長室を出て行った。

今の俺の顔は実にいい仕事をしたといった表情をしていたことだろう。

その後、廊下を歩いていたネギ君に手紙を渡した。

ネギ君に試練内容と一応癪だが伝えただけだ。

すると手紙を開く前にあわてたのか、

 

「さ、最終課題!? も、もしかして悪のドラゴン退治とか? あるいは攻撃魔法を200個習得!?」

「攻撃魔法はともかくドラゴン退治はまずありえんだろう? ……倒せんこともないがな」

「そ、そうですよねぇ~……って、士郎さんドラゴン倒せるんですか!?」

「さあどうだかな? それより早く手紙の中身を確認したらどうかね?」

「は、はい……」

 

さて、内容は知っているのだが手紙の内容がついつい気になってしまうな。

自然を装って見てみるか。

だが、俺は読むべきではなかったかもしれない。

だって内容が、

 

 

『ネギ君へ

次の期末試験で、

2-Aが最下位脱出できたら

正式な先生にしてあげるヨン?

                コノエモンより』

 

 

……学園長、そうとう死に急ぎたいらしいな?

なんだ、後半のこのふざけた文章は?

やはり今度こそ闇討ちをしてやろうか?検討すべきだな。

 

「な、なぁーんだ。簡単そうじゃないですかー……」

「……ネギ君、俺からの忠告だ」

「はい?」

 

安心しているところ水をさすのも悪いと思ったがやはりこれだけは言っておかなければならないことだ。

 

「うちのクラスを、甘く見ないことだ。色々な意味で」

「……え? どういうことですか?」

「まあ分からないなら今は構わない。おのずとその意味を理解できるだろうからな」

「はあ……?」

 

まだなにもわかっていないらしいネギ君は首をかしげていたが、いったとおり実感はできるだろう。

これは、まさしく学園長に乗せられているようでほんとうに癪だった。

その後、教室に向かいネギ君が教室のみんなに期末テストに向けての大・勉強会を開くといった。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

さっきの士郎さんの意味深な台詞はなんだったんだろう?

でも今はとにかくこの期末テストを乗り切れば僕は正式な先生になれるんだ。

よし! がんばるぞ!

それじゃ、まずは勉強会を開くとしよう。

そしてみなさんを絶対最下位から脱出させて立派な先生になろう!

そうすれば立派な魔法使い(マギステル・マギ)にも近づけるしね!

 

「あの、その……実はうちのクラスが最下位脱出できないと大変なことになるので、みなさんがんばって猛勉強しましょう!」

「まあ! 素晴らしい提案ですわネギ先生!」

「ありがとうございます、いいんちょさん!」

「はーい、提案!」

「なんですか桜子さん?」

「ではお題は『英単語野球拳』がいいとおもいまーす!」

 

英単語はともかく野球拳? どんな勉強方法だろう?

なぜかみなさんは楽しんでいるようですけど。

それに士郎さんはなぜかすごい驚いている。

士郎さんが驚くほどならすごい方法なんだろうな? よし!

 

「それじゃそれでいき―――……」

「却下だ!」

 

って、あれ? 士郎さん、なんで止めるんですか?

 

「子供のネギ君はまだ許せる範囲だが、おまえらは俺を社会的に抹殺するつもりか……?」

「士郎さん? どういう意味ですか?」

「ネギ君よく聞け! 野球拳というのはだな……」

 

それから士郎さんに野球拳とは一体どういったものかを事細かに教えてもらいその実態を知って僕は愕然とした。

 

「…………と、いうわけだ。だからいつも通りやってもらえると俺としてもとても助かる」

「た、たしかにそうですね……」

 

な、なんて能天気なクラスなんだ。

このまま提案を実行していたらもしかしたら士郎さんが捕まっちゃうじゃないですか!

 

「それじゃ普通に小テストをしたいと思います。今から配る用紙をまわしてください」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ふう、危ないところだった。

しかし本気であせることを平気で言ってくれるな?

タカミチさんが元気すぎるクラスといった意味が再確認できた。

それと何名か舌打ちをしたな?そいつらには眼光を当てて黙殺した。

まあ、それはともかくとして小テストが終了してネギ君と一緒に採点をしていてわかったことだが、このクラスには本当に頭がいいものはいいが、それをバカレンジャーがものの見事に最下位に落とし込んでいるところがある。

 

 

そして本頭に至るわけだが、

 

 

「ネギ君、大丈夫かね? すごく顔が青いが……」

「はっ! な、なんですか士郎さん?」

「……気を失っていたのか」

「そ、それよりどうしましょう士郎さん!?」

「どうしようもなにもここは頑張るしかないだろう?」

「そ、そうですよねー……あ、そうだ」

「ん? どうしたんだ?」

「はい。三日間だけ頭が良くなる禁断の魔法があったんです。副作用で一ヶ月ほどパーになるけどいたし方ありません。ラス・テル・マ・スキル・マギステル……」

「ば、やめない――――……」

 

俺がネギ君を止めようとしたがそこにアスナの鉄拳が飛んできてそのままネギ君を連れて出て行ってしまった。

とりあえず俺も追うことにした。すると階段の折り返し部分に二人がいたので、

 

「……アスナ、助かった。あのままでは恐ろしいことになっていたかもしれない」

「ほんとですよ。まったくこの馬鹿ネギは」

「ネギ君、なんでも魔法に頼ろうとするのはよくないぞ? それではインチキをすることと同義になってしまうからな」

「そうよ、ネギ? 私だってあれから色々頑張っているんだから。それに、そんな中途半端な気持ちで先生されても教えられる生徒も迷惑だわ」

「!! そ、そうですよね……なんでも魔法に頼るのはよくありませんよね。すみませんでした士郎さん、アスナさん」

「いや、わかってくれればいいんだ。だから期末までまだ時間はあるのだからみっちり勉強を教えてあげればいい。俺もわずかばかりだが力になろう」

 

授業が終了したその後、俺は学園長に頼まれていた修理品を直していた。

ちなみにネギ君達はアスナ達馬鹿レンジャーを中心に居残りで勉強を教えているらしい。

それで今日中に修理できるものを終わらせた後、管理人室に帰ってみると珍しくいつも俺より遅く帰ってくる姉さんが部屋にいた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

「あら? シロウ、お帰りなさい」

「ただいま、姉さん。今日は早かったようだな」

「ええ(ふう、今日はシロウが帰ってくる前に帰ってくることができたわ)」

「それで? まだ俺にはなにをしているのか教えてくれないのか?」

「ごめんね、シロウ。でももう少し待って。そのときが来たらちゃんと教えてあげるから。ふふふ……」

「なあ? 俺の第六感が珍しく危険を知らせているんだが気のせいか?」

「気のせいよ」

「そうか? ならいいんだが無茶だけはしないでくれよ?姉さんが傷つく姿を俺は見たくないから」

「わかっているわ。心配してくれてありがとね、シロウ。でも、それはシロウも同じことなんだからね?」

「うっ!? わ、わかっているさ」

 

いけないいけない。なんとか話をそらすことができたわ。

まだシロウには気づかれるわけにはいかないもんね。

シロウには悪いと思ってるけど新学期までは内緒にしておきゃなきゃね。

 

「あ、それじゃ私は大浴場にいっているわね」

「ああ」

 

それで私は大浴場にいってみたけどそこにはちょうどアスナ達がいた。

なにか相談事かしら? 面白そうだし聞いてみよう。

 

「ねえアスナ。何のお話をしているのかしら?」

「え? い、イリヤさん! いつからここに!?」

「なにって……さっきからここにいたわよ?」

「そ、そうですか。あ、それなんですが……」

 

アスナ達から話を聞いてみたところ今度の期末テストで最下位を取るとクラスは解散になって、特に点数が悪い生徒は小学生からやり直しをしてしまう……って、普通そんなことはありえないと思うのだけど。

シロウもそんなことは一言もいってなかったし。

そこにユエがある話を持ち出してきた。

図書館島という場所には読むだけで頭が良くなる魔本があるとかなんとか?

私は興味はないのだけれど、どうやらそうとう切羽詰っているようでアスナを中心に、

 

「行こう!! 図書館島へ!!」

 

と、いっているようなのだ。面白そうね?

 

「それじゃ私も着いていこうかしら? 面白そうだしね」

「え゛ッ!?」

「いいの、イリヤさん!?」

「ええ、ハルナ。保護者として着いていけば問題はないでしょ? それとシロウに話したら止められそうだから内緒にしとくわ」

「ありがとアルよ」

「気にしなくていいわ、古菲。私もその図書館島という場所には興味があったし」

「よーし! それじゃ今日の夜に出かけるとしよー!」

「おー!!」

 

元気なものね。私も久しぶりに羽を伸ばす気分でいくとしようかしら。

あ、そうだわ。アレを着ていこう。

もし魔法にかかわることだったら大変だし。

 

 

 




当時はこんなうわさ話を信じてしまうアスナ達は相当なものだなと思っていました。


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011話 ゴーレムとフードの男

更新します。


 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

さて、なんとかシロウをごまかしてまくことができたわ。

こんな面白いことに乗らないなんて損もいいとこね。

それで集まったのはいいんだけれど……先生のネギをつれて来てよかったのかしら?

 

(ねえアスナ? ネギを連れてきて大丈夫だったのかしら?)

(大丈夫ですよ。いざとなったら魔法で助けてもらいますから)

(いえ、そうではなくてね……まあいいわ。でもそれは期待しないほうがいいわよ?)

(え? どうしてですか?)

(だって今ネギはどういうわけか魔法を自己封印しているようだし……)

(ええ!?)

(気づいてなかったの? はあ、しかたがないわね。もしなにかあったら補助程度だけど助けてあげるわ)

(あ、ありがとうございます)

 

「アスナ? イリヤさん? どうしたん?」

「いえ、なんでもないわよ、コノカ。それじゃいくとしましょうか」

「そうやね」

 

コノカが話しかけてきたのでうまく話を切り上げた。

それから図書館島内部を進んでいるんだけれど、

 

「それにしてもほんとうにすごいわね、ここの図書館」

「ええ。これでもここはまだ地下三階に位置してるですよ」

「そうなのユエ? それよりネギがあからさまにトラップがありそうな本棚をあさろうとしているけど大丈夫?」

「あ、ネギ先生。ここは厳重に保管されている本ばかりですから不用意に……」

 

と、ユエが言った先から本棚の隙間から矢が飛び出してきた。

これはすごいわね。感心している場合ではないけれど……でも大丈夫そうね。カエデが突き刺さりそうなのをすぐに掴んでいたから。

学園長の話を聞けば日本で有名な忍者らしいし。

そんなことよりユエ? 先ほどから飲んでいる『抹茶オレンジ』? はおいしいのかしら?

 

「罠がたくさんしかけられていますから気をつけてください」

「ええ!?」

「死んじゃうわよ!」

「でもシロウならこんな場所は軽々と突破しそうね?」

「どういう意味ですか、イリヤさん?」

 

あ、いけない。つい軽いなんて口走ってしまった。

それはシロウの魔眼並みの解析能力があればどんな些細なトラップも見逃さないでしょうし、なんて言えないから。

ここはうまく話はそらさなきゃ。

 

「ここに来る前はシロウと私は世界を旅していたからどんなトラップも見分ける能力が自然とついてしまったのよ」

「そうですか。ふふふ……今度お暇がありましたら士郎さんも誘ってみましょうか。そうすればこの図書館島も……」

 

あ、あれ? 余計火に油を注いでしまったかしら?

なぜか無表情みたいだけど背後から赤いものが見えるわ。

 

「あの、ところでみなさんはなんでこんな場所に来たんですか……?」

「あら? ネギはアスナから聞いていなかったの? なんでもこの図書館島には見るだけで頭が良くなるとか言う本があるらしいわよ?」

「え!? そんな本がこんな島国に存在しているんですか?」

「それはなぁネギ君。ここは世界でも一番の規模を持つ図書館なんよ?」

「そ、そうなんですか。って、アスナさん!」

「う゛ッ!?」

 

(あれだけ魔法には頼らないといっていたのに……それで僕も期間中は魔法は封印したんですよ?)

(ごめんごめんネギ、でもこのままだと大変なことになっちゃうから今回は許して……)

(大変なこと?)

 

そこでネギはもしかして自分の最終課題のことではないかと勘違いだが感動しているようだった。

 

さて、ここでこんなだからこの先どんなトラップが待っているのか楽しみだわ。

それにシロウが守ってくれてるし。

 

(それよりイリヤさん)

(ん? なにかしら、アスナにネギ?)

(あ、はい。気になっていたんですけどイリヤさんの着ている赤いコートからすごい魔力を感じるんですけどそれは一体?)

(やっぱりネギは気づいたのね? それはそうよ。これは聖骸布から編み込まれたコートなんだから)

(せ、聖骸布から!?)

(セイガイフ……? なにそれ?)

(知らないんですかアスナさん! 聖骸布っていったらキリスト教でイエス・キリストや聖人の遺骸や遺物などを包み込んだという魔法世界でも数少ない超がつくほどの一級品のマジックアイテムですよ!?)

(え!?)

(ネギは物知りね。そうよ。これはシロウの戦闘着の予備だからいわば私とシロウをつなぐものね)

(士郎さんの戦闘着!? それじゃ士郎さんはここに来る前はもしかして……)

(ええ。普段着としてずっと着ているものよ。シロウは強いんだけど対魔力が弱いからほぼ全身に纏っているわ。でもこちらでも一級品ということはすごいものなのね)

(ええ、それはもう……こちら?)

(なんでもないわ。こちらの話だから)

(はあ……よくわからないけど士郎さんは相当の実力者ってことだけはわかったわ)

(ええ。それじゃそろそろ行きましょうか? 前を歩いているみんなに気づかれてはまずいから)

 

それからユエを先頭にどんどん進んでいくんだけど色々すごいものが見れたわね。

まずマキエだけど、トラップに引っかかって落ちたまではいいんだけど(よくありません)持っていたリボンを使って柱に結び付けて、そしてそのリボンはマキエの体重に耐えているのだから身体能力もさることながらリボンの耐久性にも驚くものがあるわ。

お次は古菲とカエデ。倒れてきた本棚のトラップを蹴りでやりすごし、それで本の雪崩が起きたら一つ残さず拾い上げていたものだ。

……自身達は運動神経がいいといっていたがただの中学生がそれだけで済まされるほどのものなのかしら?

でも、それに比べて今の魔法を封じているネギは足手まといと言ってもいいでしょう。

普段の運動能力は魔法で補っていたって言うからほんとに魔法頼りなのね。

シロウですら戦闘かそこらでしか滅多に使わないのにまだまだやっぱり子供ね。

 

ユエに従い一回休憩室で休むことになったけどなんでこんなものが普通にあるのかしら?

ネギとアスナはなにかしら絡まれているようだったがアスナの一方的な話の打ち切りで終わっていた。

そしてまた進路を確保しながら奥へと進んでいっているんだけど、魔法で守られているとはいえ貴重な書物が水に浸かっているのを見てなんて怠惰なことなのだろうと頭を悩ました。

ユエの言うとおり確かにもうこれは人外魔境という言葉がそのまま体現しているような場所だわ。

その後もありえないことに地下に湖があって下半身を濡らしながら進んで、本棚の崖下り、1mもない通路を進んでいくという難問もあり本当にありえないという思考が私の頭の中で広がっていった。

さすが異世界……侮れないわね。

 

「ゆ、夕映ちゃんまだなの……?」

 

狭い道を進んでいく中、アスナが弱気な発言をしていたが、

 

「もうすぐです。この区域には大学部の先輩もなかなか到達できません。中等部では私たちが初めてでしょう……ここまで来れたのはバカレンジャーの皆さんの運動能力のたまものです。おめでとうです。さあ、この上に目的の本がありますよ」

 

ユエがあまり見せない笑みを見せてヘッドライトを消したので、みんなも消すとユエが指差したほうから明かりが見えてきた。

そしてついに目的地についた。その着いた先には今まで通ってきた狭い道が嘘のように広い大空洞が広がっていて、空洞の先には二体の石像が左右に分かれながら立っていた。

 

「……すごいわね。本当にここは日本なのかしら?」

「ラスボスの間アルヨ!」

「す、すごすぎる――――!!」

「魔法の本の安置室です……」

 

みんなそれぞれが騒いでいる中、やはりユエが一番感動していたのか目をキラキラと光らせていた。

そこにネギが声を上げた。

 

「あ、あれは!?」

「どうしたの、ネギ!?」

「あれは伝説のメルキセデクの書ですよ! 信じられない! 僕も見るのは初めてです!!」

 

へえ……メルキセデクね? 確かにあれからはすごい魔力を感じるけど、やっぱりもとの世界とは作りが違うみたい。

あっちでは原型は本ではなく武器関連で概念武装になりはてていたから。

でもね、ネギ……普通に伝説のとか魔法にかかわる単語を普通に口走るのはいただけないわ。

私がため息をついていると全員がトラップのことも忘れて走り出していて見事トラップに引っかかる光景を見て、

 

「やれやれ……もうしょうがないわね!」

 

私もみんながいる地面に降り立つとそこにはなんというか、ツイスターゲーム?のようなものが配置されていた。

そしてあっけにとられていると左右に並んでいた石像が動き出して、

 

「ネギ! 来るわよ!」

「は、はい!」

 

私は後で関わったものには悪いけど記憶は消す方針で魔術を起動しようとしたんだけれど、

 

『フォフォフォ……この本が欲しくば……ワシの質問に答えるのじゃ―――!』

 

なっ……この声にこの魔力、なんでこの石像から聞こえてくるのよ?よく見ればレイラインのようなものが感じるわね。

 

「なにをやっているのかしら?コノエ『さあ始めるぞい!』」

「だからコノ『では第1問!』……」

 

……上等じゃない、コノエモン。

私を無視するなんて……帰ったらどうしてやろうかしら? ふふふ……。

どうやら私の考えていることが顔に出ていたのか少し声が震えているようだったけどもう許してやんないんだから。

 

『「DIFFICULT」の日本語訳は?』

「えええ!?」

「なにそれー!」

「みなさん! 落ち着いてください! ツイスターゲームの要領でやればきっと大丈夫ですから!」

 

へえ……落ちついているのね? さすが先生といったところね。

それからバカレンジャーの五人が次々と回答していくのを見ていたのかコノエモンは焦ったのか、まるで作為を感じるような問題を出していき五人をどんどん絡ませていった。

……本当に食えないじーさんね。どう料理してやろうかしら?

 

『さて最後の問題じゃ! 「DISH」の日本語訳は?』

「ホラ! 食べるやつの!」

「メインディッシュとかいうやろ?」

「わかった!『お皿』ね!」

「『おさら』OK!」

 

正解ね。だけどここ一番で失敗をするなんて……まるでリンのようね?

『おさら』じゃなくて『おさる』になるなんて、

 

「違うアルヨ―――!」

『フォフォフォ!残念ハズレじゃ!』

「アスナのおさる―――!!」

「いやああ―――!!」

 

そうして一体の石像が槌を振り下ろしてきて地面を叩き壊した。

落ちていく中、冷静になりながらも私は心の底から思った。

『覚悟しておきなさいよコノエモン……? この代価は大きいんだから』

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

……遅い。あきらかに遅い。姉さんは一体どこでなにをしているんだ?

もうそろそろ11時は過ぎるだろう。

レイラインにも応えてくれないしなにかあったのか?

すると突然、扉を叩く音がして開いてみるとそこには青い顔をした宮崎と早乙女がいた。

 

「よかったです。士郎先生、助けてください!」

「まずは落ち着け。なにがあったんだ?」

「そ、それなんですけど……」

 

それから二人に事情を聞いて、

 

「なんだと!? みんなとネギ君、それに姉さんが図書館島に入っていってなにか事故が起こったのか音信不通になったというのか!?」

「はぃぃ……」

「そうか…………とりあえず二人は今日はひとまず帰って休んでくれ。俺は明日みんなに事情を知らせたらすぐ姉さん達を探しにいこうと思う」

「……わかりました」

 

二人を帰らせた後、

 

まったくなにをしているんだ、姉さんは?

いや、姉さんだからか?久しぶりに遊び心が出たのかもしれない。

しかし魔法を使うなとネギ君にいった矢先にこれでは信用がなくなるぞ、アスナ?

ネギ君は事情も話さず連れていったって言うし……。

 

 

 

そして翌日、

 

 

「……と、いうわけで俺は授業が終わり次第探しに行ってくる。

だからみんなは今いないもの達のことを聞かれても決して喋るんじゃないぞ?

ネギ君のクビもかかっているのだからな。その間、しっかり勉強をしているんだ。では以上でHRを終了とする」

 

用件だけをすばやく伝えて俺はそうそうに寮へと戻り、まだ昼間だが黒いボディーアーマーを着て、赤い聖骸布によって編まれた外套を纏って外にでると、

 

「刹那?」

「士郎さん、私も着いていってよろしいでしょうか?」

「別に構わないが、授業はどうした?」

「学園長に無理を言って早退してきました」

「そうか。で、早退の理由はこの間の鍛練時に聞いたこのかの事か?」

「……はい」

「わかった。なら俺は止めないさ。幸い明日は休みだ。地道に探して行こう」

「は、はい!」

「では図書館島に急ぐぞ!」

「わかりました!」

 

そして俺と刹那は一直線に木々を抜けながら目的地まで向かっていった。

着いた場所はこれはすごいというばかりの建造物が立っていた。

 

「刹那、道案内できるか?」

「いえ、私もここに来たのは初めてですので……」

「そうか。なら俺のそばから離れないことだ。いつトラップが発動するかわかったものではないからな」

 

それで俺と刹那は宮崎達に教えてもらった裏道から中に入っていき、そして入った瞬間その本の量に驚愕していた。

 

「すごいな、これは……」

「はい……」

 

っと、ただここで驚いていてもしかたがないな。

とりあえずは宮崎から受け取った地図を開いて現在位置を確認しながら先へと進んでいった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

お嬢様を助けに士郎さんと図書館島内部へと入ったのですが、正直いってほんとうにこの図書館はなんなんだろうと深い悩みがグルグルと頭を回っていた。

いけない…………しっかりせねば!

何のためにここに来たのか思い出せ桜咲刹那!

私はひるんだ心に克を入れて士郎さんとともに次々と地下へと進んでいった。

ですがそこで私は士郎さんの意外な一面を見ました。

 

「いちいち正当な道を進んでいくのは面倒だ。一気に突っ切るぞ! 投影開始(トレース・オン)!」

 

士郎さんは一度その場にとどまり始動キー……あちらでは暗示のようなものといっていた、呪文を唱えて、手に握られていたのは鎖の先に釘が突き出ているまるで縛り上げるような表現がとても似合っている武器を作り出した。

 

「刹那、少し移動を早くするからすまないと思うが抱えていくぞ!」

「え? きゃ!?」

 

士郎さんは突然私を片手で支えてもう片方の手で釘剣を放ち、それは天井に突き刺さりジャングルジムよろしく一気に何百メートルある道のりを短縮してしまった。

……ですが、事前に私を抱えるということは言っておいてほしかった。

抱えている間、あまりの恥ずかしさで反論の声も上げることができなかった。

 

「よし、到着だ。ん? どうした刹那? 黙り込んでしまって……」

「……い、いえ、なんでもありません」

 

どうやら意識してやってはいないようだ。

士郎さんはよくみなさんの相談ごとには適切にアドバイスしていますが自分の事に関しては無頓着なのですね。

……いわゆる鈍感。

 

「そうか。では先に……むっ!?」

 

え? いきなりどうしたんでしょうか?

いきなり士郎さんからいつもの表情が消えて戦意を体から出している。

これが戦場での士郎さんの顔……。

 

「……刹那、先にこの目的地までいっていてくれ。お前なら軽くいけるだろう?」

「は、はい。それは可能ですが……なにが?」

「俺は相手をしなければいけない奴がいるみたいでな」

「ッ! 敵ですか!?」

「それはまだわからない……だが、警戒を解いたら一般人なら意識を根こそぎ奪われるかもしれないほどの威圧感を相手は放ってきている」

「わ、私にはそんなものはなにも……」

「当然だ。相手は俺にだけ的確に威圧を放ってきているのだから刹那が気づかないのもうなずけることだ。ともかく先にいっていてくれ。この敷地にいる以上は敵ではないだろうしな」

 

そんなものは私には感じられない。それだけ士郎さんは気配を読むのが優れているのだろうか?

いや、それより士郎さんがこれほど警戒するほどの相手とは一体?

だから、それを聞いて私も加勢しようとしたのだが士郎さんの大きい背中がまるで『行け!』といっているようで私は頷くしかできなかった。

 

「……わかりました。ですがすぐに追いついてきてください」

「約束は守る」

 

私は歯がゆい気持ちになりながらも士郎さんが追いついてきてくれることを切に願いながら道を進んでいった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「…いったか。さて、そろそろ出てきてくれてもいいのではないかね?」

 

刹那を見送った後、俺は威圧を放ってきている謎の人物のいる方角を向いて即座に干将・莫耶を投影し構えた。

するとその謎の人物の気配は突如後ろから感じて刹那に鍛練がてら教えてもらい最近やっと会得できた“瞬動術”という歩法を用い10メートルは離れた。

そして俺がいた場所には全身を白いフードで隠し口だけかろうじて見えるあからさまに怪しい人物が立っていた。

 

「何者だ……?」

「ふふふ、なかなかの反応速度ですね? 気配を気取られる気も見つかる気も更々なかったのですが……実力はタカミチ君以上はありそうです」

「? なぜタカミチさんのことを知っている……? それと俺の目をごまかしているつもりのようだが貴様、実体ではないな? 大方本体は違う場所で今のお前は空間移動の応用で幻か、あるいは実体があるように見せているところから忍びが使う影分身みたいなものか?」

「ほぅ? なかなかどうして……瞬時にそこまで見破るとは私も驚きましたよ。『異世界からの旅人さん』……」

「ッ!? どうしてそのことを貴様が知っている!?」

 

まさかあの時のことがばれたのか?

いや、しかし……ただ確信して言えることはこいつが相当の実力者だということだ。

 

「怖いですね。そんな睨まなくてもよろしいでしょうに?」

「そうもいかなくなったのでな。嫌でも理由は吐かせてもらう。いざとなれば本体ごと消滅させる手もいくらか思いつくからな」

「……これは先ほどの評価は訂正しなければいけませんね? あなたはもしかしたら全盛期のエヴァンジェリンを凌ぐ力を持っていそうです」

「からかっているつもりか……?」

「いえいえ、本心からの言葉ですよ。それよりエモノは下げてくださると助かります。私は別にあなたと敵対する気はありませんから」

「確かにそのようだな。先ほどの威圧感はもうまったく感じない。それに最初から敵意というものはなかったようだしな」

「洞察力もすごいようですね? ふふふ……あなたのことがますます知りたくなりましたよ衛宮士郎さん」

「……名前もとうにお見通しか。では一つ聞かせてもらう。貴様は何者だ? どうやら敵ではなさそうだがまだ俺には信用がおけない部分がある」

「あ、そうでしたね。一方的に話を進めて申し訳ございません」

 

すると謎の男はフードの頭部分をとった。そこから出てきた顔は中性的でまるで女性のような端正な顔立ちをしていて、髪の毛は長くはないが、左肩に纏めている髪以外は肩の上から少し離して切りそろえられているといった感じだ。

そしてずっと笑みは絶やしていない。

なぜだ? この男からはあの毒舌シスターことカレン・オルテンシアと同じ気配を感じるぞ?

 

「私の名はアルビレオ・イマというものです。以後お見知りおきを。

役職はこの図書館島の管理をするものと認識してくださって結構です。

あ、でも今はクウネル・サンダースと名乗っておりますのでクウネルと呼んでください」

「はぁ……クウネルか。サンダース? それってカーネ―――……」

 

 

「それ以上は言ってはいけませんよ?」

「!?」

 

 

俺はなぜか反射神経をフルに駆使してとっさにクウネルの鋭い視線を避けた。

なんだあの極上の笑みは? 本気で寒気がしたぞ!

 

「わかっていただけたようですね。では次になぜ私があなたのことを知っているかというとですとね? 近衛学園長にあっさり教えていただきました」

「はぃ!? な、なにを考えているんだあの妖怪爺!? あれほど他人には秘密を守ってくださいと頼んだのに! ふふふ……やはりここはあの計画を実行に移すべきか?」

「どうやらお困りのようですねぇ? 平気ですよ? 私以外には多分話してないと思いますから」

 

地面に手をついている俺に極上の笑みで話しかけてきたクウネルの表情を見た瞬間、確信した。

こいつは人を罵ることが三度の飯より大好きなカレンと同類だと!

だからクウネルとはまともに会話をしようとしても無駄だと判断し即座に話を変えることにした。

 

「……それで? なぜ今俺に接触してきた? ただ世間話がしたいというだけではないのだろう?」

「察しがいいですね? はい。学園長の話を聞いて興味を持ちまして本人がやってきたとあってつい知的好奇心を抑えることができなかったもので」

「それで? 本当はなにが目的だ?」

「きついですね? もっとやわらかく生きたほうが得ですよ?」

「すまんな。これが地でね」

「そうですか。ふふふ……やはりあなたは面白い方です。では本題ですがぜひあなたの過去を覗かせてもらいたいのですが。異世界の魔法、そちらでは魔術ですね?とても興味がありまして」

「それは断固として断る。あいにくだが俺はまったくの他人に話せるような過去は持ち合わせていないのでな」

「そうですか。それは残念です…………では代わりに衛宮イリヤさんの記憶を覗かせていただきましょうか?」

 

 

………………こいつは今、なにをいった?

姉さんの過去を覗くだって?それは……生まれる前から聖杯として調整を受けて一生を終える運命だった過去を覗くということなのか?

それだけは、許すわけにはいかない。

そんな悲しい過去を知られたら姉さんは……。

 

 

「ッ!! クウネル……一つだけいっておく。俺の記憶はどれだけ覗いても構わない。だが、姉さんの記憶を覗こうとするならば俺は貴様を……殺す!!」

 

できるだけの殺気をこめて瞬時にクウネルの首筋に刃を突きつけた。

 

「!? (これほどとは……どうやら少し踏み込みすぎたようですね? この方はやるといったら確実にやる人のようです)」

 

それからしばし時間が止まる感覚があったが、

 

「わかりました。残念ですがイリヤさんの記憶は覗かせていただくのはやめておきます」

「そうか。ならいい」

「……ですが私はなにも衛宮さんの記憶は諦めたわけではありませんよ?」

「ッ!……なかなかにせこいな」

「褒めても何もでませんよ?」

「決して褒めてなどいない。だがさっき言ったことは訂正させてもらうが俺の記憶も見せるわけにはいかない。これも間接的に姉さんの過去にかかわってくるからな。だから見たければそれ相応の覚悟を持って挑んで来い。

では俺は連れが先で待っているので行かせてもらう」

「そうですか。そうそう、君のお姉さんとネギ君達は無事ですからご安心を……」

「なに……?」

 

クウネルは俺の疑問にすらすらと答えてくれた。あらかた聞き出したのでもう行くことにした。

 

「嘘か真かわからんが……今はその言葉を信じてやろう。ではな」

「はい。またお会いしましょう」

「俺は二度と会いたくはないがね」

「つれないですね?」

「…………」

 

やはり気に食わない奴だ。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

アルビレオ・イマは士郎が消えた後、

 

 

(ふう……振られてしまいましたか。残念ですね。

彼はとてもあの方に似ていたのでもう少しからかいたかったのですが。

それと学園長には頼まれていたことは失敗と、お伝えせねば。

久しぶりに私の暇を埋めてくれる人が現れてくれました。

ですが、まだその時ではなさそうなので私は休養しているとしましょう)

 

 

そしてアルビレオ・イマはその姿を消した。

 




今一最後の部分が覚えていない内容なんですよね。なにかの伏線だったのは分かるんですが。


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012話 脱出!このかの異変?

更新します。


 

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

士郎さんは果たしてご無事でしょうか? とりあえず目的地には着いたのですがそこにはでかい大穴が空いていてもしかしたらお嬢様達は落ちてしまったのでは?

そんな二つの多大な不安を抱いていると、

 

「遅くなった、刹那」

「士郎さん! ご無事でしたか!」

「ああ、どうやら敵ではなかったので話を少し済ませてさっさと来た。まあ、ただ一つ言えることは奴は俺にとってある意味天敵ともいえる存在だったというところだ」

「士郎さんでも勝てないということですか?」

「いや? そうでもない。性格的に絶対合わないというだけだ。ただ自惚れてはいないが―――……手段を選ばなければ確実にやれるだろう?」

 

瞬間、戦慄が走った。手段はどうこうとしていつも温厚な士郎さんからこんな言葉が簡単に出てくるとは思っていなかったからだ。

やはり士郎さんはこちらの世界の人間、しかもかなりのプロと再確認できるものだった。

 

「それより刹那、この大穴はなんだ?」

「わかりません……私が来たときにはすでに空いていたものでして。もしかしたらお嬢様達はこの穴の底に落ちてしまって……!!」

「落ち着け、刹那。あせっても解決の糸口は見つからない。それとその心配は皆無のようだぞ?」

「え? それは一体……?」

「なに、先ほどの人物はこの図書館島の管理をしているものと言っていた。そしてネギ君や姉さんを含めて全員は無事だということを教えてもらった。真実とは限らんがな?」

 

士郎さんは苦虫を噛み潰したような表情になりながらそのことを伝えてくれた。

その謎の人物との間に一体なにがあったのでしょうか?

 

「……とりあえず信じてみる方針でいくとしよう。で、だが……どうするか? 落ちてみたとしてうっかりネギ君達と鉢合わせになっても困るものがある。今、どういうわけかみんなはこの地下の底で勉強をしているらしい」

「……は?」

「だから勉強だ。学園長がきっと来るだろうと予測してこの地下に勉強道具や食事といったものはあらかた揃えておいたらしい。

しかも俺たちが助けに来ることもなくテスト前日には確実に脱出させようという段取りはすでに出来ているらしい。

教えてくれたあいつも癇にさわる奴だったが、学園長もなかなかの曲者のようだ。今にでも一発殴りに行きたい気分でいっぱいだよ」

「そうですね。私も少しながら怒りがこみ上げてきました」

 

だが、士郎さんも学園長の性格を理解しているようで私と一緒にため息をつくことしかしなかった。

 

「まあ心配に越したことはないからな。俺達は違う道を通りみんなの様子を伺っていることにしよう」

「ですが地図ではそのようなものは一切……あ」

「理解したか?」

 

そうでした。士郎さんの解析能力はずば抜けてすごいのでした。

その証拠にこの広い祭壇から地下に通じているらしい隠し通路を発見していた。

 

「ではいくとしようか」

「はい」

 

それから士郎さんが発見した隠し通路を通り光が見えてくるとそこには地下とは思えないほどに光が溢れている広大な空間が広がっていた。

そして目を凝らしてみればなぜかある黒板の前で遭難したというのに勉強に励んでいるお嬢様達がいた。

 

「ふう……ひとまずは安心したといっておこうか。奴には嫌だが感謝だけはさせてもらおうか。しかし話しには聞いていたが、いまいち理解に苦しむ光景だな。こちらとは違い事情も知らないはずだというのに遭難しているという意識はないのだろうか?」

「ですが元気そうで安心しました」

「ま、そうだな。ん?」

「どうかしましたか?」

「少し待て。今姉さんが俺の気配に気づいたらしく念話を飛ばしてきている」

 

そう言って士郎さんはイリヤさんと会話をしているようだった。

それにしても仮契約もしていないのに念話が出来るなんてすごいですね。

いや、士郎さん達の世界では方法は違うのかもしれませんね。

 

「……了解した。刹那、姉さんから話があるらしい。隠れた場所で落ち合うことになったから着いてきてくれ。気配は消していけよ? ネギ君はともかく楓には気づかれそうだからな」

「確かに……わかりました」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

人目のつかないところに俺と刹那は隠れながら進むとそこには姉さんがいた。

なぜか俺の予備のコートを羽織っているのはこの際は気にしないことにした。

 

「わぁー! シロウ、私を迎えに来てくれたのね。お姉ちゃんとってもうれしいな!」

「わかった。わかったから思いっきり抱きついてこないでくれ…」

「いいじゃない? 姉弟の仲で減るものでもないんだし」

「そうだが……っと、そうだ。この騒動の原因は分かっているとして姉さん、あれは一体なんなんだ?

今朝のHRで行方不明になっていることが騒ぎになっていたのでとりあえず鎮めてから刹那と共に来たのだが、……脱出することも考えずに勉強をしているなんて気が知れないぞ?」

「いいんじゃないかしら? 落ちた当初沈んでいたみんなをネギは必ず脱出できますからと勇気付けてそれまで勉強をしましょうと言い出したのよ。

私も最初はそんな暢気なとは思ったのだけれど、みんなもそれに賛同したんで、私は一人で脱出口を探していたのよ。それよりシロウ? 原因はわかっているってどういうことかな~?」

 

そこには初見ならそこらの男共なら振り向くだろう極上の笑みの姉さんがいたのだが、少し血管が浮き出ていてあからさまに怒りを露わにしているギンノアクマがいた。

それに少し怯えながらもこのいきさつを姉さんに伝えたところ、

 

「ふーん? やっぱり犯人はコノエモンだったのね? 帰ったらどうしてくれようかしら……?」

「と、とりあえずそれは置いておいて姉さんは今はまだ自然に振舞っていてくれないか? 俺たちがここにいるのは隠しておきたいからな」

「わかったわ。あ、でも一人は無理かもね」

「やっぱり気づかれてしまったか?」

「そのようですね士郎さん」

 

俺たちはその人物が隠れている先を向くと楓が出てきた。

 

「イリヤ殿を探していたでござるが、士郎殿に刹那もいたでござるか」

「ああ。お前たちを探しに来たのだがどうやらその様子なら心配は皆無だったようだな?」

「そうでもござらんよ? これでも脱出口をイリヤ殿とともに探す班を担当しているので。それよりやはり士郎殿は只者ではなかったでござるな? 姿でわかるでござるよ?」

「まあ裏のことは知っている」

「ところで楓。お嬢様たちは大丈夫なのか?」

「ん―――……平気でござるよ?あれで結構ここでの生活を楽しんでいるでござるからな」

「少しそれも問題な気がするが、ひとまずもう出口に続く道は発見済みだから時を見て脱出するがいい」

「え!?」

「ほんとでござるか!?」

「さっすがシロウね。もう発見できたの?」

「ああ。あそこに見える滝の裏側に非常口がある」

 

俺が指差した方向に楓が向かうと驚いた表情をしながら戻ってきた。

 

「確かにあったでござる……というより普通に非常口という表示がされていたなど……盲点でござった」

「ちなみにまだここで過ごしていても構わんぞ? ここなら勉強するにあたってはよい環境だと思うからな。それに、そのうち学園長がなにかしら動きを見せるだろう?脱出計画はできているらしいからな」

「あいあい。わかったでござるよ。それでイリヤ殿はよいとして士郎殿と刹那はどうするでござるか?」

「そうだな。俺たちはここまで来る隠し通路の途中になぜか設置してあった部屋でことが起きるまで待ちながら勉強することにするか? 刹那も勉強しなければならんだろう?」

「そう、ですね。お嬢様達が見える範囲の場所でばれずに済むのならそれで構いません」

「そうか……刹那。俺から一つ言っておくがいつかは決着はつけることだ。このかも寂しい思いをしているからな」

「……わかっています。いつかはきっと」

「ほう? これは珍しいものを見たでござる。刹那がこんなに素直になるなんて……」

「う、うるさいぞ楓! さあ行きましょう、士郎さん!」

「わかった」

 

後ろでは姉さんが悪戯そうな、そして楓もニンニン。とかいって二人とも実に嫌な笑みを浮かべていたことは、今の刹那には話さないほうがいいだろう?

経験上、遠坂だったらガンドをぶっ放してくるだろうしな。刹那はなにをしでかすかはわからん。

 

「そうそう、食事の件だが隠れて全員分作っておくからくつろいでいていいぞ?」

 

俺はそれだけ伝えて刹那とともに隠し部屋に入っていった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

……それから時間的に一日半くらい経ってみんなが水場で遊んでいるところを、学園長がレイラインみたいなもので操作しているゴーレムが動き出して騒ぎを起こしていた。

 

「時間が迫っているとはいえ、今仕掛けるのは作為あっての行動か? あの変態爺め……」

「そうですね。少し灸を添えねばいけません」

「だが、ネギ君も動揺しているとはいえ……」

 

 

「くらえ!魔法の矢!」

「僕の魔法の杖を使えば……」

 

 

と、魔法の言葉を連発している。

 

「あれは、さすがにないだろう?」

「あ、あはは……苦笑いしか出来ませんね」

「魔法を封じていることが幸いしたな。アスナや姉さん、楓以外は威嚇としか思っていないようだからな」

 

《シロウ!》

「! 姉さんか?」

《手順どおり脱出するわ。援護をお願いね》

「了解した。では刹那、姉さんから合図があったのでばれないようにいくとしようか」

「はい!」

 

それから一同は魔法の本をちゃっかり会得しながら逃げていって脱出口に入っていった。当然ゴーレムに扮した学園長も追いかけていったが、俺たちも少し後から追いついてみるとそこは螺旋階段になっていてネギ君たちはなぜか問題が表記されている扉を次々と解いていきながら上へと進んでいた。

だが本気で魔法の本を取り返したいらしい学園長は螺旋階段の壁を削りながら追いかけていく。

そしてその揺れにさらされたのか運悪くこのかの地面が崩れた。

 

「このか――――!!?」

『フォッ!? しまった!』

「お嬢様!!」

 

螺旋階段の底に落ちていくこのかにみんなは叫んだ!

 

「刹那! 俺が行く! 見つからないように後から来てくれ!」

「は、はい! お嬢様のことをお願いします!」

 

刹那の頼みに答えて俺は身体強化を施して垂直の壁を何度も踏んで跳躍していきながらこのかを抱きかかえた。

 

「え!? 士郎さん? なんでここにおるん!?」

「説明は後だ。口を塞いでいろ、このか。舌を噛むからな」

「は、はいな!」

 

それからまた跳躍してもうエレベーターに到着していた面々の前に降り立った。

 

「士郎さん!?」

「老師!?」

「し、士郎さん!? なんでここに?」

「行方不明の君たちを探しに来たんだ。なんとかこのかを助けることはできたが……もう少し自重したまえ。それとその本は俺が元の主に返しておく。だから先にみんなは地上へ戻っていてくれ」

「で、ですが……!」

「ネギ君、そのようなものを使っても所詮インチキにしかならない。だから今日までまじめに勉強をしていたのだろう? だからみんなも自分の実力を信じてテストを受けるんだ。では姉さん、後は頼んだ」

「わかったわ、シロウ。足止めお願いね」

「任された……ふっ、あいつの言葉を思い出したよ。足止めをするのはいいが……別にアレを倒してしまっても構わないのだろう、姉さん?」

「……本当に皮肉な台詞とかあいつに似てきたわね。ええ、構わないわ。思いっきりやっちゃいなさい、シロウ」

「わかった。では期待に応えるとしよう。ではネギ君、また地上で会おう」

「は、はい。士郎さんも気をつけて!」

 

そしてネギ君たちはエレベーターに乗って地上へと上っていった。

 

「士郎さん!」

「来たか刹那」

「はい。お嬢様を助けていただき感謝します」

「気にするな……で? いいかげん正体を現したらどうですか学園長?」

『フォッフォッフォッ……やはりばれておったか』

「当然じゃないですか。そのゴーレムからは学園長の魔力が感じますからね」

「学園長? 自分の孫であるお嬢様を危険な目に合わせた責任は感じているでしょうね?」

『わ、わかっておるぞい。反省しとるよ』

「そうですか。でしたらいいのですが」

『それより士郎君。このかを助けてくれてありがとうの』

「当然のことをしたまでですよ。まあこんな話は後日にするとしまして、覚悟はいいかね学園長?」

『フォッ? そ、それはまさか!?』

「そのまさかですよ、学園長。あのハンマーです。幸い今は本体ではなさそうですからそんなに痛みはないでしょう。俺もそろそろ怒りたい所ですので……底に落ちて反省してください!」

 

俺は渾身の力を込めてハンマーを叩き落した。

 

『フオオオォォォォォ――――…………』

 

学園長の声は地下に落ちていきながらもドップラー効果で響いてきていた。

ついでに魔法の本は一緒に地下に落としておいた。どうせ拾うだろうからな。

 

「では、帰るとしようか、刹那」

「……え? はい。あの、学園長は大丈夫でしょうか?」

「平気だろう? あの祭壇から落ちて無事だったのだから」

「いえ、そうではなくてあのような鈍器で殴ってはさすがに……」

「それも無問題だ。このハンマーはもともといつもこのかが学園長を思いっきり叩いているトンカチがもとになっている。だから絶対に重症は負わない設計になっている」

「そうですか。なら安心です」

「まあ俺としては気は晴れたが姉さんはきっと俺以上のことをするだろう。血の雨が降らなければいいが……」

「そ、そうですね」

「それで刹那はどうする? 俺はもうしかたがないとして、まだ刹那は姉さんと楓にしか知られていないからな」

「私は……士郎さんの後で向かいます」

「そうか。無理はするんじゃないぞ? では、先にいっている」

「……はい」

 

俺はエレベーターに乗り刹那より先に地上に向かったが、まだあの様子では刹那の心のわだかまりは当分取れそうにないな。

なにかきっかけがあればいいのだが。まあまだ時間は十分にある。喧嘩ではないがいつかは正面きって話し合える仲になってもらいたいものだ。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

なぜ士郎さんがあの場所に駆けつけてくれたのかはわかりませんが士郎さんのおかげでこのかさんが助かったんですからよかったです。

ですが士郎さんとは別にもう一人だれかいたような気がしたのは気のせいでしょうか?

士郎さんが戻ってきたら聞いてみることにしましょう。

そう考えているとエレベーターが上がってくる音がしてそこから士郎さんが出てきました。

 

「士郎さん! 大丈夫でしたか?」

「ああ、ネギ君か。大丈夫だ、あの石像は地の底に落としておいたからな」

「そ、そうですか……」

 

それにしてもこれが士郎さんの戦闘姿……イリヤさんのときも感じたのですが士郎さんが着ると別格なほどにすごい力を感じます。

 

「さて、この件はテストが近いので今は放置しておきたいが、やはり釘をさしておくとしよう。怒りはしないがまずはみんなに心配をかけないようにすることだ。クラスの者たちはたいそう心配していたからな」

「ごめんなさい士郎さん……」

「謝るアルヨ」

「すみませんでした」

「ごめんなさいです」

「反省するでござる」

 

みなさんは次々と謝っています。僕も反省しなきゃ。

それを聞いて士郎さんも許してくれたのか笑みを浮かべていた。

 

「あ、あんな……士郎さん?」

「ん? どうした、このか?」

「さっきな……ウチを助けてくれてありがとうな。ウチ、あのときほんまにもうダメかと思うたんやけど士郎さんのおかげで傷もあらへん…」

「そうか……それはよかった」

 

士郎さんは条件反射なのでしょうか? とても優しい笑みを浮かべてこのかさんの頭をくしゃくしゃとなでていました。

それでこのかさんも顔を赤くしていました。あんな姿は初めて見ます。

 

(ねえねえ、アスナさん?)

(なに、ネギ?)

(あんなこのかさんは初めてみるんですけど?)

(……実は私もよ。士郎さんのあれはかっこよかったからもしかしたら、かもね?)

(なにがもしかしたらですか? 僕はよくわかりません)

(やっぱりまだお子様ね)

(む! なんか馬鹿にされた気がします)

(気のせいよ。それよりイリヤさんの様子がおかしい―――……ひっ!?)

 

アスナさんがなにか言いかけたところで突然悲鳴をあげて、それでイリヤさんを見るとなにか黒い空気が膨れあがっていました。正直言って怖いです。

 

「シ・ロ・ウ? またなのね?」

「ん?なにがだ……って、なにか怖いのですが姉さん?」

「ふふふ……これは後でお仕置きね?」

「な、なんでさ!?」

 

……なにか士郎さんがすごい震えているのが見て取れます。口調もなぜか変わっていますし。

 

「と、とりあえずみんなは早く寮に帰るんだぞ? そして明日は遅れるんじゃないからな!? では俺は先に帰っている!」

 

それだけ伝えて士郎さんは世界新は出しているのではないかというくらいの猛ダッシュをして先に帰っていった。

そしてそれを追いかけるようにイリヤさんが士郎さんと同速度で走っていきました。……確かイリヤさんは補助系でしたよね?

まあそれはそれとして翌日の期末テストもなんとか間に合ってなんと信じられないことに2-Aが学年1位をとることが出来ました。

これで士郎さんとともに四月から正式に教師になることができます。

……それで、その肝心の士郎さんですがなぜかやつれていましたがきっと聞かないほうがいいんでしょうね。

後、学園長も包帯だらけでちょっと不気味でした。

 

 

 




はい。このかにほの字が点灯しました。


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013話 衛宮士郎の春休み(?)

更新します。


 

 

あれから姉さんになぜか魔術でしぼられてへとへとになりながらもなんとか平然を装って終業式になって俺とネギ君の正式な教師としての任命式が終わり、4月からネギ君は引き続いて3-Aの担任、俺は副担任になった。

だが、驚くことがあった。なんと姉さんが保健の教論の資格を取得して俺たちとともに学園で働くことになったらしい。

聞いてみると俺に隠れてなにかしていたのは資格を取るためだったらしい。努力を俺に見せないところは遠坂と同じで可愛いところがあるなと思ったのは内緒だ。

それと寮長の仕事はどうする? という話題になったが部屋はそのまま使っていいらしく、姉さんがいない間は代わりに入ってくれるという話で落ち着いたらしい。

 

それでなぜか終業式が終わった後、教室では色々盛り上がって『学年トップおめでとうパーティー』なるものが行われることになった。

そしてまた料理を作ってほしいといわれて理由を聞いてみるとみんながあのときの料理の手さばきを直に見たいらしいといわれたので、今度はしっかり姉さんもいる手前、中途半端なものは作れんなと思い(怖いから)また料理を振るうことになった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 神楽坂明日菜

 

 

あの騒がしいパーティー(なぜか長谷川さんが変な格好をしていてそれをネギがくしゃみで服を吹き飛ばす騒動があった)の数日後、最近このかの様子がおかしいと思う。いや普段からもどこか抜けてるところがあると思うんだけど最近は特におかしい。

あ、見る限りは別段変化はないのよ? でもたまにボーっとしていることがあるし……。

やっぱりあれが原因なのかしら?士郎さんに助けられた時のこのかは俗に言うお姫様抱っこをされていたし。それにあのシチュエーションじゃね。

 

「ねえこのか? なんか最近ちょっとおかしくない?」

「え? そんなことあらへんよ? それよりネギ君はどこやろな?」

 

そうなのである。このかのことも心配だが今は春休みで校内の案内を頼んできたのにどこかにいってしまったネギを探索中だ。

しかたがないのでちょうどタイミングがよく朝倉が通りかかったので、

 

「朝倉、ちょっとネギを探してるところなんだけど見つからないし、しょうがないから放送頼める?」

「お、いいよ~。変わりに後でなにかネタがあったら教えてね。ま、一つはありそうだけどね」

「なんのこと?」

「またまたー? アスナも気づいてんでしょ? このかが最近様子がおかしいってこと」

「うっ! さすが麻帆良パパラッチね……」

「それで? なにが理由なのかな~?」

「知らないわよ。それより早くネギを呼んでくれない?」

「ちぇ、残念。まぁいっか。了解了解」

 

朝倉がいなくなってから少し経って大々的に放送があってネギが泣きながら走ってきた。少し悪いことしたかしら?

それから学園長から私たちに用事があるらしくまたちょうど通りかかった鳴滝姉妹にネギのことを頼んで、その場を後にした。

そして学園長のまたくだらない用事を済ませた後、このかともう一度ネギがなにをしているのか確認してるとなんか弓道場が騒がしいことになってるのでその場にいたネギに話しかけてみた。

 

「ちょっとネギ?」

「あ、アスナさん」

「アスナだ」

「また会いましたです」

「あ、鳴滝姉妹もまだ一緒にいたのね。それよりこの騒ぎはなに?」

「それはあれだよ、アスナー?」

 

風香ちゃんの指差したほうを向くとそこにはなぜか袴姿の士郎さんが弓を構えていた。

その目はまるで本当に鷹の目のようで放つ矢も一本どころか八本あった矢がすべて「皆中!」という審判の声とともに歓声が上がるばかり。

このかもやはりその姿になにか目を輝かせていた。

 

「こんなものでいいだろう。手本にはなったか?」

「はい。衛宮先生のおかげでいい勉強になりました。部のみんなもなんか盛り上がっていますからいい薬です」

「それはよかった。では俺はこれで失礼するよ」

「できたら顧問になってくれませんか?」

「すまんな。これでも忙しい身なのでな……」

 

なにか大学の部長さんらしい人から顧問に進められていたが断っているようだった。でもほんとすごかったわね? 矢がまるで吸い込まれるように中心に打ち込まれていたから。

それからしばらくしてスーツ姿に着替えた士郎さんが道場から出てきたので話しかけてみた。

 

「ん? アスナ達か。どうしたんだ?」

「いえ、なんで士郎さんがここにいたのかなって思ったんですけど……」

「……ああ、それか。最近弓の鍛錬を怠っていたから事情を言って一画を使わせてもらっていたのだがどうにも抜け出せなくなってしまってな」

「それより士郎先生すごかったね!矢がばんばん命中していたしねー!」

「はい。すごかったです」

 

確かに風香ちゃんと史伽ちゃんの言うとおりね。

あれはもうプロの腕ではないかと疑ってしまうほどだったから。だが士郎さんはそれを否定していた。

 

「はは、俺の弓は、道を説く弓道と呼べるような代物ではない。独自で学んだ自己流だがらあまりほめられたものではない。だが、それでも基本たる射法八節を無視している訳ではない」

「射法八節……?」

「弓道の心構えの基本である足踏み・胴造り・弓構え・打起し・引分け・会・離れ・残心の八つの工程からそう呼ばれるようになった言葉だよ、ネギ君」

「へぇー……そうなんですか」

「ああ。それより、このか? どうしたボーっとした顔をして? 熱でもあるのか?」

「え゛!?」

 

急いで見るとこのかの顔が少しずつだが赤くなっていくのがわかる! これは、まずい!?

 

「し、士郎さん! このかはなんか熱っぽいから私達は先に帰ってるわね!」

「ああ。アスナも風邪には気をつけるんだぞ?」

 

士郎さんの言葉を聞いた後、全力でこのかを抱えてその場から私は突っ走っていった。

そして見えなくなってきたところでこのかの両肩を掴んで、

 

「聞いて、このか!」

「な、なんやアスナ?」

「やっぱり今のあんた少しおかしいわ! やっぱり士郎さんのこと……」

「それがよくわからへんの……」

「へ?」

「ウチな? 図書館島で助けられた日から士郎さんのことを見るとなんか胸がチクっと痛むんやけど、それがなんなんかまだわからへんの。ウチ、どこかおかしなってしもうたんかな?」

「そ、そうなの……大丈夫よ、このか。その気持ちは別におかしくもなにもないんだから。だけどまだ気持ちの整理がついてないんでしょ?」

「そうなんよ」

「それじゃまだ焦ることはないじゃない? 気持ちの整理がつくまで相談にも乗ってあげるからさ」

「うん。ありがとな、アスナ!」

 

よかった。やっといつものこのかに戻った。

でも気のせいかこのかのことがとても綺麗に見えるわ。これもはじめて恋をしたからなのかもね。

でも、私も人のこと言えないけどハードル高いわよ、このか?

おまけに士郎さんのことを溺愛してるイリヤさんがバックについているからガードは高いわ。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

このかはどうしたのだろうか? あんなに顔を赤くして……熱だとアスナがいっていたので心配だな。

まぁアスナやネギ君が同室なのだから大丈夫だろう。

っと、そうだ。学園長に呼び出しを受けてあったな。久しぶりに道場で弓を引いたので熱くなって忘れていた。

それで学園長室に向かうと開口一番、

 

「士郎君、このかを嫁にもらってくれんかの?」

 

とりあえず戯言をいう学園長をトンカチで叩いておいた。

 

「あいたた……士郎君、老人をいたわるという気持ちはないのかの?」

「寝言を言わなければこんなことはしませんよ」

「結構本気で言っておるんじゃがの?」

「なおさら性質が悪いですよ。仮にもこのかは教え子なんですよ?」

「むう……それはそうじゃが。しょうがないの。今は保留にしておくとするぞい」

「諦めが悪いと痛い目を見ますよ、学園長? それで要件はなんですか? またなにかが故障したんですか?」

「おお! そうじゃった。それがの、もうずいぶん前から動かなくなってしまったものが一つの教室にたまっておるんじゃ。その中にもしかしたら使えるものがあるかもしれんので士郎君の目で見てほしいんじゃ」

「わかりました。場所を教えてください」

 

さっそく学園長に教えてもらった教室に向かったが、確かにどれもこれも年期が入っていてボロボロだ。普通ならもう即廃棄されてしまうものだろう。

 

「まったく学園長は……確かに修理品は任せてくれとはいったが俺にまさか全部押し付けていないだろうな?まあいい。見てみるか」

 

 

―――解析開始(トレース・オン)

 

それから一つずつ解析を行っていきもう寿命を全うしているものとまだ修理が可能なものとを分けていった。

その過程でわかったことだが、どれもこれもただの道具ではなく魔法の力が込められているものばかりだ。

なるほど……確かにこれは専門のものが見ないと修理もなにもできないものだ。

一つ一つはそれほどでもないがどれもこの学園の設立以来のものばかりで思い出がぎっしりと詰まっている。

まったく、これではがんばらなくてはいけないではないか。

 

「よし、では始めるとしようか」

 

俺は作業着に着替えて修理作業に取り掛かったのだった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

……それから数日後、

 

 

早朝の刹那との鍛練中のことで、

 

「士郎さん? なにか最近疲れていないですか?」

「そうか? まあ確かにそれは否定できないところがあるな。実はな―――……」

 

少し休憩を挟んで刹那に数日前のいきさつを伝えたところ、

 

「そうなんですか」

「ああ。どれも魔法がかかわっているもので、しかも思い出の品ばかりでな。共感しているとどれも直してやりたいという気になってしまうんだ」

「それで寝不足なんですか」

「そうなんだ。さすがの俺でも連日作業は来るものがあってな」

「本当に士郎さんはいい人ですね……もしよろしかったら手伝いましょうか?」

「いや、それは大丈夫だ。今日終わる予定だからな。それよりこんなことで気を抜いてしまい鍛練を怠ってすまなかった。仕切りなおしとしよう」

「はい、わかりました」

「で、だ。刹那の使う神鳴流は夕凪のような巨大な野太刀を使用する一刀での剣技が中心なのだろう?」

「はい。対人戦にも向いているものはありますが限られてきますね。おもに大型の魔物や大戦に使われる剣技がほとんどですから」

「では今度からは俺が神鳴流にさらにいくつものバリエーションを組み合わせて挑むとしよう。対神鳴流の戦いもあるかもしれないからな」

「そうでしょうか?」

「ああ。人生はいつなにが起きるかわからないからな。弱点は減らしておいたほうがいい。それにいつも双剣だけでは飽きてくるだろう?」

「いえ、そんなことはありません! 私の攻めはエモノゆえにどうしても大振りになってしまいますから士郎さんのような双剣での小回りな動きでの戦闘はとても参考になります」

「そうか?」

「ええ。それで前から気になっていることが一つあるんですが」

「なんだ?」

「その士郎さんが使う中華刀ですが、その双方の陰陽とその他の模様から察するに中国に伝わる夫婦剣……確か名は“干将・莫耶”ではないでしょうか?」

「……よくわかったな。名は教えてなかったのだが。これは数多もの戦をともに駆け抜けた俺が愛用している宝具だ」

「やはり……すごいですね。そのようなものまで作り出せるなんて」

「まあ、一度見聞きしたり解析したりすれば俺の場合は異常だから何度も投影することが可能だ。

それに今まで使ってきた中で一番しっくりくるのがこの二刀だったからな。

刹那の言うとおり確かに小回りが効く。加えて魔力の燃費がいいからもうこれが俺の主武器といってもいいだろう。

っと、語っている場合ではないか。では先ほどもいったが今日からはいろいろなバリエーションを組んでいくからそのつもりでいてくれ」

 

そうして俺は偽・夕凪を、もう片方の手には名も無き小太刀を投影して構えた。

 

「さて、ここからは贋作だが夕凪とそれに小太刀とで連携攻撃をやっていく。

刹那は一刀だからもし片方が抑えられなかったと思ったら即座に手でも足でもなんでも使っていいぞ。

刀の刃は削り殺傷能力は皆無にして投影したから大丈夫だ。

だが即席の武装だからとなめない方がいい。少しの油断が戦場に出れば何事も死に繋がるからな」

「はい!」

「ではいくぞ!」

 

それからは偽・夕凪に共感し、刹那のこれから繰り出されるであろう太刀筋をイメージして、的確に弱点になりうるであろう箇所に、時には夕凪で上段からの振り下ろし、斜めからの袈裟切り、それから振り上げ、また時には小太刀を使い突き、払いなどを同時に使い分け、

 

「神鳴流奥義! 斬岩剣!!」

「是、斬岩剣!」

 

刹那の放った斬岩剣を同様の斬岩剣を放ち鍔迫り合いさせて小太刀で切りかかった。

 

「なっ!?」

 

刹那は動揺しながらも小太刀での追撃を体を逸らせて避けていた。

 

「忘れたか、刹那? 共感できるのはなにも動きだけではない。技術や経験も内に含まれているのだから俺が神鳴流剣技を使えても不思議ではない!」

「ッ!……そうでしたね。これも油断に入るでしょうか?」

「当然だな。特殊な奴は一度見ただけで同じように使ってくる奴もいるかもしれないからな」

「私もまだまだですね。こういった手合いはしたことがないのでまた学ばせてもらいました」

「そうか。では次は今より攻めるからな」

「望むところです!」

 

それから終了時間まで何度も打ち合いを続けていた。

鍛練が終了した後は刹那を朝食に招き部屋に着いてみるとなぜかその場には姉さん以外に楓もいた。

 

「あら、お帰りシロウ。それといらっしゃいセツナ」

「お邪魔しているでござるよ。ニンニン」

「楓? なぜここに……?」

「イリヤ殿に招かれたでござるよ。あの図書館島での一件以来色々と交友をさせてもらっているでござるよ」

「そうだったのか、姉さん?」

「ええ。カエデとはよく情報交換をさせてもらっているわ」

「情報交換とは……では士郎さん達のことも楓はもうご存知なのですか?」

「ええ。カエデは信用に値する数少ない人物だから」

「うれしいでござるな。それより刹那、独り占めはずるいでござるよ?」

「なんのことだ?」

「わかってるでござるよ? 毎朝士郎殿と鍛練していることは」

「なっ!? べ、別に私は独り占めなど……」

「おかしいな? 簡単だが人払いの結界は設置してあるんだが」

「まだシロウは詰めが甘いわよ? あれじゃ逆に見つけてくださいといっているものだわ。だから私が補強しておいたわ」

「そうだったのか? まだまだだな」

「そうよ? でもやっぱりシロウの魔術回路は属性が『剣』に特化しているから限界があることは承知しているからそこら辺のミスは許してあげるけど」

「精進する……」

「聞く限りでは士郎殿はやはり戦闘面に向いてる魔術以外はあまり得意ではないでござるな?」

「ああ。だから俺はただ努力するしかないんだ」

「しかし……士郎殿の使う投影魔術というのはすさまじいでござるな。ためしにこれを投影してみてござらんか?」

 

楓は手を後ろに回すといきなり巨大な十字手裏剣を取り出した。

 

「……どこから取り出したとかは突っ込んでしまって構わないか?」

「企業秘密でござる。ニンニン」

 

しかたがないので投影してやり楓にやるともらってもいいか? と聞かれたのでやった。

その代わりになぜか山菜や魚などを持参してきていたらしいのでそれを材料にメインは山菜御飯と焼き魚で朝食を済ませた。

そこで三人には「おいしい!」という評価をもらったので作り手としてはうれしい限りだった。

……だが、楓よ。お前は先ほどの手裏剣を二つもどこにしまった?

 

その後、今日中に修理品を直すために学園に向かう途中で、ネギ君がパートナーを探していると寮内で騒ぎが起きていてクラスの半数はネギ君を追いかけている光景を見た。

そこで途中で朝倉を捕まえて事情を聞くと、

 

「なんでもネギ君はこの学園にはパートナー……いわゆる結婚相手を探しにきたらしいって話ですよ?」

「話が誇張されている気がするんだが?」

「まあまあ、面白ければいいじゃない士郎さん!」

「そうか。まあネギ君にはお気の毒とだけ伝えておいてくれ。俺はこれから学園に向かうから」

「何か用があるんですか?」

「学園長に頼まれた壊れ物の修理だ。今日でやっと終わりの目処がたつところなんだ」

「がんばりますね、士郎さん。いつも寮内のものも直してくれると評判がいいんで麻帆良ブラウニーとか言われているんですよ?」

「……………あまり、うれしくないなそのあだ名は。まあいい。ではな朝倉」

「は~い。ではネギ君探索を開始しますので私もこれで」

 

朝倉はサムズアップをした後、どこへともなく駆けていった。

まあ朝倉にはネギ君は杖で空に飛んで逃げていったというのは教えなくて正解だったな。あくまで普通の学生なのだから。

しかし認識阻害の魔法があるとはいえ空を飛んでいくというのは……はたから見れば一般人ではない魔法関係者にはバレバレではないのか? 俺にすら認識できるのだからな。

 

その後、修理していると近くの教室でネギ君となぜか和服姿でおめかしをしたこのかが一緒にいて騒ぎになっていたとか。

で、俺も興味がてら向かってみたらなぜかこのかは俺の顔を見た瞬間、顔を赤くして和服なのにもかかわらず軽快な足取りでどこかへ走っていってしまった。

それで何名かが俺を見るなりなぜかにやけていたが一体なにを意味していたのだろう?

 

「士郎さ~ん?」

「なんだ、朝倉? そのにやけ顔はよせ」

「士郎さんって罪作りな人ですねぇ?」

「だからなんのことだ? 白状しろ、朝倉!」

「いえいえ、私の口からはなにも言えませんよ~?」

「くッ! なぜかは知らないがお前からは嫌なものを感じるぞ?」

「そんなことはないですよ? ただ、士郎さんが気づけばいいだけのことです」

「……気づく? なににだ?」

 

すると朝倉ほか数名からため息をつかれてますます俺の中で謎は深まったことは確かなことだ。

そんなことで俺の春休みでの行事は清算していったのだった。

 

 




このかはもう気持ちが整理がついていません。


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014話 新学期、対真祖編(01)  桜通りの吸血鬼

更新します。


 

 

──Interlude

 

 

まだ桜が咲き誇る道中でもう夜だというのに一人の少女がなにかから逃げるように走っていた。

 

「は、はっ……はっ!」

 

だがそれは無駄なあがきのごとく少女は後ろから迫ってくる黒い何かに見えない力で足を転ばされた。

 

「きゃあっ!?」

 

そして少女は地面ではないが一本の桜の木に体を打ち付けてもう立ち上がる気力もなかった。

 

「出席番号16番、佐々木まき絵……お前の血液をいただく……」

 

黒い何かから声が聞こえ逃げていた少女、佐々木まき絵は恐怖に怯え、だが黒いなにかはお構いなしにまき絵に迫ってその口から生える牙を後ろに回り噛み付いた……!

 

「あ、いや……イヤ―――――ンッ!!」

 

噛み付かれて気を失う直前で叫び声をあげた。だが、その叫びを聞くものは誰もいなかった。

噛み付いた何者か以外には……。

 

「もう少しだ……」

 

黒い何かはそう呟き姿を消した。

 

 

 

Interlude out──

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

「3年!」

「A組!!」

「ネギ先生――――ッ!!」

 

(バカどもが……)

(アホばかりです……)

 

盛大にネギの歓迎と新学期に対しての言葉が響く中、前者は長谷川千雨、後者は綾瀬夕映が小言で呟いていた。

 

「改めまして3年A組の担任になりましたネギ・スプリングフィールドです。これから1年間、よろしくお願いします」

「はーい!」

 

よーし! 今日から新学期、まだまだ士郎さんに助けてもらってばかりだけど頑張っていかなきゃ!

まだ話していない生徒の方もいますがこれから話していけばいいですからね。

そういえば、佐々木さんが今日はいないなぁ? それに士郎さんも。

 

「ネギ先生ー!」

「あ、はい。なんですかハルナさん?」

「士郎さんがいないようだけどなにかあったんですかー?」

「士郎さんですか? 僕はとくに聞いていませんが……」

「それにまき絵もいないようだね?」

 

裕奈さんも言っていることですし、どうかしたんでしょうか?

そんなことを考えていると突然鋭い視線を感じたのでその方を見てみました。

するとその先には後ろの扉の近くの後部座席に座っている出席番号26番のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんが僕のことをまるで睨むように見ていました。

一瞬ゾッとしたけどすぐに視線を外してくれた。な、なんだろう……?

だけどすぐにしずな先生が入ってきて、

 

「ネギ先生? 今日は身体測定ですから3-Aのみんなに準備をさせてください」

「あ、そうでした! では皆さん身体測定ですので今すぐに服を脱いでください!」

 

シンッ……

 

あ、あれ? 僕なにか変なことを? あ! 皆さんの顔が赤くなってる!?

そして桜子さんと風香さん、史伽さんが、

 

「ネギ先生のエッチーーーーッ!!」

「わーーーーん! 間違えました!!」

 

ううぅ、いきなり失敗してしまいました。

それからしばらく教室の外で待っていると亜子さんが走ってきて、

 

「ネギ先生! 大変やーーー!! まき絵が!!」

「え!? まき絵さんがどうし―――……」

「何!? まき絵がどうかしたの!?」

「わあーーーーーッ!!?」

 

いきなり下着姿のまま皆さんが扉を開けて出てきてしまいました! いけません! 英国紳士として女性の体を軽はずみに見ては!!

それからなんとか落ち着いた皆さんとともに保健室に向かうとそこには保健の先生のイリヤさんはいいとして、なぜか士郎さんがベッドで眠っているまき絵さんの近くで椅子に座っていました。

 

「士郎さん? どうしてここに?」

「なに。朝の巡回をしていたら桜通りに佐々木が木にもたれかかっていたので保健室に運んだんだ」

「そうなんですか。それでまき絵さんの容態は?」

「それは大丈夫よ、ネギ。ただ眠っていただけみたいだから」

 

イリヤさんが士郎さんの代わりに答えてくれました。

それを聞いて皆さんはホッと息をついていますが、これはただの眠りではありません。なにかの魔法の力を感じます。

どういうことでしょう?

少し考えにふけっていると何度か呼ばれていたのかアスナさんが頭を掴んで無理やり僕を正面に捻ってきました。正直すごい痛かったです。

 

「どうしたのよ、ネギ? さっきからボーっとしちゃって……」

「あ、なんでもないです。まき絵さんはただの貧血みたいだったみたいですので心配はありません」

「そう。それじゃ先に戻っているわね?」

「あ、アスナさん」

「なに?」

「今日は帰りは遅くなりそうですので先に帰っていただいて結構ですよ」

「え?う、うん……」

 

それからみなさんは教室に帰って保健室に残ったのは僕といまだに寝ているまき絵さん。それに士郎さんにイリヤさん。

 

「士郎さん、あの……」

「わかっている。姉さん頼む」

「わかったわ」

 

やっぱりお二人は気づいていたようでこの保健室に結界をはってくれました。本当に頼りになります。

 

「これでいいだろう。さて、ネギ君。きみも気づいていると思うがこれはただの貧血ではない。だからアスナ達にも嘘をいったのだろう?」

「はい。巻き込むわけにはいきませんから」

「今回はいい判断ね、ネギ。それで本当のことを言うとこれは人為的なものね。首筋を見てみなさい?」

「え? あ! なにかに噛まれた痕があります!」

「そう。それでネギ君、桜通りの吸血鬼の噂は知っているかね?」

「あ、はい。みなさんが噂していましたから話は聞いています」

「それは本当のことかもしれない。だから俺はこのことを学園長に相談してみる。この世界ではどうかはまだわからないからな」

「この世界、ですか?」

「なんでもないわよ、ネギ。それでだけど今日はもしかして一人だけで見回りをしようと考えていないでしょうね?」

「え!?」

「やはりか……ネギ君の考えはわかっていたよ。で、だ。今日は一人で行動するのではなく俺と行動しよう」

「え!? ですがまき絵さんは僕の生徒ですから……あた!?」

 

……い、いきなり頭を士郎さんにこづかれてしまいました。

 

「ネギ君。忘れているようで悲しいことだが俺はなにかね?」

「なにって、士郎さんは僕と同じで3-Aの副担任で……あ」

「そういうことだ。佐々木は俺の生徒でもある。だから協力しよう」

「す、すみません! そうでしたよね!」

 

うっかり忘れていて士郎さんに薄情なことを言ってしまいました。反省しないと。

 

「よろしい。では桜通りの公園で今夜待ち合わせをしよう。時間は6時くらいでいいか?」

「はい!」

「決まりだな。ではまたその時間になったら会おう。ネギ君はこれから授業があるだろう?」

「わかりました。では先にいっていますね!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「ネギ君はいったか」

「ええ。でも一人で解決しようと考えるなんて……まるで聖杯戦争時のシロウみたいね?」

「否定はしないよ。今ネギ君はあの頃の俺と同じで他人に迷惑をかけないで一人で解決しようと躍起になっているところがある」

「それはちゃんとシロウが補佐してあげるのよ? きっと相手はあの吸血鬼……」

「そうだな。いつ動くかと警戒していたが、ついに動き出したようだ」

「それよりマキエだけど……噛まれたようにしては大丈夫そうね?」

「やはりあちらとはなにかと勝手が違うらしいな。エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルはどちらかというと死徒というよりあの真祖の姫君と雰囲気が似ている」

「もしかしたらこちらの真祖かしらね?」

「まさか……まあ、用心に越したことは無い。今日はまずはネギ君とともに奴が現れるか見張るとしよう。姉さんも危険があるかもしれないから予備のコートを持参していてくれ」

「わかったわ」

 

それから俺は一度家に帰りフル装備でネギ君の待ち合わせの場所に向かった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

あれからアスナさん達とは別れて士郎さんとの待ち合わせの場所に待機していたんですが、悲鳴が聞こえてきたんで士郎さんはまだ来ていませんがしかたなく僕一人で飛び出していきました。

するとそこには襲われそうになっている宮崎さんがいたので、

 

「僕の生徒になにをするんだ!」

「!?」

「ラス・テル・マスキル・マギステル……風の精霊11人。縛鎖となりて敵を捕まえろ。『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)戒めの風矢(アエール・カプトウーラス)』!!」

 

僕は宮崎さんを襲おうとした人に向けて束縛の矢を放ちましたが、その人はなにかを呟くと僕の魔法を魔法薬みたいな瓶を放ち打ち消した!? やっぱり相手は魔法使い!?

そしてその人が被っていた黒い帽子が揺れて飛び去っていくとその下からよく知った人物の顔が出てきた。でも、そんな!?

 

「あ、あなたはエヴァンジェリンさん!?」

「ふふふ……新学期に入ってからの改めての挨拶だよ、先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。しかし10歳にしてなかなか……さすが奴の息子……」

「(この人、父さんのこと!?いや、それより!)エヴァンジェリンさん!どうしてこんなことを!?」

「ふふ……この世にはいい魔法使いと悪い魔法使いが存在するということさ!氷結・(フリーゲランス・)武装解除(エクサルマティオー)!!」

「わああああっ!?」

 

なんとか抵抗(レジスト)しましたが、僕の服は少し砕けて宮崎さんにいたってはほぼ砕けてしまいました!

そこにアスナさんとこのかさんがやってきて誤解されましたが、エヴァンジェリンさんが逃げてしまったのでお二人に任せて僕は追うことにした。

それにしてもいい魔法使いと悪い魔法使いが存在するなんて、どうしてそんなこと!

それに『奴の息子』という言葉が気にかかります。だからどうにかして聞き出さなきゃ!

それからなんとかエヴァンジェリンさんに追いついて風精召喚を使い寮の屋上まで追い詰めて、

 

風花・(フランス・)武装解除(エクサルマティオー)!」

 

武装解除をしたのはいいけど下着姿にしてしまったのは後で謝ることにして父さんのことを聞き出そうとしたら、

 

「お前の父、サウザンドマスターのことだろう? 聞きたいらしいがこれで勝ったと思うのか? まだまだ甘いな、ぼうや……」

 

すると突然エヴァンジェリンさんの背後に人らしき人物が降り立ってきた。仲間!?

いや、でも構っていられない!

それで僕は魔法を使おうとしたらデコピンで弾かれてしまった。

って、あれ!? この人は!

 

「紹介しよう、私のパートナーで『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』の絡繰茶々丸だ」

 

え!? そんな! 茶々丸さんがエヴァンジェリンさんの従者!?

それでエヴァンジェリンさんの従者の意味を聞かされ愕然としている僕に容赦なく茶々丸さんの手が伸びてきて捕まってしまった。

 

「ようやくこのときが来た……真祖であり『不死の魔法使い(マガ・ノスフエラトウ)』『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』とも呼ばれた私が、あのサウザンドマスターに敗れてからというものこの地に封印されこの15年間苦汁の日々を過ごすことになったんだ! だがぼうやの血をたらふく飲めばこのふざけた呪いもようやく解ける……!」

 

そんな! 呪い!? それに吸血鬼でしかも真祖!? も、もう頭がぐるぐるしてきた。

あ……! エヴァンジェリンさんが僕の首を噛んだ!? も、もうダメかも?

 

「ウチの居候に何してんのよーーー!?」

 

と、思っていたら突然さっきかなり離れた距離で別れたはずのアスナさんがエヴァンジェリンさんを蹴り飛ばしていました。

 

「き、貴様は神楽坂明日菜!?」

「え!? エヴァンジェリンさん!? それに茶々丸さんも!!? もしかしてあんた達がこの事件の犯人なの!?」

「……うるさいやつだ」

「ああ……マスター大丈夫ですか?」

「平気だ、茶々丸。それより神楽坂明日菜……よくも私の顔を足蹴にしてくれたな? もう少しというところで……許さん!!」

「え! ちょ!? ちょっと待って! なにこの展開!?」

「うるさい! この代償は高くつくぞ!?」

 

エヴァンジェリンさんから膨大な魔力があふれ出しました。僕がアスナさんを守らなきゃ! でも腰が抜けて……

その時、

 

「ほう……? それはどのくらい高くつくのかね?」

 

まるで風切るような静かな声で待ち合わせた頼もしい人の声……士郎さんの声が聞こえてきました。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「貴様は、衛宮士郎!?」

「まさかとは思っていたが本当に真祖だったのだな? それより……大丈夫かね? ネギ君、アスナ?」

「は、はい。士郎さん。でもネギが……」

「放心状態といったところだな? まあ致命傷ではないから大丈夫だ」

 

俺が二人の心配をしていると「私のことを無視するな!」という声が聞こえてきたので、

 

「別に無視していたわけではない。さて、話をするとしようか吸血鬼の真祖、いや……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

 

そして俺は指の隙間に挟むようにして黒鍵を両手に合わせて6本投影した。

 

「マジック・アイテム!? いや、違う! なんだそれは!?」

「わざわざ教えると思うかね?」

「くっ! まさか衛宮士郎がぼうやの従者についていたとは!」

「勘違いしているようだが俺はネギ君の従者とやらではない。アスナや君たちのクラスの副担任だ」

「ふざけているのか!?」

「なにを言う、本当のことだろう? それよりこれにどういった効果が秘められているのかはどうせ知っているのだろう? 偵察はばれないようにした方がいいぞ? 何度も見られていたのでいい加減うんざりしていたんだ」

「なっ!? 気づいていたのか!」

「当然だ。さて覚悟はいいかね?」

 

俺は多少殺気をこめながら黒鍵の投擲体勢に入った。

だが、それに瞬時に不利と感じとったのかエヴァンジェリンは茶々丸とともに屋上から飛び降りて逃げていった。

 

「逃がすとおも―――……ん?」

 

黒鍵を投擲しようとしたが突然ネギ君が俺の腰にしがみついていた。

どうやら緊張が抜けたのか恐怖心が表に出てきたらしく泣き出していた。

しょうがなくネギ君が落ち着くまで頭を撫でてやっていた。

 

「それにしても、士郎さん助かりました」

「気にするな、アスナ。当然の行動だからな。それよりネギ君を部屋まで頼む。途中まで送ろう」

「ありがとうございます。ほらネギ!いつまでも泣いてないで帰るわよ!?」

「こらこら。まだネギ君は体を震わせているのだからゆっくり帰ろうではないか?」

「そう、ですね」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

どうやらまだぼうやは誰とも仮契約を結んでいないようだからまだチャンスはある。

当然、神楽坂明日菜も所詮はただの中学生。私達の敵ではない。

だが……衛宮士郎だけは違う。奴は最初から私のことを吸血鬼と気づいていた。それに3キロは離れて偵察していたというのにそれすらも気づかれていた。

極めつけはあの剣だ。あれは昔見たことがあるがよくエクソシストが使う名を『黒鍵』。私達吸血鬼にとって天敵といってもいい武装。

奴はエクソシストなのか? いや、そのような気配は感じない。では奴は一体なんなのだ!?

 

「…茶々丸。衛宮士郎と衛宮イリヤのことを念入りに調べておけ。厄介な敵には違いないからな」

「わかりました、マスター」

 

ふふふ……だが、この『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』である私がこの程度で臆したと思ったか? 時が来れば貴様など軽く倒してやる。覚悟しておくんだな衛宮士郎!

私は久しぶりの強敵に血がたぎる気分になっていた。

 




やっと戦闘らしい戦闘が見れますね。


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015話 新学期、対真祖編(02) パートナー探し

更新します。


 

翌日、俺と姉さんは朝早くから学園長室に訪れていた。

理由は当然この世界の吸血鬼についてのことと、エヴァンジェリンについてだ。

 

「む? やはり来たんじゃな。士郎君、イリヤ君?」

「ええ、何点か。自分達との世界の違いの再確認と、あの吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルについて、を」

「真面目に答えないとまた落とすわよ、コノエモン?」

「ひぃ!?」

 

なんだ、あの学園長の怯えようは? 落とす?

 

「なあ姉さん? 学園長に図書館島の件のあとでなにをしたんだ?」

「……知りたい?」

 

その妖艶な笑みを浮かべている姉さんのセリフを聴いた瞬間、全身に電流が走り、ぶわっと脂汗が出て本能的にこの先を言わせてはいけないと警報が鳴り響いていた。

 

「イエ、メッソウモゴザイマセン……」

「そう? 残念ね、シロウにも教えてあげたかったのに…………直で」

 

学園長ではないが、ひぃ!?

この姉はほんとうになにをやらかした!?学園長がいまだに震えているし!片言だったが即座に拒否してよかった!

 

「そ、それより! 学園長!」

「な、なんじゃね! 士郎君!?」

「あ―――……まずは落ち着きましょう」

「そうじゃの……」

 

「ふふふふ……」

 

学園長と落ち着きを取り戻しているときにそこっ!? 怖い笑みを浮かべない!

それからしばらくして、

 

「では、気を取り直して……この世界の吸血鬼について聞きたいのですが」

「この世界ということは、そちらでもやはりいたようじゃな?」

「ええ。あのエヴァンジェリンとは比べ物にならない奴がそれはわんさかと……まあ、もう帰れない世界ですからいいとして、聞きたいことは一つですが吸血鬼に噛まれたものは同じく吸血鬼になるんですか?」

「ん? まあ物好きな奴は術を施して同類にする奴もおる。じゃが安心せい。もし噛まれたとしてもネギ君でも治療はできるぞ」

「それは、また羨ましい世界なことね?」

「そうなのかの? あ、それとエヴァンジェリンのことじゃがそちらも安心してよいぞ? なんせ悪の大魔法使いとはいっておるが女、子供は歴史上敵対したもの以外はいっさい殺したことはないからの」

「なるほど。ではまだ話し合いの余地はありそうだな。……昨日、黒鍵なんて出して悪いことをしたかな?」

「まあよかったんじゃない? それより私もそのエヴァンジェリンに興味を持ったかも?」

「昨日というとエヴァンジェリンがやはり動いたのかの?」

「ええ。ネギ君の血を吸おうとしたのでとりあえず返り討ちにしておきました」

「そうか。それでは士郎君一つ頼みごとがあるんじゃが、いいかの?」

「なんですか?」

「今回の件はネギ君の試練として見過ごしてもらえないかの? なにも殺しはせんじゃろうからな」

「それでは、もしネギ君が挫折してしまってもよいというお考えなんですか……?」

 

もしそう考えているのなら容赦しませんよ? という意思表示をこめて学園長を睨みつけてみたが学園長は怯みもせず、

 

「それは違うぞ? 人は誰しも越えねばならない壁がある。それがまさに今なんじゃ。それにどちらにせよ、いずれは決着をつけねばいけんからの。エヴァンジェリンは今では生きているかどうかも不明なナギが自分の呪いを解いてくれるのを待っておるがいいかげん15年も何度も女子中学生をやらされていれば焦ってもこよう?」

「15年も?」

 

それから学園長からナギ・スプリングフィールドとエヴァンジェリンとの過去の話を聞かせてもらった。

 

「そうなの。意外と女の子しているのね? 今でも想っているなんてねぇ~?」

 

姉さんは本当にいい顔をしながら笑っている。あれは弱みを掌握した会心の笑顔だ。敵とはいえ不憫な……。

しかし、そうなると事情が事情ゆえに学園長のいうことも一理あるからどうするか?

だが、

 

「ですが学園長。今回はネギ君の力になろうと思います。二人の事情に横槍するようで悪いと思いますが……ネギ君には協力すると約束をしてしまったのでね」

「そうか。では……」

「わかっていますよ。なるべくネギ君の力で解決させるよう助言していきますから。それにいつまでも他人に頼っていては成長はできませんから」

「それなら構わんよ」

 

そしてお互い納得した上でこの話は終了となった。

さて、こちらは殺しはしないと安心したが、今はまだ昨日のショックから抜け切っていないだろうネギ君が心配だな。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side  エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 

 

朝の日差しが窓から照らしてきて私はだるいが起き上がることにした。

やはり力を使った翌日は人間並みの身体能力に戻ってしまうからやっかいなものだ。

気配がしたのでそちらに向いてみるとすでに茶々丸が立っていた。

 

「おはよう茶々丸」

「おはようございます、マスター」

「ケケケ。今日ハ機嫌ガ悪ソウジャネエカ、ゴシュジン?」

「うるさいぞ、デク人形が。昨日はもう少しというところで邪魔が入ったんでイラついているだけだ」

 

初代の従者で今では魔力を送ることができないので喋る人形と化しているチャチャゼロがなにかほざいていたのでムカついたからとりあえず投げといた。

 

「ヒデエジャネエカ? モット相棒ハ大事ニ扱ワナキャ駄目ダロ?」

「黙れ……それより茶々丸。衛宮士郎と衛宮イリヤについてあれからなにかわかったか? 本格的に調べたのは昨日だが以前から探りは入れていたのだからわかるだろう?」

「それが……」

「ん? どうした、お前にしては歯切れが悪いぞ?」

「そんなことはありません。ただ、衛宮先生とイリヤ先生についてですが該当件数は0です」

「な、に……? 0だと? なにかしらこの学園に来る前の足取りくらいはつかめなかったのか?」

「はい。魔法世界の方でもあたっては見ましたが、お二人はネギ先生と同時期にこの学園に来る以前のことはまるで霞がかかったかのように一切不明です」

 

茶々丸が言うなら本当なんだろうが、そんな話があるか……?

 

「そうか。ではあのじじぃが裏でなにかをしたかもしれないな。では他にはなにか情報は無いのか?」

「はい。イリヤ先生は本名、衛宮イリヤ。年齢24歳。麻帆良中等部女子寮の管理人と学園の保健の教論として勤めています。寮でも色々と相談に乗ってくれるということで信頼は厚い人物だと思われます。ですが現在はまだ裏の関係者というくらいしか判明しておらず魔法使いかも判別はできません」

「衛宮士郎は最初からこちらのことを気づいていたのだから裏方に徹しているのだろう? 見た限り衛宮士郎よりは強くなさそうだから後方支援型の魔法使いかなにかだろう? 衛宮イリヤのことは情報不足だが今は放っておいても心配ないだろう。それより衛宮士郎についてはどうだ?」

 

問題の奴を聞かないとな。

 

「はい。衛宮先生は本名、衛宮士郎。年齢23歳。英語の担当教論でネギ先生の補佐として副担任を兼任しています。

そしてイリヤ先生の弟でともに女子寮の管理人室で管理人として暮らしています」

「ほう……だが目の色や肌、髪色も違うから義理の姉弟か。しかし女子寮の管理人か。女である衛宮イリヤはいいとして男の衛宮士郎はよく今もいられるものだな」

「それですがマスター。最初は突然のことで寮内は混乱したそうですが、衛宮先生の人柄は誠実で温厚。管理人としての仕事はしっかりしており寮の清掃、生徒の相談、頼まれごとなどもちゃんと応えてくれてむしろ今では人気が高いです。

特技は料理と修理業。よく寮の生徒や学園長から壊れたものの修理を頼まれています」

「確かによくものの修理をしているところを見かけることがあるな。後、料理に関してはうなずける。

何度かあのお祭り騒ぎが好きなうちのクラスのガキどもに頼まれて作って私も頂いたことがあるが久しぶりに私の舌を唸らせた。

あの超や五月も負けたという顔をしていたのが印象に残っている。……なぜか奴のことを無性に欲しくなったな」

「イイ家政婦ニナルンジャネェカ?」

「姉さん、それは執事の間違いかと…」

「ドッチデモイイジャネエカ?」

「はあ……? それでですが生徒達には麻帆良のブラウニーと慕われている一方で、生徒指導員もやっていまして不良生徒にはその鋭い眼光から『死の鷹(デスホーク)・衛宮』、『白夜の鷹』などと呼ばれ、高畑先生と双璧をはっていて恐れられています」

「タカミチとか。っと、そんな表向きの情報はいい。当然あの時の映像も残されているのだろう?」

「はい。刹那さんとともに西の刺客が送り込んできた妖怪を掃討しているときの映像ですが、見ますか?」

「桜咲刹那と、か?」

「はい。刹那さんは一般のクラスの生徒たちより衛宮先生とよく喋っているようです」

「ふむ、奴がな。……まあ詳細は映像の後でもいい。見せろ」

「はい。では映像を再生します」

 

そして茶々丸の設置した撮影機で撮影した映像を見させてもらったが……驚愕の一言に尽きるな。

桜咲刹那は信頼しているようで一体ずつ確実に妖怪を倒していっているが龍宮真名でさえスナイパーライフルのスコープ越しでも2キロがやっとだというのに、衛宮士郎は裸眼でしかも洋弓で黒塗りの矢を手に呼び出し(マジック・アイテムなのか?)秒単位での射撃をし続けてそれは確実にすべて貫いている。

そして最後の一体を桜咲刹那が葬り刀を納めた瞬間、あたりの周囲に妖気が立ち込めて巨大な妖怪が姿を現して襲い掛かってやられたかと思ったが、それを先日に見たあの黒鍵を矢として放ち妖怪は剣を中心に燃え上がり還るのではなく“消滅”してしまった。

すると衛宮士郎が突如カメラのほうに向いたと思ったら3キロ以上も離れていたというのに一瞬でカメラは射ち抜かれてそこで映像は終了した。

馬鹿な!? この時間は夜で月も隠れていたんだぞ! それなのに気づいただけでなく破壊するなんて……魔眼持ちの化け物か?

 

「オオー!? イイ燃エップリダナ! 久シブリニイイモン見タゼ! 焼キ殺スナンテナァ……ケケケ、ゴシュジン、出来ルナラアイツト戦ッテミテエゼ!」

「お前が興味を持ったか。なら相当の奴だということは確実だな。ふふふ、本当に楽しくなってきたな」

「楽しそうですね、マスター」

「まあな。ぼうやより歯ごたえは有りそうだしな。では、さっさと食事をしていくとしようか、茶々丸」

「はい、マスター」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ううむ、やはり案の定ときたか。ネギ君は昨日のこともあり意気消沈気味だ。

それを好機とみたのかエヴァンジェリンは登校はしているらしいが教室にはいない。

絡繰が言うにはサボタージュらしい。……と、いうか普通に話しかけられて逆の意味で驚いた。

 

「ネギ君、大丈夫かね?」

「あ。おはようございます、士郎さん……」

 

重症だな……ふらふらとしながら教壇へと歩いていったが倒れなければいいが。

そこに絡繰が話しかけてきて、

 

「おはようございます、衛宮先生。ネギ先生にも伝えましたがマスターは―――……」

「聞いていたから大丈夫だ、絡繰。それより昼間はしかけないのだな?」

「はい。そういうことはマスターは嫌いますから」

「ふむ。それはプライドの問題か」

「おそらくは……それでは」

「ああ。引き止めてしまって悪かったな」

「いえ、それと苗字ではなく名前で構いません」

「わかったよ、茶々丸」

 

少し会話をして茶々丸はお辞儀をして自分の机に向かっていった。

エヴァンジェリンといい昨日の件で甘く見られているというべきか? しかし……

 

「あ、あの―――……士郎さん」

「ん? なんだね、アスナ?」

 

アスナがネギ君に聞こえないように話しかけてきた。

 

(ネギの奴なんだけど、どうにかなりませんか? 朝からすっかりこの調子で……)

(そうだな。しかし酷なようだが……エヴァンジェリン達も正体を明かすという行動にでた以上、当然リスクはおった。

ならばネギ君もこれは有利とポジティブに考えて事件解決にあたってくれればいいと俺は思う。

二人の間にある因縁については第三者である俺達にしてみれば、これがきっとネギ君にとっての初めての壁に当たるのだろうからな。

それにいつまでも逃げているばかりでは壁を越えられず成長もできない、それにまた被害がでるかもしれない。

だから今は混乱していてうまく立ち回りできなくてもいい……考えすぎずに周りに頼るという行動もしたほうがいい)

(はあ~~……すごいですね。経験者は語るっていう奴ですか?)

(ああ。俺も昔はよく一人で躍起になって無茶したことは数えればいくらでも出てくる)

(士郎さんが? あんまり想像つかないな?)

(誰だってそういうものさ。だからアスナも相談に乗ってやってくれ)

(わかりました。あ、それで私でも無理だったら……)

(わかっている。相談は乗ってやろう)

 

それからなんとかネギ君を慰めて授業に入ったのだが、ネギ君のあのみんなを見る熱い視線はなんだ?子供とは思えないな。

するとしばらくしてため息をついている。

 

「和泉さんはパートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子って嫌ですよね?」

「ぶっ!?」

 

思わず噴いてしまった……アスナも噴いているし。おいおい、ネギ君。また誤解を招く発言をしていないか?

むむぅ? しかしパートナーとは例の“魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”というものか?この世界でのことはまだわからないな……。

それから話はエスカレートしていって俺からしてもわかるほどに脈はありだという生徒が名乗りを上げていた。雪広は別として。

ネギ君はなんとか誤魔化していたようだが顔を赤くしていては説得力が無いな。

そこで終わりのチャイムが鳴り、授業が終わりネギ君はふらふらとしながら教室を出て行った。

 

「ちょっとネギ!?」

「ちょっとアスナさん? ネギ先生はいったいどうしたのですか?」

「あ、ちょっとね。なんかパートナーが見つかんなくて困っているみたいよ?」

 

しょうがなく俺はアスナとネギ君を追ったが、それからまた教室が騒ぎになっていたようだ。

 

「アスナ……クラスのみんなを煽る発言は禁止な? また勘違い者が続発していたぞ?」

「あ、あはは……ごめんなさい」

 

それからネギ君とアスナとは別れて姉さんと寮に帰っているのだが、

 

「そう。やっぱり萎縮しちゃっているのね?」

「ああ。あれは中々すごい落ち込みようだったな」

 

文字通りそうである。あれから職員室でもどこか上の空で時折り、

「どうしよう……」や、「怖いよ……」などと、呟いているようで、ここのところはやはりまだ10歳の少年だと思ってしまう。

もし俺が10歳のときにネギ君と同じ場面に直面したらどうだろう?

……やはり逃げ出していたのだろうか? その時にはほんとうに何の力も無かったからな。

 

「ちょっと、シロウ、聞いてる!?」

「あ、ああ。なんだ、姉さん?」

「シロウまで考え込んじゃってどうしたのよ?」

「いや、俺も同年齢のときに同じ場面に遭遇したらどうしていたのだろうと考えていてね」

「そうなんだ。でもシロウだったらそれでも被害が出るようなら考えなしでそいつに突っ込んでいったと思うわよ?」

「そうかな?」

「そうよ!? シロウったら自分の命の勘定なしで勝手に手を出す癖はまだ治りきっていないんだから。昔なら尚更そうだわ!」

「はは……耳が痛いな」

 

と、そこに前からエヴァンジェリンと茶々丸が歩いてきた。

向こうも気づいたようでなにかと睨んできていた。

 

「衛宮士郎に衛宮イリヤか……なんでこんなところにいるんだ?」

「私達は帰っている途中よ、エヴァンジェリンさん。それにしてもいきなり呼び捨てなんて礼儀がなっていないわね?」

「なっ!? 衛宮イリヤ! 私を真祖の吸血鬼としってそんな口を聞いているのか!?」

「さぁなんのことかしら? それと私はそこまで聞いてないわよ?」

「くっ! なに戯言を言っている!? どうせ衛宮士郎から私のことは聞いているのだろう?」

「そうなのシロウ?」

「ぐぐぐっ!!」

「姉さん……からかうのはそこまでにしておいたらどうだ?」

「だってなんか彼女、アルトと似てない?」

「まあ……これで大人の姿にでも化けたら姉妹みたいなものだが」

「さっきからなにをいっている!? それにアルトとは誰のことだ!」

「企業秘密よ。話してもきっと知らないと思うから」

「貴様……八つ裂きにされたいか?」

「できるものならやってみたら?」

 

それから二人は言い合いを繰り広げているが……これはもし姉さんが小さいままだったら末恐ろしいことに発展していたのではないかと思うと心の底で安堵していた。

まさに今の二人はアカイアクマである遠坂とギンノアクマである姉さんが争っているような光景を彷彿とさせている。

さしずめエヴァンジェリンはキンノコアクマといった感じか?

そんなどうしようもないことを目の前の光景を分割思考で考えていたら、

 

「……なにを考えている、衛宮士郎?」

「……なにを考えているのかな? お姉ちゃん知りたいな?」

「二人とも意外に息が合っているんだな……? 別になんでもない。それより用事はいいのか、エヴァンジェリン?」

「そうだった……こんなことをしている場合ではなかった。癪だが聞いておこう。どうやらこの学園の結界を破ってなにかが侵入してきたようだがなにか知らないか?」

「いや? 知らな「ああ、さっきの変な小さい魔力反応のことね?」……い、って姉さん、気づいていたのか?」

「ええ。やっぱりシロウは気配を読むのは得意だけれど魔力探知はまだまだのようね?」

「すまないな。まだ姉さんと比べて小範囲しかわからないものでね」

「もう、そんなに拗ねないの」

「なんだ? 衛宮士郎は魔力探知は苦手なのか?」

「私に比べたら、ね? そこのところ勘違いしないでね? シロウは弟と同時に弟子でもあるんだから私のほうが得意に決まっているじゃない?」

「ふむ、そこを詳しく聞きたいところだが今は敵同士だから聞かないでおこう。それじゃなにか発見したらじじぃにでも差し出すことだな! それと衛宮イリヤ、この話の決着はいずれつけるぞ?」

「そう。期待しないで待っているわ。エヴァンジェリンさん」

「なんか貴様から名をそのまま呼ばれると馬鹿にされているようで嫌だな」

「そう? じゃフルネームは?」

「却下だ」

 

即否定とは。そんなにあの(・・)呼び方をされるのは嫌か? 本名、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。

 

「あら、可愛いじゃない? キティって?」

「その呼び方をしたら血を吸うぞ?」

「怖いわね。それじゃエヴァと呼ばせてもらうわ。シロウも構わないわね?」

「ああ、エヴァと……確かに響きはいいな」

「な、な!? なぜ衛宮士郎にも言わせるのだ!?」

「別にいいじゃない? シロウもこっちの方がいいって言ってることだし」

「ふ、ふん! 勝手にしろ!」

「ええ」

 

姉さんはどうにか言い返そうとしているエヴァンジェリン……もといエヴァに隙を与えず勝利を確信しているような笑みをしている。

それに感づいたのか悔しそうな表情で茶々丸を置いて先に行ってしまった。

 

「ふふっ……真祖と聞いてどういう奴かなと思っていたけど案外からかいがいのあるのね。ほんとうにアルトみたい」

「からかうのは程々にしておいた方がいいぞ? いつ牙を向かれるかわかったものではない。まぁあれなら完全に悪ってわけでもなさそうだ」

「そうね。それよりさっきの話だけど……なんか女子寮からその怪しい魔力反応が感じられるんだけど」

「そうなのか?」

「ええ」

 

 

 




Q:アルトって誰……?
A:月姫で有名なアルクェイドの姉のアルトルージュ・ブリュンスタッドの事です。


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016話 新学期、対真祖編(03) カモ、参上!

更新します。


 

エヴァと別れた後、姉さんがそいつの気配を感じるといったので、それで俺と姉さんは女子寮に急いだが、どうやらそんな事より女子寮の大浴場で何か騒ぎがあったらしい。

聞くと下着を奪う変態小動物が出たらしい。その中心にネギ君がいたらしいが一体なにをしていたんだ?

そんなことを考えていると俺でも感じられるほど近くに魔力反応がした。

とりあえずその場に向かってそいつを今までの経験の賜物ともいう手捌きで捕まえてみたが、

 

「オコジョ、か?」

「オコジョ、ね」

 

なんか白いオコジョを捕まえてしまった。それでキーキー言っているがたまに人の言葉が聞こえてくるのは幻聴か?

 

「ねえ、シロウ? こいつから微量の魔力を感じるんだけど?」

「少し現実逃避させてくれないか? 先ほどからこいつが人語を喋っているような気がしてならん」

「そう? じゃそれが本当だったら解剖してみるのもいいわね?」

「ほう? いいな。ではその後はオコジョの蒲焼で決まりかな?」

「ッ!? ひぃ!! 勘弁してくれぃ!!」

 

そこで完全にオコジョは人語を喋ってしまっていた。ふっ、ちょろいな……。

 

「やっと正体を出したか。ではこのまま学園長に強制連行と行こうか、姉さん」

「ええ、そうね。シロウ」

「ま、待ってくれい! 俺っちはネギの兄貴に用があって来たんだよー!」

「ネギ君に……? 知り合いか何かかね?」

「お、おうよ! 俺っちはアルベール・カモミールっていうんだ。これでも立派なオコジョ妖精だぜ!」

「ケット・シーと同格みたいな奴かしらね?」

「そうなんじゃないか? それじゃ学園長に連れて行くかはネギ君に会わせてから決めるとしようか」

「そうね」

「と、いうわけでカモミール。私の目を見なさい」

「なにっすか? お? ……な、なんか体が動かなくなったんっすけど!?」

「程度の低い体を硬直させる魅了の魔眼よ。さてこれで逃げられる心配はないわね」

「ああ、すまないがしばらくそうしていてくれ。確証はないうちは逃げられても困るのでな。ああ、ちなみに無理やり解かないほうがいいぞ? 神経がいかれるからな」

「経験者が語るって言う奴?」

「ははは、そうだな。あの時は本気で神経がショートするかとおもったからな。だからおとなしくしていろ。悪いようにはしないからな」

「は、はいっす……(もしかして早々に俺っちピンチ!?)」

 

それから硬直したカモミールをネギ君もといアスナ達の部屋に連れて行った。

二度扉を叩いた後、アスナが部屋から出てきた。

 

「あ、あれ? 士郎さんにイリヤさん? どうしたんですか?」

「なに、ちょっとネギ君に用があってね。少しいいか?」

「は、はい。おーいネギ? 士郎さんが用があるってよ?」

「あ、はい。なんですか、士郎さんにイリヤさん?」

 

それからネギ君が出てきたので、

 

「まどろっこしいことは後にして単刀直入で聞くが、ネギ君は人語を喋る動物の知り合いはいるかね?」

「はい?」

 

おお! ネギ君とアスナが同時に首を捻った。なかなかレアな光景だな。

 

「あ、あの士郎さん? どこか頭でも打ったんですか?」

「……失礼だな君達は。それよりいるのか、いないのか? はい」

「えっと、こちらに来てからそんな知り合いはいませんけど?」

「そう。それじゃ邪魔したわね。いきましょう、シロウ?」

「そうだな。まずは学園長に引き渡すとしようか」

「その後は蒲焼? 楽しみね。ふふふ……」

 

「ま、待ってくれ―――!!」

 

「えっ!?」

「士郎さん! 今の声は!?」

「あ―――……なんていうかアスナはきっと驚くだろう?」

「なんで?」

「悲鳴はあげないでね?」

「は、はい」

 

姉さんがアスナのことを説得しているうちに俺は先ほど捕まえた珍獣を鞄から取り出して、ネギ君の目の前に出してみた。

 

「こいつはネギ君の知り合いかね?」

「ひ、久しぶりっす……ネギの兄貴……」

「君は……カモ君!? どうしてここに! って、いうかなんで固まっているの?」

「それにはとても深い事情がありやして……」

「怪しいオコジョだったから私が魅了の魔眼で動きを封じているだけよ」

「もう解いてもいいんじゃないか。姉さん?」

「そうね。もう動いてもいいわよ」

 

姉さんの指を鳴らすと魔眼を解けたのか直後にカモミールはネギの胸に泣きついていた。

ネギ君はそんなカモミールを慰めていたが、やはりアスナは硬直していた。

 

「アスナ? おい、アスナ。大丈夫か?」

 

少し目が虚ろだったので揺さぶってみたらやっとこっちに戻ってきたらしい。

そしてなぜかカモミールとネギ君の間であった昔話を聞かせてもらい、今回助けに来たらしいとのことだ。

 

「そうだったのか。疑って悪かったな、カモミール」

「いいってことよ、旦那」

「っと、そうだったな。紹介が遅れたな。俺は衛宮士郎。一応こちらの関係者でネギ君の補佐をしているものだ」

「私は衛宮イリヤよ、カモミール」

「士郎の旦那にイリヤの姉さんか。よろしくっす。それよりお二人ともかなり強いみたいっすね?さっきの魔眼といい只者じゃないっすよ」

「そんなにすごいものかしら?ただの魅了の魔眼なだけだけど」

「いえいえ! 魔眼持ちってだけですごいっすよ!」

「そうなんだ。じゃシロウもきっとすごいのね?」

「え!? 士郎さんもなにか魔眼を持っているんですか!?」

「魔眼と言えるかは不明だが、俺は眼に魔力を集中させ強化することで最高4キロ先は見渡すことができる。だが、ただ魔力を集中させるだけなんだかられっきとした魔眼とは程遠いだろう?」

「……いや、普通に魔眼の域っすよ、それ? って、いうかなんすか、それ!?」

「そうよ、士郎さん! こっちのことはよく知らないけど4キロ先までってどのくらい距離があるかわかってるんですか!?」

「承知しているが?」

「ほんとうにすごかったんですね、士郎さん……」

 

そこらで賛美されているようだが俺は特に自慢しているわけでもないので話を先に進めることにした。

 

「ところでカモミール。ネギ君になにか用があったのではないか?」

「おおっとそうだった! 士郎の旦那の話でうっかり忘れていたぜ! 兄貴! 見たところちっとも進んでねぇみたいじゃねぇか?」

「え? なにが?」

「パートナーっすよ! パートナー! “立派な魔法使い(マギステル・マギ)”には“魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”が一人くれぇいなきゃカッコがつかないっすよ!?」

「う、うぅう……それがね。今、探しているところなんだよぉ……」

「それは好都合だったっすね。それじゃそれは俺っちに任せてくだせぃ!」

「え? それってどういうこと?」

「実は兄貴の姉さんに頼まれて助っ人に来たんっすよ! それでさっき風呂場で調べてみたんすけど中々いい素材だらけでしたよ」

「ん? 風呂場……」

「どうした、アスナ?」

「まさかあんたさっきの……!」

 

さっきまだ俺たちが帰ってくる前のことを聞いてみたのだが、やはり勘違いしていたのかネギ君を風呂場に連れて行って逆セクハラまがいなことをされていたらしい。

しかもそこにカモミールが乱入してきて次々とみんなが着ていた水着を脱がしていったとか……

 

「……姉さん、やはりこいつは」

「ええ。蒲焼じゃ物足りないわ。どうせなら魂を人形に移すなんてどうかしら?」

「ひぃ!? 怖いっすよ旦那たち! それに魂を移すって一体なんのことっすか!?」

「なに、姉さんは魔眼以外にも色々な力を使えてね。一時的に意識を別のものに移す術を使えるんだ。……例えばこの無機質なテーブルとかな」

「いやっすよ! 完璧に呪い系じゃないっすか!? それに士郎の旦那の目がまるで鷹の目のようで、本気じゃないっすよね!?」

「くくく……冗談だ、カモミール。だが、姉さんはどうかはわからんがな?」

「そうね……?」

 

そこでなにやら俺達の声が聞こえたのか、脱衣場の方から、

 

「アスナー? なんか騒がしいようやけどなにか―――……」

「こ、このか!?」

 

なんとバスタオル姿のこのかがでてきて来た。

ネギ君はあたふたしていて、アスナはすごい騒いでいて、このかはフリーズ、カモミールは「おおっ!?」とか言っている。

とうの俺は瞬時に姉さんに目を塞がれたので今周りではなにが起こっているのか言葉でしか感知できない。

 

「……姉さん、とりあえず目を塞いだままでいいから外に出よう。アスナ、収拾頼んだ」

「は、はい! このか、しっかりしなさい!!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 神楽坂明日菜

 

 

「だ、大丈夫よ、このか! 士郎さんは目を塞がれていたから見てないわ!」

「でも! でも、ウチ恥ずかしいわ! 士郎さんにもしかしたら部屋をバスタオル姿で歩くふしだらな子なんて思われたらどないしよう!?」

「だ、大丈夫よ! 士郎さんはそんなこと考える人じゃないからきっと!」

 

(なぁなぁ兄貴?)

(なに、カモ君?)

(もしかしてこのかの姉さんって士郎の旦那のこと……?)

(僕はよくわからないからアスナさんに聞いてみたらどうかな?)

 

「ネギ!!」

「は、はい!」

「とりあえず今起こったことは忘れなさい! 追求なんてしたら怒るからね!?」

 

ああ、もう! このかもなんてタイミングで出てくるのかな?

涙目ですっかり顔もゆでだこのように赤くして逆上せてるし……。

とりあえず落ち着いてきたけどまだ顔は赤いなぁ……。

そこでやっとカモのことに気づいたのか気分を一転させて服を着てみんなのところに持っていってしまった。

知っているっていうのも考え物ね? なんかもみくちゃにされているけど私には奴は喜んでいるようにしか見えないわ。

 

「僕、これ飼っても大丈夫ですか?」

「いいんじゃない?」

「それじゃイリヤさん達に知らせてくるねぇ?」

「その心配はないわ、マキエ」

 

まきちゃんが管理人室に行こうとしていたがさっき帰っていったはずのイリヤさんがその場にいた。士郎さんは先に帰ったのかな?

 

「ペットはこの寮では飼っても大丈夫だとパンフレットに書かれていたからしっかりと飼うのよ、ネギ?」

「はい! ありがとうございます、イリヤさん!」

「それとそこのオコジョ? 変なことしたら実行するから覚えておきなさい?」

「キー……(イエスマムッ!!)」

 

イリヤさんの赤い目に睨まれて直立姿勢で敬礼までしている。そこまで怖かったのね?

 

「ところで士郎さんはどうしたんですか?」

「ああ、先に帰らしたわ。コノカがまた赤くなっちゃったら大変だしね」

「あの、やっぱり気づいてます……?」

「ええ。コノカはシロウに好意を持っていることは知っているわ。安心しなさい? 別に邪魔する気はないから」

 

そういってイリヤさんは管理人室に帰っていった。

よかった……これで一つだけ不安要素は消えたわ。

でも、終止イリヤさんは怖い笑みを浮かべていたのは気のせいだと思いたいな。

それと士郎さんはまた何も知らずにお仕置きされちゃうのかな?

それからカモの奴はこのかの事は諦めてくれたのはいいが、なんか本屋ちゃんに照準を合わせているようで、ネギもなんかまんざらでもなく顔を赤くして部屋を飛び出していった。

まあ、今はさっき会ったエヴァンジェリンさんも当分は手は出さないって言ってたから大丈夫かな?

って、なんかまたネギのお姉さんからエアメールが着ているわね?

 

「あ、姐さん! そのエアメールは俺っちが預かっとくっす!」

「わ、わかったわ」

 

カモはエアメールを私から預かると急いで部屋を出て行った。なにか怪しいわね?

それで私はつい気になってエアメールを探してみたんだけど……なによこれ!?

ほんとは悪いことをして逃げてきたんじゃない! しかも罪状が下着泥棒に、二千枚!?

 

「ふ、ふふふ……すぐに探し出さなきゃ。このままじゃ何も知らない本屋ちゃんが犠牲になっちゃうわ」

 

それからネギ達を探していたらなにか寮の裏手でなにやらネギと本屋ちゃんがあのエロオコジョの策略によって契約寸前までいってるし!?

すかさず私はエロオコジョを押しつぶした。そしたら魔方陣?も解けたみたいで本屋ちゃんは気絶してしまったらしい。

 

それでネギにこいつの真実を伝えてカモを問い詰めたら、無実の罪とか何たらで妹のために下着を盗んでいたというが、結局は下着泥棒には変わりないじゃない?

そしてカモは意外に素直に出頭するとか言っていたのだがネギは、

 

「知らなかったよ、カモ君がそんな苦労をしていたなんて!わかったよ!僕が君の事をペット(使い魔)として雇うよ!」

「兄貴―――!!」

 

……なんか、感動というより喜劇を見てるみたい。まあ、いいんだけど。

でも、ほんとにこんな奴部屋に置いといて大丈夫かしら? はぁ~……先行きが不安になってきたわ。

それで翌日になったらなんか私達の下着が消えていてエロオコジョを見つけたら下着を毛布代わりにしてやがりましたよ。

やっぱり後で士郎さんとイリヤさんに相談してみようかな?

私は怒りながらもこのかとネギ(+エロオコジョ)とともに学園に向かっていったんだけど、そこにはエヴァンジェリンさんと茶々丸さんがいた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

お、朝からぼうやがいるな? ちょうどいい、少しからかってやるか。

 

「おはよう、ネギ先生」

「え、エヴァンジェリンさん!?」

 

ふふふ、やはり警戒してきたようだな。そうでなくてはな。

 

「今日もまたサボらせてもらうよ。いや、ネギ先生が担任になってからタカミチのときより楽になったよ」

「ううぅ……」

「お? 杖を出してきたな。こんなところで魔法を使ってもいいのか? ばれるぞ? それに勝算はあるのか?」

「うっ!?」

「そうそうタカミチや学園長の力は借りないほうがいいぞ? また被害が出るからな」

「……では、俺なら構わないのだな?」

「ぬっ!? この声は衛宮士郎か!」

「俺のことを忘れてもらっては困るな?」

 

突然現れたと思ったらいきなり私の襟首を掴んで教室まで連行しようとしてやがる!

 

「今日は授業は受けてもらうぞ?」

「よせ! 離さんか衛宮士郎!?」

「ははは、そんなことが許されると思っているのか? 学生は勉学が仕事のようなものだろう」

「どうせ私は受けてもまた繰り返してしまうんだからいいんだよ!」

「そんな言い訳は後で聞いてやろう、エヴァ。さもなくば椅子に縛り付けてでも受けさせるぞ?」

「ぐぐぐっ! 茶々丸! 私を助けろ!」

「楽しそうですね、マスター」

「楽しくなどない! ええい離さんか衛宮士郎!?」

「はっはっは。……離すものか」

 

さも楽しそうに笑いやがる……結局、私は教室まで連行されてしまった。

しかし、衛宮士郎につかまる前に見たオコジョは……まさか昨日逃がしたやつか? 厄介だな。

 

 

 




誰か目線で話を書くのは楽だなぁ……と当時は思っていました。今もか。描写が大変な時とかありますから。


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017話 新学期、対真祖編(04) ネギとアスナの奇襲

更新します。

※この小説はあらすじにも書いてありますが、自己満足で書いていただけのもので、それ以上でもそれ以下でもありません。
キャラのセリフが少し説明文ぽいのは、未熟なものだと察してください。


Side カモミール・アルベール

 

 

士郎の旦那とエヴァンジェリンが戯れている間に俺っちは兄貴に話しかけることにした。今が好機と見ていいからな。

 

(なぁなぁネギの兄貴、奴がほんとうに今回の事件の犯人の吸血鬼の真祖なんですかい?)

(え、うん。そうみたい……でもなんか士郎さんは真祖だと知っていたのに臆せずに話しかけているみたい。さっきなんて略称でエヴァンジェリンさんのことを呼んでいたし)

(はぁー……すごいっすね、士郎の旦那。しかしエヴァンジェリンがひるんでいるうちの今がチャンスっす)

(チャンス?)

(ああ、アスナの姐さんを連れて人目のないところにいこうぜ?)

 

それからなんとかアスナの姐さんを人目のないところに連れてくることに成功したので俺っちは考えを話すことにした。

 

「用って、何?」

「さあ?」

「さて! それじゃぱぱっと説明するぜ! 今の奴は力が弱まっていて今は従者の茶々丸に頼るしかない。そこでネギの兄貴とアスナの姐さんがサクッと仮契約を交わしてどちらか一方を倒してしまえばいいって寸法だ」

「ええ!?」

「仮契約ってあのキスをする奴!?」

「ああ。アスナの姐さんは筋がよさそうなんでいいパートナーになりやすぜ?」

 

やっぱそう簡単に承諾してくんねぇ事はわかっていたぜ。だが!俺っちを甘く見ちゃいかねぇよ?

その後、あの手この手の話をしてようやく決心がついたのか仮契約に成功した……のはいいんすけど、おでこじゃ正式な契約にならないっすよ?

でも、構わないっす! これで奴らに一泡吹かせることができるぜ!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

アスナさんととりあえず仮契約を交わしてからその後、エヴァンジェリンさんと行動していた茶々丸さんが一人になるのを待っているんですが、

いくら状況を有利にするためとはいえなんかいやだなぁ……。

アスナさんも「なんか辻斬りみたいでイヤね」と言っていましたし、

 

「そんなこと言ったってあきらかに奴が一人になったほうがこっちは二人で優勢なんだから一気にぼこっちゃったほうがいいぜ?」

「うう、でも……」

「やっぱりクラスメイトだしねぇ……」

「こっちは命を狙われてるんすよ? なら……あ! 茶々丸って奴が一人になったぜ! チャンスじゃねぇか!?」

「でもでも! まだ人目が目立つからもうちょっと待って!」

 

うう、やっぱり気が進まないよぉ。でもカモ君の言う通りなのは確かだし。もう少しやってみよう。

それで僕とアスナさん、カモ君は茶々丸さんを追ったんですが、茶々丸さんは風船が木に引っかかってしまって泣いている少女のためにいきなり飛んで取ってあげてました。

 

「……今思ったんですけど茶々丸さんって一体どんな人なんですか?」

「さ、さあ? あまり話さないから知らない……」

「イヤ、ロボだろ? やっぱり日本は進んでいるな。普通にロボが学校通っているんだから」

「ええ!? 茶々丸さんて人間じゃなくてロボットだったの!?」

「えええええ!?」

「いや、どこからどうみてもロボットだろ!?」

 

それからいろいろ口論をした後、落ち着いて尾行を再会しましたが茶々丸さんってロボットだったんだぁ。

そしてついていくこと数分して階段を登っているおばあさんをおんぶして助けていたり、どぶ川で箱に入れられて流されている子猫を助けたりしていて、

 

「メチャクチャいい人じゃない!? なんか町の人気者みたいだし!」

「えらい!」

「いや、だがな……!」

 

そしてカモ君のいった人通りのない場所までいってなにをするのかなと思っていたら、突然、まわりから子猫や鳥達が集まってきて茶々丸さんは餌をあげていました。それはとても癒しの空間のように感じました。

 

「……いい人だ」

 

僕とアスナさんは感動してほろ苦い涙を流してしまいました。

 

「ちょっと待ってくれ! 兄貴は命を狙われているんでしょ!? 人目が着かない場所でちょうどいいっすからやっちまいやしょう!」

 

確かにそうだけど……まだ迷いが消えない。ほんとうにこれでいいだろうか?

でも、今迷っちゃって被害を出すのもイヤですから……覚悟を決めなくちゃ。

そして僕とアスナさんは茶々丸さんの前へと姿を現した。

茶々丸さんもこちらに気づいたようで、

 

「こんにちは、ネギ先生、神楽坂さん……油断しましたが、お相手します」

「戦う前に、僕を狙うことはやめてもらうことはできませんか?」

「それは駄目です。マスターの命令は絶対ですので、申し訳ございません」

「そうですか。仕方ないです、アスナさん……」

「うん、ごめんね……」

「パートナーを神楽坂さんに選びましたか。いいパートナーですね、ですが負けるわけにはいきません」

 

茶々丸さんは戦闘体制に入ったので僕も、

 

「契約執行!10秒間!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 

僕が唱えた瞬間にアスナさんが予定通りに茶々丸さんに向かって走っていきガードをはじいてデコピンを決めていました。

すごい! いつも以上にアスナさんが機敏になっている!

 

「兄貴、いまだ!」

「う、うん!ラス・テル・マスキル・マギステル……光の精霊11柱。集い来たりて敵を射て……ッ!」

「兄貴!手をこまねいていたら反撃受けちまう!今のうちに!」

「うう!『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)連弾・(セリエス・)光の11矢(ルーキス)』!!」

 

僕はカモ君の一声で魔法を放った。だけど茶々丸さんは、

 

「すいません、マスター……もし私が動かなくなったら代わりにネコ達にエサを……」

「! やっぱり駄目―!! 戻ってきて―――!!」

 

そして僕の言うとおりに魔法の射手(サギタ・マギカ)は戻ってきましたけど思ったより威力が高かったので受けたら僕でも……でも、茶々丸さんが傷つくよりは……

そんなことを矢が迫ってきている中考えていると突然目の前に巨大な岩のような剣が降ってきました。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

なにやら胸騒ぎがしたので俺は急いでネギ君を探していると近くで戦闘が行われているらしくいつもより多大な魔力反応がしたのでそこに急行したら、そこではネギ君とアスナ、そして茶々丸が戦闘を行っていた。

っ! あれほど戦うときは相談しろといっておいたのに! 俺はネギ君が魔法を放った瞬間、あの魔力量では茶々丸の体が壊れてしまうと判断しすべて打ち抜こうとしたが、ネギ君は突然魔法を反転させて自分のほうに仕向けた。

やはり。

ネギ君はこんなことをする子ではないと判断し安堵して、即座にこの状況を作り出した元凶を後でのめす方針で、手早く心象世界から彼の大英雄ヘラクレスが使っていた斧剣を投影してネギ君の前に落とした。

そして魔法の矢はすべて斧剣の前にぶつかり消滅した。

少し驚いていたがどうやら茶々丸も撤退したようだ。

 

「な、な……なんだこりゃ?」

「ネギ大丈夫!?」

「は、はい。無事です……」

「それならよかった」

 

三人が呆気に取られている中、俺は後ろに立って話しかけた。

 

「し、士郎さん!?」

「え!? じゃこのゴツゴツした巨大な剣は士郎さんが!」

「ああ。投影、解除(トレース・カット)……」

 

俺は即座に無銘・斧剣を消して無言でネギ君の頭に手を伸ばした。

 

「ご、ごめんなさッ……!」

「無事でよかった……」

「え……?」

「もう少し遅ければネギ君は自分の魔法を受けることになった。最初戦闘を見たときは正直落胆したんだ。まさかこんな手を使うとは思っていなかったのでな。だが、ネギ君はやっぱりこんなことはいけないことと判断して魔法の矢を反転させたのだろう?」

「……はい、やっぱりどんなことがあっても僕の生徒ですから」

「その答えが聞ければ十分だ。大丈夫、ネギ君はまだ道は誤っていない。……それで、だ。まだネギ君の決心がついていなかったというのに茶々丸にネギ君とアスナを嗾けたのはどこのどいつかね?」

「それはこのエロカモ、って……あれ? いないわ」

「逃がすと思うか? 投影開始(トレース・オン)!」

 

俺はすかさず逃げようとしていたカモミールの四方八方に黒鍵を打ち込み逃げ場を封じた。

 

「ひぃ!? お助け!」

「やはり貴様か、カモミール?」

 

それからカモミールをこっぴどくしかった。だが懲りていないようで、

 

 

「そ、それより士郎の旦那?さっきのごつい剣といい今の魔法といいなんて魔法なんだ? さすがの俺っちでもわからなかったぜ! アーティファクトでもないし……」

「ふう……使ってしまったからには仕方がないか。先ほどの魔術は投影といってものの複製を作り出す能力だ」

「複製……?」

「そうだ。聞くより見たほうが早いな。投影開始(トレース・オン)

 

すぐにネギ君の持っている杖を投影した。だが、なんだこれは? 一見ただの杖なのに魔法の力がすごく込められている。

そういえば、この杖はもとの担い手であるサウザンドマスターからもらったものといっていたな?

遠坂の家にあったあのキチガイステッキとは比べるのもおごがましい程に素晴らしい魔法の杖だな。

 

「すごい! 士郎さんてこんなことができたんですか!」

「ああ。もともと俺はこれしか能がないからな」

「え? でも他にも前に音響阻害の魔法も使っていましたよね?」

「それもだが投影も俺の唯一使えるものの副産物に過ぎない」

「副産物ですか? あ! それよりこれっていつまで形を保っているんですか?」

「やはり聞いてくるか。まあ驚かないで聞いてくれると助かる。一度投影したものは先ほどのように自分で消すか壊れるまで半永久的にずっと残っている」

「それはさすがにありえねぇっすよ!」

 

すかさずカモミールが突っ込んできた。魔法に詳しい奴なのだから当然の反応か。

 

「そうなの、ネギ?」

「ええ。これも魔力で作られたならすぐにただの魔力に戻ってしまうはずですから」

「確かに普通ならそうだ。だから俺が使う投影は異端なんだよ」

「異端……」

 

三人はそれを聞いて俯いていた。だからあまり教えたくなかったんだが。しかたがない……。

 

「さあ、それよりもうすぐ暗くなるから帰るとしよう」

 

この重たい空気を吹き飛ばすことにした。

 

 




原作でも自分に反転させていましたが、どの程度の威力があるんですかね?


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018話 新学期、対真祖編(05) 麻帆良の森での出会い

更新します。


 

あの後、ネギ君たちと別れて管理人室に向かうとそこには最近よく入り浸っている刹那と楓がいた。

刹那はいいとして楓はまた俺の作る食事狙いか?まあ食材は提供してもらっているから別に構わないが。

 

「どうしたんだ、今日は?」

「いやなに。士郎殿がいつもより遅いから気になっただけでござるよ」

「迷惑なら出て行きますよ、士郎さん?」

「いや、構わないよ。それで遅くなった理由なんだが楓はこっち関係だから話して大丈夫なのか?」

「ええ。構わないわ、シロウ。だから私も楓に私達のことを教えたんじゃない?」

「そうだったな。それでだが、実はネギ君とアスナが今日茶々丸と戦闘をしていてな」

「「「はい……?」」」

 

はてなマークが出ていたので詳しく教えてやった。

カモミールの力によって仮契約をアスナと結んで今はまだ戦えないうちに茶々丸だけでも倒してしまおうということ。

だが、ネギ君はその判断に納得がいかず魔法の矢を放ったはいいがやはりいけないと判断して魔法の矢を反転させたこと。

それで仕方がないので俺がそれをすべてガードしてやったなど。

 

「ネギ先生らしいですね。まだ甘いところがありますが」

「それにしてもアスナ殿と仮契約を結んだでござるか~」

「ああ。できれば一般人のアスナは巻き込みたくなかったが、こうなったらしかたがないだろう。なんだかんだでアスナはネギ君を心配している節があるから手は貸すと思うからな」

 

「そうでござるな」

「確かに……」

「そうよねぇ」

 

言い方は三者三様だがどれも同じ感想だということがよくわかった。

 

「で、あちらはまだ心配だが明日は休日だから心配ないだろう。ネギ君が逃げ出さない以上は、だが……」

「確かに今のネギは不安定だからマイナス思考気味だし」

「ま、アスナやカモミールもついているから大丈夫だろう。さて、では食事を作るとしようか」

「これが今日の材料でござるよ。新鮮な魚は鮮度が命でござるからな」

「お。毎回すまないな、楓」

「おいしいものが食べられるのならこれくらいお安い御用でござるよ。ニンニン」

「ふむ、岩魚か。そのまま焼いてもおいしいがこれは後日にとっておこう」

「なんででござるか?」

「前にもらった岩魚を俺特製のダシで何日か前から熟成しておいたんだ。山菜やきのこもそれを使うことにしよう。これは京都などでもよく使われるダシを使用しているから刹那の口にも合うと思うぞ」

「ありがとうございます」

「まあこれも世界の料理を旅先で直に体験していたシロウだからこそできる技法ね」

「では士郎殿は大抵の国の料理を作れるでござるか?」

「さすがに全世界とまではいかないが大抵は、な」

「それならお店でも開けそうですね?」

「さすがにそれは無理だろう?そこまでの技量は持ち合わせているつもりはないからな」

 

「いえ、普通に開けると思うんですが……」

「右に同じね」

「同感でござる」

 

「……今日はやけに三人とも息が合っているんだな」

 

「そんなことは……」

「ない……」

「でござるよ?」

 

「…………」

 

上から刹那、姉さん、楓と……絶対に口裏合わせているな? なんだ今のジェッ〇スト〇ーム並みのコンビネーションは? 刹那もまさか参加してくるとは思わなかった。

まあ別に気にはしないが……それよりさっさと作って食べるとしよう。

それから四人で食事を済ませた後、楓に明日修行に付き合ってもらえないかと言われたので刹那に聞いてみたが大丈夫だといったので明日は山奥までいくことになった。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

それで翌日になって来てみたはいいんだが、なんだこのアインナッシュや富士の樹海みたいな森は?ほんとうにここは学園の近くの裏山なのか?

 

「なあ楓? ほんとうにここは裏山なのか? 富士の樹海と酷似しているぞ?」

「まぁまぁいいではござらんか? 修行できればそれでよしでござる」

「まあそうだが……」

「それより、そろそろいいでござるか?」

「ああ、荷物は置いたことだし始めるとしようか?」

 

楓は俺の言葉に即座に反応して姿を消した。

だがそう簡単に俺から隠れることなんて思わないほうがいいぞ?

 

「―――同調開始(トレース・オン)

 

俺はすぐに目を中心に身体強化を施し干将莫耶を投影して木の枝を足場代わりに使い瞬動をして楓を追った。

するとそこには15人以上の楓がいた。分身という奴か。

 

「刹那に習っていたと聞いていたがもう瞬動術を会得していたとはすごいでござるな」

「まあ、そこそこは努力したからな。それより一斉に喋るな。耳が痛いぞ」

 

そこから干将莫耶を左右に投擲して次々と楓の分身を切り裂いていった。

そして次は洋弓を構えて本体の楓の左右にいる分身体を射抜いた。

 

「勢いがよいでござるな。もしかして拙者も射抜こうとしているでござるか?」

「まさか。本体以外を潰しているだけだ。確かに楓の分身は高度な方だがまだまだ詰めが甘いところがある。ほら!」

 

ドスドスっという効果音とともに楓本体を木に縫い付けた、と思ったがそれは実体をもった分身。本命は、

 

「上か!」

 

読みどおり本体は頭上から迫ってきていた。そして左右から以前にくれてやった複製とともに本物の巨大手裏剣が迫ってきている。

ほう、14歳とは思えない鋭い手際だ。さすが甲賀忍者! だが、まだまだ!

俺は瞬時に三方向に向けて干将莫耶を計6本放ち、まず手裏剣を地面に落としまた投影して楓に瞬動で一気に接近した。

そしてクナイと干将とで鍔迫り合いになり、そこで動きは止まったが、

 

「―――鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

「…士郎殿? 今のは呪文でござるか?」

「さてな。それより俺ばかり構っていると夫婦剣の餌食になるぞ?」

「? ッ!? 先ほど放って打ち落とした剣が拙者に向かってくる!?」

 

楓が隙を見せた瞬間に俺は即座に手にある干将莫耶以外のすべての投影剣を破棄しのど元に切っ先を突きつけた。

それからしばらく時間が流れてやっと楓が白旗を揚げて降参した。

 

「最初は俺の勝利だな」

「いや、まいったでござるな。士郎殿の魔術はある意味反則気味でござるなぁ?っと、それより先ほどまだ拙者の分身に甘いところがあるとはいかに?」

「それか。何、簡単なことだ。一つは楓自身以外の分身に影が無い。そして分身体はこの森の中では一見惑わすなら有効手段だがわかるものにはわかるものがある。

なにかわかるか?」

「影が無い以外にもあるでござるか?」

「わからないか? では教えてやろう。

楓たちは先ほど木の枝を足場に使っていたが楓以外は全員枝の上に乗っても揺れ一つしていなかった。だからすぐに本体を突き止めまわりの分身を潰していったんだ」

「なるほど~勉強になったでござるよ。これからそこら辺も修行の一つに追加することにするでござる」

「まあしいていうなら先ほどは使わなかったが解析能力を駆使して戦闘すればどれが本体か丸分かりだからな」

「なんと! そこまで見極めることができるのでござるか、士郎殿の目は……? では拙者の分身は士郎殿には通用しないというわけか」

「いや? そんなことはないぞ。俺の目を持ってしても多分だがすべての見極めは不可能だ。実際15人いる内の楓を含めて4体くらいは同じくらいの質量を持っていたからどれを仕留めればいいか一瞬迷ったからな」

「ん~……それではもっと数を限定して分身の錬度を上げていけばいずれは士郎殿から一本取るのも夢ではないととるべきか」

「そういうことになるな。だがそう簡単に俺から一本を取れると思ったならそれこそ油断に繋がるから今のうちに戒めておけ」

「あいあい。では次は、っと……」

「誰かこの森に迷い込んだか?」

 

すぐに第二ラウンドを開始しようと俺と楓はエモノを構えたが、この森に俺達以外に人の気配がまぎれてきたのでいったん終了としてその気配を探っていった。

しばらくして森の中にある沼にその人物の気配がしたので歩んでみるとそこには水にぬれてボロボロの格好になったネギ君が力なく横たわっていた。

そして俺達の気配に気づいたのかこちらに顔を向けるとまるで神の助けと言わんばかりに飛びついてきた。

 

「長瀬さんに士郎さん!?」

「こんなところでどうしたんだね、ネギ君?」

「それが……う、うわぁぁ~ん……」

「よしよし、落ち着くでござるよ」

 

楓がネギ君を落ち着かせているうちにまわりにまた気配が無いか探ってみたがそれらしいものは見つけられなかった。

それで判断したことだが、どうやら昨日話していたことが当たっていたらしい。

怖くなって逃げ出してきたのだろう。

 

「それで、どうしたんだね?」

 

ネギ君がやっと落ち着いたところで話を振ってみた。

だが、話してはくれそうにない。事情を知らない楓がいる手前話ができないのか。

 

(楓、どうやらネギ君は楓がこっちの事情を知らないように思っているようだから話を合わせてくれ)

(了解でござるよ)

 

口言葉で楓に話して承諾を得た後、

 

「言いたくないなら聞かないでござるよ」

「すみません……」

「それよりここで会ったのもなにかの縁。ネギ坊主、よかったら一緒に修行しないでござるか?」

「修行、ですか?」

「まあもっぱら食材取りだろう?」

「そうとも言うでござるな」

 

それから俺と楓とネギ君で森の中でまずは川の中にいる岩魚を取ることになった。

楓はクナイを使い次々と仕留めていく。

だから俺も洋弓を使い次々と岩魚を仕留めていった。

 

「お? その矢は魚を焼くのに適しているでござるな?」

「確かに……いちいち突き刺す手間は省けるな」

「お二人ともすごいですねー…」

 

その後の楓の珍妙かつ正確な回転投げや背面投げなどでクナイを投げていた。正直どういう体をしているのか?

次に森の中に入ったら入ったですぐさま分身してどの楓も違うことを話しながら山菜やきのこを探っていた。

さっきの戦闘ではさして気にしていなかったがやはり東洋の神秘というのはすごいものがある。

その後、取ったもので昼食をとっていたがやはりネギ君は浮かない顔をしていたので、

 

「ネギ君、そんな顔はしないほうがいい。幸せが逃げていってしまうぞ?」

「でも、僕……」

「やはり昨日のことを引きずっているのか?」

「はい……」

「そうか。では……えりゃ!」

 

俺は、らしくもない声を出しながらネギ君の頭に手刀を叩き込んでいた。

当然いきなりなのでネギ君は目をぱちくりさせていたが、構わず何度か叩いて後、

 

「ネギ君、今のは俺なりの罰と思ってくれ。

昨日はしかることはしなかったが今日はその根性に喝を入れてやろう。と、言うわけで、おーい、楓?これから少しもっと奥に入ってみないかね?」

「いいでござるよー?」

「え? え?」

「では、いくとしようかネギ君」

「え……? うわあぁぁぁあああ!?」

 

それから俺はネギ君を片手で抱えて楓とともに山の中に駆けていった。

山登り、蜂の巣取り、熊から追いかけられる……などなど。

大いに一日を謳歌していった。

それで楓が用意したのかドラム缶の風呂があってもうへとへとであったネギ君を先に入れてやった。

 

「さて、ネギ君。今日一日なにもかも忘れて楽しんですっきりしたかね?」

「え? そ、そうですね……少しばかり気が晴れました」

「そうか。それならよかった」

「では、ネギ坊主も元気になったところで拙者も入るとするでござるよ」

「え……?」

「では俺は退散していよう」

 

阿吽の呼吸のごとく俺は楓のそのたった一言でなにをするのか理解しその場を離れることにした。

そしてネギ君の助けてくださいコールが聞こえてきたが俺では無理です。だから……合掌。

その後、結局ネギ君は楓のテントに泊まっていき、翌朝色々考えた末自信を取り戻したのか朝に修行をしていた俺に一言いって失くしていたらしい杖の在り処を目を閉じて、

 

杖よ(メア・ウィルガ)!」

 

唱えたと同時に杖がネギ君の手に戻ってきた。

 

「ありがとう、僕の杖」

「ほう、なかなかのものだな」

「ありがとうございます、士郎さん。僕、なんとかこの事件を前向きに解決していきたいと思います」

「そうか。ではなにかあれば俺を呼べ。力になろう」

「はい! それと長瀬さんにありがとうございますと伝えといてください」

「わかった、伝えておこう」

「それではまた明日学校で会いましょうね、士郎さん!」

 

そう言ってネギ君は杖にまたがり空を飛んで寮のほうへと戻っていった。

最悪の場合、俺が変わりに手を下そうとも思っていたが、これならもう心配はないだろう。

後はお互いの出方しだいということだな。

 

「ところで、わざわざ俺が伝える必要はないようだな、楓?」

「気づいていたでござったか」

「ああ。テントの中から起きる気配がしたからな。それよりネギ君は立ち直ったようだ。後はどう行動するかは見定めるとしようか」

「あいあい。それは兎も角、朝食が済み次第昨日やり損ねた修行をやるでござるよ?」

「了解だ」

 

そして二日目の朝から俺は楓と本気ではないが何合も打ち合いを重ねていった。

当然、全戦全勝してやったがな。まだまだこの程度で負けるわけにはいかないからな。

……そういえばネギ君が飛び去った後、木の上で見えなくなるまで見ていたが、なぜかアスナとカモミールが森の中をさ迷っていたがネギ君はもしかしてどこにも告げず出て行ったのか?

あれは一晩中探していたような疲れた顔だったと記憶する。

 

 

 

翌日、ネギ君はいつもの元気を取り戻してクラスのみんなに挨拶していたが、その手に持っている『果たし状』なる封筒はなにかね?

それで教室に向かうと、

 

「おはようございます! エヴァンジェリンさんはいますか?」

「おはようございます、ネギ先生」

「今日エヴァンジェリンさんは風邪で休みだって」

「そ、そうですか……よーし! ちょっと行ってきます!」

「あ! ちょっとネギ! どこにいくってのよ!?」

 

ネギ君はアスナの制止の声も耳に入ってないらしくHRもしないで家庭訪問にいったらしい。

しかたがなく俺が点呼を取ったがまさか一人で相手をしにいったのか?

それでHR後にカモミールが俺の肩に乗ってきて念話で話しかけてきた。

 

(なあなあ、士郎の旦那?)

(なんだ、カモミール?)

(なぜか昨日から兄貴が元気すぎていて逆に不気味なんだがなにかあったんすか?)

(さあ? ただ前向きな姿勢になったのはいいことではないか?)

(まあ、そうなんすけど……)

(そう心配するな。俺も今日は予定が済み次第で姉さんとともにエヴァの家に行ってみようと思っているからな。

カモミールはその間、アスナとともにクラスのみんなにはネギ君がいないのはなぜかとか聞かれたら誤魔化しでもなんでもしておいてくれ。

このクラスの連中のことだ。好奇心半分ネギ君目当て半分でエヴァの家に押し込むかもしれないから迷惑だろうしな)

(了解っす!いやぁ~、士郎の旦那は話がわかるぜ)

(褒めてもなにもやらんぞ?)

 

そしてカモミールとの会話を終了し、今日の予定の受け持ちの授業も終わらせた後、姉さんと合流してエヴァが住んでいるという家に向かっている途中で茶々丸と会った。

 

「あら、茶々丸さん。ここでなにをしていたの?」

「はい。マスターは風邪のほかに花粉症も患っていまして、ちょうど薬を切らしていましたのでツテのある病院まで薬を取りに行っていた帰りです」

「……エヴァは、ほんとうに吸血鬼なのか?」

「そうね。真祖とはまるで思えないわ」

「それはしかたがありません。マスターは登校地獄という呪いで普段は本当に10歳の少女となんら変わりませんから」

「そうなのか。しかし、登校地獄なんて……名前からしてふざけている魔法だな」

「まったくね」

「それより衛宮先生。この間はありがとうございました。おかげで場を脱出することができましたから」

「なにをいう。それならむしろネギ君にお礼をいうべきだぞ?」

「そうですね。そうします」

「それでいい」

 

それから三人で会話をしながらエヴァの家に着いたのだがログハウスとは珍しいな。

そんなことを思っているとエヴァの怒号の叫び声とネギ君の謝罪が入った声が聞こえてきて、

 

「あ、マスターが元気に……よかったです」

「いや、なにか論点がずれていないか?」

「まったくね」

 

とりあえず茶々丸に続いて家の中に入ってみると、所狭しとファンシーな人形などが並べられていて趣味がわかるようなものだった。

そしてそこではネギ君とエヴァが子供の喧嘩のようなやり取りを繰り広げていた。

 

「む? 茶々丸、帰ってきたか、って何故約二名余計な奴らがいるんだ!?」

「はい。近くで会いましたので衛宮先生も用があったらしいのでお連れしました」

「ちっ! 余計な痴態を見せてしまったな」

「ごめんなさい、エヴァンジェリンさん……」

「もういい。知られてしまったのは変わらんからな。ほら、保護者も迎えに来たことだしさっさと帰ることだな」

「これは余計な心配だったようだな」

「そうね。でもエヴァの面白い一面が見られて楽しかったわ」

「ぐっ! 衛宮イリヤ、実はかなり性格悪いだろう?」

「あら、そう?」

 

……とりあえずネギ君には長くなりそうなので先に帰っていいと言って帰らせておいた。

それからまた姉さんとエヴァによる小さな争いが勃発してため息をついていると部屋の窓際付近から不気味な笑い声が聞こえて行ってみると、そこには茶々丸に少しだけ似ているが背は二頭身くらいの人に恐怖を与えそうな表情をしたパペット人形が置かれていた。

 

「ヨオ、お前ガ衛宮士郎カ?」

「魂が宿っている人形か。魔力は流れていないが一応はエヴァの従者の一人という事か?」

「一目デ見破ルトハヤッパリヤルジャネエカ。益々オ前ト戦イタクナッタゼ」

「それは嬉しいことだな。だがその体ではろくに動けそうにないだろう? ちなみにお前の名前はなんというのだ?」

「チャチャゼロダ」

 

そこで姉さんと言葉の言い合いをしていたエヴァが後ろから教えてくれた。

話によるとエヴァが俺のことをチャチャゼロに教えたところとても興味を持ったとの事だ。

 

「それはそうと喜べ衛宮士郎。近々本気でぼうやと戦うことになるだろうからな」

「そんなことを俺に教えてもいいのかね?」

「ふんっ! 私をなめるなよ? 貴様ごとき少し本気を出せばすぐにでも殺せるということを覚えておくんだな?」

「ふっ。実に頼もしいお言葉だ。では期待しておこう。ダーク・エヴァンジェリン」

「私の強さに歓喜の涙を流すがいいさ。麻帆良ブラウニー」

「……ふふふ」

「……くくく」

 

お互いに罵倒しあいながら暗い笑みを俺とエヴァは浮かべていたらしいとその後に姉さんが教えてくれた。

そんなに暗かっただろうか?

 

「ケケケ、ジャ楽シミニシテオケヨ衛宮。アノ坊主ハ俺ニハ役者不足ダガ、オマエナラ本気ヲ出セソウダシナ」

「では俺の最初の相手はチャチャゼロということか」

「マ、最初デ最後トカイウ言葉モアルダロ?」

「それはお互いに言えることだな」

「チガエネェナ」

「では、そのときになったらまた会おう。エヴァに茶々丸、チャチャゼロ。では帰るとしようか姉さん」

「ええ、そうね。そうだわ、エヴァ。もし負けたらなぐさめてあげるわねぇ~」

「ええい! やかましい! さっさと貴様は帰らんか!」

 

最後は姉さんの挑発によってこの場は終了した。

……しかし、これは本当に戦う前の空気なのか疑問に思ってしまったのは俺だけだろうか?

 

 

 




イリヤがエヴァ弄りのアップを始めている。


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019話 新学期、対真祖編(06) 対決!そして決着

更新します。


 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

昨日、エヴァンジェリンさんの夢を覗いてしまいましたから怒ってないかな? いや、やっぱり怒っているんだろうな。

でも士郎さん達が来てくれたおかげで助かっちゃったな。

それより風邪はもう治ったのかな?

僕は考えに没頭していたら突然目の前に壁(?)があったらしくてぶつかっちゃったけど、ぶつかったものを見てみるとそれは士郎さんの大きな背中でした。

 

「あ、士郎さん!」

「やあ、ネギ君。大丈夫だったか?」

「はい、大丈夫です」

「それならよかった」

 

士郎さんはなにかと僕に気を使ってくれるので嬉しくなります。

こういう気持ちをなんていうんでしょう? あ、そうだ!

 

「士郎さんってなにかお兄ちゃんみたいですね?」

「……いきなりなにを言い出すんだ? まあ悪い気はしないが。っと、それよりカモミールはどうしたんだ?」

「カモ君ですか? でしたら今はアスナさんのところにいると思いますが」

「そうか。ではちょっと話があるので呼んでおいてくれないか?」

「わかりました」

 

士郎さん……カモ君になんの話があるんだろう?

最近、よく二人で話していることがありますけどなにか情報交換をしているんでしょうか?

とりあえずカモ君を呼ぶことにしよう。

そして士郎さんとともに教室に入ったのですが、え!?

 

「え、エヴァンジェリンさん!? なんでここにいるんですか?」

「ひどいな、先生。なに、昨日世話になったんで出てやっただけだ。それに生徒の私が授業に出ることに不都合とかあるのか?」

「あ……そ、そうですよね。わかりました! よかったー。あ、もう風邪は大丈夫ですか?」

「ああ……だからいちいち騒がないでくれ」

 

ほんとによかったです。やっぱり姑息な手は使わないで真正面から立ち向かって正解でした。これも士郎さんのおかげかもしれません。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ふむ、どうやらネギ君はエヴァが授業に出てくれたことが相当嬉しいのかとても上機嫌のようだ。

しかし、その誤解のような発言は毎度どうにかならないのか? 雪広なんかは「せ、世話になった?」とか呟きながらすごい顔になっていたぞ。

そこにカモミールが念話で話しかけてきたので、対応した。

しかしこちらの世界ではまかりなりにも妖精の一種であるカモミールは契約もなしに念での会話ができるものなのか? と、感じたが別にどうでもいいことなので会話に集中した。

 

《それで、士郎の旦那? 俺っちに話ってのはなんでい?》

《ああ。ネギ君はあれでエヴァがおとなしくなったと思っているが油断はできないということだ》

《やっぱり旦那もそう思うっすか?》

《ああ。なにより昨日ネギ君をエヴァの家から帰らした後、近々動くといっていたからな》

《なに!? 宣戦布告されたんすか!?》

《ああ。だからカモミールは常にネギ君のとこについていてフォローにまわって貰いたい》

《わかりやした!》

 

さて、これで戦闘になったときの事はカモミールに任されるな。

後はいつ仕掛けてくるかが重要になってくる。

ただ、一つ気がかりだといえばネギ君が先走らなければいいが……。

……それと、聞こえないようにしているつもりだろうが屋上から微小だが高笑いが伝わってきているぞ、エヴァ?

 

 

そして放課後、俺と姉さん、それになぜか楓が一緒になって寮に帰っているところだ。

 

 

「どうした楓? 鳴滝姉妹のことはいいのか?」

「その心配はないでござる。二人には今日の停電のことでお遊びはせずに部屋に閉じこもっているように仕向けたでござるから」

「一種の脅迫概念でも植えつけたの?」

「まぁそんなところでござる。それより今日は不吉な予感がするでござるな?」

「確かにな。俺も妙な胸騒ぎがしている。もっとこうエヴァとは違ったものが迫ってきているような感じだ」

「あ、それは確かに正解かもしれないわね」

「? 姉さん、何か知っているのか?」

「ええ、コノエモンに聞いたんだけど、今日の停電で一時的にこの学園都市に張られている結界が止まってしまうらしいの。それでいつものことらしいんだけどその隙に便乗して京都の刺客が化け物を嗾けてくるらしいのよ」

 

初耳な話だな。

 

「俺はそんな話は聞いていないんだが?」

「拙者もでござる」

「それなんだけど、どうも今回シロウと楓はネギ同様あまり組みで緊急の事態時にだけ力を貸すことになったらしいの。それでコノエモンに自力で問いただしてみたところ『ネギ君とエヴァのもしもの時の見張りをしてくれると助かる』とのことよ?」

「学園長にしては粋な計らいでござるな」

「確かに」

「あ、それともう一つだけど、まだ西にはシロウがこちらの関係者だと知られたくないらしいのよ」

「なんでだ?」

「さあ? さすがにそこまでは教えてくれなかったわ」

「そうか。まぁ、なにはともあれ今日の夜には学園の結界が切れると同時にエヴァは動くだろう。俺もある意味すごい奴に気に入られてしまっているので自由に動けるのはいいことだ」

「すごい奴、でござるか?」

「それって、昨日のあのパペット人形のこと?」

「そうだ。エヴァの魔力が戻るということはあいつも動くということだ」

「確かに、そうね」

「人形とはなんなのでござるか~?」

 

いまいち理解していなかった楓に昨日にエヴァの家で会ったチャチャゼロのことについて説明した。

すると最初は驚いていたがエヴァの『人形使い(ドールマスター)』というあだ名を聞いて納得といった顔をしていた。

 

「と、いうわけだ。では俺はチャチャゼロとの戦闘とその後の処理を考慮して一度部屋に帰った後、見回りをしていよう。それで、姉さんと楓はどうするんだ? 二人ともどこか気づかれないところで観戦していようという魂胆だと思うのだが」

「ニンニン♪ そんなことはござらんよ?」

「そうね。余計な揉め事には巻き込まれたくないし」

 

二人はそんなことを言っているが顔がにやけている時点で説得力は皆無である。

まあ、遠坂と違ってここぞというミスはしないだろうから大丈夫だと思うが。

 

 

 

 

 

そして時は午後八時を過ぎた瞬間、一斉にすべてのものが明かりを消して暗黒がすべてを包み込んだ。

それと同時に巨大な魔力の波動がびしびしと伝わってきて気づいたときには俺の前にはチャチャゼロが立ちふさがっていた。

その手には小回りが効く鋭利なナイフ二刀が握られていてその凶悪な表情も相まって一般人が見たら即気絶物だろう。

 

「やあ、チャチャゼロ。これはまた物騒なものをもっているではないか?」

「ケケケ、コノ時ヲ待ッテタゼ。シカシソレガオ前ノ戦闘姿カ。中々ジャネエカ? ダガ、得物ガナイガ、マサカ徒手空拳デ戦ウツモリナノカ?」

「それこそまさかだ。―――投影開始(トレース・オン)

 

俺はもう何回も言いなれた言葉を唱えて両手に夫婦剣、干将莫耶を投影して身体も強化して自然体に腕をダランと垂らせてわざと隙を作り出し戦闘準備を終えた。

 

「オ?」

 

チャチャゼロは俺の考えに気づいたのか神妙な面持ちでこちらを見ている。変わっている感じはしないがな……。

 

「面白イ構エダナ? マルデ隙ダラケノヨウニ見セテイルヨウダナ」

「む。やはりエヴァの最初の従者なだけあり俺の戦法を瞬時に見抜いたか。だが、それも些細なことだ」

「マ、ソウダナ。ドンナ事ガアロウト突破シテキタ。ダカラソンナ事ハ関係ネエ。ソレニ御主人ニハ足止メトイワレテイルガ殺スナトハ命令サレテイネェ……本気でイカセテモラウゼ!」

「ふむ、ではもうネギ君とエヴァとの戦闘は始まっているということか。では早期決戦といこうではないか、チャチャゼロ?」

「ヘッ! イウナ衛宮、ジャ精々死ナネェヨウニ頑張ルコッタ! イクゼ!!」

 

その言葉を区切りにチャチャゼロは飛び掛ってきた。やはりエヴァからの魔力供給は素晴らしいものがあり相当のスピードだ。だが、

 

 

 

解析開始。状況分析。

対象、エヴァンジェリン.・A・K・マクダゥエルの『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』。チャチャゼロ。

チャチャゼロの持つ得物―――二本の鋭利なナイフ。凶悪な形をしているが神秘は込められていなくただ切り刻むことを重点に置かれたもの。

よって、対象の戦闘思考は自身の小柄な体系を活かしたスピード戦を重視されると判定。

こちらの迎撃手段、他数該当あり。現在手にある干将・莫耶で十分可能範囲。

状況分析終了。

よってこちらも干将・莫耶による迎撃を想定。

戦闘開始!

 

 

そしてチャチャゼロの高速ともいえる袈裟斬りを干将で受け止めすかさず莫耶による反撃を打ち込む。

さらに追い討ちで膝蹴りを繰り出したがそれは瞬時に姿勢を立ち直したチャチャゼロに両方とも防がれてしまった。

それから一合、二合、三合……十合と繰り出すタイミング、様々な武術を変則的に変更しては打ち込む。

 

「オイオイ! 楽シイジャネエカ! ナンダソノ動キノ変ワリヨウハ?」

「なに、俺はどれを鍛えても二流止まりなのでな。様々な動きを取り入れながら攻撃方法をすぐさま変更して戦っているだけだ」

「ツマリ“形無し”ナンダナ? オモシレェゼ衛宮! 久シブリニ血ガ滾ッテクルヨウダゼ!」

「人形なのに血など流れているのかね?」

「気分ノ問題ダゼ! ソレヨリ突ッ込ミヲイレテイル隙ナンテ作ッテイイノカ?」

「そうだな。ではもう少しギアを入れていくとしようか!」

「ケケケ! ソウコナクチャナ! オラァ!!」

 

チャチャゼロの猛攻で一見軽そうに見えるが一撃が重い攻撃で次第にどんどん莫耶にひびが生じてきてついに割れてしまった。

 

「モラッタゼ!」

「それは―――……どうかな!」

「ナ、ニ……!?」

 

ギンッ! という響きとともに俺の手には再び莫耶が握られていてチャチャゼロの攻撃を防いだ。

どうやらそれに驚いたのかチャチャゼロは一瞬呆けた顔をしたがすぐに満面の笑みを浮かべてさらに威力とスピードを上げてきた。

 

「ハハハ! 楽シイナ、オイ! コンナ戦イハ何十年ブリカ?」

「そうか。それはよかったな。だが……次で終わらせよう。ネギ君を見に行かなければいかないからな。ハッ!」

 

俺はチャチャゼロに向かって干将莫耶を投擲した。

それをチャチャゼロは意表を突かれたといった顔をしたがすぐにそれらを弾いた。

 

「―――鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

だがそれでいい。所詮これは布石に過ぎない。

 

「―――心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

さらに干将莫耶を投影し再度投擲する。それもまた同じように弾かれるがうまく左右に散っていく。

 

「―――心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

そしてまた投影。今度はチャチャゼロに接近して剣を振り下ろしたがそれはいとも容易く受け止められた。だがそれすらもブラフ。

それを気づかれないようにわざと弾かれたかのように手放しすぐに後方に瞬動で下がった。

 

 

チャチャゼロは衛宮士郎のこの不可解な行動と、まるで呪文のように発する謎の単語に疑問を持っていた。

 

 

(ナンダ? アイツハ今カラ何ヲシヨウトシテイル?)

 

 

「―――唯名(せいめい) 別天ニ納メ(りきゅうにとどき)……」

 

さあ、これで準備は整った。後は行くのみ!チャチャゼロに向かって最後の布石として干将莫耶を投影し疾走する!

 

 

(何カヤバイ! 俺ノ長年ノ勘ガ警報ヲ鳴ラシテヤガル! アイツニ次ノ手ヲウタセルナト!)

 

「気づいたか。だがもう遅い! ――――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら ともにてんをいだかず)……!」

 

最後の呪文とともに俺の持っている干将莫耶にまるで惹かれあうかのごとく、四方八方に弾かれた合計6本の干将莫耶が夫婦剣の特性『お互いに磁石のように引き合う』の効果で一斉にチャチャゼロに襲い掛かる。

 

「ナニィッ!?」

 

俺の最後の攻撃を今現在防いでいるチャチャゼロは手を出すことができず無理やり体を捻り一時離脱しすべてを弾こうとしていたが、すぐさまに俺は一つの忌まわしい記憶である赤い布を投影して、

 

「―――私に触れぬ(ノリ・メ・ダンゲレ)

 

と、いう言霊を発してチャチャゼロを拘束した。そしてすぐに全投影品を解除した。

しかし、ほんとうに拘束にかけては天下一品だな、この布は……。

 

「ナ、ナンダコノ布ハ!?」

「……マグダラの聖骸布。こと拘束にかけてはずば抜けているものだ。さらに強化も施してあるから抜け出すのは容易ではなかろう?」

「ンダトッ!? ク、クソー! 抜ケ出ソウトシテモ力ガデネェ!?」

「ではお前としては興ざめかもしれんが先に行かせてもらうぞ、チャチャゼロ」

 

そして俺はマグダラの聖骸布で拘束したままチャチャゼロを置いていきネギ君達が戦っているだろう巨大な魔力の塊のような場所に向かった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

──Interlude

 

 

衛宮士郎が立ち去った後、その場に拘束されて残されたチャチャゼロは負けたことや逃げられたことにより一時呆けていたが、すぐにその気分が裏返り残酷なほどの笑いの表情を浮かべた。

 

(……ケケケ、衛宮……今回ハオ前ニ勝チヲ譲ッテヤル。ダガ! 次ハモウアンナ技ハ通用スルトハ思ウナヨ? 覚悟シテオケ! ケケケ!)

 

と、心の中で高笑いを上げているとそこに二つの気配を感じて見てみるとそこにはイリヤと楓がいた。

 

「あ~、やっぱりシロウはこれを使ったのね」

「拘束してそのまま置いてくとはなかなか士郎殿も肝が据わっているでござるなぁ~」

「ナンダ、衛宮イリヤカ。ドウデモイイガコレ解イテクンネエカ? 気持悪クテショウガネエ……」

「今回はもうシロウには手を出さないことが約束できるなら解いてやってもいいわよ?」

「アア、ソンナコトカ。ソレハ余計ナ心配ッテヤツダ。

今回は油断シタトハイエ負ケハ負ケダカラナ。ムシカエシハシネエヨ。

ソレニモウ少シデ御主人ノ魔力モ切レル。

ダガ久シブリニ暴レラレル事ガデキタンデ文句ハネェ」

「あきれた。とんだ戦闘狂ね、あなた? ま、いいわ。それより決着を見に行きたくない?」

「オ! イイナ、ソレ。ソレジャ頼ムゼ?」

 

チャチャゼロはケケケと愉快に笑いながら楓に抱えられて一緒に士郎の向かったほうへと飛び去っていった。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

アスナさんとカモ君が僕を助けてくれたエヴァンジェリンさんと茶々丸さんから見えない隠れた場所にいるんですけど。

 

「あ、兄貴と姐さん! 早く魔方陣のなかで仮契約を! でねぇとエヴァンジェリンの奴に気づかれちまう!」

「ちょ! も、もう少し待ってー!」

「……サーチ完了。マスター、ネギ先生達はあそこに隠れている模様です」

「そうか! ふん! 正式な仮契約を結ぼうとしているらしいがそんな隙は与えんぞ!

リク・ラク・ラ・ラック・ライラック……氷の精霊17頭。集い来たりて敵を切り裂け。『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)連弾・(セリエス・)氷の17矢(グラキアーレス)』!」

「きゃああああ―――ッ!!?」

 

あ、まずい! エヴァンジェリンさんが魔法をうってきた! 詠唱もしている時間も障壁を張る時間もないし! どうしよう!?

 

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

 

だけどそのとき、すごく遠くからなのか響いてくるような声と同時にエヴァンジェリンさんの放った17矢と同数の剣の群れがすべて命中して打ち払った。

 

「なに!? 私の魔法が相殺されただと!」

「解析結果、マスターの放った魔法と同数の剣が当たって相殺された模様です」

 

「……ふう、危機一髪といったところだったな」

 

エヴァンジェリンさんが困惑している中、その声の主は赤い外套をたなびかせながら僕達の前に立っていてくれました。

 

「「士郎さん!」」

「士郎の旦那!」

「無事だったようだな。間に合ってよかった」

「衛宮士郎!」

「なんだ、エヴァ?」

 

僕達が助かって胸を撫で下ろしているとエヴァンジェリンさんが怒っているような声をあげた。え? なにかしたのかな?

 

「チャチャゼロはどうした!? お前の足止めに向かわせていたはずだぞ!?」

「そんなに怒るな、エヴァ。別に殺してなどはいない。ただ身動きできなくさせただけだからな」

「そうか……ではない! では貴様は今の私の魔力がしっかりと行き渡っているチャチャゼロを倒したというのか!」

「そうだが。なかなか強かったぞ……今は簀巻きになっているがな。それよりネギ君にアスナ、なにかやることがあるのだろう? 早く済ませたらどうだ? その間、足止めはしよう」

「あ、ありがとうございます!」

「では、いくぞ!」

 

そして士郎さんは駆けていった。

 

「ふっ! 図に乗るなよ! 今度は私自らが倒してやろう。茶々丸!」

「イエス、マスター! 失礼します、衛宮先生」

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

エヴァンジェリンさんが契約執行を行い茶々丸さんが士郎さんに向かって駆け出した!

その間にエヴァンジェリンさんは魔法を唱えているようだ。

そして双剣を携えた士郎さんと茶々丸さんはすごいスピードで攻防を繰り広げている!

 

「す、すご……!」

「やっぱただものじゃねぇっすね、士郎の旦那は……」

 

僕だけでなくアスナさんやカモ君もすごい驚いているようだ。

 

「ふっ! やるな衛宮士郎。だがもう私の詠唱は終わっている!受けてみるがいい!氷爆(ニゥエス・カースス)!」

 

その瞬間、さっき僕に放った魔法とは名は同じでも威力も桁違いなものが士郎さんに放たれた!

茶々丸さんも撤退しているようでもう遠慮なんて言葉はない。

だというのに士郎さんは両手の剣を消すとその場に立ち尽くして動こうとしない! なんで!?

だけどそんな考えは士郎さんの次の行動でかき消されてしまった。

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)ーーーー!」

 

 

士郎さんが手をかざしてその言葉を叫んだ瞬間、七つの光り輝く花弁が咲き誇った。いや、あれはよく見れば盾のようだ。

そして二、三枚割れてようやくエヴァンジェリンさんの魔法が収まったのかそれが消えた。

 

「なっ!? あれを防いだというのか! 満月ではないとはいえ全盛期の力を取り戻している私の魔法を!」

 

僕も驚いた。あれはもうここら一帯を破壊してしまうのではないかという威力が込められていたから。

そのとき、カモ君が声を上げて、

 

「兄貴! 魔方陣が書き終えましたぜ! 今のうちに!」

「うん! アスナさん!」

「わかっているわよ!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

エヴァの魔法をなんとか防ぎきったがさすが最強を名乗るだけはあるな。

アイアスの盾が三枚も割れてしまった。

そして次の行動に移ろうとしたら後方から光が溢れてきた。

どうやら仮契約とやらが済んだようだな。

 

「では、役者も揃ったようなので俺は下がることにしよう」

「待て! さっきの魔法はなんだ!? それにまだ決着はついていないぞ!」

「時がくれば教えてやろう。それとこれはもともとネギ君とエヴァの決闘だろう? 脇役は下がっていることにするよ」

 

俺はエヴァに背中を見せながらネギ君達のいる場所に向かうと、

 

「士郎さん、ありがとうございます……このお礼はいつかします」

「ありがと、士郎さん」

「なに、気にするな。では俺は下がっているから後は任せたぞ?」

「はい!」

 

 

そして後ろに下がり観戦しようと腰を下ろしたらカモミールが肩に乗ってきた。

 

「おおおおお!! 士郎の旦那! すごいじゃないっすか! なんすか、さっきの魔法は!? エヴァンジェリンの魔法を完全に防ぎきってましたぜ!?」

「まだ秘密だ。だが切り札の一つとだけ伝えておこう」

「ほうほう、切り札とな? さっすが旦那すね」

「今はその話はあとにしよう。今はネギ君達の戦いを見守る。そうだろ?」

「その通りっすね」

 

それでカモミールと観戦をしていると二人の魔力が高まる感じがして、

 

来たれ雷精、(ウェニアント・スピリトゥス・)風の精(アエリアーレス・フルグリエンテース)!」

来たれ氷精、(ウェニアント・スピリトゥス・)闇の精(グラキアーレス・オブスクランテース)!」

 

「なっ! ありゃ兄貴の現時点で精一杯いっちゃん強い魔法じゃねぇか! しかもエヴァンジェリンも同種の魔法を使ってやがる!」

「では打ち合いか。これはすごいことになるぞ」

「確かに!」

 

そんなことをカモミールと話をしている間にも二人の詠唱は進んでいく。

 

雷を纏いて(クム・フルグラティオーニ・)吹きすさべ(フレット・テンペスターズ・)南洋の嵐(アウストリーナ)!」

闇を従え(クム・オブスクラティオーニ・)吹雪け(フレット・テンペスタース・)常夜の氷雪(ニウァーリス)! さあ、来るがいいぼうや!」

 

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」

 

ほぼ同時に放たれた二人の魔法はぶつかり合いお互いに負荷を耐えている。

だがネギ君のほうがやはり押されているようで少しずつ顔色が悪くなってきている。

そしてこれはもうやばいと思った瞬間のことだった。

 

「ハ、ハクション!」

 

あろうことかこんな時にネギ君はくしゃみをしてしまった。

だが一度その威力を受けた俺だから言えるがそれが切欠で増進剤となったらしく、なんとエヴァに魔法で競り勝ってしまった。

そして服も消し飛んだのか裸で空中にエヴァは浮いていた。

 

「くくく、やるな……さすがサウザンドマスターの息子だ。だがまだ……っ!?」

「マスター! 予定より停電の復旧が早まりました!」

「なに!? ええい! このような大事なときに! うきゃ!?」

 

エヴァは学園の結界が復活したのか電気が走ったみたいにしびれたようで下の川に落ちていった。

しかしそれはなんとかネギ君が飛び込んで助けたようなので安心した。

 

「ふむ、俺が助けなくても大丈夫だったようだな」

「そのようっすね?」

「だが、これでエヴァもおとなしくはなるだろう。ではカモミール、少し俺は用事があるのでネギ君達とともに先に帰っているがいい」

「あー……士郎の旦那? その用事って」

「今は聞かないのが華だ。特にアスナなんかは腰を抜かしそうだからな」

「わかりやしたっす」

 

カモミールが俺の肩から飛び降りネギ君達の方へ向かっていってエヴァとなんやら一方的な口喧嘩になっているようだが今は気にしない方針で用事を片付けるとしよう。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

「それで、だ。姉さんに楓はいつまで見学しているつもりだ? 後、チャチャゼロもなぜそこに?」

 

俺はあえてネギ君やエヴァが気づいてなかったアーチの上の方へ目を向けると案の定三人はいたのだった。

 

「私が“観戦しない?”っていう提案で一緒に着いてきたのよ。安心して、シロウ。今はエヴァの魔力も切れているみたいで動けないみたいだから」

「マア、後デ御主人ニ怒ラレソウダガイイモノヲ見サセテモラッタゼ、シロウ」

「ん? 先ほどまでは苗字だったが今は名前で呼ぶんだな?」

「二人モ衛宮ガイタンジャイチイチメンドクセエダロ?」

「……なるほど」

「それより士郎殿? 先ほど拙者に学園長から連絡があったのだが……」

「言わなくてもいい。あれを見れば一目瞭然だ」

 

そう楓にいって俺は橋の入り口方面を見るとそこには結界が再起動する前に侵入してきた妖怪どもが押し寄せてきていた。

その数は最低でも見積もって100体くらいいるだろう。

 

「アー……マダ動ケタラ奴等ヲ挽肉ニシテヤル所ナンダガ……」

「まあそう気を落とすな。では姉さん、楓。後始末といこうか」

「ええ、わかったわ、シロウ」

「わかったでござるよ、士郎殿」

 

そして俺は剣群を、姉さんはアインツベルンの知識と遠坂仕込みのフィンの一撃であるガンドを、楓は分身と十字手裏剣をそれぞれ駆使して一気に妖怪達を殲滅したのだった。

これにて桜通りの吸血鬼事件は幕を降ろすことになった。ネギ君の勝利という形で。

 

「あ、そうだ♪ エヴァって負けたのよね? それじゃ後で慰めてあげなくちゃね。ふふふ……」

 

……そして最後に“ぎんいろのあくま”は密かに微笑むのだった。

 

 

 




これにて真祖編は終了になります。


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020話 刹那の告白、そして…

更新します。
士郎が口が軽いのは当時の私の未熟さでもありますから恥ずかしい限りです。(学園長が口が軽いのはデフォ)

それと、西にバレたかもは、刹那との初邂逅の時にすでにバレてるかもしれませんね。


それでですが、ある程度ストックを投稿できたあとに、続きを書くつもりがあるなら活動報告でどの話のどの部分をどう直してほしいとか、追加文章が欲しい、逆にこのくだりはいらない、物語上カットしても問題ない、など意見の募集をかけると思いますのでよろしくお願いします。

例えば、前の話の停電が復旧したあとに攻めてきた魔物を殲滅するくだりはカットしても問題ないかと…。

それまではある程度目を瞑っていただき、未熟な点や矛盾点を発見したら『未熟なポイント発見!』と笑っていただけると幸いです。
読者の皆さんと快適な小説ライフを送りたいのでご協力のほどお願い致します。


手厳しい感想をいくつも頂き、必要な処置ですが、前書き長ぇ…。


翌日、やはりというべきか俺と姉さんは学園長室に呼ばれていた。

さすがにあそこまで手を貸してしまったから当然といえば当然だが。

だが、特に学園長は自分達を咎めてはこなかった。

それどころか逆に感謝をされてしまったのはどうしてだろうか?

 

「なぜ怒らないんですか? かなりネギ君に力を貸してしまったというのに……」

「フォフォフォ、そんなことを気にしておったんかの?」

「ええ。結局は自分の介入でネギ君達だけでの勝利で決着はつかなかったでしょうから」

「まぁ大丈夫じゃろ? エヴァもそこらへんは気にせんぽいしの」

「ところでコノエモン? それなら何か別の用事があって私達を呼んだんじゃないかしら?」

「そうじゃ。士郎君達は近々修学旅行で京都に行く話しは聞いておるんじゃろ?」

「ええ」

「私も着いていくことになっているから知っているわ」

 

それから学園長には色々と頼みごとをされた。

まずは前々から聞いていた関西呪術協会というところが、ネギ君が魔法使いであるということから京都入りに難色をしめしていることらしい。

このことからやはり関東魔法協会と関西呪術協会は仲が悪いということが改めて認識できる。

だが、俺と姉さんはいいのか?という質問をしてみたら、

 

「士郎君達の件に関してはただの一般の教師とだけしか教えとらんよ。ただ、長にだけは面白い人物がいくとだけ伝えたがの」

「では、自分達の任務はおのずと……」

「そうじゃ。ネギ君には西に特使として行ってもらい友好の証として親書を持たせるつもりじゃ」

「それじゃ私達はネギの護衛の役というわけね?」

「まぁそうなんじゃが、表向きでもいいから楽しんできんさい。ろくに楽しむための旅行は今までしたことはないんじゃろ?」

「そうね……それじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。シロウもそれでいいわね?」

「ああ。では学園長、お礼として土産には何か買ってくることにしますよ」

「ふむ、では八橋がいいのぅ」

「了解しました」

「土産話も持ってくるわねー」

 

 

学園長室から退出し、少しして姉さんが休憩したいといったのでちょうどカフェがあったので寄ってみると、そこにはネギとアスナ、エヴァに茶々丸がなにやら話し合いをしていた。

そこで姉さんの目が光ったのは言うまでもないことだが、

 

 

「なに、どうしたの? 昨日まで争っていたのにもう仲直りしたのかしら?」

「むっ!? 衛宮イリヤか! どうしてこう会いたくない奴と会うんだ!」

「あら、私は会いたかったわよ? 約束したんだから」

「約束……? はっ! まさか!?」

「ええ。しっかり慰めてあげるわよ」

「ええい! やめんか!」

「マスター、楽しそうですね」

「どこかだ!?」

 

姉さんとエヴァ達はこの際、放っておこう。

それより俺はネギ君達に話しかけることにした。

 

「やあ、ネギ君にアスナ、カモミール」

「あ、士郎さん! 昨日は助けてもらってありがとうございます」

「ええ。でなきゃ今頃はどうなっていたのかを想像すると怖いわ……」

「そうっすね。それより士郎の旦那! 昨日の魔法はなんだったんすか? なんか実体化していたぽかったっすけど?」

「そうだ士郎! あれはなんだったのか教えんか!」

 

そこで姉さんとじゃれて(?)いたエヴァが話しに割り込んできた。

 

「名で呼んでもらえるのは嬉しいことだ。だが教える気にはなれんな」

「ふざけるな! ほとんど無詠唱で私の魔法を防ぐほどの魔法など古今東西照らし合わせても聞いたことがないぞ!?」

「当たり前じゃない? あれはこの世界でシロウだけが持ちうる手なんだから」

「なんだと? どういう事だ?」

「これ以上は秘密よ。元とはいえ敵だった相手にあれこれ話すわけがないでしょうに」

「ぐぐっ! 衛宮イリヤ、貴様は私になにかうらみでもあるのか!?」

「そんなのはないわよ? ただ、からかいやすいだけよ。ふふふ……」

「本当に殺すぞ?」

「あら? エヴァって女、子供は殺さないのが性分じゃなかったのかしら?」

「時と場合によってだ! その中で貴様は例外中の例外だ!」

「それは嬉しいわ。あなたとは気が合いそうね」

「どこがだ!」

「二人ともそろそろ落ち着いたらどうだ? 叫びっぱなしでは疲れるぞ。特にエヴァ……」

「そうね。少し疲れたわ」

「誰のせいだと……!」

「エヴァもいちいち突っかかると精神摩り減らすから怒るのはその辺にしておけ」

 

 

ネギ達はその三人のやり取りを見ていて、

 

(イリヤさんってすごいですね。エヴァンジェリンさんが圧倒されています)

(そうね……かなり貴重な光景ね。でもそれの仲介に入れる士郎さんもとんでもないと思うのは私だけ?)

 

「そういえばエヴァってネギのお父さんのナギ・スプリングフィールドっていう人が好きだったらしいわね♪」

 

俺は必死にエヴァを宥めていたのだが姉さんのその一言によって、盛大に時が止まったよ。

そしてエヴァは顔をものすごく赤くしてなぜかネギ君の方を睨んだ。

 

「ぼーやぁぁあ? やはり貴様、私の夢を……しかももっとも厄介な奴に!」

「ひぃ!? ぼ、僕はイリヤさんには話してませんよ!」

「それじゃなんで知っている!?」

「それはねぇ……」

 

俺は姉さんが次になにをいうのかが鮮明に脳裏をよぎり、学園長に目を瞑って冥福を送った。

そしてやはりエヴァはキレて学園長をぼこるとか口走っていた。

さて、どう落ち着かせようか?

だが少しばかり暴れた後、椅子に座り込んで目じりに涙を溜めながらエヴァは「もう奴は10年前に死んだ」といった。

確かに俺達も学園長にはそう聞き及んでいる。

 

「それで私の呪いは解いてくれるという約束も果たされることもなくなった。だからそのおかげで私は十数年もここで退屈に日々をすごしているんだよ」

「そうだったのか。それでネギ君の血を」

「ああ。やはり呪いを解くには血縁者の血が一番効果的だからな」

「では俺の「あ、あのエヴァンジェリンさん!」って、ネギ君、どうした?」

 

突然ネギ君が大声を上げたので俺が言おうとしたことはかき消された。

 

「僕、父さんと会ったことがあるんです!」

「なに? 奴は死んだんだぞ。そんなわけないだろう? 第一、ぼーやはまだ10歳だろう。年数的におかしい」

「そ、そうですが本当に会ったことがあるんです。6年前に!そのときにこの杖をもらったんです。きっと父さんは生きています。だから僕は父さんと同じ立派な魔法使い(マギステル・マギ)になって探し出したいと思っているんです」

「サウザンドマスター……ナギが生きているというのか?」

 

それからというもの狂喜乱舞したのか超がつくほどの嬉々っぷりでエヴァは騒いでいた。

その最中で姉さんが俺の耳を引っ張ってきて、

 

《シロウ、さっきもしかして破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)なんてこと口走ろうとなんてしていなかったわよね?》

《い、いや~……気のせいだ、姉さん?》

《目が泳いでいるわね? 後で罰ね♪》

《それだけはご勘弁を……》

 

「士郎! 今の私は気分がいい! よって今日はお前の料理を食べに行くぞ!」

 

必死に念話で謝っているところでエヴァが話題を逸らしてくれるなんとも嬉しい提案をしてきた。

話がまったく関係ない! とかいう突っ込みはこの際無視だ!

 

「ダメー! エヴァはシロウになんか一服盛りそうだから私は反対よ!」

「誰がするか! だが、あれほどの戦闘力……確かにいい魔法使いの従者(ミニステル・マギ)になりそうだな」

 

形勢逆転……今度は姉さんがエヴァにからかわれ始めてしまった。

とりあえず俺はエヴァの従者にはならないといって食事だけは招待した。

 

「っと、そうだぼうや。ナギの情報が知りたいなら京都にいってみるがいい」

「京都ですか?」

「ああ。あそこには昔ナギが住んでいたという家がどこかにあるらしいからな」

「そ、そうなんですか!? でも確か場所って……それに休みに旅費もないよ!」

「それならちょうど良かったんじゃない?」

「はい。今年度の修学旅行は京都・奈良行きとなっています」

「そうだったんですか!?」

「ああ。ネギ君は聞いていなかったのか?」

「はい……最近色々ありまして。って、僕の腕噛まないでくださいよ、エヴァンジェリンさん!?」

「いいじゃないか? 情報代として。それと堂々と私の前で愚痴を言った罰だ」

「え―――ん!」

 

 

その後、エヴァは宣言どおりわざわざ管理人室まで食事をしに来て俺の料理が相当気に入ったのかたまに寄らせてもらうぞとか姉さんに向かって言って終止姉さんは機嫌が悪かった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

そして次の日になって、

 

「皆さん、来週から僕達3-Aは京都・奈良への修学旅行にいくことになりました! もー準備は済みましたか?」

「はーい!」

 

俺はHRにこんなに騒いで大丈夫だろうかと内心考えていた。

大抵のものに関してはもう順応しているのかこれといって驚きはしなかったがネギ君が意外なほどに一番騒いでいるのでびっくりだ。

やはり京都に父親の家があると考えれば嬉しくもなるものか。父親か……。

しばらくしてしずな先生が教室に入ってきて学園長がネギ君と俺に用があるというので着いて行く事にした。

学園長、まだネギ君に親書を渡してなかったのか……。

それで学園長室に着いたら、学園長が京都行きは中止になるかもとか言い出したのでまた俺はハンマーを投影しようとした。

だが、高ぶる怒りをなんとか静めて話の続きを聞くことにした。

そして話の内容はだいたい昨日に聞かされたとおりのことだった。

 

「え? それじゃ士郎さんやイリヤさんも魔法使いだからダメって事ですか?」

「それなんじゃが、士郎君とイリヤ君は実は言うと魔法使いではないんじゃ。もっともそれに近い部類じゃがな」

「そ、そうなんですか? だってあんなにすごいことしてましたのに……」

「ネギ君の勘違いを修正すると俺と姉さんは魔法使いではなく正式には魔術師だ」

「魔術師? といいますと代表的に言いますと錬金術とかそういった方面に位置しているんですか?」

「なるほど。そういう例え方もあったんだな。まぁこの世界ではそれに近いな」

「確かにそうじゃの。だから先方には二人のことはあまり伝えておらん。

それでネギ君に頼みたいことがあるんじゃが、こちらとしてもそろそろ喧嘩はやめて西とは仲良くしたいんじゃ。だからこの親書を向こうの長に渡してほしいんじゃ。

道中で西のものに妨害を受けるかもしれんが、そこは魔法と同じで一般人にはおおっぴらに口外するものじゃないから迷惑が及ぶものじゃないじゃろ。

これはネギ君にとってなかなか大変な仕事になるが任せて大丈夫かの?」

 

そこでネギ君は少し考えたが、すぐに真っ直ぐな表情になって「わかりました!」といった。

やはりエヴァとの戦闘で一つ壁を越えたことによって成長が大いに見られるな。

 

「もちろん士郎君やイリヤ君も手助けはしてくれるから気を楽にしていってきなさい」

「はい!」

 

 

それからネギ君一人を帰らせたがまだこの部屋には客人がいるようで学園長が手を叩くと隣の部屋から刹那が入ってきた。

 

「学園長……なぜ修学旅行が京都なんですか? あそこはお嬢様にとって危険が及ぶかもしれない場所なんですよ!?」

「それもそうじゃがの……」

「刹那、うすうす感じていたがやはり西のものは、このかを手中にしようという輩はいるのか?」

「はい。私も詳しくは知りませんがお嬢様の潜在能力は学園長ゆずりでネギ先生を上回る力を秘めているんです」

「なるほど……それなら魔法も何も知らない無防備といってもいいこのかは利用されてもおかしくないな」

「はい。ですから今回はどうしてこの提案を呑んだのか学園長の真意を確かめにきました」

「そうじゃの。やはり一つは先ほどのことじゃ。それとこのかや……刹那君にも久しぶりに故郷に帰って羽を伸ばしてもらいたいんじゃ」

「わ、私には……故郷と呼べる場所は……」

 

刹那はそれきり声を出さず体をわらわらと震わせた後、いきなり学園長室を出て行ってしまった。

 

「刹那!」

「士郎君!」

「なんですか!?」

「刹那君を頼むぞ」

「…………」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

俺は学園長の言葉を無言で頷いて刹那の後を追っていった。

それから気配を探りながらなんとか刹那に追いついたがその場所はよく楓が修行をしている森の中だった。

 

「刹那……」

「士郎さん……どうして、追ってきたんですか?」

「そんなつらそうな顔をした奴を放っておけるか。それよりなにか隠していることがあるんじゃないのか? 別に言いたくなければ聞かないが、もし良ければ相談に乗ってやるぞ」

「そう、ですね……士郎さんになら話しても大丈夫だと思います。少し、待ってください」

「……ああ」

 

しばらくすると刹那から人間とは違う気配がじわじわと表に出てきて次の瞬間、刹那の背中からは白い翼が飛び出してきた。

最初、驚きはしたもののこれがこのかを避ける理由の一つだという考えにいたって……なにか無性に腹が立ってきた。

 

「この通り私は化け物です。だから前に話したとおり私はお嬢様を影でしか守ることしかできません。それに、気持悪いでしょう?」

 

悲しげな瞳で微笑を浮かべて刹那はそんなことを言い出した。

それを聞いて俺はさらに腹が立った。

ただ翼があるだけで化け物? 翼が生えているだけで気持悪い? だからこのかとは一緒に歩いていけない? ふざけるな!

気づいたときには衝動的に俺は刹那の頬を叩いていた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

……ついに私の正体を明かしてしまいました。

士郎さんは私のこの醜い姿を見て何を思っているのか、何を感じたのか。聞くのがどんどん怖くなってくる。

だけどもう見せてしまったことに後悔はない。士郎さんにならこの醜い姿を見られても平気だという安心感がなぜかあったからだ。

だが士郎さんが私を見る目は恐れや畏怖といったものではなく、ただ一点の怒りだと悟ったのは軽く頬を叩かれた後だった。

 

「刹那……一つ、言わせてもらう。刹那は自分のことを化け物といっているがそれは見当違いも甚だしいぞ?」

「なっ! それはどういう!?」

 

反論しようとしたが士郎さんの普段全然見せないそれは鋭い眼光で体が硬直してしまい黙殺されてしまった。

 

「聞け。化け物というのはな、姿、形、外見的に異常なやつのことをいうんじゃない。

そもそも本当の化け物というのは外見ではなくただ人を襲う、犯す、殺すことしか考えていないやつらのことを言うんだ。

その点、刹那はしっかりとたとえ偽りだとしても人とともに生きている。このかのことも本当に大事だと思っている」

「ですが私は人間と烏族のハーフでどちらにも依存できないんです……!」

「それがどうした? そんなのは些細な違いではないか。居場所がなければ自分から作る努力をするものだ。このかは刹那のその姿を見てもきっと恐れず受け入れてくれると俺は思う。姉さんやネギ君、アスナもそうだ」

 

衝撃だった。士郎さんは私のことを受け入れてくれるだけでなく私が化け物ではないと否定さえしてくれた。

嬉しかった。だがそれと同時に悔しかった。どうしてもっと早く士郎さんという素晴らしい方と出会えなかったのかと。

 

「ですが、やはり私にはお嬢様の隣を歩ける自信がありません」

「……そうか。だが前にも言ったが関係はまだやり直せる。この修学旅行がいい機会かもしれない。だから後は刹那のこのかに話しかけるという勇気の問題になってくるんだ」

「話しかける勇気……」

「そうだ。そうすればわざわざ影からではなく隣で守ることもできる」

「それは、なんて素晴らしい夢でしょうか。お嬢様とともに過ごせることができるなんて」

「夢という言葉で片付けるな。勇気を持ってその一歩を踏み出せば実現できるんだ。それだけは覚えておいてくれ」

「はい、はい!」

 

私は士郎さんのその言葉に感謝の意を込めて、いつかお嬢様と正面きって話ができたらいいなと想いながら涙を流した。

それから少し晴れやかな気持ちになり修学旅行では必ずお嬢様を守ることを決意した。

だが、それを士郎さんの嬉しそうな顔で見られてしまい恥ずかしかったのは胸の内にしまっておくことにした。

……こんなもやもやした感情は私にはなんなのかわからないから。

 

 

 




刹那の士郎への好感度が上昇した。


このえもんのこの判断も西を騙しているようで悪手ですかね。


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021話 誕生日プレゼントと追跡魔?

更新します。


 

 

4月20日、休日、俺はなぜか姉さんとネギ君とこのかに今まで行ったことがない新宿に来ていた。

理由はどうやら明日はアスナの誕生日だというので一緒に探し物をしてほしいらしい。

後、姉さんにいたっては明後日からの修学旅行での服装やらなんやらを買いたいらしい。

それでどうやら俺は着せ替え人形のようなものになるのだろうと内心沈んでいた。

 

「なにシロウ暗い顔しているのよ? 滅多にこんなところは来たことないんだから楽しまなくちゃ」

「そうですよ、士郎さん。それにアスナさんの誕生日のことも考えなくちゃ」

「まぁ、そうだな。しかし残念かな。俺はそういった方面は疎いので助けになるかわからん」

「別にかまわへんよ、士郎さん」

「そうか。ではまず目的のものを絞らなければな。二人はなにか思いつくか?」

「うーん、そうやね? やっぱりアレやろか?」

「アレですかね?」

「きっとアレね」

「なんだ? 三人していいものでも思いついたのか?」

 

少し期待しながらも聞いてみたが答えは落胆する内容だった。

なんせ三人揃って「渋いおじさんグッズ!」と返してくれたのだから。

……あー、なんか頭が痛いな。

 

「そういえば、士郎さんとイリヤさんって誕生日はいつなんですか?」

 

ふいにネギ君からそんな質問をされたが思わず俺と姉さんは固まってしまった。

 

「え、えっと士郎さん? イリヤさん? どうかしたんですか?」

「あ、いや…なんでもないわよ、ネギ。私はね―――……」

 

姉さんは覚えていたらしいのでうまく切り返していたが、俺はなにも答えることができずただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

それでネギ君とこのかは不安な顔をしていたのでどうにかポーカーフェイスを作り、

 

「俺は……そうだな。これが特に覚えていないんだ。今まで祝ってもらったことがなかったからな」

 

本当半分嘘半分といったところだな。

あの大災害で俺は自分の名前以外をすべて失ってしまったからな。

 

「そ、そうだったんですか。すみません、変なことを聞いてしまって……」

「いや、構わない。俺も今まで気にしたことがなかったからな。それよりこんな雰囲気ではせっかくの休日も楽しくなくなるから明るくいこうじゃないか」

「そうよ、ネギ、コノカ。今は私が祝ってあげてるから心配ないわよ」

「そうなんかー……よかったわぁ」

 

《すまない、姉さん。変に気を使わせてしまって……》

《いいわよ。もともと悪いのは私達御三家が原因なんだから……》

 

姉さんは念話でその話を出してきたが俺はそんなことはないといって慰めた。

それから元気を取り戻した一同は張り切って新宿の街を巡っていた。

だが、しかし俺もどうやら相当勘が鈍っていたらしい……少し後につけられていることに今頃になって気づくとは。

まぁ、害意はないし知っている奴らだから特に問題はないだろう。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ???

 

 

……私、釘宮円は常日頃から親友の柿崎美砂と椎名桜子の行動を抑えるのに手を焼いている。

まぁ、結局騒ぎに参加しちゃうことはもう慣れだとあきらめているんだけど。

それで今日は一緒に新宿に修学旅行にいくための買い物に来ているのだが、二人はいきなりゴーヤクレープとか関係ないものを買っていてあんまりの衝動買いに私は呆れておもわずキレて結局一緒に買って食べている始末。

ま、楽しいから別に構わないんだけど。

そして三人で話をしながら道を進んでいると美砂がなにかを見つけたのか指を刺している。

そこにはネギ君とこのか、それに士郎さんとイリヤさんが一緒になって買い物をしているようだ。

と、いうか美砂、指を刺すのは失礼だからやめなさい。

 

「なにしてるのかなぁ~?」

「やっぱし私達と同じで明後日の修学旅行の準備でしょ? しかし……ネギ君とこのかは別として、改めて士郎さんとイリヤさんを見てるとなんかやっぱし私達とは違う雰囲気を持っているよね?」

 

確かにそうだね。イリヤさんはその仕草一つとっても上品でまるでどこかのお嬢様みたいな感じがするし。

そして士郎さんはまるでその執事みたい。いや、なに考えてる私? それじゃ士郎さんに失礼でしょ!?

 

「まるでお嬢様とその執事だよね~?」

「ッ!?」

 

桜子がまるで私の心を読んだかのようにそんなことを言っている。無自覚で人の思考を読むな……。

そんなことを考えていると四人が移動し出して、二人は後ろから着いていこうとかいいだしたのでしょうがなく着いていくことにした。

 

「って、いうかこのかって士郎さんのことが好きらしいって朝倉に聞いたんだけど見た限りじゃそんな素振り見せてないよね」

「そうだね~、きっとネギ君やイリヤさんも一緒にいるから落ち着いてるんじゃないかな?」

「こらこら、二人ともそんな話はやめなさいよ。それより早く買い物済ませちゃおう?」

「あれ~? 興味ないのくぎみー?」

「そ、そりゃ少しは興味あるけど、ってかくぎみー言うな!」

 

反論したがいつものように受け流されてしまい少し悲しくなった。

それで四人がデパートの中に入っていったので私達も入っていった。

それでなにか四人は探しているのかいろんな場所を巡っている。

だがそこで士郎さんとイリヤさんはこのかの質問に苦笑いを浮かべている。なんだろうと耳を澄ませてみると、

 

「士郎さんとイリヤさんって意外に世間の流行とかに疎いんやね?」

「ふむ、そうだな。俺はこれといって趣味がないからこういうのにはあまり興味が見出せないんだ」

「私は興味はあるんだけれどどれがどういったものかとかよく分からないのよね」

「そうなんですかー。意外でした。お二人とも寮や学校ではよく皆さんの相談に乗ってあげているんで詳しそうだと思っていたんですけど」

「そうやね。士郎さんって料理や機械いじり以外になんか趣味あらへんの?」

「はは、期待されているところ悪いんだがこれといってないんだ。どうにも俺は流行に乗れないみたいでな。だから今日は案内お願いできるかな」

「そういうことなら任せとき!」

「頼むわ、コノカ」

 

 

 

「う~ん、やっぱり二人とも本当はどこかのでかい家の出なんじゃないかな? 世の中の俗世間の常識を本当に知らないみたいだし」

「まるでこのかが仙人にこの世の理を教えているみたい……」

「上手い例えね、美砂」

「うんうん。士郎さんとイリヤさんってばああ見えて結構芸能関係とかに乏しいからねぇ」

 

桜子の言うとおりである。

以前に士郎さん達に食事を誘われて部屋に行った事があるが二人で暮らしているというのに娯楽とかそういったものはあまりなくて必要最低限のものしか置かれていないからね。

 

思案していると四人はデパートを出た後、妙に年季が入っていて新宿にあるとは思えないようなレトロの品々が置かれている洋館に入っていった。

それで窓の隅で覗いていると話し声が聞こえてきた。

 

「これなんてどうだね? さっきこのかが提案した曲とは違うがそれに近いものが入っているものだ」

「いいんやないか? 年代チックなところもアスナ好きそうやしな」

「そうですね。それじゃこれにしましょう」

「それじゃ膳は急げよね。プレゼント用に包んでもらいましょう?」

 

プレゼント? アスナに? なんでだろう……? 少し考えて、あ! と思い出したときに、

 

「そいえば明日ってアスナの誕生日だね~?」

「そうだね。すっかり忘れていたね」

「やっぱり! それじゃちょっとお金足りるか分からないけど私達もなにか買ってあげようか」

「賛成~!」

「そうだね」

 

 

それで私達も乗りかかった船というものでアスナの誕生日の品を買うことにしたのだった。

それから数刻して帰り道になりネギ君は疲れたのか眠ってしまっていて士郎さんが背負っている。

ふと、気づいたことだがいつの間にかイリヤさんがいなくなっていて不思議に思っていると、

 

 

「三人とも、なにをしているのかしら?」

「「「!?」」」

 

突如、隠れていた私達の後ろにいなくなっていたイリヤさんが立っていた。

いつの間に来たんだろう……?

 

「覗き見は良くないわよ、三人とも。ネギやコノカは気づいていなかったけど私とシロウは気づいていたからね」

「あの~……いつごろから気づいていたんですか?」

「ん―――……シロウは新宿で歩いている途中からかな? 私はあなた達が私達のことを気づいたときとほぼ同時といったところね」

「あなた達はなにものですか!?」

「いやね~? 普通の人間よ」

 

私の心からの突っ込みをイリヤさんはまるで動じず返していた。一体ほんとうに何者なんだろう?

 

「それより私は常々最近思っていたことなんだけど聞いてくれる?」

「え? なんですか、急に改まって?」

「そうね……余計な話は飛ばすとして、三人とも、今のコノカを見てどう思うかしら?」

「どう思うって……」

 

それで私達はあらためて三人を見てみた。

ネギ君は今はご就寝のようで対象から省くとして、士郎さんはこれといっていつもと変わらない。

だけどこのかだけはどうも様子が違うらしい。

時折、士郎さんに話しかけられてはしっかりと受け応えをしているがどうにも動きがぎこちない。そしていつもより顔が火照っていて緊張しているのがよくわかる。

 

「どう?」

「そうだね? なんかイリヤさん達と歩いているときとは違って今はネギ君も寝ていて二人きりって感じみたいで緊張しているみたいかな?」

「それで顔を赤くしているし朝倉の言った通りこのかって士郎さんに恋しているのかな?」

「私もそう思います」

 

そしてイリヤさんは私達に再度聞いてきたので今の率直の感想を桜子、美砂、そして私の順で言ってみた。

 

「はぁ~……やっぱりそう見えちゃうわよね? コノカもきっと苦労するわね」

「どーいう意味ですかー?」

「シロウってね、愚がつくほどの鈍感なのよ。まったく、シロウ本人は無自覚で女殺しの笑顔を普通に向けるくせに好意には気づかないから困ったものよ」

「あー、それはわかりますね。士郎さんって普段はぶっきらぼうな感じなんですけど意外に表情豊かで朝倉が言ってたんだけどあれは魔性の笑みだって」

「うんうん。確かにそうだね~?」

「ま、それならそれで私が独占できるから別に構わないんだけどね」

「「「え゛……?」」」

 

今、なんかすごいことが聞こえてきたんだけど聞き間違いかな?

だけど美砂も桜子も同じく固まっているようなので幻聴ではないらしい。

 

「あ、あの、イリヤさん?」

「ん? なぁに、マドカ?」

 

なんかイリヤさんは満面の笑みを浮かべているんだけどその、なんというか一瞬悪魔の尻尾と翼が見えたのは気のせいだろう? それで勇気を振り絞って聞いてみた。

 

「あの、イリヤさんってもしかして士郎さんのこと……」

「ええ。私もシロウのことは大好きよ。でもそれはあくまで姉弟として。血は繋がっていないけど、でも私はシロウの気持ちを尊重してあげたいから」

 

イリヤさんはその大人びた笑みで私達にそのことを伝えてくれて、思わずその素敵な顔に見惚れてしまった。

美砂と桜子も顔を赤くして「綺麗……」とか「やっぱり高貴なオーラが……」とか呟いている。

思っていた通りイリヤさんは素敵な女性だ。もし私が男だったら告白していたかもしれないかも?

 

「三人とも? それにイリヤさんもこんなとこでなにしてるん……?」

 

だが、その時突然後ろからこのかの声が聞こえてきた。心なしか言葉に怒りがこもっているようだ。

それで、イリヤさんは普通に笑っているが私達はゆっくりと、それはもうゆっくりと振り向いた。

そして、そこには笑顔のこのかがいた。いたんだけど……昔聞いたことがある話で女性は怒りが限界を越えると笑顔になるっていう話がある。

今まさにそれがこの場で実現しているぅ!?

 

「三人ともいつからつけてたん!?」

「ごめんなさーい!」

 

次いでこのかから怒声があがり、その尋常じゃない様子のこのかに私達はただ逃げることしかできなかった。

 

 

 

「ここにいたのか、姉さん」

「ええ」

「しかしやっぱりつけてきていたのはあの三人だったか」

 

士郎はそう言って尾行していた釘宮、柿崎、椎名の三名をなぜか怒って追いかけているこのかを見ながら、それでも起きない背中で寝ているネギをよそい直してその微笑ましい(?)光景に笑みを浮かべていた。

そして結局、その日のうちに誕生日プレゼントのことが三人娘によりばれて誕生日会が開かれたのだった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 

 

士郎たちがそんな休日を送っている中、エヴァンジェリンは士郎の魔法のことについて調べていた。

 

「ドーシタ御主人? シケタツラシテルゼ?」

「なに、まったく衛宮士郎は興味が尽きない奴だと思っただけだ」

「確カニソーダナ。奴トハマタ全力デ戦ッテミテーゼ」

 

こいつは本気で士郎のことを気に入ったらしいな。ま、それはそうだろう。油断したとはいえ士郎はチャチャゼロを降したのだからな。

 

「それにしても本気で奴は何者だろうな?

聖骸布で編まれている外套を着ている。

吸血鬼退治専門の投擲兵装である“黒鍵”。

陰陽の模様が打ち込まれている白と黒の短剣、おそらくは中国に伝わる名剣“干将・莫耶”。

チャチャゼロを縛り上げた“マグダラの聖骸布”。

そしてなによりあの時、発動した士郎の魔法、“ロー・アイアス” ……! どこかで聞いたことがあると思えば……茶々丸」

「はい、アイアスとはギリシャ神話における一大戦争、トロイア戦争において活躍された英雄アイアスのことを示すものと思われます」

「やはりそうだろうな。衛宮イリヤがいうにはあれらはすべて士郎しか使えないというもの。

アーティファクトでもアポーツでもあるまいし……しかもあれだけのものをシングルアクションで瞬時に手元に出すとは。

そして奴自身が会得している様々な体術はすべて二流らしいがそれを覆すほどの技量と経験を持ち合わせている」

「ケケケ、確カニソウダ。奴ニハ型ガナイカラ次々ト動作ガ変化シテ攻撃ガ困難ダッタカラナ」

「ほんと、奴が何者なのか追及していくたびに頭がこんがらがってくるな……」

 

だがしかし、エヴァンジェリンは深い笑みを浮かべて、

 

「だからこそ未知数の奴の力が欲しいな。くくく、これからが楽しみだ」

 

そしてエヴァンジェリンは声高々に笑うのだった。

と、同時に仮契約を交わすにはもってこいの舞台である修学旅行にいけないことを改めて実感し肩を落としていたのは本人だけの秘密だった。

 

 

 




原作みたいに勘違いはなかったです。


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022話 修学旅行編 1日目(01) 観光パニック!?

更新します。


 

 

修学旅行当日、俺はいつもどおり起きていた。(起床は四時。)

それでも普通に教師陣の集合時間には間に合う時間というのは姉さんが言うにやはり生活環境が俺は変なのだろうか?

まぁ、いい。朝食と行きの弁当を作った後、姉さんを起こして駅に向かうとしよう。

ちなみに弁当に関しては対策はしっかりとしてある。なんせいつ楓が掠め取ろうとするのかわかったものではないからな。

そしてまだ眠いらしいのか目を擦っている姉さんをなんとか駅に連れて行き、つい最近学園長に同業者と知らされた瀬流彦先生と話をしていた。

 

「それで、瀬流彦先生。ネギ君にはまだ知らせなくていいんですね?」

「うん。それで頼むよ、士郎君にイリヤさん。でも学園長も人がいいのか悪いのかわからないね」

「まったくですね。今日は一緒ですが明日、明後日は奈良のほうは頼みましたよ。俺達のほうはネギ君含め3-Aを守りますから」

「わかったよ」

「それじゃそろそろ話は切り上げましょう。もうどこかで見張られているかわからないですからね」

「了解した」

 

俺達は瀬流彦先生と別れた後、ネギ君がホーム入り口からとても浮かれている顔をしながらやってきた。

なので、もう先に生徒のみんなと話をしているネギ君の方へと近寄っていき、

 

「あ、士郎さんにイリヤさん! おはようございます!」

「おはよう、ネギ君」

「おはよう、ネギ。楽しそうね?」

「はい。京都には父さんの家もあるっていうからわくわくしちゃいまして」

「そうか。だからといって気は抜かない方がいいぞ? 今回は任務付きなんだからな」

「はい、大丈夫です」

「それならいい」

 

それから3-Aの生徒や他のクラスの生徒も続々と集まりだしてきた。

 

「士郎さーん、イリヤさーん、おはよう!」

「おはようです」

「おはようでござるよ」

「おはよう、楓に鳴滝達。ほれ、ご要望の弁当だ。サンドウィッチにしてあるから後でみんなにも分けてやるといい」

「ありがとー!」

「気前がいいでござるな」

「お前にいちいち狙われてはかなわんからな」

「ニンニン♪」

 

……楓、澄ました顔をしているといつか天罰を下すぞ?

 

「士郎さーん、一昨日の誕生日会楽しかったね!」

「また料理をゴチになりいってもいいですか?」

「なら事前に教えておけよ?いつでも作れるとは限らんからな」

「はーい!」

 

元気に返事をして三人はみんなのもとへと入っていった。

 

「生徒達に慕われていますな、衛宮先生」

「新田先生ですか。ええ、まあ管理人もしていますから自然と生徒達が部屋に来るものでして」

「そうですか。ではさぞ疲れるでしょうな」

「そんなことはないわよ。いつもみんなはいろんな話を持ち込んでくるけど楽しい話題ばかりだから退屈しないで済むわ」

「ならよかったですよ。では私も点呼を取るのでこれで」

 

新田先生は笑いながら違う場所で先ほどとは打って変わって顔を鬼にして並ばない生徒を叱っていた。

 

「あれで鬼の新田って呼ばれているんだから甘いわよね、シロウ? あれならまだライガのほうが怖いわ」

「こらこら。姉さん、新田先生と雷画じーさんを比べてはいかんだろ。あちらは本物だからな」

「確かにそうね。あ、ネギも点呼を取っているみたいだから私はシズナと一緒にいるわ」

「わかった。では行ってくる」

「ええ」

 

それでネギ君のところに着いてみたはいいがなにやら困っているようだ。

その先には刹那とあまり話したことはないがザジがいた。

 

「どうした、ネギ君?」

「あ、士郎さん。それがですね。エヴァンジェリンさん達がいないので6班が二人だけであまってしまったんですがどうしましょう?」

「そうなのか?」

「はい。それでどうしたらいいでしょう、士郎さん?」

「うん、そうだな……」

 

そこで考え込んだが先にネギ君がアスナ達に刹那を任せてしまったのでそれに承諾することにした。というか一人で決めるのならわざわざ俺に聞くな。

 

(士郎さん、確かに近寄る努力はするといいましたが、これは……)

(いいではないか。いい機会だから近くで見守るだけでもいい経験だぞ)

(……はい、なんとかやってみます)

 

「せっちゃん……同じ班やね」

「あ……」

 

そこでこのかが刹那に話しかけたのだが刹那は一度お辞儀したがそのまま無言で歩いていってしまってこのかが悲しい顔をしていた。

……やはり前途多難だな、これは。もう少し正直にぶつかれれば……ま、それが出来ていれば苦労はしないか。

それなのでさりげなく俺はこのかを元気付けることにした。

 

「このか、不安そうな顔はしないほうがいい。どういった事情かは分からないがこれから話しかけるチャンスはあるさ」

「あ、士郎さん……うん、そうやね! ありがとなぁ!」

 

よし、これでいい。しかし事情を知っているとはいえ実に歯がゆいな。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

それで点呼を取り終わった後、電車は関西へと出発して俺と姉さんは生徒と別の教師用の車両で話し合いをしていた。

ちなみに現在、ネギ君は生徒達の方へ遊び……もとい見回りに行っている。

 

「そう。まだお互い話し合えるチャンスは巡ってきていないのね」

「ああ。このかは頑張って話そうとしているのだが刹那は一歩引いてしまうんでな」

「セツナも難儀ね」

「まったくだな。まぁ時間はたっぷりあるから今回に賭けてみようと俺は思っている」

「そうね。西の刺客もきっとコノカのこと絶対狙いそうだから」

「それを考えると学園長をますます叩きのめしたくなってくるな……」

「同感ね。今度はどんな罰を与えようかしら?」

 

姉さんの悪戯な笑いに冷や汗を垂らしていると突然、生徒達の車両から悲鳴が上がった!

おい、いきなりか!?

 

「早速のようね。それじゃいってらっしゃい」

「ああ」

 

それで着いてみるとなんともまぬけな、いや異様な光景が広がっていた。

見渡す限りカエルの群れが車両を覆い尽くしていた。

魔法と同じで呪術も隠匿するものではないのか? あ、頭が……

と、とりあえず……

 

―――解析開始(トレース・オン)

 

車両を解析してみたところ、魔の力が宿っているお札が貼られていることが判明して、俺は範囲にそれらしい術者がいないことを確認してお札に軽い術なら吹き飛ばす効果のある針を投影して指で放ちそれがお札に刺さると同時にカエルの大群は姿を消した。

これで俺がしたというのも気づかれないことを祈ろう。

それよりカエルは消えても惨事は収まっておらず呆然としているものや気絶しているものが後を絶えていなかった。

……しずな先生や和泉が気絶しているのはまぁいいんだが、驚きなのは楓が気絶していることか?

 

「あ!? 待て!」

 

そこでネギ君が突然車両内を走り出して、駄目だぞ? と注意しようとしたが、一羽の燕が親書を加えて飛び去っていくことを確認し、俺も追おうとしたがそこで通信用の携帯が鳴り出てみると相手は刹那だった。

 

『士郎さん、親書の方は任せてください! それよりお嬢様達のほうをお願いします!』

「了解した。それと間抜けなお札は破壊しといたから安心しておくんだな」

『はい。では!』

 

ピッ! と携帯を切るととりあえず俺はネギ君の代わりにみんなを落ち着かせた。

 

「それより、この程度でなんで楓が気絶をする……?」

「楓はカエルが大の苦手なんだよ、衛宮先生」

「龍宮か……しかし意外だったな。まさか楓がな」

 

こちらの世界を知っている龍宮が話しかけてきたのでとりあえず受け応えをしておいた。

 

「なにか困ったことがあったなら私にも話をまわして下さいよ? 依頼料はもらいますがね」

「いつものことながらちゃっかりしているな……」

「これが性分ですので。それじゃ席に戻りますよ」

「ああ。気絶した奴を頼むぞ。俺は少し“あちら”を見てくる」

「了解したよ。それと、先ほどのはナイス判断でしたよ」

「やはりお前は見えていたか……」

「ええ。それじゃ……」

 

龍宮、侮れん奴だな……。タカミチに習って気づかれないように打ち出してみたのだがな。

ま、敵ではないのだから今は傍観しておこう。

とりあえずネギ君の方へ行ってみるとしようか。

だが、結果は大丈夫だったみたいだな。刹那がネギ君の走っていった方から歩いてきている。

だからすれ違いざまに、

 

(親書の方は取り返しました。そちらの方はどうでしたか?)

(すまん、お札のほうは気づかれないように破壊したが術者本人はお札が破壊されたことによって用心したようでうまく隠れたようだな。だからもう車両内では仕掛けては来ないだろう。だが、これで妨害工作はしてくるのは確定と考えて行動した方がいいだろう)

(はい。まだ修学旅行は始まったばかりですから用心します)

(それで多分気づかれてはいないようだから、これから俺はもう少し傍観することにする。刹那は顔を知られているが俺はまだ知られていないだろうからな)

(わかりました)

(ではそろそろ気取られては間抜けだろうから話はまた後にしよう)

(はい)

 

瞬時のやり取りで俺と刹那は会話を終了させて席に戻った。

しかしいきなり仕掛けてくるとは相当厄介な奴らだな。

とりあえず姉さんと普通の会話をしながら分割思考で念話をしていた。

 

《もう関西呪術協会の奴らが仕掛けてきたようだ》

《早いわね。それでどんなことがあったの?》

《呪術でカエルの大群が出現していた……》

《……は? なにそれ、それって相当なめられているって事じゃない?》

《ま、しかたがないだろう。ネギ君ではあれはなにかわかっても解除は困難だろうからな》

 

はぁ、行きからコレでは先が思いやられるな。

そうこうしている内に電車は京都へと到着した。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

さっき、桜咲さんが親書を取り返してくれたんだけど、ど、どうしよう~……カモ君が「あいつは怪しいぜ!」といって警戒している。

確かに刹那さんの足元にはシキガミっていうものが落ちてたし。

エヴァンジェリンさんに続いて桜咲さんまで敵かもしれないなんて。

と、とりあえず警戒しなくちゃ。

それで京都に着いたはいいんだけど電車から出る前にまた桜咲さんがこちらを見ていた。やっぱり敵なんだろうか……?

でもそれはそれとして京都に着いた。それから清水寺っていうでかい神社に着いて集合写真を撮影した後、士郎さんに相談しようとしたんだけど、

 

「これが噂の飛び降りる奴!?」

「だれか飛び降りれ!」

「では拙者が……」

「ええっ!?」

 

とおっ! と軽快な叫びとともに本当に楓さんが飛び降りちゃった!?

ええ!? 楓さん!!?

それであたふたしていると、すぐさま士郎さんが、

 

「あの阿呆めが!」

 

楓さんを追って飛び降りた!!?

幸い他のクラスの人達は気づいていないようだけど僕たちは急いで階段で下に降りていった。

だが、下では頭にでかいたんこぶを作った楓さんが体を震わせながら正座をして士郎さんに説教を受けていた。

……士郎さんの説教している時の笑顔がすごい怖かったのがとても印象に残りました。

 

「あれは、怖いね……」

「うんうん、怖い。あれは笑顔だからこそだせる恐怖だね」

「まさか本当に飛び降りるなんて思わなかった……」

「楓ねぇ、気の毒に……」

 

みなさんは本当に気の毒そうな顔になっていましたが、すぐさま気を取り直して先に進んでいった。

順応高いなぁ……。

それと夕映さんが士郎さんと楓さんのところに向かっていき、

 

「実際に飛び込む光景を見れて感激しましたです!」

「……ふむ。なら、綾瀬も飛び降りてみるかね? よければ全力で手伝ってあげるぞ?」

 

士郎さんの恐怖の笑顔がクリーンヒット!? 夕映さんはすぐさま土下座をしていた。

 

「ユエ吉も愚かねぇ……あれは蟻地獄にみずから飛び込む蟻みたいなものよ?」

「あわわ、ねぇパル、助けにいかなくて平気かな?」

「いって、それからどうするのよ?」

 

笑っていたハルナさんの表情が一変して真剣になった。

確かに僕でもそう思います。士郎さん怒ったら本気で金縛りにあったみたいで動けないですから。

 

「ふう、次やったらこれでは済まさんぞ?」

「やったらどんなことをするでござるか……?」

「仏像を抱いて正―――……「拙者が悪かったでござるから、どうかご容赦を!」……ならいいだろう」

「士郎の旦那、恐ろしいぜ……今の発言最後まで聞こえなかったが想像しちまった」

「うん。僕も想像しちゃった」

「士郎さんってたまに過激よね……」

「あれくらい、まだ序の口よ、アスナ?」

 

アスナさんとカモ君とそんな会話をしていたら後ろからイリヤさんが声をかけてきた。

でも序の口って、一体……?

僕の疑念の表情を察したのかイリヤさんは淡々と語ってくれた。

 

「そうね……昔にね、シロウがあるお城で執事をしていた時のことよ」

「執事!?」

「お城!?」

「話の腰を折らないの。その時にね、あまりにしつこい客が来ていて、そこの主もシロウも相当ストレスがたまっていたのかそいつは数分後にはどこかの部屋に連れて行かれてそれから私は二度とその人の顔を見ることはなかったわ」

「………見ることがなかったって、なにしたんすかイリヤの姉さん?」

「さぁ? 私は一切関与していないから知りたいならシロウに直接聞くことね。でも、その時の断末魔の叫びは凄かったわ。思わず参加したいくらいだったわよ」

 

イリヤさんは懐かしそうに空を見上げていますが……とてもじゃないですが士郎さんに直接なんて恐れ多くて聞くことは出来ません!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

ふぅ、今のところはこれといって妨害工作は見当たりませんね。

それにしても、楓め。実は邪魔しているのではあるまいな?

あれで士郎さんと口会話が出来なくなってしまった。

それでしかたなくお嬢様やネギ先生達を見ていることにしたのだが、士郎さんにまたもやそんな過去が。どれだけのことに手を出しているのだろうか?

とりあえず、今はネギ先生のことを見張っていよう。

士郎さんもまだ傍観に徹するということだから頼りはネギ先生だけだ。

しかし、あの先生についている使い魔(?)の視線が気になるな? 士郎さんの話では頭は回るが同時に空回りが多いと聞くし。不安だ……

 

しばらくしていいんちょさん達が恋占いの石の場でチャレンジするみたいだ。

そこで楓がやっと落ち着いたのか士郎さんの視線が伝わってきて、

 

『雪広達を止めたほうがいいか? 途中に落とし穴があるが……』

『え、本当ですか?』

『ああ、それにまたカエルの符が敷かれているな。相当なめられているみたいだな。さて、ネギ君はどうでるか……だが、今はなぜか注意が刹那に向けられているから気づくのはまず無理だろう』

『はぁ、私ですか?』

『おおかたカモミールがネギ君にいらん事を吹き込んでいるんだろう? 俺はとりあえず姉さんと周りを警戒しておくから後は頼むぞ』

『はい、わかりました』

 

そこで士郎さん達は他の先生達と日常会話をしだしていた。器用だ……。

だが、やはり士郎さんの言ったとおり、

 

「わっ!?」

「な、なんですの!?」

「キャ―――!!またカエル!?」

「大丈夫ですか!いいちょさんにまき絵さん!?」

 

妨害工作に引っかかっていて後手に回ってしまっている。本当に大丈夫だろうか?

それからしばらくして音羽の滝についた一行は何名かが真っ先に縁結びの水を飲んでいたが突然次々と酔って倒れていった。

お酒の樽が上に仕掛けられているのは知っていたがそれも気づかないなんて、

 

「まぁ仕方ないか……色々重なっていて注意が霧散しているだろうから。後で士郎さんとイリヤさんと対策を練らないと……」

 

その後、酔いつぶれたものを無理やりバスに詰めて旅館『嵐山』に直行した。

そこで一度私は気を静めるためにお風呂に入ることにした。

そしてお風呂場に到着するとそこにはイリヤさんがいた。

 

「あら、セツナ。この時間は教師の時間よ?」

「あ、すみません。少し考え込んでいたもので忘れていました」

「ま、いいわ。それじゃ入るとしましょう。ここまで来て帰すのもあれだから」

「ありがとうございます」

 

それでイリヤさんと一緒にお風呂に入ったのだが、なんといいますか、やはりイリヤさんは美人だ。

肌もまるで雪のように白くてその銀色の髪と赤い瞳が神秘性を持っている。

 

「ふふ……どうしたの、セツナ?」

「あ、すみません! あまりにイリヤさんの体が綺麗なもので……」

「あら、それをいうならセツナだって綺麗よ? 繊細で日本で言うなら大和撫子みたいな感じね」

「あ、ありがとうございます」

「ふふ……本当ならもう少しセツナとお遊びしたいとこなんだけれど本題に移るとしましょうか」

「ええ。その前に……そこに隠れているのは誰だ!?」

「あ、セツナ! 待ちなさい!」

 

イリヤさんが何かを言っているようだが殺気を感じた私はすかさず夕凪を取り出して構えをし、

 

 

―――神鳴流奥義!斬岩剣!!

 

 

逃げようとしたので眼前の岩ごと切り裂いた! そしてすかさず相手に詰め寄り取り押さえようとしたが夕凪を弾かれた!?

だが、問題はない! エモノ無しでもこの程度なら容易い!

そして捕まえたのはいいのだが、その相手はなぜかネギ先生だった。

 

「あ、あれ?」

「だから待ってっていったのに……余裕が無さ過ぎよ、セツナ?」

 

後ろからタオルを巻いたイリヤさんが呆れた顔をしていた。

そこで冷静になってすぐに私もタオルを巻いて、

 

「やいやい! 桜咲刹那! やっぱりお前も関西呪術協会の刺客だったんだな!?」

「それは勘違いもいいとこよ、カモミール。セツナは私達の仲間よ」

「え? そ、そうなんですか、イリヤさん?」

「ええ。でも警戒していたとはいえ覗きなんてするものではないわよ、ネギ」

「あ! そ、そんなつもりは……!」

 

誤解はイリヤさんがいたためすぐに解けたが、なるほど……ネギ先生は私を刺客だと勘違いしていたのか。

 

「それよりカモミール? また早とちりしたのね? なにかあったら私かシロウに相談しろっていっておいたわよね? お仕置きかしらね……?」

「ひぃぃぃ!? 蒲焼だけは許してくだせぇ!」

「それは先延ばしして、それより士郎さんは今はなにをしていますか?」

「外からの侵入者の警備で屋上に陣取っているわ」

「そうですか」

 

「きゃ―――!?」

「いや―――ん!!」

 

よかった。と言おうとした瞬間、脱衣場でお嬢様達の悲鳴が聞こえてきた!

まさか今度こそ敵か!?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

む? なにやら風呂場のほうが騒がしいな……まさか!?

その時、姉さんから念話が聞こえてきて、

 

《シロウ! 緊急事態よ、コノカ達が脱衣場でなにか猿の大群に襲われているわ!》

《脱衣場……俺は、どうすればいい?》

《っ! そうね、それじゃその場からコノカ達の体を見ないようにすべての猿を射抜いて!》

《了解した》

 

それで俺は弓を構えようとしたが、いきなり不穏な気配を感じてその場から横に飛んで魔力弾が飛んできた方へと即座に見やるとそこには数体の鴉の人型の妖怪が俺の行く手を塞いでいた。

 

「ちっ!? 邪魔だ!」

 

俺はすかさず干将・莫耶を投影して瞬動ですぐに敵に肉薄して切り払った!

だがこれで足止めは成功されてしまった!

 

《姉さん! そちらは大丈夫か!?》

《ええ。なんとかセツナがすべて切り払ったみたいだわ。それにしてもどうしたの、シロウ?》

《すまない。突如、まるで空間転移してきたみたいに妖怪が現れて襲われた》

《え!?》

《これはいよいよきな臭くなってきたぞ。本気で用心せねばな》

《そうね……》

《む!?》

 

俺は気配がした方へとすかさず弦を引いて矢を放ったが中るイメージがしなかったのでおそらく逃げられたのだろう。

 

《どうしたの!?》

《おそらく式使いがいたから矢を放ったのだが逃がしたようだ》

《そう。とりあえずここには主要人物は揃っているみたいだから休憩室で会いましょう》

《ああ》

 

俺はとりあえずもう一度周辺を確認してもう敵がいないことを確認した後、旅館の中に入っていった。

すると玄関のところで刹那がどうやら結界らしきお札を貼り付けていたので話しかけてみた。

 

「刹那、そちらは無事だったようだな」

「はい。それより妖怪に襲われたと聞きましたが大丈夫でしたか?」

「大丈夫だ。それより援護にいけずにすまなかった」

「構いませんよ」

「それとどうやらすでに旅館内に潜伏していたようだな。先ほどここの従業員らしい服装の女を確認したが取り逃がしてしまった」

「呪符使いの女、ですか……厄介ですね」

「そうだな。それより姉さんやネギ君達が来たようだから作戦会議といこうか」

 

 

 




さっそく士郎達の存在がバレている模様ですね。


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023話 修学旅行編 1日目(02) 対、西の刺客

更新します…。

活動報告に私の今の素直な意見を投稿していますので興味がありましたらどうぞ…。


そしてホールに集まったのは俺、姉さん、刹那、ネギ君、アスナ、カモミールだ。

とりあえず結界を姉さんに張ってもらい話をすることにした。

 

「ええ!? 士郎さんにイリヤさんは刹那さんがこちらの関係者だって知っていたんですか!?」

「そうだ。ネギ君は知らなかったのかね?」

「はい……すみません」

「俺っちも勘違いしていたようで謝るぜ、剣士の姐さん!」

「いえ、それにしてもネギ先生は優秀な魔法使いと期待していたんですが、意外と対応が不甲斐なかったようなので敵も調子に乗ったようです。士郎さんとイリヤさんがうまく立ち回っていてくれて助かりました」

「あう……すみません! まだ未熟なもので……」

「いえ、もう過ぎたことはいいです。それより神楽坂さんは固まっていますがやはり話しに参加して大丈夫だったんですか?」

「え、ええ。もうすでに巻き込まれているようなものだし気にしていないわ。ただ、やっぱりオコジョが喋っても驚かない世界の人なんだなと思って……」

 

小声でアスナはそんなことを呟いている。まぁ、その気持ちはわかるが今は聞き流しておこう。

 

「とりあえず士郎さん達はご存知だとお思いですが一応ネギ先生達には伝えておきましょう。私達の敵は関西呪術協会の一部の勢力で陰陽道の『呪符使い』です」

「その、ジュフツカイ? って一体なんなの?」

「呪符使いとは京都に伝わる日本の魔法『陰陽道』を基本としていて西洋魔法使いと同様、呪文などの詠唱時に隙が出来るのは同じです。ですから魔法使いの従者(ミニステル・マギ)と同じく、こちらには善鬼・護鬼といった強力な式神をガードにつけてその間に詠唱を済ませるものが殆どでしょう」

「善鬼に護鬼……稀代の天才陰陽師と言われる役小角(えんのおずぬ)が従えていたという鬼のことか」

「ええ。士郎さんは知っていましたか。ですが今はその伝承とは違いそれほど強くはないでしょう」

「だろうな? そんなものが今の時代に暴れたら京都は焼け野原になるだろうからな」

「ねえ、シロウ? そんなにそのエンノオズヌっていう奴が使役していた鬼は強かったの?」

「ああ、伝承では山をも砕く力を持っていたと聞く。姉さん的にわかり易いように言わせればバーサーカーが何体も狂化済みで暴れまわっているようなものだ」

「それは……怖いわね」

「……バーサーカーとは?」

「私の昔の従者よ。それより話を進めましょう」

「え、ええ。それで続きですが他には私の出である京都神鳴流がバックにつくことがあります」

「それなんですけど、刹那さんはなんなんですか?」

 

ネギ君はどうにか頭を働かせながら質問をしている。カモミールも神妙な面構え(?)だ。アスナは……可哀想だから表記するのはよしておこう。

 

「京都神鳴流とはもともと京都を護り、そして魔を討つために組織された掛け値なしの戦闘集団のことです。きっと護衛についたら厄介な相手になることはあきらかでしょう」

「ええー!? それじゃやっぱり敵って事ですか?」

「はい、ですから彼らにとってみれば私は西を抜けて東についた裏切り者です」

「だが、それは理由あってのことだと信じてあげてくれ」

「そうね。セツナはコノカのことを護りたいが為にこちらについたんだから」

「士郎さん、イリヤさん……ありがとうございます」

「気にするな」

 

そしてしばらくしてネギ君達を見るととても感心したような眼差しを刹那に向けていた。

 

「よーし、わかったわ! 桜咲さん! さっきのこのかの話を聞いても正直半信半疑だったけどそれを聞いてこのかの事を嫌ってないってわかったから!」

「はい! 誤解も含めて十二分に協力します!」

「神楽坂さん、ネギ先生……」

「それじゃ“3-A防衛隊(ガーディアンエンジェルス)”結成です!」

「……なら、俺はそれに該当しないな」

 

俺はネギ君達の刹那に対する感情論が変わった事に内心喜んでいたが、そのネーミングに即座に否定心をこめて目を瞑りながら言った。

 

「そ、そんなぁ~……」

 

とか、そんな声が聞こえてきたが正直言ってそんなチーム名は俺はいやだ。と本心が叫んでいた。

それから姉さんの威圧も込められた説得により渋々納得させられた。って、いうか姉さん?賛成は本気ですか?

そしてネギ君はそのまま外の見回りにいってしまった。

 

「とりあえず今ネギ君はああなのでアスナに刹那。各部屋を頼んだぞ。俺は屋上で姉さんと陣取りを続けていよう」

「はい」

「任せて士郎さん!」

 

よし、これで変なことに意識を削がれないで弓兵の役割を果たすことが出来るだろう……何を考えている? 俺はアーチャーではないぞ。

そんな無駄なことを考えていないで外の意識に集中することにした。

 

「それで、シロウ。今回の敵はどう?」

「甘い、と言うべきなのだろうか? 聖杯戦争や今まで経験してきた戦いの時に比べればなんて軽いものだと思うよ」

「そう。でも事は慎重に動くことが大事よ? リンのように油断は厳禁なんだからね」

「ああ。そこはわかっているよ。いつどこに強敵がいるかわかったものではないからな」

「それならいいわ。それよりやっぱりまだ旅館内に敵がいたんじゃないかしら?」

「!!」

 

瞬間、俺は姉さんを抱えて屋上から飛び降りてこのかを連れ去っている輩の後を追った!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

油断した!? まさかこのかさんがもう奪われていたなんて!

すぐにアスナさんと桜咲さんと合流してへんてこなお猿の格好をした人を追った。

 

「やはり! 人払いの呪符です! まったく人気が無いのはそのせいでしょう!」

「そ、そうなの?」

 

とりあえずなんとか猿が逃げ込んで発車しようとしてした電車に乗り込むことは出来たけどいきなり水が僕達の車両の中を飲み込んで詠唱もうまくできない!

このままじゃ! その時、刹那さんが水の中で剣を振った瞬間、

 

「あれ~~~!?」

 

水がすべて流されて駅に着いた途端、ドアが開きお猿の人も一緒に流されてきたけどすぐに体勢を整えるとまたこのかさんを抱えて走り去っていった。

 

「見たか! そこのデカザル女。嫌がらせはよしていい加減お嬢様を返せ!」

「なかなかやりますなぁ。しかし誰がおとなしく聞くもんかいな! お嬢様は返しませんえ?」

「待て!」

 

それからお猿の人を追っている間、なんでこのかさんがお嬢様なのかを聞くと、

 

「おそらく奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうと考えていると思われます!」

「え!?」

「嘘!?」

「私も学園長も士郎さん達も甘かったかもしれません。こんな暴挙に出るなんて思ってもいませんでしたから……! そうだ! 士郎さん達は!?」

「そ、それが連絡したんですが電話に出てもらえなくて……」

「ちぃッ! まさかもう士郎さん達のことを嗅ぎつけた連中がいたなんて! きっと今頃は妨害を受けているのでしょう! 今は私達だけで対処するしかありません!」

 

そして大きい階段の広場に出たらそこにはお猿のきぐるみを脱いで嵐山の従業員の格好をした女の人が立っていた。

 

「ふふ、よおここまで追ってきよったな。だけどやっぱりあの男を足止めしといて正解だったようや」

「やはり! しかしどこで士郎さん達のことを!?」

「あるツテの情報で知ったんや。しかし今頃その男はやられている頃やろな~?」

「そんな!?」

「落ち着いてください、ネギ先生! 士郎さんの実力をご存知なら冷静になるべきでしょう!」

 

そうだ! 刹那さんの言うとおり……士郎さんはエヴァンジェリンさん達と互角にやりあったんだから負けるわけが無いよね!

 

「せやけど、あんさん達だけでもやっかいや。早々に逃げさせてもらうえ!」

 

するとまたお札を女性の人は出して刹那さんはなにかに感づいたのかすぐに飛び掛ったけどそれは間に合わなくて、

 

「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす……喰らいなはれ! 三枚符術京都大文字焼き!」

 

お札から魔力が溢れて一気にそれは増大して炎で『大』の文字が浮かび上がったが、

僕をなめていると怒るよ?

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 吹け、一陣の風。『風花・(フランス・)風塵乱舞(サルタティオ・プルウェレア)』!!」

「な、なんやぁ!?」

 

女性の人が取り乱しているうちに僕はアスナさんの仮契約カードを出して、

 

「逃がしませんよ! このかさんは僕の生徒で……大事なお友達です! アスナさん!!」

「ええ!」

「契約執行!180秒間!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 

そして一気に刹那さん達と駆け上がっていってふとさっきカモ君に聞いた仮契約カードの機能を思い出したので、アスナさんにそれを発動させて渡したけど、

 

「って、ちょっと!? なんでハリセンなのよ!!」

「あ、あれ? おかしいなぁ……」

「こりゃハズレかもな……?」

 

カモ君、今だけは喋らないで。僕、へこんじゃうから。

だけどアスナさんはそれに構わずハリセンを振り下ろしたらいきなりお猿の人形が動き出して同時に攻撃を仕掛けていた刹那さんの剣も防がれてしまっていた。

 

「なに、こいつら!?」

「おそらく先ほど話した善鬼に護鬼です!」

「こんな間抜けな奴らが!?」

「外見で判断はしてはいけません! 見掛けに反して強いです!」

「ホホホホ! ウチの猿鬼と熊鬼をなめてかかったらあかんえ? 一生そいつらの相手をしていなはれ!」

 

そんな! いきなりそんな強い鬼が出てくるなんて……!

だけどアスナさんは我武者羅に振ったハリセンが鬼に直撃すると鬼は霧のように消えてしまった。

カモ君も驚いているけど、アスナさんが有利になったことで刹那さんが詰め寄った。

だけど、まだ伏兵がいたのかいきなり空から人が振ってきて刹那さんと打ち合った。

 

「まさか神鳴流剣士!?」

「月詠いいます~。先輩、少しお相手付き合ってもらいますね~?」

 

「兄貴、やべぇ! 剣士の姐さんが防戦一方でアスナの姐さんも捕まっちまってやがる!」

「え!?」

「なんや、意外に弱いんやな? さっきの威勢はどこへやら」

 

好きに言っていればいい。だけど僕を忘れちゃ駄目ですよ!

すぐさま僕は戒めの風矢を放ち女性を束縛しようとした。けど、このかさんを盾にされてしかたなく矢を逸らした。卑怯です!

 

「こいつはいいわ。これで攻撃できなくなってしもうたな」

「待て!」

「先輩、ウチを忘れてはいかんえ?」

「くっ! 邪魔をするな、月詠!」

「そうはいかんよ~? ウチ、もっと先輩と打ちあいたいんや~」

「くそ! お嬢様!!」

「ほーほほほ! まったくこの娘は役に立ちますなぁ。さぁて、これからどういった事をしてあげようか……?」

 

くっ! 二人とも手が出せなくてアスナさんは捕まっちゃっている……! 僕も手出しができない!

もう打つ手がないと思ったその時、……僕の隣を寒気がするような赤い何かが通り抜けていった。

その人は間違いなく士郎さんだったんだけど、その雰囲気はいつもと完全に違いひどく冷めている。

アスナさんも、刹那さんも、カモ君も、そして敵の二人もそれによって動きを停止させられた。

まるで、そうまるで体が石になったんじゃないかという錯覚すら覚えてしまった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

「これから、どういったことをするというのだね? この外道が……」

 

突然後ろから士郎さんが助けに来てくれたのだが、そのあまりに濃い殺気に私……いや、その場にいたすべてのものが足を止めた。

洋弓を左手に持ち、私達の横を通り過ぎる。

こんな殺気を私は今まで体験したことはない。妖怪や化け物に殺気を向けられたこともあるがこれほどの緊張感をいまだかつて持ったことはない。

化け物と比べることがおかしな話というほどに士郎さんの殺気は尋常ではなかった。

 

「あ、あわわ……な、なんでや!? しこたまぎょうさん式で足止めをしておいたはずや!」

「あれか……? く、くくく、俺もずいぶんと舐められたものだな? あのような雑魚無勢……串刺しにして今頃はどこぞの壁にでも張り付いているのではないか?」

 

士郎さんは淡々と語っているが雰囲気はもうまるで別人だ。あれが本当の士郎さんの素顔、なのか?

 

「さて、このかを返させてもらおうか」

「ひ、ひぃぃぃぃいっ!?」

 

士郎さんはゆっくりと女に近づいていく。月詠はなんとか動けたようで士郎さんの前に立ちはだかったが、

 

「…ああ、抵抗はしない方がいいだろう? さもなければ、消すぞ……!」

 

呪符使いの女だけではなく月詠も真正面から士郎さんの殺気を浴びて戦意喪失したかのように立ち竦んでいる。……少しにやけているのが怖いが。

それよりも。カタカタと震えながら、呪符使いの女は背中が壁であることも忘れて立たぬ足の変わりに腕だけで後ろに下がろうとする。

 

「ひ…ひ…」

 

声にならない悲鳴を上げながらも、女は士郎さんから視線を外すことはなかった。

恐怖か、または眼で命乞いをしているのか……?

その立場になって見なければわからないだろう。

そしてすさまじい殺気が含まれていた眼光を浴びて敵であった二人は、そのまま士郎さんの放った弓矢で壁にまるで虫の標本のような格好にさせられて気絶してしまっていた。

すると士郎さんも殺気を霧散させてお嬢様を抱きかかえた。その顔はいつもの顔に戻っていていた。

それから遅れてイリヤさんがやってきて今の惨状を一目見て、

 

「……シロウ、少しやり過ぎよ? 手加減したとは言え気絶させちゃうなんて……ネギ達は大丈夫だった?」

 

イリヤさんに言われて私は初めて全身にどっと汗を掻いていることに気づいた。神楽坂さんもネギ先生も私以上に滝のような冷や汗を掻いていた。

これだけの殺気、慣れていない人が気絶しないだけでも大したものだろう。

 

「し、士郎さん。先ほどの殺気は本気ではなかったのですか?」

「まあな。お前たちまで気絶させてしまっては本末転倒だからな。それよりこのかは大丈夫だ。ただ眠らされていたらしいからな」

「そ、そうですか……よかったです」

 

士郎さんは神楽坂さんにお嬢様を預けた後、先ほど貼り付けにした二人を見やった。

途端、士郎さんは双剣を構えた。

見ると気絶している二人は水に飲まれて沈んでいっていた!?

 

「逃がすか!」

 

その光景に呆気にとられていたが士郎さんはいち早く疾走して剣を振り下ろした。

だが一足遅かったみたいで剣は地面に当たって辺り一面に金属の音が響き渡った。

 

「くっ……逃がしたか」

「厄介ね。あの二人以外にも敵はいるようよ、シロウ」

「そうだな。あれは何かはわからないが高等な転移魔法なことは確かだろうからな」

 

「う、ん……」

「このか!?」

 

そこでお嬢様が起きたらしく目を開いた。

 

「ん……あれ? せっちゃん……? ……ウチ…夢見たえ…変なおサルにさらわれて……でも、せっちゃんやネギ君やアスナが助けてくれるんや……」

「よかった……もう大丈夫ですよ、このかお嬢様」

「……よかった―――…せっちゃん、ウチのコト嫌ってる訳やなかったんやなー……」

「えっ…そ、そりゃ私かてこのちゃんと話し……はっ! し、失礼しました! わ、私はこのちゃ……お嬢様をお守りできればそれだけで幸せ……いや、それも影からひっそりとお支えできればそれで……その…あの……御免!!」

「あっ……せっちゃ~ん!?」

 

その光景を一歩下がって見ていた士郎とイリヤは、

 

「うん、まぁ……進展はあって良かったというところか。このかの誤解も解けたみたいだしな」

「そうね。あれならもう後は刹那次第といったところね」

 

するとアスナが何か思ったのか、

 

「桜咲さ~ん! 明日の班行動一緒に回ろうね~。約束だよ~!」と、去っていく刹那に言っていたので良き事かなと思った。

 

 




月詠のいけないスイッチがON。

それと、ここら辺の文章に既視感を感じる人は多分いるでしょうから補足。
『吸血鬼になったエミヤ』でも似た展開ですがこちらが本家です。


それとなんか、また屋上にいたのかとか、甘いのはどっちだとか感想で言われそう…。
自覚はしているし、もう少しオブラートに包んでもらいたいです。


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024話 修学旅行編 2日目(01) 二つの告白(?)

更新します。

あ、開示設定を全ての一覧と検索から除外にして、感想もログインユーザーのみにしました。
理由は察してください。


修学旅行、二日目の朝。昨日はこのかを人質に取られてしまい、

それを姉さんと追おうとしたが見掛けがふざけているとしか言い様がない式神による妨害によって足止めを受けて、それらを一掃した後、

ネギ君達に遅れる形で駅に合流したがこのかを誘拐したと思われる呪符使いがこのかの事を物とか道具としか言えないような暴言を吐いた為に俺は久しぶりに殺気をお見舞いしてやった。

しかし、ネギ君達も感じてしまうほどの殺気を放ってしまい特に一番一般人といってもいいアスナは青い顔をしていたからこれからはもう少し感情操作をして自制しなければ。

……帰った後、遠坂よろしく姉さんによるガンドの嵐という名の洗礼はもう受けたくないからな。

過去、遠坂と姉さんによるなぜか開かれた衛宮家内ガンド鬼ごっことかいう苦いトラウマが蘇える……。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

あれから俺はネギ君達を先に帰らして、西の奴らとの攻防により破壊された京都駅の階段、呪術によって水浸しにされてしまった列車、刹那がネギ君をくせものと勘違いして斬ったらしい露天風呂の岩を順々に修理して回った。

その後、深夜で悪いと思ったが学園長に連絡を取ってこのかが誘拐されたことを報告した。

それで色々話は交わされたが今現在タカミチさんは出張中、こちらに来ている他の魔法先生も修学旅行の引率兼警備にまわっているらしく、結局のところは自分達だけでこのかを護るという話に落ち着いてまた何かあったら連絡することになった。

そして朝の全体での朝食だが、やはりというべきか音羽の水お酒混入事件によって酔いつぶれてしまっていた面々は、

 

「……昨日の清水寺の滝から記憶がございませんわ」

「う゛―――……」

「頭が痛いよぅ~……」

「せっかくの旅行初日だったのに……」

 

と、嘆いているものが後を絶たなかった。

ま、それは運がなかったから諦めてくれとしか俺は言えん。

そんなことを楽しそうに食事を摂っているネギ君の隣で考えながらもくもくと食事をする傍らで、これからの方針を考えていた。

ちなみに姉さんは違う席で食事中だ。方針についてはレイラインで会話することにしている。

するとふと誰かに声をかけられたので意識を浮上させて声の主の方へ顔を向けるとこのかが立っていた。

 

「ネギ君に士郎さん、おはような」

「あ、このかさん。おはようございます」

「おはよう、このか。あれからゆっくり眠れたか?」

「はい。それなんやけど夕べはありがとな。何やよーわからんけどせっちゃんやアスナと一緒にウチのこと助けてくれて」

「い、いえ。ほとんど僕は刹那さんについていっただけで……それに最後は士郎さんが片付けてしまいましたから」

「ま、俺もたいしたことはしていないがな」

「ふ~ん? よくわからんけどほんまありがとな」

 

(細かいこと気にしない人で助かったっすね、士郎の旦那)

(そうだな、カモミール)

(それより士郎の旦那。夕べは凄い殺気でしたね。俺っちも思わず固まっちまったぜ)

(それについては謝罪しよう。昨晩は自制がきかず本能的に殺気を放出してお前達にも味合わせてしまったな)

(なに、気にしてないっすよ。それは裏返せばこのかの姉さんを助けたいが為の怒りだったんすから)

(む、そう言われるとなにやら恥ずかしいものだな)

(お? 士郎の旦那にしては珍しいすっね。いいもの見れ(……蒲焼)……すみません、謝りますから。ほんとうに……)

(ま、いい。それより昨日の件で敵は奴らだけではないとわかったから用心した方がいいな)

(そうっすね。他にも西の奴らはいるみたいっすからね)

(まぁ奴らは昨日の件で失敗したこともあり下準備もあることだろうし今日は仕掛けてはこないだろう。直感だがな。それに今日は観光地の場所は奈良だから早々昨日みたいな事は起こんないだろう。だが用心はしておいたほうがいいとだけ伝えておく)

(了解っす)

(それに……)

 

俺はカモミールとの会話を中断してある方向を見る。それにつられてカモミールも見たがどうやら納得したような顔をした。

 

「せっちゃ―――ん?なんで逃げるん?一緒に食べよー?」

「わ、私は別に―――!」

 

まだ向かい合える準備が出来ていないのか刹那は顔を赤くしながら必死にこのかから逃げていた。だが昨日とはずいぶんと二人の間の雰囲気が変わったものだ。

 

(あれなら刹那も隠れるに隠れられんだろう?)

(確かに……)

 

「カモ君に士郎さん? さっきからなにを話しているの?」

「いや、ただ微笑ましいな、という話だよ、ネギ君」

「そうっすよ、兄貴」

「うん、確かにそうですね」

 

ふぅ、危なかったな。俺は別段大丈夫だが昨日の件でネギ君は結構神経張り詰めていると聞くからあまり話には参加させないようにしておいているようだが正解だったようだな。

そして朝食後に俺はネギ君達とはいったん別れて姉さんと合流していた。

 

「それで今日姉さんはどうするんだ?」

「うーん……それなんだけどシロウと歩きたいのは山々なんだけれど、1班が昨日のお酒でまだほとんどが体調を崩しているようで私はそちらにいくことになったわ」

「そうか。ではそちらは任せた」

「う―――……少しは引き止めてよ、シロウ~……?」

「あー、すまん。だからそんな顔しないでくれ」

 

……危ない。泣き落とされそうになった……あれは遠坂と違って猫をかぶってないから余計性質が悪くなるんだよな。

とりあえず勃発したネギ君争奪戦の末に宮崎の誘いにネギ君は乗ることになったらしく、希しくもアスナ、このか、刹那の三人が揃っている5班にいくということなので俺もそこに着いて行くことになり話はなんとか逸らした。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

時間は少し進んで現在、奈良公園を歩いているところだ。

それは別に構わない。特に変わったこともないからな。それなので俺はネギ君、アスナ、刹那、カモミールとともにこれからの話し合いをしていた。

だが、そこで俺は早乙女と綾瀬にアスナとともにどこかへ連れてかれてしまった。

このかの方は刹那がまた逃げているようだが一応護衛にはついているということで安心して任せた。

 

「それで? なんで俺はこんなところに連れてこられたのかね?」

「ん―――……士郎さん、あれを見て何か思わない?」

「……ん?」

 

影から早乙女と綾瀬に指差された方を見るとそこにはネギ君と宮崎が歩いていた。

だが、ただ歩いているのではなく宮崎はなにか顔を赤くしてもじもじしながらネギ君と歩いている。

ふむ、これはいわゆる……。

 

「そうだな。そういえば宮崎はネギ君のことが好きだったか? それで無理やり二人きりにさせたと?」

「意外ですね。てっきり士郎さんは気づいていないものだと思っていましたです」

「そんなことはない。聞くに宮崎は男性が苦手だと言われているがネギ君にはそんな仕草は見せていないからな」

「なにげに士郎さんもわかってるじゃん! そうなんだよね、のどかはネギ君が好きだからこの旅行でどうにかしちゃおうっていう話で!」

「よく俺の前で言えたものだな、早乙女。新田先生とかだったらとっくに抗議しにいくものだぞ?」

「士郎さんはそんなひどいことはしないと思ったから話したです……」

 

そこで綾瀬にそんな返しをされてしまって思わず俺は言葉が詰まった。

 

「……まぁ、確かにそうだ。恋愛は個々人自由だからな。俺は何も口を挟まないことにする。これでいいか?」

「ありがとう、士郎さん! やっぱ話がわかるね!」

「ありがとです、士郎さん」

「なに、別に礼をされることはしていない。それと俺は覗き見する趣味はないんで二人も程ほどにしておくんだぞ。では俺は他のところを周っていることにするから後は頼む」

 

 

 

──Interlude

 

 

 

士郎がその場を後にしてどこかにいってしまった後、夕映とハルナはため息をつきながら、

 

「本当のことを言いますと士郎さんとこのかさんの事も応援したいところだったのですが……」

「そーだよね。でも今このかはなぜか桜咲さんに付きっ切りだし肝心の士郎さんも他人のことはわかるのに自分のことになると無頓着だしねぇ……」

「士郎さんはネギ先生と同じく私の知る中ではもっともまともな部類に入る男性ですからどうにかしたいのですけど」

「こればっかりはのどかみたいにこのかにも頑張ってもらう機会を待つしかないねぇ……」

「そうですね」

 

そして二人はネギとのどかを覗きながらも、またもやため息をついていた。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

「もー、なんでこのかから逃げちゃうの、刹那さん?」

「し、式神に任せてありますのでお嬢様の身は安全ですから」

「そーじゃなくて、なんで喋ってあげないのよ?」

「そうだぜ、刹那の姐さん?」

 

いや、ですね。私もできることならお嬢様……このちゃんとお話したい。

士郎さんには私の真実の姿を見せたときに勇気をもらった。

だけど、まだ私は恐れている。このちゃんに拒絶されたらどうしようかと。

……士郎さんは私を受け入れてくれたけど、昔に散々言われてきたいくつもの畏怖、罵倒といった言葉が頭を巡って、そのただ一歩を踏み出せないでいる。

神楽坂さんの言葉がまるで反対の耳から抜け出ていくような錯覚を覚えながら歩いていると、ふと物音が聞こえて振り向くと木の影には涙を流している宮崎さんがいた。

 

「宮崎さん……?」

「ちょ! 本屋ちゃん、どうしたのよ!? なにかあった?」

 

神楽坂さんが宮崎さんに駆け寄ったがどうにも尋常じゃない様子でとりあえず休憩できる場所で落ち着いたところで話を聞いてみた。

だけど話の内容があまりにすごいので表面上は普段の顔をしていたが、内面は驚きでバクバクモノだった。

 

「マジで!? え―――!? ネ、ネギに告ったの!?」

「は、はいぃ。いえ、しようとしたんですが私トロイので何度も失敗してしまいまして……あの、すみません。桜咲さんとはあまり話したことがないのにこんな話をしちゃって」

「いえ……ですがネギ先生は見た目通りまだ子供ですがどうして……?」

「えっと、それはですね……」

 

それから宮崎さんはネギ先生について思っていることを語ってくれた。

まぁ確かに普段のネギ先生は子供ですが、あのエヴァンジェリンさんとも士郎さんの助けがあったが倒したといっていましたから……。

それに昨晩の行動も初動が早かったですから。そしてしっかりとした目標は持っている。

 

「……―――それで今日は思い切って自分の気持ちを伝えようって……、………」

 

ん? 宮崎さんがこちらを見て止まっている。どうしたのでしょうか? アスナさんもどうしたのか聞いているようだ。

 

「明日菜さん、ありがとうございます。桜咲さんも怖い人だと思ってましたけどそんな事ないんですねー」

「え……?」

 

私は少しぼけっとしている間に宮崎さんは「勇気をもらいました」といって駆け出していった。

 

「も、もしかしてホントに告白するつもりかな……?」

「そのようだぜ! いや、俺っち感動したっす! こうしちゃいられねぇぜ。早いとこ嬢ちゃんの後を追おうぜ!」

「…………」

 

アスナさんとカモさんが宮崎さんを追った後、私も気を取り直して二人の後を追った。

……でも、そうか。確かにそう見られてもしかたないかな?

内心で呟きながら宮崎さんがいる場所まで到着するとすでにそこにはネギ先生が一緒にいてアスナさん達と植え込みに隠れて見守っていた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

俺は刹那達とはわざわざ遠くまで離れてあまり人が立ちよらなそうな林道を一人歩いていた。

 

「さすが奈良の名所だな。この季節にもかかわらず実にいい景色だ。それで……俺になにか用があるのかね?」

 

俺はこの奈良公園に着いてから微弱ではあるが感じていた視線と気配に「やれやれ…」とかぶりをふりながら一人になれる時間を待っていた。

そして綾瀬達と別れた後、誰にも気取られないように足を林道まで運びその視線の主に問うた。

しばらく反応はなかったがなにか周りの雰囲気が変わったと感じたときには俺の目の前に昨日気絶させた刹那が言うには敵側の神鳴流剣士が立っていた。

しかし、あらためて見て思ったことだが、このような少女向けの服装をした者が刹那のいう神鳴流剣士の姿なのかと思うとまたいらん頭痛がするのでその考えはカットした。

 

「やっぱりウチの視線に気づいておったんですね~…?」

「俺だけに向けられていたようだからな。刹那も気づいた素振りは一切させていなかった」

「当然です~。センパイのこともウチは気に入ってますがあんさんは別格や……ウチ、昨日の殺気を受けてとてもあんさんのこと惚れてしまいました~」

「……残念だが俺は敵と恋仲になるつもりはないぞ?」

「それもいいですがウチはあんさんとは殺し愛をしたいんですわぁ」

「くっ…まさかそちらの方とはな。まさか今ここで事を交えようなぞとは思っていまい?」

「ウチはそれでも別にいいんですが雇い主はんが今日は手を出してはだめと言われたのでせめてご挨拶だけでもと…月詠いいます。あんさんの名前はなんですか?」

「もうそちらは調べがついているだろうに……まぁいい。俺の名は衛宮士郎だ」

「士郎はんですか~。わかりましたー、ではウチはもう失礼しますね~。明日もし会うことがあるなら殺し愛……しましょうね~♪」

 

月詠はうふふと笑みを浮かべた後、旋風のようにその場から消えた。

そして俺はというと、

 

「やれやれ……また厄介な奴に目をつけられてしまったな。まさか戦闘狂だったとは。刹那達にも警戒をするだけしておくか。ああいう類は厄介だとな」

 

それから刹那達と合流したのはいいのだがなぜかネギ君が熱を出して倒れてしまったという話を聞いて、なんでさ…?と思わず呟いた。

 

 

 




月詠ロックオン。


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025話 修学旅行編 2日目(02) ラブラブキッス大作戦

更新します。


 

 

さて、客観的に見て言わせてもらおう。なにがあった?

月詠とわかれた後に皆のいる場所に戻ってみればなぜかネギ君は38度の熱を出して倒れてしまったと聞く。

綾瀬がいうには知恵熱でぶっ倒れたというが、はてさてなにがあったのか。

その後に旅館に戻ってみればみたで目を覚ましたネギ君はロビーで顔を赤くしながらなにか考え事に耽っており時折意味不明な言動や行動をとっていた。

その奇怪な行動に生徒達もさすがに心配になったらしく雪広を中心としたグループになにがあったのか聞かれて、

 

「いや、あの別に何も! 誰も僕に告ッたりなんか…!」

 

その一言が発端となり騒ぎが生じてネギ君は意味不明な言葉を並べながらも一緒にいたカモミールとともにどこかに走り去ってしまった。

そこで影から見守っていたアスナと刹那に話を聞いてみた。

 

「アスナ。それに刹那」

「あ、士郎さん」

 

二人はなにか集中していたのか俺の言葉にやっと気づいてくれたようだった。本当になにがあった?

 

「二人ともネギ君がああなった理由は知っているか? 俺は直接現場にはいなかったのでよく状況を把握しきれていないのだが…」

「あー……えっとね。これって士郎さんに話しても大丈夫かな、刹那さん?」

「士郎さんなら大丈夫でしょう。他言はしないと信じていますから」

 

なにか刹那にはずいぶんと信頼されているな、俺? まぁ別に悪い気はしないが。

 

「やはりなにか知っているのか」

「はい。それなんですがね……」

 

 

 

それから二人に俺がいない間にネギ君が宮崎に告白されたことを聞いてなるほどと相槌をうった。

するとあまり驚いていない俺を二人は、

 

「え! 士郎さん、何その落ち着きよう!?」

「もしかして宮崎さんの気持ちを知っていたのですか?」

「いや? 奈良公園で早乙女と綾瀬に無理やり連れてかれた後に事情を聞いてみたら宮崎が勇気を出すとか事前に聞いていたからな」

 

 

「―――なるほどねぇ~。それでネギったら頭パンクしちゃったのね」

「そのようだな、姉さん」

「………」

「………」

 

一瞬、沈黙。

 

「「わ!?」」

 

二人は遅れて姉さんがひょっこりと現れたことに驚いた。

と、いうよりアスナはともかく刹那はてっきり気づいていたと思ったのだが。

 

「い、イリヤさん……驚かさないでよ」

「いつからいらしたんですか…?」

「ついさっきよ。それよりシロウ。ちょっといい?」

「なんだ、姉さん?」

「さっき一度みんなとはわかれたって言っていたけど何処にいっていたのよ? レイラインにも反応してしてくれないから心配したのよ?」

「あ……そういえばそうですね。てっきり近くにいるものかと思っていましたが……」

「ああ……そのことか。まぁ、別に話しても構わないだろう。実は昨日の敵陣にいた月詠にずっと見られていたのでしかたなく人気がない場所まで移動して会っていたのだ」

「「「なっ!?」」」

 

直後三人はすごい驚いた顔をしてすぐになにがあったのか問いただしてきた。

 

「ふぅ……なに、戦闘事はしていないから安心しろ。あちらも今日は動かないと言われたからな。だがネギ君とは別の意味で告白まがいなことを言われたな」

 

俺は一回ため息をついた後、三人に月詠はとんだ戦闘狂だということを伝えた。

 

「殺し愛、って…その月詠? って奴どうかしているんじゃないの?」

「適切な回答をありがとう、アスナ。だがこちら()の世界ではさして珍しいことではないのだよ?」

「と、いいますと?」

「なに、ただ仕事をするだけじゃ高ぶる気持ちを抑えられない者もいるということだ。

例えばより強い奴と戦いたいという欲求は裏の者でなくとも誰しもが持っているだろう。健全的に言えばスポーツがいい例だ。

そしてそれは戦場でも通じることだ。月詠はその欲求のリミッターが少し、いやかなりはずれているかもしれないな。

だから明日もし仕掛けてくるようなら適当にあしらって避けられない戦闘以外は引いた方が身の為だぞ? あの手の類は目をつけられるとどこまでも追ってくるからな。

特に刹那。お前は俺の次に目をつけられているから注意しておけ。奴は……正直言ってしまえば俺は相手したくない」

「あら? シロウにしては弱気な発言ね。別にシロウなら倒せるでしょう?」

「手をつくせばな。だが今日あいつと会って確信した。あいつはフィナと同じ属性だ。だから俺は刹那が心配でならない」

「え゛? フィナって、もしかしてあのフィナ……?」

 

その名が出た途端、姉さんも顔を顰めた。

 

「あの、士郎さん? フィナって誰……? イリヤさんもなにか嫌なものを思い出したような顔になってるんだけど」

 

意外に話しについていけていたのかアスナも会話に参加してきていたがそこでようやく疑問点を上げてきた。

 

「ああ。麻帆良の地に来る前にエヴァとは種族は違うが戦った吸血鬼なんだが……」

「「吸血鬼……!?」」

「私が言うわね。フィナって奴ね……同性の、しかも美少年の血しか吸わないとかいう変態なのよ。それがどこで気に入られたのかシロウを追いかけてきてね。あのときのシロウはもうそれは全力で逃げたわ」

「あれはすさまじい恐怖だった。一度本気で撃退してやったが今でも思い出すと鳥肌が立つ……」

「うわぁ……それは確かに。……え! それじゃもしかして月詠って奴、刹那さんのこと……」

「……それ以上は言わないでください、アスナさん。私も鳥肌が立ってきましたから……」

 

刹那は目を点にして顔を青くして俯いている。まぁ心情は推して知るべしだな。

そんな話をしていたところ、お風呂場の方からネギ君の泣き叫ぶ悲鳴が聞こえてきた。

 

「…なんだ? この時間だと教師専用時間だから問題はないと思うのだが」

「ねぇシロウ、悠長にしているけどいいの? なぜかネギの魔力が暴走しているみたいよ?」

「いや、なぜかな? もうこれは慣れと言ってもいいな。俺の勘では殺生事ではなく愉快な厄介事を引き起こした方が高いと本能が告げている」

「あ、それなんとなくわかるかも。またなにをやらかしたのかしらネギの奴?」

「とりあえず現場に向かってみましょうか」

 

……で、現場に駆けつけてみれば案の定。俺は男性のため一緒に行かなかったが風呂場の中ではネギ君がなにかやらかしたらしい。

そして一緒にいた朝倉にはさっさと服を着てもらい尋も―――…ゲフンッゲフンッ! 話し合いをするためにまたロビーに集合していた。

とりあえずネギ君には一言言っておかなければ。

 

「……なぁ、ネギ君。この世界では魔法の存在は隠匿されるものということは理解しているな?」

「は、はい!」

「……して、先ほどの魔力の暴走はどう説明してくれるのだ? 返答によっては俺もそれなりの手段を取らせてもらおうと思っているのだが……」

「あ、え、えっと…その…あうぅ……」

 

少し泣きが入っているがここで甘えを入れてはダメな子になると判断したので俺は引きつり気味の笑顔を崩さず説教を続けていた。

 

「まぁまぁ士郎さん。そんなネギ君責めないでよ? 元を辿れば私がネギ君追い詰めたのが悪いんだからさ」

「朝倉……」

 

だがそこに今回の元凶の暢気な声が聞こえてきたので意識をそちらに即座に移した。

 

「よくもまぁそう悪びれもなく言えたものだな、朝倉?」

「そうよ、朝倉。あんまり子供をいじめるもんじゃないわよ」

「イジメ? ノンノン、まさか。私がそんなことするわけないじゃん」

「そうっすよ。むしろブンヤの姉さんは俺っち達の味方だぜ」

「報道部突撃班、朝倉和美。カモっちの熱意にほだされてネギ君の、いやここにいるメンバーの秘密を守るエージェントとして協力することにしたからよろしくね」

 

そういって、朝倉はネギ君に今までのネガや写真を渡しているが、果たしてそれは本当なのだろうか?

カモミールと朝倉が組むのはなにか裏があるような気配が……。

 

「とりあえず問題は起こさないに越したことはないから助かる。だがこれだけは覚えておけ、朝倉」

「なんですか、士郎さん?」

「もしお前の手によって秘密が漏洩されるものならば記憶は確実に弄られる事は覚悟をしておけ。しかも強引な手によってな。裏の世界はそれだけ危険だということだからな」

「イ、イエッサー……」

 

とりあえず脅しはかけておいたから当分は大丈夫だろう。刹那や姉さんにもその意は伝わったようで一緒に目を光らせていた。

それにアスナやネギ君もびくびくと震えていたことはまぁ別の話だが。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

解散後、シロウは夜の警戒も込めて先にお風呂に入りにいった。

混浴で同席しようと思ったけどきっかりと断られた。別にいいじゃない、知らない仲じゃないんだしという言葉に「誤解を招く発言はしないでくれ!」といってさっさと行ってしまった。

もう、シロウは相変わらずそういうことに関しては初心なんだから。

そんなことを一人になりながら歩いていたらなにかカモミールとカズミが外でなにかやっているのを見かけて面白そうなので話しかけてみた。

 

「カズミ、カモミール。もう生徒の出入り禁止時間は過ぎているわよ? なにをやっているの」

「げっ!? イリヤさん!」

「イリヤの姐さん!?」

 

二人(?)は私が現れたのがそんなにまずいのか顔を青くしている。でも、「げっ!?」はさすがにひどいんじゃない?

 

「なにをそんなにあわてているのかしら? 私にばれたらまずいことなのかな?」

「そ、それは……(カモっち! イリヤさんに話しても大丈夫かな!? 後が怖そうなんだけど)」

(む、むぅ……いや、結構イケルかもしれねぇな)

(どういうこと……?)

(まぁ、まずは説明からしようぜ、朝倉の姉さん。話にあわせてくれればそれできっとうまくいくぜ)

(信じるよ、カモっち!)

 

どうやら話し合いは済んだようね。それじゃどんな言い訳が聞けるのかな?

だけど、その言い訳は私にとってとても魅惑的な事だと知りつい乗ってしまった。

後に後悔するだろうけどいい機会ね。カモミールにもある手はずはしておいたから夜が楽しみだわ。ふふふ…。

 

 

 

──Interlude

 

 

 

イリヤが朝倉とカモに会った数刻後、朝倉は旅館内で騒ぎすぎた一部の3-Aの面々にある提案を持ち出していた。

 

「……と、いうわけで名づけて『くちびる争奪!!修学旅行でネギ先生&士郎さんとラブラブキッス大作戦』!!」

「ええ!?」

「ネギ君と!? それに士郎さんも!?」

 

辺りが騒ぎ出したとき、何名かの目が光ったことを朝倉は当然見逃していなかった。

特に今日は刹那を必死に追いかけていたはずのこのかの目が真剣そのものになっていたことを。

それを見て朝倉とカモは一筋の汗を浮かべた。

 

(ねぇねぇカモっち?)

(いわんでもいいでっさ。あれは、本気の目だぜ)

(だよねぇ、やっぱり。イリヤさんに許可を得て士郎さんの名前も出したけど予想以上に食いついちゃったようね)

(ま、このかの姉さんには悪いが分が悪いから今回は諦めてもらった方がいいかもな。相手が悪すぎるし……)

 

しかし、朝倉達は予想通りの展開としていたのでさっさと説明を済ませて監視カメラの配備や他いろいろにてんやわんやするのだった。

そして、違う場所では夕映に組み合わせを変わってほしいというこのかの姿があった。

 

「別に構いませんが、このかさん…本気なんですね?」

「うーん…まだよーわからんけど、だけどウチ……士郎さんのことが気になってしかたないねん。アスナに相談して少し和らいだけどやっぱり胸のドキドキがとまらへん。だから今回のこれで自分の気持ちに正直になれたらええなと……やっぱ駄目やろか? のどかと違って中途半端で…」

 

このとき、夕映はこのかの言葉に感嘆とした気持ちを覚えていた。

同時にとてもこのかのことが綺麗に見えた。恋をすれば人は変わるというがまさにそうだろうと思ったのだ。

 

「いえ、それだけ聞ければ充分です。では私はのどかとこのかさんに勝利を捧げる為に裏工…じゃなくて協力させていただきます」

「え、でも出れるのは各班二人だけやろ?」

「別に協力者がいては駄目とは言われていませんから大丈夫でしょう? それよりがんばるですよ!」

「了解や!」

 

このかは笑顔で夕映に感謝した。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

うっ!? なんだ、この寒気は…? まるでアクマを降臨させたような。いや、今回俺は何も関与していないからきっと気のせいだ!

 

「…どうしたんですか、士郎さん?」

 

そこに一緒にいた刹那とアスナが心配そうに聞いてきた。

 

「いや、なんでもない。あえて言うなら害意はない殺気をこの旅館が覆っているような、嫌な感じだ」

「刹那さんと同じような事いうのね、士郎さんも」

「まぁ同業者じゃなくてもこれくらいは感じるだろう。ところでネギ君はどうした?」

「ネギ先生なら士郎さんがお風呂にいっている間に見回りで外に出て行ったようです」

「俺が警備しているのだから心配ないと伝えたのだが……」

「はい。ですがネギ先生もなぜか士郎さんと同じく寒気を感じたようで……」

「そんな嫌な気分を晴らすために出て行ったわけか」

「はい、そのようで」

「ふぅ、わかった。では館内は俺が警備しているから二人はお風呂に入って来い。関係者としてこの時間でも認められているからな」

「ありがと士郎さん! それじゃさっさといこっか、刹那さん」

「そうですね。ではお願いします」

「まかされた」

 

二人と別れた後、新田先生と会い3-Aのクラスは今夜はやけに騒がしいので注意の程、お願いしますよと伝えられた。

虫の知らせ、というのか? 先ほどの寒気はやはり気のせいではないと感じ始めていた。

そこで姉さんとは会わないなと別思考に移っていると目の前に楓と古菲(変な空気を纏って)が歩いてきたので注意しようとしたら、

 

…突然古菲に襲いかけられた。なんでさ?

とりあえず古菲の放ってきた割と本気らしい拳(枕)を一歩後ろに下がりながら受けて力を後ろに流した。それでも少し痺れた。

 

「あやー、やっぱり士郎老師には真正面からの拳は通じないアルね?」

「……これは何の遊びだ、古菲に楓?」

「理由は話せんでござるが訳あって士郎殿の唇をいただきに参った」

 

そういいながらも、楓は颯爽な動きで古菲と即席の連携ながらもうまい枕攻撃をしてきた。

なぜかは知らないが本気の意志は伝わってきたので俺も相手をすることにした。……今気を抜くと後が怖そうだからだ。

…あー、旅館外に出て行った(逃げ出した)ネギ君が今はとても恨めしい。

だがそんな思考も許されないようで二人はどんどん攻めてきているのでまずは古菲の足をつまずかせた後、首根っこを掴んで楓に投げてやった。

それに驚いて古菲を受け止めている楓を尻目に俺は即座に楓の後ろに回り、

 

「ッ!」

「さて、楓。昨日の昼間に俺は言ったな? 騒ぎは起こすな、と。そこのところを理解できていなかったようで俺はとても悲しいよ……」

「その割に、顔が素晴らしいほどの笑顔なのはどういったことでござるか……?」

「それがな、新田先生に騒ぎを起こす生徒はロビーで正座させるという素晴らしい提案をもらってね。昨日言ったことを実行しようと思った―――…」

 

その瞬間、楓は古菲を片手に抱えているというのにものすごいスピードでその場から離脱した。

 

「残念だ。首謀者を聞き出そうとしたのだがな……しかたがない」

 

俺は腕を組みおもむろに顔を頭上に設置されている監視カメラに向けて一言、

 

「さて、では今宵騒いでいる者達の狩りを始めるとしよう。ああ、いっておくが加減はしないことを約束しよう」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 朝倉和美

 

 

私は正直お遊び気分でこの大会を企画したのだけど、裏目に出てしまったと現在ライブで後悔中。

まさか士郎さんがあそこまでできるとは思っていなかった。

楓さんと古菲をやり過ごすどころか仕掛けた本人達は逃げ出し、士郎さんのなんらかの魂に火を入れてしまった。なんか監視カメラに向いた表情の口元が三日月につり上がっていたのは錯覚だと今は思いたい。

 

「どどど、どうしよう! カモっち!?」

「い、いや……まだ大丈夫だ。そのうちイリヤの姐さんが現れるからなんとかなんだろ! それより今はネギの兄貴をって、なっ!?」

「え? どうしたの、カモっち? ………はい?」

 

画面には異様な空気を漂わせている士郎さんを抜いて5人ものネギ君が旅館を徘徊していた。

思わずカモっちと一緒に混乱したけど司会者がこれではどうしようもないので、

 

「お、おおっと!? これはどういうことだ!? ネギ先生が5人! しかも一斉に告白タイム!?

なぜかユエ吉が写っていますが多分協力者として入ったのでしょうか!? おおっと、そこに士郎さんが登場!? あ……ネギ君撲殺!? と、思ったがこれはダミーだったようだ!?

残念なことに司会の私も状況がまったく理解できていません! 誰か助けて!!」

 

 

 

 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「まったく……性質の悪い悪戯をしかけたものだ。ところで綾瀬、大丈夫か?」

「あ、はいです。それより先ほどのは一体……?」

「さぁな。それより綾瀬。本当にこれはなんなんだ?」

「あ、えっとですね……」

 

問いただそうとしてふと後方から気配を感じ振り向いた瞬間、俺の意識はある女性の目を見た瞬間薄れていった。

 

 

 

Side 綾瀬夕映

 

 

「くっ……まさか、姉さんもこの企画に参加、していたとは……無、念……」

「おとなしく寝ていなさい、シロウ。それじゃユエ、シロウは連れて行くわね」

 

どうやってイリヤさんはシロウさんを眠らせたかは分かりませんがこのような話は聞いていませんので正直混乱しているのですが、

 

「で、ですがこのかさんの件はどうするのですか…?」

「それがね、私もいくならドーンとって言ったんだけれど急に萎縮しちゃって……出てきなさい、コノカ」

「はいな……」

 

そこにはゆでだこのように顔を赤く染めたこのかさんが出てきた。

 

「それで決心はついたの、コノカ?」

「やっぱりウチ、恥ずかしいわ……だから、今はこれだけでかんべんなぁ」

 

そういってこのかさんは士郎さんの頬についばむように口付けをした。

それだけでも充分すぎると思ったのは私だけでしょうか?

 

「……ちょっと、頬じゃ駄目じゃないコノカ?」

「はうぅ…もう堪忍して!」

 

そしてこのかさんは部屋を飛び出していった。

 

「ふぅ……まぁ及第点というところね。それじゃユエ。ノドカのところにいってあげなさい。今はロビーの方にいると思うから。本物のネギもそこにいるわ」

「わ、わかりましたです……」

 

私は逸る気持ちでのどかの向かったロビーに急いだのですがちょうどそこには本物のネギ先生とのどかがいたので一安心したです。

そして先生の子供らしい回答を聞いてやっぱりまだ10歳だと再確認できたです。まぁ当然といえば当然ですが。

あのように迫ってくるネギ先生はとてもではないですが嫌ですから。

すると話が済んだのか二人して戻ろうとしていたので私はのどかに足掛けをしてネギ先生は抱きかかえようとしたようですが間に合わずうまい具合に口でのキスをしていました。

……よかったですね、のどか。

その後、やはり新田先生に捕まってしまいましたが、これはまぁ別にいいでしょう。

それより心配なのは士郎さんです。私が部屋から出て行こうとした間際にイリヤさんの微笑が聞こえてきましたから。

 

 

 

 

……少し前、

 

 

「よっしゃー! 宮崎のどか仮契約(パクティオー)カードとイリヤの姐さんがマスター側の衛宮士郎仮契約(パクティオー)カードをゲットだぜ!」

「このかはスカカードかぁ……ま、残念だったということで。よっしゃずらかるよ、カモっち!」

「…なるほど、やはり貴様等が主犯か朝倉にカモミール」

 

入り口に復活したのであろう士郎が仁王立ちをしていた。その表情は阿修羅(ワラキア)の如く。

 

「ぴぎぃぃぃぃぃいいいっ!!!??」

「ひぃぃぃぃぃいいいっ!!!」

 

そしてロビーに集められた生徒達は士郎と新田による説教+正座を味わうことになった。

特に朝倉、楓は膝の上に小物ながらも仏像を乗せられカモにいたっては足下にマッサージの凸凹を置かれ苦悩したとか。

ちなみにイリヤはうまく逃げおおせた。というより士郎が見逃した。

士郎的には倍返しが怖いと後に語ったという。

 

 

 




イリヤさん、士郎と仮契約しました。


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026話 修学旅行編 3日目(01) 剣製と狗神の出会い

更新します。


 

 

 

修学旅行三日目、一般人生徒達は宮崎が賞品として仮契約カードをもらい皆から羨ましがられている中、休憩所ではアスナの怒声が響いていた。

まぁ、怒りたくもなる。姉さんの妨害がなければ俺は即座にでもカモミールに解体ショーを決行しているかもしれないから。

 

「まったく! ネギ、こんなにカードを作っちゃってどうするつもりなのよ!?」

「えぇー!? やっぱり僕のせいですか!」

「まぁ、士郎さんはイリヤさんに眠らされたって言うから仕方がないけどイリヤさんは反省しているんですか?」

「ええ。今回は私にも非があるから正直に謝るわ。でもコノカのことがどうしても放っておけなくてね」

「その件ですが、その、お嬢様は自分の意思で士郎さんの頬とはいえ……その、キ、キスをしたのですか……?」

 

刹那がそのことをもごもごと聞いてくる。しかし俺が眠らせられた後の話だから関与はできない。恥ずかしくもあるのでよって無言を通す。

 

「そうね。私が後押ししたからできたもののゲームに参加したのはコノカ自身の意思だからそうだと思うわ」

「そうっすよ。アスナの姐さん」

「あのときのこのかの真剣な目はすごかったわね~」

「朝倉とエロガモは黙ってなさい!!」

「エロガモ!?」

 

そこでアスナの怒声が再度上がった。これでは収拾がつかないので俺は話を移行するよう施した。

 

「まぁ、このかの件に関しては俺にも少なからず関係しているから何も言い訳しないが、厄介事には巻き込むなといっておこう」

「そうですね。お嬢様はこんな世界に入れたくはありませんから……」

「わかっているわよ、士郎さんに刹那さん」

「はい。でもそれをいうとアスナさんも一般人では……」

「今更そんなこと言う?」

 

そういってアスナはネギ君をこついていた。

確かに今更である。

それで納得したのかネギ君も宮崎や他の生徒達にはこちらのことは明かさないといっていた。

まぁ、それが当然の対応だな。

 

「それよりアスナの姐さんと士郎の旦那にはカードのコピーを渡しておくぜ」

「いらないわよ! どうせ通信できるだけでしょ?」

「いや……待て、アスナ。カモミール、これはもしかして以前刹那に聞いたがアーティファクトという道具を呼び出せるというものか?」

「お? さすが旦那は詳しいっすね。そうっすよ、“来れ(アデアット)”って唱えれば一昨日姐さんが出した武器も出せるぜ!」

 

そこでアスナは嫌そうな顔をしながらもカードを持ってアデアットと唱えた。

するとアスナの手にはハリセンが握られていた。

しかし、ふと疑問点が出てきた。

 

「なぁ、カモミール。ネギ君の本体の方のカードを見せてもらって構わないか?」

「……? いいっすけど」

 

カモミールとネギ君の了承を得て見せてもらったがやはりおかしい。

カードのアスナが持っている武器はハリセンではなく大剣だ。

そのことを聞いてみたが、

 

「確かにおかしいっすね?」

「まぁいい。アスナ、そのハリセンを見せてみろ」

「え?うん……」

「では…解析開始(トレース・オン)

「ちょ……シロウ、なにする気?」

「いや、このハリセンの機能はどうなっているのか調べてみる」

 

 

――創造の理念を鑑定

――基本となる骨子を想定

――構成された材質を複製

――制作に及ぶ技術を模倣

――成長に至る経験に共感

――蓄積された年月を再現

――全ての工程を凌駕して幻想を結び剣と成す

 

 

「――――全工程完了(トレース・オフ)

 

そして俺の手に握られていたのはハリセン………ではなくカード通りの大剣だった。

それに一同は驚いていた。

 

「やはり、このハリセンはアスナの現段階の能力によって仮の姿をしているようだ。その気になれば自由に変換可能だ」

 

このようにな、といって俺は剣をハリセンに変えてちょうどいいから鬱憤晴らしにカモミールを叩いておいた。

当然非難の声が上がったがスルーした。

 

「え? それじゃ私はまだ未熟だからってこと?」

「そうともいうな……」

「そんなぁ……」

「まぁそう落ち込むな。ハリセン形態でも下級の魔物と対決くらいはできるからな」

「それより…だとすると士郎の旦那のカードはなにを意味しているんすかね?」

 

そう、それが一番問題だ。俺のカードには、まぁ聖骸布姿の俺が描かれているのはいいとしよう。

しかし俺の背後に一緒に描かれているまるで夕焼けのような両刃の大剣はなにを意味しているのか?

 

「ねぇシロウ。とりあえず出してみたら?」

「そうだな。思案するより出して解析したほうが早い。アデアット」

 

そして出してみたはいいが変哲のないただの赤い大剣だった。……大きさはバーサーカーの剣並くらいあるが。

 

「お、大きいですね……」

「ああ。確かに大きいがなぜこんなに大きいのか…? とりあえず解析してみるか」

 

そして解析した結果、俺はその効果に驚かされた。

姿形はともかくこれは宝具に近いものがある。

…というより俺にエアサーフィンでもしていろというのか?

 

「どういった効果なの、シロウ?」

 

そこで姉さんに問いただされて意識を浮上させた。

 

「ああ、この剣は……そうだな。能力の一つは空を飛ぶ剣とでも言っておこうか」

「まじっすか!? なんだそのレアなアーティファクト!」

「どうやら持っているだけで浮遊の魔法がオートで稼動し一般人には見えないというオマケの効果もついている。だが、これは剣として使う分にはあまり大差ないが空を飛ぶという行為だけなら危険物だな」

「どうしてですか? 空を飛べるというのはそれだけでいいアドバンテージになると思いもいますが…」

「…手に持っているだけでも使えるが本来の使用は…例えるならサーフィンボードだ。それで突撃なんてしたらどうなる?」

 

みんなはどう想像したのか知らないが顔を青くしていた。

 

「確かに、危ないですね……」

「ボードの練習しておいた方がいいんじゃない? シロウ」

「そうだな。麻帆良に戻ったら特訓しておこう。ボードサーフィンなんて一度もしたことがないからな。

だから今回は浮遊だけは有意義に使わせてもらおう。

さて、ではそろそろみんなも普段着に着替えてこい。今日は自由行動でようやく本来の目的でもある本山にいくのだからな」

「はーい!」

 

カモミールにカードに戻す呪文も聞いたあと、ネギ君達は各自準備をしに部屋へと戻っていった。

だが、俺と姉さんはまだその場に残っていた。

事前に念話で知らせておいて正解だったようだ。

 

「それで、シロウ? まだ話していないことがあるってなに? アスナ達に話せない秘密がその剣にあるの?」

「ああ。この剣は実を言うとランクは低いが宝具に匹敵する代物だ」

「うそっ!? そんな感じはしなかったけど……」

「それがな。この剣はなぜ赤いのかよく調べてみたら俺の心象世界に繋がっていることが判明した。だから力を発揮すれば心象世界で燃え上がっている炎が現実に投影され熱を宿すものらしい……他にも効果は色々あるが」

「……あらためてこの世界の魔法のすごさを実感したわ……そんな特典がつくなんて元の世界じゃそれこそ封印指定ものね…」

「ああ。俺もつくづく規格外の存在だなと思い知った……ま、別に気にはしない。では姉さんも着替えてきたらどうだ? 俺も着替えてくるのでな」

「わかったわ」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

それから俺はいつも通りの私服で黒のシャツとパンツを着てその上に聖骸布のコート(普段着用)を着用し一同の集合場所に向かった。

集合場所には姉さんをはじめネギ君、アスナ、刹那がいたのだがその場には一般人である残りの5班のメンバーもいて思わずなんでさ? と突っ込みたい衝動に駆られた。

 

「あれー? 今日も士郎さん私達と同じ班についてくんの?」

「いや。早乙女、俺は途中から抜ける予定なので実質は姉さんだけ着いていくことになっている」

「なにか野暮用があるですか?」

「そういうことだ。それより……」

 

俺は関係者一同を目で呼び出し小声で会話をした。

 

(おい、なぜ早乙女達がいる? このかはしかたがないとしてもネギ君とアスナは先に本山に向かっていると思ったぞ?)

(ごめんなさい、士郎さん。パルに嗅ぎつかれて捕まっちゃったのよ)

(…なるほど。早乙女は勘がいいからな。しょうがない、では俺達が気を逸らしておくから二人だけでも先に本山に向かえ)

(すみません、士郎さん…)

(なに……気にするな、ネギ君)

 

それから俺達は観光に向かった。

そしていくつか巡っているうちになぜかゲームセンターに立ち寄ったのでこれも記念ということで早乙女がプリクラを撮ろうと提案してきたので別に構わないので撮らせてもらった。

しかしなぜか俺は姉さんとこのかとの写真を多く撮られていた。

このかがすごい舞い上がっていたのは、まぁ……なんだ? 申し訳ないとしか言いようがない。

意識していなかったが俺が寝ている間にこのかにキスされたのだったな。

さすがに動揺はしないが気にかけていないといえば嘘になるな。いかんぞ、あくまで生徒と教師なのだから。しかもこれでは学園長の思う壺じゃないか!

だからさっさと邪念は振り去り仕事の方を考えることにした。

するとふとネギ君達がゲームをしている場所に普通の歩方ではない帽子をかぶったガクランの少年が近寄っていった。

悪意はないようなので傍観することにしたが、出て行くときに注意をしておいた。

「一般人に溶け込むのなら歩き方にも注意したほうがいいぞ」と、それだけで少年は敵意を剥き出しにしてきた。

 

「……兄ちゃん、なにもんや?」

「なに、しがない一教師だよ。それよりこの場でやりあう気はないのだろう?」

「そうやけど、別に今でもいいで? 兄ちゃんかなりできるんやろ? 見ただけでわかるで」

「さてな。俺はあくまで受けに回るつもりだが……そちらがそのつもりならいつでも相手をしてやってもいいぞ?」

「ええ度胸や。んじゃ戦うことがあったらいちいち名乗るのも面倒やから今名乗っておくわ。俺の名は犬上小太郎や」

「ほう……名乗られてはこちらも名乗らねばいかんな。俺の名は衛宮士郎だ」

「士郎の兄ちゃんか…気に入ったで!」

「それは結構。さて、ならばさっさといけ。今なら見逃してやる。だが次会うことがあるならば……相手をしよう」

「気前がええな! ますます気に入ったで! ほなまたな士郎の兄ちゃん」

 

小太郎を見送った後、俺もまだまだ甘いなと思った。見つけた敵を情けで見逃すとはな、と…。

それからネギ君とアスナもうまく抜け出せたようで俺も姉さんと刹那にこの場は任せて遠回りをしながらもネギ君達の後を追った。

 

 

 




士郎の仮契約カードがただの代物の訳がない。


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027話 修学旅行編 3日目(02) 二箇所の戦闘風景

更新します。


 

 

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

どうやらシロウはネギ達の方に無事向かったようね。

これなら一応一安心ね。でもネギ達の方はもう本山の入り口に着いている頃だからなにかしら妨害にあっているかもね。

そこで刹那の視線が伝わってきたので振り向くと、

 

(イリヤさん。どうやら現在ネギ先生達は西の刺客の一人に襲われているみたいです)

(そうなの。で、状況はどう?)

(正直言って芳しくありません。相手は近接戦闘に加えて符術士でもありアスナさんの動きも軽く避けているようです。ネギ先生も魔法障壁を抜かれて軽症を負った模様です。今はなんとか一時撤退することが出来ましたが状況は依然厳しいと思われます)

(そう…まったくシロウはなにをしているのよ?)

(それはしかたがないです。今ネギ先生達がいる千本鳥居の場所には無限ループの結界が張られていますから進入は困難なのでしょう)

(……わかったわ。セツナ、少し待って。シロウに念話でそのこと伝えた後、本気を出してもいいからと伝えておくから)

(ほ、本気ですか……?)

(そう、本気よ。結界なんてものはシロウにかかれば1秒もしないで破壊しちゃうんだから!)

(い、一秒……)

(あ…でも、もう平気みたい。シロウも中に進入したみたいだからすぐに追いつくって言ったわ)

(わかりました。先生たちにそのことを伝えておきます)

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

よし! 体勢は万全、後は相手が襲いかかってくるのを待つだけだ。

瞬間は一度、来た!

 

「風精召喚!剣を執る戦友!!迎え撃て!!」

「はは! やっと本気か!? だげどな、こんなもん、へでも…ッ!?」

「『魔法の射手・(サギタ・マギカ・)連弾・(セリエス・)雷の17矢(フルグラーリス)』!!」

 

よし、うまく乗せることができた。相手も乗ってくれたようでこれで今一番の魔法を撃てる!

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル……闇夜切り裂く一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ……!」

 

受けてみて!

 

「『白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)』!!」

「うがああああぁぁぁあ!!?」

 

白き雷の直撃を受けた少年はそのまま後ろに吹き飛ばされていった。

でも、それだけでやれるとは正直思っていない!

その証拠に土煙の中からすごいスピードで迫られて鉛を受けたような拳をもらっちゃった! いけない!?

アスナさんとカモくんも黒い狗のような影にとらわれて身動きができないでいる。

それから何度も拳や蹴りを受けてとても痛いけど今はまだ我慢できる範囲だ。

そして少年がとどめの一撃を決めようとした。

ここが、チャンス!

 

「契約執行0.5秒間、ネギ・スプリングフィールド……!」

 

即座に少年の拳を受け止め逆に殴り返して空中に上がっているところを下に回り再度詠唱をし、掌を少年の背中に当てて白き雷を放った。

少年は痺れて動けないようで顔だけこちらに向いている。

だから僕は大声で叫んだ。「これが僕の力だ!」と。

 

そこからすぐに形成を建て直して脱出する算段をしようとしたらまだ動けたようで立ち上がったと思ったら少年の体が変化した!?

カモ君がいうには獣化っていうけど人間じゃないの!?

でも、今は関係ないので再度自分に契約執行を施し挑もうとしたらそこにのどかさんが現れて次々と少年の攻撃先を読んでくれている。

あのアーティファクトの力なのかな?でもそろそろ僕も魔力が危ない。そこでふいに意識が揺らいでそこをついてか少年が特大の拳をあびせようとしてきた。やられる!?

そう思って目を瞑ってしまったが痛みはやってこなかった。だから恐る恐る目を開くとその拳は力強い人の手により止められていた。

 

「なっ!?」

「なかなかいい戦いぶりだった、ネギ君。だが最後に目を瞑ったのは反省点だな」

 

そこには獣化して力も上がっているのにまるで微動だにしない士郎さんの頼もしい姿があった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

よかった。かなりの傷を負っているようだが重傷というわけではないようだな。

 

「すまない。遅れてしまったな……だが、後は俺が引き受けよう。宮崎は、まぁしょうがないから後ろに下がっていろ」

「は、はい!」

「…なんや士郎の兄ちゃん? 邪魔すんのか?」

「まぁそう邪険にするな、小太郎。ネギ君も今は限界のようだから選手交代だ」

「まぁええわ。士郎の兄ちゃんとも戦いたかったからええで!」

「結構結構。ではやるぞ」

 

俺は徒手空拳で構えをした。

 

「え、士郎さん。武器は出さないんですか?」

 

ちびせつなとアスナからそんな言葉が聞こえてきたが、

 

「相手もそうなのだから合わせてやるものだ」

「嬉しいこといってくれるやないか! それじゃお先に行かせてもらうで!」

「どこからでも来い。すべて受け止めてやろう」

 

俺は身体強化をかけて小太郎の接近を待った。

少し時間がたった時、ついに小太郎は動きを見せた。

するといきなり分身なんてことを仕掛けてきた。

だが、まだまだだ。

 

「まだまだ分身の錬度が甘いぞ。これならまだ楓の方が優秀だ。はっ!」

 

俺は分身の攻撃は全て避けて本体を掌底で吹き飛ばした。

 

「がっ!?」

「む……少し力を入れすぎたか」

「こなくそ!」

 

小太郎は吹き飛ばされたところから狗神を何体も放ってきた。

物量作戦で来たか。だが話にならん。

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

そこで初めて俺は干将莫耶を投影してすべて瞬動でもって切り払った。

それに驚いた小太郎は俺が後ろに回ったことにも気づかずそのまま地面に沈めてやり完全に力を奪ってやった。

そして時間切れなのか獣化が切れたようだ。そこで俺は小太郎も刹那と同じ境遇の奴だとなんとなく悟った。

 

「く、くそぅ……兄ちゃん強すぎや!」

「そうでもない。俺の場合は経験がものをいっているからな。それに凡才の俺に比べお前には才能がある。一流の戦闘者としてのな。また会うことがあるのならば鍛えてやることもない」

「ほんまか!? ネギの奴にも勝てるようになれるんか!」

「それはお前次第だ。まぁ当分は謹慎を受けるだろうがいつか麻帆良に来れるときがあるだろう。その時は時間があればいつでも相手をしてやろう」

「へへ……嬉しいわ。今は気分がええ。だから脱出の仕方を教えてやるで?」

「それには及ばない。もう基点はわかっているからな。ではまたな小太郎」

「ああ。それと最後に聞いてええか?」

「なんだ?」

「兄ちゃん、何者や?」

「……なに、ただの魔術師だよ」

「……!」

 

小太郎はなにか感じたか知らないが固まっている。なので早々にみんなを連れてその場を立ち去った。

 

 

 

──Interlude

 

 

士郎達が立ち去った後、小太郎は仰向けになりながら気分に浸っていた。

 

「でも、士郎の兄ちゃんの一瞬見せた寂しげな目……あれはなんやったんやろな? あれは俺等と似たような感じやった。

でもいい兄ちゃんやったな。ネギやあの姉ちゃんもいるようやし謹慎がとけたらあっちにいってみるのもいいかもしれんかもな?」

 

だが、と小太郎は言葉を止め、

 

「ネギとの決着はまだついとらん。回復したら覚えとけよ、ネギ! 次は負けへんで!!」 

 

小太郎は声高らかに叫んだ。

その表情はとても晴れやかだった。いい好敵手と、近い将来に師匠と呼べるかもしれない人物ができたからだ。

小太郎にとって今回の事はかなりの収穫があったのは確かな事実だった。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

「ですが士郎さん、結界の解き方はわかるのですか?」

「ああ。少し待て。投影開始(トレース・オン)

工程完了(ロールアウト)停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

 

俺はある鳥居に10本ほどの剣を放ちそれは呪印が記されているところにすべて命中し最後に、

 

「アデアット。行け! 『剣製の赤き丘の千剣』!」

 

鳥居の門に向けてアーティファクトの剣を放ちそれは命令通りに結界の基点の中心に突っ込み爆発を起こした後、煙の中から回転しながら俺の手に戻ってきた。

すると周辺の歪みが元に戻り目の前には川が流れていて巨大な岩が出現した。

 

「え、えげつねぇな……士郎の旦那。そのアーティファクト、爆発の効果もあんのか?」

「まぁな。アベアット。さて、ではあそこで少し休むとしよう。ネギ君の手当てもしなくてはいけないからな」

「は、はい。でもやっぱり士郎さんって強すぎですね。アーティファクトももう使いこなしてますし」

「いや、まだ完全とは言えん。エアサーフィンの特訓もあるしなにより未知の部分がまだあるからな。それより俺が今気になっているのはなぜ宮崎がこの場にいたのかだな?」

 

そこではっとしたのか一同は一斉に宮崎に顔を向けた。

 

「そ、それは……ネギ先生とアスナさんがどこかいくのを見てどこいくのかな~と思っちゃって……」

「なるほど。それで鳥居に迷い込んで運良くネギ君達と合流できたわけか。まぁばれてしまったものはしかたがない。とりあえず一緒に連れて行ったほうが危険が少ないからいいだろう」

「そうっすね。しかし、のどかの姉ちゃんのアーティファクトも使い方によっては結構使えるぜ! いやー、これはいいパートナーにめぐり合えたもんだな!」

「こら! エロガモ、勝手に話を進めない!」

 

みんなが騒いでいる中、俺はちびせつなに話しかけていた。

 

「それで今そちらの状況はどうなっているんだ?」

「それは…ッ!?」

 

そこで突然ちびせつなの様子がおかしくなった。

どうやら本体の方が連絡ができないほどに緊急事態なのだろう。ちびせつなは式紙に戻ってしまった。

ここは姉さんと刹那が頼りだな。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

まずいわね。シロウの方はどうにかなったみたいだけどこちらも動き出したわ。

セツナはもとから身体能力が高いからこれくらい走ってもどうということはないみたいだけどコノカとユエとハルナはさすがにきついみたい。

でも、やってくれるわ。こんな街中の中で堂々とエモノを放ってくるなんて。

私はシロウやセツナみたいに弾いたり掴むといった行為は魔術を大っぴらに使わないとできないから今はセツナだけに任せるしかない。

 

(どう、セツナ!? まだ追いついてきているの?)

(そうみたいです。くっ! 白昼堂々と!)

(愚痴ってもしかたがないわ。セツナ、ちょうどいいからあそこのシネマ村に逃げ込みましょう)

(わかりました! イリヤさんは、その、跳べますか……?)

(なめないでよね! シロウほどの跳躍は無理でも質量操作と重力制御の魔術を使えば跳べるわ! でも私はユエ達についているわ。万が一ってこともあるから。だから後ほど合流しましょう!)

(わかりました)

 

口での会話を済ませた後、セツナはコノカを抱えてシネマ村の中に入っていった。

コノカはCGとかいっているから暢気なものね。気づかれるよりマシだけど。

それから私は周りを警戒したけどどうやら相手はセツナしか標的にしていないらしく先ほどまでの気配は消えていた。

この様子だとシロウの話していたツクヨミって子なのかしら…?

だからとりあえずもうばてそうな二人を落ち着かせて私達もシネマ村に入ることにした。

 

「イ、イリヤさん……一体何事ですか?」

「そうですよ~。いきなり走り出すからなにが起こったのかとか」

 

そこでやっと息切れも回復してきたユエとハルナが話しかけてきた。

 

「ごめんね、私も説明できる状況じゃないわ。というよりなんで走っていたのかしら…? とりあえず私達もシネマ村に入りましょう。二人とはその時に合流できるでしょう」

「…そうですね。と、いうよりお金を払ってから入れです…」

 

ユエ……意外に適切なツッコミね。確かに考えてみればセツナ達は無断で侵入したのよね? 二人が狙われないことが分かっていたら私も跳んでおけばよかった……。

それはともかく中に入って少ししてセツナ達を発見した。

そこでシネマ村名物の仮装をしたカズミ達も現れて正直対応に困っているとカズミが小声で話しかけてきた。

 

(ねぇねぇイリヤさん。もしかして今現在進行形で敵に追われているとか?)

(…よくわかったわね。白昼堂々とセツナが言うには針状の突起物を放ってきたそうよ。それでこのシネマ村に逃げ込んだんだけど……)

(そうなんだ。ところで士郎さんはいないの?)

(シロウはネギ達の方へ遠征しているわ。あちらはかたが着いたようだけどこちらはまだ危険な状況ね。少しシロウと連絡をとってみるわ)

(それよりイリヤさん。なんか敵っぽい奴がこのか達の前に出てきたみたいだよ?)

(え!?)

 

はっとなりセツナ達がいる方へ振り向くと麗人が着そうな服装をしたツクヨミが馬車で現れてセツナに挑戦状として手袋を投げつけていた。

辺りが騒ぎ出している中、私はシロウに念話を決行していた。

 

《シロウ、こちらは先行きが怪しくなってきたわ。そっちに何人いたかわからないけどこちらは複数いるかもしれない》

《…そうか。そちらに式紙を使ってネギ君が向かったがよければ俺も向かうか? 今なら空をかっとんでいけるからな》

《ええ、任せるわ》

《了解した》

 

シロウとの念話を終わらせるとセツナ達と合流してなぜか私も仮装することになってしまった。

十二単というらしいけどどうにも動きがとりにくいわね。

 

「いやぁ~、イリヤさんってほんと似合ってるね!」

「本当ですわ。とても綺麗ですわよ、イリヤ先生」

 

カズミやセツナ達、それに一般客にも注目されてしまって正直恥ずかしいわ。

まぁいいわ。悪い気はしないから。途中で式紙のネギとも合流。そうして仮装集団となって歩いていると目的地に到着したのかツクヨミが橋の上に立っていた。

 

「ぎょーさん連れてきてくれはっておおきにー、刹那センパイ。でも士郎はんがいないんは寂しいですねー」

「ふん、貴様など士郎さんの手を煩わせることもなく倒してやる。そしてこのかお穣様は必ずお守りする!」

 

高らかに言い切ったセツナには感動したけど周りを考えてからものを言った方がいいわね、セツナ。

どうにも勘違い者が続出しているみたいだし。

なぜか私達も決闘に参加するはめになっちゃた。私はさすがに動きが取れないのでチサメとザジさんと一緒に観戦することにした。

 

「ツクヨミといったか? この人たちは…」

「心得ておりますー。ほかの皆さんには私の可愛いペットがお相手いたしますねぇ~?ひゃっきやこぉー♪」

 

するとツクヨミの周りから多種多様の妖怪が出現した。あれならガンド一発で楽勝ね。でもセツナは私にコノカを安全な場所に連れて行ってといわれたので見た目だけ実体化させてもらったニンジャ姿のネギと一緒にお城の方まで逃げていった。

そしてお城の中まで入ったところでコノカがさすがに不安がってきたのか、

 

「なぁなぁイリヤさんにネギ君。ほんまになにごとなん? あの人、なにか怖いしせっちゃんも本気の目をしていたし…」

「すみません、このかさん。今は話せません。だけどいつか…」

「そうよ。まずはここから抜け出すことが先決ね」

 

だけど頂上まで登った先には一昨日の符術師の女と謎の白髪の少年、それに幻想種の鬼が待ち構えていた。

 

「ふふふ……ようこそ、このかお嬢様。あら?女はともかくそこの坊やは今本山にいるはずやけどな? …読めたで、あんた実体ちゃうな?それじゃこのかお嬢様もお守りできひんな?」

「くっ!」

 

カモミールは実体だけどネギは分身といってもいいから悔しがっているわね。

でもね、私がいることを忘れてもらっては困るわ。

 

「あら、あなた。私がいることを忘れているのかしら?」

「あん? なんや、あんた? あの男のオマケが私達に敵うとでもおもい? はらはらおかしいわ」

「……いったわね? 久しぶりにカチンときたわ。だ・れ・がシロウのオマケですって…!?」

 

私は久しく起動していない体中に刻まれているアインツベルンの魔術刻印を起動させた。

それによって膨れ上がった魔力にこのかはともかく相手もネギ達も驚きの表情をした。

 

「ッ?」

「な!? なんやあんたその魔力は!」

「さぁね? でも、私をシロウのオマケっていった罰、受けてもらうわよ!」

 

私は指に魔力を集中させ一気にそれを解き放った。

ガンド。それは北欧の呪いの魔術で凛も使う『フィンの一撃』とも呼ばれるもの。

今の凛はどうかは知らないけど聖杯戦争時の凛以上の威力は秘めているといってもいいわね。

 

「ちぃ!?」

 

女は幻想種に防御の命令を下すがそんなもの、私の前では紙切れも同じ。敵が防ぐ回数より多く、そして強くマシンガンのようにガンドを放つ。

さすがに不利と感じたのか女は一度距離を取り幻想種の鬼にどでかい弓矢を構えさせた。

その行動は何の意味なのか怪訝に思ったとき、符術師の女は城下で今もなお戦っているセツナと私に向かって、少しでもおかしい動きをしたらコノカに矢を放つと脅迫してきた。

さすがの私もあんなものは防げないと判断し動きを止める以外に選択肢はなかった。

 

《姉さん大丈夫か!》

 

そこでちょうどいいタイミングでシロウから念話が伝わってきた。

ネギにもその意が伝わったのか幾分ホッとしているみたい。ピンチな状況なのは変わりないけど。

 

《どうやらピンチのようだな》

《ええ…今のこの状況、どうにかできる、シロウ?》

《宝具を使う…!》

《えっ!?》

《上空から弓を構えている幻想種を打ち貫こう》

《わかったわ。頼むわね、シロウ》

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

姉さんからのGO!サインが伝わってきたため俺は『剣製の赤き丘の千剣』の上に立ち射法八節を組みそして、

 

投影、重装(トレース・フラクタル)―――I am the bone of my sword(我が骨子  は 捻じれ  狂う)!」

 

投影したるはケルト神話の英雄、フェルグスの宝剣『カラドボルク』。そしてそれを矢として改良して出来上がった柄から先まで捻じ曲がった螺旋剣。

それを弓に番え魔力を高めていく。それにいち早く気づいたらしい白髪の少年が2キロは離れているというのにこちらに振り向いたが、もう遅い!

 

「茶番は終わりだ! “偽・螺旋剣(カラド・ボルクⅡ)”!!」

 

弓から放たれた魔剣は瞬く間に亜音速で空間を貫き幻想種へと向かっていった。

結果はすでにわかっている。

否、防ごうとしてもそれごと見事に粉砕するだろう。

だが、そこでミスが生じた。俺が放つ直前に城の屋上には運悪く突風が吹き荒れネギ君達は多少だが動いてしまったのだ。

それで忠実に命令に従っていた幻想種はカラドボルクに貫かれる前に矢を放ってしまっていた。

 

――俺は残心がまだあったためすぐには動けない。

――姉さんも防ぐほどの魔術を今からでは生成するのは不可能。

――ネギ君は実体でないため魔法すらも使えない。

 

万事休すかと思われた次の瞬間、

 

このかの前に、盾となり貫かれた、刹那が、いた。

俺は恐らく刹那の名を叫んだのだろう。刹那はそのまま落下していった。しかもそれを追ってこのかも飛び降りた!?

俺の今の腕ではこいつを乗りこなすのは困難……また、助けられないのか!? と苦虫を噛んだが、このかが刹那を抱きかかえた瞬間すさまじい光が溢れた。

思わず俺は一瞬だが目を瞑ってしまったが、次に目を開けたときには二人は水面の上に浮かび上がっていて刹那の貫かれた傷も塞がっていった。

俺は、おもわず見とれていた。これが力を発揮したこのかの力なのかと。…しかし、同時に助かってよかったと安堵の息を吐いた。

それで安心した俺はすぐに行動を起こし屋上に残された姉さんをうまく回収し地面に降ろした後、姉さんに本山で合流しようとだけ伝え先にネギ君達とともに戻っていった。

その帰り途中、

 

「ネギ君、カモミール……奴らの中で一番の要注意人物がわかった。おそらく小太郎も入れればあれで全員だろうが白髪の少年だけは別格だろう」

「え? それはどういう……」

「俺が2キロも離れた場所から矢を放つ直前に彼だけは俺の矢に込められた魔力に敏感に反応し振り向いてきた。魔力を込めたのはほんの数秒だというのに、だ」

「まじっすか……!?」

「ああ。だから早く本山に向かった方がいい。危険な予感がする…」

「そうですね。刹那さん達が合流したらすぐに向かいましょう」

「ああ」

 

話がまとまったところで俺は速度を上げてアスナ達のいる場所へと戻っていった。

 

 

 




これにて二か所の戦闘は終了です。


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028話 修学旅行編 3日目(03) 関西呪術協会本山に到着

更新します。


 

 

 

アスナ達のいる場所に戻った俺達はとりあえず姉さん達と合流するために山道から通常の道へと歩いていった。

ネギ君は今回ばかりはかなりの激戦だったのであろう……まだ体が回復していないようなのでアスナが背負っている。

別に俺がやっても構わなかったが積極的な姿を見たので一歩引いておいた。

そして正常な道に出て合流しようとしたが、姉さんと刹那とこのかはしょうがない。だが残りの5班のメンバーに朝倉も一緒に歩いているのは…はて?どういうことだ?

ネギ君とアスナも大声を上げて驚いている。

それでなし崩し的に合流した俺達は前を歩く宮崎達の後ろを歩きながら、

 

「ちょっと刹那さんにイリヤさん! なんでパル達もついてきてんのよ!?」

「いや、すみません。実はさっき見つかってしまいまして」

「ふっふっふ、甘いよ、桜咲さん。イリヤさんはさすがに無理だったけどGPSを事前に荷物に仕掛けておいたから見つけるのは楽勝だったわ」

「…と、いうわけでして」

「朝倉? まさか邪魔をしようとしているのではないか? また昨日のあれ(・・)やるぞ?」

「ひぃ…!?」

 

朝倉はすぐさま姉さんの後ろに隠れた。カモミールもなぜか一緒になって震えている。

あれー? そんなに怖い顔していたかなぁ?

 

「していたわよ、シロウ……さりげに少し殺気も入っていたんだけれど」

「はっはっは。勝手に人の心を読むのはいけないぞ、姉さん?」

「そうね、気をつけるわ。ふふふ…」

 

刹那達が若干汗を浮かべながら後退しているが、ここで隙を見せたらやられてしまうのだよ。

 

「そ、それよりイリヤの姉さん。さっきの魔法はなんだったんだ? 触媒もなしにあんな殺気が凝縮されていたような魔力弾は俺っちも始めて見たぜ?」

「以前に話さなかったかしら、カモミール? 私とシロウは魔法使いじゃなくて魔術師よ。違いははっきりしておいたほうがいいわ。

ま、いいわ。あれは北欧のガンドっていう呪いの魔術よ。本当は病気や呪いをかける程度のものだけれど……」

「姉さんのそれはもう物理的にダメージを与えるほどに昇華してしまったいわゆる呪いの弾丸だな」

「へ、へぇ……呪いねぇ。それってどんなこととかできるんですか?」

「あら、それじゃ今度仮病をしたかったら保健室に来なさい。本当に風邪を引かせてあげるから。寝込むほどのね」

 

姉さんは目を光らせながらアスナに詰め寄っている。

アスナは恐怖を覚えて俺の後ろに隠れてしまった。

 

「姉さん、冗談はそこまでにしておけ。それよりそろそろ関西呪術協会の場所に着くみたいだが、このか達は先に行ってしまったぞ?」

「「「え!?」」

 

そこでネギとアスナが声を上げた。む? なにかおかしなことをいっただろうか?

 

「ちょ、ちょっと士郎さん! ここは敵の本拠地なのにあんなに無防備に突っ込んで大丈夫なの!?」

「そうですよ。危険です!」

「……君達はここの、いや関西呪術協会の主が誰かとかは学園長に聞いていないのか?」

「え?」

 

そこで二人とも頭にハテナマークを浮かべていた。それを見越して刹那が口を開いた。

 

「どうやら伝えられていないようですね、士郎さん。私も説明不足でしたが……」

「え? え? どういうこと……?」

 

そのとき、先を歩いていたこのかは盛大に「お帰りなさいませ、このかお嬢様!」とたくさんの京都らしい和のある衣装を着た人たちに迎え入れられていた。

 

「へ……?」

「どういうこと……?」

「こ、ここは関西呪術協会の総本山であると同時に…」

「このかの実家ってわけよ。本当にコノエモンからなにも聞いていなかったみたいね」

「えぇぇぇーーーーッ!!?」

 

当然アスナ達は驚いていた。それから色々話をしている間に俺達は本殿へと通された。

正門でも思ったが本殿のそこら中に桜が舞っていて煌びやかなものだと思っていると本殿の奥から少し戦場離れしているようだがそれでも相当の実力者としての貫禄を醸し出している男性がやってきた。

どうやらこの人物が学園長の言っていた関西呪術協会の長でありこのかの父親でもある『近衛詠春』か。

 

「お待たせしました。ようこそ明日菜君。それにクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生に…」

 

詠春さんは一度言葉を止め真剣な表情で俺と姉さんを見てきた。

…なるほど。どんな人物か確かめているようだ。

それなので俺も姉さんもしっかりと視線を受け止め、

 

「最後に衛宮士郎君に衛宮イリヤさん。お義父さんからは手紙で聞いていますよ。とても頼りになるお二人だと」

「恐縮です」

 

俺は相手の礼儀作法に合わせてお辞儀をした。

それがはまっていたのかどうかは知らないが回りから「おお!」と感嘆の声が聞こえてきた。

それからすぐにこのかが飛び出して詠春さんに抱きついた。

やはり久しぶりの再会となると嬉しいようで詠春さんも先ほどの表情はなく親の顔になっていた。

そこにネギ君が立ち上がって詠春さんに親書の話を持ち出してそれを受け取って中身を見た詠春さんは一瞬顔を顰めた。どうやら学園長からお叱りの言葉が書いてあったと推測する。

少ししてすべてを読み終わった詠春さんは「任務ご苦労!」とネギ君を褒めてやり周りも騒ぎ出して宴会が開かれることになった。

だが、俺は一度旅館に帰り準備を整える事にした。先ほどの嫌な予感が拭いきれないからだ。

その旨を詠春さんと姉さん、刹那に密かに伝えた。

 

「詠春さん、姉さんを残しておきますので皆のこと、万が一の場合はよろしくお願いします。もしかしたら敵はこの結界を掻い潜ってくるかもしれませんからどうか用心のほど」

「わかったよ、士郎君。しかしお義父さんから聞いていますがあなたも相当の実力者とお見受けします」

「そんな…まだまだ修行の身ですから」

「ご謙遜を。しかし、今まで大変だったのでしょう…世界を跳んできたというのですから」

「「「ッ!?」」」

 

俺達はその言葉に思わず固まった。しかしすぐに調子を取り戻して、

 

「まさか、学園長が…?」

「ええ、刹那君。手紙にも士郎君達をよろしく頼む、と書いてありましたので……」

「エイシュン、そのことは……まさか誰かに話していないでしょうね?」

「それは大丈夫ですよ。読み終わったら手紙は燃えてしまったので、それに話したら瞬く間にあなた方はまた追われてしまう立場になってしまうでしょうから誰にも話そうとは思っていません」

「そうですか……安心しました」

「それより、これからもこのかの事をよろしくお願いしますよ」

「は……? それは一体……」

「シネマ村の件は聞いております。おそらくこのかの力の発現は士郎君との中途半端ながらも仮契約を済ませたからでしょう」

「そ、それはですね…!?」

 

それから詠春さんは「まさかこのかの方からとは…」や、「これで将来も安泰でしょう」などと恥ずかしげもなく親馬鹿ぶりを発揮しており姉さんも話しに参加していて居た堪れない雰囲気だったため、俺は逃げ出すように旅館へと帰る事にした。

背後から詠春さんと姉さんの微笑と刹那の同情の視線が伝わってくるが無視だ!

アーティファクトを発動し颯爽に帰宅した。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

旅館に到着後、新田先生にはうまくごまかして話をして瀬流彦先生などには警備を厳重にお願いしますと伝えた。

その後、外套は羽織ってはいないがボディーアーマーに着替えた俺はロビーの向かうと刹那を除く麻帆良四天王の楓、古菲、龍宮がなにやら話し合いをしているのでどうしたのかと聞いてみると、

 

「士郎殿。どうやら敵が動いたようでござるよ」

「……なに?」

「夕映殿から助けのコールがかかってきたでござる」

 

そのとき、俺の仕事用の携帯にも連絡があり相手はネギ君でとても切羽詰っている感じだった。

だから落ち着いて話を聞くとすでにこのかは誘拐されてしまったようだ! くっ!? 遅かったか!

すぐに向かう! と言って電話を切り、周りの三人の顔を見た。

ぎりぎり一般人の古菲はともかく他の二人は行く気満々のようだ。

 

「ふぅ……その顔だと止めても行くといった感じかね?」

「ふっ……わかっているじゃないかい士郎さん。仕事料は後ほどで構いませんよ?」

「お前は根っからの守銭奴か? まぁいい。なら俺も腹を括ろう。行くぞ!」

「あいあい!」

「わかったアルよ、士郎老師!」

 

それから俺達は裏庭に出てきた。

そして『剣製の赤き丘の千剣』を呼び出して、

 

「乗れ。電車や走りでいくよりこれのほうが都合がいい」

「これは、士郎さんのアーティファクトかい?」

「そうだ。スピードを出すが空気抵抗は緩和されるので落ちる心配はない」

 

俺の後ろに三人を乗せた大剣は四人も乗っているというのに重さなど感じないほどに一瞬で空に飛び上がった。

それに古菲はひどく空を飛んでいることに感動しているが今は浸っている時間はない!

 

「ではいくぞ。事態は一刻を争う。落ちないように注意することだ。それと楓と龍宮はともかく古菲は手元が不足気味だからもし幻想種との戦いになるならばこれを使え」

 

俺は口内で呪文を唱えて干将莫耶を投影して古菲に渡した。

だがやはり気づいたのか古菲はすぐにこれが干将莫耶だと知ると感激して頬擦りをしていた。

少しテンションがおかしくなっているようだが、準備は整ったので俺は一度断った後、一直線に空を駆けていった。

待っていてくれ、みんな!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

僕達は今、鬼達に囲まれている中、風の防壁を展開し作戦を考えていた。

だけどそこでカモ君が最強の切り札を持ち出してきた。

それは仮契約カードのもう一つの能力、カードを通して契約者を召喚するといったものだ。

 

「では士郎さんを今すぐ呼べるというわけですね!?」

「そういうこった! いやー、士郎の旦那。イリヤの姉さんだけ本山に残していくほどの先読みはさすがだぜ!」

「そうね。それじゃシロウと連絡をとるから少し待って…」

 

イリヤさんはカードに頼らずに念話で士郎さんと話をしていた。

内容はわからないけどいつでもいいらしいという回答が来たらしい。

 

「それじゃ召喚するわよ、シロウ! 召喚!衛宮イリヤの従者!『衛宮士郎』!!」

 

するとカードから光が溢れ完全武装姿の士郎さんが目の前に姿を現した。

 

「召喚に従い参上した! して状況はどうなっているのだ?」

「はい。今はまだこの風の防壁を張っていられますがいずれ解けて鬼達が一斉に襲いかかってくるでしょう」

「そこで士郎の旦那には手札が多いことに越したことはねぇから刹那の姉さんと仮契約してもらうぜ!」

「なに……? それはなぜだ?」

「どういうことですか、カモさん!」

「兄貴でもいいんだけどよ、今は刹那の姉さんにも魔力を分けるほど余裕はない! だからここは旦那に頼みたいってことだ!」

「しかし、刹那の気持ちもあるだろう。なぁ姉さん?」

「いいんじゃない?」

「そんな投げやりな……」

「時間がねぇから早く決めてくれ!」

 

カモ君は相当無茶な要求をしてきているけど確かにもうすぐで防壁も解けちゃう。

 

「僕からもお願いします。刹那さん、士郎さん……」

「……しかたがない。緊急事態だ。いいか刹那?」

「は、はい……私も覚悟は出来ています!」

「では、カモミール。さっさと頼む。それとこの件が終わったらじっくりとお話をしようか?」

「…い、イエッサー…」

 

青い顔をしながらもカモ君は魔方陣を描いて士郎さんは少しかがんで刹那さんは足を伸ばすようにして少し戸惑いながらも唇を交わした。

僕はきっととても顔を赤くしているんだろう。アスナさんや刹那さん、イリヤさんも真っ赤だから。

 

「…さて、では突破口は俺が作ろう。ネギ君は先に向かえ。俺も少し数を減らしたらすぐに向かう」

「はい!」

「とはいえ、数はさすがに多すぎるな…蹴散らすか。…―――I am the bone of my sword(我が骨子  は 捻じれ  狂う)―――…!」

 

そこで僕達は士郎さんのいつもと違う呪文を聞いた瞬間、寒気が立った。

士郎さんの握っている剣は螺旋を描いていてそれはとても尋常ならない魔力を秘めているから。僕の『雷の暴風』なんて足元にも及ばないほどに。

それを士郎さんは弓に番えて、

 

「ネギ君、俺が矢を放ったと同時に姉さんとともに行け! そしてこのかを頼むぞ!」

「はい、士郎さん!」

「任せなさい、シロウ!」

 

話をしている間も魔剣にはどんどん魔力が凝縮さてれいっているのがわかる。

そしてついにそれは士郎さんの叫びとともに放たれた。

だけど飛び出す間際に、僕は思わず耳を疑った。だって士郎さんは矢を放つ瞬間に、「“偽・螺旋剣(カラド・ボルクⅡ)”!!」と言ったからだ。

でも今は詮索はしないで僕はイリヤさんと杖にまたがり飛び去った。

すぐ後ろで爆発が起こったみたいだけど急ごう。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

士郎さんはネギ先生を行かせた後、放った剣を爆発させた。

それにより敵陣の被害は甚大。だがそれでも天ヶ崎千草は士郎さんの存在を見越してその数は見積もっても1000体以上をも召喚していたため、まだ9割は残っているといったところだ。

だが、士郎さんは表情を崩さず、

 

「さて、ではしばしの間相手をさせてもらうぞ幻想種…」

「なんや兄ちゃん。いきなり現れたと思ったら同胞を一瞬のうちに100体以上はふっ飛ばしてくれよって…覚悟はできてんやろな?」

「覚悟、とは…そのようなもの最初から出来ているに決まっているだろう。このたわけ……! 俺は今少々、いやかなり気が立っている!」

 

憤怒の表情をした士郎さんは背後にいくつもの武器を浮かび上がらせた。だが、それは今まで見てきたものとは違い、一本だけでも桁違いの魔力が秘められていて鬼共も恐怖を感じたのか動けずにいた。

 

「…さぁ、幻想種。幻想殺しの概念は除いてある。だからさっさと故郷へ帰還しろ!」

 

そして放たれた剣、剣、剣…それはさながら豪雨のように鬼達へと降り注ぎ次々と殲滅していく。

それは一方的な暴力でもあるが相手もそれを望んで召喚されたのだからお相子である。

 

「うおおおおおおーーーーーっ!!」

 

士郎さん自身も敵陣にものすごいスピードで乗り込み、裂帛とともに双剣から次々と放たれるそのまさに動く高速機械のような正確な剣戟によって鬼達は悉く急所を斬り、突き刺しそして還される。

私とアスナさんも士郎さんの後を続いて還していくが腕の差はとてもではないが尋常離れしている。

おそらく以前に味わった弓の時の感触のように、今私はまた対峙したときの状況を想定している。

結果は何度やってもすぐにこちらが死ぬイメージしか沸いてこない。

それだけ士郎さんは強者だということだ。

それで圧倒されている間に士郎さんは双剣を投擲し、二つの剣はそれぞれ弧を描きながら別の方へと飛んでいき斜線上の敵を一体、二体と容赦なく切り裂いていく。

さらに士郎さんは自身のアーティファクトである『剣製の赤き丘の千剣』を召還し今度はエアボードとして飛ばす。

それで何体もの鬼に貫通した。

だがそれだけではまだ終わらない。

剣を放ったと同時に士郎さんも瞬動で剣の間合いまで一瞬で詰めて刺さっている剣の柄を掴んだ瞬間、

 

「爆ぜろ!」

 

その言葉によって士郎さんを中心に爆発が起きて煙が晴れた時には士郎さんを中心にクレーターが出来上がっていた。

 

「すごっ…」

 

隣でアスナさんが鬼を斬りながらも士郎さんの戦いに見とれていた。

私もこういう時でもなければ胸躍っていただろう。

 

「形状変化! ハルバード!!」

「「えっ!?」」

 

敵の中心まで侵入した時に大剣が光を放ちまさにハルバードへと姿を一瞬で変えていた。

 

「これもあの剣の能力かな!?」

「おそらく…!」

 

ハルバードを担ぎその場で何度も大きく旋回をしたら周りにいた敵はすべて半分にされ掻き消えた。

だがそこで大きく回転した為に起きた技後硬直の隙を狙い二十体ほどの鬼が士郎さんに襲い掛かり士郎さんは一瞬にして押しつぶされた、かのように見えた。

 

「形状変化! 連結刃!!」

 

塊の中から回転するようにいくつもの刃が繋がった剣が飛び出しその場一体に粉塵とカマイタチが巻き起こり一帯の敵はまた返還された。

そしてそれを放った士郎さん自身は少し傷を負っているがほぼ無事な状態でその場に佇んでいた。

その表情からは容赦しないという意思が大いに伝わってきた。

そして最後とばかりに大剣をカードに戻し、その手には再度双剣が握られているが…それを続けざまに何度もさまざまな方向へと投げる、投げる、投げる!

計、十双二十対の双剣がまるでミキサーのように様々な方向の敵を切り裂いていき、

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!」

 

そのラストワードによってあちこちで剣は爆発を引き起こして敵の数を瞬く間に減らしていった。

そしておよそ二分の一くらいは還された後、私たちのところへと一度戻ってきた。

 

「大事ないか、二人とも?」

「う、ん……っていうか士郎さん、強すぎよ!」

「はい……正直ここまでとは。やはりあなたに師事を仰いだのは間違っていませんでした」

 

士郎さんは「ふっ…そうか。だが君たちには俺と違い才能がある。だからいずれ君達も俺を乗り越えていくだろう」と苦笑を浮かべていた。

その笑みに一瞬ドキッと来てしまったのは内緒だ。

そして、

 

「では刹那、アスナ。十分敵を消したとは言わんが時間も迫っている。だから俺も先に向かう。遅れてでもいいから追って来い…」

「任せてください!」

「ええ! 士郎さんのおかげで恐怖なんてもの吹き飛んだから!」

「そうか…では、アデアット!」

 

士郎さんは再度アーティファクトを発動し空へと駆けていった。

サーフィンはしたことがないといっていたがもう乗りこなしているのか様になっている。

 

「士郎さんって意外にはっちゃけたらすごいことになるかも……」

「想像が難しいです。士郎さんがはしゃぐ姿は…それよりアスナさん」

「わかってる。士郎さんが十分勇気をくれたから頑張れるわよ」

「わかりました。ではせいぜい少し出来るチンピラ100人に囲まれた程度だと考えてまいりましょうか」

「いいわね。その安心していいんだかわからない例え…」

「おや? アスナさんも肝が据わってきましたね」

「それはもう。士郎さんの強さに毒されたかもしれないわね?」

「あはは、それを聞いたら士郎さんはどんな反応しますでしょうか? とりあえず…」

「そうね、鬼退治と行こーか!」

「はい!」

 

私とアスナさんは覚悟を決めて今だ400体以上はいる鬼達の群れへと駆けていった。

 

 

 




あれ?昔の方が戦闘描写がうまい気がする……。気のせいだ!


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029話 修学旅行編 3日目(04) 長い夜の終焉

更新します。

ーーー追記

活動報告でも書きましたが、開示設定をすべての一覧と検索から除外からチラシの裏(評価と感想あり)へと移動しました。

これで当分は様子を見て、反応がよかったら通常投稿に戻したいと思っているんですが、どうでしょう?


Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

僕とカモ君、そしてイリヤさんは今もなお杖にまたがりながら魔力が集中している場所を目指している。

その間に、僕は士郎さんが放ったカラドボルクという剣について聞いてみた。

 

「あら? さすがネギね。カラドボルクのことを知っていたなんて」

「それはもう有名ですから。でもなぜ士郎さんはそんな一級品な武器を…宝具と呼ばれている伝説の魔具を使えるんですか?」

「そういえばエヴァンジェリン戦で使った盾も曰くつきの名前だったな?」

「そっか。やっぱり場所は違えど根本的な伝説は同じってことね。でも今はあまり詮索しないで。後で教えてあげるから」

「わかりました…、ッ! 見えた!」

 

僕が見た先にはなにかしらの魔法で拘束されているこのかさんの姿が映った。

そこにカモ君が、

 

「やべぇぜ! あれは儀式召喚魔法だ! なにかでけぇもん呼び出すつもりだぜ!?」

「そうね。コノカの魔力を媒体にするんだからとんでもない化け物が呼び出されることは確かだわ!」

「急ぎましょう!」

 

だけどそこで背後の森からすごい音が響き思わず振り向くと黒い狗が何匹も飛び込んできた!

これは狗神!?

僕はとっさに魔法で防ごうとしたが間に合わず弾かれてしまって落下した。

!? いけない、僕はともかくイリヤさんは!?

イリヤさんが飛ばされたほうを見たらなにか唱えているのかゆっくりと地面に降下していっているイリヤさんの姿があった。さすが士郎さんのお姉さんだ。

安心していると違う方向から声が聞こえてきた。

 

「ここは通行止めや! ネギ!!」

「コタロー君!?」

「なに、あなた? 私達の邪魔をしようっていうの?」

「ん? 姉ちゃん何者や……?」

「あら。シロウから聞いていないのね? 私はシロウの姉の衛宮イリヤよ」

「シロウの兄ちゃんの!?」

「ええ。で、通行止めをするなら私も相手になってあげてもいいわよ? これでも私はシロウの師匠なんだから」

「それはいいなぁ? でも今はネギと対決したいんや。邪魔はしないでほしぃやなぁ?」

「そんな状況じゃないわ。早くしないととてもいけないものが呼び出されてしまうのよ?」

「それがどうした? 俺はただネギと戦えればそれでいいんや! 正直嬉しいんや。同い年で対等に渡り合えたんはネギが始めてやったからな……さぁ戦おうや!!」

「で、でもコタロー君!」

「言い訳はええ! 今この状況以外に戦ったとしてもお前は本気をださんやろ? ならここを通りたかったら俺を倒していかんかい!?」

「くっ!」

「挑発に乗るな、兄貴!」

「ネギ!」

 

なにかカモ君とイリヤさんが言っているが今は耳に入らない。

なぜかわからないけど今コタロー君は僕の手で倒さなきゃいけないような、そんな気持ちでいっぱいだから。

 

「全力で俺を倒せば間に合うかもしれんで!? 来いやネギ! 男やろ!?」

 

その言葉が決定的だった。もう今は全力で倒す以外にこのかさんへと続く道は開かない! だからコタロー君を全力で倒す!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

まずいわね。すっかりネギの目はコタローって子にしか向けられていない。

私が間に入ってもいいんだけれど無傷とまではいかないわね?

どうしようかと考えているうちにもネギとコタローが戦闘を始めようと駆け出してしまっている。

カモミールもさすがに諦めの顔になっていたけどそこにちょうど良く援軍が来たわね。

二人の間に巨大な手裏剣を放って分身を使ってコタローを吹き飛ばしていた。

本体の方は木の上に立っていて無事だったらしいユエを抱えている。

 

「遅かったわね、カエデ?」

「すまぬでござる。真名と古と別れた後で夕映殿を回収するのに手間取ってしまって」

 

カエデは私の前まで降りてくるとユエを降ろして、

 

「それより、熱くなって我を忘れ大局を見誤るとはまだまだ精進が足りんでござるよ、ネギ坊主」

「な、長瀬さん…!? それに夕映さんも! え、なんで!?」

「今は混乱するより先を急いだ方がいいでござるよ?まずは行動のときでござる」

 

そういってカエデはネギを後ろから押してやっていた。

 

「恩に着るわ、カエデ。後でなにかお礼をするわね」

「構わぬでござるよ、イリヤ殿。それよりネギ坊主のこと、頼むでござるよ? 士郎殿ももう先に向かっているし刹那達の方には真名と古が援軍しにいったから安心して行ってくだされ」

「わかったわ」

 

だけど、そこにコタローがネギの道を塞ごうとした。けどそれはカエデのエモノで防がれていたので私も安心してネギの後を追った。あ、杖に乗っていっちゃた。

 

「走って追いつけっていうの!?」

 

私はしかたがなく足に魔力を集中して走ろうと思った矢先に空からシロウが降りてきた。

 

「…姉さん? 一人なのか?」

「ええ…ネギにおいてかれちゃったわ」

「…それは気の毒だったな。なら乗せていこう」

「それならお言葉に甘えさせてもらうわ」

 

そしてシロウと一緒に目的地に急ごうと思った矢先に突如光が天に伸びていった。

 

「なっ!? まさか間に合わなかったのか!」

「急ぎましょう、シロウ!」

「ああ!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

龍宮と古が援軍に来てくれて幾分戦闘が楽になりかけていたところで、湖の方から光が溢れてなにかが出現しようとしている! ネギ先生と士郎さんは間に合わなかったのか!?

そこに龍宮の声が響いた。

 

「いけ刹那! あの可愛らしい先生を助けに!」

「そうアル! この干将莫耶があるかぎり負ける気がしないアルから!」

「すまない!」

 

私とアスナさんはそれで駆け出した。

だが月詠がそんな事情もお構いなく突っ込んでこようとしてきた。

けど龍宮が援護してくれたのでなんとか先生達の方へと向かうことが出来た。

そこでアスナさんはネギ先生から召喚されたようでその場を消え去った。

私も士郎さんによって召喚されたためその場から意識がとんだ。

覚めたときにはネギ先生達のやや後方に隠れている士郎さんとイリヤさんの姿があった。

 

 

 

 

「無事だったようだな、刹那。して、あの怪物はなにかわかるか?」

「恐らくは二面四手の大鬼からして『リョウメンスクナノカミ』でしょう! まさか封印されていたのがあんな怪物だったなんて!」

「そうか。ではそろそろ向かおう。あの白髪の少年相手にはさすがにネギ君とアスナだけでは荷が重い」

 

即座に士郎さんは弓矢を呼び出し魔力のこもった剣を幾度も放ち少年の詠唱を邪魔している。

そしてその隙に私達は先ほどの魔法を受けて腕が石化しているネギ先生を見て絶句した。

だけど士郎さんはおもむろにネギ先生の手をとるとなにか歪な形の短剣を突き刺した。

すると石化していた腕がまるで嘘のように元通りになっていた!

 

「し、士郎さん! その短剣は!?」

「黙秘権を行使する。それよりネギ君、腕の調子はどうだね?」

「…は、い。なんともありません。嘘みたいです…」

 

アスナさんやイリヤさんもほっと息を吐いていると大鬼の方から白髪の少年が話しかけてきた。

 

「君が今一番脅威となる存在……衛宮士郎だね?」

「脅威かどうかは知らないがそうだ」

「君には一番目に消えてもらうよ。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト…小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。時を奪う毒の吐息を。『石の息吹(プノエー・ペトラス)』」

「ふっ……I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)―――……熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!!」

 

士郎さんが叫んだ瞬間、私達の眼前に七つの盾が出現して一枚ほど石化したがあと六枚はほぼ無傷といってもいい。

それにさすがに少年も驚いている。

 

「出た! 士郎さんの最強の盾!」

「へっ! エヴァンジェリンの魔法も受けきったんだ! これくらいは上等だぜ!」

「すごいです!」

「さっすがシロウね! 今がチャンスね。ネギ、防壁を!」

「は、はい! ラス・テル・マ・スキル・マギステル…! 逆巻け、春の嵐。我らに風の加護を。『風花旋風風障壁』」

 

そこで先ほどの障壁がまた張られた。

その時間が惜しいのか士郎さんは私のほうへ真剣な目を向けてきた。

 

「刹那、今俺はあいつを相手にするのが手一杯だ。だからこのかはお前が救いに行け。お前ならいけるはずだ」

「え! でもあんな高いところどうやっていくっていうの、士郎さん?」

「それは……!」

「なに、刹那。きっと大丈夫だ。ネギ君も、アスナも、姉さんも、そしてこのかだってきっと受け入れてくれる」

 

士郎さんは笑みを浮かべながら私に勇気の言葉をかけてくれる。

その言葉に何度救われたことか。

今なら明かせることが出来る。

 

「はい……私も覚悟が出来ました。皆さん、今から秘密にしていたことを見せます。見せたらお別れとなってしまいますが……ですが今なら見せることが出来ます」

 

私は士郎さんにだけ見せた姿を今一度解き放った。

そして真の姿を見せた。怖いけど、アスナさんの「このかがこれ位で誰かを嫌いになったりする?」という一言で気持ちがとても楽になった。

ネギ先生やカモさん、イリヤさんもうんうんと頷いている。

士郎さんも嬉しそうに微笑んでくれている。

 

「さて、では行け刹那! 奴の相手は任されよう!」

「僕も頑張ります!」

「はい! ありがとうございます。皆さん!」

 

私は嬉しい気持ちを正直に受け止め翼を羽ばたかせてお嬢様のいる場所へと向かった。

そこに白髪の少年が攻撃を加えてきようとするがネギ先生の一発だが防ぐには十分な矢が決まり私はその場を突破した。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

いったか。これでうまくこのかと仲直りが出来ればいいなと思い、もう片隅では白髪の少年の方へと目を向けていた。

 

「……君は一体何者なんだい? そんな魔法は見たことがない……」

「何者とは……そうだな。お前達の敵とでもいえばいいのかね?」

「……確かにそうだね。それじゃ僕も全力でいかせてもらうとしよう」

 

そこで体勢を正して相手をしようとした瞬間、俺……いや、ネギ君達にも聞こえているのだろう。あのお子様吸血鬼の声が頭に響いてきた。

 

《聞こえるか? ぼーや達に士郎。わずかだが貴様達の戦いを見させてもらった。特にぼーや。力尽きるまでとはいわんがまだ限界ではないはずだ。1分半持ち堪えさせろ。そうすれば私がすべてを終わらせてやろう》

 

「……!」

「この声って!」

「ああ、姐さん!」

「エヴァか……」

「エヴァね……」

 

《……なにやら後半からの反応に温度差があるようだが、まぁいいだろう。ぼーや、さっきの作戦はよかったが少し小利口にまとまりすぎだ。今からそれじゃ親父(アイツ)にも追いつけんぞ? たまには後先考えず突っ込め! ガキならガキらしく後のことは大人に任せておけばいいのだ。たとえばそこで時間の無駄だといわんばかりの顔をしている衛宮イリヤや何でも屋の士郎などにな》

「何でも屋とは、ひどい言われようだ……」

「よくわかったわね。エヴァ♪」

《……やはりか。そこで士郎とイリヤ、すべてを終わらせてくれるなよ? 貴様達は待機していろ! ぼーや達に後は任せて戦いでも見物しているがいい》

「しかし……いいのか?」

《たった数分も持ちこたえられることができなければ話にもならん。貴様達は黙ってぼーや達の成長具合を計っていろ》

「だ、そうだけれど? いいの、シロウ?」

「姉さん……強制魔術(ギアス)を俺にかけておいてよく言えるな? いいだろう、了解した。だがまずいと思ったら手を貸すからな?」

《いいだろう》

 

そこでエヴァとの念話は途絶えた。

ではご要望どおり見物していることにしよう。手の内はあまり敵に見せたくはないからな。

それで俺はネギ君とアスナの方へ振り向き、

 

「やれるな? ネギ君」

「はい!」

「アスナも頼むぞ」

「うん!」

 

そして俺達の目の前で白髪の少年とネギ君・アスナの戦いが始まった。

刹那のほうは順調に向かっているようでこのかを無事奪還できたようだ。

ネギ君達も一矢報いたようで少年の顔に強化した拳をネギ君が浴びせていた。

だが、少年はお返しとばかりに拳をぶつけようとしたがそれは彼の影から伸びてきた腕によって止められ一瞬にして湖の奥まで突き飛ばされていた。

その人物は間違いなくエヴァその人だった。

茶々丸も来ているようで上空で拘束する類の銃弾を放ち鬼神の動きを止めていた。

 

「なんだ、士郎にイリヤ? 本当に力を貸さなかったのだな?」

「まぁな。なにがあるかはわからないからな」

「フッ……まぁいいだろう。貴様にも私の本気を見せてやろう」

「お手並み拝見だな」

「そうね、シロウ」

 

それからはほぼエヴァの攻撃魔法が止む無く続いて天ヶ崎千草という女が使役する鬼神はなすすべもなく魔法の一方的な応酬で傷ついていった。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが!!」

 

止めといわんばかりの十節以上の長詠唱を唱えだし、同時に鬼神の体は次々と凍り付いていく。

天ヶ崎千草がなにやら鬼神の肩の上で「次から次へと何者や!?」と吠えているがエヴァは鼻で哂い、

 

「相手が悪かったな女。ほぼ絶対零度150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツでも防ぐこと適わんだろう」

「いや、それ以前にすでにオーバーキル級呪文を連発している時点で防ぐ力も残ってなかろう?」

「士郎は黙っていろ! 貴様も巻き添えにしてやってもいいんだぞ?」

「それは遠慮させていただこう」

「ふん、なら口出しするな」

「ほ、ほんまにあんた何者や!?」

「私が何者かと? ならば聞いて驚け! 我が名は吸血鬼(ヴァンパイア)エヴァンジェリン! 『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』!! 最強無敵の悪の魔法使いだよ!!」

 

高笑いを上げながらも天ヶ崎千草を見下す表情は変えずにいる今のエヴァはまさに闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)に相応しいと言えるだろう。

それにさすがにネギ君達は息を呑んでいるようだ。

まぁ、実際俺と姉さんも驚いているのだから。こんな魔法はあちらの世界では大魔術以上の力を持っているからな。

それをいうとネギ君も充分すごいと実感はできる。

 

「全ての命ある者に等しき死を。其は安らぎ也……」

 

そこでさらに追い討ちでエヴァが詠唱を進め鬼神はもう動けぬこと不可能な域にまで達していて体中に今すぐにでも砕けんとばかりに皹が入りまくっている。

だが、そこでエヴァは詠唱を止めこちらを目で射抜くように見てきた。

 

「……なんだ、エヴァ? 終わらすのではないのか?」

「いや、ここで“おわるせかい”でぶち壊してもいいのだが……最後は貴様が決めろ。一撃で滅ぼせるようなものはなにか持っているのだろう? なぁ? “宝具使いの魔術師”よ」

「!……やれやれ、さすがに使いに使ったからエヴァには見破られたか」

「そのようね、シロウ。だからもういいんじゃない? あんなでくの坊はあれで止めを刺してあげたら?」

「あれというと、あれか……」

「し、士郎さん……宝具使いって一体……?」

 

そこでネギ君がおずおずと尋ねてきたがもうあまり隠す必要もないので俺は一度視線を向けた後、また前に向けた。

無言のやりとり。それだけでネギ君はなにかを理解したのか押し黙った。遠坂でいう意味のない会話『心の贅肉』とはよくいったものだ。

俺は先ほどまで待機状態だった魔術回路に撃鉄を下ろしていき火を上がらせる。

そしてイメージするのは彼の最速の英雄が所持した当たる前からすでに結果がわかっていて因果を捻じ曲げ必ず心臓を貫く呪いの魔槍。

 

投影開始(トレース・オン)……投影、装填(トリガー・オフ)!」

 

詠唱後に俺の手に顕現するのはルーン文字がいくつも刻まれている赤い槍。

それを軽く回転させた後、四肢を地面に着かせ投擲体勢に入ると同時に周囲のマナが槍に集束していく。それはさながら貪り食うといってもいいほどの速度域。

それに伴い俺の魔術回路も悲鳴を上げだすがそれはひと時のもの。真名開放しようとしているのだからそれ相応の宝具には代償はつきものだ。

槍に込められているその異常なほどの魔力の内包密度にエヴァは「ほう……」と声を鳴らし、姉さんは「やってしまいなさい!」という表情をして、ネギ君とカモミール、アスナは声を上げることも不可能なのかこの槍に目を貼り付けている。

そして……準備は整った。

 

全工程投影完了(セット)――――さて、大鬼神。その心臓……貰い受ける!!」

 

俺はその場から足場に魔力を集中させ助走をつけて大きく跳躍をかまし大鬼神の目前まで飛び上がりその場で体を大きく捻り、

 

 

 

突き穿つ(ゲイ)―――死翔の槍(ボルグ)ッ!!!!」

 

 

 

俺の手から放たれた魔槍は赤い軌跡を描きながらすさまじい勢いで大鬼神の心臓部を貫き、それでもなお余波は続きそのまま遠き彼方まで飛んでいき山に直撃したのだろう。すさまじい爆発が起こったようだ。

それに伴い心臓を貫かれた大鬼神……リョウメンスクナノカミは崩れるどころか存在そのものが消滅しあっけなくその場から退場した。

 

「ふ、あははははははッ! まさかケルト神話の英雄、『クー・フーリン』の魔槍まで使うとは! 士郎、貴様がどれだけ宝具を持っているのか確かめたくなったぞ?」

「今回は特別サービスだ。これ以上は見たければ決死の覚悟を抱いてこい」

「はっ! そうかそうか、今の私の前で良くぞ言った。だが今回は月が満月ではないことが残念だが……久々に全開でやれて気持ちがいいから見逃してやろう。いいものも見れたことだしな」

 

俺は着地した後、ランサーの言葉を拝借しエヴァにそう告げた。エヴァも意気揚々と楽しんでいる表情をしながら満足げの顔をしていた。

少ししてエヴァと茶々丸は地上に降りてきたようでこれで今回はもう危険はないだろうと一安心を吐いていた。

だが、周りは俺に休息を与えてくれないようで色々質問をしてきた。

刹那達も合流したようで賑やかなことこのうえない。小太郎もなぜかその場に一緒にいて、

 

「すごかったで、士郎の兄ちゃん! あの鬼神を一発で仕留めるやなんてな!」

「そうです! しかもあんな伝説の宝具を使えるなんて本当に士郎さんは何者なんですか!?」

「それは後日に話すとしよう。もう隠してもしかたがないからな。それよりネギ君に小太郎……君達はライバル関係ではなかったのか?」

 

その俺の一言にネギ君は身構えたが小太郎はどこ吹く風といった顔をして、

 

「今回はお預けにしといたる。だから引き分けや! 次会うことがあったら俺が勝つからな、ネギ!」

「僕も負けないよ!」

 

どうやらこちらも心配はないようだ。だから俺はこのかやエヴァ達のいる方へと顔を向けた。

だが、そこで俺は気づいた。白髪の少年がエヴァと刹那、姉さんの後方から詠唱をしていることを!

だからとっさに俺は瞬動をして三人を突き飛ばしアイアスを投影しようとしたが、

 

「…遅いよ。障壁突破(ト・テイコス・デイエルクサストー)。“石の槍(ドリユ・ペトラス)”」

 

抵抗も空しく俺は突如地面から出現した数々の石の槍に腹部を貫かれてしまった……。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

いきなりシロウが私達を突き飛ばしてきたので何事かと思ってシロウのほうへと目を向けて……言葉を失った。

そこには石の槍に貫かれ腹部と口から大量の血を流しているシロウの姿があったから。

 

「シロウーーーーー!!」

 

私の叫びにその場にいたほぼ全員が悲痛の叫びを上げた。

エヴァもなにやら険しい顔をしている。

だけどシロウは震える体でアーティファクトを出し、その燃え上がる大剣を持ってして少年を袈裟に切り裂いた。

 

「…なるほど。やっぱり最初に気づいたのは君だったようだね。でも、その怪我ではもう助かることはできない…不確定要素が一人消えてよかったよ。それじゃ僕はもう退くことにするよ」

「ぐっ…やはり幻像だったか。なんて、間抜け……がッ!?」

 

少年はまるで水に溶けるようにその場から消え去った。

だけどそんなことに構っているほど私達には余裕がない。シロウは今もなお腹部に穴を開けて瀕死の重傷を負って倒れているんだから!

 

「シロウ! シロウ! しっかりして!!」

「………ぐっ、はっ……!」

 

私の必死の呼びかけにもシロウは苦しむ素振りしか出来ないほど弱っている!

 

「士郎さん! 士郎さん!」

「士郎の兄ちゃん! しっかりせぇや!」

「いややわ! しっかりしてな士郎さん!」

「お嬢様! どうか落ち着いて!」

 

ネギやこのか達が青い顔をして泣きながらも私と一緒にシロウに呼びかけてくれている。でもそれで事態が好転してくれるわけでもなく私は己の力の無さを嘆いていた。

 

「え、エヴァちゃん! どうにかならないの!?」

「わ、私は治癒魔法は苦手なんだ……イリヤはどうなんだ!?」

「時間をかければどうにかなるかもしれないけど……こんな深い傷は今の私じゃどうにもできないわ!」

 

私はまたシロウのことを救ってあげることが出来ないの!? シロウのことは私が護ってあげるって約束したのに!

だけどそこでシロウは小さいながらもなにかを呟いている。

 

「……ヴァ……ンを……使う…だ…」

「!」

 

シロウはその一言を呟いてまた喘ぎを上げだした。

でもそうだわ! アヴァロンを使えばどうにかなるかもしれない! でも、こんなみんながいる前で使うなんて…シロウが人間じゃないと誤解されてしまう! どうしたらいいの!?

だけどそこでカモミールがなにかを思いついたのか大声を上げた。

 

「そうだ! このか姉さんの力なら士郎の旦那を治せるかも知れねぇ!」

「そうか! あのときのセツナを癒した治癒の力でなら! カモミール、すぐに準備をしなさい! 一刻を争うわ!」

「合点ッす!」

 

カモミールはすぐさまシロウの周りに魔法陣を書き出した。

それで私はこのかの方へと向いて、

 

「コノカ! 今、シロウを救えるのはコノカしかいないわ! だから……!」

「ウクッ…グスッ……ウチの力で士郎さんが助かるんならなんでもするわ!ウチ、士郎さんに死んでほしいない!」

「わかったわ。それじゃ今から説明するわね!」

 

教えた後すぐにコノカはシロウの方へと向かい、

 

「士郎さん……お願いや。死なないで!」

 

コノカは血だらけのシロウの口に構わずキスをした。

そして魔法陣が起動した瞬間、シロウとコノカを中心にすさまじい光が溢れシロウの傷がすごい速度で塞がっていく。

しばらくして光が収まったその場にはエイシュンと同じ陰陽師姿のコノカの姿と外面は血だらけであることは変わりないが傷は完全に塞がって、ただ反動で気絶をしているシロウがいた。

そのことで一同はしっかりと息をしていることを確認した後、狂喜乱舞して騒ぎあっていた。

しかしコノカはそれでもずっと気絶しているシロウのことを抱きしめていた。

私は涙を流しながらコノカに一言「ありがとう……」といった。コノカは笑顔で「ええよ」と返してくれた。

だけど、同時に私はある決意をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………そんな光景を遠くで見ていた月詠はというと、

 

「ふふ~。士郎はんが無事でよかったですね~。ウチ、いつか会いにいきますから、待っていて下さいね士郎はん。そしたらその時は今度こそ殺し愛しましょうね♪」

 

そう言いながら月詠は恍惚の笑みを浮かべていたのであった。

 

 




これにて一件落着。イリヤの決意とはいかに。

そして士郎と戦えなかった月詠はそのうち麻帆良にくるかもですね。


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030話 修学旅行編 最終日 修学旅行の終わり

更新します。


日差しが顔に当たり俺はゆっくりと目を開けた。

そこは昨日の湖の風景ではなく年季が入っている天井が見えた。

……俺は…生きているのか? 昨日の受けた傷は致死にも相当するものだった。

まぁ、俺の場合アヴァロンが自動修復してくれると思うからそう簡単に死なないと思うが…。

そこで、ある結論が浮かび上がった。

きっと、姉さんが俺の体内にあるアヴァロンに魔力を注ぐことによって今の俺は生きているのだと。

腹部にも今はもう痛みは感じられないからな。

同時に化け物じみた回復速度の光景をみんなに見られたわけだ。

…なにを、今更。そんなものを見られたからといって俺の信念は変わらない。

そう自身に納得させ起き上がったら予想斜め上の状況になっていた。

なぜか俺は大部屋の中心に寝かされており昨日の当事者は何名かいないが全員俺を囲むように雑魚寝をしている。…なんでさ?

俺の混乱をよそに姉さんがいち早く起きたのか俺のほうを見て泣き出しそうな顔になった。

俺は姉さんの泣き顔が一番苦手なのでどう落ち着かせるか思案―――……する間もなく姉さんに抱きつかれていた。

 

「よかった……シロウが起きてくれて。昨日傷が治ったのに一向に目を覚まさないからどうしようかと思ったんだから!」

「すまない…また悲しませてしまった」

「いいのよ……シロウが無事なら私はそれだけで…」

「ありがとう、姉さん。それより傷がないということはアヴァロンによる修復をしてみんなにも見られてしまったのだろう?」

 

姉さんは一回きょとんとした顔になったがすぐに違うと否定した。

では、どうやってあの傷を治したのだろうか? エヴァはまずありえないだろうし……不死だから。

他にも検索してみるがほとんどが使えないものばかり。ネギ君も癒す程度らしいからあれはさすがに無理。

 

「どう、やったんだ? アヴァロン以外に思いつく点が見つからないのだが……」

「それはコノカがシロウと仮契約(パクティオー)をしてコノカに眠っていた潜在能力を開花させたからよ」

「は……?」

 

少し、いやかなり状況がわからない。それじゃなにか? 俺はこのかとキスをしたことになるということか?

また混乱しているところで誰かが雑魚寝の中にいないことを確認した。

 

「そういえば姉さん。刹那はどうした? まさか本当にでていってしまったのか?」

「ああ。それならまだ外の庭にいるはずよ? エヴァ達もそこにいるわ」

「そうか。では顔出しだけでもしておこう」

「その様子だと引き止めるつもりはないの……?」

「いや。だが確認しておきたいことがあるから」

 

それで俺は着替えさせられていた寝巻き姿のまま部屋を出て行った。

後ろから「ちゃんと引き止めてあげるのよ?」と聞こえてきたが聞こえない振りをしておいた。

 

 

 

そして庭に出るとエヴァと話をしている刹那の姿がうつった。

 

「っ……士郎さん!」

「起きたか士郎」

「体調がよろしいようでよかったです、衛宮先生」

 

刹那は俺の顔を見た瞬間、泣き出しそうな顔になったが他二名はいつもどおりだった。

 

「刹那…やはりでていくのか?」

「はい。あの姿を見られたからには一族の掟ですから出て行かなければいけません」

「そうか」

「なんだ、士郎? 意外に冷たいんだな?」

「いや。ただ俺は知人や家族のような人たちの手を振り払ってまで姉さんとともに家を飛び出して色々なものを今まで失ってきたから刹那の気持ちはわからなくもない」

「なるほど。つまり“言う資格がない”というわけだな」

「そうともいうのだろうな。だがな刹那、これだけは言わせてもらう。お前はそれが本当に最善だと思っているのか?」

「しかたが、ないのです。掟は絶対なのですから……」

「なら……その掟どおりお前がここから立ち去ったとして残されたこのかはどうなるんだ?」

「っ!? それは…士郎さんに守っていただければ安心です」

「ああ……確かに守ってやれないことはない。だが命は守れても心までは守ることは俺でも不可能だ。このかはきっとお前がいなければ塞ぎこんでしまうかもしれない。……前に言ったな? これで三度目かもしれない。刹那、関係はまだやり直せる。俺と姉さんとは違い引き返すことは何度でもできるのだからそれを大事にしろ」

「士郎さん……ですが!」

 

刹那は今にも泣きそうになりながらも後ろを向き、走り出そうとした。

だが突如として俺たちがいる後ろの障子が思いきり開かれそこからこのかが刹那に向かって飛び出してきた。

 

「嫌や、せっちゃん! せっかく仲直りできたのにまた離れ離れになるやなんてウチもう嫌や!」

「お、お嬢様……!」

 

このかは刹那を行かせないようにぎゅっと力を両手にこめて押さえつけている。

だから俺は最後に一言、「刹那、その手を振り払うことができるか……?」と言ってあげた。

 

「……私は、ここにいてもよろしいのでしょうか?」

「それは刹那自身が決めることだ。このかの事を守ると誓ったのだろう? ならば中途半端に信念を捨てずにずっと抱えていろ。これ以上は俺はなにもいえないからな」

 

刹那は涙を流しながら「はい、はい……」と何度もお辞儀をしてきている。

後ろからなにやらニマニマと含みのある笑みを浮かべているエヴァがいるが今は無視をしておく。

それから他のみんなも飛び出してきてなんのわだかまりもない表情をした刹那とともに旅館へと帰っていった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

そして旅館に戻って、詠春さんとまた会う時間まで暇だったのでふと疑問があったことがあるのでロビーで今現在、茶々丸が買ってきたのだろう八橋をそれはとてもおいしそうに食べているエヴァに姉さんと一緒に聞いてみることにした。

 

「なぁ、エヴァ? 一つずっと気になっていたんだが登校地獄の呪いはどうしたんだ……? 今は見たところ解けているようだが……」

「ああ。お前には話してなかったな。今回の報酬として今頃はじじぃが私をこちらによこす為に呪いの精霊をだまし続ける用紙に5秒に一回は判子を押し続けているだろう」

「それは……今日も含まれているわけだな? ならば昨日からずっとなのか? 学園長、さすがに死ぬのではないだろうか?」

「大丈夫じゃないの、シロウ? コノエモン、あの頭からしてもう人間やめてそうな感じだし…」

「ありえていそうでそれはそれで怖いな…」

「それより私からも一ついいか?」

「なんだ、エヴァ? 昨日も言ったがそうやすやすと俺の秘密を教える気はないぞ?」

「ちっ…じゃ一つだけだ。あの時、ぼーやの石化を解いた歪な短剣はなんなんだ?」

「っ!?」

「む? やはりなにか後ろめたい事を隠しているな?」

 

まさか、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を使う光景まで見ていたのか? 言い訳が思いつかないぞ!?

姉さん、ヘルプ! 緊急事態だ! エマージェンシーだ!! 呪いが解けている今のエヴァでは力ずくで聞き出してきそうだ!!!

その意が伝わったのか姉さんは笑顔を浮かべた。…その笑みがギンノアクマ降臨の笑みでないことを切に願う。

 

「ねぇエヴァ? もしそれが呪いを解くものだったらどうする気なの?」

 

うおぉぉぉい!!? いきなり煽る発言は禁止だ、姉さん!!

 

「当然使わせてもらう。出さなければ力ずくでも出してもらう」

「そう。それじゃもしそうだったとして、もしネギがいっていたことが本当でナギさんが生きていて迎えにきてくれたらそのときはどうするの?」

「ぐっ!?」

「せっかくいつか解いてあげるっていってるのに、エヴァはそれを裏切っちゃうんだー?」

「そ、それは……! しかしだな!?」

「ナギさんへの想いはそんな安っぽいものだったのね~?」

「っ!!?」

 

……まさに決定打の一撃だった。そしてエヴァは負けたような悔しそうな顔をしながら、

 

「……わかった。私も永遠の命があるのだ。ナギが生きているというのならいつまでも待っていてやる。だが、それは今置いておいて呪いの解呪はあきらめるとしても本当かどうかだけは教えろ……」

「それは本当……?」

「私は貴様らよりも何十倍も生きているのだぞ? そのくらい耐える器量がなければ今頃は生きておらん」

「どうやら嘘じゃなさそうね? 一応いっておくけどシロウに強要するのだけはよしなさいよ?」

「あーあー、わかっている! だからさっさと教えろ!」

「と、いうわけよ。シロウ」

「さすが姉さんだな…まさかエヴァを説き伏せるとは。では教えていいんだな? できればこれはネギ君達には内密にお願いしたいところだが…」

「わかっている。ぼーやも私の呪いを解こうとしているのだから教えたら落ち込むだろうからな」

「わかってるじゃない! さすが真祖ね!」

「……なぜか貴様にそう言われても嬉しくもなんともないな…」

 

その気持ちはなんとなくわかるぞ、エヴァ。

とりあえず誰かに聞こえないように小声で、

 

「(では、教えよう。あの歪な短剣は神代の裏切りの魔女とまで言われたコルキスの皇女メディアを象徴する短剣、名を『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。すべての魔術…魔法ともいえるな? それらを完全に否定して破戒しリセットする宝具だ)」

「(なにぃぃぃぃいっ!!? 士郎、貴様そんなものまで出せるのか!?)」

「(ああ。今だから話せることなのだが前に一度そのことを教えてやろうとしたこともある)」

「(なぜ、言わなかった!?)」

「(いや、言おうとした瞬間ネギ君からナギさんが生きているという話が出て、それなら口出しは野暮だな、とその時は身を引いたんだ)」

「(修学旅行の少し前のあの時か!?)」

 

その瞬間、エヴァは今部屋でアスナ達と仮眠をとっていてこの場にはいないはずのネギ君に向かって殺気を飛ばしていた。あれは相当なものだろう。わかるものは何事かと振り向くぐらいの殺気を駄々漏らしているのだから…。

ちなみに気づいたものは偶然居合わせた龍宮、古菲、楓とまた昨日居合わせた三人だったとか。

とりあえず茶々丸と姉さんと一緒に三人でエヴァを羽交い絞めにした。だがあまりにも抵抗が凄かったので仕方なく俺はマグダラの聖骸布を投影してさらに強化の魔術を施してエヴァを完全とはいかずとも拘束して無力化に成功した。

後に楓に聞いた話だがその時の俺達の動きは物凄いものだったそうだ。

 

「…ぜぇ、はぁ…とりあえず、だ。もしナギさんが見つからなかったりネギ君でも無理だと判明したときは学園長の判断のもとで解いてやるから。いざというときの保険とでも思っておいてくれ…」

「むー、むー…!」

 

口まで拘束されながらもエヴァは、それはもう嬉しそうに頷いていたのがとても印象に残った。

そしてもう暴れないのを確認した後、マグダラを解いてやると、

 

「はっはっは! そのときはよろしく頼むぞ、士郎。しかし……本当にお前は人間なのか?」

「今のところはまだ人間のつもりだ」

「今のところは、か……それは昨日の傷の修復の早さも関係しているのか? 近衛木乃香の膨大な魔力とアーティファクトの力でもあんなすぐに傷口が塞がるわけでもなし。それになにやら私には傷口を塞ぐときに剣同士が擦れあうようにも見えたぞ?」

「え、そんなものまで見えていたの……?」

「ああ。私以外は気づかなかったみたいだが生憎と私は耳がいいほうなんでな。キィキィとやかましかったぞ」

「さすがにそこまでは秘密だ。破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を話した時点でもう意味ないような気がするが時が来るまで俺と姉さんの体の秘密は隠しておきたい」

「わかった。今回はその宝具の存在だけでも聞けて私は今えらく寛大だ。詮索はもうなしにしよう。さて、ではさっさとぼーや達を起こして時間まで京都巡りへと赴くぞ!」

 

ハイテンション吸血鬼はそのままネギ君達のいる部屋まで走っていった。

…しかし本当にテンション高いな。

そんなことを思っているとエヴァの殺気に気づいてこちらを傍観していた三人のうち古菲がなにか包みを持って近寄ってきた。

 

「士郎老師!」

「その呼び方は……はぁ、もう突っ込むのも疲れたからそれでもいい。で? どうした古菲…?」

「昨日貸してくれたこの干将莫耶アルが返そうと思って来たアルよ」

「ああ…そういえば昨日渡したんだったな」

「もう最高だったアル! 切れ味もさることながら使えただけでも感激アルよ! それとあの鬼や狐、鴉の人達から伝言アルが『お前となら何度でも戦ってもいいぜ』らしいアルよ?」

「そ、そうか…」

「シロウって本当に変な奴らに好かれるわね?」

「それはもういい。それより古菲、そんなに感動したのなら持っていても構わんぞ?」

「いいアルか!?」

「ああ。ちなみにセットで対魔力と対物理が向上するから持っているだけでも効果があるから覚えておいて損はないぞ」

「はいアル!」

 

 

 

 

 

 

古菲とわかれた俺と姉さんは少し遅れてネギ君達がいる部屋へと向かうとそこはすでに死屍累々…いやいや、エヴァによって叩き起こされてだるそうな面々がいた。

それから午前中はエヴァの観光巡りを存分につき合わされた。確か、以前に「修学旅行? はっ、そんなだるい行事に参加することも…」とか抜かしていたのは誰だったかと言いそうになったが後が怖いので言うことを止めた。

しばらくして詠春さんと合流してナギさんの別荘だという場所に案内された。

前を歩く一同をよそに俺達はあれから首謀者達はどうなったかなど大人の会話をしていた。

 

「スクナの件ですが、消滅したことが確認されました…」

「うむ、ご苦労。近衛詠春。面倒を押しつけて悪いな」

「いえ、ですが…ネギ君達の話を聞いても正直理解が難しかったのですが本当にどうやって封印するしかなかったあのスクナを消滅させることができたのですか?」

「それは…詠春さんは学園長から俺は投影の魔術師だということは聞いていますか?」

「はい。なんでも元ですが私の夕凪も投影したとか聞きましたから…」

「はぁ…まったくコノエモンはこれ以上シロウの秘密を他人に話さないでほしいわね」

 

だが、そこでエヴァが驚きの声を上げた。

 

「…投影? なに? それではあの魔槍ゲイボルグもその他今までお前が出してきた武具もすべて一の魔力から作り上げたというのかお前は!?」

「まぁ隠してもしかたがない。学園長やタカミチさん、刹那には話したが俺は解析の魔術で一度見たものはある場所に登録できて何度も複製できる能力を持っている」

「それで、お前は宝具級のものも投影できるというのか!? いくらなんでもでたらめすぎるぞ!」

「ははっ、お前に似た俺の師匠にもよく言われたよ。まぁその話は置いておいてそれでスクナはゲイボルグに秘められている心臓は絶対に外さないという概念武装…つまりそれで魂魄レベルまで心臓を破壊してやったから消滅したわけだ」

「まさか、それほどとは…お義父さんにもそんな話は聞いていませんでしたよ」

「当然ですよ。今初めて他人に話したのですから。宝具投影と真名開放の件は…」

「話したらまたシロウの能力目当てに追っ手が出されるかわからないからね。後でコノエモンにはもう誰にも話さないように地獄を見せておくわ」

 

追われるという単語にエヴァや詠春さんは一瞬ピクッと眉を動かせたが俺は気にしていませんからとここで話は終わりにした。

エヴァは「では、お前も…」という、かすれるような呟きが聞こえてきたがその続きは聞こえてこなかった。

…だから、俺も何も聞かなかったことにした。

 

「それで、今回事件に関わったもの達はどうなりましたか?」

「犬上小太郎の件についてはネギ君にはもう話しましたがそれほど重くはないですがなにかしら処罰は与えられるでしょう……」

 

天ヶ崎千草と月詠の件についてはこちらで処理させておきますと言われたので相槌を打っておいた。

そして別荘のある場所に着くとそこには天文台があった。木が生い茂ってほとんど隠れがいった感じになっているがそれでも中に入らせてもらったらそこには清潔感溢れる空間が広がっていた。

本もたくさん保管されていてよく見れば魔力がこもっている魔道書もいくつか伺える。

それから自由時間となりネギ君達は各自自由に別荘の中を探検中だ。

俺と姉さんはとくにやることもないので詠春さんとともに話をしながら歩いていた。

手ごろのテーブルに座ると、

 

「…ところで、あなた方の元の世界と、こちらの世界を比べて見ましてどう感じましたか?」

「突然ですね……?」

「ええ……」

「大丈夫です。認識阻害の術は張っておりますのでエヴァンジェリンもそうやすやすとは気づかないでしょう」

「そうですか。なら、そうですね……しいていうならこちらの世界はとても優しいと感じました」

「優しい、とは……?」

「学園長が詠春さんにどこまで話しているのかはわかりませんが……学園長をはじめネギ君や刹那、タカミチさん。みな俺の魔術の異常性を知ってもなお俺と姉さんに居場所を作ってくれる。

だが、もとの世界では俺の魔術は異端の扱いを受け、いつかは知らないが魔術協会という魔術師の総本山である時計塔の者に知られてしまい魔術師にとって最高級の名誉であると同時に厄介事でもある封印指定という称号をかけられてしまった」

「封印指定、とは一体どういう意味なんですか?」

「私が説明するわ。封印指定っていうのはこちらではとても正気とは思えないでしょうけど、稀少な能力を持った魔術師…ただの魔術も知らない人間でも構わない。その人達を保護という名目で拘束・拿捕してサンプルとして一生幽閉し、最悪の場合脳と魔術師の体に流れる魔術回路や一族に代々伝えられる魔術刻印と呼ばれるものさえ残ればいいという考えの下、魔術協会の魔術師や聖堂教会という場所から代行者と呼ばれる執行者が派遣され抹殺指定までされてしまう厄介なものよ」

「そんな非人道的な組織が、そちらの世界にはあるというのですか!?」

「…ええ。こちらは人々の幸せのために魔法を使うというけど、こちらでは非人道的と言われても構わない、研究さえできればいいという考えを持った奴らが大半を占めているから人助けなんて本当に二の次の世界ね。だからシロウと私は追われたわ…」

 

そこで姉さんはとても悲しそうな表情になり俺は姉さんを落ち着かせるために手を握ってやった。

それで姉さんも少しは和らいだようで話を進めよとしたとき、第三者の声が聞こえてきた。その声はエヴァだった。

 

「…なるほど。これでお前達の足取りが掴めなかった理由がわかった。まさか異世界から来たとはさすがに私も思いつかなかったぞ」

「エヴァンジェリン…この件については…」

「安心しろ、近衛詠春。私はじじぃと違い口は軽くないから話す気はない。それに士郎にはいずれ大きな借りができてしまうのだから尚更だ。しかし、確かにお前達の世界はどう非人道的であれ魔術を保管、管理するというところは納得できてしまうな」

 

そのエヴァの言葉に詠春さんは少し怒気を孕んだが俺達がどうにか落ち着かせた。

そう、世界が違うとはいえそういう組織はどの世界にも必ず存在するのだから。

 

「それを考えれば宝具投影などという化け物じみた力を持ったお前はその魔術協会にとっては単純に口から手が出るほど欲しがったサンプルなのだろうな?」

「そうだな。エヴァの言うとおりだ。神秘に近すぎ過ぎたものや漏洩したものにも封印指定はかけられる。そのどちらも俺は、手を出しすぎた…」

「出しすぎたか…おおかたお前は人助けのために力を行使し続けたのだろう?」

「確かにそうだ…だから俺は自己のためより他人のために一つの手段として魔術を使うから魔術師ではなくどこまでも魔術使いだったんだ」

「…お前は、生まれる世界を間違えたのかもしれないな。その思考はもう私達の世界の魔法使いの常識に近いものがある」

「ええ、エヴァンジェリンの言うとおりですね」

「「…………」」

 

…俺と姉さんはもう声を出すことが出来ないでいた。

本当にもとの世界の常識が違いすぎるから。

 

「お前達は、もう帰ろうという気はないのだろう?」

「ええ…もとより片道切符みたいなものだし、それに今戻れたとしてもどうせ表裏どちらにも居場所なんてもう存在していないから」

「ああ…家族と呼べる者達もいるにはいるが、もし匿えばともども殺されてしまうのが目に見えているからな。だからあっちで実現できなかったことを今度はこちらで目指そうと思っている」

「お前の言う正義の味方という理想か。だがな、こちらでもそれが実現できるほど世の中は甘くはないぞ?」

「それは百も承知だ。しかし、俺は挫折するわけにはいかない。それが養父との誓いでもあり、ある男への挑戦状でもあるからな」

「む? ある男とは…?」

「それは…」

 

そこでネギ君達の声が聞こえてきたので話はここまでになった。

エヴァがなにやら不満そうだったがさすがにこれ以上は話さない。

暗い雰囲気はすべて心にしまいこみ俺達はみんなのところに向かった。

なにやら同伴していた朝倉が記念写真を撮るというので俺が一番背は高いので一番後ろに並んだが、なぜか不平不満の声が朝倉他他所から聞こえていつの間にかこのかの隣に並ばされていた。

それによってこのかは顔が真っ赤になり、そこをタイミングよく(悪く?)朝倉に撮られてしまい表面上は普通にしていたが恥ずかしい目にあった。

…詠春さんには後にマジな顔で「娘をお願いします」と言われた時は本気で焦った。

 

他に特記する点といえばネギ君の方は詠春さんになにやらナギさんの手がかりをもらったようで嬉しがっていたこと。

姉さんがエヴァになにか相談を持ちかけていたこと。

なにより、刹那も心を開きこのかと仲直りできたというのが大きいな。

 

 

 

 

………そういえば、昔の写真にあいつ(・・・)の顔があったが、なにやら関係がありそうだな?

それだけを懸念に思いながらも、回りのどたばたのうちに修学旅行は幕を閉じたのだった。

 

 




次回から学園に戻ります。


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031話 行動を開始した二人の異邦人(前編)

更新します。


 

 

俺は修学旅行から帰ってきた翌日に前々から学園長に相談をしていたことを言いに学園長室に向かっていた。

だが、学園長室についてエヴァをよこすために代償として痛めた腰を氷枕で冷やしながらの体勢の学園長の最初の一言は、

 

「おお。士郎君、ついにこのかを―――………ッ!?」

 

学園長室にはなにやら鈍い音が木霊した。

それは当然だ。なんせ俺がこのかの使用しているトンカチを改造した(ハンマー並の大きさ)ものを叩きつけたのだから。

それは本気ではなく、なお弱くもなく。

それで学園長はその仙人頭を痛そうに摩りながら、

 

「毎度学園長室に来るたびにワシの頭を叩いてくるとは士郎君は暴力的じゃのぉ?」

「…毎度同じくだりを繰り返している学園長が悪いのでは?」

「しかしのぉ。このかの気持ちは本物じゃし、ほれ? 士郎君とこのかは仮契約(パクティオー)をした仲じゃろ?」

「その件ですが少し考えさせてくれませんか!? 第一俺とこのかの間柄はまだ教師と生徒なんですよ!」

「その言葉ではもう将来は…ひぃ!?」

 

俺は『剣製の赤き丘の千剣』を学園長の頬に触れるように布団に突き刺した。それで学園長は押し黙った。封殺とも言うが。

 

「…だから考えてあげたいんですよ。もしも俺とこのかが付き合うことになったとしても俺はいつ戦場の中で命を落とすかわからないんですから。このかには悲しい思いはしてほしくない…」

「…わ、わかった。わかったからもうこのアーティファクトをはずしてくれんかの? 首が痙攣してきおった」

「わかりました。ですが今後一切とはいいませんがこの件に触れるのは禁止ですからね」

「そうかぁ。残念じゃのぉ…」

「まだいうか…? はぁ、まあいいです。それより前から話していたことですが手はずは進んでいますか?」

「そうじゃったの。士郎君が魔術師の工房と鍛冶場を作りたいという話じゃろ? 魔法で関係者でも一部以外は侵入できないような強固なものを」

「ええ」

「…しかし、急にとは言わんがどうして作ろうと思ったんじゃ?」

「いえ、それがこちらの関係者の教師の人達に以前に魔術関係の部分は魔法と言っておいて鍛冶師の仕事をしていたと口を滑らせてしまったのが原因で、以前にからここの魔法生徒や魔法先生、関係者の人達から打ち直しや新しく作ってくれという話がありまして。

おもに名前を上げますとガンドルフィーニ先生や刀子先生や刹那などおもに前衛を担当するもの達がほとんどですね。だからこの際どうせなら、そろそろ自分達魔術師の工房も手にしたいところでしたので、ちょうどいいから一緒に作ってしまおうと姉さんと話し合っていましたので」

「なるほどのぉ。確かに近年魔法道具は金額が上がり鍛冶師も数を減らしてきたからの。あい分かった。では特注の場所を用意してあるので今日中に目を通しておいてくれんかの? 場所も寮から近く快適な場所じゃよ」

「恩にきます、学園長」

「なに、構わんよ。それで大変申し訳ないんじゃが士郎君が造った武器など一部はうちに提供してもらっても構わんかの?もちろん資金面や材料なども提供するしなにより本国に持っていき出来がどれくらいかあちらで判断してもらいたいんじゃ。いいかの?」

「それくらいなら構いませんよ」

 

それから俺は学園長から退出した後、その場に向かったがなんともすごい場所だった。

そこは寮から本当に少ししか距離がない場所にある今はもう経営していない元は食事どころだったらしい。

確かにこれなら魔術の訓練や工房も設置できるくらいの広さは持っているが、

なぜだろうか? 俺は本当に食事関係に縁があるな。これはそちらに今からでも遅くはないから職につけというお達しなのだろうか? …考えることにしないようにしよう。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

………二日後、

 

 

学園長から搬入が出来たと知らせが届いたのでその場におもむいて見るとそこには学園長と一緒にガンドルフィーニ先生が立っていた。

どうやら学園長からいち早く聞いたらしいので駆けつけてくれたようだ。

 

「どうも、ガンドルフィーニ先生」

「やぁ。衛宮」

「来たかね士郎君」

「はい…それよりもしかしてガンドルフィーニ先生も搬入の手伝いをしてくれたんですか?」

「まぁね。私達の為に鍛冶場まで用意しれくれたのだからこれくらいは手伝わなきゃとおもってね」

「感謝します」

 

俺とガンドルフィーニ先生はタカミチさんの次に付き合いがある人物だ。

今でこそ気軽に話せているが、職に就いた当時はよく警戒されて後を着けられたこともしばしばあったから迷惑にも程があったものだ。

だが、それではいかんと学園長の鶴の一声で夜の警備の仕事をよく一緒に組むことが多くなり、最初は居心地悪かったが、ふとガンドルフィーニ先生が主流に使うナイフの話になりそこからずいぶん深く語り合ってしまい、それならとその時は資材や資金、場所がなかったので急ごしらえだが魔術的補助を施しつつ作り上げたダガーナイフ(ランクにしては干将莫耶より1ランク落ちる程度)を差し上げたところ、切れ味や使いやすさからとても気に入ってもらえてそれからは腹の探り合いもすることなく今の状態に落ち着いたのである。

 

 

―――閑話休題。

 

 

「では後は自分がやっておきますのでなにかあったら学園長を通して話を俺に回してください。いつでもできるわけではないですから」

「わかったよ」

「それと学園長、このたびはここまでしてくださりありがとうございます」

「いいんじゃよ。代わりとはいわんがこの――…「ピタッ」……ナンデモアリマセン」

 

俺はまだ言うか? という感情を混ぜてさわやかな笑顔で学園長の頬に干将を当てていた。

普通ならここでガンドルフィーニ先生はその生真面目な性格からしてなにか言ってきそうだが、もうなれてしまったのか苦笑いを浮かべ、

 

「まぁまぁ、衛宮。学園長も本気じゃないんだからここは穏便にいかないか?」

「いえ、学園長はいつも本気でものを言ってきますよ。だからこれくらいやっておかなければいつの間にか用紙に判を押していたとかいう事態になったら堪りませんからね…」

「ああ、学園長のお孫さんの件だね。なんでも腹部に大穴の重傷を負った衛宮の傷を仮契約(パクティオー)することによって完全に治してその力を開花させたって言う…」

 

 

…………、…ナンデスト…?

 

 

「……………その話は、どこから出回ってきましたか?」

「学園長からさっき聞いたんだよ。そうです………いないな?」

「転移して逃げたか…」

 

俺とガンドルフィーニ先生が同時に学園長のほうに振り向いたが時既に学園長はその場から離脱していた。

それでガンドルフィーニ先生は引きつった笑顔を浮かべながら、

 

「私は誰にもいうつもりはないけど…一ついいかい?」

「俺からも一つ…決して生徒に手を出すなどという行為はしませんからね?」

「わかっているならいいんだよ。ハハハ………」

「当たり前ではないですか。ハハハ………」

 

二人してから笑いをしていたが、俺は気持ちをダークサイドに落として、

 

「……今から学園長を叩きのめしてきます……」

 

その一言でガンドルフィーニ先生の顔は硬直して動かなくなったが、ここは放っておくのが一番だと感じ俺は歩き出した。

…さぁ。狩りの時間だ。

それから俺は全速力で学園長の居所を探すのだった。

……そしてその日の夜にどこからともなく学園長の絶叫が響き渡り、同時に白髪の鬼が学園長を襲ったのだというふざけた都市伝説が広まったそうだが、それを俺が知るのはまだ当分先の話なのでここで割愛させてもらう。

…そういえば姉さんが最近エヴァの家に行く話をよく寝る前に聞くな。試しに俺もなにをしているのか見に行ってみるとしよう。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side  衛宮イリヤ

 

 

そろそろシロウの方も工房作りに熱を入れ始めたらしいから私も動こうかしら。

シロウは今回の事件でなにも言ってはこなかったが、私自身が力不足だと自覚をしてしまった。

だからエヴァに私達のことがばれた後、魔法を教えてくれないかな? という相談を持ちかけてみた。

けど、エヴァはとてもだるそうな顔をしていた。だけどそれはもう想定内のことだったので私も切り札を一枚出すことにした。

それはエヴァに私達の世界の魔術を教えるという話だ。

それにいい具合に食いついてきたエヴァは一転して真面目に私の話を聞いてくれるようになった。

これで等価交換も成立したも同然ね。

そして修学旅行の翌日に午前中から私はエヴァの家に来ていた。

 

「それでその魔術回路とはどういったものなのだ?」

「そうね。魔術回路って言うのは魔術師が体内に持つ擬似神経のことで生命力を魔力に変換する路でもあるの…」

 

それから私はエヴァに初歩中の初歩だけどこちらの世界では誰も知らない知識だから丁寧にじっくりと教えていった。

でもさすが真祖というべきか、それとも600年も生きているので記憶量がすごいのかエヴァはメモもとらずに教えたことはすぐに覚えていった。

一応、茶々丸が隣で会話を記録しているようだけどこの様子なら大丈夫ね。

 

「なるほど…つまり魔術回路とは肉体ではなく魂にあり、回路の本数も先天的に決まっているというわけか」

「そう。それで一つ聞きたいんだけどエヴァって真祖なのは先天的? それとも後天的…? 別に理由は話さなくていいから教えてほしいわ」

「あまり他人に話したくはないが後者だ…」

「そう…。それじゃきっとエヴァの回路の数はかなりあると思うわね。私達の世界でも研究を続けるために自ら死徒に身を落とす魔術師がいて、それによって大抵のケースでは魔力が増大したパターンが多いから」

「前にも思ったのだがお前達の世界は馬鹿の集まりなのか? 自ら吸血鬼になるなど正気の沙汰ではないぞ?」

「それを言われちゃうと見も蓋もないんだけれど…「 」を目指そうとするには人間の寿命ではどうしてもたどり着くことは出来ない。だから死徒になって研究を続けるものが後を絶えないのがあちらの現状ね。…大抵のものは代行者に狩られてしまうものがほとんどだけどね」

「そうか。しかしお前達の世界の魔術師は愚かではあるが、こちらのぬるま湯に浸かっている魔法使い共よりは根性はありそうだな。人間のままで死を迎える前に一族に研究成果を魔術刻印という形に残すというところも賛歌できるしな」

「そうなのかな? ま、こんなうんちくはいいとしてそろそろ本題に入るとしましょうか」

「そうだな」

 

私はある袋から一つの宝石を取り出した。トウコにもらったのはいいんだけど今のところ使いどころはなかったからちょうどいいので回路を開くのに使わせてもらおう。

そこにエヴァはなぜ宝石を使うのか? と尋ねてきた。

 

「今からこの宝石を使ってエヴァの魔術回路を開こうと思うのよ。てっとり早く私の魔力をエヴァに流して強制的に眠っている回路を叩き起こすという方法もあるけど…痛いのは嫌でしょ? 他人の魔力は劇薬や毒にもなるから」

「私をなめるなよ? それくらい耐え切ってみせるさ」

「そう。それじゃあとで文句を言ってきても私は聞かないからね?」

 

エヴァの胸に手を伸ばして私は魔術回路を起動した。

 

「あ、一ついい忘れていたんだけれど?」

「なんだ?」

「この方法は死ぬほどの激痛が最低でも30分以上は襲ってくるから」

「な、なに…? ちょっと待ッ…!」

「えい♪」

 

エヴァの制止も聞かず私はエヴァの体内に魔力を流した。

すぐにしてエヴァからとても痛がっている声が家全体に響いた。

承諾してこちらを受け入れたんだからうらまないでよね?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side  エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

ぐっ!? な、なんだこの体中を圧迫するような激痛は! い、息がまともにできない!?

私の隣でイリヤは「気をしっかり持ちなさい! 意識を持ってかれたらそれで失敗になるから! 頭の中でイメージできるものが見つかったらそれを精神力でコントロールするのよ!」

とは、言ってくるがさすがに今は息をするのもつらいというのにそんなものを確かめている余裕などない!

それから激痛はおそらく30分以上続いてようやく息継ぎも正常に戻ってきてなにか頭にイメージのようなものが、いや違和感と言ってもいいな? それが浮かんできたことをなんとかイリヤに伝えたが、

 

「そう。それじゃ今度はそのエヴァが感じた違和感を『魔力の生成回路だ』と強く認識して。そして、それを体内に定着し己の体とそれらを重ね合わせる感じにしてみて」

 

イリヤの言われたとおりにそれを行動に起こしてみた。すると先ほどまでとはいかないほどものの激痛が襲ってきたので必死に耐えてイメージを定着させたらなにやら脳内イメージでいくつもの回路のようなバイパスが浮かんできた。

イリヤが言うには「それが魔術回路を認識したということよ」と言うが…

 

「なぁイリヤ。お前達の世界の魔術師は狂っているな。初歩の魔術回路生成するだけでこれだけの激痛が襲ってくるとは私の想像を遥かに上回っていたぞ?」

「そうなの? 私達の世界ではこれが日常だったからあまり気にしていなかったわね。でも、だから宝石を使ってゆっくりと開いていくことをお勧めしたんじゃない?」

「確かにそうだったな…」

「でも一気にやってよかったかもね。宝石を使って回路を開こうとするとさっきのエヴァが感じた激痛は半分くらいで済むけど、その代わりにじわじわと痛みが襲ってくるから」

「それはまた……まったく末恐ろしい話だな…」

「それよりこれでエヴァの魔術回路も開いたはずよ。なにか始動キーを唱えれば回路は起動するわ。今なにも思いつかないのなら常日頃から使っているこちらの始動キーでも構わないわ」

 

だから私は「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」と呪文を唱えた。すると突如として体中に魔力が駆け巡っていく感じがして私は思わず大声を出し笑い出していた。

 

「あははははははは! 魔力が、私の体を満たしているぞ!」

「やっぱり…こちらの魔法は自然界から力を授かって力にするからそれに登校地獄は反応するわけで、さすがに内側までの魔力は対象に含まれなかったようね。やっぱり魔術体系が違うのが原因なのかしら?」

「そんな些細なことはいい! それより感謝するぞ、イリヤ。これなら今ぼーやと戦っても負ける気はせぬぞ」

「そう。でも魔力切れには注意しなさいよ。エヴァには関係ないだろうけど私達人間は魔力が切れるとそれだけで疲労はどっと押し寄せてきて最悪死に至るケースもあるから」

「む? では回路を開きっぱなしにしているだけでも微量でも魔力は減っていくわけか」

「そういうこと。回路を閉じていれば魔力は自然に回復していくわ。そこはどちらの世界も同じようね。それにエヴァの場合は魔力切れなんてへまはまずするわけないわね」

「当然だ。伊達に600年以上も生きてはいないからな」

「それに魔術回路が閉じれるっていうことは魔力も感知されにくいし、それだけ他人には気づかれにくいって事。私達の世界の魔術師は、そこはきっちりとオン・オフをしているから普段の生活を続けることが出来るのよ」

 

なるほど。だから普段の二人からは毛ほどの魔力も感知できなかったわけか。それなら今までの疑問も解消できるわけだ。

そして魔術回路を使えるのはシロウとイリヤを除けばおそらく私だけだ。くくく…ではじじぃや他の魔法使い共にもこれでばれずに済むわけだ。

自然と顔に笑みが刻まれていっているのが自覚できてしまうな。

そういいながらも一応私は魔術回路を閉じた。

 

「それとすぐに回復したい場合はエヴァの場合だとやっぱり血かしらね? とくにシロウの血なんかはすごい回復しそうね?」

「ほう…? それは一度飲んでみたいものだな?」

「でも、さすがのシロウも節度はわかっているからそこまでさせてもらえないでしょうね? それより話は戻ってエヴァは次のステップに進みたそうだけれどその前に」

「なんだ? なにかあるのか?」

「ええ、ちょっとね。チャチャマル、少しいい?」

「はい。なんでありましょか、イリヤ先生?」

「うん。さすがにエヴァも強制的に回路を開いて汗をいっぱい掻いちゃってるし、それに体力も今はないに等しいでしょうからお風呂に入れてあげてくれないかしら? エヴァもいつまでも汗だくのままじゃ嫌でしょ?」

「それはそうだが…私は一人でも入れる―――……ッ!?」

 

最後まで言おうとして立ち上がった途端、私の体は足から力が抜けていく倦怠感に襲われて倒れていった。

咄嗟にイリヤに支えてもらったが結構きているようだ。

 

「いったそばからこれじゃあね。魔力が一時的とはいえ戻ったからといって呪いの効果はしっかりと持続しているのよ? 身体年齢が10歳ならあんな強引な開き方をしたらエヴァは精神力で乗り切ったみたいだけれど普通は意識が吹っ飛ぶのがまず確実なのよ?」

「…ご忠告、感謝するぞ…」

 

それでしかたなく私は茶々丸に任せてお風呂に入れてもらった。思わぬ痴態をイリヤに見せてしまったが、だがそれでも得るものはあったのだからいいとしよう。

そしてお風呂から出た後、結局今日は体力も戻りそうにないのでベットに横になり、イリヤからも「今日は検査と講座のみね」と言われた。

イリヤはもう一度魔術回路を開いてといってきたので開くと頭に手を合わせながら検査とやらを開始した。

だが10分以上経ったときにはイリヤの顔がどうにも面白くなさそうな表情をしていた。

なぜそんな顔をしているのだと聞いてみたところ、

 

「…エヴァ、あなたははっきりいって異常ね」

 

なんて返事が返ってきた。正直一瞬むっとしたがあまりにも真剣な顔をしているため逆に何事かと尋ねてみると、

 

「魔術回路の本数がエヴァは異常だわ!

真祖になってそれは増加したでしょうけど、多分私の魔術回路の本数は人の範疇では知っている限りでもトップレベルは自負しているつもりなのに、なに!?

私ですら全部の回路を数えても500本はいっていないのに…エヴァにいたってはメインの回路が約1000本以上はあって左右のサブ回路もそれぞれ900本以上はある。少し、いえかなり嫉妬を覚えたわ…!」

「ようやく私の実力がわかったみたいだな?」

「…ええ、まぁね。本当これだけあるならシロウにも分けてあげたいほどよ」

「む? そういえばシロウは何本あるんだ? あれだけのものをいくつも作り出せるのだからかなりの数はあるんだろ?」

 

だがそれを聞いた途端、少し沈黙がさして少しして搾り出すような声を出しながら「27本よ…」と呟いた。

はて? 私の聞き間違いだろうか? 270本の間違いじゃないのか?

その意をイリヤに聞いてみたが今度は大声で、

 

「シロウの回路の本数は27本よ!」

 

…どうやら聞き間違いではなかったらしい。数の部分を強調していっているのだから間違いないだろう。

っていうより、はあぁぁぁあっ!!?

 

「なに!? シロウの本数はそれだけなのか! あんなにばかすか投影しているのにか!? 魔術回路を開いた今だからわかるが普通一つでも宝具を投影すれば神経がいかれるぞ!?」

「…ええ。まぁね…でもこの本数は初代の魔術師としては破格な数なのよ?」

「本数が少ないだけでなくシロウは初代なのか!? では一族の結晶ともいう魔術刻印ももっていないのか!?」

「ええ」

「前にも聞いたが奴は、ほんとうに人間なのか…?」

「ええ…ただちょっと特殊でね」

 

イリヤが言うにはなんでも士郎の魔術回路は通常の神経と合わさっていて本物の神経と言っても過言ではないらしい。

だから神経に私にやったように魔力を流し込んで鍛えていたそうだ。

それで今の魔力量と強固な魔術回路を手に入れたそうだ。

それに属性が『剣』だから投影も武具関係がほとんどなので楽らしいと士郎談。

そしてイリヤとレイラインというものを繋いでいる為、魔力を仮契約(パクティオー)の契約執行のようにお互いに供給ができてカードを使わなくても念話が出来ると言う。それはいいな…。

二人は通常の儀式でレイラインを繋いだそうだが…手っ取り早く済ませるならば…………口に出すのもはばかれる行為をするらしい。

これにはさすがに私も頬を少しばかり赤くしてしまった……。

そんな話はもういいとして、イリヤが次は属性について喋ろうとしたらしいがこれもまた神妙な顔になっていた。

 

「シロウほどではないけどやっぱりエヴァの属性も特殊で珍しいものだったわね」

「なんだ? 士郎の『剣』のようになにか限定的なものなのか」

「ええ。と、いってもこれはただ非常に珍しいっていうだけでもう認知されているから封印指定は受けないでしょうけど…それでエヴァの属性なんだけどそれは『虚数』よ」

「虚数…? それは一体どういったものなんだ?」

「ええ。虚数っていうのは目に見えぬ不確定を以って対象を拘束したり、平面の世界へと飲み込んでいく影の海を作り出す事を可能とするらしいわ。簡単に言えば自身の影を使って相手を攻撃すると言ったものね。そこらへんは詳しくないからうまく説明できないけど」

「なんだ? では私達の世界にある操影術みたいなものか」

 

それってなに? と聞いてきたのでどういったものか教えてやり、同時に私はあまり使えん属性だなと言ったが、イリヤは真剣な顔をしながら「違うわ」と言った。なにが違うのかと思ったが次の一言で納得できる内容だった。

 

「…虚数魔術っていうのはね? 自身の深層意識をむき出しにして負の側面を刃とするものなんだけど、当然操作がとても難しくてもし逆に意識を飲み込まれたら暴走することは確実と言われているの。故に禁呪とも言われているわ」

「はっ。そっちのことか!」

 

そうか。なるほどな。確かに私の属性に相応しいものだな?

私が編み出した『闇の魔法(マギア・エレベア)』と『虚数魔術』は自身の闇の部分を使うという点ではまったく同じではないか。

 

「五大属性のうちに含まれているんだったら私でも教えようはあったんだけれど、さすがにこれは専門外だから資料もないしお手上げね」

「つまりイリヤが私に教えることはほぼないということか?」

「いえ、別に五大属性に関係なく魔術回路があれば使える魔術はたくさんあるからじっくりと教えていくわ」

「そうか、ではその方針で構わん。それにおそらくその虚数という属性についてはお前より私のほうがはるかに詳しそうだからな。だからいつか使いこなしてみるさ」

「あ、そっか。エヴァのこちらでの属性は『氷・闇』だったわね」

「そういうことだ。わからんのなら自ら解明してみるさ。それでだが対価分は明日からで構わないか? 今日はこの有様なんでな」

「構わないわよ。別に急ぎでもないしね」

 

イリヤはそう言っているが、いちいちイリヤの教師と寮長の仕事も裂いて魔法を教えるのも面倒だな。

久しぶりにアレでも発掘してみるか。

内心で色々思案して楽しんでいたが、ふとなにやら外が騒がしいので茶々丸に往かせてみると帰ってきたときには二名ほどオマケがついてきた。

 

「ネギのぼーやに神楽坂明日菜か…なんだこんなところに?」

「いらっしゃい二人とも」

「あ、あれ? イリヤさんも一緒だったんですか?」

「ええ。エヴァと等価交換しあっていたのよ」

「とうかこうかん…?」

「…貴様はそんな言葉もわからんのか?」

「う、うるさいわね!」

「まーまー、二人とも落ち着いて。それで今日はエヴァになにか用があってきたんでしょ?」

 

神楽坂明日菜に等価交換の意味を教えていたネギのぼーやは「はっ!」としたような顔をしてベッドで横になっている私よりもさらに頭を低くしてきた。

それでなにを言い出すのかと思えば、私に弟子入りしたいだと? 冗談もほどほどにしろ。

 

「アホか。戦い方を学びたいのならタカミチか士郎にでも相談すればいいだろう」

「あ、エヴァ。それなんだけどシロウにはもう弟子入りしている人がいるからたぶん無理よ?」

「なに? 誰なんだそいつは…?」

「そんな人がいたんですか!?」

「あー…その人は全員よく知っている人物よ?」

「あのぉ…もしかして刹那さん?」

「あら、正解…勘がいいのね、アスナ。ええ、セツナは修学旅行…いえ、学年が上がる前からシロウに真の戦場での戦いを教わっているわ。たまにカエデとも裏山で修行を手伝ったりしているし…」

「「えええええーーー!!?」」

「そうだったんすか!?」

「ええい、やかましいぞ貴様ら!」

 

少しして落ち着いたのか神楽坂明日菜は一人呟きながら、

 

「…そっかぁ。前に古ちゃんの誘いも断ってたのはもう刹那さんがいたからだったんだ…」

「ふむ。ならば刹那が鳥族と人間のハーフだということを知っていたのも頷けるな。おおかた修学旅行前に正体を明かしたんだろう」

「そうみたい。水臭いわねシロウもセツナも。私はそんな些細な違いなんて気にしないのに…」

「士郎に関しては性格からしてアイツのことを想って喋らなかったのだろう」

「そうみたいっすね。士郎の旦那…漢っすね!」

「そんなことはどうでもいい」

 

ぼーやの肩からなにか言ってきたが私の睨みでどこかへ隠れてしまった。ふっ…所詮は小動物。

 

「それより、ならタカミチにでもならったらどうなんだ?」

「はい。それも考えたんですけど、タカミチは海外に出張やなにやらで忙しいらしいので…だから僕は京都での戦いを見て魔法使いの戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと思ってやってきました!」

「ほう…では私の強さに感動したというわけか。なるほどなるほど」

 

それならばイリヤのように対等に払える対価などぼーやにはあるはずがないのだからまずは下僕として忠誠を誓わせようとした瞬間、私の魔法障壁が破られて目前には神楽坂明日菜のアーティファクトのハリセンが迫っていたことに気づくのは吹っ飛ばされた後だった。

イリヤも茶々丸も一緒に「はやい!?」と言っているから確かなのだろう。

しかしなんだ本当にこいつ!? こう何度も立て続けに障壁を紙切れのごとくぶち破るとは!

腹いせになんでこんなにぼーやに肩入れするのかとおちょくったらまたハリセンで叩かれた…。

ふ、ふふふ……私を相当怒らせたいようだな。貴様等は知らんようだが私は魔力を操るすべを会得したのだ。

それで魔術回路を起動しようとした瞬間、いち早く気づいたイリヤが私の手を握ってかぶりを振っていた。

それでさすがに私も大人気ないなと頭を冷やした。

するとイリヤが何か思いついたのか、

 

「それじゃエヴァ。なにかネギに課題か試練でも与えてやったらどうかしら?」

「…そうだな。イリヤのいうことはなかなか断ることもできんし的も射ている。わかったよ。では今度の土曜にまたうちに来い。それまでになにをやるか考えといてやるよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

それからぼーや達は他にも用があるというので早々に家から出て行った。

やれやれ、やっとうるさい奴らが消えてくれた。

っと、それよりなぜ止めたのかイリヤに理由を聞いてみるか。

 

「…え? どうして止めたかって…? それはエヴァが魔術回路を起動したら血の雨が降りそうだったから」

「表向きの理由はいい。それで真実はなんなんだ?」

「うん。まぁそうなんだけどまだ習っていないからどんなものかわからないけど、エヴァ達魔法使いの魔法障壁はそんな簡単に破れるものなの…?」

「…いや。人によって落差はあるが魔法か気での攻撃を防いで緩和できるほどの力はあるのだからあんな簡単に破られることはまずない」

「そう。それじゃやっぱりアスナにはなにか秘密があるみたいね…」

「そうだな。近衛木乃香と同室の時点でおかしいと思っていたがとんだ隠し玉かもしれんな?」

「そうね。あ、そうそう。話はネギ達が来る前に戻るんだけど魔術回路だけでも根本的に魔力を使うことには変わりないからこちらの魔法は使えるから」

「それを聞いて安心したぞ。感謝するぞ、イリヤ」

「別にいいわよ。教えあうのは私も嫌いではないから」

 

 

ふふふ、これでイリヤにあちらの世界での魔術も習っていき士郎にもいずれはあの魔法関連に関してはアンチな宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』で呪いも解いてもらえば闇の世界の住人、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』も復活するな。

しかし、ふと思ったが私はこの姉弟に借りが出来すぎていないか?と考えに至り一瞬焦ってしまったのは秘密だ。

そしてもう一度考えてみればイリヤに関しては、お互い等価交換で話は済んでいるのだから不利になることはまずない。さらに士郎に関してはお人好しという点から恩を売ろうなどとは絶対とはいかないが考えないだろうから大丈夫だろうと再度至って安心したのも秘密だ。

 

 

 




エヴァは魔術回路を手に入れた。


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032話 行動を開始した二人の異邦人(後編)

更新します。

通常投稿に戻しました。感想はログインユーザー限定のままですが。


 

 

「ここは、どこだ…?」

 

いきなりこんなことを言ってどうしたのかと誰に問われてもおかしくはない状況だがそれでも俺はその言葉を吐くことしか出来なかった。

なんせ、先ほどまでエヴァと姉さんに会いにログハウスに向かったら二人が俺に後から来て地下にあるボトルシップに触ってみればいいとのお達しなので、その場に一人残されていたチャチャゼロに案内されながらその場所に向かってなにやらでかいボトルシップに触ったら……気づいたら俺が立っている場所はとても高い塔の上だった。

しかも周りには海がありまるで南国のような日差しが降り注いできていた。

呆気にとられている俺に頭に乗せていたチャチャゼロが笑い声を上げながら、

 

「ココハ御主人ノ別荘ダゼ」

「別荘…? まさかあのボトルシップの中にあったものが今俺の足元のモノか!?」

「ソウダゼ? サスガノシロウモ驚イタロ?」

「ああ…正直いってインパクトは相当のものだった」

「ダロウナ? ソレヨリコノ中ナラ俺モ自由ニ動ケルンダゼ!」

 

チャチャゼロは俺の頭から降りるとその体を自由に動かしていた。

 

「ふむ…結界はさすがにこの中まで縛れないということか」

「ソーナルナ。ダガ、ソレデモ本気ハ全然ダセネェケドナ」

「では相当しつこいのだな。登校地獄というものは…どれだけの馬鹿魔力をしていたのだ? ナギさんというのは…」

「サァナ? 少ナクトモ御主人ノ前デハ本気ヲ出シタコターネェナ? ソレヨリサッサトムカオウゼ? 御主人モカンカンニ怒ッテイルカモシレネェカラナ、ケケケ」

「そうだな。では案内を頼む」

「アイサー!」

 

チャチャゼロは返事を返して再び俺の頭の上に乗ってきた。

そんなに気に入ったのだろうか…?

そして案内されたらいきなり魔法の矢が合計30以上は飛んできたので干将莫耶ですべて防いでやった。

 

「いきなり魔法の射手をしかけてくるとは…やはり怒ったか、エヴァ?」

「なんの話だ? 私はなにもやってはいないぞ」

「ようこそ衛宮先生。マスターの別荘へ」

 

見た先には不動に腕を組んで立っているだけのエヴァとその隣に律儀に挨拶をしてくる茶々丸が一緒にいた。

それでは、一体誰があの矢を放ったというのだろうか? そこでふと…

 

「遅かったじゃない、シロウ! 一時間遅刻よ?」

「……………はい?」

 

声が聞こえてきたほうを向くと姉さんがその場に立っていた。

しかし、ただ立っているのではなくなにやら手には小さいステッキが握られていて、それに加え周りには魔法の射手を待機させているのか空中に浮かばせている姉さんの姿があった。

その姿にまた俺の思考は一瞬停止した。

だが、すぐに復活して、

 

「ね、姉さん? それは…まさか、魔法か?」

「そうよ。シロウ驚いたでしょう~? 私も魔法が使えるようになったのよ」

「では先ほどの魔法の射手は姉さんのか!?」

 

そこでクックックと微笑をしていたエヴァが俺の隣に立っていた。

すぐに気づくべきだった。チャチャゼロが動けるのだからエヴァも今は少なくても力は取り戻していることを!

だが、驚きはそれだけではなかった。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

 

エヴァが呪文キーを唱えたがただそれきりでなにも仕掛けてはこなかった。

疑問に思いふと、なぜ呪文キーだけ言うのか? というだけなのかと思った矢先エヴァから伝わってくる感じがこちらの魔法使いではなく魔術師に酷似していたのだから。

それでたどり着いた答えはただ一つだな…と、冷静に俺の頭は理解し疑問が一気に晴れた。

 

「…等価交換したな?」

「ほう…すぐに気づくとは士郎もやるではないか」

「そうよね。普通シロウならもっとボケてくれると期待していたのに…」

「褒められているんだか貶されているんだかわからんが……まず姉さん、エヴァの魔術回路を開いたな? そして見返りにおおかた魔法を教わるとか、なのか?」

「そういう事! エヴァに教わっていたんだけど結構慣れれば出来るものね」

「確かにな…ここ数日でイリヤはとても初心者とは思えないほどの実力を開花させた。考えてみれば確かに納得できてしまうものだな。イリヤの魔力の許容量はぼーややあの近衛木乃香をも凌いでいるのだから」

 

それは当然だ。姉さんはアインツベルンの最高傑作とも言われ切嗣の血も継いでいる元はホムンクルスなのだから…。

だが口が割れてもそのことは言わない。姉さんが嫌がるからだ。

昔は誇っていたが、今はもう、一人の人として扱われるほうが好きだというようになったから。

 

 

 

 

―――閑話休題。

 

 

「それで私の始動キーは『ニー・ベル・ロー・レル・フリードリヒ』にしたのよ。シロウならもうわかるよね?」

「ああ、ローレライから取ったんだろう? 姉さんらしい始動キーだな。と、まあそれはいいとして前からなにやらエヴァと話し合いをしていたのはそのことだったのか」

「そうだな。士郎、魔術回路とはいいものだな。自身の魔力だけという制限がつくが私も起動時に呪いは効いているがそれでもぼーやを相手にもう負ける気はしない」

「本当か?」

「はい。マスターの魔術回路起動時はイリヤ先生から教わった“身体強化”の魔術を使えば元から展開されている魔法障壁ともいい具合に合わさって二乗以上の効果を発揮いたしますから」

「あ、そうだったな…あくまで登校地獄の効力は外側から魔力を受け取るのを妨害するといったものだったな。それなら納得だ。それよりエヴァ、では姉さんはどれくらい魔法を使えるようになったんだ?」

「それがな…イリヤはずいぶん物覚えがよく初歩の魔法はほぼ習得。さらに魔法障壁、及び武装解除、防御魔法の盾も使用可能。属性が『氷・水・光』とで相性もまぁまぁよい。

そして『水・光』から付随して回復魔法もかなり上達した。単純に後衛の魔法使いと前衛の魔法剣士でわければ完全に魔法使いスタイルだな」

「そして前衛は従者である俺が当てはまるわけか」

「そうだな。本当にお前達二人は相性がいいな。士郎にもよかったら教えてやってもかまわんぞ。どうせ魔法剣士スタイルになるだろうがな」

「いや、俺は今の力で充分満足しているからいい。それに俺は魔術師では『剣』という属性なのだからこちらでもろくな属性はつかないだろう。それに俺はこちらの世界では魔法より気のほうが得意みたいだからそちらを刹那かタカミチさんに教わることにする」

「そうか。ま、気が変わったらいつでも来い。教授してやるぞ?」

「その時があればな。それに今は契約の証であるアーティファクトの使い方もマスターしなければいかんからな」

 

俺は懐からカードを取り出して起動させた。

そして俺の手には大剣が握られている。

 

「それがお前のアーティファクトか。名はなんというのだ?」

「名は『剣製の赤き丘の千剣』だ」

「千剣だと…? 千がつくアーティファクトは奴以外に聞いたことがないが、ならそれのどこが千剣なのだ?」

「ならば、こいつの本領発揮といくか…」

 

俺はエヴァに不適な笑みを浮かべ同時に剣を地面に突き刺して、

 

「―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている).」

「えっ!?」

 

姉さんが驚いているようだがこれだけでもう準備は整った。

 

「さぁ、その真の姿を現せ…『剣製の赤き丘の千剣』よ」

 

俺の呼びかけと同時に剣は光を上げ俺を中心に竜巻が舞いおこり、それがおさまったときには回りに古今東西の武器がところ狭しと地面に突き刺さっていた。

しかもそれ一本でも相当の魔力を秘めていていつでも打ち出す準備は出来ている。そう、これは…

 

「固有結界!? いや、でもなにか違う…!」

「そうだ姉さん。別段魔力は使用せずともこれによって剣が何十、何百、何千といくらでも取り出せるようになった。当然本体は俺の手に握られているからこれを封じない限りは消えないというまさに俺にあったアーティファクトだ。さすがに宝具級のものは出現させるとなると俺の魔力も消費することになるがな」

 

するとエヴァがわらわらと体を震わせながら、

 

「これはラカンの持つ『千の顔を持つ英雄』と同種のアーティファクトか!? そしてそれだけでも凄いというのに宝具も出現させることができるとは…まさに剣製の名にふさわしいな」

「そうだ。さて…疲れたから戻すか。去れ(アベアット)…」

 

俺がカードに戻したら回りにあった剣達もすべて姿を消していた。

初めて全開で使ってみたがどうやらAクラスの宝具を投影して尚且つ真名を開放するよりは魔力は食わないらしい。

 

「だが、数だけあっても一撃の攻撃力にしては宝具より格段に下がるようだ」

「だろうな。それだけ神秘の塊である宝具が異常だということか。比べるのもおごがましいだろうな」

「それより、エヴァ。少しいいか?」

「なんだ、士郎?」

「なに、最近ネギ君が無性に古菲と一緒に中国拳法の特訓をしているのだが、エヴァに弟子入りをするという話ではなかったのか?」

「そのことか。なに、私に弟子入りをしに来たくせにすぐに違うものに目を移した奴が気に食わなかったので弟子入りの条件を茶々丸にカンフーもどきで一撃入れるというものにしてやったのだ」

「そうなのよ。それでエヴァってヤキモチ焼いちゃって」

「黙れ、イリヤ…」

 

それから姉さんとエヴァのにらみ合いが始まったが、なるほど…

 

「そうか。しかし、茶々丸に一撃など…ネギ君がいかに天才と言え一週間そこらで覚えたカンフーでは無理ではないか?」

「まぁな。才能の無いというお前のように長年かけて培って習得した様々な体術と修練・経験に比べれば奴は今毛ほども実力はなく才能に身を任せて溺れがちだからな。戒めのようなものだ」

「なるほど。才能があっても経験がなければどうしようもないからな。そこはエヴァのいうことも一理あるな」

「タカミチも魔法使いとしての才能はなかったからさぞ奴のことが羨ましいだろうな」

「タカミチさんが?」

「そうだ。あいつは魔法使いとして致命傷とも言える呪文の詠唱が出来ないからな」

「そうだったの…」

「ああ。だから昔にあいつはここで死に物狂いの修行をして今の力を手にしたわけだ。つまり士郎、お前と奴は才能がない点で言えば同類だな」

「………」

 

俺は無言でそれを聞いていた。ここでなにか言ってもタカミチさんの努力を侮辱してしまいかねないからだ。

それ以降は湿っぽい話はそこまでという様子で、それから違う話が色々と交わされてここは1日経過しないと外に出られないやら外ではそれが一時間しか経過していないと言うことを聞いて本当に驚いていると姉さんから試しに初歩でも唱えてみたら? と言われて、一度くらいは経験してみるかと俺は干将を投影した。

 

「ん? なんで詠唱するのにそんなものを投影するんだ?」

「教えていなかったが、これはもともと触媒用にも適した魔術兵装だ。だからこちらでは魔法の杖と同じ役割にもなる」

「そうだったのか。まぁいい、では唱えてみろ」

「ああ。確か…プラクテ・ビギ・ナル、炎よ灯れ(アールデスカット)…だったか? む…」

 

エヴァに聞く前に干将の剣先には小さいながらも炎が宿っていた。

さすがに俺も驚いた。まさか一発で成功するとは思っていなかったからな。

 

「すごいじゃない、シロウ。一発で成功するなんて」

「ああ…俺自身驚いている。だが恐らくこれ以上は年数かけないと完璧にものにはできないだろう」

「そうだな。イリヤに比べたらただ火が灯せただけならまだライターのほうが効率はいい」

「そうね。それにシロウはやっぱり投影での戦い以外は似合わないし…なにか他に素手でも戦える術ってないかしら」

 

姉さんは真剣になって考えているがこれ以上はどうしようもないのではと思っていたらエヴァから思わぬ提案が入ってきた。

 

「確か士郎。お前の使える魔術は『強化』『解析』『投影』以外にもう一つ『変化』があったな?」

「ああ。確かにあるがそれがどうかしたのか…?今まで使った機会といえば木を変化させて弓と矢にしたくらいだから使用頻度は低いぞ。後、使ったとしたら宝具の形を変化させたり、効果をただの剣に宿らせるといったものだな」

 

エヴァにその話と、改造した後のものとする前のカラドボルグを投影して見せたところ、少し考え始めて、出した言葉は「なぁ、それは形ではなく魔力の塊に変化まではできんのか?」ととんでもないことを言ってきた。

それは、さすがに無理だろう? と思ったが姉さんは「出来るかも…」と言い出した。

その意を聞いてみると元々魔力から作り上げるのだから形にする前の段階で工程を終了させればできるかもしれないと無茶を言う。

 

「そんなことをして中途半端に投影した武具はどうなると思っているんだ? おそらく爆発するぞ?」

「なに、簡単なことだ。士郎、それをお前が纏えばいいんだよ」

「ばっ!? 仮にも宝具だぞ!? そんなものを体に宿すなど自殺行為ではないのか!?」

 

とんでもない事を言ってくれるものだ。そんな発想はしたことはないがおそらく危険だろう。

だが、戦力になるかもしれないと姉さんも人事のようにいってくる。……人事か。

 

「大丈夫よシロウ。もし暴走しても私とシロウはレイラインが繋がっているんだからもしもの場合はすぐに私が止めてあげるわよ」

「任せた…失敗することは目に見えているがな」

「ええ。それで試しになにで試してみるの?」

「とりあえず宝具級は今はしないほうがいいから、なにかしら五大属性の力が宿っている魔剣か防具で試してみよう」

 

 

そういって俺はみんなから少し離れたところで、

 

「――投影開始(トレース・オン)

 

まず剣の丘から手ごろな魔剣を引きずり上げる。そしてまだ魔力から外に作り上げる段階で、

 

「――変化、開始(トレース・オン)ッ!」

 

そこで工程をいじりその魔剣を飽和状態にとどめた瞬間、俺の体内で魔力の塊となったものが暴れだしそうになる。

だが、それをさせないためにその魔力の塊の状態で外の世界に現界させる。

するとやはり中途半端だったのか俺の手には魔力の塊が形を成していて今にも壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)してしまうかもしれない状態であった。

 

「それを握りつぶして自身の体に流してみろ! 失敗して結構だからためしにやってみるがいい」

「無茶を言う…しかしこのままでもいつ爆発してしまうかわからんからな。駄目もとでやってみるとしよう」

 

暴走するなよ? と、とりあえず祈りながらそれを握りつぶした。

…その後はひどかった。まるで一瞬火に焼かれているような錯覚に襲われ眩暈がしたからだ。

だがそこはなんとか踏みとどまりその魔力を全身に流すようにして、今までとは言葉は同じでも意味合いがまったく違うものを唱えた。

 

魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!」

 

くっ! どうなった!? どうやら死んでいないようだが…。

すると離れて見学していた一同からどよめきが上がった。

なにごとかと思い聞いてみようと思ったが自信の体の変化に思わず戸惑った。

今現在外面はさして変わったことはないが薄く魔力が体を纏っている。

 

「成功、したのか…?」

「自分で言っておいてなんだが…まさか成功するとは思っていなかったぞ。とりあえず聞いてみるがなんの効果がついている魔剣を纏ったんだ?」

「いや、風属性のついたものを纏ってみたのだが…」

「ねぇねぇシロウ! とりあえず動いてみたら!? 変化があるかもしれないわよ!?」

「そうだな」

「…おもしろそうだな。チャチャゼロ。行け…!」

「アイサー!」

 

俺が行動を起こす直前でエヴァがチャチャゼロを俺に差し向けてきた。

だからいつものごとく回避運動を取ろうと足に強化を施し体を動かそうとした次の瞬間、俺の視界には、誰も、いなかった。

はて? と思って回りを見回したら………気づいてしまった。真下の地面がなくなっていた。

いや、なくなったのではなく……俺が、地面のない場所まで移動してしまっていたのだ。

当然重力の足枷は俺を青い海が広がる真下へと落とそうとしてくる。

 

 

 

「おああああああああああーーーーーーーっ!!? あ、来れ(アデアット)!!」

 

 

 

落下し混乱する頭でなんとか千剣を出現させてそれを掴んでなんとか落下は免れた。

そのままゆらゆらと足場がある場所まで戻るとどっと力が抜けた。腰が抜けたとでもいえばいいのか。

そこに姉さん達が駆けつけてきた。

 

「シロウ、大丈夫!?」

「あ、ああ…なんとかな。しかしまさかただの一足であそこまで移動したのか…?」

「自分でも気づかずにあそこまで移動していたのか…?」

「ああ…そうみたいだ。む? どうやら体に宿した魔力が切れたようだな…あの移動で集中力が切れたのか霧散したみたいだ」

「さすが魔剣といったところか。宿しただけであれほどの身体能力向上を起こさせるとは…制御は出来そうか?」

「難しそうだな。なんせ一瞬のことだったからな…」

「ケケケ…イキナリ俺ノ視界カラキエチマッタカラオドロイタゾ、シロウ」

「はい。私の記録した映像でも衛宮先生の姿はうつっておりませんでした。まるで転移をしたかのごとく…」

「茶々丸やチャチャゼロも目視不可能だったのか?」

 

姉さんにも聞いてみたが確認できなかったとのことだ。エヴァはかろうじて見えたそうだが…さすが真祖。

しかし、なんだこの術式…?

ためしにもう一回やってみるか。

今度は先ほどの工程はもう覚えたので魔力の塊を体内に宿したまま、

 

魔力、再装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!」

 

するとまた俺の体には薄い魔力が纏われていた。

なので今度は慎重になって体を動かしてみたらなんとか先ほどよりは移動距離は制限できたようで落ちないで済んだ。

ふむ、これは実はかなり効率がよいのではないか? 宝具を投影するより負担は軽そうだ。

しばらく俺は体を制御できるように動かしてみた。

すると移動距離が少しずつ減ってきた代わりにその分装填した魔力消費も減少した。

なるほど、魔力を制限すればそれだけ自分の移動したい距離を限定できて装填魔力の減少にも繋がるわけだな。

慣れた頃にはすでに何時間も経っていたようで申し訳ないと姉さん達の前に戻ったが、

 

「シロウ…新しく戦う術が出来たじゃない?」

「ああ…ずっと見学していたが中々いい見世物だったぞ」

「そのようらしい…まさかここまでうまくいくとは俺も思わなかった。ちなみにエヴァ、なにかぶち壊してもいいものとかはないか?」

「なんだ、やぶからぼうに? …まぁいいが」

 

エヴァは魔力を使い巨大な氷の柱を出現させた。

…さて、ではやってみよう。

 

属性、付加(エレメントシール)“火炎”(ファイア)……魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!」

 

そして俺は氷の柱に拳を放った瞬間、それは砕けるどころか蒸発しすぐに溶解してしまった。

ふむ、なんとなくだが使い方は理解できた。

次は片手をかざし掌に体にまだ残留している装填魔力をすべて集めそれを秒単位で区切って開放した。

そしたら思惑通り掌から炎の玉がいくつも噴き出した。

 

「す、すごい! シロウすごいわよ!」

「魔法の射手以上の威力を持っていたな? 私が出した氷の柱も一瞬で溶解させるとは…」

「そのようだ。さしずめ“風”は大幅移動、“炎”は攻撃に特化、といったところか…まだまだ研鑽が必要そうだが、どちらにしても魔力を装填している状態なら魔法障壁の変わりになりそうだな。おまけに炎に関しては耐性がつきそうだ」

「新しい技法が出来たのはいいがそろそろ化け物じみてきたな? 瞬動を使ったときにはどうなることやら…どうだ、士郎? 本気で私の従者になってみないか?」

 

割と本気の顔になっているエヴァを見て俺は一歩後ずさりをした。

そこで姉さんが「駄目よ!」と止めてくれなければ危ないところだった。

エヴァは残念そうにしていたがなにか思いついたのか目を光らせた。あれは…よくないことを考えている目だ。

 

「なぁ士郎? 私がせっかく新しい技法の糸口を見つけてやり、しかも威力を試したいがために氷の柱まで作ってやったのだからその分の代価は支払ってもらっても文句はないな?」

「な、なにを企んでいる…!?」

「なに…以前イリヤにお前の血は美味しそうだという話を聞いてな?」

 

シークタイムゼロ脊髄反射で俺は姉さんの方を向いたが姉さんはすでに顔を逸らしていた。

くっ! なにエヴァに呟いているんだ姉さん!?

その間にもエヴァは迫ってきている。いつの間にか俺の体はなにかに縛られ動けないでいた。

 

「なっ!? これは、糸か!」

「ほう、よくわかったな? まぁ解析を使えば楽勝だろうな…さて、では代価に血をもらうぞ? 安心しろ。お前の世界とは違い死徒とやらにはなりはせん」

「そ、そういう問題では…!? そ、そうだ! きっと俺の血は鉄の味がするからまずいに決まっているぞ!」

「言動が混乱しているぞ?試してみなければわからんな。無駄な抵抗するよりさっさと捧げればそれで済むんだ。これでも安請け合いなんだぞ? 感謝しろ…」

「………」

 

まわりに助けを求めたが姉さんは本当にごめんと両手を合わせている。チャチャゼロはケケケと笑いながら「マーアキラメロ」といっている。茶々丸などは論外だ。

そして抵抗も出来なく俺の首筋にエヴァは噛み付いた。

な、なんでさー!?

 

…結果、俺は血を結構吸われてしまった。

エヴァが言うには俺の血は下手なワインより芳醇で魔力の回復量も凄まじいらしく何度でもいけるといっていた。

俺は内心かなり泣きそうになったが、まぁ確かに考えてみれば俺の今の体は橙子さんの最高級の作品でアヴァロンも入っているのだから血も美味いのかもしれない。

そんな事実は知りたくなかったが…。

これからは背後に気をつけねばいかないな?

 

 




士郎、新技法を獲得。


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033話 ネギの弟子入りテスト

更新します。


 

 

 

あの新しい技法を手に入れた翌日に少し体にだるさを感じたので姉さんに聞いてみるとどうにもやはり負担らしいものがあるらしいとのことだった。

当然だ。もとから俺は等価交換を無視しまくりなのに、さらにそれを体に宿すのだからそのくらいリスクはなければ天罰が落ちる。…おもにアカイアクマからだが。

よって使うとしてもランクの低いC、Bランク程度の武器がいいとこで宝具級は絶対禁止の命令を受け強制魔術(ギアス)までかけられ姉さんの許しが出ない以上使用は不可能となった。

…まぁ、宝具でなくとも充分使えるのだからいいが。

それはともかくネギ君の弟子入り試験が前日に迫っているので見学をしにいってみた。

最近は日常生活に加え工房作りやアーティファクトの使い方をマスター、新しい技法の特訓などであまり会っていなかったからな。

朝はさずがに会いにいけなかったので授業が終わった後は世界樹の広場で特訓しているということを刹那に聞いたので一緒に向かっていた。

 

「そういえば最近忙しそうでしたがなにかあったのですか?」

「ああ、ちょっとな。ほら、前に俺達の世界の魔術師の工房の話をしただろう? それの申請と同時に刹那のような前衛の関係者の武器を学園長の依頼があれば鍛えなおしたり、新しく作ったりする鍛冶師の工房も同時に作っていたから中々時間が裂けないでいたんだ」

「そうだったんですか」

「ああ。それに最近俺の新しい技法をエヴァと姉さんに編み出されてしまってそれにも手を焼いていたから最近は疲れ気味だな」

「新しい、技法ですか…?」

「ああ。まだその技法の名は決まっていないが、おそらくあちらとこちらの世界…どちらを掛け合わしても俺以外使えるものはいないだろうものだな」

 

その言葉に刹那は驚いたのかどんな技法か是非と言って聞いてきた。

だけど先ほどもいったが俺以外は使えないだろうと前置きをしてからどういったものかをおおまかに伝えた。

 

「投影する魔剣の魔力をすべて体に取り込むというものですか!?」

「ああ。さすがにその技法を編み出した翌日に宝具級のものは取り込んでいないのに体にだるさを感じてしまったから、呪いまで使われて安定するまで当分は使用を制限されてしまったな。だから今取り込めるのは名もなき魔剣と干将莫耶くらいだな…」

「…それだけでも充分なのでは? ちなみにどれだけ効果を発揮したんですか?」

「あー…それがな。初めて成功したときには風属性つきの魔剣を取り込んだんだが………装填した魔力を最初は制御できずにエヴァ達も目視は難しいほどの速度で一瞬にして100m以上は移動してしまい思わず死にそうになった…」

「それは…またすごいものですね」

「ああ。そしてその勢いで装填した魔力がすぐに底をついたから、おそらく一気に使ってしまったからそれほどの移動をしたのだろう? それ以降特訓をしていくうちに装填した魔力を割り振っていけば移動速度も距離も自分の思った通りになることに気づいたから今ではなんとか制御できている」

「では……その装填した魔力にさらにその魔剣を投影して使ったらどうなりました?」

「うまいところをついてくるな。それが、とても恐ろしいことがおこった。剣を握った瞬間、同じものを使っている反動で武器は爆発……俺はかなりの重症を負った。なんとか生還したが、それ以降この技法はほぼ素手のみで固定化されてしまった。ま、こうして無事でいるのだから今では俺の失敗談としてエヴァ達には笑いの種にされているな」

 

ははは、と笑いながら刹那にそれを話したが「どこが笑い話なんですか!?」と詰め寄られたときにはあせった。

そして刹那を落ち着かせながら広場につくとそこにはネギ君を始めアスナやこのか、古菲と後、運動組の明石・和泉・大河内・佐々木の四名が一緒にいた。

刹那はアスナと剣の特訓があるらしくそちらに向かった。

それでなぜ運動組のものも一緒にいるのか聞いてみると佐々木も今度の大会の特訓をしているらしい。うむ、健康的でいいではないか。

 

「やぁネギ君。修行頑張っているみたいだな」

「あ、士郎さん!」

「士郎老師アルか。ちょうどよかったアル」

「ん?」

 

話を聞くに俺が以前に茶々丸と一騎打ちをした話をネギ君から聞いたらしくなにか対策はないかということだ。

しかし、あの茶々丸にか…。

今のネギ君の中国拳法の実力がわからないのでまずはそこから聞くことにした。

 

「それがネギ坊主は反則気味に飲み込みがいいアル。フツーなら様になるまで一ヶ月はかかる技を3時間で覚えてしまうアルよ」

「ほう…それはまた羨ましいことだな」

「それでお願いがアルね。一度ネギ坊主と勝負をしてもらいたいアルよ」

「え!?」

「俺がか? おそらく古菲に比べれば中国拳法の実力は凡人もいいとこで天地の差があるだろう?」

「いや、老師は普段の戦いをしてくれればいいアルよ。茶々丸に一撃を与えるのもあまりにも経験が足らなさ過ぎるから無理アルから」

「そうか…ネギ君はそれでいいか? 一応手加減はするが…」

「は、はい。ぜひ! お願いします!」

「任された」

 

俺は上着を脱いでネクタイを少し緩めて戦いやすい格好をとりネギ君も心構えをしたのか深呼吸をしている。

さて、どれほど成長しているのか楽しみではあるな…?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

さて、どうしようかな? 成り行きで士郎さんと勝負することになったけど、恐らく僕じゃ足元も及ばないだろうな。

でも、きっとそれは茶々丸さんにも言えることだから試験前のいい経験と思えば気も楽にいけるかも……やっぱり無理。

だってスーツの上着を脱いでいくぶんラフな格好を取っている士郎さんが構えをしているだけで圧倒されちゃう。

コタロー君との戦いを見たときに感じたけど士郎さん、あの時獣化もしているのに全然引けをとっていなかったから。

 

「どうしたネギ君? 緊張しているのかね?」

「え!? あ、はい…かなり」

「別に試合をするわけではないのだから今の実力を出せばいいことだ。俺もそれに合わせる。試合前のウォーミングアップ程度に思っていけば気が楽になるぞ」

「は、はい!」

 

僕の考えも読んでのリラックスの言葉…やっぱり士郎さんはすごい!

僕も見習わないと!

 

 

 

──Interlude

 

 

 

士郎とネギが向かい合って練習試合を始めようとしていた頃、何事かと全員は集まり観戦していた。

運動部四人組は普通に二人の試合を観戦しようと前へ言っているが裏の話に精通している面子はその後ろで小声ながらも会話をしていた。

そこで古菲はもっとも士郎の実力を知っているだろう弟子の刹那に話しかけていた。

 

「刹那。私は見たことないアルが士郎老師の徒手空拳の実力はどの程度アルか?」

「そうだな。単純に力比べをすればもしかしたら高畑先生以上かもしれない…」

「え!? それじゃ士郎さんの素手での実力も相当なものってこと!?」

「アスナの姐さん、京都での素手で戦う士郎の旦那の戦いを見てたろ…?」

「あっ…」

「ウチ、士郎さんの戦ってる姿はあまり見たことないけどそうなん…?」

「ええ、お嬢様。士郎さんは武術や剣術に関して確かに実力は凡才かもしれませんが、それを修練と経験で十二分に補っています。そしてなにより士郎さんの武術での真の怖さは次の一手になにが出てくるかわからないのです」

「前に色々取り入れていると聞いたことアルがそれが関係しているアルか?」

「そうだ。何度か徒手空拳での稽古もしたことはあるのだが…中国拳法から始まり、柔術、合気道、空手、プロレス、キックボクシング、ムエタイ…さらには私の繰り出した神鳴流の体術も一度見せたら即座に取り込んで使ってくる。武器も入れれば剣術、槍術、棒術と…数えたらそれこそきりがないほどだ。そしてそんなに多種多様なら普通はどれをいつ使うか迷い乱れるものなのだが士郎さんは常に自然体なんだ」

「どーいうこと?」

「そうですね。士郎さんは相手の出方によって呼吸法がすぐに変わるのです。例えば中国拳法を士郎さんが使ってきて私が対処をしようと構えた矢先にはすでに柔術の呼吸に変わり…重さ、スピードもまるで別人のように変わってしまい常にペースを狂わされてしまう…まるでなにが出てくるかわからないビックリ箱のように。最後に後一つ…ネギ先生にとって士郎さんはもっとも苦手な相手ということだ」

「え? え? どうしてなん、せっちゃん!」

「それは士郎さんが様々な武術の中でおもに主体にしているのがネギ先生と同じ中国拳法だからです。攻撃に関しては少しばかり力は劣るものの、力をあまり使わない防御やカウンターに徹すれば士郎さんはおそらくこの学園では最強でしょうね」

「…なるほど。つまり士郎老師は中国拳法を主体にして他の武術を取り入れているわけアルね?」

「そうだ。だから私は今でも稽古試合で士郎さんから一本を取ったことがない…」

「はぁ~…今更ながら士郎の旦那の強さを再確認できたぜ。投影っていう武器を作り出す魔術ばかりに目移りしていたが地でも相当達人レベルだな。もちろん裏世界も含めてだが」

「カモさんの言うとおりですね。そして先ほどここに来る間に士郎さんに聞いた話だが、エヴァンジェリンさんとイリヤさんとともにこの世界ではまず確実に士郎さんしか使えないオリジナル技法を数日前に開発したそうだ」

「「「「えっ!!?」」」」

 

刹那のその一言で全員の表情が固まった。だがいち早く復活したアスナが吠えた。

 

「エヴァちゃんとイリヤさんと士郎さんの合作技法!!? それ、どれだけ凶悪なものなのよ!?」

「まだ完全には会得していないらしいですが、おそらく完成すればまず最強の部類に入るでしょう。なにせ…士郎さんがいうにはその技法は魔力のこもった武具を投影する段階で形にする前に魔力の塊に固定化してそのすべてを自らの体に流して力にするという恐ろしいものですから」

「「「「………」」」」

 

またもや一同は刹那の一言に驚き沈黙、そして……多くは語るまい。ただ一つ言える事は運動部の四人からは変な目で見られたとだけ記載する。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

「なにか外野が騒がしいが始めようとしようか、ネギ君」

「は、はい…」

 

そして開始されたけど士郎さんは仕掛けてはこなかった。

それでどうしたのかと思ったけど、

 

「初手は譲ろう。どこからでも仕掛けて来い」

「はい! いきます!」

 

だから僕はまず士郎さんに足に力を込めて八極拳の初歩である掌をかざした掌底を当てに言ったけどそれはすぐに防がれた。

でもそれだけでまだ終わりじゃない! そこからすべる様に腕を絡ませもう片方の手で顎に突き上げからの掌を与えようとした。

だけど士郎さんはそれを軽く避けて、変わりに勢いがついた僕の体にお腹に手を当ててカウンターを当ててきた。

それによって僕は一瞬息が詰まったけどすぐにたまった息を吐き出して士郎さんから離脱した。

 

「…正直に驚いたな。習い始めて一週間も経過していないというのにここまで成長しているなんて」

「ありがとうございます!」

「だが、まだまだ甘い。茶々丸に一撃を与えると言う試験だが今の動きでは隙が多く見られるからカウンターを仕掛けようとしても返り討ちを遭うだろう」

「やっぱり、そう思いますか…?」

「ああ。だから今から俺が茶々丸の覚えている限りの動きを模倣して挑もうとしよう」

「え? 茶々丸さんのですか…?」

「そうだ。なに、当然加減はするが気を抜いたらそこで意識は刈り取られると思え」

 

そして士郎さんは一度深呼吸をして目を開いた瞬間、まるで雰囲気が別人のように違っていた。

僕が構えると士郎さんは先ほどとはまったく違う動きをしてきて僕の頭は困惑しながらもなんとか対応した。でも今の動きは確かに…!

 

「あれって、茶々丸さんの動きじゃない!?」

 

そこでアスナさんの驚愕の声が聞こえてきた。

そう、何度かしか見たことないけどあきらかに士郎さんの動きではなくてそれは茶々丸さんの動きだ!

 

「驚いている暇など与えんぞ?」

「くっ!」

 

なんとか受け止めたけどそこからすごい痺れてくる。これは士郎さんなりの手加減だと思うけどとんでもない。

加減しているとはいえ士郎さんはおそらく実力はトップクラス。手を抜いたら本気で意識が飛んじゃう!

だから僕も怖気をしないで真正面から立ち向かった。

それからは防戦一方ながらもなんとか最後まで耐えることは出来た。

 

 

「…はぁ、はぁ……」

「よくここまで耐えたな。何度か刈り取ろうとしたのだがな。まぁいい。よく頑張ったネギ君」

「はい、ありがとうございます!」

「で、古菲。こんなものでよかったか? なるべくダメージを与えないように配慮したのだが…」

「最高アル! 士郎老師、ぜひ私とも対戦してほしいアルよ!」

 

くー老師が士郎さんに挑戦をしているとまき絵さん達が心配そうに近寄ってきてくれた。

 

「ネギ君大丈夫!? なんだかよくわからないけどすごい戦いだったけど!?」

「あ、はい。士郎さんは僕を傷つけないように手加減してくれましたから大丈夫です。何度か受けて痺れましたが今はもうなんともありませんし…」

「あれで手加減かぁ…。士郎さんって意外にかなりの達人だったんだね~?」

「古菲が老師とか言っているのも納得やな」

「そうだね……」

 

僕もその意見には納得しちゃうな。それで士郎さんに向けて一礼すると士郎さんも手を上げて答えてくれた。

でも今回はかなりの収穫かもしれない。あれは士郎さんが茶々丸さんと対峙したときの動きだからいくつか手も浮かんできた。

通用するかはわからないけど後は本番まで力を温存しておくべきだね。

でも、そこで士郎さんから声が聞こえてきて、

 

「ああ、言い忘れたが茶々丸は俺の動きももうシミュレートしているから先ほどの動きは過去のものと思っといてくれ」

 

なんて…上げて落とすことまで忘れていないなんて士郎さんは本当にすごい。

つまり絶対に油断はするなという戒めですね。本当に頭が上がりません。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

 

ネギ君が佐々木達と話をしている間、俺達はネギ君の現実力に話し合っていた。

 

「さて…で、俺から見て先ほどのネギ君の動きでは茶々丸に一撃を入れるなどとはまず確率的にいえば絶望的な数値といってもいいだろうな?」

「やぱりそうアルか。うーむ、これはもうやっぱり一発勝負のカウンターを決めなければ勝ち目はないアルな」

「そうだな。しかもそれを入れるにしても相当運がよくなければ返り討ちは目に見えている…刹那はどう思う?」

「そうですね。はい、私もその意見には残念ながら納得するしかないですね。今の先生の実力ではまだほんの付け焼刃のようなものですから一発の機会を逃したらそれでたちまち終わりでしょう」

「ちょっとちょっと!? 三人とも、それじゃネギが負けるみたいじゃない!?」

「アスナ、一つ訂正だ。みたいではなく今のままでは負けるのは確実と言うことだ」

「そうだぜ、アスナの姐さん。俺っちも悔しいが実力の差が今はありすぎる…だから後は兄貴の気力にかかってくるわけだ」

「そうなんか…」

「すまんな、このか。これでも出来る限り現段階のネギ君に少しでも勝てる要素はつめたつもりなんだ」

「あ、気にしてへんよ。ウチは別に士郎さんやせっちゃんの事を責めているつもりはないんやから」

「そうか。助かる…」

「ありがとうございます、お嬢様…」

「ええよ。それよりせっちゃんに聞いたんやけど、士郎さんなんやすごい技習得したんやって?」

「む? もう話していたか…」

「はい。余計なおせっかいでしたか?」

「別に構わないが…なんだ? 見たいのか?」

 

それを聞いた途端、全員は見たいとばかりに頷いていた。

しかし、このような場所でいいのか? 一般人もいるんだが…。

だから俺はまだ未完成の技法だと言って後で完成したら見せるといって今回は諦めてもらった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

………そして、時間は経過して試験の時間が迫ってきていた。

俺と姉さんは先にエヴァ達と合流して会話をしている。

 

「オイ御主人、コレジャ試合ガ見エネーゾ?」

「うるさいぞ。役立たずの癖に口うるさい奴だ」

「仕方ネーダロ? 動ケネーンダカラヨ」

「ならば俺の頭にでも乗っているか? 前からちょくちょく乗っていたからな」

「オー、サンキューシロウ!」

 

チャチャゼロを頭に乗せていると、茶々丸がなにかいいたげで口ごもっていた。

 

「…しかし、いいのですか、マスター? ネギ先生が私に一撃を与える確立は概算3%…もし合格できなければマスターは不本意ではないのですか?」

「そうよね。なんだかんだでネギの事を気にかけているし…」

「勘違いするなよ、二人とも。本当に私は弟子など取る気はないのだから。それに一撃だけで合格というのは破格な条件だ…それで一発でも入れられないのならそこまでだ。だから茶々丸も手加減はするなよ」

「ハ…了解しました」

 

エヴァが会話を終了させて、タイミングよくそこにネギ君達がやってきた。

 

「ネギ・スプリングフィールド弟子入りテストを受けに来ました!」

 

最初の挨拶はまぁいいだろう。しかし、広場での面子が全員いるのはどうかと思うぞ。

あくまでもこれは裏に精通する戦いだというのにな…。

エヴァもそれを思ったのか口出ししている。

 

「…まぁいい。ではルールだがお前が茶々丸に一撃でも入れればそれで合格。しかし手も足も出ずにくたばればこの話はなかったことにする。わかったな?」

「……その条件でいいんですね?」

 

ネギ君はそこで不適な笑みを浮かべたがエヴァは気にせず試験を開始させてしまった。

まさか、とは思うがな…。

そして試合は開始されネギ君は即座に、

 

「契約執行!90秒間!ネギ・スプリングフィールド!」

 

と、京都で見せた不完全な身体強化魔法を執行した。

しかし同じ種の強化魔術を使う俺から見てもあらためて見ると荒れが多く見られる。

隣でエヴァが「我流の自分への魔力供給か…」と耳に聞いて、

 

「やはりあれは俺の身体強化魔術で言う出来損ないの部類に位置するものか」

「そうね。あれは荒れすぎね。持っても数分しか持たないものだろうし負担もすごいわ」

「だろうな。少しは期待していたが、あれでは茶々丸に一撃など夢のまた夢の話だ」

 

観戦しながら語り合っていたが、だがよくあれだけ持つものだ。

だが茶々丸に吹っ飛ばされてなんとか持ちこたえ茶々丸の接近を狙っている。

やはりカウンターに絞ってきたか。だがあれは……見え見えの隙をわざわざ暴露していてむしろ自殺行為。

そして結果、ネギ君はカウンターをしてきたがやはり茶々丸は読んでいたらしく華麗に後ろの壁に足を着かせて空に舞い、そこからカウンター返しをしてネギ君を地べたに転がせた。

エヴァからは舌打ちが聞こえてネギ君に一言言ってその場から立ち去ろうとしたが俺はそれを止めた。

 

「なんだ士郎? もう勝負はついたのだから時間の無駄だし帰りたいんだが…」

「いや? まだ勝負はついていないぞ。自分で言った条件を今一度思い出して、そしてまだ立とうとしているネギ君を見てみるがいい」

 

エヴァがすぐに倒れているネギ君の方を見ると起き上がってくる姿を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「なに? まさか!」

「そう、そのまさかだ。“手も足も出ずにくたばれば”とエヴァは言った後、ネギ君は不敵に笑みを浮かべた…その答えがあれだ。まさか本当にするとは思っていなかったが…」

「………」

 

ネギ君は立ち上がり再び茶々丸に飛び掛っていったが今度は動きは遅い。おそらく契約執行が切れたからなのだろう。

そして「手加減されて合格しても意味ありません」という言葉に茶々丸も意思を汲み取り手加減をなくした。

………それから1時間以上飛び掛っては返され、弾かれ、反撃を受ける。その繰り返し…もうネギ君の顔は見るに耐えないものになっていた。

見学していた一同も何度も悲痛な声を上げエヴァもさすがに止めさせようと何度か口出ししているが、そこで耐え切れなくなったのかアスナが仮契約(パクティオー)カードを出して止めようとした。

俺は瞬動をしてアスナの手を止めようと足に力を込めたが違うほうから、

 

「だめーーアスナ!! 止めちゃダメーーッ!!」

 

と、いう佐々木の大声でアスナの動きは制止させた。手を広げて、体全体で止めるという意思を彼女は表している。

 

「で、でも、あいつあんなボロボロになって、あそこまでがんばることじゃないよ」

 

確かに正論だ。だが人間一度決めたことは貫こうとする精神がある。

今のネギ君を止めたらきっと後でアスナは後悔するだろう。

アスナは当然反論したが、佐々木はそのことを分かっているのか声を震わせて喉から声を絞り出す。

 

「わかっている。わかっているけど……ここで止める方がネギ君にはひどいと思う。だってネギ君、どんなことでもがんばるって言ってたもん!」

「でもっ……あいつのあれは子供のワガママじゃん、ただの意地っ張りだよ。だから止めてあげなきゃ……」

「違うよっ! ネギ君は大人だよ!」

「ま、まきちゃん。シャワー室でもそう言ったけど、あいつどこからどう見たって……」

「子供の意地っ張りであそこまでできないよ。う、上手く言えないけど…ネ…ネ…ネギ君にはカクゴがあると思う」

「か、覚悟?」

「うん、ネギ君には目的があって……そのために自分の全部でがんばるって決めてるんだよ。アスナ、自分でも友達でも先輩でもいいし、男の子の知り合いでもいいけど、ネギ君みたいに目的持っている子いる? あやふやな夢じゃなくて、ちゃんとこれだって決めて生きている人いる?」

「そ、それは……」

 

そこでとうとう反論の声は聞こえなくなった。

エヴァも顔を赤くしながら「あ、青い…」と言っている。

姉さんは面白そうにチャチャゼロと行く末を見守っていた。

 

「ネギ君は大人なんだよ。だって目的持ってがんばってるもん。だから……だから今は止めちゃダメ」

「…………まきちゃん」

 

そこで茶々丸も耳にしていたのか一瞬だが動きを止めてしまった。

そこにエヴァの「おい、茶々丸…!」という声が響いたが時すでに遅し。

茶々丸は致命傷とばかりの隙を作ってしまい渾身とはいかずとも精一杯のネギ君の拳が頬を「ぺチン」と間抜けながらも確実な音を響かせながら叩かれた。

それで勝敗はついた。

ネギ君は「あ……当たりまふぃた……」と言って力を使い果たし、倒れた。

 

「やったーーっ!」

「ネギくーーん!」

「コラー茶々丸ーーッ!」

「す、すすすすいません! マスター!」

 

ネギ先生が倒れたのをきっかけに大階段で起こる小規模な騒ぎ。様々なことがその場で繰り広げられていたが、ともかくこうしてネギ君は弟子入り試験を合格したわけだ。

 

「しかし、どうやら俺が動くこともなかったようだな」

「そうね。マキエが止めてなかったらきっと士郎のことだからアスナを気絶させて嫌われ役でも演じていたんでしょうね?」

「まぁな。あそこまで意地を見せているところに横槍はさすがに屈辱以外の何者でもないからな」

「ケケケ、シカシアノボーズホント根性アッタナ」

 

その後、エヴァはさすがに「負けた」といってそのカンフーも修行は続けておけといって立ち去っていった。

そして俺はまだ回復していないネギ君に近寄って、

 

「よくがんばったネギ君。あのエヴァからあんな言葉が出たのも意外だがネギ君の根性にも賛美を送らせてもらおう」

「ありがとうございます、士郎さん…」

「そういえばなんで士郎さんはなにもいってこなかったの?」

「いや? アスナがカードを出した瞬間に即座に意識を刈り取ろうとはしたが…?」

「え゛…? なんで?」

「わからんか? 佐々木も言っていたがネギ君は自身の信念のもと意地を通して戦った。それなのにその気持ちを踏みにじって止めてもお互い後悔が残るだけだ」

「そ、そっか…それじゃまきちゃんに感謝しなくちゃね」

「そうしておけ。とりあえず今回は佐々木の活躍もネギ君の勝利に貢献したのだから」

「士郎さん…ほんまええ人やわ。ウチ、ほんまに感動したえ」

「はははッ…そんな大したことではないさ。それよりネギ君。エヴァに弟子入りしたのだから姉さんにも可愛がってもらえ。一応は姉弟子にあたるからな」

「え!? そうなんですか!」

「そうね。士郎じゃ良い意味で相手は無理だからこれからよろしく頼むわね、ネギ」

「は、はい…イリヤさん」

 

姉さん達とはその後、会話をしながらこれからについて話し合った。

 

 

 

 

 

―――そういえば士郎さん…

 

―――なんだ、このか…?

 

―――なんか数日前にじいちゃんが原因は不明なんやけど寝こんだんや。

 

―――ふむ、それがどうかしたのか?

 

―――何度もユルシテクダサイって言ってたんやけど、士郎さんなにしたん?

 

―――む、まるで俺がしたことが分かっているような言い草だな。まぁ、確かにああしたのは俺だが。

 

―――じいちゃん、なにかしたん?

 

―――なにかをしたと聞かれれば答えはイエスだ。なに、俺とこのかの仮契約(パクティオー)の話を一人だが関係者に話してしまったからな。少し、いやかなり地獄を味わってもらった。

 

―――そうやったんか。それ聞いてすっきりしたわ。それじゃウチも後でおしおきせんとあかんな♪

 

―――手が足りなければいつでも協力しよう。俺とこのかの仲だからな。

 

―――いややわ、士郎さん。ウチ、恥かしいえ…フフフ♪

 

―――変に聞こえたのなら謝罪しよう。ハハハ…。

 

 

 

 

……後にアスナ達は語る。このときの俺達の表情はとてもいい顔だが、その分とても黒かったと。

 

 

 




最後に黒い二人。


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034話 エヴァによる修行風景

更新します。


 

 

ネギ君の弟子入りテストから数日後、場所はエヴァの家から近くにあるなにやら遺跡のような場所で小規模ながらも結界が張られており、そこでネギ君と姉さんの修行が行われていた。

別荘を使えば良いと言ったがまだ奴には早いと言い捨てられた。

それでなぜか俺も修行に参加するらしい。どうやら俺の血が目当てらしいが勘弁してもらいたい。

 

「よし。ではまずぼーやとイリヤ、二人とも始めてみろ」

「はい!契約執行!180秒間!ネギの従者『神楽坂明日菜』『宮崎のどか』!」

「ええ。契約執行!180秒間!イリヤの従者『衛宮士郎』。そしてシロウの従者『近衛木乃香』『桜咲刹那』!」

 

ネギ君の契約執行によりアスナと宮崎の体に薄い魔力が纏われた。

姉さんも同時に執行し俺を経由してこのかと刹那も姉さんの魔力を身に纏った。

なるほど。これなら一般人よりは確かに力は上がるだろうな。あくまで常人以上程度だが。

そこでさらに、

 

「次に対物・魔法障壁を全方位全力展開!」

「はい!」

「ええ」

「さらに対魔・魔法障壁を全力展開後、3分持ち堪えた後に北の空へ魔法の射手199本を放て!」

 

それによってネギ君と姉さんの手から魔法の射手が同時に放たれ空には光の粒子が結界に当たり飛び散っていた。

そして姉さんは自分の魔力を完全にコントロールしていてまだ余裕綽々だが、ネギ君は使いすぎた反動で気絶していた。

 

「ふん、この程度で気絶と話にならん! イリヤを見習ってもう少し努力するのだな!」

「しかし、姉さんはいつのまにここまで魔法を…しかも俺を経由してこのかと刹那にまで流すとはすごいな」

「ふふん。私にかかればこの程度は朝飯前よ♪」

 

それからエヴァはネギ君に向けて師匠としてだるそうに、且つきつく言葉を交わしていたが、ネギ君の気合が入った言葉で少しばかりたじろいで「私のことは師匠と呼べ…」と小さく呟いていたので思わず俺は口元が上がるのを感じていた。

そこにエヴァは目ざとく気づいて、

 

「ええい! 士郎、そこで笑うな!」

「しかしな…なぁ?」

 

俺は誰に問うでもなく言ってみた。

それでエヴァはいい度胸だという顔になって、

 

「…そうだな。そういえば士郎。あれから新しい技法の完成度はどうなっているんだ?」

「ん? まぁ…そこそこ安定はしてきたがやはり宝具級は身に余るものがあるな」

「ならば一度宝具級を取り込んでみろ。どれくらい負担があるかこの私が見てやろう」

「……絶対に俺の苦しむ姿が見たいだけだろう?」

「まぁそういうな。一度きりだけだから私にも見せてみろ」

「だ、そうだが……姉さん、許可はしてくれるか? ギアスで縛られているから出来ないのだが…」

「もう…しょうがないわね。本当に一度だけよ?」

 

姉さんは強制魔術(ギアス)を一時的に解いてくれたらしく体が少し軽くなった。

そこで前々から見たがっていた面々が見学をしだしていた。

 

「ついに見せてくれるアルね? 楽しみネ」

「そうですね。士郎さんはなにを取り込むのでしょう?」

「きっと旦那のことだからすんげーモノに決まってるぜ!」

「少しドキドキします」

「宝具というものは…とても興味をそそられるです」

 

あちこちから何か言っているが、あまり期待しないでもらいたい。

失敗したときの反動はすごいものだからな。

だから程ほどのものにしといた。

 

「…まぁいい。ではやるか。――投影開始(トレース・オン)

 

俺は剣の丘から一本の日本刀を引きずり上げる。

そしてそれを形にする段階で、

 

「――変化、開始(トレース・オン)ッ!」

 

魔力の塊に変換させ固定化、そしてそれを握り締めて体に流し込んだ。

 

魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!」

 

そして俺の体にはある刀の概念と魔力がそのまま纏われた。

その俺の魔力の急激な増加にわかるものは目を見開いていた。

だがエヴァはなにやら不満げに、

 

「なんだ士郎。もっと派手なものを取り込んだと思ったが案外普通のものを取り込んだな」

「そうでもないさ。これでも蓄積された年月はそれなりにあるものを取り込んだつもりだ。そうだな…言うより見てもらったほうがわかりやすいな。ネギ君、少しいいかね?」

「え? あ、はい。なんでしょう」

「君の今のところ最高の呪文である『雷の暴風』を全力で俺に放ってくれ。無論容赦などなく…!」

「「「「「「え!?」」」」」」

 

俺の言ったことに皆は目を見開いた後、すぐに否定の言葉を言ってきたがエヴァは面白そうに、

 

「よしわかった。ぼーや、師匠命令だ。やれ!」

「ええ!? でも…!」

「士郎もああいっているのだからやってやれ。少しでも手加減したら容赦せんからな?」

「うぐっ…はい。でも、本当にいいんですか、士郎さん?」

「ああ、構わないからさっさと頼む。ああ、それと刹那…」

「はい、なんでしょう?」

「以前に話した逸話を今見せてやろう。宝具というものはなにも派手さだけではないということを証明する」

 

俺はそう告げた後、後ろに数歩下がって魔法が飛んで来るのを待った。

それでネギ君も覚悟を決めたようで詠唱を開始した。

それに合わせて俺も拳を水平に構え、

 

「『雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』!!」

 

魔法は放たれた。それで一同も後のことを考えてしまったらしく悲惨な顔をしたが俺は構わず手刀をそれに勢いよく振り下ろした。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side  桜咲刹那

 

 

なっ!? まさかあれは!

ネギ先生の魔法がまるで士郎さんの手により掻き消されて…いや、文字通り手刀によって真っ二つに切り裂かれた。

 

「え? え? な、なんで…!」

「嘘ぉッ!? ネギの魔法がただの手刀で切られちゃった!」

「正直言ってありえねーだろ!?」

「士郎…貴様、なにを取り込んだんだ?」

 

魔法を放ったネギ先生は当然、アスナさんやカモさん。エヴァンジェリンさんですら驚きの表情をしていた。

だが、私は士郎さんがなにをその身に宿したのかすぐに理解した。

 

「以前…といいますと戦国時代の九州の武将、立花道雪の逸話ですね」

「そうだ。立花道雪のエモノの名は『千鳥』…過去の歴史で『雷神』とまで評されたほどの人物だが呼ばれた理由は使っていた刀によるものが大きい…」

「なんだ、それは? どんな奴かは知らんが…」

「エヴァは知らなかったか。立花道雪の刀は別名『雷切』…落雷時に千鳥を持ってして雷を切り裂いたという逸話があるほどの名刀。よって先ほどのものはその概念武装を身に宿したからできた芸当だ」

「はっ、なるほど。その概念でぼーやの雷の魔法を切り裂いたわけか。つくづくお前には驚かされる。ではそれを纏っていれば雷系の攻撃はほぼ切り裂けるわけだな」

「そうなるな。使える回数に限りはあるが…むしろ、場所や状況を指定しないなら千鳥そのものを投影して使ったほうが効率はいいかもしれないな」

「つまりは投影と取り込みで相性がよい奴と悪い奴があるというわけか」

「そうなるな。それよりまだ装填魔力が残っているらしいから発散する。残しておくと少し後遺症が残るからな」

 

士郎さんが明後日の方向に手をかざした途端、魔力が迸って魔法の射手のように手の平くらいの純粋な魔力弾が打ち出されていった。

それらは結界に当たり消滅していくが一向に減る気配が見えないのでさすがに士郎さんも痺れをきらした様で、

 

「…面倒だ、姉さん結界の強化を頼む」

「わかったわ。でも本当に燃費が良いんだか悪いんだかわからないわね? 長期戦では有効そうだけれど…っと、出来たわよ、シロウ」

「わかった。では…魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)一転集中(コンセントレート)発射(ファイア)!!」

 

両手の間に凝縮した魔力弾を作り出しそれを結界めがけて放った途端、ネギ先生の雷の暴風もかくやと思うほどの雷の放出が巻き起こり結界を揺らした。

それだけ魔力が体内に残されていたのか、それとも士郎さんの実力なのかは定かではないが正直に凄いと感じてしまった。

そして士郎さんは「――同調解除(トレース・カット)」といって魔力放出を停止した。

士郎さんがすべてを終わらせたと同時に今まで黙って見ていたお嬢様や皆さんは目をキラキラさせながら士郎さんに駆け寄っていった。

それで私も便乗することにした。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side  衛宮士郎

 

 

むぅ、少々力を見せすぎたか…皆から凄い目で見られているな。あまり俺も多用はする気はないのだが。

だがそこでなにやらネギ君が、

 

「あ、あの士郎さんに師匠(マスター)!」

「なんだ、ネギ君?」

「どうしたぼーや、急に改まって?」

「はい。まず士郎さんに聞きたいことがあるんですけど竜を倒せるような剣もなにか持っていますか?」

「ふむ、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の剣か…そうだな。

有名どころで言えば、

北欧神話の英雄ジークフリートが魔竜ファーヴニルを倒す際に使用した魔剣『バルムンク』。

聖ジョージの竜殺しの聖剣『アスカロン』。

日本神話でいうなら有名なのはやはり素戔鳴尊(スサノオノミコト)八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を倒す際に使用した神剣『天羽々斬(アメノハバキリ)』。

……他にもあるが上げるのならこの三つが断トツでトップだろうな」

「……貴様、そんなものまで投影できるのか?」

「できないことはない。しかしどれも高位ランクの宝具…特に神剣である『天羽々斬(アメノハバキリ)』を投影するものなら回路が悲鳴を上げて悪くて一時的に焼ききれて回復に時間を有するだろうな」

「ま、当然のリスクだな…」

「そうね。さすがに神剣クラスはシロウの負担がすごいから。でも今の日本に竜が現れるところなんてないでしょう?」

「そうだな。魔法世界なら話は別だが…それでぼーや、なんでそんなことを聞く?」

「はい。ドラゴンを倒せるようになるにはどれ位修行すればいいかと思いまして…」

「「「………は?」」」

 

突然なにを言い出すかと思えば竜を倒せるくらいとは…ネギ君、君はなにをとち狂ったことをいっているんだ?

エヴァも怒りを顕わにして「アホかーーーッ!!」と鉄拳制裁を食らわした後、説教を永遠と繰り返していた。

姉さんもさすがに呆れが入っているのかやれやれとかぶりを振っている。

それでなにやら知っていそうな素振りをしていて現在「何の話?」と言っているアスナに説明している綾瀬に事情を聞いてみた。

 

「綾瀬、ネギ君はいきなりなぜあんなことを言い出したんだね?」

「そうよ。今時あんな話をするなんて…ゲームじゃあるまいし」

「あ、はい。とても信じられない話でしょうが…」

 

そして俺と姉さん、アスナは先日に綾瀬と宮崎がネギ君達と一緒にナギさんの手がかりを見つけてそこに向かったら巨大なドラゴンが潜んでいて襲われたという話を聞いた。

それを聞いてアスナはなにかしら怒った表情をしていまだ説教を受けているネギ君を無言で睨んでいた。

二人の間でなにかあったのだろうか?

 

「……しかし、よく脱出できたものだな」

「そうね。シロウならどうにかできそうだけど今のネギじゃ普通に負けるでしょ?」

「はい。茶々丸さんに助けてもらったのでなんとか脱出することができたです…そうです! 士郎さんなら!」

「悪い、綾瀬…俺はドラゴン退治には協力はする気はない」

「ど、どうしてですか!? 士郎さんなら倒せるかもしれないでしょう?」

「その気があればな…だがな、綾瀬。一つ聞くがドラゴンを倒すという事はどういう意味かわかるか?」

「え…? そ、それは…」

 

綾瀬はなにやら考えているが回答に至らないようだ。

当然だ。もとは魔法も裏の世界も知らなかったただの中学生なのだから。

 

「それじゃユエ、一つ謎かけをするわ。そのドラゴンを人間に置き換えて考えて見なさい。そうすればすぐにシロウの言っている意味が分かるわ」

「人間に置き換える……はっ!」

「わかったようね…そう、ユエは今とても軽はずみな発言をしたわ。倒すということはイコール殺すということよ。それもただ偶然そこに暮らしているドラゴンの住処に押し寄せて…それじゃただの殺人者と同義よ。

だからシロウは協力はしないといったのよ」

「わ、私はなんて愚考な事を言って…!」

 

綾瀬は姉さんによって現実を突きつけられて相当参っているようだ。

さすがに俺も見ていていい気はしないので綾瀬の頭に手を置いて、

 

「わかればいいんだ、綾瀬。そうすればお前はこれを教訓にまた一つ人間的に成長できる…ただ俺が言えることは理由もなき争いからは何も生み出さないということだ。そして変わりに残るのは悲しみ、憎しみ、恨み…上げたらキリがないがたくさんある。だがお前はそれを未然に防げたんだ」

「ですが。わ、私は…」

「自分で言ったことがそれほど重みになるのならその重みをずっと胸に抱いていた方がいい。そうすれば過ちはきっと回避できる。そしてそれから倒す以外に新たな解決案を導き出すんだ」

「倒す以外の選択…」

「そう、殺さずともいい選択を…」

 

それから綾瀬は少し元気が出たのか俺と姉さんに何度もお辞儀をして宮崎達とともに寮へと帰っていった。その横顔からは先ほどの影はなくなっていたので安心した。

 

「…人を諭すようになるなんて成長したわね、シロウ?」

「いや、ただあのような姿は見ていて気持ちがいいものではないからな。俺のただの我侭だ」

「ふふ…でもいいじゃない。さっきまでのユエの顔は後悔で一色だったからシロウの言葉はきっと届いたわ」

「そう願いたいものだな。さて、後問題は…」

「そうね」

 

俺達と綾瀬が会話している間になにかしら騒動があったのかネギ君とアスナが口げんかをしている。

止めようと思ったがネギ君は女性にとって禁句ワードを連発してしまいハマノツルギ(ハリセン状態)を発動…ネギ君の防御魔法もぶち割って吹っ飛ばした後、そのまま立ち去ってしまった。

しかし、ぶち割るってどういう構造をしているんだ、あのハリセンは?確かに魔力を無効にする効果があるから別段出来ないことでもないが…

 

 

それからその場に残っていた俺達とこのか、刹那、カモミール、そしてヘロヘロのネギ君はエヴァに呼び止められて家に連れてかれた。

 

 




夕映はなんといいますかこの時はまだまだ魔法世界の現実を知らない状態ですからね。


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035話 エヴァによる魔法講座

更新します。


 

 

家に連れて行かれエヴァによる魔法講座が開かれたので俺もいい機会だと思い話に参加した。

だがネギ君は先ほどのことを引きずっているのかルールーと涙を流して落ち込んでいる。

そこでエヴァは「人の話を聞け!」と吠えた。

それでようやく話に参加するようになったが依然落ち込んでいる。

エヴァはいい気味だと愚痴を零しながら講座を再会した。

それでなにやら詠春さんからの伝言があるらしいのでまずこのかから話を振られていた。

 

「まず詠春からの伝言だが、真実を知った以上魔法について色々教えてやってほしいとのことだ―――確かに京都での操られたとはいえあれだけの妖怪を召喚し、さらに士郎の死ぬのを待つしかないほどの傷すら癒したお前の力はもし望むなら偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)を目指すことも可能だろう」

「マギ…なんとかってネギ君の目指しとる……?」

「ああ、その通りだ。お前の力は世のために役立つかもしれんから考えておくといい。それでもう一つ伝言だがこれは士郎宛にだな」

「俺にか…?」

「ああ、そうだ。なに、単純な話だ。士郎は木乃香と仮契約(パクティオー)を果たしている。よって木乃香が魔法を学ぶ場合、危険も伴うことが多いだろうということで従者としてだけではなくパートナーとして守ってやってくれとの事だ。それと刹那も同じようなことが書かれていた」

「お父様が…」

「長が私にも…」

「しかし、最後にお前がそれを断り契約も破棄しようと考えている場合、修学旅行前までの日常だけを生きていく生活を続けさせるために記憶処理もやむを得ないとも書いてあった」

「つまり俺の返答次第で刹那はともかくこのかは記憶を奪われるということか…」

「その通りだ」

「…………」

 

俺はある意味このかの将来の選択を詠春さんに託されたわけか。これは中途半端にしたら後が怖いな。

しかし、俺は二人を守りきることが出来るだろうか…?

そんなことを思っているとこのかが俺の袖を目に涙を溜めながら掴んでいた。

 

「ウチ、嫌や。やっとせっちゃんと仲直りできた言うのに…それに士郎さんとのことも忘れてしまうやなんてほんまに嫌や!」

「このか…」

「お嬢様……士郎さん、私に言ってくださった言葉を拝借させてもらいます。士郎さんはその手を振り払うことが出来ますか?」

 

ッ!? その手で来るとは…やれやれ、では俺も覚悟を決めなければいけないな。

 

「では覚悟を決める前に聞いておきたいことがある。俺は今まで何度も差し伸べられてきた手を振り払った事がある…そんな俺に二人は、ついてこれるか?」

「私はもとよりそのつもりです」

「ウチももし振り払われても何度でも士郎さんのこと捕まえる…!」

 

二人は即答で俺に覚悟のこもった返事を返してきた。ふぅ、まさかこれほどとは。

すると姉さんが近寄ってきて、

 

「シロウ? あなたの負けよ。今の二人はもう梃子でも動きそうにないわ」

「そのようだな。だが…」

「また失うのが怖いのね、シロウ…」

「ああ。正直に言えばそうだ…今まで何度も死闘を潜り抜けてきながらも姉さんは俺に文句を言わずについてきてくれたが、いつ失うかもしれない恐怖があった」

「お前の過去の話しか…興味があるな」

「エヴァ…しかしそれは…」

「わかっている。今この場で聞く気はない」

「感謝する…」

「士郎さんの過去の話? なにがあったん?」

「このか、そのことについては今は話すことは出来ない。まだ姉さんにも全部話したことはないのだから」

「そうなのですか、イリヤさん?」

「ええ。シロウも口が堅くてね…」

「だからいずれ俺も覚悟が出来たら皆に話そう。とりあえず今はこのかの魔法を教わる件については俺も賛成だ。だから安心しろ、このか」

 

袖をぎゅっと掴んでいたこのかの頭に手を乗せて安心させるように笑ってやった。

だがそこでなぜかネギ君とカモミール以外のみんなは顔を赤くしていた。なぜだろうか?

ネギ君はなにかわからないといった感じだが、カモミールに関しては「これが噂の落とす笑顔…」とか感心したような言葉を呟いていた。

 

「んー、おほん! で、ではこのかの件についてはもういいだろう。次はぼーやのほうだ」

 

エヴァは何度も咳払いをしながら次はネギ君へのこれからの方針について話を再会した。

その間、俺の隣にいるこのかは顔を少し赤くしてうっとりとしているがここは理由は聞かないほうがいいだろう?

少しして話が済んだのかエヴァはまだこのかに話があるのか下へと連れて行った。

その間、ネギ君は小屋の中で中国拳法の練習をしていた。

…ふむ、また成長しているな。動きがさらによくなっている。

 

「ふぅ、『魔法使い』と『魔法剣士』かぁ…竜を倒すには拳じゃ無理だし……アスナさんはどう思います?」

 

そこでなぜかこの場にはいないアスナの名を呼んで一度固まったと思ったらすぐに「そうだ、まだアスナさんを怒らせたままだったんだ!」と泣き声を上げた。

どうやら忘れていたから練習に集中できていたらしい。

そこに茶々丸とチャチャゼロ…それに一緒になぜか同クラスの葉加瀬聡美が部屋に入ってきた。

それで大丈夫なのかと聞いたら葉加瀬もこちらの関係者で実は茶々丸の生みの親の一人らしい。…ここにも天才が。

3-Aは関係者が多すぎだろうと思わず心の中で突っ込みを入れた。

そこでカモミールと目が合いなんとなく同じ事を感じていたみたいで、

 

「なぁカモミール。3-Aは絶対になにかしら曰くつきの生徒の集まりだろう?」

「そうっすね…俺っちも不思議に思ってきやした」

「俺の予想が正しければこれは一般の方にもなにかしら力を秘めている生徒はいそうだな。一人だけだが思い当たりはなくもない」

 

俺はそこで前に一度顔合わせで会った明石教授のことを思い出していた。彼も魔法先生らしいので明石裕奈も力は引き継いでいるだろうと予想する。

それとは別に今はなぜアスナとネギ君が喧嘩になったのか話し合いになっている。

葉加瀬は茶々丸が聞いていた内容をプリントアウトして俺も一緒に喧嘩の内容を読んでいた。

そしていくつか出てきた禁句ワードの中から導き出された答えは俺は答えなかったが全員一致で「パイ〇ン」と答えていた。

それで俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

変わりに他の一同がネギ君を慰めてネギ君も謝る気になったので一度外に出て行った。

それからしばらくして外からアスナの叫び声が響いてきた。

 

「なぁもしかしてネギ君。アスナの了解も得ずに召喚してしまったのか?」

「そうみたいね。おおかたお風呂に入っていたんでしょう?」

 

そしてダッダッダッと家へと駆けてくる音が聞こえたので俺は扉が開いた瞬間にアスナに投影した大き目の布を羽織らせてやった。

 

「わぷっ!? し、士郎さん!」

「とりあえずその布で体を覆っておけ。風邪を引くかもしれないからな」

「あ、ありがとうございます…」

「それよりなにがあったんだ? なんとなくだが検討はつくが…」

「はい! もうネギの奴…高畑先生の前で!」

「…なるほど、偶然居合わせたタカミチさんにも見られたわけか。とりあえず奥に行っていろ。俺が話をつけておく」

「……お願いします」

 

そして遅れてネギ君とタカミチさんがやってきた。

それにしてもタカミチさんはなんて間の悪い…

 

「やぁ士郎君」

「久しぶりですね、タカミチさん。海外から帰ってきていたんですか」

「まぁね。それより僕も間の悪いときに来ちゃったみたいだ」

「し、士郎さん…」

「ネギ君、とりあえず今日はアスナの機嫌はとても悪い…だから先に寮に帰っていてくれ。タカミチさん、久しぶりでなんですがネギ君の事、お願いしてもいいですか?」

「はい…」

「わかったよ。それじゃまた後で話をしようか」

「そうですね」

 

そういってカモミールも一緒に帰した後、家の中に戻るとアスナは俺の投影した布に包まりながら憤怒と羞恥の表情ですごいことになっていた。

エヴァは見ていて飽きないなと笑っているがここは無視の方針で。

 

「あー、アスナ。とりあえず災難だったな。タカミチさんはネギ君を連れてもう帰ったから大丈夫だぞ」

「ありがとう、士郎さん…」

「アスナー、大丈夫やった?」

「だめ…当分立ち直れそうにない。まさか高畑先生がいる場所でしかも裸で召喚されるなんて…」

「その様子だとまだ当分はネギの事は許す気はないのね?」

「…はい、イリヤさん。それより士郎さん、少しいい?」

「ん? なんだアスナ?」

「士郎さんもやっぱりネギと同じで私達がこちらの世界に入るのは反対?」

「む…また先ほどの話の蒸し返しみたいだな」

「さっきって…まさかこのかの事も反対したの?」

「いや、俺は特に反対はしない。…最初は俺もどちらかといえば関わりは持ってほしくはなかったのが本心だ。だが詠春さんの頼みでもあるし、このか自身また狙われるかもしれない…裏の世界は常に非情で死が付きまとう場所だからな。それで俺自身も色々考えた末、覚悟を決めてもしもの場合は全力で刹那とこのかを守ることにした。従者だとかそんなものは関係なく、な」

「「士郎さん…」」

「当然私のことも守ってくれるのよね、シロウ?」

「当然だ。今まで見捨てたことなど一度もなかっただろう?」

「ふふ…ありがとシロウ♪」

 

するとアスナは感心したような表情になり、

 

「やっぱり士郎さんは大人ねぇ。あの馬鹿ガキとは大違いよ」

「まぁそういってやるな。ネギ君だって裏の世界は危険だということは重々わかっているからなるべく一般人であるアスナを関わらせたくないのだろう?」

「それは……わかっているけど、やっぱり納得できないのよ。理屈とかそんなものは関係なくてただネギを見ていると危なっかしくて見ていらんないの。それは私は士郎さんやエヴァちゃん。茶々丸さん、イリヤさん、刹那さんに比べれば遥かに弱いけど、けどさ、ネギのこと心配なのよ。だからネギのこと守れるように、パートナーとして見て欲しくて…!」

 

必死になってネギ君のことを心配しているアスナを見て俺は不謹慎ながらも微笑を浮かべてしまっていた。

だがすぐに気づいてアスナは顔を赤くして怒鳴ってきた。

 

「いや、すまない。必死さが伝わってきて気持ちも理解できたのだがあまりにも真剣なのでな。微笑ましいとつい思ってしまった」

「うっ! 士郎さん、その笑顔は反則よ…」

 

後ろでうんうんと頷いている気配がいくつもあるが無視だ。

 

「だがそこまでの覚悟があるのならもう一度全力でネギ君と向き合ってみるがいい。納得しないのなら何度でも…そうすればネギ君もわかってくれるだろう」

「は、はい。はー、なんだかたまっていたものを吐き出したら少しすっきりしちゃった」

「そうか。ではもう遅いから部屋まで送ろう。いつまでも布一枚だけでは寒いだろう?」

「それで、やはりネギ先生とは…」

「まだ許してやらない…」

 

刹那が再度尋ねてみたが返事は同じだったので苦笑いを浮かべる以外できなかった。

 




外掘りも内も完全に埋まりつつある士郎。


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036話 衛宮士郎の久々の休日(?)

更新します。


 

ネギ君とアスナが喧嘩をしてから数日か経過した頃のこと、ネギ君達は雪広に南国リゾートに誘われたらしく今頃は南の島でバカンスをくつろいでいるだろう。

俺もネギ君達に誘われたがあいにくと学園長から呼び出しを受けていたのであえなく断った。姉さんだけちゃっかり着いていったのは別にくやしくはないぞ?

だがこれもいい機会だし二人が仲直りできるように祈っておこう。

それより仕事をしなければな。

 

「それで学園長。呼び出した理由は本国とやらに送った俺の作製した武具の件でしょうか?」

「ふむ、そうじゃのぉ。正直、評判が良すぎて依頼が何通か束で来ていたから困っておったんじゃ」

「そのわりに顔がにやけているのはどういったことでしょうかね~?」

「ふぉ!? いかんいかん! いやの、種類を指定してその手の腕が立つ鍛冶師にも何人か見せたが…皆お手上げらしいんじゃ」

「お手上げとは…?」

「いや、鍛冶師全員がどうやってこれほどの魔力と切れ味を秘めた武器や防具を作れるのか興味を持ってしまったそうじゃ。それで本国も軍にぜひ配備したいと豪語しての。なんでも資金と材料を提供するから指定した数分を作ってほしいそうなんじゃ」

「まさか、了解してしまっているわけではありませんよね…?」

「それはさすがに士郎君のことも考えるとまずいと思ったのでまだ返事は出しておらんよ」

「それを聞いて安心しました。さすがにそう何本も作る時間はないですから。エヴァの別荘を借りれれば話は別ですが…」

 

だがちょうど良くエヴァが学園長室にやってきてそれくらいならいいぞと言ってきた。

 

「…いつから聞いていたんだ?」

「そう目を尖らせるな。さっきの会話くらいだから安心しろ」

「ほぼすべてではないか…」

「それより別荘の件だが私は別に構わんぞ。ちょうどもう使っていなかった工房があるからな」

「そんなものもあそこにはあったのか…?」

「まぁな。主にチャチャゼロや姉妹達の武器を作るためのものだったのだが今は学園を出られんし使う機会もない。だから今頃は埃をかぶってるだろうな?」

「お前のことだからただで、とは言わないだろう?」

「わかっているじゃないか。なに、別に無理なものは注文しない。ただお前の血が吸えればそれだけで満足だ」

 

その一言で俺は冷や汗を掻きながら一歩後ずさりをした。

学園長はなにごとかと目をぱちくりとさせている。

 

「…のう、エヴァ? お主は男性の血はまずいから飲まないとかいっておらんかったかの?」

「その件だがな。ぼーやもそうだが士郎の血はそれはとても美味でな。ぼーやの血が少し値の張る赤ワインだとするなら士郎の血はまさに極上のそれだ。しかも魔力の回復量が伊達ではない…病み付きになりそうでならんな」

「ほうほう…エヴァがそこまで気に入るとはの?」

「その話は今はやめて頂きたい。背筋が寒くなる…で、だが献血程度で構わないのなら別に良いぞ」

「申し分ない。初めてお前の血を吸ったときの喉を潤す感度を思い出せばそれでも十分だ」

「……ちぃっ!? 地雷を踏んだか! それならば数滴「もう交渉はお互い成立しただろう?」…ぐぅっ!?」

 

しかたなく俺はそれで手を打つ以外手段はなかった。

姉さんが俺達の世界の等価交換の意味を教えなければこんなことには…。

いや、今更言っても手遅れか。

 

「それよりそんなに俺が作った武器達は好評がよかったのですか?」

「ふぉふぉふぉ、まぁの。魔法世界で人種が多く住む北の首都・メガロメセンブリアではそれはもう好評で『せめて名前だけでも!』と言われて苗字だけ教えてやったらたちまち『鍛冶師エミヤ』の名が知れ渡ってしまったんじゃ」

「そ、そこまで…」

「当然だな。宝具などという規格外のものを投影できる士郎が作るものなのだから妥当な反応だろう。ちなみに試作はどんなものを送ったんだ?」

「実はワシもそれは気になっておったんじゃよ」

「そうだな…? まずは出だしが肝心だから対実戦用と対魔法使い及び従者用の概念を組み込んだ大型と小型タイプの剣や槍、盾などを送ったな」

「なに…? 前者はともかく後者のほうはなにを参考にしたんだ?」

「なに…ここだけの話だけにするなら話すが?」

「いいだろう。じじぃも構わんな?」

「いいじゃろう。他人に話すのは実質士郎君の魔術の異常性をばらすからのぅ」

「ありがとうございます。で、モデルにした武器だがケルト神話に語り継がれるフィオナ騎士団の英雄『ディルムッド・オディナ』が使用したといわれる宝具。

真名を『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』…瞬間的に魔力による防御を無効化する槍のことです。よって実質的に物理防御でしか防ぐ手段しかなくなるというまさに魔法使いや従者には天敵の宝具だな」

「………」

「………」

「「なんだと(じゃと)!!?」」

 

学園長とエヴァは同時に声を上げた。

まぁ、確かにそうだよなぁ。そんなまたアンチな宝具をモデルにしたんだからな。

 

「まぁ落ち着いてください。さすがに試作だけあり切れ味と使いやすさを重点に置きましたからそれはオマケ程度の効果しかありませんから安心してください」

「それを聞いて安心したんじゃが…士郎君、本当になんでも持っておるんじゃな?」

「全部というわけではありませんよ。俺自身まだ知らない宝具はやまほどありますから…それに欠片でも残っていれば複製可能ですが今の時代、そんなものはほとんどが塵芥と化しているでしょう」

「宝具よりも、欠片からだけでも複製できるお前の方が異常すぎるだけなのでは…?」

「否定はしない…だが対吸血鬼や不死者専用を作らないだけでもありがたいと思ってもらいたいものだ」

「私達専用だと? それは前にお前が指に挟んでいた黒鍵のことか?」

「それもある、が…もう一つ強力なものがある。なぁエヴァ。ここで一つ質問だがゴルゴン三姉妹の逸話は知っているか?」

「ゴルゴンというと有名な話ならメドゥーサのことか? それが―――……まさか士郎。お前はあれまで投影できるとか言うのではないよな?」

「アレというとやはりアレのことかの…?」

「そう。アレですよ――投影開始(トレース・オン)

 

投影を開始して手に顕現させたものを見て二人は開いた口が塞がらないでいた。

そう、今俺の手には多様な宝具を使用した英雄『ペルセウス』が不死であるメドゥーサを退治した不死殺しの概念を持つ『ハルペー』が握られている。

 

「よせ! 私にそれを見せるな!? なぜかは知らんがそれを見ているだけで怖気が走る!!」

「むぅ…これほどとは! 凄すぎじゃぞ!!」

「ま、所詮は贋作だ…だからせいぜい斬られたら当分治癒魔法も受け付けず傷が残る程度かと」

「それだけでも末恐ろしいわ!いいからそれを早く消さんか!?」

 

さすがのエヴァもハルペーから伝わってくる魔力に寒そうな感じで体を震わせていた。

だから俺もさっさと魔力に返した。

 

「…ふぅ、しかし士郎君が味方で本当によかったと今は心底思っておるよ」

「同感だな。まさか私をも滅ぼせる宝具を持っていたとは…」

「そこは安心していいぞ。俺は私欲でこんなものを使う気はさらさらないからな」

「それは安心じゃな。む、そうじゃった。作る場所が確保できたのならちょうどよい。この用紙に書かれている分をもしよかったら頼みたいんじゃが…」

 

学園長から一枚の紙を受け取るとそれにはセットで同じものを何本とか色々記入されていて材料や資材もすぐに送ってくれるそうだ。

内容を確認しているとふと腕に痛みを感じたのでその方へ向くとエヴァが俺の腕を噛んでいた。

………なんでさ!?

 

「おい、エヴァ! 了解くらいはしろ!」

「うるさい! 私にあんな不吉なものを見せたお前が悪いのだから今回は別荘を提供する前金として十分堪能させてもらうぞ!」

「うおおおおっ!? なぜか凄い勢いで吸われている!? が、学園長―――ッ!!」

「すまん…」

 

即効で見捨てられた!?

それでまたしても糸で縛られ抵抗もできず俺はかなりの量を吸われて、代わりにエヴァは十分堪能したのか肌が艶々になっていた…。

 

「ふむ、やはりこれは美味だな。今後も頼むぞ、士郎」

「限度を、知れ!」

 

俺はヘロヘロになりながらも放った拳はたやすく躱された。

わかってはいたがそれでもやらなければ気がすまないものがある。

だが血と一緒に魔力まで吸いやがったエヴァに俺は対抗する手段も思いつかないのでしかたなくあきらめた。

いずれは…! という決意を決めて今日は姉さんや刹那達もいない為、学園都市を散歩することにした。

まず向かった場所は学園の近くのコンビニ。

そこに着くといつも通りというか本当に存在感薄いなぁ…というウチの生徒であり幽霊でもある『相坂さよ』が一人で地面に座っていた。

………今更だがやはり目を酷使しすぎたか? まさか幽霊まで見えるようになるとは。それとも相坂が特別なのか…?

だから俺はまず駐車場に堂々とたむろっている不良生徒達を指導という名の強制排除にかかった。

 

 

 

……数分後、

 

 

 

「「「「すみまっせんしたー!」」」」

 

不良生徒たちは俺になぜか敬礼をしてその場を立ち去っていった。

だが去り際に、

 

死の鷹(デスホーク)…初めてみたけどこえぇぇ…」

「ばっか! あの人は漢の中の漢だぞ!?」

「やっぱ理想だよな…あの背中には俺、着いていきてぇ…」

 

など等、内容は定かではないが小声が聞こえてきたが別にさして気にすることでもないので聞き流していた。

それでコンビニの店員に感謝されながらも横目で相坂に挨拶したら嬉しそうな顔をしていた。

そして少し人気がない場所に移動、周囲に誰もいないことを確認後、

 

「またあそこにいたのか相坂」

『はい、士郎先生。でも嬉しいです…気づいてもらえるだけではなく話しかけてくれて…』

「いつも寂しそうにしているのだからこれくらいはしてやらんとな。クラスでも気づいているのは知っている限りエヴァくらいだろうしな」

『ありがとうございますぅ…でも士郎先生ってすごいですねー…』

「なにがだね?」

『私は嬉しいんですけど…私って存在感が本当になくてお祓い師や霊能者にも全然気づいてもらえなかったんですよ?』

「そうなのか…それは不憫だったろうな。ま、俺の場合は目を酷使し続けた代償っていうところか」

『代償、ですか…?』

「ああ、相坂はこちらの世界は……知っているよなー。普段からネギ君が魔法を暴露しまくっているし」

『あはは…はい、そうですねー』

「俺の場合は目に魔力を集中させれば最高4キロ先まで見渡す事ができるんだ。それで最近いい加減使い過ぎたせいでそれが普通になってきてしまったから少しばかり封印処理を施しているのだがな…」

『すごいですねー…』

「自慢できるものではないがな。それより今暇なら一緒に散歩でもするか?休日でも広域指導の仕事があり話し相手でもいないと退屈でな」

『あ、はい。ぜひ! ……あ、でも私自縛霊なので学園の近くしか出歩くことしかできませんよ?』

「ならば俺に憑いていれば平気だろう」

『でも…私は仮にも幽霊ですよ? 悪影響とかないですか?』

「その辺は大丈夫だろう。影響が出ても後で取り除けばそれで事足りるしな」

『はい…では失礼しますぅ』

 

相坂はそういって俺の背中にとり憑いた。ふっ…この程度の圧力ならまだ遠坂のガンドの方が強烈なのだよ?

それから相坂とともに学園都市の探索が始まった。

 

 

そして探索途中で南の島に行ったものだと思われた龍宮と出会った。

 

「やぁ士郎さん。休日だと言うのに見回りとは感心するな」

「別に…ただ今は暇だから連れと一緒に学園を探検中なだけだよ」

「連れ…? 見た所一人のようだが……いや、なにかにとり憑かれているみたいですね?」

「まぁな。別に俺から了承したのだから害意はないから安心しろ」

「しかし、私にも見えないものが士郎さんには見えるのかい?」

「そういえば龍宮も魔眼持ちだったな。俺の場合、酷使した結果だから」

「なるほど。刹那が言っていた目の事ですね?」

「ルームメイトだから話は聞いたのか」

「はい。なんでも私ですらスコープ越しで2キロがやっとだというのに裸眼で4キロ見渡せるとか…士郎さんはもう人間の枠に納まっていませんね」

「失礼だな。これでも人間やっているつもりだ」

「ふふっ…それはすみません。ああ、そうそう。もしそれ(・・)が厄介だったら依頼してくれれば祓いますよ?」

「待て待て。本当に平気だからその魔眼を光らせるな…」

「そうですか。では私は失礼しますね」

 

龍宮は遠ざかる間に一瞬だけ俺ではなく肩にいる相坂に向けて視線を向けたがそのまま立ち去っていった。

 

『こ、怖かったですー…あの人も私のことを少しですが気づいていたみたいですね』

「そうだな。あいつは依頼金があればなんでも引き受けるから相坂も注意しといたほうがいい。さて、気を取り直して次行くとするか」

『はい』

 

 

 

それであらかた回って最後に着いた場所は寮の近くの表向きは非営利の鍛冶場で俺の工房でもある場所だった。

せっかくなので相坂なら別に見せても大丈夫だろうと思い中に入れたのだが、

 

『な、なんかこの部屋の中はいっぱい武器がありますね?』

「ああ。武器を結界代わりにして一般人が入ってこれないようにしてあるんだ」

『結界とかよくわかりませんけどすごいですねー…』

「ちなみにむやみに触らん方がいいぞ?ここにある武器達はほとんどが霊的存在にも作用するものがあるから相坂でも危険だ」

『え゛!? は、はい…気をつけます!』

 

そのとき、ちょうど常連の客が入ってきたようだ。

行ってみるとカウンターにはガンドルフィーニ先生、刀子先生…それとタカミチさんも一緒にいた。

 

「どうしたんですか、こんな大人数で? 今日は学園長からは依頼は受けていませんけど」

「なに、士郎君の名が魔法世界に知れ渡ったと学園長に聞いたんで祝いに来たんだよ」

「さすが学園長だ。もう通達しているとは…」

「まぁ衛宮の作る作品は目を見張るものがあるからな。私も衛宮の作ったナイフをとても有効活用させてもらっているよ」

「私の刀も研ぎ直してもらった後に使わせてもらいましたが切れ味が抜群に飛躍していたのでとてもよかったです」

「それはよかったですよ。魔的付与も追加しておきましたから妖怪には驚異的だったでしょう?」

「ええ。感謝するわね、士郎先生」

「それより士郎君。一度君の鍛冶場兼工房を見せてもらえないかな?」

「な、なぜですか…?」

「いや、どんなものかとね。興味本位だと思っておいてくれないかい?」

「まぁ別に構いませんけど一つ注意を…乱雑している剣や槍、防具には一切触れないようにお願いします」

 

三人は正直に頷いたので中に案内した。

相坂は少し苦しそうだったので今は表の方で待機中だ。離れても憑かれていることには変わりないのだから大丈夫だろう。

そして案内したらしたで三人はそれぞれ思っていることは違うだろうが驚いていた。

 

「これは…すごいね。工房内が外からは分からなかったけどたくさんの武器で飾られている」

「それに一つ一つの武具がそれぞれ配置によって違う役割をしているようだな?」

「そしてすべてに魔力が籠められていて一般のものと比較できないものがたくさんありますね。入ったときの違和感はこれだったのですか」

「ええ。さすが目が利きますね。きっと俺が招かなければ強硬手段をとらない限りは入ってこられないでしょうね?」

「そのようだね…。でも魔法世界でもこれほどの鍛冶場はそうはないだろうと思う。これなら士郎君の作品が軍に配備されるかもという学園長の冗談も納得できてしまうなぁ」

「学園長がそんなことをいっていたのか? 高畑先生」

「さすがにそれはないのではないでしょうか…?」

 

三人して学園長のいっていることは冗談だろうと口々にいっているが…

…すみません。それ、わりと本当のことなんですよ。

証拠に学園長から渡された首都・メガロメセンブリアからの直接依頼の書き出しを見せたら三人は絶句した。

 

「す、すごいですね…」

「ああ、まさかこれほど有名になっていたとは驚きだ」

「俺自身も驚いているんですよ。まさかただの試作段階のものを送っただけでこれだけ好評価を受けるとは思っていませんでしたから」

「士郎君。ちなみにその試作はここにはもうないのかな?」

「最初の一振りの作品だけなら…これから大量生産しなければいけませんから残してありますよ」

「ぜひ見せていただけませんか!?」

 

刀子先生がすごい剣幕で近寄ってきたのでちょっと後ろに引きながらもその作品である剣、槍、ランスなどを工房の鍛冶場に置いてあるところから持ってきた。

それを見せた途端、三人の顔は真剣なものになった。

どうもやはりこちらのものには興味があるらしく何度か振ったりしてどういったものか試している。

 

「ふむ、確かにこれは高級品と一緒に並べても目立つものだろう。なにより篭められている魔力がすごい…」

「切れ味も私のものを上回るかもしれませんね。ですがなにか突起した効果などはあるのですか?」

「当然ありますよ。どうやって作成したかは企業秘密ですが、その作品達は切れ味や強度、使いやすさを今回は重点に置きましたが、最大の特徴は瞬間的ですが魔力的防御を掻き消す効果が付与されています」

「「「なっ!?」」」

 

…学園長にエヴァと同じ反応だ。三人ともまた目を見開いている。

 

「まぁ学園長には軍にだけと釘を刺しておきましたから悪用はされる心配はないでしょう。それに…悪用されたときの保険で、そのときには使用者の意思に反応して悪意かそれに連なった感情がわいてくれば一瞬で塵芥となる効果も施しましたからご心配なさらずにお願いします」

「抜かりがないな…。本当に衛宮は将来いい鍛冶師になれるだろうな。もちろん戦闘方面も信頼はしているぞ」

「後で一度試合をさせてもらっても構いませんか?」

「それはやはり学園長から経由してもらっても構いませんか、刀子先生?」

「ええ、構いません」

 

 

 

 

それから満足するまで工房を見学していったガンドルフィーニ先生と刀子先生は終止笑いながら先に帰っていった。

そして本題があるらしくタカミチさんだけその場に残っていた。

 

「さて、では士郎君。今更だがあらためて修学旅行の件はありがとう。僕も駆けつけられたらよかったんだけどね」

「気にしないでください。俺もみんなを守れてよかったと今は思っていますから」

「しかし君だけ重傷を負ったという話を聞いたから心配したんだよ」

「ははは…まぁあれくらいなら慣れるのもどうかと思いますが大丈夫ですよ。このかの力で回復もしましたし」

「そうか、それならよかったよ。とりあえずお疲れ様、士郎君……いや、もう僕達の仲では堅苦しいかもしれないから士郎で構わないかい?」

「そうですね。では俺もタカミチと呼ばせてもらうけど構わないですか?」

「構わないよ。あ、あと敬語もなしでいいから」

「了解した」

 

そしてタカミチは祝いに持ってきたらしい一本のお酒を取り出したので少し待ってもらった。

どうしたんだい? と聞かれたけどそろそろ相坂も寂しがっている頃だろうと思い中に入れてやった。

 

「あ、相坂君。君も一緒にいたのか」

『高畑先生も私の事が分かるんですか!?』

「うん。君達のクラスを前までやらせてもらっていたからね。僕も気づくのには相当苦労したけど…士郎はすぐに気づいたようだね」

「ああ。初めて見た時は目を疑ったが今となっては話し相手にもなってやっている」

『はい。士郎先生、すぐに私のことを気づいてくれたんですよ。だから私とても嬉しかったです』

「そうか、それはよかったね。いつも寂しそうにしていたから心配していたんだよ。それじゃ相坂君は幽霊だから飲めないだろうけど気分だけでも味わっていかないかい?」

『いいんですか…?』

「構わんさ」

『ありがとうございます…うくっ…ひっく…』

 

相坂は話し相手ができたのがそんなに嬉しいのか泣き出してしまったので、俺は小声で「魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)」と唱えて霊力がこもった殺傷性はない礼装用の魔剣を装填して涙を拭ってやった。

それに相坂はもちろんタカミチも驚いていた。

 

「それが、エヴァの言っていた士郎の新しい戦闘技法の能力かい?」

「そうだ。霊力が宿った剣の魔力を体に装填したから今なら相坂に触れることもできる、こうやってな…」

 

俺は今も泣いている相坂の頭を撫でてやった。

 

『う、うれしいです…まさかまた人肌に触れる事ができるなんて夢のようです…』

「まだこれからだ。相坂は友達が欲しいのだろう?いつかネギ君達にも紹介しよう…きっといい友人になってくれるはずだ」

『はい…はい!』

 

相坂の目からとめどなく流れる涙は今はとても純粋に綺麗にうつっていた。

長年溜め込んでいて凍ってしまった想いが溶けていくかのように…

タカミチもとてもいい笑顔をしていた。正直に嬉しいのだろう。

それからは三人で色々な話をしながらお酒を楽しんだ。

 

 

 

 

それから数日後にネギ君とアスナは南の島から帰ってきたときには仲直りをしていたらしくよかったなと思っていた。

…追記すると相坂はあれから俺によく憑くようになった。

なんでもいるだけで気持ちが和らぐらしい。

俺が触れられるのも一つの起因だと思うがな。

 

 




士郎の従者候補に相坂さん、参戦。


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037話 別荘での修行とネギの過去

更新します。


 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

 

アスナさんと仲直りが出来て南の島から麻帆良学園に帰ってきて修行をしていたら、なにやら士郎さんとイリヤさんが師匠(マスター)とともにお話をしていました。

 

「なぁ、エヴァ。そろそろネギ君をあそこに連れて行くのもいいのではないか?」

「そうね。いちいち教職の間に修行もそろそろ大変じゃない?」

「そうだな。まぁ…頃合か」

「あの、皆さんはなんの話をしているんですか…?」

「なに、ちまちま修行しても時間は有限でなかなか教えてやれんからな。だからそろそろ私の別荘に場を移すことにする」

「別荘って…そんなものあったんすか?」

 

カモ君も疑問の顔を浮かべている。別荘って一体どんなところなんだろう?

でも、連れて来られてとても驚いた。

ボトルシップに寄ったらいきなり視界が変わってそこはとても大きな塔の上でしたから。

それにここでは外の時間が一時間なら中では一日だというお話だからびっくりした。

士郎さん達はここを知っていたらしく「最初は俺もそうだったがそのうち慣れる」と言われたので正直に受け取っておいた。

なんでも士郎さんは師匠(マスター)の別荘を借りて鍛冶師の仕事をしているというのでアンティークコレクターとしてはとても興味を持ちましたが残念なことに現場には入らせてもらえませんでした。

士郎さんが言うには作業は企業秘密で他人に作り方を見られたくないし集中も出来ないとの事らしい。

それで僕は師匠(マスター)に修行をさせてもらおうとした前になぜか師匠(マスター)は士郎さんの血を吸っていました。

 

「な、なにをしているんですか!?」

「ん? なにとはこれのことか? 士郎にはここの鍛冶場を提供する代わりに血を献血程度だが飲ませてもらっているだけだ」

「そうだったの、シロウ!!?」

「ああ、うまく等価交換のレールに乗せられてしまってな…別にこれくらいならいいだろうと結局妥協したんだ。エヴァもネギ君の修行をする分の魔力量は回復するらしいから存分に鍛えてもらえ。それとエヴァ。なにかあれば呼んでくれ。俺は当分鍛冶場にこもっているから」

「わかったぞ」

「姉さんも修行をがんばってくれ」

「ええ、わかったわ」

 

士郎さんはそれをいった後、一人階段を降りていった。

でも最近よく士郎さんが鍛冶場にいるという話は師匠(マスター)に聞いていたけどこの事だったんですね。

 

「でも師匠(マスター)? 士郎さんはどうしていきなり鍛冶師の仕事を始めたんですか? 以前にやっていたという話は聞きましたけど…」

「そのことか。なに、対したことではないが士郎の作った作品達が本国の奴等にえらく気に入られて束で依頼が来たらしい。いずれは首都の軍にも配備されるだろうとじじぃが言っていたな」

「私達が南国に行っている間にそんなことがあったの…」

「ああ。ちなみにもう魔法世界では『鍛冶師エミヤ』の名は浸透しているらしいからな。なんでも本国の鍛冶師全員が士郎が作った作品にはお手上げ状態だからな」

「鍛冶師全員が!?」

「まぁ当然の反応でしょね。シロウの場合、宝具が作られた過程も解析できるからそれを見本に新作を打ち出しているようなものだから」

「今思うと旦那って…戦いより鍛冶師か料理人の方が向いてんじゃねぇか?」

「そうかもしれないけど…本人の前で言わないほうが良いわよ? カモミールの場合三枚に卸されそうだし」

「ひぃいいいっ!」

 

カモ君が悲鳴を上げているけど士郎さんって本当にそっちに向いているかもと思ったのは秘密だ。

そこで師匠(マスター)が「さて、ともかくもうこの話は終わりにして修行を開始するぞ」と言ったので、

 

「はい!」

 

と元気よく返事を返しました。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ネギ君が別荘で修行をし始めてから数日…最近俺も入り浸っていて一日に一時間を何度も繰り返しているので時間の感覚が麻痺しているかもしれないがとにかく数日後、

俺は受け持ちの授業を終わらせた後、3-Aに向かってみるとネギ君はとてもやつれていた。

 

「大丈夫かね、ネギ君?」

「あ、はい。なんとか…それより授業も終わりましたし師匠(マスター)も待っていますのでいきましょうか」

「そうだな。だが別荘に行ったら一回休め。古菲との朝錬もあるのだから修行する前に倒れるぞ?」

「はい…そうします」

 

まだ少しフラフラしているので心配だが別荘に行けば休めるので大丈夫だと思い俺は一応倒れる寸前まで待つことにした。

その段階までいったら即ベッドに強制連行する心構えで持って。

それでネギ君に注意を払っていたせいだろうか? エヴァとネギ君、カモミールとともに歩いていたその背後に何人かの気配がしたが害意は感じないので見過ごしていた。

そして案の定、別荘の鍛冶場で鉄を打っていたら上がなにやら騒がしいので、俺はまだ体が炉の熱で冷え切っていなかったので上半身はなにも着ないで上がっていったら突如黄色い声が上がった。

 

「…なにごとだ?」

「そ、それより士郎さん! なんで上半身裸なのよ!?」

「ああ、アスナ。これか? ずっと鍛冶場で炉を前に鉄を打っていたからまだ熱が体にたまっていたのでな。申し訳ない、すぐに上を着よう」

 

俺は鍛冶場の隣にある休憩室から上着を持ってきてすぐに着た。

そこにネギ君や姉さん達もやってきたので俺は一段落も着いていたので休憩することにした。

 

「それより士郎さん…」

「なんだ、刹那?」

「先ほどの士郎さんの体に刻まれていた弾痕、刀傷、擦過傷…他にも「…そこまでだ、刹那」…すみません」

「いや、いい。別に気にすることはないからさ。戦場では別に珍しい傷ではないからな」

 

初めて体を見せたから驚かせてしまったな。

あまり自慢できる傷ではないからな。

そしてまずここはどこなのかという全員一致の質問にエヴァはだるそうに説明をしてやっていた。

それでアスナはまたネギ君の事を心配しだしたが、ネギ君の返答で渋々だが黙っていた。

やはり内緒にしていたのはまずかったようだな。

それからどういう流れになったのかテラスは宴会の場となっていて、さらになぜか俺が料理を作る羽目になっていた。

別に構わないが誰か手伝ってもらえないだろうか?

そんなことを考えているとこのかと刹那が手伝うというのでお願いした。

すると朝倉がベストショットとばかりにシャッターを押そうとしたが睨みで黙殺しておいた。

 

「ところで士郎さん。なにか武器を作っていると聞きましたがなぜいきなりこのようなことを…?」

「まぁネギ君や姉さんにも説明したのだが皆が南の島に行っていた間に学園長から魔法世界に送った俺の試作の評価がとてもよかったという話を聞いて、近々軍にも配備したいと束の依頼を受けたので同じものを依頼された数だけ作っていたのだ」

「はー、ようわからんけどとても士郎さんて凄い仕事を任されたんやね?」

「そうだな」

 

そしてどのようなものか刹那が聞いてきたので説明してやったらまた目を丸くされた。

何度も言われたので慣れたが、なんでさ? という衝動は耐えることは出来なかった。

 

 

 

 

しばらく宴会は続いていたがふと綾瀬がエヴァに「魔法を教えてください」と言っていたが相手が悪い。

即答で「いやだ、めんどい」と言われてエヴァはネギ君にその話をふってネギ君はいいのかと聞いていたがエヴァは投げやり風味に、

 

「勝手にしろ。私はどうなってもしらんがな。どうせならもうクラス全員にばらしちまえばいい」

「それはさすがにやばいだろ、エヴァ」

「別にいいじゃないか。どうせもう半数以上にはばれているのだから」

「まぁ…そう言われてしまうと俺も姉さんもネギ君のためにばらしたといっても過言ではないな」

「そうね。今思い出すと初日からばれるのはすごいことだったわよね?」

「なに…? そんな早々からばれていたのか?」

「はい…アスナさんに……」

 

事の成り行きを聞いているとエヴァは爆笑していた。

ネギ君も涙目だったのでしかたなく俺はマグダラの聖骸布でエヴァを拘束した。

だがすぐに抜け出してきた。

男性専用でもあるがすぐに抜け出すとは…魔術回路を起動して緩和させたのか?

 

「その手は二度も喰らう私ではないぞ、士郎!」

「そうか…ではこれはどうだ?…偽・巨狼束縛し強靭の鎖(グレイプニル)

 

真名を開放した瞬間、俺の足元から幾重もの鎖が地面から生えてくるように飛び出しエヴァを今度は完全に拘束した。

 

「な、なんだこれは!?」

「北欧神話に登場する魔狼フェンリルを束縛した強靭な鎖だ。さすがのエヴァも抜け出すのは不可能ではないか?」

「ぐっ…確かにそれでは無理だな」

 

 

 

 

そんな俺とエヴァのやり取りを見ていた面々は、

 

「士郎さんって、いくつほど宝具を持っているんですかイリヤさん…?」

「わからないわ。私だって最初からシロウのことを全部知っていた訳じゃないし…でもただの武具とかも入れたら千はゆうに越えているんじゃない?」

「千もアルか!?」

「だって私ももう把握できていないから」

「士郎さんって…」

 

 

 

「………」

「くくくっ…なにやら人外扱いされてきたな士郎?」

「射抜くぞ?」

 

あまり冗談でもない殺気をこめてエヴァを睨みつけたがどこ吹く風とばかりにエヴァは余裕の笑みを浮かべていた。

だがそこでエヴァは表情を変えてなにやら意味深な発言をしてきた。

 

「…なぁ士郎? お前が、裏の世界に入った切っ掛けとはなんだったのだ? よもや断片的ではあるが聞いたお前達の元の世界で最初からそのような理想を掲げていたわけではあるまい?」

「確かにそうだったが…、切っ掛けか…そうだな。今思うと俺は最初…といっても二度目の生からすでに裏の世界に入っていたのだろうな?」

「二度目の生…? お前は私と違い人間だろう? なのに二度目というのはおかしくはないか?」

「ああ、確かに言い方はおかしいが…表現としてはそれが一番しっくりと来るんだ。以前に俺は養子だという話はしただろう?」

「そうだったか?」

「ああ………」

「ん? どうした。いきなり言葉を止めて…」

「いや、この話は今は止めよう。話すと長くなるからな。それにまだ皆が起きている間は過去に思いを馳せるなんて恥ずかしい事はしたくない」

「…どうやら後ろめたい話のようだな」

「簡潔にいえばそうかもしれない。姉さんも今ではああして元気に人生を送っているが裏の世界の犠牲者の一人でもある」

「イリヤもか? 一体お前達の間でなにがあったのだ?」

「………」

 

俺はそこで言葉を止めた。このままでは本当に過去の話を語りそうになってしまうから。

だがそこで騒いでいる一同の枠から姉さんだけがやってきていた。

どうやら会話はラインで筒抜けだったらしく先ほどまでの明るい顔は影を潜めていた。

そして、

 

「なんでも願いが叶うといわれる道具の奪い合い…つまり戦争をしていた。ただそれだけよ、エヴァ」

「姉さん…」

「ほう…なんでもとは。その後の戦争というのも興味をそそられるな」

「あまり面白い物ではないわ。特にシロウにとっては……お話はこれでおしまい。過去は過去、今は今よ。これ以上はあまりお話したくないから」

「わかった。チャチャゼロは興味を持ったようだが我慢しておいてやろう」

「助かる…」

「ケケケ、御主人ノ命令ジャシカタガネーナ。ダガ当然死人ハタクサン出タンダロ?」

「それくらいならいいわよ。答えとしてはイエス…もうこれくらいでいいでしょ? 昔のことを思い出すと自分も殺したくなるから…」

 

…やはり姉さんも過去の記憶がしこりになっていたようだな。

そこでなにかを感じ取ったエヴァはそれ以上聞いてこなかった。

その代わりにエヴァは大人組みである俺と姉さん、自分にチャチャゼロ分のワインを茶々丸に頼んで用意してもらって、広場で魔法を出そうと頑張っている一同を肴にして静かに乾杯をした。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

…しばらくして一同が寝静まった頃、まだ起きていた俺と姉さんは二人で話をしていた。

 

「なぁ姉さん」

「なぁに、シロウ? 深いため息をついて…」

「いや、なに。ただな。俺はセイバーにも言い切った以上今も掲げている理想は本物だと信じているが、やはりこれは所詮切嗣(オヤジ)からの借り物ではないかともたまに思う事があってな」

「そう…」

「だが、そんな弱気な発言をしてしまってはせっかくまたチャンスをくれた遠坂と橙子さんに申し訳が立たない。未だに答えも見つかっていないからな」

「シロウが本当に目指している正義の味方っていう回答ね? 馬鹿ね、この世界に来る前にいったじゃない? 私も一緒にそれを探してあげるって…」

 

姉さんは後ろから俺に抱きついてきてその言葉を摘むんだ。

確かにそうだな。また早とちりするところであった。

姉さんと過ごせる今この時が仮初めの平和でも構わない。時間は有限だがゆっくりと探していこう。

それで一度頭をクリアにしてしばらく姉さんとそうしていた後、寝室に戻ろうとした途中でなにやらエヴァ達が宮崎のアーティファクトである本を見ていたのでなにをしているのか聞いてみた。

 

「やはりお前達も気になったか」

「…なにをしているんだ?」

「ぼーやが神楽坂明日菜に自分の過去を見せるといっているのでな。後で私達にも話すというのならいいだろうと宮崎のどかのアーティファクトで見ているところだ」

「ネギ君の過去か…」

「興味あるから見てみるのもいいかもしれないわね」

 

姉さんも見る気なので俺も見ることにした。

そして見た。ネギ君の過去を…

 

 

 

 

それは純粋な父への憧れ…ピンチになれば助けに来てくれるという子供ながらの小さい願い…

だが突如として悪魔の軍勢によって小さい村は襲われた。

村が燃え、ほとんどのものが石化されてしまい、それは自分の願いのせいだと後悔に陥るネギ君。

そして脅威はネギ君にも降りかかりその犠牲になりかけた時、颯爽と登場した一人の青年。

青年はネギ君がいつも持っている杖を持ちながら悪魔の軍勢を次々と強力な魔法で一掃していきすべてを薙ぎ払った。

ネギ君は青年の手によって救われたが、ネギ君は一種の恐怖からその場を後にしてしまう。

しかしまだ残っていた悪魔がネギ君に襲い掛かったが、すんでのところで老魔法使いと義姉の手により命を救われる。

…しかし悪魔の放った光は防ぎきることは出来なったために義姉は足が石化し途中で崩れて割れてしまい、老魔法使いはそれよりひどくほぼ半身が石化していながらもなんとか悪魔とその従者達を小瓶に封印することに成功。

だが代償は自身の石化…最後に「逃げてくれ…」という言葉を残し老魔法使い…いや、スタンさんは完全に石化した。

脅威は去ったが生き残った自分はともかく姉の石化を解くものは誰もおらず声を掻ける事しか出来ないネギ君に、ふと影が差した。

そこには先ほどよりボロボロになりながらも青年が立っていた。

そして燃えていない坂の上まで移動させられたところで、

 

「すまない…来るのが、遅すぎた…」

 

と、青年から後悔の念がこもった声が漏れたが、その時のネギ君は恐怖しか感じなかったため持っていた練習杖をかざして姉を必死に守ろうとする。

だが、青年はなにかに気づいたのか、「そうか、お前がネギか…」と言う言葉とともにネギ君の頭を優しく撫でて、

 

「大きくなったな…」

 

と、いう言葉でネギ君は呆気にとられたのか無言になり、その間にも青年は話を進めていく。

 

「…お、そうだ。お前にこの杖をやろう。俺の形見だ…」

「…お、お父さん…?」

 

そこで真実に至ったのか青年の正体が父であり、サウザンドマスターとも言われた『ナギ・スプリングフィールド』だと気づき頭が真っ白になったのか呆然としている。

そう、ネギ君の願いは皮肉にも悪魔襲撃という形で叶うことになってしまった。

 

「もう、時間がない…」

「え…?」

「ネカネは大丈夫だ。あとでゆっくりと治してもらえ…」

 

ナギ・スプリングフィールドはそれを伝えた後、空へとゆっくりと浮遊しだして、ネギ君は必死に父の名を呼びながら追いかけていく。

だが、彼はどんどん離れていってしまう。

最後に、

 

「悪ぃな、お前にはなにもしてやれなくて…こんな事いえた義理じゃねぇが…元気に育って、幸せにな!」

 

ネギ君が足を踏み外して転げた後、顔を上げたらすでに彼の姿はなかった。

そして父の名を叫びネギ君は大泣きした。

それが父との雪の日の最初の出逢いとそして最初の別れであった。

 

 

 

 

 

 

過去の話が終わりを次げた後には、ネギ君に皆は涙を流しながら駆け寄っていきエヴァと茶々丸も駆け寄ったりはしなかったが哀れみのような表情をしてエヴァは少しぐずっていた。

…だが、俺と姉さんだけは少し離れて第三者のように一同を見ていた。

きっと今、俺の表情は微妙に引き攣って歪んでいるだろう。姉さんも少しばかりそうなのだから…

 

 




ここもネギの記憶の部分は吸血鬼になったエミヤに流用しています。


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038話 士郎の聖杯戦争…

更新します。
少しグレーゾーンです。お気をつけください。


ネギ君の過去が語られた後、また宴会が開かれたが時間的には夜中であったためまた一同はすぐに眠りについていた。

だが、俺はどうしても眠れる事が出来なかった。

自己嫌悪ともいうのだろうか?

一瞬だが俺はネギ君を渇望の眼差しで見てしまったのだから。

人生に天秤をかけてはいけないと分かっていたのに…!

俺は後悔を感じながら夜中一人で手すりを思い切り叩いた。

 

「シロウ…」

「姉さん…それにエヴァ達にこのかと刹那も。どうしたんだ…?」

 

俺は動揺を隠すために精一杯ポーカーフェイスを作ったが姉さん達は俺の葛藤を見ていたらしく、

 

「どうしたのだ、士郎? ぼーやの過去を見てから様子がおかしいが…イリヤもそうだ」

「はい。アスナさん達は気づかなかったようですがお二人のあの時の表情は言葉では言い表せないものでした」

「せっちゃんと同じや。士郎さん、ほんまにどないしたん…?」

「そこまで、顔に出ていたのか…どうやら重症らしいな。自分のことも気づけないなんてな…」

「…ええ。シロウがネギの過去を見て感じたことを当ててあげるわ」

 

姉さんの口から「それは、一種の嫉妬、渇望ね…」という言葉が出た途端、俺は再度いたたまれない気持ちになってしまいみんなから目を背け後ろを向いた。

事実を叩きつけられるのがここまで辛いものなのかと再度感じた瞬間だった。

この衝動は言峰の言葉を叩きつけられた時以来だ。

そして俺は暗い気持ちになりながらも口を開いた。

 

「……そうだ。多分姉さんの言っている事であっているだろう。俺は…ネギ君に対して一瞬だけだが渇望の眼差しをするという愚行を犯してしまった…」

「やっぱり、ね…」

「どうしてなん、士郎さん…?」

「言わなくてもいい、このか。分かっている。他人の人生と自分の人生を天秤にかけてはいけないという事は…何度もそれで葛藤している。だが、本当に羨ましいと思ってしまったんだ。石化してしまったが全員死んだわけではない。そしておそらくあれは俺がどうにかできるかもしれない類だからだ」

「それは、一体…?」

「…『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』か…」

「そう、おそらく俺はあの村の人たちを破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)で助ける事が出来る…」

「ルールブレイカーってなんなん…?」

「もしかして京都の時にネギ先生の石化を解除した歪な短剣の事ですか…? あれは初期段階の石化しか解けないと聞きましたが…」

「すまない、あの時はまだ訳あって真実を教えることはしなかったんだ。だが真の効果はすべての魔術を破戒し初期化して無かったことにしてしまう宝具だ」

 

その宝具の話が出た途端、このかはまだ理解は出来ていないようだが刹那は驚愕の表情をしていた。

そしてエヴァの前で話しても大丈夫なのかと聞かれたが契約の話をしたら納得したようだった。

 

「なるほど。それでしたら納得できますね。ネギ先生も頑張っておられますし、ナギさんも生きているかもしれないという希望も出てきましたから…」

「そうやね、せっちゃん。でも士郎さん、それならなんでネギ君の事を…」

「…待て、このか。おい、士郎」

「…なんだ、エヴァ?」

「まだ日が出ているときに過去の話を少ししたな?お前の従者であり着いて行くともいった二人になら見せても構わないのではないか? お前の過去を…」

「それは…! しかし…」

「シロウの反応も当然ね。ねぇ、セツナ? コノカには私達が異世界からやってきた魔術師だっていう話はもうしたのかしら?」

「い、いえ…さすがに士郎さん達の立場が危うくなる情報は学園長はともかく誰にも一度として伝えていません」

 

このかはポカンとした顔になったがすぐに何のことという感じで刹那に問いかけていた。

刹那には説明は難しそうだから代わりに姉さんがこの世界に来た経緯を簡単に説明した。

 

「そ、そうやったの…?」

「そうだ…今まで隠していてすまなかった」

「え…ううん、大丈夫や。ウチは気にしておらんから」

「ありがとう、コノカ」

「だが、エヴァ。おそらく俺の過去はネギ君とは比べ物にならない程ひどいだろう…」

「それは従者である二人が決めることだ。そこのところはどうなんだ?」

 

エヴァはこのかと刹那に問いただした。

すると二人は着いていくと即答したときと同じようにすぐに頷いた。

しかし、記憶を見せるということはおそらく始まりは…

 

「…本当にいいのか、二人とも。今ならまだ引き返せるぞ?」

「私とお嬢様は士郎さんに着いて行くと決めたときから覚悟は出来ています。ですから大丈夫です」

「うん。ウチ、もっと士郎さんのことを知りたい。いや、知らなくちゃいけない気がするんや」

 

二人の目は真剣そのものでもう覚悟も決まってしまっているらしい。

姉さんも「きっと大丈夫よ…」と言ってくれたので俺もまた覚悟を決めた。

 

「では見せる前に全員に忠告をしておく。決して見たことを後悔しないでくれ…俺の過去はいわば他人には呪いのようなものだ」

 

全員は無言で頷いた。そこに茶々丸とチャチャゼロも参加してきた。

そして、姉さん・エヴァ・茶々丸・チャチャゼロ・このか・刹那の計6人がエヴァが魔法を使い俺の記憶の中へと入っていった。

…願わくば無事に帰ってきてくれることを祈って。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

エヴァンジェリンさんの魔法により士郎さんの記憶を覗きこんだ瞬間、それは起きた。

士郎さんの原初の記憶の始まりは突如として燃え上がる大地、一面の焼け野原、次々と聞こえてこなくなる人々の声、そして黒い太陽…

私は思わず悲鳴を上げそうになった。

だが、それは私以上に体を震わせているお嬢様が一緒に手を繋いでくれているおかげでなんとか耐える事が出来た。

…しかし、士郎さんの過去がこのような始まりだったなんて…

そして大火災の中、一人だけ生き残り代わりに自分の名前以外、記憶と感情を壊されてしまい衛宮切嗣という人物に救われなければ恐らく生きていけなかっただろうと私は思う。

それから切嗣さんの養子になりそこで魔術のことを知った士郎さんは必死に教えてほしいと言っている。

…きっとあのような悲劇を起こしたくないからだったのでしょう。

それから時が進み5年後のある月夜の晩の光景が映し出された。

きっと切嗣さんは死期を悟ったのでしょう。まだ子供の士郎さんに最後に自分の思いを語りだした。

 

「……僕はね、正義の味方を目指していたんだよ」

「なんだよ? 目指してったってことはもうあきらめちまったのか?」

「ははは、正義の味方には年齢制限があってね……もう大人の僕はなれないんだよ」

「そっか……うん。それじゃしょうがないから俺が代わりに正義の味方になってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ?」

 

士郎さんは一度言葉を切って、

 

「まかせろって、爺さんの夢は俺がちゃんと形にしてやるから!」

「……ああ、安心した」

 

切嗣さんはその言葉を最後に逝った。

士郎さんはもう動かない切嗣さんを何度も揺すっていたがいずれ悟ったような顔になってそれきり黙りこんでいた。

気づくと一緒に見ていたイリヤさんも私達同様に涙を流していた。

だけど、その表情はどこか違うものを感じさせてくれた。

 

 

 

そして士郎さんは上達しない魔術を何度も死にそうになりながらも訓練して年月は過ぎて高校二年の冬になったとき、それは訪れた。

七人の魔術師と七騎の英霊という上級の使い魔による聖杯をめぐる戦い……聖杯戦争に。

ただ魔術が使えるというだけで浮き上がった令呪という代物と夜の校舎で起こっていた二体の英霊の戦い…

その戦いはおそらく私の目でも知覚は難しいほど壮絶でつい見入ってしまった。

だけど、そこで気づいた。

青い姿の英霊はともかく赤い英霊の姿は今の士郎さんそのものだということに。

 

 

 

 

「おい、士郎。あの赤い奴はなんだ…?」

《………》

 

 

 

 

エヴァンジェリンさんが士郎さんに問いただしているが士郎さんからの返事は返ってこなかった。

代わりにイリヤさんがそれに答えた。

 

 

 

 

「あの英霊はシロウであって、シロウではない存在よ」

「なんだ、それは? ……いや、なんとなく予想がついた。やつは…」

《エヴァ…今はまだ》

「…そうか」

 

 

 

 

お互い納得したようだがまだ私とお嬢様は理解が出来ないでいた。

しかし、すぐに過去の記憶に目を奪われた。

士郎さんが一度ランサーの英霊によって心臓を刺されてしまいそこで一回記憶が途切れてしまい暗くなってしまったのだから。

少しして回復した記憶では士郎さんはなにもわからず家に帰ったところだが、生きていると分かったランサーは再度、士郎さんを殺しにかかった。

それでなんとか強化の魔術が成功した士郎さんは立ち向かうも所詮叶うはずもなく土蔵までただの蹴り一つだけで吹き飛ばされてしまいお嬢様はそこで悲鳴を上げた。

だが、そこで奇跡が起きた。土蔵の中から突如として光が溢れ騎士甲冑を纏った少女、セイバーと名乗るサーヴァントがランサーを斬り飛ばして士郎さんに向かって、

 

「問おう、貴方が私のマスターか?」

 

その光景に記憶の中の士郎さんもそうだが、全員が目を奪われていた。

だけど、その容姿はどこかで聞いた事がある。

そう、それは私が士郎さんに弟子入りを志願したときのことだ。

 

 

 

 

「士郎さん、この方は以前に私に話してくれた最高の剣士という方でしょうか?」

《覚えていたか。ああ、そうだ。俺はこの少女によって命を救われた》

「このサーヴァントは何者なんだ? 見た所剣が風によって見えなくなっているようだが…」

《いずれわかる》

 

 

 

 

それからまた記憶は再会しランサーは真名を解放するもなんとか躱したセイバーさんに猛獣のような目をして偵察だといって一度引き上げた。

そしてすぐにアーチャーとそのマスターである魔術師…遠坂凛さんが現れたがアーチャーはセイバーさんに不意を付かれすぐに切り伏せられてしまい霊体化した。

それからは士郎さんの叫びによって戦いをやめたセイバーさんに遠坂さんは話し合いを持ちかけた。

そこで初めて知らされる聖杯戦争に士郎さんは怒りをしめしたが、それはつかの間の出来事。

士郎さんはただただ巻き込まれる形で、だが自分の意思でこんな争いは早く終わらせるためにセイバーさんとともに聖杯戦争に参加することを決意した。

だが、マスター登録を済ませたその帰りに記憶を見ているだけだというのに私は悪寒に襲われた。

記憶の中の士郎さん達も聞き覚えのある人物の声によって気づいて振り向いた先には、

白くて小さい少女とともに鉛色の巨人が佇んでいた。

 

 

 

 

「な…なんなん、あれ?」

「まさかあれもサーヴァント…だというのですか?」

「そうよ、セツナ。あのサーヴァントはバーサーカー…そして一緒にいる子は私こと衛宮イリヤ…いえ、本名を『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』」

「「えっ!?」」

「ほう…なぜこのときは敵対していたのだ?」

「それはシロウとはこのときが初対面だったし、アインツベルンからエミヤの息子は殺せと言われていたの。

私自身もこのときはアインツベルンを裏切ったお父様への恨みしかなかったから」

「裏切った、とは一体…?」

「まだそれを話すときではないわ。シロウ、先に進めて」

《わかった》

 

 

 

 

そして再開した記憶では士郎さん達はバーサーカーの力に成す術もなく敗れて重傷も負ってしまう。

イリヤさんはつまらなそうな目をしてその場を後にした。

それから場面は次々と流れていき、アサシン…佐々木小次郎という剣豪とは引き分け。

次にはライダーのサーヴァントのマスターである友であったものとの二度による戦い。

それによって真名開放し辛くも勝利を納めるも魔力枯渇を起こし倒れてしまうセイバーさん。

不意を付かれてイリヤさんに拉致されてしまう士郎さん。

救出されるが立ちふさがるバーサーカー…囮になって士郎さん達を逃がしたアーチャー…

去り際にアーチャーは士郎さんに向かって、

 

「衛宮士郎。いいか? お前は戦うものではなく、生み出すものに過ぎん。余計なことは考えるな、お前にできることは一つ……その一つを極めてみろ。

忘れるな。イメージするものは常に最強の自分だ。外敵など要らぬ。お前にとって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない……」

 

その言葉を最後にアーチャーは干将莫耶を天井に突き刺し入り口を完全に塞ぎバーサーカーへと挑んでいった。

そしてやられてしまった事実。

それを無駄にしないためにもセイバーさんとパスを正式に繋ぐために魔術回路の移植を決行。

バーサーカーへの再戦。

真名は過去十二の試練を成し遂げたギリシャ神話の大英雄『ヘラクレス』。

よって宝具も十二回も殺さなければ倒すことが出来ない『十二の試練(ゴッド・ハンド)』。

その事実に絶望を感じるもそこで士郎さんの投影魔術が開花。幾度も夢の中に出てきた剣を投影。その聖剣の名はアーサー王の選定の岩の剣『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』。

セイバーさんとともに投影した勝利すべき黄金の剣(カリバーン)をバーサーカーに突き刺し一度に5度も命を刈り取り消滅させイリヤさんとも和解できた。

 

 

 

大きな戦いは終わりを告げ、ひと時の平和が一度は訪れた。

だが、互いに過去の夢を見てから士郎さんとセイバーさんの間に少しずつ亀裂が生じ始めた。

それは士郎さんの理想の否定、そしてセイバーさんの過去のやり直しという願いの否定。

しかし次の戦いが士郎さん達を待たせてはくれなかった。

またもや起きたガス漏れ事故に動き出した士郎さん達は学校の先生である葛木という人物がマスターだと感じ、夜分に待ち伏せをしかけたが、キャスターのサーヴァントには読まれていたらしく葛木はキャスターによって守られた。

しかし、それでマスターだと確信した士郎さん達は戦闘体勢にはいるが、葛木という人物の本当の姿は暗殺者の類でセイバーさんをも打ち負かす実力を持っていた。

なんとか間合いを取るがキャスターが突然聖杯ならすぐに降ろす事ができると交渉を持ち込んできた。

だが、遠坂さんはすぐに方法を見抜いて「何人の命を犠牲にしたら?」といった途端、キャスターの顔が愉快そうに歪み士郎さん達も迎撃体勢に入ったがキャスターはすぐにその場を後にした。

消える間際にキャスターは優秀な魔術師なら聖杯を呼び出す生贄になるといってイリヤさんが狙われていると思いセイバーさんに先に行かせた。

屋敷に戻ると妹分という桜さんが横たわっていてセイバーさんが介抱したらしいが、操られていたらしくセイバーさんに破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を突きつけて桜さんの魔力では契約解除までは出来ずとも切り札をセイバーさんは封じられてしまった。

操られた桜さんの首にキャスターは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を突きつけて生贄として人質に取られてしまった。

だから士郎さん達はすぐに柳洞寺に攻め込み隠し通路を見つけ入っていくとその地下にはもう小さいながらも一つの町とも取れる神殿が建っていた。

セイバーさんは待ち受けていたアサシンと戦闘。士郎さんも干将莫耶で葛木と死闘を演じ、遠坂さんは桜さん救出のために一人キャスターに挑んでいった。

そして三者ともに決着がついたが、それでもこの神殿はキャスター自身…切り札も封じられたセイバーさんでは勝ち目はなかった。

キャスターは突然、「アサシンはやられたけどセイバー…代わりに私のものにならないかしら?」と士郎さん達の命を天秤にかけ一種の脅迫をしてきたが、突如として幕引きするような出来事が起こった。

…それはいきなり現れた第8の黄金のサーヴァントの手によって数多もの宝具を撃ちつけられキャスターと葛木は一瞬でやられてしまったのだ。

呆気にとられ気づいたときにはそのサーヴァントはセイバーさんに10年前の話を持ち出し求婚してきた。

セイバーさんはこのサーヴァントを“アーチャー”と呼ぶ辺り第四次聖杯戦争の生き残りだという。

 

 

 

 

 

「…八人目のサーヴァントか。奴も士郎と同じですべて贋作なのか?」

《いや、俺もとっさの事で全部を解析することは出来なかったがあれらはすべて本物だった》

「全部だと…? それはありえんだろう。英霊はなにかの宝具をシンボルにしているが奴にはそれらしきものは………いや、すべて本物といったな?」

「…エヴァちゃん、なにかわかったん?」

「なんとなくな。予想はついた」

「さすがね、エヴァ。たぶんその予想は当たっていると思うわ。きっとまた記憶の続きを見れば確信するわ」

「しかし、お嬢様…大丈夫ですか? 先ほどから顔が真っ青です」

「大丈夫や…もうウチは十分士郎さんの過去を見た…やから今更見るのをやめるなんて許されへん」

《いいのだな。だが無理だったらすぐに言え。刹那もだぞ?》

「はいな…」

「はい…」

 

 

 

 

記憶が再生され、無事に帰る事が出来た士郎さん達は謎のサーヴァントについて話し合いをしていた。

だが、まともな解もできず一度お開きになった後、士郎さんはセイバーさんから真実を知らされる。

大火災の真実と衛宮切嗣の魔術師としての真実の顔を。

そして再度聞かされるセイバーさんの願い。

それで士郎さんは迷った末に前回の聖杯戦争の生き残りである監督役の言峰綺礼を訪ねた。

だが、それでもセイバーさんを救ういい案は浮かばずに結局はやはり聖杯を手に入れるしか方法がないと断言された。

士郎さんはなぜここまでセイバーさんのことを考えてしまうのかと感じその想いに気づいてしまった。

そしてセイバーさんをデートというのは建前で説得をした。

 

「たとえむごい結末だろうと起きてしまったことを変えるなんてできない。できなかったからやり直しをしたいなんて、そんなのは子供のわがままと同じだ」

 

と、士郎さんは否定した。だがセイバーさんには結局わかってもらえなかった。

結局また口論になってしまい一度その場で別れた。

…そして時間は過ぎ、いつまでもセイバーさんが帰ってこないことを知り急いで士郎さんは迎えにいった。

お互い謝りはしなかったが一緒に帰る事にした。

だが、帰り道に黄金のサーヴァントが突如として姿を現れた。

士郎さんはセイバーさんをとっさに逃がそうとしてそのサーヴァントに立ち向かったが一瞬で腹部を何かに貫かれて地に伏せてしまう。

セイバーさんもそれで武装し立ち向かったが黄金のサーヴァントはいくつもの剣を呼び出し一撃を防いだ。

そして黄金のサーヴァントは宝具を解き放った。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

と、瞬間たくさんの宝具が姿を現し自ら自分の真名を名乗った。

 

「もっとも古い時代、世界がまだ一つだった頃、すべての財はたった一人の王のものだった」

「まさか…お前は!」

「そう…我が名は人類最古、古代ウルクの英雄王、ギルガメッシュ!」

 

そして、セイバーさんとギルガメッシュの宝具が解放された。

 

 

約束された(エクス)―――……」

天地乖離す(エヌマ)―――……」

勝利の剣(カリバー)―――!!」

「―――開闢の星(エリシュ)……!!」

 

 

一度は拮抗したがその圧倒的な力を前にセイバーさんはもろくもやられてしまい、士郎さんも勝利すべき黄金の剣(カリバーン)を投影して立ち向かったがその原型の宝具と言われた剣によって斬り伏せられる。

だが、諦めないで最強のイメージをして投影をした瞬間、目の前に現れたのは黄金の鞘。

セイバーさんとともにそれに剣を差し入れギルガメッシュの第二撃を跳ね返すことに成功。

そして気づく。士郎さんの中には聖剣の鞘『全て遠き理想郷(アヴァロン)』が埋め込まれていることを。

セイバーさんも自分の気持ちに気づくが使命の間で揺れ動き士郎さんを受け止める事が出来ないでいた。

それから士郎さんはギルガメッシュのことを聞きに再度教会に訪れたが突如、誰かの声が直接頭に響いてきて地下への道を発見し降りていった先には、

 

 

 

 

「ひっ!?」

「こ、これは…!」

「………」

「…なんともむごいものだな…士郎、これは一体なんだ…?」

《俺と同じで火災で災難孤児になった子達だ。だがこのときも彼らは生きていた。いや、生かされていたんだ。

そして俺は動揺してしまい背後を取られランサーによって右胸を貫かれてしまった。さて、終わりも見えてきた》

「そうね…もうすぐ聖杯戦争も終わるわ。続きを見せてシロウ。みんなも覚悟を決めてね?」

 

 

 

 

…士郎さん達はどれだけの地獄を見てきたのか?

この真実は見ていけばわかるものなのだろうか。

 

そして記憶を見せられて言峰綺礼は本当はランサーのマスターで士郎さんの10年前の過去の傷を開いてしまった。

さらに10年前をやり直せるかもしれないぞ?ともいった。

だが士郎さんはそれを拒否した。

 

「たとえ過去をやり直せるとしても、あの涙も、あの記憶も、胸をえぐったあの…現実の冷たさも。

多くの死と悲しみに耐えてみんなが乗り越えてきた歳月を無意味にしてはいけないんだ…その痛みを抱えて前に向けて進んでいくのが唯一の失われたものの残す道じゃないのか?」

 

 

そう、士郎さんはいって、

 

 

「聖杯なんていらない。俺は置き去りにしてきた者のために自分を曲げることは出来ない…」

 

ともいって、聖杯を否定した。

だが、言峰綺礼はつまらなそうな顔になり今度はセイバーさんに同じ問いをしてきた。

でもセイバーさんも答えを見つけて、「聖杯は欲しい。だが、シロウは殺せない。分からぬか、下郎。私はそのようなものよりシロウを欲しい」といった。

言峰綺礼は「つまらない…」と宣言しランサーすらも知らなかった言峰の真のサーヴァント、ギルガメッシュが姿を現した。

そしてあの火災は「現れた聖杯に私が人がいなくなれと願ったから起きたことだ」と自白した。

聖杯への願いもすべて【破壊】という手段だけで叶えられる兵器そのもので持ち主以外を殺す呪いの壷だともいった。

 

 

 

 

「はっ! まがい物の聖杯もそうだが、言峰という人間はとことん狂っているようだな」

「許せへんよ! そのためだけに士郎さんの家族や町の人達が殺されたやなんて!」

「同感です。あれでは士郎さん達がなんのために戦ってきたのかわかりません!」

《ありがとう、みんな。さて、佳境だ》

 

 

 

 

終わりが近づいていることを感じながら話は続き、言峰は地下から出る前に士郎さん達の殺害を命じたがランサーはそれに反して士郎さん達を守ってくれた。

ランサーは「勘違いするなよ?」と言葉を一度切って「俺は、俺の心情に肩入れしているだけだ!」といってギルガメッシュに向かって駆けていった。

士郎さん達はそのおかげで逃げる事が出来たがランサーはおそらくやられたのだと士郎さんはいった。

そして逃げ帰ってくるとそこには聖杯の器であるイリヤさんを奪われて重症を負っていた遠坂さんがいた。

遠坂さんの助言と助けの武器をもらった後、セイバーさんに鞘を返して士郎さん達は最終決戦へと向かった。

ギルガメッシュは力が上がったセイバーさんが担当し、士郎さんは言峰綺礼と対峙した。

そこには生贄に捧げられているイリヤさんの姿があった。そしてあの火災で見た黒い太陽…いや、孔がまさにそこにあった。

士郎さんは孔から流れてくる液体…『この世・全ての悪(アンリ・マユ)』をその身に受けてしまい飲み込まれてしまう。

そしてその中で士郎さんは文字通り、この世・全ての悪を体感した。

…何度も死ね、死ね、死ね、死ね、死ね…と囁かれながら。

だが、士郎さんはあきらめなかった。

 

 

 

―――死んでも勝てと、遠坂さんに言われた。

―――あなたが倒すべき敵だ、とセイバーさんに言われた。

―――戦うのなら命をかけろ、と言峰綺礼にも言われた。

 

 

 

そして士郎さんは『この世・全ての悪(アンリ・マユ)』を打ち破り抜け出すことに成功した。

その後、何度も飲み込まれても抜け出し言峰へと士郎さんは駆けていく。

そしてその腕にセイバーさんと共鳴するかのように『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を掴んだ。

士郎さんが投影魔術を使ったことに動揺している間に遠坂さんから預かったアゾット剣を言峰の胸に突き刺して、たった一言「Läßt!!」と叫んだ瞬間、アゾット剣から光が溢れ言峰を倒すことが出来た。

セイバーさんはギルガメッシュに勝利し、イリヤさんも救出する事が出来て…最後は聖杯を破壊するだけ。

士郎さんはセイバーさんの思いをしっかりと胸に秘めながらセイバーさんに破壊を命じ、孔はセイバーさんの宝具によって破壊された。

…そして黄金の朝焼け、士郎さんの腕からは最後の命令によってすでに令呪は消えうせていてセイバーさんも魔力がもうないのか姿が霞んで見えた。

だけど、私はそのセイバーさんの顔がとても綺麗に見えた。

最後にセイバーさんは、士郎さんに向かって、

 

 

「シロウ―――………貴方を、愛している」

 

 

と、告げて朝焼けが指して士郎さんが目を瞑ってしまって開けた時にはその姿を消していた。

こうしてセイバーさんとの黄金の別離と同時に聖杯戦争も終結した。

 

 

 

 

「…これが、お前の最初の戦いの終結で、ここからアーサー王に貫いたとおり正義の味方を目指したのだな」

《そうだ…セイバーは責務を果たしてもとの時代に帰り、俺は目指す道を明確にする事が出来た。エヴァ、一度…休憩しよう。さすがに皆は堪えただろう?》

「そうだな…私も少し疲れたしな…」

 

 

 

 

エヴァンジェリンさんはそういって魔法を解いた。

 

 




刹那目線だから完コピではありませんよね?まぁ、それでもグレーですけど。


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039話 記憶を見た皆の反応

更新します。


 

 

自分の記憶から現実へと一度戻ってくるとそこには涙を大量に流しているこのかの姿があった。

刹那もこのかの手前、我慢しているようだが決壊寸前だろう。

 

「…すまなかったな。俺の過去とはいえひどいものを連続で見せてしまい…」

「い、いえ…私は、また己が未熟だと痛感させられました」

「私もあらためてシロウの視点から見て得るものが色々あったからよかったわ…お父様の最後も見れたしね」

「アノボーズ以上ニタノシマセテモラッタゼ」

「チャチャゼロ…すまん。今回だけは本当に黙っていろ」

「オ? ご主人ニシテハ…」

「黙れといっておる!」

「マスターの言うとおりですよ、姉さん」

「ヘーイ♪」

 

この際、チャチャゼロは放っておこう。だが今一番心配なのはこのかだ。

刹那は少なからずこちらの世界に足を踏み入れているがこのかはまだ入りかけ…。なにかと心の整理がつかないだろう。

 

「大丈夫か、このか? やはり一度横になっているか?」

「大丈夫や…でも、ウチ…セイバーさんが羨ましいわ。ウチじゃ士郎さんの隣に並んで歩いていけるやろか…?」

「コノカ、大丈夫よ。シロウは決して切り捨てたりしないから…つりあう様に力をつけていけばいいわ」

「イリヤさん…うん、ウチ頑張る!」

「当然シロウも面倒を見てあげるのよ? 教えてあげることは少ないけど心構えは鍛える事が出来るわ」

 

そうだな…。ここまで見せて、はいさよならは駄目だろうし。

そこにエヴァが姉さんに話しかけた。

 

「…しかし、イリヤ。今でも疑問に思うのだがなぜ今はその姿だというのに数年前までは幼少の姿のままだったのだ?」

「その話ね…私はもう今はただの人間とさして変わらないけど、お父様とアインツベルンの最高傑作のホムンクルスであるお母様との間に生まれたハーフ…

だから私は生まれる前から肉体改造、生まれた後も魔術で強化を何度も調整されて第二次成長前くらいにはもう身体の成長は止まってしまった…

そしてシロウの記憶にあるとおり聖杯戦争の聖杯の器としても調整されて後は聖杯戦争が始まるまで待つだけの存在だった」

 

イリヤはどこか悲しそうな表情をしながらみんなにそのことを伝えた。

その中で一番エヴァが驚愕の顔をしていた。

 

「そうか。お前は…生まれる前からすでに運命の輪に囚われていたのだな」

「ええ、そうよ。だから私はアインツベルンの言うことを真に受けてバーサーカーとともに戦うしかできなかった文字通り『ホムンクルス(人形)』だったわ」

「イリヤさん…」

「可哀想や、イリヤさん…」

「同情はよせ、近衛木乃香。それはイリヤの人生をも否定することだからな」

「あっ…!」

 

エヴァの感情がこもっていないが殺気が紛れていた声にこのかはなにかに気づいたのか涙を流してしまっていたがイリヤがこのかを宥めていた。

刹那も口に出してはいないがそう思ってしまったらしく一緒に謝ってきた。

 

「だから、もういいわよ。気にしないで二人とも。私はもう今は元気になったんだから…」

「今は、か。では聖杯戦争が終わった後、なにかあったのか?」

「ああ、イリヤ…いや、もう戻そう。姉さんはアインツベルンでの度重なる無茶な調整で短命になっていて遠坂がいうには持って後、一年と少しという寿命だったんだ」

「え? それじゃどうやってイリヤさんは…」

 

その疑問はもっともだ。だから教える。

 

「それだが、俺と遠坂は協力して姉さんの新しい体を捜すことに決めたんだ」

「新しい体だと…?」

「そうだ。魔術回路を姉さんに開いてもらったエヴァならもう聞いているだろう? 魔術回路は体ではなく魂に宿っているということを…」

「ああ、確かに聞いたがそれと何の関係が…」

「俺達の世界には俺と同じく封印指定を受けて隠れ潜んでいる魔術師がたくさんいる。その中でも指折りの魔術師…名を『青崎橙子』という本体と中身の臓器までまったく同じ人形を作れる力を持つ魔術師を探したんだ」

「なに!? そんな奴がいたのか! おそらくだがこちらの世界でもそんな奴はいないぞ!」

 

エヴァはそれで畏怖の感情を抱いているのか表情が歪んでいた。

 

「そう。だからこそにその異常性で封印指定を受けたんだ。

期限は聖杯戦争が終わってから俺達が卒業するまでの間までにその人物を探し当てなければいけなかった。

きっとそれを過ぎると姉さんは死んでしまうと遠坂は何度も検診した結果、判明したから。

そして俺達はある元・封印指定執行者とともにルーン魔術や裏情報にも手を出してなんとか半年かけて探し当てた」

「そうね。見つかったときは本当にシロウとリンとその協力者『バゼット・フラガ・マグレミッツ』には感謝をしたわ。でも、いざ行ってみたら警戒されて直死の魔眼持ちの人物を嗾けられたからあせったわ」

「直死の魔眼…? なんだ、それは…」

「分かりやすく言えば『バロールの魔眼』とでもいえばわかるか?」

「なに!?」

 

知識が膨大であろうエヴァはすぐに分かったらしい。

だが刹那は首を傾げていた。

 

「なんですか、それは?」

「少しは勉強をしておけ! バロールとはケルト神話に登場する巨人のことで睨みだけで人を死に至らしめた怪物のことだ」

「なっ!? そんな魔眼が存在したのですか!」

「いや、こちらの世界では確認されてはいないが…そっちには何人いたんだ?」

「知っている限り二人いたな? 片方とは何度も戦場で争ったから俺は嫌いだったが…しかし史実通りの効果ではない。

ただ違いは睨みではなく話によれば人、物の死の線と点が見えるらしい。それで俺の投影した武器を宝具すらもことごとく切り裂かれたのは今でも嫌な思い出の一つだ。

…話が脱線したな。で、その青崎橙子さんと会うことが出来た俺達は姉さんの体を作って欲しいと頼んだが当然等価交換という話に持ち込まれてまだ当時高校生だった俺達では払えないほどのすごい金額を提示された」

「当たり前だな。人形を作るだけと簡単に言うがそれは体が老いたら新しい体に魂をうつせばいつまでも老いとは無縁になるものだからな」

「それで、どうなったんや? 士郎さん…」

「それがな、俺の魔術特性を遠坂が等価交換のテーブルに持ち出した…自分で他人には決して話すなといっておきながらも。橙子さんも封印指定というから内緒にしてくれるだろうと」

「あの時のリンは相当切羽詰っていたからね。当然トウコはそれにすぐに喰いついたわ。それでその魔眼持ちの人物が是非とも投影してほしいというものの欠片を要求してきてシロウは投影してやったのよ」

「ちなみにその刀の名は…?」

「新撰組副局長『土方歳三』の愛刀で有名な『九字兼定』だ」

「それはまことですか!?」

 

刹那は人が変わったように食いついてきた。

少し、いやかなり普段の刹那からは想像できない姿だったため少し引いてしまった。

 

「せっちゃん、有名なのはわかるから落ち着いて、な?」

「はっ!? す、すみません。実は私…新撰組の事が昔から好きだったものでつい…」

「そんなに好きなら見るか? ついでに新撰組局長『近藤勇』の愛刀である『虎徹』も一緒に…」

「はい、ぜひ!」

 

それで九字兼定と虎徹を投影して渡すと刹那は本当に人が変わったようになっていた。

当分そうしていたがすぐに自分を取り戻して恥ずかしそうにしていた。

 

「あー…まぁそれで話は戻るが他にも色々要求されて投影したんでこのことはお互い内緒の方針で取引は成立した」

「それで私は新しい体を作ってもらって魂を移したのよ。そしたらね?突然っていうわけではないけど一気に止まっていた成長が来て今の姿になったの。それでリンたら怒り奮闘して見ている分には面白かったわ」

「姉さんの代わりに俺にガンドが飛んできたがな…」

「あはは…それはまた怖いですね?」

 

刹那は苦笑いを浮かべていた。

あのときの遠坂は八つ当たりがひどかったからな。

 

「まぁ、それで姉さんの件は解決したから後は卒業まで一年、遠坂に魔術をそれはもう死ぬかもしれないというほどに習っていた。

そして卒業後、遠坂に弟子として倫敦の魔術師の総本山である時計塔に誘われたがそれを断り、姉さんとともにフリーランスの魔術師として世界をかけた。だが、世界に出て俺の理想はとてもではないがかなう事がないと思い知らされた…

 

 

 

NGOにも在籍して人助けをしていた最初の頃はまだ良かった。

だが、初めて死徒に遭遇し、そのときにはまだ今ほどの力もなく仲間達は姉さん以外すべて殺され死徒の配下にされてしまったことで、俺の頭はなにか外れたかのようにクリアになり、宝具を解放し仲間だったもの共々に死徒を滅ぼした…

 

その後から俺はよく協会から依頼を受け、エヴァからしてみれば聞こえは悪いかもしれないが人々を虐げている違法魔術師や死徒を時には話し合い、拘束…場合によっては殺しもした」

「…確かに聞こえはいいものではない。だが、そちらの死徒というのは低級の奴等は人間を血袋の塊としか思っていなかった連中なのだろう? ならば士郎のしたことは正義だ」

「だけどね、エヴァ…シロウからしては人助けを常にしてきたつもりだけど。

やっぱり世界はシロウの行いが理解できなかったらしくてお父様と同じくいつしか『魔術師殺し』や『エミヤの再来』とも呟かれるようになったのよ。

そして今まで何とか記憶の操作や他にも手は色々尽くしたけど、ある仕事で私達と組んだ魔術師が裏切って協会にシロウの魔術の異常性を知らせてしまった」

「そこから少しずつ瓦解していったのか…」

「そう。それからは封印指定をかけられながらも、でも少しでもシロウは人助けを続けたわ。

でもシロウの正義が相手にとっては悪にもなるとばかりに、

 

 

―――時には町を救った時には、この町がこうなったのはシロウのせいだと話を塗り替えられた。

―――また時にはこの事件の首謀者はこいつだと叫ばれた。

―――ただ町を歩いているときだけでも知っているものにはこの悪者と罵られその場をすぐに去った。

―――助けた子供からは後ろからナイフで刺されたりもした…

 

 

そして執行者や、かつての仕事仲間…果てには賞金目当ての魔術師にも追われる日々を繰り返して…匿ってくれた理解者も少なからずいたけど、少しずつ、私達の居場所は減っていった…」

 

姉さんはそれを言い終わった時にはもうすでに涙を目に溜めていた。

俺はそれを見るのは心が痛んだ。俺のために涙を流してくれているのだから…。

だからすぐに姉さんを胸に引き寄せて無言で抱きしめたらすすり泣きが聞こえてきて…また泣かしてしまったな、と後悔した。

 

「それを、諦めることは出来なかったのですか…?」

「…出来なかった。俺にはそれ以外に進む道がなかったから…そしてきっとアーチャー…いや、英霊エミヤはそんな俺の成れの果て。

世界と契約して世界の守護者…悪い言い方をすれば奴隷になってまで自身の正義を貫いたが、代わりに世界の後始末として永遠の殺戮を繰り返すことになってしまい、理想をも磨り減らして磨耗し果てた俺の本来の反英雄の姿なのだろう」

「そうか……だから記憶の中のアーチャーはお前のことをよく知り何度もその理想を抱くなといったのか。真実を辿れば自身の過去の姿なのだから当然の帰結だったわけか…」

「…ええ、そうよ。今から私の記憶も見せるわ。バーサーカーと戦うアーチャーの姿を…」

 

姉さんがやっと泣き止んだのかそう告げた。

このかがすぐに反応して姉さんに聞いてみた。

 

「士郎さん達と別れた後のアーチャーさんの姿…? そのとき何があったん? イリヤさん」

「英霊エミヤの生き様が垣間見れるわ…」

「生き様か…」

「そう、それはシロウのいくつもある理想の一つの終着点、そして魔術の果ての形でもあるわ」

 

そして俺達は今度は姉さんの記憶の中に入っていった。

そこで見たのは俺達と別れた後の姉さん達の殺し合いだった。

アーチャーは様々な攻撃を駆使してバーサーカーと戦闘を繰り広げるが力の差は歴然…

すぐに追い込まれてしまうがアーチャーは諦めなかった。

そして体を少しずつ削られながらも詠唱を開始する。

 

 

―――I am the bone of my sword(体は剣で出来ている。).

 

 

 

 

「…前から思っていたがその呪文はなにを意味しているんだ?」

「『体は剣で出来ている』…」

「えっ?」

「士郎さん…?」

 

 

俺はエヴァの質問にアーチャーの言葉を代弁する形で語りを始めた。

 

 

 

 

 

―――Steel is my body(血潮は鉄で), and fire is my blood(心は硝子。).

―――I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を越えて不敗。).

 

 

 

 

 

「『血潮は鉄で、心は硝子…幾たびの戦場を越えて不敗』…」

 

 

 

 

    

―――Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく、)

―――Nor known to Life(ただの一度も理解されない。).

 

 

 

 

 

「『ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない』…」

 

 

 

 

 

―――Have withstood pain to(彼の者は常に独り) create many weapons(剣の丘で勝利に酔う。).

 

 

 

 

 

「『彼の者は常に独り…剣の丘で勝利に酔う』…」

 

 

 

 

 

―――Yet,those hands will never hold anything(故に、生涯に意味はなく。).

―――So as I pray(その体はきっと)unlimited blade works(剣で出来ていた。).

 

 

 

 

 

「『故に、生涯に意味はなく。その体はきっと剣で出来ていた』……」

 

 

 

 

それによりアーチャーの心象世界…『固有結界・無限の剣製』が発動して世界は一度破壊され、そして再生される。

それによって出来た世界にはとてもでかい歯車が幾重にも浮かび上がってアーチャーを中心に無限ともいえる剣が荒れ果て炎が燃え盛る大地に突き刺さっていた。

 

 

 

 

「なんて、悲しい言葉…そして悲しい世界。これが士郎さん、いえ英霊エミヤの宝具なのですか!?」

「そうだ。本来俺が使える魔術はこれ一つだけ。

己の心象世界を外界に写しだす古来より精霊・悪魔の領域を指す人が持つに過ぎた“秩序(チカラ)”。

俺達の世界の五つの魔法に最も近いといわれる大禁忌と称された魔術における“究極の一(奥義)”。

すべての剣を内装する世界…固有結界(リアリティ・マーブル)無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)』…

そして俺が使える強化、解析、変化、投影とその他の魔術すべてはこれから零れ落ちたただの副産物に過ぎない。

こと『剣』にのみ特化した魔術回路。これが俺の…そして英霊エミヤのあり方のすべてなんだ」

「…そうだったのか。だからお前は即座に魔力を一から組み上げて半永久的に武器を残すことが出来るというわけか」

「シロウノ魔術ハデタラメダナ…世界ヲヌリカエチマウナンテ…」

《でも、シロウと英霊エミヤの詠唱と世界は違うわ。まだシロウはエミヤには至っていない…いえ、絶対に至らせない! 私が一人になんかさせないわ!》

「ウチも…こんな悲しい世界、絶対に嫌や!」

《だからシロウのためにも、手伝ってくれる? 二人とも…》

「「はい!」」

 

姉さんの言葉にこのかと刹那はすぐに反応して言葉を返していた。

 

「なにやら恥ずかしいものだな…こんな破綻している俺に二人はついてきてくれるのか?」

《シロウ…二人の決意を無益にする言葉は慎みなさい》

「わかっているさ。しかし…」

《それも承知で頷いているんだからもう二人はシロウ以上に頑固よ?》

「…………」

《異論はない様ね? それじゃ続きを見せるわ。この後は私もあまりの出来事にアーチャーの言葉は耳に入ってこなかったからもしかしたらなにか言っているかもしれない…》

 

 

 

 

記憶は再生されアーチャーはバーサーカーに無限の剣を突きつけたが姉さんには一切手を加えなかった。

マスターを倒せばそれでケリはつくというのに、だ。

そしてバーサーカーの命を六度奪いそれでも再生しようとしているバーサーカーを前に、先に魔力がつきたのかアーチャーは姉さんに向けて髪が前に下りて今の俺と同じ顔で俺達には一度も見せなかった笑顔を作り、

 

 

―――また、会えて嬉しかった。姉さん。どうか元気で……

 

 

…と、口だけ動かして最後、体を霧散させアーチャーは消滅した。

 

 

 

 

《ッッッ!!?》

 

 

 

 

姉さんの泣き叫ぶ声が聞こえたと同時に記憶は突如として崩れて強制的に全員現実に戻された。

気づくと姉さんは俺の胸で大泣きしていた。

 

「ごめんね、ごめんね、シロウ…! 私、絶対シロウのことを一人にしないから…だから勝手にいなくならないで!」

「ああ…約束する。俺は絶対に皆の前からいなくなったりしない」

 

それからこのかと刹那の二人も姉さんに加勢したり、チャチャゼロになぜかしきりに感心されたり、エヴァもなにやら茶々丸とともに一度その場を離れて戻ってくると目を赤くしていた。

そしてエヴァはそれを悟られまいと言葉を摘むんだ。

 

「なら、最後に聞く。お前達はどうやってこの世界に渡りついたんだ? イリヤに聞いたが世界の移動は五つの魔法の一つと聞くが…」

「…それか。そうだな…度重なる逃走と連戦によって魔力も体力もほぼ限界状態…それで俺達が死に掛けていたところに突然師匠であった遠坂と橙子さんが助けにきてくれたんだ。

橙子さんは元の体は協会に引き渡し俺たちが死んだと見せかけるために俺達の人形をまた作ってくれていた。

しかも今までで最高の出来らしく何年かかるかわからないが俺も戦闘者としての体になれるものを。

さらにセイバーに返したはずの聖剣の鞘『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を探し出して二人分に分けて埋め込んでくれた。

今頃は協会の奴等も俺達の体に魔術回路が残されていないことに戸惑っている頃だろう?」

「だろうな。すでにもとの士郎達の体は何の力も残されていない骸と化しているだろうからな」

「…そして遠坂は試作品だが第二魔法に到達していたらしく『宝石剣ゼルレッチ』を使い俺達を異世界に飛ばすといった。飛ばす直前にだが、『正義の味方もいいけどまず自分の幸せも考えなさい。最後の師匠命令よ!』と言って…」

「それであとはセツナが知るとおり真夜中に妖怪達と戦っているセツナの上から私達は降ってきたっていうわけよ」

「…そうだったのですか。士郎さんはいい師匠にめぐり合えたのですね…」

「ああ。遠坂は最高の師匠だった…だからその遠坂と橙子さん…他にも俺達を生かしてくれた人達の想いを無駄にしないためにも、その答えを見つけるべく幸せというものを知らない俺と姉さんは今もそれを探し続けているんだ」

「そうね。それにトウコの伝言でアヴァロンの副産物で老化の遅延と自動回復がついたからじっくり探していくつもりよ」

「…ん? しかし…京都では士郎は重症を負ってしまったではないか? ならばあれはイリヤが士郎に魔力を流せばすぐに治せただろう…」

「それは、みんなに異常な回復を見せたくなかったから渋ってしまったのよ。シロウが人外扱いされるかもしれないかと思ったから…」

「それなら納得だな。今のぼーや達に聖杯戦争のような超回復…いや、あれはもう復元の域に達しているものは見せるには早すぎるからな」

 

そう言って納得したのか頷いていたエヴァ。

 

「…そういえば。ネギ先生といえばどうして他の皆さんには士郎さんとイリヤさんの記憶を見せないのですか?」

「それはやはり二人が俺の従者というのも大きいが、なによりまだネギ君やアスナ達は人の死というものに慣れていないだろう。だからこの点では二人にも見せるのはあまりお勧め出来なかった。そして自身の正義を純粋に今は駆けているから俺の記憶はどちらかといえばマイナス要素になってしまう…」

「そうだな。あいつらはまだただのガキに過ぎん。

過去の士郎のように自身が正義の行いだと信じていても、相手にも同じように自身の正義が存在する…

お互いの正義は同時に悪だと判断してしまうほど愚かなものはない。ぼーやはそれを無知とも言えるほどに知らない…

だからいっそ、ぼーやにも士郎の記憶を見せて現実をわからせてやりたいものだ」

 

エヴァの言葉に俺は微妙な表情を作ることしかできないでいた。

しばらくして話も終わったので俺は「もう疲れただろうから寝たほうがいい」と伝えてもう一度鍛冶場へと向かった。

姉さんもなぜかついてきてくれるようなので、まぁいいかと納得した。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

「…さて、士郎達はもういなくなった。お前達…もう我慢する必要はないぞ?」

 

 

…頃合だと思い私は二人にそんな言葉をかけた。我ながら似合わない役どころだなと思った。

そして近衛木乃香と桜咲刹那は両膝をついて無言で涙を流しながら体を震わせ口を両手で押さえていた。

だから茶々丸に二人を任せた。

 

…当然だ。この私ですら士郎とイリヤの過去には畏怖の念を感じざる得なかった。

すべてを見た今だからこそ士郎がぼーやの過去に一瞬でも嫉妬や渇望してしまったのか気持ちはわかる。

 

 

 

士郎の破綻の原因である大火災という名の悲劇…

伽藍洞となった心にすっぽりと納まった正義の味方という呪いじみた理想。

自身の命を勘定に入れていなかった士郎の歪んだ生き方…

非情な魔術の世界…

第五次聖杯戦争で現れた様々な英霊とそのマスターとの戦い…

地下でギルガメッシュの魔力の餌として死ぬことも許されず生かされ続けていた子供達…

そして言峰綺礼の狂った思考…

とくにまがい物の聖杯の中身…士郎が何度も飲み込まれた『この世・全ての悪(アンリ・マユ)』の世界はまさに地獄…そう捉えてもおかしくない場所。

記憶越しでも肌にまで纏わりついてきたのだからこの二人にはたまったものではなかっただろう。発狂しなかっただけ褒めてやりたいところだ。

そして、士郎の未来の可能性の姿…英霊エミヤ。推測するにあれはおそらく他の平行世界でイリヤすらも失って一人で最後まで駆けぬけてしまった士郎の果ての姿なのだろう。

イリヤは詠唱内容と心象世界は英霊エミヤとは違うといったが同じ固有結界『無限の剣製』を使用できる士郎のあり方。

今の士郎は世界とは契約していないというが、いずれはやはりそうなってしまうのだろうか…?

 

 

……いかんな。私とした事が感情移入しすぎのようだ。

とにかく、この世界にやってきた二人はまさに新たな分岐点を見つけたのだろう。

二人の歪んだ生き方…私はけして嫌いではない。むしろ共感をしてしまうほどだ。

だから真実を知って、なお士郎とイリヤの茨の道に着いて行くといって一皮も二皮も剥け、もう考え無しで馬鹿なガキではなくなった近衛木乃香と桜咲刹那の二人をせいぜい鍛えてやることにしよう。

前衛、時に固有結界を発動するために中衛、遠距離からの射撃をするための後衛と、どの位置にもつけるオールラウンドな士郎。

中衛に迎撃と守り…そして士郎を補佐する刹那。

後衛に大魔法を詠唱するイリヤと回復術師としての木乃香…まさに理想のパーティーだな。

ネギのぼーや達とは大違いにバランスが取れている。

ふふふ…将来が楽しみだ。じじぃ、それに詠春…士郎に二人を任せたことを良い意味で後悔する時がいずれ訪れるだろう。その時まで生きていろよ?

 

「ケケケ、御主人。久々ニ悪ノ顔ニナッテルゼ?」

「む。顔にまで出ていたか。なに、久々に楽しめる項目が増えに増えたからな」

「タシカニナ。シロウトハモウ一度殺シアイテーゼ」

「ふっ、そうか…」

 

チャチャゼロが気に入るのも納得できる。おそらく士郎はタカミチ以上に強い。

才能がないという点では二人もまた似ているというがそれを差し引いても力の差は歴然。

この世界で宝具の力を自らの体に宿すという諸刃ながらも新たな力も手にした士郎は下手すればナギと同等にやり合えるかもしれんからな。

ほんとうに末恐ろしい奴だ。

 

 

 

…それと、別件だが『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』の件については士郎に真名は解放してもらわないほうが多分だがいいだろうな?

下手したら登校地獄どころか吸血鬼化の呪いの魔法まで解いてしまう危険性が孕んでいるからな。

記憶を見ておいてそれを嫌というほど納得した。

あの桜という女の魔力だけで契約解除は無理にしてもアーサー王の切り札さえも封じたのだからその可能性は大いに考えられるからな。

 

 

 




エヴァさん、ルールブレイカーの思わぬ危険性に気づく。

ここから木乃香と刹那の強化が開始されますね。


アーチャーのかっこいいポーズを期待した人はすみません。


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040話 悪魔襲来(前編)

更新します。


 

エヴァの別荘で一日を過ごした一同は雨が降る中、どうやって帰るか思案していたので俺が人数分の傘を投影して帰してやった。

なんでこんなものまで…という問いは当然聞こえてきたが傘も立派に武器にカテゴリーされると説明すると皆を驚愕させた。

しょうがないから傘をどうやって武器に使うか説明してやった。

主に刺突…いや、メイスに分類されると。

古菲はそれを聞いて納得顔をして「いい勉強になたネ」と言っていた。

それとこのかと刹那にはバゼットからもらったとある加護の礼装であるピアスをあげた。

少しでもこれで二人に彼の英霊の加護があることを祈って。

 

「さて、やっとうるさい奴等が帰っていったな」

「楽しそうでしたが? マスター」

「しかし刹那達が少しばかり顔色が悪かったから理由を聞かれたときはあせった…」

「でもセツナ達はなんでもないといってくれたからよかったわね、シロウ」

「それよりあいつら二人はもうぼーや達と同格の目で見ないほうがいいぞ、士郎…?」

「わかっている。元は俺の不注意だったがあんな地獄を見せた責任は取らなくてはいけない…そのために二人にあのピアスをあげたんだ」

「その発言をどう取るかで聞こえが悪くなるな。忘れるな。あいつらはもう立派なお前の従者なのだぞ?だからしっかりと鍛えてやれ。面倒だが近衛木乃香の方は私も力は貸してやろう」

「そうよ。だから責任なんて感じる必要はないわ、シロウ」

「そうか………むっ?」

「どうし………んっ?」

 

俺とエヴァはふとなにかの気配に反応したがそれはすぐに消えてしまった。

気のせいではないと思うが…

 

「どうしたの、シロウにエヴァも?」

「いや、気のせいだ。気にするな」

「俺もそうだ。どうやら昔の記憶を見たせいでいつも以上に敏感になっているようだ」

「? そう、それならいいけれど…どうせなにか侵入したとかとでもいうんでしょ二人とも?」

 

っ!? やはり姉さんは気づいていたか。まぁ、俺が気づけるのだから当然といえば当然なのだが。

 

「平然と事実を述べるな。始末が面倒ではないか…」

「本当のことだからしょうがないじゃない? でも、すぐに気配は消えたわね? 不気味だわ…」

「どうせ低級な奴等だろ? 私の警備範囲外だから他の魔法使いが対処するだろう」

「それなら構わないのだが、この肌に纏わりつくような不快感はなんなんだ?」

「本当にどうしたの? シロウにしては落ち着きがないわよ!」

「俺にもわからないんだ。だが、なにか放っておいたら大変なことになると俺の直感が告げている…少し、でかけてくる」

 

俺は聖骸布の外套を羽織って姉さん達の制止の言葉も聞かずに家を後にしようとした。

それで姉さんも俺一人だけじゃ心配らしく一緒に着いて行くというのでエヴァには先ほど感じた気配の方を任せ雨の中を姉さんとともに駆けていった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 近衛木乃香

 

 

一緒の内緒をしたせっちゃんと別れた後、ネギ君とカモ君、アスナと一緒に部屋へ戻ったんやけど…どうにもやっぱり士郎さんとイリヤさんの事が気になってしかたあらへん。

士郎さん達の体験したことはウチとせっちゃんの心に刻まれた。

だからもう迷う必要はないと思う。士郎さん達に着いていくって。

でも、やっぱりウチは何度も泣きそうになってまう。

エヴァちゃんには同情はするなといわれてもこの気持ちはやっぱり抑えようがあらへん。

きっとせっちゃんもウチと同じ事を思っているんやろな?

 

 

『士郎さんの心をイリヤさんとともに護りたい』って…

 

 

アーチャーさんの呪文詠唱はとても悲しいもの…そんなものを士郎さんに唱えてほしぃない。

そんなことを考えていたらアスナがウチに何度も話しかけてきていることに気づく。

 

「もうっ…どうしたのよ、このか…? やっぱりネギの記憶を見て疲れちゃったの?」

「ち、違うえ? ただ、ぼうっとしていただけやから心配せんといて、アスナ」

「そう? ならいいんだけど…さっき、ネギの奴もどこかに飛び出していっちゃってどうしちゃったんだろうね?」

「え…」

 

ネギ君が理由もなく飛び出していくことはあらへん。もしかして…!

ウチの不安をよそにアスナの背後になにかが迫っていて叫んだけど一緒にウチも飲み込まれてしもうた。

 

 

 

 

 

…そして、目を覚ましたときにはウチはなにかの水の檻の中に閉じ込められていてのどか、ユエ、クーちゃんに朝倉さんもなぜか裸で一緒にいた。

理由を聞くとお風呂の間に捕まったという。

周りを見ればせっちゃんとアスナ…それに那波さんもウチ達とは別に捕まっていた。

ウチは急いで士郎さんに伝えようとポケットからカードを取りだそうとしたけど肝心なことに机の上に置いていたのを忘れとった。

せっかく士郎さんの力になろうと決意したいうのに…ウチ、情けないわ。

近くにいる小さい子達がいて、

 

「一般人が興味半分に足突っ込むからこーゆー目に遭うんだぜ」

 

と、笑いながらいっとる。違うと叫びたかった…でも、今はその通りだから言葉が出てこんかった。

…ウチ、やっぱり役立たずや。

しばらくしてアスナも目を覚ましてネギ君と京都で見た男の子―――のどかが言うには小太郎君って名前らしい―――が一緒になって助けに来てくれたんやけど…

士郎さんとイリヤさんは、どうしたんやろ…?

しばらくして小太郎君は分身してスライムの子達と戦ってネギ君はヘルマンというおじさんに魔法を目くらましに放って、

なんや小さい瓶をかかげて、

 

「僕達の勝ちです! 封魔の瓶(ラゲーナ・シグナートーリア)!!」

 

と、叫んだんやけど。それは拒否反応をして代わりにアスナが大声で叫びをあげた。

なにがあったんや!?

それでヘルマンのおじさんは急に語りだした。

 

「ふむ…実験は成功のようだ。放出型の呪文に対しては完全だ。私も本気でいこう。さあネギ君、これで終わりな訳あるまい?

ああ、衛宮士郎という危険因子だが今頃は彼女等とは別の私の配下が数人相手で仕掛けているころだろう。彼らは双方ともに無口だがその実力は相当のものだ。彼が勝てることか……」

「なんやて、おっさん!? もう一回いってみぃ! 士郎の兄ちゃんがそう簡単に負けるわけあるかい!?」

「そうですよ!」

 

ネギ君と小太郎君が即座にヘルマンさんの言葉を否定した。

ウチも士郎さんの強さは十分わかっとる! だから、無事でいてな。士郎さん! イリヤさん!

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

俺は雨の中、飛び出して姉さんを片手で抱えながら悪寒がする方へと駆けていった。

そして着いた場所はネギ君の試験の場所でもあった世界樹広場の大階段…

そこにはそれぞれ黒衣を羽織っていてまだよくわからないが二人の人…らしい人物が立っていた。

 

「お前達は何者だ? この学園に無断で入ってくるとは…」

「………」

「………」

 

二人は黙りこくっていて余計奇妙さを醸し出している。

 

「…ねぇシロウ。あいつらなの? 変な気分にさせた奴らって…」

「いや、違う。今はそんなものは感じない…だが、やつらも油断できない相手だ。おそらく人外の類…」

 

そういった途端、二人は無言で動き出した。しかもいきなり人の皮を破り本来の姿なのだろう…

片方の背の高い奴は悪魔化したと同時に手に持っていた黒鍵のような黒塗りの細い剣が腕に取り込まれたがのように融合している。

そして、もう片方の拳銃を持っていた奴も悪魔化で銃身が大きく広がり大砲のようになっていた。

なるほど、どうにも解析できなかったのは体の一部というということが原因だったわけか。

 

「悪魔、か…しかし、」

 

―――投影開始(トレース・オン)

 

すぐに干将莫耶を握り姉さんもまだ自分用の杖ができていないのか小さい杖を取り出した。

 

「姉さんは援護を! 俺が奴らを足止めする!」

「わかったわ!」

 

俺が地を蹴って走り出したと同時に刃の腕を持つ悪魔が俺に飛び掛ってきてそれを同時に打ち合わし、後方担当の悪魔はそのでかい砲身から魔力弾を何度も放ってくるがそれを姉さんが魔法の射手(サギタ・マギカ)をその数を集束させてすべて防いでいる。

見れば砲身の悪魔は俺より姉さんを標的にしているようだ。

そして俺には剣持の悪魔…俺たちを分断させるつもりのようだ。

姉さんもそれがわかっているようで最大限に警戒をしている。

だが、この程度ならセイバー達サーヴァントに比べればまだ遅い方だ。

いって27祖には及ばない死徒クラスだろう。

 

「■■■■■■――――――――ッ!!」

 

と、突如剣を持っていた悪魔は人間にはわからない咆哮を上げた。

同時に俺へと叩きつけてきていた剣筋が格段に上がった。

それによって先ほどまでの機械的な動きに容赦がなくなりまるで暴走しているかのように我武者羅に剣を振り出した。

 

「っ!(なんて重い攻撃だ!)」

 

すぐに干将莫耶にひびが入り両方ともに砕けた。だが伊達に長年付き添ってきたわけではない。

もう俺の体の一部とも言えるすべての戦をともにした我が宝具。

工程などもう幾度も繰り返した…だからもう時間は一瞬、砕けてすぐに俺の手元には新たな干将莫耶を握られている。

そして迎撃を再度繰り返す。

砲撃の方も姉さんが担当していて押されている感じはまるでしない。

だが、なにかおかしい。

そう、仮にも相手は悪魔だ。この世界ではどうかは知らないが彼ら二人の攻撃は実に真っ直ぐすぎる。

悪魔とは人の恐怖の具現体…ならばそれ相応に相手の態度も悪に徹しなければいけないと以前に遠坂の講座で聞いた事がある。

ならば彼らの動きはなんだ? 戦い方は確かに力強くネギ君の過去のような勢いは確かにある。

だがそれでもどこか一歩遠慮しているような…そう、まるで俺と姉さんの力量を試しているような…。

それを思った途端、先ほどまで微塵も感じなかった不快感がまた俺を襲った。

俺は悪魔の剣を干将莫耶を交差させ受け止めて、即座に足に魔力を流し強化して脚力を増強し砲撃の悪魔めがけて回し蹴りを決めて姉さんのところまで後退した。

 

「ど、どうしたのシロウ?」

「奴等の動きがおかしい…まるで俺達を試しているような感じがする」

「そうね。でもシロウなら…」

「いや、おそらく彼らは本気ではない。なにか…縛られているような違和感がした。そして…先ほど急に不快感がまた俺を襲ってきた」

「えっ!?」

 

姉さんが驚きの声を上げた次の瞬間、二体の悪魔はまた咆哮を上げた。

だが、その叫びはどこか悲しいものを感じさせる。

見れば二体とも焦点があっていない目から血を流している。

そして俺たちに向けて僅かながら口を開き、

 

「…コロ……テ………」

「カ………リ、タイ…」

「「!?」」

 

僅かに悪魔から聞こえてきた言葉が俺達二人を震撼させた。

悪魔だというのに俺達人間に救いを求めてきたのだ。悪魔としてのプライドはあるだろうに、そこまでしてなぜ彼らは救いを求めてくる…?

だから周りの注意に疎かになっていた。

気づいた時には俺達の前に黒鍵が何本も飛来してきていた。

どうにかそれを干将莫耶で払い落とすことは出来たが悪魔二体はそれも叶わず黒鍵に貫かれていた。

しかし、俺の思考は貫かれた悪魔達より、飛来してきた黒鍵のほうに向かれていた。

そして頭がいきなり警戒を鳴らし始める。

不快感がいっそう高まる…そこで俺は、この不快感にはなぜか覚えがあると直感した。

気づいた時には貫かれて判別不可能な悲鳴を上げている二体の悪魔の後ろにさらにもう一体顔まで隠す黒衣の格好をした奴がいた。

そいつはゆっくりと悪魔達に刺さっている黒鍵を握ってさらにぐりぐりと捻じ込むように動かす。

それによって悪魔達はまた悲鳴を上げる。それはもう殺してくれといっているような、そんな叫び。

 

「い、いや…!」

「貴様、やめろ! 彼らは貴様の仲間ではないのか!?」

「仲間…? ふむ、私も確かに悪魔だが彼らを仲間と思ったことは一度もない…」

「な、に…? どういうことだ…」

「簡単なことだよ、衛宮士郎…」

 

俺の名をいったそいつの足元から突如として黒い泥のような沼が出現し串刺しのままの悪魔を泥に飲み込んでいく。

その泥を見て俺は、いや姉さんも目を疑っていた。

 

「彼らは私の魔力の糧なだけだ。友などという生ぬるい感情は持ちようなどあるまい?」

「なぜ、貴様がその泥を使える…?」

 

俺は思考がこんな時だというのに少しフリーズしている。

そしてそいつは嘲笑うかのように笑い出し、

 

「まだ気づかないか、衛宮士郎?…いや、気づかないふりをしているといった方が正しいかね?」

「なにを、言っている…? 貴様は何者だ…」

 

自分でも今の言葉に覇気がないことを自覚できる。それほどに今俺は動揺している。

 

「ならばもっと馴染みの言葉を言えば気がつくか? なぁ、エミヤの後継に聖杯の少女よ」

 

そいつはそんなことをのたまった。

 

 




さて、登場しました悪魔はダレデショウ……?


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041話 悪魔襲来(後編)

更新します。


 

 

「ならばもっと馴染みの言葉を言えば気がつくか? なぁ、エミヤの後継に聖杯の少女よ」

 

なぜそのことを!? と思う間もなくそいつは黒衣を力強く剥ぎ取った。

そして黒衣の下から出てきた顔に俺と姉さんは固まった。

そう…そいつの顔は、もう存在していないはずの男…『言峰綺礼』のものだったのだ。

次の瞬間、体中の血が沸騰するような錯覚に襲われそれに呼応して魔術回路も叫びを上げる。

…告げているのだ。俺の全神経が奴はここに存在させておいてはいけないと!

それによって思考は戻って冷静になってきたが、代わりに怒りが沸いてきた。

 

「貴様は、言峰!」

「やっとわかったようだな。しかし…正直言って私も驚いているのだよ。まさか凛のアーチャーの正体が貴様だったとは。ランサーが気づかないわけだな。未来の英雄だったのだから…」

「俺は奴とは違う!」

「なにが違うという? 姿形すべてはアーチャーそのものではないか」

「貴様!」

「シロウ! 落ち着いて!」

 

今にも言峰に向かっていこうとしていた俺に姉さんが静止の言葉が聞こえてきた。

 

「なぜ止める、姉さん!? 奴をこのままにしておいたら!」

「わかっているわ。でも、確認しておきたい事がいくつかあるのよ…」

「ほう、悪魔となった私に確認しておきたい事があるとは…面白い、聞いてやろう。聖杯の少女よ」

「…その“聖杯の少女”っていうのは癇にさわるからやめてくれないかしら? もう私はそんなものではないわ。それよりコトミネ、まず一つ目にあなたは私達と同じ世界のコトミネなの…?」

「そうだ」

「そう…じゃなんであなたは生きていて悪魔になったのかしら?」

「なに、そこの衛宮士郎に倒された後、私は聖杯の泥の中に飲み込まれたのだ。

だが、私はまだ死ぬ気はなかったために足掻いた結果、もとより協力な姿勢であった『この世、全ての悪(アンリ・マユ)』によって第四次聖杯戦争同様に私に生の猶予を与えてくれた。

もっとも聖職者である私が死徒になるのは予想がつかなかった事象だったがな」

「貴様のどこが聖職者だというのだ。それより今死徒といったな?」

「それがどうしたというのかね?」

「今、貴様は悪魔として俺達の前にいる。それではつじつまが合わないではないか…」

「ふむ、それは正論だ」

「では最後の質問よ。その悪魔化も含めてどうしてあなたはこの世界にいるのよ?」

「ふふふ…やはりその質問をしてきたな、イリヤスフィールよ。なに、簡単なことだ。

私は死徒になってからというものの隠遁生活を余儀なくされてしまった。

私の死も協会の奴等に知れ渡っていたからな。だが数年後、ある光明が見えた。

まさかあの最も芽がないとも言われていた遠坂家のあの凛が宝石剣を使えるまでに成長していたとは…」

 

遠坂の名が出た途端、背中に冷や汗が流れ出した。

まさか…もう遠坂は!

 

「まさか言峰…遠坂を洗脳したわけではあるまいな!?」

「ほう…中々の殺気だ。あれから五、六年はたったがこれほどまでにあの落ちこぼれが成長していたとは…」

「余計なお世話だ! それより俺は今遠坂に何かしたのかを聞いているのだ!」

 

もし、殺していたのならば俺は迷わず奴をもう一度殺す。その意を込めながら言峰を睨みつけた。

だが言峰は余裕の顔をしながら、

 

「いや、私は凛を殺したつもりはない…さすがに今の凛相手には分が悪かろうからな。

だが凛は面白いことを起こしてくれた。どうやらお前達をこの世界に送った後にまだ宝石剣の魔力の残留があり時空が不安定なまま放置されていたのだ」

「「………」」

 

思わず俺と姉さんはこんな時だというのにずっこけそうになった。

…まさか、遠坂のうっかりという呪いはそんなことまで起こしていたとは。

 

「それであの世界も飽きていた私は平行世界に興味を持ちその歪んだ時空に飛び込んだ。

お前達は凛にパスを繋いでもらい今の状態のままを保っているが、

私は不正に侵入したものでな、世界からの修正を受けてしまった。だがそれは嬉しい誤算だった。

血を飲まなければ生き続けられない死徒から、まさか悪魔に姿を書き換えられるとは思っても見なかった」

「そうして今私達の前にあなたはいるわけね。コトミネ」

「その通りだとも。聖杯の少女よ」

 

姉さんは言峰の皮肉の入った言い方に眉を吊り上げた。

これはもうデンジャーな領域だな。

 

「そして、もう一人お前達にとっては懐かしい人物がいる。さぁ、こい。“ランサー”!」

「なに!?」

「ランサーですって!?」

 

俺たちが驚いている間にも言峰の後ろからあの懐かしい赤い魔槍を持ち青い軽装の格好をしたランサーが現れた。

だが、ランサーのその目はどこか虚ろであの飄々とした態度や覇気、生気は感じられなかった。

そう、まるで強制的に使役されて感情も封印されているような、そんな感じだ。

 

「さぁ。ランサー。お前の願いはなんだ?」

「…俺の、願いは……強い奴と……」

「そうだ。お前は強い奴と戦いたいがために召喚された。

そして今お前の目の前には格好の標的がいる…」

 

悪魔の囁き…

まさにそう取らざる得ないことを言峰はランサーに向かっていっている。

それに見た限り少し自我が残されているようだがその姿はとても痛々しかった。

あのランサーをここまで…

 

「言峰…! ランサーに何をした? ランサーは座に戻ったのではないのか!?」

「この世にとどめさせたのだよ。実を言うと私もランサーはギルガメッシュが止めをさしたものだと思っていたのだが…

ランサーは聖杯戦争が終わった後に死徒と化した私の前に突如として傷だらけの姿で現れた。

どうやらまだ私との契約が続いていたのが原因らしく生きていくには駒が必要と判断した私はランサーに泥を飲ませた。

それからは精神面で抵抗はあったが今ではあと少しで自我をも消えうせる頃だろう…」

 

淡々とした口調で言峰が話しているが正直俺の感情は沸々と怒りが込みあがってきていた。

すぐにでも言峰を倒してランサーを開放しようと疾走しようとするがそれはランサーが許すわけもなく立ちふさがり思わず舌打ちをした。

そしてランサーは目の光を失いかけながらも、

 

「てめぇ、は……アーチャー……ははっ! こいつ、は…いい……てめぇとの、決着はついて…いなかったな…」

「お前もこの身を見てアーチャーと呼ぶか、ランサー。

…いいだろう、それならご要望どおり全力で相手をしてやろう!

姉さん、言峰には常に注意を払っていてくれ」

「わかったわ。シロウも気をつけて…」

「ああ。ここで死ぬ気はさらさらないからな」

 

俺は後ろにいる姉さんに振り向かずに返事を返した。今後ろを向けばいつ刺されるかわかったものではない。

俺は27本のすべての魔術回路に火を起こしいつでもいいように設計図を展開する。

今の俺ではかつてのあの夜の校舎での一戦もできるか不確かな状態だからな。

そしてランサーは他のものに目をくれずに俺めがけて疾駆してくる。

操られていることもあり本気ではないにしろ尋常ではない速さは確かな事実。

俺は即座に干将莫耶を手に取りランサーと対峙する。

…まさか生きている内にあの一戦を再現する当事者になるとは思っても見ないこと。

内心苦笑をしながらもランサーとエモノをぶつけ合う。

ランサーの突きはまさにすべて急所を狙った鋭いもの。その正確無比な連撃は俺の予想を遥かに上回るといってもいいだろう。

対決を始めてから数分…二双一組である干将莫耶はゆうにその数は20を越えてあちらこちらに乱雑して転がっている。

無論、すべて砕かれたものや弾かれたものだ。

心眼と千里眼のスキルがなければおそらくもう俺はランサーの槍に貫かれるだろう。

あの槍には当たっただけでも傷の治りが遅くなる効果ができるため当たってやるわけにもいかない。

だが俺の戦法上、隙を作らなければ反撃を伺えることはまず不可能。

設計図にあの宝具もすでに装填は済んでいる。

後は出すだけだが言峰がなにをしてくるかわからない上、この連撃の嵐の中、そんなものを使えば大きな隙が生まれ即座に刺されるイメージは嫌がおうにも浮かんでしまう。

なにかランサーの動きを一瞬でもいいから止められるものはないか!?

俺はランサーと打ち合いながらも剣の丘で該当するものを検索していた。

だが、ランサーは急に構えを変えて槍に魔力を集束させていく。

マズイッ!?

ランサーは宝具を使うつもりだ。

悠長に検索している暇はない。

俺にできることは作ること。ならば最強の盾をすぐに投影しろ! でなければ俺は槍に貫かれる!!

すべての工程を速やか且つ迅速に済ませ、

 

「―――I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)

 

後は手をかざし真名を唱えるだけ。

防げるかは未知数。だが、バックには姉さんがいる。だから、ここで倒れるわけにはいかない!

 

 

「―――突き穿つ(ゲイ)

熾天覆う(ロー)―――……」

死翔の槍(ボルク)――――!!!」

「―――七つの円環(アイアス)!!!」

 

 

ほぼ同時に放たれた真名。片方は必殺の一撃、もう片方は絶対の守り。

飛来するゲイボルクはアイアスに衝突した瞬間、一気に七枚のうち二枚は持っていかれ俺は姉さんからの魔力供給もあり残りの五枚のアイアスにも俺の全魔力を持ってして挑む。

それでも一枚ずつ砕かれていくアイアスの盾…勢いは止まることを知らずに次々と砕かれついには一枚にまでなってしまった。

だが、諦めるわけにはいかない!

 

「ウオオオオオオオオオーーーーーーッ!!!!」

 

姉さんの魔力も存分に流し込み裂帛とともについに最後の一枚を残しゲイボルクはその動きを停止させ地面に無音で落ちた。

ランサーはまさか防がれるとも思っていなかったのだろう。目を見開き驚愕の表情をしている。

だが、それによりわずかな願いでもある隙が生まれた。

悲鳴を上げる魔術回路に再度活を入れなおし俺は今無手のランサーに瞬動をして疾走する。

そして設計図に起こしていた歪の短剣『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』を投影し勢いよく突き刺し、

 

 

「“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”!!」

 

 

キャスターの短剣の真名を解放した。

それにより言峰との間の契約を解除されランサーは片膝をつく。

俺も崩れそうになるが必死に耐えてすぐに姉さんに目を配る。

了解したのか姉さんは令呪が浮かんだ手をかざし、

 

「“―――告げる!

汝の身は我の下に、我が命運は汝の槍に! 聖杯のよる辺に従い、この意、この理に従うのなら―――…”」

「っ!?させんぞ!」

 

再契約の呪文を唱えだした姉さんを殺そうとした言峰は先ほどの余裕もどこへやら…悪魔の姿をとり姉さんに襲い掛かろうとする。

だが、まだ俺の存在を忘れてもらっては困る。

 

来たれ(アデアット)!」

 

魔力が今ほぼガス欠状態の俺でもアーティファクトは出現させる事はできる。

それにより言峰の放ってきた泥を剣の防波堤で防ぐ。

 

「なに!?」

「この世界の俺の新たな力だ。先に進ませはせんぞ!」

「“―――我に従え! ならばこの命運、汝が槍に預けよう……!”」

 

そしてここに再契約の呪文は完成した。

それにより膝をついていたランサーの体から魔力があふれ出し、ゆっくりとゲイボルクを持ちながら立ち上がり、

 

「ランサーの名に懸け誓いを受けるぜ……!お前を新たな我が主として認めよう、イリヤスフィール!」

 

契約は完了された。

だが、もう俺も姉さんも魔力残量はゲイボルクの影響で残りわずか。

投影もままならないので俺は代わりに『剣製の赤き丘の千剣』を構え言峰を倒そうと身構える。

だが、それは自我を取り戻したランサーによって遮られる。

 

「おう、坊主…いや、もう士郎と呼ばせてもらうぜ。奴の相手は俺に任せろ」

「任せてもいいんだな?」

「誰にもの聞いてやがんだ? 長年の間、俺をとことん苦しめた言峰に止めを刺すのはこの俺だ!」

「わかった。正直、もう立っているのもやっとだから任せる…」

「おうよ!」

 

俺はランサー契約の際に横に倒れてしまっている姉さんのところに行き、

 

「大丈夫か、姉さん…」

「駄目ね。正直今はランサーに魔力を送るのが精一杯ってところ…」

「そうか。だが、もうランサーは負けないだろう。なにせ顔は笑っていたが目は底冷えするように怒りに満ちていた…」

 

そう、ここまでされてただでは終わらせないのがランサーだ。

 

「私に歯向かうか、ランサー?」

「はぁ? なにいってんだ、テメェ? もう俺とてめぇを縛るものは何もねぇ…よってここ数年何度も夢見た貴様を殺すという願いをここで果たす!」

「ふん、そうか。では私も相手をしよう。『この世、全ての悪(アンリ・マユ)』…!」

 

言峰はランサーに向けて泥を放つ。あれはサーヴァント全員には天敵とも言えるものだ。

触れただけで悪夢の中で溺死するだろう。

だがランサーはまるで紙を貫くようにその泥を払った。

 

「なに…? どういうことだ!? なぜ、サーヴァントである貴様にこの泥がきかん!」

「忘れたのか、言峰? てめぇは俺になにを飲ませたかを…」

「まさか…!」

「そう。もう俺にはそんなものは通用しねぇよ! この世・全ての悪だ? はっ! そんなもんはくそくらえだ! それより…いくぜ! その心臓…貰い受ける!!」

 

ランサーは槍を構えて魔力を集束させていく。

それで実感する。やはり先ほどのランサーは本気ではなかったことを…。

そして充填が完了したのだろうランサーは今まさに戦慄の顔をしている言峰めがけて疾駆して、

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

対近接でのゲイボルクの真名を解放し悪魔姿の言峰の心臓を貫いた。

それによって心臓を破壊された言峰は哂いながら、

 

「まさか、飼い犬に噛まれるとはな…私も運がない、な…」

「無駄口叩いてねぇで…さっさと消えうせろ!」

 

ランサーは槍を引き抜き追撃とばかりに言峰を滅多刺しにした。

 

「ガフッ……私は、死なんぞ。ハハハハハハハハハッ…!」

「遺言ならきかねぇぜ!」

 

魂魄のことごとくを破壊されつくした言峰は最後に高笑いを上げながら体を飛び散らせた。

それを見届けたランサーの横顔はまさに勝利者の顔をしていた。

だが、俺ももう立っていられる事ができずに姉さんとともに地に体を預けていた。

そこにランサーが近づいてきて、

 

「よお、大丈夫か…?」

「お前からしてきたことだというのにそんなことを聞くかね?」

「それは悪かったよ。しかしてめぇは強くなったもんだな。本気ではないにしろ俺の連撃をああも防ぎきるとはな…」

「かなり死に物狂いだったがな…やはりまだアイツの背中は遠いということか」

「アイツっていうと、やっぱアーチャーの野郎か。しかし安心したぜ、お前はあいつほど捻くれていねぇからな」

「当然よ、ランサー。私は絶対シロウを世界になんか渡したりしないんだから…」

「がははっ! お前も幸せもんだな。伊達にあの聖杯戦争勝利者ってなわけないってわけか。しかし驚いたぜ。まさか俺のゲイボルグを防ぎきるとはよ…」

「代償は俺と姉さんの魔力枯渇だがな…それよりランサー、一つ聞いていいか?」

「ん? なんだ、士郎」

「お前は…今は姉さんの魔力もほぼないというのによく現界していられるな?」

「ああ、そのことか。確かに再契約していなけりゃ俺は消えていただろうよ。だが、それを差し引いても霊体化もできるが泥の影響で半分は受肉しちまってるからな。

それに俺はこの世界が気に入った。ここならてめぇの目指すものもあっちとは違いやりやすいだろうし…なにより今はもう俺も自由だから存分に戦えるしな!」

「あ、そのことだけどランサー。この世界でもあなたの存在は規格外もいいところだから本気で戦闘はしちゃだめよ」

「はぁ? まさか嬢ちゃんも言峰のようなけったいな命令する気じゃねぇだろうな?」

「まさか。そんなことはしないわよ。だけどなるべく派手なことはよしてね? それが守れるなら後は自由にして構わないわ」

「それなら上等だ。マスター命令しかと受け入れたぜ!」

「ありがとう、ランサー…それじゃ私達は当分横になっているからランサーも私の魔力が全快するまでしばらく霊体化しておいてね…」

「わかったぜ」

 

聞き訳がいいのかランサーは姉さんの命令通りに霊体化してその場から姿を消した。

さて、では俺も当分休むとしよう。

…そういえば、ネギ君達の方はどうなっただろうか?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

「来たれ虚空の雷、薙ぎ払え!『雷の斧(ディオス・テュコス)』!!」

 

ネギのぼーやがヘルマンという悪魔を倒したところと、悪魔と化した言峰を倒したことによって倒れている二人を見届けて、

 

「ふん、両者ともに乗り切ったか…」

「内心ハラハラ半ばオロオロだったようですが…ネギ先生達も衛宮先生達も無事でよかったですね、マスター」

「茶々丸、いいかげんその突っ込みはよせ…」

「しかし…あれが士郎殿の本気でござったか。あの殺陣は凄まじいものがあったでござるな。しかも英霊とはまた…凄い存在でござるな」

「ケケケ、俺様モマザリタカッタゼ!」

「アイツはもう自由だから後で返り討ちにでもあってこい、チャチャゼロ」

「ヒデーナ、御主人!」

 

チャチャゼロの文句の声が聞こえてくるが今は無視をしておこう。

しかし、言峰という奴はとことん執念深い奴だったな。

まさか生きていたとは…しかしそれも今日限りでお開きだ。せいぜい地獄で笑っていろ。

ネギのぼーやは今回士郎と同じように過去の傷を開かれ、士郎達は天敵との再戦をすることになったがどちらもそれを越えた。

これからの奴等の成長もまた楽しみなことだ。

 

「…しかし、士郎の奴は新しい技法は使わなかったようだな。当然か、まだ身に着けたばかりのものだからそんなものより今までの戦いのほうがやりやすかっただろう」

 

そう小さく呟きながら私は微笑をしていた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 近衛木乃香

 

 

せっちゃんが目を覚まして安心していたところに「士郎さん達は…!?」と言ってウチもハッとなってすぐさま探し出そうとした。

やけどウチ達の目の前に士郎さんの記憶に出てきたランサーさんが気絶している士郎さん達を抱えてウチ等の前に現れた。

 

「あなたは…ランサーさん!」

「お? 俺のことを聞いていたのか。なら話ははぇえな…マスターと士郎のことを任したぜ。俺は当分マスターである嬢ちゃんの魔力が回復するまで霊体化してるから事情はこの二人が目を覚ましたら聞くんだな」

 

そういってランサーさんはその姿をおぼろげにして霊体化した。

 

「え…ちょ、なに? 刹那さん、あいつはなんなの? 士郎さん達を抱えてきたと思ったらいきなり消えちゃって!」

「詳しく事情は話せませんがしいて言うなら士郎さん達のかつての敵だったものです」

「そうなんか、剣士の姉ちゃん? しっかし士郎の兄ちゃんがここまでやられるなんて相当すごい戦いやったんやな!」

 

小太郎君は笑っているけど今の士郎さん達になにがあったんやろ…?

目が覚ましたら嫌でも聞きださんとな!

 

 




言峰は死にました。しかし本当でしょうかね……。

ランサーの登場は伏線を複数貼ってましたから、分かったかな?


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042話 タカミチの相談。士郎、ウェールズへ

更新します。


 

「うっ……ここは?」

「やっと目を覚ましたのね、シロウ」

「姉さん?」

「まだ意識が覚醒していないようね…」

《それは当然だ。俺のゲイボルクを防ぐほどの膨大な魔力を消費したんだからよ》

 

どこかで聞いた声が聞こえてきた気がして俺はそこで声の主が判明した途端、意識は完全に覚醒した。

そうだった。昨晩は悪魔となった言峰とランサーに再会してランサーを解放することに成功して言峰はランサーに滅ぼされたのだったな。

 

「あー、思い出したよ。どうやら相当疲労が出ていたようだ。ところでここは昨日の場所か」

「そうよ。私達あのままここで眠りについてしまったようなの」

「しかし…ではこの布は一体…?」

「それはコノカ達がかけてくれたのよ」

「そうだったのか…ところでそのみんなは今どこに?」

「今は昨日ネギ達のほうも詳しく聞いていないけどなにかあったらしくてここよりもっと上の大階段のところにいるネギを見守っているわ」

「そうか…」

 

俺はそれを聞くとまだ魔力不足で力があまり入らない体を無理に起こした。

 

「大丈夫、シロウ? まだふらつき気味よ」

「この程度の体のだるさは慣れているから大丈夫だ。それより少し俺も見てくる」

「わかったわ。それじゃ私はちょっと違う場所にいっているわ」

「どこに…?」

「もちろんランサーの服を買いに行くのよ。いつまでもあの学園長に隠せないと思うしなにより格好が物騒だからマスターの私がしっかりと面倒を見てあげないとね」

《マジでか!?》

「当然よ。私の従者なんだからみなりはしっかりさせないといけないから。

格好についてはあなたの希望で構わないわ。幾分の自由も戦いや非常時以外は認めるわ。

食事に関してもシロウが面倒見てくれるから安心してね」

《それはありがてぇ…ここ数年まともなもん食ってなかったからアレ以外なら俺は構わないぜ》

「ランサー…アレというのはやはり、アレなのか?」

《そうだ。悪魔になってもあいつはマーボーしか食いはしなかったからな…》

 

それを聞いた途端、俺はとてもランサーを同情してしまった。

前に遠坂に言峰が三食すべて食べていたという中華料理店『泰山』のマーボーを食わされた事があったが…あれは口では言い表せないほど衝撃的だったと記憶し、同時に俺はマーボーだけは食に関してはトラウマを持ってしまったものだ。

 

「ランサー、安心しろ! あんな冒涜中華料理など食わせはしない! というかマーボー自体作らないから!」

《まさかおめぇも、アレを食ったのか…?》

「覚えているかは知らないが遠坂に無理やり…それで俺もマーボーだけはトラウマになってしまった」

《あの嬢ちゃんにか…それは、災難だったな》

「なにか共感できるところがあるのかもしれないな…」

《そうだな…》

 

二人でしみじみと感傷に浸っていたがそこに姉さんの叱咤の声が聞こえてきたのでそれで俺たちは会話をやめた。

それから姉さんはランサーを引き連れて買い物にしに行った。

だから俺も皆の方へと向かった。

向かってみるとネギ君は大階段のテラスに座ってなにか思いに耽っていた。

その場に残っていたアスナ、このか、刹那、カモミール達は俺の気配に気づくとすぐに近寄ってきた。

 

「士郎さん! 昨日は大丈夫やったの!?」

「そうよ、士郎さん! なんかわからないけどぐったりしていて一向に起きる気配がなかったから心配したんだよ!」

「そうっすよ! 旦那ほどの強者が気絶しちまうなんてなにが起こったのか!」

「…お体は平気ですか?」

 

三人+一匹は一気に話しかけてきたので少し驚いたがすぐに落ち着きを取り戻して、

 

「ああ、大丈夫だ。昨日はただの魔力枯渇で俺と姉さんは倒れてしまっただけだからな」

「二人ともですか!? 一体なにが…!」

「それは後で説明する。それよりネギ君は大丈夫なのか?」

「あ、そうだった。ネギの奴、昨日に村の人達を石化したヘルマンっていう悪魔と戦っていたのよ」

「なに…?」

 

詳しく聞いてみるとヘルマンという悪魔はネギ君の過去の傷を開いてしまい、それに伴い魔力暴走を起こしてなぜか一緒にいた小太郎に助けてもらわなければ自滅していたかもしれないということ。

それと調子を取り戻したネギ君達を尻目に捕らえられていたこのか達は脱出に成功しそれでネギ君達の勝利に貢献したという。

だが俺がひどく注目した点といえばアスナの『魔法無効化(マジック・キャンセル)』能力にひどく関心が向いていた。

このかと同室だという点でおかしいとは思っていたがまさかそのような力を秘めていたとは…。

今までのエヴァの魔力障壁突破や石化の魔法を受けても石化しないという光景を見てきた俺は納得という感じで頷いていた。

 

「そんなことがあったのか」

 

だが、今は特に気にしない振りをして無言でネギ君の方へと振り向くといつの間にか小太郎がいてネギ君と言い争いをしていた。

それとなにやらネギ君はこれからのスタイルは『魔法剣士』…ではなく『魔法拳士』になることに決めたそうだ。

目標が決まったことでよきかなと思っていると二人は俺がいることに気づいたらしく近寄ってきた。

特に小太郎は、

 

「士郎の兄ちゃん! こっちの学園長が長さんにかけ合ってくれて謹慎が解けたんや! だから前の約束守ってもらうで!」

「ふむ、鍛えてやるという件か。いいだろう、俺もこちらではなにかと忙しい身だが手伝ってやる。

それと今はもう仲間であるランサーもきっとお前のことは気に入るだろうから俺ができない場合は相手をしてもらえ。あいつは、俺よりも強いからな」

 

“俺よりも”を強調して言ってやった。当然だ。相手はアイルランドの英雄『クー・フーリン』なのだから。

それに反応したのかこのかと刹那もうんうんと微笑を浮かべながら頷いている。

アスナとカモミールはなんのことかわかっていなかったが、まぁいいだろう。

 

「やったで! 士郎の兄ちゃんだけでなくあの槍を持った兄ちゃんとも相手できるんか!?」

「俺が仲介に入ってやろう。あいつは普段から戦闘意欲を持て余しているからきっと大丈夫だろう。

ちなみに俺とランサーはお前になにも教えてやれることはない。言っている意味がわかるな…?」

「わかるで! ようは戦い方を盗めとか後は経験を積めとかやろ?」

「そうだ。ちなみにあいつは俺と違い初動から縮地のようなものだから舐めないでいけ」

「わかったで!」

「えー、小太郎君ずるいよ!」

「なにいってるんや! お前かて師匠がいるんやろ!?」

「うっ…それを言われると確かにそうだけど」

「ならグタグタいうなや!」

「そんなー!」

 

ネギ君も元気を取り戻したようだからよかったなとみんなに目配せをした。

それにアスナ達は笑顔を作って頷いていた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

それから数日後、俺と姉さんはやっと魔力が全快したのでランサーを連れて学園長室に向かっていたのだが…

 

「ランサー…さすがにお前、それはないだろう?」

「ええ、まったくね」

 

そう。ランサーの今現在の格好はアロハシャツにジーンズという派手なものだった。

まだ朝だということもあり生徒の数は少ないがそれでもここでは奇異の目で見られていた。

俺と姉さんが同伴していなければ今頃は警察に通報されていたことだろう。

 

「しかたねーだろ? 俺は堅苦しい格好は好かねぇんだよ。どうせ一度ここに戸籍を作ってもらいに「普通に問題発言はしない!」…わかったよ、マスター…に、してもお前のほうも相当おかしい格好だぜ?」

「む? そんなに俺のスーツ姿は変だろうか?」

「まぁ変じゃねぇが俺としてはやっぱアーチャー姿の方がしっくりと来るんだわ」

「それはさすがに心外だ。俺とて好きであの格好をしているわけではない。

確かに俺の魔術特性上外界に対して対魔力が弱いから今も外套だけは携帯しているがどうしてもアーチャーと一緒にされるのだけは我慢できない」

「そーいうもんか。ま、同一人物だからしかたねぇといえばそうだな」

「ほら、そんなことより学園長室に着いたからしっかりと挨拶をするのよ?」

「へいへい…」

 

ランサーはいい加減に対応しているがそれも中に入ったら目を点にしていた。

そうだろう。中には仙人がいるのだからな。

中には学園長と一緒にこちらの事情を知っているタカミチも一緒にいた。

 

「学園長、彼が話しておいた人物ですよ」

「おお、そなたが…会えてまことに光栄じゃの。アイルランドの光の御子殿」

「え!?」

「な!?」

 

俺と姉さんはいきなりの学園長の反応に驚いたがそれよりも今はゲイボルクを学園長の前に突きつけているランサーを止めなければ!

 

「…おい。なんで俺の真名を知ってやがる? マスターも士郎も話していないはずだぞ?」

「ふぉふぉふぉ…さすが偉大な英雄じゃな。一瞬でワシの前に現れるとは…安心せい、このことは士郎君達同様話すつもりはないからの」

「………」

 

しばらく沈黙が続いたが、それもすぐに終わり、

 

「じーさん、中々やるな。俺の威圧をものともしねーとはな。で、どこで知ったんだ?」

「エヴァから聞いたんじゃよ。なんでも数日前の事件で見学していたらしいんじゃ」

「…やっぱり見ていたか」

「油断も隙もないわね…」

「なぁマスター。そのエヴァっていうのは誰だ?」

「まぁ…こちらでいう真祖よ」

「はぁ!? 真祖だと! そんな奴までこの学園にいやがるのか!?」

「星の守護者のあなたからしたら驚きでしょうけど安心して。私達の世界の真祖と違って魔王に堕ちたりはしないから」

「そうだ。だから落ち着け。あいつには後で会わすから」

「…わかったぜ」

 

ランサーは渋々といった感じだがゲイボルクを消して姉さんの後ろに下がった。

 

「ごめんねコノエモン。いきなり私の従者が手荒い真似しちゃって…」

「いいんじゃよ。英霊とは真名を知られたら弱点を突かれるという話は聞いておるからの。当然の反応じゃ」

「それにしても士郎。君達はすごいね。今ならもうこの学園では君達が最強の部類に位置するだろうね」

「いや、タカミチ。俺なんてまだまだ未熟もいいところだ。だから最強の座は譲り受ける気はないぞ」

「そうか。残念だよ…ま、それは置いといて今日は彼の証明書を作ってほしいという話だったね」

「ああ、そうだ。ランサーもここで生活をする以上俺たちと同じでなにかしら証明できるものがなければやっていけないからな」

「ちなみに偽名は『セタンタ・フーリン』で仕事名が『ランサー』に決めたからそれで通してくれないかしら?」

「セタンタ…それは、余計ばれるんじゃないかの…?」

「安心しな、じーさん。たとえばれたとしても負ける気はさらさらねぇからな」

「さすが英雄じゃの。器が伊達ではない…あい、わかった。では早速じゃがそなたほどの実力じゃ…そこで士郎君達と同様、ここで夜の警備を担当してくれんかの?」

「戦いごとなら一向に構わないぜ? 俺は戦えればそれでいいからな。ちなみに士郎達みたいになにか役職につくのはかんべんな。昼間は自由気ままにくつろぎてぇんでな」

「了解じゃよ」

 

ランサーは事前に俺達がはめられた事を聞いていたのでそこは釘を刺しておいた。

それに小太郎の件も話したら快く了承していたのでそちらに力も注ぎたいのだろう。二人は思考が似たもの同士だからな。

 

「あっと、そうだランサー」

「なんだ?」

「いや、お前の槍は見る人には目立つし効果も治癒が難しいとこれからやっていくのはなにかと面倒だろ。

真名開放も姉さんの魔力を頼っている以上そう何度もできるものではない。だから非常時以外は俺の投影したゲイボルクを使ってくれ。

それなら魔力消費も少ないし真名を開放しても姉さんの負担は軽いだろうからな」

 

俺は投影したゲイボルクをランサーに渡した。

それを受け取ったランサーは「確かにそうだな…」と一人納得しながら俺から受け取ったゲイボルクも一緒に自分の中にしまった。

 

「感謝するぜ、士郎。それじゃじーさん、後のことは任せたぜ」

「うむ、近いうちに書類などは作っておこう」

「お願いします」

「お願いね、コノエモン」

「お、そうじゃ。士郎君だけはもう少し残ってくれんかの。例の件で商談を進めたいんじゃよ」

「わかりました。それじゃ姉さん、ランサー。先に帰っていてくれ」

「わかったわ」

「おうよ」

 

そして姉さん達は先に部屋を退出していった。

そこでもういいだろうと思い、

 

「さて、学園長…やせ我慢もそこまでにしておきませんと本当に寿命が減りますよ?」

「う、うむ。そうじゃの。さすがのワシも彼の眼光は堪えた…」

「僕もだよ。真正面からではないけど彼の殺気は肌をおおいに刺激させてくれた。やっぱり本物は違うねー」

「その気持ちはわかるぞ、タカミチ。俺もあの事件ではさすがに死ぬかとも思ったからな。ま、実際過去に一度殺されているわけだが…」

「なんじゃと?」

「いつか話しましたよね? 俺が裏の世界に入った切欠を…まぁ、話すと長くなりますからそろそろ本題に移りましょう」

「そうじゃの。それで出来具合はどうなんじゃ?」

「ええ。依頼された数分はすでに打ち終わりました。後は悪用されないように呪印を施せばすべて完成しますよ」

「そうか! しかしエヴァの別荘を使っていたとはいえ早かったの」

「ええ、まぁ資材もたくさんありましたし、なにより一度作ったものは自動で俺の中に登録されますから比較的最初の時より早いペースで出来て改善点も見つけては潰していきましたから今では試作以上の出来のものでしょうね」

 

そのことを話したら二人は黙りこくってしまった。

 

「…なんですか、急に黙ってしまって」

「いや、士郎。今からでも遅くはないから本職を鍛冶師に移さないかい?」

「うむ。士郎君の力は将来最高の鍛冶師の実力を秘めておるからの…」

「なんでさ…いや、俺は今だけで満足していますからいいですよ。それにそれだと俺の理想が遠のいてしまいますから…」

「残念じゃの…」

「まったくだね…」

「なぜ本当にそこまで落胆されなければいけないんですか…とりあえず物騒なものなのでエヴァの家から搬送できる魔法陣を再度作ってくれませんか? エヴァにもそのことは話しておきますので…その時はいつも以上に血を吸われそうですが」

 

そこで男三人苦笑いを浮かべることしか出来ないでいた。

だが他にもタカミチから話があるらしい。

 

「なぁ、士郎。そろそろいい頃合だと思うんだけどいいかな? 君の新しい技法も完成しつつあるんだろう?」

「ええ、まぁ…」

「それでものは相談なんだけど一度魔法世界にいってみないかい? 君を紹介したいんだよ」

「魔法世界ですか…その予定はいつごろ?」

「実は急なんだけど今日の夜中の便に学園長にも話を通しておいて行って往復で五日で帰ってこれるよ。士郎の作ったものの搬送もこめて学園祭の準備開始の前には帰ってきておきたいからね」

「そうですか、わかりました。あ、それと半日だけネギ君の故郷に寄っていっても構いませんか?」

「ん? どうしてだい?」

「実はネギ君の過去を見せてもらいまして一度石化された人達を見ておきたいんですよ」

「「!?」」

 

その言葉に二人は驚愕の表情をした。

だがすぐに体裁を建て直し真剣な顔つきになった。

 

「それは、どうしてだい?」

「一度、試してみたいんですよ…成功するかは定かではありませんがもしかしたら俺の力なら助けられるかもしれないから…」

「どんな治癒術師でも治すことができない彼らを…かい?」

「ええ。エヴァにも条件付きで今は使いませんが、その条件ですが今もなお行方不明のナギさんが見つからなかったり、ネギ君でも無理だと判断した場合…俺はエヴァの呪いを解いてあげたいと思っていますから」

「登校地獄をかの!? しかし、どうやって…そのような宝具も持っておるのかの!?」

「ええ。――投影開始(トレース・オン)。是、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

今まで話していなかったがもういいだろう。これは一種の賭けだ。

 

「この歪な短剣は神代の裏切りの魔女、コルキスの皇女メディアを象徴するもの。効果はあちらではすべての魔術それらを完全に否定して破戒しリセットする宝具です。

これで一度ネギ君の腕だけですが石化の魔法も解いた事がありますからこちらの魔法にも適用されることが実証された以上、もしかしたら悪魔が使った石化の効果も解けるかもしれません…これはもう一種の賭けです。俺の魔力でどこまで解呪できるかの…」

「士郎君…ぜひ、お願いしてもらっても構わんかの…! あちらのメルディアナの校長、ネギ君の祖父に当たる人物なんじゃ。そのことを伝えときたい…」

「僕からも頼むよ。それが本物ならこれほど嬉しい事はない…」

「任せてください…!」

 

 

 

 

その後、寮に戻って姉さんにそのことを伝えたらひどく怒られたがでも最後に「気をつけてね…」といって送り出された。

ランサーにはその間、姉さんを頼むといったら「マスターを守るのは従者の役目だ」といってまた快く了解してくれた。

ネギ君達にも伝えたかったがもし失敗したら申し訳ないので話さないことにして、ネギ君には絶対に伝えないことを条件に俺の従者である刹那とこのかだけには事情を話しみんなには伝えないでほしいと伝えた。

そして一応、タカミチとともにエヴァのところにおもむきその旨を伝えて俺とタカミチはネギ君の故郷…ウェールズへと旅立った。

 

 

 




次回、ウェールズ編。


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043話 石化の解除

更新します。


 

 

 

俺とタカミチは学園長が手配してくれたジェット機を使いすぐに旅立つことになった。

どうでもいいが俺の作成した武具達はもうすでにあちらに送られているらしい。

それとあちらに着いたらメルディアナの校長の魔法使いの従者(ミニステル・マギ)であるらしい『ドネット・マクギネス』という女性の方が道案内をしてくれるとのことだ。

機内の中で俺はタカミチと色々と話をしていた。

ちなみに招待席なので気兼ねなく裏の話も出来るからここらへんは感謝だ。

 

「それより士郎。昼間にいっていた一度殺されたというのは一体なんのことなんだい?」

「それか。なに、あの時もいったが俺が魔術の世界に入る切欠になった事件の事だ」

 

それから俺はタカミチになら話しても大丈夫だろうと過去の俺の始まりから聖杯戦争までの話をした。

それを聞いたタカミチはひどく驚いてしばらく会話はなかったが、

 

「そんなことがあったんだね…」

「ああ。それがきっかけで俺は姉さんとともに世界に出て結局こんなところまで来てしまったわけだよ」

「世界は似ているというのにここまで違うとなにか釈然としないけど腹が立ってくるね。士郎の世界はこちらからしてみれば牢獄に閉じ込められているようなものだ」

「そう思ってくれると俺も身が休まる…しかしそれが俺達の世界の常識で当たり前のことだったんだ」

「……そうか。なぁ士郎。僕も、魔術を習得することは出来ないだろうか?」

「それは、止めておいたほうがいい。エヴァですら回路を開いた時には絶叫をあげたらしいからな。

そして今も自分の属性を理解しようと最近は篭りがちだしな。

エヴァみたいに不死ならいずれは習得できるだろうが今からタカミチが一から魔術を習い始めるとなると習得する前に寿命を迎えてしまうぞ?」

「それほど魔術は魔法とは違い年月をかけなければいけないということかい?」

「そうだ。俺やエヴァのような例外はともかく、魔術師は代を重ねて魔術を継承していく。

それによって力をつけていくからおそらくタカミチはオーソドックスな魔術師になるだろうから一代では到底無理だろう。

俺も魔術の才能がないからタカミチの境遇は理解できるが今ある力をより高めていくのも一つの道だと俺は考えている。

ま、これはアーチャーの受け売りなんだけどな。アイツが俺の果てだと考えればどうしても納得してしまうんだ」

「英霊エミヤか…士郎もいずれはそれになってしまうのかい? 守護者という永遠の奴隷に…」

「いや、俺はなる気はないよ。それにエヴァに聞いたがこの世界には守護者という概念はないと聞く…。

ただ知られていないだけかもしれないが何百年も生きているエヴァが知らないのだから真実だろう。

そしてランサーは偶然の産物でこちらの世界にいるがそれも奇跡にようなもの。だから俺はもうそれになることも叶わないんだ」

「そうか…」

「安心したか?」

「まぁね。士郎のことは親友だと思っているからなお更だ」

「それは嬉しいことだ。俺もこの世界ではタカミチが一番の親友だと思っているよ」

「ははは…しかし男同士でこんな話もなにか変だから別の話をしようじゃないか」

「だな」

 

 

 

 

 

それからは二人でこれからについて色々と語った。

そしてしばらくして飛行機はこちらの倫敦に到着した。

そこで思う。やはりどの世界でも倫敦は魔的な関係が深い場所だなと。

しばらく歩くと待っていたのか一人の女性がこちらに向かってきた。

 

「久しぶりですね、タカミチ」

「やぁマクギネスさん。相変わらず時間にはきっちりしているね」

「いえ、職務ですのでお構いなく。それよりあなたが衛宮士郎さんですね」

「はい、そうです」

「お待ちしていました。メルディアナ学園長もさぞお待ちになっています。なんでも石化を解けるかもしれないという力を持っているという…」

「ドネットさん…今ここでは」

「っと、そうでしたね。私とした事が嬉しさのあまりはしゃいでしまいました」

「やっぱり君も嬉しいんだね」

「ええ。彼らのことを思うと今も心が痛みますから…とくにネギ君は心に深い傷を負ってしまった事件でしたから」

「それは聞きました。だから自分も役に立ちたいがために本日はまいった次第です」

「ふふ…感謝しますね、衛宮さん。さ、それでは向かいましょうか」

 

それからドネットさんに案内をされて俺とタカミチはウェールズに到着した。

…そういえば、ウェールズはセイバーの故郷の近くの場所であったな。

ぜひとも時間があれば色々見物していきたいものだ。

そんなことを考えているうちに俺達は草原に建っているネギ君の故郷に到着した。

ドネットさんは先に用があるというのでメルディアナ学園長のもとへと向かった。

それで変わりの案内役が出てきてくれたのだが、どこかで見覚えが…

 

「あなたがネギの副担任をしていらっしゃる衛宮さんですか?」

「ええ、そうです。そういうあなたは話に聞くネギ君の姉の…」

「はい。私はネカネ・スプリングフィールドです。お会いできて光栄です、衛宮さん」

「士郎で構いませんよ、ネカネさん」

「そうですか。ではシロウさんと…」

「!」

 

…驚いた。一瞬だが彼女が俺を初めて名前で呼んだセイバーに被ってしまった。

それでなにか疑問の表情をしているようだったから俺もすぐに普段どおりにして話を進めた。

それからはというもの、ネカネさんは俺とタカミチにネギ君のことを色々と心配して話を聞いてきた。

それで俺も「最初はやっぱり不安でしたが今ではしっかりと先生の仕事を頑張っていますよ」と伝えた後、

 

「ほんとうにネギ君の事を大事に思っているんですね」

 

それで急に話し続けていたことに気づいたネカネさんは顔を赤くしてすみませんと謝ってきていた。

そうしていると突然後方から、

 

「ネカネお姉ちゃーーーん!」

「アーニャ! 来てくれたのね」

 

二人はまるで中睦ましい姉妹のように抱き合っていた。

 

「ええ。なんでもすごいことをするっていうんですぐに戻ってきちゃった」

「ええ、そうよ。きっとあなたも喜ぶことだわ」

「そうなんだ! …ところでタカミチさんはいいとしてこの白髪のおじさんは誰なの?」

 

グサッ!

そういう擬音がまさに俺の胸を貫通した。

ぐおぉっ!? まさか…またおじさんといわれる時が来ようとは…! やはりこれか!? この白髪がいけないのか!!?

おもわず俺は前のメリにあまりのショックに倒れそうになったがそれをタカミチが支えてくれた。

 

「すまないタカミチ…」

「いや、いいんだ。なぜか士郎の気持ちがダイレクトに伝わってきたからね」

「アーニャ! いきなりシロウさんに失礼でしょ!?」

「あわわ…! ごめんなさい!」

「大丈夫だ…この白髪で言われるのは慣れているからな…ハハハ…」

 

それからなんとか気持ち立ち直った俺はこの赤い髪の少女に挨拶をした。

この子も確かネギ君の記憶に出てきた一つ上の幼馴染の子か。

 

「俺は衛宮士郎。ネギ君の補佐をやらせてもらっているものだ」

「あ、これはご丁寧に…私は『アンナ・ココロウァ』…アーニャと呼んでください。…えっと、シロウさん?」

「わかった、ではアーニャと呼ばせてもらうとしよう」

「はい! でもタカミチさんと一緒にいるっていうことはこっちの関係者でいいんですか?」

「ああ、そうなるな。ネギ君の補佐もそれでやっているものだからな」

「そうですか。それでネギは今どうしてますか!?」

「順調に勤務や修行に励んでいるよ。本当に十歳とは思えないほどだと常々思っている」

「そっか。アイツもしっかりと頑張ってるのね…もっと話を聞きたいところですけど今はネカネお姉ちゃんに聞きたい事があるので…」

「構わない」

 

それでアーニャはネカネさんに話を移らせていた。

それにしても本当に元気な子だ。

 

「それでネカネお姉ちゃん…すごいことって一体なにをするの? 詳しく聞いていないからなんのことかさっぱりなんだけど…」

「それは、ある場所に案内してから話すわ…シロウさんも関係していることなのよ?」

「シロウさんが…?」

「ええ。それでは学園長もお待ちでしょうし向かいましょうか」

「ええ」

 

そして俺達はメルディアナ学園長がいる部屋に案内された。

そこにはあちらの学園長とは違い威厳がある人物がいた。

さすがは魔法学校の校長だ。貫禄がやけに様になっている。

 

「よく来てくださった。衛宮士郎殿。タカミチ、案内感謝するぞ」

「いえ、僕も士郎には感謝しなければいけません」

「え? え? なんのことなの? なにか重要な会議でもあったなら私は外で待っているわよ?」

「いや、アーニャ。お前も聞いてなさい。これはここ数年誰も…ワシですら成し遂げられなかった事が起きるかもしれない事態じゃからの」

「そうよ、アーニャ…」

「それでは早速だが地下に向かうとするかの士郎殿」

「わかりました」

「え…」

 

そこでアーニャの声が途絶えた。

先ほどのなりは陰に隠れて代わりに怒りのようなものが沸きあがっていた。

…当然か。まだ会ったばかりの俺に不信感を持たない方がおかしい。

そして思った通り、

 

「おじいちゃん! なんでシロウさんをあそこに連れて行くの!? 関係者以外立ち入り禁止なんでしょ! ましてまったく関係ないシロウさんを連れて行くなんて…!」

「これ、失礼じゃぞ。士郎殿はもしかしたら彼らを救えるかもしれないのじゃぞ?」

「それって…!」

「そうだよ、アーニャちゃん。士郎はもしかしたらやってくれるかもしれない。それは僕も実証するよ。なんせ士郎は僕よりも強いからね」

「よしてくれタカミチ。何度もいうが…「本当に救えるの!?」…アーニャ…」

 

アーニャは目に涙を溜めて俺にすがるように問いかけてきた。

…タカミチの話によるとアーニャの親も石化されたと聞く。

だから、俺は一度頷いて、

 

「俺は、そのためにこの場に来た…ネギ君の過去を垣間見たからには救わねばと…」

「本当に、助けてくれる、の…? お母さん達を…」

「出来る限り尽くしてみる。だから…泣き止むんだアーニャ。君は笑顔の方がとっても似合っているぞ」

「うぐっ…うん、ありがとうシロウさん! それじゃ私が連れて行ってあげる!」

「おっと!」

 

アーニャは一転して俺の手を掴んでその場所まで案内してくれると言ってくれた。

だから俺もとくに抵抗もせずについて行った。

後ろでネカネさんとタカミチ、メルディアナ学園長の優しい笑い声が聞こえてきて俺はこの思いは決して間違いではないと感じた。

そしてその場に到着して…その光景に圧倒された。

そう…そこには石化された人々がすべて運び込まれていたからだ。

思わず俺は歯軋りをした。どうしてこのようなひどい事をしたのか召喚者を見つけ出してすぐにでも尋問したいほどに。

 

「シロウさん大丈夫…? 顔が怖いよ…」

「いや、すまない。少しばかり怒りがこみ上げていただけだから…もう、大丈夫だ」

「それでは士郎殿。さっそく取り掛かってくれんかの…ワシもこの目で見たいんじゃ。コノエモンが言っておった異界の魔術という奴を…」

「やっぱり学園長は話していたんですか。ま、今回限りは目を瞑りましょう。どうせ今使うことですから」

「え、異界って…」

「…どういうことですかお爺様?」

「コノエモンに聞いた話じゃが士郎殿ともう一人のここにはいないイリヤという姉君はこことは別の世界からやってきた魔術師なんじゃ」

「「えっ!?」」

「このことはネギ君達には話していない…だからネカネさんもアーニャも内緒にしておいてくれ」

「「………」」

 

二人はもう頷くことしかできないでいた。

だから俺も魔術回路を開いて研ぎ澄ませて硬く、力強く魔力を高めていく。

この人たちを救うためにも…!

そして、

 

「―――投影開始(トレース・オン)

 

そう呟き俺はすべての工程をすべからく完了させていき歪な短剣を剣の丘から引きずり上げる。

 

「――投影完了(トレース・オフ)。是、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

「むぅ…なんと。話には聞いておったがこれがすべての魔術をリセットする短剣か。魔力が尋常ではない!」

「ええ。ですからこれも口外は避けてもらっているんです。こんなものが作り出せる俺はまずこの世界でも実験材料に使われる可能性が高いと聞いていますから」

「そうじゃの…」

「それよりアーニャ…君の母親はどれだね? まず君から願いを叶えてあげよう」

「別にいいのに…でも、ありがとうシロウさん!」

 

アーニャに案内された場所には一人のアーニャに似た女性が石化されて立たされていた。

 

「この人か。よし…みなさんは少し下がっていてください。まずは突いてみます」

 

そして俺は女性に破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を突きつけた。

途端、俺の体になにかが逆流してくる感じがしてすぐに離した。

そこで見たがやはり悪魔の石化は強力…どうやらさっきのは弾かれた反動だったのだろう。

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)ですら弾くとはすごいな。

だが…調子に乗るなよ。

俺は再度神経を集中させた。

魔力は喰われるが一時的なものだ。救えるなら何度でも唱えてやろう!

 

 

「“破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)”!!」

 

 

真名を開放した途端、光が溢れ女性の石化された全身がまるで砕けるように吹き飛びその場にはもとの姿を取り戻したアーニャの母が横たわった。

アーニャは石化が解けた途端にすぐに駆け寄った。

 

「お母さん! お母さん!!」

「………」

 

だが、母親から返事は返ってこない。

そこで俺はまた遠坂の講座を思い出した。

 

『いい、士郎? 石化された人間は運良く解呪できてもすぐに解くならともかく早くて一年…遅くて三、四年は目を覚まさないわ。

期間もそれに関係してくるから破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を使う際はここだけは覚えておきなさい。焦ってもことはすぐに解決するわけじゃないんだから』

 

…本当に教わっておいてよかった。やはりお前は最高の魔術師だったよ遠坂…。

だから俺も遠坂の言葉を借りることにした。

 

「大丈夫だアーニャ。石化の期間が長ければ長いほど目を覚ますのも期間が必要だが、いつかきっと目を覚ましてくれる」

「ほん、と…?」

「士郎殿の言う通りじゃ…しかしまさか本当にやってくださったとは…感謝するぞ」

「ええ…私も心より感謝します」

「僕もだよ…ありがとう士郎」

「いや、感謝されるにはまだここにいるすべての人を解いた後でも構いません、それに俺の自己満足でしていることですから」

 

それだけ伝えて俺は何度も真名を解放しては人々を石化から解いていった。

だが半分くらい解呪して魔力もなくなってきて真名も言い続けた反動で激しい頭痛と眩暈が襲ってきて俺は地面に思いっきり倒れてしまった。

みんなは急いで駆け寄ってくるが、俺は手で静止して震える手で起き上がり再度、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を構えるがどうやら魔力の限界は近いらしくもう力が入ってこない。

ここまで、なのか…。

だがそこで頭に直で姉さんの声が聞こえてきた。

 

《まったく…少し見ていたけどもう我慢ならないわ。シロウ、私の魔力も使いなさい! ここまでやったんだから全員救うのよ!》

「姉さん…感謝する」

「今の声は…イリヤ君かい?」

《そうよ、タカミチ。私達魔術師はパスさえ繋いでいれば魔力を分け与える事が出来る。だから存分に持っていって、シロウ!》

「ああ!」

 

そして姉さんの魔力が俺の体を満たしていくことを感じつつ、もう効率は悪い方法はやめた。

 

「――――投影開始(トレース・オン)工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)

 

設計図に残り人数分の数、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を作り出し、

 

「―――I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)―――……停止解凍(フリーズアウト)!」

 

瞬間、俺の頭上に複数の破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)が浮かびがった。

それにさすがのみんなも驚きの表情をしていた。

だが、今は構っていられない。

ランサー戦に続いてまた魔術回路が悲鳴を上げだす。

だがこの程度、死ぬよりはまだマシだ!

 

全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

俺の命令に忠実に従って短剣達はまだ石化している人達全員に突き刺さった。

そして俺の新しい呪文(スペル)

 

開放されし幻想(オープン・ザ・ファンタズム)!!」

 

その効果は『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』のように破壊ではなくその宝具の力を最大限解放するもの。魔力も馬鹿にならないほど使うが一々真名を開放するよりは効率はいい。

そして、それによってすべての人々は石化から開放され地面に横たわっていた。

とうの俺も魔力はまだ残っているが、回路がちらほら焼きついている感覚を覚え、激しい頭痛に襲われ意識は暗くなった。

だが、その際に姉さんの笑顔が一瞬垣間見えたので俺は安心して眠りについた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

…しばらく眠りについていたらしく見ると外はすっかり暗くなっていた。

タカミチが言うにはゲートが開くのは朝方だというからちょうどいい時間帯だっただろう。

そして見ると俺が寝ていた部屋にはタカミチが椅子にもたれ掛かりながら眠っていてネカネさんとアーニャは俺の看病をしていたらしく俺の布団の上で一緒に眠りについていた。

それで二人の頭を優しく撫でてやるとネカネさんが起きたらしく俺にいきなり抱きついてきた。

……はい? なんでさ!?

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「い、いや一回落ち着こうネカネさん…アーニャやタカミチも起きてしまう…!」

 

ネカネさんは気づいてないらしいが俺の顔を自分の胸に押し付けているのだ。

俺は大人の態度で接しているが内心かなりやばい。

しかし俺の声が届いていないのかネカネさんは嬉し涙を流していて話を聞いちゃいない。

そこでやはり二人は起きてしまい、アーニャは顔を真っ赤にしてタカミチも心持ち頬を赤らめている。

…色々な意味で俺は悲しくなった。

魔術回路(神経)が焼き焦げていてまだ鞘が修復中なため、動かせないこの体は自業自得といってしまえばしかたがないが今は憎い…。

しばらくしてメルディアナ学園長がやってきてネカネさんを落ち着かせた。

それで先ほどまでの自分のしていた事を思い出して顔を盛大に赤くしてネカネさんは俯いてしまっていた…。

 

「ほっほっほ、若いというのはいいの。それで士郎殿、体は動きそうかね?」

「今はまだ駄目ですね。普通なら全身麻痺で一生動かせないようなことをしていましたから…」

「やはりな…宝具をああも連続で酷使したのだから廃人にならなかっただけよかったの」

 

それにやっと俺の体の異常を知った三人は切迫した顔になり俺の体を気遣って、そして怒ってくれた。

 

「…聖剣の鞘に魔力を流して今現在神経を修復中ですから朝までには完治させますよ」

「よかったよ。せっかく村の人々が助かったというのに士郎が代わりに死ぬなんて事があったら顔向けできない…」

「そうですよシロウさん! もっと自分を労わってください!」

「そうよ!」

「すまない…」

「しかし、君の体には彼のアーサー王の失われた鞘が埋め込まれているとは凄い話じゃの」

「ええ、まぁ…それで今、解かれた人々はどうしていますか?」

「あまりに機密な話だから今はワシの信頼できる部下達だけに情報を知らせてベッドを手配させていつ目覚めてもいいように緊急の措置魔法も構築中じゃ。だからまだあの地下室に全員寝かしてある」

「そうですか…それできっと今その話を世間に出すと混乱しますから…」

「士郎殿の言いたいことはわかっておる。ネギにはもちろん関係者にも当分は隠すつもりじゃ。もちろん解いた方法なども伏せての」

「それを聞いて安心しました。あちらの学園長ではすぐに話してしまいそうで怖いですから…」

「ははは…確かに否定できないね。それで士郎、朝には治るといっていたけどそれまでに動けるかい? 予定の時間は迫っているけど…」

「なにかつっかえ棒があれば…」

「わかった。その程度なら僕が肩を持ってあげるよ」

「すまないな…」

「なに、士郎なら軽いものだよ」

 

それから朝までネカネさんやアーニャが積極的に面倒を見てくれたので俺は回復に専念することができた。

だが、なぜだろう? ギンノアクマがとてもお怒りになられている感じがひしひしと伝わってくる。

もしかしたら気絶する前に見た笑顔は怒っていた笑顔だったのかもしれない。

…これは帰った早々ガンドをもらうかもしれないな…。

そして朝になり俺はタカミチに支えられながら三人に送られて魔法世界へと旅立った。

 

 

 




原作ではこのかがいつ解いたかはわかりませんが、もう石化を解除しました。
次回、ネカネに異変がッ!


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044話 魔法世界での一時とネカネの片思いと…

更新します。


 

 

 

──Interlude(1)

 

 

士郎とタカミチを送った後、アーニャと学園長は話しに夢中になっていた。

 

「ねぇねぇ! おじーちゃん! シロウさんてすごいわね! あんなものを作り出せる上にタカミチさんよりも強くて、しかも魔法世界のお偉い人達にも認められた鍛冶師なんだから!」

「そうじゃの。士郎殿には下げる頭も足りんほどじゃしな。のお、ネカネ…ネカネ?」

「…………」

「ネカネお姉ちゃん…?」

 

メルディアナ学園長とアーニャはネカネに話しかけたが返事は返ってこないことを不思議に思い、よく二人で顔を覗き込んでみると…。

 

「シロウさん…」

 

士郎の名を呟きながらまるで恋する乙女のような…いや、まさに恋する乙女の表情をして顔を赤く染めていた。

それを見て学園長とアーニャは、

 

「…駄目だわ」

「落ちたのう…」

 

二人して複雑な顔をしていたそうだ。

 

 

 

──Interlude(2)

 

 

 

その頃、麻帆良でも乙女の直感を素晴らしいほどにイリヤとこのかは感じ取っていて普段よりエヴァの修行では身が入っていたそうだ。

今にもイリヤはこの場に士郎を召喚して拿捕しようかと思っていたらしい。

…士郎、南無。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 

タカミチとともにゲートをくぐった俺はおもわず呆気にとられてしまった。

そこは既に地球という枠から外れたまさに異世界…

地球では見られない建造物や、飛行船が空港内を飛び交っていてとても盛んなものだ。

そこでタカミチに声をかけられやっと現実に戻ってくると、

 

「士郎にとっては壮観だろう…まさにここは地球とは別離した世界だからね」

「ああ、確かに…それに俺達の荷物も細長い一つの小箱に納まっているというのだからさすが魔法世界といったところか」

「そうだね。さ、手続きしてさっさと向かうとしようか。ここを出ないとさすがの士郎でも魔術は使えないだろう?」

「いや、そんなこともないぞ。やはり構造が違うから影響はないらしい。それにもし封印されたとしても破ろうと思えば簡単にできそうだがな…」

「物騒な事は言わない方がいいよ?ここは監視も厳しいからね」

「了解した」

 

それで早速受け付けに行き荷物が入ったケースを受け取って手続きを済ませた。

 

「はい、これで登録は完了いたしました。タカミチ・T・高畑様に衛宮士郎様」

「ありがとう、いつもすまないね」

「ありがとうございます」

「いえ、仕事ですからお気遣いなく…それより高畑様、もしかして衛宮士郎様は今世界で噂の『鍛冶師エミヤ』でございますか?」

「そうだよ。今回はメガロメセンブリアの領主との顔合わせで士郎を連れてきたんだ」

「まぁ! そうだったのですか! 衛宮様、ぜひ握手してくださいませんか? 領主と直接会われるなんてとてもすごいことですから」

「あ、ああ…」

 

それで俺は接客対応の人と握手をした後、気恥ずかしくなりすぐに空港から出た。

そしてやっと一息ついて、

 

「はぁ…なぁタカミチ。今更だが俺はそんなにすごいものを作ったのだろうか?」

「当然だよ。瞬間的に魔法を切り払うアーティファクトなんてそうそうお目にかかれないし…

切れ味、強度もおそらく世界ではトップクラスのものだと僕は聞いているからね。あくまで試作の段階の話だけど…」

「おいおい悪い冗談だろう? では本作りをしたものは評価はそれ以上ということになってしまうのか?」

「おそらく、ね…いやぁ、領主の驚く顔を見るのが楽しみだよ。ところで士郎、もう体の方は大丈夫になったかい?」

「ああ。回復に魔力を集中させたから少しばかり魔力不足がちだがもう通常の動作は問題ない」

「そうか。しかしすごい回復力だ。鞘の恩恵はすごいね」

「まぁな。それとこれ以上はこの話は帰るまで禁止にしよう。さすがに気づかれたらたまったものではない」

「そうだね。それじゃこちらでも飛行船が手配しているはずだから行くとしようか」

「ああ」

 

その後、飛行船に乗って俺とタカミチはゲートの近くにあったメガロメセンブリアの街のさらに中心にある首都に向かい領主が待つ城まで向かった。

そこでもやはりタカミチは有名なようで歓迎を受けていた。

そして代表の間まで通されて色々身体チェックされていたがなんなく通された。

だが、やはり国の代表ともあり命が狙われる危険性もあるので何重にも張られた防御結界で間は封鎖された。

領主自身も顔は見せてくれないが先に送られていた俺の作成した武具達をえらく評価してくれた。

 

「これでさらに世界の安定と治安を守っていく事が出来ます。感謝しますよエミヤ殿」

「いえ、もったいなきお言葉…しかし自分の作成したものを評価していただき感謝します」

「いいですよ。それより契約のサインを致しましょうか。あなたほどの実力ある鍛冶師はぜひとも我が国の力になることでしょうから」

「…はい」

 

そして直々に契約のサインももらい俺はいくつか条件付きでメガロメセンブリア専属の鍛冶師の一人となった。

その条件というのは、タカミチ同様にまず人助けと職務を優先したいから依頼がある場合、時間がかかっても構わないかという物。

それに領主は快く了承してくれた。

さすがに俺のプライベート時間も裂かれたらたまったものではないからな。

どうやら隣にいるタカミチも誇らしげだが、しかしどうも俺はやはりこのような場は合わないと思った。

まるで魔術協会に突き出されているようで心を落ち着かせることで精一杯だったからだ。

その後も武具の説明などの資料を黒塗りの部分も多々あるが渡したり、何名かの鍛冶師からはどうやってこのようなものを作ったのか聞かれたが話すわけもいかないのでタカミチと一緒に「企業秘密です」と受け応えしておいた。

そして外に出るとたまっていた息を一気に吐き出した。

 

「どうしたんだい、士郎? やっぱり緊張したのかい?」

「ああ、まぁそれもあるんだが…ああいう場所はどうしても魔術協会と被ってしまいまるで死刑台に立たされている気分だったよ」

「あー…そうか。それは悪いことをしたかな?」

「いや、大丈夫だ。こちらでは魔法も隠匿されていないようだから投影を見せなければそうは捕まらないだろう。アーティファクトの力ともいっておけばそれで済む話だしな」

「そうか。士郎のアーティファクトは士郎の心象世界とリンクしているから何度でも武器を取り出せるんだったね」

「そういうことだ。さて、用は済んだことだしまだゲートが開くには後一日あるのだろう? これからどうする?」

「そうだね…観光でもするかい?」

「それもいいか。お土産を買っていくのもいいし…」

「よし、それじゃ…」

 

タカミチが話を切り出そうとした時、こちらでも使えるらしい携帯がなった。

それにタカミチは出てみると次第に真剣な表情になってきた。

そして携帯を切ると、

 

「すまない、士郎。観光は後でいいかい? 仕事が入った。どうも麻薬取引の現場をおさえたという話ですぐに向かって欲しいとの事だ」

「そこは…?」

「ここからちょっと遠い場所だ。転移ポートまで時間もかかるから士郎はここで―――…」

「水臭いぞタカミチ。“来たれ(アデアット)”…」

 

俺は『剣製の赤き丘の千剣』を発動してその上に乗った。

カードのオマケ効果で自然と俺の姿はいつもの聖骸布の外套を纏った姿に変化していた。まったく便利なものだ。

そしてタカミチに手を伸ばし、

 

「乗れ、これならすぐに向かう事が出来る。時速はおそらく先ほどの飛行船より早いだろう」

「士郎、ありがとう。では向かうとしようか。場所は僕が案内するよ」

「了解した。では飛ばすぞ!」

 

タカミチを乗せてすぐに千剣で空を駆けて、何度も飛行船を追い抜きながら目的地に向かった。

そして麻薬組織を壊滅する際に使った俺の固有技法『錬鉄魔法』―――結局、いい名が思いつかず姉さんとエヴァがこれに決めた(他の魔法使いにはこれで通せとのこと)―――で、

タカミチが使う『咸卦法』とともにたった二人ですぐに制圧したことから『最強コンビ』の名を轟かせてしまった。

その後、またいくつかの組織を制圧して観光は出来なかったもののなんとかお土産は買えたので良しとしてゲートを通り地球に戻ってきた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

そして帰りにまたお土産も持参してネカネさんのところに向かうとちょうどネギ君の手紙が届いていたらしく目を通していた。

タカミチには先に飛行機の手配でドネットさんと連絡を取っているらしいのでこの場にはいない。

 

「あ…あら、シロウさん。帰ってこられたんですね」

「ええ、領主との契約も済ませた後、いくつかタカミチと違法組織も制圧していて寄り道はしましたがね…それよりネギ君の手紙ですか?」

「ええ。今から見ようと思っていたんです。一緒に見ますか?」

「でしたら拝見させてもらいます」

 

それで俺もネカネさんの隣に座ったらなぜか顔を赤くしていた。熱だろうか?

それから映像が流れ出し、まずは挨拶から始まり日ごろの話などをしていてその中に中間テストの話題も出て俺は「ああ…」と相槌をした。

クラスは三位となかなか好成績だがアスナが最下位だという話になって、そこでやはりアスナがネギ君を取っちめようと飛び出してきたが間が悪い。

アスナも手紙越しで挨拶をしてまた日常の話になったが、

 

『そちらに今前に話したとても強い士郎さんが行っていると思うからお姉ちゃんも仲良くしてね。とてもいい人だから』

 

と、つい吹きそうになった。

ネギ君は今俺がこの手紙を見ていることは知らないだろう。

なかなかに気恥ずかしいことをいってくれる。

 

「ふふ…シロウさんはネギにとても信頼されているんですね」

「まぁ、なにかと騒動は起こしては助けていましたから…」

 

二人して苦笑いを浮かべた後、手紙を再生したがそこでネギ君の顔は少し真面目と言うか暗くなった。

それでなにかを言いかけたがやはり話すのをやめたのだろう。話を紛らわしていた。

 

『追伸、新しい友達が出来ました。コタロー君ってゆー子です。今度紹介するね。それじゃまた』

 

それで手紙が終了して終止元気そうなネギを見て顔を綻ばせていたが俺の方に向いて、

 

「…あの、シロウさん。ネギになにかあったのですか? あの子が私に隠し事するなんてそうそうないですから…」

「そうですね。話してもいいのか迷いどころですが…」

「構いません。もしそれでネギになにか言われたら私が庇いますから」

「別に言われるのは慣れていますから構わないですがありがとうございます。では…」

 

それで俺は直接ではないが知っている限りであの雨の夜の話をネカネさんに聞かせた。

悪魔の襲来で捕らわれたアスナ達…

皆を救いにいくために戦いにいったネギ君と小太郎…

そして真実の姿を現すヘルマンという悪魔…

そして昔の傷口を開かれて魔力暴走を起こしてしまったネギ君…

それから仲間の助けもありなんとか倒すことはできたがとどめは刺さなかったこと…

…すべてを話し終わったときにはネカネさんも顔を青くしていた。

 

「ネギにそんなことが…どれだけ辛い気持ちだったのでしょうか」

「…それは俺にはわかりません。ですがネギ君はそれを糧に成長したことは確かなことです」

「シロウさん…ネギのこと、まだお願いしてもよろしいですか? きっとネギは今心の中で泣いています。私もできればすぐに向かって一緒に泣いてあげたい…でもそれはできませんから」

「わかりました。俺なんかでよければいつでも…そうだ。ネギ君の携帯の電話番号を教えときます。これならいつでも会話できるでしょうから」

「ありがとうございます。あの、それでシロウさんのもよろしいですか?」

「ええ、いいですよ」

 

番号を書いた紙をネカネさんに渡したところでちょうどタカミチが戻ってきて飛行機の手配が済んだとの事なので俺はネカネさんに一礼してから向かおうとした。

だがそこで呼び止められて、「また、いつでも来てくださいね。歓迎します」と言われたので俺は微笑で「はい」と答えてタカミチの場所に向かった。

 

 

 

──Interlude(3)

 

 

 

士郎達を見送ったネカネは見えなくなるまで手を振っていたが、その後はもうすごいものであった。

まだ故郷に残っていたアーニャはとても顔を綻ばせているネカネを遠くから見て学園長にこう言葉を残した。

 

「ねぇ、おじいちゃん…ネカネお姉ちゃんを少しどこかに当分は閉じ込めておいた方がいいんじゃないの? このままだと狂喜乱舞までしちゃうかもしれないよ?」

「むぅ…そうじゃのう。検討しないといけないかもしれん。これでは授業にも支障をきたすかもしれん」

「お姉ちゃんをあそこまでしちゃうなんて…シロウさんってただものじゃないわよね。そのシロウさんもシロウさんでお姉ちゃんの気持ちは気づいてなかったみたいだし…」

「恋は突然というからの。片思いとは…ネカネも若いものじゃ」

「そうだね…」

 

二人はもうすでに狂喜乱舞を始めてしまったネカネを見て盛大にため息をついた。

 

 

 

Interlude out──

 

 




ネカネさん、陥落。


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045話 学園祭編・準備期間(01) ネギ、甘酒に酔い本音を暴露

更新します。


 

 

 

俺は麻帆良の地に帰ってくるなりタカミチとともに学園長室へと急行していた。

どうでもいいがあちらではやはり時間が違うらしくすでに朝になっていた。

そして扉を開いた途端、腹部に重石のようなものが衝突したような錯覚を覚えながら後ろに吹き飛ばされた。

なにごとかと目をチカチカさせていると学園長室には学園長以外に俺に飛び込んできたのだろう姉さんに、このか、刹那、エヴァまでいた。

 

「もう! シロウ、受け止めてくれなきゃだめじゃない!?」

「いや、あの威力は部屋の端から全力で強化付与ダッシュしてきたくらい威力はあったと思うのだが…」

「また無茶した罰よ。一歩間違えていたら廃人になっていたんだから…」

「そうやよ、士郎さん。もっと体は大事にせんといかんよ?」

「お嬢様の言い分には同感です」

 

たった数日だというのになぜかこの場が懐かしく感じるようになったのは俺もここに溶け込んできたということなのだろうか?

もう何人、人を手にかけてきたかわからないというのに…この場にいていいのかと一瞬頭に過ぎる。

だが、それでも振り返りはしない。その人たちの分も姉さんとともに幸せになる道を探さなければいけないからな。

 

「…それで、士郎? 村の住民達はどうなったんだ? お前が全身麻痺までしてやったのだからまさか失敗したなどと抜かすなよ?」

「その心配は無用だ。今頃は全員緊急処置魔法が施されたベッドで横になって眠っていることだろう」

 

それを告げると部屋中にわっとした空気が流れた。

学園長も目は眉毛で見えないがそこから流れてきている涙は歓喜の涙だった。

だが、残念なことも一緒に伝えなければいけないということも考えると気が重くなる。

タカミチが隣に立って小声で「僕が話そうか?」と言ってくれているがここは自分で話すと伝えてタカミチはすぐに下がってくれた。

 

「それでですが…解呪はできましたが、残念なことに全員目は覚ましておりません」

「え? なんでやの、士郎さん…」

「それは当然よ、コノカ」

 

そこで姉さんが話しに介入して来た。

 

「石化された人間はすぐのものなら意識は一日もかからずに回復するわ。それは京都でもわかったでしょ?

でも長い期間石化されていたものは反動でその分、目を覚まさないわ。ネギの歳から考えると早くても三、四年…遅くて同数の月を重ねなければ目を覚ますことはない。

こっちではわからないけど私達の世界ではそれが普通だったわ。そこらへんはどうなのコノエモン?」

「うむ。その辺りは似たり寄ったりじゃな。しかし解呪できただけでもいいところなんじゃから今は素直に喜んでおいたほうがいいの。ありがとうの士郎君」

「いえ、お役に立てたなら光栄です。それであちらのメルディアナ学園長との話で当分は公にはしないことになりました」

「それが妥当だろうな。長年石化を解除できるものが見つからなかったというのに突然解呪できたとなれば話は自然と士郎とイリヤに流れて二人の正体がばれてしまいかねない…」

「そうだね。エヴァの言うとおりだ。あちらでは今もどう話を捏造するかで今頃は案を出し合っている頃だしね…」

「それとネギ君には時期が来るまでは内緒の方針で話は固まりました」

「そうですね。ネギ先生がそれを知ったらきっと修行どころではなくなってしまいますから…」

「可哀想やけど内緒にしておいたほうがいいんやな…わかった、ウチ絶対話さんようにするわ」

 

このかがキッと真面目な表情をして言ったので学園長もついつい顔が綻んでいた。

っと、そうだ。あのことも話さんといけないな。

 

「それと話は別に移りますが魔法世界で自分は不定期ですがメガロメセンブリアの専属鍛冶師の一人になったのでその報告をしておきます」

「ほっ!? それはまことの話か、タカミチ?」

「ええ。領主も大層上機嫌でしたよ」

 

それからは俺とタカミチの魔法世界雑談になって色々話をした。

それから少したって、

 

「そういえば、士郎さん」

「なんだ、刹那?」

「いえ、たいしたことではないのですが悪魔襲来から少しして犬上小太郎がこの学園に入学してきたので伝えときます。今はランサーさんとやり合っている頃ではないでしょうか?」

「そうか。それとネギ君のほうだが…今はどうしているかわかるか?」

「僕も気になっていたんだよ。あれから元気がなかったようだから」

「だったら顔出ししに行きましょう。今なら朝のHRが開かれる少し前の時間でしょ」

「はっ! そうでした。お嬢様、すぐに向かいましょう。ネギ先生が朝礼を始めてしまいます」

「そうやな。ほな士郎さん。先にいっとるで」

「ああ」

 

それから二人はすぐに教室に向かっていった。

エヴァはいかないのかと聞いたが「だるい」で切り捨てられた。

それで俺は姉さんとタカミチとも別れて教室へと向かい途中で新田先生に会った。

 

「おや、衛宮先生。お帰りでしたか」

「ええ。出張から戻ったばかりでして」

「それはご苦労様ですな」

「ありがとうございます。それより新田先生はどうしたんですか? 自分はクラスに顔を出そうと思っているのですけど…」

「いえですな。先日からまだクラスの出し物が決まっていないらしく3-Aの生徒達がうるさいんですよ。先日もなにやら『メイドカフェ』とわけの分からないものを出そうとしていたので心配でして…」

「また騒ぎを起こしているんですか…本当に元気なクラスですね」

「まったくです。お、思った通り3-Aのクラスがまた騒いでいますな。少し説教をしますかね」

 

まったく新田先生は真面目な方だ。

あのクラスを抑えるのは至難の技だと言うのに…

だが、扉を開いて新田先生と当然俺も前に広がっている光景に目を点にさせた。

なんとネギ君が逆セクハラにあっていて女装させられそうになっていたからだ。

俺はそのまま固まっていたがすぐに復帰した新田先生の怒声が響きまた出し物の話はお流れになり、ネギ君は本当に説教を受けていた。南無…

俺は代わりに久々に見た面々に程ほどにしろと釘を刺しておいてHRを続けた。

それから一日ネギ君はずっと落ち込んでいたが出席番号30番の四葉五月に『超包子(チャオパオズ)』に連れられていったので慰めていた俺も便乗することにした。

そして店に連れてこられたがすごい繁盛ぶりに驚いた。

ネギ君は四葉に出された料理を食べてとてもおいしいと言っていたので俺もそれを食べてみた。

瞬間、俺の舌は精密に解析を行っていきとてもではないが14歳の少女が作ったものとは思えないものだと即座に分析し終わり、

 

 

 

「四葉…お前はとても料理が上手なんだな。俺も思わず舌を鳴らしてしまったぞ」

 

「…―――いえ、以前に衛宮先生が作ってくださった料理に比べれば私もまだまだです」

 

「謙遜することはない…これならお店を開けるのも納得だ。もしかして将来料理人にでもなろうとしているのかね?」

 

「…―――よくわかりましたね。はい。私、将来自分のお店を出すのが夢なんです」

 

「そうか。君なら実現できるさ。ぜひ諦めずに頑張ってくれ」

 

「…―――ありがとうございます…」

 

 

その光景を見ていたアスナ達は、

 

「やっぱり士郎さんって料理の話になると人が変わるわね。四葉さんもいつも以上によく喋っているし…」

「そうですね。士郎さんはただの趣味だといっていますがお店を出すには十分の器量を持っていますし」

「そうやね、せっちゃん。あ、なんか大学の人たちが喧嘩始めよったみたいや。士郎さんも動き出したみたいやけど四葉さんが先に動いたみたい」

 

俺はこの団欒の場で喧嘩などという行為を行う奴等に説教をしようと立ち上がったが四葉にそれは私の役目ですと言われて見学することにした。

すると古菲が喧嘩グループの間にでかい鉄球付きの棒を振り下ろして全員それで静かになった。

そして四葉が前に出て、

 

 

「…―――あんた達、ここでの喧嘩は御法度だよ!」

 

 

と、物静かな声なのに妙に威圧が篭められた声で喧嘩グループはなぜか「…さっちゃん」と癒されているような声を上げ喧嘩はそこで終了となった。

しかし、やはり四葉はすごいな。あれだけのメンバーを静めてしまうのだから。…一瞬コアラが四葉の背後に見えたのはきっと幻だろう。

その後、また団欒が続いたが新田先生達が現れて朝のことを笑いながら謝りネギ君に飲み物を提供していた。

しかしそれは甘酒だったらしくネギ君は泣き上戸を始めてしまった。

そこにタカミチがタイミングよく現れてくれたが余計話がこじれたらしく、

 

「僕は強くなんてなってないですーーーっ! 僕ッ…ただ逃げていただけなんですっ…!」

 

その言葉にネカネさんの言ったことを思い出してやはりまだ子供…あれは辛かったのだろうなと思った。

アスナもそれを聞いて少し表情を変えた。

…安心してください、ネカネさん。ネギ君は自分達が見守っていきますから。

そう決心している間にもネギ君はヒートアップしていたらしく、

 

「僕は…僕はダメ先生で…ダメ魔法使いですぅ~~~~~っ!!」

 

…………、いやだめだろ!? 酔っているとはいえその発言はまずいぞネギ君!

それなので俺とタカミチさんは早急に目配せをして店の裏へとネギ君を連行した。

そして寝てしまったネギ君を四葉と古菲に預けてその場を後にすることになった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

…翌日、

 

 

四葉に慰められたのだろうネギ君はHRを率先して進ませて文化祭の出し物を『お化け屋敷』に決定させた。

それにクラスの一同も異論はないらしくほぼ全員が「いいんじゃない?」といってこうして文化祭の準備が始まったのである。

四葉もネギ君の元気な姿を目にして嬉しそうな顔をしていた。

 

 

 




学園祭期間に入りました。


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046話 学園祭編・準備期間(02) 幽霊騒動と使い魔の契約

更新します。



―――追記。

今、活動報告でこのかと刹那の仮契約のアーティファクトを考案中。
よかったら見に来てください。


 

俺は今、非常に怒っている。今なら目の前にいる刹那と龍宮すら敵に回してもいいだろうと思う。

それはなぜかって?

その理由は時間を少し遡ることになる。

それはまた俺が教室で一人寂しそうにしている相坂と話をしていることだ。

今はHRで決まったお化け屋敷の件で話をしている。

 

『それでネギ先生、私が手を上げたら名前をいってくれたんですよ』

「そういえばあの時は本当なら相坂を抜けば5票のはずが6票になっていたな。ネギ君も気づいているのかもしれないな」

『はい、ただの気のせいだと思うんですけど…気づいてもらえたかもって思うと嬉しいんです』

「そうか。それはよかった…さて、またついて来るか? 一人じゃ寂しいだろう?」

『はい、是非!』

 

相坂はそういって俺にとり憑いた。

それから二人して歩いていると姉さんも帰りのようで一緒に寮に帰る事にした。

相坂は姉さんの帰り途中で拾ったランサーともなにやら楽しそうに会話していた。

俺と姉さんはその前を歩きながら、

 

「でも…シロウの眼もずいぶんと強力になってきたわね。私もシロウに言われるまでサヨの存在には気づかなかったわ」

「確かに…最近は強化をかけないでもずいぶん遠くを見えるようになってきたからな」

「でもサヨのことを見たら元の世界の協会の降霊科の連中は卒倒しそうね」

「そうだな。根源にいかずに世界に取り残されているからな…」

 

それで少し気が重くなったのでこの会話は終了させた。

 

「おい、士郎。この嬢ちゃん中々可愛いじゃねぇか。もし生きていたなら後十年はしたら相手にしてもいいくらいだぜ」

『はわわ…! 恥ずかしいですよランサーさん。私なんて地味で存在感も薄いですから…』

「いや、相坂は十分美形の部類に入ると思うぞ? 肌も白いしな」

『し、士郎先生…ありがとうございます』

 

そこで相坂はランサーに言われた以上に顔を赤くしていた。

はて? そこまで変なことをいっただろうか?

 

「おーおー、相変わらず無意識に女を褒めるのは得意だな。これが天然って奴か?」

「そうね。自覚していないからなお更に性質が悪いけどね…」

 

なぜかランサーはニヤニヤとしながら、姉さんは少しムッとしながら俺を見てきた。

ランサーはともかく姉さん、妙な魔力がにじみ出ているから抑えないか?

それでなぜか少し額に汗が出ていることに気づいたのでこれはいかんと回避行動を探そうと試みていると前から帰り途中なのだろうネギ君達が歩いてきた。

 

「あ、士郎さんにイリヤさんにランサーさん! 今帰りですか?」

「ああ、そうだ」

「それじゃ一緒に帰りましょうか」

「はい」

「それよりおい、ぼーず。修行ははかどってるか?」

「はい。コタロー君の方はどうですか?」

「あいつは中々筋がいいぜ。実力はまだまだだがそれでも将来はいい戦士になるぜ」

「ランサーさんが言うなら信憑性がありますね」

「そうやね、せっちゃん」

 

皆が楽しく会話しているところで相坂が俺に話しかけてきた。

だから俺も小声で話を聞いてやった。

 

「どうした相坂…?」

『はい、士郎先生達にも気づいてもらえたからもしかしたらネギ先生達にも気づいてもらえないかと思って…』

「そうか」

『はい。だから話しかけてみようかと思って…』

「そうだな。いい機会だから話しかけてみたらどうだ」

『はい!』

「士郎さん誰と話してんの?」

「ぬおっ! あ、朝倉か…驚かすな」

 

俺と相坂が小声で会話していたら朝倉がカメラを構えながら話しかけてきたのでとっさに相坂を隠すように前に出て会話を続けた。

すると「これはなにかあるな?」といった感じの好奇心の眼差しをしたのでヤバイと思いながらも落ち着いてなにもないぞと伝えておいた。

相坂は俺が朝倉の相手をしている間にネギ君達に話しかけているがどうもやはり気づいてもらえなかったらしくしょぼんとして、それから角に躓いてこけて泣いていた。

…それより幽霊ってこけるものなのか?

それでしょうがないなと思って今度は口の中で呪文を呟いて再度、姉さんとランサー以外に気づかれないように相坂を立たせてやった。

『ありがとうございます…士郎先生』と言われたので今度は気づかれないように口だけ動かして「気にするな」と答えておいた。

だけどそこでネギ君が相坂の泣き声に反応したのかどうかは分からないが一瞬相坂のいる場所に振り向いた。

 

「どうしたのよ、ネギ?」

「あ、いえ何でも…」

 

アスナが疑問の顔をしてネギ君に聞いているがネギ君も原因がわかっていないらしくきょろきょろと一回周りを見回した後、また普通に歩いていった。

それで希望が持てたのか相坂はなにか決意したような顔になっていた。

それを見ていた俺達は、

 

「なにか…嫌な予感がするが気のせいか?」

「いんや、これは何かしでかすかもしれねーな?」

「シロウ、乗りかかった船なんだし最後まで付き合ってあげるのよ?」

「わかった」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

…そして翌々日、嫌な予感は的中することになった。

相坂は昨日に勇気を出して学園祭準備のためクラスに残っていた皆の前に姿を出したらしいがいかんせん幽霊だから普通に考えてまともに掛け合いができるわけもなく写真も撮られて新聞に載ってしまっていた。

それで昨晩、教室にいた面々は騒ぎを起こしていてこちらに関わっている者達は、

 

綾瀬は、「あれは本物だと思います。なんというかリアリティーがありました…てっきりまたネギ先生絡みの事件かと…」

アスナは、「私もそう思ったけどね…」

このかは、「昔から出るって噂はあったんよ」

宮崎に至っては涙を流して頷くだけであり、

とうのネギ君も「幽霊は見た事がないので…」

と、言っていたので傍観していたがそろそろただ事ではなくなってきた事を俺は感じ取って対策を取ることにした。

だが、行動を起こす前に朝倉が俺に近寄ってきて、

 

「ねぇねぇ士郎さん…」

「なんだ朝倉…? その妙に暗い感じの顔は?」

「…いやね? 一昨日に士郎さんを撮った時にね、同じ写真が出てきちゃったんだ…それでなにか知ってるかなって」

 

まずい、これでは事を大きくしてしまう可能性がある。

なので無難に「知らん」と回避。朝倉がなにか疑惑の目を向けてきたがここは無視。

そしてその後、相坂を俺は冷静を装いながらも探すことにした。

 

……そうしているうちに日は落ちやっと相坂を見つけた時には新聞の記事の前で泣いていた。

誤解されたとはいえ不憫な…。

すると相坂は俺の存在に気づいて泣きついてきた。

 

『どうしましょう士郎先生! なんかすごい誤解されちゃいました!』

「う、うむ…これはさすがにまいったな。刺激するとさらに悪化する可能性が起きてくる。とりあえず相坂は俺にとり憑いていろ。なにかあったら守るから…」

『はいぃ…後迷惑かけます』

「気にするな…しかしなにやらウチのクラスが騒がしいな?少し…いやかなり嫌な予感がするが向かってみよう」

『はい…』

 

それで教室に向かってみると生徒達がなにやら胡散臭い…失礼、物騒な銃を構えていた。

そしてネギ君達もなにやら相坂の過去を調べたらしく話し合いをしている。

しかし、注目する点は何名かの持っている銃に書かれている『除霊』や『封神』といった生々しい言葉…。

それに少し眩暈を感じながらも、

 

「…君達は一体なにをしているのだね?」

「あ、士郎さん。ちょうどいいね。士郎さんがいれば百人力だよ」

「朝倉、これは一体なにをしようとしている…?」

「まぁまぁ、すぐにわかりますって。それじゃうちの秘密兵器を投入するよ。宮崎!」

「は、はい!」

 

なぜ宮崎が秘密兵器なのだろうか? そう思い俺は宮崎の方へと向いた。途端、血の気が引いた。

宮崎がなにをしようとしているのかは分からんが人の心を読むアーティファクトを出している。

これは…やばい!

そう思った時には、遅かった。

 

「相坂さん…あなたが出てきた目的はなんですか?」

 

反応してはいけない! とも言えず相坂は宮崎の言葉に反応してしまった。

そして案の定、宮崎の日記には断片的な言葉しか映らず写真のように悪霊っぽく絵が映ってしまっていた。

宮崎はそれですぐに「この人は悪霊です!」と叫んでしまい事態がさらに悪化した。

 

「くっ! 相坂、逃げるぞ!」

 

俺は混乱の声があちらこちらから響く中、小声で話しかけたが混乱してしまっていて俗に言うポルターガイスト現象を起こしてしまっていた。

やばいやばいやばい!!

もうこの際周りは混乱しているのだから錬鉄魔法を使い無理にでもここから連れ出そうと試みようとしたが、

 

除霊銃(じょれいガン)発射(ファイア)―――ッ!!」

 

誰の命令かも知れない大声が上がりそれは俺の前でなぜか放心状態になっている明石に放たれ俺はとっさに明石を守り直撃を受けてしまった。

 

「がっ、ぐっ……」

 

なんて威力、だ…物理攻撃力も入っていたのか?

意識が朦朧とする中、相坂に目で逃げろ! といって俺は地面に倒れた。

このかやネギ君達があわてて駆け寄ってくるがここで気絶するわけにはいかない。

だから即座に俺は鞘に魔力を流して回復を試みる。

その間にもカモミールに依頼を受けたらしい龍宮と刹那が相坂を追っていく光景が見えて……なぜかそこで俺の中でなにかが外れる音がした。

 

属性、付加(エレメントシール)“風王”(エア) ……魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)……」

「え!?」

「士郎さん!?」

 

クラス中が混乱している中、俺の行動を気づいたものは駆け寄ってきたネギ君、アスナ、このか、朝倉、ほか関係者数名…遠見でエヴァに茶々丸。

それならば遠慮はいらないだろう…。なぁ、衛宮士郎?

心の中でささやき声が聞こえてくる。

相坂は俺が守るといったのだ。ならば責任を持って守ってやろうではないか。

工程を速やかに済ませていき風属性の魔剣を身に纏う。

そして俺は何もなかったかのように立ち上がり自分でも分かるくらいの暗い声で、

 

「彼女は悪霊などではない…寂しがりやでただ友達が欲しいだけの善良なこの3-Aのクラスメートだ…それだけは伝えておく」

 

…そう、それだけ伝えれば十分だろう。俺は風の属性効果である魔力放出と瞬動を併用し一瞬で教室から飛び出して刹那達が追っていった場所に向かった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side ネギ・スプリングフィールド

 

 

士郎さんは怒りを顕わにしながらそれだけ伝えるとまるで風が吹いたかのように一瞬で教室から姿を消していた。

やっぱり、さっきの日記内の『友達』っていうのはそういうことだったんだ!

僕ももっと早く気づいていれば…!

そこに師匠(マスター)が話しかけてきた。

 

「…士郎の奴はここに来た時からすぐにアイツの存在に気づいて暇さえあれば話し相手になってやっていたんだよ。アイツは今まで誰にも気づいてもらえずにずっと独りだったからな。お人好しの士郎の奴はそれが放っておけなかったんだろうな?」

「そんな…! 今までそんな話一度も…」

「話せるわけないだろう? ただでさえ幽霊なんて存在は珍しいものだからな。オカルトなどの話題に使われるのが目に見えている」

 

師匠(マスター)はそういってため息をついた。

 

「あかん! せっちゃん達をすぐに止めな!」

「ネギ君! いくよ!」

「朝倉さん…! はい!」

「一つだけ伝えておこう。今の士郎は少し感情が不安定だ…どうにかしろよ? あの二人が消される前に…」

 

不安要素全開の言葉を残して師匠(マスター)はまた教室の端の椅子に座っていた。

でも、それだとお二人が本当に危ない!

僕は朝倉さんと一緒に教室を飛び出した。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

頭の中がすべてクリアになっていっている。

ただ一点に“相坂を助けろ!”という信号だけがチカチカと光っている。

今の脚力なら二人を追い抜くことは苦ではないだろう。

見えた…!

相坂はもうすでに追い詰められていて逃げ場を失っている。

ならば二人よりも早く、速く、疾く…!

そして俺は相坂の前に姿を置いた。

それに刹那と龍宮は驚いた表情をしていたが今は思考外だ。

すぐに錬鉄魔法【風】を解いていつも相坂用に使っている錬鉄魔法【霊】に変換して体に纏い、泣いている相坂の頭を撫でてやった。

それで落ち着いたのかどうかは定かではないが泣き止んだので、俺は思考外に外していた二人を睨んだ。

 

「さて…どうしてこういう事態になったのかはこの際どうでもいいがクラスメートを殺そうとするのはよくないぞ?」

 

即座に投影できるように右腕を中空に上げた。

しかしどうにも感情が制御できていない。このままこの黒い感情に身を任してしまったら俺は…どうなってしまうのか?

暴走寸前での感情に歯止めがきかない! この、ままでは…

だが、そこで俺の体から力が一気に抜けた。

正確には魔力をごっそりと吸われたような感じだ。最低限無くなっている。

一応助かったがそんな事ができるのは恐らく一人…

 

「…まったく、シロウったら人の命が消えるかもしれない事態になったらすぐに飛び出す癖はどうにかしなさい!」

「そうだぜ。感情を制御できなけりゃ戦場では即死が待ってるからよ」

「姉さん…それにランサー。すまない…」

 

どうやら俺の異常を察知したらしく二人は来てくれたらしい。感謝しなければいけないな。

そして俺はうつぶせに倒れながらも殺気を向けてしまった刹那達にも謝罪した。

それに刹那と龍宮も「いえ」といっていた。龍宮はどうかは知らないが刹那は少し後悔気味だったので後でもう一度謝っておこう。

そしてそこにネギ君達がやってきて状況がわかっていないがとりあえず落ち着いたことを確認して相坂にネギ君と朝倉は友達の件で「僕(私)でよければ」と言って話は丸く収まった。

 

そして俺の方はもう暴走しないことを確認したらしく姉さんが魔力を戻してくれた。

それで立ち上がり関係者の皆にはすまないと謝り、それで気まずい雰囲気もなくなって一日は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

…余談だがそれ以降さらに俺は相坂に気に入られて取り憑いて寮まで来るようになった。

ランサーと会話するあたりの光景を見てなんかサーヴァントっぽくなってきたな。

それを話すとランサーは納得して、姉さんは後で内容は知らないが相坂に試したい事があるとか言っていた。

それでなにをするのか聞いてみると、

 

「サヨをシロウの使い魔にするわ」

「え゛…?」

『使い魔、ですか…?』

「そうよ、サヨ。それならもう一々シロウに取り憑くこともないし…いえ、使い魔だから同じようなものね。とにかく場所に限定されないで動けるようになるわ」

『わぁ、それは嬉しいです…』

 

姉さんはそう言いながらも場所を俺の工房に移して魔法陣を描いていた。

しかし媒体となるものはどうするのだろうか?まさか前の世界で出会った死神の使い魔である猫のように動物の死骸を使うわけもいかない。

それを伝えると、

 

「そうね…エヴァの人形を使わせてもらうのはどう?」

「あの真祖のお嬢ちゃんが素直に渡すとも限らねぇぜ?」

「ランサーの言う通りね。それじゃとりあえず今はまだ実体化は後に伸ばして手っ取り早くパスだけでも繋いじゃおっか? 幸いシロウはサヨに触れるんだから私が共感魔術を執行するからレイラインが繋がるまで抱き合ってなさい」

「え…えっと、それは~…」

「………(……体は剣で出来ている、体は剣で出来ている、体は剣で出来ている……)」

 

相坂は声がしどろもどろになりながら顔を赤くしている。

俺も目を瞑って平然を装いながらも心の中では世界に繋がる呪文を呪詛のように唱え続けていた。

 

「…ごめんなさい。変な意味に聞こえたわね。ただ肌を触れ合っているだけでいいから」

 

それを聞いて安心したからまだ顔が赤い相坂と手を合わせて指定された魔法陣の上に立った。

…しばらくして相坂との間に俺の回路が繋がっていく感じがして姉さんが「終わったわよ」といった時には相坂とパスが繋がっていた。

別に一般の魔術師のように使いをさせるつもりはないが念話が出来るのは便利だな。

相坂もなにか体が軽くなったといっていたので自縛霊の呪いから開放されたのだろう。

その後、相坂は嬉しそうな顔をしながら空を浮遊していた。

 

「でもよかったわ。サヨの魂が根源に帰っていなかったから魂が一段階上に昇華していたから今回は成功したものだしね」

『根源、とか昇華、とか意味はよくわかりませんけどありがとうございます…!』

 

こうして相坂はまだ今までのように霊体のままだが俺の正式な使い魔となった。

 

 

 




さよちん、士郎の使い魔になる。
学祭が終わったら色々と手を尽くしたいですね。


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047話 学園祭編・準備期間(03) 年齢詐称薬の悲劇

更新します。

まだ活動報告でこのかと刹那の仮契約のアーティファクトを考案中。
よかったら見に来てください。


 

 

…相坂と使い魔の契約をしてから数日、

小太郎はランサーとよく訓練している光景を目にする。どうもやはり性格的にも戦い方も似ていることもあり俺より適任らしい。

だから俺も刹那との訓練に集中できる。…だがそれでも小太郎は俺とも模擬戦をするのが楽しいらしくよく挑まれたりするが…。

他にも依頼された武具をエヴァの別荘で作成したり、学園祭の準備を手伝ったりとなにかと忙しい日々を過ごしている中、とある夜のこと俺達はネギ君達が生活している寮室に呼ばれていた。

刹那も一緒にいるのだからなにか大事な話なのか?

 

「俺に相談? なにをだ、カモミールにネギ君?」

「あ、はい…それなんですけどカモ君、お願い」

「わかりやしたぜ。士郎の旦那、少し明日とある事情で手伝いをしてもらいたいんですけど」

「手伝い? 俺はなにをやればいいんだ?」

「また性懲りもない理由だったら怒るわよ?」

「いや、イリヤの姉さん…蒲焼は遠慮したいっす…」

 

カモミールはもう心の奥に埋め込まれたかのように姉さんにすぐに土下座をしていた。

そんなに怖いか? 怖いか…。

俺は即座に解を出してとりあえず今カモミールは当てにならないのでこのか達に話を聞いてみることにした。

 

「それであらためて俺になにを頼みたい?」

「それがなー、士郎さん。アスナがどうにも高畑先生とのデートに踏ん切りがつかないんで士郎さんに予行演習を頼みたいんやって…」

「ちょっ…! このか、私は何度も言ったけど頼んでいないでしょ!?」

「…デートの練習だと? しかし俺でいいのか? それでタカミチはどうかは知らんが変に見られても知らんぞ?」

「そうね…それでなにか作戦とかはあるの?」

「そこはこれっすよ。イリヤの姉さん!」

 

カモミールは復活したと思ったらなにやら赤と青のアメが入っているビンを取り出した。

しかし、どこかで見た事があるような…ああ、あれか。

 

「どこかで見たことがあると思ったら年齢詐称薬か…」

「士郎の旦那はご存知だったんっすか?」

「ああ。出張中に見せてもらった事があるからな。しかしやはり犯罪っぽい名だな…」

「それなら話は早いっす! とりあえず赤いアメ玉を試してくれないっすか? 士郎の旦那ならタカミチ風の男性になると俺は睨んでるっすけど?」

「言いたいことはわかったが…俺はこれ以上変化するのだろうか? なぁ姉さん?」

「大丈夫じゃないの? あくまで幻術の類なんだから…」

 

鞘の恩恵でそんなに変わらないだろうと思い姉さんに相談してみた。

このかや刹那はこの事は当然知っているが他の面々は知らないため理由を話すわけにもいかない。

とりあえず俺は言われたままにカモミールに渡された赤いアメを舐めてみた。

すると突然視界が真っ白に覆われて次に気づくとなにやら俺の体は変化しているようだった。

なんか視界が低い気がする。まぁそれはいいだろう。

今気になっている事は別にある。なにか大事なものを失ったような喪失感が…。

それになにか皆の注目する視線が想像より違うような?

 

「な、な、な……カモミール! あなたシロウに一体なにを飲ませたの!?」

「そうやでカモ君! 士郎さんに後でお仕置きされてまうで!?」

「お、おかしいっすね…? しかし、これはこれでいいんじゃないっすか…?」

「カモさん!」

 

なにか、反応が盛大だな。もっとこう「おおー…」という言葉が出ると思ったが、

それでなんでそんなに皆は顔を赤くしてアスナに至ってはカモミールをそんなに握っているのだろうか? 中身が出るぞ?

 

「みんな、一体どうし………ん? なんか声が高いような…どう考えても俺の声ではない…」

 

そう、なぜか声が高い…。それにより俺の警報が鳴り響きだす。そしてどっと嫌な汗が流れ出す。

誰か、なにか言ってくれ…。正直言って不安しかないのだが…。その悲痛な視線は止してくれ!

姉さん! アスナ! このか! 刹那! ついでになぜか視線を逸らしているネギ君!

なにか言ってくれ…!

そしてやっと俺の心情を理解してくれたのか騒いでいた一同は真剣な顔つきになって、

 

「…ねぇ、シロウ。あの薬を飲んでからなにか違和感を感じないかしら?」

「あ、ああ…正直に言えば今もなお感じている…まるで自分の体ではないような…というか、そのいつもより優しい声はなんだ、姉さん?」

「そうね…。まどろっこしい言葉じゃ余計不安にさせてしまうわね。コノカ、鏡台を用意!」

「はいな!」

「なぜに鏡台…?」

 

鏡台を用意する意味があるのだろうか? それほど変わって…いるのだろうな? なぜか涙腺が緩んできたのは嘘だと信じたい。

そして俺の前に鏡台が置かれようとしている。

なぜか置かしてはいけないと俺の危険予知センサーが訴えている。

だが現実は俺に鏡を見ろと強制してくる。

そしてついに見てしまった。

そこには銀髪のこのか達と同世代っぽい“少女”がぶっきらぼうな表情をしながら佇んでいた。

もう一度言おう。“少女”が鏡に映っていた。

まず髪だが今までの髪型と違いセミロング…。

肌はなぜか姉さんに近いくらい白くなっていた。

身長はなぜかアスナ達と同サイズ。それにより着ていた服が思い切りダボダボで半分以上脱げていた。

……そこまでは、まぁよくもないがどうでもいいとして今は保管。

だがどうしても放っておけないのが見た目は遠坂以上姉さん未満くらいの自己出張をしている胸…、代わりに感覚からしてなくなっている男の大切な場所。

 

「ほう…俺は女になったのか。そうか、そうか」

『………』

 

無機質ながらも女性の声が自覚させてくれる。

一同の痛々しい視線が相当堪える。

今、盛大に叫びたいがここは女子寮…今の俺なら多分問題ないがプライドが許してくれない。

よって、心の声で「なんでさーーーーーッ!?」と叫び、

次の瞬間には俺はカモミールをアスナから奪い取り力の限り握り締めた。

 

「カモミール…これは一体なんだ…? あ?! 返答次第によっては俺は貴様を葬らなければいけない…」

「ギブ! ギブッすよ! 俺っちもなにかなんだかわからないんっすから!」

「では速やかに調べろ! 説明書にでもなにか記入されているのではないか!?」

 

俺は息を荒くしながらもカモミールをどう尋問するかを考えていた。

そしてしばらく経過してカモミールは説明書を最後まで見終わると顔を青くしていた。

 

「わかったか? ほら、さっさと言ってみろ。酷くはしないから…」

 

優しく問いかけながらも反面いつでも投影できるようにスタンバイする。

それにカモミールは震えながらも、

 

「こ、これはっすね…」

「これは…?」

 

殺気もこめた視線を浴びせながら問いかける。

それにより他の一同も震えていたが今は思考外だ。

 

「これは『今回限定! 『もし自身が男性もしくは女性として生まれていたら?』というコンセプトを元に開発された貴重な一品。これであなたも性別反転と若返り…一粒限りの魔法薬! でもどれがそうかわからないから慎重になって使ってね! 効果は丸一日!』…だ、そうっすよ」

「なん、だと…?」

 

カモミールがそれを大量の汗を流しながら答えたら俺以外の一同も固まったらしい。

だがすぐに復活した俺は、カモミールにとてもいい笑顔を浮かべて、

 

「貴様! 説明書は最後まで読んだのか!? これは本当は知っていて飲ませたのではないか!?」

「あぶぶぶっ!? 士郎の旦那、落ちる! 落ちるっすよ!」

「ええい! このまま落ちてしまえ!!!」

 

カモミールをシェイクしまくる。この不条理で理不尽な怒りの発散場所はこいつ以外ありえない!

しばらくして…カモミールは本当に落ちた。

なので俺もやっと落ち着きを取り戻したので真面目に会話を始めた。

 

「………さて、この馬鹿は放っておくとして丸一日この姿というのは実に厄介だな」

「とりあえずシロウ。なにか変わりのモノを着たらどう? ネギにはさすがにきついものがあるみたいよ?」

「ん。そうだな…しかし俺の男のプライドとして女物は絶対に着ないからな?」

「え~? せっかく一日その姿のままなんだから楽しまなくちゃ!」

 

……どうやら“ギンノアクマ”を呼び起こしてしまったらしい。

あー…なんていうか気分はブルーだな。あ、別にあの人のことではないぞ?

しかし、ここにきて幸運Dが発動するとは思っても見なかった。

俺は姉さんに無理やり引きずられながらも助けの視線を求めたがその日は誰も助けてくれなかった。

おそらく姉さんが目を光らせて四人を凝視したのだろう。震えているようだ。

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

…翌日、

 

 

俺は、それはもうひどい辱めにあっていた。

誰が好き好んでスカートなどというものを穿かなければいけないのか? 最後の抵抗で下着だけは許してもらい男女両方で穿けるハーフパンツでその上に現在スパッツを穿いているがそれでも十分心もとない。ブラもさらしで許してもらった。というよりなぜにセイバーの服装をチョイスしたんだ?

学園長にも姉さんが代わりに今日は休みという報告はしてもらった。

…決してバレるのが恥ずかしいわけではないぞ?

昨晩、ランサーに見つかり大爆笑されたのはそれはもう苦い思い出だ。

そして現在このかと刹那、カモミールとともに見た目十五歳のネギ君とアスナがデートをしているところを尾行中だ。

 

「しっかし、本当に違和感ないぜ。士郎の旦那。いや、今はシホの姉さんと呼ぶべきか?」

「フフフ…面白いことをいいますね? これは一体誰のせいだと思っているのですか…?」

 

昨晩に姉さんにより暗示をかけられて身動きが出来ずに様々な辱めを受けて、もう吹っ切った…ことにしておいてくれ。

名前も今日限りで『シホ』と名乗ることになってしまい女性言葉も強制されてしまい俺はカモミールに現在女性言葉でにこやかに対応している。

イメージとしては喋り方はセイバーを基本にしているらしいと姉さん談。

 

「…士郎さん、無茶はあかんよ? 後で直すのが大変やろ?」

「そうです。いつもどおりの喋り方で別に構いませんから…」

「姉さんに強制魔術(ギアス)で無理に女性言葉を強要されているのです…だからお気になさらず」

『………(士郎さん、可哀そう…)』

「その悲痛な視線はよしてください。私自身かなり自己嫌悪に陥っていますから…」

「なんというか、もう別人だな…」

「だから誰のせいだとお思いですか…!」

「俺っぢのべいだす…だがら離してぶださいっす!」

 

俺は心で涙を流しながら女性化してしまって下がった筋力で、しかし思いっきりカモミールを雑巾のように引き絞った。

ああ、もうどうにでもなれ…。たった一日だ。我慢だ我慢!

だがそこでこのかから爆弾が投下される。

 

「士郎さん。少しええか?」

「なんですかこのか? それと今はシホと呼んでください。エヴァにもしもばれたらいい笑い話のネタですから…」

「あ、う、うん…それでなんやけど昨晩イリヤさんにつれてかれた後…なにがあったん?」

「昨晩ですか? 昨晩、昨晩………」

 

思い出されるのはギンノアクマと化した姉さんによるあらゆる辱かしめ…。

それはもう言葉では表現できないような様々な痴態。

ギリギリ貞操は守れたが…何度か……はて、何度か? はっ、何度かッ!?

 

「いやあぁぁぁーーーーーッ!!!」

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

突然、士郎さん…もといシホさんは悲鳴を上げて頭を抱えてしまっていた。

心なしか士郎さんとしての部分が自然になくなっているような?

 

「襲われてしまう! 襲われてしまう! いや、いやぁっ!!」

「シホさん! シホさん!! しっかり! 大丈夫や、今ここにはイリヤさんはおらんから!」

「そうです! だから落ち着いてください!」

 

しばらくシホさんは情緒不安定であったが少しして落ち着いたのか、

 

「…すみません。変に取り乱してしまって…」

 

シホさんは落ち着いたと言っているがそれはどうも外側だけで内面はまだなにかトラウマになった出来事を思い出しているのか震えている。

しゃくりをして涙を流しているのがいい証拠だ。

イリヤさん、あなたは一体シホさんにどんな仕打ちを…。

 

「もう、その話題は避けてください…精神的・肉体的両面で死んでしまいたい」

「…すまんかった。だからもう泣き止んで。な?」

「はい。苦労をかけてすみません…」

 

シホさんは私達に謝罪をしてきている。

もう士郎さんの面影がはっきり言ってないに等しい。

だけど…、

 

「なんていうかシホの姉さん…下手な女より女らしいぜ。男が女性になったら女性以上に可愛くなるって言うが…まさにその通りだな」

「カモさん! 追い討ちどころかとどめの一撃をかけるとはひどいですよ!?」

「…いいんです刹那。気にしないでください…」

 

シホさんはほにゃっという単語が似合いそうな微笑を向けてきたので思わず私とお嬢様は顔を赤くしてしまった。

士郎さんもそうですがシホさん状態も相当笑顔はある種危険なものだということは確かですね。

私は今も見惚れてしまっていて胸がドキドキしてしまいますから。

だけどさらに次の瞬間、戦慄が走った。

微笑を浮かべた後、今度は猛禽類のような視線でカモさんを睨んで口だけ高速で動かしてなにかを言っていた。

お嬢様は分からなかったらしいが…私は、分かってしまった。

シホさんは『この恨み、晴らさでおくべきか…』

…と、呟いていた。

カモさん…自業自得ということで、後で士郎さんに潔く成敗されてください。

 

 

それからやっとアスナさん達に追いついて見物していたらどうもカモさんがネギ先生に特殊な方法で念話をしているようでネギ先生はそのまま命令どおり動かされてやはりアスナさんには気づかれてしまいカモさんはハリセンで叩かれまくっていた。

しかし、修行の成果が出てきていますねアスナさん!

それからお二人は少し休むといったので私達は少し観光をしていた。

…だがシホさんの不幸は終わらなかった。

前方からイリヤさんとともに悪の顔をしたエヴァンジェリンさんがとても愉快に笑いながら近寄ってくる。

 

「ふふふっ…実におもしろい格好をしているではないか? なぁ士郎? いや、今はシホか?」

「そうでしょ♪ シホったら昨晩はとても可愛かったのよ!」

「っ!?」

 

シホさんはすぐに身体強化を施してその場を逃げようとしたが、

 

「…知らないのか? 魔王からは逃げられないんだぞ?」

「むぐぅ!?」

 

エヴァンジェリンさんはどこかで聞いたような某名言を吐きながらなにかしらの力でシホさんの動きを封じて一緒にいた茶々丸さんに捕まえさせてそのままどこかへ連れてかれてしまった。

…………きっと、明日はカモさんの血の雨が降るだろうな…と思いながらもネギ先生達はカモさんに任せて私達はあわてて後を追っていった。

 

翌日の朝、元の姿に戻り疲労の激しい顔をした士郎さんがカモさんを死ぬギリギリの極限状態まで追い込んだらしい。

そしてイリヤさんに聞くに士郎さんには女性の体を教えてあげたといった危ない会話になったが…

これ以上士郎さんの男性としてのプライドをズタズタにしないためにここだけの話に落ち着いた。

 

 

 

…余談だが、エヴァンジェリンさんに連れてかれた士郎さんはなにをされたのかというと、特に何もされなかったが…あの限定一個限りの詐称薬を茶々丸さんに解析・作成させるために体を調べられたらしい。士郎さんの不幸は終わるのだろうか…?

 

 

 




ここにも吸血鬼になったエミヤにつながる原典が!


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048話 学園祭編・準備期間(04) 超の企みと学園祭前夜

更新します。


 

 

 

 

あの珍事件から数日経ち、ネギ君ほどではないが何名かに出し物に誘われて出来るだけいけるようにするといっておいた。

そして学園祭前日となり俺はタカミチに魔法関係者を集めてくれないかと頼まれて俺と姉さん、ランサー、小太郎を連れて世界樹前広場に集まった。

相坂は最近よく朝倉と一緒にいるので今回は呼ばなかった。

そこにはまだネギ君や刹那は来ていないが知っている限りで何名かの知人が集まっていた。

 

「学園長、自分の関係者を連れてきましたが…」

「ほ、よく来たの。何名か知っているものがいるかもしれんがまだ初見の者もおるじゃろ。ネギ君達が来る前に挨拶をしておいたらどうじゃ?」

「そうですね」

 

それで魔法先生及び生徒達がいる場所に俺達も入っていった。

そしてタカミチやガンドルフィーニ先生、刀子先生、瀬流彦先生、明石教授などと挨拶した後、他にも何名か知らない教師がいたので話しかけてみた。

それでシスター・シャークティに話しかけたが陰にどこかで見た人物がいるような…ふむ。

 

「お前、春日か…?」

「い、いやですよー。違いますって」

「いや、もう分かっているから隠さんでいい…微量の魔力を感じていたがお前もそうだったとはな…」

「はぁ…。はい、まだ見習いっすけど…」

「そうか」

 

後、他にもいた弐集院先生と神多羅木先生などとも挨拶を交わした後、生徒の方に目を向けた。

高校の制服を着ている子は知らないが、

 

「佐倉に夏目、お前達も魔法生徒だったのだな」

「は、はい!」

「よく授業ではお世話になっています」

「愛衣? この方をご存知なのですか?」

「え? お姉さまはご存知なかったんですか? この先生が今魔法世界で『鍛冶師エミヤ』として、そして相当な実力者としても有名な衛宮先生ですよ」

「まぁ!? そうだったのですか!」

「君は…?」

 

俺の名が知れた途端、すごいはしゃぎようだと思ったがここは優しく聞いてみることにした。

 

「私の名は高音・D・グッドマンです。会えて光栄ですわ衛宮先生!」

「そ、そうか。俺は衛宮士郎だ」

「はい。私のことはどう呼んでも構いませんわ衛宮先生」

「そうか。では今後は高音と呼ばせてもらおう」

「はい」

 

それで他の三人もあらかた挨拶も済んだ頃に、ネギ君達がやってきた。

ネギ君と刹那はこの事実は知らなかった為ひどく驚きの表情をしていた。

それからあらかた自己紹介も済ませて学園長はここに集めた理由を話し始めた。

なんでも今生徒達の間で話題になっている麻帆良祭最終日に世界樹の下で告白すると必ず結ばれるという都市伝説のような噂で有名な『世界樹伝説』が実は真実の話だということ。

話によると22年に一度、その噂が現実の物となるという。

 

「世界樹と呼ばれるこの樹の正式名称は『神木(しんぼく)蟠桃(ばんとう)』と言う強力な魔力を秘めた魔法の樹であり22年に一度の周期でその魔力は極大に達して外へ溢れ出し、世界樹を中心とした6ヶ所の地点に強力な魔力溜まりを形成する。

その膨大な魔力が人の心に強く作用し、世界征服。百億円欲しい。ギャルのパンティおくれとか、俗物な願いは叶わないがこと告白に関する限り、成就率120%と言う呪いと呼ぶに相応しい現象を引き起こしてしまうのじゃ。

本来なら来年に発生する事態であったが、異常気象のせいか1年早まり今年発生する事になってしまった。そこで今回の緊急招集となった訳じゃな」

 

それからも学園長や刀子先生、明石教授による説明が行われていたが、それとは別に俺と姉さん、ランサーは顔を少し真剣にさせながら念話をしていた。

 

《姉さん、ランサー…これは…》

《ああ、そうだな。まるで聖杯のようだぜ。一見お気楽な話だが正常に起動している以上あの汚れた聖杯より厄介な代物だぜ》

《そうね。これを利用しようとしている者もきっといると思うから気をつけなければいけないわ》

《呪いって時点で余計な…》

 

「そういうことじゃ。マジでマズイのは学祭最終日じゃが、今の段階からそれなりに影響が出始めておる。生徒には悪いが、この6ヶ所で告白が起きないよう見張って欲しい」

 

そして学園長の話が一段落ついたところでふと視線に気づくとそこにはなぜか相坂がいて別に放っておいても大丈夫だろうと思ったがそれとは別に俺の解析の目が機械物を探知して懐から出すようにナイフを投影して徹甲作用を用いてそれに向かって投擲した。相坂には事前に下がれと念話はしてある。

気づくと神多羅木先生も無詠唱で風属性魔法の刃を放っていた。

着弾はほぼ同時で機械は迷彩がとけて俺と神多羅木先生の攻撃により粉々に砕け散っていた。

 

「魔法の力は感じなかった…機械だな」

「生徒か…やるなぁ―――人払いの結界を抜いてくるとは」

「ウチの生徒は侮れませんからね。しかし衛宮君もなかなかやりますね。おそらくあれに一番に気づいたのは君だと思うよ?」

「そうですか? 明石教授…自分は神多羅木先生の方が早かったと思いますが…」

「いや佐倉が気づかなかったら俺も反応が遅かっただろう…」

「追います!」

 

一瞬呆気に取られていたようだがすぐにガンドルフィーニ先生、高音、佐倉が機械を操っていた人物の捜索を開始してその場から姿を消した。

そして最後に学園長の、

 

「さて…たかが告白と思うなかれ! コトは生徒達の青春に関わる大問題じゃ。ただし魔法の使用にあたってはくれぐれも慎重に! よろしく頼むぞ!」

 

という声によってその場で全員解散となり人払いの結界が解けたのだろう…一般の生徒達が増えだしてきた。

それで次々といなくなっていく中、俺達も解散しようと思ったが学園長に一度引き止められて、

 

「ネギ君も士郎君もくれぐれも告白されんようにな。特に士郎君はこのかが特に気に入っておるのだからこちらは知っておるのじゃから事前に伝えとくように」

「き、気をつけます」

「それは私が伝えときます、学園長」

「ふむ、任せたぞ刹那君。それでネギ君の方は大丈夫かの?」

「え゛…? いやぁ、大丈夫ですよ!」

 

その反応に学園長は怪訝な顔をしたがネギ君は思いっきり大丈夫です! といって否定していた。

俺もそこは大丈夫なのか不安になってきたな? あまりに多すぎるからな。

 

 

 

──Interlude

 

 

 

その後、士郎達と別れたネギ、カモミール、刹那、小太郎は誤解もあったが超鈴音を助けるに至る。

ネギの説得もあり追っていたガンドルフィーニ達は今回だけは処分を見送った。

そしてお礼にネギに懐中時計を上げた超鈴音は学園祭前夜の夜、世界樹が光る中、葉加瀬聡美と茶々丸とともに気球船の上に立ちながら、

 

「ネギ先生達はいかがでしたか―――?」

「うむ。茶々丸のデータやハカセの話で知ってはいたが思たよりも良いやつだたヨ。気にいたネ♪ うまく仲間に引き込めればかなり使えるかも知れぬヨ…しかしネギ坊主以外に注意する者は三人いるネ」

「イリヤ先生にセタンタ・フーリン…いえ、真名をクー・フーリン。そして衛宮先生ですね」

「うむ、茶々丸のデータを見せてもらい彼らの過去を見せてもらったが恐らくこの学園で一番の強敵になる可能性大ネ。

でもネギ坊主同様引き込めたらこれほど心強い仲間はいないヨ。逆もまたしかりで私の目的を知ったら排除してくるかも知れぬが…ま、そんな天文学的数値は期待しても損するだけネ」

 

一回ため息を吐いた超鈴音は、だが不敵に笑い、

 

「これからが楽しみネ…」

 

と、一言だけ告げた。

 

 

 

Interlude out──

 

 

 




短めですね。
次回は幕間を二話挟みたいと思います。


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049話 幕間1 従者達の修行(前編)

更新します。


 

 

…これは衛宮士郎と衛宮イリヤことイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの半生とも呼べる記憶を垣間見た後、ヘルマン卿による襲撃を受けて己の無力さを思い知った桜咲刹那と近衛木乃香、二人の物語である。

二人はタカミチの相談のもとウェールズに発った衛宮士郎がいない間、中間テストも終わり落ち着いたところで、イリヤ、ランサーの案内のもとにエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルの弟子であるネギ・スプリングフィールドがいない間を見計らってある相談を彼女に申し出た。

 

「…なに? 本格的に魔法を習いたいだと?」

「はいな…」

「そして刹那の方も己の力が未熟だからと師事を仰ぎたいと…」

「はい」

「どういった理由かは……聞くまでもないな」

「ええ。二人とも士郎と一緒に歩みたいと必死なのよ」

 

イリヤの言葉に二人は頬を少し赤らめるがすぐに真剣な顔つきになりエヴァを見た。

するとエヴァは面倒くさい顔をするかと思いきやニヤニヤと笑みを浮かべ静かに哂いだした。

それにはさすがにイリヤも驚きの表情を禁じえなかったらしく、

 

「ど、どうしたのよ、エヴァ? 私はてっきりネギの時のように「面倒だ!」と言い放つかと思ったわよ?」

「なに、私とてそこまで薄情ではないぞ、イリヤ? それにな、士郎とお前の記憶を聖杯戦争までとはいえ最後まで目を背けずに耐え切ったこの二人には賞賛を贈りたいほどだ。

して、お前達二人に聞く。士郎とイリヤの茨とも言える道を最後まで着いていくと言ったお前達の覚悟は本物か? それともその場限りの勢いだけか?ん?」

 

エヴァのまわりくどい発言に、しかし二人は先ほどの表情を変えずにキッと真剣にエヴァの目に食い入った。

それを見てエヴァはやはりというべきかさらに笑みを深める。

そして目の矛をなぜかイリヤに向けて何事かという感じにイリヤは首を傾げた。

 

「…イリヤ。確か士郎の師匠に当たるそちらの魔法使いにもっとも近いと言われる魔術師、名を遠坂凛といったな?そいつがこちらの世界に来る前に『正義の味方もいいけどまず自分の幸せも考えなさい。最後の師匠命令よ!』と言ったらしいな?」

「ええ。でもそれがなに…?」

「いや、お前に関してはもう士郎からは一生離れないと私は思っているから別に気にしてはいない。

だがな、この二人は本当の幸せをもうその手にしていながらにして士郎に着いて行くという。

つまりは仮初めでもいい、ネギの坊ややクラスの能天気な連中とともにこれからも楽しく平和に暮らしていける生活を切り捨てる覚悟はあるのかということだ」

 

その問いにイリヤは「ああ、なるほどね…」と相槌を打ち暗い雰囲気を醸し出した。

当然のことだ。士郎とイリヤは皆の反対を押し切って世界に旅立ったのだから。

そこにランサーも実体化し、

 

「確かになぁ…真祖のお嬢ちゃんの言うとおりだぜ。強くなりたいといった願望は、まぁ悪くねぇ…俺も人の事言えた義理じゃねぇからな。

だがな、この学園にいる限りは二人は絶対的とはいかねぇがここのトップの後ろ盾もあるから早々危険な目に遭遇することはねぇしな」

「その通りだ。さすがだなランサーのサーヴァント。いや、クー・フーリン」

 

エヴァの真名ばらし発言にランサーはムッとしたがマスターの手前、手は出さず一瞬殺気を放出しすぐに冷静を取り戻した。

それでもエヴァとイリヤはともかくとして近衛木乃香と桜咲刹那はその殺気に恐怖した。

そこで畳み掛けるように、

 

「お前達にとって今ある幸せは簡単に切り捨てられるほど容易いものか?」

「それは…」

「そら、言わんことない。口篭る時点でまだ覚悟が足りない証拠だ。

特に刹那、貴様は近衛木乃香と和解し、神楽坂明日菜やネギの坊や、イリヤ、その他のもの…そして士郎。

これだけ周りに自身を理解してくれるものがいる。以前の貴様には自身の生まれと鬱屈した立場から来る、触れれば切れる抜き身の刀のような佇まいがあった。

だが今は人並みの幸せに浸り以前の様な姿はなりを潜めてきた。平和ボケとでもいうのか? お前は今確かに幸せを感じているはずだ」

「それは…いえ、言い訳はいたしません。はい、確かにその通りです。ですが…幸せになってはいけないのでしょうか?」

「いかんとは言わん。だがその様では士郎に着いていくどころかさらに置いていかれるぞ? それを言わせてもらえば近衛木乃香、お前もそうだ」

「………!」

 

自分に話が回ってきたことによりコノカは極度に緊張をした。

だがそんなことは知ったことではないという風にエヴァは話を続けた。

 

「近衛木乃香。私は以前に言ったな?お前にその気があればネギの坊やと同じ偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)を目指す事ができると…」

 

その言葉にコノカはただただ頷いた。

 

「刹那にも同様に聞くが士郎の記憶を見て近衛木乃香、貴様はなにを思った?」

「…ウチは、とても酷い現実やと思った。なんで士郎さんがこんなに酷い目に会わなければいけないんやと」

「…感想はまぁ悪くは無い。刹那も同様なのだろう?」

「………」

 

刹那も同様の解だった為に無言ながらもその意思は伝わったようだ。エヴァはフッと笑みを浮かべた。

だが次の瞬間、底冷えするような声で「甘ったれるな…」と呟いた。

それには殺気も含まれていたために刹那はとっさに体勢を取っていた。

しかしエヴァは臆することなく、

 

「貴様達の言葉はただの偽善に過ぎん。ここは確かに平和だが今もなお裏社会では戦争(ピン)から殺し(キリ)まで数え切れないほどの殺意が渦巻いている。

士郎のも確かに不幸な事故として言葉だけなら簡単に片付けられるが、本人からしてみればいい迷惑だ。

現実に味わった苦しみをただの言葉だけで片付けられてしまうのだからな」

 

その言葉に二人は深い衝撃を受けた。

そう、確かにエヴァの言うとおりだったのだから。記憶を見たからといって実際に体験したわけではない。

士郎の苦しみは癒す術は無い。士郎以外は誰も生き残っていないのだから理解してもらえる人もいない。

ただ同情されるだけ。それ以上は他人事として踏み込んでくるものは少なくただただ一人で苦しみを背負っていくことだけ。

士郎はそうやって今まで生きてきたのだ。すぐに理解しろというのも酷だが軽率だったと感じざるえない。

 

「…話が逸れたな。して刹那。貴様に問う。貴様は幸せになれると思うか? 私と同じ人外の身の上で…」

「!?」

「ッ! エヴァちゃん!」

「コノカ! 今は黙っていなさい!」

「せやかて……ッ!?」

 

そこでこのかは気づいた。いや、もう知っていた。

イリヤも刹那と同様に人外の生まれだということに…。

それで黙ることしか、出来なかった。

エヴァの問いはイリヤにも向けられているようなものなのだから。

しかしそこでエヴァの雰囲気が少し和らいだ。

 

「イリヤもそうだが、生まれた時から不幸を背負っているお前には共感を覚える…」

「え? それはどういう…」

「以前に聞いた真祖になったのは先天的ではなくて後天的っていう話に関係しているのかしら?」

「イリヤ、覚えていたか…」

「まぁね」

「え、エヴァンジェリンさんは最初から真祖ではなかったのですか!?」

「そうだ。だから言える。そしてもう一度聞こう。貴様等二人は今有り触れている幸せを捨ててでも士郎に着いて行くと胸を張って言えるか!?」

「「………」」

「答えられまい? 当然「ですが…!」だ、ってなんだいきなり?」

 

刹那に言葉を遮られて幾分エヴァは機嫌を悪くしたが、しかし刹那の言葉を聞くことにした。

 

「修羅の道…そして幸せな道…どちらも私は捨てることはしません」

「なんだと…?」

「ウチもや。確かに士郎さんとイリヤさんの進む道は険しいものかもしれへん。やけど士郎さん達は自身の進む道と一緒に幸せの道も探そうとしてるんや!」

「コノカ…」

「だから、ウチは…」

「私は…」

「「士郎さん達の進む道に着いて行くと同時に、幸せの道も一緒に探す手助けがしたい!」」

 

同時に二人は言い切った。

それに端で聞いていたランサーは「ヒュ~♪」と喉を鳴らして思わず拍手でもしてやろうとしていた。

だがエヴァは怒りを顕わにして、

 

 

 

 

「ほざけガキ共が! 甘ったれの貴様等にそれができると本気で思っているのか!?

さらに言わせてもらうが士郎とイリヤとランサーにとって貴様等はただのお荷物になるかもしれないのだぞ!!?

足枷もいいところだ!! 人質にされるか殺されるかが目に見えているぞ!!」

 

 

 

 

エヴァの咆哮ともとれる凄まじい叫びに、だが木乃香と刹那は一切臆せずして、

 

「できます! その為にも今は少しでも強くなりたいと私は感じています! そして士郎さんだけではなくイリヤさん、お嬢様も守れるような立派な従者に!」

「ウチもや! 今は碌に魔法も使えへんけど、…ううん。たとえ魔法が使えなくとも心の支えになってあげたいんや!」

「……………、その言葉に二言はないか!?」

「「はい(な)!」」

 

なおも続くと思われたエヴァの怒声はしだいに薄れていき、最後の二人の返事に完全に怒りは霧散した。

そして変わりに湧き上がった感情は『面白い!』の一言であった。

 

「ふっ…では貴様等二人は士郎が進むと決めた道にありえんとは思うがネギの坊や達が立ち塞がったらどうするのだ?」

「…殺しはしません。ですがもし立ち塞がったなら説得…最悪は押し通らせていただきます」

「アスナ達と戦うのは気が引けるんやけど、もうウチ等は士郎さんに着いて行く気持ちに心変わりはあらへん」

 

二人の言葉に一瞬エヴァは唖然としたがとうとう耐え切れなくなり大笑いを上げだした。

 

「はっはっはっはっ! 実に愉快だ! ならば貴様等二人は状況によっては悪にも正義にもなるというのだな!?」

「極論ですが確かにそうなりますね? できればアスナさん達とは争いたくは無いのが本心ですが…」

「いや、貴様等にはそのくらいがちょうどいいだろう。クックック…。

それと最後に一つ教えておく。士郎の過去を見たお前達ならもう理解していると思うが自身の心に正義、あるいは譲れないものがあるとしても、それは相手とて同じことだ。

ならば時には正義ではなく悪になることも考えておけ。後の歴史でどう評価されようと自身の信じた道を突き進んだならそれが真実なのだからな」

「お! なかなかうまいこというじゃねーか? その物言い、なかなか気に入ったぜ!」

「…ああ、そういえば貴様は今言ったいい例だったな。やはり歴史は奥深いものだな…」

 

ランサーは機嫌がいいのか大笑いをし、エヴァも案外すっきりしたのか微笑を浮かべている。

イリヤも話が落ち着いたのが分かったらしくうんうんと頷いている。

そこでエヴァは二人に声をかけた。

 

「おい、近衛木乃香…それに桜咲刹那」

「なに? エヴァちゃん?」

「なんでしょうか、エヴァンジェリンさん?」

「別荘にお前達二人の部屋を用意してやる」

「「…はい?」」

「最初は近衛詠春の頼みで少しは鍛えてやろうと思っていたが気分が変わった。刹那はともかく木乃香、貴様はネギの坊や以上に魔法の修行を手伝ってやろう。

分からんところは姉弟子であるイリヤにでも聞け。イリヤの部屋もここには用意されているからな。当然士郎もすでに鍛冶の仕事でほとんど入り浸っているから存在する。

用事があればすぐにでも相談できるだろう。そしてここには英霊という規格外の奴もいる。士郎の手が空いていないときは変わりに鍛えてもらえ」

「おいおい…。俺の承諾なしかよ?」

「いいじゃない? どうせ大抵は釣りか小太郎と組み手をするくらいでしょうし…」

「ま、別にかまわねーが…なら、士郎と違い俺は本格的にやるからそこんとこは覚悟しておけよ?」

「は、はい…」

 

少し怖気づきながらも刹那は返事を返した。

後に刹那は語る。「ランサーさんのあの目は新しいエモノを見つけた猛禽類のものだった」と…。

 

「よし、では茶々丸や姉妹達に手配させるとしよう。言っておくが私も手加減はせぬぞ? 覚悟しておけ近衛木乃香…」

「は、はいな!」

 

そうしてエヴァは高笑いを上げながら別荘に入っていった。

呆然としている木乃香にイリヤが肩を叩いて、

 

「それじゃこれからよろしく頼むわね、コノカ?」

「はい」

「それじゃ早速逝きましょうか♪」

「「イリヤさん! 言葉のニュアンスが違います!」」

「気にしない気にしない♪」

 

 

そうして士郎がいない間、ギンイロノアクマとキンノコアクマが二人を魔改造なみに戦力アップさせるのは余談である。

 

 




魔改造計画、開始……。
麻帆良武闘会でのエヴァと刹那のやり取りも回収しておきます。


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050話 幕間2 従者達の修行(後編)

更新します。


そして修行が始まった。

 

 

 

 

修行:近衛木乃香の場合

 

 

木乃香はエヴァとイリヤとともに三人で別荘のコテージにいて、まずエヴァの講義を受けていた。

 

「まず木乃香。まだお前は魔法使いとしては初歩も初歩の段階だ。それは理解しているな?」

「はいな」

「で、だ。以前にも話はしたがネギのボウヤ共々にお前の魔力容量は強大だ。いや、実際お前は容量だけ見ればボウヤ以上はある。

だが今のままではそれを扱うすべを知らないがゆえに現在は宝の持ち腐れだ。だからまずは魔法を教える前に精神力強化を常に実践し自身の魔力容量を完全に把握することに専念することが第一だ。…しかしだ。お前を本格的に育てる事を決めた私としては一から細々と指導していくのは効率も悪く別荘を使っても様になるのも相当の時間を有するだろう。私の性分でもないし、そしてなにより面倒だ」

 

眼鏡をかけて教鞭を振るって真面目に指導していたエヴァだが最後に本音が出て思わず関西人の血から木乃香はツッコミをしそうになった。

だがそこで終わるほどエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルは甘くは無い。

まぁ落ち着けと前置きをして、

 

「…イリヤ、礼のブツは回収できたか?」

「誰に聞いているのかしら? 当然じゃない。コノエモンはかなり渋ったけど『孫の成長の為だ』と書かれたエヴァの紙を見せたら快く譲ってくれたわ。まぁ少しやりすぎた感があるけど気にしないでいきましょう♪」

「同感だ。日々人をおちょくる性格をしている奴にはお灸を据えねばならんからな。よくやったぞ、イリヤ」

「光栄ね。でも本音を言えば実は私も見たかったから…」

「実は私もだ…」

 

イリヤとエヴァは二人して「フフフ…」と微笑を浮かべていたため木乃香はとても気になった。

ついでに言えば自身の祖父の名が出てきてさらに何事かと思い怯えこしながらもなにがあったのか木乃香は恐る恐る聞いてみた。

するとイリヤが笑みを浮かべながらある分厚い本を背負っていたリュックから取り出した。

それはどこか見覚えのある本だなと木乃香は思想し、ハッ! となってようやくそれが何の本か理解した。

そう、それはまだ中学二年の時に学年末テストのために図書館探検部、バカレンジャー、ネギ、イリヤとともに探し出し、後一歩のところで士郎によって返還された魔法の本だった。

本の名を『メルキセデクの書』。

 

「なんでイリヤさんがそれを持ってるん…?」

「あら、理由は簡単よ。あの時この本の噂を流したのは学園長で、あのゴーレムを操っていたのも学園長本人だったんだから」

「………へ?」

「しかし、私ですら貸してもらえなかったこの本をよくもまぁ簡単に入手できたものだな?」

「色々精神攻撃をして参っているところに叩き込みをかけたのよ。“図書館島の時のことを皆にバラスわよ?”とね」

「…トドメの一撃だな。しかしそれを平然と木乃香に教えるところお前も存外悪だな?」

「あらひどい。私は“皆”と言ったのよ? だから契約は完全に破ってはいないわ」

「暴論だな。だが面白い…お前は悪の素質を持っているな。元々がアレなだけに…」

「…エヴァちゃん、イリヤさん…」

「ん? なんだ木乃香…? うっ!?」

「どうしたのよ、エヴァ? …ひっ!?」

 

二人が楽しく会話している中、ただ一人無言でなにやらブツブツ呟いていた木乃香がまるで幽鬼のように無表情かつ冷たい声で二人の名を呼んだ。

そしてそれを聞き見た二人を思わず小さい悲鳴を上げた。

…―――そこには修羅がいた。いや、いるような感じがしたというのが二人の共通認識だった。

その後はもう根掘り葉掘り問いただされエヴァはともかくイリヤは木乃香に恐怖していた。

最後まで聞き終わって木乃香は二人に負けないほどの怖い笑みと「フフフ…」と囁く声とともに、

 

 

 

―――じいちゃん…本気でシメナあかんなぁ…?

 

 

 

余談だがこの時の木乃香の迫力にはさしものエヴァとイリヤも外面は平然としていたが内面は恐怖した。

そのことに対してエヴァは「このような小娘に…」と嘆いていたのを聞いたのは休憩の飲み物を持ってきていて、だが声をかけるタイミングをはずしてしまいただ後ろで控えていることしか出来ないでいた茶々丸だけの秘密であったりする。

さらに余談だがその晩、学園長室からまたもや学園長の悲鳴が上がったのは些細なことである。

というより、もう悲鳴が聞こえてくるのになれた教師陣はあまり接触しないことにしていたらしい。

ちなみに悲鳴を起こさせる人物はここだけの話、今まで士郎とイリヤだけだったため木乃香もめでたく三人目に名を連ねた。

 

 

―――閑話休題

 

 

それから木乃香は『メルキセデクの書』を利用しながらエヴァの別荘に保管されている色々な魔法書を読みあさる事を続けていた。

もともと素質もあり頭脳も超鈴音並みとはいかずともそこそこ以上にある木乃香はメルキセデクの書の力も相まって読んだ魔法書の内容は次々と脳内に吸収されていった。

 

その間、授業の用意など業務を終わらせてから来るネギがどこからか気配がするという発言を聞いたが、

 

「ほう…私との修行中に思考を他に向けるとはな?」

「あ…あ、あああ、あああああああ!!?」

「お仕置きだ♪」

 

 

ギニャー

 

 

エヴァ、茶々丸、チャチャゼロにフルボッコされているネギの姿を見て精神集中している傍らイリヤは哀れの視線を向けていた。

そして同時に士郎は今どうしているかな?とただでさえ遠い地にいるのでレイライン越しでも辛いものがあるが感じてみることにして視てみると、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)の真名開放を連続で使用している姿が見えて思わず吹いた。

だから仕方なく念話で話をして魔力を送り続けた。

そして帰ってきたらまた無茶した代償としてお仕置きを決行しようとイリヤの中で決定事項となった。

…ふと、イリヤは今別荘内の図書館島までとはいかずともそれなりに広い書庫で木乃香は今なにをしているのか気になって見に行った。

書庫に入って木乃香を見つけたイリヤは思わずその光景に目を疑った。

そこにはメルキセデクの書を活用しながらいくつもの魔法書を宙に浮かせて目を瞑りながらも読んでいるだろうなかなかの荒業をしている木乃香がいた。

しかも読んでいるであろう本の種類はほとんどが回復系や防御系、補助系と言ったものだった。

攻撃系や移動系も読んではいるようだが、数は前者に比べれば少ない方だ。

どうやらまずは自分の本質である“治癒”を優先的に修練していくとの事。

イリヤは普通に本を読んでいるだけだと思っていたので思わずその光景を魅入っていた。

やはりなまじそういった知識が皆無だった為、新鮮だったらしく楽しそうにしているように見える。

 

…ここで余談だが、こちらの世界に来る前に旅先で出会ったアトラスの錬金術師である『シオン・エルトナム・アトラシア』によって彼女の研究課題に士郎の投影魔術が大きく貢献し、その御礼として等価交換に基づき教えてもらった“分割思考”という特殊能力のおかげで、後方で支援していたイリヤは士郎に与える情報がよりスムーズになりとても喜んだ。

―――駄菓子菓子、やはり士郎は才能が無かったがために最高で三つくらいが限界だったらしく才能の無さに嘆いていたのはまた別の話である。

しかしそれだけでも十分使える事には使えるのだから士郎はそれを二流の限界まで極めていたので戦況はスムーズになったと前向きな発言をしていたのでそこは良しとイリヤも褒めてあげていた。今ではそれこそ分割思考の数は初期より増えているから成長はしているのも確かなことだから。

 

…しかし、今目の前で見ている光景を士郎が見たらなにを思うだろうか?

イリヤは書庫の本を読みあさるならちょうどいいと、気まぐれに木乃香に分割思考を伝授させたが、すでにそれは素人どころの問題ではなくまさしくプロ級(本家本元のシオンよりは劣るが)であったとイリヤ談。

 

(…さすが極東一の魔力を秘めた子ね。ま、それだけ真剣にシロウの力になりたいという想いから来ているのよね。私もウカウカしていられないわ)

 

と、そこにエヴァも気になってきたのか見にきていた。

ネギは現在休憩中(気絶中?)であった。

 

「…ほう、ここ何日か放っておいたらかなり知識と魔力の操り方に関しては成長したではないか? イリヤの教えた分割思考という特殊能力もその役を大いに買っていると見た」

「そうなのよね。おそらく今のコノカは、攻撃面はともかくその他の点に関してはこの学園に赴任仕立てのネギに迫るものがあると思うわ」

「ふむ。あの様子では初歩の魔法は大抵は会得、攻撃に関してはまだ魔法の射手に限られるが回復魔法関連は群を抜いていて補助系もそこそこに成長したと見る。

………―――面白い。ただのガキだった木乃香が士郎の役に立ちたいという信念の元、ここまで化けるとはな。近々別に鍛えている刹那とともに実戦でもさせてやるか…」

「お手柔らかにしてあげてね? …でも、あの光景を見ているとどこかの世界のワーカーホリックみたい…」

「…変な電波を受信するな。お前の言う抑止力が動くかもしれんぞ?」

 

エヴァの言葉に正気に戻ったイリヤは少し照れていた。

 

 

 

それと全然これっぽっちもこのお話には関係ない事だが、無限に続いている書庫の中でひたすら働いている一人の男性が思わず何度もくしゃみをして周りからは不思議がられていたそうな。

 

 

 

 

 

「そうだ。まだコノカとセツナの二人はシロウとの仮契約カードの能力を使いこなせていないでしょ? そこのところはどうするの?」

「そうだな…。このかの四種のアーティファクトはどれも使い勝手がいいからな。確か名前は、

 

『コチノヒオウギ(東風の檜扇)』

『ハエノスエヒロ(南風の末広)』

『キタカゼノウキオリ(北風の浮折)』

『ニシカゼノシズオリ(西風の沈折)』

 

だったか?」

「そうね。前者の二つは治癒系統だけど、後半二つの方はシロウの影響でも出ちゃったのか攻撃メイン特化なのよね」

「『キタカゼノウキオリ(北風の浮折)』は風を操る能力を秘めていたな? うまいようにやればぼーやともうまく張り合えるかもしれんな。

そして『ニシカゼノシズオリ(西風の沈折)』だけはなぜか鉄扇で重力を操る能力を秘めている…………試しにこのかには私が昔にあるものに習った合気鉄扇術でも仕込んでみるか……」

 

それでさぞ面白そうに笑い、「鍛えれば下手したらあの神楽坂明日菜をも倒せるかもしれんぞ?」と話し、それを聞いたイリヤはいつか巻き添えを食うであろうアスナに祈りを捧げていた。

 

 

「しかし、さて。では今頃刹那はなにをしているのだろうな?」

「ランサーと一緒に別のところで修行しているって聞いたけど、その別の場所ってまだ私には教えてくれないの?」

「別に構わんぞ。ボウヤ達にさえ話さなければな。数多の戦場を駆けてきた士郎とイリヤ、ランサーは十分知る権利を備えている。

刹那は…そうだな。場慣れのための訓練というところか。

ただ、一つ言うなら今刹那とランサーは修行どころではないだろうな?」

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

修行:桜咲刹那の場合

 

 

「―――ランサーさん」

「…ああ? なんだ、剣士の嬢ちゃん。何か言いたいならさっさと言った方が身の為だぜ」

「いえ、そこまで根詰めてはいないのですが…ここでの修行は……その、寒すぎませんか?」

「…ああ、そうだろうな。なんせ今俺達は極寒の地にいるんだからな」

 

そう、現在刹那とランサーはまだネギ達には早いというエヴァの判断の元、別荘のあるボトルシップとは別に、今はさらに地下にあるエヴァの古城とも呼べる『レーベンスシェルト城』。

そこには城を中心に、四方に熱帯ジャングル、極寒地帯、砂漠地帯…他にも様々な修行地帯(レジャー)施設が存在していて現在ランサーの言うとおり二人は極寒地帯のある雪山にいるのだ。

エヴァの言いつけで、

 

『まずは七日間、気でも術でも使っていいから絶え凌いでみろ。余裕が在るならば修行しても構わん。ちなみに自給自足がもっとうだ。雪山でなにかはいるかもしれないが入手は困難だと思え。戦場ではいつ食事を出来るかすらも分からんのだからな。あ、そうそう。刹那は常に翼は出して行動しろ。雪山では翼は吹雪の前では何の役にもたたんという事をその身で体験しろ。以上だ』

 

…と、いうランサーはともかく刹那にとっては地獄の特訓が成されてしまった。

事実、今現在進行形で吹雪真っ只中で既に翼は固まって使い物になっていない…。

気で全身を覆って耐寒の対策はしているがやはり寒いものは寒い。

…実言うランサーもルーン魔術で凌いでいるものの半ば受肉している為に何の準備もなしに半袖で着てしまった事を少し後悔している。

アロハシャツ姿で極寒の地を立つランサーの姿はとてもシュールであった。

 

「…ん。さて、そんじゃさっさと始めるとすっか。まずは寝床の準備だな」

「そうですね…気も無限ではありませんから節約して使っていかなければ後が痛いですし…」

「こういう時に士郎の魔術を羨ましく思っちまうぜ。その気になれば投影で各種機材は作っちまうし錬鉄魔法っていったか? そいつを使えば耐寒、耐熱、耐電なんでもありだからな。呪い受けてもこう、あの魔女の短剣をプスッとな…」

「言えていますね。今思うと士郎さんの魔術は戦いだけではなく生きていくのにも有効ですね…火を起こすのもライター要らず。

………不毛ですね。空しくなってきますからこの話はもう止めにしましょう」

「そうだな…ない物ねだってもしかたがねぇ…。たかがこの程度の雪山…七日間、耐え切ってやろうぜ」

「はい。頼れるのは自身の力のみですね」

 

二人は(ランサーの方はどうかは知らないが…)初めての体験をまるで悟ったかのような表情になり挑んでいった。

ちなみにランサーはイリヤからの魔力供給は最低限しかされておらず、アーチャーのようにクラス別能力である“単独行動”すらも無いために半分受肉しているからギリギリ助かっているようなものだ。だからなにかを摂取しなければいつかガス欠になってしまう。そしてここでの行いで本格的にサバイバーに目覚めるのはここだけの話である。

 

 

 

…まず一日目。

ランサーの言うとおり寝床探しを猛吹雪の中、探索をし始めて歩き回ったが目ぼしい洞窟は一つも見当たらず結局自身の力で洞窟を作らなければいけなくなった。

当然お互いに手伝いは無用とも言われている為、各自洞窟作りに一日を費やしてしまった。

ランサーはさすが慣れた手つきでやっていたが、刹那は初体験なために困難しまくった。

結局食事には二人ともありつけず一日目は寝床でそれぞれ気と魔力、そして焚き火で朝まで凌いだ。

…その折にランサーは死ぬことはないので爆睡していたが、刹那は洞窟の中で一人、「このちゃんの料理が食べたい…」と早くも一人涙を流した。

 

 

 

…二日目。

二人は寝床から出ると一言二言交わした後、無言で二手に分かれて食材探しに出向いた。

まず刹那は普通なら死ぬだろう氷の川を気で耐水強化して入っていき神経集中すること数分…

 

「そこだ!」

 

刹那は士郎との仮契約のアーティファクトである『迦具土(カグツチ)』で炎の短剣を数本複製して川の中に放ち、数発外したがそれでも五匹以上は取れたのでさらに神経を集中させてその方法を繰り返していた。それで川の温度が一時的に上昇してプカプカと巻き添えを食った魚が浮かんでいたのは余談である。

 

刹那のアーティファクト『迦具土(カグツチ)』は能力は炎を発生できる剣であり、他にも先ほども述べた文字通り炎の短剣を複製できる能力である。

しかしてその最大の活用法は……まだ秘密にしておこう。

 

 

 

 

…一方、ランサーはというと、

 

「貴様のその肉、貰い受ける!!」

 

といいながらなぜかいた山熊にゲイボルグではなく棒での連打を浴びせ狩猟をしていた。

こうして二人は食材をなんなく獲とくし合流したらしたで二人で保存用も作って食事にありつけた。

その際に、二人はうまそうに食べながらも内心では、

 

(…士郎(さん)の調理したものが食べたい…)

 

と、二人して思っていた。

 

 

 

…三日目。

もう二人はすでに雪山に順応したのか、刹那は気。ランサーは魔力の節約術を駆使して雪山を駆け巡っていた。

しかし、ただ駆け巡るのではなくすでに訓練をしていた。ランサーは教える方、刹那は教わる方。

ランサーは走り込みをしながらも棒をゲイボルク風に使いこなし刹那に高速の攻撃をしていた。

当然、刹那はまだそんなものを受けたらたまったものではないので防戦一方である。

ランサー曰く、まずは俊敏性と目視力、心眼力を上げるこった。とのこと。

 

「おらおら!まだまだ続くぜ!」

「ッ!」

 

移動しながらもランサーは人間の急所である首、額、心臓と他にもそれは素晴らしいほどに的確に打ち込まれてきていて夕凪と『迦具土(カグツチ)』で複数炎の短剣を作り出してそれらをなんとかいなす。

だが一度弾いても神速の突きのスピードは遅くなるどころかさらにキレが増してきている。

これが本当の殺し合いだったなら刹那はすでに二桁以上の数は殺されているだろう。

 

(やはり、すごい…! 記憶で見たランサーさんは令呪で全力が出せないでいたとしても、それでもその攻撃一つ一つがまさに神速だった! それに今は命令といえばイリヤさんの殺さないようにとのことだがとんでもない…。これだけでも一歩間違えば死はすぐに訪れる)

「考え事もいいが戦闘中にそんなことしていたら…、死ぬぜ?」

「ッ!?」

 

刹那はその言葉に思わず戦慄を覚えた。

これは自身では絶対に勝てない相手だと警報が頭の中で鳴り響いている。

鍛錬というがこれは、はたから見れば素人目には十分に殺し合いに見えるだろう。

ただ殺さず、且つ逃がさず…そう、まさに猟犬のようだと刹那は思い、そしてランサーの言葉と同時に脳天に落とされた棒であっという間に意識を刈り取られた。

暗転する意識の中、まだまだ精進が足りないと…そう心に刻み付けた。

 

 

 

 

…そんなやり取りが残りの四日間も繰り返された。

エヴァは期日の七日後だということでイリヤや木乃香を連れて耐寒魔法を展開しながら二人を探した。

そして木乃香は刹那とランサーを見つけた途端、思わず目を疑った。

今の刹那の姿は普段着なのだが所々がボロボロで赤く染まっている部分も見え隠れしている。

一見してみれば満身創痍と見えるだろう。だが、刹那はすでにある意味で限界を越えていた。

魔力供給が少なく本気が出せないでいるランサー(普段の十分の一)に刹那は自ら向かっていき剣戟をぶつけにいっているからだ。

そして最大の一撃、

 

「神鳴流奥義―――……斬岩剣!!」

 

刹那の咆哮とも取れる雄叫びがランサーの今のエモノである棒を真っ二つに切り裂いたのだ。

それにランサーは驚きの表情をしたがすぐにニヤッと笑みを浮かべ、

 

「やるじゃねぇか、刹那の嬢ちゃん。まさか士郎が強化に強化をふんだんにかけまくったこのダイヤモンド級の棒を切り裂くとはよ」

「いえ、まだまだです。ですがランサーさんから、やっと一本取る事ができました…」

「ま、俺の方は魔力供給がほぼねぇからそれほど本気も出せなかったが…それでもお前は十分成長したと思うぜ?」

「ありがとう、ございます…」

 

その一言とともに刹那は地面に倒れた。

それをじっと見ていた木乃香は決着が着いたと思ったと同時にすぐに刹那のもとへと駆け出した。

 

「せっちゃん! 今ウチがすぐに治してあげるえ!

プラクテ・ビギ・ナル。汝が為にユピテル王の恩寵あれ。――治癒(クーラ)

 

携帯杖を取り出して回復の呪文を木乃香が唱えた途端、刹那を淡い光が包み込んで見る見るうちにこの七日間でできた傷はすべて塞がった。

それを間近で見ていた刹那は驚愕の表情をした。

修行で別れる前と今の木乃香の姿がとても違うように見えたからだ。

そしてなにより今唱えた呪文で七日前まで遡る傷をすべて塞いでしまった木乃香はもう治癒術師として一人前くらいの腕を持っているのだから。

 

「お、お嬢様…この数日間ですごい成長なされましたね」

「それはせっちゃんもやで? ランサーさんから一本取れたんやから凄いことや」

「そうだぜ? 俺も本気は出せなかったとしても手だけは一切抜かなかったからな」

「ふむ。木乃香もそうだが刹那も相当腕を上げたようだな」

 

エヴァはそう呟き、ふと木乃香の方を見た。

それに木乃香は?マークで返すが、

 

「そういえば木乃香。イリヤはともかくとして貴様はこの極寒の中寒くないのか?」

「大丈夫やえ? 今は耐寒障壁を全身に巡らせているからなんとか平気や」

「…すごい成長したわね、コノカ。さすがにあの本の力は絶大ね。あ、もちろんコノカの努力も相当のモノだったわよ?」

「ありがとなー、イリヤさん」

 

屈託の無い笑顔で木乃香はイリヤの言葉に感謝の意を返した。

 

そしてネギや明日菜の目を掻い潜り言い訳もふんだんに使用してした修行の成果もあり士郎が帰ってきて驚かそうというイリヤの案に木乃香は笑顔で賛成。刹那は少し遠慮がちながらも賛成した。

それから別荘を出て寮に帰ろうとしていた二人に後ろからエヴァの声が聞こえてきた。

 

「木乃香に刹那。一応伝えておくが私がいいというまでネギのボウヤ達にはお前達のやっていたことは話すなよ?

覚悟も何も無い奴等にはまだもったいないものだ。

だから特に木乃香。魔法が自在に使えるようになったという事をまだ悟られるな。あの小動物が一番勘が鋭く気づくかもしれん。目立った行動は控えろ。いいな?」

「わかったえ。ようは魔法をエヴァちゃんが良いというまで派手に見せんようにしろってことやろ?」

「物分りがいいではないか。その通りだ。刹那もうまくフォローをしておけ」

「わかりました」

「さて、私が言えることは以上だ。だがまだまだ修行は序の口だ。ボウヤ以上に厳しくしていくから覚悟をしておけ!」

 

二人は「はい!」と答え、帰っていった。

その際にエヴァはイリヤに向けて、

 

「あの二人…本当に化けたな。これからが実に楽しみだ♪」

「そうね」

 

 

そして士郎は帰ってくるなり修行の成果を見せられ、目を凄く見開いていたのは後日談である。

さらに士郎は単身、訳もわからず刹那達の修行していた空間に一週間放り込まれて帰ってきたときにはかなりやつれていた………南無。

 

 

 




白き翼結成時のアスナとネギの戦いがアスナVSこのかになったらそれはそれで笑えるかも…。
このかのアーティファクトが扇だからエヴァから合気鉄扇術とか習ったら強くない……?


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051話 文化祭編・開催1日目(01) 気合の入った告白阻止前線

更新します。


 

 

俺は学園祭当日、告白生徒の見回りもあるがそれ以外にも頼まれている事があった。

それは俺が午後の班に回されたので午前中暇なこともありエヴァの執事役などをやらされていたのだ。

もちろん服装もこの時だけは完璧な執事服(エヴァによるオーダーメイド)といったものだ。

なぜこんなことに借り出されたのかというとー、ごく最近起きた珍事件で弱みを握られたからである。

 

「しかしお前がいるおかげで道行が楽だなー」

「ソーダナ御主人」

「……」

「ん? どうした士郎? 今のお前は私の有能な執事なのだからもっとマシな面をせんか」

「ケケケ、シカシ予想以上ニ似合ッテンナ」

「……こんなことをして後でただで済むと思うな?」

「んー? なにかいったか? おー! まさかあの薬を飲みたいのか!」

「誰が二度と飲むか!?」

「そうか。それは残念だ…もう成分も分かり量産も計画中なのだがな…それより今のお前はなんだ?」

「くっ! …地獄に落ちろ、エヴァンジェリン!」

「はっはっは、そんな悔しそうな顔をして言われても逆におかしいぞ」

 

俺はそれ以降、作り笑いをしながらもエヴァの執事を渋々付き合うことになるのだった。

あー、早く午前が終わらんだろうか?

そんな事を考えていると前方からネギ君と刹那、姉さんが歩いてきた。

しかしネギ君はともかく姉さんは確か交代制で今は保健室にいるはずではなかったか?

 

「あ、あらシロウ。そんな格好をしてどうしたの?」

「に、似合っていますね士郎さん…」

「そうっすね」

「どうしたもなにもこの元凶は姉さんではないか? それより姉さんは今保健室の当番ではなかったか? こんなところで暇を潰していていいのか?」

「え、ええっとね…シフトが変わって非番になったから私も午後まで時間を潰していようと思ったのよ」

「そうだったのか」

「ところでぼーや? なにか面白いものを持っているな? 妙にハシャいでいるしな」

「え!? そ、それは!」

「どれ、よこせ。悪いよぅにはせん…」

 

エヴァは少し意地の悪い顔をしながらネギ君に詰め寄るがネギ君は走って逃げていった。

それで少しエヴァが追い回すはめになったが姉さんに念話で『足ドメお願い』といわれたのでタイミングを見計らってそこまでにしておけと言って止めておいた。

 

「しかしなぜあいつらは急に逃げ出したんだ?」

「ネギ君の場合は恐怖ではないか?」

「ふん! 私の弟子がただの威圧ごときで情けない! っと、それより少し小腹がすいたな。どこかへ寄ろうとするか。執事モードだ」

「くっ! それではどこに参りましょうかマクダゥエル様…」

「ケケ。タノシイナ、シロウ」

 

その後はあの黒の月姫ばりに俺を連れまわしてエヴァは満足げに前を歩いていた。

一つ店に寄るたびに「あれが本物の執事かー…」とか感嘆の声を出されていたが軽く受け流す。一々受け応えしていくとやっていられなくなるから。

何名かのクラスメイトの出し物にも寄り、現在は四葉のお料理研究会で間食をしながら休憩中である。ううむ、やはりこれはうまいな。

…しかし時間的にシフトの時間ももうすぐだからそろそろ引き上げか。

 

「そういえば士郎。お前は武道大会には出ないのか?」

「ああ、ネギ君達が出るといっていた奴か。俺は特に興味は持たなかったな。力は見せびらすものではないからな」

「そうか。お前らしいといえばそれでおしまいなのだがな…それよりその武道大会なにやら超の奴が面白そうなことをしようとしているらしいが…」

「…なに?」

 

ガンドルフィーニ先生に聞いた話だが先日に破壊した機械を操っていたのは超達だと聞く。

注意だけはしておいてくれと言われているから見に行かないわけにはいかないな。

 

「ふむ、では様子見だけでもしてみるか。場所は知っているのか?」

「午後の六時から龍宮神社で行うらしいぞ。お前も気が変わったらなら出てみるがいい」

「本当にもしも、だな」

 

エヴァはそういって俺とは「予定の時間だな」と言いその場では別れた。

そして俺は執事服ではさすがにまずいと思い、いつもどおりの黒いシャツとパンツに着替えて告白生徒の見回りに出ることになった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

担当場所に合流したのはランサーに小太郎である。

俺のポジションは告白しそうなものをこの鷹の目で発見しだい近くの関係者に発見・報告…及び殺傷性のない睡眠作用の入った針を何本も投影して鉄甲作用で飛ばして昏睡させるというもの。

距離があるならば弓を使っても大丈夫だということ。ただし当然矢の先は丸くして傷つけないことが前提だ。

それをあらかじめ二人に伝えた後、

 

「はー…お前さんにしてはなかなかできた方法じゃねぇか」

「さすが士郎の兄ちゃんやな! 俺が出来ることって言えばお札使うか狗神使って気を紛らわすくらいやで」

「それでも十分ではないか? そもそも俺達前線向けの者達はそういった類のものは大抵少ないからなんとかなるだろう。ところで一応聞いておくが…ランサーはどうするんだ?」

「俺か? まぁ…なんだ? ルーン魔術も使えばどうにかなるだろうがそれ以外はすべてにおいて戦闘面に傾いちまってるから役にはたたねーな。だからここにいねぇマスターか嬢ちゃん達に混じって指示を仰ぐことにするわ」

「そうか。では無線機と告白探知機を持っていることを確認してから各自回ってくれ」

「おうよ」

「了解や!」

 

それから午後は告白者が出ないために各自散開した。

それで俺は高い場所から目を強化させ担当区域を高い位置から目視。

途端、凄い数の告白しそうなものが浮上してきた。

よって即座に報告。

 

「小太郎! お前の左右後方に合わせて四組! 狗神を使い彼らの気を紛らして同時に区外まで自動で追いかけさせろ!」

『わかったで!』

「姉さん、その付近一帯で告白しようとする集団がある。幻術でも魔法でもなんでもいいからよろしく頼む!」

『ええ!』

「刹那、アスナ! その付近は特に多いから根こそぎ叩け! 俺もここから援護する!」

『了解しました』

『わかったよ士郎さん!』

 

次々と指示を出し返事が確認されたので俺は今一番不安な刹那、アスナ組(理由としては、刹那は符術も使えるがほぼ剣術一般、アスナはまずハリセン以外は論外だからだ)に援護することになった。

人にも気づかれにくいように剣による結界を構築した高台の上から俺は麻酔針を投擲、時には先のない矢を放ち昏睡させるといった行為を指示しながらも同時進行で行っていた。

それと事後の処理もしっかりとせねばいかんな。

 

「こちら衛宮士郎。医療班、告白生徒数名を処理した、各自搬送の手配をお願いする」

『了解しました。対象の状態を知らせてください』

「それはそこを担当した―――……」

 

返事はすぐに帰ってきて気絶させる以外手がなかった生徒達は早急に医療班に運ばれていった。

俺は一回反応が途絶えたことを確認すると一息ついて、

 

「ふうぅ…一日目でこれとはな。これからが大変そうだな…」

 

少し深いため息をつきながらも告白生徒は減るわけではない。すぐにまたサーチしたので目視・指示・投擲・医療班への報告を出しまくった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

私はアスナ、セツナ、コノカとともに三時過ぎということでシロウに一度休憩をしたほうがいいと指示を受けたので少しばかり雑談をしていた。

 

「でも、シロウも何気にすごいことを一人でしているわね…あれじゃキリがないでしょうに?」

「そうですね。ですが士郎さんはあのポジションが向いているのかもしれませんね」

「そうやね。サッカーとかやったら司令塔って感じか?」

「そうね。それですぐに指示を出してくれるからこちらもやりやすかったわ。

私がハリセンで叩き倒す前にすごい距離あるのに麻酔付きの針が刺さっていて気絶しているからね~。

医療班への報告も早いから………もしあのエリア(・・・・・)も士郎さんが担当していたならあんなことには…」

 

アスナは先ほど―――といってもシロウは知らないだろうけどタイムマシンでの二回目で起きた事件までは時間があるのでまだ未来の話―――のことをまた思い出して頭を抱えている。

それで何度か目のアスナの問答。

 

「…ねぇ、本当に士郎さんにはタイムマシンのことを教えなくてもいいの? 士郎さんもなにかと用事が重なっているとかあるんじゃないかな?」

「…アスナ、何回も言ったけどそれは却下よ。シロウがそれを知ったら絶対使うなってネギから懐中時計を取り上げるに決まっているわ」

「そうやで、アスナ。ただでさえ士郎さんはその手は嫌っているんやから尚更や」

「はい。私もその意見には反対です。士郎さんには迷惑をかけたくありません」

「わ、わかったけど…なんでそこまで頑固になるの?」

「今までアスナさんには話した事がありませんでしたが私とお嬢様は―――……いいですかイリヤさん。簡単にですが話してしまって」

 

セツナが何を言おうとしていたか分かったけど一回私に聞いてきたので大丈夫といった意思をこめて頷いた。

それでセツナも分かったようなのでアスナに簡単にだけど話をした。

 

「私とお嬢様は、アスナさん達とは別に従者として士郎さんの過去を見させてもらいました…」

「え…? ええええ~~~~~!!? それ本当なの、このか!?」

「…本当やよ。それでウチとせっちゃんは士郎さんとイリヤさんが味わった過去を見せてもらったんや。どういった内容は話せへんけど、それが理由でウチとせっちゃんは士郎さんとイリヤさんに着いて行こうって決めたんや」

 

コノカとセツナの目は先ほどまでとは違って真剣な目になっていてさすがのアスナも気圧されたらしい。

だから私も加勢する形で、「私とシロウは異世界の人間よ」といってアスナは理由は聞いてこないけど黙りこんでしまった。

 

「そうだったんですか…」

「ま、もう私達にとっては過去の話だから気にしなくていいわよ、アスナ。元の世界に帰ろうとも思っていないしね。

でも、ちょっと理由があって私はそれほど拘っていないけどシロウは過去の事をやり直したいなんて願望はこれっぽっちも持っていないから絶対に内緒ね?

もしコタロウにも聞かれたら口出しは封じておくこと。いいわね?」

「はい…」

「うん。返事は小さいけどわかってくれたならそれでいいわ。さて、休憩も終わりにしてもう一頑張りしましょう!」

 

さて休憩時間も終わって時間は四時過ぎ…そろそろかしらね?

すると世界樹がわずかに発光しだしてきて、世界樹観測班から報告があり告白生徒が出たとのこと。

それでシロウからも連絡が入り、

 

『姉さん、告白生徒が出たぞ! すぐに俺は向かおうと思うが大丈夫か!?』

「あ、シロウ。大丈夫よ。その場所の近くにいた関係者から連絡があってもう確保したと連絡があったわ。それに内容は告白ではないらしいからシロウが出る幕はないわ」

『そ、そうなのか…? そんな報告は一度も入ってこないが…』

「もうじき連絡が入ると思うからシロウも担当を変わってもらって休んだらどう?」

『そうだな…では少ししたらそちらに向かう』

 

プッ! と通信機から通信が途切れると私は大きくため息をついた。

それは他の三人も同様のようらしい。

 

「ふぅ…シロウが物分かりよくて助かったわ。今向かったらもう一人の私達と遭遇することになっちゃうから…」

「はい。士郎さんが向かったならネギ先生を倒すことはまず確実でしょうが…」

「やっぱり歴史は修正できないのねぇ……」

「まぁまぁアスナ。もう過ぎたことは忘れとき」

 

 

それでシロウと合流した後はなにか用があるのかと聞くとエヴァになにか聞いたらしく龍宮神社で開かれる武道大会の視察にいくらしいので私達も着いていくことにした。

 

 




学園祭、開催です。


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052話 文化祭編・開催1日目(02) 武道大会開催

更新します。


 

龍宮神社に向かう途中の道中でなぜ刹那に武道大会を視察するのかを聞かれた。

まぁエヴァからの情報だから信憑性は高いだろうと思い俺は話すことにした。

 

「なに、今年の武道大会はなにやらきな臭いという情報が入ったのでな。なんでも情報では超の奴が裏工作をしたという情報もあり、それに先日の偵察機も彼女の仕業だとガンドルフィーニ先生に聞いたのでどういったものか見極めておきたいと思ってな」

「さすが士郎さんですね。もしかして士郎さんも武道大会に…?」

「いや、あくまで視察といったろ? なにか重大な事がない以上は静観しているつもりだ。ま、タカミチは出るだろうがな…」

「え!? それ、本当ですか士郎さん!」

「ああ。たぶん…ネギ君の成長を見たいだろうという思いで出場するのではないか? 前から戦いたがっていたし…」

「そっか…それじゃあたしも…………」

 

アスナがなにやらぶつぶつ言っているがここは放っておくのが懸命だろう。

しばらくして武道大会が開かれる会場である龍宮神社に到着した。

そこには様々な武道家が集まっているらしくごったがえしていた。

そしてネギ君と小太郎、綾瀬にも会ったのでこの賑わいは何かと聞いてみるとなんと優勝賞金が一千万だと聞く。

それに俺達は驚いているうちに、

 

『ようこそ! 麻帆良生徒及び学生及び部外者の皆様!! 復活した「まほら武道会」へ!!』

 

なぜか朝倉が司会を務めていてこの武道会を買収したという主催者の超鈴音を紹介した。

ルール説明の時に、『飛び道具及び刃物の使用禁止』。当然のルールだ。

だがそこまではよかったのだが、『呪文詠唱の禁止』という危険な単語が出てきて俺だけでなく他の面々も顔を驚愕させていた。

映像は記録されないというが確証を取れたわけではない。ガンドルフィーニ先生の言うとおり油断できないな。

 

…しばらくして説明が終わりまだ受付はしているというのでそこに現れた龍宮、楓、古菲も参加するそうだ。

そしてエヴァも出場するといって続いてタカミチが選出。それに感化されたアスナも選出。偵察のために刹那も出るとのことだ。

我ながら豪華なメンバーだなと思いつつ姉さんはランサーには出場は禁止を命じていた。

それにランサーは当然反論したが姉さんの説得に泣く泣く…泣いてはいないが参加はやめた。

そこにネギ君は、

 

「ま、まさか士郎さんも出場するわけではないですよね…?」

「ああ。俺はあくまで視察のつもりだからな」

 

それでネギ君は「よかったぁ…」と隠しもせずにホッとしていて反面小太郎はとても残念がっていたが俺はあまりこういうのは好かないから許してくれ。

しかし俺はある人物を選手の中に発見してしまった。

 

(あいつはクーネル・サンダース…いや、アルビレオ・イマ!? まさかこの大会に参加するのか!)

 

俺の視線に気づいたのかクーネルはフード越しから笑顔を浮かべながら俺に「あなたは出ないのですか…?」と挑発してきた。

…そうだな。奴の真意を知るのもいいかもしれん。

いいだろう、参加してやる。

 

「ネギ君…」

「は、はい? なんですか」

「前言撤回だ。俺もこの大会に出る理由が出来た。だから出場することにする」

「え、えええええ!?」

「本気なの、シロウ!?」

「ああ、すまない姉さん、ランサー。俺はある人物の真意を確かめるために出ることにした。今から手続きを済ませてくる」

「ずりーじゃねぇか!?」

「まぁそういってくれるな。俺も最初は出る気はなかったのだから…」

 

ランサーの文句を方耳で聞きながら俺はガンドルフィーニ先生へと連絡を取った。

 

『どうした衛宮?』

「いえ、自分も少し事情が出来まして偵察がてら武道会に出場しようと思いましたのでその報告を」

『高畑先生に続いて君もか。理由は聞いてはダメかい?』

「もちろん超鈴音の事も調べるつもりですが、それ以外に敵か味方か分からない奴が選手の中に紛れていたのでそいつを見張っていようかと…」

『そうか。わかった…ただしあまり派手に動くなよ? 超鈴音はなにを企んでいるかわからないからね』

「心得ています。武器は禁止されているのでそこまで本気は出すつもりはありませんから」

『了解した。明日のシフトも立て直しておこう』

「ありがとうございます」

『それではなにかわかったら報告を頼むよ』

「はい」

 

電話を切ったときにはまた超鈴音が話を始めていた。

 

「ああ、ひとついい忘れていた事があったネ」

 

それはまるでネギ君を大会に出場させたいという甘い蜜の言葉。

25年前にネギ君の父であるナギ・スプリングフィールドがこの大会に出場して優勝したというもの。

それでやはりネギ君の目の色が変わり急にやる気を出したみたいに出場を決意した。

父を追う…か。まるで俺のようだな。ネギ君には俺のようにはなってもらいたくないなと思いながらも手続きを済ませた。

 

 

 

そして予選大会は始まった。

D組は龍宮、古菲で確定だろう。木刀を使った選手もいたが刃物ではないので本戦時には俺もなにか使うかな?

E組も楓と小太郎が勝ち上がるだろう。分身対決していることからもう他の敵は相手になっていないようだし。

C組はアスナと刹那か。まぁ、あの勢いならまず負けはしないだろうな。二人で協力して殲滅しているし。

F組はタカミチとエヴァ。……まったく負ける要素が見つからん。すでにタカミチの居合い拳の独断場と化しておりエヴァは寛いでいる。

そしてB組はネギ君とクーネルが勝ち上がったようだ。ふむ、やはりきな臭い笑いを浮かべていて腹が立ってくる奴だ。

 

…さて、見物もいいがようやくH組である俺のステージも始めたようだな。

そしてふと気づくと集団の中に黒いローブを着て顔隠している女性が一人いるなと思いよく見てみるとその人物は高音・D・グッドマンだった。

ほんとうに参加者が多いなと思ったが一応話しかけてみることにした。

 

「高音…お前も出場するのか?」

「やはり衛宮先生には気づかれましたか。ええ、少しネギ先生にお灸を据えてあげようと思いまして…」

「ネギ君に? なにかあったのか?」

「はい。その話は後ほど…それより先生も偵察なのでしょう?」

「そうだ。ガンドルフィーニ先生にも許可はもらっているから安心していいぞ」

「そうですか」

「そうだな。では俺が片付けるから高音は打ち漏らしを叩いてくれ」

「いいのですか?」

「ああ、このステージには俺と高音以外は関係者はいないことは確認済みだからな。なぜかロボがいるがな…」

「わかりました。恩にきります」

「よし。では始めるとしようか」

 

俺は何名か話をしながらも捌いていたので周りには五名くらい気絶しておりそれにより残りは警戒して近寄ってこない。

なのでしかたがないので俺が一歩動いた。途端全員めがけてまるで打ち合わせをしていたのか? と言いたいほどに連携をして仕掛けてきた。

だが踏み込みと速さがまだまだ甘い。強化した腕で左右前方からの攻撃をすべて捌いてカウンターを仕掛けてタカミチほどうまくはいかないが全員に脳に衝撃を与えて各個撃破した。

 

 

『おおおおーーーーー! すごいすごい! H組の衛宮士郎選手! 高畑先生同様で先生でありながら大会出場の理由は不明だが『死の鷹(デスホーク)』の名に違わず次々と選手を潰していく! もうステージの上に残っているのは残り少ない!』

 

朝倉の白熱した実況が響いてきて少しやかましいと思いながらも最後の一人を目に捉えた。

…やはり、あれはロボだよな。

あちらもどうやら俺を敵と判別したらしくいきなり口を開くとそこから銃口が…、って!

 

「高音、すぐに横に飛べ!」

「は、はい!」

 

俺と高音がその場を横に飛びのいた瞬間、ロボの口からビームが放たれた。

それに俺と高音は驚き観戦客も声を上げて驚いていた。

そこに朝倉の声が再度聞こえてきて、

 

『情報が入りました。H組の田中選手は工学部で実験中の新型ロボット兵器・T-ANK-α3。愛称は『田中さん』だそうです。ちなみに他のブロックにももう一体出場している模様…さあ、そんなロボット相手に衛宮選手、いかなる戦い方を見せてくれるでしょうか!?』

 

朝倉の実況が情報を会場に伝える。つまりあれは茶々丸の兄弟機か。そのような情報を流していいのかと思い観客の反応が気になって窺うが、

 

「ほおー、ロボットなら納得だ」

「うんうん」

「なるほどー」

「……なんでさ。普通に納得するところが理解できない」

 

反対側に飛んだ高音に目をやる。さすがのビームに驚いて動きが固まっている。…俺だけでしとめるか。

田中が「LOCK ON」と言って両腕を構えたのでおそらく茶々丸と同じくロケットパンチなのだろう。

俺は高音に先行するといって、錬鉄魔法【風】を纏い足に魔力を溜めて瞬動し一瞬で田中の下に入り腕に魔力を流し腹からめり込むように打ち上げてやった。

当然田中は反応をしめす前に稼動限界を越えたらしく空中にて体が浮いていた。そしてそのまま地面に落ちて二度と起き上がってこなかった。

なにかバチバチ言っているがまぁ大丈夫だろう。

 

『おおっと! 衛宮選手のすさまじい突き上げからの拳! あまりの衝撃に田中さんは起き上がらない!? これでH組も予選の二名が決定!』

 

これによって俺と高音は本戦出場が決まったわけだがどうにもな…。

やはりこんなことに力を使うのは気が引けるな。だが出てしまった以上は最後までやり遂げよう。

そこで高音が話しかけてきて、

 

「さすがですね。高畑先生以上の実力の持ち主というお話も大概嘘ではないようです」

「よしてくれ。まだまだ俺も未熟さ。だからそんなに畏まらなくていい」

「ふふ…わかりましたわ」

 

『皆様、お疲れ様です。本選出場者16名が決定しました。本選は明朝8時より龍宮神社にて!』

 

朝倉の労いの言葉が会場に響いた。

 

『では、大会委員会の厳正な抽選の結果決定したトーナメント表を発表しましょう――――こちらです!!』

 

そしてトーナメント表が掲示されたのだが本当に厳正な抽選をしたのかどうか迷うところだな。

ネギ君をタカミチと一回戦から当てるのはなにかしら作為を感じる。

その証拠に「ええーーーーっ! タカミチ!? 無理だよ!!」とネギ君が叫んでいる。

そして俺の一回戦目の相手は…

 

「ふふふ…奇しくもお前と初戦だとはな…?」

「お手柔らかに頼むぞ、エヴァ」

「さて、どうしてやろうか…」

 

…エヴァである。いきなりどちらかを潰しにかかってくるとは…。やるな、超鈴音!

ちなみにトーナメント表はこうなった。

 

 

 

 

Aブロック

一回戦目  佐倉愛衣  vs 村上小太郎

二回戦目  大豪院ポチ  vs クーネル・サンダース

三回戦目  長瀬楓  vs 中村達也

四回戦目  龍宮真名  vs 古菲

 

Bブロック

五回戦目  田中(β)    vs 高音・D・グッドマン

六回戦目  タカミチ・T・高畑 vs ネギ・スプリングフィールド

七回戦目  神楽坂明日菜    vs 桜咲刹那

八回戦目  衛宮士郎  vs エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル

 

 

 

…と、なったのでやはり作為感が拭えなかった。Bブロックに戦力が集中していないか?

しかももう一体の田中は生き残ったらしく出場メンバーに含まれていた。俺が倒したのはαだったのか…。

まぁ、なにはともあれ予選会も終了して中夜祭に突入したらしく寮の近くの飲食店で寛いで姉さんやタカミチと話をしているとネギ君の方は色々な生徒に絡まれていた。

聞くにパトロール以外にも半分以上の生徒の出し物にも顔出しをしたらしい。

あの長谷川ともあんなに仲良くなって(?)…すごいな。

 

「さすがネギ君だね。格闘大会だけでなはなく生徒たちの出し物にも回るのを忘れていないなんてね。教師の鏡だよ」

「そうだな。俺ですらエヴァに引きずり回されても数箇所しか回れなかったからな」

「パトロールもしとるのによくやるわ」

 

俺とタカミチ、小太郎は素直にネギ君を褒めていたがなぜかネギ君はどうにも慌てている。一体どうしたのだろうか?

そして少しするとネギ君。それと一緒に小太郎は姿を消していた。

不思議に思いながらも学園祭一日目は終了した。

 

 

 




士郎とエヴァを速攻で当てました。


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053話 文化祭編・開催1日目(03) 錬鉄魔法専用武器完成

更新します。


 

 

武道大会も終わりそれから俺はエヴァに許可を取り別荘に来ていた。

ネギ君達も来るそうなので一緒にいくことになった。

その際、小太郎は「別荘ってなんや?」と言ったのでおおまかに説明をしてやったらなぜかネギ君に「ずリーぞ!」とか吠えていた。

そこで皆が別荘の下の浜辺で中夜祭で取れなかった睡眠をとった後、訓練や遊びをしている中、俺はなにを思ったのか自身の新しい武器を創作するために鍛冶場に入っていた。

今は炉に火も入れていないので室内温度はそれほどでもなく姉さんやランサーも一緒にその場にいた。

 

「こんなときに自分の新しい武器を作るなんてよくやるわな」

「まぁそういうな。これでも結構深刻な問題なんだ。錬鉄魔法を使用するときにどうしても同じ投影武器は相対して瓦解してしまう。

だからそれに耐えうるものを作らなければいけない…武器のベースは当然干将・莫耶だ。これはいわば俺の体の一部といっても過言ではない。

そしてそのままのスペックを維持させながらさらに手を加えていきたい。そこで姉さんとランサーになにか助言をもらいたいのだがどうだろう?」

「シロウの理想スタイルは錬鉄魔法を執行しながらも投影武器を同時に使いたいってところよね…難しいわね」

 

さすがの姉さんも今回は少しお手上げ気味のようだ。

 

「投影する武器になにかしら守りの概念を埋め込んでみたらどうだ? 錬鉄魔法に耐えうるほどの神秘のこもったもんをよ」

「確かに…錬鉄魔法はさしてランクの高いものを体に取り込むわけではないから、神秘はより強い神秘で押さえ込んでしまえばいいってことか」

「そーいうこった」

「でも、守りの概念を干将莫耶に埋め込むって言っても相当のものよ。

シロウの最強を誇る守りは『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』だけど変化させて同化させるとなるとリスクが高すぎるわ。

ものが剣と盾じゃ相性が悪すぎるわ」

「しかしそうなると熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)以外にはあまり俺の剣の丘には守りの概念武装は少ないぞ」

「そうねぇ~………あ。ねぇ、ただ守りの概念があればいいんでしょ?」

「あ、ああ…そうだな」

「あるじゃない。熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を越える最強の防御を誇る概念武装が」

「マスター、さすがにそんなもんねーだろ?」

「いえ、あるわ。ランサーが知らないのはしょうがないとしてシロウはとても重大なものを見逃しているわ。しかもそれは剣ととても相性が抜群な」

「まさかとは思うが…」

 

姉さんがなにを言いたいのか分かった気がする。

確かに最高の概念武装だ。

これを干将・莫耶に同化させれれば凄まじい物ができるぞ。

 

「そう。私達の体にも埋め込まれている世界最高とも言える聖剣の鞘…『全て遠き理想郷(アヴァロン)』よ。

これは結界宝具としては最強といってもいい代物だわ。なんせ私達の世界の五つの魔法すら寄せ付けないものなんだから。これの概念を組み込めば高ランクの錬鉄魔法の反発すらもきっと防げるはずよ」

「なんかそれだけ聞いてっともう魔改造じみてきたな? ま、とりあえず試してみたらどうだ、士郎?」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

俺は目をつぶり自身の心象世界に意識を沈めていった。

そして剣の丘に立ち、黄金の太陽が照らしどこまでも広がる赤い荒野を見回して干将・莫耶と全て遠き理想郷(アヴァロン)を見つけて自身の前に呼び出す。

この世界では自身がすべて。理などあてはまらない。ゆえに不可能なことではない。ならばやってやろうではないか。

 

 

―――同調開始(トレース・オン)

 

「――――基本骨子、解明、分解」

「――――構成材質、解明、分解」

 

―――変化開始(トレース・オン)

 

それら二つの宝具に神経を集中させ、それらは光を放ちゆっくりと形を崩していく。

それからさらに、

 

「――――基本骨子、接続開始」

「――――構成材質、接続開始」

「――――制作技術、接続開始」

「――――成長経験、接続開始」

「――――蓄積年月、接続開始」

 

…よし、うまく二つの異なる工程を接続するところまでは成功。二つの光が線を結び始めた。

ここからが正念場か。

 

 

――――全工程、接続開始……エラー。異なる宝具の拒絶反応発生。

再接続開始。再度エラー。

エラー部分を補強、強化し足りない部分を埋めることに成功。このまま接続続行。

拒絶反応増大。宝具、『干将・莫耶』が『全て遠き理想郷(アヴァロン)』に押しつぶされる可能性アリ。

『干将・莫耶』の存在維持を第一優先に継続。

全て遠き理想郷(アヴァロン)』を魔力の塊に変換。それを『干将・莫耶』に流し込む作業開始。

膨大な情報量により『干将・莫耶』の欠損を確認。決壊の可能性アリ。

補強、補強、補強、補強、補強、補強、補強、補強、補強、補強。

十度の補強により欠損部分、修復完了。

強化、強化、強化、強化、強化、強化、強化、強化、強化、強化。

さらに十度の強化により存在強度を上昇。

流し込み作業再開。『全て遠き理想郷(アヴァロン)』のすべての情報を『干将・莫耶』に上書き完了まで残り時間―――……

二つの宝具の適合を確認。融合作業に移行。

融合に成功。現在飽和状態にありすぐに形を成さなければ危険。

形状を『干将・莫耶』をベースに再構築。

再構築完了。

 

 

 

宝具情報

宝具名  :干将・莫耶 ver.全て遠き理想郷(アヴァロン)

ランク   :C-→Bに上昇。

種別    :対人宝具

 

 

・ 夫婦剣の引き合う効果、継承完了。

・ 詠唱によるオーバーエッジ化、継承完了。

・ 従来の対魔力・対物理上昇機能、継承完了。効果増大。

・ 全工程、継承完了。

・ 追加効果1、風王結界(インビシブル・エア)及び風王鉄槌(ストライク・エア)が使用可能。

・ 追加効果2、副産物で治癒能力追加。

・ 追加効果3、錬鉄魔法に耐えうる強度を確保。

 

 

――――新たな宝具と確認。剣の丘に登録完了。

 

 

 

 

 

「――――全工程、投影完了(トレース・オフ)

 

武装が完成したことにより俺は心象世界から意識を浮上させてその手に新たな干将・莫耶を握った。

それからは今までと違って力強さがみなぎってきている。

 

「出来、たな…」

「わわっ! シロウ!」

 

俺はそう言うと体から力が抜けて倒れこもうとしていたがそこでランサーに助けられた。

 

「すまないランサー…」

「いや、気にすんな。それよりマジで新しいものを作っちまったから驚いたぜ! これならアイツを越すことも出来るんじゃねーか?」

「いやいや、まだこれくらいで追いつけたら苦労はしない。それよりとにかく完成したからよかったな」

「それでどういったものができたの?」

 

姉さんが目をキラキラとさせて聞いてきたので俺は先ほど出来たばかりの新しい干将・莫耶を渡した。

そしてその魔力内包量に姉さんは驚いた。

それから先ほど解析して分かった新たな能力を説明した。

 

「不可視能力もついたの…? それじゃ錬鉄魔法【風】を使用して魔力放出も使ったらまるでセイバーみたいじゃない?」

「セイバーには及ばない…アレは彼女だからできた攻撃方法だ」

「それよりおい、俺と一勝負しねーか? 大会前の慣らし運転も大事だろ?」

 

ランサーは新しい玩具でも見つけたかのような表情で俺に詰め寄ってきた。

しかもまさに獣といった目をしていたので冷や汗を一滴流した。

とにかく俺達は鍛冶場から出て皆がいる場所に向かうとそこではネギ君と小太郎が特訓をしていてアスナ達はそれを見学していた。

俺は一声かけてネギ君達に場所を譲ってもらいランサーと対峙した。

ランサーは普段着から鎧姿に服装を変えてゲイボルクを構えた。

さて、始めようとしたときに水着姿のエヴァが近寄ってきて、

 

「…なんだお前ら? ランサーはともかく士郎、お前は武道大会の前に体力を消耗させるつもりか?」

「エヴァか。いや、錬鉄魔法に耐えうる武装が出来たんでランサーに慣らし運転を手伝ってもらうことにした」

「ほぅ…それは面白いな。いいものが見れるかもしれん。ぼーや達もよく見ておけ。いい勉強になるぞ?」

 

あまり面白いものでもないのだがな。

とりあえず新しい干将・莫耶を投影して錬鉄魔法【風】をまとって準備を完了させた。

ランサーも気づいたのか戦闘体勢に入った。

そしてやはりランサーが先に動いた。

俺もそれにすぐに反応して地を蹴った。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

最初は準備運動だけだといったけど…もう二人とも真剣になっちゃっているわね。

それもそっか。シロウはともかくランサーは殺す、殺さないでいえば限りなく殺す戦いをしているから。

二人はもうそれは人ならざるスピードで剣戟を繰り返している。

 

「はっ! おもしれーじゃねーか! あの夜以上の動きしてるぜ!?」

「だがまだまだ干将・莫耶と錬鉄魔法との連動率が荒いし基本骨子の想定もまだ甘い。もっと研鑽をつむべきだな…」

「そーいうな! 俺の急所を狙った突きをことごとく砕けず防いでいるその武器は今までのより遥かに出来はいいぜ! そらよ!」

「お前に褒められるとは光栄だな…はっ!」

 

…もうシロウはアーチャーを越えているのかもしれない。

英霊エミヤはもとの世界で成ったシロウの果ての姿。

それに反して今のシロウはもうこの世界に馴染みつつある。私もそうだけど。

抑止力も存在しないこの世界ではシロウは守護者になることもきっとない。

だから後は私達がシロウを独りにしないよう心がけなきゃ…。

最果ての丘の上なんかに行かせないんだから!

 

「…おいイリヤ。物思いに耽っているのもいいがそろそろあいつら二人を止めろ…。剣戟音がやかましくてたまらん」

「俺モ参加シテイイカ…?」

「はわー…まったく見えへん。士郎さん達ほんまにすごいな、せっちゃん」

「そうですねお嬢様。私もおぼろげでしか見えません。まだまだ精進が足りませんね…」

「ホントすごいわねー…士郎さんにランサーさん」

「やっぱり士郎さんと最初に当たらなくてよかったかも…」

「なに言うとるんや、ネギ! 士郎の兄ちゃん達は今の俺の目指す道の一つやからむしろ当たった方がよかったで!?」

「目指す目指さない云々はいいとして…あの二人ホントに人間か…? あ、ランサーの旦那は英霊か。しかしそれとタメはる士郎の旦那がおかしいのか?」

 

そろそろ周りも騒がしくなってきたので私は二人を無理やり止めていったん終了させた。

…その時のランサーの恨みのこもった眼差しは後味が悪いからすぐに忘れることにしよう。

それとネギ、私はエヴァからある指輪をもらった。(ちなみにコノカとシロウもその後にもらったという)。

なんでも杖を使わなくてもこれがあれば魔法が発動するという優れものらしい。

……あ、そういえばまだ私専用の杖がなかったわね? 学園祭が終わったらシロウに作ってもらおう。

そしてそれから別荘での一日を有意義に過ごさせてもらった私達は二日目の学園祭へと足を運んだ。

 

 

 




干将・莫耶がパワーアップしました。


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054話 文化祭編・開催2日目(01) まほら武道会・本選開始 その1

更新します。


 

 

学園祭二日目の朝、俺達はまほら武道会に向かう為にそれぞれ下準備をしていた。

とうの俺はすでに会場内の選手控え室で待機中である。

姉さんとランサーはこのか達と観客席で見学だそうだ。

ちなみに今の俺の姿はただの…という訳ではないが娯楽も含まれているので聖骸布の外套は羽織らずにボディーアーマーだけの姿である。それでも十分抗魔力は備わっているが。

あの姿は異様に目立ってしかたがないからな。場違いにも程がある。

俺以外のメンバーといえば…

まず3-Aの武闘派集団である楓、古菲、龍宮。

刹那も後から来るのだから四天王はすべて出場するわけで俺の視線に気づいたのか三人はそれぞれ思っていることは違うとも不敵に微笑んでいる。

お次は端のほうでバレないようにしている黒いローブを羽織っている佐倉と高音。

昨日倒した田中さんと同型機のβ版。

エヴァはこの場にいないから後から来るのだろう。

そしてタカミチ。まだネギ君がいないというのに実に楽しそうに爽やかな笑みを零している。

だが、極めつけはやはりクーネル・サンダース…奴が何を目的にこの大会に参加したのか真意は分からない以上油断できない。

…また俺の方を見て神経を逆なでするような微笑を浮かべているので非常に殴り倒したい。

…この際、一般人であろう大豪院ポチと中村達也は思慮外にしておこう。一回戦目の相手が実に悪すぎて哀れだから。

そして最後らしくネギ君達が入ってきた。

それでフードで正体を隠している高音と佐倉は一瞬反応したがそれきりだった。

 

「おはようネギ君」

 

タカミチはネギ君が来たことに気づいて開口一番に話しかけた。

予想通りなので実におかしい。

だが茶化しはしない。タカミチも心待ちにしていた相手なのだから。

 

「タカミチ……」

「あっ、おはようございます!」

 

ネギ君が言葉を返すと同時に、アスナも便乗して挨拶している。

 

「昨日とは顔つきが違うね。嬉しいよ、今日ようやく君があれからどれだけ成長したかを見れるんだね」

 

タカミチがそう話しかけるが少し気圧されたのかごくりと唾を飲み込む音がネギ君の喉から聞こえる。

だがネギ君も怯んでいるだけでなく勇気を出して、

 

「……タカミチ、僕、今日はがんばるよ。父さんに負けないために。だからタカミチ、手加減はしないでね」

 

見事言い切った。それにタカミチが驚きの表情をして次に頬を緩ませて、

 

「ふふ……ネギ君『男の子』になったなぁ……でも、そんなに気負うことないぞ。君は君、お父さんはお父さんなんだからね。それに――結局、ちょっとは手加減しちゃうことになると思うよ。あんまり本気を出して魔法がバレたらこまるだろ? 君も気をつけろよ」

「あ、そっか」

 

それを見ていた俺の隣に小太郎がやってきて、

 

「そんなん気にせんでえーってのに。そうは思わんか? 士郎の兄ちゃん?」

「…ん。しかしやはり人の目もある。だから小太郎、間違っても獣化はするなよ?」

「わかってるって。にしても士郎の兄ちゃんはいつもの赤い格好はせんのやな」

「あれは一種の自己暗示…心構えの問題だ。このような表向きの場に戦場のものを持ち込むわけにはいかないだろう? そしておそらく分かるものには気づかれるほどの魔力が籠もっているから表沙汰に出すものでもない。だからこれだけで十分だ」

「ま、それでもいいけどなぁ。戦う時は手加減せぇへんでな!? ネギもいいきったんやから!」

「極力努力はしよう。俺の本来の戦いは剣術だからな。あまり期待はしないことだ」

 

それでアスナとタカミチがなにか会話をしていたのでなにかと思ったがそこで朝倉の声が響いてきた。

そこには朝倉とともに超鈴音もいて一緒にこの大会の説明をしている。

俺は方耳でそれを聞きながらもタカミチに話しかけた。

どうやら刹那も先に話しかけていたようだ。

 

(タカミチ、刹那…超鈴音についてはどうだ?)

(いや、今のところは動機や目的が分からない以上は様子見だね)

(そうですね。現状は偵察が限界でしょうね…)

(それよりタカミチ、やはり今はネギ君の方が気になるようだな? 顔を見れば分かるぞ?)

(ん? そうかい? まぁ、確かに今はネギ君との試合に気持ちが行っちゃっているかもしれないね)

(そうか…………まさか、アレは使わないよな?)

(さて、どうだろうね? どの道はネギ君次第だね)

(はぁ…たまにタカミチは童心に戻る時があるな…加減はしておくことだな)

 

それでタカミチとの話は終わりまた監視の目を向けていた。

そこに話についていけていなかったのか刹那が話しかけてきた。

 

(士郎さん、“アレ”とは一体…?)

(俺からは話せない。だがそれを使えばそれこそただの一般人なら余波だけで吹き飛ぶ…)

(はぁ…?)

(まぁどうせタカミチの事だ。本気ではないにしろ使うだろうからその目で見ておくのもいい経験だぞ)

(わかりました)

 

そしてやっとのことすべての説明が終わり俺達選手全員(エヴァは未だにいない)は闘技場控え席に通された。

だが覚悟はしていたがやはり観客が大勢いるこの場でほぼ全てといってもいい裏の世界の関係者が試合をすると考えるとまた頭痛がしてくる。

ほんとうに温すぎるのではないか!? と叫びたい衝動をなんとか抑えつつ俺は控え席に座る事にした。

 

『ご来場の皆様、お待たせ致しました!!只今よりまほら武道会・第一試合に入らせて頂きます』

 

そこに選手及び観客すべてに語りかけるようにマイクを持った朝倉が大声を上げた。

同時に能舞台の上に小太郎と佐倉が姿を現した。

だがやはり見た目ただの学生である二人に観客は野次を飛ばしてきている。

しかしそんなものは知らないといった感じに朝倉がうまく話を進行していく。

おまけで控え席にいたアスナとネギ君が声を上げた。

それに反応してようやく高音が頭だけローブを取って正体を明かした。

 

「おはようございます、ネギ先生。それに衛宮先生」

「ああ、おはよう高音。やっとローブを取ったな」

「ええ、いずれは取ることになるのですから別段問題はないだろうと思いましたので…」

「そうか」

 

俺が高音と普通に会話をしている中、ネギ君とアスナから声が上がった。

 

「あんたは……」

「昨日の魔法生徒の……なんでこんな所に!?」

「なんだ、知らなかったのか? トーナメント表の名前でもう知っていると思っていたが…」

「え、あ…確かにそうだけど。っていうか士郎さん知ってたの!?」

「ああ。昨日は同じグループだったからな。そういえば大会の出場の理由を聞いていなかったがなにやらネギ君を懲らしめるとか何とか言っていたが…」

「はい。衛宮先生は別の区域担当で知らなかったようですが昨日の一回だけ告白生徒が出てしまったのは知っていますでしょ?」

「そうだな。理由は知らないが未遂に終わったと聞いた」

「ええ、ええ…確かに未遂で終わりましたとも。ですが―――……」

 

高音の言葉は次の瞬間には紡がれる事はなく変わりにアスナと刹那が高速の勢いで高音を掴んで舞台裏に連れて行きネギ君も俺にお辞儀をしながら着いていった。

そしてしばらくして帰ってくると高音はなにかを言い遂げたのか満足そうに席に着いたが代わりに三人はアワアワしていた。

 

「結局なんだったんだ…?」

「いえ、私とした事が神楽坂さんとの約束を破るとこでした…とりあえず恨みはないですがネギ先生と戦う際は私も本気で行かせて頂くと伝えておきました」

「まぁ、それはいいんだが本気でなにがあったんだ?」

「衛宮先生はお気になさらず…これは私とネギ先生との問題ですから」

「そうか。なにか釈然としないがとりあえず頑張れとだけエールを送っておく」

「ありがとうございます」

 

(あっぶなかったわね~…思わずタイムマシンのことを知らない士郎さんにばれるとこだったわ)

(そうですね。確かに危なかったですから先ほどの行動はよかったと思われます)

(まったくよー…士郎さんにばれるって事はもしかしたら仲がいい高畑先生にあの痴態が耳に入っちゃうところだったんだから。士郎さんはそんな事はしないと思うけど…)

(本当に僕のせいですみません…)

(まったくよ!)

 

 

士郎と高音が会話をしている間、昨日の珍事件での話が再発してネギはアスナにこってり怒られていた。

そんなこんなで時間が経過して朝倉の『第一試合、Fight!!』という声で全員目を向けた。

 

 

開始の合図とともに二人とも構えを取った。佐倉のほうはなにやら箒型のアーティファクトを出現させたようだ。

一応武器としてカテゴリーされるものか。…ああ、某名家のマジカルアンバーを思い出すと寒気がする。

とりあえず解析して効果も分かったがあまり戦闘向きの武器ではないな。それはそれとして丘には登録したが…。

あれで仕込み刀が入っていたら面白かったのだがな…、見た目どおりの箒だとは。

 

「高音、一つ聞くが佐倉はあまり戦闘に向いていないのではないか? できても後方支援型だと読んだが…」

「ええ。愛衣は性格も大人しいほうですから確かにそうですね。ですがあの歳で無詠唱呪文も使えますからあの少年にも太刀打ちはできるでしょう」

「いや、小太郎を外見で判断しないほうがいいぞ? 最近は俺とランサー…―――世界樹広場で一緒にいた青い髪の男―――とで徹底的に鍛えているからな」

「なっ…」

「ま、見ていればわかる。小太郎が先に動くぞ」

 

そういった矢先に小太郎は瞬動…いや、もう縮地レベルの動きで一瞬にして佐倉との間合いをゼロにして下から掌底を繰り出した。

当然そんなものを今の小太郎の力でまともに受ければ致命傷だろう。

だが敢えてそれを空振りにして思いっきり腕を振った衝撃で起きた風圧により観客席まで響くがごとくブオンッ! という轟音とともに気づいた時には佐倉は空中10メートルはあるだろう空まで吹き飛ばされ器用にも手足をじたばたさせていたが抵抗は無駄に終わり舞台外の池にそのまま落ちていった。

 

『こ、これは―――? 小太郎選手、信じられないスピードで間合いを詰め……!? い、今のは掌底アッパーでしょうか!? 少女の体が10メートルは吹き飛んだーーっ!? これはエグい!?』

 

小太郎はその朝倉の言葉に「アホ、ただの風圧や」とぼやいていたが素人目にはさぞぶっ飛ばしたように見えただろう。

そして朝倉のテンカウントによって小太郎の勝利が決定した。

だがそこで終わればよかったのだが佐倉はカナヅチらしく溺れていてしょうがないといった感じで小太郎が飛び込んで助けに入っていた。

その際に、

 

『勝者の小太郎選手が手を差しのべます。微笑ましい光景に会場からも暖かい拍手が!』

 

と、朝倉がアナウンスしていた。

ふと隣を見れば高音は口をパクパクさせて呆然としている。

まぁ言葉を失う気持ちもわかる。

それをよそにネギ君は勝者の小太郎に手を振っていた。

そこで刹那が話しかけてきた。

 

「士郎さん、彼の動きは瞬動を通り越して縮地レベルになっていませんでしたか?」

「その疑問はもっともだ。最近は俺とランサーの動きに着いてこようと必死になっていたから自分でも気づかないうちに達していたのだろう…いや、本当に才能があって羨ましいことだな」

「それに伸び盛りですからさらに強くなりますね」

「ああ。いつかは追い抜かれてしまうだろうな…」

 

そうしみじみ俺は言った後、

 

「…さて、次はクーネル・サンダースの試合だな」

「士郎さんはあの方の正体が知りたくて参加したのでしたね」

「ああ。まぁもう正体は知っているからしいていうなら参加した真意といったところか?」

「正体を知っているのですか?」

「知っている。ああ…そういえば話していなかったな。奴は図書館島の時に現れた奴のことだ。本当の名は―――…」

 

 

 

―――まだ秘密にしておいてくれませんか?

 

 

 

気配も感じさせずに奴は俺達の後ろに現れた。

刹那はすぐに戦闘体勢を取ろうとしたが俺が手でそれを止めて、

 

「相変わらず神出鬼没だな。クーネル・サンダース…」

「ふふふ…さすがは衛宮さん。まったく動じないとは驚きました」

「殺気がないのだから一々反応してもしかたがないだろう? それで…? 俺をこの大会に焚きつけた理由を聞かせてもらえないか?」

「たんに面白そうでした、からという理由はダメでしょうか?」

「…捻り殺すぞ貴様…?」

「怖いですねー…それでは私は次の試合ですので退散します」

 

すると奴はまたしても一瞬で姿を消した。

まったく…いちいち神経を逆撫でしてくるな。本気で殺意が沸きそうだ。

気づくと刹那はとても引き攣った顔をしていた。

理由を聞くと俺と奴の間で火花が散っていて話しかけられなかったそうだ…。

なんでさ?と呟きながらも奴の戦いを観戦することにした。

 

…結果から言わせてもらおう。二回戦目。奴…クーネル・サンダースはある意味反則だ。

大豪院ポチという一般人の格闘家も勢いはよかったが所詮は表の世界の人間。

奴に敵う道理もなく最初はラッシュの嵐をお見舞いしていたが涼しい風が吹いたがごとくただのカウンター掌底一発で地に沈められた。

ただそれだけなら目を瞑ろう。だがやはりあの分身体は卑怯以外の何者でもないだろう?

攻撃しても通用するどころかすり抜けてしまうのでは話にならない。

最後にネギ君に向けて視線を向けるところやはりなにかを企んでいるように感じる。

…まぁそれはそれとして今はまだ戦わないのだから流しておこう。

 

お次は第三試合、楓と中村達也という武道家との試合。

ここで噂になり始めている『遠当て』―――いわゆる気弾を中村達也は放ち周囲は「本物か!?」とか「どうせCGだろ?」とかで盛り上がっていた。

だが楓は縮地を使いまたあっけなく第三試合も終了した。

ここまでは順当に進んできたところだろう…。

だがお次は古菲と龍宮との戦いだからまた騒ぐことだろうな。

 

 

 




まずはここまで。


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055話 文化祭編・開催2日目(02) まほら武道会・本選開始 その2

更新します。


 

 

さて、次は古菲と龍宮の試合か。

体術が武器の古菲はともかく主に銃器関係を取り扱う龍宮はなにを出してくるのやら…。

そう考えているうちにネギ君から「古老師!!」やら「龍宮隊長!!」という叫びがあがる。

…しかし古老師はともかく隊長とは…? 思わずツッコミそうになるのを耐える。

そして龍宮は「隊長はやめよう…」と少し汗を流しながら先に舞台に上がっていった。

古菲はまだ待機席に残っていてネギ君達と会話をしている。

しばらく話が続いて終わったのか俺の方に近寄ってきた。

 

「士郎老師!」

「やぁ古菲。先ほどネギ君にも聞かれていたが龍宮に勝てる見込みは?」

「難しいアルな…士郎老師だったらなにがくると思うアルか?」

「…暗器が妥当だろうな。あのいかにも中にはギミックがたくさん詰まってますといった感じのコートが気になる。とりあえず俺から言うことは一つ、油断せずに全力でいけ。古菲はまだこちらに入りたてなのだから実戦を生き抜いてきた龍宮はなにをしてくるかわからんからな。実際俺もその場で使えるものはただの木の棒でさえ使った事がある」

「うむ、わかったアルよ。助言感謝感激アル♪」

 

そう言って古菲は遅れて舞台に上がった。

そこで朝倉の実況が響き渡る。

 

『お待たせしました!! お聞きください、この大歓声! 本日の大本命、前年度「ウルティマホラ」チャンピオン!! 古菲選手!!』

 

それと同時に観客が一斉に騒ぎ始めて主に格闘家達から「菲部長―――!!」という熱狂的なファンの声も聞こえてくる。

 

「やはり古菲は人気が高いな…」

 

そう一人呟きながら朝倉のマイクによる叫びに似たアナウンスを聞く。

 

『そして対するは、ここ龍宮神社の一人娘!! 龍宮真名選手!!』

 

二人の名前が挙がり終わった時には既に二人から魔力とは違う気のようなオーラが沸きだっていた。

そしてまだ開始されていないのか会話をしている。

 

「……いいのか? ここで私に負ければお前のファン達がガッカリするぞ?」

「 “我 只 要 和 強 者 闘(私が望むのはただ強者との戦いのみ)”…名声にこだわりはないアル。それより真名、手加減などするでナイヨ?」

「無論だ。もとより戦闘における私の選択肢に手加減などというものはない」

 

それで会話は終了しさらにお互いオーラが上がる。

そこにやっとというべきか朝倉が『それでは、第四試合…Fight!!』という言葉を上げた。

そして古菲は構えを取ろうとしたがふと龍宮の手に目を向けた。そこにあったのは…

 

「500円の硬貨…?」

「え? どうかされましたか士郎さん?」

「いや、刹那…まさかとは思うが龍宮はらかん―――…」

 

と、俺がすべて言い終わる前に開始同時に古菲は突如“パンッ!”という鈍い音とともに体を後ろに仰け反り、舞台に倒れ、転がり、そのまま動かなくなった。

朝倉の『さあライフルの名手という龍宮選手。チャンピオンを相手にどう戦うのか……』という言葉が言い終わる前に古菲は吹き飛ばされていたのだから相当の早撃ちだったようだな。

観客はいきなりの事に騒然となり静まる。

 

『こ……ここ、これは一体――ッ!? 開始早々、突然古菲選手が吹き飛んで……!?』

 

という朝倉のアナウンスにより観客も含めて騒ぎ出し始めた。

そこにネギ君の「古老師!!」という悲鳴じみた叫びがあがる。

 

「…士郎さん、先ほどの続きですが“羅漢銭”で間違いは無いですか?」

「そうだな。しかしいきなり頭部直撃は痛いな。なにかの暗器は使うと見ていたがまさか硬貨を使ってくるとは…」

 

そこで解説の席で豪徳寺薫というリーゼントの不良っぽい生徒から羅漢銭の説明が入り茶々丸もそれに対応している。

そして朝倉が解説をすべて聞き終わると理解したのか、

 

『優勝候補、トトカルチョ人気№1の古菲選手からあっさりとダウンを奪いました!! 無名の“羅漢銭”龍宮選手、強い!!』

 

そういいながらもカウントを取る辺りはしっかりと仕事をしているなと感心しながら、

 

「だが古菲もただやられていただけではないな」

「ええ。当たる直前に後ろに跳んで衝撃を緩和していましたからそれほどダメージはないでしょう」

「…む、立ち上がったか。さてここから本番だな。しかし…龍宮よ。お前はその腕に500円の硬貨をいくつ仕込んでいるんだ? 今見た限り袖の中から一気に20枚は取り出したぞ」

「後で回収でもするのでしょうか…? それはともかく龍宮の奴、あれを連射する辺り相当仕込んでいそうですね?」

「ああ。なんとか古菲は避けきれているが反撃の手を掴めないでいる。これは苦戦しそうだな…」

「士郎さんはすべて弾くか掴むという大胆な行動をしそうですね?」

「よくわかったな?」

「士郎さんの事ですから、最近はもうそれくらいでは驚かなくなってきたので…」

 

そこにアスナがおずおずと話しかけてきたので「なんだ?」と返事を返した。

 

「あの、二人ともー…? 真剣な顔をしながらなにさりげなくとんでもないこと呟いているのよ?」

「あ、アスナさん。別になにも特別な事ではないですよ? 実際私が模擬戦で放つ暗器の類はすべて士郎さんは掴んで逆に使われてしまう事がザラですから」

「…シロウサン、アナタハニンゲンデスカ?」

「棒読みで喋るな…落ち込むから。それに古菲も裏の修行を積めばそれくらいできるようになるぞ? それよりそろそろ試合に集中しよう」

 

そして黙って見学をすることになり見ているが龍宮の連射もすごいがそれをまだ一般人レベル(表世界では最高レベル)の古菲が避けるのもまた凄い光景だ。

『す、凄まじい攻撃!! 羅漢銭の連打。まるでマシンガンのようだーーっ!』という朝倉の言葉どおり、まるでマシンガンのごとく古菲が避けた硬貨は地面を削っていく。

しかし古菲はこのままではジリ貧だと思ったらしい。

「ほいっ!」という掛け声とともに呼吸を整え立っていた場所から瞬時に龍宮に接近した。

そして肘鉄をしたがそれはいとも容易くかわされた。だがそれで終わりではなくすぐさま体制を変えて龍宮の腕を掴み、懐に入り込んだ。

 

「やった!! 接近戦!!」

「今の瞬動か!?」

「いえっ、あれはおそらく八極拳の活歩という……」

 

ネギ君達が古菲の接近におおいに盛りあがっているところ悪いと思ったが、

 

「―――いや、判断を誤った。もっと慎重にいくべきだったな」

 

俺の静かな声に、でも全員は振り向きすぐさま古菲の方を見た。

そして龍宮は言った。

曰く、

 

―――私に苦手な距離はない

 

と、同時に古菲の顔の下から覗かせた一枚の硬貨によってまるで古菲は人形のように空に打ち上げられた。

周囲はどよめき、ネギ君達も騒ぎ出す。

しかし気にする素振りも見せず龍宮は手を抜かず立ち上がろうとした古菲の体の追撃としてあちこちに硬貨をぶつけていく。

それによって次々と痛手をもらう古菲に周囲から非難の声が聞こえるがやはり龍宮は力を緩めない。

そしてついに横になって古菲は倒れてしまった。

さすがの古菲ももう諦めの目になっている。

…どうやら負けを認めようとしているようだ。

しかしそこでネギ君から、

 

「くーふぇさん! しっかりーーッ!!」

 

という激励の声とともに古菲の目に再び光が宿る。

そしてネギ君以外の観客、選手ともに続いて声を上げだす。

…完全に悪役だな、龍宮。

そこでとどめとばかりに龍宮は硬貨を打ち出したがそれは突如すべて弾き落とされた。

なにが起こったかというと古菲は腰につけていた長めの布を使いすべて弾いたのだ。

さすがの龍宮も目を見開く。

それが油断に繋がり古菲は布を自在に、まるで蛇のようにしならせて龍宮の腕と顔を同時に拘束した。

 

「フフ……ようやく捕まえたアル……弟子の前で情けない姿は見せられないアルヨ」

 

古菲はそういって額から流れる血を舌で舐めながら言い切った。

思わぬ逆転だな。あれはただの布ではないと思っていたが最後の切り札みたいなものか。

まるでマグダラの聖骸布……………考えるのをよそう。頭の中に“…ゲット”という単語が響く。

それはともかく、

 

「古菲はアレを最後の手にするようだな」

「ええ。もうまともに体を動かすことはできないでしょうから…」

 

俺の呟きに律儀に返してくれる刹那に感謝しながらまた目を向ける。

すると巻きつけられた布はすぐさま龍宮によって硬貨で破られた。それによって周囲がまたざわめく。

だがそこで終わりではないらしく古菲は布をしならせてまるで腕の延長線のように打撃を叩き込む。

 

「布の槍!!」

「おおおっ、珍しいモンを!!」

 

と、ネギ君と小太郎は驚きの表情をしていた。

 

「布槍術か…俺もたまに使う事があるが古菲が使えたとはな。だが隙は大きいな。龍宮は避けると即座に硬貨を打ち出してカウンターを決め込んでいるからまったくといっていいほどダメージを与えきれていない…」

「そうですね。ですが致命傷だけはしっかりと避けるところ古もなにか考えがあるのでしょう。なにかを狙っているようです」

「あのさー…士郎さんと刹那さん、解説席に座った方がいいんじゃない? あのリーゼントなんかよりよっぽど向いていると思うわよ?」

「「いやいや…いざ解説となると―――……」」

 

アスナの言葉に反論しようとしたら、そこで俺と刹那の言葉が重なる。そしてまたもや「む…?」と同時に首を捻ってしまった。

 

「…さすがパートナーね。息もピッタリだわ」

「「………」」

 

反論の言葉も出ない。少し二人して落ち込みながらも舞台は最終局面に入る。

古菲の放った布が龍宮の腕に巻きつき一気に引き寄せられて龍宮も焦り顔になる。

さらにチャンスなのか古菲は布を捨ててしまった。かわりに拳を握り締めて両手に力をこめた。

最後に龍宮の胴に古菲は手を添えた。

龍宮も硬貨を地面に散ばせながらも一発古菲のお腹に硬貨を叩き込んだ。

それによって相打ちのような形になったが先に古菲が手を添えたままガクンと両膝をついて周囲が静かにざわついた。

 

「決まったな…」

「はい、古の勝利で…」

 

古菲が負けたと思っていた面々は俺と刹那に振り向いた。

だが俺は二人を見ろと視線を促がす。

瞬間、古菲の添えられた手から浸透勁によって衝撃が伝わり龍宮の背中の布地が盛大に爆ぜた。

そして龍宮は無言でドサッと地面に倒れてしまって動かなくなった。

一瞬の空白は朝倉のアナウンスによって塗り替えられた。

 

『ダウン!! 龍宮選手ダウンです!! カウントをとります。1……2……』

 

カウントなど不要だろう? もう見た限り龍宮は動きそうに無い。

 

『――10!! 古菲選手勝利ーー!! 龍宮選手を下し2回戦に進出です!!』

 

カウントは終了して古菲の勝利が確定し盛大に周囲が騒ぎ出した。

とうの俺たちも古菲の場所に向かっていた。

 

「古老師!」

「おお、弟子よ」

 

古菲は満身創痍でよろめきながらも、しかし格好悪い姿は見せられないという感じで平然そうに皆と向き合って話し合っている。

 

「スゴイです!! 龍宮さんに勝つなんて」

「いやー、どうアルかな? 何のかんのといって、真名は手加減してくれた気がするヨ」

「え、そうなんですか?」

 

元気に振舞っているが、俺が気づいていないと思ったか?

 

「はぁ~…それはいいが古菲。腕が折れているというのに次の対戦は難しいのではないか?」

「えっ!? え、えーと……何のことアルか?」

「嘘をつくのはよろしくない」

「そうやで?」

 

俺はおもむろに古菲の腕を優しく持つ。小太郎も便乗して突付いていた。

すると「あひぁいっ…!?」といった小さい叫びを古菲は上げた。これが決定打となったのか、

 

「ええーーっ! お、折れてるんですか古老師!?」

「いやーー、まーその……」

「大変じゃないバカッ! すぐ救護室にー!」

 

と、古菲は医務室に強制連行されていった。

「まだ大丈夫アルよー!」という叫びが聞こえてきて少し笑みを浮かべながらもふと舞台を見るとすでに龍宮の姿は消えていた。

タンカで運ばれているところは見ていない。

…と、いうことは一人で誰にも悟られないように消えたということか。狸寝入りもいいところだ。

…それに少し違和感を覚える。龍宮は手加減をしていたというより、むしろこうなる事をあらかじめ想定していたような…。そんな感じだ。

本来の彼女ならあのようにじわじわと責める性格はしていないだろう…。

これは、もしかしたら龍宮は超鈴音側の人間かもしれないな…。

俺はそう考え姉さんにその旨を念話で伝えた後、自然を装い遅れて救護室に向かった。

 

 

 




士郎と刹那語りが続きます。


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056話 文化祭編・開催2日目(03) まほら武道会・本選開始 その3

更新します。


 

 

古菲と龍宮の試合後、アスナ達に強制的に救護室に連れてかれた古菲は担当の医師に出場辞退を言い渡されてしまっていた。

それもしかたがない。先ほどのダメージがまだ全身のいたる所に残っている上に左腕は骨折…とうてい続行しつづけることも困難だろう。

それから医師は部屋を出て行って自分達だけになった。

 

「さて、では古菲は当分安静にしていることだな」

「むぅー…仕方ないアルよ」

「骨折くらいどうとでもなるやんけな?」

「コタローの言う通りネ!」

「こら! いきなり口車に乗ってんじゃないわよ!」

「やっぱりダメアルカ…?」

「大人しくしていろ。ただでさえ骨折以外にもいたる場所に痣や傷口が残っているのだからな。…だがそれは別として古菲、一回包帯を解いてもいいか?」

「ん? どうしてアルか? せっかく巻いてもらたのに…」

「なに…少しばかり治りを早くさせてやろうと思ってな」

 

そして俺は刃を潰してある莫耶を投影して解いた古菲の腕にそれを一緒に巻きつけた。

当然皆は不思議そうな顔をしていたが、

 

「皆の疑問はもっともだ。だがつい最近…昨日か? 錬鉄魔法専用の干将・莫耶作成時の副産物で持っているだけで治癒能力が追加されたのだ。だからしばらくすれば骨折も治るだろう」

「凄いアルね!? 確かになにか暖かいものが体に流れてくる感じがするアルよ。…またもらってもいいアルか!?」

「ああ、条件付でならな。これは前にやったものより対魔力・対物理…さらに強度、切れ味その他諸々の機能が飛躍的に上昇している。さらに錬鉄魔法に耐えうるものなのだから今の古菲が使用しても逆に振り回されるだけだろうからな…」

「それでその条件は…?」

「強くなれ。ただそれだけだ。どの道俺専用の武装なのだから一定値以上の実力をつけなければ先ほども言ったように使えないものだ」

「分かったアルよ!」

 

そして俺達は選手控え席に戻ろうとしたがどうやらネギ君は次のタカミチ戦でのことを集中したいために古菲とともに最後のやりとりをするらしい。

だから二人を残して救護室から退出してアスナや小太郎達と歩いているとなにやら舞台の方から女性の悲鳴が聞こえてくる。

…あの悲鳴は高音か。確か相手は田中(β)…。……………まぁ、大丈夫だろう。昨日も戦ったのだからなんとかなる。

と、遠い視線をしていると前からタカミチが歩いてきた。

 

「やぁみんな。古菲君は大丈夫だったかい?」

「ああ。怪我はまぁまだあるが概ね今日中には全快していると「タカミチさんか…あんた強いんやってなぁ」思うぞって…小太郎?」

 

俺の言葉を遮って小太郎がタカミチに話しかけた。

その態度にさすがのアスナも…いやアスナだからこそキレてかかっていた。

そうしている間にも小太郎は一度タカミチに向けて拳気を飛ばした。

そして二人の間でパァンッ! と弾ける音がした。

どうやらタカミチも一瞬だけ放ったらしい。眼で追った限りは通常よりかなりダウン気味の威力だが…。

それにより小太郎はなにかを掴んだらしく感心の表情を浮かべていた。

 

「高畑先生にいきなりなにやってんのよ!!?」

「ちょっ!? アスナの姉ちゃん、今のが見えたんかい!?」

 

タカミチと小太郎とのほんの一瞬のやり取りを目で追うことが出来たとは…。動体視力は一体いくつだ?

やはりなにかマジックキャンセラーも相まって秘密があるかもしれないな。

しかし、いかんせん情報がないので探りようも無いが…。学園長あたりに問いただせば何か吐くかもしれないな?

俺自身のネットワークも魔法世界にまで広がったことだし事が落ち着いたら色々と情報収集してみよう。

 

それからタカミチとは古菲の怪我やたわいも無い会話のやり取りをして、次のネギ君とタカミチとの試合の話になってアスナは泣きながらも「高畑先生を応援します!」と言って背筋を伸ばしていて小太郎やカモミールに呆れられていた。

そしてアスナ達と別れた後、タカミチと二人になったのを見計らって、

 

(タカミチ…少しいいか?)

(小声と言うことは何か情報を掴んだのかい?)

(いや、確実性でいけばまだ断定はできないが少なくとも龍宮は超鈴音側についていると思われる)

(…士郎もそう思うかい? 古菲君との試合後、倒れていたはずだったのに目を離した瞬間姿を消していたからね)

(そうだ。だから要注意しておいた方がいい。こう人が多いと気配も探れんからな)

(分かったよ)

(俺からは今の所は以上だ。あっと。それとは別に…次の試合、なんともいえないが頑張れと言っておく)

(ありがとう)

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

タカミチを見送った後、朝倉の舞台修理完了の報告が聞こえてきたので選手控え席に遅れて着くとなにやらネギ君は皆から助言を受け取っていた。

エヴァは不敵に笑いながら「実力の差は歴然…だが、とにかくぶつかってこい」と。

他にも楓や刹那、古菲に小太郎と言葉をもらい、最後にどちらを応援していいか未だに迷っているアスナに「がんばって…」と親指を立てられていた。

それにネギ君は精一杯の声で答えて会場に足を歩みだした。

だから俺もなにかいっておこうと思い静かな声で、だがネギ君に響くように、

 

「…ネギ君。エヴァ同様勝ち負けにどうこう言うつもりはないが、ただ勝ちたいならば常に相手――タカミチ――の次の行動を幾重にも考えどう行動するかを心がけろ。

1%でもいい…勝てる可能性を意地でも手繰り寄せれば勝機はおのずと訪れる」

「…―――はい、士郎さん!」

「いい返事だ。さあ行ってこい」

 

ネギ君を送ると後ろからエヴァが話しかけてきた。

 

「フンッ…まだあのボウヤには過ぎた助言だな?」

「そうかな?」

「当たり前だ。あれは貴様が長年の実戦で得た戦闘理論だろ? まだ十どころか数回しか実戦をしたことがなく敗北の味も碌に味わった事が無い…それで理解しろと言うのも酷だな」

「ふっ、まぁな。だが常に考えることはやめてはいけないと思うぞ?」

「…まぁな。まあいい。ならお前との試合…せいぜいお前のその戦いで私を楽しませろよ?」

「ご期待と在らばな」

 

お互いに不敵に笑いあい朝倉のアナウンスの声で前に向き合った。

 

そしてタカミチとネギ君が舞台に上がった途端に試合を始める前だというのに武道会内の観客の歓声は一際高くなり、舞台を焦点に衆目を集める。

当然と言えば当然だがさすがにただの一般人達には結果は見るよりあきらかという様な評価があちこちから聞こえてくる。

そんな中、そんなことはどうでもいい! と言わんばかりに朝倉が実況を続ける。

 

『それでは皆様お待たせいたしました、第六試合をまもなく開始させていただきますっ!!』

 

刹那や楓、その他の面々もどうやり合うか言い合っている。

エヴァは小太郎に瞬動の事について「フッ…」と微笑を浮かべている。どうやらエヴァも楽しみのようだ。

さて、あれからどれほど成長したか見させてもらおうか。

 

そして朝倉の『Fight!!』という掛け声とともに先に動いたのはネギ君。

どうやら小太郎の助言どおり顎を守りながらも瞬動をして、それは見事に成功。

しかもタカミチの居合い拳をギリギリ弾くという成果を発揮した。

小太郎やカモミールもネギ君が瞬動に成功したことに驚いている。しかも二連続とくれば驚きは倍だ。

そしてどうやらネギ君も居合い拳の射程距離をすぐに読んだらしくタカミチに常に着かず離れずの戦法を取っている。

 

「…驚いたな。あのネギ君が積極的にタカミチに攻めていくとは」

「まぁな。だがそれで正解だ。実力が違いすぎるのは百も承知。距離を取ってもジリ貧…つまり今のボウヤは恐れを克服して『わずかな勇気』で挑んでいることだろう」

 

俺の一人呟きに隣にいたエヴァが律儀に応えてくれた。

しかしなぁ…やはりというかなんというか…

 

「うーむ…しかしだな」

「どうした、士郎?」

「いや、なにね? 予想していたことだがネギ君はおそらく今の全力で挑んでいるのだろうが、タカミチのやつ…実力を全然出していない。見ていて惨めに思えてくる。しょうがないといえばしょうがないが…」

「奴の悪い癖だ。当分はボウヤの成長具合を味わいたいと言うところだろう? 半分でも本気をだせば一瞬だと言うのにな…」

「ケケケ…見テテツマンネェナ。デキレバ血ノ雨希望ダガナ♪」

「それはまずないだろう? ま、そのうち展開は変わるだろうから今は静かに見学していよう。む? どうやらネギ君がなにか決めるようだ」

 

見ればネギ君の周囲に魔力の珠がいくつか薄っすらと見える。

それをすべて拳に集束させ盛大にタカミチの胸に叩きつけた。

どうやら魔法の射手を拳に集めて放ったようだ。タカミチはまるでトラックに撥ねられたかのように舞台の外に吹っ飛んだ。

 

「…いや、盛大に吹っ飛んだな。ここまで来るともう魔法の隠蔽とかは関係ないな」

「そんな余裕は今のボウヤには無いだろ?」

「確かに…」

 

「雷華崩拳…うまく決まったアルね」

 

古菲がなにか呟いているが、なるほど…それが正式名称か。

そして観客がそれぞれ言い合っている中、朝倉がカウントを始めたがタカミチは少しくらったようだが痛みを感じさせない爽やかな笑みで水の上を歩いてきた。

 

『高畑選手! あの打撃を喰らってまったくの無傷だ!!』

 

朝倉の実況もいい所で、そろそろ本腰を入れたのかタカミチはネギ君が動くと同時に次の瞬間には拳と拳のぶつけ合いを舞台外にも構わず続けた。

だが、タカミチは今まで使っていなかった脚蹴りを使いネギ君を舞台の上に戻すと同時に距離も取れたことで居合い拳の射程が出来た為か一気に当てにきた。

それをネギ君は何度も喰らってしまい吹き飛ばされ、実況席にいる豪徳寺というリーゼントの生徒もやっとタカミチの居合い拳に気づいたのか解説をしている。

ネギ君も再び接近戦を試みるが瞬動の欠点ともいうべき一度使うと方向転換が効かないところを突かれて思いっきり足掛けをされてしまい前から転んでしまう。

実戦だったらもうすでにやられている所だがタカミチはわざと攻撃を遅らせてネギ君を逃がしているようだ。

そしてまた居合い拳でネギ君の冷静さを少しずつ削っていっている。

 

「ふむ…攻守逆転。これは完全にタカミチのペースだな」

「そうだな…。しかし我が弟子ながら情けない。もう少し機転を効かせて攻勢に転じればいいものを…」

 

エヴァは少しガッカリ気味だが俺個人としてはまったく本気でないとは言え耐えているネギ君を褒めている節がある。

だがタカミチは突然というわけではないが攻撃を止めて語りを始めた。

そしてネギ君の実力を認めたと判断して少し本気を出すといい、両手を下に垂らすように広げた。って!

 

「む……やはりアレを出す気か」

「アレかぁ…では少しはネギ君を認めたと言うことか。だがこれでさらにネギ君の勝機は減るな」

「え…? それってどういうこと? エヴァちゃんに士郎さん?」

 

そこで割と近くにいたアスナが語りかけてきた。

それに俺は「すぐにわかる」とアスナを舞台に向けさせた。

 

そしてタカミチは呟くように「左腕に『魔力』…右腕に『気』…」と言い、両腕を胸の前に持ってきて普通ならお互いの相性から相殺するだろう二つの力を融合させた。

途端、舞台上にすごい風圧が巻き起こり、タカミチは「一撃目はサービスだ」と言って舞台に“それ”を叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

『咸卦法』

呪文詠唱が行えないタカミチが文字通り血の吐くような努力と鍛錬を重ねて会得した気と魔力を融合させるというもの。

あらゆる身体能力向上、物理・魔法防御、耐寒、耐熱……etc。

自在に操るのも骨を折るものだが、そんな様々な能力を一気に付加できることからこの世界でも最上位に位置するという究極技法(アルテマ・アート)

 

 

 

 

―――閑話休題

 

 

 

とにかくそんなものを居合い拳に乗せたものなのだから威力は推して知るべし。

何度か魔法世界の仕事で見たがやはり凄まじいの一言に尽きる。

舞台の上には文字通り大砲でも撃ちつけられたかのように大穴が開いてしまっていた。

 

………実際のところ、あれでもまだ優しい部類なのだからたまったものではない。

タカミチ自身、今は亡き師匠にはまだまだ及ばないと言っているが本気を出せば数発打てばこの会場は耐え切れずに沈むことだろう。

 

そしてそれを間近で見せられたしまった当のネギ君は少し…いや、かなり戦意を削られたようで意気消沈気味だ。

だがタカミチも回復を待ってくれるほど優しくは無い。次々と居合い拳を放ちネギ君に反撃の余地を与えようともしない。

観客、そしてアスナ達も騒ぎ出す中、次第に避け切れなくなってきているのかまだまだ荒削りの瞬動で避けてはいるが傷をもらっている。

 

ネギ君は完全に防戦に徹してしまったためか頭上を簡単にタカミチに取られてしまい『風花・風障壁』だったか? それで何とか防いだがそれも一瞬。

魔法使用後の間にタカミチは背後を取り、ネギ君はなんとか反応できたがそれは既に手遅れ。

居合い拳を腹にもろに受けてしまい体勢もままならないまま打ち下ろしでの居合い拳を喰らってしまいついにネギ君は地に沈んだ。

 

 

朝倉はもう虫の息であるネギ君を見て無理だと判断し、少しタカミチを睨みながらも勝利宣言を無理やり上げさせようとしていたが、タカミチは未だ地に仰向けに倒れているネギ君に「君の想いはこんなものか?」と無表情だがそれゆえに冷徹な眼差しで問いかける。

ついでアスナが大声でネギ君に叱咤の言葉を泣きながら上げて、刹那達…観客席からも宮崎や他の生徒も声を上げだしそれに応えてかネギ君はふらつきながらも立ち上がった。

そして秘策でも思いついたのか無詠唱でなにかしら魔法を唱えて体勢を整える。

その気合からくるものが観客にも伝染し盛大なエールを生み出した。

 

 

ネギ君は体勢をしっかりと保ちまわりに九矢を待機させながらタカミチに吶喊。

だがタカミチはすべての拳をいなし、受け止め反撃をしてせっかく溜めた魔法の射手もキャンセル…いや、あれは自ら消したな?

とにかくまた吹き飛ばされ湖の底に沈むが不屈の闘士で這い上がりタカミチに対して最後の勝負を申し出る。

タカミチもそれに応えてそれを了承、最後の一撃を出そうと拳をまたポケットにしまう。

 

 

一瞬の静寂…それを先に破ったのはネギ君。色的に雷の属性の射手を集束して先に放ち瞬動でそれを身に纏い突撃を試みる。

対してタカミチも居合い拳を放つが…それは無詠唱の風障壁で防がれ技後の硬直時間を狙い雷の弾丸と化したネギ君の進行を許してしまい両者激突という事態になり、その余波で舞台に土煙が盛大に立ち上がる。

 

そして煙が晴れた時にはタカミチの背後には先ほどキャンセルされたと見せかけた遅延呪文を発動させているネギ君の姿があり、

 

「へへっ、この距離ならタカミチの技は使えないよね」

 

そう笑いながら言うネギ君に対し、タカミチは苦笑いを浮かべた。

そして最大の本数でネギ君の風圧と拳圧が込められた拳がタカミチを地に沈める。

さらに力は衰えるどころかさらに上昇して、

 

「ああっ!!」

「ぬうっ!!」

 

ネギ君の叫び声とタカミチの苦悶の声が響き、次の瞬間には舞台がまたもや盛大に爆発を起こした。

朝倉の『ネギ選手の必殺技「なんかスゴク手が光るパンチ」がヒイィィーーーット!! しかも地面に叩きつけての強烈な一撃!! 大逆転だ!! しかしここで15分経過。試合はタイムアウト!!』という実況とともにカウントが取られる。

これで勝利かと思われた試合もタカミチは上半身だけかろうじて起こしてネギ君に一言二言告げた後、

 

「この勝負、君の勝ちだ、ネギ君」

 

と、いう言葉とともについにタカミチは倒れ伏した。

この瞬間に朝倉がテンカウントを取り終わり『ネギ選手勝利!! 10歳の子供先生、2回戦進出が決定しましたーー!!』という実況とともに会場のあちこちから盛大な歓声が巻き起こる。

こうして第六試合はかろうじてネギ君が勝ちを拾ったのだった。

 

 

 




原作を知っていますと如何にタカミチが手加減をしていたのかを知りますよね。


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057話 文化祭編・開催2日目(04) まほら武道会・本選開始 その4

更新します。


ネギとタカミチの試合が終わり未だ話題の渦中で人の波に揉まれているネギ君をよそにタカミチは一人すぐに脱出していた。

そして一人タバコを吸い煙を口から吹かせながら、

 

「ふふ…二ヶ月であれか。一年もしたら追い抜かれちゃうかもしれないな…」

「なにをいう? 実際かなり手を抜いていたと言うのに…」

「そうね。実質タカミチの本気はシロウしか見た事がないらしいけど、あれじゃただのじゃれ合いね」

「確かにな~…あの戦い、確かに一般の目からすればすごいだろうが…俺達からすれば児戯にも等しいもんだろう。殺気や圧迫感っていうものがまるでなかったからな」

 

タカミチの背後にはいつの間にか士郎が立っていて、さらには木乃香達のグループから抜け出してきたのかイリヤとランサーも一緒になっていた。

それに驚いたのかついタカミチはタバコを落としそうになったがすぐに体勢を立て直して、

 

「まぁそうかもしれないね。でも今のネギ君には十分だろうと思ってね」

「甘いわね。今頃はきっとネギはエヴァにしこたま叱られているでしょうね。こう『勝たせてもらったようなものだ!』っていう感じに」

 

それでタカミチは苦笑いを浮かべていた。そしてそうかもしれないと思っていた…。

 

 

 

実際その通りである。

今、ネギは救護室でエヴァによるお説教兼タカミチがどれだけ手加減していたか文字通り拳で語っている真っ最中だ。

こう、

『なにが“勝った”だ!』や『この愚か者!』や『あんなものは当たって当然だ!』など師匠から反省点をしこたま叩きつけられている。

チャチャゼロもついでに『ツケアガルナッテコッタ』と言っている。

だが小さくエヴァは『ま………………最初の瞬動と決め技の着想はよかったがな』と呟き、一緒にいた古菲にニマニマ顔でおちょくられて顔を赤くしてそっぽを向いたのは…まぁ、ご愛嬌。

 

 

 

―――閑話休題

 

 

 

少し話をしているとそこにはアスナと刹那がやってきた。

そしてしばらくアスナはネギが負わせてしまった怪我についてタカミチにネギの代わりに謝罪し頭を下げていた。

それをタカミチは大丈夫だとやんわりと返し、変わりに「アスナ君もネギ君の事が心配だったのだろう?」というような言葉がいくらか交わされアスナは実にその通りなので赤くなって黙りこくってしまった。

微妙に空気が重いので刹那は気を利かせて話題転換のために超鈴音の事を話し出した。

タカミチはもう気が済んだらしくこれからは刹那がちびせつなを使って見つけたと言う地下施設を調べにいくという。

それで士郎はなにかあったらすぐに連絡をしろといって、刹那は案内のために呼び出した半自律型のちびせつなをタカミチのおともにさせた。

イリヤはランサーも連れて行かせようとしたらしいがランサーはどうやら戦いが見ていたいらしく(特に小太郎)それを辞退した。

最後にアスナとデートの話をしてタカミチは地下施設に向かって歩いていった。

 

 

………だが、これ以降タカミチからは連絡が入らなくなってしまうがこれには士郎達も気づかなかった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

さて、ネギ君たちの試合でけっこう会場が破壊してしまったので修理している途中だがそろそろそれも終わり、次はアスナと刹那の対戦か。

だがアスナは刹那に対して相手になるのか今一で微妙の域を出ないな。

と、そこへもう慣れた感じに俺の背後に立つものが一人。

 

「なにようだ……?」

「驚いてもらえませんか。結構この手には自信があるのですが」

「あいにくとそういった手合いは昔に色々とあって学んでいるから平気さ。それよりまるで狙っているかのような登場だな」

「はて、なんのことでしょう?」

「とぼけるな。次の対戦で俺が心配げな表情をしていた時に現れるというにはなにかあるのだろう?」

「食えないお方ですね。はい、ありますよ。ですがまだ言うことはできません。そのうちわかりますがね」

 

食えないのはどちらだ。

クーネルはにこやかな笑みを浮かべてまた姿を消してしまった。

これは次の対戦、なにかありそうだな。

 

「士郎老師、誰と話していたアルか?」

「いや、なんでもない。それよりもう会場も直ったようだし刹那達はまだだろうか」

「多分もう出てくるアルよ」

 

『皆さん、お待たせしました!!』

 

「お、言ってる間にというか来たアルよ」

「来たか、って…あいつらなんて格好をしているのだ」

 

朝倉の声に古菲とともに見るとそこにはなにやらひらひらしたとても戦闘をする格好ではない服を着た二人がいた。

それになぜか会場が(主に男性陣が声を荒げる)大いに沸き立つ。

確かに似合っていると思うがそこまで騒ぎ立てるようなものか?

アスナもなにやら朝倉に抗議の声を上げているがそれは流されていた。強制か。二人とも憐れ…。

一方で刹那はエヴァとなにやら会話をしている。

 

「あの女はバカか? お前とでは勝負にならないだろう。ボコボコにしてしまえ」

「い、いえ、それは…」

「確かにアスナでは無理アルかなー」

「厳しいでござるなぁ」

 

と、アスナの実力では無理だろうと皆言うが、

 

「いや、そうとも限らんぞ?」

「ええ、確かにそうとも限りませんね」

『え?』

 

俺といつの間にか隣にいたクーネルで続けざまに声を発すと全員は驚いた声を上げる。

そしてクーネルはおもむろにアスナに近づくと頭を軽くクシャッと撫でた。

当然アスナは慌てて離れるがクーネルは気にした風にもせず所々に知らないキーワードを散りばめていく。

『人形のようだった』といい『ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグがタカミチに託した』など気になる言葉を発していた。

どうやらこいつはアスナの過去を知っているようだな。

エヴァは「お前も探していた」というセリフで迫るが瞬時に姿を消してしまった。

そしてクーネルの本当の名前であるアルビレオ・イマを知っていてこの場にいた全員をくらますように言葉を発していき、アスナの前にまた出てきて、珍しく表情を真面目にして、

 

「少しだけ力を貸しましょう。もう二度とあなたの目の前で誰かが死ぬことのないように…」

 

という言葉を残してその場から消え去った。

気になることをいうな。

 

「ふむ、奴はどうやらこの大会出場の一つにこれを踏まえているのかもな」

「なぁ士郎。お前はあいつの存在をもしかして知っていたのか?」

「ん?」

 

そこでエヴァが話しかけてきたので隠すことでもないし「ああ」と答えた。

 

「あいつとは図書館島以来から知り合いだ。まぁ顔を合わせたのは今日で二回目だが。しかしやはりあいつはナギさんの知り合いだったか。京都の別荘での写真でそうだとは思っていたが」

「なぜ、いわなかった?」

「聞かれなかったからな」

「ぐっ…ま、まぁいい。では奴は図書館島にいるということか」

「おそらくは。この件はもしかしたら学園長も知っているかもな。今回俺が出たのも奴の真意を探る目的でもあるからな」

「なるほど。確かに私も知りたいな、それは」

 

 

「―――いずれわかりますよ♪」

 

 

エヴァとともに後ろに振り向くがもう消えていた。

俺はため息をつきながら、

 

「やはり疲れる…。殴ってやりたいほどに」

「お前のその気持ちは分かるぞ」

 

エヴァとともに顔を渋っていると話は進んでいたようで試合は開始されていた。

するといきなりでもないが刹那はともかくアスナがぎこちなさがあるがしっかりと打ち合いをしている。

 

「なっ…」

 

声もあげたくなるだろう。

何度か打ち合いを繰り返して刹那が一際大きい踏み込みをして切りかかってもそれを受け止め、剣速すらも上がって反撃すらしている。

それを刹那は避けて一度しゃがみ下から突き上げるように蹴り上げられる。

追撃で迫るも空中でそれを受け止め空中でも何度も打ち合い弾かれるように着地する。

ここまで見ても異常なのは確かなことだ。それで俺もつい見入ってしまっている。

 

『こ……これは意外!! 色モノかと思われたメイド女子中学生、予想以上の動き!! 先程までの試合にひけをとりません。予想どおりのモノが見れた男性陣からも賞賛の拍手が!!』

 

朝倉の声で正気に戻される。

そこでエヴァも異常だというように、

 

「なぜだ!? なぜ神楽坂明日菜ごときにこれほどの身体能力が!? 体力バカでは説明つかないぞ!」

「確かにそうだな」

「フフフ、あれはアスナさんが元から持っている力ですよ」

「ぬぐっ、貴様……出たり消えたり。はっ…お前あのとき神楽坂明日菜に何かしただろう!?」

「まさか。私は少しきっかけを与えただけですよ」

 

そう言って温和に笑うがその笑みはやはり含みがあるな。

やはりカレンと同じ系統か?

 

「どうですエヴァンジェリン……古き友よ。ひとつ賭けをしませんか? 私はアスナさんの勝ちに賭けましょう」

「……何? ……お前の掛け金は何だ?」

「アスナさんについての情報」

「ふん……いいだろう。貴様が何をしようと奴が刹那に勝てるとは思わん」

「いいのかエヴァ。そんな簡単に賭けを提示して」

「構わん。なにを言ってもこいつには袖で返されるだけだからな」

「どうなってもしらんぞ」

 

クーネルは「では承諾ですね」と相槌を打ってそれではとあることをいいだした。

それは俺にとっても心臓に悪い提案だった。

 

「そうですねー、ではあの神鳴流剣士のお嬢さんが負けた場合……」

「ん?」

 

なにやら指を翳すと少しばかり光りだしている。

魔法の予備動作か?

 

「あなたにはスクール水着を着て次の試合に出て頂きましょう」

「待てぇい!! 何だソレは!」

 

クーネルは紺色のスクール水着を取り出すと目をキュピーンと光らせてそんなことをのたまった。

仕立ても気合が入っている。なんていったって胸の名前の部分に『えう゛ぁ』と平仮名で書かれているのだから用意していたのかもしれない。

これは着たら会場男子は盛り上がるだろうな。俺はやる気がダウンするが。

しかしあえて俺はつっこませてもらう。

 

「くくく…なかなか面白いことをいう。次の対戦でその格好のエヴァと戦えと? 悪い冗談だ」

「その割には笑みが取れませんが…?」

「なぁに、お前の性格が今もってある知り合いとドンピシャなので哀れだなと自分に対して嘆いていたところだよ」

「フフフ…そうですか。あなたとはいい友人関係を築けそうです」

「それはできればお断りだな」

「そう言わずにどうですか?」

「えぇい! 私を無視して話を進めるな! すでに私が着るような話を仕出すな!」

 

俺とクーネルではははと笑いながら対応すると、

 

「…お前ら、実は仲がいいのか?」

「いや」

「いいえ、まだ」

「くっ…」

 

それで紛らわすように試合に目をやるとまた高速での打ち合いが始まっていた。

しばらく打ち合っているとアスナはこちらに指を刺しながら、

 

「ネギ、ちゃんと見ていなさいよ!!」

 

と、言っているがあいにくこちらにはネギ君はいない。

それでアスナも面を食らっているようだがネギ君の「アスナさーん、こっちでーす。ちゃんと見てますよー」という方向に目をやり、

 

「と、とにかくしっかり見てなさいよ。私がちゃんとパートナーとしてあんたを守ってやれるって所を見せてやるわ!!」

 

と宣言したが、残念なことにネギ君は顔を赤くしてしまい他の観客もいいように勘違いしたようで色々と声を上げている。

そこにとどめの朝倉の実況、

 

『おおーーっと、これは大胆。試合中に愛の告白かーーー!?』

 

と持て囃す。いやぁ、「ちがーーーうっ!!」とは反論しているもののなんていうか一同に注目されるアスナは可愛そうな構図だな。

だがそこでアスナの動きが突然悪くなる。

なにがあったのだろうか。

アスナは誰かと会話をしているようだが相手はおそらくクーネル。

そして使ったのはなんとタカミチが使う咸卦法。

これで驚かないわけがない。

エヴァですらなぜ使えるという感じに驚いている。

 

「クーネル、あれは?」

「ふふふ、内緒です」

「貴様、教えろ!」

 

会場はあちこちで色々な意味でヒートアップしていく。

アスナも気合を入れなおして「いきます、師匠!」といって刹那に突っ込んでいく。

そしてまた始まる高速戦闘。

エヴァは必死な形相で、

 

「ええい、刹那!! 神楽坂明日菜程度に何を手間どってる!! 5秒で倒せ!! いや、殺れ!!」

 

といって捲し立てる。

そこにクーネルが追加の賭けをしてきた。

 

「エヴァンジェリン……賭け金をさらに上乗せしましょうか?」

「何!?」

「私の賭け金はナギ・スプリングフィールド……サウザントマスターの情報です」

「な……が……」

 

今現在かなり脳内暴走しているエヴァには的確にクリーンヒットしてクーネルの罠ともいえる誘いに、

 

「の……ぐぐ……乗るに決まっているだろうがっ!」

「フフフ、了解です」

 

簡単に乗ってしまった。

 

「な、なんかいいように遊ばれているような」

「アイツトナギダケハ御主人ノ天敵ナノダ」

「天敵…それはわかるな。俺もあいつとは真っ向に相手をしたくない」

 

そしてクーネルが出す賭けの追加に刹那が負けた場合、エヴァが着る水着にさらに「ネコミミ」「メガネ」「セーラー服」が上乗せされた。

カモはそれに興奮して俺は想像してもしかしてという理由で顔を青くした。

 

「クーネル、やめろ。俺を試合で殺す気か?」

「はて、なんのことやら」

「こいつ…! もしそうなったら腹いせがすべて俺に向かってくるのだということになるんだぞ!?」

「あー、確かにそうですね。その時はご愁傷様というしかありません」

「マァ、ソノトキハアキラメロ。ケケケ」

「そうだな。士郎にすべてぶつければいい。ぶつければ…フフフ」

「士郎の旦那、ご愁傷様っす」

「くっ…なんという、ことだ」

 

全員のお言葉をもらい俺はひざを付きそうになる。

俺も刹那にカードで加勢でもしてやろうか?

そんな思いが過ぎったが刹那の気持ちに反して卑怯だろうと自分で却下した。

 

『第八試合、神楽坂選手 対 桜咲選手!! 二人で舞を舞っているかのような華麗な攻防!!』

 

朝倉の実況で現実に戻り密かに刹那、勝て!という気持ちで応援していた。

隣で「結果が楽しみですねえ」とほざいているクーネルがいるがこの際無視だ。

今は試合を見ることに集中しよう。

一応刹那の師匠的位置合いにいるのだからしっかりと見ていなければ。

だがそこでクーネルがなにか吹き込んだのか一度刹那が倒されハリセンを首にさらされてしまった。

大丈夫か刹那!?

だがすぐに起き上がってアスナの動きを褒めていた。

刹那は気づいていないのだろう。今のアスナは指示通りにやったことなど。

そしてアスナの意思と反して攻撃が続けられる。

 

「コラーーーーッ!! 桜咲刹那!!」

 

その一連の行動についにエヴァがキレル。

 

「京都神鳴流剣士がちょっとパワーが上がっただけの素人に何を手こずる!! さっさと倒せ!! 負けるなど私が許さぬ!! あの修行を思い出せ!!」

「い、いえしかし、このアスナさんの動きは本物……」

「騙されるな!! コイツが助言をしているだけだ!! ええい、貴様っ念話をやめんかあっ」

「ハハハハ」

 

クーネルの首を揺さぶり楓などが宥めている最中だ。

普段なら俺も加入するところだが次の試合を考えると中々とめることができない弱い俺ですまない、エヴァ。

 

「お…お前が負けるとだな、私がとてもハズかしいコトになる!!」

「ハ、ハァ……?」

「とにかく勝て! いいか? もし負けでもしてみろ、お前には……あーー、お前にも私と同等の、いや私以上の恥辱を与えるとしよう。私が直々にだ。そうだな、お前の大切なお嬢様と敬愛している士郎の眼前で……」

「ちょっとーーーッ!?」

 

もう調子がおかしくなっているな。

それと俺も巻き込まないで欲しい…。

近くでカモミール達も口々に、

 

「コレが悪か?」

「イヤ、テンパッテイルダケダ」

 

と、言っているのだから腹積もりは相当だろう。

アスナもクーネルの助言が嫌なのか必死に一人でやらせてといっているがこれはどう動くのか。

そして刹那も本気でいくらしく神鳴流の技を使い始めた。

これで決まりかと思ったがアスナの様子がそこで変わる。

そう、刹那が上段から斬りかかったその時にアスナのハリセンが例の大剣へと変化を遂げていてそのまま刹那のデッキブラシを切り裂いた。

やばいな。今のアスナはなぜか気が動転して誰の言葉も耳に入っていないだろう。

朝倉に注意を促す刹那に向けて大剣を振り下ろした。

クーネルもやばいとおもったのか止めようとしたが、ランサーとで鍛えた刹那の反射神経を舐めてもらっては困る。

すぐに脇に入りなにかの技を決めてアスナを気絶させた。

 

『あ…神楽坂選手ダウン! しかもこれは何かの手品かいつの間にやら神楽坂選手の手には巨大な剣が!』

 

朝倉の実況で刃物の禁止の話が出てアスナは失格判定となり、

 

『桜咲選手、勝利――――ッ!』

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

試合が無事に終わってひとまず安心したけど、

 

「アスナのあの動き、なにがあったのかしら」

「そうだな。特に最後のは別人みてぇだったからな」

 

別人、確かにそう見えた。

なにかの衝動にも動かされていたようにも感じた。

ますますアスナの隠された秘密が知りたくなったかもしれない。

 

「まぁとにかく次はシロウ達の試合か。…なにか控えの席でエヴァがなにやらわめき散らしているけど一体どうしたのかしら? なにかこう面白そうなことが起こっていそうな感じ?」

「ありゃガキの暴動にしかみえねぇがさて、な」

「シロウが気にかけているフードの男関係か…。ま、いいわ。そのうちわかるだろうし」

 

 

 




士郎、命拾いをする。


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058話 文化祭編・開催2日目(05) まほら武道会・本選開始 その5

更新します。


 

クーネルがエヴァにいった言葉。

 

『彼はおそらく今も生きています。この世界のどこかに…。それは私が保証しましょう』

 

奴は俺たちにも聞こえるようにそう告げた。

それは別段話しても構わないと言うことだろうか。

だがネギ君にはヒミツにしておいてと言われたので今は隠しておこう。

 

「それよりお前の目的はまずそれがひとつか?」

「さて、どうでしょうね? それより私は消えていますね。それより次の試合はがんばってください、お二方」

 

そういってクーネルは姿を消してしまった。

本当に謎が多い奴だ。

それはともかくとして試合が始まるからいくか。

 

『さぁ一回戦最期の試合がやってまいりました。まずは麻帆良囲碁部エヴァンジェリン・A・K・マクダゥエル選手!!

続いてはさきほど苛烈な試合を見せてくれたネギ・スプリングフィールド選手の補佐をしている副担任であり『死の鷹(デスホーク)』といわれ不良生徒に恐れられている教師、衛宮士郎選手!!』

 

朝倉の実況で観客が沸きあがる。

半分は「可愛い」やら「大丈夫?」と言う声が上がり、もう片方では「男の姿を見せてくれ」や「その背中についていきてぇ」という声が上がる。

半分はわかるがもう半分からは嫌な空気を感じておもわず身震いしてしまった。

だいたい男の姿ってなんだ?

 

『皆さんもいい具合にヒートアップしていますね! では一回戦最期の試合を始めさせてもらいたいと思います』

 

朝倉のアナウンスを聞き流しながらエヴァに語りかける。

 

「そういえばこうして面と向かうのは初めてかもしれないな」

「そうだな。前のときは途中でいなくなったようなものだからな」

「ちがいない。だが今回もあまり力は使えんからどうしたものか…」

「では夢の世界にでも行くか?」

「ふむ、それも一興か」

「ではお前が負けたら…そうだな。私のものにならないか?」

「それは遠慮願いたいな」

「だろうな」

 

『おおっと、なにやら教師と生徒同士でなにやら会話がなされています。試合前の言い合いか?』

 

俺は朝倉にいや、なんでもないとだけ声をかけて試合を促した。

それが伝わったのかマイクにも力が入ったらしく。

 

『それでは第八試合!! ファイト!!』

 

そして試合が始まった。

瞬時に魔術回路で身体を強化する。

眼前の敵はおそらく無手でもかなりの実力だ。無闇に突っ込むのは得策ではないだろう。

それに…

 

「開始早々にして糸がそこら中に展開されているとは…それに早い。魔術も応用しているな?」

「まぁな。研鑽してきて最近はものにもしてきたさ。このように、な」

 

エヴァが腕をくねらせると途端に糸が襲い掛かってくる。

即座に瞬動術を繰り返し狙いからずれて逃げの一手をとる。

刃物を使えばすべて切り裂いているがないものねだりしてもしょうがない。

やるか。

 

『おっとなにやら衛宮選手、地面が抉れるなにかの攻撃から避けているようですが一体会場でなにが起こっているのでしょうか? これはもしかして念力!?』

 

とかく避ける行動に専念していると突如エヴァが接近してきて俺の腹に右ストレートを決めてきた。

強化で腹をガードしたからなんともないが接近を許すとは情けない。

即座にそこから離れたが拳に糸が巻き付いていたのか俺の胴体に糸が巻かれていた。

それは強化した手刀ですべて切り裂いたが…やりにくい。

 

「ふふふっ…なかなか鋭いではないか。そうでなくては!」

 

瞬間、エヴァの手から黒いなにかが飛び出してきた。

おそらくエヴァの属性である虚数魔術によるものだと思うがここまで影を使いこなしているとは、こいつも天才だな。

だが!

 

「ふっ!」

 

手刀でそれを弾き瞬動で背後に接近し拳を腹に当てる、があたる直前で糸に絡まれてしまっていた。

背後にも展開していたか。やばい!

そう思った瞬間には掌が俺の顔にぶつけられていた。

 

「がっ! 合気道か! くそ、ならば!」

 

跳ね飛ばされたと同時にそのまま後方まで体を流し距離を置き、

 

「(属性、付加(エレメントシール)“雷撃”(ヴォルト) ……魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!)」

 

次の瞬間俺の体に淡く雷がまとう。

錬鉄魔法【雷】。これにより瞬発力とスピードをあげる。

 

「そうだ。そうでなくてはな!」

 

エヴァもなにやら黒い衝動を背後にまとい瞬動をしてきた。

それからは高速戦闘になった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

士郎さんとエヴァンジェリンさんは何度も瞬動を行使して高速で拳をぶつけあっている。

それにしてもすごい…。エヴァンジェリンさんは魔術の力を手に入れたというがもうすでにものにし始めている。

士郎さんの拳を受け止めていることから強化は十分。そしておそらく錬鉄魔法を行使しているのにそれにもついていっている。

もしここがこういった舞台でなければお二人はどのような戦闘を演じていたのだろうか。

私が色々考え込んでいる中、背後からある人の声が聞こえてきた。

 

「しっかりと見ているわね、刹那」

「せっちゃーん!」

「え!?」

 

そこにはなぜかイリヤさんとランサーさん、それにお嬢様がいた。

なぜここにいるのか。

 

「なぜかって顔ね。エヴァにあることをやるからこっちに来てこいと言われていたのよ。今はシロウ達の試合にみんな夢中になっているんですぐに入ることができたわ」

「イリヤさんにランサーさん!? それにこのかも!」

 

アスナさん達も驚いているようだ。

それも当然か。

しかしなにをするのか。

 

「なんでもこれからすることをしっかりと目に焼き付けとけ、らしいわよ。ネギがこの場にいないのが残念ね」

 

と、そこに朝倉さんの実況が響いてくる。

 

『おっとこれはどうしたことだ!? 衛宮選手とエヴァンジェリン選手。両名見つめあったまま動きを止めてしまった! 先ほどまでの戦闘が嘘のように静まり返っています!!』

 

こ、これは…。

なにか知っていそうなイリヤさんは士郎さんの契約カードを取り出すと、

 

「いくわよ。今二人は幻想空間(ファンタズマゴリア)にいるわ」

「わ、私もいくわ」

「大丈夫、全員つれていくわ。ニー・ベル・ロー・レル・フリードリヒ…夢の妖精女王メイヴよ扉を開けて夢へといざなえ」

 

こうして、アスナさん、私、お嬢様、イリヤさん、ランサーさん、チャチャゼロさん、カモさんの計七人もの人数が夢の中へと入っていった。

そして目にするのは崩壊しかけている別荘の光景だった。

というより別荘が剣山と化している。

 

「なんだこりゃ! まるでどこかの戦争風景か!」

「す、すご…なんていうかここまであの別荘を破壊できるなんてやっぱりすごいわね」

「はい…ところで士郎さんはどこに」

「せっちゃん、いたへ」

 

見た先には空に飛ぶエヴァンジェリンさんとアーティファクトで高速浮遊している士郎さんの姿があった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ふむ、エヴァの案に乗って幻術空間に来たはいいが場所は別荘か。

エヴァは空を浮遊している。

なるほど、さすがに夢の中まで呪いはこないし全開でやれるということか。

ならば覚悟を決めねばな。

 

来たれ(アデアット)!」

 

すぐさま俺は『剣製の赤き丘の千剣』を召喚し飛び乗って同じく空を舞う。

 

「さて…ここまで来たからにはお前の全力を見せてもらうぞ」

「どこまでできるか勝負といこうか」

 

お互いにニヤッと笑みを浮かべたと同時に俺とエヴァは空を駆ける。

 

「まずは手始めだ! 魔法の射手(サギタ・マギカ)! 連弾(セリエス)闇の230矢(オブスクーリー)!!」

停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)!!」

 

エヴァが二百はある闇の射手を放ってきたに対し俺の剣はせいぜい五十くらいがやっとだろう。圧倒的に数が足りない。

だがやりようはある。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!」

 

魔法と剣が重なる瞬間を計り、剣をすべて爆発させる。

これによってお互いに相殺しあう。

だがエヴァはすぐに接近してきてその手には魔法の剣が構築されていてので俺は新しくなった干将・莫耶を投影し、

 

属性、付加(エレメントシール)“風王”(エア)……魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)! はぁっ!!」

 

風を刃に集めて一閃。

そして放たれるはカマイタチのごとき刃。

エヴァはそれを受け止めている。その間に俺は千剣を急降下させ別荘の屋上に降りる。

 

「はははっ! なかなか面白い芸をするではないか!ならば…来たれ氷精、闇の精!闇を従え吹雪け常夜の氷雪!」

「ほう…ならばこちらも。I am the bone of my sword(我が骨子  は 捻じれ  狂う)―――……!」

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)!!」

偽・螺旋剣(カラド・ボルクⅡ)!!」

 

即座に投影し真名開放をして放つ。それによって闇の吹雪とカラド・ボルグが衝突した。だがさすがの宝具。すぐにとはいかないが闇の吹雪を食いちぎってエヴァを狙ったわけでもないのでそのままどこかへと飛んでいってしまった。

 

「ふっ…さすがに宝具には競り負けるか。だがな!」

 

そこからはもうガチバトル。

別荘を中心に俺とエヴァは魔法の矢と剣を放ちまくり気づけばいつの間にやら別荘は噴煙を上げながら剣山と化していた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

その頃、外ではネギ達がいきなり動きを止めてしまった士郎達に首をかしげていた。

 

「…おいネギ。よく見てみぃ。なにか知らんけどいつの間にか選手控えにイリヤの姉ちゃんたちがおるで?」

「あ、本当だ。それにあれって…」

 

小声で小太郎にそう言われネギは気づく。

そして全員なにかに集中しているのか動かないでいる。

イリヤと刹那に木乃香は額にカードを押し当てている。

これから分かることは…、

 

「…小太郎君。たぶんだけど皆さんは夢の世界に行っていると思うんだ」

「夢だぁ?」

「うん。そうと決まれば…千雨さん、ちょっと席を外しますね」

「は、はぁ…わかりました」

「俺も行くで」

 

一緒に観戦していた長谷川千雨に一言そういって少し後ろに下がり、ネギはアスナのカードを出して、

 

「僕達も見に行こう。きっとアスナさんも見に行っているはずだからカードを通せば見に行けるはず…!」

 

そう言ってネギはイリヤが唱えた呪文を唱えた。

そして二人も夢の中へダイブした。

そこで目にした光景は、

 

師匠(マスター)の別荘!?」

「つうかなんだ!? 至る所に剣が突き刺さって爆炎が上がっているで!?」

「来たわね、ネギにコタロウ」

「あっ…! イリヤさんに皆さん! ということは今士郎さんと師匠(マスター)は!」

「そうですネギ先生。今現在戦っております」

「そうだぜ兄貴。最初から観戦していりゃもっといいもんを見れたのによ。ま、まだ前哨戦みたいなもんだからな。ほんとこの二人で戦争を起こせるって聞いたら今なら信じられるぜ」

「ま、あんたも見ていなさいよ。さっきからすごいこと連発しているから」

 

アスナにそう言われてネギと小太郎は戦いをじっと見ていることにした。

視線の先では空中で未だに飛び回っている二人の姿があった。

しかし千日手になってきたのでなにか行動を起こすなら今だろう。

そして先に士郎が動いた。

 

「くっ! ならば剣製の赤き丘の千剣よ!―――I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)…その真価を発動せよ」

 

士郎がそういった瞬間、空中に竜巻が発生しそれがすべて晴れた瞬間、周りに古今東西の武器がところ狭しと浮かんでいた。

その光景にネギ達は呆気に取られてしまう。

だが驚くのはまだ早い。

 

「集まれ、すべての武器よ…一つとなりその身を巨大にせよ!」

「なっ…! そのような能力もあったのか!」

 

エヴァが驚く中、士郎の頭上に剣達が集まっていき別荘と同じくらいのとてつもない巨大な剣が姿を現す。さらに炎を宿らせ轟々と燃えているからその巨体にして熱量は膨大だ。

 

「さぁ受けてみろ! 秘儀・巨人殺し!!」

 

その重量に見合わず巨剣はすさまじいスピードでエヴァに迫っていきさすがのエヴァも受け止めるには苦と感じたようで、

 

「契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが!!」

 

それによって巨剣は一瞬で凍りついてしまった。

これほどの巨体を高速詠唱ですべて凍りつかせる辺りエヴァの魔法の腕がわかるほどだ。

 

「全ての命ある者に等しき死を。其は安らぎ也………“おわるせかい”!! 砕けろ!!」

 

巨剣が砕けると同時に氷の雨が当たり一面に降り注ぐ。

だがそこで手を緩めるほど両者は甘くない。

士郎は干将・莫耶を、エヴァはエクスキューショナーソードをその手に出してまた接近戦を繰り広げていた。

それを見ていた一同は、

 

「…とんでもねぇー。なんだありゃ?」

 

カモの一言に全員(ランサーとチャチャゼロは普通に観戦)は息を盛大に吐き出す。

息をするのを忘れるくらい二人の戦いは苛烈なものだった。

そしてその間にも二人はまた剣山の上に立ち、

 

「そろそろ外の世界もタイムアップが近づいている頃だ。この久々に血が滾るような楽しい戦い名残惜しいが次で最期にしようか」

「それはいい。俺ももう疲れたからな」

 

そして互いに見詰め合う中、エヴァはエクスキューショナーソードの密度を高め、士郎は干将・莫耶をオーバーエッジ化させ風王結界(インビシブル・エア)をまとわせる。

 

カッ!と目を見開き、

 

―――エクスキューショナーソード(エンシス・エクセクエンス)!!

―――風王鉄槌(ストライク・エア)二連(ダブル)!!

 

それにより起きた爆風により世界は崩壊し全員は現実世界に戻され、舞台では爆発が起こり白い煙が辺りを覆いそれが晴れたときには士郎がエヴァをお姫様抱っこしていた。

 

『おおっとこれはどうしたことか!? 突然の爆発の後には気絶したのかマクダゥエル選手を抱きかかえている衛宮選手! これはどうやら気絶と判定! 衛宮選手の勝利だ!!』

 

瞬間沸き起こる喝采の声。

所々から「さすが漢!!」やら「その背中に本当に(ry…」やらで女性層も黄色い叫びを上げていることから士郎の人気は上がったことは確かだった。

こうして一回戦はすべて終了したのであった。

舞台は二回戦に移り、

 

Aブロック

九回戦目   村上小太郎 vs クーネル・サンダース

十回戦目   長瀬楓  vs 古菲(棄権)

 

Bブロック

十一回戦目  高音・D・グッドマン vs ネギ・スプリングフィールド

十二回戦目  桜咲刹那 vs 衛宮士郎

 

ということに決まった。

 




オリジナル戦闘です。うまくかけているかな……。


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059話 文化祭編・開催2日目(06) まほら武道会・本選開始 その6

更新します。


 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

私達はなんとか魔術を行使してハルナ達の場所まで戻ってくることができた。

それで戻ったら当然ハルナは反応してきて、

 

「あ! イリヤさんにランサーさん、このかも! どこいっていたんですか?」

「ちょっとね」

「うん、ちょっとや」

「それよりさっきの士郎さんとエヴァちゃんの試合見てました!? いやぁー、なんていうかすごかったですよね。

特にエヴァちゃんなんかあの体にあっていないような動きしてましたし…それになんか手から飛ばしたりしてましたし。もうなんていうか『魔法』みたいでしたよね」

 

うっ…やっぱりそう見えちゃうか。

まぁしょうがないわよね。

 

「アハハッ! 中々面白いこというな、お嬢ちゃん!」

「そうですよねー」

 

ランサーがタイミングよく話をはぐらかしているけど、ハルナ…もしかして気づいているんじゃないかしら。

そんなことを思っていると周りがなにやら騒ぎ出した。

カズミがマイクを持ちながら、

 

『これで1回戦全ての試合が終了しました!! 試合結果を特別スクリーンで御覧いただきましょう!!』

 

空に突如としてスクリーンが映し出された。

ただそれだけならよかったのだけれどその次の映像に思わず目を見開いてしまった。

 

『では、休憩の間1回戦のハイライトをダイジェストでお楽しみください。まずは1回戦 村上選手 対 佐倉選手……』

「なっ!」

 

スクリーンにはさっきまで行われていた試合がまた映像として映し出されていた。

いいのかしら…?

これじゃ魔法の存在を教えるかもしれない行為だというのに…。

 

「これは、もしかしてネットにも流れているのかしら…」

「はい、イリヤさん。これを見てもらっていいですか?」

「ユエ…な、なにこれ」

 

ユエに携帯電話を借りて画面を見るとそこにはネギとタカミチの試合の様子が映し出されていた。

 

「どうやらこの映像…いえ、これだけでなく麻帆良に関係する話題がネットで多く書き込まれているようです。まるで魔法の存在をばらしているかのように…」

 

小声で聞かされたがこれはもう不利的状況ではないか。

 

「リンシェン…あの子本気で?」

 

私は一途の不安を拭いきれないでいた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

二十分の休憩後に二回戦目は開始された。

相手をするのは小太郎とクーネル。

 

『では二回戦第一試合を始めさせていただきます』

「っし! いったるか!」

「コタロー」

「ん? 楓姉ちゃんに士郎の兄ちゃん、どうしたんや?」

「いや、油断は禁物でござるよ」

「わかっとるって」

「いや、本当のことだ。小太郎、奴にはランサーに仕掛ける意気込みでいけ。でないと結果は無残なことになるぞ。奴は反則だからな」

「うっ…士郎の兄ちゃんに言われると結構本気かもしれん…わかっとる。油断はせん、最初から全力や、必ず勝つ!」

 

小太郎はそう意気込んで会場に足を運んでいった。

しかし本当に奴は反則だ。

ランサーとともに仕込んだはいいがどこまで通用するか。

 

「士郎殿、コタローはどこまでいけるでござろうか」

「わからない。しかしいっては何だが今の小太郎では…」

 

そこで俺は言葉を切った。

楓もいいたいことが分かったのか何もいってこない。

今はその心遣いがありがたい。

そう、もしここで負けてそのまま落ちるか、それとも這い上がるかで小太郎は違ってくる。

 

『それでは第九試合、ファイト!』

 

朝倉の開始の合図とともにクーネルは小太郎を殴り飛ばしていた。

小太郎はなんとか体勢を整えているがアゴと背中のダメージが響いているのか少し体を痙攣させていた。

 

「コタロー君といましたか、決勝でネギ君と戦いたいようですが…その願いはかなえてあげられないようです。今のあなたでは私の足元にも及びませんから」

「ハッキリ言うな! 兄さん、あんた友達少ないやろ」

 

小太郎は口で返すが内心あせっているようだ。額の汗がそれを物語っている。

 

「んなもんやってみなわからへんわ!!」

 

そう言って小太郎は分身をしてクーネルにかかっていったが攻撃は当てるもそれは意味を為さない。

反撃という感じで突き上げからの拳を腹にもらい中空に浮いたところで掌底を浴びせ小太郎は水面まで吹き飛んでいった。

 

「まずいな…小太郎は頭に血が上っていて冷静な判断力を失っている」

「それ以前の問題でござらんか。攻撃が通用しないとなると誰でもああなるでござる」

「ああ」

 

今にも狗神を出現させランサー直伝の足捌きで瞬動をかましクーネルの腹に両手で練りこんだ気弾をぶつける。

通常ならあれをくらえばダメージの一つでも受けるものだろう、しかし、

 

「やはりダメージはなしか」

 

そう、クーネルはダメージを受けることなく平然としていて小太郎を地面に叩きつける。

ここからではなにを語りかけているかわからないが次第に小太郎から気が上がってきて髪の毛も白くなりかけてきている。

まさか獣化か!?

しかしクーネルもそれを察したらしく一瞬で小太郎の意識を奪って地面に沈めた。

そして朝倉の実況でクーネルの勝利が大々的に宣言された。

 

 

「…小太郎にとってやつはまだ荷が重い相手だったようだな」

「そうでござるな。それより拙者はしばしここを離れるでござるよ」

「楓、あいつのことは任せた」

「了解でござるよ」

 

楓はそう言って姿を消した。

見ると観客席のランサーも姿を消していた。

どうやら同じ理由らしい。

あいつらしいな。

 

『先程お伝えしたとおり、残念ながら第十試合は古選手 左腕前腕骨折による棄権のため、長瀬楓選手の不戦勝とさせていただきます。続きまして二回戦第十一試合ネギ・スプリングフィールド選手 対 高音・D・グッドマン選手の試合を執り行いたいと思います』

 

そこに朝倉のアナウンスが聞こえてきて古菲は使える右手をあげて残念のポーズをとっていた。

そしてどこにいっていたのか知らないがネギ君が帰ってきた。

アスナと刹那の試合を素直に褒めるあたりネギ君らしい。

アスナはアスナで先ほどの動きはどうしたのかという質問でクーネルの指示とも言えず言い難そうにしていた。

 

「あ、そうだ。大変なんだよカモ君、それに士郎さん」

「ん?」

「なにかあったのか…?」

 

そして聞く。

ネギ君の話によるとネットに画像や魔法の話題が飛び交っているという。

まずいな。もしかしてこれも超の計画の一つか? だとしたら後手に回ったことになる。

と、そこに、

 

「ネギ先生!!」

「た、高音さん!?」

「ついにこの手であなたを懲らしめる時がきましたね!」

 

高音が騒いでいるので俺は再度、

 

「なぁアスナ達…ネギ君はなにか高音に恨みでも買う事をしたのか?」

「え、い、いやぁ…それは」

「黙秘権を行使してもよろしいでしょうか」

「別に構わないがほどほどにしておけよ? あれでは魔法をおおっぴらに使う可能性が出てくるからな。ただでさえネギ君の話ではやばいと聞いたから」

「そ、それは?」

「なにね…」

 

俺はネギ君の話をそのままアスナ達に伝えた。

 

「そ、それはまずいことになりましたね…」

「マズイっていう展開ですかね」

「かなりな」

 

皆一様に不安の顔色をしていたがそこに追い討ちをかけるような発言。

 

「この『影使い・高音』近接戦闘最強モードを出して本気でお相手させて頂きます!」

「「「!?」」」

「あ、あの高音さん! 実はインターネットの方で問題があってあんまり本気出したり派手な技を出すのは…!」

「言い訳は聞きませんよネギ先生! 本気できてください!」

「あ、あの…!」

 

ネギ君の言い分も聞かず高音はそのまま舞台へと向かっていってしまった。

 

「あわわわ…」

「とりあえずネギ君。早急に終わらせてくれ…あれはまずい」

「は、はい! 善処します」

 

そう言ってネギ君も舞台へと上がっていった。

 

「ふむ…とりあえずはネギ君に任せよう」

「そうですね」

『それでは第十一試合…ファイト!』

 

朝倉の実況が聞こえてきたと同時に高音の周りに魔力が満ちていく。

そして現れたのは黒衣の巨大人形…、って!

 

「おい高音…魔法の秘匿はどうした?」

「は、派手ですね…」

「派手という問題ではない。あれではもう魔法を使っていますといっているようなものだ」

 

そして放たれる無数の黒い鞭。

それは生きているかのようにネギ君へと向かっていく。

高音自身も動いて人形の腕を叩きつける。

そのとんでもない光景を見て思わず、

 

「なんでさ…」

「なんででしょうね…」

 

刹那とともにため息をつく。

もう気分はハイ!ではなく灰色としか言えない。

 

『これまた凄まじい攻防! 少年拳士 VS 謎の巨大人形(?)!! 何のモンスター映画だーーーーーっ!? これはさすがに私も「CGなんじゃね!?」と言う疑問を拭いきれません!!』

「朝倉の実況がいい具合にCGの説を促しているが…どこまで効果を持つかだな」

「はい」

 

ネギ君も早く事態を収めようと先ほどタカミチに放った魔法の射手を宿らせた拳を当てにいくがそれは完全に防がれてしまっている。

これでは時間が経つにつれやばくなっていく。

ああ…こんな大会形式でなければ二人ともマグダラの聖骸布で縛り上げているものを…。

このままじれったい戦いが続くかと思われたがそれはネギ君の機転でどうにかなった。

作戦としてはネギ君がまず全力でダッシュし接近して高音の顔間近で笑みを浮かべる。

それによって高音は油断したはいいがなぜか頬を赤らめていた。

それにより観戦していたチャチャゼロとカモミールがツッコミを入れていたり。

そこに魔法の射手(雷)を溜めていたネギ君はゼロ距離でそれを放つ。

それによって高音は一時意識を失ってしまっていた。

それにより巨大人形はまるで溶けるようにその姿を消していっている。

 

「なんとか早々に決着がついたか」

「そのようですね。しかしあの魔法…解除されてしまうとああなってしまうのですか?」

「さ、さぁな…」

 

そう、高音はなぜか魔法が溶けると裸になってしまっていてネギ君が急いでフードを渡すとそれを物凄い勢いで受け取り身を包むと「責任とってくださーーーいっ!」と言って高音は控え室へと猛ダッシュして消えていった。

 

『えーーー……またしても大変なハプニングがありましたが…ネギ選手の勝利―――ッ!!』

 

それによって歓声が上がるがまたしても? 一回戦でなにかあったのか?

とにかく試合は終了しネギ君はカモミールに慌てて駆け寄り「どうだった?」と聞くがもう魔法バトル万歳的な事を言われていた。

そこにアスナがネギを叱りにきたがエヴァが現れて、

 

「私の教えだ。口出しするな神楽坂明日菜」

「エヴァちゃん…?」

「自ら戦う意思を持って戦いの場に立った以上女も子供も男もない…それは等しく戦士だ。戦いの手を緩める理由は存在しない。お前も例外ではないぞ神楽坂明日菜」

「うっ」

 

アスナも自覚があるのか反論はないらしい。

それに刹那も賛成していた。

しかし、だからといって女の子に恥をかかせるのはよくないといったお叱りはネギ君はしっかりと受けていたようだった。

 

「しかし…次は士郎と刹那の試合か」

「は、はい。そうですね」

「ああ」

「ならば修行の成果を存分に出していけ刹那。今のお前ならもしかしたらやれるかもしれんぞ?」

「が、頑張ります」

「刹那さん、修行って?」

「い、いえ…!」

 

刹那は必死に修行のことを隠そうとしていた。

別に構わないのではないか?

そこにエヴァが現れたことでふとなにかを思ったのだろうアスナが近寄り、

 

「そういえばエヴァちゃん」

「なんだ?」

「エヴァちゃんって士郎さんに負けたよね」

「ああ、そうだが?」

「それじゃ…ほらネギ」

「は、はい! その「負けたらデート」の件はなしですか?」

「ふむ、そうだな…もうぼーやの出来はタカミチとの戦いで十分に見れたしな。しかしデートは惜しい…。

よし! じゃあそれは試合とか関係なしにやることにしよう、最終日は付き合え。師匠命令だ拒否は許さん。いいな、ぼーや」

「ちょっと師匠(マスター)―――ッ!!」

 

その光景を見て、

 

「ネギ君はそんな約束までしていたのか」

「はい。それより士郎さん…」

「ん?」

「試合では本気で来てください」

「!」

 

そこには表情が戦士のそれである刹那の顔があった。

それを察し、

 

「いいだろう。俺も次は竹刀を使う」

「ありがとうございます!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 桜咲刹那

 

 

『お待たせしました! 続いて二回戦最終試合、桜咲刹那選手 対 衛宮士郎選手…この試合で学園最強ベスト4が決定します』

 

そうして士郎さんと私は舞台へと上がっていく。

 

『なおここで情報ですが衛宮選手は桜咲選手と毎朝のように剣の修行をする仲との事で噂では師匠と弟子のような間柄のようです』

 

朝倉さん…余計な情報を流さないでください。

恥ずかしいではないですか。

 

『そして衛宮選手の手にはこれまで広域指導の名の下に多くの不良生徒を地に沈めてきた妖刀・虎竹刀が握られています! トラのストラップが可愛いぞ!』

 

そこでまたしても歓声が上がる。

士郎さんの広域指導での活躍は音に聞こえるほどですから不良生徒達はさぞ怖いでしょ。

そこに士郎さんが話しかけてきた。

 

「さて…刹那、いったからには本気でいかせてもらうぞ」

「はい、お願いします」

 

士郎さんの真剣な表情で一瞬周りの音が消えたかのような錯覚を覚えた。

それだけ目の前にいる人物は格上の存在だということだろう。

 

『第十二試合…ファイト!』

 

試合開始と同時に目の前から士郎さんの姿が消えた。

なんて早い瞬動! しかしランサーさんとの打ち合いを経験している私にはかすかだが士郎さんの動きが見えていた。

 

「そこっ!」

 

カンッ!

 

竹刀とデッキブラシがあたる乾いた音が響く。

左からの袈裟切りか! しかし重い! やはり強化の魔術を使っているようで身体強化も相まって威力はかなりある。

 

「やはり受け止められるか。こちらから柄もなく攻めはするものではないな」

「いえ、いい打ち込みでした。才能がないというのは嘘のようです」

「それはどうも」

 

弾くと今度はこちらから瞬動をして背後に入りしかける。

しかし後ろ向きのまま士郎さんは竹刀だけで防いで見せた。

そうではないと!

いつもの稽古で一本も碌に取らせてくれないのだから当然だ。

そこからは何度も得物を打ち合う事を繰り返す。

 

『おおっと! 先ほどの試合のようです。ですがスピードが段違いです。あまり見えません!』

 

朝倉さんの言葉があまり聞こえてきません。

一瞬でも気を抜けば意識を刈り取られてしまうのは明白だ。

その最中、

 

「ふむ、腕をあげたな刹那。やはりランサーとの命がけの稽古が効いているようだな」

「はい! 士郎さんの動きが今はまだ見えます」

「そうか。では俺本来の仕様に移るとしよう…刹那、俺の防御の陣を崩すことができるか?」

 

そう士郎さんが言った途端、いつものごとく戦闘スタイルが変わり士郎さん本来の形、守りの型が姿を見せた。

 

『おっと衛宮選手! 突然動きを止めたと思ったら腕を垂らしているぞ! これはどういったことだ!?』

 

「………やはり、隙があるように見えて返って不自然に隙がありませんね。ですが仕掛けていただきます!」

「こい! いつもと違い片手だからと油断しないようにな」

「いきます!」

 

そこから私は全方位から何度もデッキブラシを当てにいきますがそれらは悉く弾かれてしまう。

反動で軌道がそれてしまった時に狙ったように返しの刃が帰ってきてしまう。

これが突破できねば勝機はない!

だけど今度こそ突破させていただきます!

 

―――斬空閃!

 

真空の斬撃を放つ。

だがそれらは強化された竹刀に弾かれてしまった。

さすがです! ですが!

 

―――百烈桜華斬!

 

これでどうですか!

だが士郎さんはそこで初めて円で保っていた足を動かした。

見れば淡い空気が士郎さんの体を纏っている。

おそらくこれは錬鉄魔法【風】。

足も使っての連続攻撃で幾重にも重なった私の斬撃を防ぎきった。

 

「さすがだ、俺にこれを使わせるとは。ならば…受けてみるといい!」

 

!? 士郎さんの手の動きが見えない! あれが属性ゆえの効果か!

気づいた時には私はお腹になにかの塊を打ちつけられたかのような衝撃を受けて舞台に転がっていた。

すぐに体勢を立て直して立ち上がったが、おそらく今のは風圧を塊にしてぶつけてきたのでしょう。

初見だから見切れなかった。

 

「どうした刹那。あれくらいは防いでみろ」

「すみません! ですが次は!」

「そうか。では俺を動かした褒美だ。高速戦闘といこうか!」

「はい!」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮イリヤ

 

 

私は観客席でシロウとセツナの戦いを見ながら、

 

「二人の戦いはかなり激戦になってきたわね」

「そうやねイリヤさん。それより…せっちゃん、がんばってー!」

「あら、コノカ。シロウの応援はいいの?」

「士郎さんにせっちゃんの応援をしてやれって言われたんや」

「そう…それじゃどちらが勝つか見ものね。シロウも普段と違って一本だけだからやりにくいと思うし」

 

と、そこにハルナが話しかけてきた。

 

「イリヤさん、シロウさんってすごいですね! エヴァンジェリンさんとの試合もすごかったけど今回も一味違った凄さがあります。なんていうか鉄壁みたいな?」

「そうね。本来シロウのスタイルだからセツナも突破が困難でしょう。でも、そろそろ二人のギアもかなり入ってきたころだろうからここが正念場ね」

 

私がそう言ったとおりにそこからはシロウとセツナの目にも留まらない打ち合いがそこらで響きあい殺陣のようになっていた。

セツナは最大限強化した体で、シロウは錬鉄魔法【風】を纏った体で。

これがエモノが本物だったらもっとよかったのだけれど、舞台を破壊していることからそれでも十分すごいの一言。

 

「ランサーがいたら二人の動きについて意見を聞きたいんだけどコタローを追っていっちゃったからね、残念だわ…」

「でも二人ともすごいというのはよくわかるわ、イリヤさん」

「コノカも目に慣れてきたみたいね」

「はいな、修行の成果や」

「修行、ですか? このかさん?」

「あ…えっと、なんでもないえ夕映!」

「そうですか?」

「そうや! それより今は士郎さんとせっちゃんの戦いをみな!」

「そうよユエ」

「そ、そうですね」

 

ふぅ…なんとかごまかせたみたいね。隠しているとはいえなんか気が引けるわ。

っと、それより戦闘は今は、と思ったら二人は舞台の中心で再び立ち会っている。

見ればセツナのほうは少し息が上がっている。

さすがに体力勝負ではシロウに勝てないか。

でも十分よね。ここまでシロウの本気についてこれれば。本気かどうかはわからないけど。

 

「次で決着をつけよう刹那」

「えっ?」

「もう少し続けたいがもう時間も迫っている」

 

『た、確かにもう少しで時間です。ここでフィニッシュ宣言とは衛宮選手、なかなかに硬派です!』

 

あらら、もう時間か。

もったいないわね。もう少しセツナの成果を見ていたかったんだけど。

でもそれでセツナも構えをして一撃に備える。

シロウも竹刀を構えてどうやら魔力を集中させているようだ。

そして一瞬時が止まったかのようになり二人同時にエモノをぶつけあった。

結果は…、シロウの竹刀がセツナの攻撃の反動に耐え切れなかったのか真ん中あたりで折れてしまっていた。

 

「刹那、お前の勝ちだ」

「し、士郎さん! では!?」

「ああ、誇っていいぞ。強くなったな」

「ありがとうございます!」

 

『おっとこれは衛宮選手のギブアップ宣言です! 竹刀が折れてでのことでしょうか? なにやら師弟の関係が濃厚となった熱いやり取りが交わされています! とにもかくにも学園最強ベスト4が決定しました!』

 

よかったわねセツナ。これでシロウに一歩近づいたものね。

さー、シロウも負けちゃったしこれからどうしようかしら?

 

 




虎竹刀、砕けたり…。


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060話 文化祭編・開催2日目(07) まほら武道会・本選開始 その7

更新します。


Side 衛宮士郎

 

 

刹那との試合が終わり控え場に帰ってくるとエヴァがいた。

 

「ふむ……よく士郎を倒すことができたな、刹那」

「はい、最後は竹刀が折れてタイムアップもあり勝てたようなものですが…」

「そうだな。しかし士郎も手加減はしなかったのだろう」

「まぁな。全力とはいかないが手は抜かなかった」

「そうか。ま、お前が全力を出していればもしかしたら勝負にならなかったかもしれんがな」

「そうですね。私の技も全部防がれていましたし」

「買いかぶりだ二人とも。まぁなんだ。刹那、ネギ君との試合はがんばれよ」

「はい」

「ふむ、しかし成果も見れたことだし私はそろそろ退場しているかな」

「最後まで見ていかないのか?」

「ぼーやの試合は十分見せてもらったしな。あとはアルがなにかするだろうがもう私には関係ないことだ」

「そうか。まぁ止めはしないが」

「ふっ…まぁお前達は最後まで見届けてやることだな」

 

エヴァはそう言いながらチャチャゼロとともに会場をさっていく。

そして入れ替わりにアスナがやってきた。

 

「あれ? エヴァちゃんは帰っちゃうの?」

「ああ、もう満足そうだからな」

「そっか。あ、それとさっきの試合すごかったよ刹那さんに士郎さん。はっきり言って実力の違いを感じたわ」

 

アスナが騒いでいる中、帰ろうとしているエヴァが振り向き様に、

 

「ああ、そうだ。まだ助言があった」

「どうした? まだあるのか」

「ああ超鈴音には気をつけておけ。やつは別の意味で大した悪人だ」

 

意味ありげな言葉を残して今度こそエヴァは去っていった。

 

「超さんって……そういえば高畑先生はどうしただろう?」

「は、はぁ……どうでしょう」

「連絡がないから心配だな」

 

と、そこにネギ君が息を切らせながら走ってきた。

何事かと感じ聞いてみるとどうやらクーネルを探しているようだ。

もう次の試合で舞台の方にいっていると刹那が告げると、

 

「そ、そうですが」

「なにかあったの?」

「いえ、さっき会ったんですけど消えちゃって…その…声が! 最初は違ったんですけど声が最後に、と―――…!………い、いえ…なんでも…ないです。上手く、いえません」

 

途中で言葉を切ったりしてなにか伝えたそうな感じだがうまくいえないらしい。

そして刹那にどうしても決勝にいかなければいけないことを伝えた。

なにやら奥が深そうな話題だな。

 

その後、このかや姉さん、佐倉がやってきて平気だった?などの事やネットに関しての話題を聞いたりしてネギ君は試合を見に行くといって会場にいってしまった。

佐倉もいこうとしていたが刹那が呼び止めて、

 

「実は…超さんがこの大会でなにか企んでいるのではないかという話が…」

 

そこまで話を聞いていてふと、頭上のほうから魔力反応を感じて見上げてみると、

 

「…なにをやっているんだ、あいつは」

「そうね…」

『へ?』

 

全員が何事か聞いてきたがすぐにその疑問は消える。

いきなりシスター姿の春日がもう一人誰かを抱えながら空から降ってきたのだ。

そして見事着地。

しめしめといった表情だがアスナがすぐに突っかかっていった。

春日は自分は美空ではありませんと否定しているが呆れてものがいえない。

それでもう一人の人物…名をココネというらしい。

その子に聞いてみると、

 

「任務ダ。大会主催者 超鈴音に気づかれぬように会場地下へ潜入…高畑先生と連絡を取り可能なら救出すること」

 

その内容によってタカミチが超に捕まっていることが判明した。

それで色々と事情を聞いてネギ君にも知らせようという話になったがアスナが「だめ、今は自分のことだけで手一杯だから」ということで伝えないことにした。

それで地下道に移動しながら、

 

「今はネギに頼らないわ。ここは…私達の手でどうにかしなきゃ!」

「ふむ、ならば俺もついていこうか? もう試合も負けて手が空いているからな」

「シロウがいくなら私もいこうかしら」

「え!? いいんですか!」

「ああ」

「ええ」

「しかし士郎さんはクーネルさんの大会に参加する真意を確かめるために出場したのでしょう? いいのですか?」

「む…確かにそうだがもう敵ではないと分かっているしなぁ…」

「それだったら士郎さんもイリヤさんもネギを見ててもらっていいですか? 今のあいつは少し不安定ですし心配だから。それに刹那さんもお願い!」

「いいのか?」

「はい」

「ええー…着いてこないんですかぁ…」

 

そこで春日が愚図る。

弱ったな…。

だがアスナが私たちでなんとか解決するのよ! と、張り切ってしまっている。

どうするか迷っていると背後から声が、

 

「フフフ…でしたら私が付き合いましょう。衛宮先生達の代わりに力になりましょう!」

「高音か。もう大丈夫なのか?」

「はい。悪ある所この高音あり! 世界の平和こそ私たち魔法使いの使命! あんなことでめげていられません!!」

 

そして自信満々に言い切る。

それに佐倉は感動しているが、俺達的には大丈夫か? という不安に駆られた。

そしてアスナ、高音、佐倉、春日、ココネは地下に潜入していった。

 

「あのメンツで大丈夫だろうか? いささか不安だ」

「そうですね」

「アスナ、高畑先生のことになると目の色変わるからなー」

「ま、それならお言葉に甘えて私たちは残りの試合を観戦してましょうか」

「そうだな…」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

そして俺と刹那は会場に戻るともう楓とクーネルの試合が始まっていた。

途中からなので状況は分からないがクーネルがなにやら重力の魔法を使って楓を叩き落そうとしていた。

それは楓がすぐに脱出したがクーネルも派手に魔法を使っているな。

 

「空にまで浮いてしまって…あれはやばいな」

「そうですね」

 

すると時間も惜しいと感じたクーネルが一枚のカードを取り出した。

なんとそれは仮契約カードだった。

発動してクーネルの周りをなにやらたくさんの本が浮遊していてその一冊を抜き取る。楓は危険と感じ取り十六分身で決めにかかるが、

 

「クーネルの雰囲気が変わった?」

「は、はい…」

 

見れば先ほどまでのフードが少し変わっていて顔部分から赤毛が少し見える。

顔までは俺の目をもってしても確認はできなかったがあれは…!

その間にも楓の首を掴んだままクーネル(?)は舞台に落下していく。

そして舞台を盛大に破壊する。

 

「楓ッ!」

 

刹那が叫ぶが、

 

「いや、どうやら落下直前にはずした様だ」

 

砂煙が晴れてくると片膝をつき格好もボロボロだがかろうじて大丈夫な楓がいた。

 

『長瀬選手かろうじて無事のようです! 舞台土台が破壊されるような衝撃を受けて無事!?』

 

朝倉の実況の中、楓はなにかを考えてか降参した。

それで朝倉も実況で大々的に放送をした。

そして舞台上ではよろつきながらも楓は立ち上がりクーネルに「完全に信用したわけではないが…嘘もなさそうでござる」といっていた。

 

「世界は広い…拙者もまだまだ修行が必要でござる」

「フフッ…頬の傷、直して差し上げましょうか?」

「気遣い御無用」

 

そうして楓は待機席へと戻ってきた。

ネギ先生に楓はクーネルからの伝言だといい「決勝で待つ」と伝えた。

それでネギ君は舞台が直る間、少し席を外してしまった。

その間俺は楓と待機席で会話をしていた。

 

「しかしクーネルも派手にやったものだな」

「そうでござるな士郎殿。それだけネギ坊主と戦いたい理由があるのでござろう」

「さっきのあれだが、もしかしたらあれがクーネルのアーティファクトの力か」

「おそらくは。あれは完全に別人でござったからな」

「あの本の群れも気になる。もしかしたらあれ一冊一冊に一人の人格が封入されているのかもしれないな。前にお前達が図書館島に入って行った時に後を追っている途中であいつとは会ってな」

「なんと! そんなことがあったでござるか…」

「ああ。それでその時に一度「記憶を覗かせてくれませんか?」と言われた事があるんだ。だからあいつのカードの能力はおそらく…」

「おそらくは…」

 

それ以降他愛ない会話をしていると舞台の修理が終わったらしく、

 

『さぁ舞台の修理で長らくお待たせしました! 準決勝第二試合! いよいよこの大会も大詰めを迎えています!!』

 

実況と同時にネギ君達が帰ってきて楓は刹那を呼びネギ君について話し合っていた。

そしてネギ君と刹那は舞台へと向かっていった。

 

「ありゃ、ネギ坊主どうしたアル? ガチガチあるよ。あれでは刹那に勝つのは無理アルよ」

「…確かにあのままでは負けるでござるな」

「だがそれはネギ君が焦りをなくせばどうにかなるだろうな」

 

『「まほら武道会」もいよいよ残すところ二試合のみとなりました! さぁ注目の準決勝第十四試合まで歩を進めてきた選手はーーー!?』

 

実況と同時にスクリーンに映し出されるネギ君の今までの映像。

 

『一回戦でかのデスメガネ高畑と大激戦を繰り広げ…二回戦ではナゾの巨大人形相手に華麗な勝利を収めた脅威の子供先生 ネギ・スプリングフィールド選手!!』

 

次に移るのは刹那の映像。

 

『そして一回戦では色物かと思われたがすごい戦いを見せてくれ、二回戦では師匠にもあたるであろう人物・デスホーク衛宮を打ち破ったまほら中学校剣道部所属、デッキブラシにその剣技が冴え渡る桜咲刹那選手!!』

 

『さあ! いよいよ準決勝第十四試合を開始します!!』

 

舞台上ではなにか話しているがそれもすぐに終わり二人は構えを取る。

 

『それでは第十四試合―――…!』

杖よ(メア・ウイルガ)!」

 

始まる直前にネギ君は杖をその手に呼び出し『ファイト!!』という掛け声とともに刹那の背後に回りこみ杖を当てにいって衝撃が流れていった。

だが…、刹那には効いていなかったらしく逆に百烈桜華斬を当てられひるんだ隙に蹴りを受けさらに追撃の連続で奥義が次々と決まり反撃もできずに最後にはなにかの体術かを決められ何回転もして舞台にネギ君は沈んでしまった。

 

「あの連続攻撃はなかなかだったな」

「ネギ坊主もいいように嵌ってしまったでござるよ」

 

そこからネギ君は立ち上がりまた仕掛けていったが軽がると刹那に受け止められ瞬動をするも追いつかれ攻撃をされ蹴り飛ばされるという始末。

ここまで一方的な展開が続くが、刹那がネギ君に戦いながらも語りかける。

 

“―――この試合勝たねばと思い、そう思うほど手は動かず足は出ない”

“―――こだわり・執着・夢…目標。あなたの場合お父さんの背中を追うことがあなたの才気と力の源となっているのでしょう”

“―――でも…いつも遠くばかり見ていては足元の小石につまずいて怪我をするかもしれませんよ?”

“―――或いは…手元で咲いている花を見逃すことも…”

“―――今のあなたの相手は私です。今は私を見てくださいネギ先生”

“―――そしてお父さんの背中を追う日々にもアスナさんのこと…カモさんのこと…お嬢様達や…それにみんなのことを…忘れないでください”

 

読唇術でなんとか全部聞き取ることができたがその言葉によってネギ君はすっきりとした表情になった。

 

「あれでもうネギ君は大丈夫だろう」

「肩の力が抜けたアルかナ?」

「ニンニン♪」

 

そこからは驚異的な変わりようでネギ君は刹那へと迫り瞬動の連打を決めている。

ふと楓と古菲がどこかへ移動するらしく聞いてみると、

 

「コタローのところにいくでござるよ」

「ああ…なるほど。ならば俺もいこうか?」

「大丈夫でござる。士郎殿は刹那とネギ坊主を迎えてやってくだされ」

「そうか。了解した」

 

二人が消えた後、一人で観戦しているとなにやら周りが騒ぎ出している。

何事かと思い姉さんに連絡を取ってみた。

 

《姉さん、この騒ぎはどうしたんだ?》

《ああ、なにやらネットにネギの今大会の出場理由や他にもいろいろが載っていて騒ぎになっているらしいわよ》

《ネギ君の過去が? それは本当か姉さん》

《ええ。多分リンシェンが流したものだと思うわ》

《だろうな》

《あ、それとシロウ。話は変わるけどなんかハルナにこちら側がばれちゃったみたい…コノカ達が拘束されちゃったわ》

《は?…なんでさ?》

《とにかく大会が終わったら合流しましょう》

《わかった》

 

そしてネギコールが起こる中、刹那がフィニッシュ宣言をしてデッキブラシを投げる。

どうやら無手で決着をつけるらしい。

両者が構えたと同時に観客達の声が一気に聞こえなくなる。

いい緊張感に集中力だ。

これほどまでに成長していたとはな…。

そして互いに地を蹴り二人は衝突する。

競り勝ったのは…ネギ君だった。

頬に出血をしているがどうやら心配ないらしい。

それより心配なのは刹那のほうだ。

 

『ネギ選手勝利―――――ッ! これでネギ選手の決勝への進出が決定いたしました! おや桜咲選手動きません! 大丈夫でしょうか? タンカが呼ばれます』

 

それで俺も刹那が運ばれていくタンカについていくことにした。

そこにネギ君やこのかも追ってきた。

 

「刹那さん!」

「せっちゃん大丈夫?」

「すいません、僕本気で…」

「あ…私?」

「気がついたか?」

「すみません。すべてが終わったと思ったら気が抜けてしまいました…アスナさんの頼みもあったのですが…」

「アスナさんの頼み?」

「ネギ先生を頼むと…」

 

それから刹那はネギの頬の傷を気にしたりしていたが表情を変えて、

 

「先ほどはああ言いましたが…この先決勝戦の15分間はあなただけの時間です。今だけはすべてを忘れて舞台に上がってください」

「は、はい…ありがとうございますっ刹那さん!」

 

そして俺達は救護室へと向かっていった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

救護室に運ばれた後、刹那の着替えもあり一度席を外し着替え終わったころを見計らい俺は中に入った。

 

「大丈夫か刹那?」

「はい、なんとか大丈夫です。それより心配させてしまいすみません」

「気にするな」

「そうやよ、せっちゃん」

「それとだがさっきの試合だが最後は本気でいったんだよな?」

「ええ。ネギ先生のいい突きをもらってしまいました」

「信念の勝利か…特に最後のネギ君の型はいい選択だったからな」

「はい」

 

刹那はそこでやわらかい笑みを浮かべる。

ふむ、どうやら心配事はないようだな。

 

「これでネギ君も心置きなく決勝戦を迎えることができるだろう」

「そうですね。クーネルさん次第ですが」

「そこは大丈夫だろう。もう俺の中で奴は悪いことはしないと確信している。むしろ…」

「士郎さん?」

「いや、なんでもない。それよりそろそろいこうとするか。刹那、立てるか?」

「はい、なんとか…」

「せっちゃん、駄目そうならウチが肩を貸してあげるえ?」

「お、お嬢様! 申し訳ございません!」

「ええんよ。ウチがやりたいと思ったことやから」

「フッ、お言葉に甘えてみたらどうだ刹那?」

「は、はい…では失礼しますお嬢様」

「うん♪」

 

そして俺達は舞台に戻ってくると思ったとおりの光景が展開されていた。

舞台上ではネギ君ともう一人、ネギ君を大人にしたような青年が立っていたのだ。

ネギ君の記憶で見たとおりの姿であれが“ナギ・スプリングフィールド”。

もう言葉は不要だろう。

残りの時間、ネギ君は全部を出し切りナギさんへと向かっていった。

多少魔法を出しまくっていたようだがもうこの際どうでもいいだろう。

そして…ネギ君は地面に横になって朝倉のカウントが取られていた。

テンカウントがとられる中、ネギ君は涙を流しながらも「やっぱり僕の思っていたとおりの父さんです」といっていた。

 

『カウント10!! クーネル・サンダース選手優勝―――――ッ!!』

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

『カウント10!! クーネル・サンダース選手優勝―――――ッ!!』

 

朝倉の実況が響く中、空想の存在のナギはネギに向かい、

 

「もう時間だぜ、ネギ」

「…!」

 

もう時間だと告げる。

それで傷もアルに直してもらえといいながら、

 

「んー…ここでこうやってお前と話しているってことは俺は死んだっつーことだな。悪いな、お前には何もしてやれなくて」

 

名残惜しそうにそう告げる。

そこでネギは過去のことを思い浮かべる。

 

「こんなこと言えた義理じゃねぇが…元気で育ちな」

 

ナギが過去と同じ台詞をいい消えようとしたがネギはまだ「父さんは生きています!」と告げる。

それにナギは動きを止めた。

 

「ナギッ!!」

 

だがそこでエヴァが大声を上げながら現れた。

 

「お?」

師匠(マスター)…」

「え? 師匠(マスター)? へー、ほぉー、ふーん」

 

ネギの師匠(マスター)発言にナギは驚いたが納得したのかニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「うるさい黙れ時間の無駄だ。…呪いのこととか言いたいことは山ほどあるが今はいい、幻影に何を言っても詮無いことだ」

「呪い?………あぁーーーっ! 呪いな! 凄く気になってたんだけどよぉー…解きにいけてないのか俺?」

 

ナギは解けてないことに驚いていた。

 

「言い訳はいい。どうせ忘れていたのだろう? しかしこの呪いの目処が立っているからいいがな」

「なに? 解けるやつの目途が立っているのか? けっこう強力だと思うんだけどな…」

「ああ。お前は知らないと思うが異世界の魔術使いで衛宮士郎という奴だ」

「へ?…ああ、あいつのことか。なら納得だ」

「なに!? お前、知っているのか!?」

「さーな。それよりなんか用があるんだろう。もう何秒もねーぞ?」

 

なにかを知っていそうな口ぶりだがうまくはぐらかされてしまった。

それでエヴァは仕方なく、

 

「では抱きしめろ、ナギ」

「やだ」

「殺るぞ貴様」

 

そう言ったが即答をされてしまった。

なので妥協点として、

 

「まあいい。では頭を撫でろ」

「それでいいのか?」

「どうせそれ以上の頼みは聞かんだろう、早くしろ」

 

エヴァはナギの性格ではこれ以上聞いてくれないだろうことを察してこう提案した。

 

「心を込めて撫でろ」

「あいよ」

 

ナギに頭を撫でられたエヴァは目を閉じ一筋の涙を流した。

 

「ネギ…お前が今までどう生きて、俺のその後に何があったのか知らない。けどな、この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才&最強無敵のお父様に憧れる気持ちはわかるが、俺の後を追うのはそこそこにして止めておけよ」

「ぷっ」

「何だよ」

「ハ」

 

エヴァとナギの短いやり取り。これだけで分かり合える二人。

そしてナギは笑みを浮かべながら、

 

「お前はお前自身になりな…」

「う…あ、父さ…!」

「じゃあな。もうあんまり泣くんじゃねえぞ」

 

そう最後に言いナギは光に包まれて、それが晴れたときにはアルに戻っていた。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

ナギ・スプリングフィールドは消える寸前に俺に目を向け、

 

“ネギを頼むぞエミヤシロウ”

 

と、口を動かして言った。

彼は俺のことを知っているのか?

 

「士郎さん、ナギさんは一瞬ですが士郎さんのほうを見ました」

「ああ、わかっている。しかし会ったこともないのだから考えてもしかたがないしな」

「そうですか」

「ああ」

 

その後は武道会の授賞式が開かれ表彰台の上に一位にクーネル、二位の台にネギ君、三位の台の上に刹那と楓が乗りそれぞれ受賞されていた。

その間脱出に成功したらしいタカミチに呼ばれ俺は超が消えたほうへと向かった。

そして超を取り囲むようにして魔法先生達が集結していた。

 

「これはこれは皆さんおそろいで…お仕事ご苦労様ネ」

「職員室まで来てもらおうかな、超君」

 

タカミチが問いかける。

それに対して超は、

 

「それは何の罪カナ?」

「ハハハ、罪じゃないよ。ただ話を聞きたいだけさ」

 

超とタカミチは普段どおりに振舞っている。

しかしそれはガンドルフィーニ先生などが黙っていなかった。

 

「高畑先生! 何を甘いことを言っているんですか。この子は要注意生徒どころではない、危険です! 魔法使いの存在を公表するなんてとんでもない事です!!」

「確かにな。なぁ超…理由を話してもらえないか?どうしてそこまで魔法をばらそうとする?」

「エミヤ先生、あなたなら私の気持ちが分かると思うヨ?」

「なに…?」

「いや…今のは聞き流してほしいネ。それより何故君達は魔法の存在を世界に対し隠しているのかナ? 強大な力を持つ個人が存在する事を秘密にする方が、人間社会にとっては危険ではないカ?」

「なっ、それは逆だ!無用な誤解や混乱を避け、現代社会と平和裡に共存するために我々は秘密を守っている!それに、強大な力などを持つ魔法使いはごく僅かだ!!」

 

確かに超の言っていることはわかる。

元の世界でも強大な力を持つ魔術師は封印指定をかけられていた。

そしてガンドルフィーニ先生の言い分も正しい。

しかしそうすると昔の俺は…守れてなかったのだろうな。

 

「と、とにかく、多少強引にでも君を連れて行く!」

「ふむ…できるかナ?」

 

もう追い詰められているというのに超は冷静だ。

何かおかしい…。もう少し周囲を警戒したほうがいいか?

 

「捕まえるぞ! この子は何をしてくるかわからない、気をつけろ!!」

「ハ、ハイッ!」

 

そうして数人の魔法先生が超に迫っていったが超は慌てずにその手に懐中時計らしきものを取り出した。

あれは…?

 

「三日目にまた会おう。魔法使いの諸君」

 

そして超は一瞬にして消えてしまった。

なっ!?

たった一瞬で!?

すぐさま俺は超がいた場所に立ち、

 

解析開始(トレース・オン)

 

解析を試みるがなにも発見できなかった。

 

「士郎、なにかわかったかい?」

「いや、何も解析できなかった。おそらくだが先ほど出した懐中時計が鍵を握っていると思う」

「そうか」

 

その後、魔法先生達で話し合いが始められたが正直いって俺では力になれそうにないのでこの場を任せることにした。

 

「タカミチ、俺は姉さんに呼ばれているのでこの場を離れる。なにかあったら携帯で連絡してくれ」

「わかったよ」

 

 

 

 

 

こうして色々とあったまほら武道会は幕を閉じたのだった。

 




これにてまほら武闘会は終了です。


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061話 文化祭編・開催2日目(08) 衛宮家族

更新します。


 

 

 

Side 衛宮士郎

 

 

さて、出てきたはいいもののこれからどうするか?

そういえば姉さんが早乙女に魔法がばれたらしいことを聞いていたんだったな。

合流しようとも思うがどこにいるのか聞いていない。

迷ったな。

 

「シロー、どこー?」

「ん? 姉さんか?」

「え?」

 

だがそこにいたのは小さい姿の姉さんだった。

魔法薬で小さくなっているのか?

しかし、

 

「あの、あなたは誰?」

「は? えっと、俺の名は衛宮士郎というものだが…」

「え!? そうなの?」

「あ、ああ…」

 

小さい姉さんはなにか考え込んでしまった。

 

「そうなんだ。お兄ちゃんの名前も衛宮士郎っていうんだ。私の弟も同じ衛宮士郎っていうんだよ。偶然だね」

「そ、そうか(もしかしてこちらの世界の姉さんなのか?)」

「私の名前はイリヤスフィール・フォン・E(エミヤ)・アインツベルンっていうの。さっき姉さんっていっていたけどお兄ちゃんのお姉ちゃんももしかして?」

「あ、ああ。名を衛宮イリヤという」

「そうなんだー。こんな偶然もあるんだね!」

「そうだな。ところで君は弟を探しているのかね」

「うん」

「これもなにかの縁だ。俺も探すのを手伝おう。これでもここ麻帆良の教師だからな」

「いいの?」

「ああ」

「ありがとー、お兄ちゃん!」

 

お兄ちゃん、か。懐かしい響きだな。

 

「ではその弟の特徴を教えてくれないか?(まぁ大体予想はつくがな)」

「うん。赤毛の髪をした男の子なんだよ。後、目も私と同じで赤いよ」

「(やはり)そうか。では探すとしようか。その…」

「イリヤでいいよお兄ちゃん」

「そうか。ではいこうとしようイリヤ」

「うん!」

 

どう探すか検討しているとイリヤが私に話しかけてきた。

 

「今日はね、お父様とお母様とシロウの四人で遊びに来ていたんだけどシロウが勝手にどっかいっちゃったの」

「そうか。しかしそれではイリヤはどうして一人でいたんだ? もしかして君も迷子なのか」

「いいえ、ちゃんと近くにお母様達は待っていてくれてるわ。私が探しにいくってダダをこねたの」

「ならばすぐに見つけて安心させてあげねばな」

「うん、そうだね」

 

この世界では親父は生きていて前に聞いたイリヤの母、アイリスフィール・フォン・アインツベルンも存命。

そしてこの世界の俺は目も同じ色ということから実の兄弟。

羨ましい事だな。

実の親子になっているのか。

 

「でもこう人だかりが多いと探しづらいね」

「ならば肩車をしてやろうか」

「いいの!? それじゃしてしてー!」

「よし」

 

無邪気なものだな。こういうのも新鮮味があっていいものだな。

そう思いながらもイリヤを肩車させてあげる。

 

「わぁー、すごい高いね。よく見渡せるわ」

「それはよかった」

 

そうしてしばらく肩車をしながら探していると、

 

「あー! 見つけた!」

「どこだ?」

「あっちよ!」

「よし、では少し早く動くがいいか?」

「ええ、お願いするね、お兄ちゃん」

「任された」

 

イリヤの指差したほうへと俺は向かっていった。

すると、

 

「イリ姉…どこにいるんだよ」

 

思ったとおり昔の俺が少し愚図りながら迷子になっていた。

 

「シロー!」

「! イリ姉!」

「もうどこに行っていたのよお父様達が心配しているから早く戻りましょう」

「ああ、わかった。………ところで兄ちゃん誰だ? イリ姉を肩車しているけどなんでだ?」

「ああ、そうだったな。それでは降ろすぞ」

「えー? もっと乗っていたかったんだけどなぁ~」

「わがまま言っちゃだめだろ、イリ姉」

「ぶー…ま、いいや。ありがとねお兄ちゃん!」

「ああ」

「むー…」

 

ん? どうやら小さい俺がむくれているな。どうしたのだろうか?

 

「兄ちゃん、イリ姉とどんな関係だ? もしかして隙を見て誘拐とかしないだろうな」

「なんでさ?」

「違うわよシロー。お兄ちゃんは名前がシローと同じということでこれも縁ということでシローを探すのを手伝ってくれたのよ」

「そうなのか!?」

「ああ、俺の名前は衛宮士郎だ」

「お、俺も衛宮士郎だ…」

「クッ…同姓同名だな」

 

フッ…なにやらアーチャーの気持ちがわかるかもしれない。

これはなかなかに愉快だ。

 

「…あれ? お兄ちゃんなんか雰囲気変わった?」

「いや、そんなことないさイリヤ。それより早く君達の親のところまで行くとしようか。それまで一緒についていこう」

「ありがと、お兄ちゃん」

「なんか兄ちゃん…俺に対する視線がイリ姉と違いすぎないか?」

「そうか? 俺は常に平等のつもりなのだがね」

「うーん…なんていうか俺をバカにした様な態度のような…」

「気のせいだ。さ、馬鹿やっていないでいくぞ」

「うん♪」

「お、おう(なんだろうな。なぜか気に入らない…)」

 

クククッ…やはり同属嫌悪を感じているようだな。

俺は別に平気だがこいつは初めてのことで整理がついていないだろうよ。

 

「…なんか二人とも表情が変だよ?」

「「そんなことはない…む?」」

「あはは♪ なんかそうしていると兄弟みたいね」

「俺がこの小僧と? ありえないな」

「そうだぜイリ姉! 誰がこいつなんかと!」

「ほう…年上に対してその態度とはいただけないな?」

「あんたこそ年下には優しくしろよ!」

 

売り言葉に買い言葉とはこのことを言うのだろう。ただ違うとすれば俺は遊んでいるような感じだが。

そんなことを繰り返しているうちに目的地に着いた。

そこにいたのは黒いコートを着ているボサボサの髪の男性…衛宮切嗣。そしてこの姉さんに似た人物こそが俺達の世界ではホムンクルスだったという母親のアイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 

「もー、どこまでいっていたのかしら、イリヤちゃんにシロー」

「そうだぞ。あんまりアイリと僕に心配をかけさせないでくれ」

「「はーい…」」

 

フッ、やはり親の前では素直か。

平行世界ではこうまで環境が違えばこうして普通に過ごしていけるのだからいいものだな。

 

「あの…あなたは?」

「ああ、申し遅れてすみません。私の名は衛宮士郎、この麻帆良学園の教師です」

「まぁ! シローと同じ名前なんですか!」

「はい。先ほどイリ…お子さんが弟を探しているというので折角ですから手伝っていただけですよ」

「そうですか、ありがとうございます。私の名前はアイリスフィール・フォン・E・アインツベルンです」

「僕の名は衛宮切嗣だよ。イリヤと士郎を守ってくれてありがとう。………時にお伺いするがもしかして君はあの噂に聞く“鍛冶師エミヤ”かな? 士郎君」

「ッ!? それを知っているということは…」

「ああ。僕達は魔法使いだよ」

「そうですか」

 

やはり魔法と関わりがあったということか。

魔法使いと魔術師の違いがあるだけで平行世界であってもやはりそう違いはないようだ。

 

「それに今日の君の試合を見させてもらったけどなかなかどうして、強いようだね」

「いえいえ、まだまだですよ」

「謙遜だな。まぁいいかな」

 

ハッハッハッ!と笑う切嗣。

やはり油断ならないようだな。

そんな時だった。

 

《シロウ? 今どこにいるの?》

《イリ、…ではなく姉さんか?》

《そうよ。それでどうしたの? 一向にこっちにこないようだから心配しているのよ》

《どこにいるかくらい教えといてくれ…それより今はなかなかに面白い目にあっているんだ》

《居場所といえば今はシロウの魔力を追っているところよ。コノカ達とは別れたから。それより面白いことって?》

《なに、平行世界の悪戯だよ。今俺の目の前には小さい俺と姉さん、それに親父に姉さんの母親だというアイリさんがいる》

《えーーーーーーーーーッ!?》

《会うのなら今しかないから来るなら早く来たほうがいいと思うぞ》

《うん、うん! すぐにいくからまだ別れないでね!!》

《ああ》

 

それで急いでいるのか姉さんからの念話は終了した。

 

「誰かと念話していたのかい?」

「ええ。よく分かりましたね」

「まぁね」

「ねぇねぇお兄ちゃん! もしかしてそれって私と同じ名前のお兄ちゃんのお姉ちゃん!?」

「あ、ああ、そうだよ。もうすぐしたら来るそうだ」

「そっかー。なんか会うの楽しみ♪」

「士郎君、もしかして君の姉の名前はイリヤなのかい?」

「はい。多分もう少しで―――………」

「シロウーーー!!」

「来たようです」

 

姉さんは息を切らせながらやってきた。

そしてその表情は少し緊張の色が出ているがそれ以上に嬉しさのほうが上回っているようだった。

 

「はぁ、はぁ…やっと見つけたわよシロウ」

「君が士郎君の姉のイリヤちゃんかな?」

「あっ…キリ…ぅ、えっと、はい」

「まぁ! 本当にイリヤそっくりね! ね、イリヤ」

「うん、お母様!」

「すげぇ…イリ姉にそっくりだ」

「う…」

 

衛宮家族に少し押され気味の姉さんの姿がそこにあった。

 

「世界に似た人が何人かいるという話は聞くけどここまでそっくりだとまるで偶然じゃないみたいね」

「そ、そうですね…」

「姉さん、大丈夫か…?」

「だ…大丈夫よ、シロウ」

「でもお姉ちゃん、涙目になってるぞ?」

「こらシロウ! イリヤお姉ちゃんに失礼でしょ?」

「もうシロウは…それよりイリヤさん、大丈夫?」

「は、い…その、アイリさんが死んだお母様にそっくりで…つい…」

「そう…」

 

よく耐えているようだが涙目で見ていられないな。

そこでなにか気の効いたことを事を言おうとしたら、

 

「アイリ、イリヤちゃんの頭を撫でてやったらどうだ? もちろんイリヤちゃんが嫌じゃなければだがね」

「いいかしら、イリヤさん? なぜか私もあなたの事を放っておけないのよ」

「はい、大丈夫、です…」

「それじゃ…」

 

それでアイリさんは姉さんの頭をまるで自分の子供のようになで始めた。

それにされるがままだった姉さんの目には涙が零れていた。

 

「ちょっと、いいかな? 士郎君」

「あ、はい」

「どっかいくのか、親父?」

「ああ、ちょっと士郎君に聞きたいことがあるんだ。少し待っていてくれ」

「わかった」

 

それであまり人が来ないところまでいくと切嗣は話を切り出した。

 

「さて、士郎君」

「何でしょうか?」

「少し話す前に僕の知り合いにね、性は遠坂っていうんだけどね」

「!?」

「その顔だと…いや、今はいいか。それでね、表向きは宝石商をしているが裏の顔ではやはり魔法使いで、それにある魔法の研究をしているんだ」

「その研究とは…?」

「平行世界の移動…という大それたことさ。そんな魔法はこの世界には存在していないからいつか完成させるんだと息巻いている」

「そ、そうですか…」

「変な話をしたね。それで本題だけど、もしそんな魔法を使える人物がいてそれを受けた者がいたとしたら、どうだろうね?」

「なにを、いいたい……?」

「簡単なことさ。実験に付き合ってもらうに決まっているじゃないか」

 

笑顔を浮かべながらも恐ろしいことをさらっと衛宮切嗣は言った。

 

「ッ!!」

 

気づいたときには投影をする一歩手前の状態で俺は切嗣の首に手をかけていた。

だが切嗣は動じた風もなくさっきまでしていた薄気味悪い表情を解き、優しい顔になった。

 

「かまをかけてみたが、思った以上の効果があったみたいだね。大丈夫、そんな人を売ることはしないさ“士郎”」

「あっ…!」

「最初はただの偶然だと思った。しかしイリヤまで現れたとあっては偶然で済ますにしては些かおかしい。

それで友人の研究のことを思い出した。それでもしかしたらと思ってね…大丈夫。アイリ達はこの事を知らない」

「切、嗣…」

「確信したから言わせてもらうよ。君とイリヤちゃんは平行世界の僕らの子供だね?」

「あなたはたいした人だよ。ああ、正確には俺は養子だったが…確かにそうだった」

「そうか…やっぱりね。どうしてこの世界に来た、とかは聞いちゃいけないのかな?」

「できれば…」

「分かった。これ以上は何も聞かないよ。…しかし将来士郎はこんな好青年になるのか」

「安心してくれ。この褐色の肌と白髪はある魔法の副作用だ。だからあの小僧はなる心配はないだろう」

「そうか。それじゃそろそろ戻ろうか。アイリ達が待っているから」

「待ってくれ…」

「ん? なんだい士郎?」

「もうばれてしまったのだから言わせてもらう。たとえ平行世界とはいえ会えて嬉しかったよ………“親父”。」

「それはよかった」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

それから他人の振りをしながらも俺達は別れた。

その代わり連絡先やらを貰えたのはよかったと思っている。

 

「ねぇシロウ、キリツグとの会話、少し聞いちゃった…」

「そうか」

 

姉さんが俺の肩にもたれかかりながらそう言ってきた。

 

「私たちのキリツグもちゃんと私達の事を考えてくれていたかな…?」

「きっと考えてくれていたさ」

「そうだね…」

 

―――そうだぜ。

 

「「!?」」

 

気づくと背後には屋台のものを食べているランサーが立っていた。

 

「よっ」

「よっ、じゃないわよ! いつからいたのランサー!?」

「おいおい、ひでぇなマスター。離れてはいたが近くにいたぜ。ま、店にいたから分かんなかっただろうが…。

ところで言わせてもらうが子を大事に思わない親なんていねぇと思うぜ?」

「わかっているわよ…」

「しっかしこっちの世界の士郎達か。あのアーチャーのマスターのお嬢ちゃんには感謝しなきゃな!」

「そうだな。ラインをこの世界に繋いでもらわなければ俺達は何かしら世界の修正を受けていただろうからな」

「ランサーもそうね」

「なんでだ?」

「なんで、ってコトミネがこの世界に来たのはリンのうっかりが原因なんだから」

「あー…確かにそうだな。でもなきゃ今頃まだあの野郎の手足として使われていただろうからな」

「そういうことよ」

 

ピリリリッ!

 

その時仕事用の携帯がなりだしたので出てみるとガンドルフィーニ先生であった。

 

『衛宮か?』

「ええ、どうかしましたか?」

『ちょっと会議がある。もちろん超鈴音についてのことだ』

「そうですか…」

『そうだ。だから今から指定した場所に来てくれ』

「了解しました」

『それと他に誰かいるか?』

「ええ。今いっしょに姉さんとランサーがいますので一緒に連れて行きます」

『わかった。では場所は学園長室だ、早めに来るようにな』

 

ガンドルフィーニ先生から場所を聞いて電話を切った。

 

「どうしたのシロウ? 仕事?」

「ああ。超についてのことらしい。今から向かおう」

「わかったわ。私もリンシェンについて気になっていたから」

「俺もかー…ま、いいだろう」

 

 

 




並行世界の悪戯です。


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062話 文化祭編・開催2日目(09) 超との対峙、謎のエミヤ?

更新します。


 

 

学園長室に来るとすでにガンドルフィーニ先生にその他の魔法先生達が集合していた。

後来ていないのはタカミチにネギ君くらいだろう。

そしてその両名に刹那がやってきて会議が開かれた。

そこでまず超鈴音のやろうとしている事を知ることになる。

俺はなんとなく予想していたが初めて聞くネギ君はたまったものではないだろう。

なんせ自分の生徒が世界に魔法をばらそうと活動しているのだから。

 

「さらに高畑先生を地下に監禁していた」

「えっ!?」

「ネギ君は聞くのは初めてのようだな」

「士郎さんは知っていたんですか?」

「ああ、ネギ君に心配をかけさせまいという皆の意見で言わなかったが…」

「そんな…」

 

さらに春日とココネが地下施設で見たという巨大な兵器と起動兵器の大群。

聞くに巨大な兵器というのはかなり大きいと聞く。

そこで思い出されるのはスクナである。

あんなものが何体も暴れまわると思うとゾッとする。

と、そこにネギ君からあることが聞かされる。

 

「あ、あの! 超さんが退学してしまうそうです!」

『なに…!?』

 

それで全員がネギ君が超から受け取ったという退学届けに注目する。

 

「ふむ、なるほどの…。もう作戦成功後の逃走手段も確立していると見えるの。皆の衆は一刻も早く超鈴音の作戦を阻止し確保してくれい!」

『はい!』

「いずれ行動を起こすだろう…なにかあったらすぐに報告をするように。以上じゃ。解散してくれ!」

 

学園長の一言で会議は終了する。

そして退出後にネギ君は暗い面持ちで、

 

「僕、超さんと話してみようと思います」

「ネギ、それで止められなかったらリンシェンをどうするの?」

「説得します!」

「でもよ…それだけじゃあの娘っ子は止まらないと思うぜ? それでも会うっていうのか?」

 

ランサーの言葉にネギ君の表情はさらに引き締まる。

 

「でしたら、先生としての責任で僕が超さんの計画を阻止します」

「言い切ったな…」

「士郎さん…」

「わかった。では俺もついていこう。副担任とはいえ超は俺の生徒に代わりはない」

「ありがとうございます!」

「ああ、それに俺も問いかけたいことがあるからな…」

「シロウ、なにかあったらすぐに連絡するのよ?」

「わかっている、姉さん」

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

超が来る間、俺とネギ君はというと、

 

「と、ところで士郎さん」

「ん? なんだねネギ君」

「このお祭りで超さんと会いましたか?」

「そうだな…。武道会でちょっとばかし話をしたかな」

「そうですか」

「それがどうかしたかい?」

「いえ、僕も武道会以外だとちょっと飛行船であったくらいでしてどこにいたのかと思いまして…」

「あいつはなにか特殊な転移術を持っているようだからな」

「えっ?」

「なにやら懐中時計のようなもので転移した光景を目にした」

「!? そ、それってもしかしてこれのことですか?」

 

そしてネギ君が取り出したのは超が持っていたのと同じ懐中時計だった。

ネギ君から聞くにこれは懐中時計型のタイムマシン、名をカシオペアだという。

どうやらこれを使ってネギ君は生徒達の出し物を点々と向かっていたらしい。

 

「なるほど、だから一日目の時に慌てていたのか」

「はい。イリヤさんには士郎さんには内緒にしておけと言われていたので言わなかったんですけど、超さん関係では伝えといたほうが言いと思いまして」

「そうか。それなら超が一瞬で消えたカラクリも説明がつく。しかし時間旅行の魔法を科学で完成させていたとは…まさに天才だな」

「僕もそう思います。士郎さんはこれをどう思いますか?」

「どう、とは?」

「カシオペアです。何度も時間を遡っていますからズルですよね」

「いや? 別に悪用しなければいいのではないか?」

 

そう…。セイバーのようにやり直しを望まない限りはな。

 

「そうですか。ありがとうございます」

「しかし、となると超はなにをしようとしているのか…?」

 

と、そこにザッという足音。

いつの間にか超がそこに立っていた。

 

「ネギ坊主。話し合いをしたいとはなにカナ?…おや、エミヤ先生も一緒のようネ」

「なに。話し合いの邪魔はしない。しかし俺も聞きたいことがあるのでな」

「聞きたいコト?」

「一段落したら聞くさ。さ、ネギ君」

「はい…。超さん、僕…学園祭前日に魔法先生に追われていた超さんをかばいました。超さんは僕の生徒だからです」

「………」

「それに困っている僕にこれを貸してくれて…とても感謝しています」

 

ネギ君はカシオペアを掲げながら感謝の言葉を述べる。

 

「でも、教えてください! 何で突然退学届けなんかを? なんで悪いことを?」

「悪いコト…ネ。ネギ坊主、魔法先生達に話を聞いたカ?」

「タカミチを捕まえて地下に閉じ込めたり、魔法を世界にバラすなんていうのは悪い事です。僕は他の魔法先生から話を聞いただけだから、超さん自身から話を聞くまで信じません!」

「もしそれが本当だとしたらどうするネ?」

「本当ですか!?」

「事実ネ。私は世界に魔法をばらそうとしている。さて、それで聞くがネギ坊主はそんな私をどうしようと考えてるカ?」

「………止めます! あなたの先生として悪い事をしようとすることを止めなければいけません!」

「面白い。エミヤ先生、ネギ坊主はこう言てるがアナタはどうする?」

「その前に聞く。お前にとって歴史を変えることによるメリットを教えてほしい。お前が茶々丸の開発者だというならばおそらく俺の過去も茶々丸経由で知っているのだろう…?」

「うむ」

「お前はどこかしらあの子に似ている…もしかして君は…」

 

ある事を告げようとした時だった。

世界樹が盛大に発光した。

 

「ここまでネ、エミヤ先生。そして…これで私を止めることはかなり難しくなたネ」

「そうか…」

 

しかしあの落ち着きようはなんだ?

実力的にはもうネギ君のほうが上だろう。

そして魔法先生達に囲まれたときのような余裕の表情をしている。

 

「ネギ坊主、現実がひとつの物語だと仮定して君は自分を“正義の味方”だと思うかね?」

「!?」

 

なぜか俺は胸が締め付けられる思いになった。

 

「自分のことを…悪者ではないかと思たことは? エミヤ先生はそれに関してはもう十分自覚しているようネ」

「っ! 俺の過去を知っているからとヌケヌケと!」

「世に正義もあくもなく、ただ百の正義があるのみ…とまでは言わないが」

 

瞬間、超の姿が消え一瞬でネギ君の背後に回りこみ、

 

「思いを通すはいつも力ある者のみ…。正義だろうが悪だろうがネ」

 

ネギ君は瞬動を使いその場を離れるが今のは一体なんだ?

瞬動術でもない、完全な瞬間移動…?

そしてネギ君は戦いはしたくないというが、

 

「いいこと思いついたネ。理由を話そう。悪い事もやめるヨ。この勝負でネギ坊主が勝てたらネ」

 

そう言って超は構える。

 

「え?」

「そしてもしネギ坊主が負けたらこちらの仲間になてもらうネ」

 

そしてネギ君と超の打ち合いが始まる。

数回打ち合って、

 

「わかりました! 今の条件で戦います!」

 

ネギ君も構えて超に戦いを挑む。

 

「士郎さんも手を出さないでください!」

「わかった。だがまずいと思ったら乱入させてもらう」

「それは無理ネ」

「なぜ…、…ッ!?」

 

俺は即座に瞬動を使いすぐに離れる。

元いた場所には何本もの剣が打ち込まれていた。

 

「なんだと!?」

 

俺の目の前にはまるで俺と同じくらいの身長、白髪、褐色の肌とここまでは被っているが黒に変色している聖骸布の外套、極めつけは目を隠す黒い仮面。

まるで俺のコピーのような奴が無言で立っていた。

 

「なんだこいつは!?」

 

相手は考える隙も与えてくれずこれまた干将・莫耶を出して襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

それを迎撃するがどうにも奴の動きが単調だ。

まるで機械仕掛けのようである。

干将・莫耶同士を打ちつけ、

 

「貴様は何者だ…?」

「■■■■■―――ッ!!」

「くっ、聞く耳持たずか! これではバーサーカーではないか!」

 

ズガァンッ!

 

「!?」

 

見ればネギ君が超に吹き飛ばされ瓦礫に身を沈めていた。

 

「いかん!」

「■■■■■―――ッ!」

「ええい、邪魔をするな!」

 

激しい剣戟でネギ君の近くに寄れない俺は高速で思考を展開する。

こいつの相手は手が折れる。

どうする!?

だが超とネギ君の間に刹那と楓が現れてネギ君を守っている。

あちらはあれでなんとか大丈夫か。

 

「刹那に楓! ネギ君を頼む! 俺はこいつの相手だけで手一杯だ!」

「はい!」

「わかったでござる!」

 

さて、ではこちらも力を上げていくか。

 

属性、付加(エレメントシール)“風王”(エア) ……魔力、装填(トリガー・オフ)――全魔力装填完了(セット)!!」

「■■■…ッ!?」

「オオオオオーーーーーッ!!」

 

風の刃を何度も浴びせて風の魔力を放出させ擬似魔力放出を再現し強化をかけて切りかかる。

奴は何度か持ちこたえるが脅威からしてランサーより格段に下。ならばどうにでもできよう。

だが…、奴は突然背中が機械のように展開し空に浮かび上がった。

空中で停止しなんと弓を構えてその手には、

 

偽・螺旋剣(カラド・ボルクⅡ)だと!? くっ!―――I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)!!」

「■■■―――――ッ!!」

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――!!」

 

衝突する二つの宝具。

だが、真名解放はされていないのでなんとか防いだが、それでもなんて威力だ!

奴が機械なのかサーヴァントなのか分からないがここまでしてくるとなるともう侮れない。

と、そこに楓の声が聞こえてきた。

 

「士郎殿、ここは一旦退くでござるよ!」

「了解した!」

 

俺はそれで剣をいくつも打ち出し弾幕を作り、さらにそれらすべてを爆発させ追撃させないようにする。

ネギ君と楓は先に行ってしまっているので並走して刹那に追いつきながら、

 

「刹那、いったいどうした?」

「わかりません、ですが今は楓を信じましょう」

「わかった」

 

そしてある屋上に到着するとそこかしこになにかの気配を感じる。

まさかここで決着をつける気か?

すると追いついてきたのか超が立っていた。

そこに龍宮と茶々丸も現れて戦闘になるかと構えた。

だがそこでネギ君が仲間になると言い出して刹那などは慌てているが楓が待ったをかけ「奥の手を出す」と言い出し一本の紐を引っ張る。

そして現れる3-Aの生徒達と姉さんとランサー。

もみくちゃにされていく超。

 

「なるほど…楓はこれを知っていたか」

「うむ、彼女にもこのような席は必要でござろう」

「しかし、人が悪いぞ姉さんとランサー。知っていたなら知らせてくれてもよかったものを…」

「まーそういうな。俺達もついさっき知ったようなもんだからな」

「ええ、そうね」

「ところでランサー…」

「なんだ?」

「率直に聞くがサーヴァントの気配はしなかったか?」

「? いや、そんなものは感じねぇが…どうした?」

「ああ。まるで俺と同じ姿をしているが外套も黒くなって仮面をつけた俺が現れた」

「「なっ!?」」

 

それで驚愕の顔をする姉さんとランサー。

 

「干将・莫耶と偽・螺旋剣(カラド・ボルクⅡ)も使ったことからエミヤなのは確定だと思うがどうにも機械の体らしく、しかし性質はバーサーカーのそれだった」

「リンシェンは、機械でサーヴァントを…エミヤを支配下に置いているって言うの…?」

「とんでもねー嬢ちゃんだな、おい…」

 

話し合っているとどうやらなにかプレゼントをしてよという言葉を振られてしかたなく俺はまだ消していなかった干将・莫耶を鞘も投影してプレゼントした。

 

「アヤー、思わぬプレゼントあるヨ。(まさか宝具を貰えるとは思ってなかたネ♪)」

 

それから超の涙を見るために超が作ったというくすぐり器で無理やり涙を出させられていた。

それと古菲が師匠からもらったという双剣をプレゼントしていた。

そして超の別れの挨拶。

 

「この二年間は思いの他楽しかたネ。それにこんな会まで開いてくれて…今日はちょっと感動してしまたヨ。

………ありがとうみんな。私はここで学校を去るが…みんなは元気で卒業してほしいネ」

 

挨拶が終わりそこかしこからワアー!という歓声が上がる。

そして食事中に佐々木が故郷のことを超に問いかけているので耳を傾ける。

どうしても知りたいという皆の要望で超は、

 

「なんと火星から来た火星人ネ!」

 

あまりに突飛な言葉に俺は内心こける。

ツッコミに刹那が混じっていたのは新鮮だった。

 

「いやいや火星人ウソつかないネ。今後百年で火星は人の住める星になる…私は未来からやって来たネギ坊主の子孫ネ」

 

その一言で生徒達はそんなわけあるかー!とか騒いでいるが少し下がったところで、

 

「やはり超鈴音は…」

「ええ、そうみたいね」

 

そして宴会も終了し大半のものが寝こけている中、起きているのは俺、姉さん、ランサー、超、ネギ君、刹那、楓…それと、気配からして綾瀬と長谷川。

長谷川が起きているということはこちら側のことを知ったのだろう。

 

「連日の徹夜にさすがの3-Aの猛者達も撃沈のようネ」

「さっきの話、アレは本当の…」

「ハハハ、あまりに突飛だと、信じてくれないものネ。…私は、『君達にとっての未来』『私にとっての過去』つまり、『歴史』を変える為にここへ来た。それが、本当の目的ネ」

 

やはりな…セイバーと感じが似ていると思ったのは間違いではなかったようだ。

 

「れ、歴史って!?」

「世界樹の魔力を使えば、それくらいのロングスパンも可能ネ。…そんな力が手に入ったら、ネギ坊主ならどうする?父が死んだ10年前、村が壊滅した6年前…不幸な過去を変えてみたいと思わないカ?」

「!?」

 

ネギ君はあきらかに動揺している。

そして超は今度はこちらに向き、

 

「エミヤ先生はどうかネ?」

「俺の過去を知っているお前なら分かっているだろう。俺は、置き去りにしてきた者のために自分を曲げることはしない。だから君の仲間になることは決してないだろう」

「ふふ…わかっていたヨ。…ネギ坊主、今日の午前中はまだ動かない。また会おう」

 

そう言って超は姿を消した。

 

「あの、士郎さんの過去って…なにがあったんですか?」

「知りたいかね、ネギ君…?」

「わかりません…でも、気になります」

「そうか。では無事この学園祭を終えたら見させてあげよう、約束だ」

「はい!」

 

ネギ君とそう約束した。

できればまだ子供のネギ君にあんなものを見せたくないが、エヴァの言うようにいずれは見せなければいけない時がくるからな…。

約束を無事に果たせればいいな…。

 

 

そんな事を思いつつ、こうして学園祭二日目は幕を閉じたのであった。

 

 

 




学祭二日目終了です。
謎のエミヤ(?)はなんでしょうね……。


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063話 文化祭編・一つの未来(01) 絶望

更新します。
タイトル通りヘヴィですね。


俺は現在学園祭三日目の午後五時過ぎの道を姉さん、ランサーと警戒しながら歩いていた。

ネギ君達はまだ別荘にいるのだろうか、見かけない。

途中、昨日の武道会の件でマスコミなどが追ってきたが軽くあしらった。

それと告白生徒担当も今はないので3-Aのお化け屋敷に姉さんといったり色々な生徒の店に寄った。

そして現在、

 

「不気味なくらいに普通ね」

「そうだな。昼過ぎにはおっぱじめるとは思ってはいるが」

「超の言葉が正しければそろそろ仕掛けてくると思うが」

「そうね。いつでも準備は万全にしておかないと」

 

そういって姉さんは小さい杖を取り出していた。

その時だった。

 

「ウワーーー!」

「キャーーー!」

「イヤーーー!」

 

人の悲鳴が湖のほうから聞こえてくる。

 

「ついに事が起きたか!」

「シロウ、ランサー! なにが起きているか確認しよう!」

「了解だ」

「おう!」

 

そして高い建物の上に瞬動で移動して見てみると湖から田中さんの大群になにやら機械兵器のまたしても大群。そしてスクナに比べれば小さいがそれでも巨大な六体の機動兵器!

そいつらは観客に向けてビームやら銃を撃っていたりしていた。

だがそれらはすべて服を脱がすという事象になっていて被害はない様に見えるがこれは一体!?

 

「シロウ! ネギ達に連絡を入れましょう!」

「わかった!」

 

それでまず仮契約カードでこのかと刹那に連絡を入れてみた、が…

 

《…………ザザザザザッ》

 

「なっ!? まさか念話を妨害されているのか!?」

「携帯も駄目みたい。アンテナが立っていないわ!」

「ッ! しかたがない! 今は一般人の誘導をした後、やつらの殲滅を当たるとしよう」

「わかったわ!」

「そんじゃいくぜ!」

 

ランサーは嬉々として田中さん達にかかっていった。

俺と姉さんも一般人を安全な場所に誘導した後、いくつもりであったが…、

 

「衛宮!」

「ガンドルフィーニ先生か!」

「通信や念話ができない状況で君に会えてよかった。ところでネギ先生達は知らないかね?」

「いや、俺達もこの騒ぎで確認していない」

「そうか…しかしどこかで戦っていることを願おう!」

「そうですね」

「それよりいくとしようか、少しでも奴らを削らなければ…」

「そうですね。ッ! ガンドルフィーニ先生危ない!」

 

突然数本の矢が飛んできてなんとか干将・莫耶で弾くがまだ一般人もいるここで激しい行動はできない。

しかし相手…昨日の黒いアーチャーはまるで俺目掛けて襲い掛かってくる。

 

「ガンドルフィーニ先生はあの機動兵器達をお願いします! 俺はこいつを相手していますから!」

「わかった。頼むぞ衛宮!」

 

ガンドルフィーニ先生はそう言って飛び去っていった。

そこに避難を終わらせた姉さんがやってきて、移動しながら、

 

「こいつが例の黒いアーチャー…?」

「ああ。どうやら俺を標的にしているらしい。ここで戦うのはまずい…どこか戦いやすい場所に移ろう姉さん」

「ええ! でもこんな忙しいときにネギ達は一体どこにいっているのかしら!?」

「今そのことは後にしよう」

 

そして移動していると超と対峙しているタカミチがいた。

 

「タカミチ!」

「士郎か!」

「エミヤ先生とイリヤ先生もまだ無事だたカ。そうでなくてはな…!」

「超! これは一体なんだ!?」

「私と話をしている時間があるのかな?」

「なに?」

「■■■■■―――!!」

「はっ!? 追いつかれたか!」

 

背中のジェットを吹かしながら突撃してくる黒いアーチャー。俺はついぞそこで足を止めて迎撃体勢に入った。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

──Interlude

 

 

「超君、あれはなんだ?」

「そうよ、シロウとまるで瓜二つじゃない?」

「フフ…秘密ネ♪」

 

イリヤ達が話している間、士郎は黒いアーチャーにどんどん攻められ離れていった。

 

「おっと俺の事も忘れんなよ?」

「ランサー!」

 

そこにはロボ軍団を倒しにいっていたはずのランサーがイリヤの横に立っていた。

 

「アイヤー! まさかランサーさんまで生き残ていたとは計算違いね」

「俺には矢除けの加護があるんでね。あんなもんは通用しねぇぜ? それよりマスター、やばいぜ? 俺は平気だったが次々と魔法使いの連中が変な銃弾にやられていっているぜ」

「そう…それじゃリンシェンを押さえちゃえばどうにかなるんじゃないかな? まず先にシロウを手助けしましょう」

「了解だ。後手に回っていて癪だがな」

「タカミチ! リンシェンの事をお願い!」

「わかったよイリヤ君」

 

イリヤとランサーは士郎の方へと向かっていった。

しかしイリヤは自身の影にあるものが入り込んでいることに気づいていなかった…。

そう、誰も気づかなかった。

 

 

Interlude out──

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

黒いアーチャーとの戦闘は続く。

こいつは一見弱そうに見えるがやはり俺らしくバーサーカー化も相まって力は俺以上はある。

ならば、

 

「力でねじ伏せる!」

 

俺はそこでバーサーカーの斧剣を投影する。

だがそれに反応したのか奴も斧剣を投影した。

 

「だが、時間をかける訳にはいかない! 決めさせてもらうぞ!」

 

斧剣の憑依経験を引き出し彼のヘラクレスの技をここに再現する。

 

「――――投影、装填(トリガー・オフ)全工程投影完了(セット)――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)!!」

「■■■■■―――――ッ!!」

 

放たれた斬撃の嵐は、しかし奴が放った是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)によって相殺されてしまった。

まさかこうも行動が読まれているとは!

 

「シロー!!」

「姉さんか!」

「加勢に来たわよ!」

「俺もまぜてもらうぜ!」

「気をつけろ。奴は思っている以上に強敵だ。だから二面攻撃で仕留めるぞランサー!」

「わかったぜ!」

 

そして俺とランサーが奴に仕掛けようとしたその時だった。

 

―――ザシュッ!

 

「………あ?」

「なっ!? マスター、なにを…!?」

 

なんだ、これは?

どうして…どうして俺はランサーの槍に…胸を貫かれているんだ?

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

「ゴフッ!?」

「し、士郎! マスター、なんの真似だ!? 令呪まで使いやがって…!」

「……………」

「姉、さん…? どうしてだ?」

 

そこには虚ろな目をしているイリヤが令呪を掲げていた。

 

「クスクス…どうしたのランサー。シロウをちゃんと殺さないと駄目じゃない?」

「グググッ!? てめぇ、マスターじゃ、ねぇな!?」

「しかたないなぁ…それじゃシロウの魔力、全部もらうね?」

「ぐ、あああああーーー!?」

「やめろマスター! あんたは士郎の姉貴だろうが!!」

 

ランサーは令呪の命令になんとか逆らいながら言うが効果はない。

そして士郎はそうしている間にも倒れて胸から大量に血を流している。

魔力がなければアヴァロンを起動することもできない。

それどころか心臓をゲイボルグで破壊されたために呪いで治らない。

 

するとイリヤの背後から突如として黒い塊が出現する。

それはイリヤから離れるとどこかへと飛び去ろうとしていた。

 

「て、めぇーかーーーッ!?」

 

ランサーは怒りに任せて疾駆する。

そして、

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!!」

『ガッ…ククク、分身の私を殺したとて無駄なことだ。貴様に殺されたと見せかけてずっと潜伏していた甲斐があった』

「なっ!? まさかてめーは!!?」

『フフフ…さらばだ』

 

バシュッ!

 

謎の黒い塊はそこで消滅し、しかし…

 

「シ、ロウ…?」

「マスター…」

 

ランサーが見た先にはもう息もするのがつらそうな士郎によろめきながらも近寄るイリヤの姿があった。

目の前の光景が信じられないのか、いや信じたくないのか目はしっかりと士郎を映そうとしない。

そして士郎の顔を両手で抱えて、涙を流し、

 

「ウソ、ウソだよね…? 私がシロウを殺すように命じたなんて、ウソ、だよね…」

「姉、さん…泣かないでくれ…」

「……………」

 

ランサーはかける言葉が見つからなかった。

その代わりに拳を盛大に握り締めて血が地面に垂れた。

 

「ラ、ンサー…」

「なんだ、士郎…?」

「ゴホッ…姉さんを、支えてやってくれ…」

「わかった。令呪はもうないが支えてやるよ…」

「頼む…」

 

士郎はそう告げると仮契約カードを出し、

 

「あ、来たれ(アデアット)…」

 

なにを思ったのか剣製の赤き丘の千剣を出して、

 

「形状、変化…俺の想いよ、形と…化せ…」

 

そして握られる一つの剣…名をアゾット剣。

かつて衛宮士郎が遠坂凛から託された剣である。

 

「こ、これを…このかに…渡してくれ…」

「うん、うん…」

「それと姉さん、に…は…」

 

ポケットからいつも持ち歩いている凛のだったネックレスを差し出して、

 

「俺の…代わりだ。最後の魔力を籠める…」

 

士郎はイリヤに奪われなかった残りの魔力を総動員してネックレスにこめた。

それをイリヤの手に握らせて、

 

「刹那に…渡すものがないのが惜しいが……姉さん…、す、まない…最後まで一緒に、いてやれなくて…。どうか、元気でーーー……」

 

その言葉を最後に士郎の目から光が失われ息を引き取った。

 

「ウソ…いや…いや、イヤアアアアアアアアーーーーーー!!!!」

 

イリヤの悲痛な叫びが辺りに響き渡った。

 

 

 

タカミチを倒した超がその光景を無言で見守っていた。

 

(まさか、あのエミヤ先生が死ぬなどということになろうとは…。

きっとネギ坊主達は悲しむネ…。特に木乃香サンに刹那サンは。

だが、計算が狂ったとはいえもう止める事はできない。

私の落ち度で唯一の死傷者が出てしまたが世界は変えさせてもらうネ)

 

 

 

 

 

 

 

数刻後、世界樹を中心とした6つの基点はスクナもどきの巨大な兵器に占領され世界に強制認識魔法がかけられる。

学園祭の戦いは、一人の死という結果を残して超の勝利で幕を閉じるのであった。

 

 

 




やっべ、ここまで来たら続き書かないと読者の皆さんに殺される。
この後、17時にストックの最後を更新します。


追記

あ、やっぱ12時に更新します。


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064話 文化祭編・一つの未来(02) 僅かな希望

更新します。


Side 近衛木乃香

 

 

みんなと別荘を出て一度別れた後、なにかパクティオーカードが反応したように感じた。

せっちゃんに聞いてみたらせっちゃんも同様になにかを感じたらしい。

それで胸騒ぎがした。

 

「せっちゃん…ウチ、なんか嫌な予感がするんや」

「お嬢様もですか…。はい、私もです。そして先ほどから士郎さんに語りかけているのに一行に反応がありません。どころかカードから力が感じられないのです」

「!? せっちゃん、カード見せて!」

 

ウチはせっちゃんのパクティオーカードとウチのパクティオーカードを見せ合った。

するとやはり違いが少しあった。

絵柄は変わっていないのに少し所々に文字がかけていたりしているのだ。

 

「これは、どういうことでしょうか…?」

「どうしたの。このかに刹那さん?」

 

アスナが話しかけてきてウチらが思ったことをアスナに聞いてみた。

 

「ん? んー…確かに私のカードと比べると違うわね。どうしてだろう?」

「おい。なんかまわりがおかしいぞ」

 

そこに千雨ちゃんが周りがおかしいと言ってきた。

よく見ると確かに学祭の風景やあらへん。

夕映達も新聞を持ちながら駆けてきて、

 

「この日付を見てくださいです! 今日は学園祭から一週間も経過しているのです!」

 

なにか変やと思ってたけどそういうことやったんか!

それからみんなで合流して千雨さんのパソコンで見てみると武道会の件でマスコミに言い寄られている佐倉愛衣さんの姿が映っていた。

 

「と、とにかく合流場所のエヴァンジェリンさんの家にいきましょう。きっとなにか分かるはずです」

 

せっちゃんの言葉にウチ等はそろって移動した。

家につくとそこには、

 

「い、イリヤさんにランサーさん…?」

 

なぜか暗い表情をした二人がおった。

特にイリヤさんの顔は疲れというよりやつれていて綺麗な顔が台無しなことになっていた。

 

「…やっと戻ってきたのね、みんな」

「よお、お嬢ちゃん達、久しぶりだな…」

「イリヤさん、これって…!」

「それよりランサーさん、久しぶりという事は…!」

「もう分かっていると思うけど世界に完全に魔法がばれたわ。ついてきて。リンシェンの置き手紙があるから」

「超さんの!?」

「そ、それよりイリヤさん! 士郎さんは…?」

 

アスナの言葉にイリヤさんは一瞬体をふるわせた後、手紙の後に話すといった。

どうしたんや一体…。

なにかおかしいと感じる。

嫌な予感しかせぇへん…。

そんな気持ちを抱きながらもウチ達は超さんが残した手紙を再生するのだった。

 

『やあ。ネギ先生とそのお仲間達。スマナイが、これで君達の負けネ。納得のいかぬ敗北ではあろうガ…最も良い戦略とは、戦わずして勝つこと。悪く思わないで欲しいネ。こんな事もあろうかと、ネギ坊主に貸した航時機(タイムマシン)に罠を仕掛けさせてもらていたヨ。君達に最終日が訪れないようにする罠がネ。ネギ坊主が味方になてくれれば解除するつもりだたが…さて、見事私の罠にハマた君達は、何とビックリ、歴史改変後の世界にいるはずヨ。もう今までの君達の日常には戻れないがネ。………ようこそ諸君、我が新世界へ』

 

その内容にウチ等は唖然としてしまった。

では士郎さんも敗北してしまったって事…?

その考えにいたった瞬間、体が震えだした。

でもまだ続きがあるようなのでなんとか自制して続きを促してもらった。

 

 

 

―――Interlude

 

 

一方、ネギは魔法先生たちに責任の一端を課される事になり地下に幽閉されていた。

そしてタカミチ、ガンドルフィーニ、瀬流彦が部屋に入ってきて超についての報告書はどうかと聞くがくだらないと流されてしまう。

それから学園祭でなにがあったのか聞くことになるのだったが、

 

「我々魔法使いは完敗したよネギ先生…たった一人の少女にね」

 

それを始めとして学園祭で起こったことが話される。

超は、学園祭最終日の世界樹の魔力が最も増大する時間に、告白阻止ポイントである6箇所の魔力溜まりをロボット軍団で占拠し、直径3kmに及ぶ巨大魔方陣で「強制認識魔法」を発動させる。

「強制認識魔法」は、地球上に12箇所存在する麻帆良と同等の「聖地」と共振・増幅され、3時間後には全地球を覆い尽くす事になった。

実のところ強制認識魔法は魔法などの認識のハードルを下げる程度の効果だが瀬流彦はそれで充分だったと言う。

またネットに魔法関係の情報をばら撒いていて、表向きは武道会のトンでもバトル。しかしその実態は興味を進めていけば裏の情報が次々と判明し魔法界のことまでたどり着けるという用意周到さ。

最後に半年が経つころには世界すべての人間が魔法の存在を自明のものとして認識してしまうというもの。

 

「これらが詳細だ。理解したかねネギ先生」

「そ、そんな…そうだタカミチ、士郎さんは!」

「…………」

「衛宮か…本当に何も知らないみたいだなネギ先生。浮かばれないな…。衛宮は…」

「いや、ガンドルフィーニ先生、後は僕が話しておくよ」

「わかった…」

「それでは後はお願いします高畑先生…」

 

ガンドルフィーニと瀬流彦は悲しい顔をしながら部屋から出て行った。

 

「その、タカミチ、士郎さんの身に、なにかあったの…?」

「士郎は…表向きは行方不明扱いとなっている」

「えっ…どうして?」

「クラスの生徒達や他にも知る一般の人には話せないからだ」

 

 

―――士郎は…死んだ。

 

 

タカミチのその言葉にネギは目を見開いた。

 

「え…? 士郎さんが、死んだ…?」

「うん。僕も詳細はわかっていない。知っているのは一緒の場に居合わせたイリヤ君とランサーだけだ」

「ど、うして…?」

「それもわからない。詳しい情報を聞く前にイリヤ君達は士郎の死体を僕達に預けた後、忽然と姿を消してしまったからだ」

「そんな…あの強い士郎さんが…死んだ…」

 

ネギは士郎の死にひどくショックを受けてしまっていた。

 

「少し落ち着くまで待っていよう…。僕も君に伝えたいことがあるんだ」

「うん…」

 

 

 

Interlude out―――

 

 

 

『そういう訳ネ。では…また会おう(・・・・・)諸君』

 

そう言って超さんの手紙の内容は終了した。

 

「なるほどな…」

「どうしたの千雨ちゃん…?」

 

千雨ちゃんは言う。

超さんがこの時代で事を起こしたのはインターネットが普及した時代だからだと。

 

「くそっ! 冗談じゃねぇぞ!」

 

千雨ちゃんの焦りの表情が伺えてきた。

するとそこにドアからカモ君がカシオペアを持ちながらやってきた。

ネギ君はどうしたの? と聞くとネギ君は現在責任を取らされ地下に閉じ込められていずれはオコジョにされてしまうという。

 

「ネギは一足遅かったわけね…全員がいる時にこの事を伝えたかったんだけど…」

「そういえば士郎さんの行方を知っているんでしたよね!」

「士郎老師はどうしたアルか?」

 

そこでまたイリヤさんは悲痛な表情になる。

けど決心したのか、

 

「士郎は、死んだわ…」

『え…?』

「ど、どうしてなんイリヤさん?」

「そうね…正確には、私とランサーが殺してしまったのよ」

 

二度目の衝撃だった。

あれほど士郎さんのことを溺愛していたイリヤさんがどうして…

 

「どうしてなん!? イリヤさん! どうして!!」

「お嬢様! 落ち着いてください! イリヤさんが士郎さんを本気で殺すと思っているのですか!?」

 

私は涙を流しながら必死に叫んだ。

なんでこんなことになってしまったのかこの不条理を叫んでいた。

同じく涙を流しているせっちゃんに止められなければまだ続いていたかもしれない。

 

「…言い逃れはしないわ。それも踏まえて聞いてほしいのよ」

 

そしてイリヤさんは語る。

あの悪魔襲撃の日にランサーさんが殺したはずの言峰綺礼が生きていた。

学園祭三日目の日にイリヤさんの影にとりついて精神を一時的に支配した。

支配して令呪を使いランサーさんに士郎さんを殺すように命じる。

とりついた言峰綺礼はランサーさんが再度滅したがそれは分身だったために取り逃がしてしまったこと。

 

「もう、この学園にはいないと思うわ。私たちが徹底的にこの学園を虱潰しにしたから」

「あいつの気配はもう覚えてるしな…くそが」

「そんな…そんなのって、あんまりや…」

「士郎さん…くっ…」

 

いつの間にかウチとせっちゃんは地面に膝をついてしまっていた。

 

「シロウに、会いたい……?」

「ウチ…士郎さんに、会いたい…会って無事を確かめたい」

「はい…! 私もです…!」

「皆はどう…?」

「このかと刹那さんの気持ちに及ばないかもしれないけど私も会いたいです!」

「アスナ…」

 

それから次々と上がる皆の声。

千雨さんも、

 

「私はそれほど面識はありませんが衛宮先生は一応の常識人サイドですからいなくなられては嫌です」

 

皆の意識は固まったみたいや。

 

「それじゃカモミール。カシオペアはどう?」

「今はただの懐中時計になっていやすが…まだなんとかなるかもしれねぇ。考えがありやす!」

「そう…よかったわ。それじゃ最後に私からコノカとセツナにプレゼントがあるの」

「「え…?」」

「これを…」

 

イリヤさんはそう言って私に一本の剣を。せっちゃんには赤い宝石をプレゼントしてくれた。

 

「あの、これは…」

「シロウの形見よ。死に際に託されたのよ」

「「士郎さんの…」」

「このかの剣は本当は『剣製の赤き丘の千剣』だけどシロウが最後にその形にしたのよ。

シロウが死んだ後も消えずに残ってくれたの。

そしてその剣の名はアゾット剣。魔術行使を補助する魔杖と呼ばれていて一人前の魔術師が持つにふさわしい剣なの。

だからもうコノカは一人前の魔法使い…これをうまく使いこなしてね」

「はい!」

「後、このコートを過去の私に渡して……」

「これは…?」

「悪魔祓いのコート。私の呪詛がこもった特注品よ。おそらくランサーの令呪を持っている私が狙われる可能性が大なのよ」

「わかりました」

 

せっちゃんはそのコートを大事そうに受け取る。

そこに楓が声を上げる。

 

「どうやら拙者達は見つかったようでござる」

 

外には先生が二人立っていた。

せっちゃんがいうには女性の方はせっちゃんと同じく神鳴流剣士でもう片方は西洋魔術師だという。

そこに待ってましたというようにランサーさんが槍を持って立ち上がる。

 

「みんな…まずはネギを助けなさい。きっと過去に戻れる道は見つかるはずよ。ここは私とランサーに任せなさい」

「イリヤさんは、戻らないんですか?」

「私は、もう無理よ……。こんな嫌な気持ちを抱いたままシロウに会わす顔がない…。それにあなた達が歴史を修正しても、もうこの世界は一個の平行世界として切り離されてこれからもきっと続いていくわ…」

「てしたらなおさら!」

 

せっちゃんがなんとか説得しようとしてるけど、イリヤさんはすべてに諦めがついてしまっているのか、首を振って「もう、いいの…」と言って、

 

「私の事はもういいから。あなた達は本来の時間に戻りなさい…。あ、シロウには私の事はあんまり伝えないでね?きっとまた無茶なことをしちゃうと思うから…。だから、必ずシロウを助けてね…」

「わかったえ…」

「さっさといきな。マスターのお守りはきっちりとこなしてやるぜ。士郎に頼まれたからな」

「もう…ランサーは…。それよりコノカ、もう我慢することないわ。いっぱい暴れちゃいなさい」

「はいな! ウチ、頑張る!」

 

そして私はネギ君と同じくエヴァちゃんから託された指輪を指にはめる。

それを見て皆驚いていたけど今はそれどころやない。

 

「早くネギ君助けにいこか!」

『お、おー!』

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

このか達が裏庭から脱出をはかったのを尻目にイリヤ達は、

 

「さて…コノカ達に望みを託すことができた事だし、暴れちゃおっか、ランサー?」

「いいぜマスター。こういう展開は大好きだ」

 

二人は刀子達に果敢に挑んでいったのだった。

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

背後からすごい爆発音らしきものが聞こえてくる中、

 

「ちょ、このか! あんた、それってネギが持っている指輪と同じ!」

「うん! 魔法発動体の指輪や! エヴァちゃんに貰ったんよ!」

「え、エヴァちゃんに!?」

「お嬢様はエヴァンジェリンさんに直々に修行を受けてもらっていたのです」

「せっちゃんもな!」

「初めて聞いたんだけどー!?」

「それは内緒にしていたからや! それよりカモ君、なにか作戦あるか?」

「任せとけ! とりあえずちうっち!」

「なんだよ」

「あんたにはネットで調べてほしいことがあるんだよ」

「あー? 今は無理だぞ。ネット環境整ってねぇからな。近くにネットができる施設が…」

「電話ボックスがあるでござるよ!」

「いけるか!?」

「なんとかな。ISDNでちと遅いがな」

「十分だ! 調べてほしい場所は麻帆大の「世界樹をこよなく愛する会」のHPだ」

「はぁ!? 何でそんな弱小サークルのHPを!?」

「いいから!」

 

カモが早くと促す中、古菲が「来るアル!」といった。

そして「お待ちなさい!」という声が響いてくる。

皆が振り向くとそこには高音・D・グッドマンに佐倉愛衣、夏目萌の三名が後ろに魔法である影を引き連れて現れた。

 

「あー! あんたウルスラの脱げ女!?」

 

ハルナの自重なしのお言葉に高音は涙目になりながらも、

 

「ま、まぁいいでしょう…おとなしく同行するならよし、ですがあくまで抵抗するというならこの正義の味方、高音・D・グッドマンが成敗させていただきます!」

「で、でもお姉さま。あちらには麻帆良武道会のメンバーが勢ぞろいしてますけど…」

「戦力がちょっとこちらはきついです」

「大丈夫です! 私を信じてくだされば勝利はおのずと勝ち取れます!」

 

少々、自棄になりがちだがこれでも実力者なのだろう。

大量の影を用いて襲い掛かってくる。

それに一同は目を合わせ、

 

「お嬢様、夕映さん、ハルナさん、のどかさんは後ろに! 千雨さんはパソコンに集中してください!」

「アスナ殿、古、刹那、拙者が前に出るでござる!」

「よっし! なんて最強タッグだ! やったれい!」

「ウチも頑張るえ! まずは敵を吹き飛ばすえ!“アゾット・メ・ゾット・クーラディス”…!」

「このかさん!? もしかして始動キーを!」

 

このかはアゾット剣を構えて呪文を唱える。

それに呼応してアゾット剣が光り輝く。

 

「光の精霊101柱!!集い来たりて敵を射て!!魔法の射手(サギタ・マギカ)集束・光の101矢(コンウェルゲンティア・ルークム)!!」

「きゃあーーーーー!!?」

 

詠唱とともに百もの光の射手が高音達に襲い掛かる。

 

「せっちゃん!」

「お任せを、お嬢様!」

 

刹那は瞬時に足に気を集中させ踏み込んだ瞬間、地面が抉れて次の瞬間には高音、佐倉、夏目の背後に一瞬で移動し、

 

「神鳴流奥義…百烈桜華斬!!」

「くぐぅ…!?」

 

剣の旋風が巻き起こり影の軍団を次々と葬り去り辛うじて高音は自身に纏っている操影術で防いだ。

 

「くっ…この私が姿を見失うなんて!」

「当然や。せっちゃんはランサーさんと何度も死闘に近い速度域で稽古をしていたんやからな」

「むぅ…少し出遅れ感があるでござるな」

「むむむ…スピードが武闘大会以上ネ。やるアルナ、刹那」

「このかさんも魔法の腕が相当のものになっていますね」

「地獄の特訓の賜物や」

 

その後、アスナの魔法無効化(マジック・キャンセル)の力もあり、高音達を無力化することに成功して、のどかのいどのえにっきでネギが幽閉されている場所へのルートを聞き出してそこを目指す事になった一同。

このかは、

 

(イリヤさん……あなたの想いは無駄にせぇへん。必ず全員で過去に戻って、そしてみんなで未来を変えてみせる! 士郎さんも絶対に死なせへん!! ウチ、絶対にまた士郎さんに会うんや!!)

 

そう心に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

そんなこのか達の姿をあまりの気配の薄さで気づかれずに見ていた人物がいた。

そしてそっと着いていくのであった…。

 

 




ここまで書いて更新は止まっています。
昔の自分にどうして書くのをやめたんだ!?という感じですが、投稿する気はまったくなかったし、それにちょうど『剣製の魔法少女戦記』を書いていてまずは暁の方に投稿して軌道に乗っていた時期でしたからね。
原作も完結している以上は書けない道理などありませんね。




このあと、活動報告にてある内容を投稿します。
よかったら見てください。


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065話 文化祭編・一つの未来(03) 時間逆行

更新します。
書こうと思えば書けるもんだな。


 

 

ネギはタカミチから学祭で起きた事などを事細かく聞かされていた。

ネギはそれでどうしてそこまでして教えてくれるのかという疑問に、つい聞いてしまった。

 

「タカミチ……どうして僕にそこまでしてくれるの……?」

「それは、もちろん君達が本来いる時間に戻れるようにするためと……そうだね」

 

そこでタカミチは今までよりも暗い顔になって、

 

「士郎を…救いたいんだ。でも、もう僕の手では彼を救う手立てはない……彼は僕の親友と言っても過言じゃない…。だからね、ネギ君」

 

タカミチはネギの肩を掴んで涙を流しながら、

 

「君達が士郎を救ってやってくれ……士郎はまだこんなところで人生を終えていい訳がない。やっとだ……この世界に来てやっと彼は仮初でもいい、それでも確かな平穏をイリヤ君と一緒に取り戻したんだ。どうか……」

 

そう懇願するタカミチの顔はネギを信頼しての顔であった。

しかしネギはそこである事を聞いた。

 

「もしかして、タカミチは士郎さんの過去を……」

「ああ…。知っているとも。彼らの辿ってきた悲しい人生を…。報われてもいいのに自ら地獄へと進んでいった過程もね」

「…………」

 

それでネギは士郎との約束を思い出した。

口約束でも士郎はネギに過去を見せてくれると言ってくれた。

その士郎がすでに死んでしまっては約束も果たすことができない。

ネギは、諦めきれない。

 

「タカミチ…僕は、どうすればいい?」

「それはネギ君自身が考える事だ。超君の事は君に伝える事は伝えた。僕が最後に躊躇ってしまった理由もね。最後に決めるのは君自身の大いなる決断なんだ。失敗してしまった僕達にはなにも言えないからね…」

「…………」

 

それで顔をこわばらせるネギ。

どうすれば超を止める事ができるのか今もなお頭の中で必死に考えている。

超の正義…。ネギの信じる正義あるいは逆の―――……。

 

そこでタカミチは一回席を外して誰かと通信をしていた。

そして、

 

「どうしたの…?」

「君を助けに来たのさ。…………君の仲間達がね」

 

そう言ってタカミチは外へと出て行ってしまい、そして扉はまた重く閉じられた…。

ネギの思案は止まらない。

超をどうするのか……。そしてどうやったら士郎を助ける事ができるのか……。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

side 桜咲刹那

 

 

申し訳ないですがガンドルフィーニ先生達を倒した私達は地下への入り口を発見して侵入していきました。

それでも螺旋階段が30階もあるなんて聞いていません。

私と、体力がついているアスナさんに古、楓に、鍛えているお嬢様は大丈夫そうですが、宮崎さん、早乙女さん、綾瀬さん、長谷川さんはさすがに辛そうですね。

 

「楓。先行してもらえないか? お前ならすぐに降りる事ができるだろう?」

「そうでござるな。拙者、先にいっているでござる」

 

そう言って楓は螺旋階段の真ん中の空いているスペースを飛び降りていった。

 

「おい!? そんなに簡単に飛び降りても大丈夫なのか!?」

「ご安心を。楓は甲賀忍者。これしきの高さなどものともしません」

「あー……思っていたけどやっぱ忍者なんだな…。あたしの常識が塗り替えられてく~…」

 

長谷川さんはそれでぶつぶつと言い始めましたが、もう慣れてもらうしかありませんね。

そして私達もしばしして地下最下層へと降りていったのですが、そこで予想外の光景を目の当たりにする。

あの楓が傷だらけで倒れているのだ。

 

「楓! どうした!? 誰にやられた!?」

「くっ……士郎殿(・・・)と高畑先生にでござる……」

 

その名を聞いた瞬間、私の中で何かが騒ぎ出した。

誰だ…?

士郎さんを語る不届き物は……?

 

視線を向ければそこには確かに士郎さんと高畑先生の二人に、後幻想種のケルベロスに乗っている背の小さい子が立っていた。

二人とも無表情でこちらを睨んできていた。

 

「なんで!?」

「士郎老師アルか!?」

「え!? だって、なんで……」

 

皆さんが動揺していますが私は至って冷静です。怒りの感情が滲み出そうですがね。

見るとお嬢様も私と同じ感想なのだろう、怖い顔になっていた。

士郎さんはおもむろに口を開き、

 

「俺はなんとか医療スタッフに緊急処置をしてもらい、息を吹き返したんだ…」

「そういう事だよ。桜咲君」

 

しかし、そんな戯言など誰が信じるものかと思う。

それは全員同じ感想のようで表情が怒気に彩られていた。

 

「……そうですか。でしたら士郎さん、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ、桜咲…?」

 

桜咲、ですか…。懐かしい響きですね。

まだ出会った頃はそう呼ばれていた。

ですが!

 

「なぜ、私の事を『桜咲』と呼ぶのですか? いつも通りに『刹那』と呼んでください」

「ッ!」

 

それでケルベロスに乗っている子供が焦った感じを出し始めました。

もしや、本体はあの子供か…?

 

「あんたはニセモノや! だって、ウチとせっちゃんの士郎さんとの間で結ばれた仮契約(パクティオー)カードはもう死んでもうてるんやから!!」

 

お嬢様が涙を流しながらカードを出した。

それで私も出した。

カモさんがそれを見て確信したのか。

 

「…ああ。確かにこりゃ死んでるっすね…」

「だから、あなたは偽物です! ですから引いてください。特にそこの子供…。私の自制心がまだ効いているうちなら痛い目は見ませんから」

「うっ……うるさい!」

 

そう言って叫んだ子供は私に向かって士郎さんと高畑先生の偽物を放ってきますが、もう遅い…。

すでに私の夕凪に気は充填しておいたんだ。

後は放つのみ。

 

「魔法の幻覚でしょうね、ですが容易い……受けてみろ! 神鳴流奥義―――……斬魔剣!!」

 

問答無用で偽物を切り裂きました。

手応えもなし…。当然ですね。

 

「さて……そのケルベロスで私に対抗いたしますか? 降伏するならよし、まだ歯向かうのでしたら……痛い目を味合わせますよ…?」

 

夕凪を子供の首筋に添えながらそう言う。

だが、多少大人げなかったのは認めますが魔法が解除されたのかそこには一人の少女と周りに士郎さん、高畑さん、ケルベロスの人形が転がっていました。

 

「あ……う……」

「侮りましたね」

「う、うわーん……!」

 

少女は泣き出してしまいました。

まぁ多少は威圧を放っていたのですから当然ですか。

それで少女を宥めた後に理由を聞いた。

すると思った通り、パパがオコジョにされちゃうからなにかお手伝いしたい…と。

 

「そうですか」

 

背後で「桜咲さん、こえぇ…」「刹那も冷静アルネ」「お、傷がなくなったでござる」などなど聞こえてきますが、今は些細な事です。

 

そして少女は奥の方へと逃げて行ってしまいました。

私達も追おうとしますが、そこで長谷川さんが、

 

「おい待てよ! なんでお前らそこまでできるんだよ!? 下手したら幻覚でも死んでいたかもしれないんだぞ! それに、私達はあくまでただの中学生だ。そこまで肩入れする必要はないんじゃないのか!?」

 

長谷川さんの言い分は分かります。

ここにいる人達の半数以上がまだこちらの世界を知らない人ばかりですから。

ですが、

 

「長谷川さん、それでも私とお嬢様は士郎さんの道に付いて行くと決めているのです」

「そうや。だから今まで必死に修行を頑張ってきたんやからな」

「だからってよ…」

 

辛そうな顔になっている長谷川さん。

その気持ちは何となくですが察せます。

まだ引き返せる。覚悟をするには尚早いと言いたいのでしょう。

そこにアスナさんが、

 

「ネギは一人にはできないしね」

「はい。ネギせんせーと離れ離れになってしまうのは嫌です!」

「超りんの野望も止めないとだしね」

「士郎老師を助けるアルよ!」

「にんにん♪」

「日常と非日常……それの境目を踏み越えてしまった以上はもう覚悟は決まっているです」

「…………ッ! ああ、もう……本当にてめぇらって奴は…」

 

長谷川さんもなにか覚悟を決めたようでそれ以降は何も言わずに付いてきてくれました。

そして少女が向かった先には、今度こそ本物の高畑先生と弐集院先生がいました。

私達はそれで構えを取りますが、高畑先生は笑みを浮かべながら、

 

「行きなさい…」

『えっ…』

「立場上協力はできない。でも、10分くらい居眠りをしちゃうなんてことはたまにはあるからね」

「あ、ありがとうございます!」

 

それで高畑先生の間を抜けていく途中で、アスナさんには『がんばって』と声をかけて、私には、

 

「士郎を救ってくれ…」

 

そんな、懇願する声が聞こえてきた。

それで私は無言で頭を下げた。

 

 

 

 

 

―――Interlude

 

 

 

「頑張るんだよ、アスナ君。それにみんな……」

 

一同を見送ったタカミチはたばこでも吸おうかなと思っていた時だった。

 

『高畑先生……』

「ッ! 相坂くんか」

 

そこには幽霊の相坂さよが浮いていた。

 

「こんなところまで来てどうしたんだい…?」

『はい…。お伝えしておかないといけない事がありまして…』

「それは…?」

『私、士郎先生と使い魔の契約を結んだ仲だったんです…でも、士郎先生は死んじゃった後、私どうすればいいかと考えたんですが、それなら士郎先生の魂を呼び寄せればいいんじゃないかと思って…』

 

そう言いつつさよは手のひらを広げるとそこにはおぼろげながらも小さい霊魂があった。

 

「もしかして、この魂って……」

『はい。士郎先生のです。私の目覚めた能力でなんとか拡散せずに現世に留められています…』

「目覚めた能力って…それよりなら士郎は…?」

『はい…。今はまだ表層意識が薄いのか目覚めていませんが、私の能力『魂を1ランク上に昇華』でなんとかそのうち目を覚ますと思います…』

「本当かい!?」

 

 

 

 

 

 

さよが語った能力。

『魂を1ランク上に昇華』。

 

これは士郎達のもとの世界では第三魔法『魂の物質化』に似た能力になる。

士郎の死がきっかけで目覚めた能力ゆえにまだうまく使いこなせていないが、どうにかできれば死者蘇生も可能にできる能力である。

 

…………だが、本来の時間軸の彼女がこの能力に目覚める事は滅多にないだろう。

必死にあがいた結果、発現した能力なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……これでどうにかイリヤ君に顔向けできるかもしれない。彼女ならどうにか魔術でできるかもしれない」

『はい…。それなんですがー……当分は士郎先生の魂は私が預かっていても構いませんか…?』

「なぜだい…?」

『今はこうしてなんとか話し合えていますが、デメリットで私が今すぐにでも意識を手放すと士郎先生ともども悪霊化してしまうかもしれませんから…落ち着くまで私が責任をもって面倒を見ます…』

「そうか……そういう事なら仕方がないな。任せたよ、相坂君…」

『はい…それでは失礼しますね』

 

さよはそれで士郎の魂ともどもどこかへと消えてしまった。

それでも士郎を蘇生できるかもしれないという事態にタカミチは今もどこかで戦っているイリヤ達の説得に骨を折る思いをするだろうと気を引き締めた。

 

 

 

Interlude out―――

 

 

 

 

…………一瞬、士郎さんの気配を感じましたが、気のせいですよね。

ソレより今はネギ先生となんとか合流出来て世界樹の根っこの中心部に向かっています。

カモさんの話によりますと、世界樹の魔力で動くカシオペアはまだ最深部の魔力が一週間くらいならまだ残っているかもしれないというもの。

しかし、安心したのもつかの間、世界樹の光がどんどんと消えていってカシオペアも動かないまま。

さらにはドラゴンの出現とあっては逃げるしかありません。

 

「もー! こんなとこまできてー!」

「泣き言は助かってから言いましょう、アスナさん!」

 

そして最下層中心部まで来たのでしょう。

そこにはなにやら祭壇らしい建造物があり、その中心におそらく世界樹の核が置かれていました。

あれならおそらくは!

 

「ネギ先生、カシオペアは!?」

「いけます!」

「でしたら急ぎましょう! もうあのドラゴンも間近に迫ってきています!」

 

そしてみんなで手をつないで離れ離れにならない様にしますが、そこでネギ先生がなにかを迷っているようです。

 

「ネギ先生…超さんをどうにかできるとかは今は保留にしましょう。今は士郎さんを助ける事だけに気を向けてください!」

「は、はい! みんな、掴まってください! いきます!!」

 

そしてネギ先生はカシオペアを起動した瞬間、私達は時間が巻き戻るような感覚を味わい、一瞬の意識の混濁の後に、目を開けるとなんとそこは空の上でした…。

 

皆さんが「落ちるー!!」と叫んでいるところで、ついぞ先ほどまで感じられなかった仮契約(パクティオー)カードに力が戻ってくる感覚を味わい、

 

「士郎さん! 助けてください!!」

「士郎さん、助けて!!」

 

私とお嬢様は必死に叫びを上げました。

そして、

 

 

 

 

 

 

 

―――――まったく……君たちは一体なにをしているのだね…?

 

 

 

 

 

 

もっとも聞きたかった人の言葉が聞こえてきた瞬間、私たち全員はなにかの布に巻き取られていつの間にか士郎さんの『剣製の赤き丘の千剣』の上に乗せられていました。

 

「大丈夫か、みんな?」

「士郎、さん……?」

「ああ。士郎で間違いないが、みんなしてどうしたんだ…? そんな泣きそうな顔になっていて…」

「「「「士郎さん(老師)!!」」」」

「うぉっ!?」

 

私とお嬢様はすぐさまに抱き着きました。ああ、士郎さんの温もりを感じられる…。

ちゃんと生きている…。

イリヤさん、必ず士郎さんの事は守ります。見ていてください…。

 

「とりあえず落ち着こう。なぜか、プスンプスンッと言い始めて静かに落ちていっているからな?」

 

それで私達はどこかの屋上へと降りました。

でもそこでネギ先生がカシオペア使用による魔力の枯渇で倒れてしまい、カシオペアにも罅が入ってしまっていました…。

やはり一週間のロングスパンはネギ先生でもきつかったようですね…。

 

でも、まだ時間は昼過ぎ辺りとみました。

対策を取らないとですね。

気を引き締めよう。

 

「…………まぁいいんだが、説明の一つでもしてほしいものだが」

 

そうですよね。説明しませんと……。

 

 

 

 




最後に士郎を登場させました。
さぁ、反撃タイムですね。

未来のさよちゃんがなにげに強キャラになってましたね。


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066話 文化祭編・開催3日目(01) 対策会議

更新します。


ふと、暁の方でネギまで士郎が活躍する作品が少ないという話を受けまして、調べてみたらやっぱり結構個人サイト閉鎖系が多かったですね。


それより書いてて楽しいー!吸血鬼になったエミヤよりも捗り具合がパネェ!




――――追記。

足りない描写などを追加で書き起こしました。
これで繋がりは出来ていると思います。


side 衛宮士郎

 

 

さて、どうするか。

今は誰にも使われていないという図書館にてネギ君は休ませている。

そのネギ君がなぜか魔力枯渇でぐったりとしていて今は横になっている。

姉さんとランサーもすでに呼んであるのでしばらくしたら来ることだろう。

 

「それで? みんなはどうしていきなり空の上になんていたんだ…? このかと刹那の叫びが仮契約(パクティオー)カード越しに響いてきたからなんとかすぐに駆け付ける事ができたが、もう少し遅かったら大けがどころではなかったんだぞ?」

 

それで全員は黙りこくってしまっていた。反省はしているようなので構わないが。

それとなぜか俺の姿を見るなり何度も悲痛そうな顔になるのは何故なのだろうな?

俺は別に彼女達を悲しませることなどした覚えはないのだがね。

 

「その、士郎さん……」

「なんだ、刹那?」

「私達のために怒ってくださるのはとてもありがたいのですが、今は急を要する事態が迫っていますので、先ほどまで私達が体験してきた事を説明させてもらえませんか…?」

 

どこかしおらしいそんな刹那の言葉にひとまず内容を聞こうとしたが、

 

「あ、せっちゃん。イリヤさんにも……」

「そうですね。大事な事です。士郎さん、イリヤさんは?」

「もうすぐ来る頃だろう。ならそれまで待っているとしようか。ネギ君もこの調子だしな…」

 

そう言いながらも俺はネギ君の頭を撫でてやる。

またなにやら無茶をしたみたいだしネカネさんに頼まれている手前、後でしっかりと叱ってやらないとな。

しばらくして、姉さんとランサーが図書館へと入ってきた。

 

「シロウ。どうしたの? さっきは急に駆けて行っちゃうし」

「そうだぜ。少しは説明してからいきやがれよ」

 

二人はそう愚痴を零していたが、ふと一同の姉さんを見る視線がとても、なんというか嬉しいものを見たような感じである。

先ほどからなんか調子が狂わされるな…。

ふと、このかが持っている剣に目を向ける。

 

「このか。その剣は…アゾット剣か?」

「は、はいな…」

「なぜこのかがその剣を…?」

「あう…そのぅ…」

 

このかが泣きそうな顔になりなにかを語ろうとしたが、そこで刹那が手で制して、

 

「お嬢様。その件は今は士郎さんには…」

「…………うん」

 

なにやらまた訳アリのようだな。

俺に内緒ごとか。

なぜか少し寂しい気持ちになるな。

 

「なにやら深い事情がありそうだな。分かった…俺に伝えたいことだけ教えてくれ」

「はいな…」

「それでは聞こうか。君たちに何があったのかを…」

「わかったっす。士郎の旦那、おれっちから説明しやすぜ」

「頼む、カモミール」

 

 

 

 

 

 

それからカモミールの説明を聞いていき、次第に事の重大さに真剣な思考にならざるえなくなってきた。

ネギ君達が超の策略によって飛ばされてしまったという一週間後の未来での出来事。

魔法が世界に完全にバレて魔法先生及び魔法生徒達は責任を取らされてオコジョの刑にされる、他にもあるがかなりひどい世界になり果てていたという。

それを全部聞き終えて、

 

「なるほど…………大変だったんだな、お前達。その世界でも俺は力にはなれなかったのだろう?」

「そ、そうですね…士郎さんも負けてしまったらしいですから」

「シロウも負けちゃったんだ…」

「ってことは俺も負けたのか?」

 

ひどく驚いている姉さんとランサー。

それとどこか言い淀む刹那。なにかまだ俺に対して隠し事があるようだな。

それにしても、超はやはり天才だったわけか。

一般人も巻き込んで手を出せない魔法使い達の行動を制限し、さらには時間跳躍弾を使って強制的に退場させるとは…。

 

「その、士郎さん……」

「なんだ、アスナ?」

「そのね……まだあってね」

 

どこか泣きそうな顔になっている。

見れば他の子達もだ。

 

「アスナ!! ダメや!!」

「このか!? で、でも!!」

「これだけはダメや! イリヤさんと約束したやろ!!」

 

未来の姉さんと…?

なにやら一番重大そうな事なんだろうな。

今はどうやら俺がいては邪魔だろうと感じた俺は、

 

「……わかった。少し外に出ていよう。姉さん、それにランサー、みんなの俺に話せない話を聞いてやってくれ」

「わかったわ、シロウ」

 

それで俺は一回席を立ったのであった。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

side 衛宮イリヤ

 

 

 

さて、シロウも出ていったことだし、コノカ達の残りの話を聞かないとね。

 

「それでコノカ。それにみんな。シロウに話せないってことはなんなの…?」

 

そう聞いてみたのだけど、そこでコノカが涙を流しながら私に抱き着いてきた。

どうしたのかしら? こんなに涙を流して震えているなんて…。

 

「どうしたの…? 落ち着いてゆっくりと話してちょうだい」

「はいな…」

 

それでコノカ達の話を聞いていくうちに私は脳内が怒りに満ちていく錯覚を覚えてきた。

コトミネが生きていて、それだけならまだしも私の意識を乗っ取ってランサーに令呪で命令してシロウを殺させた、ですって…?

 

「悪い冗談ね…」

「ですが!」

「分かっているわ。みんなが嘘をついていない事は必死な顔を見ればわかるわ。それだけに腹立たしいのよ…。コトミネ、よもや私の大事なシロウを殺すだなんて…………フフフフ。どう料理してあげましょうか…?」

「奴を殺すなら任せな…あんときのツケをさらに倍にして殺してやるぜ…」

「フフフ……そうね、ランサー」

 

ランサーもいい感じにヒートアップしてきたみたい。

未来の自分事だとしても、犯してしまった過ちを心に刻んでいるのね。

そこに刹那がおずおずと私にあるコートを差し出してきた。

聞くとどうやら未来の私が、必ずコノカ達が戻ってくると予感していたらしく悪魔祓いのコートを作成していたらしい。見るからに私由来の呪詛が籠もっているのが分かるわ。

これは相当の憎しみでも込めないとできない所業だわ。さすが私ね。

 

それと、このかと刹那はシロウの魔力が込められているリンのネックレスと、『剣製の赤き丘の千剣』をアゾット剣に変化させて未来から持ってきたというのに消える気配のないシロウの形見を未来の私に託されたらしい…。

そう…未来のシロウの形見か。

 

「コノカ、それにセツナ……それを大事にしなさい。それはきっとあなた達を守ってくれるわ」

「はい…」

「はいな…」

 

まだ元気を取り戻せていないけど、いい返事ね。

 

「さて、それじゃ後の問題はやっぱり謎のエミヤの存在よね。コトミネに関してはあちらから勝手にやってくるでしょうけど、シロウと戦わせるわけにもいかないし…」

「それなら俺に戦わせろ、マスター。狂っているとはいえアイツと戦うなんざ俺の仕事だぜ?」

「そうね。任せたわランサー」

「おう」

 

さて、それじゃシロウの死はシロウには聞かせない方針でもって、シロウを中に戻ってくるように念話をした。

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

それから士郎が戻ってきたので一同はこれからの方針を話し合った。

夕映のアーティファクト『世界図絵』での裏も取れた話し合いが続いていく。

それで、まずはロボ軍団にスクナもどきの対処で六ケ所のどこかを死守して、その隙をついてどうにかして超を探し出して捕えるというカモの計画で話が進んでいくかと思われたときに、

 

「待ってカモ君……今の作戦はいいと思うけど、それだけじゃ足りないよ……」

 

ネギがなんとか体を起こしながらも、ネギなりに考えた作戦を一同に伝える。

それを聞いた全員はというと大きな叫びをあげながら、

 

「正気かよ兄貴!?」

「いいのいいの!? そんな面白い事をしちゃって!!」

 

それを聞いてハルナなどは涎を垂らすほどには壮大な計画をネギは提示した。

 

「ネギ君、君はそれでいいのか? 一般人をも巻き込むことになるんだぞ?」

「はい。でも、超さんを出し抜くにはこれくらいしないといけないとおもうんです。僕を軽蔑しますか? 士郎さん…」

「いや、君が導き出した結論なら学のない俺に比べればまともな部類だな。しかし、そうか……いっその事っというわけか。ある意味感心したぞ。ここまで成長していただなんてな。ネカネさんへの報告が楽しみだ」

「あれ…? 士郎さん、お姉ちゃんの事知っているんですか?」

「ああ。前に出張したときにな」

 

するとそれでどこかイリヤの顔が緊急時とは違った緊張感を滲みだしてきて、

 

「シロウ…? まさかネギの姉にまで手を出していないでしょうね…?」

「なんでさ? 手を出すって、そんな事をするわけないだろう?」

「そう…まぁ今はそれを信じてあげましょうか。いつかそのネカネって人に会いたいわね~。そうよね、コノカにセツナー?」

「はいな♪」

「お嬢様と同じですね…」

「コワッ……」

 

 

士郎は思わずたじろいでいた。

三人が出す気配がアクマのそれであったからだ。

 

「それじゃそういうことで皆さん、お願いします!」

「「「「「了解!」」」」

 

ネギの号令で一同は各自散会して各場所の説得へと向かっていった。

 

 

 

 

 

アスナと古菲の二人は3-Aの教室へと向かっていた。

目的は当然いいんちょ……雪広あやか、そして雪広コンチェルンのコンタクトを得るために。

だが、それでもアスナは気が進まなかった。

ただでさえ不俱戴天の敵とも言えるあやかに頭を下げにいかなければいけないという理由で悩んでいた。

しかし悩んでいても時間は進んでいて古菲は迷わずあやかがいるであろうお化け屋敷と化している教室内に入っていった。

 

「あ、ちょっとくーちゃん!」

「まぁまぁいくアルよ。いいんちょう、アスナが頼むごとがあるらしいネ!」

「あら、くーふぇさん。アスナさんがわたくしに頼み事……? なにか悪いものでも食べたんではなくて……?」

「ほらほら! やっぱこんな反応してくれやがって!!」

「アスナ。我慢するアルよ」

「うぐぐ……」

 

それでなんとか我慢したアスナはあやかに学園祭最終イベントの話を持ち掛けた。

それにはもちろんあやかは驚き、次には怒りを感じていた。

個人の頼みとはいえお金で物事を無理やりに動かす行為はあやかにとっては禁じ手といっても過言ではなかった。

それで当然二人はいい争いから殴り合いに発展するまでにはそう時間はかからなかった。

だが、そこで古菲の神の一手が下される。

 

「これもネギ坊主のたっての頼みアルが…」

「ッ!? くーふぇさん、なぜそれを早くいってくださらないの!? ネギ先生の頼みなのでしたらこの雪広あやか! 火の中水の中どこまでもお供致しますわ!」

 

一気に解決してしまったのでアスナはこうなることが分かっていただけに呆れるしかなかったのである。

 

 

 

 

 

 

そして、次にこのかと刹那とカモは学園長へと向かった。

学園長にこのかと刹那の未来で起きた事を語ると学園長は目をクワッ!と見開いて、

 

「なんと! そのような事が…ッ!」

 

それで一緒にいた刀子とともに話し合いをした結果、

 

「あいわかった。よく知らせてくれたの。後は儂らでなんとかするから二人は安心して学園祭を楽しんでくれ」

「それじゃ間に合わないんや! 士郎さんが未来で死んでもうたんよ!!?」

「なんじゃと!?」

「なんですって!?」

 

このかの心からの叫びに再度学園長と、そして親交がある刀子は驚愕の表情をした。

それでまだ落ち着いている刹那が未来での士郎の死亡する経緯などを説明していき、そこに畳みかけるようにカモが出てきて、

 

「よおよお! 学園長さんよ、それじゃまた負けちまうぜ? 後手後手になって負けちまったのが未来の結果なんだ! ならよー、もっとおおっぴらに事を運んでいこうぜ?」

「ふむ、聞こう……」

「ついてはこれを用意してもらいたいんでぃ!」

 

そう言ってカモは夕映の世界図絵からの情報で本国で死蔵されている武装各種をすぐに取り寄せてほしいと相談する。

学園長の手腕ならそれくらい可能だろ?とも言って。

 

「しかしのー……」

「なぁに、世界に魔法がバレるよりはいいだろう? おまけに大事な孫娘の将来の相手の命も守れる。まさに一石二鳥じゃねーか」

「も、もうカモ君! 恥ずかしいこと言わんで……ッ!!」

 

このかが照れから顔をゆでだこの様にしてカモをシェイクしていたが些細な事である。

 

 

 

 

 

 

 

…………しばらくして、『最終日学祭全体イベント』と銘打った『火星ロボ軍団 VS 学園防衛魔法騎士団』という内容のイベントを3-Aのメンバーが中心に学祭中に配っていった。

佐々木まき絵などは本国から取り寄せた魔法を放つ杖やバズーカなど各種のものを、あえて一般人の人たちに見せて宣伝していた。

 

「今から見本を見せます! カワイイとバカにするなかれ! いきますよ! 敵を射て(ヤクレートウル)!!」

 

瞬間、魔法の杖から光の光線が発射され、光のシャワーを降らせる。

 

……まき絵自身はまさか本物の魔法道具とは気づいていないだろう事もさらに踏まえている。

 

 

 

 

 

 

さらにアスナも朝倉を捕まえていた。

 

「朝倉! あんた、私達の苦労も知らないでのほほんとしていてー!?」

「まぁまぁ、アスナ。あたしはね……そうさね。誰の味方でもない、真実の奴隷ってことさ」

「なにが真実の奴隷よ! 下手したら世界に魔法がバレてネギも高畑先生もオコジョにされて、士郎さんなんか……えっぐ……」

「ちょ!? 士郎さんになにがあったのさ!? 泣き出すほど!!?」

 

それでアスナは事の内容を説明していくと、朝倉よりも一緒にいたさよの方がショックがでかかったらしく、

 

『朝倉さん! もうこんな悪事はやめましょう!!』

「さよちんもそう言うの!? あー、もう……せっかく大儲けできると思っていたのに……わかったよ! なにをすればいい!?」

 

 

こうして少し無理やり説得して味方につけた。

 

 

 

 

さらにはこのか達の説明によって判明した超の情報を魔法使い達に学園長が中心になって話していき、さらには魔法使い達の役割なども話していく。(ネギの考えだとは敢えて告げずに。明石教授などはネギの案だと薄々気づいていたようであるが……)

 

 

「さて、諸君。事は一刻を争う。全力でこの作戦に当たってくれい!」

『ハッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

…………そうして、噂はだんだんと伝播していき、参加するという一般人の数が次々と増大していく中で、

 

 

 

 

 

 

士郎は赤原礼装のフル装備になって、いつか来るであろう時に備えてランサーとイリヤと並んでいた。

 

「シロウ。いいわね? 私に何かあっても気にせずに戦ってね? ランサーにあの謎のエミヤも任せるつもりだから」

「しかし、いいのかね? あれは俺が本来相手をしないといけない相手だろう?」

「まぁ、そう言うなや。俺に任せておけよ」

「なぜか妙に疎外感を感じるのは俺の気のせいか?」

 

それで士郎はやはり自身がいなかった時にこのか達になにかを聞いたのだろうと考えていた。

それとイリヤが来ている見覚えのないコートに目をやって、

 

「それと、そのコートはどうしたんだ、姉さん? それもなにやら魔力を感じるが、どちらかというと呪詛が込められているようだが…」

「シロウは気にしないの! シロウはおとなしくセツナ達を手伝ってあげなさい!」

 

ビシッ!とイリヤに指を向けられた士郎は「やれやれ」と思いながらも、「了解した」と返事をした。

 

 

 

 

そして、ついにその時が来たのだろう。

湖の方から次々と田中さんという名の機械兵士が現れたのは…。

 

「姉さん! では行ってくるぞ!」

「ええ!」

 

それで士郎は干将莫邪を構えながら疾駆していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の場所では、

 

 

(ふふふ……なにやら騒がしいが、私の目的であるランサーの令呪ともどもあの衛宮士郎やイリヤスフィールも葬るとしようか…)

 

コトミネは静かに動き出した。

今から未来の情報を得たイリヤとランサーの手によって逆襲されるとも露知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、世界の命運をかけた一大決戦の火蓋は切って落とされたのであった。

 

 

 




5000文字数いかなかったな。


士郎には未来で死んだ情報は明かしませんでした。イリヤの手でないとね。
次回からいろんな視点に飛び飛び描写が増えると思います。


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067話 文化祭編・開催3日目(02) ドンパチ合戦開始

更新します。


朝倉は正直言って焦っていた。

予定されている時間より超の軍団が攻めてくるのが早いじゃん!?と。

しかし、ここで下手をするほど朝倉のマネジメント能力は低くはない。

アドリブで対応してこそプロというもの!

 

『さあ! 大変な事になってしまいました! 戦闘開始の鐘の合図も待たずして今回のイベントにおける敵とされている火星ロボ軍団が奇襲をかけてきました! 麻帆良湖湖岸ではすでに戦端が開かれている模様。噂の脱げビームが参加者たちに牙を向いています!

さあ、魔法使いの諸君、準備は万端ですか? もうすでに恐怖からガタガタ震えていませんか!? 戦死する覚悟はおありですか!?』

 

そんな朝倉のニクイ演出に参加者、主に男性諸君からは、

 

「誰が震えているって!? 麻帆良魂なめんな!」

「脱げビーム!? そんなおいし……いや、非道な行いを許してなるものか!」

「さぁ、大将! さっさと始めようぜ!!」

 

などと、ところどころですでに欲望丸だしなものもいるなかで、

 

『よくぞ言った! それでこそ麻帆良スピリッツ! では……ゲームスターーーーート!!!!』

 

その宣言とともに魔法使いに扮した生徒達は我先にと田中さんなどの機動兵器に果敢に挑んでいった。

魔法の杖やバズーカから放たれる光の光線によって次々と無力化されていく機械兵器。

ひとたびミスを犯せば男女問わずに脱げビームの餌食になる。

まさに本格的なスリルを味わえるこのゲームという名の戦闘に麻帆良生徒達は脳内のアドレナリンがかなり分泌されている高揚感を味わいながらも、何人もの生徒達がこう言った。

 

「わはははははは!! こりゃすげー! モノホンの戦争みてー!」

「ホントに金がかかってんな!」

「優勝賞金は俺達軍事研が頂くぜ!」

「させるかバカッ!」

 

などと、すでに満足感がかなりある内容になっていた。

そんな中で3-A生徒の桜子と美砂は脱げビームを食らってしまい、減点を食らってしまう。

それを見て眼福とばかりに男子たちは鼻血を流しているものが複数。

パンイチだけの姿になるのはかなり恥ずかしいものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなゲーム(戦争)が開かれている中で、ヒーローユニットであるアスナ達はネギとカードでの念話ができない事に懸念を抱き、古菲にネギを迎えに行って!と言って、古菲とカモはちょうどその場にいたあやかとまき絵の両名も連れて走っていった。

 

そして当のいまだに回復していないネギを見守っている一同はというと、夕映がある事を言い出す。

 

「超さんとネギ先生の事に関係している事ですが……」

 

夕映の口から話される超のテロ…いやそれをもはや超越している『革命』と呼ぶにふさわしい行為。

 

第一に、今現在、世界各地で様々な紛争などの問題に苦しんでいる人達を魔法があれば救えるのではないか?

第二に、超が本当にネギの子孫で未来人だと仮定して、この革命の帰結として不幸な未来の回避を狙っている。

この二点の事に関してネギは悩んでいるのではないかと夕映は推論する。

それを踏まえて夕映は今のネギに対する論理的根拠を提示できると千雨に言う。

千雨はというと、

 

「あ? そんなもん、こいつが起きたらお前が言ってやれよ!」

「しかし、これは私の持論であってネギ先生が納得するか分かりかねます…」

「別にいいんだよ! あっちの高畑にも聞かされたろ。こいつにはお前の言葉が必要なんだよ。でないとこいつは未来での高畑の二の轍を踏んじまうぞ!」

「…………」

 

夕映はそれでいまだに寝込んでいるネギを見て考えを深めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戦場に戻っていき、次々と襲い掛かってくる機械軍団を前に劣勢を強いられている生徒達。

と、そこにまるで戦士のような恰好をしたアスナとまほら武闘会での恰好をした刹那の二人が突如として現れて、アスナは一刀のもとに六足歩行の機械兵を真っ二つにして、刹那は百烈桜華斬を放って軍団を次々と切り裂いていく。

 

それを間近で見ていた裕奈は、

 

「あ、アスナ!? それに桜咲さんもなにやってんの!?」

「なにって、ヒーローユニットよ。パンフに載ってない?」

「あ、ありましたです…」

 

ヒーローユニットの説明をしながらも、

 

「そのうち士郎さんとかも出張ってくるから安心して戦っていてよ、裕奈」

「士郎さんも!?」

 

それで驚く裕奈達。

そう言いながらもアスナは京都での士郎の戦闘を思い出して思わず笑みを浮かべていた。

数の暴力というべきあの鬼達の軍勢にも臆せずに次々と葬っていく驚異的な戦闘力を誇る今の自分達では到底辿り着けない境地に立っている士郎の姿を。

今までそれで何度も助けられてきた事か…。

 

「それじゃ、私達はもういくね! 頑張ってねみんな!!」

「では!」

 

そう言ってアスナと刹那はその場から普通の人間から見たら驚異的なジャンプ力を発揮して跳び立って行った。

そして始まるヒーローユニットという名の麻帆良学園魔法関係者による機械ロボ軍団の蹂躙劇。

それによってどんどんと撃破されていくロボ軍団。

いっけん、優勢に見えると思うだろう。

しかし、静かに…しかし確実に悪魔の手が忍び寄ってきていた。

 

 

 

モニター室で監視していた夏目と明石教授の二人が騒ぎ出していた。

 

「ハッキングを受けています! このままでは学園結界が陥落します!!」

「なんだって!?」

 

人の技とは思えないほどの速度で麻帆良学園の心臓部にハッキングを仕掛けてくるものがおり、それによってついに学園結界が停止した。

それによって、つまり悪意あるものの侵入が容易くなるという事と同義であり、普段なら能力も制限されてしまうものの、今限定で力を存分に振るえるとも言える。

 

そして、超の切り札がついにその姿を現した。

麻帆良湖から突如として水しぶきが発生して次の瞬間には六体のスクナもどきが姿を現したのだ。

 

「な、なにあれー!?」

「でけぇ…ッ!」

「こんなんありかよ!?」

 

生徒達が騒ぎ出す中で、そのスクナもどきの一体が口部分からなにかの力を溜めているように見られるのを確認した円は「ゲッ!?」と焦るも、反撃をする余地もなく、それは放たれた。

その極太脱げビームによって大勢の生徒達が一気に脱がされてしまう。

一気に情勢は傾いた瞬間であった。

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

 

side 衛宮士郎

 

 

あれが例のスクナもどきか。

参加者に実害がないのは幸いだが、やはり一般人に被害が及ぶのはやはり心苦しいものがあるな…。

まぁ、いい。

ならば派手に盛り上げてやるさ。

念話もできないから情勢は分からんが、一体は補足した。

話によると頭は破壊しない様にと言われた。

なんでも機械で制御されているスクナもどきが頭を破壊されたら暴走するかもしれないからと。

制限があるのも心苦しいが、ようは頭を破壊しなければいいのだろう…?

ならば、まずは、

 

「…いくぞ。『剣製の赤き丘の千剣』! 魔力地場、展開!」

 

剣製の赤き丘の千剣に乗りながらも剣は魔力の防壁を纏っていく。

そして、

 

「燃え上がれ! いざ、吶喊!!」

 

俺を剣ごと覆う炎のバリアーとなり、スクナもどきへと吶喊を決め込む。

そこに朝倉の実況が聞こえてくる。

 

『あの高速で飛来する炎の塊はなんだ!?鳥か、UFOか!? 果たしてその正体は!!』

 

そんな実況をBGMに聞きながらも俺は構わずスクナもどきへと突撃する。

一瞬、固い膜に当たった感覚を味わったが、構うものか。

 

「構わん! 突き進め、剣製の赤き丘の千剣!!!」

 

強引に突っ切った瞬間に背後を見ればスクナもどきの胸に大穴が空いていて静かに地面に倒れていく光景を目にしながら炎の魔力地場を解除する。

そして俺の姿は周囲の目に晒されるが、今回に限っては演出という事で、まぁバレることはないだろうと祈るばかりだが…。

 

『炎の塊から姿を現したのは麻帆良学園女子中等部、あの子供先生の補佐をしている副担任、まほら武闘会でも活躍した今噂の『死の鷹(デスホーク)』の異名を持つその人、衛宮士郎だぁあああああーーーーー!!!!』

 

なかなかに恥ずかしい実況をしてくれる。

なぜか下の方では、

 

「おおい!?あのデスホークも参戦か!?」

「レッドの兄ちゃんだ!」

「エミヤーん!!」

「俺達を救ってくれー!!」

 

と、叫んでいる生徒達が多数見られる。

うむ。まぁ、元気があって大変よろしい。

それで景気づけに今大穴を空けたスクナもどきに追い打ちとばかりに、

 

「さて、手を緩めるわけにはいかんのでな…。I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)―――……千剣よ。解放!!」

 

瞬間、俺の周りに大量の剣が姿を現す。

それで見ていた生徒達は息を呑む声が聞こえてきたような気がした。

だが気にせずにさらに、夢の世界でエヴァに使用した方法をここに顕現させる。

 

「集まれ、すべての武器よ…一つとなりその身を巨大にせよ!」

 

一瞬にしてそこにはスクナもどきを上回る大きさの剣が出現し、轟々と燃え上がっていた。

 

「いくぞ!秘儀・巨人殺し!!」

 

こんな時のために開発したわけではないのだが、ちょうどいいだろう。

それでスクナもどきに頭以外を狙って落とし、地面に串刺しにする。

スクナもどきはそれでもなんとか再生しようとしているが、常時巨剣が燃え盛っているために随時ダメージを負っていくという優れモノだ。

 

「これで当分は動けないだろうが……さて、他のスクナもどきも対処しなければな」

 

そんな時だった。

下の方から椎名の声が聞こえてくる。

 

「おーい! 士郎先生、かっこいいよー!」

「桜子達か。お前達もくれぐれもケガをしないようにな。こいつは当分動けまいからな」

「はーい!あ!? 先生、なんか迫ってきてるよ!?」

「なに!?」

 

見れば目先には黒い外套の俺が迫ってきていた。

あいつはランサーが相手をする筈だった予定なのだがな。

やはり優先目標の対象は俺らしいな。

 

「よかろう。お前はやはり俺が倒さないといけないようだしな」

 

それで俺は千剣に命じてあまり人がいない場所へと移動を開始する。

奴もそれで素直に付いてきているようだからよかったものの、大衆がいる中で宝具などをブッパしないでよかった…などと安心している俺がいた。

さて、それより姉さんとランサーは、それでは今なにをしているのか…?

こういう時にレイラインでの念話もできないのが本当に心苦しいな…。

 

『おおーーーっと!!デスホークは新手と交戦開始のようです! どんどんと離れていく!!』

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

side 衛宮イリヤ

 

 

シロウも派手にやっているわね。

念話はできないけどカズミの実況がいい感じに聞こえてくるから安心していられるわ。

でも、やっぱりこっちには目もくれてくれないのね、あの謎のエミヤは…。

 

「なんだよ、つまんねぇな…。こりゃ俺はいざって時の保険で終わっちまうかな?」

「そうね。ランサーならあんなデクの棒なんて一網打尽にしちゃうでしょうしね」

「まぁな」

 

ランサーとそう軽口をしている中でも、この距離なら念話もできるみたいで、

 

《ランサー。そろそろ来ると思う…?》

《ああ。なにやら知っている怪しい気配が近づいてきているようだぜ》

《そう。それじゃ盛大に迎えてあげないとね♪ どのくらいの呪詛が籠もっているのか私にも把握できていないから実験台になってもらいましょう》

《それはいいな。奴の苦しむ姿を見れるなんて滅多にねぇからな》

 

そんな会話をしつつも、私とランサーはわざと油断を装って構えている。

そしてついにその時が訪れた。

一瞬、なにかの悪寒に襲われた私だったが、そこで悪魔祓いのコートが本領を発揮したのかなにかが弾かれていくのを感じてその方向へと目を向ければ、

 

「ぐ、ぐむぅっ!? なんだ、体が溶ける!? 魂が穢されていく!? なんだこれは…!?」

 

そこには一体の悪魔……いいえ、コトミネの姿があった。

 

「あら…コトミネじゃない? また会ったわね」

 

私はそう平静を装って声をかけるが、今にも笑いだしてしまいそうな感覚に陥っている。

ランサーも同じくなのかニヤニヤと笑みを浮かべて地面に転がって悶えているコトミネを見下している。

 

「…………なぜだ。なぜバレた? それにそのコートはなんだ…?」

「教えないわよ。まぁしいていうならあなたを殺すための手段と言えばいいかしら?」

「なるほど…。どこでバレたかは知らんが、いいだろう。憑依して言い様に操ってやろうと思ったが、止めだ。相手をしてやろう…」

「いいのかよ。今現在進行形でてめぇの体も魂も溶けてんだろ?」

「構わんさ。なんせ今の私はただの分身体……すでに今の事も本体に情報はいっている事だろうよ」

 

そう言ってコトミネはニヤリと嗤う。

嫌な笑みね…。

こちらとしてはコトミネがどんな能力を持っているのか把握しておきたいところだけど、分身体じゃ無駄骨かもしれないし。

ただ、分かっているのは現在では分身体を作れる能力と指定した相手に憑依して操るといったものかしらね。

あ、あとはアンリマユの泥もあったわね。

まさに悪魔らしい能力で反吐が出そうだわ。

 

「そんじゃてめぇをこの場で殺しても無駄って訳か」

「そういうことだよ、ランサー。だが、ただでやられるほど私も落ちぶれていないのでね。衛宮士郎は仕留められんでも、せめて貴様達だけでも葬って衛宮士郎が絶望する顔でも見させてもらおうか」

「そんな事はさせねぇぞ…?てめぇはここで散れ、言峰」

「フフフ……では、やり合おうとしようか、ランサーにイリヤスフィール…」

 

そう言ってコトミネは私達にかかってきた。

シロウ……こちらは私達でどうにかするから、謎のエミヤなんかにはやられないでね…?

私はそう祈った。

 

 




いい感じに切れましたね。
次はネギsideですかね。


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068話 文化祭編・開催3日目(03) ネギパーティ、始動と失格弾

更新します。


 

 

 

 

図書室ではまったく通信ができないでいた事に焦る一同。

そこに夕映の『世界図絵』のまほネットで知らされた学園結界が落ちたという情報にさらに動揺が走る。

 

「ど、どうにかできないのですか…?」

「私のただのパソコンじゃ相手にもなんねーよ! 中身が違いすぎる…」

 

それで千雨は悔しそうな顔になるが、そこでその場に残っている全員がなにかを閃いた顔になる。

さらには千雨の得意なものはパソコンとネット関係。

 

夕映とのどかが本関係。

ハルナに関しても絵描き道具。

このかは治癒系。

アスナは魔法無効化系。

刹那も剣系。

 

どれもその個人が得意とするものばかりが仮契約(パクティオー)カードに反映されて、それに沿った能力の物を与えてくれる。

そこから統合的に導き出されるのは、もしかしたら千雨がネギと仮契約(パクティオー)したらネット関係の物が出てくるのではないか……?と。

 

「ふむふむー。つまりはネットに対抗できるものがあればいいんだね?」

「あ? そんな都合がいいもんがあったら苦労しねぇ…………って、おい。まさかとは思うが―――……!?」

「察しが良いね、ちうちゃん! そう、ネギ君とちう(ハート)して能力に見合ったアイテムを手に入れようって話よ!」

「なっ!?」

 

ハルナの『ズビシッ!』という効果音が付きそうな指さしに千雨の顔は一気に赤くなる。

そしてすぐさまに「なんでだよ! 私はそんなもん―――!?」と言い返すが、ハルナはそんな抵抗も意に介さずにのどかと夕映の肩を掴みつつ、

 

「いやいや大丈夫だって! 許可するよ! 夕映ものどかもいいよね!?」

「い、いぇー……そのーーー……」

「そもそも権限とか色々とないですしー……」

 

それで顔を赤くさせながらも反対はしないでいるのどかと夕映の両名。

 

「そうじゃなくってよー!!?」

「んー? 10歳のお子ちゃまとキスするくらいまぁ平気っしょ? 千雨ちゃんもそんなに動揺するほどー?」

「ぐっ!?早乙女、お前やっぱ性格わりぃな……」

「ハハハ! 今更だよね」

「しかも、しかもだぞ!? そんなもん手に入れちまったらもう完全にファンタジーの住人にランクアップして、一般人から逸脱人になり上がっちまうじゃねーか!!」

「いいじゃない。逸脱人。そういう言葉、好きだよ。なにより今は緊急事態。こういう時には右手に盾を左手にグーパンチをって言うじゃない?」

「剣の間違いだ! なんだ、グーパンチって!?」

「とにかく今必要なのは力なのだよ。力なくして強敵に立ち向かうなんてナンセンスにもほどがあるわよね!」

「一理あるがよー!?」

 

と、そこにタイミングよく、古菲がカモと、そしてオマケのあやかとまき絵を連れて図書館に入ってきた。

 

「ネギ坊はいるアルか!?」

「ネギ君!」

「ネギ先生は!?」

 

それでハルナは眼鏡をキラン!と光らせる。

 

「これはまたとない偶然…いや、これはもう天の決めた必然! カモっち、ナイスタイミングよ!!」

「む? どいういう事でい?」

「まぁまぁ、いいんちょとまきちゃんは一回外に出ていようね?」

「な、ハルナさん、なんですの!?」

「ネギ君に会えるんじゃないのー?」

 

さすがのカモもハルナの突飛な行動に頭に?マークを浮かべているが、ハルナが小声で、

 

(千雨ちゃん、とうとう……)

(お♪ 理解したぜ)

(さっすが!!)

 

以心伝心。

まるで過去からの旧い仲だったかの様に短いやり取りだけで理解し合うハルナとカモは、意外に…いやかなりパートナー相性が良い方かもしれない。

 

「い、イヤ! 待てよテメーら!?」

「時間が押してるから、それでもごゆっくり♪」

 

パタン…………とカモとネギ、そして千雨以外が図書室から出て行って、あんまりな状況に呆然とする千雨。

なにもこんな状況で初めてを捧げる羽目になるなんて、聞いてねぇよーーー……と愚痴りたくなる千雨。

しかもすでにカモが仮契約の為の魔法陣なんか高速で描いているときた。

ことここまで来て千雨は少し自棄になりつつあった。

自分に脳内で言い聞かせるように(戦力は欲しい)(相手は茶々丸か超か?)(キス一つでお手軽アイテムが手にはいるなら儲けもんだ)(10歳に意識していてどうする?)などなどをブツブツと呟きながらも、眼鏡を外してネギにキスをしようとするが、

 

「う……? 千雨さん……?」

 

そこでタイミング悪くネギが目を覚ましてしまう。

それで今になって猛烈に恥ずかしくなってしまう千雨だったが、一言『黙れ!』と言いつつ勢いよくネギと唇を合わせる。

瞬間、仮契約は成立してカードが生成される。

 

「もういいぜ。千雨っち」

「そ、そうか!」

「あのー……」

「あー、うるさい黙れ!」

 

それでなんとか言い訳しつつも、

 

「今は時間がねぇんだろ!? 先生の悩み事や迷いとかも綾瀬に聞け。もう十分休んだろ! 先生の出番なんだよ。超の奴をとっちめてこい!」

「は、はい!!」

 

それでネギは準備を始める。

 

 

 

 

 

 

 

一方で、戦場の方も変化が始まっていた。

魔法先生達がスクナもどきをなんとか抑えているうちにタカミチが居合い拳を放って多少の戦力を削いでいる時であった。

なにかに気づいたタカミチは居合い拳をなにもない空に放って、次にはなにかに衝突して打ち消し合っていた。

 

「高畑君!」

「狙撃です! 気を付けて!」

 

それで弐伊院が注意を促すも、次々と狙撃を受けてその場から姿を消していく魔法使い達。

一緒にいたアスナと刹那に美空、ココネもなんとか狙撃される反対側に隠れる事ができたが、弐集院とココネは跳弾という高等テクによって敢え無くその場から退場してしまった。

美空の「ココネー!?」という叫びが木霊する。

 

そしてなにも魔法使いに限定した話ではない。

生徒達もロボ達が放つガトリング銃によって当てられてしまったたくさんの生徒達は姿を消していってしまっている。

 

 

 

 

アスナ達は突然の事になんとか平静を保ちつつも、

 

「今のは強制転移魔法だ。どこかに飛ばされたんだろうね。死んではいないはずさ」

「そ、そうっすか……」

「でも、せいぜい3㎞がやっとだというのに意味が……」

「その通りネ」

『ッ!?』

 

突然会話に割り込んできた声に全員が戦慄する。

その声の主は悠々と歩いてくる超の声であったからだ。

 

「3㎞なんて、面倒くさい事はしないネ。やるなら盛大に、かつ派手に、そして大胆に……そう、3時間先だったら、どうカナ?」

「超 鈴音!!」

「超さん!」

 

それで構えるアスナと刹那。

超はご丁寧にバレてもさして問題ないと言わんばかりに説明をした。

 

「……だが、戻てきたはいいが、この作戦にはさすがの私も驚かされたネ? ネギ坊主が考えた作戦なのダロウ? 今はどこに…?」

「ネギはいないわ!! あんたは私が今ここで倒してやるわよ!!」

 

そう啖呵を切ったアスナであったが、

 

「そうカ。まぁ、相手にはなるヨ。刹那サンに関しては昨日の二の舞にナルと思うがネ」

「ぐっ……」

 

昨晩に一方的に避けられ続けた事を思い出し苦い顔になる刹那。

だが、今ここで彼女を止めなければ大変な事になるのは自明の理。

勝てずとも!そんな思いで戦いに挑んでいったが、やはり結果は変える事が出来ずに、まずはアスナ、次に刹那がやられて、歴戦の勘でなんとか耐えているタカミチだけになったが、超の世界を変えた後の話を少しずつ聞かされていき、心が揺らいでいるタカミチに、超が最後の一手を放つ。

 

「どうカナ、高畑先生。私の仲間にならないカ?」

「ッ!」

 

それで盛大に動揺してしまい、その隙を突かれて時間跳躍弾を食らってしまい、タカミチも敢え無くその場を退場してしまった。

消える間際に、

 

(すまない……みんな。士郎、あとは頼んだよ…!)

 

そう考えていた。

その後に気絶しているアスナと刹那も退場させようとした超だったが、戦力に数えていなかった美空の力もありなんとか逃走を許してしまい、

 

「美空か。まぁいい。どうせもうなにもできん…」

 

そして超もその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻って戦場では時間跳躍弾に当たらないために物陰に隠れる生徒が多数いた。

痺れを切らして出ていこうとする生徒もいたが、そこでなにやら空にグラフィックが投影されていく。

次第に人の姿が映し出されて行って、そこには巨大な超の姿が映し出された。

 

 

『苦戦しているようネ。魔法使いの諸君』

 

それで3-Aの生徒達は突然の超の登場に驚愕の顔をしていた。

それでも超の演説は続いていく。

 

『私がこの火星ロボ軍団の首領にして、悪のラスボス。超鈴音ネ。

前半の君たちの活躍には目を見張るものがあったヨ。さすがに麻帆良生徒達はタフネスネ。

それに私は敬意を表して、少し本気を出そうと思う。

やられても復活ありなんて生易しいとは思わんカネ?

だから、少し考えた結果、追加ルールを設置することにしたヨ』

 

その新たなルールという単語にそこ等中で聞いていた麻帆良生徒達は聞き逃さんとばかりに耳を研ぎ澄ませる。

超は一発の銃弾をその手に持って、

 

『この銃弾に当たると即失格。おまけに工学部の表には公表されていない新技術で当たった瞬間には速攻で負け犬部屋に強制搬送。この楽しいゲームが終わるその時までグッスリ寝ていてもらうことにしたヨ』

 

そんな超の厳しすぎる新ルールの設置に、しかし麻帆良生徒達は逆に燃え上がっていたりする。

 

 

―――――そのくらいの逆境がなんだという?

―――――その程度の困難、乗り越えてこそ麻帆良魂だろ?

―――――俺達の魂にさらに追加の炎を付加してくれるのかい?

 

 

『ゲーム失格よりもこの学園祭のクライマックスを強制就寝で過ごすは大変なペナルティと思うがどうカ?フフフフフ…………どうカナ? スリル感が倍増しただろう。麻帆良生徒達がこの程度で音を上げるとか考えにくいネ。それとも、弱気になって棄権をしても別に誰にも咎められないヨ。私はそこまで無慈悲ではないからネ。

ちなみにここで君たちに耳よりの悲報をお届けしよう。

ここぞという時の頼りである君たちの頼みの綱のヒーローユニットはすでに私の部下がほぼ始末したネ!

…………まぁ、まだどこかに潜伏はしていそうダガネ。

そうそう、手を貸せるかは別としてまだデスホークさんは生きているかもしれないヨ?』

 

その超のわざとらしい説明に、わずかな希望が生徒達に湧いてきた。

あのスクナもどきを一撃のもとに叩き揉めした士郎なら生きていていつか手を貸してくれるかもしれない、と…。

 

『多少のイレギュラーがあっても私は寛容だから目を瞑ろう。

さて、しかしもう後は自身の力のみで戦うしかない。私の火星ロボ軍団に果たして君たちは勝てるカナ? 諸君の健闘を祈ろうとしようじゃないか!

 

 

 

―――――あ、それはそれとして、ちなみに今回のロボ軍団はすべて麻帆良大工学部と『超包子(チャオパオズ)』の提供でお送りしているネ♪「世界全てに肉まんを」超包子(チャオパオズ)をこれからもどうぞ御贔屓にネ!』

 

 

演出らしく肉まんの画像を出す超に一瞬であったが静まり返る戦場。

しかし、そこでアドリブに関しては鍛えられてきていた朝倉が声を張り上げる。

 

『―――――さあ。ついに現れました!悪の大ボス、超 鈴音!今回のイベントの雪広グループとの共同出資者「超包子(チャオパオズ)」主催、超 鈴音さんがラスボス役を買って出てくれました!!』

 

それで超と朝倉は視線を合わせて同時に笑みを浮かべる。

 

『超 鈴音はこのゲーム中の全エリア内のどこかに潜んでいます!発見した方にはボーナスポイントと特別報奨金をプレゼント!! 発見者は参加者、そして一般の非参加者どちらでも構いません! ようは見つけたもの勝ちだ!!』

『よかろう朝倉。楽しみに待てるネ』

 

それでスクリーンが消えていく。

それを合図に裕奈を筆頭に勇気を取り戻した生徒達は失格弾がなんだと言わんばかりに再度ロボ軍団に突撃をかましに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

違う場所ではネギがカシオペアを使って、なんとか龍宮の放った時間跳躍弾を未然に防いで、龍宮と楓の一騎打ちが始まったり、千雨がネットの世界にあやかとまき絵とともに侵入していき、茶々丸と戦闘を開始していたりしていた。

 

すべては超の陰謀を未然に止めるために。

今出せる力を存分に発揮していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――そして士郎と謎のエミヤの戦闘。

 

 

 

「お前は、俺、なのか……? アーチャー……いや、エミヤ……」

「……………」

 

 

 

―――――イリヤ&ランサーと言峰の戦闘。

 

 

 

「ランサー、援護するわ!」

「おう!ここでくたばれよ、言峰!」

「ふんッ! 私の腕もまだまだまんざらではないな」

 

 

 

この二か所の戦闘も佳境に入ってきていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

果たして、士郎は……そしてネギは超の野望を止める事ができるのか……?

 

 




今回は原作のセリフをかなり追加したり弄りまくりましたね。
こうでもしないと判定がグレイになってしまうから仕方がない。
次回はまるまる士郎とイリヤ達の戦闘にしてみようかと思います。


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069話 文化祭編・開催3日目(04) 謎のエミヤの真実と決着

更新します。
昨日は更新したわけでもなかったのに、すごい勢いでUAとお気に入り件数が増えていたのでなにがあった?と思いました。(たぶんランキングに載っていたからだろうなと思う。)ありがとうございます!


ーーー追記

感想を非ログインユーザーもできるように戻しました。
メンタル豆腐ですので、よろしくお願いします。


side 衛宮士郎

 

 

 

俺は今、誰も近寄りそうもないどこかの屋上で謎のエミヤと対峙していた。

その当の謎のエミヤは無言で立っていて俺を干将莫邪を構えながら牽制している。

 

「■■■……」

「お前は、俺、なのか……? アーチャー……いや、エミヤ……」

 

俺はそう問いかける。

しかし、まだ叫ぶほどでもないが、謎の唸り声を発していて、会話にならないし、本当にバーサーカーなのでは?という疑問に晒される。

 

「お前が、なんでそこまで俺に執着するのかは分からない…。だが、ネギ君達の手伝いの邪魔をするというのなら早々にご退場願おうか」

「……■ギ……?」

 

そこで初めてまともらしい返答を聞けたような気がした。

もしかして奴もネギ君の事を知っているのか…?

だが、次の瞬間に謎のエミヤから黒い感情が噴出しだしてきたので何事かと思う。

 

「…■■……ネ■……■ギ……ナ■……ッ!! ■■■ーーーーーッ!!」

 

その叫びはまるで怒髪天を突くかのような強烈なもので、ついには俺に殺気に似たなにかの圧をぶつけてくる。

そして深く腰を落としていつでも駆けだせるような態勢になり、

 

「……わかった。存分にやり合うとしようか! エミヤ!!」

「■■■■■ーーーーーッ!!!!」

 

そして始まる殺し合いという殺陣。

奴は干将莫邪をまるで鈍器を扱うかのように振り回してくる。

俺はそれをいつもの構えで迎撃するようにしている。

バーサーカーという気質を放っている通り、まるで隙だらけの攻撃の連続。

受け流すのは容易いだろう。

だが、そう簡単に事は運ぶわけでもなく、

 

「■■バー…エ■ジ!!」

 

そう言葉を発した瞬間、やつの干将莫邪は強化形態のオーバーエッジになった。

力で押し切ろうという魂胆か?

これほど戦術というものがない戦いをする相手というのも初めてだな。

今まで相手をしてきた敵はなにかしらの余裕や考えがあった。

あの、聖杯戦争のバーサーカーですらさえ姉さんのいう事を狂化されながらも、それでも強烈にしかし力強く戦っていた。

だというのに、今の奴は俺達投影魔術師の強みでもある戦術眼がまるでない。

さらには、あちらはどうかは分からないが、俺の干将莫邪は全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り込むことによって、存在強度、そしてそのものの概念すらも強化されている。

だから結果は、

 

「ほら!」

「■……ッ!?」

 

俺が振り下ろした干将によっていとも容易く強化されているはずの干将莫邪も簡単とはいかずとも破壊できる。

 

「お前にもなにかしら強みはあるであろう。しかし、俺とてこの世界に来てからも修行はしてきたんだ! だから貴様に負けてやる道理もない!」

 

そう言って干将莫邪が砕けてしまい、投影もすぐにしないでがら空きになっている奴の顔の仮面めがけて莫邪を振り下ろした。

おそらく、あのスクナもどきと同じでその仮面に何かしらの細工が仕組まれているのだろう?

それを砕けばもしかしたら機械化されているであろうとカットされているエミヤの意識は取り戻すかもしれない。

だが、やつの反応速度の方が少し速かったらしく、仮面の右側だけを切り取るだけに留まった。

それでも、それでエミヤの右目だけが露出した。

しかし本来俺の瞳は投影の酷使で銀色に変色しているはずだというのに、このエミヤの瞳は金色に光っていてどこか機械的な感じも見て伺えた。

超のやつ、まさか脳内までも機械に改造しているわけではあるまいな……?

 

そんな俺の心配もよそに、おそらく制御装置であったのだろう仮面が多少ではあるが壊れた影響もあってか奴は頭を手で押さえて苦しみだしていた。

 

「■■■……ッ!!」

 

…………さて、こんな惨めな姿の奴をこのままにしておいても精神衛生上大変よろしくない。

さっさと楽にしてやるか。

そう思い莫邪を振り下ろそうとしたのだが、

 

 

 

―――ギンッ!

 

 

「なに……?」

 

なんと、振り下ろしたのにかかわらず今度は自意識があるかのように即座に投影していた剣で防いでいた。

それだけならまだよかった。

だが、次の瞬間俺の脳裏に電流が走ったかのように何かの光景が連想されていく。

なんだ、これは……ッ!?

こんな現象は初めてだ!

激しい頭痛がしだしてくる。

そしてそんな俺を意に介したのか謎のエミヤはスッと立ち上がってその金色の瞳を光らせながら無表情で何度もキレのある剣戟を俺に叩きつけてくる。

 

「くっ!?」

 

激しい頭痛がする中でなんとか受け止めはするが、それでも剣を打ち付けるたびになにかのビジョンが頭の中に流れてくる。

そしてなんとか鍔迫り合いにまで持ち込んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

俺の意識は違う場所に飛んでいた。

まるで過去を見せられているかのようにイメージ映像が視覚を通して脳内に流れていく。

そこにはまほら武闘会で見たネギ君の父、ナギ・スプリングフィールドの姿が映っていた……。

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

士郎が今見せられているのは恐らくこの謎のエミヤの過去の光景なのだろう。

士郎は体を動かそうとしてもまるでエヴァの誰かの夢を覗き見るかのような感覚を味わい、ただただ見せられていた。

映像の中でナギは、

 

『……よお。俺の無茶苦茶な召喚儀式で呼ばれてきたもの好きな正義の味方は誰だ…?』

『…………』

 

どうやらナギがエミヤを召喚したのだろう光景が映し出されているのだが、士郎はそれを見て思った。

 

(魔法陣も滅茶苦茶で適当なものでサーヴァントを呼んだっていうのか……? エヴァに施した登校地獄といい、ナギという人物はどうやら力押しが性分みたいな奴なんだろうな。理知的なネギ君とはまるで正反対だな……)

 

『…………』

『なんだよ。黙りこくって……少しは喋ったらどうだ……?』

 

だが、召喚されたはずのエミヤは口を動かしているだろうが、言葉になっていなかった。

どころか、ナギの滅茶苦茶な召喚で下半身が腕も含めて透けていて使い物にならない状態であった。

 

(あれではなんとか念じて投影すればできるだろうが、戦いに関しては絶望的だろうな……)

 

士郎はその光景を見て思わずそう感じていた。

正式にサーヴァントを呼ぶ呪文も知らないで下級の英霊とはいえ、それでも世界の守護者であるエミヤを呼んだ代償はやはり大きかったようだ。

ナギはそれで仕方がなく読唇術を使用してエミヤが発したい言葉を読んでいた。

 

『……なるほどなぁ。さすがの俺でも英霊クラスを呼ぶとなると中途半端になっちまうって訳か。すまねぇな、エミヤ。お前をうまく使いこなせそうなマスターじゃなくてよ…』

 

そう自身を皮肉るナギであったが、それでもエミヤは喋れはしないが言葉を紡ぎ、一言『気にするな』と言った。

 

『そっか……しかし、どうすっか。少しでも戦力が欲しかったんだが戦えないんじゃ仕方がねぇしな』

 

というナギに対して、エミヤは『必要な武器は投影する』と言った。

 

『そうは言うがな、お前さんの武器でも通用しないかもしれねーぜ? 俺達の戦っている相手は…ライフメーカーっつう奴なんだが、あと一歩のところなんだぜ』

 

ナギは笑みを浮かべながら、そう語っている。

それを聞いていた士郎は、

 

(ライフメーカー……? そいつがナギさんが倒そうとしている敵…。そしてそのためにエミヤを召喚した…?)

 

記憶の中でエミヤは『それでも世界の敵なのだろう…? ならば私の力は役立てられるはずだ』というが、

 

『いんや。お前さんはいざって時のためにここ麻帆良に封印することにしたわ。もしかしたらお前さんを俺よりもうまく扱える奴が現れるかも知んねーしな。

…………それより、少しだけだが俺の話を聞いちゃくんねーか? 俺には“アリカ”っていう……まぁ、どっかの国のお姫様って認識してくれ……そいつとの間にネギっていうガキが生まれたんだ…。きっと容姿は俺に似たんだろうが、性格は姫様の方にいくんだろうなって思うが、まぁいい』

 

ナギはそう言って言葉を切り、

 

『いつか、奇縁で機会があるんならネギとも会えるかも知んねー。分からんが…。

そん時はネギの力になってやってくれ…。きっと、俺はきっとおそらくライフメーカーとの戦いで……』

 

それ以上は言葉にはしないが、それでもなにかが伝わったのだろうエミヤは険しい顔になる。

 

『まぁ、なんだ…。呼び出しておいてたまったもんじゃねーとは思うが、封印させてもらうぜ? 未来を頼んだぜ、エミヤ…』

 

ナギはそう言ってエミヤを強引な術式で麻帆良の世界樹に封印した。

そこで一回、エミヤの意識は暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

…………………

 

 

…………………………

 

 

 

しばらくの眠りについていたエミヤだったが、ふと意識が浮上する感覚を味わう。

目を開くとそこにはシニョンが似合う少女、超 鈴音の姿が映されていた。

 

『……うむ。考えなしで封印を解いてしまたが、なにかの幽霊?カナ…?』

『…………』

 

それで再度エミヤは語りかけようとしたが、

 

『あいや。あいにく読唇術は苦手な部類ネ。でも、なにか伝えたいのかはわかたよ。こういうのもなんだが、自由に動ける体が欲しいネ?』

『…………』

 

それに無言で頷くエミヤ。

だが、それは超の術中に嵌ったとも言える。

 

『わかたネ。でも、何の存在かわからないものを自由にさせておくのもアレネ。かわいそうだとは思うが私と出会てしまた自身の運の無さに泣くといいネ』

 

しばらくして霊体であるはずのエミヤの魂と体を機械の体で覆っていき、最後に自由意志を奪うための仮面を付けられる。

それで内面で抵抗はできても超に従う道具となり果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………それから少し経過して、少し顔が強張っている超が姿を見せて、

 

『驚いたネ…。まさか君の正体は世界の守護者で名を『エミヤシロウ』というネ。合ってるカ…?』

 

内面でなぜそれを?と思うエミヤだったが、この世界にまだ生きている方の衛宮士郎がイリヤとともにやってきたという話を聞かされて、自由に動けないにしてもなんとか抵抗した結果、

 

『分かた分かた。君はエミヤ先生と戦いたい。それでOKネ? 茶々丸の記憶データを見させてもらたから君とエミヤ先生の間の確執もなんとなく分かるヨ』

 

なにを知った風な口を……と思うが言葉に出せない悔しさが記憶越しに伝わってきて、思わず士郎は、

 

(本当に超はある意味すごいな……。エミヤをここまで服従させてしまうなんて……。)

 

『機会は作るネ。そこで君の想いをエミヤ先生にぶつけてくるがイイサ』

 

超のその言葉とともに意識は次には、初めて士郎と対峙した時まで移されて記憶が終了する。

そしてそこまで来て士郎の意識は再浮上していき、

 

 

 

弾かれた。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

尻もちをつくが、どうやら先ほどの鍔迫り合いからそんなに時間が経過していないのを周りの喧騒から察した士郎は、いま目の前で自壊覚悟でエクスカリバーを構えているエミヤを見て現実に引き戻された。

 

「■■■…………ッ!!」

「そうか……。お前は悔しかったんだな…。せっかく召喚されたというのに力になることができなかった不甲斐ない自身に対して…。俺に記憶を見せたのも、想いを引き継いでほしいのだろう……?」

 

そうエミヤに問う士郎。

それでエミヤは威嚇してきていても無言で頷いた。

士郎はあっていてよかったと思った。

もしかしたらエミヤの目的かもしれない『自分殺し』というのをしてくるかもしれないと思ったからだ。

だが、もうエクスカリバーを投影してしまったのか時間もそう残されていないらしい…。

 

「お前の想い…俺が引き継ごう……。だから、もう眠れ…」

 

そして士郎はあるものを投影する。

それは丸い球状の物体だった。

それを手の甲に合わせるように浮かばせて、

 

 

「―――――後より出でて先に断つもの(アンサラー)……」

 

それはかつて出会ったバゼットに見せてもらい解析した現代に残る使い捨ての宝具。

そのワードを唱えた瞬間に士郎の腕に玉から流れてくる紫電が走るが、構うものかと思いつつ、もうすでにエクスカリバーを構えて魔力が充填しているのか放つだけのエミヤに向けて標準を合わせた。

 

約■さ■た(■■ス)―――――勝■の剣(カリ■ー)ーーーッ!!」

 

極光がついに放たれてしまった。

こんなところで放てば街への被害は甚大なものだろう。

しかし、それを打ち消すものをすでに士郎は投影していたために、最後のワードを言い放つ。

 

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!!」

 

それは後出しで相手の攻撃をキャンセルして迎撃の剣を放つある意味反則的な宝具。

そしてエミヤの放ったエクスカリバーはキャンセルされて、フラガラックがエミヤの心臓を貫いていた。

やられたのだという自覚がエミヤの中に生まれて、そこで初めて笑みを浮かべつつ、

 

 

 

 

 

 

 

「衛宮士郎……。ナギと、ネギという息子の事を……頼んだぞ……」

「お前に言われるまでもない……。ネギ君の助けには必ずなってみせる」

「ふっ……では、そろそろお役御免のようだな…。理想を抱いて溺死だけはするなよ…? イリヤも必ず守れ…さらばだ」

 

そしてエミヤはついに消滅したのであった。

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

 

 

違う場所でも、言峰と戦っていたランサーとイリヤだったが、エミヤが放ったひと際大きい輝きを横目にしながらも、

 

「さっきからなにかの体術をしかけてくるが、身体が溶けていっているてめぇの腕なんぞ俺に効くものか! さっさと退場しな!! 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)ッ!!」

「ぐふっ!?」

 

ランサーに心臓を貫かれて言峰は体を急速に溶かせながらも、

 

「フフフ……私の腕もまだまだまんざらではないと思っていたのだがな……。まぁ、いい…いつかまた相まみえようか。ランサー、イリヤスフィール…」

 

そして完全に溶けて分身体の言峰はその場から消えたのであった。

 

「もう……嫌になるわ。またコトミネと戦う羽目になるって考えると…」

「ちげぇねー……まるでゴキブリだな」

 

嫌そうな表情を二人とも隠そうとせずにそう呟いていた。

そんな時に、先ほどの光が放たれた方をランサーは見て、一言。

 

「士郎もなんとかなったみたいだな。どうやらあの小僧の救援にいくみたいだな」

「そう……(シロウ、気を付けてね)」

 

空が飛べない二人はもう観戦ムードに入ったのであった。

 

 

 

そして事態は最終局面へと入っていく。

 

 

 




決着がつきました。
謎のエミヤの事もなんとか解決しました。

あ、話は変わりますが、月詠の苗字って『祝(いわい)』って名前だったんですね。
なんとなく調べたら分かって安堵しました。


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070話 文化祭編・開催3日目(05) ネギの思い至った答え

更新します。


side ネギ・スプリングフィールド

 

 

「のどかさん!」

「のどか!」

 

僕達の目の前でのどかさんが時間跳躍弾を僕の代わりに食らってしまい、重力の膜のような物がのどかさんを包み込みます。

 

 

「あの、その……ッ! 今回は私はネギせんせーの助けにならないと思います。でも―――……!」

 

最後にのどかさんは一言『がんばってくだ―――……』と言って消えてしまいました。

くっ!

僕が提案した事とはいえ、こうにも悔しい思いに晒されるなんて!

のどかさんの為にも、僕は超さんを……! でも、まだ踏ん切りが……もう、こんな時にまだ決断ができていないなんて!

そんな時に夕映さんが一言、

 

「そうですネギ先生。ここまでみんなを巻き込んでおいて引き下がるなんてもう許されません! いきましょう。超さんを止めるです!」

 

そう、僕に発破をかけてくれて、僕はなんとか立ち上がって世界樹前広場までの道を走りました。

そしてどこかの家の屋上にまでやってきて、夕映さんが息切れを起こしていて手を差し出す。

夕映さんは、そこで一回深呼吸をして夕映さんの気持ちを僕に伝えてくれます。

 

「のどかの言う通りです…。私達はネギ先生の助けにならないと思います…」

「そんな事…ッ!」

「…………さきほど、まだネギ先生が寝込んでいる時に超さんについてどうすべきか悩んでいたんですよね、分かります。私ですらネギ先生の立場に立たされれば同じ思いになると思うです……」

「夕映さん……」

 

夕映さんは「でも……」と言って言葉を紡ぎ、

 

「もうネギ先生は迷いを吹っ切っているようで安心しました」

 

どこかホッとしたような顔つきの夕映さん。

いえ、そんなことはないんです。

まだ僕は迷っている…。

超さんの正義に対して僕の志す正義は果たして対抗できるほどの想いを秘めているのかを……。

 

「超さんの野望は止めます。でも、僕はまだ…」

「ネギ先生…?」

「迷っています。このまま超さんの事を止めてもいいのか……? それが僕自身正しい事なのかも……」

「…………」

 

夕映さんは僕の語りを無言で聞いてくれるようです。

だから僕も続きを言います。

 

「だから、夕映さん。あなたの気持ちを教えてください……。僕はこれからどうするべきなのか……」

「ネギ先生……わかりました。私の持論を述べさせていただきます」

 

それで夕映さんは語り出しました。

もしかしたら僕は超さんに協力する未来もあったかもしれないと…。

だからそれでタカミチも判断を誤って負けてしまった事も。

 

「超さんはこの世界にありふれている悲劇を回避しようとしている……ここまではいいですね?」

「…………」

 

それで頷く僕。

 

「ですが、タイムマシンを持っている超さんはなぜその時代……もしくはさらにその悲劇に関連する歴史の時空に行かなかったのか…? いままで超さんの未来まで人類が築き上げてきたすべてを否定して無かったことにしてしまおうとすることが、果たして本当にこれからの私達の未来にとって最良なのか……。私には分かりかねます…」

 

夕映さんはそれで一回目を瞑って、その後になにかの写真を開いて見ていました。

 

「ここで士郎さんならもっと正しい事をネギ先生に助言できたと思うです。おそらくですが、士郎さんは話によるとこの世界にくるまでに様々な困難な出来事を体験したと思います…」

 

ここで士郎さんの話が出てくるなんて思っていなくて、僕は胸が締め付けられる思いに晒されました。

おそらく麻帆良祭後に見せてくれるといった士郎さんの過去…。

そこには僕の今欲しい答えもきっとあると思いますから。

 

「……以前にエヴァさんの別荘で少しですが見させていただいた士郎さんの上半身に刻まれていた数々の傷の痕…。

そして私の荒唐無稽な妄想として流してもらっても構いませんが、そこから連想できることは、士郎さんは自身の正義を正しい事だと信じてひたすら走ってきましたけど、それでも士郎さんの住んでいた世界は士郎さんの行いを否定して、追い詰めて、追いやって……ボロボロにされて、イリヤさんとともになんとか麻帆良に逃げてきた超さんとは違いますが、どこからかやってきた異世界人なのではないでしょうか…?」

 

夕映さんは「私の推測にすぎませんが…」と継ぎ足しの言葉を述べていました。

確かにそうだ。なにも最初から士郎さんは強かったわけではない。

おそらく仕方がなく力を付けてきたのだ。

正義を行うにはまず自身も鍛えないといけない…。

そして、夕映さんの話もあながち間違いじゃないかもしれない。

士郎さんやイリヤさんはこの世界にはない術を使う。

だから異世界人というのは、合っているかもしれない。

 

「士郎さんの話は今は頭の片隅に置いておいてください…。話は戻りますが、嬉しい事、哀しい事…、受け入れがたい悲劇…起こってしまった後はもうすでに過ぎ去ってしまった過去になります。受け入れなければ先にも進めません…。ひとは誰しもそんな過去の痛みを乗り越えて、それでも最良な未来を突き進んでいるです」

 

それで僕は自身の過去を思い浮かべる。

悪魔に襲われてしまった村。石化されてしまった人々。

僕はそれを振り払うかのように、魔法の勉強に没頭して怖さから逃げて、それでもここまで突き進んできました。

その痛みは忘れられません。忘れようがありません。

 

「そして、超さんは未来でとてつもない悲劇に襲われたのではないか、と…。ですが、それでもそれは“超さんにとっての悲劇”であるには変わりありません。それを理由に過去を改変してしまおうというのは間違っていると思います…こう言ってはなんですが、超さんのそれはただのエゴとして切り捨てなければいけません」

 

超さんのエゴ……。

確かにそれは正しいと思う。

でも、そんな言葉で簡単に片づけてしまってもいいものなのか…?

確かに僕もそこまでは夕映さんと同じく考えています。

分かっている…。いや、分かっていた。

だから僕は溢れてしまう涙を止めようともせずに、僕の想いを夕映さんに伝えました。

もしかしたら超さんの計画が成功すれば、そのわずかな犠牲になるであろう人達も救えるのかもしれないと…。

これだけはどう考えても間違いなのではないと…。

 

「それに、過去を変えるというならば、一週間後から戻った僕達も同じことです」

「ッ!?」

 

それで夕映さんの表情が引き攣ります。

でも、僕は続けます。超さんはわざわざ未来人だと教えてくれた、もしそれを知らなかったら果たして僕達は超さんの事をかたくなに否定できていたのだろうかと……。

五月さんからも言われました。

動機はどうあれ、それでも今までネギ先生が培ってきたものは間違いなのではないと、立派な力なのだと…。

そして、もし超さんの計画が成功しても罰を受けるのは僕達魔法使いだけで一般の人達には被害は表向きは出ないだろうとも…。

 

「そんな! それではネギ先生は超さんに協力するというのですか!? おとなしくこの学園から去ってしまい、のどかへの返事もうやむやにしてしまうつもりなのですか!?」

「夕映さん……」

「そ、それに、未来でのイリヤさんの士郎さんに対する想いも無駄にするつもりなのですか!? 未来のイリヤさんは士郎さんの死という悲劇を回避するようにと私達を手助けしてくれました…。そんな、イリヤさんの願いもネギ先生は否定してしまうのですか!!?」

 

それから夕映さんの必死の説得を受け、胸が痛む思いをしながらも、僕はおそらくそこで夕映さんにも看過できない一言を言ってしまったのでしょう…。

 

「僕が……みんなと一緒にいたいという思いも……それも僕の我儘だとは言えないでしょうか……?」

「ッッッ!! ネギ先生!!」

 

次の瞬間には僕は夕映さんに頬を叩かれてしまいました…。

こうなるのは薄っすらと分かっていた。

こうなる事も僕はある意味期待していたのかもしれない。

誰かに叱ってほしい…。

もう正義だけでは先に進めないという事も…。

士郎さん、あなただったらこんな僕の考えも分かってくれるんでしょうか…?

もう、僕は僕自身の正義だけでは先に進めません!

 

「ありがとうございます……」

「い、いえ…私とした事がなんてアホで無体な事を…」

「いえ、おそらく僕は夕映さんに殴ってほしかったのかもしれません」

「先生…」

「兄貴…」

 

夕映さんとカモ君がそれで神妙な顔になっています。

だから今の僕の想いも伝えます。

 

「分かっていました。もう本当はすべて分かっていたんです。それでいま、夕映さんに頬を叩かれて決心がつきました」

「ネギ先生……」

「未来でのイリヤさんの想いや士郎さんの死……他にもたくさんのものを抱えて僕達は過去に戻ってきました。だからこそ、思うんです」

 

僕は涙をぬぐいながらも夕映さんに伝えます。

 

「そう簡単に世界は救えない…。それは先達の人々が成し遂げようとして、結局果たすことができなかった過去からの積み重ね、想いのすべて……。だからこそ、僕は超さんを止めなければいけないのだと…。タカミチや龍宮さんは僕なんかよりも倍か、いや……推し量るだなんて思えないほどの辛い思いを経験してきて、結果、龍宮さんは超さん側について…タカミチは迷ってやられてしまった……。超さんもそんな中の一人なんだと」

「……ッ!!」

 

そう告げると夕映さんはなにかに思い至ったような顔になってなにかしらの後悔の感情を抱いたみたいです。

それを僕は理解できるとは言えません。そこまでは夕映さんの気持ちで踏み込むことも許されません。でも!

 

「夕映さんを困らせてしまい、すみません…。でも、これ以上は超さんが間違っている理由を挙げても意味がないんです。僕はもうどんな理由があっても先に進めません…」

「…………」

「夕映さんの本当の言葉を僕に言ってください。超さんの事は止めるべきなのは自明の理です。でも、それ以上に僕は―――!」

 

息を思いっきり吸い込んで、

 

「僕は…僕達は今この尊い日常を守るために、士郎さんも死なせないために、悪を行う……! それから逃れる事は許されないのだと、逃げてはダメなんだと……ッ!!」

 

夕映さんはそれで少し黙り込んでいましたが、少しして、

 

「…………その通りです。ですが、ネギ先生が言う悪とはネギ先生だけが背負うものではありません。背負うのに辛いというのなら、私達も一緒に背負ってあげます。それが責任というものですよ」

 

そして夕映さんが一週間後のタカミチから聞いたという話を話してくれました。

 

『もし君が失敗したとしても、世界が終わるわけじゃない。君一人が責任を感じることはない。一人ですべてを背負おうとするんじゃないぞ? そして頑張れ!』と…。

 

そのタカミチの言葉でさらに僕の想いは固まりました。

それで夕映さんに感謝の言葉を述べました。

 

「あ、ありがとうございます! 行ってきます!!」

「はい。頑張ってきてくださいです!」

 

それで僕はもう迷いもない顔で超さんのもとへと向かって旅立ちました。

まずは世界樹前広場に向かってまだ占拠されていない巨人を止めないとだよね!

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

……もうすでに世界樹前広場以外の起点はスクナもどきに占領されてしまった。

そして世界樹前広場も今か今かとスクナもどきが迫ってきていた。

士郎の『巨人殺し』で串刺しにされてしまっていたが、それでもそれを力づくで時間をかけてへし折って、胸に剣を生えさせながらも世界樹前広場まで動きは遅くても、しかししっかりと歩いてくる。

 

『ま、マズい! これは非常なマズい展開です! ここ世界樹前広場を除く5つの防衛ポイントは敵の巨人に占領されてしまいました!』

 

朝倉の必死な、それでも的確な実況が響いてくる。

 

『あとは残るこの場を占領されれば全て終わってしまいます! となれば我々の負け! ジ・エンドです!! バットエンドです!!』

 

そういう実況が響いてくる中で、まだ生き残っている裕奈や他の生徒達が立ち向かっていた。

 

「何言ってんの、朝倉! ここのロボ達はあらかた制圧したっての!」

 

裕奈の言葉に他の生徒も「応ッ!!」と返事をする。

それを朝倉も感じ取ったのか、

 

『ですが、まだ希望は残されています! この状況を挽回するチャンスはあるのです! 世界前広場を占領される前に敵の首領、超 鈴音を発見して捕獲するのです! それがこの絶望的な状況を挽回する最後の手とも言えます!』

 

朝倉自身、このピンチに、そして未来の情報で時間が限られている事もあり、手段を選んでいられなかった。

出来る事はすべてする。

そうしなければこの日常も守れない。

使うものはすべてを使って見せると!

そしてなにかの映像を空に投影する。そこには魔法陣が描かれていた。

 

『ラスボス超はゲームエリア内のどこかの屋外に直径30mほどのこの映像のような地上絵の上で待っているとの事です! 発見者、捕獲者それぞれに例年以上の特別褒章金が授与されます! みなさんは奮ってご参加ください! というかしてください!! でないと結構大変な事になるかも!!?』

 

最後はもう本音が出てしまっていてなりふり構わないという感じが板についてきた朝倉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんななかで、天文部所属の千鶴はというと、望遠鏡を覗き込んでいて、

 

「あれはなにかしら……?」

 

と、空高くに浮いている飛行船の上に先ほど朝倉が示した魔法陣が浮かんでいるという事に気づいて、

 

「…………夏美ちゃん。見つけちゃったかも」

「へ……? なにを?ちず姉…」

 

という感じですぐに情報が朝倉へと伝わっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そして世界樹前広場へと場面を戻して、胸を剣で貫かれながらも口で攻撃してくるスクナもどきに裕奈達は勢いを止める事が出来ずに少し諦めの気持ちを抱いた瞬間だった。

まるで暴風が雷を帯びたかのような渦がそのスクナもどきを貫いた。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

身体を真っ二つにされながらも地面に落下していくスクナもどきを横目に、全員がその方へと顔を向ける。

そこには、杖に跨って空を飛んでいるネギの姿があったのだ。

 

「ネギ君!?」

 

裕奈が驚いている中で、朝倉がマイクを使わないで大声で叫ぶ。

 

「ネギ君! 超は世界樹直上、4000mの飛行船の上にいるって!」

「わかりました、朝倉さん!」

 

そこで朝倉が真剣な顔になって、

 

「ネギ君。君が今何をしようとしているのか、理解しているの?」

「そのつもりです!」

「それならよし! 行ってきな!」

「はい!!」

 

と、そこに遅れてやってくる赤い男。

 

「ネギ君!!」

「ッ! 士郎さん、ご無事ですか!?」

「ああ。それより…その顔はもう覚悟は完了しているという事かね?」

「はい! 僕は悪になろうとも超さんの悪事を止めます!」

「わかった。ならば俺もそんなネギくんの助けになろう!」

「ありがとうございます!!」

 

二人のそんな短い会話。

それでももうお互いにこれ以上は話すことはないとばかりに顔を空に向ける。

そんな時に裕奈が叫んでくる。

 

「ネギ君! さっきのはなに!? それに士郎さんも……どうやって空に飛んでいるの!?」

 

そんな裕奈の叫びにネギと士郎は顔を見合わせて一言。

 

「……CGです」

「……CGさ」

 

と、あくまで演出であるという趣旨を盛り込んだ言葉を発したのであった。

そして、

 

「行くぞ、ネギ君!」

「はい! 士郎さん!!」

 

二人は空へと向かって飛び立っていったのであった。

 

 

こうして超との最終決戦がいよいよ始まろうとしていた……。

 

 

 




オリジナルも交えた原作のネギによる答えを書きました。
こうして書いてみましたが、これが終わった上で士郎の過去を見るって、それどんだけーな感じですね。覚悟は決まった後ですから大丈夫だとは思いますけどね。



追記

士郎たちの件はゆえのあながち間違っていない妄想にしました。


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071話 文化祭編・開催3日目(06) 超との決戦

更新します。
10万UAありがとうございます。


 

 

 

 

 

『さぁ! 生き残っていたヒーローユニット! 噂の麻帆良中の子供教師、ネギ・スプリングフィールド(10)!……それと同じく麻帆良中の子供先生の補佐をしている副担任教師、『死の鷹(デスホーク)』衛宮士郎(23)! 奇しくも同じクラスを担任しているこのお二人が生徒でありラスボスの超 鈴音の待つ麻帆良学園の上空4000mの空へとともに駆け上っていきます!!』

 

朝倉の実況でおおいに盛り上がる参加者の生徒達。

 

「すげー演出だな! どうやって飛んで行っているのかわかんねー!」

「ホラ! あの二人ってまほら武闘会で活躍していた!」

「ああッ!子供先生!」

「ネギ君!」

「いっけぇーーー! 子供先生にレッドの兄ちゃん!!」

「デスホークッ!!」

「エミヤーーーンッ!!」

「いやぁ! もう今年のイベントも満足だな。臨場感が半端ねぇ!」

 

次々と二人を応援する言葉がそこかしこで飛び交う。

それで3-Aの生徒達もモニターを見ながら、

 

「ネネネネ、ネギ先生かっちょいい! 士郎さんも劣らずに!」

「ううぅ! 確かに二人ともカッコいい! いい役貰ってんな。ネギ君に士郎さん!」

 

風香や裕奈達がそれで頬を興奮からか赤く薄っすらと染めながらもモニターで映し出されているネギと士郎の二人に視線が釘付けになっていた。

だがそこで朝倉がまだ続きを言うかのように、

 

『ところがどっこい! このゲームはまだ終わっていません! このゲームに正式なシナリオなぞ用意されてはいないのです! ラスボス役の超 鈴音も負けるつもりは全くない! とのこと!!』

 

そしてモニターには超の顔とネギ、士郎の顔が映されて間にVSという文字が敷かれて、

 

『このままいけば今年度まほら武闘会準優勝のネギ選手と、そして惜しくも3位内に入れなかったものの、それでも健闘して見せた衛宮選手 VS まほら武闘会主催者にして自らも北派少林拳の使い手である超 鈴音によるガチバトル!!』

 

それでさらに盛り上がる一同。

 

『さらにはゲームの行方が分からないのは参加者の皆さんもその身に体験してご存じのはず。いまだにロボ軍団は健在。世界樹前広場の残すエリアは現在進行形で狙われています! 戦わないで済むと思うと痛い目を見るぞ!? 賞金が欲しかったらまだまだ暴れろ! 若人達!!』

 

それを聞いて黙っていられないのが麻帆良生徒達。

目をキランと光らせてロボ軍団の残党を狩りだし始める者も後を絶たない。

 

 

 

 

 

 

 

 

空の上ではネギと士郎が空へと向かって加速していた。

だが、そこに行く手を阻む邪魔者の姿が現れる。

茶々丸の姉妹達や田中さんの空戦タイプが二人に向けて時間跳躍弾をいくども放ってくるのだ。

 

「ッ!」

「ネギ君、ここは俺が任されよう! 君は超のもとへと向かうんだ!」

「すみません! 士郎さん!」

 

それで士郎がロボ達と戦っているのだが、ネギの行く手を阻む攻撃が幾度もさらされて、ネギは避けきれないコースに立たされて、思わず『やられる!?』と思った瞬間であった。

そこに黒い塊がロボ達を攻撃していた。

それはよく見れば狗神だったのだ。

そんなものを放てる人物と言えば、

 

「たっく……この程度の雑魚に手こずるやなんて……弛んでるんやないか? ネギ!?」

「こ、コタロー君!!」

 

そこにはなにかの術で空へと飛んでいる小太郎の姿があった。

さらには!

 

「はぁ!」

「やぁ!」

 

白い翼を羽ばたかせてロボ達を切り刻んでいる刹那と、どうやってここまで来たんだ……?というツッコミはこの際野暮だろうという感じのアスナの姿があった。

 

「アスナさん! 刹那さん!」

「無事だったか、二人とも!」

 

なんとかその場に合流できた士郎もやってきて安心の笑みを浮かべる。

 

「はい! 一回は超さんにやられましたが、お嬢様の治癒でなんとか回復してここまで来ました!」

「もう! ホントにこのかってばいつの間にあんなに力を付けたんだか……それより力になるよ、士郎さん! ネギ!!」

 

それでおそらくその場には箒に載っている美空の姿があったために、アスナもなんとか箒の上に着地していたのだが、やはり魔法無効化(マジックキャンセル)がいかんなく効果を発揮しているためにまるでガス欠のように箒の飛行能力が低下しているので内心涙目になっている美空であった。

 

 

 

…………地上ではこのかと、そしてイリヤとランサーの三人が空を見上げていた。

 

「はぁ……。なんとかなってよかったわね。コノカ」

「はいな。せっちゃんにアスナも間に合ってよかったえ」

「それにしても……もうやりたい放題だなぁ…。魔法の秘匿とかそんなもん隠してねーじゃねーか。だが、それでこそ面白いってもんだぜ。やっぱ全力で挑めねぇとやる気でねーもんな」

「そうね、ランサー。それより私達もそろそろ準備しましょうか。コノカ、移動しましょう」

「はいな! イリヤさん」

 

それで三人も空に向かおうとしていた。

移動手段はなんとか確保しているために。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、空には生き残っていた魔法生徒や教師達がぞくぞくと集結しつつあって、アスナがそんな中でネギに対して叫ぶ。

 

「ネギ!! あんた今から超さんのところに向かうんでしょ!!? その、色々と大丈夫なの!?」

「アスナさん……」

「あんたがこの学園から……私達の前からいなくなったら承知しないんだからね! 超さんをぶっ倒してきなさい! 士郎さん、ネギの御守りもお願いします!」

「任された!」

 

そして刹那と小太郎も、

 

「ランサーさんとの修行で少しは強くなっていた気がしたんですが、それでも負けてしまいました。申し訳ありません……ですが、ネギ先生に士郎さん。超さんをお願いします!」

「はよ行けやネギに士郎の兄ちゃん。ここは俺達に任せておけ」

 

それでネギは感極まったのか、

 

「アスナさん! 刹那さん! コタロー君! この場はお任せします! 士郎さん、行きましょう!!」

「了解した!!」

 

その場をアスナ達に任せてネギと士郎は飛行船へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

そして、飛行船の上では葉加瀬聡美が詠唱を続けていて、

 

「世界中のすべての聖地と同期完了しました。あとは世界樹前広場を占拠するだけです……とうとうここまで来ましたね」

「そうネ。よし……ハカセは最後の魔法詠唱に入ってクレ」

 

一緒にその場にいた超が聡美にそう指示を出していた。

問題なければあとは11分6秒で呪文詠唱は終了するという。

だが、聡美はそこで不安げな顔になり、

 

「でも、本当にいいんですか? 超さん、この計画を完遂してしまって……」

「ああ……いや、もうこの場面において計画の可否を決めるは、どうやら私ではなく……彼達ネ」

 

超が顔を向けた先にはネギと士郎の二人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

side 衛宮士郎

 

 

とうとうここまでやってきたという感じか…。

未来では一回超によって敗北を喫してしまったらしいが、ここまで来たら負けてやれないな。

しかしここまでやってくるまでにネギ君の説明を受けていたために。

 

「…………士郎さん。まずは僕に任せてください。超さんの時間跳躍を破れるのは僕の持っているカシオペアだけですから」

「だが、もうあと数回と言ったところだろう。大丈夫かね……?」

「大丈夫です。任せてください!」

「わかった。君を信じよう。ネギ君……」

「ありがとうございます!」

 

もうそこには前までの弱気な顔のネギ君の姿はなく、立派に成長して覚悟が完了している顔をした男がいた。

これなら、もう安心だろうか……?

そして俺達は超と葉加瀬の前へとやってきた。

 

「よくここまで辿り着いたネ、ネギ坊主にエミヤ先生。そして、ネギ坊主……“これで君は私と同じ舞台に立った”」

 

そう言う超。

おそらく、超は未来から戻ってくるまではネギ君を敵対対象としても見ていなかったのだろうな。

さて…どうする、ネギ君……?

超も俺と同じ感想に至ったのか、

 

「さて、それでどうする? ネギ坊主。あ、でもエミヤ先生とはあまり戦いたくないネ。もしかしたら反則しても負けそうネ」

「さて、それはどうかな…? だが、今は大人しくしていよう。ネギ君にも任せてくれと言われているのでな」

「それは助かるネ」

「だが、個人的にはナギさんが未来に託したエミヤを利用した事の件についてお灸を据えたいところなのだがな…」

 

それを聞いた超は少しばかりの汗を垂らしながら「タハハ……」という苦笑いを浮かべている。

 

「士郎さん……? なんでそこでお父さんの名前を…?」

「それは後で話そう。さ、今は集中するんだ」

「はい! 超さん、あなたを止めます! 今度こそ!!」

 

それで超もその気になったのか、

 

「よかろう。それではお相手するネ。私も私の思いを通すために持てる力を存分に揮うとしようカ!! 行くヨ!!」

 

超の視線が鋭くなった。

と、その瞬間に俺の解析の目が超の着ている戦闘服を勝手に解析しようとしていた。

秘められている魔力に反応したのか……?それはともかく、解析が進んで超の服の背中部分にはネギ君のカシオペアと同じものが埋め込まれているらしい。

 

と、思った途端にそれは起こった。

 

一瞬にしてネギ君の背後に現れる超。

しかし、ネギ君の姿もまた一瞬にして掻き消えて超の背後に回っていた。

…………なるほど。あれが時間跳躍を戦闘に応用した時の光景なのか。

ネギ君の肘打ちが超の腹に決まって吹き飛ばされる超。

だが、また一瞬にしてネギ君の背後に現れて、ネギ君に時間跳躍弾を当てていた。

普通なら焦るだろうが、対策は出来ているだろうからすぐさまネギ君は違う場所へと姿を見せる。

 

 

それをはたから見せられている俺と葉加瀬の顔は驚きに彩られているだろう。

まるで、そう……それは二人とも瞬間移動を繰り返しているように様々な場所に現れては戦闘を繰り返しているのだから。

俺の目にも追えないほどの域の戦い…。

 

 

 

 

そして一旦、二人は離れていて超はカシオペアを使いこなしているネギ君の事を褒めていた。「さすが私のご先祖サマネ」と。

するとそこでネギ君は急に饒舌になってカシオペアの事を説明しだす。

なにを焦っているんだ、ネギ君。

カシオペアが故障仕掛けているのを悟られないためか?

だが、それは超にあっさり見抜かれていたために、

 

「どうしたネギ坊主。やけに饒舌じゃないカ。“らしくないヨ”」

「ッ!」

「なにか焦りから来る隠し事でもあるノカナ? いや、違うね……この戦いを早く終わらせたい理由があるのか―――――ナ?」

 

超はネギ君の背後に時間跳躍して、ネギ君の手を掴み、その眼で故障仕掛けているカシオペアを見たのだろう、ニヤリという感じの笑みを浮かべて、

 

「やはり……」

 

ネギ君はすぐさまに離脱したが、手の内もバレてしまった。

まだまだ交渉ごとに関しては甘いな。

 

「ネギ君。手を貸そうか?」

「いえ、大丈夫です。信じてください…」

「…………」

 

それで無言で再度頷く。

 

「そのカシオペア。よくて後三回……悪くて後一回すれば使い物にならなくなるネ」

「一撃あれば十分です……」

 

そう啖呵を切るネギ君。

ふむ。まぁ一回見せてもらった時に解析はしてあるので、質は落ちるがカシオペアを投影できないこともないのだがな…。

いまここでそれを言っても藪蛇だろうな。

 

そこで超が一旦待ったを掛ける。

そしてネギ君に問う。

 

「もうネギ坊主はわかているはずネ。私の計画が意味するものを……私の同志にならないカ? 悪を行い世界に対して僅かながらの正義を成そう」

「…………ッ!!」

 

それは甘い誘惑の言葉。

これに対してネギ君はどう答えるか?

しかし、俺の予想が正しければ、もうネギ君は―――……。

 

「隙アリネ…………!」

 

超はネギ君が動揺したと勘違いしたのだろう。

ネギ君の背後に時間跳躍弾を構えて現れていた。

しかし俺はその一瞬を見逃さなかった。

笑みを浮かべて叩かれる前に時間跳躍するネギ君の姿を…!

そして、決定打が決まった。

 

まだ浅いが超の背中のカシオペアに一撃を与えているネギ君の姿を。

そこからまた時間跳躍する二人。

だが、もうネギ君の優勢は変わらず、

 

「ああっ!!」

 

ネギ君の雷華崩拳が炸裂して超のカシオペアは完全に破壊されて、さらにその余波で飛行船に叩きつけられている超の姿がそこにあった。

 

「決まったな……」

 

もうこれで超にネギ君に敵う術は失った。

あとは超が諦めてくれればいいのだが…。

だが、まだやる気のようで叩きつけられた衝撃から上がる粉塵の中から這い出してきた超に対してネギ君は、

 

「超さん……僕はあなたを否定はしません、できません……きっと超さんなりに考え抜いた結果がこの計画なのですから……それでも、僕はあなたの仲間にもなりません!!」

「フ……君ならそう言うと分かてイタヨ」

 

そう話す二人。

と、そこにようやくヘリが飛んで来たのか実況を開始しだしていた。

今頃地上ではネギ君の優勢な姿に場は盛り上がっている事だろう。

だが、超もまだやられていないという意思を前面に出してネギ君へと挑んでいく。

何度も手持ちの武器や時間跳躍弾を放って攻撃してくるが、それでももうネギ君は見切っているようで決定打に欠けていた。

そしてネギ君はこう言った。

 

「魔法が使えない以上あなたは僕に勝てませんよ! 超さん!!」

 

それを聞いた俺はそこで嫌な予感に襲われる。

超はこう言った。

 

 

『私はネギ坊主の子孫ネ』

 

ここから導き出される答えは……。

超はネギ君の魔法の力を受け継いでいてもおかしくない。

そして嫌な予感が当たってしまったのか、

 

「魔法、ネ……さぁそれはどうカ?……コード、『■■■■■』呪紋回路解放、封印解除……ラストテイル……マイマジックスキル・マギステル」

 

瞬間、超からとてつもない魔力が吹き上がる。

しかも超の体のいたるところに刻まれているあの紋様は、まるで魔術回路のようで!?

 

「……契約に従い我に従え炎の覇王。来れ浄火の炎燃え盛る大剣……」

「まさか!? 魔法!?」

「私が魔法を使えるのがオカシイカ? 私はネギ坊主……そしてあのサウザンドマスターの子孫ヨ?」

「チッ!!」

 

俺はすぐさまネギ君の前へと飛び出ていく。

 

「士郎さん!?」

「今は俺に任せてくれ!」

 

間に合うかは分からん! だが今やらずしていつやるという!

 

I am the bone of my sword(体は  剣で 出来ている)―――…………ッ!!」

「いいネ。エミヤ先生! ほとばしれよソドムを焼きし火と硫黄。罪ありし者を死の塵に……!!」

 

そして俺は手を掲げた。

あとは唱えるのみ。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)――――ッ!!」

燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)ッ!!!」

 

とてつもない熱波の爆風が七つの花弁と衝突する。

その強烈な魔法は花弁を次々と破壊していく。

俺だけならまだしもこのままではネギ君を巻き込む!

 

「うおおおおおおおおおーーーーーっ!!!!」

 

それで負けてやれんというばかりに裂帛の叫びを上げる。

そして魔法が収まった後にはなんとかアイアスの盾が一枚残っているという結果に相成った。

 

「くっ……! やってくれる!」

「大丈夫ですか、士郎さん!?」

「なんとかな……しかし、今のでごっそり魔力を持っていかれた。ネギ君、すまないが後を頼む…」

「すみません……ありがとうございます!」

 

それでネギ君は超のもとへと向かっていく。

しかし、本当に超のあの魔術回路のようなものはなんだ……?

あれは、まるで人工的に呪紋処理されているような……いや、あれが超の未来の科学だというのか!?

あれはもう人の業の技だぞ!!

あんなものを施されている超は魔法を使うたびに激痛に苛まれているのか苦しい表情になっていた。

ネギ君はなんとかその力を止めようと説得しているが、もう超はきかんぼうになってしまっていて、

 

「二年だ……この二年で私は今回の計画を練りに練ってきた! この計画は私のすべてと言っても過言じゃナイ!」

 

そこには倒れそうになりながらも、必死に立っていて今にも泣きたいのに意地を張っている超の姿があった。

 

「そして、エミヤ先生の未来の存在である英霊エミヤをも戦力の駒として利用してしまった私はもう引き返せない! さらには一回でも未来ではエミヤ先生を死なせてしまた……だから、もう私は立派な悪人……だからそう簡単には止められると思うなヨ! ネギ坊主!!」

「ッッッ!!」

 

そんな、超の後悔のような叫びを聞いて、そしてそこで初めてこのか達が隠していた俺の死という事実があったことに俺は頭を殴られたような衝撃を受けた……。

そうか……必死に俺に知られないようにしていたんだな…。

思い出すのは今にも泣きそうになっていた一同の表情…。

察してあげられなくてすまなかったな、みんな…。

 

それからしばらく魔法戦が続いたが、ネギ君も覚悟が決まったのか最後の一撃を決めるような顔になって、超もそれを察したのかネギ君と向かい合う。

 

「やっと本気カ。そうだ…それでいい…ネギ坊主。この計画を止めたくば私を力で捻じ伏せてみるがいい。むろん完膚無きまでにな」

「…………」

 

それで一回ネギ君は超に問いかける。

3-Aのみんなと過ごした時間は超にとってなんだったのかと……。

それに対して超は、

 

「とても、とても楽しい二年間だたヨ。唯一の計算違いという言葉が当てはまるほどには……だが、それは私にとてはとても儚い夢のようなものだたネ……それにエミヤ先生にもできるなら精一杯謝罪したいヨ」

「できます。まだ、間に合います…」

「できたら苦労はしないネ……もうおしゃべりは終わりヨ」

 

そして二人は一瞬だが無言になった後に、始まる最後の一撃の打ち合いが。

 

 

「ラスト・テイル……マイ・マジック・スキル・マギステル!契約に従い我に従え炎の覇王!!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!来たれ雷精風の精!!」

 

二人の手に力が集束していく。

 

「来れ浄火の炎燃え盛る大剣、ほとばしれよソドムを焼きし」

「電を纏いて吹きすさべ南洋の嵐!!」

 

さきほどの呪文でわかったが、まだ詠唱途中。

それに対してネギ君はあとは放つのみ。

威力はランクが違いすぎるが、それでもネギ君の方が早い!

 

「ああああっ!!」

「火と硫黄。罪ありし者を死の塵に……!!」

 

そして先に放たれたのはネギ君の方だった。

 

「『雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)』ーーーッ!!」

「『燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)』ーーーッ!!!」

 

二つの魔法が激しい衝突を起こして、それに伴い術者であるネギ君と超にも相当の負担を強いる。

そしてしばらくの拮抗のあとに、ついに超の額の呪紋が砕けて、それで一気に力は弱まり、超は雷の暴風に飲み込まれていったのであった…。

 

 

 




これで次回は余韻を残しつつ学園祭の終わりが近づいてきていますね。




そういえば、UQの新刊が来たので見たのですが、チートキャラだなーとは思っていた獅子巳十蔵なのですが、概念を斬れるとか言っていてマジで刀太とニキティスのりんごという概念を吹き出しごと斬っていてどこのギャグマンガだ!?と思いましたね。
恐ろしいのはおそらくこいつがいれば型月世界の概念礼装がほとんど意味をなさない事になるという恐怖…。英霊や死徒すら切っちゃうよ、こりゃ…。
そしてなにより今もどこかで闊歩していると考えると、ネギま世界は型月世界よりもしかして恐ろしいのでは?ないかという疑問が生まれましたね。

そして赤松先生はこんなホルダーメンバーすらもそのうち『くっ……強い!』とか言わせてしまう敵を出してしまうんだろうなと考えると末恐ろしい…。


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072話 文化祭編・開催3日目(07) 学園祭の終わり・超の旅立ち

春はあげぽよ(更新します)


 

 

 

 

 

最後の魔法の打ち合いでからくもネギは超に勝利した。

それを見届けていた士郎は、

 

(なんとかなってよかったな…。傷ついた超もネギ君がなんとかキャッチしたみたいだからな)

 

そんな時に空へと打ちあがる特大の光が伸びていったのを見て、

 

「まさか、間に合わなかったのか!?」

 

それはまさしく強制認識魔法の光であった。

今からではもう士郎のルールブレイカーを以てしても間に合わないであろう。

なにせ世界中とリンクしているものを士郎一人が解呪するには一人分の魔力ではとうてい割に合わないからだ。

 

「しかし……六ケ所の起点は一つは防衛できていたはず……」

 

そんな事を考えている間にもネギの魔力も底をついたらしく超を抱えながら落下していく。

 

(ええい! ぐだぐだと考えている暇があったらまずはネギ君と超を助けねば!)

 

それでなんとか飛ばす士郎であった。

しかし、そこで目にしたのは一台の空を飛ぶ屋台の姿が……。

 

 

「あれは……?」

 

見ればそこにはイリヤや裕奈達といったメンバー達が乗っているのを確認し、

 

《シロウ。もう心配はいらないわ。ネギの方は任せなさい。コノカもいることだしね》

《しかし……強制認識魔法が発動してしまったのだろう? そんなに平然としていて大丈夫なのか…?》

《そこらへんももう平気みたいよ。なんか、裏の方でチサメが頑張ってくれていたみたいでギリギリ防衛で来たっていう話だし……》

《長谷川が? しかし、どこでそんな情報を……》

《サツキに聞いたのよ。だからシロウはそこでゆっくりしていなさい》

 

そこでまさか五月の名前が出てくるとは思っていなかったために、士郎は面を食らうことになったが、それならば大丈夫なのだろうと思い、葉加瀬の傍へと寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ネット世界で戦いを繰り広げていた千雨と茶々丸といえば、茶々丸に超の過酷な未来での話を聞かされていた千雨であったが、

 

「超が思う夢の世界だかなんだか知らねーが、今この世界が私達の居場所で現実なんだよ! 私は私の現実を守る!! あんたらの好きにはさせねー!!」

 

そして勝利宣言ともいえるエンターキーを押した千雨であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上では、猛威を揮っていたスクナもどきが次々と消滅していっていた。

それを葉加瀬は残念そうに見ながらも、

 

「葉加瀬。どういうことだ? 強制認識魔法が発動されたのだろう?」

「はい。でもー、超さんがネギ先生に負けた時点で私達はすでに負けていたんですよー」

『どーいうことだ!?』

 

そこに千雨のモニターが映り叫んでいた。

そしてそこに割り込むように茶々丸が顔を出しながら、

 

『超さんがネギ先生に負けた時点で強制認識魔法は別のプログラムに書き換えられる事が最初から決まっていました』

「その、書き換えられた内容は……?」

 

士郎が茶々丸に問いかける。

果たしてその内容を聞いた士郎は少々間抜けな表情になりながらも、

 

「なるほど……『今日一日せめて明日一日憎しみも悲しみもなく、世界が平和であるように』……か。本当にたいした子だな。超は……とんでもないロマンチストではないか」

「はいー。そこが超さんのいいところなんですよ。そこを甘いと断じますか? 士郎先生?」

「いや、実に潔くていいではないか。明日まではどこでも戦争や争いは起きない……それだけでどれだけの人が一時とはいえ助かる事か……」

 

それで士郎は今でも3-Aのみんなにもみくちゃにされている超を見ながら、本当に心から賞賛していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そして、地上では。

 

 

『さぁ!皆さん!!敵火星ロボ軍団も参加者のみなさんの労力もありあらかた壊滅!! 巨大なロボも同じく消滅しました!! さらに、ラスボスである超 鈴音がガチバトルで子供先生に敗れました。ということは……?』

 

あちらこちらで「ということは?」とオウム返しをしている生徒がいっぱいいた。

その変化は世界樹の頭上まで高昇っていった光が激しく世界中に飛び散る光景を目の当たりにしながらも、朝倉は万感の思いを込めながら宣言する。

 

『我々学園防衛魔法騎士団の完全勝利です!!!!』

 

その言葉によってそこらじゅうで歓喜の雄叫びを上げるものが後を絶えない。

 

 

「やったーーーー!!!!」

「今年は存分に楽しませてもらったぜ!!」

「最後も綺麗だな!! 最高の演出だな!!」

「子供先生ありがとー!!」

「エミヤーン!! よくぞ子供先生を守ったな!!」

 

 

と、もう狂喜乱舞者が後を絶えない状況で、それを一般客として見守っていた衛宮一家は、

 

「ねぇねぇお父様!! お兄ちゃん、かっこよかったね!!」

「ははは。そうだねイリヤ」

「俺もあんなカッコいい事いつかしてみたいぜ!」

「シロウには無理よー!」

「イリ姉、そりゃないよー!」

「フフフ……」

 

はしゃぐイリヤに、多少苦手意識はあるものの士郎の事を尊敬しだしている士郎。アイリは穏やかに笑みを浮かべて、切嗣はそんな三人を見ながらも心の中で、

 

(士郎…お疲れ様だったね。きっと、こんなイベントの裏では世界存亡の戦いを繰り広げていたんだろう? 関係者である僕から見たら普通にガチバトルだったからね…)

 

いつかまた会う事があったならねぎらいの言葉を贈ろうと思う切嗣であった。

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

学園祭最終イベントも無事に終了して、強制時間跳躍弾をくらった者たちが次々と姿を現し始めていて、

 

「まさか……そんな事になっていたとは…」

 

事のあらましを生き残っていた者たちに聞いていた負けてしまっていたガンドルフィーニや刀子などはネギ達の活躍で世界に魔法がバレる事を未然に防げたことを知り、非常に驚いていたという。

 

「では、士郎さんも御無事なのですね?」

「ああ。今もピンピンしているよ。士郎が死ぬという最悪の未来はなんとか回避できたみたいだ」

 

タカミチは笑みを浮かべながらもそう語る。

周りでは後夜祭が盛大に開かれていてあちこちで騒ぎまくっている生徒達がたくさんいた。

忘れがちだが、知らない場所でガチで戦闘していた楓と龍宮の二人も同時に転移してきたのか引き分けになった事で笑みを浮かべ合っていた。

…………だが、それとは別に二人が戦いで使用した武器各種が転移で次々と地面に刺さってきていて、それをまだゲームが終わっていないと勘違いした生徒達が喧嘩だ喧嘩!と勝手におっぱじめていたりするのは全くの余談である。

当然、タカミチが目を光らせながらデスメガネ降臨とばかりに成敗していたのもまったくの余談である。

一般人から見たらタカミチは等しくターミネーター的存在なのは間違いない事であった。

 

 

 

 

 

 

 

…………そんな騒ぎの中、ネギと士郎は超が立っている場所へと赴いていた。

 

「超さん…………行ってしまわれるんですか?」

「ああ。ネギ坊主。私の戦いは終わたネ。もうココには用はもうないヨ」

 

それでネギは少し押し黙った後に、

 

「一つ聞かせてください」

「ん…? なにカナ?」

「あの呪紋処理の事です」

 

それを聞いて超はやはりといった顔になり、「ああ…」と声を上げていた。

 

「あれは……超さんがやったものではないんですよね…?」

「…………」

 

超は無言。

だがそれだけでもう答えは出てしまっていた。

やはりと思うネギ。

士郎も同じ感想なのか納得といった感じで頷いていた。

 

「あれは正気の人がやったものとは思えません! あれは人の肉体と魂を食らってそれを代償に力を得る狂気の業です!いったい誰があなたにそんな事を!!」

 

ネギが叫ぶが、超は受け流すがごとく、未来の事は教えられないとはぐらかした。

それでネギがさらに叫ぶが、超がこう言う。

 

「誰かの過去を知ることによって誰かの事を理解できると思わぬコトだ。私を知りたければニュースなどを見るがいい。そこら中にそう言う話題はわんさかしていると思うネ」

「超さん……」

「そして私からの忠告だ」

「忠告……?」

「おそらくネギ坊主はこれが終わった後にきっとだがエミヤ先生の過去を見せられると思う」

 

それで士郎は反応を示す。

だが無言で超の言い分を聞いていた。

 

「それでエミヤ先生の過去を見てきっとネギ坊主は憤慨するであろう。それだけの過去をエミヤ先生は秘めているネ…」

「…………」

「だからといってエミヤ先生の事を完全に理解できたと思わぬコトだ。ネギ坊主の人生が辛かったようにエミヤ先生やイリヤさんにも辛い過去がある…。だれしも一つや二つは辛い過去を持ってるネ。そこのところだけは分かっておいてほしいヨ」

「…………わかりました。肝に銘じておきます」

「それならよし、ネ。さて、それでは私はもう退散するネ」

 

そう言って超は予備であろうカシオペアを出して、消えようとしていたが、起動する前にネギに押さえられていた。

それに驚く超だったが、ネギはさらに驚くことを言い出す。

 

「すべてだなんて嘘です。儚い夢だなんてそんなハズありません。だから……超さん。僕と一緒に『偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)』を目指しませんか…?今は同じこの時代を生きる人間ととして……なにも帰ることなくこの時代で一緒に未来を変えていく事もできるはずです。

それを誰にも文句を言われる事なんてないんです」

「…………」

 

ネギの言い分を聞いて超は夢想する。

そんな事が出来たらさぞ楽しかろうか、と…。

だが、

 

「そんな未来もいいものカモしれぬ」

「それじゃ!」

「いや、帰るネ!」

「どうして!?」

 

それで聞いていた一同も思わずこけそうになっていた。

反対に士郎やイリヤ、ランサーは同意していた。

 

「なぁ坊主。引き留めたいと思う気持ちはわかるがな……所詮は違う世界の人間なんだぜ? いつかは消えなけりゃいけねぇ……そこに人間も、そして英霊である俺も違いはねぇ…」

「ランサーさん……」

「いついかなる時でも世界をどうにかするのはその世界で生きている人間だけの特権だ。そこによそものが口を出していいもんじゃねぇ。本来なら過去の亡霊である俺も手は貸してはやらねぇんだぜ?」

 

マスターの命令なら手を貸すのも吝かじゃねーがな、と付け足すランサー。

そんなランサーの言い分に感銘を受けたのか超が、

 

「さすが、英霊ともあれば言う事もおおいに頷けるネ。さすがヨ」

「まぁな。ま、そんなことよりアーチャーの野郎の件はどうなったんだ?」

「そこはエミヤ先生にでも聞くがよいヨ。きっと私の件の事も知っていると思うネ」

「そうかい」

 

それでランサーは引き下がった。

そこに士郎が引き継ぐように、

 

「超……本来なら俺はお前の事を許せないと思う。かの人の願いも込めて未来へと託されたエミヤをああも好きなように弄ってしまって……本来ならもっときつく罰を与えるところだ」

「そうは言うが、別段ナニモ言う事はないみたいネ?」

「まぁな。そこはネギ君が君を倒してくれたから、だからチャラにしてやってもいい。君の負けた後での理念も潔いものだったしな。だから後はネギ君達とお別れでもするがいいさ」

「感謝するネ…。さて、ネギ坊主、ここまで他の人に言われてもまだ決心はつかぬカ?」

 

そう超に問いただされたネギであったが、ネギは存外頑固なので傲慢だと言われても超の事をどうにかして引き留めたいと思う。

それに超は「やれやれ……」とかぶりを振って、

 

「仕方がない……。ここまでくれば後は私の最終兵器を使わないといけないネ」

「さ、最終兵器……?」

 

超の言い様に傍の方で聞いていた茶々丸と葉加瀬は「そんなものありましたっけ?」「さぁ…?」と首を傾げていた。

果たして超が出した最終兵器というべきものは、

 

「これネ!」

 

一冊の本を取り出した超が持っている本の題名はこう記されていた。

 

 

 

『超家家系図』

 

 

 

「私がネギ坊主の子孫という事は、当然ネギ坊主はだれかと結婚をして子をなしたという事……この本にはそのだれかの名前が記されている…さて、どう思うかネ? 皆の衆……」

「あ……」

 

 

「「「「「(究極兵器(アルティメット・ウェポン)だーーーーーッ!?)」」」」」

 

 

それを聞いていた全員は思う事が完全に一致し、戦慄の感情を抱く。

それはもしかしたらこの場にいる誰かの名前も書かれているかもしれないという事になる。

その事実に、ネギパーティの面々は一気に暴走して我先にと燃やそう、見ようという意見で対立してガチンコを始めてしまっていた。

あやかやまき絵も参戦して泥沼の様相を呈していた。

 

「…………パーティ壊滅だな」

「そうね、シロウ……」

「最後までとんでもねぇ嬢ちゃんだな」

 

もう案外関係ないであろう士郎達はそんな争いを傍観者として見ていた。

そんな乱痴気騒ぎに巻き込まれたくはないものだからな。

 

 

そんな騒ぎをよそに、超はさらっと帰ろうとしていた。

 

「やっぱり、行ってしまうんですか…?」

「うむ。いや……存外楽しいお別れになたヨ。感謝するネ」

「でも、それじゃ超さんの今までしてきたことは!」

「無駄じゃないネ」

「えっ?」

「私の想いは無駄じゃなかった。託せるものにも託せたカラネ。私の想いはすでに達せられているヨ」

「それは、どういう……」

「計画は消えたが、それでもまだ私は生きている……ならば、私は私の戦場に戻ろう…。ネギ坊主、君はここで戦い抜け」

 

それでみんなからもらったものを空に浮かべながら、空へとフワッと浮かんでいく超。

五月や葉加瀬、茶々丸にも言葉を残して後は消えるのみであったが、

 

「超!!」

「エミヤ先生? なにカナ?」

「お前には俺の干将莫邪を託したな。なにかあればいつでも呼べ。ならば力になろう…」

「ッ! 分かたネ。その時が来たら呼ばせてもらおう!」

 

そして古菲に対して超は「いつかまた再戦しよう!」と言い、古菲も「いつか、必ず!」と返していた。

 

次第に光が超のもとへと集束していき、

 

「さらばだネギ坊主……また会おう(・・・・・)!!」

「はい! 必ずまた会いましょう!!」

 

そしてついに超はこの世界から姿を消していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その後、後夜祭も終わり、一同が片付けに入っている中で、それでもネギは超が消えた空をずっと眺めていたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――こうして、波乱に満ちた学園祭は終了した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇―――――――――◇◆

 

 

 

 

 

…………分身体が倒されたことを知った言峰は、だがそれでも愉悦の笑みを浮かべつつ、

 

「さて、それでは私も今度は魔法世界で活動でもしてみるか。そちらの方がより面白そうだからな……」

 

 

ククク……と笑いつつ姿を消したのであった。

 

 

 




はい。これにて学園祭編は終了となります。
干将莫邪についても、士郎のオリジナルアヴァロンverですので、ピンポイントでこの士郎を呼べると思いますね。
次回は少し間を置いて士郎の再度の記憶編に入りたいかなと…。


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073話 記憶巡り編 学園祭後のお茶会

更新します。


麻帆良祭後の振り替え休日の二日目に俺と姉さん、ランサーはクウネル…もといアルビレオ・イマの住処に招待されていたので図書館島を経由してきていた。

 

「しかし……図書館島というのは実は魔法使いが作った裏世界であるというと言われても信じてしまうな…」

「そうだなー。師匠とかが実に興味を持ちそうだぜ」

「師匠というと……スカサハか」

「そうだな。この世界でも魔法の詠唱の一部に使われてんだからそら有名だろうよ」

 

ランサーの言葉でそうなのだろうなと思う。

ネギ君はまだ使えないそうだが、電系の魔法で引用されているものがあるらしい。

 

「それより、ここまで来たんだから聞けることは聞いておきましょう。どうせはぐらかされるでしょうけど、彼もエミヤの事は知っていそうだしね」

「そうだな」

 

まほら武道会でクウネルが変身したナギさんはエミヤの事を知っていた。

つまり、ネギ君にたいする遺書もどきを作成する前にはナギさんはすでにエミヤを召喚していたという事。

だから、クウネルも知っていてもおかしくはないからな。

 

それで住処に到着する。

途中ででっかいドラゴンに出会ったが、クウネルに貰った招待状の紙を見せたらおとなしく引いてくれた。

あんなものまで地下にいる麻帆良学園って……。

 

…………いらん考えは起こさないようにしよう。

怖いもの見たさで藪蛇をつついても良い試しがないからな、蛇だけに…。

 

そして入ってみるとすでにエヴァもいたのか紅茶を飲みながら寛いでいた。

 

「やぁやぁ衛宮士郎さんに皆さん。よく来てくださいましたね」

「遅かったじゃないか。と言ってもまだぼーや達も来ていないがな」

「ケケケ。」

 

相変わらずの微笑みを絶やさないクウネルとエヴァにチャチャゼロにそう言って迎えられた。

なので開口一番に聞こうと思う。

 

「クウネル。まだネギ君達が来ていないからちょうどいい。早速だが聞きたいことがあるのだが…」

「なんでしょうか…」

「ナギさんがエミヤを召喚していたのはお前は知っているのか…?」

 

俺の質問にエヴァは眉をピクリとさせていたが今は聞きに回っているらしく大人しい。

 

「そうですね。はい、知っています。ですが、どうしてあなたがそれを…?」

「なに…超がその封印を解いていたらしくてな。戦闘中に無理やり記憶を見せられたものでな」

「なるほど…」

 

それでしきりに頷いているクウネルであったが、そこで黙っていないのがエヴァである。

 

「なんだ。ナギの奴、どうやって士郎の一つの未来の可能性を召喚できていたのだ? 触媒とかこの世界には一切ないだろうに…」

「いえ。なんでも適当な魔法陣を敷いて魔力で強引に呼んだらしいですね」

「そうか…。それほど、ナギと士郎はなにかしらの縁があるということなのか…? それともたまたまか?」

「分かりませんが、おそらくたまたまでしょうねぇ…」

 

クウネルも実際分からないことだらけであるみたいで曖昧な言葉しか言っていない。

まぁ、それならそれでいいが、なら。

 

「それなら、クウネル。もう一つ……ライフメーカーという存在に聞き覚えはあるのだろう? なんでもナギさんが倒そうとしていた奴らしいが」

「ライフメーカーだと!?」

 

そこで意外にエヴァが叫んで苦々しい顔になっていた。

 

「エヴァは知っているのか…?」

「あ、ああ…。そいつは私を真祖にした張本人だ」

「えっ!? それが真実ならかなりの年季が入っているお年じゃない!」

「まぁな。アル……詳しく話せ。事と次第によっては私も動かんと行けないしな」

「んー……今は内緒という事でいいでしょうか?」

「くびるぞ……?」

 

それからエヴァとクウネルのやり合いが続いていたが、やはり言葉では勝てないらしく、悔しそうなになっているエヴァの姿がそこにあった。

 

「今はまだ、その時ではありません。その時になったらまた…」

「貴様がそこまで言うのであったら…だが、他にも知っていることがあるのだろう? 神楽坂明日菜の件とかな」

「まぁ……それは話しても構いませんが、まずお約束を。アスナさんの前では話さないで下さいね?」

 

それでクウネルがなにかを語ろうとしていたが、そこでタイミングが悪くネギ君達がやってきたのだ。

 

「来ました!」

「よく来てくださいましたね。ようこそネギ君、私のお茶会へ…お待ちしていましたよ」

 

それでネギ君達は礼儀正しく挨拶をしていた。

そして俺達の事も気づいたらしく、

 

「士郎さん達はもう来ていたんですね」

「ああ。それより他の面々もそのうち来るのかね?」

「あ、はい。僕達は先に来ましたもので」

「そうか。まぁゆっくりすればいいと思う。せっかくのお茶会だからな」

「はい! それよりクウネ……いえ、アルビレオさん!」

「ネギ君!!」

 

そこでなぜかクウネルが大声をあげた。

何事だと思ったのだが、

 

「私のことは『クウネル・サンダース』と呼んでほしいと言ったはずです」

「は、はあ……」

 

かなりくだらない問答だった。

というか一瞬クウネルの背後にチキンのおじさんのスタンドが見えた気がしたのだが、気のせいか?

気のせいという事にしておこう…。

俺もそう何度もあの笑顔を向けられるのは嫌だからな。

それからエヴァがクウネルに対して『なんだ、そのふざけた偽名は?』と問いただしていたが、何度も呼ぶが反応を示さずに、エヴァも観念したのか「クウネル」と呼ぶと、撫で返すかのように「なんでしょう、キティ?」というやり取りをしてまたエヴァが暴走していて、見ていて飽きないなと思う次第であった。

 

 

 

それからようやくお茶会になったのでネギ君達は色々な紅茶を美味しそうに飲んでいた。

うむ。確かにこれはうまいな。

 

「クウネル、あとで茶葉とかの仕入れ先とかでも聞いても構わんか?」

「構いませんよ。私も趣味で集めているようなものですし……ですが、そうですね。でしたら後であなたの淹れたものが飲みたいですね」

「俺が淹れたものを、か……?」

「はい。あなたの腕はエヴァンジェリンから聞き及んでいます。娯楽には何事も等価交換がつきものです。私も舌は肥えている方ですのでぜひともあなたの実力を知りたいのです」

「そこまで過大評価しても別段いいものは出せんぞ? まぁ作ってやらんでもないが…」

「それでは契約成立ですね。また別のお茶会の時にはお願いします」

「了解した」

 

そんな約束をしているとこのか達が物珍しそうな視線を向けてきていたのでなんだ?と聞いてみると、

 

「や、なんか士郎さんってクウネルさんと仲は悪くなかったかなって思ってな」

「はい。まほら武道会ではなぜか睨み合いが続いていた模様でしたし……」

「うんうん。なんかそれで意外だなって思って…」

 

このか、刹那、アスナのそんな言葉に「まぁ、確かに…」と納得もしないでもないが、

 

「さすがにそれは心外だぞ。敵でなければわざわざ険悪な空気になる必要もないだろうに…」

「そうですよ。私と衛宮さんは……そうですね…………フフフフ」

「…………その意味深な笑みはやめろ。寒気がする。しかも知り合いにやけに被るから」

「それはそれは……ぜひその方とも会ってみたいですね。仲良くなれそうです」

 

それで姉さんも少し面白そうな顔をしながらも、

 

「カレンとやっぱり雰囲気が似ているわよね…あなたって。救いなのは毒舌じゃない事かしら?」

「いや、イリヤ。こいつも気を許したら大層な毒舌を吐くようになるぞ。気を付けろ」

 

エヴァのそんな忠告を聞いて俺はやはりこいつには気を許しすぎないようにしようと誓った。

それからエヴァはネギ君に対して改めて視線を向ける。

そこには弟子の成長を確かめるようなものが含まれているようで。

 

「さて、それでぼーや。今回の事件は貴様にとってはどうだった…?」

「!」

 

ネギ君はそれで表情を改めていた。

エヴァも続けるように、

 

「なにか得る物もあったのだろう? 師匠の私にその思いの帰結を話してみろ」

「…………、はい。自分が、どんな場所に……そしてどんなモノの上に立っているのかを知りました。いえ……超さんに言われる前から僕はすでに知っていたんです。ただ、それに気づかない様にしていました。それを、超さんが改めて気づかせてくれました」

「ふむ……」

師匠(マスター)の言う通りでした。どこまで行ってもキレイなままではいられないんです。そもそも最初から僕達はキレイなわけがありませんでした」

 

それを聞けてエヴァは満足したのか笑みを浮かべつつ、

 

「フ…………超 鈴音はいい仕事をしたな。貴様のようなタカミチとは違い才能が有り前途有望でも世界をまったく知らないガキにはそれ(・・)を思い知らせるのが最も難しいものだからな」

 

そしてエヴァは足を組んでネギ君を見下ろすように構えながら、

 

「その通りだぞ、ぼーや。透徹した目で見れば『生きる事』と『悪を成すこと』は同義であり、この世界に住んでいるどの人間すらもこの理から逃れられない。『悪』こそこの世の心理だ。ようやくその認識に至ったか」

 

という感じで悪全開の表情をしていた。

うむ。改めて悪人だな。

それでエヴァはネギ君を改めて悪の道に連れて行こうとしていたが、そこでクウネルが「さすがエヴァンジェリン」と褒めた後に、少しエヴァと口論をしていたが、

 

「さて、それでネギ君。その認識を得てこれからどうするおつもりですか?」

「は、はい!」

 

と声を張り上げた後に、改めてネギ君は立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指そうと決めたらしい。

超の野望を止めてしまった以上、もう立ち止まる事などできない。

前へと進んでいかなければ超に対して申し訳が立たない。

父の件とは別として色々な人を助けたい……と。

 

それを聞いて俺が思った事は、

 

「…………まだ十代のネギ君に対しては早すぎる考え方だな。だが、そこまで決めてしまってはもう梃子でも動く気はないのだろう?」

「はい。もうそこも自覚して進んでいこうと思っています」

「そうか……」

 

ネギ君の覚悟をした顔を見てしまってはもう何も俺からは言えないな。

ランサーもそれで「いっちょまえの戦士の顔になってんなー」とか言っているし。

 

その後はクウネルがネギ君に対して「弟子になりませんか?」と誘ってエヴァとまた口論を開始していたが、もう慣れないといけないなと思った次第であった。

 

そして、ネギ君がもっとも聞きたかった質問が出た。

父…………ナギ・スプリングフィールドは生きているのかを…。

それに対してクウネルが答えた返事は、

 

「生きています。それは私が保証しましょう」

 

と、言った。

それに沸き立つ一同であったが、アスナが生きている事情を聴くとクウネルはまるで見本を見せるように仮契約(パクティオー)カードを取り出して、契約者が死ぬとただのタロットカードになってしまうと言われて、

 

「やっぱり……」

「はい、お嬢様……」

 

なにかを思ったのかこのかと刹那が俺との仮契約カードを大事そうに握りしめているのを見て、なぜか今はまだ聞かないほうがいいかなと思って、その話題が来たら口出しをしようと思った。

 

そして、まだ隠し事はありそうだが、クウネルがいうにはナギさんはどこかで生きている事を告げて、

 

「もし彼の事を知りたいのなら英国はウェールズに戻るといいでしょう」

「ウェールズに……?」

「はい。あそこには魔法世界……ムンドゥス・マギクスへの扉があります」

「ああ…。あっちの世界か。確かに……あちらならなにかしらナギさんの情報はありそうだからな」

「士郎さんは行ったことがあるんですか!?」

「ああ。前にタカミチと一緒に出張でな」

「あっ……学園祭前のあの時に……?」

「うむ」

 

それを聞いたのかネギ君はどこかワクワクしたかのような顔になって、そしたら自然発生でもしたのかネギ君を中心に魔力が風を起こしていた。

……別に構わないんだが、自制はしないと本気で魔法がバレるぞ?

 

それからネギ君は何を思ったのか、「行ってきます!」とかとち狂った事を言い出してエヴァやアスナ達に止められていて、せめて夏休みまではこの件は保留という事で落ち着いたのであった。

 

そして一旦落ち着いて、ネギ君はナギさんの事についてクウネルに聞こうとしていたが、そこで他の面々も遅れてやってきた。

メンバーとしては、宮崎・綾瀬・早乙女・朝倉・楓・古菲・茶々丸・長谷川・相坂・小太郎と……こちらを知った、あるいはこちらの世界のメンバーだった。

 

元気よく「お邪魔しまーす!!」と言ってやってきたので、こちらも手を上げて「こちらだ」と言って合流してまたお茶会が開かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………そして、しばらくお茶会が続いていたところで。ネギ君がおずおずと俺にある事を聞いてきた。

 

「それで、その……士郎さん。少しいいでしょうか?」

「なんだい、ネギ君。改まって…?」

「はい。前に約束しました士郎さんの記憶の件を……今見させていただけませんか?」

「!」

 

それで俺は表情を引き締める。

とうとう来たかという感じで。

そこにエヴァがネギ君に対して話しかけた。

 

「それで? ぼーやは士郎の記憶をどの程度見たいのだ?」

「はい。できればすべて見せてもらいたいんですけど……やっぱり傲慢ですかね?」

「確かに傲慢な考えだな。なんせ、私とイリヤ、木乃香、刹那もはっきり言って途中までしか見ていないのだからな」

「え? そうなんですか……?」

 

それでネギ君はこのか達にそう聞いて、このか達もそれで無言で頷いていた。

今思えばやっぱりひどいものを見せたよなー。

エヴァはそれで何を思ったのか、

 

「それで、前にも思ったがあの夜に士郎の記憶を貴様にも見せておけばとも思ったほどなのだぞ? それで木乃香と刹那は覚悟を決めた……いや、決めさせてしまったからな」

 

それでエヴァに視線を向けられたこのかと刹那も苦笑いを浮かべていた。

 

「そうよ! 学園祭でいろんなことがあって忘れていたけど、このかったらいつの間にあんなに魔法の腕を付けていたのよ!? 下手したらネギにも迫るものなんじゃないの!!」

「なんだ? 木乃香、教えてしまったのか……?」

「あはは……ごめんなぁ、エヴァちゃん。超やんに未来に飛ばされて、そこで未来のイリヤさんに付けた力をもう隠さないでいいと言われてもうて……」

 

このかはそう言いながらも腰に刺しているアゾット剣を撫でていた。

 

「そうだ……。俺も聞きたかったんだ。姉さんもだが、どうして俺に未来の俺が死んでしまっていたことを隠していたんだ?」

「お前さんならそれを知ったら絶対に無理しただろ?」

「それは……否定できない」

 

ランサーにそう言われて反論できない自分がいた。

だが、まだ疑問があった。

 

「しかし……では誰が俺を殺したんだ? 超は被害を出さないようにしていたと思うんだが……」

 

そう聞くと一気にエヴァとクウネルに相坂と小太郎以外の全員の表情が胸糞悪いと言ったような表情になっていた。

何事だ…?

 

「シロウ、落ち着いて聞いてね?」

「ああ。お前さんにとっては無視できない案件だ」

「姉さんにランサー。それは……?」

 

それで姉さんから告げられた言葉に俺はまたしても血液が沸騰するような感覚を味わった。

 

 

 

 

―――――言峰綺礼がまだ生きている。

 

 

 

 

「はっ……? 言峰が、生きているだと……?」

「ええ。それでコノカ達に聞いたんだけど未来の私に憑依して一時的に精神を操って令呪でランサーにシロウを殺すように命令したらしいのよ…」

「なっ!?」

 

またしても驚愕な内容を知らされて俺は冷や水を浴びせられたかのようなショックを受けた。

それでは、未来の姉さんは……。

 

ランサーも俺の表情を見たのか、

 

「だろう? やっぱどうにかしようって考えちまったろ?」

「…………」

 

図星だったために無言になるしかなかった。

 

「まぁ、そんで未来の情報を頼りになんとか言峰の野郎を倒したまではいいんだがな……あいつはある意味ゴキブリだな。あの夜も含めて分身体だったらしくてな……今はもうこの土地にはいないみたいだが、どこかで生きているみたいなんだよ」

「そうか……」

 

だとすると、姉さんとランサーは俺が超達ロボ軍団と戦っている間に言峰と戦っていたわけか。

あのコートもそういう事だったんだな。

 

「あのー……士郎さん。改めて聞きたいんですけど、言峰って人はどんな人なんですか……?」

 

朝倉の質問に、悩んだ。

あいつをどういう風に伝えればいいのかと……。

 

「シロウ。やっぱり記憶を見せてコトミネの危険性を教えてあげた方がいいんじゃない? 何も知らないほうよりはいいと思うわ。これからもどこかで遭遇するだろうしね」

「姉さん……そうだな」

 

それでこれからどうしようという感じになったが、今度は綾瀬がある事を聞いてきた。

 

「士郎さん……。一つ、よろしいでしょうか?」

「どうした綾瀬?」

「いえ、私のただの憶測でしかないのですが、士郎さんとイリヤさんはもしかして……この世界の住人ではないのではないですか? たとえば荒唐無稽な話ですが、異世界からやってきたとか……未来人の超さんという例がある以上はあり得るかもしれない可能性です」

「それを、どこで気づいたんだい……?」

 

俺はなるべく優しく問いかける。

それに対して綾瀬は少し怯えながらも、

 

「士郎さんとイリヤさんはこの世界にはない術を使います。私のアーティファクトで調べましたが、どこにも載っていなかったのでもしかしたらと思いまして……」

「そうか……。わかった。それも含めて記憶を見せよう。しかし、見せる前に言っておく。ネギ君の過去が生ぬるいとは言わない……しかし、それでもネギ君以上にひどいものを見せると思う。そこだけは覚悟しておいてくれ。他のみんなもそこはいいか……?」

 

それで黙って事の成り行きを聞いていた一同はというと、

 

「わ、私は遠慮したいかなと……」

「いいじゃん、千雨ちゃん! この今の士郎さんがどうやって構成されてきたのか知りたいじゃん!?」

「眼鏡の姉ちゃんの言う通りやで! 士郎の兄ちゃんの強さの秘訣が知れるんやったらどんなものかて知りたいで!」

 

長谷川は遠慮がちに、しかし興味丸出しの早乙女と小太郎に無理やり参加させられそうであった。

他のものも、

 

宮崎は「し、知りたいかもー……」と言っていて綾瀬と頷いているし、朝倉も「まぁ、知りたいかな」と、相坂も『士郎先生の使い魔として知っておきたいです!』と、楓は「んーーー……」と涼しげに、だが細めた目で見せろと訴えてきていて、古菲も「小太郎と同じく士郎老師の強さの秘訣を知りたいアル」と言っていた。

 

アスナはアスナでこのかと刹那に「このかに刹那さん……そこまでのものを見たの…?」と聞いていて、二人はやはり無言で頷いていて「ネギだけに辛いものを見せられない…」という感じで覚悟を決めたようである。

 

 

 

 

 

「最後に言っておくが、まだ引き返せるぞ? 毒のようなものを浴びる覚悟はないものは今のうちに辞退をしておけ」

 

そう問いかけるが、長谷川以外はもう見る気満々で、その長谷川も興味はあるらしくもう辞退はしないようであった。

 

「いいんだな……?」

「シロウ、もういいんじゃない?」

「そうだな。言峰の件に関してももう手放しにしておけねーからな」

「でしたら、私のアーティファクトで過去を閲覧しますか? 魔法の様に意識だけ過去に飛ばすことができますし、それにちょうど私も見たかったので、あなたの事を登録させてください」

「うぇ……なぜかお前に見せてはいけないという危機感があるのだが……」

「まぁまぁ♪」

 

まぁ、仕方がないか……。

 

「茶々丸、では残りの部分も記録を頼んだぞ」

「了解しました、マスター」

「アノ続キモ見レルノカ。楽シミダナ♪」

「士郎の旦那。見させてもらいやすぜ!」

「士郎さん、お願いします!」

 

最後にネギ君の言葉で俺は観念して、俺はクウネルに後を任せて全員は俺の記憶にダイブしていった。

そしてまた記憶が開かれる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の原初の1ページ目はあの大火災。

いきなりあの光景から始まって、早乙女の一言が雄弁に物語っていた。

 

「え……? いきなりクライマックス……?」

 

 

 

 

 




さて、やっと導入が書けました。
ここからどうやって書いていくかまた試行錯誤が続いていきますので更新は遅くなると思いますがお付き合いください。


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074話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その1

更新します。
これより開かれるは深淵の彼方。
とある者の視点から紡ぎ出されるシリアス。いや……シリアル!
さぁ、パル様劇場が始まるザマスヨ!



「え……? いきなりクライマックス……?」

 

 

わたしこと、早乙女ハルナの口から自然と飛び出した最初の一言がそれであった。

士郎さんの記憶を最初から見る事になって、まさかいきなりこんな悲劇の光景を見せられてさすがのわたしも思考が追い付かずに混乱してしまったようだ。

見ればのどかやユエ吉なども青い顔をしている。

そうよねー。

普通ならそう感じるだろうし……。

周り一面が炎のような地獄の光景、燃えてしまったのかもとは人間であった死体…焼け崩れた家の数々…その中をただ一人傷だらけで歩き続ける幼少時代のおそらく士郎さん…。

こんな光景を見せられたら普通はのどか達の反応の方が正常だ…。

 

 

だが、それがどうした!?

 

 

こちとらそういう修羅場には慣れていないけど、創作の世界ではよくある悲劇の主人公設定ではありがちかもしれない光景じゃない!?

……そうだ。この士郎さんの記憶を普通の感性しか持ち得てないわたしだったらきっと耐えられない……。だが、創作物だと思い込むことによって乗り越える事はもしかしたら可能なのではないか!?

そうだ、良い事思いついたわたし。褒めてつかわす。

…………というわけで、フィルターON!!

今よりわたしは創作者視点の修羅と化す…。

 

 

 

 

 

 

記憶の中の士郎さんは少し辛そうに歩いている…。

そりゃそうだ。さんざんひどい光景を見せられてきたんだからまいっちゃうよねー。

あれ? そのまま倒れちゃうの……?

でも、そう簡単には死なないでしょう!

だって、そしたら今この場にいる士郎さんはどうやって成長したのか……まだ始まったばかりじゃない? 焦らずにいきましょう。

 

空には黒い太陽が浮いていて、本能的にわたしもあれはイケナイモノだと察知できたよ。

そして倒れた士郎さんが伸ばした手もついには落ちそうになって、そこで掴まれる手。

 

キターーーー!!

そうだよ、誰かが助けなきゃこのままだったら普通に士郎さんは死んでるって!

そこにはよれよれの黒いコートを着た、いかにも苦労が似合うような憔悴した表情をして、それでもどこか安心しているような顔をしているおじさんが映っていた。

この人がもしかして今後士郎さんになにかしらの影響を及ぼす人なのだろうか…?

 

…そうだ。思い返せば少し違和感があるよねー。記憶の始まりが大火災の中だってんなら、それ以前の記憶はないといってもいい。

普段から面倒見がいい士郎さんがいきなりこんなショッキングな光景を見せてくるはずがないしね。

うんうん。ようするに大火災以前の記憶も燃やされて無くしちゃった系…?

 

 

それで掴まれた手の先のおじさんの顔を見たのかそこで一時士郎さんの記憶は暗転して、次に目覚めた時には病室の中であった。

そして、思った通り、士郎さんは記憶を無くしていた。

 

周りにも他にも被災孤児がいたにはいたけど、それでも士郎さんは興味を示していない。

いや、あれは感情もなくしたような感じで、目に光が灯っていなかった…。

 

「そんな……士郎さん」

 

ネギ君がそれでどこか自分を見るような感情を向けている。

わたしはまだネギ君の過去になにがあったのかは見せてもらっていないけど、アスナなんかは苦々しい顔になっている。

おそらくネギ君以上にひどい光景だったんだろうね。

 

士郎さんを診ていた医師がこう言った。

 

『……君以外にはあの区域では生きている人はいなかったんだ…』

 

正直に話すのもまぁ現実を分からせるのはいいと思う。

でも、それでも士郎さんはただただ薄い反応しか示していない。

そこがどこか物悲しくて…。

しかし、わたしは感じる。

きっともう少ししたらあのおじさんがやってくるのだと!

 

あの人がなにもない空っぽの士郎さんに新たな命と指針を吹き込むのだとわたしは確信している。

そしてわたしの期待通りにそのおじさんはやってきた。

 

『やあ。君が士郎君だね』

『おじさんは誰だ…?』

『僕かい? 僕の名前は衛宮切嗣というんだ。それでだけどね、率直に聞くけど、知らないおじさんに引き取られるのと、孤児院に引き取られるのはどっちがいいかな?』

 

うんうん。導入としてはいい感じよね。

こんな二択を迫られたら普通にこの切嗣さんに引き取られた方が良物件だもんねぇ。

なぁんか、もうすでに匂うものがあるかしらん…?

なんで士郎さんなのか? それじゃ他の子どもたちはこれから普通に孤児院に引き取られてしまうのか…?

切嗣さんの気まぐれでもあるまいし…………くぅ、きっとあの意識が暗転した後に切嗣さんが士郎さんになにかしらの事をやったんだろうなぁ! 記憶が途絶えた後でもシーンが続いているもんだったらよかったのに、惜しい!!

なんか後程にこの引き取られなかった子供とかがふとした時にばったり現れたりするもんよねー。

とりあえず顔だけでも覚えていても損はないと思う…。

 

そして、士郎さんは切嗣さんに引き取られる事になったんだけど、切嗣さんはまたしてもわたしの厨二心をくすぐるセリフを言いましたよ!

 

『そうだ、大事なことを言い忘れていたんだ』

『……?』

『最初にこれだけは言っておかないといけないんだ。うん……実を言うとね、僕は、魔法使いなんだ……』

 

それで士郎さんは素直に『すげー!』とか言っていたけど、あきらかにこれは裏世界に巻き込まれるフラグよね。うんうん、わかるよー。

 

「こりゃ……のちほどに巻き込まれる要素が満載だねー」

『そういうものですか? 朝倉さん?』

 

朝倉も感じ取ったのかそう零している。

やっぱり思う事は同じって事ね!

……――――前に夜の校舎で見た幽霊ちゃんに関しては今はスルーの方針でいこうか……。

 

 

それからシーンは流れて行ってどう見てもかたぎじゃない人との交渉をしている切嗣さん。

それを見ていても意味が分からないためにやけに広いやっぱりかたぎじゃない人の家の庭でぼーっとしていると、どうにもそこの娘さんなのだろう、まだ見た感じ中学生か高校生っぽい制服を着たどこか野性味あふれる感じの女の子が出てきて、

 

『君はどちらの子かなー!? いや、なんとなく察したよ! あの、切嗣さんの連れだね!?』

『お姉ちゃん、だれ……?』

『わたし? わたしはここの子で藤村大河っていうの! 決してタイガーじゃないんだからね!? で、きみのお名前はなんていうの!?』

『し、士郎……えっと、衛宮士郎です……』

『士郎君かー! うちのとなりの武家屋敷に住むんでしょ!? それじゃご近所さんだー! よろしくね!!』

『お、おう……大河さん。うおっ!?』

 

そこで頭をいきなりガッシリ掴まれて宙を浮く士郎さん。

あれはなんていうかさっきも言ったけど大河って名前になにかコンプレックスでもお持ちなのかな?

 

『わたしってね、名前はそんなに気に入っていないの。だからね? 名字で呼んで?』

『そ、それじゃ藤村姉ちゃん……』

『もっとくだけた感じで!』

『…………ふ、藤ねえ?』

『よろしい! それじゃこれからそれでお願いね、士郎!』

 

 

そんな感じで藤村さんと仲良くなった士郎さん。

なんか小太郎君が、

 

「なんや勢いが千鶴姉ちゃんみたいやな……」

 

って、言っているけど、そういえば小太郎君も今はどこで暮らしてるんだっけ?

なんか後でリサーチしておく方がよい感じ?

 

 

そして、武家屋敷での暮らしぶりがしばらく続いているんだけど、士郎さんは火災での事を思い出してか何度か熱を出して寝込んでしまい切嗣さんに看病されるシーンが映されるが、次第にそういうことは減っていって、それと同時に士郎さんはなにを思ったのか、

 

『じーさん。俺に魔法を教えてくれ……ッ! 魔法使いなんだろ!?』

『士郎……。でもね……』

『もう嫌なんだよ……。あの大火災でなにもできないで見過ごすことしかできなかった自分は……。助けの言葉をかけられたのに……俺は、見ないふりをしちまった……。ああしないと俺も死んじゃうと思っちまったから……。だから、あの時俺の事を助けてくれたじーさんみたいになりたいんだ!』

『…………それでも』

 

切嗣さんはやや反対だったらしく、その時は士郎さんには魔法を教えなかった。

でも、何度もせがまれていってとうとう切嗣さんも折れたのか、

 

『分かったよ、士郎……でもね。僕は魔法使いじゃなくて本当は魔術師っていうんだ』

『魔術師……?』

『でも、言い方としては僕は魔術を手段として使っているから、魔術使いって言った方が聞こえはいいかな?』

 

それから切嗣さんは士郎さんに魔術の指南を始めた。

でも、そこでエヴァちゃんが言葉を発した。

 

「…………しかし、この光景を見るのは二回目だが、魔術というものを知った今となってはこの男は相当士郎には魔術の世界には入ってほしくなかったのだろうな…」

「え? それってどういう事? エヴァちゃん……」

「なに……魔術回路は一度生成できれば後はオン・オフが可能だというのに、士郎には一から何度も魔術回路を作らせるという遠回りな方法しか教えなかったんだよ。しかも、この時にはまだ士郎の魔術の特異性には気づいていなかったために強化とか変化、解析といった基本的な魔術しか教えなかったんだ」

 

なるほどー。

それで士郎さんはそれを苦しみながらも延々と繰り返していたわけか…。

これは複線かな? たとえば痛みに慣れるっていうのとか、後は体が副作用で頑丈になるとか…。

 

まぁ、士郎さんとイリヤさんとエヴァちゃん……そしてこのかや刹那さんとかによる後々のネタバレがされない限り、今は考えても詮無い事なので先を見ていこう。

それから家の家事がある程度士郎さんができるようになってくると切嗣さんは何度か旅行に出かけるようになった。

士郎さんには目的は話さなかったけど、帰ってくるたびになにかしらのお土産を持ってきていたのはなんだったんだろう…?

そして、そこでなにかしらイリヤさんが辛そうな表情になっていたのをわたしは見逃さなかった。

もしかして、切嗣さんはイリヤさんの事を迎えに行こうとしていた……?

それでも、何度も失敗しては途方にくれながらも逃げ帰ってくるしかなかった……?

 

もしわたしのその考えが当たっていたとしたら、それはどうしようもない絶望感だっただろうな…。

それで帰ってくると士郎さんの顔を見ては空元気になっていたって考えたら泣きたくなるね。

しかも少しずつ切嗣さんの顔が痩せてきていて、身体が衰えてきているのはあきらか。

死期が近いのかもしれない……。

 

 

そして士郎さんが引き取られて五年が経過したある月が満月で夜が明るい晩の光景が映し出された。

切嗣さんはもう歩くことも困難なくらいに老衰している感じでわたしから見てもいつ死んでしまってもおかしくない感じだった。

それが今なんだと気づいた。

切嗣さんは士郎さんに語る。

 

『……僕はね、正義の味方を目指していたんだよ』

『なんだよ? 目指してったってことはもうあきらめちまったのか?』

『ははは、正義の味方には年齢制限があってね……もう大人の僕はなれないんだよ』

『そっか……うん。それじゃしょうがないから俺が代わりに正義の味方になってやるよ。爺さんは大人だからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ?』

 

このとき、わたしは不謹慎かもしれないけど、士郎さんはもしかしたら切嗣さんの呪いを引き継いでしまったんじゃないかと思った。

おそらく、あの大火災の原因の一端に切嗣さんは関わっているだろうし、なかなか魔術を教えなかったのも、巻き込んではいけないと思ったからであって、それでも切嗣さんの表情はもうとても穏やかで、士郎さんは続けるようにこう言ってしまった。

 

『まかせろって、爺さんの夢は俺がちゃんと形にしてやるから!』

『……ああ、安心した』

 

そして切嗣さんは安心するように永眠。

 

「育ての父親がこうも……」

「はい……。僕はまだお父さんが生きていると思えるから頑張れますのに……士郎さんは……」

 

ユエ吉とネギ君がなにかを感じ取ったのか涙を流している。

 

 

一同がそれで悲しい雰囲気に包まれているそんな中で再びわたしは不謹慎かもしれないけど、呪い引き継ぎイベント突破ーーーーーッ!!

しかも切嗣さんは大火災の真相を一切合切士郎さんには教えずに闇に葬っちゃった!?

これで士郎さんは必ず『正義の味方』にならないといけないというある意味生きる指針が心に刻まれてしまったーーー!!

人のためにあれという歪な主人公の誕生の産声だ!!

さぁって、チュートリアルはこれで終了かしら!?

まだだ、まだ士郎さんが魔術の世界に入っていくフラグメントが足りない!

まだこれではよくて正義の味方になるとしても警察官か消防士になるのが関の山だろう。

なにか、なにかが起こる予感がする…。

きっとまだ続きが描かれていくはずよ。

焦るな、ハルナ。まだイリヤさんやランサーさんですら登場していないんだよ!?

こういう焦らしプレーはお手のもんでしょ! 今はまだ士郎さんの日常ライフでも見ていようじゃないか!

口角が少しずつ上に上がっていく感覚があるのをなんとか必死に我慢しながらも、わたし達は次の展開に移行していくのである。

 

 

 




メタ視点って意外にやれるもんだね。
聖杯戦争前まで一気に書こうと思ったら、そんなに書けなかった。


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075話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その2

久しぶりに更新します。


切嗣さんが逝ってから少ししだして士郎さんもなんとか持ち直したのか、カラ元気だろうと藤村さんには心配を掛けない様に、それでも一人での無茶な修行を続けながらもいつの間にか中学生に上がっていた。

そんな代わり映えのしない、しかし毎夜の時間になっては続けられる修行という名の拷問に等しい行為を続けているシーンが何度も流れている時であった。

 

『すまんなみんな。こんなシーンなどつまらないだろう……もう少し先に進めていくか?』

 

そんなどこかすまなさそうな士郎さんの声が聞こえてきた。

しかし、それでわたしも一回落ち着くことができたのだろう、周りを見回してみればエヴァちゃんにこのか、刹那さん、イリヤさんは一回見た事だろうし落ち着いているが、それ以外……特にネギ君が少し暗い表情になっていた。

 

「その……士郎さん。士郎さんは辛くなかったんですか……? 本当の家族との記憶も失ってしまっていて、さらには切嗣さんまで亡くなってしまって……」

 

そしてそんな確信めいた質問をして少し涙目ののどかや夕映なども含めて無言で頷いている。

まぁ、分かるっちゃあ分かるけど、そこはもう士郎さん的にはすでに通り過ぎた道だろうし今更だろうなってわたしは客観的な思考に落ち着いていた。

士郎さんもそれで苦笑をしながらも、

 

『まぁ最初は色々あったが、それでも藤ねえが毎日うちにやってきては世話したりされたりしていたから毎日が楽しく進んでいって寂しくはなかったさ』

「そうですか……」

 

それでネギ君も出すぎたと感じたのかシュン…としてしまっていた。

そこにちうちゃんが声を上げて、

 

「ネギ先生。あの超にも言われたでしょう? 人それぞれなにかしらの痛みを持っているって……士郎先生にもあったように、ネギ先生にもそういう事はなかったわけではないでしょう?先生の過去は聞いてませんからどうかは分かりませんが……」

「ッ! そ、そうですね……千雨さんの言う通りです。そんな事にも気づけないだなんて僕は……」

 

それでまたネギ君は落ち込みそうになるけど、

 

「ですから、いちいち気にしていてももう過去は過去なんですから変えられないんですから、深入りはしないというのも考えてみては……?私もなんとか平静を保っているつもりなんですから」

 

それは千雨ちゃんの本心だったんだろう。わたしも色々誤魔化しているけど、耐えられない事もあるかもしんないし。

 

「そうですね……。すみません、士郎さん。まだまだこれからですのに話を止めてしまって……先をお願いします」

『わかった』

 

それでシーンは再生されて士郎さんの中学生の生活が流れていくのだけど、そんな中でも士郎さんの人の為になろうという思いは続けられていて、なんでも自分にできる範囲でなら人助けを続けていた。

しかし、そんな士郎さんの行いも利用されることも多々あって悪意ある利用目的で頼みごとをされることが多くあって、それでも悪い顔一つしないで引き受けている士郎さんのそんな姿を見て、

 

「ふむ……士郎殿はこう言ってはなんだがなんでも引き受けてしまうのは悪い癖でござるな」

『はは……耳が痛いな』

 

長瀬さんのそんな言葉で参っている士郎さんの声が聞こえてきた。

そしてそれが悪乗りでもしたのか成り行きで文化祭の看板作りを周りから押し付けられてしまい、一人で放課後に作っている時に一人の男子が士郎さんに近づいてきた。

 

『おまえ、馬鹿だろ』

 

そんな一言とともに現れた人物は名前を『間桐慎二』というらしい。

何度も士郎さんに悪態をつき手伝いは一切しなかったが、一晩中士郎さんのもとで付き添って、そして看板が完成したらしたらで、

 

『お前馬鹿だけどいい仕事するじゃん』

 

そんなこんなで奇妙な付き合いが始まっていつの間にか士郎さんと慎二さんは親友と呼べる仲になっていった。

それからというもの、士郎さんを利用しようとする輩に対してはちょっと度はきついが予防線を張って無茶なことは士郎さんには通さない様にしていたようであった。

 

「わー……やっぱり友達っていいものですねー」

「そうですね、のどか」

 

のどかと夕映がそう言って二人の仲を良く思っていたんだけど、どうにもそれを見ているこのかと刹那さん……そしてそれよりもひどい顔になっているのがイリヤさん。

三人はどうにも暗い表情になっていた。

おや……?

もしかして……これはゲームや創作物的展開ではのちに慎二さんは士郎さんのライバル的存在になって、もしかして……。

わたしはそこまで想像して「いやいや、まさか……」と今の士郎さんと慎二さんの関係を見ている感じではそんな雰囲気はしないと思ったんだけど、やっぱり……そういう事なのかなー?

今は多分聞いても答えてくれないだろうなー。

ネタバレされるのもわたしとしては嫌いだけど、こういう空気のままっていうのもなんかモヤモヤする。

なので、わたしはそっとイリヤさんに近寄って一言。

 

(イリヤさん。もしかして士郎さんが魔術の世界に踏み込むきっかけの事件で慎二さんは……)

(ハルナは勘がいいのね……うん。まぁそういう事。その時になったら私も白状するわ)

(そっすか……)

 

嫌な予感は当たってしまうものだね。

しかも多分だけど士郎さんが慎二さんを殺すだなんてしないだろうし、消去法で……。

そうなると、なんていうか士郎さんは辛い人生を歩んでいるなーと思う他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

それから時間は進んでいって一気に高校生にまで上がっていって、そこで士郎さんのもう一人の親友ともいうべき存在で生徒会に所属する事になった『柳洞一成』さん。

そして士郎さんが弓道部に入る事になって姉御肌の同級生である女の子である『美綴綾子』さんとも知り合いになって、それでもとから天才肌であった慎二さんも弓道部に入って、しかも高校での担任で弓道部の顧問でもある藤村先生がいて、士郎さんの周りは一気に色づいていった。

…………というより、藤村さんが学校の先生でしかも担任とか、それってどこのギャルゲー攻略キャラの一人だ!とも思う気持ちがあった。

でも、もし藤村先生が攻略キャラだとしても、士郎さんに対して、

 

『士郎ー、ケッコンしよー』

『いいよー』

 

と、たった三秒で終了してしまうかもというくらいのフランクさがあると思うのはわたしだけだろうか……?

 

それから夏の大会まで士郎さん、慎二さん、綾子さんの三人が中心になって一年生にしては弓道部で頭角を現していった。

特に士郎さんは三人の中で群を抜いていて矢を放てば必ず当たるという正確さをこの時から維持していた。

 

「士郎さんってこんな時から弓の腕は抜群だったんですねー」

 

と、ネギ君が言うが、イリヤさんが平坦な声を出しながらも、

 

「いえ、シロウのはある意味邪道なのよ。だって、魔術を使う延長線上でしかないんだから眼に魔力を流して精神統一すれば普通の人間が敵う訳ないんだから」

「「「「あー……」」」」

 

それですぐに納得するアスナ達。

だけど、そんな中で士郎さんがバイト中に腕をケガしてしまい、弓道の大会に出れなくなってしまい、士郎さんは部のみんなに迷惑が掛かるという感じであっさりと弓道部を辞めてしまった。

 

辞める際に、慎二さんに、

 

『衛宮さ、こういう時にケガするって何考えてんだよ? しかも部も辞めるって……本気かい?』

『ごめん……。でも、俺がいなくっても慎二がいてくれればなんとかなるだろ……』

『そういうことじゃ!……ああ、そうかい。わかったよ……』

 

それからというもの、士郎さんと慎二さんの仲は少し悪くなっていく事になる。

慎二さんもどこか複雑な感情を抱いているようだったけど、いまのわたしにはどういった心情かは計りかねない。

多分だけど、士郎さんの事を思っての事もあるだろうけど、それより対等な人物が簡単に張り合える事で辞めてしまったのでやりきれない感情を抱いたんだろうと……。

いや、それ以上の事もあると思う。

でも、もうわたしの予想ではそれは窺えないんだろうなぁ……。さっきのイリヤさんの反応も含めて。

 

 

 

 

 

それから家に帰って片腕が使いづらい士郎さんはそれでも魔術の訓練をしようとしているのだが、そんな時に雨が降っている中で衛宮邸にやってきた一人の少女の姿。

玄関を開けた士郎さんが見たのはすでにずぶ濡れになっていて、そして無表情でどこか精気が少なそうで薄幸そうな感じがする女の子。

 

『君はたしか慎二の妹の……』

『間桐……桜です』

 

士郎さんもいつまでも玄関に立たせておくのもアレだと感じたのか家に向かい入れて着替えを貸したのだが、後から帰ってきた藤村先生に色々と誤解されそうになっていた。

…………うんうん。

いいねぇ……。まさしくヒロインその1の人かもしれないわ!

しかも慎二さんの妹って事は後輩属性持ち!これはキターーーーー!!

 

桜さんの話を聞いていくと、どうにも士郎さんのケガが治るまで手伝いをしたいという。

それには士郎さんも藤村先生も申し訳ないという気持ちになったのか一度は断ったのだけど、それから毎日玄関前までやってくる桜さんの姿を見て士郎さんも根負けしたのか、桜さんに手伝いを頼むことにしたのであった。

 

だけど、桜さんは家事とか一切できないという事を知って士郎さんはそれから指示をしながら桜さんに服の畳み方や掃除、料理などの指導をしていく。

すると今まで感情があんまり窺えなかった桜さんの表情に次第に色が付きはじめてきていて笑顔が増えていく光景を見せられて、

 

「士郎さーん? こんな先輩後輩関係なのに桜さんとはなんにもなかったんですかぁ~? 合鍵まで渡しちゃいまして~」

『朝倉。お前の期待の眼差しにどう答えればいいかはしらんが桜とはなにもなかったよ。俺にとっては桜は可愛い後輩で、慎二の妹でそれ以上の事はなかったんだから』

「なんか、そう考えると桜さんが不憫だね……」

『どういう意味だ?アスナ』

「「「「はぁー……」」」」

 

それで一斉にため息を吐かれる士郎さんにわたしは同情は出来なかった。

むしろアスナ達と同じ気持ちだし。

 

そしてそんな士郎さんと桜さんとついでに藤村先生とのささやかな時間は流れていって、桜さんも士郎さんと同じ高校に入学すると言って一生懸命勉強を衛宮の家でしている光景を見て、健気だなぁ……という思いと同時に、なんで夜まで士郎さんの家で過ごしているのか少し疑問がわいた。

自分の家でも勉強はできるだろうし、もしかして自分の家にはあんまりいたくないのかな?という思いに至った。

こういうのって、桜さんには失礼だけどもしかして桜さんは家ではいびられているのではないか?と感じたからだ。

その証拠に桜さんは間桐の家での暮らしぶりは士郎さんには一切話さないからだ。

色々想像が膨らむけどわたしとしてはあんまりしたくないけど、もしかして創作視点でいえば桜さんって所謂汚れヒロイン?もしくは被害者側から加害者側に変わる系?

 

そうわたしが感じたのは、士郎さんが桜さんが泊まっていく事があっても、いつものように死と隣り合わせの修行を繰り返していたからだ。

しかも士郎さんがこの時にまともに使える魔術は良くて強化くらいだから結界なんて論外だし、もし……間桐家が創作のセオリー通りなら魔術の家系だったならバレていても不思議ではないからだ。

 

それでも指摘してこないのは桜さんの優しさゆえか。

 

そんなこんなで士郎さんは高校二年生になって、桜さんも無事に同じ高校に入学できて、慎二さんの妹だからと美綴さんに弓道部に誘われたりと、色々とあったが士郎さん視点で桜さんと話している時にたまによく見るようになった女の子の姿があった。

どこか桜さんの様子を遠くからただ見ているのかのようにしている感じのツーサイドアップの黒髪の女の子。

 

『桜。あれって……』

『はい。あの人は』

『遠坂だよな?』

『先輩はご存じなんですか……?』

『まぁ、有名だしな』

 

女の子の名前は『遠坂凜』というらしい。

士郎さんと同級でなんでも容姿端麗、才色兼備の優等生らしくて、できない事などないって感じの女の子らしい。

 

そこでわたしの脳内がキュピーン!と鳴った。

この人がヒロイン二人目であると。

それにどこか桜さんとは無関係ではない感じでもしかして本当の姉妹だったりして……?

でも、髪の色も瞳の色も違うしわたしの勘が勘違いでも起こしたのだろうか?

まぁ、なにかしらの関係である事は確かであろう。

 

まぁ、それでも普通の日常は進んでいくのだが、冬の時期になって少しずづだが異変が起こり始めだしていた。

猟奇殺人事件やガス漏れ事件などがテレビで流れるようになって、士郎さんは『物騒だな……』と思うも、普通に学校に通っていったのだが、その時に校門をくぐる瞬間になにかの違和感を感じたみたいだけどその時はなんなのか分からなかったみたいで、

 

「な、なにかが始まりそうなのかなー……」

「おっ!? とうとう来たんか!?」

 

それで今まで退屈そうに見ていた小太郎君が反応をしだした。

どこか楽しそうで不謹慎だなぁと思うもわたしは口を慎んだ。

 

どこかパトカーも何台も走っていて物騒な帰り道のことであった。

士郎さんの目の前に一人で歩いてくる少女の姿があった。

その姿はまるで今のイリヤさんを小さくしたかのような―――……。

士郎さんとすれ違う瞬間に、

 

『早く呼び出さないと…………―――――死んじゃうよ、お兄ちゃん』

 

士郎さんはそれで咄嗟に振り向くけど、もう少女の姿はいなくなっていた。

 

 

 

わたし達は考える事は多分皆おんなじだっただろう……。

とうとう士郎さんが魔術の世界に入るきっかけの事件が起こり出すのだと……。

 

 

 




今回はここまで。
あとは活動報告で書きました通り、DVDが届いて履修した後に続きを書こうと思います。
それまでお待ちください。


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076話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その3

久しぶりに更新します。


 

 

たぶん、イリヤさんっぽい幼女が出てきてから翌日になって相変わらずむつまじく桜さんと一緒に歩いている士郎さんが、ふと手に痛みを感じて見てみると、まるで士郎さんの腕にミミズ張りのような痕が出来ていて血がそこから垂れていた。

なんとなーく、イヤな予感はするもんだけど、そこで魔法に詳しいネギ君が叫んだ。

 

「これって、もしかしてスティグマ!?」

「ネギ? そのスティグマって……なに?」

 

まるで訳が分からないようなアスナは放置するとして、ネギ君がそう判断するなら当たりなんだろう。

スティグマ……聖痕。

特別な人間だけに与えられる聖なる傷痕。

イエス・キリストが有名だね。

そんなものが士郎さんの腕に刻まれているって事は、なにかの儀式に選ばれてしまった証という事だろう。

 

「なるほどな……。こんときからすでに」

 

さらにランサーさんが訳知りのような顔をしている。

まだ始まったばかり見たいだし先を見ていこうとしようか。

桜さんと別れて美綴綾子さんと校舎に入っていっている途中なんだけど、そこでなにやら慎二さんの話題になる。

どうも部活で下級生の男子たちを女子部員の前で何度も弓を持ったばかりだというのに的に当てるまで笑いものにしていたとか……。

 

「そのー……なんか慎二さん、変わってしまったのかなぁって……」

 

のどかがそう呟く。

 

「しょうもない人になってしまったのですね……。元からの性分なのかは分かりかねますが……」

 

ユエ吉も厳しい意見だね。

ま、わたしもいい感じはしていないし。

主な理由としては遠坂さんにこっぴどくフラれたとか……。男って……。

それから士郎さんも慎二さんにそれとなく部活の件を聞いているんだけど、うまく流されてしまっていた。

だから士郎さんはこう言った。

 

『手伝えることがあったら言ってくれ』

 

と……。

おっとぉ?

なにやらフラグっぽい台詞を言ってしまった感じがするなぁ?

ここは覚えておいて損はないかもしれない。

藪をつついた気もしないでもないからね。

 

それから一成さんの手伝いをしていて放課後になっていて、士郎さんは帰ろうとしていたんだけど、そこに慎二さんが女子生徒達を取り巻きにしながら歩いてきた。

 

「うわー。陰険モテ男って感じだね」

「あいやー。私もこういう男子はイヤアルネ」

 

朝倉とくーちゃんが嫌悪感を出していた。

くーちゃんから出てくるってかなりのもんだと思うなぁ…。

 

『弓道場の備品を片付けてくれないか?』

 

それで取り巻きの女子達が藤村さんに頼まれたのでは?と聞いているが、慎二さんはなんかむかつく言い方で、

 

『あいつ、昔から頼まれごとは好きなんだよ』

 

と、宣った。

あ、わたしもなんかプチンと来そうな感じがしたよ?いま。

ちょっと昔は士郎さんの事助けていたのに、なんだ、この変わりよう?

 

「こいつ、最悪だわ!!」

 

さすがのアスナもキレ気味である。

それでも士郎さんは悪い顔をせずにどうせだからと、徹底的にやってしまおうと本気になっていたり。

士郎さん……こういうところがあるからブラウニーって呼ばれるんですよ……?

それでもうすっかり夜になってしまっていて、士郎さんもいい加減帰ろうとしてのだけど、その時に聞こえてきたかすかな音……。

 

「お……? 得物同士のぶつかり合う音やな?」

「あー……確かに。刹那さんといつもやってる感じの音ね」

「おい、神楽坂。いぬっころはいいとしてそれが分かるお前はもう普通の人間じゃねぇって自覚した方がいいぞ?」

 

千雨ちゃん、辛辣なコメントありがとう!

それでのこのこと見に行ってしまう士郎さん。

そしてそこで目にした光景はなんと、あれ?士郎さん……?

 

「その、なんで若い士郎さんがいるのに……ランサーさんと戦っている人は今の士郎さんなんですか?」

「ネギ。そのうち分かるわよ」

「イリヤさん……」

 

そう。なんとランサーさんと戦っているのは、学園祭時に見た士郎さんそのままの格好をした謎の男性だったのだ。

使う武器も同じで、これってもしかしてこの男性って……。

そんな考察もする暇もなく繰り広げられる戦闘。

一般人のわたしの目には全然追えないもので、士郎さんは思わず足音を鳴らせてしまった。

 

『誰だ!?』

 

それでランサーさんはすぐに気づいて、士郎さんも校舎内になんとか走って逃げていくけど、たぶんだけどランサーさんの足には敵わないだろうから……。

 

『なんだったんだ、いまの?』

 

荒い息で士郎さんがそういった瞬間だった。

 

『よお』

 

まるでホラー映画か殺人鬼みたいにいきなりランサーさんがぬっと士郎さんの前に姿を現して、士郎さんは思わず瞳孔がかなり見開いて驚いていた。

そのいきなりの登場にわたしはなんとか耐えれたけど、

 

「「「「きゃあああああ!?」」」」

 

アスナ、のどか、夕映、くーちゃんは叫びを上げていた。

 

『割と遠くまで走ったじゃねーか。ま、運がなかったな。見られたからには死んでもらう』

 

次の瞬間には士郎さんの胸にランサーさんの槍が突き刺さって、そのまま視界は暗転していく。

呆気なかった……。

そういう感想しか出てこない。

いまの士郎さんからは想像もできないくらいには普通の高校生だったから、こんなに簡単に殺されるなんて予想もつかなかった。

 

「え?ちょっ!? 士郎さん、死んだの!?」

「い、いえ……それでは今の士郎さんが生きているという証拠に繋がりません。おそらくまだ生きているのでしょう」

「まぁな。こんときはオレも確実に殺したとは思ったんだがな」

 

ランサーさんがあっけらかんとそう言う。

さすが英霊。

この程度、罪悪感にすら入らないのかなぁ。

そして、しばらくして景色が元に戻って士郎さんは胸の痛みを感じながらもなんとか起き上がって、

 

『生きている……?』

 

なにもわけがわからずにとりあえずその場を掃除して、そこになぜか落ちていた宝石を大事そうにポケットにしまって士郎さんは家まで帰ってきた。

でも、もし殺したと思った相手が生きていたらわたしだったらどうするだろう?

 

「ねぇねぇランサーさん」

「あん?」

「もしかしてこのあと、すぐに追ったの?」

「ったりめぇじゃねーか。一日に二度も同じ相手を殺す事になった俺の身にもなってくれよ」

 

またしてもあっけらかんとそういうランサーさん。

やっぱり倫理観がすこーし違うよねー。

そんななかで士郎さんもランサーさんの襲撃を察知したのか、得物になるものを探した。

ふと、昨日に藤村さんが置いてったポスターがあった。鉄仕込みの……。

まさか、これを……?

そのまさかだった。

 

解析開始(トレース・オン)!』

 

運よく成功した強化の魔術でランサーさんに対抗しようとする士郎さん。

そして現れたランサーさんはどんどんと士郎さんを追い込んでいく。

補強したポスターもどんどんへこんでいって見るに堪えない感じになっていた。

そのままランサーさんに蹴り飛ばされて、のどかが悲鳴をあげる。

土蔵の中までなんとか逃げ込んだが、もう詰み。万事休すの状態だった。

ランサーさんも『あきらめな』という始末。

 

『ひょっとすると、お前が七人目だったのかもな』

 

なにやら意味深な発言!

そこで士郎さんが諦めなかったのか、そこで奇跡でも起こったのか土蔵の中にいつの間にか魔法陣が敷かれていて、そこから風が巻き起こり、どんどんと人型をなしていく。

そして突如として現れたその人はランサーさんを一閃し、士郎さんに振り向いてきたドレスの上に騎士甲冑を来た金色の髪に翠色の透き通るような瞳の女性はこう言った。

 

『サーヴァント・セイバー。召喚に従い参上した…………―――――問おう。貴方が私のマスターか?』

 

なんていうか、とても綺麗な女性だった。

わたしも一瞬思考を持っていかれたほどには。

それほどに神秘的な魅力を備えていた。

士郎さんもその魔的な魅力にやられたのか言葉を失っていたほどには……。

見ればこた君以外は大体頬を赤らめていた。

このかと刹那さんも、

 

「これを見るのは二度目ですが、やはりセイバーさんは綺麗ですね」

「そうやね、せっちゃん」

 

と、言っている。

士郎さん的にはもうなんていうか、そう!

『運命の夜』だね。

ん? なんかいい感じのタイトルになりそうじゃない?

運命……フェイト。

夜……ナイト。

良い感じに繋げて、フェイト/ステイナイト。

英語に直して『Fate/stay night』!!

これだ!!

なんかキュピーン!と閃いたよ!

タイトルはこれで決定だね!

わたしの同人作家脳がこれで行こうと叫んでいる!

 

 

 

 

と、一気に決めたわたしを置いて展開は進んでいく。

 

『令呪の繋がりを確認しました。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した』

 

そのままセイバーさんはランサーさんを追って外に出ていった。

そして戦闘が繰り広げられていた。

セイバーさんは見えない剣で戦っているみたいでランサーさんも卑怯者と呼んでいた。

だけどそれもおかまいなく、セイバーさんは剣を叩きつけていく。

そしてなにやらランサーさんと珍問答が始まっていた。

斧かもしれない、槍かもしれない、もしかしたら弓かもしれないとか……。

こういううまい口上が出来るのが英霊の特権って奴かな?

それでランサーさんは槍から煙を出させながらも、引き分けにしないかと聞くが、セイバーさんは応じなかった。

それでランサーさんは仕方がなく開放する。

 

『その心臓、貰い受ける!』

 

 

放たれた真名は、

 

 

―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!!

 

 

まさかのランサーさんはあのクーフーリンだったんだよ!!

な、なんだってーーーーー!?(AA略)

くらいの驚きはしたいところだね!

 

だけど、なんとか躱したセイバーさんはランサーさんの真名をすぐに察して、警戒をしている。

そんなランサーさんはマスターの命令なのか避けられたら帰ってこいと言われていたらしく、追おうとしたセイバーさんに、

 

『追ってくるなら構わんぞ。ただし、その時は決死の覚悟を挑んで来い!』

 

と言ってその場を退場していった。

それで全員はそのやりとりをまるで息を詰まらせながら見ていたらしく(わたしもだけど)少し過呼吸気味であった。

 

「いやぁ、お恥ずかしいところを見られちまったな」

「そうね、ランサー。貴方の必殺の槍をなんとか凌がれちゃったんだからね」

「ランサーの兄ちゃん! あとでまた戦ってくれや!」

「おう。きっちりしごいてやるぜ」

 

そんなやりとりをしている間に時間は進んでいっていて、ランサーさんとの戦闘も終わったのにまたしても次の人が来たらしくセイバーさんが構える。

士郎さんが跳んでいったセイバーさんを追っていって追いついたらすでに士郎さん似のサーヴァントはやられていたのか、下げられていて、マスターだったのか遠坂さんに切りつけようとしているところで士郎さんが「待った!」と言ってとどめを刺すのをやめさせようとしていた。

それからなんどかのやりとりでなんとか剣を下げてくれたセイバーさんと、遠坂さんは士郎さんにこの戦争に関して説明をしてくれていた。

 

聖杯戦争……七人のマスター、サーヴァントによる殺し合い。

令呪の説明など。

そしてこの聖杯戦争を監督しているという人の場所へと向かう事になった。

………んだけど、

 

「士郎さん。雨合羽は流石にないと思うんだけど……」

《し、仕方がなかったんだ。騎士甲冑なんてどう見ても普通じゃ無いし、隠すものが必要だったからな》

 

そう、士郎さんは弁明している。

まぁ急場凌ぎだから仕方がないか。

そしてとある教会……名を『言峰教会』に到着して、セイバーさんは外で待っていると言って士郎さん達は中に入っていった。

それにしても、

 

「ここで言峰の名が出てくるんですね」

「ええ、ネギ。これからよく見ておきなさい。言峰という人間がどういう人物か」

 

ネギ君の言葉にイリヤさんがそう返事を返していた。

教会の中に入っていくと、そこには背の高く十字架を首に下げていかにも神父と言った風貌の男性がいた。

だけど、表情が読み取れないのが怖いところだよね。

そして聖杯戦争について話し合われる。

サーヴァントに関しては情報は嬉しいね。

過去・現在・未来……どの時間軸からでも召喚されることがある、と……。

と、するとあの士郎さん似のサーヴァントの正体はおのずとわかるというものである。

聖杯もマスターを殺し合わせてその中から選定して選ぶというもので、悪質だなぁと思う始末です。

その中で令呪を使い切ればマスター権を失うというものがあり、ここでわたしの勘がキュピーンとなった。

その名も題して『バッドエンドその1』。

士郎さんが令呪を使い切ってマスターでは無くなったあとに誰かに殺されるエンド!

その最有力候補がイリヤさんなんだよなー(白目)。

 

そしてこの聖杯戦争は5回目で前回は10年前だという。

つまり、士郎さんが巻き込まれた火災は……そういうことなんだろうね。

証拠に言峰さんが言ったセリフ。

10年前にふさわしくないものが聖杯に触れて起こったのが大災害だと。

言峰さん自身も参加はしたが途中でサーヴァントを失い敗退したという。嘘くさいなぁ……。

そして士郎さんは10年前の出来事を二度と起こさない様に聖杯戦争に参加すると決めてしまった。

帰り際に言峰さんは言った。

 

『喜べ、少年。君の願いはようやく叶う……明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。正義には対立する悪が必要だ』

 

まるで士郎さんの望みを知った風な口ぶりで、そんな事を言った。

こいつ、神父の皮を被った悪魔なんじゃないかな?

 

 

 

 

そして帰り際。

遠坂さんとはここで別れて次はマスター同士、敵ね。と感じで別れようとした瞬間だった。

 

『こんばんわ、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね』

 

その白くて小さい少女とともに背後には鉛色の巨人が佇んでいた。

あれも、サーヴァントなの……?

桁違いな迫力があるんだけど。

まだまだ士郎さん達の最初の夜は終わらないようだ。

 

 

 




アニメ1話から3話まで詰め込んでみました。
パルに合わせる感じに書いてますけど、どうでしょうか?


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077話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その4

更新します。
遅れましたが20万UAありがとうございます!


『初めまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』

 

少女のその挨拶でやっぱりこの子は小さいイリヤさんだというのはわかったけど、なんで今は大人の姿なのに、六、七年前までは少女の姿のまんまだったんだろ……?

と、このピンチになりそうな展開にたいしてわたしはすでに冷静にそう考えていた。

多分予想では士郎さんがかなーりグロイ事になるんだろうなと、考えておく。

そうすれば覚悟は決まっているってもんでしょ?

主人公が何度も痛い思いをして成長していくのは鉄板だからね。

そっとみんなを見回しても息を呑んでいる顔をしているし、わたしのように先を予想したのか長瀬さんなんか緊張とした顔で薄く目を開きながら「これは……」と呟いている。

 

『こんな挨拶でいいよね。どうせすぐに死んじゃうんだし。それじゃ……やっちゃえ! バーサーカー!!』

 

話し合いの余地もなくイリヤさんはすぐに巨人……バーサーカーに命令を下して、それを忠実に実行したのかバーサーカーはすぐさま士郎さん達に飛び掛かってきた。

セイバーさんがすぐさま迎撃していくが、バーサーカーはその巨体に似合わずとても素早い連続攻撃をセイバーさんに何度も仕掛けている。

というか、バーサーカーっていうのは文字通り狂戦士なんだから命令なんて聞かないもんじゃないの?それともイリヤさんの魔術師としてのレベルが高すぎて素直に従ってる感じかな?ここにもなにやらストーリーがあったりなかったりするんだろうな……。

最初は全然命令は聞かなかったけど、イリヤさんの健気な行動で次第に心開いていくって言うのはどこかのストーリーの回想とかでありそうだし。

……まぁ、回想するときってだいたい走馬灯とかが鉄板だから、イリヤさんが死にそうなときくらいしかないからたぶん、今の士郎さんの旅を一つのルートに例えるとそんな光景はないだろうし、そういうイリヤさんが死んでしまうルートも考えないといけないと考えると、なんだろ? わたしって結構ドライな気質だったのかな?

そりゃ創作には一切手は抜かないけど、まだ序盤の出会いなのに普通にここまで思考が展開できるものなのだろうか……?

わたし、誰かの考えている内容を勝手に受信している?いやいやまさかまさか。

感受性が高いだけだ、そういう事にしておこう。

考えすぎると毒になりそうだし……。

 

思考をすぐに終了させて戦闘を見ていく。

イリヤさんは無邪気に笑ってるし、どうやらセイバーさんはランサーさんにやられた傷がまだ痛むのか胸を抑えている。

凛さんもなにかの魔術弾を放っているけど、バーサーカーには一切通用していない。

そして、ついにセイバーさんの腹にまるで岩のような剣が炸裂してセイバーさんはかなりの血を流している。

 

「ランサーさんのときは、強そうだと思ったのに……それだけバーサーカーが強いんですか?」

「ええ。セイバーが最優のサーヴァントならバーサーカーは最強のサーヴァントなんだから。まだこの時は私もまだ狂化させていないし。それに……」

 

イリヤさんの言葉が切れたらタイミングよく回想のイリヤさんがかなりの情報を言い放っていた。

 

『勝てるわけないじゃない。だってバーサーカーはギリシャ最強の英雄なんだから』

『最強の英雄……』

『そう。そこにいるのはヘラクレスっていう魔物』

 

まさかの大物の名前が飛び出してきましたよ!?

ヘラクレスって十二の試練のあれ!?

夕映なんか詳しそうだしね。

 

「へ、ヘラクレスですか……イリヤさんはそんな桁違いな英雄を普通に使役していたのですか?」

「ま、私にかかればこの程度お手のモノよ」

 

ふふん!と言っているイリヤさんは昔は常識は通用しなかったのかもしれない。

名前の通り、ドイツの貴族みたいだし一般人より少し感覚がズレているのは当然かな?

それで回想の中でセイバーさんにとどめをさしてって命令をしている。

だけどそこで見ているだけだった士郎さんの様子がおかしい事に気づく。

身体が震えていて目は険しくなっていて、もしかしてここで士郎さんの人助け精神あるいは自己犠牲精神が悪く出てしまったのか振り下ろしているバーサーカーの剣をセイバーさんを庇って代わりにくらって胴を抉られて吹き飛ばされていた。

いったー…………。

こうなることは士郎さんの異常性を過去から見てきたからなんとなく予想していたけど、やっぱ見るのは辛いわ。

のどかとか夕映なんかはもう気絶しそうになっているし、ネギ君が「士郎さんッ!!」と悲痛そうに叫んでいる。

 

イリヤさんはつまらなさそうにしてそのまま帰ってしまうし、凜さんはもう死んでいるのではないかという感じの士郎さんに何かを言っているけど、いつものごとく視界は暗くなっていく。

思うに士郎さんは死にそうになる回数かなりあるんじゃないかな?

さっきの行動もそうだと思うし、ふと『バッドエンドその2』を思い起こすくらいにはわたしは意識をどこかに飛ばしているのかもしれない。

先ほどの行動で士郎さんがセイバーさんを庇わずにセイバーさんはやられてしまって、士郎さんの行動らしからぬ逃亡する選択をするけどそのまま凛さんとともに殺される、あるいは玩具にされるエンド。

ま、こういうのは主人公らしからぬ選択肢をしてバッドエンドを迎えていくもんだからジャンルはノベルゲーかギャルゲーな感じかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……意識が暗転する光景にも慣れてきたでござるが……士郎殿。何回死ぬ思いをしているでござるか?」

《…………聞くな。》

 

間が長い反応ありがとうございます!

この先も結構あるということですね!最悪です!

 

「本屋ちゃんに夕映ちゃんも大丈夫……?」

「うっぷ……」

「は、はい……なんとか。のどか、しっかりするです。それと、そういうアスナさんは……?」

「あ、あはは……なんでだろうね。なぜか平気なのよね」

 

ふむ。アスナはグロ耐性があると……。

 

「やっぱ、遠慮しておけばよかった……」

 

千雨ちゃんもすでにグロッキーな感じである。

 

「むー。なんや一方的やからつまらんかったな」

「コタローは別の視点アルナ」

 

こた君はやっぱり戦闘狂なだけあって平気みたいね。

そんな態度にくーちゃんもさすがに苦笑い。

 

「この映像は確かに見るだけの方が良いね。写真にしちゃうと卒倒しちゃう人が後を絶たないだろうし」

『わ、わたしは涙目ですよー』

 

朝倉は冷静、幽霊ちゃんは涙を流していた。

最後に、

 

「その、士郎さん……言ってはなんですけど、よくくじけませんでしたね」

「兄貴の言う通りっすね。このあとに回復はするでしょーが心が折れてもいい感じっすよ」

《まぁ……それでも生きているなら町の被害をどうにかしないといって当時はそっちに意識が行っていたからな》

「士郎さんは強いですね」

《強い、か……いや、俺はただすでに壊れていたんだろうな》

 

士郎さんのその言葉にどこか哀愁が感じられる。

イリヤさんも「シロウ……」って呟いて心配そうな目をしていた。

このかも刹那さんもだけど。

 

「というか、パルはなんで黙ったっきりなのよ?逆に怖いんだけど……」

「ん?いやぁー、なんか神秘の扉が開きそうでね」

「なに言ってんの……??」

 

 

 

 

 

アスナの不思議そうな目はこの際無視だ。

わたしはわたしの道を往く!

 

 

 

 

そして意識が回復する士郎さん。

身体に包帯が巻かれているが、すでに治っていると言っても過言じゃない。

そのまま居間にいくと凛さんが待ち構えていて、士郎さんは思い出したかのように昨日の夜の事を思い出す。

凛さんの話によるとあれほど抉られた傷も時を得て勝手に治っていったのだという。

凛さんの推測だとセイバーさんには自然治癒力があるらしく、セイバーさんと繋がっているためにそれが流れ込んでいるのではないかという。

 

それから士郎さんは十年前の出来事をまた起こしたくはないから聖杯はいらないという話になったが、サーヴァントの前でそれを言ったら殺されてもおかしくないという。

サーヴァントもただ無償で従っているわけではなくて、聖杯が欲しいがために従っているという話だ。

 

 

 

そう考えると、あの士郎さん似のサーヴァントはなにを望んで召喚されたんだろう……?

あの人が士郎さんの未来の姿だと断定するとして、わざわざ過去に召喚されるなんてそれほどの理由がある…………いや、まさかね。

ちょっと違うけどタイムスリップ物で定番なのは『親殺しのパラドックス』というものがある。

狙ってこの世界に召喚される可能性もわずかなものであり、もしや……狙いは自分殺し……?

正義の味方になりたいという過去の自分を殺したいほど憎んでいたりしたら、あるいはって感じなのかな……?

うーむ……情報が少なすぎるわ。

もっとあの人に関しての情報が欲しいね!

 

 

そしてサーヴァントは人の魂を食う事によってより生前の力を発揮できるという。

まぁ、幽霊みたいなものだからね。魂食いも一つの手って感じなのね。

そういうマスターもいるかもって感じか。

凛さんはそれには該当し無さそう。真っ当な魔術師っぽいし。

 

 

そして、士郎さんもうまい方針がでないまま、凛さんは帰っていき、士郎さんも過去を思い出してか吐きそうになっていた。

そしてセイバーさんを探しに行くと、やっぱり普通一軒家に道場があるって豪華な感じだよね、そこにセイバーさんは目を瞑って正座をしていた。

少しして士郎さんに気づいたのか、士郎さんの心配をして次にはお叱りの言葉を言っていた。

あーいうのは私の仕事だ、と。

 

まぁ、分かるんだけど素直に士郎さんが納得するとも限らんしな。

まぁまだ始まったばかりのバディだし、これからどうにかなっていくんだろうな。

 

 

 

と、思ったらセイバーさんを護衛に付けずにそのまま一人で学校に行ってしまいましたよ、士郎さん!?

その日はなにもなく無事に帰ってこれていたけど、

 

「士郎さーん、さすがに不用心じゃないですか……?」

《耳が痛いな……分かってる、分かってるんだけど、この時はこれ以外に考えがなかったんでな》

 

それから士郎さんは桜さん達といつもの食事を摂っていた時に士郎さんはセイバーさんを除け者にしたくなかったのか、食事を中断してなんとセイバーさんを桜さん達に紹介してしまった。

それで混乱する場。

さらになぜか藤村さんと勝負する事になってしまっていた。

まぁ、勝てるわけないんだけどね。

 

『変なのに士郎取られた~』

 

結果は言うことなしだね。

それにしても、

 

「こた君的にはどうなの?」

「あん? まぁ、こんときの士郎の兄ちゃんはまだ未熟やし考えが甘いのは分かっとるから言うことないけど、やっぱ使い魔は使い魔やろ?」

「シロウはそこが許せなかったんでしょうね。今でもランサーの事を普通に人として扱ってるし」

「ま、それが士郎らしくていんじゃね?知らんけどな。でもな、セイバーは内心腹が煮えくりまくってただろうな。こんときの士郎はマスターとしてはマイナスな行動ばっかしてるしな」

「「「「「わかります」」」」」

《み、みんな……》

 

味方はいないんだよ、士郎さん。

女の子だから戦っちゃだめだっていうのは侮辱発言だしね。

 

そして翌日も士郎さんはセイバーさんを置いて行って学校に行こうとしていた。

セイバーさんも諦めたのか、一つ忠告をしていた。

いざとなれば令呪で“呼んでくれ”と……。

令呪の命令ならば次元を超えて助けに行けると……。

 

そして学校で出会ってしまう凛さん。

士郎さんは挨拶をするけど、無視されてた。

 

「ありゃあ怒ってんなー。士郎、おまえ人を怒らすのは天才か?」

《自覚がなかったのは重々承知している。今はこんなじゃないんだから過去は過去として見てもらえないか?》

「まぁでも今も抜けているところとかあるんじゃね?」

「あるわね」

 

イリヤさんにもそう言われてしまう士郎さんは実に尻に敷かれています。

それと、なんか美綴さんと慎二さんが行方不明だっていう。

なんか、匂うね……。

それで手掛かりもなしで放課後になり、ふと視線を感じるとそこには冷たい瞳をしている凛さんが階段の上で士郎さんを見下ろしていた。

それから始まる追いかけっこという名の逃避行。

掴まったら令呪を盗られるか、記憶を消されるかするんだろうなぁ……。

これも『バッドエンドその??』に入るのかな。

そして三秒待つという凜さん。

このまま戦闘に入るのかと思ったけど、そこで聞こえてくる女子の悲鳴。

 

「あ、なんか展開が変わってきた感じですか?」

「そうみたいね。なんか凛さん、お預けをくらった感じだけども」

 

どうやら新手らしい。

ここからなんやかんやあって凛さんと共闘に持ち込んでいくって感じなのかな?

なんせまだ士郎さんはまだまともに魔術が使えない。

だから師匠くらいいないと世界なんて出ていけないだろうしね。

とにかく悲鳴の方へと向かっていく士郎さんと凛さんであった。

 

 

 




今回はここまで。
次でライダーですかね。







あ、それとFGOサマキャン楽しかったですね。
エミヤとイリヤ(プリヤの方だけど)の供給が激しいシナリオでしたね。
良き良き。
ちなみに自分はあまり育てていないのでスキルマ勢はマーリン、スカディ、キャストリアしかいません。サポートだけでもって感じですね。伝承結晶が三つあればアルトリアもスキルマにはできますけどね。
レベルマ勢は狂ランスロット、槍ニキ、ヘラクレスですね。

聖杯戦線も119箱しか開けていませんね。(開けた方か…?)


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078話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その5

お久しぶりでございます。
半年近く更新しないですみませんでした。
書けない時は本気で書けないという感じでしたね。


 

 

 

 

悲鳴の聞こえた方へと向かっていく士郎さんと凛さん。

そして辿り着いた先には一人の女子生徒がおそらく非常口あたりで気を失って倒れていた。

見た感じ、ただの気絶の様に見えるけどそこで凛さんが語った。

 

『ただの気絶じゃないわ。魔力の源……生命力を抜かれているわ。このまま放っておくと死ぬわよ?』

 

うわぁ……いきなりやばめな展開になってきたじゃん?

さっきまでのまるで夫婦漫才かのような争いよりもこっちの方が現実感あるね。

それで凜さんはしょうがないと言わんばかりに宝石を出して治療を始めているんだけど、空いているドアが気が散るというので士郎さんがドアを閉めようとした瞬間だった。

 

『ッ!?』

 

一瞬にして表情が強張る士郎さん。

目線の先にはドアの隙間へと向かってくる釘のようなもの。

狙いは意識を集中している凛さん。

 

「あ、危ないッ!!」

 

ネギ君が叫ぶのが分かるんだから士郎さんも気づいているはずだ。

だけど対抗手段がない士郎さんが取れる手は限られている。

それは……。

 

『ぐあああッ!!』

 

士郎さんは迷わず自分の腕を犠牲にして代わりに腕に釘が突き刺さっていた。

凜さんが士郎さんの事をいたわる言葉を掛けるも、士郎さんは痛みに耐えつつ釘が向かってきた方へと向かっていった。

 

「危険です……魔術もまだ碌に使えない士郎さんがわざわざ敵の懐に向かうだなんて……」

「って、言っても過去の士郎さんにもし言葉が伝えられても「それでも!」って感じで行っちゃうだろうねぇー」

 

夕映っちがそう言って朝倉もそう言う。

だけど、凛さんが治療を続けている以上、いまはサーヴァントがいないので士郎さんが対処しないと事は始まらないしなぁ。

追っていった士郎さんは弓道場の奥の森の中へと入っていく。

まさか、バーサーカークラスみたいなのがまた出てくるとも限らないけど、それでも危険な行為だよねー。

セイバーさん呼んだ方が得策だけど、令呪も三つまでしか使えないし乱発できないのが欠点だよね。

さて、蛇が出か邪が出るか。マジモンの蛇が出てきたらウケるけど。

 

森の中を進んでいく最中で、どこからか一瞬男の含み笑いが聞こえてきたけど……今の、聞き違いでなければ……。

 

『慎二……?』

 

士郎さんは慎二さんがいるであろう方へと歩こうとして、先ほど釘が刺さった腕が思いっきり引っ張られる感覚とともに首を薄くなにかに斬られてしまっていた。

咳き込む士郎さんをよそに士郎さんの前には際どいボディスーツを着て眼帯をしている紫髪の女性の姿があった。

あれもサーヴァントなんだろうね?

でも、士郎さん?首、血が出てますけど大丈夫なのこれ……?

そして、士郎さんも士郎さんで素直にセイバーさんを呼べばいいのに意地を張って令呪は使わないでサーヴァントに立ち向かおうとしてるし。

それを勘ぐられたのか綺麗な女性の声で、

 

『驚いた……。令呪を使わないのですか、あなた?』

 

そう言われて、士郎さんはまだ使い時じゃないという。

しかし、実際に後悔しますよ?と言われたらわたしだったら迷わず使っちゃう自信あるなぁ……。

サーヴァントも相手がいないのなら本気を出せないと言って、

 

『趣向を変えましょう。あなたは優しく殺してあげます』

 

ところどころにジャラジャラと鎖の音を靡かせながら、サーヴァントは士郎さんの前に現れてその鎖付きの釘を士郎さんに目掛けて放ってきた。

士郎さんはそれをなんとか弾いていなす事に成功する。

だけど、それがいけなかった。

戦えると勘違いしてしまい、

 

『大した事ないんだな? 他のサーヴァントにくらべれば迫力不足だ!』

 

と言ってしまっていた。

 

「あかんなぁ……。士郎の兄ちゃん、敵を侮っとるな」

「そうでござるな。まず今まで目にした他のサーヴァントが規格外なだけであって、それでもサーヴァントであるのには変わらないのであるから人間が敵う道理はないでござるからな」

 

こた君に楓さんの戦闘のスペシャリストがこう言うのだからこの時の士郎さんは少し慢心していたのだろう。

その証拠に少しして士郎さんは腕に衝撃を受けて倒れ込んでしまう。

 

サーヴァントは言った。

 

『あなたは最初から私に捕らわれているのですよ』

 

サーヴァントが持っている鎖の握りを引っ張ると士郎さんの腕が勝手に上がって先ほどまでただの傷痕だと思っていたのは、まさしく釘……もとい杭が士郎さんの腕に最初から刺さり続けていただけだったのだ。

そしてそのまま木に鎖がかかって吊るされてしまっていた。

士郎さんはなんとか逃れようとするが、それでも杭は抜けない。

そのままサーヴァントは士郎さんにトドメを刺そうとしたが、どこからともなく飛んできた魔弾によって士郎さんの腕に刺さっている杭の鎖が切られてなんとか解放される士郎さん。

その魔弾の持ち主はもちろん凛さん。

女性のサーヴァントは舌打ちをしながらもどこかへと行ってしまった。

 

そのままなし崩しに戦闘は終了して、士郎さんは凜さんに手当てをしてもらいながらも状況報告とともに、この学園に張ってある結界に話が変わる。

それと女子生徒はなんとか持ち直したらしい。

 

「よかった……」

 

ネギ君が心底安堵の声を出していた。

そうだよね。わたし達という生徒を受け持っているんだから赤の他人とは言え生徒の命が危険なままだったら安心できないしね。

 

そのまま士郎さんと凜さんとの戦闘も有耶無耶になって、本格的な治療のために士郎さんは凜さんの家に招かれていた。

そして包帯を解いてみたら、まぁバーサーカーの時もだったけど士郎さんの腕の傷はほとんどすでに塞がっていた。

 

「本当にすごいですね。これもセイバーさんとの契約のおかげなんですか?」

「いえ。シロウのはちょっと特殊ね。セイバーが関係しているけど、それよりすごいものね」

「「「へー……」」」

 

まだネタバレは無し、か。

逆にありがたいけどね。

それから学園の結界の話になって先ほどの女性のサーヴァントを使役している人はかなり悪質だという感じであった。

結界が作動した暁には学園の人達は全員衰弱死するくらいだと凜さんが言う。

魔術師のプロがそう判断するんだから間違いないだろう。

 

それから一段落して突然でもないけど凜さんから休戦の話が出てきた。

 

 

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 

士郎さんの弟子入りフラグだ!

なんでもお互いに謎のマスターに素性を知られてしまって、しかも悪質だから協力して対処に当たろうという話であった。

敵の敵は味方というわけではないけど当分は敵ではないという感じだね。

 

それから士郎さんは凜さんに今までどうしていたのかという感じで、過去の話をしていく。

凜さんは休戦協定中だけどそこまで話さなくていいというが、話を聞いていくうちに切嗣さんの士郎さんに対しての扱いがおかしいという。

そして魔術師の義務の話になって、許せないとまで言い切っていた。

 

最後に、

 

『あなたのお父さんは魔術師である以前に親を選んだのよ』

 

と言ってからバツが悪そうに士郎さんに謝っていた。

そして今後の話し合いは明日の屋上でしましょうという話になって、凜さんは信用でもしてもらいたいのだろう自身のサーヴァント・アーチャーを士郎さんの護衛に付けた。

凜さんとしてはいい選択だと思うけど、けどこの二人を一緒にさせてしまう方が少し心配でもあった。

 

 

 

 

帰り道に士郎さんはここまででいいと言うが、少しばかり敵意を感じ、

 

『ほう……虫も殺さない平和主義者だと思ったが、敵意は感じられるらしいな』

『やるって言うならやるぞ?俺は早くこのバカげた戦争を終わらせたいだけだ』

 

アーチャーはそれで肩を竦めながらも、

 

『誰も殺さず、犠牲にもせずにか……?』

『なにがおかしい?』

『いや、貴様の甘ったるさに意見なぞせんよ。だが、一つ聞きたい』

『なんだ?』

『ライダーとの戦いで令呪を使わなかったそうだな』

 

それから戦えるなどと血迷ったわけでもなかろうと言って、士郎さんはお前には関係ないというが、

 

『察しはつく。誰かが痛みを追うのなら自分だけで背負い込めばいいと言ったところか?虫唾が走る』

 

そして士郎さんの一方的な言い争いになる。

にしても、セイバーさんの代わりに俺が戦えばいいって……こんときの士郎さん、かなり命知らずだね。いや、マジで。

負担かけまくってるじゃん。

 

『お前は戦わずに聖杯戦争を終わらせるつもりか?』

『言ったはずだ!戦うときは戦う』

『だが、誰も殺さない。自分が背負う事で万物全てが救えると考えている。おめでたい話だ。理想論を抱き続ける限り現実との摩擦、無情は増え続ける』

 

アーチャーさんはそれで飛び去りながらも、

 

『お前が取ろうとしている道はそういうものだ。無意味な理想はいずれ現実の前に破れるだろう。それでも振り返らずに、その理想を追っていけるか? 衛宮士郎……』

 

そう言い残して姿を消したアーチャーさん。

士郎さんはアーチャーさんが何を言いたいのか分からずに悩みだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、なんとなくだけどこの二人の関係性が理解できたかもしれない。

おそらく、アーチャーさんは行くところまで行ってしまった士郎さんの未来の姿で過去の士郎さんに己のすでに通り過ぎてしまった道がいかに無意味で醜悪なものであったかを説いてるんだと。

おそらく協力関係になるんだからこんな光景はこれからも何度かあると思う。

助言ともなるし、でも士郎さんはおそらく同族嫌悪してしまい素直にアーチャーさんの言葉を受け入れないと思う。

 

 

そしてアーチャーさん自身も振り返らずに理想を追い続けてた先になにかがあって理想が擦り切れて果ててしまって正義の味方をもしかして憎むようになっていったって感じかな?

憎んでるのかはまだわからないけどわたしの予想は大体当たっていると思う。

 

そして浮かんでしまうのはやっぱり『自分殺し』。

サーヴァントは願いによって呼ばれるという。

そんなアーチャーさんが適当にこの世界に呼ばれるのも意味があったんだって。

この士郎さんの記憶で今後自分殺しをアーチャーさんがしてくるのかはまだ分からないけど、もししないのであればここで出てくるのがわたしの創作脳!!

 

 

おそらくだけどこの士郎さんの記憶は仮にセイバーさんルートと名付けよう!!

 

だからまずは基本に忠実な感じ!!

 

言うならばチュートリアル!!

 

プレイヤーにまずはこの聖杯戦争がどういうものかわからせるもの!!

 

誰が敵で、誰が味方なのか、隠しキャラはまだ出てこない感じ!!

 

本気で正当な聖杯戦争をやる感じ!!

 

人間がサーヴァントに抗う道理はないと分からせるというもの!!

 

そしてからの第二部!!仮に凜さんルート!!

 

アーチャーさんの恨み節が炸裂ししっちゃかめっちゃかに聖杯戦争のルールが破られていく感じ!?

 

士郎さんとアーチャーさんの因縁が衝突して、そこでそれとは別として芽生える凜さんとの恋心!!

 

からの主人公覚醒イベント!!

 

今の士郎さんの戦闘力ならラスボスでも通用するかもしんないしね!?知らんけど。

 

士郎さんが理想の先を知ってしまい苦悩する、そして殺し合いへの発展!!

 

過去の自分が未来の自分に勝つとかロマン過ぎない!?

 

そして思い残すことが無くなったアーチャーさんを士郎さんと凜さんが手を繋ぎながら見送るエンド(誇大妄想)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだまだセイバーさんルート(仮)を最後まで見ていないんだからどういう感じか分からんけど、もうわたしのパッシブな妄想が捗りまくってるんだけど。

士郎さん、はよ続き見せてよー!!

 

 

思わず盛大ににやけそうになっているのをみんなに悟られない様に内心で口角を上げまくっていたわたしなのであった。




6話の内容でした。

最後はパルの妄想が爆発していました。


こんな調子で最後まで大丈夫か? 大丈夫だ、問題ない(多分)



吸血鬼になったエミヤの方は本気でシホとアルがどんなバトルをするのかいまだに想像できてない感じです。
誰か助けてー…。


FGOはバレンタインイベでエミヤが幸せのチョコを食べてしまい、しかし幸せに浸れずに自傷行為をするところまで妄想しました。
カレン、引けました。


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079話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その6

更新します。約一か月ぶりですね。


 

サーヴァント(おそらくライダー)に襲われてから翌日になった士郎さんはもう桜さんに台所をほぼ占領されていた。

聖杯戦争にも思考を割かないといけないんだしおちおち料理をおろそかになってしまうもんだよねー。

士郎さんを起こしに来る桜さんがマジで彼女じゃないのが不思議でならない。

こんときの士郎さん、マジで朴念仁。

 

それはそれとして昨晩にセイバーさんから『無事でよかった…』と言われていたけど布団に入ったままだったからあまり説得力が薄かった。

バーサーカー戦以来戦闘は起こっていないしねー。

 

「なるほどなー。こんときのセイバーは士郎からの魔力供給がほぼないに等しいからああして寝て回復に当たらないといけんほどに節約してたのか」

《ああ……。俺が不甲斐ないばっかりだったな》

 

お、久しぶりに士郎さんの生の声を聞いた。

回想が声変わりする前だからこの低い声の方がやっぱり士郎さんって感じがする。

というか、少年期、青年期、今の成人期で士郎さん、声変わりが三段階変わってるのか。

まるで声優がまるっと変わってるみたいな……。

いや、よそう。変に勘ぐるとどこからか反動が来るというわたしの直感というか警報が囁いている。

でも、男の人ってこんなに声が変わるってやっぱりすごいわ、うん。

 

桜さんからすぐに来てくださいと言われて行こうとしている士郎さんのタイミングを見計らってかセイバーさんが襖を開けて一言。

 

『シロウ……なぜ私を呼ばなかったのですか』

 

と、お叱りを受けていた。

まぁ、セイバーさんの言い分も分かるよ?

わたしも呼べるもんならすぐに呼ぶもん。

他にも凛さんとの共闘も慎重になるべき、と……。

まぁね。

 

「セイバーさん、なにか焦ってる感じですかね?」

「まぁ最終的には敵同士にはなるのですからセイバーさんの意見も分かるです。ですが……」

「そうアルネ。本調子とはいかずとももう少し士郎老師とじっくり話し合う時間があるといいネ」

「まぁ、それも聖杯戦争中じゃ叶わないって感じかねぇ……」

 

ネギ君の言葉にユエ吉、クーちゃん、朝倉が反応していたけど、わたしは単にセイバーさんが脳筋なんじゃね?と思う事しばしば。

 

そして朝の食事時になってセイバーさんは魔力を回復するためとはいえ、ご飯を四杯以上お替りする爆食ぶりを発揮していて、

 

「なんだ? セイバーの奴、この世界で食に目覚めたのか……?」

「まぁ、シロウの料理はおいしいもんね」

「まぁ、そこに関しては反論はねぇが……」

「そういうランサーは何を食わされてたのよ……?」

「…………激辛泰山マーボー…………」

《ランサー……くっ……》

 

なになに?士郎さんも反応するくらいその泰山とかいうお店の麻婆はひどいもんなの!?

興味半分で食してみたいかもしれない。

 

《早乙女……その、食してみたいという顔がありありと浮かんでいるが、あれだけはやめておけ。本来の麻婆を冒涜するかのごとき所業の料理だからな》

「士郎さんもお勧めしないってどんだけですか!?」

《興味があるならあとで食わせてやらないでもない……俺も出来れば作りたくはないが……》

「遠慮しておきます……」

《ならいいんだ。さて、脱線したな。再開するぞ》

 

そして再開した光景は玄関を出ようとするとセイバーさんも一緒に出かけようとしていて、士郎さんがなんとかなだめようとするが、そこに油を注ぎこむがごとく凛さんまで玄関先で待っているというヒロイン三名が集合する修羅場。

 

『遠坂先輩……どうして……』

 

と、案の定桜さんも暗い顔になっていて、

 

『今日から衛宮君と一緒に学校に行く事にしたの』

 

凛さんパネェ。

いきなり作り話ぶっこんでくるとは。

士郎さんもまんまと誘導されてしまっていた。

それで悲しい顔をしながら桜さんは先に行きますと言って行ってしまった。

 

「「「「「士郎さん……」」」」」

《待ってくれ。これはさすがに事前に言っておいて欲しかったんだぞ?本気で》

 

士郎さんへの軽蔑の眼差しを向ける一同。

いや、わたしとしてはむしろ凛さんの行動力ッ!の方を賞賛したいんだけど。

こうやってじわじわと士郎さんのフィールドの外堀りを埋めていくんだろうなぁ……。

この今夜くらいにはもう凛さんがその行動力をいかんなく発揮してなにかとでっちあげの理由を付けて下宿する話に持ち込みそうだと予想する。

 

そして堅物のセイバーさんをも簡単に説得して学校に来ないようにする説得とコミュ力。

この人、マジモンで完璧超人か!?

 

「なんやつまらん女同士の争いしとるなぁ……」

 

あ、なんか空気を読めないこた君が変な事を言ってしまい、そして、

 

 

 

ギンッ!!

 

 

 

という擬音が聞こえてきそうな感じでアスナ達に睨まれていた。

 

「ウオッ!? なんや!?」

「コタロー君、さすがに空気を読もう……」

「ネギ!? お前までそう言うんか!?」

 

普段のどかやユエ吉とかであたふたしているネギ君にまで言われてしまう始末だから困った困った。

 

 

 

そして士郎さん達は校門までやってきた瞬間であった。

突然士郎さんは胸を抑えて苦しそうにしだした。

 

『たぶん結界のせいね』

 

と凛さん。

そこに一成さんが来て、あまり凛さんの事を好ましく思っていないらしく士郎さんから遠ざけようとしている。

なんだろう……?こういっちゃあなんだけどわたしのBLセンサーが一成さんから反応してるんだけどさぁ……。

そのうち、士郎さんがマスター探しでも始める際に一成さんの服を剝ごうとしてそんな空気になったり……?

寺の息子で質素な飯を食っている一成さんに、いつも生徒会室で料理上手の士郎さんのお裾分けを貰っている……そこから未知な感情が芽生えて一気に開花した時に花開く薔薇!!

描ける!描けるぞ!!

しかも一成さんはどちらかというと攻めより受け側!

士×一か!?それとも一×士か!?

あ、いや……それはそれとして落ち着けわたしのパトス。

今は物語に集中しないと……。

 

そのままお昼に屋上でと言い残して去る凛さん。

うん、屋上って都合いい場所だよね。わかるー。

 

お昼にも一成さんが絡んでる……。やっぱりBL?

そして屋上にいこうとして桜さんと遭遇して士郎さんは桜さんをなんとか説得しようと追っていってしまう。

少しして桜さんを説得できたのかなんとか一息ついたが、急に凛さんが現れた。

ある意味ドタキャンした感じだから怒っているけど桜さんの名前が出た途端に凛さんもなにかを考えてかそのまま屋上へと向かっていった。

それを追う士郎さん。

うーん。完全に凛さんのペースだね。

 

そして屋上で凛さんがいきなり悪いニュースを教えてくれた。

美綴綾子さんが意識消失状態で発見されたって……。

 

「その、士郎さん……先日の生徒とおんなじ感じなんですか?」

《ああ。美綴もたぶん魔力を抜かれていたんだろう》

「そう、ですか……」

 

ネギ君が辛そうに表情を歪める。

話だけ聞くと前にエヴァちゃんが襲っていた時と同じ感じかな?

まきちゃんとか春に気絶していたし。

 

凛さんは結界を遅らせようと相談してきた。

呪刻を破壊すれば何とかなるかもという。

士郎さんには呪刻を見つけてほしいというと、

 

『たとえば、こことか?』

 

と、屋上の地面を指差すが、凛さんはそんなに簡単に見つけられれば苦労はしないといいつつも調べると、発見する。

 

「えっ? そんな簡単に見つかるもんなのかよ?」

 

千雨ちゃんがそうまともな判断をするが、

 

「士郎に限ればそう難しくもないんだろうがな」

「エヴァちゃん……?」

師匠(マスター)……?」

 

どういうことだろう? 士郎さんにとっては発見するのは簡単な言い方。

いいだろう。いっちょ聞いてみよう。

 

「エヴァちゃん。それってどーいう事?」

「士郎の魔術の適正と最奥を知れば簡単な事だ。士郎のそれは……」

「エヴァ。まだネタバレはないんじゃない?」

「む。そうだったな」

 

なんかモヤモヤするなぁ。

そこにイリヤさんが、

 

「シロウのもっとも得意な魔術を思い出してみなさい」

「投影、ですか……?」

「そう。しかも自分の力量を越えた英雄の宝具まで作り出せる異常なもの。だけど一から作るんじゃなくってとある(・・・)場所から引き出しているとしたら……?ヒントはここまでね」

 

それって……結界と関係しているもの。とある場所から引き出している……。

もしかして……士郎さんはなにかしらの結界を使えてとある場所にわんさかに引き出しを持っていて、それゆえに結界の基点に敏感……。

まさか一つの世界を持っているとか……?

 

 

必殺!!ほにゃらら結界!!

 

そのほにゃららの部分が分かれば苦労しないんだけどね。

とにかくそれから意外にも士郎さんの活躍劇が始まった。

放課後に次々と呪刻を見つける士郎さん。

それを鮮やかな手腕で破壊していく凛さん。

即席にしてはいいコンビかもしれない。

 

そして士郎さんが見つけられるものをあらかた発見して壊して放課後に二人で屋上でくつろいでいると、凛さんの猫かぶりの話に及んでいく。

詳しく聞くと凛さんの親も死んでしまっているらしい。

なんか過去にありそうだね……。たとえば前の聖杯戦争とかで死んだとか。

 

もう暗くなって校門で別れようとして意外にも凛さんのツンデレぶりが発揮されてて和やかなムードだなって思っていたんだけど、突如として士郎さんは悪寒を感じて令呪を見つつも確かめるだけと言い訳して一人でまた校舎の中に入っていく。

場所は弓道場。

中に入っていくとなんとそこには、

 

「うわぁ……」

 

先ほどまで破壊していた呪刻が可愛く見えてくるほどのおぞましい巨大な呪刻が壁にでかでかと刻まれていた。

士郎さんはすぐさまに凛さんを呼びに行こうとするけど、そこにはライダーの姿があった。

 

「まさしく最悪の展開でござるな……士郎殿はセイバー殿を今度こそは呼んだでござるか?」

《いや……この時はその場にマスターもいて戦闘にはならなかったんだ》

「そのマスターって……」

 

話は進んでいき、そこになんと慎二さんが姿を現した。

 

『久しぶりに遊ばないか? 僕のうちで……』

 

慎二さんがライダーのマスターで、驚く士郎さん。

さらにはまさかのホームグラウンドまで招くとは慎二さんの考えとは一体……。

話をすると慎二さんも無理やりマスターにされたという。

 

「「「「「嘘だね(ね)(ですね)(だと思います)(アルネ)(やな)」」」」」

 

この慎二さんの信頼の無さよ……。

まぁわたしももう信用していないけどね。

それから慎二さんは士郎さんに協力しようと相談する。

だけど士郎さんはまず聞いた。

美綴さんについてだ。

だけど慎二さんは僕じゃないという。心を痛めているとも言う。

 

「ちょっと……かなり嘘見え見えなんだけど」

「友達という鎖で士郎さんを躍らせているのを見て楽しんでいるのでしょうね。虫唾が走ります」

「士郎さんは慎二さんの事を信じたいって気持ちを逆手に取っていますね」

 

みんな散々だね。

士郎さんも一応それで納得し、次にマスターになった経緯を聞くと、間桐の家は魔術師の家系であり参加する義務があるという。

 

「まぁ、マトウもといマキリの一族は海外から日本に渡ってきた家系だからね」

「そうなのですか?イリヤさん」

「ええ。聖杯戦争のルールを作ったのも私のアインツベルンの家系、リンのトオサカの家系、マキリの家系の合わせて御三家、そしてトオサカの家系の師匠筋である魔導元帥ゼルレッチも立ち会って作られたのよ」

「「「「「へぇー……」」」」」

 

なんか御三家までは分かったんだけど、最後にすごい大物感がある名前が出てきたね。

魔導元帥とな?

良い響きだ……。

 

だけどそこで士郎さんは大声を出す。

内容は桜さんも魔術師なのかどうか。

だけど慎二さんは言う。

魔術師は一子相伝。長男あるいは長女だけが魔術を習ってその下の子達は何も知らされずに育ち、大体の場合は子宝に恵まれなかった、あるいは大きな魔術師の家に養子に出されるのだという。

だけど、慎二さんは知識があっても魔術師じゃないという。これって……。

 

「(イリヤさん……もしかして桜さんって前々から気にしている凛さんの……)」

「(え? うーん……ネタバレになるからあまり言いたくないんだけど直接私たちの聖杯戦争に絡んでくるわけじゃないから教えてもいいかな?そう。サクラはリンの実の妹よ)」

 

それを聞いてやはりか!と思った。

それじゃライダーを召喚したのはやっぱり……。

いよいよきな臭くなってきたね!

士郎さんの反応からすると本当に士郎さん達の聖杯戦争には桜さんは絡んでこないけど、ふとした瞬間に壊れるような思いを桜さんはしたのかもしれない。

思い出せ!

士郎さんが怪我したときにやってきた頃の桜さんのあの無表情を!

士郎さんのおかげで笑顔を取り戻してきていたけど、それまでは感情を殺すほどの想いをしていたんじゃないか……?

慎二さんに疎ましく思われていて、考えたくないけど慎二さんに……その……あ、あれだよ!うん、最悪な事をされていたんじゃないかって……。

いよいよわたしの中で桜さんは第三のヒロインとして格上げされてきた。

しかも最悪な方向で。

わたしの勘違いでなければ桜さんは汚れ系で被害者から加害者側になって鬱積した感情を爆発させて士郎さん達の敵になるんだろうなって……。

そして、万人の正義の味方になりたい士郎さんの夢をも諦めさせようとする存在になるんだって!

桜さんを護るためにただ一人の正義の味方になって世界を敵に回させるんだって……。

でも……それだけじゃ桜さんの悪役としての立場は弱いな。

この士郎さんの記憶だけでなにかうまいピースを回収できればいいんだけどね。

 

 

 

 

 

とにかく記憶を見ていこう。

慎二さんは士郎さんに協力して凛さんを倒そうと提案するが、士郎さんはそれを断って交渉は決裂する。

だけど、そこで慎二さんは士郎さんにとある情報を教えてくれた。

なんでも一成さんが住んでいる柳洞寺にマスターがいるという。

ライダーの情報が正しければ魔女が住んでいて大規模に魂を集めているという……。

 

 

嘘くさいけど帰り際にライダーに外まで見送りをされて、士郎さんがまだ慎二さんを信じたいのか『慎二の事を頼む』と言っていると、ライダーは意外にもいい感じに受け答えをしてきた。

 

『人がいいのですね、あなた……』

 

むっ……?意外にライダーさんも話が通じるしそれにいい声しているし、スタイルもいいし、もし本当に桜さんが呼び出したサーヴァントであるならば桜さん次第では共闘ルート……もっと突き詰めればライダーさんルートもあり得る、のか……?

いや、もしなくとも考えようによってはゲーム的に考えればファンディスクでヒロインになる得るのではないか!?

いやー。なんかわたしの脳内がマジでフル回転!!しているけどまさか、受信している……?よもやよもや……。

 

 

 

 

 

帰りにどこから来たのか一成さんと遭遇してちょうどいいから異常はないかと聞くと山には今目を奪われるほどの女性が客人として来ているとか。

どうやら話は本当らしい。

 

そして家に帰ると一番にセイバーさんが玄関を開けたところで待ち構えていた。

うーん。セオリーな展開……。

しかも凛さんもなぜか私服でいる。

士郎さんはちょうどいいから先ほどの情報を話す。

 

話をしていくうちに士郎さんはライダーは英雄らしくないという。

セイバーさんは訳が分からないというが、凛さんはなんとなくわかるという。

話によれば、サーヴァントはマスターの性格に近い英霊が呼ばれるとか。

高潔な意思の持ち主なら真っ当な英雄。

逆に性格が歪んでいる、異常がある、心に深い傷を持つものならそれ相応なものが呼ばれるとか……。

うーん……ますます桜さんと被る感じだね、ライダーさん。

 

それと凛さんは柳洞寺にはいないと思うらしいが、セイバーさんは違うらしい。

話によると柳洞寺には落ちた霊脈があるという。

お山には結界が張られていて、人間は大丈夫だけどサーヴァントは山門以外は侵入できないし、なまじ強行突破して足を踏み入れると能力が低下するという。

ん……?でもなんでセイバーさんはそんな情報を事前に知っているのか?

ははーん? もしかしてセイバーさんは前回の聖杯戦争にも呼び出されていて記憶も維持されているのかな?

でも、そういうのって普通前回の記憶って引き継げるものなのかな?

なにかカラクリがありそう。

 

でも、わたしはすぐに気づけたけどこの時の士郎さんは気づかなかったみたいでなんか違和感がある程度くらいにしか分からなかったみたい。

まぁそうよな。

そしてセイバーさんはすぐにでも攻め込むべきだというが士郎さんは即答でダメだという。

なんの策も無く敵陣に飛ぶこむのは自殺行為だと。

当然だ。

籠城しているのなら絶対に罠をいくつも用意しているもんだからね。

凛さんもそれに賛成する。

セイバーさんはそれで苦い顔になっていた。

 

 

 

 

 

だけどわたしの直感がそこでキュピーン!と音を上げた。

題して『バッドエンドその3』。

士郎さんがセイバーさんの提案を受け入れてしまい、なんの策もなく敵陣に飛び込んでいってどういう風かは分からないけど罠にはまって士郎さんは殺されてしまう感じ?

やるんだとしたらセイバーさんとの契約を壊すくらいしないとだけどね。

そんな都合のいい能力を持っている敵が果たしているのか……?

 

 

 

 

 

それからというもの、なぜか凛さんはわたしの思った通りに衛宮邸に下宿する魂胆らしく、後からやってきた藤村さんや桜さんの反論もものともせずに『家が改装しているのでうちに泊まったらどうだ?という提案を受けまして』というでっちあげもいいとこな話を切り出し、セイバーさんもいるし士郎さんも誠実でしょう?という感じで藤村さんはあっけなく陥落していた。

口ではこの猫かぶりには勝てんのだよ、口では。

それと凛さんはいつの間にか士郎さんの事を『士郎』と呼んでいた。

猫かぶりでは衛宮君、普段は士郎呼び……。

なんというヒロイン力……。

 

そして桜さん達を見送った後にまたセイバーさんと言い争いになって、ひと悶着あったけど、その晩は士郎さんは眠りについたのだけど、なーんか胸騒ぎがするね。

絶対に大人しくする性格じゃないもんね、セイバーさん。

これは一人で突進しに行っちゃったかな?

 

 

 

まさしくその通りな展開になるのであった……。

 




このか「せっちゃん、ウチら空気……」
刹那「ご辛抱を。お嬢様……」



まだパルはルールブレイカーの存在を知りません。
しかし、第三のルートとファンディスクも曖昧ですが当ててきていますね。
前回の聖杯の欠片まで予想できるか否か。


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080話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その7

更新します。

こちらではお久しぶりですね。

『吸血鬼になったエミヤ』の方がやっとまほら武闘会が終わったので、キリよくこちらに戻ってきました。


 

 

思った通り。

士郎さんが眠った後にセイバーさんは部屋を出ていく気配があり、士郎さんが嫌な予感がして目を覚まして襖を開けた時にはセイバーさんの姿はなかった。

 

「あー……やっぱセイバーの性格じゃでていくよなー」

 

ランサーさんがそうごちる。

それにまだ短い期間でのセイバーさんの姿を見てきた私含めてアスナ達も「うんうん」と頷いていた。

 

士郎さんはそれで自転車でセイバーさんが向かったのであろうお寺の方へと走っていく。

でも、

 

「やっぱり高校生だから車とか運転できないのは時間ロスですよね」

「そ、それは言わないほうがいいんじゃないかなー……パルー」

 

おっと。のどかに突っ込まれた。

最近この子も強くなったよね。

さて、士郎さんはそれでもなんとかお寺まで到着すると、急いで急な階段を駆け上がっていく。

だけど、やっぱりセイバーさんはすでに戦っていたようで階段の上の方から猛烈な風圧が吹き込んできていて、なかなか士郎さんは前に進めないでいる。

 

「こりゃ……まずいで。魔力の供給がないのにこんなものを放出しとるんやなんて……」

 

こたくんの言葉通り、士郎さんの令呪にも兆しが来てセイバーさんの危機を察して士郎さんはなんとか階段を昇っていこうとして、

 

『誰だ!?』

 

士郎さんは誰かが茂みの中を駆けていくのを合図に、風圧は収まってなんとかセイバーさんの元へと駆け付けると、すでに一人になっているセイバーさんがドレスの上の鎧を魔力化してそのまま士郎さんのもとへと落ちてきた。

見るとそのままセイバーさんは気絶していた。

 

「やっぱ魔力の消費が激しいみたいだね……」

 

気絶したセイバーさんを担いで士郎さんは家まで帰ってきた。

するとそこには案の定凛さんが待ち構えていた。

セイバーさんを凛さんが運んでいっている間にお茶を入れている士郎さん。

ちょっとしてセイバーさんは起きてきたが、やっぱり士郎さんと言い争いを始めていた。

士郎さんは女の子に戦わせるくらいなら自分が戦うという。

もちろんセイバーさんは怒るが、凜さんは違うという。

純粋にセイバーさんが傷つくのが見たくないという、やはり自己犠牲からくるものを言い当てられて、

 

「ま、シロウはこうじゃないとね」

 

ま、士郎さんらしいね……。

そしてセイバーさんは妥協案としてある提案を立ててきた。

それは士郎さんを鍛えると。

 

「あー……ここから士郎さんは少し強くなっていくのかな?」

「いや、アスナ。この時点での士郎老師を中途半端に鍛えても意味はナイネ。セイバーさんは言うなら心構えだと思うネ。アスナとてそんなすぐに強くなったわけじゃないアル。安全に鍛錬できる日々があるのが前提で、しかし士郎老師は聖杯戦争中にそんな鍛える時間がそんなにあるとは思えないネ」

「そうでござるな……刹那。実際、この戦争の終盤では士郎殿はどの程度強くなっていたでござるか?」

 

そこで楓さんが今の今まで一度見た光景だからか傍観を決めている刹那さんに問う。

刹那さんは少し悩んだ風にしてから、

 

「そうですね。聖杯戦争終盤でもたとえ投影魔術という異常な力が使えるようになっていようとそれでも武に関しては素人に毛が生えたくらいの実力しかなかったかと」

「手厳しいけど、確かにそうとしか言えないのが真実かな?ね、シロウ」

 

《…………ノーコメントで》

 

イリヤさんの言葉に少し間を置いて士郎さんはそう言った。

刹那さんという戦闘に関してはエキスパートがいうのだから間違いないだろう。

 

「あー……それとセイバーが戦っていたのは山門だからアサシンの佐々木小次郎だろうな。俺も偵察がてらで一回戦ったからな」

「佐々木小次郎やて!?」

「佐々木小次郎ですか!?」

「こ、小次郎さんですかー……ッ!」

 

コタくん、夕映、のどかが興奮した表情で反応する。

ま、まぁ私も反応したいけど、今は冷静を勤める意識が勝った。

 

「そういえば、日本では有名な奴だったか……?」

「有名どころではないです。それはもう―――……」

 

そこから夕映の佐々木小次郎語りが始まったが、長くなりそうなので一同は無視する事になったみたい。夕映、南無。

 

「燕返しが有名な人ですー」

「そうやな! それじゃもしかして宝具もなんか!?士郎の兄ちゃん!」

 

《ああ。しかし明確に言えば燕返しは宝具ではなくただの技だし、名称も正確には【多重次元屈折現象】と言って第二魔法・並行世界の運営の一部の機能をただ暇だという理由で生涯刀を振り続けて会得してしまった三つの異なる剣筋を同時に発動するに至った魔剣らしい》

「よく分からん言葉があったけど、とにかくすげーってことやな!」

《まぁ、そうだな……》

 

コタ君の理解力に流石の士郎さんも苦笑気味。

だけど、私はなんとなくわかった。

第二魔法ってすごいんだねー。使える物なら使いたいものだ。

その時だった。

わたしの脳内でなにかチカチカする感触があったんだけど、これは一体……?

 

 

 

そんな奇妙な感触を少し残しつつ、話は進んでいく。

翌日士郎さんは凛さん達が学校に行く中、玄関でみんなをお見送りしていた。

やっぱり学校休むんだねー。

道場を綺麗に掃除して、いざ士郎さんとセイバーさんの竹刀での打ち合いが始まったんだけど、セイバーさんは容赦なく打ち込んでいく。

 

「せ、セイバーさんは容赦ないですね……」

「士郎さんも負けず嫌いだよね……」

 

そんな、ただ根性を叩き潰す仕方を繰り返していて、二時間。

士郎さんはそれでも耐え続けて、一旦休憩になって、士郎さんはセイバーさんに問う。

 

『セイバーが聖杯に願う事って何なんだ?』

 

それでセイバーさんは答えは『ある責務を果たす』と。

それと小声で「やり直したいだけかもしれない……」と。

 

「やり直したい、ですか……それってまるで」

 

ネギ君がそこで反応する。

やっぱり超りんの事でも思い出したのかな……?

 

「士郎さん、教えてください。セイバーさんてどこの英霊なんですか……?なにかこう、分からないんですけど胸がざわざわするんです。なにかは分からないんですけど、僕……いえ、まるで…………いえ、やっぱり言葉に出来ませんけどなにか漠然と否定されたような……」

《ネギ君……おそらく君はセイバーの正体を知って今の状態だけのセイバーを見たらきっとひどいショックを受けるだろう。だから自然と真名がわかるまでまだ教えないでおくよ》

「…………わかりました」

 

ネギ君もどこか納得はしていないが、引き下がった。

これも所謂ネタバレの範疇なのだろうという事か。

しかし、ネギ君がおそらくショックを受けるほどの英霊……過去をやり直したいと思えるほどの後悔を抱えている剣士……ネギ君の故郷はウェールズ……つまりイギリス。

イギリスで有名な英雄と言えば…………、……え?マジ?

もしわたしの考えが当たっていればセイバーさんって相当の大物じゃん!!

そんな人物が過去をやり直したいって……そりゃそうだ!

信じていた部下には裏切られて最後には息子に殺されて国も滅ぶ……。

もし、聖剣を抜くのが違う人物だったら……とまで思ってしまったって事?

そりゃネギ君の漠然とした反応にも納得だわ。

 

そのまま光景は再開されて、士郎さんは昼食を買いに商店街へと一人で向かう。

買い物を終えて帰ろうとしていたけど、そこで昼間だというのにイリヤさんが士郎さんの服を掴んできた。

戦いに来たんじゃなくてお話に来たという。

士郎さんは少し嫌そうだが、イリヤさんは無邪気に士郎さんに絡んでくる。

 

「なんか、この時のイリヤさんって少し世間知らず……?」

「ウッ、言うわね。しょうがないじゃない。私は日本に来るまでずっとお城で暮らしていたんだから」

 

そんな、話をしていて過去のイリヤさんは士郎さんに抱き着いていてどこか嬉しそう。

メイドも冬木の洋館にいるらしくて、小声でイリヤさんは、

 

「そういえば……セラにリズはどうしてるだろう……」

 

と言っている。

過去のイリヤさんも「バーサーカーが起きちゃった」と言って帰ってしまった。

 

それから家に帰ってきたら、凛さんも帰ってきて、なんか慎二さんにパートナーにならないか?と誘われたらしいんだけど、あまりにもしつこいので、

 

「それでグーパンと来ましたか。まぁ納得だね」

 

朝倉の言葉にそれでみんなもうんうんと頷く。

凛さんは慎二さんの顔面をグーパンして帰ってきたという。

慎二さんって節操ないねぇ……。

士郎さんも安心したのか洗面所に向かうのだけど、そこでラッキースケベ展開が!

なんとセイバーさんが服を脱いでお風呂に入ろうとしていたのだ。

まさにもう脱ぎきって裸の状態である。

士郎さんもすぐに顔を赤くさせて扉をすぐに閉めた。

んだけど……、セイバーさんは羞恥心というものがないらしく、せっかく士郎さんが閉めた扉を開けて外に出てくる始末で、

 

『まさか、セイバーは裸が恥ずかしくないのか!?』

 

必死に顔を逸らす士郎さんにセイバーさんは、

 

『私は女である前に騎士……そしてサーヴァントです。ですから恥ずかしがる必要など皆無かと』

 

それで士郎さんはもう必死に逃げていくのであった。

それで周りのみんなの視線がどこか冷たいかと……思われたのだが、逆に同情されていた。

 

「セイバーさん……あれはさすがに純情な高校生の士郎さんには目の毒だって……」

「騎士って類は羞恥心をどこかに置いてきたアルか?私は恥ずかしいからきっとすぐに隠れるネ……」

 

他にも色々言われていて、

 

《さすがに俺も今の現状は逆の意味で居た堪れないのだが……》

 

士郎さん、今回は南無。

でも、ラノベとかだとこういう展開って好感度が上がったら急に羞恥心を覚えてしおらしくなるもんじゃない!?

まだ、もう一回お風呂イベントが起こるわね!これは確信に近いわ!

 

 

 

それから今度は凛さんと魔術の練習を始めたけど、急に飴玉みたいなものを呑まされた。

なんと飴玉ではなく宝石だという。

凛さんがいうには魔術回路を作るためにスイッチを作るという。

その無駄を省くためだという。

 

それと凛さんの説明では、投影というものは物を複製するもので作ったものはすぐに消滅するという。なんか矛盾するなぁ。

 

それから一度横になって休んでいると、今度はアーチャーさんが士郎さんに話しかけてきた。

 

『凛は勘違いしている。天才には凡人な悩みが分からない。凛は優等生すぎるから落ちこぼれのお前にまともな教え方をしても無駄という事に気づかないのだ』

 

士郎さんは喧嘩を売られたと思ったのか、怒気を強めるが、アーチャーさんは構わずに言葉を続ける。

 

『一度しか言わないからよく聞け。戦いになれば衛宮士郎に勝ち目はない。なにをしようがお前はサーヴァントに太刀打ちできない』

『なに!?』

『ならばせめてイメージしろ。現実で敵わぬ相手なら想像の中で勝てる物を幻想せよ。お前に出来る事などそれくらいしかないのだから』

『…………』

『私もどうかしているな。殺すべき相手に助言などをするなど』

 

そう言ってアーチャーさんは霊体化して姿を消した。

士郎さんは意味が分からないと言った感じでもやもやしていた。

 

「ほー……?アーチャーの野郎、こんときから士郎にヒントを与えていたのか」

《まぁ、この時はただの嫌味としか感じられなかったんだけどな》

 

士郎さんとランサーさんがなにか分かりあったような会話をしている。

まぁ、わたしももう気付いているから内容は分かる。

だけど、どうやらネギ君は違う視点のようで、アーチャーさんの言葉を真に受けたのか、

 

「現実で敵わないなら……想像の中で勝てる物を幻想する……つまり、もっと強い魔法力と強力な魔法を会得するようにすれば……?」

「ぼーや……そういうのは自力がモノを言うのだぞ?まだ修行中の貴様が高望みな力を会得するのは段階が尚早だ。まずは私との訓練で1分は持つようになれ」

「は、はい!師匠(マスター)!!」

 

と、すぐに正論で負かされていた。

ちょろいぞネギ君!!

 

 

 

そして、次の日も学校を休んで、またセイバーさんと打ち合いをしている士郎さん。

ちなみに凛さんも休んでいるようだ。

セイバーさんは言う。

 

『私は一度も自身を女性だと思ったことはないし、一度も女性として扱われたことはない。戦うためにこの世界に来たのです。性別を意識するなど無意味というものです』

 

分かっていたけど、うわー……。

過去の人達ってどんな価値観だったんだろう?

というか、もしかして指南役のおそらく高尚な魔術師がセイバーさんを女性として映らない様に魔術で隠ぺいしていたとか?

それだったら女性として扱われないのも納得する理由かもしれない。

女性が騎士では舐められる時代だったかもしれないしね。

 

そして、そのまま休みもなく凛さんの魔術の授業が始まる。

部屋には二桁を超えるランプが置かれていて、全部強化しろというお達しらしい。

それで強化していくが、一個も成功した試しがなく、士郎さんは「一個くらい成功しないと怒られるな……」と言葉を零している時に電話がかかってくる。

電話に出ると、相手はなんと慎二さんだった。

 

慎二さん曰く、

 

 

―――同じ悩みを持つものとして二人で話をしたい。

 

―――遠坂には教えるなよ?お前だけで学校に来い。

 

 

との事。

それだけでさっさと電話は切られてしまった。

 

 

「「「「罠でしょ!(アル)(ござるな)(やな)(ですね)」」」」

 

 

満場一致の感想である。

それでも士郎さんは人質でも取られたかのような面持ちで一人で学校へと向かっていってしまった。

学校に到着して、士郎さんはすぐに違和感に気づく。

今は休み時間のはずなのに、誰一人として廊下に出てきていないのだ。

だが、異変はすぐに起きてしまった。

突如として、士郎さんの周りの世界が赤く染め上がって、士郎さんは息も絶え絶えになって苦しそうだ。

 

「な、何が起こったの!?」

「わ、わかりません……」

「へぇ……そんな事が起きていたんだな。昼間だというのに度胸あるじゃねーか……」

 

ランサーさんだけはそう軽口を話しているが、瞳は冷え冷えに冷えていた。

士郎さんが教室のドアを開けて中を見ると生徒全員がまるで死んでいるかのように全員各々に倒れ伏していた。

 

「ひっ!!」

「おい、やべぇぞ!!」

 

冷静な千雨ちゃんですら動揺を隠せないのだからよっぽどだろう。

 

士郎さんの令呪も危険信号を発しているのか点滅を繰り返している。

そこに、

 

『よぉ、衛宮!』

 

と、もう何度も聞いているのにここ一番で憎たらしく聞こえてくる声の主は、やはり慎二さんだった。

慎二さんは言う。

 

 

―――お前が来たと分かったから結界を発動させた。

 

―――僕とお前、どちらが優れているのか遠坂に思い知らせる。

 

―――お前たちが悪いんだよ!一緒に戦おうって誘ったのに断ったりするから!

 

―――やめてほしかったら土下座をするのが筋ってものじゃないの?

 

 

そして藤村先生にしたことを聞いてわたしは怒りがわき上がる思いだった。

自身も辛いだろうに助けを呼んでと慎二さんに縋った藤村さんを蹴り飛ばしてしまうだなんて……。

 

「こいつ……正真正銘のクズやな」

 

コタ君が今まで見たことのない程の怒りを表情に込めてそう言った。

アスナ達も無言で怒りを溜めているようだ。

それは過去の光景の士郎さんが一番感じている事だろう。

 

『これで最後だ……結界を止めろ慎二』

 

それでもなお止まらない慎二さんに士郎さんは吶喊していく。

慎二さんが本から魔術を放つが、セイバーさんの特訓が効いたのか、それを軽々と避けていく士郎さん、そして避けられて恐怖の表情をする慎二さんはライダーを呼んだのか鎖が迫ってくるがなんとか交わす士郎さんだけど、次の一撃は交わせずに釘の攻撃を食らい続ける。

慎二さんがさっさと殺せと言うからライダーは串刺しをするかのように士郎さんに釘を刺した。

だけど逆に釘の方が刃毀れをしていて、

 

『驚いた……私の刃物では殺せない。なら……!』

 

ライダーの蹴りが士郎さんを炸裂して恐らく三階の窓から落ちていく士郎さんは、こんなところで死ねない……と思ったのだろう。

令呪が刻まれている手を空へとかざして叫んだ。

 

 

 

『来い!セイバー!!』

 

 

一画目の令呪は使用されて、魔法陣が展開されて完全武装のセイバーさんが士郎さんを抱えるように登場する。

 

さぁ、ここからが本番だ!という熱い展開になってきたね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………それはそれとして、こんな時だけどわたしの直感がまたキュピーン!と音を上げた。

 

題して『バッドエンドその5』。

 

令呪を使わずにそのまま地面へと落下した士郎さんが、なぜか体内から出現した剣の群れに串刺しにあうとかいう意味不明な光景を幻視したのであった。

 

ちなみに『バッドエンドその4』はさっきのライダーとの攻防でライダーを無視して慎二さんを倒そうとして、人間の弱点である延髄に釘を刺されてそのままぽっくりだったりしたり……?

 

 

 




『吸血鬼になったエミヤ』を読んでいる方もいるでしょうが、あちらを書いているとなんか内容が内容ですからカルマが溜まっていく気分にされるので息抜きも大事ですよね。

次回、慎二との決着までを書こうと思います。


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081話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その8

更新します。


 

 

 

 

過去の士郎さんが死の間際についにセイバーさんを召喚した時。

ドラマ性あっていいよね!

こんなにピンチの瞬間にはさすがの士郎さんもタイミングがばっちしの瞬間にセイバーさんを召喚するなんて……。

 

召喚されたセイバーさんに士郎さんはケガよりライダーを倒せと命令する。

セイバーさんは少し戸惑うけど、士郎さんの気持ちを汲んでライダーを倒しにいった。

士郎さんも慎二さんに向かって駆けていく。

 

…………だけど、セイバーさんが来た途端に形勢逆転でもされたかの如く士郎さんから逃げていく慎二さんのなんと情けない姿の事よ……。

そしてついに壁際まで慎二さんを追いこんだ士郎さんは慎二さんの首を絞めながら、

 

『結界を止めろ、慎二。でないとお前の息の根を止める』

『お前に出来るのかい……?半人前のくせに……』

『そうだろうな。だけどな、一つだけ教わった事がある……』

 

 

そう言って士郎さんは言った。

 

 

―――どんなに取り繕うと、魔術は自分を殺し誰かを傷つける術なんだと……。だから魔術師は魔術師を殺すことを一番初めに覚悟しなくてはいけない。それを、お前は誰にも教わらなかったんだな?

 

 

そう言って慎二さんの首を絞める力を強める。

でも、なんていうか。

 

「なんか、士郎さんが少し怖いです……」

 

そうのどかが言葉を発していた。

まぁのどからしい純粋な反応だけど、

 

「いや、こん時の士郎の兄ちゃんにしてはいい心構えやと思うで?俺らかてここまでされてただただ泣き寝入りなんて嫌やし」

「まぁ、そうアルな……。下手すれば生徒全員の命が絶えてしまうかもしれぬ瀬戸際アル」

「で、ござるな。慎二殿の命を天秤にかければどちらが軽いかは明白でござる。もちろん、慎二殿にも相応の罰を与えるべきでござるが、まずは情勢を見守るのがいいかと……」

「必要に応じて悪を行う……僕も、こういう切羽詰まった事態になる時が来たら判断をしないといけない時がくるのでしょうか……?」

「ネギ先生……」

「ネギ……」

 

夕映とアスナのネギ君に対する心配の声。

ネギ君も表情は少し怯えも含まれているけど、そっか。学園祭の時に夕映と真向に話し合ってネギ君は『悪を行う』決意もしたんだよね。

この中ではアスナ以上に理解者はいまのところは夕映かもしれないね。

のどか、まだそんな調子じゃネギ君に着いていくって決めてるのに夕映には距離を離されて行ってしまうよ?

 

そんな、親友二人の対比を確認しながらも、話は進んでいく。

 

慎二さんは士郎さんに恐怖を感じたのかライダーに向かって叫んだ。

結界を止めろ、と。

ライダーは素直に命令を聞いたのか赤い世界はすぐさまに元の色に戻っていった。

結界は消えた。

だけど、士郎さんはなお首を絞めながら令呪を捨てろと言う。

そうすればもう戦う必要はないと、サーヴァントに反撃されるのを恐れるなら教会に保護をしてもらえばいいと、説得する。

 

「……まぁ、まだ温情があるだけ士郎さんらしいよね」

『そうですね、朝倉さん……』

 

だけど、そこでライダーが先んじて動いた。

セイバーさんの懐を搔い潜り、慎二さんの元へと駆けていく。

士郎さんはなんとか避けたが、これでライダーに護られる慎二さんという構図が出来ていた。

慎二さんと少し話をしていたライダーはそこで思いもよらない行動を取った。

そう、自らの首に釘を刺したのだ。

 

「ひっ!?」

 

誰から漏れた声だったか分からないけど、まさか自害なわけでもない。

辺り一帯にライダーの鮮血が飛び散りながらも、飛び散った鮮血が次第に紋様のような魔法陣を形作っていく。

その魔法陣の中心に人の巨大な眼玉みたいなものが浮かび上がったと思った次の瞬間に、そこには真っ白い翼を広げるなにかの姿があり、光がその階一帯にまで及んで、士郎さんが気づいた時にはその階の教室はすべて壁が砕けていて地面も抉れに抉れていた。

 

「離脱用の、宝具ですか……?」

「にしては威力が高いよね。当たってたら士郎さんもセイバーさんもひとたまりもないと思うし」

 

それから士郎さんは気絶したあと、家に運ばれて遠坂さんに看病してもらったらしい。

だけど、ネギ君はそれだけで安心出来る玉ではない。

ネギ君も教師であるんだから他の見知らぬ生徒だろうと、心配するのが当たり前であり、

 

「士郎さん!それで学校で被害に遭った人たちはどうなったんですか!?藤村さんは!」

《落ちついてくれ、ネギ君。あれからすぐに教会の人達が来てフォローをして、魔術的事象というのは隠されてガス漏れで全員中毒になって病院に運ばれたけど命には別条はないという事になったらしい》

「それでは、誰も……?」

《ああ。結構な重症者もいたらしいけど、誰も死んでいない。それだけは確かな事実だ》

「そうですか……。よかった」

 

それで一応の安心を得たのか先ほどまで強張っていたネギ君の表情にも余裕が出来る。

それで、心にも余裕ができたのか、

 

「でも、そうですね……。サーヴァントに宝具……それだけでも脅威ですが、僕達の世界の魔法も威力だけは負けていません。ですからあんな使い方をされたら死者が出てしまうのは避けられないかもしれません」

《そうだ。だから魔術とか魔法とか関係なく人の為に使わなければいけない。使い方を知らないものが使えば大惨事になるし、故意に使うものがいればそれはもうただの心がない化け物と同義だ》

「だな。坊主も結構やんちゃなんだからよ。気を付けろよ?」

 

そう言ってランサーさんはネギ君の頭をこついていた。

まぁ、確かにそうだよね。

わたしも魔法を知る前からネギ君とはそれなりに接触しているからたとえばドッチボールの時とかくしゃみした時とか修学旅行の時とかネギ君の魔力が暴走しているみたいな光景をなんとなく目撃しているしねぇ……。

ドッチボールの時は鎌鼬か?というほどの威力だったし、くしゃみの時とかそういえば食らった士郎さんお腹抑えて痛がっていたよね?

無自覚のネギ君ほど恐ろしいものはないな、と……。

 

 

 

起きた士郎さんは遠坂さんにやはり咎められていて、セイバーさんにも謝りに行って、そこで士郎さんは素直に今度から一人じゃ戦わない、俺だけじゃ勝てない、力を貸してくれ……とセイバーさんに頼み込んでいた。

だけど、今までの行いまでは間違いじゃないと言って、セイバーさんが傷つくのはイヤだし、セイバーさんが戦うなら俺も戦うとそこだけは譲らなかった。

セイバーさんもいい加減士郎さんの性格と頑固さがわかってきたのか、士郎さんとようやくだがいい感じの仲になってきていた。

 

それと、遠坂さんが代わりの服を持ってきていた。

それはなぜかというと、強制召喚されると今まで着ていた服は飛び散ってしまうという。それはまた難儀な……。

遠坂さんもセイバーさんになんでそんな地味な服装を選ぶのか問うと、セイバーさんは幾分柔らかい笑みを浮かべながらも、

 

『シロウが似合うと言ってくれたから』

 

と言う。

なんていうか、

 

「うわ、甘ずっぺぇ!!」

「いや、女の子ならこうでねぇとな!俺っちも興奮してきやしたっす!!」

「可愛いですー!」

 

と、なかなか今まで笑みを見せなかったからか私の心からの言葉にカモ君含めて盛大に反応をしてくれましたよ!

 

 

 

 

そして、翌日。

士郎さんは藤村さんももう元気にしているという事に安堵しつつ、慎二さんと決着をつけると動き出していた。

遠坂さん達と作戦会議しつつ、ライダーの対策について話し合う。

結果、宝具を使われる前に倒す。

それが単純にして最短でもあるのは分かるねー。

 

士郎さん達は街に出て結界探しをしていた。

だけど、セイバーさんは急に士郎さんを休ませるように椅子に座らせると、士郎さんは急に疲れがどっと出たのか深い息をしていた。

それでもそんなにすぐに休むこともできないだろうとセイバーさんは辺りを見回して、ふと一組のカップルがしている事が目についたらしく、恥ずかしげもなく、膝枕をしようとしていた。

うん。不器用か?

当然、士郎さんもそんな恥ずかしい事などできるか!と椅子に頬杖をついてそのまま眠りについていた。

 

「士郎さん、せっかくのチャンスを逃すなんて……ヘタレですか?」

《うるさいぞ朝倉。黙って見ていなさい》

「はーい」

 

それから一時間ほど、士郎さんはようやく起きて、だけど休むなら他で休めばよかったな……と呟く。

それにセイバーさんは気づいて理由を聞くと、この公園一帯は昔は士郎さんが住んでいた場所だったという。

そういえば!

士郎さんは淡々と過去の事を話しているが、聞いているセイバーさんは目を見開いて驚いていた。

セイバーさんは問う。聖杯戦争の犠牲者だからこそ、同じ思いをしてほしくないのか?と。

それに士郎さんはもっと単純に、他の人も助けを求めていたのに俺だけが助けられて、だからこれからの事を防ぎたいという。

そこでセイバーさんも士郎さんの自己犠牲精神について納得の思いを感じたのだろう。どこか複雑な思いを抱いた顔になっていた。

 

そしていつまでもここにいてはいけないと、二人はまた街に入っていくと、セイバーさんが急にライダーの魔力を感じたのか近くのビルへと歩いていく。

そこでセイバーさんが士郎さんを守るように飛んでなにかを弾いた。

見るとビルの壁伝いにライダーが重力に逆らって立っていた。

いや、まるで蛇のように這っているかのようで……。

セイバーさんもそれでライダーを追うためにビルを跳んで登っていく。

 

士郎さんも士郎さんで屋上までのエレベーターを乗って昇っていくんだけど、途中でエレベーターが止まってしまい、仕方がなく降りて階段を登っていこうとしているんだけど、こういう時に士郎さんの視界だけじゃない周りの光景も見えるのが幸いしたのか、わたしは気づいてしまった。

 

「あの、士郎さんとは反対の影の方に、なんか恐怖を感じる巨体が立っていたように見えたんですけど……」

「あら。ハルナ、あなた目がいいのね?」

 

そこでわたしの言葉を待っていたのかイリヤさんがニッコリと笑みを浮かべている。

うわー……じゃぁこの後、そういう事になるのかなー?

 

そして士郎さん目線に戻ると、屋上までなんとか辿り着いた士郎さんの視線の先には、幻想種のペガサスに乗っているライダー……そして慎二さんの憎たらしい語りが聞こえてくる。

セイバーさんもこの狭い場では士郎さんを守り切れないと案じてか、宝具を開放するみたいで風が吹き荒れる。

相対してライダーも宝具を開放して吶喊してくる。

宝具の名は、

 

 

 

 

 

騎英の(ベルレ)─────手綱(フォーン)!!』

 

 

 

 

ペガサスに手綱を掛けて従わせてくる宝具。

そしてセイバーさんは言った。ライダーは悪鬼の類だって。

それじゃライダーの正体ってまさか!?

英雄・ペルセウスに倒されたあの有名な!

 

そして、セイバーさんの起こす風もどんどんとセイバーさんを中心に纏まっていき、

 

 

『ライダー……ここなら人目もつかないと言ったな?同感だ。ここならば、地上を焼き払う憂いもない!!』

 

 

次第に風が解けて、そこには光り輝く黄金の剣が姿を現した。

まさかここまでわたしの勘が当たっているなんてね……その剣の真名は、

 

 

 

 

約束された(エクス)─────勝利の剣(カリバー)ーーーッ!!』

 

 

 

 

黄金の極光が放たれてライダーをそのまま飲み込んでいった。

空はまるで昼間になったかのように明るくなり、それほどにその光は強烈だという事が物語っている。

そして、エクスカリバーの担い手と言えば、世界広しと言えども一人しか該当しない。

ネギ君がまるでうわ言かの様に、

 

「アー、サー、王……?セイバーさんが……?そんな……」

 

と呟いている。

そう。ネギ君は絶対に知っているブリテンの大英雄。

 

 

 

 

光が収まると、そこには令呪の本が燃えてしまっているのか隠れていた慎二さんが一目散に逃げていく。

士郎さんは追おうとしたが、おそらく魔力切れで倒れてしまったセイバーさんに意識が向いてしまい、慎二さんはそのまま逃げていってしまった。

 

「ここで逃がすのは惜しいね……」

「でも、セイバーさんが心配なのは分かるなぁ」

「安心して。もう彼の出番はこれ以降二度とないから」

「それじゃ……やはり」

 

イリヤさんの言葉が意味している事は、

 

「さっき、私が陰で控えているのを知っているのなら分かるでしょう?マスターはたとえサーヴァントを失っても令呪が残っている限り野良のサーヴァントとまた再契約できるという方法があるの。そんな一握りのチャンスを当時の私が見過ごすわけないじゃない?ただでさえ、マスターは例外なく殺すのが聖杯戦争のルール……」

「それじゃ、慎二さんは……」

「私が、私とバーサーカーが殺したわ……」

 

もう分かり切っていたイリヤさんのカミングアウトだった。

予想していなかったわけではないけど、普段あんなに優しいイリヤさんから真実を告げられるとやっぱり来るものがあるよねー。

 

「そうですか……。これが、聖杯戦争……。慎二さんも自業自得でしたが、それでも士郎さんの親友でしたのに……どこで歯車が狂ってしまったのでしょうね?」

《…………》

 

夕映の言葉が重しの様に圧し掛かってきたかのような錯覚を感じたわたし達なのであった。

そして士郎さんの気配もどこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

……………

 

 

………………

 

 

 

 

 

重たい!

なんていうか、空気が重たい!!

まぁ、しょうがないって思うけどね!

でも、わたしはもう振り切った事にする。

もう聖杯戦争も中盤だろうし、おそらくこのまま次に来るのはイリヤさんと言う最大の山場だろう。

まだ士郎さんの投影魔術も解禁されていない。

強化フラグはどういう風になされるのか興味が尽きない!

さぁ、魅せてください士郎さん!

続きを!!

 

 

 

と、思っていると、

 

「嬢ちゃん、なんかこの場では不謹慎だが頭の中大丈夫か……?」

 

と、普段と全く変わらないランサーさんに指摘されてしまいました♪

 

 

 

 

 




オチはやはりハルナがつけるべきでしょうと。

次回、イリヤ編ですかね。


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082話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その9

更新します。

イリヤ編を一話にまとめたので一万文字を越えてしまいました。
長いですので注意です。


ライダーを倒したその晩に、そのままセイバーさんは起きずに眠りについていた。

せっかく敵を倒して相手の数が減ったのにここでセイバーさんが起きないとあっては大変だよねー。

やっぱり魔力が今すっからかんだからかな?

それで士郎さんは遠坂さんにセイバーさんを診てもらった後に、何があったか聞かれたので正直に「ライダーをセイバーが宝具を使って倒した」と言った。

でも、さすがの遠坂さん。仮にもいつか敵になるのだからセイバーさんの宝具がなにかに関しては聞いてこなかった。

 

それでも、

 

『このままだとセイバーは消えるわよ?』

 

その一言でここまで心がざわつくとはね。

士郎さんもそれで慌てて遠坂さんに突っかかっていくが、遠坂さんは士郎さんに出来る事を二つ提示した。

 

 

その1、どうにかして士郎さんがセイバーさんに魔力を供給するか。

 

その2、サーヴァント自身に魔力を補充させるか。

 

この二択。

 

 

「補充って……まさか慎二さんがやっていた!?」

「そうね。サーヴァントに人を襲わせるのも一つの手よ、ネギ」

「で、でも……あのアーサー王にそんな事させられるわけ……」

 

ネギ君がとてもつらそうな顔になりながらも、そう言葉を零す。

まぁ、自国の英雄にそんな事をさせるくらいならネギ君だったらそのまま消滅させてしまうかもね、それがたとえ間違った選択であっても……。

 

そして遠坂さんは言う。

答えは一つ。

絶対にそんな事をしないだろうセイバーさんに、それでも人を襲わせたいのなら令呪を使って命令しなさい。人を殺して魔力を集めろと……。

 

そんな、ヒトを助ける事を第一に考えている士郎さんにそんな残酷な提案が出来るのも、これがやっぱり生粋の魔術師である遠坂さんだからこそなんかね?

なんか、わたしが想像してるより士郎さん達の世界の魔術師ってかなり倫理が狂ってるのかな?

 

「リンも残酷な事を言うけどそれは正解なのよ。結局は魔力がなく宝具が使えなければセイバーはただのデクの棒……この時のシロウにも戦闘力は劣らないでしょうけど動きはかなり制限されるでしょう」

「それでも、なにか別の方法があるんじゃないですか……?」

「あるにはあるけど……ちなみにネギ、それにエヴァにも一つ聞きたいんだけど」

「な、なんですか……?」

「む?」

 

それでネギ君とエヴァちゃんが反応を示す。

 

「この世界で魔力を補充する方法って仮契約カード以外になにかある……?」

「ふむ、そうだな……。私からすればやはり“血”だろうな。吸血鬼ゆえにな」

「そうね。それじゃここにいるのはまだ未成年ばかりだけど、こう……性的な方法ってやっぱり成立するのかしら?」

 

なんか、いきなりぶっとんだ話題が出てきた。

性的って……つまり、そのセッッッッッッ的な!?

わたし以外にもほとんどの女子は顔を赤くさせて、正反対にネギ君とコタ君ははてな顔をしていた。

やはり、ここが子供との理解の差かっ!!

 

「そうだな。手っ取り早く行くならやはりキスだろうな」

 

エヴァちゃーーーーんッ!?

真面目な顔で答えないでよ!なんかそれだとうちら恥ずかしいじゃん!ネギ君のキス魔ぁぁぁ!!

 

「そうね。それでもっと追及するとチョメチョメ的な行為だとさらに効果アップ?」

「…………まぁ、そうだな。私はもちろんそんな事はしたことはないが効果は抜群だろうな。まさか、貴様達の世界ではそれが普通なのか?」

「まぁ、普通でもないけど魔術的には大いに可能性の一つね。ここだけの話だけど、魔術はとにかくお金がかかるもので実験のし過ぎでたびたび金欠になる人が多くいるのよ。それで魔術協会に自身の精液=魔力の塊を売ってやり過ごす人も多くいたわ」

 

なんかアダルトチックな話になってきたね……。

それにしても、士郎さん達の世界の魔術師って結構身売りに関しては容赦しないんだね。少しゾッとするわ……。

 

「ふむ……。シビアだとは思っていたが、まさかそういう方面までとは中々に恐れ入るな」

「ホントにね」

 

それでエヴァちゃんとイリヤさんが同時にため息を吐く。

そこに士郎さんの声が聞こえてきた。

 

 

《姉さん、それにエヴァ。それくらいにしておかないか?なまじ中途半端にそういう知識がある多感な中学生であるアスナ達がもう顔が盛大に真っ赤だ》

「シロウも言うわね。この後にそういう……」

《姉さん!》

「はいはい。ごめんねシロウ」

 

なんか意味深な話ぃ!!?

まさか最終手段、行っちゃうんですか!?

 

「ゲヘヘ……セイバーの姉さん、もしかして……」

《カモミール。それ以上なにかほざくと後が怖いぞ?》

「ヘイ……」

 

今は士郎さんの鋭い眼光はないというのに、カモ君が委縮してしまった。

それで士郎さんは話を断つように過去の光景を再開した。

究極の選択を迫られている士郎さんは、ふと……見知らぬ光景を見ている。

というか、

 

「これって……過去の光景の中で士郎さんが意識がある夢を見ているんですか?」

「そうね。しかもただの夢ではなく、それは契約しているサーヴァントの過去の光景……」

 

過去の光景の夢の中ではまだ顔つきが幼い印象を受けるセイバーさんが、ライダーさんに使った剣とは違う、でも煌びやかな剣を前に手を伸ばす。

そこにいつからいたのか杖を構えた魔術師みたいな人が、

 

『その剣を岩から引き出したもの……すなわちブリテンの王たるべきもの。アルトリア……それを引き抜く前に今一度考えてみるといい。その剣を手にしたが最後、君は人ではなくなるんだよ?』

 

どこか妖艶染みた声だった。

フードを被って顔が見えないけど多分イケメン!

そしてもしかして、この人ってあのマーリン……?

 

『はい。私は望んでこの剣を抜きにまいりました』

 

セイバーさんは勢いよくその剣を引き抜いた。

抜かれた剣はまるで主人を見つけたと言わんばかりに黄金に輝く光を放っていた。

 

「選定の剣……カリバーン」

 

ネギ君の呟き通り、多分そうなんだろうな……。

そして場面は変わりたくさんの兵士がセイバーさんを褒め称えていた。

そんな、どこか王様然としている夢を見ていた士郎さんはふと目を覚まして、今の剣は……と呟く。

でも、まさか……。

 

「ねぇ、士郎さん。まさかこの時無意識に解析を掛けてたりしました?」

《…………なんのことかな?ただ、あの剣を見てから無性に体が熱くなったのは覚えているよ》

 

つまり、そういう事ね。

もう投影魔術として目覚め始めていたのかな……?

 

それから少しして、士郎さんは庭で弓の調整をしているアーチャーさんに話を掛けている。

話を聞くにもうアーチャーさんは傷が癒えていていつでも戦えるという。

つまり、いつ寝返るかもわからない遠坂さんが士郎さんを裏切る可能性もないわけではないという事。

そこで士郎さんは焦りを感じつつ、その場を離れようとして、

 

『気づいていないようだから教えてやろう。セイバーはあの時宝具を使えば自分が消えると分かっていたはずだ。おそらく最後まで宝具を使う気はなかったのだろう……にも関わらず、宝具を使った理由は一つ。セイバーは自分よりお前を護る事を優先したんだ。それを決して忘れるな……』

 

アーチャーさんの忠告に、士郎さんは苦虫を噛み潰すような顔をしながらその場を後にした。

 

「ここが正念場でござるな」

「そうアルネ。アーチャーさんからもああも言われて士郎老師がただ黙っているのはなんか悔しいアル」

「こ、こーいう時って物語じゃなにか逆転劇的な事が起こるものですよね……」

「それかさらに追い込まれるのもありえますですよ、のどか」

 

みんなもここからどうなるのか不安がよぎってるんだろうね。

わたしとしてはここでイリヤさんが無防備な士郎さんを拉致ると予想しているけど、どうかな……?

 

士郎さんはいつぞやの公園で一人悩んでいた。

言葉には出さないけど、仕草だけで葛藤しているのが分かる。

そこに、やはりというべきかイリヤさんがやってきていた。

士郎さんは今は話し相手にはなれないとイリヤさんを邪険に扱うけど、イリヤさんは分かっているらしく、

 

『セイバーが消えかかっているんでしょ?』

 

と、本命ど真ん中な事を言い当ててきた。

それで慎二さんの殺害を匂わす発言とともに、イリヤさんの瞳が光り出していて、

 

「まずいわよ!なんか嫌な予感がする!」

 

アスナが叫んだけど、これは過去。

もうどうしようもない。

案の定、士郎さんは身体が一切動かせなくなっていて、淡々とイリヤさんは今の士郎さんの状態を伝えながらも、

 

『おやすみなさい、お兄ちゃん……』

 

そこで士郎さんの意識は一旦なくなる。

それを見ていた一同は、

 

「イリヤさん、こわ……」

「ただの一睨みの魔術だけで金縛りと意識の混濁とは……」

「マスター、やるなぁ」

 

うんうん。やっぱイリヤさん怖いよね。

わかるわー。

 

そしてしばらくの後、士郎さんは目を覚ますとそこはどこかの寝室の中で、しかも士郎さんは椅子に手足を縛られて動けなくされていた。

なんとか抜け出そうとするが、抜け出せずに、そこにさらに最悪な事にイリヤさんが部屋の中に入ってきた。

士郎さんは殺すなら公園で殺せただろ?と問うが、イリヤさんは士郎さんを殺す気はないらしく、

 

『シロウ、私のサーヴァントにならない?そうすれば殺さずに済むわ』

 

サーヴァント……本来の意味は奴隷。つまりそういう事?

と、ここでわたしの頭にキュピーン!と来るものがあった!

おそらくこの感覚はバッドエンドの一つだろう。

おそらくここで士郎さんが素直にサーヴァントになる、とか言った瞬間に今度こそ士郎さんの身体の感覚はすべて途切れて、次に気づいた時には人形に魂を移されているんだわ!

イリヤさん、恐ろしい子……ッ!!

 

 

抵抗をする士郎さんだが、

 

『十年も待ったんだもん。簡単に殺しちゃうなんてつまらないでしょ?』

 

それって……やっぱり切嗣さんの事なのかな?

しかし、やっぱり士郎さんはイリヤさんの誘いを断った。

それでイリヤさんは『また裏切るんだ……』と言って、今からセイバーさん達を殺しに行くと言って出ていこうとするが、殺しはダメだとなんとか引き留めようとする士郎さんだけど、イリヤさんはもうマスターは殺しているんだと発言する。

 

『私、あいつはお兄ちゃんが片付けると思っていたのに……ごめんね。シロウがやらないから代わりに私がやっちゃった』

 

と無邪気に話している。

この時のイリヤさんってホントに無邪気と残酷が合わせあったような性格だったんだなぁ……。

士郎さんはどうにかしようと自身に魔力を流してイリヤさんの魔眼の効果を洗い流そうとする。

その手段はとても痛々しく士郎さんは喀血をしてまで抜け出そうとしていた。

 

「士郎の兄ちゃん、ここが踏ん張りどころやで!」

「頑張ってください!」

「いやな? 坊主共。これは過去だぞ?って言うだけ無駄か……」

 

ランサーさんももうネギ君とコタ君に関しては達観しているのか諦めている感じ。

もう二人はある種映画を見ているかのような感覚で応援しているのだろう。

まぁ、わたし達も下手すると同じ感覚になっちゃうんだろうけどね。

 

そして、窓から差す夕焼けの明かりももう暗くなっている中でようやく士郎さんは抜け出すことに成功して、扉をあけて飛び出そうとするが、誰かの足音を感じ警戒をしていると扉が開いてセイバーさんが飛び込んできた。

どうやら士郎さんの魔力を辿ってきたみたい。

遠坂さんとアーチャーさんも一緒にいた。

これで勝てるって訳でもないけど、なんとか勝機が見えてきたかな?

でも、やっぱりセイバーさんは戦えないほど消耗しているのか、途中で膝をついてしまう。

それでもなんとか正面入り口までやってきた一同はそれでなんとか抜け出そうとして、しかし、

 

『なんだ、もう帰っちゃうんだ』

 

イリヤさんが待ち構えていたのか全員が見えるように佇んでいた。

バーサーカーも現れて絶体絶命な感じになってきたけど、遠坂さんがアーチャーさんに足止めをしてと命令する。

それでアーチャーさんは前に出る。

士郎さん達はアーチャーさんの身を案じるが、今はこれが最適解だよね。

まともに戦えるのはこの中でアーチャーさんだけだから。

 

 

『ところで凛、一つ確認をしていいかな?時間を稼ぐのはいいが、別にあれを倒してしまっても構わんのだろう……?』

 

 

と、アーチャーさんは宣っていた。

それにわたしは素直に感心した。

この人が本当に士郎さんの未来の姿だとしたら、とてもカッコいい姿だと思う。

今現在の士郎さんも強いけど、このアーチャーさんは英霊になるほどになった士郎さんの果ての姿。

だから恐らく今の士郎さんよりも強いんだろうな。

 

 

『ええ。遠慮はいらないわ!』

『では、期待に応えるとしよう』

 

そして対峙するアーチャーさんとバーサーカー。

士郎さん達は後ろ髪を引かれる思いをしながらも、アーチャーさんをその場に残して逃げていこうとするけど、士郎さんが足を動かそうとした時だった。

 

『衛宮士郎。いいか?お前は戦うものではなく生み出すものにすぎない。余計なことは考えるな。お前に出来る事は一つ。その一つを極めてみろ』

 

そして士郎さんのいつものお得意の武器である干将莫邪をその手に出しながら、

 

『忘れるな。イメージするのは常に最強の自分だ。外敵などいらぬ。お前にとって戦う相手とは自身のイメージに他ならない』

 

そう言い残してアーチャーさんは天井の壁を破壊して退路を塞ぐ。

 

 

 

 

「……なんていうか、アーチャーさんかっこいいね」

「ま、アーチャーらしいな。もうてめぇの役目の終わりに薄々気づいていたんだろうぜ?士郎に託せるもんは託した感じか」

「ではやはりアーチャー殿は士郎殿の……」

「まぁ、そんなところね。私もこの時はまさかアーチャーの正体がだなんて思いもしなかったから……」

 

そういうイリヤさんの顔は少し愁いを帯びていた。

この戦いでなにかあったのかな……?

 

 

 

 

そうして外に逃げていく士郎さん達は突如としてお城から上がった光の柱を見て、遠坂さんを止めようとするが、遠坂さんは握りこぶしを作って手を震わせながら、

 

『私達は絶対に逃げきらなきゃいけないの……』

 

そう言ってまた後ろを見ないで走り出していた。

絶対に悔しいんだろうな。

自分のサーヴァントがやられるかもしれない瀬戸際だから余計にそう感じる。

 

だけど、突如として遠坂さんは足を止めた。

そして、腕を掲げて、その腕には令呪が宿っていたのか紋様が描かれていたけど、その令呪が綺麗に消えてしまった事その事実に、

 

「アーチャーがやられたか……てめぇとは決着をつけたかったぜ?なぁ、アーチャー……」

 

ランサーさんが悔しそうにそう呟いた。

確かにランサーさんにとって好敵手みたいな感じだったからね。

 

「でも、ここでアーチャーさんがどうやられたか見れないのもなんかモヤモヤするです」

「そうだね、ゆえー」

「イリヤさん、どうにかできないですか……?」

「あたしも気になるかも」

 

みんなが気になるところでしょうがないみたい。

そこで静観していた刹那さんとこのかがおずおずと、士郎さんとは別にこの世界を見せてくれているアルさんに話しかける。

 

「クーネルさん。イリヤさんの記憶を途中で見せる事ってできますか?」

《構いませんが、よろしいですか?イリヤさん》

「いいけど……待って。まずはシロウの聖杯戦争までの記憶を全部見終わってからでもいいかな……?」

《構いません。わたくしとしましても途中で他人の記憶に干渉するのは骨に来ますから》

 

 

 

そして記憶は再生されて、士郎さんはもう走れなくなったセイバーさんをお姫様抱っこして抵抗するセイバーさんを担ぎながらも、とある一つの廃墟が見える。

そこでセイバーさんを休める事になったんだけど、遠坂さんはここでなんとしてもバーサーカーを倒す事を決意していた。

方法はどうするのかという事になったけど、わたしとしてはここでエロイ事でもするのかなー?と期待したんだけど、

 

 

『セイバーに士郎の魔術回路を移植するのよ』

 

 

そ……ッッそう来たかぁ~~~ッッッ!!

 

と、なんか変な武闘家の顔が連想されたけど無視して、そんな方法もあったんだね。

でも、

 

「魔術回路の移植って……そんな簡単にできるものなんですか?」

 

そんなネギ君の疑問に、

 

「できないことはないわ」

 

と、イリヤさん。

 

「でも、一般の魔術師にはお勧めできる提案でもないけどね……」

「と、いいますと……?」

「ネギ。考えてみなさい。たとえば魔術回路はこの世界では謂わば魔力タンクと同時に魔法や気を扱うためのキーのようなもの。それを他人に譲るものとなればそうなれば自身の使える魔力量や術の数も減少することを意味する」

「あっ……!」

 

ネギ君も理解したのか少し顔を青くする。

 

「しかも、シロウのまだ開き切っていない魔術回路は初代で27本もあるから数はある方だけど、それでもシロウにペナルティは着いてしまうんだけど……ねぇ、シロウ?あなたはやっぱり特異だったんだろうね……」

《そうだな、姉さん》

 

なになに?その意味深なやりとり。それじゃ士郎さんが普通じゃないみたいな言い草じゃん?

 

《俺の魔術回路は確かに27本と少ない。だが、普通なら魔術師にとって魔術回路とは疑似神経に過ぎないんだけどな。俺の魔術回路はほぼ全身の神経と言っても過言じゃないんだ》

 

は……?

なにそのチート。

全身って……つまり神経を鍛えれば本数に関係なく魔力量を増やしていけるって事?

 

「つまり、士郎殿の今の魔力量は……」

《ああ。聖杯戦争後に姉さんとの間にパスを繋げて無理やりに他人の魔力を流し込んでもらって神経を頑丈に鍛えていったんだ》

 

…………うーわー。なに、その血も吐くかのような苦行。

士郎さんはまさかのMだったのかー?

 

「そこまでしないといけなかったんですか……?」

《ああ。……いや、ある日まではそんな事はしていなかったんだ。でも、強くならないといけない理由が出来てしまってね……》

 

そう言った士郎さんの気配はどこか辛いものでも思い出しているかのような感じだった。

それにしてもある日、ね……。ターニングポイントみたいなものかな?

 

《とにかく先に進めるぞ》

 

 

 

そして記憶は再生されて、

 

遠坂さんはいきなり士郎さんにキスをした。

はい?

儀式だっていうけど、なんかやっぱえっちぃ。

セイバーさんの上に士郎さんが覆いかぶさって、遠坂さんは魔法陣を浮かべて呪文を唱えていく。

すると士郎さんの意識は急にどこかに飛ばされて、次の瞬間にはマグマが煮えたぎっている場所にいた。

そこには巨大な赤いドラゴンの姿があって、そのドラゴンは士郎さんの腕をなんと食いちぎった!?

移植ってすごいなぁ!

 

「あれが、セイバーさんの……アーサー王の力の源である赤いドラゴンだったんですか……?」

「まぁ、そうね。セイバーには竜の因子が流れているから」

「竜の因子……なんか盛大ですね」

「伝承がどうだったか知らないけど、マーリン辺りが人工的に竜の因子を埋め込んでセイバーが生まれたんでしょうね」

 

つまり、セイバーさんはなるべくしてブリテンの王になったと……。

やっぱ歴史って奥深いねぇ……。

 

 

 

 

そして翌朝になって、士郎さんが目覚めると、そこには頬を赤くしたセイバーさんがいてどこか恥じらいを感じているようで、

 

「なぁんかどこか様子がおかしいっすね?まぁさかセイバーの姉さんはなにかに自覚が芽生えたってところっすかね?」

 

そんな卑しい顔をしているカモ君。

いや、そう口に出されるとやっぱ少しセイバーさんに中で意識の改革が起こっている感じ?

以前は、

 

 

『私は女である前に騎士……そしてサーヴァントです。ですから恥ずかしがる必要など皆無かと(キリッ!』

 

 

だったのに、えらい変わりようかもしれない。

 

「こりゃ、士郎さんを意識し始めたのかもしれないね!なんか滾るねぇ!」

『そうですか?朝倉さん……でも、なんかそういうのも分かります。士郎さんと繋がった時になんかポワッとしましたから』

「さよちゃん!?繋がったってどういうこと!?」

『あ、わたし士郎さんと使い魔の契約をして実は地縛霊から解放されてるんですー』

「あ、繋がったってそーいう…にしてもいつのまに……士郎さんも隅に置けませんねー。後で取材させてもらいますからね」

《お手柔らかにな……》

 

まさかの幽霊ちゃんにも手を出していた士郎さん!

こういうところが士郎さんらしいっていう奴……?

 

 

 

そしてセイバーさんも回復したところで作戦会議を始めた。

作戦としては遠坂さんが奇襲をしてそこを叩くと言った感じ……?

士郎さんには後方支援をしてもらうというが、どうするといった感じだけど、そこで士郎さんがある提案をした。

それは、そこら辺に落ちている木の枝を拾って強化でもしたのか、いや変化かな?木の枝が弓に変化した!

コツを掴んだっていうけど、なんのコツだろう……?

 

それと、士郎さんはセイバーさんとある約束をした。

宝具は使わないでくれという事。

まぁ、使って消滅しちゃ元も子もないからね。

だけどそこでセイバーさんが足元をふらつかせて士郎さんが支えるとやはりと言うべきか意識しているのか頬を赤くしているセイバーさん。

ははーん……?

 

「なんか、いいでござるな……」

「うんうん。恋の芽生え始めって感じアル」

 

あの恋に鈍感そうな楓さんと古ちゃんにも気づかれるんだから相当だよね。

と、そこにイリヤさんの『見ーつけた!』という声が響いてくる。

ついに戦闘開始ってところかな……?

 

いくつかの問答のあとに、イリヤさんの身体の刻印が服越しに全身に浮かびあがり、戦闘開始の合図となった。

バーサーカーと戦うセイバーさんをしり目に士郎さんは枝を矢に変えて打つが、そんなものはただのバーサーカーの気を逸らす手段でしかなく、セイバーさんは追いこまれていく。

そこに遠坂さんが草陰から飛び出してきて、宝石魔術を飛ばすがバーサーカーは構わず遠坂さんをその太い腕で捉えて捕まってしまうけど、遠坂さんは最初からその気でいたのか宝石に最大限の魔力をこめて、それは一気に放たれた。

爆音とともに顔をやられて倒れていくバーサーカーだけど、イリヤさんは一回殺せたねと言った。

 

え、つまり……どういう事?

 

記憶のイリヤさんは説明していく。

バーサーカー……もといヘラクレスはかつて十二回の試練を乗り越えて不死になった。

だから十二回殺さないと死ねない身体なんだと……。

 

 

その宝具の名は『十二の試練(ゴッドハンド)』。

 

 

「うわっ、逸話通りだけど改めてチート体質じゃねーか!?ただでさえ強いのに反則だろ!」

 

思わず千雨ちゃんがそう叫んだ。

 

「そう。本来なら最強なんだけどね……」

 

そうイリヤさんは呟いた。

遠坂さんを握りしめて潰して殺そうとしているバーサーカーだけど、セイバーさんが何度も斬りかかっていき、我慢の限界だったのか士郎さんも駆けて行っちゃうんだけど殴り飛ばされてしまう……。

そこで士郎さんとの約束を破って宝具を使おうとしたセイバーさんを士郎さんは二回目の令呪を使って無理やりに止めた。

分かっていたけど、こうしなくちゃ共倒れだもんねー。

 

 

 

 

でも、そこでまたしてもわたしの脳内で音が鳴った。

これって、やはりセイバーさんの宝具を止めない選択をしたら、セイバーさんは消滅し遠坂さんも殺されて士郎さんは結局人形にされてジ・エンドって感じかな?恐ろしい……。

 

 

 

 

 

そこで士郎さんは何かの覚悟を決めた目をして、そこでついに士郎さんの投影魔術が開花する。

アーチャーさんの言葉を思い出しているのか、剣を用意するという。

そして士郎さんの手に握られているのは夢の中で出てきた黄金の剣だった。

 

「まさか投影したのですか!?」

「ヒュー♪ここでやっと使うようになったか!土壇場にしてはいいタイミングじゃねーか!まさかあのバーサーカーの腕を切り裂くほどとはな!」

 

そう、ランサーさんの言葉通り、士郎さんはその剣で遠坂さんを握りつぶそうとしている方の腕を斬り裂いてしまっていた。

士郎さんの腕、と言うよりやはり剣の質がすごいという事か。

だけど反動で黄金の剣は砕けてしまった。

だけど士郎さんは再度投影してまたしても黄金の剣を作ろうとする。

 

「士郎老師は武器屋泣かせアルナ。何度でもその場その場で最適な武器を投影してしまうんだから」

《返す言葉がないな……》

 

士郎さんはまるでうわ言の様に、こう呟く。

 

 

 

『創造の理念を鑑定し、

 

基本となる骨子を想定し、

 

構成された材質を複製し、

 

制作に及ぶ技術を模倣し、

 

成長に至る経験に共感し、

 

蓄積された年月を再現し、

 

あらゆる工程を凌駕し尽くし、

 

ここに、幻想を結び剣と成す――――ッ!』

 

 

そして、今度こそ折れない黄金の剣が輝きとともにその場に顕現した。

だけど、それでも士郎さんの腕では扱えきれないその剣に、セイバーさんが手を添えて、二人でその剣を握り、その剣はさらに黄金に輝き、バーサーカーの剣を粉砕し、ついにはバーサーカーを貫いて、そして……、

 

 

 

 

 

少しの静寂とともに、

 

『それが……貴様の剣か?セイバー』

『これは勝利すべき黄金の剣(カリバーン)……王を選定する岩の剣。永遠に失われた私の剣……』

『所詮はその男が作りあげた幻想……二度とは存在せぬ剣だ。しかし、その幻想も侮れない。よもや、ただの一撃でこの身を七度も滅ぼすとはな……』

 

そう言って、ついにヘラクレス(最強)は魔力に溶けてその体を霧散させた。

バーサーカーを倒されたイリヤさんは呆然自失状態になって、士郎さんもとどめを刺そうとするセイバーさんを止めて、そのすぐ後に士郎さんも気を失った。

 

 

 

「はぁー…………やっと一旦は決着がついたのね。手に汗握る展開だったわ……」

 

そう言ってアスナは手をひらひらさせて暑そうにしている。

こういう時ってこういう幻想空間でも変わらず服を着れているからいいけど、話に聞いたけどネギ君の魔法の時は素っ裸だったらしいじゃん?

アルビレオさんには感謝しないとなー……。

 

「これが……士郎さんの投影魔術が開花した瞬間だったんですか?」

「まぁ、そうね……。私もまさかバーサーカーが倒されるだなんて微塵も思ってなくて少し……いや、かなりショックを受けてしまっていたわ」

「まぁ、その気持ちも分かるアル。絶対と信じたものが打ち砕かれるほどショックなものはないアルからナ」

「古菲師匠に同感や。オレもそう感じるからな。にしても士郎の兄ちゃん、あんな土壇場でこんな博打を打つのは素直にすごいわ……」

《まぁ、遠坂が殺されてしまうかもしれないってあってでがむしゃらだったからな……》

 

そんな感じで話は次の段階に移行していく事になる。

士郎さんはイリヤさんを庇った事でまた一悶着あるんだろうなー……と思うわたしなのであった。

 

 

 




アーチャー渾身のカッコいいポーズはお預け。
次回はキャスター編ですかね。
その前に吸血鬼になったエミヤも書こうかな…。


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083話 記憶巡り編 とある視点で見る記憶 その10

更新します。


士郎さんが一回気絶したのちに、再び目を覚ますとそこは見慣れた衛宮の家で士郎さんの自室だった。

それで士郎さんも安堵しているのか、良い笑みを浮かべているけどそう簡単に士郎さんに平和は訪れないかのように、なにかのふくらみを感じた士郎さんは布団を捲るとそこにはイリヤさんが入り込んでいた。

しかもその現場をセイバーさんに見られてちょっぴり修羅場?みたいな感じ。

 

「マスターもなかなかに豪胆だな。士郎の奴には殺されねぇとはいえ、セイバーが黙ってなかっただろ?」

「ええ。でも、シロウは必ず私を守ってくれるっていう自信があったから!」

 

その自信はどこからくるのだろうか……?

つい先日まで命の取り合いをしていた仲だったろうに。

それで和やかな食卓の風景とはいかずに、凛さんとセイバーさんにイリヤさんの処遇を聞かれる士郎さん。

士郎さんはそれでも「マスターを殺すためではなく、聖杯戦争を終わらすために戦っている」と言い切るけど、やはり凛さん達は今までイリヤさんがしでかした事を許せないらしい。

 

「まぁ、そうよね……凛さんはアーチャーさんを失ったわけだし……」

 

アスナがそうごちる。

 

「聖杯戦争だからと……割り切れないのでしょうね」

「凛さんは魔術師ですが、それでも真っ当な人間でもありますね」

 

と、凛さん擁護の声が聞こえてくる。

しかし、わたしとしては甘いなぁとも思う。

その考えを押し通せば、後にある悲劇は士郎さんの手によってのイリヤさんの殺害強要で下手すれば士郎さんの信念を捻じ曲げかねない事にもつながるというのに。

そりゃ、大事な相棒を失うのは辛い……。

それでも痛み分けでも生き残った同士でどうにか話し合いで決着をつけないと先には進めないからね。

 

と、そこにイリヤさんが現れて、凛さんにいつかは消える物、と指摘しながらも、次には士郎さんにお嬢様然とした態度で礼と謝罪をしていた。

イリヤさんもイリヤさんでまさか士郎さんが自身を殺さないでくれるとは思ってもなかったのだろう。

そしてすぐに子供然とした態度で食事を始めた。

そんな態度に凛さんは怒りながらもイリヤさんはまだマスターだという。

はぐれたサーヴァントがいれば、また再契約して襲い掛かってくると。

でも、イリヤさんはそれを否定した。

 

『私のサーヴァントはバーサーカーだけなんだから……』

 

と、哀しそうに呟く。

 

「そう……私がお城で一人で過ごした時間以外はずっと私はバーサーカーと過ごしていた。バーサーカー以外私の望むサーヴァントなんていらない……そう思っていた。まぁ、今となってはランサーとこうして契約しているけど、いつでも私の心の中はバーサーカーとの思い出だけが辛さを癒してくれたのよ」

《姉さん……》

 

ずっと一人と言う単語が気になるけど、今は話を見ていこう。

それを聞いた凛さんはまだ反対するセイバーさんとは打って変わってイリヤさんを匿うのに賛成の意を示していた。

なにかの考えがある感じだし。

 

 

 

 

 

それから場所は変わって、イリヤさんも同伴して士郎さんとセイバーさんの毎日の竹刀での打ち合いが始まったんだけど、

 

「おや……?」

「むむ?」

「お……?」

「あれ?」

 

なにやら楓さんに古ちゃん、コタ君、ネギ君がなにやら変な反応を示していた。

この4人の共通点は武闘者。

なにか変なものが映っているのだろうか?

 

「ちょっとネギに楓さんに古菲、コタ君までどうしたのよ……?」

「いえ、勘違いでなければ士郎さんはいつも通りなのですがなにかセイバーさんの打ち合いに精彩が欠けていると言いますか」

「ネギ坊主もそう感じたあるか」

「間違いではないようでござるな」

「そうやな」

 

おや……?おやおやおやおやおや?

わたしのラヴセンサーが反応を示しているぞ?

記憶の中のイリヤさんや士郎さんもなにかセイバーさんが遠慮しているという感覚らしく、わけを聞くと、なんと帰ってきた答えは、

 

『その……そうなると展開によっては身体がぶつかりあってしまいますし……』

 

身体の接触を気にしている。

つまり、これは!!

 

「セイバーの嬢ちゃんは士郎の旦那を意識し始めているってこった!!」

 

ムッハー!!と鼻息が荒いカモ君。

やっぱりそうだよねー!!

そこに行きつくよねー!!

素晴らしい……ッッッッ!!

あの鉄面皮だったセイバーさんがほのかに頬を赤くさせている様などもう間違いないだろう!

 

「いいねぇ……写真に収めたいよぉ」

『朝倉さん、残念でしたね……』

 

その後も食事風景でイリヤさんの食べたものが頬についていたのを拭ってあげるというセイバーさんの姿も好印象だよね。

セイバーさんは最低限の対応と言っているけど、士郎さんが心を許しているのなら自身もって感じだろう。

 

しかも、その後にはわたしがやってくるのを待ち望んでいた展開!!

 

そう!お風呂ラッキースケベ!!

 

士郎さんが汗を洗い流そうと服を脱いでお風呂に入ろうとして扉を開けると、そこにはすでに湯船に沈んでいるセイバーさんがいた。

 

「ちょ!?ネギ、目を閉じなさい!」

「うわわ!?アスナさーん!?」

 

ネギ君はアスナに、コタ君は楓さんに、ランサーさんはイリヤさんに目を塞がれていた。

それで前みたいに鉄面皮で対応すればそれでよかっただろうに、セイバーさんは盛大に顔を赤くさせながら、

 

『申し訳ありません……その、今は遠慮していただけないかと……。シロウが体を洗うのは当然です。そこまでマスターの行動を制限はしません。……ですが、私の身体はリンのように少女のものではありません……シロウにはあまり見てほしくない。このように筋肉のついた身体では殿方には見苦しいでしょう……』

 

素晴らしい……素晴らしい!!

あのセイバーさんがここまで……とても興味深い。

 

士郎さんはすぐさま出ていったけど、羞恥心を覚えた女性はここまでの変化をするものなのだね。

やはり実物に勝るものなどない!

 

「甘酸っぱい感じですぅー……」

「ですね、のどか」

 

わたしと同じ文学に共通する友よ!

後でじっくり話し合おう!

そしてわたしが関わる前のネギ君との嬉し恥ずかし話を出し尽くしてやる!うぇひひひ!

 

 

 

 

 

 

そんな、ハプニングが終わった後に、士郎さんは凛さんに体の診断を受けていた。

そりゃそうだ。

宝具投影を酷使したのに体に何の異常も残らないなんてありえないと……。

それで凛さんにはあまり使うなと言われたけど、士郎さんはその晩に土蔵でまたカリバーンを投影しようとして、だけどそこにセイバーさんが現れて、夢について話だした。

サーヴァントは本来夢など見ない。

見るとしたらそれはマスターの過去が流れてくるものだと……。

ということは、セイバーさんは士郎さんの過去を見てしまったのか……。

あの凄惨なものを。

 

それでセイバーさんも改めて確信した感じだろう。

士郎さんは自身の命を勘定にいれていないのだと……。

 

『私は聖杯を手に入れなければならない。けれど、シロウにも聖杯が必要だ。私があなたに呼び出されたのも必然だったのです』

 

そう、セイバーさんは言った。

 

「えっと……つまりセイバーさんは士郎さんに聖杯で過去をやり直してほしいって言ったのですか!?」

「そうなるな……セイバーの奴、過去の清算がどれだけの愚行であるか分かっているのか……?それは自身につき従ってきた多くの民や騎士の思いをも踏みにじる行為なのだぞ?」

 

そこでランサーさんが鋭い視線を記憶の中のセイバーさんに投げかけていた。

同じ英霊としてセイバーさんがやろうとしている行いが許せないと言ったところか。

口調も何かどことなく偉い人っぽくなってるし。

 

 

 

 

 

そして、士郎さんの夢の中でセイバーさんが多くの騎士に不平不満の声に晒されているセイバーさんが映されていた。

特に強烈だったのが、

 

『王は人の心が分からない』

 

というもの。

ネギ君がどことなく辛そうな表情になっている。

理想の騎士の裏側を見せられた気分なのだろうね。

 

 

翌日の食事風景には桜さんに藤村さんも退院したのか賑やかな光景が戻ってきていたけど、ニュースでまたガス漏れ事故が起きているという事で、

 

「まだ終わっていないんだよね……」

「聖杯戦争は終結していないしねぇ」

「それにどことなく桜さんの様子もおかしいような……」

「あんな兄とは言え慎二さんが死んだんだからしょうがない感じかな」

 

そして開始される作戦会議。

キャスターが本格的に動き出したという話。

イリヤさんの知っている事情だと寺には2体のサーヴァントがいるという。

しかも、あの佐々木小次郎を召喚したのはキャスターだという。

 

しかもイリヤさんはキャスターの正体も知っていたようであった。

その真名はかのギリシャ神話の裏切りの魔女と言われた『メディア』。

アルゴー船の逸話が有名だね。

 

話し合いが続いていく中で、誰かが来たので出ていくと柳洞寺の息子で士郎さんの親友である一成さんが来ていた。

なんでも生徒会で呼び出されたとかついでに寄ったらしい。

話を聞いていくとなんか怪しそうな人の名前も出てきていた。

 

 

 

 

―――葛木宗一郎

 

 

学校の先生で、いまはなんでも柳洞寺で居候をしているという話。

凛さんはその葛木先生が怪しいという。

それで待ち伏せをして葛木先生を襲うとか言う話になった。

間違いだったら記憶を消せばいいという少し物騒な感じ。

 

「そういえば、ネギも最初私の記憶を消そうとしていたわよね……」

「それで服を間違って消し飛ばしたとか笑えるわよね」

 

アスナがそう言ってどんよりとした顔になって、イリヤさんがそう言って笑っている。

あ、そういえば歓迎会の時にもうすでになにかネギ君と内緒話とか色々していたけどそんな事があったのね。

ネギ君、1日目で即座に魔法がバレるって……。

 

 

 

とにかく、士郎さん達は夜遅くに葛木先生を待ち伏せしていた。

凛さんがガントを撃ったけど、それは直前に防がれてそこには黒いマントを着たキャスターが空間転移で姿を現した。

 

臨戦態勢に入ったけど、まずは話し合いを開始した。

キャスターに操られているのか否か。

キャスターがやっている事を知っているのか?

それに対して葛木先生はこう言い放った。

 

 

『それが悪い事なのか、衛宮?』

 

 

わたしはもちろん、みんなも驚いていた。

容認して尚且つ協力しているという感じなのかと。

そこでコタ君が、

 

「なんやこのおっちゃん、足運びとか纏っている空気とかもふくめて怪しい雰囲気が感じられるで。魔術師やないけど、これはもう殺しを経験している奴と同じや。殺し屋か?」

 

コタ君の言い分はどうやら当たっていたらしくて、

 

『私は、魔術師ではないし、聖杯戦争とやらにも興味はない。私は、そこいらにいる朽ち果てた殺人鬼だよ』

 

そう言い放った。

いやいやいや、そこいらに殺人鬼がいるってだけで恐怖なんですけど!?

 

セイバーさんが血気盛んに斬りかかっていったんだけど、葛木先生は余裕で剣を避けまくってあろうことか、セイバーさんの剣を膝と肘に挟んで止めてしまった。

あれ!?

普通の人間じゃサーヴァントには敵わないとかいう話じゃなかったっけ?

なんとセイバーさんを圧倒していた。

凛さんも魔術を使う前に胸に拳を受けて膝をついて、士郎さんの投影した刀も木っ端みじんに破壊された。

 

「なんかバグキャラがいるんだけど!?」

「キャスターの補助があるとはいえ……凛殿ならまだしもセイバー殿をここまで圧倒するとは……」

「むむ……。戦ってみたいアルが、どうも邪道の類の戦い方だから苦手かもしれないアル」

 

もう万事休すかと思われたが、そこで士郎さんはあろうことかとある人物の武装を投影した。

それは、アーチャーさんの宝具であり、そして士郎さんの主武装でもある『干将・莫邪』だった。

 

葛木先生の猛攻もなんとかそれで凌ぎきって、3人ともなんとか態勢を整えるけど、急な投影の反動で士郎さんは腕から血を流していた。

 

キャスターは雲行きが怪しくなったのを感じたのか、とある提案をしてきた。

手を組まないかと……。

内容は聖杯ならすぐに降ろす事ができるという話。

だけど、凛さんはそれを看破して何人の人の魂を犠牲にすればいいのかしら?と言った。

そして核になる魔術師も必要だと。

キャスターはあなた達以外にも核になりえるマスターはいると言って葛木先生とともにその場を空間転移であとにした。

士郎さんはイリヤさんが狙われると踏んで、すぐにセイバーさんを先行させて衛宮の家に戻っていく。

 

 

 

士郎さん達が家に戻ると、すでにセイバーさんがなにかの方法で倒れていて、桜さんがキャスターに操られているのか歪な剣を首に晒しながら、この子を貰っていくと念話越しに言ってきた。

 

「その、士郎さん……桜さんが持っている剣はなんですか?禍々しい雰囲気を感じられますが……」

《さて……どう説明したものか。まぁ言うなれば裏切りの魔女メディアを象徴する短剣で名を『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

あらゆる魔術を初期化する、という効果を持った宝具だ。桜を通して使ったから契約までは解除されなかったがセイバーの宝具は封印されてしまったんだ》

「ありと、あらゆる……?」

 

それを聞いたネギ君の様子がどこかおかしくなっていた。

えっと、つまりどんなものでも魔術なら初期化して無くしてしまえるという感じ?

 

「ネギ!」

「ネギせんせー!」

「ネギ先生!」

 

なんだなんだなんだ…?

アスナ達が一斉に嬉しそうな顔になっているぞ。

 

「はい!士郎さん、もしかしてそれは石化の魔法も解ける物なんですか!?」

《ふむ……やはりその質問が来たな》

「そうね、シロウ。予想は出来ていたわ」

「予想って……どういう?」

「ネギ先生。落ち着いて聞いてください」

「そうやで、ネギ君」

「刹那さん、このかさん……?」

 

ネギ君達もなにか動揺している。

石化の事?わたし達は置いてきぼりかなぁ……?

 

《俺から話そう。まだ修行の身であるネギ君には秘密にしておこうと思ったが、ネギ君の過去を見せてもらった後に、俺はタカミチとともに魔法世界に行くついでにウェールズに行ったのを覚えているかね?》

「は、はい……まさか!?」

《そのまさかだ。スタンさんを含めて石化された人達は全員石化を解除させた》

 

士郎さんのその宣言に、言葉に……ネギ君は涙を流しながらしばし呆然とした後に、

 

「士郎さん! ありがとうございます!!」

《なに……俺がしたかっただけだから気にしないでくれ。だが、まだ長い間石化状態だったから全員ベッドの上で目を覚まさずに今頃治療を受けている頃だろう……いつか顔を出してやってくれ》

「はい……はいっ!!」

 

もうそれで少しばかりお祭り騒ぎになりつつ、事情を知らないわたし達もそれだけでネギ君の過去になにがあったのかは大方把握できたのは良かったと思う。

しかし、士郎さん達ならまだしもこのかに刹那さんもニクイね。

今まで知っていて黙っていたなんて。

とにかくしばらくして、

 

《それじゃ続きを再開してもいいかな?》

「すみません……取り乱しました」

《気にするな》

 

それで誘拐された桜さんを救出するべく、士郎さん達は柳洞寺へと向かっていく事になったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しっかし、なんだろう……?

これが過去にあったのは確かなんだろうけど、わたしの頭の片隅ではこれも一つの並行世界の話と言うイメージが湧いている。

なんでかというと、本当はキャスター自ら士郎さんの家に攻め込んできたんじゃないかっていうイメージがさっきから何度もしてきていて気持ち悪いったらないんだよね。

しかも、それでわたしの脳内でまた音が鳴っていて、2回ほどセイバーさんをルールブレイカーで奪われて士郎さんが殺されるんじゃないかなって……。

本当になんだろう……。

わたし、やっぱり脳内で誰かの接触を受けている……?

はたまたもしかしたらわたしの隠された能力が!って夢見すぎか!

そんな都合のいい能力があったら思いのままじゃん!

 

 

 

………………この時のわたしはまだ知らなかった。

士郎さんのすべての過去を見た後に訪れる事になるとある力の発芽を。

 

 

 

 




はい。キャスター神殿に攻め込むのは次回ですね。


ハルナも少し匂わせました。



BOXガチャ、100箱開封ありがとう…。
でも、今回は50箱も開けれなさそう…。


あと、以前に活動報告で書いたもう読めなくなった作品がいくつかとってある旨の投稿に、たまにまた読みたくなって私の活動報告に辿り着いてくる人がいて、もう読めない作者の作品をいくつか下ろしているんですが、つい先日に要望があった人に聞いたのですが、最近までArcadiaにあった『Archer who covered the skin of Saber.』が削除されているのを知りました。
私も取ってありますが、残念です。


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