とある【お題】 (白黒患者)
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『お題』 神話&地下室&恩讐

 音読してくれると聞いて(難聴)書きました。



 神が君臨し、悪魔が蹂躙し、魔が闊歩する。

そんなのはもう数えるのも馬鹿らしいほど昔の話。

 

――呪い(まじない)はただの言葉へ、魔法の本は妄想を綴った紙の束、終いに神など居ないのだ!

 

 技術は酷く進んだ。神の御業とされていた事柄が悉く否定され、只の現象に過ぎないと公表される。

それは一般教養にも及び、今となっては小っちゃい子供ですら幻想を否定する始末。

 

「うわぁー……」

 

 所謂、『過去の遺物』。

そんな物を保管している彼の家は、それはもう酷い有様だ。

動物の様な剥製やら人が入りそうな大きめの壷だとか、その他にも色々と。

何が何なのやら、あちこち眉唾物な代物が転がっている。

 

 宝石でも転がっていてくれればいいのだが、生憎そんな良いものは無い。

全部使えないガラクタばかり、売ったところで二束三文にすらならないだろう。

 

「こんなもん、よく集めたよなぁ……」

 

 足元で「ニャー」と、一声鳴く一匹の黒猫を抱き抱え、少し埃を被った部屋を散策する。

此処は彼の祖父が亡くなった際、遺言に則って受け取ることになった一軒家だった。

一軒家とは言っても、広さはそんなにあるわけではない。2階建ての和風な木造建築物だ。

 

「ハァ……これ、どうしろってんだよ」

 

 彼に渡されたのは此の家と、それなりの遺産。

しかし肝心の家の中はガラクタの山、宝のタの字もない。

完全にゴミ置き場だろ、コレ。そう内心毒づきながら、少しずつ整理を続けていく。

 

「コレは粗大ごみ、こっちは燃えるゴミ……」

「ミャ~」

「あー、はいはい、噛むな噛むな。俺も腹減ってるけど我慢してんの」

 

 せめて一部屋位はスッキリさせておきたい。

無理矢理渡されたとはいえ、親元離れた念願の一人暮らしが出来るのだ。

それも周りを気にしなくていい環境ときた。呑み明かして大声上げ、暴れまわっても全然問題なし。

 まぁ、それも部屋を片付けてからの話となるが。

 

「…………?」

 

 片付けていると、ようやく姿が見えてきた畳に違和感を感じた。

踏みつけると反発力があるというか、浮かんでいる……?

 

「畳の下に、なんか……ぇ」

 

 もしかしたら紙切れでも挟まってあるのかも、そう思い畳を捲る。

そこには確かに紙切れがあった。読めないミミズのような走り書きされた、小さな紙がいくつもいくつも……『ソレ』に張り付けられていた。

 

「とびら?え、なにこれ??」

 

 思いもよらない物が目に入り、少し動きが止まった。

昨今では見る筈もない、畳二つ分ほどの大きく古めかしい鉄の扉。そこに張り付けられている数多の紙切れ。

 今まで見たことない、在り来たりでありながら想像した事が無い。

しかし確かに一見しただけではっきり分かる、『封印された扉』がそこにあった。

 

「は?え、ハァ??」

 

 張り付けられている紙、恐らくは御札だろう。

こんなものがあるなんて聞いていない。誰もこんな散らかった部屋を片付けて、畳の下まで確認なんてしようとは思わなかったのだろう。

 

「えぇ……封印、ってやつだよなこれ?」

 

 というかこんな紙切れで、一体何を封じているつもりなんだろうか?

せめて錠前の一つでもつけておけばいいだろうに。あぁいや、扉だけでも畳が浮くのだから、そもそも錠前なんて付けられなかったのかもしれない。

 

「たく、面倒くせぇなぁ」

 

 誰に尋ね様にも、元の家主はこの世に居ない。だからと言って放って置くわけにもいかない。

中を確かめるために、仕方なくびりびりと札を破き、紙ごみの袋へと乱暴に突っ込んでいく。

紙切れは幾つもあって、全部引き剥がすのに数分かかってしまった。

 

「ふぅ。床下収納ってやつか?」

「フゥゥ……」

「? どうした?」

 

 扉をマジマジと見つめていると、何やら黒猫が低く唸りだした。

日頃は大人しい猫であるため、こんな姿は珍しい。

背を撫でてやるが大人しくなることは無い。

 

「――ぅ――ぅ…――」

「へ?」

 

 そういえば腹減ってるんだっけ、とスーパーで買ってきた猫缶でも開けるかと動こうとしたその時……何か、聞こえた。

か細く小さな音だったが、確かにそれは―――この、扉から聞こえた気がした。

 

「………」

 

 第六感とでもいうのだろうか、何だか嫌な予感がした。

科学が進んだ日常の中、オカシイ出来事。

開けてはいけないという警鐘と、視てみたいという願望。

 

「――っ」

 

 彼はまだ若く、親元を離れ一人暮らしをしたい程度には、刺激を求めていた。

黒猫の唸り声も無視して、その手が扉へ伸びるのは、当たり前とも言うべきで。

 

 

 きっとそれは、一つの運命だった。

 

 

 異なる者達が居ない者とされ、否定され、拒絶された。

よくある話だが、神だろうがなんだろうが、『在る』者は死ぬ。

 それは偶然だったり必然だったり、押し付けられたり受け入れたり。

所謂、宿命というものが、あらゆる存在に紐づけられているのだ。

 

 そして、『彼女』の様な、神や魔と云われてきた者たちは、意外と脆い。

天候を操り、運命を弄び、世界を混沌に堕とす存在であっても、彼らは否定されきれば、消滅してしまうのだ。

 

 人が神を敬い、神は人を見守る。

 

 そんな理想的な関係はあっさり無くなって、今はもうこんな薄暗い場所に押し込められるだけ。

存在が消えないように、態々こんな『器』を用意して、定着させるために特別な札の力に中てられて。

そうやって生き残った『(ひとつ)』が、彼女だった。

 

 だが、それだけ。

他に同胞は亡く、孤独が約束されている。

自分は一人なのだと暗闇の中で自覚してしまう。

 

「な、んで……なんで、我は……我が、なにを」

 

 力を得た代わりに人々は信仰を失った。

超常の存在は格を落とされ、存在を否定された。

 たった一人の理解者も、当の昔に死に絶えているだろう。

連綿と『器』を受け継ぎ、保管してくれた彼らの信仰心が薄れきっていることがその証明だ。

命が亡くなり、繋がっていた意思が消えていく。

 

「………ぅ、うぅぅッ」

 

 札の力もあり、空間が歪んでいるこの場所では正確な時間が測れないが、永い時が流れたのだろうことは容易に想像がついた。

ようやく『器』に定着したというのに、全てが手遅れなのだろう。

 何も出来ないであろう自身を想像し、落胆し、絶望し……気づけば涙が零れていた。

 

 もうずっとこの場所に居続けてしまおうか。その方が、楽かもしれない。

 

 約束も何もかも既に昔のことなのならば、きっといいだろう。彼も許してくれる。

そんなことを思っていた『器』に入った何者かだったが、その真っ暗な目の前へ文字通り光が差した。

 

「……女の、子?」

「………ぐすっ」

 

 古ぼけた扉を開けたのは呆けた表情の、純朴そうな青年。

闇の中から青年を見上げるのは、涙を流し続ける白髪の少女。

 

 

 

 もうあり得ない『力』を持った少女と、何の『意思』も無い青年。

彼女の『奇跡』と彼の『手腕』が世界に新たな信仰を起こ(叛逆)し、一柱の女神を復活させることとなるのは、未だ遠い話。




『要素』
・神話
 特に意識せず、考えなかった。続きを書くのならば、オリジナルでもいいし、どっからか引っ張ってくるのもあり。
・地下室
 『器』という名の『少女』を安全に保管しておくための亜空間。真っ暗闇の中、手足を伸ばして寝っ転がってゴロゴロしても問題ない。その気になればどこまでも行ける空間、何処にも行けない場所。もはや地下室じゃない。
・恩讐
 恩讐というには、ちょっと足りなかったかもしれない。『少女』達を否定した人間への怨念、『少女』と約束した人である彼や受け継いできた者達への恩。
それと絶望し諦めて泣くことしか出来ない『少女』に手を差し伸べることになるであろう『青年』に関するアレコレ。

お題達成としては不十分だったかもしれない。深夜テンションと寝不足も相まって怪文書となってない事を祈りながら反省。
でもテンション高くてちょっとアレな方が進むので、万歳も忘れない。
夜更かし最高!

『小ネタ』
 動物の様な剥製―なんの剥製なんだろうナー??
 壷―世の中には空高い場所から、人が嵌まったまま落下しても無事な『壷』があるらしい。極めた者の壺は金色に輝くとか。きっと神造物。
 運命―f〇teな話題が配信で噴出していたので入れた単語。とある菌糸類は神だと思ってます。
 黒猫―不幸や幸福、女神や悪魔とかとも関係を持ち、色々な逸話を持つ生物(なまもの)


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『お題』 偽りの不死者&有料フレンド&虹

とあるイタチさんが感情込めて読んでくれるので書きました()。


 陽光が沈み、真っ黒な衣服に身を包んだ二人の男女がコソコソと移動する。

向かう先は大きな三角形の建物、王族の墓として建てられた巨大なソレには金銀財宝が一緒に埋められている。

 

「………よし、いくぞ」

「ん」

 

 先に侵入した男の声に従い、女が背後の確認をしつつ扉を閉める。

彼らは墓の洗浄をしに来た掃除業者!……とかではなく、勿論ただの墓荒らしだ。

格好良く言えばトレジャーハンター、格好悪く言えば泥棒。

今日も今日とて、慣れた様子で奥へと進んでいく。

 

「っと、あっぶな!?」

 

 時折罠にかかりそうになるが、互いをカバーし合いながら墓の中を探索していく。

ちなみに男の方が罠にかかり易い、偶に自分から飛び込んでいく狂人である。

 いやホント、なんでこんなのと組んでいるんだろうか?

女はよく考えるが、未だに答えは出ない。ただまぁ、この男は観ていると面白いというのが大きな理由な気はしている。

 

「ハッハッハ、古代の罠などオレに効くかぁ!!」

「……刺さってる刺さってる」

「え? うわマジだ……えぇ、かっこわりぃ」

 

 しょぼーんと落ち込む男の治療をするが、テンションの落差が激し過ぎて時折ずっと落ち込んでいる。

そういう時は頭を撫でてやると復帰するのだから、チョロい。

 

「よしよし」

「うぅ、ありがとなぁ!」

「わっ」

 

 元気が戻ったと思ったら、今度は抱き着いて感謝を述べて止まらなくなってしまった。

彼女からすると、どうしてこんなに感情の浮き沈みが激しいのかよく分からない。

無表情で何を考えているのか分からないのが彼女で、ポーカーフェイスの欠片も無い程わかりやすいのが彼だ。

 

「あ、悪い悪い。そろそろ行くか」

「ん」

 

 しかしこの差がカチっと嵌まり、意外とするする進んで行ける。

調子のいい日はその日の内に墓を出ることが出来るが、そんな日は早々ない。

今日は特に墓が巨大で罠も豊富、これは時間がかかるだろう。

 

 落とし穴や毒矢、落下してくる天井に転がってくる大岩。

体感で3日ほど掛けながらポピュラーなものを攻略していくと、今度はあまり見かけないモノが出てきた。

 

「アァ゛ー……」

 

 包帯塗れで腐敗臭のする人型――所謂、ゾンビ。

血を抜かれて居る筈なのに動き、侵入者を襲う。

(まじな)いと呼ばれる太古に存在していた『ナニカ』であり、今となっては失われた技術。

 攻略法は簡単で、聖水と呼ばれる水をぶっかけるか、腐って脆い首を吹っ飛ばすこと。

聖水は希少な水分でもあるから、なるべく首を切り裂いていく。

動きは鈍く単調ということもあり、あっという間に処理して進む。

 

「……気持ち悪い」

「だなー、ホンットあれは相手にしたくねぇ」

 

 臭いしグロいし金目の物も無いが、漁らないという選択肢も無い。

疲れるだけの木偶の坊だが、こいつらはたまーに先に進むのに必要な鍵とかを持っていたりする。

何でそんな奴が居るのか色々考察されているが、よく分かっていない。

 

 ただ、その『鍵』は大抵呪いが掛けられている。

 

 今回見つけたそれも、毒々しい色をしており、触りたくない雰囲気を漂わせている。

絶対ヤバイと分かりきっているのに、彼は物怖じせず掴んで見せた。

 

「あったぁああ!!!」

「……うるさい」

「あ、ゴメン(しょぼーん)

 

 直ぐに大人しくなる彼だが、握りしめた手に変な呪詛が浮かんでいる。

どう考えても異常事態だが、冷静に聖水をぶっかけながら次への扉を探す。

聖水で呪詛は少し薄まり、少し動き辛そうにしながら扉を開ける。

 

 彼はいつもこうだ、冷静に行動できる癖に彼女が躊躇するような状況になると、臆せず身体を張って突き進む。

有り難いが、どう考えても危ない行動にいつも心配になる。どうしてこんなことを繰り返せるのか、不思議で仕方なかった。

 

 彼はいつも通り笑顔で財宝のある部屋まで進み、彼女はその後を付いていく。

王の死体がある場所に辿り着くまでに幾つか罠があったが、問題なく進んで財宝を鞄一杯に押し込んでその場を後にした。

 外に出れば日の光が差し込んでいる。何日目かはよく分からないが、朝の様だ。

 

「っと、このままじゃ目立つな」

「ん……後ろ向いて」

「あ、悪ぃ」

 

 黒い衣服は裏返すことで真っ白い服に代わる。

外にでると、堂々と移動する。深夜と違いどうしても人目に付くため、こそこそしていると逆に怪しまれるためだ。

道中待機していた『運び屋』によって移動し、同時に財宝を少し与える。これが口止めと仕事料となっている。

 そこからはまた歩き、二人のアジトへと辿り着く。

アジトは幾つかあるが、この日は少し遠めの場所を選んだ。

理由は、あることを相談するためだった。

 

「……ねぇ、もう止めよ?」

「………ファ!?」

 

 無表情の彼女が淡々と言ったことに、財宝を漁っていた男は驚きのあまり飛びあがって天井に頭をぶつけていた。

この身長差も含め、凸凹コンビと裏の業界では呼ばれているが、勿論彼女にとってはあまりうれしくはなかった。

小柄なコトは罠を潜り抜けられるし、便利がいいのだが、時折親子にすら間違われるのは遺憾だった。

 

「な、何かしたかオレ?」

「……違う。かなり集まったから、もういいと思う」

 

 命懸けの冒険のおかげで、かなりの財宝が集まった。

少しずつ換金しているが、どう計算してもこれ以上は目立ちすぎる。

それに……。

 

「……これ以上は、死んじゃうよ」

 

 ギュッと彼の服を掴み、寄りかかる。

鍛え上げられた身体は傷だらけ、呪詛も少し浮かんでいるのがより一層不安を掻き立てる。

 

「……財宝はいつも通り分けて、さ」

 

 回収した財宝は等分し、また次の機会(墓荒らし)の時に集まることにしている。

もう今日で廃業するということは、会うことは無いだろう。

しかしこのままでは、どう考えても彼が先に死ぬだろう。女一人で墓荒らしは出来ないし、ここまで良い奴と組めることは二度とないだろう。

 こんな生業だ、基本的に性根が腐っているか、何かしらの欠陥、問題があるやつしかいない。

ツーマンセルでやってこれたお陰で、等分にしても十分な蓄えとなった。

 

「……だからっ」

 

 ここで別れだと自覚すると、言葉が詰まった。

無表情で感情が表に出にくい彼女でも、『相棒』と離れるのは堪えるようだった。

 

「あーもぉ。ほらほら、泣くなよ」

「……泣いてない」

 

 ポンポンっと頭を撫でてくる彼の武骨な手と温かな言葉に、いつもの調子で返事を返す。

しかし、彼はいつも通りとはいかないらしい。

 

「いつも言ってることだが、オレはこれくらいじゃ死なねぇよ」

「嘘つき」

「いや、マジマジ。ほらめっちゃ元気」

 

 力こぶを見せられても、その腕は傷だらけだし呪詛浮かんでるし、どう考えても無事じゃない。

 

「……絶対嘘」

「ホントだよ。これからもお前より先に死なねぇし――ずっと傍にいさせてくれよ」

「ぁ」

 

 すっと左手に宝石が散りばめられた、七色に輝く指輪が嵌められた。

場所は薬指で、つまり、これは。

 

「ぅ、ぁ、ぇぅ」

「ハハ、お前もそんな顔すんだな」

「~~~~っ」

 

 口元が歓喜で緩み、頬が真っ赤になっているのが自覚出来た。

照れ隠しの代わりにポスッと弱弱しい拳を当てるが、鍛えている彼の身体には何のダメージもない。

珍しく自分が攻勢だと分かって嬉しいのか、鬱陶しい笑顔を浮かべながら彼は屈むと、目線を合わせた。

 

「それで、返事は?」

「…………………っ」

「んー?聞こえねーぞ~?」

「ぅぅ………んっ!」

 

 恥ずかしさのあまり声が出ない。

どうしようかとてんぱった彼女は、屈んでいた彼に跳び付き、唇を合わせることで返事とした。

お互い顔を真っ赤にさせ、幸せそうに微笑み合う二人の先行きは、幸福に満ち溢れているだろう。

 

 

 

「あれ、なんかコレ変な文字が浮かんで……アレェー???」

「………呪われてるじゃん」

「あ、アハハ……スマン」

「もぉ、しょーがないなぁ」

 

 

 

 死後も外れなかった指輪を互いに付けた二人は、来世のその後も永遠一緒だったという。




『要素』
・偽りの不死者
 途中出てきたゾンビ、自称「オレは死なねぇ男」、呪いによる来世やその後の繋がり。
ゾンビは動く死体だし、自称は勿論死ぬし、来世ということはやっぱり死んでるので問題ないはず!
・有料フレンド
 トレジャーハンター、墓荒らしである二人は本来仕事をする時だけ集まり、財宝を分けた後は基本別々に暮らしていて、一緒に居ませんでした。最終的には一緒になりましたが、カップルでありフレンドではないです。(それと時代は考えて)ないです。
・虹
 様々な金銀財宝、結婚指輪(呪)、中々ない彼女の笑顔、二人にとっての幸福の未来。
物理的に虹を出そうと思ったけど無理があった。これでいいですよ、ね。ね?

『裏話』
 サイコロの奇数でバッドエンド、偶数でハッピーエンドとしました。後者が出ました。リア充爆発しろ。ケッ(小さな殺意)
ここ2週間めっちゃ忙しかったので、急ごしらえとなりました。ユルシテ。アーカイブ助かる。

 男女は名無しですし外見も決めてませんが、ピラミッドあるし異世界じゃないなら砂漠暮らしだし多分褐色。身長差は結構ある感じです。男175の女155くらいのイメージ。

 (まじな)いに関しては適当です。なんならバステトでも出して、そっからクトゥルフに繋げて七色の『ナニカ』とか出そうと思ったけど、ハッピーエンドなので諦めました。出目が全てだ、運命には逆らえないッ!

 なお、来世やその後でもくっ付く二人ですが、基本呪われてるので山あり谷あり、傍から見れば絶対ヤバい奴らです。どこぞの名探偵コ〇ンくんくらいに色々巻き込まれてはイチャイチャしながら乗り越えたり一緒にくたばったり……バクハツシロ。


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『お題』 夏&メイド&妹

 スランプ中に無理矢理書いたので初投稿です(


 その日、彼は頭を抱えていた。

病気ではない。しかし、頭を痛めていた。

 

(……か、買っちまったぁ)

 

  頭痛の原因は目の前に鎮座している。

Amaz●nから届いた段ボール箱、何よりその中身。

オタク趣味は家族に知られている、しかしっ流石にこれは見せられない!

 

(どうする……どうすればいい)

 

 通販で手に入れたのは、お手頃価格の――メイド服。

素晴らしい出来だった、小遣いで手に入れられるギリギリの額だった。

 

(だからと言って買う奴があるか、女装趣味は持ち得てないだろうがっ!)

 

 飾るのもいいし、メイド服の構造を知ることで更に沼の底へと堕ちていくのだって構わない。

 そういう楽しみ方もあることを知っているにもかかわらず、だがそれでも彼は悩み苦しんでいる。

何故、その理由は簡単だ。

 

(――だってアイツ()に似あうと思ったんだよぉぉぉ!!!)

 

 単純に着て欲しい(・・・・・)相手が居た、それに尽きる。

というか十割それが理由と言っても過言ではない。

 昔からよく一緒に過ごしてきた妹は、とても可愛い。

身内贔屓込みだと語りきれないほどに、際限ない美少女だ。

そんな妹のメイド服姿を、つい想像した……次の瞬間には買っていた。

爆速だった、夢幻でもなく紛れもない現実だった、圧倒的に速度が足りていた。

 

 いや、でも無理だろう。

 

 お互い思春期で、しかも異性。

ここ最近は会話も少なくなってきて、何だか距離も置かれているような気もしている。

あぁ、あっという間の兄離れ……考えると二階の自室から飛び降りかねないので止めた。

 

「ハァ……仕方ない、流石に頼めないから……封印するしかっ」

 

 血涙を流しそうになりながら、如何にかこうにか秘蔵コレクションの一つとして収納しておく。

下手をすると二度とお披露目することは叶わないかもしれない……その時は無償でコスプレする人にプレゼントすることにしよう。

 

 

 その日、妹は天を仰いでいた。

別に天井の染みを数えているわけでも、絶望しているわけではない。

しかし、その手に持つ一つの段ボール箱によって、非常に悩まされていた。

 

(もう、なんでよりによって……兄さんったら)

 

 場所は兄の部屋、今は友達の家に遊びに行っているため、考える時間はあった。

兄は箪笥の奥の方に、ちょっと趣味の強い物を収納しておくスペースを作っている。

諸事情あってその場所を漁ってリサーチする必要があったのだが、結果出てきたのが……メイド服だった。

 

(あぁでもこれは喜ぶだろうなぁ……喜んじゃうんだろうなぁ)

 

 メイドなんて必要が無い一般家庭にこれは必要が無い。

だがしかし、これを着る理由が彼女にはあり、この8月のクッソ暑い中考え込んでしまう。

汗で服が張り付いて気持ち悪いが、今はそっちに意識を向ける余裕が無い。

 

(あぁーうぅーー……むぅぅぅ)

 

 数日後に迫る兄の誕生日。実はそのプレゼントをまだ準備できていなかった。

毎年悩んでは無難なモノを準備していたのだが、今年は受験とかで頑張っていた兄の為にちょっと頑張ろうかなぁなんて思ったのが始まりだった。

 

 兄はオタクでとてもおバカさんだ。

しかし行動力が高く、こうしてメイド服を買ってしまえる程度には家族の手伝いやバイトで小遣いを手に入れている。

欲しいものは大体自分で手に入れるというか、他人に頼んで貰うものでは無いと思っているのだろう。

そしてそれは正しい。だってメイド服なんて普通の男の人は買わない。

 

(でもお兄ちゃん普通じゃないからなぁぁぁぁぁ……!)

 

 ここ迄悩んでいるのは、これを着てちょっとメイドっぽくすれば、その誕生日プレゼントになるからだ。

勿論、普通は着ない。選択肢にも入らない。

だけど日頃妹に甘々で趣味に没頭しがちな兄が、そういう時間を削ってまで受験勉強を滅茶苦茶頑張っていたのを観ていた。

 そんな兄を労わりたいというか、ご褒美を上げたいという気持ちがあった。

例えその理由が、有名なコスプレ研究会があるからとかいう理由であっても……!

 

(………よしっ)

 

 暑さで思考がバグっている可能性は否定しない。

最近遊んでもらえてなかったフラストレーションが影響していたのかもしれない。

その場のテンションだとしても、後々後悔するとしても。

 

「――着ようっ」

 

 まずはメイド服の着かたを知るためにも、こっそりと段ボール箱の中身を自室へ持ち帰った。

 

 

 誕生日とは、文字通りこの世に生まれ落ちた日のことを言う。

勿論彼にもその日が存在し、そしてそれは8月という真夏の真っ只中だった。

 

「はぁー……」

 

 しかし、そんなめでたい日にも拘らず、彼は落ち込んでいた。

何故なら……初めて、妹からのプレゼントが無かったためだ。

正確には後で渡すとかなんとか言われ、あやふやなまま誕生日が終わろうとしていた。

 

(まぁ、段々とこうなっていくよなぁ)

 

 兄離れが始まっていたのは気づいていた。

こうなることは予測出来ていたことだ……そう言い聞かせてどうにかなるものでは無いが。

ともかくもう寝てしまおうとエアコンのタイマーを設定していた、その時、扉をノックする音がした。

 

「に、兄さん……いま、いいですか」

「ん?あぁ、だいじょー……ぶ」

 

 声は妹だった。特に何の警戒もせずに迎え入れ――一瞬正気を消失した。

 

「――」

「……うぅっ」

 

 そこに居たのは天使、もといメイドさんだった。

赤面しているメイドさんは想像以上に素晴らしく、兄は混乱を起こしていた。

 

「……ぁ、あの、にい……ご、ご主人、さま?」

「」

 

 気絶しなかった自分を、この時ほど褒め称えたかったことはない。

その代わり正気を取り戻すために、一度衝撃が必要だと本能が察した。

 

「フンッ!!!」

「ちょっおにいちゃん!?」

 

 壁に頭を打ち付けると、懐かしい呼び方をする妹の声が……ふむ、どうやら正気度が足りないらしい。なれば仕方ない、もう一発――ッ!!!

 

「ストップストップストップ!!」

 

 しかし、間にメイド服姿の妹が割り込んできたため、全力で停止させざるを得なくなった。

衣装は勿論、目の前の女神(妹メイド)に傷一つ付けるわけにはいかない。

例え力んだ衝撃で体の筋が痛もうが、絶対に危害を喰わないという強い意志が彼を硬直させた。

 

「もぅ、なにしてるの……ほら、ちょっと血が出てるよ?」

 

 そういって彼女は背丈に違いがある兄の額へ、ハンカチをあてる為に背伸びをした。

硬直している彼は身じろぎ一つしなかったが、だからこそ密着する妹の感触から一ミリも離れることが出来ず――。

 

「――本望」

「へ?え、ちょ、おにいちゃぁぁぁん!?!?」

 

 メイドという萌えと妹の献身という尊さ。

当たり前の様に、彼は気絶(尊死)から逃れること能わなかった。

 

 

 なお、最高の誕生日プレゼントはその後、写真撮影されアルバム保存された。

そして毎年恒例にするために四苦八苦した兄の姿がそこにあったとか……それに応える、若干コスプレに嵌った妹の姿があったとか、なかったとか。




『要素』
・夏
 暑いと正常な思考が纏まらないことがある、ということの為だけに使わせてもらいました。祭りもなく花火もない。何がしたかったっていうと、キャラの頭をバカにしたかった。
・メイド
 シンプル衣装として登場。あと兄呼びに加えてご主人さまって言わせたかった。有難うイタチさん。
・妹
 年齢及び外見描写はありません、あなたの思い浮かべられる妹を想像してください。

『裏話』
・兄妹
 シスコンでありブラコン、義理かそうじゃないかは明言しませんでした。ただ、少なくとも幼い頃から知り合いではあるようです。
尚、今作の二人、異性として意識して避け始めているのは兄だけでした。受験勉強しなきゃとか、理由付けてちょっと離れたり。
今のところは妹ちゃんはお兄ちゃんが普通に大好きなだけです。私はこういう関係「も」好きです。

この二人はきっとこれからラブコメ含め色々あるのでしょう。短編なのでこれ以上は蛇足かもですが。

・呼び方
 幼い頃と心の中では「おにいちゃん」ちょっと精神が成長して最近「兄さん」誕生日プレゼントということを考慮しての渾身の「ご主人さま」でした。様だとちょっと慣れているというか冷静というか、ひらがなの方が初心者?感あっていいかな、と思(自重)

・コスプレ
 いいですよね、コスプレ。素晴らしい文化だと思います。妹ちゃんもそうですが、出来れば兄もコスプレに引きずり込む妹ちゃんの図であってほしい。

・両親
 描写の欠片もないが、きっと血は争えない。

・(尊)死から逃れること能わず
 そう、誰も逃れられることは、つまりノーワ……いえ、偶然です。偶然なんですよ?


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