CODE MANAGARMR (赤錆工具)
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一話

オリバーifルートの供給が少なすぎるので自給自足しようと思いました。ところでオリバーってこんなキャラでしたっけ


悲鳴が聞こえた。

怒号が聞こえた。

何かが裂ける様な音が断続的に響き、辺りを錆びた金属の匂いが支配していく。

それからつんざくような咆吼が一切を薙いで、合切が静寂に降った。

 

 

────────────────────             

 

 

「ここも枯れたか……。瘴気が濃くなっているな。」

 

男は乱暴に足下の蕾を蹴りつけ、苛立った様子でズカズカとこちらに歩いてきては嘲りも半分に吐き捨てる。

 

「フン……、枯れているのはこいつらも同じか。」

 

「そ、そうです、枯れてますから…、こんな瘴気の中での探索は無茶です、今日は……ぐっ!?」

 

嘲りを向けられた当人は怒るでもなく否定するでもなく下手に出ることで難を逃れようとしたようだがどうやら上手くはいかなかったらしい。控えていた男の部下にバットプレートで殴られ苦痛に悶えている。

 

横柄な態度のその男はさして気にする様子も見せず懐から何かを取り出すと未だに苦しんでいる若者に向かって質問を投げかけた。

 

「コレが何か、わかるな?」

 

当然、苦しむ若者が答えられるはずもない。これはまた殴られるな。他人事のようにそう考えていると見かねたのか別の男が声を上げる。

 

「血涙…だろ。」

 

その答えに横柄な男は満足したのか少し頷くと、今度はこの場にいる全員に向けて話を始めた。

 

「そう、この血涙を今から探してきてもらう。この先の地下道でな。次の血涙の徴収日まであと少し…だか今の俺たちに余分な血涙なんてない。このままじゃ血も涙もないシルヴァの犬どもに身包み全部はがされちまう…」

 

まるで被害者の様な言い草だ、どうせそうなっても俺たちを切り捨てて自分だけは助かる算段は立ててあるだろうに。お前はどこまで行ったって加害者だ。

 

そうこう考えているうちにも先ほどの若者たちは地下道へ連れられていく。幸い単独で行動させられる訳ではないようだが俺に同行すると思われる2人の顔はどうにも見覚えがなかった。きっと最近連れてこられたばかりの新入りなんだろう。少しばかりの憐憫を込めて2人の新入り達に目をやる。白い髪をした女の子は未だに状況が掴みきれていないんだろうか、危機感すら感じていない様子でもう1人の女の子の側にただ立っている。しかし彼女の仲間らしいもう1人の女の子は大人しそうな見た目に反してなかなかに反抗的な態度だ、油断なく辺りを見渡したかと思うと長い黒髪を逆立たせて今にも殴りかかりそうな姿勢をとる。出来る事なら俺だってそうさせてやりたいけどごめんね、そういうわけにもいかないんだ。

 

「よすんだ、みんなを巻き込んでしまう。今は従うしかないよ。」

 

「………わかった。」

 

この子、意外に素直みたいだぞ。無言で視線を寄越された時はもしや殴られるかと身構えたけれど素直に従ってくれるようで一安心だ。そのまま部下の男達に従い地下道の入り口へ向かっているといきなり先程の横柄な男が白い髪の女の子を引っ張って行ってしまう。

 

「お前は俺たちと留守番だ、戻ったら返してやる。回収した血涙と交換にな。」

 

黒髪の女の子はすぐさま男に食ってかかったが部下の男に阻まれてしまう、ここで暴れては白い髪の女の子を巻き込んでしまうと考えたのか彼女は意外なほど大人しく引き下がると再び地下道の入り口へ歩を進めた。入り口はまるで吹き抜けようになっていて地下道の地面まではとても遠い。どうやって降りたものかと思案していると背面に強い衝撃を受けて吹き抜けに身を踊らせてしまった。あいつら後ろから蹴落としやがったな。いくら俺達が"人でなし"だからってこの高さは流石に痛いじゃ済まない。凄まじい勢いで迫り来る地面を見据え、俺は目を瞑った。



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二話

 

全身が鞭打ちのように痛む、いくら人間離れしているとはいえ、あの高さは流石に無傷とはいかないか…、いや違う、今日は新入りも一緒だった。まずは彼女の無事を確認しないと。同じ入り口から落とされたんだ、そう遠くにはいないだろう。

 

「おい、大丈夫か?」

 

少し大きめの声で確認する。無事なら反応があるはずだけど。

 

「痛いけど…平気…。」

 

すぐ後ろから返事がした。どうやら無事に着地出来たようだ。しかし……。

 

「この高さ、ここから上に登るのは無理そうだ。帰りはどこか別の道を探さないとな。」

 

そこまで言って俺はまだ彼女に名前を伝えていないことに気がつく。

 

「そうだ、俺はオリバー。オリバー・コリンズって言うんだ。よろしくな!」

 

「テュテュ…、よろしく…。」

 

右手を差し出したが帰ってきたのは素っ気ない挨拶だけだった。少しだけ悲しい気持ちになったが今は些細な事だ。血涙を探して、帰り道を見つける。今回はいつにも増して瘴気が濃いから長居は危険だろう。まずは目の前の少女…テュテュと目的を共有する、お互いやることがはっきりしていれば連携も取りやすいだろう。

 

「わかってると思うけど俺たちはこの地下道で血涙を探さなくちゃいけない。もちろん、ただ探すって言ってもそんなに簡単じゃないよ、瘴気が濃い場所には当然堕鬼(ロスト)だってうじゃうじゃいるだろうしね。」

 

「ロス…ト…?」

 

テュテュは噛み締めるように口にすると、こてんと小首を傾げた。どうした、なんでそこで首を傾げるんだ。どうして語尾が上がった。

 

「そう堕鬼。まさか知らないなんて事ないよね…?」

 

「…知ってる。」

 

「そ、そうだよね。ごめんごめん、変なこと聞いちゃって。とにかく僕たちはこの危険な場所を探索して帰り道だけでも確保しないといけない。場合によっては堕鬼と戦わなくちゃいけないこともあると思う。もしそうなったら君のその武器じゃ危険だ。僕が相手をするから君は下がっていて。良いね?」

 

いつのまに拾ったのか鉄のパイプを握りしめてこくこくと頷いている彼女に忠告する。表面上は言う事を聞いているように見えるがどうにも抑えていないと突っ走って行ってしまいそうで不安になる。

 

「それじゃあいくよ、付いてきて。」

 

「うん、任せて。」

 

…任せて?

 

────────

 

地下道の探索は順調だった。

1番の要因は間違いなくテュテュだろう。彼女がどれだけ人間離れした力を持った吸血鬼であったとしても、まだ年端の行かない女の子だ。自分が守ってあげなければならないと思っていた。それだけに探索は慎重に慎重を重ねることになるだろうと。

 

しかし蓋を開けてみればどうか。彼女は俺の制止を一切聞かないどころか堕鬼に向かって行ったかと思うとするりと堕鬼の懐に入り込み一撃の下に堕鬼を霧散させてしまった。俺が呆気にとられている間にも彼女は次々に堕鬼を霧散させていく、彼女は強かった。ともすると俺など必要がないほどに。  

 

だが彼女は知らない、堕鬼は一見自我がなく単調な攻撃しか仕掛けてこないように見えるが、集団を成したり待ち伏せをしたりと一定の知能を持ち合わせている。故に辺りを廃材に囲まれた死角だらけのその場所がどれだけ危険なのか。彼女は知らない。

 

「テュテュ、この地下道は遮蔽物が多すぎる。どこに堕鬼が潜んでいるか分からないからあまり1人で先行してはダメだ。戻っておいで。」

 

言うが早いかテュテュのちょうど真後ろに積み上げられた廃材の向こうから1匹の堕鬼が姿を現す、テュテュは目の前の堕鬼に気を取られて背後から現れた堕鬼には気がついていない。今から危険を教えたとしても…避けるのは厳しそうだ。俺がやるしかない。あいつの剣が彼女に届く前に。

 

「後ろだテュテュ!!!屈んでくれ!」

 

右足を大きく踏み込みそのまま遠心力の要領で力一杯鎚を投げつける。人外の膂力によって投擲された鎚は狙いを違うことなく一直線に堕鬼の下へと翔びその頭蓋を打ち砕く。頭部を失った堕鬼は剣を振りかぶった勢いのまま前のめりに地面へ倒れ伏した。

 

「テュテュ、怪我はないかい?」

 

「……大丈…夫。」

 

返答はぎこちないものだったが特に目立った外傷は見当たらない。どうやら間一髪間に合ったようだ。見ると堕鬼の扱っていた剣がテュテュのすぐ側に落ちている。テュテュに屈むよう咄嗟に叫んでしまったからちょうど目と鼻の先を剣が落下したのかも知れないな。

 

「ごめん、怖い思いをさせちゃったね。」

 

目の前に刃物が落ちてくるなんて俺だって怖い。可哀想な事をしてしまった…。

 

「うん…、いきなり大きい声出すから…驚いた。ほんとうに。」

 

…どうやら杞憂だったらしい。いきなり大声を出したのはごめん。俺も悪いと思ってる。だけどここは年長者としてしっかりと注意をする。

 

「テュテュ!!」

 

あえて大きな声を出した。テュテュはビクリと体を跳ねさせて抗議の目線を送ってくるが俺が真剣だと分かると黙って俺の目を見返してくる。やっぱり素直な良い子だ。だからこそこの子に辛い思いをさせてはいけない。

 

「よく聞いてくれ。君は確かに強い。けどそんな戦い方をしてはダメだ。あいつらはズル賢いから上手く身を潜めてる。広いところは一見したら戦いやすく見えるかも知れないけどそれだけあいつらが隠れる場所が多いって事でもあるんだ。もっと注意深く行動しないといずれ死んでしまうよ。」

 

テュテュはしっかりと俺と目線を合わせたまま頷く。今度こそちゃんと理解してくれたようだ。

 

「だけどテュテュのおかげで探索は順調だよ!あの女の子、君の仲間なんだろ?早く血涙を探して迎えに行ってあげよう。」

 

「…うん!」

 

俺たちは改めて目的を確かめ、地下道の探索を再開した。



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三話

スマホぶち壊れてました。
テュテュ視点です


 

「じゃあ吸血鬼は死なないってこと?」

 

「んー、まぁそうだね。」

 

彼──オリバーは足元の蕾を指差しながら言う。初めはあの横柄そうな男の仲間かとも思った彼だがやたらとお節介で心配性な性格を見るに多分ただの良い人なんだと思う。とても誰かを虐げたり出来そうには見えないし。

 

「俺たち吸血鬼は致命傷を受けても体が霧散してしまうだけでしばらくすると近くにあるこのヤドリギが霧散した体を繋ぎ止めて再生してくれる。原理はわからないけどね。ただし完全に不死身って訳じゃないんだ。心臓に傷を付けられてしまうと死んでしまうからテュテュも気をつけるんだよ?」

 

「うん、任せて。でも…ヤドリギがなくても別に…。」

 

そう言って私はオリバーに向けた右手を霧散させて戻して見せると、彼は驚いたように目を見開いて私の右腕をしげしげと見つめてくる。

 

「やろうと思えば全身でも出来るけど…、オリバーは出来ないの?」

 

「あぁ、出来ない。驚いたな、そんなことが出来る吸血鬼も居るんだね…。」

 

「吸血鬼は全員自分で霧になれるわけじゃない?」

 

「うん、俺たち吸血鬼は1人1人血液型みたいなのが違くてね。同じ吸血鬼でもそれぞれ出来ることが違うんだ。きっとそれが君の力なんだろう。俺なら…」

 

彼は右手を強く握り込みながら、おもむろに近くの大きな瓦礫に近づいていく。

 

「破片が飛ぶと行けないから、少し離れてて。」

 

そういうと彼は瓦礫をしたたかに打ち付ける。ゴツンと鈍い音が響き、数瞬の後に瓦礫が粉々に砕け散った。

 

「わぁ……。すごい…。すごい馬鹿力だね!」

 

私が興奮してそう言うと彼は苦笑しながら首を横に振る。

 

「違う違う、これが俺の能力だよ。俺の力を増幅してくれるんだ。」

 

「力をぞうふく…、やっぱり馬鹿力だ…。」

 

「……そうだね、馬鹿力だ。まぁ、効果が一瞬で切れてしまうからあいつらとの戦いじゃあまり役には立たないんだけれどね。」

 

「そうなの…。」

 

確かにどれだけ力が強くなってもすぐに効果が切れてしまうなら奇襲くらいでしか役に立たないのかも…。でも堕鬼は待ち伏せてることが多いとも言ってた。だからこっちから奇襲を仕掛けるのは難しい…?いや、でも確か…

 

「そうだ、投げるんだよ。硬いものとか遠くから。さっきみたいに。」

「投げる?なるほど、確かに効果はついさっき実証済みだ、良いかもしれないね。でもそれだとまたテュテュを驚かせちゃうんじゃないか?」

 

「それは大丈夫、次からはちゃんと一緒に戦うから、オリバーが何しようとしてるかわかる、驚かない。」

 

「ははっ、それは心強いな。よし!そうと決まれば善は急げ、身体も少しは休まったし、そろそろ先に進もうか。」

 

彼はマスク越しにもわかるほどの笑顔を浮かべると私の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。どうにもしばらく行動を共にしてからというもの彼は私のことを子ども扱いしているようだ。なんだかそれが気に食わなかった私は体を霧に変えて、彼の支えを奪ってやる。驚いて冗談みたいに綺麗な転び方をした彼を笑いながら、私達は血涙を求め再び地下道を歩き始めた。

 



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