とある科学の電閃飛蝗《ライジングホッパー》 (フォックス少佐)
しおりを挟む

第零話 夢へ向かって飛べ、RISING JUMP!

急遽書いたので変なところがあるかもしれません。それでも良ければどうぞ~。


――或人、お前には将来の夢があるか?

 

記憶の片隅に残っている幼い頃の記憶。大好きな父親に肩車をしてもらって喜んでいた俺に向けられた何気ない質問。俺には色んな夢があった。宇宙飛行士やサッカー選手になりたいし、一生食べ切れないくらい大きいケーキだってお父さんと一緒に食べてみたい。正直今思うと現実味がなくて、馬鹿々々しくて如何にも幼い子供って感じの夢だ。けれど俺には絶対に実現できない事だとしても諦められない、たったひとつの夢があった。それはあの時、父さんの質問に対して俺が口にした答えだ。

 

「俺の夢はお父さんを心から笑わせる事!」

 

父さんがいなくなった今でもその夢は俺の中で途絶えることなく続いている。どうしたらその夢が叶うのかはわからないけれど、今は夢に向かってがむしゃらになって走ってみよう。そうすればきっと何処かで、俺の求めた『心からの笑顔』が見つかるかもしれないから――

 

【第零話 夢へ向かって飛べ、RISING JUMP!】

 

「――はいっ! アルトじゃあぁぁぁないとぉぉぉぉぉ!!!」

 

放たれた渾身の決め台詞。辺り一面を囲むように居る人達はきっと爆笑の渦に巻き込まれるに違いない。そう確信のもつかの間、返ってきたのは無情で残酷な静寂だけだった。何がいけなかったのかと思考を巡らせるが、舞台裏から係員がやって来て早々に俺を退場させる。そして次に舞台へ上がった人物が俺の取るはずだった笑いを全て掻っ攫ってしまい、その光景を目の当たりにした俺は楽屋裏の隅っこでうなだれていた。

 

「はぁ……笑いのシュミレーションは完璧だったのに」

 

今日開催された学園都市の第六学区に位置する遊園地のお笑いフェスティバルに向けていくつもネタを考えて、家の中でリハーサルをしたし最善は尽くしたと思う。だが『お笑いには正解がない』とテレビに出ていた芸人さんが言っていたように芸が必ずウケるとは限らない訳で……。と無限にも思えるような反省点を探し出す議論を脳内でリピートさせていると、誰かに肩を叩かれ振り向くとそこには見知った顔の女性が立っていた。

 

「小萌先生……?」

「そう落ち込まないでください、或人ちゃん。先生は個性的で面白いギャグだと思ったのですよ」

 

その女性は小学性のように小柄な体系をしているが立派な俺の高校の担任教師である、月詠小萌先生だ。何故この遊園地に居るのかはわからないが、どうやら俺の一発ギャグを見ていたらしい。口ではフォローしてくれているが、目を一向に合わせてくれない。そこから察するに俺のギャグは先生の心には響かなかったようだ。

 

「先生の優しさが傷口に染みるなぁ~。ところで先生はどうしてここに?」

「先生はここへ遊びに来たのではなく、或人ちゃんを探しにここまで来たのですよ」

「俺を探しに……?」

 

 

言われた通りにに小萌先生の後を付いて行くとそのままマイカーに乗せられて高速道路を走っていた。身長が極端に低い小萌先生がどう運転しているのか永遠の謎だったが、チャイルドシートを改造した物の上に乗っているのを見て謎が解けスッキリしたと同時に俺の心の中は憂鬱そのものだった。

 

「どうしたんですか、浮かない顔をして。まださっきの遊園地の事で落ち込んでるんです?」

「違いますよ。今から向かうところがわかって憂鬱なんです」

 

そう言って俺がカーナビに視線を向けると、目的地の項目に『飛電インテリジェンス本社』と書かれていた。そこから察するにどうやら俺を爺ちゃんの会社に連れていって例の件を説得させようとしているらしい。

 

「いい加減、ちゃんとお爺さんが遺した物に向き合わないとダメなのですよ。先生はその為なら何度でも或人ちゃんを連行するですよ」

「はぁ……それなら俺も何度だって言いますよ。俺は飛電インテリジェンスの社長になる気はありません」

 

俺は飛電インテリジェンス社長であり祖父である飛電是之助が死去し、その祖父が遺した飛電或人を会社の次期社長に任命するという遺言のもと学園都市に4か月前やって来た。だが俺の夢はお笑い芸人になる事であり、祖父には悪いが社長になる気はない。そう何度も小萌先生に言っているのだが、先生曰く『それが或人ちゃんにとって良い事とは思えない』らしく定期的にこうして飛電インテリジェンスの本社に連行されている。と言っても毎回俺は何処かで先生を撒いて逃げ出すのだが。

 

「それに今日は或人ちゃんにそれを渡して欲しいと社員さんに言われて持って来たのですよ」

「この車に乗った時から気になってましたけど、この怪しいアタッシュケースを俺に?」

 

違和感しかない後部座席の隣に置いてある怪しげなアタッシュケースが気になった俺はそれを膝の上に置いて開けた。すると中には不思議な電子機器とバッタの柄が記された電子キーが入っていた。これが何なのかわからず困惑していると小萌先生が説明を始めた。

 

「なんでもそれには新時代のセキュリティーシステムが組み込まれていて、使用権限があるのは社長である或人ちゃんだけみたいなのです」

「新時代のセキュリティーシステム……って勝手に使用権限を俺に!? 社長になる気はないって言ってるのにそんな勝手に!」

「せ、先生に言われても困りますよぉ」

 

勝手に社長扱いされ、トントン拍子に事が進んでいる。このままでは強制的に社長の座に就くことになってしまう。何処かで小萌先生を撒いて逃げ出さなくては。

そう考えて窓の外を眺めること数十分。車は学園都市最大の繁華街がある、第十五学区へと辿り着き停車した。とうとう飛電インテリジェンスの本社に近づいて来たと思うと、何度目かわからない溜息が口からこぼれた。

 

「まだ飛電インテリジェンスに着くのは早いので、この近くで休憩を取りましょう。この辺りで1番美味しいケーキ屋さんを知ってるので一緒に行くですよ~」

「先生は呑気だな~。俺はこんなにブルーな気分なのに」

 

先生に手を引かれるままアタッシュケースを片手に繁華街を歩き回って例のケーキ屋に辿り着き、テラス席で街並みを眺めながらコーヒー片手にケーキを食べていた。こんな優雅にお茶をしてる気分じゃないんだけどな。そんなことを思いながらボーっと道行く人達を見ていると気になるものを見つける。それは道端でぬいぐるみを抱えながら泣きじゃくっている小さな女の子の姿だ。隣には泣いている女の子の目線に合わせるようにしゃがんでいる少女の姿が。きっとあの少女が泣いている女の子の機嫌を取ろうとしているのだろうが、女の子は一向に泣き止む気配がない。そんな状況を見てじっとしていられなくなった俺は席を立った。

 

「小萌先生、ちょっと失礼します」

「ふぇ! ちょ、或人ちゃん!」

 

小萌先生が後ろでガヤガヤ何かを言ってるが今は無視。目の前で泣いてる女の子を前に黙っているほど、芸人として落ちぶれちゃいないって所を見せてやるんだ。そうすれば小萌先生の考えも変わるかもしれないしな。

 

「君、どうしたの? お母さんとお父さんと迷子になっちゃったのかな?」

 

そう質問するが俺の事を警戒して怖がっているのかどんどんその涙は溢れ返っていく。こうなったらアレしかないと、脳内を芸人モードに切り替えると瞬時に頭に叩き込んだネタ帳からギャグを選択して声高らかに言い放った。

 

「君の涙の雨を、この飴ちゃんで吹き飛ばそうぜ! ――はいっ! アルトじゃぁぁぁぁないとぉぉぉぉ!!!」

 

その決めポーズと共に懐に忍ばせておいた、さっきテラス席の上に置いてあった飴を女の子に手渡す。すると女の子はピタリと泣くのをやめたと思うと笑顔になって飴を頬張った。よっぽど俺のギャグが面白かったのか、それともただ単に飴が大好きなだけなのか。どちらにせよ目の前の女の子が笑顔になってほっとした。この分だとさっきから黙っている隣の少女は笑いをこらえるのに必死で――

 

「今のは俗に言うおやじギャグ、と言うものでしょうか? とミサカは飽きれた目で突如現れた謎の青年を見つめます」

「って飽きれてるのかよ!? 俺はてっきり笑いをこらえているのかと……」

「? 今のは何か面白い要素があったのですか? とミサカは意味が解らず首をかしげてみます」

「ぐっ……も、もういいよ。それよりも君、もし時間があるならこの子を交番までお願いできる?」

「はい、可能です。とミサカはお前は来ないのかよ……と思いながらも口には出さずに了承します」

「いや、思いっきり口からダダ漏れてるよ!? 」

 

……でも待てよ。これに乗じて小萌先生から逃げられるのではないだろうか。だとしたらこれは絶好のチャンス。そうと決まれば俺はミサカと名乗る少女と共に女の子を預けに交番へと向かう。小萌先生には悪いけど、俺には夢があるんだ。それを叶える為に今は逃げる事が先決だと自分に言い聞かせていると、瞬く間に交番へ着き女の子を預け終わった。

 

「か、完全にこれからどうするのか考えるの忘れてた……くぅ~、このままじゃ社長街道まっしぐらだ」

「社長……貴方はその若さで一企業の最高責任者なのですか? とミサカは疑いながらも真相を聞き出そうとします」

「いや、俺は社長になる気はないんだけど、周りが勝手にそうしようとしているというか……」

「なるほど。では貴方は自分の意思とは関係なく巨万の富と財産を得ようとしているのですね。とミサカは良い金蔓を発見したと不敵な笑みを浮かべます」

「君、心の声が出すぎ――ってちょっと!?」

 

自信をミサカと呼ぶ少女は急に俺の手を掴むと、何処かへ向かって走り出した。終始無表情の彼女が何を考えているのかもわからず、されるがままに連れてこられたのは開けた公園の中にあるクレープ屋さんの前だった。

 

「ミサカはこれが食べてみたいです。と小動物の様な可愛い目つきで目の前の貴方を見つめます」

「いや、そう言ってる割には無表情だけど……ったく、しょうがないな」

 

何故か彼女を見ていると放っておけない気持ちになった俺はなけなしのお金でクレープを2つ購入する。そして公園のベンチに座ると二人でクレープを食べ始めるのだった。

 

「なけなしのマネーが……俺に残ったのはこのアタッシュケースだけか……」

 

何やかんやで無意識のうちにここまで持ってきてしまったアタッシュケースを横にうなだれる。

 

「はむっ……クレープと言うものの存在は知っていましたが、これほど美味しいものとは思いませんでした。とミサカは恥じらいながらも豪快に食していきます」

「そう思うなら少しは笑ったらいいじゃん。友達と笑い合いながら食べるってのが醍醐味なんだからさ」

「笑う……こんな風にですか? とミサカはできる限りの営業スマイルを貴方に送ります」

「あっ」

 

そう言って見せる彼女の笑顔を見た俺は思わず見とれてしまった。それにしてもこの笑顔を何処かで見た記憶がある彼女とは会うのが初めてなのに、この懐かしい感覚は一体何なんだろう。そんな思考を巡らせていると公園の外から何やら騒がしい声が聞こえ始める。いったい何なんだとベンチから立ち上がって公園の外を見ると――

 

「何だあれ……怪……物?」

 

銀行のある通りでカマキリのような外見をした怪物が人を襲って暴れていた。怪物の歩いている方向的にこちらへ向かってきているようだ。だとしたら逃げなくちゃならない。あの怪物が何なのかはわからないが、あの腕から生えた鋭利な鎌を振るわれたら間違いなく死ぬ。俺は隣で呑気にクレープ食べてる少女の手を取ると、逃げる為に全力で走り出そうとする。しかし、俺の体は何かに引き寄せられるように後方へ戻されてしまう。いったい誰がと後ろを振り向くと、そこには俺の腕を掴んでいるミサカちゃんの姿が。

 

「ど、どうしたの!? 早く逃げないと――」

「逃げるのは構いませんが、あの男の子は置き去りにするのですか? とミサカは視線で貴方に何かを訴えかけます」

 

そう言ってミサカちゃんが指さす先には逃げ遅れた様子の男の子がおろおろしていた。このまま逃げるのは簡単なことだ。けどあの男の子を見捨てるなんて最低なことをするのは難しく、俺は一目散に男の子の元へと駆け寄る。そしておんぶするとその場を立ち去ろうと立ち上がった。すると――

 

「なっ!?」

 

緑糸に輝く円盤状の何かが俺の頬をかすめた。その頬からは鮮血が流れ落ち、俺は恐怖のあまり思わずその場で尻餅をついてしまう。そんな俺に向かって容赦なく差し迫る怪物を前にもうダメだと目を瞑ろうとするが、それを残り余った精神力で見開く。俺だけの命ならまだしも、背負った男の子の命まで危険に晒すわけにはいかない。俺は「ミサカちゃん!」と大声で名を呼ぶと男の子を彼女に向かって投げ飛ばした。危険なのはわかっているが、男の子を瞬時にこの場から退避させるにはこれしかない。

 

その意図が伝わったのかミサカちゃんは何とか男の子をキャッチする事に成功したようだ。ほっとしたのも束の間、肝心なのはここからだ。俺は一体ここからどうやって逃げれば良いのだろうか。何度も逃げる選択肢を探したが、タイムリミットが短すぎる。怪物は容赦なくその腕から生えた鋭利な鎌を俺に振り下ろした。

 

……おかしい。一向に痛みがやって来ない事に違和感を感じて瞑った目を開けると、視界に映ったのは鮮血に染まったミサカちゃんの体だった。

 

「ミ、ミサカちゃん!? ど、どうして……!」

「……ミサカには変わりがいくらでもいます。でも、貴方は違いますから……とミサカは再び営業スマイルを貴方に送ります」

「っ……!」

 

思い出した。この目の前の少女の向ける笑顔は昔、父さんが俺に向けていたものと同じものだ。そしてこの光景もまったく一緒、父さんは事故から俺を庇っていなくなった。このままではこの子も同じようにいなくなってしまう――

 

それだけは絶対にダメだ。俺の夢は『父さんを心から笑わせる事』、目の前の少女は父さんと同じ作り笑いを浮かべている。この笑顔を本物にするまでは彼女を失うわけにはいかないんだ。俺は全身に力を込めて倒れる少女を抱きかかえて、怪物の放った次の一手を避ける。そしてベンチに置いたままのアタッシュケースの所に全力疾走すると、彼女をベンチに寝かせアタッシュケースを開いて中から電子機器と電子キーを取り出した。

 

「頼むから新時代のセキュリティーシステムとやらでこの状況が変わってくれ……!」

 

そう言って電子機器を腰に当てがった。するとその瞬間、脳内にあらゆる情報が流れてくる。この電子機器『ゼロワンドライバー』と電子キー『プログライズキー』の使い方、そして目の前の怪物を倒すのに必要な知識を全てが頭に叩き込まれていった。

 

「――ラーニング完了」

 

《JUMP!》

 

プログライズキーのボタンを押し、ゼロワンドライバーに認証させると上空から巨大なバッタが舞い降りてくる。そして怪物の前に立ちふさがると俺はプログライズキーをゼロワンドライバーの横側に装填した。

 

《プログライズ! 飛び上がライズ! ライジングホッパー!》

【A jump to the sky turns to a rider kick.】

 

するとバッタが大きく飛び上がり空中で分解すると俺の体に全身真っ黒のアンダースーツが装着され、バッタの装甲がその上から見る見る内にくっ付いていく。そして完全に一体となると俺の姿は仮面ライダーゼロワンへと変身した。

 

「彼女の笑顔……俺の夢を叶えられるのはただ1人――俺だ!」

 

そうだ。いったい俺は何をしていたんだ。お笑い芸人になるとか、飛電インテリジェンスの社長になるとか悩む意味は無かったんだ。『心から笑顔にする』その夢に向かって飛べるなら、肩書なんてどうでもいい。大事なのはこの気持ちその物だったんだ。だから芸人でも社長でも俺のやる事は変わらない。今できることは目の前の怪物を倒して彼女を守り抜く事だ。

 

俺は怪物に向かって飛びあがる。すると人間とは思えない跳躍力で怪物をまたいで背後に回るとそのまま蹴りをぶつける。怪物は負けじと反撃してくるがそれを果敢に避けて次々と足技で怪物にダメージを与えていく。すると怪物は業を煮やしたのか後方へ飛びあがると、鋭利な鎌で斬撃を放った。すると人が避難し終えた無人の車やバスに被弾し巻き込んで、俺に向けて飛んできた。

 

「これで決める――!!」

 

それでも俺は冷静に装填されたプログライズキーをもう一度押し込むと、ゼロワンドライバーから高出力のエネルギーが右足に充填される。そして向かい来る車やバスの間を潜り抜けて怪物を蹴りあげると、空中で渾身の飛び蹴りを怪物にぶつけた。すると怪物の胴体を貫いて地面へ着地すると背後で怪物は断末魔と共に爆発した。

 

「ふぅ……って、あららら!?」

 

一息つこうとした瞬間、飛び蹴りの勢いを殺しきれずに足をひねるとそのまま体勢を崩して転がりながら建物にぶつかった。

 

「い、痛ってぇ~!」

 

俺は痛みのあまり立ち上がって自分の姿を見ると、元の飛電或人に戻っていた。すると間もなく風紀委員が現れて怪物の暴れた現場を押さえていた。幸いにも飛び蹴りの反動ですっ転んで現場から遠くに居たせいか被害者として扱われ、怪我の治療だけしてもらった後は事情聴取もされず自由の身となった。変身した瞬間を男の子に見られていたかもしれないが、申し訳ないが子供の絵空事として扱われるであろう。

 

「あの娘……どこ行っちゃったんだろうなぁ」

 

気がかりなのはミサカちゃんを事故現場周辺でその影すら見なかったことだ。きっと直ぐに病院へ搬送されたのだろうと思った俺は詮索しようとはせず、小萌先生の待っているであろうケーキ屋に戻るのだった。

 

「ううぅ~……」

「先生……? どうしてそんなに泣きそうなんです?」

「当たり前です! どうして急にいなくなっちゃうんですか!? 近くで事件もあったって聞いて巻き込まれてないか、死ぬほど心配したんですよ!」

「ご、ごめんなさい……」

「今日という日は絶対に観念してもらうです! 或人ちゃんは来週ずっと先生と補習授業ですよ!」

「えぇ!? 不こ――!」

 

どこぞのツンツン頭の不幸少年のようなことを叫んだ俺はこの後、飛電インテリジェンスに強制連行されたが覚悟を決めていた俺は次期社長へと就任する事に同意した。そして今の肩書はどうであれ、いつかあの人の『心からの笑顔を』見られるように夢へ向かって頑張ろうと心に誓ったのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 社長仮面ライダーとの出会い。

始まったなぁ〜……ということで本作品は不定期更新です。
できれば1話につき1枚、挿絵を入れる予定ですのでよろしければ見てくださいね。

諸事情で再投稿。


 ――学園都市。あらゆる教育機関、研究組織で構成されたこの都市は外部より数十年進んだ最先端科学技術が研究、運用されている。そんな学園都市で最も外部の世界との違いは、この街に超能力が存在することだ。

 総人口約8割の学生達は超能力の開発を義務付けられ、学生達は日々勉学に励んでいる。そんな学生達の超能力開発をより効率化する為に学園都市でも屈指の大企業である飛電インテリジェンスはある製品を開発した。

 

 それは人工知能を搭載した人型ロボット――ヒューマギア。

 

 ヒューマギアは自己ラーニング機能によってあらゆる技術を瞬時に覚えることが可能であり、様々な分野で活躍して学生達の日常生活をサポートしていた。

 しかし、最近になって[とある]事件が多発していた。それはヒューマギアをハッキングして意のままに操ることができる違法ROMが学園都市の裏で取引され、それを使った犯罪が多発していることだ。ヒューマギアは確かに純粋に人を助ける為に作られたロボットだが、悪人の手に渡れば戦争の兵器になりうる。

 

 そんな違法ROMを撲滅する為、学園都市の治安を守る組織の一つである風紀委員は今日も事件の捜査に追われていた。

 

「白井さん! そこを右に曲がってまっすぐです!」

 

「了解ですの!」

 

 学園都市に張り巡らされた高層ビルの裏路地を駆け抜ける少女の姿が一つ。彼女の名前は白井黒子、この街で活躍する風紀委員の1人であり現在ヒューマギアハッキングに使われている違法ROMの売人を追っていた。第一七七支部で待機しているパートナー、初春飾利の的確な指示によって追跡をしている黒子は一瞬の迷いもなく迷路のような路地裏を走って、とうとう行き止まりまで売人を追い詰める。

 

「ジャッジメントですの! もう逃げ場はありません。速やかに投降しなさい」

 

「く、くそっ!」

 

 腕章を見せつける黒子を前に圧倒されて怯む売人。もう終わりか。そう思った矢先に売人はあるものを見つける。それはとても幸運だった。何故ならたまたま辿り着いた行き止まりは不法投棄されたゴミの山ができており、そこには使われなくなって廃棄された旧式のヒューマギアの姿があったからだ。

 

 攻守逆転。ニヤリと不敵な笑みを浮かべた売人の意図をまだ気づくことができていない黒子は携帯を取り出してアンチスキルに通報しようとした。その瞬間、隙をついた売人はゴミの山に近づくと旧式ヒューマギアの頭部に違法ROMを差し込んだ。

 

「あひゃひゃ! 残念だったな! どうやらツキは俺のほうに向いてるらしいぜ!?」

 

《……滅……迅…….……t……接続……》

 

 その言葉と共にゴミの山からまるでゾンビの様にゆっくりと旧式のヒューマギアが起き上がると、耳部パーツと瞳が真っ赤に点滅して機械的な雄叫びを上げると黒子に向かって襲いかかった。

 

「くっ……厄介なことになりましたわね!」

 

 襲い掛かってくるヒューマギアを前にして黒子は演算し、瞬時に背後へとテレポートする。そして太ももに備え付けてあるホルスターから金属矢を数本指に挟んで構える。

 

「これを内部に打ち込めば……!」

 

 流石のヒューマギアも内部に異物が混入すれば中の回路やパーツなどが壊れて動けなくなるだろう。そう思った黒子は演算を開始する。しかし――

 

「これでもくらいやがれ!」

 

「ぐっ!?」

 

 黒子の脇腹に衝撃が走る。目の前で暴走するヒューマギアと対峙していて完全に見落としていた。自分と敵対するもう1人の存在に。

 まともに蹴りを受けた黒子は思わずその場で膝をついてしまう。その瞬間こそが命取り、ヒューマギアは容赦なく黒子へと襲い掛かった。

 

 思わず目を閉じてしまう黒子。だがその瞬間、けたたましい雷が落ちたかのような轟音が鳴り響いた。それと同時に目の前のヒューマギアの上半身は吹き飛ばされ、売人の髪を何かがかすめて行き止まりの壁を粉砕した。

 

「ったく。待ち合わせ場所にいつまで経っても来ないから心配して来てみれば……だから少しは私に頼りなさいって言ってるじゃない」

 

「お姉……さま?」

 

 目を開いた黒子の前には稲妻を迸らせた学園都市でも7人しか存在しない最高の能力者であるレベル5、御坂美琴が立っていた。

 

「それよりも……ちゃーんと見てたわよ。私の可愛い後輩に蹴りを入れるの。覚悟はできてるんでしょうね、アンタ」

 

「ひ、ひぃぃ」

 

「アタシの蹴りはちょーっとばかし、痛いわよ!」

 

 そう言って御坂の放った電撃を帯びた蹴りは売人の男に直撃。路地裏には先程の轟音に負けないくらいの絶叫が鳴り響いた。

 

 黒子の通報を受けてやって来たアンチスキルは真っ黒焦げになって気絶している売人の男を担架で運んで救急車に乗せる。黒子はそんな様子を見て犯罪者ながらも気の毒だなと思っていた。

 

「お姉様。私の為に怒ってくれるのは嬉しいのですが……少々やりすぎじゃありません?」

 

「いいのよあれくらい。きっといい薬になるわ。それにちゃんと手加減したし……ってそれよりも今日は一緒にショッピングするって約束だったでしょ? 早く行くわよ」

 

「そ、それなんですがお姉様。本部の方から急遽今回の事件に関する報告書を提出するように言われてしまいまして……」

 

 黒子が申し訳なさそうにそう言うと御坂はすこしため息を吐いた後、黒子の頭の上にぽんっと手を乗せた。

 

「はぁ……そういうことなら仕方ないわね。この街の為に必死で妹分が頑張ってるんだもん。邪魔する訳にはいかないわ」

 

「お姉様……黒子は……黒子は……感激ですわ〜!!」

 

 黒子は嬉しそうに御坂に抱きつく。そんな黒子の頭を撫でていると御坂は違和感に気がつく。特に胸のあたりに猛烈な違和感が。

 

「どさくさに紛れてどこ触ってんのよ!!」

 

「くぎゃあぁぁぁぁ!?!?」

 

 

 

 

「それにしても予定なくなっちゃったから暇ね……」

 

 黒子とのショッピングをキャンセルせざる負えなくなった御坂が退屈そうに街を歩いていた。すると、ふと視線をやった先には見知った顔の人物が歩いていた。

 

「あれって……佐天さん?」

 

 視線の先には黒子に紹介されて出会った少女、佐天涙子が公園のベンチに座ってチケットのようなものを眺めていた。今のところ予定がない御坂は同じく暇そうにしている佐天の元へ歩いていくと声をかけた。

 

「佐天さん。こんな所で紙切れと睨めっこして何してるの?」

 

「えっ? あっ! 御坂さん! ちょうどいい所に!」

 

 御坂の顔を見た途端に嬉しそうな表情で佐天は手に持ったチケットを御坂に見せる。それをよーく目を凝らして拝見する御坂は、それがなんなのかを知った時、脳裏に衝撃が走った。

 

「ゲコ太……ランド!? これって最近できたばかりの遊園地の入場チケットじゃない! 入手困難でなかなか手に入らないのに……佐天さんこれどうしたの!?」

 

「実は気まぐれで送った雑誌の懸賞でペアチケットが当たっちゃって……ちょうど御坂さんを誘って行こうかなって思ってたんです!」

 

「えっ、いいの!?」

 

「はい! いつもお世話になってるお礼です!」

 

「ありがとう佐天さん! ゲコ太ランドゲコ太ランド〜♪」

 

「あはは、すっかりハイテンションですね」

 

 普段はゲコ太好きをひた隠している御坂もゲコ太ランドの前には無防備だった。こうして御坂と佐天の2人はバスを使って学園都市の新設区画にあるゲコ太ランドへと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

「どこを見てもゲコ太、ゲコ太、ゲコ太! ここは正に天国だわ〜!」

 

「よーっし! それじゃあ早速、いろんなアトラクションに乗ってみましょう!」

 

 興奮冷めやらぬ御坂の手を引いて佐天達はゲコ太をモチーフとした観覧車やジェットコースターなどあらゆるアトラクションの数々を体験して回った。そして一通り回った2人はフードコートへと立ち寄り、昼食を取りながら何気ない会話をしていた。

 

「いや〜、ゲコ太も案外悪くないですね! こんなに楽しい遊園地は久しぶりでしたよ」

 

「本当にありがとうね、佐天さん! いつかこの恩は必ず返すわ!」

 

「お、大袈裟ですよ御坂さん……それにしても、この遊園地のスタッフさんって全員ヒューマギアなんですね」

 

 ふとここに来てからの違和感を佐天は口にする。すれ違った遊園地のスタッフの制服を着た人達は全員、耳元にヒューマギアの特徴である耳部パーツが付いていた。学園都市にも多くヒューマギアは存在しているが、一つの施設にこれ程まで居るのは珍しいことだった。

 

「ああ、そう言えばさっき看板に飛電インテリジェンスのロゴが描いてあったわね。それが何か関係あるんじゃないかしら?」

 

「飛電インテリジェンスか……」

 

 そう呟いて佐天がストローでジュースを飲みながら遠くを見つめていると、見知った顔の人物が目に入る。それは頭にいっぱいの花飾りを付けた、親友の初春飾利によく似て――

 

「って、あれ初春じゃん! どうしてここに? おーい! 初春〜!」

 

 大声を上げて手を振り声をかける。すると初春は佐天達に気付いて駆け寄ってくる。その顔はどこか焦っている様子で普通ではなかった。

 

「佐天さん、御坂さん! どうしてここに!?」

 

「それはこっちのセリフ。初春こそどうしてこんな場所にいるのよ?」

 

「大きな声じゃ言えませんけど、ここにヒューマギアハッキング用の違法ROMを取引している売人が小さな女の子を人質にして立て籠ってるんです……!」

 

「それってまさか……!」

 

 御坂をその言葉を聞いて驚き立ち上がる。まさかとは思うが先程、学園都市の路地裏で自分がノックアウトした売人と同一人物ではないのかと。こんな短時間に2人の売人が現れるという仮説より、さっき捕まえた筈の売人が逃走したという仮説の方が納得のいく答えだ。

 

「た、立て籠もってるってこの遊園地、普通に経営してるよ?」

 

「犯人がヒューマギアの通信機能を使ってジャッジメント本部に宣言したんです。下手な動きを見せれば、この遊園地にいる全てのヒューマギアを暴走させるって……」

 

「なっ、ここのスタッフは全員ヒューマギアなのよ!? こんな数暴走したら大惨事は免れないわ!」

 

 この遊園地のヒューマギアスタッフはおおよそ30体近く存在している。そんなヒューマギアが一気に暴走すればレベル5の御坂美琴でもアンチスキルなどの増援が到着するまでにみんなを守り切ることはできないだろう。

 

「犯人の要求はこの遊園地を設立した飛電インテリジェンスの社長を人質として引き渡すことなんです……幸いにも現在、白井さんが社長さんを連れてこの遊園地に向かってますからそれまでなるべく安全な場所お二人は避難しててください」

 

 そう言って初春は下手なそぶりをしないように最新の注意を払いながら目線で犯人と人質に取られた女の子の姿を探す。

 

「じっとなんてしてられない……でも私はあの時、犯人に顔を見られてるし下手に動けない」

 

 今の自分の無力さに御坂が爪を噛んで現在の状況を打破する作戦を考えていると、突然目の前に黒子がテレポートする。その傍らには高校生くらいの青年の姿もあった。

 

「お姉様!? どうしてここに……ってそれよりも初春、社長さんを連れて来ましたわよ!」

 

「何言ってんのよ、黒子! そいつどう見てもただの高校生じゃない!」

 

「それは違います、御坂さん。彼は現役高校生でありながら飛電インテリジェンスの若社長、飛電或人さんなのです」

 

「おっ、君が常盤台のエース、超電磁砲の御坂美琴ちゃんだね! 俺は紹介してもらった通り、飛電インテリジェンス2代目社長の飛電或人!」

 

 そう言って或人は御坂の手を握って握手を交わす。すると何かを閃いたのか或人は目を輝かせた。

 

「まさか噂に聞いていた電撃姫の御坂美琴ちゃんがこんなに華奢な中学生だとは思わなかった……電撃姫だけに電撃ショック! 

 

――はいっ! アルトじゃあぁぁぁぁないとぉぉぉぉぉ!!!」

 

 突如として放たれた空気を読まない寒すぎるギャグ。そのあまりの冷たさに突っ込むどころか全員凍りついた。そしてその沈黙を破ったのはビリビリと迸る御坂の電撃だった。

 

「あ、あんたこの状況でなにくだらないこと言ってんのよ!! 犯人は女の子を人質に取ってるのよ!?」

 

「まあまあ、こんな緊迫した状況こそ笑えるぐらいの余裕でどーんっと構えてないと。それに人質の女の子は俺が必ず助ける」

 

 そう言う或人の瞳は先程ギャグを思いついた時とは違った輝きを放っていた。そんな或人を見て御坂は怒りを鎮めて電撃を収めると初春のスカートのポケットから携帯の着信音が鳴り出した。急いで初春は携帯を取って耳に当てると、犯人らしき人物の声が聞こえてきた。

 

「取引の条件通りちゃんと飛電の社長を連れてきたようだな。そいつを連れてお化け屋敷に来い。そこでガキと交換だ」

 

 犯人は言いたいことだけ言うとすぐに電話を切ってしまった。初春は取引場所を黒子と或人に伝えると5人は指定場所のお化け屋敷に向かった。そして取引場所であるお化け屋敷の前に着くとまた初春の携帯が鳴り出した。

 

「ぞろぞろとギャラリーを連れてきたみたいだな。だがこの中に入って良いのは常盤台のエースとテレポート女以外の1人と社長の2人だけだ。わかったな?」

 

「わ、わかりました」

 

 そう言って再び一方的に電話は切られる。電話で犯人が言っていたことを黒子達に伝えると、黒子はある違和感を感じとる。

 

「電話で喋っていたのは初春1人ですのに複数人でこの取引場所に来たことを犯人は何故わかったんでしょうか……」

 

「確かに……もしかして犯人は中にいなくて私達を陥れる罠……とか?」

 

「いや、おそらく遊園地に数十個とある監視カメラをヒューマギアでハッキングしたんだ。残念なことに違法ROMを使えば簡単にできちゃうんだよ……」

 

 違法ROMの情報をラーニングされたヒューマギアはインターネットウイルスを機材に触れただけで感染させることができる。それを使えば監視カメラから遊園地内のアトラクションや働くヒューマギアまで警備システムを制御しているメインコンピュータをハッキングすることなど造作もないことだった。

 

「困りましたわ。私とお姉様は犯人に顔も能力もバレて警戒されていますし……」

 

「なら私が行くしか……「いや、私がいくよ!」佐天さん!?」

 

 誰が或人を引き渡すか悩んでいると真っ先に手を挙げたのは佐天だった。

 

「む、無茶ですよ! 犯人は凶器を持っているでしょうし危険です!」

 

「それは初春だって同じでしょ? それに初春はここでヒューマギアのハッキングを食い止めていた方がいいんじゃないの?」

 

「そ、それは……」

 

 初春はレベル5級のハッキング技術を持っており、犯人の使っている違法ROMにも対抗できるだろう。だとしたら犯人が起こす可能性のあるヒューマギアの暴走を止める準備を進め、万が一ヒューマギアと戦わざる終えなくなった場合の戦力として御坂と黒子を温存しておくことを考えれば、佐天が取引に向かうのがベストな選択だった。

 

「それにいざとなったらこの社長さんがなんとかしてくれるって! なんてったって社長だし!」

 

「そ、それなんの根拠にもなってないです。佐天さん……」

 

 それから佐天は自分が取引現場に行くとを譲らず、とうとう折れた初春は絶対に無茶な行動はしないことを約束して佐天と或人をお化け屋敷の中へと行かせた。

 

「こんなことに巻き込んでごめんな。我が社が違法ROMの取締りをちゃんとできてないばっかりに……」

 

「気にしないでください。ヒューマギアには日頃から学園都市でお世話になってますから……それにしても私達と少ししか年が変わらないのに社長なんて凄いですね」

 

「はは、俺もこの前まではただの高校生だったのに爺ちゃんの跡取りとして突然学園都市に連れてこられてさ……俺にとって社長の肩書はまだまだ張りぼてみたいなもんだよ」

 

 そんな会話を交わしながらお化け屋敷の中を進んでいくとある場所でピタリと止まる。そこには一体のヒューマギアがポツリと立っており、その腕の中には小さな女の子が怯えていた。

 

「約束通り2人だけでやってきたみたいだな。お会いになれて光栄ですぜ、社長さん」

 

「お望み通り来てやったんだ。早くその子を返してくれ」

 

「おっと、その前にあんたが先にこっちへ来るんだ。飛電インテリジェンスの社長を人質にすれば学園都市から逃亡するのもわけないからな」

 

 そう言って犯人はゆっくりと或人に近づいていく。そして腕を掴んで腰の後ろへ回し、首を締めると犯人は下劣な笑みを浮かべる。

 

「そう言えばさっき、外に俺をコケにした超電磁砲と風紀委員がいたよなぁ……後を追跡されちゃ面倒だ。ここで始末するか」

 

「なっ、約束が違うじゃない!」

 

「ウルセェ! 約束なんざはなから守るつもりねぇんだよ!」

 

 そう言って犯人が手に持ったスマートフォンを操作するとヒューマギアは抱えた女の子を佐天に向かって放り投げた。とっさに受け止める態勢を取る佐天だったが、勢い良く放り投げられた女の子の体を受け止めきれずに後方へ吹き飛ばされる。幸いにも女の子に怪我はないが、佐天は背中を強く打って動けずにいた。

 

「っ! 佐天ちゃん!」

 

「お前は俺とさっさとこい!」

 

 犯人は或人の首を強く締め付けながらお化け屋敷の外へと向かおうとする。しかし、お化け屋敷は暗闇そのもの。犯人は足元を警戒しておらず、何かにつまづいてほんの少しだけ態勢を崩す。その瞬間を或人は見逃さなかった。僅かながらにできた隙を突いて、或人は犯人を全身の体重をかけて押し倒す。そして犯人が頭を打って怯んでいる隙にその場を離れて、佐天の方を見る。すると、動けずにいる佐天と泣きじゃくりながら佐天の手を握って怯えている女の子に向かって、ゆっくりと近づく暴走ヒューマギアの姿が。

 

「やるしかないよな……!」

 

 何かを決めた或人。懐から黒を基調としたドライバーを取り出すと腰に装着し、胸ポケットからバッタのロゴが記された電子キー、プログライズキーを取り出した。

 

「飛電インテリジェンスの社長として……ヒューマギアを人殺しの道具にさせるわけにはいかない!」

 

《JUMP!――オーソライズ》

 

 プログライズキーをドライバーに認証させる。すると次の瞬間、お化け屋敷の天井が壊れて巨大な黄色いバッタが現れると佐天と女の子に迫るヒューマギアを吹き飛ばした。

 

「お、おっきいバッタ !?」

 

 突然の状況に痛みも忘れて驚いている佐天を他所に或人は声高らかにある言葉を叫んだ。

 

「変身!」

 

 プログライズキーをドライバーに装填。すると或人の体が全身黒いアンダースーツに覆われて、バッタが跳躍し空中で分離。その破片がアンダースーツに装着されると或人の姿は闇に輝く蛍光イエローの鎧を身に纏った仮面の戦士へと変わった。

 

《プログライズ! 飛び上がライズ!ライジングホッパー!》

 

【A jump to the sky turns to a rider kick.】

 

「仮面ライダーゼロワン……お前の悪事を止められるのはただ一人――俺だ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 飛電或人――仮面ライダーゼロワンは腰を抜かした犯人に向かって高らかに宣言する。すると、犯人は怯みながらも倒れるヒューマギアに指示を出す。

 

「く、くそっ! 早くそいつを黙らせろ!」

 

 ヒューマギアはその呼び声に応えるように立ち上がるとゼロワンに襲い掛かった。しかし、ゼロワンは目にも止まらぬスピードであっさりと避けると、ヒューマギアに蹴りを入れ呆気に取られている佐天と女の子を抱えて先程巨大なバッタが壊した天井から飛び出した。そしてお化け屋敷の外へと着地するとそこでは既に多くのヒューマギアが暴走しており、御坂達が必死に応戦していた。

 

「佐天さん!? 無事だったんです……ってその人誰ですか!?」

 

「よ、よくわかんないけど空からおっきなバッタが降ってきて……えーっとそれから或人さんの姿が変わって……だぁー! いろいろ起こりすぎでわけわかんない!」

 

「まっ、ここは俺に任せとけって。君はさっき俺が渡したアンチウイルスプログラムの散布を頼むよ」

 

「は、はい!」

 

 ゼロワンは初春の肩をポンっと叩くと戦っている御坂と黒子の元へと向かう。

 

「くっ……この数、キリがありませんの!」

 

「弱音吐いてる場合じゃないでしょ! 初春さんがシステムを回復させるまでになんとか食い止めないと……!」

 

 なんとか応戦する二人だったが人間とヒューマギアには力の差がある。その差を能力で埋めるのはわけないが、30体近くの多さとなると苦戦を強いられて当然だった。

 

「二人とも良く頑張ったな! ここからは俺に任せてくれ!」

 

「なっ! アンタいつから戻って……って何よその格好!?」

 

 突如として現れたゼロワンの姿に困惑するが声の主から飛電或人であると言うことがわかり困惑する。しかし、気にするなと言ってゼロワンは飛び上がると御坂に猛スピードで向かって来ていたヒューマギアを飛び蹴りで粉砕する。

 

「私の電撃でも何発か当てないと倒せないのにあんな易々と……!」

 

 ゼロワンは次々と目にも留まらぬスピード、そして常人ならぬ跳躍力を生かして次々とヒューマギアを無力化していく。

 

「凄い……あれが飛電インテリジェンス最新技術の力ですの……?」

 

 御坂も黒子もゼロワンの強さに驚いていた。飛電或人は学園都市でレベル0、無能力者と呼ばれる人間だ。しかし、あの姿に変わってからはレベル4……いや、レベル5とも互角の戦いをできるであろう戦闘能力だ。

 

「これで決める!」

 

 ゼロワンはドライバーに装填されたプログライズキーを押し込んだ。

 

《ライジングインパクト!》

 

 右足にエネルギーが充填されるとゼロワンは大きく飛び上がる。そして地面に向かってエネルギーを集約した蹴りを放った。するとそのエネルギーが地面を伝わり、暴走ヒューマギア達に伝達され動きを拘束する。

 

「う、初春! まだ終わらないの!?」

 

「もうすぐです……! ここをこうしてこうで……よしっ! これで!」

 

 初春は勢い良くノートPCのエンターキーを押した。すると拘束されたヒューマギア達の耳部に付いたランプが消えて活動を停止した。

 

「ふぅ……ナイスタイミング!」

 

「初春、間に合ったみたいですわね……一時はどうなることかと思いましたわ」

 

 なんとか危機を切り抜けた或人達。活動を停止したヒューマギア達の回収を終え、アンチスキルがゲコ太ランドに到着した頃、手錠で拘束されて後がない筈の今回の事件を起こした犯人は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「何がおかしいのかしら? これから貴方は叱るべき罰を受けてもらいますのよ」

 

「……へへ、俺が捕まったとしてもどうせ学園都市はヒューマギアによって滅ぼされる。それが楽しみでならないのさ」

 

「ヒューマギアに学園都市が滅ぼされる……いったいどう言うことですか?」

 

「……滅亡迅雷.net。彼らがきっとこの腐った学園都市を変えてくれるだろうよ……くくっ」

 

 その言葉を残して売人はアンチスキルに拘束されて連れて行かれた。残された黒子達は滅亡迅雷.netという言葉について考えていると二人の前に或人が現れる。

 

「御坂ちゃんと佐天ちゃん、それにあの女の子は俺が車を手配して家に送り届けておいたよ」

 

「ありがとうございます。今回の事件に協力してもらって、しかも佐天さんまで助けていただいて」

 

「いやいや、気にしないでって。これから俺達は一緒に事件を捜査するパートナーなんだからさ」

 

「一緒に事件を捜査する? どういうことですの?」

 

「これから風紀委員第一七七支部は飛電インテリジェンス協力のもと、滅亡迅雷.netに関する事件を調査することになったから! よろしくな!」

 

 そう言ってにっこり笑うと或人は黒子と初春の手を握って握手を交わす。するとまた何かを思いついたのか、目を輝かせて――

 

「ジャッジメントだけに、ヒューマギアで悪事を働く奴らを正義のジャッジにかけてやろうぜ

 

――はいっ! アルトじゃあぁぁぁないとぉぉぉぉぉ!!!」

 

 再び放たれた渾身のギャグを聞いた2人はこれから先、大丈夫だろうかと心配になって頭を抱えるのだった。




正式なタイトルが思いつかない〜


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 壮絶な虚空爆破事件【前編】

前の話が長くて読みづらいかと思いましたので、今回は前編後編となっており、挿絵は後半につける予定です。


「うぐっ」

 

「はっ、これに懲りたらもう逆らうんじゃねぇぞ?」

 

 学園都市にある、とある高校の校舎裏。そこでは4人の柄の悪い男達が眼鏡をかけたひ弱そうな青年を囲んで暴力を振るい財布を巻き上げて去っていった。眼鏡の青年は毎日、この柄の悪い男達にカツアゲされており、今日は少しだけ勇気を出して反抗してみたが呆気なく力で地面にねじ伏せられてしまった。

 

「……くそっ。こんな時にジャッジメントは何してるんだよ……! 奴らが無能だから俺がこんな目に合うんだ……!」

 

 青年は殴られた拍子に飛んでいった眼鏡を拾って行き場のない怒りを校舎の壁を蹴ってぶつけた。そして自分も下校しようとした時、ふと何者かの視線を感じて後ろを振り向く。するとそこにはボロボロの衣服を身にまとい、頭にターバンを巻いた、全身に悪寒が走るような冷たい目をした男が立っていた。

 

「だ、誰だお前……!?」

 

「……俺は力を与える者。お前はそんな答えを望んでいるのだろう?」

 

「力を……与える者……?」

 

「お前は力を得て何を成し遂げたい?」

 

「ぼ、僕は……僕を理解しない無能な奴らを痛い目に合わせてやるんだ……! 僕の凄さを証明してやるんだ!」

 

 青年は目の前に突然現れた男の正体などどうでもよく、疑いもしなかった。何故なら自分がずっと喉から手が出るほど欲しかった力をくれる。その言葉だけで他の誰よりも目の前の彼を信用したいと青年は思っていたからだ。

 

「なら存分にこの力を振るうがいい。全てはアークの意思のままに」

 

 そう言って男はUSBメモリを青年に手渡すと校舎の影にできた闇の中へと姿を消した。そして残された少年は全身の痛みも忘れて、ケタケタと不気味に笑っていた。今度は僕がお前達を痛めつける番なのだと言って。

 

 

 

 

 風紀委員一七七支部。そこでは先日、違法ROMの売人がその存在をほのめかした滅亡迅雷.netという存在を調べる為、初春と黒子がパソコンを前に悪戦苦闘していた。いくらデータバンクを調べてもそのような組織の情報はひとつも出て来なかった。

 

 何十時間も情報を調べていた初春と黒子の集中力はもう既に限界を超えており、とうとう黒子は「ダメですわ!」と言って辛抱たまらず勢いよく立ち上がった。

 

「これだけ調べて何も出て来ないなんて、滅亡迅雷.netなんてただの絵空事だったんじゃありませんの?」

 

「そうかもしれませんね……情報バンクに何一つそれらしい影がないなんておかしいです」

 

 学園都市のあらゆる事件の詳細が記してある風紀委員の情報バンクには何も載っていない。まるで誰かの手によって消されたかのように。しかし、風紀委員本部のセキュリティは並大抵の人間では突破できない。それができるとしたら、レベル5相当のハッキング技術を持った人間くらいだろう。

 

「はぁ……。ヒューマギアを使った犯罪を取締るだけでも一苦労ですのに、最近多発している連続爆破事件……学園都市も物騒になったものですわ」

 

 学園都市で起こっている問題はヒューマギアによるものだけではない。最近になって多発している連続爆破事件による被害は日に日に増えており、少なくとも風紀委員が9人負傷している。前までは事件も少なく、友人と遊んでいた2人も今では一七七支部に篭りっきりだ。

 

「せめて固法先輩が本部の研修から帰ってきてくれれば、もう少し余裕ができるんですけどね」

 

「そうですわねぇ」

 

 一旦作業の手を止めたことで疲れが一気にやってきた2人はデスクに突っ伏していると、玄関のセキュリティロックが開く音がしてそこから1人の男性が入ってきた。

 

「お邪魔しまーす。2人とも頑張ってるかい?」

 

 その男性は一七七支部と合同してヒューマギア犯罪の事件を追うことになった飛電インテリジェスの社長である飛電或人だった。その手には紙箱を持っており、そこから甘い匂いがほのかに漏れ出していた。そしてその匂いを嗅いだ初春はデスクの前から勢いよく飛び起きた。

 

「あ、或人さん! それって駅前に新しくできたっていうケーキ屋さんのケーキではありませんか!?」

 

「えっ、ああそうだけど。2人とも疲れてるだろうから甘いものでもどうかと思って」

 

 差し入れを持ってきた。その言葉を聞いた初春は目を輝かせて「すぐにお茶入れてきます!」と言って一七七支部に備え付けられたキッチンに駆け足で向かった。そんなに喜ぶとは思ってなかった或人は初春の興奮した様子にポカンとしているとその背後からぴょこっともう1人現れる。

 

「やっほー。ケーキ屋さんの前でばったり或人さんと会ったからついてきちゃった!」

 

「佐天さんもいらしたのですね。それではひとまず仕事は休憩にしてお茶にしようかしら」

 

 流石に息抜きも必要だと思った黒子はデスクから離れると来客用のテーブル席に4人は座って、ケーキと紅茶を片手にお茶会を始めるのだった。

 

「う〜ん! このモンブランとっても美味しいです! 久しぶりのケーキが体に染み渡りますよ〜!」

 

「本当ですわ。最近はずっとデスクの前に座りっぱなしで外に出ていませんでしたから甘味が五臓六腑に染み渡りますの〜」

 

「あはは、なかなか個性的な感想だけど……景気付けのケーキが美味しそうで何よりだ! はいっ、アルトじゃあぁぁぁぁないとぉぉぉぉぉ!!」

 

 或人渾身のギャグを聞き流しながらパクパクと口にケーキを運んでいく初春と黒子。そんな2人の様子を見て自分のギャグが受けなかったと思い項垂れる。

 

「二人とも、今のは景気とケーキをかけた面白いギャグだったんだよ?」

 

「いやいや、佐天ちゃん! 人のギャグを説明しないで!?」

 

「全然、面白くありませんわ」

 

「面白くありませんね〜」

 

「君達も少しは遠慮って言葉を覚えようか!? 流石に傷つくよ俺も!」

 

 冷たい目をした黒子、ケーキを食べてほんわかしている初春、ゲラゲラと笑っている佐天、ボケからツッコミに周りざる負えなくなった或人。

 

 カオスな空間が一七七支部を包んでいた。

 

 そしてしばらくするとケーキを食べ終えて何気ない会話をしている或人を除いた3人。そんな中、或人は1人だけ初春のデスクに座ってパソコンを操作していた。

 

「ところで或人さん。私のパソコンを貸すのは良いんですけど一体何をしてるんですか?」

 

「前にうちの会社からここに持ってきた機材があったでしょ? それを動かす為のソフトウェアをインストールしてるんだ」

 

「ああ。あの隅っこで山住みになってる奴ですの。いい加減邪魔ですから持って帰って欲しいのですが」

 

「ダメダメ! ちゃんとこれからのことに役立つ貴重な機材なんだから! って山積みにしてたの!? もっと丁寧に扱って!?」

 

 或人は黒子の言葉に思わず昭和のバラエティ番組のようにずっこけながらも、山積みになった機材達を丁寧に運んで設置しはじめた。

 

「ところで、その機材はいったい何に使うんですか? 見たところ3Dプリンターっぽいですけど」

 

「これは小型化した多次元プリンター! 通称ミニザット! こいつで俺が変身するのに使ってたプログライズキーが作れるようになる訳よ!」

 

 えっへんと胸を張って自慢する或人。3人はプログライズキーと言われても何のことだか詳しいことはわからないが、あの仮面ライダーゼロワンという姿になる為に必要なものだという認識はしていた。

 

「まあ小型化するにあたって人間の手で少し調整しないと使えないんだけど……その役目は初春ちゃん! 君に任せた!」

 

「わ、私ですか? えーっと、いいんですか? 飛電インテリジェンスの技術を私にいじらせちゃって……!」

 

 申し訳なさそうな言葉とは裏腹に初春の目は学園都市の最先端技術に触れられるという喜びに満ち溢れていた。そんな初春に「構わないよ。よろしく頼む」というとすぐにデスクに座って新たな機材に興味津々な様子でキーボードを操作していた。

 

「ああなった初春は岩石のように動きませんの……それじゃあ私はもう少し滅亡迅雷.netについて調査してみますわ。お二人はこの後、どうなさりますの?」

 

「俺は初春ちゃんのサポート……って言いたいところだけど、1人で大丈夫そうか。それじゃ俺は一旦会社に戻るよ」

 

 そう言って玄関から出て行った或人。残された佐天はしばらく一七七支部の客室で自前のMP3プレーヤーで音楽を聴いていたが、やがて退屈になりその場を後にした。

 

「あーあ。みんな事件の捜査で忙しいみたいだし暇だなぁ……御坂さんでも誘ってゲームセンターに行こうかな」

 

 そんなことを呟く佐天はみんながこの街の為に頑張ってるのに自分だけ遊んでていいのだろうかと思っていると、ふとあることを思いつく。違法ROMが取り引きされていそうな怪しい場所を調査して、初春達に報告することならレベル0の自分でもできるんじゃないかと。

 

「別に危ない橋を渡るわけじゃないし……大丈夫だよ、ね?」

 

 きっと大丈夫、何も起こらない。そう自分に言い聞かせて佐天は学園都市の路地裏を捜査し始めた。基本的に学園都市の路地裏はスキルアウトと呼ばれる不良集団が屯しているのだが、佐天は幸運なことにスキルアウトに遭遇せずあらゆる場所を見て回ることができた。しかし、取り引き現場を抑えることはできず、佐天は諦めて帰ろうとしていた時のことだった。表通りに出る帰り道でスキルアウトが1人の青年に暴力を振るっている現場を目撃してしまったのだ。

 

「や、やっぱ変な気起こすんじゃなかった……これじゃあ帰りたくても帰れないじゃない……」

 

 帰り道は一方通行。必ず来た道と同じ道をたどらなくてはならない。しかし、その道中にはスキルアウトがいる。佐天はどうしたらいいかと思考を巡らせていると背後から突如、気配を感じて振り向いた。するとそこには柄の悪い大柄の男が1人、佐天を見下ろしていた。

 

「ガキがこんな所で何してんのかなぁ〜?」

 

「あ、あはは……何、してるんでしょうね?」

 

 苦笑いでごまかす佐天。そしてとっさに走って逃げようとするが、後ろから髪を掴まれて佐天は後方へと転ばされる。そしてそのまま地面をひきづられて帰り道で青年に暴力を振るっていたスキルアウト達の元へと連れて行かれた。

 

 それから佐天と青年はスキルアウトの前で正座させられていた。スキルアウトは金が目的ではないのか2人の財布などの金品には一切触れずニタニタと笑っていた。

 

「さぁ〜て。雌ガキと眼鏡のガキが一匹ずつ……どう料理してやるかなぁ」

 

 この言葉を聞いてこれから自分がどうなるかを想像した佐天は自然と瞳から涙が溢れてきていた。しかしそれはより一層、スキルアウト達を喜ばせるだけであり、状況を悪化させるだけに過ぎなかった。

 

「そんじゃあよ〜、どっちのガキが最初に弱音吐いて命乞いするかいたぶってみようぜ? 俺達の上がった能力を使ってよ」

 

 その言葉と共に1人のスキルアウトが掌から小さな炎を発生させる。そしてゆっくりとその炎を灯した手が佐天の顔へと伸びていく。その最中、佐天は必死にこう願った「誰か助けて」と。そう思いながらも、もうダメだと目を瞑った佐天。

 

 しかしいつまで経っても痛みはやってこなかった。佐天はゆっくりと目を開くとそこには鼻血を流しながら地面に倒れている先程のスキルアウトの姿があった。

 

「……ったく。道に迷ってイライラしてるってのに、さらに追い討ちかけるように胸糞悪いもん見せやがって。お前ら全員、地面に這いつくばる覚悟はできてんだろうな?」

 

 目の前にいるスキルアウトと全く変わらない荒々しいトーンで喋る、ニット帽を深く被った青年が倒れているスキルアウトを踏み付けて立っていた。周りのスキルアウト達はニット帽の青年を見て怯えている様子だった。そんなスキルアウト達を青年がひと睨みすると、情けない声を上げて一斉に散らばって逃げて行った。目の前のニット帽が特徴的な青年は一体何者なのかと佐天が見つめていると、青年は佐天の視線に気がついたのか佐天の方を振り向いた。

 

「おい、ガキ。ここはお前みたいな奴が来る場所じゃねぇ……さっさとそこの伸びてる奴を連れて帰れ」

 

 ニット帽の青年はそれだけ言うとその場を立ち去ろうとする。そんな後ろ姿を見て佐天は思わず「あの、名前は!?」などと下手なことを聞いてしまった。すると青年はこれまた下手に名乗る程のものじゃないとは言わずに、ハッキリと自分の名前を答えた。

 

「雷電幸助だ……じゃあな」

 

 学園都市の路地裏……闇に消えていく青年。後にそこには学園都市の警備員アンチスキルがやって来て倒れているスキルアウト達を連行して行った。そして佐天は無茶で軽装な行動をしてしまったことを初春と黒子に目一杯、怒られるのだった。




オリキャラが登場しました! 名前を見たらもうオリキャラがどうなるか察しのいい方ならわかりますよね!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 壮絶な虚空爆破事件【後編】

今回のオリキャラは結構重要なポジションになるので今回、結構出ます。


(あのお兄さん……なんだったのかな)

 

授業の最中、佐天はこの前のスキルアウト達に絡まれた時のことを思い出していた。突如として現れた雷電幸助と名乗る男を見たスキルアウト達は明らかに怯えていた。もしかしたらスキルアウト達のボス的な存在なのかもしれない。だとしたら何故自分を助けてくれたのだろう。そんな疑問がここ数日間、ずっと佐天の頭を何故かグルグル回っていた。

 

(あの時、あの人が来なかったら私は今頃……ちゃんと会ってお礼言わなきゃだよね)

 

「この問題。佐天、解いてみなさい」

 

「えっ!? あっはい!」

 

急に名指しされた佐天は慌てて黒板の前に立つと問題を解こうとする。しかし、どんなに思考を巡らせても脳裏に浮かぶのはあの出来事。このままずっとモヤモヤした気持ちじゃダメだ。そう思った佐天は再び例の人気のない路地裏へと向かうのだった。

 

「今日は……スキルアウト達、いないみたい」

 

普段から屯しているスキルアウト達の影はそこにはなく、静寂だけがその場に流れていた。この様子だときっと例の彼もいないだろうと安心したような残念なような複雑な気持ちになりながらも帰ろうとする佐天。すると――

 

「ここはお前のような奴が来る場所じゃないってこの前言ったよな? 俺」

 

背後から突然声がしたと思い振り向くとそこにはこの前のニット帽の青年、幸助が立っていた。彼は呆れた様子で佐天を見ているが、肝心の佐天はようやく見つけたと少し嬉しそうな顔で幸助に近づいた。

 

「あの、この前は助けてくれてありがとうございます!」

 

「あ? まさかそれだけ言いにここへ来たのか?」

 

「えっ? ダメ……ですかね?」

 

お礼を言う為だけにこんな危険な場所へ来た。この言葉を当たり前と言わんばかりの顔をしている佐天を見て、幸助は思わず笑みをこぼした。

 

「ははっ! お前、面白い奴だな。名前、なんて言うんだ?」

 

「佐天です! 佐天涙子!」

 

そう言って佐天は右手を幸助に差し出した。その手を取って握手を交わすと2人は場所をこの路地裏を通り抜けた先にある駅前に新設されたデパート内のファミレスでたわいもない話を始めた。2人は性格の相性が良いようですぐに意気投合して話は盛り上がっていた。そして会話は自身のレベルの話に。

 

「私ってレベル0なんですけど、幸助さんはどんな能力を使えるんですか? きっとアンチスキル達を目力だけでおっぱらっちゃうんだからきっとすごい能力なんでしょうけど!」

 

あの時、スキルアウト達を睨んだだけで追い払った幸助。佐天はきっとレベル4くらいの能力者なのだろうと思っていた。しかし幸助から出た言葉は意外なものだった。

 

「そんな大層なもんじゃねぇさ。俺は正真正銘、俺はレベル0だ」

 

「えっ?」

 

その言葉を聞いた佐天は固まった。自分と同じレベル0。無能力者は学園都市内で肩身が狭い思いをすることが多い。しかし、目の前の幸助はそんなのお構いなしと言わんばかりに、けろっとしていた。そんな様子に思わず佐天は吹き出してしまう。

 

「あははは! お兄さんって面白いですね!」

 

「はぁ? 何が面白いんだよ、変わった奴だな。俺からしてみればお前の方がよっぽど面白い」

 

2人はそんな会話しながら笑っていると異変はその時、突然にも起こった。けたたましい爆発音が急に鳴り響くと建物が大きく揺れ、店内の電気は全てダウンしてしまった。

 

「痛っ〜……何が起こったの……?」

 

「詳しいことはわからねぇ。だが少なくともこのデパートは危険だ。逃げるぞ、佐天」

 

「えっ、うわっ! お兄さん!?」

 

 幸助は佐天の手を引くとデパートの非常口を探して走り出した。幸助の脳裏に走る嫌な予感、それが的中しないことを祈りながら。

 

 

 

 一方その頃、風紀委員一七七支部では違法ROMの反応を検知していた。しかし、パソコンの画面に映った学園都市の地図からはなんの反応も見受けられなかった。

 

「また行き詰まりましたの……やっぱり滅亡迅雷.netは絵空事じゃありませんの?」

 

「そうは言ってもあれだけ流通してるとなると、裏に何かしらの組織があるとは思うんだけどなぁ……」

 

 或人がそう言いながら多次元プリンター・ザットを小型化したミニザットの前をうろかうろかしていた。ミニザットの中では新しいプログライズキーが生成されており、今にも完成は間近と言ったところだった。

 

「あともう少しで完成するぞ〜! 新しいプログライズキー!」

 

プリンターを前に或人が1人で興奮していると初春のパソコンから音が鳴り出した。

 

「い、違法ROMの反応を検知しました! 場所は駅前に新しく建設されたデパートです!」

 

「直ちに現場へ急行しますの! 或人さんも行きますわよ!」

 

「了解!」

 

すぐさま現場に急行する2人だったが既にデパートには火の手が回っており、しかも外装が大きく破損して鉄骨が剥き出しになっている。このままでは倒壊の危険性もあった。

 

 

「遅かったですの……!」

 

 すぐさま迷わずに中へと入った2人はまだ中にいる一般学生を外へと避難誘導する。するとその中で1人だけ、逃げも怯えもせずポツンと立っている怪しい青年の姿を見つけた黒子はその人物に近寄った。

 

「そこの貴方! ぼーっとしてる場合ではありませんのよ!? 早く逃げて――「とうとうやって来たな、無能な風紀委員さん」っ!?」

 

 怪しい青年は懐からスプーンを取り出すと黒子に向かって放り投げた。そのスプーンは一点に引き寄せられるように形状を変えていくと、そのまま勢いよく爆発した。しかし、それを寸前で察知した黒子はテレポートで距離を取りなんとか致命傷を抑えたが、左腕に軽く火傷を負ってしまった。

 

「なるほど、貴方が一連の連続爆破事件の犯人ですのね……こんなにも簡単に正体を明かすなんて少々、軽率ではなくて?」

 

「くくっ……なぁーに。逃げも隠れもしなくても君達、風紀委員を潰せるほどの力が僕にあるからね!」

 

 そう言って青年はもう一度、黒子に向かってスプーンを投げた。すると再び爆発して辺りを火の海に包み込む。しかし、またテレポートによって避けていた黒子は青年の背後に回って蹴りをぶつけようとした。だが――

 

「なっ!? ヒューマギア!?」

 

 ――その蹴りは突如として現れたヒューマギアに受け止められ、黒子は足を掴まれたまま放り投げられた。爆発によって剥き出しになった鉄骨へと飛ばされる黒子の体。必死に黒子は演算を行おうとするが、吹き飛ばされるスピードが演算を凌駕してしまい、その体は鉄骨へと――

 

《プログライズ! 飛び上がライズ!ライジングホッパー!》

 

 黒子の体が鉄骨に突き刺さる寸前、ゼロワンに変身した或人が黒子をキャッチした。それによって危機を回避した黒子は地面に降りると再び青年と対峙する。

 

「なんだお前……まぁ、誰でもいいか。誰がこようと僕は負けない……僕は無敵だ……!」

 

 そう言って青年は懐からUSBメモリを取り出すとヒューマギアの耳部に取り付けた。するとヒューマギアの青い瞳が赤へと変わり、耳部の青の発光色も赤へと変化した。

 

『滅亡迅雷.netに接続……』

 

 そうヒューマギアが呟くと全身の外装が剥がれ落ち、内部の装甲が露わになると顔部にフェイスガードが装着されヒューマギアは戦闘形態へと移行する。そして次の瞬間、ゼロワンに向かって人をモデルにしたとは思えない人間離れした動きで襲い掛かった。

 

「くっ! そっちは頼んだよ白井ちゃん!」

 

「了解ですの! この黒子、ここからは荒療治でいきますのよ!」

 

 

 

 

「くそっ、どこも倒壊して崩れてきた瓦礫で出口が塞がってやがる……!」

 

「そんな……何でこんなことに……」

 

 デパートの出口を探して走り回っていたがどの出口も瓦礫で塞がれており、まさに八方塞がりな状況だった。2人は瓦礫を前にして立ち尽くしていると、背後から悪寒を感じて振り向くとそこには外装が剥がれ落ちて、無機質で機械的な内装があらわになったヒューマギアが数体こちらに向かってきていた。

 

「何だあいつら……暴走、してるのか?」

 

「まさか……違法ROMでハッキングされたヒューマギア? に、逃げましょうお兄さん!」

 

 佐天は幸助の手を引いて逃げようと試みる。しかし、ヒューマギア達は進路を塞ぐように立ちはだかるとその手にナイフを持って襲い掛かった。

 

「ちっ!!」

 

 だが幸助はヒューマギアの手首を蹴り飛ばしナイフを弾くとそのまま続け様に拳でヒューマギアを殴り飛ばした。それを見た佐天は本当に人間なのか? と疑うほどの戦闘能力に唖然としていると幸助は佐天の体をヒョイっと持ち上げた。

 

「えっ!? お、お兄さん何を!?」

 

「このままお前のペースに合わせて走ってたら追いつかれる! 全力で走るから捕まってろよ!」

 

「え、えぇ〜!!」

 

 幸助はこれまた人間とは思えない速度で走りながら暴走ヒューマギアの魔の手を交わして、最後の出口がある一階へと向かった。

 

 

 

 

 大量の暴走ヒューマギアと応戦するゼロワン。その戦況はゼロワンが劣勢だった。

 

「くぅ……ライジングホッパーじゃこの狭い空間もあって相性が悪いか!」

 

 仮面ライダーゼロワンの基本形態、ライジングホッパーはバッタのような強力な跳躍力を武器にする。しかし、デパートの中ではその跳躍力は生かしきれずにいた。

 

「あのプログライズキーが完成すれば何とか戦えるんだけど……!」

 

 そう言いながらもゼロワンは暴走ヒューマギアのナイフによる斬撃を紙一重で回避しながらも近づいて自身の間合いに入れようと試みるが、数で圧倒されてしまいすぐに後手に回ってしまう。そんな時、暴走ヒューマギアの1体が自身の活動する為のエネルギーを拳に集約させてゼロワンに向かって振り下ろした。

 

「なっ! やばっ――」

 

 ゼロワンは避けようと回避行動を取ろうとするが、その足を暴走ヒューマギアが掴んで離さずゼロワンはまともにその攻撃を受けてしまい後方へと吹き飛ばされる。すると強制的にゼロワンの変身が解除されてしまう。

 

「痛っ〜……これはまずい状況だな……」

 

 傷を負いながらも起き上がろうとすると、目の前でけたたましい爆発がしてその煙の中から黒子が飛び出してそのまま膝をついた。

 

「そっちも大苦戦してるみたいだね」

 

「……あの殿方1人なら何とかなるのですが、おまけに暴走ヒューマギアが数体付いてきて厄介そのものですの……!」

 

 膝をつく2人に刻一刻と迫る暴走ヒューマギアの魔の手。これまでかと諦めかけたその時、突然何かが或人の方に飛んできて、或人の額に衝突する。

 

「痛ってぇ〜! ……って、これは俺がプリントしてた新型のプログライズキー!?」

 

「救援遅くなりました! 使用できるように調整したプログライズキーです! 使ってください、或人さん!」

 

「ナイス! 初春ちゃん! この鳥ちゃんで形勢逆転だ!」

 

《WING!――オーソライズ》

 

 鳥のロゴが施されたプログライズキーをドライバーに認証させると、或人の背後にあるガラス張りの窓の外に大きなマゼンダ色の鳥と巨大なバッタが現れる。そして鳥が大きく羽ばたくとガラスが一斉に割れ、或人はプログライズキーをドライバーに装填した。

 

「変身!」

 

《プログライズ! Fly to the sky!フライングファルコン!」

 

 するとバッタの装甲が装着されてライジングホッパーの形態へ変わると、顔と体の装甲が真っ二つに割れ、そこへマゼンダ色の鳥が装甲へと変化して装着される。

 

【"Spread your wings and prepare for a force." 】

 

「今度の俺はちょっとばかし強いぜ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

今のゼロワンの形態、フライングファルコンは飛行能力を兼ね備えている。それを生かしてゼロワンは狭い建物の中を針に糸を通すような精密な動きで飛び回るって暴走ヒューマギア達に攻撃を仕掛ける。先程のライジングホッパー程の力はない代わりに、小回りが効くその動きで見る見るうちに暴走ヒューマギア達を無力化していく。

 

「そ、そんな! 僕の駒達が……!」

 

「よそ見してたら怪我しますのよ!」

 

次々と従えるヒューマギア達がやられていくのを見て爆弾魔の青年が焦っていると、その隙をついて黒子が大量のスプーンを詰めたバッグを持った右手に金属矢をテレポートさせて打ち込む。すると青年は痛みのあまりその手を離してバッグを地面に落とした。

 

「おっ! そっちは決着付きそうだな。だったらこっちもこれで決めてやる!」

 

ゼロワンはライジングホッパープログライズキーを取り出すと再び、ドライバーにオーソライズする。

 

《ビットライズ! バイトライズ! キロライズ! メガライズ! ギガライズ!》

 

するとゼロワンの背中からマゼンダの機械的な翼が生えてくると更にその飛行速度は増し、その勢いをのせてヒューマギア達に飛び蹴りを放った。

 

【フライングギガインパクト!】

 

目にも留まらぬ閃光のような一撃は暴走ヒューマギア達を一瞬で無力化した。駒を失い、起爆させる物も失い一気に形成逆転された爆弾魔の青年はたじろぐ。すると青年の瞳にあるものが映る。それはこの状況を打開する絶好のチャンスだった。青年は最後の悪あがきに地面に落ちたアルミ缶を黒子に向かって蹴り飛ばす。それを黒子はなんてことなく避けるが、その一瞬の隙が犯人捕獲に綻びを生んだ。

 

「ひゃっ!?」

 

「僕に手を出すな! 手を出したらこの女を殺してやる!」

 

「う、初春!」

 

隙をついた青年はアンチスキルに連絡を取ろうとしている初春を人質に取った。その手にはナイフを持っており、刃は初春の首筋に宛てがっていた。これでは手出しができないと黒子は唇を噛み締める。

 

「は、はは! 形勢逆転……だけど、もうじきアンチスキルがここに来る。そしたらきっと逃げきれないんだろうな…………だったらこの女を道連れに僕も死んでやる!」

 

「なっ!? やめなさ――」

 

血迷った爆弾魔の青年は初春の首にその手に持ったナイフを突き立てようと振り上げた。黒子は演算してテレポートしようとするが間に合わない。ゼロワンもそれを防ごうとするが必殺技の反動で瞬時に動きを転換させることができない。この場にいる誰しもがもう終わりだと。そう思った……その時――

 

赤き閃光が轟き、突き立てようとしたナイフを弾き飛ばした。

 

「っ!!」

 

その瞬間の隙を見逃さない黒子は瞬時に演算、テレポートすると青年の背後に周りその背中に触れた。すると青年は空中へとテレポートさせられ、そのまま頭から地面へ落ちた。

 

「だ、大丈夫ですの!? 初春!」

 

「は、はい……なんとか」

 

緊張感が解けたのかヘナヘナと尻餅をつく初春。そんな様子を見て黒子もほっとして胸を撫で下ろした。

 

(それにしても今の閃光……正しく超電磁砲。ですがお姉様の超電磁砲とは少し違うような……)

 

初春の命を救った謎の超電磁砲。いったい誰が放ったものなのか。黒子がそんなことを考えていると、アンチスキルが到着して現場を引き継ぎ黒子達はデパートの外へと向かった。

 

「なんとか連続爆破事件も無事解決。これでようやく滅亡迅雷.netの捜査に専念できますね……ってあれは――」

 

初春がふと送った視線の先にはここにいるはずのない佐天の姿があった。初春は佐天の名前を呼んで駆け寄ると、その隣にはスキルアウトのような柄の悪い風貌をしたニット帽の青年が立っていた。

 

「ジャ、ジャッジメントです! 今すぐ佐天さんから離れてください!」

 

「えっ、初春? ち、違う違う! この人、凶悪な顔してるけどスキルアウトじゃないから! 私の知り合いだから! ほらっ、前に話したスキルアウト達から私を助けてくれた人だよ!」

 

「そ、そうなんですか!? てっきり私はまた佐天さんが襲われてるのかと思って……ごめんなさい」

 

初春がそう言って幸助に謝ると、幸助は気にすんなとそれだけ言ってその場を去ろうとする。

 

「あっ! お兄さん、帰るんですか?」

 

「ああ。今日は色々あって俺も疲れたからな」

 

「そうですか……また、会えますかね?」

 

「……機会があればその内また、な」

 

手をひらひらと振って帰っていく幸助。その後ろ姿を見て佐天は最初、闇へと消えて二度と会えないような感覚がしていたが、今は再びまた会えるとそう予感していた。

 

 

 

 

爆破や暴走ヒューマギアによってボロボロになったデパート内部に散らばったヒューマギアの破片を拾って清掃するアンチスキル達。その中で壊れたヒューマギアを見つめる男の姿があった。その瞳はどこか怒りに満ち溢れているような黒い瞳の奥で赤い輝きを放っていた。

 

「やはりヒューマギアは人類の敵……俺がぶっ潰してやる……!」

 

→次回 第四話 【新任教師は仮面ライダー 前編】




思いっきりライジングホッパーは狭いバス車内で機敏な動きしていた気がしますが……その辺りは原作よりもより、ピーキーということで。

次回ゴリライズ編、はじまります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 新任教師は仮面ライダー【前編】

今回は少々短くなっております。独自設定、爆発します。


学園都市第二学区。そこは風紀委員と同様に学園都市の治安を守る組織、警備員――アンチスキルの訓練場がある学区でその周りは防音壁に覆われている。そんなアンチスキルの訓練場の一角にある、射撃訓練所。そこには数10メートル離れた的を拳銃で狙いを定めている男の姿があった。その男はグリップを握り、全身に力を入れるとトリガーを何度も引いた。すると発射された弾丸は的の真ん中を見事に全て打ち抜いた。

 

「……少々誤差はあるが、今はこんなもんか」

 

彼はアンチスキルの中でも随一の射撃テクニックを持っている。しかしそれを鼻に掛ける訳でもなく、まだまだ自分の実力に納得いっていないようだった。

 

「相変わらず射撃の腕は冴えてるみたいじゃん、不破」

 

「先輩。こんなのまだまだだ……ですよ」

 

防音ヘッドホンを取り外して一息ついている不破の前に現れたのはアンチスキルの先輩である黄泉川愛穂。アンチスキルの上層部でも持て余している問題児の不破が唯一、先輩と呼んで認めている女性だ。

 

「それで、何のようですか先輩。用事がないなら俺はジムでトレーニングしなくちゃならないので行きますよ」

 

「まあ待つじゃんよ。用事ならあるじゃん。これ、やってみる気はないか?」

 

そう言って黄泉川は1枚の紙を取り出して不破に手渡した。そこには【柵川中学校、新任教師推薦状】と書かれていた。

 

「新任教師……まさか教師になれって言うわけじゃないでしょうね?」

 

「そのまさかじゃん。お前、アンチスキル以外の仕事は何してるじゃんよ」

 

そう聞かれて不破は黙り込んだ。何故なら不破はアンチスキルの仕事一筋で今までやって来ており、それ以外は持ち前の不器用さ故に何の仕事もまるで手につかなかった。

 

「子供達を守るアンチスキルが無職なんて示しがつかないじゃん。だからこの仕事、受けるじゃん」

 

「お断りし「拒否権はない」……ちっ、はい」

 

どんな奴を前にしても態度を変えるつもりはない不破だが、黄泉川の前では頭が上がらない不破だった。いったい不破と黄泉川の間に何があったのか、それは2人だけが知る秘密である。

 

 

 

 

第七学区に位置する柵川中学校の1年生の教室では佐天と初春がホームルーム前に何気ない会話を交わしていた。

 

「そういえば聞いた初春。今日から新任の先生が私達のクラスの担任になるらしいよ」

 

「へぇー、そうなんですね。優しい先生だったら良いですね〜」

 

「いや、それがさアケミ達が職員室の前で先生を見たらしいんだけど、どうやら元スキルアウトの強面な先生らしいんだよね」

 

「えぇ。何だか怖いですね……見た目は怖くても中身が優しければ良いんですけど……」

 

そんな会話をしていると教室の扉がゆっくりと開く。そこからまるで人を殺して来た後なんじゃないかと思える程、目つきの悪い男が入ってきて教卓の前に立った。

 

「こ、怖っ! 本当に元スキルアウトみたいじゃん!」

 

「ほ、本当です……でも、人を外見で判断するのはいけませんよ。内面はああ見えて普通の先生ですよ、きっと」

 

2人が小声で話していると新任教師は咳払いをした後、自己紹介を始めた。その自己紹介は淡々としたもので自身の名前や年齢など、要点だけしか情報がない淡白なものだった。

 

「――と言う訳でこれから1年間、よろしく頼む」

 

こうしてホームルームが終わると授業が開始し、何事もなく時刻は過ぎて放課後になった。せっかく新任教師が来ると聞いて少しだけ楽しみにしていた佐天はつまらなそうにして下校して行った。その頃、初春は帰る前に少しだけ風紀委員の仕事の資料をノートPCで纏めておこうと教室で作業をしていた。

 

キーボードを叩く音だけが鳴り響き数時間後、教室の扉が開き不破が顔を出した。どうやら教室にまだ生徒が残っていないか見回りに来た様子だった。

 

「もうとっくに下校時間は過ぎている筈だが何をしてる?」

 

「えっ。ああ、すみません……風紀委員の仕事で最近起きたヒューマギア事件の資料を纏めてたんです」

 

「ヒューマギア……? ちょっと見せろ」

 

「あっ、ダメですよ! これは風紀委員の機密事項で「問題ない。俺はアンチスキルだ」えっ?」

 

パソコンを急に取られてあたふたする初春だったが、不破がアンチスキルだと聞いて驚いた。それは彼が学園都市の治安を守るアンチスキルと言うにはあまりにも、底の知れない黒い何かを秘めた怖い瞳をしているからだ。

 

「やはり最近起こっている一連の事件はヒューマギアによる仕業か……やはりヒューマギアは人類の敵だ……!」

 

「あ、あの……不破先生、そろそろ返していただけませんか?」

 

「……ああ、すまない」

 

不破から放たれる剥き出しになった怒りの感情を察知した初春が恐る恐る声をかけると、先程までの息が詰まるような圧力はふっと消えた。

 

「もうこんな時間だ。俺が寮まで送ってやる。ついて来い」

 

「は、はい。ありがとうございます……」

 

外はすっかり日が暮れている。このまま初春を1人で寮に返して何かあったらいけないと思った不破は学校の駐車場に止めた自身の車に初春を乗せると柵川中学校の寮へと向かった。

 

車内の2人はずっと無言であり、気まずい空気が流れていた。そんな空気を変えようと初春が口を開く。

 

「あの、先程ヒューマギアの資料を見ていた時、怖い顔してましたけど……ヒューマギアに恨みか何かあるんでしょうか……?」

 

「…………」

 

その質問に不破は答えない。

 

「あっ、話したくないならいいんです! 無神経に聞いちゃってごめんなさい……」

 

そう言って初春が申し訳なさそうに謝ると不破は深い溜息を吐いた。そして次に口を開き、初春の質問に答えるのだった。

 

「……デイブレイクという言葉を知ってるか?」

 

「デイブレイク……?」

 

その単語に初春は聞き覚えはなかった。何かの事件の名称であることはなんとなくわかったが、その詳細まではわからない。

 

「この街は第一学区から第二三学区までの区画がある。だが、それだけじゃない……学園都市にはその存在ごと消えた区画があるんだ」

 

「そ、そんなの初耳です……」

 

「そうだろうな。事件が起きたのは15年前のことだ。それにその学区周辺は封鎖されていて、その面影すら見ることはできん」

 

何気ない会話が壮大な話になって来ていることに初春はごくりと唾を飲んだ。初春は何と言葉を返したらいいか分からずに困惑していると、不破は次々とデイブレイクに関する話を始めた。

 

デイブレイクとは15年前、学園都市から消えた、第二四学区で起こった爆破事故であり、その原因はヒューマギア開発工場の整備ミスによって引き起こされたとされている。と不破は話した。にわかにも信じられない話だが、不破は冗談を言う人柄ではないと判断していた初春はその話を真面目に聞いていた。

 

「――だがそれは表向きの話、あの事件は整備ミスなんかで起こった訳じゃない……!」

 

「それってどういう……?」

 

「……暴走したヒューマギアの反乱による大量殺戮。それによってあの爆破事故は引き起こされ――」

 

不破が言葉を言い終えようとした瞬間、鼓膜を破るような爆発音が鳴ると車は宙を舞った。そして勢いよく地面に衝突すると不破と初春は鈍い痛みと共に意識を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

宙を舞って地面へと衝突した車は酷い有様で中にいる2人はもう助からないであろう。そんな大破した車をビルの屋上から眺める女性の影が3つ。

 

「うひゃ〜。随分と飛んだわね。これもう死んだんじゃない、麦野」

 

「それならそれで好都合。こいつをわざわざ起動する手間が省けていいじゃない」

 

「私は超気になってたので残念です。このヒューマギア――暗殺ちゃんが」

 

→次回 第五話 【新任教師は仮面ライダー 後編】




原作よりも結構早々にアイテムのメンバーが登場。好きなんですよね、アイテム。そして何気に暗殺ちゃんが。

そして次回は諸事情により、挿絵が増量する可能性があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 新任教師は仮面ライダー【後編】

あの日の光景を鮮明に思い出す。

 

燃え盛る火の粉が辺り一面を燃やし、人々の恐怖に満ち溢れた悲鳴が耳にこびりついて離れない。その忌まわしい記憶は15年の時が経っても俺の心を締め付ける。今は失われた学園都市から消え失せた第二四学区、あの場所は俺の思い出、青春が詰まった大切な場所だった。だがそれは科学の発展の為に作られた悍しい機械人形によって全てが奪われ――

 

――俺の中に残ったのは怒りと言う名の憎悪。その感情を胸に俺はこれまで生きてきたのだ。

 

「――っ! ……ここは?」

 

酷く頭痛がする頭を右手で押さえながら辺りを見回す。すると乱雑に捨てられたゴミの山とビール缶、滲みだらけの天井と壁が広がっていた。どうやらここは誰かの部屋の中のようだ。

 

「よ、よかったです! 目が覚めたんですね!」

 

急に甲高い子供のような声が聞こきたと思うと目の前にとても心配そうな表情でこちらを見る桃色の髪をした幼女の姿が現れた。この散らかりきった部屋に似つかわしくない幼女の登場に、俺はまだ夢を見ているのかと思ったが全身の所々から感じる鈍い痛みでこれは現実だと言う事がひしひしと伝わる。

 

「私は貴方と同じ学園都市の教師、月詠小萌です」

 

「あんたが教師……それより何故俺が教師だと言うことがわかる?」

 

「申し訳ないですけど、身元がわからなかったので免許証を拝見させていただいたのです。そちらで寝ているその子も一緒に確認させていただきました」

 

目の前の幼女が視線を向けた先を見るとそこには頭に包帯を巻いて寝ている初春の姿があった。寝息を立てて寝ているところを見るからにどうやら無事のようだ。教師として就任して早々、生徒を危険な目に合わせて死なせるなんて忌まわしい記憶を増やさずに済んだと俺はほっとする。

 

「本当なら病院に搬送するべきなのですけど、何故か電話が繋がらなくてですね……幸い命に関わる怪我はなかったので先生が応急処置をしたんです」

 

「……恩にきる」

 

本来ならあんな横転の仕方をしたら中にいる人間はひとたまりもないのだが、俺の車はアンチスキルの技術をふんだんに使った特別車両で外装は銃弾を弾き、中には強い衝撃を吸収する特別性のエアバッグが搭載されている。普段から何かと恨みを買いやすいアンチスキルという仕事柄、いつ襲われても大丈夫なように備えていたので今回は助かったと言ったところか。

 

「えーっと、先生は貴方達がどうして道端に倒れていたのか聞きたいんですが、いいです?」

 

本来なら自分が助けたのだから怪我をした原因を聞く権利はあるのだが、俺がアンチスキルと言うことを知って話せる内容なのかを悩み躊躇しているようだ。だが生憎、俺自身も何故、突然爆発が起きて車が横転したのか理由がわからない。しかし、心当たりがひとつだけ俺にはあった。

 

 デイブレイクがヒューマギアの反乱によって引き起こされたことを知っている数少ない人間の1人が俺だと言うことだ。それを知ったヒューマギアの製造会社である飛電インテリジェンスが何者かを俺に差し向けてこの事故を起こした。俺は心の中でそう結論付けた。

 

このことを話せば目の前の彼女を巻き込んでしまう。話す訳にはいかない。しかし、既に横の布団に眠る初春は俺の軽率な行動から巻き込んでしまった。だから是が非でも守らなくてはならない。

 

「悪いが話せない事情がある……すまない」

 

「……わかりました。なら先生は何も聞きません。それじゃあ不破先生はここで大人しく寝ているです。先生はご飯を作ってきますから」

 

彼女はそう言って台所に向かおうとするが俺はその手を掴んで静止させる。ここで飯などご馳走になっている場合ではない。追手は既に俺達が助かったことを知って追跡を開始しているかもしれない。だとしたら俺はこの場所から去らなくてはならない。これ以上、彼女達を巻き込む訳にはいかないからな。

 

そう思い痛みの走る全身に鞭打って立ち上がろうとするが、痛みに負けて膝をつきそうになる。だが1分1秒も無駄にしている時間はないと無理やり立ち上がる。

 

「あわわ! 寝てなきゃダメですよ! 不破先生は隣に寝ている彼女よりもずっと重症です! 傷口が開いちゃいます!」

 

「構わん! 俺はここを出て行く……その子のことはすまないが頼む」

 

後ろで必死に俺を止めようと声を掛ける彼女を無視して俺はアパートの部屋から出る。そして俺の所属している部隊の拠点がある学区へと歩き出した。追手はどこまでも自分を追跡してくるだろう。なら、武器を調達して奴等を返り討ちにするまでだ。

 

 

 

 

痛みに耐えて歩くこと数十分。何とか拠点に着いた俺はある物を探していた。それはアンチスキルに武器を提供している飛電インテリジェンスにも並ぶ大手企業の会社、ZAIAが作った新兵器であるライダーシステムなるものが搭載されたショットライザーと呼ばれる銃だ。あれを使えば無能力者でも能力者と対等かそれ以上に戦えるらしい。追手はおそらく能力者だ。だとしたら今の俺にショットライザーは必要不可欠なものだろう。

 

「これがショットライザー……なのか?」

 

そして拠点の中を探し回ってようやくそれらしき物を見つける。ガラスケースの中にはシルバーのベルトと青を基調とした拳銃、そして狼のロゴが入った電子キーのような物が入っていた。これほど厳重に保管されているということはおそらくこれがショットライザーだろう。俺は横に並べてあるアサルトライフルを手に持つとそれをガラスケースに叩き付けて破ると、ショットライザーを手に取って懐に忍ばせ、シルバーのベルトを腰に巻いた。

 

後は何処で追手を待ち構えるかだ。できるだけ被害を出さない人気ない場所に向かうのが適切だろう。なら第一七学区に向かうとしよう。あそこなら他の学区に比べて人口が少ない故に無人で被害が出ない場所も多いだろう。

 

そう決めると俺は装甲車の鍵を調達するとそれに乗って目的地へと向かった。道中でショットライザーの近くにあったマニュアルを頭の中に叩き込みながら。すると不自然な程に何の障害もなく第一七学区のコンテナが山積みになっている今はあまり使われていない倉庫跡地に辿り着いた。

 

「ここまで来れば誰も巻き込まず存分に戦える……だが妙だ。こんなにも易々と辿り着けるとは……まるで誘い込まれた気分だぜ……」

 

その時、俺の全身を何とも言えない妙な嫌悪感が走った。もしかしたら俺はここに自らの意思でやって来たつもりでいたが本当は人気ない場所にわざわざ誘導されたのではないだろうか……と。誰にも助けを呼べず、殺されたとしても簡単に誰の目にも触れず処理されてしまいこの場所に。

 

「ぴんぽーん、正解! ご褒美に脳天風穴開けてやんよ!」

 

「っ!?」

 

急に女性の声がした瞬間、俺は体を後方に逸らした。すると閃光が俺の太腿をかすめて地面を抉った。これは何かの能力かと考える間もなく次々と閃光は俺を襲ってくる。それを何とかアンチスキルで培った身体能力を駆使して避けていく。そして閃光が飛んでくる位置を探った俺はショットライザーを懐から取り出し構えた。

 

その瞬間、俺の瞳に映ったのは信じたくない光景だった。緑色に光る球体の中心に立つ不気味な笑みを浮かべる女。その腕の中には今頃、小萌先生の家で寝ている筈の初春がいたのだから。

 

「っ! その子はデイブレイクと何の関係もないだろ! 離せ! 」

 

「その口振りだと私達がアンタを狙ってる理由はご存知って訳ね。なら話が早いわ……この子の頭を無残に私の能力で溶かされたくなかったら抵抗はやめて大人しく死になさい」

 

「そこまでしてデイブレイクの真実を隠蔽したいってことか……テメェら!!」

 

「はぁ? 別に私達は依頼されたからやってるだけでそんなことに興味ないわよ」

 

そう吐き捨てる女に怒りを覚えながらも従うしか選択肢のない俺はショットライザーを地面に落とす。すると再び緑色の閃光が走ったと思うと俺の左足を僅かに削り取った。

 

「不破先生……!」

 

「あはは! そうだ、良いこと思いついたわ。フレンダ! さっさとあのおもちゃを起動しなさい!」

 

「了解! 暗殺ちゃん起動って訳よ!」

 

その声と共にヒューマギアの起動音が聞こえてくると暗闇から赤い眼を光らせて、こちらに向かってくる人影が現れる。そいつは黒いスーツを着て腰に禍々しいベルトを巻いたヒューマギアだった。

 

「暗殺暗殺! お仕事開始ー!」

 

そして懐から自分の持っている物にとてもよく似ている電子キーのような物を取り出すと、ベルトのバックルに装填した。

 

《ドードー! ゼツメライズ!》

 

するとヒューマギアの外装が剥がれて口から数え切れない程の配線が剥き出しになっていくと、それが全身を包み込んで装甲を生成。ヒューマギアの姿は一変して化け物へと変貌する。

 

「なっ! ヒューマギアが怪物になっただと!?」

 

「良いね良いね面白いわ! さっさとそいつを殺しな!」

 

女がそう指示を出すと怪物は俺へと向かって襲いかかって来た。両手には大刀を持っており、それを巧みに操って俺の命を狙ってくる。しかし、俺も負けじとその攻撃を紙一重で避けるが初春が相手の手の内にある以上、手出しができない。

 

「不破先生……私に構わず、攻撃を……!」

 

「あ? 誰が喋って良いって言ったのよ」

 

女は初春を地面に押し倒すとその足で包帯を巻いている腕を踏みつけた。しかし、初春は声ひとつ上げずにじっと耐えている。それが自分は心配いらないから戦ってくれ。そう言っているように俺は思えた。まだ中学生の少女が恐怖と激痛に耐えて声を押し殺し、風紀委員という自分の使命を全うしようとしている。

 

「……面白くないわね! もっと面白おかしく泣喚きなさいよ! ほらっほらっ! あははは!」

 

「うっ……! くっ……!」

 

その覚悟を汚らしい足で笑いながら踏みにじる女。その姿を目の当たりにした俺の怒りはとうとう――

 

――限界を超えた。

 

俺は怒号を上げて拳を握りしめると目の前の怪物にその拳を振るった。すると怪物は少し怯むだけで、俺の拳からはそれに見合わない程の痛みと血が滲んでいた。しかし、そんなこと構うものか。俺は何度もその血と痛みに塗れた拳を怪物に振るった。やがて怪物は大きく怯むと、その隙をついて俺は地面に転がったショットライザーを拾って、怪物の胴体を撃ち抜く。

 

「ははっ、あんた馬鹿ね。ただの人間がその怪物に勝てると思ってるの? 所詮アンタはここで死ぬ運命なのよ」

 

女は初春の腕を踏みつけながら俺を見下すように笑っている。目の前の怪物に勝てる訳がないと、そう高を括って。だがそんなことは知ったことではない。

 

俺は懐から電子キーを取り出すとそれを開閉しようとする。しかし電子キーにはロックが掛かっているようでびくともしない。だがここで終わる訳にはいかない。全身の力を全て振り絞ってロックを無理やりこじ開けようとする。

 

俺が目の前の怪物を倒せない。初春を救うことができない。人の覚悟を踏みにじって笑うあの女の鼻っ柱をへし折ることなど到底できない。

誰がそんなこと決め付けた? それを決めるのは誰でもない俺だ。俺自身だ。俺の邪魔をする奴は誰であろうとぶっ潰す――

 

「黙れ――俺がルールだぁぁぁぁっ!!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

その怒りと共に力を込めると電子キーのロックが壊れて開く。そして電子キーをショットライザーに装填するとその引き金を引いた。

 

《Kamen Rider...Kamen Rider...》

 

「変身」

 

《ショットライズ》

 

放たれた銃弾は生きているかのような流動的な動きで飛んでいくと怪物を打ち抜き、そして初春を足蹴にする女に飛んで行った。女は舌打ちをするとそれを避ける。その初春から離れた瞬間を狙って走り出すと、今度は銃弾が俺の方に向かって飛んできた。だがそんなことお構いなしに初春を抱えると、俺は右の拳で銃弾を殴りつける。

 

《シューティングウルフ!》

 

【"The elevation increases as the bullet is fired."】

 

 

【挿絵表示】

 

 

銃弾は弾けて装甲に変わると俺の体に装着されていく。そして完全に全身へと装甲が装着されると俺はマニュアルに書いてあった仮面ライダーバルカンへと変身を遂げた。

 

「ちっ、こんなの聞いてないわ。これじゃあ報酬の割に合わないわね」

 

「ど、どうする麦野?」

 

「変身するなんて想定外だし、契約の内に入ってない。だから戦っても無駄、行くわよフレンダ」

 

「了解〜!」

 

女2人はごちゃごちゃと何か話した後、その場を去ろうとする。俺はそれを止めようと銃を構えるが、再び怪物が襲いかかってきて標準が定まらない。とにかく今は目の前の怪物をどうにかしなくてはならないと判断した俺は銃撃と蹴り技を巧みに使って怪物を追い詰める。

 

「この力……これならどんな奴が相手でも負ける気がしないぜ……!」

 

そのまま力に任せて攻撃を加えていくと怪物は耐えかねたようでその場に跪いた。そして俺はショットライザーに装填された電子キーのボタンを押すと《バレット!》と言う電子音が鳴り、銃口にエネルギーが充填されていく。

 

《シューティングブラスト!》

 

そして引き金を引くと銃口から青いオオカミ型のエネルギー弾が放たれ怪物の四肢を拘束する。そしてもう一度、引き金を引いて一気に充填されたエネルギーを発射した。そのエネルギー弾は怪物を貫通すると、背にしたコンテナをいくつも貫いていきやがて闇夜に浮かぶ月へと消えていった。

 

「……はぁ! くっ……流石に手負いで無茶をしすぎたか」

 

変身を解除すると一気に疲労感と全身の痛みが襲いかかってくる。だがそれを堪えて立ち上がると気を失いかけている初春を抱きかかえる。

 

「すまなかった……こんなことに巻き込んでしまって……」

 

「……いいんです。だって風紀委員がアンチスキルに協力するのは当然のことじゃないですか。だから今度は私が困った時、助けてくださいね……不破先生」

 

そう言って初春は俺の腕の中で意識を失ってしまった。おそらくだがこれからも俺は命を狙われることがあるだろう。それによって周りの人間を危険な目に合わせてしまうかもしれない。だとしたら、俺はもっと強く、誰よりも強くなって守れるようにならなくてはいけない。

 

それが教師であり、仮面ライダーとなった俺の責任だ。

 

 

 

第一七学区から少し離れた場所で先程、不破諫と交戦していた女達の姿があった。その中のリーダーである麦野と呼ばれている女は携帯を耳に当てて機嫌の悪そうな表情をしている。

 

「おい、奴が変身するなんて聞いてないぞ。契約外の事態だ。報酬は手数料として貰うけど任務の続行は御免被るわよ」

 

「それはこちらの責任、まさかアイツが電子ロックを力任せに破るとは想定していなかった」

 

「……それで、アンタはこれからどうする訳? 自らアイツを殺しに行くのかしら?」

 

「その必要はない。今回の一件でわかったが、私が手を下さなくても時期に奴は自らの怒りでその身を滅ぼす……私はそろそろ次のステップに移る」

 

そう言って電話はぷつんと途絶えた。残された麦野達は帰りにファミレスでも寄るか、などと他愛のない話をしながら消えていった。

 

→次回 第六話 【未知の遭遇、滅亡迅雷.net】




しばらく書き溜め、と言いますか仮面ライダーゼロワン本編の物語がある程度進むまで次の更新はお待ちいただければと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話 未知の遭遇、滅亡迅雷.net

お久しぶりです。
仮面ライダーゼロワンも終わり仮面ライダーセイバー。
映画を見たことによって再熱し、再び書かせていただきます。
なにとぞよろしくお願いいたします。

また、次回は【一七七支部の新たな仲間】となっていましたが変更してお送りいたします。


「どうしたもんか……」

 

初春飾利と名札に書かれた病室前で飛電或人は右手に花束、左手に差し入れを持って頭を抱えていた。目の前の病室には先日、学校の階段で足を滑らせて大怪我をしたという初春が入院している。彼女は少し抜けているような雰囲気を持っているが、根はしっかり者で階段から誤って落ちるなんてヘマをする子じゃ無い。だとしたら、最近自分がプログライズキーの調整などの仕事を多く頼んだせいで疲労が溜まり、足を滑らせたのではないだろうか。そう思うと扉に手をかける手がとても重く感じた。

 

「俺のせいだとしたらちゃんと謝らなきゃな」

 

彼女には仕事を頼みすぎた。それがきっかけで怪我をしたんだったら、ちゃんと謝らなくちゃならない。そう決めた或人はゆっくりと扉を開いた。すると――

 

「初春〜! 恥ずかしがってたら体拭けないでしょ〜!」

「や、やめてください佐天さん! 手の届くところは自分で拭けますから……?」

「あっ」

 

扉を開くと目の前には佐天が初春の体をタオルで拭いてあげている。そんな光景が広がっていた。思わず間抜けな声を上げた或人を初春が見つけた様で、その顔は真っ赤に染まっていき瞳からは大粒の涙が――

 

「いつまで間抜けな顔して、そこに突っ立てんよの! この変態!」

「天罰覿面ですのっ!!」

 

そして次の瞬間、御坂ちゃんと白井ちゃんの強烈な右ストレートと左ストレートが或人の顔面を直撃し、俺の視界は真っ赤に染め上げられた。

 

 

 

 

あれから死ぬ程謝ってどうにか病室に入れてもらった或人は鼻血を止める為のテッシュを片手にお見舞いで持ってきたアイスケーキを頬張る初春達を眺めていた。

 

「う〜ん! このアイスケーキ美味しいです!」

「やっぱ夏はアイスが1番だよね〜」

「労働で疲弊した体に染み渡りますわ〜」

「アンタ、変態のくせにセンスは良いじゃない」

 

美味しそうに食べてくれるのはありがたいのだが、俺に変態のレッテルを定着されるのはやめてくれないかな。内心そんなことを思う或人は不注意で悪かった手前、口に出せず代わりに出てきたのは大きな溜息だった。

 

「それにしても初春、階段から誤って落ちるなんて気が緩んでいますのよ。風紀委員らしくもっと気を引き締めなさいな」

「あはは、すみません……」

「とか言って1番心配してたのは黒子じゃない。しかもアンタ、取り乱すあまりテレポートミスって派手に転んでたし」

「ち、ちがっ! お姉様、余計なことは言わないでくださいまし!」

 

黒子は顔を真っ赤にして反論しているが相当心配してたんだろうと或人は思った。何故ならこの病院に真っ先に駆けつけたのも黒子だと聞いてるし、その目の下には遅くまで初春を看病していた証である隈ができていたからだ。

 

「そもそも、私が此処にいち早く来たのは初春に調べて欲しいことがあるからですの!」

「調べて欲しい事、ですか?」

 

黒子は鞄から1枚の紙を取り出して初春の前に置いた。そこには顔写真とその人物のレベルと能力が記されていた。

 

「この前の銀行強盗に眉毛女、それにグラビトン事件の犯人……最近起こった事件当事者の全員のレベルと能力を記したリストですの」

「これがどうかしたんですか?」

「此処を見てくださいまし。最近起こった事件の犯人達は全てレベル2、異能力者ですの。でもこれまで起こった事件はとてもじゃありませんが、レベル2が起こせる事件の規模を超えていますのよ」

「本当ですね。短期間に力を急激につけた……って言うのは考え難いですし」

 

俺を含めた5人は頭を悩ませるが答えは一向に出てこない。すると何かを思いついた御坂が沈黙の中、口を開いた。

 

「そう言えば佐天さん、この前レベルアッパーとか言ってなかったっけ?」

「えっ、はい。でもレベルアッパーはあくまで都市伝説で本当に存在する訳じゃ」

 

レベルアッパー。初耳だった或人は佐天ちゃんに説明を受けた。レベルアッパーとは使用するだけで簡単に能力レベルが上がるという魔法のアイテムである。しかし、その形は噂によってバラバラであり、信憑性はかなり低い。だが短期間に能力レベルを上げるなど、それを使用しない限りは有り得ない話だ。

 

「佐天さん! その話、もっと詳しく聞かせてくださいですの!」

「えっ? えーっと、確かレベルアッパーはネット掲示板で取引場所を指定してお金で取引してるとか、なんとか……」

「その掲示板、もしかしてこのサイトのですか?」

 

初春の方を或人達が見ると既にレベルアッパーについて調べていたらしく、こちらにPC画面を見せる。するとそこには佐天の言っている掲示板らしきサイトが映っていた。

 

「この掲示板によればこれから1時間後に第一〇学区のこの座標で取引されるみたいです」

「でかしましたの初春! 早速、現場に向かいますの!」

 

そう言って黒子は急いで病室を出て行った。何故かその跡をつけて御坂も走って行ってしまった。あの2人だけで大丈夫だろうかと或人は少し不安になる。御坂は学園都市を誇るレベル5で何かあっても跳ね除ける力はあるだろう。だが或人の中では妙な胸騒ぎがしており、どうしてもいてもたってもいられなかった。

 

「うーん。ちょっと心配だから俺も言ってくるよ。お大事にね、初春ちゃん」

「あっ、はい。あっ! それとこのプログライズキーとゼロワンの新型武器、使えるようにしておきましたから持っていってください」

 

初春はそう言って或人にサメのロゴが入ったプログライズキーとアタッシュケース型の武器を手渡す。こんなになってまでプログライズキーの調整をしてくれていたのかと或人は感謝し、後でちゃんとお礼しなくちゃな。とそんなことを思いながら或人は黒子達の後を追って走り出した。

 

 

「ここが第一〇学区か……随分と治安悪そうな場所だなぁ」

「おっしゃる通りここは学園都市で一番治安が悪いとされている場所ですわ。この辺りは人気が全くない上に廃墟が多いですから、あらゆる派閥のスキルアウトがアジトにしていますのよ」

「まさに違法な取引の場所には打って付けの場所って訳だ」

 

現場に着いた或人と黒子の二人は初春の出してくれた取引現場の座標をスマホで辿りながら歩きだす。

そして辺りを警戒しつつも歩くこと数分、座標のポイントである廃墟と化した研究所の中に入ると二人は手分けして取引現場を押さえるべく探索を始めた。

 

「それにしてもレベルアッパーか……そいつがこの前の爆破事件に関わっているなら今回の件も違法ROMが関わっているのかもしれないな」

 

或人は爆破事件の容疑者がヒューマギアハッキング用の違法ROMを使用していたことを思い出していた。

もしあの容疑者がレベルアッパーの使用者ならば、レベルアッパーに関する一連の事件と違法ROMを配っているであろう滅亡迅雷.netには接点があることは明白だ。これは滅亡迅雷.netに関する手掛かりを得るチャンス。絶対に取引現場を押さえなくてはならない。

 

或人は物音を立てず慎重に探索を進める。すると何やら怒鳴り声のような音が近くから聞こえてきた。その音を頼りに進むとやがて1室の部屋の前へたどり着いた。

物陰からその部屋の中を覗くとそこには数人のスキルアウトらしき人影と、深々とフードを被った怪しげな男が何やらもめているようだった。

 

「約束の金の倍払えだと!? 話が違うじゃねぇか! 」

「僕に言われてもねぇ。倍額取り立てて来いって無茶振りされた僕の身にもなってよ」

「ふざけんな! こっちが下手に出てればいい気になりやがって……! こっちはてめぇひとり半殺しにして奪い取るなんてわけねえんだぞ!」

 

フードの男を取り囲むように物陰からぞろぞろとスキルアウトが現れる。しかし、フードの男は物怖じすることなく懐から何かを取り出すと――

 

「それじゃ……交渉決裂だね」

 

その言葉と共に銃声が鳴り響く。するとフードの男の目の前に立っていたスキルアウトの1人は力なくその場に倒れた。そのあと何の躊躇もなしにまるで射的ゲームのようにスキルアウト達をその手に持った拳銃で撃ち始めた。

それを目の当たりにした或人はすぐさま現場を抑えようと部屋の中へ飛び出した。そしてすぐさまゼロワンドライバーを腰に装着すると変身してフードの男の背後に回り腕を掴んで後ろに回し拘束する。

 

「ったく! いきなり何の躊躇もなく人を撃つとかどうかしてるぞ、お前!」

「痛たた……君が噂のゼロワンか。何、僕たちのケンカの仲裁でもしてくれるのかな」

「ふざけるな! 人殺しといてケンカで済むと――ぐぁッ!?」

 

拘束する力を強めようとした途端、背後から強烈な衝撃。それにより力を緩めてしまったゼロワンの隙を見逃さないフードの男は拘束の手からすり抜けた。それと同時にフードの男はいつの間にか手元に持ったスイッチを押す。するとけたたましい爆発音が鳴り響き、地面が大きく揺れ始める。

 

「ぐっ、何だこの爆発! 建物が倒壊し始めてる……早く白井ちゃんを連れて脱出を――」

 

ゼロワンは腰につけているフライングファルコンプログライズキーで空へ飛び脱出を図ろうとするが……。

 

「な、無い!? まさか……!」

 

腰のホルダーに着けていたはずのプログライズキーがない。あのフードの男に取られたのではないかと不安がよぎるのも束の間、とうとう足場が崩壊してゼロワンは瓦礫に巻き込まれながら落下する。もうダメかとあきらめかけた時、ゼロワンの前に手が差し伸べられる。

 

「或人さん! 手を!」

「あ、ああ!」

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……危なかった。ナイスタイミングだよ、白井ちゃん」

「れ、礼には及びませんわ……それよりも何があったんですの?」

「それは、あいつ等に直接聞いたほうが早いんじゃないかな」

 

ゼロワンが目を向ける先、そこには先程のフードを深々と被った男とその隣には腰にプログライズキーが装着されたベルトを付けた【紫色の仮面ライダーの姿があった】。

 

「お前たちが滅亡迅雷.net……なのか?」

「ぴんぽーん! 正真正銘、僕たちが滅亡迅雷.netだよ」

「何故、ヒューマギアをハッキングするROMなんてバラまいてるんだ! ヒューマギアは人類の夢……悪用する奴は俺が許さない! 」

 

自分達が滅亡迅雷.netとあっさり暴露した彼等に対し、ゼロワンは真っ先に拘束しようと走り出す。

すると紫の仮面ライダーはその手に持った弓矢状の武器で迎撃を始めた。

 

「あはは、仮面ライダー同士の戦いなんてワクワクしちゃうよね~! それじゃ、僕も混ぜてもらおうかな」

「ぐっ……! なっ、それは!?」

 

紫のライダーに苦戦しているゼロワンが攻撃を受け吹き飛ばされると、その目に映ったのは自分が持っていたはずのフライングファルコンプログライズキーを持ったフードの男だった。

 

《ウィング!》

 

「……変身」

 

プログライズキーのボタンを押すと或人が見たこともないベルトに差し込み、その横に付いたレバーを引いた。

 

《フォースライズ!》

 

その瞬間に鉄の骨組みで出来たような鳥が現れると旋風を巻き起こし、ゼロワンと黒子の動きを止める。

そして鳥はその翼でフードの男を包み込むと、男の全身がピンク色のアンダースーツ姿になり鳥が弾けて装甲になりアンダースーツに装着された。

 

《フライングファルコン!Break down...》

 

「これだと二対一になって卑怯かな? その女の子は戦力にならなそうだし」

「あら、わたくしを仲間外れにしてもらっては困りますわ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

黒子がそう言ってここに来る前からずっと持っていたアタッシュケースを両手に持ち変形させ始めた。すると見る見るうちにアタッシュケースの見た目がショットガンに変わった。 そしてそのままそのショットガンをピンクの仮面ライダーに向けて放つと、見事に命中してピンクの仮面ライダーは吹き飛んで地面を転がった。

 

「わたくし、誰が相手でも手加減はしない主義ですの」

「痛てて……それはこっちの台詞の筈なんだけどな」

 

ピンクの仮面ライダーはそう言いながら起き上がり、背中に付いた翼を広げて飛び上りながら鉄の羽を飛ばして黒子に襲い掛かる。

黒子も負けじとテレポートで応戦する中、ゼロワンは紫のライダーに依然として苦戦していた。

 

「ROMを配ってお前たちは何をする気なんだ!」

「……人類の滅亡。それが我々、滅亡迅雷.net……アークの望みだ」

「人類の滅亡……そんなこと聞いたらなおさらお前たちを止めないといけないな!」

 

ゼロワンはバッタの跳躍力で一気に飛び上がると距離を取り、ここに来る前に初春から渡された新しいプログライズキーを取り出してボタンを押す。

 

《FANG!――オーソライズ》

 

プログライズキーをベルトに認証させると衛星から光の柱が現れ、その光が差した地面からサメの鰭が現れ紫の仮面ライダーの方へ向かっていくと飛び上がり尾鰭で攻撃して紫の仮面ライダーを吹き飛ばした。すぐさまゼロワンの方へ戻っていくと再び飛び上がり、全身が弾けると装甲となりゼロワンの身に装着される。

 

《キリキリバイ!キリキリバイ!バイティングシャーク!

"Fangs that can chomp through concrete."》

 

「その野望、俺がスパッと切り裂いてやるぜ!」

 

その決め台詞と共にゼロワンはまるで地面が水面になったように潜り込むと、地中を泳ぎながらその腕に付いた鋭利な鰭で紫の仮面ライダーを攻撃し始めた。

これにより防戦一方だったゼロワンも紫の仮面ライダー相手に優勢的になっていた。その頃、連続テレポートとアタッシュショットガンによって空中戦を繰り広げていた黒子だったが相手は全身武装をした超人、仮面ライダー。長くは持つはずもなく、演算中の隙を突かれ続け劣勢になっている。その光景を目の当たりにしたゼロワンはピンクの仮面ライダーへ向かって空中へ飛び上がり、ベルトのプログライズキーを押し込んだ。

 

《バイティングインパクト!》

「っ! ぐあっ……!」

その必殺技は見事に命中し、ピンクの仮面ライダーは空中から地上へと落下する。しかし滅亡迅雷.netの二人組も負けじと反撃。紫の仮面ライダーは腰から取り出した緑のプログライズキーを弓矢に差し込んでゼロワンへ向かってエネルギーを纏った矢を撃ち込んだ。

 

《アメイジングカバンシュート!》

「或人さん!!」

 

その矢はゼロワンの脇腹を貫き、背後の建物を破壊した。その一撃によって空中で変身が解除された或人は地面へ落下しそうになるが、黒子がテレポートで瞬時に駆け付けることで危機を免れた。

 

「痛っ~……! この、よくもやった「待て、迅」滅……なんだよ!?」

「ここは一旦引くぞ。これ以上やればアンチスキルに嗅ぎつかれて面倒だ」

「ちぇ……それじゃあまたね。ゼロワン、じゃじゃ馬娘ちゃん」

 

ピンクの仮面ライダーが翼を翻すと紫のライダーを連れて空へと消えていった。或人はそれを必死で追いかけようとするが血がにじんだ脇腹の痛みでその場に倒れこむ。

 

「誰がじゃじゃ馬娘ですの!!……まったく、逃げられてしましましたわ。ほら、或人さんも早く立って帰りますわよ。早くこのことを本部に知らせなくてはなりませんし」

「っ――! 白井ちゃん俺、結構重症だと思うんだけど……冷たくない?」

「あら、ジャッジメントではその程度の傷日常茶飯事ですのよ。いちいち反応してられませんわ」

「し、白井ちゃんの対応がブラック……黒子ちゃんだけに……」

「そんなシャレ言ってる余裕があるなら唾つけてれば治りますわ」

「くぅ~……! 初春ちゃんとの格差を感じるなぁ~」

 

或人は黒子に肩も貸してもらえずとぼとぼと痛みに耐えながら一七七支部へ戻るのだった。

そしてその頃、学園都市で唯一封鎖された二四学区地下では耳部のパーツが真っ赤に光るヒューマギアが何十体、何百体と列をなしていた。

 

「人類滅亡の時は近い……すべてはアークの意思のままに」

 

→次回 第七話 【不破先生の社会科見学、アイツも仮面ライダー!?】




せっかくなので今回の小説のどのワンシーンを挿絵にするかアンケートを取りたいと思います。
これからは挿絵の製作期間の都合上、後乗せで挿絵付けたいと思います。

また漫画形式ではなく、アニメワンシーン風の挿絵へと変更です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話 不破先生の社会科見学、アイツも仮面ライダー!?

前の話で募集した挿絵は現在【黒子VS迅】と【バイティングシャーク変身】が同列だったので、私の独断で【黒子VS迅】にさせていただきました。



「凄い、凄い! 見てください佐天さん! ZAIAエンタープライズの本社が見えてきましたよ!」

「はいはい、そうですねーっと。やれやれ、初春はそういうのほんと大好きなんだから」

 

無事に怪我を治療して退院した初春、そして佐天はZAIAエンタープライズのロゴが入った大型バスに乗って第三学区内を移動していた。彼等、柵川中学生徒の目的はZAIAエンタープライズ本社での社会科見学だ。飛電インテリジェンス以上の大企業である学園都市屈指のAIや宇宙開発に取り組む企業の見学はそうそうできるものではない為、そういう分野に興味がある初春は興味津々だった。しかし一方――担任の不破諫はというと。

 

「はぁ……厄日だな。今日は」

「あれ、どうしたんですか先生。そんな世界の終わりみたいな顔して」

「ん? ……ああ。ZAIAにはちょっと……いや、かなり苦手な知り合いがいてな」

「えっ!? 不破先生、ZAIAの社員さんとお知り合い何ですか!?」

 

不破の知り合いという発言に真っ先に反応した初春は不破に詰め寄る。そんな初春を見てさらに溜息が大きくなる不破。社会科見学に対する不安、そして自分を教員に付かせたアンチスキルの先輩に対してイラつきを覚えるがそれらをぐっとこらえながら徐々に近づくZAIA本社を眺めていた。

 

 

バスを降りて真っ先に顔を上げてZAIA本社を眺める不破と全生徒。首がいたくなるほど顔を上げても建物の頂点が見えないほど大きいZAIA本社に平平凡凡の日常を送ってきた不破とその生徒達は圧倒されていた。

 

「相変わらずの間抜け面だな、不破」

「あ? ……げっ、お前は……」

 

突如として罵声を浴びせられ反射的に睨み付けたその先には見知った顔があった。

黒スーツを着た長髪のスレンダーでスタイル抜群の女性……だが、中身は鬼畜の悪魔だ。と心の中で思いながら不破は生徒達を整列させる。

 

「ようこそ、ZAIAエンタープライズ本社へ。この度は柵川中学の皆さんを案内させていただきます、社長直轄開発担当の刃唯阿です」

 

その挨拶が終わると不破の代わりに唯阿が先頭になってZAIA本社の案内を始める。

最初は興味がまるでなかった一部の生徒達もZAIAが開発している様々な時代の最先端を行く商品を見てその心を奪われていった。

その中でも特に舞い上がっている初春は唯阿に対して質問攻めをしているが、唯阿も取り乱すことなく的確に質問に答えている。

やがて案内があらかた終わり自由見学になった頃、まるでZAIAに対して興味がない不破はエントランスホールの自販機の横で缶コーヒーを飲みながら楽しそうにしている生徒達を眺めていた。

 

「おや、先生も退屈なんですか?」

「佐天……お前もか」

「はい。私こういうのあんまり興味ない……っていうか説明受けてもチンプンカンプンなんですよね~、あはは」

 

そう言って不破の横にある自販機で飲み物を買おうとする佐天。

 

「おっ、珍しい飲み物発見! ゴリラパワーサイダー! ゴリラのようにエネルギッシュな弾ける強炭酸……ですって、ついついこういうの買っちゃうんですよね~、私」

「ああ……」

 

ZAIAとは全く関係のないところでワクワクしている佐天を他所に、不破は生徒達を見て昔の自分を思い出していた。

ヒューマギアによって破壊された青春。もしデイブレイクが無ければ自分も彼らのような青春を送れたのかもしれない。そう思うと、ヒューマギアに対する憎しみと怒りがこみ上げてくる。

手に持つ缶コーヒーがメシメシと音を立てる中――。

 

「うーん! うーん! ……あれ、おかしいな」

「……なにを唸ってるんだ、佐天」

「いや、この缶ジュースの蓋が凄い硬くて……うぐぐぐぐっ! はぁ……はぁ……びくともしないんですよ~!」

「はぁ……お前は能天気だな。ほら、貸してみろ」

 

不破が佐天から缶ジュースを受け取ると、軽く力を入れてふたを開けようとする。しかし、それでは開かずもう少しだけ力を入れる。それでも開かない。今度はめいっぱい力を込めて蓋をねじるがそれでも開かない。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬっ!! 俺にこじ開けられねぇもんは……ねぇっっ!!! ――あ」

 

さながらロックのかかったプログライズキーをこじ開けるかの如く、不破は限界まで力を振り絞り蓋をこじ開けた。すると、いろんな角度から降られていた強炭酸ゴリラサイダーは不破の顔面目掛けて大噴射。

 

「…………」

「あははは!! 先生、文字通りゴリラですね!」

「あぁあんっ!!」

 

佐天のゴリラ発言によって堪忍袋の緒が切れた不破は逃げる佐天を追いかけまわし始める。その姿はまさに怒れるゴリラ。

そんな様子を見た唯阿は呆れた様子で走り回る不破に足を引っかけた。

 

「ぶっ!? てめぇ何しやがる!」

「ここは動物園じゃないんだ。走り回るな。それよりもそろそろ昼時だ、社員食堂に案内するからお前が生徒を先導しろ」

「ちっ……わかっ――」

 

不破が生徒達をまとめる為に呼びかけようとしたその時、急にけたたましいサイレンの音が鳴りだした。

 

《4番棟にて火災発生。速やかに社員は非常口から脱出してください。繰り返します。4番棟にて火災――》

 

その警報と共に生徒達がパニックになりその場にしゃがみこんだりと身動きが取れなくなる。しかし、瞬時に行動を起こしたのはジャッジメントである初春だった。初春は不破と共に非常口への誘導を始める。

 

「くそっ! 本当に厄日だぜ! この日に限って火災なんてな!」

「不破先生、生徒達全員避難させました! 私たちも早く逃げましょう!」

 

初春の迅速な対応のおかげで無事全員を逃がすことに成功した二人は非常口から脱出を図る。

そしてなんとか犠牲者を出すことなく避難できたことにほっとする不破は生徒達が全員いるか点呼を取り始めた。

 

 

 

 

「けほっ……けほっ……初春、先生。どこ……」

 

その頃、独りだけ逃げ遅れていた佐天は煙で視界が遮られ喉が焼けるように痛む中、非常口を探して歩いていた。

すると煙の中で人影を見つけた佐天は不破であると認識し、助けを求めて必死に走りその服の裾にしがみついた。すると――

 

「あれ? まだ人が居たんだ」

(先生じゃ……ない……)

「あはは、死んじゃうね……君。でも僕は助けないよ。人類滅亡が僕たちの目的だからさ」

 

そう言いながら煙と熱さの中でも微動だにしない怪しげな男。それどころか不敵な笑みを浮かべるその男に佐天は恐怖を覚える。

 

「でも……かわいそうだから僕が楽にしてあげるね」

 

そう言って懐から拳銃を取り出し佐天の額にあてる。そしてゆっくりと引き金を引こうとした時、別の場所から銃声が鳴り響き怪しげな男の手元にあった拳銃は吹き飛ばされる。

 

《シューティングウルフ!》

【"The elevation increases as the bullet is fired."】

 

「てめぇ、俺の生徒に何してやがる!!」

 

突如として現れた仮面ライダーバルカンは怪しげな男に向かって渾身のパンチを撃ち込む。それを真面に喰らった男は吹き飛ばされるが、受け身を取ってすぐさま立ち上がる。

 

「あはは、君が噂のバルカンかぁ~! 目的とは違うけど、君の戦闘データを取るのもアリかな」

 

《ウィング!》《フォースライズ!》

《フライングファルコン!Break down...》

 

「なっ! 変身しただと!? くっ……!」

 

男がピンクのライダー、仮面ライダー迅へと変身するとバルカンの方へ向かっていく。しかし、バルカンは佐天を抱えると敵に背中を見せ、逃走を開始する。

 

(佐天は多く煙を吸っている! 今は奴にかまってる暇はねぇ、早く佐天を外に出してやらねぇと!)

「えぇー、逃げちゃうの? 待て待てー!」

 

佐天のことを第一に考えて行動するバルカン。しかし、無慈悲にも迅は鋼鉄の羽を飛ばして追撃してくる。

 

「ぐっ!」

 

敵の攻撃になりふり構わず走っていたがダメージが蓄積し、とうとう膝をついてしまう。

それでも諦めまいと必死に非常口へ進もうとするバルカン。

 

「はぁーあ。逃げる相手を倒してもつまんないだろ」

 

獲物を仕留めようとゆっくりバルカンに近づく迅。そしてそのままバルカンを何度も蹴りつける。その間にも必死に佐天の盾になっているバルカンだったが、ライダースーツの限界が来たのかとうとう変身が解除されてしまう。

 

「バルカン……あんまり強くなかったな。それじゃもう帰ろっかな」

 

不破に対し失望した迅が背を向けた時、突如として迅の背中に衝撃が走る。よろけた迅が振り向くとそこにはガスマスクを付けた女性の姿があった。

 

「刃……お前……」

「情けない恰好だな。子供たちの未来を守る教師という立場にいるのなら、ちゃんと守って見せろ」

「は? 誰だよ、お前」

「それはこちらの台詞だな。お前が何者なのかは拘束した後に聞かせてもらう」

 

突如として駆け付けた刃唯阿の腰には不破が付けているのと同じショットライザー。まさかこいつも――。そう思ったのも束の間、懐から取り出したのはチーターの柄が入ったプログライズキー。

 

《DASH! KAMEN RIDER……KAMEN RIDER……》

 

そしてショットライザーにプログライズキーを差し込むとキーを展開し、ショットライザーの引き金を引いた。

 

「変身」

 

《ショットライズ》

 

銃弾が射出され、まるで意思をもっているかのような軌道で迅へと飛んでいき打ち抜くと唯阿に弾丸が向き胸元に直撃した。するとその弾丸が弾けて装甲に変わり、全身に装着されると仮面ライダーバルキリーへと変身を遂げた。

 

《ラッシングチーター!

"Try to outrun this demon to get left in the dust."》

 

「私は対象を拘束する。不破はその子を連れて逃げろ」

「っ……すまない!」

 

不破は痛みに耐えながら佐天を負ぶって外へと向かう。

バルキリーは腰に付いたショットライザーを手に取ると迅との戦闘を開始した。

 

「あはは、仮面ライダーが増えた増えた! いい土産話ができたよ」

「さっそく私から逃れる気でいるのか。舐められたものだな」

 

二人の戦闘能力は五分五分。だがそれでいい。唯阿はZAIA本社内の消火が終わるまで時間を稼げば、後はZAIA内のセキュリティシステムで目の前の敵を無力化すればいいだけの話だ。

 

「あのバルカンより手ごたえがあって良いね。でも、もうそろそろ迎えが来る頃だ」

「迎え、だと?」

 

迅の意味深な言葉に疑問を抱く唯阿。その直後、耳に着けた通信機から通信が入る。

《刃主任! 開発中のギーガが突如制御不能に――!》

「なんだと!? まさかお前たちの目的は――!」

「そういうこと。僕たちはお友達を増やしに来ただけ、君たちの兵器は今や僕の大きなお友達さ」

「貴様!」

 

《ダッシュ!》

 

バルキリーはショットライザーのプログライズキーのボタンを押す。するとショットガンにエネルギーが蓄積され、バルキリーはその強靭なスピードを生み出す脚力で縦横無尽に走り回りながら迅へ向かって弾丸を放つ。

 

《ラッシングブラスト!》

 

やがて最後に強大なエネルギーがこもった弾丸を放つと迅のいた場所は大爆発を起こした。

対象を拘束ではなく破壊してしまったとバルキリーが思った時、煙が晴れて出てきたのはZAIAで開発中のギーガと呼ばれる巨大ロボット兵器の腕だった。そしてその腕の横からひょこっと変身を解除した迅が現れる。

 

「君との戦い、楽しかったよ。また遊ぼうね」

「っ! 待て!」

 

バルキリーはギーガの手のひらに乗って逃げようとする迅を追いかけようとするが、飛行能力を持っているギーガに追いつけるはずもなく、迅と無数のギーガは空へと消えていった。

 

 

 

その頃、不破は佐天と共に駆け付けた救急車に運ばれようとしていた。

 

「すみません……私が佐天さんをちゃんと見てないから……」

「お前のせいじゃない。見れていなかったのは俺の方だ。それに、俺にもっと力がなかったから……」

 

不破は自身の無力さに怒りを覚えていた。佐天を抱えていたとはいえ、何の抵抗もできず唯阿が来なければ守ることすらできないところだった。これではアンチスキルとして、教師として、仮面ライダーとして未熟すぎる。そんなくやしさに打ちひしがれながら病院へと運ばれるのだった。

 

そして唯阿はと言うとあれから不破達に姿を見せず、火事によって4分の1が燃えてしまった本社を眺めながら誰かと通信を取っていた。

 

「すみません……私がいながら本社に損害を与えてしまい……。この責任は必ず取ります」

「……そうだね。この事態は1000%君のせいだ。責任は取ってもらう。……だが、思わぬ収穫があったよ」

「思わぬ収穫……ですか?」

 

電話越しの相手。白いスーツの来た男性の足元には見るも無残なほど崩壊したヒューマギア。そしてその手にはプログライズキーと少し違うが、とても似たキーがあった。

 

次回 第八話【手にした力₋レベルアッパー₋】




基本的に挿絵投票の締め切りは【次回の話が更新された時点】で終わりとなります。
私自身、不定期更新なので締め切り期間はランダムですがご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。