【本編完結】ラブライブアフター~あれから5年…… (ひいちゃ)
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μ's編
第1章~穂乃果と海未part1


 私、高坂穂乃果、21才!

 

 今私は、スクドル(スクールアイドル)やってます!……というのも昔の話。

 

 絵里ちゃんたち三年生が卒業して、μ'sが解散してから5年の歳月が経ちました。

 そして、そんな私が今、何をやってるかというと……。

 

「ふぅ、歌った歌った~」

 

 かわいらしい服装を着たまま、私は穂むらの店の中に戻ってきました。

 あ、アイドル活動をしてるわけじゃないんですよ? 私は今は穂むらを継ぐために、店員兼看板娘をやってます。

 そしてその合間を縫って、もともと歌うのが好きだったこともあり、宣伝も兼ねたミニライブをしてる、ってわけ。

 

 μ'sとして活動してたころに比べると、規模はとても小さくなったけど、でも見に来てくれるお客さんからは大好評!

 中にはそのまま店に入って買い物をしてくれるお客さんもいるし。

 

 でも、確かに今のミニライブをしながらの店員生活も楽しいけど、穂乃果はなぜか、その胸の中に、小さな穴のようなものを感じていました。なんでだろう?

 そう思いながらも、穂乃果は店員としての定位置、ガラスケースの脇のカウンターに座ると、カウンターの机の中にあるタブレットを取り出し、操作して動画を再生しました。そこに映っているのは……。

 

「新しくなれ~♪ 動き出した未来~♪」

 

 そう、今大人気のスクドル、Aqoursの新曲『未体験HORIZON』のPVです。とても楽しい曲に、ちょっと曇っていた私の心の中も少し明るくなります。そしてそれと同時にある考えが思い浮かびました。

 

「私たちもまた……」

 

 でも穂乃果は、慌てて頭を振ってそれを振り払います。

 

(ダメダメ。そうだよ。みんなで話し合って解散する、って決めたんだもん)

 

 そう、μ'sはあのラストライブでおしまい、それが私たちが悩んで決めた結論。だから……。

 

 穂乃果がそう思いにふけっていると……。

 

「こんにちは。穂乃果、ミニライブ後の休憩は終わりましたか?」

「あ、海未ちゃん!」

 

 黒髪ロングの女の子、私の幼馴染の一人でμ'sのメンバーの一人でもあった、園田海未ちゃんが店にやってきました。

 私と大の仲良しで、また穂むらの和菓子を気に入ってくれている海未ちゃんは、μ'sの活動が終わった後も、こうして店に来て、そして和菓子を買ってくれています。

 

「こんにちは海未ちゃん。弓道部の練習は終わったの?」

「はい。この後は、午後の部の練習はないので家に帰って日舞の練習です」

 

 そう、海未ちゃんはμ'sが解散して、そして卒業してからも、弓道と日舞に励んでいるそうです。

 体育大学に進学し、学校にいる時は、弓道部の練習。そして帰ってきてからは家で日舞の練習の毎日。高校時代は、このほかにμ'sの練習もしてたんだからすごいなぁ……。雪穂からは「お姉ちゃんとは大違いだね」とか言われてます。えへへ。

 

「あ、そうそう。店の前で郵便局の人から穂乃果あての郵便を受け取ってますよ、はい」

「あ、ありがとう海未ちゃん。どこからだろう?」

「さぁ? 私はそこまでよくは見てませんから」

 

 穂乃果は海未ちゃんから、その郵便の封筒を受け取りました。

 そして、封筒の差出人を見て……

 

 そして、硬直しました。

 

 そこに書かれていたのは――――

 

 ラブライブ運営委員会

 

 ラブライブ。

 

 その言葉の目にして、穂乃果の胸に懐かしい想いが蘇るとともに、その心が大きく揺れます。

 

 ラブライブ……また……でも……。

 

「穂乃果?」

 

 その海未ちゃんの声に、私ははっと我に返りました。怪訝な顔をした海未ちゃんがこちらをのぞき込んでいます。

 

「あ、ご、ごめんね!」

「いえ。でも、一体どうしたのですか?」

「ななな、なんでもないの! え、えぇと、買うのはいつものだよね?」

 

 と、そこで海未ちゃんはなぜか、苦笑めいたような、やれやれといったような、複雑な表情を浮かべました。あれれ?

 

「えぇ、それでお願いします。(相変わらず、意固地な子ですね……)」

「え?」

 

 私が聞き返すと、海未ちゃんはいくらか、その複雑な表情を和らげて、微笑み返しました。

 

「いえ、なんでもありません。それじゃこれ、お代です。また明日買いに来ますね」

「あ、う、うん、またね」

 

 そう挨拶を交わすと、海未ちゃんは帰っていきました。

 彼女が見えなくなったところで、穂乃果は改めて、封筒を手に取ると、封を切って、中の手紙を開きます。

 そこに書かれていたのは……。

 

「ラブライブ・スクールアイドルフェスティバルでの、μ'sの復活ライブの依頼」

 

 今度開催されるラブライブ・スクールアイドルフェスティバル……通称スクフェスに、μ'sを再結成して出てほしい、というお願いでした。

 

 その文面を見て、穂乃果の心は再び大きく揺らぎます。

 

 ラブライブ……出たい……。でも……私たちは六人で話し合って、μ'sはあのラストライブでおしまいと決めたんだもん……。だから……。

 

 また復活させて、出ることなんて、できないんだもん……。

 

 そう思いにふける私の傍らで、タブレットはAqoursの『未体験HORIZON』を流し続けていました。

 

『前へ進むんだ~♪ 思い出抱いて、前に~♪』

 

 

 

To Be Continued...

 



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第2章~にこと真姫と花陽と凛

「ふぅ~、今日もやってやったわ!」

 

 楽屋に戻って、私、矢澤にこは気持ちよさそうに言い放った。

 さっきまで、にこはトーク番組に出演していたのだ。まさか卒業した直後は、バラドル(バラエティアイドル)をすることになるとは思ってなかったけど、スカウトされてから5年。何か板についてきたみたい!

 

 魅力的なフェイスと、時々飛び出す毒舌が人気を博して、今はあっちこっちの番組に引っ張りだこ! ふふふ、これも私の才能ゆえね! 自分の才能が恐ろしいにこ!

 

「魅力的なフェイスと、時々飛び出す毒舌、ねぇ」

 

 そう言って入ってきたのは、クールな雰囲気をまとう見知った顔だった。

 

「何よ、文句あるの?」

「うぅん、別に。『ちっこいボディと頻繁に飛び出す毒舌』の間違いじゃないかな、と思っただけ」

 

 私がそう食ってかかると、彼女はクールにそれをあっさり流す。これも高校時代はよくあった光景だ。そんなやりとりができることが、何か嬉しい。

 

 彼女は西木野真姫。μ'sのメンバーであり、そのころも今もにこの親友の一人だ。確か今は、猛勉強の末に医大に入って、医学生として、医者を目指して頑張ってるって言ってたっけ。

 

「むぅ。それで真姫、どうしてここに?」

「花陽から、にこちゃんと三人で話したいことがある、って相談を受けてね。そうそう、ちゃんとマネージャーさんに頼んで入室の許可をもらってきたから不法侵入じゃないわよ」

「そう。でも、月1のお茶会以外で、μ'sの誰かと会うなんて久しぶりね」

 

 そう話すと、真姫は苦笑した。

 そう、μ'sが解散してからも、にこたちμ'sのみんなは、月に1回、みんなで絵里の家に集まってお茶会をすることにしてる。旧交を温めようという意図だ。でも、みんな色々忙しいこともあり、それ以外で会ったりすることは、皆無とは言わないけど、あまりないと言っていい。数名、穂乃果の実家の和菓子屋に行って、和菓子を買うついでにお話ししてくる、ってこともあるらしいけどね。

 

 でも、本当に真姫や花陽と三人で会うのって久しぶりだし、なんか嬉しい。真姫とは高校時代から、こんな風に軽口を叩きあう仲だったし、花陽や彼女の幼馴染である凛とは、μ'sの活動してた頃は、三人でつるんでたこともあったのよね。……こらそこ、背丈が一年生と同じだからとかいうな。

 

 そんなことを想ってる間に、私は外出用の私服に着替えていた。行く準備は万端だ。

 

「さて、それじゃ行くとしましょうか」

「えぇ。でも、にこちゃんのこの後の予定とかはいいの?」

 

 そう真姫は心配そうに聞くけど、ふふん、心配はご無用! このスーパーアイドル(自称)、矢澤にこに抜かりはないわ! ちゃんとこの後の予定はチェック済み!

 

「えぇ、問題ないわ。さっきの『いわし御殿』が今日最後の収録だったから。この後はフリーよ」

[それならよかったわ。それじゃ行きましょうか」

 

 そう言葉を交わすと、マネージャーに、旧友に会いに行くことを告げ、私たちはテレビ局を後にした。

 

* * * * *

 

「あ、真姫ちゃん、にこちゃん……」

「二人とも、この前のお茶会以来だにゃー」

 

 真姫に連れられて入った喫茶店には、待ち人の花陽の他にも、もう一人元気そうなショートカットの娘が待っていた。

 

「この前ぶりね、凛。体育大学、頑張ってる?」

「うん、もちろん! もう少しで大会のレギュラーに選ばれそうだにゃ!」

 

 私の質問に、ショートカットの娘はそう言って元気に答えた。手をぶんぶん振って。その様子がやっぱりかわいいわね彼女は。

 

 彼女は星空凛。μ'sの元メンバーの一人で、その頃は花陽と一緒ににことつるんでたかわいい後輩の一人。あれから五年たって、少し凛々しくなってきたように見えるけど、やっぱりあどけなさは残ってる。

 

 卒業後は、凛は海未と同じ体育大学に進学して(受験勉強には私も一杯力を貸してあげたにこ)、陸上部に所属。そして花陽は普通の短大に進学して、確かこの春短大を卒業したって言ってたわね。今は花嫁修業中なんだとか。

 

 さて、あいさつを交わすと、私と真姫は、花陽と凛の席の真向かいに座った。そしてやってきたウェイトレスさんに、コーヒーを注文すると、改めて花陽たちに向き直る。

 

「それで、凛はどうしてここに?」

「うん。大学の帰りに花陽ちゃんと会って、それで一緒についてきたんだにゃ!」

「お互いの近況とかスクドルの話しながら、ここまで来たの……」

 

 なるほどね。凛は花陽ととても仲良しだったから、そんなこともあるわね。

 さて、と。

 

「それで花陽、あなたがにこたちを呼び出すなんて珍しいわね。何があったにこ?」

 

 そう、μ'sが解散してから今まで、月1のお茶会で集まることはあっても、花陽のほうから会いたいと誘ってくることは皆無と言ってよかった。それは別に花陽が人付き合いが苦手だからというわけではなく、単に彼女が引っ込み思案というだけのことなんだけど。それだけあって、彼女がにこたちを呼ぶというのは、よほどのことがあったんだろうな、と思える。

 

「うん。実は、昨日うちにこれが届いて……」

 

 そう言って花陽が出したのは、封が切られた一通の封筒。にこはそれを手に取ると、中にしたためられていた手紙を出して広げ、それに目を通す。その前と横で、凛と真姫もその手紙をのぞきこんでいた。

 

「ラブライブ・スクールアイドルフェスティバルにおける、μ's再結成ライブの依頼……?」

 

 ラブライブ・スクールアイドルフェスティバル、通称スクフェス。それについてはもちろん、にこはとてもよく知っている。スクドルの情報は、高校のころからずっとチェックしてたし、芸能界に入ってからも、本職のアイドルのニュースと一緒にチェックしてたしね。

 

 さて、スクフェスは、スクールアイドルにとってのあこがれとなる一大イベント。有名なスクドルたちが出演して、新曲を披露するフェスティバル。去年からスタートして、その初回は今噂のAqoursも参加したことで有名だったわ。(ちなみにその時の曲は、松浦果南って子がセンターを担当した『HAPPY PARTY TRAIN』だった)

 そしてこのスクフェスの目玉の一つが、過去のラブライブに出場したスクドルグループが、再結成して出演する、というコーナー。『あの伝説のグループが復活!』というやつね。去年もスクフェスでは、にこたちのライバル、A-RISEが再結成して出演してたっけ。さすがにこたちμ'sのライバルだけあって、時の経過を感じさせないライブだったわ。

 今回はそのコーナーに、私たちμ'sに出てほしいということなのだろう。復活して。

 

 となれば、にこの答えはもう決まっていた。

 

「そ、それでね。これについて、にこちゃんたちのいけ」

「いいじゃない! 出ましょうよ!」

「返事早いにゃっ!?」

 

 即答とも言えるにこの返事に、凛が驚きの声をあげる。ふふん、凛もまだまだこのスーパーアイドル(自称)矢澤にこという人物をつかみ切れてないようね。

 

「スクドルのイベント、しかもスクドルの憧れであるスクフェスに私が飛びつかないわけがないじゃない。μ's、そしてこの矢澤にこがいまだ健在であることを思い知らせるのに絶好のステージよ!」

「ふふ、にこちゃんらしいわね。でも、穂乃果ちゃんたちのことはどうするの?」

「あ、そうだよね……」

 

 真姫の懸念に、凛もうなずく。

 そうだったわね。5年前のμ's解散の時、穂乃果たち残った2年や1年が話し合って、みんな納得のうえ、μ'sは私たちの卒業をもって解散ということになり、そして紆余曲折の末、あのラストライブを迎えた。

 そして、穂乃果なら、一度終わらせたμ'sを復活させることに消極的になるかもしれない。彼女がスクドルをやめると言い出した騒ぎのことを考えると、その可能性は高そう。変に意固地だからね、あの子。思い込んだら一直線、どんな障害も蹴とばして突き進む、というか。リーダーとして事を進めるさいにはそこが頼りになるけど、それが逆方向になると困ったことになるのもまた事実。

 とはいえ。

 

「大丈夫よ。穂乃果のことだから、なんだかんだ言ってても、まだ胸の中にスクドルへの想いがくすぶっているはずよ。解散騒ぎの顛末のこと忘れた?」

「あ、そうだよね……」

 

 にこの言葉を受けて花陽がうなずく。

 そう、穂乃果は本当に、歌が、スクドルが、そしてμ'sのことが大好きだった。だから、あの騒ぎの時も、自分と向き合って、そして海未と話し合って、スクドルに戻ってきた。

 そんな彼女だから、まだμ'sへの想いは、完全に消えず、燻っているはず。きっときっかけがあれば、先頭に立ってμ's復活のために動き出すと思うわ。まぁ、そこは……。

 

「そこらへんは、海未やことりに任せましょ。私たちは、いつ動き出してもいいように、準備を整えておくことに専念しましょう」

「うん、そうだね」

「了解だにゃ!」

「わかったわ。……でもまさか、また私の財布をあてにする、とか言わないでしょうね?」

 

 真姫の愚痴はスルーよスルー。さて、話していく中で、私の中ではあるプランが動き出していた。

 せっかく来たμ's復活の機会。これが成ったとき、そのまま終わらせるにはもったいないもの。家に戻ったら色々と動き出さないとね!

 ところで……。

 

「花陽、どうして喫茶店でおにぎり食べてるのよ?」

「え? お米は裏切らないんだよ?」

 

 

 

To Be Continued...

 



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第3章~海未とことり

 穂むらを出て、私は実家ではなく、秋葉原に足を向けていました。

 

 実は私は、穂乃果にひとつ嘘をついてました。

 

 それはあの郵便のこと。実は私はあの郵便の差出人を見ていたんです。穂乃果の心に余計な波風を立たせたくなかったのであんなことを言いましたが……結局あの後穂乃果自身が差出人を見たら同じですよね。

 

 そして穂乃果のもとにラブライブ運営から郵便が来たとなれば、それはμ's絡みと予想がつきます。でも、穂乃果は動かない……ううん、動けないでしょうね。あの子は、思い込んだら一直線なんです。やりたいことができたらそのために猪突猛進するのですが、それがネガティブの方向に向くと、そのことに固執して逆に動けなくなってしまう、というか。

 五年前の騒動の時もそれで大変でしたし……。

 

 でも、今回のことを逃すのは、よくないと思います。穂乃果のためにも。今回のことを逃せば、きっと穂乃果はずっと後悔すると思うから。

 

 そう考えながらやってきたのは、ある喫茶店……というよりメイド喫茶。私の幼馴染の一人、南ことりがウェイトレスをやっている店です。

 卒業後、ことりはここで引き続きウェイトレスとして働いてるんです。

 

「いらっしゃいませ! あ、海未ちゃん! こんにちは!」

「こんにちは。今日も頑張っていますね、ことり」

「うん! あ、注文はいつもので?」

「はい。お願いします」

 

 そう出迎えてくれたことりと会話を交わすと、私は席の一つに着席しました。そして、水を飲みながら待つことしばし。ケーキを持ってきたことりがやってきました。

 

「はい、どうぞ。特別製ケーキです♪」

「ありがとうございます、ことり。そういえば、メイドの仕事のほうは順調なのですか?」

「うん! 先月も、メイドランキング2位にまで上がったんだよ♪」

「2位ですか、それはすごいじゃないですか」

「えへへ、ありがと」

 

 そう言ってはにかみながら笑うことりを、私はとてもまぶしく感じました。でも……。

 

「でもよかったのですか? デザイナーになることが、ことりの夢だったのでは……。卒業したらここで働かずに、留学するという道もあったのではないですか?」

 

 私が前々から気になっていたことを聞くと、ことりはその柔らかい笑みのまま、首を横に振りました。

 

「うぅん、二年の夏の時にここで働き始めて、そして今まで働いてきて、わかったの。私のやりたいことはこれなんだって。それに、夢を諦めたわけじゃないよ? デザイナーの先生とは、インターネットでやりとりして、デザインのこと教わったり、ことりの作ったデザインを添削してくれたりしてもらってるんだよ」

「そうなのですか。良かったですね。夢に向かって着実に歩んでるんですね、ことり」

 

 そう言うと、ことりはまたはにかみながら微笑みました。その微笑みに私は、夢に向かって一歩一歩歩んでいる人の輝きのようなものを感じたのでした。

 

「あ、そうそう、海未ちゃん。花陽ちゃんから連絡来た?」

「花陽から? いいえ、来ておりませんが」

「そうなんだ。ことりから海未ちゃんに連絡してくれってことだったのかなぁ?」

 

 花陽が連絡をよこすなんて珍しいですね。何かあったのでしょうか?

 

「実はね……」

 

 ことりが語ってくれたことによると、花陽の元に、今度のスクフェス……ラブライブ・スクールアイドルフェスティバル……に、μ'sを再結成してゲスト出演してもらえないか、と依頼があったそうです。

 なるほど。穂乃果があの郵便を見て様子がおかしかったのはこのせいだったのですね。運営のほうも、穂乃果に依頼を出しても動かないことを予想して、にこの後のスクドル部の部長だった花陽のもとにも依頼を出したんでしょう。

 私たちが音の木坂の三年の時にも、μ'sに出てほしいとの声が上がっていましたが、穂乃果は動きませんでしたからね。

 

「どうしたの、海未ちゃん? 難しい顔をして」

「はい。穂乃果のことで……」

 

 ことりに聞かれて、私は穂むらでのことを話しました。それを聞いて、ことりも表情を曇らせます。

 

「そうなんだ……。穂乃果ちゃん、スクドルをやめると言ったときも大変だったもんね。三年の時とかも……。穂乃果ちゃん、昔から良い意味でも悪い意味でも、やると決めたら一直線で、止めても聞かなかったから」

「えぇ。それと、穂乃果も心の中で葛藤があるんだと思います。あの子は、本当にμ'sのことが好きでしたから。だから、自分たちで解散と決めたことと、またμ'sをやりたい、という気持ちの間で」

 

 そこまで言うと、私もことりも、黙って考え込んでしまいました。しばしの沈黙。そして。

 

「海未ちゃん、ここはやはり海未ちゃんの出番だよ! 五年前の時みたいに!」

「やっぱりそうなりますか。でも仕方ありませんね。私は貧乏くじばかりです。そんな星回りなのでしょうか?」

 

 私が冗談めかしてそう言うと、ことりも笑顔になりました。

 

「そうなのかもね。でも、穂乃果ちゃんに振り回されても嫌なことなかったでしょ?」

「そうですね、ふふ」

 

 ことりの言葉に、私も微笑みました。

 そうでしたね。穂乃果のせいで私たちは色々振り回されましたが、最後には色々と良いことがありました。木登りに付き合わされた時には、危うく落ちそうになりましたが、街のきれいな夕焼けを見ることができましたし、μ'sの時も、私は最初のほうこそスクドル活動は嫌でしたが、やっていくうちに、素晴らしい輝きを感じることができました。

 あの子が始めることは、本当にとんでもないことばかりでしたが、最後にはとても素敵な結果が待っていました。それは、あの子がそのことに対して一生懸命だからなのかもしれません。

 

 だからこそ。

 

 五年前のあの事件の時もそうでしたが、あの子が止まったまま、動かないでいることはよくないと思うのです。穂乃果には、走り続けてほしい。そしてその先にある素晴らしいものを私たちに見せてほしいし、あの子にも見てほしいと思うのです。

 そのためなら、穂乃果にカツを入れる役という貧乏くじを引くのも悪くないかもしれません。ふふふ。

 

「それではごちそうさまでした。また来ますね」

「うん。スクフェスのこと、よろしくね」

「えぇ」

 

 そう言って、私はメイド喫茶を出ました。さて、家に戻って、日舞の練習をして、それから考えをまとめてあの子を走りださせるにはどうしたらいいか考えなくてはなりませんね。

 

 今回穂乃果が動き出した時、その時には何が待っているのでしょうか。

 

 

 

To Be Continued...

 



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第4章~絵里と希

「教皇の逆位置と運命の輪の正位置、か……」

 

 えりち……綾瀬絵里……の家の人に案内されて通された部屋で、ウチ……東條希……はめくったタロットカードを見つめながらそうつぶやいていた。

 

 未来を示すカードは運命の輪の正位置。「急展開」とか「予想外の変化」とかそういう意味だ。それが、良い変化であるなら、もちろんそれは大歓迎なのだが、問題はそこまでの経過を指し示す現在を示すカードだ。

 

 教皇の逆位置。それが指し示すことは……。

 

「希、お待たせ。あら、何を占ってるの?」

 

 と、そこまで考えていたところで、えりちが部屋に入ってきた。どうやら、モデルの仕事は終わったみたいやね。

 

「うん。ウチらのことについてまた占ってたんや。これが未来を示すカード。運命の輪の正位置だけど、これが意味するものは急展開や予想外の変化。そして、こちらが現在を指し示すカード。教皇の逆位置。意味は……」

「しがらみで動けない、ね」

 

 と、そこでウチのあとをえりちが続けていった。あれ?

 

「えりち、カードの意味知ってるん?」

「うん。希の占いに少しでもついていけるように、ちょっとだけどタロットの勉強したの」

「そうなんや」

 

 ウチがそう言うと、えりちは微笑んで、ソファーに腰かけた。

 

「急展開か予想外の変化、かぁ……。なんか、μ's結成のことを思い出すわね」

 

 えりちがそう懐かしそうに言うと、ウチも当時のことを思い出して、笑顔になる。

 

「そうやね。あの一年が本当にひと時の夢みたいだったね」

「えぇ、それもあるし、私はあの素敵な一年と、それを与えてくれた穂乃果に感謝してるの」

 

 そう言うと、えりちは懐かしそうに眼を閉じた。ウチも、それについてはわかってるので、何も言わずにえりちの続きを待つ。

 

「結成前、私は音ノ木坂廃校の阻止のために動かなきゃいけない義務感と、どうすればいいかわからない八方ふさがりと、自分のやりたいこととでがんじがらめだったわ。もしあそこで穂乃果が誘ってくれなければ、私はがんじがらめの中、何もやりたいことができないままだったかもしれない。だから本当に、私はμ'sに入れてよかったと思ってる。がんじがらめを解き放って、やりたいことをすることができたから」

 

 そこでえりちは話を一度区切って、紅茶でのどを潤すと、「そして」と話しを続けた。

 

「そしてそれと同時に、あの子には一度立ち止まることはあっても、歩き続けてほしい。かつての私のような辛さを味わってほしくない。穂乃果にはずっと輝きを追いかけていてほしい、そう思うの」

 

 そこまで言うとえりちは、「熱弁しすぎたかしら?」と聞いてきたので、ウチは微笑んで首を振った。

 

「ウチも同じ気持ちや。入る前のえりちは、ウチから見ても動きたくても動けなくて苦しんでるのがわかったから、ウチもとても辛かった。だから、μ'sに入った時は、楽しそうなえりちを見てとても嬉しかったし、しがらみから解き放ってくれた穂乃果ちゃんには、とても感謝してるんよ」

「そうなんだ」

「ふふ、結局、ウチら二人とも、似た者同士なのかもね。穂乃果ちゃんに助けられ、彼女が大好きだという点で」

「そうね。それに、二人ともだけじゃなく、μ'sみんなが、でしょ?」

 

 そこまで言ったところで、二人とも笑いだす。本当にμ'sがみんなに好かれて、そしてみんなを救った存在であることが実感できたから。μ'sの存在がうちらの心の中にある限り、例え離れていても、年をとってもウチらの心は一つだ、占いじゃないけど、そんな予感があった。

 

 そこで、えりちはふと、テーブルの上の運命の輪のカードを手に取った。

 

「でも、急展開や予想外の変化、か……。何があるのかしらね?」

「うーん。μ'sの再結成の話、とか? もしそうなったら、えりちはどうするん?」

「もちろん参加するわ。私もμ's大好きだもの」

「ウチもや」

「そしてそれに至る過程で、しがらみで動けない要素がある……穂乃果のことしか思い浮かばないわよね」

「そうやね」

 

 と、そこでドアがノックされた。

 そして、占いを読み解く鍵となる存在……花陽ちゃんが部屋の中に入ってきたんや。

 

 

 

To Be Continued...

 

 



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第5章~穂乃果と海未part2

「はぁ……」

 

 その日も、穂乃果は穂むらのカウンターで、タブレットからの『未体験HORIZON』を聞きながら、例の封筒を前に悶々とした気分で、溜息をついてました。雪穂からは『お姉ちゃん、ずっと溜息ばかり』と愚痴を言われてます。

 

 あの封筒が来てから、私の心は再びラブライブという単語に縛られていました。

 

 本当は、スクフェスに出たい。すごく出たい。私は、歌が、μ'sが、そしてラブライブが好きだから。

 でも、μ's解散は、私たちみんなが相談して決めたこと。だから、そんな大切なことを破って、復活させて歌うなんてできない……。

 それでも、スクフェスのことは私の頭の中から出て行ってくれませんでした。

 

 出たい……でも、出るわけにはいかない……穂乃果、どうしたらいいの……?

 

 そんな悩みの中、私が何度目かの溜息をついていたころです。

 

「穂乃果、今日も和菓子を買いにきました」

「う、海未ちゃんっ!」

 

 海未ちゃんが、また店に来てくれました。私はあわてて、封筒をカウンターの下に隠します。でもそれは、海未ちゃんにはお見通しだったみたいです。

 

「おや、穂乃果、今何を見てたのですか?」

「な、なんでもないっっ」

「嘘ですね。この前の郵便、しかも、ラブライブ運営からの郵便だったのでしょう?」

「そんなこと……」

 

 そんなことない、と言おうとしたけれど、海未ちゃんが真面目な顔をしたので、穂乃果は思わず観念してしまいました。海未ちゃんの真面目な顔には、それだけの迫力(怖いのとはまた別な)があるんです。

 

「はい……」

 

 そこからしばらく気まずい沈黙。それが数分たったころ、海未ちゃんが口を開きました。

 

「穂乃果の部屋で話しましょうか」

 

* * * * *

 

 そして、海未ちゃんに問い詰められて、私は全てを打ち明けました。あの郵便は、ラブライブ運営からの、「スクフェスの特別ゲストとして、μ'sを再結成して出てほしい」という依頼の郵便だったことを。

 

 でも、なぜか海未ちゃんはそれを聞いても、驚いたりすることはありませんでした。どうしてなんだろう?

 

 そんな私の疑問を知ってか知らずか、海未ちゃんが口を開きました。

 

「それで、穂乃果はどうしたいのですか?」

「私は……みんなで相談してμ'sはあれでおしまい、と決めたから……」

 

 海未ちゃんの表情がこわばりました。その表情に、穂乃果は思い当たりがあります。5年前、穂乃果が「スクドルはやめる!」と言った時に、私を殴った時の、あの表情……。

 

「私が聞きたいのはそんなことではありません。穂乃果がどうしたいのか、ということです」

「……」

 

 そこからまた沈黙。それからまた、海未ちゃんが口を開きました。

 

「穂乃果、覚えていますか? 5年前、あなたが『スクドルをやめる』と言い出した時のことを」

「……」

 

 それはもちろん覚えています。

 5年前。初のラブライブに向けての練習で、頑張りすぎた私が過労で倒れて、ことりちゃんが留学することが明らかになって……。

 それで、ラブライブ出場を私が台無しにしたこと、ことりちゃんの留学の悩みに気付かなかったこと、スクドル活動の目的……音の木の廃校阻止……を果たして目的を失ったこと。

 それらがごっちゃになって、思わず穂乃果は言ってしまったんです。「もうスクドルはやめる!」って……。

 

 それで海未ちゃんを怒らせてしまい絶交寸前になり、そこからμ'sは一度解散してしまって……。でも、また歌いたい、μ'sをやりたいという気持ちは捨てられず、そして……。

 

「あなたと和解した時、私は言いましたよね? 『私が怒っていたのは、あなたがことりの悩みに気付かなかったからではなく、あなたが自分の気持ちに嘘をついていたからだ』って」

「うん……」

 

 そう、講堂で海未ちゃんと仲直りした時、海未ちゃんにそう言われたんだ……。

 

「穂乃果、自分の気持ちに嘘をつかないでください。もう一度聞きますよ。あなたが本当にやりたいことはなんですか?」

 

 そう海未ちゃんが真剣な面持ちと口調で聞いてきます。

 私の気持ち、私がやりたいこと。それはもちろん決まってる。あの郵便を見てから、ううん、μ'sを解散してから、ずっと変わらなかったその答え。

 海未ちゃんの真剣ながらも、私を想う表情に、私の答え、私の想いが一気にあふれ出します。

 そして、私は思わず叫ぶように訴えていました。

 

「出たいよ! そして歌いたい! μ'sのみんなと、また一緒に歌いたいの!!」

 

 そこまで言ったところで、なぜか海未ちゃんは笑顔になりました。あれれ?

 

「よく言えました。さぁ、みんな!」

「へ?」

 

 海未ちゃんのその言葉とともに、穂乃果の部屋のドアが開きました。そして……えええええ!?

 

* * * * *

 

 ドアが開いた向こうにいたのは……。

 

「ええええええ、み、みんな!?」

 

 そう。ことりちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん、真姫ちゃん、絵里ちゃん、希ちゃん、そしてにこちゃん。

 μ'sのみんなでした。

 

「どどど、どうしてみんながここに!?」

 

 海未ちゃんに郵便を見つかって、そしてこの部屋で問い詰められて説得され、そして本当の気持ちを告白させられ、そしてドアが開いてみんなが……。

 この状況に、穂乃果の思考回路はスパークして、爆発寸前です!

 

「実は、穂乃果の他にも、花陽のもとにも出演依頼の手紙が来てたんですよ。きっと穂乃果だけじゃ心元ないと考えたんでしょうね」

 

 そしてその後を、凛ちゃんが続けます。

 

「それで、穂乃果ちゃんに気付かれないよう、密かにみんなに根回ししていたんだにゃー」

 

 こんなことをされて、驚かない人がいるでしょうか? いやいません。

 でも……。

 

「でもみんな、学校とか仕事とかが……」

 

 その穂乃果の懸念に応えたのは、ことりちゃんでした。

 

「みんなに根回しした、と言ったでしょ、穂乃果ちゃん?」

「みんな、スクフェスの当日に出れるよう、スケジュールを調整してるん。心配は無用やで?」

 

 希ちゃんに続けて、絵里ちゃんが苦笑まじりで言います。

 

「希の言うように、心配は無用よ、穂乃果。また歌いたい、ううん、もう一度μ'sで歌いたいのはあなただけじゃないんだから」

「うん。だから心配しなくても大丈夫だよ、穂乃果ちゃん」

 

 その絵里ちゃんの苦笑まじりながらも、暖かく優しい言葉、そして花陽ちゃんの言葉に、思わず穂乃果の涙腺が緩みます。

 

「うぅ、みんなぁ……」

「涙なんて似合いませんよ、穂乃果。あなたはいつも太陽でいてくれなくちゃ」

「ほんっと、あんたって昔から感情が豊かすぎるんだから。にこたちがちゃんと見てあげなくちゃいけないみたいね」

 

 海未ちゃんの微笑みも、にこちゃんの軽口も、とても安心できました。まるでμ'sやってたころみたいな、安心して落ち着けて、でも楽しいような。

 その雰囲気に、やっと穂乃果の涙も止まり、笑顔になれました。

 

「さぁ、穂乃果。みんなに一言お願いします」

「うんっ!」

 

 海未ちゃんに促され、穂乃果は立ち上がると、指で天を指し示して力強く、そして明るく言いました。

 

「よーし、みんな! 頑張って、スクフェスの会場を盛り上げちゃおう!」

『おーーーーー!!』

 

 さぁ、私たちの新しい伝説の始まりです!

 

 ありがとう、海未ちゃん。ありがとう、みんな……!

 

 

 

μ's編 完

 



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Aqours編
第1章~新しい日々


「よーし、ここらへんで休憩にしようか~」

 

 私は、トレーニングがひと段落ついたみんなにそう声をかけました。

 結成時から一緒にトレーニングしてきた梨子ちゃんたちはそれほどでもないようですが、やっぱり今年入ってきたばかりの新人ちゃんたちには、やっぱりきつかったみたいです。彼女たちには、ちょっとメニューを易しくしたほうがいいかなぁ?

 

 あっ、私、高海千歌! ここ内浦にある浦の星女学院の……じゃなかった。沼津市の中心部にある、静真高校の三年生!

 黒澤ダイヤさん、松浦果南ちゃん、小原鞠莉ちゃんの三年生たちが卒業して、浦の星が廃校になり、私たちはこの静真高校に編入し、そして三年生になりました。

 三人が抜けて、Aqoursは6人になっちゃったけど、新人二人が新たに部に入ってくれたし(まだトレーニングが不十分なので、Aqoursには入ってません)、引き続きスクドル(スクールアイドル)活動を続けてます!

 

 そうそう、新しく入った静真高校ってすごいんだよ!

 制服はとてもおしゃれだし、校舎も講堂もとても広くて! 曜ちゃんの従姉妹の生徒会長、渡辺月ちゃんのおかげもあって、私たちスクールアイドル部も、きれいで広い部室をもらっちゃいました!

 でも、浦の星もとても好きだったし、気に入ってたし、こんなこと言ったら、浦の星に怒られちゃうかな? えへへ。

 

 さて、この日も、私たちは広い校庭の片隅で、今度出場するスクフェスに向けて練習に励んでました。部室も広くてきれいだから、そっちのほうで練習しててもいいんだけど、やっぱり青空の下で動き回るのが一番だもん!

 今度のスクフェスには、いつも以上に力が入っちゃう私たち! なんたって……。

 

「いつも以上に元気だね、千歌ちゃん!」

 

 汗をふきながら元気そうに聞いてくる幼馴染の渡辺曜ちゃんに、私もとびきりの笑顔でこたえます。

 

「うん! だって、Aqoursが6人態勢になって初めてのイベントだもん! 力も入るってもんだよ! それに、Saint Snowも参加するっていうし!」

「うん、ルビィも、また理亞ちゃんと一緒にイベントに参加できて、嬉しい……」

 

 そう話すのは、卒業した三年生の一人、黒澤ダイヤさんの妹の黒澤ルビィちゃん。ちょっと泣き虫で、ちょっと気は弱いけど、芯はあるし、何よりいい子なんだよ!

 そのルビィちゃんですが、Saint Snowのメンバーの一人で仲良しの鹿角理亞ちゃんもスクフェスに参加するので、とても嬉しそうです。一時はなかなかグループの相棒が見つからずに、私たちも心配していたんですが、なんとか見つかってよかったよかった。でも、その相棒ちゃんもまだ新人なので、今回は理亞ちゃんだけでソロ出演するそうです。

 あ、そういえば……。

 

「そういえばルビィちゃん。ダイヤさん、昨日帰ってきたんだって?」

「うん! 昨日もお姉ちゃんと、スクドルについて一杯お話したんだよ。そういえば今日、練習を見に来るって言ってた」

 

 そうなんです。外国に留学に行った鞠莉ちゃんと果南ちゃんは、年一回ぐらいしか内浦に帰ってこれないそうだけど、東京の大学に進学したダイヤさんは、二カ月に一回はこっちに戻ってこれるそうです。特にラブライブのある夏休みと冬休みには、必ず戻ってきてくれるみたい。(鞠莉ちゃんと果南ちゃんも、夏休みの時には帰ってくるそうです)

 

「そうなんだ。でも、卒業してからダイヤさんと会うのって初めてだよね。どんな風になってるんだろう? ピカピカのキラキラとか?」

「いくらなんでも、そこまで変わるわけないよ~。私も東京にいた頃からこんなだったし……」

 

 曜ちゃんにそう答えるのは、私の親友の一人、桜内梨子ちゃん。絵を描いたり、何よりピアノを弾いたり作曲したりするのが得意で、Aqoursでは作曲を担当してくれています!

 

「うん。さすがにピカピカキラキラってほどじゃなかったけど、内浦にいたころより、とてもきれいになってたよ! ルビィ、びっくりしちゃった」

「へぇ、そうなんだ~。さすが都会ずら~」

「ずら丸、この学校のある沼津だって、一応都会よ……」

 

 ルビィちゃんの言葉に、素朴そうな女の子、国木田花丸ちゃんが感動し、それにシニヨンの女の子、津島善子ちゃんが突っ込みます。

 花丸ちゃんは、家がお寺をしてる素朴で思慮深い女の子。そして善子ちゃんは、自分を「堕天使ヨハネ」と名乗る、ちょっと変わった女の子なんだよ!

 元一年生の三人は、二年生に進級しても、とっても仲良しで、見てるこちらも微笑ましくなっちゃいます♪

 

「ぜぇぜぇ、まだよ、まだいけるわ~、とーつーげーきー……」

「空ちゃん。もう少し休んでからのほうがいいって。そもそも、全然腰が上がってないじゃない」

 

 そのルビィちゃんたちの横で、息を切らせ、起き上がろうとして失敗してるのは、今年スクールアイドル部に入った新人の二人。短めのポニーテールの子と、肩までのセミロングの女の子。

 ポニーテールの子は、結城空ちゃん。とにかく元気で元気さは私以上。梨子ちゃんに言わせると「元気さだけでなく、思い込んだら一直線なところも、千歌ちゃんそっくりだよね」だそうです。なんでも、中学まで陸上部にいたんだけど、イタリアから帰ってきた後の、沼津駅前のライブを見てスクドルに憧れ、このスクドル部に入ってくれたんだって! 嬉しいなぁ……。

 一方、セミロングの子は、角谷涼ちゃん。空ちゃんとは中学一年からの親友なんだって。私たちよりずっとおしゃれで、「おしゃれなことに目がない」とは涼ちゃん本人の言葉。彼女曰く「空ちゃんが危なっかしくて見てられないので、抑え役として入部した」そうだけど、本人もスクドル部の活動を楽しんでるように見えます。

 彼女もAqoursとしての活動には参加してないけど、曜ちゃんとルビィちゃんと一緒に、衣装作りに協力してもらってます!

 それと曜ちゃんは「これで梨子ちゃんの苦労も少しは減るね!」と言ってました。どういうことなのかなぁ?

 

 と、そんな私たちが休憩をしていると……。

 

「皆さん、頑張っているようですわね」

「あっ、ダイヤさん!」

 

 私たちのところに、Aqoursメンバーの一人だった、ダイヤさんがやってきました!

 東京で過ごしてきたからか、とても垢ぬけていたけど、面影はダイヤさんそのままです! でも、とってもきれい……。

 

「はい、これ。東京みやげですわ。八人で召し上がってください」

「ありがとうございます。今休憩中なんで、喜んで食べさせてもらいますね! おーい、みんなー! おやつだよー!」

 

 ダイヤさんから包みを受け取った私の言葉に、Aqoursのみんなと新人ちゃんたちが私のところに集まってきました。

 そして包みを開けると……。

 

「うわーー!! ひーよーこーサーブーレー!」

「とってもおいしそうずらね、ルビィちゃん」

「うん。帰ってきた時、この包みを持ってきてたんだけど、開けさせてくれなくて。なんだろうって思ってたんだけど、これだったんだぁ……」

「ふ……感謝するわ。リトルデーモンダイヤ。この堕天使ヨハネへの供物にふさわしいお菓子よ」

 

 そして私たち八人に、ダイヤさんを加えた九人で、おやつタイム!

 ぱくぱく……。うーん、とってもおいしいー!

 と、そこで。

 

「そうだ千歌ちゃん。今度の新曲の歌詞はできたの?」

「うーん、まだ~。なかなかいいテーマが浮かばないんだぁ」

「そうなんだ。でも、そろそろ決めないと、スケジュール的に危ないんじゃない?」

 

 その曜ちゃんの指摘に、私は思わずしゅんとしちゃいます。

 

「そうなんだよねぇ……早く歌詞を作りたいんだけど~」

「まぁ、焦れば焦るほど、どんどん詰まっていくものですわ。ちょっと気分転換したら、意外といいアイデアが出てくるかもしれませんよ?」

「うん、そうですよね。ありがとうございます! 今度のスクフェスでは、μ'sも復活するらしいですし、頑張っていい歌詞を作ります!……ね……?」

「……!」

 

 と、そこでピシィッという擬音が入ったかのように、ダイヤさんの表情が変わりました。そして私の後ろでは、梨子ちゃんと曜ちゃんと花丸ちゃんの「あちゃー」という声がハモってます。私、何か変なこと言ったかなぁ?

 

 と。

 

 ガシッ!!

 突然、ダイヤさんが私の肩を強くつかみました。え、え?

 

「千歌さん! 今の言葉は本当ですの!? 今度のスクフェスでμ'sが復活するって!」

「は、はい。あ、あの……ダイヤ……さん?」

「こうしては……こうしてはいられませんわ! 私もAqoursに復帰ですわーーーー!!」

『えええええ!?』

 

 ダイヤさんがAqoursに復帰!? それはとっても嬉しいかも!

 

「やったぁ! ダイヤさんが戻ってきてくれたら今度のスクフェスはバッチリだね!」

 

 そう喜ぶ私に、曜ちゃんが慌てだします。どうしたんだろう?

 

「ち、ちょっと待ってよ。ダイヤさんは高校を卒業したんだよ!? 卒業しちゃったら、もうスクールアイドルじゃないじゃん!」

「えー、そのくらい別にいいんじゃないかなぁ」

「いや、良くないと思う……。参加規則で、『参加できるのは高校生のみ』って言われてるし……」

 

 能天気な私の言葉に、こめかみを抑えてそう言う梨子ちゃん。

 と、こんなゴチャゴチャした状況に、さらに……。

 

「oh! ダイヤが復帰するとなれば、私も負けてはいられませんネー!」

「また鞠莉はそんなこと言って……」

 

 この場にはいないはずの鞠莉ちゃんと果南ちゃんの声が頭上から聞こえてきました。

 ……え、頭上?

 

 空を見上げると……。

 

「ハーイ、みんな。久しぶりネ!」

 

 目を丸くしてる空ちゃんと涼ちゃん。茫然としてる残りメンバー。

 

 そう。

 

 私たちの頭上に、鞠莉ちゃんと果南ちゃんを乗せたヘリコプターが舞い降りてきたのでした。

 

 

 

To Be Continued...

 



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第2章~合宿へ行こう!

 結局、梨子ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃん三人で抑えて、ダイヤさんのAqours復帰は撤回となりました。(ちなみに、鞠莉ちゃんを乗せていたヘリは二人を降ろしたあと帰っていきました)

 

「そういえば、鞠莉ちゃんと果南ちゃんは、どうしてここに?」

 

 私がそう聞くと、果南ちゃんは苦笑いを浮かべました。

 

「いや、大学に向かってたら、突然目の前に鞠莉が乗ったヘリが着陸してきてね。そのまま連れていかれちゃった」

「だって、私たちが卒業した後、新生したAqoursの初Eventよ! μ'sも復活するっていうし、行かないわけがないじゃなーい!」

 

 やっぱり、鞠莉ちゃんは相変わらずみたいです。

 そして、そこでダイヤさんが「コホン」と咳払いして……。

 

「それで、仕上がりはどうですの?」

「うん。私たちのほうは順調だけど、空ちゃんと涼ちゃんのほうがまだまだだから、今度のスクフェスには私たち六人で出ようかな、って」

 

 ダイヤさんの質問に私がそう答えると、ダイヤさんは腕を組んでうなりました。

 

「それはちょっとよろしくありませんわね。スクフェスは年一回。つまり、新人のお二人が、皆さんと一緒に出場できるのは今回だけ。それを逃すのは、お二人にとってかわいそうだと思いますわ」

「あ、そうですよね……」

 

 ダイヤさんの指摘に、梨子ちゃんがそう答えます。

 確かに、来年には私たちは静真を卒業しちゃう。だから、空ちゃんと涼ちゃんと私たちが一緒にスクフェスに出れるのは、今回が最初で最後なんだ。その機会がなしになっちゃうのは、二人がかわいそうだよね。

 

「そしたらさ、私たちがわざと留年しちゃうのはどうかな? そうすれば来年も一緒に出れるじゃん」

「oh! さすがは曜! Nice Ideaね!」

「いやいや、全然ナイスアイデアじゃないでしょ……」

 

 曜ちゃんの提案に賛同した鞠莉ちゃんを、果南ちゃんが諫めます。確かにそんなことしたら、お母さんたちが怒っちゃうよね。うーん……。

 

「それじゃさ、私たちが一気にパワーアーップしちゃえばいいんだよー」

「アニメじゃないんだから、そううまくいくわけないじゃん、空ちゃん」

 

 空ちゃんの言葉を、涼ちゃんがバッサリ。本当にこの二人、いいコンビだなぁ。私と梨子ちゃんや、ダイヤさんと果南ちゃん、鞠莉ちゃんみたい。

 と、そこで。

 

 キラリーン!

 

 と、ダイヤさんの目が光った気がしました。

 

「それですわっ!!」

「え、な、なにがですか?」

 

 私が聞き返すと、ダイヤさんは会心の笑みを浮かべました。

 

「空さんと涼さんの実力を一気に引き上げる秘策を思いつきましたわ!」

「そ、それはなんなの、お姉ちゃんっっ」

 

 ルビィちゃんがそう聞くと、ダイヤさんは何かくるくると回って(踊り?)……。

 

 ぱたりこ。

 

 あ、しりもちついた。

 

「目、目が回ってしまいましたわ……。さすがにブランクのせいでしょうか。エリーチカのようにはいきませんわね……」

「大丈夫ずら?」

 

 花丸ちゃんが手を差し出すと、ダイヤさんはその手をつかんで、なんとか立ち上がりました。

 

「こほん。二人の実力を引き上げる秘策。それは……」

『それは!?』

 

 そうもったいぶるように言うダイヤさんに、Aqours6人、鞠莉ちゃんと果南ちゃん、そして空ちゃんと涼ちゃん10人の視線が集まります。

 

 少しの沈黙、そして。

 

「合宿ですわっっ!!」

 

 ダイヤさんは再び会心の表情を浮かべて言い放ったのでした。

 

「合宿か~。去年の夏以来だね! でも、どこでするの? またうちの旅館に泊まって、裏の海岸で?」

「それもいいのですが、今はまだ春。海で合宿するにはまだ早いですわね」

 

 と、そこで。

 

「Oh! それなら、うちの別荘に来ない? 合宿にBestなLocationがあるのよ!」

 

 鞠莉ちゃんが素敵な提案をしてくれました。って、別荘なんてすごい!

 

「それならそこにしましょうか……って、私は卒業したのですから、ここは千歌さんが決めるべきですわね」

「うん! ということなんだけど、どうかな、みんな?」

 

 反対意見は一つもありませんでした。みんな、別荘での合宿ということで、ウキウキしてるみたいです。

 

「それでは、部室に行って、合宿の内容について相談するとしましょう」

 

……やっぱり、ダイヤさんが仕切ってる……。まぁいいか。

 

* * * * *

 

 そしてみんなで部室に戻ってきました。

 

「ここが新しい部室ですか。とてもきれいで広くて、いいところですわね」

「そうね。私たちもここで活動したかったわね、ダイヤ」

「うん。でも私は、浦の星時代の部室も好きだったな」

 

 ダイヤさんたち元三年生組も、新しい部室のことをとても気に入ってくれたみたいです。よかった。

 

「さて、それでは皆さん。まずは私から、スケジュール案を提示させていただきますわ! これです!」

 

 そう言ってダイヤさんがホワイトボードに貼りだしたのは……。

 

「ランニング15km、腕立て腹筋40セット、遠泳15km……」

「しかも、それらや、他のトレーニングで1日が埋まっちゃってる!?」

 

 貼りだされたスケジュールを見て、空ちゃんと涼ちゃんが顔を青くしてます。私たちは去年に見たからそれほどでもないけど、やっぱり新しく入った一年生の二人には刺激が強かったみたいです。

 って、内容が去年よりさらにグレードアップしてるし!

 

「ふふふ、これは、私が梨子さんに頼んで入手してもらったμ'sの極秘特訓スケジュールを元に立案したものですわ! これをこなせば、一気にお二人の実力も、Aqoursの皆さんに並ぶものになること請け合いです!」

 

 私たちAqours、空ちゃん、涼ちゃん、鞠莉ちゃんの視線が一気に果南ちゃんに集まります。その視線が意味するものはただ一つ。

 

「助けてください」。

 

 その視線を感じた果南ちゃんは苦笑を浮かべて……。

 

「まぁ、このスケジュール、私ならどうということはないけど、やっぱり千歌たちや、何より新入部員の二人には無理なんじゃないかなぁ」

 

 さすが果南ちゃん。ダイビングとかで鍛えただけのことはありますね。去年の合宿の時も、ダイヤさんの地獄の特訓をこなしていたのは彼女だけでした。

 

「こんなハードすぎる特訓したら、スクフェスに出る以前に、みんな潰れちゃうと思うんだ。そこで私なりにスケジュールを考えてみたんだけど……どうかな?」

 

 そう言って果南ちゃんが提示したスケジュールは、ダイヤさんほど殺人的でなく、私たちが「ちょっときついかな」と思う程度。しかも、私たちAqours用、新人ちゃんたち用の二つに分けられてました。もちろん、新人用は、私たち用より練習量が少なくなってます。

 

「ダイヤの案をもとに、負荷をかなり下げて、さらに新人二人にはさらに負荷を下げるようにしたんだ。新人二人は、この新人用が楽にできるようになったら、Aqours用にシフトしていけばいいと思うよ」

「わああああ、果南さーんー、ほんとーにありがとうーーー」

 

 目を潤ませて、果南ちゃんにいっぱい感謝する空ちゃん。よほど、あの殺人スケジュールが嫌だったんだね。

 

「それじゃ、多数決をとるよー。まず、ダイヤさんの案がいいと思う人ー」

 

結果。

 

ダイヤさんの案:1

果南ちゃんの案:10

 

「というわけで、今度の合宿では、果南ちゃんの案を採用することに決定しましたー」

 

ぱちぱちぱち。

 

「それじゃ、今度の連休は私の別荘で合宿ね!」

『おー!』

 

 合宿に向けて意気上がる私たちの横で、ダイヤさんがいじけていたのは言うまでもありません。

 

 

 

To Be Continued...

 



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第3章~たのしいがっしゅく

「うわぁ~」

 

 鞠莉ちゃんがチャーターしたバスから降りた私は、目の前の光景を見て、思わず感嘆の声をあげていました。

 

 目の前に広がるのは、一面の芝生と周囲の草原、その奥の森、そしてさらにその向こうにそびえる山々。まるで、「アルプスの少女ハ〇ジ」に出てくるような風景でした。

 あ、リアルタイムで見てたわけじゃないですよっ。ビデオで見たんですビデオっ。

 

「千歌ちゃん、誰に向けて言ってるの?」

「え、あはは、なんでもないよ、梨子ちゃん。たはは……」

 

 でも本当に素敵な場所です! 他のみんなも目を輝かせています。旧一年生組もとても楽しそうにはしゃいでいます。

 

「うわぁ~、とってもきれいな場所ずらね、ルビィちゃん!」

「うん。ルビィ、すっごく感動しちゃった……」

「ふ、ナイスなロケーションよ、リトルデーモンマリー。誉めてあげるわ」

「善子ちゃん。こんな素敵なところでまで堕天使キャラ作らなくてもいいずら」

「別にキャラ作ってるわけじゃないしっ!」

「芝生もとてもきれいずらね。こんなところで寝ころんだら気持ちいいだろうね」

「話聞きなさいよっ!」

 

 旧一年生トリオ、とても楽しそうだなぁ。

 そう思いながら、彼女たちを見守ってる私のところに、曜ちゃんがやってきました。

 

「本当に素敵なところだよね。きれいだし、何より走りがいがありそうだよ!」

「あはは、曜ちゃんらしいね。でも、気持ちわかるなぁ。こんなところでトレーニングしたらはかどりそう!」

「うんうん。それに、思わず叫びそうになっちゃいそうだよ! ほら、『ヨーソロー!』って」

「それを言うなら、『ヤッホー』じゃないかなぁ……」

 

 曜ちゃんにそう突っ込む梨子ちゃんですが、そんな彼女も、なんか楽しそうに見えます。もちろん、私も、これからの合宿が楽しみです!

 

 そして向こうのほうでは、空ちゃんと涼ちゃんが……。

 

「とっても素敵。おしゃれなものが買えないのが残念だけど、来てよかったかも。ねぇ、空ちゃん」

「うんー。青いそーらー、そして、緑のそうげーんー。素敵ーー」

 

 二人とも、とっても楽しそうです。と、そこでダイヤさんが……。

 

「はいはーい、みなさーん。風景に見とれているのはいいですが、そろそろ別荘に入りますわよー」

「荷物を置いたりしたら、いよいよトレーニングに入るからね!」

「10時になったら、Training Roomに集合よ!」

 

 ……え?

 

『トレーニングルーム!?』

 

* * * * *

 

「うわぁ……すごい……」

 

 荷物を部屋に置いて、鞠莉ちゃんの言ってたトレーニングルームにやってきた私は、また感嘆の声を上げていました。

 

 トレーニングルームというから、スポーツジムみたいな感じかと思っていたら、全然レベルが違いすぎます!

 スポーツジムのあるような施設はもちろん、とっても大きいプールなんかもあったり、スポーツジムにあるようなトレーニング器具も、普通のスポーツジムとはくらべものにならないぐらいたくさん!

 

「ふふ、びっくりしちゃった?」

「ここまですごいとは思いませんでしたわ……」

「まったくだよね。でも、これならトレーニングもはかどりそうだなぁ」

 

 驚きに絶句しているダイヤさんや果南ちゃんを見て、鞠莉ちゃんはとても嬉しそうです。

 でも、本当にすごいなぁ……。個室もとても素敵だったし。こんなすごい別荘を持ってるなんて。

 

「さて、驚くのはこの辺にしましょうか。いよいよトレーニングに入りますわよ」

「まずは柔軟体操からだよー。ケガしないようにしっかりね!」

 

* * * * *

 

「うーん。ちょっと痛いけど、これが気持ちいいんだよね~……」

「千歌、それはいいけど、気持ちいいからと言ってやりすぎると、体痛めちゃうから気を付けてね」

「はーい」

 

 さっそくみんなで、トレーニングルームの片隅で柔軟体操!

 ダイヤさんたちも、コーチやトレーナーをするというので、一緒に柔軟体操をしてます。

 

「いたた……。やはり体が固くなっていますわね。ブランクが空きすぎでしたわ……」

「ouch……私もそうみたい。Italiaでは椅子に座って座学ばかりだったから……。果南はそうでもないみたいね」

「まぁね。向こうの体育大学で、一杯運動とかしてきたし」

 

 柔軟体操に苦戦しているダイヤさんと鞠莉ちゃんの横で、果南ちゃんはテキパキとこなしていきます。さすがだなぁ……。

 

 一方の一年組はというと……。

 

「うーん……。手伝ってもらってごめんね、涼ちゃん」

「そんなこと、いちいち気にしなくてもいいの。はい、いち、に、いち、に」

「いてて……」

 

 仲良く柔軟体操に励んでます。二人は本当に、仲がいいんだなぁ……。

 と、そんな二人を微笑ましくみている私の横で、梨子ちゃんがなぜか、少し難しい顔をして二人を見てました。どうしたんだろう?

 

「どうしたの、梨子ちゃん?」

「うん。なんか、ちょっと二人の様子がぎこちないような気がして。空ちゃんが遠慮しているような……」

 

 そう首をかしげながら言う梨子ちゃんのところに、曜ちゃんがやってきました。

 

「そうかなぁ。別に普通だと思うけど……気のせいじゃない?」

「うーん、そうかも……変なこと言ってごめんね」

 

 そして私たちはまた、柔軟に戻りました。

 それが終わったら、いよいよトレーニングの始まりです!

 

* * * * *

 

 まずは遠泳から! とはいっても、この別荘の近くには海がないので、代わりにプールを何往復ですけどね。

 

「うーん。やっぱり泳ぐと気持ちがいいね~」

「それはいいけど、最初から飛ばしすぎると、後がきつくなっちゃうよ、千歌ちゃん」

「うん~」

 

 そうは言っても、やっぱり気持ちよすぎて、つい飛ばしたくなっちゃうんだよね~。それで結局後になるとへばっちゃうんだけど……たはは。気を付けないと。

 

 二年生(旧一年生)組のほうはというと……。

 

「ふぅふぅ……きついよぉ、お姉ちゃん……」

「まだ序の口ですわ、ルビィ。頑張るのですよ」

「うぅ……お姉ちゃんはいつもルビィに厳しいの……」

「ルビィちゃん、ファイトずら」

「う、うん……」

「ルビィ、頑張りなさい。このヨハネが加護を授けてあげ……ごぼごぼこぼ」

「あぁっ、善子ちゃん~~!!」

「余裕ないのに泳ぎながらしゃべるからずら……大丈夫ずら?」

「え、えぇ、なんとか……」

 

 うん。仲良く頑張ってるみたいです。本当に仲良くて何よりだね。

 

 そして次は腹筋と腕立て!

 

「うーん。腹筋腕立ては、中学の陸上部でよくやってたけど、やっぱりちょっときつい~な~」

「陸上も運動も何もしてない私も頑張ってるんだから、空ちゃんも頑張るんだよ」

「う、うん~……。心配かけてごめんね、涼ちゃん」

 

 一年の二人もとても仲良く腹筋と腕立てに励んでいます。特に空ちゃんは元陸上部だけあって、きついきついと言いながらも、すいすいとこなしていってるみたいです。さすが陸上部! 一方の涼ちゃんはマイペースにこなしていきます。

 

 そしてそんなこんなしながら、一日は終了!

 

 これからもこんな楽しい合宿が続けばいいなぁ……。

 と思っていたんだけど……。

 

* * * * *

 

 この日の最初のメニューはランニング! みんなでトレーニングルームのランウェイを何周もします。

 

 みんな思い思いのペースで走っていて、私も、曜ちゃん、梨子ちゃん、そして空ちゃんと一緒に走っていました。

 

 そして何周かしたころ、ふと空ちゃんの足が止まりました。

 

「あれ、空ちゃん、どうしたの?」

「千歌ちゃん、涼ちゃんは……?」

 

 空ちゃんの質問を聞いてあたりを見回すと、確かにランウェイに涼ちゃんの姿はありませんでした。おトイレに行ったのかな?

 

「そういえばいないね。席外してるんじゃない?」

 

 曜ちゃんがそう答えますが、その言葉は何か空ちゃんの耳には届いていないみたいです。

 空ちゃんの表情が、迷子になった子供のような、不安に満ちたものに変わっていきました。その表情のまま、まるではぐれた親を探す子供のように、おろおろと周囲を見回しています。

 空ちゃん、様子、何か変……?

 

「いや……涼ちゃん、どこにいるの……? 涼ちゃん、涼ちゃ……!」

 

 いつもの明るく元気な様子はどこへやら。ひどく取り乱して動揺している様子の空ちゃんに、私たちが戸惑っていると……!

 

「……っ、あっ、かはっ……!」

「空ちゃん!?」

 

 突然、空ちゃんはその場にへたり込むと、変な呼吸を始めました。それが尋常でなく大変なことであることは、私にもよくわかります。

 だから私は、大声でみんなを呼んでました。

 

「みんな、大変! 空ちゃんが!!」

 

 

 

To Be Continued...

 



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第4章~Thank You! FRIENDS

「千歌さん、どうしたんですの!?」

「な、なんか、空ちゃんの具合が突然おかしくなっちゃったの……!」

「ぇあ……、はぁっ、はっ……、かはっ……!」

 

 私の声を聴いて駆けつけてきたみんな。

 そのみんなに、私は何が起こったかを説明します。

 その傍らでは、空ちゃんが変わらず、変な呼吸を続けています。その空ちゃんに、果南ちゃんが駆け寄り、具合を見ました。

 

「これは……過呼吸だね」

「過呼吸?」

「ストレスなどで、呼吸のリズムが狂って、苦しくなっちゃう症状のことだよ。ほら、空、ゆっくり息を吐いて」

 

 果南ちゃんは、空ちゃんの背中を軽く叩きながら、彼女に呼吸のアドバイスを行います。空ちゃんはそれに従って、ゆっくりと息を吐きだします。

 

「はぁー……」

「そうそう。浅くゆっくり息して……」

「すぅー……はぁ……」

 

 果南ちゃんの指示に従って呼吸していると、空ちゃんはやがて回復していきました。

 果南ちゃん、本当にすごい……。

 そしてちょうどそこに、涼ちゃんが戻ってきました。

 

「ぜぇ……ぜぇ……。果南さん、ありがとうございます……」

「果南ちゃん、本当にすごいね……」

「まぁ、向こうの大学で少し習ってきたからね。空、無理はしないで、今日はもう休んだほうがいいよ」

「え、でも……」

「無理は禁物だよ。今日はゆっくり体を休めて、明日からまた頑張ろう? 花丸ちゃん、空を個室に連れて行ってあげてくれる?」

「わかったずら! ほら、一緒に行こう、空ちゃん」

「う、うん……」

 

 そして、花丸ちゃんに手を引かれて、空ちゃんはトレーニングルームを出ていきました。

 

* * * * *

 

 そしてその日の夕方、晩御飯が終わったあと。

 私たちは会議室で相談をしていました。空ちゃんは引き続き大事をとって、自室で寝ています。

 

「うーん……。今回はなんとか回復できたけど、原因を解消してあげないと、また同じ症状を引き起こすかもしれないね。千歌、何か思い当たりはない?」

「うーん、うーん……。あ、そういえば、涼ちゃんが周囲にいないことに気付いて、何か取り乱していたような……」

 

 と、私がそう言ったところで、

 

「やっぱり……」

 

 涼ちゃんがそうつぶやきました。そしてそれを逃さなかった人が一人。

 

「やっぱり? 涼ちゃんには何か心当たりがあるの?」

「そういえば、涼ちゃんがその場にいなかったのがきっかけみたいなことを、千歌ちゃんが言ってたよね」

 

 そう、梨子ちゃんです。ダイヤさんたちの騒動の時も、梨子ちゃんは鋭いところ突いてたしなぁ。それを受けて、曜ちゃんもそう言いました。

 そしてそれは図星だったらしくて……。

 

「えーと、そ、それは……」

 

 涼ちゃんはふと目をそらしました。あ、これはあれだ。ダイヤさんが鞠莉ちゃんや果南ちゃんのことを聞かれて逃げた時、その直前の反応とおんなじだ。

 

「すいませんっ!!」

 

 あ、やっぱり。

 涼ちゃんはそう言うと、会議室を逃げ出そうとしました。

 しかし。

 

「よ」

「善子さん!」

 

 ……。

 私が言う前に、ダイヤさんが善子ちゃんに号令を飛ばしました。

 

 そして。

 

「ひぎゃあ~!」

「だから、ヨハネだってばぁ~!」

 

 涼ちゃんはあっさりと善子ちゃんに捕まり、コブラツ〇ストをかけられて悶絶したのでした。

 

* * * * *

 

 そして再び会議室。

 

「これから話すことは、とても重い話なので、他には話さないようにお願いします……」

「うん、もちろんだよ」

 

 私がそう答えると、涼ちゃんは静かに話し始めました。

 

「私には二つ下の、未来(みく)って妹がいるんです。未来は心臓が弱くて、小さいころからずっと入院していました」

 

 そして、涼ちゃんはお茶を一口すすると、話を続けます。

 

「そんな中、未来が心臓の手術を受ける一週間前のある日、空ちゃんは未来と一つ約束をしたんです。『大会で良い成績出してくるね』って」

「そうなんだ? それで、結果はどうだったの?」

 

 曜ちゃんがそう聞くと、涼ちゃんは表情を曇らせて答えました。

 

「結果は惨敗でした。もしかしたら、その約束が、空ちゃんのプレッシャーになっていたのかもしれません。それで未来はひどくがっかりして……」

「ダークサイドに堕ちた、と……むぐっ」

「善子ちゃん。真面目な話なのにふざけちゃダメずら」

 

 堕天使なことを言いだす善子ちゃんを、花丸ちゃんが見事に阻止しました。ナイス!

 

「命に別状はなかったのですが、手術は中止になりました。あまりにがっかりしすぎて、体力が大きく落ちてしまって、手術に耐えられないかもしれない、って……。それからも体力はなかなか戻らず、次はいつ手術ができるかも目途がつかない状況で……」

「そうなんだ……」

 

 涼ちゃんの告白に、私はそれだけしか言えませんでした。

 

「空ちゃんが突然、陸上部に退部届を出したのは、その手術が中止になった翌日のことです……」

 

 そこまで涼ちゃんが話すと、少しの間をおいて、果南ちゃんが口を開きました。

 

「なるほどね。自分が試合で惨敗したことで、未来ちゃんが元気になるチャンスを潰してしまったことがトラウマになって、過呼吸の要因になっていたんだろうね」

 

 その果南ちゃんの言葉に続けて、梨子ちゃんも話し始めます。

 

「私も、空ちゃんが涼ちゃんに気を使っていたというか、少し遠慮していた、というのが気になってたんだけど、その未来ちゃんの件で、涼ちゃんに引け目に思っていたのね……」

「空があんなにうろたえていたのも、そんな自分が涼に捨てられるかもしれない、という恐怖から来たからかもしれないわね……。それも過呼吸の原因の一つになっていたんじゃないかしら」

「多分ね。でも、これは難しい問題だよ。トラウマの深さは私たちじゃ推し量れないし、私たちが何かしたところで、空のトラウマを完全に消せるとは思えないし……」

「そうだよね……。ダイヤさん、どうにかできないかな?」

 

 私がダイヤさんにそうたずねると、ダイヤさんは組んでいた腕を解いて、私たちのほうを見据えました。

 

「そうですわね。私は医者ではありませんから、彼女のトラウマや過呼吸を治すことはできませんわ」

 

 と、そこでダイヤさんは一度言葉を止めて、「ですが」と続けました。

 

「それを治すきっかけを作る方法を教えてあげることはできます」

「それは……?」

 

 涼ちゃんがそう聞くと、ダイヤさんは彼女の方に向き直り、逆に質問を投げかけました。真剣な表情と声で。

 

「その前に聞いておきたいのですが……涼さんは、妹さんの件をどう考えておられるのですか?」

「それは……私も未来も、あの結果は空ちゃんが一生懸命頑張ってのものですから、恨みには思っていませんし、彼女に重荷を負わせようとも思っていません。それどころか、空ちゃんはそれからも未来に色々してくれていましたから、むしろ感謝したいくらいです」

 

 そう涼ちゃんが言うと、ダイヤさんはにっこりとほほ笑んで続けました。

 

「なら、空さんにそう、自分の気持ちや考えを伝えればいいではありませんか。それで二人が本当にわかりあえば、それが彼女のトラウマを払拭するきっかけになるかもしれませんわ」

「ですが……」

 

 涼ちゃんがそう反論しようとすると、ダイヤさんは彼女のほうを向いて、厳しく、でも優しい表情をして続けました。

 

「重い過去もありますし、なかなか自分の気持ちを伝えられないのはわかります。ですが、自分の気持ちを伝えることよりも、気持ちを伝えられないことで、すれ違ったままでいることのほうが、ずっと辛いものですわよ」

「あ……」

 

 ダイヤさんの言葉に私はふと声をもらしました。

 

 そうでした。

 

 ダイヤさんたちがまだ、浦の星の一年だったころ、彼女たちがイベントに出るさい、果南ちゃんとダイヤさんは、鞠莉ちゃんの足のケガと彼女の未来のことを慮り、わざと歌を歌わなかったんです。それがもとで三人はぎくしゃくした関係になってしまって……。

 ぎくしゃくした原因は、三人が自分の気持ちを素直にぶつけなかったこと。それがあの三年間の遠回りの原因でした。

 だからダイヤさんは、そんな自分たちの過去を、涼ちゃんに重ねているんだとわかりました。

 

「大丈夫です。空さんは、あなたの大切な親友なんでしょう?」

「はい。空ちゃんはとっても大切で素敵な親友です。私にはもったいないくらいの」

「なら大丈夫です。きっとあなたの気持ちを受け止めてくれます。後は、あなたの勇気だけですわ」

「……」

 

 それでもまたためらっている涼ちゃん。ここは、私たちが背中を押してあげなきゃだね!

 

「大丈夫だって! 勇気を出せば、きっと空ちゃんともっと仲良くなれるよ!」

「そうだよ! だから勇気を出して!」

「みんな……」

 

 私と曜ちゃんの励ましに、涼ちゃんがこちらに顔を向けます。

 そんな彼女を見て、私たちは優しく、そしてしっかりとうなずきます。

 

 そして涼ちゃんは、少し不安さを顔に出しながらも、ゆっくりとうなずきました。

 

* * * * *

 

 そしてその日の夜、空ちゃんがだいぶ回復したのを確認して、私は空ちゃんと涼ちゃんを屋上に連れ出しました。

 「星空を見よう」……というのは建前で、実は二人が話し合う場を作るためなんです、えへへ。

 

「うわぁ……とってもきれいだねぇ……」

「ほんとーだー。きらきらーしてるー」

「えぇ、本当に、とってもきれいで素敵……」

 

 三人で星を見ることしばし。さて、もうそろそろいいかな?

 

「あ、そうだ。私、ちょっと忘れものしてきちゃった! ちょっと建物に戻るね!」

『え?』

「ちょっと待って。すぐ戻るから!」

 

 そう言って私は、入口のほうに走っていきました。そして踊り場に入ると、そこにはAqoursのみんなと元三年の三人が待っていました。

 

 ダイヤさんが、頭痛をこらえるように、こめかみを押さえながら小声で言ってきます。

 

「千歌さん……。もうちょっとスマートにはできなかったのですか? 怪しいのがバレバレではありませんか……」

「そういえば、なんか棒読みだったずら」

「たはは……ごめんね」

 

 そうダイヤさんと花丸ちゃんに謝ると、私たちはドアの隙間から、二人の様子を伺いました。

 

* * * * *

 

「千歌ちゃん、遅いね……。忘れ物探すのに苦労してるのかな?」

「うん、そうかもね……」

 

 そしてしばしの沈黙。先に口を開いたのは、涼ちゃんのほうでした。

 

「ねぇ、空ちゃん……。もしかしてまだ、未来のこと、気にしてる?」

「……っ」

 

 涼ちゃんの言葉を聞き、空ちゃんは泣きそうな表情になりました。

 

「当たり前じゃない! 私の、私のせいで、未来ちゃんの手術が……!」

 

 そこまで空ちゃんが泣き叫んだところで、涼ちゃんが彼女を抱きしめました。

 

「馬鹿ね、そんなこと気にしなくていいんだよ。トラウマになってまで。空ちゃんは一生懸命頑張ったんでしょ?」

「うん……でも……」

「それなら私も未来も、空ちゃんを恨んだり憎んだりなんかしないよ。大切な友達だもん。それに、空ちゃんには感謝してる。未来のためにそんな約束してくれたし、あれからも未来のために色々してくれたから」

「涼……ちゃん……」

「何より、私は空ちゃんを大切な友達、親友だと思ってる。空ちゃんは?」

 

 その涼ちゃんの問いかけに、空ちゃんは表情を崩し、涼ちゃんをさらに抱きしめました。

 

「好き! 大好き! 大切な友達だよ! 中一の時からずっと!」

「ありがとう。だったら、あのことで自分を責めないで。私と距離を置こうとしないで。ね?」

「涼ちゃん……涼ちゃーーーーんっっ!!」

 

 空ちゃんは涼ちゃんをぎゅうっと抱きしめて泣きじゃくりました。

 うまくいったみたいだね。よかった……。思わず私も涙ぐんじゃいます。それは他のみんなも同じようでした。

 本当によかった……え、う、うわぁっ。

 

* * * * *

 

「えぇ、み、みんな!?」

「いたた……たはは……」

 

 びっくりしてる空ちゃんと涼ちゃん。身を乗り出した私たちは、バランスを崩して、屋上のほうへとなだれ込んでしまったのでした。

 

「もしかして今までのこと、全部見てた?」

「うん。二人のことが心配で……ごめんね」

「たはは、なんか恥ずかしーいな……」

 

 身を離し、顔を赤くしてうつむく空ちゃんと涼ちゃん。でもその手は、つながれたままでした。

 それがなんか嬉しくて。

 

「でも、本当の友達になれてよかったね、二人とも」

「うん、ありーがと……」

「皆さんのおかげです……。皆さんのおかげで私たち、もっと先に飛び出せると思います」

「空ちゃん、涼ちゃん……」

 

 再び涙ぐんじゃう私。その後ろで、みんなも涙ぐんだり泣いたりしてます。

 

「本当によかったね、お姉ちゃん……ぴぎぃぃぃ……」

「ルビィ、泣いてはダメですわ……ぐすっ」

「そういうダイヤも涙ぐんでるじゃない……ぐすっ」

 

 そう泣きじゃくるルビィちゃん、涙ぐんでるダイヤさん、泣き笑いしてる果南ちゃんの横で、梨子ちゃんと曜ちゃんも感極まっていました。

 

「本当に、本当によかった……ぐすっ」

「うん、ほんとに……よかったよ……」

 

 と、そこで私にあるアイデアが浮かびました!

 

「あ、そうだ!」

「え?」

 

 きょとんと私のほうを見た空ちゃんに、私は涙を浮かべたまま笑顔で言いました。

 

「未来ちゃんにもスクフェスに来てもらおうよ! 未来ちゃんに私たちの……うぅん、空ちゃんがスクドルとして頑張ってる姿を見せてあげたら、きっと未来ちゃんも元気が出てくると思うんだ!」

「そうですわね。とってもいいと思いますわ」

「お医者さんの意見次第だけどね。でも、私もそれがいいと思うよ」

 

 ダイヤさんや果南ちゃんの意見に、鞠莉ちゃんも賛同します。

 

「そうね。未来のために、特等席を用意しなくっちゃ」

「おー、さすがは鞠莉ちゃん!」

 

 私たちの提案を聞いた空ちゃんは涙を再び流しながら……。

 

「みんな……ありがとう!!」

 

 と大きくお辞儀したのでした。

 

* * * * *

 

 それからは、特に問題は起こらず、合宿は楽しいまま進みました。空ちゃんの過呼吸の発作も、それからは起こらず。

 

 私たちはもちろん、空ちゃんと涼ちゃんも、それまで以上に頑張り、私たちに追いつくほどに成長しました。もう、私たちと一緒にステージができるほどに。それと、あの夜のおかげか、あの時以上に、とても仲良しになったように見えます。Aqoursのみんなとも、すごく打ち解けたみたい!

 

 そして合宿は無事に終わり、私たちは今、内浦へと帰るバスに揺られています。その座席の一つで、私はメモ帳にあることを書いていました。それは……。

 

「千歌ちゃん、何書いてるの?」

「うん。今度のことで、新しい歌のアイデアが浮かんだから、歌詞を書き始めてるんだ~」

「そうなんだ、見せて見せて?」

 

 曜ちゃんにせがまれて、私はそのメモを曜ちゃんに渡しました。それを曜ちゃんと梨子ちゃんがのぞき込みます。

 

「へぇ~、とっても良い歌詞じゃん! これは衣装作りにも力が入りそうだよ!」

「そうね。この歌詞なら、とても感動的な曲になりそう……。あ、そうだ千歌ちゃん。この歌のタイトルは決まってるの?」

「もちろん! タイトルはね……」

 

 

 

Thank You,FRIENDS!

 

 

 

Aqours編~完

 



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エピローグ
ネクストステップ!


「かんぱーい!」

 

 私の声に合わせて、Aqoursのみんなとダイヤさんたち元三年生のみんなが、ジュースの入ったコップを軽く打ち合わせます。

 

 ここはとあるファミレス。スクフェスが終わった後、私たちはここで打ち上げ会をすることにしたんです。

 

 お菓子とかスイーツだけのささやかなものですけど、とっても楽しい!

 

「いやー、今年のスクフェスもうまくいったよね、千歌ちゃん!」

「うん! お客さんも、とても喜んでくれてよかった!」

「そういえば、スクドル部のメルアドにも、『Thanks you,FRIENDS!とてもよかったです』ってメール、たくさん来てたよ。本当によかったね」

「うん。それに、μ'sの復活ライブもよかったなぁ……」

 

 私がそう言うと、ダイヤさんが夢心地のような表情でこたえました。

 

「そうですわね……。さすが伝説のスクドル。最高の歌でしたわ……。エリーチカも最高でした……」

「ははは、本当にダイヤは絵里ちゃんが好きなんだね」

「果南さん、それは違いますわ。エリーチカも含めてμ'sが好きなのです」

「ふふふ、ダイヤのμ's好きは相変わらず、筋金入りなのね」

 

 そう楽しく話している三年生組の横では、元一年生組と空ちゃん、涼ちゃんも楽しく話しているみたいです。

 

「未来ちゃん、ライブ楽しんでくれてよかったね!」

「うん。お母さんに聞いたら、あのライブ聞いて、少しは元気になってきたみたいって言ってた」

「本当に良かった……。ルビィちゃんたちのおかげだよ。ありがとうー」

「うぅん。ルビィたちは何もしてないよ」

「まぁ、強いて言うなら、私に供物を……」

「善子ちゃん。周りの人の迷惑になるかもしれないから、堕天使設定出すのはやめるずら」

「だから、設定じゃないしっ!」

 

 と、そこに。

 

* * * * *

 

「あれ~? あなたたちは……」

 

 どこかで聞いたような声。どこでかって? それは、数時間前、スクフェスの会場、μ'sの復活ライブの時に。

 ……え?

 

「やっぱり! あなたたち、Aqoursのみんなだよね?」

「え?」

 

 あまりのことに、私は声が出ませんでした。それは他のみんなも同じみたい。

 

「み、み、み……」

「み?」

『μ'sの皆さん!?』

 

 そう。

 高坂穂乃果ちゃん、園田海未ちゃん、南ことりちゃん、小泉花陽ちゃん、星空凛ちゃん、西木野真姫ちゃん、絢瀬絵里ちゃん、東條希ちゃん、矢澤にこちゃん。

 μ'sの皆さんだったんです! ……あ、考えてみたら私たちより年上なんだから、『さん』づけするべきなのかなぁ?

 

 それはともかく、これに驚かない人がいるでしょうか? いやいません。

 

「こ、これは夢なのでしょうか……? ちょっと花丸さん。どうして私の腰にしがみついているのですか!?」

「ダイヤさんのμ's愛が暴走して、突撃してしまわないようにずら」

「でも、憧れのμ'sが目の前にいるなんて……本当に夢みたい……」

「ふ……きっと、私の魔力が彼女たちを引き寄せたのね……」

 

 もうみんな混乱しまくってて。でも、私がリーダーなんだから、気持ちを落ち着けなくちゃ……。

 

「あの……それで皆さんはどうしてここに?」

 

 と思ってる間に、一足早く立ち直ってた梨子ちゃんが、μ'sの皆さんに質問します。さすが梨子ちゃん。しっかりしてるなぁ。

 

「うん、私たちもここで打ち上げをしに来たんだよ。そしたらあなたたちを見つけて……よかったら、ご一緒してもかまわないかな?」

「は、はい。私はかまわないでふっ!」

 

 あ、噛んじゃった。

 

「もももももちろん! みみみμ'sの皆さんとご一緒いただけるなんて、光栄ですわっ!」

「ダイヤさん、とても動揺してるずら」

「人、人、人……」

「ルビィもかなり動揺してるみたいね……」

 

 というわけで、私たちはμ'sの皆さんと、一緒に打ち上げパーティすることになっちゃいました!

 これ……夢じゃないよね?

 

* * * * *

 

「でも、『未体験HORIZON』、とてもいい歌だったよ! 今回の『Thanks You,FRIENDS!』もとてもよかったし!」

「穂乃果ったら、実家の店で、ずっと『未体験HORIZON』聞いているんですよ」

「だって、とってもいい歌なんだもん!」

「え、そうなんですか!? なんか嬉しいです……。でも、皆さんの新曲『A song for You! You? You!!』も、とてもよかったです!」

「たはは……照れるな。でも嬉しい!」

 

 穂乃果さんが、『未体験HORIZON』を聞いてくれていたなんて……本当に夢みたい。とっても嬉しいな……。

 

「でも、それは皆さんのおかげかも。私、UTX前で、皆さんの『START DASH!』を聞いて、それでスクドルに憧れたんです」

「そうなんだ、えへへ、それは照れるな……」

「私はそんな千歌ちゃんに、半ば強引に、Aqoursに引きずり込まれて……」

「あ~、梨子ちゃん、ひどいな~」

「ふふふ、強引なところは、穂乃果も千歌さんもそっくりですね」

「あ~、海未ちゃんもひどい~」

「ふふふ。でも梨子さんも、悪いことばかりじゃなかったでしょう?」

 

 海未さんがそう言うと、梨子ちゃんはふふっと笑って、懐かしそうな目をして答えました。

 

「はい。本当に楽しくて、とっても素敵な時間の中を過ごせました。今まで、うぅん。卒業までの時間は、私の宝物になると思います」

「梨子ちゃん……」

 

 梨子ちゃんのその言葉に、私は思わず目頭が熱くなっちゃいます。

 あれ、目からお湯が……。

 

「千歌ちゃん。涙出てるよ」

「だって、とっても嬉しくて……ぐすっ」

「ぐすっ……」

「ちょっと穂乃果っ。どうして穂乃果まで泣いているんですか?」

「だって、私たちの軌跡が、Aqoursが生まれてくるのにつながって、そして、その時間を宝物と思ってくれるなんて、とても感無量というか、嬉しいというか……ぐすっ」

「もう、穂乃果は……。梨子さん、お互い相棒のせいで苦労しますね」

「えぇ、本当に。でも、慣れっこになってますよね」

「そうですね」

「もう~、梨子ちゃんはひどいな~」

「そうだよね~、海未ちゃんも~」

 

 そして五人は笑顔になれました。そして他方では……。

 

「ルビィちゃん、どうしたずら?」

「だ、だって、あの憧れの花陽ちゃんが目の前にいるなんて、とても緊張して……ぴぎぃ……」

「私に憧れてくれるなんて、とても嬉しいな。そんなに固くならなくてもいいんだよ?」

「あああ、ありがとうございますっ。で、でもお姉ちゃんっ。ルビィどうしたら……。あれ?」

「ダイヤさんならあそこで、絵里さんにμ's愛をぶちまけているところずら。あ、凛さん。マル、ずっと凛さんに憧れていたずら。よかったら、握手してもらってもいいですか?」

「うん、もちろんだにゃ!」

「はぁ……幸せずら……。マル、もう死んでもいいずら……」

「し、死んだらダメだよ、花丸ちゃんっ」

 

 そしてまた他方では、善子ちゃんが希さんに占いを教えてもらったりしています。

 

 本当に幸せな時間。私たちが、こうしてμ'sの皆さんと一緒にいられるなんて。こんなひと時がずっと続けばいいなぁ……。

 私は心の底からそう思ったのでした。

 

* * * * *

 

(ここからは、穂乃果視点になります)

 

 そしてAqoursのみんなと一杯楽しんだ後、彼女たちは夜が遅くなってきたので帰っていきました。

 もっと一緒におしゃべりしたかったんだけど、彼女たちは(ダイヤちゃんたち除いて)高校生だし、仕方ないよね。

 

 でも……。

 

「スクフェスもこれで終わって、復活μ'sもこれでおしまいかぁ……。長いようで短かったなぁ……。まるで夢みたいな日々だったね……」

 

 と、穂乃果がつぶやくと、なぜかにこちゃんは不敵な笑みを浮かべました。まだ何かあるのかな?

 

「ふふふ、甘い、甘いわ、穂乃果! 穂むらの激甘大福よりも甘いわよ! ここで、スーパーアイドル矢澤にこから一大発表があります!」

「一大発表? にこは一体何を企んでいるのでしょうか?」

 

 海未ちゃんの疑問に、にこちゃんはまたまた不敵な笑みで返すと、かばんから何か書かれたボードを取り出し、テーブルの上にどんっと立てました。そこに書かれていたのは……。

 

『μ's、ロコドル(ご当地アイドル)化計画!?』

 

「そう、その通り! せっかく再結成したμ'sをこのまま終わらせるのはもったいないもの。お互い、都合が合うときにロコドル活動をするのはどうかな、って思うの。どこの自治体のロコドルになるのかはこれからだけど、どうかしら?」

 

 もちろん、それに飛びついたのは言うまでもなく……。

 

「うん、やるっ! とっても面白そうだし、私もまだまだμ'sやりたいもん! やるったらやる!」

「本当に穂乃果は……。でも素敵な計画ですね。良いと思います。それに穂乃果……いいえ、私たちに止まるのは似合いませんから。ね、ことり?」

「うんっ!」

「凛も、まだまだ歌い足りないにゃ!」

「私も……」

「私も続けたい。大学の勉強も忙しいけど、なんとか時間を作ってみるわ」

「あのタロット占いの結果通りだったね、えりち」

「そうね。とっても素敵な変化だわ。これは、ぜひ話に乗らなきゃね」

 

 みんなの賛同を聞いたにこちゃんは、にっこりと笑うと、穂乃果のほうを向きました。

 

「全会一致で始動決定ね! それじゃ穂乃果。リーダーとして一言よろしく!」

 

 にこちゃんの言葉を受けて、私は立ち上がります。そして空に指を向けて……。

 

「よーし、それじゃみんな、これからも頑張っていこう! μ's!」

 

『ミュージック・スタートー!!』

 

 私たちの伝説はまだまだ終わりません……!

 

 

 

Fin.

 



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小話集
ラブコロナ!?


※現実と違い、この話の世界の新型コロナは、スクフェスの終了直後の6月から始まり、8月に収まりつつあり、静岡でも自粛要請解除になった、という設定です
※アフターでは、最終回まではサザエさん時空を採用しておりますw


 新型コロナの暴風も収まりつつあり、私たちが住む静岡も、自粛要請も一部解除され、臨時休校も一部解除された8月のある日。

 

「みんな、こんにちはー!」

「おはようソロー!」

「みんな久しぶりだね」

 

 私……高海千歌と、幼馴染の渡辺曜ちゃん、そして親友の桜内梨子ちゃんの三人は、元気に部室に入っていきました。

 スクフェスが終わった直後に、新型コロナがはやり始め、2か月ちょいの間学校がお休みになってみんなで集まることもできなかったので、こうして久しぶりにみんなに会えるとあって、胸がわくわくでいっぱいです!

 

「あ、千歌さん! こんにちはずら!」

「千歌ちゃん、梨子ちゃん、曜ちゃん、こんにちはー」

「ふ、久しぶりね、リトルデーモンたち……」

 

 三人揃って元気に返事を返してくれる、国木田花丸ちゃん、黒澤ルビィちゃん、津島善子ちゃんの二年生組。

 そしてその横では……。

 

「千歌ちゃーん、梨子ちゃん、曜ちゃん、おーはよー」

 

 独特の話し方であいさつを返してくれる新人の一人、一年生の結城空ちゃん。そして。

 

「あ、千歌さん、みんな、おはようございます」

 

 その横でせっせと裁縫をしながらあいさつをしてくる、空ちゃんの親友の角谷涼ちゃん。

 裁縫してるのは、今度のイベントて使う衣装かな? とってもおしゃれ!

 

 と、そこで。

 

「あ、千歌ちゃん。ちゃんと手洗ってきた?」

「あ、忘れちゃった」

「え~、自粛解除になったとはいえ、まだまだ気を付けないとダメずら~」

「えー、そうかなー? きっと大丈夫だよ~」

 

 と、そこで。

 

~~♪

 

 部室のPCからコール音が鳴りだしました。これは……ダイヤさんからかな?

 そう、ダイヤさんたち三年生が卒業してから、いつでも彼女たちとお話できるように、ビデオチャットを導入したんです。もちろん、ダイヤさんだけでなく、果南ちゃんや鞠莉ちゃんもビデオチャットを導入してもらってます。

 

 さてさて。私がビデオチャットをつけると……

 

「ぶっぶーですわっっ!!」

「どわあっ!!」

 

 いきなり、画面いっぱいにダイヤさんのぶっぶー顔がどアップで映し出されてきたので、私はびっくりしてのけぞってしまいました。

 

「だ、ダイヤさん、どうしたんですか……?」

「なんとなく予感がしたのです。千歌さんが手を洗わずに部室に入ってきて、注意されても、『きっと大丈夫だよ~』とのほほんとしているだろう、という予感が」

 

 ダイヤさん、なんという勘なんですか!?

 

「さすがダイヤさん。千歌さんのことなら、なんでもお見通しずら~」

「いやずら丸、そこは感心するところじゃないでしょ……」

 

 しきりに感心している花丸ちゃんに、あきれたように善子ちゃんが突っ込みます。

 一方のダイヤさんはため息をひとつついて……

 

「まったく……。静岡県が解除されているのは知っていますが、まだ完全に終息したわけではないのですから、油断をしてはいけませんわよ」

「はーい……」

「そういえばダイヤさん。東京のほうはどうなんですか? まだ解除されてないそうですけど」

 

 その曜ちゃんの質問に、ダイヤさんは表情をゆるめて答えます。

 

「ああ、通っている大学は、まだ感染は出てないので大丈夫ですわ。私もいたって健康ですし。でも、果南さんや鞠莉さんのほうは心配ですわね……」

「あ……」

 

 そうでした。確か、果南ちゃんはアメリカに留学しに行って、鞠莉ちゃんもイタリアに行ったんだっけ。どちらの国もかなり流行ってるって言ってたし、ちょっと心配だなぁ。

 

 と、そこで、二つほど着信がありました。果南ちゃんと鞠莉ちゃんからの着信のようです。ダイヤさんが何か操作をすると、PCに二人の映像が映し出されました。

 

「みんな、シャイニ~♪ 久しぶりね☆」

「久しぶり。千歌もみんなも、元気そうでよかったよ」

 

 鞠莉ちゃんは相変わらず元気そうでよかった。果南ちゃんも元気そうだけど、鞠莉ちゃんに比べると、元気さが少ないような?

 

「今、お二人のことを話していたのですわ。お二人とも、今度の新型コロナは大丈夫でしたの?」

「All Ok♪ 私はなんともなかったわ。ちゃんと手洗いとかしてたしね。ただ、外出禁止令出てたし、店も臨時閉店してたから、退屈だったけどね」

「私のほうは……実は一時期、かかっちゃっててね」

「えええええ!?」

 

 果南ちゃんが新型コロナに!? あの健康で体も丈夫そうな果南ちゃんが新型コロナにかかっちゃうなんて、衝撃的です!

 

「か、果南ちゃん、大丈夫だったの?」

「うん。幸い、軽症だったらしくてね。二週間ぐらい入院して、注射してもらったら、すぐよくなったよ」

「そうなんだ、よかったぁ……」

「果南ちゃんまでかかっちゃうなんて、しんがたころな、とても恐ろしいずら……」

「うん、ぴぎぃ……」

 

 私の後ろの花丸ちゃんと、ルビィちゃんも表情を曇らせてます。果南ちゃんのような、健康が服を着て歩いているような人までかかっちゃうなんて、新型コロナの恐ろしさを実感したような思いです。

 

「まぁ、お二人とも大事なくて何よりですわ。さて……」

「え?」

「千歌さん、これからお話する前に、手を洗ってらっしゃいっっ!!」

「は、はい~~」

 

 そして私は、急いで部室を出て行ったのでした。

 みんなのくすくすと笑う声に見送られて。

 




皆さん、新型コロナには気を付けましょう。
手洗い、三密を避けること、不要不急の外出の自粛はしっかりと!

ダイヤさんとの約束だ!(笑


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NO EXIT ORIONの罠!

Printempsの曲『NO EXIT ORION』を聞いてみて、気づいたことを二次創作にしてみました(笑


「え、あの学校が?」

 

 私……高坂穂乃果21才は、自分の部屋で、Aqoursの高海千歌ちゃんと電話していました。

 

「うん! 私たちが前々から活動をしていたかいがあって、浦の星の校舎を学校カフェとして作り直すことになったんだ!」

 

 浦の星……浦の星女学院は、千歌ちゃんたちAqoursの出身高校。話によれば、この春に廃校になり、彼女たちは沼津市の中心部にある静真高校に編入されることになったんだけど……。

 それから、彼女たち元浦の星の生徒たちは、頑張って校舎を残す活動を続け、今の電話の通り、学校カフェとして再利用することになったそうです。本当によかった。

 やっぱり、自分たちの通っていた高校の校舎が取り壊されるのって、なんか悲しいもんね。

 

「それでね。計画発動記念のイベントをすることになって……そこでのライブに、μ'sにも来てほしいんだって! もちろん、私たちAqoursも出るんだけど。どうかな?」

「それいいね! あ、メンバーの都合とかあるから、もしかしたらどれかのミニユニットだけになっちゃうかもしれないけど、大丈夫?」

「うん、OKだよ! 運営の人も、来てくれるだけでも嬉しい、と言ってたし!」

「わかった。それじゃ、みんなに話を持ち掛けてみるね」

「うん。返事楽しみにしてる!」

 

 そして電話は切れました。

 それから穂乃果はすぐ、まずはことりちゃんに電話をかけ始めたのでした。

 

* * * * *

 

「うーん、当日に参加できるのは私たちだけか~」

「仕方ないよ、穂乃果ちゃん。みんな、予定とがあるだろうし……」

「うん、そうだね。私たち三人だけで頑張ろう☆」

 

 その翌日、スタジオに来たのは、私とことりちゃんと花陽ちゃん……つまり、Printemps(プランタン)の三人だけでした。

 

 海未ちゃんは、当日は弓道の大会があり、

 凛ちゃんも、陸上の大会が。

 真姫ちゃんは、レポートの提出期限が近いそうで、参加できる時間の余裕がなく、

 絵里ちゃんは、モデルの仕事が入っていて、

 希ちゃんは、神社で行事があり、

 そして、にこちゃんは外せない番組の収録があって、当日は無理なんだそうです。

 

「うーん、そうだね。よーし、今回は私たちPrintempsの三人で、会場を盛り上げちゃおう!」

「「おー!」」

 

* * * * *

 

 と意気込んだのはいいんだけど……。

 

「うーん。歌う歌は、何がいいかなぁ……」

「そうだね~。『ぶる~べりぃとれいん』なんかいいんじゃないかなぁ」

「あ、『ぷわぷわーお!』もいいと思うよ!」

 

 イベントで歌う曲を選ぼうと思った私たちだけど、どの曲も思い入れのある曲たちばかりで、なかなか選べなかったんだ。

 それで結局……。

 

「よーし、そしたら、Printempsの曲、全部歌おうよ!」

「わー、いいね!」

 

 意気投合する私と花陽ちゃん。と、そこに。

 

「うーん。でも、全部歌うだけの時間あるかなぁ……? どれか一曲、必ず歌う曲を選んで、後の曲は、残り時間があれば歌うようにしたらいいんじゃないかな」

 

 とことりちゃん。うーん、そのほうがいいかも……。

 

「そうだね。そしたらどの曲がいいかなぁ……?」

「そうだね~。『Love Marginal』なんかいいんじゃないかなぁ」

「あ、『UNBALANCED LOVE』もいいと思うよ!」

 

 そして最初に戻る……うーん、なかなか決まらないなぁ。

 

「なかなか決まらないね。どうしようか?」

「うーん、そうだ! Youtubeで公開されてるPrintempsの曲の視聴回数を調べて、その中で一番回数の多い曲にしたらいいんじゃないかなぁ」

「おぉ、それナイス!」

 

 そのことりちゃんの素晴らしい提案を採用し、さっそくYoutubeを見てみる私たち。その結果……。

 

「あ、『NO EXIT ORION』が一番多いね!」

「そうだね。視聴回数ダントツだ! これにしようか?」

「うん、これにしよ!」

 

 では、曲が決まったところで、練習開始だー! がんばるぞー!

 

* * * * *

 

 それから二週間。穂乃果たちは、『NO EXIT ORION』の振り付けの練習をメインに頑張りました。もちろん、他の曲の練習もしてたけど。

 

 大変だったけど、頑張ったかいあって、『NO EXIT ORION』の歌も振り付けも、超完璧に仕上がったよ! 他の曲もばっちり! これなら、次のイベントはばっちりだね!

 

 と、そこに。

 

「こんにちは、穂乃果、みんな。練習、頑張っているみたいですね」

 

 海未ちゃんが私たちが練習しているスタジオに、様子を見に来てくれました! 手に持っているのは、差し入れかな?

 

「はい、差し入れです。練習を一休みした時にでも食べてください」

「うわー、ありがとう海未ちゃん! ありがたくいただくね!」

「いえいえ、ところで、イベントで歌う曲は決まったのですか?」

 

 そう聞いてきた海未ちゃんに、私は笑顔で答えます。

 

「うん! 『NO EXIT ORION』を歌おうと思ってるの!」

「『NO EXIT ORION』を……」

 

 すると、海未ちゃんは顔をしかめました。あれれ?

 

「え、どうしたの、海未ちゃん?」

「いえ……あの曲、歌詞を改めて読んでみると、ヤンデレの歌っぽい感じがするのですが、大丈夫でしょうか……?」

「えー……そうかなぁ?」

 

 海未ちゃんにそう心配そうに言われ、私たちは改めて歌詞を思い返しました。

 

「『出口のないオリオン座へあなたを誘って』……」

「『二人きりの夜空で、恋を確かめたい』……」

「『他に誰が必要なの』……」

「「「『私以外はいらないと決めなくちゃ出してあげないわ』……」」」

 

………。

 

「「「あ」」」

 

 気まずい沈黙。そして……。

 

「「「うわああああああああ!!」」」

 

* * * * *

 

 それから私たちは、改めて曲を選びなおし、今まで以上に頑張って、歌やダンスを練習しまくったのは言うまでもありません……。

 



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曜まき誕生日記念:プレゼント

この前の曜とまきの誕生日に、それを記念して書いた作品です。

Aqoursのみんなと真姫が、曜の誕生日に、素敵なプレゼントをする、というお話です。どうぞお楽しみくださいー


 3年生のある日、私、渡辺曜は、梨子ちゃんをのぞくAqoursのみんなと、一緒に沼津の街中を歩いてました。

 なんでも、今日は私の誕生日だというので、みんなが私にプレゼントしてくれるんだって! 楽しみだなぁ。

 

「こうして街を歩いてるだけでも楽しいよね。ダイヤさんたちも来られたらよかったのになぁ」

「そうだね~。でも、ダイヤさんは東京だし、果南ちゃんや鞠莉ちゃんは外国にいるから仕方ないよ」

「うん~。でも、プレゼントというけど、一体なんなんだろうなぁ。梨子ちゃんがこの場にいないのも気になるし」

 

 私がそう聞くと、千歌ちゃんはくふふといたずらっぽい笑みを浮かべました。彼女のことだから、何か企んでるのかな?

 

「ふふふ、それは着いてからのお楽しみだよ~」

「あ、千歌ちゃーんー。そう言ってるうちについたーよー」

「ありゃ?」

 

 空ちゃんの言葉に、私が顔を上げると、そこはなんと、市民文化センターの前。ここに何があるんだろ?

 と、そこで。

 

「はいっ。それでは曜ちゃんっ。バースデープレゼントその1ですっ」

 

 千歌ちゃんが私に、封筒を差し出しました。これがプレゼント? 何が入ってるんだろう。

 そう思いながら、封筒を受け取って、中身を出してみると……。

 

「『西木野真姫バースデーピアノコンサート』入場券……?」

 

 西木野真姫さん。μ'sの元メンバーの一人。μ'sの皆さんとは、この前のスクフェスで知り合ったんだよね。真姫さんはとってもクールっぽい感じの女性で、確かお医者さんを目指して勉強してるって言ってたけど……。

 

「あのね、真姫さん、数日後が誕生日ということで、記念のピアノコンサートすることになったんですって」

「それでね。真姫さんが、今日が曜ちゃんの誕生日と聞いて、私たちにコンサートのチケットをプレゼントしてくれたんだよ! みんなで楽しんでね、って!」

 

 首をかしげている私に、涼ちゃんとルビィちゃんがそう説明してくれます。なるほど、そういうわけだったのかー。

 私のために、コンサートに招待してくれるなんて、とてもうれしいなぁ……あれ?

 

「あれ? そしたら梨子ちゃんは? この場にいないけど……」

「まぁまぁ。それは後のお楽しみということで~……」

 

 そして、そう言う千歌ちゃんに背中を押されて、私たちは文化センターの中に入っていきました。

 

* * * * *

 

 そしてコンサートが始まり、そして終わりました。

 どの曲も、とても素敵な曲ばかりで、とても素敵で楽しいコンサートだった~! 私、あまりクラシックには興味なかったけど、たまにはこういうのもいいなぁ……。

 

 でも結局、最後まで梨子ちゃんは出てきませんでした。一体なにがあったんだろう?

 そしてもう一つ。コンサートが終わって観客の人たちが席から立って去って行っても、みんなは立ち上がろうとしなかったんです。

 私が立ち上がろうとすると、みんなが「まぁまぁ」と抑えに来るし。

 

 私の頭がはてなマークでいっぱいになったころ、再び檀上に真姫さんが現れました。

 

「それではこれから、スペシャルバースデーコンサートを始めたいと思います。その前に、ゲストを紹介するわね。どうぞ」

 

 真姫ちゃんにそう紹介されて出てきたのは……。

 

(え、り、梨子ちゃん!?)

 

 そう。私の親友で、Aqoursのメンバーの一人の梨子ちゃんでした。え、え、どういうこと!? どうして、梨子ちゃんがそこにいるのでありますか!?

 

 ちょっと混乱してる私の横で、千歌ちゃんはしてやったり、というような顔をしています。

 

「こんにちは、みんな。桜内梨子です。今日は、大好きなお友達のために、真姫さんの協力で、素敵なプレゼントを届けたいと思います。どうぞ聞いてくださいね」

 

 そう言うと、梨子ちゃんは真姫さんと一緒にピアノの前に座り、演奏を奏で始めました。その曲は……。

 

「え……これって……」

 

 聞いたことのある曲。とてもよく知っている曲が流れだしました。

 

 それもそのはず。その曲は……。

 

 私がかつてセンターを担当していた曲、『恋になりたいアクアリウム』だったんです! それが素敵なピアノアレンジになって流れていました。

 

 そして続いて……。

 

 続いて流れたのは、私のソロ曲『Beginner's Sailing』。これも、とても素敵にピアノアレンジされていました。

 その時には、もう目頭が熱くなって……。

 

 私の曲を奏でてくれたことはもちろんだけど、曲からは、私を想う気持ちがいっぱいあふれ出ていて……。

 二人が私のために心をこめて演奏してくれるのがとてもわかったから……ぐすっ。

 

 そして、コンサートは終わりました。

 

* * * * *

 

 私が千歌ちゃんから借りたハンカチで涙を拭きながらエントランスに戻ってくると、しばらくして真姫さんが梨子ちゃんと一緒に降りてきました。

 

「改めて、お誕生日おめでとう、曜ちゃん。プレゼント、どうだったかな?」

 

 その微笑んで言う梨子ちゃんの声。その声についに私の中の何かが決壊しました。

 

「とーーーーってもうれしいよっ!! ありがとう梨子ちゃんっっ!!」

「きゃっ、ちょ、ちょっと曜ちゃんっ……」

 

 頭の上から、梨子ちゃんの困ったような声が聞こえてきましたが、私は感が極まりすぎて、ただ彼女を抱きしめ続けるだけでした。梨子ちゃんはやがて、「やれやれ」といった感じのため息をついた後、私の頭をなでてきました。

 

 落ち着いてきた私が、彼女から体を離してあたりを見ると、真姫さんは苦笑を浮かべ、他のみんなも暖かい視線を送ってきました。そして、月ちゃんも……って、月ちゃん!?

 

「つつつ、月ちゃん、どうしてここに!?」

「いやー、買い物で近くに来たら、ちょうど曜ちゃんやAqoursのみんなを見かけたからさ。何かあったのかなと思ってきてみたら。いやー、いいものを見たなぁ」

「あ、あうぅ」

 

 月ちゃんにまでこんなことを見られて、柄になく激しく照れちゃいます。きっと顔は真っ赤だよ~……。

 

「でもよかったじゃん。素敵な誕生日プレゼントもらえたみたいで」

 

 うん、それはもちろん……。

 

「うんっ、とっても素敵だったよっ。とっても幸せっ!!」

 




読んでくださり、ありがとうございます!(平伏

次の話は、AqoursとSaint Snowの話を書く予定です。
そちらも楽しみにしていてくださると嬉しいです!


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新米ちゃん強化計画!?

兼ねてからのPR通り、今回はAqoursとSaint Snowのお話です。

今回出てくる女の子は、劇場版のEDで、相棒探しをしていた理亞に声をかけていたあの女の子です。


「うーん……。あれ?」

 

 私……高海千歌がスクドル(スクールアイドル)たちの歌のPVを聞き終えて、背伸びしていると、携帯が鳴りだしました。発信元を見てみると、理亞ちゃんからのようです。

 

「はい、もしもし?」

「あ、千歌。いきなりだけど、お願いしたいことあるんだけど、いい?」

 

 理亞ちゃんが頼み事なんて、珍しいなぁ。どうしたのかな?

 

「ん、なに?」

「あのね、今度の夏休み、1週間ぐらい、Aqoursのみんなと合同合宿したいの」

「うん、いいよ! 喜んで! でも、急にどうしたの?」

「うん、それが……」

 

* * * * *

 

「Aqoursと理亞ちゃんたちとの合同合宿? うわー、嬉しいなぁ!」

 

 翌日、私は部室で、みんなに昨日の電話のことを話しました。彼女と一緒に合宿できると聞いて、ルビィちゃんはとっても嬉しそうにはしゃいでいます。

 

「私も、理亞ちゃんと会うのは初めてだからたーのしみー!」

「そうだね。私も、彼女にどんな服着せようかって楽しみだよ」

 

 新人の空ちゃんと涼ちゃんも、会うのが待ち遠しそうな様子です。

 涼ちゃんは、違う意味で楽しみみたいだけど……。

 

「でも、本当に急だね。どうしたの?」

 

 そう怪訝そうに言う梨子ちゃんに、私は昨日の電話のことを説明することにしました。

 

「うん。理亞ちゃんとユニットを組むことになった新人ちゃんなんだけど、とても内気で恥ずかしがりで、結成してから何カ月も立ってるけど、なかなかライブができそうにないんだって」

「なるほど。それで、私たちと合宿して、少しでもそれを改善しようってわけだね!」

 

 そう言う曜ちゃんの横で、善子ちゃんが目を光らせました。

 

「なるほど、任せなさい。この堕天使ヨハネが、1日で彼女をしもべにしてあげるわ。そうすれば内気さなんて吹き飛ぶわよ」

 

 そんな彼女に、善子ちゃんの幼馴染の国木田花丸ちゃんがジト目を向けて、冷たい声で言い返します。

 

「善子ちゃん。堕天使は善子ちゃん一人だけで十分ずら。これ以上増えたら、世の中大変なことになるずら」

「どういう意味よ! それとヨハネ!」

「そうよ、善子ちゃん。それに、新米ちゃんには、私が特製のお洋服を着せるんだから」

「ちょっと涼! 私が新米の子に、堕天使ファッションをさせるのが先なんだからね!」

 

 善子ちゃんと涼ちゃんとの間で、おかしなバトルが始まりそうな予感……。新米ちゃんのことが少し心配だなぁ。

 

「それで千歌ちゃん。合宿はどこでする予定なの?」

「うーん。うちの裏手の砂浜でやろうかな、って思ってる。理亞ちゃんたちと曜ちゃん、空ちゃん、涼ちゃんにはうちに泊まってもらおうかな、って」

 

 そう、北海道からはるばるやってくる理亞ちゃんたちはもちろん、聞いた話では、空ちゃん涼ちゃんも、住んでいるのは沼津のほうなので、合宿するなら内浦に泊まる必要があるんだよね。

 それを聞いて、曜ちゃんが目を輝かせます。空ちゃん、涼ちゃんも同じく輝かせています。

 

「うわー、また千歌ちゃんちに泊まれるんだね! すっごく楽しみ!」

「わたーしもー! 千歌ちゃんの家に泊まるの初めてだから、ドキドキだーよー!」

「そうだね。お気に入りの、おしゃれな枕をもっていかなくちゃ」

 

「よーし、それじゃみんな。合宿もはりきっていこー!」

『おー!』

 

 私の掛け声に、みんなが拳を振り上げて掛け声をあげたのでした。

 

* * * * *

 

 そして、合宿当日。私たちは駅前で、理亞ちゃんたちが到着するのを待っていました。

 

「まだかな、まだかな? 理亞ちゃんたち、まだかな……? わくわく」

「ルビィちゃん、落ち着いて。もうそろそろずらよ」

 

 やっぱり、ルビィちゃんは、理亞ちゃんたちが来るのが待ち遠しいようです。目を輝かせながら、周囲をきょろきょろを見まわしています。そんなところが、なんかかわいいなぁ。

 

「あ、そしたらヨハネ、ちょっと駅に行って、様子見てくる!」

 

 そこで、私が止めるのも聞かず、善子ちゃんは駅の方に走っていきました。

 

「うーん、行き違いになったりしないかなぁ……」

「それ以前に、善子ちゃん、方向音痴じゃなかったっけ……?」

「……」

 

 梨子ちゃんの言葉をきっかけに訪れる、気まずい沈黙。ま、まぁ、善子ちゃんも携帯持ってるし、大丈夫だよね!

 

 さらにそれから十数分後ぐらい。駅の入り口から、見慣れた姿が出てきました。あっ。あれは……。

 

「あ、理亞ちゃーん! こっちこっちー!」

 

 私が手を振ると、理亞ちゃんはかすかに微笑みながら、その横の女の子と一緒にこちらに駆けてきました。

 

「久しぶり。私も、この合宿楽しみにしてた。よろしく」

 

 ぶっきらぼうに言う理亞ちゃんですが、やっぱり声はどこか嬉しそうです。

 

「うん、よろしくね、理亞ちゃん!」

「うん……あ、いつまでもじもじしてるの? ほら、挨拶する」

 

 そう理亞ちゃんが、彼女の背に隠れてもじもじしてる女の子に声をかけると、その子はやはりもじもじしながら、背中の陰が出てきました。とってもおとなしそうな、いかにも後輩といった感じの女の子です。

 

「は、はい、あ、あの……。佐伯さち子です……よ、よろしくお願いしますっ」

 

 さち子ちゃんは早口でそう言うと、さっと再び理亞ちゃんの後ろに隠れてしまいました。本当に人見知りなんだなぁ……でも、そんなところもかわいいかも。

 

 と、そこで梨子ちゃんが。

 

「あ、そうだ、理亞ちゃん。ここに来る途中で、善子ちゃんと会わなかった?」

「善子と? ううん、見てないけど」

 

『………』

 

 そこで再び気まずい沈黙が、私たちAqoursを包みます。うーん、どうしよう……。

 

「あ、千歌ちゃん。善子ちゃん、携帯持ってるんじゃない? 電話してみたら?」

「うん、そうしてみる」

 

 そして、曜ちゃんの助言を受けて電話をかけてみますが……

 

 ……

 …………

 ………………

 

「つながらない……」

 

 そして、全員が同じタイミングで、ため息を吐き出します。

 

「仕方ない……探しに行こうか……。せっかく来たのにごめんね、理亞ちゃん」

「ううん、気にしないで。こんなハプニングもたまには楽しい」

 

 そして、私たちは沼津駅へ、善子ちゃんを探すために入っていったのでした。

 

 そして探すこと一時間。ようやく善子ちゃんを発見!

 聞くところによると、案の定迷ったあげく、さらに運悪く携帯のバッテリーが切れてしまったそうです。

 

 まぁ、ともあれ、無事に合流できてよかった!

 

* * * * *

 

 それから私たちは、バスに乗って内浦に向かいました。もちろん、バスの中でも盛り上がったよ!

 

「そうかー、聖良ちゃんは、函館の大学に通ってるんだね」

「うん。将来、『菊泉』を継ぐための勉強で」

「『菊泉』?」

 

 空ちゃんがそう聞いてきました。そういえば、空ちゃんたちはまだよく、理亞ちゃんたちのことを知らないんだっけ。

 

「うん。理亞ちゃんたちの家、甘味屋さんをやってるんだよ!」

「へぇ、そうなーんだー! 一度食べに行ってみーたいなぁー」

「甘味屋といえば、少し前に、千歌ちゃんに穂むらに連れて行ってもらったけど、あそこもおいしかったよね」

「うん。姉様も、今度穂むらに行って、参考にしたい、って言ってた」

 

 そう楽しく盛り上がる私たち。その後ろでは……。

 

「……」

「あれ、さち子ちゃん、どうしたずら?」

「もしかして緊張してる?」

 

 さち子ちゃんはやっぱり、緊張のためか固くなっちゃってます。その彼女に、花丸ちゃんとルビィちゃんが話しかけますが、やっぱりさち子ちゃんはおどおどしたまま。やっぱり初対面だからかなぁ? うーん。

 

 と、そこで善子ちゃんが。

 

「ふ、ここはこのヨハネに任せなさい。堕天使アイドル、変化の術!」

 

 そう言うと善子ちゃんは、もう片方もシニヨンに結って……。

 

「ふふふ、サ〇エでございまーす!」

 

 その彼女のネタに、一気に訪れる無言。花丸ちゃんなんかは、絶対零度よりも冷たそうな視線を送っています。

 気まずい沈黙。でも、そこで。

 

「ぷっ……くすくすくす……」

 

 さち子ちゃんが、かすかに笑ってくれました。少しは緊張がほぐれたかな?

 彼女が笑ってくれたなら、善子ちゃんの犠牲も無駄ではなかったようでよかった。

 

「犠牲って何よ! それとヨハネ!

 ……こほん、私の術に共鳴したリトルデーモンさち子には、とっておきのお宝を見せてあげるわ。

 これを見れば、一気に笑顔になれるわよ」

 

 そして彼女が取り出したのは……スマホ? そしてそのスマホに映し出されていたのは……。

 

「リリィ、召還!」

「くらえ、梨子ちゃんレーザービーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーームッッ!!」

 

 その映像を見て、顔を赤くする梨子ちゃん。

 そう、この前のイベントにギルティキスが出た時の映像。そのイベントでギルキスが新曲「New Romantic Sailors」を披露した時に、梨子ちゃんが泣き笑いの表情で「梨子ちゃんレーザービーム!」をやったシーンでした。

 

「どう? これに勝るお宝はないわよ」

「消して! いますぐ消してーーーーーーーーーー!!」

 

 そう泣き叫びながら、善子ちゃんからスマホを取り上げようとする、顔を真っ赤にした梨子ちゃん。

 案の定、バスの中は大騒ぎになり、私たちは運転手さんから雷を落とされたのでした。

 

 でも、その様子を見て、さち子ちゃんが笑顔になってくれたのは不幸中の幸い……かな?

 

* * * * *

 

 そして、それから、さち子ちゃんはすっかり、私たちと打ち解けました。

 さすがに、完全に恥ずかしがりは治らなかったけど、それでも一緒に歌ったり踊ったりできるほどには改善しました。よかったよかった。

 合宿の最終日には、理亞ちゃんと一緒に素敵なパフォーマンスできるほどにまでなったよ。やっぱり笑顔って大切なんだね!

 

 あの動画がその後どうなったかについては……秘密ということで。

 

 




さてさて、いかがでしたでしょうか?

次回は、またμ'sの話を書けたらいいな、って思います。
どんな話にしようかなぁ?

お楽しみにです!


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生徒会長を手伝おう!

渡辺月役の黒沢ともよさんが新型コロナにかかってしまわれたそうで……。

彼女の快復を祈念する意味も込めて、一遍書かせていただきました。

どうか、彼女が早くコロナから快復しますように……。

ダイヤさんさっそうと再登場の他に、虹アニメ放送開始を記念して、特別ゲストも登場しますよ!


 ある日、私たちAqoursが次のライブのミーティングをしていると……。

 

 ガラガラ……。

 

「あ、みんな、いるかな?」

「あれ? 月ちゃん?」

 

 静真高校の生徒会長で、私……高海千歌……の幼馴染、渡辺曜ちゃんの従姉の渡辺月ちゃんが部室にやってきました。

 

「どうしたの月ちゃん?」

「うん。実は生徒会の仕事を手伝ってほしくて……」

「生徒会の仕事? 他の役員たちはどうしたのよ?」

 

 片方の髪をシニヨンに結った子、津島善子ちゃんがそう聞くと、月ちゃんは少し困ったような表情を浮かべました。

 

「うん。最近風邪、流行ってるでしょ? それでみんなかかっちゃって……」

「ありゃー、それは大変ずら。新型コロナも流行ってるし、心配だよね。そういうことなら、喜んで手伝うずら~」

「うん、がんばーろー」

 

 栗色の素朴そうな女の子、国木田花丸ちゃんと、新入部員の一人で、変わった口調と短いポニーテールが特徴の結城空ちゃんが、喜んで同意します。

 

「それで月ちゃん。何をすればいいのかな?」

「うん、それはね……」

 

* * * * *

 

「えーと、これはそこだよね」

「違うよ千歌ちゃん。それはこっちだよ」

「あ、そうだった。ありがとうね、梨子ちゃん」

 

 他方では……。

 

「ひぃふぅ……。書類がたくさんあって、目が回っちゃうよ~……」

「もう、仕方ないわね。それ少し貸しなさい、ルビィ」

「オラも、少しやるずら」

「うん、ありがとう、善子ちゃん、花丸ちゃん」

「あ、それなら私のーもー」

「ダメだよ、空ちゃん。まだ余裕あるんだから、ちゃんと自分でしないと」

「はうっ」

 

 生徒会室にやってきた私たちは、みんなで書類の仕分けをやっていました。たくさんの書類があるうえに、仕分けの分類もたくさんあって、私たちは、その大変な仕事とみんなで格闘してました。

 こんなたくさんの仕事を私たちより少ない人数でやってるんだから、生徒会の皆さんはすごいなぁ……。

 

 そう思いながらも、引き続き奮闘し、私たちはなんとか仕分けをやり終えました。

 

「できたよ、月ちゃん。次は何をすればいいのかな?」

「うん、次はね……」

 

 そう答えようとする月ちゃんの様子に、私はちょっと違和感を感じました。なんかぼーとしてるような、熱に浮かされているような……。

 

「あれ? なんか月ちゃん、ちょっと様子変じゃない? ちょっとごめんね」

「え、こ、これは……」

 

 そして私が月ちゃんのおでこに手を当てると……。

 

「ええええ!? 月ちゃんも、熱あるじゃない!」

『えええええええ!?』

 

* * * * *

 

 かくして。どうやら風邪をひきながら無理して生徒会の仕事をしていたらしい月ちゃんを保健室に寝かせて、私たちは生徒会室の中で途方にくれてました。月ちゃんはこの後、お父さんが迎えに来るらしいです。

 でも……。

 

「まだこれだけの仕事あるのに、どうしよう……」

「うん、それに、仕事もやり方もよくわからないし……」

 

 そう言いながら困っちゃう私と梨子ちゃん。

 

「あーあ、こんな時、ダイヤさんがいてくれたらなぁ……」

 

 そうぼやく、曜ちゃん。ところが!

 

「ふふふ、皆さん、私のことを呼びました?」

「ふへ?」

 

 その聞き覚えのある声に私が振りむくと……。

 

「ええええ、ダイヤさん!?」

「どうしてここに? それに隣の人は?」

 

 生徒会室の入り口に、都会風にファッションに身を包んだダイヤさんが立っていました。その隣には、いかにもスクールアイドルといった衣装を着た、私と同じくらいの年頃の女の子も立っていました。

 

と、そこで。

 

「あああああ! 新進気鋭のスクールアイドル、虹が咲学園の優木せつ菜さんだーっ!」

 

 と声をあげるルビィちゃん。ダイヤさんの隣に立っている女の子、優木せつ菜ちゃんは、微笑むとぺこりと一礼しました。

 

「用事があって、ちょっと内浦に帰郷したんですの。それでどうせだから皆さんに顔を見せようかとこの学校を訪れたら、皆さんが生徒会室にいると聞きましたので」

「私は、スクールアイドル活動が終わった後、虹が咲の生徒会の仕事で、ここに打ち合わせに来たんです。Aqoursの皆さんのことはよく存じてますよ。それで、どうしたんですか?」

 

 そう聞いてくるせつ菜ちゃん。私は、これは渡りに船と、二人に事情を説明することにしました。

 

「そうだったんですの。でもご安心なさい。浦の星の生徒会長だった私がいれば、百人力ですわっ!」

「私も、スクールアイドル活動の片手間でしたが、虹が咲の生徒会長もやってます。きっとお役に立てると思いますよ。さぁ、みんなで力を合わせて、仕事を終わらせましょう!」

 

 かくして、私たちにダイヤさんとせつ菜ちゃんも加えて、再び残された仕事に取り掛かりました。

 さすが、生徒会長をやっていたダイヤさんと、現役生徒会長というせつ菜ちゃんの手際もあって、仕事がスイスイと片付いていきます。そしてあっという間に仕事は片付いちゃいました!

 

 さすがだなぁ。せつ菜ちゃんはもちろん、ダイヤさんが実は有能な生徒会長だったというのを実感した私でした。

 

「当然ですわ。どこの誰かさんのおかげで、μ'sとラブライブ好きということをばらされたりと、有能なところがあまりない印象でしたでしょうけど、これでも浦の星を切り盛りしてきたんですのよ。誰でしょうね、私のスクドル好きをばらしたのは」

「ははは……」

 



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