【完結】調の軌跡 (ウルハーツ)
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序章
0-1+α


簡単な過去の経緯

約6年程前、【無の軌跡】【無の軌跡 外伝】を投稿

前者は削除。後者は打ち切りに。何時か復活を目指してさようなら。


約6年後

数回投稿せずに書き直しを経て考えていた話の終盤まで完成。

かなりストックも出来たから多分大丈夫。投稿しよう。

結論。やっぱり男の娘は自分には難しい! 以上!


 その日、トリスタの街に存在するトールズ士官学院は新しい生徒達を迎える入学式であった。列車から降りて来る生徒達は一様に制服を着用しており、ライノの花が咲き乱れるトリスタの地へ足を踏み入れる。緑色の制服を着た生徒達。白い制服を着た生徒達。その色が示す事柄は平民か貴族か否か。

 

「……ふぁー」

 

「ぃ、行かなぃ……の?」

 

「めんどくさい」

 

 去年まで制服の色は2種類。だがその日列車から降りて来る生徒達の中に数名、赤い制服を着用した者達が存在した。現在公園のベンチで士官学院に向かう生徒達の姿を眺めながら欠伸をする白髪の少女と、そんな彼女の隣で不安そうに人々を見つめる薄水色の髪をした少女も赤い制服であった。

 

「怒られちゃぅ、ょ?」

 

「……それも面倒だね」

 

 か細く弱々しい薄水色の髪をした少女の言葉に白髪の少女は何かを想像して微かに眉間へ皺を寄せる。そして座って居たベンチから立ち上がると、隣に居た少女へ手を伸ばした。そして2人は手を繋いだまま、新入生たちが向かう士官学院へ同じ様に足を進め始める。明らかに他の生徒達と年齢が違う2人は当然浮いており、特に気にした様子の無い白髪の少女とは反対に薄水色の髪をした少女はビクビクと怯える様子を見せ続ける。そして彼女達が去ったと同時に駅からまた1人、赤い制服を着た黒髪の青年が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に集められた生徒達は学院長、ヴァンダイクの話を聞いた後に予め決められていた教室へ向かう様に指示を受ける。だが白い制服と緑色の制服を着た生徒達はその指示に従って移動を始めるものの、赤色の制服を着た者達はその指示に戸惑うばかりだった。総勢10名。赤い制服を着た者達は一様に困惑する中、1人の女性教官が声を掛ける。

 

 サラ・バレスタイン。それが女性教官の名前であり、彼女は自分が赤い制服を着た者達の担任教官である事を。そしてこれから『特別オリエンテーリング』を行う事を告げる。更に困惑が広がる中、彼女が着いて来る様に言って講堂を出れば、各々疑心暗鬼になりながら彼女を背を追った。

 

「行くよ」

 

「ぅん」

 

 白髪の少女に伸ばされた手を掴み、一緒に歩き始める薄水色の髪をした少女。明らかに他の生徒達に比べて幼い見た目の2人は10人と言う少ない人数の中では嫌でも目立ってしまう。『何故子供が?』『あの子も生徒なのか?』『可愛い』等々、色々な感想を心の内で8人が告げ乍らサラの後を追い掛けて辿り着いたのは……古びた旧校舎だった。

 

 中は講堂の半分程度の広さで、サラは入って来る10人をステージの様に高い場所から見下ろす。そして始まる説明に……1人の生徒が抗議した。緑髪の眼鏡を掛けた生徒、マキアス・レーグニッツ。彼が抗議した理由は赤い制服を着た生徒達。つまりこの場に居る10人が身分に関係なく選ばれた、と言う部分である。どうやら彼は大の貴族嫌いの様であり、そんな彼の抗議を鼻で笑う人物が次いで口を開いた。

 

「ぁぅ……喧嘩、してる……」

 

「気にしなくて良い」

 

 ユーシス・アルバレア。そう名乗った青年は紛う事無き貴族であり、それも四大名門と呼ばれる程の家柄であった。そんな彼の正体を知って噛み付く様に話をするマキアス。両者の間にピリピリとした空気が漂う中、ステージの上に立つサラが手を叩いて自分へ注目させる。そして彼女は話の最中、何気無く少し後ろへ下がると……傍に合った像に触れた。正確にはそこにあったスイッチに。

 

「!?」

 

「なっ!?」

 

「しまった!」

 

 突如傾く床。その傾きは大きく、誰もが真っ直ぐに立っては居られなかった。1人、また1人と落ちていく中で白髪の少女はワイヤーの様な物を天井へ投げてぶら下がる事で落下を回避する。そしてその片足には必死でしがみ付く少女の姿があった。

 

「た、高ぃ……怖ぃ……!」

 

「離しちゃ駄目」

 

「こら、フィー。あんたも行きなさい」

 

 フィーと呼ばれた白髪の少女は足にしがみ付く少女を落とさない様にしようとするも、サラが言うと同時に小さな刃を投げる。それはフィーのぶら下がるワイヤーを切り、2人は落下する事になった。

 

「はぁ……頼んだわよ」

 

 悲鳴を上げ乍ら落ちていく少女と面倒そうにそんな少女を滑りながら支えるフィーを眺め、サラは静かに告げるとその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎・地下区画

 

 フィーに支えられて降りて来た少女は既に落とされた8人と合流する。何故か黒髪の青年が頬に手形の後を付けているが、その理由を遅れて来た2人が知る事は無かった。

 

「!?」

 

「これは……」

 

 突然鳴り響く電子音。驚いた様子でフィーの後ろに隠れた少女を横目に、各々が鳴っているそれを取り出した。小さな【導力器(オーブメント)】。そこから聞こえて来るのはサラの声であり、各々が手に持つそれが【ARCUS(アークス)】と呼ばれる戦術導力器であると説明される。

 

「戦術オーブメント。確かクオーツをセットする事で魔法(アーツ)が使えるんですよね?」

 

「っ!」

 

「平気」

 

 眼鏡を掛けた少女の言葉に僅かに反応を示す中、前に立つフィーが静かに告げる。そんな2人の様子に数人が気付く中、サラの説明は続く。そして物は試しとクオーツを付けて見る様に言われれば、薄暗かった部屋の明かりが付き始めた。見えてくる9つの台座。その1つ1つに色々な形をしたケースや袋が置いてあり、各々がそれに見覚えがあった。

 

 少女はフィーと共に1つの台座へ向かう。そこには小さな小箱と袋が置いてあり、フィーは小箱を開けてその中を確認した。紫色の宝石にも見える珠。マスタークオーツと呼ばれるそれは中に鳥の様な紋様が浮かんでおり、フィーの持つARCUSにピッタリ嵌りそうな場所があった。そしてそれを付ければ……フィーは不思議な感覚を得る。

 

「だぃ、じょぅぶ?」

 

「ん。問題無いね」

 

 他の面々も同じ様な感覚を得る中、突然閉じていた壁が開く様にして奥へと進む道が生まれる。サラ曰く奥には人を襲う魔獣が徘徊しており、その場所を抜けて入り口までやって来る事。それが特別オリエンテーリングの内容だと説明。『頑張ってね~』と陽気に告げて通信が終わり、全員が同じ道を前に頭を悩ませるしか無かった。

 

「ん」

 

「ぅん」

 

「あ、ちょっと!」

 

 どう行動するか悩む面々を置いて手を伸ばしたフィー。少女はその手を取ると、2人はさも当然の様に2人で行動を開始してしまう。思わずそんな彼女達に金髪の少女が声を掛けるが、2人が足を止める事は無かった。

 

 その後、ユーシス。マキアスの順に1人で行動を開始してしまう中、残ったのは6名。男子女子共に3名ずつであり、金髪の少女は黒髪の青年にあからさまな警戒心を見せ乍ら男女別に行動を開始する事になった。

 

「ラウラ・S・アルゼイドだ。宜しく頼む」

 

「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いします」

 

「アリサ・Rよ。よろしく。……あの子達、大丈夫かしら?」

 

 金髪の少女……アリサは行動を共にする青髪の少女と眼鏡の少女を相手に自己紹介をする。ラウラ、エマと順に名前を知った事で次に彼女が感じたのは先に行ってしまった2人の少女の安否。エマも同様に心配する中、ラウラは出来る限り早く合流出来る様にしようと告げる。異存は無く、3人は行動を開始。アリサは弓を。ラウラは大剣を。エマは魔導杖を手に奥へ歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも先行するフィーと少女。通路を歩いていた2人だが、突然少女がその足を止める。そして目の前にある曲がり角を前にフィーへ告げた。

 

「ぃる……3匹」

 

「ん、了解。片づけて来る」

 

 少女の言葉に頷いたフィーは両手に砲身と刃の付いた武器を2本取り出す。双銃剣とでも言うべき獲物。それを片手に壁へ背中を付けて僅かに顔を出し、視界に少女の言葉通りに徘徊する3匹の魔獣を確認して……フィーは飛び出した。曲がり角故に見えない壁越しに聞こえる斬撃音と銃声。数回響いた後、武器をしまいながらフィーが戻る。無表情のまま、片手をピースサインにして。

 

「楽勝」

 

「ぉ疲れ……様」

 

 安心した様に返した少女は再びフィーと手を繋いで道を進む。……やがて2人は再び広い場所へ到着した。上へ行ける階段が見え、そこが終点だと分かったフィー。だがそんな彼女は何処か怯えた様子で何かを見つめる少女の姿に気付いた。

 

「ぁれ……ぃきてる……」

 

「……ちょっと面倒かな」

 

 少女が見つめる先にあったのは大きな石造。一見唯の石造だが、少女の言葉にフィーは少し遠い目をした後に後ろを振り返る。自分以外にもここへ向かっている筈の8人を思い浮かべて。

 

「仕方ないか」

 

「待つ、の?」

 

 少女の言葉に頷いたフィーは適当な場所に座り込んだ。すると少女もその隣に座り込み、それを横目に見たフィーは体勢を横にする。頭は少女の膝に乗り、少女はそれに「ぁ」と小さな声を出した後……その頭に手を置いた。

 

 それから数十分。僅かに遠くから聞こえる戦闘の音に気付いた少女がフィーへ声を掛けるが、彼女は目を開けても頭を離そうとはしなかった。そして近づいて来る足音。その数は3つであり、曲がり角から姿を現したのは3人の少女達だった。

 

「っ! 其方達は」

 

「良かった! 無事だったんですね」

 

「……」

 

「ぁぅ」

 

「お疲れ」

 

 ラウラが気付いて声を掛け、エマが安堵の表情を浮かべる。そんな中、1人だけ曲がり角を曲がった場所から固まった様に動かないアリサ。言葉を返せずに困る少女と頭を上げて立ち上がりながらフィーが言葉を返す中、ようやくラウラとエマがアリサの様子に気付いた。

 

「アリサさん、どうしたんですか?」

 

「一体何が……アリサ、鼻血が出ているぞ」

 

「……はっ!? な、何でも無いわ。えぇ。何でも。良かったわ、2人が無事で……ふぅ」

 

 2人の声を聞いて数秒。我に返った様に答えたアリサは鼻から僅かに流れた血を拭った。一応跡が残らない様にしっかりと拭き終わった彼女は座ったまま怯えた様子で自分達を見る少女の前に片膝で体勢を低くして声を掛けた。

 

「こんにちわ。私の名前はアリサ・R。貴女のお名前は?」

 

「っ! ティア……です」

 

「そう。ティアちゃんって言うのね。ティアちゃん……ふふ」

 

「……」

 

 自己紹介を始めたアリサに怯えながらも少女は自らの名前を答える。ティアと名乗った彼女にアリサは笑みを浮かべてその名前を反復する様に言い、更に笑みを浮かべる。ラウラとエマが先程と違う違和感に首を傾げる中、フィーは彼女へ何処か冷たい視線を向けていた。

 

 各々の自己紹介を改めて済ませた後、ラウラはフィーにここで何をしていたのか質問する。疲れて休憩していたかも知れないと僅かに思っていた彼女だが、返って来たのは『面倒な敵が居る』と言う事実。それが確かに今にも動き出しそうだが、何処からどう見ても石造であるが故に彼女は困惑した。するとフィーは少しだけ目を瞑った後、徐に石造へ近づき始める。

 

「っ! フィー……!」

 

「見た方が早い」

 

 警戒しながら石造へ近づき続ければ、やがて僅かな動きの後に石像は完全な生物へと変化した。目の前の光景に驚き、近くに居るフィーを助ける為に飛び出す3人。フィーも双剣銃を構える中、振り返らずに彼女はティアへ告げる。

 

「心配ない」

 

「ぅ、ん……頑張って……!」

 

「……健気な応援……良いわ」

 

「? アリサさん、何か言いましたか?」

 

「いえ、何でも無いわ。! 来るわよ!」

 

 始まる巨大な生物との死闘。フィーが軽やかな身の熟しで敵を翻弄してはラウラが重い一撃を加え、隙があればアリサの放つ矢が突き刺さる。エマの補助もあり、一撃一撃の威力は大きい。それ故にその戦いは殆ど一方的であった。……遅れてやって来た男子達が最初に目にしたのは、倒れ伏せる巨大な生物を前に喜び合う少女達の姿であった。





ティア

言語Lv.1(最大Lv.10)

人慣れLv.1(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
フィー・サラ
★★☆☆☆

★☆☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
アリサ・ラウラ・エマ


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第Ⅰ部-第1章- 初めての実習
1-1


 特別オリエンテーリングが行われた日から数日。赤い制服を着た10人の生徒達は本校舎2階の左奥に用意された教室で日々授業を受けていた。旧校舎での出来事を終えた後、サラに改めて説明を受けた面々。特化クラスⅦ組と呼ばれるクラスに入るか、他の生徒達と同じ様に平民と貴族に分かれて学院生活を送るかの判断を任された時、誰よりも先に参加の意思を伝えたのは黒髪の青年……リィン・シュバルツァーだった。そして彼を皮切りに様々な思いを抱え乍ら参加の意思を示した面々。

 

『フィー。あんたはどうするの?』

 

『別にどっちでも。サラが決めて良いよ』

 

『駄目。あんたが決めなさい。あぁ、でも辞退するならティアとは一緒に居られないわね』

 

『……参加で』

 

 そんな会話もありながら、結局全員がⅦ組としてトールズ士官学院への正式な入学を果たした。他のクラスに比べて少人数で制服も違う。多少目立ちながらも日々を過ごし続け、今日もまた放課後を迎える。担任教官であるサラから明日が自由行動日と呼ばれる授業の無い休日の様な日であると説明を受けた後に解散を言い渡されれば、各々が目的を持って行動を開始する。クラブに入った者もいれば、放課後は自由に過ごす者もいる中。ティアは普段通りフィーに連れられて教室を後にした。

 

「何か、あの光景も見慣れて来たね」

 

「あぁ。……にしても驚いた。俺達より小さいとは何となく察していたが、フィーは15歳でティアは12歳だったか。本来、入学出来るものなのか?」

 

「飛び級って制度があるなら可能な筈だ。けど、ティアはそれにしても幼過ぎる気がするな」

 

 去って行く2人の後ろ姿を眺めて居た時、リィンは入学初日に仲良くなったエリオット・クレイグとガイウス・ウォーゼルに話しかけられる。彼らは自分達よりも幼い少女が同じクラスメイトである事にまだ困惑気味だった。特にティアに至っては飛び級出来る程に何か長けている事がある様には見えず、12歳と聞いた際にはその雰囲気や言動も相まって更に幼いとさえ思ってしまった。唯1つだけ、リィンは特別オリエンテーリングが終わって旧校舎を去る間際にサラがティアへ告げた言葉を覚えていた。

 

『取り合えず、1人じゃ無くなって良かったわね。まぁ、フィーは殆ど確定だったけど』

 

『ぅん……』

 

 その会話を聞いた時、リィンはサラがティアにだけ参加の意思を聞かなかった(・・・・・・・・・・・・)事に気付いた。まるでティアはⅦ組に参加する事が予め決められていたかの様であり、その理由は未だ分からない。

 

 完全に去った2人を見送った後にエリオットが思い出した様にクラブについての話をリィンへし始める中、教室を後にしたフィーとティアは中庭のベンチに座っていた。僅かに感じる風が心地よく、目を細めてそれを感じる2人。するとティアがフィーへ視線を向けて弱々しく口を開く。

 

「フィー……クラブ、はぃる、の?」

 

「まだ考えて無い。……ふぁ~」

 

「眠ぃ……?」

 

「ちょっとね」

 

 答えた後に欠伸をするフィーの姿に再び質問したティアは、その答えを受けて何時かの様に膝を軽く叩いて受け入れる準備をする。するとフィーは軽くそれを横目で見た後、「サンクス」と告げて体勢を横にし乍らティアの膝に頭を乗せた。以前と違ってベンチ故に足に掛かる負担は少なく、ティアは何処か嬉しそうに微笑みながらその頭を撫でる。そして徐々に眠気に誘われてフィーが寝付く中、そんな2人を屋上から1人の女性が見下ろしていた。恐らく学生であろう女性。しかしその服装は制服では無く、黒のライダースーツ。彼女は幼女と少女のほのぼのとした空間を眺め、やがて深く息を吐いて空を見上げる。

 

「あぁ……尊いな……」

 

 彼女の呟きを聞く者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。Ⅶ組の生徒達が過ごす第3学生寮、フィーの部屋のベッドで眠気に襲われて船を漕いでいたティアは突然聞こえるノックの音に飛び上がる。それは来客が来た証であり、彼女はベッドの隅で怯えながら扉を見つめ続けた。そんな彼女の姿にフィーは『やれやれ』と頭を振ると、扉の前へ。相手を確認すれば、それはリィンであった。彼の用事は生徒手帳の配布。特別なクラス故か、少々遅れてしまったそれを彼は代わりに預かっていたのだ。

 

「っと、ティアもここに居たのか。なら、これがフィーのでこっちがティアのだな」

 

「ん。サンクス……ティア」

 

「ぁ、ぅ……ぁりが、とぅ」

 

「あぁ。それじゃあ。お休み」

 

 渡されたそれを受け取ったフィー。ティアも恐る恐る近づくと、それを受け取って弱々しくリィンへお礼を告げる。その後、リィンが部屋を後にすれば渡された生徒手帳をティアは手に取って眺めた。顔写真の映ったそれは自分だけの物。何処と無く目をキラキラさせている様にも見えたフィーは「良かったね」と告げ、同じベッドへ腰掛けた。

 

「今日はどっちで寝る?」

 

「……こっち……駄目?」

 

「別に駄目じゃない」

 

 フィーの質問。それはティアがこの部屋かサラの部屋の何方かで普段寝ている故の質問であった。第3学生寮と呼ばれるⅦ組の生徒達とサラが寝泊りをする寮。そこはまだ部屋に空きがあるものの、ティアの部屋は用意されていなかった。そもそも自分の荷物が殆ど無かったティア。小さな鞄1つで持ち物は事足りる為、現在心を許しているサラかフィーの何方かの部屋で寝るのが現状である。そして今日は本人の意思で、フィーの部屋で眠る事が決定する。お互いに小さい為、ベッドは1つで十分だった。

 

「じゃ、お休み」

 

「ぅん……ぉやすみ、なさぃ」

 

 明日の準備をしてフィーが電気を消せば、ティアも答えて共にベッドへ横になる。やがて聞こえる2つの寝息は空が明るくなるまで、部屋の中で静かに響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。自由行動日を迎えたこの日、ティアは1人でⅦ組の教室に居た。フィーとは殆どの時間を一緒に過ごしているが、稀には離れなくてはいけない時もある。そんな時、ティアが取る行動は誰も居ないフィーの部屋に籠るかサラの部屋に籠るか……基本Ⅶ組の生徒以外立ち入り禁止の教室に籠る事であった。

 

「……」

 

 数少ないティアの持ち物。その1つが裁縫セットであった。彼女の手に握られるのはとある人物をデフォルメした様な人形。少しずつ針で糸を通して作り上げるその姿は集中している様で、だが周りの気配には変わらず敏感だった。故に教室の目の前を人が通った時、必ずその手は止まる。そしてもしその相手が入って来た場合、頼る相手の居ないティアはパニックに陥っても仕方なかった。

 

「あら、ティアちゃん?」

 

「っ! ぁわわわわっ!」

 

 教室へ入って来たのは同じクラスメイトのアリサだった。彼女の登場に慌てて身体を揺らしたティア。持っていた人形が床に落ち、裁縫セットもバラバラに床へ散らばる中、ティアは教室の隅へ逃げる。あからさまに怖がられていると分かり、少々傷ついたアリサ。だが彼女は優しい微笑みを浮かべて「大丈夫よ」と告げると、落ちてしまったそれを集め始める。そしてまだ完成し切っていない人形を手にして首を傾げた。

 

「これは、フィー?」

 

 その人形のモデルがアリサには誰かすぐに分かった。デフォルメされたフィーの様な人形。両手両足を突き出した様な体勢で、意外にもその出来は精巧。アリサは思わずティアの腕に感心し乍ら、その人形を机に置いて全てを回収した後に隅へ逃げるティアの元へ。

 

「驚かせちゃったわね。御免なさい」

 

「ぁ、ぅ……」

 

「無理に答えなくても良いわ。……お裁縫、上手なのね」

 

 話し掛けると僅かに反応しながら言葉を返せずに戸惑うティア。しかしそうなる事を予め分かっていたアリサは優しく微笑みながら言葉を続ける。そして机に置いた人形をゆっくりと差し出せば、ティアは恐る恐ると言った様子でそれを手に取った。

 

「ぁ、の……ぁり、がとぅ」

 

「! ふふ、どう致しまして」

 

 弱々しくも告げられたお礼。アリサはそれに緩む表情を何とか保ちながら、微笑んで返した後に教室を後にする。1人残ったティアは再び自分の席に座って人形の作成を再開。そして教室を後にして廊下を歩くアリサは……あからさまにその表情を緩めていた。

 

「はぁ~。……やっぱり、可愛いわ……」

 

 誰も居ない廊下で1人、そう呟きながらアリサは校舎から出る。すると入れ替わる様に違う出入り口から校舎の中へフィーが入り、真っ直ぐにⅦ組の教室へ向かい始める。再び感じた人の気配にティアが警戒する中、その相手がフィーと分かったティアは大きく安堵した。

 

「ここに居たんだ」

 

「ぅん……」

 

「よいしょ。何か作ってるの?」

 

「フィー、の。ぉ人形……ぃつでも、はぐはぐ……するの」

 

 隣の席へ座ったフィーにまだ完璧では無いものの、殆ど完成間近の人形を説明するティアは自分の腕に前へ突き出された両手両足を引っ掛ける。すると腕を振っても落ちない様になり、ティアはそれを見せ乍ら「ぃつでも、ぃっしょ」と嬉しそうにフィーへ告げた。……まだ心を許せる相手がフィーとサラしか居ない故か、その繋がりを大切にしようとするのは自然な事。そんなティアを前にフィーは徐にその頭を撫でており、不思議そうにし乍らも嬉しさに笑うティアの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。サラの部屋に居たティアはあの後、只管作製を続けて無事に完成したフィーの人形。その名もはぐはぐフィーをサラへ見せていた。彼女はティアから渡されたそれを眺め、少々感心した様に声を出す。

 

「中々良く出来てるわね」

 

「次は、サラ……作る、ょ?」

 

「そう。楽しみにしてるわ。でも今日はもう寝なさい。作るなら明日からよ」

 

 サラの感想を聞いて裁縫セットを取り出したティア。その様子は今からでも作り始めそうで、サラはもう寝る様に釘を刺した。ティアはサラの言葉に頷いてそれをしまうと、ベッドへ横になる。そして「ぉやすみ」と告げて目を閉じれば、数分後に静かな寝息が聞こえ始め……サラは待ってましたとばかりに缶を取り出した。音を鳴らさない様に気を付け乍らブルタブを開ければ、部屋に漂い始めるお酒の匂い。サラはそれに口を付けると、一気に飲み始める。

 

「プハァ~! って、起こさない様にしないと。流石に子供にお酒を飲んでるところは見せられないものね。く~! でも本当、この1杯の為に生きてるって言っても過言じゃないわ~!」

 

 既にサラがお酒を飲む事はⅦ組の全員が知る事実。だが分かっていたとしても教育上目の前で堂々と飲む訳には行かない。特に一番幼いティアの前では控える必要がある。故にティアがサラの部屋で眠るその日は彼女が眠りに着くまで我慢し、眠ってからサラは思う存分晩酌を楽しむのが何時もの流れであった。部屋に充満するお酒の香りを感じて僅かに表情を歪めながら、ティアはそれでも眠り続けるのだった。



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1-2

 実技テストをする。とだけ言われ、グラウンドに集まったⅦ組の生徒達。一体どの様な形でテストをするのか気になりながら待ち続けていると、サラの登場に全員が注目する。そして彼女が全員の前に見せたのは……謎の傀儡だった。サラ曰く戦術殻と呼ばれるそれは何処かから押し付けられた様子で、「でも便利なのよね」と複雑そうな表情で使おうとしている事が伺える。

 

 実技テストの内容は目の前に現れた傀儡を指名された数名が協力して倒す事。但し唯単に倒すだけでは無く、課せられた条件を満たす必要があった。ARCUSに備わる戦術リンクと呼ばれる機能があり、互いの連携を取り易くするそれを駆使すれば熟せない筈の無い条件。そう挑発めいた言葉をサラは告げた後、真っ先に呼ばれたのはリィン・エリオット・ガイウスの3人だった。日頃仲良くして居る彼らの息はそこそこ合っており、突然リィンとガイウスの間に光の線が生まれる。それはリンクが繋がった証であった。

 

「始め!」

 

 睨む会う事数秒。サラの掛け声と共にリィンとガイウスが言葉を交わさずに動き始めると、連携を見せる。まるで何年も一緒に過ごして来た相手の様に仲間の行動が分かる2人の動きは傍から見れば凄まじい物だった。

 

「戦術リンク……そう言えば旧校舎の時、不思議と皆の気持ちが伝わって来たわね」

 

「あぁ。不思議な感覚だったが、もしそれを使い熟す事が出来るならば……」

 

「見知らぬ人とでも連携が出来る。凄い機能ですね」

 

「だね」

 

 旧校舎で石造から怪物へと姿を変えた敵を前に戦った4人。彼女達は全員がその日初対面であり、だがお互いに連携を取る事が出来た。互いが互いを思って行動した。と言うよりも、相手が次に何をしようとしているのか分かる事で繋がる連携。ラウラはそれを使い熟す事で得られる力を理解出来たが故に、強く拳を握る。

 

 サラの声が響く中、リィン達のテストが終了する。結果はサラの満足出来る内容の様で、ご機嫌な様子のままサラは次の生徒を指名した。そして同じ様に戦術リンクを駆使した連携を見せ乍ら傀儡を倒した時、サラは三度傀儡を出現させて……ティアに視線を向けた。

 

「ティア。昨日言った通り、あんたも今日はやるのよ」

 

「ぁ、ぅぅ……」

 

 サラの言葉に全員が驚く中、次に指名されたのはアリサ。マキアス。フィー。ティアの4人。戸惑うアリサとマキアスを横に、フィーはティアと共に前へ出るが……ティアの様子は明らかに戦える物では無かった。

 

「ティアちゃん……」

 

「教官、彼女が戦えるとは思えないのですが」

 

「……」

 

「はぁ~。ティア、ちょっとこっちに来なさい」

 

 心配そうに視線を送るアリサ。ティアの姿に思わずには居られないマキアス。そして首を横に振って『やれやれ』と言いたいかの様に仕草を見せるフィー。3人の様子を眺め、サラは手招きしてティアへ近づく様に言う。恐る恐ると言った様子でサラに近づいたティアは、「AECUSを出しなさい」と言われてそれを取り出した。

 

「ぁ……ティア、持ってたんだね。僕はてっきり貰って無いと思ってたよ」

 

「私もです……ですが、持っていたとしても使い熟せるのでしょうか?」

 

 サラに何かを言われながらARCUSと彼女を見つめるティア。やがて旧校舎で全員が小箱から受け取ったのと同じ様な宝石、マスタークオーツらしき物をサラから手渡される。黄色い球体の中に盾の様な紋様が浮かぶそれを手に、ティアは傀儡を前に並ぶ3人の元へ。

 

「さて、それじゃあ始めるわよ!」

 

「だ、大丈夫なのか……?」

 

 自分のARCUSにマスタークオーツを嘗てフィーが付けているのを思い出しながら装着したティア。途端に彼女の周りには薄い膜の様な物が張られ、サラの言葉にマキアスは不安を感じ乍らショットガンを手にする。そして動き始めた傀儡。フィーが前に出て素早い身の熟しで相手を攪乱しながら攻撃を加え、マキアスとアリサが隙あれば攻撃を加える中……ティアは未だにオロオロとしたままだった。

 

「ティア! ARCUSで魔法(アーツ)くらいは使える筈よ! やりなさい!」

 

「ひぅ! ぁーっ……っ!」

 

 サラの声に怯え、ARCUSを操作し始めたティア。そんな彼女は余りにも無防備であり、傀儡は攻撃を受け乍らも標的に彼女を選ぶ。迫る傀儡が攻撃を加えようと身体の一部を振り上げれば、ようやく気付いたティアが恐怖に強く目を瞑り……彼女の周りにあった薄い膜が傀儡の攻撃を防いだ。僅かに光を放ち、やがて傀儡を退けた薄い膜。だが完全に攻撃を防ぐと共にそれは消え去り、傀儡は再び攻撃を仕掛けようとする。が、次にティアへ攻撃が届くよりも先にフィーの振るった刃が傀儡を真っ二つに切り裂いた。

 

「そこまで! ……はぁ。ティア以外は合格、ね」

 

 そう呟いたサラの声は明らかに落胆している様子だった。

 

 その後、フィーと共に元の並びに戻ったティア。彼女もまた落ち込んだまま、サラは次の話を始める。それはⅦ組の生徒達だけに与えられる特別なカリキュラム、名付けて特別実習。声高々に宣言するサラだが、言われた面々は首を傾げる事しか出来なかった。

 

 特別実習。A班とB班に別れて学院から。トリスタの街からも離れ、全く違う場所で課題を熟すと言うもの。2班に別れる時点でサラが着いて来る可能性は低く、それを確認すればサラは当然とばかりに返した。普通の生徒とは違うと予め理解していた故に各々時間を掛けずに納得する中、ユーシスが一体何時何処へ行けば良いのかを質問する。すると待って居たとばかりにサラは用紙を配り始めた。そこには班分けと行き先が書いてあり、それを読んだ全員が一様に様々な理由で驚愕する。

 

 【A班 リィン・アリサ・ラウラ・エリオット・ティア】

 

 【B班 エマ・マキアス・ユーシス・フィー・ガイウス】

 

 A班の行き先は交易地ケルディック。B班の行き先は紡績町パルム。行き先を知る者と知らない物が居る故にそれを妥協する事は可能だったが、その顔触れについては目を疑わずにはいられなかった。未だ確執のあるリィンとアリサ。平民嫌いのマキアスは未だにユーシスを目の敵にしており、ティアはフィー以外と真面に話す事も出来ない。サラも居ないとなれば、確実に困るだろう。実際それを見てティアはサラを涙目で見つめるが、彼女は「諦めなさい」と無情に告げるだけだった。

 

「日時は今週末。期限は2日間を予定してるわ。各自それまで英気を養っておきなさい。以上!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別実習初日。リィンは朝早くから同じA班である仲間達を待っていた。すると最初に現れたのは未だ確執のあるアリサ。しかしお互いがお互いに謝罪をする事で蟠りは無くなり、仲直りをしたところでエリオットとラウラが姿を見せる。

 

「ティアちゃんは……まだかな?」

 

「いや、昨日はフィーと一緒に居たみたいだから多分もう出てる筈だ」

 

「ふむ。確かにもう私達以外には誰も居ない様だ。行くとしよう」

 

 唯一この場に居ないティア。エリオットがそれに気付く中、リィンとラウラの言葉に彼はアリサと目を合わせる。そして何故分かるのかと質問すれば、2人が今度は目を合わせた後にリィンが答えた。彼曰く、気配で何となく誰が居るか分かるとの事。少なくとも今現在自分達以外には気配を感じず、故にもう建物の外に居ると思った。との事であった。

 

「気配……気配かぁ……」

 

 リィンとラウラが自分とは違う領域に居ると思い、思わず呟いたエリオット。そして4人が駅へ向かえば、そこには予想通りB班の面々と……フィーの傍で服の裾を握るティアの姿があった。マキアスとユーシスの空気感は危うく、心配になるリィン達。そしてアリサが徐に体勢を低くしてティアへ声を掛けた。

 

「ティアちゃん、おいで」

 

「……ゃ」

 

「……やれやれだね」

 

 拒否されるアリサ。その事実に彼女の身体は固まり、見ていた全員はまるで石造の様に彼女の色が失われた様にも見えた。そんな中、呆れる様に声を出して首を横に降ったフィー。彼女の姿にエマは「どうにか出来ませんか?」と声を掛ける。唯一心を許している相手故に、その人物からの言葉には従うかも知れないと僅かな期待を抱いて。

 

「…………はぁ」

 

 全員から向けられる眼差しに長い間の後、溜息を付いたフィーはティアへ振り返る。そして彼女を元気付ける様に頭を撫でながら、同じ高さに目を合わせて声を掛けた。

 

「頑張って」

 

「フィー、ぅぅ……」

 

 ティアは確かに子供だが、何も分からない訳では無い。フィーの言葉に只管涙目になりながらもゆっくりと服から手を離したティアは1歩ずつ、ゆっくりとA班の元へ近づき始める。

 

「ティア」

 

「っ!」

 

「知らない人に着いて行かない。すぐに泣かない。約束」

 

「フィー……ぅん。頑張、る……!」

 

 フィーの言葉を聞いて涙目をそのままに答えたティア。そして再び1歩ずつ近づけば、距離が詰まる毎にアリサの身体は指先から色を取り戻し始める。そしてA班の元へ到着した時、アリサは何事も無かった様に笑顔でティアを出迎えていた。

 

 マキアスとユーシスに関する心配を抱え乍ら、B班は先に駅を離れる。遠ざかるフィーの背中をティアは不安げに見つめ続け、やがて居なくなってしまった事で彼女は到頭誰の傍にも逃げられなくなってしまった。

 

「まだ少し時間があるな。準備するなら今の内にして置こう」

 

「ティアちゃん、おいで」

 

「ぁ、ぅ……」

 

「……凄いね、アリサは。僕だったら挫けそうだよ」

 

「前々から仲良くしたいと言っていたからな。ある意味、今回は好機なのだろう」

 

 待合所の椅子に座ったアリサはティアを手招きする。先程の拒絶を忘れたかの様にティアへ声を掛けるその姿にエリオットが感心する中、ラウラは普段の生活でアリサが何とか仲良くしたいと常日頃から言っていた事を思い出した。アリサの元へは近づかず、付かず離れずの距離であたふたするティア。その後、アリサの検討も空しく同じ椅子には座れなかった。

 

 時間になり、切符を購入して電車に乗り込んだ5人。リィン達が向き合って座る中、ティナは彼らから距離を取る様に反対側の席に座っていた。その腕の中にはアリサも見た事のあるはぐはぐフィーがあり、それを抱きしめながら不安そうにチラチラと自分達を見つめる姿に……アリサも気になった様子でチラチラと彼女へ視線を向けていた。リィン達には覚られない様にしている様だが、既に手遅れである。

 

 少し電車で揺られて居た時、突然ティアが隣の車両からやって来た人物に気付いて視線を向ける。するとそこからやって来た人物、サラに彼女は心底安心した様子で近づき始めた。まるで逃げて来たかの様に自分の元へやって来るティアの姿にサラは驚き、席に座る4人を見て頭を抱えた。

 

「やっぱり、そう簡単には行かないみたいね」

 

「えぇ、まぁ。……教官はどうしてここに?」

 

 着いては来ないと言っていたサラが現れた事に驚きながらも言葉を返したリィンが質問すれば、彼女は担任として最初くらいはサポートをする事にしたから。と説明する。その答えに納得した4人。そして続けざまにエリオットはⅦ組の全員が気になっていた質問をする。

 

「あの、どうしてティアをフィーと別の班にしたんですか?」

 

 彼の質問にサラは少し困った表情を浮かべると、先程までティアが座っていた席の向かいに座り込む。そして自分の向かいに座って安心し切った様子のティアを見て、口を開いた。

 

「もう気付いてると思うけど、この子はかなり臆病よ。最初は私も苦労した。でもそれなりに一緒に居る事である程度話せる様になったわ。信頼される様になった、って所かしら?」

 

「……なるほど。つまり私達も彼女に信頼される様になれ、と言う事ですか」

 

「まぁ、端的に言ってね。現状ティアが話せるのは私とフィーだけ。今は良いかも知れないけど、何時までもそれじゃあ困るのよ」

 

「大分荒療治と言うか、何というか……」

 

 サラが現れて安心した様子のティアは話に参加する事も無く外を眺めていた。1人だと周りを警戒し続け、信頼する相手が居れば周りを見ようともしない。そんな彼女の姿にサラが頭を抱える中、リィンはふと気になった事を質問しようとする。……ティアの臆病さは唯の性格と言うには少々大げさであり、それ以上の何かがあると彼は感じていた。故にどうしてそこまで人に怯えるのかをサラに質問しようと。しかしそれを察した様にサラは彼が口を開くよりも先に喋る。

 

「目には目を、歯には歯を。てね。……多少荒くでもしないと、どうしようも無いのよ」

 

 その言葉を最後に、サラは話を終わらせて眠り始めてしまう。リィンは最後の言葉にティアに何があったのかを気になりながらも、眠るサラを起こしてまで聞こうとはしなかった。……その後、実習先についての予習をし乍らブレードと呼ばれるカードゲームで移動時間を過ごす事にした4人。まだティアを誘う事は出来ず、彼らは彼女と仲良くなる為の方法についても話し合うのだった。



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1-3

 交易地ケルディック。交易地と言われるだけあって市場などが盛んなその町に足を踏み入れたA班は少し寝てご機嫌になったサラの先導の元、今日1日泊まる事になっている宿酒場『風見亭』へと向かった。サラの後ろをくっ付いて周りを怯えた様子できょろきょろしながら歩くティア。店の中へ入れば、サラと顔見知りの女将がティアの姿を見てサラを懐かしむと共に「あんた何時の間に」と誤解をする。

 

「変な誤解をしないで貰えるかしら? 見ての通りこの子も私の生徒よ」

 

 制服に注目させる事で誤解を解いて椅子へ座ったサラは、女将に話をしてA班を部屋へ案内してくれる様にお願いする。予め話が通されていた事もあり、女将に「着いて来な」と言われて案内された場所は少し大き目の一部屋だった。男女別の部屋では無く、共同の部屋。その事にアリサが驚き質問するも、サラが『一緒で良いわ』と部屋分けをお願いしていなかった事を知らされる。今から新しい部屋を用意して貰う訳にもいかず、仕方なく了承した彼女は……リィンへ横目で警告する様に告げる。

 

「不埒な真似は許さないわよ」

 

「……ふ、ら……ち……?」

 

「気にしなくて良い。……恐らく、其方にはまだ早い」

 

 過去に色々あったが故に警戒されて肩を落とすリィンをエリオットが慰める中、ティアは聞きなれない言葉に呟きながら首を傾げる。その姿を見てラウラが告げれば、ティアは少々怯えながらもそれ以上気にする事は無くなった。

 

 女将は部屋を去る前、リィンへ1枚の封筒を手渡す。その封筒にはトールズ士官学院の校章が描かれており、気になりながらも開けた中に書いてあったのは……3つの課題だった。必須と書かれたものとそうで無いものが混じり、その内容は手配魔獣の討伐と言った危険な物からお使いの様な物まで色々。一同が困惑する中、まずはサラへ聞いてみようと言う話になった途端、ティアは誰よりも早く1階へ向かった。

 

 既に1階ではカウンター席で果実酒を楽しむサラの姿があり、まだ明るい時間からお酒を飲む彼女の姿に各々心配を抱く。そしてアリサが実習内容について質問すれば、彼女は酔った様子のまま答えた。

 

「必須の課題以外はやらなくて良いわよ。全てあんた達に任せるから、好きにすると良いわ」

 

 放任主義にしてもやり過ぎなサラの言葉にアリサが声を上げる中、何かを納得した様子でリィンは頷いた。

 

「そうした判断も含めて、特別実習と言う訳ですか」

 

 リィンの言葉にアリサ達が驚く中、サラはご機嫌な様子を見せる。何かを分かった様子のリィンへ当然話を聞きたがるも、現在の場所は宿酒場。しかも営業中と言う事もあり、まずは外へ出る事となった。だがいざ動き出そうとした時、ティアが着いて来ない事に気付く。彼女はサラの傍で立ち尽くしており、アリサが声を掛けるとティアは不安そうに4人とサラを交互に見始めた。

 

「はぁ。もうしばらくここに居るから、行って来なさい」

 

「…………ぅ、ん」

 

 動かないティアを見兼ねてサラが声を掛ければ、長い間の後に動き出したティア。やがて4人と合流すれば、リィンが分かった事についての説明を始める。彼曰く、数日前の自由行動日は似た様な事をしていたらしい。そしてそれを熟した末、彼はトリスタの街や学院について色々と知る事が出来たと言う。……それは正しく今回の課題内容と同じだった。

 

「確かに、僕達は本や話を聞いてばかりでこの町の事を深くは知らないよね」

 

「なるほど。課題を熟しながら、この町について知る。と言う事か」

 

 エリオットとラウラは納得し、アリサも少々不服そうにし乍らも納得。ティアは彼らの話を少し離れた場所から聞いており、リィンが「大丈夫か?」と聞けば恐る恐ると言った様子で頷いて返した。……その後、彼らはケルディックの町を周り乍ら課題を出した人物を当たる事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町を歩き、様々な話を聞いたA班は課題を熟す為に町の外へ出る事になった。魔獣も徘徊するであろう外は危険が多く、戦う必要があるだろう。互いが互いに戦う術を持つ事は知っていた4人。だが1人、明らかに戦えないティアにこのまま出て良いものなのかと4人は不安を抱く。実技テストの様を見れば戦えないのは確定であり、サラの元へ預けるべきとも思ったリィン。だが同じ組の仲間として、それが良い事とは到底思えなかった。

 

「どうする、リィン」

 

「取り敢えず、ティアには後ろに下がってて貰おう」

 

「えぇ。それが良いと思うわ。……大丈夫よ、ティアちゃん。私が守ってあげるからね」

 

「……ぁ、ぅ……」

 

「少々不安は残るが、()くとしよう」

 

 ティアを守る様にして外へ出る事に決めた4人。未だ真面な話すら出来ない現状に困りながら、A班は街道へと歩みを進める。

 

 建物が殆ど無い道には所々魔獣の姿があり、避けて進む事も可能だろう。無益な戦いは避ける方向で進み始めるも、完全な戦闘の回避は不可能だった。リィンが自らの獲物である刀を手にラウラと戦術リンクを使って素早く敵を斬り、エリオットは主に補助と傷の回復を担当。アリサは弓で彼らの援護に回る。数回戦闘を熟して目的の場所へ到着すれば、用事を済ませた後に少し寄り道として街道の更に奥へ。そこには謎の場所へ続く門があり、だが門前で見張っていた2人の男性に追い返される。そして帰り道。来る途中で魔獣を倒して居たため、その数は少なかった。が、居ない訳では無い。

 

「っ! ぁ、ぅ……」

 

「? どうしたの、ティアちゃん」

 

「ぁ、ぁそ、こ……ぃる」

 

「え? !? リィン! 魔獣が居るよ!」

 

 帰り道の途中、ティアが何かに気付いた様子で見つめる姿にアリサが質問した時、彼女の答えにエリオットが視線を向けて隠れていた魔獣の姿に気付いた。彼の声ですぐに武器を手にした4人。素早く戦闘を終わらせれば、リィンが安心した様子で武器をしまうその横でアリサがティアへ声を掛ける。

 

「ありがとう、ティアちゃん。お蔭で奇襲を受けずに済んだわ」

 

「ああやって隠れる魔獣も居るんだね。全然気付かなかったよ」

 

 アリサがお礼を言いながら近づけば、距離を取るティアの姿に少しずつ見慣れて来たエリオットが言う。そんな中、リィンとラウラは互いに目を合わせてからティアへ視線を向けた。まるで彼女がした事は今朝自分達がした様な気配の察知。だがどう見ても武とは無縁なティアにそれが出来た事が、2人には理解出来なかった。

 

 その後、魔獣に出合う事も無くケルディックへ戻ったA班はお使いの品を渡して課題を熟す。必須では無い課題も済ませ、次に向かうのは再び街道だった。だがその目的はお使いでは無く、手配魔獣の討伐。つまり戦闘は必須であり、今まで遭遇した相手よりも遥かに危険な相手である。今度こそティアを置いて行くべきか迷ったものの、同じA班として一緒に行く事にした。

 

 街道の途中に住む農家がその手配魔獣の被害者であり、まずは話を聞く事にしたA班。まだ若い4人と明らかに子供が居る事に申し訳なさそうにし乍らも被害を訴える住民。残念ながら手配魔獣に関する情報は少なく、倒す事を約束したA班は目撃された場所の近くへ。

 

「……ぃる」

 

「! 何処かに魔獣が居るの?」

 

「……ぉぉ、きぃ……の。……! ぉこって、る」

 

 再び何かの気配を察知した様子のティアにエリオットが警戒する中、リィンとラウラは再び目を見合わせる。そして徐にラウラはティアの前に近づくと、彼女と目線を合わせる様にしゃがんで声を掛けた。

 

「っ!」

 

「待つのだ、ティア。……其方、その大きい魔獣がどんなのか分かるのではないか?」

 

「ぁ、ぅ……」

 

「ラウラ、流石にそんなの分かる筈が……」

 

「ゆっくりで良い。分かる事を、教えて欲しい」

 

「…………長ぃ……尻尾。……ぉぉきぃ、牙。……変、な……せび、れ」

 

「ふむ……頑張ったな。ありがとう、ティナ」

 

 怯えながらもゆっくりと答えたティアに何かを考えながら、優しく微笑んでその頭を撫でて立ち上がったラウラ。最後の仕草にアリサが羨まし気な視線を送る中、リィンの元へ近づいたラウラは「気に留めておいても良いかもしれん」と告げた。彼も同意見であり、慎重に再び歩みを進めた先に居たのは今までとは違う大きな魔獣。青く大きな身体に岩をも噛み砕きそうな鋭い歯。長い尻尾を豪快に動かし、背鰭を震わせて小さな音を立てる。……ティアの言った特徴がその魔獣には全て含まれていた。

 

「ティアの言う通りだね」

 

「っ! ぁ、ぅ……ぅる、さぃ……!」

 

「ティアちゃん!?」

 

「……あの背鰭から僅かに嫌な音がする。ティアには聞こえている様だが……」

 

 耳を塞いで苦しむ程の大きな音では無い。言葉にせずともそう告げたラウラにリィンは彼女に関する謎が更に深まった様に感じた。見えない敵の察知、把握と異常な聴力。気にはなるものの、それを知る術がない為にリィンは思考を切り替えて手配魔獣の討伐に集中する。注意するべきは尻尾の薙ぎ払いと牙の攻撃。そして嫌な音による集中の妨害だろう。

 

「ティアはここに居てくれ。皆、手配魔獣を倒すぞ!」

 

 彼の言葉を合図に飛び出した4人。予め注意するべき点が分かっていれば動き易く、遥かに手強い相手でも彼らは戦術リンクを駆使して翻弄する。やがてラウラが渾身の一撃を叩き込んだ時、手配魔獣は大きな音を立てて倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 被害に遭っていた農家へ報告した後、ケルディックへ戻ったA班。もう後は宿酒場で今日あった出来事をレポートに纏めるだけとなった時、ティアは町に入ると同時に宿酒場へ4人を置いて直行してしまう。行く先は間違い無くサラの元。今までの時間では余り仲良く慣れて無いと感じた4人は複雑な心境の中、彼女を追おうとして……大市で騒ぎが起きている事に気付いた。

 

 宿酒場へ入ったティアは未だにカウンター席で飲むサラの姿を見つけてその隣へ座る。大分深くまで酔っていた彼女はティアの姿に気付くと頬を赤く染め乍らアルコール臭のする口を開いた。

 

「あら、もう帰ったのね。他の4人は? まさか、勝手に帰って来た訳じゃないでしょうね?」

 

「かだぃ……ぉわった……皆、は……知らなぃ」

 

「知らないって……はぁ……全く」

 

 サラは課題が終わってすぐにリィン達を置いて1人で帰って来たのだと理解し、溜息をついた。その後しばらくの間互いに無言のまま過ごした後、突然サラが両頬を手で2度叩いて染まっていた赤みは薄くする。そして女将に「そろそろ行くわね」と言って果実酒の代金を支払うと、席から立ち上がった。すると当然の様に着いて行こうとするティアにサラは「レポートはしっかりね」と告げ……素早く彼女の前から姿を消してしまう。

 

 心許せる相手が居なくなってしまってオロオロするティアの前へ次に現れたのはアリサだった。その後ろにはリィン達の姿もあり、レポートを書く為に宿酒場の席へ付く事になった5人。その後、今日あった出来事を話乍らA班はレポートを作り続ける。途中、女将から夕食として出された料理に舌鼓を打ち、やがて夜も更けて来た頃。ティアは眠そうに目を擦り始めた。

 

「ティアちゃん、眠いの?」

 

「……ぅ、ん」

 

「っ! そ、そう。……もう大体終わったし、一緒(・・)に寝ましょうか?」

 

「……」

 

 眠気に襲われて半分ほど意識が薄れていたティア。彼女はアリサからの言葉に頷き、今の状態なら話が出来ると分かったアリサは驚きながらも席を立つ。「ティアちゃんを寝かせて来るわね」と告げれば、他の3人も了承。ティアの小さな手を握って階段を上るアリサは何処か幸せそうで、それと同時に手を繋がれるティアの後ろ姿を眺めながらエリオットは口を開いた。

 

「それにしても、ティアも気配が分かるのかな?」

 

「いや、ティアは相手の特徴まで言い当てる事が出来ていた。気配、とは違う気がするな」

 

「うむ、私も同じ意見だ。それとティアはかなり耳が良い様にも思える」

 

「遠くだったけど、手配魔獣の出す嫌な音を聞いて苦しんでたもんね」

 

 その後、少しの時間を置いて何処かスッキリした様子のアリサが再び同じ席に座って今日1日の事について話し合う。更にどうしてトールズ士官学院へ入学しようとしたのかについても話し合う様になり、4人は談話を続けるのだった。



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1-4

 特別実習2日目。昨日、誰よりも早く眠ってしまったティアは一番最初に目を覚ました。が、普段は感じない自分を覆う様な何かに気付いて困惑。ゆっくりと顔を上げれば……穏やかな表情で自分を抱きしめて眠るアリサの姿がそこにはあった。

 

「っ! ぁ、ぅ……ぅう!」

 

 気付くと同時に困惑したティアは力の入っていないアリサの腕から抜け出すと同時にベッドから落下。身体を強く打ちつけるも、大きな音は鳴らなかった事で誰も起こす事は無かった。痛みに涙を浮かべ乍らも、逃げる様に部屋を飛び出したティア。……宿酒場からも飛び出す姿は朝早くから準備をしていた女将に目撃され、目を覚ましたリィン達がティアの姿が無い事でパニックになる様子を見て女将が外へ出てしまった事を伝える。そして探しに行く為に外へ出た4人は、騒ぎがする大市にティアが居るかも知れないと思いながら足を進めた。

 

 一方、宿酒場を飛び出したティアは昨日回っただけで殆ど土地勘の無いケルディックの町中できょろきょろしていた。まだ早い時間故か見える人は大人ばかり。中には自棄酒をする男性もおり、地面に座って飲む彼からは酷いアルコール臭が漂っていた。ティアには離れた距離からでもその匂いを感じる事が出来、偶然傍に居た猫とティアは苦しむ事に。するとそんな彼女に声を掛ける幼い声があった。

 

「大丈夫? ルルも苦しんでる……ちょっとこっちに来て!」

 

「ぁ、ぅ……」

 

 それは見た目ティアと同じくらいの少女だった。猫の名前はルルと言う様で、猫を片手に抱え乍らティアの手を引っ張ってその場から離れた少女はケルディックの町にある礼拝堂の前にあったベンチへ移動する。そこは酒に酔った男性からかなり離れており、臭いも届かない。猫のルルはもう苦しんでおらず、ティアも悪臭から逃れる事が出来た。

 

「ぁり、がとぅ」

 

「ううん。にしても朝からあんな場所で飲んで、困っちゃうよね!」

 

「ぅ、ん」

 

「その制服、昨日来てたしかんがくいんの人達と同じ制服でしょ? あなたも生徒さんなの?」

 

 少女は人見知りしない性格の様で、初めて会ったティアへ容赦無く質問をする。だがティアは彼女へ怯えた様子を見せずに弱々しくも頷くなどして答えた。子供乍ら話すのが苦手だと察した少女は基本自分が話す様にして会話を広げ、気付けば長い時間をティアは少女と話していた。

 

「それでね、ルルったら魔獣に飛び掛っちゃって……凄い怖かったんだ」

 

「だぃ、じょぅぶ……だった、の?」

 

「うん。すぐにパパとママが来て追い払ってくれたの。その後凄い怒られちゃったけどね」

 

「良か、った」

 

「……ねぇ。ティアちゃんは、お喋りは好き?」

 

「?」

 

「何かね、分かるの。ティアちゃんはもっと喋りたいって思ってるのかなぁって」

 

 基本聞く側だったティアは少女の言葉に驚き、やがて俯いてしまう。だが言葉にせず、小さく頷いて答えた事で少女はベンチから降りて彼女の前に立った。

 

「それじゃあ、練習しようよ!」

 

「練、しゅぅ?」

 

「うん! まずはもっと大きな声で喋れる様に! それとお返事も出来る様にね!」

 

 少女の言葉を受けて戸惑いながらも同じ様にベンチから降りたティア。少女の腕に抱かれた猫も応援する様に鳴き声を上げる中、礼拝堂前には元気な声と弱々しい声が響く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある事件に遭遇し、大市の元締めである男性に事件の解決を任せて貰ったリィン達。ティアを探しながら解決する為に動いていた4人は礼拝堂から聞こえて来る声に気付いた。そしてその声が辛うじてティアの物だと分かったアリサは一目散に駆け出す。リィン達も彼女を追って礼拝堂へ向かえば、その目の前で少女と一緒に何かの練習をするティアの姿があった。

 

「はい、あ・い・う・え・お!」

 

「あ……あ・ぃ・う・ぇ・お」

 

「や・ゆ・よ!」

 

「ゃ・ゅ・よ」

 

「ティアちゃん?」

 

「っ!」

 

「わわっ! えっと……」

 

 それは彼女達なりの声を出す練習であった。少女の言葉を復唱するティアの姿にアリサが声を掛けた瞬間、ビクッと目に見えて反応したティアは少女の背中に隠れてしまう。後から追い付いて来たリィン達はその光景を目撃し、何があったのかが分からず困惑した。そして同時にティアがフィーやサラとは違う人物に隠れている事実に驚いていた。

 

「同じ制服……ティアちゃんのお友達?」

 

「え? えぇ、そうよ」

 

「あ、ぅ……違う……」

 

「そ、そうね。お友達じゃ無くて、何というか……仲間、かしら?」

 

「仲間?」

 

 友達を否定されて少々ダメージを受け乍らも言い直したアリサ。何とか少女と話をしてティアと知り合いであり、探していた事を伝えた4人は今まで何をしていたのかをティアへ質問。彼女の代わりに少女が猫と共に酒の匂いに苦しみ、ここへ連れて来たと答えた。良い大人が道端で酒を飲んでいると聞いて一瞬サラを思い浮かべながらもそんな人が町に居るのかと思ったリィン達。だが、少女の続けた言葉は彼らに違和感を与えた。

 

「普段はあんな人、居ないのにね。困っちゃうよ」

 

「普段は居ない? その人はこの町の人じゃ無いのか?」

 

「わかんないけど、あんまり見た事無い人だよ?」

 

 少女の言葉を聞いて疑念を持った4人。何かを考え始めるその姿に少女が首を傾げ、何も知らないティアも同じ様に首を傾げる。その後、再びA班として行動する為に少女と別れる事になったティア。リィン達が酒に酔った男が何処に居たのかを聞けば、弱々しくもその方角を指差した。未だに男性の姿はあり、ティアが苦しまない様にアリサとその場に残ってリィン達は男性と会話。戻って来たその表情は先程よりも何かを思案していた。

 

「どうだったの?」

 

「あの男性はルナリア自然公園。と言う場所の管理人だったようだ」

 

「でも突然辞めさせられちゃって、自棄酒しちゃってるみたい」

 

「ルナリア自然公園。……昨日、俺達が追い返された場所か」

 

 リィンの言葉に全員が思い出すのは寄り道として近づいた謎の門とその前に立つ2人の男性。門前払いを喰らった事で調べる事は出来なかったが、彼らは互いに頷き合って何かを決断する。

 

「ティアちゃん。今からまた外へ出るけど、大丈夫?」

 

「……う、ん」

 

 アリサが心配そうにティアへ声を掛けた時、彼女は何時も通り大きく4人から距離を取りながらも彼女の言葉に頷いて答えた。昨日とは違う眠気に襲われても居ない状態での返事に4人が驚く中、少女との練習は彼女にとって良い物だったのかも知れないと感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日追い返された門前へ到着したA班は見張りの男性2人が居ない事で堂々と近づく事が出来た。そして門の目の前で証拠になりうる物を見つけ出し、彼らは中へ入る事を決意。門には鍵が掛かっており、ラウラが大剣で破壊しようとするのをリィンは止めて自分がやると告げた。刀を使った素早く静かな一閃は音も立てずに鍵を破壊し、門は独りでに開き始める。

 

 中も魔獣が徘徊しており、それも外に居る魔獣よりも危険な存在ばかり。更には道が狭く、見つかった場合は逃げる事も出来なかった。細い道などでは挟まれる可能性すらあり、身長に進むA班。すると、ある曲がり角でティアが僅かに声を上げる。

 

「ぃ、る……よ」

 

「っ! リィン」

 

「あぁ……」

 

 彼女の言葉を聞いてラウラがリィンへ視線を向け乍ら声を掛ければ、彼は頷いて様子を伺う。……曲がり角の先には昨日戦った手配魔獣と同じ程に大きな魔獣が徘徊しており、彼は3人に目配せをすると静かにエリオットと戦術リンクを繋いだ。そして相手が気付かない様に注意を払い、一気に飛び出す。戦いは瞬く間に終わり、地に伏せる魔獣を前にエリオットが安堵の溜息をついた。

 

「ふぅ~何とかなったね」

 

「先に奇襲を仕掛けられたのは大きいな」

 

「もし真正面から挑んでいたら、少し苦戦したかも知れないわね」

 

 その後も、ティアが稀に敵の事を教える等して不利な状況に陥る事無く奥へと進んだA班。やがて最奥に近い場所へ到着した時、またしてもティアが何かに気付いて足を止めた。

 

「人が……ぃる」

 

「人? は、犯人かな?」

 

「恐らくな。ティア、何人居るか分かるか? 他にも分かる事があったら教えてくれ」

 

「……う、ん……4、人……。皆、大きな……銃」

 

 ティアの言葉を聞いた4人は頷き合い、彼女へここで待つ様に告げる。今までの魔獣と違って相手は人間。下手な魔獣よりも危険であり、彼らはティアが狙われる可能性も考慮したのだ。幸い周囲に魔獣は居ない様子で、素早く制圧出来る様に努めようとリィンが告げて4人は飛び出した。……そして壁越しに聞こえる戦闘の音。銃声が鳴る度にティアは頭を抱え、やがて静かになると聞こえて来るリィン達4人の声が無事である事をティアへ知らせた。だがその瞬間、ティアの耳にその音は聞こえた。

 

「っ!」

 

 途端に感じる凄まじく巨大な生き物の気配。ティアはオロオロしながらも意を決した様子で4人の元へ近づいた。

 

「大きぃ、の……来る!」

 

「え? うわぁ!」

 

 突然現れたティアとその言葉に驚いた時、感じ始めた地響きにその場に居た全員が警戒する。その地響きは定期的であり、更には明らかに近づいていた。……そして全員の前に姿を現したのは、未だ見た事も無い程に巨大な魔獣だった。

 

「きょ、巨大なヒヒ!?」

 

「ひぃぃぃぃ!」

 

「この自然公園の主と言ったところか!」

 

 その姿にエリオットが驚き、制圧された男性4人が恐怖する中、リィンはこの場所を切り抜ける為に撃破する事を決断する。ラウラも大剣を構え、アリサもティアを気にし乍ら武器を構える。誰よりも巨大な魔獣に怯えるエリオットも、女神に祈りを捧げ乍ら魔導杖を手にした。

 

 死闘。そう呼ぶに相応しい戦いが始まった。ついさっき奇襲を仕掛けて倒した魔獣を同種の魔獣を仲間として呼び、更に敵が増えた事でティアも彼らの元へ近づかざる負えなくなり、制圧した男性4人とティアを庇いながらの戦闘はかなり厳しいものだった。何とか呼び出された魔獣の仲間を倒し切り、再び巨大なヒヒと対峙する事になった時。相手は突然地面を物凄い勢いで叩き始める。地面が振動する事で真っ直ぐ立って居られなくなった全員。そして体勢を崩したところへ巨大なヒヒは突進を繰り出した。

 

「皆、避けろ!」

 

「くっ!」

 

「うわぁ!」

 

「ティアちゃん!」

 

「っ!」

 

 突進してくる巨大なヒヒの攻撃から避ける為に各々前へ飛び出す等して回避した4人。だがティアは行動が遅れ、それに気付いたアリサが彼女の身体を抱きしめる様にして一緒に回避をする。1人の少女を伴っての回避は反動が大きく、リィン達と違ってアリサはすぐに立ち上がる事が出来なかった。……そしてそれは大きな隙となってしまう。

 

「アリサ!」

 

「っ!」

 

「駄目だ、間に合わないよ!」

 

 再び突進を始める巨大なヒヒ。まだ立ち上がっても居ない状態で避ける方法が無く、リィンやラウラが駆け出すも間に合う状況では無かった。アリサが迫り来る巨体に目を瞑った時、突然目の前が光り出した事で彼女は瞳をゆっくりと開く。

 

「う、うぅぅぅぅ!」

 

「ティアちゃん!?」

 

 アリサの前には先程自分が庇ったティアの姿があった。何時かの様に彼女の周りには薄い膜があり、ティアは自身の身体を淡く発光させながらも涙目のままアリサの前で巨大なヒヒの巨体を受け止め続ける。やがて巨大なヒヒが両手を合わせてティアの身体へ横から叩きつければ、薄い膜は割れる様に壊されてティアは大きく宙へ投げ出された。受け止める者も居らず、制服を汚しながら地面を転がる彼女の姿に絶句するアリサ。だが、状況はまだ危険なままである。

 

「アリサ!」

 

「くっ、エリオット。ティアを頼む。はぁ!」

 

「わ、分かった!」

 

 未だ動けないアリサの元へ駆け出したリィンは巨大なヒヒが彼女を傷つけるよりも早く攻撃を加える。その間、ラウラがアリサを何とか立たせてエリオットがティアの安否を確認。やがてリィンが炎を纏った太刀で巨大なヒヒの身体を斬り、それが決定打となって死闘は終わる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「何とか、なったか」

 

「ティアちゃんは!?」

 

「大丈夫、気絶してるだけだよ」

 

 息を切らしながらも、ティアの安否を確認した一同。エリオットが彼女を横抱きに抱え乍ら告げた言葉に安堵するも、彼らは更なる窮地に追いやられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が茜色に染まる頃、宿酒場の借りていた部屋で眠っていたティアは目を覚ました。周りに誰の姿も無く、彼女はベッドから降りると下へ。そこにはリィン達4人とサラの姿があり、それに気付いたティアは迷わずサラの元へ。突然現れた事に驚きながらも、彼女は「目が覚めたのね」と言ってその頭に手を置いた。

 

「聞いたわよ。庇ったんですってね。少しは仲良く出来る様になったのかしら?」

 

「うぅ……わかん、なぃ……でも……ア、リサ……助けて、くれた……から」

 

「っ! ティアちゃんが名前を……!」

 

 アリサが驚く中、他の面々も一様に同じ理由で驚いていた。今までティアが名前を呼ぶのはフィーかサラの2人だけだった。だが今この瞬間、初めて彼女は違う人物の名前を呼んだのだ。アリサは幸せそうな表情を浮かべ、そんな姿を見ながら少なくとも悪い仲にはなっていないと思った3人。サラも満足そうに頷くと、彼女と共にA班は帰りの電車でトリスタへ向かう事になった。特別実習に関する意義を考えながら話をするリィン達。ティアは昨日の朝同様に別の座席に座りながら、流れる景色を眺め続ける。

 

「……教官。1つ、確かめたい事があります」

 

「? 何かしら」

 

 彼らの会話を気にもせずに。



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間章+α

『済まない。君の妹は……もう』

 

「……ぁ」

 

 その少女は夢から覚める。出来る事なら忘れたい夢。何度も否定し続けて来た現実を見せつける様な、夢。開いた瞳から流れてしまう涙を拭い、少女はベッドから起き上がると部屋に飾ってあった写真建てを手に取る。そこに映るのは大人2人と幼い自分。そして自分に似た髪色の少女だった。

 

「……ティア……」

 

 幼い少女の名前はティア。彼女にとっては大事な妹であり、悪夢の様な場所へ連れて行かれてからも心の支えの様な存在であった。妹を守りたい。その一心でどんなに辛い事も耐え抜いて来た彼女に待っていたのは……最愛の妹との別れだった。

 

『あれはもう駄目だ。殆ど目的は成功しているが、餓鬼が幼過ぎて制御し切れない』

 

『……頃合いを見て、処分しよう。必ず、足の付かない方法でな。次は少し大きい餓鬼で試そう』

 

 今でも鮮明に覚えている大人たちの会話。突然妹と会えなくなり、それでもまだ何処かに居る妹を守る為に耐え続けた少女は……ある組織によってその辛い日々から解放された。病院へ連れて行かれ、検査を受け、そこで教えられたのは妹の行方が分からないと言う事。既に生きて居るのかも分からない。それを聞いた時、少女は嫌でも彼らの会話を思い出してしまった。

 

 守りたかった存在が既に失われていた。その事実に少女の精神は壊れかけてしまった。何とか自分を救った大人達のお蔭で完璧な崩壊は免れたものの、少女が大事なものを失った事実は変わらない。やがて両親の元へ帰された彼女は暖かく迎えられ、だが居るべき存在が居ない事と今までの様な生活が出来なくなってしまった事で徐々に両親との関係に亀裂が生じる。やがて、彼女は家を飛び出すに至った。

 

 妹が消えて数年。未だに死体も何も見つかっていない現状に、少女は僅かな期待を抱いていた。『まだ何処かで生きて居るかも知れない』と。当然、それは彼女の根拠の無い思い込みである。だが僅かに可能性があるのなら、彼女はそれに賭ける覚悟があった。……だから彼女は居なくなってしまった妹を探す為に、今日までを過ごして来た。そしてこれからも、それは変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミフェリア公国

 

「……ようやく、だな」

 

 1人の男性がとある家から出て来ると、徐に1枚の写真を取り出した。それは現在トールズ士官学院に通っているティアの写真。彼はそれを眺めてから懐にしまい込むと背後に立つ家を眺める。

 

「さて、どう伝えたもんか……まずは姉と会ってみた方が良いか。……クロスベル、ね」





ティア

言語Lv.4(最大Lv.10)

人慣れLv.3(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
フィー・サラ
★★☆☆☆
アリサ
★☆☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ


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第Ⅰ部-第2章- 麗しき翡翠の都
2-1


 初めての特別実習から早一ヵ月。あの日以降、リィンが自分の身分についてを明かした事で貴族を敵視するマキアスとの間には溝が生まれてしまった。ティアとの距離も依然として余り縮まってはいないリィン。だがあの特別実習での2日間がティアにとって無駄だったかと問われれば、決してそれは無かった。

 

「ティアちゃん」

 

「っ! ……は、ぃ」

 

「何時もの、お願いして良いかな?」

 

「うぅ……ア、リサ……頑張、って……」

 

「~~~っ! ありがとう、ティアちゃん! さぁ、行くわよ!」

 

「あれ……何?」

 

「わかん、なぃ……」

 

 主にアリサとティアとの間にあった距離は特別実習を境にかなり縮まったと誰が見ても分かる程に2人は会話を出来る(・・・・・・)様になっていた。そして同時にアリサの欲望にも見える何か、リィン達が『可愛いもの好き』と称す彼女が隠そうとしていた性格が表に出る様になる。殆ど毎日の様に授業が終わり、放課後を迎えればクラブへ向かうアリサ。ラクロス部に入った彼女はティアに応援をして貰おうと元気が出る様で、今も彼女からの応援を受けて見るからにやる気を出しながら教室を出る姿にフィーが思わず呟く。応援しているティアにも余り詳しくは分かっていない様子である。

 

「フィー、は……ぇんげぃ、部?」

 

「ん。一緒に行こう」

 

「……うん」

 

 園芸部に入部したフィー。昼寝に適しているから、と言う彼女らしい理由で入部した彼女は毎日の様にティアを連れて放課後は花壇へ訪れていた。園芸部はエーデルと言う名の女子生徒が部長を務めており、2人からすれば先輩の彼女はとてもおっとりした性格故かティアの同行に文句一つ言う事は無かった。寧ろ歓迎し、ティアが怖がらない範囲で接している彼女にティアは僅かに心を開き始めてすらいる。

 

 適当に花壇でエーデルと共に土を弄り、早めに終わったフィーはティアを連れて昼寝の出来そうな場所へ向かう。学院内は騒がしく、屋上には人の気配。そこで彼女が選んだのは……旧校舎の前だった。ポツンと置かれているベンチには人が3人程座れそうなスペースがあり、周りには誰も居ないが故に眠りを妨げる物も無い。

 

「ふぁ~、おやすみ」

 

「う、ん……おや、すみ。あぅ?」

 

 眠ろうとするフィーの姿に慣れた様子で膝上のスカートを叩いて準備をしたティア。だがそんな彼女の準備を無意味にする様に、フィーはティアの身体を抱き上げ始める。そして出来る限り奥の背凭れへ背中を付けると、ティアを腕の中に納めたままベンチに横になり始めた。

 

「フィー……?」

 

「ティアは抱き枕。ティアは抱き枕」

 

「抱き、枕……抱き枕……うん」

 

 フィーに催眠術の心得は無い。だが彼女は耳元で言葉を繰り返し、ティアは徐々に自身を抱き枕と思い込み始め……やがてジッと抱き枕役に徹し始める。その後、眠るフィーに釣られるかの様に眠ってしまったティア。狭いベンチの上でも小さな2人は落下する事無く、陽が沈むまで眠り続けるのだった。

 

 夜。サラの部屋で眠る予定だったティアが中々眠れず、サラがお酒を我慢する事になったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びトールズ士官学院の生徒達は自由行動日を迎える。サラの部屋で目を覚ましたティアは眠そうに目を擦りながら部屋を出ると、真っ直ぐにフィーの部屋へ。だがそこにフィーの姿は無く、代わりに会ったのは1枚の置手紙。

 

『今日は別行動』

 

「……あぅ」

 

 書かれていたのはたった1文。だがティアには今日1日過ごす上で頼れる相手が居なくなってしまった為、その1文が途轍もなくショックなものだった。前日にサラから1日中第3学生寮へ居る事は駄目と念を押されたため、何処にも行かないと言う選択肢は選べない。ティアは何時もの荷物を手に、恐る恐る寮を出ると士官学院の本校舎に向けて怯えながら足を進めた。

 

 

 一方、生徒会の手伝いとして特別実習と同じ様にリィンは学生たちの問題や教官の手伝いを熟していた。現在、本校舎2階の廊下でとある女子生徒と会っていたリィン。それは平民を示す緑色の制服を着た女子生徒、コレットからの依頼であり、以前生徒手帳を落とした事でリィンがそれを見つけ出して渡した相手でもある。

 

「えっと、今回は誰かと仲良くなりたいって事らしいけど……」

 

「うん。その……リィン君と同じⅦ組のティアちゃんと仲良くなりたいの! お願い! 協力してくれないかな?」

 

 コレットの言葉にリィンは今回の件が難題であるとすぐに理解した。同じクラスメイトの自分もまだ余り仲良くなれていないのに、誰かを仲良くさせるのは難しい。それを伝えると、コレットは「大丈夫!」と自信有り気に答えた。

 

「リィン君に直接紹介して貰おうとかは思って無いの。唯、普段何処でどんな事してるとかを教えてくれないかな?」

 

「普段、か」

 

 リィンの知るティアの行動パターンは基本的にフィーと同じ。何処か昼寝が出来そうな場所があれば、そこに2人で居る可能性もある。が、コレットはそれを聞いて首を横に振った。そして続けられたのは、『ティアが1人で居る時に居そうな場所』について。同じⅦ組だから分かると思われてしまっている様だが、リィンには難しい問いだった。

 

「1人の時、か……まずは人気の無い場所に居そうだな」

 

「ふんふん、人気の無い場所ね」

 

「でも危険は絶対に無い場所だ。例えば図書館や寮内。他には……」

 

 リィンの思い当たる場所を口にすれば、それを以前拾って貰った生徒手帳のメモ帳部分に書き記していくコレット。余りにも熱心な様子にリィンは思わず今度は質問を返す様にしてしまった。

 

「どうしてそこまでティアと仲良くなりたいんだ?」

 

「え? だって可愛いじゃん!」

 

 答えは単純だった。何処かアリサに近しい物を感じたリィン。やがて話を終えてコレットがお礼を言いながら去ろうとする姿を見送っていたリィンは思い出した様にその背へ声を掛けた。

 

「コレット。1つ、大事な事がある。……絶対に無理して距離を縮めようとはしないでくれ。ティアが臆病なのは、知ってる筈だ」

 

「勿論! 嫌われちゃったりしたら意味ないからね! ゆっくり、着実に……~♪」

 

 リィンの忠告を聞いて答えたコレットは何かを想像した様に両頬へ手を当て乍ら去って行く。別の不安を少々感じずにはいられなかったリィンだが、大丈夫だろうと判断して今度こそ彼女が去って行く姿を見送った。……そして彼は窓の外を眺めながら約一ヵ月前にサラへ聞いた質問とその答えを思い出す。

 

『ティアが怯えているのは、大人……いや、自分よりも大きい相手に、なんですか?』

 

『……どうしてそう思ったのかしら?』

 

 彼女の質問にリィンはティアがケルディックの町に住む少女と一緒に居た事を話した。一切彼女へは怯えた様子を見せず、会ってそんなに時間が経ってないにも関わらず隠れる相手にまでしていた少女。……そこでリィンはティアが大人に。正確には自分よりも大きな相手に怯え、異常な程に警戒しているのでは無いかと思ったのだ。彼の話を聞いて少しの間を置いた後、サラは唯一言。

 

『えぇ、そうよ』

 

 どうして自分よりも大きな存在に異常なまでに怯える様になったのか。その経緯については分からないままである。だが、少なくとも自分達がその対象になっているのは間違い無い。かと言って仲良くなれないかと聞かれれば、アリサとの姿を見るに不可能では無いのだろう。要はティアが信用し、慣れる必要があるのだ。

 

「……あ」

 

 ふと、1人の人物を思い出したリィン。自分達よりも先輩でありながら、フィーよりも幼く見える彼女ならティアと簡単に仲良くなる事が出来るかも知れない。そんな事を思い乍ら、彼は次の手伝いをする為に廊下を去る。

 

 

 その頃、第3学生寮からⅦ組の教室へやって来ていたティアは嘗ての様に新しい人形を作っていた。今度は紫色の髪をした女性の人形。誰が見てもそのモデルは分かる程に完成間近のその人形を手に、黙々と作り続けるティアは今日1日の殆どをそこで過ごすつもりだった。……そしてそんな彼女の元へ1匹の小さな獣が近づき始める。

 

『にゃぁ』

 

「っ! ね、こ……?」

 

 学院に紛れ込んだ様子の黒い猫。最初は驚いたティアだが、その姿を確認した彼女は自ら近づき始めた。人に慣れた様子の猫はティアの撫でる手を気持ち良さそうに受け入れ、その後席に戻ったティアの膝上には丸まった黒猫の姿があるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『って訳だ。近々、会わせたいと思ってる』

 

「そうね。少なくとも次の実習先と班分けは終わってるから、その後になるでしょうね」

 

 ティアの居なくなった第3学生寮。サラの自室に、その部屋の主であるサラはARCUSを使って誰かと連絡を取り合っていた。その最中に一度、教官用図書の運搬を任されたリィンが訪れたが、彼女は通信を繋げたまま軽く答えてそれを受け取るだけ。何か大事な話をしていると察したリィンはすぐに部屋を後にし、今は彼女しか居なかった。

 

『アイツの面倒、押し付けて悪いな。サラ』

 

「全くよ。……休学、って事になるのかしらね」

 

『もし本人にその気があれば、帰らない可能性もある。……実際はその方が良いんだろうな』

 

「えぇ……そうね。取りあえず、向こうでは頼むわよ」

 

『あぁ。気付かれない程度には見ててやるよ。こう言うのは慣れてる』

 

 そう言って通信が切られると、サラは大きく息を吐いてリィンが持って来た本を確認。その後、窓の外から入る明るい陽の光を受けて何かを決心した彼女は……何時かの様に缶を取り出し、良い音を鳴らしてブルタブを開ける。

 

「プハァ~! 最高ってね。……まぁ、なる様にしかならないわね」

 

 明るい内から飲む酒の味に快感すら感じ乍ら、サラは静かに呟いた。



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2-2

 5月の実技テストを終えて数日。2度目の特別実習日になったその日、リィンは自分と同じA班の面々を思い浮かべて頭を悩ませていた。

 

 次の実習先は公都バリアハート。ユーシスに縁のある場所であり、彼も同じ場所へ行く事になっていた。……それだけなら頭を悩ませる事にはならない。だが最大の問題は彼と共にマキアスも同行する事である。犬猿の仲と言っても過言では無い程に仲の悪い2人は前回の実習でも殴り合い寸前にまで喧嘩をしていたとリィンは聞いていた。最初に班員の発表があった際にはサラへ抗議をし、戦う事にすらなったものの手も足も出ずに敗戦。班員を組み替える事は不可能だった。

 

「それに……」

 

 更にリィンが頭を抱えるのは現在自分がマキアスに避けられてしまっている事と、今回の実習に再びティアが同じだと言う事であった。今回、班員にエマとフィーが居る事で前者はともかく後者の存在はティアにとって大きいだろう。だが、完全にフィーへ任せっきりにする訳にも行かない。前回に引き続いて一緒という事もあり、数名からは応援される事になったリィン。1名嫉妬の目線が怖かったが、彼女との接し方をどうするべきかも悩みの種であった。

 

 班員と合流して駅へと出向いたリィンはそこでガイウスから激励の言葉を受け取る。前回2人と共に同じ班だった彼は仲を何とか取り持とうとしたが、結果として失敗。だが『リィンならやれる筈だ』、と確信した様子で彼は告げた。

 

 一方、別々の班になったアリサがティアに応援を願う姿があった。見慣れた物ながら、ティアが戸惑い気味に『頑張、って』とアリサを応援すれば、彼女は見るからにやる気を出し始める。そして去って行くB班を見送った後、A班も電車へ乗り込んだ。

 

 電車の中では前回同様にティアが別の座席へ。だがその隣にフィーも座っており、向かいにはエマが座っていた。綺麗に男女別に分かれる形で座ったものの、リィンは会話をする度に状況が悪化するユーシスとマキアスの2人へ頭痛を感じ乍らも納得する。

 

「……成程。道理で散々な成績だった訳だ」

 

 彼の言葉に2人は反応し、敵意すら見せ始める。そんな中で彼が語るのは前回の特別実習でB班が貰った成績について。本来Sまである成績でB班が出した成績はE。普通の試験なら赤点レベルのそれを出した2人に「また繰り返すのか?」と。

 

 2人はすぐに納得はしなかった。だがリィンは自分達が今、B班に負けない為の仲間である(・・・・・・・・・・・・・・)と告げればその場にいた全員が驚かずにはいられなかった。彼とはまだ短い付き合いだが、勝敗に拘る性格には思えなかった故に。だが彼はそれを否定する。普段から成績の良いマキアスやユーシスを羨ましいとも感じ、数日前のサラとの戦闘が手も足も出なかった事を悔しいとも感じていると。

 

「少なくともあの時、俺達がもう少し連携出来ていれば……戦術リンクを使い熟せていれば」

 

「勝つ事は無理でも、負けない事(・・・・・)は出来たかも。だね」

 

「……」

 

 サラについては未だに分からない事が沢山ある。だが誰が見てもフィーとティアは彼女と面識があり、そのフィーが続けた言葉は戦った3人に重く圧し掛かった。

 

「アリサさん。ラウラさん。エリオットさんは前回同じ班でした」

「ガイウスならどんな相手でも合わせられるだろう。少なくとも合わせようとする筈だ」

「準備万端。問題無さそうだね。アリサとか、ブースト掛かってそうだし」

「あぁ。……下手したらダブルスコアもありえる。俺達がこのままならその差は」

 

「分かったもう良い! そこまで言われたら協力するしかないだろう!」

 

「合わせる気は無い。が、自ら負け犬に成り下がるつもりも無い」

 

 矢継ぎ早に続けられる言葉に到頭耐え切れなくなったマキアス。普段から成績の良いエマをライバルとして見ている彼には耳の痛い話であり、またユーシスも負けると言われてそれを受け入れられる性格では無かった。戦っていた訳では無い2人だが2日間は一時休戦して協力し合うと約束する姿を見てリィン達が安心する中、フィーは2人に見えない位置でティアにピースサインを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車を降りて駅のホームに立ったA班を出迎えたのは、沢山の駅員達だった。主にユーシスを出迎えている様子であり、彼の荷物を持とうとする等の目に見える特別扱いが彼の家柄の凄さを物語る。沢山の人達が並ぶ駅のホームに居るのは当然全て大人。ティアがフィーの後ろに怯えて隠れる中、ユーシスは目の前の光景に頭を抱えた。……駅員達に他の5人は一切眼中に無かったのだ。出来る限りユーシスの機嫌を損ねない様に、それでいて取り入る隙を見つけようとしているのが彼には丸分かりだった。

 

 そんな中、人混みが道を開ける様に開き始める。そしてそこから姿を見せたのは1人の男性。

 

「あ、兄上……」

 

「親愛なる弟よ、3ヵ月ぶりくらいかな? 聊か早すぎる気もするが、良く戻って来たと言っておこう」

 

 ユーシスに兄が居る等と聞いた事の無かった面々は驚かずにはいられなかった。ユーシスを始め、他の5人を順々に確認してから自己紹介を始める男性……ルーファス・アルバレア。彼はユーシスを茶化す様な発現をし、それに狼狽えるユーシスの姿は正に()だった。普段見る事の無い彼の姿に衝撃を受ける中、彼によって宿泊施設まで送って貰う事になったA班。並ぶ駅員達の間を通って外に出たティアは大きな建物の並ぶ光景に目を見開いた。

 

「フィー……大きぃ、建物……ぃっぱぃ」

 

「だね。公都って呼ばれるだけはある」

 

「フィー、ティア。大丈夫か?」

 

「平気。ティア、行くよ」

 

 ルーファスが運転手付きで用意したのは長い後部座席の導力車。先に乗る彼に付き従う形で入って行く中、街の光景に驚いていたティアとその傍に立つフィーへリィンが声を掛けた事で2人も乗り込み始めた。普通の導力車に比べればかなり広いものの、7人も乗って居れば狭く感じずにはいられない。隣に座るエマとの距離が近い事でティアは無意識にフィーへ身を寄せていた。

 

「ふむ。大分怯えている様だが、何か怖がる様な事でもしてしまったかな?」

 

「何時もこんな感じだから、気にしなくて良い」

 

「ふ、フィーちゃん」

 

 怯えるティアの姿にルーファスが気にするも、首を横に振って何時も通りの言動で答えるフィーにエマは思わず焦ってしまう。相手が相手故に失礼な言動は問題にすらなりかねない。そう思い、代わりに謝ろうとする彼女へルーファスは微笑みながら気にしていない事を伝えた。

 

 車の中では特別実習の課題について、話が行われた。今回実習の課題を作ったのは何と彼であり、宿泊先のホテル等を準備したのも彼。それを聞いて代表する様にリィンがお礼を言い乍ら課題の書かれているであろう封筒を受け取る。

 

 そして次にユーシスの学院生活やマキアスの父親についての話が行われた。マキアスの父親は貴族ばかりの政治世界で平民として帝都知事にまでなった人物の様で、マキアスはあからさまな敵意は見せずに彼と会話をする。……少なくとも、大貴族であるルーファスはマキアスの父親に『平民だから』と言う理由で悪い感情を抱いていない様であった。

 

 話の最中、予定の宿泊施設を到着した事でA班は車を降りる。ルーファスはこの後公都を出る予定があるとの事で、彼が去って行くのを見送ったA班。ケルディックと違って都会の街には人も多く、ティアは常に怯えてばかり。それを見兼ねたユーシスはまずホテルで荷物を置く事を提案する。……中に入って再びユーシスを特別扱いする問題があったが、彼自身がそれを止めさせる事で事無きは得た。

 

「この実習で少しは仲良くなれると良いのですが……フィーちゃんはどうやって仲良くなったんですか?」

 

「……成り行き、かな」

 

 前回とは違い女子と男子で別々の部屋を借りる事が出来たA班は1度別れて荷物を整理する。と言っても必要な物とそうで無い物を分けるだけであり、ティアの場合ははぐはぐフィーと未完成はぐはぐ。裁縫セットの3点を部屋に置くだけ。大きな部屋に大きなベッドが3つある環境に好待遇を感じ乍ら、エマは横目でティアに視線を向けて呟いた。そしてふと気になった様に質問すれば、フィーは少し顔を上げてからそう答える。深く話をするつもりは無い様で、準備を済ませた3人が外に出れば既に終わっていた男子3名がフロントで待っていた。

 

「それじゃあ、今日の課題を確認しよう」

 

 全員が集まったのを確認して、リィンはルーファスから受け取った本日の課題を確認する為に封筒を開けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半貴石の一種、ドリアード・ティア。それを求めて外へ出る事になったA班は何処か胡散臭い男性の情報を頼りに歩みを進める事になった。それは課題にあった1つであり、何でも旅行者の男性が結婚指輪を作る為に欲しがっていると言う内容。経済的にも厳しい彼はリィン達へ頼み、彼の力になりたいと動き出したA班だが……今の気分は半信半疑であった。

 

「ブルブラン男爵、だったか。あの男、どうにも信用ならんな」

 

「何と言うか……」

 

「胡散臭い」

 

 中々見つかる事の無いそれを見つけると言う話になった時、偶然居合わせた男性から情報を貰ったA班。だが雰囲気や言動がどうにも怪しく、他に情報も無い故にそれを当てにして来たリィン達は正直不安を隠し切れなかった。……そんな中、ティアがフィーの着る制服の裾を引っ張り始める。

 

「あっち……虫、が……ぃっぱぃ」

 

「ん。行ってみよっか」

 

「……話には聞いていたが、本当に魔獣の気配が分かるのか? 正直まだ信じられないんだが」

 

「ふん。行ってみれば分かる事だ」

 

「リィンさん。見失わない内に追い掛けましょう」

 

 ある方向を指差して告げたティアの言葉にフィーは頷き、歩き始めてしまう。当然裾を握るティアも同じ様に前を出てしまい、怪しげな男性と同様に半信半疑なマキアス達はその後を追い始める。リィンもエマに言われて急ぎ足で進む中、やがて6人の目の前には虫型の魔獣が集まる場所に到着する。虫達は一様に1本の木に群がっており、その樹からは樹液が流れ出ているのが見える。

 

「確か、樹液が石の様に固まった物。だったな」

 

「はい。ですがこのままだと食べられてしまうかもしれません」

 

「急いで駆除するしかないだろうな」

 

「ティア、下がって」

 

「う、ん」

 

「よし。一気に殲滅するぞ!」

 

 リィンの号令を受け、一斉に虫型の魔獣を倒す為に動き出した5人。マキアスとユーシスは未だ連携が出来ず、戦術リンクも繋げる事が出来ずじまいだが、それでも難なく魔獣を撃破する事には成功する。無事に残った樹液を調べれば、そこには綺麗に光る塊。……目的の半貴石を手に入れる事が出来た。

 

 A班はそれを手に街へ戻ると、職人通りと呼ばれる場所にある宝飾店、ターナーへ足を進めた。……しかしそこで待つのは浮かない顔の旅行者と店主。そして見せつけられるのは、貴族による横暴がまかり通る現実であった。

 

「どんな結末が待っているかと思えば、とんだ喜劇だった様だな」

 

「まだ居たんだ」

 

「ふ、フィーちゃん」

 

 肩を落として店を後にする旅行者を唯見送る事しか出来なかったA班へ話し掛けたのは、情報を与えた胡散臭い男性……ブルブラン男爵だった。彼の情報は本物であり、フィーの言動にエマが謝罪してリィンがお礼を言えば、彼は笑みを浮かべて口を開く。

 

「人生には苦悩が満ちている。思う様に行かないからこそ、誰もがもがき苦しみ続ける。先程の茶番は見るに堪えなかったが、それに翻弄される君たちはとても美しい」

 

「……何の話ですか?」

 

「ふふ、それでは失礼するよ」

 

「っ!」

 

 何かの台詞を言う様に告げる男性へリィンが返すも、彼は答える事無くお辞儀をする。そしてその目が僅かに一瞬だけティアと会えば、何も言わずに彼は店を後にした。その視線に何の意味があったのか、ティアには分からない。一瞬だった故に彼女以外は誰も気付いておらず、結局A班は心にモヤモヤとしたものを感じ乍ら次の課題を熟す為に店を後にするのだった。



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2-3

 オーロックス峡谷道。バリアハートから出たA班は手配魔獣を倒す為にそこを訪れていた。先程の半貴石を手に入れる為に戦った魔獣とは違い、初めから強敵が相手と分かっている。故にユーシスとマキアスが今度こそ戦術リンクを互いに成功させる気概を見せる中、手配魔獣に近づいて来た事でティアは反応を見せる。

 

「大きぃ……爪……ぴょんぴょん、跳ねてる……よ」

 

「大分機動力に優れた魔獣、かもね」

 

「あぁ。……行こう」

 

 ティアの情報を元に敵の行動を予測して警戒し乍ら、やがてA班は手配魔獣と接触。そしてユーシスとマキアスが主に前へ出て戦闘を行うも……戦術リンクを繋いで尚、2人は全く連携が出来ていなかった。やがて強制的に2人を繋ぐ光は断絶され、ARCUSの機能を受けなくなってしまう。

 

「駄目かっ! エマ、頼む!」

 

「はい、リィンさん!」

 

 2人の動きが上手く行かないと分かり、代わる様に前へ出たリィンはエマと戦術リンクを繋ぎながら戦闘を引き継ぐ。誰とも繋いでいないフィーが1人でフォローする中、地に伏した魔獣を前に一安心。だが、ユーシスとマキアスは互いに断絶された原因が相手にあると言い合いを始め、到頭掴み合いが始まってしまう。

 

「ぁ……う……フィー」

 

「流石に不味いかも」

 

「そうじゃ、なぃ……あれ」

 

「? っ!」

 

 リィンが止めに入ろうとするも、更に言い合いが過熱して到頭殴り合いにも発展しそうになった時。フィーはティアの言葉に首を傾げて彼女が指差す何かを見る。……それは地に伏した魔獣であり、一瞬その巨体が動いた事でフィーは動き出していた。機動力を生かして倒れた状態から突然跳躍した魔獣。その攻撃先は喧嘩する2人であり、次に魔獣の動きに気付けたリィンが2人を庇う様に間へ入る。そしてその刃が自らの肩に僅か乍ら触れた瞬間、背後から響く銃声と飛来する弾丸が魔獣の鋭い爪を撃ち抜いた。

 

「まだ生きてる。気を抜かないで」

 

「リィンさん、怪我はありませんか!」

 

「あぁ。フィーのお蔭で大丈夫だ」

 

 自分達を庇おうとした事は明白。その事実に喧嘩をしていた2人が言葉を詰まらせる中、フィーが何時の間にか魔獣の背中に乗って至近距離で発砲する。再び倒れる魔獣を前にやり遂げた様子で息を吐いたフィーはその背から降りた。

 

「完全に沈黙した筈。どう?」

 

「う、ん……もう、へぃき。……フィー」

 

「? ……了解」

 

 自分よりも完全に魔獣の状況が分かるティアへ質問すれば、頷いて肯定した彼女がフィーへ何かを耳打ちする。フィーはそれを聞いて頷きながら答えると、リィンの傍へ。そして肩に僅か乍ら傷がある事を指摘した。途端に心配していたエマが手当をすると言い始め、僅かな掠り傷で放って置いても治ると答えるリィンだが、エマの押しは強かった。

 

「そんな大げさにしなくても大丈夫だ」

 

「いいえ、傷は傷です。放って置けば更に悪化する場合もあるんですからね」

 

「……分かった」

 

 到頭折れたリィンにエマが手当を開始する中、黙っていたマキアスとユーシスが自分達のせいだと謝り始める。リィンは彼らの言葉に傷はそんなに大きく無いと念を押した上で、2人は悪くないと告げる。

 

「言ったろ? 俺達は仲間、だからな……2人が無事で良かったよ」

 

「君は……」

 

「……」

 

 リィンの言葉に再び言葉を詰まらせる2人。やがて手当も終わり、無事に討伐した事を報告する為にオーロックス峡谷道を更に奥へ進む事になったA班。未だにマキアスとユーシスの戦術リンクは繋がらないが、それでも彼らはあの時以上に喧嘩を始める事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告を終えての帰り道に謎の飛行物体の目撃し、峡谷道の向こうにあったオーロックス砦に侵入者が入った事実を知りながら街へ戻ったA班。ホテルの前でユーシスの父親と遭遇するも、決して暖かく感じる事の出来ない会話をその目にした事で彼もまた何かを抱えていると悟る。……そして男女別に部屋へ戻り、レポートを書く事になったのだが……。

 

「……うぅ……」

 

 ティアは机の上に置かれた紙を前に何も書けずにその手を止めていた。と言うのも以前の特別実習でティアが作ったレポートは決してレポートと言える様な代物では無かった。基本的に何でも『怖かった』で終わり、その内容は言うならば子供の日記。本人の年齢的にはギリギリ問題無さそうだが、士官学院に居る以上それでは許されなかった。

 

「ふぁ~……やっぱ、眠くなるね」

 

「フィー……見せ、て?」

 

「別に良いけど、多分丸写しはサラに怒られるよ」

 

「あぅ……」

 

「あはは……ティアちゃん。一緒に頑張りましょう」

 

「…………う、ん」

 

 士官学院での日々と今日の時間で僅か乍らに慣れ始めていたティアはエマの言葉に長い間を置いて頷いた。今ならもう少し仲良くなれるかも知れないと思ったエマ。彼女へ僅かに近づけば、ティアは離れる様に僅か乍ら距離を取った。……一緒に頑張る気はあるものの、近づく事はまだ出来ない様子である。

 

「エマ、どんまい」

 

「うぅ、もう少しな気がするんですが……」

 

 一定の距離を保ちながら口頭で手助けをして貰う事になったティア。フィーもエマに色々助けを求める事があり、エマは大忙しだった。……やがて無事にレポートが完成したタイミングでリィンが部屋の戸を叩く。夕食を食べに行く為に向かいのレストランへ行くとの事で、無事に男子の方も終了したのだろう。彼の誘いに乗ってA班はレストランへ向かった。

 

 向かいのレストランはマキアス曰く、『如何にも貴族が来そうなレストラン』だった。数人が気後れする中、堂々と入店するユーシスを出迎えた店主。その表情は一瞬驚き、すぐに優しいものへと変わる。それは駅員やホテルの従業員とは違う、心の底からの微笑み。ユーシスの帰還を祝ってと言う事で、値段は特別料金。出される料理はどれも豪華で美味しく、A班は至福の一時を味わうと共にユーシスが慕われている事を知った。今朝出会った貴族との大きな違いにマキアスが複雑そうな表情を浮かべる中、やがて食べ終えた事でホテルへ帰還。再び男女別に分かれ、明日の為に休む事となる。

 

「今日は別」

 

「……う、ん」

 

「ベッドの位置は……こうなりますよね」

 

 普段一緒のベッドで寝ているティアとフィーも今日は別々。3つ並んだベッドの中央でフィーが横になり、その左右をティアとエマが使用する。ある意味当然とも言えるベッドの使用位置に眼鏡を外しながら呟いたエマ。そして電気を消して眠る事になり、部屋の中には静寂が支配する。……が、しばらく時間が経った頃。ティアは徐に目を開いた。

 

「……」

 

「……眠れない?」

 

「っ! ……う、ん」

 

 ティアは決して誰かが一緒で無いと眠れない訳では無かった。だが不思議と中々眠る事が出来なかった様で、まだ寝付いていなかったフィーがそれに気付いて声を掛ける。声を掛けられるとは思っていなかったティアは一瞬驚き、フィーへ顔を向けて頷いた。

 

「前は知らないけど、ティアは今日頑張ってた」

 

「……そう、かな?」

 

「ん……半貴石、だっけ? あれを見つけたのはティア。リィンが大きな怪我をしなかったのもティアが気付けたから。……頑張った」

 

「……う、ん……戦ぃ、出来なぃ……から」

 

「そっか。……ティアは無理して戦わなくても良いと思う」

 

「で、も……」

 

「前にも言った筈。私が守る。だから、ティアは心配しなくて良い」

 

「……フィー」

 

「大丈夫。……お休み」

 

 会話の末、フィーはそう言って目を閉じてしまう。ティアはそれを見て天井を見上げ、同じ様に目を閉じた。……それから数時間、部屋の中には再び静寂が訪れる。2人の会話を同じ様にまだ寝付けていなかったエマは図らずも聞いてしまい、今まで以上に2人の関係が気になり始めるのだった。そして、夜は明けて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特別実習2日目。男子の部屋でも何やら話があった様で、マキアスとユーシスが互いに積極的に戦術リンクを完成させると意気込みを見せる中、突然ユーシスの父親の命を受けた執事によって彼は一時的に班からの離脱を余儀なくされてしまった。ユーシスが居なくなっても時間は過ぎる。彼抜きで課題を熟す事になったA班は2つの課題を確認した後、最寄りの昨日夕食を食べたレストランへ向かった。

 

 それから数時間。レストランからの頼み事を終え、街の外で手配魔獣も無事に撃破したA班は突然大人達に囲まれてしまう。ティアが目に見えて怯える中、彼らの恰好から領邦軍であると理解した一同。その目的はマキアスの確保であり、罪状は昨日のオーロックス砦にあった侵入者について。マキアスが『濡れ衣だ!』と抗議するも、聞く耳を持たずに連行して行く領邦軍。リィン達に止める術は無く、彼が連れて行かれる現状とユーシスがこの場に居ない現状を合わせてリィンはそれが仕組まれたものであると理解した。

 

 宿泊していたホテルにも領邦軍が居り、自由に行動する事が出来なくなってしまった4人。職人通りの宿酒場でまずは状況を整理する事になる中、ティアが窓の外に何かを見つけた様子で急激に立ち上がった。

 

「どうしたんだ、ティア」

 

「っ!」

 

「ティアちゃん!?」

 

「……私が見てる」

 

 ティアは突然宿酒場を飛び出してしまう。予想外な行動に困惑する中、同じく驚いていたフィーが彼女を追う様に外へ出れば……少しして入れ替わる様に1人の男性が入店した。

 

 その頃、職人通りの道の真ん中できょろきょろと周りを見渡していたティア。その様子は見つけた何かを見失った様であり、追い掛けて来たフィーが彼女へ声を掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「あ、ぅ……と、ヴぁる……」

 

「トヴァル? ……それって確か」

 

 フィーがティアの言葉に思い当たる部分があった事で言葉を続けようとするも、見失っても尚諦めきれない様子のティアは再び走り出してしまう。何の手掛かりも無い状況で大きなこの街中を闇雲に探すのは無謀とも言える。が、言っても聞きそうにないその姿にフィーはティアの姿を見失わない様に気を付け乍ら街を歩きまわった。が、結局は見つからない。今にも泣きそうなティアの姿にフィーは前に立つと、両肩に手を置いた。

 

「見間違いかも。戻ろう、リィン達のところに」

 

「……ぅ、ん……」

 

 弱々しく頷いて、フィーと手を繋ぎながら職人通りへ戻ったティア。宿酒場に残っていたリィン達は2人を出迎え、何があったのかを質問するも、「ちょっとね」とフィーは返して話を終わらせる。するとリィンとエマはマキアスを助け出す事を、その方法を見つけたと2人へ説明し始める。……何でも偶然この場に若い男性の遊撃士が居り、彼から『地下水道』の存在と場所を聞いたとの事。

 

「……ゅう、撃士……」

 

「……」

 

「えっと……続けて大丈夫か?」

 

 ティアが『遊撃士』と言う言葉に反応を見せ、フィーがそれを見つめる中でリィンが頬を掻きながら質問。フィーが頷き返すと、彼は説明を再開した。

 

 公都の下には地下水道があり、そこには魔獣が徘徊している。だがその地下水道は領邦軍の基地にも通じており、そこから中へ入ってマキアスを助け出す事が出来るかも知れない。全ての説明を聞いたフィーは少し黙った後、「良いよ」と一言。エマもマキアスを救う為にやる気の様で、リィンはティアに視線を合わせる様にしゃがみ込んだ。

 

「ティアは大丈夫か? 何なら街に残るのも」

 

「……ゃ」

 

「ホテルも入れないし、ティアを残すのは逆効果だと思う」

 

「少し心配ですが、私も連れて行ってあげた方が良いと思います」

 

 フィーとエマの言葉を聞いてリィンはティアを連れて行く事にする。そして4人は若い男性遊撃士からの情報を頼りに地下水道への入り口を見つけ、領邦軍目掛けて侵入を開始するのだった。



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2-4

 地下水道に潜む魔獣を倒しながら奥へと進む4人。リィンとフィーが戦術リンクを使って前に出ると、エマが彼らの補助をする事で戦闘はスムーズに進行した。フィーは戦力が減った為に働く量が増えたと愚痴る中、そんな4人の目の前に見知った姿が現れる。

 

「ユーシス!?」

 

「お前達か」

 

 それは朝、父親の命令を受けてやって来た執事と共に別れたユーシスだった。彼も軟禁状態にあって居た様で、同じ様に地下水道を伝ってここまで来たとの事。共にマキアスを助け出す為に行動を開始すれば、フィーの愚痴は少なくなった。

 

 それから更に奥へと進んだ5人の目の前に巨大な鉄の扉が立ちはだかる。地下水道の構造上、その先が目的である領邦軍の基地。何とかして通れる方法は無いかと悩む中、仕方無さげにフィーが前へ出る。

 

「……任せて」

 

 彼女は扉の周りに何かを設置。そして『起動(イグニッション)』と言って何かを操作した瞬間、それが爆発する事で扉は強制的に解放された。驚愕するリィン達へ何事も無かったかの様に「開いたよ」と告げたフィー。……そこで到頭、リィンはフィーへ単刀直入に質問する。これまで見せて来た異常な身体能力を初めとしたフィーの異端さについて。誰もが思っていた事だった。15歳にして高い戦闘能力を持ち、様々な道具を使い熟す彼女は一体『学院へ来る前、何をやっていたのか?』と。

 

 フィーの口から簡潔に語られたのは、彼女が元々猟兵団に居た。と言う事だった。常に戦いの場に身を置く猟兵ならば、その戦闘力の高さにも納得したリィン達。そこでエマがティアを見て「彼女も、ですか?」と質問した。フィーと仲が良いティア。彼女が入学する前に何をしていたのかを知らないエマ達からすれば、そこに一緒に居たと言う可能性を考えても不思議では無かった。が、彼女の質問にフィーは首を横に振って否定する。

 

「ティアにはサラと会ってから。詳しい事は、サラに聞いて」

 

「……後にしよう。この先が領邦軍の基地の筈だ。何とか見つからずにマキアスを救出しよう」

 

 少し離れた場所で周りを警戒しながら自分達を見ているティアへ一度視線を送った後、リィンは本来の目的を果たす為に今深く聞く事はしなかった。……そしてフィーのお蔭で通る事が出来る様になった道を進めば、そこは領邦軍の拘置所。マキアスが収容されている場所だった。探す手間が省けたと安心しながら、何とか彼を檻から出す事に成功した5人。これでA班が全員揃ったと安心した矢先、次なる問題が発生した。

 

「そこで何をやっている!」

 

「……不味いね」

 

「くっ! 増援を呼ばれる前に片づけるぞ!」

 

 領邦軍の男性2人が現れ、マキアスと共に合流した全員を視界に捕らえてしまう。焦りながらも各々武器を取り出して応戦。早期決着を図るも、最悪な事に増援を呼ばれてしまう。

 

「走るぞ!」

 

「ティア、捕まって!」

 

「う、ん……!」

 

 完全に気付かれてしまったA班はとにかく逃げる為に来た道を戻り始める。フィーの手に捕まってティアも走る中、誰よりも先に彼女がその脅威が近づいて来る事に気付いた。

 

「大きぃ、魔、獣……獣……来てる……っ!」

 

「大きい獣の魔獣だと! まさか、軍用魔獣か!」

 

「足、速ぃ……!」

 

「駄目だっ! 追いつかれる!」

 

 A班が地下水道の少し広い場所へ出ると同時に背後から追って来ていた2匹の巨大な魔獣が道を塞ぐ様に現れる。そしてまるで獲物を囲い込む様に円を描きながら6人の周りを歩く魔獣。もう逃げる事は出来ないと悟ったA班は戦う為に武器を構えた。

 

「やるしかない。ユーシス!」

 

「ふん。遅れるなよ、はぁ!」

 

 走っていた間にずれた眼鏡の位置を戻し、ショットガンを手にユーシスと戦術リンクを繋いだマキアス。2人がARCUSを通じて繋がったのを見て、リィンもエマと共に戦術リンクを繋いだ。

 

「フィー! フォローを頼む」

 

「了解。でも、こっちも手一杯かも」

 

「あ、う……」

 

 前に出るユーシスとマキアスが1体を相手にし、リィンとエマも1体を相手にする中、フィーは何方にもタイミングを見計らって銃で援護射撃しながらティアの傍を離れなかった。

 

 以前とは違い、繋いで時間が経っても戦術リンクが断絶される事の無いマキアスとユーシス。今回の出来事は2人の関係に大きな影響を与えたのだろう。だが連携を出来る様になってしても、飼い馴らされて訓練を受けた軍用魔獣を相手にするには厳しかった。負ける事は無いものの、決定的な一撃を与える事も出来ない。リィンとエマも同様であり、どうしても戦力が分散されるのは痛かった。

 

「……ティア。隠れて」

 

「フィー……」

 

 時間を掛け過ぎれば、領邦軍が来てしまう。戦力が足りない現状、自分が入る事でそれを覆せると考えたフィーはティアに隠れる様に指示を出す。言われた通りに戦場から少し離れた場所に走って隠れたティアを確認した後、フィーはリィンとエマが戦う魔獣を先に倒す為に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィーが本格的に参戦した事で戦場は一気に優勢となる。リィンとエマが相手にする魔獣を倒し、マキアスとユーシスが戦う魔獣も無事に倒し切る事が出来た5人。強敵との戦いに勝てた事に肩で息をしながらも思わず5人は笑い合ってしまう。だが、そこへ追い付いて来た領邦軍が現れて取り囲み始めた。リーダー格と思しき男が居ない筈だったユーシスの姿に戸惑うも、無理矢理連行しようとする中……その悲鳴は全員の耳へ届いた。

 

「……ゃ!」

 

「この、こっちに来い!」

 

「何だ、その餓鬼は」

 

「はっ! 予め6名と分かっていたので探したところ、同じ制服の子供が隠れて居りました!」

 

「……かなり、不味いかも」

 

 大人に腕を掴まれて強制的に連れて来られるティアの姿がそこにはあり、必死に抵抗する彼女の腕を押さえて領邦軍の1人が説明をする。それを聞いたリーダーと思しき男がティアへ近づく中、フィーが他の4人へ聞こえる様に呟いた。……現状、ピンチなのは誰でも分かる事。その上でそれを呟いた彼女に違和感を感じたリィン達。そして、それは起こってしまう。

 

「……ぃ、ゃ……」

 

「ふん、逃げられると思うなよ……」

 

『逃げられると思わない事だ』

 

「……ぁ……ぃ、ゃ……『ぃやぁぁぁぁぁぁ!』」

 

 ゆっくりと伸ばされた手。告げられた言葉。それがティアの中で違う男の声(・・・・・)として再び繰り返された時、彼女は大きな悲鳴を上げる。それと同時に彼女を中心として暴風が吹き荒れ、彼女を押さえていた男も、リーダーと思しき男も、周囲に居た者全員が大きく吹き飛ばされた。少し離れた場所に立っていたリィン達は飛ばされずに済むも、顔を庇う様に腕で覆っていた彼らは目の前に映る光景を見て絶句する。

 

「何だ、これは」

 

「何が起こったんだ!?」

 

 領邦軍の男達が1人残らず倒れる中、彼らの目の前にあったのは謎の光に包まれたティアの姿。その身体は浮いており(・・・・・)、宙を漂うティアはゆっくりと目を開いた。……それを見たフィーが誰よりも先に自分の武器を取り出して構える。

 

「来るよ」

 

「え? い、一体何が!」

 

「っ! 避けろ!」

 

 リィンの言葉と同時に一斉にその場から飛び退いた5人。そんな彼らの居た場所に1本の雷が飛来する。地面を焦がし、僅かな電気を残すその光景に5人は見覚えがあった。

 

「今のは、魔法(アーツ)……?」

 

「しかし、発動が早すぎる。まるで駆動時間が無いじゃないか!」

 

「くっ! フィー! どうすれば良い!?」

 

「ん……取り敢えず、耐える」

 

 唯一これが起こる事を予測出来ていた様子のフィーならば、打開する方法も分かると思ったリィン。だが返って来た言葉に耳を疑わずにはいられなかった。

 

「次、来ます!」

 

「今度は何が来ると言うのだ」

 

 ゆっくりと手を上げたティアの周りに出現するのは、5本の剣。それが各々の元へ飛んで行く中、全員がそれを防ぐか躱す等してやり過ごした。1度の攻撃で消滅した剣にも見覚えがあった全員。その後も床から火を起こし、竜巻を発生させるなど見覚えのある魔法を繰り出し続けるティアの攻撃を彼らは疲労を抱えながらも必死で避け続けた。……すると、ゆっくり両手を上に上げ始めるティアの姿にまだ発動した魔法を見ていないにも関わらず、全員が嫌な予感を感じた。

 

 空に出現する巨大な扉。光を放ちながら徐々に開き始めるそこから出て来る物が何か、今までの流れから嫌でも理解する事が出来た。避ける方法が思い付かず、唯々出来る限り攻撃を防げる様に構えた5人。……しかし、それが完全に開き切るよりも早く彼らの前に1人の女性が舞い降りた。

 

「はぁ!」

 

 見覚えのある紫の髪。紫電を纏いながらティアに急接近した彼女は片手で刃を振るい、跳躍しながら片手で導力銃を発砲する。大きく体勢を崩したティアの姿と共に開き掛けていた扉は開き切る前に薄れ、やがて消えていった。

 

「ったく。面倒な状況になってるわね!」

 

「サラ教官!?」

 

 突然現れた人物、サラに驚きを隠し切れないリィン達。するとそんな彼らの背後から更に見覚えのある人物が姿を見せる。それは昨日、公都を離れた筈のルーファスだった。

 

「話は後よ! あんた達、まだ戦えるわね!」

 

 ティアを前に警戒しながら語り掛けるサラの姿を見て、全員が互いに顔を合わせて頷き合った後、彼女の背後に武器を構えながら立つ。ルーファスも「微力ながら手を貸そう」と言って剣を構え、6人掛かりでティアとの戦闘が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にティアを無力化する事が出来たリィン達。光を失ってゆっくりと床へ倒れた彼女は意識を失っており、A班はサラと共に士官学院へ戻る為に地下水道を後にする事となった。その際、ルーファスがトールズ士官学院に3人居るとされる理事長の1人だと知らされながら、その帰りの電車に揺られる5人は地下水道で起きた出来事についての話をする。

 

「結局、ティア君のあれは何だったんだ?」

 

「……駆動時間の無い魔法……そんな筈無いのですが……」

 

「委員長?」

 

「あ、えっと……フィーちゃんはあれが何か、知ってるんですよね!?」

 

「まぁ、ね。詳しくは知らないけど」

 

 マキアスの言葉に1人呟いたエマ。それに気付いたリィンが質問すれば、あからさまに話題をフィーへ振った。フィーは少し目を閉じて肯定するも、「多分サラが話すと思う」と続けるだけで彼女自身が語る気は無い様子を見せる。サラへ託してしまった為、今この場に居ない少女の事を思い浮かべながら、5人はトリスタへ帰還するのだった。



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間章+α

 トールズ士官学院、Ⅶ組の教室にて。ティアを除いた全員が教室に集められていた。特別実習が終わり、無事に全員が帰還。お互いに実習先で起きた出来事を話す中、ティアについても当然リィン達の口からB班の面々へ語られた。……そして2日が経ったこの日、未だに第3学生寮の部屋で目を覚まさないティアについてサラが説明をする為にⅦ組の生徒は集められていた。

 

「……さて、何から話すべきかしらね。……数年前、とある頭のイカレた教団があったわ」

 

 サラが語るのはとある教団の話。ゼムリア大陸の各地に拠点を置き、活動していたその教団は彼方此方で子供を攫っては『儀式』と称して様々な実験を行っていた。実験の目的は様々あり、上げれば切りが無い。だがその中の1つにあったのが、魔法(アーツ)導力器(オーブメント)無しに生身で発動出来る様にする為の実験。……本来リィン達Ⅶ組が持っているARCUSの様な導力器が無くては放てない魔法。それを何の道具も無しに使う事が出来れば、それは生きた兵器(・・・・・)にもなるだろう。

 

「つまりティアは」

 

「攫われ、実験体にされていた……と言う事か。外道が」

 

 ラウラが言葉にすると共に怒りを露わにする中、サラは説明を続ける。

 

 大体6年程前、その教団は警察・軍・遊撃士等々、あらゆる組織が手を組んで行われた殲滅作戦によって殆ど壊滅させる事が出来た。沢山の子供達が死体となって発見された悲惨な話はリィン達も各々聞いた事があり、教団がどんな名前なのかは察しが付く。

 

「それじゃあ、ティアはその生き残りって事?」

 

「そうだけど、ちょっと違うのよね……」

 

 エリオットの言葉に頬を掻きながら答えたサラは言葉を続ける。そもそも殲滅作戦が行われたのは6年前。だがサラがティアと出会ったのは1年前であった。それも彼女が見つけた訳では無く、彼女の知り合いが最初にティアを保護したと語る。その知り合いはティアの家族について調べる為に自分へティアを預けたと。……つまりティアには5年間の誰も知らない空白があるのだ。

 

「ティア君の家族……彼女に聞けばすぐに分かると思いますが」

 

「残念だけどティアは出会った当初、自分の名前以外には何にも覚えてなかったらしいわ。常識的な事は多少覚えていたけれど、自分については何もかも忘れていた」

 

「……成程。やっと合点が行きました」

 

 リィンが頷きながらサラの言葉に返した。ティアは12歳と聞かされていたものの、彼は前々から12歳にしては雰囲気も行動も幼過ぎると思っていたのだ。だが記憶が1年少々しか無いのなら、可笑しな話では無かった。更に大人を怖がる理由についても。記憶は無くとも、実験体としての日々を身体が無意識に覚えているのだと。教団の人間は当然全員が大人の筈であるが故に。

 

「まぁ、でもティアの家族についてはこの前連絡があったから問題無いわ」

 

「問題無い。要するに見つかった、と言う事か」

 

「えぇ。もうご家族に連絡は取れたわ。【ティア・プラトー】、それがあの子のフルネームよ」

 

 ティアのフルネームを知って各々が反応を見せる中、誰よりも反応を見せていたのは普段誰よりも反応の薄いフィーだった。彼女はサラへ睨むような視線を向けると、口を開く。

 

「家に帰すの?」

 

「そのつもりよ。予定では今月。貴女達が特別実習に行っている期間に連れて行くわ」

 

「…………そっか」

 

 言葉にせずとも、それはティアとの別れを意味していると全員は理解出来た。フィーが何処か弱々しく視線を逸らして窓の外を眺め始める中、サラが「何か聞きたい事はある?」と質問した。

 

「あの、ティアちゃんが帰る場所って何処なんですか?」

 

「ご両親はレミフェリア公国に住んでいるみたいね。でも連れて行くのはクロスベルよ」

 

「クロスベル……そう言えば数日前、あそこで事件が起きていた様だが」

 

「えっと、確か教……団……事、件」

 

「ふむ、教官の説明だと殲滅された筈だが」

 

「確かに大本は絶ったわ。でも残党はまだ居たみたいね」

 

 それから質疑応答を経て今日は解散する事になったⅦ組。クラブに入っている者は真っ直ぐに向かう中、唯1人フィーはエーデルと軽く会話をすると真っ直ぐに第3学生寮へ向かい始める。ティアは現在、サラの部屋でもフィーの部屋でも無い空き部屋に寝かされていた。誰か新しい入居者が何時入っても大丈夫な様に予め用意されていたベッドへ横になるティアの姿を眺め、フィーはベッドの縁に座り込んだ。

 

「……お別れ……か」

 

 彼女の脳裏に映るのは自分を置いて行ってしまった者達の姿。そしてサラと出会い、怯えるティアとも出会った。喋る事が苦手なティアと比較的無口なフィーはサラの居ない間も基本一緒に過ごし、時間は掛かったものの自然と仲良くなっていた。……だが、また自分の元から誰かが居なくなってしまう。1度失った経験がある故に、フィーはそれが恐ろしかった。

 

「……」

 

「……ふ、ぃ……」

 

「!」

 

 ジッと眺めていたフィーは、弱々しく紡がれたティアの声に反応して布団の中に入っていた手を無意識に握る。やがてゆっくりと目を開いたティアは心配そうに自分を見つめるフィーと目を合わせ、小さな笑みを浮かべるのだった。





ティア


言語Lv.4(最大Lv.10)

人慣れLv.4(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
フィー・アリサ・サラ
★★☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ
★☆☆☆☆


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第Ⅰ部-第3章- 再会の魔都
3-1


 6月中旬。士官学院生達は一様に勉強する日々に追われていた。数日後に待つ中間試験で良い成績を残すためである。

 

 特別実習から数日が経った頃に無事目を覚ましたティアも今では普段通りに学校生活を送っており、彼女も他の生徒と同じ様に勉強を繰り返していた。サラからの説明を受けてティアが実質まだ1歳少々だと知った事で、彼女が勉強出来る様になっている現状がどれだけ凄い事なのかを知った9人。自分の勉強は当然乍ら、出来る限り彼女へ協力しようと決意した。

 

「ティアちゃん、今日は導力学について一緒に勉強しましょう?」

 

「う、ん……あり、がとう。アリ、サ」

 

「~~~っ! 良いのよ! 何でも頼ってね!」

 

 放課後になり、自由に過ごせる様になって生徒達は皆勉強ムードである。クラブも試験が終了するまでは行われず、サラが去って最初にティアの元へ近づいたアリサ。大分距離が近づいたのか、もう怯えた様子を見せずに告げたティアのお礼に感極まったアリサは今すぐ抱きしめたい衝動を必死に抑え込んだ。……そんな光景を傍で眺めていたフィーはふと、自分に視線を向けるラウラと目を合わせる。だが彼女はすぐにフィーから視線を外すと教室を後にしてしまった。

 

 特別実習でフィーが元々猟兵団に居た事を知ったラウラは、以後彼女と距離を取る様になっていた。嫌っているとも違う、微妙な距離。猟兵団は世間一般に良いイメージが無い。ラウラの中でもそれは変わらず、そこに居たフィーへ感じる思いは複雑なのだろう。

 

「それじゃあ、私の部屋へ行きましょうか!」

 

「アリ、サの……へゃ?」

 

「えぇ。フィーちゃんも来るわよね?」

 

「ん……そうする」

 

 フィーの居るところにティアがある様に、ティアが居るところにフィーがある。ティアがアリサの部屋に行くとなれば、当然フィーも同行する事となり、3人は第3学生寮へ向けて歩き出した。そしてそこで夕食の時間になるまで勉強を行えば、夜にはフィーの部屋で軽くもう1度自習をしてから就寝。そんな日々をティアは繰り返していた。

 

「……フィー?」

 

「?」

 

「……近、ぃ」

 

「そうかな?」

 

 最近はサラの部屋で無く、フィーの部屋でばかり夜眠る様になっていたティア。サラもティアが寝付くのを待たずに飲める為、喜んで譲っているが……知らぬところで実はティアはピンチに陥りかけていた。

 

「あ、ぅ……暑ぃ」

 

「気にしない」

 

 今までは同じベッドでも並んで横になるだけだった。だがここ数日、ティアはフィーと手を繋いで眠る事が多くなっていた。更には寝て起きた際に抱きしめられている様になり、寝る前に抱きしめられて眠る様になり……額と額を当てて完全に密着する様になって初めてティアはフィーの距離感が近い事に気付いた。だが特に可笑しな様子も無く良い切るフィーの姿に『そうなのかな?』と思ったティアはそれ以上文句を言う事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学生達にとって長い時間が終わった。中間試験の開放感に包まれながら迎えた自由行動日。ティアはとある出来事によって常に怯えた様子で過ごしていた。フィーが園芸部へ行ってしまった為、第3学生寮のフィーの部屋で1人だったティア。既に誰も居ないと感じていたティアだが、その感覚を裏切る様に突然部屋の扉がノックされる。

 

「ひぅ!」

 

『……』

 

「あ、う……う、ぅ……」

 

『うふふふ』

 

「っ!」

 

 音に怯え、あたふたするティアを嘲笑うかの様に部屋の中で響き渡る女性の笑い声。ビクビクと震え乍らベッドの上で布団を頭から被り、何も聞こえない様にする。……だが、ゆっくりと部屋の扉が開く音を聞いてしまう。何者かがゆっくりと近づき、やがて被っていた布団の頭部分に手を置いた。捲り上げれば見えてくる薄水色の髪。不安そうに顔を上げて見つめる少女に、彼女(・・)は優しく微笑んだ。

 

「ティア様、心休まるハーブティーをご用意しました。如何ですか?」

 

「あ、ぅ……」

 

 それは昨日、第3学生寮の管理人としてやって来た女性……シャロン・クルーガーだった。アリサの実家でメイドとして雇われていたと言う彼女はアリサの母によって、ここへ来たとの事。突然現れた大人の女性に怯えずにはいられないティアだが、何よりもティアが恐怖するのはそこでは無かった。

 

「シャ、ロン……?」

 

「はい♪」

 

 何故か昨日会ったばかりの彼女の名前をティアは呼ぶ事が出来た。大人故に恐怖は感じる。話す時にも上手く口は回らない。他の人達と同じにも関わらず、ティアは彼女の名前を呼ぶ事が出来た。まるで心の中へ違和感無く入り込む様なその女性に、ティアは未だ遭遇した事が無い故に恐怖を抱かずにはいられなかった。……相手がもしも男性なら暴走の可能性もあったが、女性故にその危険性が薄いのはある意味救いである。

 

「それでは、参りましょう」

 

「あ、あわわ……」

 

 被っていた布団を取っ払われ、両脇に手を入れて持ち上げられたティアは1階にあったソファとテーブルの場所に連れて行かれる。そして差し出される紅茶とお菓子。良い香りが部屋の中へ漂う中、ティアは不安そうにシャロンと紅茶を交互に見続ける。

 

「さぁ、お熱い内に。ですが火傷には十分にご注意くださいね」

 

「ぃ、ぃただき、ます」

 

 両手でティーカップを持ち、ティアは数回息を吹き掛けて冷ましてから紅茶に口を付けた。途端にその味に警戒して居たシャロンを前にして頬が緩む。と同時に一瞬赤い何かがシャロンを顔付近に見えるが、ティアが視線を向けた頃にはハンカチで口の上を拭うシャロンの姿のみで特に赤い何かを見つける事は出来なかった。首を傾げるも、微笑みを返すだけのシャロン。次にお菓子へ手を伸ばして食べれば、再びティアの表情は幸せそうに緩んだ。

 

「ただ、い……ま……はぅ……」

 

 そこへ丁度良く第3学生寮へ戻ってきたアリサが出くわし、ティアの幸せそうな表情にアリサの周辺で鮮血が舞った。余りにも突然、血を流したアリサの姿に驚いたティア。だが1度瞬きをした時には、アリサの周りは何事も無かった様に綺麗な床だった。今もアリサは倒れているが、制服の色以外に特別赤は目立たない。

 

「あらあら、お嬢様ったら。部屋にお連れ致しますわ。ティア様はごゆっくりご堪能下さいませ」

 

「……う、ん」

 

 シャロンへ連れて行かれるアリサを眺め、誰も居なくなった1階で心置きなく紅茶とお菓子を堪能したティア。その後はフィーの部屋で稀にシャロンや誰かの気配を感じ乍ら、はぐはぐ人形の制作に勤しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ティアが何とか赤点を免れた中間試験の結果発表や、Ⅶ組の実技テストが思わぬ形で行われた夜。ティアはサラに呼ばれて彼女の部屋を訪れる。フィーは何の用事でティアが呼ばれたのか分かり、『頑張れ』と応援の言葉を送るのみ。雰囲気から大事な話だと察してティアは真剣な面持ちで部屋の扉を叩いた。中から帰って来た入室を許可するサラの声を聞き、ティアが扉を開ければ中へ入って来る様に促される。

 

「……ティア、とても大事な話をするわ。ちゃんと聞きなさい」

 

「う、ん……」

 

 真剣な様子のサラを前に頷いて答えたティアは彼女の話を聞く。自分のフルネームや、両親がレミフェリア公国と呼ばれる場所に居る事。そして姉がクロスベルに居り、今度の特別実習で自分1人だけがクロスベルへ行く事になると。同行者はティアの知る人物であり、最後にサラは告げる。

 

「もし、家族と出会って何かを思い出した場合。もしくは思い出せなくても一緒に居たいと思ったなら、貴女は向こうで暮らしなさい」

 

「……向こう、で……?」

 

「えぇ。一応実習期間以降は休学として済ませてあるわ。少なくとも1月以上は向こうで過ごして、最後は自分で決めなさい(・・・・・・・・)。良いわね?」

 

「……ぅ、ん」

 

「今は大事な話。そう言う時の返事の仕方は教えた筈よ」

 

「っ!……は、ぃ」

 

 ハッとした様子で返事をしたティアの頭をサラは撫でると、「別に二度と会えなくなる訳じゃ無いわ」と告げて話を終わらせる。部屋を出る様に言われたティアは重い足取りでサラの部屋から退出すると、フィーの部屋へ倍以上の時間を掛けて戻るのだった。



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3-2

 3回目の特別実習初日。駅でA班とB班、そしてティアは集まっていた。フィーとラウラの気まずい距離感は未だに直っておらず、2人が同じ班であるが為にB班は心配していた。が、今はそれよりも大事な事の為に。9人はティアと話をする。

 

「ティアちゃん、また絶対に会いましょうね!」

 

「もしお勉強で何か分からない事があれば、何時でもARCUSの通信で聞いて下さいね」

 

 ティアを抱きしめて約束をするアリサ。優しく微笑んで頭を撫でながら告げるエマ。

 

「まぁ、何だ。君も色々あると思うが、頑張りたまえ」

 

「短い付き合いとは言え、同じクラスだった好だ。学友として、お前の事は覚えて置いてやろう」

 

 眼鏡のずれを直しながら激励を送るマキアス。腕を組みながら放つ言葉は上からだが、何処か優しさの籠った声音のユーシス。

 

「其方とはもう少し話したかったが……壮健でな」

 

「ティアにも俺の故郷を見て貰いたかったが、仕方ない。せめてお前に風の加護がある事を願おう」

 

 エマに続いて頭を撫でながら告げるラウラは、フィーとの事もあってティアとの距離も僅かにだが開いていた。だがこの時間が彼女との最後になる可能性もあった為、今この時は同じ学友であり仲間として見送る。そしてガイウスは今回A班が向かう実習先が彼の故郷だった事もあり、少々残念そうにし乍らも胸の前に手を当てて祈りを送った。

 

「まだ出会って短いけど、寂しくなるね。……元気でね、ティア」

 

「例え住む場所は違っても、俺達は同じⅦ組の仲間だ。また何時か、会おう」

 

 頬を掻きながら仲間が1人居なくなる事に寂し気な様子で告げたエリオット。そしてリィンが体勢を低くして同じ視線の高さで告げれば、ティアはその言葉に強く頷いて答えた。

 

「ティア……またね」

 

 誰よりも短く、誰よりも変わらぬ雰囲気で告げるフィーに見ていた全員は驚かずにいられなかった。だがティアはそれに頷いて答え、フィーは駅のホームへ入る為に歩き出してしまう。……が、ティアはそんなフィーへ声を掛けた。

 

「フィー……!」

 

「?」

 

「……ぁ、のね……ぇぃっ!」

 

≪!?≫

 

 ゆっくりと近づき始めたティアはフィーへしゃがむ様に仕草でお願いをする。首を傾げながらもフィーがティアと同じ目の高さに合わせれば、次にティアの行った行動にフィーのみならずこの場に居た全員が驚愕した。なんと身長の低いティアがジャンプをして、フィーの額に唇を当てたのだ。フィーが思わず呆けてしまい、全員が驚愕のまま動けない中……ティアは恥ずかしそうに語る。

 

「友、達……の、証……シャロン、が……教えて、くれた、の」

 

「……」

 

「て、ティアちゃん……っ! ちょっとリィン!」

 

「抑えてくれアリサ。ここは邪魔するべきじゃない!」

 

「離しなさい! 私もティアちゃんに!」

 

 決してセクハラにならない様に気を付け乍らアリサを押さえて、リィン達A班はホームへ彼女を引きずりながら去って行った。呆けていたフィーは我に返るとティアの説明を時間差で理解して、「それじゃあ」と言って同じ様にティアの額へキスをする。

 

「あ、ぅ……」

 

 恥ずかしがるティアをそのままに、今度こそ駅のホームへ入って行ったフィー。彼女を追う様にB班もティアへ一言告げ乍らホームへ向かい、やがて発進する列車をティアは見送った。……そしてⅦ組でありながらトリスタに1人残る事になったティアは第3学生寮へ。登校の時間になれば1人でⅦ組の教室へ向かい、サラが現れる。

 

「この後、午前中には迎えが来るわ。取り敢えずそれまで自習って事で」

 

 本来特別実習が開始された時点でサラはトリスタでⅦ組を相手に何かをする事は無かった。今回1人残っているのは異例であり、彼女1人の為にサラ以外の教官が特別な授業を行う事は無い。サラが担当する授業が無い時間はⅦ組の教室で、あった場合は他の暇な教官が念の為にティアを見る事となった。……そして時は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ⅶ組の教室で自習と言われても余り勉強が出来ず、サラの居る時間ははぐはぐ人形を作っていたティア。フィーの他にも紫髪の女性をデフォルメした人形……はぐはぐサラが出来上がっており、現在は3体目の人形を作ろうとしていた。が、サラが突然ティアへ声を掛けると教室から一緒に出る事になった。教室を出て学院からも出て、ティアが到着したのは町の中にある公園。入学式の際にはフィーと時間になるまで昼寝をして、自由行動日では稀に教室で出会った黒猫を見掛けて戯れたりなどをした思い出のある場所。そこに1人の男性が立っていた。

 

「っ! ト、ヴァルっ!」

 

「うぉっと。はは。元気そうだな、ティア」

 

 ティアはその男性を見つけると同時に駆け出し、その身体へ飛びついた。驚いた様子ながらもティアを受け止めた男性……トヴァル・ランドナーは笑みを浮かべてティアの頭を撫でた後、サラへ視線を向ける。

 

「そっちも元気そうだな、サラ」

 

「お互い様よ……頼んだわよ」

 

「あぁ。最初に見つけたのは俺だからな。最後まで責任は持つさ」

 

 彼は以前サラが語った知り合いであり、ティアを見つけた張本人であった。トヴァルの言葉に満足そうに頷いたサラはティアの元へ近づくと、その頭を撫でながら「達者でね」と一言。まるで惜しむ様子も無く学院の方へ戻ってしまう彼女に、ティアは寂し気な視線を送った。

 

「しんみりするのは柄じゃ無いって事か。……ティア、サラから話は聞いてるよな?」

 

「う、ん……家族……に、会う」

 

「あぁ。他にも色々予定はあるが、詳しい話は移動しながらだ。すぐに出れるか?」

 

 トヴァルの質問に頷いて答えたティアは、彼に連れられて早朝に9人を見送った駅へ再び足を踏み入れた。そしてトヴァルが2人分の切符を購入して乗車すれば、2人は向かい合う形で席に座る。

 

「向こうに着いたらまずは寄るところがある。お前さんの姉と会うのはその後、夕方の予定だ」

 

「……」

 

 電車に揺られながら、説明を受ける事になったティアは黙ってトヴァルの話を聞き続ける。学院生活での3ヵ月を含み、彼女と一緒に居なかった時間の成長を見たトヴァルは内心でサラへ預けた事が間違っていなかったと改めて理解すると共に彼女へ感謝の念を抱く。

 

 ティアがクロスベルで寝泊りをする場所の候補は複数あるが、まだ決まっていないとトヴァルは説明する。選択肢は3つ。姉の元か、トヴァルがしばらく滞在する遊撃士協会のクロスベル支部か、何処かの宿を取るか。一番良いのは姉の元で過ごす事だが、姉もまた色々忙しい毎日を過ごしている為に不可能な可能性もある。もし可能でも、ティアが慣れる事が出来なければ難しいだろう。

 

「それと、もう1つ大事な事がある」

 

「?」

 

「俺は今後、お前にその()を制御出来る様になって貰いたいと思ってる」

 

「!」

 

 力。それが何を指すのか、当事者であるティアには当然理解出来た。そしてトヴァルは制御しなければいけない理由に家族や周囲の人間を例に出す。前回の特別実習で暴走した際には同じA班へ攻撃をしてしまった事もあり、周りに危害が及ばない為に制御する必要があると言われたティアは弱々しくも頷いて答えた。

 

「まぁ、俺の他にも助っ人を連れてもしもの時は止めてやる。安心しな」

 

「う、ん……」

 

 その後もクロスベルについての話を聞きながら、ティアとトヴァルは電車に揺られ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は昼を過ぎた頃。トヴァルと共にクロスベルへ到着したティアは、彼へ着いて行く形でクロスベルにある遊撃士協会の本部へ到着した。中には余り人の姿が見受けられず、唯一居るのは受付に立つ男性のみ。彼はトヴァルの姿とティアに気付くと、「あら?」と声を出した。

 

「久しぶりね、トヴァル。その子が例の子かしら?」

 

 女性の様な口調で話をする男性……ミシェル。口調は女性でも大人な男性の彼にティアは目に見えて怯え、だが既に知っていた様子の彼は不用意にティアへは近づかずにカウンター越しでトヴァルと会話をする。本部には2階があり、他にも遊撃士が4人居ると伝えられてトヴァルと共に上がったティアは男女2人ずつ、4人の前にトヴァルと共に立った。

 

「トヴァル・ランドナーだ。少しの間、ここで世話になる。よろしくな。で、こっちが……」

 

「……可愛いぃぃ~~!」

 

「ちょ、エオリア!?」

 

「っ!」

 

 自己紹介をしたトヴァルが自分の足にしがみ付いて後ろへ隠れるティアの紹介をしようとした時、1人の女性が目を輝かせてティアへ迫った。もう1人の女性が名前を呼んで止める様とするも、止まる様子の無い姿に男性2名が呆れる中、ティアは彼女から逃げる様に2階を走り回る。

 

「えっと、あたしはレンであっちがエオリアです」

 

「ヴェンツェルだ」

 

「僕はスコットと言います。……えっと、あの子はトヴァルさんの?」

 

「誤解しないでくれ。色々あってな。ここに来たのはあいつの為でもある。名前はティア・プラトー」

 

「プラトー? それって確か……」

 

 逃げるティアを眺めながら自己紹介を行う4人。やがてレンと名乗った女性が『プラトー』と言う名前に聞き覚えがあった様で、そのまま納得する。……数か月前、1人の少女がここへ訪ねて妹の所在を聞いて来た事があった。今ではクロスベルでも有名になったとあるメンバーの1人だが、彼女達の少女に対する第一印象は『妹を探す姉』であった。

 

「エオリア、一旦落ち着いて」

 

「こんな可愛い子が目の前に居るのに、落ち着ける訳無いよ! ねぇ、1回だけ! 1回だけで良いからハグハグさせて? お願いだから!」

 

「……ゃ!」

 

 止めに入ったスコットに興奮した様子で答えたエオリアは怯えてテーブルの向こうで自分を警戒するティアへお願いするも、ティアは長い髪を大きく揺らして拒否する。しかしその仕草が更にエオリアを興奮させ、諦めきれない彼女は暴走。到頭ティアは1階へ逃げ出してしまう。

 

「っと、1人にするのは不味いな。話はまた後だ」

 

「エオリア、お前は何をやっている」

 

「ご、ごめん……つい」

 

 トヴァルが追い掛ける様にして1階へ降りて行くのを眺め、ヴェンツェルがエオリアへ冷たい視線を向ける。レンとスコットもやれやれと言った様子で首を横に振る中、ティアが逃げた事で頭の冷えたエオリアは反省しながら肩を落とした。

 

 一方、1階へ逃げたティアはミシェルの姿にも怯えて建物を飛び出してしまう。建物の外はクロスベル東通り。東方の品を初めとして屋台が目立つ場所であり、人通りも多かった。子供も混じるが、大多数は大人。知らない場所故に何処へ行く事も出来ず困惑する中、そんなティアの頭に背後から手が置かれた。驚き振り返ればそこに居たのは自分を追って来たトヴァルの姿。彼は後ろ髪を掻きながら時間を確認すると、約束の時までクロスベルの街を適当に回る事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロスベル港湾区。海の見えるそこには公園があり、そこで1人の少女が女性と共に少々早い時間から待ち合わせの相手を待ち続けていた。

 

「ティオちゃん、大丈夫?」

 

「は、はい。大丈夫、です」

 

 心配そうに声を掛ける女性へ少し緊張した面持ちで答えるのは、ティアと同じ薄水色の髪をした少女。女性は彼女の付き添いであり、ここに来た理由を考えれば当然だと察する。……彼女が少女と出会ったのは5ヵ月程前。その当時は何も知らない相手だったか、これまで他の仲間と共に過ごした時間の中で少女の事を知る機会があった。妹が居た事や、その妹が行方知れずになってしまった事も。だが2月程前、突然現れた遊撃士から告げられた妹の所在。ずっと探していた相手が生きていた事を知り、涙する姿を彼女は二度と忘れる事は無いだろう。そして今日、遊撃士に連れられて少女は探し続けた妹と再会する予定だった。

 

「……でも」

 

 女性には不安があった。遊撃士の話に寄れば、少女の妹は名前以外全ての記憶を失っていたと言う。生きていた事実さえあれば、それだけで嬉しいとは思えるだろう。だがいざ何も覚えていない少女と相対した時、少女は何を思うのか。……願わくば少女が幸せを掴める事を、女性は女神(エイドス)に祈るのだった。



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3-3

 トヴァルと共にクロスベルを一通り回ったティアは約束の時間になった事で港湾区へ足を進めていた。遠くから見える海の光景に電車から1度見た事もあって近づいて見たいと思っていたティアだが、トヴァルに「後でな」と言われて我慢する。……そして空が茜色に染まる中、ティアは彼と共に約束の公園へ到着した。

 

「……ぁ」

 

「どうやら待たせちまったみたいだな」

 

 彼の後ろに隠れ乍ら様子を伺うティア。そんな彼女達の前には1人の少女とその少女の後ろでトヴァルにお辞儀をする女性の姿があった。少女は彼……では無く、彼の連れて来た何処か面影のあるその姿に小さな声を漏らす。そして女性が「ティオちゃん」とその名を呼んで優しくその背中に触れれば、彼女の行動が後押しとなって少女はゆっくりとティアへ近づき始める。

 

「ティア……なんですね」

 

「っ! ト、ヴァル……?」

 

 名前を呼ばれて肩を揺らしながら不安そうにティアはトヴァルへ視線を向ける。彼は何も言わずに頷いて1歩下がり、その行動にティアは少しあたふたしながらも自分の名前を呼んだ少女へ視線を向けた。

 

「あ、の……えっと……」

 

「……覚えて、ないんですよね」

 

「……ご、めん、なさぃ」

 

 ここに自分の姉が居る事は既に説明されている。少女と自分の髪色が似ており、また女性がその背を後押しした光景も見た事でティアには目の前に立つ相手が姉であると理解出来た。故に怯えながらも逃げる事はしない。だが、悲し気に告げる彼女の言葉にティアは思わず謝ってしまう。すると少女は首を強く振って、更にティアへ近づいた。そしてその首に手を回し、抱きしめる。

 

「生きていてくれただけで、良いんです。……ありがとう……!」

 

「う、ん…………お、ねぇ……ちゃ、ん……?」

 

 記憶の無いティアにはまだ彼女が姉であるという実感は無い。だがそれでも本気で自分と出会って涙を流す彼女の姿に、ティアは知らないながらも余り恐怖を感じなかった。少女と共に居た女性が貰い泣きした様に涙を流す中、少しの間ティアは少女に抱きしめられ続ける。

 

 それから数分。ティアを離した少女は記憶の無いティアへ自己紹介を始めた。ティアの姉である彼女の名前はティオ・プラトー。現在このクロスベルで特務支援課と呼ばれる組織に居り、後ろに居る女性はその発足時に知り合ったエリィ・マクダエル。年齢は違いながらも同僚であり、仲間であると語る彼女の姿にティアは自分に取ってⅦ組の面々の様な存在なのだと認識する。

 

「さて、この後はどうするか。ティア、お前さんはどうしたい?」

 

 既に暗くなり始めた空。トヴァルの質問が列車で提示された寝る場所を決める物であると分かったティアはティオへ一度視線を向ける。

 

「俺としては、やっと再会出来たんだ。一緒に居ても良いんじゃないかと思うが……無理は言わない。これからしばらくはここに居るんだからな。慣れて行けばいいさ」

 

「う、ん……あ、の……ティ、オ……」

 

「無理にお姉ちゃんと呼ばなくても大丈夫です。ティアの呼びやすい様に、読んでください」

 

「う、ん」

 

 相手が姉である以上、名前で呼んでから言い直すべきか悩むティアに察したティオが告げる。それを聞いてティアは頷くと、少し話をしてからトヴァルの元へ近づき始める。彼が確認をすれば、どうやら常に同じ場所で過ごす事はせずに時間が空いた時だけ一緒に会って過ごす事で決まった事を弱々しくもティアは伝えた。

 

「そっちはそれで良いのか?」

 

「はい。……早速明日の朝、迎えに行きます。東通りの遊撃士協会(ブレイサーギルド)で良いでしょうか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。取り敢えず一週間くらいはクロスベル(ここ)に慣れるまでゆっくりしてるからな」

 

「ばぃ、ばぃ……」

 

 トヴァルと共に港湾区を後にするティアは離れて行くティオとエリィへ手を振る。ティオが手を振り返し、エリィが微笑みながら返すのを見て遊撃士協会の本部へトヴァルと共に戻ったティア。最初はエオリアを初めとした数名を警戒するも、出迎えたミシェルが仕事で全員出ている事を伝えた事で2階へ上がった彼女は安心した様子を見せる。

 

「一応、ここに居た4人はそれぞれ自分の住居があってそこに住んでるらしい。つまり、ここには明日までもう誰も来ないって訳だ」

 

「う、ん……」

 

「明日は朝から来るって言ってたからな。早めに寝といた方が良い」

 

 その後、2階で夕食を取ってから寝る事にしたトヴァルとティア。本来寝る場所では無いが、住居の無い2人はこの場所で夜を過ごす許可を既にミシェルから貰っていた。明日に備えて早めに眠る事にして、ティアはその日を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロスベルにティアがやって来て数日。ティオと再会を果たしてから、姉である彼女は毎日の様にティアを迎えに来てはクロスベルを一緒に回る日々を送っていた。最初の2日程はトヴァルが同伴したものの、徐々に慣れる事でティオと2人きりにもなれる様になったティア。だがクロスベルに居る間その全ての日に会える訳では無い。ティオが以前語っていた特務支援課が解散になった事で彼女も他にやる事が出来、クロスベルから離れる必要もあったのだ。

 

 ある日、ティオとは会わずにトヴァルと街の外へ出る事になったティアはウルスラ間道と呼ばれる場所にある浜辺へやって来ていた。

 

「そんじゃあ、今から力を制御する為の特訓を始めるぞ」

 

「な、に……する、の?」

 

 トヴァルは自分が扱う武器、スタンロッドを肩に当て乍ら告げる。それに首を傾げてティアが説明を求めれば、まず最初に彼は浜辺を徘徊する魔獣へ指を差した。

 

「取り敢えず、まずはあれを倒すんだ。ARCUSを使わずに、お前自身の魔法(アーツ)でな」

 

「っ!」

 

 言われた言葉に目に見えて驚いたティアだが、トヴァルは言った言葉を訂正する事は無かった。「危なくなったら助けてやるよ」とだけ告げ、トヴァルは魔獣に物凄い速さで駆動を済ませた弱い威力の魔法を放つ。攻撃を受けた事で魔獣は2人の存在に気付き、怒りを露わにし乍ら近づき始める。トヴァルが一歩下がれば、その怒りを向ける対象は必然的にティアとなった。

 

「あ、あわわわわっ!」

 

 追い掛けて来る魔獣から必死に走って逃げる事になったティア。攻撃をする余裕も無く逃げるだけの姿にトヴァルは頭を抱えると、「ぶっつけ本番過ぎたか……?」と少々後悔した後に一瞬で彼女と魔獣の間に入り、スタンロッドを振るった。魔獣はその一撃だけでは倒れないものの軽い気絶状態となり、再びトヴァルは魔獣から距離を取った。

 

「ティア、今回だけARCUSでの魔法を許可する。代わりに何とか感覚を掴めよ」

 

「あ、う……ぅ、ん」

 

 ARCUSを手にⅦ組の面々がやっていた事を、トヴァルがやっていた事を思い出して彼女は魔法の駆動を開始する。気絶から目覚めて再びティアへ魔獣が襲い掛かり始めるも、その身体が彼女の元へ届くよりも先に発動した魔法は以前暴走状態のティアが放った様な1本の雷だった。空から飛来するそれを魔獣は避けられず、直撃。身体を黒焦げにして地へ伏した。

 

「で、出来、た……ぁぅ」

 

 魔獣が無力化された事で安心し、思わず砂浜で座り込んでしまったティア。そんな彼女にトヴァルは近づくと、「その感覚を忘れるなよ」と言ってから魔獣が余り居ない場所へ移動する。そして少しの時間を経て再び魔獣と戦う事になったティアはARCUSで放った魔法の感覚を思い出しながら、ARCUSを使わずに自らの力で放とうとする……が、ここで問題が起きた。

 

「ど、どうや、って……アーツ……使う、の?」

 

「……あぁー」

 

 ARCUSとティアの身体では勝手が全然違ったのだ。普段導力器を使って魔法を扱うトヴァルには当然分からない事であり、ティアの言葉に彼は再び頭を抱える。

 

「取り敢えず、なんだ……何とかして感覚を掴め」

 

「……」

 

 この日、ティアは仲良くなってから初めてトヴァルに不信感を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。今日は前にも言った様に、練習は無しだ。ティオも忙しいみたいだからな、自由に過ごしてくれ。向こうで言う、自由行動日みたいなものだな」

 

 7月中旬。トヴァルと共に自らの中にある魔法を扱う特訓をし乍ら、ティオとも仲を深め続けていたティアはトヴァルから言われた言葉に不安げに頷いた。もうクロスベルの街については色々知る事が出来ていたティア。しかしトヴァルとティオが居ない1人での時間は初めてであり、彼女は悩んだ末に行政区にある市立図書館へ向かう事にした。

 

「あ、ティア! おはよう!」

 

「っ! おは、よう……キーア」

 

 途中、中央通りを通ろうとしていたティアは元気よく声を掛ける1人の少女と遭遇する。それはキーアと言う名の少女であり、特務支援課が保護した少女だとティアはティオから話を聞いていた。自分と同じ様に以前の記憶が無い彼女に一種の親近感を感じずにはいられなかったティアは自然と彼女とも話を出来る様になっていた。

 

「キーア、は……学、校?」

 

「うん! ティアは何処に行くの?」

 

「今日、は……自ゅう、行動……日。図書館、に……行く」

 

「そっか!」

 

 キーアは最近、子供達が通う学び舎……日曜学校へ行く様になった。以前からティアが学校に通っていた話を聞いていた彼女は興味を持った様で、その辺りでの話で盛り上がる事が多々ある。ティアの行く先を聞き、自分の学校へ遅れない様にその場を後にするキーア。彼女を見送った後、ティアは目的の市立図書館へ入った。

 

「……」

 

 外に比べれば人の少ない建物の中はとても静かであり、ティアは踏み台などを使って気になる本を手にすると椅子に座って読書を始める。だが長くは続かず、本をしまって次に手にしたのは……『裁縫・色々な縫い方辞典』だった。

 

「……」

 

 難しそうな本も、子供向けの本も余り楽しめなかったティア。しかしその本には人形を作るティアに取って沢山為になる内容が書かれていた。夢中になってそれを読み続けていれば、時間はドンドン進んで行く。やがて昼を過ぎた頃、ティアは空腹を感じて半分程まで読んだその本を元あった場所へ戻す。

 

「……お腹、空ぃた……」

 

「それでは、昼食になさいますか? ふふ」

 

「っ!」

 

 市立図書館を出て何気なく呟いた言葉に返って来た返答。居る筈の無い人物の登場にティアは飛び上がって距離を取りながら声のした方向を見る。……そこには第3学生寮で見かけた服装をそのままに、微笑みを浮かべるシャロンの姿があった。

 

「な、何……で……?」

 

「アリサお嬢様を始め、Ⅶ組の皆様が随分心配されていた様なので少しだけ様子を見に参りました。Ⅶ組の寮母として、当然の事ですわ」

 

 特別実習の期間も終わり、Ⅶ組は今トリスタで日々を過ごしている。本来なら9人の為に寮で過ごして居る筈の彼女だが、ここに居る理由はその言葉通りであった。アリサは毎日の様に『大丈夫かしら? 怪我とかしてないかしら?』と心配し、家族と上手く過ごせているのかを心配する声が彼女以外からも上がったのだ。そこで比較的自由に動ける彼女が今日だけ、様子を確かめに来る事になったのである。

 

「Ⅶ組の皆様は今朝登校されましたので、下校する前。夕方には向こうへ帰りますわ」

 

「そう、なん……だ」

 

「ところで、こんな物をご用意したのですが……如何でしょう?」

 

 そう言ってシャロンが取り出したのは木藤のバスケット。少し見える様にして蓋を開けた中には美味しそうなサンドイッチが入っており、数日とは言えシャロンの料理を食べた経験上それが間違い無く美味しい事をティアは知っていた。故に彼女の言葉に頷いて、ティアは港湾区の公園へ向かう。そしてそこで共に昼食を食べた後、彼女が帰る時まで行動を共にする。やがて時間になった事でトリスタへ帰るシャロンを駅で見送り、ティアは遊撃士協会へ戻るのだった。



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3-4

 7月下旬。朝、帝国の事が書かれた帝国時報を読んで険しい表情をしていたトヴァルと共に魔法(アーツ)を使い熟す為にティアはウルスラ間道で魔獣と相対していた。1月以上の練習は無駄では無く、未だ弱腰ではあるものの逃げ惑う事はせずに魔獣から距離を取るティアは「ぇぃ!」と両手を魔獣へ突き出す。途端、ティアの身体から放たれる炎の弾が魔獣に襲い掛かった。

 

「出、来た……」

 

「上出来だ。……ティア、話がある」

 

 戦いが終わり、初めての時とは違ってティアは座り込む事無くトヴァルへ声を掛ける。それに満足した様子で頷いて告げた彼は、手招きをしてティアを呼ぶ。首を傾げながらも彼へ近づけば、言い難そうに後ろ髪を掻き乍らも彼は口を開いた。

 

「率直に言わせて貰うとな、来月に俺は向こうへ戻ろうと思ってる」

 

「っ!」

 

 トヴァルの言葉にティアは大きく肩を揺らして徐々に目へ涙を浮かべ始める。以前にサラから言われていた、姉の居るこの街で過ごし続けるか、学院へ戻るかを選択する時が到頭やって来たのだ。トヴァルは「良く考えとてくれ」と話を終わらせ、その日の練習は終了となる。現在ティオはクロスベルに居ない為、ティアは遊撃士協会の本部2階でどうするべきかを必死に考え始めた。

 

「あれ、ティアちゃん。どうかしたの?」

 

「っ! ェオ、リア……」

 

 遊撃士であるトヴァルはこの場所でお世話になって居る以上、一時的にクロスベルで活動していた。故に1人だけだったティアの元に現れたのは、エオリアだった。最初は避けていた彼女も1月以上の間に少しずつ慣れ、話せる様にまでなったティアは彼女に驚きながらもその名前を呼ぶ。ティアに名前を呼ばれた事で嬉しそうにし乍ら、エオリアは彼女の隣へ座った。

 

 ティアはエオリアにもうすぐトヴァルが居なくなる事を。そして彼に着いて行くべきか、姉の居るこの街に残るべきかを考えているとたどたどしくも説明した。何も知らない人ならば、家族である姉の元へ残る事を勧めるだろう。だがティアについての話を1月以上の間で知る機会もあったエオリアには、何と答えて良いか分からなかった。記憶は無いものの血の繋がりがある自分の姉か、自分を拾ってくれた信頼出来るトヴァルやⅦ組の仲間達か……。

 

「ティアちゃんは、どうしたいの?」

 

「……わかん、なぃ……」

 

 首を横に振り乱しながら答えるティアの姿にエオリアは抱きしめたい気持ちを今は押さえて、その頭を撫で始める。

 

「もしお姉さんと別れても、トヴァルさんと別れても、また会いに行く事は出来る。どっちを選んでも、二度と会えないなんて事にはきっとならない。だからティアちゃんが今一緒に居たい人(・・・・・・・・)と、一緒に居るべきだよ」

 

「ぃっ緒に……ぃたぃ、人……」

 

 トヴァルが居なくなる日までまだ数日猶予がある。エオリアは「焦っちゃ駄目だよ」と優しく告げて、クールに去る事を心がけ乍ら1階へ。その後、1階で抑えていたものを爆発させてしまった事で受付に居たミシェルに見られて赤面するエオリアを知らずに、ティアは悩み続ける。……やがて時は選択すべき8月を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月。駅には肩に袋を引掛けたトヴァルと、何も持たずに立つティアの姿があった。

 

「良いんだな?」

 

「う、ん……だぃ、丈……夫」

 

「そうか……まぁ、暇が出来たら見に来るからよ。元気でな」

 

 ティアの頭に軽く手を置いて数回弱く叩いた後、トヴァルは駅の中へ。……ティアはそんな彼へ着いて行こうとはせず、見送る立場にあった。悩んだ末に、クロスベルへ残る事を決断したのだ。現在ティオはこの街に居ないが、全力で事を済ませてクロスベルへ帰ろうとしていると聞かされていた。それが自分の為でもあると聞かされ、帰って来る彼女を迎える為にも。姉の来るこの街に残る事をティアは選んだ。

 

 トヴァルの計らいで、ティアはティオが帰って来るその時まで遊撃士協会に寝泊りをしても良い事になっている。故にそこへ向かってティアは歩き始めた。が、駅前通りから中央広場へ入ったティアは日曜学校へ行く為に集まっている子供達に遭遇。キーアの姿もあり、彼女を見送る4人の大人たちの姿もそこにはあった。

 

「あ、ティア! おはよう!」

 

「おは、よう」

 

 キーアが声を掛けた事で、彼女以外の子供達もティアの姿に気付いた。彼女の元へ近づいて話を始める子供達だが、日曜学校の登校時間が迫っていた事で長くは話す事無く解散。ティアはその場に残り、キーアを見送る4人の大人達は彼女に視線を向けた。

 

「おはよう、ティアちゃん」

 

「う、ん……おは、よう」

 

「ロイドさん、彼女は……?」

 

「あぁ、ノエルとワジは知らなかったよな」

 

 姿勢を低くして挨拶をするのは、ティオと出会った時に付き添いで傍に居たエリィだった。彼女が声を掛ける中、ティアの存在が気になった女性の1人が傍に居た男性へ声を掛ける。……話し掛けられた男性の名はロイド・バニングス。ティオと同じ特務支援課の一員であると共に、リーダーの様な存在でもある。ティオを通じて彼とエリィ、そしてもう1人の男性と面識があるティア。まだ男性達には慣れていないが、彼らは既にティアの存在を周知していた。最近特務支援課に入った者以外は。

 

 解散していた特務支援課は再結成された。ワジ・ヘミスフィアとノエル・シーカーはその再結成に合わせて特務支援課に入った者だ。元々彼らと関わりはあったものの、その1人1人の家庭事情まで知る間柄では無かった。ロイドが端的にティオとティアの関係を説明すれば、ノエルがエリィと同じ様に近づいてしゃがみ込む。が、初めて会ったティアは彼女を警戒して数歩距離を取った。

 

「あ、あれ?」

 

「えっと、ティアちゃんは……」

 

 逃げられた事に驚き戸惑うノエルへティアが臆病である事をエリィは説明する。それを聞いて納得したノエルは離れた距離から小さな敬礼を見せ、優しく笑みを浮かべながら自己紹介をする。

 

「ノエル・シーカーです。……よろしくね、ティアちゃん」

 

「ぁ……う、うん」

 

「僕はワジ・ヘミスフィア。宜しく」

 

「う、ん……?」

 

 2人の自己紹介を受けたティアだが、ワジと名乗った青年の様にも見える相手を前に思わず首を傾げてしまう。……相手が大人の男性なら、より恐怖を感じずにはいられない。だが、ティアには分からなかったのだ。ワジと名乗った相手が男性なのか、女性なのか。シャロンの時と同じく分からない相手には警戒心を抱かずにいられない。故にティアは彼を他とは違う理由で警戒する。

 

「どうやら、大分怖がられてしまったみたいだね」

 

「ははっ、俺とランディも似た様なもんさ。今日は1人なのか?」

 

「ロイド。トヴァルさんがクロスベル(ここ)から出るのは確か今日だった筈よ」

 

 ワジがかなり警戒されていると分かって爽やかに頭を横に振る中、ロイドが苦笑いを浮かべながら続ける。そして離れた位置からティアへ質問すれば、彼女の代わりにエリィが答えた。それで全てを察したロイド。話ではティオが戻って来次第、特務支援課で過ごす事も話に上がっていた。

 

 特務支援課として再結成したからには、当然やるべき事が彼らには多々あった。故に何時までもティアに構ってはいられず、彼らはティアに一言二言告げて行動を開始する。彼らと別れて1人になったティアは再び遊撃士協会へ戻る為に足を進める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 港湾区。トヴァルが去り、ティオの居ない中で遊撃士協会にお世話になりながら過ごしていたティアは1日中そこには居られない為、公園へ訪れていた。比較的頻繁に公園へ訪れる事が多かった故に、周囲の人間もティアが1人でベンチに座っている光景を慣れ始めた頃。人形を作り続けるティアの膝上に突然何かが飛び乗る。

 

「ひぅ! ……あ、ぅ……コッペ……?」

 

 それは黒い猫だった。トリスタで出会った様な猫とは違う黒猫。普段は特務支援課の屋上で過ごす事が多い様で、ティアはティオ経由でコッペの存在を知る機会があった。膝に座るコッペに驚きながらも、未完成の人形を完成している人形に並べる様に横へ置いてからその毛並みを撫でる。気持ち良さそうに鳴くその姿にティアが思わず笑みを浮かべる中、突然背後から聞き慣れぬ声を掛けられる。

 

「へぇ~、随分懐かれてるんだね」

 

「!?」

 

 その声にティアが驚いて立ち上がれば、膝上に居たコッペも急に立ち上がったティアに驚いて逃げ出してしまう。するとティアの前に顔を出したのは、1人の少女だった。何処かで見た様な真っ赤な髪と楽しそうに笑みを浮かべるその姿にティアが警戒する中、少女はティアの座っていたベンチを見て……そこに置かれた人形の1つを見て驚いた様にそれを手に取る。

 

「何かこの人形、何処かで見た事ある気がするんだけど……う~ん」

 

 それはフィーをデフォルメした人形だった。首を傾げて考え始めるも、怯えるティアの存在を思い出した少女はそれをベンチの上へ戻す。そしてティアへ急接近すると、怯える彼女をそのままにその周囲を回って観察し始めた。

 

「ふんふん、なるほどね~」

 

「……な、に……?」

 

「あぁ、ごめんごめん。可愛かったからついね。ねぇ、名前は何て言うの?」

 

「あ、う……ティ、ア……で、す」

 

「ティアちゃんか~。私はシャーリィだよ、よろしくね!」

 

 過去に出会った誰よりも距離を強引に近づけて来る少女、シャーリィを前にティアは困惑してばかりだった。だが彼女は猫が好きで可愛い物が好きと言う事もあり、少しだけ会話をする事が出来る。決して長く無い時間を彼女と過ごした後、何かを思い出した様子で港湾区を後にする事になったシャーリィはその去り際に足を止めて振り返る。

 

「また話そうね、ティア!」

 

「あぅ……う、ん」

 

 1本に纏められた長い髪を揺らしながら離れて行く彼女を見送ったティアは再びベンチに座り、人形を作る。彼女の見たフィーの人形。教室で作ったサラの人形。そして金髪の男性、トヴァルをデフォルメした人形を並べて彼女が次に作るのは……薄水色の髪をした少女の人形だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティア……!」

 

「ティ、オ……おかぇ、り」

 

 8月某日。クロスベルへ帰って来たティオはティアと再会する。仲間達の窮地を救った後、遊撃士協会へ訪れた彼女はミシェルにお辞儀をして2階へ上がり、そこで人形を作っていたティアの姿を確認する。階段へ何時でも視線を向けられる位置に居たティアは上がって来た人物がティオと分かり一安心した後、人形をテーブルに置いて彼女の元へ近づき始めた。

 

「ただいまです。あぁ……ティア」

 

 近づいてくる小さな身体を抱きしめ、ティオは心底安心した様な表情を浮かべる。そして「これから一緒に居られますよ」と告げれば、ティアは頷いてテーブルに置いてあった人形を回収した。

 

「ミ、シェル……」

 

「バイバイ、ティアちゃん。また何時でもいらっしゃい。歓迎するわ」

 

「う、ん……あり、がとう」

 

「長い間、お世話になりました」

 

 受付に立つミシェルへ挨拶して、ちょっと背筋が寒くなる投げキッスを貰いながら建物から出たティアはティオと共に特務支援課があるビルへ向かい始める。予定では新しい部屋では無く、ティオの部屋で一緒に住む事になっている。故に特務支援課ビルへ到着すれば、今日から一緒に住むティアを歓迎する様にロイドを初めとした面々が出迎えた。そして誰よりも嬉しそうにティアの前に立ったのはキーアであった。

 

「今日から一緒だね、ティア!」

 

「う、ん……お、邪魔……しま、す……」

 

「ううん、違うよ! ただいま、だよ!」

 

「あぅ……ただ、ぃま」

 

「お帰り!」

 

 笑顔で告げるキーアの姿に見ていた全員も笑顔を浮かべる中、彼女に手を引かれて階段を上るティア。そんな2人の後ろ姿を眺めた後、エリィがティオへ「良かったわね」と声を掛ける。するとティオは僅かに目元へ涙を浮かべ、それを拭って「はい」と静かに返した。

 

 その後、細やか乍らもティアの歓迎会が行われた。新しく過ごす事になった場所にまだ不安を隠し切れないティアだが、時間が解決してくれると全員は思う。そして夜を迎え、ティアはティオと共に部屋へ入った。

 

「お布と、ん……敷く……?」

 

「用意もしてませんし、その必要はありません」

 

 そう言ってティオが指を差したのはベッド。最初から彼女は同じベッドで寝るつもりだったのだろう。フィーと共に過ごして居た時は誰かと一緒だったが、トヴァルと再会してここに来てからはティアが同じ布団で誰かと寝る事は無かった。誰かの温もりを感じて安心しながら眠る事に慣れていたティアは最初中々寝付けなかったが、最近はもう1人で眠れる様になっていた。が、また誰かの温もりを感じて眠れる事にティアは嬉しそうに笑う。……結果、再び1人じゃ中々寝付けない身体となるのはある意味自然の事だった。



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間章+α

 トールズ士官学院にて、放課後を迎えたⅦ組。既にラウラとフィーの関係は修復どころか親友と言える間柄にまでなった中、アリサがクラブに行く気力も無さそうに頬杖をついて溜息を吐いた。

 

「はぁ……ティアちゃん、今頃何してるのかしら?」

 

「全く、君はそればっかりだな」

 

「ティアって、僕達が入る前にⅦ組に居た子なんだよね?」

 

 彼女の口から漏れる様に紡がれた言葉は既にこの場に居る全員が何度も聞いていた。マキアスが呆れた様子で声を掛ける中、1人の少女が首を傾げながらリィン達へ質問する。……その少女の名はミリアム・オライオン。つい最近同じⅦ組に編入して来た者であり、彼女の他にもう1人男子生徒がⅦ組に編入していた。

 

「あぁ。クロウは知ってるよな?」

 

「一応な。そこそこ有名だったから知らないのはミリアムくらいだろ?」

 

 臆病で小さな少女の姿は目立っていた。本人は知らない人物を見ると逃げ出してしまう為、その性格も相まって話を出来た人物は極僅かと言えるだろう。2年生でありながらⅦ組となったクロウ・アームブラストはリィン達が入学する以前から士官学院に居たため、彼女が居た時の学院を知っている。「ゼリカがかなり話したがってたな」と思い出す様に続ける中、アリサは不服そうに机を叩いた。

 

「やっぱりシャロンは狡いわ! 確かに心配だったけど、会いに行くなんて」

 

「またその話か……俺はもう聞き飽きたぞ」

 

「あはは、でもそのお蔭で向こうでも元気にしているって分かったじゃないですか」

 

 二言目もまた、何度も聞いている言葉だった。ユーシスが頭を抱える中、苦笑いを浮かべながらエマが返せば「それはそうだけど……」と不服そうにしながらも落ち込んでしまうアリサ。そんな姿にフィーとラウラが目を合わせて『やれやれ』と言った様子で首を横に振れば、何かを思いついた様にガイウスが口を開いた。

 

「思ったんだが、ティアは今もARCUSを持っているのか?」

 

「え? あー、どうなんだろう?」

 

 そもそもⅦ組とは色々な事情を抱えている者達であると共に、ARCUSの適性が高い者達が集められていると最初に全員は説明を受けていた。諸事情により、初めから参加が決まっていたティア。しかしⅦ組から離れて中々戻って来ない様子を見るに、現在は家族の元で過ごしているとリィン達は考えていた。……となれば、何時か休学状態からティアは何かしらの形で退学になる可能性もある。その時、彼女の持つARCUSは一体どうなるのか? 誰にも分からなかった。

 

「もし仮にティアがまだ持ってるとして、通信を掛けたら繋がるのかな?」

 

「おっ、そんじゃあいっちょ掛けて見るか!」

 

「待ってくれ。もし持って無かったらどうする? それに今は多分家族のところに居る筈だ。せめて向こうから掛かって来ない内はそっとして置くべきじゃないか?」

 

≪……≫

 

 リィンの言葉に押し黙った全員。ARCUSを取り出していたアリサも繋げる最後の一押しへ伸ばされた震える指を動かせず、やがてそれを机の上に置いてしまった。ティアの状況はまた何時か、知れる機会が訪れるかも知れない。そう思った一同はその場でティアの話をそれ以上する事はしなかった。全員が各々の部活や用事を済ませる為に解散する中、フィーは1人空を見上げる。

 

「フィー、どうしたのだ?」

 

「……何でも無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3学生寮、フィーの自室。

 

「って話になった」

 

『教ぇ、なぃの?』

 

「別に教えても良いけど……何となく、かな」

 

 ARCUSを耳に当ててフィーが通信する相手はティアだった。実はティアがARCUSをまだ持っている事も、それで通信を出来る事もフィーは知っていたのだ。毎日とはいかないが、定期的に連絡を取っている為に1度様子を見に行ったシャロンよりもティアの近況には詳しかった。

 

『あの、ね……アー、ツ……また、少し……使ぇる、様に……なった、よ』

 

「そっか。偉いね」

 

『そう、かな……ぇへへ……嬉しぃ』

 

「後は……もう少し喋れる様になると良いかも」

 

「……う、ん」

 

 褒められて照れ、次は悲しそうにしている姿が顔は見えずともフィーには手に取る様に分かった。その後も適当な会話をした後、通信を終えたフィーはARCUSをしまう。そしてリィン達に通信出来る事を教えるか少し迷うも、アリサの様子を見るにそんな事をすれば毎日の様に通信がティアのところへ行くと思ったフィーは結局教えない事にした。決して自分が話をする時間が減る事を懸念したのでは無く、ティアが平和に過ごせる為の判断。……そう自分に言い聞かせて。





ティア・プラトー


言語Lv.4(最大Lv.10)

人慣れLv.6(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★

★★★★☆
フィー・トヴァル
★★★☆☆
アリサ・シャロン・サラ
ティオ・キーア
★★☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ
ロイド・ランディ
エリィ
シャーリィ
★☆☆☆☆
ノエル・ワジ


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第Ⅰ部-第4章- 蘇りし空白
4-1


 9月。特務支援課として活動するティオの傍ら、同じ建物で過ごしながらも合間合間には誰かに同伴して貰う形でウルスラ間道の浜辺で魔法(アーツ)の練習を熟す日々。稀に暴走しかけて止めて貰う事もあったが、それでも少しずつティアは魔法を使える様になっていた。……そして現在はその練習の帰り道であった。

 

「明日はミシュラムです。準備は良いですか、ティア」

 

「う、ん……みっ、しぃ……楽し、み」

 

「ですね」

 

 同伴していたティオと共に駅前通りを歩くティアは、彼女から言われた言葉に頷きながら答える。それを見てティオを微笑みながら返し、2人は同時にパンフレットを取り出した。……ミシュラムワンダーランド。略してM・W・L。とある事件を終え、身も心も疲労した特務支援課に休養としてエリィの知り合いである女性から招待があったのだ。そこは『みっしぃ』と呼ばれる猫の様なマスコットキャラの居るテーマパークであり、ティオはそのキャラクターが大好きだった。そして彼女を通じて知ったティアも、みっしぃを好きになっていた。

 

「当日は一緒に回りましょう。アトラクションを全て乗れると良いのですが……」

 

「これ、は……ゃ」

 

「ホラーコースター……ですか」

 

 パンフレットに載っている様々なアトラクションの紹介を見ていたティアがその1つを指差した。それはコースターに乗りながら迫りくるお化けを倒していくアトラクション。名前の通り怖いアトラクションであり、ティオも出来れば遠慮したいと思う。が、それと同時に想像する。一緒に乗り、守る様に銃を構える傍らで自分へしがみ付くティアの姿を。……有り体に行って、悪く無いとティオは思った。

 

 中央広場を通って特務支援課へ戻った2人はその後もミシュラムでする事を話し合う等して時間を過ごす事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水上バスで揺られながら、ティアはその甲板で流れる広大な海を眺めていた。初めて列車で見た時とは違う、海の真ん中で360度見渡せる光景は圧巻。引っ込み思案な彼女も少しだけテンションが上がっていた。少し離れた場所でロイドと特務支援課が飼っている狼、ツァイトの姿を確認しながらもキラキラと光る水面を眺め続けていた。が、離れた位置から聞こえて来る溜息に彼女は首を傾げる。……それはロイドが漏らした溜息であり、ティアはゆっくりと彼へ近づき始めた。

 

「ロ、ィド……元、気……なぃ?」

 

「! ティアか……いや、すまない。ちょっと色々あってな」

 

「ティア、ここに居ましたか」

 

「っ! ティ、オ」

 

 気付けば彼にも大分慣れる事が出来ていたティアは声を掛けるも、ティアに気付いたロイドは驚き、詳しい話はせずに何処か取り繕った様な笑顔を向けた。すると船内から甲板へ上がって来たティオがティアを見つけて声を掛け、ロイドの姿にも気付いた。

 

「……何か話していたみたいですね」

 

「いや、ちょっと俺が不甲斐なかったところをティアが心配してくれただけさ」

 

 ロイドの言葉に何度か2人を交互に見た後、「そうですか」と言ってティオはティアの手を掴むと一緒に船内へ入る。見慣れて来た光景にロイドは微笑ましくなると共に、今まで2人が離れ離れだった事を思い出した。彼が悩んでいた事は2人が過去に体験したであろう出来事と少しだけ似ており、今幸せそうに過ごす2人を見て彼は少しだけ元気を貰う事が出来る。

 

 その後、船は目的のミシュラムへ到着する。早く遊びたくてソワソワするキーアやティアを何とか落ち着かせて準備をした後、全員がテーマパーク内で解散となれば、ティアはティオと共にミシュラムのアトラクションを回り始めた。

 

「ぁ……みっ、しぃ……!」

 

「行きましょう、ティア!」

 

 途中、着ぐるみ(みっしぃ)を見つけてはしゃぐ2人。屋台で食べ物を買って食べる事もあれば、ビーチがある故にテーマパークを離れて用意した水着に着替え、砂浜で一緒にお城を作る事もあった。キーアや他の面々と一緒に遊ぶ時もあり、だが特務支援課以外にも招待されて来ていた女性達には普段通りティアは怯えてしまう。……そんな騒がしく、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行った。

 

 夕方を迎え、ティオとティアは大きなお城へと続く橋の上で夕焼けに照らされる海を眺める。

 

「楽しかったですね」

 

「う、ん……でも……疲、れた」

 

 沢山のテーマパーク。砂浜での遊び。普段以上に歩き、動いた為にティアは疲労を感じずにはいられなかった。ティオも当然同じであり、彼女の言葉を聞いて「戻りましょうか」と告げたティオは静かに手を差し出す。ティアはその手を掴み、2人は泊まる予定のホテルへ向かう事にした。するとホテルへ向かう最中、ティオは何気なくティアへ話し掛けた。

 

「また、遊びに来ましょう。……今度は2人だけでも良いかもしれませんね」

 

「ティ、オ……?」

 

 何故かティオが小さく言葉を続けた為、その真意が分からずにティアは首を傾げる。

 

 その後、無事にホテルへ戻ったティアはティオと共に夕食の会食に出る。招待した人物による挨拶等もあったが、全く面識も無い為にティオ共々黙って話の流れを見守り、やがて全員は自室で眠りに付く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。ティアは外で誰かが動き回る気配に気付いて目を覚ました。同じ布団にはティオが寝ており、ティアが起きるとの殆ど同じタイミングで彼女も目を覚ます。

 

「ティ、オ……」

 

「んんっ……何か、あったのでしょうか……?」

 

「ティオちゃん……? ティアちゃん……どうかしたの?」

 

「う、うぅん……何かありましたか?」

 

 2人が目を覚まして声を出せば、別のベッドで眠っていたエリィとノエルも目を覚ました。ティオがホテル内で誰かが動き回っていると2人へ告げれば、警戒しながらも部屋を出る事にした4人。……外を歩き回っていたのはロイド達であり、その理由は『ロイドと一緒に寝ていた筈のキーアが何処にも居ない』と言う事であった。

 

 ホテルの従業員にも協力をお願いし、宿泊場所である2階と3階を探し回る事にした面々。だがキーアの姿は何処にも無く、不安が更に募り始めた時。全員の目の前にツァイトが顔を出した。どうやらキーアの居場所が分かる様で、着いて行く事にすれば……ツァイトが誘導した場所はテーマパークへ続く扉だった。

 

「この先に居る。正し気を付けろ(・・・・・)……そう言っています」

 

「気を付けろって……」

 

「……ティ、オ……」

 

 ツァイトの言葉が何となく分かるティオの翻訳を聞いて困惑する一同。ティアも何か嫌な気配を感じて思わずティオの名前を呼び、服の裾を掴んでしまう。この先には何か危険が待っているかも知れない。そう思ったロイドはこの先へは特務支援課の面々だけで出る事にして、ティアや彼ら以外に呼ばれた者達はホテルに残る様に告げた。ティオも特務支援課のメンバー故に、ティアに「良い子で待っていて下さい」と告げて彼女もテーマパークへ。

 

 薄暗い1階でまだ慣れない人物たちと一緒に取り残されてしまったティア。不安げにテーマパークへ続く扉を見つめるその姿に数人が声を掛けるも、怯えてツァイトの傍へ隠れてしまう。だが流石に放って置く訳にはいかない。何とか遠い距離から部屋へ戻る様に説得をして、ティアは誰も居ない部屋に戻る事になった。念の為、誰か着いていた方が良いと言う話になった時。ティアが指名する様にツァイトの傍へ離れなかった為、護衛は彼である。

 

「だぃ、丈……夫……か、な?」

 

「ウォンッ!」

 

「ぅ、ん……待って、る」

 

 ティオと同じ様にツァイトの言葉が何となく分かったティアは、頷いて窓の外を眺めながら彼らの無事を祈り続ける。……やがて嫌な気配が薄れて消えて行く中、突然ツァイトが何かに気付いた様子で唸り始める。そしてティアが振り返れば、そこには人が立って居た(・・・・・・・)

 

「やぁ。久しぶりだね。いや、今は初めまして……かな?」

 

「っ!」

 

 見慣れぬ人物。何時部屋の中へ入ったのかも分からないその相手は楽しそうに笑みを浮かべながらティアへ近づき始める。するとツァイトが『止まれ』とでも言う様に吠えるが、相手は「怖い怖い」と全く怖がった様子を見せずに少し距離を取る。……そして指を鳴らした時、気付けばティアは彼の目の前に立たされていた。ツァイトは部屋の隅へ移動しており、飛び掛ろうと走り出す。

 

「別に今のままでも良いんだけどね。どうせなら面白くなりそうだから、ね」

 

「ぇ……ぁ、ぅ……」

 

 大きく跳躍してツァイトは飛び掛った。だがその攻撃が届くよりも早く、その人物はティア諸共消え去ってしまう。部屋の中には『その内返すから安心して良いよ』と言う言葉が木魂し、その日を境にティアはクロスベルから姿を消した。



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4-2

『今回も、失敗か……』

 

 1枚のガラスを隔てた向こう側で、その男は呟いた。何度も、何度も繰り返すその言葉が誰に向けられたものなのか……それは今、その()を見ている者に対してなのだろう。

 

『まだこれは始まりに過ぎない。何度でも失敗を繰り返し、必ずその刻までに……』

 

 そう言って伸ばされた手を最後に、視界は真っ白に染まる。だがそれで目覚める訳では無かった。

 

 前後左右も分からない、真っ暗な世界にティアは身体を横にして浮く様に漂っていた。音も無く静かに目を覚ました彼女は地に足を付けられず、混乱しながら姿勢を縦にする。

 

「……ぅ、うぅ……」

 

 真っ暗な世界。訳の分からない場所に1人で居る事は恐怖でしか無かった。最後に自分が何をして居たかも曖昧な中、ティアは何かに気付いた様にその場を振り返る。……そこに居たのは自分(・・)だった。

 

『もうすぐ、会えるよ』

 

「……ぇ……」

 

 同じ姿をしながらも本人とは違って綺麗に話をするそれは、ゆっくりとティアへ近づき始める。やがてその手が彼女の頬に触れた時、嬉しそうに。それでいて優しい雰囲気を出しながら笑みを浮かべた。

 

『大切に、してあげて。私達の妹(・・・・)を』

 

「ぃもう、と……?」

 

 ティアの返しに再び笑みを浮かべ、突然光り出した彼女はやがて光の粒子となって消えてしまう。それを見送ったと同時に急激な眠気に襲われ、再びティアは真っ暗な空間でゆっくりとその瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、まだ目を覚まさないんですの? もう1月以上経ちますわよ」

 

「あぁ。その様だ。奴の話では元に戻す(・・・・)のに時間が掛かっている、との事だが」

 

「考えても仕方ないわ。今日も私が見ているから、貴女達は貴女達のするべき事をしていて」

 

 某月某日。とあるベッドの上で眠るティアを囲む様に鎧姿の女性が3人で話をしていた。眠るティアを見つめるその目は一様に心配を隠せていない。だが彼女達にも予定はあり、3人の内1人の女性が残りの2人へ告げた。少し苦い顔をしながらもその部屋を後にした2人は閉じた扉へ視線を向け、互いに目を合わせる。

 

「予想はしてましたが、あの子に夢中ですわね」

 

「仕方無いだろう。自分と似た境遇なんだ。今はエンネアに任せよう」

 

 部屋に残る女性、エンネアと言う名の女性を思いながら言い切った彼女の名はアイネス。そしてアイネスに言われて「そうですわね」と納得したのはデュバリィと言う名前だった。3人は3人だけで結成されている隊の仲間であり、互いの事に関しては熟知している。故に今現在部屋に残っているエンネアが嘗てとある教団で実験体にされていた(・・・・・・・・・・・・・・・)事も知っていた。

 

 それからしばらくした頃、別の部屋に居たデュバリィとアイネスの元に血相を変えたエンネアが姿を現した。

 

「目を覚ましたわ!」

 

《!》

 

 彼女の言葉を聞いて急ぎ足でティアの眠る部屋へ向かった3人。そこにはベッドの上で身体を起こして周りを怯えた様子で眺めるティアの姿があった。突然現れた3人に最初は目に見えて驚いたティアだが、何故か彼女は怖がる様子を見せない。……それどころか、3人の顔を順番に見つめてから静かに口を開いた。

 

「あ、ぅ……デュバ、リィ」

 

「えぇ。久しぶりですわね」

 

「アィ、ネス」

 

「ふっ。大凡2年振り、か」

 

「ェンネ、ア」

 

「あぁティア、お帰りなさい」

 

 名前を名乗られていないにも関わらず、3人の名前を順番に呼ぶ事がティアには出来た。そして彼女に名前を呼ばれた3人は順々に返事を返す。その様子は各々満足そうで、ティアは再び周囲を見回して首を傾げた。

 

「どう、して……?」

 

「まず、何処まで覚えておりますの?」

 

「……ママ、に……会って……みん、なと……会って……あぅ」

 

「まだ最初の頃だけと言う事か。奴の言葉通りならば、その内思い出せるだろう」

 

「全く。道化師のお蔭でマスターの厚意も無駄になってしまいましたわね」

 

「そうね。……でも、正直私は嬉しいわ。またこうして会えたんだもの」

 

 まだ混乱するティアの前で会話をする3人。やがてまだ眠そうな仕草をするティアの姿にアイネスが「寝ておけ」と素っ気なくも彼女の為を思って告げる。弱々しく頷いて再びティアは横になり、寝付くまで3人はその傍に寄り添い続けた。

 

 ティアが眠りに付いた後、今度はエンネアも連れて3人で部屋を出る。そして違う部屋で座りながら、彼女達は会話を始めた。

 

「それで、これからティアをどうする?」

 

「元々私達が彼女のお世話をしていたから、今回も自然とそうなったのよね。ならあの時の様に、一緒に居てあげましょう」

 

「それは賛成ですけど、今は任務が忙しい時期ですわ。3人でずっと、とはいきませんわよ」

 

「ふむ。なら、ここは鉄騎隊筆頭であるデュバリィに任せよう」

 

「悔しいけど、仕方ないわね」

 

「な、何でそうなりますの!?」

 

 アイネスは当然の様に。エンネアは本当に悔しそうな様子で賛成する中、デュバリィは焦った様子で抗議をする。だが結局ティアの主な面倒を見る役割は彼女で決まってしまった。エンネアは時間があれば積極的に手伝うと申し出て、アイネスも「何かあれば手伝おう」と一応協力する意思は見せる。……そしてティアは3人と。主にデュバリィと一緒の時間を過ごす事が多くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアの記憶は日々戻りつつ会った。……それはトヴァルやサラと出会う前の記憶。今まで思い出す事の出来なかった記憶。姉が5歳でティアが3歳の頃、彼女達は誘拐された。そこでティアは魔法を生身で扱える様になる為の実験を受ける事となり、だが結局は廃棄。捨てられる形となった。2年近くの実験を重ねられ、5歳になったティアは当然1人で生きて行く事等出来ない。弱った身体は到頭力尽き、命の灯が消え始めたその時。ティアは出会った。

 

 自分を救った相手をティアは『ママ』と呼び、彼女の傍で過ごす様になった。やがて1人の少女が『ママ』と出会い、ティアとも出会った。彼女とも仲良くなり始めた頃、また1人。更に1人とティアは家族とも言える様な存在が増えて行った。……だが、楽しそうに話をするティアと3人の少女達を見ていた『ママ』は決断する。ティアを今のまま、ここで過ごさせる訳にはいかないと。

 

 『ママ』は4,5年共にしたティアの記憶を封印する事で自分達を忘れさせて、両親を探す為に行動しそうな遊撃士の人間に託す事にした。それが以前のティアの記憶に一番新しかった、トヴァルとの出会いである。

 

「大体、思い出したみたいですわね」

 

「う、ん……デュバ、リィ……」

 

「? 何ですの?」

 

「ママ……は……嫌ぃ……に、なったの?」

 

「……そうじゃありませんわ。マスターは唯、貴女に平和な世界で生きて欲しかっただけだと、そう思います」

 

 デュバリィの言葉にティアは小さく頷いた。そして彼女に連れられてやって来たのは、とある巨大な戦艦だった。ある人物のサポートをする為に行動する事になったデュバリィ。その任務にティアは間違い無く邪魔でしかないが、放って置く訳にも行かない為に彼女は仕方なく連れて来る事を決断。とても広い船内を歩く中、見覚えのある人物がティアの前に1人の少女を連れて現れる。

 

「君は……以前、Ⅶ組の特別実習で会った事があるね。確か名前はティア君、だったかな?」

 

「あ、う……は、ぃ」

 

「……」

 

 それは嘗てⅦ組に居た頃、2回目の特別実習で出会ったユーシスの兄。ルーファスだった。驚いた様子で声を掛ける彼に怯えながらも答えたティア。するとそんな彼の傍に居た少女が無言でティアを見続ける。余り感情を感じられないその少女は黒いフードを被り、兎の耳の様な物が目立つ。……すると彼女はゆっくりティアへ近づき始めた。

 

「っ! これは……?」

 

「名前を、教えてください」

 

「て、ティ、ア……です」

 

「ティアさん、ですか。……何故か、貴女とは何処かで会った気がします」

 

「どういう事ですの?」

 

 少女の行動に驚きを隠せないルーファス。そんな中、ティアは言われた通りに自己紹介をする。するとジッと顔を覗き込みながら告げた少女の言葉に、少女の特殊な出生を知るデュバリィが怪訝な表情でルーファスを見る。が、彼は難しそうに何かを考え込んでいた。……やがて少女はティアの手を握る。驚きながらも不思議と逃げる気が起きなかったティアは、彼女と目を合わせた。

 

「アルティナ・オライオンです」

 

『っ!』

 

 名を名乗って握手をする彼女にティアはまるで自分の意思とは違う何かが喜びを見せる様な、不思議な感覚を得た。それが何なのかは分からないが、少なくとも敵意も何も無い彼女に初対面ながらも恐怖を抱かなかったティア。やがてルーファスと共に去って行く彼女をデュバリィと見送り、ティアは彼女と共に船内を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアがデュバリィと一緒の部屋に居た時、部屋の扉をノックする音が聞こえる。デュバリィが入室を許可すれば、現れたのは1人の男性。ティアは見覚えが無い故にデュバリィの背後へ隠れるが、彼の目的は隠れてしまったティアであった。

 

「何の要件ですか、クロウ・アームブラスト」

 

「あぁ~、用があるのはあんたじゃ無くてそっちなんだわ」

 

 その男の名前はクロウ・アームブラスト。嘗てティアが居なくなってからⅦ組に編入したクロウと同一人物である。その格好はⅦ組の制服では無いが、クロウは驚くデュバリィを尻目に彼女の背後で隠れるティアへ視線を向ける。

 

「一体、ティアにどんな用事ですの?」

 

「……いや、一応どんな奴か見て置きたくてな。……うっしっ、取り敢えず満足だわ」

 

 少しの間ティアを見つめた後、満足した様子で部屋を後にする彼の姿にデュバリィは訳が分からなかった。ティアも困惑する中、開いたままの扉から今度はティアも見た事のある人物が姿を現す。蒼いドレスを着たその女性は、ティアを見つけると笑みを浮かべた。

 

「久しぶりね、ティアちゃん」

 

「ヴィー、タ……?」

 

「今度は貴女ですの?」

 

「2,3年ぶりの再会くらい、させてくれても良いでしょう?」

 

「勝手にすると良いですわ。ティア、少し外しますけど大丈夫ですわね?」

 

「う、ん……ぃって、らっしゃぃ」

 

 クロウと入れ替わりで姿を見せたのはヴィータ・クロチルダと言う名の女性だった。シャロンとは違う、綺麗な大人の女性。同性でも見惚れそうなその容姿と物越しに、話をした記憶も蘇っていた事でティアは恐れずに話をする事が出来る。

 

「まだ、話すのは得意じゃないのね?」

 

「う、ん……」

 

「そう……なら、あの時の様に時間がある時はお勉強をしましょうか。今度は声のお勉強を、ね?」

 

「あり、がとう。……頑、張る」

 

 ティアが今よりも更に幼い頃、喋る事もままならなかった彼女に言葉を教えたのは彼女であった。他にも読み書きや色々な事を彼女のみならず色々な人物にティアは教えて貰っていた。中には要らない事を教える輩も居たが、その様な人物は大概『ママ』やヴィータの様な人物たちによって制裁されていたのをティアが知る必要は無かった。

 

 少しの間、ヴィータと話をしてから彼女が部屋を出た事で1人になったティア。すると出て行ったヴィータが閉めた部屋の扉が再びノックされる。怖がりながらどうすれば良いか迷う中、何時までも反応が無い事で「入ります」とその人物は入室した。

 

「あ、う……アル、ティナ?」

 

「居ましたか。……少し話をしたかったのですが、大丈夫ですか?」

 

「う、ん……だぃ、丈、夫」

 

 入って来たのはこの場所で出会ったアルティナだった。彼女が何処か自分の意思に困惑した様子でティアに確認すると、ティアは頷いて部屋にあった椅子にアルティナを誘導する。そしてデュバリィと普段使っているティーカップ等を用意して、彼女の見様見真似でアルティナへ紅茶を差し出した。差し出されたそれを少し見た後、口に含んだアルティナ。すると彼女の顔が少し歪んだ。

 

「渋いです」

 

「あ、う……」

 

 ティアに紅茶を入れる技術はまだ無かった。



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4-3

 パンタグリュエル。ティアは自分が今居る場所についてデュバリィに聞いた事で、その名前を知った。乗り込む際には地上に降りていた巨大な戦艦。しかし今は空を飛んでおり、ティアは雲ばかりが見える窓の外を眺める事が多かった。

 

「ぃたく、なぃ?」

 

「大丈夫です。寧ろ心地良くて……少し、眠くなります」

 

 そして現在。ティアはアルティナに宛がわれていた部屋にお邪魔して、彼女のベッドで膝枕と耳掻きを同時に行っていた。出会ってまだ長い日は経っていないが、同じ戦艦で顔を合わせる事が多々あった2人。見た目もこの中では一番に幼い故に、ティアは自然と仲良くなっていた。……不思議と彼女に大きな恐怖を抱かなかったのも仲良くなれた理由の1つである。

 

「こしょ……こしょ……」

 

「んっ……」

 

「眠ぃ……なら、寝て……ぃぃ、よ」

 

「はい…………」

 

 片方が終わり、反対側に向きを変えてから耳掻きを再開していたティアは過去にフィーを相手にやっていた際、彼女が眠ってしまった事を思い出してアルティナへ告げる。言われたアルティナは眠気に襲われて小さな声で返事をした後、徐々に寝入ってしまう。ベッドから足を出す様な形で膝枕をしていた為、余り苦痛に感じなかったティアは耳掻きを止めてそのまま。アルティナが目を覚ます時まで、体勢を変える事はしなかった。

 

 アルティナが起きれば、彼女もやる事がある為に邪魔をしてはいけないとティアは部屋を退出する。その際、「またお願いします」と告げた彼女へティアは嬉しそうに頷いて返した。すると、部屋の前でティアはヴィータと遭遇する。

 

「あ……」

 

「あら。……あの子と一緒に居たのね」

 

「う、ん……」

 

 ヴィータはアルティナを信用していない様子で、その部屋から出て来たティアへ少し冷たい雰囲気を出しながら声を掛ける。だがその雰囲気を感じ取ったティアは思わず怯えてしまい、それに気付いたヴィータは少し焦った様子で姿勢を低くして「ごめんなさいね」とその頭を撫で始めた。何時もの優しい雰囲気に戻ってティアが安心する中、ヴィータは思いついた様に両手を合わせる。

 

「今から、声の練習。しましょうか?」

 

「で、も……ぃそ、がし……そう」

 

「ふふ。少しくらいは大丈夫よ。おいで」

 

 ティアはヴィータに誘われ、違う部屋の中へ入る。やがてその部屋からはとても綺麗な声と微かに聞こえる弱々しい声が響き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そら、ボルトだ!」

 

「あぅ……ミラー」

 

「うぉっ! マジか!?」

 

「……あれは何をやっていますの?」

 

「ブレード、と言うカードゲームらしい」

 

「中々面白そうやな」

 

 船内のラウンジでティアとクロウがカードを片手に遊んでいた。普通に座ってテーブルに置かれたカードを見るクロウとは対照的に、椅子の上で正座をする事で何とか身長を届かせて不安そうに彼の行動をティアは待ち続ける。そしてそんな2人を別の椅子に座って眺めるのは、デュバリィと2人の男性だった。デュバリィの言葉に答えた大柄な男性の名はレオニダス。2人が遊ぶ様子を見て楽し気に続けたのは男性の名はゼノ。彼らもこの船に乗船していた。

 

「こいつで!」

 

「ぁ……ボルト」

 

「ぬぉ!?」

 

「7……お終い」

 

「はっは、ボロ負けやの!」

 

「うっせぇ! もう1回だ!」

 

「まだ、やるの……?」

 

 ゼノの言葉にまるで躍起になった様子でもう一勝負しようとするクロウだが、既に3回程戦っていた為にティアは疲れ始めていた。それに気付いたデュバリィがクロウを止めて自室へ戻ろうとした時、今まで黙って様子を見守っていたレオニダスが口を開いた。

 

「少し、その子供と話がしたい」

 

「何でもⅦ組っちゅうとこに居たらしいやないか。ちょっと聞きたい事があってな」

 

 ティアは2人の言葉を聞いてデュバリィへ視線を向ける。だが、デュバリィは言葉にせずとも『自分で決めなさい』と目で語った。……やがてティアは怖がりながらも頷き、デュバリィが代わりの様に答える。

 

「私も同席しますわ。よろしいですね?」

 

「まぁ聞かれて困る話や無いし、いいで」

 

 その場に敗因を確認するクロウを置いて、ゼノとレオニダスが使う部屋に入ったティアとデュバリィ。向かい合う形でソファに座り、ゼノがまず初めにティアへ質問した。

 

「一応確認や。……フィー・クラウゼル。知っとるか?」

 

「っ! フィー……?」

 

「その反応は、知っている様だな」

 

「うん……友達、だから……」

 

 知っている名前に驚き、答えたティアの言葉に2人は何処か安心した様な表情を見せる。そして2人は嘗てフィーが居た西風の旅団の人間である事をティアへ明かした。トールズ士官学院へ入る前にフィーと出会っていたティアは彼女の経緯について知っていた事もあり、2人の話を驚きながらも聞き続ける。……要するに、2人はフィーが元気にやっていたのか心配だったのだ。ティアは既に数ヵ月離れ離れになってしまった為、最近の事は知らない。だがⅦ組の面々の話をする事は出来た。

 

「10人中、男が5人か」

 

「変な虫は付いてへんやろな……」

 

「虫……?」

 

「気にしなくて良いですわ」

 

 言葉にはせず、2人へ『余計な言葉を教えるな』と若干の威圧感を出したデュバリィ。怯えた様子は一切見せずに、だが「すまない」と謝罪するレオニダスにゼノも続いた。そして再び始まる話の内容はフィーについて。相手は大人な男性と言う事もあって、恐怖は無くならないものの、共通の話題がある事に。フィーの話を出来る事にティアは嬉しくも感じていた。

 

「っと、そろそろ時間やな」

 

「あぁ。色々話が聞けて良かった」

 

「うん……楽し、かった」

 

 ゼノとレオニダスにもやる事がある。2人が忙しくなり始めた事でデュバリィと部屋を出たティアは、デュバリィもこれから用事があると言う事で部屋に戻る様に言われてしまう。アルティナも居らず、ヴィータも居ない。気軽に接する事の出来る相手が居ないと思い、誰か1人でも帰って来る事を願いながら……ティアはベッドで眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時はアルティナと時間を過ごし、ある時はヴィータと声の練習をして、他にも乗船している人達と過ごしていたティアはある日、余り使われていなかった来賓室に誰かの気配がある事に気付いた。デュバリィはその正体を知っている様で、「大丈夫ですわ」と少なくとも襲ってくる様な存在では無いと安心させるだけ。それが誰なのかは教えようとしなかった。

 

「来賓室、ですか。あそこには今、皇女が居ます」

 

「皇女……?」

 

 だが、アルティナに質問をした事で答えはすぐに得られてしまう。聞き慣れない言葉だが、取り敢えず『偉い人』と言うイメージのあったティアはそれを聞いてどんな人物なのかを想像する。するとそんなティアの姿にアルティナはさも当然の様に告げた。

 

「会って見ればいいのでは?」

 

「……怖い、かも……」

 

「いえ、そんなに怖い雰囲気は無かったです。誘拐している時も、弱かったですし」

 

「……誘、拐?」

 

 聞いては駄目な言葉を聞いて首を傾げたティアに「何でもありません」と誤魔化したアルティナ。深く聞いても答えそうに無い彼女の様子を見て、ティアはそれ以上聞く事はしない。そこでアルティナが話を元に戻した上で、「気になりますか?」とティアに質問した。知らない人と会いたいとは思えないが、数日過ごした場所に現れた未知の気配。……気にならない方がおかしかった。

 

「一緒なら、怖くないですか?」

 

「え……?」

 

「私も一緒に行きます。そうすれば怖くない……違いますか?」

 

 アルティナの言葉にティアは少し間を置いてから頷いて、2人は部屋の外へ出た。そして来賓室へアルティナが前になって近づき、ノックをする。中々声は聞こえず、だがアルティナはティアが部屋に居る時の様にその扉を開いた。

 

「貴女は……!」

 

 中から聞こえて来るのは警戒や敵意を籠った少女の声。それはアルティナに向けられたものであり、だが言われた当人は怯む様子も見せずにティアへ視線を向ける。中に居る人物からはまだティアの姿が見えておらず、誰かが向けられた視線を先に居る事だけが理解出来た。

 

「大丈夫です。何かあれば、私が対処しますので」

 

 その言葉を受けてゆっくりと開いた扉へ近づいたティア。やがて中を確認する様に顔だけ出したティアは、中に居た1人の少女と目が合った。何処か気品溢れる立ち姿で驚きながらも自分を見つめる相手はアルティナの言う通り、怖いとはかけ離れた様子だった。

 

「えっと……貴女は?」

 

 先程と同じ言葉でありながら、その声に敵意は無い。警戒心は僅かに混じっている様だが、それ以上の困惑がその声音には含まれていた。アルティナ以上の子供。怯えた様子で周りを見ては自分を見るその姿に脅威は微塵も感じない故に、どうしてこの場所に居るのか少女は気になって仕方が無かった。が、質問に答える様に告げたティアの言葉が更に少女を混乱させる。

 

「……ティア……です」

 

「ぇ……」

 

 少女にはその名前に聞き覚えがあった。友人の兄が在籍しているトールズ士官学院の特化クラスⅦ組。少女はその面々と顔を合わせた事があり、大きな話題にはならなかったがその名前を聞いた事があったのだ。友人と一緒にそれを聞けば、臆病で子供で可愛い子だと教えられた記憶があった少女。……正に今、目の前に立つのは怖がり(臆病)で、幼げ(子供)で、愛でたくなる(可愛い子)様な子供だった。

 

「貴女が……リィンさん達から少し、聞いています」

 

「っ! リィン……知ってる、の?」

 

「えぇ」

 

 ティアの質問に微笑みながら肯定した少女は、スカートの一部分を掴んでお辞儀をし乍ら自己紹介をする。アルフィン・ライゼ・アルノール。それが彼女の名前であり、「どうぞアルフィンとお呼び下さい」と言う姿は皇族の様な佇まいを見せ乍らも親しみやすい印象をティアへ与える。

 

「それで……ティアさんは、何故ここに?」

 

「その……気に、なった……から」

 

 アルフィンの問いは『どうしてこの戦艦に乗っているのか?』であった。だがティアの答えは部屋へ来た理由。彼女の答えを聞いてそのすれ違いに気付いたアルフィンだが、今の様子をアルティナがジッと見ている事に気付いて彼女は察してしまう。……ティアも自分と同じ様に何らかの理由で攫われてしまったのではないか? と。リィン達が好意的な知り合いの時点で、彼らと敵対するアルティナ達とティアが繋がっている可能性は考えなかった。

 

 その後、アルティナを警戒しながらも話を始めたアルフィンはⅦ組の話でティアと徐々に打ち解けていった。酷い事をされていないか心配されれば、この戦艦に乗ってから危険と言える状況には陥っていない為、ティアは大丈夫である事をアルフィンへ告げる。心底安心した様に、それでいてまだ幼い子を船に閉じ込めている事にアルフィンは内心で憤るが……誤解である。

 

「そろそろ、戻ります」

 

「うん……バイバイ……アルフィン」

 

「ティアちゃん……! 必ず、リィンさんが助けに来るわ。だからそれまでの辛抱よ」

 

「?」

 

 部屋を出るティアへ意を決した様子で告げたアルフィン。何から助けて貰うのか分からずに首を傾げたティアとの間を遮る様に、アルティナは扉を閉めた。そして扉を離れる最中、ティアはアルティナにお礼を言う。

 

「あり、がとう」

 

「いえ。……お礼なら、一緒に寝て貰えれば十分です」

 

「? ……うん。聞いて、みる」

 

 アルティナの言葉に一度首を傾げ、理解してからデュバリィへ聞いてみる事にしたティア。その後、相談を受けたデュバリィは何とも言えない表情を浮かべるが、余りしないティアのお願いと言う事もあって渋々了承。この日はアルティナと共に同じ部屋で夜を明かすのだった。



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4-4

 アルフィンと出会ってから、ティアは彼女の元にも訪れる様になっていた。日々忙しい故に居ない事もあるデュバリィ達と違い、基本的には来賓室に居る彼女。心細く1人で居るよりも一緒に居た方が安心出来たのだ。念の為、常にクロウ等から許可を貰っては現れるティアの存在はアルフィンにとっても安心出来る存在と言えた。

 

「ティアちゃん。貴女は心細く無いの?」

 

「1人は……嫌」

 

 アルフィンから見てティアは自分と同じ囚われの身。故にした質問だが、以前と同じくティアが返した答えはその意味が少々違った。しかしその事実を知る由も無いアルフィンは悲しそうに答えるティアの姿に近づき、その身体を抱きしめ始める。

 

「大丈夫よ。今だけかもしれないけれど、私が傍に居てあげるわ」

 

「うん……あり、がとう」

 

「っ!」

 

 暖かい少女の抱擁。ティアはそれが少し嬉しくて、笑みを浮かべながらお礼を言う。そんな儚げながらも何処か気丈に振る舞う姿はアルフィンの心を撃ち抜いた。そして思わずティアを抱きしめるその腕を強くしてしまい、中々離れないアルフィンにティアは首を傾げる。……すると、現在2人が搭乗しているパンタグリュエルが地上へ降り立ったのに気が付いた。

 

「誰か、戻って来たのでしょうか? それとも、出て行った……?」

 

「……入って、来てる」

 

「! そう、ティアちゃんには分かるのね」

 

 アルフィンの言葉にティアは頷いて肯定した。地上へ降りたのは数分。アルフィンと外を覗き込んだティアだが、それが何処なのかを判断する事は出来なかった。が、アルフィンが「ここは……ユミル?」と呟いたのをティアは聞き逃さなかった。……それはリィンの故郷の名前だった。

 

 それからしばらく時間が経った頃、来賓室の扉がノックされる。ティアがこの場に居る以上、他に居る人物はアルフィンに取って警戒すべき相手ばかり。故に彼女が驚く中、ティアは扉の向こうに感じる覚えのある気配(・・・・・・・)にアルフィンを見た。

 

「……リィン」

 

「え……そんな、まさか……ど、どうぞお入りください」

 

『失礼します』

 

 ティアの言葉に驚きながらもアルフィンが入室を許可すれば、扉を開いて現れたのは本当にリィンだった。恰好はティアの知るⅦ組の赤い制服とは違い、入った彼はアルフィンとティアの姿に驚き目を見開いた。

 

「殿下。それに、ティアまで……!」

 

「リィンさん……あぁ」

 

「リィン……」

 

 彼の姿を見て、アルフィンは警戒を解くと同時に彼へ駆け寄り始める。突然の事に驚きながらも彼女を受け止めたリィンはその背中を優しく擦りながら「無事で良かった」と告げる。……そして少しの間2人が会話をした後、2人は同時にティアへ向き直った。

 

「久しぶりだな、ティア。でも、どうしてここに?」

 

「リィンさん。多分、ティアちゃんも私と同じ様に……理由までは分かりませんが、それは間違い無いと思います」

 

 居るとは思っていなかったティアの存在。再会を喜ぶと共にリィンが質問すれば、彼女の代わりにアルフィンが答えてしまう。リィンはそれを聞いて考える様な仕草をした後、取り敢えずは納得した様に頷いた。

 

 その後、彼の妹……エリゼ・シュバルツァーの所在についてリィンはアルフィンへ質問。話に寄れば、アルフィン共々攫われてしまったらしく、現在この船に彼の妹はいなかった。ティアも覚えが無い為、間違い無い事である。……この話の際、ティアはアルティナがアルフィンと彼の妹を攫った話を聞く事になった。一度それらしく台詞を攫った本人から聞いていた為、アルティナと仲良くしているティアは戸惑ってしまう。が、その戸惑いに2人が気付く事は無かった。

 

 様々な出来事を経験して来たのだろう。落ち込む彼へアルフィンが彼の妹の代わりに激励を送り、気を持ち直したリィンはここを脱出する為に行動する事を決める。……そして当然、彼はアルフィンとティアもここから助け出す為に行動を開始した。

 

「リィン……あのね……」

 

「ティアちゃん、大丈夫よ。私が傍に居てあげるから、安心して」

 

 話の流れがこのパンタグリュエルから逃げる方向に進み始めていた為、逃げる必要のないティアはリィンへ話し掛けようとする。だがアルフィンがそれを不安に思った故の声だと思い、その手を握って頭を撫で始める。ティアについては彼女に任せ、自分はその2人を守ると決意したリィンは2人を連れて来賓室から外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンタグリュエルの甲板へ目指す途中、リィン達の行く手を仮面の男とデュバリィが塞いだ。

 

「って、何でティアがそっちに居ますの!?」

 

「ここに居る事は前々から聞いてはいたが、まさかこの様な形で邂逅するとはね」

 

「くっ、失敗しましたわ。ティアと変態(貴方)は会わせないつもりでしたのに」

 

 対峙する2人に刀を抜いて構えるリィンの後ろで、アルフィンに抱きしめられているティアの姿を見てデュバリィは驚き声を上げる。そして隣に居る男性に聞こえない様に、小さな声で続けた彼女は改めてリィンへ刃を向けた。

 

「殿下、ティア。下がっててくれ!」

 

「リィンさん!」

 

「あぅ……あの」

 

 リィンの言葉にティアを連れて後ろへ下がるアルフィン。当然彼女に抱かれたティアも同様であり、話をしようとするも弱々しい声は2人に届かない。……すると、リィンの身体から突如赤黒い靄の様なものが生まれ始める。そして、彼が吠えると共にその髪色は黒から銀色に。目は赤色に変化し始めた。その場に居る全員が驚き戸惑う中、それを見ていたティアは彼の姿に。その赤黒い何か(・・)に恐怖を抱いてしまう。

 

 2対1。デュバリィと仮面の男性……ブルブランは相当の実力者である。だがそんな2人を相手に立ち回り、やがて下す。そして2人の隙を突く様に、リィンは次の行動を開始した。

 

「殿下、失礼します。ティアも俺に捕まってくれ」

 

「あ、あの……ね」

 

「早く!」

 

「あぅ……」

 

 大きな声で言われてしまい、怯えて後ろからリィンの首へ抱き着いたティア。すると彼は人間離れした跳躍でその場を移動して、対峙していた2人から距離を取ると同時に超える。驚く2人を置いて、2人の少女を抱え乍ら走るリィン。横抱きにされたアルフィンは少々ドキドキしながらも、彼の背中にしがみ付くティアを気遣い続けた。

 

 次にリィンの行く手を塞いだのはゼノとレオニダスだった。だがリィンは一瞬で分身するかの様に残像を見せて2人を超える。しかし当然彼ら以外にもリィンの行く手を塞ぐ物は居る。……次に邪魔をしたのはアルティナだった。リィンが来る事は分かっていた彼女だが、その腕の中に居るアルフィンを。そして首に掴まるティアを見て、静かに腕を上げた。

 

「クラウ=ソラス」

 

 その言葉と同時に現れたのは、彼女よりも大きな傀儡。嘗てサラが実技テストで見せた傀儡と少し似ているが、それ以上の存在感と意思に似た何かが感じられる。アルティナは呼び出した傀儡、クラウ=ソラスの腕に乗ってリィン達の前に飛来した。

 

「リィン・シュバルツァー。やはり不埒な人だった様ですね」

 

「そうなんですか?」

 

「全力で否定させて貰う」

 

「……不埒……?」

 

「……返してもらいます」

 

「何を……っ!」

 

 アルティナが腕を上げれば、それに答える様にクラウ=ソラスが腕を振るった。その攻撃を刀でいなして壁へ激突させようとするが、耐え切った上で反対の手がリィンの元へ振り切られた。しかし紙一重でそれを交わしたリィンはクラウ=ソラスとアルティナを飛び越える。そして一度高い位置に会った柱に足を付け、一気に前へ飛び出した。

 

「リィンさん、あの子に何か貸していらしたのですか?」

 

「そんな覚えないんだけどな……」

 

「……アル、ティナ」

 

 アルフィンの質問に心当たりが無かった故、首を傾げながら呟いたリィン。その後ろでは、友達が離れて行く光景を振り返りながら見つめるティアの姿があった。

 

 やがて船内から出る事が出来たリィン達。脱出する上で見つけるべき目標を目前にして、リィン達の前に2人の人影が立ち塞がった。1人はクロウ。そしてもう1人は……浅黄色の髪をした男性。

 

「よぅ、随分久しぶりじゃねぇか」

 

「? あんたとはさっき、話した筈だ」

 

「テメェじゃねぇよ」

 

「リィンさん」

 

「……下がっていてください」

 

 マクバーン。それが男の名前であり、彼はリィンへ。リィンの背後に掴まるティアへ声を掛ける。危険な相手故に、リィンがアルフィンへ告げれば彼女はティア共々後ろに下がり……リィンはクロウと対峙した。マクバーンはその戦いに手を出すつもりは無い様で、リィンとクロウの一騎打ちが始まる。

 

 上下に刃の付いた両剣を振るうクロウと刀を振るうリィンの刃同士が激突する度、甲板には甲高い音が響いた。だがやがてその勝負にも決着が付く。クロウの両剣を弾き、戦闘に勝利したリィン。だが勝負が終わると同時に彼を纏っていた赤黒い靄は消え、髪も目も元の色に戻る。そしてかなり疲労を感じている様で、彼は膝を付いてしまった。

 

「リィンさん!」

 

「大、丈夫……?」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「鬼の力が尽きたか」

 

「……ぁ……」

 

 クロウに勝つ事は出来た。今まで邪魔をして来た相手を超える事も出来た。だが脱出する前に立てなくなってしまったリィンにもう、勝機は無い。リィンに駆け寄ってしゃがみ込んだアルフィンには近づいて来るマクバーンが余りに恐ろしく、同じ様に傍へ駆け寄ったティアを抱きしめてしまう。やがて背後からは今までリィンが超えて来た5人が現れ、正しく絶対絶命。……そんな時、空に赤い影が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアちゃん!」

 

「ティア!」

 

 アリサの声とデュバリィの声が同時にティアの名前を呼んだ。リィンを救う為にパンタグリュエルの甲板へ現れたのは、ティアに見覚えのある人物ばかりだった。全員が全員では無いが、サラやトヴァル。Ⅶ組の面々にシャロンの姿もあり、その殆どがティアの姿に驚きを隠せていなかった。が、今はそれどころでは無い。戦力差はリィン達の方が人数で勝っていても、その実力的には五分五分。そこで現在船内にはいないヴィータが青い鳥を通して、リィン達を逃がす判断を下した。……そして

 

『ティア。貴女が決めなさい』

 

 リィン達とデュバリィ達の間で、ティアは何度も視線を行き来させる。クロスベルで姉と一緒に居た筈のティアがここに居る事をおかしいと思いながらも、今は時間を掛けている暇は無い。故にティアへ呼び掛けるが、反対側ではデュバリィが呼び掛けていた。その事実にティアと面識のない者達が不審に思うも、今はその状況を見守るだけに徹していた。

 

「ティア」

 

「ティアさん」

 

 フィーの声とアルティナの声が聞こえ、再び左右を見続けるティア。だがティアが最終的に足を進めたのは……デュバリィ達の方だった。

 

「そんな、何で!?」

 

「ティア、あんた……」

 

「フィー……サラ……トヴァル……みんな……ごめん、なさい」

 

 目の前の出来事にエリオットが驚き声を上げる中、武器を構えたままサラがティアへ鋭い視線を向ける。ティアはそんな面々に振り返ると、頭を下げて今度は速足でデュバリィの元へ。受け入れられないアリサを初めとしたⅦ組の面々。だが何時までもこの場に留まる訳にはいかず、素早く切り替えたサラが転移術を扱うエマに声を掛けた。

 

「待って! まだティアちゃんが!」

 

「エマ、早くしなさい!」

 

「っ! はい!」

 

「ティアちゃ」

 

 同じ様に動揺していたエマだが、サラに強く言われて転移術を発動する。アリサの声が途切れ、Ⅶ組の面々はその場から姿を消した。もう1度ティアへ視線を向けて、サラ達もその場から退散。騒がしかったパンタグリュエルには少しの間、静寂が訪れた。



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間章+α

「どうして……どうしてなの、ティアちゃん」

 

 巡洋艦カレイジャス。リィン達を乗せたその船の中で、アリサが悲痛の面持ちを浮かべて呟いていた。そんな彼女の空気に呑まれたかの様に、周りに居る面々の表情も悲し気で険しかった。

 

 その頃、違う部屋ではサラ・トヴァル・シャロンが話をしていた。……それは話と言うよりも尋問に近く、されているのはシャロンである。

 

「少なくともこの船に乗っていらっしゃる方々のみに限定するなら、ティア様と一番付き合いが長いと言えるのは私かと存じます」

 

「……そう、そういう事なのね」

 

 彼女の言葉に納得した様に呟いたサラ。その正体を知っているが故に、その言葉が何を意味するのか彼女には分かった。ティアを最初に拾ったトヴァルよりも、預けられてⅦ組の教官として彼女の傍に居たサラよりも、シャロンの方が共に居た時間が長い。第3学生寮に住んでいた頃、初めて会った様子の2人だったが……今会えばその反応が違うであろう事をサラは確信していた。

 

「思い出したって事か。……にしても、まさかあっち側の人間だったとはな」

 

「ティア様は結社と関わりはありますが、結社の人間とは到底言えませんわ。彼女を保護した御方が、偶々そうだっただけなのです」

 

「あたし達が知らない数年、そこに居たって訳ね」

 

「もし5年近く一緒に居た奴が居るなら、俺達より向こうを優先してもおかしくない、か」

 

 頭を抱えながらトヴァルは告げる。あの出来事はもう覆せない。ティアが自分達と敵対する相手を選んでしまった以上、何時か彼女とぶつかる可能性も考える必要があったサラ達。……一方。暗い表情をしていたリィン達だが、座り込んでいたフィーが徐に立ち上がると、部屋を後にしてしまう。

 

「フィーちゃん?」

 

「……俺達の中で一番辛いのはフィーかもな。なんせ、俺達が会う前から一緒だったんだからな」

 

「しばらく会えなくても、結構頻繁に連絡してたみたいだしね……急に出来なくなった時は大分心配してたし、寂しそうだったよね」

 

 エマ、リィン、エリオットの順に話をする。そしてラウラが1人になったフィーの様子を見ると言って部屋を後にすれば、今の今まで黙っていたティアとは話した事のない少女……ミリアムが口を開いた。

 

「僕は分からないけど、あのティアって子。悪い子じゃ無さそうだったよね。リィン達にも謝ってたし、何か向こうに行く理由があるんじゃないのかな?」

 

「ティアがクロウ達に付く理由、か」

 

「そう言えば、あの時ティア君が向かったのは……」

 

「デュバリィ、だったか」

 

 ミリアムの言葉からその時の出来事を思い出して話をするリィン、マキアス、ユーシスの3人。すると先程のフィーの様に、アリサが立ち上がった。今度は勢い良く音を立てて。

 

「話をするわ。ティアちゃんと……次あった時、必ず!」

 

「そうだな。それが一番なのだろう」

 

 アリサの言葉にガイウスが頷き、その場に居た全員も頷いた。

 

 その頃。1人になっていたフィーはカレイジャスにあった4階、訓練区画で双銃剣を手に素振りをしていた。唯振るだけで無く、敵の攻撃を想定した回避も行う。同じ部屋にやって来たラウラはそんなフィーの練習する鍛錬風景に、違和感を覚えた。……彼女とは親友になって以降、共に鍛錬をする事もあった。だからこそ、ラウラには分かったのだ。それが何時も通り(・・・・・)だと。

 

「フィー。其方は、ティアの事を気にしてないのか?」

 

「ラウラ、居たんだ。別に、気にしてない訳じゃないよ。落ち込んでても仕方ないってだけ。……唯、また何も言われずに置いてかれるのはごめん」

 

「そうか……私で良ければ、付き合おう」

 

「ん。サンクス」

 

 フィーの前に立ち、ラウラは大剣を構える。そして2人の交える刃の音が、4階に響き渡り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星見の塔。そう呼ばれる場所で、特務支援課は鉄騎隊の3人と対峙していた。

 

「特務支援課……ティオ・プラトー。貴女が彼女の姉という訳ですか」

 

「っ! ティアを知っているんですか!?」

 

「えぇ。ですがそれは今、関係の無い事。あの子の姉と言えど、容赦はしませんわよ!」

 

「……ティアの場所、教えて貰います……!」

 

 魔導杖を握る手に力を込めて、ティオは仲間達と共に鉄騎隊とぶつかる。僅かに見えた手掛かりを逃さない為に……。




ストック終了。以降は【次章】完成をお待ちください。
……となる予定でしたが、投稿中に次章が完成した為、続けて投稿させて頂きます。


ティア・プラトー


言語Lv.7(最大Lv.10)

人慣れLv.7(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
『ママ』
★★★★☆
フィー・トヴァル・シャロン
ティオ・アルティナ
ヴィータ・デュバリィ
★★★☆☆
アリサ・サラ
エリィ・ノエル・キーア
アルフィン
アイネス・エンネア
★★☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ
ロイド・ランディ・ワジ
クロウ・ゼノ・レオニダス
シャーリィ
★☆☆☆☆
ブルブラン


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断章 過ぎ行く時
断-1


第1部終了に伴い、あらすじ・タグ・章タイトル・サブタイトルを再編集しました。


 某月某日。鉄騎隊の3人はティアを連れてある人物の元へ訪れていた。

 

 パンタグリュエルでの出来事の後、ある人物の怒りを買ってしまったヴィータ達。その怒りは今の今まで同じ艦に居たティアの存在にも触れられ、ティアはその場所に居続ける事が出来なくなってしまった。

 

 デュバリィと共に行動する様になり、時には1人で待つ様にもなったティアは幾日もの寂しい時間を過ごし……今日この日、再会出来るであろう人物に期待と恐怖を半々に抱いていた。そんなティアの様子に気付き、「大丈夫よ」と優しく励ますエンネア。やがて到着した扉を前に、デュバリィが振り返ってティアへ視線を向ける。

 

「着きましたわ。ティア、覚悟は宜しいですわね?」

 

「うん……」

 

「……では。マスター。ティアを連れて参りました」

 

『分かりました。入りなさい』

 

 ノックをして扉越しに中へデュバリィが語り掛ければ、帰って来るのはティアに聞き覚えのある声だった。再びティアへ視線を向けた後、「失礼します」と言って扉を開けたデュバリィ。……その向こうに広がる部屋の中に、その人物は座っていた。

 

「……ぁ……」

 

「久しぶりですね、ティア」

 

「ママ……」

 

「……我慢する必要はありませんよ。来なさい」

 

「っ! ママっ!」

 

 3人と共に入室したティアは目の前に立つ綺麗な女性の姿に弱々しく口を開いた。すると耳心地の良い声と優しい笑みを浮かべて少しだけ体勢を低くし、両手を受け入れる様に広げる姿を前にティアは目に涙を浮かべながら飛び出した。小さな身体で行われた突進を難なく受け止めた女性は静かに、唯優しくティアの頭を撫で始める。

 

「デュバリィ。長い間、任せてしまいましたね」

 

「い、いえ。大分成長していましたので、言う程に苦ではありませんでした」

 

「そうですか……僅か1年半でしたが、決して無駄では無かった様ですね」

 

「マ、マ……ママは……ティアの、事……嫌いに、なったの?」

 

「……そうではありませんよ。唯……あのままでは。私達や一部の者としか話を出来ないままでは貴女の為にならなかった。それだけです」

 

「あう……今も、まだ……」

 

「それでも、沢山の人達と出会った筈です。本来ならそのまま……いえ、もう過ぎた話ですね」

 

 ティアの質問に答える女性。デュバリィ達がマスターと慕い、ティアが嘗て自分を拾ってくれた事で『ママ』と呼ぶ様になった人物……アリアンロード。普段は凛々しい姿ばかりを見ているが故に、ティアへ向ける優しい表情にデュバリィ達は目を奪われていた。

 

 その後、今までティアの元で起きた出来事を報告する事になったデュバリィ。彼女が自らの意思で自分達の元へ戻って来た事を聞いたアリアンロードは目を閉じて何かを考えた後、ティアを見てから3人へ告げる。

 

「デュバリィ。エンネア。アイネス。分かっていますね」

 

「勿論です。ティアが此方に残ると決めた以上、我々に出来る事は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリアンロードとの再会から数日。その日、ティアはまた別の人物と再会する事になる。

 

「あれ? ティアじゃん! どうしてここに居るの?」

 

「っ! シャー、リィ……?」

 

 それは嘗てクロスベルで出会った少女、シャーリィだった。現在ティアが居る場所はティアにも良く分かっていないが、唯一分かる事がある。それはとある組織の一員かその関係者である事。この場に現れたシャーリィの姿に驚くしか無かったティアだが、そんな彼女の困惑など気にもせずにシャーリィはその周囲を初めて出会った時と同じ様に回る。

 

「ティアも結社の人間なの?」

 

「そうではありませんわ」

 

「? 誰?」

 

 シャーリィの質問に答えたのは、ティアの傍に実は最初から立って居たデュバリィだった。ティアにばかり目をやっていて一切気付いていなかったシャーリィ。今気付いた様子を見せる彼女にデュバリィは僅かに顔を引き攣らせながら、ティアがアリアンロードに拾われた自分と同じ様な存在である事を自己紹介も交えて告げる。するとシャーリィはアリアンロードを見た事があるのだろう。「あの人か~」と上を向きながら呟いた後、デュバリィへ視線を向けた。

 

「あの人の部下って事は、戦ったら楽しいかな(お姉さんも強いの?)?」

 

「っ!」

 

 だが向けられたのは視線だけでは無かった。途轍もない殺気とまるで獣が獲物を見定める様な眼光に思わず驚き構えるデュバリィ。自分に向けられていない事でデュバリィの様子にティアは首を傾げるが、シャーリィは構わずジッとデュバリィを凝視し続ける。……が、やがて視線を外して再びティアへ向けたその表情は少女らしい可愛いものだった。

 

「ティア、この前お人形作ってたじゃん? あれ、もう1回見せて欲しいんだけど?」

 

「うん……お部屋に、ある、から」

 

「それじゃあティアのお部屋に行こっか?」

 

「あ、あわわ……」

 

「な、なんでしたの……今のは。っ! ティア!?」

 

「案内よろしくね!」

 

「あう、デュバリィ……」

 

「貴女、ティアを何処へ連れて行く気ですの!?」

 

 デュバリィが落ち着いている内に話は進み、シャーリィに抱えられて移動する事になってしまったティア。我に返ったデュバリィの声も空しく、ティアはシャーリィに抱えられたまま部屋へ導く事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備は宜しいですね?」

 

「うん……頑、張るっ!」

 

 デュバリィ達が普段、任務の無い時に使っている修練場があった。素振りや模擬戦等を行うその場所で、怯えながらも両手を胸の前で握って答えるティアと普段の優しさを感じさせない厳しい雰囲気を見せるデュバリィが対峙していた。少し離れたデュバリィの背後にはエンネアとアイネスが武器を手に何時でも動ける姿勢のまま待機しており、デュバリィはゆっくり剣と盾を構える。

 

「まずは今、使える魔法(アーツ)の確認から。行きますわよ」

 

 その言葉を聞いて頷いたティアはARCUSでは無く、自らの力を使って魔法を発動する。過去に戦って来た相手の中に、魔法を駆動無しで発動する人物を知らないデュバリィ。ティアが両手を前に出すと同時に彼女の目の前に出現する炎の弾に一瞬驚き、だが軽く身体を横に移動させるだけで回避する。……背後にいたアイネスが軽々と迫る炎をハルバードで切り散らした。

 

「えいっ! えいっ! えいっ!」

 

「っ!」

 

 攻撃はそれで終わらない。『手を握って引っ込めた後に突き出して開く』を両手で交互に繰り返したティア。すると彼女の目前に水の刃が生まれ、デュバリィの足元から鋭い岩が。天からは雷が飛来する。が、それも軽々と回避したデュバリィ。そんな彼女の足元に僅かな風が生まれ始める。そして何かに気付いた様子で素早くその場から今まで以上に大きく距離を取った時、先程まで立って居た場所を中心に竜巻が生まれた。

 

「なるほど。確かに生身で魔法を使えれば兵器にもなり得る、なっ!」

 

「それをまだ3歳の幼い子に植え付ける彼らの気が知れないわ。知りたくも、無いっ!」

 

 アイネスとエンネアはティアの発動する魔法を眺めて言葉を交わしながらも、デュバリィが避けた事で時に自分へ飛んで来る風の刃をアイネスが切り散らし、時に自分へ浮かびながら迫る銀の剣をエンネアが矢を放って相殺する。そして何度も繰り返される魔法を眺め続けていた時、それは起こった。

 

「あ、う……『あぁぁぁぁ!』」

 

「暴走か」

 

「魔法の連続使用。予想通りですわね」

 

「ティアちゃん。今、助けるわ」

 

 2人が待機していた理由はティアの魔法を見る為でもあったが、それ以上にティアが暴走した際に素早く抑える為でもあった。20以上を超える魔法を使用した後に暴走する姿を前に、デュバリィが呟きながら一歩足を後ろに下げて姿勢を低くする。ハルバードを構えるアイネスと弓に矢を番えるエンネアを背後に、デュバリィは動き出した。……瞬く間にティアの目の前に立った彼女は剣の峰でティアへ攻撃を加える。が、彼女の周りを守る様に囲む薄い膜がそれを防いだ。

 

「マスタークオーツ……だけじゃ無さそうですわね」

 

「恐らく魔法の障壁が展開している。ティアを抑えるには障壁を破るか」

 

「彼女の体力が尽きて意識を失う、ね。どちらにしても、ティアちゃんが苦しい思いをするのは避けられないわ」

 

「なら、出来る限り早く終わらせてやりますわ! アイネス、エンネア! 行きますわよ!」

 

 反撃の魔法を避け乍ら距離を取ったデュバリィは2人と会話をして、再び動き始めた。そして5分も満たない時間の末、ティアが修練場に眠る様な姿で倒れる姿が3人の前に映るのだった。



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断-2

「似、合う……かな?」

 

「もうバッチリよ!」

 

「ふむ、良いのでは無いか?」

 

「えぇ、悪くありませんわね」

 

 ティアはその日、着慣れぬ服に身を包んでいた。肩の見える白いワンピースに腰回りにある大きな薄水色のリボン。太腿や肩にまでそのリボンは伸びており、巻く事で生地がずれない様にしてあった。下は膝近くまでしか無く、スカート状になっているその場所を押さえて少し恥ずかしそうにお披露目するティアを前にエンネアは感極まった様子で答えた。その傍で同じ様に見ていたアイネスとデュバリィも悪く無い印象を持った様だ。

 

「ティアちゃんの服、少なかったから。何時か用意したかったのよね」

 

「姉のお古とⅦ組の制服、くらいですわね」

 

「前者はともかく、後者はもう着ないかも知れんな」

 

「でも、捨てない、よ? 大事な、思い出、だから」

 

 最後にⅦ組の仲間達と出会ったのはパンタグリュエルの甲板。余り良い別れ方を出来なかったが、それでもティアにとってⅦ組の面々は数少ない話せる者達であった。短い日々とは言え、思い出もある。故にその証である赤い制服を手放す気は無かった。

 

「一応、何着か用意したわ!」

 

「……全部同じですわね」

 

「あり、がとう」

 

 何処からともなく同じ服を両手に取り出したエンネア。余りにも強い同じ服の押しにデュバリィが僅かに引く中、ティアは彼女へお礼を言った。……それからティアの主な服装は彼女の用意したものとなる。

 

 着替えた服装のまま1日を過ごす事になったティア。シャーリィには『可愛い』と褒められ、アリアンロードには優しく頭を撫でられ、基本的にエンネアの用意した服の受けは悪く無かった。

 

「ヴィータ、も……褒めて、くれる、かな?」

 

 ティアは数日前、久しぶりに再会したヴィータの姿を思い出した。再会した彼女の表情はとても暗く、ティアの姿を見て優しい笑みを浮かべていたものの、それが無理に作られたものだとティアにはすぐに分かった。元気が無いと分かり、心配するティアにヴィータは一度その身体を抱きしめた後、弱々し気に彼女はティアへ告げた。

 

『しばらく、会えなくなるわ。言葉の勉強はお休みね』

 

『何処か、行くの?』

 

『えぇ。とても遠いところよ。……また何時か、会いましょう』

 

 それが彼女と交わした最後の言葉だった。やがて彼女は姿を見せなくなり、ティアはデュバリィ達に質問した事もある。が、3人は言葉を濁すばかり。会えなくなった事で寂しさを感じ乍らも、『また』と言う言葉を信じて何時かの再会をティアは願うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ママ……」

 

「……」

 

 その日、ティアはアリアンロードへとあるお願いをしていた。静かに目を閉じて考えるアリアンロードに答えを待ち続けるティア。やがて目を開いたアリアンロードはティアと目を合わせ、頷いて「良いでしょう」と答える。

 

 それから突然マスターである彼女によって呼ばれた鉄騎隊。片膝を突く彼女達へ、アリアンロードは告げる。

 

「デュバリィ、エンネア、アイネス。今から貴女達にはティアと一緒に出て貰います」

 

「ティアと一緒に、ですか?」

 

「えぇ。今回は任務、と言うよりもティアの滅多にない我儘ですから」

 

 3人の視線が一斉にティアへ向けられる。余り我儘を言う様な子で無い事は知っている3人。故にそんな彼女が我儘を言ってまでしたい事が何か気になると同時に、デュバリィは少しだけマスターであるアリアンロードへ我儘を言った事実に叱るべきか考える。すると、ティアが1枚の紙を持って3人へ近づいた。そしてそれを両手で広げ、見せる様にして告げる。

 

「友達、に……会いたい、の。お願い」

 

 彼女の持つそれは帝国等で起きた記事が掲載される帝国時報。そしてその1面には『最年少の正遊撃士誕生!』と大きく書かれており、移った写真には何処か見覚えのある少し成長した少女が写っていた。

 

「おめ、でとう。って、言いたい、から」

 

「ティア……」

 

 顔が割れている以上、出会えば仲良くお話と言う訳にいかないだろう。だがそれでもお願いするティアの姿にデュバリィはアリアンロードを見る。彼女はデュバリィの視線に気付いて静かに頷いて返し、それを見てデュバリィは分かり易く溜息をついた。

 

「仕方ありませんわね。ティア、出掛ける準備を」

 

「! デュバリィ!」

 

「ちょっ! 苦しいですわよっ!」

 

「そう言う事なら、大人数で行っても警戒されるだけだろう」

 

「そうね。今彼女が居る場所は見つけて置くから……デュバリィ、頼んだわ」

 

「あ、貴女達!? ティア! 何時まで抱き着いてるつもりですの!?」

 

 デュバリィの言葉に喜び、飛びついたティア。そんな彼女に慌てる中、アイネスとエンネアの言葉で1人でティアと行く事になってしまったデュバリィは抗議の声を上げる。が、結局ティアと2人で行く事になってしまったデュバリィ。落ち着かせて準備をする中、ふと何処でティアの友達の情報を知ったのか質問した。

 

「シャーリィ、が……教えて、くれた」

 

 その答えに今度、彼女がしつこい程に好きな模擬戦で少し本気で行く事を心に決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。とある街の宿に居たフィーは、窓の外から夜空を眺めていた。

 

 様々な戦いを経て、特例でトールズ士官学院を卒業。サラとトヴァルと共にシノプスと呼ばれる場所で活動した後、数日前に晴れて正遊撃士となった彼女は、今でも自分を置いて行ってしまった仲間達を。そしてティアを探し続けていた。少なくとも後者は結社の人間と行動している可能性が高いと分かっているため、今以上に自由になって何時かは追い掛けられる様になりたいと思っていたフィー。……そんな彼女の思いを裏切る様に、唐突に再会の時は訪れる。

 

「っ! 誰」

 

 突然部屋の中に紫色の光が出現。何処か見覚えのあるそれに警戒する中、やがて姿を現したのは……ティアとデュバリィだった。フィーが驚き戸惑う中、何処か怯えた様子で目を瞑っていたティアへ先に目を開けてフィーを確認したデュバリィが「もう大丈夫ですわよ」と声を掛ける。言われてゆっくり目を開いた彼女は、フィーと目を合わせた。

 

「フィー……!」

 

「ティ、ア……」

 

 喜び近づくティアと、まだ現状に理解が追い付かないフィー。そんな彼女へ突きつける様に、デュバリィが告げた。

 

「お邪魔しますわ。ティアがどうしてもと言うから、連れて参りましたわ。時間は余りありませんので、話すなら手短に済ませる事ですわね」

 

「あの、ね。これ、見たの。だから、その……おめでとう。フィー」

 

 デュバリィ達にも見せたフィーの写る帝国時報の紙を両手で広げ、伝えたかった事を告げたティア。フィーは再び驚き、それと同時に少し姿勢を下げてティアの身体を抱きしめた。

 

「ありがとう、ティア」

 

「う、ん……うん!」

 

 気付けば1年以上会っていなかった故か、ティアはフィーの抱擁を受けて涙を流してしまう。デュバリィが邪魔をしない様にと部屋の入り口で気配を消して見守る中、ティアの両肩を掴んで抱擁を止めたフィーは足先から頭の天辺までを一望する。

 

「成長、してないね」

 

「そうなの、かな? フィー、は……大きく、なってる、ね」

 

「ん。少しね。……ティア。あの時、どうして向こうに行ったの?」

 

 ティアの姿はフィーの知るそのままだった。身長を始め、身体的などの部分も変わりがない。反対にティアから見るフィーは大きく成長していた。身長も伸び、髪を伸ばした事で少し大人になった様にも見えるフィー。大人なら怖がる対象になってしまうが、彼女の場合は当然別である。そうしてお互いの成長について話をした後、フィーは扉の前に立つデュバリィを一度見てから遂に質問した。……それはフィーが知りたかった事。ティアはその質問にあの時の別れ方を思い出して、何処か申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ママに、会い、たかった、の」

 

「ママ? ティアの両親はレミフェリアに居るって、サラが言ってた筈」

 

「ううん、違うの。トヴァルと会う、前。助けてくれた、人」

 

「それって……」

 

「ティア。そろそろ時間ですわ。長居すると、マスターに迷惑が掛かる可能性もありますわ」

 

「ママ、に? うん」

 

 フィーがティアの言葉を聞いて彼女が忘れていた筈の過去を思い出したと悟る中、デュバリィの言葉によってティアはフィーから離れる。出来る事なら引き止めたい。そう思いながらも、数人がかりで戦ったデュバリィに1人で勝てる確証がフィーには無かった。真夜中故に騒ぎにする訳にも行かず、再び紫色の光る足元へ入ったティアをフィーは見続ける。

 

「フィー、またね」

 

「ん。また。……今度はこっちから、会いに行く」

 

「それでは、お邪魔しましたわ」

 

 手を振るティアに振り返し、デュバリィの言葉と共に消え去る2人を見送ったフィー。思わぬ形で出来た再会と、ティアが自分達を選ばなかった事実を知った彼女は後日行動を共にするサラとトヴァルへそれを伝えた。……デュバリィのマスター、鋼の聖女と呼ばれる人物がティアの『ママ』かも知れないと言う事実に話を聞いた2人は頭を抱える事になった。




※ティアの服装のイメージが上手く伝わらなかった方へ。

【TOZ エドナ】

上記の色違いをご想像、又はご検索ください。……表現下手で申し訳ありません。


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断-3+α

 修練場にて。その日、ティアはとある2人の戦いを心配そうに眺めていた。片や剣と盾を手に、神速と言われるのも頷ける速度で翻弄する様に動いては攻撃を加えるデュバリィ。そんな彼女に対するのは、最近執行者になったシャーリィだった。身長も伸び、束ねていた髪を降ろして揺らしながら巨大な武器、テスタ・ロッサを手にして戦う彼女は……非常に楽しそうであった。

 

「ほらほら、まだまだ行くよ!」

 

「ちっ! 面倒ですわね!」

 

 目にも留まらぬ速さで攻撃を加えるデュバリィだが、それを軽々と回避しては反撃をするシャーリィ。だが彼女の攻撃もデュバリィに届く前に回避が行われ、お互いに大きなダメージは与えられていなかった。

 

「死ななきゃ治るんだからさぁ! もっと本気で来てよね! それとも、それが全力な訳?」

 

「……良いですわ。ならここからは本気で、参りますわよ……!」

 

「おっ! やっとその気になった? じゃ、ティア! 怪我したらよろしくね!」

 

「怪我……しないで、欲しい」

 

 魔法には傷を癒す物も存在する。この場で一番魔法を使えるのはティアであり、実は彼女の使う魔法はARCUSや他の導力器を介して発動する魔法とは色々違った。……その1つが傷すらも即座に修復出来る事。シャーリィがある人物に喧嘩を売り、手も足も出ずに敗北した際にティアが傷を治そうとして発覚した事実である。故にシャーリィは死なない限り、ティアが居れば何とかなると知ってしまった。

 

 今回も怪我なら治せるティアが居る為、殺さない程度に全力で戦う事になった2人。当然発案者はシャーリィであり、殺し合いに近く模擬戦とは呼べないこの戦いに彼女はとても楽しそうに戦っていた。が、ティアとしては不安で仕方無いのである。

 

 戦い合う2人を唯見守る事しか出来ないティアは不安が募り、到頭泣きそうにすらなってしまう。するとそんな彼女の頭に誰かの手が置かれた。その手が女性では無かった故に硬直したティアはゆっくりと顔を上げ……その顔を見て何処かホッとする。

 

「マク、バーン」

 

「あんな遊び(・・)程度で泣きそうになるな、チビ。お前が泣くと鋼が来る。まぁ、それはそれで面白そうだけどなぁ?」

 

 笑みを浮かべながら告げる彼に別の意味で恐怖を感じるが、彼の言う鋼。つまりアリアンロードが来ると言う言葉にティアは眼元を拭った。そして甲高い音と共に戦う2人を見て、もう1度マクバーンへ視線を向ける。

 

「2人、とも……止めない、の」

 

「はっ。なら、止めさせれば(・・・・・・)良い。お前がな」

 

「……()、が……?」

 

 マクバーンと会話をするティアに気付かず、戦いを続ける2人。しばらく武器をぶつけ合っていると、突然2人の足元が赤く光り始める。そして何匹もの赤い蝶が周辺を回り始め……デュバリィは額に今までの戦闘とは違う、冷や汗を掻いた。

 

「これ、魔法? え、じゃあ……ぁ」

 

「なっ! 洒落になりませんわよ!?」

 

 シャーリィが気付いて視線を向ければ、ティアが両手を上から下に降ろす動作が目に入る。そんな彼女の背後ではニヤニヤと言った言葉が似合う様な笑みを浮かべるマクバーンが居り、周辺とは別に空から感じる熱気に顔を上げたシャーリィは固まった。そこにあったのは巨大な球体。途轍もない熱気を放ち、一度味わった事がある故に彼女は理解する。そしてデュバリィの声と共に、2人は爆発する蝶と球体から発射させる炎の波に飲み込まれた。

 

「上出来だ。んじゃ、後は治してやれ」

 

「治す……ぁ。あ、あわわ!」

 

 ティアはマクバーンに言われるがまま、2人を止める為に魔法を放っていた。それが2人を戦闘不能にさせると終わってから気付いた彼女は慌てて2人の元へ。不思議と身体を黒くして黒煙を上げるのみで大きな怪我の無い2人を急いで回復。その間にマクバーンは修練場から去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、酷い目に遭いましたわ」

 

「だが、ティアも大分魔法を扱えるようになったな。不意を突いたとはいえ、血染めとデュバリィを同時に倒すとは」

 

「……」

 

「エンネア? どうかしましたの?」

 

「えぇ。少し、気になる事があって」

 

 鉄騎隊として集まった3人はティアが居ない部屋で、修練場で起きた事について話をしていた。何処か疲れた様子で語るデュバリィと満足そうなアイネス。だが彼女の話を聞いたエンネアは難しい顔をしており、デュバリィの質問に頷いて答える。彼女が何について気になっているのか? デュバリィはアイネスと目を合わせた後、「何ですの?」と続けて質問した。

 

「デュバリィ。貴女も一応、魔法は使えるわよね?」

 

「えぇ。当然ですわ。と言っても導力器が必須ですが」

 

「魔法を使うと、どうなるかしら?」

 

「魔法は精神力を使うからな。疲れはするが……ん?」

 

「な、何なんですの!?」

 

 質問に質問で返され、デュバリィが答えれば会話の中で今度はアイネスが何かを気になり始める。デュバリィだけが分かっていない様で、2人の考える姿に我慢出来ず両手を握って声を上げた。すると、真剣な表情でエンネアは彼女へ告げる。

 

「ティアちゃんは普段、導力器無しに魔法を扱える。もし同じ様に精神力を使うとして、あの子が同時に2つの魔法を使えると思えないのよ」

 

トヴァル(零駆動)の様に魔法に長けているなら分かるが……ティアの場合、それにしても幼過ぎる。まだ精神年齢は10に満たない子供だからな」

 

「ですが、実際にティアは同時に魔法を使いましたわ。劫炎が使っている様には見えませんでしたし……」

 

 3人は考えるも、答えが出る事は無かった。だが分かるのは、まだ自分達の知らない何かがティアにはあるかもしれない。と言う事だけ。

 

 

 

 一方、アリアンロードの居る部屋には現在ティアと共に珍しい人物が来客していた。それはミシュラムでティアを攫った張本人、カンパネルラ。優雅に椅子に座って紅茶を飲む彼にアリアンロードは何も言わず、その隣に座るティアはチラチラと彼を見ていた。

 

「ティアはもう、僕の事を思い出したかな?」

 

「うん……カンパ、ネルラ」

 

「そっか。それは良かった。折角連れて帰って記憶も戻したのに、もう1度初めましてからじゃ面倒だからね」

 

 決して彼とティアの仲は良いと言えない。ママやデュバリィ達の知り合いであると言う印象しか無く、警戒を解けないで居るティアに彼は思いだした様に口を開いた。

 

「あぁ、そう言えばシャーリィが呼んでたよ。行ってあげた方が良いんじゃない?」

 

「そうなの……?」

 

 カンパネルラの言葉に首を傾げ、アリアンロードへティアは視線を向ける。何処か真剣にも見える様子で彼女はティアへ頷いて返すと、それを見てティアは部屋を後にした。……そして残るはアリアンロードとカンパネルラの2人だけ。

 

「態々あの様な嘘をついてまで、何を話したいのですか?」

 

「いやぁ~、気になっちゃうんだよね。……何時まであの子と親子ごっこ(・・・・・)を続けるつもりなのかってさ」

 

「……」

 

「まぁ、僕には余り関係ないんだけどね。……だけどもうそんなに長くは持たないと思うからさ」

 

「……そうですね」

 

 気付けば飲んでいた紅茶も無くなり、彼は立ち上がると優雅にお辞儀をしながら消えてしまう。そして1人残されたアリアンロードは窓の傍に立ち、数年前の出来事を思い出していた。

 

 それはティアを拾った時の出来事。何の策略も無い、唯の偶然だった。雨の降る中、草木の生える地面に泥だらけの姿で横たわったまだ幼い子供。身体は汚れていたが、その身体に目立った傷は無かった。呼吸もしっかりしており、だが放置すればやがて死に体となる小さな命。彼女はそれを救い、育て、預け、帰って来た彼女と今、共に居る。

 

「親子ごっこ、ですか。……確かにそうかも知れませんね。まだ、私はあの子の全てを知らない」

 

 ティアは嘗てD・G教団と呼ばれる者達によって実験体とされ、破棄された。それは間違い無い事だが、それならば可笑しい点が幾つかあった。

 

 ティアが生きたまま破棄された理由。それはそのままでも死ぬと判断されたから。元気だったなら、何処か人の居る場所に彷徨った末、自力で辿り着く可能性もある。そうならない様にする為には、殺してしまう方が良い。だがそれをしなかったのは、それ程までに破棄された時点で弱っていたからなのだろう。放って置いても死ぬと思える程、その時点で弱っていた。……しかしアリアンロードが拾ったティアは意識を失っていたものの、その身体は健康体と言えたのだ。

 

 アリアンロードはこの事実に何処か別の意思(・・・・)を感じていた。ティアの中にあるであろう、別の意思を。




ティア・プラトー


言語Lv10(最大Lv.10)

人慣れLv.10(最大Lv.10)


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー
アリアンロード
デュバリィ
★★★★☆
トヴァル・シャロン
ティオ・アルティナ
ヴィータ・シャーリィ
アイネス・エンネア
★★★☆☆
アリサ・サラ
エリィ・ノエル・キーア
アルフィン
マクバーン
★★☆☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ
ロイド・ランディ・ワジ
クロウ・ゼノ・レオニダス
カンパネルラ
★☆☆☆☆
ブルブラン


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第Ⅱ部-第5章- ~初陣~ 白亜の旧都
5-1


先に断っておきます。閃の軌跡Ⅲ~Ⅳ前半までの時系列は猛スピードで進みます。書く事、無い。


 4月下旬。白亜の旧都、セントアーク。そう呼ばれる街にティアはデュバリィ、シャーリィと共に来ていた。元々はティア以外の2人に任務があり、ティアはデュバリィが世話係をしているが故に付いて来たのである。

 

 久しぶりとも言える知らない街への来訪。行き交う人に少しだけ怯えながらも、昔の様に逃げも隠れもせずに2人の隣を歩いていたティア。途中で露店を見つければ、シャーリィが購入してティアに渡す場面もそこにはあった。

 

 デュバリィもシャーリィも遊びに来た訳では無い。故に2人は話をした後、ティアをシャーリィが預かってデュバリィは別行動を取る事になった。すると一度大きく伸びをしたシャーリィは、今以上に羽目を外す為に街を歩き始める。……ティアの手を引いて。

 

「そう言えば、この前作ってくれた奴。あったじゃん?」

 

「? えっと……これの、事?」

 

「そうそう。私の人形。いやぁ、中々可愛いよね……ねぇ、ティアは自分の人形は作らないの?」

 

「自分、の……?」

 

「ティアの人形があったら私欲しいけどねぇ。今度作って見ない?」

 

「自分、は……難しい、かも」

 

 既にパンタグリュエルでの出来事から1年半近く。その間も変わらずに人形を作り続けていたティアは、気付けば大量の人形を抱えていた、フィー、サラ、トヴァル、ティオ、デュバリィ、シャーリィ、アリアンロード。等々、ティアにとって信頼出来る相手となった証でもある人形。シャーリィはその存在を知るが故に、ティアがティア自身の人形を作らないかと提案する。あわよくば、それが手に入る事がシャーリィの狙いでもあった。

 

「あ……猫」

 

「お、可愛い猫。ほら、おいでおいで!」

 

 話をしていた時、ふとティアが街中で猫を見つける。首輪の付いた様子から恐らく何処かの家で飼われている猫。人慣れしている様子で、シャーリィの招きに鳴き声を上げながら猫は近寄り始める。やがてシャーリィの腕に抱かれれば、そのまま流れる様に彼女はティアへ猫を渡した。

 

「……可愛い、ね」

 

「本当だね。うん、眼福眼福♪」

 

「?」

 

 胸に猫を抱えながら愛でるティアの姿を前に、シャーリィは頷きながら笑顔で1人と1匹の光景を眺める。彼女の言葉は猫だけに限定していない様で、だがティアがそれを知る事は無かった。

 

 ふと、猫が急にティアの腕の中から飛び出して移動を開始する。すると猫にまるで釣られるかの様にティアも移動を始めてしまった。猫に夢中の彼女が周囲の人間を気にする素振りは無く、シャーリィは楽しそうにそれを追い掛ける。……が、猫とティアが人混みに紛れてしまった事で気を抜いていたシャーリィは1人と1匹を見失ってしまう。

 

「あぁ~、不味いかも?」

 

 何時まで猫に夢中かも分からないティア。もし我に返ってシャーリィもデュバリィも居ない状況で1人だけ人混みに取り残されてしまえば、不安に押し潰される可能性がある。最悪、暴走の可能性も0では無い。1年以上の付き合いでティアのメンタルの弱さを知ったシャーリィは猫とティアを探す事に。……すると、その途中で4人組の男女と遭遇する事になった。何とその4人は猫を探しており、飼い主の元へ連れて帰りたいとの事。先程までそれらしき猫と一緒に居た事を伝え、シャーリィは思い出す様に続けた。

 

「飼い猫みたいだったし、ご主人の元に帰ろうとしたのかもね。あ、ところで私も人を探してるんだよね。これくらいの身長で薄水色の髪をした子なんだけど」

 

「薄水色……?」

 

「僕は見て無いな」

 

「私も。えっと、迷子ですか?」

 

「ま、そんなところかな。そっちも見つかると良いね」

 

「お互いに。ご協力、ありがとうございました」

 

 シャーリィが示した身長は4人の中で一番背の低い銀髪の少女よりも低く、何か気になった様子で首を傾げる少女を横目に別の少年少女が答える。そしてシャーリィの答えに黒髪の青年が答え、彼女は4人と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。猫を見失ったティアは見知らぬ人達しか居ない周囲に怯えてしまっていた。移動する事も出来ず、唯只管にシャーリィかデュバリィの姿を必死に探し続けていたティア。すると人混みの中から1人の女性がティアに気付き、驚いた様子で近づき始める。

 

「もしかして、ティアちゃん?」

 

「っ! あぅ……」

 

「あぁ、御免御免。……私の事、覚えて無いかな? 覚えて、無いよね……あはは」

 

「…………ヴィ、ヴィ?」

 

「そう! 覚えててくれたんだ!」

 

 何処か活気のある笑顔で話し掛けるその姿にティアは見覚えがあった。故に過去の出来事を必死に思い返す中で、数ヵ月だけ在籍していた士官学院での出来事を思い出す。

 

 2度目の特別実習後、試験の為に勉強に忙しかった日々。だがそれも終わった後、トリスタを離れるまでの数日間、彼女は1人の少女を初めとして何人かのⅦ組以外の生徒と話をする機会があった。当然最初は逃げていたが、何故か行く先々に現れる少女達。まるで誰かから教えられた(・・・・・・・・・)様に先回りされ続け、怯えながらも徐々に話せる様になった出来事。仲が良いと言える程に打ち解ける事は出来なかったが、名前を覚える程度には印象深かったのだろう。……それ程怖かったのかもしれない。

 

「まさかこんな所で会うなんてね。さっきはリィン君達にも会ったし、今日は良い日かも♪」

 

「リィン……? ここに、来てるの?」

 

「あれ? まだ会って無い? う~ん、結構忙しそうだったし……そう易々連絡は出来ないかなぁ」

 

 ヴィヴィの言葉に驚いた様子で反応するティア。それを見て連絡するか考えたヴィヴィだが、彼が士官学院を卒業後に就いた職業を知るが故に悩んだ末、連絡をしない事にした。実はとあるお願いをしていた為、その時にでも。と考えて、ヴィヴィは気になった事をティアへ質問した。

 

「ティアちゃん、どうしてこの街に?」

 

「えっと、その……付き、添い?」

 

「ティアの場合、付き添われた側じゃない?」

 

「っ! えっと……貴女は?」

 

 ヴィヴィの質問にティアが答えれば、全く別の人物が言葉を続けた事でヴィヴィは驚きながら視線を向ける。そこにはティアが逸れてしまったシャーリィが居り、彼女に気付いたティアは駆け足でその傍へ近づいた。明らかに彼女へ懐いている姿に、少なくとも怪しい人物では無いと思ったヴィヴィ。2人の様子を見て、ティアは彼女に付いて来たのだとヴィヴィは理解した。

 

「もしかして、ティアちゃんのお姉さん?」

 

「う~ん、そんな感じかもね。何というか、立場的には?」

 

「? 何か良く分かんないけど、1人じゃないなら安心だね。じゃ、またね! ティアちゃん」

 

「うん……また、ね」

 

 保護者が居るならと安心し、その場を去るヴィヴィ。無事にシャーリィと合流する事も出来た事で、ティアは心底安心する。そして再び逸れない様に手を繋いで街を歩こうとする中、シャーリィの持つ端末に通信が入る。……その相手は別行動をしていたデュバリィからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夜、仕掛けるとして……ティアはどうしますの?」

 

「一緒に行けば? 居るのが分かってれば守れるし、ティア自身も魔法で戦える。大丈夫だと思うけど?」

 

「戦力的な話では無く、襲う相手が相手ですのよ?」

 

 南サザーラント街道。そこでデュバリィと合流した2人だが、この日の夜に行う事について話をする中でティアの存在が問題となってしまう。シャーリィの言う様に、戦う事は十分出来る程に魔法を扱える様になったティア。だがデュバリィが感じる問題はそこでは無かった。……彼女達は今日、とある士官学院の演習地となっている場所を襲うつもりだった。しかしそこに居るのはティアと関わりのある者が数名。その全員とデュバリィは顔見知りでもあり、別の不安を抱えずにはいられなかった。

 

「邪魔、しない……様に、する」

 

「……ティア。貴女の知り合いを襲うのですよ? 本当に大丈夫ですの?」

 

「あぅ……」

 

 ヴィヴィにリィンが来ていると聞いた後、2人の会話で襲う場所の話をする際にシャーリィが頻りに灰の(・・)と言う言葉を繰り返していたのを聞いていたティア。フィーの時同様、帝国時報を稀に誰かを通じて見る事があった彼女はリィンが灰色の騎士(・・・・・)と呼ばれている事を知っていた。故にデュバリィの言う知り合いとはリィンの事だと分かったティアは、弱々しく声を漏らすのみだった。そんな彼女の様子にデュバリィはシャーリィへ視線を送り、両手を広げて首を傾げる姿に溜息をつくしかなかった。



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5-2

 同日。夜。南サザーラント街道には、トールズ士官学院第Ⅱ分校の生徒達が集う演習地があった。明るい内は列車を傍に生徒達が教官と共に行動していたが、今は違う。多数の人形兵器と生徒達が相対しており、正しくそこは戦場と化していた。

 

 そして地上が戦場となる中、列車の上に立つのは襲撃犯の1人であるシャーリィと……助太刀として現れたフィー。楽しそうにシャーリィが武器を構えてフィーへ声を掛ける中、掛けられた当の本人と言えば、少し離れた位置で戦場を眺めるデュバリィへ視線を向けていた。

 

「余所見しないでよね!」

 

「っ! はぁ、面倒だな……」

 

 フィーが自分を気にも留めない事が気に食わなかったシャーリィは、容赦無く彼女に向けて銃撃を仕掛ける。だがそれを素早く回避してフィーがシャーリィへジト目を向ける中、ようやく自分を気にする様になった彼女を前にシャーリィは何かを思い出した様に「そうだ」と口を開いた。そして突然フィーの前にそれを取り出し、転がす。

 

「あー、手が滑ったー……ってね」

 

「……これ……」

 

 フィーの前に転がり落ちたのは、シャーリィを模した人形。だがその作りや形は何処かで見た事があり、思わずそれを拾い上げた。……するとニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、シャーリィは告げる。

 

「友達が作ってくれたんだよね~。因みに今度、本人の人形を貰う予定だったりして?」

 

「……」

 

 その声音は明らかに煽っていた。そして煽られたフィーは拾った人形をシャーリィへ投げて返す。受け取って邪魔にならない様、シャーリィがそれをしまって再び相対せば、フィーの視線はもうデュバリィへ向けられる事は無かった。

 

「1つだけ教えて。……ティアはここに来てるの?」

 

「ここには来てないけど、近くには居るよ。連れて来るか迷ったけど、結局留守番になったんだよね」

 

「そっか……なら、約束は守れそうかな」

 

「約束?」

 

 シャーリィの聞き返しにフィーは静かに武器を構える。そしてそれを身体の前で交差する様に構え、一瞬でシャーリィの目の前に立った。が、軽く下がって回避するシャーリィ。距離を取りながら銃撃を仕掛ければ、フィーも撃ち返す事で弾丸と弾丸がぶつかり合う。

 

「今度は、私から会いに行く……約束」

 

 その答えと同時に2人の戦いは激しくなり始める。

 

 その頃、盾と剣を構えながらデュバリィは列車の上で戦うシャーリィに苛立っていた。

 

「何で私が御守を……子供はティアだけで十分ですわ!」

 

≪!≫

 

 それは思わず零した本音。しかし彼女の言葉に、出た名前に反応する者がこの場には大勢居た。そしてデュバリィがシャーリィと同じく襲撃犯として行動を開始しようとした時、それを妨害する様に彼女は現れる。光を纏った大剣から放たれる一撃を盾で防ぎながらも、その威力故に後ろへ下がるデュバリィは憎々し気に彼女と相対した。

 

「ラウラ・アルゼイド。皆伝に至りましたわね」

 

「お蔭様でな。これで其方達とも対等に渡り合える。……教えて貰おう、ティア(彼女)の事を」

 

「ぐっ、生意気な……絶対に教えてやりませんわ! そっちも小腹を満たしたなら、さっさと戻りなさい!」

 

「あぁ~あ。良いところだったんだけどなぁ~」

 

 デュバリィの言葉にフィーとの戦闘を中断し、列車から軽々と高い丘の上に移動したシャーリィ。同じ様にデュバリィも移動すると、警告を告げてその場を後にしてしまう。……そして残ったのは多大なる怪我人等の被害を受けた演習地。急いで生徒達の手当や被害状況を確認する中、リィンは助太刀に来たフィーとラウラ。そしてエリオットと話をする。再会を喜ぶも談笑する余裕は無い。3人の協力も経て何とか落ち着きを取り戻す中、フィーがシャーリィから聞いた情報をリィンや彼と共に教官を務める男性、ランディへ告げた。

 

「そうか。そうだったな。あいつは元々、お前さん達と一緒に居たんだったな」

 

「えぇ。……ランドルフ教官はクロスベルでティアと会った事があるんでしたね」

 

「あぁ。つってもあんまり懐かれちゃいなかったがな」

 

 ランディはティオと同じ特務支援課の一員だった。故にクロスベルでのティアを知っており、今もその姉が血眼になって探している事も知っている。……故に彼女の口から放たれた名前に反応した1人でもあった。

 

「ティアは近くに居る。そう言ってた」

 

「もしかしたら、会えるかも知れないね。そうすればどうして向こうに行っちゃったのか知る事も出来るかも」

 

「そうだな」

 

「……あ、言って無かった」

 

「おいおい、何の話だよ?」

 

 ランディが知るのは結社の人間、道化師カンパネルラに攫われた可能性があると言うところまで。故にリィン達が説明をした後、続ける様にフィーがティアと数ヵ月前に再会していた事を伝える。驚かれる中、更に驚くべき事実は結社の人間に『ママ』と慕う存在が居る事。それがデュバリィがマスターと慕う人物である事。……そこで次に驚いたのはランディだった。リィン達はデュバリィの口でしかその存在を知らない。が、ランディは嘗て鋼の聖女アリアンロードと戦った事すらあったからだ。

 

「どんな人物何ですか?」

 

「第一印象で言うなら、滅茶苦茶好みの美人なお姉様、だな」

 

 思っていたのと違う感想に話を聞いていた4人が肩を落とす中、夜は明けて行く。そして朝を迎えた頃、リィンは助太刀に来た3人と共に演習地を出る事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、中々楽しめたね」

 

「全く。勝手に飛び出さないで欲しいですわね」

 

「御免御免って」

 

「……お帰り……怪我は、無い?」

 

 そこは既に人の居ない廃村。頭の後ろに手を回して反省の色を見せないシャーリィへデュバリィが再び苛立ちを見せる中、気配に気付いた事でティアが2人を出迎えた。そして怪我が無いかを確認して、念の為にと治療の魔法を発動するティアに思わず2人は顔を見合わせてしまう。……分かってはいたものの、自分達が愛されていると感じたのだ。慣れない感じにシャーリィが頬を掻き、デュバリィが少し恥ずかしそうにする中、ティアは笑顔で「もう、大丈夫」と告げた。

 

「実験は今日。恐らく、シュバルツァーを初めとした旧Ⅶ組が邪魔しに来ますわね」

 

「だろうね。流石に次はティアも一緒かな」

 

「戦う、の?」

 

「えぇ。避けられませんわ」

 

 デュバリィの言葉に少し悲しそうにしながらも、予めその可能性を言われ続けていた為にティアは頷いた。昨日と違い、もう先延ばしにも出来ない。来るであろう彼らや目的に備え、3人は行動を開始する。

 

 それからしばらく。デュバリィとシャーリィの元に様々な人物が合流する。別行動していたアイネスやエンネアに、シャーリィが結社と両立して率いている猟兵、赤い星座の者達。余り彼らと鉄騎隊の仲は良いとは言えず、殆どが男故かティアも怖がって近づこうとはしなかった。

 

「それでは、手筈通りに(わたくし)と彼女とティアで旧Ⅶ組と交戦しますわ。覚悟は良いですわね」

 

「ティアは今回が初の実戦なんだよね。私も初めての時は……ワクワクしたよね」

 

「根っからの戦闘狂、か」

 

「ティアちゃん、無理しちゃ駄目よ?」

 

「うん……頑張、る」

 

 常に世話役として鉄騎隊の誰かと一緒に居るティアだが、何時までもお荷物と言う訳にも行かなかった。ティア自身も邪魔になっている事を感じており、それ故に決まった事。……それはデュバリィ達の様にティアも任務に参加。手伝いをする事。魔法の扱いも大分上達している為、長い相談期間を経て決まった任務の手伝い。その最初が今回の任務でもあった。

 

 アイネス、エンネア、赤い星座の者達を下がらせて廃村で待ち続ける事しばらく。ティアが真っ先に彼らの気配を感じ取った事でデュバリィ達は廃村の奥へ。小さく建てられたお墓に近づいた。これから騒がしくする事への謝罪や亡き者達への祈りを捧げる中、ティアの感じていた気配はすぐ近くにまで迫った。……そして、彼女達は再会する。

 

「っ!」

 

「……」

 

 場所が場所故に今は言葉を控え、彼らも祈りを捧げる。……そして廃村から出た広い場所で、改めて3人はリィン・エリオット・ラウラ・フィー。そしてもう1人長身の男性と相対した。

 

 リィン達の目的は結社が何をしようとしているのかを知る事。故にシャーリィやデュバリィへ質問するも、その答えが容易く返って来る事は無かった。そして2人との話を終えた事で、全員の視線がティアへ注がれる。

 

「あいつがお前さん達の探してる子供か?」

 

「はい。……ティア。色々聞きたい事はあるが、少なくとも其方側(・・・)である事は間違い無いんだな」

 

「あう……うん。私……リィン、達と……戦う」

 

「それは其方のママ、鋼の聖女殿からの指示か?」

 

「違う……ママは、戦わ、なくて、良いって。でも……何時も、守られてる。……嫌、だから。私、も……戦う、の!」

 

 ティアの答えにリィン達だけでなく、デュバリィも絶句してしまう。シャーリィだけが楽し気に笑みを浮かべる中、リィンが思わず頬を掻いてティアへ視線を向ける。……思う事はティアを知らない男性以外、全員同じだった。

 

「何と言うか……」

 

「この1年と少々の間、其方も成長したのだな」

 

「見た目は変わらないけど」

 

「あはは。なんか、ちょっと嬉しいね」

 

「おいおい、一気に和やかになりやがって。戦い難いったらありゃしねぇ」

 

 戦う事も出来ず、フィーやサラの後ろのに隠れていたばかりの少女の目に見える成長。それを実感すると共に、今から始まる戦いを。ティアとの対立を避けられないとリィン達は改めて理解した。やがて話が終わったのを合図に、改めてシャーリィが。デュバリィが。そしてティアが両手を握って胸の前に寄せる形で構える。

 

「それじゃあ、始めよっか!」

 

「精々、粘る事ですわね!」

 

「……行くよ……!」

 

 彼女達の言葉を最後に、話し合いの場は一瞬にして戦場と化した。



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5-3

 シャーリィとフィーだけで戦えば、その戦力差は前者の方が上回る。だが、今フィーは1人で戦っている訳では無い。エリオットやリィンと共に戦えば、その戦力差は反対に彼女の方が上回る事が出来る。……が、それはシャーリィも同じ事だった。

 

「っ! うわぁ!」

 

 魔導杖を手に魔法を使おうとするエリオットの元に、銀の刃が迫る。何とかそれを回避すれば、その足元に浮かぶは巨大な時計。急激に足が重くなり、更に重ねる様に炎の球体が彼へ迫る。が、それを間に入った長身の男性……A級遊撃士、アガット・クロスナーが持っていた巨大な剣を片手で振るい、払い退けた。重剣と言う異名を持つ彼はその通り巧みにその巨大な剣を軽々と扱う実力者。そんな彼へ、今度はデュバリィが迫る。

 

「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

 

 そんな彼女の後ろで、様々な動作を繰り返してティアは魔法を発動する。シャーリィの周りに攻撃を防ぐ障壁が生まれ、デュバリィの胸が白く輝くと共にその身体能力が向上。そしてティアを中心に広がる赤い波紋が2人の士気を高める。

 

「でりゃぁ!」

 

「ぬぉ!」

 

 巨大な剣とデュバリィの持つ剣では当然その威力も違い、男女の差もあって前者の方が強い筈だった。しかしデュバリィの一撃はアガットの身体を後方へ引きずり、そんな彼の頭上に水滴が1つ。巨大な渦となって彼を襲う。

 

「ラウラ、ティアを止めるぞ!」

 

「承知した!」

 

「させないよ!」

 

「貴女の相手は私」

 

 2人の補助をするティアを止める為、動き出したリィンとラウラ。お互いに戦術リンクを繋ぎ、迫る2人を前にシャーリィが止めに入ろうとするも、フィーが立ち塞がる。デュバリィはアガットとエリオットに掛かり切りで助けに行けず、迫る2人の姿にティアは怯えた様子で目を閉じて両手を突き出した。……それは2人への恐怖では無く、強力な魔法を扱う事への恐怖だった。

 

「なっ!」

 

「リィン! 立ち止まるな!」

 

 嘗てデュバリィとシャーリィを戦闘不能へ陥れた巨大な火球。全く駆動時間も無しに生まれたそれに驚くリィンを横目に、ラウラが足を止めずに走る。彼女の言葉にリィンも足を再び進め、2人は臆する事無く球体の中へ自ら入ってしまう。

 

「リィン! ラウラ!」

 

「あの馬鹿ども、何やってんだ!」

 

「正気ですの!?」

 

 2人の行動に驚かずにはいられなかった3人。フィーとシャーリィも横目で見続ける中、突然空に浮かぶ火球は内側から崩壊する。空に舞う火の粉に包まれる中、リィンとラウラはティアの目の前と背後に着地した。

 

「良い温度だったぞ、ティア」

 

「勝負ありだ」

 

「あう……」

 

 互いに着ていたコートの端を焦がしながら、ティアの前に刀と大剣を突きつける2人。それはティアの完全なる敗北を意味していた。

 

「ティア! ぬぐっ!」

 

「おらぁ!」

 

 ティアの敗北に動揺するデュバリィの隙を突き、アガットは大きく大剣を斬り払う。大きく飛ばされながらも綺麗に着地を決めたデュバリィは猛スピードでティアの元へ迫るも、それを妨害する様にラウラが前へ。……その間にリィンは「すまない」と謝罪をして、ティアの後ろ首を刀の柄頭で叩いて気絶させてしまう。

 

「……ませんわ……許しませんわぁぁぁ!」

 

「くっ!」

 

 ティアがやられた事で怒りを露わにしたデュバリィ。怒りの乗った一撃は単調だが、途轍もない威力を持っていた。そして神速と呼ばれるにふさわしい速度が加わり、ラウラが剣を横に構えて防ぐだけで手一杯になってしまう。

 

「あぁ~あ、少しは抑えろ。なんて人の事言えないじゃん。思いっきり姉馬鹿が出てるし」

 

「ティア、傷物にされた」

 

シュバルツァァァ(・・・・・・・・)!」

 

「気絶させただけだ! 煽らないでくれ!」

 

 敵同士であり、戦いながらも話をする2人の会話に。特にフィーの言葉に反応したデュバリィ。その頭に角すら見えそうな様子にリィンが抗議しながら、ラウラと共に彼女と戦闘を開始する。フィ―の元へはアガットとエリオットが合流して、再び死闘が再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアが目を覚ました頃には、もう廃村の傍どころかセントアークからも離れていた。初めての実戦は惨敗。足を引っ張ってしまった事もあり、彼女はその事実に塞ぎこんでしまう。余り誰かを慰める事をした覚えのないシャーリィは掛ける言葉が思い浮かばず、デュバリィは溜息をついてしゃがんでから声を掛ける。

 

「誰でも最初は上手く行きませんわ。失敗は成功の元、ですわよ」

 

「うん……」

 

 弱々しくも頷くティアだが、立ち直れている様には到底見えなかった。……デュバリィはあの時、初めてティアが共に戦おうとする理由を知った。だからこそ、放って置く気にはなれなかった。しかし何を言っても慰めにはならない。そう思ったデュバリィは意を決して自分のマスターであるアリアンロードの元へ赴いた。

 

「マスター、失礼を承知で少々お時間を宜しいでしょうか?」

 

「えぇ。良いでしょう。どうしましたか、デュバリィ」

 

「今回の任務でティアが落ち込んでしまっているのはもうご存知だと思います。そこで、彼女に気分転換をさせたいと思うのです」

 

 デュバリィの知る限り、ティアは基本同じ場所に居る事が殆どだった。今回の任務で違う街へ行ったのは彼女に取ってかなり久しぶりの外出とも言える。そこで、デュバリィが考えたのはティアを任務とは関係なく何処かへ遊び目的で連れて行く事だった。悲しい事や辛い事があった時は、楽しい時間を過ごして元気になる事で乗り越えられる者も居る。……決して無駄な事では無いだろう。

 

「そうですね……貴女達が動く次の任務は約2月後。それまで、ティアを連れて自由に何処かへ行くと良いでしょう」

 

「あの、マスターは……一緒では無いのですか?」

 

「私が、ですか?」

 

「ティアもその方が喜ぶと思いまして。お忙しいのであれば、致し方ありませんが」

 

「……考えておきましょう」

 

「! はい!」

 

 完全な否定が返って来なかった事で嬉しそうに返事をした後、デュバリィは部屋を後にする。……嘗て、ティアと何処かへ行った事がアリアンロードにあったか? と問われれば、答えは否である。デュバリィの進言に、塞ぎこんでしまったティアを元気付ける為に。偶には彼女達と共に行動する事も良いかも知れないと、彼女は僅かに思うのだった。

 

 一方、アリアンロードの部屋から出たデュバリィは嬉しさを隠せずに喜びながらティアの元へ。まだ悲しそうにベッドで座るその姿に内から溢れ出る喜びの感情を失いながらも、デュバリィは隣に座って先程アリアンロードへ話した事を告げた。

 

「ママ、も……一緒?」

 

「まだ分かりませんわ。ですが、来てくれると良いですわね」

 

「うん……デュバリィ」

 

「何ですの?」

 

「ごめん、なさい」

 

「……違いますわ。こういう時は、ありがとう。と言うべきですわよ?」

 

「うん……ありがとう」

 

「どう致しまして、ですわ」

 

 その後、弱々しいままのティアを元気付ける為に行きたい場所についての話をしたデュバリィ。後日アイネスとエンネアにも話を通して、ティアが信頼している好としてシャーリィにも話を持ち掛けた。戦う事が大好きと言えど決してそれだけでは無い彼女は乗り気を見せ、やがてティアの慰安を目的とした外出が決行される事となった。……そしてそこには、優し気に少女達を見守る鋼の聖女の姿も……。



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間章+α

アンケートのご協力、ありがとうございました。


 5月下旬。クロスベル、ジオフロントF区画。

 

「そうですか……ではやはり、ティアは今現在結社の方々と一緒に」

 

「えぇ。そうなります」

 

 リィンは何処かティアと似た面持ちのある少女、ティオと話をしていた。その内容は彼女の妹であり、自分の仲間でもあったティアについて。2人の話を共に行動する3人の少年少女達も聞いており、特に少女2人は口を挟みたそうにしていた。

 

 あの戦いから既に1月。無事に第Ⅱ分校へ帰還した後、1月の間を置いて再び特別実習として別の地域(クロスベル)へやって来た彼らはそこで実習内容を熟す傍ら、ティオと行動を共にする機会があった。現在、特務支援課に在籍していた者に殆ど自由は許されていない。ランディは演習地から出る事を禁じられており、ティオも表立って行動出来ないでいた。……それは妹であるティアの捜索も例外では無い。

 

 ティオはティアが嘗てⅦ組に居た事を本人から聞いていた。故に今新たに発足された新Ⅶ組を率いる旧Ⅶ組の人間、リィンに話を聞きたいと思っていたのだ。何とか共に行動出来る事になった事で、ティオはリィンへ色々な質問を投げかける。冷静で静かながら、妹の事ばかりを質問する彼女にリィンは思わず頬を掻いて、それでも仕方ないと感じる。ランディから聞いた話では、一緒に過ごしていたティアが突如誘拐される様に姿を消してしまった。そして今の今まで消息不明だったのだ。故にようやく掴めた手掛かりを知りたいと思う気持ちはリィンにもよく分かった。

 

 ティアが結社の人間と居る事。鋼の聖女をママと慕っている事。……自分の意思で残って居る事。様々な事を聞かされ、ティオは辛そうに顔を伏せた。するとそんな彼女へ声を掛けたのは、今の今まで話を聞いていた少女の1人。ここクロスベルの出身で特務支援課と縁のある、ユウナ・クロフォードだった。

 

「辛い、ですよね」

 

「……そうですね。ティアが私では無く、向こうを選んだのは確かに辛いです。ですがそれ以上に……無事で、良かった」

 

「ティオ先輩……」

 

 今現在、この場に居るのは5人。その内、ティアと面識があるのは3人。同じⅦ組だったリィン。姉であるティオ。そして現在、リィンの担当する新Ⅶ組の生徒となっているアルティナ。ユウナに面識はなく、この場に居るもう1人の男子。クルト・ヴァンダールも同じであった。だがユウナが彼と大きく違うのは、クロスベル出身故にティアの事を話で聞いた事があった点である。ティオからは勿論の事、妹と弟を持つ彼女はその2人からティアの話を聞いた事があった。

 

 その後、ティアの話をしながら最深部へ到着した5人はそこで巨大な魔煌兵の出現に伴って戦闘を開始する。そしてそこで助太刀をする様に姿を見せたのは、アリサとシャロンの2人だった。無事に脅威を去り、彼女達の登場に驚く中で、リィンは近づいて来る彼女を受け止めようとする。やがて2人はお互いの身体を抱きしめ合う……と、誰もが思った。

 

「あ、アリサ?」

 

「リィン、ティアちゃんを傷物にしたってどう言う事か説明して貰えるかしら?」

 

「え……」

 

 感動の再会どころか胸倉を掴まれて低く重い声で告げられる言葉。リィンが驚き戸惑う中、彼女の言葉を聞いたティオ・アルティナ・ユウナの女性陣達は一斉に彼へ冷たい視線を送り始める。……アリサの背後で先程まで敵に使用していた鋼糸を手に笑みを浮かべるシャロンの姿は余りにも恐ろしく。リィンは慌てて弁解する様にあの時行った行為とその理由を説明するのだった。




再び投稿中に完成したので、このまま続けて投稿致します。


ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬- 突- 射- 剛B
※5ダメージ固定
武器無しで相手を叩くだけなので、『ポカっ』と音がするだけ。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。※ロストアーツ不可
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ。※ロストアーツ不可
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

???

???

???


【Sクラフト】

???

???


【オーダー】

???

???


【???????】

??? 『???・???・???』


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
★★★★☆
トヴァル・シャロン
ティオ・アルティナ
ヴィータ
アイネス・エンネア
★★★☆☆
リィン・エリオット
アリサ・ラウラ・サラ
エリィ・ノエル・キーア
アルフィン
マクバーン
★★☆☆☆
ガイウス・マキアス・ユーシス
エマ
ロイド・ランディ・ワジ
クロウ・ゼノ・レオニダス
カンパネルラ
★☆☆☆☆
ブルブラン


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第Ⅱ部-第6章- ~再戦~ 鋼と共に
6-1


 6月中旬。海都オルディスの傍にあるアウロス海岸道では、海を見る事も海岸で遊ぶ事も出来る場所があった。但し魔獣が徘徊している為、注意が必要である。

 

 任務の為にやって来た鉄騎隊に着いて来る形でオルディスへやって来たティアは、砂浜で広大な海を眺めていた。……傍に居るのは鉄騎隊の3人。何処か目を輝かして海を眺めるティアの姿を後ろから眺めながら、彼女達も同じ様に広大な海の景色を見ていた。

 

「ティア、そろそろ行きますわよ。マスターが待ってますわ」

 

「うん」

 

 デュバリィの言葉に海の景色へ後ろ髪を引かれつつ、ティアは3人の元へ近づいた。そして4人が向かった先は、同じく広大な海が見えるもアウロス海岸道とは違い、街にも他の地域にも通じる道が無い孤島……ブリオニア島。

 

「っ! あう……」

 

「ティアちゃん!?」

 

「どうした? 頭が痛いのか?」

 

「う、ん……なん、だろう?」

 

「風邪でも引きましたの?」

 

 島へ上陸した時、ティアは突然頭を押さえて蹲ってしまう。その様子に驚き心配するエンネアと、声を掛けるアイネス。ティアが感じる痛みはそれ程強く無い様で、徐々に慣れ始めたのかすぐに行動する事が出来る様になった。デュバリィが心配しつつ、目的の場所へ。エンネアに診てもらいながらデュバリィ達が作業を始める横で、ティアはその光景を眺めていた。……自分の何十倍もある、巨大な神機の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。同じ場所には1人、予期せぬ来訪者が訪れていた。金色の網に拘束されたティア程に幼い見た目の少女。その姿をティアは嘗て見た事があり、相手の少女もそれは同様であった。……ミリアム・オライオン。ティアが居なくなった後、旧Ⅶ組へ編入した少女であり、アルティナの姉に近い存在でもあった。

 

「それでね、リィンが……」

 

「うん……」

 

 共通の仲間。共通の知り合い。見た目が幼い事もあるが、それ以上にティアは彼女に嘗て感じたのに似た感覚を感じていた。自分の中の何かが喜ぶ様な、不思議な感覚。まるで前から知っていたかの様な感覚。アルティナと出会った時と同じその感覚は嫌なものでは無く、ティアは自らミリアムへ話し掛けた。鉄騎隊の3人からすれば驚きであり、ミリアムは明るい性格もあって今の状況でも悲観そうには見えない。会話をすれば盛り上がり、気付けば打ち解けた様に話す2人に3人は何とも言えない表情を浮かべた。

 

「一応、私達敵同士ですのよ?」

 

「そうなんだけどさ。何か、ティアと話すの楽しくって。僕達、前に会った事あるかな? パンタグリュエルの時じゃ無くて」

 

「無い、と思う……でも、お話。楽しい」

 

「ねぇ。もう逃げないからさ~、ここから出してくれない?」

 

「そうは行きませんわ」

 

「デュバリィ……」

 

「駄目ですわよ」

 

「あう……ごめんね」

 

「仕方ないか……あ、パンタグリュエルでのあーちゃんの話。聞かせてよ!」

 

「うん……!」

 

 デュバリィ達とは決して話す事の出来ない共通の話題。それで盛り上がれる事は、ティアにとって楽しくて仕方が無かった。ミリアムの拘束を解く事は出来なかったが、ティアは諦めた後に告げた彼女の言葉にアルティナへ耳掻きした事や紅茶を一緒に飲んだ事。他にも一緒に声の練習をした事等を話し始める。ティアの話が終わればミリアムが再び話を始め、気付けば更に数時間。ミリアムは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「っ! 誰か、来てる……」

 

「なっ! どうしてこの場所が……まさか!」

 

 話をしていた時、ティアは複数人の気配が近づいて来る事に気付いた。彼女の言葉に驚きながらも疑う事無く構えれば、やがて鉄騎隊とティアの前に姿を見せたのは……リィンと5人の少年少女達だった。その中にはアルティナの姿もあり、ティアと彼女はお互いに目を合わせて驚き合う。

 

「アルティナ……リィン」

 

「ミリアムさん! それに、ティアさんまで……」

 

「えっ……ティアって、あの子がティオ先輩の?」

 

 彼らがやって来た目的は、音信不通となったミリアムを救出する為。ミリアムに何かがあったとは分かっていたものの、そこに鉄騎隊やティアが居る事は予想していなかった。アルティナがミリアムとティアへ声を掛ければ、彼女の放った名前に反応するユウナ。クロスベルでティオと会い、会話を聞いていた事でクルトもそれを理解した。

 

「あら、可愛いらしい……ですが、この状況を見るに」

 

「明らかに敵って訳か」

 

 更に少女と少年が現状を見て理解して行く。本来3人だけだった新Ⅶ組へ前回の実習後に科を移動したミュゼ・イーグレットとアッシュ・カーバイド。故に2人は話を聞いておらず、ティオと話をする機会も無かった為にティアの事は何も知らなかった。

 

 まだデュバリィ達の任務は現在も継続中であり、それを邪魔される事は許されなかった。故にリィン達と戦うべく武器を構えた鉄騎隊の3人。そして予期せぬ再会に今だ慌てるティアへ、デュバリィは声を掛けた。

 

「ティア。前回の雪辱を晴らす時ですわよ」

 

「っ!……うん」

 

「ティアさん……」

 

「今は、戦うしか無い」

 

 あれから1月以上。足手纏いにならない為、ティアも毎日魔法を練習等を熟して来た。故にデュバリィの言葉を受け、ティアはミリアムの傍を離れて鉄騎隊の近くに移動する。すると、鉄騎隊の3人はティアを囲む様に並ぶ。結果、ティアの立つ位置は3人を倒さなければ攻撃が通りそうに無い位置となった。

 

「以前の様には行きませんわよ、シュバルツァ―。そして新Ⅶ組」

 

 デュバリィが剣を向けて告げた事で、リィン達も武器を構えてデュバリィ達を撃破する為に戦いを始める事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアの役割は以前と変わらず、仲間達の援護だった。だがこの前と大きく違うのは補助するティアを先に無力化しようとしても、必ず3人の内の誰かがティアへの攻撃を庇うか無力化してしまう事。3人を無力化しなければティアへの攻撃は届かず、だがティアが居る事で強化や補助。回復を受ける3人。……リィン達にとって、かなりの強敵と言えた。

 

「皆、頑張ろう……!」

 

「あぁ」

 

「えぇ」

 

「負けませんわ」

 

 ティアの応援に3人の士気は更に高まり、リィン達は押され始める。だが彼らも互いに戦術リンクを駆使した連携や、生徒達それぞれの技量を見せて食い下がり続ける。

 

 剣と刀を打ち合い、やがて距離を取ったデュバリィ。アイネスとエンネアも彼女の斜め後ろに付き、再びティアを囲む。

 

「ふっ、悪く無い」

 

「えぇ。でも、私達には届かないわね」

 

 余裕を見せる鉄騎隊とは対照的に、リィン以外の面々は疲労を感じ始めていた。4人を相手に1人で立ち回れる程、リィンが強い訳でも無い。それ故に、このままでは自分達が危ういと新Ⅶ組全員が感じてしまう。

 

「何とか守りを崩し、彼女を止めなければ」

 

「それが出来ねぇからこうなってんだろうが……!」

 

「それもあるが……まだ、余力を残しているな」

 

「当然ですわ。貴女達程度、全力を出すまでもありません」

 

「なっ!」

 

「嘘……」

 

「アイネス、エンネア。星洸陣で一気に終わらせますわよ」

 

 デュバリィの言葉に驚愕する中、彼女が続けた言葉と纏い始める光に再びリィン達は驚愕する。ミリアムが今の様に拘束された際にも使われた3人の連携であり、彼女が「気を付けて!」と注意する声が響く。そしてデュバリィは再び剣をリィンへ向けた。

 

「さぁ、蹴散らしますわよ!」

 

『その必要はありません』

 

「っ! ママ!」

 

「マスター!?」

 

 仕掛けようとするデュバリィを止める様に響き渡る女性の声。やがて、巨大な神機の前に姿を現したのは鎧に兜を付けた人物……アリアンロードだった。突然登場した彼女の存在に、ティアとデュバリィが掛ける言葉にリィンは誰よりも早く理解する。デュバリィが敬愛し、ティアが自分達よりも優先した存在……彼女こそが、鋼の聖女だと。

 

「来いっ! ヴァリマール!」

 

 リィンはすぐに手を空に上げ、叫ぶ。すると『応っ』と言う機械的な男性の返事と共に突然巨大な人形兵器が出現する。……それはティアの居ない時に旧Ⅶ組が出会った騎神であり、リィンが『灰色の騎士』と呼ばれる由縁でもあった。アリアンロードの背後に立つ巨大な神機に比べれば、その姿は小さく。彼が召還したヴァリマールは彼が搭乗するより早く、アリアンロードの指示で動いた神機の妨害で無力化されてしまう。

 

「良い機会です。灰の起動者(ライザー)の実力の程、見せて貰いましょう」

 

「っ! ティア、巻き込まれますわ。下がりますわよ」

 

「う、ん……」

 

 突如巨大な槍を出現させ、リィンへ告げたアリアンロードの姿にデュバリィ達はティアを連れて道を開ける。するとリィンが何かをユウナに渡し……嘗てパンタグリュエルで見せた赤黒い霧の様なものに包まれる。そして彼の髪は黒から銀に。目は赤色に染まった。マクバーン曰く、鬼の力。それは彼の全力であると同時に、危険性もあった。

 

 始まるは激闘。アリアンロードの攻撃を何とか躱して攻撃を仕掛けるも、その殆どは通らない。まるで勝てない事が予め決まっているかの様な力量差。……そして抑えきれない鬼の力がリィンの意識を蝕み始める。

 

『うっ、ウオォォォォ!』

 

「人の身でマスターに挑んだ代償か」

 

「もし飲まれる様なら……狩るしかないわね」

 

「っ! リィン……負けちゃ、駄目……」

 

 彼がアリアンロードとはまた別の、内なる何かと戦っているのは見て分かったティア。エンネアの『狩る』と言う言葉が何を意味するのか、何となくでも分かったティアは敵の立場でありながら、思わずリィンを応援してしまう。すると、動けず戦えなくなってしまった彼を守る様に前へ出始めた新Ⅶ組の面々。

 

「その心意気は買いましょう、ですが、甘すぎる。少し現実を知ると良いでしょう」

 

「そこまでにして貰おう」

 

 そう言って槍を構えたアリアンロードに全員が息を飲んだ時、突然空から鷹が飛来する。そして新Ⅶ組とアリアンロードの前に降り立ち、彼女の攻撃を止めたのは……旧Ⅶ組のガイウス・ウォーゼルであった。

 

「久しいな、リィン。ミリアムは通信以来か。それに、ティア。元気そうだな」

 

「う、ん……久しぶり」

 

『ガイウス、ガイウスなのか!?』

 

「来てくれたんだ!」

 

 現れた彼の姿に驚き、歓喜するリィン達。そんな中、彼の只ならぬ風格にデュバリィ達は警戒し始める。……リィンとはまた違う、強者の風格。その強さはアリアンロード程では無いが、彼曰く「この場の全員を逃がす事は出来る」との事であった。

 

「よぉし! 僕も! う、りゃぁあぁぁ!」

 

「んなっ!?」

 

「ふふっ、凄い力ね」

 

 彼の登場で士気が上がり、ミリアムは自分を拘束する金色の網を力のみで破壊する。そして彼と共に並び、新Ⅶ組とリィンを守る様に立った。すると、彼らを前にアリアンロードは槍をしまう。

 

「ふっ。良いでしょう。神機の霊力も十分。一通り舞台は整いました」

 

 「今宵限りは安らかに眠ると良いでしょう」。最後にそう続けて、その場から姿を消したアリアンロード。そんな彼女へ続く様にデュバリィ達の足元も光り始める中、ティアが前へ出始める。

 

「ミリアム……また、お話……しようね」

 

「うん。またね、ティア!」

 

「ティア、行きますわよ」

 

「あう……リィン。ガイウス。アルティナ……またね」

 

 その言葉を最後にティアもデュバリィ達と共に姿を消した。残されたリィン達は再会を喜ぶ……前に、アリアンロードが去り際に残した言葉を思い出して今までの様子を見続けていた人物へ声を掛けるのだった。



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6-2

 ジュノー海上要塞。そこは今、鉄騎隊と紫の猟兵・ニーズヘッグの占領下にあった。天守閣にはアリアンロードと巨大な神機が居り、その傍に立つは鉄騎隊とティアの4人。現在要塞内は猟兵達が至る所に居り、彼女達はその位置から見える橋。そこに集まる者達を眺めていた。

 

「来ましたか、有角の若獅子達に灰の起動者。そして黄金の羅刹」

 

「……サラ……ユーシス」

 

 アリアンロードは新Ⅶ組の生徒達とリィン。そして彼らを引き連れる様に橋を渡る1人の女性を眺める。一方、ティアは昨日再会した者達とは別にリィンと共に居たサラとユーシスの存在に気付いてその名前を呟いていた。出来る事なら、今すぐにでも会って話をしたい。だが、それをする訳にはいかない。ティアは気持ちを抑えて、その場に留まり続ける。

 

「紫の猟兵。放って置けば要らぬ事までしそうですわね。少し、様子を見て来ますわ」

 

 そう言ってその場から消えたデュバリィ。続く様にアイネスとエンネアもその場から消え、アリアンロードと共に残ったティアは不安そうに彼女を見上げる。すると侵入を開始したリィン達を見終わり、彼女はティアへ視線を向ける。

 

「行きたければ、構いませんよ」

 

「っ! うん……」

 

 彼女の言葉を受けたティアはデュバリィ達が居ない為、1人では転移が出来ない。故に自らの足で要塞内へ入って行く。中には怖い雰囲気を見せる猟兵や結社の人形兵器が徘徊。陰に隠れる等してやり過ごしながら、ティアは要塞の脇へ到着する。……が、そこでティアは左右を見て固まってしまう。要塞内はとても広く、ここにはアリアンロードと鉄騎隊の転移で来ていた。つまり、ティアには要塞内の行動が分からず、簡単に言えば迷子になってしまったのである。

 

「あう……人、一杯」

 

 気配を探ろうにも、要塞内には人の気配が多すぎて誰が誰か判別も付けられない。やがて要塞内にある小さな橋で立ち止まってしまった彼女の元に、複数の人影が近づき始めた。ティアはそれに気付いてすぐに顔を上げる。見えて来るのは見覚えのある少年少女達。

 

「ぁ……」

 

「あれは」

 

 橋の上に居るティアの存在に気付いた少年少女達は、6人だった。それはリィン達と現在分かれて行動していた新Ⅶ組の面々と、1人の女性。

 

「あの見た目。あの愛らしさ。間違い無い! 会いたかったよ、ティアちゃん!」

 

「……誰?」

 

「ガクッ。まぁ、仕方ないか。私の名はアンゼリカ・ログナー。リィン君たちと同じトールズ士官学院の卒業生で、君の先輩さ」

 

「先、輩? ……クロウと、同じ?」

 

「っ! ……あぁ。そうだね」

 

 まるで何処かの劇の台詞の様に大きく片手を伸ばして告げた女性の名はアンゼリカ。彼女の言葉通り、その立ち位置は先輩に当たる。そしてティアの中で先輩と言えば、パンタグリュエルで話したクロウであった。同じⅦ組でありながら、元々は先輩だったと聞かされていたのだ。だが、その名前を出した時。一瞬アンゼリカは苦悶の表情を浮かべる。そして同時にティアの様子を見て、彼女は理解した。……知らない、と。

 

「ティアさん」

 

「アルティナ……昨日ぶり……」

 

「はい。……ティアさんは、結社の目的が何か知っているのですか?」

 

「目的……? わかんない。でも、悪い人……やっつけてる」

 

「悪い人って、どう考えてもそっちの方が」

 

「ここに居た、お爺さん。悪い人。友達も、仲間も、見捨てようと、した。自分だけ、助かろうと、した」

 

「あの感じ悪い爺さんの事か。確かに真っ黒だな」

 

 アルティナと昨日に続けて再会したティアは、彼女の質問に首を傾げて答える。その中に上がったお爺さんが誰か、この場に居る全員がすぐに察する事が出来た。と同時にティアから情報を聞き出す事が不可能である事も察した。彼女は唯、鉄騎隊と鋼の聖女の元で過ごして彼女達の手伝いをしているに過ぎないのだと。

 

「ティアちゃん! ティオ先輩の事、分かる?」

 

「っ! ティオ……お姉、ちゃん」

 

「やっぱりそうなんだ。ティオ先輩、ずっと貴女を探してるの。攫われて、行方不明になった貴女をずっと!」

 

 ユウナの声に反応し、その言葉にティアは徐に1体の人形を取り出した。薄水色の髪をした少女の人形。それはティオを模したものであり、ティアは彼女の言葉にティオと過ごしたクロスベルでの日々を思い出す。

 

 反応は悪く無い。もしかすれば、ティアを自分達の方へ引き込めるかも知れない。そう思わずにはいられなかった6人。だがその僅かな希望を断ち切る様に、ティアの傍に2人の女性が転移してくる。それはアイネスとエンネアであった。

 

「ティア」

 

「ティアちゃん」

 

「!」

 

 彼女達の登場で、ティアは今自分が居る場所を思いだした。ティオとの思い出は確かに大事な物だが、彼女の中にある記憶はクロスベルでの再会からしか無かった。同じ様に誘拐され、同じ様に実験体となった。そんな話は聞かされていたが、ティアにある一番最初の記憶はアリアンロードとの出会い。……ティオと過ごした数か月と、アリアンロードやデュバリィ達と過ごした数年を比べれば、何方が大事かは明らかだった。

 

 海上要塞を奪還する為にやって来た6人を唯見送る訳にはいかない。アイネス、エンネアと共に橋から降りてその前に立ち塞がったティアはティオについて話をしたユウナへ告げる。

 

「私は、ママと……デュバリィ達と、居る。帰らない」

 

「ティアちゃん!」

 

「ユウナ! 今は諦めるしかない!」

 

「鉄騎隊の方々が居なければ、説得出来たかも知れませんが……」

 

「やるってんなら仕方ねぇ、昨日の続きをしてやらぁ!」

 

「もう少しお近づきになりたかったが……対立関係の中で芽生える愛も、悪く無い」

 

「来ます。彼女の援護と、それを受けた2人に注意してください!」

 

 相手にはデュバリィが。自分達にはリィンが。互いに筆頭と教官が居ない中、新Ⅶ組とアンゼリカは3人と交戦を開始する。だが昨日に続けて食い下がるも、相手は余力を残す程。その実力の差は1日程度で狭まるものでは無かった。

 

 新Ⅶ組とアンゼリカが苦戦を強いられる中、更に3人の元へ増援が現れる。それはデュバリィであり、戦う3人を見て加勢しようとする彼女を今度は同じ様に要塞の中から出て来たリィン達が阻止し始める。昨日再開したガイウスとミリアムを始め、そこには天守閣から見えたユーシスとサラの姿もあった。

 

「っ! 話は聞いていたが、完全に其方側の様だな」

 

「ティア。あんた、以前フィーに会いに来たんだってね。なら、私達にも挨拶くらいすべきだったんじゃないかしら?」

 

「ユーシス……サラ……! あの時は……時間。無かった、から。ごめんなさい」

 

 ティアの姿を確認したユーシスと、会って早々に不満を告げるサラ。ティアが彼女の言葉に説明をして謝った後、デュバリィ達は会話の末に一時撤退する事となった。もう1度謝るティアが転移でゆっくり消えて行くのを眺めて、再びリィン達のチームと新Ⅶ組+アンゼリカのチームは要塞の攻略に挑み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュノー海上要塞、天守閣。

 

 巨大な神機とアリアンロード。そして鉄騎隊とティアが待つその場所に、リィン達のチームが先に到達した。リィン・ミリアム・ユーシス・ガイウス・サラ。そして最後にアリアンロードが気に掛ける様に呼んだ、黄金の羅刹の異名を持つ女性、オーレリア・ルグィン。巨大な剣を片手に近づく彼女は、武の頂点と言われるアリアンロードへ挑む事を告げた。

 

 彼女の強さはその雰囲気だけでよく分かった。傍に居るだけで感じる強者の圧力。デュバリィ達も息を飲む中、ティアは倒れない様に必死でデュバリィの身体にしがみ付いていた。……やがて、戦いをするに当たって静かに着けていた兜を外し始めるアリアンロード。強者にしか見せないその姿を自ら見せたのは、彼女が認めた証拠でもあった。ランディ曰く、『滅茶苦茶好みの美人なお姉様』なその姿は男女問わず見惚れてしまう程。

 

「デュバリィ。アイネス。エンネア。ティア。準備は宜しいですね」

 

「はい、マスター!」

 

「承知。全力でやらせて貰おう」

 

「ふふっ、この要塞が持つと良いわね」

 

「リィン、皆。行くよ……!」

 

 彼女の言葉に各々武器を取り出した鉄騎隊と、胸の前で握った両手を寄せて構えるティア。彼女を囲む様に再び鉄騎隊の3人が陣形を組めば、更にその身体は光の靄に包まれ始める。星洸陣と呼ばれるそれは、3人の戦闘能力を飛躍的に高める鉄騎隊だけが使える力であった。

 

 やがて、オーレリアとアリアンロードが互いに飛び出してぶつかり合う。その余波だけで吹き飛ばされそうになるリィン達。ティアは3人に囲まれていた事で飛ばされず、2人の戦いを横にリィン達も鉄騎隊+ティアとぶつかり合うのだった。



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6-3

 アリアンロードとオーレリアの激闘を傍らに、戦いを続けるリィン達と鉄騎隊+ティア。今まで通り補助に専念するティアを前に、まずは彼女を無力化するべきだと思うも、彼女へ攻撃しようとすれば3人の誰かが庇う様に現れる。故にティアは必然的に最後とするしか無かった。

 

「ここまで戦えるとはな。こんな状況で無ければ、褒めるべきだが」

 

「全く。敵に回ると七面倒ね!」

 

 ユーシスがアイネスと剣を合わせ、エンネアの放つ矢をサラが導力銃から放つ弾丸で無効化しながら思った事を告げる。視界にはリィンとガイウスとミリアムが猛スピードで動き回る3人に分かれたデュバリィと交戦しており、各々が1人ずつを相手にしている状況だった。

 

「もう! こうなったら……オーダー! ホワイトデコレーション!」

 

 ミリアムが我慢の限界を迎えた様に告げた途端、リィン達5人の身体をデュバリィ達と同じ様な白い靄が包む。すると彼らはデュバリィ達の攻撃を物ともせずに反撃を開始。今度は鉄騎隊が押され始める。

 

「くっ、やりますわね! ですがオーダーは貴方達だけが使える技じゃありません事よ!」

 

「あぁ。我らは星洸陣。そして」

 

「ティアちゃん、練習の成果を見せる時よ!」

 

「うん!……すぅ……皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

 

 エンネアの言葉に頷き、息を大きく吸ってから祈る様に両手を組んでミリアムの様に発したティア。途端にデュバリィ達の身体を星洸陣とは違う薄水色の光が纏う。それは成功した証であり、鉄騎隊の3人はティアを見ずとも満足そうに笑みを浮かべた。

 

「さぁ、行きますわよ!」

 

「くっ!」

 

 再び迫る刃は先程よりも鋭く、破壊力もあった。加えて明らかに士気が上がる3人の姿にリィン達は応戦する。人数だけで見ればデュバリィが3人に分かれている事で鉄騎隊+ティアに分があった。だが、分けられたデュバリィは彼女本人程の実力を有してはいない。1人、また1人と消され、人数の差は逆転されてしまう。すると突然、リィン達の真上に巨大な火球が生まれる。嘗てティアとの戦いで見た火球とは違う、更に大きな火球。言うなれば、太陽(・・)。……彼らはそれに見覚えがあった。

 

「これは……失われし魔法……!」

 

「ティアが使ってるの!?」

 

「ちっ、洒落にならないわよ……!」

 

 ロストアーツ。自らの全精神力を持ってして発動する非常に強力な魔法であり、嘗てはそれを使った事もあったリィン達。だが大きな問題は、それをティアが今使っている事だった。彼女は大きく空へ手を上げており、やがてそれを一気に振り下ろす。

 

「っ! そ、れっ!」

 

「皆であれを止めて! そしたら僕に考えがあるから!」

 

「何をするつもりだ、ミリアム!?」

 

「説明を聞いてる時間は無い! 来るぞ。構えろ!」

 

 巨大な太陽の衝突。ミリアムに言われ、リィンは彼女を信じてガイウス、ユーシス、サラと共に武器でそれを受け止める。するとミリアムは傀儡に乗って空に上がり、傀儡を大きなハンマーに変化させてフルスイング。長い押し合いの末、何と迫った太陽を空へ打ち返した。

 

「あれを防ぐとはな」

 

「……前もそうでしたが、旧Ⅶ組。中々に化物揃いですわね」

 

「平気? ティアちゃん」

 

「う、ん……あう……」

 

 リィン達の行動とその結果に驚かずにはいられなかったデュバリィ達。息も絶え絶えに無事な事を安堵するリィン達を前に、エンネアがティアを心配するも、ティアは強力な魔法を使用した事ですぐには動けそうに無かった。

 

「ティア、決着するまで気を抜くんじゃありませんわよ」

 

「う、ん……」

 

「呼吸を整える時間程度、容易く稼げる。動ける様になったら、参加しろ。エンネア」

 

「えぇ。私が守るわ」

 

 少しの間動けないティア。そんな彼女を庇いながら、再び戦闘は再開される。ティアの補助を受けられなかった時間、デュバリィ達は純粋な実力で5人を相手にし続けた。しかし徐々に押され始める中、彼女達の身体を再び光が包む。

 

「もう、大丈夫……」

 

「ティア、まだ動けるのか……!?」

 

 それはティアが扱う補助魔法の光。戦線へ復帰した彼女の姿に、リィン達は驚きを隠せなかった。……ロストアーツを使えば、普通はもう魔法をしばらく発動出来なくなってしまう。だが、今現在自分達の前に立つティアは当たり前の様に魔法を扱っていた。それが示す答えは1つ。

 

「先程のロストアーツはティア自身の力(・・・・・・・)だった。と言う事か」

 

「えぇ! じゃああんなのがまた来るかも知れないの!」

 

「そうなる前に、倒し切るしかあるまい」

 

「あぁ。……一気に仕掛けるぞ! 突撃陣・烈火!」

 

 リィンの号令と共に発動するオーダーは彼らの身を赤く纏い、力を高める。デュバリィの分身は倒し切り、数は勝っている現状。実力的にも届かない訳では無く、リィン達の猛攻が始まった。

 

 やがてデュバリィとリィンが互いの刃を弾き合い、距離を取ると同時に地へ膝を突いた。アイネス、エンネアも同じ様に膝を突いており、ティアに至っては両膝を曲げたままその間に座り込んでしまっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「我ら鉄騎隊と互角……か」

 

「くっ、認めませんわよ……! マスター!?」

 

「ママっ!」

 

 全員が息を切らして立ち上がれない中、デュバリィは衝撃的な光景を目の当たりにする。……それは敬愛するアリアンロードが自分達と同じ様に膝を突く光景であった。『そんな筈はない、ありえない』。そう頭の中で何度も考えるが、見える現実は変わらない。武の頂点は今、オーレリア・ルグィンと言う女性に押されていた。

 

「見事です」

 

 アリアンロードはオーレリアを称賛する。そして彼女の実力が遥か昔、武の頂点となった頃の自分を超えていると。敵対する関係でありながら、オーレリアは彼女の言葉に武人として敬意を払った返事をする。すると、ここで別行動だった新Ⅶ組とアンゼリカも合流。アリアンロードは6人の姿を見た後、立ち上がった。

 

「場は整いました」

 

「っ!」

 

 その言葉と同時に今まで止まっていた巨大な神機が動き始める。リィンは素早くヴァリマールを呼び、同時に2体の同じ様な人形兵器……機甲兵が天守閣へ舞い降りた。

 

 今から始まるは人の身では到底敵わない、人形兵器同士の戦い。疲労を感じて動かしにくい自分の身体を無理矢理立たせ、デュバリィ達は巻き込まれない様に距離を取る。その際、動けなかったティアはアイネスに横抱きで抱えられる事になった。

 

 ヴァリマールに搭乗したリィン。傍にあった機甲兵に新Ⅶ組の中からユウナとクルトが代表して乗り込み、壮絶な戦いが始まる。リィンの持つゼムリアストーンと呼ばれる鉱石で作られた太刀をその戦闘で折られながらも、戦術リンクが繋ぐ不可視の刃で戦いが決した時。アリアンロードは目を閉じ、やがてそれを呼んだ。

 

「ぇ……」

 

「これは」

 

「騎神……」

 

「マ、マ……?」

 

 鉄騎隊とティア。アリアンロードの傍に居続ける彼女達は全員、その光景に絶句してしまった。……アリアンロードが呼んだそれは正しく騎神。リィンのヴァリマールと同じ様な存在であり、それを呼び寄せた彼女はリィンと同じ起動者(ライザー)と言う証拠でもあった。

 

 デュバリィは知っている。アリアンロードとは違う彼女の本当の名前を。ティアは知っている。自分を救ってくれた『ママ』を。……彼女の事で知らない事は無い、筈だった。だが、目の前に存在する騎神は。それに乗り込んだママ(マスター)の姿は。4人の知らない姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に帰還してしまったアリアンロードを追う様に、帰路を走る鉄騎隊。ティアはアイネスの背中にしがみついて居り、彼女達の話題はアリアンロードが呼び寄せた騎神について。

 

「ティアは知っていたか?」

 

「ううん……初めて、見た……」

 

「ティアちゃんも知らなかったのね」

 

「本当の名前すら教えてくださりましたのに、何故……マスター」

 

 不安と疑問。そして自分達には話してくれなかった悲しみの込められた言葉だった。だが鉄騎隊はマスターである彼女に忠誠を誓っており、ショックを受けようともそれが揺らぐ事は無かった。……何か理由があると。何か考えがあるのだと信じ、彼女達は帰路を急ぐのだった。




原作プレイ時に思った事

『何で転移出来るのに、デュバリィ達は走っているのだろう?』

……多分、気にしてはいけない。


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間章+α

 7月15日。帝都ヘイムダル。

 

 今は閉鎖されてしまっている遊撃士協会の建物の中で、旧Ⅶ組の面々は集まっていた。ティアと亡きクロウのみが居ない中、約束を果たす為の話を合いをしていたのだ。シャロンや旧Ⅶ組の教官として、サラも同席する中。話がティアの事になった事でアリサがある事実を知り、立ち上がって抗議する。が、彼女の抗議内容に全員は慣れた様子だった。

 

「何で私はティアちゃんに再会出来ないのよ! リィンに至ってはもう2回も会ってるのに! 可笑しいじゃない!」

 

「あ、アリサさん。私もティアちゃんとは会えていませんし、マキアスさんも同じですから」

 

「あぁ。偶然、としか言い様が無い事だ。仕方ないだろう」

 

「ぐっ、ぬぬぬ……ティアちゃんはどんな感じだったの。詳しく教えて頂戴」

 

 2人の言葉に押し黙り、ゆっくりと座ったアリサは質問する。この場でティアと再会できていないのはアリサ、エマ、マキアス、シャロンのみであり、他の面々は最低1度は再会していた。故に各々が語る中で共通するのは、見た目に一切の変化が無い事と……魔法を自身の意思で扱う様になっていた事。鉄騎隊と共に行動しており、鋼の聖女を『ママ』と呼んでいた事だった。

 

「ティア様があの方を慕うのは他でもありません。彼女があの方に救われたからですわ」

 

「トヴァルが見つけるより以前。最低でも教団が潰れてから5年以上は向こうに居た事になるわ」

 

「5年以上共にした親代わり、と言う訳か。俺達より鋼を優先するのも頷ける話だな」

 

「じゃあ、鉄騎隊の人達とも長い付き合いなのかな?」

 

「かなり懐いている様に見えたな。それにティアが魔法を扱える様になったのは、あの者達の為なのだと俺は感じた」

 

「何時も守られている。だから自分も守りたい……そう考えているのかも知れません」

 

「話を聞くに、あの頃に比べて大きく成長しているみたいだな」

 

 シャロンの言葉にサラが続き、ユーシス。エリオット。ガイウス。エマ。マキアスの順で話を続ける。マキアスの言葉は全員も感じていた事だった故に一斉に頷く中、リィンはその理由にも気付いていた。

 

「俺達と一緒に居た時は過去の記憶を無くしていた。だけど今は思い出してるんだ。……精神年齢が大きく増えたのかも知れない」

 

「確か、初めて会った時は1年と少しの記憶しかなかったのだったな」

 

「ティオ主任とティアちゃんの年齢差は2歳。つまり今の彼女は14歳って事になるわね」

 

「あれから2年以上は経ってる。一気に11歳くらい成長したんだ。ちょっと不思議だね」

 

 リィンの言葉にラウラ。アリサ、フィーが続き、ティアの実年齢と成長した年数を知った全員。……だが、彼女と再会していた者達は共通して思う。

 

「14歳……にしてはまだ幼過ぎない?」

 

「うむ。14歳ならあの頃のフィーに近い。人に個人差はあるが、今のティアが14歳とは思えない」

 

「じゃあ、どれくらいだったんですか?」

 

「雰囲気で言えば、まだ幼子と言えるだろう」

 

「う~ん。僕が見た感じだと、10歳くらいかな?」

 

「あぁ。多分そのくらいだ」

 

 記憶が戻った筈なのに、4歳近く差があるティアの精神。それが唯の個人差なのか。何か理由があるのか。旧Ⅶ組の面々だけでは分からなかった。が、今この場に1人。ティアの過去を共に過ごした経歴のある女性が居る。

 

「シャロンは何か分からないかしら?」

 

「そうですわね。4歳。と言えば、ティア様があの方に保護された時と一致します。聞いた話では記憶はあった様ですが……歩く事も喋る事もままならなかったとか」

 

「それは、実験の後遺症だったのか?」

 

「いいえ。そうでは無かった様ですが……詳しい事は私も」

 

 そう言って首を横に振ったシャロン。結局、ティアに感じる4年の差をこの場で知る事は適わなかった。アリサが会いたいと徐に呟く中、ティアの話をもう少し行った後に次の話へ移行した旧Ⅶ組。その日、時間を許す限り彼らは情報を共有し合うと共に今後についての話を続けるのだった。




ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬- 突- 射- 剛B
※5ダメージ固定
武器無しで相手を叩くだけなので、『ポカっ』と音がするだけ。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

ロスト・ゼロ
全力で魔法を使用する。
※ロストアーツ選択可 このクラフトで使用した場合、再使用が可能
CP80 EP500 威力は使用する魔法に依存。次ターン、行動不可。
「そ、れっ!」

ホーリーエール
ティアの応援で共に戦う仲間の士気を高める。
CP20 円L(自分中心) 自身対象外
CP+30 HP10%回復。※一部キャラのみ、極稀に効果増大。
「皆。頑張ろう……!」

???


【Sクラフト】

???

???


【オーダー】

シャイニングカーレッジ
BP3 5カウント 与ダメージ+30% ブレイクダメージ+50% EP全回復 毎ターンCP+20
「皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

???


【???????】

??? 『???・???・???』


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
アイネス・エンネア
★★★★☆
トヴァル・シャロン
ティオ・アルティナ・ミリアム
ヴィータ
★★★☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・ユーシス
アリサ・ラウラ・サラ
エリィ・ノエル・キーア
アルフィン
マクバーン
★★☆☆☆
マキアス
エマ
アンゼリカ
ロイド・ランディ・ワジ
ユウナ
クロウ・ゼノ・レオニダス
カンパネルラ
★☆☆☆☆
クルト・アッシュ
ミュゼ
ブルブラン


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第Ⅱ部-第7章- ~ティア()~ 少女達の決意
7-1


 7月18日。ティアは目の前にある巨大な繭の様にも見える建物を前に、怯えていた。嘗てカレル離宮と呼ばれていたそこは余りにも禍々しく変貌し、ティアは不安げにアリアンロードを見上げる。が、彼女はティアを見ようとはしなかった。……更に、ティアは1人の男性に横抱きにされた少女の姿を見る。

 

「アルティナ……」

 

 それは友達と言える存在、アルティナだった。目の前の光景と彼女が見るからに眠らされている様子に、感じる不安は募るばかり。知らない人物が居た事もあり、アリアンロードから離れる事をしなかった彼女はやがて共にその繭の中へ入る事になった。

 

 長い通路の下に見えるのは、倒れ伏した禍々しい姿の聖獣。ティアは唯只管に恐怖を感じ、怯え続ける。……胸の内に感じる胸騒ぎの様な感覚が大きくなり始める中、ティアはアリアンロードへ質問した。

 

「何を、するの……?」

 

「……」

 

 だが、彼女の質問にアリアンロードは答えなかった。一度目を合わせ、逸らす様に目を閉じてしまったのだ。

 

「ったく。おいチビ」

 

「!」

 

「分からねぇなら分からねぇで良い。とにかく、邪魔だけはすんなよ?」

 

「う、うん……」

 

 怯え戸惑うティアの様子を見兼ねた様に、彼女へ声を掛けたのはマクバーンだった。だがその声音は厳しく、ティアは弱々しく頷いて返す事しか出来ない。……そして少しの時が過ぎた頃、ティアは自分達よりも少し上の位置に大人数の気配を感じ取った。

 

「やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

 

 ティアの様子を見てマクバーンは察した様に首の後ろへ手を回しながら呟いた。螺旋状になっている道を下り、やがて3人の前に姿を見せたのは……旧Ⅶ組とアッシュとアルティナを除いた新Ⅶ組の面々。旧Ⅶ組にはミリアムの姿が無く、その理由は現在ティアと同じ様に別の場所で彼らを待ち受ける者の1人となっているからである。

 

「鋼の聖女、劫炎、ティア……いきなり厄介なのと会ったわね」

 

 3人の姿に気付き、開口一番にサラが話し掛ける。マクバーンは今すぐにでも戦いたそうに。アリアンロードは唯静かに槍を取り出す中、ティアは2人の様子と揃う面々に困惑するだけ。……何時もとは違う雰囲気と大きくなり続ける胸騒ぎが、この戦いを拒んでいた。

 

「迷いのある者に戦場に立つ資格はありません。ティア、下がっていなさい」

 

「っ! ママ……」

 

「ま、予想通りだ。どっか適当に離れとけ……テメェが一緒じゃ、邪魔で仕方ねぇからな」

 

 突き放す様なアリアンロードの言葉に悲し気に声を掛けるが、続けたマクバーンの言葉を聞いてティアはその場から離れる。戦うと思っていた故か、ティアの離脱に驚きながらも2人の強者を相手に戦闘を開始するしか無いリィン達。……やがて時間を惜しむが故に、ガイウス。エマ。ラウラの3人がその場に残ってリィン達は進む事になった。2人の元を通過し、離れていたティアへ近づいた彼らは一度その足を止める。

 

「ティア」

 

「あう……怖いの……」

 

「ティアちゃん……」

 

「ママも……何時もと、違う。アルティナが……居て……シャロンは、辛そう……なの。……ここが、苦しくて……分かんない」

 

 迷い。困惑。恐怖。ティアが感じるそれをリィン達は察する事が出来た。今の彼女には戦意どころか、何が正しいのかの判断も出来ないと言う事を。久しぶりの再会ではあるが、それを喜ぶ状況に無い為に目を閉じて黙ってしまうアリサ。すると、フィーがティアへ近づき始める。

 

「ティア。待ってて。……全部終わったら、迎えに来るから」

 

「フィー……?」

 

「約束」

 

「……う、ん」

 

 今の状況を理解させる事は難しい。故に今やるべき事を終わらせ、その後共に考える事で彼女の不安を解消させてあげる事が数少ない出来る判断であった。フィーの言葉に頷いて、ティアはそこで待つ事に。リィン達を見送り、ティアは唯彼らの無事を願う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアは外を見る事の出来る画面越しに見えた爆発を見て、ゆっくりと膝を突いた。……爆破されたのは高速巡洋艦カレイジャスと呼ばれるもの。そしてそれは今の事態に駆け付けた3人の男性達を乗せていた。

 帝国の皇子、オリヴァルト・ライゼ・アルノール。

 ラウラの父であり、光の剣匠の異名を持つヴィクター・S・アルゼイド。

 零駆動の異名を持ち、ティアを拾ってⅦ組へ導いた男、トヴァル・ランドナー。

 

「あ、あぁ……父上……」

 

「何、で……トヴァル……ぃ、や……」

 

 落ちていくカレイジャス。そこに乗っていた者達の命が助かったとは到底思えず、その光景は外で戦う者達をも絶望へと落とした。

 

 初めて、自分の知る人物が死んだ事はティアに取って受け入れられない事だった。膝を突いたまま、瞳から涙を流して呆然とその様子を眺める事しか出来ないティア。……その同時期に、やがて一番下に居た1人の青年が傍で眠るアルティナの首に手を掛けた。途端、ティアの頭に嘗て何処かで聞いた事のある声が響き渡る。

 

『……助けて』

 

「あ、う……」

 

()達の妹を、助けて』

 

「う、ぁ……いも、うと……?」

 

『守ってあげて』

 

「っ! これは……!?」

 

「ティアちゃん!?」

 

 頭痛すら伴う声と苦しくなる胸。やがてティアの周りには青白い光が生まれ始め、それに気付いたアリアンロードとエマが声を上げる。……すると、ゆっくり浮き始めた(・・・・・)ティアの身体。彼女はその目に光を持たずに、青年の手を離れてリィンを守る様に傀儡に乗って立ち塞がるアルティナの元へ移動し始めた。そして全く同じ時に、ミリアムも彼女を守る為に動き始める。

 

「あーちゃん!」

 

「ミリ、アム……さん。ティアさん、も」

 

『……』

 

 ミリアムの声に弱々しく返したアルティナ。しかし続けてティアの名前を呼ぶも、彼女が返事をする事は無かった。そして、そんな彼女達に迫る聖獣の鋭い爪。ミリアムが傀儡に乗って守りを固めると同時に、ティアが片手を前に出して光の障壁を生み出す。……2人の守りは甲高い音を鳴らし、聖獣の攻撃は受け止めた。

 

「ティア、さん……?」

 

「何だろう、凄く……懐かしい感じがする」

 

『……』

 

 攻撃が届かないと分かり、聖獣は何度も繰り返し障壁を叩き始める。様子の可笑しいティアにアルティナが困惑し、ミリアムが不思議な感覚を抱く中……ティアはゆっくりと2人の上へ浮上する。そして障壁よりも上に上がると、同じ様に手を前へ突き出した。

 

『グオォォォォ!』

 

 途端、聖獣の元に無数の雷が襲い掛かる。当たらず落ちた雷は深く地面を抉り、その威力を物語る中……ティアはもう1度手を伸ばした。

 

「そっか……やっと分かったよ。ティアは僕達の」

 

 何かに気付いた様にミリアムが口を開いた時、それを言い切る前に甲高い銃声が響き渡った。

 

「……ぇ……」

 

 ゆっくりと落ちていくティアの姿を彼女達は。そして見ていた者達は見る事しか出来なかった。その背中は赤く染まり、やがて地面へ落ちる。……音の発生源は障壁を張っていた聖獣とは別の、斜め後ろ方向。

 

「ティア君!」

 

「兄上……何て事を!」

 

「何時までも邪魔をされては困るからね」

 

 そこには先日、ある人物を撃たれた際に使われた共和国制の小型銃をティアへ向けたルーファスが立っていた。

 

「いやぁ! ティアちゃん!」

 

「…………」

 

 アリサの悲鳴が木魂する中、完全に地へと伏したティア。そんな光景をアリアンロードは無言で、だがその拳を握り締めながら見続けていた。……そして、ティアが倒れた事で障壁は消滅。ミリアムはそれでもアルティナを守る為に、聖獣に立ちはだかる。結果、新旧Ⅶ組を待つのは絶望の結末だった。

 

 ミリアムを失い、鬼の力に自我を失ったリィン。聖獣を倒すも、複数体の騎神に抑え込まれた彼を救出する手段は無かった。故に彼を残して脱出しようとする新旧Ⅶ組の面々。その際に撃たれたティアを連れて行こうとするも、彼女の元にアリアンロードの槍が迫った。転移の瞬間、その槍はティアの服を引っ掛けて範囲内から離脱。連れて行く事は適わず、転移が発動した事でその姿は消え去ってしまう。

 

「……ティア」

 

「……マ……マ……わた、し……」

 

 近づくアリアンロードへ纏った光を失い、元に戻ったティアが何かを伝えようとする。だがその言葉を最後まで続ける事は出来ず、その目はゆっくりと閉じてしまうのだった。



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7-2

 黒の工房本拠地。そこは旧Ⅶ組や新Ⅶ組の面々にとって言わば敵の本拠であり、現在そこには自我を失い獣の様に暴れるリィンが拘束されていた。彼の傍には一匹の喋る黒猫がいるも、その声は彼には届かない。特別な力を持った猫ではあるが、彼を拘束した者達はその猫の行為が無駄だと分かっていた。故に放置されているに過ぎなかった。

 

「……」

 

「よう。またここに居たのか、鉄騎隊筆頭さんよ」

 

「蒼のジークフリート……いいえ、クロウ・アームブラスト」

 

 そんな彼の声が扉越しに微かながら聞こえる場所で、デュバリィは立って居た。そしてそんな彼女の元へ近づいて声を掛けたのは、嘗てティアとパンタグリュエルで出会った事もあるクロウ。……だが本来、彼の存在はあり得る事では無い。何故なら彼は、既に亡くなっている(・・・・・・・)筈なのだから。

 

「今でも信じられませんわね。……騎神、不死者、呪い……もう、頭が一杯一杯ですわ」

 

「俺も分かんねぇことは多いからな。……でもお前さんの場合、それ以上に心配な事があるんじゃねぇのか?」

 

「……」

 

 彼の言葉に口を閉ざしたデュバリィ。リィンの声がする扉へ視線を向け、思い返すのはあの日の出来事。

 

 自分達が世界の終わりに手を貸したと知ったデュバリィは、マスターであるアリアンロードの意思が分からなくなってしまっていた。今までだって、分からずとも彼女の為に尽くして来たデュバリィ。だが今回の内容は、彼女への敬愛だけでまかり通る話では無かった。そして更にデュバリィがアリアンロードを分からなくなったのは、彼女と合流した際に見てしまった血を流した後のティアの姿。

 

「ジョルジュ……じゃ無くてゲオルグの話じゃ、一応一命は取り留めたって聞いたが?」

 

「えぇ。そうらしいですわ。……言いましたわよね、ティアを撃ったのは鉄血の子供(アイアンブリード)の1人だと」

 

「……あぁ」

 

「結社はあの者達と協力する事を決断しましたわ。当然、マスターも。……ですが、それはつまりティアを撃った者と協力する事になる。そんなの、受け入れられる筈ありませんわ!」

 

「随分大事に思ってるんだな、あいつを」

 

「ティアは私に、私たちにとって……妹も同然ですもの」

 

 既に家族の居ないデュバリィにとって、ティアは妹の様な存在であった。同じ者を尊敬し合うも、姉妹弟子とは少し違う。それはエンネアとアイネスが当て嵌り、言うなればティアは家族に近い存在と言えた。

 

「今までマスターの為に生きる事が私の使命であると、そう思っていましたわ。いいえ、それは今でも変わりませんわね。……ですが、気付けば全てを失った筈の私にも、新たに大事なものが生まれていた」

 

「……で、どうするつもりだよ?」

 

「……見極めますわ。何が正しくて、何が間違っているのかを。必ず、その時が来る」

 

「ま、だろうな。あいつらの諦めの悪さは筋金入りだ」

 

 共にもう1度、リィンが居るであろう扉へ視線を向けた2人。それから2人がその場を離れれば、静寂に響くリィンの叫びと呻きの声だけが木魂し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約1月の時が経ち、デュバリィの待つ()は訪れる。自身に掛けられた拘束を強引に外して工房の中を歩き始めたリィン。既に自我も無い彼は何かを求める様に歩みを進め、道を塞ぐ結界も障害物も破壊して行く。そんな彼を放っては置けないとデュバリィとクロウがついて行く最中、別の場所ではリィンを救出する為に旧Ⅶ組と新Ⅶ組の面々が工房内への侵入を開始していた。

 

 デュバリィの行動はマスターであるアリアンロードの意思にそぐわないもの。暴走するリィン、デュバリィ、クロウの前にはマクバーンと、葛藤の末にアリアンロードの元で戦う決意をした鉄騎隊の2人、アイネスとエンネアが立ち塞がった。

 

 彼方此方で始まる戦闘。最終的に彼を迎えに来た新Ⅶ組がリィンを取り戻した事で本懐は達成され、敵に囲まれるも味方の増援を経て脱出に成功。その最中にデュバリィは何が正しいのかを見極める為に、アリアンロードから暇の許可を受託した。

 

 リィンを連れて無事に脱出する事の出来た新旧Ⅶ組の面々。クロウとデュバリィも新旧Ⅶ組の面々に言葉を残してその場を離れる中、2人は今後の行動についての話をする。

 

「別に、俺達に付き合わなくてもいいんだぜ?」

 

「乗りかかった船、ですわ。……それに、今後の事を考える時間も必要ですし」

 

 リィンが起動者としていた灰の騎神ヴァリマールと同じ様に、クロウは蒼の騎神オルディーネの起動者であった。そんな彼の操る騎神の肩に乗り、デュバリィは答えながら思案する。……実は彼女が最後にティアの姿を見たのは、撃たれた直後が最後であった。その後治療を受けていた事は間違い無いが、その所在については分かっていなかったのだ。

 

 まだ騎神の存在理由や結社の計画を知らないリィン達へ自分達が分かっている事を教えると共に、自分の最後(・・・・・)を迎える為にクロウはデュバリィを連れてとある島へ降り立つ。……そこは嘗て鉄騎隊がティアを連れて訪れ、ミリアムを捕らえた海に囲まれる孤島、ブリオニア島。

 

 2日の時が経ち、やがて2人の言葉を聞いてやって来た銀色の髪をした(・・・・・・・)リィンを先頭とする新旧Ⅶ組の面々。そこでクロウは7体の騎神が相克と呼ばれる戦いの末、最後の1つとなる事。騎神に乗る者は不死者となり、負ければ自分の様な呪い(・・)で生かされ続けている人間は消える事等を告げた。戦わないと言う選択肢は選べない。リィンの暴走を引き起こした鬼の力もまた、呪いの1つであるが故に。

 

 相克の場を作る為に、クロウとデュバリィの2人を相手に戦う事になったリィン達。やがて場が完成すれば、リィンとクロウの騎神同士の戦い……相克が始まった。クロウを倒してしまえば、彼は消えてしまう。葛藤を抱えながら戦うリィンへ、クロウは叱咤する。そして、決着はついた。

 

 結果として、クロウの思い通りにはならなかった。消える事無く残る結果となり、彼はリィン達と共にこれから戦う事を決断する。彼との再会や共に戦える喜びに旧Ⅶ組の面々が涙すら流す中、当然次に注目されるのはデュバリィとなった。

 

「其方はどうするつもりなのだ?」

 

「私は……ティアを探しますわ」

 

≪!≫

 

 彼女の言葉で蘇るのは、撃たれて落ちて行くティアの姿。そこで初めて全員はデュバリィからティアが一命を取り留めた事等を知らされる。その事実に安心するものの、現在行方知れずの彼女。手掛かりと言えるものは無く、それでも「何もしないよりは良いですわ」と闇雲にでも動こうとする彼女へリィン達は協力を申し出る。

 

「ティアは俺達Ⅶ組の仲間でもある。放っては置けない」

 

「そうでしたわね……良いですわ。但し、あくまで私はティアを見つけるまでの客将。仲間ではありませんから!」

 

「あぁ。それでも、ありがたい」

 

 デュバリィも加わり、彼らは今後についての話をする。そしてまずは共に戦い、バラバラになってしまった仲間達を集める事に決定。それぞれが様々な事に秀でた者達の為、デュバリィも手を借りる事で目的を果たせる可能性があると同意する。……見つける者の中にはティアの姉であるティオも居る為、同じ様な立場として彼女は少し他人事では無かった。




現時点で最終話が完成した為、このまま最後まで投稿致します。それに伴い、タグを一部変更しました。過去にない執筆調子の良さに自分自身、驚愕。


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7-3

 リィン達は各地を回り、バラバラになっていた仲間を探した。殆どの者が幽閉という形で囚われの身となっており、救出へ向かう。そして1人、また1人と助け出す事が出来た事で遂にバラバラだった仲間達は揃う事になった。

 

「まさかあなたが手を貸してくれる時が来るとは……分からないものですね」

 

「目的が一致している。それだけですわ」

 

「目的……ティアの事、ですね」

 

 パンタグリュエル。嘗てティアがデュバリィと共に乗船した巨大な戦艦に、新旧Ⅶ組の面々を始め各地の勢力が集っていた。一部メンバーを除いた特務支援課や、遊撃士協会の者達。更には各国の地位ある者達も集うそこで、デュバリィはリィン達によって救出された特務支援課の一員であり、ティアの姉でもあるティオと話をしていた。そしてその傍には2年近くの日々で更に逞しく成長したロイドやエリィの姿もあった。

 

 ティオのデュバリィへ向けられる視線は決して穏やかなものでは無かった。今は協力関係になっているとは言え、ティアの所在を知りながらも語らず。邪魔すらして来た過去を持つ相手なのだから、それも仕方の無い事だろう。しかし、ティアに起きた出来事を聞けば、今はそれ以上に何としてでも彼女を探すべきだと考える。……例え複雑な心境を抱く相手が傍に居たとしても、共に探す手は大いに越した事は無いと。

 

 各々の再会を喜び、話をした後に始まるのは帝国や結社に対抗する為の作戦に関する会議。リィン達や特務支援課、遊撃士協会の面々はその作戦の内容が途轍もない犠牲の上に成り立つものと知った時、彼らは同意すると共にそれ以外の方法を模索する第三の道を探す事を選択した。……犠牲を出さずにこの事態を収束させる、より良い作戦を探す為に。

 

 突然、会議の最中にパンタグリュエルは帝国と結社の襲撃を受ける。そこで迎撃する為に、リィン達は特務支援課や遊撃士協会の面々と共に、男女で別れて船内を甲板目掛けて進む事になった。途中立ち塞がるのは普段シャーリィが率いている赤い星座の猟兵や、結社の傘下にある強化された猟兵達。彼らを退き、同時に離れた別の場所から甲板へ出た男性陣と女性陣の前に過去にぶつかって来た様々な帝国や結社の者達が立ち塞がる。

 

「あっはは、中々に錚々たる顔触れだね。しかも綺麗に男女別……面白くなりそうだね」

 

「話に聞く新旧Ⅶ組の皆さんも揃っている様ですわね。なら、丁度良いのではありませんこと?」

 

「だね。ミリアム(彼女)はもう居ないけど、これで本当に勢揃いって訳だ」

 

「……」

 

 女性陣の前に立ち塞がるのは、カンパネルラとシャーリィ。そしてもう1人、エリィと因縁のある結社の人間……マリアベル・クロイスであった。2人は楽しそうに会話をするが、それを横で聞いているシャーリィは参加しようとしない。それどころか目を閉じ、何を考えて居るのかも分からなかった。

 

「ベル、一体何を……」

 

 エリィが言葉の真意を問い質そうとした時、カンパネルラが指を鳴らした。すると彼らの向かい……アイネス、エンネア、シャロンの立ち塞がる傍に淡い色の光が生まれる。そしてそこから姿を見せたのは、見覚えのある仮面を付けた少女だった。

 

「っ! まさか……」

 

「ティア、なんですの……?」

 

「ティアさん!」

 

「……」

 

 顔は見えないが、その容姿や格好はその場に居る殆どの者に見覚えがあった。しかしデュバリィやアルティナの声に反応する様子は無く、嘗て似た様な経験をしていたアンゼリカが少し目を閉じてから告げる。

 

「どうやら、私やクロウと同じみたいだね。……ジョルジュ」

 

 クロウが蒼のジークフリートだった時。そしてアンゼリカが紅のロスヴァイセと名乗っていた時、それぞれ同じ様な仮面を付けていた。共に別人となっていた間、過去の記憶を思い出せずに活動していた2人。今、ティアは正しくその状況であった。アンゼリカがそれを仕掛けた者に心当たりがあった為、その名前を呟いて思い浮かべる。

 

「そんな……」

 

「……アイネス、エンネア。これは、マスターのご意思ですの?」

 

「……」

 

「……」

 

「答えなさい!」

 

「っ! ……えぇ、そうよ」

 

「我らと共にこの艦を襲撃する様、マスターは命じられた」

 

 アリサが目の前の光景にショックを受ける中、デュバリィは2人へ問い掛ける。だが2人は今のティアから視線を外し、何処を見ようともしなかった。しかしデュバリィの悲痛の叫びにも聞こえる言葉に、やがて2人は答える。

 

「……ティア」

 

「ティ、ア……? 違う。私、は……ロスト、ナンバー」

 

 フィーがティアへ声を掛けるが、それにようやく反応した彼女は首を傾げた後に否定する。そして、片手を上に上げた時。更なる光景に全員は驚愕した。

 

「あれは……アルと同じ戦術殻!」

 

「グラー、シーザ……行く、よ?」

 

 ティアの背後に出現するのは、アルティナが扱う戦術殻……クラウ=ソラスや、ミリアムが扱っていた戦術殻……アガートラムと酷似した真っ赤な傀儡。その名はグラーシーザ。

 

 戦闘の意思を見せる彼女と戦わないのは不可能だと悟った面々。他にも強敵が揃う中、ティオが1歩前に出る。

 

「エリィさん。其方はお任せします」

 

「ティオちゃん……えぇ。分かったわ」

 

 ティア……ロストナンバーと戦う意思を固めたティオの様子に、エリィは導力銃を構えて彼女の背中を守る様に反対を向いた。そんなティオの行動を見て、4人の少女達が並ぶ様に前へ立つ。

 

「ラウラ、任せた」

 

「承知した!」

 

「エマ、背中は任せるわ!」

 

「はい。私達の分まで、お願いします! 必ずティアちゃんを!」

 

「ユウナさん」

 

「分かってるって。友達を取り戻して来なさい、アル!」

 

「ふふ。相変わらず人気者ね、あの子は」

 

 フィーがラウラへ。アリサがエマへ。アルティナがユウナへ。それぞれ背中を任せ、デュバリィは誰にも言う事無く同じ様に彼女達と共にロストナンバーと鉄騎隊の2人。そしてシャロンと対峙した。……そんな光景に、大きな鎌を持つ菫色の髪をした少女が笑みを浮かべながら呟いた。

 

 男性陣も2手に分かれて戦闘を開始。同時に始まる4つの戦いは、正しく死闘であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エイオンシステム、起動します。それっ!」

 

 ティオが魔導杖を片手に魔法を使用すれば、優しい風に包まれた5人の身体は浮かびそうな程に軽くなり始める。神速と言われる程に元の速度が速いデュバリィはその影響で残像を残してアイネスとエンネアへ接近。一瞬にして2人を間を通過する。

 

「ぐっ!」

 

「私達の星洸陣を、容易く……」

 

「以前の貴女達なら、こうは行きませんわ。ですが迷いのある今の貴女達が使う星洸陣など、付け焼き刃にもなりませんわね」

 

 膝を突く2人へ静かに告げるデュバリィ。そのすぐ傍では、アリサが身軽に回避を繰り返すシャロンへ矢を放ち続けていた。

 

「シャロン! 貴女が教えてくれたんでしょう! 可愛い子は、愛でるべきだって! なのに、それを教えてくれた貴女があんな残酷な事を見て見ぬ振りするつもりなの!?」

 

「っ! ……」

 

「取り戻して見せるわ、貴女も。ティアちゃんも。絶対に!」

 

 アリサの言葉に悲痛の面持ちを浮かべ、決して語らずに戦いを続けるシャロン。そんな彼女にアリサは決意を込めた矢を放ち続ける。

 

「え、いっ!」

 

「っ!」

 

「燃え、て……!」

 

「させません!」

 

 そのまたすぐ傍では、グラーシーザの腕を振るってフィーへ攻撃を仕掛けるロストナンバーの姿があった。フィーはそれを側転しながら躱すが、そんな彼女に炎の魔法が迫る。しかし素早く間に入ったアルティナがクラウ=ソラスの力で障壁を張り、攻撃を防いだ。

 

「……やっぱり」

 

「? 何か分かったんですか?」

 

「ティア、何時もなら同時に魔法を使ってくる。でも今は1種類しか使って来ない」

 

「同時に魔法を?」

 

 距離を取ったフィーは戦いの中で気付いた事をティオへ告げる。彼女の言う様に、ティアは同時に魔法を扱う事が出来る筈だった。だが、ロストナンバーはそれをしない。

 

「もしかするとしない(・・・)のではなく、出来ない(・・・・)のかも知れません」

 

「なら、問題無いね」

 

 同時に迫る魔法は凶威。しかしそれを使えないなら、幾多の修羅場を潜って来た3人の敵では無かった。……しかし、そんな3人に向けて、ロストナンバーはゆっくりと手を向ける。途端、彼女の目の前に黒い球体が生まれ始めた。

 

「っ! 何を……」

 

「吸い込まれますっ!」

 

 その球体は周囲を吸い込み始め、黒い影が入り込む度に肥大化して行く。再び立ち上がったアイネスとエンネアを相手にするデュバリィも、戦い合うアリサとシャロンも。その光景に手を止めてしまった。

 

「な、何ですの……あれは」

 

「何も感じない……まるで」

 

 『虚無』。その光景を見た者達が思う中、ティアはそれを対峙する3人へ放った。

 

「みんな、消えちゃえ……エンドレス、ヴォイド……!」

 

 迫る黒い球体は周囲を吸い込む様に接近する。その勢いに逃げる事も敵わず、3人の元へそれは無情にも近づいた。

 

 

 

 

 

「リベリオン、ストーム!」

 

 だが飲み込まれる寸前、何処からともなく飛来する巨大な緑の球体が黒い球体に横から接触。黒い球体を弾き飛ばし、それは空に浮かぶ雲を元から存在していなかったかの様に消し去って消滅した。

 

 各戦いが終わりを迎える中、空から1人の男が飛来する。彼は3人とロストナンバーの間に着地すると、体勢を低くしたまま素早く導力器を片手に駆動を開始。瞬く間にロストナンバーの足元に茨が出現し、彼女を拘束した。

 

「ぁ……」

 

「あ、貴方は……!」

 

「ったく。最高のタイミングを作ってくれやがって」

 

 何処か面倒そうに呟いて立ち上がり、その顔が露わになる。……それは1月以上前、カレイジャスの爆破で亡くなった筈のトヴァルであった。

 

「だ、れ……?」

 

「おまけにお前さんが敵とはな」

 

「っ! え、いっ!」

 

 ロストナンバーは茨から脱出すると、空かさずトヴァルに向けて水の刃を放つ。だがそれを軽々とスタンロッドを振るって防ぐと、猛スピードで彼女の傍に近づいた。トヴァルの接近に慌てた様子で魔法を放つが、その全ては尽く躱される。

 

「魔法を使用する時は落ち着いて冷静に。そう教えた筈だぜ? まぁ、今のお前さんは俺の知ってる弟子(ティア)じゃ無いから仕方ないか。って事で、退場だ」

 

「!?」

 

 目の前に立った彼は、スタンロッドをロストナンバーの仮面へ振り下ろした。全力では無いその打撃は高い音を鳴らし、真ん中から仮面に罅が入ると……やがて2つに割れて床へ落下する。

 

「……ト、ヴァル……?」

 

「おはようさん、寝坊助」

 

 ロストナンバー……ティアは一瞬彼の名前を呼び、彼の言葉を受けてゆっくりとその身を彼の方へ倒した。再び眠ってしまったティアを受け止め、後ろ髪を掻きながらも彼は自分の存在に動揺する面々と向かい合う。そして度重なる衝撃に、パンタグリュエルに乗る者達は歓喜した。



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7-4

「ティアの事、宜しくお願いします」

 

「うむ。血は繋がって無いとは言え、リアンヌの子じゃ。里の者にも話は通して置こう」

 

 パンタグリュエルでの戦いから1日。トヴァルによって負かされたティアは眠ったままであった。診る者が見た結果、ティアは背中に受けた傷が完治しないまま無理に身体を動かして戦っていた事が判明。その無理が祟った可能性もあると診察された。

 

 リィン達は彼女を一時的にエマやヴィータの故郷であるエリンの里へ預ける事にした。新しく乗船する事になったカレイジャスⅡでも悪くは無いが、揺れる船に乗り続けるより里の長である見た目少女の女性……ローゼリアの家に預けた方が安心出来たのだ。

 

 彼女と戦い、呪いの真実を知ったリィン達は次の目的……相克へ挑む為に里を離れる。彼らの姿が見えなくなったところで、ローゼリアは自分の家にあるベッドで眠るティア。そして彼女の傍に佇む2人の少女達に目を向けた。

 

「お主ら、ずっとそこに居る気か? 少しは休まぬと、身体が持たんぞ?」

 

「この程度で倒れる様じゃ、鉄騎隊は務まりませんわ」

 

「もう少し、傍に居させてください」

 

 それはティアと共に里へ残ったデュバリィとティオ。2人は3つ並んだベッドの左右に座り、真ん中で眠るティアを眺め続けていた。リィン達も同じだが、誰よりもティアを捜索し続けていた2人。その相手が目の前に居れば、離れたく無いと思うのも仕方の無い事なのかも知れない。ローゼリアは「やれやれ」と呟きながら首を横に振って、里に居る住人達へ伝える為に家を後にした。

 

「……」

 

「……」

 

「……ずっと、気になっている事があります」

 

「……何ですの?」

 

 お互いに同じ存在を眺め続けていた時、突然ティオが目を反らさずにデュバリィへ語り掛ける。それに驚く様子も無くデュバリィが聞けば、ティオはティアから彼女へ視線を移した。

 

「地精の長が去り際に言った言葉。どう言う意味だったんでしょうか?」

 

 それはトヴァルを始め、あの爆発で生き残ったオリヴァルト達の登場で戦いが終結した後の事。帝国と結社の者達が去ろうとする中、帝国側でリィン達と戦う皇太子、セドリック・ライゼ・アルノールがトヴァルに囚われたティアの処遇をどうするか地精の長、黒のアルベリヒに質問した時の言葉。

 

『あれの回収は?』

 

『必要ないだろう。既に何方も一度、破棄した欠陥品だ。今更向こうに渡ろうが、支障は無い』

 

 まるで物の様に言い放ったその言葉はティオを始め、数々の存在の怒りを買った。だが通信で顔を見せていた彼をその場でどうする事も出来ず、その怒りは堪える事しか出来なかった。……破棄。その言葉にティオが思い出すのは、教団でティアが捨てられた事実。だが教団の人間では無く、ティアの存在を昔から知る筈の無い黒のアルベリヒがそれを言う理由がティオには分からなかった。

 

「私も、気になっている事がありますわ。……ティアはあの傀儡、グラーシーザとやらを使っていた。……あれは誰でも扱える物ではありませんわ」

 

「アルティナさんや、亡きミリアムさんが使っていたのと似た別種の戦術殻。地精の長が一度廃棄した……! そんな筈は……ティアは確かに私の」

 

 ティオは1つの可能性に気付いた。だがそれは血の繋がりがある姉妹故に、ありえない事。ティアが約2年前にクロスベルへやって来る以前、本当に姉妹かどうかの確認を当然トヴァルは行っていた。故にちゃんと血縁関係のある姉妹だと証明もされている。しかし、目の前の事実と黒のアルベリヒの告げた言葉はそれを物語っていた。

 

「……ティ、オ……?」

 

≪!≫

 

 突然、弱々しく紡がれるティオの名前。それはずっと彼女が聞きたいと思っていた声が発したものであり、2人は急いでティアの傍へ駆け寄った。まだ眠そうに。だがゆっくりと目を開いたティアの姿に、2人は喜びの余り涙を流さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ね……私……一度、死んじゃったの」

 

「ぇ……」

 

「なぬっ?」

 

「……どういう事ですの?」

 

 完全に目を覚ましたティアは、ベッドへ座りながらティオ。デュバリィ。そして帰って来たローゼリアへ語り始める。因みにローゼリアはその見た目が少女の様であり、昔に比べて人に慣れたティアが怖がる事は無かった。

 

 

 ティアが語るのは、ティオと共に誘拐されてからの話。魔法を生身で扱える様に身体を改造する実験が行われ、成功はした。しかし彼らが思う様に使うにはまだ幼過ぎたティアは破棄と言う形で処分される。度重なる実験と、碌な物を口に出来なかったティアの身体は死ぬ寸前だった。捨てられた場所から動く事も出来ず、声も出ないままその命の灯は消え……ある出来事によって再び命を灯される。

 

『……ぉねぇ、ちゃん……』

 

『……』

 

 死ぬ寸前、姉を呼ぶティアの声に反応する様に。白い靄が彼女の傍に現れる。そしてそれは何度かティアの周りを回った後、彼女の身体を包み込んだ。……その光はティアの身体にあった実験の傷を癒し、健康体と言えるまで治してしまう。

 

 ティアが再びゆっくりと目を開けた時、彼女の目前には複数人の少女達が身体を薄くしながら立つ姿があった。

 

()達と貴女は同じ……()達も、捨てられてしまったから』

 

「……ぉな、じ……?」

 

『でも、分かるんだ……妹は、助けないと駄目。お姉ちゃん、だから。……だから、もし貴女が元気になったら。何時か出会う事が出来たら。私達の妹を、守ってあげて』

 

 再び薄れる意識の中、その言葉を聞いたティア。次に彼女が目を覚ました時、最初に見たのは鎧を着た美しい女性(アリアンロード)だった。

 

 

 ティアの話を聞き、彼女を救ったその光が何かを考えるティオ達へティアは告げる。……光の中に居た少女達が告げた妹とは、ミリアムとアルティナの事だと。それだけで、その光の正体が何かを3人は理解した。

 

「Oz。ミリアムさんやアルティナさんと同じ、黒の工房が開発した人造人間」

 

「確か、彼女達は73番目と74番目でしたわね」

 

「それ以前のものは破棄されたと考えるのが自然じゃろうな。じゃが、その意思達はこの世を彷徨って居た。そして、お主と出会った」

 

「俄かには信じられない話ですが……今までありえない話が真実だった場面を、私は幾つも見て来ましたわ」

 

 デュバリィの言葉にティオも同意を示す様に頷いた。同じ部屋に魔女(・・)すら居るのだから、不可思議な話も信じる事が出来た。すると、ティアは不安げにティオを見る。

 

「あの、ね……ちっちゃい頃の、ティオとの事……思い出せた、の。少し、だけど」

 

「っ! 本当ですか?」

 

「う、ん。……本当の、パパとママ、は……思い出せない、けど……ティオ、私を……守ろうと、してくれた」

 

 幼過ぎる頃の記憶は誰もが忘れてしまうもの。だが同じ様に微かに残る記憶もあり、ティアの場合は……誘拐されようとした時にティオが必死で自分を助けようとしてくれた記憶であった。

 

「あり、がとう……ティオ」

 

「っ!」

 

 11年越しの感謝を伝えるティアへ、ティオは再び涙を浮かべながらその頭を抱え込む様に抱き締めた。涙を流す彼女にティアも涙を流し始め、そんな様子にローゼリアは「良い話じゃのう」と貰い泣きする。そして互いに泣き続ける2人を前に、デュバリィは目を閉じてから窓の外へ視線を向けた。

 

「(マスターは、こうなる事を見越していたんですわね。あの戦いでティアが破れ、此方側(・・・)に来る様に仕向けた)」

 

 それは根拠の無い想像だが、それでもデュバリィは確信していた。間違い無く、もうティアはリィン達と敵対する事は無いだろう。このまま戦いが終わるまで身を隠すか、もしくは彼らに協力するか……それはティアの意思次第である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後。ティアはローゼリアの家でティオ、デュバリィの2人と仲良く話をしていた。目を覚ました事で、自らの傷を治す為に魔法を使用したティア。傷自体はその特異な回復力で治す事が出来たものの、時間が経ってしまった為か跡までは消す事が出来なかった。消えない跡を見る度に辛い顔をするティオだが、ティアは特に気にしていない様子で「大丈夫、だよ」と彼女へ答える。

 

 現在、家の主であるローゼリアは不在だった。彼女もリィン達と同じく忙しい様で、ティオとデュバリィもそろそろ合流するべきだと考えていた。ティアが目を覚ました事は今朝連絡済みであり、彼らが来次第合流する予定である。……2人はティアが今後どうするかの決意も既に聞いていた。

 

「大変です! 何か怖い人たちが急に!」

 

「っ!」

 

 それは突然だった。エリンの里に住む少女の1人がローゼリアの家へ飛び込む様にして入って来ると、里の者では無い男達が近づいて来る事を知らせる。本来、許されたものしか入る事の出来ない結界に守られた里。近づく男達の様子は明らかに害意があり、3人はローゼリアが不在な事もあってまずは様子を見る事にした。

 

「あれは……結社の強化猟兵、ですわね」

 

「話によると、今は相克の最中。この里を襲う理由が見当たらないのですが」

 

「と、なると……お遊び。結社の意とは別の何か、かも知れませんわね」

 

 里の者の力を借り、室内から外の様子を眺める3人。接触すれば襲ってくる可能性は高く、ティオはまず里の人間を一番大きなローゼリアの家へ避難させた方が良いと考える。デュバリィも同意して、彼らが里に入り込み始める前に全員を避難。魔女達が強力な結界を張る事で、攻撃をされてもビクともしない頑丈な要塞を作り上げた。

 

「さて。ここに閉じ籠っていれば、危険はありませんわ。ですが、解決もしない」

 

「……ロゼさんやリィンさん達との連絡は何かで妨害されている様です。ですが今朝連絡を入れていますし、恐らく今日明日には来るかと」

 

「確かにそうですわね。ですが、それで良いんですの?」

 

「デュバリィ……?」

 

この程度の相手(・・・・・・・)に彼らを頼るなら、何も出来ませんわよ(・・・・・・・・・)? ティア」

 

「っ! ……あ、う……」

 

 強化猟兵は徐々に里の中へ入り始める。その全てが大人の男性。ティアが恐怖する対象であり、だがデュバリィの言う通り戦えなければティアの決断も話にならない。煽る様な様子にティオがデュバリィへジト目を向けるも、向けられた本人は「試験ですわ」と告げた。

 

「ティアちゃん、無理しなくても良いんだよ?」

 

「リィンさん達が来れば、守ってくれる。それまで耐えれば良いのよ」

 

「!」

 

 まだ3日程度しか居ないものの、里の者と話をする機会もあったティア。彼女達はティアへ優しく告げるが、最後に続いた言葉。『リィン達が守ってくれる』と言う内容に、彼女は反応する。そして意を決した様に、家の出入り口の前に移動した。

 

「守られるじゃ、駄目。守る為に……戦うの!」

 

『……』

 

「ふっ。言いましたわね。なら、次は行動ですわよ」

 

「はぁ……仕方ありません。里の方には色々お世話になっていますし、恩返ししましょうか」

 

 ティアの決意と共に、その背後へ出現するグラーシーザ。デュバリィが己の武器を構えてティアの右に並び、ティオが魔導杖を手にティアの左へ並ぶ。里の住民である少女が3人の様子に、その中でも特に戦おうとするティアの様子に心配そうな視線を向けるが、そんな彼女の肩に女性が手を置いた。

 

「誰でも、自分の殻を破らなければいけない時が来る。今、あの子は殻を破る為に戦おうとしてるの。見守ってあげましょう」

 

 女性の言葉は少女だけでなく、里の者の殆どに届いた。そして家を出る3人を見送り、唯々無事を祈り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 立て籠もられた事で人質も取れず、頭を抱える強化猟兵達。そんな中、結界の中から出て来る3人の姿に彼らは驚いた。そして、その中に結社では有名な神速が居る事で彼らに動揺が走った。

 

「結社の強化猟兵。何が目的が知りませんが、ここに手を出すと言うならば、私達が相手になりますわ」

 

「エイオンシステム、起動。迎撃モードを開始します」

 

「皆を、守るの……ここから、出て行って……!」

 

 剣を前に向けながら告げるデュバリィ。魔導杖を横に構えて魔法を何時でも放てる様に準備をするティオ。大人の男性達に恐怖を感じながらも、怯まずに言い切ったティア。まだ若い少女達だが、その気迫は強化猟兵達も怯む程だった。が、それでも子供が2人。全員女性と見て侮った彼らは、3人を囲む様に移動し始める。

 

「まぁ、予想通りですね」

 

「引く訳がありませんわ。隊長があれなら、特に」

 

「なあっ!?」

 

 登場と口上だけで撤退する訳が無く、強化猟兵達の行動は予想通りだった。そこでデュバリィが少し離れたところに立つ1人の男性を見ながら告げる中、大人の男性達に取り囲まれた事でティアが少し震え出してしまう。

 

「大丈夫です。もう、1人にはしませんから」

 

「マスターにそんな腰抜けな様子を見せるつもりですの?」

 

「……違う……! リィン達と、一緒に……ママに、会うの!」

 

 ティアの言葉に2人が同時に笑みを浮かべ、それを合図に襲い掛かる強化猟兵達。だがデュバリィの速さに追いつけず、ティオの魔法に抗えず、ティアの操るグラーシーザに彼らは容易く吹き飛ばされた。

 

「な、何なんだあの女達は!」

 

「あの人、が……一番、偉い人……なら。そ、れっ!」

 

「あちっ! あちち! って、ひぃ~!」

 

 部下たちがやられる姿に戸惑う中、そんな彼を狙ってティアが全力で魔法を放った。途端、彼の足元に疑似的な足場が出現。里への被害を防ぐと共に、その足場は炎に包まれる。それに苦しむ中、彼は自分へ向けて近づいて来る炎の鳥に気付いた。火から逃れる為に足を動かすしか出来ない彼はその火の鳥の急接近を逃れられず、やがて爆発に巻き込まれる。

 

「ぐはっ! ぐぬぬ……まだまだぁ!」

 

 黒い焦げ跡を残して倒れ伏した男。だがそれでも立ち上がった彼は逃げる様にその場を離れ始める。気付けば強化猟兵達は尽く地に伏しており、3人は隊長である彼を追って里から少し離れた広場へ向かった。……そこには浮遊する機械に乗り、更にその傍に現れたのは帝国が使う強力な主力戦車。しかも独りでに動いており、完全に自立している様だった。

 

「はっはっは! 機甲兵すら木っ端微塵にする帝国の主力戦車(アハツェン)の力、とくと味わえ!」

 

「くっ! 流石に不味いですわね」

 

「生身で相手にするのは、分が悪いかと」

 

「あう……それ、なら……」

 

 その装甲も下手な攻撃では傷1つ付けられそうに無かった。故にデュバリィとティオが焦る中、ティアが前に出て両手を突き出す。

 

「何をしても無駄無駄ぁ……え?」

 

「これは、あの時の!?」

 

「なるほど。確かにそれなら……ティア、遠慮は要りませんわ。消し去ってしまいなさい!」

 

 余裕を持っていた男は、ティアの目の前に生まれる黒い小さな球体が周りを吸引しながら徐々に大きくなる光景を前に言葉を失う。それはパンタグリュエルでロストナンバー(ティア)が使おうとした魔法。ティオが驚き、デュバリィが納得して言い放つ中、男は不味いと悟って戦車に発砲を促した。が、戦車が放った弾丸は黒い球の中へ入ると共に何も無かった様に消滅してしまう。

 

「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」

 

 十分に大きくなった黒い球を戦車へ放ったティア。それは戦車の全てを飲み込み、やがて消え去ってしまう。残るのは丸い円形に地面の抉れたクレーターだけ。その光景に男が呆気に取られる中、その隙を見逃さずにティオとデュバリィが連携して彼の乗る機械を攻撃した。バランスを取れなくなり、地面へ激突して大破する機械。それに乗っていた彼は放り出され、その目前にデュバリィの剣が突きつけられる。

 

「勝負あり、ですわね」

 

「ひぃ!」

 

 男の情けない悲鳴を最後に、戦いは決した。



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間章+α

 エリンの里に居る者達と連絡が取れなくなり、里へ通じる転移門の傍まで近づいた事で強化猟兵達が見張っている事に気付いたリィン達。陽動チームと突入チームに分かれ、里を奪還する為に決行した突入作戦は無事成功。だが里の中へ入って来た突入チームの目前に広がっていたのは、既にやられた強化猟兵達の姿だった。

 

 リィンやランディを含んだ突入チームは戦闘の音がする広場へ急行。そこにはデュバリィに剣を突きつけられる男の姿があり、ティオが彼らに気付いて安心した様に声を掛ける。……その様子に、混乱していた彼らは完全に理解した。既に戦いは終わっていると。

 

 敵に囲まれ怯える男を更に追い詰める様に、里を離れていたローゼリア。リィン達と別行動をしていたエマ。そしてエマの姉であり、エマと同じくローゼリアの孫であるヴィータが怒りを露わにしながら姿を見せる。彼女の登場に、その再会にティアは喜ばずにはいられなかった。

 

 カンパネルラが続けて現れ、男に電撃を浴びせながら告げるのは彼らの独断である事。そしてもう二度とこの里に手を出さないと言う約束。盟主に誓うと告げれば、同じく結社の人間であったヴィータがその重さを説明した。……そして、エリンの里には再び平和が戻る。

 

「ティアさん!」

 

「アルティナ……」

 

「ティア」

 

「ティアちゃん!」

 

「フィー……アリサ……」

 

 陽動として動いていた面々も合流。そこでティアはアルティナや旧Ⅶ組の面々を始め、数多くの者と本当の再会を果たした。もう逃げる事も離れる事もせず、抱き着いて来たアリサを受け入れるティア。……そんな彼女達の傍には、嘗ての使用人の装いをしたシャロンも立っていた。

 

「シャロン……」

 

「お互いに、ただいま……ですわね?」

 

「……うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレイジャスⅡ。エリンの里を離れ、リィン達が乗る船にティオ、デュバリィと共に乗り込んだティアを迎えたのは左目に眼帯を付けた男性……オリヴァルトだった。嘗てティアはパンタグリュエルの甲板で彼を見かけた事がある。だがそれ以上の記憶は無く、反対に彼はそれ以上にティアの事を知っている様子で旧Ⅶ組の人間としてティアを歓迎した。

 

 ブリッジに集まるのは、新旧Ⅶ組を始めとした、共に帝国や結社に立ち向かう面々。全員がティアを囲む様に立つ中、彼女は意を決した様子で告げる。

 

「リィン……皆。お願いが、あるの。私も、ママのところに……行きたい」

 

 既にティアの意思を知っていたティオとデュバリィは驚かない。だが他の面々は、これから向かう相克の相手がアリアンロードであるが故に動揺を隠せなかった。……彼女との戦いはまず、避けられないだろう。共に行くとなれば彼女と敵対する事になりかねず、何よりリィンが無事に彼女に勝った場合。その後どうなるか分からなかった。……昨日フィーが父親と呼べる相手との別れをした事が、余計にその不安を煽ってしまう。

 

「……覚悟は、出来てるの?」

 

 それは消えてしまう彼女を見送る覚悟か、敵対する事への覚悟か……恐らく両方なのだろう。辛い経験を乗り越えたからこそ、フィーはティアに問う。するとティアは静かに頷いて、フィーと目を合わせた。

 

「……そっか。なら、私は別に良いと思う」

 

 フィーはそう言って他の面々を見回す。各々思う事はあるが、止め様とする者は誰1人としていなかった。ティアがアリアンロードをママと慕うなら。共に向かった方が良いと思う者の方が多かったのだ。

 

 アリアンロードが待ち受けるのは、クロスベルにあるエルム湖湿地帯。カレイジャスⅡがクロスベルへ向けて進み始める中、ティアはカレイジャスⅡの1階。船倉でリィンが乗り熟す灰の騎神ヴァリマールと、その傍にある1本の剣を見ていた。

 

「ティアさん」

 

「……ごめん、ね。……守れなくて」

 

 その剣は死したミリアムが変わった姿。アルティナが声を掛ける中、ティアはその剣に近づいて謝り始める。すると僅かに剣が光った様にアルティナには見えた。

 

「ティアさんも、ミリアムさんも、私の為に傷を負い、剣となりました。あの時の出来事は、今でも夢に出て来る程に辛い事です」

 

「アル、ティナ……」

 

「ですが、今ティアさんはこうしてここに居ます。ミリアムさんの意思も、ここに」

 

 もう1度僅かに光った様に見える剣。今度はティアもそれを見ており、弱々しくも彼女はアルティナの言葉に頷いた。

 

 少しの間彼女と話をした後、ティアは甲板へ足を進めた。雲の上を走るカレイジャスⅡ。パンタグリュエルでは余り甲板に出られなかった為、それを見るティアへ背後から声を掛けたのは……フィーだった。

 

「余り身を乗り出すと、落ちる」

 

「あう……うん、気を付ける。……フィー、さっきは……ありがとう」

 

「ん……ティアの覚悟は、感じたから」

 

 そう言って、ティアの隣で両肘を落下防止の柵の様になっている場所へ乗せる。ティアも再び広大な空の光景に視線を向ける中、静かにフィーは口を開いた。

 

「ずっと……待ってた」

 

「フィー? っ! あう?」

 

 その言葉に視線を向けた途端、ティアはフィーに抱きしめられる。昔は肩に乗っていた顔も、今ではフィーが成長した事で胸に抱かれる様になった中、フィーは更に強くティアを抱きしめた。

 

「お帰り」

 

「……うん。ただいま、フィー」

 

 懐かしきクロスベルが見えて来る中、ティアはフィーの胸の中でもう1度自分が友達や仲間の元に帰った事を実感した。




ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬A 突S 射B 剛A
※アルティナやミリアムと同じ様に戦術殻、グラーシーザで突く様に攻撃する。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

ロスト・ゼロ
全力で魔法を使用する。
※ロストアーツ選択可 このクラフトで使用した場合、再使用が可能
CP80 EP500 威力は使用する魔法に依存。次ターン、行動不可。
「そ、れっ!」

ホーリーエール
ティアの応援で共に戦う仲間の士気を高める。
CP20 円L(自分中心) 自身対象外
CP+30 HP10%回復。※一部キャラのみ、極稀に効果増大。
「皆。頑張ろう……!」

???


【Sクラフト】

エンドレスヴォイド
虚無の魔法で敵を吸い込み、消滅させる。
CP100~200 威力4S ブレイクC 崩し無効 全体 消滅

両手を前に突き出し、周囲を吸い込みながら巨大な黒球を作り上げる。それを敵の中央に投げ込むと、黒球は一気に肥大化して全てを飲み込む。そして大地が無くなり、最後には丸型の巨大なクレーターが出来上がる。
「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」

???


【オーダー】

シャイニングカーレッジ
BP3 5カウント 与ダメージ+30% ブレイクダメージ+50% EP全回復 毎ターンCP+20
「皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

???


【???????】

??? 『???・???・???』


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー・ミリアム
アルティナ
ティオ
トヴァル
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
アイネス・エンネア
★★★★☆
アリサ
シャロン
ヴィータ
★★★☆☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ・サラ
クロウ
ランディ・エリィ・ノエル・キーア
アルフィン
マクバーン
ローゼリア
★★☆☆☆
アンゼリカ
ロイド・ワジ
ユウナ・クルト・アッシュ
ミュゼ
ゼノ・レオニダス
カンパネルラ
★☆☆☆☆
ブルブラン


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第Ⅱ部-第8章- ~ママ~ 運命の改変
8-1


 アリアンロードの待つ、エルム湖湿地帯へ向かっていたカレイジャスⅡ。だがその行く手を謎の障壁が塞いでしまう。それはティアがエリンの里に居た際に、リィン達が一度遭遇した障壁。結社や帝国の人間がそれを展開しており、超える為には発生源を見つけて破壊する必要があった。

 

 障壁の発生源を見つける為、クロスベルへ降り立ったリィン達。約2年ぶりの街並みにティアが辺りをきょろきょろと見回し、やがてリィン達は別行動をする事になった。

 

 リィン達は黒月(ヘイユエ)と呼ばれる組織の協力で、障壁の発生装置がクロウベルに建つ巨大なビル。オルキスタワーにある事を掴む。だが当然警備は厳重で、潜入する事は難しい。……そこで彼らが考えたのは、歓楽街にあるアルカンシェルで大きな公演を行う事で警備を薄くする事だった。クロスベルには特務支援課と親しく、リィン達に協力してくれる者が多数居る。アルカンシェルのダンサー達もそうであり、演奏家として名を上げていたエリオットや歌声が美しいアルティナ。他にも様々な者達が協力して、公演の準備に取り掛かり始めた。

 

「ティアさん」

 

「アルティナ……何か、お手伝い……する?」

 

 合流したティアも機材を運ぶガイウスや踊りの練習をするダンサー達を見て、自分もやれる事を探そうとする。そんな中、彼女に気付いたアルティナが声を掛けた。彼女はティアの言葉に少し考えた後、ティアを連れてエリオットの元へ。

 

「……どうでしょうか?」

 

「なるほど。ティアちゃんの歌、ですか」

 

「確かに……士官学院で軍楽の授業の時に歌う事があったけど、ティアは上手かったもんね」

 

「ただ、当の本人が人前で歌えるかどうかね」

 

 アルティナはエリオットへティアと一緒に歌う事を提案した。彼女はパンタグリュエルで共に声の練習をした経験から、ティアの歌声に関して知っていた。そして同じ学院で数ヵ月共に過ごしたエリオットやエマも、それは同じ。……彼らの言う通り、ティアの歌声はとても魅力的なものだった。しかしサラの言う通り、本人があがり症の上に臆病な為、人前で歌えるかが問題である。

 

「ティアさん、一緒に歌いましょう」

 

「あ、う……人、一杯、なんだよね?」

 

「緊張するなら、見てる人を野菜と思えば良いそうです。全部、にがトマトだと思いましょう」

 

 彼女の提案に狼狽えるティアへ、諦めずにアドバイスをして歌わせようとするアルティナ。……ユウナはそんな彼女を見て思う。あれは、何が何でも一緒に歌わせる気だと。やがて、アルティナ以外の者達もティアを説得。彼女はアルティナと共に、舞台で歌う事に決まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。ティアは緊張した面持ちで、舞台袖に立っていた。アルカンシェルのスタッフから借りたきらびやかな衣装を身に纏い、聞こえて来る客席の歓声と増える人の気配に怯えるティア。そんな彼女の手を、近くにいたアルティナが優しく握る。

 

「大丈夫です。一緒、ですから。それでも不安なら、本番でもこうしていましょう。少しは、安心出来る筈です」

 

「アルティナ……うん。ありがとう」

 

「ティア。昨日あれだけ練習したんだから、大丈夫。勇気と自信を持って!」

 

 エリオットからの応援も受け、やがて本番が始まる。彼の演奏を背後に、踊る者達の気配を感じながら。ティアはアルティナと手を握って歌を歌った。見える人々に怯え、途中で歌が止まりそうになっても。それを応援する様に前で踊る者達や、アルティナが言葉にはせずに彼女を勇気付ける。やがて歌姫として世界的に有名なヴィータや、仮面を付けたまま現れた謎の紳士、ブルブランが現れて更に公演は盛り上がり……その最中、リィン達はオルキスタワーで激闘の末に目的を達成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 協力してくれた者達にお礼を告げ、ティアがリィン達と共に居る事に喜ばれ、彼らは目的であったエルム湖湿地帯へ降り立つ。相克が行われるのは、霊場と呼ばれる特別な場。故にその入り口を探す為、彼らは遠くから見える光を頼りに進み始める。

 

 道中、デュバリィが過去に特務支援課とこの場所で邂逅した思い出を聞いて共に行動していたユウナが驚くなどしながら、邪魔する魔獣を蹴散らしてリィン達は霊場の入り口を見つけ出した。巨大な門の様なその光景を前に、ティアは胸の前で拳を握る。

 

「! あった!」

 

「この先に……ママが」

 

「アイネス、エンネアも待ち構えている事でしょう。ティア、最後にもう1度問いますわ。覚悟は、良いですわね?」

 

「……うん……! 絶対に、ママと会う、から!」

 

 ティアの決意を聞いて、騎神で戦う事になるリィンとクロウは互いに頷き合う。そして全員は霊場へ足を踏み入れた。……エルム湖湿地帯から一気に光景が変貌し、見えるのは巨大な星と浮かぶ岩。迷路の様に連なる道はとても長く、だがその道の途中にティアは2人の気配を感じ取った。別々の場所に立つ、アイネスとエンネアの気配を。

 

 相克を始めるには、まず場を整える必要がある。その鍵は闘争であり、彼女達は場を整える為にリィン達を待ち受けていた。まず最初に彼らが辿り着いたのは、エンネアの元。彼女はリィン達やデュバリィ、そしてティアの存在に気付いて優しい笑みを浮かべた。

 

「もう、大丈夫なのね……ティアちゃん」

 

「エンネア……うん。大、丈夫」

 

 だがその優しい笑みは、ティアの答えを聞くと同時に消え去る。そして見せるのは、敵としての険しい表情。

 

「ここに来たのなら、分かっている筈よ」

 

「う、ん……でも、ママに会うの。だから、私は……戦う……!」

 

「マスターの元へ辿り着く為に、踏み超えさせていただきますわよ」

 

 弓に矢を番え、構えるエンネア。その左右に現れるのは、結社の人形兵器が2体。リィン達も各々武器を構え、戦いは始まった。

 

 人形兵器が前衛。エンネアが後衛となって陣形を組む中、ティアもデュバリィの後ろで魔法を放つ。雷の魔法を連続で受ければ、機会故にショートして動きの止まる人形兵器。デュバリィも素早い剣戟で人形兵器を破壊し、瞬く間にエンネアを追い詰めた。

 

「ふふっ、見事なものね」

 

「もう、終わりですわ」

 

 エンネアの放つ矢は、デュバリィが軽々剣で叩き落してしまう。勝負は決し、乾いた笑みを浮かべて称賛するエンネアへデュバリィは告げた。

 

「……エンネア」

 

「ティアちゃん。……私は、貴女の事が少し……羨ましかったわ」

 

「ぇ……」

 

「同じ教団へ実験体として両親に差し出され、その後私はマスターやデュバリィに救われた。そして、マスターをママと慕う貴女にも出会った。……あの頃の私は、両親に捨てられた事が悲しくて仕方が無かった」

 

 デュバリィやティアは知っていた、エンネアの過去。だがリィン達は当然知らず、彼女の言葉でエンネアがティアと同じ教団の被害者であると知る。

 

「親を覚えていない。そんな貴女が、とても羨ましかった。……だけど、そんな私の心をマスターや貴女達は癒してくれた。本当に、幸せだったわ」

 

 最後の言葉と同時に、エンネアは弓を床へ落としてしまう。……彼女はこの戦いで、アリアンロードが消える可能性を感じたのだろう。彼女の強さは絶対。だが、今のリィン達やティアが居れば届いてしまうかも知れないと。

 

「エン、ネア」

 

「……行きますわよ」

 

 もうエンネアに戦意は無い。故にデュバリィは、声を掛けるティアを連れて歩みを進める。……これ以上留まってしまえば、今度は自分に迷いが生まれてしまう。そうならない様にする為の判断だった。

 

 

 更に霊場を進めば、次に立ちふさがったのはアイネスだった。彼女は自分が元々準遊撃士であった事を語る。嘗て自分が廃れて行く伝統武術を活かす為に準遊撃士となり、だが規約に縛られて罪なき者を裁けない事を苦しく思ったところでアリアンロードと出会った事を。

 

「規約など無い。制約も無い。唯、守りたいものを守る。悪を裁き、弱者を救う。そんなあの方の傍でこそ、この流派は輝ける。そう思ったからこそ、あの方に着いて来た。其方達とも出会えた」

 

「アイネス」

 

「だが、それももう終わる。マスターが勝つにしろ、灰が勝つにしろ……既に我らの道は(たが)った」

 

「……違うよ……アイネス、も。エンネア、も。デュバリィ、も……私も。皆、一緒。……ママの為に、戦うの!」

 

「ふっ。なら、証明して見せろ! ティア! 我らの思いと其方の思い、何方が強いかを。鉄壁にして不動の剛、超えて見せろ!」

 

「っ!」

 

 彼女の言葉を最後に、再び戦いが始まる。エンネアと同じ様に現れる2体の人形兵器。だがそれは共に戦うリィンやクロウの手で破壊され、アイネスはデュバリィへハルバードを振り下ろす。それを盾で防ぐも、防ぎきれない強い衝撃がデュバリィの腕を襲った。

 

「ぐっ!」

 

「その程度か、神速のデュバリィ!」

 

「! ど、りゃぁ!」

 

「っ!」

 

 至近距離で目と目を合わせ、告げられた言葉にデュバリィは盾を大きく振るってハルバードを弾いた。そして彼女を超え、その後ろへ滑る様に剣を振るう。少しの間を置いて、アイネスは膝を突いた。

 

「ふっ。流石だな、鉄騎隊筆頭。神速のデュバリィ」

 

「マスターにお会いするまで、立ち止まる訳には行きませんから」

 

 デュバリィの言葉にもう1度薄く笑って、彼女はその身体を倒した。ティアが急いで駆け寄るが、その身体に剣で出来た傷は無い。……デュバリィは先程の一撃を刃で行っていなかったのだ。

 

「何、この凄い感じ」

 

「間違い無い。この先に……」

 

「あぁ、居やがるぜ。ここまで離れてるってのに、ヒシヒシと伝わって来やがる」

 

「さぁ。行きますわよ……ティア」

 

「うん……」

 

 エンネアとアイネスを超え、遂にアリアンロードの待つ場所へと続く道が出来上がる。リィン達が感じる気配。当然デュバリィとティアも感じており、彼らは意を決してアリアンロードの待つ場へ足を進めるのだった。



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8-2

「来ましたか。灰の起動者と蒼の起動者」

 

「マスター!」

 

「ママ!」

 

「……デュバリィ、ティア。やはり貴女達も来たのですね」

 

 アリアンロードは姿を隠す様に仮面を付けたまま、近づいて来るリィンやクロウへ語り掛ける。だが彼らが答えるよりも先に声を掛けたのは、デュバリィとティアだった。仮面越しにはその表情が伺えず、2人は感じる不安を胸に彼女と対峙する。

 

 彼女が仮面を付けている理由。それは結社の使徒として、銀の騎神を操る者として相克を迎える為。既に彼女の本名や、その素性を知っていたリィンは彼女に問う。……嘗て愛した存在を蝕む呪いの元凶、()に加担する結社や帝国側に何故つくのかを。

 

 アリアンロードの目的は、リィン達の様な騎神の起動者を倒して相克に勝ち残る事。……そしてその呪いの元凶である黒を、自らの手で討つ事。その理由を女の未練と語る姿に、デュバリィはやがて口を開いた。

 

「それだけじゃありませんわ。確かに女の未練から始まった決意かも知れない。ですが、今はそれ以上に……帝国の未来の為に。マスターは黒を討つつもりですわね」

 

「……何故、そう思うのです?」

 

「全てを終わらせる黄昏(・・)。私達はそれに加担してしまった。ですが、普通に考えてマスターがそれを受け入れる筈がありません。だって、それならティアや私。エンネアを救った意味がありませんもの」

 

「……」

 

「それに、私は。私達は、マスターが今まで私達に見せて来た誇り高き存在。それとは別にティアへ見せる(ママ)としてのマスターを知っています。そんなマスターが、世界を終わらせる事を認める筈が無い(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 それはアリアンロードやティアと共に過ごしたデュバリィだからこそ思える事だった。8年。アリアンロードにとって短く、デュバリィにとって長いその8年があるからこそ、彼女は確信をもってそれを言う事が出来た。

 

「ママ……」

 

「ティア」

 

「私。ママのお蔭で……ここに、居るの。ママのお蔭で、皆と会えた。……だから、ママが辛いなら。苦しいなら……私が、守るから。守れる様に、なるから!」

 

「マスター。貴女の決意は分かりました。ですが、あえて言わせて頂きます。……マスターは、間違っていると。全部1人で抱えて、全部1人で終わらせる必要なんてありません。私が! ティアが! アイネスが! エンネアが! 他にもシュバルツァーやⅦ組の者達が。同じ黒に抗っている! 1人で戦わなくても、皆で戦う事が出来る筈です!」

 

 デュバリィの言葉はリィン達の心に響く。アリアンロードは仮面の中で目を閉じ、ティアやデュバリィ。アイネスやエンネアと出会い過ごした日々を思い出し、兜を外す。その光景に驚くと共に、一瞬だけ思いが届いたと思ったデュバリィ。……だが彼女は選んだ道を引き返す事はしなかった。

 

「貴女達の成長を感じて、嬉しく思います。ですが甘い。黒に挑むには、甘さなど持っていてはいけない」

 

「っ! ママ!」

 

「構えなさい、ティア。デュバリィ。そして灰と蒼の起動者達。結社の使徒にして第七柱、銀の起動者……アリアンロードが、相手となりましょう」

 

 霊場に宿る力と一体化し、凄まじい闘気を放つアリアンロードにリィン達は構える。デュバリィはティアの横に立ち、剣と盾を構えて視線を逸らさずに大声でティアへ告げた。

 

「見せますわよ。私達の覚悟を!」

 

「! ……うん!」

 

 彼女の言葉にティアもグラーシーザを呼び、戦闘態勢に入る。……嘗て武の頂点と言われた鋼の聖女との戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁ!」

 

 槍を手に空へ突き出せば、走る空気がティア達へ襲い掛かる。デュバリィは盾でそれを何とか防ぎ、ティアもグラーシーザの守りで防御。リィンやクロウも武器を前に構えて防ぐ中、少し離れた場所でユウナが接近戦用のトンファーにも遠距離戦の銃にも使える武器を後者のモードに切り替えて発砲した。が、その銃弾が届く頃にはアリアンロードの姿は消えてしまう。

 

「遅い」

 

「なっ!」

 

 一瞬。一番遠かった彼女が目の前で槍を構える姿にユウナが驚く中、それを防ぐ様にリィンが間に入る。と同時に彼はその身から赤黒い靄を発生させ、やがて鬼の力を解放する。

 

「教官!」

 

「出し惜しみして勝てる相手じゃない! 俺達の全身全霊を持って、超えてみせるぞ!」

 

「らぁ!」

 

「!」

 

「なっ! マジかよ!?」

 

 リィンが力を使った事にユウナが動揺するも、彼の言葉で彼女は戦いに意識を向ける。するとアリアンロードへ両剣を振るってクロウが攻撃を仕掛けるが、彼女は片手でその刃を掴んでしまう。目の前の光景に驚愕するクロウ。そのままリィンと共に、その身体は大きく吹き飛ばされる。

 

「せやぁ!」

 

 すると、入れ替わる様にアリアンロードの目の前にデュバリィが入り込んで刃を振るった。赤く光る刀身はティアの魔法で強化されており、微かにその鎧に傷を付ける。だが攻撃と言える攻撃にはなっておらず、デュバリィも分かっていた様に距離を取った。

 

「そ、れっ!」

 

 その背後で大きく両手を突き出したティア。彼女の全力を持って放たれた魔法が発動される。空が飛来するのは騎神ほどの大きさはある巨大な氷。それは容赦無くアリアンロードの元へと落下し、彼女を押し潰した……様に見えた。

 

「嘘っ!?」

 

「失われし魔法、ここまで使える様になりましたか。ですが、まだ弱い」

 

 アリアンロードは槍を上に掲げ、落ちて来た巨大な氷を貫いてその場に留まって見せた。重そうにすら見せず、軽々とそれを振るって霊場の外へ放る姿にはその場に居る全員が彼女の強さに戦慄せずにはいられない。が、それでも攻撃の手を緩める事はしない。

 

「ユウナ!」

 

「はい! 壊せ、スレッジハンマー!」

 

 リィンの声に返事をした彼女はオーダーを発動する。そしてティアが同時に3つの補助魔法をリィン、クロウ、デュバリィへ掛け、3人は3方向から同時に攻撃を仕掛けた。1つを槍で。1つを手で。1つをその身で受けたアリアンロード。最後の攻撃で僅かによろめいたその隙を、デュバリィは見逃さなかった。

 

「行きますわよ、マスター!」

 

 3人に分かれ、目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けるデュバリィ。アリアンロードはその猛攻を槍を盾に受け止め続け、やがて本物のデュバリィがその目前に現れる。手に持つ刃は輝き、彼女はそれを全力で振り下ろした。

 

「プリズム、キャリバーァァァ!」

 

「っ!」

 

 その一撃はアリアンロードの身体を後ろへ下がらせる。身体には殆どダメージが通っていないものの、デュバリィの一撃は彼女の槍を欠けさせた。

 

「やった!」

 

「まだ穂先を削っただけですわ!」

 

 思わず喜ぶユウナへ警戒を怠らずに告げるデュバリィ。自分や鉄騎隊とは違う者達と協力して戦うティアや、デュバリィの姿にアリアンロードは僅かに笑みを浮かべる。……すると突然、霊場の周りが光輝き始めた。それは相克の準備に必要な闘争が十分に満たされた証。

 

「デュバリィさん、ティア! 後は俺達に任せてくれ!」

 

「お前さん達の分まで、戦って来てやらぁ!」

 

「くっ、仕方ありませんわね。頼みましたわ!」

 

「リィン……お願い!」

 

 条件は整い、これから始まるのは騎神同士の戦い。デュバリィとティアに出来るのはその戦いを見守る事であり、2人は逸る気持ちを抑えてそれを見守り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リィンとクロウの乗る騎神と戦い、敗北したアリアンロード。だが勝者であるリィンに取り込まれ、そのまま消えようとする彼女をティアとデュバリィが引き止める。リィンは自分に流れる力を返し、彼女の消滅をクロウの様に免れようとするが……第三者の登場とその不意打ちが、アリアンロードの乗る騎神を貫いた。

 

「マスター!」

 

「ママ!」

 

 不意打ちをしたのは、金の騎神。乗るのはユーシスの兄である、ルーファス・アルバレア。アリアンロードの乗る騎神は消え去り、その翼が彼の乗る騎神に受け継がれた後、彼は『最後の舞台で待つ』と残して去ってしまう。……残ったのは、胸を大きく貫かれたアリアンロードの姿。騎神を奪われ、命を繋ぎ止める存在が消えてしまった事で彼女も消えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが彼女が迎える運命の筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイネス、エンネア。そしてパンタグリュエルで待機していた者達が一斉に揃う中、アリアンロードの傍に突然ローゼリアが姿を見せる。

 

「ええいっ! 何時まで戦っておるのじゃ! 妾は堪えるのが必死じゃったぞ! 金の起動者め、手間を増やしおって……全く世話を掛けさせる! リアンヌの子よ、準備は良いな!」

 

「うん!」

 

「頼みますわよ、ティア!」

 

「エマ! セリーヌ! 手を貸すのじゃ!」

 

「御婆ちゃん!? 一体何を……」

 

 ローゼリアとアリアンロードは嘗て親友であり、アリアンロードを銀の騎神へ導いたのもローゼリアであった。だが親友が倒れるアリアンロードを前に憤りを見せながらも、その様子に親友の消え行く姿を悲しむ様子は無い。すると彼女は現れて即、ティアに声を掛けてから合流した1人であるエマへも声を掛けた。

 

「ロゼ……」

 

「リアンヌ、お主を消させはせぬぞ! 250年の謝罪もまだ聞いとらんからな! ドライケルスの魂もまだこの世じゃ! 何より同じ子を持つ親として、子を置いて早死にする等認めぬ(・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

「何を、するつもりですか……」

 

「説明は後じゃ。まずはお主の力を全部吐き出せ! そこの灰にでも食わせるのじゃ! やらないなら、妾が強引にでもやるぞ!」

 

 自分が消えると分かり、元よりそのつもりだったアリアンロードは内に残る力をリィンの操る灰の騎神ヴァリマールへ捧げる。もう彼女に力は無く、それを見た後にローゼリアは何かの術を発動し始めた。

 

「これって……まさか禁術!? 理に外れた術。それも死者蘇生なんて使ったら、最悪肉体が滅ぶわよ!」

 

「ええい! 黙って手伝わんか!」

 

 それは禁書と呼ばれる書物に載る、危険な魔術の一種だった。使用者に代償を齎す可能性もあるが、非常に強力な魔術。中には死者蘇生も存在すると言われているが、それを成功した例は無い。エマの傍に居た黒猫。彼女の使い魔、セリーヌはそれを知っているが故に、ローゼリアがアリアンロードを蘇生させようとしていると考えた。だが、彼女を動かす為に。ローゼリアは魔術を準備しながら告げる。

 

「安心せい! 死ぬ事にはならん! だから、頼む……!」

 

「御婆ちゃん……っ!」

 

 切実なローゼリアの願いに、エマは言われた通りローゼリアを補助する為に魔術を行使する。セリーヌも「知らないわよ!」と躍起になって協力する中、ローゼリアの傍に立ったティアは魔法を使い始める。

 

「何を……」

 

「私達が独断で、決めた事ですわ。……お叱りでも何でも後で私が受け入れます。ですがマスター。貴女は絶対に、消させません」

 

 倒れる自分の背に生まれる魔法陣。3人が彼女を救う為に魔法、魔術、禁術を行使し続ける。

 

「ゴフッ!」

 

「御婆ちゃん!?」

 

「心配ない! リアンヌの子よ!」

 

「うん! そ、れっ!」

 

 口から突然血を吐いたローゼリアにエマが悲痛の声を上げるが、彼女は禁術を発動したままティアへ声を掛ける。すると、頷いてティアが発動したのは……強力な魔法、ロストアーツ。足元に巨大な別の魔法陣が浮かび、光輝くと共にその場に居た全員やローゼリアの怪我を治療した。流れる血は止まり、ローゼリアが浮かべていた苦悶の表情が消える。

 

「ティアの使う魔法は、魔女曰く理から外れている(・・・・・・・・)そうですわ。当然ですわね。人の身で魔法を使おうとすれば、新たな()と成らなければいけないのですから」

 

「まだじゃ、もっと! 魂を繋ぎ留めるのじゃ! ぐっ!」

 

「っ! えいっ!」

 

 今度は身体の一部を失い、ティアがその光景に目を閉じて再び同じ魔法を放つ。ロストアーツの負担は大きく、1度使えば僅かでも休息が必要なティア。だが今、彼女は自らに感じる脱力感や苦しさを必死に耐えて、自分よりも辛いであろうローゼリアの身体を癒し続ける。

 

「250年分の魂……まだ、逝かせはせぬぞ!」

 

 その後も、ローゼリアは数度に渡って瀕死の重傷を負う。だがその度にティアは彼女の身体を治療し続け、到頭その時が来る。

 

「掴んだ! リアンヌの子よ、お主の力をこの魔法陣へ解き放つのじゃ!」

 

「っ! うん! ママ、帰って来てっ!」

 

 ティアはその言葉と同時に胸の前に手を当て、そこから手へ光を生み出す。そしてそれを床へ叩きつける様に放った時、眩い光が霊場全体を包み込むのだった。



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8-3

 カレイジャスⅡ。医務室。

 

 嘗てトールズ士官学院において別のクラスの同級生であり、以前ティアが再会したヴィヴィの妹でもあるリンデが任されていたその場所に、多くの者達が集まっていた。

 

「……どうなんですの?」

 

 その中の1人、デュバリィが不安げに問う相手はローゼリア。そして彼女は目の前に座る2人の人物を前に目を閉じて何かを探っており、やがて目を開いた彼女は……満足そうに頷いた。

 

「問題無い。無事に繋がっておる」

 

「それでは……!」

 

「もう、リアンヌが相克で消える事は無かろう」

 

「っ! ママ!」

 

「マスター!」

 

 彼女の言葉に座って居た者の1人、ティアが同じく隣で座っていたアリアンロードの身体へ抱き着いた。デュバリィも喜びの余り飛び上がる勢いで彼女を呼ぶ中、言われた本人は目を閉じて静かに口を開く。

 

「一体、何をしたのですが……ロゼ。力を金に奪われた以上、私は消える運命にある筈」

 

「うむ。まぁ、そうじゃな。確かにお主の力の大半は金に奪われてしまった。じゃが、お主の魂はまだそこに残って居ったのじゃ。それが消えるのも時間の問題じゃったがな」

 

「なら、どうやって……」

 

「魔術には色々ある。そして中には禁書と呼ばれる危険な魔術の載った本も存在する。エマも知っておるじゃろ?」

 

「はい。禁書で行える魔術はとても強力で、ですが同時に使用者に危険が伴うとされています。死者蘇生の魔術もあると聞きますが、成功例は今のところ……」

 

「し、失敗するとどうなるんですか?」

 

「話に聞く限りじゃ、身体が破裂して木っ端微塵! らしいわよ」

 

 質問に答え、エマへ話を振ったローゼリア。するとエマの続けた説明にユウナが不安げに質問し、セリーヌが答える。彼女の言葉を聞いて少しばかり数名の顔が青褪める中、ローゼリアは「安心せい」と告げた。

 

「そもそもあの魔術は確かに禁術だが、死者蘇生の禁術では無い。そんな物を使えば、治す間も無く一瞬で妾の身体が弾けてしまうからの」

 

「でもよ、現に俺達の目の前でちゃんと生きてるぜ? 俺みたいに力を返された訳じゃねぇんだ」

 

「言ったじゃろうに、力は金に奪われとる。妾が使ったのは、蘇生では無く消滅の先送りじゃ」

 

 クロウの言葉に返し、ローゼリアは更に説明する。

 

 元々、アリアンロード。……リアンヌ・サンドロットの魂は騎神の力で不死者となった事で生き長らえていた。だが金の起動者にやられた事で騎神は消え去り、彼女の魂を現実に繋ぎ留めるものが無くなってしまった。

 

「魂を繋ぐ騎神が消え、リアンヌは消える。……ならやる事は簡単じゃ。新たに魂を繋げば良い(・・・・・・・・・・)

 

「魂を、繋ぐ……?」

 

「250年分の魂の中からその核になる部分を見つけ、後は違う存在と魂を繋ぐ。……それが妾達の行った事じゃ」

 

「それって……」

 

 あの時の最後を思い出し、全員は嬉しそうに抱き着いているティアへ視線を向けた。言葉にせずとも思っている事が分かったローゼリアは頷いて、エマとセリーヌを見る。

 

「そうじゃのぅ。言うなれば、眷属。使い魔。そんな関係になった訳じゃ。あの親子は」

 

 ローゼリアが先程確認をした繋がり。それはティアとアリアンロードのもの。現在ティアを介してアリアンロードの魂はそこにあり、騎神や相克との関連で消える事は無い。……全てを知った時、突然崩れる様に座り込んだのはエンネアだった。

 

「そう……マスターは、まだ生きられるのね……」

 

「少なくとも、娘が死ぬまでは消える事は無い。250年以上生きたんじゃ。今更7,80年増えようがどうって事なかろう?」

 

 自分達よりも遥かに長く生きているローゼリアだからこそ言える物言いに聞いていた者の殆どが何とも言えない表情を浮かべる中、デュバリィが座るアリアンロードの目の前で跪いた。

 

「マスター。あの時言った通り、これは全て私達が勝手に決めた事。お叱りでも何でも、覚悟は出来てますわ」

 

「ママ……怒ってる……?」

 

「デュバリィ、ティア……いいえ。まだ、やるべき事があります。あのまま消える運命と一度は受け入れましたが……まだその時では無かった。と言うことなのでしょう」

 

 その答えに思わず顔を上げたデュバリィ。同じ様に嬉しそうにもう1度アリアンロードへティアが抱き着く中、抱き着かれた本人はリィン達へ視線を向ける。

 

「灰の起動者。蒼の起動者。そして有角の若獅子達。貴方達の思いと強さが私以上である事は、先程の相克で既に示されました」

 

「っ! 嘗て武の頂点とまで言われた貴方にそう言って貰えるとは……恐悦至極です。それと、ミリアムとヴァリマールの事。心からお礼を言います」

 

 リィンは彼女の言葉に答えると共に、現在船倉で待機しているヴァリマールと剣となったミリアムに関しての礼を告げる。……ローゼリアに促され、元よりそのつもりだった残り僅かな力を灰の騎神へ送ったアリアンロード。嘗ての戦いで意思を失ったヴァリマールと、剣に宿るミリアムの意思はその力によって復活する事が出来たのだ。以前の様に話を出来る様になり、思念体としてミリアムも姿を見せられる様になった。……本当の意味で、旧Ⅶ組の全員が揃う事が出来る様になったのだ。

 

「私の本懐は相克に勝ち残り、黒を討つ事。しかし、既に相克に置いて私は敗北者です。共に黒と戦う事は出来ないでしょう。ですが力を失えど、貴方達を黒の元へ導く手伝いは出来る筈」

 

 それは彼女が自分達に協力すると同じ意味。数名が鋼の聖女・アリアンロードが仲間になれば百人力だと思う中、釘を刺す様にローゼリアは告げる。

 

「何度も言っておるが、今のリアンヌは言葉通り力を失っておる。今までの様には戦えぬぞ?」

 

「そうなのか?」

 

「元々そのままでは力が強大過ぎて弱い娘の魂に繋げんかったからの。仕方なかろう」

 

「えぇ。それは私自身、感じています。どうやら私を繋ぐ器となったティアの力が、私の今出せる力。と言ったところでしょうか」

 

「余り使い過ぎるで無いぞ? やり過ぎれば、娘が倒れる」

 

 ローゼリアの言葉に「分かっています」と答えたアリアンロード。大きく期待した者達は残念そうに肩を落とすが、全てを彼女に頼っては意味が無いと前向きに考える事で落ち込むまではしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジでは現在、リィン達とアリアンロードの戦い、第三の相克が終わって間も無く出現した5本の塩の杭と空に浮かぶ要塞についての話し合いが行われていた。要塞の中には残りの騎神使いが待ち、中へ入る為には塩の杭を攻略しなければいけない。……そこで通信越しに塩の杭を攻略する為に名乗りを上げたのは、特務支援課や遊撃士協会の者達。他にも過去にアリアンロードを相手に戦い、生身で彼女に膝を突かせたオーレリアやラウラの父等、様々な者達だった。

 

「ママ……」

 

「えぇ。……塩の杭。その1つは私達が務めましょう」

 

「鉄騎隊の名に懸けて、速攻で落として見せますわ!」

 

「ふっ。久しぶりだな、我らが揃って任務に出るのは」

 

「日で言えば、そこまで経っていないのでしょうけど……色々あったものね」

 

 彼らの名乗りに続けて、ティアの呼ぶ声にアリアンロードは頷きながら名乗りを上げる。彼女が杭に挑むとなれば、必然的にティアも彼女達の元へ。リィン達が心配する様子を見せるが、ティアは「大丈夫、だよ」と告げた。

 

「皆が、居るから……大丈夫」

 

 それは鉄騎隊……だけでは無く、この場に居る者達全員の事だと聞いた者は感じる事が出来た。鉄騎隊とアリアンロード。そしてティアが共に行くとなれば、それ以上の戦力は必要ない。寧ろ連携の邪魔になる可能性も配慮し、慎重にチームが結成されていく。空に浮かぶ要塞では第四~最終までの相克が行われる為、リィンやクロウは当然突入しなければならない。となれば、その面々は自然と決まって行く。

 

「……ティア、良いんですの?」

 

「……リィン達は、負けないから」

 

「ドライケルスの意思を継ぎし若者達。彼らの道を、切り開きますよ」

 

≪はい、マスター!≫

 

「うん!」

 

 突入するのは新旧Ⅶ組の面々。嘗て短い期間ながらⅦ組として過ごしていたティアも当然その中に含まれて可笑しくないが、彼女はデュバリィの言葉に頷いて答える。そして彼らが要塞へ突入出来る道を作る為、力強く答える。

 

 塩の杭攻略と要塞突入の二大作戦は、オリヴァルトによって翼の閃き作戦(・・・・・・)と名付けられる。作戦決行は明日の正午に決まり、大きな戦いを前に壮行会が行われる事も決定。……すると、アリアンロードは静かにリィンの元へ近づいた。

 

「1つ、伝えて置くべき事があります。貴方が滅ぼした、かの者について」

 

「っ! ……それは……」

 

 彼女の言葉に思い出すのは、ティアが撃たれてミリアムが殺された黒キ星杯で対峙した禍々しい姿の聖獣。今現在、大陸全土に広がってしまっている呪いはその存在を暴走したリィンが剣となったミリアムを使って殺した事が始まりでもあった。

 

 アリアンロードから彼女の知る話を聞いたリィン。夜の壮行会が終わり、明日の朝になった時。作戦が始まる前に、彼は彼女から聞いた場所へ向かう事を決めるのであった。



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間章+α

 カレイジャスⅡは壮行会が行われる場所、ミシュラムへ向けて進んでいた。

 

 ティアは思念体として姿を現す事が出来る様になったミリアムと話をする為に船倉へ。そしてアリアンロードはローゼリアと共に甲板へ出ていた。

 

「ロゼ。ティアは、私の為に何を犠牲にしたのですか?」

 

「……やはり気付いておったか」

 

「魔女である貴女と違い、ティアは人の子。……貴女達は内に秘めた魔力を対価に契約が可能ですが、ティアの場合は違う筈です」

 

「まぁ、そうじゃな。魔法(アーツ)と魔術は違う。あの娘に魔力は無い」

 

「ですが、私がこうして留まって居られるのはあの子が今尚何かを犠牲にしているから。一体、何をあの子は私の為に犠牲としたのですか」

 

 アリアンロードの言葉に甲板から流れる様に過ぎ去る雲を眺め、目を閉じたローゼリア。しばしの沈黙を経て、彼女は真剣な表情でアリアンロードへ向き直って告げる。

 

「成長じゃ」

 

「成長……ですか」

 

「うむ。お主の娘は今後、一切身体が成長せぬ。元々あの身体は非人道的な経験から後遺症として成長が遅い様じゃったが、後10年もすれば立派な大人の身体に成れたじゃろう。だが、最早お主の娘が身体的に成長する事は無い。……あぁ、予め言っておくが魂は年を取る。寿命は来るぞ?」

 

 それが真実なら、ティアは今の姿のまま心だけが年を取る事になる。これから先、彼女の目に見える成長を感じる事は出来ないと言う事だ。ローゼリアは更に「本人の意思じゃった」と続ける。そしてそれが、ティアに取って大きな決断であった事をアリアンロードは知っていた。

 

 嘗て、フィーとの再会で成長していない事を指摘されたティア。それから数日は『大きくなりたい』と頑張った時期もあったのだ。デュバリィに『焦らなくても何時か成長出来ますわ』と言われ、シャーリィに『ティアはそのままで良いよ』と言われた事で成長を急ぐ事は無くなったが……それでも大きくなりたいと思っていた事に変わりは無い筈である。

 

「私が居る限り、彼女が大人になる事は出来ない。……私は彼女の大人になった姿を見る事は出来ないのですね」

 

「……そうじゃ。しかし忘れるで無いぞ。お主の娘はそれでも選んだのじゃ。あの年の子供は大人に憧れる。それでも、自分が大人になる事よりお主に消えて欲しく無かったんじゃよ」

 

「えぇ……分かっています。それに、見た目だけが全てではありませんからね」

 

「良く分かって……リアンヌ、お主今妾を見て言ったな? 本来の妾はもっとないすばでぃ(・・・・・・)じゃと知っとるじゃろうが!」

 

 言われた言葉に頷いたものの、その視線に気付いたローゼリアの抗議が甲板へ響き渡った。

 

 

 一方、船倉ではティアが思念体となった状態で姿を見せるミリアムと話をしていた。

 

「そう言えば、ティアの中には僕達が生まれるより前の子達が居るんだよね?」

 

「うん……でも、お話は……もう、出来ないの。……あの時に……」

 

「そっか……ちょっと話して見たかったけど、仕方ないね」

 

 以前はミリアムやアルティナとの再会前や、危機が迫った時のみに声を感じ取れたOz達の思念。だがルーファスに撃たれたあの時から、ティアはその声を聞く事も感じる事も出来なくなってしまっていた。

 

「う~ん」

 

「ミリアム? どう、したの?」

 

「いや、ティアって半分は僕達と同じって事でしょ? なら、ティアは僕のお姉ちゃんになるのかなぁ? って思って」

 

「私が……お姉ちゃん?」

 

「ティアさん。ミリアムさん」

 

 ミリアムの言葉に驚きと共に少しだけ目を輝かせ始めるティア。すると2人の傍へアルティナが声を掛けながら近づき始める。そして何の話をしていたのかを質問すれば、ミリアムが今までの話を説明。するとティアが少し期待した様子でアルティナに質問する。

 

「アルティナ……私、お姉ちゃん?」

 

「はい? ……いえ、ティアさんは強いて言うなら妹かと」

 

「まぁ、だよね。僕達の中で一番小さいもんね」

 

「あう……良いもん……心は大人、だから」

 

 そう言って少し拗ねた様にも見えるティアの姿が、余計に子供っぽく見えて思わず笑ってしまう2人。そして違う話を始めれば、子供扱いされた事等すっかり忘れて楽しそうに話をするティア。そんな単純なところに、もう1度笑ってしまう2人を見て本人は首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 明日の正午、リィン達が突入しようとしている空に浮かぶ要塞……幻想機動要塞にて。シャーリィは緋の騎神の傍で余裕そうに過ごす皇太子、セドリックを横目に溜息をついていた。彼が操る緋の騎神の名前はテスタ=ロッサ。彼女が扱う武器と同じ名前であり、元は騎神の方である。それ故か、呪いの影響で必要以上に力に固執する彼の面倒を見て来た彼女だが、ここ数日大きな物足りなさを感じていた。

 

「やっぱり、一回抱き締めないとやる気出て来ないな~。もうこの際、道化師にでも頼んでみようかなぁ」

 

 彼女が思い出すのは、妹の様に可愛がっていた少女。彼女が黒キ星杯で撃たれた際には、その下手人を思わず殺してしまいそうになったシャーリィ。今は亡き猟兵王に止められて押し止まったものの、その後仮面を付けた少女を見た時はパンタグリュエルでも戦う気すら起きなくなってしまっていた。……それ故に、彼女が遊撃士の手で解放されたのを見たシャーリィは知っている。今、少女は元に戻って明日やって来る者達の味方をしていると。

 

「どうせ、明日まで動かないだろうし……話すだけ話してみよっと」

 

 シャーリィは行動を決めて、皇太子を置いて同じ要塞内に居るであろう道化師カンパネルラの元へ向かうのだった。




ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬A 突S 射B 剛A
※アルティナやミリアムと同じ様に戦術殻、グラーシーザで突く様に攻撃する。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

ロスト・ゼロ
全力で魔法を使用する。
※ロストアーツ選択可 このクラフトで使用した場合、再使用が可能
CP80 EP500 威力は使用する魔法に依存。次ターン、行動不可。
「そ、れっ!」

ホーリーエール
ティアの応援で共に戦う仲間の士気を高める。
CP20 円L(自分中心) 自身対象外
CP+30 HP10%回復。※一部キャラのみ、極稀に効果増大。
「皆。頑張ろう……!」

???


【Sクラフト】

エンドレスヴォイド
虚無の魔法で敵を吸い込み、消滅させる。
CP100~200 威力4S ブレイクC 崩し無効 全体 消滅

両手を前に突き出し、周囲を吸い込みながら巨大な黒球を作り上げる。それを敵の中央に投げ込むと、黒球は一気に肥大化して全てを飲み込む。そして大地が無くなり、最後には丸型の巨大なクレーターが出来上がる。
「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」

???


【オーダー】

シャイニングカーレッジ
BP3 5カウント 与ダメージ+30% ブレイクダメージ+50% EP全回復 毎ターンCP+20
「皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

???


【???????】

??? 『???・???・???』


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー・ミリアム
アルティナ
ティオ
トヴァル
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
アイネス・エンネア
★★★★☆
リィン
クロウ
アリサ
シャロン
ヴィータ・ローゼリア
セリーヌ
★★★☆☆
エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
ラウラ・エマ・サラ
クルト・アッシュ
ユウナ・ミュゼ
ランディ・エリィ・ノエル・キーア
アンゼリカ
アルフィン
マクバーン
★★☆☆☆
ロイド・ワジ
ゼノ・レオニダス
カンパネルラ
ブルブラン
★☆☆☆☆


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幕間 不思議の国
幕-1


 ミシュラムワンダーランド。そこは嘗て特務支援課が休養に来たクロスベルでは有名のテーマパークであり、ティアがカンパネルラによって連れ去られた場所である。そんなこの場所では、8月31日の夜。明日の翼の閃き作戦に参加する者達に向けた壮行会が貸し切りで開かれていた。

 

「ティア!」

 

「あう……ティオ」

 

 建物の中で特務支援課の面々と再会したリィン達。すると誰よりも早く飛び出したティオが、ティアを抱きしめる。エリンの里で共に戦ってすぐ、一度カレイジャスⅡを降りていた彼女は僅か2日と言えど離れ離れになっていたティアを心配していたのだろう。彼女の抱擁にティアは驚きながらも、それを受け入れる。

 

 ミシュラムへ到着したのはリィン達が最後であり、挨拶等を経て明日の作戦に向けて英気を養う為、各々自由に行動する事となった。ティアはティオに連れられてミシュラムのテーマパーク側で行われると言うみっしぃのイベントを見る為に移動。フィーとアルティナも共に行動する中、離れて行くティアをアリアンロードは眺めていた。

 

「さて。ここにはバーがあるんじゃろ? 久々に、飲むとするかの。リアンヌ、お主も付き合え」

 

「ふふっ、そうですね。行きましょうか」

 

「ま、マスター! お供させてください」

 

「御婆様、私も良いかしら?」

 

「むっ? ……まぁ、良いじゃろう」

 

 アリアンロードはローゼリアの誘いに乗り、デュバリィとヴィータを連れてバーへ。そんな彼女達の姿を見送りながら、ふと気になった様にマキアスが「離れていても大丈夫なのか?」とエマへ質問した。今までは同じ船の中に居たが、今は街1つはありそうな広さの場所で別行動。繋がっていると言う話を聞いた故の疑問であった。

 

「私とセリーヌの様に、離れていても支障は無いと思います。それにお互いの場所は常に感じ取れるので、何かあってもすぐに分かるかと」

 

「話に寄れば、ティアはここで道化師に誘拐されたとの事だったな」

 

「結界も張られてるし、もうそんな事にはならないと思うけど……ちょっと心配だよね」

 

 エマの答えにユーシス、エリオットと続く。そして彼らもまた互いに少し話をした後、解散。リィンは適当にミシュラムの中を回る事にした。

 

 一方その頃、ティオと共にフィーとアルティナを連れてみっしぃのイベントを見にやって来たティア。彼女はイベントを始める前の、ステージ前に立つみっしぃを見つけて目を輝かし始める。そしてティオと共に駆け寄る姿を前に、それを見ていたアルティナが思った事を口にした。

 

「……以前、ユウナさんにも聞きましたが。どうして人が動物の皮を被るのでしょうか?」

 

「多分、気にしちゃ駄目だと思う。後、あの2人の前で言うのも駄目」

 

 ティアとティオはどう見ても信じ込んでしまっている。故にアルティナの言葉を聞いてしまえば、前者は不思議がり、後者は否定する事だろう。みっしぃを前に目を輝かせるティアの笑顔を消さない為にも、フィーはアルティナへ告げる。それを聞いて疑問を持ったまま、それでも「分かりました」とアルティナは答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みっしぃのイベントは30分程度で終了。フィーとアルティナは気付けば別の場所へ移動し、ティオとは別に同じ場所で共に見ていた交換屋(ブローカー)の少女と少し仲良くなったティアは、貸し切り故に遊び放題のテーマパーク内を遊ぶ事にした。が、1ヶ所だけ絶対に近づこうとしないティア。……そんな彼女に、突然その様子を見ていた1人の少女が声を掛ける。

 

「相変わらず、怖がりなのね」

 

「っ! ……誰?」

 

「ふふっ、久しぶりね……ティア」

 

 ティアが驚き振り返った先に居たのは、菫色の髪をした1人の少女。その傍には1組の男女も居り、ティアは自分の名前を知る少女を前に戸惑い続ける。が、やがて何かを思い出した様に不安そうな表情は一変。驚き、少女へ近寄った。

 

「レン、お姉ちゃん……?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「っ! お姉ちゃん!」

 

 それは数年前、アリアンロードに拾われてから少ししてティアが出会った少女だった。結社に関係する人間の中で一番年が近かった事もあり、ティアは彼女を姉の様に慕っていた。……だが、記憶が戻った頃にはもう結社の人間では無くなっていた為に会えなくなっていたのだ。そんな相手が突然現れた事もあり、ティアは思わずその身体に抱き着いた。少女……レン・ブライトは予想していたのかそれを受け入れ、頭を撫でる。

 

「ヨシュア。あんたは行かなくて良いの?」

 

「僕は殆ど話した事が無かったから、覚えていないかも知れない」

 

「そっか……取り敢えず、2人きりにして置きましょ?」

 

「そうだね」

 

 そんな彼女達の後ろで話をする男女は、エステル・ブライトとヨシュア・ブライト。ヨシュアはレンと同じ嘗て結社に居た執行者の1人であり、ティアとも面識はあった。が、自分より大きな存在且つ男性だった彼を怖がる彼女は近寄ろうとしなかった為、仲が良かったとは言えなかった。

 

 2人が離れて行く中、噴水のある広場のベンチに座って少し彼女と話をする事になったティア。やがてティアを探してやって来たティオがレンをお姉ちゃんと呼ぶ姿を見て衝撃を受ける中、今まで避けていた乗り物……ホラーコースターへ向かう事になってしまう。

 

「嫌……乗りたく、無い……」

 

「テーマパークの作り物よ。こんなので怖がってたら、明日の戦いは難しいかも知れないわね」

 

「あう……」

 

「ティア、大丈夫です。お姉ちゃん(・・・・・)がついてます」

 

「ティオ……うん。怖く無い、怖く無い……」

 

 焚き付ける様に言うレンと、姉と呼ばれる彼女に対抗心を燃やして自身が想像する姉の安心感を見せようとするティオの言葉に乗る事を決意したティア。だが、アトラクションを前にティオは思い出す。ホラーコースターは2人乗りであると。

 

「レンお姉ちゃん……一緒」

 

「ふふっ、良いわよ」

 

「なっ……ティア……」

 

 再会の嬉しさもあったのだろう。迷いなくレンを選んで一緒に乗ろうとするティアに、ティオはショックを受けざる負えなかった。優しい笑顔で承諾して共に入って行く2人を前に、ティオは離れて行くティアの背に手を伸ばす。が、その手は届かない。

 

 それから数分後。アトラクションを出た2人は少し白くなったティオを発見。ティアが驚き心配する中、レンが楽しそうに笑みを浮かべ続けている姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティアは一度、テーマパークを出る事にした。ホテルやお店の並ぶ建物に入った彼女に気付いたのは、衣服専門店の前でシャロンと話をしていたアリサであった。

 

「あ、ティアちゃん! 今、時間は開いてるかしら?」

 

「? ……うん。大丈夫、だよ」

 

「ふふ。それでは、参りましょうか」

 

 2人に連れられてお店の中へ入れば、そこには他に2人の人物が別々の服を手に話をしていた。

 

「こんなのは如何でしょう? あの子には絶対に似合いますわ」

 

「なるほど。流石皇女様ね、でも、こっちも良いと思うの」

 

 それは嘗てパンタグリュエルで出会った帝国の皇女、アルフィンと鉄騎隊の1人であるエンネアであった。2人は共に自分よりも小さいサイズの服を手にしており、互いに見せては認め合って次の服を手に再び話をする。

 

「殿下。エンネアさん、本人を連れて来たわよ!」

 

「さぁ、お着替えと参りましょうか」

 

「え……ふぇ?」

 

 それは一瞬だった。シャロンによってお店の試着室へ流れる様に入れられたティア。彼女が理解をする前に、素早く着ていた服は嘗てエンネアが用意したのとは別の物へと変わってしまう。

 

「……良いわ」

 

「……えぇ」

 

「……あぁ。やっぱり可愛いは正義、ですのね」

 

 普段とは違うティアの服装と、それに伴う雰囲気の変化にシャロンを除く3人が何処か恍惚とした表情で眺める中、優しい微笑みで待機するシャロン。……ティアは試着室の中で普段着る事の無い服を着た事もあって、少し嬉しそうに鏡を眺める。それから3人の選んだ服装に着せ替え人形の如く着替えさせられる事になったティア。3人が満足するまで、それは終わらなかった。



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幕-2

 着せ替え人形の時間が終わり、建物を出て休憩する為に波止場へ足を運んだティア。するとそんな彼女の足元に一匹の猫が近づき始める。……それはクロスベルに居た時にティアが可愛がっていた猫、コッペ。実は特務支援課の使っていたビルの屋上を寝床にしており、ティオやロイド達にも可愛がられていたコッペ。今回の壮行会には共に連れて来られた様である。

 

「コッペ……」

 

 足に擦り寄るコッペを抱き上げ、ティアは本来船が横付けされる場所で足を外に出して自分の横へ降ろした。

 

「えへへ……にゃぁ、にゃぁ」

 

『にゃぁ~』

 

「普通に言葉で喋れ。そう言ってるわよ」

 

「!? あ……セリーヌ」

 

 コッペを愛でながら思わず猫の真似をして鳴いたティアへ、突然少女の声が掛かる。だがそれは人では無く、エマの使い魔であるセリーヌだった。一瞬人に聞かれて恥ずかしさを感じたティアだが、相手が彼女と分かってホッとした様子を見せる。そんな姿にセリーヌは心の中で『単純ね』と思いながら、コッペとは反対の場所に座り込んだ。

 

「撫でて、良い?」

 

「別に、好きにすると良いわ。前は聞きもしなかったじゃない」

 

「あう……ごめんね」

 

「怒ってる訳じゃ無いわよ。……あぁ、もう! ほら、撫でなさい!」

 

「うん……フワフワ」

 

 ティアがトールズ士官学院のⅦ組に在籍していた頃、教室で人形を作るティアの元に現れた事があったセリーヌ。その際は校舎内に迷い込んだ猫だと思い、自ら近づいて来るその姿に手を伸ばして膝に乗せた後に愛でたティア。しかし今は話を出来る事もあり、許可を得ようとする彼女にセリーヌは少し突き放した言い方で答える。が、それにティアは怒っていると勘違いしてしまう。結果、セリーヌは少しの罪悪感から自らティアの膝に飛び乗って答えた。……セリーヌを撫でるティアは、コッペを撫でていた時同様に幸せそうに感想を呟いた。

 

『にゃ~!』

 

「こっちも撫でろ。そう言ってるわ」

 

「コッペ……うん」

 

 コッペの言葉を通訳され、ティアは左右の手でセリーヌとコッペを別々に撫でる。

 

 ティアの撫でる事に関するテクニックは、決して高いとは言えない。猫として少々プライドの高いセリーヌは誰にでも撫でられて気持ち良くなる軽い猫では無かった。1人、撫でられたら逃れられない例外は居るが……少なくとも、ティアの撫で方では毛並みに触れる手の心地良さは余り感じなかった。が、ティアにはそれ以上に途轍もない優しさと暖かさを彼女は感じる。コッペもそれは同じ様で、『まぁまぁ』と撫でるティアの腕に感想を言いながらも自らティアの身体へ擦り寄っている。

 

「セリーヌ……ママを助けるの……手伝ってくれて、ありがとう」

 

「あんな切実そうなお願いを聞いたら、放っとく訳にも行かなかったってだけよ。別に、あんたの為じゃ無いわ。……まぁ、でも。良かったわね。犠牲を払う(・・・・・)程、大事な人だったんでしょ?」

 

「っ! ……うん」

 

 エマの使い魔だからこそ、分かる事。セリーヌの言葉にティアは一瞬驚くも、頷いて肯定した。するとセリーヌはティアの膝を飛び降りて建物へ向かいながら、そっと振り返る。

 

「何かあったら、あたし達に頼りなさい。魔女として、使い魔として。出来る事はしてあげるわ」

 

「セリーヌ……ありがとう」

 

 彼女の離れる小さな後ろ姿にティアがお礼を言うと、傍に居たコッペもティアから離れて気ままに行動を開始する。2匹の猫に癒されたティアは立ち上がると、波止場を離れて砂浜や海の家があるレイクビーチへ足を進める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイクビーチ。そこでは現在、女性達に寄る飲み比べが行われていた。参加者は成人を超えたお酒の飲める者達。サラを始めとした酒好きの者達が多数自信満々に参加する中、彼女達を余裕で倒して勝ち上がったのは4人。

 ラインフォルト家の完璧なメイド、シャロン。

 『黄金の羅刹』の異名を持つ武の頂点を超えし者、オーレリア。

 嘗てトールズ士官学院で園芸部の部長を務めていた先輩、エーデル。

 結社の使徒第七柱にして武の頂点。現在はティアの眷属となった鋼の聖女、アリアンロード。

 

 数名の酒飲み自慢な女性達を余裕で蹴散らしてお酒を飲む彼女達に、酔った様子は欠片も無い。対決をする為に人を集めて欲しいと頼まれ、連れて来たリィンが見ていて申し訳なく思う中、その戦いはお店のお酒が尽きた事で引き分けとなってしまう。

 

「ふふっ、流石でございますね」

 

「2度も敗北を喫する訳には行きませんからね」

 

 解散の間際、シャロンの言葉に他の者と同じく酔った様子を見せずに答えるアリアンロード。飲み比べを始める前から、ローゼリアと共にお酒を嗜んでいた彼女の余裕に潰れた者達は絶対に敵わない強者の風格を感じずにはいられなかった。……すると、そこへティアが姿を見せる。が、彼女は現れてすぐに苦しみ始めてしまった。

 

「あぅ……お酒、臭い……」

 

 レイクビーチは建物内では無い。だが人に入ったアルコールの臭いは当然残り、酔い潰れた者達を始めとしてお酒を沢山飲んだ者達が集まるそこは酷いアルコール臭が充満していた。気配や嗅覚が敏感なティアにはとても耐えられない様で、彼女は逃げる様にレイクビーチを後にしてしまう。

 

「私達、臭うでしょうか?」

 

「……そうですわね。確かに、少し……」

 

 そしてお酒の臭いに。つまり自分達にティアが逃げてしまった事で少しだけ衝撃を受けた2人。その後、アリアンロードがシャロンに連れられて臭いを誤魔化せる物をミシュラム内のお店で買う姿が目撃されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティアー!」

 

「あ……キーア……!」

 

 レイクビーチから逃げたティアは、ロイドとエリィに連れられて歩くキーアと再会する。キーアがティアに気付くと同時に走り出し、その手を掴んで再会を喜ぶ中、掴まれたティア本人は目に見える彼女の成長を感じる。……始めて出会った頃に比べ、明らかに背も雰囲気も大きくなっていたのだ。

 

「ロイドと、エリィも……久しぶり」

 

「あぁ、久しぶりだな。ティア」

 

「元気そうで何よりだわ。……彼女と一緒なのは流石に驚いたけれど」

 

 ロイド達が最後に出会ったのは、パンタグリュエルでの戦い。だがあの時のティアはロストナンバー(別人)だった為、話をするのはカンパネルラに誘拐された日が最後であった。見た目は変わらず、だが元気そうな姿に安心した様子を見せる2人。ティアがママと慕う相手とは一度ぶつかり合った事もあり、この場に居る事に衝撃を受けて以降話も出来ていないが、結社の事等について聞きたい事は2人を含め数多くの者達が思っていた。が、今は明日の戦いの為の壮行会。野暮にならない為に、我慢していたのだ。

 

「ティアはもう、鏡のお城に入った?」

 

「ううん。まだ、だよ」

 

「それじゃあ、一緒に行こうよ! ロイド、良いでしょ?」

 

「勿論だ」

 

「ふふ。それじゃあ、テーマパークの方に行きましょうか?」

 

 ロイドの許しを得て、キーアはティアの手を掴んだままテーマパークに向けて走り始めた。元気なキーアとそんな彼女に驚きながらも少し嬉しそうに走るティアの姿を優しくロイドとエリィは眺め、2人の後を追ってテーマパークへ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鏡の城で士官学院に居た頃に見た事のある人物と再会したティアは、キーアと別れてお城の前にある橋で海とテーマパークの光が作りだす幻想的な光景を眺めていた。

 

「やっと見つけた」

 

「? フィー……ラウラも」

 

「其方も十分に楽しんでいる様だな」

 

 ティアに声を掛けたのは、ラウラと行動を共にしていたフィーだった。どうやらティアを探していた様で、彼女を挟む様に手摺りに近づいた2人。……すると、フィーはティアへ質問する。

 

「ティアは……明日以降、どうするつもり?」

 

「?」

 

「姉のところへ戻る。鋼の聖女殿と共に居る。もしくは別の何か……其方には様々な未来が選べると言う事だ」

 

「……考えた、事……無かった」

 

 今までアリアンロード(ママ)の力になりたくて行動して来たティア。だからこそ、明日以降が無事に来るならば。目的を果たしたアリアンロードは今後どうするのか。そして、ティアはそれについて行くのか……ティアは決めなければいけなかった。

 

「ティア。私からも、1つ提案がある」

 

「提案……?」

 

「そう。……私と一緒に、来る。遊撃士になって(・・・・・・・)、一緒に過ごす」

 

 フィーの提案にティアは目を見開いて驚いた。戦いについては、ティアも戦う術を持つ為に問題無い。その力を活かす職として、遊撃士は選択出来る内の1つ。フィーと共に行けば、彼女とは勿論。サラやトヴァルと比較的沢山連絡を取る事が出来る様になるだろう。2人にも仕事がある為、常に一緒には居られないが……少なくとも、フィーの傍には居られる気がティアにはした。

 

「一緒に居たいから……考えて置いて欲しい」

 

「う、ん……」

 

 答えを聞かずにティアから離れるフィー。すると、そんな彼女の後ろ姿を共に眺めていたラウラが静かに口を開いた。

 

「私はフィーを友と思っている。勿論其方もだ。だが……フィーは、お主を友以上(・・・)に思っているのかも知れないな」

 

「友達、以上……?」

 

「ふっ。その内分かる。フィーについて行くにしても、行かずにしてもだ」

 

 ラウラは最後に「明日に備えて早めに休んで置いた方が良いぞ」と続け、フィーを追う様にその場を去ってしまう。そして再び1人となったティア。フィーの告げたそれが、ティアが初めて今後や将来を考える切っ掛けとなった。



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幕-3

 鏡の城の前にある橋から離れ、広場までやって来たティア。すると突然、彼女の持つARCUSに通信が入り始める。リィン達は既にARCUSⅡと呼ばれる次世代機になっているが、ティアは導力器を必要としてこなかった故に未だ士官学院への入学時に貰ったARCUSのままだった。……が、問題はそこでは無い。現在、ティアの持つARCUSにARCUSⅡからの通信は可能だろう。しかし、そもそも彼女へ連絡をする様な相手は殆どいなかったのだ。突然鳴ったARCUSに戸惑いながら、ティアは通信を開いた。

 

「は、い……」

 

『やぁ、楽しんでいるかな? ティア』

 

「! カンパ、ネルラ……?」

 

 通信の相手はカンパネルラ。彼がどの様な方法でティアのARCUSに通信をしているかは定かでは無いが、突然予想もしなかった相手からの通信にティアは更に戸惑ってしまう。

 

『あはは! 安心して良いよ。君達の時間を邪魔するつもりは無いからね。……だけど、こっちもお願いされちゃってさ』

 

「お願い……?」

 

『今から観覧車に乗って欲しいんだよね、1人で。以前の様な事はしないと約束するからさ』

 

「……」

 

 誰かに伝えた方が良いのか、それとも信じた方が良いのか……ティアは迷った挙句、彼の言葉を信じる事にした。ARCUSの通信を開いたまま、観覧車に1人で乗り込んだティア。そんな彼女を後ろから眺める者が居る中、動き出した狭い空間の中でティアはARCUS越しにカンパネルラへ声を掛ける。

 

「……乗った、よ?」

 

『うん。それじゃあ、結界を誤魔化せる短い時間……再会の一時をお楽しみに。ってね』

 

「!?」

 

 その言葉と同時に通信は切れ、狭い空間に淡い緑色の光が生まれ始める。そしてその光の中から姿を現したのは、シャーリィだった。

 

「シャーリィ……?」

 

「ティア、久しぶり!」

 

「シャーリィ!」

 

 彼女の登場に驚き、やがてその身体へ飛びつく様にティアは抱き着いた。彼女を受け止めて抱き返すシャーリィは、「あぁ~、これだよこれこれ」とその感触を堪能する様にティアの背中を撫でる。すると、彼女は背中のある部分に触れて少し怖い表情に変わった。

 

「跡、残ってるんだ」

 

「うん……でも、痛くないよ。治した、から」

 

「そっか……ねぇ、ティア。もうやっぱりこっちに戻って来るつもりは無い?」

 

 気にしていない様子で答えるティアにシャーリィは表情を戻し、何処か残念そうに。寂しそうにティアへ質問した。ティアが結社の人間が集う場所に居たのは、アリアンロード(ママ)の存在があったから。しかし今そこに彼女は居らず、今後どうなるかも分からない。故にそれを伝えた時、シャーリィは「そっか」と呟いて観覧車の席へ座った。

 

「ここ最近はつまんなくってさぁ……ま、ティアが元気な姿も見れたから今は楽しいけどね」

 

「えへへ……ありがとう、シャーリィ」

 

「あぁ~! もう! 可愛いなぁ、ティアは」

 

 シャーリィの言葉に嬉しく思ったティアがお礼を言えば、感極まった様子で彼女を再び抱きしめてしまうシャーリィ。軽々と彼女の膝に乗らされ、腹部に手を回されたティアは首元で鼻を当てて匂いを嗅ぐシャーリィの行動にこそばゆさから身悶えする。

 

「あ……シャーリィ。これ……約束だった、から」

 

「? あ、これって……ティアのぬいぐるみ」

 

 彼女に抱きしめられた状態で、ティアは思い出した様にそれを取り出した。……数ヵ月前、セントアークで約束した自身のぬいぐるみ。他の誰かと違い、自分自身を作るのは大変で長い日が掛かってしまったものの、完成には無事に至ったのだ。再会出来た事で、ティアはそれをシャーリィへ渡す。彼女はそれを受け取ると、ティアの頭を撫でてお礼を言いながら自分の腕にくっ付けた。

 

「うん、良いね。流石に戦闘時には外すけど……暫くは耐えられるかな」

 

「耐える……?」

 

「ティアと会えなくなる時間の事。だから今の内に堪能しなくっちゃね!」

 

 そう言ってティアの身体を弄る様にじゃれるシャーリィに、楽しそうな声を上げて受け入れるティア。だが観覧車が天辺を通り越して後半に入り始めた事で、シャーリィはその手を止めた。

 

「そろそろ時間かな~。ティアは明日、あの空を飛んでる場所に来るの?」

 

「ううん。おっきな塩の杭を……ママ達と一緒に」

 

「そっか。じゃあ、明日は会えそうに無いね」

 

 敵への情報流出だが、そんな事気にした様子も無く答えるティア。シャーリィは彼女の言葉に残念そうに呟き、やがて観覧車は終わる手前になる。すると、2人の乗る狭い空間にカンパネルラの声が響いた。

 

『時間だよ。一時の再会は楽しめたかな?』

 

「まぁね」

 

「カンパ、ネルラ……ありがとう」

 

『あっはは! うん、どう致しまして。でもティアはもう少し人を疑う事を覚えた方が良いと思うな。一度信じた相手だからって、僕達は明日敵なんだからね。まぁ、君らしいけどね』

 

 どうやら2人の話を聞いていた様で、ティアがシャーリィへ軽い情報を流出させたのも聞いていたのだろう。だからと言って何をする気も無い様子だが、彼はティアへ注意する。シャーリィも同じ事を思ったのか、「だね」と同意を示す中。ティアは不安そうにシャーリィへ視線を向けた。

 

「リィン達と……戦うの?」

 

「ま、そうなるだろうね」

 

 その答えに悲しそうに視線を落としたティアを見て、シャーリィは「なる様になるよ」と言ってその頭に手を置いた。……やがて、そんな彼女の足元に転移する為の淡い緑色の光が生まれ始める。それは別れの合図。

 

「……シャーリィ……またね」

 

「またね、ティア。……あ、そうだ」

 

「?」

 

 お別れを前に寂しくなりながら見送るティア。すると、答えた後に思い出した様にシャーリィはティアへ近づき始める。そしてその姿勢を低くすると……ティアの額に口付けをした。それは嘗て、シャロンから教わった友達の証。

 

「再会の約束、ってね。次会う時は、口でも良いかもね?」

 

「あう……」

 

 恥ずかしそうにするティアの姿を最後に眺め、シャーリィは笑顔で観覧車から消えてしまう。1人恥ずかしそうに観覧車から降りたティアは、イベントにも使われていたベンチに座って火照る顔を夜風に当てて沈めながら、明日の戦いで出来る限り彼女に怪我が無い事を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ティア。大丈夫か?」

 

「あ……アイネス」

 

 ベンチで休んでいたティアへ声を掛けたのは、アイネスだった。彼女はティアが1人で観覧車に乗る姿を見ており、彼女の乗っていた狭い空間にもう1人の人物が居た事にも気付いていた。

 

「血染めに何かされたか?」

 

「ううん。大丈夫、だよ……ちょっと、疲れちゃった、だけ」

 

「そうか……今更だが、ティア。マスターを救ってくれて感謝している」

 

「ママ……消えて欲しく、無かった……から」

 

「自分の為、か? だとしてもだ。……私はマスターの傍で、マスターの為に力を使える事を誇りに思っている。私の居場所はあの方の傍以外に考えられないのだ」

 

「……アイネス」

 

「デュバリィも、エンネアも。それは同じだろう。あの方の為に生き、その力となる事を誇りに思っている。だからティア。お前の行動はマスターだけでなく、私達鉄騎隊も救ったんだ」

 

「皆の力に……なれた?」

 

「あぁ。頼り甲斐のある、我らの仲間だ」

 

 そう言って頭に手を置いたアイネスの言葉にティアは嬉しそうに笑みを浮かべる。戦いにおいては守られてばかりで足を引っ張っていると感じていたティア。それ故か、彼女の言葉で初めてティアは鉄騎隊の一員の様な存在に成れた気がした。

 

 もう夜も大分深まって来た。テーマパークを離れ、デュバリィやアリアンロード達が居るであろうバーへ向かう事にした2人。バーと言えどお酒だけを取り扱っている訳では無い為、以前来た際にティオと飲んだジュースを思い出してティアは飲みたいと思いながら足を進めるのだった。



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幕-4+α

 ミシュラムの海が見える食事処は、バーにもレストランにもなっていた。アリアンロードやローゼリアがお酒を強さを競う戦いの後、再びヴィータと共にお酒を嗜む中、彼女達とは違う別の席ではアリアンロードの飲むお酒と同じ物を前に頬を赤く染めたデュバリィがユウナ、アルティナ、ミュゼの3人を前に声を上げる。

 

「良いですかぁ! マスターは、マスターは素晴らしいのです!」

 

「あぁ、うん。もう4回目だよ、デュバリィさん」

 

「ふふ、本当にお好きなんですね」

 

「これは、何時までも繰り返されるパターンでは?」

 

 絡まれている様にも見える2人の姿に、バーカウンターで飲み物を飲むリィンとクロウとランディは思わず苦笑いを浮かべる。別の席に座る彼女達の同級生、クルトとアッシュは別の席だった為に巻き込まれない事に安心する中、来店を知らせる音が響いた事で全員の視線は出入り口へ。そこにはアイネスと共に入るティアの姿があり、彼女は少し周りを眺めた後に空いていたアリアンロード達の席へ。アイネスはリィン達の座るカウンター席へ座った。

 

「テーマパークは楽しんだかしら?」

 

「色々、遊んだよ……楽しかった」

 

 ヴィータの質問にティアが頷くと、彼女は進められて飲み物を注文する。因みにお店の人とは上手く話せない為、選んだのは本人だが注文したのは別の人物であった。……そして出て来たのは、ホットココア。

 

「今日を楽しむのは大事じゃが、明日に支障が無い様にの」

 

「うん。……大丈夫」

 

 ローゼリアの言葉に頷いて、ホットミルクに口を付けるティア。そんな彼女の姿にアリアンロードを始め、多くの者が優しい笑みを浮かべる。……するとヴィータが優しい笑みを浮かべたまま、ティアへ質問した。

 

「ティアちゃん。貴女は今後、どうして行きたいと思っているのかしら?」

 

「今後……分かんない」

 

 彼女の質問にティアはフィーからの言葉を思い出し、首を横に振って答える。そんな2人をやり取りを前に、今度はローゼリアがアリアンロードへ同じ様に質問した。

 

「リアンヌ。お主もじゃよ。明日を超えた先、どうするつもりじゃ?」

 

「……ティアと同じですね。……分からない。元々この戦いの勝敗がどうであれ、私は消える運命にあった筈なのですから」

 

 騎神の力で生き続けていた彼女にとって、この戦いの結末は消える事だった。故にこれまで、戦いのその後を考える事が無かった。が、思わぬ形で生き残る事になった今。彼女も今後について考える必要がある。

 

「今は、明日の戦いに集中するつもりです。そしてその後は……3度目の人生になるのでしょう」

 

「マスター! 私は、私はぁ! 例え火の中水の中、地の果てでもついて参りますわぁ!」

 

「ふふ。ありがとう、デュバリィ」

 

「マスター! はぅ~……」

 

 話を聞いていたデュバリィが立ち上がって告げた言葉にアリアンロードが微笑みながらお礼を言うと、彼女は胸を抑えながら幸福そうな表情で椅子に座り込む。……そしてそのまま、幸せを感じながら彼女は眠りについてしまった。

 

「全く、鉄騎隊筆頭が情けない。まぁ、気持ちは分からなくも無いがな。……マスター、私やエンネアも同じ気持ちです。貴女の元で、これからも」

 

 アイネスはそう告げて、デュバリィを抱えてお店を後にする。ローゼリアが「慕われておるのぉ」とアリアンロードへ告げれば、彼女は去り行く2人の背中を眺めて呟いた。

 

「えぇ。私の自慢の部下達ですよ」

 

 その言葉に全員が鉄騎隊とそのマスターであるアリアンロードの関係性に優しい思いを抱く中、バーカウンターで飲んでいたランディが口を開いた。

 

「そう言えば話は戻るが、ティアらんは元々リィンと同じⅦ組だったんだよな?」

 

「ティ、ティアらん……ランディ先輩、また変な呼び方を」

 

「うん。短かった、けど」

 

「あぁ。でも、同じ場所で過ごした仲間だった事に変わりは無い」

 

「リィン……ありがとう」

 

 ユウ坊。ティオ助。デュバりん。等々、女性の名前を特徴的な呼び方で呼ぶランディのティアを呼ぶその言い方にユウナが苦笑いを浮かべる中、ティアは頷いて答える。そして続けたリィンの言葉にお礼を言えば、ランディは笑みを浮かべる。すると、話を聞いていたクロウが気付いた様に口を開いた。

 

「ん? でもティアは姉に会いにクロスベルへ行ってそれっきりだろ? 在籍とかはどうなってんだ?」

 

「サラ教官の話だと、休学のままだったらしい。今はどうなってるか、流石に……」

 

「つう事は、だ。ティアらんはまだ卒業してない訳だろ? なら、もう1度入学(・・・・・・)。もしくは復学(・・)も可能って訳だ」

 

 士官学院を卒業していないティアには、もう1度卒業の為に在籍する事も可能であった。現在の年齢は士官学院入学当時のフィーに近く、そこまで大きな問題がある様には思えない。が、ランディはそれを言い切ってから「だけどなぁ」と続けた。

 

「ティオ助がどうするかだな。お前さんの為にまた離れる事を受け入れるか、一緒に居ようとするか……多分後の方だと思うんだよな」

 

「ティオ先輩、ずっとティアちゃんを探してましたからね。見ていた私としては、一緒に居る方が良いと思います」

 

 今この場にはいないティアの姉、ティオの行動を予想する2人。血眼とも言える様子を見て来た2人からすれば、ようやく再会出来たのだ。今度こそ、共に過ごす方が良い様にも感じていた。だが、2人の会話を聞いていたアルティナは徐にティアの元へ。

 

「ティアさん」

 

「? アルティナ?」

 

「一緒に、勉強しましょう……!」

 

 その手を取って告げる彼女の目は、とても輝きに満ちていた。

 

「おいおい。もしそいつが俺達と同じ場所に入るとしても、同じクラスとは限らねぇぜ?」

 

「……教官。お願いします」

 

「いや、俺に言われてもな……」

 

「何と言うか……僕にはアルティナの雰囲気が何時もと違う様に見えるんだが」

 

「ふふっ。話によれば、私達と出会うよりも前からのお知り合いで彼女にとって最初のお友達だとか。仕方ありませんね」

 

 アッシュの言葉にアルティナがリィンへ告げ、困る彼の姿を横にアルティナの様子を見ていたクルトとミュゼが話をする。アルティナとティアの関係については本人からも話されていた新Ⅶ組の面々。故に仕方ないと思いながらも、ティアが同じ学院で生活する様になった時の光景を思い浮かべる。……まず、誰よりも幼い彼女を前に先輩として行動する者が多い事だろう。そしてその中でも特に目立つのは、間違い無くアルティナである。

 

「姉の元へ戻るか、勉学に勤しむか、将又別の道か……お主の娘の未来は可能性に溢れておるな」

 

「えぇ、そうですね……」

 

 見ていたローゼリアがアリアンロードへ告げれば、言われた彼女は昔から好きだったお酒を口にしながら頷いた。……身体は成長せずとも、願わくばティアが立派な人間になる事を願って。

 

「何を他人事の様に考えとる。導くのは母であるリアンヌ、お主じゃぞ?」

 

「分かっていますよ、ロゼ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壮行会も終わる間際。リィンが灰の剣聖(・・・・)となり、新たなる力に目覚める等をしながらも夜は深くなる。

 

 眠気を感じてティアは遊ぶ事も何処か行く事も止め、ミシュラムの2階。ホテルの入り口へ。すると、その待合室ではサラとトヴァルが座っていた。

 

「よう、随分楽しんだみたいだな」

 

「子供はもう寝る時間よ……って、だからここへ来たのよね」

 

「トヴァル……サラ」

 

 ティアが現れた事で声を掛ける2人。その手にはグラスがあり、2人を挟むテーブルにはワインが置かれていた。

 

「お前さんを最初に見つけた時は、噂に聞いた鋼の聖女とまさか同じ建物で過ごすとは思わなかったな。本当に色々あったが……まぁ、大きくなったな。ティア」

 

「全く。リィンもあんたも心配させて、驚かされて。……でも、良い教え子を持ったわ」

 

「……うん。……トヴァル。サラ……ありがとう」

 

 見た目は出会った当時から余り変わらない。だが、話し方や雰囲気を比べればその違いは大きいと2人には分かっていた。過去の出会いや今までの出来事を思い出しながら告げる2人に、ティアはやがてお礼を告げる。2人の前に立ち、しっかりと頭を下げて。

 

 それから一言二言話をして、ティアが離れる姿を見送った2人は互いに目を合わせる。

 

「娘の1人立ちって、こんな感じなのか?」

 

「さぁね。私はまだ、子供を持ったつもりは無いわよ」

 

「それは俺も同じだっての……まぁ、でも。あいつの成長に、って事で」

 

「……そうね」

 

 2人は互いにグラスを差し向け、触れ合うガラスが綺麗な音を響かせる。……その後、ティオと共に割り当てられた部屋で眠りについたティアは作戦決行となる明日まで眠りについた。




ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬A 突S 射B 剛A
※アルティナやミリアムと同じ様に戦術殻、グラーシーザで突く様に攻撃する。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

ロスト・ゼロ
全力で魔法を使用する。
※ロストアーツ選択可 このクラフトで使用した場合、再使用が可能
CP80 EP500 威力は使用する魔法に依存。次ターン、行動不可。
「そ、れっ!」

ホーリーエール
ティアの応援で共に戦う仲間の士気を高める。
CP20 円L(自分中心) 自身対象外
CP+30 HP10%回復。※一部キャラのみ、極稀に効果増大。
「皆。頑張ろう……!」

???


【Sクラフト】

エンドレスヴォイド
虚無の魔法で敵を吸い込み、消滅させる。
CP100~200 威力4S ブレイクC 崩し無効 全体 消滅

両手を前に突き出し、周囲を吸い込みながら巨大な黒球を作り上げる。それを敵の中央に投げ込むと、黒球は一気に肥大化して全てを飲み込む。そして大地が無くなり、最後には丸型の巨大なクレーターが出来上がる。
「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」

???


【オーダー】

シャイニングカーレッジ
BP3 5カウント 与ダメージ+30% ブレイクダメージ+50% EP全回復 毎ターンCP+20
「皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

???


【???????】

??? 『???・???・???』


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー・ミリアム
アルティナ
ティオ
トヴァル
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
アイネス・エンネア
ヴィータ・ローゼリア
セリーヌ
コッペ
★★★★☆
リィン
クロウ
アリサ・ラウラ・サラ
シャロン
ロイド・ランディ
エリィ・キーア
レン
アルフィン
★★★☆☆
エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
エマ
クルト・アッシュ
ユウナ・ミュゼ
ノエル
アンゼリカ
マクバーン・カンパネルラ
★★☆☆☆
ワジ
ゼノ・レオニダス
ブルブラン
★☆☆☆☆


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終章 新たな未来へ
終-1


 9月1日、正午。

 

 カレイジャスⅡに乗るオリヴァルトの号令と共に、翼の閃き作戦は開始される。塩の杭へ向かう飛行船に乗り、ティアは傍に立つ鉄騎隊の3人とアリアンロードへ視線を向けた。

 

「魔獣……一杯」

 

「外から入り込んだ魔獣も居る様ですが、その大多数は杭を守る為に生み出された存在ですわね」

 

「杭を守る守護者も居る事だろう。ふっ、望むところだ」

 

「最初から簡単に攻略出来るだなんて、誰も思っていないわ」

 

 ティアの言葉にデュバリィ、アイネス、エンネアの順に言葉を告げながらその視線はアリアンロードの元へ。4人に視線を向けられた彼女は空へ浮かぶ要塞へ視線を一度向けた後、4人へ向き直った。

 

「鉄騎隊、ティア。彼らをかの要塞へ届かせる為に、我らで血路を切り開きますよ」

 

≪イエス、マスター!≫

 

「うん!」

 

 彼女の言葉を最後に、飛行船は彼女達が担当する塩の杭へ到達。飛び降りる様に塩の杭へ侵入を開始した5人は、壁を伝う赤い光にのみ照らされた薄暗い空間へ降り立った。目前に見えるのは長い通路と、徘徊する魔獣の姿。それを前に、デュバリィ達は各々武器を取り出す。

 

「行きますわよ!」

 

 そう言って走り出したデュバリィ。そんな彼女の背中を追う様に他の4人も進みだせば、気配に気付いた魔獣達が襲い掛かり始める。が、デュバリィは目にも留まらぬ速さで目前の敵を切り裂いて足を止めない。

 

「ふっ!」

 

「邪魔はさせないわ!」

 

 後方でも後ろから飛び掛る魔獣をハルバードで軽々と吹き飛ばし、近づく前に射貫いて仕留めて行くアイネスとエンネアの姿が。そしてその更に後ろでは、グラーシーザの突き出した腕に弾き飛ばされて壁へ激突する魔獣に一瞬で距離を詰めたアリアンロードが手に持つ槍で貫く光景もあった。……因みに霊場での戦いで先が欠けていた槍は昨日の壮行会で修復済みである。

 

「ちっ、魔獣がわらわらと……切りがありませんわね」

 

 入り込んだ魔獣に加えて塩の杭で生み出された魔獣の数は多く、彼女達の行く手を塞ぐ様に現れ続ける。魔獣を切り裂いた刃を振りながら、思わず悪態をついてしまうデュバリィ。すると、後ろに居たティアがアリアンロードと目を合わせてから誰よりも前へ移動する。

 

「ティアちゃん?」

 

「ママ、お願い……!」

 

 エンネアが彼女の行動に声を掛ける中、胸の前で祈る様に手を組んで隣に立つアリアンロードへ告げる。途端、彼女とアリアンロードの間に目で見える光の線が出現した。見ていた鉄騎隊の3人が驚く中、身体を輝かしながらアリアンロードは前へ。槍を持つ腕を引き、一気に飛び出す。

 

「我が槍、見切れるものなら見切ってみなさい!」

 

 その言葉を合図に、槍が数百本はあるかの様に錯覚する程の残像を残す神速の連続突きが彼女から魔獣の群れへ放たれる。1体、また1体と貫かれて葬られていく魔獣。やがてアリアンロードが突きを止めた時、彼女の目前に広がるのは群がっていた魔獣が全て死に絶える光景だった。

 

「あの魔獣の群れを一瞬で……流石マスターね」

 

「例え力を失ったとしても、マスターの強さは不動。と言う事だ」

 

「あぁ~、マスタぁー……って、ティア? 大丈夫ですの?」

 

「う、うん……ちょっと、疲れちゃった……だけ、だよ。大丈夫」

 

 エンネアとアイネスがアリアンロードの強さに改めて尊敬の念を抱く中、まるで恋する乙女の様に勇ましいその姿を眺めるデュバリィ。すると、そんな彼女の目に少しふらつくティアの姿が映った事で彼女は素早くその身体を支えた。すると疲労を感じさせる様子で答えた姿に、彼女達は思い出す、アリアンロードの力は現在、ティアから引き出されるもの。つまり彼女を頼ると言う事は、ティアに頼る事にも繋がるのだ。そして余りにも頼り過ぎれば、ティアは倒れてしまう。

 

「アイネス、エンネア。行きますわよ」

 

「承知!」

 

「ティアちゃんやマスターにばかり頼る訳にはいかないものね!」

 

 目前に居た魔獣の群れは全てアリアンロードの攻撃で倒れた。だが最奥へ続く道にはまだ徘徊する魔獣がおり、戦闘は避けられない。故に彼女達はティアとアリアンロードに頼らない為に、改めて前へ出て2人を先導する様に進み始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最奥を目前に、彼女達の目の前に巨大な存在が立ち塞がる様に姿を見せた。それは杭を守る守護者として、杭自身に生み出された存在。……この場に居る誰よりも巨大で、本来であれば騎神や機甲兵で相手をする様な存在。

 

「なっ! 何ですのこれは!?」

 

「黒の工房の最終機体……!?」

 

「っ! ううん……違う。分かるの……」

 

「Ozの意思、か。もう話を出来ないと聞いていたが」

 

「うん。でも、感覚がするの……違うって」

 

「杭が帝国での出来事を読み取り、それを元に生み出した存在なのでしょう」

 

 黒の工房。それはミリアムやアルティナの様なOzを作り出した存在であり、ティアの中に眠るOz達の意思も彼らによって生み出された存在。それ故に目前に現れた巨大な存在は同じ場所で作られた様に誰もが一見見えるが、確証は無くとも自分達と違う事をティアは感じ取っていた。恐らく、彼女達以外の杭でも同様に帝国内で存在した神機や幻獣と呼ばれる存在を元に生み出された一種の偽物が立ち塞がっている事だろう。今にも襲い掛かって来そうな巨大な存在……ネクロ=ヴァリスを前に、デュバリィが剣を向けた。

 

「我らが鉄騎隊の前に立ち塞がるのなら、何であっても切り散らすのみ。速攻でスクラップにして差し上げますわ!」

 

「ティア、エンネア。援護は任せるぞ」

 

「了解したわ」

 

「うん! ママも、一緒!」

 

「えぇ。さぁ、参りますよ……!」

 

 一斉にデュバリィとアイネスが飛び出し、遠距離からエンネアとティアが矢と魔法で攻撃を開始する。襲い掛かる小さな存在を払おうと攻撃を開始するネクロ=ヴァリスだが、素早い移動で攻撃を回避しながら加えるデュバリィには当たらない。アイネスも固い守りを展開して攻撃を受け止め、ならばと遠くから攻撃してくる2人へネクロ=ヴァリスは攻撃を仕掛けた。が、間に入り込んだアリアンロードが槍を突き出してそれを防ぎ止める。

 

「えいっ! やぁ! もう、一回……!」

 

 ティアが連続で魔法を放てば、氷の刃が地面から数本生えてまずはネクロ=ヴァリスの行動を牽制。その間にデュバリィとアイネスの足元に身体能力を上げる風が生まれ、巨大な時計が地面に浮かびあがると共にその時間速度を早くする。

 

「せいっ はぁ! まだまだ、ですわ!」

 

「はっ! ふっ! 貰った!」

 

 翻弄する様に左右で攻撃を加える2人が同時にその足を武器で攻撃した時、ネクロ=ヴァリスはそのダメージから前方へ倒れ込んだ。すると、それを好機と見たデュバリィが声を上げる。

 

「アイネス! エンネア! ティア! やりますわよ!」

 

「ふっ、我らが鉄騎隊の力、見せてやろう!」

 

「この技を受ける事になるなんて、可哀想に。生まれて来た事を後悔させてあげるわ!」

 

「うん! ママ、力を貸して!」

 

「良いでしょう。貴女達の力、その全力を持って道を切り開きなさい!」

 

 その言葉にそれぞれが反応を示すと、アリアンロードが最後に告げて手を前へ突き出した。

 

「さぁ、耐えてみなさい! セイントランサー!」

 

 それは彼女が放ったオーダー。途端に4人の内から尋常では無い程に湧き上がる力は、全てネクロ=ヴァリスへ向けられる。

 

「さぁ、行きますわよっ!」

 

 まずはデュバリィが3人に分かれ、ネクロ=ヴァリスを囲む様に3方向へ移動。すると、アイネスが一気にネクロ=ヴァリスへ急接近して手に持つハルバードでその足元を力強く打ち上げる。 

 

「吹き飛べ! はぁ!」

 

 その巨体を物ともせずに地面ごと打ち上げ、空に舞うネクロ=ヴァリス。そんな相手を遠くからエンネアが弓に4本の矢を番え、放つ。

 

「捕らえたわ! ティアちゃん!」

 

「うん。そ、れっ!」

 

 放たれた4本の矢はそれぞれその巨体の上下左右へ。するとティアがエンネアの言葉に頷き、魔法を発動する。上下の矢と左右の矢を繋ぐ様に光の線が生まれ、出来上がる十字架にネクロ=ヴァリスは磔となる。

 

「はあぁぁぁ!」

 

 そこへ3人に分かれたデュバリィが同時に突撃する。そして1人となった彼女は振り返り、続け様に剣を上へ掲げる様に構えた。

 

「これが、私たちの!」

 

≪恊技・グランドクロス!≫

 

 揃う4人の声と共にデュバリィの振り下ろす刃から飛ばされた斬撃が十字架の中心に当たった瞬間、巨大な爆発がネクロ=ヴァリスを包み込む。……やがて場が落ち着いた時、その姿は影も形も無くなっていた。

 

「……スクラップどころか、塵も残りませんでしたわね」

 

 思わず呟いたデュバリィが振り返れば、そこには嬉しそうにエンネアとアイネスに両手でハイタッチするティアの姿が。彼女はデュバリィに近づくと、両手を上げて彼女からのタッチを待つ。少し気恥ずかしさを感じながらもデュバリィはそれに応じ、高い音が静寂に響き渡った。



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終-2

 無事に塩の杭を攻略し、空に浮かぶ要塞を守る結界を維持する機能を無効化した鉄騎隊とティア。他の杭でも攻略は完了した様で、リィン達新旧Ⅶ組は作戦通り要塞への突入に成功した。騎神を扱えるのはリィンとクロウだけ。故に彼らへ思いを託して、全員はカレイジャスⅡへ帰還した。

 

「あぁ、無事で良かったよ、ティアちゃん!」

 

「わぷっ! あう、アンゼリカ……苦しい」

 

 戻るや否やアンゼリカの抱擁を受けたティア。その傍では同じ様に待っていたティオが両手を広げて待っており、どうやら本来であれば彼女がするつもりだったのだろう。だが取られた事で少し面白く無さそうな表情を浮かべると、それに気付いたアンゼリカは片手でティアを抱きしめながらもう片方の手でティオを抱きしめ始める。

 

「ふふふ、姉妹纏めて私の者だ……!」

 

「アン。まだ全部終わった訳じゃ無いんだから」

 

「ふっ、分かっているさ」

 

 そんな彼女を注意するのは、見た目ふくよかな男性……ジョルジュ・ノームだった。彼もアンゼリカやクロウと同じ旧Ⅶ組の先輩的な存在であり、それと同時に先日までは結社と帝国の側に付いていた。クロウやアンゼリカ、ティアに仮面を付けたのも彼である。

 

「今更遅いのは分かっている。だけど……済まなかったね」

 

「ううん……デュバリィと、クロウが……言ってた。私を……助けてくれて、ありがとう」

 

 そして、ルーファスに撃たれたティアの命をこの世に繋ぎ止めたのも彼であった。身体に残った弾丸を除去して、傷が悪化しない様に治療を続けたのは彼だったのだ。彼と親交のあったクロウや、話に聞いていたデュバリィからそれを聞いていたティア。彼の謝罪に首を横に振って、彼女はお礼を言う。ジョルジュはそれに一度目を閉じてから、その場を去った。

 

「さぁ、共に様子を見ようではないか」

 

「取り敢えず、私とティアを離してください」

 

 アンゼリカの言葉に冷たく返したティオは、解放されると共にティアを連れて別室へ移動してしまう。

 

「あぁ、私の愛しい天使たちが……」

 

「自業自得ですわね」

 

「むっ。ふふ、こうなったら仕方無い。鉄騎隊筆頭のデュバリィたんを愛でるとしよう!」

 

「な、何でそうなるんですの!? 後その気持ち悪い呼び方を今すぐ止めなさい!」

 

 ティアが帰還した故に、当然ながら一緒に居た鉄騎隊の面々。その中でデュバリィが今までの光景を見ていた為、アンゼリカへ告げた途端。彼女の狙いはデュバリィへ移ってしまう。伸びて来る手にたじろぐデュバリィ。そんな彼女を置いてアイネスとエンネアは巻き込まれない様に離れ、アリアンロードも気付けばその場から姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塩の杭での戦いからしばらく。空に浮かぶ要塞の外に多数の人影を感知した事で確認。それがリィン達だと分かり、彼らの元へ近づき始めていた。ヴィータやローゼリアの魔術を通して聞こえるのは、黒との戦いに勝利した事。その結果、黒の起動者が抱えていた呪いがリィンを蝕み抑えきれない事。……そして黒のアルベリヒと同一人物でありながら違う、アリサの父……フランツ・ラインフォルトによってそれをリィンの中から追い出し、呪いを実体化させる。つまり倒せる存在(・・・・・)にする事。

 

「まさか……そんな、事が……」

 

「マスター!?」

 

 話を遠くから聞いていたアリアンロードはその会話に普段は見せない動揺を見せる。そして彼らの手によって空に浮かぶ要塞の傍に、それは現れた。黒の騎神イシュメルガから生まれた呪いが具現化された姿、イシュメルガ=ローゲ。その大きさは騎神や機甲兵よりも遥かに大きく、だがそれを倒せば……今までの戦いの元凶を討つ事が出来る。

 

「皆の衆、準備は出来ているかな?」

 

「あぁ、勿論だ!」

 

「リィン君達ばっかりに頼る訳にはいかないもんね!」

 

「黒を……呪いを……討つ事が、出来る」

 

「リアンヌ! お主の本懐、妾も共に果たそうではないか!」

 

「マスター、私たちも共に参りますわ!」

 

「ママ!」

 

 オリヴァルトの言葉を合図に、ロイドやエステルを始め続々と戦闘の準備を始める面々。やがて匣と呼ばれる力を使う男性の力で空中に足場が展開され、ヴィータやローゼリアの魔術で全員は転移を開始。リィン達と共に呪いの元凶と対峙した。

 

「これが、黒」

 

「レンちゃん……」

 

「とんでもない存在感ね。とても、禍々しい」

 

「あぁ、近づくだけで身体が震えて来やがる。ティータ、無理はするなよ!」

 

 エステルの傍で、双剣を構えるヨシュアが。鎌を構えるレンが。重剣を構えるアガットが、オーバルギアと呼ばれる機体に乗る少女……ティータ・ラッセルと共に目の前の存在と対峙し、武器を握る手に力を籠める。

 

「はっ、やってやろうじゃねぇか!」

 

「彼らの為にも、私達の全身全霊を持って!」

 

「エイオンシステム、限界突破(リミットブレイク)! 援護は任せてください!」

 

 ロイドの傍では、スタンハルバードを手にランディが。導力銃を構えてエリィが。魔導杖を使って戦闘準備をしながらティオが告げる。

 

「ふふ。美しき少女達の笑顔の為にも、アンゼリカ・ログナー。全力で行かせて貰おう」

 

「動機が不純なのは君らしいね。……僕も、全力でやらせて貰う!」

 

「妾も久々に全力で行くかの!」

 

「ふふっ、御婆ちゃん。無理し過ぎると明日辛いわよ?」

 

「全く、お前ら少しは緊張感を持てっての。ま、無駄に気負うよりは楽で良いかね」

 

 拳を握るアンゼリカと、アルティナやティアの様に傀儡を背に構えるジョルジュ。その傍では杖を手にローゼリアと扇子を手に構えるヴィータが会話をし、そんな彼女達の会話に頭を抱えながらトヴァルが共に対峙する。

 

「師よ、共にかの者を打ち倒しましょう」

 

「ふっ。元より。我がアルゼイド流の全身全霊を持って」

 

「私もお嬢様の為に、ラインフォルトに仕えるメイドとしてお力添え致しますわ」

 

「団長の為に。何よりフィーの為にや!」

 

「帝国の呪い、俺達の手でここに終わらせてやろう!」

 

 オーレリアがラウラの父であり、片腕を失っても尚実力を損なわないヴィクター・アルゼイドと共に。そしてそんな2人の後ろで鋼線と短剣を手に構えるシャロンと、嘗てパンタグリュエルでティアが出会った西風の旅団の2人……ゼノとレオニダスが構える。

 

「これが、マスターの狙いだった……黒」

 

「悍ましく、汚らわしく、悲しい……まるでこの世の負を集めた様な存在ね」

 

「怖い、けど……負けない……!」

 

「我ら鉄騎隊の全力を持って、討たせて貰おう!」

 

「……相克での敗戦によって、私の手で討つ事は二度と適わないと思っていました。ですが、これも巡り合わせなのでしょう。ティア。貴女には少し、無理をさせるかも知れません」

 

「大丈夫……ママの為に……皆の為に……頑張る!」

 

 目の前の存在に構えながらデュバリィとエンネアが告げると、恐怖を感じながらも逃げる事無く立ち向かおうとするティア。そんな彼女の姿にアイネスはハルバードを手に構え、アリアンロードが胸に手を当てながら呟いた後にティアへ告げる。言われた彼女が力強く頷いてグラーシーザを呼び出せば、アリアンロードも槍を手に構えた。

 

 その巨体を相手にするとなれば、分かれて別々に攻撃するのが得策。足場は自然と動き、リィン達は前面のイシュメルガ=ローゲ本体と。エステル達とオーレリア達は右上へ移動し、その本体を守護するローゲ=オウガと。ロイド達とデュバリィ達は左上へ移動し、同じく本体を守護するローゲ=アウラと対峙する。カレイジャスⅡにはアルフィンを始め様々な者達がオーダーによる支援を行う為に待機しており、全ての戦力がこの戦いに注がれていた。

 

「皆……各自全力で黒を……呪いを討ち倒すぞ!」

 

≪応!≫

 

 リィンの言葉に全員が一斉に答え、それを合図に呪いとの最終決戦が始まる。



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終-3

 イシュメルガ=ローゲの本体は左右の肩に存在するローゲ=オウガとローゲ=アウラに守られていた。故に本体へ攻撃を通す為に、左右に分かれた者達が守りを無力化する必要がある。

 

 アウラと対峙する事になった特務支援課の面々と鉄騎隊、ティアとアリアンロードは鳥の様にも見えるその風貌と神聖にも見える存在感を前に攻撃を開始する。

 

「ティオ助! ティアらん、援護は任せたぜ!」

 

「了解しました! ティア、行きますよ!」

 

「うん!」

 

 飛び出すランディやロイド達の姿にティオとティアは魔法を使用する。まず最初に足元に時計が浮かび上がって全員の行動速度は早くなると、追い風の様に全員を包み込む優しい風が更に身体能力を向上させる。

 

「強行突破だ! レイジングハンマー!」

 

 ロイドのオーダーの元、破壊力を増した攻撃がローゲ=アウラへ襲い掛かる。すると相手も負けじと魔法や攻撃を繰り出すが、誰よりも前に出たアイネスがハルバードを縦に構えた。そして彼女の目前に広がるのは、彼女の数倍はある大きな不可視な盾。それが相手の攻撃を全て防ぎ止める。

 

「行け、デュバリィ!」

 

「はあぁぁ! プリズム、キャリバー!」

 

 そんな彼女を超えて、3人に分かれたデュバリィが目にも留まらぬ速さで斬り掛かる。そして最後に刃を光らせて横に振り払えば、悲鳴にも聞こえる鳴き声を上げたローゲ=アウラは……強力な魔法を放った。浮かび上がる魔法陣と、そこから出現する巨大な塔。

 

「皆、気を付けて!」

 

「ティアちゃん、手を貸して!」

 

「うん! エンネア……お願い……!」

 

 その塔に備え付けられた砲台からは途轍もない威力の砲撃が放たれる。故にエリィが危険を知らせて構える中、エンネアが空へ飛んで弓に矢を番えた。砲台が彼女を狙う様に向けられる中、声を掛けられたティアは魔法を3重に使用。エンネアの矢は3段階に渡って赤く光り、やがて真っ赤になったその矢を放った。

 

「ピアス、アロー!」

 

 真っ赤に燃えた鋭い矢は塔の砲身の中へ。その瞬間、大爆発を起こして砲撃が放たれる前に塔は木っ端微塵に大破した。

 

「やるな! なら、こっちもだ! 行くぞ、ランディ!」

 

「合点承知だ!」

 

≪バーニングレイジ!≫

 

 魔法の脅威が去り、ロイドはランディと共にローゲ=アウラへ急接近する。そして2人は左右でその身体を挟む様に移動し、高速で猛攻を仕掛ける。やがて最後に2人はすれ違う様に交差した。

 

「ティオちゃん、私達も!」

 

「お任せ下さい……!」

 

≪コールドゲヘナ!≫

 

 彼らの協力技を見たエリィとティオは背中合わせに立ち、同時に魔法を使用する。足元に浮かぶ巨大な魔法陣と、彼女達の元から空へと放たれた青い光がローゲ=アウラの身体へぶつかった時、一瞬にしてその巨体は凍り付いた。

 

「流石ね」

 

「私たちも、行きますわよっ!」

 

「承知!」

 

 彼らの戦う姿にデュバリィ達も集い、星洸陣を発動する。飛躍的に身体能力の向上した3人の連携攻撃は凍結したその身体を崩し、到頭ローゲ=アウラは羽を失う。……そんな3組の戦いを前に、ティアはアリアンロードと共に並んで立っていた。

 

「ママ!」

 

「行きますよ」

 

 ティアの呼び声に答えたアリアンロード。2人の間に互いを繋げる光の線が見える様になり、彼女達は同時に飛び出した。そしてティアは徐に手を上へ。背中に控えるグラーシーザがそれに答える様に変形を始め、出来上がるのは……赤い槍。

 

≪はあぁぁぁ!≫

 

 ローゲ=アウラの元へ辿り着いた2人は交差し、すれ違い、何度も繰り返し攻撃を繰り返す。そしてそれを幾度となく繰り返した後、2人は共に空へと飛び上がった。

 

「最後も、一緒……!」

 

「ふふっ、良いでしょう」

 

≪トゥルーブレイブ!≫

 

 2人同時に槍を投降する。渦を描く様に回転しながら接近した2本の槍はその巨体を貫き……イシュメルガ=ローゲの身体とローゲ=アウラを物理的に切り離した。肩を失い、悲鳴を上げるイシュメルガ=ローゲ。無事に着地した2人の姿に、見ていた者達は呆気に取られていた。

 

「す、凄まじい力ね……」

 

「あぁ。力は失ったと聞いてたんだが」

 

「これがあれか? 蛙の子は蛙、って奴か?」

 

「ティア……頑張りましたね」

 

 鉄騎隊の面々はすぐに『マスターだから』で納得出来た。だが特務支援課の面々は違う。2人の放った技の威力に4人は驚愕していた。すると、ゆっくり倒れ始めるティア。急いで全員が駆け寄る中、イシュメルガ=ローゲを守るもう1つの存在が悲鳴を上げながらその機能を停止する。

 

「リィン……皆……」

 

「……俺達に出来る事はした。後は、彼らを信じよう」

 

 傍に居たアリアンロードに受け止められ、力を使い切って弱々しく本体と戦うリィン達を見るティア。そんな彼女の姿を見て、他の者達も彼らの戦いを見守り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イシュメルガ=ローゲを撃破したリィン達。後に別の空間へ逃げた核とも呼べる部分を追って剣となったミリアムを手に飛んだリィン。その先で彼は無事にイシュメルガを討ち、帰還した。

 

 呪いが消えた事でリィンの中に宿る呪いも消え、それに伴って髪の色も元の黒髪に。目の色も元通りになる。だが相克が終わって呪いが消えた事で、呪いに生かされていたクロウと呪いを広げる為に剣となったミリアムは消える運命にあった。……アリサの父、フランツ・ラインフォルトの技術力と騎神達の奇跡が無ければ。元々、その存在自体が常人には理解し難いのだ。彼らの力は世界の理や概念に干渉し、ミリアムとクロウの消滅すらも防いで見せた。

 

 不死者だったフランツや、相克の為に存在した騎神達は消える。そして残されたリィン達は全てが終わった事と、クロウとミリアムの生存に歓喜し涙を流した。

 

「ようやく、終わったんですね」

 

「あぁ、そうじゃ。……妾に相談しなかったのは友として納得出来んかったが……リアンヌ、よく頑張ったの。無事にドライケルスの魂は逝ったのじゃ」

 

「……えぇ。本来であれば、このまま私も……ですが少し、待たせてしまう事になりそうですね」

 

 全てが終わった事で、本懐を遂げたアリアンロードも僅かに涙を流した。それを隣に立ったローゼリアが気付きながらも見ずに答え、アリアンロードは自分の腕に眠るティアへ視線を落とす。最初は疲労から苦しそうだったティアの表情も、今は穏やかで何処か幸せそうに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の情勢が揺れに揺れた後、リィン達は消える間際にフランツが告げた言葉を頼りに黒の工房の本拠地へ赴いていた。そしてそこで見つけたのは、消える前のミリアムの身体……その予備であった。剣に宿っていた彼女の意思を身体へ移し、また人間として動ける様になった彼女の姿にⅦ組の全員を始めアルティナも泣きながらその身体へ抱き着く。そして黒の工房を離れた時、ミリアムは周囲を見回して首を傾げた。

 

「さっきから思ってたけど、ティアはいないの?」

 

「あぁ、そうだったな。ティアへ連絡しないと」

 

 ミリアムの質問にリィンが取り出したのは、ARCUSⅡ。ティアが持っていた導力器、ARCUSの後継機であり、何とそれには今までの通信機能に合わせて画面に互いの顔が映る様になっていた。リィンが連絡を掛ければ、彼の傍へワクワクした様子でミリアムが。同じ様にアルティナとアリサも近づき始める。……そして少しの間を置いて、画面にティアの姿が映った。彼女もあの戦いの後、ARCUSⅡを通信の為に貰ったのだ。

 

「あ、ティア! やっほー!」

 

『ミリ、アム……? 戻れたんだ……良かった……!』

 

「あっはは、泣かないでよ……でも、僕の為に泣いてくれてるんだよね。ありがとう」

 

『ううん。御免ね……行けなく、て』

 

 通信でティアが見えれば、当然彼女からもミリアムの姿は見えていた。元々リィン達が彼女を元に戻せるかも知れないと話していた為に、それが成功した事実に喜び涙を流すティア。そんな姿にミリアムが少し照れた様子で頬を掻きながらも、お礼を言う。すると謝るティアに、彼女は今何をしているのか質問した。

 

『今は……ティオ、達と……一緒』

 

「今ティアは特務支援課と一緒にクロスベルに居るんだ。本来なら一緒に来る予定だったんだが……どうやらかなり大変な状況みたいだな」

 

「ティアちゃん! 怪我はない? ちゃんと食べてる?」

 

「オリヴァルト皇子からの招待状は無事に届きましたか?」

 

『うん。怪我、してないよ。ご飯も、食べてる。最近、少し作れる様に、なったの。招待状も、貰ったよ』

 

『ティア、そろそろ行きますわよ』

 

『あ、うん。またね……ばいばい』

 

 アリサとアルティナの質問にティアが答えた時、顔は見えずとも聞こえるデュバリィの声にティアは振り返る。そして画面で見える様に手を振って、通信を切られた事で少し残念そうにするアリサとアルティナ。リィンはARCUSⅡをしまい、ミリアムは一枚の封筒を差し出した。……それはオリヴァルトとシェラザード・ハーヴェイと言う名の女性の結婚式の招待状だった。シェラザードはあの戦いで協力してくれた遊撃士の1人であり、どうやら戦いが終わったら結婚する事を約束していた2人。思念体としてその話を既に聞いていたミリアムは正式にその招待状を受け取り、満面の笑みを浮かべるのだった。



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終-4+α

「あ、ティア~!」

 

「ミリアム……! 行って、良い?」

 

 オリヴァルト皇子とシェラザードの結婚式に呼ばれ、アリアンロードや鉄騎隊の面々と共にやって来たティアを迎えるのは笑顔で手を振るドレス姿のミリアムだった。彼女の傍にはアルティナの姿もあり、ティアは気付くと同時にアリアンロードへ確認する。笑顔で頷く姿を見て、ティアは嬉しそうに2人の元へ駆け寄った。

 

「これで三姉妹揃ったね!」

 

「うん……ミリアム、良かった……!」

 

「ティアさん、どうぞ」

 

 目の前で笑顔を浮かべる彼女の姿に喜び、アルティナが差し出した飲み物の入るグラスをティアはお礼を言いながら受け取る。すると、彼女が到着した事に気付いた新旧Ⅶ組が近づき始める。

 

「到頭、揃ったな」

 

「あはは。今までもカレイジャスⅡで揃ってはいたけど……これで本当に集合、だね」

 

 旧Ⅶ組とその教官であったサラ。そして新Ⅶ組。二度と揃う事は無いと誰もが過去に思った総計18人の集合。それは誰もが感慨深く感じ、中には涙を流してしまう者も居る。……ティアもミリアムや他の面々との再会に、その瞳から涙を流していた。

 

「どうせなら、記念写真でも撮って貰おうかしら?」

 

「お、良いんじゃねぇか?」

 

 サラの提案にクロウが同意を示せば、他の面々も頷いて同意する。そして結婚式場の写真を撮っていた人物に声を掛け、ティアはアリサに後ろから抱きしめられながらミリアム、アルティナと手を繋いで写真に映った。

 

 まだ沢山写真を撮る機会はあり、各自色々な人物と話をする為に一度別れる事に。すると新旧Ⅶ組の面々から離れたティアに気付いて、共にやって来ていたデュバリィが声を掛ける。因みに現在彼女の装いは鉄騎隊の鎧では無く、髪を降ろして何処かのお嬢様にも見える装いをしたこの場に相応しい物だった。

 

「あっちでも写真を撮るみたいですわよ。貴女の姉が、探してましたわ」

 

「ティオが? うん……行ってくる、ね」

 

 特務支援課やティア、他にもアイネスとエンネアは今までと変わらぬ装いでここへ来場していた。デュバリィの話を聞いて少し離れた場所に集まる特務支援課の面々の元へ歩みを進めるティアを見送り、デュバリィは別の場所でレンとヨシュアの傍でグラスを合わせるアリアンロードの元へ。

 

「マスター。改めまして、お美しいですわ」

 

「ふふっ。ありがとう、デュバリィ。ですがそう何度も言わなくても、大丈夫ですよ」

 

「相変わらずの鋼の聖女大好きっ子ね、神速さんは」

 

「ははっ、だね。……これから、貴女はどうするんですか? やはり、あの子と?」

 

 デュバリィから送られる賛辞。既に何度も聞いていたアリアンロードは彼女の様子に微笑みながら返し、そんな様子に笑みを浮かべて呟いたレン。彼女の言葉にヨシュアも同意した後、彼はアリアンロードへ質問する。彼の質問にアリアンロードは少し黙ってティアへ視線を向けた後、「そうですね」と呟いた。

 

「あの子が今後、どの様に過ごすのか……それを見守りたいとは、思っています」

 

「ふふっ、ならこれからは今まで以上にママ(・・)になるのね?」

 

「えぇ、そうですね。……結社の使徒でも無く、伝説に謳われる存在でも無く、母として……」

 

「私たちはこれからも、マスターについて参りますわ」

 

「それは……何となく分かっていたよ」

 

「そうね。なら、差し当たっての問題は名前かしら? 貴女の名前は有名になり過ぎて居るもの。第3の人生を始めると言う意味合いも込めて、新しい名前を考えても良いんじゃないかしら?」

 

「名前……そうですね」

 

 その後も、元結社の人間として話を続ける4人。……その頃、特務支援課の面々と共に写真を撮ったティアは取り合わると同時に2人の人物と話を始めていた。

 

「あ、ティアちゃん。楽しんでますか?」

 

「その様子だと無事、噂のⅦ組と再会は出来た様だね」

 

「ノエル……ワジ……うん。皆、元気だった」

 

 それはロイド達と同じ様に成長したノエルとワジ。特務支援課の一員として、2人もこの結婚式に招待されていたのだ。2人との再会は少し前、戦いが終わってからクロスベルへ戻った頃の事。誘拐されてから最初の再会故に、その際はとても安心されたのをティアは今でも覚えていた。

 

「私、こう言ったお祝いの会食って余り慣れて無くって……」

 

「僕は何度か経験があるからね。と言ってもこの雰囲気だと、気負う必要は無さそうだけど」

 

「皆、知ってる人……ばっかり」

 

「流石放浪皇子と呼ばれるだけあって、顔は広い様だね」

 

「ははっ、そんなに褒めないでくれたまえよ」

 

「お、皇子!?」

 

 ワジの言葉に帰って来たのは、この式の主役でもあるオリヴァルトであった。彼の登場に驚き緊張するノエルと、焦った様子も無く笑みを浮かべるワジ。ティアはオリヴァルトとカレイジャスⅡで何度か邂逅している為、彼に近づいてティアはアリアンロードやデュバリィ達に教わった事を思い出して行動に移した。

 

「えっと……この度は、ご結婚……おめでとう、ございます」

 

「! ありがとう、ティア君」

 

 何処か固く練習した感の漂うティアの挨拶だが、それでもオリヴァルトはそんな彼女の挨拶に驚き笑顔で返した。様子を見ていたノエルが「偉いです、ティアちゃん!」と褒める中、ティアは身長差故にオリヴァルトを見上げる形で視線を向ける。

 

「あのね、お願いが……あるの」

 

「? 何だい? 僕に出来る事であれば、力になるよ」

 

「ありがとう……えっと」

 

 ティアはオリヴァルトの言葉にお礼を言って、お願いを告げる。その理由も語る様子にオリヴァルトは少し驚きながらもすぐに頷いて了承の意を示した。お願いを受け入れて貰えた事で再びお礼を告げたティアは、一度お辞儀をしてからその場を離れる。

 

「Oz達の意思、か……僕もついて行くべきかな」

 

 離れ行くその小さな姿を見ながら、オリヴァルトは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。カレル離宮、東屋。

 

「……」

 

 そこで、ティアを始めアルティナやミリアム。他にも新旧Ⅶ組の面々に鉄騎隊の3人やアリアンロード。そしてオリヴァルトは集まっていた。ティアの手には帝都で用意した花の束があり、左右に立つアルティナとミリアムと共に前へ。やがて地面へその花束を置いた。

 

「私やミリアムさんを守る為に、留まり続けていたOz達」

 

「1度は話したかったけど、仕方ないよね」

 

「……私を、助けてくれて……ありがとう」

 

「私達の為に、ありがとうございます」

 

「バイバイ。せめて女神さまの元へ。僕達は、大丈夫だから」

 

 3人が両手を合わせて祈り始めれば、その様子を眺めていた他の面々も共に祈り始める。響く滝の音と頬を撫でるそよ風を感じて、やがて振り返った3人は共に来ていた面々と共に離宮内を通って外へ。……誰も居なくなった東屋で、やがて花束の傍で僅かに輝く光が複数出現する。それは花束の上を囲む様に回りながら浮かび続け、やがて空へと舞い上がって見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び旧Ⅶ組の面々を始め、人々は日常へ戻って行く。遊撃士として活動するフィーや、分校生徒としてユウナ達と共に日々を過ごすアルティナ。特務支援課の一員として、再び活動を再開するティオ。誰もが自らの使命や目的の為に行動をする……そして、彼女もまた……。

 

 

 嘗て記憶を失い、トールズ士官学院Ⅶ組へと入学した少女。臆病だった少女は本当の家族と出会い、自分を育ててくれた人物……ママと再会して悲惨な記憶も楽しい記憶も思い出した。

 

 ママの為に自分の力を使い熟す決意をした少女は、1人の人間の消え行く運命を変える。そして仲間、家族、友達と共に呪いへと立ち向かった。

 

 数々の出会いを経て成長した少女、ティアはその軌跡を糧に再び新しい世界へ足を踏み出す。

 

 背後から聞こえる声。彼女は自分を呼ぶ声に振り返り、笑顔で駆け出した。




最後にティアを呼んだのが誰か。それは各々のご想像にお任せ致します。

まずはここまで読んで頂き、ありがとうございました。最初に最終話から読んでる方は、是非序章からお楽しみ頂ければ幸いです。

気付けば零の軌跡+碧の軌跡の二次創作であった【旧・無の軌跡】を初めて投稿して7年。今では外伝だった作品を【無の軌跡】として残していますが、何時か英雄伝説シリーズの二次創作を最初から最後まで書きたかったので非常に嬉しく思っています。因みに今作で空の軌跡のキャラが余り出ていないのは、自分が空のみ未プレイなのが理由です。零の軌跡から入ったので……申し訳ありません。

色々大事な部分を端折る事で何とか話を続け、気付けば原作知識必須の話となっていた今作。まさか最初の投稿から最終話まで、続けて投稿出来るとは思いませんでした。投稿開始時は断章までしか出来てなかったので、執筆の調子の良さが今までに無くて吃驚。……凄く楽しかった。

今作は原作が現状ここまでの為、ここで完結となります。ティアが未来に何を選択して、誰と共にいる事にしたのかは上記で記載した通りご想像にお任せします。……何時か原作の続編が出たら、その時は考えてみます。

今後は自分が投稿する他の二次創作と同じ様に、番外編や小話の思い付きがあれば投稿する形になると思います。思い付かなければ、それまでです。……因みに時系列無視で百合度が増し増しになる可能性が高いです。

それでは最後に何時も通り、ティアの戦技(クラフト)表。その完全版を記載して終わりたいと思います。

改めてありがとうございました。












ティア・プラトー


【攻撃属性】

斬A 突S 射B 剛A
※アルティナやミリアムと同じ様に戦術殻、グラーシーザで突く様に攻撃する。


【クラフト】

デュアルアーツ
2種の魔法を同時に放つ。※ロストアーツ不可
CP30 EP200 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ!」

トリプルアーツ
3種の魔法を同時に放つ。※ロストアーツ不可
CP50 EP300 威力は使用する魔法に依存
「えいっ! やぁ! もう、1回……!」

ロスト・ゼロ
全力で魔法を使用する。
※ロストアーツ選択可 このクラフトで使用した場合、再使用が可能
CP80 EP500 威力は使用する魔法に依存。次ターン、行動不可。
「そ、れっ!」

ホーリーエール
ティアの応援で共に戦う仲間の士気を高める。
CP20 円L(自分中心) 自身対象外
CP+30 HP10%回復。※一部キャラのみ、極稀に効果増大。
「皆。頑張ろう……!」

アリアンロード召還
鋼の聖女の力を借りて敵を屠る。※戦闘中1度のみ。対人戦可
EP500 全体 威力SSS ブレイクS+ 即死50% 封技100%

ティアが両手を組んで胸の前で祈る様にお願いする。その後、入れ替わりにアリアンロードが現れて徐々に範囲が広くなる目にも留まらぬ連続突きを放つ。
「ママ、お願い……!」
「我が槍、見切れるものなら見切ってみなさい」


【Sクラフト】

エンドレスヴォイド
虚無の魔法で敵を吸い込み、消滅させる。
CP100~200 威力4S ブレイクC 崩し無効 全体 消滅

両手を前に突き出し、周囲を吸い込みながら巨大な黒球を作り上げる。それを敵の中央に投げ込むと、黒球は一気に肥大化して全てを飲み込む。そして大地が無くなり、最後には丸型の巨大なクレーターが出来上がる。
「……これで、お終い……エンドレス、ヴォイド……! さようなら」


トゥルーブレイブ
グラーシーザを変形させ、鋼の聖女と共に敵を貫き殲滅する。
CP100~200 威力5S ブレイクA 崩し無効 全体 即死80% 封技80% 気絶80%

グラーシーザを槍に変形させ、アリアンロードと共に複数回すれ違いや交差を繰り返して敵を攻撃。敵を中央へ集め、最後は同時に空へと飛び上がり、槍を敵の居る中央へ投降。2本の槍が渦を巻く様に回転しながら地面に接触後、爆発を引き起こす。
「ママ!」
「行きますよ」
≪はあぁぁぁ!≫
「最後も、一緒……!」
「ふふっ、良いでしょう」
≪トゥルーブレイブ!≫


【オーダー】

シャイニングカーレッジ
BP3 5カウント 与ダメージ+30% ブレイクダメージ+50% EP全回復 毎ターンCP+20
「皆に、勇気を……シャイニング、カーレッジ……!」

セイントランサー
BP5 1カウント 与ダメージ+300% CP+200(使用キャラ限定)
「さぁ、耐えてみなさい! セイントランサー!」


【コンビクラフト】※各使用者のCP100 BP3

恊技・グランドクロス 『デュバリィ・アイネス・エンネア』
鉄騎隊とティアが協力して放つ、アリアンロードへの思いが込められた技。
攻撃 威力6S 確定ブレイク 崩し無効 全体 ポジティブ状態変化解除

デュバリィが3人に分かれ、アイネスがハルバードで敵を空へ打ち上げる。続けてエンネアが矢を4本放ち、ティアが魔法でその矢に光を繋いで十字架を作って敵を磔にする。最後に3人のデュバリィが一斉に十字架へ突撃して1人に戻り、振り返り様に止めの一撃を放つ。
「さぁ、行きますわよっ!」
「吹き飛べ! はぁ!」
「捕らえたわ! ティアちゃん!」
「うん。そ、れっ!」
「はあぁぁぁ! これが、私たちの!」
≪恊技・グランドクロス!≫


好感度『ティア→キャラ』

★★★★★
フィー・ミリアム
アルティナ
ティオ
トヴァル
アリアンロード
デュバリィ・シャーリィ
アイネス・エンネア
ヴィータ・ローゼリア
セリーヌ
コッペ
★★★★☆
リィン・エリオット・ガイウス・マキアス・ユーシス
クロウ
アリサ・ラウラ・サラ・エマ
アンゼリカ
シャロン
ロイド・ランディ
エリィ・ノエル・キーア
レン
オリヴァルト・アルフィン
★★★☆☆
クルト・アッシュ
ユウナ・ミュゼ
ジョルジュ
ワジ
マクバーン・カンパネルラ
★★☆☆☆
ゼノ・レオニダス
ブルブラン
★☆☆☆☆




2020年 5月12日追記

常時掲載

【Fantia】にて、主にオリジナルの小説を投稿しています。
また、一部二次創作の先行公開や没作の公開もしています。
少しでも興味を感じられた方。URLはユーザーページに記載しています。其方からどうぞ!


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