クリスマスの魔法 (ATNAS)
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1.リュウ

2018年12月3日。ふと塾から出てきて見ると階段の下にクリスマスツリーが立っていた

クリスマス…もうそんな時期か。

クリスマスまでは一ヶ月を切っている。

クリスマス…生まれてきてからこれまで生きてきた17年間の記憶を辿ってみる。

とはいえ俺は年齢=彼女いない歴だ。

なので、「大切な人とクリスマスを過ごす」みたいな事は一回もなかった。

あぁ、なんて悲しい人生なんだ。

当然、毎年家族と過ごす。

貰ったプレゼントの種類以外全く変化が無いのでじゅうなな思い返してみたは良いもののどの記憶がいつのクリスマスだかわからない。

意味無いねこりゃ。

思い出してもどうしようも無いようなので俺は自分の内部ストレージに蓋をした。

夜空を眺めてみる。

今日は生憎の曇り空だった。

まぁ、晴れていたところで星など全然見えないだろうが。

今俺がいる場所は、都会とまではいかないが田舎でも無い。

よくある「普通の街」だ。

だがそれでも夜通し明かりが消える事は無い。

当然星はかなり見えにくくなる。

おまけに季節は冬。

夜空は我らが銀河系の中心とは正反対の方向の宇宙を映し出している。

星など見えるはずが無い。見えたとしても今にも消えそうな北極星が見えるくらいだろう。

はぁっとため息をついて目線を下に落とす。

静かな気持ちではある。

だがそれは寂しいのか悲しいのかわからない、ブルーな気持ちだった。

俺は今駅チカの塾からほど近い、そしてもって駅一体のエリアの外れ中の外れみたいな所にいる。

一体こんな所で何やってんだろ。

ここまで考えて、俺は久々に今がクリスマスシーズンだと言う事を思い出した。

あぁもう。

また思い出してしまった。

クリスマスといえばプレゼントかぁ。

昔はサンタを信じてイブの夜はウキウキしてベッドに入ったものだった。

だが当たり前だが今俺はサンタの存在を信じていない。

だけど欲しいものなら、ある…かもしれない。

ずっと俺はいわゆる「ヒット曲」が大嫌いだった。

あんなの安っぽいケータイ小説と一緒だ。

意味の無い言葉を並べ立てただけ。

歌詞の無いインストロメンタルを聞く方がずっと良い。

ところが困った事に俺はインストロメンタルは愚か、音楽全般に興味が無かったので、自分で音楽を調べたりもせず、ただ音楽を自分の世界から閉め出した。

今でもBGMでは無く普通の曲が流れるようなファミレスとかには絶対行かない。

とまぁ、ここまで見てもわかるように俺はかなりのひねくれ者だ。

もう自分でも開き直っている。

だけどまぁ少しは改善したい気持ちが無くも…無い。

音楽逃避とひねくれ者改善。

プレゼントに変換するなら「温かい気持ちと、優しい音楽」

とでも言った所か。

まぁお願いした所で届くとは思えないが。

てかこれ完膚なきまでの他力本願じゃん。何バカみたいなこと考えてるんだ俺は。

嗚呼。

ガクッと方を落とす。

と、突然後ろから足音が聞こえてきた。

無視。

しかし足音の主はそのまま歩いてきて俺の隣まで来てしまった。めんどくさ。

無視しようと決めていたがその決心は数秒後には打ち砕かれた。

「ねぇ、君、どうしたの?そんな沈んだ顔して。もうすぐクリスマスだよ?」

なんて事を聞いてきたからだ。

しかもその声が嬉しかろうが悲しかろうが怒っていようがいようが勝手に返事をしてしまうような声なのである。

ムッとしたがつい「クリスマスだからなんて理由にならないだろ?しかもなんで見ず知らずの奴に応えないといけないんだよ。」

横を振り向きながらそう応えてしまった。

改めて相手の姿を見てみる。

女子だった。

おそらく俺と同い年だろう。

俺より少し背は低い。

顔はかなり垢抜けている。結構人気ありそうだ。

だが少し幼かった。

そして目を引くのがその服装。

厚手の黒パーカーに黒のワンピース。

まるで車にひかれたいのかと思うまでに黒ずくめだった。

そいつはこう返してきた。

「あ、ムキになってる。クリスマス嫌いなの?」

うっせえな。だいたいあんた誰だよ。

「私?うーん……」

黒ずくめ女子は結構考え込んでいたがやっと答えに近い言葉を見つけたらしくまた口を開いた。

「うー…クリスマスの精…みたいなものかな?」

…は?

何言ってんだ?

そんなのいる訳無いだろ?

だいたいまっくろくろすけじゃねえか。

「これは普段着ですぅ!んー…精じゃ無いな…なんだろう…あ!『クリスマスシーズンの時だけしかもクリスマス関係の能力しか使えない超能力者!』みたいな?」

…。(同情の目)

「う、うるさい!ほんとだよ!」

こちとら何も言って無いんだが。

じゃあ何か能力使ってみろよ。

まぁどうせ無理だろうけど。

「わかった!」

めちゃくちゃ嬉しそうだな。

「ちょっと手を貸して」

黒ずくめ女子は俺の腕を握って右の手の平を上に向けさせる。

まぁ見てやろうじゃないかとおれは素直に言うことを聞く。

そして黒ずくめ女子は何やら力を込めて自分の右手を俺の手の平に振りかざした。

「うーん、は!」

ああ、このイタいな…精神科へ…へ?

俺は多分そのときすごくマヌケな顔をしていただろう。

あ、いや俺がマヌケ顔だって事を言ってるんじゃ無いぞ?多分誰でも同じ顔をしていたと思う。いや、絶対する。

なぜなら俺の手が赤と緑の光の粒子に包まれだしたからだ。

「お…へ…れ?」

…謎の声を出しながらただただ驚いて固まっている俺とは反対に黒ずくめ女子は実にニコニコと楽しそうだ。

そして5、6秒後光は消え、俺の手元には玄関にでも飾っていそうな小さなサイズの陶器でできたクリスマスツリーの置き物が載っていた。

黒ずくめ女子は得意そうだ。

「へっへ〜ん。今はまだまだクリスマスに近づいてないからこれくらいしかできないけど、そのうち本物のツリーも出せるようになるよ!どう?信じてくれた?」

おわ!?夢じゃ無いだろうな。

俺は左手で何度も目をこすったり頬をつねったりした。

でも相変わらず置き物は右手の手の平に鎮座しているし、その重さも感じられた。

俺はへなへなとその場に座り込んだ。

と、置き物が落ちる。ああ、割れる…と思ったが次の瞬間置き物はシュッと黒ずくめ女子の手に収まった。

今までの常識がガラガラと音を立てて崩れ落ちた気がした。

ああ!もう!みとめますよ!とりあえず!

「本当?やった〜!」

女子はまるでクリスマスツリーのてっぺんの星飾りのようなぱあっと明るい笑みを見せた。

ああ、眩しい…と言うか今までの俺の常識はなんだったんだ…ああ、めまいが…

情けないことに俺はフラフラと倒れそうになった。

「ちょっと君大丈夫?顔真っ青だよ?」

…あんたのせいだ。

「え、なんのこと?」

女子はきょとんとしている。

おい。

…ってマジで倒れそうだ。

だるい。

「大丈夫じゃないじゃん!」

いや俺はイエスともノーとも言ってないんだが…

「なにわけわかんないこと言ってるの、ほら、あっちいこ!」

そう言うと女子は俺の右腕を掴んでさっさと歩き出した。

俺は死にそうな顔をしながら女子に半分ひきずられながら歩くという醜態を晒すはめになってしまった。

何人かがジロジロと俺を見ている。

…頭が痛くなってきた。

駅近くの広場。

このシーズンになると動く雪の結晶が投影されたりイルミネーションが輝いたり結構綺麗な場所なのだが、リア充がいちゃいちゃしているのが玉に瑕だ。濃縮凝固(爆発四散にあらず)すれば良いのに。

うう…倒れそうだ…

女子が俺を広場の中央まで連行したそこには人工芝が植えられていて、ねそべったり、座って喋ったりできる憩いの場になっている。

女子は「そこで寝てて」と一方的に言い残してどこかに行ってしまった。

正直立っているのも辛かったので大人しく俺は人工芝の上に寝転がった。

寝転がりながら、グラグラする頭で今まで起こった事を反芻してみる。

なんか急にクリスマスの精だか超能力者だかなんだかいう奴がそいつが手をふりかざしたら俺の右手の手の平にクリスマスツリーの置き物が現れて…ああ、もうわけがわからない。

余計頭が痛くなってきた…

と、そこに女子が帰ってきた。

手には缶のホットココア二つ。

「自販機で買ってきた。飲んで。」

そこは普通に買うのか。

でも金は…

「良いから飲みなさぁい!」

…全く怖くない雷が落ちてきたのでありがたく頂くことにする。

ほっと一息ホットココア。

とてつもなくアホなダジャレが混乱した脳内から浮かび上がってきて顔をしかめる。

「なにバカみたいな顔してるのさ〜早く飲みなよ」

それはさぞバカみたいなツラをしていただろう。

バカみたいな事を考えていたんだから。

それはともあれ、まあ飲もう。

俺は缶に口をつけた。

ダジャレじゃないがほっとする味だな。

混乱していた頭も落ち着いてきた。

そう言えば名前を聞いてなかったな。

なんて言うんだ?

「愛璃(あいり)。アイリス、つまりアヤメから来た名前らしいよー!喜びを運ぶ花なんだって!」

なんでわざわざデリバリーしなきゃなんないのさ。

ピッチャーか誰かに投げてもらえば良いじゃん。と黒ずくめ女子改めて愛璃は笑う。

投げるって…でも愛璃にはぴったりなんじゃないか?

「またまたぁ。褒めてもなにも出ないよ?」

そう言った愛璃はこころなしか嬉しそうだ。

トナカイとか出てきそうだからでなくていい。すると、「偏見に満ちたフレンズなんだね!この馬鹿!」と笑いながら怒り出すという器用な真似をしだした。情緒不安定か。

「そう言えばユーの名前はなんてユーの?」

ラッパーでも目指すつもりか。

「今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート好きの斎藤!」

愛璃が嬉しそうに吠えたのを聞いて俺は危うくココアを吹き出しそうになった。

おいおい、その一節って…

「え、なんのこと?お父さんがよく口ずさんでる曲?だよ?確かシャンプーシンドロームとか言ってたな…」

お前の父さん何者だ… で、名前だったか?俺の。

「あ、そうそう。忘れるところだったよ!」

別に忘れてもらって構わなかったんだが。

「それじゃだめですぅー。なんて言ったけ……うーん、、、あー。。。うがー!_あ!そう、unfairだよ!」

いや普通に不公平って言えば良い話では…

「や、英検の勉強してるから!」

英検だぁ?確か次は2月じゃなかったか?

「だ、大学受験に入るから受験シーズン到来する前に何としてもとらないといけないの!」

おお、大変だなあ。

ま、指定校推薦で進学する俺には関係ない話だが。

「…(カチン)」

ん?今なんか音したな。気のせいか?

「………アイアンクロー!」

あががががが!痛い痛い痛い!なんだよ急n_あががががが!!

「私の前でぇ、、、二度とォ…指定校推薦の話をするなぁ!」

愛璃はとてつもなく強い力で俺の頭を掴み、締め上げる。

その華奢な身体のどこに一体そんな力があったのか不思議でしょうがない。

わかった。わかったからやめろって!俺死んじゃう!

愛璃は怒気のはらんだため息を1つついて

「情けない奴だなぁ」

と三白眼で俺を睨みそれからやっと俺を解放した。

まぁ、何で指定校推薦で怒り出したかわからないほど俺も馬鹿じゃない。

長い事高校に通っていると話した事のない生徒でも顔くらいは覚えるようになる。

でも愛璃とはおそらく初対面。

つまり、俺の通っている高校の生徒じゃない。

おそらく愛璃が通っているのは駅の近くにあるもう1つの高校だ。

そこは進学校で、みんな受験して一流の大学に進学するらしい。

そんな学校で頑張ってるのに、そんな話されたら腹もたつだろう。

「だがそんな事知るか。」っといつもの調子で嘲笑をたたえて言おうとした。

…っ!怖い、怖いぞ…さっきまでが嘘のようだ。

愛璃はこの顔で睨まれたら閻魔様もママに泣きつくに違いない、というような顔で俺を睨んでくる。

無言で俺はそれこそ本当に情けないが何も言い返す事も嘲笑を浮かべる事すらもすらもなかった。

さらなる怒りを買う前に俺は言った。「朝倉リュウ」

突然話題を変えられた愛璃はキョトンとした表情で首を傾げる。

さっきまであんなに聞きたがってたのにもう忘れたのか。

俺の名前だ。

「あ、ありがとう!」

愛璃は花が咲いたように笑った。

そろそろ寒さが限界になってきた。

悪い、そろそろ失礼する。

俺が歩き出すと、愛璃はにっこりと笑って「リュウ、また明日ね!」と手を振ってくれた。

駐輪場に停めてあった愛チャリにまたがり、俺は駅を後にする。

「また明日」か…いつぶりに聞いた言葉だろう。

俺はチャリを漕ぎながらふとそんな事を考えた。

こんな捻くれ者だと当然だろうが、俺には友達と言う友達が居ない。

学校で話す生徒はいるが、誰に会おうと会わなかろうと関係ないし気にしない。例えそいつが休んでても知った事か。

向こうもそう考えている筈だ。

また明日。嬉しくなくもない…かもな。

俺はすいすいとチャリを漕ぎ家まで帰った。いつもより心なしかペダルが軽いような気がした。

 



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2.リュウ

家に帰るとまだ働いているらしく両親はいなかった。

親父は会社員。

今頃部長の接待でもして酒に飲まれてベロンベロンになってるんだろう。

情けない。

母さんは喫茶店の店長と言うか、バリスタ兼マスター?だ。

若い頃に弟子入りしていたバリスタから今年の春に独立、自分の店を建てて今まで切り盛りして来た。

俺は人を信じないが母さんだけは別だ。

苦労している姿を昔から見てきたからだ。

しかもそこそこ有名なjazz bandのサックスをしていたりする。

だけどそこで得たお金もカフェの資金に回していたりで正直カツカツらしい。

俺は別に珈琲を愛するものでは無いが母さんに叩き込まれたのでこれでも味の違いはわかるつもりだ。母さんの珈琲は人気店と比べても遜色無い。むしろそれ以上だと思う。だがカフェの立地が悪くお客さんも他店と比べるとあまり来ない。

俺の前では「伸び代ですねぇ!」と某サッカー選手の真似をしておどけてみせるけど。

おそらくこのままではお店が潰れてしまう。

せっかく念願の自分の店を持てたというのに現実はあまりにも残酷だ。

だけど母さんは決して悲観的にならずいつも前を向いている。笑顔も絶やさない。

おそらく今閉店準備に取り掛かっているであろう母さんに、俺は心の中でつぶやく。「いつもありがとう」。

母さんが冷蔵庫に幾つか材料を入れてくれていたのでサッと作って夕飯を済ませると俺は二階の自分の部屋に足を運んだ。

机と棚とノーパソとベッドしか置いてない殺風景な部屋だ。

俺は机に向かって少し課題を進めて時間割を済ませてシャワーを浴びるべく一階に戻った。

シャワーを浴び終わり、歯磨きも済ませて、これから寝ようと思っていると

ガチャリ

「リュウ、ただいまぁ!」

疲れていて当たり前なのにいつも元気発剌で帰ってくる母さんが帰って来た。

…そして「おかえり」という間も無く母さんは台所に消えた。

これもいつもの事なので俺はその後を追いかける。

_________あぁ!やっぱり。

母さんは2リットルのペットボトルからグビグビと直でオレンジジュースを飲んでいた。

母さんまた?コップで飲めっていつも言ってるだろ。

「あーうるさいわねー。いつも言ってるけどリュウは小さい事気にしすぎよ。」

いや母上、至極当たり前の事言ってるんですが…

「私は無駄な事をしない主義なのよ」

いや、後で母さんが口を付けた飲み物を飲む俺の気持ちにもなってくれよ…

母さんはうんざりしたように返す。

「そのくらい家族なんだから良いでしょ。細かい事しか言わない男は嫌われるわよ。」

…………………………………。

俺は反論するのを諦めた。

もう寝よう。

その代わり二階に上がる直前に。

母さん。

「ん?リュウ、どうしたの?」

母さんに俺ははっきりという。

「また明日な。」

「?」

頭がクエスチョンマークで一杯であろう母さんを残して俺は二階へと去った。

 



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3.リュウ

明くる朝、12月4日。

俺は駅から学校までの変わり映えのしない通学路をいつものように歩いていた。

そしてこれまたいつものように変わり映えのしない3つの顔を見つけた。

「でさぁ俺ははっきり言って言ってやった訳よ。あんた馬鹿だって。」

「………………へぇ。」

「真部・田中コード進行…ペンタトニックスケール?……………ブツブツ………」

…全く連帯感がない。

残念ながらこいつらが昨日言ってた

「学校で話す生徒」だ。

一応挨拶しとくか。おはよう山名井、松戸、西行寺。

「あ、なんだ朝倉か…」

「………………。あ、うん。」

「……………この場合はマイナーペンタトニックスケール?……………………。朝倉おはよう(棒)」

因みに一番初めに返事したのが山名井 彩人(やまない あやと)、その次が松戸 広幸(まつど ひろゆき)、最後に俺がよくわからないし知ろうとも思わない音楽理論の話をしていたのが西行寺 結乃(さいぎょうじ ゆの)。

西行寺以外ロクに挨拶すらしてくれない。

その西行寺の挨拶も棒読みだ。

わかってくれただろう?俺が「学校で話す生徒はいるが、誰に会おうと会わなかろうと関係ないし気にしない。

例えそいつが休んでても知った事か。

向こうもそう考えている筈だ。」って言った訳が。

なぜなら、残念ながらこいつらがそうだからだ。

とりあえず便利だから群れているけどお互いにまるで関心のない者の集まり。友達と呼ぶには程遠い、連帯感ゼロのただの群衆。

俺はいつも通り、その群衆の1パーツとなることにした。

ところで山名井、千の偽り万の嘘。

お前のヨタ話は聞き飽きたぞ。

すると山名井はうるさそうに「俺はそのひねくれた文句付きの説教も聞き飽きたぞ朝倉。」

と返してきた。

くそ、何も言い返せやしない。

ギリギリと唇を噛んでいると、西行寺が突然「今日音楽の授業ある…?」と聞いてきた。

ん、今日は5限目にあったんじゃないか?

「そう」それ以上は何も言わずに西行寺はまた元の姿勢に戻って歩き出した。西行寺は登校中いつも何かしら本を読んでいる。

今日の本は…げっ、楽典じゃねぇか。

俺が大嫌いな本ランキング第1位だ。

音楽関係の本はどれもあまり好きでは無いが、こいつはその中でも別格中の別格だ。

一度朝の読書の時間に本を忘れてやむにやまれず西行寺に借りた事があるが

、なんだあの電話帳とプログラミング用語辞典のウザさを一緒にして200%濃縮したみたいな気持ち悪さは。

そのせいで俺は半日ずっと気分が悪かった。

音楽をやっている人間はよくあんな物を読んでられるな。

ちょっと尊敬しそうになるくらいだ。

まぁする訳ないけどな。そんなこんなで再び楽典に目を落としている西行寺を眺めていたら、ふと西行寺が「朝倉は音楽、しないの?」と尋ねてきた。

その問いは、不意にやってくる。

今まで何度も、毎日、繰り返されてきた、いつもの問い。

俺は今日も答える。

「しないよ。俺はあまり音楽が好きじゃないんだ。」

「そう。」

何度も繰り返されてきたこのやり取りの繰り返し。

お互いにどう会話が流れていくのかはわかりきっていた。

だけど俺は答えのわかりきっているはずのこの問いを何故西行寺が何度も尋ねてくるのか、その真意がわからずにいた。

本当、なんでなんだろうな。

そんな事を考えながらボーっと通学路を歩いていると、俺+他の群衆構成要素は歩道橋に差し掛かった。

この歩道橋、片側は階段ではなく普通の歩道からそのまま橋の部分に繋がっている。

だから俺はそのまま歩道橋を歩いている事すら気付かずにボーっと歩いていた。

そして、反対側の階段に差し掛かってハッとして初めて自分が歩道橋を歩いている事、そしてどれだけ自分がぼけっとしていたかに気付いた。

周囲を見回すと群衆構成要素その1の山名井がこんな事を言っていたのが聞こえた。

「おい松戸、お前、イブどうすんの?」

松戸が面倒くさそうに答える。

「家族とユニバ。からの山で宿泊。」

それはかなりの長距離移動だな…ちょっと詳しく聞いてみたい気もしたが、所詮他人事だ。

7秒経った後にはどうでもよくなっていた。

で、質問した山名井の反応はと言うと、「は?彼女とかいないのかよつまんねぇなぁ。

俺はプレゼントに親が天皇誕生日にくれるゲーミングヘッドセットでネッ友とオンラインゲーム三昧だぜ!」

こいつこの長距離移動についてスルーしやがったぞこいつ…に、しても彼女とか。山名井、お前は俗物か。

もうちょっとマシな反応しろよ。

しかもなんか松戸以上に謎でしかも全然メリクリしてないイブじゃねぇか…てか天皇誕生日って…お前は忍耐てのを知らないのか。

本当にアホだなあんたは。ちなみに西行寺、あんたは?

「某アーティストのクリスマスライブにギタリストとしてサポートで出演。」

お、おう…なんか、西行寺は西行寺してるな…こいつは誰かと群れて音楽を作るという事を絶対にしない。

一時的にサポートメンバーとして組むだけ。

西行寺は本当の意味で誰かと付き合うのがあまり得意では無いんじゃないかと俺は考えている。

まぁ、西行寺も俺にだけは言われたくないだろうが。

俺は自分で自覚している程の捻くれ者だがあいつには少なくともそういった曲がった所は見受けられない。まぁ、だからと言って西行寺の肩を持つ気は無い。

裏でサイケな恋人と聖夜を過ごしたりしているかもしれないし。あー、こんな事考えてるから捻くれ者なんだな。

なんて事を考えていると、気付くとすぐ目の前に校門が迫っていた。

ロリコン変態教師こと生活指導部の出光が「乙女のスカート膝下!」とか訳のわからない事を叫んでいる。

好きにさせりゃ良いだろ。

別にスケバンになろうって訳じゃあるまいし。

ここまで黄金比を強要されたらレディー・シャネルも苦笑いだろう。

ちなみに西行寺のスカートは膝関節より少し上だ。

なので微妙に違反している。

の、だが。

「おはよう…!ot…」

「(じいぃ…)」

「あっ…おはよう!乙女のスカート膝下!(別の生徒へ)」

寡黙少女萌えなのかその視線に気圧されているのか知らないが、西行寺はスルーされる。

ちょっと見ていて面白いので、いつも俺はその光景を眺めながら教師に気付かれないように無言で校門を通過する事にしている。

そして校門を通った後終始無表情の仮面を外さなかった俺と違ってあからさまにニヤニヤした顔で一連の流れを見ていた山名井に向かって言い放つ。

「何ヘニャヘニャした顔してるんだこの野郎。イケメンが廃れるぞ。」

勿論多分の皮肉を込めて。

山名井はあからさまにムッとしていた。

顔は良いんだから誰かとヨロシクしていれば良いのに、こいつはその面をヘラヘラさせる。

お陰で誰も寄って来ないのは山名井の自己責任だから良いとして、こいつの何が腹立つかってそのイケメンをヘラヘラさせて台無し以下にして俺に向けて来る事だ。煽ってんのかコイツ、と勘繰りたくなってしまう。

所で松戸はと言うと何やら熱心に一限目の英語のテストの暗記をしている。

こいつもこいつで腹の立つやつだ。

こうしていつも小テストは直前勉強で合格点スレスレのくせに真面目にやって小テストも余裕で取っている俺より定期テストの点数が上って神様は何処を中心に世界を回してるんだ。

唯一腹が立たないのは西行寺くらいなものだが、あいつはあいつで無口だからあまり話せない。

つくづくついてないなって思う。

まぁ、愚痴吐いてても仕方ない。

教室はすぐそこだ。

うっかり独り言でも漏らして変な噂でも流れたらシャレにならない。

俺は教室に入ると、挨拶をしてくる生徒もいないのでそのまま無言で昨日のおさらいを始めた。

 



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4.リュウ

※(筆者注:ES-335は実在しますがこれは架空のモデルです。後、名の由来はビートルズの曲名ですが特に関連はありません)


4.リュウ

しばらくおさらいをしていると不意に視線を感じた。

周りを見回すと西行寺が自分をじっと見つめている事に気付いた。

西行寺は俺の視線に気付くと、無表情のまま、だが少し困ったように、ほんの少しだけ首を傾げた。

そして教室の外側の壁の一点に目を向け、それから俺に再び視線を戻す。そこには、彼女のギターが入ったハードギターケースが立てかけられていた。

2日以上連続してサポートが続くとき、西行寺はよくここにギターを置いていく。いつしか、そこは彼女のギターの定位置のようになっていた。

あーはいはい。

わかったよ。

目でそう返事すると西行寺は無表情の中に安堵の色をほんの、ほんのすこしだけ混ぜた。

気が、した。

西行寺は自分のギターケースを重そうに肩にかけると、衣擦れの音も立てずに教室を出て行った。

俺もその後に続く。

西行寺が向かったのは、音楽室。

西行寺は合鍵を使って鍵を開けると(何故西行寺が音楽室の合鍵を持っているのかは知らないし、聞かない。)電灯をつけて、俺を見つめてきた。

入れと言う意味に俺は解釈した。

俺が入ると、西行寺は内側から鍵を閉め、ギターケースを開けた。

ES-335WH「Lady Madonna」。

それが西行寺のギターの名前だ。※

西行寺が話してくれた…と、言うより、一方的に語りかけてきた内容によるとこのギターは6歳の誕生日にギターを欲しがった西行寺の為に爺さんが作ってくれたものだそうだ。

西行寺の爺さんは某ギターメーカーのギター職人だったらしく、斬新なアイデアで数々のヒット商品を生み出していた。

しかしライバル社の開発した技術も積極的に取り入れようとした為、自社オリジナル至上主義の連中から反感を買いメーカーを追い出された。

今でこそ大手メーカーから独立して自分の道を切り開く職人も多くいるものの、当時はリストラのレッテルを貼られたが最後。

西行寺の爺さんは二度とギター職人として働く事は無かった。

このギターもそういった内の1つで、ES-335にテレキャスター・デラックス等に使われているワイドレンジハムバッカー・タイプのピックアップを積んだモノでこれの種類によって音も変わる…らしい。

あと、ピックアップはだいだい上下に2基か3基搭載されており、上側のピックアップのみだと単音に向いた柔らかい音、下側だとジャカジャカ和音を鳴らすのに向いた少し硬めの音、真ん中(ピックアップが2基の場合は2基の音をミックス)はその中間となる。

あと、ピックアップそのものも大きく分けて二種類あり、シングルコイルピックアップとハムバッカーピックアップに大別される。

何も歪(ひず)ませず弾いた場合、シングルコイルはクールな落ち着いた音、ハムバッカーはまろやかな音だ。

また、歪ませた時、シングルより、ハムバッカーの方が音が太い事が多い。

(かと言ってシングルの音が細いと言うわけでもない)…らしい。

西行寺はギターを音楽室のオンボロのアンプに繋いで、静かにメロディーを紡いでいく。

俺にはその音が何を表してるかは知らないし、聴いても何も感じない。そして、メロディーが止んだ。

「どう」

どう、とは?

西行寺は少し首を傾けて「どう?」

あ、今の質問なのか。いつも言ってるけど俺は音楽を聴いても何も感じない。感想なら他の奴に聞いてくれ。

「そう」

西行寺はギターをしまうと。

ちょっとこちらを見た。

帰ると言う合図だ。

俺はその目を見つめ返すと何も言わずに西行寺に続いて音楽室を出た。

ガチャリと西行寺が鍵を閉める。

そのまま俺と西行寺は無言で教室に戻った。

これも朝の習慣となりつつある。

何故西行寺がそんな事をするかは全くわからないが。本当に何故なんだ。

 



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5.リュウ

そして変わり映えのしない学校が終了し、これまたいつもの塾の講座を受けた後、これはいつもではなくたまにしか行かない場所に向かっていた。

昨日の場所だ。

なんとなく、いや絶対あいつが、愛璃がいる気がしたから。

「また明日」と言う言葉、俺にしては珍しく信じてみることにしたのさ。

そして実際愛璃はそこにいた。

昨日とは違ってジーンズに登山用と思しき厚手の蛍光色の黄色のウェア。

そして足には登山靴を履き、二つ括りにした頭にはシャーロックハットを被っている。

そして背中には紺色の布製のリュックサック。

まるで遠方にヒッチハイクで向かうチグハグな探偵のようだったが、手には英検の単語帳。

てかジーンズって…足寒くねぇのかな。

そんな事を考えていると向こうがこちらに気付いた。

「あ、リュウ!こんばんは!」

昨日ぶりだな。

あ、英検の勉強中か?邪魔して悪かったな。

すると愛璃はちょっと笑って

「いや、気にしないで。どうせリュウが来るまでの暇つぶしだったし。」

あんた暇つぶしに勉強するのか…すげぇな…。

感心していたら「え、普通じゃない?」と言わあれたので今度は針の筵(むしろ)に座っているような気分になった。

俺は少なくとも一回もそんな事した事ないぞ…もしかして気付いていないだけでみんなやってたのか…?

頭を抱えていると愛璃が呆れて笑った。

「何アホみたいな事言ってるのさ!今日から始めれば良いじゃない!私が教えてあげるから!」

…………………………え?嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です痛い!?あががががが!

「つべこべ言わずにさっさとやる!おしゃべりはそれから!」

えぇ……。

それから俺は愛璃に昨日行った広場にまたもや連行された。

そしてそこにあるロッ◯リアで一時間みっちり指導させられることになってしまった。

 

以下最低文字数制限対策

高速道路を繋げてみれば戦国武将とも話もできる今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート兄のワイワイナイト

みんなのコートを繋げてみれば戦国武将とも話もできる今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート好きの斎藤

一家に一台埼京線

私の埼京線

一家に一台埼京線でも

一家に一台埼京線

私の砕氷船

南半球は捩伏せる

アジアンビューティーになってしまった

ダルメシアン

デカいロシア

広いロシア

寒いロシアで

アジアンビューティーになってしまった

ダルメシアン

デカいロシア

広いロシア

寒いロシアで

鉄火丼

鉄火丼

鉄火丼de take a chance yah

鉄火丼

鉄火丼

鉄火丼 de take a chance

 



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6.リュウ

40分が経った。

もう無理だ…俺これの前に塾にも行ってんだぞ…

俺はぐでんと机に突っ伏した。しんどいわ…。

すると、「ほんっと情け無いなぁ。じゃあ今日はここまで。」

いや、愛璃さん、俺はそもそも指定校推sへぶし?!痛い痛いアイアンクローはやめろお願いしますこの野郎!

なんとか食い込んでくる愛璃の左腕を振り払う。

おん?そう言えば左利きなんだな。

「そうだけど?悪い?」

あ、そうなんだな…って俺良いとも悪いとも言ってないんですが…。

「と言うか話をそらさないでよ!リュウも少しは進路に関心を持ったらどうなのさ。将来を左右すると言っても過言じゃないんだよ?」

俺そんな将来とかどうでも良いし。

安定した職業にさえつけたらな。

それを聞いた愛璃は呆れかえったように「本当にしょうがない奴だなぁ。」

そう言って溜息をついた。大きなお世話だ。

俺がムッとしていると「これ、持ってて。」と俺が返事する前に紙コップを押しつけられた。

なにやらリュックサックをガサゴソしている。

「あ、あった。」

そう言って愛璃が取り出したのは少し大きめの水筒。

カップが一緒についている奴だ。

「これ、私の淹れたココア。昨日は材料を買い忘れてたから自販機で買ったけど、いつもはこうやって持ってきてるんだ。」

愛璃はちょっと水筒を揺すってみせてそう言いながら笑った。自分のマグカップにココアを注(つ)いだあと俺の持っていた紙コップにも注いでくれた。

「飲んでよ、ねぇねぇ、どんな味?」

愛璃は期待を隠さずにニコニコしながら俺を見つめてそう聞いてきた。

やたら眩しい…俺にどんなリアクションを求めてるか知らないがまだ飲んでないのに感想を求めるな。

どれどれ…ん?美味しい!けどなんか不思議な味だな…

「へっへーん、すごいでしょー!」

なんか急に胸を張って得意げになりだしたぞこいつ。

本当に喜怒哀楽を惜しみなく表に出してくるな。

良いけど意味でも悪い意味でも、俺には無理だ。

なんて事をしばらくぼーっと考えていると、

「___________で、ちょっと隠し味にドライジンジャーを………って、リュウ、聞いてる?」気付くたら愛璃がなんか怒っていた。

ごめん、ココア美味しすぎて全く耳に入って来なかったぞ。

「ほんと〜?ただぼーっとしてただけじゃないの?」

こいつ、鋭い…俺は返事をする代わりに逃げるようにまた紙コップに口をつけた。

にしても、これ、本当に美味いな。

普通に売って欲しいくらいだ。

「え、ほんと?ココアをもっと美味しく飲める方法ないかなって考えて作ったんだけど、お母さんは『組み合わせがありえない』とか言って飲もうともしてくれなかったし。リュウがそう言ってくれて嬉しいよ!」

愛璃はとても嬉しそうにしている。

まぁ、最後の方しか聞いてなかったけど確かに普通ココアにドライジンジャーは入れないな。

意外にも美味しかった。

「でしょでしょ!あ、今日もあれしなきゃ!」

と、愛璃はそう言って左手の指をパチンと鳴らすとその瞬間指で赤と緑の粒子が煌いた。

昨日もやった事なのに俺はまた驚いて目眩がしたが今日はなんとか堪えた。

ああ、何者なんだこいつ。

頭を抱える俺に愛璃は、

「どうしたの?また昨日みたいにしんどいの?もしかして病気とか?」

自分のせいとは工業用ダイヤモンドの欠片ほども思っていないであろう愛璃は本気で心配そうに見つめてくる。

やめろじっと見つめるな恥ずかしい。

ってかそもそもお前が…いや、もう何も言うまい。

「?あ、昨日みたいに手を貸して。はい、右手のひら借りた。」

答えを聞く前に人様の手のひらを借りるな。

しかも心の準備がまだできてねぇよ…

当たり前のように人に魔法的何かをかけるな。

「あ、ごめんごめん。じゃあ3、2、1。はい、うーん…」

また確認せず…いや、もう何も言うまい(2回目)。

「はっ!」また俺の手のひらピッカピカだよ…って今日はちょっと軽いな。

っておおう?!

粒子が消えた時俺の手にはサンタクロースの絵が描かれた白い皿に盛り付けられたふた切れのクリスマスケーキが乗っていた。

でも…ん?何か違和感を感じるな。なんでだ?

「あちゃー、失敗しちゃったかー。」

愛璃は頭を掻きながら笑った。

「お皿はクリスマス仕様だけどケーキに何の飾りも載ってないや。

これじゃただのイチゴショートだね」

あ、なるほどな。

道理で違和感を感じた訳だ。

まぁ、でもこの時期にしては上出来かなと愛璃は言って俺の持ってる皿からひょいとケーキを一切れ掴んでそのまま口に放り込んだ。

…一口で。

当然のごとく失敗して口がクリームだらけになる。

アホか。

「あー、ふぁっふぁっふぁ。」

愛璃白い髭をつけたままニコニコ顔でそんなことを言いながら美味そうにケーキを頬張っている。

口に物を入れて喋るな。

…はぁ。なんか怒る気も失せるな。

「もぐもぐ…っくん。あ、リュウ鏡持ってる?」

持ってる訳____

「持ってないよね。あ、ケータイがあるや。」

もう何も言うまい(3回目)。

愛璃はスマートフォンを取り出すと内カメラを使って自分の顔を覗いていた「わー!これじゃ私がサンタクロースだイェーイお髭真っ白。」

…もはや何も言うまい(4回目)

「何リュウ黙って突っ立ってんのさ。食べなよ!」

えっと…愛璃さん?フォークも何もないんですけど…

「男ならそのままガブッと!」

いや、何言ってるんだ?

骨付き肉じゃねぇんだからよ。

あと、仮にその法則が成立するんだったら愛璃はアホみたいにかぶりついたから男になるぞ?

すると愛璃は口に生クリームをたっぷりつけたまま例の三白眼で睨んできた。「う、うるさい!さっさと食べなさい!」

ふむ、口に生クリームついてるせいで全然怖くないぞ。

まぁ、これ以上何を言っても引かなさそうだしここらへんで折れてやるか。

わかった、わかった。食べるよ。

俺は口にクリームがつかないよう細心の注意を払ってケーキを食べた。

もちろんクリームだらけになったが。

「あっはっはー!クリームだらけにして。リュウ可愛いね!」

この野郎…俺は拳を握りしめた。

が、口を真っ白にして笑っている愛璃を見ていると怒る気すら失せた。

はぁ…。

「で、何か口拭けるもの持ってない?」

えぇー持ってないのにケーキ出したのかよ!!

幸いにもティッシュを持ち合わせていたのでそれで口を拭いた。

愛璃は口を拭いた後、「助かったよー!毎年これやるとき能力を使いながらクリスマスグッズ出現させる方の手のバランスとるの大変なんだよね〜」

なんかパシられてる気が…

「そんなこと無いよ〜!ほら、こうやって今女の子とケーキ食べてた訳だし。見るからにリュウにとってそうある経験じゃないと思うけど?」

こいつ…!てか、それ本人が言うことじゃ無いだろ。

「あっはっは〜冗談だよ!私みたいな女子が隣に居てもイマイチ映えないだろうしね!」

豪快に笑い飛ばされた。

いや、ちょっと幼いかもしれないが見た目は俺的には悪く無いと思うぞ?

「ふーん…じぃぃ…」

なんだそのニヤニヤした目は!

「もしかしてタイプ?」

んぐぁ?な訳ねぇだろ!

なんでそうなる。

「だよね〜!ジョークだぁ!」

お、おう…今日はなんか疲れたぞ…はぁ…

「あはは。ごめんごめん。はっ…っと!」

パチン!と愛璃が指を鳴らすとケーキを食べたあと取り残された皿が赤と緑の光の粒子となって消えた。

おお、なんかかっこいいな。

「でしょう?いぇあ!___あっ!」

そこまで言うと愛璃は何かを思い出したように言葉を途切れさせた。

ウェアのポケットから何かを取り出した。

「もう11時!帰らなきゃ!」

あ、懐中時計か。

いまどき珍しいな。

「でしょう?貰ったんだ〜!で、私、帰らなきゃ。また明日ね!」

あ、わかった。

じゃあな。また明日。

俺は愛璃と別れるといつものように愛チャリにまたがって家路についた。

しばらく走っている内に、俺は5、6年ぶりに「また明日」を言ったことに気付いた。

そしてその間そんな親しみのある言葉をかけなくなっていった自分にも。

…ま、こんな人間だしな。笑うしかなかった。自嘲気味に笑うしかなかった。

 



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7.&8.リュウ

家に帰ると母さんが先に帰っていつものように2リットルのペットボトルからジュースを…おい!なんでまた直飲みしてるんだよ!母さん!

「あ〜おかえり、リュウ。今日は遅かったねぇ。補習?居残り?生活指導?」

いや、なんでそうなるんだよ…普通に今日は自習してたんだよ。

愛璃の事は言わないことにした。

親ってのは、ちょっとした事で騒ぎ、事をややこしくする性質を持っているからだ。

「へぇ、偉いね〜。いつも8時くらいにさっさと撤退してくるのに。もしかして、明日は雨が降るかな?」

降るわけないだろ。

あ、ほら天気予報では明日は快晴ってなってるぞ。

「これで降ったらどうする?」

まだ言っている。

そうだな、なんでもしてやるよ。

「え、言いましたな?そうだねぇ…明日は私近隣のカフェのオーナーさん達と会合があっていつもよりもっと遅くにしか帰って来られないから、帰ってきたらフルコース!とか?

おうおうなんでも良いよどうせ降らねぇんだから。

「ところでリュウ、ご飯食べないの?」

あ、忘れてた…って、俺が帰ってくるなり引き留めてきたのはどこのどいつだ!

「さぁて何の事でございましょうかねぇ」

…もう何も言うまい(5回目)。

俺、疲れた。さっさと食って、 入浴して、歯磨きして、寝た。

8.リュウ

また明くる朝、12月5日。

…は?大雨。は?はぁあぁあぁあああああ!?

大雨だとぉぉぉお!?聞いていないぞ少年!

一方の母さんは

「にゃっはっはっはー!フルコース宜しくねー!」

と、超ご機嫌に雨などどこ吹く風と言う感じで防水のコートを羽織り、愛機のブラフ・シューペリアSS680に乗って風のように出勤していった。

食べかけのトーストを見つめたまま俺は途方に暮れた。

どうすんだよこれ……。

はぁ。

この絶対零度みたいなテンションだけでもどうにかして上げられねぇかな…

登校、満を持して。

…アホか?俺。

全く味のしない朝食を終え、歯磨きして制服を着て、俺は家を出た。

 

以下文字数対策

高速道路を繋げてみれば戦国武将とも話もできる今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート兄のワイワイナイトみんなのコートを繋げてみれば戦国武将とも話もできる今夜ナイトバイトだいたいタイト本屋デート好きの斎藤

でも一家に一台埼京線私の埼京線一家に一台埼京線でも

一家に一台埼京線私の砕氷船南半球は捩伏せる

アジアンビューティーになってしまった

ダルメシアンデカいロシア広いロシア寒いロシアで

アジアンビューティーになってしまったダルメシアンデカいロシア広いロシア寒いロシアで

 



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9.リュウ

誰がどんな気分であろうが日常というものはいつものように流れていくもので高校の最寄駅で電車を降りてしばらく歩いていると山名井らいつもの群衆に合流することとなった。

だが挨拶する気も起こらない。こんな奴らだが、それでも俺はいつも

「おはよう」

と、ちゃんと言うようにはしていた。

それさえする気力も無い。

俺は無言で群衆の中に合流した。

まず、山名井のヨタ話の捌け口になっていた松戸が俺に気付いた。

だが、一瞬俺に目を向けると、気付かなかったフリをしてすぐヨタ話の聞き役に戻った。おい、裏切り者。

山名井の話なんか何の意味も無いだろう。

すると、西行寺が俺に気付いて「あ、朝倉、大丈夫?(棒)」

棒読みなのは相変わらずだが、一応心配してくれた。

あざすあざす(棒)。

全然大丈夫じゃない…

最後に山名井が

「あ、朝倉だ。ん?元気ねぇな。大丈夫か?精神科行くか?」

こいつ…はぁ。

言い返す気力も無い。

すると山名井は

「おう?何も言い返してこないのか?おお…」

不思議そうな顔をしてまた松戸との会話に戻っていった。

何を期待してるんだお前は…

そして急に

「朝倉は音楽、しないの?」

しないよ。

俺はあまり音楽が好きじゃないんだ。

そしていつものように西行寺は本を読んでいる。

今日の本は…?写真集?アイドル?タルトタタン?あ、真部脩一。

納得。

おそらくこのアイドルをプロデュースしているのが西行寺お気に入りの作曲家だからだ。

どうやら俺がどんな気分でも当たり前は続いていくらしい。

そしてそうこうしている内に気付くと学校の目の前にいた。

そしていつものように西行寺は出光教諭と謎の視線を交わしそれを見て山名井がニヤニヤし松戸はどこ吹く風で早朝テストの勉強をする。

ただ、いつもと違うのはそれを見て俺が何も突っ込まない所だ。

それすらの気力も無い。

帰りたい…けど帰ったところでどうにもならない…。

ふと気づくと教室で机に突っ伏すようにして座っていた。

どうやら周りの景色も頭に入ってきていなかったらしい。

生きた心地がしねぇ…

机に突っ伏していた上半身を持ち上げる拍子にふと隣を見ると西行寺がいた。

何故か昨日行われた席替えで隣同士にされたからだ。

西行寺は俺を見ると

「大丈夫…?」

と聞いてきた。

う、あ…実はこれこれでだな…

「ごめん、私料理は苦手。」

無表情のままそう返してきた。

そうですか…。

西行寺なんかできそうと思ったんだけどな…

スッと西行寺が席を立った。

昨日みたいにまた音楽室にいくのだ。

俺は何も言われなくても視線を受けなくても西行寺に続いた。

一応相談に乗ってくれた訳だし、ここは忖度するのが筋ってもんだろう。

あ、クズの様な政治家がやるやつじゃない。

辞書で引くと意味のトップに出てくるやつだ。

そして俺はまたいつものように音楽室に足を踏み入れる事になった。

音楽室の独特の空気を吸いつつ、俺は西行寺がセッティングしていくのをぼうっと眺めていた。

あ、いつもとギターケースが違うな。

このケースに入っているのは…たしか…

「Fender Telecaster Custom Les (筆者注:これも架空のギターですね。いつか作ってみたいものです。)」

そうそれ。

西行寺からの受け売りだがこれは西行寺がフェンダーのテレキャスターカスタムと言うギターのフロントピックアップを西行寺がフェンダーのライバル社であるギブソン社のギターであるレス・ポールの物に換装したモノらしい。

音の違いはなんとなくわかるが、それがどうとも思わない。

…ってえらく暗い曲だな。

「朝倉の精神状態を表してみた。」

余計な御世話だ。

「そう」

怒るでも笑うでもなくただ相槌をうってくる。

もしかしたらのもしかしたら冗談のつもりなのかもしれないがそうであってもそうでなくてもとてつもなく拾いにくい。

そしてその後直ぐに西行寺はアンプのスイッチを切った。

俺は先に防音加工のせいでやたら重い扉を開け、外に出て西行寺が出てくるのを扉を開けたまま待っていた。

西行寺が扉をくぐると、俺は先に少しゆっくり歩き始める。

ガチャンと扉が閉まる音がした。数瞬後にカチャリと西行寺が錠を下ろす。

後ろを振り返ってはいないが後ろから西行寺がついてくるのを感じた。それを確認してから、俺は歩くスピードを元に戻した。

西行寺が何を考えているかはわからない。

だが、何故か断れない。

何故だろうと考えたこともあったが結局わからなかった。

わかる時は来るのだろうか。

そんなことを考えながら俺は教室を後にするのだった。

 



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10.リュウ

教室に帰ると松戸が歩いてきた。

「朝倉、此処教えて。」

あぁ?開口一番がこれだ。

どうも俺の事をただで教えてくれる予備校講師か何かと勘違いをしているらしい。

良い加減にして欲しいが他にやる事も無いので俺は教科書を取りに行った。しかし大して成績が良いわけでも無いのでなんで俺に聞くんだろうな。

「僕クラスの人達あまり興味無いから。それに朝倉ならいつでも答えてくれそうだし。」

どれだけ自分勝手なんだよ。

まぁ良い。

俺も朝は暇なんだ。

見せてみろ。

此処はえーっとだな、微分したらこうなってこの場合の数は…

「もう良いよ解ったから。」

ああん?このくらいでわかるんだったら最初から自分で…

「じゃ。」

俺が怒るのも聞かずに松戸はさっさとどこかに行ってしまった。

あの野郎…ガラガラガラ。

担任が入ってきた。

朝礼が始まるようだ。

だが断る。

フルコースの刑のせいで朝から精神的にクタクタだ。

寝させていただく………………………キーンコーンカーンコーン…ん?あ、え、昼休みになってるじゃねぇか!?

なんで誰も起こしてくれなかったんだ!あ、俺を起こすような奴なんてだれもいねぇな。

大きく伸びをする。

体がだるい。

寝すぎだ。

隣を見ると西行寺が消えていた。

俺も暇だしそちらへ行こうか。

昼休みになると誰がいうともなしに山名井の机に集まる。

お互い昼食中に席が近い他の奴らに絡まれるのが嫌だからだ。

山名井の机に行くと他の3人はもう食べ始めていた。

まぁ此処までならごく普通の昼休みの風景なんだが1人そこから外れてる奴がいる。

西行寺だ。

西行寺は別次元だ。

よくアニメとかで大食い娘がいるがそんなレベルじゃない。

学食であらかじめ予約していた昼飯の量、床から天井に達している。

どうやったら倒れずこんなバランスをとれているのかも不思議だが何が不思議かってこの量が15分ほどで西行寺の腹に収まる事だ。

しかも全く太らない。俺が呆れながらみていると松戸が面倒くさそうに

「食べるなら食べなよ。そこにいたらみんな邪魔だ。馬鹿。」

あぁ、はいはい…あたりきついなぁ…まぁ友達でもなんでもないから仕方ないか。

山名井はと言うと、何を考えているのか知らないがニヤニヤ笑いながら唐揚げを頬張っていた。

気持ち悪いんだよ。

昼飯くらい普通に食え。

…飯?ディナー…うううう…

手元の弁当を見た。

どうしても食欲が湧かなかった。

ちょっと待てよ?あいつならなんとかしてくれるかもしれない。

俺はいくらかマシな気分になって、付け合せの沢庵をかじった。

 



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11.リュウ

学校が終わり駅に着くとすぐ俺は携帯を取り出した。

だけど俺はあいつの電話番号を知らない事に気付いた。

すると手帳型スマホカバーのポケットの中に何か挟まっているのに気がついた。

携帯番号らしき電話番号と「これは私の携帯番号だっ! 愛璃」と書かれていた。

あいつ、いつの間に…昨日は飯食った後はシャワーを浴びてすぐ寝たし、今日はディナー騒動で携帯を開く心の余裕などなかった。

俺は普段某糸系SNSの通話機能を使っているので久しぶりに電話機能を開いた。

番号をプッシュし、発信する。

ツーコールで出た。

『もしもし?どなた様でしょうか? Please tell me your name or turn off your phone.』

お決まりの文句と発音だけはやたら流暢な英語が返ってきた。

おそらく名前を言ってください。

さもなくば電話を切れ。

と言いたいんだろうがこの言い方だと俺は名前を言わなかった場合携帯の主電源を切らなければならない事になるぞ。

そう言えばあいつ英検の勉強をしてるって言ってたな。

スピーキングの練習のつもりなのだろうか。

と言うことを愛璃が第一声を発した直後に考えつつ、そこには敢えて触れないで俺は名乗る。

もしもし、朝倉だ。お前、いつもこれ初めてかかってきた番号の奴に言ってるのか?

『まっさかー。リュウだからだよー。リュウみたいな相手じゃなかったらやってないよー。』

俺みたいな相手ってどういう意味だ…。

って、なんでかかってきた相手が俺ってわかったんだ?まさかまた魔法的な何かか?

『違うよ!そもそもこの携帯が最近買った2台目の携帯だからさ!リュウ以外にまだ番号を教えていないからかかってくるのは必然的にリュウか間違い電話。たとえ間違い電話だとしても、怖がってすぐ電話を切るだろうしね!そして二度とかかって来ないだろうし。』

なるほど、それなら良いか…いや、良いのか?

「で、どうかしたの?」

ああ、実はこれこれでだな…

「なるほどねぇ…リュウのお母さん面白いね!」

いや、やられる身にもなってくれよ…

「まぁ、大変なのはわかる。ここは私に任せなさぁい!えっと、私いつもの場所に5時に待ってるから、それまでに今から言うものをかってきて。メモの用意は?」

あ、まてまて。できたぞ。

「いい?、コーンクリーム、黒胡椒、ささみ…」

 

以下文字数対策

悪魔と悪魔の子供は小悪魔です

Sサイズがジャストサイズな悪魔も小悪魔です

子猫と小鳥と子豚と小悪魔です

小さい悪魔はあくまで小悪魔です



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12.&13.リュウ

結局一番でかいサイズのレジ袋5袋分くらいの材料を買わされた。

重い…

だが今日学校が終わったのは3時半。

今は4時5分。

仕方ないか。俺は一度家に材料を置いてくることにした。

で、家に向かおうと一歩足を踏み出した時に電話がリンリンリン。

見るとさっき登録したばかりの愛璃の電話番号だった。なんだ?

「そろそろ買い物を終えて荷物を家に置きに行こうと一歩足を踏み出したくらいかもしれないリュウ?ちょっと荷物を置いてきたら比較的キレイと思われる川でザリガニを5、6匹匹釣って来てくれない?」

は?意味がわからない。

何故かと聞こうとしたがブツリと電話を切られてしまった。

あの馬鹿野郎…いや、野郎じゃないな。あのアホレディー…。

13.リュウ

よくわからないが、取り敢えず釣ってくることにした。

先に家に帰って荷物を冷蔵庫に入れ、制服から私服に着替えトレンチコートを羽織り、外に出る。

しかしこの年齢で堂々とザリガニ釣りをしていては恥ずかしいのでコンビニでスルメを買ってきた後、木の枝ではなく普通の釣竿を二本持ってきた。

そしてそこそこ大きい川に向かう。

カモフラージュの為に片方では普通にルアー釣りをする。

釣りとか久しぶりだな。

俺は中学校の時釣り部に入っていた。

放課後になると後輩と共に近くの皿池まで足を繰り出したものだ。

だけど高校に入ってから一度も行っていない。

俺は今高2だから、本当に久しぶりだ。

手慣らしに小バス(小型のブラックバス)と遊びつつ、ザリガニがかかったのを視認するとひょいと引き揚げる。

今は夕方のマズメ時(筆者注:マズメ時とは早朝と夕方の魚が積極的に捕食活動を行う時間のことで、釣り人はよくこの時間帯を狙います。)なのでよく釣れる。言われた通りに4匹釣った後はしばらくデカバス(大型のブラックバス)とガチンコしてから帰った。

いやぁ、楽しかった。

そしてそのままあの場所へ直行。

すでに愛璃はそこで待っていた。

今日はブレザーにロングスカートの制服姿だ。

愛璃の高校は今日七時間目まであったようだ

「遅いよー。」

悪い悪い。

後で飲み物でも奢ってやるから。

「もう一声!」

んあ?調子にのるな。

せっかく奢ってやるって言ったのに全部無しにするぞ?

「顔にクリスマスケーキぶつけるぞ?」

降参だぞ?

俺たちはおかしくなって吹き出した。

わかったよ。

コンビニで好きなデザート一個だけ買ってやるよ。

「やったー!」

ただし料理できてからの後払いな。

「そういうところだよリュウ!」

いや、どういうところだよ。

とりあえず、俺のウチに行くぞ。

後ろ乗れ。

「うわっほ!私二人乗りした事ないんだよね。」

じゃあ初めての二人乗りだな。

まぁ実は俺も初めてだったりする。

「寂しい人種だね〜」

おい、これに関してはおあいこだろ。

「あっはは〜、バレた?」

バレるもクソもねぇだろ。

「はいはいそんな事で怒らない!」

怒ってねぇよ。

「あーそうだね!よししゅっぱぁーつ!」

ワタクシの話をちょっとは聞い当てくれませんかねぇ?!

もう、いいか…(聖諦)

そして俺は出来るだけ早く、かつ安全に愛チャリを走らせ始める。

「わぁ!はやいぜ!ハラショー!」

…幼児の面倒みてる気分だ。

「ん?なんか言った?」

ヴェ!マリモ!(いえ、何も!)…痛い!?背後から容赦ないアイアンクロー。

こいつ、聞こえてた上で聞いてきやがったな?

「嘘をついたらダメなのさ!謝れぇぇぇえええ!!!」

いや、怒るポイントそこn痛い痛い痛い!危険が危ない!?落車するからやめてください?!

「嫌です。このままなら私は落車する方がマシです!言わなきゃいけない事は?」

いや、言うからまずはそれをやめてくれ!

「駄目です!ごめんなさいは?」

痛い痛い痛い痛い痛い痛ってもうすぐ交差点だ!?死ぬ死ぬ死ぬ助けて!?

愛璃がさっきの閻魔退散の顔になった。

「ごぉめぇえええんなさいはぁぁぁあああ?」

ごめんなさあぁぁあああああい!!ブレーキが間に合わないもう駄目だ。

交差点の対向車と激突するかと思われたその刹那、愛璃の眼が赤と緑に輝いた。

そして赤と緑以外消えた。もう、光しか見えない。

宙に浮くのを感じる。

気付いたら俺たちは交差点を越え住宅街へ向かって裏道走るチャリの上に着地していた。

ここは直進だ。

そしてほとんどの場合誰も来ない。

後ろを振り返ると光の粒子を振り払った愛璃がキッと俺を睨んで言った。

「嘘つくとろくな目に合わないってわかった?」

わかったよ。

そして俺は愛璃を睨み返す。

わかったが2つ言わせてくれ。

「なに?」愛璃も負けじと俺を睨んでくる。

能力にものを言わせて人に言う事を聞かせるな。

そんなつもりもそんな感情も無いのはわかってる。

…わかってる?俺は愛璃の何をわかってるんだ?何を根拠に…俺は…。

くそ、まぁいい。

要するにお前のやり方はダークサイドに堕ちた奴らがやってる事と一緒だ。

もうちょっと方法を考えろ。

そしてもう一つ。

お前、今の時期の能力は未完成で弱いんだろ?あれだけの事をするのにどれだけの体力を使ったんだ?どれだけの無理をしたんだ?失敗したらどうするつもりだったんだ?

感情に振り回されずにもうちょっと自分を見つめろ。

見ている身にもなってみろ。

心配でそれどころじゃねぇ。

「心配、してくれるんだ。」

当たり前だろ!お前は俺の…俺はお前の……俺の……

「答え、られないよね?でもそれで良いよ?出会ったばかりなんだから…でも、ありがとう…ね……」

愛璃は何かを諦めたような弱々しい笑みを浮かべた。

ガクッと俺の背中に沈み込む。

一瞬ビクッとしたが、疲れて眠っただけのようだ。

落ちると困るので俺は後ろに片手を回して愛璃を支えながら一度チャリを止める。そのまま揺すっても「起きろー!」と大声上げても起きないのでどうやって家に連れて行くか散々悩んだ挙句俺は釣り糸を取り出し、俺に引っ掛けると愛璃の背中に回し、痛く無い程度に縛った。

俺の釣り糸のおかげで落ちる事は無い。

だが…

俺は背中に当たってくる愛璃の身体の体温にソワソワしながらチャリを漕ぐ羽目になった。

何やらせてんだよ…罪悪感的何かが半端ないし本人寝てるし…

覚えとけよ…

 



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14.リュウ

しばらくして家に着く。

愛璃を起こさねばならない。

さて、どうするかな。

ふとカーポートを見る。

我が家の軽自動車と隣にはレンタカーで借りたハイエース。

今日遅くまで会議の母さんは明日からジャズバンドのツアーだ。

メンバー全員+輸送費節約の為載せられる楽器全部を積んでいくので借りたらしい。

昔、俺が幼い頃に母さんはマウスピースを買って、「これ、リュウにあげるから、気が向い

たら私のサックス触って良いよ」

と言って俺に与えた。

その時から音楽に興味ゼロだったので使う事は無かったが、自分の楽器と同じ楽器を触らせ

ようとするからには何か思いが込められているはず。

それを子供心にも俺は感じたらしく、それからずっと俺はそのマウスピースを大事に保管し

ている。

確か勉強机の引き出しにしまってあったはずだ。

あれを吹けばさすがに起きるだろう。

だが

マウスピースは家の中だ。

つまり寝たままの愛璃を家に運びこまなければならない。

しかしどうやって?寝てるんだぞコイツ。

30秒ほど考え込んだ末に俺は最適かつ最悪、そして唯一無二の方法を思いつく。

お姫様抱っこ。

わかっている。どうかしてる。

でも愛璃自身が動かないので他に方法が無かった。

我が家の玄関は階段3段分の段差がある。

俺はその階段の横にチャリを横付けした。

足でスタンドをかけると一本足タイプのスタンドなのでチャリは玄関側に少し傾く。

そして俺は愛璃をさっきしたように支えながらもう片方の手で釣り糸を切る。そしてモゾモ

ゾと苦戦しながら片手でコートを脱ぐと、階段の上に放り投げる。

そして、そろそろと支える手を下ろすようにして愛璃を寝かせて、チャリのスタンドを外

し、倒すようにしてチャリをずらして停め直した。

ちょうど膝下が階段にぶら下がる形になる。

スカートの中が見えそうだったので俺は慌てて玄関の正面に駆けた。

本当に覚えとけよ…

…ちょっと待て。

わかってはいたものの改めてやるとなるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだが…そしてさっきに

も増して罪悪感的何かがすごい…とりあえずドアを愛璃に当たらないように小さく開け、釣

り道具入れを噛ませておく。

やっぱ本当にやるのか?…えぇ……

ええい、ままよ。

俺はコートごと愛璃をゆっくり持ち上げた。

制服とコート越しにほのかに伝わる体温と共に身体の重みが伝わる…もとい、落としそうで

怖い。

噛ませて少し空いているドアを足で開けて中に入る。

って俺も愛璃も靴履いたままじゃん。

とりあえず悪戦苦闘の末足だけで自分の靴を脱ぐのに成功した。

運び込みは方法黙っておけば良いとしてさすがに勝手に靴脱がせると後で魔法的何かでしば

き倒されそうなので後で自分で脱いでもらおう。

そしてどうにかこうにか俺は愛璃をリビングのソファに寝かせる事に成功した。

はぁっとため息をつく。

呆れ1/3、安堵1/3、愛璃の無茶もあったとは言え愛璃に限界まで能力を酷使させてしまった

事に対する情けなさ1/3だ。

ふと愛璃を見るといつの間に引き寄せたのかソファに置いてあったクッションに抱きついて

丸くなっていた。

そう言えば俺はこいつをサックスで起こそうとしていたんだっけか。

マウスピースを取ってきて、母さんのサックスに取り付けた。

一年に一度クリーニングもしているので鳴るはずだ。

運指も何も分かったものでは無いが、取り敢えず力任せに思いっきり息を吹き込んでみる。

ブァーーーッ!うわっ!うるさっ!

ビクッと反応したかと思うと、愛璃は起き

「…ここは音楽室ですぅ、リュウぅ…飲食禁止なのでテナーを食べちゃいけませぇん…スヤァ…」

起きなかった。

ってどんな夢見てんだ…しかし本当に幸せそうだなオイ

俺がどんなに熟睡していたとしてもこんな幸せそうに寝る事は出来ないだろう。

しばらく眺めていたかったくらいに気持ちよさそうに寝ていたが俺は目下のしかかっている

ディナーと言う深刻な馬鹿げた問題を思い出した。

どうやって起こそう…

あれだけ大きな音を出しても起きないんだから爆音で起こすのは無理だろう。

さて、どうしたものか…

ん?待てよ?

俺は名案を思いついた。

だけどそれはおそらく良い目覚めとは程遠いものになるであろうものだった。

…やるしかないのか?えぇ…はぁ………………

………メリークリスマsぐはっ!?

「えぇぇええっぇえっぇええええええ!?!?もうクリスマスなの!?まだ何も準備できて

ないのに!!」

愛璃はソファの背もたれの後ろから声をかけた俺に肘鉄を食らわせてガバッと飛び起きたか

と思うと寝ぼけながらリビングをドタバタ走り回り始めた。

「ええとあぁそうだリュウに魔法をえぇうwぁああどうしようどうしよう…」

えっと、俺はここにいるぞ?あと、クリスマスまではあと3週間くらいあるぞ?

「ほへ?」

愛璃はきょとんと首を傾げた。

そして次の瞬間

「ひぃぇあ!?…え、う、あ…………」

妙な声を上げながら目を覚ましたかと思うとみるみる顔が赤くなっていく。

「り、り………」

ん?

「リュウの馬鹿あぁぁぁああぁああああああ!!!!」

うわぁ痛い痛い痛い?!あんたが起きないからだろうが!

「だとしてもこんな起こし方ないでしょおぉぉぉおおおおお!…ってここどこ?!」

痛ぇんだよ…ここは俺んちだ。急におねむになった誰かさんを四苦八苦しながら俺は運んで

きたんですぅ!

「あ、それはどうも…」

あ、うん。そうですね。(急に大人しくなられても調子狂うなぁ)

あと、土足でジタバタしないでもらえますかねぇ、後でそれ掃除するの俺なんですが…

「え?…あ!ご、ごめん!今すぐ脱ぎますうひゃああああ!あ、玄関どこ?」

こっちだこっち。

俺はリビングの出口を指差して、自分も愛璃に履かせる来客用のスリッパを出してくるため

に玄関へ歩き出した。

愛璃もキョロキョロお上りさんよろしく俺んちを見回しながらそれに続く。

俺はと言うと、そういえば愛璃って部活何してるんだろうとかどうでも良いことを考えなが

ら、玄関に行くついでにその途中にあるトイレやら手洗い場の位置を愛璃に案内するのだっ

た。

あ、待てよ、来客用のスリッパどこだっけか?母さん、しまっちゃうおばさんだから年に数

回しか使わないようなものは速攻で靴入れの奥の奥にしまってそうな気が…しかもあそこの

中の配置知ってるのしまっちゃうおばさん本人だけなんだよなぁ…見つからなかったらどうしよう…



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15.リュウ

「リュウまだぁ?もう10分くらい経つよ?もう私ソックスのままで良いからさ…なんで来

客用のスリッパにそんなにムキになるのさ…」

10分後、俺は愛璃に呆れられていた。

だがダメだダメだ!お客様にそれはいかん!

「そのお客様がもう良いって言ってるのに…」

あ、あったぞ!あった!よっしゃあ!

「お、ありがとう。なんか、リュウって犬みたいだねぇ、スリッパ見つけたくらいで『よっ

しゃあ!』って。ここ掘れワンワン!」

うっせぇ、ホットドッグにするぞ。

「うわーレディーになんてこと言うんだっ!」

愛璃は大げさに腕を広げた。

「そういえば、私、どうやって家に…」

ん?どうした?

「え、あ、うん。えっと…私の事どうやって家まで運んだのかなって……その…なんか…ご

めんね?」

あ、ああ。気にするな。

ちょっと愛璃の顔が赤い。見なかったことにする。

だが、俺の脳裏にはまざまざとさっきの光景が焼き付いている。

秘密、だ。

「秘密、か。うん。…わかったよ。」

愛璃は目を合わせない。こいつ、なんとなく気づいてやがる…

暫し、お互いに気まずい沈黙が流れた。と突然あっ!と愛璃が声を上げた。

どうした?

「連絡入れなきゃいけないんだった!ちょっと外に出るね!」

お、おう。んじゃ俺は先に材料を準備しておく。

「そうしてくれると助かる!じゃあ、すぐに戻るから!」

愛璃は何かに驚いたかのような顔をしてバタバタと出て行った。

変な奴だ。

まぁ、俺にだけは言われたくないか。

 

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16.愛璃

寒っ!

つい先ほどまで暖房の効いた部屋でぬくぬく寝ていたからだ。慣れつつあった冬の寒さが今

は一段と強く感じられるなぁ。

まさかお姫様だっこされていたとは…うわぁあああ恥ずかしい!

ってそんな事を考えに外に出てきたんじゃないよ!

さっきから何度かコールがあったけどリュウがあまりにも必死に私のスリッパを探すものだ

から何となくそばを離れずらかったしその後コールが途切れたのでその事をわすれてしまっ

たんだった。

スリッパ見つけた時のリュウちょっと可愛かったなぁ…

あぁもう!気が散りすぎ!

私はリュウの家のカーポートに行き、車の後ろ側に回って車と壁の隙間に入り込んだ。

ここなら誰にもバレないだろう。例え高2の女子が見えない相手と

話していたとしても。

シャンシャンシャン!

頭の中でジングルが鳴り響く。

上司からのコールだ。

私はコールに応答する。

両目が赤と緑のオッドアイに発光するのを感じながら。

『どうしてコールに出なかったんですか。何回かけ直したと思ってるんです。

上司________私より少し年上の若い男性だ________はやや不機嫌そう

だ。

すいません、スリッパを探すのを待っていたんです。

『スリッパ?どういうことですか?』

すみません。なんでもないです。

余計なことを口走っちゃったよ…

上司は軽く咳払いした後、話題を変えた。

『朝倉リュウの件はどうなっていますか?』

問題ありません。必ず彼を幸せにしてみせます。

『そうですか。なら良いのですが。あと、これは毎年言っていますが、くれぐれも能力の濫

用はしないように。全てはみんなの幸せの為に、ですよ。』

背筋に冷たいものが走る。

さっき自転車を持ち上げたのはセーフだよね?

すると上司は私の心を見透かすように

『あ、現時点では大丈夫ですよ。安心してください。』

と補足した。危ない…。

てかナチュラルに的確なタイミングで補足してくるの怖いんだけど…

それでは。と言って上司は交信から離脱した。

そう。私がリュウのであったのは偶然じゃない。

そもそも私は3年前にこの能力をさっきの上司から与えられた。

そして同時にこの組織、「クリスマスの魔法」に入会した。

この組織はサンタクロースが住んでいると言われるフィンランドに本部があり、日本を含め

た全世界に支部があるらしい。

結成されたのは近年らしく、先ほどの上司は若くして日本支部長の座に就いている。

本部からの指示を達成する為に私のような一般会員を指揮する、いわゆる中間管理職だ。

あの上司と出会った時、彼は今の私の2年上で19歳だったはずだから、相当若い。

この組織の理念にであり、私が入会した目的は、

「このクリスマスという時期、辛い人なんて、悲しい人なんていて欲しくない。

そんな人達に寄り添うことでその人が少しでも幸せに生きられるようにすること。」

上司と交わした「契約」だ。

ちなみに今回のケースは若干特殊で、いつもは私が相手を見つけるのだが、今回は上司自

ら、リュウを指名してきた。こんな事は初めてだ。

なぜかは、わからない。

だけど、リュウといると楽しい。それは確かだ!

さて、交信も終わったし、リュウのところに戻ろう



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17.リュウ

7.リュウ

「ではではー!今日私達が作るメニューを発表しまーす!」

おう!

「まず、前菜がセロリと人参のピクルス、アーモンド入りカボチャサラダ、それに茹でささ

みの粒マスタードソース和え!」

前菜だけでそんなに作るのか…心配になってきた…

「あ、作り置きできるやつ以外は最終的にはリュウが全部作るんだよ?」

…は?

「だって、熱々の方が美味しいに決まってるじゃん!先に私達の分を作って、その後はリュ

ウのお母さんが食べるタイミングに合わせてリュウが調理するんだよ?」

へ?無理無理無理無理!

「大丈夫だ!私達の分を作る時に一緒に下ごしらえしておくから!リュウは後でそれを煮る

なり焼くなりするだけだから!」

それならまだなんとかなるかもしれんが…

てかさらっと『私達の』って言ったな?

「無銭労働してるんだから、当然だっ!」

何胸張って堂々と言っててるんだよ…

まぁ良いけど。

で、俺はまず最初になにをすれば良いんだ?

「取り敢えず前菜に使う野菜を洗って下さい!私は魚介の用意をしとくから!あ、あとバケ

ツ借りるよ!」

あぁ、構わないぞ。

そういえば俺魚介系何も買ってないけど大丈夫か?

…ん?一瞬最悪の答えが脳をかすめた。

ははは。まさかな。

俺はさすがに有り得ないと思って作業を続けた。

 

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