デンドロ美食紀行 (改編版) (鶏肉の炒め物)
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幸せのポトフ
かなり変わる予定なのでよろしくです。
ドライフ皇国、厳冬山脈のふもとのとある廃村。
近年、謎めいた耕作地の減少により潰れた村の1つである。厳冬山脈から吹き下ろす冷たい風がより一層寂れた印象を廃村に与える。そんな廃村の寂れた小屋に二人の兄妹が薄い毛布に包まって寒さを凌いでいた。
「おにいちゃん。おなかすいた〜」
「・・・我慢しろ。明日又探すから。」
二人はこの村で生れた。元々余り農業に適さない土地ながらも両親や他の村人と共に細々と暮らし、貧しいながらも幸せな日常を生きていた。
しかし近年の謎めいた耕作地が枯れる現象により、村人達の生活は大きく傾いた。
村長は大きな決定を2つした。
1つはこの村を廃村にして、全員で別の地に移動すること
2つは老人や子供を口減らしに殺すこと。
移動というリスクを孕んだ行為だ。
足手纏いになる老人や子供を連れていく力はこの村には無かった。
村長の決定を誰も覆さなかった。
移動する日の夜。
口減らしは決行された。
老人や子供を広場に集め、次々に村の大人に殺されていった。
彼らも殺される筈だった。
だが、彼らは生き残った。
彼らの両親はどうしても自分達の手で我が子を殺せなかった。
そこで彼らを家の床下に隠し、村人には気付かれて逃げられたと告げ、彼らを生かした。彼ら二人だけならこの枯れた大地でも1週間位なら生活できる。一週間も生活できれば週一で来る行商人が拾ってくれるだろうと踏んでだ。
事前に貯めておいた微々たる量の食料を13になる片割れの兄に託し、「妹を守れ」と「こんな親でゴメンね」と涙ながら言葉をかけ、彼らは旅経った。
しかし、一週間待っても、行商人は来ず。託された食料も三日前に底に付き、最後に食べたのは二日前に食べた焼いたネズミだけだ。
極寒の夜空の中、妹を励ましつつも兄は自分達に死神の鎌が迫っていることを理解し始めていた。
(・・・・ポトフが食べたい。」
心の声が漏れているのも知らずに兄は空腹のままに、大好きだった母のポトフを思い起こしながら眠りに付いた。
「・・・お・に・・おにいちゃん!おきて!おにいちゃん!!」
妹の興奮した声に兄は目を覚ました。
そこは昨日まで寝ていたボロ小屋でなく、今まで見たことも無い様な高級な部屋。
窓の外には草原が広がり、青々とした草が時折吹く風に心地良さそうに身を任せている。
「すごい!すごい!きれいなはらっぱ!!」
心地良さそうな光景に妹は興奮を隠せそうにないらしい。
「・・・此処は天国なのか・・だったらお「生憎ここは天国ではないのよ」!!」
知らない声に驚きつつも、すぐさま妹を守ろうと自らの背に妹を隠す。
声の主へ目を向けるとそこには奇妙な料理人が立っていた。
緑色で爬虫類の目のようなものが付いたコック帽に青色の前掛けエプロン、そして背中には巨大な包丁。
奇妙ではあるが料理人のようには辛うじて見えた。
「・・・あんた<マスター>か。」
<マスター>。近頃現れるようになった彼らの噂は辺境である彼らの村にも届いていた。強大な力を持ち、不死身である為、嬉々として戦闘に参加すると聴いていた。
「うん、僕の名前はデクスター。君の名前は?」
「・・・ギリーク。」
そのデクスターと名乗る料理人はギリークに対して気軽な様子で話しかけて来た。ギリークからすれば猛獣に目を付けられたのも同じで、正直怖い。
ぐるぎゅぎゅうーー
しかし、彼の緊張をあざ笑うかのように、妹のお腹から盛大な音が鳴り響く。
妹は恥かしいのかお腹を押さえて顔を赤くしている。
「ふふ、先ずは朝御飯にしますかな、お嬢さん。」
この光景にデクスターは笑いながら答え、妹は顔を余計に赤くした。
「君達を見つけたのはほんの偶然だ。」
寝ていた部屋から出ると、そこは大きな厨房であった。
中央には大きな作業台。その周りには流し台や竈、見たことない調理器具らしきものがおかれている。
作業台に布の被ったバスケットやら調味料やら食器等も置きながら、デクスターはそんな話をし始めた。
「偶然?」
「そう、僕は昨日の夜、厳冬山脈に超えてきてね。辺りの村で情報でも仕入れようかと思って君の村に来たのさ。」
その言葉にギリークは驚きを禁じ得なかった。厳冬山脈はドライフ北部からカルディナ北部に跨がる未踏地域で標高の高く空気の薄い山脈が連なる極寒地帯だ。
さらに神造ダンジョンの深層にいるような強さのモンスターや餓えた地竜種のドラゴンや怪鳥種などが徘徊する超危険地帯であり、<マスター>でさえも避けて通る場所に、この男は超えてきたという。
普通なら冗談だと思ってしまうのが普通だ。
だが、ギリークには嘘に思えなかった。さも出来て当然のような態度がその信憑性を高めていく。
更にデクスターは<マスター>だ。強大な力を持つ不死身な存在である<マスター>であれば厳冬山脈
「来てはみたが、村はもぬけの殻で人っ子一人居ない。どうしようかと思って村を見て回っていたら、君たちを見つけたのさ。」
そんな事を話しながらも準備は進み、デクスターは竈に火をつけ、竈に置かれた寸胴鍋を温め始めた。
家にある竈に形は似ていたが、見たことのない器具付属している。どう見ても高性能そうだ。
「・・・・それ何?」
「ん?レジェンダリア製の魔道竈。便利な一品さ。」
妹はお腹が空き過ぎたのか、はたまた恥ずかしいのか、先ほどまであんなにはしゃいでいたのに、今は作業台の上でぐったりしている。
すると、デクスターはおもむろに青いエプロンのポケットから何かを取り出す。
それは
「金!?」
「違うよ、僕の特製『ドラグハニーの蜜飴』さ。君達この二・三日まともに食べて無いんだろ?すきっ腹に突然物を入れるのも体に悪いし、料理が出来るまでの繋ぎに食べてみな。」
取り出した二つの黄金に輝く飴玉をデクスターは二人に手渡した。
別に毒は入っていないだろう。自分達を害そうと思うなら既にやっているだろうし、何よりお腹が空いた。
ギリークは包み紙を開き、飴玉を口にする。妹も兄の行動を真似るように口に含んだ。
瞬間、口の中に衝撃が走った。
口に含み、体温で徐々に溶け出す飴玉。広がるのは圧倒的な甘さ。昔食べた行商人から貰ったクッキーなんて比べるまでも無い。圧倒的な甘さ。しかしそれでいてくどく無い、優しく上品な甘さだ。時折感じる感じる柑橘の酸味と相まっていつまでも舐めていられそうだ。
「おいしいーーーー!!!」
妹は体を震わせ、全身をもって大げさに味を表現する。
妹がいなかったら自分もこんな風に表現したかもしれない。
そんな事を思ってしまうほどこの飴玉の美味しさは圧倒的だった。
「ふふ、喜んでくれてありがとう。ちょっと待っててね、直ぐに朝食も作るから。勿論味も最高のものをね。」
そんな事を言われた腹ペコの二人は、飴玉によって稼働し始めたお腹を抑えつつ、期待に胸を踊らせた。
どうやら準備は整ったのか竈にフライパンを置き、油を敷きつつフライパンを温める。
十分にフライパンが温まると厚切りのベーコン、卵と載せていき焼いていく。ベーコンの焼けた芳醇な香りが期待値をより高めてくれる。
そうこうしていると、ベーコンアンドエッグは焼きあがったのかフライパンを竈から降ろし、アイテムボックスから取り出した二枚の皿に乗せていく。
スープもいい塩梅の温度の様だ。スープ皿に三つ取り出して盛り合わせていく。
ゴロゴロと大きくカットされた具材と、黄金色のスープ。こちらも美味しそうだ。
ベーコンアンドとスープを机に置き、最後にバスケットの布を取る、出てきたのは柔らかそうな白いパン。
「さあ、召し上がれ。僕の特製、『レッドバル鳥のベーコンアンドエッグ』と『ゴロゴロ野菜のポトフ』。どうぞ召し上がれ。」
号令と共に今までの経験したことの無いような朝食会は始まった。
妹は最初にベーコンアンドエッグに手を伸ばした。カリカリと程よく焼けたベーコンと、半熟の目玉焼き。見た目は100%合格なベーコンアンドエッグをナイフで黄身の真ん中から切り分けていく。
先ずはそのままに、溢れ出る黄身のエキスをベーコンに絡めて一口。
濃厚な半熟の黄身が芳醇かつ強い味わいのベーコンと合わさり、其れでいて強い味同士の組み合わせにも関わらず互いを殺さずに見事に調和している。
腰砕けになりながらも、続いて二口目。次は調味料として置いてあったケチャップを付けて食べてみる。
旨い。
そのままでも美味しかったベーコンアンドエッグにトマトの酸味が加わって、味が引き締まって奥深さが生まれた。
最後はパンに挟んでみる。形はいつも食べてた固い黒い食パンと同じだが、驚いたのはその白さと柔らかさ。
白く、柔らか、まるで村長の家に置いてあった村唯一の羽毛布団のよう。いやそれ以上かもしれない。
そんな白いキャンバスに半熟の黄身が輝くベーコンアンドエッグを乗せて一口。
信じられない柔らかさ、加えて口に広がる小麦の豊かな風味がベーコンアンドエッグを包み込む。
ベーコンアンドエッグから滲み出た黄身や肉汁を吸うことで、ベーコンアンドエッグの美味しさを漏らすことなく、その魅力を120%引き出していく。
彼女はその余りの美味しさにKOノックアウトされた。
一方ギリークが最初に手に取ったのはポトフだ。
あの寒い中、食べたいと思ったのは行商人がくれた貴重な甘味であるクッキーでも収穫祭でしか食べられなかったローストチキンでも無く、日々食べていた母の作るポトフだった。
日々食べていたものだ。別に特別な一品というわけでも無い。
でもあのポトフには母の思いが入っていた。
謎の耕作地が枯れる現象の影響でポトフの具材が徐々に減っていっても、何故だがあれを食べたらお腹は膨れた。
母の愛が彼の心を満たしたからだ。
彼の母と父は結局彼らを捨てた、しかしそれは愛ゆえ。
出発する寸前の父と母の泣き顔は本物であったと彼は確信をもっていえる。
そんな幸せだった時の象徴であるポトフ。
目の前にあるのは別人が作ったものだ。
ゴロゴロと大きなニンジン・カブ・ジャガイモ・ブロッコリーといった野菜たち。
母のはもっと具材が小さいかったはずだ
具材は野菜だけでウィンナー等の肉は入っていない。
母のは確かベーコンの切れ端が入っていたはずだ。
同じ料理なのに全く違うものと言っていいものを口に運んでみる。
不思議だ。
味は全く違う。野菜から出た優しく、其れでいて重厚な、まるでパイプオルガンの様な腹に響く濃厚な味が口に広がる。
野菜だけでこれだけの味わいを生み出されているとは信じられない。
明らかにこれは母の物とは違うものだ。
なのに。
なのになんで。
涙が止まらないのだろう。
「・・・君達を見つけた時、君は寝言で「ポトフを食べたい」て言ってたよ。」
「え。」
「どうやら、君はポトフに強い思い入れがあるみたいだね。」
デクスターは自分の分に取り分けたポトフを食べながら、ギリークに語り掛ける。
「君はあの子の兄だ。そして兄なら妹をしっかりと守るのも君の役目だ。」
そうだ。俺は兄なんだ。兄なら妹を守らなくちゃ。
ギリークはこの10日間を思い起こす。どんなに辛くても、弱音は吐かず、妹を励ましながら生き抜いた。
恐らくこの先も、こんな生活が続くだろう。
そんなことが頭によぎると不意に胸が痛くなり、スープ皿を机に置いた。
何故なのかギリークには分からなかった。
デクスターは徐に、ギリークが置いたスープ皿を取った。
「でも、食事の時くらい少しは気を抜いてもいいんじゃないの?」
そう言いながら勧められるスープ皿を受け取り、再びポトフを食べ始める。
涙がボトボトと零れ落ちて、口に含んだポトフはさっきよりしょっぱく感じる。
でもなぜだろう?
何か救われた気がした。
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各種設定
プレイヤー名;デクスター
本名:飯島 健
メインジョブ:【美食神】(調理スキル特化型超級職)
サブジョブ:【大美食騎士】(美食騎士派生超級職)
【美食騎士】(騎士・料理人混合上級職)
【高位料理人】(料理人派生超級職)
【料理人】
【騎士】
【板前】
【菓子職人】
【酒屋】
【厨子】
【美食神】はステータスが上がらない代わりに、全ての調理スキル適正と、奥義である《神之調理》による調理時のDEX極大強化が可能。調理に限定した万能ジョブ。
【美食騎士】は【料理人】と【騎士】を同時に取ることで所得出来るジョブ。ステータスはDEXとENDが中心に伸びる。調理系スキルを戦闘用スキルに改編して使用出来る《戦場は厨房である》、自身が獲得したアイテムで調理した料理を食べた際のバフを強化する《自給自足》が使用できる。超級職である【大美食騎士】は《自給自足》Lv EXを所得する事ができ、更に奥義として自身のDEX値に応じて強くなる光の包丁を発生させる《クッキングカリバー》が使用できる。
【アーク】とのシナジーは生産職である【美食神】は良いが、【大美食騎士】とは微妙となっている。
【美食聖鯨 アーク】
Type:ガーディアン・フォートレス
特性:収集・育成
形態:Ⅶ
スキル
《キャプチャー・ホール》
詳細:アクティブスキル。口を開き、一定範囲の食べられるものを体内に吸い込む。吸い込むだけでダメージは無い。
《美食の地》
詳細:パッシブスキル。外部及び内部のフィールドの食材と成り得るものを食材として優れたものへと育成する。
《グルメ・マッピング》
詳細:【アーク】内のモンスター、アイテムの場所をマッピングする。
《空中航行》
詳細:パッシブスキル。空中を自由自在に泳ぐことが出来る。
《混ざり、至は美食大陸》
詳細:アクティブスキル。必殺スキル。山脈や森林を融合・吸収し【アーク】のステータス・スキル・内部の設備を極大強化する。クールタイムは一年。
詳細:空中を泳ぐ超巨大鯨型モンスター。躰上部は噴気孔に生える大樹を中心に広がる広大な森林。内部は海・草原・山岳地帯といったように多種多様なフィールドが広がっている。
各地からモンスターを収集し、内部で育成するエンブリオ。育成は半自動で行われる為、マスターによる細かい育成は不可能。またテイムもされていないのでモンスターに襲われる可能性もゼロではない。
【アーク】のステータスはHPとENDに特化しており、必殺スキルを繰り返していけば“物理最強”を上回ることも可能。ちなみにステータス補正はDEX重視となっている。
ご質問ありましたら、お気軽にどうぞ。
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