個性【怪人創造】~最凶最悪な弔の姉~ (ら・ま・ミュウ)
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個性【怪人創造】~最凶最悪な弔の姉~

事の始まりは中国KK市。発光する赤子が産まれたというニュースだった。

 

以降、各地で超常は発見され原因も判然としないまま時は流れる。

 

いつしか夢は現実に。

 

世界総人口の何割かは何らかの特異体質である超人社会となった現在。混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた。

 

その職業こそ―――

 

 

 

「あぁ……見ていて嫌になるぜ“ヒーロー”」

 

 

 

しかし、ヒーロー在るところに(ヴィラン)あり。廃棄されたビルでひっそりと開店するアンテイクな喫茶店で悪態をつく白髪の青年『死柄木弔』はヒーローの活躍が特集された雑誌の記事を破り捨てる。

 

「不公平だ、不条理だ。暴行に決闘罪……何でヒーロー様は捕まんねぇのかねぇ」

 

度数の高い酒を呷り、熱くなった喉を抑えながら彼はぼやく。

 

「飲み過ぎですよ」

 

「うるさい……」

 

お膳立てされた暴力という名の正義、そんな物が脚光を浴びる、この狂った世界が痒くて仕方ない。

 

だから、壊す。

 

一度全部ぶっ壊して自分好みの世界を創造する。

 

「――なぁ、見ろよ、平和の象徴が先生だってよ」

 

弔はバーテンダーのように酒を出す黒霧に―――ではなく、いくつもの瓶を転がし、床に突っ伏す自分と顔立ちの似た赤毛の少女に語りかける。

 

「……ふぇ、馬鹿みたいだね。そんなの殺してくれって、誘ってる……みたい」

 

「あぁ、本当にそうだ」

 

少女の言葉に弔は満足げに頷き、耳元で囁いた。

 

 

 

「じゃあさ、とびっきり凶悪で子供を食べるのが大~好きな怪人を作ってくれよ……お姉ちゃん

 

「ゥヘヘ……弔ったらいじわる~い♪」

 

少女は真っ赤な顔を上げ、にへらと嗤う。

まだ酔いは覚めていないだろうにテーブルに並べられていた料理を口につっこんでごくり。

鼻歌を歌いながら右腕をあげる。

 

「イメージカラーは黒、大好物は子供、嫌いな物は自分以外の全て!でろでろ、怪人!召喚~!」

 

少女が適当な呪文を唱えると右手の指先から緑色の液体が滲みだし、床に一滴溢れ落ちる。

 

「ぐぅぅぅ」

 

空腹の音だ。

 

少女は「少し足りなかったかなぁ」と腹をさすりながら呟いた。

 

途端、床に溢れた緑の液体が膨れ上がる。

少女の腰よりも弔の背丈よりも高く、醜悪でゴツゴツとした黒い鱗を無茶苦茶に生やし、子供の腸を引っ掻きまわす鋭い爪を光らせて、やがてそれは人の形を取った。

 

『ォォォォオ!!!!』

 

「うん!私と弔以外の命令は聞かないように作ったけど、どうかな?」

 

「最高だぜお姉ちゃん!」

 

本能で分かる。こいつは其処らのヒーローが束になっても敵わない。正義心なんて欠片もなく解き放てば死ぬまで暴れ尽くす正真正銘の怪人。

そんなものを簡単に作ってしまう姉に恐怖する…いや、畏敬の念すら抱く弔は両手を広げ、幼子が好きな玩具を手にしたように満面の笑みを浮かべた。




個性【怪人創造】
怪人を作れる個性
多大なエネルギーを消費して作るので量産には向いていないが、一体一体が無茶苦茶強い。
最高でオールマイトと殴りあえる強さだ。
怪人の寿命は平均で一ヶ月。死体は残らず爆発するぞ。


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観戦席『USJ』

「英雄、逆から読むと雄英……だっさぁぁ」

 

ヒーローの名門『雄英高校』の個性訓練用の施設を襲撃する愛しの弟『死柄木弔』の活躍をビデオに納めるべく、透明化の怪人にカメラを持たせてリアルタイムでそれを観戦する彼女は、ポリポリと感覚のない左腕を掻きながら時計をみてぼやく。

 

「参ったなぁ……折角オールマイトにでも使えるように作ったのに」

 

怪人が爆破の個性を持つ少年を殴り、硬化の個性を持った少年を鋭い爪で切り裂く。

圧倒的で面白いぐらいの蹂躙劇だ。

宇宙服を着たヒーロー教師にゴーグルのヒーロー教師は、あの人の自信作(脳無)に手一杯で助ける暇がない。

怪人は硬化の少年を切り裂いた時にべとりと爪に染み付いた血を長い舌で舐める。

 

『オマエ、オイシイ、クウ、クウゥゥ!!!!』

 

硬化の少年がどさりと尻餅をついた。

たぶん、下は漏れてる。

 

「いやぁ~でも、これはこれで?弔好みだしいっか!」

 

これが二年か三年生となれば違っただろう。半端とはいえヒーローとしての覚悟が固まりつつある卵たちに殺気だけで心をおるなんて簡単に出来る事じゃない。

だが、いくらヒーロー科といえど入って数日で死ぬかもしれないなんて、怖くて逃げたくて当然だ。

 

「見ろよ、ヒーロー!子供が死ぬぞ!」

 

怪人が爪を振り上げる。

硬化の少年は恐怖で個性の発動も忘れてしまったのか、絶望した顔でそれを見上げる。

――死.

 

『CAROLINA SMASH!』

 

それを救ったのは遅れてやって来た正義のヒーロー『オールマイト』急いで時計をみた彼女はガックリと項垂れた。

 

『なっ!?』

 

「ゲームオーバーだよ」

 

怪人が爆破……当然、少年二人を抱えて退避したオールマイトはダメージを負わず、弔がボリボリと頭皮を掻き毟って『遅ぇんだよ!クソっ!』叫び声を上げているのが目に入った。

 

彼女の個性【怪人創造】は怪人が強ければ強いほど消費するエネルギーが増え、怪人の存在時間が減っていく。エネルギーを増やせば多少は延びるが、オールマイト級の怪人となるとせいぜい30分が限界だった。

 

「ショック無効じゃなくて吸収だし、たぶん脳無も勝てないよねぇ……弔の初陣は敗北かぁ、やだなぁ……」

 

彼女は何とか弟の勝利に貢献できないものかと透明怪人に「子供にしがみついて自爆しろ!」等と命令を下そうかと本気で考えて、止める。

 

「弔のしたいことに邪魔しちゃ悪いもんね!」

 

弟の邪魔になるかもしれないから殺さない。

その思考は泥のような濁りをみせていた。

 

 

 

 

「あー!痛てぇ!クソクソォ!」

 

「コンさん、治療をお願いしても宜しいですか?」

 

「うん、いいよ!」

 

そして、黒霧と撃たれた傷でのたうち回る弔がワープしてきた。

彼女=コンは慣れた様子で弾を取り出し傷口を縫って包帯を巻く。

 

 

 

「……負けた。最悪だ、最低な気分だよ姉ちゃん」

 

「弔……提案なんだけどさぁ、これを使って嫌がらせしない?」

 

不貞腐れた弔にコンはUSBメモリーを差し出した。

 

 

 

 

 

「雄英に(ヴィラン)襲撃……生徒二人が重症、教師は軽傷…何もしなかった…とっ!」

 

脳無が空の彼方まで殴り飛ばされる滑稽な様をゴミ箱に、怪人が二人を襲う所だけをイジらしく抜き出して編集した彼女はネットの海に解き放つ。

 

「10万……50万……うはっ100万再生だって!有名人じゃんマジうけるー!」

 

「姉ちゃんアンタ、マジで最高だよ!」

 

 

まさに勝負に負けて試合で勝った。

あの人はご満悦で、弔は笑い転げるほど嬉しそう。

 

『――これより雄英の謝罪会見が、』

 

コンは酒をぐびぐび呷りながら同じく笑う。

 

 

 

 

 

 

 

この日、雄英は世間からの信頼を失った。



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悪は前触れなく

「はーい!怪人召喚はっじまーるよ!」

 

「おぉ……」

 

時刻は深夜2時。

某動画サイトの影響で少しテンション高めのコンは、弔を起こしカメラを回す。

 

「いや~先ずはキャラメイク!

これはねぇ、適当!」

 

「適当かよ」

 

「バっとガっ!兎に角、子供が怖がりそうなもの!だいたいそんなイメージで作れば、出来は良い!

次は、強さ!今日は頑張ってプロヒーロー並に設定しちゃうよ!うん?オールマイト並にしろって?ハハハッあれやると三kgぐらい痩せるから無理!」

 

「プロヒーローってあやふやだなぁ、」

 

「次は能力指定だ!

……よし、ミニガンつけよう!」

 

「おぉ」

 

「ミッションは、街中で暴れてもらう!それだけ!ノルマは百人殺せ!怪人召喚開始!」

 

カメラの映像ではコンがなんの変哲もないツボに指先から染み出た緑色の液体を垂らす所から始まる。

 

そして、バッとガッ!

体積が膨れ上がった緑色の液体が勢いよくツボから飛び出し……銀色スライムの如くウネウネと地面を這いずりまわる。

 

「失敗か?」

 

弔の疑問は最もだ。

怪人というよりは、どうみても雑魚モンスター。以外と防御力が高かったり逃げ足が速かったりする見た目だが、これがプロヒーロー並の怪人だとは思えない。

 

――というか、ミニガンどうした。

 

「失敗じゃないよ、弔。これはね、ガワだけ怪人って種類の中身が必要なタイプの怪人なんだ。普段は一般人の身体にまとわりついて、暴れまわる、それに気づけないヒーローが攻撃、そのダメージは全て一般人に……宿主が死んだら怪人は離れて――「この人殺しめッ」て叫ぶんだ」

 

「……マジかよ、スッゲェ」

 

愉悦部隊が無茶苦茶喜びそうな最低の怪人だ。この人でなし!

罪のない善良な市民を殺してしまい絶望するヒーローの顔を見ながら呷る赤ワインは美味しいかッこの野郎!

 

「ポイントはね、ガワだけ怪人は宿主が死ぬまで動きが全く鈍らないんだよ。それを見て、ヒーロー達は手加減を忘れて本気であたってしまう……そのダメージは罪もない一般人が負うというのに!」

 

「姉ちゃん……これは、あれだ」

 

「勿論、ボコられる宿主に意識はあるぜ」

 

無言でハイタッチを交わす二人。

 

「透明怪人は戦闘力皆無だけど、その分!寿命が長いからチマチマ増やして五体ぐらいカメラを持たせれば生中継だ……弔さん、新アカの準備はできてまっせ?」

 

「おぉ!任せてくれ姉ちゃん!」

 

「では行け!怪人液体マン!

適当な人間に取りついてヒーローにボコられるのだ!」

 

コポコポ

 

排水溝を通って、街へと繰り出す液体マン。

 

 

 

 

 

 

―その数日後―

 

『ヒーローが一般人殺してんのww』

 

『ヘドロのパクりか?』

 

『エンデヴァーに殺されました』

 

『↑成仏してください(つぅか、殺したのエンデヴァーのサイドキックだし)』

 

『ちゃんとニュースみろよ』

 

『これだからキッズは…』

 

『ヒーローはオールマイトだけで充分だわ』

 

ネットの海は荒れに荒れ……エンディヴァ―のサイドキックの“彼”は退職を余儀なくされた。



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犯罪界の傍観者達

名付けて、

【市民殺し】

最近巷を騒がせているヒーロー殺しからリスペクトを得たある1つの動画は違法アップロードに別サイトへの投稿を合わせて計1000万再生にも及ぶ大ヒットを記録した。

 

これに、テレビなどの視聴率まで合わせれば億は固いだろう。

オリジナルはすでに公開中止、アカバンまで食らってしまったが、二度とネット世界からこの動画が消える事はあるまい。

 

 

 

 

 

舞台は、とある街中のマンホールから溢れ出す液状型のヴィランから始まる。

 

『う"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"!!!!!!』

 

ダミ声のような奇声を上げ、通行人の一人を取り込み人型を形成する……ヘドロとかいうオールマイトに敗れた奴はある意味、中に人がいる事が分かりやすいタイプの【個性】であったが、この“怪人”は中の人間ごと腹をかっ裂くまで、別の人間がいることを悟らせないように創られている。

もがくのも数秒、その人間は意識と痛覚以外の全てを剥奪され取り込まれた。

 

『ア"ー、ハハハ…』

 

怪人の声が低い男のものへ変化することで場面は移り変わる。

 

 

『ひゃっやめッ!』

 

グニャリ

 

『ああああァァァァ!!!』

 

サラリーマン風の男性の腕をなんの躊躇いなく捻り折る怪人。

聞く人が聞けばトラウマになるほど“ピー”な音と光景。

ヒーロー助けて!

何処からか女児の声がする、すると編集者の悪意によりこの怪人が暴れてからどれ程時間が経ったか左上に表示された。

 

30分

 

……遅い。ヒーローは何をしているんだ。視聴者の多くがそう疑問に思うのも無理はない。だが、仕方のないことだ。この怪人が暴れる前に近場の駅で自爆テロが起きたとかで多くのヒーローが出払っている。…運が、悪かった。

例えそれが、ヴィランの計画通りにまんまと乗せられた結果であってもヒーロー達は間違った行動を何一つとっていないのだから…僕たち(被害者)に彼らを非難する権利はない。

そう編集者が加えた一節は、視聴者の心をざわめかせる。

 

 

『何をしているんだ!』

 

そして、数多の被害を出しながらやっと現れたヒーロー

エンディヴァ―のサイドキック。近々独立してヒーロー事務所を構えるのでは?

と噂されている期待のルーキーだ。

 

強化系の【個性】を宿している彼は、先ずは一撃。

怪人を市民から遠ざけるように殴り飛ばす。

 

編集者はあえて、ここで何もしなかった。

いきなり暴力とかww

ヒーローなら何でもしてもいいのかよ。

色々とネタは思い浮かんだが、彼の弟はありのままを映した方がウケる。そう諭したのだ。

 

『う"ぅ"ぅ"ぅ"ぅ"』

 

『何ッこいつ痛みを感じないのか!?』

 

それからは、5分間ほどヒーローと怪人が戦う映像が永遠と流れる。ほぼ無編集だ。生放送当日は致し方なかったとはいえ、彼女が何故こういった表現方法をとったかといえば、やはり弟の入れ知恵である。

編集者は変に子供ぽい所があるので、彼女の弟は大人の悪意というものを隣で囁くのだ。

 

5分。

 

それは、怪人の中身が殴殺されるまでの時間。

ヒーローが市民を殴り殺すまでの残酷な死刑シーン。

 

 

最後に死体から剥がれた怪人を見たときのヒーローのアップといったら、何と言ったらよいものか。

 

 

 

「エヘヘヘ、弟に誉められちゃった♪」

 

「やはり君にその個性を与えて正解だったよ」

 

その悪意に共感する者とその悪意を吹き込んだ者達は嗤いあう。

 

 

絶望したかい……ヒーロー。

 



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襲撃前夜

雄英襲撃から暫く経ったある日。

これは怪人を召喚し、適当に野に放つ…動物愛護団体もびっくりの粗末な行いをしていた時の事。

 

「うぇ~飼う責任も持てないのに~創っちゃった、てへ!」

 

私の個性…正解には()()個性じゃないんだけどね。

怪人創造で面白いのが出来たんだ。

 

「腹立たしい!」

 

「なんだがちょっとコミカルぅぅ―!でも雷系の能力が使えるなんてレアだね!」

 

イメージは鬼。常に怒って暴れまわる奴。

てっきり、オールマイトやエンディヴァ―並のムキムキ君が産まれると思えば、鬼なんだけどちょっぴり迫力にかけちゃうフィジカル外見な子が出来た。

 

「大変じゃー!恐竜ジャー!」

 

「何だてめぇ、酔ってんのか?」

 

「酷い!実の親に向かって“てめぇ”なんて!もうっ悲しくて悲しくてお母さん涙がでちゃう!」

 

「…チッ腹立たしい。俺は強い奴と戦いてぇんだ。俺の親ならいい奴用意しろ!」

 

でも、やっぱり私の子…可愛いのは見た目だけで中は真っ黒なんだから。そう、私みたいにね!

 

「それはそうとおめでとう!君は初めて、不老の怪人となったんだ!」

 

デデン

 

ポケットから取り出した付け髭と丸眼鏡を装着するコン。

 

「説明しよう!私の怪人は私が与えたエネルギー量でタイムリミットが決まるのだ。故にエネルギーを与え続けていれば消えることはない。怪人にはバッテリーみたいなものがないから、必要ない時に関しては超コスパ悪くて使い捨てなんだけどね!」

 

「そうか。どうでもいいな。」

 

「だがしかし!先日の液体マンを見て私は思ったのだ!エネルギーがないなら敵から奪い尽くしてしまえばいいじゃないと!

ドゴルト君、今の君は云わば鎧。ガワだけ怪人の純粋な強化タイプに過ぎない。透明怪人に()()()いるから動けるが、戦闘すれば透明怪人はエネルギーを吸いとられるし、吸い尽くしたら透明怪人共々死ぬ。」

 

「だから一般人の肉体を取っ替え引っ替えてか?下らねぇ。第一、俺の全力に耐えられる体なんて……」

 

「ヒーローだよ」

 

コンはテーブルの上に立ち、飲みかけビール瓶を杖のように構え、嗜虐に顔を歪めながら言う。

 

「一般人とは比べものにならない頑丈な人体に、満ち溢れる生命力(エネルギー)…ランキング上位の奴らなんて一年、いや十年は君を全力で暴れさせてくれるに違いない。」

 

「ほぉ」

 

鬼のような怪人(ドゴルト)は置かれていた酒を呷り、話を促す。

 

「…雄英体育祭、あー!これは私の意見だが、選り取りみどりでしょうね?」

 

「腹立たしい!最高じゃねぇか!」

 

ドゴルトは嬉しそうにテーブルを叩き割る。

 

「あ……黒霧ちゃんに謝んなきゃ」

 

 

 

 

 

悪は休む事を知らない。




~買い出しに行っていた二人~

弔「あ?姉ちゃん、どこ行った」

黒霧「テーブルが!?」


今回の怪人の元ネタ
獣電戦隊キョウリュウジャーの敵組織の幹部ドゴルド

次回『雄英体育祭襲撃~トップヒーローなんて~』


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個性特異点

一つの影が投げ落とされる。

会場にいた観客は勿論、決勝戦の舞台に上がっていた爆豪勝己、轟焦凍らは戦闘中なのも忘れそれを注視した。

それがヨロヨロと二つの足で立ち上がった時、彼らが考えたのは一般人の個性事故。稀にある意図せずして個性が暴走し、回りに被害を及ぼしてしまうそれだ。

ここに緑髪の少年がいれば、そういった事例をヒーロー解説と共に提示してくれるだろう。

 

「……あ、おいアンタ一般人か?」

 

上空に転移してそのまま落ちたように見えた鬼とライオンをコミカルに合わせた顔をする男に向け、爆豪は口を開く。

その口調は少々刺々しいものの気にかけるような感情が混ざっている。

 

―――腹立たしい(気に入らない)

 

「あぁ?」

 

小さく呟いた男に怪訝な声を漏らす。その瞬間であった。

男の体がバラバラに砕け、ドロリとした液体が溢れる。息つく間もなく、その破片達が意思を持ったかのように爆豪を覆おうと――

 

「そんな何度も何度も乗っ取られるかよォ!!!!」

 

爆豪の腕から引き起こされた爆発がそれらを弾き飛ばし、何もない空中で破片は体を修復する。

 

「ハハッ面白れぃ…退屈しのぎにはなりそうだな!」

「黙゛れ゛ヴィ゛ラ゛ン゛野゛郎゛!」

 

(イカズチ)をバチバチと滾らせる剣を取り出しながら男は吼え、爆豪は小規模爆発を繰り返す。

獰猛に笑う両者が激突し、悲鳴が上がる。

 

「俺達も行くぞ!」

 

一瞬にして辺りはパニックだ。観客席にいたヒーロー達はヴィランではなく、逃げ惑う人の波に子供や老人が押し潰れされないよう、その対応に追われ思うように中々動けない。

 

「観客の避難は任せた!」

「直ぐに終わらせる!」

 

しかし、良い部下を潰されたばかりの怒りに燃えるエンデヴァーそして平和の象徴は一早く元凶の対処にむけ、爆豪の援護に向かう。

それは決して悪い判断ではない。

最高戦力がその場にいるというのは、観客の落ち着きを取り戻すには丁度いいスパイス。現に人々は足を止め始め、

…あぁ、彼らがいるなら安心だ。

 

「残念でした~!」

 

見当違いの馬鹿共に私は“私”の個性を発動させる。

 

その日、多くの人間は上を見上げ唖然とするだろう。

空高くから降り注ぐ瓦礫の雨。彼女の個性、祖母から受け継ぎ進化した『浮遊』の効果は溶け、積乱雲のように積み重なったそれは、範囲を絞ることで一分は降り止まず、されど単発の高火力や広範囲型の個性では届かないほど広く……。

 

 

雄英体育祭の日。全国中継にて、晒されるテロ行為。

 

私たちを見捨てたヒーローが人が逃げ惑う。

 

 

その光景は何とも……美しかった。




志村華 個性:浮遊(改)
触れた物体、触れた物体と接触する物体(連鎖は半径50メートル以内まで)を重量問わず浮遊させ操る個性。無重力の完全上位互換性だ!
華ちゃんの本来の個性であり、超強力。

怪人創造は貰いもんだぜ!
(脳無に比べて持久力も一体一体を生み出すエネルギー効率も如何せん悪過ぎるってんでくれたんだとさ!)


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間話

「へぇ、最小限に納めたって感じかな?」

 

プロヒーローがその場にいながら、生徒二人が(ヴィラン)に襲われ重症を負い、片方は三十針も縫う大手術になった。

それでいて、あの脳無を相手に上手く“戦え過ぎた”プロヒーロー二人はほぼ無傷。

 

雄英の管理体制はどうなっているのかと、餌の投げ込まれた池に群がる鯉のように雄英に押し掛けたマスコミ達に、緊急会見を開いた彼らは言い訳を唱えるかと思いきや過ちを認め、以後このような事がないように……と、マングースぽい何かと一緒に頭を下げていた。

 

「クククッ馬鹿だなぁ…ヒーローが守る弱者に嫌われてどうするよ」

 

「……ぅぇ~あのマングース、昔食べた……犬に似てる」

 

「おい、やめろ」

 

コンの聞くだけで鳥肌立つ闇深い過去に弔は顔をしかめる。

 

「ぁあ~ごみ~ん!」

 

コンは何気なく口にしたものの、弟が嫌そうにしていたのでケラケラと笑いながら謝った。

 

 

 

「弔さぁ」

 

 

 

「何だ姉ちゃん」

 

 

 

「雄英の体育祭ってもうすぐだよね……何かするの?」

 

あの人は動いてほしくないと言葉を溢していたが、彼女が優先させるのは何より、弟の意思である。

コンは小柄な体から信じられないほど突き出た双乳を持ち上げ、「色仕掛けでもしちゃう?」お茶目に舌をだしてみた。

「アホか、姉ちゃんの体を欲しいままに出来る奴なんてこの世に存在しねぇよ」

弔はそれに呆れたような声を漏らしてコンの足下に転がった酒瓶を取り上げる。

 

「あぁあん!まだ中身が残ってるのに!」

 

個性【崩壊】が発動し、底が崩れてアルコールを派手にぶちまける。コンは心底不服そうな目をして弔に訴えかけるが、黒霧から新しい酒を貰うとグラスにも注がず下品にラッパ飲みを披露した。

 

「ごきゅごきゅ!ぷはー!」

 

「――ちっ飲み過ぎなんだよ。肝臓ぶっ壊れてもしらないぞ」

 

「怪人創造はエネルギーを使うんだから仕方ないの!」

 

「じゃあ作れ作れ!」

 

酒臭いコンを見ながら露骨に顔を歪めて見せる弔は手をヒラヒラと払いながら、あのAFOに時代遅れ寸前のボツ個性と言われた『怪人創造』又の名を雑魚(クズ)量産機。

何処からともかく取り出した壺に怪しげな液体を注いでいき、手帳を広げブツブツと呟きながら――彼女曰くエネルギーの節約になるらしい工程を感情のない瞳で見つめる。

 

(生まれながらの個性じゃねぇのに、先生より使いこなすんだもんな。やっぱり姉ちゃんが特別だからなのか姉ちゃんの個性と奇跡的に噛み合ったのか分からねぇけど、オールマイト級の怪人を月一のペースで生産出来るようなヤツが敵じゃなくて心の底から安心するぜ)

 

彼は唇を弧に描き心底安堵する。

 

只さえ動かす為に用意するエネルギー総量と活動限界が比例しない燃費の悪い物であるというのに、疑いを持たない純粋な心の持ち主でなければどれだけ強い怪人を造ろうとしてもクオリティーの落ちていくというクソみたいな制約のせいで、AFOですら使い余していたこれ。……ドクターの登場で脳無が造られるようになってからは、いよいよお役ごめんとなった所に

弔が使わないならくれないかと打診し、結果的に姉が使う事になった時には単純にヒーローに嫌がらせが出来るぐらいにしか利用価値を感じていなかった。

それがまさか活動限界を除けば望んだ強さ・能力を持った怪人が造れるようになるとは夢にも思わない。

 

「今回は……そうだね。乗っ取り系をもう少し発展させてみるのもいいかな、もしかしたらエネルギーの節約になるかもだし見た目はこの際だから少しだけこだわってみよう」

 

義手の手を抱えて鍋を回す。

その姿は少しだけ彼の心の罪悪感を蝕んでいくような気がした。



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