アズールレーン&艦これ ~蒼き航路に集いし少女達~ (モンターク)
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第1話
交差する少女たち(前編)


というわけで新作です。
たまにはドンパチ行きます!


「……一体ここはどこなんでしょう……?」

 

特型駆逐艦であり、艦娘である吹雪はこう呟かずにはいられなかった。

彼女達は本来、作戦行動中であり、別の前線基地に移動している真っ最中であった。

ただ途中の大嵐でかなりの人数とはぐれてしまい、嵐が過ぎ去ったあとにその残った面子でなんとか艦隊を組み今に至る。

 

「駆逐艦は「吹雪」「綾波」「夕立」「時雨」……やはりこれで全員か?」

 

「はい、他は一切連絡が取れません」

 

「そうですか……電探にも反応はありませんし」

 

霧島の報告を聞いて、臨時に旗艦を務める大和とその補佐をする長門は頭を痛めた。

なにせ他の無線も一切通じず、電探にもそれらしいものもない。

「完全に孤立してしまった」というしかなかった。

 

そんな中、空母達が口を開く。

 

「見渡す限りは海ばかり……水平線がよく見えるわね……ねえ、加賀さん?」

 

「赤城さん……まあ確かに綺麗ね……戦いがあるなんて思えないくらい」

 

「そうね……そういえばこうして海を見ることなんてないよね?飛龍」

 

「まあ確かに……いつもいつも上ばっかり見てたし」

 

「ふふふ……そうですね」

 

「悠長に見てる場合じゃないと思うんだけど……」

 

「………」

 

「ん?どうしたの。サラトガ」

 

サラトガは別の方向を注意深くみている。

彼女は日本艦ばかりのこの中で唯一の米国艦である。

艦隊への合流当初は少し避けようとする壁があったものの、割り切ることができ、今はすっかり馴染めている。

 

「ズイカク……いえ、あちらのほうに何か飛んでいる物体が見えて…」

 

「飛んでいる?鳥かなんかじゃないの?」

 

「それにしてはなんか大きくて……あ、また!」

 

「ふーん……確かに何か飛んでる……神通、遠視お願い」

 

「了解しました」

 

軽巡神通はサラトガが指し示した方向を注意深く見つめる。

 

「どう神通?なんか見える?」

 

横から川内が彼女にこう問いかける。

 

「確かに……みえ……!?」

 

そしてそれを見ていた神通は急に驚きの表情となる。

 

「どうした!?」

 

「深海棲艦の艦載機らしきものを見つけました」

 

「何!?」

 

「本当なの?神通?」

 

「ええ、姉さんも見てみて」

 

「どれどれ………ホントだ!確かに深海棲艦の黒いやつだよ!……でも見たこともないのもあるけど……」

 

「おそらくは新型ね。深海棲艦も白い艦載機や緑色の陸上機を出しているときもある」

 

「艦隊を襲撃、もしくは基地を襲撃する感じね、あの数だと」

 

赤城と加賀がそれに対して補足していると、大和はある決断を下す

 

「皆さん、その敵が向かう方向に向かってみましょう」

 

「向かう方向に?」

「向かうっぽい?」

 

駆逐艦の綾波と夕立は首を傾げた。

それにやれやれと思った時雨はこう補足する。

 

「あっちに深海棲艦の編隊が向かっているなら、目標…つまり私達のような艦隊や基地があるはず……つまりその方向に行けば私達も友軍と合流できるかもしれないんだよ」

 

「なるほどっぽい!」

 

「うむ、そういうことだ。艦隊はこれより大和を中心に行動を開始する!全員離れるなよ!」

 

「明石さんは夕張さんと長門さんが護衛してください。他の艦は私を中心に固まってください!」

 

「「「了解!」」」

 

そしてなんとか話がまとまった艦娘達は行動しないより行動することを選び、その敵が向かう方向に進路をとった。

 

その途中、吹雪はある違和感を覚える。

 

「……ん……?」

 

「どうしたっぽい?」

 

「いえ……なんか変だなって」

 

「変って、なんかあったの?」

 

川内の問いに吹雪は要領を得ないものの、なんとか答える。

 

「いえ、なんか言い表せない違和感みたいなのが……」

 

「まあ今まで大嵐の中だったし、ちょっと酔っちゃったんじゃない?」

 

「……だと良いんですけど……」

 

吹雪はなんとも言えない違和感を消せず、むしろ大きくなっている。

だがその違和感に確証を得られてないのもあり、とりあえずは心のなかに仕舞うことにした。

 

一方の後方の明石と夕張も同じく違和感を感じ取っていた。

 

「はぁ……しかしこのまま合流できるんでしょうか……?」

 

「できると良いけど……変な感じがして気分が悪いわ」

 

「夕張さんも?」

 

「も…って明石さんも?」

 

「ええ、なんとも……これだけじゃ終わらないって感じがして……」

 

「二人共大丈夫か?」

 

「まあ大丈夫と言ったら大丈夫なんですけど……」

 

「うーん……いまいち引っかかりが……」

 

心配した長門の問いかけに、二人は歯切れの悪い返ししかできなかったようだ。

 

「そうか……まあいずれにしろ合流すればはっきりする」

 

「だと良いんですけど……」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

アズールレーン

前線基地

 

この基地にはユニオン、ロイヤル双方の戦力である「KAN-SEN」が集結している。

レッドアクシズの戦力範囲からそれほど遠くないところであり、レッドアクシズを監視する目的でこの基地は建設されたのだが、

その勢力とは別のある「別の勢力」がその基地に牙が向けた。

 

「セイレーンだと!?迎撃急げ!」

 

「「はい!!」」

 

基地の指揮を臨時で担当する戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」はその報告を聞いた途端に急いで各方面に迎撃の指示を通達した。

 

それと同時に基地内には警報が鳴り響く。

 

停泊中であった一部艦艇も攻撃を受け始めている。

 

「こんなときにセイレーンとは……」

 

セイレーンにより、一時期は制海権を喪失した人類であるが、KAN-SENの奮闘により奪還し、セイレーンも数を減らしたとされる。

ただ依然健在であり、脅かす存在であることに変わりはない。

 

だが、それにしては少し不自然なこともあった。

報告によれば従来型セイレーンとは異なる新型らしきものも同伴しており、その敵艦はセイレーンとは形状がかなり異なるものであった。

 

(一体、何が起きているというのだ……)

 

プリンス・オブ・ウェールズは不安を隠せなかった。

ただでさえ重桜、鉄血との摩擦は悪化しており、いつ爆発してもおかしくはない故である。

 

(これ以上何も起きないと良いが………まさか……)

 

 

 

 

 

そして基地迎撃戦は開始され、敵航空機を多数撃墜し始めるKAN-SEN達

損害を出しつつも、迎撃は滞りなく進んでいると思われた。

 

だが――

 

「きゃあああっ!?」

 

「ちっ!大丈夫か!」

 

新型と思われる編隊の攻撃の勢いが予想以上に強く、そして数としても五分五分の戦いとなっていたのだ。

 

「くそ!これじゃあ…!」

 

軽巡クリーブランドもこの状況は不味いと感じている。

ここで消耗してしまえば、この先あると思われる「戦い」で不利になってしまうからだ。

 

「だけど……!まだ……!」

 

そして新型が再びクリーブランドを襲おうとしていたその時――

 

「!?」

 

目の前でその新型が爆発した。

いや正確に言えば、爆散したというべきか

 

「あれは……!」

 

クリーブランド、そしてジャベリン、ラフィーが目にした別の航空機、それは

 

緑の翼に日の丸をつけた戦闘機とクリーブランドそしてラフィーもよく目にしたことがある蒼き戦闘機であった。

 

――――――――――――

 

「よし、なんとか間に合ったわね……」

 

「しかし見たことがない艦娘ばかりです……というより本当に艦娘なのでしょうか?」

 

「水上に女の子が浮かんでいるなら間違いなく艦娘よ、ね?」

 

「まあそうとしか考えられないけど……」

 

赤城、加賀、蒼龍、飛龍がそう話す中、翔鶴、瑞鶴、サラトガも手応えを感じたようで

 

「迎撃成功!妖精さん、更に散開して叩いて!」

 

「翔鶴姉の部隊に続いて!残らず叩くのよ!」

 

「attack!OK!そのまま進んで!」

 

「「「オーオーオー」」」

 

妖精さん達も元気に働いている。

なお空母から発艦させたのは「試作烈風 後期型」「烈風一一型」「零式53型(岩本隊)」及びサラトガの「F6F-3」である。

各機は新型でもあり、熟練機でもあるため、続々増える敵を難なく撃墜していく。

 

「しかし釈然としませんね。見たこともない艦娘達がいるなんて……一体……」

 

「ですが霧島さん、目の前で深海棲艦に襲われてるとなれば見過ごすわけには行きません……今は迎撃に務めましょう。考えるのは後です」

 

「了解です。重巡、軽巡、駆逐は先行してあの島のほうまでお願いします」

 

「了解だ!いくぜ鳥海!」

 

「了解……」

 

――――――――――――

 

「なんとかなったけど、こいつは一体……F6Fも混ざってるけど……ユニオンの空母はまだこれないと聞いてたし…」

 

「ラフィーちゃん、なにか知ってる?」

 

「ううん……見たことあるのも混ざってるけど……よくわかんない。でも、敵じゃない」

 

「!?!?」

 

謎の航空隊の迎撃もあり、なんとか上空の敵は掃討された。

だが次の瞬間、あるはずのない桜が散り、ある「声」が聞こえてくる。

 

『セイレーンと戦うため、人類は私達を作った』

 

「ん?なんだ、この声」

 

「?」

 

その声は接近中であった摩耶達にも聞こえていた。

 

『だけどやがて理念の違いにより四大陣営は2つの勢力に分かれる……』

 

『一つはお前たち。あくまで人類の力だけでセイレーンと戦うユニオンとロイヤル』

 

『そしてもう一つは……』

 

それと同時に桜吹雪でかくされたその「艦」が露わとなる。

 

「その紋章は……!」

 

『セイレーンを倒すためならセイレーンの技術をも利用する。鉄血と私たち「重桜」』

 

そしてそのセリフと同時にその艦の甲板から航空機が形を変えて、多数飛び立つ。

赤き炎と蒼き炎となって……。

 

「嘘……これって……」

 

「なん、だと……!?」

 

摩耶達はその光景に驚愕する。

見たことないはずなのに見たことがあるその艦。

聞き慣れない単語もあったが、それは些細なことであった。

 

そしてその二人の「艦」はこの名前を言い放った。

 

「重桜一航戦「赤城」」

 

「重桜一航戦「加賀」」

 

「「推して参る!」」

 

 

「な」

 

「え!?」

 

「な、なんだって!?」

 

摩耶達はその宣言に驚くばかりであった。

当然だ。自分の後方に居る自分たちの味方である艦と同じ名前を言い放ったからだ。

 

「どういうことっぽい!?」

 

「これって……」

 

夕立、綾波も驚いていた。

 

――――――――――――

 

そしてその宣言は後方で展開する戦艦及び空母と夕張、明石に伝わっていた。

 

「なんですって!?」

 

「私と……赤城さんの名前……」

 

言われた本人である赤城と加賀は当然ながら混乱している。

偽りならすぐに否定もできよう。

だが、偽りとは断言することはできなかった。

彼女たちの勘があの二人を「一航戦」であることを指し示していたのだ。

そんな中、霧島はこの状況を冷静に解釈し、ある判断を出した。

 

「……わかりました。ここは私達が知る世界じゃありません」

 

「霧島、どういうことだ?」

 

長門のその問いに霧島は冷静にその理由を話していく。

 

「深海棲艦とは別の新型、私達も知らない艦に浮かぶ女の子……そして赤城と加賀と宣言したその艦……ここは間違いなく私達の世界じゃない……つまり異世界と断言します」

 

「異世界……だと?」

 

「確かに……そう断言するしかなさそうね……私達が何故ここにいるかはわからない。だけどこうなっている時点で事実なのは明白よ」

 

大和もそれに頷いている。

信じられないことだらけだが、事実ではあるため、それを受け入れるしかなかった。

 

「で、どうします?この異世界で……私達は……」

 

改めての霧島の問いかけに大和は間髪入れずにこう言い放った。

 

「……これより艦隊は「重桜一航戦」と呼称する艦を迎え撃ちます!……良いですね?赤城さん、加賀さん」

 

「ええ、構わないわ……よく考えてみるとこの状況はあの時に似ている」

 

「あの時って……まさか……!」

 

「そうです瑞鶴さん。この攻撃は…あの作戦…「真珠湾攻撃」です!」

 

真珠湾攻撃

日本時間1941年12月8日未明に発生した大日本帝国海軍が南方作戦の一環としてイギリスに対するマレー作戦とともに行った作戦であり、太平洋戦争勃発の元となった物である。

これによりアメリカ太平洋艦隊の戦艦戦力は大幅に打撃を受けて、以降のミッドウェーまでの快進撃に繋がった。

だがこの戦いは外務省側の対米への通達の遅延により宣戦布告がなされない形での奇襲攻撃となってしまったため、以降のリメンバー・パールハーバーにも繋がった。

言わば彼女達の最初の勝利と最初の過ちであった。

 

そしてその「真珠湾攻撃」とも言えるそれに蒼龍は違和感を唱えた。

 

「真珠湾?でもそれなら私達二航戦や翔鶴達五航戦も参加してるはずじゃ……」

 

それに対して加賀はこう返した。

 

「異世界ならそれくらいの違いもあるはずよ。そもそも真珠湾ならハワイ諸島だけど。ここはハワイじゃない……限りなく近いけど、遠いわ」

 

「そして先程の深海棲艦と…謎の敵の攻撃の後にあの「赤城」が攻撃……とても偶然じゃない……ともかく、今はあれを止めるべきです!迎撃を!」

 

「ええ、霧島さんは摩耶さん達にもそう伝えて!そして私達も前に行きましょう!」

 

「ああ!機関全速!」

 

長門の掛け声とともに各艦は速力を上げるのだが――

 

「ちょ、ちょっと!おいてかないで!」

 

「ま、待ってください!」

 

夕張と明石はそれに遅れていたのは言うまでもない。




艦娘側参戦艦は以下の通りです。

工作艦「明石」
戦艦 「大和」「長門」「霧島」
空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」「サラトガ」
重巡「摩耶」「鳥海」
軽巡「川内」「神通」「夕張」
駆逐「吹雪」「綾波」「夕立」「時雨」

KAN-SEN側はアニメ版は基準としつつ、色々と調整していきます。


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交差する少女たち(後編)

とりあえず後編も上げておきます。



「各機、残らず迎撃して!相手が例え零式や九九艦爆でも遠慮なく撃って!」

 

「attack!」

 

赤城率いる空母部隊は残りの戦闘機をすべて発艦させ、「重桜一航戦」を迎え撃つ態勢をとった。

 

「1番砲、2番砲、三式弾装填!電探とのデータ合わせて!」

 

「算出!主砲角度あげます!」

 

「主砲副砲三式弾装填!」

 

「戦艦大和、霧島、長門!攻撃を開始します!てーっ!!」

 

大和率いる戦艦部隊も三式弾による対空砲火を開始し、迎撃を行う。

 

そして一方の重巡以下は……

 

 

「対空要員準備良いか!」

 

「いけます!」

 

「よし!対空戦、いけーっ!」

 

防空巡洋艦である摩耶を筆頭に対空の陣形を組み、迎撃を開始し

こちらは多数の戦果を上げていた。

 

「なんだあいつら!?すげえ迎撃だ!」

 

そしてクリーブランド以下、KAN-SEN達もその存在に気づいていた。

だがこの攻撃の最中でいちいち所属を考えている暇はなかった。

何故なら攻撃が予想以上に激しかったからである。

 

「お友達を……いじめないで!」

 

そしてユニコーンはいつも抱えている「ゆーちゃん」を巨大化させ、それに乗り、迎撃行動に出た。

 

「なんだありゃ!?馬が飛んでる!?」

 

「一角の馬……つまりユニコーン?」

 

「鳥海は冷静だな……」

 

「す、すごい……」

 

「すごいですね……」

 

「僕、ああいうの初めて見るよ……」

 

「そうです……ん?」

 

もちろんその行動に艦娘達は驚愕しているが、神通はある駆逐艦に気づいた。

 

「行きます!!」

 

「あなたは…!」

 

「重桜、吹雪型駆逐艦改良型「綾波」!」

 

綾波がジャベリンに攻撃を与えようとするがジャベリンはなんとかそれを抑える。

 

「鬼神の力、味わうがいい!!」

 

「どうしてこんな……!」

 

「敵同士だから当然なのです!」

 

ジャベリンの問いかけも虚しく、綾波は容赦なく攻撃を加える。

あの時会ってしまったゆえにあまり戦いたくないジャベリンは防戦一方となり――

 

「あ!」

 

「貰った!」

 

一撃を喰らいそうになる…が。

 

「!?」

 

「なに!?」

 

カンっ!と弾く音が聞こえた。それは間違いなく剣と剣がぶつかった音

だがジャベリンは尻餅をついてしまった。ラフィーも攻撃機の迎撃に手一杯である。

それは――

 

「あなたは……!?」

 

重桜の綾波が思わずこう問うと、彼女はこう返した。

 

「川内型2番艦…そして第二水雷戦隊旗艦「神通」!」

 

「!?」

 

重桜の綾波は驚いた。

自分が知る神通とは違うはずなのに、目の前には間違いなく神通が居たからである。

 

「くっ!」

 

重桜の綾波はなんとか下がり、態勢を立て直す。

そして神通も持っていた日本刀を握り直した。

 

そして艦娘の綾波がジャベリンに駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい!あなたは……!」

 

「名乗るほどではありません。今は神通さんに任せて敵機の方を!」

 

「は、はい!」

 

 

そして上空の方もユニコーン自身の出撃、艦娘の航空隊と重桜の赤城、加賀の航空隊で凄まじい航空戦が繰り広げられていた。

 

史実真珠湾では奇襲によりアメリカがほぼ一方的にやられてしまっているため、これはまさに本来ならありえないことなのでだろう。

だがそれでも数で負けているはずの重桜側の赤城と加賀のほうが優勢である。

 

「数が多い!私と加賀さんだけのはずなのに……」

 

「うーん……深海棲艦との攻撃も止んでないし……一体……」

 

「やはり損害が多いわね……!さすが一航戦!」

 

赤城、蒼龍、瑞鶴がそう話しつつ、迎撃の指示を出す中

重桜の加賀はこう呟いた。

 

「数が予想以上に多いな……見たことあるようなものも混じっている……だが……良い獲物は居る」

 

そして狐のお面をてにとった後、加賀の艦が桜吹雪を舞い、姿を変えた。

 

「お、おい!?」

 

「なに!?」

 

その姿は大きな狐……そしてそれに航空甲板やら艤装がついていた。

だがその姿はまさに幻獣である。

 

「ちょ、鳥海!?なんなんだよあれ!?今日はビックリドッキリメカの日かなんかか!?」

 

「それ古いです……でもあちらの加賀さんが……?」

 

当然艦娘の加賀も――

 

「……なに……これ……」

 

「げ、幻獣よね……あっちの加賀はそこまで出せんの…?」

 

「わ、私に聞かれても困るわ……」

 

ただただ困惑するだけであった。

 

そしてその幻獣はユニコーンをも追い詰めた。

軽空母と正規空母であるがゆえ、これは限界でもある。

 

「ぐっ……!」

 

「どうした?これではあまりにも張り合いがないぞ」

 

「楽しそうね。加賀」

 

必死に迎撃を続けるが、あまりにも損害が多すぎる。

アズールレーン及び艦娘側は次第に消耗していった。

 

そして――

 

「うわあああああっ!!!」

 

「このままじゃ……ユニコーンちゃんが!」

 

「くっ!」

 

「やめろおおおおっ!!」

 

一角獣が幻獣に喰われようとしたその時

 

「!?」

 

一羽の鳥がその幻獣を貫き、

貫いた後、その鳥は航空機へと姿を変えた。

 

「なにっ!?」

 

重桜の赤城は驚き、鳥が来た方角を見つめた。

そこには、ある「空母」が居た。

 

「あの船は!?」

 

中型の通常空母でありながら大戦中に15回の大小の損傷がありつつも戦い抜き、アメリカ海軍を勝利へ導く原動力となった艦。

様々な愛称があり、ビッグE、ラッキーE、ギャロッピングゴースト(走り回る馬の亡霊)…そしてグレイゴースト(灰色の亡霊)とも呼ばれ、艦の中で最多の従軍星章(バトルスター)を得た太平洋戦争及び第二次世界大戦の最大のそして最高峰の武勲艦。

 

ヨークタウン級航空母艦2番艦「エンタープライズ」である。

 

「やはりお出ましね……ユニオンのグレイゴースト…「エンタープライズ」!」

 

「エンタープライズ、エンゲージ!」

 

その言葉とともに彼女は艦状態を解除し、艤装を身に纏う。

 

「エンタープライズ……彼女も居るのね……」

 

サラトガはやはりという表情で彼女の方を見ていた。

サラトガは大戦開始時にアメリカに居た空母としてはエンタープライズ、そしてレンジャーとともに生き残った艦であるため、当然のことながらよく知っている。

懐かしいとも思えても居た。

 

そしてエンタープライズは自身が召喚した実寸サイズの戦闘機に乗り移り、セイレーンの艦船からの攻撃を掻い潜り、重桜の加賀と交戦する。

 

「面白い!」

 

加賀は次々とエンタープライズに容赦なく攻撃を仕掛け……。

 

「くっ!」

 

エンタープライズは大型の弓を引き、その航空機を撃墜していく。

その手腕は一瞬のスキもなく、見事とも言える。

 

そしてそれでも撃墜できなかった航空機はエンタープライズが乗っていた航空機から少しだけ離れて、体術により蹴散らした。

 

「す、凄いっぽい……」

 

艦娘達は当然ながら驚きすぎてこのような反応しかでない。

本来艦船というものは遠距離戦が主であり、接近戦は大航海時代の海賊でもないのでほぼない。

艦娘になってもそれは暫く変わらないもので、艦娘は基本訓練を受けているため近接戦闘も可能あり、一部艦娘も行っているものの、基本は遠距離戦が主である。

 

ましてや遠距離が主であるはずの空母が目の前で殴り合うのはほぼないことであるゆえに、驚くのは無理もない。

 

「いけっ!」

 

「!?」

 

そしてエンタープライズ狐の幻獣に弓を引き、爆弾を投下し、その狐を突破する。

 

その後、その体を伝い、本体の加賀のほうへ一目散に走る。

 

「私を楽しませろ……亡霊よ!!」

 

加賀はその言葉と同時に体に蒼きオーラを纏い、目も光らせる。

 

「待ちなさい!加賀!」

 

それと同時に赤城は加賀を抑えようとするも、目の前に標的がいる以上、聞く耳は持ってない。

 

「ゔあっ!!」

 

そして加賀は攻撃をするも、エンタープライズは装備をフルに使いそれをすべて弾き――――

 

「貴様……!」

 

「取ったぞ……!」

 

「しまっ……!」

 

ゼロ距離による射撃……それは加賀を貫いた。

 

「ぐ、ぐあああああっ!?」

 

その射撃により加賀はもだえ苦しみ、それと同時に幻獣も断末魔を出しながらも消滅した。

そしてエンタープライズは海面に華麗に着地した。

 

「………凄いわね、さすがビッグE……」

 

「あちらの私も完全に倒れてはいないみたいだけど……でも……あれは……」

 

その一部始終を見ていた艦娘の赤城と加賀は複雑な気分であった。

 

「ぐっ、私の体に傷を……!この体は姉さまの……!!」

 

再び反撃に転じようとするも、ここで赤城の鶴の一声が入った。

 

「そこまでよ、加賀」

 

「姉さま!加賀はまだ戦えます!」

 

「わかっているわ……でも、そろそろ潮時よ」

 

そして残りのセイレーン量産艦及び深海棲艦の艦船は動きを取れなかったイラストリアスとプリンス・オブ・ウェールズが撃破していく

 

「お姉ちゃん!」

 

「遅いよ全く……」

 

「すまない、艤装の換装作業が予想以上に手間取ってしまってな……」

 

「対空攻撃中止。1番、2番、徹甲弾装填!」

 

「目標、敵未確認艦船及び深海棲艦艦船!」

 

「全主砲、斉射!てーっ!!」

 

艦娘の戦艦である大和達も航空機攻撃が弱まったことにより残存艦隊の掃討に当たる。

46cm砲、41cm砲、36.5cm砲の多重攻撃により、次々と撃破されていく。

 

「目標も概ね果たしたわ。予定通り上々の戦果よ…」

 

(ある一点だけを除いては…だけど)

 

赤城は黒き邪悪なキューブを見つつ、そして今も戦っている艦娘のほうを見る。

 

(……何……あの「艦」への違和感は……?)

 

「はい、姉さまがそう言うのでしたら………姉さま?」

 

「いえ、なんでもないわ加賀……」

 

(気のせい……かしら?)

 

「待て、逃がすと思うか?」

 

「あ~ら怖い怖い。そんな目で睨まれたら私どうにかなってしまいそう…」

 

わざとらしい声でエンタープライズを挑発する。

 

「んっ……!」

 

だがその時、別の方向からある飛行機の形をした紙のようなものが飛んできて、エンタープライズの弓の構えを崩した。

そしてその紙はすぐに燃え落ちた。

 

そしてその方角にいたのは翔鶴型航空母艦2番艦であり、五航戦の瑞鶴である。

 

「……先輩方、そろそろ時間です」

 

どうやら一航戦に撤退の時間を知らせに来たようであった

 

「ええ、御暇しましょう……」

 

そして一航戦は空へ撤退していく。

 

「まて!」

 

 

 

そして別の方で戦っていた綾波もその撤退に気づいたのか、すぐさま撤退を開始した。

 

「あ、待ってください!綾波さん!」

 

「ああ………」

 

綾波はそのまま全速力で駆け抜けた。

未練があったような気もあったが、それも振り切りつつ……。

 

 

『これは宣戦布告よ……アズールレーン』

 

『これより重桜は鉄血とともにお前たちの欺瞞を打ち砕く』

 

『未来とは強者に委ねられる物……天命はこの力で大洋を制する我々にある』

 

『我らは赤き血の同盟「レッドアクシズ」なり』

 

その宣言とともに桜吹雪が舞い、重桜艦は姿を消した。

 

「ううっ、一体何が何なのかわからないよ!ひりゅー!」

 

「うーん……」

 

二航戦の二人は混乱しているようで、頭を痛めている。

 

「重桜……つまり日本が宣戦布告したってことよね……」

 

「まだわからない……だけど翔鶴姉……このままじゃ不味いってことは確かよ……あの時みたいに」

 

「ともかく、今はあの「アズールレーン」に合流してみましょう……」

 

「え?でも大丈夫なの……私達、ジュウオウとかじゃないけど敵対したことがある日本艦よ!?」

 

「大丈夫、あの中には私の知り合いも複数いるみたい……きっとわかってくれるはず。なので赤城さん、接触行動に入りましょう」

 

「……ええ。大和さん達もいいですか?」

 

「はい。今はそれが最善かと……でもその前に負傷者の救助活動が最優先です。艤装が損傷し、浮遊艦が多数居ます。まずはそこから!」

 

「了解です。大和さん!」

 

――――――――――――

 

「はぁ……やっと終わったかぁ……疲れたぜ……」

 

「ええ、ではまずは…」

 

「ああ、先程大和さんの通信通りに救助活動だ!行くぜ!」

 

(まだまだ元気ですね……)

 

そうして摩耶達も救助活動に移行するのだが――

 

「ブクブクブク」

 

「ん?なんだ?この艦」

 

ブクブクブクと流れていた艦。

それを摩耶がそれを釣り上げてみると――

 

「ううっあああっ……」

 

「おお、大丈夫か!?」

 

ピンク髪でツインテールな彼女。

それはつまり軽巡サンディエゴであった。

 

「はあっはあっ……あ、ありがとう……」

 

「水用意してやるからちょっと待てよ……」

 

 

 

 

 

そしてプリンス・オブ・ウェールズとイラストリアスも色々と救助活動の指揮をしているが、当然ながら「謎の艦」も把握しつつあった。

 

「しかしあの艦……ユニオンとロイヤルであのような艦はみたことないぞ……」

 

「重桜艦……でもありませんね……雰囲気が全く違います……。でも悪い人じゃないと思います。現に救助活動を行っていますし」

 

「そのようだな……まあいい、そのことは後だ。今は救助と復旧を最優先とする」

 

「ええ」

 

 

「……」

 

一方戦いを終えたエンタープライズは鷲が飛んでいる空を見つめていた。

 

「戦いの次に……また……戦い……」

 

誰にも聞こえない言葉を小さく呟きながら……。

 




エンタープライズはアニメ版通り、かなり無茶してます。
次回からクロスオーバーの本番かも


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第2話
鼓動の波、鋼鉄の翼、そして(前編)


意外と早く書けてしまった


救助活動は終え、饅頭と呼ばれるいわゆる妖精さんのような存在により港の復旧作業が大急ぎで進む中

司令施設において、アズールレーン側と艦娘側による対談が実現していた。

 

アズールレーン側は指揮官代行のロイヤル所属戦艦プリンス・オブ・ウェールズと空母イラストリアスが

艦娘側は旗艦の戦艦大和と霧島、空母サラトガ、赤城が同席している。

 

そんな中、詳しく艦娘側の事情を聞いたプリンス・オブ・ウェールズはこう話し始めた。

 

「うむ……そちらの事情は把握した……しかし異世界から…か」

 

「はい、信じてもらうのは難しいかもしれませんが……」

 

「ヤマト…と言ったな。確かに本来ならこれを信じろというのは難しいことだ。重桜の襲撃の後では特にな」

 

「……」

 

「だがあなた方の迎撃行動により我々も被害を抑えることができた。その後の救助活動も迅速であった。いわば恩人とも言える……とても嘘を言っているようには見えない……そしてそちらに私達が知る艦もいるようだな」

 

「はい、レキシントン級航空母艦2番艦のサラトガです」

 

「やはりあなたが……!」

 

「久しぶりですね。イラストリアスさん」

 

イラストリアスも驚いた。

サラトガはかつての太平洋戦争時、イラストリアスが所属していたイギリス東洋艦隊に合流しサバン島でのコックピット作戦、スラバヤにおけるトランサム作戦を実施し、日本軍基地

に損害を与えた。

 

当然ここのユニオン所属艦にもサラトガがいるのだが、そのサラトガとはかなり違う。

ただし、イラストリアス自身は目の前にいるサラトガもまた本物であると認識していた。

 

「そして…艦娘達にもこちらから一つ聞きたいことがある……これだ」

 

プリンス・オブ・ウェールズはある一枚の写真をテーブルに出した。

そしてそこに写っていたものは、艦娘がよく知っている深海棲艦である

 

「……これは…深海棲艦?」

 

「やはり知っているか……このセイレーンの新型としては形が違いすぎる謎の存在…これはセイレーンの襲来に混ざっていたものだ」

 

「セイレーン?それは……本来のあなた達の敵?」

 

赤城がそう尋ねるとプリンス・オブ・ウェールズも当然こう返した。

 

「ああ、セイレーンに対抗するために私達は建造された……そしてそのシンカイセイカンとはなんだ?」

 

「私達の世界に存在する未知の生命体です。一時期は世界の制海権を握っていましたが、私達が作られたことと、そして行われた作戦によってなんとか制海権については回復しましたが……まだ数はかなりいます」

 

霧島がそう説明するとプリンス・オブ・ウェールズは大きく頷いた。

 

「やはり関係があったか……もしやと思って残骸の写真を撮らせたのだが……」

 

「この生物は今まで現れたことは?」

 

「いや、ない……今回が初めてだ。セイレーンとともに私達を襲ってきたのもな」

 

「私達がここに来て……深海棲艦もここに現れた……ということ…?」

 

「そう考えるしかありませんね」

 

プリンス・オブ・ウェールズの話を聞いて、霧島と大和はそう話を整理する。

そして大和は何かを思いついたのかプリンス・オブ・ウェールズへこうお願いを話し始める。

 

「プリンス・オブ・ウェールズさん、私達の艦をあなた方へ合流させてもよろしいでしょうか?この地に現れた深海棲艦……そしてあなた方の敵であるセイレーン……そして聞く限りではその襲撃と同時に現れた重桜……とても偶然とは思えません。そこの「謎」に私は私達がこの世界に来た理由があるんだと思っています。もちろんあなた方の作戦にも協力させていただきます」

 

「ああ、了承した。その申し入れを受け入れよう」

 

「ありがとうございます」

 

大和、霧島、サラトガ、赤城はプリンス・オブ・ウェールズに深々と礼をした

 

「補給についても伝えておく……だがもう一つあなた…アカギに聞きたいことがある」

 

「……わ、私でしょうか?」

 

プリンス・オブ・ウェールズが赤城のほうを向くと、こう話し始める。

 

「アカギは未来と力についてどう思う?」

 

「……!」

 

「ウェールズ、それは……」

 

「アカギに聞いている。どうだ?」

 

プリンス・オブ・ウェールズが聞いていることは先程の重桜の一航戦の宣戦布告の「それ」であった。

そして赤城はこう返した

 

「……未来は誰かに委ねるとか持つとかそういう話じゃないと思います。未来は皆の物で、皆で切り開くもの……。そして強い力でこの海を制覇したところで……その先には破滅の道しかないと思っています」

 

(あの時の私達のように………)

 

力に自信をつけ、そしてそれをすべてと思い、力に溺れ慢心してしまったあの時。

その過ちはもう繰り返さないと赤城は改めて決心していた。

 

「……そうか。当たり前のことを聞いてしまってすまないな」

 

「いえ、あの方と私は元は同じです。なら聞かれても仕方ないと思っています」

 

「ああ……では補給やらの手配は言いつけておく……引き続き私達も作業の指揮をしなければな……ヤマト達にも引き続き作業の支援をお願いしたい」

 

「了解しました」

 

――――――――――――

 

そして一方のジャベリンはラフィーを介抱中であった。

 

「ダメかも…ねむい……」

 

「こんなところで寝ないで!」

 

「あ、そこの駆逐艦さん!」

 

そこに神通と綾波が駆け寄ってきた。

 

「あなた達は……ええっと、噂のカンムスさんの……」

 

「軽巡「神通」です」

 

「駆逐艦「綾波」です。ごきげんよう」

 

「神通さんと綾波さ……え?」

 

「は、はい。あの時交戦してた綾波と同じ艦なんです……あのときはあえて言いませんでしたけど……ちょっと混乱しちゃいますよね…」

 

「あ、あ、うん……」

 

ジャベリンはそれ以外の理由で驚いていたのだが、迷いもあり言えなかった

そして間を持たすためなのか、ラフィーはこう呟いた。

 

「……そーなんだ…」

 

「ラフィーちゃん、わかるの!?」

 

「なんとなく……ラフィー達を助けてくれたし……」

 

「ラフィー…さん、ジャベリンさん、よろしくおねがいします」

 

「は、はい!」

 

「うん……よろしく……」

 

こうして艦娘の綾波とジャベリン、ラフィーがあいさつをしている中――

 

「はいはいクレーンもっとあげて!オーライ!」

 

「KAN-SENってこういう実艦サイズで整備するのね………まあこっちのほうもやれなくはないし……バケツぶっかけてってわけにもいかないのはアレだけど」

 

「明石さん、こっちもお願いします!」

 

「了解!妖精さんとひよこさん、フルパワーで行きますよ!」

 

「オーオーオー!」

 

(明石、あのひよこすっかり手懐けてる…)

 

「おーい!工具とってくれないか?」

 

「わかった、今行く!」

 

明石、夕張、クリーブランド(と妖精さんと饅頭さん)は損傷艦を片っ端から治しており、工作艦である明石も滅茶苦茶働いていた。

そして長門もそれの手伝いに動いている。

 

「ふぅ……やっぱり人手が足りないなぁ……艦娘の工作艦の明石さんと夕張さんが居てくれたからまだマシだけど……」

 

そうしてクリーブランドが修復中の艦の上から海の様子を見ていると、海の様子を見ているエンタープライズが見えた。

そしてクリーブランドはエンタープライズに駆け寄った。

 

「おーい、エンタープライズ!休んだ方がいいよ!さっきの戦闘でかなり無茶してたじゃないか」

 

「問題ない」

 

「そんなわけないだろ」

 

「緊急修理は済ませた。まだしばらくは戦えるさ」

 

そう言った途端、エンタープライズは立ちくらみを起こす。

 

「ほらみたことか……」

 

「敵はまだ近くにいる……警戒を解くわけにはいかない」

 

そしてエンタープライズは再び歩き出していた。

その様子を一部始終見ていた明石さんはクリーブランドにこう問いかけた

 

「あれがエンタープライズさんですか?危なっかしいですね…」

 

「ああ全くだよ……止めようとしても聞く耳持たなくて……」

 

「確かに応急処置はしましたけど、あれは動くだけマシな状態で……でもエンタープライズさんがその様子じゃ……」

 

「間違いなく出ちまうだろうな……あー!もう!」

 

クリーブランドはその様子のエンタープライズに駄々をこねるしかなかった。

 

「………あいつ…」

 

そしてその様子を瑞鶴も一部始終見ていた

 

――――――――――――

 

一方、夕日に照らされているとある海上で重桜の綾波はその海を見つつ、彼女たちのことを思い出していた。

ジャベリン、ラフィー、そして交戦した神通のこともだ。

 

(あれは私の知る神通さんじゃない……だけどなんで……?あとジャベリンとラフィー………)

 

そんなことを考えると横から鉄血所属駆逐艦のZ23「ニーミ」が横から顔を出す。

 

「綾波」

 

「ん?……ニーミ…」

 

「出撃命令です。私達について来てください」

 

「また戦闘……」

 

「はい、基地を離れていた敵艦隊です。帰還する前に叩きます」

 

そう聞いた綾波はこう返す。

 

「……戦闘は嫌いじゃないけど好きじゃないです」

 

「いきなりワガママ言わないでください……というかどっちですか…」

 

「ニーミは戦うの好きですか?」

 

「……好きも嫌いもありません。任務を遂行することが私たちの義務ではありませんか」

 

ニーミは夕日に目を向けて、続けてこうも言った

 

「私たちは艦船です。戦うためにこそ私たちは生まれてきたのですから」

 

「……」

 

ニーミの言っていることは正しいとも言える。

だが今の綾波にとっては複雑なものであった。

 

「……綾波にはよく分からないです」

 

――――――――――――

 

「世界の違い…ですか?」

 

一方、同じ夕暮れの頃、艦娘達は割り当てられた寮のエントランスに集まり、霧島の話を聞いていた。

 

 

「ええ、今日一日で色々と話を聞いてみたけれど……この世界「は」近代的な世界大戦を経験していない…いや、今この状況が世界大戦になっているのよ」

 

「確かに真珠湾攻撃っぽいこととかで薄々感づいてはいたけれど……やっぱりね」

 

瑞鶴もやれやれというジェスチャーをする。

 

「おそらくは日露戦争に相当する戦いが起きたか起きてないかくらいの時からこの世界は分岐したと思います。そこでセイレーンが襲来し、この世界の人類を追い詰めた」

 

「それで人類は対抗してKAN-SENを建造し…対抗した…ということですか?」

 

「その通りです。鳥海さん……そしてそのKAN-SENは私達が知るあの時の艦達からできたと思われます。断続的にも聞く話は私達が日本側として経験したことや文献での情報と全く同じですから」

 

「不思議っぽい……こんな異世界で……似ているとかならあり得るかもっぽいけど全く同じって…奇跡っぽい」

 

「でも夕立さん。それが正しければ希望があるかもしれません」

 

「どういうことっぽい?」

 

「この世界と私達の世界はもともと何かしらの繋がりがあり、そして私達がここに来てから確認された深海棲艦…その繋がりをたどっていけば私達が元の世界へ戻れる手がかりを得ることができるかもしれません」

 

「な、なるほど…」

 

「途方も無い話にもなりそうだが、今は前に進むしか無い……そうだろう?大和」

 

「もちろんです長門さん……立ち止まるわけにはいきません。良いですね?皆さん」

 

「「「はい!」」」

 

艦娘の力強い返事が寮内に響いた。

まだ手探り状態ではあるものの、止まるわけにはいかないと改めて皆で確認したのであった。

 

――――――――――――

 

次の日、基地の見晴らしが良いところでジャベリンとラフィー、そして艦娘の駆逐艦である綾波、吹雪がサンドイッチを食して海を眺めていた。

ジャベリンとラフィーが元々その場に居て、綾波と吹雪がたまたまこの場所を発見した形になったのだが、皆で食べれば楽しいというジャベリンの提案を受けて、このような形となった。

 

「うわあっ、おいしい!」

 

「おいしい……」

 

「大和さん特製のサンドイッチです、持ってきて正解だったみたいですね」

 

「はい、さすがは大和さんです!」

 

吹雪と綾波も喜ぶ中、ジャベリンとラフィーも自分のものを差し出す。

 

「じゃあ私もこのサンドイッチあげます」

 

「ラフィーのハンバーガーも……」

 

「うわあっ……」

 

「ありがとうございます!時雨ちゃんや夕立ちゃんにもここにいれればよかったのに……」

 

「仕方ないです。私と吹雪さんがここで待機の代わりに時雨さんと夕立さんはこの周辺の哨戒になりましたし」

 

そして交換して食べているのだが、ジャベリンはやはり少し暗い顔を隠せてないかった。

その暗い顔が気になった吹雪は質問をする。

 

「あの…ジャベリンさん?さっきから少し暗い表情をしてるみたいですが……」

 

「あ…え!?そ、そうかな…?」

 

「そうですね……何か心配そうな表情をしてましたが……」

 

「あ、いや…その……」

 

「ジャベリンはね、重桜の「綾波」って子が気になってるんだよ」

 

ジャベリンが誤魔化そうとしていた時にラフィーがそのごまかしているところを言ってしまった

 

「気になっている?」

 

「あちらの「私」?」

 

「ちょ、ラフィーちゃん!」

 

「だいじょうぶ、この二人なら信用できる」

 

グッドのジェスチャーをしつつ、笑顔を見せるラフィー

 

「話してみてください。もちろん誰にも言いませんから」

 

綾波にも促されるとジャベリンは観念(?)して話し始めた。

 

「……実は……」

 

ジャベリンはこうなってる原因を話した。

潜入捜査していたんであろう重桜の綾波と出会い、そこから気になってしまったこと。

そしてその様子から決して悪い人じゃないこと。

だから襲撃時も防戦一方になってしまったことも。

 

「やっぱり変…ですよね……そこまで深く関わったわけじゃないのに……」

 

そうジャベリンが言うと綾波は首を横に振りつつ、こう言った。

 

「いえ、全然変じゃありません……重桜の綾波ってあの白い髪の子でしょ?」

 

「は、はい!」

 

「私もあの時見て感じました……確かにあの(綾波)は悪い子じゃありません……戦いたくないって気持ちもよくわかります……戦場でそんなことを言っていれば甘えですが、簡単に割り切れることじゃありません。ヒトの形を持った今なら特に」

 

「………」

 

「ジャベリンさんはその綾波ちゃんと何がしたいんですか?」

 

「何がしたい……それは……まだわからなくて……引っかかるだけで……」

 

「…そうですか、まだ結論は出せないということですね」

 

「はい、まだ――」

 

そう話していると、吹雪の肩にポンと何かの手が乗った

 

「うわっ!?」

 

思わず吹雪は驚いて後ろを見ると、そこには艦娘の空母瑞鶴が居たのである。

 

「なによ、そこまで驚かなくていいじゃない」

 

「ず、瑞鶴さん!急に後ろにこないでくださいよ!せめて声かけるくらいしてください!」

 

「ごめんごめん、駆逐艦達の話邪魔するのはダメかなぁって思って静かにしてたし…」

 

(も、もしかしてバレました!?)

 

(うーん…バレたの?)

 

先程の話を聞かれていたのではとビクビクしてしまうジャベリン

ラフィーはもちろんほへーとふわふわしているのだが。

 

「あらあなた達」

 

「は、はい!」

 

そのためかジャベリンは思わず声をかけられて力んでしまった

 

「ええっと確かイギリス…じゃなくてロイヤルとユニオンの駆逐艦よね?」

 

「は、はい!ジャベリンです!」

 

「うん、ラフィーだよ……」

 

「そう…私は瑞鶴。よろしくね」

 

「よ、よろしくおねがいします!」

 

「よろしく……」

 

(ば、バレてない…?)

 

(飲まないとやってられない……)

 

そのやり取りでほっとするジャベリン。

なおラフィーは相変わらず酸素コーラを飲んでいる。

そして綾波は瑞鶴にサンドイッチを渡しつつこう尋ねた

 

「瑞鶴さんはどうしてここに?」

 

「まあ、ちょっと休憩……さっきまで接近戦の心得やらを神通さんのところで復習してたんだけどね」

 

「接近戦?空母が接近戦なんて……」

 

吹雪の疑問に瑞鶴はこう答える。

 

「いや、ね…エンタープライズとあっちの加賀は滅茶苦茶近距離で戦ってたでしょ…これから先は私達も近接戦闘をしないと対応できないってことで赤城さんが考案してね……もぐっ」

 

「ああ、エンタープライズさんのあの攻撃やあちらの加賀さんの攻撃は凄かったですね」

 

「……でもあんまり慣れないわ……ああいうのってコツがあるのかな……弓をあんなに使ったり、体術で航空機蹴り落としたりで……」

 

「コツなんて無いが……」

 

「へー無いんだ……って」

 

そして瑞鶴たちの前にはいつの間にエンタープライズが居たのである。

 

「エンタープライズ!?いつの間に!?」

 

「様子を見に来てな……お前は艦娘の空母の瑞鶴か?」

 

「ええまあそうよ……一応幸運艦……ビッグEほどじゃないけど」

 

瑞鶴は複雑な思いである。

なにせエンタープライズとはライバルのような関係であり、そして苦汁をかなり飲まされているがゆえである。

ただ執着心はそれほどない。

 

「そうか……」

 

「あの…エンタープライズさんも食べますか?サンドイッチ」

 

「……いや、結構だ」

 

ジャベリンのおすそ分けも断ったが、ラフィーは気になったのかあることを指摘した。

 

「エンタープライズ、怪我してる?」

 

「わかるか…どうやら治りが遅いようだ」

 

「当然よ、あそこまで酷使したらいくら運があってもダメよ」

 

「最低限の処置はしている。心配は無用だ」

 

瑞鶴の指摘にも意を介さず、ただまだ海を見ている。

 

(はあっ……こりゃテコでも動かないわねこれ…)

 

瑞鶴がそう思う中、ジャベリンは勇気を出し、エンタープライズへある質問を投げた。

 

「エンタープライズさんはどうしてそこまでして戦うんですか!?」

 

「……おかしなことを聞く子だな……私たちは戦うために生まれた存在だ。そのことに疑問はない」

 

「……うーん、でもラフィー眠い時やる気出ない」

 

「ら、ラフィーちゃん!?」

 

(ま、マイペースすぎます……!)

 

 

ラフィーの突然の発言にアワアワするジャベリンと吹雪

だが酸素コーラを飲みほした後、ラフィーは続けてこう話した。

 

「でもラフィー、友達いじめられたら許せないからその時はちょっと本気出す……エンタープライズはどうなの?」

 

「……私は…」

 

「はぁはぁっ……!」

 

その時、ここへ翔鶴が駆け込んできた。

 

「ど、どうしたの翔鶴姉!?急に走ってきて……ランニング?」

 

「ち、違うのよ瑞鶴。緊急の通信が来て。こちらに向かっていたユニオンの艦隊が重桜の空母から攻撃を受けてしまったのよ!」

 

「ユニオンのだと?」

 

静かだったエンタープライズは急に声を荒げた。

翔鶴は驚きつつも続けてこう話した。

 

「え、ええ……そしてその重桜の空母が第五航空戦隊……つまり重桜の「私達」よ!」

 

「な、なんですって!?」

 

 

 




ちなみに艦娘達は自らの記憶に加え、記録された文献を閲覧したりしているので第2次世界大戦のことは当時知り得ない情報を含めて把握しています。
1945年の8月に起こったあのことも含め……。


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鼓動の波、鋼鉄の翼、そして(後編)

滅茶苦茶話が動く。



その襲撃の情報が通達された基地内でもすぐさま救援部隊を編成しようという動きがあったのだが――

 

「ホーネットたちの援護に向かうぞ。誰か動ける船はいるか?」

 

そこへ真っ青な表情でイラストリアスが駆け込んだ。

 

「ウェールズ!エンタープライズ様が!」

 

「何!?」

 

――――――――――――

 

「エンタープライズ、先走るなって!」

 

「事態は一刻を争う!」

 

先程の翔鶴からの報告の後すぐさま出撃したエンタープライズ。

当然ながら近くには見かねて共に出撃したクリーブランドしかいなかった。

 

「……ぐっ!」

 

体がよろけるも、歯を食いしばり、なんとか痛みを逃がす。

当然ながら体はかなりの限界であろうというのは明白であった。

 

「やっぱりダメージが残ってるじゃないか!こんなの無茶だよ!」

 

「ホーネットは私の妹だ……」

 

おそらくこちらに向かっていたユニオンの艦隊にホーネットもいるというのは知っていたゆえに、警戒を解くわけにはいかなかったのであろう。

 

「エンタープライズ……なんだ、人間らしいとこあるじゃないか……って艦なのに変な感じだけど」

 

「クリーブランド……」

 

「私も妹が沢山いるんだ…気持ちは分かるよ。……でもせめて護衛艦がいてくれればな…」

 

その時、後ろから接近してくる6つの艦影

 

「ラフィーも行く…」

 

「皆を助けに行きましょう!」

 

「吹雪、行きます!」

 

「全速力でいきます!」

 

駆逐艦「ジャベリン」「ラフィー」「吹雪」「綾波」と

 

「全く、放っておけないわよ……急に飛び出していくんだから」

 

「あら、瑞鶴も飛び出す時はそう変わらないと思うけど……前の緊急出撃のときも…」

 

「しょ、翔鶴姉!それとそれは別!」

 

五航戦の空母「翔鶴」と「瑞鶴」である。

 

「ああ、艦娘の艦たちも……助かるよ」

 

「ま、乗りかかった舟よ……そしてあっちにも「私」がいるみたいだしどんな面か見に行くのもある。さっさと行くわよ!」

 

「ああ!」

 

――――――――――――

 

一方のホーネット達は大多数の艦はほぼやられてしまっていた。

 

「ブクブクブク……」

 

「なのー……」

 

ハムマン、ロング・アイランドなどの随伴はほぼ行動不能に

 

「くっ……!防戦一方ってのは……!性に合わないんだけど……な!」

 

残る主力空母ホーネットがなんとか戦闘を続けていた。

 

「この船の調べは亡者を静める鎮魂曲……」

 

「おりゃあああっ!」

 

だが重桜空母の翔鶴・瑞鶴が相手なのは流石に分が悪すぎる。

 

「しまっ!?」

 

「もらった!!」

 

瑞鶴がホーネットに一太刀を浴びせようとする……が。

 

「!?」

 

間一髪で戦闘機の機銃斉射が間に合い、瑞鶴をそちらの迎撃行動を即座に取った。

これによりホーネットはなんとか避けることができた。

 

「姉ちゃん!」

 

「いけ!」

 

「ありがとう姉ちゃん!」

 

「来たかグレイゴースト!」

 

そして重桜の瑞鶴はエンタープライズに突撃を試みるが…

別の航空機によりそれも邪魔された。

 

「なに!?」

 

その航空機は先程のものとは異なる緑色で日の丸を背負う物

もちろん重桜の瑞鶴も目にしたことがあるもの。

 

「くっ!?」

 

そして重桜の瑞鶴が目にした先には、白基調の弓道着のような格好した二人の空母

言うまでもなく艦娘の五航戦である「翔鶴」と「瑞鶴」であった。

 

「あんた一体……!」

 

「そうね……あえて名乗らせてもらうわ!第五航空戦隊所属、翔鶴型航空母艦2番艦の瑞鶴!」

 

「同じく五航戦所属、瑞鶴の姉の翔鶴です!」

 

「瑞鶴……翔鶴……な、なんのよ!?」

 

「どこを見ている!」

 

「なっ!?」

 

重桜の瑞鶴はエンタープライズの攻撃を避け、すぐに後退した。

 

「同じ艦って……」

 

(アズールレーンの作戦……?でも……あれは間違いなく私……?)

 

「私が二人……瑞鶴が二人……!?」

 

重桜の翔鶴瑞鶴もまた目の前の二人を他人とは全く思えなかった。

元の艦のその魂がそう思うのか?それ二人にはわからなかったが、ともかく否定は全くできなかったとも言えよう。

 

「くっ……私が二人いようとも今の相手はあんた……グレイゴーストよ!!」

 

次の瞬間、エンタープライズに飛びかかり

 

「相手にとって不足なし…いざ尋常に勝負!!」

 

「くっ!」

 

エンタープライズと瑞鶴は接近戦に移行した。

 

そして重桜の翔鶴は艦娘の翔鶴瑞鶴との航空戦に入った。

 

「同じ艦と戦う日が来るなんて思いもしませんでしたが……今はこちらの瑞鶴を守ることだけ…!行きます!」

 

「うわっ!?あっちの翔鶴姉も滅茶苦茶強いみたい!」

 

「こっちも負けてはいられないわ……いくわよ!全航空隊、発艦始め!村田さん、お願いします!」

 

そうして空母がドンパチやっている中、ホーネットはクリーブランド達との合流に成功する。

 

「ナイスタイミング。間一髪だったよ」

 

「ああ、艦娘達の協力のお陰だよ」

 

「艦娘?ああ、通信で聞いたよ。異世界から来た艦とかで」

 

ホーネットはその艦娘である吹雪と綾波のほうに目線を向ける。

 

「は、はい!特型駆逐艦、吹雪です!」

 

「同じく駆逐艦の綾波です……そして今あちらでエンタープライズさんと交戦してるのは五航戦の翔鶴さんと瑞鶴さんです」

 

「はぇ、あっちと同じ艦ってことか……つまりドッペルゲンガーみたいなのか?」

 

「ドッペル…ではないですけど……でも同じ艦ですね」

 

「うーん……まあ、でも助かったよ。ありがとな…くっ」

 

そしてその疲労と損傷からか、少しぐったりとなり、クリーブランドに支えられる。

 

「今のうちに撤退しよう!今船を出すから」

 

そうしてクリーブランドが実艦を展開しようとすると、どこからか砲撃が飛んできた。

 

「!?」

 

そして負傷艦とともに緊急回避を行い、なんとかその攻撃を避ける。

 

「あ……ううっ……うぐっ……」

 

そのせいでハムマンは更にブクブクと溺れる羽目になってしまったが……。

 

「ふふふふっ……」

 

そしてその砲撃が飛んできた方向には浮かぶ艦が一人

 

「今度はなんだよ!?」

 

クリーブランドのその問いに、その艦はこう答えた。

 

「グーテンターク。私達とも遊んでよ、アズールレーン」

 

鉄血所属 アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦3番艦 「プリンツ・オイゲン」である。

 

「グーテンターク……ということはドイツ…いや鉄血の船…」

 

「飛んでる……のはもう慣れましたけど、あの艤装って…」

 

吹雪と綾波はその艦に注意深く観察する。

どこか生き物のように見えるその艤装ではあるが、そこに乗っている砲などはすべて吹雪達も見たことがあるもの。

そして彼女の中にある「ある種の勘」は彼女が「プリンツ・オイゲン」であることを指し示していた。

なお彼女の下には量産型艦船などがいる。

 

「KAN-SENのオイゲンさん……ってこと……?」

 

「そうみたいですけど、雰囲気が全く違います…」

 

「どこか重桜の艦と似ている艦もいるみたいだけど……任せてもいいかしら?ニーミ」

 

「……」

 

そしてそのオイゲンの下に居たニーミはコクリと頷いて、攻撃態勢に入った。

 

「鉄血駆逐艦Z23と申します…。あなたたちはここで倒します」

 

それに遅れて重桜の綾波も横に並んだ。

 

「あ、綾波ちゃん……」

 

綾波はジャベリンを見て、表情を少し暗くするも、同じく攻撃態勢に入っている。

それを見たラフィーとそして艦娘の綾波は自ら前に出た。

 

「みんなを連れて撤退して」

 

「ここは綾波が食い止めます!」

 

「ラフィーちゃん!?綾波ちゃん!?」

 

「あやなみ……」

 

「ほう、そちらの艦も綾波って言うんですね……。自ら殿を買うその行動、敵ながら敬意に値します……では……!」

 

そのニーミが引き金を引こうとしたその時――

 

「!?」

 

再び別方向からの砲撃が飛翔してきた。

この攻撃はそれほど精度がなかったため、誰にも当たらなかった…が

 

「何!?」

 

「なんだ!?」

 

「何なの…!?」

 

味方であるアズールレーン側はもちろん、敵であるレッドアクシズ、そしてプリンツ・オイゲンですら予想していなかったその砲撃。

 

「……もしかして!」

 

吹雪はすぐさまその方位へ注意深く目を向けた。

その光景はこの世界ではありえないものであった。

 

「これは……深海棲艦の艦隊です!」

 

「しんかいせいかん?なんだそれ」

 

ホーネットや他のKAN-SENは首を傾げる中、吹雪はすぐに簡単に説明をする。

 

「深海棲艦は私達の敵です。あなた達で言うセイレーンみたいなものです!」

 

「セイレーンのようなもの!?」

 

「綾波さん、艦影わかりますか?」

 

「わかりました。ヲ級2、ル級2、ホ級2、ロ級2です!」

 

そして少し離れて交戦していたエンタープライズらもその深海棲艦襲来に気づいた。

 

「なんだ…これは……?」

 

「まずいわね……こんな時に深海棲艦が来るなんて…」

 

「なによ!?そのしんかいなんちゃらって……」

 

「簡単に言えば敵よ!私達はもちろんのこと、あんたもやられるわよ!……くっ!」

 

そして深海棲艦の艦隊は、KAN-SENと艦娘を敵とみなしているのか、容赦ない攻撃を開始した。

 

「あぶない……」

 

「危ない!」

 

「!?」

 

綾波とニーミに当たりそうであったル級の砲撃を間一髪で弾いたジャベリンとラフィー。

戦艦ル級の砲撃に駆逐艦がまともに当たれば甚大な被害となりうる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「だいじょうぶ……?」

 

「……なぜ…?」

 

「あなた方は……!」

 

綾波とニーミはその行動に疑問を抱くが、そんな悩む暇もなく

敵の攻撃は続いた。

 

「航空攻撃来ます!回避運動を!」

 

「!」

 

もちろん砲撃だけではないヲ級の航空機攻撃も含んでいる。

防空艦も居ない上、負傷艦を抱えている中での攻撃を受けたため、回避するしかなかった。

 

一方の空母らもこの攻撃の最中では発艦行動を取れないため、バラバラに回避運動をとっていた。

ただエンタープライズはすでに無理をしすぎており、限界ギリギリになってしまっている。

 

「くっ……!まだだ……!」

 

――――――――――――

 

そして一方の基地は吹雪より連絡を受けた大和がプリンス・オブ・ウェールズらに事態を知らせていた。

 

「深海棲艦と呼ばれる敵…か」

 

「はい、あの艦隊では反撃も難しいと思われます。至急支援艦隊の編成をお願いします!」

 

その大和の要請のさなか、執務室の電話のベルが鳴った。

 

「陛下」

 

その相手はロイヤル所属の戦艦クイーン・エリザベスであった。

 

『待たせたわね。このクイーン・エリザベスの高貴なる艦隊が到着よ』

 

「助かりました陛下。実は今、友軍が深海棲艦と称する敵生物から敵襲を受け…」

 

『もちろんお見通しよ!すでに手は打ってあるわ』

 

えっへんとクイーン・エリザベスは胸を張っていた。

どうやら相当その作戦に自信があるようであった。

 

――――――――――――

 

「少し攻撃が止んだわね……」

 

「ええ……」

 

「瑞鶴、大丈夫?」

 

「お姉ちゃんこそ……でも一体……」

 

艦娘の瑞鶴は敵の攻撃が少し止んだと認識している。

翔鶴も同様であり、KAN-SEN側の二人もである

 

(さっさと反撃しないと……この攻撃は生半可じゃないわ……あんまり出しすぎるこっちも損害が出る)

 

そう艦娘の瑞鶴が考えると、エンタープライズの姿が目に写った

 

「……あいつ!?」

 

その姿は完全に限界を迎えていた。

 

(くっ……!ここで……限界が……!)

 

ただでさえ動けるのが奇跡であったため、こうもなってしまった。

そこへ――

 

「あ、グレイゴースト!」

 

「やばっ!?」

 

ツ級の雷撃のコースのど真ん中に居たということが二人の瑞鶴はわかった。

だが庇おうにもその距離は遠い。

 

(こ、ここまで……なの……か……?)

 

もはや立っていることすら限界であった彼女はそのまま倒れ込み、その「死」を覚悟した。

だがその時――

 

「!?」

 

エンタープライズの目の前にすかさず入った一隻の艦

その艦の機銃攻撃により魚雷は寸前で爆発した。

 

それはクリーブランド達や瑞鶴達ではない。

白をメインとしたメイド姿を身に纏った「艦」

 

「あ、あなたは……」

 

「大丈夫でしょうか?エンタープライズ様」

 

ロイヤル所属 エディンバラ級軽巡洋艦 二番艦「ベルファスト」であった。

 




地味に色々と変えてみたりはするけど難しい……。
ニーミちゃんも地味に………?


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第3話
艦として、ヒトとして(前編)


ニーミちゃんはいいぞ



「お前は……ロイヤルの……!」

 

「噂は聞いております、ユニオンの最強にして最高の空母……おさがりを。損傷しているのでしょう?」

 

「……だが、お前だけでは……」

 

「大丈夫です。陛下達もいらっしゃるので」

 

「……まさか」

 

そのまさかであり、ベルファストが来たその方向からクイーン・エリザベスを旗艦としたロイヤル主力艦隊が接近してきたのだ。

戦艦「クイーン・エリザベス」を中心に戦艦「ウォースパイト」「フッド」軽巡「エディンバラ」「シェフィールド」空母「アーク・ロイヤル」などで艦隊を組んでいる。

 

「各艦、戦闘用意よ!」

 

「あれが深海棲艦…まさに深海から来たようなものね」

 

「ヒトの形をしている艦もいるようね。一部のセイレーンとも似ているわ」

 

フッド、ウォースパイトは戦闘形態を取りつつ、深海棲艦の容姿についての感想を述べている。

そして一部のセイレーンとも似ていることに気づいた。

 

もちろんプリンツ・オイゲンもロイヤル艦隊の接近に気づいた。

 

(ロイヤルの主力艦隊とここでぶつかるのは得策とは言えない……ここで潮時ね。深海棲艦とやらはロイヤルに任せてしまいましょう…)

 

「ニーミ、綾波、撤退するわよ」

 

「…わかりました」

 

「……了解です」

 

プリンツ・オイゲンの指示によりすぐさまニーミと綾波は撤退に入った。

 

「あ……」

 

「ばいばい」

 

「………」

 

ジャベリン達は二人を引き止めることはできなかったが、当の綾波とニーミは複雑な表情をしたままであった。

 

「翔鶴、私達も撤退しましょう」

 

「あれをロイヤル艦隊に任せちゃっていいの?翔鶴姉」

 

「三つ巴の戦いになったら瑞鶴も危険よ。だから早く…!」

 

重桜の翔鶴瑞鶴もプリンツ・オイゲン達の撤退に伴い、撤退していった。

 

「あいつら……」

 

「仕方ないわ瑞鶴、私達は深海棲艦の迎撃に集中しましょう。村田さん、第二次攻撃をお願いします!」

 

その後、ロイヤル艦隊の鮮やかな加勢により深海棲艦の艦隊を撃破することに成功した。

敵に戦艦棲姫などの主力艦がいなかったのも、不幸中の幸いだった。

 

だが限界を迎えていたエンタープライズは艦隊の撃破を確認するとそのまま気を失い、ベルファストの介抱にされていた。

 

――――――――――――

 

そしてその日のある海上では実艦を展開した綾波は重桜基地への帰還の航路を行きつつ、また夕日を見ていた。

その隣にはニーミがいた。

 

「………」

 

「ニーミ、どうしたんですか?」

 

「私達が戦っている敵……いや、あの人達のことについて考えていたんです」

 

「あの人達……あの二人の駆逐艦達のこと?」

 

「はい、綾波は…その様子だと会ったことがあるんですよね?」

 

「……作戦前の潜入中に遭遇しただけ…です…それ以外は何もないです」

 

「そうですか……いえ、ただ確認したかっただけです」

 

ニーミは顔を上げ、夕日を見つめる。

その顔はどこか苦いものであった。

前に綾波に言った義務のことを自分自身で疑問に思ってしまったからである。

 

(私も綾波のことを言えなくなりました……。私達を助けた人を討つ理由……あの行動はおかしいですけど、でも否定できなくて………あの人達を本当に討つ必要なんてあるんでしょうか………?)

 

(……綾波には……どうすればいいのか……わからない……)

 

綾波とニーミは表面上は普通であったが、中ではよくわからない「モヤモヤ」が積もっていた。

そのモヤモヤは暫く二人が夕日を見つめていても解消できるものではないほどの大きなものである。

 

「「はぁっ……」」

 

思わずため息もシンクロしてしまうほどであった。

 

――――――――――――

 

そしてその次の日

ジャベリン、ラフィー、そして時雨、夕立、吹雪、綾波で昼食を取っていたのだが、やはりと言って良いのかジャベリンは食が進んでいないようだ。

それについて最初に指摘したのは時雨であった。

 

「ジャベリン、進んでいないようだけど大丈夫?」

 

「えっ、あ、ごめんなさい。考えごとしてて……」

 

「考え事って…重桜の綾波のことっぽい?」

 

「うん、そうみたい」

 

「ちょ、ラフィーちゃん!?」

 

夕立からの問いにジャベリン本人よりラフィーがさきに答えてしまっている。

まあジャベリン自身がかなりわかりやすいほうだからラフィーもすぐにわかるというわけであるが。

 

「……一体どうすればいいのかわからなくて……あの時咄嗟に綾波ちゃん達に届くはずだった敵の攻撃を弾いたけど……」

 

「体が勝手に動いたってやつですか?」

 

吹雪はサンドイッチをもぐもぐと食べつつもこう問う。

 

「はい……ラフィーちゃんも動いたんだよね?」

 

「うん……ニーミって子にも当たりそうだったから……」

 

そうして酸素コーラを飲みつつも、もぐもぐとラフィーもハンバーガーを食べている。

その様子を見ていた艦娘の綾波は思いついたことがあったのか、こう話し始めた。

 

「……もしかして、その子と友達になりたいってことじゃないですか?」

 

「え?……ええ!?」

 

「あ、危ないっぽい!」

 

「あ!」

 

ジャベリンは滅茶苦茶取り乱し、サンドイッチをぶちまけそうになるが、夕立がカバーにはいりなんとか事なきを得る。

そしてなんとか落ち着こうとしつつも、こう話す。

 

「で、でも……あの子とは敵同士で!」

 

「敵同士とかそういうことは関係ないんだと思います……彼女と友達になりたいという思いは……ラフィーさんもなんですよね?」

 

「うん、ラフィーも綾波やニーミって子とも友達になれると思った……わるいひとじゃない」

 

「ら、ラフィーちゃん……でも、そんなことどうやって……敵同士だし……」

 

ジャベリンがそう言うと、綾波はこう返した。

 

「……時間はたっぷりあります。だからその方法をよく考えてみてください。もちろん私達もできる限りのサポートはします」

 

「もちろんっぽい!大船に乗ったつもりでいるっぽい!」

 

「あ、ありがとうございます……!艦娘の皆さんって優しいんですね!」

 

「いえ、これくらいは……ではそろそろ食べてしまいましょうか」

 

「はい!」

 

ジャベリンはこの相談で、だいぶ楽になったようで

先程までとは打って変わって元気に朝食を完食したそうな。

 

 

その後ろではシグニットのフィッシュアンドチップスにケチャップを掛けたKAN-SENのサラトガに艦娘のサラトガが注意をしていた。

 

「ダメですよ、先生。勝手に人の食べ物に調味料をかけては」

 

「えーでも、このほうが美味しいんだよ?同じ「サラトガ」だし見逃してよー」

 

「ダメです。シグニットさんにちゃんと謝ってください」

 

「私のフィッシュアンドチップス……普通はビネガーなのにぃ……」

 

当のシグニットは泣き出してしまった。

どうやらシグニット自身はモルトビネガー…つまり酢をフィッシュアンドチップスにかけたかったらしい。

なお補足ではあるが、フィッシュアンドチップス本場のイギリス(ロイヤル)は酢と塩をかけるのが定番であるのに対し、アメリカ(ユニオン)は酢を出されることはあるものの、トッピングとしてはもっぱらタルタルソースやケチャップなどのソース類とコールスローが定番である。

出身国の違い故にこんな事態になってしまったようである。

 

「あ、の……ご、ごめんね。代わりに何も掛けてないサラトガのあげるから…」

 

「……ホント……?」

 

「う、うん!ホント!」

 

その瞬間シグニットの顔にはどうにか笑顔が戻ったようで、サラトガから渡されたフィッシュアンドチップスにビネガーと塩をかけると元気に食べ始めた。

 

「というわけで先生、次からは気をつけてくださいね。文化の違いは大きいものですから」

 

「う、うん……なるべく気をつける……」

 

KAN-SENのサラトガ自身は改めて艦娘のサラトガは色々と違うなぁと思っていたそうな。

 

(不思議……どっちかと言うとお姉ちゃんに似てるよね……)

 

そして自身の姉のことも思い出していたそうな。

肝心の本人は今は用事のようであるが。

 

――――――――――――

 

そして外の作業ドックでは、苦い顔をしている明石と夕張の姿があった。

その前には無残にもかなりの傷どころかもし普通の艦であるなら間違いなく廃艦レベルの損傷があった実艦のエンタープライズがある。

 

「あの……いくら私でもあんなボロボロな上、艦橋が根こそぎ折れる艦って見たことないです…」

 

「私もないわよ……普通ならこれ轟沈前の大惨事じゃない…」

 

明石と夕張はそう言って妖精さんと饅頭に修復の指示を出しつつも、血の気が引いていた。

このレベルの損傷は前世ではもちろんのこと、艦娘時代でもそうめったに無いことであったゆえである。

 

「幸い。今日ようやくユニオンの工作艦が到着するみたいですから……少しはマシになりますね……」

 

「ええ……そして肝心の当人は……」

 

夕張と明石はエンタープライズ当人のほうを見る。

艦載機の翼に乗り、携帯用のレーションを食べている。

本人はどうってことはない表情をしているが、明石から見れば危なっかしいことこの上ないものであった。

 

「まともな食事を取らないで、弾薬とかの補給だけは受け取って……そしてこの上じゃ、普通の艦なら5回は轟沈していると思いますよ……なんであれだけ戦えるんでしょうか……?」

 

「戦いがすべて…と思っているのかしら……いずれにしろいつかは取り返しがつかない状況になるわ……」

 

そして工作艦「ヴェスタル」が到着すると、案の定彼女の顔は真っ青になった。

ポッキリと折れているエンタープライズの弓を持ちつつ、ヴェスタルはこう言い放った。

 

「随分と無茶しましたね……エンタープライズちゃん!」

 

「………」

 

「艦娘の工作艦にも迷惑をかけて……一歩間違えば沈んでしまうところだったんですよ!」

 

「やむを得ない事態だった」

 

「自分を大切にしなさいといつも言ってますよね?」

 

「……私たちは戦うための存在だ」

 

「エンタープライズちゃん!!」

 

エンタープライズは聞く耳を持たないようで、ヴェスタルから背を向けてしまった。

その様子を見て明石はホーネットにこう質問した。

 

「あの、エンタープライズさんっていつもあんな感じなんですか……」

 

「ああ、姉ちゃんは前からあんななんだ……一番上の姉ちゃん…ヨークタウンが戦線離脱してからは特に…」

 

「戦線離脱……ですか」

 

「まあ色々とあって………妹の私ももっと頑張れればなぁ……」

 

はぁっ…とホーネットはため息を付きつつ、エンタープライズのほうを見ている。

そのエンタープライズはヴェスタルの説教を聞き流しつつ、まだ海を見ていた。

その先に何かがあるように……。

 

(……姉さん……)

 

――――――――――――

 

その後、基地の浜辺では水着を着て遊んでいる子たちが居た。

 

「負けないっぽーい!」

「やられたー……」

「サラトガちゃん可愛いよー!」

「僕も負けていられないね……」

「鳥海にはまだまだ負けねえよ……おら!摩耶スペシャルだ!」

「やりますね……!ですが、まだまだ…!」

 

KAN-SENはもちろんのこと、艦娘も混ざって遊んでいる。

戦時下であるがゆえに、息抜きは大事である。

なのでこうなったらしい。

 

「あの……どうしてこうなったの…?」

 

ジャベリンはパラソルと浮き輪とバスケットを持ちつつも、疑問に思っていたらしい。

どうやらラフィーが誘ったようだ。

 

「時間はたっぷりあるからまず遊んだほうがいい……そのほうがスッキリする」

 

「あ、うん……」

 

(そう……なのかな……)

 

そう二人が話していると、ピーッと笛が鳴る。

その笛の元は艦娘の戦艦「長門」であった。

どうやら監視員をやっているらしい。

 

「そこのエリアはかなり深いぞ、艦とは言え気をつけてくれ」

 

「はーい!」

 

「あと熱中症にならないよう水分補給は万全にだ。ない物は言ってくれ、長門印のラムネもあるぞ」

 

「ありがとうございまーす!」

 

どうやら面倒見が良いらしく、長門は頼れる存在としてKAN-SEN、特に駆逐艦から見られているようだ。

 

(うむ、こう頼られているのは……悪くないな……ん?)

 

何かを察知した長門は別の方に目を向けた。

そこではグリッドレイが水着姿ハムマンを撮っているのだが、その奥の木々が生え茂った森の方向を見ている。

当然ながら何も居ない。

 

(おかしいな、あちらから何かが反射していたような……気のせいか…)

 

「サンディエゴちゃん!?」

 

「うし……?」

 

海に入っていたサンディエゴの後ろから襲いかかる背ビレ

それは言うまでもなく…サメであった

 

「う、うわああああああああああああっ!?サメエエエエエエエエエエエエ!?」

 

そのまま襲われ、サメに喰われかけ、KAN-SEN特有の馬鹿力でなんとか口を無理やりあけている。

それを見たサラトガはすぐさま艤装を展開する。

 

「待っててサンディエゴちゃん!今助けるから!」

 

「あの、それは……過剰戦力では…?」

 

「大丈夫!魔女っ子アイドル、 サラトガちゃん只今正式デビューよ!無敵マジック!」

 

艦娘のサラトガのツッコミを気にせず、すぐさま艦載機を発艦させる。

 

「ちょっ!?」

 

「……ああ……」

 

「ま!?」

 

そのサメは爆撃機の爆撃を受け、無残な姿になった。

今夜はサメの料理になることは確定であろう。

 

「は、はあっ……」

 

それでサンディエゴはなんとかギリギリで脱出してはいたが、爆撃のせいで黒焦げ寸前になったのは言うまでもない。

そしてそのまま砂浜に倒れ込んだ。

 

「全く……大丈夫か?サンディエゴ」

 

「だ、大丈夫……」

 

長門がすぐさま駆け寄って、サンディエゴの無事を確認するが――

 

「……なんだ?」

 

すぐさま再び背ビレが接近してくるのに気づいた。

 

「くっ!皆、下がれ!」

 

「ええ!?」

 

サンディエゴや他の艦をすぐに下がらせると、そのサメが水面から飛び上がってきた。

そのサメは先程のものより数倍ほど大きいものであった。

サメ映画ででてきてもおかしくないほどである。

 

「さっきより大きいっぽい!?」

 

「先程の仲間…か……!」

 

長門はすぐに艤装展開した。

 

(おそらくは先程のものと同じく群れから飛び出てきたのだろう……許せ……!)

 

「全主砲、斉射!ーてっ!!」

 

そのサメが再び飛び上がった瞬間、長門の41cm連装砲4基が一斉に火を吹いた。

その弾はサメに全弾命中した。

徹甲弾ではなく、演習弾を使用したのだが、それでも41cm砲の破壊力である。そのサメはとても良い姿ではないとだけは言っておこう。また、料理の材料が増えたとも言える。

 

「ふうっ……まさか仲間まで来ているとはな……」

 

「………す、凄い…!」

 

「ん?」

 

そしてその攻撃の光景にすっかりと浜辺に居た殆どの駆逐艦達は虜となり、いつの間にか長門周辺にわーわーと騒がしく集まっていた

 

「お、おい!集まりすぎだ……!」

 

(だが……悪い気はしない……むしろ良いことだ…!)

 

なお補足しておくと戦前までは長門型は長らく連合艦隊旗艦を務めていたため、また大和が進水・就役したが、それ自体が軍最高機密の代物であるため、長門型が帝国海軍の象徴として見られ、日本国民の間ではカルタとしても詠まれるほどであった。

そのため元々は人気があったのである。

 

だが戦後になると秘密とされていた大和型がクローズアップされ、それがモデルとなった創作作品も多数作られて長門型の知名度は低下したため、艦娘となったその今では大和に「アニメや映画になるのは大和ばっかりじゃないかーっ!」に言ってしまうほどいじけてしまった時もある。

それ故にこうやって初々しく尊敬の目で見られるのは久しぶりであった。

 

「流石主力戦艦……ロマンがあるって言うのかな?そこらへんはどうしても戦艦に負けちゃうよなぁ……」

 

一部始終を見ていたホーネットもまた、飲み物を飲みつつ、長門に対して少し呟いていたそうな。

 

 

 

 




3話のあの反射は間違いなくアレだろうなぁ……


あんまり書きすぎると11話公開前に10話書き終えそう
伏線やらの関係でなぁ……まだかなぁ……


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艦として、ヒトとして(後編)

「何をやってるんだ?あの子たちは」

 

浜辺で遊んでいる艦達に対してエンタープライズは疑問に思っていた。

その疑問にはもちろんベルファストがこう返す。

 

「息抜きも結構なことだと思いますが?」

 

「襲撃の後だぞ?気を抜き過ぎだ」

 

そしてベルファストについていたユニコーン、ベルファストに許可をもらい、その浜辺の方へ走っていった。

 

「だからこそ…ですよ」

 

「……」

 

そして浜辺まで走ったユニコーンは手を振っている。

どうやらエンタープライズを呼んでいるようだ。

 

「呼ばれていますよ」

 

「……私が?」

 

そう見るとユニコーンは目をうるうるさせている。

放っておくわけにもいかないため、エンタープライズはそのまま浜辺へ歩き出した。

 

――――――――――――

 

そして夕暮れ時、ユニコーンは少し海に浸かっているが、エンタープライズは思い出したように、彼女にこう問いた。

 

「私に用があるのでは?」

 

そう言うとユニコーンはエンタープライズに向けてこう答える。

 

「あのね、ちゃんとお礼を言いたかったの……エンタープライズさん、助けてくれてありがとう」

 

「…ああ、襲撃の時の話か……礼を言われるようなことではない。当然の責務を果たしただけだ」

 

「でも……」

 

そうして再びユニコーンは海の方を見ると、ちょうど夕日が沈む頃であり、その光が反射し、海がオレンジ色に染まっていた。

 

「綺麗……エンタープライズさん、海がすごく綺麗だよ!」

 

「みんな同じ事を言うんだな…」

 

「え?」

 

「海が美しいと思えたことはないんだ。思い出すのは轟く砲声や硝煙の匂い、燃える炎の熱さ、海の水の冷たさ……そういうものばかりだ」

 

「…海が怖いの…?」

 

「怖い?私が?」

 

「おーい!ユニコーンちゃん!」

 

二人が話していると遠くからジャベリンがユニコーンのことを呼んでいた。

横にはラフィー、吹雪、夕立、シグニットなどが居る。

 

「あ、う……」

 

「私のことはいい。行っておいで」

 

「う、うん!」

 

ユニコーンはそれ聞き、ジャベリンのほうに合流していった。

 

「……」

 

「海が怖い…か」

 

「……お前は……聞いていたのか」

 

そして後ろから来たのは艦娘の瑞鶴である。

 

「たまたま気になったから……で、どうなのよ?実際怖いわけ?」

 

「私は……そんなことはない。そんなことに怖がっていたら敵に対抗も何もできなくなる」

 

「どうだか……ま、良いけどさ…隣座るわよ」

 

エンタープライズの横に瑞鶴が並んで座った。

海の夕焼けは相変わらず綺麗だ。

 

「お前は……海をどう思っているんだ?」

 

「どうって……確かにいい思い出もないけど、悪いことばかりじゃない……そして海って綺麗だから」

 

「お前もそう言うのだな……私は」

 

「知ってる。だけど、私はこの海が好き……色々な思い出や出来事が詰まってるこの海が……まあ正確にはこの世界のじゃないけどね」

 

「……そう…か」

 

そうしてエンタープライズは再び海を見ている…だが、横の瑞鶴は少しポツっと何かを感知したようで…

 

「あ、これって……」

 

――――――――――――

 

その後、瑞鶴の思っていた通りに、黒い雲があたり一面を覆い大雨を降らせた。

 

艦達も一斉に雨宿りやらに走っている

 

「っぽい!っぽい!」

 

「凄い雨だね……!」

 

「ジャベリンさん、大丈夫ですか?」

 

「綾波ちゃん……な、なんとか……」

 

ジャベリンは急に走ってしまったため、少し疲れたようだ。

 

そんな中、瑞鶴はエンタープライズの手を取って

この雨の中を走ってた。

 

「私は……」

 

「ダメよ!艦とは言え、風邪を引くときは引くんだから!それで倒れたらそれこそ…!」

 

そのままの勢いで施設内へ駆け込んだ。

そのエントランスに居たのは、傘を持っていこうとしたベルファストであった。

 

「エンタープライズ様、瑞鶴様……」

 

「全く……エンタープライズ、一向に海を見たまま動くつもりなかったから無理やり引っ張ってきたわ!たちの悪い風邪でも引いたらどうするのよ!」

 

「艦が風邪など…」

 

「引くときは引くのよ!この人の形してるんだから!」

 

「エンタープライズ様……今お拭きしますね。瑞鶴様は…」

 

「私は自分で拭けるからいいわ。だけどこんな雨なんて……」

 

「ベルファスト……一体さっきから何故私に……」

 

ベルファストはエンタープライズの髪を拭きつつ、その問いにこう答えた。

 

「陛下にはそれとなく探りを入れるよう仰せつかっているのですが、お恥ずかしながら私そのような機微には疎いものでして…」

 

「何が言いたい?」

 

「単刀直入にお伺いします。いつまであのような戦い方を続けるおつもりですか?」

 

「…!」

 

「まあそうよね……エンタープライズ、あんたは自己犠牲の塊みたいなことになってる」

 

瑞鶴も髪を拭きつつ、エンタープライズのその「歪み」を指摘する。

 

 

「瑞鶴様の言うとおりです。あなた様は戦いを疎んじているようお見受けします。しかしその一方で自らの命を顧みることがない…あなたの在り方は歪んでいる。このままでは戦う意味さえ見失ってしまうでしょう」

 

「……!」

 

その時、再び施設の扉が開いた。

 

「た、大変だ!」

 

そこへ駆け込んできたのはクリーブランドであった。

 

「どうしました?クリーブランド様」

 

「はぁっ……はあっ……救難信号が……!」

 

――――――――――――

 

その後、ベルファストからプリンス・オブ・ウェールズに救難信号のことが伝えられ、救難艦隊が編成されることとなった。

編成は軽巡「神通」「ベルファスト」「クリーブランド」駆逐「ハムマン」「時雨」「夕立」

そして――

 

「ってなんで付いてきてるのさ!?エンタープライズ!艤装まだ直ってないんだろ!?」

 

クリーブランドの言う通り、無理をしてついてきたエンタープライズであった。

 

「そのような状態で出撃なさっているのですか!?」

 

「エンタープライズさん、流石にその状態では……」

 

ベルファスト、神通の指摘も意に介さず、そのまま前進を続けていたエンタープライズ。

そんな中、先行していた駆逐艦達が異変に気づいた。

 

「待って!前方に何か…!」

 

「本当だ…」

 

ハムマンと時雨が指を指した方にはなんとセイレーンが居たのだ。

 

「セイレーンっぽい!?」

 

「セイレーン!?」

 

「こんな時に!」

 

攻撃を開始しようとするクリーブランドと神通にエンタープライズは待ったをかけた。

 

「いや……よく見ろ」

 

その通りよくよく見てみると、その漂流物はセイレーン艦の残骸であった。

 

「ホントだ、戦闘のあとだ……」

 

「もしかして、救難信号を出してた船がセイレーンと戦っている!?」

 

「可能性はあるね……あれ?」

 

時雨もそう考えていると、また何かに気づいたようだ。

 

「時雨、どうしたっぽい?」

 

「いや、深海棲艦の残骸も流れてるみたいで……つまり救難信号の艦は双方と交戦していた…?」

 

「本当ですね……イ級のような残骸まで…」

 

神通も注意深くその残骸を観察していた。

イ級のようなものからハ級のようなものまであった。

 

「ならなおさらこうしちゃいられない!急がないと!」

 

「周囲の警戒を頼む」

 

「えっ!?」

 

エンタープライズはそのまま残骸やらが流れてくる方向へ速力を上げて行ってしまった。

度重なるこの行動に普段はあまり怒らないクリーブランドも流石に堪忍袋の緒が切れる寸前となっており。

 

「ああ…もう………なんでアイツはいつもああなのさ!」

 

いつも以上に狼狽し、ハムマンを慌てさせていた。

 

一方のエンタープライズは残骸の中を避けつつ、その救難信号の元を探していた。

 

「…あれか!」

 

そしてそれらしき艦があったので、その上に飛び移った。

 

「……」

 

その艦の中に居ないかと注意深く見ていると、二人の「艦」が目に入った。

 

「……!」

 

そしてその一人はエンタープライズを敵と見たのか、もう一人を守ろうとしながら、威嚇している。

 

(この格好、東煌の少女か)

 

東煌

「ロイヤル」「ユニオン」に続くアズールレーン所属の陣営である。

そしてその二人はその陣営所属の軽巡「平海」「寧海」であった。

 

その警戒心を解くために、エンタープライズはこう話し始めた。

 

「安心しろ、私はアズールレーンに所属する者だ。救助信号を追ってきた」

 

「………うっ…」

 

それを聞いて安心したのか、平海は寧海を抱きながらもそのまま泣き出してしまった。

 

「……周囲のセイレーン達はあなたたちが倒したのか?」

 

平海は泣くのをなんとか抑え、コクリと頷いた。

 

「……何があったか教えてくれ」

 

「……平海達、セイレーンに追われてて…全部やっつけたけど姉ちゃん私を庇ったから…」

 

「…うっ…ううっ……」

 

それと同時に寧海は唸り声を出した。

どうやら気がついたようだ。

 

「あ、寧海姉ちゃん!」

 

「……平海…!」

 

「う、ううっ……」

 

「よかった……ぐ、ううっ……!」

 

寧海は気がついてはいたものの、傷は深いようで、再び唸り声を出していた。

 

「姉ちゃん!」

 

「大丈夫だ、私達が助ける。仲間もじきに到着する」

 

そうエンタープライズが話すと、近くに沈んでいたはずのセイレーンの量産型艦船が再び音を出し、動き出していた。

 

「!?」

 

そして主砲の一門をこちらに向けてきたのだ。

 

「倒しそこねた……!?」

 

「逃げなさい……平海……うっ…!」

 

「やだ!今度は平海が姉ちゃんを助ける!」

 

「…!」

 

そしてその二人のやり取りにエンタープライズはあることを瞬間的に思い出していた。

自分の姉「ヨークタウン」のことを……。

 

それで「スイッチ」が入ったのか、エンタープライズはすぐに飛び出た。

 

「こっちだ!」

 

自分に注意を向けて、平海達から攻撃をずらそうということであった。

そしてそれに引っかかった量産型艦船は1門の砲でエンタープライズを捉えようとするあまり、可動範囲ギリギリまでねった挙げ句、そこで限界となり、エンタープライズから外してしまった。

 

その死角に入ったエンタープライズは攻撃をしようとするも

 

「……ぐっ……!?」

 

元より損傷が激しく、無理を押して出撃したため、艤装から攻撃機が発艦できるはずもなく。

ビリビリと電気が弾いているようであった。

 

 

そして量産型艦船もバカではない。

なんと自分の一部を切り離し、死角をなくしたのだ。

 

「……!」

 

それだけではなく、その量産型艦船の上からは深海棲艦の駆逐ハ級も顔を出したのだ。

万全な状態なら空母などにとっては豆鉄砲も良いところなのだが、損傷に損傷を重ねたエンタープライズにとっては致命傷となりうる。

砲も発射され、万事休すと思われたその時――

 

「はああああっ!」

 

「てーっ!!」

 

ベルファストと神通の砲撃がその砲弾を貫いた。

 

「エンタープライズ様…少しだけあなたのことが理解できました……あなた、お人好しなのですね」

 

「ベルファスト…!」

 

「神通さん!」

 

「了解です!雷撃戦用意、てーっ!」

 

ベルファストと神通の雷撃により、量産型艦船は爆散し、海の藻屑と化した。

流石に53.3cm魚雷と61cm酸素魚雷には耐えれなかったようだ。

 

――――――――――――

 

その後、東煌のその二人は保護され、基地へ運ばれることとなった。

幸い、深い怪我はないようだ。

雨も止んだようだ。

 

「止まない雨はないからね……よかったよ」

 

「で……なんでハムマンはこんな残骸を運んでいるの…!?」

 

「ごめんなさい、夕張さんから「どこかで深海棲艦とセイレーンの残骸が入手できる機会があるなら是非お願い!」って言われてしまって」

 

「技術屋は大変っぽい……」

 

神通、時雨、夕立、ハムマンはセイレーンと深海棲艦の重要そうな残骸を運んでいた。

なお神通が見繕って、時雨と夕立とハムマンがほかのKAN-SENの実艦に運んでいるらしい。

 

 

そしてベルファストはエンタープライズに興味を持ったようで。

 

「私事で恐縮ですが、あなたに興味を持ちました」

 

「なんだと?」

 

「僭越ながらこのベルファスト、エンタープライズ様に淑女としての礼節を教示させていただきます」

 

「……礼節?」

 

「ふふっ……」

 

「はぁ……?」

 

そのベルファストのセリフにエンタープライズはただ首を傾げることしかできなかったそうな。

 

――――――――――――

 

 

「………深海棲艦……そして艦娘……この世界にいい感じに混ざりあったわね……」

 

「さて、どうなるのかしら………」

 




ちなみに艦娘達は改二実装艦は全員改装済みな感じです。
コンバート艦はその時々によって変わるけど


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第4話
外套と短剣と苦無(前編)


5話まではこの投稿間隔は変わりませんが、6話分からはペース落とします…。



重桜基地にて

 

「……帰ってきた!」

 

赤城率いる艦隊が帰還したことを察知した方々が一斉に港に集まり始めた。

加古、古鷹、蒼龍、飛龍、雪風、時雨、夕立などの面々であった。

 

「赤城さん、お帰りなさい」

 

一航戦を出迎えたのは古鷹型重巡洋艦の加古、古鷹である

 

「ご苦労様。加古、古鷹」

 

「留守の間、何事もなかったか?」

 

「はい。これといっては……それと長門様がお呼びです」

 

「分かっているわ。報告に向かいます」

 

そして古鷹は綾波に声をかけた。

 

「おかえり、綾波」

 

「ただいまです……」

 

「怪我はない?」

 

「うん……」

 

そして雪風、時雨、夕立の三人が駆け込んできた。

 

「ほら帰ってきてるわよ!」

 

「わーい!綾波ー!」

 

「この雪風様がわざわざ出迎えてやったのだ!感謝するのだ!」

 

「でどうだった?何隻やっつけた?」

 

「え……あ……」

 

「ま、土産話はお茶でもしながら聞きましょうか」

 

流石に一度に聞かれて綾波も答えづらく、時雨の提案によりお茶を飲みつつの土産話となった。

 

その様子を見て、プリンツ・オイゲンはニーミにこう話す。

 

「微笑ましくていいじゃない……」

 

「………」

 

「あら?ニーミ、いつもなら「まったく、落ち着きのない」とか言うんじゃないの?」

 

「……あ、いえ……少し疲れてしまったようです…」

 

「そう?確かに暫くは働き詰めだったわね……後で休むといいわ」

 

「はい……」

 

ニーミはまだ「悩み」を引きずっているようで、少し暗い表情をしていた。

 

そして五航戦の翔鶴、瑞鶴は二航戦の蒼龍、飛龍が出迎えた。

 

「ただいま戻りました」

 

「はいお疲れ様。無事で何よりよ」

 

「もう聞いてくださいよ蒼龍さん。一航戦の先輩方ったら本当に人使いが荒いんですよ」

 

翔鶴が蒼龍に一航戦に対する長くなりそうな愚痴を話す中、考えている表情をした瑞鶴に飛龍が問いかける。

 

「どうしたんだい瑞鶴?浮かない顔してるけど」

 

「あ……ううん大丈夫。何でもないよ飛龍さん」

 

瑞鶴が思い出していたのはグレイゴーストと決着をつかなかった件もそうだが、もうひとりの「自分」のことであった。

 

『あえて名乗らせてもらうわ!第五航空戦隊所属、翔鶴型航空母艦2番艦の瑞鶴!』

 

『あんたもやられるわよ!』

 

「一体……なんなの……?」

 

――――――――――――

 

「………」

 

一方のアズールレーン基地ではベルファストに朝から色々と言われているエンタープライズの姿があった。

やはりといってなんだが「礼節」などを学ばされているらしい。

そして今は二人で表へ出ている。

 

「………東煌の少女たちの様子はどうだ?姉の方は深手を負っていたが…」

 

「それでしたら…」

 

ベルファストは指し示した方には一つの屋台があった。

そこではその平海と寧海がパンダまんの店を開いていたのだ。

そしてなかなかに繁盛していた。

 

「うん、美味しいです!」

 

「流石本場の人だね……艦娘には中国の艦はいなかったし」

 

「何個も食べられるっぽい!!」

 

「こらこら、食べ過ぎですよ?夕立さん」

 

艦娘の吹雪、時雨、夕立、綾波ももちろんそのパンダまんを食べていた。

 

「うぅ……なんでハムマンが手伝わされてるのよ!」

 

なおその繁盛のとばっちりはハムマンが食らってしまったが。

 

「加油、頑張って!」

 

「平海!売り物を食べるな!」

 

「商売を始めてる……」

 

「大変逞しいお嬢様方でございます」

 

どうやら、転んでもただでは起きないという言葉を地で行っているようだ。

 

そこへ平海が肉まんを持ってベルファストとエンタープライズに渡しに来た。

 

「はいどうぞ」

 

「いや、私は……」

 

「「お代は気にしないで」って姉ちゃんが言ってた」

 

そう平海は言うと、屋台に居た寧海は頷いている。

どうやら本当良いらしい。

 

「平海たちのこと助けてくれたお礼」

 

「……」

 

そしてエンタープライズはそのままパンダまんを食べている。

その表情にベルファストは少し微笑んでいた。

 

――――――――――――

 

そしてまた、ユニコーンも海辺でパンダまんをじっと見ている。

食べ慣れていないゆえに、不思議と思っていたのだろう。

 

だがジャベリンがパクっと食べているのを見て、ユニコーンもそのパンダまんをパクっと食べた。

 

「美味しい……」

 

「うん、美味しいね!」

 

そして口元に食べ物が少し付いてしまったため、横に居たイラストリアスが口元を拭いてあげていた。

 

その光景をジャベリンとラフィーが見ていると、ラフィーは唐突的にこう話し始めた。

 

「次は綾波やニーミとも一緒に食べたい…」

 

「えっ?」

 

「嫌?」

 

「ううん!そんなことないよ!……そうだね。綾波ちゃんも一緒だといいね…」

 

「そうですね」

 

「はい!」

 

「うわっ!?艦娘の綾波ちゃんと吹雪ちゃん!?」

 

「ごめんなさい、聞こえていたので……」

 

艦娘の綾波と吹雪が話に入ってきたのだが、それになにか思い出したのか、ラフィーは吹雪の手を触れた

 

「ラフィーさん?」

 

「……吹雪……来て」

 

「え?」

 

「良いから……」

 

そしてラフィーに手を引かれ、吹雪は行ってしまった

 

「ラフィーちゃんが…珍しい……」

 

「………まさか……」

 

その光景を見て、綾波はふとしたことを思い出していたのか、少し考えた表情になっていた。

 

「綾波ちゃん?」

 

「いえ、吹雪とラフィーさんには「前」にある事があって――」

 

――――――――――――

 

そして二人は基地内で人の気があまりないところへ来た。

 

「あの……どうしたんですか?」

 

「吹雪、ラフィー達が「あの時」に沈めた艦だよね……」

 

「……」

 

サボ島沖海戦

1942年10月11日深夜から12日にかけて行われた作戦であり、連合軍側はエスペランス岬沖海戦と呼称している。

その作戦でラフィーは重巡青葉を発見し射撃を行い、海戦の口火を切った。

結果アメリカ側は駆逐艦ダンカンが撃沈されてしまったが、日本側はその損害を上回り、重巡青葉は大破、古鷹…そして「吹雪」は撃沈されてしまった。

 

言わばラフィーは吹雪を前世で倒した張本人の一人であった。

 

「わかってたんですね……」

 

「うん、なんとなくだけど……なんで吹雪はラフィーと普通に接することができるの?怖くないの?」

 

そのラフィーの問いに、吹雪は少し息を吸って、こう答えた。

 

「まあ、一つに私はあの時のことをもう気にしていません…それは…あの時は「仕方ない」としか言えません……殺らなければ殺られますし…」

 

「………」

 

「過去のことなんか関係ありません…今は今……それだけだと思ってます」

 

「うん……ありがとう…吹雪」

 

その吹雪の言葉でラフィーは少し顔が笑顔になる。

そしてラフィーはあるものを差し出した。

 

「?」

 

「飲んで良いよ…ラフィーの酸素コーラ」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

(コーラ……好きなんですね…)

 

そして吹雪は勧められるがままにそのコーラを飲んでいた。

とても炭酸が効いていた。

 

 

――――――――――――

 

そして基地内の会議室のようなところでは、東煌のお二人が商売を切り上げて、今までの経緯を話しているところであった。

プリンス・オブ・ウェールズ、ヴェスタル、クリーブランド、エンタープライズ、ホーネット、ベルファスト

そして艦娘の大和、赤城が同席している。

 

「もぐっ……セイレーンの上位個体が動いてるってこと?そしてその中には深海棲艦とかなんとかもいる?」

 

「うん。大和の言う通りの特徴の艦もいたから…」

 

「お行儀悪いですわよ、ホーネットちゃん」

 

「上位個体…深海棲艦で言う「姫」のことみたいね」

 

「そうですね、大和さん……でも何故その上位個体が……深海棲艦まで率いて……」

 

「アズールレーンとレッドアクシズが戦ってる隙を突いて仕掛けるつもりかも……」

 

そのことを聞いてその場に居た艦は苦い表情をしていた。

当然ながらアズールレーン側からレッドアクシズに積極的に攻めることはない。

だがレッドアクシズ側からの攻撃が続けば受けざるを得ない。

そこでセイレーンに攻撃をしかけられてしまえば、アズールレーン側は過大な損害を負ってしまうことも想像に難くないのである。

そして深海棲艦までもセイレーンの傘下にいることがわかったので、艦娘側もまた悩んでいる。

 

(どうするべきか……私達は……)

 

――――――――――――

 

そしてエンタープライズはベルファストとともに基地内の廊下を歩きつつも、懸念事項について話していた。

 

「セイレーンの活動と重桜の新技術、量産型のセイレーンを操るあの力…そして突如現れた深海棲艦……無関係とは思えない。調べる必要があるな」

 

「それは我々ロイヤルが得意とするところでございます」

 

「なに?」

 

それを聞いてエンタープライズは首を傾げる。

そしてベルファストは続けてこう話した。

 

「既に私ども「メイド隊」が新しい任務に就いております」

 

「メイドが?任務だって?」

 

「はい…ただ今回の任務は敵地潜入のため、元が同じ方である艦娘の方からも一人応援にお頼みいたしましたが……」

 

「潜入…?」

 

「ふふっ……クローク&ダガー…そして「クナイ」でございます」

 

――――――――――――

 

「競争だー!」

「アイツら無駄に元気ね…」

「あんみつ食べに行きましょ!」

「あまり食べ過ぎたらダメよ?」

 

重桜の基地ではもちろん重桜の艦が行き交っている。

その中で巫女服を着て、仮面をした「3人」

 

エディンバラ級軽巡洋艦1番艦「エディンバラ」

タウン級軽巡洋艦5番艦「シェフィールド」

そして応援として川内型軽巡洋艦1番艦「川内」であった。

(しかしまあ……確かに日本っぽいけど……)

 

重桜の町並みを見る。

重桜の「桜」の木がたくさんあり、和風の建物なども立てられている。ただしどこか輝きすぎており、当然ながらこのような風景は「元の日本」では戦前・戦中はもちろん、戦後でもない。

 

(なんか日本のイメージが一気に凝縮した感じっぽいよね……流石異世界というのか…)

 

まさに率直な感想を思っていた。

 

なお応援として川内が呼ばれたのは、彼女が現在身に纏う改二の衣装が「忍者」であり、ロイヤル側の評判が良かったためである。

なお妹の神通からはいつものうるさい夜戦バカっぷりのせいで心配しており、念押しで騒がないでと言われてしまった。

 

――――――――――――

 

一方、赤城と加賀は長門のところへ出向き、作戦の進行などを報告していた。

 

「この黒箱がセイレーンを従えるのか…?」

 

赤城が出した黒いメンタルキューブを見つつ、長門は彼女にこう問うと、赤城はこう返した。

 

「はい……ですがそれはあくまで副産物に過ぎません。この黒箱もまた「メンタルキューブ」私たち「KAN-SEN」の素材そのものなのです」

 

「オロチ計画…」

 

「はい。我ら重桜の希望ですわ」

 

「…だが、そのために我らから仕掛けることになろうとは…」

 

長門は少し目をしたに下げる。

どうやら長門自身は開戦にはあまり賛成の立場ではなかったようだ。

それに対して赤城と加賀はこうも話す。

 

「避けられないことです」

 

「セイレーンとの大戦(おおいくさ)はこれまで幾度となく繰り広げられてきた。人類はかろうじて生き延びているに過ぎない」

 

「アズールレーンのやり方では間に合わないのです。重桜の明日のため計画は何としてもやり遂げなければ」

 

「……わかった、下がって良いぞ」

 

長門が黒いメンタルキューブを赤城へ返し、赤城達を下がらせた。

そしてこう呟いた

 

「……戦いはいつの世も変わらないということか……「あの時」から……」

 

――――――――――――

 

赤城と加賀の二人は階段を降りていた。

そして加賀のほうから長門に対して思うところがあったのか、こう話し始めた。

 

「この期に及んでまだ迷うとは…長門には覚悟が足りん……!」

 

「そんなことを言うものではないわよ。それもまた深い愛があってのこと…」

 

「ですが姉様!」

 

「でも足りないわ。赤城の愛は世界を焼いてなお燃え盛るの……」

 

そして赤城は黒いメンタルキューブを袖の下から出して、手を取りつつもこう呟いた。

 

「そう、もうすぐよ……」

 

「姉様……ですが、五航戦から報告にあったあの件は…」

 

「私達に似た船……そして深海棲艦のことね……気にならないわけではないけど…「あの方」に聞いて見る必要はあるわ」

 

(……やはりあの時のは……)

 

赤城がアズールレーン基地を襲撃した際の感じた「船」

それが間違いではないと、その報告を聞いて確信していた。




夜戦忍者、潜入するの巻
ぶっちゃけこのために川内をこのメンバーに加えたのかもしれない()


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外套と短剣と苦無(後編)

前後編の配分を完全にミスったが、切り時がこれくらいしかなかったので後悔していない。


(……)

 

一方ニーミは茶店にてお抹茶を飲んでいた。

この「もやもや」を一緒に飲んでしまおうというつもりであったが

 

(……無心にこの茶を飲めば、悩みなんてなくなると思ってましたが……そう簡単にはいきません…か)

 

やはりその「もやもや」はそう簡単に消えるようなものではなかったようだ。

そして同じ茶店では綾波の土産話を夕立、時雨、雪風が聞いている。

 

「えー!?綾波が「あっち」にもいる!?どういうことなの……?」

 

「間違いなく「私」があっちにいる…です……」

 

当然ながら遭遇した艦娘について話しており、時雨は大声を上げるほど驚いていた。

 

「うーん……ドッペルゲンガーってことかしら?」

 

「ふん、この雪風様の手に掛かればドッペルゲンガーでもなんでも一網打尽なのだ!」

 

「ドッペルゲンガーというわけじゃないと思う……です」

 

そして話を聞いているのか聞いていないのか、もぐもぐと食べていた夕立は思わずのどにつっかえてしまった

 

「んっ!?」

 

「落ち着いて食べなさいよ。ほらお茶」

 

時雨からお茶を差し出されると、そのお茶をゴクゴクと飲んでいる夕立

そして綾波にこう話す。

 

「でもいいなー!綾波は出撃できて…夕立も早く戦いたいぜ!」

 

「……戦い…」

 

綾波はその言葉でやはりあの二人を思い出す。

深海棲艦の戦艦砲撃から守ってくれたあの二人に

 

「戦いは好きじゃないです。ただ普通に戦ってただけ…」

 

(多分、あの人も……)

 

そしてもう一人の「綾波」についても思い出していた。

セーラー服姿で、サイドテールの髪型をしたその「艦」

会ったというわけではないのだが、綾波には「彼女」が戦いを好んでやっているわけではないというのが感じ取れていた。

 

「普通って……あの鬼神綾波が何言ってるのよ。このこのー」

 

そうして時雨が綾波のほっぺをつつくと、夕立が飛び乗ってきた。

 

「鬼だー!つのつのー!」

 

「これは綾波の耳です…角じゃないです…」

 

「でも強いだけじゃダメよ?この時雨様のように幸運にも恵まれてなくっちゃね」

 

「あっ!当たったのだー!」

 

そしてその近くで雪風はアイスのあたりを引いたようだ。

それで時雨は自分の言葉を潰されたようなものになってしまったため、アイスを更に持ってきてこう言い放った。

 

「勝負よ雪風!今日こそ決着をつけてやるー!」

 

こうして雪風と時雨の間で勝負(?)が始まった。

 

「………」

 

なおこうしてうるさい茶店でも、ニーミはただ海の方を見ている。

いつもなら「お店では静かにしなさーい!」と注意するほどの委員長体質なのだが、「モヤモヤ」が依然消えず、そんな気分にもなれなかったからである。

 

「はぁ……」

 

そしてニーミは再びため息を付いた。

 

――――――――――――

 

その一方、あるところでは高雄型重巡洋艦一番艦の高雄が剣の術を磨いている真っ最中であった。

 

「……ふっ!」

 

その剣術はまるで目の前の桜の木を切ってしまいそうなものであった。

その光景を拍手するある艦

 

「精が出るわね、高雄」

 

もちろん同じく剣の使い手であった瑞鶴である。

そして剣を仕舞った高雄は瑞鶴を出迎える。

 

「瑞鶴殿、戻っておいでか」

 

「うん、あまり良いとこなかったけどね…」

 

瑞鶴は髪をかきあげつつもこう言った。

そして二人は話をするために見晴らしのいい丘のところにまで上がった。

 

「自分と同じ艦?」

 

「同じ瑞鶴と翔鶴姉がアズールレーンに居たのよ……普通なら偽とか思うけど間違いなく本物の…」

 

「そうか……あちらも新型のKAN-SENかなにかを作ったのか…?それで、その艦とは戦ったのか?」

 

「ええ、途中で横槍が入ったから撤退したけど……でも間違いなくあっちのほうがしっかりしてると思った」

 

「と、言うと?」

 

「あっちの私のほうが手際とか行動とかが無駄がなかったし……そして艦載機への指示もスキがなかった……同じ私なのに……」

 

「……」

 

そして瑞鶴は手をぎゅっと握りしめる。

 

「それで……グレイゴーストにも勝てなくて……今のままじゃダメなんだ。もっと強くならないと翔鶴姉やみんなのことを守れない」

 

そう言うと高雄は後ろからパンっと背中を叩いた。

そしてそれで強すぎたのか、瑞鶴は体をよろけてしまった。

 

「あぁ……すまぬ。少し強過ぎたか」

 

「うっ…」

 

「……だが1人で思い詰めるのは良くないぞ。もう少し拙者たちを頼ってくれ。仲間だろ?」

 

そして瑞鶴に手を差し伸べ、瑞鶴はその手を握る。

だが高雄は気になったことがあったのか、再び瑞鶴に質問した。

 

「同じ艦ということだが……私は居たのか?」

 

「ううん、高雄みたいなのは居なかった。居たらすぐにわかるし」

 

「居たら、ああ……まあ艦橋がああだからな…」

 

高雄はそう言いつつ、港に停めてある実艦を見ていた。

言うまでもなく、その艦橋は他の重巡に比べても大きいものであった。

 

――――――――――――

 

「……」

 

そして夕暮れ時、港の整備ドック近くでは陽炎型駆逐艦2番艦の「不知火」が荷物を運んでいる饅頭を見つつも、書類を見ていた。

 

「まったく、明石の大うつけはどこで油を売ってるんですか……」

 

明石についての愚痴を溢しているその後ろを潜入していた3人の軽巡が通り過ぎようとするが……。

 

「ぐふっ!?」

 

一番うしろで歩いていたエディンバラが色々と見ていたせいで転んでしまった。

 

「あら?」

 

そして不知火がそこへ近づいてきた。

 

「大丈夫でございますか?ところで……あなた…?」

 

「……!」

 

そしてエディンバラがオロオロしているところにシェフィールドがエディンバラに仮面をつけて、不知火に一礼をする。

そしてそこから立ち去ろうとするが

 

「もし」

 

「ひっ!?」

 

「これ、落とし物」

 

そしてそれをすぐに受け取ったのは川内であった。

 

「いやいや、どーもどーも!仲間のやつをありがとね!」

 

(せ、川内さん!?)

 

「いえ……ところであなた」

 

「いやあ、そういえばやけに運んでいるこの荷物ってなんなのかな?」

 

「妾は把握しておりません。何かの作戦に使われるものと…」

 

「そうかそうか!ありがとね、不知火!」

 

「……」

 

そして3人はその場から姿を消す。

 

(見たことがあるような無いような……でも妾のお名前を知っているのなら、きっと仲間でございましょう……)

 

「おう、不知火」

 

そして今度はKAN-SENの「川内」が姿を表した。

 

「あら、川内……ちょうど今……」

 

「今?なにかあったのかよ?」

 

「……いえ、なんでもございません」

 

「?」

 

不知火はどこか引っかかったが、あまりにも不確定なものであったため、他人に話すことはやめてしまった。

 

――――――――――――

 

「はい、メガネ」

 

物陰に隠れた3人は一息をつき、川内はエディンバラにメガネを渡す。

 

「ううっ…もう!なんで私が潜入任務なんですかー。絶対向いてないですよー」

 

「声が大きいです。物資の流れから察するに何やら大掛かりな物を建造しているようです」

 

「そのようだね……でもごめんね、私もあまり役に立てないや」

 

川内も少しため息をつく。

「日本」であるならば川内も基地の構造やらは知っており、そこらへんも重桜にも共通していると川内は予測していたが、あまりにも違いすぎたため、この件に関しては役に立てなかった。

 

「いえ、先程のさりげなく聞くところはお見事です。流石忍者です」

 

「いや……まあ……」

 

(あんな感じで上手くいくんだなぁ……覚えておこ…でもこっちの不知火はあんな感じなんだ……)

 

どうやら川内にとってはぶっつけ本番だったらしい。

そう思っているとある艦の存在に気づいた。

 

「ん?」

 

「どうしました?川内様」

 

「いや、あの艦……」

 

指を指していたのは緑色の髪をして、猫耳が生えている艦

KAN-SENの工作艦「明石」であった。

 

――――――――――――

 

「ぬいぬいのヤツ、猫使いが荒いにゃ……やってられないにゃ……」

 

どうやら仕事をサボっているらしく、の愚痴を色々とブツブツ言っていた。

そうして洞窟の中に入っていくうちに、迷ってしまったらしく。

 

「ここどこだ……迷子になってしまったにゃ……」

 

とりあえず歩き回る明石。

そしてそこであるものを目撃してしまう。

 

「……もしかしてオロチ計画の船かにゃ?これセイレーンにそっくりにゃ…こんな物造って本当に大丈夫かにゃ……あ」

 

その艦の上には赤城が居た。

 

「赤城?なにしてるにゃ…?」

 

そしてその赤城は黒いメンタルキューブをその艦へ解き放つ

 

「にゃああっ!!?」

 

その衝撃とともに艦は「起動」し、ある者が現れた。

 

「にゃ……あれは……!?」

 

「これほどのエネルギーが集まればオロチ計画発動は目前よ…赤城」

 

セイレーンの特殊個体の一人

「オブザーバー」であった。

 

「…この調子ならそうね、あと1つといったところかしら?」

 

そしてオブザーバーは黒いメンタルキューブを生成し赤城へ手渡した。

 

「オロチ計画が生み出すのはただの船ではない。言うなればこれはあらゆる思いを乗せて海を渡る箱船よ……」

 

「……」

 

そして近づいて、こうも囁く

 

「もうすぐ会えるわよ」

 

「失せなさい……あとあなたには一つ聞きたいことがあるわ」

 

「聞きたいこと?」

 

「基地襲撃の時に現れた私達と似ている船…そして「深海棲艦」のことよ」

 

「ああ、それね……」

 

オブザーバーはまるで聞かれるのをわかっていたかのような反応であった。

このことを仕掛けたのは自分達であると遠回しでわかるように……。

 

「これは私達がオロチ計画を円滑に進めるための言わばお膳立てよ……あなた達にはなにも害はないわ」

 

「害はない?五航戦からの報告だと深海棲艦はこちらにも攻撃を仕掛けてきたそうだけど」

 

「それは少しの「エラー」よ。私達も完璧ではないの……ともかくあなたはまた「戦い」を呼び起こせばいいのよ……そのセイレーンと深海棲艦を操る力を使ってね……」

 

「………」

 

そしてその光景をほとんど見てしまった明石はとても震えていた。

 

「え、えらいこっちゃにゃ…!とんでもにゃい物を見てしまったにゃ…」

 

そこから忍び足で遠ざかろうとするも

 

「貴様……」

 

「あぁいや!」

 

「何をしている…?」

 

その後ろには加賀が居たのだ。

その顔はとても重いものであった。

 

「……見たな?」

 

「な、何のことかにゃ?明石、道に迷っただけの迷い猫にゃ…!」

 

そしてオブザーバーのタコのような触手に明石は吊られてしまった。

 

「あら見られちゃったわね…仕方ないわ」

 

「にゃああっ!?」

 

「好奇心は猫を殺す……なんてね」

 

「いやあっ!助けてにゃー!!」

 

「待ちなさい!この重桜の中で…私達の仲間に手をかけることは許さないわよ」

 

赤城はまったを掛けた。

だがオブザーバーは引き続き明石を見ながらもこう返す。

 

「そんなこと言われてもね……放っておくわけにはいかないでしょ?」

 

「その件に関しての処理は私が……!」

 

その時、触手を撃ち抜く一発の銃弾。

それは後ろからつけていたシェフィールドのものであった。

 

「何者だ!?」

 

加賀がすぐさまシェフィールドに攻撃を仕掛けるも、シェフィールドはそれを華麗に回避する。

 

「そのふざけた格好は……ロイヤルか!」

 

「ロイヤルだけじゃないよ!」

 

そこへ投げられたのは苦無と手裏剣であった。

そう川内も後ろからかけつけた。

 

「貴様…!まさか……!」

 

川内の対応に気を取られ、シェフィールドはすぐさま赤城のところへ。

そしてその体術により赤城より黒いメンタルキューブを落とさせた。

 

「エディンバラ!」

 

「と、とりました!シェフィールド!川内さん!」

 

「川内だと!?」

 

「よし、撤退するよ!」

 

加賀が驚いている間に、川内とシェフィールドは煙幕玉を展開する。

 

「くっ、小癪な!」

 

そして加賀がその煙幕を払うが、すでに目の前にはおらず。

その上その先にはマキビシまで撒いてあった。

 

「まぁ大変……失態ね、赤城」

 

なおオブザーバーはそう大変とは思っておらず、むしろ面白いと思っている表情をしていた。

 

――――――――――――

 

当然ながら基地内では緊急警報が鳴り響いた。

だがこの状況を把握しているKAN-SENは誰一人していなかった。

 

「何なのだー!?何なのだー!?」

 

「ちょっと!何が起きてるんだよ!?」

 

「古鷹、油断しないで!…ええ!?」

 

そして古鷹型の前を普通に素通りする3人と1匹

 

「今の…なに…?」

 

――――――――――――

 

「運ぶなら金塊がいいのにー!」

 

「泣き言は後です」

 

「さっさと逃げないとね…!」

 

そんな3人のうちのエディンバラの後ろに背負われている明石。

そこをシェフィールドはもちろん指摘する。

 

「ところで何なんですか?そのおまけは…」

 

「明石を置いていかないでにゃ!」

 

「なんでついて来ちゃったんですかー!?」

 

「あのままじゃ明石消されるにゃ!口封じにゃ!死人に口にゃしにゃ!」

 

「仕方ありません。このまま海に出ますよ!」

 

「了解!艤装緊急展開!」

 

すぐさま艤装を展開して出港する。

 

「あの小島まで行ければ…!」

 

「…危ない!」

 

エディンバラへ向かってきた砲弾を川内が間一髪で弾く。

 

そして後ろの鳥居にはある一人の艦が居た。

高雄型重巡洋艦1番艦の「高雄」であった。

 

「逃さん!」

 

「うおっと!?」

 

川内が忍刀を抜刀させ、高雄の剣術を迎え撃った。

 

「くっ……!流石高雄、一撃が重い…!」

 

そして後ろからはシェフィールドの援護射撃が入る。

 

「まだまだ!」

 

その援護射撃も高雄は難なく避ける。

 

「……!」

 

そして一撃の必殺の砲撃も行われるが、高雄はそれを弾き飛ばした。

 

「うわっ、すごい…!」

 

「釣瓶縄井桁を断ち、 雨垂れ石を穿つ……鍛錬を重ねた我が剣に切れぬものはない!」

 

そして川内へ剣を切り、一ミリの差でかわすも、髪の毛が少しだけ切れていた。

 

「……だけど!てーっ!」

 

「…!」

 

川内は61cm酸素魚雷を近距離で雷撃をし、高雄は剣でそれを切るも、その煙が舞い上がる。

 

「くっ…!」

 

「貰った…!」

 

「…なっ!?」

 

その煙幕の中に川内は高雄へ斬りかかった。

高雄はギリギリ対応するも、あと一歩のところであった。

 

「やるな…流石「川内」といったところか……」

 

「どーも!伊達に夜戦で鍛えたわけじゃないから…!」

 

そこへ横からの川内への砲撃。

それはKAN-SENの「綾波」からのものであった。

察知した川内は後退し、シェフィールドと並んだ。

 

「新手……綾波ってわけね…」

 

(私的にはこのまま夜戦に持ち込むのが好きだけどここじゃこっちの味方が少ないのに敵が大勢くることになる……とにかく、ここから離れないと……)

 

軽巡に重巡の相手は流石に難しいことであった。

川内の砲は14cm単装砲、シェフィールド・エディンバラの砲は15.2cm三連装砲であるのに対し、高雄の砲は20.3cm連装砲という火力が違いすぎるも同然である。

夜戦ならば不意打ちで魚雷を叩き込めばなんとでもなろうが、まだ日がある段階ではそれは無茶な話であり、他の新手も現れる可能性もこの基地近くではほぼ100%であった。

 

「どうしよう…どうしよう……」

 

後ろへ隠れていたエディンバラもそれで二人をとても心配していた。

 

「あの……逃げないのかにゃ?」

 

「何とかしないと……」

 

そしてエディンバラはあるものに気づいた。

その近くには不発弾の廃棄場があったのだ。

 

「あぁ!これ!」

 

「どうしたにゃ?」

 

 

 

「何事だ!?」

 

そして緊迫していたその場に一つのボートが全速力で(?)飛び込んできた。

 

「エディンバラ!」

 

「シェフィ、川内さん、こっちに!」

 

だが後ろのボートのエンジンからは火を吹いていた。

 

「ひぃ!火吹いてるにゃ!」

 

「えぇっ!?」

 

「これはちょっと……」

 

「マズイ…です」

 

「それって……」

 

「こっちに来るなー!!」

 

高雄のその大声も虚しく……。

 

「爆発にゃあああああああああああああ!」

 

「止めてくださあああああああい!」

 

そのボートは4人の目の前で大爆発を起こした。

 

――――――――――――

 

その夜、重桜基地にて

 

「すみません姉さま。敵を逃してしまったようです」

 

「そう。仕方ないわね」

 

加賀の報告を聞いた赤城は聞きつつも海の方を見ている。

そこまで怒っている様子ではないようだ。

 

「黒箱が連中の手に渡ってしまいますが…」

 

「追撃隊を編成してちょうだい…でもこれは好都合かもしれないわね?加賀」

 

「姉様?」

 

「アズールレーンが黒箱を育ててくれるというのならご厚意に甘えようかしら?」

 

そう言う赤城は不敵な笑みを浮かべていた。

 

そして一方は迎撃に出ていた高雄と綾波が話していた。

 

「すまない綾波。助けられたな…」

 

「いえ、無事でよかったです」

 

その綾波に駆け込んでいたのは先ほどの3人である。

 

「綾波…アンタ平気なの?」

 

「幸運での女神である雪風様がついてるのだ!無事に決まってるのだ!」

 

「また乗り遅れた!夕立も戦いたいー!」

 

「……」

 

その勢いに綾波は再びたじろいでいる。

その様子に微笑ましいと思ったのか、綾波にこう声をかける。

 

「仲がいいんだな?」

 

「はい、大切なお友達です…」

 

そして重桜の仲間をみていた。

空母や戦艦、軽巡、重巡、そして駆逐など多彩な艦がいる。

もちろん全員が綾波の「仲間」であった。

 

「だから綾波はみんなのために……」

 

だがそれと同時にジャベリンとラフィーやあちらの自分のことを思い出す。

そして綾波の前に桜の花びらが降りたと思いきや、そのまま風に飛ばされてしまった。

 

(……私は)

 

――――――――――――

 

「…桜?」

 

そしてニーミはその飛ばされた桜の花びらを手に取る。

 

「……桜の花ってこんな感じなんですね…」

 

(……やっぱり……あれは…)

 

そしてニーミもまた、あの二人のことを考えていた。

そんな様子のニーミにプリンツ・オイゲンはこう話しかけた。

 

「あらニーミ、まだ休まなくていいの?」

 

「オイゲンさん……中々眠れないので…」

 

「そう…でもさっさと寝ないと体に悪いわよ?重桜も何か動いているみたい…」

 

「そうだぞ、ニーミ。休まねえと戦えないぞ?」

 

Z1型駆逐艦1番艦の「Z1(レーベレヒト・マース)」もそう話している。

 

「………」

 

(戦い……私達は艦……艦なら戦う義務は果たさないといけない……でも……!)

 

ニーミはその拳を強く握りしめていた。

 




川内は大活躍です。
残念ながら夜戦はしてないけど!

KAN-SENの活躍はなるべく削らずにとは思いますが、あまりにもやりすぎると艦娘側が空気になってクロスの意味がないので、なんとか入れるところには入れるようにしてます。
大丈夫かな…大丈夫かな……?


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第5話
広げたその手(前編)


続いて救出編です。
どうぞ


その後、シェフィールド、エディンバラ、川内、そしてついでの明石は爆発後の混乱でなんとか重桜基地から脱し、ある孤島へ潜伏することに成功した。

だがそのことは当然ながら察知され、重桜の追撃隊と量産型セイレーンの艦と深海棲艦の下級艦が周囲を囲っていた。

 

追撃隊は戦艦「扶桑」「山城」を中心に、空母「翔鶴」「瑞鶴」、重巡「古鷹」「加古」「高雄」「愛宕」、駆逐艦「綾波」などであり

鉄血からは重巡「プリンツ・オイゲン」軽巡「ケルン」駆逐「Z1」「Z23」も参戦している。

 

そしてその潜伏場所では、明石と川内とエディンバラが黒いメンタルキューブについて話していた。

 

「謎だにゃ……」

 

「明石、本当に知らないんだよねー?」

 

「わからないものはわからないのにゃ…明石はただの工作艦で秘密工作なんかしないのにゃ…」

 

「そんなぁ……」

 

川内からの問いにも当然ながら本当に知らないようで、明石は横に首を振ったままだ。

 

「まさかセイレーンの横流し品だったにゃんて……!これ絶対ヤバイやつにゃ……おっかないにゃ…」

 

(でもホントこっちの明石と違うなぁ……小さいし……)

 

こっちの猫耳明石への感想を感じていると、シェフィールドがちょうど帰ってきた。

 

「只今戻りました」

 

「おかえりなさい。どうでした?」

 

シェフィールドはエディンバラから紅茶を受け取りつつ、状況を報告する

 

「偵察機が哨戒してます。私たちがこの島に逃げたことは既に知られているでしょう」

 

「ええーっ!」

 

「にゃあ…!」

 

「あちゃーやっぱりかぁ……道理で航空機がじゃんじゃん飛んでいるわけかぁ……」

 

川内は携帯食料である乾パンと金平糖を食べつつ、同じく紅茶を飲んでいる。

 

 

(こんな時でも紅茶って流石英国艦……飲みすぎないように…と)

 

「我々の状況は基地に伝わっています。今は救援を待つべきでしょう…もっとも、あの重桜が黙って見過ごすとは到底思えませんが」

 

「うぇっ!?」

 

「ふーふー……あっつ!」

 

一方の明石も紅茶を飲もうしているが、猫ゆえに猫舌のため、少し苦戦しているようであった。

 

「これ返したら見逃してもらえませんかねー?」

 

「無理に決まってるでしょう」

 

「良くて拿捕、最悪撃沈かなぁ…なにせあちらの重要機密を握っちゃってるわけだし」

 

シェフィールドと川内が即答し、エディンバラをさらにアワアワさせ、明石も再び震えていた。

 

「明石、捕まったら三味線にされるにゃ!」

 

そしてそのまま泣き出してしまった。

 

――――――――――――

 

一方、重桜の翔鶴は量産型セイレーンと深海棲艦について気にしているようで、やけに注意深く見ていた。

 

「この子たち平気かしら……向こうに操られない?」

 

「母体はオロチの方だから乗っ取られることはないって赤城先輩は言ってたけど…」

 

「赤城先輩ね……あの人は一体何を企んでいるの?」

 

翔鶴は赤城を疑っている。

あまりにも情報を出してくれず、オロチ計画に関しても翔鶴達にはそう知らされていないのだ。

 

「翔鶴姉…」

 

「私…ああいう腹黒い人苦手なのよね」

 

(……翔鶴姉がそれ言うの……?)

 

自分の姉の腹黒さをわかっているがゆえに心のなかで突っ込んでいる。

本当は声に出したいが、流石にそれは悪いので抑えたそうな。

 

一方高雄は剣を突き刺して立ちつつもこの前の戦いでの自分の戦いを思い出していた。

 

(拙者が至らぬばかりに敵を取り逃がしてしまった。この汚名は何としてもそそがねば……!)

 

そんな時に後ろから接近する同型艦

 

「もう高雄ちゃんってば…また難しい顔してる」

 

高雄のほっぺを突くその艦は言うまでもなく「愛宕」であった。

 

「愛宕!」

 

「ほら肩に力入りすぎてるわよ?」

 

そして愛宕が高雄へスキンシップ(?)をしている横では、

綾波とニーミがその様子を見ていた。

ニーミは言うまでもなく鉄血所属であるが、今回は重桜の援護のために他で待機している鉄血艦とは別に重桜の艦へ配置されている。

 

「な、な…!?」

 

「ニーミ、いつものことだから気にしないでください…です」

 

「い、いつものことなんですか!?」

 

委員長気質なニーミは言うまでもなく赤面していた。

 

「あら、綾波ちゃんとニーミちゃんもどう?」

 

「いえ、綾波は遠慮しておきます…です」

 

「あ、ああ……っ」

 

「くっ、どこを触っている!」

 

そして高雄は愛宕をなんとか振り払う

愛宕もそっと後退した。

 

「まったく…任務中だぞ。真面目にやれ!」

 

「はーい、島の様子はどう?」

 

「隠れるには絶好の廃墟……見つけるのは骨が折れるな…」

 

瑞鶴は目をつぶり、偵察機に神経を集中させる。

細かな瓦礫ばかりがあるため、その通りに骨が折れそうであった。

 

「焦っても仕方ないわ。偵察機が見つけるのを待ちましょう」

 

「でも扶桑さん、攫われた明石ちゃんが心配だよ。あんまりのんびりしてはいられないよ?」

 

古鷹の意見に扶桑が頷いていると加古が駆け込んできた。

 

「扶桑さん!鉄血艦隊より報告です!アズールレーンの艦隊が!」

 

「……やっぱりね…!」

 

「…!」

 

「…やはり…ですか…」

 

綾波とニーミもそれを聞いて表情が暗くなった。

やはりあの二人のことがよぎったようだ。

 

(戦闘は嫌いじゃない……こっちにも守るべき仲間はいる…でもあっちにもいる……綾波は……)

 

(……戦闘は避けられない……だけどあの二人には……でも……ニーミは……!)

 

またも考え事は収まっていないようであった。

 

そして救援艦隊は戦艦「プリンス・オブ・ウェールズ」「オクラホマ」を中心に空母「ホーネット」「エンタープライズ」巡戦「レパルス」重巡「サフォーク」「ノーフォーク」軽巡「クリーブランド」「ベルファスト」駆逐「ジャベリン」「ラフィー」などで編成されており、

それに加え、艦娘より戦艦「長門」「霧島」空母「翔鶴」「瑞鶴」重巡「摩耶」「鳥海」軽巡「神通」駆逐「吹雪」「綾波」も参戦している。

 

「重桜に先に越されたということ…か……」

 

「はい、おそらくはあの島の中に川内さん達が居ます。一応この戦力では強行突破もできなくはないとは思いますが……」

 

「ウェールズも言っていたが我々はあくまでも救出部隊だ。手荒な真似をすれば川内達が危なくなる」

 

 

霧島と長門が話している中、摩耶と鳥海と神通は島を囲んでいる艦の中から高雄型2隻を見つけていた。

艦橋が扶桑型ほどではないにしろ、かなり独特ゆえであった。

 

「うひゃーいるぜ……ありゃあ間違いなくこの世界の姉貴達二人だぜ…」

 

「ここで自分達の姉と戦うことになりますか……ある意味ですが」

 

「あちらにもやっぱり高雄型がいるのね…」

 

「元が同じ艦だからなぁ……まあ、いざとなったらやるぞ鳥海。姉貴達と戦える機会なんてめったにねえことだからな!」

 

「そうですね……」

 

「姉さん、大丈夫かしら……」

 

そんな様子の神通に摩耶は安心させるためかこう声をかける。

 

「まああいつなら大丈夫だと思うけど…しっかりしているロイヤル艦も一緒にいるし」

 

「いえ、このまま夜にまでもつれ込めば夜戦になりますからそこまで普通に無理して耐えそうで…シェフィールドさんとエディンバラさんに迷惑をかけてないと良いのですが……」

 

(ああそっちか…)

 

(そっちですか…)

 

どうやら神通が心配していることは生存のほうではなく、無理をする方であり、実際夜戦好きである川内なら夜までどうにか持ちこたえて夜戦することもあり得たからである。

 

そんな川内の夜戦バカっぷりをすっかり忘れていた摩耶、鳥海であった。

 

 

 

 

 

 

そしてジャベリン、綾波、ラフィー、吹雪の4人は集まって色々と話をしていた。

当然ながら途中から「彼女達」の話になった。

 

「…あっちの綾波ちゃん来てるのかな?」

 

「多分来てると思います……この感じだと」

 

「うん、多分…」

 

「次会ったら私は……言うことができるのかな……」

 

「ジャベリンが言えなくても、ラフィーが言うよ?」

 

「ら、ラフィーちゃん……そういうわけには……」

 

「ジャベリンさん、頑張ってください…こっちの綾波もついてます」

 

「は、はい!こっちの吹雪もついてます!」

 

「綾波ちゃん……吹雪ちゃん……」

 

ジャベリンは再び自らの「仲間」を感じていた。

本来なら敵国艦なのに吹雪、綾波やそして基地防衛のためにこの場には居ないが夕立、時雨ともこうして仲良くなることができた。

それ故にジャベリンには前ほどの悩みはなかった。

 

(……覚悟を…決めないと……!)

 

――――――――――――

 

一方、エンタープライズとベルファストは「KAN-SEN」と「ヒト」のことや「アズールレーン」のことを話す中、ベルファストはあることを提案しようとしていた。

 

「エンタープライズ様、折り入って頼みたいことがございます」

 

「急になんだ、ベルファスト?」

 

「いえ、声を出すといけませんので…お耳を……」

 

そしてベルファストはエンタープライズの耳へ「ある作戦」を入れた。

それを聞いてエンタープライズはとても驚いていた。

 

「…それを本当にやるのか?確かにそれはいい手かもしれないが……」

 

「はい、ホーネット様や他の皆様には許可はいただきましたので」

 

「……うむ、わかった…だが」

 

「ん?」

 

「ベルファストのお願いを聞くのは初めてと思ってな……完璧に近いお前もお願いをする時もあるのか…と」

 

「「ヒトの形」をしておりますから当然ございます…エンタープライズ様」

 

「全く…」

 

そのベルファストの行動に少し微笑んでいたエンタープライズであった。

 




ベルファストの策とは……?
アニメとは少し違っていきます……。


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広げたその手(後編)

後半です。
再び結構ドンパチしてます。



一方の島内部では航空機の目は細かくなっており、潜伏も限界を迎えていた。

 

「あわわわわわ!?」

 

「くっ…!」

 

接近してきた偵察機の一部をシェフィールドは撃墜し、川内、エディンバラ、明石とともに潜伏場所の高台から下へ降下する。

 

「見つかってしまいましたね…」

 

「どど、どうしましょう…!?早く逃げないと……!」

 

「でもでも島は囲まれてるにゃ!」

 

その通り、深海棲艦の艦やセイレーンの艦が居座っている。

だがここしか「チャンス」はなかった。

 

「でも逃げ出すには今しかないよ。夜まで持ちこたえさせようとも思ったけど、この数じゃなぁ……」

 

やっぱりと言って良いのか、夜戦も考慮していたらしい。

もっとも断念してしまったが。

 

そして鉄血のほうにもそのターゲットの情報は出ていた。

 

「重桜の偵察機がターゲットを発見しました!」

 

「んーっ…じゃあ真面目にお仕事しましょうか…」

 

「このレーベ様がいれば楽勝だぜ」

 

ケルンからの報告を受け、プリンツ・オイゲンとZ1が行動を開始しようとしたその時。

プリンツ・オイゲンはある行動を察知した。

 

「あら…でもそう簡単にはいかないようね……」

 

当然ながらアズールレーン艦隊も行動開始していたのだ。

 

「しっかりしなきゃ…狙ってーっ…ポン!」

 

「全門斉射!」

 

「撃てーっ!」

 

レパルス、プリンス・オブ・ウェールズ、オクラホマが艦砲射撃を開始した。

 

「全主砲、徹甲弾装填!てーっ!」

 

当然艦娘の戦艦「長門」も砲撃を開始している。

その艦砲射撃は重桜艦及びセイレーンと深海棲艦のほうへ向けられた。

 

「仕掛けてきたわね、アズールレーン…」

 

扶桑がそう話す中

 

「……ああ……」

 

山城は落ちることは避けたが、びしょ濡れになってしまった。

 

「牽制だな…」

 

「霧と混乱に乗じて仲間を助けるつもりね…」

 

高雄と愛宕の言う通り、そう過激な攻撃はしていない。

まるで重桜にはわざと外しているようにも見えるからだ。

 

「深海棲艦……なんつーやつだこれ!?」

 

「こ、怖い……で、でも…!」

 

クリーブランドやノーフォークなども深海棲艦との戦闘を行っていた。

 

「鉄血やらに任せっぱなしというわけにもいくまい…綾波、ニーミ、我々も出るぞ」

 

「はい…です」

 

「りょ、了解です!」

 

そして懸念事項は遠くの戦艦と空母のほうもである。

愛宕はそれを指摘する。

 

「陽動とはいえ敵戦艦も無視できないわよ?」

 

「そっちは私たちが行く。向こうにグレイゴースト…そして「私」がいるなら今度こそ勝ってみせる……!」

 

瑞鶴もその決意を新たにしたようだ。

グレイゴーストや決して自分にも負けない…と

 

――――――――――――

 

一方、迷彩シートを被って島内部に入ったのはベルファスト、神通、摩耶、鳥海、綾波、吹雪、ジャベリン、ラフィーである。

そしてベルファスト達とジャベリン達で進行方向が別れた。

 

「しかしよく考えたなぁ……上から見えねえように洋上迷彩シートで俺たちを覆わせるなんてな」

 

「感心している場合じゃありません、すでに島内部に攻撃が…!」

 

「……!」

 

そして飛び込んできたのはもちろん高雄である。

そのまま先制攻撃を仕掛けられた。

 

「ここから先は通さん!」

 

「くっ!」

 

そこをなんとかわした4人

 

「高雄ちゃん!」

 

遅れて愛宕も到着する。

 

「やっぱりくるか……気をつけろよ、駆逐艦達!」

 

そしてその別方向ではジャベリン、ラフィー、吹雪、綾波が進行を一時停めていたが、奥からは彼女達が現れた。

もちろん綾波とニーミである。

 

「綾波ちゃん……」

 

「ニーミ……」

 

「…………」

 

二人共当然ながら武器を構える。

悩みの表情を極力隠しながらも……。

 

「………くっ…!」

 

――――――――――――

 

「敵機接近!」

 

「はああっ…!」

 

サンディエゴの対空砲火の中を避け、五航戦はグレイゴーストとそして艦娘の「自分」を探していた。

 

「どこなの…!?」

 

「ごめんなさーい、構ってあげるほど暇じゃないんです」

 

なお他の随伴艦には目もくれなかった。

そして瑞鶴からは零戦を迎撃するF4F ワイルドキャットの編隊が見えた。

それは間違いなくエンタープライズの艦載機であった。

 

「迎撃機!?やっぱりいるのか!グレイゴースト!!」

 

 

そして別の方では川内、シェフィールド、エディンバラが必死の抵抗を続けていた。

 

「ちっ…!」

 

「わわわわわっ!?」

 

「くっ……!」

 

「どうだ?俺らのコンビネーションは無敵だ!」

 

だがプリンツ・オイゲン、ケルンの砲撃、そしてZ1の砲撃と雷撃。

この鉄血の連携攻撃相手では、川内達は疲弊するしかなかった。

 

「マズいにゃ…こっそり逃げられないかにゃ?」

 

明石はその場から逃げようとするも、ケルンに気づかれてかけていた

 

(は…!)

 

「にゃー……」

 

「………」

 

――――――――――――

 

「ベルファスト!神通!先行ってくれ!」

 

摩耶は神通とベルファストへ向けてこう言い放った。

 

「ですが…!」

 

「でも…!」

 

このまま4人で戦えば高雄型二人には有利であろう。

だがその分、奥へ向かうことができないのは言うまでもなかった。

 

「大丈夫だ。姉二人の相手くらいは余裕だ。な?鳥海」

 

「はい、行ってください。心配なのでしょう?」

 

「……どうかご無事を」

 

「……行きます!」

 

そしてベルファストと神通は奥のほうへ飛翔した。

 

「ほう、つまりお前たちが噂の艦か……だがまさか妹たちとはな……知っている妹達ではないが…私の艦としての記憶から察するにお前は偽物ではない…」

 

「おう、正真正銘の摩耶様だ!まさか姉貴達と戦う日が来るなんてな……!」

 

「天地がひっくり返ってもありえないとは思ってましたが……異世界へ来る形でこうなるとは……」

 

「異世界…そう……私はホントは心苦しいけど……」

 

「だが通すわけにもいかん…奇妙な縁だがここは戦ってもらうぞ……」

 

KAN-SENの高雄、愛宕が武器を構えると同時に艦娘の摩耶、鳥海も構える。

 

「高雄型重巡洋艦1番艦「高雄」!」

 

「同じく2番艦「愛宕」」

 

「3番艦「摩耶」!」

 

「4番艦「鳥海」……」

 

「「「「推して参る!!」」」」

 

その掛け声と同時に今まで、そしてこれからもないであろう高雄型同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

――――――――――――

 

「来たわね、「瑞鶴」!」

 

「あんた達は……!」

 

KAN-SENの五航戦を待ち受けていたのは瑞鶴とホーネットであった。

 

「悪いけど、ここから先は通さない……!」

 

「同じく!でも、できれば後退してほしいけどなぁ…」

 

「そうは行かないわ。グレイゴーストを倒すまで…!」

 

KAN-SENの瑞鶴の剣を艦娘の瑞鶴は同じく剣で受け止める。

 

「あんたも接近戦はできるのね……」

 

「ええ、神通から教わったのよ……これくらい!」

 

瑞鶴同士の戦いもだんだんとヒートアップしていく、そしてホーネットと翔鶴の航空機の争いも同じくだ。

 

「瑞鶴のために…ホーネット、あなたには倒れてもらうわ!」

 

「姉ちゃんのためにそう簡単に倒れるわけにはいかない…よ!」

 

それとともに戦闘機の制空権争いは強烈となった。

 

――――――――――――

 

そしてジャベリン達は引き続き、KAN-SENの綾波達と交戦していた。

 

「またですか…いい加減にするのです!」

 

「そうです…いい加減にお縄につきなさい…!」

 

だがジャベリン達は防戦一方。

艦娘の吹雪、綾波が攻撃を弾いて、ジャベリンとラフィーは引き続き回避し続けている。

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

「……うー……」

 

「………」

 

「どうして……戦わないんですか…!」

 

「いい加減に……!」

 

「………」

 

この人数なら数の暴力でKAN-SENの綾波とニーミを圧倒することは可能であろう。

だが交戦していると言えるのは艦娘の吹雪と綾波だけで、それもそちらから攻撃をすることがない。

 

(攻撃してくれれば……こんな悩みなんて……)

 

(いい加減に……してください…!)

 

ニーミと綾波はすでに精神面の限界を迎えていた。

そしてラフィーが他のみんなより一歩前に出た。

 

「ラフィーちゃん…!」

 

そのスキを見た綾波は剣を彼女へ振った。

 

 

――――――――――――

 

「……くっ!」

 

「ベル!」

 

「おー、神通!」

 

そしてこちらはベルファストと神通が駆けつけていた。

 

「姉さん、生きてますよね?」

 

「まあなんとか……だけどあれはキツい」

 

プリンツ・オイゲンは浮遊したまま砲撃をしていた。

それをベルファストと神通が防いだ形である。

 

「プリンツ・オイゲン……!」

 

「あら来たのね、ベルファスト…そしてそれが噂のドッペルゲンガーかしら?」

 

「川内型軽巡洋艦2番艦神通です…!」

 

そして神通とベルファストは構える。

だがそんな神通とベルファストをあざ笑うようにこう話す。

 

「でも残念……今回は一手の差で私たちの勝ちみたいね」

 

その時と同じくして表の瑞鶴の戦いは、KAN-SENの瑞鶴は「エンタープライズ」の後ろ姿を霧のなかでも微かにみつけたことにより、一方的に切り上げられた。

 

「ちょ、待ちなさい!!」

 

「逃げる気かグレイゴースト!正々堂々勝負だ!!」

 

(グレイゴーストを倒せば………!)

 

そしてKAN-SENの瑞鶴はその「エンタープライズ」にやっと近づき、そして剣を振るおうとした。

 

 

 

「いいえ…一手の差で私どもの勝ちでございます」

 

「…なんですって!?」

 

ベルファストがそう宣言すると同時に、KAN-SENの瑞鶴にその振るおうとした相手が振り向いた。

 

「……なっ!?」

 

「ふっ……」

 

その顔に瑞鶴は驚いた。

何故ならその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

艦娘の翔鶴型航空母艦1番艦「翔鶴」であったのだ。

 

「エンタープライズさんじゃなくてごめんなさい、瑞鶴」

 

「そ、そっちの翔鶴姉!?」

 

「私はそっちに翔鶴姉がいるから守ってただけ、エンタープライズが居るなんて一言も言ってないわ」

 

「そしてその瑞鶴に私は同伴しただけだよ?姉ちゃんの代わりにな」

 

「……ま、まさか!」

 

重桜の翔鶴が察したが、時既に遅し。

プリンツ・オイゲンのほうには()()()()()()()()エンタープライズが居たのだ。

 

「まったく、人にはああ言っておきながら……あなただってかなりのお人好しじゃないか?ベルファスト」

 

「エンタープライズ!」

 

つまり翔鶴とエンタープライズは衣装を取り替えていたのだ。

翔鶴の艦載機「試作烈風 後期型」「流星改」「天山(村田隊)」とエンタープライズの艦載機「F4F ワイルドキャット」「SBD ドーントレス」「TBD デバステイター」を交換していたほどの徹底ぶりである。

補足になるが1942年5月上旬頃に行われた珊瑚海海戦において、翔鶴の艦載機がヨークタウンへ誤着艦する珍事が起きたことがある。

翔鶴とヨークタウンは艦形が違うが、艦のサイズはほぼ同じであり、その上夕暮れ時でパイロットたちも疲労困憊であったため、間違えてしまったのだ。

 

そして今回は霧でよく見えず、更に服装まで変え、その上装備の艦載機まで変えていたのだ。後ろ姿だけを見ていれば同じ髪色の翔鶴をヨークタウン級のエンタープライズと認識するのは当然のことである。

KAN-SENの翔鶴と瑞鶴は完全にしてやられてしまった。

 

 

 

そしてそのプリンツ・オイゲンが砲撃を行おうとするも、それを防ぐような形でエンタープライズの隣から砲撃が行われる。

そこに居たのは金剛型戦艦4番艦「霧島」であった。

 

「何!?」

 

霧島が属する金剛型戦艦は太平洋戦争前の改装により30ノットの快速を誇っており、機動艦隊の随伴戦艦として太平洋戦争は大幅に活躍している。

つまりエンタープライズの随伴としては十分なものであった。

 

「さて、どうしますか?オイゲンさん」

 

「くっ……撤退よ…!」

 

鉄血側はいくらなんでも戦艦・空母を同時に相手にするのは不可能であった。

そしてオイゲンはエンタープライズと霧島が立っていた建物に攻撃をし、目くらましを行った。

 

「くっ…!」

 

そしてそのスキにこの場にいる鉄血艦は撤退した。

 

――――――――――――

 

「どうして…どうしてあなた達は戦わないんですか!?」

 

綾波はその剣をラフィーの寸前で止めていた。

ラフィーの髪の一部が切れてしまうほどの寸前で…。

 

「そうです……なんで戦わないんですか!同じ艦のあなたも!」

 

ニーミもその疑問をラフィー達へとぶつけていた。

二人からすれば相手の行動はわからないものであった。

目の前には敵がいる。なのに攻撃を仕掛けずに防戦のままであった。

 

「…それは…」

 

綾波が言おうとするとそこへ重い口をラフィーは開いた。

 

「……二人とは戦いたくない…」

 

「敵同士なのに……何故ですか!?」

 

ニーミのその問いにラフィーはいつもの態度を崩さず、こう答えた。

 

「関係無い…ラフィー 、二人と友達になりたい」

 

「……!」

 

「そう……ジャベリン達、二人と友達になりたい!」

 

ラフィーに続けてジャベリンも話す。

 

「とも……だち…!?」

 

「あなた…は……!?」

 

そしてその「()()()()()()()」の言葉に綾波とニーミはただでさえ悩んでたものが更に混乱してしまうのであった。

 




次回投稿はアニメ6話分は土日に投稿予定ですが、それにプラスアルファで短編のようなものを何話かそれとは別の日に投稿する予定です(そして7話へ繋がる6.5話のようなものも考えてます)
なので7話以降の後半戦は投稿が遅くなるのでご了承を……。


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第6話
絆のカタチ、人のカタチ(前編)


やっとドンパチが鳴りを潜める巻。


「うっ……!」

 

そしてラフィーとジャベリンから手が差し向けられた。

だがニーミは別の状況を察知したのか、冷静になろうと、綾波にこう告げる。

ただし、顔は隠しながらである。

 

「くっ………他の艦が撤退したようです……私達も撤退を」

 

「……!」

 

その手を払い除け、綾波とニーミはそのまま全速力で行ってしまった。

 

「綾波ちゃん……ニーミちゃん……」

 

「……大丈夫だと思います、きっと」

 

「え?」

 

「はい、ジャベリンさん達の気持ちはきっと届いたと思います。では私達も撤退しましょう」

 

吹雪、綾波がこう話しつつ、4人も撤退行動に入った。

 

――――――――――――

 

同じ時刻の別の場所では、高雄型の戦いが続いていた。

 

「火力が弱いぞ!摩耶!」

 

「おっと、防空巡洋艦になったから主砲が一つなくなってな!でも…!」

 

そして機銃や高角砲の射撃で高雄を牽制し、摩耶が飛びかかる。

 

「こんなこともできるんだぜ!」

 

摩耶はそのままエネルギーを纏った拳を浴びせようとするが、高雄はそれを剣の表面のところで止めた。

 

「くっ……!流石だ……わが妹よ…!」

 

「へへっ、サンキュー…な!」

 

一方愛宕と鳥海の戦いも白熱しており――

 

「はあああああっ!」

 

「あらあら…でも……まだよ!」

 

こちらもこちらで愛宕は近距離で攻撃をしようとして鳥海はそれを避けつつ、中距離からの射撃をして、距離を保ってる形だ。

 

「はあっ…やりますね…!」

 

その戦いが続く中、愛宕はニーミと綾波が撤退するところを見つけた。

そして鳥海との距離を取ったところ、愛宕は同じく距離を取った高雄へ撤退の話をする。

 

 

「……高雄ちゃん、今日はここまでみたい」

 

「……ああ、そのようだな……」

 

「はあっ…なんだよ、もう終わりかぁ?」

 

「ああ、残念ながら今日のところは降りよう……だが次は決着をつける!」

 

「じゃあね。摩耶ちゃん、鳥海ちゃん」

 

そして重桜側の高雄型2隻も撤退を開始した。

 

「はあっ……はあっ…」

 

「大丈夫ですか?摩耶」

 

「ああ……しかしやっぱ強いな…」

 

「はい、やはり彼女達は間違いなく姉さん達です……あの強さに偽りはありません」

 

「だろうな……じゃあアタシらも撤退するか…」

 

摩耶と鳥海は疲れつつも撤退を開始する

こうして救助作戦はベルファスト考案の策もあり、損傷こそあれど成功することができた。

そして追撃を諦めたレッドアクシズ艦隊は周囲から撤退した。

 

――――――――――――

 

そして別の日の朝、エンタープライズは朝食をとる気になったようで、ベルファストとともに食堂のほうへ来ていたが、やけに騒がしかった。

 

「すごい!こんな朝食はじめてだよー!」

 

「流石大和っぽい!」

 

「夕立、あんまり駆け込まないで……」

 

「本場の方々へ料理を提供するのは不安でしたが…喜んでくださり、なにより」

 

そう大和が言う通り、今日は大和が朝食を作っているようで、その評判が良いようだ。

ビュッフェ方式であり、洋食のスクランブルエッグやベーグルはもちろん、和食の鯖の味噌煮や白飯などを取り揃えている。

大和型は居住性能が高く、そして厨房は本格的な設備などを取り揃え、その上本職の料理人が調理を担当したりしていたため、連合艦隊司令部や士官はもちろん、下士官や兵卒にも良い食事を提供していたと知られる。

そしてトラック泊地では保養所としても利用されていたためか、大和ホテル及び武蔵旅館と揶揄された。

そのため――

 

「まるでホテルみたいだなぁ……」

 

「……ははっ……」

 

ホーネットから言われるように、ホテルみたいとユニオン、ロイヤル艦からも言われている。

当然本人的には複雑であり

 

(ホテルじゃありません……ううっ…)

 

内心はこう思っていたそうな。

 

そしてエンタープライズはご飯をよそわれて、食べているが

そこを瑞鶴が同じくプレートを持って通りかかる。

 

「あら、お一人?」

 

「瑞鶴か……おはよう」

 

「おはよう………隣、良い?」

 

「ああ……構わん」

 

そうして瑞鶴はエンタープライズの隣の席に座る。

そして一緒に食べている中、瑞鶴は思ったことがあったのかこう話す。

 

「あんなに戦ってるのにあんま食べないのね……」

 

「そうか?」

 

「だって赤城さんなんかあんなに食べてるし」

 

そうして瑞鶴は赤城が居る方をさす。

そこではモグモグと大盛りのご飯やおかずを食べている赤城の姿があった。

 

「やっぱり大和さんの料理は格別ね……もぐもぐ……」

 

「赤城さん、食べ過ぎです。周りが見ています…」

 

もちろんその赤城に注目の目は色々と集まっていた。

 

「す、凄い……ハムマンの何倍…?」

 

ハムマンも驚愕していた。

 

「……あそこまでは食えん」

 

「…まあ、そうよね…」

 

その赤城の光景にはエンタープライズも流石に顔が少し引き気味であった。

 

だがこうして誰かと一緒にご飯を食べるという光景は今までエンタープライズにはなく、彼女が変わっているということが目に見えてわかった。

 

「………」

 

「どしたの?」

 

「いえ、ホーネットちゃん……エンタープライズちゃんの雰囲気が少し変わったかなって」

 

それを見たヴェスタルは嬉しそうな表情であった。

 

――――――――――――

 

その後、朝食を終えた後、黒いメンタルキューブについて話をするために一部の面々は集まった

その面々はプリンス・オブ・ウェールズ、ヴェスタル、クリーブランド、エンタープライズ、ホーネット、ベルファスト、重桜の明石と艦娘の長門、赤城、加賀、明石であった。

 

「黒いメンタルキューブ…ですか…」

 

「セイレーンの技術を使った「重桜」の切り札ということか……」

 

「真っ暗ね……」

 

「本当にこっちにも長門や赤城、加賀がいるんだにゃ……そして明石も…」

 

そう話す赤城達を見つつ、重桜の明石は艦娘にやはり驚いている。

なお話は続いていく。

 

「これがあれば向こうの量産型セイレーンを無力化できるんじゃないの?」

 

クリーブランドのその問いには首を振る明石

 

「量産型を操ってるのはオロチの方にゃ。こっちは補助にすぎないにゃ」

 

「巨大軍艦オロチ…重桜がそんなものを建造してたなんてね」

 

「オロチとこのキューブ、どんな関係があるんでしょう…?」

 

ヴェスタルの問いにも首を振る。

そう話していると赤城はその建造であることを思い出していた。

 

「確かその計画は重桜の希望と言っていましたね、そっちの明石さん」

 

「そうにゃ……何かわかったのにゃ?そっちの赤城」

 

「いえ、「八八艦隊計画」を思い出してたんです」

 

「「八八艦隊」か……」

 

「なんだそれ?」

 

「ああそれは……」

 

ホーネットのはてなに長門がその計画について話し始める。

八八艦隊計画

第一次世界大戦後に大日本帝国において計画されたものであり、艦齢8年未満の戦艦8隻と巡洋戦艦8隻を建造し、海軍の中核戦力として運用する計画である。

そしてその一環としてその主力艦の補助艦艇として古鷹型、球磨型、長良型などを合わせて100隻を建造するものであった。

戦艦は長門型、加賀型、紀伊型、巡洋戦艦は天城型、第十三号型であったとされる。

 

完成すれば、日本は一気に仮想敵のアメリカに対抗できる艦隊を持つことになるのだが、国家予算としてはいくら大戦景気で一気に成長した日本でもとてもじゃないが負担しきれるものではなかった。

そして諸外国もある種似たような状況下になったため、大戦後の軍縮ムードも合わさり、ワシントン海軍軍縮条約が締結されることとなった。

そのためこの八八艦隊計画は破棄されている。

 

その計画を聞いてホーネットはこう話す。

 

「なるほどなぁ……凄まじい計画だなぁ…」

 

「まあそれで私と陸奥が生まれたのだが……そして赤城と加賀も…」

 

「はい。私と加賀さんは元は戦艦で、私は天城型巡洋戦艦、加賀さんは加賀型戦艦なんです」

 

「でもそれは珍しくないことだ。レキシントンとサラトガも改装空母で…」

 

「いえ、ウェールズさん…このことにはあることがあったんです…元々は天城型の2隻が空母改装の対象で、加賀型は二隻とも廃艦になる予定だったんです」

 

「なに?」

 

「赤城さん……」

 

加賀はその赤城を心配して彼女の肩に手をあてる。

そして赤城は少し顔を下に下げつつも続けてこう話す。

 

「だけどそうじゃなくなった……その原因は私達の世界での西暦1923年9月1日に起こった「関東大震災」です」

 

「震災…だと?」

 

関東大震災

1923年9月1日に相模湾沖で観測された地震による一連の災害のことである。

そしてその地震により、空母改装中の天城が船台から外れ、竜骨を損傷し、艦としては使い物にならなくなり、廃艦となった。

その代わり、空母改装の白羽の矢を立ったのが加賀であり、改装され「空母加賀」は誕生したのである。

 

そのため、天城の損傷がなければ加賀はそのまま廃艦となっていた可能性が高く、非常に複雑な経緯を持っていると言えよう。

 

「その震災で天城は廃艦で…そして加賀さんが空母になった……ということです」

 

「赤城さん……」

 

「加賀さん、大丈夫です。今は今ですから…時は戻ることなんてできませんし」

 

加賀の心配に赤城は顔を上を向け、元気をアピールしていた。

 

「そうか……」

 

プリンス・オブ・ウェールズは一航戦の話を聞いた後、再び黒いメンタルキューブを見ている。

そして艦娘の明石が黒いメンタルキューブについての私見を述べる。

 

「私からしてみてもあれは尋常じゃないものがあります。詳しく見ないと言い切れませんが莫大なエネルギーを内蔵しているとは考えられます」

 

「分かっているのはこのキューブはセイレーンが与えた物で。赤城がそのセイレーンと手を組んでいることか…」

 

「それが確かなら重桜自体が騙されているということになります」

 

プリンス・オブ・ウェールズとベルファストの指摘通りであれば、それを重桜にとってもまずいことであった。

その「オロチ計画」や「黒いメンタルキューブ」の内容次第では重桜も莫大な被害を受けることとなる。

 

「…赤城、何考えてるにゃ…」

 

「あちらの私は何を考えているのか……」

 

赤城と重桜の明石がそう言っていると、エンタープライズはふと黒いメンタルキューブに触れる。

 

「……!」

 

そしてエンタープライズはどこか別空間へと飛んだ。

そこで見たものは炎ととも変貌した「自分」であった。

 

「これは……!」

 

「エンタープライズ様?」

 

「……はっ…?」

 

「いかがなさいました?心ここにあらずといったご様子でしたが……」

 

「いや、なんでもない。大丈夫だ」

 

黒いメンタルキューブは黒き光をまだ輝かさせていた。

邪悪な力そのもの…そう言っても差し支えはなかった。

 




史実ネタは適度に入れつつ…

艦娘のほうの瑞鶴はエンタープライズのことを放ってはおけない感じです。


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絆のカタチ、人のカタチ(後編)

「ジャベリン達、言うことができたんだ」

 

「でも逃げられちゃったっぽい…?」

 

「はい……」

 

一方、綾波は先程の作戦で起こったことを時雨と夕立に話していた。

 

「でも、ジャベリンさんとラフィーさんの気持ちは伝わったと思います…あちらの二人に」

 

「うん。でもいきなり敵から言われたら戸惑う気持ちもわかるよ……。仮に僕がソロモンとかの時にそういうふうに言われてたら混乱するし……」

 

「まあ史実だと絶対にありえないっぽい……。でも今こうしてヒトの形を持ってるっぽいから…」

 

「はい、確かに綾波達は元は軍艦で、今も「船」であることには変わりません……でも前がああだからといって今も変わらないというのは変です。こうしてヒトの形を得ることができたのに……」

 

「まあ、昔ならともかく今もそれを貫く必要はないからね……まあでも僕からしてみれば少し理想論が高めだとは思うけど…ジャベリン達なら行ける気がするよ…なんとなくだけど」

 

本来なら「そんな理想論は捨てろ」と誰もがそう思うであろう。

だが時雨達にとっては可能性があると自然に思えたのだ。

それは彼女達の輝きがあるからか…というのかは定かではないが。

 

「そうっぽい!!第一、川内さんから聞く限り、あっちの子達は悪い子じゃないっぽいし…」

 

夕立のその声に時雨は少したじろぐ。

 

「おっとと…まあ夕立の言うとおりだけど……でもそれなら余計に開戦した理由が謎だよ…。領土拡大や利益を得るためじゃない戦争……意見の違いで対立しているだけなら冷戦状態が続くだけのはず……相手を服従させるだけならリスクが高すぎるし、そしてこの世界には敵のセイレーンもいる」

 

「でもそれで開戦したレッドアクシズ……そしてそのセイレーンと組んだ重桜の赤城……やはりこの戦いにはなにか裏があるかもしれませんね……」

 

時雨、夕立、綾波がこの「歪み」がある戦争の考察をしている中、吹雪、ジャベリン、ラフィーはKAN-SENの実艦の清掃を行っていた。

 

「……私達敵同士……」

 

ただじ、ジャベリンは綾波達について考えて、いい表情をしていなかった。

 

「ジャベリンちゃん…」

 

その様子のジャベリンに吹雪も心配した表情を見せるが、ばしゃっと水がかかる

 

「うわあっ!?」

 

「ジャベリン、吹雪…サボらない」

 

どうやらホースの水をラフィーが二人にぶっかけたらしい。

 

「もう、お返しだよ!」

 

「全力で行く…」

 

「うわわわ、私も…!」

 

そしていつの間にやら3人で報復合戦(?)を始めている。

そしてその水が飛び散り、光の屈折により虹ができていた。

――――――――――――

 

そして場所は変わり、海岸では

艦達が開くお店が増えていた。

 

「お得な品がいっぱいあるにゃ!買い逃したら後悔するにゃ!」

 

「お役立ちになるものも色々とありますよー!」

 

W明石による明石商店である。

 

「はあっ…はあっ……明石、こんぐらいでいいの?」

 

そしてそれを手伝うのは夕張である。

 

「ありがとうございます。夕張さん」

 

「たく……結局明石も「アイテム屋」なのね…」

 

「いやー、こっちの猫明石さんがやると聞いたらうずうずして……混ぜてもらいました」

 

「そうにゃ!あーちなみに利益は折半だからにゃ?」

 

「わかってますよ。はいというわけでいらっしゃいませー!」

 

そのほかにも平海達のパンダまんの出店を含め、数々の出店があった。

その光景を見て、エンタープライズはこう話す。

 

「店が増えてる…まるで人の街みたいだ……」

 

「私達はヒトですよ?」

 

「また同じ事を言うのだな…私にはよく分からないよ」

 

その街のように艦達によって大きく賑わっている。

戦いがない時の彼女達はまさに普通の少女とも言えよう。

そしてベルファストは続けてこう話す。

 

「エンタープライズ様に必要なのは心の優雅さでございますね」

 

「優雅さ?本当に訳がわからないな……まさか一緒にメイドでもやれとでも言うつもりか?」

 

「あら、よろしいのですか?どこに出しても恥ずかしくない立派なメイドに躾けてみせますが」

 

「いや…それは……」

 

「メイドはともかくとして新しいことを始めてみるのは良い考えだと思います。趣味でも何らかの仕事でも戦い以外の何かを……」

 

「私にとっては難題だな……」

 

「何事も挑戦ですよ。人生とはいつだって冒険なのですから…」

 

「そういうものかな?」

 

「そうです……そしてあなたのお名前の意味はなんでしたか?」

 

「名前の意味…エンタープライズ……「冒険心」「困難への挑戦」……!」

 

その名前の意味を確認した彼女はハッとした。

そういう名前であるのに、その自分が冒険しないのは少し名前負けしてしまうことになってしまうのである。

 

「はい……ですから様々な挑戦をしてみてください。何か合うものはきっとあるはずです。案外メイドも…」

 

「いや、メイドは遠慮しておく……しかし冒険か……」

 

自分の名前の意味の通り、その冒険をしてみようと

エンタープライズは思うのであった。

 

――――――――――――

 

その後、夕方

基地内の大浴場では、様々な艦が入浴しに来ており、賑やかである。

 

「………」

 

その入口ではユニコーンが入るか入らないか悩んでいたようで

そこへジャベリン、ラフィー、吹雪、綾波、時雨、夕立が通りかかる。

 

「あれ?ユニコーンちゃん?」

 

「どうしたっぽい?」

 

「あ……どうしてジャベリンちゃんとラフィーちゃんと吹雪ちゃんは濡れてるの…?」

 

「はははは……まあ色々とあったので……」

 

吹雪はごまかし笑いをしていた。

 

「でも…ユニコーンちゃんもお風呂?じゃあ一緒に入ろ?」

 

「えっ、ユニコーンは……」

 

「寒い……」

 

「さっさと入るっぽい!」

 

「このままだと風邪ひいちゃう……早く早く」

 

ジャベリン達の勢いに押され、ユニコーンも入っていった。

 

――――――――――――

 

そして着替えてる最中、ジャベリン達が色々と話す中、ユニコーンの手は遅いままで

 

「……」

 

チラチラと他の人の「胸」を見ている。

そして自分のその胸を見ていた。

ユニコーンは身長こそ駆逐艦達と同じか変わらないものの、胸は豊かなものであった。

 

「早く入るっぽい!」

 

「夕立、そんな急がなくてもお風呂は逃げないよ?」

 

「はははは……夕立ちゃんは相変わらずだね…」

 

「そうですね……」

 

「でも早くしないとお湯が冷めるっぽい!」

 

「うん、お湯が冷める……」

 

「冷めないよ!ユニコーンちゃん、先行くね!」

 

「う、うん…」

 

そしてジャベリンたちが先に行き、ユニコーンは遅れてその場から離れた。

 

――――――――――――

「やっほー、おっふろー!」

 

「ぽいぽい!湯船っぽい!」

 

「こら、走ると危ないでしょ!」

 

「そうだよ、危ないよ」

 

ハムマンと時雨の注意を無視して、夕立とサンディエゴはある風呂にそのまま飛び込んだ。

 

「ああ、そっちは!」

 

「ぽぽぽぽぽぽぽぽいいいいいいいっ!?」

 

「あばばばばばばば!ビリビリするううううううっ!?」

 

そのまま風呂から弾き出される二人。

 

「な、なんでっぽい………」

 

「な、なんで、お風呂がビリビリするの…?」

 

「エルドリッジちゃんから電気が出てるから…」

 

ノーフォークの言う通り、その湯船の中にはキャノン級護衛駆逐艦のエルドリッジが居た。

エルドリッジはお風呂が好きなのであるが、なぜか出るようになってしまった電気のせいで同じ湯船の中に入ったら夕立とサンディエゴの通りになるため、エルドリッジが居る時は他の艦は他の湯船に避難するらしい。

 

「大丈夫?夕立」

 

「な、な、なんとかっぽい……」

 

 

時雨が夕立を起こそうとする中、同じく二人の明石もお風呂に入ってるようで

 

「仕事終わりに温泉には入れるなんて最高にゃー」

 

「そうですねー……生き返ります……」

 

「我がロイヤルの手によるテルマエ式大浴場よ!温泉が重桜だけの物とは思わないことね!」

 

「流石、陛下」

 

クイーンエリザベスはえっへんと立ち上がって自慢をして、ウォースパイトはそれに合いの手を入れていた。

まあ実際すごいものであるのは事実である。

 

一方、同じく入っていた長門は駆逐艦達に声をかけた

 

 

「おーい、駆逐艦達!あまり入りすぎるとのぼせるぞー!はいりすぎるなよー!出たらラムネを用意してるからなー!」

 

「「「「はーい!」」」」

 

長門はすっかり駆逐艦達に好かれてしまったようで、長門周辺には駆逐艦が集まっている。

 

(うむ……やはりこういう事は悪くない……)

 

「…………!」

 

そんな面倒見が良い長門を鼻血を垂らしながら凄まじい目で見ている「空母」が一人いるのだが、それに関しては触れないでおこう。

 

「長門さん、あの時から他の駆逐艦さん達に好かれてる感じがします…」

 

「確かにそうだね……流石長門さん…」

 

綾波と吹雪がそう話していると、その隣ではユニコーンが泣き出してしまっていた。

 

「うっ……」

 

「え!?どうしたのユニコーンちゃん!?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「何かあったんですか!?」

 

ジャベリン、吹雪、綾波が驚いていると、ユニコーンは泣きながらも続けてこう話す。

 

「ユニコーン…背低いのに……胸だけこんなで……すごく変……」

 

彼女はどうやら自分の身長と胸が比例していないということをすごく気にしていたようだ。

だがジャベリンと綾波、ラフィーは彼女を励ますべく、こう話す。

 

「そんなことないんじゃないかな?」

 

「そうですよ?変じゃありません」

 

「うん、ユニコーン、スタイル良くてカッコイイ」

 

「うそ……」

 

「嘘じゃない……本当」

 

「そ、そうです!ユニコーンさんは私なんかよりスタイルが良くて…」

 

吹雪も遅れてそう話す。

 

「でも、ユニコーン…みんなと違うし…」

 

「みんな違うの当たり前…変な人なんていない」

 

「はい、皆が皆、違ってるんです……」

 

ラフィーと綾波の言う通り、皆が皆違っている。

胸が大きいやら小さいやら……まさに十人十色であった。

 

「………」

 

その後、プリンス・オブ・ウェールズとイラストリアスがお風呂へ入ってきた時には――

 

「うふっ…」

 

「何かいいことでもあったのか?」

 

「ええ…とても……」

 

そのユニコーンはジャベリン達とともに笑顔で湯船に入っていたそうな。

 

――――――――――

 

「よく拭くんだぞー!まだ吹き足りんようだな……それ!」

 

ワシワシとシグニットの髪を拭いている長門

 

「うわわわわっ!」

 

そして風呂から上がった艦達はそれぞれ自由時間を過ごしている。

ゲームをする者、盆栽をいじる者

読書をする者、飲み物や中にはお酒を飲む者もいる。

 

そんな中、ジャベリン、ラフィー、ユニコーン、綾波、吹雪、夕立、時雨はジャベリンの部屋に集まり、皆でお菓子を食べていた。

そして当然ながら「綾波」と「Z23」のことについて触れ始めた。

 

「綾波ちゃんとニーミちゃん?…ニーミちゃんは知らないけど、綾波ちゃんはあの時の子?」

 

「うん……私たち敵同士だけど、こんなの間違ってるかもしれないけど…」

 

「でも関係はない…だよね?」

 

「うん、時雨ちゃんの言う通り…諦めるつもりはない…。私、綾波ちゃんとニーミちゃんと友達になる!敵同士は無理って言うけど……私はこうして吹雪ちゃん、こっちの綾波ちゃん、時雨ちゃん、夕立ちゃんと友達になれたし…」

 

「うん、私達は元の元は敵同士っぽいけど、こうして仲良く話せてるっぽい!」

 

「ラフィーも吹雪とかと普通に友だちになれたし……いけると思う…ね?」

 

「そ、そうですね!…奇妙な縁ですけど、こうして仲良くなれましたし」

 

ラフィーはそう言って吹雪のほうを見る。

それで吹雪は少し照れくさいようで、ちょっとぎこちなくになっている。

 

「そうです……前にも言いましたが、こっちの綾波も付いてますから…」

 

「ゆ、ユニコーンも!」

 

「うん!」

 

二人のその言葉にジャベリンは元気よく返事をした。

そしてその日の夜はジャベリン達にとってとても良い夜になったそうな。

 

 

――――――――――――

 

一方の重桜基地

こちらも同じく夜であり、艦達はそれぞれ色々な娯楽をして過ごしているのだが…。

 

「………」

 

「………」

 

ニーミと綾波は如何せんいい表情をせずに、夜の海を見ていた。

やはり「友だちになりたい」にずっとひっかかっているのであろう。

 

「……敵同士なのに……変です……」

 

「はい……あの方々は……おかしすぎます……」

 

((でも………))

 

「敵」であるジャベリン達が行ったその宣言は「戦場」というところでは間違っていると言える。

殺るか殺られるか……それが全てであるからだ。

 

 

だがその「友達」という選択は本当に悪いものと断定できるのか?

それはできるはずもない。その行為自体はとても良い気持ちであり、悪いことではない。

その輝きを完全に否定できるものではないというのも事実であった。

当然その答えは見つかるはずもなく……

 

「…綾波にはもう何が正しいがよくわからない…です…」

 

「……私にも……わからなくなりました……結局…何なんでしょう…」

 

「…………」

 

そのまま悩み続ける二人であった。

おそらくはまたどこかで出撃をする機会はあるのであろう。

その時、自分たちはどうすればいいのか?

銃を向けて良いのか、手を取って良いのか。

 

その悩みはまるで長い長い迷路のようであった。

 

 




次回は短編を何回かで分けて出す予定です。
投稿タイミングは不定期です。

7話以降の投稿は2月下旬~3月に入ってからになるかも……。
3月13日の11話放映次第なところも少々あるので……。


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短編「不審者」

やはりと言って良いのか
この人登場です。


「…撮られている…?本当か、吹雪」

 

「はい、私が基地の外の桜道を通ってる時に急にカシャッて音が聞こえて……でも見回しても誰も居なくて……」

 

長門は吹雪からの相談を受けていた。

どうやら「盗撮」されているらしい。

なお吹雪曰く、グリッドレイなどめぼしいカメラ持ちの艦に話を聞いてみたところ、彼女達でもなかったそうな。

 

「基地内とは言え、気味が悪いな……人間が来るはずはないのだが……そして駆逐艦を狙って…か」

 

「はい…夕立ちゃんや時雨ちゃんも撮られたみたいで間違いじゃないんです……少し怖くて……」

 

「ひよこかなにかの仕業かもしれんが……わかった、調べてみよう」

 

――――――――

 

(とは言ったものの……判断材料としては駆逐艦を狙う盗撮犯…か……軽巡以上に目撃証言がない以上はそう考えるしか無い)

 

そして長門は桜道のところに来つつ、重巡青葉のことを思い出もいた。

彼女も鎮守府内のゴシップやらを嗅ぎつけたりで盗撮ギリギリまでしたりしているが、駆逐艦だけを狙っているというわけではなく、そして当然ながらこの世界にはいない。

 

(妖精やひよこのイタズラの可能性もなくはないが、聞く限りでは首を振っていた……隠している可能性もなくはないが……)

 

そう考えていると目の前に駆逐艦である「チャールズ・オースバーン」や「オーリック」「サーチャー」「スペンス」「フート」のいわゆるビーバーズが通りかかった。

何やら楽しそうな会話をしている。

 

(うむ、相変わらず元気で何よりだ……フレッチャー級は流石に多すぎるとは思うが)

 

長門は艦娘のフレッチャー級「フレッチャー」「ジョンストン」も思い出しつつ、そう思っていたのだが……

 

その時、カシャッという音がした。

 

「……!」

 

長門はその方角を振り返ると、誰も居ない。

いや木陰に姿を隠しているのだろうと察した。

 

 

そして長門は忍び足でその方へ近づき、41cm砲を部分展開して、その不審者にこう伝えた。

 

「……動くな!」

 

「……!」

 

そこには

ロイヤル所属の航空母艦「アーク・ロイヤル」の姿があった。

 

「貴様…ロイヤルの…!」

 

「お前は…艦娘の……!」

 

そのアーク・ロイヤルの手にはもちろんカメラがあった。

そのカメラはデジカメであるようで、その画面には駆逐艦の姿があった。

 

「貴様が駆逐艦の盗撮犯だっただと…?」

 

「と、盗撮ではない!これは駆逐艦の妹たちの記録を取ろうと真面目にやっていることで…」

 

「なら何故隠し撮りをする必要がある……?」

 

「それは……そもそもお前!最近、駆逐艦に懐かれているようだな!」

 

「懐かれている…まあ確かに最近は色々と聞かれたりも頼られたりもするが……」

 

そう長門が答えると、アーク・ロイヤルはなぜか涙を流しつつもこう話した。

 

「何故そんなことが普通にできるんだ……私のときはだいたい避けられてしまっているというのに……」

 

「何故涙を流す……良からぬことを考えているからではないのか?」

 

「なに!?私は決して犯罪などはしていない!確かに駆逐艦にははつじ…ではなく愛しく思っているが……」

 

「はつ……?」

 

「と、ともかくだ!確かに遠くから水着の駆逐艦達を望遠鏡で見たときもあるが……自重はしている…!」

 

「………」

 

(あの時の反射はこいつからだったのか……!)

 

艦達が海で水着で遊んでいたあの時、カメラのフラッシュの光が森のほうから反射してたのはやはりこの人のせいであった。

あまり理解できない表情をしつつ、長門は頭を抱えつつもこう話す。

 

「……はぁ、まあ性癖自体を否定するつもりはないが……だが、実際うちの艦娘達が怖がっている。控えてはもらいたい」

 

「う、うむ……そうか……なるべく気が付かれないように撮ろう」

 

「いや、撮るのをやめてほしいのだが…」

 

そうしていると、表で誰かが転んだようで――

 

「!?」

 

アーク・ロイヤルはすぐさま瞬時に走って駆け寄った。

どうやら駆逐艦が転んだらしい。

 

「こいつ?!」

 

その速さに思わず長門も驚いていた。

 

「ぽい………」

 

「全く、夕立はいつも早いから……ほら擦りむいてるよ」

 

「ホントだっぽい……でもこれくらい平気っぽ……痛っ!」

 

「医務室に行ったほうが良いよ?バイキンが入ってたら大変だよ」

 

「その通りだァ!」

 

「!?」

 

夕立と時雨の間に瞬時に入ってくるアーク・ロイヤル

そして続けて興奮気味にこう話す。

 

「だから、お姉さんが、舐めて…消毒して……」

 

「ぽいいいいいいいい!?」

 

その一部始終を見ていた長門はすぐさま艤装を一部展開。

 

「てーっ!!!」

 

言うまでもなくすぐさまその不審者に火を噴いた。

 

――――――――

 

基地内医務室にて

 

「すまぬ、勢い余って主砲を展開してしまった……」

 

「いえ…むしろ主砲でお灸をすえてくださり、感謝しております…」

 

「一応演習弾で砲撃をしたのだが……まあこうなってしまうか…」

 

饅頭達により手当中のアーク・ロイヤルの横で、長門と迎えに来たベルファストで話していた。

 

「察するにそちらではいつものことのようだな……私の知る艦娘のアーク・ロイヤルはああではなかったのだが……世界そして艦娘とKAN-SENの違いというものが改めて実感できた」

 

艦娘のアーク・ロイヤルはビスマルクと絡んでいる時こそ天然な風になってしまうが、言うまでもなくここまで偏狂な人ではない。

それゆえに長門は驚いて、主砲を演習弾とは言え緊急発射することになったのであろう。

 

「そこまで……。アーク・ロイヤル様は悪い方ではないのですが……駆逐艦の方々へ対しての愛のベクトルが……」

 

「ああ……私にも嫉妬しているようだからな……はあっ…」

 

「ぐへへへ……くちく……おねえさんが……」

 

そう二人が話す中、アーク・ロイヤルは夢の中で良からぬことをしているようで、寝言として漏れていたそうな。

 

(全く……)

 

――――――――

 

その後、近海に深海棲艦が出撃したというのが、哨戒艦から発信され、艦娘・KAN-SENが出撃した。

 

「…しかし深海棲艦とは……見慣れないやつも増えたのだな」

 

「…ああ、私達の世界から何故かな…」

 

(まさか同じ出撃になるとは……)

 

編成は戦艦「長門」空母「アーク・ロイヤル」「イラストリアス」重巡「鳥海」軽巡「クリーブランド」駆逐「シグニット」であった。

 

「基地で待っている駆逐艦の妹たちのためにも頑張るぞ!」

 

「駆逐艦以外のためにもお願いいします」

 

「ふふっ…相変わらずですね」

 

「ハハハ……相変わらずのアーク・ロイヤルだ…」

 

アーク・ロイヤルのその意気に鳥海は冷静にツッコミ、クリーブランドとイラストリアスは苦笑いしている。

そして当の駆逐艦1人は……。

 

「ううっ……なんでうちがアーク・ロイヤルさんと…」

 

こんな感じであった。

 

(本当に大丈夫なのか……?ベルファスト曰く、戦闘のときは真面目のようだが……)

 

「電探に反応!敵艦捕捉!ル級1、ネ級2、へ級2、ニ級1」

 

「来たか…私が先に航空機を出して突破口を開こう。良いな?長門」

 

「あ、ああ……」

 

アーク・ロイヤルはどうやら戦闘モードに入ったようで、先程までの有様が一転して凛々しくなっている。

その様子にも長門は驚いていた。

 

「ソードフィッシュ中隊、出撃の準備を!」

 

「全主砲装填!」

 

「皆さん、前進します。最大船速!ヨーソロー!」

 

「了解!」

 

「……うん、うちも頑張る!」

 

こうして戦闘配置に入り、特に難なく深海棲艦を撃破することに成功した。

 

――――――――

 

そしてその後の主要艦による会議でも……

 

「どう思いますか?アーク・ロイヤルさん」

 

「うむ、私から見る限りは重桜はまだ……」

 

「……」

 

(本当に駆逐艦が絡まなければ真面目なのだな……)

 

その様子のアーク・ロイヤルは艦娘のアーク・ロイヤルとはベクトルこそ違えど、同じ魂を感じられる。

やはり「元」は同じらしいと長門は思っていた

 

「では今日はこれで解散とする。以上」

 

プリンス・オブ・ウェールズの言葉で解散となり、アーク・ロイヤルは何か急いで走っていった。

 

「アーク・ロイヤルさん、あんなに急いでどうしたんでしょう?」

 

「……まさか…」

 

イラストリアスがはてなを浮かべる中、長門はどこかピンと来ていた。

 

――――――――

 

「……良い……良い……」

 

そこは大浴場であり、駆逐艦が入っている中、アーク・ロイヤルは鼻血を垂れ流しつつ、その様子を見ている。

 

「………」

 

一応手を出しておらず、ただ見ているだけなので、長門はまあ見逃しているわけだが、如何せんなんとも言えない気持ちであった。

 

(褒めていいところもあれば……こういう一面もある…か……)

 

「へへへ………」

 




もしもし、MI6ですか?


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紅茶の思い出

短編ってネタは思いつくけど形にするのが難しいと思いました(こなみかん)


「……ん?」

 

吹雪がアズールレーン基地内を歩いていると、ある匂いを感じた。

 

(この匂い………いい匂い……)

 

その匂いに誘われて足をすすめると、基地内の給湯室にたどり着いた。

そこにはベルファストが紅茶を沸かしていた。

 

「あら、吹雪様…どうかなされましたか?」

 

「あ、ベルファストさん……なんかいい匂いがするな…って」

 

「はい、只今紅茶を沸かす練習をしておりました」

 

「練習?ベルファストさんほどのメイドさんが練習なんて……」

 

吹雪がそう疑問に思うとベルファストはこう返す。

 

「私ほどのメイドこそ、いつも良い紅茶を淹れなければならないのです……ですから手が空いた時はこうして腕を確認しているのです」

 

「へー……」

 

「よろしければこの紅茶をお淹れしますが……どうでしょうか、吹雪様」

 

「い、良いんですか!?」

 

「ええ、構いません…」

 

「は、はい!よろしくおねがいします!」

 

あまり接したこと無い相手故に、吹雪はガタガタになってしまったようだ。

その後、吹雪はテーブルに座り、暫く待った。

そして――

 

「おまたせしました」

 

「うわっ、スコーンまで用意してくれたんですか!?」

 

「はい、ティータイムには必要なものですから……他にもお菓子はご用意できますが……」

 

「いえいえ、これで大丈夫です!…では……」

 

そして吹雪はティーカップに手を取り、口に近づける。

 

ごくっ…と紅茶を口に含ませるとその口の中では紅茶の風味が広まった。

程よく砂糖の甘みもあり、その風味を引き立たせる。

 

「お、おいしい…なんというか上手く言葉にできないのですが……甘すぎることもなく、風味が強くなく、程よくて……」

 

「ふふっ……光栄でございます……では私も失礼をしまして…」

 

そしてベルファストも同じく紅茶を飲み始めている。

 

「……なるほど……ですがまだ……」

 

「……」

 

(ベルファストさんも大変なんだなぁ……)

 

そう吹雪が思い、紅茶を見ていると

ある「帰国子女」のことを思い出していた。

 

(そういえば金剛さん、今何をしているんだろう……?)

 

「吹雪様?何か考え事でも……手が止まってしまってますが・・」

 

「あ、いえ……元の世界の…艦娘の……金剛さんのことを思い出してて…」

 

「コンゴウ……?」

 

「はい、霧島さんのお姉さんの金剛さんです。金剛型戦艦1番艦の」

 

「ああ、確かにそうおっしゃられていましたね……その方が何か?」

 

「はい、金剛さんも紅茶を淹れるのが得意だったんです。それで思い出しちゃって」

 

「なるほど……その「日本」の方も紅茶を…」

 

「まあその人は帰国子女で……英国生まれだからだと思います」

 

「なるほど……」

 

金剛型戦艦は1番艦はイギリス・ヴィッカーズ社での製造、2番艦は横須賀海軍工廠での半ノックダウン製造で、3番艦は神戸で、4番艦は長崎での民間建造となっている。

なお3番艦と4番艦の建造競争は初めて民間で戦艦を建造ということであり、建造競争が凄まじいことになったとか。

 

 

そんなところを偶然霧島が通りかかった。

 

「吹雪さん、どうしたんですか?」

 

「あ、いえ…ベルファストさんの紅茶を頂いて……」

 

「霧島様もよろしければございますが」

 

「ええ、お願いします」

 

「では……」

 

ベルファストは霧島にも紅茶を淹れ、霧島はそれをいただく。

 

「……ふぅ……久しぶりね……」

 

「はい、それでちょうど金剛さんのことを思い出していたんです」

 

「姉さま……そうですね……確かに今頃紅茶を淹れて飲んでそうですね」

 

「それで比叡さんが変なスコーンを持ってきて凄いことになって…」

 

「比叡お姉さまは…確かにそうなりますね……」

 

「その比叡様、そんなにお料理が上手ではないのですか?」

 

ベルファストが再び紅茶を飲みつつ、そう質問すると

霧島はこう答える。

 

「いえ、元は陛下の御召艦なので上手なのですが……たまに変な具材を入れて空回りさせてしまって……」

 

「なるほど……気合を入れすぎるということでしょうか?」

 

「まあそうですね……そう言ってもらえれば差し支えはないかと…」

 

霧島はそう言いつつもスコーンを食べる。

こちらもまた紅茶に合う絶妙な美味しさだ。

 

「流石本場の人ですね……お姉さまには負けず劣らずです」

 

「光栄でございます……」

 

―――――――――

 

その後、吹雪は時雨と出会い、そしてある話を打ち明けた。

 

「時雨ちゃん、ちょっと相談していい?」

 

「どうしたの?吹雪、急に…」

 

「いえ……私達、元の世界に戻れるのかな…って……明石さんたちとかが色々と探してるけど、未だに手がかりがないから……」

 

時雨はそれを聞いて、少し考えた。そしてこう話す。

 

「…そうだね、僕も不安だけど……でもこの世界に来たことは必ずしも事故じゃないと思ってる」

 

「……どういうこと?」

 

「物事にはすべて何かしらの理由があると思ってるんだ……僕たちがこの世界に来て、アズールレーンに協力して、レッドアクシズを止めようとすることも……そう考えると気分も楽なると思うし、実際そうだと思う」

 

いわゆる充足理由律の原理である。

 

「な、なるほど……」

 

「だから吹雪もそんな暗い顔しなくていいよ…ジャベリン達にも心配をかけちゃうかもしれないし」

 

「そ、そうだね……よし!気合を入れて…」

 

そしてそのまま歩き出す吹雪

やけにシャキンとした背筋で…。

 

(そこまでしなくて良いんだけど…まあ吹雪らしいし、良いか)

 

そんな様子の吹雪に少し微笑んでいた時雨であった。

 

――――――――

日本

神奈川県横須賀市

海上自衛隊横須賀基地内

横須賀艦娘基地にて。

 

大和以下20人の艦娘が嵐に巻き込まれ、消息を断ってから一週間が過ぎようとしていた。

 

「提督!何故私達は捜索隊を出さないのだ!もう一週間は経つのだぞ!」

 

「まあまあ落ち着きなさい……」

 

提督は武蔵の訴えをなんとか抑えている。

どうやら武蔵は捜索隊としてただちに出たいということだが、それができないということらしい。

 

「今は深海棲艦の出現も少なくなったとは言え、ただでさえ主力艦が居なくなった艦娘達を捜索のほうへ回せば、突然の深海棲艦の出撃に対応できなくなる」

 

「しかし…!」

 

「今は自衛隊や米軍の方々も必死に捜索を続けている…流されたと考えてかなりの広範囲だ。そして艦娘は艤装があるとは言え、普通の艦よりはとても小さい…見つけようにも骨が完全に折れるくらいのな。だからさ、武蔵も一旦落ち着こうよ。な?」

 

「提督は大和達の無事を心配していないのか!?」

 

「そりゃ心配しているよ、大事な仲間だからね…でもこの状況じゃ俺たちにできることはほぼない。無意味に出たところで今度は武蔵達が遭難することになるぞ?」

 

「そうだが……」

 

「だから落ち着いて……お茶でも飲んで一息いこうじゃない。大淀、お茶を頼むわ」

 

「はいはい……」

 

秘書艦を務める大淀は慣れたようにお茶を淹れるのであった。

武蔵は釈然としていないが。

 

――――――――

 

「全く…提督の昼行灯ぶりにはいつも呆れる…陸奥もそう思うだろう?」

 

「まあまあ武蔵……でも提督の言う通りよ、私達が無意味に出たところで…」

 

陸奥と武蔵はそう話している。

やはりかなり心配のようで、あまり余裕はない表情だ。

 

「わかってはいる…わかってるんだが……!大和や…他の皆は無事なのか……」

 

「……私も長門達のことは心配だけど……でもなんとなく、大丈夫な気がする」

 

「陸奥?」

 

「なんとなくの勘だけど……いやでも絶対……大丈夫よ、きっと…だから落ち着きましょう?武蔵」

 

「……そうか…そうだな……私達は私達でやれることをしよう」

 

「ええ…」

 

武蔵と陸奥はなんとか不安が和らいだようであった。

そして続いて深海棲艦の話をする二人

 

「でも深海棲艦の数が急に減ったのは変ね……出撃もだいぶ減ったし……」

 

「ああ、大和達が失踪してから更に…だ」

 

「……まさか関係があるとかじゃないよね…?」

 

「わからん……だが必ずしも無関係とは言い切れないだろう」

 

大和達の失踪後、深海棲艦の出撃数がだいぶ消えたのだ。

元々大規模作戦などにより、深海棲艦を次々と撃滅していったため、数は確かに減っていたのだが、ここのところ急に急な下り坂の如く低下したのだ。

 

(数が急減した深海棲艦……失踪した大和達……無関係とは……)

 

武蔵の中にはそのモヤがかかったままであった。

 




ついでに元の世界のことを少し描写しました。
元の世界は国の構成などはほぼこの現実通りですが、紆余曲折こそあれど人類同士では戦わず、深海棲艦という外敵に集中し団結できている世界です。
KAN-SEN側の世界とはある意味対極です。


なお提督については普段は昼行灯だけど、やる時はやる人
某機動警察の某第二小隊隊長のようなイメージです。
ちなみに階級は一等海佐くらい。


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幸運

今回は幸運艦のお話を少々…。


「うむ……うむ……?」

 

「……本読んでるの?エンタープライズ」

 

基地内の図書室において、苦戦しながらも本を読んでいるエンタープライズ

そんな時に何か読む物はないかと探しに来た瑞鶴と出会った。

 

「瑞鶴か……ヴェスタルとベルファストに本を読むのも挑戦する一歩と言われてな…」

 

「ああ……でどうなの?」

 

「さっぱりだ。面白いものなのはわかるのだが、意味が…」

 

「ああ、それね……ってかこっちの世界にもそんな本があるんだ…あのね…」

 

そして瑞鶴によりその本の単語の意味などをすらすらとエンタープライズに教えていく。

それによりエンタープライズは段々とわかるようになってきたらしく、最終的にはしっかりと読み終えることができた。

 

「どう?」

 

「うむ、確かに面白いものだな……どこか暖かい気持ちになれる」

 

「…そう……じゃあこれ。のど渇いたでしょ?」

 

そう言って瑞鶴は紙パックのジュースをエンタープライズに差し出す。

 

「ああ…感謝する」

 

そう言ってジュースを飲む二人だが、エンタープライズはあることが気になったのか、瑞鶴へこう話し始める。

 

「瑞鶴……お前は私に挑もうとしないのだな」

 

「挑もうと?」

 

「いや、重桜のお前は私に戦いを挑んできたりしていたが、お前はそうではないから…」

 

「ああ、それね……まあ、確かに私もあんたと戦ってみたい…あの時のリベンジをしたいと思う時はあるけど……それでも今は…エンタープライズを見てるとどうしても放っておけないって言うか……」

 

「放っておけない?私がか?」

 

「そうよ、いつも死にかけてるようなもんだし……私より幸運艦なのに私より傷ついて……」

 

エンタープライズは史実においても最初の真珠湾攻撃の難を流れたことを始め、様々な幸運や乗務員の努力により轟沈を免れ生存し続けたが、その分被害を受けたりする回数は多く、それで中破して飛行甲板に大穴が空いているにも関わらずカダルカナル島周辺の防衛に駆り出されたりしている。

 

艦娘の瑞鶴はそのことがわかっており、そして元々割り切っていたこともあり、彼女を敵視やライバル視をすることはせず、むしろ「放っておけない」という思いが出ていた。

 

「明石から聞いたけど、艦橋が根こそぎ折れるくらい無茶するなんて……」

 

「う、うむ……それについては反省するが……」

 

「反省だけじゃダメよ。もっと他の皆も頼ったほうがいい……エンタープライズほどじゃないけどこの幸運艦もついてるし」

 

「そうか……そうだな。なるべく気をつけることにする」

 

「だからなるべくもダメだってば」

 

これは改めさせるには骨が折れるなと瑞鶴は思ったそうな。

その後も本を読み続けるエンタープライズだが――

 

 

「……っ…」

 

慣れないことや日頃の疲れも相まって、眠ってしまった。

 

(……全く……やれやれね)

 

そして瑞鶴は毛布をエンタープライズにかけてあげた。

 

(しかし、こうしてると普通の女の子なのよね……)

 

使命を感じ、いつも何かを背負っている彼女。

だがその使命を少し忘れ、眠りにつくと、やはり他と変わらない女の子だとわかる。

 

「あら、瑞鶴様……エンタープライズ様も…」

 

「ええ、今は眠っちゃってるけど」

 

何かで呼びに来たのか、ベルファストがこの場に来た。

そしてもちろんベルファストもその寝顔を見ている。

 

「あら……ここでお眠りになるのは少しお体に悪いのですが……」

 

「まあ、この寝顔で起こすのはちょっと気が引けるから……でもなんか呼びに来たんでしょ?」

 

「はい、瑞鶴様。整備の方からのことなのですが……急ぎの用事でもございませんし、このままお休みになられたほうがよろしいかと」

 

「そう……あ…!」

 

「どうかされましたか?」

 

「いや……これから艦載機の点検するんだった。妖精さん達へも色々としないといけないから」

 

「でしたらこの場は私が見ていますので、瑞鶴様はそちらへ」

 

「ええ、頼んだわベルファスト」

 

こうして瑞鶴は工廠のほうへ急いでいった。

なおエンタープライズは引き続き寝言こそあれどぐっすりと眠っている。

先程声が多少出たが、それでも起きない限り、やはりかなり疲れていたようだ。

 

「……姉さん……ほーねっと……」

 

――――――――

 

そして工廠では……

 

「これが妖精さん?」

 

「はい、そちらで言うひよこ…饅頭さんみたいなものです。私達の補助をしてくれます」

 

「かわいい……」

 

「アワワワ…」

 

ユニコーンが妖精さんを撫でている中、瑞鶴が艦載機の様子を見て、ホーネットがその様子を見学している。

 

「へー、艦娘ってそういう感じで整備するんだ……」

 

「まあね、KAN-SENはこんな細々にやらないんでしょ?」

 

「ああ、メンタルキューブがどーのこーの…で詳しいことはよくわかんないけど」

 

「へー……よし、流石明石さん。いつも決めてる」

 

「いやー褒めてもネジはでませんよー?」

 

「そうにゃ、赤本は出さないのにゃ~」

 

褒められて嬉しくなっているダブル明石

そんな時にホーネットは瑞鶴にこう話しかける。

 

「なあ、姉ちゃんどうだった?」

 

「エンタープライズ?まあ、今日は読書してたわよ。途中で寝ちゃってたけど……でもそんなことくらいエンタープライズから聞けば良いんじゃないの?あなたの姉なんでしょ?」

 

「いや、そうなんだけど……なんというか姉ちゃん、色々と考えているときが多いから近寄りにくくて……」

 

「はあっ……そういうの関係ないと思うから、早く行ってあげたら?多分図書室にまだ居ると思うし」

 

「そっか……そうだな!行ってくるよ!」

 

そうしてホーネットは足早に工廠から図書室へ向かっていった。

そして瑞鶴は引き続き艦載機の様子を見ている。

 

「……」

 

(なんかずっと引っかかってるのよね……エンタープライズ……嫌なことが起きないと良いんだけど)

 

ここへ来てから引っかかってる「エンタープライズ」のことを思いながら……。

 




次回投稿でやっと決戦前を出せるかなぁ…と
(まだ7話ではなく、6.5話になると思うけど)


それはそれとしてネジと赤本ください(血涙)


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艦隊決戦へ

今回はやっと6話と7話を繋げる短編です。



夜の重桜基地

その桟橋では重桜の赤城が佇んでいた。

何かを思い出し、何かを想っているのか、どこか淋しげな表情である。

そして……

 

「…もうすぐ…もうすぐ会えるわ………「天城姉さま」」

 

今は居なくなった赤城の姉「天城」のことを呟いていた。

 

――――――――

 

 

「はぁっ……こりゃ完全にお手上げですね…」

 

「だにゃ……」

 

二人の明石が基地内の工廠でため息を付いていた。

そして台の上には黒いメンタルキューブと普通のメンタルキューブがあった。

そこへ軽巡夕張が訪ねてきた。

 

「どうしたのよ、二人共ため息ついて」

 

「ああ、夕張さん……いや、ウェールズさんに「このメンタルキューブと黒いメンタルキューブをもっと詳しく調べてくれないか?」と言われまして、色々と検査装置やらコンピューターやらを駆使してこの2つのメンタルキューブについて解析やらをしていたんですが……」

 

「ですが?」

 

「全くわからなかったのにゃ……」

 

KAN-SENの明石も首を振る。

そして通常のメンタルキューブは光り輝く中、黒いメンタルキューブは邪悪なオーラを出し続けていた。

 

「……でも、黒いメンタルキューブが解析できないのはなんとなくわかりましたが、一応KAN-SENの元である通常のメンタルキューブまで解析できないのは予想外でした…確かKAN-SEN達を構成するリュウコツの元でしたよね?」

 

「そうにゃ……メンタルキューブは人類のイメージを投影して、具現化するものにゃ……あと整備とかにも使ったりするけど、明石も詳しいことはわからないにゃ……」

 

「そう……使えるけど中身はわからないブラックボックスってこと?」

 

「そうですね、夕張さん。一応まだ色々と解析してみますけど、期待はできないと思います」

 

「念押しにゃ」

 

そう3人が話していると、今度は赤城が工廠の中に入ってきた。

 

「明石さん、艦載機のことなんだけど……あら、それは…」

 

「ああ、赤城さん」

 

「ウェールズさんにメンタルキューブの解析を頼まれまして…猫の私といろいろとやっていたところなんです」

 

「もっとも結果は芳しくないのにゃ…」

 

「そう……」

 

明石達のことを聞くと、赤城はそのメンタルキューブをじっと見てみる。

 

「こっちの綺麗ね……そしてこっちのは……」

 

「ホント邪悪な力みたいなものですね……多分セイレーンが作ったものでしょうけど…」

 

「間違いなく横流し品にゃ……はぁ……壊そうにも壊せないものにゃし……」

 

「恐ろしく頑丈にできてますからね……トンカチでもびくともしないし……まあ仮に割れてもかなり危ないことになりそうですが……」

 

「まあ、ろくでもない物なのは確かね…」

 

二人の明石と夕張がそう話している中、赤城はそのメンタルキューブを見ている。

輝きは依然として失ってはいないようだ。

 

(一体あちらの私は何をしようとしているの…?敵に下ってまで……戦力増強というだけで……?)

 

――――――――

 

そして再び、「プリンス・オブ・ウェールズ」「ベルファスト」「ホーネット」「エンタープライズ」「大和」「霧島」「赤城」で話し合いが行われていた。

内容はやはり「重桜」のことである

 

「この黒いメンタルキューブと明石を奪い返しに来るのは明白と言っていい……だが重桜はまだこちらに来てはいない……哨戒も強化しているのだが、網にはまだ引っかかっていない」

 

「はい、現行段階における哨戒活動でも確認はできませんでした」

 

「そうですか……」

 

プリンス・オブ・ウェールズとベルファストの情報に赤城がそう頷くと、ウェールズは赤城に対してこう問いた。

 

「来るとは思うか?赤城」

 

「…はい、奇襲は一回しか通用しない以上、次は大艦隊で来ると思います」

 

「そうか……」

 

 

そうして話していると、クリーブランドが異変を知らせにクリーブランドが駆け込んできた。

 

「た、大変だ!」

 

「何事ですか?」

 

「ああ、大和さん達も居たんだ……ってとにかく大変なんだ!哨戒に出てたユニコーン達の偵察機が重桜艦隊を捕捉したらしいんだ!」

 

「やっぱり……!」

 

「……!」

 

霧島と赤城は予感が的中したと考える中、ウェールズはその仲間を心配する。

 

「なんだと!?ユニコーン達は?」

 

「偵察機は撃墜されたみたいだけど、哨戒艦隊はなんとか退避して今は基地周辺にまで戻ってきてるよ」

 

「そうか……だがこうして話している時に来るとは怖いものだな……」

 

「どういたしますか、ウェールズ様」

 

ベルファストのその問いにウェールズは迷いもなく、この宣言を出す。

 

「これより我らは基地へ接近する重桜艦隊を迎撃する!各隊、出撃用意!」

 

「「「了解!」」」」

 

――――――――

 

こうしてロイヤル、ユニオンそして艦娘による連合艦隊が速やかに編成されることとなった。

一部の艦こそ基地に置き、突然の深海棲艦・セイレーンの攻撃に備えることにしたものの、ロイヤルとユニオンの大部分の主力艦は出撃することとなり、艦娘は全艦が出撃するということとなった。

なお連合艦隊総旗艦はロイヤルの戦艦「クイーン・エリザベス」である。

 

そしてその作戦の出撃準備の最中、加賀はある疑念を赤城へ伝える。

 

「赤城さん、あちらの私達についてだけど…」

 

「加賀さん…どうしたの急に」

 

「あの時の奇襲の際、あちらの私があちらの赤城さんのことを「姉さま」と言っているのが気になって」

 

「ああ……でもここじゃ違う艦種でも姉さまと呼ぶことがあるから、そういうものじゃないの?姉妹艦じゃなくても…そもそも私達艦娘でも初風とかは……」

 

「いえ……それにしてはどこか……言い表せないものですが、あちらの明石さんの言う通りにあちらの赤城さんが他の重桜艦に詳細を伝えずにオロチ計画を推進していることを含めて、何か関係があると思うんです」

 

「関係…ですか……」

 

「私の思い過ごしなら良いんですが……」

 

(……)

 

加賀の意見を聞いて、赤城も少し考えていた。

オロチ計画…そして史実の八八艦隊計画…

思い過ごしといえばそれまでだが、艦としての「勘」そして「記憶」からのものなのか、赤城も妙な違和感を覚えていた。

おそらくは自身の姉になるはずだった艦「天城」が絡んでいる…と。

 

(一体……この戦い、何があるというの…?)

 

――――――――

 

重桜の大艦隊は加賀と赤城が先程の偵察機撃墜の件を含めて話しているところであった。

 

「良いのですか姉さま、偵察機を撃墜した上で予定コースを直進するのは待ち伏せされる可能性がありますが…」

 

「加賀、それが狙いよ……あえて撃墜して私達の居場所を伝える…そうするとあちらも大艦隊を差し向けるはずよ……そうすれば」

 

「しかし、量産型セイレーンや深海棲艦で水増ししたとしてもこちらの戦力差は……」

 

「その点については心配ないわ……私達にはセイレーンが付いているもの……」

 

不敵な笑みを浮かべる赤城を空より見ているセイレーン「オブザーバー」

 

「……さて、どれだけのエネルギーが得られるかしら…赤城…」

 

そのオブザーバーもまた、不敵な笑みを浮かべていた。

2つの陣営を試しているかのように……。

 

 




不穏要素増々で7話へ進む……。




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第7話
決戦、その愛の果て(前編)


やっと再開です
ボチボチ……です




「これこそ私が求めた艦隊だわ!」

 

「我々だけではありません。ユニオンそして艦娘との連合艦隊になります、陛下」

 

「壮観な眺めですわね。頼もしい限りですわ」

 

クイーン・エリザベス、プリンス・オブ・ウェールズ、フッドがそう話している通り

ロイヤル(イギリス艦)とユニオン(アメリカ艦)そして艦娘(日本艦)の大連合艦隊となっている。

このようなことは史実第二次世界大戦ではありえなかったことであろう。

 

なおその隣には当然ながらメイドのエディンバラ、シェフィールドとそしてウォースパイトもいる。

 

「えぇ、そうね……決戦だもの」

 

 

 

一方、エンタープライズは再び船の上から海や空を見つめている。

 

「戦いの次にまた戦い…か」

 

そんな様子のエンタープライズを瑞鶴は後ろから声をかける。

 

「全く……なに辛気臭いことに雰囲気になってんのよ、エンタープライズ」

 

「瑞鶴か……少し風に当たっていただけだ。決戦の時は近い。気を引き締めないとな」

 

「……あんまり無理しないでよ?私達や赤城さん達もついているんだから」

 

「ああ……善処する……」

 

「ホントに?」

 

「あ、ああ…」

 

瑞鶴とエンタープライズがそうやり取りをしている中

重桜側では高雄、愛宕もこの作戦について話し始めていた。

 

「どうしたの?高雄ちゃん」

 

「時期尚早ではないか?オロチ計画も進まないうちにこれほどの大規模作戦。赤城殿は何を考えている?」

 

「黒いメンタルキューブと明石ちゃんを取り戻せなかったから焦っているのかもね……」

 

そして翔鶴、瑞鶴もまた同様であった。

 

「赤城先輩が何を企んでいるかは分からないけど…大丈夫よ。瑞鶴」

 

「翔鶴姉…」

 

「お姉ちゃんが守ってあげますからね」

 

「うん……だけど今回は私はグレイゴーストを狙わない……その代わりあっちの「私」と決着をつける!」

 

(同じ瑞鶴……負けるはずはない……冷静に……見極めて……!)

 

「瑞鶴……」

 

 

「やったー!ようやく出陣だぜ!」

 

「雪風様の力を見せてやるのだ!」

 

一方夕立と雪風がそう元気よくはしゃいでいる中、まだ悩んでいる綾波とニーミに

時雨が声をかける。

 

「元気ないわね。二人共この前からずっと変よ?」

 

「いえ、別に…」

 

「なんでも無いです…大丈夫です」

 

なお今回は鉄血艦はZ23しか参加していない。

何故ならプリンツ・オイゲンからもこの作戦は時期尚早という考えがなされ、最低限度としてZ23の派遣のみに留めたからだ。

つまり「ちょっとは出すけどあとはご勝手にどうぞ」ということらしい。

 

「安心しなさいな。この時雨様には幸運の女神がついてるんだから」

 

「雪風様もなのだ!」

 

「はいはい、忘れてないわよ?」

 

そんな三人のやり取りを見つつも、まだ暗い表情を崩すことができない二人であった。

 

――――――――

 

そしてアズールレーン側のほうでは、ジャベリンたちが話していた。

 

「向こうには綾波ちゃんとニーミちゃんが……」

 

「うん、いる……」

 

「いますね……」

 

「いるんですね……」

 

「うん……あとあっちの僕もいる気がする」

 

「夕立もいる気がするっぽい!」

 

ジャベリン、ラフィー、綾波、吹雪がそう感じて、夕立と時雨は相手の自分のことも感じていた。

 

「もう迷わない……絶対に友だちになってみせる…!」

 

「うん……」

 

ジャベリンとラフィーは決意を新たにした。

相手のその二人と友達になるために……。

 

「大決戦ですね……でも深海棲艦じゃなくて艦同士の戦いってところが……」

 

「吹雪ちゃん、大丈夫っぽい?」

 

「いえ、やるときはやります!たとえ魚雷がつきようとも!」

 

「いや、そこは補給しようよ……」

 

そんな駆逐艦のやり取りの中、電探で状況を確認していた霧島が違和感を覚える。

 

「長門さん、変です。電探のノイズが急速に拡大しています」

 

「なに?」

 

長門や他の艦も驚く中、大和は確信した。

 

「……来ます!」

 

 

 

 

「お膳立てはしてあげたわ。あとはあなた次第よ……赤城」

 

セイレーン「オブザーバー」がそうどこかで囁くと別空間に居た赤城はある詠唱を唱える。

 

 

「天津風、雲の通ひ路吹き閉ぢよ…をとめの姿…しばしとどめむ…!」

 

その赤城の詠唱とともに海域は姿を変える。

いや、空間ごと変わったとも言えた。

 

「これは……!」

 

「長門さん!あれを!」

 

そして別空間よりセイレーン、そして深海棲艦の艦が転移し、アズールレーン艦隊を出迎えるような陣形を取った。

それと同時に重桜艦隊も姿を表す。

 

「やはりか……!」

 

「霧島さん、鳥海さん、敵の艦の数は?」

 

「解析してますが……50…100……300…!」

 

「セイレーンと深海棲艦がまだまだ増えてます!捕捉しきれません!」

 

本来、アズールレーン側に対し、重桜は室はともかく艦の数としてはロイヤル、ユニオンには劣る。

そのため量産型セイレーンと深海棲艦を呼び出し、その戦力差を埋める策を取った。

 

「あなたは……!」

 

「私の海へようこそ アズールレーン。歓迎するわ……そして「貴方」達も…」

 

「やはりですか……」

 

「あれが…あっちの赤城さん…そしてあっちの私…」

 

「わからないけどなんとなくわかる……これが…!」

 

加賀は苦い顔をして、蒼龍、飛龍はもちろん驚いている。

ここで第一航空艦隊、通称南雲機動部隊と呼称される空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」が対峙することとなった。

 

「各艦、戦闘配置につけ!」

 

「砲雷撃戦用意!」

 

アズールレーン連合艦隊はプリンス・オブ・ウェールズ、大和の号令により戦闘態勢に入り、重桜艦隊も戦闘態勢に入った。

 

そして……

 

「撃て!」

 

「てーっ!」

 

プリンス・オブ・ウェールズ、長門の砲撃により海戦の火蓋は切って落とされた。

 

「全航空隊、制空権確保を急いで!」

 

「なんとしても負けないで、相手の「私」に…!」

 

アズールレーン側は外側のセイレーン・深海棲艦を重点的に攻撃し、まず戦力を削ることに集中することとなった。

 

「いっけー!」

 

「艦載機たち、いきなさい!」

 

「航空隊、発艦はじめ!」

 

そしてレキシントン達も同じく攻撃を始めていた。

 

「禁忌のトリプルレキシントン!だね!」

 

「はい、先生」

 

まさにありえない3人組のレキシントン級達であった。

 

その横を通り過ぎる川内型の2人。

 

「夜戦だ、夜戦だ~♪」

 

「姉さん……厳密にはこれは夜戦じゃないと思いますが……航空機も普通に飛んでますし」

 

「でも十分暗いじゃん!間違いなく夜戦だよ!突撃するよ!」

 

「はあっ……」

 

川内は夜戦に興奮しており、神通はそんな姿の姉に少しため息を付いていた。

 

 

そんな中……

 

「うわっ!?」

 

部隊の先遣を務めていたクリーブランド級の4隻に砲撃が振り、なんとか回避するクリーブランド達。

そしてその先には4隻の戦艦が居た。

 

「いい動きだ。楽しめそうだな」

 

「さっさと終わらせて一杯といこうや」

 

「いきます…!山城、良いわね?」

 

「ね、姉さま!う、うん!」

 

「重桜の戦艦4隻……!?」

 

クリーブランドが驚くようにそこには戦艦「伊勢」「日向」「扶桑」「山城」が居た。

本来なら軽巡相手では荷が重すぎるものだが、クリーブランドはむしろ好機と思っており、こんなことを発した

 

「そっちが戦艦4隻ならこっちにも…!」

 

クリーブランドの言葉の瞬間、「戦艦」が砲撃をする。

先程の砲撃とは違い、更に「重い」もの……。

 

「な、何だ!?」

 

「あれは…!」

 

伊勢達がその先に見たものは大和撫子のごとく優雅な格好をし、更に46cm三連装砲を3基も装備した超弩級戦艦

 

かつて艦隊決戦思想のままに建造され、戦中はそれを持て余し、そして最期の出撃では何万機もの航空機の攻撃で破れた悲劇の戦艦であり、そして日本海軍最後の戦艦。

大和型戦艦1番艦「大和」であった。

 

「あとは私が……クリーブランドさん達はセイレーンを!」

 

「おう、任せた!大和!」

 

「大和……戦艦か……?」

 

「噂の巨大戦艦ってやつか……面白い…!」

 

「そういうことね……」

 

「え?戦艦!?」

 

重桜の伊勢、日向、扶桑、山城は大和と知ってもピンと来てはいなかったが、それもそのはず

大和は議会の予算通過すら架空の駆逐艦建造で誤魔化しており、徹底して機密保持が図られおり、それは身内である海軍内でも徹底していた。

ただすべてを隠すことはできないため、途中で新鋭戦艦があるというくらいまでは噂として流れているため、このような反応になった。

 

「戦艦大和、推して参ります!」

 

 




隠し玉たる大和、やっと参戦。
ただ出番配分はどうしても空母に偏る矛盾…。


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決戦、その愛の果て(後編)

その果てに何を得る?


「……おっと…!」

 

突然の砲撃を避ける艦娘の時雨、その先には重桜の時雨がいた。

 

「佐世保の時雨よ!此処から先は通さないわよ!」

 

「よく知ってるよ。僕も…その時雨だからね……!」

 

姿としては双方かなり異なるもの

かたや犬耳を持つ艦と普通の三編みの艦である。

 

「あなたが噂のね……まあいいわ、雪風との幸運対決より前に自分との決着をつけてやるわ!」

 

「止まない雨はない……君のその雨を止めてみせるよ…!」

 

時雨

かつては「呉の雪風、佐世保の時雨」と言われるほどの二大幸運艦として日本海軍で名を馳せていた。

西村艦隊の一員としてスリガオ海峡を超え、レイテへ突入しようと試みるも惨敗し、時雨以外の艦は撃沈されてしまった経験もあり、最後は雪風のように生存もできず、米潜水艦の雷撃により沈んでしまっている。

 

「ここは……譲れない…!」

 

「私も譲らないわよ!」

 

その時雨は幸運を前面に出す時雨と止まない雨はないと強く想う時雨とまるで正反対であるが、だが奥の気持ちは変わらないものであった。

 

一方「夕立」も同じく対峙していた。

 

(本気を出すっぽい……)

 

(一歩でも引いたら殺られちまうな……!)

 

双方は双方で同じくらいの殺気を感じていた。

同じ艦であるがゆえに…だがそれで完全に息をも殺していた。

 

「さあ……素敵なパーティをはじめましょ…「夕立」…!」

 

「おう……藻屑となれ!「夕立」…!」

 

その言葉と共に二人は急激に攻撃を開始する。

砲撃、雷撃などすべてをフル活用し、そして近接戦闘もこなしている。

 

((この距離なら……!))

 

更にはほぼ同時に砲撃をし、その砲弾と砲弾が掠れ、爆発するという珍しいことまで起こった。

 

「す、凄い……」

 

近くに居た吹雪はセイレーンと交戦しつつもその光景を眺めることしかできなかったほど、その攻撃の素早さは予想以上であった。

 

――――――――

 

「超弩級戦艦……主砲、撃てーっ!」

 

重桜の伊勢の号令により大和へ砲撃が集中する。

普通の戦艦ならひとたまりもない。

 

「やったか!」

 

「やったの!?」

 

日向、山城はそう発言するが……

確かに普通の戦艦ならひとたまりもない……()()なら

 

だが――

 

「いえ……これは…!」

 

「……」

 

扶桑が驚く通り、彼女は損傷らしい損傷もせず、健在であった。

 

戦艦というものは基本自分の砲には耐えられる装甲を持っており、35.6cm砲搭載ならば35.6cm砲までの砲撃に耐えるということである。

そして大和が持つ主砲は46cm三連装砲3基……つまり46cmの砲までには耐えられるということであった。

そして扶桑型及び伊勢型が持つ35.6cm砲による遠距離射撃では全く傷がつかないことになるのである。

 

「なん…だと…?」

 

(航空機はこちらには来ていない……よし…)

 

伊勢が驚いている間に大和は上空の状況を察する。

史実において航空機の援護もなかったため、航空機からの攻撃を受けて大和は撃沈してしまったが、逆に言えば制空権を取れさえすれば邪魔者はいないということである。

実際、敵の航空機も味方の航空機との相手で手一杯であるため、こちらへ割く余裕はなかった。

つまり大和が活躍できる土台は整っているということであった。

 

「どこからでもかかってきなさい!この大和が…受けて立つわ!」

 

 

――――――――

 

一方、航空戦も熾烈なものとなっていた。

 

他の空母がセイレーン・深海棲艦戦に集中する中、艦娘の空母達は相手の重桜主力空母の全面的な相手となっていた。

 

「まさか自分同士と戦うことになるなんてね…!全航空隊、敵の「二航戦」の航空隊を迎え撃って!」

 

「いくよ……多聞丸、力を貸して……!」

 

「無意味な戦闘は避けたいのですけれど……自分が相手な手を抜くことはしません!航空隊、迎撃急いでください!」

 

「最後まで戦ってみせる……自分だろうと……!」

 

双方の蒼龍、飛龍も激しい航空戦の争いを指揮している。

激しいエピソードも数ある一航戦、五航戦に比べれば少し格が劣る二航戦であるが、だがその分、艦隊の縁の下の力持ちとして戦い抜き、特に飛龍は「飛龍の反撃」により敵のヨークタウンを大破させるなど、決して薄くはなかった。

 

だがそれ以上に争いを繰り広げていたのはもちろん一航戦、五航戦である。

 

「自分を超えてみせる……そして皆を守ってみせる!」

 

「くっ…いい度胸してる…負けないわよ…!「私」…!」

 

五航戦は接近戦を繰り広げる瑞鶴と遠距離戦を行う翔鶴に別れていた。

 

「あんたはなんでそんなに強いのよ……!同じ私なのに…!」

 

「決まってるじゃない……皆を守るためよ…!あの時の…マリアナやレイテのことを繰り返さないためにも……!」

 

「「翔鶴姉!」」

 

「ええ、戦闘機隊はただちに散開して!」

 

「瑞鶴のためならお姉ちゃん頑張るわ!」

 

援護要請タイミングがほぼ同時に二人の瑞鶴から発せられ、翔鶴達も援護に入った。

 

「瑞鶴を思う気持ちは負けないんだから!」

 

「私も負けません……!あの時のようなことは絶対に……させない……!」

 

その「妹」を思う気持ちは同じ、ほぼ同格であった。

かつてのマリアナで先に沈んでしまったその無念。

その無念と後悔を胸に戦っているからであろう。

 

「これなら……!」

 

重桜の瑞鶴が艦娘の瑞鶴のスキを突き、一撃を加えようとした。

 

「させない…!」

 

だがその一太刀も弾かれてしまった。

 

「なっ…!直撃のはず…!」

 

「残念…今の私は航空艤装を全面的に改装して……装甲空母になってるもの!」

 

史実における日本海軍の装甲空母は大鳳一隻のみであるが、その大鳳は翔鶴型をベースにしたものである。

艦娘の今の翔鶴型はその大鳳型のその設計を逆にフィードバックし、改装したものであった。

 

「な……なによそれ!?」

 

「そ、装甲空母!?」

 

当然ながら史実にはそんな計画はなかったため、重桜の翔鶴型は再び面を喰らってしまった。

そして艦娘の翔鶴型は冷静に態勢を立て直した。

 

「翔鶴姉、まだいける?」

 

「ええ、瑞鶴のためなら……どこへでも…です!」

 

「そこまで頑張らなくて良いんだけどなぁ……まあでも援護引き続きお願い!」

 

「はい!」

 

そして再びぶつかり合いとなっていった。

 

だが最大のぶつかり合いはやはり一航戦である。

 

 

「お前は……!」

 

「やはりそうですか…加賀…いえ、「私」……」

 

そこでは蒼き弓道服に身を包んだ「加賀」と同じく蒼と白の九尾の狐である「加賀」が対峙

していた。

 

「何故セイレーンと組んだの?本来なら敵のはずです」

 

「明石から聞いたか……!何故お前がここにいるかは問わん……だが何故邪魔をする!」

 

「決まっています。貴方のしようとしていることが間違っているからです。セイレーンと組んでその事実を仲間に隠し、オロチ計画を立てそしてこの戦争を引き起こした…それは仲間への裏切り行為に他ならないわ」

 

「これは姉さまの祈願だ!貴様に何がわかる!」

 

「わからないと思っているの?同じ「私」なのよ……あなた達がそのオロチ計画である艦を蘇らせようとしているのも…!」

 

「貴様……!」

 

重桜の加賀はその怒りで式神を放ち、艦娘の加賀へ攻撃を仕掛ける。

 

「あたりのようね……!」

 

だがそれをわかっていた艦娘の加賀は直掩機を回し、すぐにその敵機を撃墜する。

 

「死者を蘇らせることなんて不可能よ!」

 

「だがオロチ計画はそれを可能にする!」

 

「それがセイレーンの技術なの……貴方はそれで良いわけ?赤城さんを止めるという選択肢もできたはずよ?」

 

「姉さまの祈願は私の祈願でもある!それを止めることなどはない!」

 

「それがいけないのよ。「あの時」のように思考停止して従ったままではダメ…いずれ貴方自身を壊してしまうわ」

 

「黙れ!」

 

重桜の加賀は怒りに任せ、次々と攻撃を仕掛けていく。

 

「くっ…」

 

(自分自身の説得というのはうまくいきませんね……!)

 

艦娘の加賀は攻撃を回避しつつ、なんとか迎撃態勢を整えていった。

 

 

そして「赤城」のほうでは……。

 

「何故あなたは……こんなことをしているんですか!」

 

「わからないの?「私」……これは私の愛によるものよ……」

 

「意味がわかりません……!セイレーンと組んでまで……貴方がしたかったことはこんなことなんですか!」

 

「ええ、そうよ……「姉さま」に会うためには犠牲はつきものよ……?」

 

(会うため……やっぱり……!)

 

こちらの赤城も相手の赤城の「目的」を確信した。

重桜の赤城は「天城」を蘇らせようということを。

 

「でもそんなことをして……蘇ったとしてもそれは「姉さん」じゃないわ!」

 

「形も中身も寸分違わず同じものならそれは既に本物よ…?」

 

「すべて同じにしたところで新たに作ったという時点でそれは…姉さんの形を取った別の何かよ!」

 

「黙りなさい…!」

 

重桜の赤城は別空間より多数の20cm単装砲6門を具現化させる。

それはかつて赤城が装備していたものであり、ミッドウェー海戦でも使われた代物である。

当然ながら重巡砲クラスであり、空母でも当たればひとたまりもない。

 

「!?」

 

「させるか…!」

 

そこへ割り込んだのは航空機により飛んでいたエンタープライズであった。

 

「エンタープライズさん!?」

 

「くっ……!」

 

「あらグレイゴーストも……だけど……終わりよ…!」

 

重桜の赤城はエンタープライズへ25mm連装機銃及び12cm連装高角砲も具現化させ、20cm砲を含め、すべての火力をエンタープライズへとぶつけた。

 

「なっ……!?」

 

結果、エンタープライズが乗っていたF4Fは撃破、エンタープライズ自身も受け身を取れずそのまま海の深くへ落ちてしまった。

 

「エンタープライズ様!」

 

ベルファストの呼びかけも虚しく…であった。

 

 

――――――――

 

その海は冷たかった。

最初は明るかったが、徐々に徐々に落ちていくにつれ、暗くなっていく……。

 

『見て…今日は海が綺麗よ…』

 

走馬灯のようにエンタープライズは姉のことを思い出してもいた。

 

そして――

 

(生まれた時から海は戦場で…轟く砲声、硝煙の匂い、燃える炎の熱さ、海の水の冷たさ)

 

(私にとって海は……!)

 

その目は……空母「エンタープライズ」とは違う…()()()であった。

 

――――――――

 

 

「お眠りなさい…灰色の亡霊。あなたの思いは黒箱に宿り…大いなる力の一部となるのよ……そして貴方も…」

 

「くっ……!?」

 

その時、そのエンタープライズが沈んだ地点より発しられた「光の柱」

 

「何事だ!?」

 

「あれは…!?」

 

別の方面で交戦していた二人の加賀からもわかるその眩い光。

 

「………」

 

その中心には「エンタープライズ」がいた。

 

「覚醒したわね……」

 

別の所ではその戦いを見ていたオブザーバー。

そしてこうも発した。

 

「多少の変わりはあったけど……この世界でもあなたが鍵となるのね……『エンタープライズ』」

 

「今…何を……!」

 

そして重桜の加賀はそのエンタープライズに近づこうとするも、すぐさまの反撃を受け撃墜されてしまう。

 

「加賀!」

 

「赤城先輩!加賀先輩!」

 

「なんだ……あれは…!」

 

長門、大和も同じくその光に驚いていた。

その光は徐々に海域全体を包みつつあった。

 

「姉ちゃん……何したんだ…!?」

 

「どういうことっぽい……?」

 

――――――――

 

そして大雨が降る…「その空間」では……

 

「あなた、何者なの…?」

 

「……」

 

重桜の赤城の問いかけにも応じない「エンタープライズ」

その目は異様なものであった。

 

「邪魔はさせないわ。これが私の愛のありかたよ……!」

 

「私の愛は時を越え…神ですら凌駕して重桜を……そして姉様を!」

 

「………」

 

赤城は「龍」を展開するもエンタープライズは一切動じず、そのまま構えた。

 

「……!?」

 

「……」

 

そしてその弓は間髪入れずにそのまま放たれ……

 

()()をそのまま貫いた。

 

「……あなた……は……!」

 

「……はっ……お前……!……あ、ああ……っ…!」

 

エンタープライズは正気を取り戻したが、時既に遅し、そのまま「赤城」は海へ没してしまった。

 

『海が…怖いの?』

 

(ああ……そうか…そうだったのか……私は…)

 

ユニコーンのあの時の問いに今なら嫌でも自分の答えがわかってしまった。

 

(海が…怖いんだ…)

 

雨が振り続けるその空を見つめながら……。

 




ドンパチ戦はとりあえず終わります。
だがまだ色々と残っていたりする……。

11話まで後少し…


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第8話
その手とその手(前編)


11話はすごかった。
まさか核兵器クラスとは……


海域の異変により、暗かった空は一面、雪が降ることとなった。

そしてその天は「割れて」しまっていた。

 

「一体これは……」

 

「海域の情報、なにか得られましたか?」

 

「偵察機を飛ばしてみましたが、先程の特殊海域の崩壊によって、この辺り一体が不安定化…というしか無さそうです」

 

「これもすべてセイレーンの仕業…でしょうね……先のエンタープライズさんが起こした謎の現象やそしてオロチ計画……無関係とは思えません」

 

長門、大和の問いに霧島、鳥海はこう答えている。

この謎の現象により戦いこそは収まったが、それでもまだわからないことだらけであった。

 

「はいはい、動いちゃダメよ……」

 

なお損害艦は多数あり、夕張が応急手当をしようと駆け回っていた。

 

「一体どういうことなの……空まで割れて……」

 

「私にもわからない…姉ちゃんのことが…」

 

瑞鶴、ホーネットは空を見つつもそう話していたが、瑞鶴はあることを思い出していた。

 

(私達が転移した時もこんな感じな雰囲気があったような……空間が不安定だからかな……?)

 

あの転移する原因となった嵐に巻き込まれた際に感じた妙な違和感があったのだが、それを瑞鶴は再び感じていた。

同時に胸騒ぎもしていたのだが……。

 

一方、ジャベリン、ラフィー、吹雪、綾波、時雨、夕立は本隊とは別の地点に居た。

どうやら本隊とはぐれてしまっているようだ。

 

「寒い……」

 

ラフィーはいつも以上にだるそうな目であった。

 

「ううっ……急に氷とかが現れましたね……」

 

「一体どういうことっぽい……」

 

吹雪、夕立は頭にはてなを浮かべている。

急に光に包まれたと思えば、気がつくと一面氷やら吹雪やらのいわゆる北極のような気候の海域にいたからだ。

 

「とにかく急いで本隊に戻らないとね……」

 

「うん…早く合流しないと…」

 

 

時雨とジャベリンがそう言うと、綾波は何かを察知したのか、皆の前に出た。

 

「どうしたの?綾波ちゃん」

 

「……!」

 

その風の先には重桜の綾波、そしてニーミが居たのだ。

 

「……綾波ちゃん……ニーミちゃん……!」

 

その綾波とニーミは銃砲をジャベリン達に向けていた。

一方のジャベリン達は砲を構えてはいなかった。

 

「……また…そうやって…!どうして戦わないのです!?どういうつもりなんですか……あなたたちは!」

 

「そうです……何故ですか……!?」

 

攻撃さえしてくれれば綾波達の気もなんとか圧し殺すことができたであろう。

だがジャベリン達は攻撃もせずに、ただ「友達になりたい」を訴えてきている。

それ故に、綾波とニーミは精神が擦り切れつつあった。

戦う存在なのに何故戦わないのか?

そして何故自分は躊躇しているのか?

引き金を引くこと自体は簡単であるにも関わらず…である。

それらが混ざり、悩みの種ともなってしまっている。

 

「前にも言った。綾波と友達になりたい」

 

「そうです…友達になりたい……それだけなんです」

 

「敵同士で……何言ってるんですか!綾波たちは船だから敵と戦うのは当たり前なのです!」

 

重桜の綾波はラフィーと艦娘の綾波の言葉にそう返すが、続けて艦娘の綾波がこう話す。

 

「当たり前……確かに前の戦いではそうでした…あのソロモンでも……綾波は戦って……」

 

「そうです……あなたも知っているはずです…」

 

「でも前がそうだからと言って、それに倣う必要はないんです。人の形をしているこの今……使われる道具ではなくて、一個人としての意思を持っている今だから……」

 

「今……だから……」

 

重桜の綾波がそう呟くと、急に横から砲撃が飛んできた

 

「うわっ!?」

 

「吹雪、大丈夫?」

 

「な、なんとか…」

 

「またっぽい!?」

 

その先には重桜の時雨、夕立、雪風が居た。

 

「ぐうううっ!綾波達をいじめんなー!」

 

「いじめてるつもりはないっぽい!」

 

その重桜の夕立の牙を艦娘の夕立が止めにかかった。

 

「また……僕たちはこれ以上戦うつもりは……!」

 

「惑わされないわよ!」

 

また、時雨同士の戦いも再び始まってしまっていた。

 

「なのだー!」

 

「ゆ、雪風さん!?」

 

重桜の雪風の攻撃を吹雪はなんとか迎え撃つ。

 

「お前は……吹雪なのか!?」

 

「くっ……私じゃ幸運艦は相手しきれないですー!」

 

ここで再びドンパチする小競り合いとも言える戦いが始まるかと思われた。

だが先程の戦いで双方とも消耗していた上、更に突如その場の大きな氷の塊が一気に崩れ落ちる事態が発生した。

 

「!?」

 

その結果、ジャベリン達と重桜の綾波達に分断され、戦いは止まってしまった。

 

「綾波ちゃん……ニーミちゃん……」

 

その後、その場には捜索しに来た軽巡「ベルファスト」及び「神通」が到着した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「良かった……皆さん、無事ですね」

 

「ベルファストさん、神通さん!」

 

「行きましょう…ここは危険です」

 

「ええ、早く合流しましょう」

 

ベルファストと神通の先導を受け、駆逐艦達はこの場より撤退することとなった。

ジャベリンは綾波が居た方向を見つつ…であるが。

 

――――――――

 

「……」

 

艦娘の赤城は暗いその中に居た。

 

(あの時……私は光に飲み込まれて……)

 

そして赤城はその空間の中である3人を見ていた。

そこには重桜の赤城と加賀、そして「天城」らしき人物がいた。

どうやら赤城と加賀が喧嘩をし、天城が仲裁しているようである。

 

(やはり……私達艦娘には前世としてはあの事件があったけど、戦艦天城はいなかった。だけどこの世界には居た………だからあちらの私達はあそこまで…)

 

『そうよ……』

 

その赤城の先には和傘を指し、着物を着た女性が居た。

間違いなく天城型巡洋戦艦の「天城」であった。

 

「あなたが……天城姉さん?つまり…私は…」

 

そう言うとその天城は続けてこう言い話す。

 

『あなたはまだ……生きて…そしてあの子もまだ……』

 

「あの子?……あちらの私ですか?」

 

『ええ……あの子達は騙されてしまっているの……私という死者を蘇らせるために……』

 

「……セイレーンに…ですか……」

 

こくりと天城は頷き、そしてその表情は悲しげなものであった。

 

『……どうかあの子達…「赤城」と「加賀」を……助けてあげてください………私はもう……』

 

「ま、待って!まだ……!」

 

『大丈夫……私は…空から……見守って……』

 

――――――――

 

「赤城さん、赤城さん」

 

「……くっ……ん……加賀さん……?」

 

加賀に呼ばれ、赤城は目を覚ました。

どうやら先程の戦いの後、爆心地よりそう遠くないところにいたためか赤城は気絶してしまっていたようだ。

 

「寒い……一体なにが……」

 

「わかりません……ただエンタープライズとあちらの赤城さんがぶつかった後、こうなったというだけで……」

 

「そう……他の皆さんは?」

 

「軽巡以上は損傷こそあれどすべて無事、駆逐は吹雪やジャベリン達が一時行方不明でしたが、ベルファストと神通からの通信によれば無事とのこと」

 

「そうですか……」

 

赤城は先ほどの夢を思い出していた。

いや、これは夢ではないと言える。

本来夢は起きたら基本忘れてしまうものである。覚えていても大まかにしか覚えていない。

 

だが先程の夢は今もなお赤城の中に鮮明に残っていた。

天城のことも……。

 

(姉さん……)

 

 

――――――――

 

一方重桜側は少し混乱に陥りかけてた。

多数の艦が怪我をしていた上、旗艦である赤城が行方不明。量産型セイレーンも機能を停止し、深海棲艦も姿を消していた。

そして敵として現れた自分達と同じ系譜の艦のこと、そして超大型戦艦たる「大和」のこともあったがゆえでだ。

 

「……とにかく、今は状況を建て直さなければなりません」

 

加賀も怪我をし、取り乱しかけている以上。臨時に二航戦の蒼龍が指揮を取ることとなった。

 

「でも僕と同じ艦があっちに居るって……なんかまるで僕たちを止めに来た感じだったよね…」

 

飛龍はそのような感覚を覚えていた。

偽りとは全く断言できない上、そう言うしかなかった。

 

「そして「大和」ですか……」

 

「蒼龍、悔しいがあの火力に勝つのは無理だ。あたし達の砲じゃ傷一つつかなかった」

 

伊勢の言う通り、あの大和に勝てる戦艦は現在の重桜には居ない。

基地防衛のため、この場にはいない金剛型及び総指揮官である長門、陸奥を前線に出したとしてもである。

 

航空機による攻撃なら別だが、その航空機も敵の第一航空艦隊…つまり赤城達やロイヤル、ユニオンの空母も多数であり、とてもじゃないが空母側は制空権を取るのが精一杯である。

そのため、大和は戦艦4隻でなんとか抑えるのが手一杯であった。

 

そんな中、翔鶴があることを話し始めた。

 

「……そもそもどうなんですかね?オロチ計画って…黒いメンタルキューブの正体もセイレーンを操る仕組みも私たち詳しく知らされてないですし」

 

「ちょっと翔鶴、こんな時に」

 

「こんな時だからよ、飛龍さん。赤城先輩の結界みたいな術も、何も私達は知らない……秘密が多すぎません?一航戦の先輩方は何を隠してるんでしょうね?」

 

「貴様……!ぐっ…!」

 

「加賀先輩!まだ動かないでください!……翔鶴姉、今はそんなこと言ってる場合じゃないよ」

 

加賀は吠えようとして傷口を開きそうになり、瑞鶴がなんとかそれを抑えた。

そして翔鶴は続けてこう話す。

 

「あらあらごめんなさいね。でもあちらと一致する艦達が私達を止めようとしているのも気になってるのよ……まるで私達のしていることが間違っているかのように……もしかしてあの艦達は私達を抑止するために来ていたりして……」

 

「くっ、バカバカしい……そんなことあるわけないだろう」

 

「でも加賀先輩、あなたのその目の前に現れたその「加賀」は本物だったんですよね?」

 

「……それは……」

 

「だから翔鶴姉ってば!」

 

長くなりそうな翔鶴のその推測を止めに入る瑞鶴である。

翔鶴はいつもは良いお姉ちゃんなのだが、腹黒い毒舌家であるので、愚痴があればかなり長くなってしまう。

そのため瑞鶴が止めることもたまにあるのである。

 

「……とにかく、残存艦そして赤城の捜索に急ぎましょう」

 

とりあえず蒼龍の言葉により、一応の方針が定まったのであった。

 

――――――――

 

一方別地点で神通、ベルファストに先導されて、ジャベリン、ラフィー、吹雪、綾波、夕立、時雨が本隊へ合流しようと急いでいた。

 

相変わらず暗い顔なジャベリンにそれを察したベルファストは口を開いた。

 

「……あの二人のことが気にしているんですか?」

 

「み、見ていたんですね……」

 

「流氷が進路を邪魔してしまって……」

 

「それに手間取ってしまい、助けに入るのが遅れてしまい申し訳ございません」

 

なおそのことに関して、ベルファストと神通は特に怒る様子はなかった。

 

「あの…怒らないっぽい……?」

 

「怒る必要……ですか?」

 

「ええ、大いに結構でございます。軽々しく引き金を引くほうがむしろ怒っています」

 

「そ、そうですか……」

 

ジャベリンはその言葉で少し安堵した。

その後、ある地点でベルファストは止まった。

 

「私はここで失礼いたします。エンタープライズ様を捜索しますので。貴方方はすぐに本隊へ合流を」

 

「え、でも…」

 

「私はメイドです。エンタープライズ様のお傍にいることが私の仕事です」

 

エンタープライズは確かにこの海域にいるはずなのであるが、姿は一向に見えなかった。

そのためベルファストが単独で探そうとしている…が。

 

「私達も探します。大切な仲間を放っておく理由はありません」

 

神通はもちろんのこと

 

「手伝うっぽい!」

 

「うん、帰るためにも……エンタープライズさんを置いていくことはできないよ」

 

「ラフィーも手伝う…」

 

「綾波も!」

 

「ふ、吹雪も…です!」

 

「うん!みんなで帰りましょう!」

 

駆逐艦達もその捜索に協力するとのことだった。

昔は敵ではあったが、今は仲間である。

放っておく理由など無い。

 

「……ふふっ」

 

その反応にベルファストは微笑みを浮かべていた。

 

――――――――

 

「なんだと!もう一度言ってみろ!」

 

「加賀先輩、落ち着いて!」

 

「現時刻をもって赤城の捜索を打ち切ります。全艦速やかにこの海域を離脱。重桜本陣に帰投します」

 

蒼龍より発しられた言葉は加賀を大いに狼狽させた。

瑞鶴がなんとか抑えた上、もし加賀が怪我をしていなければ今にも蒼龍の首根っこを掴みそうであった。

 

「ふざけるな……!赤城は旗艦だぞ!姉さまを置いていくなどありえん!」

 

「旗艦だからです……。赤城を失い、量産型セイレーンも活動を停止しています。加えて多数の損害を私達は受けている……私が旗艦任務を代行し、多めに見積もったとしても艦隊に作戦を遂行する能力はほぼありません」

 

「くっ……だが…!」

 

「この海域に留まり続けることはもはや不可能です。赤城1隻のために艦隊を危機に晒すことはできません。アズールレーンもおそらくはまだこの海域に」

 

「姉さま……赤城姉さま……!」

 

加賀はその場で崩れるしかなかった。

ただそれは蒼龍にとっても苦渋の選択であった。

 

「だって…仕方ないでしょう……」

 

「蒼龍姉さま……」

 




微妙に中途半端なところで切れてしまった…

次回は明日投稿します


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その手とその手(後編)

そしてアズールレーン側は重桜艦隊の位置を捉えた。

 

「重桜の主力艦隊、発見しました」

 

ヘレナからの報告を聞き、艦隊主力艦たるホーネット、プリンス・オブ・ウェールズ、クリーブランド、大和、霧島が緊急会議を開いた。

 

「なるべく見つけたくはなかったんだけどね……おそらくは敵も捉えていると思うよ」

 

クリーブランドの言う通り、見つけてしまえば戦わなければならない。

重桜がこのまま尻尾を巻いて逃げることはしないだろうとも思っていた。

 

「だが、重桜が持つセイレーンの力は危険だ。ここで完全に逃せば情勢は更に悪化しかねない……撃滅は不可能だろうが、戦力を削ぐ必要はある」

 

「ああ、まあ仕方ないさ。戦いだもの…」

 

「はい……やるかやられるか…です」

 

ホーネットは帽子を深くかぶりつつもそう呟き、大和も同じように氷の世界を見つつ、呟いていた。

そしてその話を聞いていた瑞鶴はある提案をしようとしていた。

 

「ウェールズさん、大和さん。この場は私達五航戦に預けてもらっても良いですか?」

 

「どういうことだ?」

 

「おそらく……「私達」が来ます」

 

瑞鶴は艦としての勘を働かせて、ある作戦を話し始めていた。

 

 

――――――――

そして重桜側もアズールレーン艦隊に気づき、こちらの艦隊を逃がすために翔鶴、瑞鶴といった五航戦が殿を志願した。

 

「決して早まらないでよ、2人とも」

 

「平気よ平気。こう見えても私だって幸運艦なんだから」

 

「みんなをよろしく頼むわね」

 

そう瑞鶴と翔鶴が話すと、その殿を果たすために直様出撃した。

 

「……行ったか」

 

高雄がそう確認すると、その様子を見ていた綾波が何かを思ったのが、こう話し始める。

 

「どうすればいいのか……綾波には分からないです」

 

「綾波……」

 

「でも……!」

 

「……ああ、行け」

 

そうすると綾波も遅れて出撃をし、

 

「綾波!待ってください!」

 

それを追って、ニーミも出撃した。

 

「……いいの?高雄ちゃん」

 

「ああ、あの二人の悩みを溶かすにはそれしかない……」

 

「まあ、高雄ちゃんらしくない……いつもなら「ビシっとしろ!」とか言いそうなのに」

 

「……あのな……」

 

高雄と愛宕はその二人の悩みに薄々気づいていた。

というより、いくらなんでもソワソワしすぎていたため、半ばバレかけていたというのが正しいが…。

それゆえに、背中を押したということである。

 

その後、重桜の五航戦は途中の戦艦からの砲撃をかわしている最中であるが、その様子を二人のセイレーンがみているようであった。

 

「つくづく面白いわね人類って。争いを恐れながら戦うことを選ぶ。度し難いほどに矛盾してるわ」

 

オブザーバーともうひとりは同じく上位個体である「テスター」であった

 

「彼女たちは人の思いと歴史を映し出す鏡。闘争こそが人類の本質よ。そう…戦いはいつの世も変わることはない……私達の外にいた艦娘達は少し例外みたいだけどね」

 

オブザーバーがそう話していると、テスターはオブザーバーが持っていたその艦について気になったようで。

 

「そう……ところで、それ…拾ったの?」

 

「ええ、この子にはまだ役割があるわ」

 

そこには眠りについたように横たわる重桜の赤城の姿があった。

ただ、死んだ…というわけではなく、少なくともまだ「息」はあった。

 

「エンタープライズのおかげで黒いメンタルキューブは膨大なデータを獲得したわ。計画には十分なエネルギーよ」

 

「そう…ようやくね」

 

「ええ、「オロチ」が目覚めるわ……」

 

オブザーバーはそう淡々と呟いていた。

 

――――――――

 

その後、砲撃などの攻撃を避けた重桜五航戦は氷山の隙間の中に入った。

 

「おかしい……ここまで攻撃してこないなんて……」

 

「瑞鶴!」

 

「!」

 

そしてその進路を阻むもの……それは艦娘の五航戦であった。

 

「また……アンタ…!」

 

「ええ、私が頼んだのよ……もちろんあんたたちが陽動だってのはわかってるわ」

 

「…まさか…!」

 

「本隊の方には手を出していません。仮に出したとしても、私達も無事じゃ済まないと思いましたので」

 

翔鶴の言う通り、アズールレーン側はそのまま動向を見守っている、

このまま攻撃してしまえば一捻りなのかもしれないが、そもそも殲滅戦は誰も望んでいない。

だが戦力は削ぐということには変わりがない。

艦娘の瑞鶴はあることを提示した。

 

「…「瑞鶴」、そしてそっちの翔鶴姉、私達に投降して」

 

「投降……降伏……!」

 

「はい、そうです……端的に言いますとあなた達のしていることは間違っています。セイレーンの力という敵の不安定な力に頼ったところで……その元は絶対に変わりません……」

 

「……瑞鶴」

 

「……なるほど……私達を捕虜にして、重桜の戦力を削ぐ寸法ってわけね……」

 

重桜の二人はこの意図を察した。

そして武器を構えた。

 

「お断りよ。そもそもあの時……私があの囮の時…に最後まで戦ったのを忘れたの?」

 

「ええ、わかってるわよ…あの捷一号作戦…レイテ沖海戦の時に…」

 

瑞鶴最期のであるレイテ沖海戦。なお日本側は当初は内部作戦名を「捷一号作戦」として戦闘詳報では「フィリピン沖海戦」として呼称しており、戦後よりアメリカ側の呼称であるレイテ沖海戦を使用している。

そこでは瑞鶴は小沢機動部隊旗艦として参加したのであるが、マリアナ沖海戦で翔鶴・大鳳・飛鷹などの艦を失った日本にはすでにまともに動ける艦載機もほぼなかった。

対するハルゼー大将率いるアメリカ海軍第3艦隊は航空母艦は17隻も持っており、戦う前に既に勝敗は決しているとも言えた。

だが連合艦隊司令部もそこまでのことは考えており、機動部隊である小沢艦隊を囮にし、そのスキに主力艦で構成された栗田艦隊でレイテ湾に突入し、敵上陸部隊を殲滅するという作戦を立てたのである。

その結果、小沢艦隊はエンタープライズ、エセックスなどから差し向けられた攻撃隊の猛攻撃を受け、瑞鶴は他の千歳、千代田、瑞鳳とともに轟沈した。だがその囮作戦は成功したと言えた。

 

――だが、肝心のレイテ突入は果たすことができなかった。

栗田艦隊がレイテ湾を前にして反転してしまったのである。

 

これに関しては様々な説があり、栗田自身もそう多くは語らなかったこともあり、謎に包まれているが、一説には瑞鶴からの囮作戦成功の電文が大和に届かなかったから、もしくは届いたが司令部にまでは伝達されなかったと言われている。

なお仮にここで突撃しても遅すぎたという説もある。

 

「だからこそよ……あの時とは違うのよ……」

 

「じゃあ……その違うのが正しいってのを証明しなさいよ…!私に勝って……」

 

再び五航戦同士の戦いが始まるかに見えたが……その戦いはある別の航空機により割り込まれた。

その航空機はSBD ドーントレスであった。

 

「グレイゴースト…!」

 

「エンタープライズ……!?」

 

その目線の先には氷の上で佇むエンタープライズの姿があった。

双方の瑞鶴はやはりといっていいか驚いている。

もちろん暴走状態なエンタープライズには何も声は届かず、敵である重桜の五航戦を攻撃しようとする。

 

「危ない!」

 

「くっ!」

 

「……!」

 

なんと艦娘の五航戦が重桜の五航戦を庇ったのだ。

艦娘のほうはそもそも装甲空母であるため、これくらいの爆撃はそうでもないので、できたことなのだが、重桜のほうの翔鶴、瑞鶴はこの行動に当然ながら驚いていた。

 

「あんた……!」

 

「全く……装甲空母じゃないあんたならあれくらいで一発で甲板に穴開くわよ?」

 

「……一体…」

 

「翔鶴さん」

 

「な、なによ急に……改まって……」

 

「私達はお人好しなんです。確かに戦場じゃ間違っているかもしれません……だけど…この人の形をした今…その思いを消したくはないんです……」

 

「思い……」

 

二人の翔鶴の話のその直後、エンタープライズは続けて攻撃隊の発艦体制に入った。

攻撃態勢が整っていない空母故に、反撃は難しいものであり、そして今度は味方であるはずの艦娘のほうにまで照準を合わせている。

 

「また……!」

 

「あちゃー……あの目は……」

 

だがそこへ割り込んだの重桜の「綾波」であった

 

「綾波!?」

 

綾波は氷の壁を登り、先ほどの爆撃で削られて飛んでいた氷を足場にして、エンタープライズを直接攻撃しようとした。

 

「……!」

 

そこにエンタープライズは戦闘機を差し向ける。

 

(どうすればいいか綾波には分からないです……でも…!)

 

その戦闘機を綾波はその剣を一刀両断しようとする。

 

(これは違う!嫌なのです!)

 

「綾波!」

 

そしてやっと追いついたニーミであるが、少し遅すぎてしまった。

何故なら綾波がその航空機を切った瞬間、燃料とともに爆発し、綾波が巻き添えになってしまったのである。

 

「………!」

 

その時、エンタープライズは正気を取り戻したが、今までのことを覚えていないようで、ひどく動揺していた。

 

「ま、待って……」

 

そしてそのまま綾波は落下し、不安定空間故に割れたその地面の中へ行こうとしたその時……。

 

「行きなさい!」

 

「行ってください!」

 

「行くっぽい!」

 

「どうか……「綾波」を……!」

 

別方向で待機していたジャベリン達

神通とベルファスト、夕立、綾波に押され、ジャベリンとラフィーは綾波を助けるべく、そのまま降りた。

 

「自己リミッター解除……!」

 

ジャベリンが氷の壁にアンカーをぶち込み、ラフィーはそのまま綾波の手をつかもうとする。

 

そして――

 

「届いた……」

 

「……あなた……は!」

 

ラフィーはしっかりと綾波の手を掴み、ジャベリンはそのラフィーを掴んだ。

これでなんとか落ちることはなくなった。

 

「重い……早く登ってきて……!」

 

「………ありがとう……なのです」

 

綾波は初めてその表情を緩めた。

 

「よ、よかった……」

 

その様子を見ていたニーミは急に力が抜けたようで、その場で少しよろけてしまった。

なおもしジャベリンたちがこなければニーミが飛び出していたことであろう。

 

「よかった……」

 

「良かったですね……」

 

吹雪と艦娘の綾波は安堵の表情を浮かべた。

だが時雨と夕立はそれを注意深く見ており……

 

「でも……あのままじゃ……」

 

「まずいっぽい……」

 

なにせアンカーを打ち込んだその氷がそろそろ崩れそうであったからだ

 

「え!?こ、氷が!」

 

「んー?」

 

このままでは3人とも落ちてしまう。

そこで神通とベルファストはある手を打った。

 

「偵察機、発艦してください!」

 

「水上機、お願いします!」

 

神通の水上機の零式水上偵察機及びベルファストの水上機のスーパーマリン ウォーラスを発艦させ、3人をなんとか助けようということだ。

艦娘・KAN-SEN用サイズで小さいとはいえ、一人か二人くらいなら吊って運ぶことくらいは可能である。

 

「それに捕まってください!」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

ジャベリンは腕が完全に疲れながらも、ベルファスト達に感謝を浮かべていた。

 




デレた(確信)

話の筋を改めて考える&自身の体調の関係で次回投稿は遅れます。


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第9話
光に包まれし想い(前編)


ニーミを最初の潜入の際に同行させればよかったのでは?という後悔がありつつも投稿します。

最終回まだ見てない(少し怖い。投稿したら見る)


「あ……」

 

綾波はベッドの上で目が覚めた。

自分の様子を見ると、あちこち包帯が巻かれている。

 

「……」

 

窓の外を見てみると青い空で、日差しもある。

あの時の雪の世界とは大違いであった。

 

「逃げようとしても無駄だぞ」

 

そこへ声をかけてくる一人の艦

 

「見張りが付いてる。何も取って食いはしないさ……」

 

この種類の言葉が何故か全く信用できないように聞こえてしまうロイヤルの航空母艦「アーク・ロイヤル」であった。

 

「……ここはアズールレーンの基地ですか?」

 

「さすが詳しいな。よく調べてある」

 

そうすると袋で持っていたりんごを綾波に投げ渡した。

 

「戦いの後、気絶したお前を基地に運んだ。扱いとしては捕虜ということになる」

 

「あの2人や…他の方はどうしてるんですか?」

 

「気になるか?あの子たちのことが……」

 

――――――――

 

そして指揮官室において、綾波を救出したジャベリン、ラフィーとそれを手助けしたベルファスト、神通が呼び出されていた。

なお吹雪、夕立、時雨、艦娘の綾波も来ている。

 

 

「まったく。無茶してくれたよ……それで捕虜は2名確保したわけだけど……」

 

クリーブランドが言う通り、無茶も良いところであった。

 

「敵を助けるための無謀な突貫。ま、あまり褒められたことじゃないよね?」

 

「人道的ではありますが……もし一歩間違えればあなた達は……」

 

ホーネット、大和も同様の考えであった。

下手すれば異空間に飛ばされるかもしれなかったのである。

 

「ご、ごめんなさい…」

 

「お待ち下さい。お2人をけしかけたのは私です。責はこのベルファストにあります」

 

「いえ、私も同じく背中を押しました。責任は私にもあります」

 

「いえ、綾波達もです」

 

「そうっぽい……ジャベリン達が罰を受けるなら私達も受けるっぽい!」

 

ベルファストと神通と艦娘の駆逐艦達はその2人を庇い立てた。

なおウェールズと大和、ホーネット、クリーブランドはやれやれといった様子で特に怒っているというわけではなかった。

 

「そうは言うが……一応は軍隊である以上、ケジメは付けなければならない…大和」

 

「はい、規律が整っていなければ統制は取れませんからね…」

 

その発言でジャベリンの顔はかなり暗くなるが……。

 

 

「というわけだ。ラフィー、ジャベリン…両名には懲罰として捕虜の監視任務を命じる」

 

「え?」

 

そのホーネットの言葉にジャベリンは少し驚いた。

てっきり結構な罰が振ってくると思ったからだ。

 

「捕虜は丁寧に扱うのが決まりだからね…条約にもそう書いてあるわけだし」

 

「はい。そして吹雪さん達にはジャベリン、ラフィーの任務への協力を命じます」

 

「は、はひ!?」

 

吹雪は大和からの突然のそれで少し「はい」が空回りした。

こちらもどうやらかなりの罰を覚悟していたようだ。

 

「落ち着くっぽい……」

 

「え、えっと……つまり……」

 

「そういうこと…ですよね…?」

 

「ああ、頼んだぞ」

 

ジャベリンと吹雪のその問いにホーネットはYESと答えた。

 

「「は、はい!」」

 

ジャベリンと吹雪はそれに元気よく返事をした。

その2人には笑顔が再び戻っていた。

 

――――――――

 

その後、駆逐艦達が退出した後。

ウェールズ、ベルファスト、クリーブランド、ホーネット、大和、神通が紅茶を嗜みつつ、ある話し合いをしていた。

 

「…我ながら甘いな」

 

「良いじゃないか、別に……キツく縛りすぎる方もおかしいし」

 

「そうですね……旧軍時代ならどうかと思いますが……今はもうそんなことは関係ありませんから」

 

「そうそう。コーヒーも紅茶も人生も甘い方がいいのさ」

 

と言いながらもホーネットは紅茶に砂糖を多めに入れている。

なおクリーブランドのほうはそうでもない。

 

「そうだな……しかし、問題はこちらのほうだ」

 

ウェールズが紅茶を飲む手を止めると、黒いメンタルキューブのほうを指す。

その黒いメンタルキューブは戦いの前よりもずっと異常な反応をしていた。

今にも爆発してしまいそうな風にも見える。

 

「あの戦い以降、キューブは異常な反応を示してます。これが何を意味するかまでは分かりませんが……」

 

「黒いメンタルキューブはオロチ計画の鍵。セイレーンの企みであることは間違いない」

 

ウェールズの言う通り、その黒いメンタルキューブはセイレーンの類に近い反応のものであった。

 

「これってやっぱり姉ちゃんと関係があるよね?」

 

「ベルファストさん、エンタープライズさんの様子は?」

 

「2人の明石様が現在猛スピードで身体と艤装の検査を行っていますが、今のところ異常は見つかっておりません」

 

大和の問いにベルファストがそう答えるとクリーブランドはこう話し始める。

 

「いや、凄い船だとは思ってたけどさ……あの時のエンタープライズはなんだか……」

 

「はい……まるで本当に「グレイゴースト」のようになったようで……」

 

「クリーブランド、神通……あれは姉ちゃんじゃない。正確に言えば姉ちゃんの体を借りた何かだとは思う」

 

「ホーネットさん……」

 

「あの時の姉ちゃんには正気もなかったし、こっちの翔鶴さん達からの報告によれば、下手すればこっちにも攻撃を加えかねないとかだったし……いくら強い姉ちゃんだからって…」

 

ホーネットがあの時見たエンタープライズは姿こそエンタープライズであるが、感情の持たないロボットのようであった。

ホーネットがこのような発言をするのは当然であった。

 

「ああ、そう考えるのが自然ではある。あれはエンタープライズと言えて、エンタープライズではないもの…だが今の所は証拠はなしか……」

 

「セイレーンが関わっているのは確実とは言えますが……暫くの間はセイレーンの動向に注意しなければなりませんね、ウェールズさん」

 

「ああ、哨戒の回数の数を増やさなければ」

 

大和の意見に賛同したウェールズは残っていた紅茶を飲み干していったのであった。

 

――――――――

 

「通信端末ねぇ……」

 

瑞鶴はある式神を手に取り、そう呟いていた。

これはなんとあちらの瑞鶴から手渡されたものだが、これに関しては時間を遡ることとしよう

 

~~~~~~~~~~

 

「よかった……」

 

「危ないところでしたね……」

 

「ええ…」

「ホントね……」

 

重桜の綾波が救助されたことを確認した、4人の五航戦達

そして艦娘の瑞鶴は重桜の瑞鶴にこの戦いをどうするか問いた。

 

「で、どうすんの?まだやる気?」

 

「何言ってるの……興ざめよ」

 

そうすると、重桜の瑞鶴は構えるのをやめてしまった。

 

「そもそも、私達もオロチ計画についてわかってるわけじゃないし……」

 

「ええ、先輩方は何か隠し事しているんです。長門さんや陸奥さんにも詳しく伝えずに!」

 

「そ、そうなんですか……」

 

艦娘の翔鶴がそう言うと、重桜の瑞鶴は艦娘の瑞鶴にあるものを投げ渡す。

 

「……なにこれ?式神?」

 

「ただの式神じゃないわ。まあ簡単に言えば通信端末ね」

 

「通信?」

 

「あんたと私が連絡取れるように…よ。まあ仕組みは説明がめんどくさいから省くけど、これを持っていればどこへでも通信できるスグレモノよ。もちろんこの式神を持っている者同士だけだけど」

 

(オーバーツーね……まあこの世界はあの時とは厳密に違うものなんだろうけど)

 

艦娘の瑞鶴としてはただの紙でできた式神としかわからなかった。

 

「ふーん…でもなんで私にこんなの渡すの?」

 

「……「私」を信じるから…よ。あと、これから嫌な予感がするのもある。幸運艦の勘って言うのかな?最後の戦いのとき以上の……」

 

「うーん…確かに私もあんまりいい気持ちじゃないわね…」

 

双方の瑞鶴はどうやら胸騒ぎがしていたようだ。

ただこれを言い表すにはまだ情報が足りない。

 

「だからこれは緊急連絡先…みたいな」

 

「……一応敵なのに渡していいわけ?これを利用してあなた達をおびき寄せて叩くこともあり得るのよ?」

 

至極当然な意見に対し、重桜の瑞鶴はこう返した。

 

「そんなことしないってのはわかってるわよ?「私」なんだから……そもそも「ヒト」なら道理に合わないこともするんでしょ?」

 

「まあそうだけど……」

 

自分で言ってアレだが、実際されてくると微妙にむず痒い艦娘の瑞鶴であった。

そして続けてこう問う。

 

「じゃあこれからどうするの?」

 

「オロチ計画やセイレーンについて探って、重桜のことを良い方向に変えれるようにする。もう二度と、あんた達に間違ってるって言われないように……」

 

「先輩達の間違いを正す、いい機会です!これを機に微妙に冷遇されてた私達の待遇改善を…!」

 

「いや、そういうのじゃないから。翔鶴姉」

 

腹黒さがでまくっている重桜の翔鶴に瑞鶴はなんとか抑える。

 

「そう……じゃあ私達はこの場は見逃すしか無いね」

 

「まあね……本当は綾波とニーミも連れて帰りたいけど、あの様子じゃそっちに預けたほうが良いと思うから」

 

「ふーん……ま、手荒い真似なんかするつもりないし。引き受けたわ」

 

そうすると五航戦は手を取り、「握手」をした。

双方とも信用できると判断したからか、表情も「戦い」のものではなく「平穏」なものであった。

 

その後、重桜の五航戦は速やかにこの場から立ち去った。

そして艦娘の瑞鶴はあることを呟く。

 

「はぁ……さっきまであんなに戦ってたのに、いくら「私」でもチョロいと思うんだけど……」

 

「どうかしら?瑞鶴」

 

「翔鶴姉?」

 

「あちらの瑞鶴もお人好し…ってことよ?」

 

「あー……」

 

照れくさそうにポリポリと頭をかく瑞鶴であった。

 

~~~~~~~~~~

 

このような経緯があり、今に至るというわけである。

なおこのことに関しては大和や赤城などには話したものの、他には秘密である。

だが、瑞鶴は引き続きその式神をじーっと見つめていた。

 

「しかし、これって……どうやって使えばいいんだろ。念じるとか?葛城とかに聞いておけばよかった…」

 

自身が使うのは弓矢であり、雲龍型など一部空母とは違い、式神は扱えないため、流石に?を浮かべてしまった。

そしてそれを試行錯誤していくのであった。

 

―――――――――――

 

一方その頃、綾波と綾波が対面していた。

 

「改めて、よろしくおねがいしますね」

 

「……よろしく…です……」

 

片や黒髪のサイドテールのお淑やかな少女

片や白髪のポニーテールで機械のような耳も持つ、物静かな少女

 

同じ「綾波」であるのだが、こうも違っていた。

 

「本当に同じ艦なのですか……?」

 

ニーミは双方を見比べつつも、やはりと言ってなんだが、驚きの表情であった。

 

「同じ…です」

 

「同じですね♪」

 

「…………」

 

「そんなにじっと見つめても変わらないと思うよ?」

 

「っぽい?」

 

「?」

 

なお綾波達だけではなく、時雨、夕立、吹雪といった面々にも驚いている。

そもそも自分が出会った重桜の艦と少し姿が違えど、同一艦が普通にいるからである。

一応艦娘という説明は受けたが、それでもである。

 

「まあ…色々と処理が追いつきませんがもう良いです……それより……何故私達は普通にしていられるんですか?手錠とかもしないで」

 

一応捕虜というわけだが、綾波とニーミは共に手錠などはしていない。

 

「手錠する必要ありますか?」

 

艦娘の綾波がそう問いかける。

 

「いや……ですが」

 

「まあ逃げるならすぐに追いかけるっぽいけど、二人共そんなことはしないっぽい」

 

「信用しているからこそ……というべきかな。敵を信用するなんて変な話かもしれないけど」

 

「そもそも私達自身が「変」で……あ!別に「死の行進」をするつもりじゃありませんから!」

 

死の行進

主にバターン死の行進のことであり、アメリカ軍守備隊が降伏した際、日本軍が想定した捕虜の数より多かったためか、かなりの数の捕虜が88kmという広大な距離を歩く羽目になってしまった。

それにより日米双方で死者の数の食い違いがあるものの、結構な数が犠牲となってしまった。

 

「死…?」

 

「吹雪、そこまで神経質にならなくていいと思うよ?」

 

「えーでも!」

 

「……」

 

(………この感じ……)

 

重桜の綾波はこんな様子の艦娘達に不思議と思いつつも、悪い気分ではなかった。

 

―――――――――――

 

「いらっしゃいませー」

 

「いらっしゃいませにゃ!」

 

「………」

 

そして色々な物を買うために明石商店に案内された綾波とニーミであるが、綾波は何食わぬ顔で商売をしている明石に流石にツッコミも一つ入れたくなったようで…。

 

「こんなところで何やってるんですか、明石」

 

「お客様がいれば世界のどこでも商売はできるにゃ」

 

「ああ、あなたが噂のもうひとりの綾波さんですね!」

 

「……明石も2人なんですね……」

 

「はい!二人がかりで商いしてます!」

 

「ねぇねぇ、これまけてよー」

 

「駄目にゃ」

「駄目です。これでもカツカツなんですから」

 

「えー」

 

ロングアイランドの値切りにも相手をしなかった2人の明石。

 

(違うけど……本当に同じなんですね……)

 

どこかに腑に落ちた綾波であった。

 

その後、艦娘の明石は商品整理をする中、重桜の明石と綾波は「赤城」のことに触れていた。

 

「赤城さんがセイレーンと……」

 

「赤城はおっかないけど仲間を裏切るようなヤツじゃなかったのに……でもこっちの艦娘の赤城は随分と違ってたにゃ」

 

「やっぱり違うんですか?」

 

「加賀もそうだけど……今に限っては艦娘のほうが羨ましいと思えるくらいにゃ……昔はあんなんじゃにゃかったけどにゃ……」

 

「……」

 

そんな重桜の綾波にトントンと肩を叩く艦娘の綾波。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「マグカップ、どういうのが良いですか?」

 

「あ……」

 

どうやら自分が使うマグカップを選んで欲しいということらしい。

 

「こういうのもあるっぽい!ニーミも選ぶっぽい!」

 

「う、うむむむ……」

 

「……」

 

そんな様子の駆逐艦達の近くにいるアーク・ロイヤル

 

「うん…うん……」

 

と長門である。

 

「貴様、何をしている?」

 

「な、何とは……ただここに居るだけだが……?」

 

「嘘を言うな、ストーカー紛いのことをしていると他の艦から通報が入った」

 

「な、何を言う!駆逐艦を見守るのも年長者の務めではないか!」

 

「その務めの仕方が怪しいんだ!綾波の目覚めをずっと待っていたこともいい……」

 

色々と怪しいアーク・ロイヤルを叱りつけている長門であった。

 




五航戦は五航戦で動いてます。


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光に包まれし想い(後編)

12話はすごかった(こなみかん)


でもやっぱミサイルって反則じゃ…そしてエンプラよく追いついたな!?
エースコンバットですらジェット機だぞぉ!?



一方の重桜基地では艦隊臨時代表として長門へ報告を行っていた。

艦隊副官であった加賀はまだ修復中であり、二航戦は艦船の修復作業の指揮をとっているがゆえである。

 

「赤城は戻らなかったか…」

 

「はい。作戦の総指揮を務める赤城先輩を失い、黒箱はアズールレーンに奪われたまま。極めて厳しい状況です」

 

「加賀はオロチ計画の遂行を強く主張しておるが……怪しんでおるのか?加賀を」

 

「そうではありません…ですが、この計画はすべて赤城先輩と加賀先輩に一任してきた以上。赤城先輩を失い、加賀先輩が負傷したのではこのまま計画を進めるのは危険です。計画の一時凍結・休止が望ましいと思われます」

 

「うむ……それと「同一艦」のことか……聞く限りは「余」も居たということか?」

 

「はい……そして超大型戦艦の「大和」も居たということです。もちろん本物であるという確証はありませんが……」

 

「………大和…か……わかった。翔鶴は下がれ」

 

「はっ」

 

翔鶴が下がり、残っているのは長門、陸奥、江風の3人である。

そして長門は深く考える仕草をする。

 

(我々が作戦を開始してから現れた同一艦……か……まるで我らがしていることを間違っているかのように止めに来たというのか…?)

 

そう考えると陸奥が長門にあることを問いかける。

 

「長門姉、「大和」って……」

 

「ああ……我らより一回り…いやそれ以上の力を持つ超大型戦艦のことだ。余も詳しいことは覚えてはいないが恐らくは……」

 

―――――――――――

 

一方、瑞鶴は「オロチ」のことを調べるためにそのオロチがある洞窟内に来ていた。

 

(加賀先輩が療養中…調べるのは今しかない……)

 

とオロチがあるその最深部まで足を進めているが、気配を察知したのかある物陰に隠れた。

 

そして瑞鶴がこっそりとオロチがある方向を見るとそこではセイレーンの上位個体である「オブザーバー」と「テスター」が何かを話している姿であった。

 

(……やっぱり……赤城先輩と加賀先輩はセイレーンと手を組んたってこと……)

 

ここに来てセイレーンと手を組んだことを認識した瑞鶴であった。

 

「赤城は…だけど」

 

「そうね……加賀は…」

 

なお瑞鶴の距離からは流石に詳しい会話の内容までは聞こえなかった。

ただ、「あちら」の自分の言う通り、「間違っている事」ということは薄々感じ取れた。

 

(でもそうならセイレーンと手を組んで先輩2人は何をしたいんだんろう……?世界征服の補助…いやいや、いくら先輩でもそんなことは絶対しない……確かにちょっと悪役っぽいところはあるけど……)

 

ただ瑞鶴からしてみれば先輩の真意はわかりかねるものであった。

 

(ってこんな場合じゃ長居するのはマズイ…とっととずらかろう…)

 

そして瑞鶴はバレないように足早に洞窟を後にした。

本当はオロチのその艦をもっとよく見ていたいが、流石にセイレーンが2体もいる今、それは無理であった。

 

―――――――――――

 

「まさかニーミが捕えられちゃうなんてね…」

 

一方、鉄血のプリンツ・オイゲン、レーベレヒト・マース、アドミラル・ヒッパーが茶屋で話し合っていた。

派遣したニーミがなんとアズールレーンに捕えられてしまったこともあり、

 

「うう…こんなことしてる場合じゃねえ!今すぐニーミを!」

 

「待ちなさい、闇雲に行ったところで返り討ちになるだけじゃない」

 

「姉さんの言うとおりよ。第一、今は重桜も要を失ってゴタついているみたいだし」

 

レーベのその進言を冷静に抑えるヒッパーとオイゲン。

 

「こっちも戦力を出しきれない…それと、同一艦の件やオロチのことも気になるわ…そして急がなくてもニーミは大丈夫よ。しっかりものなのはわかってるでしょ?」

 

「そ、それはそうだけど……」

 

「あと彼女はある「悩み」もあったようだし」

 

「悩み?」

 

「なによそれ?」

 

レーベとヒッパーのそのはてなをよそにオイゲンは引き続き甘味を楽しんでいた。

 

「ふぅ……深い甘みね…」

 

―――――――――――

 

そして場所は戻り、アズールレーン基地の図書室では大和、霧島が前作戦の状況を整理しつつも、きがついたことがあったようで、意見を交換しているところであった

 

「何故セイレーンはこのアズールレーンに直接攻撃をしないのか……どう思いますか?霧島さん」

 

「そうですね……確かにこうも回りくどいことばかりを取るのか、理解に苦しみます。セイレーンとよく似ている深海棲艦はシーレーンへ徹底攻撃し、更に洋上の島国への攻撃を行い、占領行動を行い、それで一時期人類は70%から80%の制海権を損失しました。ですが、セイレーンは記録を見る限り、初期こそそのようなことをしましたが、一度人類が巻き返した後は小競り合い程度しか行っていません」

 

「ええ、そして明石さんの見解ではセイレーンはこちらの世界はおろか、私達の世界の水準でも凄まじい技術を持っている…」

 

セイレーンは量産型だけでもミサイルやらレーザー兵器やらいかにも近未来的な物を使用し、凄まじい技術力があるというのは明白であった。

つまり世界征服や世界滅亡などをするには十分すぎるのである。

だが、そうなってはいない……つまり、まるで手加減しているように見えるのだ。

 

「気味が悪いですね……いつでもこの世界を滅ぼせるのにそれを出してこないというのが」

 

「それとセイレーンは重桜の赤城、加賀と組んでオロチ計画を遂行させていることもです。こちらの赤城さんと加賀さんいわく、「天城」を蘇らせることで間違いないということなのですが」

 

「それも不可解です。まるでこちらを面白がっている…いや実験しているようにも私は感じます。詳しいことは不明なので、あまり言えませんが…」

 

「謎が謎を読んでいる……とにかく、もう一度セイレーンに関する記録を洗ってみましょう」

 

「はい、大和さん」

 

大和、霧島は再び図書室の本の波の中に入っていくのであった。

なんとも言えないその引っかかることを感じながら……。

 

―――――――――――

 

一方、基地の辺りの海がよく見える高台では、赤城が座り、佇んでいた。

どこか考え事をしているようだ。

 

「……」

 

「赤城さん?」

 

そんな様子の赤城に加賀は声をかける。

 

「加賀さん……」

 

「赤城さんらしくないです。朝食もあまり食べないで…」

 

「いえ、少し考え事を……」

 

「…そうですか」

 

そうすると赤城の隣に加賀が座った。

 

「私、あの時夢を見たの」

 

「夢、ですか」

 

「ええ、あちらの私と加賀さんが喧嘩をしてて、それを天城姉さんが止める夢……そして途中でその天城姉さんが私に話しかけたの」

 

「話しかけた……」

 

「「助けてあげてください…」って」

 

「助けて…ですか、でもあちらの赤城さんはもう…」

 

「いえ、まだ生きているわ。夢の中の姉さんもそう言ったし、私もまだ感じている……あの「私」のことを」

 

「……」

 

「だから加賀さん、私は改めて助けたい。間違いなくセイレーンに利用されているあの2人を……だから、加賀さんも」

 

「…ええ、私も元からそのつもりです…あの私は過去の呪縛に陥ってしまっている…そんな私はもう見てられないわ」

 

「加賀さん……」

 

そんなシリアスの中、どこからか腹の虫の音が聞こえてきた

 

「…赤城さん?」

 

「………」

 

当然ながら赤城さんからのものであった。

考え事が少し消えたため、腹が減ってしまったようだ。

 

 

「…もうそろそろで昼食の時間だから行きますか?」

 

「え、ええ……腹が減っては戦はできぬとも言いますし……」

 

「食べすぎても戦はできませんからね。気をつけてください」

 

「は、はい……」

 

赤城もやはり自分の大食いを気にしているようで、少し赤面してしまったようだ。

 

―――――――――――

 

その後、ジャベリン達駆逐艦は基地本部より少しはなれたモールに足を運んでいた。

そして途中よりユニコーンもついてきている。

当然ながら様々な艦が商売していたり、芸を披露していたりなど物凄く賑わっている。

そして色々なものを見たり、占ってもらったりと楽しむ中、小腹がすいたことも有り、パンケーキを食べることになった。

 

そして席の関係でジャベリン、重桜の綾波、ユニコーン、ラフィー、ニーミと艦娘の綾波、夕立、時雨、吹雪と別れて食べることとなった。

 

「プファンクーヘンですか……」

 

プファンクーヘンとはドイツ語でパンケーキを意味する言葉である。

 

「わぁー!美味しそう!いっただきまーす!」

 

「「「「いただきます…」」」」

 

「は…」

 

「!?」

 

そしてその次の瞬間、ラフィーはそのパンケーキ一枚をすぐにまるごと食べようとしていた。

それに対し、ニーミはすぐにツッコミを入れた。

 

「ちょ、まるごといきなり食べないでください!」

 

「えー……切るのめんどくさい…」

 

「体に悪いです!もっと切って……貸してください!」

 

そうするとニーミはラフィーのパンケーキを食べやすい一口ずつに切ってあげた。

 

「おー…すごいねニーミ。はむ…もぐもぐ……」

 

「これくらい普通です」

 

「………」

 

そして綾波はまだ食べていないようで、ラフィーはすきをついて綾波の苺を奪おうとするが、直様綾波が察知してそのラフィーのフォークを自分のフォークで止めた。

 

「あ」

 

「……甘いです。鬼神がそう簡単にスキを見せると思わないでください」

 

「……受けて立つ」

 

そして綾波とラフィーはナイフとフォークで触発寸前になってしまったが、そこはニーミが間に入ってくれた。

 

「お行儀悪いです!二人共普通に食べてください!」

 

「えー」

 

「うう、でも…」

 

「喧嘩両成敗です!」

 

今まで悩みゆえにあまりこういうことを最近はしていなかったが、ここへきてやっと「委員長体質」が戻ってきたようであった。

 

(ニーミちゃんと綾波ちゃん、すっかり緊張が溶けてる……)

 

ジャベリンがそう思う中、ニーミのツッコミはジャベリンにも命中する。

 

「あとジャベリン!口元にクリームがいっぱいついてます!ちゃんと拭いてください!」

 

「あ…」

 

一応ロイヤル出身であるジャベリンであり、上品なことを心がけているのだが、ベルファストなどに比べればまだまだのようであった。

 

一方、艦娘のほうでもパンケーキを楽しみつつも、その様子を見ていた。

 

「あちらの「綾波」もニーミさんも元気になってくれたみたいですね」

 

「そうですね……あとここのパンケーキ本当に美味しいです!……ほっぺが落ちそうで…」

 

「吹雪ちゃん、本当にほっぺが落ちそうっぽい…」

 

「夕立…口元に一杯クリーム付いてるよ」

 

「っぽい?」

 

こちらもこちらで楽しそうであった。

 

「………」

 

その様子を見ているある空母「アーク・ロイヤル」

 

「……尊い」

 

その駆逐艦達の様子を見て、鼻血を出していた。

色々と危なかった。

 

(全く…こいつは……!)

 

そしてその横についていた長門はアーク・ロイヤルのその様子に引き続きため息を付いていたのは言うまでもない。

 

 

―――――――――――

 

その後、時間は経ち、夕食の時間となった。

そして面々で食事をとっている。

 

「もぐもぐ……」

 

「……」

 

重桜の綾波は当たりを見ても居た。

他の面々も変わらずワイワイと皆で食事をとっている。

その光景は重桜と何ら変わらなかった。

 

だがある一点を除けば…

 

「…!」

 

「綾波、どうしました?」

 

「あれ」

 

綾波が指差す方向にはグローウォームとアーク・ロイヤルが居た。

どうやらグローウォームが指を切ってしまったらしい。

 

「大丈夫か!?」

 

「あっ!?」

 

「まだ傷は浅い…今、お姉さんが消毒して…」

 

色々と危ない人であるのは言うまでもないが、それに対しグローウォームは見ているだけではなく。

 

「ミリオンヘッドスマッシュ!」

 

「ぐおっ!?」

 

グローウォームが頭突きをして、アーク・ロイヤルにクリティカルヒットした。

更に――

 

「貴様……何をしている……!」

 

「あ……」

 

駆逐艦最終防衛ラインとなっていた戦艦長門がその場に姿を表した。

 

「いやこれはだな……善良な保護をだな…」

 

「その様子では一撃じゃ生ぬるいようだ…」

 

「お、お許しを…!」

 

「問答無用!」

 

長門はアーク・ロイヤルを無理やり引っ張っていった。

その様子に重桜の綾波はこう話す。

 

「あれがこっちの長門さん…ですか?」

 

「うん、そうだよ」

 

時雨はもちろん肯定している。

なお夕立の口を拭きながらであるが…

 

「そうですか……やっぱり違いますね…」

なおその後、どこからかが凄まじい砲撃音が何発かした後、アーク・ロイヤルは黒焦げになって発見されたのは言うまでもない。

 

―――――――――――

そしてその夜、重桜の綾波はふと目が覚め、表へ出ていた。

当然ながら就寝時間後であり、表には誰も居ない。

 

…はずだが、どうやら同時にニーミも出てきていたようだ。

 

「ニーミ…」

 

「綾波…」

 

そして2人はある道を一緒に歩いていた。

暫くは無言だったが、綾波のほうから話し始めた。

 

「…綾波にはよくわからないのです。アズールレーンとは敵同士で…でも皆は優しくしてくれて…」

 

「…綾波の言いたいことはわかります。…戦いのこと、重桜と鉄血のこと、色々考えるにつれて……」

 

「……綾波も同じです」

2人の考えていることは同じであった。光はあるはずなのだが、2人にはまだよく見えていなかったのも同じである。

そうしている内に2人はいつの間にかある高台に来ていた。

そこは綾波とジャベリン、ラフィー、ユニコーンと出会った場所であった。

 

「綾波…ここは……?」

 

「………」

 

綾波の足元にはいつの間にかユニコーンのユーちゃんが居た。

そのユーちゃんを綾波が拾い上げるといつの間にやらジャベリン、ユニコーン、ラフィーが居た。

そしてユニコーンが話し始めた。

 

「あの時、ユーちゃんを見つけてくれてありがとう」

 

「あの時…綾波が潜入した時に?」

 

「ニーミ……別に、綾波は何もしていないです。何も…」

 

綾波が基地内に潜入している際に偶然ユーちゃんを拾ったのがこの事のすべての始まりである。

 

「綾波はこの基地に忍び込んだ敵で……ニーミもその敵の一人…」

 

「でも…だから会えた。そして綾波ちゃんと出会えたからニーミちゃんとも出会えた」

 

「うん……会えた」

 

「………」

 

ジャベリンとラフィーの言う通り、綾波の潜入があり、そしてそれを通じてニーミとも出会うことができた。

必然か偶然かは誰もわからない。だがこの場に敵同士のはずの人達がこうして平穏に揃っている時点で、これは事実であった。

 

「……だから改めて、友達になってくれますか?ニーミちゃん、綾波ちゃん」

 

「……!」

 

次の瞬間、2人の靄はやっと完全に消え去った。

そして表情も悩みの表情が溶けていき……ジャベリンの言葉にこう返した。

 

「は、はい!よろしくおねがいします!」

 

「よろしく…です……」

 

「…うん!」

 

ジャベリンがそう返すと次第と5人には笑顔の表情が浮かんでいた。

ここにこの5人は完全に友情を結んだと言っても過言ではないであろう。

 

 

……そしてその近くの岩陰で艦娘の駆逐艦である綾波、吹雪、時雨、夕立が隠れていた。

 

「よかったですね……」

 

「はい……吹雪、感動です…!」

 

「うん、わざわざついてきたかいがあったね」

 

「そうっぽい…!」

 

どうやら、ジャベリン達の後を付いてきたらしい。

一応バレずに隠れているつもりだが……

 

「……」

 

「どうしたの?ラフィーちゃん」

 

「ジャベリン、あそこの岩陰に吹雪達がいる」

 

「ええ?!」

 

((((!?))))

 

ラフィーにあっさりとバレてしまった。

そして誤魔化し笑いをしながらもゾロゾロと出ていく艦娘4人。

 

「こっちの綾波ちゃんも……どうして…」

 

「ちょっと気になってしまいまして……」

 

「ついてきたっぽい」

 

「ラフィーさんに隠し事はできないみたいですね…」

 

吹雪の言う通り、ラフィーはいつもはどこかダウナーであるが、周囲の異変などには気づきやすい。

つまり隠れてくるのがそもそも無茶であった。

 

「友達になれてよかったです。綾波さんもニーミさんも」

 

「…自分から自分の名前を言われるのは変です」

 

「綾波もです。綾波も混乱しそうで」

 

ふふっと2人の綾波は笑った。

このような光景は絶対ありえないことであったがゆえに、自然と笑いが来たのであろう。

 

そして吹雪は重桜の綾波とニーミにこう切り出した

 

「ニーミちゃんと…あ、綾波ちゃん?」

 

「なんで綾波は疑問視なんですか、吹雪」

 

「い、いえ……あまり慣れてないので…ゴホン……私達とも友達で…良いんですよね?」

 

「……もちろんです。」

 

「そ、そうです!あなた達艦娘も友達……です」

 

なおニーミはあまり慣れていないことだからか、最後のほうは声を小さくしてしまった。

吹雪もテンパっているのだが、ニーミも同様であった。

 

 

「そ、そうですよね!よかった!こっちは仲間はずれとかにならないかなって心配してて…」

 

「吹雪ちゃんはいつも心配性っぽい……」

 

そうしているうちに風が強くなり、少し体が寒くなっている。

いくら艦娘・KAN-SENといえど、艤装を背負ってない時は普通の人間とは何ら変わらない。

つまり風邪を引くこともあるのである。

 

 

「そろそろ戻りましょう?冷えてきたことですし」

 

「そうっぽい…クションッ!」

 

艦娘の綾波の提案により、そして夕立がくしゃみをしたこともあり、駆逐艦達はそれぞれの寮へ戻っていった。

なおそれぞれの表情は十人十色であったが、とても満足しているような表情であったそうな。

 

―――――――――――

 

「ふあああっ……」

 

一方瑞鶴は寮の部屋であくびをしつつも本を読んでいた。

なお翔鶴は哨戒のため、この部屋には瑞鶴のみだ。

 

(これからどうなるのだか……見当がつかないわね…)

 

暫く色々と怒涛な日々であり、この先のことも予想できない。

当然ながら自分達がこの先帰れる保証もまったくないのである。

 

(このままこの世界に骨埋めることになるのかなぁ……)

 

そんなことも思っていると横においていた式神が急に光り始めた。

 

「ん?」

 

そして瑞鶴が手に取ってみる。すると……

 

『あーテストテスト……ただいまテスト中』

 

「…ってあんた!?」

 

『ああ、その声は……きちんと通じてるみたい』

 

重桜のほうの瑞鶴であった。

どうやら通信が繋がったらしい。

 

「そう通じるのね…で、どうしたの?」

 

『ああ、うん。こっちは今オロチのことを調べて記録とか色々と見てる最中なんだけど、先輩方やっぱり文章とかにあんまり残してなくて……』

 

重桜の瑞鶴はどうやら現在双方不在である一航戦の書斎に潜入(?)しているらしくガサゴソと色々と漁ったりしているらしい。

 

「まあ、わざわざ隠してるならいちいち証拠なんて残さないよね…」

 

『でもセイレーンと組んでることは明白だったわ。オロチ本体の方を見に行った時、ちょうどセイレーンの上位個体の2人がいるところに出くわしてね……すぐに隠れて様子を見たんだけど、赤城先輩と加賀先輩のことを話してたし…』

 

「やっぱりね……」

 

『ま、まだ色々と調べてみるけど、期待は薄い。このままいけ…うわっ!?』

 

そして急に重桜の瑞鶴は声を上げた。

 

「ど、どうしたの!?」

 

『ごめん、誰か来たみたい。また後で!』

 

「ちょ、ちょっと!」

 

そうすると式神は光を失い、声も聞こえなくなった。

 

(誰かに見つかったってこと?大丈夫かしら、あっちの私)

 

―――――――――――

 

「………」

 

一方、こちらの瑞鶴は人の気配を察知してすぐに押入れの中に隠れ、少し隙間を開けて様子を見た。

 

(まさか加賀先輩がもう…?でもまだ…明石もいない今、治すのもまだ時間かかるのに……)

 

そしてその人物は何か歩いた後、ついにこの部屋に入ってきた。

 

(……ええ!?)

 

その人物は重桜の戦艦であり、重桜の総旗艦を務める「長門」であった。

 

 

 

 




12話まで終わったことに伴い、やっとなんとかオチを含め考えることができますが
10話と11話の間に再びオリジナルを挟む予定です。
今回は短編ではなく、「艦娘世界編」をお送りします。
事実上の10.5話かも…

投稿間隔も少し伸びたりします。



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第10話
記憶の残響(前編)


今回よりだいぶオリジナルさが出るはず……。


一航戦の書斎にやってきたのはまさかの長門であった。

 

(なんで長門さんが……)

 

瑞鶴は押入れの中から引き続き開けたちょっと隙間から様子を見つめる。

 

「…妙だ…誰かが触った形跡がある…加賀は病室にいるはずだが…」

 

(やばっ…急ぎすぎて乱雑になってた…!)

 

隠れるのに必死になりすぎて、見ていた書類や本などを無理やり戻したがため、ゴチャゴチャになってしまった。

そして――

 

ガタッ

 

それで瑞鶴が少し動いてしまい、物置から音がしてしまった。

 

「…なにやつ!?」

 

(しまっ!?)

 

そして長門は押入れに近づき、思いっきりふすまを開けた。

 

「…瑞鶴!?」

 

「あ……ははははははは…」

 

もはや瑞鶴にとっては笑ってごまかすしかなかった。

 

その後、瑞鶴は長門の前で正座をしている。

 

「………」

 

「………」

 

(…ど、どうごまかす……?)

 

瑞鶴はこの状況をどうくぐり抜けるかを一生懸命思考していた。

だが押入れの中に入っていたというのはどうやっても誤魔化しきれないのは逆立ちしたってわかるものである。

 

だが先に長門がため息をついた。

 

「はあっ……お主も結局余と同じということか…」

 

「え?同じ?」

 

瑞鶴が目を点にしていると長門はこう話す。

 

「余も気になることがあったのでな。書斎にお邪魔したということなのだが……まあお主の様子を見る限り、収穫はなかったようだな」

 

「ま、まあ………そんなところというのか……なのか…」

 

「そう気にするな。今の余は非番である。そして余も潜入している時点で言えることもなかろう」

 

(玄関から堂々となのは潜入とは言わない気が……)

 

「…お主が知っていることは他にあるか?余もオロチ計画については知らぬことばかりなのでな…」

 

「………これからの話、他言無用でお願いできますか?公表したら重桜内で混乱しかねないので」

 

「わかった。余の口は固いからな」

 

瑞鶴はすーっと息を吸い、覚悟を決めて再び口を開いた。

長門へは自分が知るある一点のことと、それに関する推測を話した。

もちろんセイレーンの上位個体と赤城、加賀の両名が手を組んでいる…いや、セイレーンに利用されていることである。

 

「………よもやそこまでとは……」

 

「やっぱりこれって……たとえ利用されていたとしても反逆行為になりますよね?」

 

「ああ、重桜を事実上裏切ったも同義と言わざるを得ない以上、軍法会議は確定であろう」

 

「ですよね……」

 

「もちろん余の個人としてなら極刑は避けたいが…他の艦や上はそうはいかないのは明白であろう…」

 

「……」

 

瑞鶴が少し暗い表情をする。

翔鶴のほうは少し先輩方に恨みを持っていそうであるが、瑞鶴はあくまでも先輩達を慕っている。

もちろんだが追い出そうとも思っていない。

だが重桜の健全化にはこのブラックボックスの告発が不可欠なのは事実である。

そこで板挟みになっていた。

 

「…だが今は赤城は行方不明、加賀は回復傾向だが損傷がある。これ以上動くことはないだろう。そしてこのセイレーンとの証拠もあまりない。余はオロチを凍結して暫くは様子を見る予定だ」

 

「つまり…とりあえずの心配はないということですか…?」

 

「ああ…」

 

とりあえず瑞鶴を安心させようとする長門であるが、この件に関しての処理は自分の手に余るものでもあった。

そこで長門はある御方への相談を考えていた。

 

(やはり…あの御方の意見も仰がねばな……先代のあの方に…)

 

―――――――――――

 

(またこの光景……)

 

エンタープライズは海上で炎上する風景を見ていた。

恐らくは海戦によるも私は繰り返す。時を巡り 海を越え 戦い続けるのである。

 

人類側らしき損害もあれば、セイレーンもあり

上位個体の屍らしきものが多数あり、ここで凄まじい戦いがあったことを示していた。

 

そしてそこにある別の人影

 

「お前は何だ?私にこれを見せてどうしようというのだ?」

 

その人影は屍を少し手にとった後、こう話し始める。

 

「戦い」

 

振り向くと、その顔はエンタープライズにそっくりであった。

だが服装などは違い、髪型も短いものであった。

 

「私は繰り返す。時を巡り…海を越え…戦い続ける」

 

その人は黒いメンタルキューブを片手に持っていた。

 

「…それは…!」

 

「終わらない戦い……炎燃えるこの海こそ、紅に染められた我が航路」

 

そして一面は再び火に包まれた。

 

「お前もいずれ……」

 

「くっ…!?」

 

―――――――――――

 

「…エンタープライズ?」

 

「…はっ…お前は…」

 

「おはよ、エンタープライズ」

 

エンタープライズが目を覚ますと、その前には瑞鶴が居た。

どうやらエンタープライズを起こしに来たらしい。

 

「何故お前がここに…」

 

「ベルファストさんに頼まれたのよ。自分は手が離せないことがあるから代わりにエンタープライズを起こしてあげてって」

 

「……そうか…」

 

「やけにうなされてたみたいだけど、大丈夫?立てる?」

 

「それくらいは大丈夫だ…私達は普通の人間じゃないからな…」

 

「………」

 

そのエンタープライズの表情はどこか光が消えているようなものであった。

そして用意されていた朝食にもいかず、そのままどこかへいってしまった。

 

(エンタープライズ……)

 

―――――――――――

 

一方、プリンス・オブ・ウェールズとクリーブランドは黒いメンタルキューブを確かめに行こうとしていた。

 

「重桜は戦力を失った。立て直しには時間がかかるだろう。だがこちらはこちらで動きにくい事情がある」

 

「ああ、黒いメンタルキューブとエンタープライズのことだね」

 

「問題は山積みだ……大和のほうもなんとかやってもらってはいるが……」

 

そして2人は明石達の工廠にたどり着いた。

「にゃ…」

 

「はぁっ……」

 

「これはね……」

 

「うーん…」

 

「これは……」

 

そして工廠では2人の明石及び夕張、ホーネット、ベルファストが悩みまくっていた。

 

「何かわかったか?」

 

「さっぱりにゃ」

 

「全然わかりません……」

 

「そこまでなのか……?」

 

ただでさえ工作艦として能力が高い明石であり、しかもそれが2隻いるにも関わらず黒いメンタルキューブのことは何もわからなかったようだ。

そして夕張も同様であり、頭を抱えつつもこう話し始める。

 

「文字通りのブラックボックスってやつ……前よりも光が強くなってるし」

 

「確かに…」

 

「セイレーンに関わることだ。危険な兆候と考えるべきだろう」

 

「姉ちゃんも悩んでいるみたいだし……はぁ…」

 

ホーネットは帽子を深く被り直す。

 

「まったくにゃ…赤城のやつはなんて面倒なことをしてくれたにゃ…こっちの赤城のほうが大飯食らいだけどマシにゃ!」

 

「まあまあ、「私」もそこまで直球で言わなくても…」

 

どこかでその空母がくしゃみをしたようだが、今は触れないでおく

だが赤城が居ないとは言え、まだ加賀は健在である。

プリンス・オブ・ウェールズはそこが気になっていた。

 

「セイレーンと組んでいた赤城がいない今、加賀がどう出るか気になるな…」

 

「短気を起こさないと良いんですけどね……はあっ」

 

艦娘の明石はため息を付いた。

黒いメンタルキューブの悪しき輝きはまだまだ増すばかりであった。

 

―――――――――――

 

「あつい……」

 

「効きますね…これ……」

 

一方、ジャベリン、綾波、ニーミ、ラフィー、ユニコーンは風呂のサウナに入っていた。

なお他の艦娘達はまだ風呂のほうへ入っているようだ。

 

「…大丈夫?綾波ちゃん、もう上がる?」

 

「いえ、考え事していただけです……今のあっちのみんなが心配なのです」

 

「綾波……」

 

「……アズールレーンのみんなはいい人たちです。でも重桜、鉄血のみんなだって大切な人たちで……綾波、レッドアクシズのみんなを助けたいです」

 

そしてその次にニーミも話し始める。

 

「私も心配です。セイレーンは多分レッドアクシズを利用しようとしている…そんなこと……させたくないです!」

 

その綾波とニーミの話を聞くと、ジャベリンはその2人の手を取った。

 

「うん、うん!頑張ろう綾波ちゃん!ニーミちゃん!」

 

「綾波とニーミの大切な人、ラフィーにとっても大切な人」

 

「ユニコーンも!」

 

どうやら力を貸してくれるようである。

 

「どうしたらいいか分からないままだけど…」

 

「大丈夫。私たち友達になれた。だからあっちの人たちとも仲良くなれる」

 

「ありがとう…みんな」

 

「あ、ありがとう…ございます……」

 

綾波は表情が柔らかいが、ニーミはまだ少し恥ずかしいのか顔を少し逸していた。

―――――――――――

 

一方、重桜基地では長門があるところに足を進めていた。

 

(オロチ計画の一時休止を通達したのは良いが……加賀のあの様子では……立ち直ってくれると良いのだが……)

 

そして竹やぶの中に進んでいくと、ある小さな離れを見つけた。

そこには既に引退したある御方が住んでいるのである。

長門はその方に相談をしようとしていたのだ。

 

「……「三笠」様、いらっしゃるか?」

 

戦艦「三笠」

敷島型戦艦の4番艦であり、武装としては前弩級戦艦ということもあり特徴はそれほどない。

だが史実において日本海海戦では連合艦隊旗艦として参戦し、東郷平八郎連合艦隊司令長官の指揮下の元、勝利を収めた。

なおその後は軍縮条約による廃艦そして記念艦となったため、当然ながら太平洋戦争には参戦していない。

そのためか艦娘としては存在していない。

 

だが、KAN-SENとしては存在し、かつてのセイレーンとの大戦では多大なる成果を上げていたが、現在は隠居し、静かに離れで饅頭とともに住んでいる。

 

「長門か…入っていいぞ」

 

三笠は長門を招き入れた。

その後、2人は対面で正座をして、三笠はお茶を用意した。

 

「…で、我に話とは何だ?」

 

「三笠様…実は……」

 

長門は今までの経緯を話す。

開戦、そしてそこまでの作戦失敗やオロチ計画、そしてセイレーンこと全てである。

 

そしてそれを話し終えると三笠はこう話し始める。

 

「うむ……一応風のうわさで聞いていた通りだが……まさか赤城と加賀がセイレーンと……」

 

「ああ…恐らくはセイレーンに唆された…と考えるのが妥当である…だが余としては確たる証拠もない以上は加賀を罰するつもりはない。オロチ計画を凍結し、しばらくは様子を見るつもりだ」

 

「そうか…長門らしい判断であるな」

 

「これ以上なにも起こらなければ…であるが……そしてこれからの重桜のこともある」

 

「上…上層部はどう言っている?」

 

「何も変わらぬ。アズールレーンとの交戦を継続せよとしか伝令が来ぬ……実質こちらに丸投げされていると言っていい」

 

当然ながらこの世界はKAN-SENだけではない。普通の人間も存在する。

だが現状はほぼ戦争はKAN-SEN同士が行っており、人間同士は小競り合い程度しか行っていない。

前大戦の際に人類の通常兵器は敵への攻撃力の割に過大な損害を負い、その結果KAN-SENのほうに戦力主体を切り替えため、そもそも出せないということもあるが

それでも参謀の一人もよこさずに作戦立案すらKAN-SEN側に丸投げされているのだ。

 

「このまま戦い続けても破滅しか無いのだがな……でも何故止められないのか……余にはわからぬ……現状ではこちらから交戦するつもりはないが、こちらに攻めてきた際は迎え撃つしか無い。どうするべきか……」

 

「………それが戦争だからな…そもそもふっかけてきたのはこちらからである。元々冷戦であったとは言え……いざという時は我も前線には出るつもりではあるが…」

 

「……ああ、それまでは様子を見ることになろう……というより、それしかできないのだがな…」

 

長門は未だ解決の糸口を掴めなかった。

 

「我もツテでなんとか上層部を説得してみるが……それでもアズールレーン側がどう出るかは未知数だ。人間の敵は同じ人間…「あの時」から変わらない…か」

 

「……」

 

(…しかし「同一艦」か……もしかすれば……)

 

一方三笠は艦娘達のことである「同一艦」についても気になっていた。

この件の解決の糸口になるかもしれないと思いながら……。

 




(三笠さんを出して)良いん…だよな……?


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記憶の残響(後編)

エンベル所望の方、申し訳ない
先に謝っておきます……

幸運艦繋がりの方がいいと思ったから……(震え声)


「お前は何なんだ!?」

 

うなされ、廊下へと飛び出したエンタープライズの目の前にはもうひとりの自分

「コードG」が居た。

 

『冒険心を胸に大海原へと乗り出した人類は、やがて海の覇権を競い相争うようになった。海の歴史は戦いの歴史だ。「闘争」それこそが人が求めたもの』

 

「何を…!」

 

『違わない…お前が艦娘から聞いたことはわかっているはずだ。その世界…お前が元居たその世界でも2度の大戦が引き起こされた。どこへ行こうとも人は闘争という名のロマンを追い求める』

 

「馬鹿げたことを……!……!?」

 

そしていつの間にかコードGは天城へと姿を変えていた。

いや天城の姿を借りたなにかと言える。

 

「お前……違うな。その姿もさっきの姿も仮初めのもの。お前の正体はもっとおぞましいものだ」

 

『いいえ本物よ。私は人の思いを映し出す鏡なのだから』

 

「何を……!」

 

そしてその廊下は火に包まれた。

 

『我はオロチ…人々の思いから生まれた一柱の怪物だ』

 

そしてその場にエンタープライズは倒れた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ハァハァ……………!」

 

「やっと起きたのね、エンタープライズ」

 

うなされていたエンタープライズの横には瑞鶴が居た。

 

「全く、廊下で倒れてたから運んだのよ?最近不摂生すぎるからそうなるのよ」

 

「夢だった……いや……」

 

そして立ち上がろうとするエンタープライズを瑞鶴は止めようとするが、エンタープライズはそれをも止めた。

 

「もう私に構うな…私は明らかに異常だ。もはや使い物になるまい。そして戦えない私に価値などない」

 

「………!」

 

そしてその言葉にカチンと来た瑞鶴はエンタープライズのネクタイのところを軽くグイッとやった

 

「ず、瑞鶴!?」

 

「あんたね……異常だの使い物にならないだの、いちいち自分のことを低く見ないでよ!仮にも私のライバルでしょ!」

 

「だ、だが…あの時の私は…」

 

「一回変になったくらいだからってなに?あんた自身のせいじゃないんでしょ!ならそれでいいじゃない!」

 

「………」

 

そしてネクタイを手に取るのを止めた瑞鶴は引き続きこう話す。

 

「そもそも私達が人の形をしている時点で異常事態なのよ…でも実際こうやっている。戦うこと以外にもできるようになった。こうやって話したりもね」

 

「瑞鶴……」

 

「だから、あんたも気を詰めすぎないこと。良い?」

 

「……ぜ、善処しよう…」

 

「善処だけじゃ駄目。必ず改善ね」

 

「あ、ああ……」

 

エンタープライズの表情は再び柔らかくなったが、目線は相変わらず横にそれたままであった。

ただ少しだけモヤは消えたようであった。

 

だがその時……

 

「!?」

 

「な、なに!?」

 

何かが爆発…いや、砲撃音のようなものが聞こえてきた。

 

―――――――――――

基地の外の気候は暗くなり、風も強くなり、いかにも嵐の前兆そのものであった。

そして基地のあちこちから黒煙が舞い始めた。

 

「赤城さんこれは……」

 

「哨戒艦からの報告はなかったのに…これは…!」

 

「あははははははははっ!!!」

 

セイレーンの上位個体であるピュリファイアーが単独で基地内に突撃してきたのである。

そして黒いメンタルキューブも奪われてしまった。

 

「また私の船がああああああああああ!」

 

サンディエゴの船はまた炎に包まれてしまった。

 

「大和さん、急ぎましょう」

 

「ええ、霧島さん……各艦に緊急通達!ただちに迎撃を!敵はセイレーンの上位個体です!」

 

―――――――――――

 

そしてそのピュリファイアーをベルファスト、神通、川内、シェフィールド、エディンバラ、ノーフォーク、摩耶、鳥海が追い

その後には吹雪、綾波、時雨、夕立、ジャベリン、ラフィー、ニーミ、重桜の綾波も追ってきている。

 

だが気候もただでさえ荒れている上、ピュリファイアーはそれを無視して全速力であるためか追いきれていなかった。

 

「いくらなんでも早すぎるよ!」

 

「島風さん以上ですね……」

 

川内、神通も音を上げている。

 

「あはははっ!あはははっ!!意外と来たねえ!……でも…!」

 

ピュリファイアーは量産型セイレーンを多数召喚する。

 

「お楽しみはこれからだよ!」

 

そしてここで海戦が一気に始まった。

 

「くそ!対空砲火急げ!…うおっと!」

 

「嵐も強くなってきました……!」

 

そして気候も更に悪化し、もはや台風の一歩手前の嵐となっていた。

それでもセイレーンからの攻撃は続いている。

 

だがそこへなんとか駆けつけたのはエンタープライズである。

 

「セイレーン!」

 

「エンタープライズじゃん!」

 

そしてピュリファイアーはエネルギーを最大限レーザーキャノンにチャージをしていた。

あたってしまえば言うまでもないが、掠れるだけでもかなりのものとなろう。

 

「させるか…!」

 

「はははははっ!!!盛り上がれ!!」

 

そしてエンタープライズの弓とピュリファイアーのレーザーキャノンはほぼ同時に放たれた。

 

「……な、なに!?」

 

「こいつは……!」

 

神通と摩耶が驚くのと同時に

そしてその瞬間、周囲は光に包まれた。

 

「これは…!」

 

「みんな!手を!」

 

ジャベリン達は驚く達は皆で手を繋いだ。

何故繋いだかは自分達でもわからなかったが、それでも繋いだほうが良いと皆が思ったからか。

 

「ニーミちゃん!」

 

「あっ」

 

ニーミの手は少し離れそうであったが、それを吹雪がつなぎとめる。

絶対に離さないようにしっかりと握りしめながら……。

 

 

そして彼女達の意識はそこで途絶えた。

 




さて、ここより少し分岐して10.5話編となります。
ピュリっちの頑張りすぎだ!


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第10.5話
帰還、そして新たなる道標(前編)


約300年ぶりな気がする…。



「これで全員ですか?霧島さん」

 

「はい、それ以外は居ないようです。大和さん」

 

その爆発の後、霧の中でなんとか合流した一部の艦

艦娘は明石含め全員揃っていたが、KAN-SENのほうはエンタープライズ、ベルファスト、ジャベリン、綾波、ニーミ、ラフィー、明石しか居なかった。

 

「しかし嵐と爆発の後に急に霧なんて…それより、エンタープライズ怪我は大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ…サラトガ。しかし…爆発が起こったと思えば霧の中か……またセイレーンの手によるものか?」

 

「わかりません。ただ、霧が晴れてきましたので、そろそろ合流できると思われます」

 

ベルファストの言う通り、その濃い霧は晴れつつあった。

そんなときに動くのは危険なのでただただ待つこととなった。

 

そして――

 

「…!」

 

「どうしました?鳥海さん」

 

「いえ、GPSの反応が……海上通信の反応も!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「はい、吹雪さん」

 

鳥海が感じたのを始め、他の艦娘もGPSなどの端末が復旧したということだ。

 

「まさかこれは……」

 

大和がその理由を考えると急に別の航空機が飛び込んできた。

 

「な、なんだ!?」

 

「電探に感あり!深海棲艦の艦載機です!」

 

摩耶が驚き、鳥海は引き続き冷静に反応を伝える。

 

「セイレーンではないのか?」

 

「はい、間違いなく深海棲艦です。エンタープライズさん」

 

「ど、どういうこと!?ま、ま、まさか!?」

 

「お、落ち着いてください!ジャベリン!」

 

ジャベリンが驚き、ニーミがそれを抑えているうちに艦載機群はこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ!対空砲火!艦隊を守れー!」

 

摩耶が対空砲火でなんとか敵を寄せ付けないようにしようとする…が

 

次の瞬間、また別の艦載機が飛び込んできた。

その艦載機達は次々と深海棲艦の航空機を撃墜していった。

 

「あれは……」

 

そして艦載機を出そうとしていた赤城もその存在に気づいた。

 

「オーオー!」

 

「トツゲキー!」

 

上空を飛んでいたのは零式艦上戦闘機52型丙、天山、彗星、流星であった。

そして尾翼には「601」のマーキングがされていた。

 

「これは…あの子達の!?」

 

赤城がそう気づいた通り、そこより少し離れた方では……航空母艦「大鳳」「雲龍」「天城」「葛城」及び随伴の戦艦「陸奥」「武蔵」重巡「高雄」「愛宕」などの艦隊が居た。

 

「陸奥!これは……」

 

「長門達…!?見慣れない艦も居るみたいだけど……」

 

「ず、瑞鶴先輩!?」

 

もちろん、こちらも大和達に驚いていた。

だが深海棲艦は依然迫っているということで、引き続き攻撃を行う。

 

『こちら第1護衛隊旗艦「いずも」こちらで敵艦隊の本隊を捕捉した。座標を送る。そちらへ攻撃されたし!こちらも攻撃態勢に入る!』

 

そしてその付近で海上自衛隊第1護衛隊群第1護衛隊のヘリコプター搭載護衛艦「いずも」ミサイル護衛艦「まや」汎用護衛艦「むらさめ」「いかづち」が深海棲艦の敵本隊を捕捉した。

現代艦船は確かに深海棲艦への攻撃としては力不足であるが、艦娘の電探及び索敵範囲よりは当然ながら相当上である。

そのため、この深海棲艦戦においても十分活躍の場はあるのである。

 

「よし、いくわよ!」

 

「第六〇一航空隊、発艦始め!」

 

陸奥、大鳳の掛け声とともに深海棲艦への攻撃が始まる。

 

『対水上戦闘!SSM発射始め!用意、てーっ!』

 

護衛艦「まや」「むらさめ」「いかづち」より90式艦対艦誘導弾(SSM-1)が発射され、こちらも深海棲艦へ攻撃を始める。

言うまでもなく効果は薄いが、それでも気をそらし、艦娘への迎撃行動を遅らせることは可能であった。

 

「!?」

 

当然ながら事実上のアウトレンジ攻撃を喰らい、深海棲艦のヲ級flagship率いる艦隊は一気に総崩れとなり、全隻撃沈となった。

 

「あそこまで連携して攻撃するとは……」

 

エンタープライズは護衛艦と艦娘の連携攻撃に驚いていた。

なにせ自分達は基本KAN-SENのみで作戦を行っており、人間達とは共同作戦を取ったことがほぼないからである。

当然ながらベルファストはあることに気がついた。

 

「……なるほど、つまりここは貴方達「艦娘」の世界ということですね」

 

「ああ……ベルファストの言う通り、ここは我々の世界だ」

 

長門は遠くにいるであろう陸奥のことを感じ取っていた。

 

(まさかこんな形で帰還することになるとはな……)

 

―――――――――――

 

その後、横須賀鎮守府に入港した失踪していた艦娘及び今度は転移する側となったKAN-SEN。

当然ながら水上部隊・機動部隊旗艦である大和、赤城は提督へ今までのことを報告することとなった。そして「来訪者」の代表であるエンタープライズ、ベルファストも同行している。

 

「以上です。提督」

 

「はぁ…まさか居ないと思ったら別世界にいてそこでドンパチしてたなんてなぁ……まだまだ俺も知らないことがたくさんあるようだ」

 

「提督驚かないんですね…」

 

「赤城、これでも驚いてるぞ?俺あんま表情出さないタイプだから」

 

(本当ですか…?)

 

秘書艦である大淀は横で心のなかでツッコミを入れた。

そして話題はエンタープライズとベルファストのほうへ移った。

 

「それで…君たちがKAN-SENと呼ばれる艦か?」

 

「ああ、ヨークタウン級航空母艦のエンタープライズだ」

 

「エディンバラ級軽巡洋艦のベルファストでございます。以後、お見知りおきを」

 

ベルファストは一礼をする。

 

「ほう…どちらもかなりの武勲艦と来たか……別世界にも艦娘と似た存在はいるんだなぁ……パラレルワールドとかあんま信じちゃいなかったが……厄介なことに巻き込まれたね、赤城、大和」

 

「はい…あちらでは私達が元の世界に戻れるかを考えていましたが、こうなってしまえば今度はエンタープライズさん達を元の世界に戻す方法を考えないといけません」

 

「大和…ああ、あちらではまだセイレーンがいる……私が居なくなればアズールレーンは……」

 

「提督、そして私達もまだあの世界でのことが終わってないと思います」

 

「と言うと?」

 

「あちらにも深海棲艦が現れていることです。そして雲龍さん達に確認したことですが、ここ最近はこちらでは深海棲艦の出現率が大幅に低下しています。これは看過できないと思います」

 

赤城の言う通り、あちらのKAN-SENの世界では艦娘が転移した時と同時に深海棲艦が突如出現している。とてもじゃないが偶然とは考えにくいものだった。

 

「なるほどな……だがあちらの世界に行ける方法がないのがねぇ……色々とこっちも調べてはいるし、希望がまったくないわけじゃないが……」

 

「………」

 

エンタープライズは拳を握りしめる。

ピュリファイアーに襲撃された後の基地についてやはり気になっているようで、いますぐ駆けつけることができない悔しさが出ていた。

 

それを見て提督はある提案をする。

 

「まあ、KAN-SEN方には当分この基地に居てもらおう。もちろん補給などその他の心配もしなくていい。我々も全力を尽くそう」

 

「…ああ、感謝する。提督」

 

―――――――――――

 

「長門…本当に長門なのね…」

 

「ああ、心配かけたな。陸奥」

 

余程心配していたのか、陸奥は長門に抱きついていた。

その光景をじっと見ているのは重桜のほうの綾波であった。

 

「あらあなたは……」

 

「えっと…綾波…です。あっちの綾波とは違うけど、同じ艦です…」

 

「あらあら……あなたが噂の……確かに「綾波」ね…」

 

陸奥は重桜の綾波の様子をマジマジと見ている。

 

「…やっぱりわかるんですか?」

 

「なんとなくね。しかし、こうも外見が違うなんて……」

 

「あ、あんまり見ないでください……」

 

綾波は恥ずかしそうに少し照れていた。

 

一方のニーミもニーミで驚いていた。

 

「れ、レーベさん…?」

 

「ああ、君が噂の?」

 

「なるほどね……確かにZ23って感じね」

 

Z1、ビスマルクからマジマジと見られてしまっているからであり、ニーミもタジタジになってしまっている。

 

「あわあわわわわ」

 

――――――――――

 

「やれやれ……どうしたことやら」

 

一方提督はそとの海を見ている。

来訪者の件をどうするか……というのもあるが、提督の中では深海棲艦のここ最近の数の減少と転移していた艦娘達の証言を聞き、点と点が結ばれたと確信したからだ。

 

だが、その理由に関しては一向にわからなかった

 

(怪しいのはセイレーンだが……これまたなあ……深海棲艦とは違い、ある程度の冷静な知能はあるとは聞くが……)

 

とその時

 

「海上自衛隊第3航空隊の哨戒機より報告!深海棲艦及び未確認海上生物の接近を確認!各隊はスクランブルを急げ!」

 

「……こんな時にか……って未確認海上生物だと?」

 

提督は聞き慣れない言葉が聞こえたが、それについて考えている暇はない。

すぐさま編成準備に取り掛かった。

 




本来は色々と描写したいものがあったけど、流石にダレそうなので結構カット。
なんとか終わらせていきます。


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帰還、そして新たなる道標(後編)

 

数分後の海上では戦艦「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」空母「赤城」「加賀」重巡「摩耶」「鳥海」軽巡「夕張」駆逐「吹雪」「綾波」「夕立」「時雨」の艦娘達。

そしてエンタープライズ、ベルファスト、ジャベリン、綾波、ニーミ、ラフィーと言ったKAN-SEN達も出撃していた。

 

「ですが、いいのですか?あの後でお疲れのはずなのに……」

 

「平気だ。赤城。そしてその「未確認海上生物」……あれは間違いなくセイレーンだ」

 

「はい。エンタープライズ様の言う通り、哨戒機からのデータを確認させていただきましたが、あの特徴はセイレーンです。ただ下級クラスのものでしたが」

 

「セイレーン……お前たちが戦う敵で良いんだよな?」

 

「はい、武蔵様。私達の敵です」

 

「本当に驚きの連続だわ……長門も当初は驚いてたのよね?」

 

「まあな。だがいずれなれるぞ陸奥」

 

艦娘・KAN‐SEN達がそう話していると、上空の自衛隊機より通信が入る。

 

『こちら航空自衛隊早期警戒管制機「キーパー2」、各艦娘へ。まもなくそちらは交戦距離に入るが、こちらの航空機が先行して対艦ミサイルを発射し、目くらましを行う。注意されたし!なおその後に護衛艦からも攻撃を行う!』

 

「こちら旗艦「大和」了解!各艦、対水上戦闘用意!」

 

大和の号令により各艦は艤装展開で戦闘形態に入る。

だがそんな時にエンタープライズは少しだけ考え事をしていた。

 

「どうかされましたか?エンタープライズ様」

 

「いや、ここは人類も頑張っているんだなと……人類は人類の兵器で艦娘を徹底的に支援している。内輪もめしてしまっている私達の世界に比べて……少し羨ましいな」

 

「……私達もそうなればいいのです。これから……」

 

「ああ、なれるといい…いや、なってみせるさ」

 

エンタープライズは迷いをある程度断ち切ったこともあり、表情は少し明るくなっていた。

 

(エンタープライズさん……良かったです)

 

そしてそれを見て、安心するジャベリンであった。

 

その後、航空自衛隊の航空機「F-2」「F-35」が現場空域に到着。

 

『スパロー3、Fire!』

 

『ブレイブ5、Fire!』

 

90式空対艦誘導弾及びJSMが発射され、深海棲艦とセイレーンは唐突な奇襲を食らった。

 

「敵の陣形が崩れたぞ!」

 

「ええ、砲雷撃戦用意!!」

 

長門及び大和の号令により艦娘も攻撃を開始。

姫・鬼級が居ないこともあり、作戦自体は滞りなく進行した。

 

だが――

 

(どうも様子がおかしい……)

 

エンタープライズはそれに引っかかりを覚えていた。

あまりにも手応えがなさすぎる……だが、罠にしてはやけに手薄すぎるとも考えていた。

 

「第三目標、撃破完了!」

 

赤城がそう確認した途端。

 

「!?…なんだ?」

 

艦娘・KAN-SEN達はセイレーンの残骸から突如として発せられた光に目を塞がれた。

その光は数秒立たずしてすぐに消え失せたのだが……。

 

「……エンタープライズ様!」

 

「どうした?ベルファスト」

 

「残骸があった地点に……ワームホールのようなものが開かれています!」

 

「なに!?」

 

海上にはワームホールのような…黒い大きなトンネルが突如姿を表したのだ。

まるで、何かと何かが繋がれたかのように……。

 

 

―――――――――――

 

その後、情報を受け、自衛隊により謎のトンネルの調査が開始された。

レーダーなどによる観測や陸上自衛隊の無人偵察機システム(FFRS)やドローンなどが投入され、その解析には数日ほどが費やされた。

 

結果、ワームホールは大型船舶一隻が通れるほどで、幅としてはパナマ運河のものよりは大きいと観測された。

そしてそのワームホールが続く先は、この近海と変わらない見渡す限りの海があり、無人機の距離限界もあり、そのワームホールの先の解析は進まなかったが、KAN-SENのエンタープライズが無人機で撮影された風景を見た途端、その世界は彼女たちの元の世界だと言う。

 

つまり帰れるということであるが、それを聞いて艦娘の赤城などあちらの世界に行っていた面々は「まだ終わっていないことを意味しているのでは?」と考えていた。

 

その結果、艦娘達も再びあの世界へ飛び込む決意をしたのである。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「いいのか?赤城」

 

「提督……はい。ケリを付けないと行けない気がするんです。もう暫く、お暇をいただきますね」

 

「……ああ、根回しはこっちで勝手にやっておく」

 

「頼みます、提督」

 

こうしてKAN-SENと艦娘達は再びあの世界へ戻っていくでのあった。

やり残したことを終わらせるために……

 




だいぶダイジェストです。
すみません。


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第11・12話
海に願いを(前編)


久しぶりのお詫びも兼ねて今日は2話連続投稿です。
久しぶりすぎてアズレン忘れてきた()

なお11話と12話は統合します。
内容的に


「なんだこれは!?」

 

帰還して真っ先に声を上げたのはエンタープライズであった。

なんとユニオン・重桜領の境目付近の無人島が遠距離により攻撃を受け、爆発をしたということであった。

 

「これは……核か…?」

 

自らそれを受けたことがある長門が連想するほどの威力であった。

 

「一体これは……やっぱりセイレーンですか?」

 

「そうと考えて間違いないわ。キリシマ」

 

クイーンエリザベスは紅茶のカップを回しつつもそう答える。

 

「ですが、陛下。事態は深刻です。もしもこれで基地を攻撃されたら…」

 

「ドッカーン。ひとたまりもないね」

 

軽くも深刻に答えるホーネットである。

なおW明石曰く最悪の場合、基地本島から半径数キロを巻き添えに消滅するらしい。

 

「関連性はまだ分からないけど、島の消滅より数時間前。重桜から正体不明の超巨大艦船が発進しているわ」

 

ヘレナがそう出した写真はどこか艦とはいいにくいものであるが、確かに艦であるものが写っていた。

 

「シェフィ、川内…この船…」

 

「はい。私どもが重桜の地下で見たものと特徴が一致しています」

 

「あーオロチってやつだよね……こんなのがに…じゃなくて重桜が作ってたなんて驚いたなぁ…」

 

そう3人が言うと加賀がその写真をよく見始める。

すると途端に苦い表情になっていた。

 

「……やっぱり…」

 

「どうしたんだ加賀?」

 

「エンタープライズ……これは間違いなくあちらの「私」が操っていると見て間違いないわ」

 

「なんだと?」

 

「まあ…」

 

その場の面々は加賀のその発言に驚く。

続けて加賀はこうも話す。

 

「恐らくはセイレーンに騙されて弱った心に付け込まれた…間違いなくね……何としても止めなければ…」

 

「……ああ。セイレーンの野望を打ち砕くためにも…だな」

 

「ええ」

 

エンタープライズ、加賀は決意を固めたのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

一方、五航戦の翔鶴瑞鶴は通信式神であちらの自分達と情報交換していた。

 

「…で?やっぱりそっちの加賀が?」

 

『ええ…お陰で重桜は大混乱。なんとか追うように出撃できたけど……あちらは早くて…』

 

『本当に先輩がああなるなんて…』

 

あちらの翔鶴と言えど、さすがのこの行動には驚いてしまったようだ。

 

「ともかく、どこかでオロチを叩かないといけませんね…そちらの地点は…」

 

「あら?」

 

「!?」

 

「!」

 

五航戦の後ろにやけに聞き覚えのある声。

そう一航戦の赤城であった。

 

「翔鶴さん、瑞鶴さん?どうしたのですか?何か喋って…」

 

「あ、いえ!なんでもないですよ!?」

 

「そ、そうです!と、特に…」

 

『ちょ、どうしたの急に!?』

 

「あら?その声……確かあちらの……」

 

「ちょ!?」

 

まさかのここでバレてしまうのであった。

観念してとりあえずその事を話す。

 

「なるほど…これが通信端末なんですね」

 

『は、はい!赤城先輩!』

 

「そうかしこまらなくても大丈夫ですよ?厳密には違うようなものですし」

 

『そ、そうはいきません!で、今オロチの件について意見交換してまして!』 

 

「はい、私達もつい先程オロチの地点へ向かうことを決定しました。やはり…加賀さんですよね?」

 

『そうです。加賀先輩がやらかしてしまいまして……』

 

『ちょ、翔鶴姉!』

 

「そちらの見解と同じようですね。早急に止めないと人類に悪影響を及ぼすことも……」

 

『はい……でも加賀先輩が何故そこまで追い詰められたのか……』

 

「……わかりました。では私達もそちらへ向かいます。では、また後ほど」

 

『了解です。加賀先輩』

 

ピッと通信が切れる。

そこへ顔色をうかがう五航戦の二人

 

「あの…怒ってないんですか?」

 

「怒る必要あります?今は争っている場合ではありませんし、あのときとは違うんですから」

 

「そ、そうですか……」

 

安心する二人であった。

 

一方、KAN-SENの五航戦は――

 

「あの赤城先輩…優しそうだったよね」

 

「ええ、こっちと交換してもいいかもしれません…」

 

「しょ、翔鶴姉…」

 

やはりといっていいか、違いに驚いていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

その後、アズールレーン・艦娘連合艦隊も出港した。

 

当然ながら、ジャベリン、ラフィー、綾波、ニーミと艦娘の吹雪、綾波、時雨、夕立もいる。

 

そしてKAN-SENの綾波は真剣な表情で前を見るが、そこに手を取るラフィーと艦船の綾波

 

「大丈夫。いける」

 

「うん…きっと」

 

「……はい」

 

それに対し自信がついたようで頷いて返す綾波。

 

なおニーミも同じように真剣な表情で前を見ているようで。

 

「どうしたの?ニーミちゃん」

 

「ジャベリン…いえ、不思議だと思いまして」

 

「確かに変だよね。全く違う艦がこうして一緒って。でもこれが普通になればいいなってジャベリンは思うな」

 

「……重桜、鉄血とも?」

 

「うん、皆一緒で」

 

「……そうですね」

 

なおその視線の方向で走り回っている夕立の姿あった。

 

「ぽいぽいぽい!ぽいぽいぽい!」

 

「ちょっ、そんなに走ると危ないよ?」

 

「大丈夫っぽい!うずうずして逆に動かないほうがおかしくなりそうっぽい!」

 

「そこ!走らないでください!」

 

言うまでもなくニーミは注意するのであった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

一方のレッドアクシズは一足先にオロチ及びセイレーンに接触し、交戦していた。

上位個体まで出てきたその激しくなる戦いに、もちろん「加賀」はいた

「加賀先輩……」

 

「オロチは…やらせはしない!」

 

加賀と瑞鶴、翔鶴も交戦を開始する。

 

「どうしてセイレーンに手を貸すの!?こんなこと間違っている!」

 

「私はただ赤城姉様の願いを叶えるだけだ!」

 

「ああもう!いつもの澄まし顔はどこへ行ったのかしら!」

 

加賀とは二人がかりで交戦しているはずだが、オロチのバックアップなのか、それとも本人の信念かでむしろ互角以上の戦いであった。

 

「くっ、しまっ!」

 

「瑞鶴!」

 

「もらった…!」

 

その時、別の方向より烈風改二戊型が飛んできて、加賀を銃撃する。

 

「くっ!」

 

そのため瑞鶴への攻撃を断念し、一度後ろへ下がる。

 

「……!」

 

「か、加賀先輩…?」

 

「あちらの……」

 

「……」

 

弓道袴を身にまとい、サイドテールで髪をまとめたその空母。

だがその更に新たな改装が明石により緊急で施されたものであった。

 

「第一航空戦隊航空母艦「加賀」改め「加賀改二」、参ります」

 

 



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海に願いを(中編)

ここに来ての超展開!(自虐)


「……」

 

「そちらの五航戦、ここは私に。あなた達はセイレーンを」

 

「りょ、了解!翔鶴姉、いくよ!」

 

「え、ええ……」

 

そしてこの場には二人の加賀しかいない。

双方とも青いが、印象は全く異なっている。

 

「どうでもいい……」

 

「……何を言っているの。あなた」

 

「だからどうでもいい……私は……不要な存在だ。赤城姉さまには天城がいる……なら私は……」

 

「……!」

 

パシンッ!と艦娘の加賀はKAN-SENの加賀の頬を手で叩いた。

 

「……今…」

 

「何言っているのよ…!そんなわけないじゃない!あちらの赤城は今もあなたを…!」

 

「黙れ!姉様が愛したのは天城の影だ!だから…!」

 

「もっと自分に自信を持ちなさい!」

 

そうして加賀は加賀の両肩を掴む。

 

「仮にも「加賀」なら……!」

 

「くっ……ぐっ……ううっ……」

 

そしてKAN-SENの加賀はその場に崩れてしまった。

 

「私は…私は……!」

 

「………」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

一方のオロチでは赤城が向かっていた。

 

「あなたは…」

 

「おや……あちらの赤城ね」

 

「天城…いや、オロチね」

 

「あら、察しが良いのね」

 

「ええ、そちらの私を返してもらおうわ」

 

こちらも赤城は改二改装が施してあった。

当然ながら天城…の姿であるオロチへ弓を引いていた。

 

「そうはいかないわ。赤城はそちらへ行きたくないと言っているもの」

 

「行きたくない…?」

 

そうしていると急にオロチは姿を変える変形が開始された。

 

「エンタープライズ様!」

 

「あれは…!」

 

別区域で交戦中だったエンタープライズもその様子に気づく。

 

そしてオロチにまるで解きほぐされているような赤城はこう呟いた。

 

「えぇ。本物の戦争を始めましょ」

 

それは紛れもなく赤城の言葉であった。

その瞬間、オロチはまるでロケットの発射台のように一部が変形した。

 

「ブリッツX…いや、V2に似ているわね…」

 

鉄血のプリンツ・オイゲンが言う通り、確かにそのようなロケットに似ていた。

 

「いい線いってるわよオイゲン。アレは未来の兵器。ほんの少しだけ先にある戦いの概念」

 

オブザーバーがそう喋るとそのモノは点火をし始めた。

 

「…いかん!」

 

「あれは巡航ミサイルです!」

 

「巡航ミサイル?」

 

長門と大和の慌てようにクリーブランドは首を傾げる。

当然ながらこの世界にはミサイルと呼ばれるものは存在していない。

 

「私達の世界にある長距離で敵を攻撃することができる誘導ロケットよ。発射されれば今の私達じゃ追いつけない…!」

 

「なんだって!?なら今すぐ攻撃を!」

 

だが時既に遅し。

 

「終わりよ」

 

発射されてしまった。

 

「くっ!ならば…!」

 

エンタープライズはなんとか追おうとしたその時。

 

「!?」

 

別方向からミサイルらしきものが飛び、そのミサイルを撃墜したのだ。

 

「今のは…?」

 

ベルファストがレーダーで辺りを見回すと、ある艦隊を確認できた。

しかもこの世界においては存在するはずがない艦隊であった。

 

『第一目標命中。引き続き迎撃体制を取る』

 

『こちら「みょうこう」現在、空域に多数の反応を確認された。SM-2、第二射用意!』

 

海上自衛隊 第1護衛隊群の第1護衛隊及び第5護衛隊、第2護衛隊群の第6護衛隊+アルファであった。

旗艦はヘリ搭載護衛艦の「いずも」が務め、ヘリ搭載護衛艦「かが」ミサイル護衛艦「まや」「こんごう」「きりしま」汎用護衛艦「むらさめ」「いかづち」「あけぼの」「ありあけ」「あきづき」「たかなみ」「おおなみ」「てるづき」潜水艦「そうりゅう」「けんりゅう」と計15隻の艦隊であった。

その上、いずも、かがよりF-35B数機が発艦するという豪華仕様もいいところであった。

 

「こいつは…!」

 

『あーあーこちらマイクのテスト中』

 

「提督!なにをしているんだ!こんな艦隊まで引き連れて」

 

『おー長門か、いやね?護衛艦で調査しにきたんだよ。ほら、一応日本領海内にできたものだし、それでたまたまミサイルが飛んできそうになったから撃墜しただけで』

 

「ウソが下手すぎるぞ……はぁ、たまにお前のことがよくわからなくなるな。本当にただの提督なのか?」

 

『提督だよ?少し悪知恵とパイプが広い提督だよ?』

 

「あのな……」

 

長門は呆れてもいた。

何はともあれ、護衛艦隊であればミサイルの迎撃も造作も無いことであろう。

これでなんとか同じ舞台に立てたのであった。

 

「ほう…なるほど…なら……こっちを潰せばいいんだよね!!」

 

だがセイレーンと言え、バカではない。

ピュリファイアーがその護衛艦隊へ仕掛けようとするが…。

 

「全砲門、撃て!」

 

だがそれも別の砲撃で遮られる。

 

「……陸奥!」

 

「武蔵!」

 

「全く、長門達だけじゃ心配だから」

 

「助太刀に来たぞ」

 

武蔵及び陸奥率いる艦娘の艦隊であった。

艦娘も艦娘で多国籍であり、米英仏独伊瑞露蘭豪と日合わせて十カ国の大艦隊であった。

 

「ハーイ!キリシマー!大丈夫デスカー?」

 

「金剛姉さま……」

 

「なるほど、ここが異世界ですか……カレーを作れる新しい素材とかありそうですね!」

 

「比叡姉さま……それはやめたほうがいいと思います…」

 

冷や汗な榛名であった。

なお霧島も同様であったとか。

 

ともかく、これでセイレーン有利かと思われた情勢は一気に変わった。

 

「よし、全艦!オロチに攻撃を集中してください!」

 

旗艦の大和の号令で一斉にオロチへ砲撃が始まった。

KAN-SENだろうと艦娘だろうと関係なく、まさに一丸であった。

 

『飛び出してきたミサイルや航空機は我々に任せてください!今こそ神の盾(イージス)の役割を果たす!』

 

そして人間も例外ではなく、護衛艦隊は撃墜できるものは全て撃墜する。

艦娘ばかりに頼ってはいられない……そう自衛官は決意していたのだ。

 

「……取ったぞ!」

 

「なっ!?」

 

なおエンタープライズはピュリファイアーなどの上位個体と交戦し、撃墜し始めていた。

だがオロチは一向に行動を止めない。

そんな中、崩れていたKAN-SENの加賀に艦娘の加賀は問いかけた。

 

「……あなたはどうしたいの」

 

「……私は……私は……」

 

「どうしたいのと聞いているの。赤城を……あなたの大切な人をどうしたいの?」

 

KAN-SENの加賀はその瞬間、涙を流し、こう小さな声で話した。

 

「……姉さまを…赤城姉さまを……助けて」

 

「……赤城さん」

 

艦娘の赤城は深く頷いた。




一番割を食うエンタープライズである。
いや、同一存在のほうが……強いから……


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海に願いを(後編)

これ総勢何隻なんだろ……


「あやなみいいい!にーみいいいいい!」

 

そしてKAN-SENの綾波とニーミを見つけ、涙流しながらも駆け込む夕立、時雨、雪風の3人。

だが後ろの存在に夕立は気づく。

 

「あー!お前らあの時の!」

 

「はははは……」

 

「ああ、もうひとりの僕たち…」

 

「ですね」

 

「ぽい」

 

色々と交戦してきてまあ、顔見知りになったのであった。

 

「ちょっ!?なんでニーミ達がアズールレーンと行動してるの!?」

 

「話は後です。みんなで赤城を止めるのです」

 

アドミラル・ヒッパーのツッコミもごもっともであるが、綾波の言う通り、今はそんなことを言っている場合ではなかった。

 

「だからさっきからやってるっての!」

 

「違う。みんな。仲良く」

 

「はい!そうです!」

 

ラフィーとニーミの言葉でプリンツ・オイゲンはその真意を理解した。

 

「…そういうこと」

 

(ニーミ、あなたが見つけた答えはそれなのね)

 

 

「おしゃべりは終わったかしら?」

 

「ええ、話はまとまったわ……改めて共同戦線よ」

 

そうして鉄血がアズールレーン・艦娘連合軍と連携攻撃へ移行し、セイレーンへ攻撃を集中させた。

だがこれも焼け石に水…。

 

「想定外の変数ね。この演算結果は受け入れがたい」

 

そうオロチが言うと、上の空間より多数の船が降りてきたのだ。

 

「ここにきて援軍かよ!」

 

「数だけ多いですね…」

 

摩耶、鳥海の言うとおりであった。

そんな中、ベルファストは懐中時計を確認する。

 

「予定ならばそろそろですが…」

 

「え?何が?」

 

「何があるの…?」

 

W瑞鶴がはてなを浮かべていると――

 

「パーティーの時間よ!」

 

「撃ち方始め!」

 

その号令とともに相次いでの砲撃戦が開始される。

 

「今のは…!」

 

「待たせたわね!円卓の騎士の到着よ!」

 

クイーンエリザベス・長門率いる大援軍であった。

 

「余は長門。重桜の長門である。これよりレッドアクシズとアズールレーンはセイレーンを打倒するため連合艦隊を結成する!なお総旗艦を務めるのは余ではない」

 

そしてその長門の後ろより現れたのは――

 

「我は敷島型前弩級戦艦「三笠」これよりこの連合艦隊の総旗艦を務める!」

 

「あれが……三笠さん!?」

長門は驚きの表情であった。

なお大和は続けてこう宣言する

 

「こちら艦娘連合艦隊旗艦「大和」これより我々はレッドアクシズ・アズールレーン連合艦隊へ協力を申し入れます!」

 

「うむ!了解した!ともにセイレーンを撃破するぞ!こう…いや、世界の荒廃、この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ!」

 

三笠よりZ旗(=後がない)が上がり、それは艦娘・KAN-SEN達の士気を向上させるものであった。

 

「…知っていたのか?」

 

「…ふふっ、でも、まさか三笠様方からホットラインを繋げられるとは思っても見ませんでしたが…」

 

これにより、レッドアクシズ・アズールレーン・艦娘による連合艦隊が編成された。

これは艦娘の世界でもKAN-SEN世界でもあり得なかったほどの数を誇る超連合とも言っていいだろう。

 

そしてそのまま攻撃は開始された。

まさしく大決戦とも言える。

砲弾があちこちで飛び回り、航空機もかすれるほど飛び続けていた。

 

「あら、あなたが噂の「私」ね!」

 

「ほう……あなたが噂の艦娘の…私?」

 

「はい!」

 

なおKAN-SENのプリンツ・オイゲンから見て、艦娘のプリンツ・オイゲンはキラキラしすぎている…らしい。

 

「はぁ…じゃあ、私があなたに合わせるから。いいわね?」

 

「はい!Wプリンツ・フォイヤー!」

 

(何その必殺技…)

 

この状態が引き続いていたが、やはり埒が明かないものであった。

 

「赤城さん!」

 

「加賀さん!大丈夫ですか?」

 

「ええ、これくらいは……でもやはりこれは…」

 

「ええ、私がケリを付けないといけないわね……後ろを頼むわ。加賀さん」

 

「了解です。赤城さん」

 

艦娘の一航戦の二人はまるで弾丸列車かのようにオロチ本体へ突撃を敢行した。

そして――

 

「……!」

 

赤城と赤城、再び対峙するのであった。

 

――――――

 

「邪魔はさせないわ」

 

「……「赤城」……」

 

「…私は……もう、後戻りはできない……」

 

「…」

 

その目は光なきものであった。

 

「私の愛は時を越え…神ですら凌駕して……重桜を、姉様を、加賀を!みんなを救うのよ!」

 

「……」

 

だが艦娘の赤城は彼女へゆっくりと近づく。

 

「来ないで!だから……!」

 

そんな彼女を艦娘の赤城は優しく抱きしめた。

 

「……!」

 

「よく一人でここまで我慢しました…辛かったんですよね?一人でここまで抱え込んで……」

 

「でもそんな……もう…!」

 

「大丈夫です。やり直しはあなたが生きている限り、いくらでも効きます。これからは私も一緒に考えますし………もうひとりじゃないんです」

 

「うっ……くうっ……!」

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

「……姉さん…」

 

「天城姉さま……」

 

コアを失ったオロチは崩れ落ちていった。

これをもって、この戦いも終止符を打ったと言えるであろう。

 

――――――

 

 

「見事よ…今回はあなたたちの勝利」

 

「アハハハッ!負け惜しみだー!」

 

首だけとなったピュリファイアーのそんな言葉にオブザーバーは切れたのか、その首を振り回し始めた。

 

「ああああっー!」

 

「でも実際オロチの喪失は想定外でしょ?あちらの世界とわざわざ境界線を開いて、深海棲艦を傘下にしてあの子達の「先輩」の艦娘達まで呼び寄せた手間まで掛けて…」

 

「我々の予測を超えることは喜ばしいことよ……お陰でこの世界はその「先輩」達のお陰でこの人類の未来は大幅に広がるわ……ふふふっ」

 

テスターのその疑問にオブザーバーは不敵な笑みを見せつつも、そうも話す。

それは敵というより、どこかまるで子を見守る親のような目であった。

 

――――――

 

その後、レッドアクシズ・アズールレーン間で正式に講和条約が締結された。

内容としてはレッドアクシズ艦の一部追放などが盛り込まれたものの、完全勝利というわけでもないため史実にはあった戦犯裁判などは行われなかった。

だがあまりにも早い講和条約の締結に艦娘の長門は疑問を浮かべていた。

 

「提督」

 

「んー?どうした」

 

「いや、あまりにもあちらの講和条約の締結が早すぎる。現場が一致団結したところで、上層部はそんなことを無視して戦争を継続するはず。いくらセイレーンの活動が本格的になったとは言え、そう簡単に割り切れるものか?」

 

長門は自身の経験も含めてごもっともな言葉を話す。

対して提督はこう答えた。

 

「それはアレだ。俺達が仮想敵になったからだ」

 

「仮想敵…だと?」

 

「いやね、俺達があの後、国交を締結するために外交官を護衛艦伴って行かせただろう?その護衛艦にはミサイルやら高性能レーダーやらが搭載されているのは目だけでもわかったはずだ。あちらは通常艦はせいぜい第二次世界大戦レベルしかない。

各国の上層部は大層驚いたことに違いない……だからこそ、今はこちらで争うよりはあちらの出方を見たほうがいいってことでまとまった…と推測できる」

 

「なるほどな…なんとも言えんが、確かにそれならあり得るな……戦争とはそう簡単になくならないもの…か」

 

「まあ暫くはセイレーン・深海棲艦という未知の敵がいるから共同戦線は取れるだろうけどね。今は目先の敵に集中するこった。じゃ」

 

提督は急に立ち上がり、提督室を後にする。

 

「どうした提督?」

 

「仮眠。一昨日からまともに寝てなくて…ふあああっ……暫く大きな書類もないから仮眠室いかせてもらうよー」

 

ガチャンッと提督室のドアは閉まった。

 

「……はぁっ、全く……」

 

それに対して長門はやれやれの表情であった。

 




まだあと一話続きます。


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