遠山桜は正義の味方である (カフェイン中毒)
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弾籠め

キンちゃんが好きすぎて書いた 後悔はしてるが反省はしてない。


空から女の子が降ってくると思うか・・・・?

もし降ってくるとするならそれは大冒険や大スケールなアクション、世界をまたにかけたビックイベントの始まりなのかもしれない。

だけど俺は、少なくとも遠山キンジは降ってこなくていいと思ってる。

それは体質的なことやトラウマなんかももちろんあるんだが・・・・ここ、この世界はもっと「とんでもないもの」が降ってくるのだから・・・・

 

 

「ヴィランだぁぁぁ!!!!

 

 

ほらきた。

 

 

 「いいから金をつめろ!さっさとしないとかみ砕くぞ!」

 

 空から降ってきたなんだかよくわからないサメの頭に人間の胴、それに背中から羽が生えたいかにも人間じゃないような恰好をした男が銀行の窓をぶち破って窓口の人間に食って掛かりだした。

 

 別に珍しい光景じゃない。やってることが銀行強盗じゃなけりゃな。

 

ジリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!

 

 

 別の窓口の人間が押したらしい非常用スイッチのベルが鳴り響くと同時に

 

 

 「今日はオフなんだから、無駄な力を使わすなよ。こんな人の多いところでコトに及ぶなんて合理的じゃないな」

 

 ぼさぼさの髪の無精ひげを生やした男性にマフラーのようなものでぐるぐる巻きにされて捕縛されてる。

 

 上手いな、一見ただ巻いてるように見えるが手首、足首、翼の付け根といった動きの要になるような部分を重点的に縛ってる。

間違いなく訓練されたプロの動きだ。ヒーローだろうな。

 

 

 「ヴィラン」と「ヒーロー」この「個性」あふれる超常社会において片方は忌避され、もう片方は称賛と尊敬をもって迎えられる立場だ。

 

 そして俺こと遠山キンジが目指す「正義の味方」としての職業でもある。

 

 

 

「しかし鮮やかな手際だな・・・捕縛術しか見てないけど兄さんよりうまいかもしれないぞ。「個性」使ってなかったな・・・」

 

 「個性」とは中国のどこだかで産まれた全身が光る赤ん坊を皮切りに人類がもつようになった超常の力だ。個性というだけあってそれは千差万別。

さっきの男のように見た目が人間じゃなかったり、筋力が異常に増幅されてたり、念力が使えたり、ビームを撃ったりな。

 

 そういった超常の力が浸透するにつれ、犯罪件数は右肩上がりに上がっていった。当然だな、銃やナイフといった武器に頼らず人を害する手段が増えたのだ。そりゃそうなるだろうな。

そこでそういった犯罪が起きるのを憂いた一人の人間が立ち上がり犯罪の阻止に動き出した。

 

 その活動に賛同する人たちがさらに立ち上がり、いつしか犯罪者は「ヴィラン」活動者は「ヒーロー」なんて呼ばれだして政府からも認められるようになり、現在のヒーロー社会が出来上がったってわけだ。

で、さっきから一人で考え事をしてる俺が何をしてるというと・・・・

 

「金が・・・・足りん・・・・」

金欠だった。

 

 

 正確には生活費はあるが受験で使おうと思っている武器を買うための金がない。

改正銃刀法により護身のためという名目で銃器や刀剣類が解禁されたため戦闘力のない個性や個性がない人間が銃や刀剣を握るようになった。

もちろん所持には許可がいるがそれは扱いへの理解と2人以上の保証人がいれば持てるようになったのだ。

 

 「手持ちだけで何とかするか・・・・」

 

 ATMの前で残高を確認した俺は肩を落として事情聴取をしている現場を横目にその場を去るしかなかった。

 

 「キンジ、帰ったか。モノは買えたのかのう?」

 

 「金がなかったよじいちゃん、まあ持ってるもので何とかするよ」

 

 「そうか、大丈夫じゃろう。遠山の男は天下無双、それにわしが教えた攻防百技があれば実技受験くらいどうとでもなるわい。それより勉強せい勉強!お前は雄英の合格ラインぎりぎり下回っておるのじゃぞ!」

 

 「わかったわかったって、俺だって合格したいんだ、勉強くらいするさ。それよりもよかったの?遠山の掟を破って俺と兄さんに技を教えて?」

 

 「ええに決まっておるわい。金叉が死んだ今、おぬしらまで失ってたまるものか。兄弟そろってヒーローになりたがりおってからに」

 

 「ごめんよじいちゃん。だけど憧れたんだよ、兄さんや・・・父さんに」

 

 「わかっとるわい、あと1週間じゃ。きばるんじゃぞ」

 

 「うん」

 

 帰った俺を出迎えてくれたのはじいちゃんだ。昔はヒーロー・・・というか制度がしっかりできる前のいわゆる活動者として動いていたらしいじいちゃんは短く刈り上げた角刈り頭をなでながら俺に忠告してくれてる。

国立雄英高校・・・ヒーローを育成する学校としてはトップクラスの知名度と倍率・・・・ついでに偏差値を備えた難関校だ。

 

 兄さんは頭がよかったからあっさり入学を決めて卒業して今はヒーローとして働いている。テレビで見るたびに微妙な恥ずかしさと誇らしげな気持ちになるし、モチベーションも上がるってもんだ。

さて、受験日まで残り一週間だ。詰め込めるだけ詰め込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 受験日当日。自信があるのは英語と数学だ。他はぶっちゃけ平均取れてないんじゃないか・・・・・?保体がなくてよかった。鉛筆転がして答え決める必要がなくなったな。

 

「エヴィバディセイ!ヨーコソー!」

 

・・・・・・・・しーん

「ヘイ受験生たち!盛り上がれええええ!」

いや無理だろ。

 

 声を上げているのはプレゼント・マイク。大声を武器にしたプロヒーローだ。

「まぁいいや!今から実技試験の説明を始める!モニターを見ろ!」

 

 ピコン!と音がしてモニターに4つのロボットが映り、それぞれ1P、2P、3Pと表示される。

 

 「それぞれ破壊対象のロボットたちだ!破壊した分のポイントが自分に入るということだな!それぞれの合計得点が高かった人間から合格ってわけだ!他人の妨害をするといったことは厳禁だぜ!協力するにしろ個人で動くにしろ頭ひねって盛り上がれ!質問あるか?」

「はい!」ピーン

 

 なんてまっすぐな挙手の仕方だ。なんだか感心してしまった。

 

 「こちらの0Pというのはどういうことでしょうか!もしも誤記だというだとしたら雄英として恥ずべき事態!ご説明をお願いします!ついでにそこでボソボソしゃべってる君!気が散るからやめたまえ!記念受験のつもりなら即刻去りたまえ!」

 

 はきはきとした奴だが最後の一言はいらないんじゃないか?

 

 「オーケーオーケー!ナイスなお便りサンキューな!こいつはギミックだ!倒してもいいし無視してもいい!他にはないか?ないみたいだな」

 

 

 「俺からは以上だ!最後に受験生諸君にわが校の校訓をプレゼントだぜ!」

 

 「真の英雄、ヒーローは人生への向かい風、上り坂を笑って踏破するもの!さらに向こうへ!!!」

 

 

Plus Ultra!!!

 

で、移動したわけなんだが・・・・

 

「広っ・・・・いくらかかってるんだこれ」

受験に使われる運動場・・・というか街にバスに揺られてついたんだが・・・・

とりあえず装備を確認する。ベレッタ1丁、バタフライナイフ1本、ベルトと袖口に仕込んだワイヤー、予備のマガジンが7つ、よし、全部あるな。ここで忘れたらペーパーテストの不利がさらに不利になっちまう。

「ハイスタート」

は?と思ったが個性の都合上すぐスタートを切れた。バツン!という音で踏み切った俺は加速して敵ロボットのほうに向かう。後ろを見れば全員呆けた顔をして立ち尽くしている。

俺の個性は「神経強化」文字通り神経系が強化され反応速度や運動神経が飛躍的に向上する。大体常人の15倍くらいだ。

ただ筋肉量が上がったりするわけではないから攻撃の威力はそこまで上がらない・・・ぶっちゃけ増強系と呼ばれる個性の中じゃ地味なほうだ。

だけど戦闘に適さない個性じゃない。あともう一つ・・・困った体質があるんだが今回は使うつもりはない。

 

「ほら呆けんな!実戦じゃ合図なんてないぜ!」

後ろでプレゼントマイクの叱咤する声をしり目に一つ目の曲がり角を曲がると

 

「標的確認!殲滅開始!」

いやまだ俺一人だぞ?と内心思いつつベレッタでロボットのカメラ部分を狙ってベレッタで撃つ。

非致死性のゴム弾で9mmだしはじかれるかと思ったがバリィンと景気のいい音を立ててカメラ部分が割れロボットが沈黙した。脆っ!と思ったが壊せないような装甲じゃ試験にならないなと考え直す。

「殲滅!殲滅!」

「うっるせえな!」

ガスン!と遠山家の技の一つ「秋草」を叩き込んでやる。これは衝撃や重さといったものをできるだけコントロールして一点に集中し殴るという技だ。ちなみにこれに加え体重を完璧に収束しきると「秋水」という別の技になる。

今の倍率じゃ使えない技だから気にしてもしょうがないが。

やはり装甲自体は柔らかいらしく拳がめり込み機能停止する。あとで修理代請求されたりしないよな?

とりあえず見つけ次第ガスンバコンと殴ったり撃ったりして壊しておく。

「36ポイント!」

バガン!と装甲をひしゃげさせたロボットが停止したところで。

 

「ねえねえ君すごいね!パンチやキックでロボット壊せるなんて!」

後ろから声をかけられて・・・・?いない・・・・?いや、手袋が浮いている。下を見れば運動靴だ。透明人間ってやつか。

「案外脆いぞこいつら。女でも壁にたたきつければ壊れると思うぞ?」

「ほんと!?私あんまり力ないからダメだと思ってたんだ!ありがと!」

声からして女か・・・待て、女・・・服は見えてる・・だけど胴体は透明・・・・・?!!?!?!?

思わずバッとそっぽを向いてしまうが彼女・・・彼女だよな?は気にせず走り去ってしまった。何ちゅう奴だ、体の血流は大丈夫かと意識を集中するがまだあの困った体質は起きてないらしい。よかった・・・驚きのほうが勝ったんだな。

 

 

呆けてる間にあらかたロボットが狩りつくされそうでやばい!と思いつつロボを探していると・・・・

ズズズゥゥィウン

とビルの向こうからビルより巨大なロボットが・・・・は?

「・・・でかすぎないか?」

驚きって過ぎると冷静になるんだな。

何が倒しても倒さなくてもイイだ!こんなん逃げ一択に決まってるだろ!と半ばキレつつ逃げようと足を返すと・・・あの手袋は!?

 

 

 

どうやら巨大ロボットの放つ揺れのせいでがれきに足を取られ転んだらしい暫定透明少女がいた・・・・くそったれ!

踵を返し、透明少女の方へ走る。

「標的確認、ツブス、ツブス!」

巨大ロボットは足をあげ透明少女に振り下ろそうとする・・・殺す気かよ!

「おい!こっち向いて頭上げろ!」

「へ!? う、うん!」

何とか体を起こしてこっち向いたらしい透明少女を手と足の位置からおおよその体系を割り出して飛び込んでキャッチする。

ゴロゴロと転がった俺たちの後ろでズゥゥゥンと踏み込んだらしい音が聞こえる。・・・・・むにゅん

へ?・・・と思うが抱きしめた透明少女は思いのほか豊満な体系をしていたらしい。・・・まずい・・・体の中心から熱くなるような血流があふれてくる。

沈ませようと頭の中で複雑な計算を証明しようとしてると・・・

「え?・・・あっ・・はぅぅぅ」

こちらにぴったりと密着した透明少女から照れたような声と女の子らしい甘い香りが漂ってくる・・・やばい・・なってしまう・・・ヒステリアモードに!

 

 

・・・だめだな・・・使わないと決めていたのに・・・なってしまった。

「ごめんな。強引に抱いてしまって。」

「へ?いいよいいよ!助けてくれたんだよね?」

「ありがとう。しかし・・・あんなロボだったなんてな。これは少し・・・お仕置きが必要だな」

自分とは思えないくらい気障でかっこつけのセリフが口から出てくる。だけど頭は澄み渡って不思議なくらい自信があふれてくる。

「少し待っててくれ、用事ができた」

「へ?まってそっちはロボットが!」

心配してくれるらしい、格好の割にはいい子じゃないか。

トン、トン、トンと「秋水」での足踏みをしながら顔だけ振り返って

 

 

「安心してくれ 、君を守る」

 

 

足踏みを繰り返しながら巨大ロボットのほうへ歩く。

歩くにつれ、ズン・・・・ズンと地面が揺れだした。

ロボは律義に待っていたらしい。そんな紳士なら人死にが出るような攻撃をしないでほしいね。

「さて、もうすぐ終わりだろうから盛大なフィナーレで締めさせてくれ」

足踏みが重なるにつれてズズズゥゥゥン・・・・ズズズゥゥゥンと揺れが大きくなっていく

 

「この遠山桜、散らせるものなら散らしてみやがれ」

 

 

「陸奥」

 

 

ッッッドォォォォォォンッッッ!!!!

と地面の揺れが最大になった瞬間秋水を加速させ踏みしめると盛大に地面が縦に揺れ巨大ロボットがビルに向かって倒れこむと同時に

 

「シューーーーーリョーーーーーー!!!」

と俺の受験の終わりを告げたのだった。

 

「・・・まあ、受験だけど・・・これにて一件落着ってな」

 

この物語は、俺こと遠山キンジが正義の味方・・・・「ヒーロー」になるための始まりの物語だ。

 

 



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第1弾

キンちゃん戦闘に特化しすぎてて体力テストに使えるような技がないんだよなあ・・・・



 やってしまった・・・・・

ヒステリア・サヴァン・シンドローム・・・・通称HSS・・・俺は呼びにくいからヒステリアモードなんて呼んでいるが、これは個性とは別の純全たる特殊体質で発動することができれば脳や神経の活動が爆発的に亢進され、通常時のおよそ30倍まで高まるというものだ。

 もちろんいいことばかりじゃない。この体質は「子孫を残す」という生殖本能が異常進化した結果生まれたものらしく、女から見て魅力的な男を演じてしまう。つまり気障で、かっこつけて自信たっぷりの俺のようで俺じゃない自分になってしまう。

 さらに発動に必要なトリガーはβエンドルフィンという脳内物質・・・脳内恋愛物質とも呼ばれるそれが神経の伝達を助けるというものなんだが・・・・・簡単に言えば「性的に興奮する」というなんともこっ恥ずかしい発動条件なのだ。

 個性と併用して発動すれば倍率は45倍となり、大抵の遠山家の技は使えるようになるんだが・・・・選んだ技のチョイスがあまり良くなかったのかもしれない。

遠山家の技は基本的に個性のない戦国時代などの対人技が非常に多い。その中であんなデカブツに対応できる技なんてさらに限られる。

「陸奥」・・・・有体に言えば地震を起こす技で、秋水による体重を完璧に収束した打撃を地面にうち、衝撃が返ってくるタイミングでさらに秋水を積み重ねて、衝撃の規模を大きくして結果的に地震にする。

個性だけの俺じゃはっきり言ってできない技で、ヒステリアモード時の大技の一つなんだが・・・・バランスを崩すだけで倒すには至らなかったらしい。止まってるから壊れたのかもしれないけど。

上手いことビルに倒れたからよかったが、人の上に落ちたらやばかったな、アレ。

 

「大丈夫か?変なタイミングで地震が起きるもんだな、だれの個性だ?」

「へ?あなたじゃないの?」

「なんかする前にアレだ。かっこつけたのに恥ずかしいったらないぜ」

「そーなんだ・・・・あ、実技終わってる!」

「みたいだな。じゃあ合格してたら雄英で会おうぜ」

「え?ちょっと待ってよ~!」

 

 引き留める声が後ろから聞こえるが無視して出口へ向かう。ヒステリアモードの自分が何を言うか怖くてその場にいられたもんじゃない。

 多分採点者には俺が何したか気づかれてるがごまかすのも忘れない。遠山家の技は出来るだけ秘するのが掟なんだが・・・・ぶっちゃけ現代ではほとんど形骸化してるといってもいい。戦闘はテレビで中継されて娯楽の一部と化し、秘匿が難しくなっているためだ。一応誤魔化しておいたが入学したときには使いまくるだろう。実力を隠してのほほんとしてられるほど生易しい学校じゃないって兄さんも言ってたしな。

 

「はいはいはいケガしてる子はいないかね~?ハリボー食べるかい?」

白衣を着たおばあさんがお菓子を配っている。リカバリーガールという治療系の珍しい個性を持ったヒーローだ。なるほど、だから割と怪我人が出るような試験でもOKサインが出たんだな。

「リカバリーガールさん、向こうのビルの物陰にケガしたかもしれない人がいます。診ておいてもらえないでしょうか?」

一応透明少女のことを伝えておく、見えないからあれだが転んでたみたいだしな。

 

 

こうして俺の雄英受験は俺自身に微妙なトラウマを残しつつ終わった。

 

 

 

 ところ変わって雄英の採点所では、ヴィランPの採点と隠しPであるレスキューPの採点をめぐって議論が紛糾していた。雄英では勤務してる人間のほとんどがプロヒーローであり、ヒーローという人間は基本的に我が強い、キャラも強い、濃い。というわけで何をするにしても議論が盛り上がるのはよくあることである。

「F会場のとB会場か!今年は2会場で0Pを倒すやつが出るといはなあ!F会場は行動不能で収めたがB会場は完全破壊ときたもんだ!」

「F会場のは倒した場所が悪かったのでレスキューPは下がりますが、まさか地震を起こすことでバランスを崩すとは・・・・彼の個性は増強系ですよね?」

「二人ともそうみたいだがF会場のは神経系だ!どうやってやったんだろうな!」

0Pを倒した人間のことで盛り上がっている。画面には緑谷出久と遠山キンジの顔写真と個性、獲得Pが表示されていた。

「その二人もそうだけど今年は豊作ね、ヴィランPだけで1位になる子がでるなんて」

「たしかにな、しかも終了時まで全く衰えず迎撃し続けたんだ。個性の威力、スタミナともに高水準の証だ」

「B会場のヤツは打って変わってレスキューPのみで合格順位までこぎつけちまったしな!あのパンチの威力はすごかったぜ!」

「だけど個性を発動させるだけであの怪我・・・・・まるで個性発現したてのようだな」

「そんなことはいいんだよ!俺はあいつを気に入ったぜ!」

画面が切り替わり1位から順に成績が表示される。

「F会場の遠山キンジですが、銃やナイフを使っていたようです。銃検と登録保証人の確認はすんでますか?」

「両方とも問題ないぜ。保証人は遠山金一と遠山鐵・・・・卒業生だなってあいつの弟か!そりゃ強いわけだな」

「はいはい、それじゃ今年はこの人数で合格ってことでいいですね?校長」

「問題ないさ!入学に際しての注意事項は確認の通り!僕たちでヒーローの卵を導いていこう!」

 

 

 

 

 

 受験が終わってはや3週間・・・・音沙汰が何もないから不合格ではないかとびくびくしてるんだが・・・・

兄さんは「キンジなら問題ないだろう・・・ペーパーテストはともかく」なんて言ってくるしじいちゃんに至っては「学校なんざどこでもええ、通わんだって何とかなるわい」なんて言うもんだから安楽に構えていたら兄さんに「休むんじゃなくて訓練しろ」とブレーンバスターを食らったりした。

「キンジ、郵便物じゃ。雄英からじゃぞ」

「わかった!ありがとうじいちゃん!」

ついに来たか・・・こういったことにはあまり自信のない俺だが、合格していてくれないと困る。

びりびりと封筒を破り中を確認すると・・・・なんだこのバッチみたいなも「私が投影されたぁ!!!!」うわびっくりした!!

現れたのアメコミヒーローみたいなギッチギチの筋肉と顔の印影が非常に濃い黄色のスーツのマッチョだ。てかオールマイトだ、オールマイトぉ!?

俺が驚いたのはこのマッチョ、現在の個性飽和社会の平和の証、ナンバーワンヒーローオールマイトがトップの学校とはいえたかが合格発表に協力しているということだからだ。

「HAHAHAHA驚いたかね遠山少年!今年から私は雄英に勤めることになってね!今回の合格発表が初仕事というわけさ!」

そうだったのか・・・合格できればナンバーワンに教われるってことだよな、これは是が非でも合格であってほしい。

「さて、巻きでって言われてるからね。早速結果発表に移ろう!ペーパーテストはぶっちゃけ悪い!英語と数学は満点に近いが・・・他が合格ラインぎりぎり下回っている!」

やっぱりな、これで実技次第になったわけだ。

「続いて実技なんだが・・・36Pだね!なかなかない数字なんだけど総合すると不合格評価になる!」

まじか・・・・やばい兄さんに殺される!

「だけどね・・・この実技には隠しPがある!レスキューP!どれだけ他人を助けたか!自身の未来をかけた受験の場でどれだけ他のために動くことができたか!私たちはそれも見ていた!他人のために動ける人間を排斥するようなヒーロー科があってたまるかって話だ!遠山キンジ!レスキューP30点!総合で66点で5位!合格だ!」

・・・・!!!

「君に会えるのを楽しみにしている!ここが君の!ヒーローアカデミアだ!」

よし!よしよしよし!合格だ!

 

 

 というのが3月の話だ。今は4月で登校初日だな。

「でっけー校舎だな・・・というか何もかもがでかいな」

大企業の本拠地といっても納得できそうなくらいでかい建物だ。受験で使った会場といいほんとに学校なんだろうか?

高さ4mはありそうな玄関と下駄箱を通ってこれまたでかい廊下に入る。

「1-A・・・1-A・・・あった」

異形型個性用なのかこれまたでっかいスライドドアを引いて教室内に入るとまたキャラが濃そうなやつらが先に何人か登校してたらしい。特に受験会場で騒いでいたメガネの生徒が机に脚をかけている金髪の生徒ピシッとした動きで注意してるらしいが金髪の生徒は意に介していない。というか目つきすげえな、あんなとがってるのなんてなかなかみないぞ。

「あーーーーー!!」

という声がする方向をみると服が浮いている・・・って受験の時の透明少女か!

「ああ、受験の時の。合格できたんだな、これからよろしく頼むぜ」

「うん!よろしくね!私葉隠透っていうんだ!えーっと・・・」

「ああ、遠山キンジだ。遠山でもキンジでもいい。」

「わかった!改めてよろしくね遠山くん!」

「おお」

ぐいぐい来るな、こういったタイプは苦手なんだが・・・・顔が見えないせいか彼女自身の雰囲気のせいかそこまで苦手意識がわいてこない。

「なーにお二人さん知り合いなのかぁ?」

前の席の肘が特徴的なしょうゆ顔の男子生徒が話しかけてくる。顔がにやついてる、さてはよからぬ想像をしてやがるな?

「受験の時ちょっとな、レスキューPってあっただろ?その関係で助け助けられの関係ってやつだ」

「助けられました!」

はーいと片手をあげて主張する葉隠、ノリがいいな。

「ほーそうなのか。俺は瀬呂範太ってんだ。ところでお前レスキューPのこと気づいてたのか?俺は気づかなったけどあれほど人助けをしておいてよかったって思ったことはないぜ」

「俺も気づかなかったな。助けたのも葉隠だけだし、ヴィランPのほうが多かったよ」

「私もそうなんだよねー。というか私は助けても見えないからレスキューP入ってるって知って「さすがプロ!!!」って感動しちゃったよー!」

とわいわい盛り上がってると

「なあなあ何の話してんだ?あ、俺は切島鋭児郎!隣の席だし仲良くしようぜ!よろしくな!」

見るからに熱血っぽい男子生徒が話しかけてきた。コミュ力あるな。割って話すなんてなかなかできることじゃないぜ。

「瀬呂範太だ、こっちのちょい根暗っぽいやつが遠山キンジ、透明なのが葉隠透だってよ」

「誰が根暗だ!遠山キンジだ。よろしくな切島」

「ちょっとわかるかも~!葉隠透です!よろしくね切島くん!」

このしょうゆ顔人が気にしてることで弄ってきやがって・・・・・・!!!

4人で受験のことについて盛り上がっていると・・・

 

「お友達ごっこしたいなら普通科にでも行け、ここはヒーロー科だぞ」

低い男性の声が響いたほうを見ると・・・・・寝袋?ドアの入り口あたりで寝袋にくるまった男性がゼリー飲料をジュッっと一瞬で吸いつつ立ち上がっていた。

どっかで見たことあるような・・・・・

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時は金なりともいうが時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

といいつつ寝袋を脱いだ男性は・・・・どっかで見たことあると思ったら受験前の銀行強盗を鎮圧してたヒーローらしき男だ。雄英に勤めてるヒーローだったのか、道理で手際が鮮やかかつ完璧だったわけだ。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

(((((担任!?!?))))) 

クラス全員の顔が同じような顔になってやがる。気持ちはわかるが失礼だろ。

「早速だが・・・・体操服(コレ)着てグランドに出ろ」

と言って寝袋から取り出したのは雄英指定の体操服だ。この後って入学式とガイダンスじゃなかったか?

「えーと・・・先生?入学式とかガイダンスは?」

やっぱり疑問に思ったらしくドアの近くで立っていた丸っこい顔の女子生徒が質問してる。

 

「ヒーローになるならそんな行事出る暇ないよ。言ったよね?時間は有限なんだ。そして雄英は自由な校風が売り、それは先生側もだ。とりあえず着替えてグラウンドに10分後集合、それじゃ」

一方的に言い切って出て行ってしまった。

「「「「・・・・・・・」」」」

さっき話してた俺を含む4人で顔(葉隠は見えないけど)を合わせそれぞれ着替えのために更衣室へ向かう。

 

 

 

 

「「「「個性把握テストぉ!?」」」」

 

 

 

 着替えてグラウンドに向かうと先についていた相澤先生からそんな言葉が飛び出した。息ぴったりだなみんな、ほんとに今日会ったばっかなのか?

 

「中学のころからやってるだろ?個性禁止の体力テスト。それを個性ありで行う。爆豪、中学の頃のソフトボール投げ何mだ?」

「67m」

あのすごいとがった目の金髪、爆豪っていうのか。

「個性ありでやってみろ、円から出なきゃ何してもいい」

爆豪が円の中に入り、ボールを握りこんだ。

「思いっきりな、全力じゃないと意味がない」

俺がやるとしたら秋草と・・・と桜花を合わせるが、爆豪の個性はなんだ?

「んじゃ・・・まあ・・・・死ねえ!!!!

・・・・死ね?

 

俺の感想とは裏腹に爆豪の手から爆発が起こってBOOOOOOOOOM!!!!という音とともにボールが彼方に飛んで行った。

爆発する個性か、威力もありそうだし応用も効きそうだ。いわゆる強個性ってやつだな。

 

「705m・・・・まずは自分の最大限を知る。それがヒーローへ近づくための合理的手段だ」

なるほどな、できることできないことを知るっていうのは大事なことだ。特に俺みたいな増強系は単純な分やれることが多い。いざやろうとしたときできませんじゃ話にならないしな。

 

 

「なんだこれ!!!すっげー面白そうだな!!」

「個性思いっきり使っていいんだ!流石ヒーロー科!」

などとめいめい騒いでいるが・・・・相澤先生の雰囲気が重く変わった。なにか琴線に触れるようなワードが出たらしい。

「面白そうね・・・・ヒーローになるまでの3年間、そんな気持ちでいられると困る。」

いかんな、地雷踏んだっぽいぞ?場合によっちゃ何かペナルティでもついちまうかもしれん

 

 

「よし、トータル成績最下位のものは見込みなしと判断、除籍とする」

思った以上に重いペナルティだぞ!?今日入学初日なのにもう一人いなくなるのか!?こりゃできること全部使わないとまずい!

 

 

「生徒をどうするかは先生の自由、ようこそ雄英ヒーロー科へ」

 

 

 

 とりあえずボール投げか・・・・・やっぱ秋草と桜花だな。桜花は全身の関節を利用して速度をパスし続け、腕や足といった末端部分の速度を加速させるものだ。個性だけの俺だと最高時速600km・・・・ヒステリアモードになれれば音速をも突破する。使用する関節が多いほど速度が増すが個性だけだと制御できず暴発する。使うのは肩から先の関節だな。足は秋草を撃って地面に体を固定し、衝撃や重さをできるだけボールを投げる手のほうに集めて・・・・・バスン!とボールを投げたとは思えない音とともにボールが空をかけるが・・・・やはり爆豪の威力には及ばず失速し、ボールが地面につくと

「遠山キンジ、267mだ。つぎいけ」

「はい」

まあこんなもんだろうな。大砲で打ち上げたりしてるやつもいるしほんと何でもありなんだなと思いつつ体力テストを進めていく。50m走は秋草を地面に打ち続け加速し4秒台、握力、反復横跳び、長座体前屈はまあ人並みだった。持久走は個性のおかげで疲れず早く走り続けるフォームを維持し好タイムだった。途中受験の時ブツブツつぶやいていた男子生徒と爆豪がもめて相澤先生が鎮圧するなんてこともあったがとりあえず最後の種目、立ち幅跳びにたどり着いた。

 

 立ち幅跳び・・・桜花だな、両足で踏み切る瞬間の斜めベクトルに差し掛かった瞬間・・・・バガン!!と両足の桜花で踏み出し、45の角度で飛び出した俺が着地をすると・・・・・

「10m37cmだ。終わったやつは並んで待機してろ」

 

あー終わった・・・とすでに終わったやつが集まっているところに合流する。緊張してるのか全員静かで誰もしゃべろうとはしてない。

最後に種目をやり切ったらしい大砲出したりしてた女生徒が合流すると相澤先生が全員の前に立った。

 

「はいじゃあパッパッと成績開示していこう。ちなみに除籍は嘘な?」

 

は?

「君たちの全力を引き出すための合理的虚偽」

「「「はーーーーーー!?!?」」」

「あんなのちょっと考えれば嘘ってわかりますわ」

前列の3人が叫び最後に種目を終えた女生徒がそれに突っ込んでいるが・・・・多分合理的虚偽にしたんだろう。ああいうタイプの人間は必要だと思えばためらいなく切れる。成績最下位の・・・緑谷だったかに可能性を見たのだろう。

使うと超パワーを引き出す代わりに肉体が崩壊する個性・・・・パワーはうらやましい限りだが怪我は御免被るな。

あいつは肉体の崩壊を前提に最小限の犠牲で最大限の成果をたたき出した。その根性と覚悟は目を見張るものがある。少し話してみたいな。

 

 

「とりあえず今日はこれで終了な。教室にある書類に目を通しとけよ。あと緑谷、保健室行ってばあさんに怪我なおしてもらってこい。明日もハードスケジュールだからな、以上解散」

 

明日からが不安になるぜ・・・・とりあえず教室戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにこの小説のキンちゃんは女性にトラウマを持っていません。理由としては
①個性社会のせいでキンちゃんの体質事態は珍しいがないわけではないと思われているため利用されにくかった
②無個性というわかりやすいサンドバックがあった
③一般中学だったからそもそも揉め事がおこらなかった。

ヒステリアモード自体については「気障なセリフを吐く自分に寒気がするが必要とあれば使用をためらわない」という考えのためそこまで忌避感はない感じです。
トリガーがトリガーのため自発的になるのは難しいけれど!


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第2弾

次回への本格的なつなぎ回。ぶっちゃけかなでだしたかっただけ。
オリジナル設定がたくさんあるので注意


 個性把握テストが終了し、おのおの教室に帰っていく中俺は痛みに震える緑谷が気になり話しかけることにした。

「大丈夫か?個性の反動だが何だが知らないが根性あるな、お前」

「へっ!?あっありがとう・・・っイタタタタ・・・・」

急に話しかけたせいで驚かせてしまったらしい。反動を受けた指を見てみると・・・・おいまじか。

関節がわからないぐらいぐにゃぐにゃに折れ曲がり、紫色にうっ血してる・・・・これ整復しとかねえと半年とかかかるタイプの折れ方だぞ。

「俺は遠山キンジだ。除籍が嘘でよかったな。」

「あ、緑谷出久です。遠山君すごいね、今の僕じゃ敵いもしない記録だ」

「昔から訓練してたからな。こっから保健室か?」

「そうするつもりだよ、痛くてたまらないから・・・・」

「じゃあその前にちょっと折れた指見せてくれ」

「いいけど・・・・どうするの?」

すっと差し出された指をじっと見つめ・・・おもむろにパキポキペキィ!!!と遠山家に伝わる整復術で骨と靭帯の位置を正しく戻す。この整復は早いし正確なんだが・・・・一つ欠点がある。

「イダアアアアアアアア!!!!」

めちゃくちゃ痛いのだ。俺はじいちゃんや兄さんの訓練で脱臼骨折は慣れっこだが一般家庭の人間には相当きついだろうな、コレ。

 

 

「何をしてるんだ!怪我をしてる部位に追い打ちをかける所業!君はほんとにヒーロー志望か!?」

「大丈夫!?」

案の定勘違い(あながち間違いじゃないが)したらしい緑谷とテスト前話してたやつらが近寄って文句を言ってくる。当然の反応だな。

「緑谷、指どうだ?」

「めちゃくちゃ痛いに決まって・・・・あれ?さっきより全然痛くない?・・・・わぁああああ指の形が戻ってるううううう!!??」

オーバーリアクションなやつだな。

「うちの家に伝わってる整復術だ。抵抗があるとやりにくいんでな、すまんが油断して力が抜けてるときにやらせてもらった」

「たしかに今からやりますって言われたら無駄に力が入るもんね・・・ありがとう。楽になったよ」

納得してくれたらしい緑谷を確認し、後ろに振り向いて

「お前らもわかったか?なんも言わなかったのがアレなのはわかるが・・・別に追い打ちかけたかったわけじゃないんだ」

納得できたらしい女子とは別で眼鏡の男子は震えてる・・・・まずったか?

「すまない!!!勘違いとはいえ治療した人間に対し詰問するなど・・・・ヒーローを志すものとしてあってはならないことだ!」

 

 

予想外に真面目だったらしい眼鏡の生徒が直角に頭を下げで謝ってくる。そんなことされたら俺が悪いみたいじゃ・・・・実際俺が悪いんだけどな。

「すごいんやねーあんなぐにゃぐにゃだったのに形が戻っとる・・・」

「あのままだったら自然治癒で半年コースだったからな。いくらリカバリガールが直してくれるとはいえできることは自分でやるべきだと思うぜ。」

「そうだね・・・ちなみに痛くてよくわからなっかったけどどうやって戻したの?」

「やること自体は病院でやるような整復と変わりないが・・・手順が若干特殊でな。習得はおすすめできないぜ」

「え?なんでなん?」

「それは俺も気になるな。こんな手早く整復できるならぜひとも習得したいのだが・・・」

まあヒーローたるもの怪我の応急処置自体は身に着けたいよな、でも習得方法があんまりにもあんまりだから俺は教えようとは思わない。

 

「じゃあ聞くけどお前ら、整復のためだけに自分で脱臼骨折を繰り返せるか?」

「「「・・・・・・・・むりです」」」

「ほらな」

遠山の実践訓練といえば怪我してなんぼみたいなところがあるからやられてるうちに自然にできるようになるが、雄英でやろうと思えば常にハンデをおうのと変わらないはずだ。こんな1回1回全力が求められる授業やりながら怪我と付き合うなんて正気の沙汰じゃないぜ。

「そんでお前ら名前なんだ?俺は遠山キンジだ。遠山でもキンジでもいい」

「あっ忘れてた!麗日お茶子です!よろしくね遠山くん!」

「飯田天哉だ。よろしく頼むぞ遠山君!」

ビシィ!とかくかくした動きで自己紹介する飯田となんだかほんわかした笑顔で名乗る麗日、飯田はその動きなんなんだ?

 

「おう、こっちこそよろしくな。じゃあ戻ろうぜ。緑谷ははよ保健室いってこい。付き添いいるか?」

「いいいいやいいよいいよ!またね!」

なんだその慌て方は、こっちが不安になってくるぜ。

 

 

 

 緑谷と別れ、更衣室で着替えていると・・・

「遠山君、それはもしや・・・・実銃か?」

「銃検通してあるから安心しろ。ヒーロー仮免とるまでは弾もゴム弾だしな。」

どうやら俺のベレッタが珍しいらしい。改正銃刀法が施行されてはいるが、雄英はトップクラスのヒーロー育成校だ、そもそも銃すらいらない強個性が多いんだろうな。

そんで日常で拳銃(チャカ)刃物(ヤッパ)なんか携帯してるのはさらに少数派だろうから必然的に希少になってしまうのだろう。俺も日常的に銃を使うヒーローは遠山(うち)の一族や雄英に勤めてるスナイプ先生くらいしか知らない。

いいと思うんだけどなあ銃。誰でも同じ威力が出せて遠距離攻撃ができるんだ、もちろん習熟が必要になるから誰でも彼でもってわけにはいかないが。

「いや、そう簡単に取れるものではないはずだから驚いただけだ。銃が必要になる個性なのか?」

「銃自体は個性の幅が広くなるから持ってるだけだ。それにアサルトライフルとかショットガンみたいなものと違って拳銃の銃検は緩いんだ。今の社会で素人がもつなら護身用レベルにしかならないからな」

ちなみに銃検の審査難易度は本人の資質と持つ予定の銃の威力で決まる。俺が持ってるベレッタの9mm弾はめちゃくちゃ緩い、だれが申請しても大概通っちまうくらいには。

「そうだったのか・・・まだ勉強が足りないな」

「自分が使うかもしれない法律は知っといたほうがいいぜ。知らずに違反してましたーなんて笑い話にもならねえからな」

「たしかにそうだ!いいこと言うな遠山君!」

急にテンションあがるやつだ。なんか手の動きも加速してるし・・・・いやだからそのかくかくした動きはなんなんだ?

 

 

 着替え終わって荷物を取り、飯田と一緒に昇降口を出るとちょうど治療を終えて着替えたらしい緑谷が麗日と話していた。

「緑谷君!もう怪我は大丈夫なのか!?」

飯田のやつなんだかんだ心配だったらしい。うれしそうだ

「治癒のせいで疲れてる以外は元気だよ・・・あ、遠山君、リカバリーガールが褒めてたよ!綺麗に整復できてるから治癒に使う体力が少なくなったって!」

「そりゃうれしいことだな。緑谷はもう怪我しないようにしろよ?あんな怪我個性使うたびにやってたらいずれ体が動かなくなるぞ」

「うん・・・・・わかってるよ」

どうだかわかんねえなあ。あんな内側で爆弾爆発させたみたいな折れ方初めて見たぞ?

「まあわかってるならいいか、俺が言うことじゃないしな。俺こっちだから先に失礼するぞ」

「うん、じゃあね遠山君」

「また明日ねー!」

「また明日会おう!」

手を振って送ってくれる3人に手を振り返して俺は帰路につくのだった。

 

 俺は進学を機に雄英から少し離れた場所にマンションを借りて一人暮らしをしている。

「ただいまー」

「あ、お兄ちゃん様!おかえりなさい!」

金天(かなで)!?お前今アメリカのジーサードのところにいるんじゃなかったのか!?」

「ジーサードと金女(かなめ)お姉ちゃんはお仕事が忙しくなったらしくて拠点にいられなくなったらしいです。なのでお兄ちゃん様を頼れってジーサードが・・・・・」

「ジーサードのやつ適当言いやがって・・・・・!!!」

 出迎えてくれたのは一番下の妹、遠山かなでだった。俺から下の弟妹はちょっと関係が複雑で言葉に表すなら腹違いというのが一番近い。

なので国籍も違い、もう既にヒーローの本場アメリカでプロヒーローとして活動してるのがジーサードとかなめだ。あいつら連絡もなしに何の仕事受けたんだ・・・・?

「まあ来たもんはしょうがねえ。学校はどうなってるんだ?金一兄さんは知ってるのか?」

「ジーサードが連絡していたので知ってるはずです。学校は雄英の附属小学校の3年生に編入させてもらえるようにお手続きしたっていってました」

 余談だが雄英にはヒーローに必要となるファンサービスやファンの大多数を占める小さな子供との接し方を学ぶため、1学年に1クラスの20人のみという制限で小学校が付属されている。場合によっては救助訓練の要救助者役を任されるその学校は、ある程度の特別な事情と通常の私立を大きく超えるような学力が必要となるが・・・・かなではその両方をクリアしている。

「じいちゃんはなんて言ってるんだ?挨拶してきたのか?」

「おじいちゃんとおばあちゃんとはお電話でお話ししました!やっぱりおじいちゃんとおばあちゃんの家からは雄英附属小学校には通えないのでお兄ちゃん様のところで生活しなさいって」

「だろうな。ちょっとまってろ」

「はい!」

 

 

 とりあえずかなでの頭を撫でてから玄関から部屋に進んで電話をかける。ワンコールして電話に出たのは兄さんだ。

「もしもし兄さん?キンジだ。今かなでが俺の部屋に来てるんだがジーサードから連絡なかったか?」

「ああ、キンジか。連絡はあったぞ?なんでも個性がらみの違法薬物の捜査依頼が来たらしい。組織がでかいらしくてな、戦闘能力のないかなでを拠点において学校に通わせるのは不安なんだそうだ」

「それだったら兄さんのところでもよくないか?なんで学生の俺なんだ?」

「学生だからだ。すでにメディアに出てるジーサードや俺と違ってお前はまだ無名、言い換えればどこにいるかわからないんだ。そんな草の根探しみたいなことしてわざわざかなでをさらうような真似はしないだろうと言ってたぞ?」

「そういうことか・・・・わかった。かなでのことは引き受けるから兄さんは仕事頑張ってくれよ?」

「すまないな、雄英附属の入学金とかなでの生活費は俺が持つから、よろしく頼む。どうせコンビニ弁当ばっかり食べてるんだろうからついでに食生活を何とかしてもらえ」

「余計なお世話だ!」

確かにコンビニ弁当ばっかり食べていた俺は図星をつかれた腹いせに電話をブツッっと切ってやった。料理できないわけじゃないんだが自分一人だとどうしてもずぼらになっちまうんだよなあ・・・・

 

 

 電話が終わったのを見ていたらしいかなではマリンブルーのくりくりとした目でこっちを見上げている。

「お電話終わりましたか?なんだか怒ってるようでしたけど・・・」

「ん?ああ・・・大丈夫だから安心しろ。とりあえずふとんと生活用品買いに行くぞ」

「はい!お出かけですね!」

 1年以上電話で連絡してても会ってなかったせいか一緒に何かしに行くだけでウッキウキらしい。そのちっこい体とダークブラウンの髪をぴょんと跳ねさせながら準備を進めている・・・・おーおー鼻歌なんか歌っちゃってまあ。

時刻は午後6時ってところだ。ファミレスかなんかで腹ごしらえしてからだな。

 

 

 準備を済ませて大型の複合施設に向かう際中、今日見知った顔が向こうから歩いてくる。あれは・・・麗日か、買い物中かな?

「よう、麗日。今日分かれて以来だな」

「え?遠山くん?!わーこんなところで会うなんて奇遇やね!そーそーご飯買わないといかんくてねえ・・・」

挨拶を交わすが麗日の目線は俺の顔で固定されている・・・・さてはかなでに気づいてないな?かなではかなでで初めて会う人にちょっとビビッて後ろに隠れちまうし、もっとフレンドリーになれとは言わないが最低限俺に隠れるのはやめろ。顔を半分出して麗日を見つめるその瞳は不安で揺れている。後ろ手で頭を撫でて挨拶するように促してやると

 

「あの・・・こんにちは。お兄ちゃん様のお知り合いですか?」

「そうやねーって言っても今日あったばっかなんやけど・・・・???」

俺から出たとは思えないころころとした高い声に反射的に応えたらしい麗日の視線が俺の顔から下へ向かっていくと・・・

 

「わー!なんか小さい子いる!?」

 

ビクゥ!と大声にビビったらしいかなではピャッと俺の後ろに完全に隠れてしまう。

 

「遠山君の知り合いなん?!?」

「そうだな」

「ちいちゃい!かわいい!」

「そうだな」

「ハッ!?ダメや遠山くん誘拐なんてしちゃ!?」

「それには断固として異を唱えさせてもらうぞ!?」

なんて失礼な奴だ!ヒーロー志望が誘拐なんてヴィランまがいなことするわけないだろ!

 

 一通り叫んで落ち着いたらしい麗日は膝を折り曲げて目線をかなでに合わせて挨拶してくれた。

「ごめんね驚かせて。私は麗日お茶子っていいます。お名前教えてくれるかな?」

「えっと・・・はい。遠山かなでっていいます。今日アメリカからお兄ちゃん様のところに引っ越してきました。よろしくお願いします」

「わーそうなんやー・・・・アメリカ?」

唐突に出てきた外国の名前に混乱してるな。説明しとくか。

「腹違いの妹ってやつだ。出身も国籍もアメリカなんだが事情があってな、急遽俺の借りてるマンションで暮らすことになったんだ。」

「なるほどー何歳なん?」

「9歳です。小学校3年生になります。」

 

 麗日の雰囲気につられてかかなでが少し警戒を解いたらしい。ちょうどいいな、頼んでみるか。

「麗日、ここで会ったのも一つの縁だ。もう飯食ったか?」

「へ?いやまだやけど・・・?」

「ならちょうどいい。おごるから一つ頼まれてくれないか?俺だとちょっと不安なことがあってな」

「んー内容次第かなー?」

お、好感触だな。俺一人なら多分断られてたぞ。かなで様様だな。

「今日かなでが突然きたもんだから布団とか生活用品がなくてな。いかんせん俺は女の子用の生活用具とかに疎いからどうしても実用重視になっちまう。よければ麗日がかなでのふとんとか見繕ってくれないか?もちろん金は俺が出す」

「なんやー真剣な顔するもんやから構えちゃったやん!そういうことなら私に任せといて!」

やった!少なくとも俺が選ぶよりは100倍マシな選択だぞ!

「んじゃー飯食いに行くか。ファミレスでいいよな?」

「はい!」

「やったーごちになります!」

 

 というわけでファミレスに入り、俺はハンバーグセットと食後にコーヒー、麗日はパスタとイチゴパフェ、かなではお子様セットとマシュマロパフェを頼んだ。女の子は甘いものが好きというが実際どうなんだろうな?

なんだかんだ麗日のことが気に入ったらしいかなではニコニコしながら食事してる。麗日も素直でちっさいかなでのことを気に入ったらしい。かいがいしく世話を焼いてくれるから俺の出番がない。

 食後のティータイムを過ごした後にそのまま商業施設へ向かい、かなでが好きなマシュマロ柄の布団といろいろファンシーな生活用品をそろえて帰路に就いた。荷物が多くなったが麗日の個性で浮かせてもらい(物の重力を消す個性らしい)マンションまで運んだ。かなでは麗日の個性が気に入ったらしくきゃいきゃいはしゃいでいたな。麗日も麗日でなついてくれるのうれしいらしく個性使ってかなでを浮かせてあげてたし。

 

 

 

 ものを片付けて麗日を最寄り駅まで送った後かなでを風呂に入れて就寝の準備をすると・・・・電話がかかってきた。非通知?誰だ?

「もしもし」

「おう兄貴か。俺だ」

「よう金三(きんぞう)。かなでを俺のところに送るなら連絡の一つくらいよこせよ」

「ジーサードだ!それに関しちゃ悪かったな。もろもろ片付けてたら暇がなくてよ、すまねぇがしばらくかなでを頼むぜ?」

「それに関しちゃ任せておけ。お前がなんかやらかすとは思えんが気をつけろよ」

「誰にもの言ってんだよ兄貴。それに今に関しちゃアメリカより日本のほうがきな臭いんだぜ?表面上は平和だが・・・・今の日本は一人に頼りすぎてる」

「お前と議論する気はないがおおむね同意見だな。オールマイトがいなくなりゃ一気にぶっ壊れるような薄氷の平和ってやつだ・・・・・そろそろかなで寝かすから切るぞ」

「わかった。なんかあったら頼れよ兄貴」

「もう既に頼ってるだろ。雄英の被服控除でな」

「そうだったな。もう納入終わってるから楽しみにしてろよ。おやすみ(グッドナイト)

「おう、じゃあな。かなめによろしく」

 

 電話を切り、かなでが嬉しそうに俺の布団と麗日に選んでもらったマシュマロ柄の布団をくっつけて布団の中に入るのを見ながら俺も自分の就寝の準備をすませ、かなでが眠るのを確認して自分も眠るのだった。

 

 




小さい子ってかわいいよね(危険発言)
いまさらながらものを書くとかストーリーを考えるのって難しいとおもう。
だって書きたいものを形にできなくて今現在とてもはがゆいから。
赤松先生と堀越先生はすごいなあ。


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第3弾

ここで戦闘訓練を終わらせたかったのですが突入すらできませんでした。
もう一度つなぎ回です。
オリジナル設定が乱舞してるのでご注意ください。
あと英語に関してはめっちゃ適当なんで信じないでください


 昨日さっさと眠ったせいで珍しく早く起きれた俺は、隣で愛らしい寝顔で寝ているかなでを尻目に昨日渡されたカリキュラム表を眺める。

今日あるのは・・・英語、数学、国語と化学・・・・それに午後からのヒーロー基礎学か、何やるんだろうな?

「むにゃ・・・お兄ちゃん様・・・おぁようございましゅ・・・・」

「おーおはようかなで。顔洗ってこい」

「あい・・・・」

隣に俺がいないことに気づいたかなでが起きて挨拶してくる。こういったところは年相応だな。いい時間になったしトースターに食パンを入れて焼いておき、ベーコン焼いてそのフライパンでそのままスクランブルエッグをつくる。

朝はとらないことがおおいんだがかなでがいるなら栄養バランス的に朝飯を抜くのはノーだ。俺のせいでまだ小さい妹を飢えさせたなんてことがあってみろ、兄さんが実弾で撃ってくるしじいちゃんには秋水で殴られるだろう。

「かなでー飯できたから顔洗ったら戻ってこい。ついでに玄関から新聞とってきてくれ」

「はぁいお兄ちゃん様」

 顔を洗ってしゃっきりと目が覚めたらしいかなでがテッテケテーと玄関まで小走りで新聞を取りに行って戻ってくる。ちょいと差し出された新聞を取りかなでが俺の対面のちゃぶ台に座ってトーストにバターとジャムぬってパクッと小さい口でかじってる。おれも眠気覚ましの濃いコーヒーを飲んで朝食を食う。

「かなで、お前今日から学校だろ?雄英の生徒手帳とかの支給品は持ってるか?」

「むぐ・・・転入が急だったので発行が間に合わないそうです。なので今日は雄英の玄関前でこの番号に連絡を入れるよう言われています」

「そうか、じゃあついたら俺が連絡入れるから番号くれ。8時には出るから着替えとけよ」

「はい」

ちなみに雄英付属小は私服だ。体操服はあるけどな。

バスルームに着替えに行ったかなでを目で見送って俺も制服に着替える。ベレッタとナイフ、ついでに雄英入学に合わせて銃検通した父さんが使ってたデザートイーグルをそれぞれショルダーホルター、ヒップホルスターに収めブレザーを羽織る。携行品が増えたせいか若干重くなった体になれるようにしないとな。

「お兄ちゃん様!お待たせしました!」

「おう、それじゃいこうか」

かなではTシャツにロングスカート、そんでオーバーサイズのニットを着ている。袖がダボついてパタパタしてるな。

 

 

 

 雄英までは歩きだ。小さいかなでの歩幅に合わせて手をつなぎながら歩いていく。途中かなでがいろんなものに興味惹かれて表情をころころ変えているので見てるだけで飽きない。

10分ほど歩いて雄英までの大通りに差し掛かると・・・・

「あら、確か遠山ちゃんね?おはよう。昨日ぶりだわ」

誰かが後ろから声をかけてきた。止まって後ろを振り向くと・・・確か同じクラスの蛙水梅雨ってやつだな。挨拶と自己紹介をした覚えはないんだが・・・・どうやら彼女は座席表を見て顔と名前を一致させたらしい。

「ああおはよう。確か蛙水だったよな?遠山キンジだ。よろしくな」

「ええ、よろしくね遠山ちゃん。あと梅雨ちゃんって呼んで?」

「なんでだ?苗字嫌いなのか?」

「そういうわけじゃないのだけど。お友達になりたいって思った人にはそう呼んでもらうようにしてるの」

「すまんが呼び捨てで勘弁してくれ。ちゃんづけなんてキャラじゃない」

「わかったわ」

なんとなく残念そうに見える(カエルっぽいポーカーフェイスのせいか?)梅雨がケロケロ言いながら視線をかなでにロックオンした。

・・・・なんか表情が固まったような気がするぞ?

 

 

 

「遠山ちゃん」

「なんだ?」

「私思ったことは何でも言ってしまうの」

「それで?」

「誘拐はよくないわ」

「昨日も言われたがそれについては断固として異を唱えさせてもらうぞ」

なんだどいつもこいつも!そんなに悪いことしそうな顔してるのか俺?

 

「ちげーよ妹だ妹、顔があんまにてないのは事情があるんだよ。今日から雄英附属小に通うから一緒に登校してるだけだ。ほらかなで、お姉さんに挨拶してみろ」

と俺の隣でこわごわ梅雨を見上げてたかなでを促すと

「えっと・・・おはようございます。遠山かなでです。お兄ちゃん様のクラスメイトさんですか?」

「そうよ。蛙水梅雨っていうの。梅雨ちゃんと呼んで?」

「梅雨ちゃん・・・・・」

アメリカじゃない言い回しだからかなでが若干困惑してるのが少し面白いな。

 

「ところで遠山ちゃん」

「またなんだ?」

「私思ったことは何でも言ってしまうの」

「さっき聞いた」

「そういう趣味なのかしら?」

「帰国子女なんだよ。一昨日までアメリカにいたんだ。言葉遣いがまだおぼつかないのは目をつぶってやってくれ」

「そうだったの。とっても日本語上手ね、かなでちゃん」

「ありがとうございます。梅雨ちゃ・・・梅雨さん!」

「梅雨ちゃんと呼んで?」

年上にちゃんづけはやっぱり抵抗があったらしいかなでと矯正しようとする梅雨がワイワイ話すのを横目に見ながら歩くとまたでっかい雄英の玄関が見えてきたので

 

 

「梅雨、俺らは手続きがあるから先行っててくれ。また教室でな」

「わかったわ遠山ちゃん。かなでちゃん、また今度お話ししましょう?」

「はい!」

年下の扱いがうまいらしい梅雨にすっかりほだされたかなではちょっぴり残念そうだ。とりあえず電話かけるか・・・

 

 

 

 

 

「もしもし、雄英の山田です」

どっかで聞いたことのある声だ。山田なんてヒーローいたか?

「朝早く失礼します。雄英ヒーロー科1-Aの遠山キンジです。今日雄英附属小に転入予定の遠山かなでを送りに来ました。玄関前で待機してます。」

「おお、なんだリスナーか!OKOK!少し待ってな!」

ブツッと切れた電話の相手は・・・・プレゼントマイク先生だったのか。本名名乗ってるし俺が自己紹介したら一気にテンションがいつもの感じに戻った。

少しして現れたマイク先生は

「ヘイ!リスナー!Did you wait?」

なんで英語なんだ?だがかなではマイク先生の金髪とサングラスで同郷だと勘違いしたらしく目をキラキラさせながら

「Good morning. Are you a teacher? Thank you in advance.」

ペラペラの英語であいさつしてる。もしかして今までは日本人が怖かっただけか?

 

 マイク先生は少しだけ目を見開きつつもにやりと笑って

「That's right, it's not your homeroom teacher Thank you from today!」

「You're a big voice it's great」

「Because it ’s personality・・・・もう日本語でいいか?」

急に日本語で話し出したマイク先生にかなではびっくりしたらしい。一瞬で俺の後ろに隠れた。いやそれやめてくれよ

 

「なんだぁ急に傷つくなリスナー?しかし英語ペラペラだな。ほんとに小学3年生か?」

「人が悪いですよマイク先生。事情は分かってるんでしょう?」

「情報規制の関係でお前の家族ってことくらいしかわかんなくてな。雄英附属小に入るってことはいろいろあるってんのはわかるんだが・・・」

「この子のためにも突っ込んで聞かないでくださいよ。必要になったら情報は俺のほうから話します。この子は普通のちょっと頭がいいだけの小学生です」

雄英附属小に入る子たちはすべからくプロヒーローがいなければならない環境が必要なわけありの子たちばっかりだ。定員を上回るほどの入学者はまず出ないから転入自体は楽だったろうな。

「とりあえずこの子は俺が責任もって教室まで連れてくからお前は自分の教室に行ってこい。遅刻すんぞ?」

「はい、よろしくお願いします。かなで、夕方になったら迎えに行くから先生の言うことをよく聞くんだぞ?」

「はい!よろしくお願いします先生!」

 

 

 マイク先生にかなでを預けて自分の教室に向かう。英語のほうが話しやすいのか英語で会話をしてる二人をよそに1-Aの扉を開け自分の席に着く。

「おう、おはよー遠山」

「おはよー!遠山君!」

「おう、瀬呂、葉隠。おはよう」

先に来ていたらしい2人とあいさつを交わす。

「ねー遠山くん!朝一緒に梅雨ちゃんと登校してたでしょ!間にちっさい子挟んで!」

どうやらみられてたらしい。というか葉隠はいつの間に梅雨と親しくなったんだ?

「昨日といい今日といい・・・もしやお前意外とチャラいのか?」

いい加減にしねえとその肘のテープ全部引き出してやろうかなどと危険な考えが浮かんだがとりあえず説明を優先する。

「妹だ妹。雄英の附属小に通うから廊下とかで見かけたら優しくしてやってくれ。昨日アメリカからこっちに来たばっかだから日本のいろんなもんが珍しいだろうしかまってやるだけで喜ぶと思う」

「おーりょうかい。俺のファン1号にしてやるぜ!」

「うん!かまっちゃうよー!」

「すまんな」

とごちゃごちゃ話してると相澤先生が入ってきた・・・と同時にすっと音が消えた。

 

「はい。今日はすっと静かになったね。ホームルームを始める。といっても今日は通常授業だ。午後のヒーロー基礎学前に知識を詰め込んどけ。以上。この後すぐマイクが来るから席立つなよ」

一言二言話してがらっと出て行っちまった相澤先生の言葉通りみんな席を立たず英語の教科書を卓上に出して隣のやつなどと駄弁り始めた。

なんかとなりの緑谷がブツブツなんか言ってるようでその前の爆豪が目に見えてイラつき始めた。爆発する前に処理しとくか。

 

「おい緑谷、さっきから何ブツブツ言ってんだ?」

「へっ?口に出てたのか・・・・ごめん、プロヒーローの授業ってどんなのか気になっちゃって・・・・」

「普通だろ、ヒーロー関係じゃなくて通常の座学なんだから。マイク先生の授業だからうるさいのかもな」

「きっと個性を活かした実践的な授業なんだろなあ・・・」

「マイク先生の個性活かすともれなく俺らの鼓膜が破けるぞ?まあ英語オンリーの授業とかやりそうではあるが・・・・」

緑谷は雄英を何だと思ってるんだ?と前の席の爆豪をチラ見しつつ(緑谷をにらんでいるが突っかかるつもりはないらしい)話してると・・・・がらりとドアが開いた。

 

 

 

 

 

「ヘイ、リスナー達!ちゃんと席についてるか~?」

などと言いながら入ってきたマイク先生のすぐ後ろでちょこちょこ歩いてるのは・・・かなでだ。え?なんで?

クラスの全員の視線を(俺のも含む)あびたかなでは顔を真っ赤にして涙目だ。さすがにかわいそうになり手を挙げて質問する。

「あーマイク先生・・・なんでその子が?」

「お兄ちゃん様!」

あ、これやばい。

 

 

 かなでが俺を呼んだ瞬間、麗日と梅雨以外の視線が全部俺に向いた。麗日と梅雨はかなでを見ているが何の救いにもならない。俺が何したってんだ!

「あーその件なんだが・・・この子アメリカの大学を通信課程で卒業してるって聞いてな。通常の小学校の科目は全部意味がないってなっちまって。義務教育だから日本の小学校には通わなきゃいけないのは仕方ないから、サポート科、経営科、ヒーロー科の授業に協力してもらおうって話になったんだ。イレイザー風に言うなら合理的判断ってやつだな!」

「そうですか・・・まあかなでがいいなら何も言いません。よろしくお願いします」

流石雄英、小学校すら自由なのか。

 

「つーわけで自己紹介だ!これは英語の授業だから英語で行うぜ!せっかくのネイティブスピーカーだからしっかりリスニングしろよ!じゃあアシスタント、頼んだぜ」

促されたかなでが深呼吸して1歩前にでると

 

「Good morning My name is Kanade Toyama I am in charge of class assistance We've got everything at a good start, let's keep it that way.」

ゆっくりわかりやすい発音で自己紹介した。こんな小さな子からアナウンサーみたいなきれいな英語が出ると思わなかったらしく、若干ざわめいている。いっとくけどかなではアメリカ国籍だぞ?なんで知ってるはずの麗日は驚いてるんだ。梅雨はずっとポーカーフェイスだな?予想してたんだろうか。

「はいじゃあ今の自己紹介和訳できるやつ手上げろー!」

かなでがいること以外は普通の授業なんだな。クラス全員の顔に(普通だ)という感情がでてる。

 

 マイク先生の授業が終わり、(終わり次第昨日話してなかったやつも含めほぼ全員が問い詰めに来た。自己紹介もできたしまあよしとしよう)かなでが出て行って10分の休憩をはさみ授業が続いた。

 

午前中のカリキュラムが終わり、昼飯を食いに行こうとすると・・・クラスの女子につかまった。なんでもかなでのことが気になるらしい。麗日と梅雨から先にかなでのことを聞き出したらしい女子の面々は会う気満々で俺は断れずに一緒に飯を食うことにした。血走った目でついて来ようとしてる小さなブドウみたいな頭した峯田というやつは流石に女子がNGを出した。「本物の純性ロリ・・・おいらのリトル峯田がイキリタツ・・・・」などと言っていたが流石にかなでに手を出そうとしたら俺でもぶちぎれる自信があるぞ?

 

 

 途中で飯を食いに行こうとしたらしい飯田と緑谷と合流してかなでを迎えに行く。マイク先生からの連絡によると雄英附属の3学年は現在誰もいないらしく、特別扱いの件にさいして通常のクラスで待機させるといじめに発展しかねないという理由で職員室か3年生のヒーロー科で預かるらしい。

今回は職員室なのでかなでを引き取った後、そのままランチラッシュのメシ処に向かう。

 

 

「わーかなでちゃん!昨日ぶり―!うぁー昨日と一緒でかわいいわぁ!」

俺が職員室からかなでを連れて出てくると麗日が早速かなでをかまいだした。頬ずりするほどってよっぽどなんだな、緑谷がなんか顔真っ赤にしてるけどしらん。というかかなで苦しそうだから離してやれ。

「お茶子お姉さん、苦しいです・・・離してくださいー」

「お姉さん・・・・」

なんかキュンとした顔をしてらっしゃる麗日。

「ねえ遠山くん!」

「やらんぞ」

「まだ何も言ってへんー!」

どうせかなでをよこせとかそんな話だろ。

 

「まあまあ麗日さん・・・わたくしは八百万百と申します。よろしくお願いしますね。かなでさん」

「ウチは耳郎響香。うーわほんとに小さいな、かわいいじゃん」

「アタシ芦戸三奈!よろしくねー!」

「私葉隠透!見えないけどちゃんといるからねー!」

かこんで一気に自己紹介しやがった。ごっちゃにはならんだろうが(全員特徴的だし)子供相手にゃよくない接し方だぞ?まあかなでを練習相手として学んでくれ。

「えっと、百お姉さん、響香お姉さん、三奈お姉さん、透お姉さんですね!遠山かなでです。仲良くしてください」

「「「「お姉さん・・・・」」」」

 

 

 全員さっきの麗日みたいな状態になったな。ほっとくか。

「おら、緑谷と飯田も自己紹介してやってくれ。」

かこまれてるかなでのために助け舟を出してやる。チョイっと包囲網を抜けてこっちにきたかなでに緑谷が

 

「こんにちは。僕は緑谷出久。お兄さんとは昨日友達になったんだ。よろしくねかなでちゃん」

膝立ちになって目線を合わせて自己紹介した。完璧じゃねえか緑谷、やるな。

「おなじく昨日遠山君の友人になった飯田天哉だ!よろしく頼むぞかなで君!」

飯田はなんか言葉遣いが固いな。かなでは飯田の意味不明な腕の動きが理解できないらしく、俺を見ている。すまんが俺もわからん。

 

「朝ぶりねかなでちゃん。英語の授業の時は驚いたわ」

「梅雨お姉さん!」

「ええ、そうよ。またお話しできてうれしいわ」

全員あいさつし終わったところでメシ処につき、各々食べたいものを頼んでから着席して食事を始めた。食事中もかなでは大人気で、かいがいしく世話を焼かれてたが、八百万、いかにも高級そうなハンカチでかなでの顔をぬぐうな、なんか申し訳ない気分になる。葉隠は見えないのをいいことにドッキリを仕掛けるんじゃない。かなでに嫌われても知らんぞ?

 

にぎやかな昼食を終え、かなでを職員室に送り届け、(午後の授業は13号先生の救助訓練で要救助者役をやるらしい)教室に戻った。

 

さて、次はヒーロー基礎学だ。オールマイトが担当らしいから楽しみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は完全戦闘回です。無双するキンちゃん様をお楽しみに。

感想、評価お待ちしております。


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第4弾

なんかキンちゃんが完全にヴィランになっちゃった・・・・
でも轟くんと戦うならこれくらいしないと絶対勝てないと思う。
才能マンだし。


 午後授業はすべてヒーロー関係の座学や演習で構成されている。今日はその1回目、ヒーロー基礎学だ。

 

 

 

「わ~た~し~が~~~~普通にドアから来た!!」

ガラッとドアを開けて独特なポーズで入ってきたオールマイトにクラスは大興奮だ。

「すっげえ、ほんとに雄英に勤めてたんだな!」

「廊下とかで見なかったからほんとにいるのかわかんなかったけど、オールマイトに教われるなんて最高だな!」

「画風が違いすぎて鳥肌が・・・・」

 

確かに俺たちよりいろいろ濃い顔してるけど。というか画風ってなんだ?

 

「いい反応ありがとう!さて早速だが今日はヒーロ基礎学!ヒーローの素地を作るため様々なことを学ぶ科目だ!単位数も最も多いぞ!」

否応にもわくわくしてくるな、俺らしくもない。

 

 

「そして今日は・・・・戦闘訓練!」

しょっぱなからそんなことして大丈夫なのか?

クラス中がざわめいている・・・・後ろ姿しか見えないけど爆豪がなんか凶悪な面してそうだ。

「そしてそれに伴って・・・・こちら!」

ガコンと壁からロッカーのようなものがせり出した。中には番号が振ってある箱がはいってるな・・・もしかして戦闘服か?

戦闘服(コスチューム)だ!個性届と要望書に沿って作られている!これに着替え次第順次グラウンドβに集合だぞ。自覚しろよ少年少女!これをまとった瞬間自分たちは・・・ヒーローなんだと!」

 

 

 

 

 

 

 チャチャッとコスチュームに着替えてグラウンドで待ってると、先に着替えてたらしい切島が寄ってきた。ほとんど半裸だがヘッドギア、一部を覆う装甲できっちりガードしてる。切島のしっかり鍛えられた肉体と合わさってなかなか頼れそうな雰囲気を醸しだしてるな。

「よぉ遠山!お前のコスチュームスーツなのか!なんかヒーローよりもスパイって感じだな!」

「お前のはなんかいかにも肉体勝負って感じだな。似合ってるぜ」

「おおサンキュー!お前のもなんかかっけえな!アメリカのサイバーヒーロー、ジーサードみてえだ!」

そう、これは被服控除の一環で断ることもできるのだ。雄英の被服控除で要望は大体通るがデザインは製作者の個性が大爆発する。ヒーローっぽい恰好(全身スーツとかマントとか)は不要なのでジーサードと相談して俺の要望に沿ったものを制作してもらった。こういうところはコネ様様だな。

 

 俺のコスチュームはまず上下に分かれるアンダースーツの上にところどころ部分的に鎧を着ている。被服の下にも着込めるようになったそれは体の動きを邪魔しないようにうごき、なおかつ着ていることがばれないようになっている。見えてるのは脚甲、ガントレット、そんで腰の装甲だな。腕や足のはところどころ音速を超える技を撃つ俺に合わせて頑強にできている。銃を握りやすいように指の装甲は薄めだ。腰の装甲の中には左にベレッタ、右にデザートイーグルが入っている。ナイフは左手の装甲の中で、右手の装甲の中にはデザートイーグルで使う特殊弾が内蔵されている。ほかにも全身の装甲の中にはマガジンが大量に仕込まれている。

で、上に着てるジャケットは電磁誘導を利用して袖の中に銃やマガジン、ナイフを通せるつくりになっている。服の内ポケットにもマガジンを入れる部分が結構仕込まれてるな。ベルト、ガントレットの手首にはワイヤーが内蔵され、最大で20mまで伸び、袖口を通ってきた銃に接続すれば取り落とし防止にもなるようになっている。

耳には骨伝導ヘッドセットがあり、今は胸にさしているがサングラス型のディスプレイと視線操作を内蔵した操作機器・・・ジーサードが使うテラナと同じものがある。もちろん全身防刃防弾難燃だ。素材の都合上電気は通るので気を付けなければならない。

他の装備品は潜入を想定した盗聴録音再生機が8つ、腰の装甲にくっつく形でついている。機構の操作は指と手の動き、テラナでの操作だ。

 

切島と話しつつ装備の動作確認をしていると(スリーブガンを見せると切島は大喜びだった。やっぱ銃はかっこよく見えるらしい)全員そろってるな。一応何するかわからないし録音機をオンにしておく。

 

「いいね!カッコイイぜ少年少女!さて、今からやるのは屋内での戦闘演習だ!2vs2のペアを組んでヒーローとヴィランとしてことに当たってもらうぞ!」

屋内戦か。屋外での派手な個性戦が人気でよく報道されているがそんなもん突発的で大体自信過剰なアホがヒーローに突っかかっただけだ。ある程度頭が使えるやつなら閉所で、なおかつ自分の個性を利用する環境を整えやすい屋内でのヴィラン犯罪のほうが統計的には多いと兄さんが言っていた。オールマイトも同じようなことを言っている。というかカンペガン見じゃねーか、大丈夫か?

 

 

めいめい質問を一気に飛ばしてるせいでオールマイトが「んんん~~~聖徳太子ィィ!!!」と震えてる。落ち着けお前ら、せめて説明が終わるまで待ってからにしろ。

 

「いいかな!?状況はヴィランがアジトに核兵器を隠しており、ヒーローはそれを回収ないし処理しようとしてる。ヒーローは制限時間内にヴィランを全員捕縛するか核兵器を回収すること、ヴィランは制限時間内に核兵器を守り抜くかヒーローを捕まえること。コンビと対戦相手はくじで決める!」

設定がえらいアメリカンだな。というかアメリカでも核なんて持ってるヴィランなんかなかなか・・・・いるか。この前ジーサードが捕まえたって言ってたわ。

 

 つまりヴィラン側は核を隠して最悪逃げ回ればいいのに対し、ヒーロー側は制限時間がある中、核かヴィランを捕まえると。ヒーロー側がだいぶ不利じゃないか?

 

「それでは早速くじだがチームアップだ!おのおのコミュケーションを取っておくんだぞ!」

とオールマイトがくじを引いていき、AからJのグループが決まった。俺はIチームだな。

 

「遠山くん!また一緒なんて縁があるね~!」

「受験のことか?確かにな。とりあえずよろしくな」

「遠山くんヒーローとヴィランどっちがいいの?」

「そりゃヒーローだろ。何たってヒーローになりに来たんだからな。まあヴィランでもいいっちゃいいけど」

「え~私はやっぱりヒーローがいいなあ」

俺は葉隠と一緒だった。全員がチームに分かれたところでオールマイトがまたくじを引き、対戦チームを発表する。

 

「最初は・・・・Aチームがヒーロー!Dチームがヴィランだ!」

ほー麗日緑谷と飯田爆豪か。初戦からまたすごい組み合わせだな。緑谷がまた怪我しねーといいんだが。

「ヴィランチームは先に入ってセッティングを!5分後にヒーローチームが突入する。ほかのみんなはモニターで観戦して自分の時の参考にするんだぞ!」

とりあえずモニタールームで観戦か・・・・なにか参考になるといいんだが・・・爆豪と緑谷の間に妙な緊張感があるのが少し気にかかる。

 

 

 

 終わった・・・・が正直な感想としては訓練というか私怨での喧嘩といった感じだ。爆豪は終始緑谷に対して攻撃を仕掛けていた。しかも核兵器のことを念頭に置いてない大規模攻撃をかました。ぎりぎり訓練ということを意識していたらしい緑谷がパンチで核の部屋まで床をぶち抜き、それを麗日ががれきを柱で打って牽制して核を回収して終了した。というかどれもこれも核兵器だってわかってんのか?これが核ミサイルとかで信管によっちゃ爆発してるぞこれ。何の参考にもならん。

「それじゃ講評だ。今回のベストは飯田少年だな!なぜだがわかる人―!?」

「はい!」

「はい」

 

「それじゃ八百万少女!遠山少年はそのあとな!」

八百万のほうが早かったな。まあ全部言っちまうだろう。推薦入学者だって言ってたし。

「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたこと。緑谷さん爆豪さんは屋内での大規模攻撃と私怨丸出しの戦闘・・・・麗日さんは中盤で完全に気を緩ませていたことと核兵器を巻き込む攻撃・・・総合して核を核として扱った飯田さんが一番ですわ」

うわ、オールマイトの顔に「思ったより言われた」と書いてある。

「そ・・・そうだな。それでは遠山少年」

「はい。おおむね八百万と同意見ですが・・・・個人的なダメ出しとして、ヒーロー側は「アジトへの潜入である」という意識が欠如していました。核があり、それがヴィランのアジトにあるということまでわかってるならできる限り慎重な行動を求められるでしょう。気づかれないように静かに走る、曲がり角で一度立ち止まって角の向こうを確認するといった行動が一切見られませんでした。全力で走って、音が大きい戦闘をする・・・・自分の居場所と目的を伝えてるようなもんです」

あ、オールマイトの顔に「そこまで求めてない」って書いてある。兄さんとジーサードの受け売りなんだけどな・・・・

「まぁ・・・・二人とも正解だよ・・・ぐぅ」

ホントにぐぅの音を出す人は初めて見たな。

 

 

 だが緑谷のヒーローっぽい肉を切らせて骨を断った様子はクラスに火をつけたようだ。本人は保健室にいるけどな。

その後も何回か使用するビルを変えて訓練が行われ、ついに俺たちの番になった。

 

オールマイトがくじを引き、俺と葉隠のチームがヴィラン、轟と障子がヒーローだ。

 

障子は朝かるく自己紹介したときに個性も教えてくれたな。腕に生えてる触手に体のさまざまな部位を複製し、操ることができる個性らしい。索敵にも攻撃にも活かせそうな万能な個性だな。轟は教室でも我関せずといった様子で誰かと交流を持ってる様子がない。従って個性もわからないが・・・個性把握テストの様子を見る限り氷を生成していた。情報は断片的だがとりあえずそれを前提に作戦を組んでやる。「ヴィラン」らしくな。

 

 先にビルに入り、準備を始める。パパっとしねえと時間なくなるな。

「ねー遠山くん。核の場所とかどうしよっか?」

「そうだな・・・作戦があるんだがのるか?」

「お、やるやる!どんなの?」

「時間ねえから手短に言うぞ。この作戦の要はお前だ(・・・)

「私?」

「そうだ。まず核を1階に設置し、これをビルのどこかの部屋へランダムに仕掛けてもらう」

説明しながら7つの録音再生機を葉隠に渡す。さっき音録音しといてよかったぜ。

「で、相手が入ってきたら葉隠、ワザと声出して見つかってくれ。できるだけ焦った様子で、俺に通信するふりをしてだ。その時に俺のところに逃げるようなことを言ってこいつを落としてけ」

そういってガントレットの中から2つの銃弾を取り出す。

「片方が閃光弾、もう片方が煙幕弾だ。最初に見つかった時には煙幕弾・・・黒いやつだ、それを落とせ。使い方は銃弾の後ろのボタンを思いっきり押せそうしたら1秒後に煙が出てくる。閃光弾も同じだ。で、おそらく索敵手段が少ない轟が追ってくるはずだから俺が合図するまで上に上に逃げ回れ、俺はおそらく残るであろう障子のほうを手早く何とかする。」

轟は八百万と同じ推薦入学者だ。状況判断、と地頭の良さを考えるにそのくらいはやるだろう。そして轟はコミュケーションが苦手そうだ。協力するより個人主義に傾く可能性が高い。

「合図したらもう一回見つかって閃光弾で轟の視界を潰せ。もし俺が障子を捕縛する前につかまりそうになったら閃光弾使って逃げていい。俺と障子からできるだけ轟を離してくれ。」

「はぇーそこまで考えてるんだ・・・わかった!」

「あと・・・・俺が何言っても肯定しろ。じゃねえと失敗するかもしれん」

「え?なにするの?それも教えてよ~」

「いくつかパターンがあるから全部説明できん。じゃあ頼むぜ」

「わかったよー!本気モードで全部脱ごうかと思ったけどやめておいたほうがよさそうだね~」

「何してくるかわからん相手にただでさえ少ない防御力を0にするんじゃねえ、ほらいいから頼むぞ」

ちなみに葉隠のコスチュームは受験とほぼ変わってねえ。いろいろやばくねえか?主に倫理観と羞恥心。

 

録音再生機を仕掛けに行った葉隠を見送り、俺は残った一つにとある言葉を録音しておく。核は奥の部屋に入れて俺はその反対側の奥に入り、その2つ前の部屋にのこった録音機を仕掛ける。うまくいってくれるといいんだけど。

ちなみに核は階段の反対側だ。録音再生機の再生モードをオンにしてクラスの喧騒をリピート状態にしておき、階段側の部屋に戻ってきた葉隠と待機していると・・・・・

 

「準備はいいかな?では、スタート!」

 

 合図がなったと同時に俺は個性を使って神経を強化する。・・・入ってこないな・・・・?いや待てよ、この想像が現実になったらまずい!

 

「葉隠!跳べっ!!!!」

「へっ?いやうん!」

 出来るだけ高く飛んだらしい葉隠をキャッチして俺も飛び、ワイヤーとナイフをつないで天井にさしてぶら下がったと同時に・・・・パキパキパキ・・・と壁が凍りだした。

轟の野郎「ビルごと凍らせて」制圧しにかかりやがった!

だが狙い通りにはいってない、俺たちは回避してる。ひとまず凍結現象が落ち着いたあたりでおりる。ナイフは凍っちまって抜けねえな。葉隠が靴脱いでなくてよかった。これで素足なら逃げるなんて話じゃないだろう。

ゆっくりと玄関が開き、轟と障子が入ってた。障子の触手から耳が出てるのをビル内に落ちていたミラ―で確認し、作戦の開始を葉隠にアイコンタクトする。

おそらく上の回に設置した再生機のせいで探知ができないであろう障子と轟が会話をしてるのを1回にしかけた盗聴器で拾う。

 

 

「すまない、クラス全員の声がして探知ができない。遠山に朝説明したせいで俺の個性に対策を取られたようだ」

「そうか。だがどうせ動けねえから関係ねぇな」

上手いことはまってくれたらしい。頼むぞ、葉隠!

 

 

「よくもやってくれたなヒーロー!だが残念だったな!私たちは無事だ!」

葉隠が階段前でワザと声をだして轟と障子の視線を集めた。俺はこの隙に開けておいた窓から外に出て遠山家に伝わる壁などに無音で張り付いて移動する技「堀蜥蜴」で盗聴器を仕掛けた部屋の隣に移動する。

 

「なに・・・?」

「アレを避けたのか!?」

「捕まえられるものなら捕まえてみろー!遠山君!そっちいくね!」

最後だけ小声で通信機に言って煙幕弾を起動し逃げる葉隠。さあどうする轟?

「煙幕か・・・・」

「轟、遠山のところに向かうと言っていたが・・・・どうする」

ココが分水嶺だ。煙幕の中階段を上る葉隠が風の動きで視認できるのを確認した轟は

「俺が追う、お前は1階からしらみつぶしに核を探してくれ」

「わかった」

よし、賭けに勝った!

 

 轟が階段を走って上っていき、姿が見えなくなる。障子も順に扉を開けて行って確認していくのがミラー越しに見える。少しづつ近づいてくる障子に合わせて隣の部屋の録音機を再生モードに切り替えさっき録音した俺の声を再生する。

 

『葉隠、うまくいってるな?そのまま2人を引き付けておいてくれ・・・・ああ・・あとで』

「・・・!」

反応した障子が走ってこっちに来てドアを開けて入ったと同時に俺も隣の扉を同時に開けて音をかぶせて消し、外に出る。

入った部屋にあるのは黒い色の録音再生機だ。

「・・・・囮!?

「かかったなヒーロー」

 

障子が気づいた瞬間その無防備な背中にドカァ!!と飛び膝蹴りを叩き込んで吹っ飛ばす。「ガッ・・・!?」という声を上げて吹っ飛んだ先で体勢を立て直した。流石に気絶までは持っていけなかったらしい。

俺が1階にいることを轟に伝えようと耳の無線機に片手と触手で作った口を近づけた障子が「!?無線機が・・・」と驚いてる。

 

「お探しのものはこれか?」

と片手の指につまんだ無線機を見せてやる。遠山家の技の一つ、相手の携行品をすり取る「井筒捕り」だ。さっきの膝蹴りの時に盗んでおいた。

「分断されたか・・・・」

「ビルごと凍らされるとは思わなかったけどな」

 

 障子が触手に腕を複製して構える。手数の多さは俺より多いだろうがどっちかっていうとパワーよりなタイプの障子だ。いなしてテープ巻いてやる。

「いくぞ・・・!」

「こい!」

 

 突進してきた障子がラッシュを叩き込んでくる。1撃4発以上別々の場所に打ってくるが着弾のタイミングや体さばきを駆使していなし、躱し、迎撃する。障子は分断された焦りと、攻撃をいなし続け、当たらない俺への焦りが合わさり、だんだん大降りになってきた。

「オオオオオッ」

完全に焦った障子が右手と触手の複製腕全てて右ストレートを打ってくる。今だっ!

 

「すまんな、息、苦しくなるぞ」

右ひじで跳ね上げてそらし、無防備になった障子の胸にドムンッと掌底を入れてやると・・・

「コ・・・ガ・・・・ハッ・・・」

呼吸が一気に制限された障子が前のめりに倒れこんだ。すぐ確保テープを巻き、胸をもう一度叩いて戻してやる。

 

 

 

 今のは遠山家の奥義の一つ「羅刹」。一定の角度と威力で相手の胸を掌底で撃ち、心臓、肺などの呼吸器官を細動させて止めるというなかなかにえぐい技だ。今回障子に使ったのは劣化版で片肺だけ止めるように改悪したものだ。音の分のエネルギーすら打撃力に回すほぼ無音の「羅刹」と違って音も盛大に出ちまうからな。

 

「葉隠!今終わったから閃光弾つかって一番上までにげろ!」

「いま4階!とりあえず今からやるから!」

 

障子を1階エントランスロビーまで引きずっていき(文句言われたけど無視した)葉隠の通信を待つ。

 

 

「おっけー!成功したよ遠山くん!いま屋上の貯水タンクの影にいる!」

「サンキューな。終わりまでそこで隠れててくれ」

よし、今轟は1次的に視力喪失にある。あの閃光弾はほんとに目眩まし用で30秒ありゃ回復しちまうから、今混乱してるうちに畳みかけてやる。

 

「ようヒーロー。やってくれたな。とりあえずそのまま聞くことをお勧めするぜ」

「・・・??それは障子の無線のはずだ。なぜお前がもっている?」

「さっき来たやつならノシちまったよ。率直に言えば人質ってやつだ」

「・・・・要求はなんだ」

「察しがいいな。1階に降りてこい、そこで面と向かって話し合おう」

「・・・おう」

 

1回に設置した録音再生機を拾って障子の横に設置し、テラナからの操作で葉隠の無線とつなぐ。

障子にはデザートイーグルを突き付けておく。鈍く黒光りするでっかい拳銃にわかりやすく青ざめた障子が何か言いたそうにしてるが「撃たねえとは言えないがあてないから安心しろ」と言っておく。

そして階段を走っておりてきたのは・・・轟だ。

この時点で残り4分だ。葉隠が必死になって逃げきってくれたんだ、耐え抜かなきゃな。

 

 

「うっし来たなヒーロー。状況は見ての通りだ。お仲間の命が惜しけりゃそのまま出て行ってくれ。」

「・・・拒否したら」

「お仲間の脳みそが地面にぶちまけられると同時にここごと核で吹っ飛ぶぜ。核の起爆スイッチは俺ともう一人で持ってる。どっちかがおしゃ爆発する仕掛けだ。まぁどうなるかはそっちの想像力次第って感じだ」

『賢明な選択を期待してるよ!』

残り3分。ここで状況設定にないものに轟がどう反応してくるか・・・・!!

 

「じゃあ簡単だ・・・全部もう一回凍らせちまえばいい!」

そうきたか!おそらく加減した最初より規模が大きい氷結でビルの上まで空間ごと凍らすつもりなんだ!

「くっそ!」

時間がないぞ!温度が下がり切ったらまず間違いなくこちらが負ける!あと2分45秒!

 

パァンとベレッタの抜き打ちで轟の背後の壁を撃つ。前面にできだした氷を避けて撃ったそれは背後の壁で跳弾し、轟の背中にビシィ!!!と着弾する。兄さんから教わった跳弾射撃(エル)

衝撃で個性の制御が緩んだ轟の全面の氷ごと秋草の蹴りでぶっ飛ばす。空中で再度個性を発動させた轟の氷が迫ってくるので桜花気味に腕を振り体のバランスをとってバク転して回避する。残り2分!

とりあえず俺を優先することにしたらしい轟は何度も氷を出して面で制圧しようとしてくるのを銃で牽制して拳や蹴りで氷を砕いて対応するが、周囲の温度が下がってきた。残り1分!

 

「これで・・・おわりだ!」

パキィィンと轟を中心に氷が突き出してもう一度ビルごと凍結する。俺も足が完全に凍って身動きが取れなくなる。残り50秒!

確保テープを持った轟が走ってくる。おそらく葉隠も俺と同じ状況だろうしここで俺が確保されたらいま上にいる葉隠の確保も間に合うかもしれない、どうする!?

バリバリバリバリィ!!とデザートイーグルとベレッタで銃撃を加える。できるだけ遠回りするように射線を取って時間稼ぎに入るが・・・両方ともスライドオープンした。

 

轟が個性で滑るように近づいて俺に確保テープを巻いた瞬間。

 

 

「終~~~了~~~~!!!ヴィランチーム、WIIIIIIN!!!!」

オールマイトの宣言が響いた・・・・よかった。何とか勝てたんだな。

 

「と~やまく~~ん!」

葉隠だ。降りてきたんだな

「よう、やったな葉隠。お前のおかげでうまくいった。まぁ俺は最後やられちまったけどな」

「ん~ん!そんなことないよー!かっこよかったよ!遠山くん!」

「そっか」

片手をあげると察してくれたらしい葉隠が手袋に包まれた手を挙げてパァンとハイタッチして俺たちの戦闘訓練はおわった。足が凍ったままでかっこつかないけどな。

 

 

 




 キンちゃんのコスチュームは原作とほぼ一緒ですがオリジナルとしてメタルストームのマガジン機能は弾を弾帯でつないでカッターマガジンで切るものから、マガジンそのものを大量に持ち歩く形になりました。原作のほうが装弾数は多いです。
 あと録音再生機は証拠トリとかで使うかなーと思って付けました。死穢八斎會編を見る限り、ヒーローには潜入等があることが判明したので。
 テラナがある理由についてはベレッタ・ベレッタがいないので完全に指や腕の動きだけで制御することが難しくなったためです。
つまり技術力不足なわけですね。
 次回もよろしくお願いします


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第5弾

別キャラ視点に挑戦。
難しいなぁ。早くUSJ編とかを超えて違和感なくジーサードとか出してみたい。


 ヒーロー演習で轟、障子と対戦した俺と葉隠は、葉隠の頑張りもあって辛勝を収めることができたんだが・・・・足が凍って動けねえ、コスチュームの音響デバイスとナイフを回収しに行きたいんだが・・・

「あーすまん葉隠、設置したデバイス回収してきてくれねえか?溶けるまで動けそうになさそうでな」

「遠山くんならパリンって割れそうな気がするんだけどなー。わかった、行ってくるよ!」

割れねえよ。俺を何だと思ってるんだ。

 

とうだうだやってると轟が近づいてきて

「わりぃ遠山、今溶かす」

「気にすんな。演習だしな。ていうか溶かせるんだな」

「氷のほうが使いやすいからな。火のほうは加減がきかねえ」

前半はともかく後半は嘘だな。話題に出した途端目が据わりやがった。なんか事情があるんだろうが・・・多分今どうにかできる問題じゃなさそうだ。

轟の左手から熱が放射され俺の足の氷が解け、自由になる。すげえやつだ。燃やさないように最小限の熱で氷だけ狙って溶かしやがった。今もビル全体の氷を溶かしてやがるし、両方使われてたら絶対負けてたな。氷ならともかく炎は殴れねえし。

 

「お待たせ―遠山くん!はいこれ」

「おう、ありがとうな葉隠」

「ねーこれどこにつけるの?」

「ん、ああ。ここの装甲にスリットがついてるだろ?ここに・・・こう差し込むんだ」

パチン、パチンと腰に音響デバイスを戻していく、電磁石でくっつき、ワイヤレス充電される仕組みになっている。ポート式にした場合濡れたらダメになっちまう。

「へーかっこいいね!私もコスチュームもっとよく考えればよかった~!」

「少なくともその恰好は女子としていかがなものかと思う」

おっと今のは俺じゃなく障子だ。こいつ俺が言わなかったことをこんなあっさり言いやがって・・・・!!!

「何を―失礼な!個性のことよく考えたんですー!」

「じゃあせめて透明な防弾布とかでポンチョみたいなの作ってもらえよ・・・・わざわざ裸にする意味がないだろ・・・・」

「へ?そんなのあるの?」

「知らなかったのかよ・・・・!?」

個性飽和社会だぞ?そんなものも作れずにそれより難しいであろうヒーロースーツを作る会社がわんさかあるんだから当然存在している。ちなみに景観を考慮したカーテンやブルーシートの代わりとしての需要が今高いらしい。

「とりあえずナイフ取ってくるわ。天井に突き刺さったままだし」

「そういえば遠山。轟の最初の氷結、どうやってさけたんだ?」

「嫌な予感したから、葉隠抱えてナイフにワイヤーつなげてナイフ上に刺して宙ぶらりんになってたんだよ」

「そうだったのか・・・・」

「思えばあれ避けれなかったらまず負けてたな。強引に俺だけ動く手はあったんだがそんな無茶するのは訓練じゃねぇしよ」

といいつつナイフのある部屋まで行き、三角跳びの要領で上にあるナイフを取ってからちょっとだけかっこつけてナイフプレイをクルクルしてからガントレットにしまう。なんか視線が3つあるな。葉隠、障子はわかるが轟、お前もか。

障子に至っては複製腕を全部目に変えてのガン見だ。ペン回しみたいなもんじゃないですか・・・・

 

 

「おーい少年少女!講評するから帰ってきなさい!」

お、オールマイトだ。さっさと戻るか・・・視線が外れねえ・・・・

「見るか・・・・?」

仕方なくバタフライナイフを取り出す。さっき使ってたのはコスチュームのナイフだしこっちのほうが見栄えがいいだろう。

全員コクリと頷いたので歩きながらバタフライナイフを開けたり閉じたり回しながらトリックを決めてモニタールームに戻る。戻る直前に轟が俺を追い抜いて

「次はまけねぇ」

と言って先にルームに入っちまった。お前それ今言ってもかっこつかねえだろうがよ!。

 

 モニタールームに戻ると視線が一気にこっちに向いた。まあ初戦の爆豪vs緑谷くらいの戦いはやったと思うし最後に至っては2丁拳銃で撃ちまくったんだ。轟の個性と合わさって映画みたいな感じだったんだろう。

「さて!今回の講評だけど・・・・ベストはもうだれかわかってるよね・・・?」

「「「「「遠山です!」」」」」

個人的には葉隠なんだが・・・・。俺はある程度のミスが許されていた。実際障子を1撃で戦闘不能まで持っていけなかったことと、轟との交渉や個性戦がそうだ。最後の残弾管理をミスって2丁とも弾切れしたんだぞ、実戦なら死んでる。

対して葉隠は「ミスできなかった」1回捕まれば氷結による行動不能と凍傷が待っている。その中でつかず離れずを維持し、自分のことを意識させるなんてやり方、どれだけのプレッシャーと恐怖が葉隠を襲ったのは想像に難くない。それを覆い隠して演技を続ける胆力はすさまじいものがある。やらせといてなんだが俺は絶対やりたいとは思わん。

「まぁ・・・そうだろうね。じゃああえて戦ったものにも聞こう!誰がベストだと思う?」

「「葉隠(です)」

お、轟と被ったな。やっぱり追いかける側からしても思うことはあったんだろう。障子は俺だと思ったのか疑問に思ってるらしく目線で続きを促してくる。葉隠はなんで自分が選ばれたのかわからずわたわたしてるな、ぶんぶん振られる手の動きでわかる。

「ふむ、じゃあ轟少年!なぜ葉隠少女がベストなんだい?」

「最初の氷結でもう終わったって思いこんだ・・・そんで油断してたとこに葉隠が出てきて混乱した。混乱してるとこに煙幕張られて「逃げられる」って意識が刷り込まれた・・・けど俺なら凍らせて一気に捕獲できるって思いこんで障子に1階を任せて俺は2階へ向かった。だけど葉隠の個性のせいでどこに狙いをつけていいかわからなかった。最初の氷結のせいでビル内の氷から霧が出てたせいだ。靴と手袋しか見えねえから大雑把に全部凍らせて核を壊しちまわないように加減する必要が出て、かえって個性を全力で使えなかった。それで追い詰めるのに時間がかかって、最終的に閃光で逃げられて時間を完全に稼がれちまった。だから俺の個性をうまく使えないようにした葉隠がベストだと思う」

「うむ、その通りだ!ヴィラン側としては逃げられれば核を起爆できる。つまり基本的に攻撃は必要ないと言ってもいい!その中で陽動という役割は大切な意味を持つ。遠山少年はそれを自分ではなく葉隠少女ならできると託したわけだ!素晴らしい作戦だったと思うぞ!」

「ふぇ・・・えっとその・・・ありがとうございます」

「やったな。オールマイト直々のお褒めの言葉だ。羨ましいぜ」

「ちなみに遠山少年。今回の作戦の問題点はなんだと思う?」

「ヒーロー側の個性を把握してる前提なのと最初の時点で運頼みってことですね」

あ、やべオールマイトが「いうことなくなった」って顔してる。さっきからあんたわかりやすいな!

そう、さっきの作戦は葉隠が姿を現した時点で障子と協力してかかってこられたら完全にこっちが負けた。賭けの作戦だったわけだ。

 

 

 

そうしてほかのチームの対戦も終わり、オールマイトが緑谷に講評を伝えに行くといってすさまじいスピードで帰っていった。風圧やべえ。

とりあえずコスチュームから制服に着替えて教室に戻ると・・・クラスのやつらがなんか話してるな、荷物取って帰るか。かなでの迎えもあるし。

「遠山、ちょっといいか?」

「なんだ切島?今から帰るんだが」

「えーそんなこと言わずに残ってヨー!みんなで反省会すんの!」

切島の後ろから芦戸がにゅっと出てきて抗議してきた。残りたいのはやまやまなんだけどなあ

「あーそういうことか。かなで待たすとあれだから少しだけだぞ」

「あーかなでちゃんね!というか連れておいでよ!みんなでご飯食べて帰ろー!」

「お前ら全員とかなでがいいならな」

「いいに決まってるぜ!それよりもお前に聞きたいことがあんだよ!」

「おーなんだ?」

こたえつつかなでの携帯と今見てくれてるはずの13号先生の携帯(雄英のヒーローの連絡先を大体マイク先生が送ってくれた)に連絡を入れ、かなでがフリーになり次第1-Aに来るようにお願いをしておく。切島の知りたいことってなんだ?

 

 

「障子の無線機とったのってどうやったんだ?」

「ケロ。それ私も気になるわ。障子ちゃん、取られたことに気づいてなかったんですもの」

「ああ、すられたことに全く気付けなかった。不覚だ」

「相手のもの取れるってさ。強制的に武器をとれるってことだよね!それってすごいことじゃない!?」

わらわらとクラスの連中が集まってくる中・・・がらり、と爆豪と轟が出て行った。帰るのか。

切島が引き留めるが二人とも帰ってしまった。まああの二人なら反省なんて一人でいいのかもな。

「あとアレだ!障子の胸叩いたら障子が崩れ落ちたよな!?あれどうやったんだ?」

羅刹のことか。門外不出の技だけどどうせヒーローになっても使うんだし、ばらすか。許してくれよご先祖様。

「遠山の掌底が当たった瞬間、息ができなくなったんだ。それで酸素不足で一瞬意識を持っていかれた」

「そうでしたの・・・・肺の圧迫で空気をすべて出したのでしょうか・・・・?」

「だったら肋骨とか折れてんじゃねえの?障子は怪我なんてしてないよな?」

そりゃ羅刹は衝撃を骨に貫通させて徹す技だしな。そろそろ答え合わせと行くか。口を開こうとすると・・・がらり。緑谷だ。腕つってやがるし、1回で治せなかったんだな。

 

 

 

 緑谷を見た全員が緑谷を包囲して初戦の感想や反省会への参加を誘っているが・・・・爆豪のことを聞いたのだろう、踵を返して玄関まで戻って行っちまった。

そんで入れ替わりにかなでが教室に入ってきた。

「お兄ちゃん様!」

「かなで、今日はどうだったんだ?」

「かなでちゃんお昼ぶりだー!」

「三奈お姉さん!皆さんもお昼ぶりです!あと改めて初めまして!遠山かなでです!」

「おーよろしくなー!俺は上鳴電気!電気お兄ちゃんでいいぜ?」

「障子目蔵という」

「常闇踏影だ」

「俺瀬呂範太な!」

「はい!よろしくお願いします!」

めいめい自己紹介してると・・・・がらりとまた緑谷が入ってきた。なんか顔つき変わってるな。迷いが吹っ切れた感じがする。

 

 

「おう緑谷、反省会には参加するのか?」

「うん。参加させてもらうよ。僕だって頑張らないといけないんだ!」

「くぅーなんかアツイな緑谷!・・・で遠山!さっきの話なんだけどよ」

「さっきの話?」

「あーお前いなかったもんな!コイツ訓練でいろいろすげえ伎をくりだしてよぉ。そのことについて聞いてるんだ!」

緑谷もそろったし見せとくか。

 

 

「切島、お前が言ってるのはコイツのことか?」

といって名前を呼んだ瞬間井筒捕りでとっておいた切島のスマホを見せてやる。

「あー俺のスマホ!それだよそれ!どうやってるんだ!?」

「やり方はうちの秘伝だからいえねぇけどそれでもいいか?」

 

「どうやってとったんだ今僕たちは遠山くんから目を離してなかったぞなのにいつのまにか切島君のスマホが遠山くんのてにあったってことは物質移動系の個性?いやでも遠山くんの個性は増強系のはずだし・・・」ブツブツブツ

やっべえなんかのスイッチいれちまったのか?緑谷がすげえ早口でなんかつぶやいてる。

 

「はぇー近くで見てもわかんないんやね・・・」

そりゃそういう技だしな。

「こりゃうちの家の井筒捕りって技でな。うちは戦国時代から一族が続いてて、合戦時の技が今でも受け継がれてるんだ。まあ体の表面・・・服とかの収納の中も含んだものを取る技って思っていい」

「つまり遠山くんって侍の一族なの?」

「おーまぁそんなとこだ。実家には戦国時代にご先祖様が使ってた刀だってあるぞ」

「カタナ!かっこいい!」

反応がいいな。

「それでもう一つの技のほうはなんですの?」

みんな戦国時代の技ってところから目が輝きだしている。うーんそんないいもんじゃないと思うけどな。

「あれはうちの奥義の一つで羅刹っていうんだ。実は障子に打った技は劣化版でな。本来の威力じゃない」

「「「「あれで!?」」」」

 

「おう、本来なら胸に掌底をあてて心臓近辺まで衝撃を通し、心室細動を起こして心臓と肺を両方とも止めて殺す。一撃必殺技なんだぜ?」

うわ、本当のこと話したら障子が真っ青になっちまった。

「あーそんな慌てんなって。障子に打ったのは劣化も劣化、片肺だけ止めるやつだ。呼吸困難にはなるが絶対に死にゃしない。あの後だってすぐに助けただろ?」

「「「「安心できる要素がない(ですわ)」」」」

あー世間一般はそうなのか。遠山の訓練じゃ死んだり生き返ったりなんて日常茶飯事だから忘れてたわ。

「俺遠山とは殴り合いしたくねえわー」

「戦国時代こええええ」

「天下無双・・・・」

「というか遠山がやばい」

「「「「それだ!」」」」

しまいにゃ泣くぞ?

 

 おのおの反省会をあらかた済ませ帰る準備をし、2次会(ファミレスだった)して帰った。なんだかかなでがルンルンだな?学校でいいことがあったのだろうか?

 

 

 

 

 

視点変更 硬化の男

 

 

 昨日の雄英に入学した日、面白いやつとあった。一人は爆豪勝己。なんだかすぐ怒るようなやつだけど妙にウマがあった。仲良くなれそうだ。そんでもう一人は遠山キンジ。せっかく隣の席なんだからと話しかけてみたけど瀬呂ってやつが根暗なんて言って怒ったりしてた。悪い奴じゃないし隣の席だから仲良くしたい。

 遠山のやつの印象が変わったのはあの後すぐ来た担任の先生(すげえ小汚かった)が始めた個性把握テストでの行動だ。俺は個性で体を硬化させて人の限界以上の出力を頑丈さにものを言わせて出すことができる。それでもボール投げは150mが限界だった。なのにあいつはどうやってか260m以上記録をだした。ボール投げるときにものを投げたとは思えない音が鳴っていたのが印象的だったんで合間を縫って観察することにした。

 握力、長座体前屈、反復横跳びは普通だった。50m走と持久走はすげえ好タイムみてえだ。そんで立ち幅跳びに至っては10m以上飛びやがった。おっもしれえ!絶対仲良くなってその秘密を聞き出してやる!

 

 今日、登校した俺は朝から一つのうわさを耳にした。なんでも1年の生徒が小さな子供を連れて登校してきて、その子供はマイク先生が預かったというのだ。雄英には小学校があるからそれじゃねえのと考えてたら件の噂の元凶は遠山だったらしい。隣で話してることによるとアメリカから急にこっちにきてそのまま雄英の附属に転入決めたらしい。すげぇな。

相澤先生のホームルームが終わって、次の授業は英語だった。1発目出しどんな授業だとわくわくしてるとマイク先生が小さな子供を連れて入ってきた!!

 思わず小さな子だというのも忘れてガン見しちまう。俺たちの視線が集まったのがわかったのかその子は顔を真っ赤にして涙を浮かべ始めた・・・あーーーこんな子供泣かすなんて漢らしくねえ!

 キンジをお兄ちゃん様(なんかおかしくねえか?)なんて言うその子はやっぱりキンジの妹でマイク先生によるとすでにアメリカの大学を卒業しているから、義務教育だけ果たすために小学校に通うらしい。

で、重要なのは俺らの授業を手伝ってくれるっていうことだ。どういうこっちゃと思っていたらマイク先生に促されたその子はゆっくり丁寧に、なおかつ聞き取りやすいようはっきりした声で流暢に英語で自己紹介しだしたのだ。

なるほど、アメリカから来たってのはマジってことだな!

 

 そのあとの授業は普通だった。ふっつーのガッコの授業だった。

 

 で、午後メシ食って(俺は購買で買ったが遠山のやつは妹目当て女子連中と食堂行ったらしい。峰田ってやつの目が血走ってたのが印象的だった)すぐのヒーロー基礎学。

コスチューム着て戦闘訓練なんて否が応でも燃えちまう。俺のはそんなに着るのに時間かかるタイプのコスチュームじゃねえから早くついて待ってると、ちょっとして遠山が来た。

 遠山のコスチュームは何というか・・・・真っ黒のスパイみてーだった。見た感じ足と手、腰ににつけてるプロテクター以外は布だ。スーツっぽいジャケットの胸にはアイガードのようなものをさして、耳にはなんかついてるな。でもそれが遠山のどこかダウナーな雰囲気にマッチしてる。

 思わず話しかけて、コスチュームについて聞く。遠山も俺のコスチュームを褒めてくれてなんだかうれしくなっちまった。遠山は説明が面倒なのかコスチュームの機能を一通り見せてくれた。とくにすげえっッて思ったのは袖から銃やナイフがバッと出てくるやつだ。

 

 

 

 全員集合してオールマイトが説明した授業内容は、核の争奪戦といった感じだった。早速始まったのは爆豪飯田vs緑谷麗日の訓練だけど・・・・爆豪のやつの様子がおかしいぞ!明らかにヒーローがする行動じゃない!

爆豪が籠手から特大の爆発を引き起こしてビルごと緑谷に攻撃しやがった!こんなの訓練の範疇を超えてるだろ!思わずオールマイト先生に訓練の中止を提案するがイエローカードどまりで終わる。大丈夫か・・・?

 

 

 

終わった。正直言うなら・・・・燃えた。緑谷が虎視眈々と狙っていた逆転の一手に思わず手汗をかいた手を握り締めてモニターを見ていた。ダメ出しされまくりだったけどそんなの関係ねぇ

あいつの覚悟、根性はすごかった。絶対終わったら友達になってやる。

 

 

 

 何組かの訓練が終わり、遠山の番になった。相手は障子と轟、轟は推薦入学者らしい。遠山がどんなことするのか気になって仕方がない。

けどインパクトだけなら轟がすごかった。

 

「核兵器にダメージを与えず、仲間を巻き込まず敵にダメージを与える・・・」

そう、轟はビルごと凍らせて一網打尽にしたのだ。思わず「最強じゃねえか・・・・」と口に出てしまう。

 

「いや、避けてるぞ!」

え?と遠山側のモニターを見ていると宙づりになった遠山が葉隠を抱いて轟の氷結を避けていた。

 

「すげえ、どうやってんだ・・・?」

「あー轟もそうだけど遠山も才能マンかよ、あーやだやだ」

 

そのあとは怒涛の展開だった。ワザと姿を見せた葉隠をおった轟が上に行くと、遠山はビルの側面を移動して別の場所に入るとあっという間に障子を戦闘不能まで持って行ってしまった。

葉隠の個性を活かした逃げ方と最後の閃光弾で轟から逃げきると・・・・障子から奪った通信機を使ったらしい遠山と轟が何事か話すと轟は踵を返して1回に戻っていった。どうやら障子を人質にとったらしい。卑怯な手段に顔がゆがむが遠山は今ヴィランに徹しているんだということはわかってるので批判したりはしない。

 

「いま遠山少年が卑怯だと思った子が何人かいるだろう?遠山少年はあえてそうしているがヴィランとしては甘いほうだ。この状況で追い詰められたヴィランは自爆をする可能性が高い。特に轟少年のような強いヒーローと当たると特にそうだ!いま遠山少年は「自分の強さと知性に自信があるヴィラン」を演じているんだ!ヴィラン側の思考をよく見てる証だぞ!」

 

 

 オールマイト先生のフォローも身に入らないくらい、俺は目の前の戦闘に集中している。

画面の向こうで何事か話してる轟と遠山だけど、交渉は決裂したらしい。轟が氷で攻めようとした瞬間に、遠山が銀色の銃を引き抜いてそのまま背後の壁へ発砲した。跳弾して轟の背中に当たり、個性の制御が崩れた隙を見逃さず蹴り飛ばして距離を離した。

 

 それからはコミックとか映画の世界のようだった。氷を蹴りや拳で砕いて反撃の銃を効果的な部分だけに撃つ。一種の舞踏のようなそれは制限時間が1分をきった時に唐突に終わった。

 轟が特大の凍結でビルごとまた凍らせたのだ。遠山も今回は避けきれず足が凍ってしまうが、それでもあきらめずもう一つの黒くてでけえ拳銃も抜いて2丁拳銃で轟を撃ってるが・・・弾が切れた瞬間を見逃さなかった轟が確保テープを巻いた瞬間にオールマイト先生がヴィラン側の勝利を宣言した。

 

 思わず手を見ると、個性が発動するくらい強く握りしめていたらしい。硬化した俺でも轟と戦ったら負けちまう。だけど、そんな理由であいつは引かなかった。俺だってそうなりたい!

いつか、どんな相手でも倒されない盾になって誰かを守るヒーロになるんだ!

戦闘を終えてハイタッチしてる遠山と葉隠を見ながら俺は決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いろいろガバガバだけどこれからもよろしくお願いします。
そろそろ連載とかにしたほうがいいのかしら


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第6弾

どうやって自然に脳無と戦わせようかと思って悩んでいたらめっちゃ時間たってた。
思えば最初の脳無って強すぎないですかね。
あんなん物理全振りなキンちゃんが勝てるとは思えないんだよなあ。
それを物理で何とかしちゃったオールマイトやばいって思える。


 俺が雄英に入学して3日経った。訓練に座学と正直言えば詰め込むので手いっぱいだが、充実した日々になってる。

そんでもって今日も今日とてかなでを連れて雄英に向かってるわけだが・・・・なんだありゃ。校門に人だかりがあるぞ?

「お兄ちゃん様、なんだか今日は校門の前が騒がしいみたいですね?」

「あー・・・カメラ持ってるからマスコミか?オールマイトのことがばれたんじゃねーか?」

今をときめく平和の象徴、ナンバーワンヒーローオールマイトが教職に就いたなんて話はマスコミ関係者からしたらビックニュースもいいとこだしな。我先にとスクープを得たいのだろう。

近づくにつれて向こうもこっちが雄英の生徒だということが分かったのだろう、マスコミがインタビューしようと近づいてくるが・・・・かなでの姿を見た瞬間マイクのスイッチを切り、カメラに映らないようにし始めた。

 最低限わかってるマスコミのようでよかったな。

 

 一般の人には周知されてないが、雄英の附属小学校に入学した生徒はプロヒーローの保護が必要な生徒だというのが関係者の見解だ。前はマスコミも附属小学校の生徒をバシバシ撮影していたが、報道のせいで居場所がばれた生徒がヴィランにさらわれて実験体になり殺されるという凄惨な事件が起きてから、雄英の附属小の生徒を撮影できないというのがマスコミ間の暗黙の了解になっている。原因になった番組は被害生徒の両親から訴訟されて有責認定くらってたしな、二の舞はいやなんだろう。

 

 するっと報道陣の隙間を縫って玄関に入り、かなでを連れて3年生の教室にかなでを預けにいく、今日は3年生のヒーロー科の授業にお邪魔するらしい。

「すいませーん。3-Aの教室ってココですか?1-Aの遠山キンジです。遠山かなでを届けに来たのですが」

さっと挨拶してかなでを預けるが・・・・雰囲気だけでわかっちまう。全員、強い。流石雄英を生き抜いてきただけはある猛者たちだぜ・・・・

 

 かなでを預けて自分の教室へ、先に来てたやつとも挨拶を交わしてから自分の席に座るとすぐ相澤先生が入ってきた、遅刻ギリギリだったのか・・・・

「さて、ホームルームを始める。まず戦闘訓練の録画見せてもらった。爆豪、もうあんな子供じみた真似はするなよ、能力あるんだから」

「・・・・・わかってる」

早速痛いところついてくるなあ相澤先生。

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して解決か。個性の制御・・・できないからじゃ済まさねえぞ。俺は何度も同じことを言うのは嫌いだ。それさえクリアできればやれることは多い。焦れよ緑谷」

「・・っはい!」

まー昨日の見たら誰だってそう思うだろ。でも、俺たちはこれからだ。やれることを増やす段階に俺たちは今いる。

「さて、ホームルームの本題だ・・・君たちには・・・・学級委員長を決めてもらう」

 

「「「「学校っぽいやつきたぁ!!!」」」」

ここは学校だっつの。学級委員長かぁ・・・少なくとも俺は嫌だな。

「委員長!やりたいです俺!」

「リーダー!やるやる!」

「ウチもやりたいス」

「僕のためにあるやつ☆」

通常の学校なら雑務なんて嫌がられるが、ここはヒーロー科。「他を牽引するリーダー」という素地を磨くための絶好の立場なのだ。この人気ぶりも頷ける。

「静粛にしたまえ!」

お、なんだ?

「多を牽引する責任重大な仕事・・・・!やりたいものがやれるわけではない!民主主義に則り、ここは投票で決めるべき事案!」

そうだな、飯田。お前の手がまっすぐ上がってなければ素直に同意できたんだが。

「そびえたってんじゃねえか!なぜ発案した!?」

「出会って日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「そんなん皆自分にいれらぁ!」

うわー混迷してきた。別に俺はなんでもいいんだが、相澤先生は時間内に決めりゃなんでもいいとさっさと寝袋に入って寝てしまった。えーーーー。

 

 結局投票ということになり、緑谷3票、八百万2票ということで緑谷が委員長ということになった。ちなみに俺は飯田に入れたがなぜか飯田は他に投票したらしく、1票だった。も一つおまけで言えばなぜか俺にも1票入ってた。誰だ入れたやつ。

 この後昼めし食ってるとき、警報が鳴ってパニックが起きたが、飯田がわざと派手に注目を浴びて説得することで鎮静化した。やるじゃねえか飯田。俺はかなでが潰されないように必死だったが、あのパニックの中で入ってきたものの正体をばらしつつ、インパクトを与えて一回冷静にさせるうまいやり方だった。

この後の時間で緑谷が飯田に委員長の座を譲ってこの騒動は一件落着となるのだった。

 

 

 

 それから数日後の午後、ヒーロー基礎学の時間だ。

「あー今日のヒーロー基礎学は、俺と13号、そんでオールマイトの3人体制で見ることになる」

13号先生ってことは救助訓練かな?ヒーローの大事な仕事の一つだ。

「ハーイ!何するんですか!?」

「災害水難なんでもござれのレスキュー訓練だ」

おーやっぱりそうか、俺の個性はどうしてもパワーにかけることがあるから、人命救助という点では役立てないことが多いだろう。しっかり訓練しないとやばい。

クラスのやつらもヒーローの代名詞のひとつだから興奮気味だ。

「おい、まだ途中」

相澤先生が注意するくらいには・・・・

「今回コスチュームの着用は任意だ。活動の邪魔になるものもあるだろうからな。演習場は離れた場所にあるからバスで移動する。以上、準備開始」

今回はコスチュームつけてくか。着た状態で実戦はやるわけだしな。パパっと着替えちまおう。

 

 

 着替えてバスのところへ向かうと、先についていたらしい麗日と緑谷がいた。緑谷は体操服か。この前爆豪にこっぴどく壊されたからなあ・・・まあ仕方ない。

「おう緑谷、体操服か?」

「戦闘訓練でボロボロになっちゃったから・・・修復会社が修理してくれるからそれ待ちなんだ。」

「もうちょい防御力高くしてもらったらどうなんだ?デザインそのままに布変えるとか」

「お母さんが作ってくれたものだから・・・僕のコスチュームはあれなんだよ」

「そりゃ野暮だったな。お、バス来たな。行こうぜ」

いいお母さんじゃねぇか。羨ましいぜ。まぁ緑谷が個性使いこなしゃ攻撃をよけるのだってうまくなるだろうからそのままでもいいかもだ。

「バスの席順でもめないよう席順で2列に並んで乗り込もう!」

「飯田君フルスロットル・・・・」

「輝いてるな、あいつ」

「そうだねー」

ちゃちゃっと乗り込むと・・・・ありゃ、市営バスの席の並びじゃねーか。飯田仕切り損だな。

「こういうタイプだった!くそう!」

「イミなかったなー」

まぁ誰だってよくあることだ、多分。

 緑谷の隣に腰掛け、全員揃ったところでバスが出発する。移動の時間は暇なのでクラスおのおの雑談などで時間を潰してるようだ。

「ねえ緑谷ちゃん。私思ったことは何でも言ってしまうの」

「え?アッ!ハイ!!蛙水さん!?」

「梅雨ちゃんと呼んで?あなたの個性ってオールマイトに似てるわね」

「そそそそうかな?!いやでも僕はその・・・・」

うっわ怪しいぞ緑谷。疑ってくださいって言ってるようなもんだ。なんかあると疑ってしまうのは俺の性格上の悪いとこだな。

「でもオールマイトはケガしねえぞ。似て非なるあれってやつだぜ。しかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来ることが多くてよ。俺の硬化は対人戦じゃ強いけどいかんせん地味なんだよなー」

「そんなことないと思うよ!プロでも十分通用する個性だと思うよ」

「切島、硬くて倒れないってことは重要なんだぜ?」

ちょっと口出して思ったことを言っちまおう。

「ん?どういう意味だ遠山?」

「最後まで立ってて、どんな攻撃も受け止められる個性だってことだよ。目の前でずっと攻撃を受け止めて守られてみろ、その安心感は相当なもんだろ?お前の個性はそういう使い方ができるんだよ。派手じゃなくてもな」

「そうかー、ありがとな!派手でつええといったら爆豪と轟と遠山だよな!」

少なくとも俺の個性は派手じゃねえぞ。目に見えてパワーが上がるわけじゃないしな。

「ヒーローって人気商売だから、派手なのはやっぱ大事だと思うぜ」

まぁそれは一理あるだろうな。俺は別に人気はいらねえけど。

「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気でなさそ」

梅雨・・・・ストレートすぎねえか?

「んだとコラ!!だすわふざけんな!」

「ホラ」

案の定爆豪が爆発したじゃねーかどうすんだよ。

「この付き合いの短さですでにクソを下水で煮こんだような性格だって認識されてるってすげえな!」

上鳴のやつさらに煽りやがった!おい爆豪が物理的に爆発しだしたらどうすんだ。

「んだとコラなんだそのボキャブラリーは!殺すぞ!!」

あーどうすんだこれ。収集つかねえぞ。緑谷の顔が戦々恐々としだしたし、そのうちコイツ体調不良で倒れねえだろうな?

「もうつくぞ。いい加減にしとけよ・・・」

「「「「はい!!!」」」」

流石相澤先生、一瞬で鎮圧してくれた。もっと早くやってください・・・・・

 

 

 

「すっげー!USJかよ!」

確かに広いがそこはディズニーランドとかそんな感じじゃないのか?

バスが到着したのはとんでもなく広い演習場だ。船が浮いてたり土砂崩れが起きてたり、燃えてたりとありとあらゆる災害が同時に起こっている。予想以上にやばい演習場がでてきた。

「あらゆる事故を想定して僕が作った演習場になります。名前はUSJ(ウソの災害や事故)ルーム!」

ほんとにUSJなのかよ!?13号先生って案外茶目っ気あるんだなあ・・・あんな宇宙服みたいなかっこしてるけど女性だし。

俺が余計な事を考えていると相澤先生と少しだけ話した13号先生が

「ハイ注目!始める前に、お小言を2つ3つ・・4つ・・・」

増えてる増えてる。

「皆さんご存じだと思いますが、ボクの個性はブラックホール。どんなもので吸い込んで塵にしてしまいます。」

改めて聞くとすげえ危ない個性だな。人が簡単に死んじまう。13号というヒーローが単純戦闘に出ない理由がわかる。

「その個性でどんな災害からも人を救いあげるんですよね」

緑谷は肯定的だな。麗日にいたってはヘドバンみてーに頷いてるし。

「ええ、ですが簡単に人を殺せる力です。この社会は個性の仕様を資格制とすることで成り立っているように見えますが、1歩間違えば簡単に人を殺せる行きすぎた個性を持っている人がいるのも忘れないでください。相澤さんの体力テストで上限を、オールマイトの対人訓練でそれを人に向ける危うさがわかったはずです。」

これは銃にも言えることだ。俺のは実弾じゃねーが、個性よりよっぽど簡単に人を殺せることを忘れてはならない。

「この授業では心機一転して、人命救助のためどう個性を活用していくかを学んでいきましょう。皆さんの個性は人を傷つけるためでなく、人を救うためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

かっこいい人だな13号先生。ガイダンスが終わるとみんな考える様子なのがよくわかる。

 

 

「さて、そんじゃあまずは・・・」

相澤先生が言いかけて止まる。その視線を追っていくと・・・・黒い、霧・・・・?

「一塊になって動くな!」

相澤先生の怒声とともに個性のスイッチをいれ、神経系を強化する。何か良くないものを感じる。感だけどな。

「13号!生徒を守れ!・・・あれはヴィランだ!」

黒い霧の中から大勢人間が出てきた!その中でもひときわやばそうなのが2人・・・・!大柄な黒ずくめ、脳をむき出しにした異形系だろう男と体中に手のような物体をつけた男だ。どっちかがリーダー格だろう。

 

 

「オールマイトはいませんか・・・先日いただいた教師側のカリキュラムではここにいるはずなのですが・・・・」

強化された聴力でヴィランの声を拾う。狙いはオールマイトか・・・?

「やはり先日のはクソどもの仕業だったか」

「どこだよ・・・せっかくこんなに大勢引き連れてきたのにさ・・・・オールマイト、平和の象徴がいないなんて・・・」

ぞくっと来た。兄さんやじいちゃん、死んだ父さんが本気で怒ったときと同じ、いやそれ以上に黒い・・・・殺意。

「子供を殺せば来るのかな?」

やばい、冗談じゃないぞ。あれは、あのタイプは笑いながら人が殺せる!自分の快楽のために他人を簡単に犠牲にできるタイプのやつだ!

 

 

「ヴィランだぁ!?バカだろ!ヒーローの学校に乗り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

違う、そうじゃねえ。あいつらは周到に計画したうえでここに乗り込んできてる。バカだけどアホじゃねえ。なんか勝算があるんだ。

「13号、避難開始しろ。上鳴は個性で連絡試せ。俺は下のをなんとかする」

「先生は一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていったって・・・先生の戦闘スタイルは個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は・・・・」

詳しいな緑谷、こんな時だが感心しちまう。

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、任せたぞ」

かるく頷いた13号先生を確認した相澤先生はヴィランの群れに飛び込んで次々となぎ倒していく。さすがプロ、強い。

どいつの個性を消したかわからないようして、同士討ちを誘発、なおかつ自身の体術と捕縛布で拘束しつつ打撃を行う。すさまじい手際だ。

「すごい・・・先生の得意分野は多対1だったんだ」

「急げ!分析してる場合じゃない!早く避難を!」

戦闘が得意じゃないやつが巻き込まれたらまずいので先に行かせつつ後ろを振り返ると、黒い霧のヴィランがいない?まずいこっちにくるぞ!?

 

 

「避難はさせませんよ」

目の前にいやがった!ワープかそれに類する個性か!

「初めまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら今回、雄英にお邪魔させていただいたのは・・・平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思いまして」

冗談みてぇなこと言いやがるなコイツ。少なくともあの程度ならオールマイトは物の数ともしないだろう。今ここにいないのは誤算だったらしいが。

何かまだはなそうとしたヴィランだが、爆豪と切島が前へ出て攻撃を行う。あいつら!

「馬鹿野郎!切島、爆豪!13号先生の射線上に入るんじゃねえ!」

はっとした顔でこっちを見る二人だがもう遅い。黒い霧が俺たちの周りを覆い、ワープが始まるとりあえず近くにいたやつらを霧の範囲の外へ突き飛ばすが、俺自身が逃げるのは間に合わない。

「散らして、嬲り殺す」

声とともに平衡感覚が消え、どこかへ放り出されると

 

 

 

ここは・・・さっきの大勢ヴィランがいた場所か!少し距離が開いてるが相澤先生がいるから間違いない!多分誰でもいいから相澤先生がかばう必要のある相手を入れたかったんだ!

「くそっ遠山!なんで来た!」

「さっきの黒いやつに飛ばされました!自力で撤退します!」

ここにこれ以上俺がいるのは邪魔だ!相澤先生をてこずらす前に前の位置へ、せめてリーダー格のやつらからはなれねぇと!

袖口から2丁とも拳銃を抜いて乱射する。目の前のやつらはまさか高校生のガキが拳銃を持ってるとは思わなかったらしい、対処が一瞬おくれてうまいこと当たってくれた。包囲網が若干崩れ、そのうちをすり抜けて脱出しようとすると

「せっかく来た生贄くんに出て行かれちゃ困るなぁ・・・脳無」

「っまず・・・・・ぐぁっ!!!」

手のついたヴィランに脳無と呼ばれた大男が一瞬で俺の前に現れ、右拳で俺を殴ってきた。とっさに後ろに飛んで衝撃を軽減したものの、俺はピンポン玉のように跳ね飛ばされてしまう。転がされた先で起き上がると、ヴィランのリーダー格であろう手のついた男の近くだった。

 

 

 やばい・・・・どうする?と思考を集中させていると俺は自分がヒステリアモードに突入しているのに気づく。ヒステリアモードにの基本トリガーは性的興奮だが、要はβエンドルフィンが出れば何でもいい。ヒステリアモードにはいくつか派生があり、こいつは死にかけた際の生殖本能を利用して発現するヒステリア・アゴニザンテ。通称死に際の(ダイイング)・ヒステリア。

 この状況でヒステリアモードになれたのは都合がいいが・・・ゾッとする。つまり俺はさっきの脳無とやらの攻撃で体が死にかけたという勘違いをするレベルの攻撃を受けたのだ。どこも折れてないのは奇跡に近い。

 

「君は俺が相手をしよう。嬲り殺しだけどな・・・」

「冗談じゃないぜ。さっさと家に帰してくれないか?」

「すまないけど君は生贄だっていったろ?オールマイトが来るまで遊んでやるよ」

いうが早いが男が突っ込んでくる。開手にした手を使ってこっちをつかむような攻撃を手に触ったらまずいかもしれないので手首をはじいてそらし、蹴りを入れるがつかまれそうになって途中でキャンセルする。個性が不明な以上ヘタに攻められないのが歯がゆい。

「脳無。イレイザーヘッドを嬲れ。俺はもうちょっと楽しむ」

「おい遠山!逃げることだけ考えてろ!絶対に付き合うんじゃねえ!」

んなことわかってるよ!とキレそうになるが目の前のコイツからは逃げられる気配がねえ。どうする・・・?とにらみ合っていると不意に男がニヤァ・・・と不気味な笑みを浮かべると同時に・・・ゴキン!と何かが折れるような音が後ろから響き、思わず振り返ると相澤先生が腕を握りつぶされた状態で脳無に押し倒されていた。

 

 一瞬思考が真っ白になるが、すぐさま思考を修正し、やることを決める。

「対、平和の象徴。改人、脳無」

御高説垂れてるとこ悪いが、1発殴らせろ!

ヒステリアモードの瞬発力で地面を蹴った俺は全身の関節を同時に連動、駆動させ足元から生み出した速度を次々にパスしていき

「桜花ぁ!!!!」

パァァァァァァァァァンと円錐状衝撃波(ヴェイパーコーン)をまとった超音速の拳で手だらけ男の胸を殴ってぶっ飛ばしてやる。

そのまま足の桜花で逆方向にロケットスタートを切った俺は相澤先生を倒した体勢から動かない脳無の相澤先生の腕をつかんでる手首に取り出したナイフを突き刺して健と神経を切断し、ナイフを刺したまま相澤先生に飛びついて離脱し、少し離れたところで止まった。俺のスピードじゃ相澤先生を保持したままあいつらから逃げ回れん。

 

「相澤先生、腕以外に損傷個所は?」

「両腕やられた。遠山、俺おいて逃げろ。お前の技量なら逃げられるだろ」

この人は自分が犠牲となって俺を逃がす気でいる。でもだめだ。今俺が逃げて助かったとしてもこの人を犠牲にしたっていう負い目は一生俺について回るだろう。クラスのやつらからも、そしてヒーローになったとしても俺自身がそれを許容できない。この人を見捨てた瞬間、ヒーローとしての、正義の味方としての俺は死ぬ。それが嫌ならどうする?覚悟を決めろ、遠山キンジ。

 

 

「申し訳ないですけど許容できません。それは俺の目指すヒーローじゃない」

「合理的にものを見ろ遠山!今お前が離脱しなきゃ俺もできん!足手まといなんだよ!」

今ヒステリアモードの聴覚で飯田がUSJの外に出たのが確認できた。なら俺がやることは一つ。助けが来るまでの時間稼ぎだ。

 

 

「いってえなあ・・・やるじゃないかコイツ・・・・」

コイツ桜花ぶち込んだのにぴんぴんしてやがる。何て耐久力だ。こいつが出てきたってことはあの脳無も動くぞ。

「死柄木弔」

「黒霧、13号はやったのか?」

「ええ、ですがちらし損ねた生徒が1名脱出、助けを呼ばれました」

「黒霧、お前がワープゲートじゃなかったら殺してたよ・・・・今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

帰るつったのか?これだけのことをしておいて目的も果たさずに?

「だけどその前に」

ちがうまずい!何かを探してる?近くにあるのは水難ゾーン・・・いた!緑谷、梅雨、峰田だ!

「平和の象徴の矜持をへし折って帰ろうか!」

「相澤先生!」

緑谷の近くに瞬時に移動した弔と言われた男が緑谷の顔面をつかもうとするが、俺が声をかける前に気づいていた相澤先生に個性を消され失敗する。

 

「はーほんとカッコイイなヒーロー」

来るぞ、絶対に後ろに通すな。この身を盾に、後ろを守れ。足を肩幅に開き、両手を広げる。通せんぼの姿勢で行われるこの技は遠山家が誇る防御技、伍絶がひとつ

この遠山桜、散らせるものなら散らしてみやがれ!

 

 

絶閂

 

「相澤先生、攻撃は引き受けます。どうか俺の前に出ないでください」

「脳無」

 

 命令を受けた脳無が突っ込んできて、そのすさまじい威力の拳を振り下ろしてくる。俺は両手をクロスさせて受けるが、今度は吹っ飛ばない。代わりに足がビシィ!と地面に少しめり込んだ。

絶閂とは、全身を釘のごとく固め、衝撃に備える「絶」という技の習得を前提とするこの技は受けた衝撃のベクトルを体内で無理やり捻じ曲げ、地面に流すというものだ。己の体を門とし、その後ろにあるものを守るこの技は、打ち込まれる衝撃が増えるごとに足が地面にめり込んでいき、使用者という門を動かさない閂となっていく。

もちろん強引にベクトルを変えるので体内は傷つき、1回ミスれば死ぬ、死を前提にした技なのだ。

幸い脳無は轟の氷結や爆豪の爆破といった、範囲が広くてどうにもならない攻撃はしてこない。ただの超威力のパンチだ。それならばまだなんとなる。

 

 

「おい、なんで脳無の攻撃を受けて無事なんだ?」

「さぁな・・・案外弱いじゃないか?」

軽口をたたくが実際きつい。次を予測して、当たる個所を前もって予測しないと受けきれない。まだ来るぞ。耐えろ。

左アッパー、両腕組んでの打ち下ろし、右ストレートなど脳無は連打をしてくるが隙が無い、それぞれを受けきるたびに足が地面にめり込み、体内が傷ついていく。

よく見ればさっき切った健や神経が再生してるのか、動きによどみがない。だが・・・・大降りになった脳無の隙をついて亜音速の桜花を秋水を込めて叩き込んでやるが・・・殴った時の感覚が違う。まるでクッションをたたいたような、衝撃が全部吸収されたような感覚。

 

「不思議だろ?ショック吸収の個性だ。そいつはオールマイト用に作られたサンドバック人間さ」

冗談だろ・・・?こっちの攻撃は効かないってことか・・・?いや、こういうタイプには許容上限が存在するのが普通だ。上限値を上回る攻撃をかませばいい・・・・俺の手札にはそれがあるが使ったら行動不能だ。

助けが着て逃げるときに使え。今は耐えろ、遠山キンジ。クラスのやつらの前にこいつを行かせるんじゃない。

離してる間にも攻撃は続く、足が甲まで地面に沈むがまだ問題ねえ。後ろの相澤先生が焦るのが見えるがもうちょっとだけ待っててほしい。

左拳を受け、すぐさま来た右フックも受ける。こらえきれない吐血が口から出てしまった。梅雨と緑谷、峰田が息をのむのが見える。

 

 

ドカァンと入り口のほうの扉が吹き飛んだ。やっと来てくれたか!

「もう大丈夫、私が来た!」

オールマイトだ。よかった。これであとくされなく、逃げに徹することができる。

 

 

「相澤先生、こいつ吹っ飛ばします。吹っ飛ばしたら離脱しましょう・・・ゴホッ」

「何する気だ!これ以上無茶するんじゃない!」

血を吐きながら告げた俺に相澤先生はこれ以上何やらかされるか分かったもんじゃない様子だ。すみませんねこんなびっくり人間な一族なんですよ。

 

 

今から使うのは体重を完璧に乗せた寸勁、ゼロ距離タックル技、秋水の習得が前提となる技だ。俺がいまだ完璧に扱えない技を無理やり使う。

脳無がもう一度打ち下ろしを打ってくるのを絶閂で受けきり・・・いまだ!

 

「大和っ!!!!」

 

ドォォォォォォォォンッッッ!!と脳無が吸収しきれなかった衝撃で吹っ飛んでいった。大和は体重を乗せ切る秋水を発展させ、ほかのものからも重さを借りて殴れるようにした技だ。一人じゃ押せない車でも、壁を背にして押すと案外簡単に押すことができる。これは押す際に壁の重さの一部を借りて押してるからだ。借りられる重さには本来上限がない。体が接触してればなんでもいいのだ。

けど俺は違う。まだ使いこなせない技を無理やり使ったせいで打った腕はバキバキだ。本来地球の重さで殴れる大和からしたら空砲に等しい威力しかでてない。

 

けど引き離すことはできた。あとは逃げるだけだ。これ以上何もできないことは悔しいけど、後は頼みます。オールマイト

 

 

 

 




そういえば日刊ランキングはいってて3度見しました。
こんなやりたい放題な小説を評価してくれてありがとうございます。


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第7弾

USJ編終了。
書いてる間にも日刊ランキングが上がって思わず4度見しました。
これからもよろしくお願いします。


 オールマイトが来てくれた。なぜ最初からいなかったのかなど疑問が尽きないがそれは置いておき、大和で吹っ飛ばした脳無が戻ってくる前にここを離脱しないとまずい。

 大和を打って絶閂で脳無の攻撃を防ぎ続けた俺の体はボロボロだ。ぶっちゃけたっているだけでもしんどい。

「遠山、いろいろ言いたいことはあるが離脱するぞ。動けるか」

「動けます。13号先生のところまでなら問題なくいけます」

距離的に緑谷や梅雨、峰田を助けられないのが歯がゆい。相澤先生も苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

「待ったよヒーロー。社会のごみめ」

どの口が言ってやがる。お前人のこと言えねえだろ。

「アレがオールマイト・・・すげえ迫力だ」

「おびえてる場合かよ!アレやっておれたちが・・・・」

まだ残っていたらしいヴィラン連中が騒ぎ立てるがオールマイトは一瞥すると階段の上から飛び

スカカカカンとすべてのヴイランに一撃いれて戦闘不能にしてしまった。すげえ、ヒステリアモードだから見れたけど音速で動いてたぞ。しかも衝撃波を一切出すことなく。どうなってるんだ・・・?

 

 ヴィランを一蹴してこっちに来たオールマイトは

「相澤君、すまない。腕が・・・・」

「俺のことはいいです。オールマイト、それよりも緑谷たちを」

「遠山少年は大丈夫なのか?」

「見た目より中はひどくないっすよ。すぐどくんであとは、お願いします」

嘘だ。中身のほうが重傷だが、オールマイトに余計なこと言って焦らせたくない。せりあがる血を飲み込んで急かす。

「わかった。遠山少年、あとは任せたまえ」

ギロッと死柄木のほうを睨んだオールマイトがそのまま地を蹴り、死柄木に1発入れて、緑谷、梅雨、峰田を救出して戻ってきた。流石ナンバーワンヒーローだ。俺がやれなかったことをこんなにもあっさりやりやがる。

少し、羨ましさを感じるぜ。

 

「3人とも、相澤君と遠山少年を頼む。見てわかるが重傷だ、速やかに入り口まで行ってくれ」

「相澤先生、遠山君!大丈夫ですか!?」

「よお緑谷。指折れてるみてぇだけど元気そうでよかったぜ」

はぁこいつまた個性そのまんまぶっぱしやがったな?

「遠山ちゃん、そんなボロボロの姿で言われても困るわ。でも、無事でよかった・・・・」

「そうだぜ遠山!お前あのでっかいヴィランの攻撃全部受けて・・・・すごかったぜ!」

うっせ。軽口でも言ってねえとどうにかなりそうなんだよ。

「よし、3人そろったな。このままいくぞ」

 

 

「助けるついでに殴られた・・・・国家公認の暴力だ・・・・。でも思ったほどにいたくないし速くない・・・もしかして本当だったのか・・・・?弱ってるって話」

弱ってる・・・?オールマイトが?どういうことだ?

「脳無」

呼ばれた脳無がすぐに現れた。やっぱ再生の個性があるな?不完全とはいえ30階建てのビル一棟分くらいの重さの大和で殴ったのにダメージが見当たらない。

 

「オールマイト!手短に説明します!その黒いやつは複数の個性もちです!確認できたのはショック吸収と再生!再生のほうはともかくショック吸収のほうは上限があります。それと個性とは別かどうかわからないですがあなた並みのパワーとスピードがあります!」

「ありがとう遠山少年!だが大丈夫!」

俺を安心させるためなのかニッカリと笑ったオールマイトが脳無に向かって突撃し、クロスチョップとボディブローを叩き込んでるが、効いてねえ。ショック吸収と再生がうまくかみ合って相互補完してるんだ。

「まじで全然効いてない・・なっ!」

ドガァンとそのままバックドロップを決めたオールマイトだが・・・違う。防がれたんだ!

 

 ワープゲートに上半身を突き出した脳無がオールマイトの脇腹をつかんで拘束している。だがただ強く握りしめてるだけじゃねえ、出血してやがる。いくらなんでもつかまれただけで出血するとは考えにくい。あの位置に古傷かまだ完治してない怪我でもあるのか・・・?

 

「脳無の役目は、あなたを拘束すること。そして私の役目は、半端に引きずり込まれたあなたをワープゲートを閉じることで引きちぎること・・・」

まずい、そういうことか!脳無がオールマイトを殺すんじゃない!脳無ごとあの黒い霧のやつがオールマイトを殺すんだ!

「・・・っオールマイトォ!!!」

「馬鹿野郎!戻れ緑谷!」

緑谷が反転して戻って行っちまう。相澤先生も俺も強制的に止める手段を有してないため、そのまま走って向かっていっちまった。

「浅はか」

ワープゲートが緑谷の前に現れ、ワープされると思いきやBOOOM!!!と爆発が起こって黒い霧のヴィランが抑え込まれ、パキパキパキと脳無の半身が凍り付いた。爆豪と轟か!今この状態にしては悪くない援軍だ。おそらく退かないであろうことを除いてはだが。

「すかしてんじゃねえぞこのモヤモブがぁ!」

「てめぇらがオールマイト殺しを実行する役だって聞いた。平和の象徴はてめぇらごときには殺せねえよ」

「だぁくっそ外した!いいとこねえ!」

切島もいたのか!脳無と全員位置が近い!誰が攻撃されても不思議じゃないぞ!

 

「ワープゲートの奪還だ。脳無、爆発のガキを殺せ」

そう来るだろうと見越してたオールマイトが爆豪をかばって攻撃を受けた。やっぱり足手まといになってやがる・・・!

 

「爆豪!緑谷!轟!切島!今すぐその位置からこっちにもどれ!」

相澤先生が叫び、全員がそこからの離脱を開始する。そう、オールマイトが心置きなく全力を出せるように、待避しなくてはならない。

「ありがとう少年たち!ここからは!プロの本気を見てなさい!」

 

 そのまま全力で突撃したオールマイトが脳無との壮絶なラッシュを繰り広げる。一撃一撃が衝撃波を生じさせ、大地が盛大に揺れやがる。

「私対策だって!?遠山少年から聞いた上限があるというなら!その対策ごと上からねじ伏せよう!」

オールマイトのラッシュの速度が上がる、と同時に口元から吐血が見える。なんだ?という疑問をよそに

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの!ヴィランよ!こんな言葉を知ってるか!?」

脳無のラッシュが追いつかなくなり、ただ打たれるだけになっていく。すげえ、俺がやっと吹っ飛ばした脳無がああもあっさり・・・

 

「さらに向こうへ! Plus Ultra!!!!」

オールマイトの気合の声とともに、脳無はUSJの天井から外へ吹き飛んでいった。

「コミックかよ」

「ショック吸収をないことにしちまった・・・究極の脳筋だぜ」

それ大和であれ吹っ飛ばした俺にもささるんだが切島さん。

「デタラメだ・・・再生の間に合わない超ラッシュってことか・・・」

 

「やはり衰えた・・・全盛期なら5発も打てば十分だったろうに、300発以上も打ってしまった」

衰えた・・・?死柄木がつぶやいてた弱ってるって話と重なる部分があるな。

「チートが・・・!」

「さてとヴィラン。お互いはやめに決着をつけたいね」

 

「嘘だろ気圧されたよ・・・・あいつ、間違った情報を俺に伝えたのか・・・?」

あいつ?

「ゲームだのクリアだのと言っていたが・・・やれるものならやってみろよ!」

ぎろりと相手を見るオールマイトだが・・・あれは虚勢だ。ヒステリアモードの俺にはわかっちまう。何かに耐えるように全身に力を入れてるオールマイトの様子からして、何か不都合なことがあるんだ。

戻ってくる4人だけど・・・緑谷だけが振り向いて何かに気づいてるような心配そうな顔をしてる。

「さぁ、どうした!?」

脅すように大声を上げるオールマイト。やっぱり何かがおかしい。

 

「落ち着きなさい死柄木弔、脳無が与えたダメージは如実に表れている・・・脳無の仇です」

クソッまだやるつもりだってのか!?

ぶわっとモヤを広げて襲い掛かったヴィランに

「オールマイトから離れろぉ!」

一瞬でそこにとんだ緑谷が特攻をかける。あいつ・・・また・・・!!

「2度目も浅はかです。」

ワープゲートでどこかに飛ばそうとしたらしいヴィランだが・・・

「SMASH!!!!」

緑谷の気合の掛け声とともにモヤが吹き飛ばされる。しかも打った緑谷の腕は折れてない。あいつ土壇場で制御しやがった!

 

 だがそれだけだ。今助けてもあとのことをあいつは考えてない。どちゃっと地面に落ちた緑谷に死柄木の手が迫る!

 

ドォン!とその手と体に次々と銃弾が着弾し、緑谷が間一髪助かった。飯田!間に合わせてくれたんだな!

「遅くなって申し訳ありません!1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!」

その背には雄英にいるヒーローたちが全員集合してる。さすがに壮観だぜ。スナイプ先生が銃弾を見舞っているのが見える。

「あーあ・・・ゲームオーバーだ・・・」

「逃げます。死柄木弔、こちらへ」

まずいまたワープするつもりだぞ!この距離で捕獲可能なヒーローは・・・!?

 

「にがすもんか・・!」

13号先生だ!コスチュームの後ろが破壊された状態で個性を使用しながら黒い靄を吸い込んでいるが・・・間に合わない、逃げられる!

 

「今回は失敗だったけど・・・次は殺すぞ、オールマイト」

手短に言い終えてヴイランは去って行ってしまった。やっと終わったか・・・・

正直柄にもなく安心している。こんなのを相手にしてるのかプロは・・・改めて考えるとやべえな。

 

 

土煙に紛れているオールマイトだがヒステリアモードの超視力が、その姿をとらえた。だんだんとやせ衰え、小さく、細くなっていくオールマイトを・・・・

その姿をとらえると同時にこらえきれず盛大に吐血してしまった。しまった意識が緩んだ・・・!

「!おい遠山!しっかりしろ!」

「遠山ちゃん!」

近くにいた相澤先生と梅雨の声を聴きながら俺は気を失ってしまったのだった。

 

 

 

「・・・ゃん様!・・・お兄ちゃん様!」

何かの呼ぶ声が耳をに聞こえ、意識が目覚めていく・・・ぼんやりと映った白い天井は・・・保健室か。

隣で必死に呼びかけてくれているのは・・・かなでか。よかった、生きてたんだな俺。

「かなで・・・っ痛ぅ・・・」

「おや起きたのかい。2日は起きないと思ってたんだけどね。よかったねぇ」

「リカバリーガール・・・・クラスのやつらは・・・?」

「全員無事だよ。というかあんたが一番の重症さぁ!どこをどうしたら全身くまなくこんなにボロボロにできるんだいまったく・・・・」

絶閂の後遺症だな。まぁ生き残れたようでよかった。クラスのやつらもな。

「ところであんた・・・クラスのやつらの心配もいいけど。隣でずっと待ってた家族にも目を向けてやりな」

そうだ・・・かなでがいるんだった。

「かなで、心配かけてすまなかったな。もう起きたから心配すんな」

体を起こしてニッと笑いかけてやる。痛むがそんなもんは無視だ無視。

「はいっ!よかったですお兄ちゃん様・・・・!」

あーあーこんな小さな妹を泣かすなんて兄貴失格だなこりゃ。兄さんになんていわれるかわかったもんじゃねえ。

 

「起きたならわたしゃは職員室に知らせてくるよ。今日はここで泊まっていきなさい。明日明後日は臨時休校になったからね」

がらりとリカバリガールが出て行ったと同時に俺はUSJのオールマイトの最後の姿を思い出す。そして死柄木とオールマイトの発言も。

弱ってる、衰えた、といったやり取り、脇腹の不自然な出血、脳無戦の後の虚勢、そして・・・最後のやせ細った姿・・・・。

こんだけ状況証拠がありゃヒステリアモードじゃなくてもわかっちまう。オールマイトは「弱体化してる」・・・それも戦闘可能時間があるほどに・・だ。

おそらく個性の力であのマッチョな体を維持していて、制限時間が来るとあのやせた姿になっちまうのだろう。そして、平和の象徴のそんな姿が公になればヴィランは一気に活性化するがゆえに、それを必死で隠してるのだ。

そして、これは完全な憶測だが・・・・これには緑谷が関係してる。いままでのオールマイト関連の不自然な言動、虚勢を張ってた時にいち早く動いたのはオールマイトの状態をあらかじめ知っていたと考えればつじつまが合う。

けど、これはすべて憶測だ。だから・・・俺よりもそういったことに敏感なやつに聞けばいい。

 

 

「なあかなで」

「はいお兄ちゃん様、なんですか?」

「オールマイト、どう見える(・・・・・)?お前から見たことを聞かせてくれ」

「それは・・・ほんとのことを言えばいいのですか?」

やっぱり・・・・気づいてたんだな。かなではその事情から、個性や、それに近い事柄のことに対してほぼ正解に近い答えを導き出せる。

「全身を個性で覆っています・・・本当の姿は細く・・・痩せています。」

ビンゴだ。やっぱりオールマイトは弱っている。どうにかしたいが・・・・それにはかなでの力が必要だ。俺みたいな物理全振り人間じゃどうしようもない。

 

「なぁかなで。オールマイトを助けたいって言ったら・・・協力してくれるか?」

「・・・はい」

「お前の正体を話すことになるが、それでもか?」

「っ・・・はい」

「・・・ありがとう」

大和を打った右腕は動かないが、残った左腕でかなでを抱きしめてやる。俺のわがままに協力してくれるかわいい妹だ。絶対に守るためにも失敗しちゃいけない。

 協力は得た。覚悟も決めた。あとは・・・・実行するだけだ。

 

 

 




次回でかなでを出した理由が明らかになります。
ただのにぎやかし目的ではないのでご安心ください。
感想、評価よろしくお願いします。


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第8弾

すっごい難産でした。
賛否両論あると思いますが目をつぶってください・・・


 USJ襲撃から3日たち、雄英の臨時休校が解け、登校日になった。まーあんなことあったらセキュリティの強化やら中身の捜査やらで時間がかかるのも頷けるってもんだ。生徒である俺たちからしたら迷惑この上ないが。

俺はあの後リカバリーガールの治癒を2回受け、大和を打った右腕以外はほぼ完治した。あと何回かは通う必要があるそうだ。ついでにリカバリーガールが連れてきた相澤先生(治癒を受けてすぐ復帰したらしい)に懇々と説教を食らった。いやまぁ言ってることは正論なんだけどあの時はあれしか方法がですね・・・・。

 いつも通りかなでを預けて教室に入ると

「おはよう、みんな無事だったかー?」

「「「「「遠山(くん)!!!」」」」

 

 なんだお前ら死人でも見たような顔しやがって。

「おう、どうしたお前ら。お化けにでもあったような顔して」

「実際死んだと思ったわ!血吐いて倒れやがってよ!」

「もう大丈夫なの?遠山くん」

「心配したのよ、遠山ちゃん」

「あーそりゃ悪かった。腕以外はもう治ってるから安心しろ。あと何回か保健室行きゃ治るよ」

「「「「よかった・・・」」」」

えーそんな素直に心配されるとなんか恥ずかしいんだが・・・・ありがたいことだな。

そんなこんなで席に着くとがらりと相澤先生が入ってきた。両腕のギプスは取れてないけどそれ以外は問題なさそうだ。

 

「お前ら、ホームルーム始めるぞー。さて、早速だが・・・・雄英体育祭が迫っている!」

 

「「「クソ学校っぽいやつ来たあああああ!!!」」」

だからここは学校だっつーの。しかし体育祭か・・・通常の学校ならかったるいだけの行事だが・・・・雄英になると話は変わってくる。

「ヴィランに襲撃されたばっかなのに開催するんですか?」

やっぱ疑問に思うやつも出るよな。正直俺も開催は見送るか延期すりゃいいとは思ってる。

「開催することで雄英の危機管理体制を示すって考えらしい。そしてなにより、雄英の体育祭は最大のチャンスだ」

そう、雄英の体育祭は個性が出たことでぐっちゃぐちゃになったオリンピックのようなビックイベントの一つとして今の日本では認識されてる。プロもスカウト目的で会場に足を運ぶようなヒーローとしての素質を見せることができる、自分を売り込む場なのだ。

「そういうわけで各自覚悟と準備はしておくように。以上」

 

 朝以外は普通に終わり、4限目の現国が終了して、昼休みになった。さて、昼飯食う前に緑谷に当たってみるか。

「緑谷、ちょっといいか?」

「え?なに?遠山君」

「いや、ちょっと話したいことがあってな。放課後、空いてるか?」

「あ、うん大丈夫だよ。ここじゃだめなの?」

「なげえからな。昼休み使っても終わらんと思う」

「そうなんだ・・・・わかったよ」

「すまんな。じゃあ昼飯食いに行こうぜ」

「おーデクくんと遠山くん食堂行くのー?私も行くー!」

「俺もご一緒していいだろうか?」

「麗日さんと飯田君!僕は大丈夫だけど遠山君は?」

「おーいいぞ。いこうぜ」

 

 廊下に出て食堂にむかう。かなでを拾っていこうと先に職員室に行こうとすると

 

「おお!緑谷少年がいた!!」

オールマイトだ。緑谷に用があるみたいだが・・・USJのことを考えると怪しさ大爆発だ。思わないところでまた確証に近づいた感じだぜ。

「ご飯・・・・一緒に食べよ?」

「乙女や!!!」

違うそうじゃない。というか弁当箱ちっさ!やっぱり怪我の後遺症かなんかで食える量が減ってるのか?

「はい、ぜひ・・・・ごめん3人とも!また今度で!」

「いってらっしゃーい」

「おう」

「ああ」

そのあとはかなでを回収してそのまま飯食って午後の授業をやった。ちなみに俺は腕の関係でほぼ見学だった。自業自得とはいえこれは堪える・・・。

 

 

 授業がすべて終了して放課後、緑谷と合流しかなでを引き取ってから雄英の広い敷地内の中から特に人気が無い森の中まで歩いていく。ここが正念場だな、うまくやらねぇと。

 

「ここでいいか。さて緑谷、聞きたいことがあるんだが・・・」

「うん。何かな遠山君」

「確信を持って聞くぞ?オールマイト、弱ってるな?そんでお前はその状態を知っていたな?」

単刀直入に聞いてやる。前置きがあったら考える時間を与えちまうからな。不意打ちで聞いたほうが反応で答えがわかりやすい。

「え?そそそんなわけないじゃないか!オールマイトが弱ってるだなんて・・・!」

ほら予想通り。冷や汗出まくりの焦り顔で緑谷が答えた。せめてポーカーフェイス保てよ・・・・

「あーいやいい。お前のその反応で丸わかりだ。もうちょっと隠す努力をしろ」

俺の反応で完全にバレてることを悟ったらしい緑谷が神妙な顔になった。

「いつから・・・きづいてたの?」

「なんか怪しいと思ってたのは戦闘訓練のときだよ。確信を持ったのはUSJだ。ヴィランが引いた後、オールマイトが縮んでるのをみてな。ちなみにかなでは個性関係でオールマイトの縮んだ姿がわかったらしい」

「そうなんだ・・・そうだよ。たしかに僕はオールマイトが弱ってるのを知っていた。」

妙に素直だな・・・まだ隠してることがあるんだろうが・・・もうそれは重要じゃない。

「じゃあ確認だ。オールマイトは弱ってる。活動可能時間・・・制限時間があるな?」

「うん、ある・・・それを聞いて如何する気なの?誰かに伝えたりとかは・・・・」

「しねーよ。俺だってヒーロー志望だ。じゃあ最後の質問だ。もし、その制限時間を延ばす、あるいは無くすことが可能だとしたら?」

「ほんとに!!?!?」

「声がでけーよ。確証はねえ。けどそれが個性がらみだとしたらできるかもしれん。だけどそれにはオールマイトと直接話してみないとできないんだ。お前にこうやってやってるのは俺にはオールマイトとサシで話す機会を作ることなんてできないからだ。」

そう、俺にはオールマイトとの個人的なパイプはない。どうしたって誰かの協力がいる。相澤先生に頼むとしても不審がられて終わりだ。

「そうだね・・・でもどうして僕に?」

「お前オールマイトの直弟子かなんかなんだろ?昼のこともそうだが個人的なパイプを持ってそうだからな。お前が協力してくれるのが一番いい。もし、これを拒否するなら、オールマイトのことは墓まで持って行ってやる」

「遠山くん・・・」

「お願いします。出久お兄さん。もしかしたらなんとかできるかもしれないんです」

「お前次第だ、緑谷。もし話し合いが可能なら、お前も同席してくれ。結果が気になるだろ。明日でも明後日でもいいから、いい返事をまってるぜ。時間とらせて悪かったな」

悩んでいるらしい緑谷を置いてその場を去る。こんなマネして悪いが、オールマイトを助けたいというのはわかってほしい。

 

 

「かなで、緑谷どう見えた?」

「はい、オールマイトとほとんど変わらない個性の形でした。不思議です」

「そうかぁ・・・当たってほしくない予感が当たっちまったか。まぁなるようになれだ」

「はい!ケセラセラ、です!」

形が一緒・・・ねえ。オールマイトの個性を渡したって見るのが妥当か。かなで以外にもそんなことができるやつがいるとはなあ。世界は広い。

 

翌日、かなでとともに登校した俺に、玄関前で待ってたらしい緑谷が話しかけてきた。

「遠山君、今日の放課後に時間を作るそうだから、生徒指導室に放課後に行こう」

「わかった。ありがとうな緑谷、決断してくれて」

「ううん、いいんだ。正直僕も結構気になってる。助けられるなら、助けたい」

「そうか、いいやつだな。お前は」

「えっと・・・ありがとう?」

「そこで疑問形になるあたりアレだなあお前・・・」

「アレってなに!?」

お、いつもの緑谷に戻ってきたな。あったとたんに「これでよかったのだろうか」なんて顔してるからついいじっちまった。

さて、オールマイトのことの前に今日の授業を片付けなきゃな。

 

 授業が終わり、オールマイトが待っているであろう生徒指導室に緑谷とかなでを引き連れて向かう。オールマイトと個人的に話をするなんて当たり前だが初めてだ。正直脳無を相手にした時くらい緊張してる。

がらりとドアを開けると、いた。マッチョな状態のオールマイトが。あれ?ばれたって話してねーの?と緑谷の顔を見ると緑谷も反応に困ってるのか微妙な顔をしてる。話したうえであれなのかよ。

「やあ!遠山少年とかなで少女!今日は話があるそうだね!?」

そのまま始めるのかよ。やりにくいなあ

「えー・・・オールマイト先生。とりあえず個性使うのやめたらどうです?制限時間があるんでしょう?」

「無理しちゃだめですよ?」

「別に無理してるわけではないのだが・・・お言葉に甘えさせてもらおう」

ぼふんと煙が立ってオールマイトの姿がやせ細ったものに変わる。改めてみるとインパクトすごいな。

「さて、遠山少年。この姿のことだけど・・・他言無用で頼むよ。USJの時だったね?私もうかつだったものだ」

「もちろんです。緑谷から聞いたのですが、制限時間があるというのはほんとですか?」

「ああ、ある。さっきのマッスルフォームなら1時間30分、戦闘になると50分が限界だ。緑谷少年から聞いたのだが・・・解決できるかもしれないそうだね?具体的に聞いてもいいかい?」

本題だ。かなで頼りなのが情けないところだが・・・・

「ええ、といっても解決手段を持ってるのは俺じゃありません。この子です」

ついとかなでを指してやる。オールマイトの視線が意外そうにかなでに向いた。

 

 

「改めましてオールマイト先生。USAペンタゴン所属下、ロスアラモス人工天才(ジニオン)プロジェクト「G」シリーズ検体№3。製品番号(プロダクトコード)はジーフィフスといいます。すこし長いですがよろしくお願いします。」

かなでが自分のことについて語った瞬間、オールマイトと緑谷の顔が凍り付いた。オールマイトは少し得心がいった顔、緑谷はただただ訳が分からない顔だ。さもあらん、かなでは今自分が人体実験の検体だと名乗ったに等しいのだから。

「そうか・・・どうして雄英附属に通えてるのかわかったよ。本当なんだね?」

「え?信じるんですかオールマイト!?」

「緑谷少年、一般には周知されてないが雄英附属にはね、プロヒーローの保護が必要な子しか入学できないんだ。彼女が雄英附属にいる時点で裏付けに等しいんだよ。実際には校長しか知らないはずだ。私たちに話してよかったのかい?」

「ええ、かなでは納得してくれました。あなたを救うためならばと」

すこしだけ辛そうに目を閉じて黙っているかなでを撫でながら話を続ける。

「ここからは俺が。アメリカにはいわゆる個性の軍事利用が昔から研究されていました。その中で自然と生まれたのが人工天才プロジェクト・・・人為的に天才を生み出す実験です。」

「人為的に天才を・・・かなで少女とは血縁関係が?」

「ええ、あります。「G」シリーズに使われているのは俺の親父のDNAですから。人工天才プロジェクトは遺伝的に優れているとされる人物からDNAを取り出し、受精卵まで手を加えて産み出されるそうです。親父は個性的、身体的にも優れた人間でした。故に選ばれたのでしょう」

「そうか・・・アメリカでの個性の軍事利用の話は私もたびたび耳にしていたが・・・人間をいじくる段階まで来てるとはな・・・」

「そんな、人をものみたいに・・・!」

優しいやつだな緑谷。こんなの今の世界じゃありふれた話でしかないのに、怒ってくれるなんて。

「人工天才には第一世代と第二世代に分かれていて、第一世代が個性と身体能力の組み合わせ、第二世代が個性と個性の組み合わせによるアプローチで、最終的に核に匹敵するレベルの人間兵器(ヒューム・アモ)を目指していたそうです。その中でもかなでは特別な扱いを受けていました。」

「特別とは?」

「個性と個性を組み合わせた結果、個性そのものに干渉できるようになった突然変異、それがかなでです」

そう、オールマイトを助ける手段とは、かなでによる個性へのいわゆるハッキングで、オールマイトの負担を軽くすることで制限時間の延長、あるいは無効にしようというものだ。

「個性そのものに干渉を・・・」

オールマイトがすごい難しそうな表情をしている。やはり抵抗があるのだろうか?

「本当の私の製造目的は、他者の個性への大幅な強化、あるいはデメリットの増大でした。ですがちょっとしたバグが紛れ込み、個性への大胆な干渉が行えるまで昇華されました」

かなでが口を開いた。自分で言う気になったらしい。

「私があなたに行えるのは2パターンあります。あなた自身の個性へ干渉し、パワーが落ちる代わりに低燃費なものへ作り替え、制限時間の延長を目指すものと別のところからエネルギーを持ってきて、パワーを保ちつつ制限時間の延長を目指すものです」

「別のところからのエネルギーとは具体的に何なんだい?」

オールマイトは後者に興味を示したらしい。かなでが説明のために口を開く。

「まず私は個性の関係で他者の個性をイメージでとらえることができます。わかりやすく説明すると、個性そのものが土台、個性を使用するためのエネルギーが薪、個性の強さや副次的な部分は炎として見えてると考えてください。つまり他者からエネルギーである薪を取って、あなたの個性の炎にくべるということです。ただ、似通った個性でないと成功率は高くないです」

「その薪を取った場合の副作用は?」

「おおよそ1週間ほど個性の最大パワーが下がります。回復するものなのでほかには問題はありません」

「その低下する最大パワーはどれくらいなの?」

「抜いたエネルギー量によります。50%ぬけば最大パワーはおよそ半分になります」

「「・・・・」」

オールマイトと緑谷が顔を見合わせる。なにを相談してるんだ?

「・・・・かなで少女、私の個性・・・どうみえてるんだい?」

「・・・・土台がありません。大きな、大きな炎が燃えていますが、薪が足りてないように思えます」

「・・・・そうか・・・かなで少女、遠山少年。君たちが秘密を打ち明けてくれたことに感謝し、私の秘密も打ち明けようと思う」

なんだ?ここでってことはおそらく個性がらみだ。かなでの言ったことも気になる。

「土台がないとかなで少女がいった通り、今の私には個性がない。私の個性は人に渡すことができる個性だからだ」

なるほど。かなで以外に個性を移動されたとかそんな話ではなく、もともとが受け渡し可能な個性だったのか。

「個性の名はワンフォーオール。力をストックし、別の人間に受け継がせる個性だ。そして今は・・・緑谷少年の中にある」

「緑谷の・・・そうですか。そういった繋がりだったんですね」

「この力を悪意ある人間やヴィランに渡すわけにはいかないから、今まで秘密にしてきたが・・・かなで少女に見破られていたようだからね。」

「ありがとうございます。こんな大事なことを話してくれて・・・それで制限時間の延長方法・・・どちらにしますか?」

そう、それが本題だ。どっちにしてもオールマイトが戦えない状態を作るのはよろしくない。

「僕の中からエネルギーをもっていって!!!」

「緑谷少年・・・・・」

「僕は、オールマイトにも皆にも助けられてばっかりだ!もとはオールマイトの力だけど・・・僕で役に立つならぜひやらせてほしい!」

緑谷・・・やっぱり真っすぐで、誠実で、ヒーローらしい・・・本当にいい弟子に恵まれたんだな、オールマイト。

「では後者で・・・・かまいませんか?オールマイト先生」

「ああ、よろしくお願いするよ」

「・・・はい」

 

 

 返事をしたかなでが俺に抱き着く、深く、深く、離さないように。俺も手をまわして抱きしめ返してやり、何をしてるのかわからない様子のオールマイトと緑谷に説明を始める。

「人工天才計画に親父の遺伝子が使われたのは個性と身体能力・・・そしてもう一つ理由があります。」

「理由?」

「俺の一族がもつ特殊体質・・・個性とは別の特異能力です。名前をヒステリア・サヴァン・シンドローム・・・通称をHSSといいます。」

「個性とは別・・・?それがどうしたんだい?」

「かなでの個性をフルに発揮するためにはこの特異体質が必要なのです。HSSはひとたび発動すると脳や神経などの作用が通常時の30倍まで爆発的に亢進されます。トリガーはβエンドルフィン、有体に言えば性的に興奮することなんですが・・・」

うっわ改めて説明するとすごい恥ずかしいぞこれ。

「せせせ性的興奮!?」

緑谷、すまん動揺させて。

「誤解がありそうだから訂正させてもらうがβエンドルフィンがでりゃなんでもいいんだ。音楽聞いたりとかで発動するやつもいる。かなでは幼いからな、家族愛を脳に誤解させてβエンドルフィンを出してるんだ。オールマイト先生、少しだけ待ってあげてください」

「ああ、勿論だとも」

 

 すこしだけ待ってやり・・・かなでの雰囲気が変わった。無事にヒステリアモードになれたらしい。

「・・・お待たせしました」

俺から体を離したかなでは・・・瞳は潤み、頬は紅潮し、男ならどうしても声をかけたくなるような魅力的な顔をしていた。

「雰囲気の変化はHSSの特徴です。もとは子孫繁栄のための力ですから、女は男にとって魅力的になるように本能的になってしまいます。気にせず指示に従ってください」

俺が釘を刺して、2人が頷いたのは見たかなでが口を開く。

「私の手とお二人の手をつないで、目を閉じてリラックスしてください。あとは私がやります」

二人とかなでが手をつなぐとすぐに、ぼんやりと緑谷とオールマイトの体が光り始めた。

「今回は緑谷さんから20%ほどのエネルギーをオールマイト先生に渡します。」

「うん」「お願いする」

かなでを介してエネルギーの受け渡しが進み、10分ほどをかけて終わった。

「これで・・・おわりです・・・ふぅ」

ぱたりとかなでが倒れこむのを受け止め、抱いてやる。ヒステリアモードの副作用だ。幼いかなでは個性とヒステリアモードをフルに使うと、疲労のため半日から1日ほど眠ってしまう。慌てた様子でこっちをみた2人に

「HSSの副作用で、脳をフルに使ったから眠っているだけです。安心してください。」

二人が安心した顔をするのをみて

「オールマイト先生、調子はどうですか?緑谷もどうだ?」

「今のところ問題はないよ。どっちかといえば調子がいいくらいだ!後日結果についてはまた話そう」

「ぼくはちょっとだるいくらいかな。でも普通に休めば戻る感じだと思う」

「そうですか・・・今日はお時間作っていただいてありがとうございました」

「いや、こちらこそだよ遠山少年。今日は私が送っていこう。かなで少女がそのままなら大変だろう」

「すいません。お言葉に甘えさせてもらいます。緑谷、また明日な」

「うん!遠山君また明日!かなでちゃんにもよろしくね!」

緑谷と別れ、オールマイトの運転する車に乗って家に送ってもらう。今日やったことがオールマイトの助けになってればいいんだが・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ジニオン関係を個性に当てはめるとだいたいこんな感じじゃないかなあって思います。とくに原作かなでの役割から妄想がはかどって止まらなかったのがこの小説の原型だったりします。
感想評価よろしくお願いします。


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第9弾

ジーサード襲来編前編です。
そういえば雄英ってヴィランが使うであろう武器の扱いの訓練ってしてねぇな?って思って今回の回つくりました。


オールマイトに家まで送ってもらい(外に出るからかマッチョ形態だった。運転席ぎちぎちじゃんか)かなでを布団に寝かせて、少しだけ物思いにふける。ある人物がいうには「余計なお世話はヒーローの本質」だそうだが、はっきり言って踏み込みすぎた気しかしない。でも今、平和の象徴を失えば間違いなく社会は混乱する・・・これでいいはずなのだ・・・と考えてると・・・電話が鳴った。この番号はジーサードか、なんだろうな。

「もしもし?どうした?」

「おっにいちゃーん!」

ジーサードじゃなくてかなめだったのか。ヒーロー活動中じゃなかったか?

「かなめか。どうしたんだ?」

「明日雄英に行くことになったからその連絡!」

「は?お前ら個性がらみの薬とかなんとかの捜査依頼が来てたんじゃなかったのか?」

「ひと段落ついたんだけど、雄英から対武器訓練したいからきてくれって話があったから受けちゃった!」

「受けちゃったって・・・来るのは誰だ?」

「ジーサードと私だけだよ!ほかのみんなは捜査の資料のまとめだね!」

「そうか・・・お前らってことは通常の武器じゃなくて先端科学兵装(ノイエ・エンジェ)の訓練もあるんだな?はー金あるな雄英、一つ億とかそんな感じだろ?」

「そうだねー、でも武器を扱うヒーローの中から私たちを選ぶなんて合理的!じゃあお兄ちゃん!明日会えたら合法的にハグして!」

「あーハイハイ。会えたらな、会えたら」

絶対に会うんだろうけど・・・にしても今日のこれで明日がアレか、忙しいなんてもんじゃないぞ。かなめからの電話を切り、風呂に入って眠ることにした。

 

 翌日、目を覚ました俺が、朝飯の準備をしていると・・・かなでが起きたらしい、思ったより早いな。

「んにゅ・・・お兄ちゃん様・・・あのあとどうなりましたか?」

「おはよう、かなで。今日は意外と早かったな。調子がよくなったって言ってたよ。協力してくれてありがとうな。」

「思ったよりエネルギーの受け渡しがスムーズに進んだんです。やっぱり元が他人に渡せる個性だからでしょうか?」

「そうかもな。あ、今日雄英にかなめとジーサードがくるらしいぞ。なんでも対武器訓練らしい」

「ほんとですか!?久しぶりにジーサードとかなめお姉ちゃんに会えます!」

まぁそうだよなあ。対武器訓練なんてぶっちゃけうへぇってなってる俺だが、ヒーローが相対するヴィランにはもちろん刀剣や銃を持った相手が非常に多い。対処法を知っておかないと間違いなく困るどころか命に直結するだろうしな。

「とりあえず今はメシ食うぞ。先に顔洗ってきな」

「はい!」

うわーかなでがウキウキだ。まぁ俺も久しぶりに弟たちと会えると思うと少し楽しみではあるな。ジーサードの性格を考えると大いに不安なんだが・・・・

 

 

 いつも通り登校し、かなでを職員室に預け、保健室によって治癒を受ける。リカバリーガールの予想を上回って右腕が完治した。なんでも折れ方がよかったから治癒が早まったらしい。

かなでは今日は午後の訓練で合流するらしい、かなでが必要なことってあるのか?

「おはよう」

「あーおはよー遠山君!」

「おはようございます。遠山さん、少しよろしいでしょうか?」

八百万だ。俺にはなしかけるなんて珍しいこともあるもんだ。

「おはよう葉隠。なんだ八百万?」

「いえ、実は・・・武器の扱いについて少々教えてほしいのです。お恥ずかしながら私、作り出すことはできても振り回すくらいしかできませんので・・・」

あーそういうことか。このクラスで刀剣や銃を扱うのなんて俺くらいだし、八百万は個性で作り出したもので戦うのが基本だから武器の扱いを身に着けたいというのは理にかなっている。

「おーそういうことか。いいぞ、いつがいい?」

「早いほうがよろしいと思いますので・・・今日はどうでしょうか?演習場は私が確保しておきますので・・・」

「わかった。かなでが多分一緒になるけどかまわないか?」

「ええ、もちろんですわ。ほかの方をお誘いしても?」

まぁ今日が対武器訓練だと知ってるのは俺だけだし、復習としてちょうどいいんじゃないか?

「ああ、問題ないぞ。誘うのは誰だ?」

「耳郎さんをお誘いしようかと・・・・」

「わかった」

耳郎ねえ・・・あんま話したことないんだよな、この前のかなでの紹介ぐらいでしかしらねえぞ?俺も誰か誘うか・・・

「葉隠ーちょっといいか?あと緑谷も」

「どうしたのー?遠山くん」

「なにかな」

「いや、今日の放課後に八百万から武器の使用訓練の提案があってな?お前らもどうかと思って声をかけさせてもらったんだが、どうだ?」

「いくよー!いくいく!私攻撃手段が少ないから武器考えてたの!」

「僕も行かせてもらいたいな。相手が使ってくるかもしれないし」

よし、ムードメーカー2人を捕まえた!これで楽になるぞ・・・教官役が俺なことを除いて・・・・

 

 

 午前中の授業を終えて、午後の授業が始まると相澤先生が入ってきた。

「はい、今日のヒーロー基礎学は対武器訓練だ。雄英の外からヒーローを招いて行うからささっと準備してグラウンドΣに集合な。今日はコスチュームでこい。はい、行動開始」

あーやっぱりきたのかジーサードとかなめのやつ。ささっと着替えて瀬呂と切島とともに、指定された場所に向かう。

「うーん外部のヒーローって誰だろうな?銃ならスナイプ先生がいるからそれ以上に武器にたけたヒーローってことなんだろ!?」

「たしかになー俺のテープはナイフとかで切られちゃったら無効化されちまうから、対策を考えたかったからちょうどいいわ」

「あーそうだな、多分刀剣と銃両方使えるやつじゃねえか?」

誰が来るかわかってる俺は一応濁しておく、ジーサードの性格からするとばらされるのは嫌いだしな・・・

 

 俺たちがグラウンドについたのが最後だったらしい。相澤先生がかなでを連れてきて、全員揃ったのを見て口を開く。

「もう既に、先生役のヒーローがついてるらしいのだが・・・いないみたいだな、非合理的な・・・」

「えーヒーローが遅刻かよ!」

「ケロ、雄英が依頼した人だからそんなわけないと思うのだけど・・・」

あーそういうことか・・・というか遅刻じゃなくている、二人ともそこに立って遊んでやがるな?なんで俺とかなでだけに分かるように気配を見せてるの?何その器用さ・・・・

おもむろにそこで立っているアホ弟とバカ妹に向かって歩いていく。

「遠山、どうした?」

「遠山くん?」

うちの弟と妹がすいませんね、と思いつつ立っているバカ二人が被っているフードをバッとめくってやる。抵抗しないってことは遊んでたんだな・・・・

 

 

 

「よお兄貴、やっぱり気づきやがったか。ヴィランに会ったって聞いたから心配してたんだぜ?」

「おっにいちゃーん!約束通りハグしてー!」

ジジッ・・ジジッという音を立てて現れた2人にクラスは騒然としてる。相澤先生なんて個性つかってみてるし・・・すいませんこれ光学迷彩で個性関係ないんですよ・・・・

「えっ?急に現れた!?」

「というか兄貴!?おにいちゃん!?」

「遠山の関係者か!?」

ああ、やっぱりこうなるよなぁ・・・・

 

きをつけェ!!(ステイ・ハット)

ジーサードが一喝した。英語がわからないクラスのやつらもジーサードの威圧感で気をつけの姿勢になってる。このあたりジーサードリーグ率いてるこいつは慣れてるよなあ・・・

ちなみにかなめはそのまま俺に抱き着いてる。あの・・・クラスの前なんですけど・・・

「あー、今日お前らのクラスの対武器訓練を担当することになったジーサードだ。遠山キンジとは腹違いの弟にあたる」

「ジーフォースです!よろしくねー!おなじく腹違いの妹です!」

「と、いうことです相澤先生・・・弟と妹がご迷惑おかけします・・・」

「あー・・・そういうことか・・・お前も大変だな遠山・・・」

同情されてしまった・・・こういうドッキリみたいなのが好きなんだよなあ2人とも・・・

「ってーわけで見た通り俺たちが今回の対武器訓練に選ばれた理由は、銃と刀剣だけじゃなく、今見せた光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリ―)のようなまだ実験段階にあるような武器を多数持ってるからだ。これらをまとめて、先端科学兵装というが・・・これは後半だ。とりあえず銃の訓練から始める」

「さて、皆さん!最初に質問だけど、武器を向けられた時に取るべき行動はなんでしょうか?」

「はい!耐えること!」

切島だ。それがたいがいできるのはお前だけだぞ!

「ブッブー!」

「じゃあ、避けること?」

「半分正解!」

「使えなくすること、かしら」

「ピンポーン!正解です!」

梅雨だ。さすがだな

「さっきそこのやつがいった通り、敵の武器は奪うか壊すかして使用不能にするのが理想だ。昔の個性がない時は避けるのが定石だったんだけどな、ヒーローともなればそうはいかねえ。俺らの後ろには守るべき人間がいる、避けたらそいつに当たるかもしれねぇ、使われる前に壊すか奪うってのが今のスタンダードだ」

「と、いうわけで今から10分間、本物の拳銃をみて構造を学ぼ―!」

といってかなめが運んできたのは多種多様な拳銃だ。まーいろんな形があるし、勉強にはなるだろう。マガジンも抜かれて撃てないようになってるみたいだしな。

「はーい開始―!」

合図をして銃の図解を配り終えた2人がこっちに来ると同時に緑谷が寄ってきた。

「すごいね、遠山君の弟さんと妹さんが最年少ヒーローコンビ、ジーサードとジーフォースだなんて!」

なんかすげえ興奮してるな。そういやこいつヒーローオタクだったっけか

「あー知ってるのか?」

「しってるもなにもアメリカに去年彗星のごとく現れた最年少ヒーローコンビだもん!知らないわけがないよ!あーサインもらえないかなあ」

「なんだ?俺のファンか?」

「ひょえっ!?いいいやあのその・・・・」

ずいっと会話に混ざってきたジーサードに緑谷は度肝を抜かれたらしい。こいつこの焦り顔だけは直せよな・・・病気かと疑っちまうわ。

「まーサインならあとでやってやるから今は訓練しろ、な?」

「ははははいいいい!!」

緑谷がUターンしていっちまった・・・うーんこいつはこの威圧するような感じさえなければもっといいんだけどなあ

「兄貴、ちょっと授業手伝ってもらっていいか?」

「何させる気だよお前。俺必要か?」

「お片付けとお弾きしようぜ、ド派手なほうが楽しいだろ?」

「前者はともかく後者はやだよ、お前とやるとドッヂボールになるじゃねえか」

「そんなこと言うなよ。頼むぜ兄貴」

「はーわかったよ・・・」

「はいはいサードはそこまでね!お兄ちゃん!元気だった!?」

「一部大変だったことはあるがおおむね元気だったよ。お前らはどうだったんだ?」

「私たちも元気だったんだけどねえ・・・」

やけにためるな?どうしたんだろう

「捜査してるやつらがなかなかボロ出さなくてな、今回のこれはまあ休暇みたいなもんなのさ」

あーそういうことか、こいつらが捜査しきれないとかなかなかやべえ組織だな

「そろそろ終わるからこっち来いよ兄貴。お片付け、頼むぜ」

「はいはい」

 

 

「そこまでだ。全員銃をおけ、ブツは回収するが図解は渡したまんまにするから復習しとけよ。最後にデモンストレーションだ。銃の構造を把握しとけば素早く無力化ができるって一例だな。今回は俺じゃなくて兄貴とかなでに頼むことにする。もしこの授業の後、銃について知りたくなったら兄貴を頼っとけば問題ねえ。もしくは自分で銃検の監査受けてみるのもイイかもな。」

ジーサードの野郎余計なこと言いやがって・・・そこは素直に先生に頼れって言えよ!というかなんでかなでにやらせるの?できるのは知ってるけど。

「じゃ、兄貴。頼む」

「わかった・・・」

げっそりとした顔をしてるであろう俺が、何も持ってないことをアピールするために両手を頭の上にあげて手を見せておく

「じゃ、スタートだ」

ジーサードがほいっとUSPマッチモデルを投げてくる。あっぶねえな!見た感じマガジン入ってるじゃねえか!セーフティもかけてねえし!

暴発させないようにキャッチし、マガジンを抜いて、薬室の銃弾を抜いてから空撃ちして撃鉄を落としてセーフティをかける。ここまで約5秒だ。なかなかいいタイムだな。

「「「「おお~」」」」

「こんなかんじで素早く敵の銃を使用不能にできるとヒーロー活動に大きなプラスになるとおもうよ!がんばって!はい、じゃあ次はかなでねー」

「はい!」

ぽいっとかなでからしたらでかいであろうUSPが手渡しされるがクラスのやつらはかなでが銃を持ったのをみてめっちゃ不安そうな顔してる。まあ小学3年生が実銃もってたら怪我しないかとか心配になるのはわかるけどな。

そんなクラスのやつらの心配をよそにかなではカチャカチャと銃を弄って俺と同じ手順でお片付けを終わらせてかなめに銃を返した。大体10秒くらいだな。

「はい!よくできました~!」

「えへへ」

クラスのやつらが目をひん剥いてやがる。いやまああんなあっさりやられたら驚くよなあ

「じゃあ次は刀剣だねー!今回は私がメインだよ!」

 

 

 かなめの講座も終わって座学ばっかりでクラスが若干だれてきたな。まーつぎは先端科学兵装だしまた釘付けになるだろう。

「んじゃー刀剣関係も終わっちまったしもう一回デモンストレーションしようと思う。今回は武器を持った者同士がどう戦うかってことだな。今回も兄貴に付き合ってもらうからよーく見とけ」

はやくねーか?と思いつつ準備をする。

 

 USJの時はアゴニザンテになれたからよかったが、いっつも死にかけるわけにもいかねえから個性でどうにかできないかって考えた。俺の個性で強制的にβエンドルフィンを出して、無理やりヒステリアモードになる。

家で一回試したときは成功したが、倍率がうまく上がらなかった・・・大体半分くらいだな。それでも通常のヒステリアモードと同じ30倍は確保できたしこれでいい。

そうだな・・・ヒステリア・アートフィシャルと名付けよう。

ヒステリアモードに入ったことを見抜いたらしいジーサードが耳から極小のイヤホンを抜いた。こいつもなったらしい。

 

「デモンストレーションだから見やすいようにやる。最初に一丁(シングル)、次に二丁(ダブラ)んで一刀一銃(ガン・エッジ)だ。それぞれどういう意味があるかを考えてみとけ」

「相澤先生、合図をお願いします」

「ああ、わかった。では・・・・開始!」

 

クラスのやつらから少し離れた場所を取ってジーサードと俺が向かい合う。俺はベレッタを、ジーサードはUSPを1丁ずつ持ってだ。

相澤先生の合図が入った瞬間ジーサードと俺が示し合わせたように同時に発砲し、俺たちの中間地点で弾丸同士が衝突した。この技は銃弾撃ち(ビリヤード)銃弾に銃弾をぶつけることで防御する技だ。兄さんもじいちゃんも使えるしなんなら宴会芸にもなってるくらいの遠山家の基本技だ。

銃弾撃ちを繰り返しながら走り寄って近接し、近接拳銃戦を仕掛ける。ジーサードが向けてくる銃を銃口が自分に当たらないようにそらし、ベレッタを向けるがジーサードも同じように銃口を払ってくる。そのまま牽制目的の拳や蹴りを放ちながら相手にどう銃口を向けるかという戦いにシフトしていく、刀剣や体術を含めたこの戦い方はアル=カタといい、銃を遠距離武器ではなく相手も防弾服を着てることを前提とした打撃武器として扱う技術だ。

これはデモンストレーションなので俺もジーサードも遠山家の技や自分のオリジナル技を使わずに基本的な動きでアル=カタを続けていき、同時に互いの前蹴りで離れつつもう1丁の銃をぬいて2丁拳銃になる。

 

今回は遠距離戦をするつもりらしいジーサードが銃を連射してくるのを残らず銃弾撃ちで捌いて、リロードをはさんでから連射するが同じようにジーサードも銃弾撃ちではじき切ってしまう。閃くマズルフラッシュが光るたびに俺とジーサードの中間地点で銃弾がはじきあいの末四方八方に飛んでいく。もちろんクラスもやつらに当たらないようにはじく方向を俺とジーサードが計算してだ。

もう1度リロードをしたジーサードが突っ込んでくるので俺も併せて突っ込み、2丁拳銃によるアル=カタを始める。今回は両手が使えないので銃口をそらすのは銃を持った手首やひじだ。さらに向けてくる銃が増えてるので結果的に捌く量も2倍になるのが2丁拳銃でのアル=カタだ。もちろん1丁より難易度が高い。未熟なやつが使うと自分で自分を撃つというアホの極みみたいなことが起こるからな。

 

ガチャンッと俺のデザートイーグルがホールドオープンした。こいつの弾はもうねえからホルダーに収めてナイフを抜く、そしてジーサードがそのすきに撃ってきた1発をギィンッと切ってやった。

銃弾切り(スプリット)ってな。撃たれた場所の上にナイフをおいときゃ誰でもできる技だ。

それを見たジーサードがヒュウッっと口笛を鳴らして自分も重そうなナイフを抜いてる。一刀一銃戦だ。ジーサードが寄ってきてナイフを振り下ろしてくるのでそれを同じようにナイフで迎え撃ち、つばぜり合いになるが、ベレッタを腹に向けて撃とうとしたのをUSPを持った手で払われて不発に終わり、さらにジーサードが撃ってくるのをはじいたりそらしながら続ける。

一刀一銃は片手が刀剣になるので銃を処理するのとはまた別のスキルがいる。銃が点だとすれば刀剣は線の攻撃範囲を持っているのでそれを加味しながら捌く必要がある。はじいたりしたらその反動を使って切りつけたて来たりとかもあるからこの型が一番近接戦で使いやすい型だ。素人が使うとどっちかしか使わずに混乱するけど熟練者がやるととんでもなく攻め入りにくいのが特徴だ。

 

ナイフと銃を使って捌き、撃ち、殴って蹴ってを繰り返し、最初のように同時に発砲した俺とジーサードの弾丸が衝突した時点で2人の銃が両方ともスライドオープンした。弾切れだ。

いつもだったらこれから近距離での殴りあいに発展するのだが今日は武器戦が目的なのでこれで終わりだ。ああ・・・疲れたな

 

 

 

 

 




緋弾のアリアっぽさが足りない気がしたので今回の回を作ることに決めたのですが、なかなか難しいです。
次回でジーサード襲来編は終わりで、原作沿いに戻ります。


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第10弾

いろいろ忙しくて時間かかりました。
失踪しても・・・・ばれへんか・・・・


ジーサードとのデモンストレーションという名の銃撃戦が終わり、とりあえずクラスのやつらのところに戻る。全員シーンとしてるんだが・・・・

 

「おら、今の兄貴とのデモ見てなんかわかったやついるかー?」

「「「「わかるかぁ!!!」」」」

「当然のように銃弾に銃弾ぶつけて防御してんじゃねえ!」

「なんでナイフで銃弾切れるんだよ!」

「もうちょっとわかりやすいようにしてくれると嬉しかったわ」

 

 ・・・・やっば梅雨の正論が心にぐさっとくる。そうだよなー・・・ジーサード相手だから普通にやったけど、俺と同じタイプの個性持ってるやつじゃない限り、銃弾撃ちなんてそうそう見れるもんじゃない。多分スナイプ先生はできるだろうけど。

 

「見る部分はそこじゃねえよ。俺らが使った銃の数やナイフを使ってた時それぞれ動き方が違ったろ?それのことについて聞いてんだよ。銃弾で銃弾撃ちあってのは派手で見てて面白いだろ?」

「「「「そういう問題じゃない」」」」

「そういうことなら俺が」

お、尾白だ。たしかあいつ武術やってるって聞いてたな。それ繋がりか?

 

「最初の1丁の時は命中率重視で2丁の時は手数重視、ナイフと銃の時は両方のバランスをとった形といった感じですか?ただ・・・普通の銃の使い方じゃない気がしましたけど」

お、やるじゃねえか尾白。正解だ。

「正解だよー!さっきのはアル=カタっていうんだけど、相手が防弾服をつけてることを前提にした銃を遠距離武器じゃなくて打撃武器として使う戦い方なんだ。基本的に今のヒーローやヴィランの装備って防弾処理が施されたものが多くて、普通に撃つだけじゃ行動不能にできないから編み出された技術なんだ」

「といっても銃を使うやつが身に着けてなんぼだからな、お前らが必ず覚えなきゃいけねえのはさっきのお片付けくらいだ。今見せたのはこういう技術を使ってくるやつがいるから知識として知っておけっていう話だな」

 

かなめとジーサードからの注釈がはいり、みんなが納得顔で頷いた。それを確認したジーサードが1発の銃弾を取り出した。

 

「んじゃあ次はお待ちかねの先端科学兵装の解説だ。こいつは最近開発された銃弾なんだけどな、まあとりあえず見てみろや」

弾を込めたジーサードがバスンと俺たちと反対方向に銃弾を撃つと・・・・ドカァァァンと撃った方向に大爆発が起きた。グレネード弾か、あのサイズでバスが吹っ飛びそうなレベルの爆発が起きるとはな。

あの小さな弾丸から凄まじい爆発が起きたことにクラスの連中は本日何度目かわからないびっくり顔だ。緑谷に至っては髪の毛全部逆立つくらい驚いてやがるし。

 

「今見た通り先端科学兵装とは、現在の最新技術だ。安全の保障もねえ、認可もされてねえ、場合によっちゃ起動した瞬間にどかんなんてこともあり得る。が効果的に使えばそこらの個性なんかよりずっと有用な効果を発揮することができる。」

そこでかなめが背中に収めていた長い刀を抜いた。SFチックに蛍光ブルーのラインが入ったメカニックな刀だ。

「これは単分子振動刀(ソニック)。普通の刃物じゃ切れないものを切るために開発されたものなんだけど・・・」

 

 言いながらかなでが近くの建物に近づいて刀を4回振るう。・・・チリッとかすかな音がして壁が正四角形に切り分けられた。ここら辺は流石だな、かなめは刃物の扱いが俺たちの中で一番うまいからこういうことは朝飯前何だろう。

切り分けられた壁の断面のあまりになめらかなことに青い顔をしたやつが何人か出るがそれを機にせずかなめは続ける。

「ね?先端科学兵装のなかにはこういったすさまじい攻撃力があるものも多いんだ。いまはヒーローで使う人って少ないんだけど・・・・ヴィランは普通に使ってくるから相手が何かしら武器を持ち始めたら最大限警戒すること!見た目で強そう弱そうなんてわからないからね!」

「「「「はい!」」」」

「あのー一つ質問いいですか?」

葉隠だ。あいつどうしたんだ?

 

「最初の時の急に現れたのってなんなんですか?」

あー光屈折迷彩か、こいつ透明人間だからこういうの気になるんだろうか?

「ありゃ光屈折迷彩っていってな、要は光学迷彩ってやつだ。ちなみに一つ日本円にして2億円だぞ」

「「「「億!?」」」」

 

「あ~コスチュームの改良に使おうと思ったけどだめだぁたかいよ~」

あ~オールマイトの戦闘訓練で俺がいったこと気にしてたんだな

「さて、先端科学兵装に対抗できる手段はひとつ。情報だ」

「「「「情報?」」」」

 

「そうだ。どこでどんな技術が開発されたか、またその応用があるかということを日夜情報収集するんだ。基本的に先端科学兵装の情報は一般には周知されないが、元となる技術自体は報道されたりすることが多いからな」

「そこからどういった兵器になるかというのを考えるのが大事なんですよー。私の単分子振動刀も大本はチェーンソーの技術ですからね!」

といった言葉で締めくくり、対武器訓練は終了した。

 

 訓練が終わり、放課後になったんだが・・・・朝言ってた武器訓練どうするんだ?今日ジーサードがやっちまったし、やるんだろうか

「おーい八百万。朝言ってた武器訓練、やるか?」

「もちろん、行いますわ!」

やるのか。まぁ今回のはどっちかというと座学に近かったからな。八百万がやりたがってたのは武器を使いこなす訓練だから、やりたいというのも頷ける。

「わかった、使う演習場の確保は?」

「お昼のうちに相澤先生にお願いしてありますわ。2時間ならよろしいそうです」

 

「2時間か・・・あんま時間かかるようなことはできねぇな。じゃあ演習場で」

「ええ、了解ですわ」

 

 葉隠と緑谷に訓練のことを伝えそのまま演習場へ向かう。かなで拾って緑谷と着替えを済ませて演習場で待ってると・・・きたな。

「お、きたな。耳郎に葉隠に八百万」

「おまたせ~」

「お待たせいたしました」

「ごめん、待たせた」

「いや、俺らも来たばっかだ。な?緑谷」

「そうだね。僕らもついさっききたばっかりなんだ」

 

「さて、八百万から聞いてると思うが今回は武器の使い方っつーわけで俺が一応教えることになったからよろしくな。訓練の武器も俺の私物でやるから八百万は個性使うなよ」

「なぜですか?」

「あぶねえし銃倹通してねえからだよ。銃ってのは一つ部品がかみ合わないだけで暴発したりするからな。今更お前の創造に不備があるとは思えねえが、帯銃してる身とすりゃ未認可の銃生み出されて撃たれちゃ冷や汗が止まらん。ついでに言うとヒーローだから通るけど一応犯罪だから注意しろよ?」

「そうでしたの・・・これから気を付けねばなりませんね」

「ヒーロー仮免とれば全部合法になるからそれまでの辛抱だぜ。とりあえずどんな武器使いたいんだ?お前らもあったら言ってみろ」

とりあえず聞いてみる、一応メジャーな武器は扱えるから教えられるが・・・ここでヌンチャクとかククリナイフとか扱いが難しい武器が来られたらお手上げだ。

 

「その・・・わたくしは自分がどんな武器があってるかいまいちよくわからなくて・・・」

「ウチは遠距離だと個性があるから近づかれたときに対処できるようになりたいな」

「私は隠密性が高いのがいい!見えにくいやつ!」

「僕は個性で戦いたいから・・・今日の訓練でやった武装解除の練習がしたいかな」

ふむ・・・緑谷は武装解除がいいのか。八百万はタッパとウェイトが女子の中ではありそうだから大型銃でもよさそうだが・・・耳郎はナイフがいいかな?長物だと個性の操作がおぼつかなさそうだ。葉隠は・・・スニーキングメインだろうし投合するもの・・・投げナイフがいいだろう。よし、だいたい決まった。

 

「うし!まず緑谷!」

「うん!」

「お前は武装解除の練習をしてもらうが、俺じゃなくかなでに教えてもらえ。ベレッタ貸してやるから・・・あと空のマガジンで弾は抜くから暴発の心配はなくすから安心しろ。かなで、たのむ」

「はい!わかりました!」

「よろしくね、かなでちゃん」

「任せてください!」

むっふー!とドヤ顔を決めているかなでに弾抜いたベレッタと空のマガジンを渡してやると緑谷を伴ってちょっと離れた場所に連れ立って行った。今日の訓練でお片付けができるのは知れてるから、まあ大丈夫だろう。

 

 

「さて、まず耳郎はナイフがいいだろうな。俺のナイフ貸すけど勝手に振り回すなよ。まず刃をみて、どう振るか考えといてくれ。お前の個性に合わせた振り方を考えよう」

「ん、わかった」

とりあえずバタフライナイフを耳郎に渡して開き方だけ教えておく。おそるおそる刃を見る耳郎に注意事項だけ垂れてから次に行く。

「んで葉隠。お前はたぶん投合系・・・物を投げるってのが向いてるんじゃねえかな。その場で拾ったもんを武器にするやり方だ。投げナイフをいくつか持っておくのがいいかもしれんが、今日は命中率を上げれるように樹に印をつけておくからその中心に石を当てるように訓練してくれ」

「んー!わかった!でも石って危ないよね?」

「武器使う時点でどれもあぶねえよ。当てる場所考えろってことだな」

樹に適当に印をつけながら葉隠に返す。なんだかんだ即席のものってバカにできないからな。遠山家でも物を投げて敵を倒す技だってあることだし、昔から有効な手だ。

 

 

「さて八百万なんだが・・・お前は一つのものを極めるより広く浅くで言った感じがいいと思う。つまり場面によって適切な武器を作り出して使うってやり方だ。器用貧乏になるかどうかはお前の機転次第ってわけだな。とりあえず今日はコイツやってみよう。」

といいながらヒップホルスターからデザートイーグルを抜き出して見せてやる。拳銃にしてはごつくでっかいそれを見た八百万が頷く。

「わかりましたわ。でもどうしてこんなに大きな銃を?」

「あー気を悪くしないでほしいんだが・・・お前は女性にしたら身長があるからな、それに伴ってウェイトがあるだろう。それは大型銃を使う上に置いて強みになるんだ。でかい銃は反動もでかいからな、ウェイトがあると反動を抑え込みやすいんだよ。でっかい銃に慣れたらちっさい銃も使えるようになるしな」

おれのセクハラすれすれの解説に八百万は嫌な顔せず納得した感じだ。人間出来てるな。

 

「あ、でも今日は空撃ちだけで発砲自体はしないからな?」

「なぜですの?」

「いきなりこの銃撃ったら肩外れちまうからな。今日は構えだけだ。構え自体は銃共通のものが多いから構えを今日は覚えて行ってくれ」

「わかりましたわ!早速お願いいたします!」

「おう」

 

 

 そのまま全員のところに回って指導していく、今日は始めたばっかだから基本の基本だ。だから一人でもなんとか指導することができたが・・・専門になってくると雄英の先生に頼ったほうがいいだろうな、特に八百万は俺の知識の範囲外のことも覚えなきゃいけねえ。

俺じゃすぐに限界が来るだろうから、相澤先生に要相談だ。

 

 

 そうこうしてるとすぐ時間になってしまった。とりあえずそれぞれに渡した俺の武器を回収して撤収を開始すると・・・女子連中が着替えに戻っていったのを確認した緑谷が話しかけてきた。

 

「遠山君、今日この後時間あるかな?」

「あるが・・・どうしたんだ?」

「オールマイトから話がしたいって・・・結果が出たみたい」

「・・・・そうか」

「ほんとですか!?」

昨日今日だけどさすがプロ、自己の確認を怠らないのは流石だな。

「そのままでいいそうだから片付けたらいこう?」

「おう」

 

 

 女子連中に携帯で連絡とってそのまま別れることにして、昨日と同じように生徒指導室にむかう。

がらり・・・とドアを開けるとそこには、またマッチョ形態のオールマイトがいた。え?もういいのでは?

「緑谷少年!言伝ありがとうな!それと遠山少年とかなで少女!早速だけどあのあとと今日に計測をしてね、結果が出たので改めて説明とお礼がしたいと思って招かせたもらった!」

「いえ、それはいいのですが・・・・」

「なんでマッスルなんですか?」

おれとかなでの2人の質問を受けてオールマイトが鷹揚に頷く。

 

「ふむ、それはね・・・マッスルフォームの制限時間が無くなったのさ!戦闘可能時間の制限はあるけどね、疲労さえ無視できればいくらでもマッスルフォームを維持できるようになったんだ!」

「ほんとうですか!よかった・・・」

「お役に立てたようで何よりです」

緑谷とかなでが沸き立つ中、俺は少し疑問ができたので聞いておく

 

「あの、戦闘可能時間自体はまだあるんですよね?それが過ぎたらどうなるんですか?」

「ふむ、それなんだが・・・まずマッスルフォームが解ける。それでその後3時間はどう力んでもマッスルフォームになれなかった。おそらくエネルギーを注がれた結果そういう風になってしまったんだろう。戦闘時間自体は倍に伸びてたからそれでやりくりすればいいんじゃないかな!改めて、ありがとうな!少年少女!」

よし、思ってたのと少々違ったがうまいこと運んでくれた!あとは何回かこれを維持できるようにエネルギーの受け渡しを繰り返していけば俺の在学中くらいはオールマイトは戦えるままでいられるだろう。

 

「それと遠山少年、折り入って一つ頼みがあるんだが・・・・聞いてくれるかい?」

オールマイトが俺に頼み?この人ならコネやらなんやらで大概のことは自力でどうにかできるはずだ。それが俺に頼みだって?なんかめんどくさそうな感じがするが、とりあえず聞いておこう。

「俺にですか?とりあえず何でしょうか?」

「うむ、私の個性の秘密と緑谷少年のことと両方知っている君でなくてはならないのだ。それはな・・・緑谷少年の特訓に協力してほしいんだ」

 

 

 あーそういうことか。つまり緑谷がワンフォーオールを使いこなす手伝いをしてほしいってことだな?たしかに誰でも彼でも頼めるわけじゃない、事情を知ってる必要があるってわけだ。

「詳しく聞いていいですか?」

「うむ、緑谷少年もよく聞いておきなさい。いま緑谷少年が体を壊さずに出せる最大出力は5%といったところだ。USJの時は土壇場で制御に成功したそうだけど、そのラッキーが続くわけじゃないから自分の体で上限を息をするように出せるようになる必要がある。ここまではいいね?」

「「はい」」

「いい返事だ。私は最初から100%を扱えたが、緑谷少年はそうじゃない。段階的にワンフォーオールを使いこなしていく必要がある。私の感覚はあまり緑谷少年の役には立ってないみたいだからね、別視点での見方が必要になる。そこで君だ、遠山少年。」

「俺ですか」

「そうだ。緑谷少年もそうだが、君も結構考えたりするタイプだろ?私よりも緑谷少年にタイプ的に近いんだ、それに君は近接戦闘能力・・・武器の扱いもそうだが徒手も優れているのは戦闘訓練を見てればわかるよ。体育祭前にライバルを自分で増やしてしまうことになるが・・・どうか頼まれてくれないかい?」

 

 ・・・・うーん、別に緑谷にいろいろ教えるのは構わないんだが、緑谷次第だな。

「緑谷、オールマイトはこう言ってるがお前はどうしたいんだ?このままオールマイトに教えてもらうか?それとも俺の訓練も入れるか?」

こいつほっとくとそのうち人助けしたけどぽっくり死にそうでおっそろしいから制御くらいは今のうちに何とかしてやりたいが・・・

 

 緑谷はしばらく考えていたが・・・やがて覚悟を決めたらしく俺のほうを向いた。

「僕は、ほかの誰よりも頑張らなくちゃいけない。・・・だから遠山君、僕の訓練に付き合ってほしい」

「うっしわかった。オールマイト先生、引き受けさせてもらいます。残り2週間ですが、やれるとこまでやりますよ。ついては3日に1度ほど緑谷の特訓の際に同席していただきたいんですが・・・」

俺のやり方でやったら観察力の高い緑谷だ、俺の動きをある程度身に着けるぐらいはするだろう、けど神経系の個性の俺とバリバリのパワー系の緑谷じゃ方向性がちがう、そこをオールマイトに矯正してもらおう。俺が教えるのは徒手格闘の基本と個性の制御イメージだ。そっからは緑谷自身で構築していくことになる。

 

「ああ、わかったよ。ただ私がかかりっきりになるのは外聞的にあまりよろしくない。遠隔でのビデオモニターでの参加という形になるがそれでいいかい?1回程度ならそのまま参加が可能だろう」

ああ、この人ナンバーワンヒーローだったな。まあそれくらいなら支障はない、この人に見てほしいのは緑谷の動きをパワー型に変える作業だ。

「お願いします。じゃあ早速明日からということで」

「うむ、今日はここまでにしよう。遠山少年、すまないけどよろしく頼むよ」

「はい」

 

 

オールマイトの元を辞して、着替えて帰路に就く。

「緑谷、明日までに考えてほしいことがある。」

「え?あ、うん・・・なにかな?」

「そんな真剣な顔せんでいい。お前の個性発動のイメージをまとめとけ、アクセル全開の今までのやり方じゃなくて制御できたときのイメージだ。USJの時のやつ。あれの発動時の時のことをよく思い出しておいてくれ」

「大事なことじゃない!?わかった!・・・それじゃあ遠山君、かなでちゃん、僕はこっちだからこれで」

「おう」

「また明日です。出久お兄さん!」

 

 さて、明日からより一層忙しくなるな。俺も緑谷に負けないよう頑張らないとな。

 

 




うーん書きたいことが多すぎてうまく文章がまとまらない・・・とりあえず次回は体育祭やりたいなあ(願望


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第11弾

コソコソ・・・(投下


ばれへんばれへん・・・


オリジナル技注意です


俺がオールマイトに緑谷の特訓を頼まれて2週間たった・・・というか今日が体育祭当日だ。特訓自体は別になんてことない、喧嘩すらしたことない緑谷に対し正しい拳の握り方や受け身の取り方、つかまれた時の対処法やちょっとした小技を指導しただけだ。

 正直なところ、オールマイトに見てもらった時に、「ああ、完全に感覚の話してる」って思っちまったな。緑谷が個性の制御うまくならないわけだよ。

なんでも緑谷の個性発動のイメージは「電子レンジに卵を入れて爆発しない出力にする」ってことらしい・・・ってなんだそのセンスは?

 

 というわけで何度かかなでに協力してもらい、外部から個性を強制的に発動させることで壊れない5%の状態を体感させて体で覚えさせた。ちなみにかなでの負担のせいでオールマイトがいる日にしかその特訓はやってないから、緑谷は一応ブレーキを覚えたってぐらいの完成度だ。発動に要する時間は約5秒、そしてどこか体の1部位のみってかんじになったが・・・

 

 それにしてもすさまじいなワンフォーオール、5%でも人間の限界値超えた膂力とスピードだぜ。はー将来100%扱うようになったら被害とかどうなるんかね・・・・

と益体もない考えに頭が行ってると・・・ん?緑谷と轟か?珍しい組み合わせをした二人が外に出て行った。なんじゃありゃ?

 

「ねえ遠山ちゃん」

「ん?梅雨か、どうした?」

「あなたがここにいるってことはかなでちゃんはどうしてるのかしら?今日は附属小は公休でしょう?」

「ああ、本来なら家族と一緒にいることになるんだが・・・残念ながら2人なんでな。俺らが競技とかで全員いないときは職員待機所、それ以外はうちのクラスの応援席に来るらしい。すまんが面倒見てやってくれ」

ぜんぶ職員待機所じゃダメなんだろうか?まあ職員待機所はカメラがよく入るからクラスのほうが安全なのはわかるんだが・・・・

 

「ケロ、そうだったの。きっとみんな喜ぶわ」

「あー葉隠のドッキリだけは止めてやってくれよ・・・あいつああいうの苦手だから・・・」

「わかったわ」

驚かされて個性がでてクラスのやつらに影響が出たら面倒だし、なによりそうなったら全員に説明する必要が出てくる。そんなことになったら俺もかなでも荷物まとめて雄英から消えるレベルで逃げんとまずいしな。

 

「みんな!入場だそうだ!いくぞ!」

「「「おう!」」」

お、飯田の合図だ。俺たち1年のステージは本来なら2年3年のおまけ扱い何だが・・・今回は訳が違うだろうな。

 

『雄英体育祭!1年に1度のヒーローの雛たちが!我こそはと全力でぶつかり合う大バトル!』

お、ナレーションはマイク先生なのか。あの人のことだから隣に相澤先生無理やり座らせてそうだ。

 

『お前らのお目当てはどうせこいつらだろ!?ヴィランの襲撃を耐え、それを乗り越えた期待の新星!』

さあ、いくぞ。胸を張って前へ進め。こっからは誰に見られても恥ずかしくない結果を残さねえとな。

 

『ヒーロー科!1年A組の入場だあ!!』

ぞろぞろと隊列組んで待機場所へ行く、しかしでっけえアリーナだこと。それが2年用3年用と3つあるんだから頭おかしいよな。

 

『続いて!B組!普通科C,D,E組!サポート科!経営科の入場だ!』

うっわまとめやがった。やめろよただでさえ爆豪がヘイト稼ぎそうなのに・・・

 

 

「選手宣誓!」

お、ミッドナイト先生だ。相変わらずすさまじい恰好のヒーロースーツだな。こんなところで無駄にヒスって体力消費したくないし目そらしとこ。

「はい静かになさい!選手代表!1-A爆豪勝己!」

やっぱ爆豪だよなー何するか不安だわ

 

「え?あいつなのかよ?」

「あいつ入試1位だったらしいからなあ」

まあ当然そうなるよな、中間テストなんてまだやってないから1位なのは間違いなくあいつだ。

 

「ヒーロー科の、入試な」

ん?普通科のやつらか。やっぱこっちにヘイトたまってるよなー・・・でも普通科の入試とヒーロー科の入試って学力だけならヒーロー科のほうが高いんだぜ?って今言っても余計なヘイト買うだけだから言わねえけどな。

 

 

「せんせー」

頼む、平穏にやってくれ・・・!!

 

 

「俺が1位になる」

「絶対やると思った!」

「ふざけんなヘドロヤロー!」

「調子乗んなよA組こらぁ!!」

 

「せめて跳ねのいい踏み台になってくれや」

 

ああ・・・やりやがったこいつ・・・・いや別に宣誓なんだから間違ってねえんだけどそれに俺らを巻き込むんじゃねえよ・・・・」

 

「うーん熱いわ!青春ね!早速だけど今からやる競技はコレ!障害物競走!」

ほう、障害物か、雄英のことだからまた無駄に金かけたものばっか出てくるんだろなあ・・・・

「全クラス総当たりのレースよ!コースはスタジアム外周の4km!わが校風のとおりコースから出なけりゃ何してもいいわ!」

 

ふーん・・・何してもねえ・・・スタート位置を考えて中間よりちょっと前、天井がある場所の壁際で待機するか。

 

「さあ位置につきまくりなさい!それでは・・・」

 

どうせ轟が妨害かなんかしてくるだろうし爆豪が後ろに向かって爆発するなんてこともしそうだ。ちょっと備えとくか。

 

 

 

「スタート!」

 

 スタートの合図と同時に俺は壁を駆け上がり天井に張り付く、これは遠山家の壁を移動する技、堀蜥蜴の発展形、「内壁虎(うちやもり)」だ。人間の手のひらの吸着力は極めればなんにでもくっつくことを流れの格闘家から聞いたご先祖様がその時の部下だった忍者の一族と共に作った技らしい。俺もなんでできるかは詳しくはわからんが出来ちまうもんはしょうがない。

 

 俺が天井へ張り付くと同時にパキパキパキと地面を氷が張って下のやつらの足が凍った。やっぱ妨害してきたなあいつ。

でも俺たちのクラスは全員、その妨害を各々の個性や体を使って乗り越えている。俺も4足で天井を走るという我ながら変態じみた挙動でトップ集団に追いついた。やはり早いのは飯田、爆豪、トップの轟だ。

 

 天井がなくなったのでそこから桜花で10mほどジャンプして着地し、そのままトップスピードで走り続けながらもう一つ遠山家の技を使う。

普通に走るよりだいぶ前傾姿勢を維持し走り続ける。こいつは「馬戦駆(ばせんがけ)」。昔足軽だったご先祖様が戦の際に馬に追いつくほど速く、長く走るために作った技だ。普通なら倒れるレベルの姿勢を本来ならヒステリアモードで、今の俺なら個性での身体駆動能力、バランス精度にものを言わせる走り方だ。

 

トップ集団に何とか食らいつきながら走っていくと・・・ありゃ入試のロボットか?え?あれが障害?ばかじゃねえの?

 

『さあ!第一の関門だ!手始めに・・・ロボ・インフェルノ!』

 

おいおい・・・あれ一般生徒がどうにかできんのかよ。

と考えながら俺はぬるりとした挙動でロボとロボの間をくぐりながら前へ向かう。こいつは「潜林(せんりん)」という乱戦の際に敵の武将の元まで行くために、敵のアキレス腱を切断しつつ足元を縫って通り抜ける技だ。

本来なら人間相手の技だが・・・ロボたちはでかいが挙動が遅いので割と隙間も多く、うまいこと潜林で通るためのスペースが多くあるな。

 

 他の場所ではやはり轟が妨害と活路を見出すために氷漬けにしたロボが倒れこんだりしてるし割と地獄絵図だ。死人出ねえだろうな?

爆豪のような上を行く連中や即席で協力しようと呼びかけるやつらもいるしなかなかスペックが高いやつが他クラスにもいるようだ。

 

大体前から5番目位を維持しながら駆け抜ける途中で小さいロボにも遭遇したが今更そんなもんでどうにかなる俺じゃない。そのまま勢いをのせた秋草の蹴りでスピードを落とすことなく壊しながら突破する。

そのまま走り抜けてると今度は・・・でかい穴?ロープが渡してあるな。これも障害物なのか?

 

 

『おいおい第一関門ちょろすぎだろ!?じゃあこいつはどうだ?おちりゃやべえぜ!それが嫌なら這い上がれ!ザ・フォール!!』

いつも思うがこんな大がかりなこと1年おきにやってるのか?ほんとに死人出たりしてねえだろうな?

 

とりあえず差し掛かったロープにまた4足歩行状態で堀蜥蜴しながらわたっていく。べつのところじゃアイテム使えるサポート科や梅雨が渡りだしてるし俺も急がんといかん。

渡り終わりの段階で桜花でがけ際のロープを踏みつけ固定ごと脱落させ妨害しておく、すまんけど許してくれ。

 

『おおっと1-A遠山ァ!ロープごと外すなんてお前どんな脚力してるんだ!?なんというか…クレバーだな!』

『あいつは技の種類と近接戦闘能力、とっさの時の判断力はうち随一だ。どうせまたなんか技使ったんだろ』

なんか相澤先生に理解されてるのかどうなのかわからん評価されたけど・・・まぁ褒められたと思っておこう・・・うん

 

そうこうしてるまに轟、爆豪が抜け、俺と飯田も抜けた。くっそ思ったより縮まねえな・・・!

 

 

 

第3の妨害は・・・・平原?何もない・・・わけじゃないななんか埋まってやがる。

『さあ!ラストの障害だ!こいつは1面の地雷原!怒りのアフガンだぜ!地雷の位置はわかるようになってるし見た目だけ派手で威力も大したことねえからさっさと渡れ!』

うーん・・・個性使ってるおれだとぶっちゃけ丸見えなんだよなあ・・・と思いつつそのままダッシュで地雷をよけながら進んでいくと・・・前のやつが見えてきたな

 

『おおっと喜べマスメディア!順位が変わったぞ!』

爆豪が爆発で飛びながら1位になったな。ジグザグに進むせいで思ったより距離が縮まらん・・・!!

 

ちょうど中間まで差し掛かった時・・・後ろで大爆発が起きた。

『おおっと偶然か故意か!?1-A緑谷!爆風で猛追だぁぁ!!』

緑谷!?どこだ!?しまった上で抜かれた・・・・!あいつ・・・やるじゃねえか!俺じゃ思いもしない方法だ。

 

「緑谷・・!」

「デクゥ・・・!」

 

そのまま抜いた緑谷がもう一回爆発で前に飛び、そのまま受け身を取って走り出した。俺も後を追うが流石に間に合わん・・・!

『さあ誰がこの結果を予想した!今1番でスタジアムに戻ってきたダークホース!緑谷出久の存在を!」

そのまま緑谷、轟、爆豪、俺の順でゴールし、ほかのやつが来るのを待つ。うーん4位か、まあ悪くない順位だな。

 

「緑谷、やるじゃねえか。負けたぜ」

「遠山君・・・ううん今のはただのラッキーパンチだ。次は僕の力で君に勝つよ」

「いうじゃねえか。楽しみにしてるぜ」

こいつ・・・うまいこと自信がついてきたみたいだな。なんとなく卑屈っぽいところがあるからな緑谷は。いい傾向じゃねえか

 

「さて!予選通過は42人までよ!落ちちゃった人も見せ場あるから安心なさい!」

お、そろったのか・・・やっぱりというかほとんどヒーロー科だな・・・一部普通科のやつがいるみてえだけどどうやったんだ?

「ここからが本番!第2種目は・・・・騎馬戦よ!!」

騎馬戦だ・・・?個人競技じゃねえけどどうすんだ?

ざわざわしだした俺らをミッドナイト先生が一喝する。

「あんたら私の説明が終わるまでは黙ってなさい!いい?2人から4人のチームを作ってもらうわ!そこで各々さっきの障害物競走の結果に応じたポイントがそれぞれに付与され、組んだチームのポイントを合計したものが持ちポイントになるわ!それを奪い合うルールよ!」

 

 ほう、つまり組むやつとの相性や持ちポイントを考えながらチームを組む必要があるな・・・さて、だれと組めるか・・・・

「ポイントは42位から5点ずつアップしていくわ!ちなみに1位だけは特別に・・・1000万ポイントよ!」

ということは俺の場合195点か・・・というか一斉に緑谷のほうに飢える獣みてえな視線が集まったな。緑谷の顔が震える小鳥みてえだ。

 

「じゃあ今から10分でチーム組みなさい!組めないと失格よ!」

えーなにそのルール、1位が圧倒的に不利じゃんか。

「じゃあ!チームアップはじめ!」

 

 

さて・・・俺はどうするか・・・爆豪・・・はあいつすげえ人気だな。組むのは無理そうだ。となると緑谷、轟、梅雨、飯田、麗日、八百万が今んとこ有力か?と考えてると・・・

 

「遠山、いいか?」

「ん?轟か。チームの誘いか?」

声をかけてきたのは轟だった。こいつから声をかけてくるとは珍しいこともあるもんだ。

 

「そうだ。他のやつは誘ってあるからお前がよければそれで終わりだ。どうだ?」

「ちょうどお前に声かけようか悩んでたところだったんでな。乗らせてもらうぜ」

「そうか。ありがとな」

「おう」

 

といいつつ喧騒から離れた場所に向かうとそこにいたのは飯田と八百万だった。なるほどこの状況ならほぼ最善に近い布陣だな。

だが意外なのは飯田がいることだ。緑谷と組みそうなもんだが。

「遠山君!来てくれたんだな!」

「遠山さん、よろしくお願いしますわ」

「おう、だけど飯田は緑谷と組みそうなもんだけどな、意外だ」

「ああ、ぼくは今回は彼に挑戦すると決めているんだ。さっき挑戦状をたたきつけてきたからね」

「へぇ、熱いじゃねえか飯田。俺も緑谷から挑戦状投げられたとこでな、勝ちに行こうぜ」

「もちろんだ!」

と飯田と話していると八百万が

「轟さん、私たちを集めた理由をお聞かせ願えますか?」

ときいた。

 

 なるほど、確かにこの布陣を迷いなく決めた轟だ。なんか理由があるんだろうな。

「ああ、まず言わずもがな飯田は機動力、八百万は創造でのサポート、遠山は飯田についていけるフィジカルだ。ここは上鳴でもよかったんだが・・・あいつの個性のデメリットと絶縁体で俺たちが待避する必要があるのを考えてそれは抜きにした。」

なるほどな、俺がダメだったら上鳴に行ってたのか・・・だがおあつらえ向きに、俺には陸奥という範囲攻撃がある。スタジアムを倒壊させかねないから使うとしたら陸奥雷土か陸奥轟酔だが・・・・崩し目的の攻撃は禁止らしいので脳震盪を起こす陸奥轟酔はだめだ。陸奥雷土ならいけるだろう。

 

「轟、上鳴みたいな範囲攻撃があるんだが・・・使うか?」

「詳しく説明してくれ」

「ああ、うちの家では人力で地震を起こす技があるんだがそこは割愛する、その技の発展形に地中分子をすり合わせ電撃を起こす技がある。使うのに最短で10秒はいるがこのスタジアムの半分くらいの範囲ならいけるはずだ。

ただ・・・誰かを除いて撃つなんて器用な技じゃねえから打つ瞬間に飛ぶか接地面積を絶縁体で覆う必要がある。そこは八百万、絶縁体の靴を作ってくれないか?」

「ええ、承りましたわ。」

「そんな技まであるのか・・・すごいな遠山君!」

「ああ、一応秘伝だけどまあ今更だよな」

 

「さあ!タイムアップよ!チームは組めたみたいね!」

お、10分たったか。さあ気合入れていくか

 

 

 

 




執筆する時間をくだしゃい・・・・(討死


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第12弾

忙しくて感想返せてませんがきちんと読んでますのでご了承ください。



 「騎馬戦・・・スタートよ!」

 ミッドナイト先生の合図とともに俺は個性を使ってヒスる。アートフィシャル使うのも慣れてきたなと思うと同時に各騎馬が一斉に動き出した。そのほとんどは緑谷の騎馬に向かっていく。

このルールだと手っ取り早く予選突破するにゃ1位の1000万を狙うのが最も手っ取り早いからな。俺たちの持ちポイントは全員足して710ポイントだから正直じっとして防御するだけでもおそらく予選突破はできるだろうが・・・全員そんな甘い考えでいるわけじゃない。

 

 俺は左後ろの騎馬担当だ。始まる前に使う技をちょっとだけ説明して八百万にパチンコ玉を何発か創造してもらい、ポケットと手の中に握りこんである。飯田には俺の手首を握ってもらい、手はフリーになるようにした。

俺以外の二人は八百万が想像した靴を履いて普通に騎馬を組んでいる。騎手は轟だな、騎馬やってると個性使うときに巻き込んじまうらしいから適任だろう。

 

「とりえず1000万は無視するぞ。ラストのほうで捕りに行く。今は1000万に夢中なやつらのハチマキを後ろからとっていく」

「了解した!いくぞ八百万君!遠山君!」

「ええ!」

「おう!」

 

飯田を起点にしたダッシュでおそらくB組のやつらの騎馬に近づいていく。

「A組!?させないよ!」

「もらうぞ」

体がばらばらに分離する個性か。手がばらけて別の動きしながらこっちに迫ってくる。

「轟!一回アレの動きとめるからその隙に取れ!飯田!加速頼む!」

「わかった!」「おう」

 

 飯田が加速したのと同時に俺は握りこんだ手の中心を秋水で圧迫しつつ親指を亜音速の桜花ではじいた。すると相手の顔にボフン!と空気がぶつかって相手の腕の動きが止まる。その隙に加速した俺たちはわきをすり抜けるのと同時にハチマキを取って安全圏まで離脱する。

いまやった技は「矢指(しし)」。いわゆる指弾だ。撃つのは空気弾のため威力は低く、相手の虚を突く程度のことしかできないが今回はそれでいい。ちなみに有効射程距離は本来は短いが今回は桜花を併用することによって無理やり遠くまで飛ばしている。まぁ空気が拡散しちまって一瞬突風が来た程度のもんになってるが。

 

「やるな遠山。とりやすかった」

「ええ、さすがですわ」

「気にすんな。それより次行くぞ」

 

 他は大混戦だ。特に爆豪が空飛んで緑谷のハチマキ取ろうとした点はやばかったな。アレに取られたら1000万捕り返すのなんて並大抵のことじゃできん。今は緑谷に持っててもらわねえと困る。

あ、爆豪がB組のやつにハチマキ取られた。ヒステリアモードの聴覚で拾うと・・・うわすげえ挑発してんな、爆豪がどす黒いオーラ纏いだしたしキレたの確定だ。とりあえず緑谷を今狙うやつが減ったな。

 

 

『さあ残り時間半分をきったぜ!』

もう半分か!?そろそろ緑谷を狙わねえと時間が切れるな。頃合いだ。

 

 

「遠山、さっき言ってた範囲攻撃、準備してくれ。そろそろ・・・捕るぞ」

「おう」

 

『さあここで轟チーム!1000万めがけて相対だぁぁ!!』

 

トン、トトン、トントトトン・・と秋水の蹴りをいつもの陸奥とは違うリズムでランダムに地面に打ち込んでいく。今回この混戦のなか通常の陸奥は調律に時間がかかって使うのは難しいが地中分子をすり合わす必要のある陸奥雷土は別だ。ほかのやつらの起こした振動も合わさっていつもより早いリズムで蓄電が完了していく。

 

「八百万、氷結用の伝導を準備」

「ええ、了解ですわ」

「飯田、前進」

「ああ」

「行くぞ、3・・2・・1・・陸奥雷土!」

 

最後に陸奥雷土のトリガーである強めのショックを撃つため桜花と秋水を併用してガスン!と地面を踏みしめるとバリバリバリバリ!!!という音とともに電光が走り俺たちを追っていた周りの騎馬と前にいた緑谷の騎馬がまとめてしびれた。

 

「これ・・・!?かみ・・なり・・・くん!?」

「うぇ?!おれじゃないぜ!誰だ!?俺も個性ダダ被りなやつがいるのか!?」

この電撃でぴんぴんしてる上鳴は流石電気系個性だな。あと起こしたの俺だから今んとこお前は被ってないぞ。

 

「残り6分だ。あとは引かねえ。悪いが・・・他は我慢しろ」

と轟が八百万の作った伝導を利用して他を一気に凍らせた。ついでに凍っちまったやつらのハチマキを取ってから氷結で閉じ込めサシで捕りに行けるようにした。

 

「よう緑谷。カッコイイアイテムだな?とらせてもらうぜ」

「遠山君・・・!?」

いうが早いが俺は握ってたパチンコ玉を矢指で飛ばして背後の氷壁で跳弾、バックパックに着弾させた。バゴン!という音とともに緑谷が背負ってたバックパックは電撃と衝撃で完全に破損し、機動力をそぐことに成功した。

 

「ああ!私のベイビー!なんてことするんですかあなた!」

「発目さん・・・」

「牽制する!ダークシャドウ!」「アイヨ!」

 

常闇のダークシャドウが正面から手を伸ばして左右同時にかかってくる。範囲が広いな、スピードもなかなかだ。

 

「八百万!遠山!」

「はい!」「おう」

八百万は腕から装甲をだし、俺は同じように矢指で迎撃する。はじくためにさっきより強めに撃つとバチィ!という音とともに「イッテェ!」というダークシャドウの声が聞こえた。痛覚あったんか、それはすまん。

 

「常闇が面倒だ・・・八百万、防御は遠山に任せて移動に専念してくれ。飯田、加速」

「ええ!」

「わかった!遅れるなよと八百万君!遠山君!」

 

 そのままダッシュで接近し、追いかけっこになるが予想以上にダークシャドウが厄介だ。伸びるしこっちの牽制は防ぎやがる。陸奥雷土は足を止めねえと使えないからだめだ。時間だけが過ぎていく。

 

 

『おおっと意外な展開!すぐに轟チームが1000万捕ると思われていたが・・・緑谷チーム!5分耐えてるぞ!』

くっそまずいな・・・氷壁で閉じ込めたのが裏目に出て緑谷が俺たちだけに集中できる環境が整えられた。後ろを気にする必要がないから予想以上に厄介だぞ・・・

 

「皆・・・聞いてくれ」

「飯田?どうした」

「裏技を使う。残り1分間俺は使えなくなる。チャンスは1度だ。しっかりつかまっててくれ」

飯田が何か策を考え付いたらしい。賭けてみるか。

「轟君、捕れよ!・・・・トルクオーバー!」

飯田のふくらはぎのエンジンが爆発的な音を立て始めた。なるほど・・・加速か、それも今までの非じゃない感じの。

 

「レシプロバースト!!!」

と飯田が叫ぶと同時にすさまじい加速を見せて緑谷に突進していく。俺や八百万はほとんど浮いてるレベルだ。轟は何とか反応できたようで緑谷のハチマキをかすめ取っていくことに成功した。よし!捕ったぞ!

 

『おお飯田ーーー!!ここにきて超々加速だぁーーー!逆転!轟チームが1000万を奪取!」

 

「飯田、今のは?」

「トルクの回転を無理やり上げて爆発力を生んだんだ。反動でしばらくするとエンストしてしまうがな」

なるほどな。ギアを一気に最大値まで上げたのか。

「緑谷君!君に挑戦するといったはずだ!」

「飯田君・・・!」

 

そうあと30秒ほど俺たちは耐えればいい・・・が緑谷が失うものをなくした以上、死に物狂いで捕りに来るだろうな。

いったん飯田に轟を支えてもらいポケットからパチンコ玉を取り出して握っておく。

組みなおした矢先に緑谷が突っ込んできた。しかも左手に個性を発動させながら・・・こっちの手は弾けないな、パワー不足だ。

 

轟が左手でガードするが動揺してるのか炎が漏れてる・・・まずいな。

そのまま左手を振った緑谷の個性のパワーで腕ごとガードを取られるが・・・右手でハチマキをつかもうとしたのを矢指でつぶすと、後ろからダークシャドウが轟の頭のハチマキに手をかけた!くっそこっちはつぶせないぞ!持ち点とられた・・・!!

 

『カウントダウン!5!』

 

ハチマキを取るのを失敗した緑谷が再度突っ込もうとするが下の騎馬の反応が間に合ってない!その隙に俺たちは後退していく。

 

『4・・・3・・・2』

 

追いつかれた!しまった飯田の加速力がない以上小回りはあっちのほうがきく・・・!

 

『1』

緑谷が騎馬から飛び出してくる。一か八か両足の桜花でバックステップをきめ飯田と八百万ごと後ろに飛んで回避する。

『タイムアップだ!』

 

あぶねえ・・・ぎりぎり成功した。とりあえず1000万確保できたしとりあえずは1位通過だな

 

『そいじゃあ予選通過の上位4チームみてみようか!』

 

『1位!轟チーム!」

そりゃそうだ。今回は1位通過だな。

『2位!爆豪チーム!』

爆豪あいつ0Pから全部取り返したのかよ。さすが才能マンだな。

「3位鉄て・・・あれぇ!?いつの間のか心操チーム!』

は?あいつって普通科のやつだよな?どうやったんだ?騎馬の3人は見た感じ前後不覚状態だな・・・どんな個性だ?

「4位!緑谷チームだ!残りの競技は1時間ほど休憩挟んで午後にやるぜ!以上のチームは最終種目の準備をしてくるように!』

あー俺たちって700P超えるからそれだけとっちまえば入れるってわけか。よかったじゃねえか緑谷。というか涙が噴水みたいにでてくるな?一種の個性だろそれ。

 

「1位通過だな。轟、飯田、八百万、感謝するぜ」

「いや!こちらこそだ遠山君!最後のバックステップがなければ危うかった!」

「そうですわ!緑谷さんの攻撃を潰したのもそうですし、助けられてばかりでしたわ」

「ああ・・・」

ん?轟の様子がおかしいな・・・左手を見つめてるし・・・うん、わからん。あ、そのまま歩いて緑谷のとこに行っちまった。いつの間に仲良くなったんだあいつら。

 

 

 まぁそれは後だ。とりあえずかなで拾ってメシ食いにいかねえとな。食堂が混んでえらい目にあっちまう。

「遠山ちゃん」

今日はよく声をかけられる日だな。この声は梅雨か?

 

「おう、どうした?」

「そっちは職員待機所よね?かなでちゃんを迎えに行くのかしら?」

「ああ、そうだが・・・・一緒に来るか?」

「ええ、ついていかせてもらうわ。それにしてもすごかったわね、電気を発生させたのって遠山ちゃんでしょう?」

ほー梅雨は洞察力あるな。あの混戦の中で的確に攻撃の発生源を見極めるなんてな。

「ああ、そうだ。梅雨は峰田と障子と組んでたんだったな?」

「ええ、そうよ。でも峰田ちゃんがいつの間にかハチマキとられて負けてしまったの。悔しいわ」

ポーカーフェイスはそのまんまだがプンプンと怒っているのが伝わってくる。んーよくわかんない感情表現の仕方だな。カエル特有か?

 

 そうこう話してるうちに職員待機所についた。ミッドナイト先生に相手をしてもらってるかなでがこっちに気づいて駆け寄ってくる。

「お兄ちゃん様!1位通過おめでとうございます!かっこよかったです!」

「おーありがとな。いい子にしてたか?」

「いい子もいい子よ。そんなできた子が妹なんていいわね?遠山君」

ミッドナイト先生が話しかけてきた。改めて近くで見るとすさまじい格好だな。心臓に悪い。

「そうでしたか。こちらの事情とはいえ面倒をかけます。すいません」

「気にしないでいいわよ。もともとそれが仕事なんだからね。午後からは応援席に連れてってあげなさい?」

「ええ、ありがとうございました。」

 

かなでを連れて梅雨の元へもどると

「やっほーかなでちゃん!元気?」

「こんにちは、かなでちゃん。午後からよろしくね?」

芦戸が増えてた。どこからわいたんだ?だがかなではうれしかったらしく

「三奈お姉さん!梅雨お姉さん!騎馬戦かっこよかったですよ!」

「あら、ありがとう」「ありがとー!」

「お前ら混む前の食堂行くぞー」

「「「はーい」」」

妙なとこで息ぴったりになるんじゃない。

 

そのまま食堂で食事を済ませると八百万が芦戸と梅雨を持っていっちまった。というか行先に上鳴と峰田がいるのが気にかかるというか・・・絶対ろくなことが起こらんのはこの短い付き合いでわかり切ってるので女子連中の無事を祈っておこう。

 

 

『ヘイ!1-A女子ィ!なんだそのサービスは!?』

嫌な予感が当たった・・・峰田と上鳴に乗せられたらしい女子は応援合戦と勘違いしてチアガール姿で登場したのだ。ちなみに会場は騎馬戦の3倍くらい盛り上がってる。えぇ・・・

 

「わたくしとしたことが・・・・」

そうか、お前が創造で作ったんだな八百万?

結局紆余曲折あって体育祭を楽しむことと峰田と上鳴を制裁することで女子連中の会議は終了した。自業自得だが同情はせん。

 

『まぁいいや!ミッドナイト!トーナメント表をチェケラ!」

 

「ハイ注目!」

ピシィとムチをならしてミッドナイト先生が説明に移る。

「まず本戦は1対1のガチンコバトルよ!ルールは気絶か場外で勝敗が決まるわ!ほかは何でもありだけど、死に至るような攻撃、腕や足といった部位を欠損させるような攻撃は禁止ね!質問がなかったらトーナメント表の発表に移るわ!」

 

殴り合いなのか。去年はたしかスポーツチャンバラだったな。

「あの」

「ん?はい尾白君!」

「俺、棄権します」

・・・は?棄権するっつったのか尾白は?あぁでも普通科の心操とチームを組んでた時様子がおかしかったな。プライドの問題か?

「それなら俺も・・・」

と手を挙げたのはB組のやつだ。こいつも確か心操とチーム組んでたやつだな・・・ふむ、体を操る、あるいは洗脳といった精神系の個性かな?

『判断は主審!頼むぜ!』

 

「二人とも、理由があるなら聞いておくわ」

「はい、俺は騎馬戦の後半からしか記憶がありません。みんなが力を振り絞ってつかんだ順位なのに・・・そこに訳が分からないまま並ぶことなんて・・・俺にはできない・・・」

「僕も同様です。何もしてないものが、上がるのは体育祭の趣旨と違うと思います!」

なるほどな・・・わからない話じゃない。ミッドナイト先生がどう判断するか・・・

 

「そういう青臭い話はねぇ・・・・好きよ!2人の棄権を認めます!」

好みで決めやがった!と俺が驚いてるとB組で話し合いがあったのか5位ではなく6位のチームから繰り上がりが出ることになったらしい。

 

「それじゃあトーナメント表の発表よ!」

と同時についたモニターを見てみると・・・

 

 

緑谷vs心操

轟vs瀬呂

塩崎vs切島

飯田vs発目

鉄哲vs遠山

常闇vs八百万

芦戸vs青山

麗日vs爆豪

と表示されていた。

 

 5試合目か。レクリエーションは出ずにかなでの面倒を見る予定だし体力回復にちょうどいいかもな。麗日がすごい恐怖に染まった顔をしてるが爆豪相手ならしょうがない。

じゃあ、かなでのとこまで戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 




またしばらく投稿できなくなると思いますがきちんと投稿するので見捨てないでくださいお願いします何でもしますから・・・・!!!


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第13弾

ちょっとだけ時間が取れたのでカキカキ・・・
感想で指摘されたので書き方を変えてみました。


 トーナメント表の発表が終わり、俺は応援席まで戻る。ちなみに次はレクリエーションだ。大玉ころがしに切島と口田、障子が引っ張られていった。

 

 俺はかなでのことがなかったら強制徴収されてたらしい。えートーナメント参加者は参加自由って話はどこ行ったんだよ。ちなみに今はチームワークが取れなさ過ぎて口田が玉に轢かれてる。可哀そうに・・・・

 

 「お兄ちゃん様、レクリエーションに出なくてよろしいのですか?」

 

 「あー別にいんだよ。この後全力で殴りあうのに無駄に体力消耗したくないしな。ここで無駄にお前を一人にするのも保護者的にノーだ。いくらクラスのやつらがいるとはいえ何もないとは限らん」

 

 「むぅ・・・そうですか」

 

 どうやらかなでは俺が競技に出るつもりがないのがご不満らしい。陸奥雷土やったりして疲れてるんだから今回は勘弁してくれと思ってると大玉ころがしが終わり、借り物競争に移った。

 

 出るのは瀬呂、峰田、梅雨だ。客席から見てると・・・峰田がすんごい顔してる。そんな無理なもん書いてあったのか?

 

 「遠山ちゃん!かなでちゃん!こっちに来てもらえないかしら?」

 

 ん?梅雨だ。まだチアの格好してるあたり気に入ったのか?呼ばれたってことは俺とかなでが関係してるってことだよなぁ・・・・

 

 「なんだ?」「なんですか?」

 

 「これ見て頂戴」

 

 と開かれたお題の紙には「仲のいい兄妹」と書かれていた。物じゃなくて人借りるのかよ。しかもえらくピンポイントなお題だこと。

 

 「あーわかった。そっち行く。かなで、捕まってろ」

 「はい!」

 

 階段通っていくのは面倒なのでカバンの中からベルトに仕込んでる予備ワイヤーを取り出して手すりに括り付け、そのまま飛び降りてラぺリングで降りる。飛び降りた瞬間のクラスのやつらの顔が面白かったな。

 

 「来たぞ、梅雨」「来ました!」

 

 「あら、ありがとう。でもそんなに急がなくてもよかったのよ?」

 

 「早いほうがいいだろ?」

 

 なんて言いつつ主審のミッドナイト先生のところに行って審査してもらうと、問題なく合格できた。とりあえず梅雨が1位らしい。

 

 「ところでなんでまだチアの格好してるんだ?」

 

 「この後応援合戦があるでしょう?せっかく着たのだからこのまま行こうってお話になったのよ。どうかしら?」

 

 「似合ってるよ。なあかなで?」

 

 「はい!かわいいです!」

 

 「ケロ、うれしいわ」

 

 帰る途中で峰田につかまったんだが、書いてあったお題が「背油」だったため、見捨てることにした。こんなもんここに持ってきてるやつはおらんだろうな。

 

 「薄情者ォォォォ!!!!」という峰田の魂の叫びをあとに応援席に戻ってワイヤーを回収し、観戦に戻った。

 

 

 

 レクリエーションが終わり、今はセメントス先生がステージを作っている。もうすぐガチバトルか・・・なかなか緊張するな。

 

 『ヘイガイズ!結局これだぜガチンコ勝負!1回戦行ってみよーか!』

 

 お、完成したらしい。緑谷と心操か・・・緑谷が俺と特訓したことを出せば勝ちの目は明るいが・・・・どうなることやら

 

 『成績の割に何だその面!ヒーロー科緑谷出久vsいつの間にかそこにいた!普通科心操人使!』

 

 お、出てきたな。さあ頑張ってくれよ緑谷。

 

 『スタート!』

 

 合図とともに動いた緑谷だが心操が何事か話しそれに答えると動きが停止した。なるほどやはり洗脳系の個性だな。

 

 「ああ!せっかく忠告したのに!」と尾白が叫んでる通りおそらくトリガーはやつに反応することだ。このままじゃまずいな。

 

 予想した通り場外に歩かされていく緑谷だが・・・・ぎりぎりでワンフォーオールを暴発させて踏みとどまった。なるほど、一定以上の衝撃で洗脳が解けるのか。

 

 そこからは緑谷が猛攻を仕掛け始めた。まずレバーブローで心操の行動を封じ、右回し上段蹴りがクリーンヒットして心操との距離がいったん離れた。

 

 『おおっと緑谷!暴発させたと思いきや猛攻!レバー入れて顔面蹴りとかなかなかクレイジーだぜ!』

 『誰かの入れ知恵でもうけたのか攻撃の入りと抜きが思ったより綺麗だ。自力だと緑谷に分があるな』

 

 そのまま何事かを叫んでいる心操を無視しつつワンフォーオールを発動させた緑谷の右ストレートが胸に決まり、心操は場外へ、勝者は緑谷になった。

 

 しかし洗脳か・・・もったいねえな。アレ初見殺しもいいとこだぞ。ヘタな個性よりも有効だし、ヒーロー活動においてすさまじいアドバンテージになることは間違いない。あいつは上ってくるな。

 

 

 そのあとの試合は轟が瀬呂を瞬殺、ドンマイコールが沸き上がるほどの悲惨さだった。塩崎と切島は切島の弱点である物量と消耗戦を仕掛けられ切島が負け、俺はそこから控室に行ったからわからねえが、紆余曲折あって飯田が勝ったということは聞いた。

 

 

『第5試合行ってみよー!』

 

 お、出番か。たしか鉄哲だったか?切島と似たような個性のやつだったはずだ。

 

 『鋼の男、切島とダダ被り!ヒーロー科鉄哲徹鐵!vs技のデパート!かわいい妹もちで羨ましいぞ!ヒーロー科遠山キンジ!』

 『マイク、私情を入れるな』

 

 なんか紹介に悪意がないか?まぁいいけどさ。

 

 「遠山っていったか?A組だしよくしんねえけどよぉ。調子くれてるとただじゃ済まねえぞ?」

 

 「安心しろ。全力で叩き潰してやるよ。」

 

 個性を発動させ、ヒスっておく。こいつが大部分切島と同じなら、狙ってくるのは速攻だ。とりあえず分析からスタートだな。

 

 『スタートォォ!!』

 

 始まるとすぐに全身を鈍色に変えた鉄哲が突っ込んできてストレートパンチを打ってくる・・・が俺はそれを特に構えず手のひらでパシッとつかんで止めてやった。

 

 驚愕に目を見開く鉄哲だが、さもあらん。こいつは遠山が誇る防御技「伍絶」のひとつ「絶宮(ぜつぐう)」だ。釘で例えるなら釘を地面に打ち込むのが絶閂、釘を表面で滑らすのが絶宮だ。足元には若干俺が下がった後がついている。

 

 そのまま胸に向かって亜音速の桜花と秋水をぶち込んでやった。ドゴンとそのまま吹っ飛ぶ鉄哲の胸には俺の拳の跡がガッツリついている。なるほど、切島と違って延性があるから衝撃の吸収率が違うんだな。

 

 『おおっと速攻を仕掛けた鉄哲の拳があっさり止められて反撃をもらったぞぉ!しかもえらい威力だな!』

 『すくなくとも近接での徒手戦において遠山はすさまじく強い。自分の長所を押し付けられるかどうかが鉄哲の勝ち目だな』

 

 硬さ自体は切島といい勝負だが、硬いだけなら何とでもなる。今みたいに許容を超えた衝撃をかましてもいいわけだしな。たぶん硬くなってるから締め技とかに持って行くのは無理だ。空気弾の矢指もダメ、あとは金属に衝撃を通したことがないから手加減版羅刹もダメだな。うーん他の技だと殺しかねないのしかないぞ?

 

 「やるじゃねえか遠山・・・効いたぜ」

 

 「予想以上に硬いなお前。腕がつらいぜ」

 

 「それが個性なもんでよぉ」

 

 おそらく攻撃力やスピード、技量は俺が上だ。ただ、耐久力、ウェイトは間違いなく鉄哲だな。ウェイトがあるってのは厄介だ。さっきの桜花で場外まで吹っ飛ばすつもりだったのに3分の1も飛ばなかったしな。

 そうなると・・・気絶まで持ってくしかない。それも持久戦で。よし、秘中の秘だが見せてやろう。「敵に見せるな、見せたら殺せ」なんて伝わってる技だが今更だし許してくれよご先祖様。俺が死んだ後にリンチとかしないでくれよ?

 

 体の真芯、中央に重心を持っていき、両手を開手で構え、足を肩幅に開く。こいつは「絶牢(ぜつろう)」全身を回転扉のように使い、相手の攻撃の威力をそのまま相手に返す、カウンター技だ。さっきの釘のたとえで言うならこれは釘ごと回転するみたいな感じだ。

 

 『おおっとここで遠山が構えたぞ!なんじゃありゃ?解説頼むぜミイラマン!』

 『すまんが俺も初めて見る。だが前に見たのと構えが似てるからおそらく防御系の技だろう』

 

 「さっきのでテメェの拳の威力は大体わかった。こっからは吹っ飛ばねえぞ!」

 

 いうが早いが鉄哲がまた突っ込んできてこんどはラリアットを打ってくる。なるほど、ひっかけてそのまま場外へもっていく気だな?

 

 ラリアットを開手の手のひらで受け、そのまま衝撃を受け取り斜めバック宙気味に回転して、足を桜花で再加速、そのまま鉄哲の後頭部にガスンとぶつけて真下まで降りぬいてやる。鉄哲は顔面からコンクリートの地面に突っ込んだ。

 

 『おおっと遠山カウンター!えぐいのが入ったぞぉ!』

 

 「んの野郎・・・そんなのが効くかよ!」

 

 左のボディフックを絶牢の右手でとりそのまま横回転しつつ左の肘打ちをこめかみにたたきつけてやる。さらに同じ個所に回転を活かした左後ろ回し蹴りをぶち込む。

 

 さすがに短時間で同じ場所に2撃は相当キたらしい。少しふらつきつつもまだ余裕があるようで距離を離したいのか下段の前蹴りを打ってくる。それを膝で受け縦回転し、亜音速まで加速させた踵落としを脳天にうち込んでやる。脳天ばっかに攻撃してるせいで相当揺れてきたみてぇだな。あともう少しだ。

 

 『遠山容赦ねぇぇぇ!なんじゃその技は!?イレイザーお前のクラスのやつらぶっ飛んだのばっかだな!?』

 『ちげえよ。鉄哲はタフさを活かしてるように見えるがその実遠山にあしらわれてる。あいつが攻撃するたびにそれ以上の攻撃が遠山から返ってくるんだ。それこそ遠山に近接戦を仕掛ける意味を理解しちゃいない』

 『あ?そりゃどういう意味だイレイザー?』

 『うちの切島と違って鉄哲には時間制限はねえ・・・けどキャパシティがあるんだよ。金属故のな』

 

 「くっそ・・・めちゃくちゃしやがって・・・金属疲労が・・・!」

 

 起き上がった鉄哲の体にはいくつかのヒビが走っていた。ビンゴだな。延性がある金属でも過度の衝撃にさらされりゃ壊れる。それがいくら人の拳とはいえ俺の体重おおよそ60kgが亜音速でぶつかってくるんだ。1撃が大砲みたいなもんだろう。そろそろ終わらせてやる。

 

 「辛そうだな鉄哲?まだやるか?」

 

 「ったりめえだろ・・・まだやれるんだよ!」

 

 愚問だったか。まだフラついている鉄哲に向かっていき、ギリギリで反応できたらしい鉄哲がアッパーで俺の顎を狙ってきた。

 

  俺は顎ギリギリでスウェーして避け、そのまま鉄哲の腕と胸の服を掴み、1本背負いの体勢に入る。その途中で桜花で補助をかけて鉄哲の重い体を無理やり持ち上げ、重心移動とさらに上半身の桜花で加速をかけ鉄哲を地面にたたきつけてやった。加減抜きでやったせいか投げ終わりで鉄哲の体が音速を超え、衝撃波を発しながらズガァァァンという音ともに地面に小規模のクレーターを作りつつ着弾した。

 

 やっべえやりすぎたか・・・?と鉄哲の様子を確認すると個性は解け気絶していたがそれ以外は問題ないようだった。あきれるくらい頑丈なやつだな。

 

 『第5試合!熾烈な肉弾戦を制したのは・・・遠山キンジだぁぁぁぁ!」

 『鉄哲はもう少し小技を磨いておけば勝てたかもしれねぇな。試合展開はほとんど遠山のカウンターだ。』

 

 わああああああああと沸く会場の中で俺らのクラスの応援席を見つける。その中から手をたたいて喜んでくれてるかなでにグッとガッツポーズを決めてから俺はリングをあとにするのだった。

 

 

 

 

 

 




展開でめちゃめちゃ悩みます。キンちゃんを1位にするか3位くらいの位置で終わらせるか・・・・割かし真面目に爆豪くんも轟くんもキンちゃんに対して相性が良すぎるのでどうしたもんか・・・

とりあえず今度こそしばらく投稿できないかもです


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第14弾

よし、展開を決めました。
頑張って書くことにします。


 試合を終えて観客席まで戻るとかなでとクラスのやつらが歓声で出迎えてくれた。

 

 「すげーな遠山!圧勝じゃねぇか!」

 「俺ぁB組のやつに負けちまったからよ、すかっとしたぜ!」

 「さすがね遠山ちゃん。かっこよかったわ」

 「お兄ちゃん様!素敵でした!」

 

 おうおう口々に褒めてくれてまぁ。うれしいもんだなこういうの。けどまあ本番はこっからだ。もし順調に勝ち進めたら俺とすこぶる相性の悪い爆豪、轟と戦う羽目になる。俺には遠距離戦は銃を使ったもんがメインだからどうにかせんといかん。

 

 だが、殺傷力に目をつぶればいくつか手がないわけじゃない。大和と並ぶ遠山家の秘奥の技の数々だ。その中には昔遊びで庭を掘り返したら出てきた巻物に書かれていた、おそらくやばすぎて封印したのであろう技もある。多分死んだ父さんや兄さんはおろかじいちゃんすら知らない技だろう。なんでか知らんが当時部下だったらしい間宮の忍びの殺法まで解説が乗ってた。遠山家の見取り稽古の賜物かね?

 

 「おう、ありがとな。だがまあ1試合勝っただけだ。次勝たなきゃ「調子に乗るなよA組ぃ!」」

 

 なんか答えてるときに邪魔が入ったな。誰だと声の方向を見ると騎馬戦の時爆豪に突っかかって返り討ちにあったらしいB組の男子だ。たしか・・・物間だったか?が壁から上半身を出しながらこちらに怒鳴っていた。

 

 「別に調子になんてのってねーよ。鉄哲だって強かったしな。ただ今回は俺が勝ったってだけだ。」

 

 「あれあれあれぇ!?優秀なA組さんにしてはずいぶんと消極的だね!?まぁ仕方ないだろうね!妹に調子づいて負けるところなんて見せたくないだろうからねえ!アッハハハハハハ!!!」

 

 なんかコイツやなやつだな。精神的にハイになりすぎだろ・・・と冷めた目で物間を見ているとずいッと隣に出てきたサイドポニーの女子が物間の首筋にあて身を入れて意識を奪っていった。すっげえ鮮やかな手際だ、慣れすぎだろ。

 

 「ごめんなー。えーっと・・・遠山だっけ?コイツちょっとアレなとこがあるし鉄哲が負けたから我慢できなくなったみたいなんだ。代わりに謝るよ」

 

 「あー・・・気にすんな。ついでに鉄哲にもよろしくな。次も負けんって伝えといてくれ。あいつならそれで大体察するだろ」

 

 「はいはいー。男ってホントそういうの好きだよね・・・それじゃまたなA組」

 

 といってその女子は物間を落として引っ込んでいってしまった。うん、なんだったんだか。

 

 

 その後は特に何もなく、常闇、芦戸、そして爆豪が勝ち進んだ。とくに爆豪戦はすごかったな。麗日のがれきを浮かして流星群にするという決死の策もそうだがそれを真正面からぶち壊した爆豪のハイスペックぶりにもだ。それでもなお立ち向かおうとする麗日の根性にも脱帽だ。やっぱうちのクラスはすげえのばっかりだな。

 

 

 

 爆豪戦でぶっ壊れたステージを直し、第2回戦が始まった。緑谷と轟だ。こいつは困ったな・・・緑谷が現在使用できる威力は5%、これは俺の亜音速の桜花のだいたい半分くらいの威力になる。つまり、緑谷は氷を根っこから砕くことができないのだ。轟の氷の強度は俺が桜花と秋草を駆使してやっと当たらない程度に砕くことができるほどの強度がある。それはつまり・・・

 

『さあ第2回戦!モジャヘアーのパワーマン!緑谷出久vs氷結のイケメンクールボーイ!轟焦凍!・・・スタート!!』

 

 轟が瀬呂戦で見せたように開幕特大の氷結を緑谷に向かって放つが、それを緑谷デコピンで粉砕した。慌てて個性を発動させ、緑谷の指を見るとやはり紫色にうっ血してバキバキに折れてやがる。これしか勝ちの目はないと思っていたがまさか本当にやるとはな・・・・制御無視した100%のワンフォーオールを・・・やっちまった以上緑谷の作戦は大体読めた。10本の指が全滅する前に轟の弱点を見つけてそこを突く気だ。

 

『緑谷!開幕の氷結を粉砕!さすがのパワーだな!」』

 

 そこからまた、3回ほど氷結を真正面から砕いたが、なにもわからなかったことに焦った緑谷が判断ミスを犯し、まだ無事だった右腕を氷結に巻き込まれ、それを腕を犠牲にして砕いたせいで手が全滅してしまった。どうする気だ緑谷・・・!場合によっちゃ戦闘不能でジャッジが入ってもおかしくねえぞ!

 

 そこで強化された俺の聴覚が緑谷と轟の会話を拾うことに成功した。

 「なんで本気でやらないんだ・・・!みんな本気でやってる!僕はまだ君に傷一つつけられちゃいないぞ!半分の力で勝つって?僕にまだあてられてないくせに!全力で!かかってこい!」

 

 ここで挑発・・・?いや、違う激励だ。緑谷は本気で炎と氷を使う轟と戦いたいんだ・・・!

 

 その言葉にイラついたらしい轟がもう一度氷結を出すが2回目の自損デコピンで打ち消されてしまった。そんなことしたら腕が動かなくなっちまうぞ!何考えてやがるんだ!

 

 遠距離じゃらちが明かないことを悟った轟が近接を挑もうとするが、思ったより動きが鈍い、体に霜が降りてるし低体温ゆえの鈍化か!なるほど、左の熱を使えば解消できるものなんだろうがそこに目を付けた緑谷は流石だな。

 突っ込んでくるのを予測していた緑谷がまだ2巡目に入ってない右腕で制御したワンフォーオールで腹パンをかまし、また距離が離れた。

 

『ここで今まで無傷だった轟にえぐいのが入ったぞ!さあどうする緑谷!』

 

 

 そこからの近接戦は凄惨だった。押されてるのは轟なのに緑谷の傷ばっかり増えていく。何があいつを突き動かすんだ?おそらく轟にとっては余計なお世話こえて迷惑だろうに。

 

「君の!力じゃないか!」

 

 

 という緑谷の渾身の叫びがステージに響き渡ると同時に轟から爆発的な炎が噴き出し始めた。緑谷がニィっと笑い、顔を引き締める。なるほどな、緑谷は手段は多少強引であるとはいえ轟の闇を取っ払いたかったのか。たぶん体育祭で連れ合ってたのは轟からなんかの宣戦布告と炎を使わない理由を聞いたんだろうな。で、おせっかい焼の緑谷は放っておけなくなったわけだ。だからって自分が死にそうな目にあってまでするもんかね・・・。

 

 

 

 ステージの端と端とで向かい合った二人は、轟は氷結と炎熱を、緑谷は残った手足に全力のワンフォーオールを込めて突っ込み、その攻撃の威力を察したセメントス先生が壁をいくつも出すが焼け石に水だろう。せめて観客席に被害が出ないようにしねえと!

 

「瀬呂!切島!女子守れ!男子は自分でどうにかしろ!」

とだけ叫び瞬時に個性を発動させた2人が女子をまとめ切島が硬化し盾になるのを確認した俺はカバンの中からデザートイーグルを引っ張りだす。と同時に2人の攻撃がぶつかり合い破滅的な衝撃と爆発が起きた。そこで飛んでくるコンクリートや氷の破片を撃って逸らして誰にも当たらない位置に誘導する。

 

 『何今の・・・お前のクラスほんと何なの・・・』

 『冷やされて空気が急激に熱されて膨張したんだ。それより勝敗は?』

 

 「えー・・・と、緑谷君場外!よって轟君3回戦進出!』

 

 負けたか、緑谷。でも、ナイスガッツだったぜ、あの場の誰よりもお前はヒーローだった。

 

 『えーステージ大崩壊のためしばらく補修タイムを設けさせてもらうぜ!今のうちに次のやつらは準備しとけよー!』

 

 「おい、全員無事か?怪我してるやつは?』

 「わたくしたちは大丈夫ですが・・・瀬呂さん切島さんは・・・?」

 「遠山のおかげで猶予ができたからよ、怪我一つねえぜ。でかいのははじいてくれたみてえだしな」

 「3人ともありがとうねー!」

 

 よし、男子含めて全員無事だな。ほかの観客席は警備の人たちが対応したみたいだし問題なさそうだ。緑谷が心配だし控室に行く前に保健室によって行くか。

 

 「ちょっと緑谷が心配だから保健室寄って控室に行くわ。かなでのこと頼んだぜ」

 「では俺も行かせてもらおう。」「私も!」「ケロ、私も行くわ」「おいらも!」

 「ならわたくしがかなでさんを見ておきますわ」

 

 八百万にかなでのことをお願いして保健室まで歩いていく。おそらく緑谷の体・・・足はともかく腕は最低でも手術くらいはいるかもしれん。遠山家の整復術の範囲を超えた、粉砕骨折のレベルに達してるだろうからな。俺が行っても気休めにしかならんが、顔くらいは見ておきたい。

 

 がらりと保健室の扉を開けるとやせた状態のオールマイトがいた。あんたなんで不特定多数が来る場所にほんとの姿で来ちゃってるんだよ・・・!!!

 

「「「緑谷(デク)(くん!)」」」

 でっけえ声を出すんじゃないよ全く。緑谷、意識があるようだな。まぁ・・・よかったよ。

 

 「みんな・・・試合は・・・?」

 「お前らがステージぶっ壊したからしばらく補修だよ。まぁいろいろ言いたいことはあるが、すごかったぜ緑谷。でも戦い方はもう少し考えろよ」

 俺の言葉を皮切りにみんなが口々に言葉を話していく。まぁ心配させた罰だと思って受け入れるんだな。

 

 「ほらほら今から手術するんだから散った散った!特に試合を残してるそこの二人!さっさと控室までいきんしゃい!」

 とリカバリーガールに追い出されてしまった俺は飯田と別れ、控室までの道のりで少しだけ考える。いままでの俺は殺傷力のない遠山の技を好んで使ってきた。いいかえれば手加減をしてるといってもいい。手加減版羅刹や陸奥雷土がそうだし、桜花に至っては超音速を出して使ったのは死柄木くらいだ。・・・けど緑谷の言葉を聞いて俺も火がついちまったらしい。

 

 ここからは、今俺に使えるすべてを使って、1位を奪りいく。そう覚悟を決めるには十分な試合だった。

 

 

 飯田の試合が終わったらしく入場の合図が控室まで届いた。次の相手は常闇か。ダークシャドウの柔軟性、射程距離が厄介だが・・・

 

 『さあ第三試合!攻めも守りも盤石!無敵の個性かダークシャドウ!常闇踏影!vsその実力はいまだ底知れず!初見殺しのフルコース!遠山キンジ!』

 

 「遠山・・・勝たせてもらうぞ」

 「すまんがさっきの試合で火が付いたとこなんでな・・・こっからは加減しねえからな」

 

 「その大言壮語・・・!正してくれよう!」

 

 『1-A両雄並び立つ!・・・スタートぉ!』

 

 「ダークシャドウ!」「アイヨ!」

 

 常闇が早速ダークシャドウを伸ばしてきて攻撃してくるが、俺はその伸びる両手をするりと避け、足の桜花で一足飛びにダークシャドウの懐に入り、バッシィィィ!とその顔を平手で「削り取って」やった。ダークシャドウは「イッギャアアアアア!!!」と叫んで常闇のほうまで吹っ飛んでいく。俺は腕を振るい、ダークシャドウから削り取った闇を地面に捨てると闇はスッと消えていった。

 

 『おおっと遠山ァ!また新技だ!しかもえぐい!人体にあてたらどうなるんだアレ!?』

 『おそらくダークシャドウと同じように当たった場所がえぐられるだろう。だが欠損を起こすレベルじゃない。ルール上はグレーだが・・・使っても問題はない』

 

 今の技は「熊削(くまそ)」スコップのようにした平手を相手のどこかにあて、肉ごと削り取るえぐい技だ。自然治癒に任せると派手な跡が残るので割と有名な技だったりする。

 

 「ダークシャドウ・・・!?遠山、お前・・・!」

 これで常闇には俺に個性を近づけるとどうなるかが強く刷り込まれた。こっからの心理戦でうまいことプレッシャーをかけてやる。

 

 「なぁ常闇、お前入学直後に俺の家について話したこと、覚えてるか?」

 

 「・・・覚えている。たしか元をたどると武家の出身と・・・」

 

 「そうだ。お前はダークシャドウと自分で2対1の数的有利を取ったつもりでいるみたいだが・・・戦の時に多対一なんて当たり前なんだよ。たかが2対1で、俺に勝てると思うのか・・・?」

 「・・・っ」

 

 

 ジッーーーー!!!とクラスのやつらの前では開放するつもりなかった殺気・・・いうなれば気当たりを全力でぶつけてやる。今、常闇には俺が何倍にも大きく見えてることだろう。心が負けたら全部負けるっていうが、ここで平静さを失わせれば楽に勝てる。いつもいつも本気でやってたら決勝戦で体力がありませんなんて笑えない事態になりかねん。

 

「・・・・はっ・・・っく・・・」

 

 見れば常闇には過呼吸の症状が現れだしてる。さすがにこれ以上やるのはかわいそうだ。殺気を抑え、ジッと常闇の目を見つめてやると常闇は焦ったのかダークシャドウと同時に突っ込んできた。

 

 左右ほぼ同時かかってくるが、危険性が高いのはもちろんダークシャドウだ。そして、ダークシャドウは常闇と「つながっている」。

 

 ダークシャドウの両爪のふりおろしと常闇の右フックを同時に対処する。まず常闇のフックの手を絶宮で受け、そのまま小手返しの要領で投げ飛ばし、そのまま個性の制御が緩んだのか動揺が見え、ふりおろしにためらいを見せたダークシャドウの隙をついで秋水と桜花の蹴りとどてっぱらにぶちかましてやる。ぶっ飛んだダークシャドウごと繋がってる常闇も一緒に飛び、ぎりぎりで場外へ飛ぶことは防いだみたいだな。ダークシャドウは外に出ちまってるけど。

 

 

 『遠山!やべえ!なんか前の試合よりもえぐさとか容赦のなさとかあがってねえか?』

 『おそらく緑谷の試合を見て考えを改めたんだろうな。今まで相手に合わせたカウンターしかしてこなかった遠山が、自分のペースに相手を引きずり込んでいる。おそらくもっとえぐい技もあるだろうし使用もためらわないだろうな。常闇は平静を取り戻さないと5分にすら持っていけないぞ』

 

 

 常闇の目はまだ死んでない。まだ活路があると信じている目だ。

 

 ふむ、拘束してもダークシャドウがいるから意味なし、むしろ俺の両手がふさがる分不利になるまである。締め技、寝技等も同様。なら狙うのは場外だ。さっきのでダークシャドウがぶっ飛ばされれば一定距離・・・おおよそ10mほどで常闇も吹っ飛んでいった。つまり射程距離がそこということだ。さっきよりも強い衝撃を当てられればいい。

 

 だが、さっきの亜音速の桜花と秋水の蹴りを耐えられた時点で最低でも超音速の速さか、大和のようなそれ以上の重さがいる。ここで自損するのは得策じゃない。つまり、狙うのは「無寸勁である秋水を使った0距離でのマッハ2以上」の攻撃だ。まず常闇の足を止める。

 

 「常闇、まだやるか?勝ち筋はあるか?」

 いらだったふりをしてつま先でトン・・・トン・・・と秋水で陸奥の準備をする。急げ、看破される前に。

 

 「当然だ。・・・それにその攻撃は騎馬戦でみた。時間がかかるのだろう?その前に!いけ!ダークシャドウ!」

 

 かかった!常闇は陸奥雷土だと勘違いしてるみたいだが俺が今やってるのは「陸奥轟酔」だ。こいつは脳に直接揺れを送るため集中力はいれど発動間隔は陸奥雷土よりさらに早い。つまり・・・もう発動できるってわけだ!

 

 俺もダークシャドウに向けて突っ込む際に同時にドカン!桜花の踏みつけで陸奥轟酔を発動させる。いきなり脳に微震を叩き込まれた常闇がいきなりぐらりと体が傾いたのを感じ取ったダークシャドウがよそ見をしたのを利用し、懐に入って右拳をダークシャドウにあてる。

 

 俺の桜花は今現在、関節が4つあれば大体音速まで行く、ならば関節を倍に増やせば理論上マッハ2まで行くはずだ。右足のつま先、足首、膝、股関節でまずマッハ1を作り、さらに腰、右肩、右肘、右手首に速度をパスして加速させ、マッハ2を作ることに成功した。そのまま残りの体で体重移動をこなし、秋水でぶち込む!

 

(二倍桜花!)

 

 常闇がダークシャドウごと吹き飛んだ後に・・・キュドムッ!!という音が遅れて聞こえた。放物線を描いて吹き飛んだダークシャドウが壁にめり込み、常闇はショック吸収用の芝生の上にドンと背中から落ちた。我ながらすさまじくひどいことをした気がするが・・・・大丈夫か?あとで謝っておかねえと。

 

 

 『常闇君場外!遠山君3回戦進出!』

 

 『強い!遠山が2対1の勝負を制し、勝利だ!最後の攻撃とかどうやったんだ!?お前ほんとに神経系の増強系か!?』

 『常闇はダークシャドウの耐久性をもっと活かせばよかったな。遠山の攻撃で痛みは訴えても本人にダメージないんだから。あとフィジカルだ。途中のダークシャドウとの同時攻撃が甘い。以上を一緒に伸ばしていこう』

 

 予想外に常闇が強かった。ダークシャドウの耐久性もそうだが、ダークシャドウ自体にはダメージはないんだな。いくら殴ってもピンピンして攻撃してきたし、過剰な威力が必要だったせいで常闇本人にあてちゃいけない威力になっちまった。当てたらルール違反超えて犯罪者になるレベルの威力でした倒せねえとかこっちが反則っていいたいわ・・・

 

 ・・・結局全力になっちまったし、次勝てたとしてあと2戦もつか・・・?と考えつつ控室に戻るのだった。

 

 

 

 

 




一応キンちゃんの覚悟完了回みたいな扱いです。遠山家の技って戦争の時の技のせいか殺傷性高すぎて加減して打てる技が少ないと思います。

よし、次からもよろしくお願いします


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第15弾

なんか最近キンジ物の小説増えてきてイイゾーこれ
もっとみんな書こう!


 常闇との試合を終えた俺は控室に戻り、次の試合に備える。この控室誰もいないのはいいんだがモニターとかがねえのがあれだな。芦戸には申し訳ねえけど爆豪が勝つだろうから対策たてたいんだけどな・・・

 

 まず爆豪は個性の威力、スタミナ、反応速度、センスもろもろが突出してる。そして俺と違って攻撃範囲もとても広いうえ個性の応用力も高いな。うん、弱点どこだよ。

 

 今までの俺の試合を観察している爆豪からすれば、俺との接近戦は避けるはずだ。つまり、遠距離からの最大威力のぶっぱで俺を場外にたたき出そうとするはず・・・・あいつなんだかんだ細かいところみてるしマメなんだよなぁ・・・・

 

 幸い遠山家には衝撃波等への防御技がある。俺自身のオリジナル技にも有効半径は小さいが衝撃波で攻撃する技も開発済みだ。遠距離戦なら千日手に持ち込める。

 

 「俺には遠距離での決定力がないんだよなぁ・・・・」

 

 機動力と並ぶ俺の最大の課題の一つだ。俺は馬戦駆があるとはいえ飯田のほうが純粋な足の速さでは早い。爆豪のように空を飛べるわけでも、轟のように道を作れるわけでもない。反応速度とかだったら誰にも負ける気がしないんだけどなあ。

 

 まあ、当たって砕けろだな!もちろん砕くのは爆豪だ。あいつなら今までの技くらいだったら普通に対応してくるだろうし初見技で攻めていこう。

 

 

 

 『さあ行ってみようぜ準々決勝!もう紹介はいいよな!爆豪勝己vs遠山キンジだ!』

 

 控室からステージに上がっていくと、それはとても素晴らしく凶悪な顔をした爆豪がいらっしゃった。うっわ帰りたくなってきた・・・・。

 

 「よぉ根暗野郎ォ・・・てめえとは1度はっきり白黒つけたかったんだよ」

 

 「誰が根暗だ爆発さん太郎。「ア"ア"ァ"!?」もう少し心にゆとりもてよ。いちいちキレてたら血管もたねえぞ?小魚でも食っとけ」

 

 「余計なお世話だこのクソカス!てめえぶち殺して、俺は半分野郎殺しに行くんだよ!せいぜいあがくことだな」

 

 首を切るジェスチャーをして爆豪は所定の位置まで下がっていった。俺もそれに合わせて下がり、個性とヒステリアモードに入ってから所定の位置につく。爆豪と話してわかったが若干汗かいてたな。つまりウォーミングアップで個性をフルスロットルで使えるよう調整してきたってことか。

 

 『スタートォォ!!!』

 

 合図と同時に爆豪が両手をこちらに向けて「死ねぇ!!!」という物騒な声とともに麗日の時に見せた最大爆破を両手でかましてきた。

 

 俺は瞬時に集中をし、ヒステリアモードが見せるウルトラスローの中で最も自分に接触するのが早い衝撃波の末端部分に右手を掠るような軌道で亜音速で振るい、衝撃波に接触した瞬間加速させ、超音速にする。その際発生した衝撃波が爆破の衝撃波を相殺し、俺一人だけくぐれるような安全圏が発生、そこに潜り込んで難を逃れた。

 

 こいつは遠山家の防御技「扇覇(せんぱ)」だ。鉄はう等の爆発物が爆発した際の衝撃波から体を守るために作られたそうだ。タイミングミスると防御するはずの衝撃波と音速の衝撃波を両方もろに食らう繊細な技でもあるんだけどな。

  

 

 『爆豪開幕の爆破ァァァ!おいおいもしかしてこれ終わっちまったんじゃねえのか?ジャッジ、どうなってる?』

 『どこ見てんだよマイク。まだそこで立ってるぞ』

 

 

 「・・・てめえ何しやがった根暗野郎」

 「さあな。遠すぎて威力減ってたんじゃないか?」

 

 その場から少しずれた位置で無傷で立つ俺に爆豪が問いかけてくる。それに軽口で返しておきながらどう接近戦に持ち込むかをヒステリアモードの脳みそをフル回転させて考える。俺から近づいたら爆豪は警戒して距離を詰めない、近づいてもらうしかないな。

 

 『遠山生還!何しやがったお前!もはや何でもありか!?』

 

 何でもは出来ねえよ。人間に可能な動きなら大概できる自信はあるけどな。

 

 「・・・・上等だオラァ!」

 

 さっきと同じように爆破を放ってくるが連打だ。威力はさっきより劣るため、防御するのは簡単だ。タイミングだけ集中すりゃいい。

 

 俺は扇覇を連打で用い、防御していく。控室で予想した通り千日手だ。そして俺がカウンター戦法を好む最大の理由が爆豪に現れだした。

 

 「・・・チッてめえバケモンかよ」

 「お前にゃ言われたくないよ。攻撃の威力だけならよっぽど俺より高いくせに」

 

 「攻め疲れ」だ。爆豪はいったん爆破をやめ、息を整えだした。守るよりも攻めるほうが3倍くらい疲れるからな。こっからだ。意表をついてイニシアチブをとる!

 

 俺は右手で矢指、左手で扇覇、さらに体幹をつかって桜花を同時に使う。体幹の桜花を右腕にパスし、扇覇で防御できる最大速、マッハ1.5を作り、さらに腕をひねり円錐型衝撃波の頂角を絞ると同時に指の桜花で亜音速で射出した矢指の威力を上げる。発生した衝撃波は扇覇で防御し、俺自身は無傷となる。こいつは「扇貫(せんがん)」と呼ばれる遠山家の遠距離技だ。本来なら片手ですべてやるのだが俺は技量不足で両手を使わないとできない。

 

 爆豪は反応自体は出来たようだがさすがにマッハで迫る衝撃波を見てよけることはできなかったようだ。ドォン!!!という音とともに胸に炸裂した扇貫に吹っ飛ばされていったがやはりダメージが浅く空中で両手の爆破による制動を活かしてとどまった。ケッどっちがバケモンだか。

 

 『なんだ今のは!?爆豪が吹っ飛んでいったぞ!?』

 『爆豪の爆破の煙で軌跡が見えたが衝撃波だ。しかも半円形で飛ばすんじゃなくて一直線に飛ばしやがった。その分威力は高いぞ』

 『俺のサポートアイテムみたいなことを素でやったってのか!コイツ技量だけならほんとプロ級だな!』

 

 

 「・・ハッ効いてねえよ!」

 

 だろうな。当たる瞬間に後ろに飛んで衝撃波に押されるように避けやがった。威力は半減してる。でもこれで爆豪には俺には爆破を避けて遠距離に攻撃を当てる手段があることが刷り込まれた。爆豪の性格上チマチマした遠距離戦よりも近距離での殴りあいが好みだろう。俺から仕掛けてやる。

 

 爆豪に向かってヒステリアモードのロケットスタートを決めて真っすぐ突っ込む、勿論爆豪は反応して片手をこっちに向けて迎撃の構えをとる。俺は爆豪の手のひらを観察し、爆破の予備動作を見極める。さっきの連続爆破の際に見たそれは、開いた手のひらに若干力を込めるのがそうだ。分泌した爆発する汗に若干の衝撃を与えて起爆するってことだな。

 

 爆豪が爆破の予備動作に入った瞬間に、足の桜花で斜めに跳んで予想されるであろう爆発半径から逃れる。キャンセルが効かなかった爆豪の爆破が俺の左すれすれを通っていくが、俺はさらに桜花を用い加速して爆豪の後頭部に対して跳び上段蹴りを叩き込んでやった。瞬間、跳んだ俺の下から爆発が起き、空中にいたせいで踏ん張りがきかなかった俺に直撃し、俺も吹っ飛んでしまった。

 

空中で爆豪のほうを見ると蹴られたままの体勢で迎撃に使った手とは別の手を後ろ手に回して爆破したようだ。なるほど防御するんじゃなくて攻撃を取ったのか。

 

 

 「・・・クソが・・・てめえ遠慮なく蹴りやがって」

 「人のこと言えるかよ。背中がめちゃくちゃ痛えわ」

 「ハッざまあみやがれ」

 

 受け身をとって着地した俺を睨んで文句を言ってくるがお互い様なので言い返してやると中指を立てるジェスチャー付きで返された。ほんとコイツヒーロー志望かよ。

 

 

 「そろそろ死んどけや!」

 

 爆豪が爆破で空を飛んで突っ込んでくる。おそらく扇覇で防がれるのを警戒してなのか至近距離での爆破を連打してくる。俺は体や頭といった致命的な部位への直撃を防ぐため腕を差し込むが衝撃を殺しきれない。

 

 

 

 どうすると考えた瞬間、俺によぎったのは先ほどの扇貫を避けた爆豪の動きだ。直撃の瞬間に衝撃波と同じ速度で腕を引いて減速防御する。つまり攻撃のための桜花を逆方向に放つとうまいこと防御に成功し始めた。便利だなこれ・・・そうだな「橘花」と名付けよう。

 

 

 

 

 

 「っ!?テメェ・・・!」

 

 「どうした?攻めの手が落ちてるぞ?」

 

 

 

 俺が対応しつつあるのに気づいた爆豪が焦りからか攻め手が大降りになってきた。そうすると爆豪は両手を俺の目の前にかざして爆破の準備をし始める。パチパチと火花が散り始め、爆豪が予備動作に入る

 

 「閃光(スタン)・・・グレネーっ!!??」

 「おせぇ!」

 

 予備動作に入った瞬間俺はその両手を掴み外側に逸らす。そうすると両手が必要な技だったのか微妙な威力の爆発がおき、技が不発に終わった。そのまま俺は拘束した腕を引っ張り、両手がふさがっているので遠山家の最終兵器「頭突き」をかましてやる。ゴツッという音が響き、爆豪が痛みに一瞬目をつぶった瞬間ーー!

 

 「羅刹っ!!!」

 

 ドムンッ!と胸に向かって羅刹を打ち込んでやる。今回は心臓は止めないが両肺とも止めてやった。勝負ありだ。

 

 

 

 

 

 前に倒れこんだ爆豪を場外に出そうと爆豪に手をかけるとBOOOOOM!!!という爆音が響き爆豪の呼吸が戻った。おいおい冗談だろ?こいつ・・・・爆発で除細動しやがった!

 

 

 「やってくれたなぁ遠山ァ!死ぬかと思ったわこのクソカス!」

 

 「やっと名前覚えたか爆豪!それを簡単に抜け出しやがって!」

 

 「うるせえ!コイツで決着だ!」

 

 

 爆豪が爆発で天高く舞い上がり、両手の爆発で高速回転し始めた。必殺技ってやつか、じゃあ俺もオリジナル技で対抗してやる。こいつは扇貫からヒントを得た技で、あえて円錐型衝撃波の頂角を絞らず、広範囲攻撃に転用した技だ。もちろんあの爆豪の様子を見る限り通常の威力じゃダメだ。常闇戦で成功したマッハ2の桜花、それを全身で行い、威力に転用する。この際防御できずに若干自損しても問題ねえ。とりあえずは威力を求めろ!あとのことは起こってから何とかするんだ!

 

 

 片足でマッハ1づつ、腰、背中、脊椎、胸骨肋骨の不随意筋まで動かしてマッハ4、片手づつでマッハ1、総計マッハ8の衝撃波だ!それを全部相殺に使う!タイミングを見逃すな!全身の感覚を研ぎ澄ませ!

 

 

 「榴弾砲(ハウザー)・・・・着弾(インパクト)ォ!!!」

 

 

 「炸覇(さくは)ァッ!!!」

 

 

 爆豪が放つ今までの数倍規模の爆発の衝撃波をウルトラスローの中でタイミングを見計らって迎撃する。放ったマッハ8の衝撃波が威力を相殺するのと同時に俺の両手に無数の亀裂が走った。自損だ。そこから血が噴き出すが無視し、ヒステリアモードの視覚で爆豪を見つけ、その着地点に向かって足の桜花で駆け寄る。

 

 爆豪の爆発の煙で視界が悪い中、着地を決めようという爆豪と目が合う。慌てて迎撃に入る爆豪だがもう俺の攻撃の準備は終わっている。

 

 

 「クソがぁ!!」

 

 

 破れかぶれになった爆豪がギリギリ動かせた手で爆破をしてくるがそれに突っ込み、傷つきながらも全身の筋骨をつかって右拳に速度を集める。パァァァァァンという音とともに円錐型衝撃波の尾と腕から噴き出す血桜を飛ばしながら拳を爆豪に向かって振りぬき、殴り飛ばす。

 

 

 さすがの爆豪でもあの大技の後に空を飛ぶ規模の細やかな調整をした爆破は使えなかったらしい。ふっとんでそのまま場外に落ちた。・・・・なんとか、勝てたな。ボロボロだけど。

 

 

 「爆豪君場外!よって遠山君決勝戦進出!」

 

 『血まみれの死闘を制したのは遠山だぁ!この大会1番熱かったぜ!二人のヒーローの卵に惜しみない拍手を頼む!』

 

 歓声と拍手が降り注ぐ中、俺はリカバリーガールの保健室まで足を進めるのだった。クソいてえからさっさと治したい。

 

 

 

 「とーやまくーーん!」

 保健室に行くかたわら聞き覚えのある声が聞こえたのでそっちを振り向くと、葉隠だ。なんだわざわざ来たのか?

 

 「よう葉隠。何とか勝てたぜ」

 

 「うん!おめでとう!って言いたいんだけど・・・ボロボロすぎだよぉ!かなでちゃんなんか気絶しちゃったんだよ!?今ヤオモモとみんなで介抱してるから私だけ抜けてきちゃった!」

 

 やっべーかなでが見てること忘れてた・・・あとでご機嫌とっとかねえと

 

 「あーそりゃ悪いことしたな。そいでなんか用か?とりあえず保健室にいきたいんだが」

 

 「あ、ごめんごめん!そんなボロボロだから付き添いに来たんだよー!一緒に行こ!」

 

 「おーそうか。わざわざ悪いな」

 

 そのまま保健室に行き、リカバリーガールの診察を受ける。なんでも治癒自体はできるが相当体力を持っていかれるそうだ。とりあえず俺は腕の自損の部分だけ治癒を頼み、爆豪の爆破を受けたりした全身のやけどと擦り傷はそのままにすることにした。

 

 保健室をあとにした俺は、控室に向かうが葉隠がギリギリまで付き添うといったのでまぁいいかと許可を出した。葉隠は話してて飽きない。コロコロと変わる感情や話し好きな性格、あと話がうまいのもあるかもしれないな。

 

 

 「ねー遠山君!次って轟君とだよね?なにか作戦とかあるの?」

 

 「あるっちゃあるが・・・秘密だ」

 

 轟かぁ・・・氷だったらまだ何とかできるけど炎とかだったら炸覇を連発するとかしか思いつかん。とりあえず出たとこ勝負だ。

 

 「ぶー・・・遠山君っていつもそればっかりじゃん!もうちょっと素直じゃないとモテないぞー!」

 

 「そりゃあ悪かったな。何分秘密の多い身でね、もっと仲良くなったら明かしてやるかもな?」

 

 すくなくともモテたいとは今のとこ思ってないな。このヒステリアモードという便利だが困った体質を打ち明けられる女子なんてそうそういないだろうしな。

 

 そうしてとりとめのない会話を続けていると合図が入った。決勝戦だ。

 

 「合図入ったしいくわ。付き添いありがとな、葉隠」

 

 「ううん。いいよいいよー!あ、その前にちょっとこっち向いて?」

 

 「なんだ?」

 

 振り向いた瞬間葉隠が近づいて抱き着いてきた。むんにゅりとした女子特有の感触に泡吹いていると

 

 「お、おまじない!」

 

 といった葉隠がチュッ・・・と俺の頬にキスをしてきた。余計に訳が分からなくて慌ててる俺に

 

 「頑張ってね!」

 と若干裏返った声で言った葉隠が手で顔を隠しながら走り去っていってしまった。

 

 今日何度も個性でヒスってたせいか若干タガが緩んできたらしい俺の血流が、熱く熱く体中に回っていくのを感じながら俺は葉隠が消えていったほうを見つめるのだった。

 

 

 




1話からうすうす感づいてる方が多いと思いますが私はヒロアカの女子キャラで葉隠ちゃんが一番好きです。

つまりそういうことだ!!!


これからもよろしくお願いします。


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第16弾

体育祭編、終了です。書きたい場面を書き切ったので失踪します(予定調和)


 ・・・葉隠にキスされた。頬だったけど。・・・意図がわからん。が、俺の体は理解したらしく個性で発動させるものとは別の天然ものヒステリアモードに入った。こう言ったらなんだが、ついてるな。今までは個性と合わせて30倍の倍率で戦ってきたが今からは45倍だ。そして相手は「男」だ。ヒステリアモードのフルスペックで戦えるってことは使用を見送ってた技も存分に使えるようになる。

 

 ただでさえ不利だった轟戦だったけどちょっと希望の目が見えてきたぞ。と思いながらステージにたどり着く。すでに轟が待機していたが、なんか表情が曇ってるな。あれか、緑谷にかき乱された感情にまだ整理がついてないんだな?あえて発破をかけるようなことはしねえが、その状態で俺に勝てるなんて思わせないようにしてやらねえと。

 

 

 『両雄並び立つ!雄英体育祭のメイン!決勝戦だ!轟焦凍vs遠山キンジだぁぁぁぁ!!!』

 

 

 客の歓声が響く中俺は轟に対して問いかける。

 

 「轟、お前迷ってるのか?緑谷の言葉で炎を使ったことを悔いてるのか?」

 

 「・・・わからねえ。あいつの言葉も、あいつに言われて自分が課したことを忘れたのも。どうして忘れることができたのかも」

 

 「・・・お前がどう戦おうとお前の自由だ。けどまぁ・・・緑谷じゃねえけど言わせてもらうぜ」

 

 互いに所定の位置に移動しつつ言葉を交わす。こいつが何を思って炎をかたくなに封印し続けてるのかは俺にはわからん。けど半分の力でやっていけるほどヒーローという職業は甘くねえ。この戦いでこいつのガチガチに固まった殻にひびを入れる程度のことはしてやる。

 

 

 『泣いても笑ってもこれが最後!両人全力で頼むぜ!では・・・スタートォォ!!!』

 

 

 スタートの瞬間、轟が氷結を放ってくる。瀬呂の時に見せた特大の氷結じゃなくて速攻重視の規模は小さいが速度が速い氷結だ。俺はそれを目視してから、昔掘り返した巻物から学んだ間宮の殺法を使うことに決めた。

 

 全身の生体パルスを体内で増幅し、右腕へ。さらに右腕を亜音速でひねることによって強烈なジャイロ効果を発生させ生体パルスをさらに増幅、それを目の前の氷に向かって叩き込む!

 

 氷は粉々に砕け散り、そこからのぞいた轟に向かって挑発してやる。

 

 「半分の力で勝てるほど俺は弱かねえぞ!全力でこい!」

 

 「・・・・っ!」

 

 緑谷と同じ言葉を言われたことに動揺を見せた轟がさらに氷結を繰り出してくるが俺も同じようにさっきの技で相殺していく。こいつは間宮という忍の家系に伝わる技「鷹捲(たかまくり)」だ。体内の生体パルスを増幅、振動に変換し、相手にぶち込む技で、受けた相手は見た目傷一つつかないが、体内が振動でぐちゃぐちゃに破壊され、死に至る忍者らしい暗殺技だ。ご先祖様が盗んだこの技も完璧じゃなく、間宮の人間が使えば体内のみに作用させることができるんだろうが、俺たちが使うとなぜか受けた相手が爆散しちまうようになっちまったらしい。

 

 静かな暗殺技じゃなく派手な対物破壊技に変わっちまった鷹捲だが、今回に至っては好都合だ。こうやって轟の氷結を完全にメタることができるんだからな。

 

 

 まだ煮え切らない様子の轟に対して俺は衝撃波のレーザーを撃ち込む扇貫を放つ。爆豪ほどの反応速度はなかったらしい轟が扇貫に吹き飛ばされつつも背後に氷の壁を作ってこれ以上吹き飛ばされないようして踏みとどまった。

 

 

 「お前の目の前にいるのは誰だよ!緑谷でもお前の憎いやつでもなく、俺だろうが!お前どこ見て戦ってるんだよ!」

 

 俺がこんなに戦闘中に声をこんなに上げるなんて珍しいが理由がある。轟を見てて思ったがこいつは戦ってても俺を見ちゃいない。どこか遠く、それでいて近い誰かを見てるような目をしてるんだ。俺はそれが気に食わねえ。

 

 爆豪じゃないが、「よそ見しててもお前には勝てる」なんて言われてるようで腹が立つんだよ!ここまで戦ったやつは爆豪であっても対戦相手をみて戦ってた。轟だけだ、ここじゃなくて別の場所を見てるやつはな。

 

 俺はそのまま足の桜花を連続で用いて今までの試合より数段早く轟に向かって近づいていく。轟は近づかれるのが嫌なのか、氷の壁を前に張って防御の構えだ。

 

 俺はそれを遠山が独自に発展させた鷹捲の応用技で切り裂いてやる。こいつは「夜鷹(よだか)」打ち込むことで拡散する生体パルスの振動を、撃ち込んだ場所だけに集中し、一時的に手刀で斬撃を撃てるようにする技だ。氷の壁の向こうに立っていた轟に対して、左ストレートを胸に、よろめいたところに右後ろ回し蹴りをきめて吹き飛ばしてやる。さっさと目をこっちに向けろ!

 

 『遠山、猛攻ーー!今までストレート勝ちを収めてきた轟を圧倒してるぞ!』

 『轟は個性が強いゆえに攻め方がワンパターンで大雑把だ。氷結を遠山がここまでメタれるのは予想外だが、懐に入っちまえば遠山に圧倒的な分がある。さらに緑谷戦以降、あいつは調子を崩してるのに対し、遠山は覚悟を決めて臨んでる。この意識の差はでかいぞ』

 

 

 「なぁ轟。お前オールマイトの最初の授業、覚えてるか?」

 離れた場所で起き上がった轟に向かって問うてやると

 「・・・俺が負けた」

 

 「そうだな。その時お前、俺に向かってなんて言ったよ」

 

 「・・・次は負けねぇって」

 

 覚えてんじゃねえか。今のお前よりそう言ってたお前のほうが強かったぞ?

 

 「わかってるじゃねえか。次が今来てるんだろうが!負けねぇって言ったのはお前だろ!勝ちに来いよ!」

 

 言いながら突っ込む。轟が氷結を連打してくるがすべて鷹捲で砕き、さらに鷹捲の応用技、地面に増幅した生体パルスの振動を撃ち込んで相手を攻撃する「跳鷹(はねだか)」で氷結をしてる轟の右足付近の地面を壊し、バランスを崩させたところで集草をあてて飛ばしてやる。

 

 

 「お前が今まで負かしてきた相手の想いを託されて今お前はここに立ってるんだろうが!これ以上うじうじやってんならもう容赦しねえぞ!勝つためにここに立ってるんじゃねえなら邪魔なんだよ!今すぐステージおりて飯田にバトンタッチしてこい!」

 

 「っ・・・うるせえ!!」

 

 さすがにキレたらしい轟が瀬呂戦で見せた最大氷結を放ってくる。これは流石に鷹捲じゃどうにもならん。だから巻物に書かれてた大和と並ぶ、あるいはそれ以上の威力をもつ遠山家の封印技を使う。

 

 この技を使うには「絶」「絶閂」「秋水」「大和」「鷹捲」の計5つの技の習得を前提にしてる。この技を使ってご先祖様は山の一部を崩したことから別名を「岳崩(がくほう)」という。迫りくる氷壁を前にまず鷹捲を準備し、拳を氷壁に触れた瞬間絶で受け止め、大和で重さを借り、秋水で鷹捲とともに打ち込み、反動を絶閂で無理やり地面に流すとともに自身を支えるストッパーにする。

 

 

 遠山家の奥義4つと間宮の奥義、計5つの()()使()()を行うこの技はーーーー!!!

 

 「鷹爪狼牙(ようそうろうが)ッ!!!」

 

 バキィィィ!!と派手な音がして氷壁が()()()砕け散る。鷹を冠した間宮の技、そしてそれに並ぶ遠山の技を狼にたとえたこの技は、あまりに危険すぎるが故に封印された。俺の大和がまだ未熟がゆえに氷壁が砕ける威力しか出てないが、本来なら轟にも攻撃が届いている。今回は自損してねぇな。大和の借りる重さをだいぶ控えたからだと思うが。

 

 

 『遠山ぁ!轟の大氷結を完封!正直今何をしたのかわからん!』

 『いくらかは見たことがある動きだが・・・どうやったかは知らんがいくつかの技を全部同時に使ったな?個性ゆえのすさまじい器用さだ」

 

 

 「ここまでやってまだわからねえか?別に左を使えって言ってるんじゃねえ。目の前の相手を見ろっつってんだよ。それでもそのままなら・・・」

 

 

 

 

 

「負けるな!がんばれ!!!」

 

 

 響いたのは緑谷の声だ。あーあこれじゃ俺が悪者みてえじゃねえかよまったく・・・・

 

 「ほら、応援されてるぞヒーロー。声援には答えてやれよ。俺たちはヒーローになるためにここにいるんだぜ?」

 

 「遠山・・・緑谷・・・・」

 

 やっとこっち向いたな?まだ迷ってるが、それでもさっきよりゃ100倍マシだよ。

 

 

 「いい加減長くなってきたし、次で決めるぞ。お前の体もそろそろ限界だろ?」

 

 「すまねえ遠山・・・俺は・・・」

 

 「いいんだよ。結局俺はお前の殻を破れなかった。礼を言うなら緑谷に言うんだな」

 

 「・・・そうか」

 

 

 仕切り直した俺と轟が向かい合い、一瞬の間の後に同時に動き出す。轟は氷結をいくつも波のようにだし、俺はそれを鷹捲と桜花、秋水を使い分けつつ砕き、いなし、割りながら轟に近づいていく。

 

 最後の氷壁を割って轟が見えた瞬間、轟から炎が噴き出した。使う覚悟を決めたのか?それでもいい、もし使ってきても腕一本犠牲にして殴り飛ばしてやると右手で超音速の桜花を準備し、左手を前に出して炎への盾にする。破れかぶれで一応扇覇の準備をしておく。

 

 

 俺の桜花の準備が終わり、円錐型衝撃波が尾を引き始めた瞬間、轟の顔に迷いがよぎり、フッと炎が消えてしまった。その代わりに轟の前面と後ろあたりに氷結が発生して盾と吹き飛ばし防止を兼ねた防壁が出来上がったが、構うもんかよ!

 

 俺は最後の踏み込みでやればできた足の跳鷹で後ろの氷を破壊し、全面の氷ごと円錐型衝撃波と血しぶきの桜が舞う桜花でぶん殴る。砕かれた氷と俺の血で赤いダイヤモンドダストが舞う中轟は真後ろに吹っ飛び、場外に落ちた。俺の勝ちだ。・・・ハァ・・・凍傷と自損で腕がクソいてえ・・・

 

 

 「轟君場外!よって優勝者は・・・遠山キンジ君!」

 

 『ガチンコバトル決勝戦!実力者同士のぶつかり合いを制したのは遠山だぁ!!この後表彰式に移るからさっさとリカバリーガールのとこ行って怪我なおしてもらってこい!』

 

 わぁぁぁぁと今まで一番の歓声が響く中俺は轟に近づいて怪我をしてない左手を差し出す。

 

 「おら、捕まれ。リカバリーガールのとこ行くぞ」

 

 「遠山、すまねえ・・・俺は・・・」

 

 「そればっかだな。いいんだよ。たしかに爆豪とかにやったらあいつブチギレるだろうけど、少なくとも俺はお前が覚悟を決めたってのがわかったよ。だから、それでいい」

 

 「ああ、お前が全力で来てくれてんのに、俺は迷った。だから、清算しに行かなきゃなんねえものがあるって・・・思ったんだ」

 

 「そうか、それに気づくことができたんならそれでいいんじゃねえの?今の顔、すげえ晴れやかだぜ?」

 

 俺の手につかまった轟を助け起こし、二人そろって保健室へ向かう。後ろから「きゃー!青春!青い!青いわ!」というミッドナイト先生の黄色い声が聞こえる。台無しだよ!

 

 

 

 とりあえず動きに支障がない範囲でリカバリーガールに治してもらったが、あれだ。俺のほうがボロボロなうえ無理に硬いもん音速で殴ったせいで右腕が折れてやがった。とりあえず整復して治してもらおうとしたらバキバキバキとさらに腕が折れたような音がしたせいでリカバリガールに止められそうになったがやり切って診てもらった。

 

 緑谷の指整復したのあんただったのかいなんて言われながら骨をつないでもらって先に治癒してもらった轟とともに会場に向かう。

 

 会場につくと、3位の表彰台に猿轡を噛まされ、両手をがちがちに拘束されたうえに、コンクリの柱に拘束されて暴れている爆豪がいた。爆豪の性格上暴れるとは思ったけどここまでする必要・・・あるな、うん。もう知らん。

 

 2位の台に轟が、1位の台に俺が上り、ミッドナイトが仕切りだす。爆豪が「ん”ん”~~~!!!」とガチャガチャ暴れてるが完全無視だ。そういや飯田がいねえな?あいつも3位だったはずなんだが。

 

 

「それではこれより表彰式に入ります!と、その前に3位の飯田君はお家の事情で早退となりました!ご了承くださいな♪」

 

 事情ねえ・・・きなくせえな。まあそれより先に表彰だ。改めて思うが俺が1位とは嬉しいもんだな。

 

 

 「今年のメダル授与はもちろんこの人!」

 

 上からごっつい人影が降ってくる。まあこの人になるよなあ

 

 「私がメダルを持っ「我らがヒーロー!オールマイトォ!」」

 

 被った。ぐだぐだかよ。一気に会場の空気が覚めちまったんだけど?

 

 「それでは気を取り直して・・・・爆豪少年!ってこれはあんまりだな・・・」

 爆豪の猿轡をオールマイトが取り外すと

 「オールマイトォ・・・俺は3位なんていらねえんだよ!世間が認めたって、俺が欲しかったのは完膚なきまでの1位だ!負けちまった時点で全部ゴミカスなんだよぉ!」

 

 「爆豪少年、有言不実行になってしまったのは残念だが、その上昇思考は君の最大の長所だ。受け取っとけよ!傷として!それが君をさらに上に導くはずだ!」

 「いらねえっつってんだろが!んがぁ!」

 

 強烈に拒否る爆豪にオールマイトはメダルの縄の部分を噛ませ、また猿轡代わりにして無理やりメダルを渡した。しっかし顔すげえな。

 

 

 「さて、轟少年。遠山少年との戦いで炎を消してしまったのは訳があったのかな?」

 

 「緑谷にきっかけをもらって・・・わからなくなりました。俺も、あなたのようなヒーローになりたいと、それを思い出したんです。遠山にどこを見てるって殴られて、俺一人だけ吹っ切れてそれじゃいけないって思ったんです。清算しなきゃいけないものを、見つけました」

 

 「・・・そうかい。深くは聞かないが、きっと今の君なら清算できる。準優勝、おめでとう」

 

 オールマイトがメダルを渡して、かるく轟を抱きしめ、俺のほうに向かってくる。

 

 「遠山少年!優勝おめでとう!私の高校時代を思い出すよ。私も拳だけでこの体育祭に挑み、制した。きっと君は、強いヒーローになる!」

 

 「ありがとうございます、オールマイト。次も、負けませんよ」

 

 「お、言ったな?遠山少年!次も、楽しみにしてるよ!」

 

 オールマイトからメダルをかけられ、かるくハグされる。俺は万感の思いで、会場を見渡し、ガッツポーズを決める。

 

 声援の中、オールマイトがまた語りだす。

 

 

 「さぁ!今回は彼らがここに立った!でも!今並んでる誰もがこの表彰台に立つ可能性がある!それは今日ご覧いただいたとおりだ!競って!高めあい!上へ上へ登っていくその姿!次代のヒーローは確実に芽を伸ばしている!」

 

 

 「そういうわけで最後に皆さんご唱和ください!せーの!」

 

 

 

 

 

「「「「「「Plus Ult「お疲れ様でした!!!」」」」」」

 

 なんでだよ!そこは校訓唱和する流れだろ!?会場からもブーイング飛んでるじゃねえか!

 

 

 ぐっだぐだな閉会式が終わり、かなでと共に変える道すがらジーサードとかなめが現れた。もうすぐ日本を発つからその前にかなでの健康診断がしたいそうだ。2人からも祝いの言葉を言われたが、それ以上に時間が押してるらしく、そのままかなでを連れて拠点まで帰っていっちまった。明日の朝送ってくるそうだ。

 

 そのまま帰ろうとすると後ろから方をポンと叩かれた。後ろを振り向くとむにぃと俺の頬に透明な指が刺さった。こんなことをするのは葉隠だな?

 

 「遠山君!優勝おめでとう!いやーびっくりしたよ!瀬呂君を凍らせちゃった氷結をあんなバラバラに割っちゃうなんて!」

 

 「おう、ありがとな葉隠。まぁあの技実戦で使うの初めてだったんだけどうまくいってよかったよ」

 

 「ところでかなでちゃんは?」

 

 「あー・・・ジーサードとジーフォースが迎えに来てな?今日はそっちで泊まるそうだ。」

  

 「へーそうなんだ。そうそう!お願いがあるの!」

 

 葉隠が俺にお願い?なんだ?

 

 「あーあんま難しいことじゃなかったら聞いてやるよ。なんだ?」

 

 「えっとね・・・下の名前で呼んでいいかな?私のことも下の名前で呼んでほしいの」

 

 なんだ。そんなことか。梅雨みたいな友達の証的なノリだな?

 

 「わかったよ透。別に構わねえぜ?」

 

 「わぁ!ありがとうキンジ君!それだけだよ!あ、私こっちだからまた今度ね!」

 

 「ちょい待て。・・・あー・・・決勝戦前のアレ、なんだったんだ?」

 

 俺がそれを問うと透は片手を顔の前にあて、いたずらっぽい雰囲気で

 

 「・・・秘密、だよ!もっと仲良くなったら教えてあげるかもねー!」

 

 なんて言いながら去っていった。俺は顔なんて見えないのに、葉隠が魅力的に思えてしまって、しばらくフリーズしてしまった。

 

 俺は決勝戦と同じように透の去っていった方向をぽかんとしながら見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル技考えるのは楽しいですね。キンちゃんに使わせる前提なので魔法とかそういう超常系(凍らせるとか燃やすとか)じゃなければ違和感あまり出ないですし(当社比)


今回で一区切りついたので先をどうしようか考えてます。続き、欲しいですか?


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第17弾

なんか割と続きが欲しい方が多いみたいなので、初投稿です(矛盾)


 体育祭が終わり、振替休日をはさんで登校日になった朝。俺はセットしておいた目覚ましで目覚め、適当にメシを作る。

 

 昨日は朝にかなでが戻ってきた後、ジーサードとかなめに相当ほめちぎられて、祝いにいろいろもらったな。お前ら予定があったってまさか俺に渡すプレゼントを選ぶためにかなでを連れてったのか?まあうれしいからいいけどさ。

 

 兄さんやじいちゃん、ばあちゃんからも電話で祝いの言葉をもらった。「さすが俺の弟だ」って認めてくれた兄さんの言葉が今も胸に残ってる。

 

 かなでを起こして朝メシ並べてテレビをつけると、ちょうどニュースがやってた。

 

 『今年の雄英高校体育祭が一昨日開かれ、多くのヒーローの卵たちが鎬を削りました。中でも今年大注目の1年生は___』

 

 のところでブチッとテレビをきる。いっつも思うがなんでニュースになってんだ?こっ恥ずかしくてしょうがねえぞ。

 

 

 「お兄ちゃん様、新聞です」

 

 「お、ありがとうな」

 

 かなでに取ってきてもらった新聞を見るとでかでかと「雄英体育祭開催!今年の優勝者は・・・・!」という見出しでいろいろ書かれてた。うん、なんで死体撃ちしてくんだよふざけんな!

 

 

 メシを流し込んで他のところを見ていると、「ヒーロー殺し」についての話題が1面を使って書かれていた。思想犯ってやつだな、まーやってることは殺人鬼だけど。

 

 

 かなでとともに準備を済ませ雄英への道を歩いていくと、通勤途中のサラリーマンや、小学生、中高生、というか会う人間のほとんどから声をかけられた。

 

 「遠山キンジ君だろ!?体育祭すごかったよ。強いヒーローになってね!」だの

 「遠山キンジ君ですよね!?わぁ!ファンになったんです!握手してください!」とか

 「なあ優勝したにーちゃん!俺も将来雄英に入りたいんだ!どうしたらいいの?」

 みたいな感じでなかなかえぐかった。かなでも辟易してたみたいだし、とりあえず適当に答えてその場は抜け出した。最後のやつだけは「体鍛えて、たくさん勉強しろ」ってマジレスしといたけど。

 

 

 

 やっとの思いで雄英にたどり着いてかなでを3年生のヒーロー科に預けると、先輩から声をかけられた。パックマンみたいな目をしたムキムキの男子、目が鋭い俺と似たような雰囲気の男子、あとロングヘア―のカールがかかった女子だ。

 

 「ねえ!君だろ?かなでちゃんのお兄さんってさ。あと体育祭優勝したのも!」

 

 「ええ、そうですが・・・あなたは?」

 

 「ああ、ごめんごめん!俺は通形ミリオ、こっちは天喰環と波動ねじれね!今年の優勝者がいつもかなでちゃんを送っている子だって知ってさ、どうしても声をかけたくなったんだ!」

 

 「ああ、そういう・・・いつもかなでが世話になってます」

 

 「ううん、そんなことないよ。特に環なんて子供が苦手なもんだから接しやすいかなでちゃんのことは気に入ってるみたいでさ。「ねえねえ!」」

 

 話の途中なのに波動先輩がねじ込んできた。その瞳は好奇心に輝いているうーんこのタイプは苦手だぞ・・・

 

 「体育祭で使った技ってさ、どうやったの!?あと、個性って何!?あとあと・・・かなでちゃん頂戴!」

 「とりあえず最後のはダメです」

 

 「波動さん・・・遠山が困ってるから・・・・」

 

 いさめてくれる天喰先輩はいい人だ。まるで幼稚園児みたいな人だな、波動先輩。

 

 「ああ、ここで引き留めちゃいけないね!サーは君に1票入れたみたいだから、ぜひとも職場体験ではうちに来てほしいな!」

 

 「サー?」

 

 「サー・ナイトアイのことだよ!俺はサーの事務所にインターンしててね!こうやって声をかけたのも半分は職場体験でうちに引き込むためなのさ!環はファットガム、ねじれはリューキュウのところでインターンしてる。みんな君に1票入れたみたいだからみんなまとめてスカウトに来てるってことだね!」

 

 「ファットガムは、武闘派を欲しがってるからぜひとも来てほしいって」

 

 「リューキュウはね!小回りが利く強い人材がほしいからって!だからぜひとも来てほしいな!」

 

 なるほどねえ・・・しかし職場体験?そんなのもあるのか・・・・

 

 

 3年生のクラスを辞して、自分のクラスのドアをがらりとあけ、挨拶を交わす。

 

 「お、優勝者の登場だ!なあ遠山、お前学校くるまでにめっちゃ声かけられただろ!?どうだった?」

 

 「人だかりができたよ・・・疲れたわ」

 

 「だーやっぱそうだよなぁ!俺も声かけられのはそうなんだけどドンマイコールだったんだよ・・・」

 

 「あー・・・ドンマイ?」

 

 「お前まで言うんじゃねえよ!」

 

 なんて瀬呂と話しているとがらりと相澤先生が入ってた。瞬間ぴたっと喧騒が止み、みんな静かになった。

 

 

 「おはよう。体育祭お疲れ様だったな。今日のことだが・・・・ヒーロー情報学、今日はちょっと特別だぞ」

 

 

 特別だぁ?なんだなんだ?小テストでもやるのか?

 

 

 「ヒーロー名の考案・・・コードネーム決めだ」

 

「「「胸膨らむやつだああああ!!!」」」

 

 お、いいなヒーローネーム。兄さんはカナ、キンイチの二つを使い分けてるが、俺も自分のやつ考えないとなと思ってたとこだ。

 

 「はい静かに。これは先日話した「プロからのドラフト指名」に関係する。本格的になってくのは2年からだが、今回来た使命はお前らへの興味だ。卒業までに興味がなくなりゃ当然キャンセルされる」

 

 当たり前だな。ヒーローだって仕事だ。使えない、あるいは自分のところに合わないやつをわざわざ雇用するわけがない。

 

 「で、それを踏まえて今回来た指名はこうなってる。例年はもっとばらけるんだが・・・3人に注目が集まったな」

 

 ふむ、俺は3000件で1番、轟、爆豪がおよそ2000ずつってとこか。ほかにもちょこちょこ別のやつに指名が入ってるな。

 

 「だーーー白黒ついちまった!」

 「見る目ないよねプロ!」

 

 クラスのやつらが各々自分に入ったり入らなかったりした指名に一喜一憂する中相澤先生が

 

 「これを踏まえ、指名のあるなし関係なくお前らには・・・・職場体験にいってもらう!」

 

 朝通形先輩に説明されたやつか。こんな早くやるとは思わんかった。なるほどそれでヒーローネームね。

 

 

 「お前らは先に体験したが、プロの活動を間近で見て、体験しより実りある訓練をしようって話だ。今日決めた名前はその職場でも呼ばれることになる。適当なもんつけりゃ・・・「地獄を見ちゃうよ!」」

 

 

 「この時つけた名前がそのままヒーロ名になってるってヒーロー結構多いからね!」

 

 ミッドナイト先生だ。何でこっち来たんだ?

 

 「俺はそのあたりのセンスがないからミッドナイトさんに査定をしてもらう。将来自分がどうなるか「名は体を表す」ともいうがそれを考えてつけるように!以上」

 

 といって相澤先生は寝袋に入って寝てしまった。せめて起きててくれ・・・・

 

 

 「じゃ!このボードに考えたヒーロー名書いていってね!」

 

 とボードが配られる。俺は・・・そうだな。きっとこれしかないって昔から決めてたやつがある。それでいこう。

 

 

 と俺がさらさら書き、待つこと15分後・・・・・

 

 「そろそろいいかしら?じゃあ、できた人から発表していってね!」

 

 嘘だろ発表すんの!?いや、メディアに映るようになったら毎日言われるんだ。この程度のことで怖気づくんじゃない。

 

 

 「じゃ、僕がいくよ☆」

 トップバッターは青山だ。こいつとは話す機会がないからよくわからんが、どうなる!?

 

 

 「輝きヒーロー・・・ I Can Not Stop Twinkling! 」

 

 「「「短文!?」」」

 

 やっべえこれは予想外だ。しょっぱなからとんでもねえ爆弾が飛び出したぞ!?

 

 「うん、そこはIをとって省略形にしたほうが呼びやすいわね」

 

 真面目に査定してるミッドナイトもそうだが・・・この空気は・・・!

 

 

 「じゃ、次アタシね! エイリアンクイーン!」

 

 「血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」

 

 

 やっぱり!完全に変なの2連チャンで大喜利っぽい空気になっちまった!これで発表するのは厳しいぞ。

 

 「じゃあ次、私いいかしら?」

 

 梅雨!!たのむ!空気を変えてくれ!

 

 「梅雨入りヒーローフロッピー!昔から考えてたの」

 

 「かわいい!いいじゃないの!」

 

 完璧だ・・・!空気が完全に変わったぞ!ありがとうフロッピー!フォーエバーフロッピー!と半ばテンションがおかしくなった俺をよそに他のやつらもどんどん発表していく。

 

 イヤホン=ジャック、テンタコル、セロファン、クリエティなどクラスのやつらの個性的な名前を聞きながら俺も手を上げ発表に移る。

 

 「昔からこれにしようって決めてたんだ。不可能を可能にする男(エネイブル)ってな!」

 

 ボードに書かれたEnableという文字に対してミッドナイトは

 

 「可能にするという意味ね!いい名前だわ!たくさんの技がある遠山君にピッタリね!」

 

 と俺のヒーローネーム発表はそれで終わり、そのあと発表した爆豪が

 

 「爆殺王」

 

 と発表し、空気が死んだ挙句やり直しを食らい、ブチ切れる一幕があったがいつものことなので割愛する。

 

 最後の緑谷が「デク」というヒーローネームを発表し、ざわついたが緑谷なりの理由があったらしく、全員納得したようだ。

 

 

 「爆殺卿!!!」

 

 ・・・・爆豪はしばらくかかりそうだけど。

 

 

 結局爆豪は苗字で落ち着き、それぞれ行く事務所について話していると・・・

 

 「わわわ私が独特の体勢できたぁ!」

 

 お、オールマイトだ。ちょうどいいな。

 

 「緑谷少年、ちょっとおいで」

 

 「あーオールマイト。ちょっといいですか?」

 

 「ん?遠山少年か。かまわないよ。緑谷少年と一緒においで」

 

 「うっす。かなでもつれてきたいので談話室の番号教えてください」

 

 「ああ、いいとも。4番にいるからね」

 

 と、言われたのでかなでを拾って談話室に入ると・・・・すさまじく震えているオールマイトとこれまたえらい表情をしている緑谷がいた。どうしたんだよ。

 

 

 「ややややあ、かなで少女、遠山少年。い今私の要件は終わったところさ。何か用なのかい」

 

 「あー職場体験のことなんですけどね。俺が2週間職場体験に行ってしまうとかなでの保護者がいなくなるんですよ。なのでかなでの事情を知っているあなたに知恵を貸してほしくて・・・」

 

 「なるほど。休ませると公欠にはならず、かといって登校させても問題が生じてしまうと。ん~~ならいっそ雄英で預かろうか?」

 

 「俺としては嬉しいのですが・・・大丈夫なのですか?」

 

 「とりあえず今から校長先生のところに行って聞いてみようか。緑谷少年、話は以上だ。気をつけて帰りたまえ」

 

 「えっと終わる前に出久お兄さん、それとオールマイト先生。2回目のエネルギーの譲渡を近いうちに行いたいのであとで空いてる時間を教えてください」

 

 「おお、いいのかいかなで少女。あとで連絡をいれるよ」

 

 「うん、ありがとうねかなでちゃん。僕もそうするよ」

 

 

 緑谷と別れてオールマイトとかなでと一緒に校長室に向かう。そういや校長先生と直接話すのは初めてだな。どんな人なんだろうか。ネズミだけど。

 

 校長室の豪華な扉をノックし、「いいよ」という声とともにドアを開け、入室する。

 

 「やあ!遠山キンジ君!遠山かなでちゃん!初めまして、雄英高校の校長だよ!」

 

 ・・・軽いな!もっと重々しい人だと思ってたわ!でも一目見ただけで俺とかなでの名前を言い当てたし、すごい人なのは間違いなさそうだ。

 

 「校長。遠山キンジ少年の職場体験に際し、かなで少女の保護者が不在になってしまうそうで・・・雄英で預かれないでしょうか?」

 

 「ふむ、遠山君。かなでちゃんの事情はオールマイトには話したんだったね?もし雄英で預かるのであれば最低でもリカバリガールには事情を明かすことになる。構わないかい?」

 

 リカバリガールか・・・かなでの学校での健康面考えると知っておいてもらったほうがよさそうだ。かなでを見ると頷いてるのでおれも

 

 「構わないです。それと・・・かなでのことについてもう一つ知っておいてもらいたいことがあります」

 

 「うん。なんだい?」

 

 「かなで・・・正確には人工天才には反逆防止のためにとあるシステムが組み込まれています。それが・・・活命制限(ライフ・リミット)

 

 「穏やかじゃない名前だね。詳細を聞いてもいいかい?」

 

 「はい。このシステムはロスアラモスに定められたそれぞれ違う何らかの化合物を一定時間摂取しないと体調不良に始まり、最悪命を落とします。もしかなでに咳や喀血等の症状が出た場合、マシュマロを摂取させてください。マシュマロに含まれる化合物が、かなでに設定されたものです。」

 

 「・・・うん。了解したよ。かなでちゃんは君が職場体験に行ってる間、雄英で責任もって預かるってことさ!」

 

 「・・・ありがとうございます。本当なら俺が休めば済む話だというのに・・・」

 

 「気にする必要はないさ!かなでちゃんの事情は私も知っているんだ。生徒の選択肢が狭まるようなことをさせないのが僕の役目なのさ!だから、安心していってくるといい!」

 

 「重ね重ね、感謝します。それでは、失礼します」

 

 いい人に恵まれたな、俺もかなでも。なら是が非でもしっかり学んでこないとな。

 

 

 

 雄英から帰る傍らに、もらった指名表を眺める。聞いたことないヒーローから大物ヒーローまでずらりと名前が並ぶ中確かに朝先輩方にスカウトされたサーナイトアイ、ファットガム、リューキュウの名前を見つけた。

 

 明後日までに行く場所決めないといけないし、どんなところがいいかしっかり考えないとな。かなでと手をつなぎながら俺はその小さな手の感触を確かめるようにぎゅっと握るのだった。

 




職場体験編突入です。ちなみに行くヒーロー事務所は次回わかりますのでお楽しみに!

これからもよろしくお願いします。


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第18弾

つなぎ回でござる。
派手な戦闘はしばらくないっす。許し亭ゆるして


  あっっというまに職場体験当日になった。俺は来た指名の中から(全部目を通すのに1時間かかった)武闘派かつ救助の実績が多い事務所をピックアップ、かなでにも手伝ってもらって猶予期間ギリギリで希望を相澤先生に提出した。

 

 俺が目指すのは鉄火場にカチコミかけるようなヒーローじゃなく誰かを守れるようなヒーローだ。指名してくれたのは嬉しいが俺に合わないと判断した事務所ははじかせてもらった。

 

 

 「お前ら、全員揃ったな?コスチュームは持ったか?」

 

 「「「「はい!!」」」」

 

 「コスチュームは本来なら公共の場での着用は厳禁だ。落としたりするなよ」

 

 「はーい!!」

 

 「伸ばすな芦戸。くれぐれも失礼な真似するんじゃねえぞ!いってこい」

 

 

 当日はそのまま体験先の事務所に行くため駅に集合だ。俺は結構遠いから新幹線だな。かなでを相澤先生に預け、俺も乗る新幹線のホームに行かねえと。

 

 「相澤先生、ご迷惑をおかけしますがどうかかなでのことをお願いします」

 

 「校長から話は聞いている。責任もって預かるからお前はしっかり学んで来い」

 

 「はい!・・・かなで、いい子にするんだぞ?連絡はするからな」

 

 「いってらっしゃいませ!お兄ちゃん様!がんばってきてくださいね!」

 

 かなでの頭をかいぐりかいぐり撫でてやって、ホームのほうへ向かう。途中、飯田とすれ違ったがあいつは逆方向なのでそれだけだった。・・・けど、あいつのあの思いつめた表情に謎の危機感を覚えた。

 

 

 

 新幹線で目的地へ向かう。俺の方向に行くやつは誰一人としていなかった。いっつも騒がしいのがデフォだったからなんとなくさみしいな、と考えてると。

 

 『次は~江州羽~江州羽~お降りのお客様はお手荷物を確認の上左出口にてお待ちください」

 

 目的地だ。関西の大都市のひとつ江州羽市。ここに俺が今回職場体験する事務所がある。

 

 

 地図アプリを立ち上げ、住所を入力する。・・・歩いて10分くらいかな。ちょっと早めについたし歩きで向かうか。

 

 周りから「あれって雄英の・・?」「そうそう、優勝した子だよ!」「なんでこんなとこにいるんやろ?」という視線をまるっとスルーし、駅を出てアプリを見ながら進んでく。

 

 

 途中で声かけられたり、関西名物の飴くれるおばちゃんにつかまったりしながら15分ほど歩くと目的の建物が見えてきた。

 

 まるっこい男性のシルエットたこ焼きを持ってるような形の建物には「ファットガムヒーロー事務所」と看板がでかでかと自己主張してるな。というか建物の自己主張もやばい。誰が見てもファットガムの事務所だってわかるな。

 

 

 

 事務所のインターホンをならして少し待つと「はいファットガムヒーロー事務所です」という電話みたいな返しが返ってきたので

 

 「こんにちは。雄英高校から職場体験にきました。1-Aヒーロー科の遠山キンジです」

 

 と、自己紹介するとドタンバタンとすさまじい音がして

 

 「ファット!ファット!来ました来ましたよ!」「なんやーけったいやな。きたって何がやねん」「遠山君ですよ!ファット指名入れてたでしょ!」「ホンマかいな!それをはよ言えいうねん!」「最初から言ってましたよ!」

 

 インターホンが切れてないので中のぐだぐだ具合がよくわかるやり取りが聞こえてきた。もしかしてくるとこ間違った・・・?

 

 

 しばらくそんなやり取りが続いてちょっと静かになったと思ったら扉がバタン!と勢いよく開いて建物とうり二つな男性が出てきた。BMIヒーロー、ファットガムだ。

 

 「すまん!待たせたな!ようこそファットガム事務所へ!ワイがファットガムや。2週間よろしくな!」

 

 「あ、はい。遠山キンジです。2週間よろしくお願いします。ファットガムさん」

 

 「呼び捨てでええ!さ、はよはいりやー」

 

 事務所に一礼してはいる。なんだかソースの香りが漂う事務所の中は結構整理されている。「応接室」と書かれた部屋に案内され、上座にファットガムが座り、俺もその前に座らせてもらう。

 

 

 「さて、よー来てくれたな!なんだかんだダメもとで指名入れてんけど来てくれるとは思わんかったわ!」

 

 「いえ、指名いただけた中で一番俺と合ってると感じたもので」

 

 「ほーかほーか!今日はもう夕方やから施設の案内だけして泊まるホテルまで送ったるわ。メシもおごったるさかい一緒に食べにいこか」

 

 メシまでおごってくれるとはいろいろ器がでかい人だな。体もでかいけど。

 

 「説明は以上やさかい、なんか質問あるか?」

 

 「あ、じゃあ一つだけ。ここで天喰先輩がインターンしてると聞いたんですけど、今日は来てるんですか?」

 

 「なんや環と会ったんかいな?インターンは職場体験の時は中止になるんや。ワイがつきっきりで自分みなきゃあかんからな。」

 

 どうやら天喰先輩はいないらしい。ちょっと何やってるのか聞きたかったんだけどなー

 

 「他ないな?ほないこか」

 

 「はい」

 

 

 ファットガムに案内され、応接室を出て、事務室、ロッカールーム、仮眠室、談話室と案内される。ファットガムに合わせてなのかどれもこれもビックサイズだ。そして訓練室に案内される。

 

 そうするとファットガムが突然思いついたように

 

 「せや!キンジ、お前ちょっと運動する気あるか?」

 

 「訓練ですか?それは願ったりかなったりですけど・・・」

 

 「そうやないそうやない。着替える必要もないわ。ちょっと1発サンドバック殴ってみいひんか?っていう話や」

 

 「サンドバックを?なんでですか?」

 

 通常のサンドバックを俺が技使って全力で殴ったら爆散するぞ?

 

 「あーワイの副業で企業とのコラボ案件があるんやけどな?ワイの個性の感触と耐久力を再現したサンドバック作ってん。けどワイの事務所にはワイ以上に攻撃の威力があるやつがおらんくってなぁ」

 

 

 あーなるほど。耐久力のテストか。それならまあ・・・・いいかなあ?

 

 「壊れちゃっても構いませんか?」

 

 「お、やる気やな?まだ試供品やしな。壊れたら壊れたで耐久力不足って報告するだけやわ。自分みたいな増強系の個性の人間が使うこともあるかもやしな。じゃ、こっちやで」

 

 

 訓練室に入ると、3人ほど訓練してるサイドキックの人たちがいた。ファットガムはそのまま続けるように手で合図しておれとちょっと奥まで入ると・・・あった。デフォルメされたファットガムサンドバックが。

 

 

 「これや。遠慮なんてせんでいいから全力で殴ってみい」

 

 「了解です」

 

 

 個性使ってヒスって、ファットガムサンドバックに拳をあてる。うっわふっかふかじゃねえか。いつまでも触っていたい感触だなあ。と体育祭の爆豪戦で使ったマッハ8の桜花を準備する。

 

 それぞれ用意したマッハの速度がキュン、キュンと体内で合わさっていく音を確認しながらあてた拳にマッハ8の速度を合わせ秋水で叩き込む。

 

 キュドォォォォン!!!とすさまじい音と爆風が発生し、サンドバックが吹っ飛んで壁にバチィ!とぶつかって止まった。みると・・・壊れてねえな。すごいなコラボ先の会社。

 

 「ほー。すさまじいもんやな。サンドバックのほうは衝撃の吸収率に難ありってとこか。協力感謝するわ」

 

 「これで壊れないとはやばいですね。結構本気でやったんですけど」

 

 「アホォ!劣化しとるとはいえワイの個性の再現やぞ!このくらいで壊れとったらヒーローできんわ!」

 

 なるほど・・・そう・・なのか?確かにファットガムなら今の普通に防ぎそうな気がするけども。

 

 「いいデータ取れたわ。感謝するで。じゃ、メシ行こうか」

 

 「あ、はい」

 

 

 事務所を出てファットガムと街を歩くと、やっぱり大人気なのかそこかしこで声をかけられた。とくに飲食店からの客引きがすごい。それを慣れた様子で捌いていくファットガムについていくと、一つの店についた。たこ焼き屋だ。ここか?

 

 「ここやでー。ワイのひいきの店なんや。うまいから楽しみにしとくとええで!」

 

 「へーそうなんですね。本場のたこ焼きは食べたことないので楽しみですね」

 

 「ほーか!おっちゃん!いつもの頼むでー!こっちのには20個にしたってや!」

 

 「お、ファットガムじゃねえか!座れ座れ!焼きたて持ってってやる!そっちの兄ちゃんも少し待っててや!」

 

 

 いかにもって感じのねじり鉢巻きのおっちゃんがたこ焼きを焼きながら接客してる。ソースのにおいが食欲をそそるな。楽しみだ。

 

 「ファットガム専用」と書いてあるでっかいテーブルにファットガムが座り、俺もその席の前に座る。こんな席があるなんてよっぽどこの店に来てるんだな。

 

 

 

 「はい!待たせたな!こっち20個ね!んでこっちが・・・ファットガム専用たこ焼きタワー2人前な!」

 

 「ひゃー!待ってました!キンジも好きに食べえや!ほな、いただきます!」

 

 

 ・・・・やべえ。何がやばいって目録でファットガムの顔が隠れるレベルのたこ焼きの山がズシンと2皿も来たのだ。よく皿に収めたもんだと感心しちまう。すごい勢いでたこ焼きを吸い込み始めたファットガムに習い、俺もたこ焼きを口に入れると・・・うまいな。外はカリカリ中はとろーりという王道のうまさだ。こりゃリピーターになるのも頷ける。

 

 

 「そや、キンジ。自分ここにきてなんかやりたいことってあるかいな?訓練つけてほしいならそれ中心に考えるで?」

 

 「あ、いいんですか?俺は・・・そうですね。カウンターとか防御系の技のほうが得意なんでそこを中心に伸ばせたらなあと」

 

 「体育祭でも攻勢に回ること少なかったしのぉ。んじゃそこ中心やな。なんやちゃんと考えてワイのとこ来たんやな。任せとき。ほかは・・・そうやな。自分の欠点、把握しとるか?」

 

 「機動力っすね。俺は増強系であっても筋力等が上がるわけじゃないので・・・いかんせん初動が遅れるんです。ファットガムはどう対策してるのかなって」

 

 「まあワイらみたいなタイプからしたら永遠の課題の一つやしなあ。言うて自分そんな遅くないやろ?」

 

 「そりゃ常人よりも速い自信はありますけど・・・現場に着く時間は早ければ早いほどほどいいと思うんです。」

 

 「まあそこの対策もきちんと教えたる。飲み込み早そうやし教えがいがあるでホンマ」

 

 と、雄英の教師陣とはまた違うためになる話を聞きながら、たこ焼きを食べ終わり(俺と同じ時間で食べきったファットガムに目をむいたが)ファットガムが会計を済ませ、ホテルまで歩く。

 

 

 「ファットガム、ごちそうさまでした」

 

 「ええんや。同じ釜の飯を食うってのは大事なことやしな。ワイなりのコミュニケーションや」

 

 たわいのない話をしながら歩くと・・・泊まるホテルに着いた。

 

 「送ってくれてありがとうございました」

 

 「なぁにこれも仕事やしな。明日は8:00に事務所まできいや。もちろんコスチュームもってやで?」

 

 「はい!」

 

 

 ファットガムと別れ、チェックインを済ませて自分の部屋に入る。ついでにかなでの電話番号を携帯電話に入力し、かける。スリーコールしてつながった。

 

 

 「お兄ちゃん様!そちらはどうですか?」

 

 「おう、ちゃんとついたよ。ファットガムもとてもいい人だったしな。いい子にしてたか?」

 

 「はい!今日はミリオお兄さんとねじれお姉さん、環お兄さんが一緒にいてくれたんです!訓練見せてもらったんですけどすごかったんですよ!みんな早く助けてくれるんです!」

 

 「へーそりゃ俺も見たかったな。今日は誰と一緒なんだ?」

 

 「オールマイト先生です!お話も面白いんですよ!」

 

 わーナンバーワンが子守とは豪華なこって・・・・

 

 「そうか、そりゃよかったな。んじゃー切るぞ」

 

 「はい!おやすみなさい!お兄ちゃん様」

 

 「おう、おやすみ」

 

 

 俺はぱぱっと風呂に入り、ベッドに入って眠るのだった。

 

 

 翌日、時間に間に合うようにファットガムの事務所までいく。扉を開けて

 

 「おはようございます」

 

 「おー、おはようさん。時間ちょい前やね。コスチュームに着替えてパトロールいくで!ロッカーは16番つかいー」

 

 「了解っす。よろしくお願いします」

 

 言われた通りコスチュームに着替えてファットガムの元に戻る。テラナは胸ポケに刺しておく。普段は邪魔だからな。

 

 

 「おーなかなかかっこええやん。というか見たことないメーカーやな。どこや?」

 

 「あージーサード・リーグっすね。弟のコネっす」

 

 弟そのものが経営してるのは伏せとこう。言いふらすことじゃないし。

 

 「アメリカの会社やないか!どんなコネやねん・・・ま、ええわ。そや、自分チャカとヤッパもっとるって話やったな?」

 

 「はい。ベレッタ、デザートイーグル50AE、バタフライナイフ、ダガーナイフ2本、あと特殊弾ですね」

 

 「ごっついのぉ・・・まあ基本的な指示やけどワイの許可がない限り何があっても抜くなや。ワイの事務所は市街地にあるさかい、流れ弾はシャレにならん。自分の銃の腕はしらんさかい訓練の時に見せてもらって判断するで」

 

 「了解です。自衛の場合はどうなりますか?」

 

 「基本的にはそんな風にならんようにするが・・・ワイがいない場合に限って自分の判断でええ。自衛のみやぞ?」

 

 「わかりました」

 

 「よろしい!ほんなら、いこうか」

 

 

 ファットガムと一緒に俺は事務所の扉をあけてパトロールに繰り出すのだった。




ファットガムっていいキャラしてるよね。防御が得意なヒーローって設定だからキンちゃんと絡ませてみたかった。


ちなみにサンドバックのくだりでファットガムは
(予想以上にやばいやんけ・・・どうやったらこんな威力出るん?)
ということを考えてたりします。

別視点あったほうがいいのかしらん?

これからもよろしくお願いします。


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第19弾

あれー?ちょっとしかアンケ取ってないけどもしかしてファットガムって予想外に人気なのかしらん?

vsヒーロー殺しより人気だとは思わなかった。


 ファットガムと一緒に街をめぐる。いわゆるパトロールと呼ばれるこの行為だが、警察がやるそれとは少しだけ性質が違う。警察は基本的に個性による攻撃ができないのに対し、ヒーローは攻撃ができるのだ。それはつまり、単純戦闘能力でも大きな差があるということだ。

 

 車で例えるなら、警察は一般自動車、ヒーローは武装した装甲車とかそんな感じだ。字面にすると世紀末この上ないが、犯罪抑止には間違いなく一役買っているといえるだろう。ちなみに一般人はチャリンコだ。

 

 

 「よっしゃ。エネイブル!犯罪が起きた場合、ヴィランのやることってのはなんやと思う?」

 

 「ざっくりとですが・・・目的のために、殺害、人質、周辺家屋の破壊、ですかね?」

 

 「大方正解やな。まーヴィランの目的は幅広い。そして、ワイらヒーローが犯罪が起きたときにするベストはと聞かれたら一つなんや。わかるか?」

 

 「そうですね・・・被害0での取り押さえ、でしょうか?」

 

 「正解や!ワイらは被害を出したらあかん。大体1年前におきたヘドロヴィランの事件あったやろ?あんなんは最悪のパターンやな。結局オールマイトが何とかしてくれた。けどな、それにばっかり頼るのはあかんねん。本当なら事件は未然に防ぐ、起きてしまったら最善手をその場その場で打つんや。理想論やけどな」

 

 そう語るファットガムの瞳には覚悟の炎が揺らめいている。やはり上位に入るヒーロー、おそらくすさまじいまでの経験がその思考に行きつかせたのだろう。

 

 

 「ほんでな「・・・助けてー!」エネイブル、聞こえたか?」

 

 「はい、北西大体400m先ってとこでしょうか。女性です」

 

 「増強系やのに器用やのお!お手柄や、急ぐで!」

 

 パトロール中常に個性をオンにしてたおかげである程度の聴音はできる。今回はそれが功をそうしたな。

 

 

 走ってその場所に向かうと首にナイフを突きつけられた女性が人質になっていた。経緯はわからないけどおそらく異形系であろうトカゲっぽい男ががなり立てている。

 

 

 「こいつ・・・ふざけやがって・・・!俺と付き合えるっていうのに断るとか頭沸いてんじゃねえのか!?」

 

 告白して断られたから逆上したのか。しかも割とめんどくさいタイプっぽいぞ。

 

 

 「そこまでや。自分、冷静になって考えてみい。今何しとるんや?」

 

 「はっ、ヒーローのおデブちゃんが何言ってんだ。こいつとの話の邪魔すんじゃねえよ!民事不介入ってやつだ!すっこんでろ!」

 

 「アホやないか自分?ワイがみとるだけでも改正銃刀法違反、脅迫、傷害のトリプルコンボやで?そんで公妨もほしいんか?今すぐその女の子はなしいや。そしたら情状酌量はあるで?」

 

 「うるせえ!それ以上近づくんじゃねえぞ!コイツの首が真っ赤に染まるぜ!?」

 

 

 明らかに興奮状態にある男はさらにナイフを首に近づける。反射的に抜銃してしまいそうになるが、ファットガムの許可が出てないので抑える。どうするんだ・・・?

 

 

 「やってみい。」

 

 「は?」

 

 「やってみい言うとるんや。耳ついてるんか?」

 

 「てめえヒーローなんだろ!そんな簡単に人質捨てるのかよ!」

 

 「なぁに言っとるんや。どうせお前はできへん。突発的にそういって逆上したのはええけど人を傷つける覚悟がない。さっきからナイフが震えてんのがその証拠や」

 

 すごいな、ナイフ、足の震え、目の動き、言葉の震え方まで全部分析して結果を予測したのか。犯人の目の動きが完全に逃げ道をなくしたそれだ。

 

 

 「くっ・・・うおおおおおお!!!」

 

 破れかぶれになったのか男が人質放り出してファットガムに突撃してきた。ファットガムが俺に目を向け、次に人質の女性に目を向けたので俺は放り出された人質の確保に走る。

 

 「ええか!エネイブル!ヴィラン退治はな!いかに敵を早く戦意喪失させるかや!まず一つ覚えて帰りぃ!」

 

 と俺に言ったファットガムの腹部に男が着弾し、ずぶずぶと沈んでいく。ファットガムの個性「脂肪吸着」だ。衝撃だろうが何だろうが脂肪に吸着させて沈めてしまう、防御に極めて有効な個性だ。しばらくじたばたしてた男が、シーンと酸欠でダランと伸びたところでファットガムが腹から引き出し、手首を縛って警察の到着を待つ。

 

 

 「すまんかったな、お嬢さん。怖かったやろ、飴ちゃんたべるか?」

 

 「もう大丈夫ですよ。すごいですね、ファットガム」

 

 

 「・・・うぅ・・ぐすっ・・ありがとうございます。あの人ストーカーだったんです。警察にも相談してたのに動いてくれなくて・・・」

 

 「なんやそれ!?はー警察もホンマしっかりせなあかんわ。ワイも言っておくさかいもう安心してええで」

 

 なるほどなー個性があろうがなかろうがこういうことはよくあるが、やっぱり個性ありきの人を傷つけることができるっていう意識の低下がこんな凶行が増える原因だろうな。

 

 

 サイレンの音が鳴り響き、何台かのパトカーが入ってきた。誰かが通報してたんだな。降りてきた警察の人たちはファットガムに向かって敬礼し、犯人に手錠をかけて連行しようとしてる。

 

 「お疲れ様です!ファットガム!事情聴取、よろしいですか?」

 

 「ええで。現着したときにはもう、この子が人質に取られとった。まあ痴情のもつれやな。うまいこと確保できたから怪我はないと思うけど精神的に相当きとる。ケアを徹底せえや。ええな?」

 

 「ええ、ありがとうございます。それとそっちの子は・・・?」

 

 「ん?ああ、今職場体験にきとる雄英の子や。まあそれはええ。ガイ者は警察にストーカーの相談してたけど動かんかったっていうとったで?調べて担当したやつシメろや。今回みたいなことが起こることがまずあかんのやからな」

 

 「本当ですか?わかりました。記録を洗います。ご協力、ありがとうございました」

 

 「ああ、次も頼むわー」

 

 

 再び敬礼を返して、被害者と犯人を乗せたパトカーが去っていき、俺とファットガムが残る。はー2日目なのにこんな事件にあうとかこの世も末だな。

 

 パトカーを見送ったファットガムがこっちを見ておもむろに手を伸ばして、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

 

 「いやーよく耐えたな!エネイブル!」

 

 「へ?いやどういうことですか?」

 

 「ん?ああ。ワイのところに来た職場体験の子たちはな、ああいう場面でワイがちょいダーディーなことをすると騒いだりして場が悪化することがあるんよ。やっぱ経験が足りんのと正義感だけ先走ってるんやな。その点お前さんはワイの指示が出るまでじっと耐えてワイの目線の指示だけで動いた。これはもうえらいことやで!」

 

 「あーそういう・・・あそこで騒いでもどうにかなるわけじゃなかったですしね」

 

 「それがわからない子もおるんや。経験不足やししゃーないんやけど、それで救えない命がでたらその子は折れてまう。こんなめんどい事件前にして、ちょい心配やったんだけど自分なら大丈夫やな!」

 

 「まあ、1回本物のやばいやつに遭遇してますからね・・・うちのクラスメイトだったらたぶん誰でも俺と同じことをしますよ」

 

 「そーだったな、自分ら経験があるんやったな。でもまあ今のができるってことは即席の連携もある程度できるって証明や。つぎからは確保もやってもらうかもしれん。気ぃ引き締めや!」

 

 

 

 

 

 

 ファットガムとまた人が多い密集地を歩く、今は給与体系の話を聞いてる。

 

 「さっき確保した犯人のこともそうなんやけど、ヒーローは公務員であり、歩合制や。さっきみたいな事件の確保、貢献度をお上に報告して、それに合ったおカネがお上からもらえるわけやな」

 

 なるほど、一定額ではなく完全歩合ってことはそれで生活できないヒーローもいるんじゃ・・・?・・・あ!

 

 「なるほど、それで副業もありになってるんですね?」

 

 「そーゆーことやな!テレビやコラボ商品、グッズ販売なんてのが主や。ワイも色々やってるで」

 

 「あーファットガムのたこ焼きソースとか見たことありますね。さすが大人気「ひったくりー!」」

 

 またかよ!ちょっと治安悪すぎじゃないか?声のした方を見ると原付に乗った男らしきフルフェイスメットがこっちに猛スピードで突っ込んでくる。

 

 

 「エネイブル。失敗しても何とかしたる。一回確保してみい!」

 

 「了解です!」

 

 

 密集地なので銃やナイフはダメだ。素手で何とかするぞ

 

 

 「どけ!邪魔だ!轢き飛ばすぞ!」

 

 「やれるもんならやってみやがれ」

 

 俺はヒスって原付の前で仁王立ちし、絶閂の構えをとる。原付との接触の瞬間、絶閂でインパクトの衝撃を全部地面に流し、一旦、原付を止め、男の手の上から片手でアクセルを緩め、ブレーキを握り推力を0にしてやる。焦った男がバイクから降りようとするのをアクセルを握っている腕でつかみ阻止、そのまま回り込み、キーをひねって抜いて安全確保する。

 

 そこから片腕のワイヤーで男の腕を縛り、後ろ手に回して両手とも縛ってやる。ついでに井筒捕りで盗ったものを確保し、男を地面に押さえつけ、確保完了だ。横でエンジンが切れた原付がガチャンと倒れ、シンとしていたその場がワアアアアアアと沸いた。

 

 

 「おおおおおすっげえ!誰だあのヒーロー!?」

 

 「ファットガムのサイドキック!?」

 

 「あれって雄英の子じゃない!?ってことは職場体験!?」

 

 「まだ学生かよ!いい場面にでくわしたなあ・・・」

 

 

 めちゃくちゃ好き勝手言うじゃねえか。確保した男はもう逃げられないと悟ったのかうなだれている。すまんが、運がなかったな。

 

 

 「やるやないかエネイブル!ホンマ自分に指名入れてよかったで!」

 

 「光栄っす。思ったよりも難しいっすね。銃もナイフも使えないのは戦闘の幅が狭まります」

 

 「すんませーん。それ、うちのもんなんです!よかったあ・・・ありがとうございます。」

 

 「ああ、はいどうぞ。怪我はしてませんか?もうすぐ警察の方が来ますので指示に従ってくださいね」

 

 「ええ、もちろんです。あの・・・ヒーロー名、お聞きしてもいいですか?」

 

 どうしよう、俺は免許持った正規のヒーローじゃない。ファットガムの許可があったとはいえ、ここで名乗ってもいいものだろうか?と困ってる俺を見たファットガムが

 

 「この子は雄英の子でまだヒーローの卵やねん。やから、仮のヒーロー名ですまへんけど・・・エネイブル!それがこの子の今の名前や!絶対将来強いヒーローになるさかい、覚えたってや!」

 

 「・・・エネイブル・・・覚えました!絶対ファンになるから、頑張ってヒーローになってね!今日はありがとう!」

 

 そう言って到着したパトカーに歩いて行ったおそらく同年代であろう女の子を見送って、俺は初めてのヒーロー活動になにか感慨深いものを感じてた。

 

 

 

 「・・・うれしいやろ?守ったからってお礼を言われるのが当然やない、けどな、ああやって純粋な感謝を伝えてくれるひとだってぎょうさんおる。ワイはそれが好きでヒーローやってるんや」

 

 「ええ、なんとなくですけどわかります。俺はきっと、今日を絶対に忘れない」

 

 「それでええ!よし、じゃあ次いくで!どんどんいろんな経験を積ましたるさかい、ついてきいや!」

 

 「はい!」

 

 

 その後は特に目立った事件もなく、ファットガム事務所に帰ることができた。なんでも今日みたいに事件が連続して起こるのはなかなか珍しいらしい。ほんとならほとんどファンサービスで終わるもんやったとファットガムがファーと笑いながら教えてくれた。

 

 

 事務所で今日やったことを記録していると、ファットガムが

 

 「お、今日のこともうニュースやっとるで!お前さんのことは流石に隠してるけどな!」

 

 とテレビ画面を指してきた。そこには確かに今日の人質事件とひったくりのニュースがやっててファットガムが解決したことになってた。まー資格未取得者が解決しましたなんて大っぴらに言えないよなあ。まああの場にいた人間からすりゃ公然の秘密ってやつになるのか。

 

 「まだテレビインタビューとか受けれる気がしないんでこの感じなのは助かりますね・・・よし、終わりました!」

 

 「お、そうか!じゃあメシいこか!今度は別の店やで?」

 

 「昨日もそうだったのに、いいんですか?」

 

 「ええ!今日のお手柄のご褒美や!明日は訓練にあてるさかい、英気を養っておけってことやな!」

 

 「そうですか、ではありがたくごちそうになります!」

 

 「それでええ!素直が一番やぞ!」

 

 

 

 事務所をサイドキックの皆さんに見送られながら出発し、またしてもファットガムおすすめのお店まで歩いていく。やはり人気なのはそうだが・・・俺にも声をかける人がいる。なぜだ?と思ったら携帯の画面を見せてくれて 「ファットガム事務所期待の新星!?雄英からの職場体験!」という名目でまとめサイトがあることを教えてもらった。

 

 な、なるほど・・・しかもファットガムのスレッドにまで話題が出てるらしくこの周知具合は頷けるな。すごい恥ずかしいからおやめになって?

 

 

 「よかったなキンジ!人気者やで!今のうちになれとけや!」

 

 「将来そうなるかもですけど今なるのは予想外でした・・・・」

 

 といいつつファットガムが入った店は・・・ラーメン屋だ。同じように「いつもの」を注文したファットガムに対し俺はチャーシュー麺をたのんだ。今度は何がでてくるんだ・・・?

 

 

 「お待たせしました!当店特性、超壺麺!ファットガム特性スペシャルになります!こちらチャーシュー麺ですね!」

 

 ・・・壺だ。しかもテーブルの半分くらいのサイズがあるでっかい壺。フードファイターもびっくりだな。かるく俺のサイズの数十倍はあるラーメンをファットガムが吸い込んでいくのを横目に、俺は明日の訓練に思いをはせるのであった。 

 

 

 

 

 




はっ!?まさかこれは読者からの「いっそユー珍道中とヒーロー殺し両方書くんだよあくしろよ」という謎のプレッシャーなのでは・・・?(混乱)



やろうと思えばできるけど作業量がやばいのでやりたくないなぁ(できないとは言ってない)


これからもよろしくお願いします。


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第20弾

アンケの内容を鑑みて、ヒーロー殺しは見送ることにしました。ご協力感謝します。


 職場体験3日目、今日はヒーロー業のほうはお休みしてファットガムが直々に訓練をしてくれることになった。どんなことを教えてくれるのか非常に楽しみではあるのだが・・・訓練のはずなのに俺はファットガムと車に乗っていずこかへ送られてる。県を超えてるんですけど?ついでになんでコスチュームがいるんですかね?

 

 「あの・・・ファットガム。訓練では・・・?」

 

 「あーすまん!急に仕事が入ったんや。自分が殴ったサンドバック、覚えとるやろ?」

 

 「ええそりゃまあ・・・はい」

 

 「あれのプロモ映像とCM撮りたい言われてな?メディア関係のこと教えるのにちょうどええと思ってな?連れていくことにしたんや」

 

 なるほど?つまりこれも将来を見据えた経験ってわけか。それだったら手を抜くわけにはいかねえな。

 

 「でもなんで俺のコスチュームがいるんです?」

 

 「そりゃ自分もでるからやで?」

 

 ・・・・え?俺がCMにでんの?なんで?俺の混乱顔を見たファットガムがまたファーと笑いながら

 

 「いやな?あのサンドバックのデータむこうさんに送った時に、ぜひその威力をプロモに使わせてほしい言われてん。ならまあ断る理由はないやろ?」

 

 「俺に対する事後承諾なのはどうかと思いますけど?」

 

 「すまんが今はうちの従業員やから、上司命令や」

 

 パワハラだ!いや別に俺も断る理由ないけどさ。まーいっか、これも経験だ。覚悟を決めるんだ、俺。

 

 

 そうしてサイドキックが運転するファットガム用ビックサイズの車がとまり、俺には縁がないと思っていたでっかいテレビ局の前で車が止まった。ドアを開けてファットガムと降りてテレビ局の受付まで行ってアポイントを取る。

 

 そうして数分後、テレビ局のスタッフに案内され、スタジオに入ると、前のCM撮影が延びてまだ終わってなかったらしい。ほかのヒーローと思しき女性とその他スタッフがまだ作業中だった。

 

 

 ヒーローのほうをよく見てみると・・・確かスネークヒーロー、ウワバミという女性ヒーローの中でも結構な人気のあるヒーローだ。その後ろにはガチガチに緊張してる八百万と・・・たしか体育祭で物間にあて身やってた女子、拳藤だ。その二人がカメラを向けられて撮影されていた。へーあいつらもCMでるのかあ。

 

 え?いやなんでだよ。なに?示し合わせたようにブッキングするとかこんな偶然あるの?

 

 

 「ファットガム、なんか示し合わせました?」

 

 撮影してるからマイクにも拾えない超小声をだしてファットガムに聞く

 

 「なんのことや?急に決まったからそんなサプライズできへんわ。偶然や偶然」

 

 「いやだって、こんなところで同じ雄英のやつと会うとは思わんでしょう。しかも一人は同じクラスですよ?」

 

 「ホンマかいな!?確かによーみたら騎馬戦とガチバトルの時にいた子やな!偶然にしてもできすぎやで」

 

 「でしょう?声もかけにくいですしこれどう切り抜けたらいいんですか!?」

 

 

 なんて話してると「カットォ!」の声とともに撮影がいったん中断された。それでカメラ目線だった視線が解放され、ウワバミ、八百万、拳藤の視線が一気にこっちを向いた。そして、八百万と拳藤が俺がいることに気付き顔がどんどん真っ赤になっていく。俺はそれを前に頬をかくしかない。

 

 「あら、ファットガムじゃないの。あなたも撮影かしら?」

 

 「と・・・とととと遠山さん!?えええいやあのこれはですねその・・・・」

 

 「と、遠山!?お前なんでここにいるんだよ!?」

 

 「おーウワバミ、まあそんなところや。ウチも職場体験受け入れてん。ちょうどいいから勉強させよと思ってな」

 

 「そうなの。って1位の子じゃないの!指名通ったのね。遠山君だったかしら?ウワバミよ。よろしくね」

 

 「はい、遠山キンジです。・・・あー八百万、んで拳藤。俺も今から似たようなことするらしいからそんな動揺すんな。どうせコレ放送されりゃ全国デビューだよ。よかったな」

 

 「ヒーロー活動・・・なんですよね」

 

 「何不安になってるんだよ。考え方次第だろ。ヒーローがCMに出てるってことはそれだけ平和ってことなんだよ。ならそれでいいじゃねえか」

 

 「そう・・ですわね。そう考えることにします」

 

 

 「はーいVチェックしまーす!」

 

 「はい、クリエティ、バトルフィスト!チェック見に行くわよー!なんなら遠山君も見てく?」

 

 「「へ!?」」

 

 うーんどんな感じで撮影するか気になるし見ておきたいな。

 

 「あ、じゃあお言葉に甘え「「ダメ(ですわ!)!」」だそうなのでやめときます」

 

 見ようとしたら二人に全力で拒否られたので諦めて待つことにした。隣にいるファットガムの「いやー青春してるやんかー」という何とも生暖かい表情にイラッと来たがここでブちぎれてもいいことはないのでそのまま死んだ目で待っていると・・・セットの撤収が始まった。どうやらオッケーテープになったらしい。

 

 「じゃ、ワイらの番やな。キンジ、着替えにいくで」

 

 「了解っす。ウワバミさん、八百万、拳藤またどっかでな」

 

 

 3人と別れ、コスチュームに着替え、人生初となるメイクさんによるメイクを体験した後「コスチュームはフルで」という指示があったらしく、マッドブラックのテラナをかけて撮影所に戻ると・・・3人がまだいた。なんで?

 

 「他人の物を見るのも勉強だからね。見学することにしたわ。いいでしょ?ファットガム」

 

 「まーワイはかまへんけど、後ろの二人はそれでええのんか?」

 

 「わ、わたくしはその・・・気にならないというのは・・・」

 

 「嘘になるんで・・・」

 

 「やそうやでエネイブル。かっこ悪いとこ見せられへんなあ?」

 

 「からかわないでくださいよファットガム。俺も別に構いません。見られるものですしね」

 

 

 「ファットガムさん!あと職場体験の子!セットの用意できましたんで打合せします!」

 

 「了解やー!じゃ、エネイブル。いくで」

 

 「はい!」

 

 

 打ち合わせの内容を要約すると

 ①派手な絵が欲しいので俺がサンドバックを殴ってほしい

 ②そしてファットガム並みの耐久性があることを証明したいからファットガムも殴ってほしい

 ③派手、とにかく派手な感じにしてくれ

 

 とのことだ。大体わかったけどそんな感じで大丈夫なのか?というか俺はファットガム殴りたくないんだけど?俺がファットガムを殴るという内容に対してしっぶい顔をしていると

 

 「エネイブル。仕事やで?なぁにサンドバックの耐久性は知っとるやろ?ワイはあれ以上なんや、だから安心してきいや」

 

 「・・・はい。わかりました」

 

 深呼吸して覚悟を決める。まずはサンドバックからだな。一昨日と同じように拳を当て、桜花を準備しようとすると・・・ストップが入った。

 

 「ごめん!その体制じゃちょっと動きがなさ過ぎる。別のやり方できないかな?」

 

 あー・・・無寸勁だもんなあ・・・じゃあ普通に桜花やるか。ただし、マッハ2でやろう。秋水なしでやれる桜花の最高速だ。

 

 「んーじゃあ威力は落ちますけどこれより派手なのやります。カメラってどんくらいの速度まで撮れますか?」

 

 言うまでもないが超音速のパンチだ。撮れませんでしたじゃやり損だしな。

 

 「サンドバック前のカメラはハイスピードカメラだからどんなのでも大体大丈夫だよ。ほかのカメラも精鋭が動かしてるから撮れると思う。じゃ、やってみて」

 

 

 広いスタジオの中、サンドバックから5mほど下がり、右拳を大きく引いてクラウチングスタートと似た構えをとる。それを確認した監督が

 

 

「よーい!アクション!」という声をだし、カチンコがカチン!と鳴って5秒後、俺は全力ダッシュを決め、サンドバックに向かって走る。

 

 その途中で関節を連動、駆動させる。サンドバックから大体1m前で拳が円錐型衝撃波をまとい始め、パァァァァァンという拳が空気を切り裂く衝撃音が響く。俺はそのまま、サンドバックに拳をたたきつける。バッスゥゥゥン!!という音が響き、拳がめり込んだところで「カットォ!」の声が響き、俺はサンドバックから拳を引き抜く。固定されてるとはいえさすがの耐久性だな。

 

 

 「すごいね!今のいいよ!さっき右拳だったけど次左でできないかな!?」

 

 「わかりました。左ですね」

 

 

 「体育祭でも見たけどなんだあれ・・・」

 

 「遠山さんの必殺技の一つですわ・・・なんでもオリジナルだとか」

 

 「オリジナルってことは作ったんだ・・・すごいんだな」

 

 「二人とも撮影中!私語は厳禁よ!」

 

 「「すみません!」」

 

 二人がそれなりに大きな声を出したせいで怒られてる。俺はそれを横目にさっきとは逆の手で構えを取り、同じように撮影する。同じようにパァァァァァンという音が響き俺の拳がサンドバックにめり込む、同じようにカットされ、次はファットガムがサンドバックを殴る番になった。

 

 

 ファットガムがメインなので何発も殴る様子を見ながら自分の番に備える。バスンバスンとサンドバックが殴られる様子を眺めながら自分の撮影に備える。というかファットガムの打撃の威力すげえな。ウェイトがあるからか打撃の威力がすごいことになってる。

 

 

 「はいありがとうございます!つぎ!ファットガムが殴られるシーン行きます!」

 

 

 あーきちゃったか・・・やりたくねえなあ。訓練とかで人を殴るのはまだ必要なことだとわかるんだけど、只見せるためだけに殴るのはどうも気が乗らない。でもやれと言われた以上やるだけだ。

 

 

 「エネイブル!どんときいや!きっちり受け止めたる!」

 

 「胸をお借りします!ファットガム!」

 

 

 同じように構え、合図を待つ。そして・・・・・・「スタート!」の声からきっちり5秒後、同じようにロケットスタートを決め、ダッシュでファットガムまで突貫する。

 

 ファットガムまで1mをきり、同じように腕が衝撃波をまといはじめ、集中した俺の視界がウルトラスローに切り替わる。少しづつ俺の拳がファットガムに近づき、着弾する。

 

 殴った手ごたえがサンドバックと全く違う。サンドバックよりも柔らかく、拳が伝えた衝撃をすべて吸収され、ファットガムはまったく揺るがず、俺の桜花を完璧に受け止めた。すげえ、特に防ぐ様子も、力を込めた様子もなかったのに、自然体で俺の桜花を受け止めたのか・・・・

 

 

 「カット!次逆の手でお願いします!」

 

 「ええ威力しとるやんけ。もう少し強かったら動いとったわ」

 

 「ありがとうございます。もう1回よろしくお願いします。」

 

 うーんかっこいいな。防御系ヒーローの完成系みたいな感じがする。もう一度同じように逆の手で桜花を放ち、同じようにファットガムが受け止める。これで一応言われた撮影は全部終わったことになる。

 

 

 「はいありがとうございました!次、サンドバック挟んでポーズお願いします!」

 

 は?そんなことやんの?ファットガムだけでよくない?と思ったがファットガムに引っ張られてサンドバックの両脇に二人で立ち、二人してガッツポーズを決める。

 

 ほかにもいろいろポーズを決め、俺とファットガムの撮影が終わった。

 

 

 「はい、お疲れ様でした!いい絵が撮れましたよー!」

 

 「はい、お疲れさん!エネイブルもよー頑張ったな!」

 

 「ありがとうございます。いい経験になりました」

 

 撮影が終わったのを確認したウワバミ一行が近づいてきて

 

 「遠山君、いやエネイブルね!すごかったわ。あれだけ自然体で撮影できるなんて初めてにしては素晴らしいことよ!最後のポーズだけは固かったけどね!」

 

 「エネイブルさん、流石ですわね・・・すごかったですわ」

 

 「お疲れ様。あの技ってどうやってるの?」

 

 

 「ありがとうございます。技については企業秘密だ、すまんな」

 

 「ちぇー私もやれるかなって思ったんだけど」

 

 そんな簡単にコピーされたら俺は泣くぞ。というか拳藤の個性「大拳」だっけか?パワー系じゃねえか。俺の技とは相性が悪いからやめとけ。

 

 「いやーエネイブル!今日はいきなり連れてきたけどうまいことやってくれて助かったわ!ほんと器用やな自分!」

 

 まぁ器用なのは俺の最大の長所だしなぁ。遠山の技って不器用なやつはまず使えないし、ミリ単位の精度が要求されるから器用にもなるな、うん。

 

 「よし、Vチェックいくでー。多分全部オッケーテープやろけどな」

 

 「はい」

 

 撮られたVTRを見てみると桜花の映像は予想以上にくっきりと映っていた。スーパースローの中、俺の拳の円錐型衝撃波まできれいに映っていて、着弾の瞬間まではっきりと映っていて、先端科学兵装をつかってる俺だが科学の進歩には驚かされるばっかりだな・・・と考えてるとドカァァァァァン!という音が外から響き、同時にテレビ局の警告用であろうサイレンが鳴りだした。

 

 

 いったいなんだ!?と考えてると監督に内線電話がかかり、電話を切った監督が

 

 「ファットガム、ウワバミ!テロです!玄関にロケットランチャーが撃ち込まれたそうです!」

 

 「なんやて!?エネイブル!下までいくで!ワイらは確保や!」

 

 「はい!」

 

 「クリエティ、バトルフィスト!私たちは援護よ!避難優先、いいわね!」

 

 「「はい!」」

 

 

 平和だったはずのCM撮影は急に緊迫したヒーロー活動に変わったのだった。

 

 

 

 

 




 そういえば原作でもウワバミのところにいったお二人はCMにでてたなあと思い今回の話を考えました。

戦闘成分が足りないので次回は戦闘します。


これからもよろしくお願いします。


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第21弾

すさまじい難産でした・・・オリジナルを考えるって難しいですね・・・・


 CMの撮影をしに来たはずなのにテロに巻き込まれた。ここまでくると俺自身呪われてるようにしか思えないな。

 

 「監督!ワイらのほかのここに来とるヒーローは!?」

 

 「午前はあなた達だけです!もう通報はしてますけどどうなるか・・・」

 

 「そんなもん何とかするわ!とりあえず撃たれた方とは逆の出口から逃げえ!ええな!?」

 

 「はい!みんな聞いたな!?いそげ!邪魔にならないように逃げるぞ!」

 

 監督とスタッフが避難を開始する。応戦するにしても一般人を逃がしてからじゃないとどうにもならん。

 

 

 「ウワバミ!前面はワイがやる!絶対前でるんやないぞ!残ったやつは頼んだで!」

 

 「わかったわ!索敵はこっちでやるから直接確保はお願いするわね!クリエティ、バトルフィストは後方で待機よ!自衛以外の攻撃は禁止。いいわね?」

 

 「「・・・はい!」」

 

 指示を受けた八百万と拳藤が歯がゆそうに返事をする。指示は当然のことだ。いくら雄英の生徒とはいえ、俺たちは資格未取得者だ。もし自由に動かせば責任問題に発展する。

 

 「エネイブル、お前はワイと前衛や。チャカもヤッパも使ってええ、けど人に当てるんやないぞ?ええな?」

 

 「わかりました・・・でも、いいんですか?」

 

 「ええ!この状況じゃ人手がたりん!自分の実力は昨日大体わかった!銃の腕は見てへんけどそこは信頼したる!あとは全部助けてからや!いくで!」

 

 

 ファットガムの合図でファットガム、俺、ウワバミ、八百万と拳藤の順で廊下に出る。俺もベレッタを抜いてファットガムについていく。

 

 「まって!この先3人いるわ。硝煙のにおいがする・・・多分テロリストよ」

 

 「わかった!エネイブル、ワイが押さえたら威嚇射撃せえ!」

 

 「はい!」

 

 ウワバミがヘビの髪を利用した索敵の結果を教えてくれた。ファットガムが曲がり角でいったん止まり、俺がすぐそばでトリガーに指をかけたのを確認して曲がり角から飛び出した。俺も低い姿勢で1回転して膝立ちになり銃を向ける。

 

 

 「くそっ!ファットガムだと!?なめんじゃねぐっ!?」

 

 「ヒーロー!?ちくしょぶっ!?」

 

 近くにいた2人をファットガムが脂肪に沈め、俺がもう一人に銃を向け、足元に一発発砲して初動を抑える。足元に着弾した弾丸にたたらを踏んだテロリストが2人を沈めたままのファットガムに殴られ壁に吹き飛んで気絶する。

 

 

 「クリエティ、手錠とワイヤー創造して!バトルフィストは後方の警戒!」

 

 「「はい!」」

 

 ファットガム、ウワバミ、八百万がテロリストを拘束するのを俺は前方、拳藤が後方を警戒しながら守る・・・とさっきの銃声を聞かれたらしい、ヒステリアモードの聴覚がまた新たな足音・・・今度は2人、鳴る音からして武装も済ませてるぞ・・・が近づいてきてる音をとらえた。

 

 

 「ファットガム、ウワバミ!接敵します!数は2、武装ありです!」

 

 「まずい!ワイの後ろに入れ!」

 

 ウワバミと八百万、拳藤がファットガムの後ろに入る。俺はファットガムの斜め後ろに入り、ベレッタをそのままにデザートイーグルも抜いて二丁拳銃になる。相手が拳銃ならともかくマシンガンやショットガンでも持ってたらこっちにいる銃持ちが俺一人な以上、圧倒的不利になる。

 

 だから、1発で両方の銃を使用不能まで持っていく!

 

 

 「何事だァ!?」

 

 曲がり角から出てきた2人がジャキッと銃を向けてくる。2丁ともマイクロUZIだ。サブマシンガンはマグナムなんかよりよっぽど銃検はおりにくい。ってことは裏チャカだな?

 

 俺はファットガムの後ろから横っ飛びで出ると反射的に俺に銃を向けた二人に対して俺は構えたベレッタとデザートイーグルを発砲する。ファットガムに人に当てるなって言われたから、狙うのはマイクロUZIの銃口だ。精密に撃った俺の弾丸はマイクロUZIの銃口に正確に入り、デザートイーグルのほうは銃口に詰まった。銃口撃ち(チェッカー)ってな。

 

 銃を取り落とした二人にファットガムが反応し、俺も同じように突撃、一人の腕を掴んで地面に押さえ、ファットガムがもう一人を沈めた。

 

 「ようやった!なんや自分チャカもうまいんやな!」

 

 「ありがとうございます!クリエティ!ワイヤー頼む!」

 

 「わかりましたわ!」

 

 ウワバミと八百万が拘束してある間にファットガムに気付いたことを言う。

 

 「ファットガム、こいつらの銃って・・・」

 

 「ああ、裏チャカや。マシンガンやショットガンの銃倹が降りたらヒーローが閲覧できるサイトに情報が載るんや。しばらくマイクロUZIの銃倹はおりてない。しかも2丁や、裏から回したもんが絶対おる」

 

 「ロケランなんて絶対に銃倹おりないですしね・・・」

 

 「せや。実行犯のこいつらはともかく裏にいるやつはそこそこでかいで。ウワバミ!近くにいる要救助者は!?」

 

 「熱感知にはないわ!撮影してたのは私たちだけだったから避難もすぐ済むはずよ!」

 

 「わかった!おそらくこいつらは斥候や。こいつらの親玉が下に入っとるはず、本隊に感づかれる前に奇襲かけるで。下に降りるけえワイの後ろから出るなよ!エネイブル、()()()()()()()()

 

 「・・・・はい!」

 

 気を引き締める。今ファットガムは「この場においてのみお前がサイドキックや」と暗に伝えたのだ。少なくとも足手まといにはならないという判断を下し、資格未取得者の戦闘とかの責任問題を全部負う覚悟を決め、状況の打開を選択した。守る対象ではなく戦友として、なんていうと生意気かもしれないが技量を認められた。

 

 ウワバミはともかくとして、八百万と拳藤は戦闘能力においてどうしても1歩劣るところがある。これは完全に経験によるもので、そもそも戦闘向きじゃないウワバミ、戦闘は出来ても経験が圧倒的に不足してる八百万と拳藤に対し、元から武闘派のファットガム、遠山の地獄のような実戦修業をこなしてきた俺との違いは大きい。

 

 こっからは正面戦闘だ。どんだけ敵が弾を撃ってこようが防弾は全部俺がこなしてやる。

 

 

 狂い咲け遠山桜、この満開、散らさせてなるものか!!

 

 

 「この先がエントランスやな。ウワバミ、人数は?」

 

 「16人ね・・・さっきのやつを含めると全部で21人・・・・ずいぶん大所帯だわ」

 

 「わかった。ワイの合図で突っ込む。クリエティ、バトルフィストはこのまま階段で待機や。クリエティ、盾になるものを創造しとけ。バトルフィストは万が一があった時の備えや。常に気を張って周り見とけ、ええな?」

 

  「「はい!」

 

 「ウワバミとエネイブルはこのままワイといくで。ウワバミはワイら行動不能にしたヴィランの拘束を、エネイブルは敵の銃を速攻で使用不能にするか落とさせるんや。ええな?」

 

 「わかったわ!」「はい!」

 

 「じゃあいくで・・・・3・・・2・・・1・・・今や!」

 

 ファットガムの合図で飛び出すと、それぞれ4人づつ固まったヴィラン連中がそれぞれ待機してるところだった。武装は拳銃が多いな・・・あった!RPG7だ。弾を込めずに立てかけて放置してある。アレを使われたら厄介だ、最初に使用不能にしてやる!

 

 デザートイーグルで一発発砲してトリガー部分に着弾させ、壊す。その発砲音で気づいたヴィラン連中がそれぞれこっちを見て、RPG7のほうを見て壊されたことに気付いたらしい。それぞれ武器を手に取って立ち上がった。

 

 「誰だぁ!?」

 

 「ヒーローか!?どこから来やがった!?」

 

 「ヒーローや!とんでもないことしおったな自分ら!場合によっちゃそのまま豚箱行きやで!」

 

 「あんたら!暴行!改正銃刀法違反!騒乱罪!その他いろいろあるけど現行犯よ!おとなしくしなさい!」

 

 

  「これで終わったら何しに来たってんだよ!なめんじゃねえ!」

 

 とヴィランの一人が言ったとたん、それぞれ銃をこっちに向けてくる。俺はその時点で危険度の高いサブマシンガンを優先して銃口撃ちで壊し、それをファットガムが確保に走るが、いかんせん数が多い。流石に間に合わず発砲を許してしまった。

 

 ダンダンダン!と俺が壊しきれなかった拳銃からそれぞれファットガムに2発、俺に1発銃弾が発射された。とりあえずファットガムに向かった弾丸をベレッタで1発発砲し、1発はじいた弾丸がさらにもう一つ弾けるような角度で撃つ。狙い通り、1発目をはじいた弾丸がさらにもう一発をはじいた!連鎖撃ち(キャノン)だ。

 

 右腕をファットガムの防弾に使ってしまったので、残る左腕を防弾に使うがさすがに発砲して銃弾撃ちまで持っていけない。腕を振るい、亜音速まで加速させて、ガントレットで弾をはじく。バチィ!と弾が明後日の方向に向かっていったのを確認し、デザートイーグルの銃口撃ちでさらにいくつか銃を使用不能まで持っていく。

 

 ここまで来て俺は一つおかしいことに気付いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その後も同じように銃を壊してファットガムが確保していく。16人全員を確保し終わり、ファットガムが尋問に入った。

 

 「おい!これで全員か?これ以上やらかしたらさすがにただじゃ済まんで?」

 

 このままじゃ烏合の集だ。ただテレビ局にカチコミをかける意味がわからない。そもそもが練度が低すぎて俺の銃撃に対する備えが全くできてなかった。素人集団に貴重な裏チャカを持たせた理由がきっとあるはずだ。

 

 「けけけ・・・俺たちは確かにここで全滅だ。けどな・・・ヴィラン連合の手のやつが言ってたよ・・・くだらないもんは全部壊していいって。俺たちは全員無個性か弱個性だ。差別を助長する個性主義の番組を作るこのテレビ局が気に入らなかったんだよ・・・」

 

 理由はそれか・・・確かにここのテレビ局は個性を利用した番組作りをすることで有名だ。過激なそれは視聴者にもうけるが、反面同じことができない無個性のいじめを助長するとしていろいろな団体から批判を受けている。こいつらもその一つってわけか。

 

 そして・・・・ヴィラン連合って言ったな?USJ襲撃の時のやつらじゃねえか。バックにそいつらがついてるからこんな派手なテロを仕掛けてきたのか、ってことはこれは陽動の可能性が出てきたぞ?どっかで何かやらかすかもしれん。

 

 

 「ウワバミさん!ファットガムさん!エネイブルさん!大丈夫ですか!?」

 

 「おー終わりや。警察ももうすぐ来るやろうしこれで解決やな。クリエティとバトルフィストはともかくワイとエネイブルはお説教や。ウワバミ、協力感謝するで」

 

 「ええ、私もあなたたちに問題がなかったことはわかってるから、うまいこと証言するわ」

 

 ピーポーピーポー・・・とサイレンが聞こえる。どうやら警察が来たらしい。ファットガムが縛り上げたやつらを担いで外に出るのについていく。すでにパトカーから降りた警察たちが銃を構えるが・・・ファットガムだとわかった瞬間、銃をおろしこちらに駆け寄ってきた。

 

 「お疲れ様です!ファットガムですね?こちらでテロがあったと通報があったのですが・・・・」

 

 「ああ、あった。もう鎮圧はすんでるさかい、移送たのむわ。あと、ワイの許可の元資格未取得者に戦闘させた。そのことについても頼むわ」

 

 訓練だったはずの3日目は波乱のまま終わりそうで少しげんなりしているが、まあ一件落着だな。

 

 

  

 「・・・はあ・・・なにも・・・できなかった・・・」

 

 八百万?何を落ち込んでるんだ?

 

 「どうしたんだ?怪我人もなにも出なかったじゃねえか。万々歳だろ?もうちょっと明るい顔したらどうだ?」

 

 「遠山さん・・・いえ、なんでもありませんの・・・自分の不甲斐なさにすこし・・・」

 

 「あのなあ・・・俺を基準にしたらダメだぞ?俺は確かにお前より戦闘能力は高い。けどな、それだけなんだよ」

 

 「それは・・・どういう・・・」

 

 「物理的な強さっていうのは一ステータスでしかないんだよ。お前は俺より個性の幅が広くて、頭もよくて、いろんなことが出来る。それこそ救助や治療なんかだったらお前のほうが間違いなく上だ。今回はたまたま俺のほうが起きたトラブルに対して有用だったってだけだ」

 

 「でも・・・わたくしテロって聞いてしまった時、頭が真っ白になって何も思いつかなくなってしまったんですの・・・指示だけ聞いて、それで動いてるお人形・・・遠山さんは自分で考えて動いてましたわ・・・」

 

 「そんなもん俺だってそうだ。ただ、同級生の女子より取り乱して、お荷物になるのが嫌だったから気張ってただけだよ。お前らいなかったら俺も後方だっただろうな」

 

 「それでも・・・」ピリリリリリリ!! 

 

 

 俺と八百万の携帯に同時にメッセージが届いた。見てみると、緑谷だ。中身は・・・位置情報?場所は・・・東京都保須市!?まさか・・・!

 

 「八百万!」

 

 「ええ!おそらく緑谷さんのSOSですわ!すぐに伝えませんと!」

 

 

 「ファットガム!」

 

 「なんや!今忙しいねん!あとにしいや!」

 

 「今東京に行っている同級生から保須のある場所の位置情報が送られてきました!おそらく・・・ヒーロー殺しに遭遇したんだと思います!」

 

 「なんやて!?間違いじゃあらへんのか!?」

 

 「ファットガムさん、今ネットニュースの速報で保須で大規模なヴィラン災害が発生してると出てます。そうでなくても何かがあったはずですわ!」

 

 「わかった!とりあえず近隣のヒーローに通報するさかい、安心しいや!」

 

 

 ・・・無事でいてくれ、緑谷・・・・! 




 次回も更新は遅くなると思うので気長に待っててください


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第22弾

ちょっと強引ですがこれ以上続けるとエタりそうなので職場体験編はこれで終わりです。


 結局緑谷の位置送信の意図はわからず、警察からファットガムとともに違反行為の罰を受けた俺とファットガムはそのまま車でファットガムの事務所まで戻っていくことにした。

 

 「結局、叱られましたね・・・俺たち」

 

 「まあ理不尽やと思うかもしれんがしゃーないわ。それがルールやからな、まあワイは減給、自分は謹慎1日やろ。まあそんなもんやろ」

 

 「まあ・・・そうですね。誰も怪我人は出なかったし、その責がこれなら甘んじて受けましょう」

 

 「それでええ、別に出かけるなゆーわけじゃないしな。なんだったら観光して来たらどうや?いいスポット教えたるで―?」

 

 「いいですね、それ」

 

 ピリリリリリリ!と俺の携帯が着信を知らせた。もしかして緑谷か?とみると案の定緑谷だった。検査入院することになったけど無事だったと・・・やっぱり襲撃されてたんだな。・・・そうだ!ちょうど謹慎くらったし見舞いに行こうかな。病院と部屋番号教えてくれと緑谷にメッセージを飛ばし、ファットガムに友人の無事を伝える。

 

 「ほーか!そりゃよかったなあ!これで一安心やで!」

 

 「ええ、それで何ですけど・・・明日の謹慎を使って見舞いに行きたいんですけど、いいですか?」

 

 「いってきい!ついでにうまい土産もんも教えたるわ。友達によろしゅうな」

 

 さすがファットガム、話が分かるな。正直言ってヒーロー殺しの件と俺が遭遇したテロは両方とも裏にヴィラン連合の姿があるはずだ。幸い俺には戒厳令は敷かれてない、俺からことをばらして緑谷から情報を得たいってのが正直なところだ。

 

 いまもネットニュースでは俺がUSJで遭遇した脳無の姿が大きく取沙汰され、波紋を呼んでいる。もし・・・もし、これがやつらの次動くための布石だったとしたら、絶対にもう一度雄英を狙ってくる。雄英が巻き込まれれば俺はともかく、かなでのことが心配だ。特に今回のような俺がそばに着けれない行事だったらなおさら。

 

 結局それから、ファットガムおすすめの土産の情報をもらう以外会話らしい会話はなく、車は俺が泊まっているホテルについてしまった。

 

 「キンジ、わかっとると思うが、むやみに今回のテロの話広めるんやないぞ。お前が何をしたいかは大体わかる。・・・・今回は見逃したるさかい、終わったら報告せえ」

 

 「・・・・はい」

 

 そのまま去っていったファットガムだが・・・見透かされていたな。そのうえで情報を集めるために泳がされた。これが、プロか・・・・化け物ばっかりだな。

 

 

 

 

 そのまま部屋へ戻ってテレビをつける。ついでにスマホでヒーロー殺しについて検索をかけ、見れる情報だけ調べていこう。

 

 「テレビは速報で保須のことをやっているな・・・ヴィラン連合はほぼおまけ、で俺のほうはなかったことになっていると・・・・」

 

 スマホのほうの検索では・・・・なに?ヒーロー殺しの主張?いかにもタイムリーな動画だな。一応見ておくか。

 

 『誰かが・・・・ヒーローを取り戻さねば・・・!血に染まらねば!!』

 

 なっ!?動画越しでもわかる、気迫、重圧・・・・こいつがヒーロー殺しだ!どういうことなんだ?こんな距離でヒーロー殺しの撮影に成功してるなんて・・・・しかも、後ろのヒーローたちに混ざって、緑谷、飯田、轟の姿がほぼ朧気であるが確認できる。

 

 『来い!来てみろ偽物ども・・・!・・ハァ・・・・俺を殺していいのは・・・オールマイトだけだァ!』

 

 

 ・・・ほんの一分だけのはずの動画で、圧倒されてしまった。思想犯、しかもかなりイカれているタイプのヴィランだったのか・・・正直言えばこの動画は見たやつを動かせる何かがある。これを見たやつが何かしら感化されてヴィランになったとしても不思議じゃないぞ。

 

 

 もう一度確認しようと再生ボタンを押すと・・・削除されていた。警察の対応も早いな。今日は疲れたのでそのまま寝ちまおう。明日緑谷の返信が着てたら東京の病院へ、来てなかったらファットガムに断って観光でもさせてもらうか。

 

 

 おれはシャワーを浴びてベッドにダイブし、目覚ましをセットして眠りについた。

 

 

 

 翌日、早く寝た反動か目覚ましがなる前に起きた俺は、せっかくだしホテルにある大浴場を利用しようと部屋を出て、そのまま大浴場でひとっ風呂浴びて部屋に戻った。うーん熱い湯が体にしみて気持ちがいいなあ。

 

 部屋に戻ってスマホを確認すると、緑谷から返信が来ていた。なぜそんなことを聞くのかと問いつつも律義に病院名と部屋番号が記載されていた。テキトーに返信して、ホテルの朝食をたらふく食った後に制服に着替えて駅に向かって出ていこうとすると・・・・ファットガムからメールが来た。

 

 もし職質されたらこの画面を見せると証明になるから送ってくれたらしい。なるほど、ファットガムのサインと単独行動許可という書類の画像が送られてきた。お礼の返信をファットガムにして今度こそ駅に向かう。

 

 

 そのままファットガムおすすめの土産を買い、新幹線のチケットを買って時間までコーヒーでも飲んで一服し、新幹線で東京、保須まで電車に揺られてそのまま緑谷たちが入院している病院まで3時間ほどかけてむかった。

 

 保須総合病院ね・・・受付の看護師さんに緑谷の部屋番号を伝えて面会できるかと聞いたら可能との返事だったのでそのまま緑谷たちの病室まで向かう

 

 ついたので3回ノックし「どうぞ!」という飯田のしゃっきりした声が響いたのでがらりと扉を開けた。

 

 「ようお前ら、大変だったな。無事でよかったぜ」

 

 「「「遠山!(君)」」」

 

 「どうしてここに!?」

 

 「あー・・・ちょっと俺のほうでも事件があってな、なし崩し的に俺も正面戦闘をする必要があったからその分のお咎めで1日謹慎もらったんだよ」

 

 「そう・・・だったのか」

 

 「ああ、んでこれ土産な。関西名物、ファットガム饅頭だ」

 

 「わあ!これ通販でも手に入らなかいからいつかほしいと思ってたんだ!ありがとう遠山君!」

 

 「おお、そうなのか・・・で、どうだったんだ?」

 

 「どうってのは・・・なんだ?」

 

 「怪我とかそこらへんだよ。見た感じ刃物か?後遺症は?」

 

 「ああ、緑谷君と轟君は問題ないが・・・俺は腕に若干の麻痺が残るそうだ」

 

 おもったよりえぐいことしやがるなヒーロー殺し・・・まあ殺人鬼だしこれだけで助かったのならまだいいほうか・・・。

 

 「そうか・・・でも飯田お前、なんか顔が晴れやかだな。いいことでもあったのか?」

 

 「そう見えるのかい?いいことはなかったけど・・・二人のおかげで思い出せたものがあったよ」

 

 へぇ・・・思いつめてたはずの飯田の顔が、入学したくらいの自信にあふれたクソ真面目な顔に戻ってやがる。良くも悪くも緑谷が影響を与えたっぽいな。

 

 「あったんだろ?ヒーロー殺し」

 

 おれが本題を切りだすと全員の様子が迷うようなものに切り替わった。ああ、やっぱり戒厳令敷かれてんだな。

 

 「うん、会ったよ。詳細は省くけど、活動中に遭遇して、エンデヴァーに助けられたんだ」

 

 ふーん・・・そういうことになってるんだな。まあここでこいつら相手に抉り出してもいいことないし俺のほうから明かしてこいつらの意見を聞いておくか

 

 

 「そうか、緑谷のSOSっぽい位置信号がきたくらいしかクラスのやつらは知らなかったけどな。そんで現場にいたお前たちに聞きたいんだが・・・ヒーロー殺しとヴィラン連合、関係あると思うか?」

 

 「ヴィラン連合・・・!?遠山君、もしかしてニュースとかで保須の様子が?」

 

 「ああ、ばっちりUSJででた脳無の仲間っぽいバケモンまでニュースでくっきりだったよ。ヒーロー殺しのイカれた主張の動画まで出回ってる始末だ。そんで、これオフレコなんだけどな」

 

 「なんだ?」

 

 「俺が謹慎する原因になった事件な、裏でヴィラン連合が協力してたっぽいんだ。違法銃器の斡旋って形でな、で起きたタイミングもお前らがSOS出す直前だ。関係してないって考えるほうがきついだろ」

 

 「なんだって!?遠山君、それって本当なの!?」

 

 「声がでけえよ。構成員の一人が捕まった時にゲロってたよ。おそらく間違いない。で、だ。ヒーロー殺しと脳無、協力してたりしたか?」

 

 「いや・・・してない。むしろヒーロー殺しは脳無を一体殺してた。協力関係にあったとは思えねぇな」

 

 「そう・・・だね。どっちかっていうと敵対してたんじゃないかな?」

 

 「確かにな。むしろヴィラン連合とは相性が悪いように思えた」

 

 ふぅん・・・ってことはヴィラン連合はヒーロー殺しと協力関係を結ぼうとしたが破綻、で死柄木の性格上八つ当たりで保須を襲撃して、俺のほうはたまたまタイミングがあったって考えるほうが妥当か・・・?ま、これ以上は聞けなさそうだ。雑談に切り替えて個人的に聞きたいこと聞いちまおう、何してたとかな。

 

 

 「じゃあ俺の思い過ごしの可能性のほうが高いな。ついでに聞きたいんだがお前ら、職場体験何してたんだ?」

 

 「へっ!?それだけ!?」

 

 「そんだけだよ。個人的に聞きたかっただけだしな。それよりも他人がどんな体験してたかのほうが気になるだろ?俺も話すから聞かせろよ」

 

 「俺は・・・クソ親父直々の訓練とパトロールだけだった。事件もそんなに起きなかったけど、あいつがナンバーツー張れてる理由が何となくわかった気がする」

 

 「話すの!?」

 

 「ダメだったのか?」

 

 轟の天然はこういう時助かるな、空気を変えてくれて楽だ。しかし、エンデヴァー直々のトレーニングか・・・個性の関係上俺にうまみはあんまりなさそうだけどちょっとうらやましいな、轟は苦虫をかみつぶしたみたいな顔してるけど。

 

 

 「俺は、ほとんどパトロールだった。マニュアルさんが保須のヒーローだけあって、ヒーロー殺しをことさらに警戒してたみたいでな。訓練よりもパトロールの時間のほうが多かった。」

 

 「逆に僕は訓練だけだったよ。初めてパトロールに出たときに巻き込まれてね・・・」

 

 「あー緑谷、そりゃ残念だったな。俺はパトロールとなぜかCM撮影に出たよ。そのうち放映されるんじゃねえかな?」

 

 「ええええ!?なんでそうなったの!?」

 

 「あー、商品がファットガムを模したサンドバックでな?打撃系の技が多い俺が適役だったってファットガムがだな・・・」

 

 「「「ああ・・・・」」」

 

 「なんだその反応は」

 

 こいつら俺のことゴリラか何かだと勘違いしてるんじゃねえか?まあそれは・・・よくはねえけどおいとこう。

 

  

 

 結局職場体験先のことで盛り上がり、2時間ほど話しているとがらりと扉が開いて黄色いヒーロースーツを着た老人が入ってきた。だれだ?

 

 「おい緑谷、調子はどうだ?」

 

 「あ、グラントリノ!もう大丈夫だと思います!」

 

 ああ、この人がグラントリノ、緑谷の体験先のヒーローか。というか聞いたことのない名前だな・・・今度調べてみようか。

 

 「んん?坊主、てめえ体育祭優勝したやつだろ?なんでここにいるんだ?」

 

 「あ、はい遠山キンジです。昨日あった事件で正面戦闘の必要があって・・・警察のほうから1日謹慎をもらったので見舞いに」

 

 「遠山・・・ん?遠山?なあお前さん、遠山鐵って知ってるか?」

 

 じいちゃん?なんでこの人が知ってるんだ?もしかして活動者時代の知り合いなのか?

 

 「祖父ですが・・・なんで知ってるんですか?」

 

 「やっぱりそうか、鐵さんには昔世話になってな。孫が何人かいるのは聞いていたが・・・なるほどお前がなあ。知ってたら指名したんだが」

 

 「それは光栄ですね。じいちゃんにも伝えておきますよ。お元気そうだったって」

 

 「ああ、頼む。緑谷も元気そうだし、俺は帰るわ。お前も明日から職場体験再開だろ?さっさと体験先に戻っておけよ」

 

 「はい。ありがとうございます」

 

 「グラントリノ!明日からまたよろしくお願いします!」

 

 ひらひらと手を振ってグラントリノは戻っていってしまった。

 

 

 

 そのあとまた話が盛り上がり1時間ほどたったところで・・・面会終了時間になっちまった。緑谷たちに別れを告げて、保須をあとにし新幹線で関西まで戻る。途中ファットガムに連絡をいれ、報告をする。詳しい話は明日聞くそうだから今日はそのままホテルへ行けとのことだ。お言葉に甘えよう。

 

 

 ホテルに何事もなく帰り、かなでに連絡を入れてちょっと話した後俺はそのまま就寝するのであった。

 

 

 翌朝ファットガム事務所についた俺はファットガムに昨日の顛末と俺の考えを報告した。

 

 「ほーん・・なるほどな。それがホンマやったらヒーロー殺しとヴィラン連合は協力関係にはなさそうやな・・・よくやった!これ以上はワイと警察の仕事や。お前さんは今日からまたヒーロー活動、再開やで!」

 

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 結局、職場体験の期間ではこれ以上大きな事件も、ヴィラン連合に関することも聞くことはなく2週間あっという間に過ぎていってしまった。

 

 

 




 先の展開はなんとなくできてるのにそれを言語化するのが難しい・・・頑張ります。


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第23弾

戦闘シーンのほうが書いてて楽しいです。・・・日常シーンってなんでこんな難しいんだろ


 結局のところ、職場体験が終わるまで事件らしい事件もなく、かといってほかの場所で何かが起こるわけでもなくパトロールと訓練を繰り返し、そのまま雄英に戻ることが出来た。

 

 はっきり言って訓練は身になるものしかなかったな。どっちかっていうと俺は避けてカウンターするより攻撃を受けてカウンター入れるタイプだ。そしてファットガムのおかげで受けの技術がだいぶ向上した。いまなら脳無のパンチだって絶閂なしで受けれる気がする・・・なんていうのは言い過ぎか。

 

 

 そして職場体験が終わった翌日・・・今日がかなでとの合流日だ。先生方に感謝しないとな。

 

 がらり、といつも通り教室に入ると・・・なんか違和感があるな、あ!爆豪の髪型だ。なんだろ・・・・七三分けをもっとかっちりしたような髪型になってる。ぶっちゃけにあわねえ。

 

 「おはよう爆豪。どうしたんだその髪型」

 

 「あ”あ”!?るっせえ固まっちまって洗っても戻んねえんだよ!」 

 

 「ブハハハハハ!マジか!マジか爆豪!ああおはよう遠山・・・アッハハハハ!」

 

 「切島、おはようさん」

 

 「おい笑うんじゃねえぶっ殺すぞ!」

  

 

 いじられ続ける爆豪を置いておいて自分の席に座る。そうすると透が寄ってきた。なんかその浮く制服を見るのも久しぶりだな。

 

 「おっはよー!キンジ君!職場体験どうだった!?」」

 

 「よう透。有意義だったぜ?ヴィラン退治も体験できたしな」

 

 「えぇいいなー!私ほとんど訓練だけだったよ・・・」

 

 「普通そうなんだろ。俺はファットガムが実戦派だったってだけだよ。まあ正直楽しかったのは認めるけどな」

 

 「ぶーぶー!不公平だー!」

 

 なんて話してると、わがクラスの女子の視線が俺たちに向いてることに気付いた。何か御用でしょうか・・・?

 

 「ねえ遠山ちゃん。いつの間に透ちゃんと名前で呼び合うようになったのかしら?」

 

 「恋バナ?ねえ恋バナ!?」

 

 「何勘違いしてるか知らんが、透にそう呼んでほしいって頼まれただけだ。なあ?」

 

 「えっと・・・そうだよ?仲良くなれたねってだけ!」

 

 「ほんとかー!?怪しいぞ透さんよー!白状するのだー!」

 

 「どんなキャラだよ芦戸・・・・」

 

 なんとなく透が恥ずかしそうだがまあこんな弄られ方すりゃ当然か、助け舟出してやるか

 

 「そういやお前ら職場体験どうだったんだ?なにしたんだよ」

 

 「私は一回密入国者を捕まえたわ。ほかは訓練ね」

 

 「私は訓練とパトロール!梅雨ちゃんうらやましいなー!」

 

 「麗日はどうだったんだ?職場体験」

 

 「とても・・・・有意義だったよ」

 

 なんか麗日が堂に入った構えを披露してるが、たしかバトルヒーローのところだっけか。指導がうまいみたいだな、職場体験前とは比べるべくもないくらいに麗日の実力が上がってるみたいだ。

 

 

 「しっかしまあ、みんな変化してるけど、一番はお前ら3人だな!緑谷、飯田、轟の!」

 

 上鳴が指摘した通りあいつらはヒーロー殺しと直接まみえたことで大きく飛躍した。犠牲は大きかったけどな。

 

 

 「そーそー!ヒーロー殺し!動画見たか?怖えけどさぁ、執念?理想ってーかなんか・・・かっこよくね?って思っちまったわ」

 

 あほか上鳴、被害者の前で加害者を褒めるやつがどこにいるんだよ。たしかにヒーロー殺しは思想犯だが、狂人だ。やっちゃいけねえことやった犯罪者なんだよ。

 

 「ちょ・・!上鳴くん!」

 

 「あ、飯田・・・わりぃ!」

 

 「いいさ、確かに信念を持ったやつだった。魅かれる人間がいるのもわかる・・・けど、やつは粛清という方法を選んだ。どんな考えでもそれは間違いなんだ」

 

 飯田・・・乗り越えたからか、考え方も変わったみたいだな。思考の柔軟性が上がったと思う。

 

 「さあそろそろ始業だ!席につきたまえ!」

 

 かっこいいぜ、飯田。

 

 

 

 

 

 「はい、私が来たーってことで少年少女!久しぶりだなあ!ヒーロー基礎学、始めるぞ!」

 

 なんかぬるっと入ってきたな、ネタ切れか?オールマイトもそういうことあるんだなあ。

 

 「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた、救助訓練レースだ!あと、ネタは尽きてないからな?」

 

 「USJじゃなくていいんですか?」

 

 「あすこは災害時の訓練だからな?今レースといったろ?この運動場γは複雑に入り組んだ密集工業地帯!5人ずつに分かれてレースをしてもらうぞ!」

 

 うわー俺の課題の一つである機動力が試されるやつじゃねえか・・・うーん・・・どうしたもんか・・・ファットガムのおかげで移動に幅が出てきたし試してみるか?

 

 「私がどこかで救難信号を上げるから、町外からスタートした君たちは私に向かってきてくれ!一番に私の元にたどり着いたものが1位だぞ!」

 

 

 緑谷、飯田、芦戸、瀬呂、尾白が一組目だ。俺たちはモニターでレースの様子を見ることになる。

 

 「1位予想な!俺瀬呂!」

 

 「あー・・・尾白もあるぜ?」

  

 「オイラは芦戸!あいつ運動神経すごいぞ!」

 

 「怪我あっても飯田くんな気がするなあ」

 

 緑谷の名前が出ないあたり、あいつの評価が定まってないんだろうな。何やら新技を会得したらしいし、期待しておくか。

 

 『スタート!』

 

 合図とともに各々の個性で飛び出した5人だが、目立ったのは瀬呂だ。一瞬で空中まで飛び出し、上を行くことでごちゃごちゃした街を一気にショートカットする気だ。

 

 「ほら!こんなごちゃついたところは上行くのが定石ぃ!」

 

 「となると滞空性能が高い瀬呂が有利・・・」

 

 そうだな・・・でも、ここで決めつけちまうのは無理だ。瀬呂の後ろからだが・・・

 

 

 「「「「緑谷!?」」」」

 

 そう、緑谷が全身にワンフォーオールを纏って、瀬呂を抜いて飛びながら先に進んだのだ。たしか「フルカウル」だったか?体育祭前じゃ発動に5秒かかってたのに、全身に5%の出力を出し続けることに成功してる。へー・・・グラントリノ、凄い人だったんだな。

 

 「おおすげえ緑谷!あの動き・・・爆豪か!」

 

 「すごい・・・ぴょんぴょん・・」

 

 そうか、どっかで見たと思ったら爆豪の空中の動きに似てるんだ。緑谷は屋根を伝って一番にオールマイトの元に・・・・あっ落ちやがった。

 

 結局瀬呂が1位になり、緑谷が最下位だった。慣れない技を使ったせいで周りが見えなかったんだな。

 

 次は俺か・・・同じ組は、常闇、切島、上鳴、八百万だ。とりあえずファットガムに教わったことを活かしてみよう。

 

 『スタート!』

 

 外周から道なりに入り、走る速度を落とさず障害物をアクロバティックに超えていく、いわゆるパルクールってやつだな。遅くなるんじゃねえってバカにしてたんだが、やってみると障害物がある中ではめちゃくちゃ速く移動できることに気付いて、なるほどと感心するくらいだ。

 

 スライディングでパイプをくぐり、立った瞬間にバツン!と桜花のジャンプで斜め上のパイプまで飛び、掴んだパイプからさらに振り子運動の要領でさらに斜め上の柵まで飛んでそこから三角跳びの要領で上に飛ぶ。

 

 そこからビル屋上までワイヤーを飛ばして手すり部分に繋ぐ。俺のワイヤーの巻取り機能は人を支えられるものではないので、桜花で引き、一気にビルの上まで移動する。横を見ると同じ事を考えてたらしい常闇がダークシャドウを利用して別ビルの上にいた。負けるわけにはいかんな。

 

 そこから桜花を利用して、大ジャンプを繰り返し、オールマイトがいるところまで最速最短で進む、途中油でぬるついてたところとか濡れているところとかトラップっぽいところがあったのでそれは避けてジャンプを繰り返す。

 

 ほどなくしてオールマイトの元にたどり着いた。他に誰もいないので俺が一番だ。そして俺に送れること10秒ほどで常闇が、そこから2分で八百万、5分で切島、7分で上鳴がきて終わった。

 

 「だー!機動力がないのきっついわ!」

 

 「俺もだ・・・ほんと課題だなぁ」

 

 「そうだな!個性の使えない状況でどう対応するかも大事だぞ!自分に合った移動方法を身に着けような!」

 

 「「「「はい!」」」」

 

 

 その後もうまいこと進んでいき、授業が終わって着替えてると峰田が騒ぎ出した。

 

 「おいお前ら!この穴見ろよ!諸先輩方が頑張ってあけた穴っぽいぜ!隣は女子更衣室・・・!あとはわかるだろ!?」

 

 「おう峰田やめとけよ。自分の評価を落とすだけだぞ」

 

 一応注意しとこう。もしやろうとしたら鉄拳制裁してやる。

 

 「うるせえ!オイラのリトルミネタはもう立派にバンザイしてるんだよ!八百万のヤオヨロッパイ!芦戸の腰つき!葉隠の浮かぶ下着!麗日のうらゴッ!?」

 

 「そこまでにしとけよー・・・緑谷、はがしたポスター元に戻しといてくれ」

 

 ゴツン!と俺の拳が頭に入り峰田が伸びたのを確認し、壁の穴から引きはがす。どうせ耳郎あたりが聞いてるだろうし八百万が塞ぐだろ。

 

 「あ、うん・・・」

 

 結局、伸びた峰田を担いだまま教室に帰り、ホームルームをして帰ろうとすると・・・

 

 「キンジくーん!更衣室の時はありがとうねー!あのままだったら耳郎ちゃんが峰田くんに個性で罰与えてたところだよー!」

 

 「なんだ、俺が手出さないでもよかったのか。まあ犯罪だし止めなきゃ人としてアレだったけど」

 

 「みんなありがとうって言ってたよ?あ、そーそー!もうすぐ期末試験だねー!」

 

 「あー忘れたままでいたかったな・・・・まあ夏休みを平穏に過ごしたいし勉強はしないとな」

 

 この後かなでを迎えに行って、普通に帰ったが・・・かなでが久しぶりにあえたせいですごいテンションが上がってたな。寂しかったのだろう。結局わがままを聞き入れてしまい同じ布団で寝ることになってしまった。なんだかんだ俺も甘いなあ。

 

 

 翌日のホームルームにて

 

 「えー・・そろそろ夏休みも近いが、君らが1か月まるまる休める道理はない・・・・夏休み、林間合宿やるぞ」

 

 

 「「「「「知ってた!やったーーーー!!!」」」」

 

 「肝ためすー!」「花火!」「カレーだな・・・」

 

 

 騒がしいな・・・峰田が欲望に忠実にいろいろ言ってたが何も言わん。どうなっても知らんぞ。

 

 「ただし・・・・期末テストで赤点だったものは学校に残って補修地獄だ」

 

 「皆がんばろーぜ!」

 

 しっかし期末かあ・・・英語と数学はまだいいとして他がなあ・・・どっかで勉強会でもするかぁ?緑谷か飯田巻き込めば結構よさげな気がするが。よし、善は急げだ。頼んでみよう。

 

 

 「緑谷ー、あと飯田。お前らどっかあいてる日ないか?」

 

 「遠山君、どうしたの?」

 

 「俺成績あんまよくねえからな、どっかで勉強会やろうと思って、巻き込みに来た」

 

 「そういうことなら是非!」

 

 「俺もいいぞ!その精神!素晴らしいな遠山君!」

 

 「あー!じゃあ私もいれてー!

 

 「私もいれてくれへんかな?」

 

 「おお、透、麗日。いいぞー」

 

 不安だったのか女子二人も入ってきた。どこでやろうか・・・?俺の家だったらこの人数だったら何とか入るか。ちゃぶ台でかいし。

 

 

 「んじゃー期末までこのメンバーで何回かやろうぜ。俺の家なら入るから俺んちでいいか?」

 

 「「「「オッケー!」」」」

 

 「じゃーとりあえず今日からな」

 

 

 

 授業が普段通り進んで、あっという間に1日が終わる。みんな制服のままうちに来るらしい。歩きで通える範囲だしまーかまわねえか

 

 「キンジくんの家に行くの楽しみだなー!」

 

 「そんな面白いもんはねえぞ?」

 

 「僕も、誰かの家で勉強なんてしたことないや」

 

 「俺もだな」

 

 「私は一回きたなー。遠山くんの家」

 

 「へ!?麗日さんそれほんと!?」

 

 「おーその節は世話になったな麗日」

 

 なんてがやがや話してるとすぐ俺の家に着いた。まあ普通のマンションだな。一人暮らし用にしちゃけっこいう広いからかなでが来てもまだ余裕がある。

 

 「おー入ってくれ。かなで、ちゃぶ台下ろしといてくれ」

 

 「はぁいお兄ちゃん様!」

 

 「「「「お邪魔します」」」」

 

 「いらっしゃい。靴は適当に脱いでくれー」

 

 「へーここがキンジくんの家・・・案外普通だなー」

 

 「何を想像してたんだよ」

 

 「壁のいたるところにナイフとか銃とかぶら下がってるのかなって」

 

 「そんなに銃倹おりねえよ」

 

 というかそんなことしてたら俺はただの危険人物になっちまうだろうが。ジーサードの部屋が多分そんな感じだったはずだ。あいつ金持ちだし。

 

 

 「ちゃぶ台で悪いけどかけてくれ、飲み物とってくる」

 

 「あ、手伝うよ」

 

 「いいよ。コップ取ってくるだけだ」

 

 人数分のコップを手に取ってかなでがとってきたペットボトルのお茶をもって戻る。俺は英語と数学以外をやらなきゃな。

 

 

 「じゃ、やろうかね」

 

  途中かなでの手を借りつつ和気あいあいと俺たちは勉強会をするのだった。緑谷と飯田は流石頭がいいらしく説明もうまかった。麗日と透も地頭はいいらしく俺の説明でもわかってくれてよかったな。

 

 期末までこれ以上何もないといいんだけどな・・・・




 次こそ・・・次こそ戦闘回を・・・・!


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第24弾

ひゃーやっぱり戦闘シーン書くのは楽しいなあ!(表現がアレなのは別として)


 その後何回かメンバーそのままで勉強会をし、テストに臨んだ。途中、演習試験が対ロボットの実践演習だという情報が緑谷からもたらされたが、あの教師陣のことだし絶対違う試験をしてくるだろうと予想をたてて座学にも手を抜かないようにみんなで勉強した。

 

 

 緑谷と飯田の教え方がうまかったせいか俺がやったテストとは思えないくらいに手ごたえがあった。いつもこうなら苦労はないんだけどな・・・・

 

 んで今日が演習試験の当日だ。バスストップ(雄英専用)に集められたが・・・ズラーッとならぶ先生方に俺たちはなんとなく引き気味だ。だってこれ絶対ロボ演習とは別のことするって物語ってるじゃねえか。やっぱり当てが外れたなあ。

 

 「それじゃあ演習試験を始めていく。赤点あるから林間学校行きたきゃヘマすんなよ。で何をするかだが・・・・」

 

 「入試みたいなロボ無双だろ!!」

 

 

 「花火!カレー!肝試し!」

 

 「残念!今年から諸事情で試験内容を変更しちゃうのさ!」

 

 

 相澤先生の捕縛武器から顔を出した校長が今年から変更と言った・・・・ってことはあれか。俺らは貧乏くじ引いたわけだな?絶対ヴィラン連合とかヒーロー殺しのせいだろふざけんな!・・・・はあ・・・もう上鳴と芦戸がお通夜な空気だし・・・だいじょうぶかね?

 

 「職員会議で対ロボは実戦的ではないという判断がされたのさ!それに伴って・・・これから諸君には「二人一組」でここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

 貧乏くじは貧乏くじでも特大だったか・・・・弱ったなあ。確実に弱点を突かれてくるだろ。俺だったらマイク先生かセメントス先生だな・・・相性が悪すぎる。ついでにオールマイトはただの無理ゲーだ。頼むから別であってくれ・・・・

 

 「尚、ペアと対戦相手はこっちで勝手に決めた。まず・・・八百万と轟でペア、相手は・・・俺だ。そして緑谷と爆豪。相手は・・・」

 

 「私がする!全力でかかって来いよ!協力して勝ちに来たまえ!」

 

 オールマイトは緑谷か・・・んで爆豪?絶対仲の悪さ・・・あるいは爆豪のとがりすぎたコミュ能力が関係してるだろ。ここまで恣意的だと逆に怖いわ。

 

 

 「で、切島と遠山ペアな。相手はセメントス先生。バスのとこまで行け」

 

 「「はい!」」

 

 ほらーセメントス先生だー・・・んで切島か。これは俺たち共通の弱点である物量戦、消耗戦に弱いことでペアを組まされたな?対人戦じゃ強いのも似通ってるし、防御してカウンターという戦闘スタイルも一緒だ。

 

 「よろしくね二人とも。バスの中で説明するから乗っちゃおうか」

 

 セメントス先生に促されバスに乗るとすぐにバスが発車した。俺たちだけでバスが使えるとは贅沢だなあ・・・勝てるかね・・・

 

 

 「じゃあ説明を始めるよ。制限時間は30分。勝利条件はどちらかが既定のゲートから逃げるか私にこのハンドカフスをかけること。僕らみたいな格上の相手との戦闘を想定し、逃げて応援を呼ぶか、戦って勝つかの判断を見たいんだ。」

 

 「判断能力の試験ってことっすか?」

 

 「そうだね。逃げることも立派な戦術。ただ戦って無意味に負けては意味がない。ときには勇気ある撤退も大事さ。けど、戦闘を視野に入れるため僕ら教師は体重の半分の重りを身に着けることになってる」

 

 「禁止事項はありますか?」

 

 「基本的にないけど、君の場合は広範囲に破壊を及ぼす技や、殺しかねない技を使うのは避けたほうがいいね。あくまでヒーローとしての行動を、いいね?」

 

 

 その言葉とともに、バスが泊まって俺たちは演習場に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 「さて、切島。こういう場合セメントス先生はどこにいるとおもう?」

 

 俺たちの演習場はいわゆるビル街、大きな一本道が街を縦断する大型道路を模した演習場だ。そして、ゲートは俺たちから見て正面の端に設置されてると渡されたマップで確認した。

 

 「そりゃ、ゲート前だろ。逃げようと思っても戦闘するしかねえわけだ!燃えるな!」

 

 ガツン!と拳を打ち付けて熱くなってる切島だが・・・まず間違いなくただ特攻するだけじゃ勝てん。こいつほっといたら正面突破しそうだし釘刺しとくか。

 

 「あー正面突破はなしだぞ?セメントス先生相手には愚策すぎる。ちょっとセメントス先生の場所確認するから5分待っててくれ」

 

 「じゃあ俺も!」

 

 「いや、やってもらいたいことがある」

 

 「なんだ?」

 

 「木造の建物、見つけといてくれ。セメントス先生が追いかけてきたときに逃げ込める場所が欲しい」

 

 「わかった!任せたぜ遠山!」

 

 「5分後にこの位置に集合で頼むぜ。こっちこそ任せたぞ切島」

 

 

 

 切島と別れ、俺は堀蜥蜴でビルの上まで登り、そこからゲート方面までパルクールでビルの上を跳躍して移動する。そして、ゲートに続く一本道の途中からコンクリの壁がいくつも突き立ってるのを確認した。その先を追っていくと・・・セメントス先生だ。ゲートより少し前で片膝をついて待っている。

 

 意地の悪いことにゲートまでは一本道だ。横道など存在しない。ビルとビルの間の路地裏は存在するがどこも行き止まりだ。ってことはやることは一つだな。・・・奇襲、それも一発勝負の。思いついた作戦を切島が呑んでくれりゃいいんだけど。

 

 

 3分ほどセメントス先生を観察し動きがないことを確認する。ついでに一本道のコンクリの壁を全部覚えて目印にしておく。ここで動くようであれば速攻が必要だが・・・そういうわけじゃなさそうだ。切島のところまで戻ろう。

 

 

 「切島!見つかったか!?」

 

 「遠山!あったぜ木造の家!」

 

 「じゃあそこで作戦会議だ。案内頼むぜ」

  

 「おう!」

 

 案内された外れた場所にある木造住宅に入り、設置されてたソファに切島とかけて現状について話す。

 

 「まずセメントス先生はゲート前で陣取ってる。仕込みは全部終わって俺たちを待ってる状態だ。で、横道とかはねえからゲート前まで一本道になってる」

 

 「なるほど!じゃあ漢らしく正面突破だな!」

 

 「それじゃ勝てん。多分セメントス先生はお前が俺を巻き込んで正面突破してくると踏んであの布陣を敷いたんだ。作戦があるんだが聞くか?」

 

 「そうか・・・まあ頭の回転の良さはお前のほうがいいから乗るぜ!聞かせてくれ」

 

 「まず、俺が壁に張り付いて上に登れるのは知ってるよな?」

 

 「ああ、確か家の技だっけ?」

 

 「そうだな、まずセメントス先生の想定を逆手にとって、正面突破を始める。で、途中から俺が離脱してビル上から直接セメントス先生に奇襲をかけるから、俺が足止めしてるうちにお前は壁を破るなりなんなりして俺のとこまで来てくれ」

 

 「足止めの合図とかはあるか?」

 

 「多分俺たちが正面突破を始めたらセメントス先生が壁を増やしてくるはずだ。セメントス先生は止まってないとコンクリを操れない。壁が増えなくなったらペース上げろ。お前が来なかったら俺も負けるからな。よろしく頼むぜ、切島」

 

 「ああ!任せたぜ、遠山!」

 

 「じゃあ15分で作戦を始める。チャンスは一度、賭けもいいとこだ」

 

 「そういうのが一番燃えるぜ!やろうぜ!遠山!」

 

 

 きっかり15分後、緊張をほぐすために雑談をはさんでセメントス先生が陣取る一本道の前の最初の壁に陣取った俺たちは頷きあってガツン!と硬化した拳とガントレットをぶつけてから作戦に移る。

 

 「切島、最初は俺からだ。お前には体力を温存してもらう必要があるから離脱するまでは俺が壁を壊す」

 

 「でもお前、ビル登って直接戦うってのに大丈夫なのか?」

 

 「問題ねえ。壁のぼりなんて休憩もいいとこだ。離脱ポイントは3分の2進んだところ、そっからはおそらく物量も何もかもが倍になる。お前が一番頑張ってくれなきゃ困るとこなんだよ」

 

 「わかった!背中は任せろ!」

 

 「任した。じゃあ!いくぞ!」

 

 

 俺は最初の壁に向かって大和と鷹捲を同時に使って拳をぶち込む。借りる重さは俺の上限ギリギリ、けど体育祭で鷹爪狼牙を使って分かったが「大和と鷹捲を合わせて撃つと衝撃が貫通して遠くまで届く」のだ。

 

 コンクリの壁は衝撃に押し倒されるようにその後ろ十数枚を巻き込んで一気に吹き飛んだ。もちろん気づいたセメントス先生が再生させようとコンクリを動かしてくる。

 

 

 「走れ!切島!」

 

 「おう!」

 

 俺たちは再生しきる前にコンクリの惨害を乗り越えて先に進む、すぐに新しい壁についたので今度は桜花と秋水の蹴りで蹴り壊し、前へ進む。予想通り、近づくにつれ再生速度がどんどん早くなっていく。ついでに横もコンクリが動いて俺たちを閉じ込めだした。

 

 あと15枚・・・なら一気に全部壊す!  

 

 

 「鷹爪狼牙っ!!」

 

 ズドォォォン!!という音とともに横を覆いつつあったコンクリや目の前の壁がすべて吹き飛んで離脱ポイントまでがら空きになった。コンクリの煙が立ち込めてる今がチャンスだ!

 

 

 「切島!離脱する。あとは頼んだ!」

 

 「頼まれた!行ってこい!」

 

 

 俺は離脱し煙が立ち込める中行き止まりの路地裏に入り堀蜥蜴を使ってビルの壁を上り始める。すぐにビルを上り切った俺はセメントス先生の位置を確認する。両手をついて目の前のコンクリを操ることに集中してるな、よし!

 

 パルクールでビルを音もなく飛び移る。移動は速く、手早く、そして静かに。セメントス先生の近くまで移動できたのでビル屋上から一気に飛び降りる。個性とヒステリアモードを併用してる今、10階建てビルからパラシュートなしで降りたって無傷で降りられる。

 

 俺はセメントス先生のすぐ後ろにほぼ無音で5点接地回転法で着地する。着地の瞬間橘花で引いて衝撃をやわらげりゃ怪我なんてしねえ。

 

 

 「二人とも、戦闘の基本はいかに自分の得意を押し付けることだよ」

 

 「勉強になります。セメントス先生」

 

 「っ!?」

 

 

 俺が後ろにいるとは気づいてなかったセメントス先生がバッと後ろを振り向いて俺を見るが、俺は中段前蹴りを既に打っている。かろうじて腕を差し込んで防御したセメントス先生が少し飛びずさり、距離ができる。

 

 

 「驚いたよ遠山君。どうして背後のゲートをくぐらなかったんだい?それだけで合格だったのに」

 

 「セメントス先生、それはこの演習の合格であって期末テストの合格じゃない。仮に俺がゲートをくぐったところで俺は合格できても切島は落ちるかもしれない。俺はそれを許容できません」

 

 「じゃあ、どうする?」

 

 「あんたにカフスをかける。今、あんたがコンクリを操れていないということは、あんたは個性を使いながらの近接戦が得意じゃないってことだ。俺たちが目指すのは・・・」

 

 

  ボゴォン!!という音がして背後のコンクリの壁がぶち破られる。

 

 「「二人揃っての合格だ!」」

 

 来たか、切島。信じてたぜ。

 

 

 「遠山、待たせたな!」

 

 「ナイスタイミングだぜ、切島」

 

 「応ともよ!」

 

 「いいね、二人とも。そう来なくては」

 

 「覚悟してください。セメントス先生!」

 

 

 二人してセメントス先生に突っ込む。セメントス先生は巨大なコンクリの拳を作ってこっちに突っ込ませてくる。迎撃しようと拳を構えると・・・

 

 「遠山!任せろ!ウラァァァァ!!!」

 

 切島が全身を硬化させ拳を受け止めた!しかも一歩も下がらず拮抗してやがる。やるじゃねえか切島!

 

 「切島!そんまま受け止めてろ!」

 

 俺は切島の硬化した背中に跳鷹を打ち込む。切島の体を伝ったパルスは正確にコンクリの拳に伝導し、粉々に砕いた。

 

 「邪魔ですね、少し飛んでいてください」  

 

 セメントス先生がつぶやくとともに俺のしたのコンクリが爆発するように跳ね上がり、反応できなかった俺は空中に飛ばされてしまう。即座にデザートイーグルを抜いた俺だが・・・クソッ!コンクリの壁が上を覆ってて射角がねえ!どうする・・・?そうだ!

 

 「切島!右腕を真横に伸ばせ!」

 

 「わかった!」

 

 切島真横に硬化した腕を伸ばすと同時にドンドンドン!と3発発砲する。正確に計算して放たれた弾丸は、切島の腕を跳弾し、横の壁、セメントス先生の背後の壁を正確に跳弾、背中、胸、みぞおちにほぼ同時に着弾した。

 

 「ぐぉっ・・・」

 

 飛ばされた穴から正確に着地した俺は切島と同時にダッシュ、セメントス先生に肉薄する。セメントス先生はダメージによろめきながらも壁を張って防御しようとするが、今更一枚の壁で止められるかよ!

 

 「夜鷹っ!」

 

 ギィィィィン!というグラインダーで削ったような音を立て、コンクリの壁が切り裂かれる。俺は一足跳びにセメントス先生の手を取り、合気の要領で片手を封じ、もう片手を首にかけ、拘束する。

 

 「切島っ!」

 

 「おうっ!コイツで終わりだぁ!」

 

 カシャン、と音を立てセメントス先生の片手にカフスがかけられる。よし!合格だ!

 

 「やれやれまいったね・・・合格だよ切島くん、遠山くん」

 

 「よっし!やったな遠山!」

 

 「ああ、協力してくれてありがとな、切島」

 

 「お前のおかげだぜ!ありがとな!」

 

 

 作戦開始前にしたように、ゴツン!と拳とガントレットを打ち合わせて、俺と切島の演習試験は終わりを告げたのだった。

 

 これで不合格だったらさすがに泣くぞマジで・・・・




 さーてこれからはヒロアカの話の中でも激動と言っても過言ではない林間学校編です。頑張るので見捨てないでください(土下座


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第25弾

 なんか知らんけど筆が走ったので初投稿です。


 切島との期末テスト演習において、何とか合格を勝ち取った翌日教室に入るとやはり期末テストの結果についていろいろあったのだろう。みんなそのことについて話し合っているようだった。

 

 「皆・・・土産話楽しみに・・うぐっ・・・してるから”あ”・・・ぐすっ」

 

 「ま・・まだわかんないよ!どんでん返しがあるかもしれないから・・・!」

 

 「お前それ言ったらなくなるやつだぜ緑谷」

 

 特に悲惨な顔してるのは実技クリアならずだった芦戸、上鳴ペアだ。あと瀬呂も採点基準がわからないため顔つきはすぐれない。

 

 「うるせえ!試験で赤点取ったら補習地獄!そして俺と芦戸は実技クリアならず!これで結果がわからないのなら貴様の偏差値はサル以下だ!」

 

 落ち着け上鳴。キャラがぶれてんぞ。まーいっても相澤先生の性格を考えると学校に生徒を残していくとは考えづらい。緑谷の言う通りどんでん返し、あるかもしれないぞ。

 

 「お前ら、予鈴が鳴ったら席につけ。ホームルームを始める」

 

 相澤先生が入ってきた瞬間クラス全員が光の速度で席に着席した。相変わらず訓練されてんなー俺も含めて。

 

 「さて、期末テストの件だが知っての通り赤点が出た。従って林間学校は・・・・」

 

 ごくり、と息をのむ音がそこかしこから聞こえる。どうせなら全員で行きたいよな。

 

 「全員で行きます!」

 

 「「「「どんでん返しだあ!!」」」」

 

 

 うるさっ!あー・・・よかったな芦戸と上鳴。クラス全員で林間学校行けるしな。

 

 「筆記のほうはゼロ、実技は芦戸、上鳴、瀬呂が赤点だ。今回の試験、教師側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見ていた」

 

 あー・・・セメントス先生がビル上を見なかったのはあえてだったのか・・・勝ち筋に沿っていた、誘導されていたんだな。そう考えるとなんか悔しいぞ。

 

 「本気で叩き潰すと言ったのも追い込むためだ。林間学校は強化合宿、赤点のやつほど行かなきゃならん。ま、嘘を言ったのは省みるよ」

 

 でも雄英のことだ。赤点のやつは多分学校残っての補習よりもきついんじゃないか?

 

 「もちろん補習も同時に行うから覚悟しとけよ。じゃあ栞配るから回してけ。あと遠山」

 

 「はい」

 

 なんだろ?赤点取ってねえから悪い話じゃないと思うんだが。

 

 「お前ちょっとついてこい。すぐ終わる」

 

 言われたまま相澤先生についていって廊下に出る。そして階段あたりに出ると先生が振り向いて話かけてきた。

 

 「テスト開けてそうそうすまないが、明日の休み空いてるか?」

 

 「空いてますが・・・何かあるのですか?」

 

 「ちょっと頼みたいことがあってな。ジャージで明日雄英まで来てくれ。遠山妹については連れてきてくれて構わない」

 

 「わかりました」

 

 「手間を取らせる。まあ内申少し上げておくから許してくれ。時間は朝9時に頼む。それじゃ」

 

 明日ねー・・・しかも相澤先生の頼み・・・きつそうだ。何するんだろうなと考えつつ教室に戻ると・・・ 

 

 「あ、キンジくんお帰り!明日空いてる?みんなで林間学校の買い物することになったんだ!」

 

 うっわータイミングわっる・・・この透の輝いた表情が見えそうな雰囲気・・・断りづらい・・・

 

 「あー・・・・すまん!今さっき相澤先生の手伝いをすることに決まったんだ。だから、いけない」

 

 「そうなんだ・・・・うん、わかったよ。手伝い頑張ってね!」

 

 あー・・・気を遣わせちまった。恨むぞ、相澤先生。八つ当たりだけど。

 

 

 

 そんな話があった翌日、みんなが買い物に行く中ただ一人休日だったはずなのに学校に出張してきた俺とかなでが職員室に入ると・・・体育祭で見た顔・・・ああ!心操だっけか?が相澤先生と一緒にいた。

 

 「来たか、遠山。やってもらいたいことなんだが・・・コイツの訓練を手伝ってほしい。オールマイトさんから聞いたが、緑谷の特訓に付き合ったそうだな?」

 

 「確かに緑谷に徒手を教えたのは自分ですが・・・・意外ですね。こういう特別扱いはしないと思ってました。な?かなで」

 

 「そんなことないですよ!相澤先生は優しいんです!」

 

 かなでから見たらっていうか職場体験中にそう思うことがあったんだろうな。

 

 「まあ事情は大体わかりました。他言無用ですね?俺は何をしたらいいんですか?」

 

 「察しがよくて助かる。今日は俺と組手してもらう、個性なしでな。定期的に手伝ってくれると助かるんだが・・・」

 

 「私用がなかったらでよければ手伝いますよ。俺にもやりたいことくらいはあるので」

 

 「それでいい。心操、今日からは基礎トレと並行して徒手の組手、武器術も行う。手伝ってもらうんだから余すところなく自分のものしろ、いいな?」

 

 「はい!遠山、知ってると思うけど心操人使だ。すまないけどよろしく頼む」

 

 「いいよ。体育祭でお前がヒーローになりたいのはわかった。手伝ってやるから追いついてこい」

 

 「頑張ってくださいね!」

 

 「・・・おう」

 

 なるほどなー・・・相澤先生が心操に目を付けたから手伝えって話だったわけか。というか思ったけど俺いるのか?相澤先生だけでいいんじゃねえの?

 

 「心操、準備してこい。遠山は話があるから残れ。マイク!遠山妹を頼む」

 

 呼ばれたマイク先生がかなでを連れて行ってしまい俺と相澤先生が残った。なんだ・・・?

 

 「今日はすまないな。体育祭から個人的に俺が心操を見てるんだが・・・俺一人だけじゃ経験が偏るからな。今クラスの中で徒手が一番優れてるのはお前だから、呼んだわけだ。ついでに武器も使うのはお前だけだし、総合戦闘ができるやつは貴重だ。合理的に考えてお前が適任ってわけだ」

 

 「俺は個性ありの状態でアレですよ?さすがに買いかぶりすぎではないですか?」

 

 「過ぎた謙遜は失礼だぞ。技がいくつか使えなくなるだけだろう。身のこなしでどれだけできるか程度はわかる。金一がそうだったからな、お前もそうだろう」

 

 うわー見抜かれてる。流石雄英のプロだな・・・まあここまで来て否はないし、別にいいけどさ。心操がいるとはいえプロと戦えるのは貴重な機会だ。

 

 「わかりました。やらさせてもらいますよ。準備するので行っても?」

 

 「ああ、場所は体育館μだ。お前捕縛縄術どこまでできる?」

 

 「家に伝わってる古いものでよければ」

 

 「わかった。行ってよし。俺もすぐに行く」

 

 

 

 着替えて指定された体育館μ・・・いわゆる一般的な体育館についた俺、先にいた心操、俺の後すぐに入ってきた相澤先生がそろったところで相澤先生が口を開いた。

 

 「揃ったな。さて、時間は有限。早速始めていこう。最初は俺と遠山、遠山は個性禁止な。時間は3分だ」

 

 「はい」

 

 返事はしたものの、どうしたもんか・・・遠山の技はヒステリアモードが前提だ。一部例外のような存在(父さんとか)がいるけど俺はそうじゃない・・・あっそうだ!ジーサード経由で中国の女の子からカンフー習ったっけか・・・えーっと確か猴だったな。おっ思い出してきた。

 

 彼女からは広く浅く習ったので、今回は八極拳ベースのなんちゃってチャンポンカンフーでやってみよう。秋草や秋水を多用する俺には一番相性がいい。

 

 向かい合って腰を落とし、構える。相澤先生は俺の構えがいつものものと違うことに眉を上げたが気にせずオリジナルの構えで相対してきた。

 

 「心操、合図頼む」

 

 「はい!・・・・はじめ!」

 

 

 心操の合図を聞いた瞬間俺は活歩、八極拳の踏み込みで懐まで入り、発剄を用いたワンインチパンチを仕掛ける、が反応した先生に肘で逸らされた、空いた右側に先生の腕が伸び、服を掴まれたので肩と体重移動を利用して体をねじり、外しにかかる。

 

 先生は俺が体をねじった時点で手を離し、ねじられた体の先に向かって蹴りを打ってくる。くそっ、判断が早い!素の俺の反応速度じゃ追いつけないぞ!俺はとりあえず蹴りに腕を差し込み防御、そのまま先生の足に沿うように回転しながら近づいて裏拳を放つが防がれる。

 

 その状態のまま背中での体当たり、いわゆる鉄山靠を放つが当たった瞬間後ろに飛ばれた。うーん・・一筋縄じゃ行かないよなあ・・・

 

 踏み込んできた相澤先生が、右フック、左ストレート、右ボディとコンビネーションを打ってくるがこれがまたいやらしく合理的だ、反撃を差し込もうとした瞬間飛んできて防御するしかなくなる。俺の呼吸を完全につかんで操ってやがる。

 

 コナクソとばかりに無理に差し込んだ右の拳も逸らされるだけだ。まともに防御しようとすらしないってことは俺が素の状態でも秋草を打てるって確信してるな。じゃあ逸らせないだけの威力で殴ってやる!

 

 ズダン!と俺の震脚が響き、体勢を低くした俺が左肘から相澤先生にぶつかっていく、いわゆる頂肘ってやつだ。これはさすがに防御せざるを得なかったらしく、受け止められるがインパクトの瞬間力を込められて衝撃がうまく入らなかった。失敗だ。

 

 次につなげようと肘を戻そうとすると、ビーーー!とタイマーが鳴った。

 

 「・・・ここまでだ」

 

 「・・はい」

 

 完全にあしらわれてたな。あー個性が使えないとここまで弱いのか・・・いや、相澤先生が上手かったんだ。くっそー見せたことないから一発くらい入ると思ったのに全部弄ばれたぜ・・・・

 

 「心操、俺たちのような身体能力と直結しない個性もちは殴り合いにおいて無個性と変わらない。が、やり方次第ではいくらでも可能性は増やせる。今やった遠山の動き、俺はすべて初見だったが経験、直観、自分の練度・・・すべてを効率よく利用すれば捌くことはできるってことだ」

 

 「勉強になります」

 

 「俺たちから盗め、そしで自分の動きを作るんだ。俺の構えやファイトスタイルは我流だが、根底には見習い時代の教えが必ずある。お前はヒーロー科に比べればかなり遅れている。それは何も学業だけじゃない、ヒーロー科の連中が入学前から行っていた体作りとかも含めてだ。体育祭でわかったと思うが、入試のロボは素手で十分壊せる範囲だった。葉隠がいい例だ」

 

 「っ・・・はい!」

 

 きっついこというなー相澤先生。発破のためだろうけど。心操、俺はお前のこと応援してるぜ?だってお前の個性、だれよりも人を傷つけなくて済むじゃねーか。俺みたいに物理全振りなやつじゃできないことだ。

 

 「じゃ、次心操と遠山。遠山は受けに回って攻撃するな。心操、お前は正しい打撃の打ち方を学べ。俺が動きを矯正する」

 

 というわけでスパーリングが始まった。心操が拳を打ってくるが・・・なんというか、へちょい。多分人を殴るという行為に嫌悪感、あるいは忌避感があるのだろう。打ち方も割と危なっかしいし受け失敗したら心操が怪我しちまう。

 

 「心操、本気で打ってこい。ためらってたら助かる命も助けられなくなるぞ」

 

 「心操、遠山を呼んだのは受けの技術がプロ並みだからだ。殴られて怪我をすることはないし殴ったほうも怪我をさせない技術をソイツは持ってる。だから全力でやれ、訓練にならん」

 

 「・・・っ!!」

 

 心操が本気で打ってくるのを俺は捌く、空振りさせるのではなく腕で受け止めて、ショックを吸収し怪我をさせないようにだ。相澤先生が逐一止めてどこに打つか、その場所に打つならどう拳を当てるか等の細かい指導をはさんでいく、心操も必死で食らいつき、フォームを洗練させていく。

 

 「いいか心操、相手をよく見ろ。体の動き、筋肉、骨格の動き、目、口元、指・・・・すべてが大切な情報だ。次の動きを予測するためのな」

 

 「はいっ!」

 

 3分立ち、1分休憩をはさんでもう一回、今度は俺がどこかで一発だけ攻撃をするからそれに反応して防ぐというのも含まれる。

 

 通常こういうのは無拍子レベルのコンパクトなものがいいんだろうが、心操は初心者だ。少し大げさに予備動作をはさんで攻撃を仕掛けるが、攻撃に必死だった心操は防げなかった。顔面の前で寸止めされた俺の掌底を見て心操はゴクリとのどを鳴らした。

 

 「実戦なら今ので終わりだぞ。もっと落ち着け、必死になるのはいいが冷静さを忘れるな。視野を広く持って、相手の動きを俯瞰してみろ」

 

 

 

 そうしてみっちり4時間ほど特訓をして、訓練は終わった。更衣室で心操と一緒に着替えていると

 

 「すごいんだな、流石体育祭優勝者だ。・・・羨ましいよ」

 

 「そうか?俺はお前のほうがうらやましいけどな」

 

 「俺が?どうして・・・?」

 

 「お前の個性、相手が人なら何よりも心強い。物理的な強さじゃ測れないもんがあるんだよ。俺にはそういうもんがないからそれが羨ましい。いくら強くたってどうにもならないもんがこの世にゃある。それはきっとお前みたいな個性のやつが解決できることなんだぜ?」

 

 「そんなこと考えたこともなかったな・・・言われてきたのは悪用のことだけだ。変わってるな、お前」

 

 「そりゃどうも。これからも一緒に訓練するんだしよろしく頼むぜ、心操」

 

 「それはこちらこそ。お前の技術、絶対に俺のものにしてやる。だからこっちも、よろしく頼むよ遠山」

 

 こいつとは長い付き合いになりそうという予感と、絶対に上に上がってくるという確信を持ちながら、俺は着替えをして戻るのだった。

 




林間学校はいらなかったけど許して・・・・


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第26弾

 林間学校編スタートです。個人的には2番目に好きな話ですね。


俺と心操が相澤先生にしごかれた同日、買い物に行っていた緑谷が死柄木に遭遇したことが全体チャットで送られてきた。幸い緑谷は無傷だったが精神的にかなりきてたみたいだ。というかそもそもよく無事ですんだと思う。

 

 「えー、お前らも知ってる通りそんなことがあった。なので例年使ってる合宿所をキャンセル、行先は当日まで明かさないことになった」

 

 まじか、どこに行くかとかかなでに教えちまったよ。かなでは夏休み期間中はじいちゃんのところに行く予定だからいいんだけどさ。クラスのやつらも突然の行先変更に戸惑っているようだ。

 

 「とりあえず日程も変わる。少しずれるがすまんが合わせてくれ。以上解散」

 

 ホームルームが終わり、もう明日からは夏休みだ。合宿は前倒しして明後日になる。俺も準備しとかねえとな。

 

 「キンジくーん!一緒に帰ろー!」

 

 「ん?ああ途中までな」

 

 「かなでちゃんはー?」

 

 「ああ、もう兄さんが迎えに来て東京に戻ったよ。俺がいないからしょうがないけどな」

 

 そう、俺はもう会ってないが兄さんからメールで連絡がありかなでとともに俺の実家まで行ってしまったのだ。どうやら兄さんが休みを取らな過ぎて労働法に引っかかったらしい。お上から怒られて3日ほど有休をとらざるを得なくなり、そのついでという形でかなでの面倒を見てくれるというのだ。

 

 「そうなんだー。キンジ君はさ、もう準備できてるの?」

 

 「いや、俺の場合ナイフとか銃とか危ないもんが多いからな。装備以外は別にできてるんだけど危ないもんは直前に詰めなきゃなんねえんだ。やるなら明日だな」

 

 「武器を持つってのも大変なんだねー。」

 

 「そりゃな」

 

 とりとめのない会話をはさみながら透と一緒に帰り、途中で別れた俺はスーパーで合宿に必要そうなものを買って帰ったのだった。

 

 翌日荷物をまとめていると、結構な大荷物になった。1週間分だからでかくなるのはそうなんだがなにせ使う弾薬とかが多すぎる。詰めすぎて誤爆でもしようもんなら大惨事不可避だ。というわけで相澤先生に連絡を入れてどういうことをするかだけ教えてほしいと質問し、弾薬を取捨選択しようとしたのだが

 

 『するのは個性の強化だ。武器はいらんというか持ってくるな。ナイフ程度でいい』

 

 とのことだったので思い切って銃は置いていくことにした。バタフライナイフと、念のためジーサード経由でもらった分厚いサバイバルナイフを持っていくことにした。ついでに仕込みワイヤーをいくつか。これで準備完了だ。明日からの合宿が楽しみだな。

 

 

 

 

 「え!?A組補習いるの!?あれあれあれぇ!?A組はB組よりずっと優秀なはずなのにおかしいな!?」

 

 うるせえ。翌日の林間学校当日に俺たちを待っていたのはB組の物間によるおかしな一人演説だった。こいつって頭の中どうなってるんだろうな、なんかこう嫉妬?羨望?みたいなものが透けて見える。

 

 「B組だってA組に負けてないんだ」っていう感情がオーバーフローしてるのかもな。クラス愛があるのは結構なんだが、俺たちだって好きでヴィランに襲われたわけじゃないしなんだったら被害者だっている。こいつ飯田の兄が被害にあったのを知ってて平気で煽ってくるから正直好かん。

 

 「はいはい、そこまでな。ごめんね」

 

 トン、と物間の意識を手刀で刈り取った拳藤が謝るが、その状態がいつもだったら正直よくないんじゃねえの?別に口がよく回るのは武器なんだが自制を覚えてほしいと思う。

 

 「体育祭じゃいろいろあったけど、よろしくなA組」

 

 「ん」

 

 

 

 B組の女子たちがそう言ってバスのほうに行っちまったので俺もバスに乗り込んで適当に席に座る。窓際なのは都合がいい。カーテン閉めてつくまで爆睡しようと考えていると

 

 「あら、遠山ちゃん。隣いいかしら?」

 

 「ん?ああ梅雨か。いいぞ」

 

 「ありがと。林間学校、楽しみね?」

 

 「そうだな。俺もいつもより体がかるくて楽だわ」

 

 「どういうことかしら?」

 

 「相澤先生に言われてな、銃とマガジンは置いてきたんだ。いつもより5キロくらいは軽いぞ」

 

 「そうだったの。私、お友達とこうやって学校行事でお泊りするなんて修学旅行くらいしか経験ないからこう見えてわくわくなのよ?」

 

 梅雨の顔をじっと見つめてみると、確かにいつものかわいいカエルっぽいポーカーフェイスが若干緩んで笑顔になってるな。そんなに楽しみなのか?と思っていると梅雨の顔に赤みがさした。

 

 「その、遠山ちゃん・・・そんな見つめられると恥ずかしいわ・・・」

 

 「ん、ああすまん。かわいい笑顔だなって思ってな」

 

 「ケロ・・・・」

 

 あ、なんかもっと赤くなっちまった。言葉選びミスったか?と思っていると

 

 「なんだよ遠山ばっかよぉ!ラブコメしてんじゃねえぞ!オイラにもわけろください!」

 

 「峰田ちゃん・・・」

 

 峰田が口をはさんだ瞬間スンッと梅雨の顔がいつものポーカーフェイスに戻ったっていうかなんか冷たくなっちまったぞ。やめてくれよ隣のやつの機嫌損ねるのは・・・・こっから何時間かずっと一緒なんだぞ?

 

 「お前ら、一旦聞け。こっから1時間後1回停車する。そのあとはしばらく・・・」

 

 「しりとりしよー!」「ポッキー頂戴!」「みんな!静粛にするんだ!」「音楽流そうぜ!夏っぽいやつ!」

 

 「まあ、いいか」

 

 よかねーよ相澤先生何言おうとしてたんだよ。この後の予定とかじゃないの?1回停車することしかわからなかったんだけど?がやがやとうるさいクラスのやつらを見て相澤先生は何か言おうとするのをやめてしまった。ひっじょーに嫌な予感がする。具体的にはこの後の日程について全く不明瞭になる点だ。

 

 なるようになるか?いや、うん。面倒くさいことじゃないことを祈ろう。

 

 

 そんなかんじでわいわいがやがやとし、俺が一睡もできないまま1時間が過ぎた。バスって結構寝やすいから眠っておきたかったんだけどなあ・・・・

 

 バスが泊まり、相澤先生が休憩宣言をしてクラスのやつらが降りる。俺もバスの近くで外の空気を吸うが・・・なんかおかしいな。B組のバスは?というか何の施設もない、パーキングなのかどうかすらも不明だぞ?

 

 「なんの目的もなく、では意味がないからな・・・ご無沙汰してます」

 

 相澤先生が頭を下げた先には、おそらくヒーローである猫っぽいスーツを着た女性2人と、小学校低学年くらいの男の子がいた。というかヒーローのほうは見覚えがある。たしか山岳救助専門のヒーロー、ワイルドワイルドプッジ―キャッツのメンバーのはずだ。

 

 「煌めく眼でロックオン!」「キュートにキャットにスティンガー!」

 

 「「ワイルドワイルド・プッシーキャッツ!」」

 

 ビシィ!と決めポーズと口上を述べた2人のヒーローにいち早く反応したのは、ヒーローオタクの緑谷だ。

 

 「連盟事務所を構える4名のヒーロー集団!山岳救助を得意とするキャリア12年のベテラ「心は18!」」

 

 年、気にしてたのか・・・と緑谷が顔面を猫の手でアイアンクローされてるのを横目に嫌な予感がフルスロットルだ。俺は少しづつ後ずさりしてバスの近くまで下がる。

 

 「今回の合宿でお世話になる」

 

 「で、合宿所はあそこねー。ここら一帯私らの私有地なんだけど・・・」

 

 さされたのは森の向こうの山のふもとだ。へー、あんなところに建物があるのか・・・なんで今それを紹介したんだ?

 

 「今は午前9時30分・・・順当にいけば12時前後かしらね?12時半までにたどり着けなかったキティはご飯抜きね」

 

 「やべえぞ!もどれ!」

 

 「わるいね諸君」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・と地面が鳴動し始めたと同時に俺はバスの中ではなくバスの下にもぐり車体に張り付く。兄さんに教わった「コバンザメ」だ。同時に土石流が起きてクラスのやつらが流されていっちまった!おいおい冗談だろ。さすがにこんなことするとは思わんかった。と一人冷や汗をかきながら横を見ると・・・車体の下を覗き込んだ相澤先生とばっちり目が合った。

 

 「遠山」

 

 「・・・はい」

 

 「蹴落とされたいか?自分で降りるか?選ばせてやる」

 

 「・・・自分で降ります」

 

 車体から出てきた俺を見たピクシーボブが

 

 「あら、避けたのねん。将来有望だわあ・・・みんなあっちよ。個性は使っていいから行ってらっしゃいな」

 

 「うっす」

 

 結局避けたのに崖ダイブをさせられる羽目になった俺がピクシーボブが着地用に作った柔らかい土の上にボスン!と着地すると土くれの塊が散乱してる中クラスのやつらが騒いでいた。

 

 「あ!遠山!お前どこにいたんだよ!」

 

 「落とされる前に避けたら自分で降りるハメになった」

 

 「避けてたんかい!ってことはこれ・・・」

 

 「ああ、これも合宿の一環だろ。方向はわかってるんだからさっさといくぞ」

 

 「「「「おう!(はい!)」」」」

 

 

 合宿所までの道のりは森の中だけあってなかなか厳しい。それに加えてピクシーボブの個性で作られた土の魔獣が襲ってくるもんだからめんどくさいことこの上ない、が

 

 「らあ!」

 「死ねぇ!」

 「くっ!」

 「っ!」

 「おらっ!」

 

 俺、緑谷、爆豪、飯田、轟を筆頭とした戦闘力の高いメンツが躊躇なく土魔獣を砕いていく、俺は鷹捲を中心にした打撃技、ほかはそれぞれの個性だ。弱いけど数が多いんだよなあ。無双ゲーやってる気分になってくる。

 

 というかこれやるってわかってたから相澤先生は俺に銃を置いてこさせたんだな?俺から遠距離攻撃を取り去ることで強制的に弱点がある状態を作りやがった。

 

 

 「こっち!7体くる!」

 

 「僕がいく!遠山君手伝って!」

 

 「おう!」

 

 耳郎がイヤホンジャックで聴音した結果をまわりに周知する。反応した緑谷が空中から、俺が地上から同時に攻める。緑谷が踵落としで1体目を葬り、俺が跳鷹で2体同時に砕く、穴を埋めるように耳郎のイヤホンジャック、瀬呂のテープ、峰田のもぎもぎが飛んできて他をあっという間に行動不能にする。

 

 周りも見てみるとみんな善戦してるな。対人間じゃないから躊躇がないのもあるかもしれない。この様子なら普通に言われた時間につくんじゃねえか?

 

 

 

 

 「・・・やっと・・・ついた・・・・」

 

 全然そんなことなかった。宿泊施設まで近づくにつれ魔獣の襲撃は多く、強くなっていった。それに比べ疲労を蓄積した俺たちは相対的に弱くなっていく。まず許容上限のあったやつらがダウン、それを守るように陣形を組みなおしたせいで一人当たりの分量が増えたことによる疲労の増加がダメ押しとなってついた俺たちは完全にグロッキー、指一本で倒せる状態になってしまった。

 

 「おー、やっと来たね。お昼は抜くまでもなかったねえ」

 

 「何が・・・3時間・・・ハァ・・・ですか・・・」

 

 「ごめんね。あれは私たちならって意味。でも正直もっとかかるって思ってた。いいね君ら・・・特にそこの5人!初動が早かったわ!迷いのなさは経験値によるものかしらね?」

 

 どうでもいいから休ませてくれ・・・と俺が半ば脳みその使い過ぎで意識を飛ばしていると唾かけれらたり、緑谷がマンダレイの従甥に金的入れられたりしたがそれ以外特に何も起こることはなくバスから荷物を降ろして部屋まで運び、そのまま食堂に集まることができた。あぁ・・・腹減った。

 

 夕食は大盛況だ。ヒーローってのは料理上手なのもステータスなのか?と思うほどプッシーキャッツの手料理は旨かった。特に切島と上鳴、腹が減りすぎてテンションがぶっ飛んでたな。ピクシーボブがガン引きだ。俺も腹が減って眠気もマックスなので詰め込めるだけ詰め込む。ヒステリアモードも個性も脳機能をフルで使うから使いすぎると体からブドウ糖といったエネルギー源が奪われていく。今チャージしておかないと明日までもたん。

 

 

 夕食の後はそろって風呂だ。もちろん男女別のため事故は起こりえないだろう。と一応風呂好きを自負してる俺は土まみれの体を入念に洗い、頭を洗ってでかい露天風呂のお湯につかる。ああ・・・たまんねえ

 

 「おいおい・・・今日日男女の入浴時間ずらさないとか・・・なら今から起こるのは事故・・・事故なんすよ」

 

 「峰田君、一人で何言ってるの?」

 

 「ほら・・・この壁の向こう・・・いるんすよ・・・」

 

 「峰田君やめたまえ!君がやろうとしてることは自分も女性陣も貶める行為だぞ!」

 

 峰田は元気だなあ・・・とぼんやり考えていると、サーッとやろうとしてることに思い当たって思考が一気に冴えた。げっ!位置的にめちゃめちゃ遠いじゃねえか!今から走ってまにあうか!?

 

 

 「壁とは越えるためにある! plus ultra!」

 

 校訓をそんな最低行為の免罪符にするんじゃねえ!てかはやっ!まにあわん!と俺が今から起こる性犯罪を前に顔を青ざめさせると、峰田が上り切った先にマンダレイの従甥があらわれ、峰田を落とした。ナイス!

 

 が、お礼を言われて振り返ってしまったのが行かんかった。驚いて落ちたのを緑谷がキャッチ、気絶したのをマンダレイに見せに行ってしまった。峰田は飯田がケツから顔面キャッチといういかにも嫌な感じだったが流石にクラスの男子全員のにらみは効いたのだろう。そそくさと出ていった。

 

 結局俺たちは全員で(爆豪は鼻で笑っていた)ため息をついて露天風呂を堪能するのであった。

 




 土魔獣編は原作でも描写はそんなになかったのであっさり風味。さーてこっからどうしよっかなー

 これからもよろしくお願いします。


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第27弾

 お待たせしました。もっと投稿頻度早くしたいんですけど仕事で忙しいもんで・・・職種的にコロナの影響だろうが休めないのがつらいですね。

 皆さんは手洗いうがい等しっかりして自分で予防できるようにしましょう。なってからでは遅いと思うので


 露天風呂を堪能した俺たちは、さっさと部屋に帰り泥のように眠ったのだったが・・・起床時間5時とか頭沸いてんじゃねえかと勘繰るわ。疲労がとれるわけねえって・・・・

 

 そんな愚痴を吐いても起床時間は変わらないので素直に起きた俺たちは(B組は起床時間が30分遅いらしい、ちくしょう)5時半に相澤先生監督の元森の中を進んでいた。

 

 「えーそんなわけで、本日から本格的に合宿を始めるわけだが、こいつの目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得となる」

 

 仮免・・・ヒーロー仮免とは文字通り有事における個性使用が限定的に許可される免許、つまり自分の判断で個性の使用ができるようになる免許だ。これをとっておくだけでヒーローとして一歩どころか十歩以上進んだといっても過言ではないもんだ。

 

 「今年は嫌に騒がしい。具体的になってくる悪意に対抗するための準備みたいなもんだ。というわけで爆豪、これ投げろ」

 

 爆豪に手渡されたのは体力テストの時のボールだ。なるほど、個性の成長具合の確認か?

 

 「これ・・・んじゃあまあ・・・・くたばれ!!!

 

 くたばれってまた爆豪・・・・爆音とともに放物線を描いて落ちたボールの飛距離は・・・・

 

 「709mだ。入学から約三か月、君たちは確かに成長した。が、それはあくまで精神面や技術面・・・個性そのものはそこまで成長してない」

 

 個性を伸ばす・・・ねえ・・・それって生半可なことじゃ成長しないんじゃ・・・?俺の個性の倍率だって上がったことないし・・・・

 

 「今日から君らの個性を成長させる。死ぬほどきついが・・・まあ死なないようにな」

 

 そういった相澤先生の凶悪な笑みに俺たちの背筋は凍るのだった。・・・大丈夫だよな?

 

 

 

 

 

 

 大丈夫ではなかった。見る限り地獄絵図だ。熱湯に手を突っ込み爆破し続ける爆豪、ボールの中に入り転がり続ける麗日、ひたすら食べてマトリョーシカ(なんで?)を作り続ける八百万、血を流しながらもぎもぎをもぎる峰田と近くにいるやつらだけでも近づきたくない絵面が広がっている。

 

 で、そんな中俺は何をしてるかというと・・・特に何もしてない。相澤先生に待機を申し付けられたんだが・・・

 

 「遠山、準備ができた。こっちこい」

 

 お、なんだろうな。ちょっと楽しみですらある・・・と相澤先生についていくと・・・・げぇっ!俺の目の前に鎮座する黒い6本の銃身を持った物体、ガトリング砲ことM134ミニガンがいらっしゃった。待ってください・・・まさかとは思いますけど・・・・

 

 「遠山・・・お前には今から俺がマンツーマンでやってやる。やってもらうのは単純、俺がこれ撃つからお前は当たるんじゃねえ。避けようが相殺しようが自由だ。もちろん非殺傷弾だがあたれば死ぬほど痛いぞ」

 

 「相澤先生、冗談ですよね?」

 

 「俺は非合理的な虚偽は嫌いだ」

 

 「・・・・はい」

 

 なんか俺だけやってることに危険度嫌に高くないか?それとも相澤先生が俺を追い込むのに必要だったのがこれなのか?銃倹だっておりないだろうによくやったもんだ。

 

 「始めるぞ。そっち行って構えろ」

 

 俺が素直に従い、個性を発動して構えると

 

 「最初は10秒だ。いくぞ」

 

 相澤先生が合図とともにトリガーを引く、ドガガガガガガ!!とすさまじい音ともに赤熱した非殺傷弾が次々と迫ってくる、撃たれる前に銃口から身をそらしてた俺が走りながらよけるが相澤先生が銃口を向けるほうが早い、ので  

 

 ガスン!と桜花の踏み込みで地面の小石を正確に巻き上げ、弾道上に配置し、盾にする。弾けた小石が弾をはじきあい小石も弾も俺に当たることなく通過した。

 

 「・・・10秒だ」

 

 よし、まずは生き残ったぞ・・・あとはこれを繰り返すだけ・・・だといいなあ。

 

 

 

 

 「キンジくーん。だいじょうぶー?」

 

 「透・・・すまんがきついかもしれん」

 

 「わー・・・すごい音してたけど何やってたの?」

 

 「銃弾ひたすら避けてた・・・・」

 

 「え!?当たってない!?大丈夫ほんとに!?」

 

 「3発当たったけど一応無事だよ・・・」

 

 結局あの後40秒まで伸びたが集中力が切れかけたところで銃弾をもらい、俺は疲労困憊のまま地面にうつぶせに寝転んで透につつかれている。予想以上にきついんだけど・・・・反射速度だけじゃなくて思考速度とかその他もろもろ総合的にいるからただ撃ち合うよりきついぞこれ。銃持ってくりゃよかった・・・いや、持ってきても使わせてくれないか。

 

起き上がって合宿所に帰る。そこで待っていたのは飯盒炊飯のセットだ。・・・・自分で作れって?まじか・・・・

 

 「みんな!世界一おいしいカレーを作ろう!」

 

 飯田のやつ元気だな・・・・俺は適当に包丁を握って玉ねぎをくし切りにしていく。うしろで

 

 「爆豪、爆発で火ぃつけれね?」「つけれるわクソが!」

 

 BOM!という音が響き、火はついたがかまどが吹き飛ぶという残念な結果を眺めながら轟に頼んで火を別のかまどに着けてもらい、玉ねぎを炒めていく。薪は火力調整がうまくできないから焦げやすい、透明になったところでほかのやつが切った肉を入れ、焦がさないように火を通してく。

 

 「キンジくん料理できるんだねー!なんでもできるね!」

 

 「一人暮らしだからな。つーか何でもは出来ねえよ。」

 

 「私こっち食べたいなー、爆豪くんが作ってるのなぜか真っ赤でさー」

 

 「材料一緒だったよな・・・?」

 

 なんか刺激臭がすると思ったら爆豪の鍋かよ。水を定量ぶちこみ、ニンジン、ジャガイモを入れ煮こんでく、アクを丁寧に取り除いていき、ローリエの葉を数枚入れて煮込み終わるまで待機する。ぐつぐつなってる鍋を前に座ってまってると

 

 「あら、いい匂いね」

  

 「おいしそうだなー!」

 

 「お前ら別の鍋じゃなかったか?」

 

 「今は緑谷ちゃんが鍋見てるわ」

 

 「梅雨ちゃんがねー!すごい料理上手で私たちやることなくなっちゃった!」

 

 「へーそうなのか、そりゃすごいな」

 

 「あら、見てたけど遠山ちゃんも私と同じくらいでしょう?あとで食べくらべでもしてみる?」

 

 「いいねー!でも爆豪くんのカレーは食べたくないな・・・・」

 

 ルーを入れながら爆豪の鍋を覗き込むと・・・唐辛子が浮かんでた。どこから持ってきたんだよ。そして爆豪班の瀬呂、上鳴、切島の目が死んでる。せめて食える辛さで作ってやれよ・・・手際からして料理できるんだろ爆豪さんよ。

 

 

 「食う前は心配だったけど辛いけどうめー!」

 

 「どうなってんだ・・・辛いのにすごくうまいんだけど」

 

 「当然だわ!何考えてんだクソが!」

 

 うまいらしい、よかったな3人とも。で、俺の班のカレーはというと・・・

 

 「おいしー!」

 

 「・・・うまい」

 

 「美味しいですわ!」

 

 ということらしい。そりゃよかった。というか八百万結構食べるんだな、男子に肉薄する勢いだ。そして静かに食べている轟もだが結構食べるらしい、カレー大目に材料あってよかったわ。

 

 「ヤオモモちゃんたくさん食べるんだねー!」

 

 「ええ、わたくしの個性は脂質からものを作るので、たくさん蓄えるほどたくさん作れるのです」

 

 「うんこみてえ」

 

 瀬呂ォ!冗談でも言っちゃいけねえことがあるだろ!八百万がすさまじいレベルで落ち込んじまった・・・かける言葉が見つからねえ・・・とりあえず耳郎に殴られてる瀬呂の顔面に一発矢指で空気弾をぶち込んでやって食事に戻る。

 

 

 そのあと結局食べ比べをして(梅雨のほうが好評だった、地味に悔しい)枕投げをしようとした奴らが相澤先生に怒られるのを横目に眠った。

 

 

 3日目・・・昨日と同じ訓練をすると思いきやさすがに俺にかかりきりになるのはまずいとのことで、相澤先生は別のところまで行っちまった。で、代わりに組まされたのが・・・・

 

 

 「よろしくねー!キンジくん!」

 

 透だ。透を見て顔の似顔絵を書けっていう訓練らしい。つまり、見えないものを風の当たり具合、音の反射具合等で見えるようにしろとのことだ。透は出来るだけ俺に気付かれないようにするっていうのも入ってるらしい。

 

 「おう、早速やるか」

 

 ちなみに土下座して服は着てもらった。もし見えちまったら切腹もんだしな。透もさすがにくっきりみられるのは嫌だったらしく素直に従ってくれたよ

 

 深く集中する。ヒステリアモードを使えばできるんだろうが今回は個性だけだ。透をじっと見つめ、ふく風の形をイメージする。手を動かしてわかった個所から似顔絵を描いていく。というか透えらい美人なんだな、透明だから気づけなかったけどクラスの誰よりも美形じゃないの。

 

 

 「透・・・お前、すごい可愛かったんだな」

 

 「ふぇっ!?・・・みみみえたの?」

 

 「見えた。人生で初めて見るくらい美人で内心すごい驚いてる」

 

 「あうあう・・・」

 

 なんてやり取りをしつつ(峰田が頭皮どころか穴という穴から血を流しながらこちらを睨んでいた)夕飯の飯盒炊飯の時・・・

 

 「ねえ、遠山君」

 

 「なんだ緑谷」

 

 「洸太君のことなんだけどさ」

 

 「何とかしたいってか?」

 

 「・・・うん」

 

 さっき轟とも話してるのを聞いたが・・・難しい問題だ。ヒーローの子供、それも殉職しちまったんだ。あんだけヒーローに対し攻撃的、あるいは自分から一人になるようになるんだから相当の心の傷だろう。ぽっと出の俺たちが如何こうできるとは思えんが

 

 「俺からいわせりゃあの子の意見はもっともだと思うけどな。他人のために命張る、それも率先して行う俺たちは他人から見りゃそりゃおかしく見えるさ。・・・まあお前がどうしてもあの子をヒーローに対して肯定的にしたいってんなら止めはしねえけど、それは価値観の押し付けだってことも理解しとけよ」

 

 俺もヒーローだった父が死んでる。けどその背中に憧れた。きっとあの子もそうだったのかもしれない。けどそれを理解するにはあの子はまだ幼い。もっと広く視野が持てる年齢になれば多少は軟化するだろうさ。俺の経験上だがな。

 

 「わかったよ」

 

 作った肉じゃがはなんだかしょっぱかった。

 

 

 

 夕食後、風呂に入った後眠れると思ったら肝試しをするらしい。えーめんどくっさ・・・・なになにルールは・・・・A組とB組で別れ、二人一組で森の中を進み、片方が驚かせる、そんで創意工夫でより多くのものを失禁させた方が勝ち・・・後半は冗談だろうがまあそんなとこか。

 

 「盛り上がってるところ悪いが、補修組は今から俺と補習授業だ。」

 

 「ウソだろ!!!!」

 

 「すまんが日中の訓練が思ったよりおろそかになっててな、すまんがこっちを削る」

 

 「うわああああ堪忍してくれえええ試させてよぉぉ~~~!!!」

 

 あー・・・芦戸、合掌。クラスのやつらも各々の方法で祈りをささげてる。んで組み分けなんだけど・・・一人余るな。一人だとさぼりやすいから一人が楽かなあ

 

 「・・・余った」

 

 緑谷・・・お前持ってるのか持ってねえのかわかんねえ奴だな相変わらず・・・なんだその深淵を覗き見て悟りを開いたような顔は。んで俺は・・・

 

 「わ~!キンジくん!ここまでくると運命だね!ね!」

 

 「運命かどうかは知らんが縁があるのは事実だな。まあ脅かす側が決まってるからそう驚かんだろうがな」

 

 「え~!ノリ悪いよ~!楽しむのが一番だよ!」

 

 「咄嗟に技がでたら怖えだろうがよ・・・・」

 

 矢指とか秋草くらいなら咄嗟にでちまうかもしれん。常に身構えとかねえと・・・なんで楽しむはずのもんでこんな緊張する必要があるんだか・・・・

 

 

 俺たちの前ですでに3組スタートしてる。透風に言うならノリのいい悲鳴がこだましてるあたりB組も本気なんだろうな。俺らが驚かせるときも気合入れていこうかね・・・・

 

 「次、葉隠ちゃんと遠山君ペア!いってらっしゃい!」

 

 「うす」「はーい!」

 

 

 おれは正直驚かんかったが、B組のやつらも流石ヒーロー科、個性の使い方がすごくうまかった。いきなり柔らかくなる地面、見えない壁、突然生えるキノコ・・・どれもこれも驚かすには十分だ。

 

 ・・・その証拠といったらあれだが・・・

 

 「ひゃ~!」

 

 「うにゃ~!!!」

 

 「ぴぃっ!」

 

 なんて感じで透はすべてに対していいリアクションを取りながら驚いてる。たしかコイツドッキリ番組が好きなんじゃなかったか?なのにここまで驚けるのはある意味才能かもしれん。・・・別に驚くのは構わないんだが、一つ問題がある。

 

 (腕に2つの柔らかい肉毬が・・・!!)

 

 「B組の人たちすごいね~!私驚いてばっかりだよ!」

 

 「そりゃよかったな。俺に抱き着きながらじゃなけりゃもっとよかったが」

 

 「えーいいじゃ~ん!せっかく女の子と二人なんだぞー!もっと楽しめよーこのー!」

 

 なんて肘かどっかでうりうりやってくるが・・・なんか体育祭以降、透のスキンシップが増えた気がする。もともとうちのクラスの女子は割とパーソナルスペースが狭い。フレンドリーなやつらだが、その中でも透は芦戸と並んで距離が近いのだ。男女分け隔てなく仲良くする透だが、スキンシップをしてるのは女子のほうが多い。男子の中じゃまあ俺とよく話してるが前はこんなんじゃなかったんだがな。

 

 で、こんな深く考えるのには理由があって・・・そろそろヒスりそうなのだ。というかもう軽くヒスって感覚が鋭敏になってきてる。こんな人気のないところでヒスったら何をするかわからんぞ・・・なんかやらかしたら持ってるナイフで切腹せねば。

 

 

 

 危険な考えで頭がいっぱいになりかけたその時、甘くヒスった俺の嗅覚が異臭をとらえた。焦げ臭いのと科学の実験で使う薬品っぽい匂いだ。そしてかるく口の中に入れると刺激がある・・・ってことはこれ毒ガスか!?まずい!

 

 「透!異臭がする!ハンカチで口を押さえて呼吸を控えろ!」

 

 「へっ!?なになに?これもドッキリ?」

 

 緊急事態だっていうのをいまいち理解できてない透の口を取り出したハンカチで塞ぎ、片手の扇覇で周りの空気をすべて拡散させる。遅れて進行方向から漂ってきたピンク色の煙に透が背筋をビン!と伸ばして驚く気配が伝わってくる。

 

 「透、落ち着いて聞け。なんだかわからんがこれは訓練じゃねえ。これ多分個性由来だろうが、うちのクラスでもB組でもこんなことできる個性もちはいないはずだ。ってことはこれは」

 

 「外部の人間・・・」

 

 「そういうことだ。とりあえずスタート位置まで戻るぞ。そのまま呼吸を押さえて俺の手を離すな。いいな?」

 

 コクコクと透が頷くのがわかる。俺たちはそのまま反転し、だいぶ進んじまったがスタート位置まで移動する。片手で扇覇を連打し、ガスをこちらに来させないようしながら進むが・・・歩きですでに片道20分は歩いた。この途中で何かあるとも限らんぞ・・・・クッソ、どうなってるんだ!

 

 

 




 またいつになるかわかりませんがこれからもよろしくお願いします。


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第28弾

 走る、走る。現状向かうのはスタート位置までだ。そっからは施設までダッシュだ。きっとプロがいるところまで戻れば何とかなる。甘くヒスってた俺も、ヒスる感覚に身を任せ、ヒステリアモードに入り、個性をかけ、万全の状態にする。しばらく走っていると・・・

 

 「っ!八百万、切島!それとB組の・・・!」

 

 「遠山さん!葉隠さん!ご無事でしたのね!」

 

 「遠山!葉隠!やっぱり無事だったか!」

 

 「うん、キンジくんがガスが来る前に気づいてくれたの!ヤオモモちゃんも無事でよかった~!」

 

 「で、そっちは・・・?」

 

 「泡瀬洋雪だ!泡瀬でいい!体育祭1位と合流できたのは運がいいと思う。手伝ってくれないか?奥に残ってる他のB組の救助に行きたいんだ」

 

 「残ってた中で俺が一番タフだったからな、俺がついてきた」

 

 そっか、驚かせる役のやつらはまだ奥に残ってるのか・・・!とすればこのガスを吸い続けるのはまずい・・・

 

 「ああ、俺はいい。けど透もつれてくぞ。一人にしたら危険だ。きてくれるか?」

 

 「うん!わかった!どこまで行けばいいかな?」

 

 「助かる。待機所はこっちだ。少し道から外れるがついてきてくれ」

 

 (この場にいる雄英の生徒、教員へ連絡!ヴィランと思われる2名の襲撃を確認!戦闘は避けて施設への合流を!スタート位置まで戻らず真っすぐ待避しなさい!)

 

 マンダレイだ!やっぱりヴィランの襲撃だったのか。絶対漏れないように万全を期したはずなのにどうして・・・・いや、今はいい。とにかくこの事態を収拾しないと!

 

 

 「遠山さん!葉隠さん!こちらをお使いください!」

 

 「助かる!」

 

 八百万が差し出したのはガスマスクだ。全員分用意し、俺たちはそれぞれマスクを着用して反転し道を外れながら待機所を目指して走る。

 

 「しかしまあ!どうやってここがわかったんだろうな!ヴィランのやつら!」

 

 「それを考えるのは後だ切島。現状襲撃されてる以上どっかから漏れたんだろ。とりあえず救助して最短で施設まで・・っ!」

 

 ドゴォォォン!と山の方向から轟音が響いた。これができるのは全力の緑谷か・・・あるいは緑谷並みのパワーを持ったヴィランが来たか・・・急がないと被害がどんどん大きくなる!

 

 3分ほどまた走るとマンダレイのテレパスが響いた。

 

 (A組B組総員に告ぐ!プロヒーロー、イレイザーヘッドの名において戦闘を許可する!繰り返す!戦闘を許可する!)

 

 「おい!これ・・・」

 

 「ああ、相当やばいってことだ。八百万!」

 

 「はい!」

 

 「投げナイフ作ってくれ、小さくていい。10本くらいありゃ十分だ」

 

 俺がでっかいサバイバルナイフを腰元から引き抜きながら告げると八百万はダガー型の投げナイフを10本、ホルダーと一緒に作ってくれた。気が利くこって

 

 (それと、生徒の「かっちゃん」!いい?「かっちゃん」は戦闘を避け、全速力で帰還すること!)

 

 「かっちゃんって・・・爆豪か!?」

 

 「爆豪くん・・・!?」

 

 名指しってことはヴィランの誰かがゲロったのか!そんでこの言い方は緑谷か・・・ってことはさっきの轟音緑谷だったんだな!?やばいぞ、あいつ重傷を負ってなお動いてるんだ・・・!

 

 

 「おい、急ぐぞ!たぶん緑谷のやつが骨折しながら動いてる!このまま・・・っ!?!?全員しゃがめぇ!」

 

 俺の突然の号令に反応できたのは透、切島、八百万だ。泡瀬は経験不足か何なのか反応が遅れた、まずい!

 

 「ネホヒャンッ!」

 

 泡瀬の前に入り、振るわれた()()()()()()をナイフで受け止める。ギャリギャリギャリ!とチェーンソーが分厚いサバイバルナイフをどんどん削っていく。このままじゃ切られるのは明白なので

 

 「ぬぁぁぁぁ!!!!」

 

 全力の桜花と秋水で無理やり跳ね上げ、そのまま土手っ腹に向かって秋水の蹴りでぶっ飛ばす。跳ね上げた衝撃でジーサードからもらったナイフは甲高い音を立て真っ二つに折れてしまった。何ちゅう威力をしてやがる・・・!

 

 「おい、泡瀬。大丈夫か?」

 

 「あ、ああ・・・なんだよあれ・・・」

 

 

 「おい、遠山あれって・・・」

 

 「ああ、USJで出た・・・脳無。たぶんアレのバリエーションだ。死柄木が改造人間だって言ってたしな」

 

 「それってオールマイト先生が倒したっていう・・・」

 

 

 「ネホヒャンッ!」

 

 ゆっくりと姿を現したそれは、灰色の肉体に体中から生やしたチェーンソーを纏った異形だった。脳みそ丸出しのあの造形・・・多少身にまとってるものや体形に差異はあれど脳無だ、間違いない。

 

 「逃がしてくれる雰囲気じゃねえな。おい切島、アレ受け止められるか?」

 

 「だれに言ってんだよ。硬化の男だぜ?あんくらい止められなくてヒーローになれるかよ」

 

 「そりゃ頼もしいな。透、八百万、下がってろ。泡瀬は二人守れ、男だろ。切島、手伝ってくれ」

 

 「任された!」

 

 「ああ・・・」

 

 「キンジくん、怪我しないでね・・・」

 

 「何もできないのは歯がゆいですが・・・遠山さん、これを」

 

 八百万が渡してくれたのは2本の頑丈そうな鉈だった。これは助かるな・・・あの尋常じゃない数のチェーンソーにどこまで対抗できるかはわからないが、何とかするんだ。じゃないと全員お陀仏だぞ。

 

 「助かる・・・じゃ、行くぞ切島。ビビんなよ?」

 

 「お前もだぜ、遠山」

 

 

 「ネホヒャンッ!!!」

 

 脳無が突っ込んできてチェーンソーを二つ振り下ろしてくる。

 

 「うらああああ!!」

 

 切島が雄たけびと共に前に出て硬化した体で受け止める。削られる音が響くが俺が切島の肩を踏み台にして脳無の顔面に膝蹴りをお見舞いする。たたらを踏んで下がった脳無の顔に肩車の体勢になった俺が、頭を桜花で下に倒し、そのままバク宙の要領で1回転し脳無を地面にたたきつける。いわゆるフランケンシュタイナーってやつだな。前後は逆だが

 

 

 「ネホ・・・」

 

 すぐさま離れた俺がいた位置にチェーンソーが飛んでくる。またゆらりと立ち上がった脳無だが・・・たたきつけたときにできた擦り傷が再生していってる。ケッ、脳無に再生機能はお約束ってか?ふざけたもんつくってくれるよまったく。

 

 「切島、持久戦だぜ。硬化はどんくらい持つ?」

 

 「根性!っていいてえが・・・1回30秒だ。全身を力み続けるならどうしても息継ぎがいる」

 

 「そんだけありゃ十分だ。もっかい受け止めてくれ」

 

 「おうよ!」

 

 

 またチェーンソーを振り回してくる脳無だが、切島がまた受け止める。俺は切島を飛び越えるように体をひねりながらジャンプ、そのまま鉈に鷹捲を打ち込み、振動を纏わせる。こいつは間宮の技の一つ「天鷹」武器から直接鷹捲を伝える技だ。

 

 滞空攻撃のように別のチェーンソーを俺に向けてくる脳無だが、天鷹によって鉈に触れたチェーンソーから砕けていく、切島を超えるように着地する瞬間、両手の鉈を脳無の両肩に突き刺し、さらに鷹捲を直接脳無にぶち込む。

 

 水風船が破裂するように脳無の両肘から先が爆散し、切島を襲っていたチェーンソーが明後日の方向に吹き飛ぶ。

 

 「大和っ!」

 

 ドォォォン!と脳無が30mほど吹っ飛んだが・・・ヒステリアモードの超視力が教えてくれた、まだ終わってねえ。

 

 

 「おいおい勘弁してくれよ・・・・」

 

 「グルガアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 こちらにダッシュで戻ってきた脳無はチェーンソーのハリネズミと化していた。そのまま俺たちを轢きつぶすつもりらしい。

 

 「受け止める!遠山、前セメントス先生に使ったアレ!いけるんじゃねえか!?」

 

 「跳鷹か!やるからきっちり受け止めろよ!」

 

 「当然!お前もしくんなよ!」

 

 

「ネ”ボビャンッ!!!」

 

 再生しかかってる両手を血を振り乱しながら突撃してくる脳無を全身を最大限硬化した切島が再度受け止める。ゴギャギャギャ!!!とチェーンソーと切島の我慢比べが始まる。が、俺はそこまで我慢強くない、切島に怪我させるわけにもいかんしな

 

 「おらぁっ!!!」

 

 切島の体に跳鷹を打ちこむ。前と同じように切島の体を伝導したパルスが、接触してるチェーンソーを破壊していく、衝撃に2歩、3歩と後退する脳無に向かって、クルッとそれぞれターンをするように切島と入れ替わった俺が脳無の脇を挟み込むように手のひらを当て、そのまま大和で圧縮するように無寸勁を打ち込む。

 

 バキバキバキィ!と脳無の肋骨を残らず粉砕し、脳無が前のめりに倒れたのを確認して俺は力を抜く。この技は「雷鳴響」。相手の胴を挟み込むように打撃を撃つことで肋骨を粉砕し、肺に突き刺すという通常の人間なら即死不可避の技だ。粉砕された肋骨がかなでる音が雷が響くようだから名付けられた。

 

 こんだけやればさすがに再生に時間がかかるだろう。USJのアイツほど再生能力は高くないみたいだしな。とっととずらかって安全を確保せねば。

 

 

 「おい、とりあえず再生される前に逃げるぞ!幸いガスも晴れてきた。このまま逃げんぞ!」

 

 「わかりましたわ!泡瀬さん、念のためこれを脳無の体に!発信機ですわ!」

 

 「わかった!・・・よし!これでいい、いこう!」

 

 

 無限に付き合ってられるほど俺たちの体力も時間もあるわけじゃない。捕まえておけないのは悔しいが一計を案じてくれた八百万のおかげである程度は楽になった。

 

 「ねえ!あれ!緑谷くんたちじゃない!?」

 

 「んだと!?ほんとだ!轟と障子もいるじゃねえか!」

 

 「飛んでるってことは麗日もいるな・・・あの舌は梅雨か!着地点までいくぞ、合流しよう!」

 

 透が指さす先にはおそらく麗日の個性で浮かぶ緑谷、轟、障子を梅雨の舌が巻き取って投げ飛ばすところだった。着地点を概算し、全速力でそこまで向かうが緑谷たちの着地のほうが早い。

 

 

 俺たちがつくと既に黒霧のものと思われるワープゲートが展開しその中にヴィランが入っていくところだった。んなろっ!!!

 

 「マジックの基本はね・・・物を見せびらかす時ってのは、トリックがあるときなんだぜ?」

 

 「そりゃ勉強になったよ、くそったれ!」

 

 奇術師のような見た目をしたヴィランが口の中から玉を2つ見せびらかしたのを見て、同じものが障子の手に握られてるのを確認した俺はそれが何なのかはともかく重要なもんだと判断した、ので

 

 パパパパパァァァン!!!と超音速の桜花で投げナイフをすべて投げつける。こいつは「十弩(トウド)」礫だろうが何だろうが10発の投擲物をすべて相手の急所にぶつける間宮の技だ。殺すのはまずいので死に至るような場所は外し、両肩、片肺、腿、腹、二の腕に次々着弾した投げナイフの衝撃に余裕たっぷりだった奇術師野郎の口からぽろっと玉が落ちる。

 

 「誰か掴めっ!!!」

 

 両手が衝撃波で自損した俺が叫ぶ。轟と障子が飛び込み、玉を掴もうとするが・・・

 

 

 「残念だな、悲しいなあ・・・轟、焦凍」

 

 体中を縫った焦げた肌をした男に一つ玉を奪われてしまった。そのまま黒霧がワープを開始していく

 

 「一応確認だ。コンプレス、解除」

 

 「ってぇな・・・俺のショウが台無しだぜ。」

 

 パチン!と指を鳴らしたヴィランに合わせ俺たちのほうの玉が常闇に、もう一つのほうが爆豪に変わった。そういうことかよ!くっそどうしたらいい!彼我の距離がありすぎる!

 

 それでも全力で走って距離を詰めようとする俺だが、無情にも黒霧のワープは完了していく

 

 

 「問題、なし」

 

 「爆豪!」「かっちゃん!」

 

 「くんな、デク」

 

 爆豪はそう言い残し、ヴィランに拉致されてしまった。

 

 

 

 「うわあああああああああああああああああ!!!!」

 

 緑谷の慟哭がこだまする中、遅れてやってきた透、切島、八百万、泡瀬がこの惨状をみて察したのだろう。力なく座り込んだ俺たちに無言で応急処置を施し始めた。

 

 

 「ねえ、キンジくん・・・どうして、こんなことになっちゃったのかな」

 

 八百万が作ってくれた包帯を俺の手に巻きながら、涙声で透が聞いてくる。

 

 「やられた・・・としか言えん。想定が甘かったんだ、雄英の。USJで襲撃された時点できっとどっかでこうなるってわかってなきゃいけなかったんだよ・・・クソッ」

 

 「うぅ、ぐすっ・・・どうして・・・どうして・・・」

 

 泣き出してしまった透に対して俺はろくな慰めの言葉すらかけてやることが出来ない。気休めに頭を撫でてやりながら、俺はヴィラン連合に対してフツフツと怒りがわいてくるのを感じた。運が悪かった?確かにそうなのかもしれない。雄英が間抜けだった?事実かもしれない・・・けど悪いのは俺たちじゃない。ヴィランのやつらだ。

 

 

 「・・・次あった時ただですむと思うなよ、ヴィラン連合」

 

 俺がつぶやいた言葉におおかれすくなかれ思うところはあったのだろう。全員何か決意したような目をしていた。

 

 

 

 

 

 




 次からちょっとオリジナル展開…原作の大筋は変わりませんが、少しだけ作者の考えた展開に入らせてもらいます。

 これからもよろしくお願いします。


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超番外編 お願いヒーロー!その1

 しばらくほっぽってすいませんでした。続きを書いたら圧倒的コレジャナイ感が出てしまったので作品の空気を掴むまで番外編でつなげさせてください。

 そういった番外編がクロスものってどういうことなんだか・・・


 これは俺たちが体育祭を終え、少し時間ができた期間のある休日の話だ。ヒーロー科にももちろん休日はある・・・あるんだが、クラスのやつらのほとんどは自己鍛錬にあてるやつが多い。休日ガッツリ休んでヒーローになれるならそれでいいかもしれんが、あいにく雄英のヒーロー科はそんな生ぬるい考えでいられないことは相澤先生が4月某日にあっさり教えてくれた。

 

 で、俺・・・正確には俺と透が何をしてるかというと・・・雄英と提携しているシルバーマンジムというジムに行く途中だ。こうなった理由は俺が聞きたい気分だが・・・思い返すは休日前のあの日・・・

 

 「ねーキンジくーん。体を鍛えるにはどうすればいいのかな?」

 

 「ああ?お前普通の高校生からしたらずいぶん身体能力は高いだろ。ベンチプレス何キロだ?」

 

 「私?私は70㎏かな!」

 

 「軽く平均の倍以上持ち上げてんじゃねーか。十分だろ」

 

 「でもさー、私って個性で攻撃できないじゃない?もっと力強くなってもイイって思うんだよね!」

 

 「そういうもんかぁ・・・?」

 

 ヒーロー=筋肉ってわけではないけどヒーローのベンチプレスの記録は飛びぬけてる。オールマイトはともかくとして、あの増強系ではないエンデヴァーですら500㎏を当たり前のように持ち上げる世界だ。人間の限界とは何なのかをよく考えさせられる。俺だって普通に130㎏は持てるが・・・クラスの男子の中では割と平均的だ。爆豪なんか普通に200㎏持ってた時はなんか負けた気分になった。

 

 「で?俺に頼ってきたってわけか?」

 

 「そーゆーこと!キンジくんそういうの詳しそう!」

 

 「言っておくがそれは偏見だ。だったらほら、ジムにでも行ったらどうだ?この学校、いろんな企業と提携しててそん中にシルバーマンジムっつう割と世界規模のジムもあったはずだ。無料でパーソナルトレーニングできるんなら使うべきじゃねえか?」

 

 「おー?ぱーそなるとれーにんぐ?」

 

 「専属のトレーナーについてもらって指導してもらいながらするトレーニングだ。あー・・・あれだ。相澤先生とマンツーマンでやる実習みたいな・・・」

 

 俺の例えが悪かったからなのか透の雰囲気に?マークがたくさんとんでる。よし、こういう時は逃げるに限る。

 

 「まあジム行ってみろって話だな。じゃー俺はここらへんで「キンジくん!一緒に行こ!」・・・はい」

 

 唐突だが俺は透に弱い。何でなのかはわからんがコイツのお願いは聞いてあげたくなる・・・まあ別に俺に悪いことがあるわけじゃないしいいか。かなでもじいちゃんとこに帰ってるし。

 

 

 

 

 と、いうわけで俺と透は雄英からちょっと離れた場所にあるシルバーマンジム、ムキムキのマッチョが看板のちょっと特徴的なジムにやってきたのだ。つーか特徴的が過ぎるな、何だこの銀色の禿げマッチョは?

 

 「へーこれがジム・・・」

 

 「俺も初めてくるけどな。まあうちの弟がアメリカに似たようなもん作ってるから器具のだいたいの使い方はわかるぜ。どうせ入会金かかんないし、ささっとはいって合わなかったらやめりゃいいだろ。雄英の学生証あれば基本無料みたいだしな」

 

 「雄英ってすごいね。入った今でもそう思うよ」

 

 「俺は体育祭の客の入りようにおののいたけどな。というかまだ出先で騒がれるのには慣れん」

 

 「よっ!体育祭1位!」

 

 「人が多いところでそれはやらんでくれよまじで・・・・」

 

 ちなみに俺たちの服装は俺がジーパンにポロシャツ、透がワンピースにカーディガンと服装的には釣り合うどころか俺が劣ってて申し訳ない。葉隠は透明だけどおしゃれさんなんだな。

 

 「こんにちはー。どんなご用件でしょうか?」

 

 俺たちが自動ドアをくぐるとすぐに合った受付からお姉さんが声をかけてくる。

 

 「あー、入会をお願いします。俺と、そっちの彼女。これ学生証です、ほら透」

 

 「あっえっうん!はい!」

 

 「あら、見学はよろしいのですか?・・・あら、雄英の学生さんでしたのね。失礼しました。入会金等はかかりませんが、こちらの用紙に名前、住所等と個性をお願いします」

 

 「はい」

 

 葉隠と一緒に必要事項を記入して受付に返す。説明を聞くとここにはトレーニング器具のほかに無個性用ではあるがリング等の武道を行うための道具もあるそうだ。これなら透とスパーリングもできるんじゃないか?と思いをはせながら用紙を受付さんに渡す。

 

 「はい、葉隠透さんと遠山キンジさ・・・・?あの、体育祭優勝した遠山キンジくんですか?」

 

 あっやっべ、気づかれた。逃げの一手だ!

 

 「ちがいま「そうですよー!」」

 

 透ゥ!なんでお前が答えたんだ!いやちがう、透に悪意はない。聞かれたから答えただけだろう、なんで俺より先に答えたのかは知らんが。俺の苦々しげな表情に気付いた受付さんが慌てたように首を振って

 

 「ああいや!騒ぎ立てようとかそういうわけではなくて!実力がある人に見合ったトレーナーをつけないとこのジムの沽券にかかわりますので、一応の確認です。ここにいるトレーナーは全員プロですけど、経験からできることとできないことがありますからね」

 

 ああ、そういうこと・・・なのか?一応だが鍛えることに関しては俺はほとんど素人だ。動き方を教える程度ならできるが栄養学だの筋肉の効率的なつけ方だのは素人に近い。まあ実力ある人をつけてくれるっていうし気にしないでありがたくいただこう。

 

 「ああ、わかりました。とりあえずよろしくお願いします」

 

 「はい、承りました。では着替えたらこちらのトレーニングルームへお越しください」

 

 「わかりましたー!」

 

 

 

 受付を後にし更衣室へ足を進める。なんか思わぬところでいいことが起きた。せっかくだし今日は1日ガッツリ鍛えてやろうかと思いながら、男女別に分かれた更衣室の前で透と別れトレーニングウェアに着替えてその上にジャージを羽織って透を待つ。俺がきてしばらくしてからおなじくジャージ姿の透が現れた。

 

 

 「おまたせー!」

 

 「ん、ああいや。待ってねーよ。ジャージなのか?」

 

 「一応この下にも着てるんだけど、私透明だから動きがわからないと困るかなーって。ほら手袋も!」

 

 「あーそういうことか。たしかにフォームは重要だしな、じゃあしっかり鍛えるか。途中から徒手教えてやろうか?ここリングあるみたいだし」

 

 「え!?ほんとほんと!?是非教えてー!」

 

 「おう、任せろ。しかし流石雄英と提携してるだけあってアレだな。世界で活躍してる人ばっかりが所属してるジムらしいぜ、ここ。ヒーロー用のジムは別みたいだけどな」

 

 「あー個性鍛えるんならもっと大きくて頑丈な場所じゃないとねー」

 

 「その点俺らみたいな使っても物理的な破壊が起きない個性はここでも何とかなるのがいいな。肉体鍛えて損はないし」

 

 「キンジくんにそれ言われると納得できないなー。見えてきたよ!」

 

 なぜ俺がこれを言ってはいかんのか小一時間ほど問い詰めたいがトレーニングルームが見えてきてしまったので言葉を飲み込み、ルームの中に入ると・・・

 

 

 「ぐぬぉぉぉぉ!!!」

 

 「あと一回!あと一回いけますって!」

 

 「ナイスフォームです!」

 

 「ハイッ!ハイッ!」

 

 「よしあと3セット!」

 

 無数のマッチョたちが筋肉を山のようにバルクアップさせながらトレーニングに励んでいた。いやまあジムだから当たり前なんだろうけど軽い運動のために来てるっていう感じの人が見当たらない。つまりガチガチのトレーニーしか見当たらないのだ。右を見ても左を見ても雄たけびあげるゴリマッチョが視界の暴力を仕掛けてくる。透は気にしてないのか「はぇー」なんて言いながら見渡してる。

 

 ここで引くのは男が廃るので葉隠と一緒にルームに一歩踏み込んでどの器具から使うか見渡していると声をかけられた。

 

 「えーと、君たちが遠山キンジくんと葉隠透さんかな?」

 

 「えーと、はいそうですが・・・・」

 

 声のした方に顔を向けると青いジャージを着たさわやかイケメンフェイスの男性がたたずんでいた・・・のはいいのだが・・・一目見てわかった。この人とんでもなく強い!この細身にどれだけのパワーが練りこまれてるのか疑問を持つくらいにやばい。しかもこの人武道をやってる気配が全くないのだ、隠してるのかもしれないがそうじゃなかった場合・・・体の性能だけで俺が怖気を覚えるほどの身体性能を有している人間が来たってことになる。

 

 ・・・いくら何でも魔境すぎるだろ、シルバーマンジム・・・・なんでヒーローやらねえの?たらりと冷や汗が垂れそうになるのを振り払って彼に向き直る。

 

 「はいっ!葉隠透です!えーと、あなたは・・・?」

 

 「ああ!ごめんごめん!僕は街雄鳴造、このジムでトレーナーをしているんだ。今日は君たちの案内を頼まれたんだけど・・・雄英の生徒さんだってね?」

 

 「ええ、まあはい。雄英1-Aヒーロー科の遠山キンジです。空いた時間で体を鍛えたくてここに来たんですが・・・」

 

 「うん!そういうことなら任せておいて!ではさっそく「あれ?街雄さんじゃん!」」

 

 俺たちの後ろから声が聞こえたので振り向くと、小麦色の肌をした女子、黒髪のすらっとした女子、かなり絞った体をしている女子が3人まとめてこっちに来るところだった。なんだ、普通のマッチョじゃないトレーニング目的の人もいるのか。マッチョ比率が高すぎて気づけんかった。

 

 「ああ、紗倉さん、奏流院さん、上原さん!こんにちは。トレーニングかい?」

 

 「はい、そうです。あの、こちらの方たちは・・・?」

 

 「見たことねー顔だな。ここら辺の生徒じゃないだろ」

 

 「ああ、彼らは雄英高校の生徒さんだよ!このジムとは提携を結んでてね、ヒーロー科の生徒なら利用することが出来るんだ!」

 

 「「「雄英のヒーロー科!?」」」

 

 「超エリートじゃん!」

 

 「あら・・・どこかで見た顔のような・・・?」

 

 「へー、いろんなことやってるんだなこのジムも」

 

 若干1名気づかれそうな気がしてるがなんだかやんややんやと騒がしくなってきたので透を顔を合わせながら彼女らに向き直る。

 

 「あーはい。雄英高校ヒーロー科1-Aの遠山キンジです」

 

 「おなじく雄英高校ヒーロー科1-Aの葉隠透です!よろしくお願いしまーす!」

 

 「あたしは皇桜女学院2年の紗倉ひびき!よろしくー!」

 

 「奏流院朱美です。ひびきとは違うクラスだけど同じ学校に通ってるわ」

 

 「私は上原彩也香、ひびきと同じクラスな」

 

 「ってことはセンパイだ!」

 

 透は何がうれしいのかセンパイ呼びにしたいらしい。街雄さんはニコニコしてるし・・・にしても皇桜女学院ね・・・確か結構なお嬢様学校じゃなかったか?そんなとこの生徒がこんなものに興味があるなんて意外だな・・・完全に偏見か。

 

 「あっ思い出したわ!今年の雄英高校体育祭の1年生の優勝者!あなたよね!?」

 

 「はぁ!?雄英の体育祭ってあの!?やっばい録画したけどみてないんだった!」

 

 是非ともこのまま見ないでいただきたい。というか秒でバレた。恨むぞマスメディア!

 

 「へー!お前すごいじゃん!なー、なんかうまいこと痩せる方法しらねーかー?先輩に教えろよこのこのー」

 

 「ひびき、かっるい!いいか、雄英の体育祭優勝はな、オリンピックを制したと言ってもいいんだぞ!?」

 

 「・・・・面白い先輩方だね?キンジくん」

 

 「インパクトはあるなー、透さんよ」

 

 わいわいがやがや3人で盛り上がってるところ申し訳ないが、今日俺たちは鍛えに来たわけなのでそろそろお暇させてもらうとしよう。

 

 「すんません街雄さん、ベンチ使ってもいいですか?」

 

 「ああ、ベンチプレスだね!どっちからやる?葉隠さん?遠山くん?」

 

 「透、先やるか?俺が補助はいるから」

 

 「えーうん!わかった!じゃあ重さは60でお願いしまーす!」

 

 「さすがヒーロー科だね!きっちり鍛えてるんだ?」

 

 「えっへへー!初対面の人からそういわれると照れちゃいますよー!」

 

 「ちょーーーっとまったーーー!!!」

 

 本日三度目の声にまたかと若干億劫になりつつ顔だけ声のした方に振り向くとやはりさっきの3人組だった。こんどはなんだー?

 

 「私たちも一緒にトレーニングしてもいいかしら?」

 

 「せっかくヒーローの卵がいるんだし、どんなトレーニングしてんのか気になるんだ。たのむ!」

 

 「あわよくばナイスバディの秘訣を・・・」

 

 じろじろと葉隠を見る紗倉先輩は置いておいて、まあ別に一緒にやるだけならいいんじゃねえかな。葉隠を見ると手袋をした手でオッケーサインを出してるので

 

 「いいっすよ。じゃあ今日はよろしくお願いします。先輩方、街雄さん」

 

 「もちろん!任せて!」

 

 「やった!よろしくな!」

 

 よし、気を取り直してトレーニングだ。午前中きっちり使って鍛えるぞ!

 




 ちょっと重要なお知らせですが、作者が時系列を完全に間違えてしまっているので夏休み中にあった映画の「2人の英雄」編が完全につぶれてしまいました。なので夏休み中にあったであろう話はどこかで番外編のIFとして投稿しようかなと思います。

すいませんが本編はこのままつっぱしらせてください。本編投稿がいつになるかはわかりませんが


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超番外編 お願いヒーロー!その2

時間ができたので置いときます。


 と、いうわけで皇桜女学院の先輩方とトレーニングをするわけになったのだが・・・紗倉先輩は正直鍛えてる様子が全くないな・・・女性らしいよく言えばふくよかな、悪く言えばぽっちゃりとした体形をしている。それに比べて奏流院先輩と上原先輩は結構鍛えてる感じがする。特に上原先輩は階級制度がある競技特有の絞り方をしてるからなんとなくわかるが、ボクシングだな?

 

 「さて、気を取り直して葉隠さん!おもりは何キロにするんだい?」

 

 「60キロの20回を3セットでお願いしまーす!」

 

 「でえええ60キロ!?私の3倍じゃん!しかも20回3セットって・・・胸か!?その胸に栄養が集まってるのか!?」

 

 紗倉先輩は年下の透が60キロという人間一人分の重さでベンチプレスをすることに驚いたらしいなぜか葉隠の体のあちこちをペタペタ確認しつつ謎の着地点へ着地した。

 

 「えっへん!私だってヒーロー科!きちんと鍛えてるのです!」

 

 「すげえなヒーロー科。私も結構鍛えてるけどレベルがダンチだわ」

 

 そうやってワイワイしている姦しい連中から離れ、おもりをもってきてバーにつける。女子は仲良くなるの速いなー・・・なんなんだよそのコミュ力は。俺にも少し分けてくれよ、ヒーローのコミュ力は必須だけど俺はそこらへんはよくわからん。

 

 「おーい透、用意できたから始めるぞー」

 

 「わかったよー!んっしょっと・・・」

 

 台に寝転んだ透が60キロのバーを滑り止めつきの指ぬき手袋をした手でしっかりと握り、息を吸い込みながら綺麗なフォームで上げ下げし始めた。俺は万が一バーを落とすとろっ骨が折れたり頭骸骨陥没なんてことがありうるので手をバーに添えながら補助をかける。

 

 「ふー、んっ!・・ふー・・」

 

 薄いトレーニングウェアだからこそわかる透のボディラインが規則正しく上下する。吐息だけ聞いてるとなんか艶めかしいな、ついでに表情もわかんないからなんか余計にいかん想像が働く。ええいトレーニング中だ!ヒスりそうな材料はこの際捨て置くものとする!

 

 「よし、20回だ。インターバル挟んでもう1セットな」

 

 一定のリズムでうまいこと20回をこなした透がバーを掛け、体を起こしてインターバルに入る。街雄さんがこっちに先輩方を引き連れてやってきた。

 

 「理想的なフォームだね。紗倉さんたちはベンチプレスでどこの筋肉が鍛えられるかはもう、わかってるよね?」

 

 「えっとたしか・・・二の腕と肩、あと胸!バストアップできるんだよね!」

 

 「そう!」

 

 

 バリィ!の街雄さんの服がはじけ飛び、その中からまるで合成写真のようなゴリマッチョボディが現れた。・・・いや待て!どうやってあの細身からそんなゴリマッチョが出てくるんだ!?そんなの初めて・・・・いや、オールマイトがいたわ。よくよく考えればこの程度のことなんて・・・当たり前にあってたまるかぁ!

 

 「「なんじゃそりゃあ!?」」

 

 思わず透と声を合わせて突っ込んでしまう。しかもあの筋肉の付き方・・・個性じゃなく自前だ!ってことはあれか?一瞬で筋肉をパンプアップさせてゴリマッチョになったってか!?驚愕する俺たちをよそに紗倉先輩たちはこれがいつもの光景だとばかりにノーリアクションだ。

 

 「あー、初めて見ると驚くよなあ・・・街雄さん、すごく着やせするタイプなんだよ」

 

 「いやそれで片付けていいレベルじゃないけど!?顔と体が合ってないよ!?」

 

 そうだ透!もっと言ってやれ!・・・いっそ個性だって言ってくれたら楽なんだけど・・・そうじゃないんだよなあ

 

 「すげえよなあ街雄さんの体。あたし初めて見たときびっくりしてさあ」

 

 「本当に眼福よね、大きい大胸筋、盛り上がる僧帽筋、鎧みたいな大腿四頭筋・・・どこを取ってもダイヤモンドより輝く至高のマッスルだわ。あぁ・・・たまらないわね・・・」

 

 「まぁた始まったよこの筋肉フェチ・・・」

 

 奏流院先輩は筋肉が好きなのか?街雄さん・・・というか街雄さんの大胸筋を見つめる瞳は熱っぽくうるんでる、息も荒くなってきてるし街雄さんはなぜかポージングを決めてるし・・・もう気にせずやればいいや、うちのクラスだって外から見たらきっとあんな感じだろ。気にするだけ無駄無駄。

 

 「透―、もう気にせずにやっちまおう。2セット目な」

 

 「あっうん!じゃあはじめるよー!」

 

 その後も同じように透は20回を2セットこなした。なんだかんだ言って雄英のカリキュラムはとてつもなく実践的だ。総合的に身体能力が上がり、体力もついてくる。速筋遅筋満遍なく鍛えられてる証拠に透はこれだけやっても息一つあがってない。もう6セットくらいなら余裕でいける感じだな。

 

 「はい次キンジくんね!何キロ?」

 

 「おう、そうだな・・・120で頼むわ。30回3セットな」

 

 「「「まじで!?」」」

 

 「おお、流石雄英の体育祭優勝者。鍛え方も一流みたいだね。どうかな?ボディビルやってみない?ちなみにマックス何キロ持ち上げられるんだい?」

 

 「最大は150ですかね?余裕もって持ち上げられるのは130です。今回は付加強めで行こうかと」

 

 「うんうん、自分の持てる重量を把握してるのはグッドだよ。じゃあ葉隠さんには重そうだから僕が補助入ろうか」

 

 「お願いします。ちなみにいつ服着なおしたんですか?」

 

 「予備はたくさんあるのさ」

 

 「へー」

 

 そんなことを話しつつ姿勢を正して肩甲骨を寄せ台に寝転がる。両手で正しくバーを握ってずしりとした重さを意識しつつ腹圧をかけて上下をゆっくり始める。2回、3回とやっていると透と先輩方が何やら話し始めたようだ。

 

 

 「うっわ本当に上がってるよ・・・もしかして街雄さんと同じタイプなのか?」

 

 「いやー一緒に学校に行ってるけどそんな風には見えないかなあ?でも上半身とか見てないからわかんないや!」

 

 「そうなると・・・見てみたくないか?」

 

 「ええ、気になるわね・・・どんなマッスルが秘められてるのかしら・・・」

 

 「「「「見たい!!!」」」」

 

 別にフツーだっつーの! なんなんだその筋肉への興味は!?別に鍛えてるから割とがっちりしてるだろうけど常人の範疇をでてねえよ。ええい気にするだけ無駄だ!とりあえずワンセット終わらせるぞ!とペースを少し上げてベンチプレスを続ける。

 

 「よし!1セット目終わりだよ!続けて2セット目いくかい?」

 

 「うす!休憩なしで2セット続けます」

 

 「ヴぇえええ!?まじで!?体力お化けかよ・・・」

 

 何いってんだ。USJ襲撃の件もそうだけど全力以上で20分は動けないと死んじまうかもしれんだろ。驚く紗倉先輩をよそにさらにペースアップして続けていく。さすがに連続ではきついな・・・額に汗が浮かび腕がつらくなってくるがここは根性だ。

 

 「ろく・・じゅう!・・ふー・・・おわったか」

 

 「ナイスフォーム!もし次やるならもっと胸を意識するといいね!」

 

 腕と胸ががガチガチになってしまった。いくら恥ずかしかったからとはいえ無理なペースで連続してやるもんじゃねえな。反省反省と汗をタオルで拭っていると透と先輩方の視線が俺に集中してるのに気づいた。えーあの、特に面白いものはなかったと思うんですが・・・?

 

 「ねえ!キンジくん!」

 

 「なんだ?」

 

 「上、脱いで!全部!」

 

 「・・・は?」

 

 何をおっしゃっているのかこの透明娘は。上着だけならまだしも上を全て脱ぎ捨てろと来たか。さっきの話の流れからこういった風になることはわかってたがさすがに予想外だぞ?ご先祖様みたいに露出してヒスるとは思えんが万が一ということもあるし、やんわりと妥協点を見出して断らねば。

 

 「脱がねーよ。街雄さんなら喜んで破り捨ててくれるんじゃねえの?」

 

 「そういうことじゃないのー!いいじゃん減るものじゃないしー!気になるの!いいでしょ?」

 

 「現時点でお前の羞恥心やら倫理観がごりごり減ってると思うんだが?・・・上着だけならいいぞ、そんで我慢しろ」

 

 「えーケチー!ぶーぶー!」

 

 「うっせえ。遠山憲章4条、羞恥心忘れるべからずだ。・・・・ほれ、満足か?」

 

 仕方なくウェアの上を脱ぎ捨てタンクトップになる。ベンチプレスをしたから上半身に血液が集まって筋肉がパンプアップしてるおかげで自分でも筋肉の形がはっきり見える。ちなみに俺は身軽に動けないと困るので速筋を中心に鍛えてるが、太くなりすぎても困るので対比は7:3くらいだ。なので細くガチガチに硬い筋肉がついてる感じだな。ちなみに腹筋も薄い脂肪の下で綺麗に割れてる。

 

 「ほぇー・・・細マッチョだねー!かっこいいね!」

 

 「おう、ありがとよ。もうい「素晴らしいわ!!」・・・は?」

 

 服を着ようとした俺に待ったをかけたのはやっぱり奏流院先輩だ。彼女は鼻息荒く俺の周囲をぐるぐる回って俺の筋肉を目に焼き付けている。人は見かけによらないっていうけどこの人はもしかしたらその最たるものの一人なのかもしれない。

 

 「ボディービルダーの魅せる筋肉とは全く逆方向の実用一辺倒な必要なところに必要なだけ搭載された絞られた肉体・・・!しかも無駄な鍛え方が一切ないわ!しなやかで、硬く、力にあふれていて街雄さんがダイヤモンドなら遠山君は玉鋼!打ち付けられて鍛えられた鋼よ!・・・・ああ、こっちも眼福だわ・・・・!」

 

 ・・・褒め、られ、てる・・・のか?確かにうちの修行で散々打ちのめされたのは確かなんだが・・・。とりあえず服きちまおう。言われてる俺が恥ずかしくなってきたわ。ボディビルやってる人はこんな気分で掛け声をかけられてるのだろうか・・・・俺には理解できない世界かもしれない。

 

 「とりあえず、トレーニングを再開するか・・・・」

 

 一人ヒートアップしている奏流院先輩を置いて俺たちはそそくさとトレーニングを再開するのであった。

 

 

 

 

 

 そこから3時間ほどトレーニングに没頭し、いい時間になったので透にスパーリングやるかと提案してみる。せっかく格闘技クラスがあるらしいしリング使わせてもらおうかな?

 

 「あっ!素手の格闘見てくれるって言ってたね!やろやろー!」

 

 「お前ら・・・なんでそんなに体力有り余ってるんだよ・・・こっちはもうへとへとだっつーの・・・」

 

 「さすがはヒーロー科ね。トレーニングの強度も私たちより高いのに・・・」

 

 「テレビのヒーロー見てると納得しちゃうけどなあ。格闘技クラスに行くんだよな?気になるしついていっていいか?」

 

 「そりゃ構いませんけど・・・見てて楽しくはないですよ?同じことはできないですし」

 

 「わかってるよ。うち実家がボクシングジムやってるんだ。なんか新しいトレーニングのヒントになるんじゃねーかなって」

 

 「わかりました。じゃ、いきましょう」

 

 そうして俺たちはトレーニングルームを後にした。どうやら街雄さんは他のトレーニングの予約がつまってるらしくついてこないそうだ。透と先輩方を引き連れて格闘技クラスの部屋のに入ると思ったより大きいリングとサンドバック、木人、グローブ等の商品が並んでいた。へぇー、結構本格的じゃんか。

 

 

 「お、割と本格的だな。じゃ、早速やるか」

 

 「うんうん!よろしくお願いしまーす!」

 

 「ヒーロー科、それも雄英の組手が見られるとは思わなかったなあ」

 

 「映画みたいなのだと面白いな!」

 

 「ちょっとひびき、そんなことやったら怪我しちゃうわ」

 

 なんかえらい好き勝手言われたしそれなりに期待もされてるようなので透に目配せすると、ぐっとサムズアップして答えてくれた。俺が言うのもなんだけどお前もたいがいエンターテイナーだよな。ロープを越えて二人で向き合い、どちらからともなく格闘戦に入る。

 

 まず透はロープの反動でジャンプ、ほぼ水平に飛んできて俺の腕を掴んで勢いを利用して投げてくるので、そのまま返したりしたら外からの力がありゃ関節を自在に外せる俺はともかく透がえらいことになってしまうのでおとなしく投げられ、受け身をとる。投げた透は俺を通り過ぎるようにして着地し、転がってる俺に対してストンプを繰り出してくる。

 

 俺はそれを転がって回避しネックスプングで跳び起き、起きた瞬間透が打ってくるワンツーのパンチをそれぞれ捌く。パァン!という快音が響いて透の腕を掴んだ俺が小手返しを仕掛ける。透は学校で習った通りに自分から投げられに行き受け身をとって自分の腕をひねって俺の腕を外して転がって距離をとった。

 

 「いやーキンジくんさすがだねー。かなう気がしないや」

 

 「いや、思ったよりお前できるじゃねえか。きちんと拳の打ち方もわかってるみたいだし、もうちょっと本気出してもよさそうか?」

 

 「それは勘弁!」

 

 いうが早いが透がこちらに接近し、蹴りを主体に攻めてくる。なるほど、パンチだとさっきみたいに掴まれると踏んだんだな?足の力は手の力の3倍、捕まれても無理やり外せるってことか。前蹴り、足への踏みつけ、回し蹴り、多彩な蹴り技だが・・・近づかれるとやりにくいんだよな、それ。

 

 俺は透が蹴りを繰り出し終わった瞬間、サッと透にギリギリ触れるくらいまで近づいてやる。急に俺がドアップになったことに驚いた透が「ぴぇっ!?」と珍妙な声を上げ一瞬フリーズした隙に、透の体に俺の体の胸からほぼ0距離でぶつけに行った。中国拳法の寸勁、それの体当たりバージョンだ。

 

 俺の体重のほとんどの撃力を受けた透は足が滑り、ドターン!と両足を上に挙げて漫画みたいにこけた。それでもきちんと受け身とって頭を守ってるあたり透も抜け目ないな。

 

 「うっきゅ~、痛いよー」

 

 「そりゃ悪かったな、で今のスパーリングだけど・・・」

 

 そうやって俺と透が反省会してると、俺たちのスパーリングをあんぐりと口を開けてみてた先輩方が先輩同士で話し出した。

 

 

 「す、すっげ~!あれでヒーローの卵ってやっぱり雄英ってやばいんだな!ほんとに映画みたいだったじゃん!」

 

 「そうだなー!アクションの殺陣みたいだったよな!しかもパンチとか打つときすっごい音するし!」

 

 「ええ、そうね!そしてあの動きをするには相当の筋肉が必要よ!やっぱり遠山君の筋肉も相手した葉隠さんの筋肉も素晴らしいものだったんだわ!私たちも負けないくらい鍛えましょう!」

 

 「「「おー!」」」

 

 

 ということがあったのが体育祭終了後すぐの休みの日だ。ちなみにトレーニングを終えたあと先輩方と食事をしたんだが、紗倉先輩がすさまじい勢いでメシを吸い込んでいて俺と透がドン引きしてたと記しておくことにする。そりゃ痩せないわけだぜ先輩。




次もよろしくお願いしまーす


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第29弾

 久しぶりの本編投稿でござーい!
また暇を見つけて書いていきますね。


 ヴィラン連合が逃げ去って15分くらいたった後、ヒステリアモードをまだ維持してた俺の耳にサイレンが聞こえてきた。どうやら先生方のうちの誰かが通報してたらしい。

 

 「おい、サイレン聞こえるぞ。助けが着たっぽいな」

 

 「・・・そっか。ねえ、戻ろ?ここにいたってしょうがないし、怪我してる人もいるし・・・ね?」

 

 「そうですわね・・・みなさん、いきましょう?」

 

 透と八百万がそう言って全員のろのろと移動を開始する。動けない緑谷を障子が、気絶してる常闇を切島が担いで俺の耳を頼りにサイレンがしてる方向に向かう。仲間がさらわれるという最悪の結果を目の前で迎えたせいで全員顔色も優れないし無言だ。

 

 「あっ!みんな!よかった・・・・」

 

 「心配していたのよ・・・爆豪ちゃんは?」

 

 こっちに向かっていたらしい麗日と梅雨と合流したみたいだ。俺たち全員の暗い表情にいぶかしげになった二人が訪ねてくる。・・・言いにくいが・・・伝えなきゃならん。

 

 「・・・落ち着いて聞け。爆豪は・・・ヴィラン連合に、誘拐された・・・!」

 

 「・・・ウソ・・・ウソや!ウソって言って!」

 

 「落ち着いて、お茶子ちゃん。・・・本当なのね?遠山ちゃん」

 

 「こんな時にこんな最悪な冗談言えるかよ、クソッ。・・・すまん、熱くなった。・・・事実だ。今サイレンがしてるから、救助が来たはずだ。そう動かしちゃいけねえ怪我人もいるから俺らのほうから向かう。お前らも一緒に来い」

 

 「ええ、わかったわ・・・」

 

 「・・・うん」

 

 「・・・気休めだが、拉致したってことは爆豪に価値があるとあいつらは判断したんだ。少なくともまだ命が如何こうという話にはならんと思う。俺らができることは情報を一つでも多く持ち帰ってこの後プロにつなげること・・・いいな」

 

 全員が無言でこくりと頷き、俺たちは再び救助が来た場所に向かって歩を進める。歩いていくにつれて俺の両手の包帯が赤く染まっていく、咄嗟だったから自損をコントロールできなかったつけが来たか、衝撃波で動脈をやったのかもしれん。

 

 

 ガサガサッと目の前の茂みが動いた。思わず前に出て構える。チッ!まだ残ってたのか!

 

 「お前ら!無事か!?」

 

 「あなたたち大丈夫!?」

 

 「「「「相澤先生!マンダレイ!」」」」

 

 茂みをかき分けて出てきたのは相澤先生とマンダレイだ。どうやら動けるようになって真っ先に生徒の保護に動き出したらしい。これでようやく起きたことを話せる。

 

 「相澤先生!爆豪君が・・・うぐっ・・・ヴィランに・・・」

 

 「おい!どういうことだ!?爆豪はどうした!」

 

 泣きながら起きたことを伝えようとする透だが、断片的過ぎて情報が伝わってない。俺は透の肩に手を置いて落ち着かせ、口を開く

 

 「すいません相澤先生、ここからは俺が報告します。爆豪がヴィラン連合に誘拐されました。連れ去ったのはつぎはぎ肌の男と奇術師のような服装の男です。USJできた黒霧とかいうヴィランの個性を利用されたので、おそらく別の場所にワープされたんだと思います・・・・助けられませんでした・・・っ!」

 

 「・・・そうか、わかった。よく報告してくれた。マンダレイ、本部のほうへテレパスを!捜索隊を組織するように伝えてくれ!・・・お前ら、大変な時に一緒にいてやれなくてすまなかった。・・・戻ろう」

 

 相澤先生の不器用ながら暖かい優しさに満ちた言葉に促され、それぞれ歩を進めて目的地を目指した。

 

 

 

 

 ・・・完全敗北、そう言って差し支えないだろう。意識不明者14人、重軽傷者合わせて11名、無傷だったのが11名・・・そして、行方不明者が1名。プロヒーローも一人行方不明になった。雄英史上最悪のヴィラン襲撃事件と言っても過言ではないだろう。

 

 あの後救助された俺たちは病院にぶち込まれ、戦闘をしたものは全員検査入院、俺と、切島、そして八百万と透がそうだ。俺と八百万は同室で、切島と透はほとんど無傷だったこともあり半日で退院、腕の自損がひどかった俺と、個性の使いすぎと極限状態に置かれたせいで体調を崩した八百万はそのままだ。

 

 1日たった午後、透と切島を見送って病室に戻ってきた八百万と俺は何の気なしに雑談をしていた。そうしないと気が狂ってしまいそうだった。爆豪は粗野なやつだがストイックで、他人にも自分にも厳しかった・・・そして何よりもクラス全員にとっても大事な仲間だった。

 

 正直はらわたが煮えくり返りそうだ。けど、俺たちが目指してるのはヒーロー、ここで私怨に走るようではヴィラン連合と同じ穴の狢だ。そう考えてるとコンコン、とノックの音が響いた。

 

 「はい!」

 

 「失礼するよ。警察官の塚内です。調書を取りに来たんだ、今いいかな?」

 

 「ええ、大丈夫ですわ」

 

 「大丈夫です」

 

 「・・・ありがとう。思い出すのもつらいだろうけど、できるだけ詳しく話してほしい。必ず、捜査に役立てるから」

 

 「おねがいします・・・では・・・」

 

 それから俺たちは、あの夜に起きたことを仔細全て、余すところなく塚内さんにはなした。脳無と戦ったたこと、爆豪と常闇が姿を変えられたこと、ヴィラン連合のやつと戦ったこと・・・爆豪が、さらわれたこと。すべて話し終えるとまた、コンコンとノックが響いた。返事をすると扉があき、現れたのはオールマイトだ。

 

 「やあ、遠山少年に八百万少女、具合はどうだい?・・・今回は、危ない時に一緒にいてあげられなくてすまなかった・・・爆豪少年は必ず助けて見せる、だから安心して静養してほしい」

 

 「はい、オールマイト。どうか爆豪をお願いします。・・・八百万、脳無につけたアレ、どうなんだ?」

 

 「さっき確認しましたが、きちんと動いていますわ。塚内警部、オールマイト先生・・・これを」

 

 八百万が渡したのはGPSの傍受装置だ。あの脳無に泡瀬がつけた発信機は、正常に動作しているらしくその居場所を示している。

 

 「これは、発信機の傍受装置か!どうやって・・・」

 

 「遠山さんと切島さんが行動不能にした脳無に、泡瀬さんがくっつけたんですわ。捜査の役に立ててください」

 

 「ありがとう!八百万少女!相澤君は君を咄嗟の機転に欠けると分析していたが、立派に成長したみたいだね。あとはプロに任せなさい。遠山少年も、よく頑張った」

 

 そう言って、オールマイトと塚内さんは慌てた様子で部屋を出ていった。八百万がもたらした情報の大きさゆえだろう、捜査が一気に進展するかもしれない。

 

 

 翌日、午前中に現れたリカバリーガールに心配の言葉と緑谷がまた無茶したことについての愚痴を聞かされながら治癒をしてもらい、一気に楽になった。聞けば緑谷も俺より相当強く治癒をかけたみたいでもうすぐ目覚めるだろうとのことだ。・・・とりあえずは無事に治りそうでよかった。

 

 

 

 リカバリーガールが去って1時間くらいしたらまた病室の扉をノックする音があった。返事をして扉を開けてきたのは切島だ。

 

 「よう、二人とも、大丈夫なのか?」

 

 「ええ、私はもう大丈夫ですわ、明日の夜遠山さんと一緒に退院という形になります」

 

 「そっか、よかった。・・・なあ」

 

 「爆豪を助けに行きたいって話ならなしだぜ、切島」

 

 思いつめた表情で切り出そうとした切島の話をさえぎって俺が先に否定する。悔しい気持ちもわかる、目の前でさらわれたのだから。でもそれとこれとは話は別だ。俺たちは何の権限もないただの学生、ここで個人的に動けばそれはヴィランの行いだ。

 

 立ち上がって切島の目の前まで歩いていく、俺に気圧されたように切島が思いのたけをぶちまける。

 

 「・・・それは、わかってる!わかってるけどよぉ!何もできなかったんだぞ!脳無だって、お前がいなきゃ全員無傷なんて行かなかったし、爆豪の時にいたっては俺ぁ見てるだけだった!このまま俺は、ヒーローにも、漢ですらなくなっちまうんだよ!」

 

 「んなことで動いていい話じゃねえんだ。俺だって許されるなら今すぐ家帰ってチャカ持って助けに行きてえよ。でもな、それやっちまったらヴィラン連合のやつらと同じだ!そんなことして助けられたら・・・俺だったら、嬉しかねえ。・・・でもそれは俺の選択だ。お前に如何こう言える立場じゃねえのはわかってるし、強制もできねえ。止めるように言うだけだ。・・・これ以上は、もう言わねえぞ。やめてくれ、切島」

 

 そう言って俺は切島の横を抜けて病室を出る。ドアをでて、トイレまで行き、スマホを立ち上げる。そして病室に置いていった財布の盗聴器をオンにし室内の会話を拾う。どうせああいったって切島はやるだろう。もしやるなら最後の最後で止めなきゃならん・・・それが中途半端とはいえ話を聞いた俺の役目だ。

 

 「・・・だから、頼む!お前はいかなくてもいい、少し協力してほしいだけなんだ・・・行くのは明日の夜、考えといてほしい」

 

 「・・・・考えさせてください・・・」

 

 「ああ、無理いってごめん。最低だってわかってる・・・でも、頼む」

 

 ドアが開く音が聞こえる。切島は帰ったらしい、機能をオフにして少しだけ時間を空けて病室へ戻る。微妙な空気の中、帰ってきた俺に対し八百万は少しだけ罪悪感にまみれたような、そんな顔をしていた。

 

 

 

 翌日、朝飯を食って少しだけ休んでいると、バン!というすさまじい音とともに病室の扉が開いた。扉の先にいるのは・・・かなでだ。どうやら実家からこっちに戻ってきたらしい・・・参ったな、また怪我してるのがばれちまった。

 

 「お兄ちゃんさまああああああ!!!!」

 

 俺の姿を確認したかなでは泣きながらこっちに突っ込んできた。ぎゅっと抱き着くかなでの小さな体を抱きしめてやり謝る。

 

 「心配かけて悪かったな、かなで。もう治ってるから今日退院する。お詫びになんか食べに行こうか?」

 

 「いえ、よかったです・・・。お兄ちゃん様がまた事件に巻き込まれたって聞いて気が気でなくて・・・お爺ちゃんは「遠山の男にはよくあることじゃ。心配せんでも死んだら勝手に生き返るわい」なんて言ってたのですがどうしても心配で・・・」

 

 でたな爺ちゃんのザ・遠山家な発言。死んだらどうやって生き返るっていうんだよ、羅刹食らったかんじか?あれなら何とかできそうだけどさ。おれはかなでの頭を撫でながら笑ってしまった。

 

 「そうだな、まあ爺ちゃんのは無茶ぶりだけど出来るだけ死なないようにするから、大丈夫だぞ。兄ちゃんを信じろ」

 

 「はい!・・・えっと百お姉さん、こんにちは。大丈夫ですか?」

 

 「かなでちゃん、お久しぶりですわ。ええ、もうすっかり元気です。ご心配かけて申し訳ありませんわ・・・」

 

 「それはよかったです!あ、これお見舞いのゼリーです!どうぞ!」

 

 そのあと、林間合宿からはじめて笑いながら話ができた気がする。午後5時ほどになり、俺らは八百万よりも一足先に帰らせてもらうことになった。暫くこの辺でウロチョロしてよう。かなでを連れているからアレかもしれないけどあいつらは絶対、切島の様子だと緑谷にも誘いかけそうだし、もしいくなら止めるだけ止めなきゃならん。

 

 かなでにも事情を話したところ、協力してくれるそうだし仕方ないが・・・あいつらを無駄死にさせるわけにはいかない。

 

 

 午後7時ごろ、八百万の隊員時間に合わせて病院から駅に行く道で待っていると・・・やっぱりきたか。切島、轟、飯田、緑谷・・・そして八百万。協力することにしたのか・・・はあ。

 

 暗がりから俺が見える位置まで来たあいつらは、俺がいることに気付いて歩みを止めた。

 

 「・・・遠山」

 

 「よう切島、それとお前らも。目的は大体わかってるが・・・もう止まるとも思わんが言わせてもらうぞ。やめろ、行くんじゃねえ」

 

 「わかってるよ遠山君、僕らの戦闘許可は解けてる。だから、戦闘をしないで助け出す」

 

 「・・・ほぉ。お前らそれができると思ってんのか。まあやりたいこともわかるけどな、飯田まで協力するとは思わんかった。はっきり言うぞ?犬死するだけだからやめとけ」

 

 「・・・遠山君、信じてもらえないかもしれないが僕と八百万君は万が一の時彼らを止めるためについていく。もう彼らは・・・言葉では止まらない」

 

 「だろうな。昨日の昼も俺は止めたからよくわかるぜ。んでもう一回いうぞ。戦闘なしで潜入して爆豪を救出だ?無茶苦茶言ってんじゃねえよ。そんなことできたら警察もヒーローもいまうだうだ会議なんてやってねえ。ましてや学生で力量が劣る俺やお前らができるはずもないのはわかるはずだ。わかったら今ここで全員で別れて家まで帰れ」

 

 俺の冷たい言葉にぐっと言葉を詰まらせた緑谷がなおも反撃しようと口を開く。

 

 「そんなの・・・そんなのやってみなきゃわかんないじゃないか!」

 

 あの比較的理知的な緑谷からそんな言葉が飛び出すなんてな、正直驚いた。俺ははあ・・・とため息をついて否定の言葉を口にする。

 

 「無理だ。少なくとも、後ろのやつに気付いてないお前らにはな」

 

 俺の言葉で全員がバッと後ろを振り返り、緑谷の背中にもう手が触れるぐらいまで近づいている悲しそうな顔をしたかなでに気付いた面々が、ばつが悪そうな顔をしてこちらに向き直る。

 

 「別にお前らが心配なだけで俺は止めてるわけじゃねえ。その心配の言葉は飯田と八百万あたりがさんざん言っただろうしな。俺が心配してるのはな、お前らという不確定要素が入り込んでプロの仕事を邪魔するっていうことに対して心配してるんだよ。酷なこと言うけどな、なんでわざわざ爆豪の生存率下げるようなことしてんだ」

 

 「っそんなこと!」

 

 なおも否定しようとする緑谷と切島にたたきつけてやる。

 

 「あるんだよ。お前らみたいな子供がアジトに潜入してるってことはまず普通にバレるぞ。かなでに気付けなかったくらいだからな。でヴィランのボスはもしかしたらこう考えるかもしれない。「さらった生徒に発信機がついてるかもしれない」と。そうなったら腹いせに殺されても不思議じゃねえぞ。相手は発信機がついてるのが脳無とは知らねえはずだからな」

 

 「それでも、僕はいく。行って、かっちゃんを助ける」

 

 ・・・こいつ。・・・はあ、こいつらとの学生生活、楽しかったんだけどな。俺はすっと道を開けて通れるようにしてやる。あれだけ止めたのにと懐疑的な顔をしてる緑谷たちに対して

 

 「もういい。・・・何言っても無駄みたいだしな。行くなら勝手に言ってこい。もう俺は、たとえ生きて帰ってもお前らをヒーロー志望とはみねえ。好きに行って、好きなだけ自由に暴れてこい。・・・ま、死なないようには祈っておいてやるよ。・・・かなで、いこう」

 

 「っ遠山君!」

 

 「もう呼ぶな、お前らはそれを選択したんだ。知ってるやつらは止めたろ?それを全部振り切ってお前らはそこに立った。ならもう迷うな、やりたいことやってりゃいい。どうなるかの責任は自分でとれ、絶対にプロや学校に迷惑かけてくれるな。もう、それだけやってくれればいい」

 

 吐き捨てるようにそう言って、俺はかなで連れてそこから去った。ヒーローは曲がりなりにも法の下でヴィランを捕まえる。勝手な自警団活動はそれがどんな理由であったとしてもヴィランとして処理される。それが今の俺たちの社会だ。ルールがあるから表面上とはいえ平和があるんだ。そのルールを逸脱するアウトローになるんだったらもうそれはヒーローでも、ヒーロー志望でもない。

 

 遠山家は「義」・・・正義の一族、それはけして個人の正義とかそういうものではなく、法の下である正義だ。そうして昔から法の下で悪人を裁いてきた。でも・・・こうやって自分から友人を切り捨てるのは初めての経験で・・・どうしたって、胸にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分になってしまうのだった。

 

 

 

 

 無言で電車に乗り、かなでを連れて家まで帰る。玄関を開けると・・・居間のほうに違和感があるな・・・誰かいるような・・・ははあ?またジーサードあたりか?そう思ってかなでを見ると・・・ふるふると首を振られたので、音を殺して歩き、ドアをバッとあける・・・!?・・・どうして、どうして「こいつ」がここにいる!?

 

 

 「おや、遅いお帰りですね。改めまして遠山君、黒霧です。君の妹を、迎えに来ました」

 

 

 

 




 だいぶ厳しいことキンちゃんに言わせましたが、あの場で勝手に動くのってやっぱりよくないと思うんですよね。
 特にキンちゃんは法の下で動くって意識が強いのが原作からよくわかりますし・・・

 次回もよろしくお願いします


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第30弾

 黒霧、ワープの個性を持ったヴィラン連合の移動役、3日前の林間学校で散々辛酸をなめさせてくれた奴だ。怒りに任せてぶん殴りたいところだが・・・狙いがかなでだと知って思いとどまる。

 

 頭をぼりぼり書いてやつの視線を俺の頭に向けさせた隙にポケットの中のスマホを起動してポケットの中で操作、ミュートにして電話帳の一番上の相澤先生に手の感覚だけで電話を掛ける。

 

 ワンコール、ツーコールをバイブの震え具合で確認し、一瞬強く震えたのでつながったと判断、ミュートのため音は出ない。相澤先生が察してくれることを信じて授業で習ったタップ信号を収音機に向かって行う。

 

 「で、黒霧さんよ。不法侵入だぜ?俺の戦闘許可は解けてるっつってもよ、正当防衛は成り立つんだぜ?まあちょっと過剰になっちまうけど許してくれよ」

 

 ヴィランレンゴウ、ソウグウ、ネライハイモウト、キュウエンモトム。これをずっと繰り返す。気づいてくれ、相澤先生・・・!俺が今やれるのは時間稼ぎだ。少しでも長く会話して実力行使まで時間を稼ぎ、情報を多く引き出せ。黒霧は頭を掻き終わった俺から視線を外し、かなでに視線をやりながら鷹揚に応えてくる。

 

 「おや、怖いですね・・・よろしいのですか?違反をして」

 

 「目の前にうちのかわいい妹を攫うっつってるやつがいるのにそんなもん気にしてられるかよ・・・ああそうそう、爆豪は元気にしてるか?寂しくて泣いてんじゃねーかと思うんだけどよ」

 

 ジーサードリーグ製のスマホが逆探知を仕掛けられてる時用のリズムで震えだした。相澤先生、気づいてくれたんだな!タップ信号をやめポッケに突っ込んでた手を出して、ワザとらしく大げさにジェスチャーして訪ねてやる。こういう時に大事なのは余裕と自信、それを相手にぶつけてやれば少なくとも動揺は誘える。

 

 「おや、この状況で他人の心配とは随分と余裕なようですね。ええ、彼は無事ですよ・・・死柄木弔が飽きるまでは、ですけどね」

 

 「そうか。今頃暴れてるかもしれんな?あいつの我慢弱さを俺たちはよーっく知ってるもんでよ」

 

 「それは、ご自分の目で確かめたらどうでしょうか?私の目的はそこの人工天才ですが、ついでにという形であなたもとご指名なのですよ。私の主人がね」

 

 「ああ?俺もか?死柄木には恨まれる筋合いはねーけどな。しこたま殴ってやりたいのは事実だが」

 

 思わず舌打ちが出そうになる。かなでが人工天才ってことがばれてるのもそうだが、どこから漏れたんだ?知ってるのは校長とリカバリーガール、オールマイトくらいだ。他は俺の家族で漏らすなんてありえない。こいつは絶対にかなでの能力まで知ったうえでこんな強引な拉致に出てるんだ。

 

 「ああ、私の主人は死柄木弔ではありません。まあ世話役ではあるのですが、私の主人はオールフォーワン、裏世界の主ですよ」

 

 オールフォーワン・・・!ここでその名前が出てくるのか!オールマイトがあと一歩まで追い詰めたのに生き延び、オールマイトを半死半生にしたヴィラン・・・!

 

 「知らねえ名前だな。そんなんがヴィラン連合の主か?いかにもな偽名しやがって」

 

 「わが主は表に出ることを好みません・・・さてそろそろ、一緒に来てもらいましょうか。ああ、抵抗は無駄ですよ。もう既に、私の霧はこの部屋を覆いました」

 

 ・・・!くそっ!考えが及ばなかった!時間稼ぎをしてたのは俺だけじゃない!妙にぺらぺら話してると思ったらコイツ、部屋の外に霧を展開して部屋ごとワープさせる気だったんだ!

 

 「かなで!捕まれ!」

 

 「はいっ!」

 

 部屋の外から何かが削れるような音が聞こえたと思ったら一瞬の浮遊感とともにズシン、と振動が起きて部屋が着地したような音がした。俺はきつく抱きしめたかなでをいったんおろし、手を握る。行きたくもねえのに虎穴に来ちまった。

 

 「では・・・私はこれで。わが主が直々に案内するようですよ」

 

 黒霧は自分の周りに霧を展開し、消えていってしまった。とりあえず外はともかく中は俺とかなで以外無人だ。。・・・スマホは・・・電波がねえ。転移された時に切れちまってるし、かけることはできないな。

 

 「かなで、俺から離れるな、絶対だぞ」

 

 「お兄ちゃん様・・・」

 

 「大丈夫だ、絶対守ってやる。兄ちゃんを信じろ」

 

 かなでがこくり、と頷いたので万が一のために部屋に隠しておいたサバイバーズキットを引っ張りだし、衝撃でぐちゃぐちゃになった部屋の中から俺の銃と持ち歩いてたナイフ、マガジンを手早く身に着ける。ガントレットとかがねえのが不安だがどうせあってないようなもんだ。自損は覚悟しておこう。

 

 居間を出ると、もう既に真っ黒な闇があたりを覆っていた。・・・地下か、道理で電波が入らねえわけだ。個性を使いながらかなでの手を握り、片手にベレッタを携えて限界まで気を張りながらあたりを警戒する・・・とりあえず・・・誰もいねえか?

 

 「やあ・・・よく来たね。と言っても君たちに拒否権はなかったわけだけども」

 

 バッと振り返る。誰もいなかったはずの背後、俺の部屋があった場所には、何もなくなっており、代わりにスーツを身に着け、頭に呼吸器のような複雑な機械をつけた異形の男が立っていた。音もしなかった・・・俺の部屋がなくなる音も、その男が現れたということも。ワープ?入れ替え?黒霧以外にもそんなことが出来るやつが・・・・!?

 

 「驚かせてすまないね。年を取るとどうも刺激を求めるんだ、まあちょっとした個性の一つさ。さて、改めてようこそ、ジーセカンド、ジーフィフス。僕が、オールフォーワンだ」

 

 そう言った、男の、圧が俺たちを襲った。かなでは過呼吸に陥り、俺も膝をつかないでいるのが精いっぱい・・・こいつが、オールフォーワン・・・・!父さんが本気で怒った、それ以上の圧。俺たちに明確に死を想像させ、気を張ってなければ即座に俺の心を折っただろうその男は、俺たちのことを興味と微妙なイラつきがないまぜになったような空気を放ちながら鷹揚にまた話し出す。

 

 「ああ、すまないね。君たち遠山の一族には何度も何度もやりたいことを邪魔されてね、つい、イラっとしてしまった。この体になってからどうも個性のストックも、感情の制御もうまくいかなくてしょうがない」

 

 体が軽くなる。かなでの呼吸も戻り、俺は脂汗を掻きながらそいつを睨む。片手でかなでを引き寄せ無駄と知りつつも銃口を向ける、向けないと心が折れそうだ。イラついただけでここまでの重圧、こいつが本気で怒ったところなんて想像もしたくもない。

 

 「・・ついてきなさい。ああ、間違っても拒否はしないほうがいいと思うよ。目的の子はジーフィフス。ジーセカンド、君はおまけだ。やろうと思えばすぐに君なんて殺せる」

 

 「だろうな。おとなしくさせてもらうぜ。・・・どこに行くんだ?」

 

 「ふふ、賢明だね。すこし、話をしようじゃないか。お茶はないけど、許してくれたまえ」

 

 「いらねーよ。さっさと返してくれれば一番嬉しいんだけどな」

 

 「君たちの返答次第だとも」

 

 ・・・ケッ!どうせ返す気はないのが見え見えだぜ。消耗したかなでを抱き上げておとなしくついていく。ついた部屋は、モニターがしこたま並んだ部屋だ。その中の一つに雄英の校長と相澤先生が並んだものがあった。ニュースの記者会見だ。俺がさらわれたなんて発表できないから警察に電話を預けて逆探知をかけてもらってたんだろう。

 

 豪華な椅子に腰かけたオールフォーワンが慇懃無礼に口を開く。

 

 

 「さて、君たちに来てもらった理由はだね。御覧の通り、僕はオールマイトと君たちの父親のおかげでひどい怪我を負った。使える個性は減り、こんな不格好なものをつけてなければ呼吸すらままならない」

 

 「なぜ父さんの話が出てくる?」

 

 「ああ、君たちの父を殺したのは僕だ。オールマイトは取り逃がしてしまったけどね。話を戻そう、僕に協力してくれないか?ジーフィフス、君の個性・・・この社会で生きるには大きすぎるだろう?僕に、譲ってくれたまえよ」

 

 

 さらっと出てきた親父の死因、その仇が目の前にいる事実に怒りで頭がどうにかなりそうになる。衝動的に銃を向けそうになるが、ぎゅっと俺の服を握って寄りそう腕の中のかなでを見てすぐに冷めた。今は親父のこととかそういうのはどうでもいい。こいつからかなでを守れれば、俺がどうなったって構わない。

 

 「・・・いやです。この個性は私のもの、それが実験で作られてもこの世界で生きにくくても!私の、私だけの力なんです!」

 

 「そうか、残念だよ。なら、勝手にもらっていこうか。君たちの死体からね」

 

 かなでが強く拒否したのに機嫌を悪くしたのかオールフォーワンはゆっくりと立ち上がり、羽虫を払うように手を振った。俺の体が直観で動く、かなでをかばうように背中を反転させた俺の背に不可視の力がぶつかった。

 

 簡単に俺の体がピンボールのように吹っ飛び、2度、3度とバウンドする。腕の中のかなでを傷つけまいと固く抱き留め、背後の機械群に体の向きを調整し背中から突っ込む。激痛とともに機械にめり込んだ。ダメージはまだ軽い。手足は動く。大丈夫だ、ちょっと口から血が出ちまっただけ。つばとともに吐き捨て、立ち上がる。

 

 「・・・かなで、個性の倍率、あげてくれ。限界まで」

 

 「お兄ちゃん様!でも・・・!」

 

 「言ったろ?兄ちゃんを信じろって。妹の力を受け止めなくて何が兄貴だって話だ。・・・協力してくれ、かなで。お前の力が必要だ」

 

 そのマリンブルーの瞳を涙で潤ませたかなでがなおも何かを言いつのろうとしたが、俺の顔と目の前の敵をみて、覚悟を決めたのだろう。すぐに俺の体がうすぼんやりと光りだした。

 

 体感できる個性の倍率が上がっていく。30、50・・・そしておおよそ70倍で止まった。そこから遅れてドクッとさっきの攻撃によるアゴニザンテに入る。ヒステリアモードの30倍と、かなでの個性による強制ブースト。それが合わさって・・・

 

 

 100倍ヒステリアモードだ。

 

 

 ぱち、ぱち、ぱちとオールフォーワンが余裕たっぷりな様子で拍手をしている。通常のおおよそ3倍の個性とヒステリアモードの頭がオールフォーワンの動作全てを見逃さんとフルに働いていく。勝てはしねえ、生き残るのだってきっと無理だ。でも、あきらめる理由にはなりはしない。

 

 「素晴らしいね、その個性。益々ほしくなったよ。それにジーセカンド、君もだ。さっきのは二人とも殺すつもりだったんだけどね。思ったより君は強いらしい。・・・いい脳無の素体になりそうだ。是非とも原形をとどめておきたいね」

 

 「お褒めに預かっても嬉しかねぇよ。簡単に殺せると思うなよ?さっきの100倍は強いからな」

 

 「だろうね。こんなのも躱せそうだ」

 

 そう言ったヤツが手を振ると同時にさっきはとらえられなかった不可視の力が俺を襲おうとし始める。さっきは見えなかったけど今はくっきりと力の動きが空間のゆがみを伴って俺に両脇から攻めてくる。かなでを抱えながら桜花でジャンプし身をひねりながらやつのほうに顔を向けると、こちらに指鉄砲を構えていた。

 

 視認してすぐに何かがやつから発射され、正確に俺の顔面に迫る。超音速だが、見せた時点で俺は対処を終わらせていた。手に握ったままのベレッタの側面を使って横から殴り発射されたものを逸らす。音速程度なら見てからでも動ける。今の俺ならな。

 

 トッと着地した俺を興味深そうにしながらオールフォーワンが嗤う様子がわかる。様子見どころか完全に遊んでやがる。やはり実力差は大きい、勝てる気なんて微塵も感じない。

 

 「いいね、君の強さは個性だけでなくその修練の果てに積んだ技量だ。実戦経験は少ないけど・・・やはり、欲しくなってきたよ。君を殺すのはやめよう。洗脳でもした方が、面白そうだ」

 

 「勝手に決めてんじゃねーよ。俺はヴィランになんてならんぞ。その前に舌噛み切って死んでやるからな」

 

 「そしたら脳無にするだけさ。・・・・うん、事情が変わったよ。また一緒に、来てもらおうか」

 

 そう言ってヤツが手をかざす、そうすると俺の口から黒い液体が飛び出し、俺とかなでを包んでいく、なんだこれ・・!?どうする気だ!?

 

 「どうやら、また失敗したようだね弔。でも大丈夫。今から私が表に出よう。ちょうど、減ったストックを取り戻したかったところだ」

 

 その言葉とともに、俺の視界は暗転した。

 

 

 ドサッと俺の体が地面に背中から落ちる。そこは建物の一室だった。腕の中にかなでがいるのを確認して一安心した俺は、周りを確かめる。外を見れば警察車両とヒーローが何やらどんちゃんやっているが・・・そこにすさまじい風の砲弾がすべてを抉っていった。まちがいねえ、ヤツがやったんだ。

 

 「かなで、大丈夫か?個性は使えるか?痛いところは?」

 

 「大丈夫です!お兄ちゃん様こそ・・・!」

 

 「俺はいい。・・・クソッご丁寧に鍵かけてやがる」

 

 その金庫のような全金属製の分厚い扉は秋水や桜花だけでは抜けそうもない。大和当たりならいけるかもしれないが反作用で部屋がぶっ壊れるかもしれん。ちっ針金かなんかあればすぐに開錠できるのに・・・・!

 

 

 そう考えてると唐突にまた黒い液体が俺の口から噴き出た。同じように俺たちを包み込み、転移させる。今度はどこに連れていこうってんだ!

 

 

 

 視界が開ける。今度は外だ。風の砲弾でえぐれて大惨事になった建物の跡地に転移させられたようだ。俺とかなでが現れたのに一瞬遅れて、後ろでドサッという音がした。すぐさま振り返りベレッタのトリガーに指を掛けながら銃口を向けると・・・こいつは!

 

 

 「爆豪!?無事だったんだな!?」

 

 「ゲッホ、くっせえ・・・・あ?ネクラ野郎!?てめえなんでここにいるんだ!?」

 

 




なんとなく書きたいところを書けたので個人的には満足ですが、まだ続きます。

次回もよろしくお願いします


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第31弾

しばらく休んでたので初投稿です。


 爆豪がいた。俺の近くに同様に転移されるという形で現れた爆豪は俺とかなでをみて驚いたようだがすぐ切り替え、なぜここにいるかと問うてきた。手短に話して協力を取り付けよう。俺一人でどうにかなる問題を軽く超えてるからな、戦力は多いほうがいい。

 

 「手短に話すぞ爆豪。俺とお前、そんでかなでを転移させたやつ、そいつが今回の黒幕だ。俺とかなでが巻き込まれたのは家の親父と因縁があったってことらしい。とにかく逃げるぞ!この更地を作ったのもおそらくそいつだ」

 

 「んだと・・・?てめえならともかくそこのチビが狙われる理由がどこにあんだよ」

 

 「詳しい話はあとだ!幸い周りには何・・・爆豪後ろだ!誰か転送されてくるぞ!」

 

 「次から次へとォ・・・いい加減死ねぇ!」

 

 相変わらず物騒で安心したがやっぱり相手しづれえなコイツ!爆豪の背後で俺たちと同じように黒い水がうごめき始め誰かが複数転送されてくるところだった。転送され終えたそいつらは・・・!ヴィラン連合!ここで出てきやがったか!

 

 「悪いね、爆豪くん。それにジーセカンドとジーフィフス、さっきぶりかな?」

 

 「っ!・・・さんっざんぱらかき回してくれるなオールフォーワン。この惨状はお前か?胸糞悪い趣味してるな」

 

 「残念ながら不本意だよジーセカンド。・・・また失敗したね弔。でも折れてはいけない、君はいくらでもやり直せるのだからね。仲間だって取り返した」

 

 俺に興味を失ったように視線を外したオールフォーワンが自分の目の前に転送されてきた死柄木に対してそう語りかける、まるで教師が出来の悪い生徒に語り掛けるような形で。そうか・・・ずっとこいつが裏にいたんだ。死柄木は八つ当たりや思い付きで行動したように思えても、それを完全に掌握し操るような形でコイツはずっと裏に潜んで死柄木を成長させ続けてたんだ・・・!

 

 「爆豪くんのこともそうだ。君が必要なモノと判断し行動した。何度でもやり直したらいい。それを助けるために僕がいる。ここのすべては、君のためにある」

 

 ゾッとする。なんという執念、なんというおどろおどろしさだ。こいつは親父やオールマイトにやられてから、次を託す相手をずっと、その牙を研いでやりながらずっと育てていた。冗談じゃないぞ、なんて執念深さ、なんて用意周到なんだ。どうする?最悪俺は犠牲になってもいい。だがかなでだけは、妹だけは逃がさないと。考えろ、といまだ続く100倍ヒステリアモードの頭の回転を速めていくと鋭敏となった感覚が超高速でこちらに接近するものをとらえた。まさか―――!?

 

 「やはり来てるね」

 

 

 轟音、衝撃。オールフォーワンを着弾点として周りに広がった爆風と巻き上げられた砂が俺たちを襲う。とっさにかなでを抱き上げてかばい、爆豪の腕をつかんで吹き飛ばされないように地面に秋草を打ち込んで耐える。ヒステリアモードの超視覚がとらえたその先は

 

 

 「すべて返してもらうぞ!オールフォーワン!」

 

 「また僕を殺すか?オールマイト!」

 

 

 

 「オールマイト・・・!」

 

 飛ばされる心配のなくなった爆豪から手を放しかなでを抱き上げたままそう漏らす。オールマイトが来たからって状況が多少好転したくらいにしかならない。最悪のビジョンが頭をよぎる。とっさにかぶりを振って周囲の状況を把握しなおす。爆豪はそばにいる、もんだいない。問題なのは目の前の死柄木率いるヴィラン連合、そしてあっさりオールマイトをはじいたオールフォーワンだ。

 

 「衰えたね、お互いに。バーからここまで約5キロ、優に30秒はかかっての現着だ。」

 

 「貴様もだいぶ無理を押しているようじゃあないか!?・・・5年前と同じ轍は踏まん!爆豪少年も遠山少年、かなで少女も!貴様を刑務所にぶち込んで助けさせてもらう!」

 

 「それはそれは・・・お互いにやることが多くて大変だね」

 

 ずっ・・・と音を立ててオールフォーワンの腕が爆発的に膨れ上がった。まさかあれは・・・!?とよけるように口を開くよりも早くヤツの腕から発射された空気の砲弾がオールマイトを貫きその体はビルをいくつも貫通して吹き飛ばされた・・・!

 

 「オールマイトォ!」

 

 「あの程度じゃ死なないよ。さて、ここは逃げるのがいいだろう弔。爆豪くんを連れてね。黒霧、逃がしてやってくれ」

 

 オールフォーワンの指が黒い触手に変わり、黒霧を貫く、それと同時に黒霧のワープゲートが起動して周りを吸い込みだした。すぐに頭を切り替える。ヤツは爆豪だけを指定した。つまり、俺とかなではもうすでに用済み、あるいは殺害対象だととらえていいだろう。おそらく死柄木たちもそう行動してくるはずだ。今の俺はかなでを離すわけにはいかない。爆豪をメインに据えつつかなでを逃がせるように考えねぇと・・・!

 

 

 「死柄木!いいから行こうぜ!あいつがオールマイトを食い止めてくれてる間に!・・・コマもってよ」

 

 「めんっっどくせぇ」

 

 だろうな爆豪、俺もそう思うよ。とりあえずかなでを抱いたまま爆豪の隣に並んで声をかける。ベレッタの残弾はマガジン7個分、デザートイーグルに至ってはマガジン3つ、あとはバタフライナイフが一つなうえ片手がふさがっている・・・が、そんなもん言い訳だ。

 

 「爆豪、協力してくれ。いや、お前は多分この言い方じゃだめだな・・・俺を利用しろ、生き残るために」

 

 「あ゛あ゛!?んなもんテメェで・・・チッ!・・・おい根暗野郎ォ。チビ、手放すんじゃねえぞ」

 

 「爆豪さん・・・」

 

 途中まで反抗しようと声を荒げていた爆豪だが、俺の腕の中で必死に抱き着くかなでに何か感じ入るものがあったのだろうか、不承不承という感じではあれど協力する意思を固めてくれたようだ。同時にやつらがまとめてかかってくる。爆豪側から奇術師野郎、白黒の覆面が俺の側からはサングラスをかけたたらこ唇、ナイフを構えた女子、そして死柄木。俺の方が多いのはいじめかなにかか?

 

 「あんた体育祭で優勝した子ね!?危険だわ!」

 

 たらこ唇がオネェ口調で拳を繰り出してくるので片手でさばきつつ背後からナイフを突き刺そうとする女子の腕を蹴り上げナイフを叩き折りつつ蹴っ飛ばす。目ざとくそれに反応した爆豪が俺に当たらない角度で爆破を放ち黒霧が倒れてる方面へぶっ飛ばした。そこでしばらく寝てやがれ。

 

 たらこ唇の方は俺の死角であるかなでを抱いてる左側から打撃を打ち込んでくるが今の俺は体育祭よりもヒステリアモードの強度が上がっている。桜花で亜音速まで加速させた右腕の銃底で手首を思いっきり叩いてやると、ガコンとたらこ唇の左手首が外れた。驚愕にサングラスの奥の目を開いたたらこ唇だが俺の攻撃はまだ終わってない。銃を振り切ったまま右肩を相手に向けて足で全力の秋草を使って突っ込み、インパクトの瞬間かなでと俺の体重を合わせた秋水をぶち込む。

 

 こいつは秋花。いつもの俺じゃ実現不可能な技を今この瞬間かなでを巻き込まないようアレンジした不完全版だ。秋草の威力で相手にぶっ飛んで秋水でタックルを仕掛け抱きかかえ、壁に挟み込んで押しつぶす、食らった敵は壁に飛び散り花になる・・・どれもこれも殺害に特化した遠山家の技の中でもド派手な技だ。今回は壁に押しはさんでないから威力が完全に死んでいる失敗だけどな。

 

 「マグ姉!トガちゃん!テメエ・・・許さねえ!「許す!」」

 

 「あ゛あ゛!?テメエ俺を忘れてんじゃねえ殺すぞ!」

 

 4vs2になったが依然として状況が悪い、オールマイトは何度かこっちに対して助けようとしてくれてはいたがそのたびにオールフォーワンに邪魔されるの鼬ごっこだ。さらに俺や爆豪がいることによってオールマイトは本気で戦えていない。最低限相手の目的である爆豪とかなでを逃がせば少なくともどうにかなる。逃げるだけなら俺一人の方が楽だ。

 

 爆豪とバックツーバックになって相手を入れ替えるためにばっとターンする。爆豪は俺のやりたいことを鋭敏に察知してくれるからかいざ協力するとなると驚くほどやりやすい相手だ。爆豪を攻撃するためにメジャーのような武器を伸ばしてきた白黒の覆面にデザートイーグルで3発弾をプレゼントしてやる。そして奇術師野郎の胸ド真ん中に蹴りを入れて無理やり距離を離す。後ろでは爆豪が爆破によって相手を無理やり後退させてるのが見える。このままじゃじり貧だ。一手、この状況を打開しうる一手が欲しい。どうする――――!?

 

 

 

 パキィィィィン、と何かが凍り付くような音が響き、確かなエンジン音と何かを蹴っ飛ばしたような爆音が響いた。慌てて背後に目をやると、見覚えのある大氷壁が天高く伸びあがりその先から・・・いつもと雰囲気が違うがわかる。切島、飯田・・・そして緑谷だ。今この場にいる誰もが出来なかった逆転の一手。俺が切り捨てたはずのやつらによってなされた・・・助けられちまったな。

 

 

 「爆豪!遠山ぁ!こぉい!!」

 

 切島の大絶叫が響き渡る。だがダメだ、あいつらはおそらく爆豪と俺がいるという計算上でこれを起こした。俺が抱き上げ体で隠していたかなでのことは考えてないだろう。はっと爆豪と目があう、その目は俺とかなでをもってどうこの場からあそこに飛ぶかを思案しているようだった。だめだ、少なくともこの状況でそれはどうにもならん。

 

 「爆豪!頼んだ!いけっ!」

 

 「根暗野郎!?テメェ待ちやがれぇ!!!」

 

 「お兄ちゃん様!?待ってください!まって!!お兄ちゃん様ーーーーーッ!!」

 

 考えてる暇はない。爆豪にかなでを無理やり持たせて、秋水と桜花で無理やり緑谷たちの方へ投げ飛ばす。回転はかけてないからまっすぐ飛んだ爆豪が諦めたようにかなでをしっかり抱え上げて爆発でとんで切島の手を取った。それでもやつらは俺の方を向いて俺の名前を叫んでいる。悪いな、そっち行けなくて。でも、必ず礼を言いに行くからちょっと待っててくれ。その間、俺の妹をよろしくな。

 

 

 「ぐぶっ・・・逃がしちゃダメよ!あんたたち・・・くっつい・・・ぐばっ!!?」

 

 「マタイ福音書第三章・・・荒野にて叫ぶ者の声がする『主の道を用意し、主の通られる道をまっすぐにせよ』・・・今回私が作るのは主のための道じゃないけれどあなたたちに邪魔させるわけにはいかないの」

 

 「・・・カナ?」

 

 「あら、キンジお疲れ様。こんなところにいるなんて悪い子ね・・・よく頑張ったわ。あとでご褒美でもあげようかしら?」

 

 銃声が響き渡り、たらこ唇が悲鳴を上げて沈黙する。俺の後ろから癖である聖書の暗唱をしながら歩いてきたのはミッドナイトブルーのロングコートに編み上げブーツをはいた美女だ。というか兄さんだ。兄さんは女装をすることで人格を完全に切り替えヒステリアモードになる。人格も見た目の完全に女になるし、カナ自体は兄さんであったことをほとんど覚えてないからたちが悪い。けどこの状況下なら一番うれしい援軍だ。

 

 「・・・これは、少しまずいねえ」

 

 唐突に瞬間移動レベルの速度で俺の目の前に現れたオールフォーワンが俺に向かって拳を繰り出してくる。どうする、絶閂を使えばまず間違いなく俺はつぶされて終わりだ。かといって今しがたオールフォーワンに打撃を受けたオールマイトに救援を期待するのも望めない。距離がありすぎて間に合わん。唯一俺の近くにいるカナと、今しがた近くに来たらしい見覚えのある気配の2人を頼って俺はある技を選択する。まだ実践どころか練習ですら成功させたことない技だが賭けだ。やってやる。

 

 オールフォーワンのいびつに膨らんだ拳を威力が乗り切る前に桜花で加速させた腕で受ける。その際両手が裂けて血が噴き出たがとりあえずそれは無視だ無視、生きのこりゃ安い。莫大な衝撃が俺の手を貫くが、これはまだ触れただけだ。ここから、言うなれば本震ともいうべき衝撃が何倍にもなって俺を襲うのだろう。成功してくれよ――――!!!

 

 俺は体内でごく微細な振動を正確に1万回準備し、今しがた計算し終えた本震に合わせるように自励振動を開始する。ジリジリジリジリッ――――!!!と体内で火災報知器のベルのような振動の感覚を頼りに、今までで一番繊細かつ正確に1万分の1ずつオールフォーワンの打撃を微分して受けていく。途中、爆発的な移動速度で俺の後ろに来たカナが恐らく秋草で一足飛びに来て俺の背中に拳を突き入れた。だが、俺に痛みも衝撃も全くなく代わりにオールフォーワンに莫大な衝撃波がかえって俺が受けている衝撃を大きく弱めた。すげえ、完成系の大和を俺の体を傷つけることなく完璧に鎧通しして俺を助けつつオールフォーワンに攻撃したのか!でも、これでもまだあと一歩足りない!

 

 4000、5000、6000と数えていくうちにわかった。微分の数が足りない・・・!おそらくあと2305回!準備した回数がそれだけ不足してる!焦る俺をなだめるように2つの手が俺の背に新たに触れた。来てくれたんだな・・・!俺はその手にゆだねるように余った衝撃波を流していく。その手の先にいるのはジーサードとかなめ。大和で俺を支えるカナと絶閂で衝撃を地面に流す二人のおかげで格段に楽になった!これならば―――ー!!

 

 「―――っ!!!っはあ!、はあ!」

 

 「遠山少年!DETROIT SMASH!!!!」

 

 受け切った・・・!少しだけ驚いた様子を見せたオールフォーワンの隙をついてオールマイトの鉄拳がその顔をとらえて吹き飛んだ。思わず膝をついてしまうがすぐに立ち上がる。クッソ、死ぬかと思ったぞ・・・!

 

 「カナ、ジーサード、かなめ・・・すまん、助かった。カナはともかく、二人はアメリカじゃなかったのか?」

 

 「おう兄貴、大丈夫か?あー・・・なんだ、またなんかあったって聞いたからよ・・・」

 

 「もうサード!またヴィラン連合に襲われたって聞いて心配になったんだよぉ!朝ついたらお兄ちゃんとかなでが攫われたって!急いでこっちまで来たの!」

 

 そうだったのか・・・!これにはかなり助かった。が、オールマイトが相手してる巨悪の強さにおぞ気が走る。遠山家の義士が4人がかりで止めることのできる攻撃を通常攻撃で繰り出してくる。が、今はそんなことはおいておけ、もう今更だが戦闘をしてしまった時点で俺ももう無関係ではいられない。因縁のある遠山家をアイツが逃がしてくれるとは思えん。オールマイトの邪魔をしないで脱出はできないだろう。ならば、オールマイトを気兼ねなく1vs1で戦わせられるように邪魔を入れないようにするんだ・・・!

 

 「マタイ福音書11章、すべての重荷を負うて苦労しているものは私の元に来なさい・・・家族を助けるのは当然よ。それと巨悪を挫く義士として私たちは弱き人の盾になる義務がある。キンジ、あなたは今だ法の下においては未熟、けど義士としては私たちと同列よ・・・戦闘許可は私が出しましょう。ここが私たちの死地となると覚悟なさい」

 

 「俺たち兄弟に狙われてただで済むと思わせねえようにしねえとなあ兄貴?あ、きついんだったら寝ててもいいぜ?」

 

 「お兄ちゃんとこんなに早く共同作業ができるなんて思わなかったなー。それに・・・許せないこともあるし・・・」

 

 るっせえジーサード。あとかなめはその黒いオーラと光のない瞳をしまえ。ヒーローとは思えん顔になってるぞ。とにもかくにも遠山家の義士が勢ぞろいした今、手傷を負っているとはいえ生中で殺せると思うなよ・・・借りを返してやるぜ、死柄木。




なんか展開速い気がするけどこんなもんか・・・?ま、いっか


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第32弾

 俺、カナ、ジーサード、かなめに相対してるヴィラン連合の死柄木に奇術師野郎とツギハギ、トカゲ野郎、あと覆面と俺にナイフを折られた女子・・・遠くで気絶している黒霧とたらこ唇・・・そして少し先で睨みあうオールマイトとオールフォーワン・・・はっきり言うと俺たちは邪魔だ。現状オールフォーワン相手に対等に渡り合うことができるのはオールマイトだけだ。

 

 そして・・・俺のコンディションも非常に悪い。今俺は通常の約2倍の強度でヒステリアモードを利用しているうえに個性も全開だ。アドレナリンがドバドバ出ているせいかあまり気になっていないが両腕は確実に折れているし内臓も傷ついているだろう。それだけさっき万旗で受けたオールフォーワンの攻撃はすさまじかったのだ。個性使用の負担と現在も止まってない出血のせいで目がかすみ始めている。

 

 どうする・・・・!?正直言うと今この場で一番のウィークポイントは俺だ。いくら俺が今の遠山の中で一番防御技が得意だからと言ってゲームのように耐久が無限になるわけじゃない。オールフォーワンの野郎の攻撃はもう受けれない、命をかければ止められるだろうが最終手段だ。それ以前にもう走れるかどうかも怪しい・・・!

 

 「うん、これはもうだめだね・・・弔、今は逃げるといい」

 

 「貴様、何を・・・・!?」

 

 突如、オールフォーワンの爪が伸びたと思ったらたらこ唇と黒霧に突き刺さりやつらの個性が発動された・・・!そうか、個性の強制発動・・・!ヴィラン連合の女子がいの一番に吸い込まれ霧の中にたらこ唇と消えていったと思ったら他のやつらも同時に吸い込まれていった。カナやジーサードが確保に走っていくのがかすんでいく視界に見える。何かを叫ぶ死柄木も・・・

 

 「ダメだ・・・先生!あんたの今の体じゃ・・・!先生!」

 

 「君は続けるんだ。君の戦いを」

 

 さすがに距離があったせいで間に合うはずもなく、死柄木たちは黒霧の個性によってその場から去っていってしまった。クソッあんだけ苦労したのに取り逃がした・・・!

 

 

 

 

 「かといって僕も感情がないわけじゃない・・・溜飲の一つくらいは下げたいものだね」

 

 そう言ったオールフォーワンが突如消え失せたと思ったら確保に走ったカナたちと俺の間に姿を現した。狙いは・・・・俺だ!その体はもうすでに攻撃態勢に入っている。手に持ってるのはまるで骨から削り出したような先がとがった棒・・・体力も底をつき、意識を保つのがやっとの俺に―――――――――それを避ける体力は残っていなかった・・・・・

 

 

 「キンジ!」

 

 「兄貴!」

 

 「お兄ちゃん!」

 

 三人の声が聞こえる。た俺の視界を死に瀕したヒステリアモードがウルトラスローで腹に向けて迫る骨の槍を見せる。避けれない。もうこれはダメだ。絶対に刺さる。刺さるなら・・・!()()()()()()()()()()()()

 

 ぞぶり、と形容すべき音を立てて俺の腹を貫通した骨の槍、背中側に突き出た先端が俺の血でぬれていることは想像に難くない。ドバっと口から血が漏れ出る。痛みすらももう感じない。ただ、熱い。

 

 

 「遠山少年!!!貴様・・・・!!!」

 

 「素晴らしいなあオールマイト・・・生徒の一人も救えないなんて。君は一体何を守ろうとしてるんだい?大変だなあヒーロー?守るものが多くて「うるせえ!ごちゃごちゃ好き放題言いやがって!」」

 

 俺の腹に槍をさし、無理やり持ち上げて顔の前に持ってきたたままごちゃごちゃ言ってるオールフォーワンに対して俺は最後の力を振り絞り背筋の力を使って遠山家の奥の手、頭突きをお見舞いしてやった。刺されるなら、さされる前提でどうにかすればいい。ジーサードが前に話半分だけ言っていた技術、内臓を避けて弾丸を通す技術を今土壇場でやってやった。太い血管や内臓、骨は避けることができたがそれ以外はまあ・・・無事じゃすまなかったけどな。

 

 殺したと思っていた俺の予想外の反撃を受けたオールフォーワンの頭の機械が砕け、飛び込んできたオールマイトが俺を奪い、返す刀で鉄拳がその顔面をとらえ、吹き飛ばした。オールマイトが俺の顔を覗き込んで安否を確認してくる・・・がもう言葉にならない。喉からせりあがる血や、槍が刺さったまま体幹を動かして頭突きなんてしたせいでいろいろやっちまったらしい体の痛みが俺の意識を希薄にしていく。

 

 「遠山少年!意識をしっかり持つんだ!遠山少年!」

 

 もう言葉にはできそうにない。だけど・・・あの巨悪に今から立ち向かうヒーローに、ガラじゃないけどエールを。

 

 「勝って・・・くだ・・さい・・・オールマイト・・・」

 

 視界の端でカナたちが走ってくるのを確認しながら口パクでそう伝えて、ニィっと笑ってやる。うまくできてるかわからないけどオールマイトがいつも浮かべている勝ち気で、優しくて、包み込むような笑顔を。

 

 「!・・・ああ、任せなさい!」

 

 目を見開いたオールマイトが同じようにいつも浮かべている笑顔でそう返してくれた。これなら多分、大丈夫だろう。なんていったってナンバーワンヒーロー、俺たちの平和の象徴だ。あとは任せるしかない。そう思った瞬間急速に視界が暗くなっていく。ダメか、そうだよなあ・・・・夜の帳が降りるように、何もかもが真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 電子音が聞こえる。ピッ・・ピッ・・ピッ・・という規則正しい音が。瞼が重い、けど何とか開く。一瞬光でホワイトアウトした視界が徐々ににじむように鮮明になってきた。白い天井にわずかに匂う消毒液のにおい、体を起こそうとすると激痛が走った。諦めて首だけで左右を確認すると両腕にギプス、足首から何本かのチューブが伸びて輸液パックや輸血パックにつながっている・・・病院か・・・?助かったのか、俺は?

 

 「遠山さーん。失礼しますねー」

 

 引き戸が開き、白い制服を着たナースが入ってきた。優しそうな顔をしたナースは俺が首を動かしているのを確認すると顔を引き締め少し速足でこちらに近づき俺の顔を覗き込んだ。

 

 「遠山さん?意識はありますか?声は出さなくて結構ですので5回瞬きしてください」

 

 言われた通り5回瞬きする。ナースは枕元のナースコールを迷いなく押して心電図などの機械を弄りだした。ほどなくして扉が開き、何人かの医師と・・・リカバリーガールが部屋の中に入ってきた。

 

 「おやまあ、一週間は眠ると思ったのに3日なんて相変わらず頑丈で羨ましいさね。ああ、しゃべるんじゃないよ」

 

 正直しゃべる気力はなかったので何とか頷きつつリカバリーガールが話す俺が昏睡していた3日間のことを聞きつつ治癒を受けた。

 

 

 まず第一に、オールマイトが引退した。やはり弱体化した同士とはいえオールフォーワンとの戦闘はオールマイトの体に深刻な被害をもたらしたらしい。オールフォーワンをとらえた翌日に記者会見を開いて事の次第を説明し、オールマイトの平和の象徴としての活動はあっさりと終わってしまった。世間はもちろん大混乱。これに乗じたヴィラン犯罪の増加が懸念されてるとか。

 

 そして俺が一番心配だったかなでとついでに爆豪は逃げ延びた後ちゃんと警察に保護されたらしい。兄さんたちがついているとのことなのでとりあえずは安心だ。治癒を受けてどうにかこうにか動くようになった体を確認する。折れた腕は繋がったが腹に盛大に空いた穴はまだふさがってないので入院生活続行とのことらしい。まあとりあえず後遺症みたいなものはないそうだ。そこだけは奇跡だな。

 

 よくよく考えればいの一番に突撃してきそうなかなめやかなで、ついでにジーサードがいないのはなんでだ?と思ったら俺は面会謝絶だったらしい。ついでに言うとマスコミも俺や、ついでにかなでを追い回そうと病院の周りをハイエナのごとくうろついてるようで・・・もう一生入院してたいなあ。まあそういうことなら兄さんたちはかなでを守ることに専念しててほしい。俺は生きてるからまああとは何とかなるだろ。

 

 「とにかく、無事でよかったよ。しばらくは休んでな」

 

 そう言ってリカバリーガールとナース、医者は扉を開いて出ていった。大事になったもんだと他人事のように考えながらギプスが外れた腕を撫でつけてベッドわきに置いてあった俺のスマホを充電器から外して画面をつけると・・・・ひぇっ、かなめから10分おきにメッセージが来てる。こわい、俺は何も見なかった。あと兄さんとジーサード、それにじいちゃんに・・・緑谷たちクラスメイトからもメッセージが来てる。あいつらも無事なようでなによりだな。

 

 面会謝絶と言ってもたって歩けるわけだし売店くらい行くのはいいだろと靴をつっかけて貴重品入れにおいてあった財布を取って部屋を出る。ひきつった腹がいたかったがまあ耐えられないわけでもないし必要なものだからとエレベーターに向かうとぎょっとした顔のナースが止めてきたので売店に行くだけだと伝えると必要なものは用意するから動くなと厳命されてしまった。えー・・・まあ文句言ってもしょうがないので買いに行こうと思ってたものをお願いして部屋に戻る。頼んだものが意外だったのか怪訝な顔されたけど。

 

 部屋に戻ってしゃーなしスマホを使って片っ端から連絡を取る。メッセージでだけどな。正直さっきナースと話してわかったがものすごくしゃべるのがつらいので電話は出来ないと注釈を入れてくれたメッセージに片っ端から連絡を取る。かなめとかなでからすごい勢いで俺が返信するまもなくメッセージが飛んできたのは戦慄を覚えたがとりあえずは元気そうでよかった。それに、緑谷たちもきちんと返信をくれたし元気そうだ。そうしていると日も暮れてくる。ナースから受け取ったものにまあごちゃごちゃと書き加えていく。

 

 

 

 

 まず便箋につらつらとあらかじめ考えておいた文章を書いていき、それを封筒にしまって張り付け、封筒にも文字を書く――――退学願、と。

 

 まあ、こうなるかもしれないと予想していたことが現実になると笑えてくるもんだ。今回の件、俺が怪我したくらいだったらさすがの俺もせっかく合格した雄英を退学したいだなんて思わん。けど、あの一件、かなでが絡んでいる。しかもメディアが思いっきりカメラにかなでを映してしまった。そうするとどうなる?少なくともオールフォーワンに関係する何かがかなでにあるとメディアも、ヴィランも躍起になってかなでのことを探すだろう・・・今は静観してるとはいえロスアラモスもだ。そうなるともう雄英ではかなでを守ることは無理だろう。

 

 汚い話かなでを守ってくれるだろうとオールマイトに手を貸していたわけだがそれが思ったよりも早くおじゃんになってしまった。それについてはまあ文句はないし感謝もしているが、現状何度も襲撃を許している雄英に対して俺は兎も角これから本格的に狙われ始めるであろうかなでを守る力があるかと問われれば俺は首をかしげるしかないのだ。言ってしまえば個人としては全員信用できることは間違いない、が組織としての信用が俺の中では全くない。そんな中でかなでを預けておけるかと言えばノーだ。それに人工天才のことがヴィラン連合にもれている以上、今後も雄英は戦場になることは間違いない。

 

 はーーーーとクソデカいため息をついて封筒を引き出しに突っ込むと同時にドアがノックされた。こんな時間に誰だ?医者か・・・・?と考えながらもとりあえずどうぞと声を絞り出す。

 

 

 「遠山少年!目が覚めたと聞いた!大丈夫かい?」

 

 「・・・災難だったな。遠山、大事ないか?」

 

 「オールマイト・・・相澤先生・・・面会謝絶では?」

 

 「世間は今しっちゃかめっちゃかだ。普通の面会時間では俺もオールマイトさんも病院になんてこれやしない。まあ特別措置というやつだ。合理的にな」

 

 そうですか。と何とか返事を返して二人にどうぞと椅子をすすめる。トゥルーフォームのオールマイトと珍しくこざっぱりした相澤先生が椅子につくのと同時に二人して頭を下げるもんだから目を白黒させてしまう。なんだなんだ?

 

 「まず・・・すまなかった。襲撃のあとにさらに襲撃を重ねてくるなんて想定が足りなかった。だが・・・助かった。お前が入れてくれた電話のおかげで被害位置の探知が早く済んで避難の早期開始ができた。だが・・・教師としては失格もいいところだ」

 

 「私も、守ってやることが出来ず申し訳ない・・・!私がもっと早くヤツを捕まえていればキミは生死の境をさまようなんてことはなかっただろう・・・!」

 

 思わず面食らってしまう。オールマイトと相澤先生、二人のプロからの真摯な謝罪に言葉が詰まった俺は2,3深呼吸して何とか言葉をひねりだす。

 

 「・・・頭をあげてください。俺は今こうして生きていますし失ったものもありません。言いたいことがないわけではありませんが俺は確かに守られました。今俺が生きていて、かなでが無事なのはお二人のおかげです・・・けどもう俺は、雄英でヒーローを目指すわけにはいかなくなりました」

 

 最後の言葉に顔をあげた二人がそろって目を丸くする。俺はちょうどさっきしまった引き出しの中から封筒を取り出し、二人の前に差し出す。退学願とかかれたそれに瞠目している二人に畳みかけるように決定的な言葉を紡ぐ。

 

 

 

 「――――遠山キンジ、一身上の都合により退学させていただきたく思います」



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再装填

 雄英高校から退学する―――――そう、俺が発した言葉に目を見開く相澤先生にオールマイト・・・まあそうだろうな。せっかく入学できた雄英高校に除籍処分でも何でもなくただ出ていくというのだから。いち早く気を引き締めたのは相沢先生だ。彼はかぶりを振って気持ちを切り替えると口を開いた。

 

 「・・・どうしてだ?ここ数ヵ月お前を見てきたが自分から退学を申し出るなんてタマじゃない。もし、今回の件で「相澤君」・・・オールマイトさん?」

 

 話を遮ったのはオールマイトだ。包帯だらけで腕をつった彼の・・・それでも瞳だけは輝きを失ってない。オールマイトは片手で肩に手を置いて相澤先生を止めると俺に向き直って半ば確信めいて言葉を紡いだ。まあ、事情知ってるから予想もつくよな。

 

 「かなで少女の・・・ことだね?」

 

 「はい。あいつ・・・オールフォーワンは人工天才のことを知ってました。かなでの個性までも完全に把握しているようです。だから・・・狙われた」

 

 オールマイトが無事な方の手をぎゅっと握りしめ、ギリ・・・と歯を鳴らした。すぐにふっとため息をついて口を開いた。相澤先生は静観してくれているがもう俺も相澤先生に対して隠すつもりはない。たしかにかなでは特別だ。出自も個性も。けど・・・血のつながった家族だ。たとえそれが軍の実験だろうが何だろうが俺には兄としてかなでを守る義務・・・いや、守ってやりたいんだ。ロスアラモスの過激な実験なんかよりも温かな、それでいてどうということはない普通ってやつを、当たり前にしてやりたい。そのためならば俺は、できることは何でもやってやる。

 

 「もう、戦えなくなった私や雄英のことは信頼できないのかい?引き止められる立場じゃないことはわかっているんだ。だけど、私は君たちにしてもらったことをまだ十分に返せてないんだ」

 

 「個人としての先生方のことは信頼してますし尊敬しています。ですが・・・何度も襲撃を許し、対応も後手に回ってしまっている今の雄英に・・・俺だけならともかく妹まで預けることはできません。相澤先生、話が見えてこないと思いますので・・・かなでの事情について説明させてもらいます。絶対に、誰にも言わないでもらえますか?」

 

 「・・・わかった。お前から聞いた話はたとえどんなことがあろうとも漏らさない。聞かせてくれ」

 

 相澤先生が頷いてくれたので俺はかなでの出自について話していく。人工天才のこと、個性のこと、ロスアラモスのこと・・・そして世間にばれた以上必ず雄英が戦場になることも。気づいたときには30分以上たっちまっていた。目覚めてすぐこんなに話す羽目になるなんて今日は厄日だぜ。まあ必要なことだ。

 

 「こんなことを言いたくはありませんが今ヴィラン連合のことでいっぱいいっぱいな雄英にかなでという更なる火種は手に余ります。そうなる前に俺たちは姿を消してほとぼりがすむまでは隠れていたい。幸い伝手は多い、日本から出ちまえばあとはどうとでもなります」

 

 そう俺が締めくくると相澤先生は俺の机の上にあった退学願を手に取った。彼はそれを開いて中身を取り出し目を通し始めた。その便せんには当たり障りのないことしか書いてない。当たり前だが残る可能性があるものにかなでの事情なんか書けるかよ。目を通し終えた相澤先生が便箋をもとの封筒に戻してまた机に置き口を開いた。

 

 「遠山、今聞いた話・・・お前がどうしたいかという言葉が全くなかった。退学願にもだ・・・本当にそれでいいのか?お前はどうしたい?妹のことは抜いて・・・お前の言葉を聞かせてくれ」

 

 思わず目を剥いた。まさか相澤先生がここまで理詰めで話してきたのにまさか感情論を持ち出してくるなんて・・・正直ここまで話せば合理性を第一に考える相澤先生のことだ。何も言わず退学届けを受け取ってもらえると考えていた。でも、そうだな・・・もし、妹とか、人工天才とか、ヴィラン連合とか・・・そんなしがらみが無いならば―――――

 

 

 

 「・・・雄英高校に・・・いたいです。兄さんのように、雄英を卒業して・・・父さんのような、人を守れるヒーローに―――――」

 

 

 「ならばなぜ俺たちを頼らない!!!」

 

 怒号だった。相澤先生がこんなに声を荒げるなんて、と思わず面食らってしまう。目をぱちくりする俺とオールマイトをよそに相澤先生は続ける。

 

 「確かに今の雄英はお前とお前の妹にとっていい信頼できる居場所ではないだろう。だが、付属に入学してきた時点でお前の妹に事情があることは全職員が理解しているし配慮だってしている!すべてを明かさないでいてもお前が一言協力を求めれば必ず助力はする!そんなことはお前だってわかりきっているはずだ!迷惑をかけるだのそんなくだらないことは考えるな!なりふり構わすしがみつけ!お前ひとりで守り切れるほどヴィランどもは甘くないしお前も強くはない!」

 

 「・・・相澤君の言うとおりだ、遠山少年。君はまだヒーローとしては有精卵、大人に庇護されるべき一人の子供だ。君は確かに強い。強さだけなら十分プロとして何とかなってしまうだろう。けど・・・許されるなら、まだどうか私たちにもう一度チャンスをくれないかい?私たちに君の・・・先生でいさせてほしい」

 

 「・・・もう少し、考えてくれ。これは預かっておく。明後日の同じ時間にまた来よう。こんな時間に来てしまって悪かったな・・・じゃあ、また」

 

 そう言って、相澤先生にオールマイトは出ていってしまった。残された俺は・・・自問する。確かに俺はかなでが俺の家に転がり込んだ時点で何かあった時は俺が雄英をやめてジーサードのとこに転がり込もうと考えていたし話だって通していた。俺が・・・どうしたいか、か。・・・本当はどうしたいんだろうな、俺は。

 

 そんなことを考えてるとまた睡魔が襲ってきた。体力を使いすぎたか・・・・俺はあらがうこともせず逃げるように眠りについた。

 

 

 

 翌日、時計を見るといつもより3時間も遅い午前9時に起きた。起き抜けにサイドテーブルに置手紙があった。それには朝にもう一度リカバリガールが治癒してくれたこと、そして今日から面会謝絶が解けることだ。よくよく体の調子を確認すれば確かになんだか寝起きなのに疲れている気がする。なお腹にはまだ穴が開いてる模様。しかも傷が残るってさ。いやになっちまうな。

 

 そんなこんなで昨日のことを考えてるとガンガンガンと乱暴なノックが響いた。誰だ?というか病室前まで来てたのに気配が一切感じられなかったんだが?返事をするとドバンと乱暴にドアを開けてズンズン部屋に入ってきたのはジーサードだ。かなでたちもいるのかと思ったがどうやら一人のようだな。

 

 「よう兄貴、死にぞこなったようで何よりだぜ。腹の調子はどうだ?」

 

 「ああ、絶好調で泣けてくるぜ。お前がここに来たってことはかなでのことはひと段落着いたんだな?」

 

 「おう。まあまだかなめとキンイチの護衛がついてるけどな。だがまああんなことがあった後ドンパチ騒ぎを起こすアホは多くねえ。兄貴が起きたって聞いて泣いてたぜ?かなめもな。まあ無事なのはわかったぜ」

 

 そういってジーサードは捜査状況をいろいろ話してくれた。元凶のオールフォーワンは現在監獄の中、逃げた死柄木たちの行方はつかめずということらしい。まあ黒霧の野郎がいる限り死柄木たちは捕まらないだろうからな・・・空間転移とか反則もいいところだぜ全く。

 

 「ところでジーサード、退院したら・・・前話した通り退学しようと思う。昨日もう学校側に話をしたんだが・・・引き止められちまってな。先にお前だけでも「NOだ。受け入れねえぜ」・・・は?」

 

 俺が退学の話を出した途端眉を引き締めたジーサードがきっぱりと否定した。まさか協力すると約束したジーサードが否定すると思わずぽかんとアホ面をさらした俺にジーサードは一笑い入れて話し出した。

 

 「確かに兄貴が退学すりゃかなでは守ることができるだろうよ。けどなあ兄貴、そりゃ雄英のやつらと離れるんだぜ?兄貴ははじめっからそのつもりだからいいだろうが、かなではそうじゃねえ。仲良くなったやつらと離されるんだ。しかも大好きな兄貴の夢を自分のせいで奪い取るっつーおまけ付きでな」

 

 たしかに、そうだ。ここで俺が退学しかなでを守ることに専念すれば・・・守ることはできるだろう。かなでの心に多大な傷を残すという形で。黙りこくった俺にジーサードがまくしたてる。

 

 「んなことになったらかなでは壊れちまう。ただでさえ負担がかかってるのに、だ。だから退学なんてバカな真似するんじゃねえぞバカ兄貴。安心しろ、このジーサード様が兄貴が卒業するまで、雄英には手出しさせねえからよ」

 

 そう言ってジーサードは席を立った。考え込むおれを一瞥して呵々大笑した弟は「せいぜい悩むんだな、兄貴」といって来たときと同様に乱暴にドアを開けて出ていってしまった。どうするべきかわからなくなっちまったな・・・

 

 

 

 うだるような暑さであろう外を見ている。窓の外は地獄だろうなと現実逃避している。もう午後、夕方に近い時間帯だ。こう何もせずベッドの上にいるっつー時間は暇で暇でしょうがねえな。スマホでネサフするのも飽きたしなあ・・・

 

 コンコン、とノックが響いた。ジーサードきたし誰だ?俺が面会謝絶解かれたのを知ってるのは先生方と家族くらいだし・・・返事をすると入ってきたのは・・・

 

 「・・・よう」

 

 「爆豪・・・?」

 

 まさかの爆豪である。正直コイツ見舞いに来るような性格じゃねえし絶対来ねえと思ってたんだが・・・天変地異の前触れか?とめちゃくちゃ失礼なことを考えてるとベッドサイドまで来た爆豪がまた意外なことに見舞いの品をテーブルにおいて座った。

 

 「爆豪、無事だったんだな。事件直後なのに出歩いていいのか?」

 

 「昨日、放免されたんだよ。俺の事なんざどうでもいいだろ。テメェの妹の心配してやがれ・・・それにわかってんだろ」

 

 「かなでのことか・・・・」

 

 意外だ。こいつの性格上他人の事なんざどうでもよくてただひたすら自己を鍛えていくストイックで自他ともに厳しいから俺たちの細かな事情なんかどうでもいいと思っていた。本来なら話してやるべきなんだろうし、こいつだって口を割ることはないだろう。それくらいなら爆発するような奴だ。けどまだ・・・緑谷みたいな特別な事情でもない限りクラスのやつに話す気にはなれない。

 

 「テメェあの夜狙われたのは妹だつってたろ。知らねえで巻き込まれるのはごめんだ、話せ」

 

 「・・・詳しい事情は言えねえ。けど、個性がらみだ。かなでの個性は俺たちの家系では発生しえない突然変異の特別なものなんだ。それをあのヴィランが欲しがった・・・・それだけの話だ」

 

 「・・・そうかよ。話せねえならまあいい。興味もねえしな」

 

 そう言って爆豪は鼻で笑った後椅子から立ち上がる。もう帰るつもりらしい・・・ほんとにそれだけ聞きにきたのかよ・・・・そうだ、こいつなら多分スパッと切ってくれるんじゃないだろうか。

 

 「なあ」

 

 「んだよ、うるせえ」

 

 「俺が雄英を退学しようとしてるっていったら、どうする?」

 

 俺に背を向けた爆豪がピタッと止まった。爆発とかしねえだろうな?しばし止まった爆豪は俺の言葉がかなで関係であると結論付けたように背を向けたままこう答えた。

 

 「どうでもいい」

 

 「・・・そうかよ」

 

 

 

 

 

 「――――――けど、俺に勝ったまま逃げるのは許さねえ」

 

 そう言ってぴしゃりとドアを閉めて爆豪は帰っていった。なんとも爆豪らしい言葉だな。

 

 

 

 

 しとしとと雨が降る。今日は曇り時々雨だ。いい加減この缶詰生活にも鬱になってきそうだぜ・・・気分が沈んでるのはまだ踏ん切りがつかなくて悩んでるってのもある。こういう時こそ体を動かして発散したいとこだが今そんなことしたら傷が開いてあっぱらぱーだ。おとなしくベッドの呪縛の中にいるしかない。どうでもいいテレビ番組のニュースが雄英やオールマイトのことをずっと特集してるのをぼーっと眺め続けているとどたどたと部屋の前が騒がしくなった。なんかここ2日間人が来る頻度多すぎじゃねえ?と考えてるとノックもせずにバン!とドアが開いた。えー・・・そりゃねえよ。

 

 

 「キンジ君!!」

 

 「透!?おまえなんで病室の場所知って・・・!?」

 

 「無事でよかったよおおお!!!テレビでヴィランにお腹刺されたのを見たとき・・・心臓が止まるかと思った・・・!」

 

 俺の疑問をさておいてクラスのやつらは知らないはずの病室になぜか透がきたのだ。彼女は俺の姿を確認すると足早にベッドに駆け寄ってその場に荷物を落とし俺に抱き着いてきた。女子特有の甘い香りと透の柔らかい体の感触に俺は自分が怪我をしてるのを忘れて思わず身をひねろうとして・・・止まった。透が震えているのと、病院着の肩口が静かに湿ってきたからだ。

 

 ・・・泣いている、クラスのムードメーカーでいつも明るい透が、俺の無事に感極まって。思わず動きを止めてしまった俺は、とりあえず落ち着かせようとかなでにするように透の頭をなでてしまう。

 

 「落ち着け、まあなんだかんだあったけどオールマイトのおかげで一応生きてるし後遺症も残らねえよ・・・心配かけて悪かったな、まあほら、もうすぐ治るから泣くな、な?」

 

 「うん・・・うん・・・!」

 

 俺のヘッタクソな慰めに頷きながら涙をこぼす透が落ち着くのに15分ほどかかって何とか離れてもらった俺は改めて椅子に座った透に向き直る。彼女は思いっきり泣いてしまったことが恥ずかしいのか透明な顔を少し手で覆い隠してる。泣き止んでくれてよかった・・・それに直接無事な姿を見れたから、な。

 

 「で、透。なんでお前この病院が分かったんだ?お見舞いに来てくれたのは嬉しいけどここは関係者しか知らないはずなんだが・・・・」

 

 「・・・爆豪君に教えてもらったの。昨日の夜、いきなり連絡が来て・・・「どうでもいいけどあの根暗野郎どうにかしろ」って。びっくりしちゃった」

 

 「・・・はあ?」

 

 爆豪が?え?あの爆豪が?上鳴いわくクソを下水で煮込んだ性格の爆豪が昨日の話を聞いて俺のことを案じたってのか?本当に天変地異の前触れか何かか?ととんでもなく失礼なことを考えてると透がためらいがちに口を開いた。

 

 

 「ねえ、キンジ君」

 

 「なんだ?」

 

 「雄英、辞めないとダメ?」

 

 爆豪のやつ、そこまで話したのか・・・!透はまた泣きそうになりながらスカートを膝の部分でぎゅっと握りしめて俺の言葉を待っている。俺は出来るだけ真摯に答えようと口を開く。

 

 「かなでを守るためだったら・・・多分それが最善なんだ」

 

 「そっか・・・ねえ「けどな」」

 

 透がまた口を開こうとするのでまだ言い切ってない俺は遮る。俺は・・・俺個人としては――――――

 

 

 「俺としちゃあ、辞めたかねえ。せっかく入学したし、お前みたいにクラスのやつらと仲良くなれた。まだまだ雄英でやりたいことがわんさかある・・・だから、迷ってるんだ」

 

 俺の言葉を聞いた透は涙声でまた返してくる。きっと顔も泣きそうなくらい歪んでいるんだろう。情けねえ、男のくせに女子を泣かせているなんて・・・俺の勝手な都合なのに・・・!

 

 「・・・私は・・・まだキンジ君と一緒に雄英に通ってたい・・・一緒に話して、ご飯食べて、かなでちゃんやクラスのみんなと笑ってたい・・・1-Aからキンジ君やかなでちゃんがいなくなるなんて・・・耐えられないの!」

 

 その言葉を皮切りに透はまた、泣き出してしまった。深い後悔が俺を襲う。俺の考えたつもりが安易だった行動がこうまで周りに迷惑をかけて、家族どころか友達まで巻き込んで泣かせた・・・よし、決めた。ここまで言われてうじうじしてちゃあだめだ。切島ってわけじゃねーが、男じゃねえよな。

 

 

 「決めた」

 

 「・・・え?」

 

 俺の唐突な言葉にぽたぽた涙を落してうつむいていた透が顔をあげた。ベッドサイドからタオルを取り出して透の顔をぬぐってやりながら覚悟を決める。もう迷ってるわけにはいかねえ。

 

 「辞めねえ。俺はまだ、雄英でヒーローを目指そうと思う・・・情けねえ男だけどこれからもよろしくな、透」

 

 「・・・!うん!キンジ君!よろしくね!」

 

 泣いていた時から一転、パァっと笑ったように見えた透が俺の手をつかんでぶんぶん振り回した。いってえんだけど!?ま、手痛い授業料だと思うことにしよう。俺も覚悟を決めたことだし、な。握手を終えた透は床におきっぱにしていた荷物を拾い上げて「お土産―!」ところころ笑っている。現金なことだな・・・今はそれが、とてもありがたい。

 

 

 それから数時間、透は嬉しそうにいろいろ話してくれた。家であったこととかクラスのやつらのこととかな。俺もそれが結構面白いもんで思わず笑っちまったよ。一応スマホで一度生存報告をしたけど実際に話を聞くのじゃ大分違うからな。ともかくみんな無事でよかった。と俺にしては結構テンション高めで相槌を返していく。そうしているとコンコン、とノックが入った。多分、相澤先生かな?

 

 返事をしてドアが開くとやっぱり相澤先生だった。相沢先生は透がいるのを見つけて少し眉をあげたが俺の顔を見て悟ったのだろう。いつものにやりとしたニヒルな笑みを浮かべて口を開いた。

 

 「遠山、いいことでもあったか?とりあえず預かっていたこれ、返すぞ・・・・で、どうする?」

 

 返された退学願に透が一瞬固まった。相澤先生も人が悪いな、どうせ答えがわかってるんだろうによ。

 

 受け取った退学願を封筒ごと真っ二つにビリィ!と景気よく裂く。もうこんなもん必要ねえからな。ただの紙屑だ。相澤先生の真似をしてかっこつかない笑い方をしながら口を開く

 

 

 「またこれから、よろしくお願いします!」

 

 「――――任せろ」



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再装填 弐挺目

 俺が相澤先生の前で退学願を破いてから3日たった。あの後不敵な笑み・・・というか俺たちを鍛え上げるときに見せる悪い笑みを浮かべた相澤先生は「聞きたいことは聞けた」とすぐさま帰っていってしまった。もうちょっとこうなんかないの?いや別に忙しいんだろうけどさあ?透も「新学期からまたよろしくね!」といつもの調子になってくれたからまあいっか。

 

 面会謝絶が解けたここ数日はいろんな意味で大変だった。あの翌日かなでとかなめ、兄さんが連れだって見舞いにきたのだ。そんでまあ俺にあったとたんにかなでもかなめも大号泣、兄さんにもお小言をもらった。まあ俺が全面的に悪いので甘んじて受けることにしたよ。ホント、堪えたさ。

 

 そしてその翌日、いきなり相澤先生が来たと思ったらいろいろ書類を渡して目を通しておくようになどどいってさっさと帰っていった。あの夜の熱血具合はどこに行ったのやら・・・まあそれはいいんだけど、その書類が問題だった。そこからまた一夜たち必要なことだからとじいちゃんに連絡を入れて今日、来てもらうことにした。

 

 「・・・三者面談に全寮制導入ねえ・・・急遽そんなこときめるなんて相変わらず金あるなあ雄英は」

 

 「ふん、国の金じゃ。いくらでも補填が効くわい。それにもう、お前の答えが決まっとるのにわしが必要なのか」

 

 「さあね。でもまあけじめってやつだろ。言い方悪いけど雄英の中で一番被害受けたのは俺とかなでに爆豪だからなあ」

 

 「謝罪はその日に校長からもらったわい。お前が気にしとらんならわしが怒るだけ無駄じゃ。遠山の男は死んでも生き返るようなもんばっかりじゃからの」

 

 うわ、でたよじいちゃんの遠山家理論。それにじいちゃんはいい意味でも悪い意味でも奔放だ。確かに俺たちのことは大切にしてくれてはいるが生き方までどうこうつけるような人間じゃない。俺が好き勝手出来るのもじいちゃんのこういうところに助けてもらってるんだろな。

 

 コンコン、とノックが響く。時間通りか・・・さすがは相澤先生、いつも通り合理的なことで。

 

 「どうぞ」

 

 「・・・失礼します。改めまして、1-A担任の相澤です。本日はご足労いただきありがとうございました」

 

 「遠山鐵じゃ。孫が世話になっとるのう」

 

 「いえ、先日は申し訳ありませんでした。雄英の不徳の致すところです。郵送の書類でご説明させていただいた通り・・・」

 

 「全寮制の導入じゃな。わしからは何も言わんよ。学校なんぞ入れ物じゃ。通いたいなら通えばええ・・・じゃが、2度目は・・・無いぞ」

 

 ビリィッッ!!!とじいちゃんを中心に冷たい圧迫感が部屋を駆け抜ける。じいちゃんの殺気だ。それも遠山の訓練じゃ見せたことないレベルの・・・相澤先生はそれを真正面から受けて全く気圧されず頭を下げる

 

 「誓います。もう2度と生徒を危険には晒しません。必ず雄英で、守り育てます」

 

 「・・・キンジはともかく、かなでは特殊じゃ。相澤先生よ、それをよく考えておくことじゃな・・・まあそこまで魅せられて、頷かないわけにはいかんなあ。孫たちのこと、よろしくお願いいたします」

 

 そういてじいちゃんは殺気をおさめ、相沢先生に深く頭を下げてから部屋を出ていった。言いたいことはいったとかそんな感じかな?相澤先生は息を吐きだして冷や汗をぬぐって口を開いた。

 

 

 「すごい人だな、お前の御祖父さん」

 

 「自慢のじいちゃんですよ。生涯現役ですね」

 

 冗談めかして、そう俺は返すのだった。

 

 

 

 

 

 というわけであっという間に俺は退院した。今日が夏休み終了14日くらい前か。退院した俺は早速引っ越しの準備を終え、荷物を雄英に発送を済ませて部屋を引き払い・・・違約金とかは雄英もちらしい。金あって羨ましいなあ・・・夏休み前と一緒にかなでと手をつないで雄英に登校した。

 

 なんでも雄英の敷地内に突貫工事で寮を立てたらしい。しかも三日で、全生徒分の。まじかよ・・・とドンびいていると立派な寮が俺たちの前に姿を現した。名前はハイツ・アライアンスというらしい。しゃれた名前だこって。もうすでに玄関前にクラスのやつらが集まってわいわいがやがややってる。見る限り・・・全員いるな、またこいつらとバカやれるのは少し、嬉しいもんだ。

 

 「おはようさん、みんな揃ってるようで何よりだぜ」

 

 「おはようございます!お久しぶりです!」

 

 

 「「「「「遠山ぁ(君)!!!!かなでちゃん!!!!」」」」

 

 帰ってきたのは大絶叫だった。目を白黒させてしまった俺とかなではあっという間にこっちに走ってきたクラスのやつらにもみくちゃにされた。なんだなんだ!?

 

 「無事だったんならもうちょっと連絡の一つくらいよこしやがれ!テレビ見て血の気が引くなんて初めての経験だったわ!」

 

 「いや連絡しただろ?ちゃんと生きてるって・・・したよな?」

 

 「確かに連絡はいただきましたわ!けどそれ以降音沙汰ないんですもの!心配してましたわ!」

 

 「うわあかなでちゃん!心配しとったんよー!無事でよかったあ!」

 

 「むぎゅ、お茶子お姉さん・・・・」

 

 どうやら結構心配をかけてしまったらしい。女子に代わる代わる抱きしめられるかなでに爆豪以外の男子連中にはつぎつぎ小突かれるでいろんな意味でぐちゃぐちゃだ。おのれオールフォーワン、お前がめんどくさいことしなきゃ俺はこんな目に合わなかったんだぞ。せいぜい豚箱で反省してやがれ。

 

 

 「そりゃ心配かけて悪かったよ。まあこの通り無事なわけだしこれからもよろしく頼むわ」

 

 もみくちゃにされながらも、そう言った俺にクラスのやつらも輝くような笑顔で返事をしてくれるのだった。

 

 

 

 「とりあえず1-A、全員集まれて何よりだ。これから寮について説明していく・・・が、その前に」

 

 時間ぴったりにやってきた相澤先生が寮についての説明をする前に何やら話があるらしい。まあ十中八九神野の話だろう。俺も含めた、その場にいたやつらのだ。相澤先生は順番にクラス全員を睥睨すると話の続きを口にした。

 

 「轟、切島、緑谷に飯田、それに八百万・・・この5人はあの晩あの場所に爆豪を救出に赴いた」

 

 ザワッ…とクラスの全体に動揺が走った。初めて知ったが他のやつらも行くかもしれないってことは知ってたってわけか止めたかどうかは知らんが・・・まあ無駄だったのだろう。かといってやつらに助けられちまった俺が自分のことを棚上げしてあーだこーだいうわけにはいかねえ。静かに続きを待とう。

 

 「お前らのその反応を見る限り、行くかもしれないってことはみんな把握していたわけか。いろいろ棚上げして言わせてもらうと今回の件、オールマイトが引退しなかったら爆豪、耳郎以外は全員除籍処分にしただろうな」

 

 まあ妥当だろうな・・・「命令無視」・・・これはヒーローとしての資質を大きく疑わざるをを得ない行動だ。把握しつつも止められなかったやつは未必の故意でやらかしたやつらの幇助をしたことになる。相澤先生はやるといったらやる、間違いなくそう思ってこの重い処分を口にしたのだ。

 

 「今、雄英から人を出すわけにはいかなくなった。彼の引退による混乱や動きの読めないヴィラン連合のやつらも・・・ごたごたが山と残っているからな。だが今名前をあげた5人はもちろん、止められなかった13人も俺たちの信頼、信用を裏切ったことには変わらない。・・・だから、しっかり反省してこれからを過ごしてくれるとありがたい。話は以上!中に入るぞ、元気についてこい」

 

 ((((いや待って無理です・・・・))))

 

 お前ら仲いいな、みんながみんな同じ感想を抱いてる顔してる。よくわからない顔をしているかなでを抱き上げて一足先に相澤先生についていこうとすると・・・なにか放電したような音が響いたのでとっさに振りかえった。するとその先には両手をサムズアップにした上鳴がアホずら晒して元気になってた。え?どゆこと?ついでに耳郎はツボだったのか大笑いしてる。爆豪が切島に何かを渡してるが・・・あいつなりの礼みたいなもんか?この沈んだ空気をどうにかするための。

 

 俺とかなでは顔を見合わせて奇妙な踊りを踊る上鳴を思いっきり笑ってやるのだった。

 

 

 ハイツ・アライアンスの中に全員で入るのを確認した相澤先生がすらすらと説明を始める

 

 「1棟1クラス、男女別で左右に分かれている。1階は共有スペース、男女別だが風呂と洗濯機は共有だ。食事は当番なり担当を決めるなりして自炊しろ。峰田、変な気は起こすなよ」

 

 「なんでオイラは名指しなんだよ!?」

 

 「広い!ソファーだ!きれーい!」

 

 「ごうていやないかい・・・・」

 

 「麗日君!?」

 

 峰田は日ごろの行いだろ。相澤先生が2重にくぎを刺すのを眺めつつ説明を聞く。部屋は2階から、一人一部屋与えられて尚且つエアコンにトイレ、クローゼット付きの超いい部屋だ。ベランダもあるから洗濯物にも困らねえな。

 

 「遠山と遠山妹は隣部屋にしたが、まあできるだけ一緒にいろ。じゃ、各自部屋を確認して荷物あけて部屋を作ってこい!細かい動きは明日説明する、解散!」

 

 「「「「はい!」」」」

 

 さー部屋を作るぞ!俺は確か五階、最上階だ。かなでの部屋ももらえるとか金あるなー・・・ま、二人分の荷物をパパッと開けて明日以降に備えようかね。

 

 「いくか、かなで。寝室別にするか?」

 

 「一緒がいいですお兄ちゃん様!」

 

 了解しましたよっと。わちゃわちゃほかのやつらと話しながら、エレベーターにかなでを抱いたまま乗り込んで俺たちは部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 そしてあっという間に夜・・・食事は各自で用意するようにと言われていたのでかなでと一緒に弁当を食べた後普通に部屋を完成させた、と言っても俺もかなでも荷物自体はそんなに多くない。だからかかなでは「みなさんに配るんです!」と家から持ってきた材料であっという間にオーブンでクッキーを作ってラッピングしてしまった。

 

 俺は特にやることもないのでそれを眺めつつ拳銃の分解整備を始めた。なんだかんだあの夜撃ちまくったのに結局やれてなかったからな。銃は女である、なんてきざなセリフがあるけど肝心なところでへそを曲げられちゃ困るんでな、丹念に射撃後のゴミを拭きとって油を塗布していく。ついでにマガジンから弾全部抜いてスプリングがしっかり機能してるか確かめたりしながらあーだこーだやってるとくわ、とちいさな口で大きなあくびをしたかなでが眠そうにこちらにふらふらとやってきた。

 

 「疲れたか?布団行くか?」

 

 「みゅう・・・お兄ちゃん様・・・お膝貸してください・・・」

 

 ストレートに甘えてくる可愛い妹に対して俺は「いいぜ、ほら」と胡坐を開けてやる。するとかなでは俺の胡坐のなかでころんと丸くなりすぐにすやすやと寝息を立て始めた。ぽんぽんと頭を2,3度撫ぜてやってから拳銃の整備に戻る。ベレッタの整備を終えて空撃ちして精度を確かめていると俺のスマホがSNSの着信を知らせた。相手は・・・透だ。なになに「お部屋披露大会やってるんだけどキンジ君の部屋行ってもいい?」だと?別に面白いものもないけどまあ構わんか。

 

 俺は透に「今手が離せないから見たいなら勝手に入ってきてくれ、カギはあけてある」と返す。するとすぐさま「おっけー!」と帰ってきた。しかしクラス全員そんなことやってるのか?いや、やらなそうなやつに心当たりはあるけどさ。まあ来たら適当に構えばいいか、と次はごつくてでっかいデザートイーグルの整備に入る。がちゃがちゃと弄っていると部屋の前が騒がしくなり、ドアがドン!と開いた。

 

 「「「「お邪魔しまーす!」」」」

 

 「いらっしゃい」

 

 背を向けて座ったまま挨拶をするとみんなが騒がしく感想を言いながら部屋の中に闖入してきた。というか透に緑谷たちは見たことあるだろ俺の部屋、そんなに気になるもんか?と顔だけ振り返るとみんながきょろきょろと俺の部屋を見渡して声をそろえてこう言った。

 

 「「「「おもったより普通・・・」」」」

 

 「期待に沿えなくて悪かったな・・・・」

 

 「なあ、それ何してんだ?」

 

 上鳴が俺の手元でバラバラになって整備されているデザートイーグルを指さして聞いてくるので「拳銃の整備だ。こういうのはこまめにやらねーといざというとき困るからな」と答えておく。得心顔の上鳴とこういうものが好きなのか目が釘付けになっている常闇が淀みなく動く俺の手元を見つめている。

 

 「んー?」

 

 「麗日さん、どうかなさいましたの?」

 

 「遠山君、かなでちゃんどこ行ったん?隣の部屋?」

 

 なんか何かを探してきょろきょろしてると思ったらかなでを探してたのか。そうか、俺の背中とちゃぶ台が邪魔で見えてないんだな?俺は苦笑いしながらデザートイーグルを手早く組み立てて、ちゃぶ台を前に押しやり、胡坐の中を指さしてやる。

 

 クラスのやつらが疑問顔で俺の前に来ると全員納得したような顔で微笑ましいものを見る目をしてやがる。

 

 「かわいい!」

 

 「癒されますわね」

 

 「お兄ちゃん大好きなんやねー」

 

 「かわいいじゃん、いいなあ妹」

 

 「かっわいー!このこのお!」

 

 女子連中がかなでの寝顔をみて好き放題言ってるのを面白くなさそうに見つめる一部の男子・・・・というか上鳴と峰田だ。やつらはぶつぶつと何かを言いながら俺を怨嗟の瞳で見つめている。ひとしきり騒いではっとした麗日が「かなでちゃん起こしたらかわいそうだよ」という一声で俺の部屋見分は終わりを告げたらしい。口々にお礼を言って去っていこうとするやつらにクッキーのことを思い出した俺は

 

 「かなでがクッキー焼いたみたいだから持って行ってくれ。そこの戸棚の中に入ってるラッピングされた奴。クラス全員分あるから来てないやつにも渡しといてくれると助かる。礼は明日かなでが起きてるときに本人に言ってあげてくれ」

 

 「わあ!ほんまや!いただいていきます!」

 

 麗日の言葉を皮切りに全員がクッキーを手に取り、礼を言って帰っていった。騒がしいやつらだなまったく・・・これが毎日か、ちょっと楽しくなってきたな。

 

 

 あの後寝ぼけ眼で起きたかなでをパジャマに着替えさせて布団に入れてやってるとまたスマホが着信を知らせた。みるとさっきの部屋披露大会の結果が透から来てるな・・・なになに1位は・・・・俺の部屋?なんでだ?理由は・・・かなでが可愛かったしクッキーが美味しかったから?・・・・・・部屋の話はどこに行ったんだ?

 

 

 

 

 

 



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再装填 参挺目

 疲れて寝てしまったかなでを着替えさせて布団に移し、俺自身もそろそろ着替えようかとタンスをあさっていると控えめなノックが響いた。誰だ?と思ってドアを開けてみると麗日が所在なさげにドアの前にたたずんでいた。何の用なのだろうか?

 

 「麗日?かなでならまだ寝てるぞ?」

 

 「ううん、違うの。梅雨ちゃんがね、遠山君たちとお話したいって」

 

 「・・・わかった。カギ閉めてくるから待っててくれ」

 

 「うん」

 

 麗日の真剣な顔を見た俺はすぐさま踵を返して窓を閉め、カギをかける。かなでを一人にするのは不安だが一応は厳戒態勢の雄英の中、尚且つ人がわんさかいるから多少は大丈夫だろう。そそくさと準備を済ませもう一度ドアをあけ廊下に出る。エレベーターに乗り、ハイツ・アライアンスの玄関前へ。それまで麗日と俺の間には会話もなく、ただもの寂しい沈黙が俺たちを包んでいるのだった。

 

 まあ、大体察しはつく。神野のことだろう。相澤先生が昼に話した5人、そして拉致されて巻き込まれ、否応なくテレビカメラに映ってしまったらしい俺とかなで、そして爆豪。考えてみれば昼のあの話の時、一番ショックを受けた、あるいは愕然とした表情を浮かべたのは梅雨だった。いつもの柔らかいポーカーフェイスではなく、信じられないものを見てしまったという表情で5人を見ていた。

 

 わだかまりが出来たのだろう。自分の中で払拭できない、納得できない大きなしこりが。気になったことは何でも言ってしまうと常日頃から自分で口にしている彼女のことだ、なぜ俺とかなでがあの場にいたのかも聞かないとわだかまりが消えないと判断して俺を呼んだんだ。

 

 玄関前すぐそばにあるベンチの前に梅雨と・・・予想通りのあの日神野にいたメンツ、緑谷、切島、轟、飯田、八百万がいた。どうやらもうそっちの話はすんだようで、泣いてしまったのか瞳が赤くなってしまっている梅雨とおろおろと気まずそうにする5人が俺と麗日の登場に意識を向けたようだ。

 

 「・・・遠山、くん」

 

 「すまん、今麗日から聞いてな。このメンツなら大体察しはつくが・・・何が聞きたい?」

 

 唯一かなでの事情を知っている緑谷が俺の名前を呼び、神野にいた5人はひどく気まずそうな顔をして、梅雨は2,3度言葉を飲み込む様子を見せた後、意を決し言葉を選ぶように口を開いた。

 

 「・・・ねえ、遠山ちゃん。私、遠山ちゃんは緑谷ちゃん達が無茶をしようとしたら絶対に止める立場だって思ってたの・・・例え、力ずくでも。でも、テレビにいきなり遠山ちゃんとかなでちゃんが映って・・・お腹を貫かれて・・・胸が苦しくなったわ・・・でも、遠山ちゃんはかなでちゃんを連れて緑谷ちゃん達の行動に乗ったり、ましてやあんな危ないところに行くような人じゃないと思うの。教えてほしいわ・・・どうしてあなたたちが、あの夜あの場所にいたのか」

 

 「・・!梅雨ちゃん!それは・・・「いいよ、緑谷」・・・遠山くん・・・」

 

 緑谷が梅雨が何を聞こうとしてるかを察し声をあげるが途中で口をはさんで制す。ま、すべてを語るわけにはいかねーがある程度の事情っていうのは教えておいてもいいだろう。すぐさま逃げず立ち向かう行動をとった俺の責任でもある。たとえそれが不可避のものであったとしても。

 

 

 「そうだな・・・まず全部は言えねえ。言うべきじゃねえし言ったところでお前らにどうこうできるって話でもねえからな。まず梅雨の疑問だが、有体にいや拉致だ。ヴィラン連合の黒霧、ワープの個性を持ってるやつだ。あれが緑谷たちを神野に向かわせないように説得したあと、家で待ち伏せされてた。狙いはかなでの個性だ。まあ俺はおまけみたいなもんだな」

 

 

 「・・・かなでちゃんの個性ってなにかしら?」

 

 「あー・・・雄英付属小って何のために設立されたか知ってるか?」

 

 俺の突然の話題転換に目をぱちくりとさせた俺以外の7人は顔を見合わせて何を問われているのかわからないという顔をした。少しだけ沈黙があたりを支配しやがてそれを破るように轟が口を開いた。

 

 「確か、ヒーロー科のためだったはずだ。ファンサービスの対象である年少の子たちへの対応を学ぶため・・・じゃなかったか?」

 

 「ああ、その通りだ。()()()()()

 

 「表向き・・・?どういうことなんだ、遠山君」

 

 「雄英付属小の実際の設立目的は危険、希少な個性を持ったまだ身を守れない子供たちをヴィランの手からプロヒーローによって守るためだ。毎年毎年雄英付属小の入学なんてニュースにならんだろ?普通なら希望がパンクしてもおかしくないのにな。まあつまりだ・・・お前らに明かすことができないくらいにかなでの希少性は高いんだよ。雄英の保護が必要なくらいな」

 

 「いつも見かけるとき、必ず先生がそばにいらっしゃると思ったら・・・そういうことでしたのね」

 

 「ま、そういうこったな。先生方だって全部知ってるのは相澤先生、オールマイト、リカバリーガールそして校長だけだ。わかるか?このでかい雄英の中でたった4人のプロしかかなでの秘密は知らねえんだ。申し訳ねえが知りたいからでおいそれと話すもんじゃねえ。わかってくれ」

 

 俺の真摯な願いに全員がこくりと頷いたので俺もうなづいてもう一度口を開く。

 

 「あの夜、お前らに言った言葉だが俺は撤回するつもりはねえ。お前らのおかげで状況が動きかなでと爆豪を逃がすことができたのは事実だ。けどもう、独断専行が何を起こすかっていうのはお前ら身に染みたみてーだしこれ以上は何も言わん。まああえて言うなら・・・もう一回俺にお前らを信用させてくれ。頼むぜ」

 

 最後にそう締めくくると直後に切島が涙ぐみながらすまねえ!と謝ってきて、それに続くように他のやつらが押し掛けてきた結果俺は押しつぶされるのだった。病み上がりにヘビーだぜ・・・・

 

 

 

 

 

 

 「まず当面の目標だが、ヒーロー仮免の取得だ。人命にかかわる責任重大な資格だから当然、試験難易度も高い。仮免と言えど合格率は例年5割を切る。そこで今日から君たちには一人最低2つ・・・」

 

 「「「必殺技を作ってもらう!!!」」」

 

 翌日、かなでを職員室に預け夏休みのはずなのに教室に集められた俺たちに告げられたのはプロヒーロ―4人によるそんな宣言だった。必殺技といういかにもヒーローっぽい単語にクラス中大興奮である。ちなみに俺は興奮もくそもないが。だって遠山の人間って誰もかれも技の発明家なんですよ?俺自身だってオリジナル技沢山あるし・・・今更2つ作りましょうって言われてもじゃあこれでどうですかってなるだけですよそりゃ。遠山家のリアル必殺技を改悪したりもしてるし・・・

 

 そして俺たちは着替えさせられて体育館γ、通称TDLへ集められた。その名前大丈夫なのか?いや別に何がとかは言わないけどさ。そして相澤先生とエクトプラズム先生、セメントス先生が代わる代わる説明してくれるのを要約するとヒーローの資質の中で最重要視される戦闘力、それの目安になるのが必殺技なのだそうだ。合宿の個性伸ばし訓練はこれの前座でありそれが中断された今残り10日間ほどで個性伸ばしを含めた必殺技習得までもってく圧縮訓練になるのだそうで。えげつないスケジュールだな。

 

 セメントス先生が地形を作りエクトプラズム先生が分身を作ってそれぞれクラスのやつらの前に出す・・・って俺の前にはいないんですけど?俺が疑問符を浮かべているとエクトプラズム先生本体がカツンカツンと義足を鳴らしてこちらに来た。まさかと思いますが・・・・。

 

 「君ガ作ル技ノ威力ニ私ノ分身ハ耐エラレナイダロウ・・・君ハ私ガ直接相手シヨウ」

 

 まじかあ・・・まさかのエクトプラズム先生直々の指導に頭が下がる思いだ。といっても俺は新しく技を開発するつもりは今んとこない。試したい技はごまんとあるけどな。けどどうしても完成させたい技が2つある、今回はそれを完成させるのに専念しよう。

 

 「サテ、ドウスル?」

 

 「完成させたい技が2つあります。是非ともアドバイスをいただければ嬉しいのですが・・・」

 

 まあ大和と万旗なんだけどな。いかんせんこの2つは遠山の技の中でも異様に難易度がたかいがその分帰ってくるリターンは強烈もいいところだ。この時間で是非と

 

も完成させておきたい。特に大和は兄さんが完成版を見せてくれたからたぶん行けると思う。あと万旗、100倍ヒステリアモードだったとはいえ相手がオールフォーワンじゃなけりゃ確実に成功してたはずだ。通常時でも使えるようにしなければ。

 

 遠山家のトンデモ理論をエクトプラズム先生に何とか説明しながら個性を使うとなんとなく違和感がある。上限までやるともう無理という感覚があるのだが今日は・・・まだまだいけるという感じだ。とりあえずこの違和感は後で確かめることにしてとりあえずはじめようか。

 

 

 途中オールマイトが来たりしてそれぞれアドバイスをくれながら回っていたが、まあ俺の方に関してはお手上げみたいだ。進捗もあんまり芳しくない。大和は重さを乗せきれねえし、無理に乗せようとすれば骨が折れそうになる。万旗は自励振動を準備するのはいいんだが微分して受けるときに必ずどっかでしくる始末だ。困ったもんだ。

 

 そんでいまは休憩中、というかB組のやつらに交代して自主訓練なりなんなりしろという時間だ。コスチュームの改良もそうだしどうするかねえと考えていると珍しいことに尾白が俺に話しかけてきた。どうしたんだろうな。

 

 「遠山、今大丈夫か?ちょっと相談があるんだけどさ」

 

 「ああ、構わなねえよ。俺が役に立つんならな」

 

 「何言ってるんだよ・・・えっとな、遠山って俺と一緒で格闘術メインで戦ってるんだと思うんだけど、今日必殺技作ろうって時に「動きが安直」だってエクトプラズム先生から言われたんだ。尻尾があるならこう動くだろうなって予想できるってさ。遠山ならどう考えるか気になってさ、アドバイスが欲しいんだ」

 

 「ああ、なるほどねえ・・・・」

 

 尻尾ありの格闘術かぁ・・・俺自身に尻尾なんてないから適当なことを言えないのがつらいところだな・・・うーんと俺が悩んでいると察した尾白が人のいいことに「困らせちゃってごめんな」なんて去っていこうとするのをとりあえず止めてまた考える・・・どっかで体験したことがあるんだけどなあ、尻尾ありの格闘術・・・・あっ。

 

 「尾白、ちょい待ってろ」

 

 「え?う、うん」

 

 時間的にも向こうは昼ちょうどくらいのはずだ。俺がスマホを取り出して国際電話をかける。ワンコール、ツーコールしてつながった。電話をした先は香港のとあるヒーロー事務所だ。こういったコネはジーサードさまさまだな。

 

 『はぁいこちら藍幇(ランパン)ヒーロー事務所アル!キンチ、久しぶりネ』

 

 「ああ、曹操(ココ)・・・というか猛妹(メイメイ)か。悪いな急に電話かけて。猴いるか?ちょっと借りたいんだが」

 

 『なんで一目で分かるネ。ジーサードもなんで私たちを見抜けるか不思議で仕方ないヨ。猴ネ、いるヨ。呼んでくるから少し待つアル』

 

 そう言ってテレビ電話の画面から姿を消したのは、中国最大手ヒーロー事務所、藍幇の香港支部に在籍する四人姉妹のヒーロー、黒髪のツインテールがよく似合うソックリ4姉妹の3女、猛妹である。一卵性の彼女らを見分けるのはほかの人間には至難の業らしいのだが、なんとなく俺たち遠山家はわかってしまうので文句を言われても困るのだ。そして俺が用があるのは曹操じゃなくて猴、俺にカンフーを教えた中国内でもトップクラスに位置するヒーローだ。彼女を呼んでもらった理由は単純、彼女には尾白と同じように尻尾があるのだ。しかも戦闘で利用してるから、俺に聞くより彼女に聞いたほうがいいだろう。

 

 しばらくしてとたとたと可愛らしい足音が聞こえて画面が揺れる。ややあって画面に映ったのは長い黒髪に垂れ目の緋色の瞳、少しおどおどしたような表情をした小さな女の子である。彼女が猴だ。またの名をモンキーヒーロー孫。彼女は俺を見るとパァっと顔を輝かせて口を開いた。

 

 『遠山!久しぶりです!今日はどうしたですか?』

 

 「おう、久しぶり。悪いな急に。実は相談があってだな・・・・」

 

 というわけで猴がふんふん頷く中尾白の相談事を猴に伝えていく。うんうん頷く彼女のうしろでにょろんと尻尾が?マークになったりふりふり揺れていたりする。ややあって話し終えると猴が変わってほしいというので尾白にスマホを放る。わとわたしながら受け取ったスマホを覗き込んだ尾白はびっくり仰天、といった感じだ。

 

 「と、遠山・・・?彼女ってまさか・・・?」

 

 「あ?知ってたのか?日本じゃ知名度そんなにねえのに。まあ知っての通り香港藍幇の筆頭、孫だよ。こいつならお前の悩みに答えられるんじゃねえの?少なくとも俺にゃ無理だしな。適材適所ってやつだ」

 

 『尾白、こんにちは、初めましてです。私は猴、ヒーローネームは孫です。遠山から話は聞いたです。尻尾の扱いに悩んでる、でいいですか?』

 

 「は、はい。どうしてもうまくいかなくて・・・・」

 

 というわけで尾白と猴が話し終わるのをボケーっと待ってるとややあって尾白がスマホを返してくれた。あとなぜか組手の相手をしてほしいとも。なんでも猴が動きを見たいのだそうなので仮想敵やってくれないかということらしい。まあ一度乗り掛かった舟なのでやってやるか。俺は適当な壁にスマホを立てかけてカメラで見えるように調整した後尾白の前に立ったのだった。



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再装填 肆挺目

 猴が見守る中尾白と向かい合う。尾白と俺が同時に構える。俺はいろんな格闘術をチャンポンにしたオリジナルの構え、尾白は空手の基本的な構えだ。一拍おき、準備ができたと判断した尾白がダンと床を踏み込んで一足飛びにかかってくる。売ってくるワンツーのコンビネーションを片手で払った俺は返す刀でフックを仕掛け、それを尾白が防ぐ。

 

 左の回し蹴りを危なげなく受け止め、同じように蹴りを放つが尾白は身をかがめてよけ、そのまま下段の回し蹴りに移行、しかも尻尾を利用した2段蹴りだ。俺は蹴り足に足首をかけてそのまま上へ持ち上げる。合気の応用で力の流れを変えつつ尾白をひっくり返すようにだ。尾白は流れに逆らわず、そのまま伸びあがり腕の力でバク転しつつ尻尾によるサマーソルトを打ってきた。捕まえてた足を離しつつ半身になってよけてそのまま仕切りなおすようにお互い向かい合う。

 

 なるほどね。尾白は既存の格闘術をベースにしているから尻尾を上手く使えてないんだ。尻尾がある人間なんて格闘術が出来上がったころにはいなかったからな。つまるところ尻尾を使うには体ごと回転するか背面を向く必要が出てくる。それは戦闘中において大きな隙となるだろう。これを猴がどう見るかだが・・・

 

 尾白の正拳突き、上段回し蹴りをかわし、いなしながら尾白の動きを引っ張り出すような組手を続けること10分、まあそろそろいいだろと軽く息の上がった俺と尾白がスマホ前に戻ると猴がうーんと考え込んでいた。どうしたんだ?

 

 「猴?おい、猴!大丈夫か?」

 

 『あい!?ごごごめんなさいです遠山!考え込んでたです!おほん、えーと尾白。尾白はその尻尾をどう思っているですか?』

 

 「なにって・・・個性だから、体の一部っていうかんじですけど・・・?」

 

 『いまの組手を見てると猴はそう思えなかったです。まるで武器を扱うように、ここぞというときだけに放つ重い攻撃手段、そんな感じです。いいですか尾白、尻尾は体の一部、私たちだけに許されたもう一つの手足です。拳や蹴りを放つように、息をするように使える必要があるです。蹴りのついで、背面をむけたついでに使う武器じゃないです』

 

 「息をするように・・・・」

 

 尾白がそう呟いて難しい顔になった。まあ難しい話だ。個性である以上、尾白はそれこそ息をするように動かせるし本人もそう思っていた。けど実際に尻尾を使って戦闘している人間からするとそうじゃなかったと断じられたのだ。悩むのは当然だろう・・・なんで猴まで難しい顔をしてるんだ?

 

 『遠山』

 

 「どうした?」

 

 『猴が雄英に行っても大丈夫ですか?尾白の動きは悪くないです。できれば直接教えたい、です』

 

 猴が指をつんつんつつきながらもじもじとそう提案してきた。そう来たか、尾白を考えるなら是非ともお願いしたいわけだが今は正直状況が悪い、先生方に聞いてみないことには・・・・まあ見る限り尾白はやる気みたいなので聞いてみるだけいいか。尾白と顔を見合わせて頷きあう。

 

 「ちょっとそのまま待ってろ。話してみるから。尾白、行くぞ」

 

 「なんかごめんね。俺のせいで」

 

 「気にすんな。仲間だろ。ほれ、相澤先生のとこ行くぞ」

 

 通話をオンにしたまままだB組が使っている体育館γを開けてB組の視線を受けながら相澤先生のところまで行く。途中物間が食って掛かろうとしていたがエクトプラズム先生の義足の一撃を受けて崩れ落ちた。よそ見してるからだ。相澤先生も俺たちに気づいたのかこっちによって話しかけてくれた。

 

 「遠山に尾白か。珍しい組み合わせだな。どうした?まだB組の使用時間内だ。使いたいならあと2時間は待て」

 

 「いえ、そうではなくご相談が・・・尾白」

 

 「うん。えっと・・・相澤先生、遠山が俺の必殺技を完成させるために人を紹介してくれたんです。今その人に俺の動きを見てもらったんですけど・・・直接教えたいって言ってくれて。だから、その・・・雄英にその人を入れるか俺が外出する許可が欲しいんです」

 

 そう伝えると相澤先生が微妙に反応に困ったような顔をした。今雄英から人を出したくはない。出したくはないのだが入れたくもない。だけど尾白が強くなるチャンスを逃したくないみたいなそんな顔だ。渋い顔をした相澤先生に反応したのかエクトプラズム先生(本体)とセメントス先生が何事かと様子を見に来た。彼らにもかくかくしかじかと理由を説明すると同じく渋い顔になった。さもあらんってかんじだな

 

 「・・・ともかく、そいつと話させてくれ。とりあえずそれで考えてみよう」

 

 「うっす。猴?猴―?まだいるか?」

 

 『あい、いるです遠山。変わってもらってもいいです』

 

 「はいよ。相澤先生、どうぞ」

 

 「・・・遠山、お前の人脈が時々恐ろしくなってくるんだが。改めまして、雄英の相澤です。ヒーローネームはイレイザーヘッド。お噂はかねがね・・・孫さん、でよろしいですか?」

 

 『猴はそんなかしこまられるようなものじゃないです。遠山と同じような感じでいいです。それでです、Mr.相澤、猴に雄英に入る許可をくださいです。尾白、あの動きじゃもったいないです。尻尾の使い方から功夫までみっちり仕込んでやりたいです』

 

 などと相澤先生と猴がごちゃごちゃやってるのをぬぼーっとした顔で眺めているとトントン、と肩を叩かれた。後ろを振り向くとチャイナドレス風のヒーロースーツに身を包んだ拳藤だ。その後ろで相変わらず物間はこっちにこようとしてエクトプラズム先生に制裁されているがそれはどうでもいいとして何の用だろうか?

 

 「必殺技、いいのか?」

 

 「休憩中。それよりもどうしたの?相澤先生に用事?」

 

 「ん?まあそんなとこだ。ほら、俺とかそこにいる尾白って格闘術メインなんだよな。まあそれで雄英じゃない別のヒーローにちょっと頼もうかと思って相澤先生にお願いしてんだよ」

 

 「へー・・・そんなこといいの?」

 

 「イイカワルイカデイエバ、別ニ構ワナイ。必要ガアルナラバ外部ノ人間ヲ頼ノハイイコトダ」

 

 「でもね、今は少し時期が悪いんだ。許可が下りるかどうかは校長次第かな」

 

 エクトプラズム先生にセメントス先生がそう注釈を入れてくれると拳藤は納得したように頷いた。先生二人は指導に戻っていってしまったがまだまだ気になるらしい拳藤が聞いてくる

 

 「それで、頼むヒーローって誰なの?職場体験先の人?」

 

 「いや、外国のやつだ。知ってるかはわからんがモンキーヒーローの孫。知り合いで尻尾あってちょうどよかったからな。向こうも乗り気だし」

 

 「うそっ!?孫って中国のヒーローのチャートだと毎回10位以内にいるあの人!?あたしファンなんだ!いいなあ・・・」

 

 そうなのか。時間あれば猴も組手くらいはしてくれるんじゃねえの?B組とA組が合同でやらない限り一緒に訓練する時間なんてないはずだからな・・・そうすると相澤先生と尾白が俺のスマホをもってこっちに来た。話は終わったのだろうか・・・尾白にとっていい方向に行けるといいのだが。

 

 「遠山、返すぞ。とりあえず話は校長までもっていって今日中に結論を出せるようにする。多分来てもらうことになると思うがな。それとさすがにこの人一人を尾白につきっきりさせるというのは不公平だ。参加自由の講座という形で呼ぶことになるだろう。もしそうなったらお前参加して運営側で手伝え。まあ責任というやつだな。いいな?」

 

 「了解しました。猴も悪いな、いきなり電話してこんなこと頼んじまって」

 

 『いいです遠山。藍幇の上の方からも休め言われてました。ちょうどいいので少しだけ日本で休むことにするです。会ってくれるですか?』

 

 「そりゃもちろん。じゃあ結果聞いたらすぐ連絡するぜ。あ、ちょうどお前のファンと一緒にいるんだ。サービス頼むぜ」

 

 そう言ってポイっとスマホを拳藤に投げる。「うぇえ!?」とわたわたしながら受け取った拳藤は猴をみると顔を真っ赤にして一言「・・・ファンです」と言って黙ってしまった。猴が「名前教えてほしいです」というと拳藤は「け、拳藤一佳、です!」とかみかみで自己紹介した。

 

 猴はいつもヒーロー活動の時にやってるキャラで対応することを決めたのか勇ましい男口調で「じゃあ一佳!いつも応援ありがとな!」と言って「ひゃ、ひゃい」となった拳藤に元に戻って「日本であうのを楽しみにしてるです。遠山、連絡待ってるですよ」と言って電話を切った。猴と孫はキャラが違いすぎるんだよなあ。とりあえずスマホを返してもらって腰が抜けたらしい拳藤を立たせてやる。拳藤は

 

 「絶対講座参加する!だから今日も頑張るんだ!ありがとう遠山!やる気出たよ!」

 

 「お、おう。まあ参加するときはよろしくな」

 

 「うん!」

 

 そう言ってやる気をチャージしたらしい拳藤はふんすと訓練に戻っていった。俺と尾白も顔を見合わせて体育館γから出ていき、尾白はまた自分で自主練するらしいのでちょっとサポート科に用があった俺は尾白とそこで分かれて校舎に入りサポート科を目指す。

 

 サポート科、ヒーロー科に次いで人気が高い科だ。彼らはヒーローではなくヒーローを支える裏方になる道を選んだ。自分ではなく他者を支える立派な心意気だと思う。彼らが行うのはヒーローのサポートアイテムの開発やコスチュームの開発、そしてゆくゆくはデザイン事務所への就職や個人で開発工房を構えることだ。

 

 そして俺が向かっているのは雄英の開発工房、ここでならコスチュームの変更や改造を行い、デザイン事務所・・・俺の場合はジーサードの会社へ申請を通してくれるのだが俺のコスチュームはなんだかんだ言って先端科学兵装の塊だ。弄るにはそれ相応の技量を持つやつかジーサードリーグへ送る必要がある。けどまあ同中出身でそういうやつに心当たりがある俺は早速そいつにいろいろ頼んでみようとサポート科を目指しているわけだ。そんなこんなでサポート科の開発工房・・・に・・・?・・・扉が吹き飛んでやがる。何があったんだ?

 

 焦げ臭いドアを一応警戒しながらくぐると部屋の中にはパワーローダー先生とたしか体育祭の時に緑谷と組んでた発目ってやつ、あと緑谷、飯田、麗日があーでもないこーでもないと話し込んでた。

 

 「どうもっす。パワーローダー先生、これ何事ですか?」

 

 「ああ・・・コイツのせいだよ。君もコス変の件かい?だったら説明書を見せて。許可証もってるからいじれるところは俺がやるよ」

 

 コイツ、と言って発目をその鉄爪で指さすパワーローダー先生、その先では足のラジエーターを強化してほしいという飯田の提案をまる無視して腕にブースターをつけられた飯田が天井に激突するところだった。なんじゃあれ、使われている技術は先端科学兵装並みなのにオーダーに合ってないないんだけど?腕は確か見たいだけど性格がちょっとアレなのかね?とりあえずあっちは置いといて。説明書を見せると読み込んでいくパワーローダー先生がひどく難しい顔をしている。まあきついわなあ。

 

 「これは・・・少し弄るだけでも大仕事だな・・・多分デザイン会社に渡すことになると思うけど大丈夫かい?」

 

 「あー・・・最終的にはそうなりますけどとりあえずこっちでできる所は何とかしたいので。平賀さんいます?」

 

 「彼女と知り合いなのかい?発目ならともかく平賀を知ってるなんてね。どこで知り合ったんだ?いるよ、そこの扉の先だ」

 

 「同じ中学だったんですよ。中学時代から拳銃のメンテもあいつに頼んでますからね。プロになったら一番に仕事頼みたいくらいです」

 

 そう言ってパワーローダー先生が指し示した扉へ向かう。こんこんとノックを入れると「はーい!今行くのだ―!」ととっても元気な女の子の声が響いた。ややもしてガチャ、とドアが開いた。扉の中から顔を出したのは推定身長140cmのミニマム女子高生、中学時代から銃整備士のプロ免許をもつ天才、中学の時からの腐れ縁の平賀文だ。

 

 「あー!とーやまくんですのだ!あややに直接会いに来るなんて雄英にはいってから初めてですのだ?今日は銃のオーバーホールなのだ?」

 

 「おー、悪いなご無沙汰になっちまって。それももちろん頼みたいんだけどよ。コスチュームの改良付き合ってくんね?どっちにしろ会社に戻すんだけどよ、先端科学兵装の塊なんだ。そういうの好きだろ?」

 

 俺がそういうと平賀さんは目を輝かせて元気に笑った。彼女は既存技術を発展させて改良するのが大得意だ。それは先端科学兵装も当てはまる。部屋の隅の初目が開発したものを見る限り新しい技術を生み出すのが発目、技術を発展させて昇華させることができるのが平賀さんだ。世話になりっぱなしだから、尊敬の意味を込めて基本呼び捨ての俺も彼女だけにはさん付けする。俺の拳銃に3点バースト、フルオート機能を付けたのも彼女だからな。たまに不具合が出るがそれもご愛敬ってやつだ。

 

 「遠山くん、彼女は知り合いなのかい?」

 

 「飯田、ぶつけた頭は大丈夫か?俺と同じ中学の出身なんだ。名前は平賀文。物を改造させれば右に出るものはいない、って俺は思ってる。ラジエーター強化したいんだろ?頼んでみたらどうだ?」

 

 「そうなのか・・・俺は飯田天哉!遠山君とは同じクラスなんだ!物は相談なんだが・・・この足のラジエーターを強化してほしいんだ」

 

 飯田がコスチュームの説明書を平賀さんに見せる。平賀さんはちっこい手で受け取ってフムフムと図面を眺めかがんで飯田の足をペタペタ触っている。ややあって彼女は立ち上がって図面を飯田に返した。

 

 「図面によると空冷式のラジエーターですのだ?重くなっていいのなら油冷式と組み合わせて冷却効率を倍にすることは可能ですのだ。どうするですのだ?」

 

 「俺はスピード型なんだ、できれば重くなるのは避けたい・・・どうにかならないだろうか?」

 

 「なるほど、それは問題ですのだ。うーんじゃあ・・・ラジエーターの素材をこの前開発された新合金に変えて、比重の軽い冷却用の油と空冷式でできるだけ軽く作ってみるのだ。これならそこまで重くならないはずですのだ。あややが図面を引くので1日待ってほしいですのだ。そしたらデザイン会社に新しいものを作ってもらうといいのだ~。重心の変化はデザイン会社と応相談、ですのだ。はつめんとどっちを選ぶかはお任せするのだ~」

 

 ポンポンと出される改善案に飯田が驚いた顔をして、考えた末「ああ、頼む」と返事をした。一通り被害を受けたらしい緑谷と麗日がへろへろになってこっちに来た。発目はもう別の機械を弄っていてこちらの話は聞いてない。めっちゃ自分本位だな。

 

 「くけけ・・・発目も天才だが、平賀も別方面でまた天才だ。彼女たちとの縁は大事にした方がいいよ・・・まあ平賀の依頼料は高くつくがね」

 

 「どーせ今は雄英もちなのだ。だから取れるだけとってやるのだ。今後ともごひいきに!ですのだ!」

 

 平賀さんが人差し指と親指で円を作ってにっこり笑うのを俺は久しぶりに見て懐かしい気持ちになるのだった。

 

 

 



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再装填 伍挺目

 さて、今回俺がサポート科に来た理由はコスチュームの改良だけじゃない。いやまあ俺の銃の完全分解整備も目的ではあるんだけどさ。俺はごそごそと背中から一つの長いものを取り出した。それを見た緑谷や飯田、麗日が反応した。平賀さんは見慣れてるからか特に気にするわけもなく「ほへー」なんて言ってる。

 

 「遠山君、それって・・・刀?」

 

 「おう、家から引っ張ってきた。俺のじいちゃんが40年使いこんだ逸品だぜ」

 

 俺が背中から取り出したのは寸詰まりの打刀だ。じいちゃんが活動者時代に使っていたもので、隠しやすいように寸詰まりで反りが少ない直刀のような刀だ。なんでも遠山家は元は源氏の流れをくむ侍の家で結構いい刀を持っていたそうだが廃刀令とか明治に入って軍に取られたりして質の悪い刀しか残ってなかったそうなのだが・・・じいちゃんが技の練習中に地面を割ってしまったとき偶然地面の中から見つけたのがこの刀なのだそうだ。

 

 銘も何もなく、名もないこの刀、じいちゃんは擦り上げて今の形にしたらしいのだがただの無銘刀にしては異常な点が一つ・・・異様に頑丈なのだ。金属を切りつけても刃毀れ一つ起こさず、曲がりも折れもしない。効果が甚大なだけあって反動もでかい遠山の技にこの刀はぴったりで、じいちゃんは拳銃とこの刀で活動者として長い期間活動してたのだそうだ。もう義士としては引退してるじいちゃんにお願いしたらあっさり持っていけと許可をくれたのでありがたくもらうことにした。

 

 「とーやまくん、これコス変の申請しておけばいいのだ?ついでに研いであげてもいいのだー」

 

 「おう、頼むわ。あ、すげえ頑丈に出来てるから気ぃつけろよ。ついでに背中につけるから秘匿性高めで改造頼むわ」

 

 「りょーかいなのだ!あややにお任せなのだ~・・・どれどれー?・・・とーやまくん、これ流星刀ですのだ?すごいもの持ってるのだ~」

 

 平賀さんが少しだけ刀を抜いて鈍色の刀身を眺めた途端そう鋭く問うてきた。すげえな、見ただけで判断したのか。さすがは平賀さんだな・・・じいちゃんも鍛冶屋に見せた途端言い当てられて擦り上げるのを拒否されただの言ってたから見る人が見ればわかるのかもしれない。

 

 「リューセイトウ・・・?」

 

 「隕石から作られた刀のことだ、麗日君。学術的な価値が非常に高いものだったと記憶しているが、いいのか遠山君?」

 

 「元から使われてたもんだ。俺が使ったっていいだろ?それにこいつは芸術的な美しさの太刀じゃねえ、バリバリの実戦刀だ。眺めるより使われた方がいいんだよ、多分な」

 

 「でもどうして急に刀なんて・・・?」

 

 緑谷が不思議そうにそう聞いてきた。まあいろいろあんだけどナイフや素手じゃちょっときついもんがあるかもしれないからな。爆豪の爆発とか轟の炎とか。だもんで思いっきり技を使って振り回せる長物が欲しかったんだよ。兄さんだってサソリの尾(スコルピオ)っつー組み立て式の大鎌を持ってるしかなめだって長い単分子振動刀がある。ジーサードは素手至上主義だから持ってないけど俺は欲しい。そんだけだ。

 

 「そうだな・・・まず攻撃手段の拡充、これが一つだ。俺はパワータイプじゃねえ。反射神経と技術で闘うテクニックタイプっていえばいいか?そうすると攻撃手段が多ければ多いほど手札が増えていろんな手を試せる。銃がだめならナイフ、ナイフもダメなら素手って感じにな。お前だってパンチがだめならキックとか投げ技ならどうだとか考えるだろ?そういうことだよ」

 

 「・・・!・・既成概念にとらわれない・・・脚を冷やしたいなら腕で・・・・パンチがダメならキック・・・・」

 

 「ん?おい緑谷、どうした?急にぶつぶつ言いだしたりして」

 

 急に緑谷が珍しいことにカッと目を見開いて小声でぶつぶつ言いだした。だんだん顔が明るくなっていき、俺がとりあえずベレッタとデザートイーグルを平賀さんに差し出して平賀さんが受け取っていったん部屋の中に入ってそれらの荷物を置いて戻ってくる。「まだやってるのだー」という平賀さんの声を合図にしたようにばっと緑谷が顔をあげる。平賀さんの「んにゃ!?」という可愛らしい悲鳴を遮るように緑谷が大声をあげた。

 

 

 「遠山君!飯田君!ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけどいいかな!?」

 

 「落ち着け緑谷君、まだ君のコスチュームの件は解決してないぞ。何を教えればいいのかわからないがとりあえず来た目的を果たそう」

 

 「え!?ああそうだった!えっと・・・平賀、さん?だよね?今思いついたんだけど・・・」

 

 と緑谷がすらすらと説明をしてくれたのだが、腕に爆弾を抱えたという緑谷がパンチに代わる攻撃手段として蹴りはどうかということを思いついたらしく、腕を保護できるものと足の装甲兼破壊力増加を狙えるものをコスチュームに入れてほしいのだそうだ。平賀さんはうんうんと話を聞いていたのだが

 

 「それはあややに頼むよりはつめんに頼んだ方がいいのだ。あややでもご注文通りの物は作れるけどそういう1から作るものはあややよりはつめんの方がいいものができるのだ~。はつめん~ちょっとこっちに来るのだ―。はつめんの好きそうな依頼なのだ!」

 

 平賀さんが何やら弄っている発目に呼びかけるとぐりんという擬音が鳴りそうな勢いで振り向いた発目すさまじい勢いでこっちに距離を詰めてきた。こわっ!

 

 「話は聞かせてもらいました!腕が不安だから足に切り替える!そういう発想は好きですよ!私がドッカワイイフットパーツベイビーを作ってあげましょう!」

 

 「平賀は銃、刀剣のライセンス持ちだからまだいいが発目、お前はまだ未取得なんだから俺を通せよ・・・良ければ採用だ・・・・」

 

 「もちろんです!さあ忙しくなりますよ緑谷君!早速始めていきましょう!」

 

 そう言って発目が緑谷を引っ張っていったので俺も平賀さんに挨拶をしてサポート科を辞した。平賀さんの「今後ともごひいきにーですのだ!」といういつもの挨拶にひらりと手を振って一応ラジエーターの件で発目の案を聞くつもりの飯田と、酔いの軽減を目指したい麗日を残して俺は自主練をしに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 とりあえずもろもろあった訓練が終わり夜、ハイツ・アライアンスに帰ってひとっ風呂浴びた後共用リビングでかなでや緑谷たちとくつろいでいると相澤先生がハイツ・アライアンスの中に入ってきた。たぶん猴のことだろうなとあたりをつけた俺が立ち上がって小走りでそちらに向かう。

 

 「ああ、悪いね諸君。休んでるところに。遠山、校長から許可が下りた。こっちからも向こうに連絡したがお前の方からも入れておけ。明日、来るそうだから俺とお前で迎えに行くぞ。連絡事項はそれだけだ。全員遅くならないうちに寝ろ。邪魔したね」

 

 「了解です」

 

 「「「「はい!」」」」

 

 明日ね。思いったったが吉日・・・いや、働きづめな猴を休ませたい藍幇の思惑といった感じか。とりあえず許可は下りたな。尾白は今風呂だから出たら教えてやろう。きっと驚くぞー・・・なんて考えてると一緒にだべってた切島が何のことだかわからないという様子で俺に尋ねてきた。

 

 「なあ遠山、許可ってなんだ?誰か来るのか?」

 

 「ああ、知り合いのヒーローにちょっと講師してくれって頼んだんだ。俺と尾白にな。そしたら話が広がっちまって講座になっちまった。参加自由だからまあスタイルが定まったやつらは来る必要ないだろな」

 

 「はあ!?またおめーそんなやべーことを軽く言いやがって・・・だれだ?また兄弟か?」

 

 「遠山って知り合い多くね?プロの知り合いなんてそうそうできるもんじゃないだろ?なあ瀬呂」

 

 「そうだぜ。なんかずっこいよなー」

 

 「そこらへんは全部うちの兄弟のせいだ。それにプロヒーローが身内にいると仲良くなれるかはともかく顔見知り程度にはなれんだろ?なあ飯田」

 

 「ああ、僕・・・俺も何人かプロの人たちに知り合いがいるし訓練もつけてもらったこともある」

 

 「なるほどなーお前ら羨ましいぜ・・・・で、呼んだの誰なんだ?」

 

 上鳴が納得したように頷いてくるやつが気になったらしくそう聞いてきた。ちょうどよくドアが開いて尾白にヒーローオタクの緑谷が風呂を終えたらしくリビングに入ってきたので伝えるついでに解説も投げちまえ。俺よりよっぽど詳しく説明してくれんだろ。

 

 「尾白―さっき相澤先生が来たぜ。許可出たってよ。良かったな」

 

 「ほんと!?ありがとう遠山!一歩進めた気がするよ!」

 

 「え?何の話?許可って?」

 

 「ああ、明日俺の伝手で雄英にヒーローを呼ぶことになってな。まあ尾白のためにお願いしたら参加自由の講座ってことでオッケー出たんだよ。今その話してたんだ」

 

 「そうなの!?誰が来るんだろう・・・・?雄英出身のヒーロー?それともアメリカ?ああああ予想がつかない・・・・・!」

 

 「いつも通りだな。お前なら知ってると思うけど中国のヒーローだ。孫っていうんだけど知ってるか?」

 

 俺が猴のヒーローネームを告げると尾白以外はあんまり知らないらしく首をひねったが緑谷だけは違った。ガタン!と音がするくらいに立ち上がった緑谷は大興奮で超早口でしゃべりだした。

 

 「孫!?孫ってあの香港藍幇の筆頭ヒーロー!?中国ビルボードチャートは現在第6位、中国拳法の達人で個性は「闘戦勝仏」!得意な分野は対都市の凶悪犯罪からテロリスト鎮圧までの対人、対犯罪!ヒーロー歴は現在3年にもかかわらずトップクラスの速さでランキングに食い込み中国ヒーロー界を震撼させた大物ヒーローじゃないか!?そんな大物と遠山君が知り合いだったなんて・・・・」

 

 「解説ありがとよ。まあそういうこった。明日相澤先生と一緒に迎えに行くから楽しみに待ってろよ。あ、今から連絡入れるんだったわ」

 

 「えええええ待って心の準備が・・・・!」

 

 んなこた知るかよ。お前が話すわけじゃないのに。緑谷の解説を聞いたクラスのやつらはビルボードチャートの下りで大興奮だ。つまりあんだけ広い中国から上から6番目のヒーローがわざわざやってきてくれるというのだからおおかれすくなかれヒーローが大好きなうちの連中はそりゃ盛り上がるってわけだわな。とりあえずスマホ出して国際電話かけってっと・・・俺が電話かけた瞬間シンと静まり返るあたり育ちがいいのか気が利くのかはたまた相澤先生の教育が行き届いているのか・・・・どうでもいいけどな。お、繋がった。

 

 『晩上好(ウェンシャン ハオ)、キンチ。こちら香港藍幇事務所ヨ。さっき雄英から連絡もらったネ。猴のことよろしく頼むヨー』

 

 「狙姉(ジュジュ)か。悪いな稼ぎ頭をしばらく借りることになっちまって。猴、いるか?」

 

 電話に出たのは曹操4姉妹の長女、遠距離狙撃のプロの狙姉だ。彼女は用件はわかってるみたいで『キンチは引っかからなくてつまらないヨー』と言って猴を呼びに行ってしまった。悪かったなつまらん男で。曹操が行って少しするとトタトタと足音がして猴が顔を見せた。風呂上りなのか頬は上気してほんのり赤く染まり綺麗で長い黒髪も少し湿っている。あっちゃータイミング悪かったか?

 

 『遠山!電話待ってたです!明日、いくですよ!行くからには猴がしっかり功夫を積ませてあげるのです!』

 

 「ああ、頼むぜ。俺も迎えに行くから空港で会おう。尾白も楽しみにしてるってよ、な?」

 

 画面を尾白に向けてやるとやる気満々で「よろしくお願いします!」って頭を下げた。猴も「請け負ったのです。ビシビシいくです!覚悟しておくといいです!」とニコニコしてる。ついでに緑谷に画面を向けると面白いくらいきょどってる。お前そんなんでいいのか。

 

 「緑谷、足技練習すんだろ?中国拳法はそこらへんも多彩だから今のうちに媚び売っとけ。ちなみにコレはバナナが好物だ」

 

 「贈賄前提!?えっと、緑谷出久です・・・!その・・・会えたらサインください!」

 

 ええー頼むのそれなの?ちなみに猴はあんまりファンサが得意ではないらしく握手会みたいなことはしないことで有名だ。そうするとサインとかはものすごく貴重なのかもしれないな。ほかのクラスのやつらも俺のスマホを覗き込んで口々に挨拶をしていくので猴は目を回してあっぷあっぷしているが楽しそうだ。こんなんでも俺より年上なんだよな・・・身長は平賀さんより小さいのに。個性のせいで成長も老化も遅いそうだ。

 

 だが彼女は強い。中国拳法という多彩な技の数々、しかも彼女は人を殺すことに特化した裏技まで精通し「闘戦勝仏」という個性の通り超常的な術まで使えると来たもんだ。さらにあんな小柄な体ながらパワー、スピードも優れている。中国であっという間に上へ行き詰められるのもわかるってもんだぜ。

 

 『えっと、えっと・・・猴は明日の朝の便で日本へいくです。つくのは昼でMr.相澤と遠山が迎えに来てくれる言うですからちゃんと雄英まで行ける思うです。だから、日本で遠山のクラスメイトに会うの楽しみにしてるです。猴の講座、来てください』

 

 という感じで締めくくった猴にクラス中がいくー!みたいな感じだ。絶対これ大変な奴じゃん。おれカンフーそんな得意じゃねえんだよ。運営側に回れってことは教えろってことだろ?相澤先生に八極拳見せたのは失敗だったなこりゃ・・・。まあなるようになるか。

 

 「じゃ、また明日会おうぜ。お前ドジなんだから便間違えて乗るんじゃねえぞ。じゃあな」

 

 『あい。曹操が送ってくれるいうですからだいじょぶです。キンジ、再見(ツァイチェン)。明日が楽しみです』

 

 最後だけ俺を名前で呼んで猴は電話を切った。さって明日も早いから寝るか―といつの間にか夢の世界へ行ってたかなでを抱き上げて部屋に戻ろうとすると服をつまんで引き止められた。この手は・・・芦戸?何の用だ?と顔を見てみるとにやーっと嫌らしい笑みを浮かべていた。というか女子全員が似たような顔だ。唯一透だけ普通・・・というか若干不機嫌だ。なんだなんだ?

 

 「いやー葉隠ちゃんというものがありながらやりますねえ遠山君!ねえ彼女恋人?もしくは婚約者!?」

 

 「んだそれ。透が何だってんだ?あと猴と俺はそんな関係じゃねえ。変な邪推すんな」

 

 「えー!だって遠山君を見る猴ちゃんの瞳は恋する乙女だよー!絶対だって!」

 

 「あのなあ・・・貴重な時間使って雄英に来てくれるヒーローに変なこと考えるなよ。なあ透?」

 

 「むぅ・・・キンジ君のばか

 

 ・・・ひどくね?なんで否定して同意を求めてバカにされてんだ俺は。あとなんでそんなに声が小さいんだ透らしくない。なおそれでも納得できないらしい芦戸がさらに騒ぎ立てている。

 

 「とりあえず俺は明日いろいろあるからもう寝る。猴とはなんもないからな。明日来た時そんなこと言ったら講座からたたき出してやる」

 

 「えー!やだ聞きたい!何でもない話をちょっと強引に恋バナに仕立て上げたいーーーー!!」

 

 という自分本位100%の芦戸の叫びを無視して俺は部屋に帰ってかなでに布団をかけてやるのだった。




キンちゃん&近接組強化フラグ、ついでのキンちゃんの武装強化フラグ。
刀に関しての知識はあやふやですゆるして


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再装填 陸挺目

どうでもいい話がしばらく続くんじゃ


 そして翌日のこと。今日は午前中にB組がTDLを使うそうなので俺たちは自主練かヒーロースーツの改良に時間を当てることが出来ている。つっても俺の場合は完全にジーサード任せだけどな。大和と万旗は相変わらず完成が見えてこないが・・・割と進捗はいい感じなのでその内地球の重さで殴れる日も来るだろう・・・・自分で言ってて頭おかしいなこれ。そんで俺が今何してるかというと・・・

 

 「遠山、行くぞ。さっさと乗れ」

 

 「はい」

 

 相澤先生の車で空港に向かっているわけだ。猴を迎えに行く感じだな。ちなみにクラスのやつらもいきたーい!と言っていたのだが相澤先生のひと睨みで一瞬でおとなしくなった。いやまあそうなるだろうよ。おとなしく必殺技つくっとけ。俺はもうスーツをジーサードの方に送ったから個性伸ばしくらいしかいまできないしな。技の練習もできるんだけどあれガントレットなしでコンクリなんか殴ったりしたら拳の皮がえらいことになっちまう。

 

 そうそうコスチュームなんだがなんと昨日の夜消灯時間を過ぎたにもかかわらず発目と平賀さんが俺の部屋に突撃してきたのだ。なんでも俺のコスチュームの改良案を二人で考えたので是非とも採用してほしいと。その案を聞いていくとなるほどこれはと思ったので許可を出した。もしあの案が実現できれば俺の銃技の幅が2,3倍くらい広がるからな。是非とも頑張ってほしい。

 

 まあそれはさておき自分を無駄にいじめるのは趣味じゃないし、世の中には理解しがたいことに自分を痛めつけることに喜びを感じる人間がいるらしいのだが俺はそうじゃないので大人しく迎えに行くことにした。そんで個性伸ばししてる中で分かったのだが俺の個性、「神経強化」の倍率が著しく上昇していたのだ。その倍率何と30倍。夏休み前の2倍である。おそらく理由はオールフォーワン相手にやったかなでの個性強制ブーストだ。あれで上限のタガが外れたかリミッターがぶっ壊れたのかは知らないがとにかく倍率が上がったのはいいことだ。まあ30倍の状態で20分動くだけで死ぬほど頭痛くなってしんどくなるんだけどな。ヒスったほうが負担が軽いからしばらくは奥の手扱いだ。

 

 かなでも連れていこうかと思ったのだが3年生の救助訓練の要救助者役で貸してほしいと13号先生にお願いされたのでそっちに行ってる。なんでもかなではいうことをキチンと聞いてくれるので不慮の事故が起こりづらいということらしい。え?事故起こってるの?さすがに怪我したらもう貸さないぞ・・・

 

 そんなこんなで相澤先生の車に揺られるほど少し、空港手前の高速道路のジャンクションあたりで相澤先生が俺に話しかけてきた。

 

 「遠山、お前に頼める立場ではないのはわかってるんだが・・・心操のこと、覚えてるか」

 

 「ああ、覚えてますよ。ホントだったら夏休み中にもいろいろやる予定でしたよね。潰れましたけど」

 

 「・・・そうだな。あいつはあのことがあった後もヒーローを目指す気でいることは変わらないらしい。今は自主練させているがそろそろ再開させたい。できれば付き合ってやってもらえないか?」

 

 正直心操とやる訓練は俺にとっちゃ今んとこあまりうまみはない。まだ肉体の強度が低い心操に俺らヒーロー科と同じ訓練、いやそれ以上の訓練をさせることができないからだ。基礎トレとかもいつも俺がやってるものより数段低くなるし、組手だって手加減してやる必要がある。でもまあ・・・悪くはない。正直相澤先生とほぼマンツーマンで欠点を指摘されながらやる組手は身になるしそれを確認しつつやる心操との組手も嫌いじゃない。・・・それに同じ夢を追ってる者同士、協力してやるのが人情だろう。

 

 「わかりました。協力します。猴にも付き合ってもらえるよう頼んでみますね」

 

 「ああ、助かる。こんなこと頼んでおいてなんだが、お前自身の必殺技にコス変はどうなんだ?」

 

 「コスチュームの方は会社に要望出してますし武器も新しいのを仕入れました。今は申請に出してますから戻ってきたらそれを使った技を試してみる感じです」

 

 「・・・そうか、詰まったなら必ず相談しろ。力になってやる」

 

 「お願いします」

 

 いい人だ。相澤先生。ぶっきらぼうな言い方や合理的と判断すればこちらをだましてきたりするようなことはあるが必ずそこに俺たちへの優しさとかそう言ったものが見え隠れしている。まあ俺らのクラスは全員相澤先生が大好きなのだ。恥ずかしいが、俺も含めて。

 

 

 

 車に揺られること1時間、ようやく海辺の大きな空港が見えてきた。猴からもメールが届いていて時間ぴったりに間違えることなく乗ることができたようだ。日本では知名度が今一つとはいえ中国では大人気ヒーロー、エコノミーにしようと思ったら航空会社が無料でファーストにしたとかなんとか。いや初めからそうしろよ。飛行機内大混乱だろそんなことになったら・・・・

 

 でかい駐車場に車を停めて相澤先生と共に中国からの飛行機が止まる・・・23番ゲートだったか?の近くで待つ。特に遅れているわけでもないのでもうそろそろ来るだろう・・・というかもうすでに猴が乗ってる飛行機とタラップが接続されているのでまあすぐだろうな。

 

 特に雑談もなく(こういう沈黙は嫌いじゃない)待っているとゲートの方にちっさい人影が見えた。きたか?とゲートに近づいていくとキャスターバッグを引いた腰まである長いロングの髪をはねさせた猴がゲートを抜けてこっちに歩いているところだった。彼女は中国の民族服っぽいいわゆるチャイナ服に身を包んだ彼女は俺を見つけると瞳を輝かせて走り出し・・・・3歩進んだあたりで盛大にこけた。何もないところで。えー・・・・

 

 「猴、おい大丈夫か?逃げやしないからそんなあわてるなよ」

 

 「うゆ・・・だいじょぶです・・・それよりも你好(ニイハオ)、遠山。直接会うのは2年ぶりです。また会えて猴は嬉しいです」

 

 顔面からいったせいで赤くなった鼻を両手で抑えつつそう言ってくるので俺も「ああ、会えてうれしいぜ。またよろしくな」と返しておく。相澤先生の方を見るととりあえず再会するときはほっておいてくれたらしい。片手をあげながら近づいてくるところだった。

 

 「初めまして、電話口でも言いましたが相澤です。情勢的に今は不安定ですが、どうか生徒のことをよろしくお願いします」

 

 「感謝なら遠山にするです。猴は遠山が連絡してこなかったらここに来てないです。猴でよければ必ず生徒の子たちをレベルアップ、させるですよ」

 

 相澤先生と猴が・・・身長的に相澤先生がかがみながらだけど固く握手をした。猴も日本のヒーロー育成学校に行くのは初めてらしいしいい経験になるだろう。とくに緑谷みたいな近接組は絶対いい経験になる。なんてったって彼女、ほとんどの中国武術を網羅しているうえに師範、とか師父扱いなのだ。つまり教えるのも滅茶苦茶うまい。ヒーローを引退しても引く手あまたのスーパーヒロインなわけである。

 

 楽しそうに俺に抱き着いて尻尾をハート形にしてるこのちっさい少女が雄英の悪い雰囲気を吹き飛ばしてくれるといいんだけどな。彼女のヒーローネームの由来である孫悟空のように、痛快至極に。

 

 

 いざ帰ろうとすると周りでざわざわとさざめきが聞こえるのに気づいた。「あれって雄英の・・?」とか「あれ?中国のヒーローじゃね?」とかいう声も聞こえる。気づかれるのはやっ!相澤先生と顔を見合わせて俺が猴をお姫様抱っこ、相澤先生がでっかいキャリーケースを引っ張ってそそくさと車に退散して雄英にとんぼ返りした。猴は状況についていけてないのか目を回してたがな。抵抗なくて助かった!

 

 雄英に帰る道すがら猴に中国の話を聞いていくとやっぱりオールマイト引退はニュースになってたらしい。あと俺のことはニュース映像で知ったらしいのだが猴と曹操4姉妹はそれを見て大慌て、香港藍幇をひっくり返すような大騒ぎを展開した挙句諸葛という香港藍幇のブレーン役に拳骨で全員沈められたらしい。心配してくれるのは嬉しいが限度があるだろ。

 

 「ああ、そうだ。猴さん、これを。雄英の入校許可証です。持ってれば基本的にどこにでも行けますが、できれば遠山かほかの先生でもいいので誰かと行動を共にしてください。なにせ雄英は広いので」

 

 「謝謝(シェシェ)、相澤。そういえば猴、ホテルとるの忘れてたです。近くにいいところあるですか」

 

 「ああ、それなら・・・遠山、お前の部屋で面倒見て差し上げろ。2部屋あるしちょうどいいだろ」

 

 「いいわけないですよ先生。何がどうしたら中国のトップヒーローを学生寮に押し込もうとするんですか」

 

 「あ、それでいいです。猴、学生寮なんて初めてなので楽しみです。遠山のクラスメイトと寝泊まりできるです」

 

 「お前がいいならもういいよ・・・・」

 

 相澤先生猴のこと幼女か何かだと思ってない?彼女18歳、立派な大人・・・いや未成年だけど社会人よ?確かにドジで抜けてるところあるけどさー・・・男女7つにして同衾せずともいうじゃない?まあ猴が鼻歌歌うくらい楽しそうだからいいけどね。

 

 そう、俺は猴の案内ついでに今日は丸々フリーにされちまってるんだが・・・訓練してえ。猴に頼んで組手やってもらおうかな・・・と猴の尻尾が俺の手にくるんと巻き付いてるのを眺めつつどうしたもんかしてるとハイツ・アライアンスに到着した。俺と猴を下ろした相澤先生は授業に合流するといって帰っていった。

 

 「へー・・・ここが雄英の寮ですか・・・おお、いいキッチンなのです!よし、遠山!みな帰ってくるまで時間あるです?」

 

 共用のリビングルームに入った猴がまず何よりもキッチンをみてそう感想を述べた。ああ、そりゃ全部業務用の大人数調理ができるキッチンだからな。そういや趣味が料理だったか?医食同源の発信元である中国のヒーローたちはみな必ず料理ができる。それは人口の多い国ならではの問題で救助に行ったとき材料はあるが炊き出しが出来ない、あるいは人数が足りないという問題のある意味解決策なのだ。日本にもその考えは浸透していてランチラッシュを筆頭にヒーローが料理上手なのは今のご時世珍しくない。こんな過密スケジュールの雄英ですら家庭科の授業があることからそれの重要度は推して知るべしだ。

 

 「んー今からだと全員帰ってくるまで4時間くらいか?自主練するやつもいったん飯の時間には帰ってくるからな。なんか作るのか?」

 

 「あい。せっかくなので満漢全席、作ろう思うです。3時間あれば十分なので買い物行くです。遠山、善は急げと日本は言うです!市場に案内するですよ!」

 

 「豪華なことだな。中国6位の手料理か。じゃあ近くのスーパー行くぜ。」

 

 そういうわけで猴を近くの業務用スーパーに案内してやると。猴はメニューをすでに決めているのかいろいろな材料をかごに突っ込み始めた。豚肉、鶏肉、野菜の数々、卵に海老、特に大事なスパイスをどっさりと。両手いっぱいに材料を抱えた俺たちがハイツ・アライアンスに戻るとすぐさまかけてあったエプロンをつけた猴が使い慣れていないであろう包丁にもかかわらずとんでもない速度で皮むきや出汁とりなど下ごしらえを始めた。いくつもあるコンロを同時に操る姿はもはや料理人だ。

 

 俺もクラスのSNSグループに時間あるから俺が作ることを書いておいて猴を手伝いに行く。素の俺じゃ絶対に追いつけないので個性を発動させながら・・・こんなところで地力の差を感じることになるとは・・・とほほ。

 

 クラスのやつらが戻ってくる時間も迫ってくると猴の言う通り次々と料理が完成していく、さまざまな種類の餃子に点心、回鍋肉、酢豚、棒棒鶏、北京ダックに麻婆豆腐、そんでもって大皿に盛ったパラパラ炒飯。日本の中華だがエビチリにエビマヨなんてものもある。しかもデザートまで作ってある至れり尽くせりだ。手際の良さもあるが所作に無駄がないからいろんな作業が素早いんだな。

 

 

 

 

 「ただいまー!あー!腹減ったー!」

 

 「お腹すいたよー!わー!いいにおいする―!」

 

 お、帰ってきたな。あの声は切島に芦戸か。クラスのムードメーカー2人組だな。やつらを筆頭にクラスの面々が帰ってきて口々に挨拶を言ってる。多分みんなお行儀がいいことに手を洗ってからこっちに来るのだろう。すぐさま共用リビングの扉が開いて机の上の料理を見たやつから歓声が飛ぶ。

 

 「わー!中華!すごーい!」

 

 「すきっ腹にこれは効くなあ!遠山、代わってくれてさんきゅな!」

 

 「ケロ、これはすごいわね。遠山ちゃん、大変だったでしょ」

 

 「満漢全席ですわね・・・遠山さん、素晴らしいですわ!」

 

 「あーいや、俺は手伝っただけだからな・・・ほとんど作ったのはコイツ」

 

 そう言って俺はキッチンに入り嬉しそうにぴょんぴょんはねながら料理の跡片付けをやっている猴のわきに手を入れて抱き上げて空輸する。尻尾が?マークになってる猴をよそにクラスのやつらの前に戻り、コイツが作ったんだぜと突き出す。猴はいきなりこんなことされるとは思わなかったらしく「ひゃわぁぁあぁぁわわわ・・・・」と慌ててるが昨日一応顔合わせはすんでるので

 

 「猴ちゃんだ!これ作ったってホント!?美味しそう!」

 

 「まじで!?中国6位の料理!?遠山、俺お前と同じクラスでよかったわー」

 

 これで喜ばれるとすっげえ複雑なんだけど上鳴さんよ。猴を地面に下ろして上鳴をジト目で睨んでいると「ワリ」と軽く謝ってきたので水に流してやることにする。猴がこほんと咳払いをして自己紹介を始めた。

 

 

 「晚上好(ウェンシャンハオ)!猴、いうです!中国じゃ孫で通ってるですよ!遠山の紹介で武術の講座を開くことになったです!この料理はお近づきの印なので、遠慮せずたくさん食べて明日の訓練に備えるですよー!」

 

 「昨日話した通り俺の知り合いの猴だ。ヒーロネームは孫。まあ見ての通りお前らと仲良くしたいみたいだからたくさん食べて、よく話しかけてやってくれ」

 

 「じゃ、召し上がれ、です!」

 

 

 「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

 クラスの欠食児童どもが我先にと肉を確保しに走るのを猴がニコニコ笑いながら足りない分を作りにキッチンに戻るのを見て、あんま心配いらんかったかなと気を抜いた俺は、切島に肩を組まれて礼を言われつつこの時を楽しむことにしたのだった。

 



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再装填 漆挺目

 夕食は大盛況である。合宿でプッシーキャッツの料理を食べたときもそうだが訓練後の空きっ腹にこれでもかとボリューミーな中華料理はおいしそうに映るだろう。しかもどれもこれもが絶品だ。甘辛く味付けたされた回鍋肉に辛めの麻婆豆腐、蒸し海老餃子にニンニクのきいた焼き餃子、スープたっぷりの小籠包。これらをおかずに炒飯をかき込むのは至福のひと時だ。

 

 みるみるうちに料理がなくなるがそれを補填する速度も速い。鼻歌歌いながらとんでもない速度で料理を完成させていく猴、中国じゃ残すのがマナーらしいがそんなことやつらが知るはずもなく猴もどうでもいいようだ。それどころか綺麗に片付いていく料理たちをみて超ご機嫌である。時間のかかる点心を山と完成させてその小さな体でウェイターさながらのバランス感覚で大量の料理を食卓に届けると歓声が上がった。

 

 「あい、小籠包に蝦餃、鍋貼に水餃です。ご飯足りてますかー?ないんだったら作るです」

 

 「超うめー!すんません、これお替りください!」

 

 「ほんとにおいしいですわ・・・・」

 

 「こんなに食べて太らんかな・・・・」

 

 「その分動けばダイジョブっしょー!」

 

 「あい、青椒肉絲お替りですね。いい食べっぷりで猴は嬉しいです。お腹いっぱい食べるです」

 

 そう言って猴はあらかじめ刻んでおいたらしい肉にたけのこ、ピーマンを炒めてあっという間に青椒肉絲を作ってしまった。炒めてる時間くらいしか時間とってないぞ・・・・?まあいいか、考えるだけ無駄だ。麗日に世話を焼かれているかなでもおいしそうに食べているし、俺もたまにつまんでいるがどれもこれもうまい。正直言えば俺もドカ食いしたい気分だがさすがに猴を一人で料理させておくのは気が引けるので手伝いは続行である。

 

 

 

 

 

 

 「「「「「ごちそうさまでしたー!」」」」」

 

 皿の上の料理がきれいさっぱり空っぽになり猴が淹れた中国式のお茶を全員に配って着席である。みんな満足そうにお腹をさすったりしてる。あの爆豪ですら無言で食べまくってたからな。特に激辛の四川料理を。

 

 

 「もーだめ、入んない・・・」

 

 「腹一杯だぜ・・・」

 

 「あーこの後の自主練動けっかなー」

 

 「ちょっと休むかー?さすがに今動いたら吐きそ」

 

 「あ!猴さん片付け俺らがやるっすよ!遠山も手伝ったんだろ?休んどけよ!」

 

 「そうだ!こんなおいしいものを頂いたのに片付けまでさせては気が引ける!」

 

 「そうだね!じゃあ遠山君、僕らが片付けやるよ!」

 

 「謝謝、じゃあお言葉に甘えるです。んー・・・・あ!尾白、いましたね。こっちくるです!」

 

 ん~と伸びを入れた猴がお茶を飲んで一息ついていた尾白にそう呼びかける。尾白は急に呼び掛けられるとは思わなかったのかお茶をのどに詰まらせ盛大にむせた後咳をしながらこっちに来た。

 

 「大丈夫ですか?そんなあわてなくても大丈夫です。ちょっとテストしてもらうだけです」

 

 「・・・テスト・・・ですか?それってどういう・・・・」

 

 「(シィ)。尾白がどれだけ尻尾を自由に動かせるかどうかのテストです。折り紙、わかるですね?手で折るのは禁止で、抑えるのみ。猴がやって見せるので真似してみるです」

 

 そう言うと猴はどこからか取り出した折り紙を尻尾を使って折りたたみ始めた。本当に手は紙を抑えるのみで山折りに谷折り、膨らませるに至るまでの作業を見事に尻尾で行っている。ものの5分もしないうちに白黒のパンダが猴の手の中に現れた。それを猴は尻尾で器用につまんで尾白の手に置く。尾白は結構厳しい表情だ。尾白の尻尾太いもんな・・・・

 

 「別にここまでしろとは言ってないです。今やったのは手と尻尾を同時に動かす、そして尻尾の器用さをあげる訓練の一例。これから毎日、練習するといいです。とりあえず鶴が折れるようになったら合格。紙も大きめの物を使うといいです」

 

 というわけでやってみるですね。なんて猴は言って荷物の中から中国版のビックサイズ折り紙を取り出して尾白に渡した。

 

 「ありがとうございます。早速やってみます!」

 

 「あい。これは部屋の中でもどこでもできる訓練です。明日の講座、尾白も来ると思うですがもし猴が帰る前にできるようになったら一つ技を伝授するです。頑張るですよ」

 

 尾白が頭を下げて早速尻尾を使って鶴を折り始めた、が結構きついものらしく力の調整をミスって1枚目が破れた。猴はふむふむと頷きながら尾白の動きを見ているようでゆらゆらと尻尾が揺れている。そしてその尻尾を目で追う芦戸の姿も。とりあえずその手を下ろせ。猴の尻尾は凶器なんだぞ。わしづかみにしてそのままぶん投げられたやつが結構いるんだからな。曹操のやつとかな。

 

 猴が熱心に尾白にアドバイスをするのを見ながら、俺は手元のお茶を一気飲みするだった・・・・熱っ!!!

 

 

 

 そうして翌日のこと。あの後結局1日目のトライでは失敗した尾白が猴からもらった折り紙を必死こいて折っていたが結局できなかった。消灯時間までやってたけどな・・・最後のころは結構いいセンいってたっぽいし、猴も「結構筋がいいです」って誉めてたから尾白が猴から技を伝授される日は近いだろう。

 

 寝る段になって猴の部屋のことでひと悶着あったが布団がなかったので結局俺の部屋でかなでの布団を使わせることになった。かなでは俺の布団で俺と寝たけどな。寝起きの猴はいつもよりぽやぽやしてて正直心配になるくらいだった。可愛いけど不安になるよ、あいつドジだもん。

 

 そんで今日の朝猴のヒーロースーツとかが中国から雄英に届いたそうなのでその確認のために猴は相澤先生に連れられて校舎の方に行っちまった。ついでと言わんばかりに白身魚の団子を入れた生姜粥をクラスの人数分こしらえてから。これ醤油ぶち込んで食うとすげえうまいんだよな。猴にカンフー教わってた時、朝食の定番だった。

 

 で、今日はA組が午前にTDLを使えるのでTDLに行くまえにサポート科によって昨日預けた銃と刀を平賀さんから受け取ってきた。ピッカピカになった拳銃とギンギンに研がれて、光を反射する流星刀を見ると、さすが平賀さんといった感じだ。ほかのやつらに遅れて体操服姿でTDLに入るともうすでにクラスのやつらはすでに始めていたので遅れたことをセメントス先生とエクトプラズム先生に謝ってから俺も技の練習に入る。

 

 せっかく刀が戻ってきたわけだし、じいちゃんから刀を受け取った時に見せてもらった技を試してみよう。抜刀した刀を脇構えへ、足の桜花でセメントス先生が作ってくれたコンクリの仮想敵の直上へ大ジャンプ、そのまま全身の筋骨を桜花と同様に連動させてその力を刃先に集約する。動き始めた流星刀の刃先が音速を突破して衝撃波の尾を引き始める。その衝撃波を刀を傾けながらコントロールして直下のコンクリへ向けて刀を振りぬき、直撃させる!

 

 「天抛(てんほう)っ!!!」

 

 ズドォン!とコンクリが押しつぶされるように衝撃波の餌食となった。天抛、これは遠山家の古い技で人間は真上からの攻撃に対処しにくいという特性がありそれを逆手にとって開発された技だ。最初は敵の頭上から刀を投げて行っていたらしいこの技だがとある代のご先祖様が衝撃波を放つ技に改良、じいちゃんに受け継がれそして今俺が使ったわけである。もうちょい威力上げれそうだな。それに振りぬくとき微妙にぶれたけどまあおいおい直していこう。今はマッハ1で剣先を振ったがスーツが戻ってくればマッハ3くらいまでならいけそうだな。素手で振ったら手が音速超えた時点で自損確定だ。

 

 「おお!遠山今のなんだ!?つーかそれ刀か!?家にあるって言ってた戦国時代のやつ!?」

 

 「おう切島、俺の新技だぜ。まあ未完成なんだけどな。刀についてはまあそんなとこだな。ご先祖様が地面に埋めてじいちゃんが掘り起こして使ってた刀だ」

 

 切島もやはり刀とかそういうものは好きらしく抜身の俺の刀をキラキラとした瞳で見つめている。そして何か考えた切島が思いついたようにとんでもないことを言い出した。

 

 「なあ遠山、さっきのやつ俺に撃ってみてくれねえか?」

 

 「正気か?威力見ただろ」

 

 「必殺技がよ、もう少しで完成しそうなんだ。けど生半可な技にはしたくねえ。お前が撃った未完成の技に負けるようじゃ最初から作り直した方がいいと思うわけよ。俺のためと思ってやってくれねえか」

 

 「・・・しょうがねえな。そう言われちゃ協力しないわけにはいかねえだろうよ」

 

 「恩に着るぜ!じゃあ見ててくれよ!俺の新技!」

 

 

 切島が俺から少し離れ、全身に力を籠める。そうすると切島の体がみるみるうちに硬くなっていき、いつもの硬化した姿以上に刺々しい姿に代わっていく。体を動かすたびにきしむ音や火花が飛び散り触れるだけで切れそうな印象すらある。なるほどこれは試したくなる気持ちもわかるな。いいぜ切島、一発ぶち込んでやる!

 

 「よぉし!こい!」

 

 「ああ、負けんじゃねえぞ!」

 

 そうやり取りをした後ガードポジションを固めた切島の頭上に俺が飛び、先ほどと同じように・・・いや、さっきよりも衝撃波の収束率を土壇場で扇貫の術理を応用してあげ威力を高めた天抛を切島に向かって話つ。扇貫が衝撃波のレーザーなら天抛は衝撃波の大砲。その威力は段違いだ。超超超硬化した切島でも耐えられるかどうかはわからん。

 

 着弾と同時に爆音と土煙が濛々と立ち込める中、着地した俺の耳に硬いものが擦れ合う音が届いた・・・・やりやがったな切島。土煙の中から多少傷ついてはいるものの五体満足で元気いっぱいの切島が出てきた。切島は大きく息を吐いて硬化を解除すると俺の方ににやっとした笑みを浮かべてVサインをした。

 

 「やるじゃねえか切島。今回は俺の負けだぜ。次は絶対負けんからな」

 

 「いーや!次も絶対俺が勝ってやるよ!次も俺の勝ちだぜ!」

 

 「言いやがったな?じゃあこれ完成させたらまた撃ち込んでやるよ。まあそんなことより、技の名前どうすんだ?」

 

 「おう、決めてあるぜ!その名も烈怒頼雄斗(レッドライオット)安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)】!漢らしいいい名前だろ!」

 

 「たしかにな。言いやすそうでかっこいいじゃねえの。残りはそいつの精度高める感じで行くのか?」

 

 「おう!お前のおかげで自信ついたぜ!さんきゅな!」

 

 そう言って切島は俺から離れてエクトプラズム先生の分身の元へ帰っていった。クラスのやつら全員すげえ速度で成長してるな。こりゃ俺もうかうかしてられねえぞ・・・・

 

 

 

 

 そうして訓練してB組のやつらにTDLを明け渡して数時間、自主練に精を出したんだが、そういえばそろそろ猴の講座の時間だったか。場所はおなじくTDLだったはず。運営を任された以上早めに行っておかないとということでTDLへ行き、扉を開けると既に真っ白のカンフーパンツの上にノースリーブのチャイナドレスを重ね着したようなヒーロースーツの猴が獲物の鳳凰の意匠が施された身の丈以上の偃月刀を振り回して華麗に演舞しているところだった。観客は相澤先生にセメントス先生だ。猴は最後の一振りを振り終えて完璧に静止し、偃月刀を背負って拳礼をして締めた。そうして扉を開けた俺のところまで駆け寄ってくる。

 

 「遠山!待ってたですよ!猴の講座、結構申し込みが多かったです!腕が鳴るです。遠山、一緒に頑張るです!」

 

 「ああ、わかってるよ。相澤先生にセメントス先生、待たせてしまったみたいですいません」

 

 「いや、問題ない。むしろ感謝してるくらいだ」

 

 「うん、いいものを見せてもらったよ。さすがは中国トップクラスのヒーローだね。演舞なのに参考にすべきことがたくさんあったよ」

 

 「いえいえ、お目汚しになってないのならよかったです。偃月刀の調子を見るためにちょっと振ってみただけですから・・・」

 

 言外に褒める相澤先生とストレートに褒めるセメントス先生にテレテレと恥ずかしそうにもじもじする猴。お前こういうのに弱いよな。面と向かって褒められるのがあまり得意じゃない猴はちらっと時計を見て尻尾を俺の手に巻き付けて相澤先生たちの方まで引っ張っていく。いや自分で歩けるから・・・

 

 そんなこんなで10分ほどたつと続々とTDLの中に参加希望者が集まってきた。A組からは飯田に緑谷、麗日、尾白、切島、常闇、障子だ。ほかのメンツはスタイルが定まったか個性伸ばしの関係上伸び悩んでてプラスアルファのこの講座に割いてる時間がないと大変嘆いていた。そんでB組からは拳藤、徹鐵、泡瀬に確か庄田二連撃、宍田十郎太、取蔭切奈ってやつだ。遅れてB組担任のブラドキング先生が入ってきて扉を閉めた。ざわざわしているやつらを相澤先生がパンパンと拍手をして静かにさせつつ口を開いた。

 

 「はい、注目。今回遠山の伝手のおかげで中国トップクラスのヒーローを招いて近接格闘の講座を開いてもらうことができた。必殺技の取得に個性伸ばしと忙しいと思うが参加する以上自分の血肉にしてもらいたい。外部のヒーローに教えてもらうということをしっかり理解し、失礼のないようにな・・・・それじゃ、お願いします」

 

 相澤先生がそう締めくくって猴に続きを促すと、猴はみんなの前に行こうとして・・・すってーん!とどっかの空港で見せた見事なコケ芸を披露なすった。それはもうさっきの見事な演武を披露してたとは思えないほどの勢いで両手を上にあげて顔面から地面に突っ込んだのである。これにはさすがのみんなも度肝を抜かれたようで痛いほどの沈黙が場を支配している。

 

 思わずいたたまれなくなってしまった俺が咳払いで注目を集めた隙に猴は立ち上がって赤くなった鼻をさすりながら鼻にかかったなんともマヌケな声で自己紹介を始めた。

 

 「いたた・・・えー、你好。香港藍幇所属ヒーローの孫、いうです。遠山の紹介でみんなの格闘術の訓練をさせてもらうことになったです。 很高兴见到你(よろしくです)

 

 なんとも微妙な拍手が場を支配するが、まあこいつのことをなめてかかれるのはここまでだ。訓練が始まったらびっくりするくらいちゃんとするから安心して大丈夫・・・だと思う。締らねえなあ・・・・



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再装填 捌挺目

 猴の近接格闘講座、滑り出しは最悪である。みんながみんな微妙な顔をしているわけで・・・きちんとこっちを見てるのは猴のことをあらかじめ知っていた緑谷、尾白、拳藤くらいのもんだ。とりあえず咳払いした猴が自己紹介を終えるとセメントス先生に合図。セメントス先生は頷くとTDLのコンクリを操って猴の前に一つの大きな立方体を作り出した。猴のおおよそ2倍のその立方体に前に立った猴は何事かとこちらを見る生徒たちに向かって語り掛ける。

 

 「・・・今の時代、戦闘は個性に支配されてるです。テレビをつければ必ずヒーローの戦闘がどこかのチャンネルで映り、そしてその個性戦闘に子供たちはあこがれる。いつか自分も自分の個性を使ってこうなってみたいと。けどそれは上澄み、ヒーローの仕事のほんの一部。派手な個性戦が許されるのは開かれた屋外が通例です」

 

 猴が拳をゆっくり構え、ゆるゆるとその立方体に近づける。コツン、とコンクリの箱にぶつかった拳を猴がすっと引く。すると数瞬後まるで内側から崩壊するかのようにコンクリが静かに崩れ落ちた。思わずそれに舌を巻く。おそらく日本でいう鎧徹し、それと中国武術の基本技、発勁だ。俺が使う無寸勁より難しい、動かしながらの脱力と力みの落差を極めに極めた先が今の内側から爆発する衝撃に代わったのだ。

 

 全員が全員目を見開いて目の前で起きたことを信じれないという感じだ。個性を使えば可能なやつらはもちろんいるが猴は物を内側から崩壊させる個性じゃないうえ、訓練を受けている俺たちにはいやでもわかっちまうのだ。いま目の前で行われたことは個性でも何でもないただの技術であると

 

 「わかるですか。個性なしでも人は鍛え上げればこんなことができる。そして今のような技術は()()()()()()()。たとえそれが狭い屋内でも、開けた屋外でも・・・相手と自分の体があれば戦うことができる。猴が今から教えるのは個性抜きの戦い方。武器を使わず己が五体で相対する方法です。雄英でももちろん徒手格闘は習うでしょうが、猴はその一歩先の技術を教えるです。技術は個性だけではなく体の動かし方もしかり・・・きちんとついてくるですよ」

 

 「「「「はいっ!!!」」」」

 

 「いい返事なのです。じゃあまず、猴とみんなで個性なしの組手するです。全員一緒でだいじょぶです。みんなの強さ、猴に見せてください」

 

 要は乱取りか。相澤先生とセメントス先生が生徒を立たせて猴を中心に円形になって囲む。さすがにあんなことをされあ後だともう猴のことを侮ってるやつはおらず全員が全員真剣な表情をしている。俺は残念ながら審判側に回る必要があるため不参加だ。くっそー・・・猴と組手するなんてなかなかできることじゃないんだがなあ。住んでる国違うし。

 

 「じゃあ、全員準備はいいな?・・・はじめ!」

 

 

 初っ端先手を取ったのは猴を呼ぶ理由にもなった尾白と、真後ろにいた庄田だ。どうやら庄田も武術の心得があるようで歩法も悪くはない。庄田が真後ろから拳を、前から尾白が飛び後ろ回し蹴りを放つ。猴はそれを

 

 「勢いはよし、けど攻めとタイミングが甘いです。もう少し息を合わせてみるですよ。咄嗟の時のチームアップ、これもヒーローに必要なものです」

 

 ストンッと足を前後に開脚し、地面に腰を落として両方とも避けてしまった。構えが古流ではあるが多分花拳(ファカン)という拳法だったはずだ。尾白の飛び後ろ回し蹴りが頭上を通過し庄田に当たってしまう、というタイミングで

 

 「おっと、同士討ちに気を付けるです」

 

 なんて言ってそのままねずみ花火のように回転、足で庄田に足払いをかけ手で腰をつかんで蹴りの軌道から庄田を外して優しく投げた。猴を飛び越えて着地した尾白と立ち上がった庄田が構えをとる中遅れて攻めてきたのはカチコチコンビ、切島に鉄哲だ。2人とも男らしく正面突破を選ぶようで意外に気は合うのか、切島がタックルを仕掛け、鉄哲は猴を顔面からぶん殴りに来た。

 

 「おお、息ぴったりですね。攻撃も思い切りがよくて花丸あげるですが、ちょっとまっすぐすぎます」

 

 すでに立ち上がっていた猴は、切島の体を両掌で受けてずらし、体格差があるにも関わらずそのまま止めた。軽く見えたが一瞬足を踏み鳴らし震脚を入れて体を固定したな。鉄哲の拳は顔面をとらえはしたが頬に入った瞬間力のベクトルをずらされて掠るだけに終わる。ありゃ太極拳の化勁だ。止められた切島は猴が受け止めたまま両手の発勁で強く押して飛ばし、鉄哲に衝突させる。続けてきたのは拳藤に常闇、そして飯田。それぞれ掌底、パンチ、蹴りを仕掛けるが見事に猴にそらされる。猴の訓練は実戦形式で徹底的に相手の欠点を自覚させ、それを克服させるか補えるように長所を伸ばしていくのが特徴だ。だから組手の最中でも猴はアドバイスをやめない。何かしらの助言をしながら攻撃をさばいていくのだ。

 

 麗日の捕縛術を逆に捕まえなおして軽く投げ飛ばす。穴田と取蔭、障子も3人の同士討ちを誘発しつつ同士討ちが直撃する前に攻撃をそらしてやって振り回すだけ振り回して転がす。分析に時間をかけ最後に残った緑谷に対しては

 

 「分析力はあるですけど思い切りが足りないです。歩くより走ることが正解の時もあるですよ。有名な言葉にするなら、考えるな、感じろ。というやつです」

 

 と言って最後の締めなのか中国武術の蹴り技にしては派手なことで有名な旋風脚を入れて蹴り飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 「それじゃ、今日はこれで終了なのです。また明日、やるですけど合わないなら途中でやめてもよし。まだ続けたいなら歓迎するです。それじゃ、再見(ツァイチェン)

 

 「「「「「ありがとうございました」」」」」

 

 結局のところ全員今日は猴にクリーンヒットを入れるどころか有効打を与えることが出来ずに終わった。途中から組手形式ではなく俺も混ぜてのフォームチェックや基本的な格闘術の理論に至るまでの総さらいみたいな感じになったけどな。けど雄英の格闘術とはまた別アプローチでの訓練に手ごたえを感じている奴もいるようで多分脱落するやつは出ないだろう。強さに飢えるやつほど猴の訓練に食らいつきに行くはずだからな。

 

 「猴さん、今日はお疲れさまでした。こちらとしては1日やってくれるだけでもありがたかったのですが・・・よろしいのですか?自国のこととか」

 

 「あい、とりあえずこちらでいう仮免の試験くらいまでは猴は休みをもらっているです。面倒見るからにはとことん付き合うのが猴の流儀、中途半端で投げ出すのは逆に危ないです。初めの時に脱落するなら元から合わなかっただけのこと、残った子たちに心血注ぐ。それが師というものです」

 

 なんてことを話しているとみんなが疲れて倒れてる中緑谷が何とか立ち上がってこちらに来るところだった。すげえな緑谷、比較的体力がある飯田でさえ無言で眼鏡を曇らせてぶっ倒れてるのにもうたったのか。ちなみに武術やってる組は猴が比較的厳しく当たったため死に体だ。怪我は一切してないけどな。全部疲労だ。

 

 「えーと、あのちょっといいですか?」

 

 「あい、緑谷。どうしたですか?」

 

 「えっと、その・・・遠山君が電話した時にちょっと出たと思うんですけど・・・僕は今拳から蹴りに攻撃手段を移行してるところで、さっき猴さんが僕に打った蹴り技が気になってて・・・どういうものなんですか?」

 

 「ああ、そんなこと言ってたですね。さっきのは旋風脚、映画とかでもよく見る技です。拳から蹴り・・・(シィ)、わかったです。功夫でよければ猴がちょっとだけお手本を見せてあげるです。必要なら撮っておくといいです」

 

 「ほんとですか!?ありがとうございます!」

 

 緑谷がいそいそとスマホを取り出して撮影モードにしたのを確認した猴がちょっと離れる。ぶっ倒れてたやつらも身を起こして何が起こるのかを見ているようだ。まず猴は拳礼をして構えをとる。少林拳だ。

 

 「功夫の蹴り技はそこまで多彩ではないです。どちらかと言えば八極拳に代表されるように掌打の技の方が圧倒的に多いですが、今の時代残った技はどれも磨き抜かれた実践的なもの。例えば先ほどの旋風脚」

 

 猴が静かに動き出し、きれいな弧をえがく旋風脚を放つ。そこから演舞のように多彩な蹴り技を放っていく、足の裏で真上を蹴り、踵を落とし、膝をあげ、足刀を切る。磨き抜かれた柔軟性と技術が織りなす蹴りのみの演武はまるでそれが一つの芸術作品のようだ。蹴りが空を切る音と猴が足を踏み鳴らす音以外の音が消えるほど、全員がその演武に目を奪われていく。

 

 穿弓腿、前掃腿、提腿栽捶、斧刃脚に連環腿と中国武術の足技がとてつもない精度で繰り出されていく。カメラで撮ってるからゆっくりやっているはずなのにキレだけは全く衰えていない。例えば蹴りの軌道上に何かあってもそれを切り裂いてしまいそうな鋭さがある。

 

 5分ほど演武をした猴はまた拳礼をとって構えを解いた。わっと周りが沸いてぶっ倒れてたやつらが猴の周りを取り囲んでわちゃわちゃやってる。急に囲まれてあわあわやってる猴に口々にすごいだのきれいだっただの言われてお目目がグルグルしてきた猴を助けに俺は歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そうして訓練の日々はあっという間に過ぎていった。猴の講座のおかげで受けたやつの格闘能力は飛躍的に伸びているし、俺も大和や万旗のことについてアドバイスをもらい何とか通常状態でも万旗を使用可能なレベルに持っていけるようになったし、大和も完成が近いだろう。緑谷も発目が開発したアイアンソールと腕のサポーターをヒーロースーツに取り入れ、シュートスタイルという新しい必殺技にたどり着くことに成功した。

 

 尾白も猴のテストを無事クリアし、思ったより合格が早かったという猴からオリジナルの尻尾を使った投げ技を直接伝授されてたよ。ファンだって言ってた拳藤も猴が掌を使う個性ならこれがいいと八卦掌のさわりだけ教えていたりしたしな。

 

 そして仮免試験一日前の今日、やっとジーサードの会社に送った俺のヒーロースーツが大改修を終えて戻ってきた。さすがにぶっつけ本番で機能を使う度胸はないので消灯時間間近ではあるが、相澤先生に頼み込んで機能の確認をやらせてもらっている。

 

 まず第一に俺のスーツは装甲の中にマガジンを入れてそれを電磁レールで手元に送る方式を採用していたが、発目と平賀さんがそれを改造、開発して全く新しいシステムに変えてしまった。まず装甲の中に拳銃弾を特殊繊維でより合わせた弾帯を仕込み、適宜必要数を装甲から出して繊維をカットすることで手元に送り届ける方式に代わる。そしてそれのために作ってくれた専用のマガジン、カッターマガジンを装備した。上着のジャケットも改良され以前よりスムーズに、腕や足が曲がってても弾を届けられるように専用のルートが服の中に用意されている。

 

 これによりフルオート改造が施されている俺の拳銃は疑似的に機関銃に代わるのだ。あの夜発目に平賀さんが嬉々として説明してくれたシステムがこうも見事に完成されてるのは感動を覚えるな

 

 さらに装甲も増えたがその分薄く軽量になっている。そしてその増えた装甲のおかげでまた別の新しいシステムを仕込んでくれたのだ。今俺の体は前のスーツの時にあった装甲はそのままに何もなかったところにも細かく分割された装甲が覆っている。それは俺の体の動きに合わしてフレキシブルに連動し、打撃の際に電磁石で強力にくっついて固定され疑似的な外骨格に代わる。これにより打撃の際に帰ってくる反動が大幅に軽減され、本来なら自損してしまう威力で大和を打ったりしても問題なく体を動かせるくらいには負担は軽減されている。

 

 装甲自体の強度も上がり、スペック上ではマッハ4の衝撃までなら耐えられるそうだ。つまりマッハ4で桜花や天抛、威力を増強させた鷹爪狼牙を放つことができる。ある意味で俺の弱点でもあった「技の威力に装備が耐えられない」というのも解決してくれた形である。

 

 新しく装備に加わった流星刀についても進展があった。専用のアタッチメントを鞘に増設することで背中、腰の後ろ、そして両腰の横につけられるようにできていたのだ。これは確かにジーサードが気を利かしてくれた形になるな。ついでに平賀さんに「名前を付けてあげるといいのだ」なんて言われて、確かに刀は武士の魂と言うしなと納得してしまった俺は遠山の技によく花の名前が使われていることになぞらえてこう名付けることした。

 

 無銘「梔子」・・・・それがこの刀の新しい名前だ。由来は口無しと朽ちなし、口ではなく実力で示すという自戒と長い間地面に埋まり、じいちゃんが40年使いこんでも全く朽ちなかったこの刀への称賛を込めてこう名付けることにした。

 

 総括してベットネームは「八岐大蛇(メタルストーム)」。俺の新しいヒーロースーツだ。多少は重くなったが俺も夏休み前よりはだいぶんフィジカルも成長している。そこまで問題はないだろう。カッターマガジンの調子も良好、テラナでの指定通りの弾数が装甲からきちんと出てきた。フルバースト用の弾帯も同様。電磁石による反動吸収システムも問題なく動いている。これなら明日の仮免試験も怖くはないな。

 

 『遠山、そろそろ時間だ。明日に備えてもう休め」

 

 「了解しました。お付き合いいただきありがとうございました。相澤先生」

 

 

 さあ、明日は大一番だぞ。雄英で習ってきたこととここ10日間で猴に倣い、自分で磨き上げた技術を総結集するときが来たんだ。

 

 俺は気合を入れつつ、着替えるために更衣室へ向かって着替え、明日に備えて睡眠をとるのだった・・・・なんでかなでは兎も角猴まで俺の布団で寝てるんだ・・・?

 

 

 

 

 




 さすがに本編進まなすぎなんでバッサリカットさせてもらいます。

 次回からまた原作に戻る感じなのでほどほどにお付き合いしてくれると嬉しいです


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再・第一弾

今回は無双成分マシマシで・・・最近そこが無いような気がするので


 というわけで翌日のこと、ヒーロー仮免許の取得試験場である国立多古場競技場へ行くために俺たち1-Aはバスに揺られてる最中だ。試験場と言っても全国津々浦々いろんな会場があり、年2回ある試験の会場の一つというだけで別会場もまたある。B組は同校同士の潰しあいを避けるために別会場に行くということらしい。見事に物間がほっとした顔をしていたのが印象的だった。腹立つけど憎めないんだよなあいつ。

 

 猴は仮免の試験がある今日、俺たちの合格を見届けるためなのか帰る日をちょっと伸ばして明後日にした。「かなでちゃんは見ておくので心置きなく試験に臨むです」とかなでのお守まで買って出てくれてありがたい限りだ。

 

 バスに揺られること結構な時間、相澤先生が到着の合図をくれたのでそれぞれ改良したヒーロースーツを手にした俺たちはそれぞれバスを降りる。前には東京ドーム、いやそれ以上にでかいことで有名な多古場競技場がその威容を見せている。

 

 「試験何やるんだろう・・・はー仮免とれっかな・・・・」

 

 「とるとらないじゃないぞ峰田。とってこい。あとお前らも、この試験に合格すれば晴れてヒヨッ子、受精卵から孵化できるんだ。頑張ってこい」

 

 「おっしゃああ!なってやろうぜヒヨッ子によお!お前ら円陣組んでいつものやるぞ!」

 

 相澤先生の激励にこういう時に頼りになる切島がいの一番に音頭をとって円陣を組む俺たち。なんかこういうの気恥ずかしな、校内じゃなくて校外でやるのは。

 

 

 「絶対全員で合格するぞぉ!・・・・せーのっ! Plus・・・」

 

 

 「「「「「「Ultra!!!!」」」」」」「Ultra!!!!」

 

 ん?いま俺たちじゃないやつが混じってなかったか?と円陣を解いた俺たちが後ろを振り向くと帽子を被ったガタイのいい坊主の男子生徒が俺たちの円陣に割り込んでいたのだった。どちら様でいらっしゃる?

 

 「イナサ、勝手によそ様の円陣に加わっちゃダメだよ」

 

 「ああ!しまった!!!どうも大変失礼いたしました!!!!!」

 

 ゴッツン!と地面に頭をぶつけるくらい頭を下げたイナサとよばれった男子生徒・・・なんというか上鳴と切島と飯田を足して極端にしたみたいな感じだな・・・ん?こいつらの制服・・・覚えがあるぞ。たしか・・・士傑高校!東に雄英、西には士傑ありとうたわれる。雄英と並ぶ超難関校だったはずだ。

 

 すでに去っていった彼ら・・・というか夜嵐イナサは雄英の推薦入試をトップで合格したにもかかわらず入学を辞退したことで先生方の間で一時話題となったのだそうだ。ふーん・・・ガタイもよかったし所作からも訓練された動きが伝わってきたからそう驚くことじゃねえが・・・轟を抑えたのか・・・要注意だな。

 

 そうして会場に向かうさなか傑物高校のプロヒーローが相澤先生と知り合いだったらしく、結婚しようだの付き合ってくれだの熱烈な愛の告白・・・というか冗談かを受けている。緑谷の紹介だと彼女はMSジョーク、ヴィランを個性で大爆笑させて戦闘不能にする狂気のヒーローだとか。いろんなヒーローがいるなあ・・・戦闘するだけがヒーローじゃないっていうのがよくわかる。心操みたいなタイプのヒーローだな。

 

 そんなわけで傑物高校の皆さんと一緒に会場に入るとすぐさまヒーロースーツに着替えるように指示が出た。とりあえず相澤先生はこれ以上先には進めないようなので別れ、俺たちはそれぞれ改良を重ねたヒーロースーツに身を包み、試験の説明をする会場に集められたのだった。

 

 「すごい人数・・・」

 

 「軽く1000人くらいいるな。それを収容しちまう会場にも脱帽だがヒーローになりたいやつもここまで多いんだな」

 

 「ヒーロー飽和時代だもんね・・・・」

 

 軽く緑谷とだべってると壇上にすごく顔色が悪いスーツ姿の男性が現れ、ペラペラと原稿をめくり始めた。今にも倒れそうな顔いろをしてらっしゃるけど大丈夫なのか・・・?いろいろ心配になってくるぞ。主に公務員さんのブラック具合とかな。

 

 

 『えーあー・・はい。じゃあアレ、仮免のやつね、初めて行きます。あー、僕公安委員会の目良です。仕事が忙しくてろくに眠れず人でも足りず・・・今現在もとても眠たい。そんな状況でご説明させていただきます』

 

 ほんとに大丈夫かこの人!?説明の途中でぶったおられても困るんだけど・・・?

 

 『はい、じゃあズバリ今から行うのは勝ち抜きの演習です。合格者は・・・先着100名。ここには1500人弱いらっしゃいますのでざっと10%以下になります』

 

 兄さんが仮免とった時の合格者よりだいぶ少ないぞ!?こりゃ枠の奪い合いが激化してくるな。何をするかでこれからの俺たちの動きも変わる。

 

 『ステイン逮捕以後、現代のヒーロー飽和社会に疑問を呈する向きが増えてきました。まあ個人的にはステインの主張には反対ですが・・・とにかく現在の事件発生から解決までの時間は多くのヒーローの尽力によりヒくくらい迅速になっています。もし君たちが仮免許を取得すればそのスピードの中に身を投じることになる』

 

 ステインの主張・・・英雄回帰論か。代々正義の味方なんて奇特なものをやってきた俺たち遠山家にとっては耳の痛い話だ。無償の奉仕は聞こえがいいが、それは持ってるやつのみができること。持たざる者は多かれ少なかれ対価を求めてしまうのは仕方ないだろう。

 

 『酷な話ですが、その激流についていけるスピードを持たぬものははっきり言ってやっていけないでしょう。なので先着順、スピード勝負の先着100名のみ!で、やることですが・・・コレ』

 

 目良さんが出したのはボールと・・・薄い機械だ。ターゲット・・・か?そしてボール・・・ボールあてか。ただの殴り合いよりよっぽどたちが悪く嫌らしい試験だな。協力しにくくしてやがる。同校同士の潰しあいを誘発しかねないだろう。

 

 『君たちはこのターゲットを3つ、体の露出してる場所につけてください。見えない場所は禁止。そしてこれは攻撃用のボールです。これをターゲットにあて、3つ目のターゲットにあてた瞬間ボールを当てた人が倒したことになります。そして2人倒したものから勝ち抜きとします。えーじゃあ、展開後、配るんで全員にいきわたってから1分後スタートということで」

 

 なるほど、つまりターゲットは当たってもいいライフみたいなもんか。そして倒した判定は相手を脱落させることが条件・・・そしてこれは体の硬さなどの防御系個性や発動系個性も何もかも関係ないフラットかつ過激なルールだ。さて、どうしたもんか・・・と考えてるとズズズズズ・・・と部屋の天井が開き、壁が横に倒れていく・・・展開ってそういうことか!?

 

 現れたのは様々な地形を再現したバトルフィールド・・・無駄に大掛かりかつ金がかかってそうだ。とりあえず俺はどうするか・・・単独行動が無難か?みんなで固まってると誤射に気をつけなきゃいけないせいでこういう時に大活躍する銃が使えなくなっちまう。誤射ってのは危ないからな。意図しないところに当たるせいで失明なんかのリスクを背負うことになる。自分一人で集中できりゃ基本大丈夫だと思うからな。

 

 「飯田、緑谷、俺は単独で行く。チームアップが必要そうなやつらはお前らがまとめろ。多分、いの一番に狙われるのは俺たち雄英だ」

 

 「やっぱり・・・!それなら遠山君も僕らと一緒にいるべきだよ!わざわざ一人になるなんて危険すぎる!」

 

 「いや、確かにお前らといた方が安全なのはそうだろうな。が、お前らと一緒にいると俺の手札が狭まる。誤射のリスクを負うくらいなら最初から単独で動いたほうがいいんだ。それに、多分俺はよく狙われるだろうからな」

 

 「狙われる・・・?何を言っているのかわからないが勝手な行動は慎みたまえ。全員で合格できるようにするべきだ」

 

 「そうなるように俺が離れるんだよ。いいか?俺は体育祭で優勝し、神野の件でもテレビで戦闘を撮られた。外からすりゃスタイルが全部割れたネギ背負ったカモなんだよ。そんなんが一人で歩いている、囮には最適だろ?それに言ったはずだぜ、戦場で多対一は当たり前だって。勝算はあるから心配すんな、じゃあ後でな」

 

 「うん、わかった・・・みんな!チームアップだ!できるだけ一緒にいよう!」

 

 緑谷の掛け声を背に受けて、俺はガジェットを受け取って早速装着する。場所は左胸、右腰、左足。そうして向かう場所は俺の得意とする銃技が最も輝く場所・・・コンクリに囲まれ閉所が多いビル街のエリアだ。あいつらから遠く離れて俺の存在を誇示することができれば、最初の様子見の段階で俺の方に引き付けることができるだろう。

 

 

 

 『全員にいきわたりましたのでもうすぐ開始させてもらいます・・・・5,4,3,2,1・・・はじめ!』

 

 

 開始の合図後すぐさま堀蜥蜴でビルを駆け上り、屋上に入る。地面を見ると・・・いるわいるわ混戦模様の俺と同じヒーロー候補生が。そんで、俺の後ろに3人、横に2人、前に3人と。隠れてるつもりらしいがまだまだ甘い。個性でヒスりつつポリポリ頭をかき、、抜き打ちでベレッタを8発撃ってやる。

 

 「えっ!?」「おわっ!?」「うそでしょ!?」「まじか!?」「痛っ!」「ぐっ!」「なんで!?」「くそっ!」

 

 「どーも、諸先輩方。もう少し気配を隠す方法を学んだ方がいいですよ・・・今、実践なら殺られてましたからね」

 

 複雑に壁を跳弾した弾丸がそれぞれ気配を隠してたやつらのターゲットど真ん中に一発ずつ着弾した。透のおかげで風の吹き方で遮蔽物の先をイメージしやすくいなってたのが功を奏したな。ま、まだ時間を稼ぎたいからボールは使うつもりはねえ。もう少しだけ銃で挑発してやる。

 

 ジャッと見せつけるようにカッターマガジンで使った弾丸分リロードした俺が銃底でがりがり頭をかいてあからさまに挑発してるとさすがにしびれを切らしたのか8人全員がこちらを囲って姿を現した。腹立つのはやってるからよくわかるんだけど俺一人潰すよりほかの人を狙った方がよくない?

 

 

 『合格者が早速出ました・・・一人で・・・120人!?一気に目が覚めた・・・』

 

 「へえ、早いんだな。雄英だといいんだけどな」

 

 「「「「「無視すんなぁ!!!!」」」」

 

 「ちゃんと見てますよ。なめてんのはそっちだろ」

 

 バチッとデザートイーグルも出して2丁拳銃に、そこからバリバリバリ!と機関銃のように銃を乱射する。ただし、きわめて精密に。先にはなった弾丸が跳弾し、後続の弾とぶつかり続け、軌道を変えて弾丸の檻を形成していく。思わずたたらを踏んで止まってしまった先輩方に最後に仕込んだ弾丸が真後ろで跳弾し、それぞれ首の真後ろを強烈に叩いた。するとどうなるか、強い圧迫を受けた脊椎は一時的に麻痺し運動機能が完全に停止する。ぶっ倒れた先輩方は何が何やらわからない様子だ。

 

 「鉄風(テンペスト)延髄切り(ゲットーブラスト)、2分くらいすれば動けるようになります。ま、それまで不合格になるかならないかは運しだいだけどな」

 

 「どうして・・・倒していかないんだ?そうすれば君は合格できるのに・・・」

 

 「雄英から先んじてつぶすのは多分恒例なんだろ?じゃあ一番戦闘映像が多い奴ほどよく狙われるよな。そんなら情報戦が終わるまで囮になりゃほかのやつらは多少楽になるだろ。機を見て合格を狙えばいい。一番に意味はない試験ならな」

 

 そう言って屋上を後にする。途中で『30人合格!残り70人ですよ!』という声が聞こえた。60人超えたあたりが後半戦だろう。じゃあ目安はそこだ、それ以上は悪いけど面倒見切れないんでな。

 

 

 「一人とは余裕だな雄英ぃ!!!」

 

 「おっとあぶねえ」

 

 ビルから出た途端湧いて出てくる他校の群れ。個性を合わせて投げてくるボールをデザートイーグルで迎撃する。初弾からフルスロットルだ。飛んでくる100発以上のボールを軌道計算、当たるやつのみに発砲し連鎖撃ちを併用して後続のボールを次々はじいていく、個性が作用してるやつはどう動くかわかったもんじゃないので四方八方どこに動いでもはじけるようにはじいたボール同士をぶつけて誘導する。

 

 バァッと俺だけを避けるようにボールが通り過ぎ、俺にはかすり傷一つ与えられてない。そろそろ一人くらいとっとくか?腰から2つボールを取り出し放る。そこからデザートイーグルで放ったボールを銃撃する。個性を使用する関係上ボールは結構頑丈だ。スーパーボールのように跳ね回り、近くで様子をうかがっていた一人の生徒に襲い掛かった。

 

 「うわっ!?くそっ!」

 

 「悪いな先輩。もらってくぜ」

 

 そう言って、もう一発発砲、2つのターゲットに当たって跳ね回ったボールをまた反射、最後のターゲットに命中し、先輩は脱落、俺は一人倒した扱いとなる。愕然とする先輩に申し訳なく思いながら、戻ってきたボールをキャッチし迫る軍勢に突っ込んでいく。

 

 『50人合格、残り半分です!』

 

 迫るボールと個性を銃と体技でさばいていく。幸い俺のターゲットは体の前面にあるから後ろはそこまで気にしなくていい。何だったら装甲で滑らせれば解決する。梔子を取り出してデザートイーグルとの一刀一銃へ、目の前に至るボールをマッハ2の桜花で振った梔子で一刀両断、余波の衝撃波が攻撃者を叩く。恐れおののくように逃げるやつが何人かいるがそれが正解だ。

 

 こう言ったら非常に失礼な話なんだが、ここに来てるやつらは俺ら雄英と違って実戦経験が不足している。といっても俺らが積まざるを得なかった理不尽な実戦のことなんだけどな。つまるところその微妙な差だ。力量だけでいえば俺たちよりできる人の方が多いだろう。だが、不慣れな環境、慣れない対人戦、合格人数を絞ったことによる焦りで大部分が実力の半分も出せてない感じだ。まあ多分、俺ら雄英はどこに置かれてもいつも通り実力を出せるだろう。そうしなきゃ死ぬ環境に何度も立ち会ってきたのだから。

 

 デザートイーグルで迫るボールを迎撃し、梔子を振った衝撃波で個性を対処する。結構ばらついてきたな・・・もうそろそろいいか。トン、トン、トンと秋草のベリーショートキックを地面に打ち込み陸奥轟酔の準備をする。幸い飛行可能な個性もちはいないみたいだし全員どうしたもんかと俺を囲って睨みあってる状態だ。そんなことしてる暇あったら別のやつ狙えばいいのにな。

 

 『70人突破!残り30人!』

 

 「よし、行くか。先輩方、お先に失礼します!陸奥轟酔!」

 

 バキン!と最後の秋草のショートキックを地面に打ち込むと、周りで俺を囲っていたやつらはぐらりと傾いて倒れた。もがくように立とうとするやつや揺れに弱い体質なのか嘔吐してしまってるやつもいる。常闇に使った時よりだいぶ威力上げて撃ったからな・・・とりあえず近場にいるやつのターゲットにボールをタッチさせる。すると俺のターゲットが3つ全部点灯し、合格を告げ待機所まで行くように促してくる。

 

 陸奥轟酔で倒れた残りのやつは放置する形になるが・・・ま、運が悪かったと思ってくれ。自分を捨てて仮免の合格を逃したくないからな。俺は案内通りにその場を後にし待機所へ向かうのだった。

 




仮免取得編って原作の描写があまり多くないから駆け足気味になっちゃうなあ・・・


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再・第二弾

 『合格者100人達成!ではこれから2次試験の説明をするので合格した人は待機室まで急いでねー』

 

 移動してるときにそんな声が聞こえた。あっぶねえ割とギリギリだったんだな。落ちてしまって演習場を後にする先輩方とは逆方向に進み、待機室まで向かう。途中までいくとあれは・・・飯田たちだ。合格できたみたいだな・・・というか少ない・・・分断されたか落ちちまったのか・・・・

 

 「よう、お前ら合格できたのか?何よりだな」

 

 「遠山君!君も合格のようだな!とりあえず今ここにいる雄英生は全員合格している!分断されてしまったから他はわからないが・・・」

 

 「そうか・・・ま、あいつらなら大丈夫だろ。それよりほれ、早く行こうぜ」

 

 「にしても遠山!お前一番に合格してると思ったぜ!」

 

 「たしかに!銃でスパーン!って倒してさっさと合格してるかと思ってた!」

 

 「ああ、できるだけ目立って囮やってたからな。お前らの方に人が集まりすぎないように。意図してるかは知らんが爆豪とか轟も同じ効果があったはずだぜ。俺は合格順調整してたけどな」

 

 「そんなことやってたのか!?はー、才能マンはちげーなぁ・・・」

 

 「合格できりゃ一緒だろ。俺は対人戦がお前らよりだいぶ得意なだけだ」

 

 「「「「だいぶで済ませるな」」」」

 

 息ぴったりに突っ込まれて少し悲しくなった俺は足早に待機室へ向かう。途中疲れたといった透におんぶを強制されてヒス化の危機と戦ったりしていたがそれもむなしくヒスってしまった俺たちが待機室へ入ると・・・

 

 「「「「あーーーー!!!きたああああああ!!!!」」」

 

 俺たち以外のクラスのやつらがいの一番に駆け寄ってきた。見るに・・・・全員いるようだ。ってことは・・・・

 

 「「「1-A全員一次試験突破!!やったあああああ!!!」」」

 

 囲みあって喜び合う俺たち。いやホントだぜ。1500人の中の100人のうち20人を雄英が占めてるんだから、これはすごいことだ。割とマジで全員合格いけるんじゃねえか?

 

 

 

 『えーはい。100人の皆さん・・・こちらをご覧ください』

 

 あ?ってありゃさっきのフィールドじゃねえか・・・どこもおかしな所なんて・・・と暢気に考えてるとドゴォォォン!!!と映像の中、そして外で大爆発が起き待機室が揺れた。なんだなんだ!?なぜそんなことをする!?勿体ないだろうが!あのセット作るのにどんだけの金がかかってるかは知らんが少なくとも壊すもんじゃないだろ!

 

 『次の試験でラストになります!皆さんはこれからこの被災現場でバイスタンダーとなり救助演習を行っていただきます!』

 

 そういうことか!バイスタンダー・・・たしかその場に居合わせた人のことだ。つまりは被災現場にたまたまいたヒーローとしての行動を見られるわけか・・・ん?よく目を凝らすと・・・さっき爆発したばかりの現場に老人や子供などが続々と入っていくところだった。何やってんだあぶねえな!?まさかあれが救助対象ってことか!?なんで人間使ってんだ!人形にしとけよ!

 

 『今映ってる彼らはあらゆる訓練において必要とされる要救助者のプロ!ヘルプアスカンパニー、通称HUCの皆さんです!』

 

 要救助者のプロってなんじゃそりゃ。世の中にはいろんなお仕事があるんだな。また一つ勉強になったわ。くいっぱぐれたら面接受けてみようかな。

 

 『ヴィランによるテロが発生したと仮定し傷病者に扮したHUCを全フィールドから救出!これが試験内容です。今回は救出活動をポイントで採点し終了時規定値を超えていれば合格となります。開始は10分後、トイレ等はすませておいてくださいねー』

 

 採点制・・・また仲間割れを誘発するようなことをしやがって。つってもまあ救助人数がどうこうってわけじゃないだろ。要は行動だ。そんで救助訓練・・・・俺らの弱点が来たな。こういうのはモロに経験値が来る。救助訓練なんて俺たちはまだそこまで訓練したわけじゃない。授業でやっちゃいるが周りの落ち着きようと俺たちのざわめきを考えるに差は歴然だ・・・しゃあねえ

 

 「おい!全員ちょっといいか?作戦会議がしたい。聞いてくれ」

 

 俺が声を張り上げるとクラス全員がこっちを向いてくれた。爆豪ですらさすがに黙って話の続きを促してくれてる。まあ無視されてるだけかもしれねえけどな。それはそれでいい。

 

 「今回の試験、俺たちにとっては鬼門だ。だから状況を整理するぞ。状況はヴィランによるテロが発生、俺たちは仮免を取得済みのバイスタンダーとして救助に当たる。それまではいいな?」

 

 全員がこくりと頷く。俺はそれを確認して話を続ける。こういうのはガラじゃないがやっておいた方が後で楽になるからな。

 

 「授業で習ったと思うが救助は基本的に役割分担だ。つまり自分のできることをできる範囲でやることが大事ってことだな。何でも一人でやるもんじゃない。周囲との協力、おそらく採点ポイントのひとつはそこだろう。で、提案なんだが、あらかじめ何をやるか決めておきたい。もちろん臨機応変に動く必要はあるだろうが持ち場をきめておくと楽になるだろうからな。どうだ?」

 

 「いいと思う。僕らはここにいるほかの人たちに比べて1年早く来てる。その分知らないことは沢山あると思うんだ。その分を協力して補えれば大きなプラスになるんじゃないかな」

 

 「賛成しますわ。私ではパワーのいる作業は向きませんし、ほかの方にも向き不向きがあります。それで、どう分けますの?」

 

 「そうだな・・・とりあえず俺の独断と偏見でいいか?」

 

 「構わねえ。そういうことに関しちゃお前が一番信用が置けるからな。爆豪!いいよな!?」

 

 「うるせえ!・・・勝手にしやがれ、聞くだけ聞いてやる」

 

 切島が爆豪の承認を半ば強引にとったので俺は頭で考えてたチーム編成を話していくことにした。なんか爆豪神野の件以来ちょっと丸くなった気がするな。こちらの話をある程度聞いてくれるようになった感じがする。緑谷に対する態度は変わんねえけど。

 

 「まずヴィランによるテロという設定、おそらくどっかで仮想敵が出てくる可能性がある。だから救助兼戦闘を爆豪、切島、上鳴でリーダーを爆豪。爆豪の判断で自由に動け、ただヴィランが出たら倒しに行ってくれると助かる」

 

 「おう!」

 

 「わかった」

 

 「ケッ」

 

 「で、こっちが本命の救助部隊、緑谷、瀬呂、常闇、轟、峰田、耳郎、青山。リーダーは緑谷な。んで安全地帯へ搬送する部隊。飯田、尾白、芦戸、麗日、梅雨、障子。リーダーは飯田。そんで最後、救助部隊にくっついてその場で応急処置をする部隊、俺、口田、八百万、透。応急処置の部隊は応急処置の授業の成績上位4人から。他は個性とガタイと身体能力、あとは相性。異論は?」

 

 「「「「「なし!!!」」」」」

 

 「よし!部隊単位に縛られるなよ。必要があれば各々できることを怠るな!全員で合格目指そうぜ!Plus・・・」

 

 「「「「「「Ultra!!!!」」」」」」」

 

 全員で円陣を組み校訓を唱和したところで、ジリリリリリリ!!!とベルが鳴り待機室がまた天井から展開し始めアナウンスが鳴り響き始めた。始まったか。

 

 『ヴィランによる大規模災害が発生!規模は○○市全域、建物の倒壊により傷病者多数!応援を要請されたし!道路の損壊が激しく先着の救急部隊の到着に著しい遅れあり!到着するまでの救助活動をその場にいるヒーローに要請します!』

 

 「ケロ、始まるわね」

 

 「みんな、がんばろう!」

 

 『一人でも多くの命を救出してください!・・・スタート!!』

 

 「いくぞ!」

 

 「「「「「おう!」」」」」

 

 全員で一斉に飛び出し、走りながら各々どの場所を担当するか学校単位で大声で話し合う。一番生き残りが多い雄英と士傑がどこを担当するかが焦点だ。訓練の度合いが高い士傑が一番損壊具合の高い東市街地方面を担当するのがいいだろう。俺たち雄英はその次に被害がひどい北だ。

 

 「八百万!通信機いくつか作ってくれ!これを別の学校にも渡して逐次情報共有と場合によっては人手の貸し出しの相談をする!」

 

 「はい!遠山さん、どうぞ!」

 

 「助かる!すんません!士傑のクラス代表の人!いますか!?」

 

 「俺だ。雄英の遠山君だな?手短に頼む!」

 

 「はい!生き残ってる人数が多い雄英と士傑で被害がひどい場所を担当しあいましょう。俺たちは北、士傑は東でどうでしょう。雄英はすでに分担を済ませてるので地図のこの位置あたりに応急待避所を作ってある程度の処置をした後にこっちの本待避所まで向いてる個性のやつを使って送ります!それと全域との相互コミュニケーションのためにうちの八百万が通信機を作りました!各学校、あるいは分担した部隊ごとのリーダーに渡して情報を送りあいましょう!」

 

 「!いい判断だ。通信機、感謝しよう。北のことはよろしく頼む!イナサ!飛び回って通信機を配れ!」

 

 「了解っス!」

 

 八百万が作ったいくつかの通信機を士傑の代表だという毛むくじゃらの見た目の先輩に渡す。先輩はその中から一つ抜き取って残りを近くで走っていた夜嵐に投げた。夜嵐は投げられた通信機ごと風で舞い上がると空を飛び別の学校の代表者のところへ飛んでいった。なるほど、風を操る個性だったのか・・・しかもバラバラにばらけた通信機を一つ残らず操った風で掬い取ってから飛んでいった。なんて繊細な個性のコントロールだ。雄英の入試一位は伊達じゃないな。

 

 北方面へ走る。幸いビルの倒壊とかで全く通れないという道はない。辛うじてというところではあるがいくつか平らな場所もある。配られた地図を確認して現在位置を照合・・・「うぇぇぇん・・・」・・・!誰かいる!

 

 「耳郎!誰か泣いてる!子供だ!場所確認してくれ!」

 

 「うん!・・・いた!そっちのがれきの向こう!」

 

 「緑谷!先行って確認してくれ!」

 

 「わかった!」

 

 「俺はいったん緑谷の方へいく!残りのやつらは救助対象を探しつつ先へ進んでくれ!」

 

 「わかった!指揮は俺がとろう!みんな、いくぞ!」

 

 「いってえ・・・助けてくれ・・・!」

 

 っち!今度は向こうか・・・!反応した八百万、障子、轟、瀬呂が向かっていってくれた。そっちは任せよう。とりあえず俺は緑谷の方を・・・!ワンフォーオールをまとってがれきを飛び越えていった緑谷の後を追うように俺も桜花を利用してがれきを乗り越える。そうするとその先には頭から血糊らしきものを流している子供が泣いていた。

 

 「うぐっ・・・痛い・・・ああっ・・あっち!おじいちゃんが・・・つつぶされてええ・・・うわあああん!!」

 

 「ええっ!?大変だ!どっち!?」

 

 ばっか緑谷!この状況でその第一声はだめだ!相手は傷病者だぞ!?余計不安をあおるようなことをしてどうする!とその子供が急に表情をくわっと変えて叫んだ。

 

 「なんだそれ減点だよぉ!仮免もちなら被害者の状況は瞬時に判断して動くぞ!まずどうするかをしっかり考えろよ!」

 

 HUCが採点者なのか!?いやそれよりもまずは目の前のことを何とかしないと!減点食らって動きが止まった緑谷の肩を叩いて変わってもらい、跪いて男の子の様子を確認する。頭部出血、不安による呼吸数の増大、歩行機能に支障はなし、けど誰かが運んでいくのが望ましいな。腰のポーチから消毒済みタオルを取り出して男の子の頭をぬぐいつつ声をかける。

 

 「よし、坊主。俺たちが来たからにはだいじょぶだ。お前のおじいちゃんも絶対に助けてやる。だから今は落ち着いて俺の話を聞いてくれ。頭は打ったか?ほかに痛い場所は?」

 

 「うん・・・コンクリートが降ってきて・・・あと・・腕が痛い・・・」

 

 「ありがとな。頭の傷はこれで大丈夫だ。腕は・・・打撲だな。ちょっとまぶしいぞ・・・脳出血はなし、よしこれで大丈夫だ。緑谷、できるだけ揺らさずに運んで行ってくれ、頼んだぞ」

 

 止血テープを男の子の頭に張り付け、瞳孔を覗き込んで脳内出血の確認を済ませた俺が緑谷を呼ぶと緑谷は覚悟を決めるように頬を張って男の子に大丈夫だと声を張りつつ本待避所まで走っていった。それを確認した俺は聴覚を集中する・・・おじいさんがつぶされたといっているならがれきの中・・・いた!かすかな呼吸音!おそらくは失神という設定だ!近くにいるのは・・・麗日と轟、峰田!

 

 

 「麗日、轟、峰田!こっちのがれきの中!要救助者がいる!手伝ってくれ!」

 

 「うん!」

 

 「わかった!」

 

 「おう!」

 

 集まってくれた3人と一緒にがれきをのける。俺が構造を計算して峰田と轟が周りでバランスをとってるがれきをもぎもぎと氷結で補強、上から俺と麗日でがれきをのけていく。2分もかからずにがれきの中から老人が埋まった状態で見つかった。あぶねえなホント!

 

 麗日が浮かし、できるだけ水平を保った状態で回復体位を撮らせて俺が診断する。両足骨折、がれきに潰されたことによるショック症状で呼吸も浅い・・・脳は・・・大丈夫だ。携帯型酸素スプレーを取り出し麗日に口にあてつつ運ぶように指示した。麗日が浮かしながら運んでいきその姿が見えなくなったころ・・・・ズガァァァァン!とまた方々で爆発が起こる・・・来たか!

 

 『ヴィランが姿を現し追撃を開始しました!現場のヒーローは敵を倒しつつ救助を続行してください!」

 

 やはり来たかヴィラン!どうする?爆豪たちだけで足りるのか!?俺はどう判断する?どう動くのが正解だ!?・・・くっそ、やべえな。



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再・第三弾

怒涛の2話投稿。すまぬ、スピード感を大事にしたかったのじゃ


 仮免の二次試験、救助演習中にシナリオ設定の時点で予想はしていたがヴィランと救助の2つを同時対処をしなければならない。ヒステリアモードの頭がフル回転を始めこの状況を打開する策を考え出す。爆発の規模、そしてテロという設定の関係上ヴィランは複数人いると仮定して最適なのは・・・

 

 『こちら救護所本部!ヴィランが直接襲ってきた!救援を求む!』

 

 そっちにきたか!もう迷ってる暇はねえ!こういう時は・・・

 

 「こちら北!救援をそっちに送る!他の場所も援軍を送ってくれ!・・・轟、お前が適任だ。行ってくれ!」

 

 「ああ、わかった」

 

 轟が氷で道を作りつつ救援に向かうのを見て俺はさっきのおじいさんを救出したときに聴音して違和感を覚えた場所に走る。するとそこには、やはりいたか!要救助者・・・おそらくは子供。倒れたまま意識はない。すぐさま回復体位をとらせて診察をする。

 

 骨折はなし、ショック性の失神だ。軽症だが意識がないため誰かが運ぶしかない・・・っちこの場には峰田しかいない。俺が運ぶことにして救護所の援軍に合流することにしよう。そうと決まればのちの指揮を八百万に託す。

 

 「峰田、俺はこのままこの人を運んで救護所の救援に行く、八百万の方に合流してのちの指示を仰げ。八百万、意識不明の要救助者を発見、応急処置を済ませたが運ぶやつがいない!俺が運んでそのまま救護所の方に援護に行く!後の指揮は任せる!」

 

 『了解しましたわ!後はお任せください!』

 

 「おう!気をつけろよ遠山!」

 

 別の場所に向かう峰田に背を向けまた通信機で通信をつなぐ。救護所の場所が変わるはずだ。

 

 「こちら北、意識不明の要救助者を発見。応急処置を済ませたので救護所に運びたい。新しい救護所の場所を教えてほしい」  

 

 『こちら西!私たちが受け入れます!今避難してる人たちは全員西へ!新しい救護所を設置します!繰り返します!新しい救護所は西になります!』

 

 西か!そこまで遠くないな!すぐ行けるだろう。落とさないように横抱きにした子供を抱え上げ揺らさないように急いで俺は走り始めた。でこぼこ道もヒステリアモードならなんのその。走り始めて5分もかからず西の指定されてポイントにつくことができた。そこではすでに避難された人たちがトリアージを受けて重傷者順に並んでいた。

 

 「君!その子は!?」

 

 「ショック性の失神、脳出血はなし、骨折無しの軽傷です」

 

 「うん、わかった!じゃあ左のゾーンで寝かせてあげて」

 

 言われた通り軽傷のゾーンを気絶した子を寝かせてすぐさま元救護所があった南方面に向かって走り始める。桜花でがれきを飛び越え、くぐり、堀蜥蜴を駆使してパルクールでほぼ一直線に駆けていく。3分ほどして見えてきた。覆面マスクの複数の仮想ヴィランに・・・あれはギャングオルカ!?ビルボード10位の超実力派ヒーローじゃないか!?どんだけ本気出してるんだこの試験・・・!

 

 相対してるのは・・・轟に緑谷と夜嵐か!いいメンツだ!俺はとりあえず露払いから!

 

 両手に銃を出して覆面達にそれぞれ5発ずつ発砲する。弾丸はそれぞれ右に持ってる武器に集中して飛んでいくが発砲音に気づいた覆面達はたやすく体を動かしてプロテクターで弾丸を受けた。やっぱ全員プロか!当たり前のように防ぎやがった!

 

 「遠山君!」

 

 「緑谷、状況は!?」

 

 「うん、ギャングオルカが来て、応戦してるんだけど・・・轟君と士傑の人の息があってなくて・・・このままじゃ突破される!」

 

 息があってない・・・?協力が必要な場面ということは二人とも気付いているはずだ。息が合わない?会わせるつもりがないのか!?とにかく今は覆面どもを片づける!

 

 「緑谷、とにかく覆面をこれ以上進ませるな。俺は左、お前は右だ・・・・行くぞ!」

 

 「うん!」

 

 緑谷がと俺が左右に分かれそれぞれ戦闘を開始する。シュートスタイルで覆面どもから発射される・・・セメントか?を避けながら迫った緑谷が連続蹴りを叩き込み覆面どもを蹴っ飛ばしていく。負けじと俺も梔子を抜いてベレッタとの一刀一銃になりセメントガンを発砲させないように立ち回りつつ近接戦を仕掛けていく。

 

 立ち回りは必ず前後に相手がいる状態、俺がよければ攻撃が仲間に当たる状態を作りつつの各個撃破だ。まず正面、ベレッタの発砲で動きを抑えつつ梔子でセメントガンを壊す。向けられるセメントガンの銃口に刃を入れて上下に斬り壊して無力化する。平賀さんによって研がれた梔子はバターのようにセメントガンを切り裂き、唖然とする覆面の隙をついて蹴り飛ばす。蹴った時の感触で分かったが50kgくらい重りと動きを制限するプロテクターつけてるな?どうりで動きが微妙に鈍いはずだ。反応してたし多分なかったらよけられてたな。

 

 さらに後ろと左のやつに袖口から投げナイフを取り出して桜花でぶん投げる。銃口に刺さって抜けなくなったナイフを見た覆面達はそれを捨てて近接戦を挑んでくる。俺は梔子の峰で一人の首筋をぶっ叩いて失神させ、もう一人にはアル=カタで銃口を向けて動きを制限、梔子の柄を顔面に入れてやって倒してやった。ギャングオルカの方は・・・何やってんだあいつら!

 

 ギャングオルカと対峙している轟と夜嵐はお互いがお互いの邪魔をするように動きあっていたのだ。夜嵐が風を放てば轟が炎を。轟が炎を放てば夜嵐が風を放って攻撃が勝手にそれ、当たらない。ギャングオルカも呆れ気味だ。しかもいっちょ前に喧嘩してやがる。

 

 「あんたがさっきから手柄を横取りされないよう邪魔してるんだろ!」

 

 「さっきから・・・なんなんだよお前・・・」

 

 「・・・論外だな・・・試験中に喧嘩とは」

 

 まずい!!轟の炎が夜嵐の風であおられて進路を変えた!そこにいるのは・・・傑物高校の真堂先輩だ!クッソ、俺は間に合わねえぞ!

 

 「なにを!してるんだよ!」

 

 !よかった!緑谷が間一髪2人に怒号を飛ばしながら真堂先輩を助けることに成功した。フレンドリーファイヤを仕掛けたことで動きが止まった2人に対してギャングオルカが何かを仕掛けようとしてる!

 

 「二人とも足を止めるな!動け―――っ!!!」

 

 「もう遅い。まずは、邪魔な風から」

 

 キィンと夜嵐に向かって超音波が発射された!ギャングオルカの個性だ!シャチの超音波は衝撃波となり魚を一瞬で気絶させることができる!人間のギャングオルカ、それもヒーローとして鍛え上げたそれを受ければ・・・!

 

 「まずっ!よけ・・・ぐあっ!?」

 

 覆面の一人のセメントガンが逃げ道を封じまともにギャングオルカの超音波を受けた!ふらふらと不時着した夜嵐はギリギリ意識はあるものの動ける状態ではなさそうだ!そして轟にも・・・!

 

 「自業自得だ」

 

 「・・っ!?」

 

 一瞬で近づいたギャングオルカの至近距離での衝撃波が直撃し、同じく体を麻痺させた轟が崩れ落ちる。一瞬で二人ともやられちまったぞ・・・!と考えてると爆風がギャングオルカを襲った。夜嵐だ!個性の制御をかなぐり捨てただ囲うような風の檻を形成し、ギャングオルカをとどめようとする。だがあれだけではとどまらない。動きにくいだけだ。もう一人のキーは・・・!

 

 「く・・・そっ・・・!」

 

 轟だ!轟は炎を全力で夜嵐の風に乗せ、相乗効果で燃え上がった熱風がギャングオルカを包み込む。確かギャングオルカの弱点は熱と乾燥、ドンピシャの技だ。いいじゃねえか二人とも。そういうの大好きだぜ、俺も男の子だからな・・・!答えねえと!

 

 「緑谷!あれやるぞ!俺が隙を作るから突っ込め!」

 

 「あれって・・・!うん!わかった!」

 

 

 「シャチョーが!轟を止めろお!」

 

 「止めさせるかぁ!」

 

 「アシッドシャワー!」

 

 よし!続々と増援が集まってきた!芦戸に尾白が覆面どもを足止めしている。あの熱風牢獄も長くは続かないだろう。轟と夜嵐はもう動けない。俺と緑谷でやるしかない!俺はギャングオルカに向かって走り出す。熱風にさえぎられてギャングオルカには俺は見えないはずだ!桜花の力を足にためて、全力でジャンプする!

 

 「なるほど、炎と風の熱風牢獄・・・並のヴィランなら泣いて許しをこうだろうな。だが・・・撃った時点で次の手を打っておくもの。もしこれで倒せなかったらどうする?」

 

 直後、超音波特有の音が空中にいる俺に届く。熱風牢獄を破裂させた無傷のギャングオルカが余裕たっぷりに口を開く。まだ気づかれてねえ、今のうちにすぐさま撃てるように準備を調えろ!つぎは・・・

 

 「で、つぎは?」

 

 「俺だ!!!」

 

 弾かれたように斜め上の俺に向かって顔をあげるギャングオルカだが、もう遅い。梔子を鞘に納め、空中で居合の構えをとった俺はヒーロースーツの機能をフル活用し全身の筋骨を連動、桜花で居合を放つ。これはじいちゃんに見せてもらった天抛、威力が収束しきらず未完成だったものを俺なりの回答で完成させたものだ。鞘走りを利用して刀の速度を最初から最高速で射出、ロスの少ないまま衝撃波を放ってぶつける!

 

 ウルトラスロ―に代わった視界の中、鞘から抜き放たれた梔子が衝撃波の尾を引き始め、刀身が真っ赤に染まっていく。それも当然、今行っている桜花はスーツが耐えられるマッハ4、刃先に至ってはマッハ6に至っている。衝撃波との摩擦熱で刀身が焼け付く中、鞘から出し切り収束した衝撃波をギャングオルカに向かって放つ!

 

 「天抛っ!!!」

 

 ズドォォォン!と迫撃砲が地面にたたきつけられたような衝撃がギャングオルカを襲うが・・・撃った瞬間にわかった。ギャングオルカは俺が天抛をだし自分に着弾するまでの間に超音波の衝撃波を放って天抛の威力を減衰させた・・・けど、これでいい!さあ頼んだぜ緑谷!

 

 「・・ぬう!」

 

 「ギャングオルカ!二人から離れてください!」

 

 俺の真後ろから全力で走ってきた緑谷がギャングオルカの至近に着地した俺の2,3歩前で踏み切ってワンフォーオールをまとった飛び蹴りを放つ。俺はそれをターンするように避け、ターン中に梔子を投げ捨てもう一度桜花をマッハ2で作り出す。そのままターンしきり、すぐさま炸覇の準備を済ませ、緑谷を後押しするように放つ!

 

 これは個性圧縮訓練で緑谷がシュートスタイルを作った時に俺を呼んでたまたまできた技だが、猴曰く威力は抜群。十分に必殺技と呼べるものになっている。受けてみてくれギャングオルカ、これが俺と緑谷の合体技―――――!!!

 

 

「「BURST SMASH!!!!」」

 

 ズドムッッ!!!と両手を十字にして衝撃波を背に加速した緑谷の飛び蹴りを受け止めたギャングオルカの足がずり下がる。余った衝撃波があたりに舞い土ぼこりを巻き上げる。俺は両手に銃を出し、緑谷が弾かれたときに斉射できるようにトリガーに指をかけ―――――

 

 

 『終~~~~了~~~~~~!!!!!』

 

 

 「「へっ!?」」

 

 突然ビーーーー!!と鳴ったサイレンに拍子抜けし思わずトリガーから指を放してしまった。え?終了?終わりつった今?ということはHUCの皆さんは救助されたってこと?

 

 『えー只今、配置された要救助者全員の救助が完了、これにて仮免試験全行程は終了となります!」

 

 「終わった!?」

 

 「みたいだな・・・緑谷、ほれ」

 

 「あ、うん。轟君大丈夫?」

 

 「・・・ああ」

 

 緑谷に手を貸して助け起こすと緑谷はすぐに轟に駆け寄って轟を背負った。轟の顔はすぐれない。あんな醜態をさらしたんだ、合格出来てる可能性を自ら低くしてしまった以上ああなるのは仕方ないだろう。俺もどう言葉をかけていいのかわからない。梔子を拾いつつ次の指示を待つ。

 

 『集計ののちこの場で合格発表を行います。怪我をされた場合は医務室へ。ほかの方々は着替えののちしばし待機していてください』

 

 指示が出たので轟を医務室へ運んだあと着替えへ向かう。雄英に用意された更衣室では既にほかのやつらが待機していて口々にお疲れさまと言い合い着替えを済ませて試験会場へまたとんぼ返りする。大丈夫かねえ・・・これで俺落ちてたらどうしたもんか・・・。

 

 「はーーー・・・こういう時間いっちばんやだ」

 

 「わかる・・・きっと大丈夫だよ」

 

 「キンジ君手ごたえどう?」

 

 「わかんねえ。採点方式がわかんないからな。戦闘に向かったし。それで減点ってことはないはずだが・・・」

 

 「それはやだーーーー!!!」

 

 

 

 『えー皆さん大変長いことお疲れさまでした。これより発表を行います』

 

 !きた。泣いても笑ってもこれが結果だ。さあどうなる・・・?

 

 『まず採点方式についてです。我々公安委員会の審査員とHUCによる2重の減点方式で採点をさせてもらいました。これは危機的状況化でどれだけ間違いのない行動をとれたのかを審査しています』

 

 なるほど、減点方式ね・・・つまりHUCが救助関連を、公安がその他の行動を一人一人監視してたってことか?どうやってんだ・・・?まあ言い、次だ次。

 

 『では合格点にあった方は五十音順で名前が載っています。今の基準を踏まえたうえでご覧ください』

 

 その言葉共に背後のモニターが転倒し50音順に並べられた俺たち受験生の名前が映し出された・・・俺の名前は遠山だから・・・と・・・遠山金次!あった!あったぞ!合格だ!ついでに俺から名前の近い轟の名前を探してみるが・・・轟・・・ない。ないのか・・・くそ、悔しいな。

 

 ついでにクラス全員の名前も探していく、青山・・・峰田、緑谷、梅雨 飯田、透・・・全員あ・・・いや、爆豪がねえ!どういうこった!?試験中姿は見なかったがあの爆豪が落ちるなんてことがあるのか?そんなもん暴言を吐きまくったとしか・・・・まさかそれやったのか?冗談だろ?一緒にいた切島と上鳴を見ると「暴言改めよ?言葉って大事よ」と上鳴が爆豪をあおっていたのでそういうことらしい。えーーー・・・・

 

 うちの中でも成績上位のやつが落ちちまったってことか・・・全員合格、叶わなかったな。少し・・・いや、すごく残念だ。俺は苦い気持ちを押し込みつつ、電光掲示板を見つめるのであった。

 




どうしてもキンちゃんと他のキャラとの合体技を作って出してみたかった。名前もカッコ悪いかもしれないけど作者の精一杯です
お許しください!


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再・第四弾

 クラスとしての目標である全員合格を逃してしまい、個人的には喜んでいいのか悔しがればいいのか複雑な感情なのだが、説明はまだ続くだろう。続く言葉を待っていると轟に夜嵐が近づいていた。すわもう一回戦くるか!?と戦々恐々としていると夜嵐は試験前のように地面に頭をぶつけるほど深く下げ、轟に謝ったのだ。思わず拍子抜けしてしまった俺がほっと息をつくと轟も夜嵐に真摯に謝りだした。良かったな。これでとりあえずは一件落着だ。

 

 しかし、疑問が残る。ここでの合格者はおよそ60人。40人くらい脱落している計算だ。そんなにも脱落者がいて尚且つ減点方式で挽回が出来ないのに不合格になった時点でなぜ退場させないのか。ほかの意図があったように思える。緑谷も同様の疑問を持ってるらしく俺と同じように考えてるようだ。

 

 『はい、全員ご確認いただけたと思います。続きまして採点結果のプリントを配ります。ボーダーラインは50点の減点方式、どの行動が何点引かれたかを下記にしてあります。しっかり目を通してください』

 

 公安委員会の黒服さんからみんなにプリントが配られる。俺も受け取り目を通すと・・・90点!?意外と高得点だな・・・えーとまず初期の応急処置でのミス・・・止血テープ張るのが荒かったぁ!?それが5回で1点づつ減って・・・残りの5点は最後ギャングオルカに放った天抛での大規模攻撃で減点か、なるほど納得できる結果だ。いちおう命に関連するミスは侵さなかったってことだから安心できる。

 

 「キーンジくん!見せて―!あたしのも見ていいから―!」

 

 「おう、いいぞ透・・・85点か、さすがだな」

 

 「えっへん。キンジ君が応急処置の授業の時一緒にやってくれたおかげだよー!だからミスが少なかったんだ!キンジ君は―・・・90点!?すごい!あ、でもヤオモモ94点だってー」

 

 「まじか。さすがは八百万だな。止血テープ張るのが荒かったってなんだよ・・・あれ強く押し付けないときちんとくっつかねえのに・・・」

 

 「んー・・・私はそれで引かれてないなー。やっぱり荒いんじゃない?」

 

 「そうかー・・・」

 

 透と点数の見せあいと反省会を行っているとまた目良さんが口を開いた。やべえ反省会に夢中で忘れてたわ。個性とヒステリアモードの使い過ぎで脳機能が低下してるなこりゃ。気ぃ抜いたら眠っちまいそうだ。

 

 『合格した皆さんはこれから緊急の場合のみヒーローとして活動できるようになります。すなわちヴィランとの遭遇、事件に救助を自己判断で行えるのです。しかしそれに伴い君たちには重い責任が生じるでしょう。平和の象徴が引退した今、犯罪抑止のブレーキはなくなりました。次はあなたたち若い世代が彼の思想を引き継ぎ、抑制できる存在にならなければなりません』

 

 耳に痛い話だ。神野の件にかかわってた身としちゃオールマイトの引退の一助になってしまったこと、それは俺の心に大きくのしかかるトラウマみたいなもんだ。あの人が安心して後を任せて平和に暮らせる社会になるように俺たちが支える必要がある。

 

 『そして、不合格になってしまった人!点数が足りないからとしょげている暇はありません。君たちには3か月の特別講座を受講ののち、再試験で結果を出せば仮免許を発行するつもりでいます!』

 

 どよっと周りがどよめいた。再試験、と言ったのだ。なるほどだから途中退場が無かったのか。最後まで足りないところを見極めるために。これは朗報だぞ!クラス全員が問題なく仮免を取得できるかもしれない!クラス中が顔を見合わせて笑顔になる。良かったな、轟に爆豪!

 

 

 そのあと2,3話をはさんで俺たちの激動の仮免試験は終了した。スーツを持って試験会場を後にする俺の手には今しがた発行されたばっかりの仮免カードが鈍く光を放っている。

 

 「お前ら!お疲れさんだ。よく頑張ったな」

 

 「「「「「相澤先生!!!」」」」

 

 「ああ。さ、寮に戻るぞ。今日の夕飯は豪華だからな」

 

 そう言って相澤先生が見せたスマホの画面では、かなでと猴が満面の笑みでテーブルいっぱいに中華料理とアメリカの料理を並べている写真だった。腹の減った俺たちは我先にとバスへ駆け込み、バスは緩やかに雄英へと帰るのであった。ちなみにB組はランチラッシュが祝いのご飯を作ってるとか。さすが、雄英。公平だな。

 

 

 

 「「お帰りなさーーーい!試験お疲れ様です!」」

 

 「「「「ただいまー!!!」」」」

 

 寮に帰ってくるとかなでと猴が元気いっぱいに出迎えてくれた。相澤先生は帰るつもりだったらしいがクラスのやつらからお願いされて一緒に夕食をとることになったみたいだ。さすがだぜ芦戸に切島、そういうのは大得意だな。湯気をあげる沢山の中華料理とかなでが作ったであろうアメリカのピザやステーキ、サラダ・・・手当たり次第に作りましたって感じのバイキングだ。たまらねえな。

 

 「お兄ちゃん様!」「遠山!合格おめでとうです!」

 

 「ただいま。かなで、猴。メールでも送ったがなんとか合格できたぜ。お前らのおかげだな」

 

 飛びついてきたエプロン姿のかなでと猴を受け止めて二人纏めて高い高い。疲れているがこんくらいならまだ余裕。お祝いの言葉を言ってくれる二人に礼をしてクラスのやつらと着席する。

 

 「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 「「召し上がれ!」」

 

 挨拶もそこそこに俺たちは料理にかぶりつき、つかの間の至福を満喫する。ちょうど明日から後期開始だ。明後日に猴も帰っちまうし寂しくなるな。今のうちに英気を養っておこう・・・。しかしこのステーキと油淋鶏うまいな。

 

 大盛況の夕食を終えて、風呂を済ませた俺たちは会話もそこそこにそれぞれ自分の部屋に戻って眠りにつくことにした・・・消灯時間を過ぎるちょっと前、興奮するかなでと猴を寝かしつけて開けっ放しの窓を閉めようとすると玄関を出ていく緑谷と爆豪の姿が見えた。

 

 思わず目をぱちくりさせちまう。あの爆豪が緑谷とどこかへ行く・・・というかこの消灯時間間際の中どこへ行こうってんだ?きなくせえな・・・尾行しようと思ったがさすがにいなくなりゃ猴が気付く。そうなるとクラス中の知るところになるだろう。すぐに戻ることを願って、俺も寝る準備をしておこう。

 

 

 それからおおよそ30分、緑谷も爆豪も戻ってくることなく俺はやきもきしていた。今からでも追いかけるべきかこのまま相澤先生に連絡を入れるべきか・・・けどなあ、前までだったら相澤先生に連絡を入れてた。けど緑谷にはかなでを救って貰った恩がある。相澤先生をまた裏切っちまうことになるが見ないふりを・・・と悩んでいると唐突にスマホが着信を知らせた。あっぶねえミュートで助かった。廊下に出て電話に出ると・・・

 

 『もしもし、遠山少年かい?すまないね、夜分遅くに』

 

 「オールマイト?どうしたんですかこんな時間に」

 

 オールマイトだ。頭の中であたりをつける。多分爆豪と緑谷のことだ。あいつらが何かやったか爆豪がワンフォーオールのことに気づいたか・・・その中で俺とかなでの存在が出てきたんだ。オールマイトは多分話したくないんだろうけど、関係上どうしても話さなくてはならなくなった、とかそんな感じだろうか?

 

 『ああ、爆豪少年と緑谷少年が・・・喧嘩をしてね。わだかまりを解消するために・・・話そうと思う。もし君が許してくれるのなら・・・かなで少女のことも。爆豪少年、彼が前に進むためにはもうこれしかないんだ』

 

 やっぱりか・・・爆豪は天才だ。いろんな意味でな。だから気づいちまったんだろう。オールマイトと緑谷の関係、そして緑谷と俺の関係にも・・・だから、かなでも関係しているとあたりをつけ、いや半ば確信して緑谷を問い詰めたんだ。緑谷がゲロったとは思わないが、幼馴染のことだ。爆豪は嫌でも察しがついたんだろう・・・俺にももう逃げ場はねえみたいだな。

 

 俺は深くため息をついてオールマイトに返事をする。もう規則云々なんて構ってられるか。

 

 「わかりました。でも俺が説明します。爆豪が誰彼構わずしゃべるとは思いませんが、念のため。許可をください」

 

 『・・・許可をしよう。ハァ、自分が情けなくてたまらないよ。君たちを守ると誓ったのに、こうして今君に守られようとしている』

 

 「もういいですよ。爆豪は気付きつつありました。時間の問題で、それが今来ただけです」

 

 『・・・グラウンドβにいる。待っているよ』

 

 そう言ってオールマイトは電話を切った。俺はそのまま階下に降りようと歩を進めるが後ろからあいたドアの音に足を止める。猴が扉を開けてこちらを見ていた。

 

 「・・・どこ行くですか」

 

 「オールマイトから呼び出しだ。めんどくさいことになったらしくてな・・・かなで関連のこと、だ。頼む」

 

 「是。わかりました。・・・遠山、一人で抱え込むじゃないです。猴も、頼ってください」

 

 「もう十分頼ってるつもりだけどな・・・・ありがとうよ」

 

 そう言って猴を置いたまま階下に降りる。玄関へ歩を進めようとしたところで管理人室から相澤先生が出てきた。その瞳は鋭くとがり、俺を貫いている。

 

 「遠山、消灯時間だ。どこへ行く」

 

 「オールマイトに呼ばれました。爆豪と緑谷のこと、そんでかなでのことです。オールマイトから許可は出てます」

 

 相澤先生はあきれたように頭を押さえてかぶりを振り、大きなため息をついた。

 

 「あの人は・・・わかった。許可は出してやる。遅くならないうちに戻ってこい・・・いいな」

 

 「了解しました・・・・ありがとうございます」

 

 相澤先生もわかっているのだろう。無言で管理人室に戻っていく。オールマイトに完全に任せる算段のようだ。俺は相澤先生に深く頭を下げてそのまま玄関を出てグラウンドβに走り出すのだった。

 

 グラウンドβに到着すると座り込んだ緑谷と爆豪、それにオールマイトが出迎えてくれた。バツの悪い顔をした緑谷と真剣な顔をした爆豪の二人は結構やりあったらしくボロボロだ。あーあ、個性ありでケンカしちゃってまあ・・・仮免とった日に何やってんだよ。

 

 「遠山少年、待っていたよ。爆豪少年、さっき話した通り私の個性の秘密を知っているのは生徒では緑谷少年と遠山少年、そしてかなで少女だけだ」

 

 「お待たせしました。爆豪、緑谷・・・派手にやったみてえだな・・・スッキリしたか」

 

 「遠山君・・・」

 

 「なんでこのクソネクラとそのチビがあんたのこと知ってんだ。それにこいつは話せねえっつってただろ」

 

 「ま、そう言ったわな。けどオールマイトの秘密をお前が知る以上、どうせかなでのこともばれる。オールマイトが全力を出せるように調整してたのはかなでだからな」

 

 「・・・どういうこった」

 

 爆豪がこっちを向いて真剣に問いかけてきたのできちんと説明してやる。かなでが米軍によって作られた人工天才の2世代目であること。オールフォーワンと同質、あるいはそれよりも個性への干渉度が高い個性であること。それゆえに自分の個性を補おうとしたオールフォーワンに狙われたこと。個性を渡したことにより戦闘可能時間が減りつつあるオールマイトへエネルギーを移し替え補強し続けていたこと。緑谷の個性への訓練を行っていたことをあらいざらいと。

 

 すべてを話し終えた俺が爆豪を見ると少しうつむき黙ってしまった爆豪が緑谷に向き直った。

 

 「っとに・・・クソデク、てめえ・・・一番強ぇ人に引き上げてもらって、レール敷いてもらって、入学したばっかで赤の他人に教えてもらって・・・10にもならねえチビにあぶねえ橋渡らせて・・・そこまでしてもらっておいて・・・敗けてんじゃねえよ・・・ハァ・・・」

 

 絞り出すように緑谷にそう漏らした爆豪、緑谷は俯いて「・・・うん」と返事をした。かなでの個性を使用したのは俺たちの選択だからそこ別にいいんだけどな。察されてたら世話ねえが。爆豪は大きく息を吐いて俺の方に向き直った。

 

 「オールマイトのことも、てめえの妹のことも・・・誰にも言わねえ、察させねえ。隠し通す。絶対にだ。今日の・・・ここだけの、秘密だ・・・気が向いたら、気にはしておいてやる」

 

 そう言った爆豪のどこかスッキリした顔を見た俺は、なんとなしにこいつなら大丈夫だろうということが直感的にわかっちまった。オールマイトや緑谷、相澤先生にすらばらしたときにはある種の不安が胸にあったのだが今はそんなことは全くない。こいつなら、多分誰にも言わないだろう。来て、よかったな。

 

 

 

 

 「試験のあったその日、その晩にケンカとは元気が有り余ってるようで大変よろしい」

 

 よくはなかった。今のところ俺へ被害は来てないが管理人室にオールマイトと俺たちが入ったとたん飛んできた捕縛布が爆豪と緑谷をグルグル巻きにして拘束し手早く治療を済ませた相澤先生が捕縛布をギリギリと音が鳴るくらいに締め上げて爆豪と緑谷の二人を説教している。超こえぇ・・・

 

 「相澤くん待って。ストップストップ」

 

 オールマイトが相澤先生を止めて耳元でこしょこしょやってる。というか俺寝ていい?もう俺いらないよね?なんとなしについてきたけどこれ以上いてもしょうがなくない?どでかいため息をついた相澤先生がぎろりと二人とついでに俺をにらんだ。なんで?

 

 「先に手を出したのは?」

 

 「俺」

 

 「僕もけっこう・・・だしました」

 

 「爆豪は四日、緑谷は三日の寮内謹慎!その間寮の共有スペースを朝晩掃除して反省文を提出!怪我についてはばあさんの個性に頼らなければ保健室へ行くのは許可してやる!勝手な怪我は自分で治せ!以上!わざわざ説明のためにそっちに行った遠山に謝ってから寝ろ!」

 

 そう言って管理人室をつまみ出された俺と緑谷に爆豪、3人で顔を見合わせてどこからともなく緑谷と爆豪が頭を下げた。

 

 「ごめん、遠山君。かなでちゃんのことは隠さなきゃならなかったのに・・・それに、来てくれてありがとう」

 

 「・・・・悪かった」

 

 殊勝に謝ってくる二人に最初からこんなことするなと思わんこともないが・・・まあ今回のことはしょうがない。俺も怒ってるわけじゃねえしな・・・ま、けじめはけじめだ。俺は両手をデコピンの形にして2人の額にビシィ!!!と一発入れてやった。

 

 「いっだぁ!?」

 

 「っ痛ぅ・・・てめえ!なにしやが・・・」

 

 「これでチャラにしてやる。十分懲りただろ。ま、明日から掃除よろしくな」

 

 そう言って俺は二人より先に足早に階段を上って自分の部屋に戻るのだった。猴は見事に俺の布団で寝てやがるな・・・しゃあねえ、今日はソファーだな。とほほ・・・



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再・第五弾

 「「「喧嘩して謹慎~~~!?」」」

 

 「ばかじゃん」

 

 「バカだな」

 

 「なんということだ!」

 

 翌日のこと、朝食を済ませて用意を終えた俺たちに改めて緑谷と爆豪がそうカミングアウトした。そうして飛んでくるのは驚きの声とド正論。飯田なんて眼鏡が割れんばかりの声量をあげて驚いている。うん・・・まあその・・・非常にいたたまれない。昨日かかわっていただけに。

 

 緑谷たちを置いて登校し、前期は参加できなかった始業式に参加するためにグラウンドへ向かう。途中、物間が絡んできたのだが喜ばしいことにB組は全員合格したのだそうだ。やっぱ実力的にはそんな開いてねえみたいだな。あと角取っつー女子が日本語が不安定なのをいいことに物間が変なこと教えてたのでさすがに英語で話しかけて意味を教えておいた。

 

 そしたら角取は英語で話しかけられるとは思ってなかったようですっごいびっくりしてたな。そして哀れ物間は角取と拳藤にシメられてたよ。角取はまた英語で会話したいって言ってたけどな、かなでに合わせてみるか?ネイティブ同士だし出身も一緒なら話が弾むんじゃないか?まあいいけど。

 

 そんでそのあとに心操だ。あいつ夏休み中のトレーニングを欠かさなかったようでガタイが一回りでかくなってたな。トレーニングは猴に丸投げして俺はあってなかったから気づかなかった。姿勢もよくなってるしこれは心操のヒーロー科入りは現実になりそうだな。

 

 「遠山・・・夏休み中、大変だったみたいだな・・・テレビで見た。それと猴先生のこと、お前が頼んでくれたって聞いた。礼を言わせてくれ」

 

 「気にすんな。相澤先生に頼まれただけだし、俺は言伝をしただけ。お前見て鍛えるって決めたのは猴だしな。まあ・・・上ってきてくれよ。待ってるぜ」

 

 「ああ」

 

 しゃべるのがあまり得意じゃない俺と心操はそれとなく別れ、グラウンドに向かうのであった。

 

 始業式の校長のどうでもいい毛並み議論が終わって結構大事なことをしゃべりだしたのだがその中で一つ、気になるものがあった。「ヒーローインターン」・・・兄さんが話題に出したことがあるからわかるが確か仮免を取得した者だけが行くことができる職場体験のアップグレード版・・・だったはずだ。職場体験と違うのは戦力の一つとして見られることになり、給料も出るということ。そして体育祭でもらった指名をそのままコネクションとして使うということだ。兄さんは行きまくってたが本来は任意活動らしい。

 

 「寮のバウッ!グルルルルルバウバウ!!!アォォォーーーン!!!」

 

 「えー・・・昨晩ケンカした生徒がいましたが、慣れない寮生活にもお互い譲り合い節度を持って生活してくださいとのお話でした」

 

 突然の獣の唸り声になんだと思ったらハウンドドッグ先生だったのか・・・興奮しすぎて人語忘れてるじゃねえか怖えなあ。というか通訳が必要になるほど怒ってるってこれ爆豪とか緑谷会わせたらすごいことになりそうだな・・・

 

 特に何かあったわけじゃない始業式が終わり、教室に戻った俺たちはそのまま大人しく席に座って相澤先生のホームルームを受けてる。

 

 「というわけでまあ・・・かつてないほどにごたごたしてるが今日からまた授業を再開するわけだ。今日は座学のみだが明日からの訓練はより厳しいものになっていくからな」

 

 そんなことを話していると梅雨が手をあげた。何か気になることでもあったのだろうか?

 

 「なんだ蛙水」

 

 「始業式でお話に出ていたヒーローインターンってどういうものか教えてもらえないかしら」

 

 「ああ・・・後日言うつもりだったがまあ先に言っておくと校外でのヒーロー活動だ。以前の職場体験の本格版・・といったところだな。トクメンと合わせてお前らの先輩方が取り組んでる自主活動みたいなもんだ」

 

 「あの・・・トクメンってなんですか?」

 

 「ヒーロー用特殊車両運転免許、略してトクメン。文字通りヒーローが使うぶっ飛んだ機能を備えた車両を運転するための免許だ。優秀であれば1日でとれるから2年生でも持ってるやつは多いぞ。今日受けに行くっていうやつもいるしな。なあ遠山」

 

 なんでばらした!?相澤先生が言う通り俺はトクメンを猴がかなでを見てくれる今日取りに行くつもりだ。俺の現着するときの初動の遅さを補うためジーサードにバイクを頼んだんだが興がのったジーサードと混ぜてはいけなかったであろう発目と平賀さんが悪ノリした結果仮免で運転を許される代物じゃないモンスターマシンが出来上がったので、仮免を取得出来たらという条件で相澤先生に試験を受けさせてもらえるようお願いしておいたのだ。

 

 ちなみに仮免なら一般のバイクまで公道での運転を許されるようになる。車は流石に免許がいるけどな。クラスの視線を一新に浴びた俺は黙りこくるしかない。冷や汗が止まらないぜ。

 

 「「「はああああああ!?」」」

 

 「なんで教えてくれなかったんですか!?」

 

 「つーかなんで遠山は知ってんだ!?またコネか!?」

 

 「キンジ君みずくさいよー!」

 

 「はい静かに・・・よし。遠山は被服控除でサポートメカの移動手段を申請してた。その関係で仮免を取得するという条件のもと俺が許可を出した。お前らも同じように自分の移動手段を考えて委託してる会社に通せば同じようにトクメンの試験を受けることは許可する。が、俺たちは何でもかんでも与える存在じゃない。知識は得るもの、疑問に思ったならさっきの蛙水のように尋ねろ。ヒーローを目指すなら情報収集も必要になってくるぞ」

 

 俺がトクメンを知ったのも相澤先生からだったからな。猴が来たとき、詰まったら頼れと言葉をくれたのでバイクのスペックを見て脂汗をたらしながら相澤先生にこれ仮免で運転できます?と尋ねてみたところ無慈悲な「無理だな」というありがたいお言葉を頂いたのだ。結果困った俺に相澤先生が見かねてトクメンのことを教えてくれ、さっきの条件のもと受験を許してもらった。

 

 「まあインターンについては後日話す。以上でホームルームを終わる。すまん、待たせたマイク」

 

 『ヘェイ!エヴィバディハンズアップ!あげていくぜー!教科書の64Pを開けェ!』

 

 特に面白みもなく授業が進んでいく・・・と思いきや習ってねえことばっか出てくるな!?くっそ予習を怠ったせいで英語と数学ならともかく社会とかはやべえぞ・・・勉強しねえと。

 

 

 

 

 座学だけだった授業を終え寮に戻る。明日からはヒーロー基礎学も入ってくるから油断できねえ。とりあえず今日のトクメンを一発でとることを考えねえと。そう考えながら寮の玄関を通って共有スペースに入ると爆豪と緑谷が掃除をしていた。ついでに瀬呂たちがめっちゃ弄ってる。やめてやれよ・・・

 

 「そういえば遠山、おめー今日受けるっつートクメン?だったか?いつ行くんだ?」

 

 「ああ、準備済ませてすぐ行くぜ。ヒーロースーツ必須だってよ。何するのか知らねえけどな。普通のバイクだったら私道で乗ったことあるんだが」

 

 「インターンっていうのもあるし、後期は忙しいねー!たのしみ!」

 

 「ウチ指名なかったんだけど参加できるのかなー」

 

 「要はコネがありゃいいんだろ?いるじゃねえかコネの塊がうちのクラスによ」

 

 「そりゃ俺のことか峰田。女のヒーローは紹介しねえぞ。あと俺のコネは基本海外だ。英語必須だぜ」

 

 「いるのかこの野郎!?裏切者ォォォ!!!」

 

 「絶妙に役に立たねー」

 

 「ぶん殴るぞ上鳴」

 

 緑谷が相変わらず分かりやすく感情を表に出した顔をしてやがる。すまんな緑谷、伝達事項をお前らに伝えることは禁止されてんだ。相澤先生曰くこれも罰、ということらしい。俺は学校から持ってきたヒーロースーツをソファにおいて部屋に戻ろうかと立ち上がる。

 

 「すごい置いていかれているという顔をしてるな緑谷君!先に言っておくが授業内容の伝達は先生から禁止の令が出てる。僕たちに聞いても話せないぞ!」

 

 「そっか、そうだよね。うん、ありがとう飯田君」

 

 「わかってるならいい!遠山君は頑張って来たまえ!」

 

 「おう、応援ありがとな飯田」

 

 飯田と緑谷がそんな話をしてるのをしり目に部屋に戻って軽く身を調えて制服のままリビングに戻る。猴とかなではともに3年生の自主練に付き合ってるらしくメールで応援メッセージが来てたよ。ソファに置いたヒーロースーツを持って玄関へ向かうとみんな口々に応援の言葉をくれた。

 

 「遠山ァ!一発でとってこいよ!」

 

 「遠山ちゃん、応援してるわ」

 

 「後で試験どんなだったか教えてくれ!」

 

 「キンジ君!頑張ってきてね!」

 

 「おう、まあほどほどにやってくるぜ。じゃ、行ってくる」

 

 「「「「いってらっしゃい!!」」」」

 

 

 

 ところ変わってトクメン専用の試験場、矢場井試験場にバスを乗り継ぎ乗り継ぎやってきた俺は、試験場の受付に行って必要事項を記入し、係員のお姉さんに渡す。

 

 「はい、承りました。雄英から連絡もいただいております。では担当のヒーローがやってくるまで椅子に掛けてお待ちください」

 

 「ありがとうございます」

 

 そう言われたので近くの椅子に座って5分ほど待ってると機械的なヒーロースーツに身を包んだ筋肉質な男性がこちらにやってきた。多分この人だな?俺は立ち上がって頭を下げる。

 

 「本日受験させていただきます雄英ヒーロー科1年の遠山キンジです。よろしくお願いします!」

 

 「おう!俺がお前を担当する入替だ。ヒーロー名はリフトアップ!よろしくな。雄英から話は聞いてるぜ。仮免とった次の日にトクメン取りに来るたぁ意識が高くていいじゃねえか!まあ肩の力は抜いておけ、仮免ほど難易度が高い試験じゃないからな」

 

 見た目にたがわず豪快な性格っぽいリフトアップに促されヒーロースーツに着替えて試験場に入る。多古場と同じように異様にでかいうえ金がかかってそうなコースを見てるとリフトアップが見るからに馬力がありそうなバイクを手で押してこちらに向かってきている。彼はスタンドでバイクを立てて腕組みをして話し始めた。

 

 「試験は簡単、ここの外周20㎞のコースを無傷かつ8分以内に戻ってくること!バイク系のトクメンを受けるやつは皆バイクの運転経験がある前提だから細かな説明はそれだけだ!もちろんお前も乗ったことあるんだろ?じゃねえと申請書類にあったモンスターマシンなんて乗りこなせねえもんなあ?もちろん妨害がある!が、何があるかは行ってからのお楽しみだ!」

 

 20㎞を8分で・・・?つまりアベレージで時速150㎞は出てないといけない計算だ。しかも妨害ありと来たもんだ。どこが仮免より簡単だ、だよ!学生にやらせる試験かこれ?・・・いや、もう俺はセミプロ、一端のヒーローの卵なんだ。学生云々ではなく一人のヒーローとして見られてるからこんな試験なんだな。なるほど相澤先生が仮免とるのを条件にした理由が今分かったぜ。

 

 「お前が今から乗るバイクはコイツ、最高速度は時速250㎞、勿論ピッカピカに整備してある。無傷ってのはテメエの体のことだからな?バイクにはいくら傷があってもいいし何だったら最悪スクラップでも問題ねえ!テメエがこいつにまたがって8分以内に傷一つなくゴールテープくぐりゃいい!そんで俺はお前の救助役だ。俺の個性は「シャッフル」運動量をそのままにものを入れ替えることができる。お前が派手にクラッシュしそうになったこれで適当なもんと入れ替えて助けてやる。チャンスは3回、質問は?」

 

 「このバイクになれる時間はいただけますか?」

 

 「ああ、勿論だ!今から1時間、試験に使うコースとはまた別の練習場で乗ってみろ!」

 

 「わかりました。他は特にありません」

 

 「よぉし!じゃあ行ってこい!」

 

 そう言われた俺は早速バイクに跨りエンジンをかけてみる。ウォォォン!!!と爆音で景気よく鳴ったエンジン音を確認しクラッチレバーを握ってギアを1速へ、すると一速にもかかわらず車体がウィリーしそうな勢いで発進した。慌てて抑え込んだ俺はとりあえず1速のままで練習場へ行ってみる。なんちゅうパワーだ。一速のくせに初速で30㎞は出てるぞ。だがこれはちょうどいい、俺が運転する予定のバイクはコイツよりスペックが上だ。こいつを乗りこなせずして乗れるもんじゃねえ、やってやろうじゃねえか。

 

 たっぷり1時間バイクと格闘した俺が練習場を出て前のところに戻るとリフトアップがさわやかかつ暑苦しい笑みを浮かべて話しかけてきた。

 

 「おう!筋がいいじゃねえかエネイブル!1時間で本当に乗りこなしちまうとはな!まあ初日でとろうっつーやつはどいつもこいつもそんな感じだが、お前もご多分に漏れずってやつだ。じゃあ試験場に案内するぜ!」

 

 そう言われて給油を済ませたバイクを引っ提げて試験コースに入る。最初は1㎞のまっすぐな道から始まり最終的にグネグネ折れ曲がって一周するコースだが、カーブの数が異様に多い、時速150㎞じゃクラッシュするぞ・・・まあやってみるだけやってみるか。タイヤウォーマーでタイヤをあっためてからエンジンかけてスタート位置へ行く。フラッグとストップウォッチを持ったリフトアップが

 

 「お前が持ってる手段は何でも使え。幸運を祈ってるぜ・・・3,2,1・・・スタート!」

 

 合図とともにクラッチを一気に3速へ、暴れだしそうな車体を体重操作と秋水で押さえつけて発進する。時速が一気に80を超える。そこからさらにクラッチをあげて6速まで持っていく。現在時速は140㎞、まだまだ加速する。

 

 息つく間もないまま最初のカーブへ、減速する気はないので体重移動で車体を傾けカーブをできるだけ内側気味に曲がる。すると行く先に・・・ロケラン!?妨害ってそういうことか!が既に発射された状態で俺の方に向かってきた。幸い距離はまだある!すぐに車体を戻した俺がハンドルの操作でジグザグに2発のロケランを避け、次のカーブへ向かう。

 

 速度を160まで上げてカーブを何とか曲がり切り直線へ入る。直線へ入ると道脇のコンテナが開きまきびしが道路中に散布された。もうこれ合格させる気ねえだろ!まきびしにあたる前に何とか地面へ背筋と脊柱骨で作ったマッハ3の桜花を秋水と共に両足で地面へ叩き込みバイクごとジャンプしてまきびしゾーンを飛び越える。時速は落ちてねえ、まだいける!

 

 着地した瞬間地面両脇から現れたのはマシンガンことUZIさんだ。すぐさま弾丸をばらまいてくるので片手運転になりベレッタの連鎖撃ちでそらし、銃口撃ちで黙らせる。銃をしまう間もないまま次のヘアピンカーブへ差し掛かる。ブレーキ操作でドリフトに入り何とか速度を落とさずクリア。次の直線入る。

 

 目の前に広がるのは・・・地雷か!まためんどくせえもん用意しやがって!でも個性を使ってる俺なら地雷を見切ることができる。なんとか袖口からベレッタを戻しさらに加速、時速はすでに200㎞、何かありゃ容易に俺は死ぬだろうな。時折車体を地面すれすれまで倒してジグザグに曲がりながら地雷原を突破、最初に見た地図によるとここがラストカーブだ!

 

 速度を緩めず曲がり、ゴールが見えた!と思いきや横から道をふさぐようにでっかいコンテナが倒れてくるところだった。このままじゃ衝突・・・いや!下をすり抜ける!さらに加速してこのバイクが出せるという最高速度、時速250㎞でコンテナの下をすり抜けようとするが‥‥若干間に合わねえ!コナクソ!

 

 俺は車体をほぼ水平に倒し、地面にガントレットをつけた手を当ててバランスをとりながらなんとかコンテナの下をすり抜ける!ギャリギャリとガントレットが地面に擦り付けられ火花を散らし、車体がコンテナをすり抜けた瞬間地面にパンチを入れ反動でバイクを垂直に直してそのままゴールへ一直線、何とかゴールテープを切ることができた。仮免試験より死を覚悟したんだが・・・

 

 結構オーバーランをして何とかバイクを停めた俺にリフトアップが駆け寄ってきた。彼は破顔すると

 

 「7分23秒!おめでとうエネイブル!ヒーロー用特殊車両免許二輪、合格だ!どうだ今の感想は?」

 

 「・・・死ぬかと思いました!」

 

 「わはは!生きてるだろうお前は!よくやった!」

 

 体に似合わずでっかくたくましい手で俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でるリフトアップに感謝しながら、俺はまた一つヒーローとして階段を上った事実をかみしめるのであった。




 ヒーローインターン編、キンちゃんをどこに行かせるか迷ってるのでアンケートとりたいと思います。簡単に、どんなプロットが書いてあるか(ネタバレしない範囲で)紹介するのでご参考にどうぞ。1ポチ入れてくれると助かります

 ファットガム事務所→オリジナル事件1件(切島中心)以降ファットガム事務所として原作沿い

 リューキュウ事務所→オリジナル事件2件(梅雨ちゃん中心、ねじれちゃん中心)→以降原作沿い

 サー・ナイトアイ事務所→オリジナル事件無し、基本原作沿い

 どのルートでも原作に基本沿うことにはなりますがいくつかの原作ブレイクを予定しております。

 ご協力をお願いします。


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再・第六弾

 どうにかこうにか殺意しか感じなかったトクメンの試験を何とか乗り越えた俺は、その場で発行されたトクメンの免許証をとりあえず財布にしまいながらジーサードに連絡入れる。向こうは深夜だろうがあいつなら起きてるだろいつも通り。

 

 『よう兄貴、ご機嫌か?』

 

 「ああ、間違いなくな。トクメン受かったからこの前頼んだやつ組み立てて送ってくれね?」

 

 『ハッハー!そういうと思ってもう雄英に送ってあるぜ。多分もうついてるはずだ』

 

 「おまえ俺が落ちてたらどうするつもりだったんだよ・・・」

 

 『どうせ兄貴は受かるだろうからな。お、わりい仕事はいった。じゃ、かなでによろしくな』

 

 信頼されてるのかなんなのかわからない言葉を言われて複雑な気分だがありがたい限りだな。とりあえず帰ったら相澤先生あたりに聞いてみよう。俺は無茶なことやったせいで筋を違えたかもしれない体を引きずりながら雄英に行きのバスに乗り込むのだった。

 

 

 「・・・ただいまー」

 

 「「「「おか・・・えり???」」」」

 

 「どどどどうしよヤオモモ!遠山がやつれてるよ!?」

 

 「ええ、よほど過酷な試験だったのですわね・・・今にも倒れそうですわ」

 

 「あの遠山がこうなるなんて、よっぽどやばいみたいだね・・・トクメン」

 

 「わわわわ遠山君!?大丈夫なん!?」

 

 「ケロ・・・遠山ちゃん、大丈夫?」

 

 「わーキンジくん!?キンジ君大丈夫!?今にも死にそうな顔になってるよ!?」

 

 思ったより時間がかかったため遅くなった俺が寮に帰ってくるとそんな心配の声をあげてくれている我らがA組の女子連中が出迎えてくれたのだった。どうやら彼女たちは共用リビングで女子会?というかお茶会をしていたらしく予想外の体力消費をしたツケがバスの中で襲ってきてグロッキーな俺を引っ張ってソファに座らせてくれた。すまん、正直死にそう。

 

 「遠山さん、よかったらどうぞ。カモミールティーですわ」

 

 「わりぃ八百万。ありがたく頂くわ」

 

 邪魔しちゃ悪いと思ったが八百万がせっかく淹れてくれたのでありがたくハーブティーを頂くことにする。一口飲みこんでやっとこさ休まった気がした俺がでっかいため息をつくと芦戸がちょっと興奮したように身を乗り出してきた。というか目の前にやってきて俺を覗き込むな、なんだそれは?

 

 「ねー遠山。試験どうだったの?受かった?」

 

 「ああ、一応な。お前らもトクメンとる気ならマジで覚悟しといた方がいいぜ」

 

 「受かってよかったわね遠山ちゃん。でもそんな難しい試験だったのかしら?」

 

 「少なくとも俺は受けてる途中5回くらい死を覚悟したぞ。あとバイク乗れるようになっとけ、取る気なら」

 

 「私は出来れば取りたいと思ってるのですが・・・そんなに厳しかったのでしょうか?」

 

 「ああ、少なくとも俺は2度と受けたくないね」

 

 透が「免許証みせてー!!」というので財布から引っ張り出した免許証を渡してやって試験内容が気になるらしいやつらに今日俺があった責め苦を話してやる。というかあの試験通す気ないだろって思ったけど先輩方とってる人多いんだよな?やべえな雄英、魔窟じゃん。話すにつれ顔色が悪くなっていく女子連中が明らかにドン引きしだしたのであとは端折って話してやる。

 

 「まあ、そんな感じだな。最低でも時速150出さんとクリアできんし妨害を乗り越える機転と戦闘力を要求される試験だった」

 

 「・・・とろうと思ったけどやめようかな」

 

 「遠山君、よく生き残ったね・・・」

 

 「キンジ君よく頑張ったよ!誉めて進ぜよう!」

 

 「おう、ありがとな透。正直死ぬかと思ったが、まあ何とかなったよ。ま、取るとらないは自由だけどとるつもりなら協力程度はするぜ。正直あれを増強系じゃない女子の筋力でやれるかどうかは疑問だけどな。乗ったバイク、あれ抑え込むの本当大変だったんだからなあ」

 

 「どんなバイクだったの?」

 

 「最高速250㎞でるバイク。アクセルがめっちゃピーキーに設定されてて気を抜くと発進するときウィリーしそうになったよ。30分で乗りこなすつもりが結局1時間フル必要になっちまったからな。あんなんでスタントみたいな運転しなきゃいけないんだから・・・っとわりぃそろそろ限界だわ。先失礼するぜ。八百万、お茶ありがとうな。うまかった」

 

 ふいに眠気が襲ってきたのでさすがに休もうと思い、飲みかけのお茶を一気飲みしてから八百万に礼を言って立ち上がる。試験場でシャワー貸してもらえたから風呂はいいや。ふらふらと立ち上がってエレベーターに向かい、ボタンを押し込んで乗り込む。後ろからこんな会話が聞こえた。

 

 「キンジ君、大丈夫かな・・・」

 

 「ええ、ほんとにお疲れの様子でしたわね・・・」

 

 「ふらふらだー。でも試験内容ぶっ飛びすぎじゃない?」

 

 「聞いてるだけでも受けたくないな。どうしよっかなあ・・・でもあったら絶対便利だよ」

 

 「確かにそうね。でも今の私たちじゃ合格は無理そうだわ」

 

 「遠山君ですらギリギリやもんね。乗り物に乗った状態で銃を対処したりするのは私には無理かなあ」

 

 多分だけど人によって試験内容変わるんじゃね?と思うが。だって俺の場合、俺の個性に対してうってつけともいける妨害ばっかだったからな。個性を使用しつつ安全なドライビングができるかということも見られてたんだろう。確証のない話は言えないからさすがに口にはしなかったけどな。それ以上の会話はエレベーターの扉が閉まって聞けなかったが、これ以上邪魔するのも悪い。俺は何とか制服を着替えそのまま布団へダイブするのであった。

 

 

 

 

 翌日、疲れていたためよく確認せず自分の布団に入って寝た俺は腕の中にある柔らかくも温かい感触で目を覚ました。しょぼしょぼとする瞳をこすろうと右手を動かすと、ふわふわと柔らかい感触をした縄のようなものが俺の手を一周してるのに気づいた。なんだこれ?と思わずそれを左手できゅっと握ると腕の中の何かが「あっ・・・んぅ・・・」と何やらつやっぽい声を出したので一気に目が覚めた。

 

 これ、猴の尻尾じゃん!というか俺!猴を抱き枕にしてる!?いや確かに桃っぽい甘くていい香りがするしかなでとは別の柔らかい感触が腕や胸板に伝わって・・・ええい!なんでこうなっている!?普段ならかなでがいるだろ!?と隣の布団を見るとそこにはかなでの姿はなく遅ればせながら背中にあったかな重みがあることに気づいた。

 

 首だけで後ろを何とか見ると背中に抱き着くかなでの姿が・・・!脳内によぎった峰田が「幼女サンド・・・!!!」とサムズアップをしていい笑顔を向けてくる。とりあえずその顔面に桜花をぶち込んでやりたい。しかしどうしたもんか・・・動けな・・・ん?

 

 「猴、お前起きてんだろ」

 

 「あい!?ちちちがうのです遠山!猴はきちんと眠って・・・・あっ」

 

 「ほぉー」

 

 腕の中の存在がみょーにあったかくなったと思ったらやっぱり起きてたか。多分尻尾触った時だな?好き勝手に布団に入られたのは流石に腹が立ったので甘くヒスってた俺は

 

 「寝てるのか・・・寝てるならしょうがないな・・・悪い子め」

 

 「あいっ・・・!?」

 

 ぎゅっと、離れつつあった小さな体を抱き寄せて密着してやった。布団をかぶって反応は見えないが腕に巻きついた尻尾の力が強くなり腕の中の体がさらに熱くなっていく。というかまだ夏なんだから布団の中で熱中症になっちまいそうだ。

 

 「猴、君はどうしたいんだい?こんな風に男の布団に入り込んだりして・・・そんなに悪い子だったかな?猴?」

 

 いたずら心がうずいた俺は兄さんから教わった遠山家の逆ハニートラップ、男版はロメオというらしいがとにかくそういうときに使う「呼蕩」という技術でお仕置きすることにした。女心をくすぐる甘い声を出し、女の名前を連呼することで相手を一種の催眠状態に置く技術だ。こんなことをされた猴は

 

 「あっ・・・ふぇ・・・・あぅ・・・」

 

 ぷしゅー、と頭から湯気を出しお目目をグルグルにして気絶してしまった。さすがにこれで懲りてくれるだろう。俺はヒスったせいでどうにも冴える頭を持て余し、抱き着いてる二人をするりと抜けてお互いが抱き枕になる構図に変えて朝風呂に向かうのだった。

 

 

 ひとっ風呂浴びて疲れを洗い流した俺が元の状態に戻りやったことをすさまじく後悔しながら部屋に戻ると、よくわかってないかなでと顔が真っ赤な猴がお出迎えしてくれた。まあその、悪かった。

 

 「おはよう、二人とも」

 

 「おはよーございますお兄ちゃん様」

 

 「お、おはようです遠山」

 

 恥ずかしさが頂点に達した俺がいたってなにもなかったように挨拶をするとかなでは元気に、猴はちょっとしおらしく挨拶を返してくれた。俺も今朝のことはどうかしてたとしか思えないので掘り返したくない。だから全く関係ない話題を出して忘れちまおう。「話題逸らし(スラッシュ)」だ。今適当に考えた。

 

 「そういえば猴、今日で帰っちまうんだよな・・・今までありがとうな。本当に感謝してるぜ。もし俺が必要になったら言ってくれ、できるだけ協力する」

 

 「・・・そういうなら遠山、今日の授業の終わりに少し協力してほしいです。待ってるですよ」

 

 「ああ、わかったぜ。じゃあ下降りるか」

 

 そそくさと着替えた俺たちは今日の食事当番の爆豪が作った妙に辛いくせにうまい朝食を食べて雄英の授業に向かうのであった。かなでは辛いのが苦手なのでピーみたいな顔をしていたが、爆豪がかなでにだけ作った甘いホットミルクで持ち直したようだ。よく見てるなあお前。

 

 

 

 授業を終え下校時間になった俺は猴に指定された体育館Σへ向かう。通称自主練用体育館だ。申請をすれば誰でも使える体育館の一つで猴が心操を鍛えてる時によく使ってたらしい。ここに呼び出されたということは…ま、そういうことだろう。

 

 扉を開けて既に帰り支度を済ませた猴と相澤先生、そして体操着に身を包み相澤先生の捕縛布を身に着けた心操がいた。へぇ、様になってるじゃねえか。

 

 「来たですね遠山」

 

 「ああ、で俺に何を頼みたいんだ?」

 

 「心操、いいですか」

 

 「はい!」

 

 俺の疑問をよそに猴は心操に問いかける。心操ははきはきと返事をして気を付けの姿勢だ。もう完全に師弟関係だな。猴は満足げに心操を見て口を開く。

 

 「是、よろしいです。心操、遠山と組手をしなさい。それをもってひとまずの合格とします。どれだけ強くなれたか、見せてやるです」

 

 「はい!っつーことだ遠山。相手してくれ」

 

 「ああ、いいぜ」

 

 俺は身に着けているナイフと拳銃2丁を外し、着替えてる時間が勿体ないので制服の上着だけ脱いでその場で心操と相対する。個性は、使わない。どこまでもフラットなルールで心操が強くなったかを見たいからな。今身に着けてるその捕縛布を使ったって文句は言わねえ。むしろ今までヒーロー科として実践を積んできた俺が心操に対して武器あり個性ありで挑むのは流石に違うだろう。訓練の初期、相澤先生とやった個性なしの組手、そのアッパーバージョンだ。

 

 「武器はいいのか」

 

 「なんもつけてねえ仲間に向けるもんじゃねえんだよ。刃物と銃は特にな」

 

 「・・・そうか。俺は使うぞ」

 

 「おう、使え使え。お前が猴に教わったこと、俺に見せてくれよ」

 

 そうお互い言い合って相対する。相澤先生が右手を挙げて合図の準備をする。どちらともなく俺たちがそれぞれ構えると相澤先生の手が振り下ろされ、開始の合図が下る。

 

 

 「はっ!!!」

 

 相澤先生の合図の途端、心操が首元に巻いている捕縛布を素早く操って俺の方に鋭く伸ばしてきた、狙いは足。俺がバックステップで軽くかわすと布はまるで槍のようにビシィ!!と音を立てて体育館の床を穿った・・・・布槍術か、また厄介なもん仕込みやがって・・・!ステップでかわした俺の回避位置にすぐさま別の端を伸ばした心操の捕縛布が飛んでくる。この合理的な嫌らしさは相澤先生か?

 

 横方向に躱した、と思いきや心操は捕縛布を手繰って着弾位置をずらしてきた。布槍術じゃねえ、相澤先生の捕縛術だ!能動的に使い分けることができるのか厄介だなホントに!。俺は逆に前に進むことで布をかわし、心操が手繰った布を手元に戻そうとする一瞬の隙をついて近づくと心操はにやりと笑った。誘ったってか?

 

 手繰った布から手を放し、心操は拳を握って俺の胴体にまっすぐ突き出してくる。こいつは形意拳の崩拳!超近接戦において強いといわれる中国拳法、内家三拳のひとつだ。その拳はよく槍にたとえられ、叩き割り、払い、砕き、押し潰すような力強い攻撃が特徴。そして一番厄介なのが・・・どれもこれも発勁を前提にしてるのだ。つまりどの位置からでも最大限の威力を乗せた突きが飛んでくる。布槍術に形意拳、長物が好きな猴らしいチョイスだ。

 

 俺は崩拳を横から払い、ギリ脇腹を掠らせて不発に終わらせる。そして心操が片手でひそかに手繰っていた布を踏みつけて無効化し、脇腹を通った腕を引かれる前に掴んで引っ張り、変則的な投げを入れる。心操は逆らわず投げられ受け身をとって蹴りで俺の手を払いすぐ起き上がって布を放ってくる。

 

 俺は避けられず布の一撃を腹に食らう、がただでは終わらせない。即座に布をつかんで手に巻き付け引っ張る。こいつは変則的だがイギリスあたりで一時期はやった決闘方法、相手の体と自分の体を鎖でつないで殴り合うチェーン・デスマッチだ。変則的だけどな。

 

 「掴まれんのはお気に召さねえか?」

 

 心操が布を引っ張って外そうとするがそうしても縛りがきつくなるだけだぜ?そうなるように今縛ってるからな。引っ張られるがままに飛び込んだ俺の拳を心操が払って防ぐがここじゃまだ終わらないぞ。足へのストンプでいったん心操の動きを止めて心操の胸に拳を当てる。発勁が使えんのはお前だけじゃねえぜ。

 

 ドンッ!という音がして心操と()()体が吹っ飛ぶ。やられた。俺が打つ瞬間心操もぎりぎりで俺に発勁を当てやがった。いいな心操、本当に強くなってるじゃねえか!空中で態勢を立て直した俺が心操につながったままの捕縛布を引っ張るとすんでのところでナイフを取り出した心操が布を切断した。おっとそれは悪手だぜ。敵に武器を与えちゃダメだ。

 

 即座に布を解いて手に持った俺が八極拳の活歩で距離を詰める。心操は近づかれまいと捕縛布を操るがまだ錬度が足りねえ。焦りが見えてる。目の前まで近づいた俺が布を心操の手首に巻き付けそのまま心操の両足に自分の足を絡めてうつ伏せに押し倒す。片手で手をついた心操の隙をついて片足で心操の足を曲げてロック、腰の上にのり正中線を抑えて起き上がれないようにし、もう片手も布で巻いてやって縛った。勝負ありだ。

 

 「そこまで!」

 

 相澤先生の合図で俺たち二人ともが体の力を抜いた。俺も心操からどいて縛ってた布をほどいてやる。起き上がった心操は自分のしたことが信じれない、といった顔だ。俺もまさかここまで心操がやれるようになってるなんて思わなかった。冗談抜きに経験させ積んじまえばすぐヒーロー科に行けるレベルだ。

 

 「心操、よくやった。俺はお前のことを見誤ってたらしい。遠山相手にあれだけやれるようになるとはな。しかもこの、短期間で」

 

 「相澤先生・・・いえ、遠山は個性も使ってないし、武器だって使ってない・・・だから「おいそりゃ違うぜ」・・・遠山?」

 

 「確かに俺は個性使ってねえけどよ。間違いなく本気ではあった。正直手加減する必要があるかと思ってたがそんな余裕はなかったぜ。誇れよ心操、お前は俺を追い詰めたんだ」

 

 実際そうだ。武器あり個性ありだったら俺はあっという間に心操をノしただろう。けどそんなの言い訳だ。ノーマルな俺に匹敵するくらいの格闘能力を心操は夏休み終盤のたった10日くらいで身に着けたのだ。仮に俺が同じことをして同じくらいまで技量をあげられるか?ときかれりゃまず無理だ。それだけ心操は情熱と根性を持って取り組んだ。

 

 クラスのやつらとやらせてもいい勝負をするだろう。ともすりゃ勝てるかもしれない。ヒーロー科に並べるレベルまで心操の戦闘は完成されていたんだ。猴の方を見ると大きく頷きながらこちらに近づいてきている。

 

 「心操はよくやったです。猴の目に間違いはなかったですね。間違いなく花丸満点の合格をあげるです。猴は心操が誇らしい。沢山功夫をつけることをしてきましたが心操ほど真面目に取り組む子はいなかったです。猴が受け持った子たちの中でトップクラスですよ」

 

 「遠山、猴先生・・・」

 

 俺と猴の手放しでの称賛に心操の瞳にじわりと涙が浮かぶ。感極まったのだろう。心操が夏休み中どれだけ頑張ったのかは知らないが猴は講座とかなでを見る時間以外ほとんどを心操と過ごしていたそうだ。相澤先生に続く第二の師匠ともいえる猴からの称賛は、心操の心にそれだけ響いたのだ。

 

 「これで安心したです。私が中国に戻っても心操なら大丈夫、無問題です。ですが、功夫は積むもの・・・登山と同じです。一歩一歩ゆっくりと確実に進んでいくものです。怠ってはなりませんよ」

 

 「・・・はいっ!」

 

 猴が心血注いだ心操の卒業試験は文句なしの合格で幕を閉じた。空港へ行くため、相澤先生の車に乗る猴を見送る俺と心操に猴は最後にとびっきりの笑顔を見せた。そうして俺たちの小さな先生は自分の役目を全うするために中国に帰っていったのだった。俺たちも最高の笑顔で車が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。




 強くなった心操のお披露目会でした。原作では2年時からヒーロー科に編入することが確定している彼ですが、個人的に強くなってもいいんじゃないかと思ってこんな感じにしてます。正確には彼に布槍術を使ってほしかっただけ(台無し)



 アンケートについては前話のあとがきをご覧ください。協力していただける方は1ポチお願いします。


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再・第七弾

 猴が帰ってしまってちょっと寂しくなった日常が過ぎ、ついに緑谷の謹慎が解け復帰できるそうだ。長いようで短かった謹慎が明けた緑谷は鼻息荒く教室に入ったとたん俺たちに謝った。

 

 「この度はご迷惑をおかけしました!」

 

 「デクくんオツトメご苦労様ー!」

 

 「いやオツトメって・・・どうしたのさそんなに鼻息荒くして?」

 

 「この3日間で着いた差を取り戻そうと思って!」

 

 「おお、そういうの好きだぜ俺!なあ遠山!」

 

 「ん?まあそうだな。追いついてくれると嬉しいぜ」

 

 「うん!ありがとう切島君!遠山君!」

 

 ふんすふんすと鼻息荒く緑谷はクラス全員に謝っていくのを見守る。見てると面白いけど引いてるやつも何人かいるのに気づけ緑谷。前のめりすぎだ。

 

 

 「お前ら席に着け」

 

 ぴたっと喧騒が止み騒がしかった緑谷も含め一瞬で席に着いた。俺もだけどどんだけ相澤先生の言うこと聞くんだろうな俺たちは。

 

 「はい、よろしい。じゃあ緑谷も戻ってきたところでゲストを交えてインターンのことを説明していきたいと思う」

 

 ゲスト・・・?体験先のヒーローとかか?相澤先生がドアに向かって「入っていいぞ」と声をかける。すると景気良くドアが開いて3人の雄英の制服に身を包んだ生徒が教室の中に闖入してきた。

 

 「現雄英生の中でもトップ中のトップに君臨する3年生3人・・・通称ビック3の皆だ」

 

 ってあれ通形先輩に天喰先輩、波動先輩じゃねえか!職場体験のスカウト受けて以降ちょくちょくかなでを迎えに行くときに話したりしてたけどそんなにすごい人たちだったんだな・・・道理で異様に強そうなわけだぜ。

 

 「ってことで手短に自己紹介しろ。天喰から」

 

 一歩前に出た天喰先輩がギンっと目を尖らせた。クラス中はびりびり来るその重圧におののいているようだが多少交流があってファットガムに話を聞いてた俺はわかる。あれ言葉が出なくて困ってるやつだ。天喰先輩はコミュニケーションが苦手なようでそこを通形先輩や波動先輩がフォローしてるからな。

 

 「ダメだ・・・ミリオ、波動さん・・・!後輩たちを空気だと思っても・・・やはり目の前に映るのは避けられない・・・!どうしたらいい・・・何を話せば・・・」

 

 フルフル振るえてボソボソとそう通形先輩に漏らした天喰先輩はまたも震えながら黒板の方、俺たちに背を向けぽつりと

 

 「帰りたい・・・・!」

 

 と漏らしなすった。さすがに別の意味で度肝を抜かれたクラス全員がおかしなものを見る目になった。そして接すればわかる中身は幼稚園児のフリーダムヒロイン、波動先輩が

 

 「あ、天喰君そういうのノミの心臓っていうんだってね!ね、人間なのにね!えーと、彼は「天喰環」それで私が波動ねじれ!今日はヒーローインターンについて相澤先生に説明してほしいって言われたの!よろしくね!」

 

 と、天喰先輩の分の自己紹介をまとめてやりなすった。ここまでだったらまあ気が利くいい人なんだなあで済ませるのだが・・・

 

 「ねえ障子くん?だっけ?そのマスク何?怪我?風邪?オシャレ?あら、あとあなた轟君だよね!?ね!なんでそんな目のところに火傷なんてしちゃったの!?芦戸さんはその角折れちゃったら生えてくるの!?動いたりする?ね、蛙水さんはアマガエル?ヒキガエル?ウシガエルじゃないよね!?みんな気になるところ沢山で不思議!」

 

 これである。波動先輩は教壇を離れて俺たちの間を練り歩き気になるところを見つければ質問を飛ばし答えるまもなく別の質問をしている。興味があっちこっちに映って俺たちに答える暇がない質問攻めをする自由な波動先輩を見た相澤先生は

 

 「・・・合理性に欠くね?」

 

 ゆらぁ、と個性を発動させながらとんでもない眼光を飛ばしている。正直超怖い。波動先輩!尾白の尻尾触ってる場合じゃありませんて!教壇に戻って!ほらはやく!焦るのは俺たちだけではなくどうやら通形先輩も同じようで

 

 「大丈夫ですイレイザーヘッド!大トリは俺なんだよね!安心してください!」

 

 と大袈裟な身振り手振りを交えてあたふたやっている。そもまま大きく息を吸って─────

 

 「前途―――――!!?」

 

 しーーーーん

 

 「多難ーーーーー!!!つってね!よーし掴みは大失敗だ!・・・まあすべったことは置いておいて・・・いきなり必修でもないインターンの説明にわざわざ生徒なはずの3年生が来たことに対して何が何やらってなっちゃうのはしょうがないと思うんだよね」

 

 いや、通形先輩・・・クラスのやつらはあんたらのあまりのキャラの濃さに面食らってるだけで雄英特有の突拍子もないイベントにはすでに慣れ切ってるんだぞ多分。

 

 「うん、まあ口でごちゃごちゃ説明してもわかんないよね!だから君たちまとめて・・・僕と戦ってみようよ!いいですよねイレイザーヘッド!」

 

 「ま、いいだろう。好きにしろ」

 

 ええ・・・ずっと思ってたけどこんな感じでいいのか雄英って・・・・

 

 

 

 というわけでやってきたのは立体的な室内が特徴的な体育館γ。すでに体操服に着替えて準備万端な俺たちと通形先輩は柔軟体操をしながら一人で俺たち全員を相手にするという通形先輩と話しをしている。微妙に遠くまで離れた天喰先輩は

 

 「やめた方がいい・・・みんながみんな君のように上昇志向でいるわけじゃない。君と戦うことで折れる子が出てはいけない」

 

 と言っていた。さすがに言いすぎだろ・・・と思わなくもなかったが俺にとって経験があることは確か。苦い苦いオールフォーワンのクソ野郎だ。つまり天喰先輩は俺たちの通形先輩には天と地ほど・・・大人と赤ん坊と言っていいほどの実力差があるといっているんだ。俺もこの人がどんな風に戦うかを知らない以上全く気を抜けない。フルコンディションで挑むべきだろう。素手だけどな。

 

 「そうだね、ね!知ってる?昔挫折したヒーロー志望がヴィランになっちゃったって話!大変だよね通形!ちゃんと考えないとダメだよー」

 

 ある意味俺たちを見下してるともとれる発言にカチンときたやつが数名うちのクラスにいたらしい。俺も同じくくりで見られてるんだろうなあと思ったのでちょっとばかし本気で挑むことにした。個性の強化上限、いつもの15倍から30倍へ。そしてヒステリアモードも30倍へ跳ね上がった強化により無理やりβエンドルフィンをひねり出してヒステリア・ノルマーレと同じ30倍へ。あわせて60倍、使った後本気でつらくなるがどうせいつかは使い続けるんだ。早めに使って慣れておこう。

 

 「確かにあなた方に比べれば我々は弱いかもしれない・・・でもハンデアリとはいえプロと戦い、実戦も経験した」

 

 「そんな心配されるほど、俺らザコに見えますか・・・?」

 

 「それは戦ってみてのお楽しみってやつさ!さ、どこからでも来ていいよね!一番手は!?」

 

 「おれ「僕が行きます!」まさかの緑谷!?」

 

 へえ、緑谷が先陣か。いいんでねえの?俺は少しだけ様子見することにしよう。バチバチとワンフォーオールをまとった緑谷を筆頭に前衛がそれぞれ準備を始める。俺もポッケに突っ込んでた手を出して構える。近接組が囲うように円になって取り囲み、楽しそうな通形先輩はどこ吹く風だ。超余裕、って感じだな。

 

 「いいね、問題児くん!元気があるなあ!それじゃ、かかっておいで!」

 

 「それじゃあ先輩!ご指導のほど・・・・「「「「よろしくお願いします!!!」」」」

 

 

 俺たち全員が挨拶をしたところで真っ先に緑谷が躍りかかる。それを通形先輩は目の前にして動かない・・・と思いきやはらりと体操服が体をすり抜けていきなり全裸になった。女子勢の悲鳴が木霊する中通形先輩は「ごめんごめん!ちょっと調整がね・・・」とズボンをはきなおしてる。こりゃわざとだな、俺たちに個性のヒントをくれたんだ。たぶん、すり抜ける。これが重要だ。

 

 「隙・・・だらけ!!!」

 

 「おいおい、顔面かよ」

 

 遅れてとびかかかった緑谷の蹴りも顔面をすり抜けて無効化される。物理無効かぁ・・・困ったもんだ。俺は封じられたといってもいいぞ・・・其処から遠距離組の飽和攻撃が通形先輩を叩こうとするがどれもこれもすり抜けて無駄に終わる。むしろ地面を破壊し煙をあげてしまって見失う始末だが・・・ヒステリアモードの視力をなめてもらっちゃ困る。俺は飽和攻撃のさなか、地面の中に落ちる通形先輩を見た。遠距離攻撃ができるやつと多対一をする場合セオリーは・・・後衛の撃破!

 

 「後衛組後ろ気をつけろ!多分来るぞ!」

 

 「いい分析だかなでちゃんのお兄さん!その通り!まずは遠距離持ちからだよね!」

 

 まるで瞬間移動をするように後衛組の耳郎の後ろにまた全裸で現れた通形先輩は次々と後衛のやつらに腹パンを入れ、おおよそ5秒ほどで全員殴り倒してしまった。女子にも容赦なく腹パンを決めた通形先輩はいつの間にかズボンをはいて

 

 「POWERRRRRRRRRR!!!!」

 

 とキメ台詞を放っている。なんちゅう手際の良さだ。一朝一夕で見につくもんじゃないぞ。そしてそれを見ていた相澤先生が思い出したように

 

 「いい機会だからしっかりもんでもらえ。通形ミリオは俺が知る限りプロも含めて最も№1に近い男だぞ」

 

 ・・・!へえ。通形先輩が兄さんを抜いて最も№1に近いねえ・・・なるほど。本気で挑む気ではあったけど・・・もっとやる気が出てきたな。そういうことなら遠慮はしねえ。黒霧やオールフォーワンにさんざん煮え湯を飲まされたワープの対処を試しつつ通形先輩の個性を探ろう。

 

 「すり抜けにワープ・・・なんて強個性だ!無敵じゃないすか!?」

 

 「よせやい!」

 

 「いや、何かからくりがあると思うよ!すり抜けの応用でワープをしてるのか逆なのか・・・どちらにしろ全部直接攻撃、カウンター狙いならば触れられる隙もあるはず・・・!何されてるか仮設を立てて勝ち筋を探っていくんだ!」

 

 「おお!そうだな緑谷、謹慎あけすげー頼りになる!」

 

 「いいね!探ってみなよ!でもその前に───」

 

 来るぞ・・・狙いはおそらく・・・・

 

 「厄介な戦闘能力持ちからだよね!」

 

 俺だ!またその場で落ちるように消えた通形先輩が俺の背後に瞬時に現れ拳を握る。けど、俺は反応速度ならだれにも負けねえって自負してんだよ!しかもカウンターは俺の大得意分野だぜ先輩!俺は深く集中しパンチのモーションに入った通形先輩を注視する。ウルトラスローの視界の中、通形先輩をすり抜ける風を視覚化し分析を図る。腹に近づく通形先輩の拳が俺のどてっぱら5センチ前で風を通さなくなった!今!

 

 パァン!バァン!と続けて空気を割く音が2回した。1回目は俺が右手の肩、肘、手首の3つの関節で放った桜花が先輩の実体化した手を払った音、そして2度目はパンチを放つため両足で踏ん張り立ってる以上足は実体化してるのだろうとふんではなった腰、股関節、膝、足首の音速一歩手前の桜花が先輩の右足踵側面に当たり払った音だ。さすがに防がれカウンターを入れられたのは驚いたらしく倒れるまま地面に消えた先輩はややあって少し離れた場所に現れた。

 

 「当然、カウンターを入れてくる・・・それを刈る訓練もしてきたけど・・・一杯食わされたよね!ねえかなでちゃんのお兄さん!今見てから動いたでしょ!?」

 

 「キンジでいいっすよ。ややこしいんで。ええ、今の俺なら音速だろうが瞬間移動だろうが見てから動けます。ワープにはいやというほど煮え湯を飲まされたんで・・・ちょっと対策を組んでまして」

 

 「へぇ・・・!なるほど君はめんどくさいね!それならじゃあ・・・動きを停めた子たちからかな!」

 

 そう言ってまたワープをして緑谷の背後に現れる先輩。緑谷は今までのパターンから後ろに現れることを予期して後ろ蹴りを現れた瞬間にはなっていた。だがそれを軽くすり抜けた先輩にまた腹パンを受けて終わる。俺も扇貫で援護をしようと構えるが・・・通形先輩のが上手だった。どれもこれもクラスのやつらを間にはさんで現れるため俺は遠距離用の衝撃波技を封じられている。あっという間に全員のされて立っているのは俺だけになってしまった。ちっ!やりづれえ・・・

 

 「さっ!厄介なのは多対一じゃなくて一対一だよね!これでもとらえられるならとらえてみなよ!」

 

 また落ちる通形先輩、そして予想通り背後へ・・・と思いきやまるで分身するかのように俺の前後左右に現れ始めた。よくよく観察してみると足首がどっちか必ず地面に埋まっている。こりゃすり抜ける方が個性で確定だな?つまり何らかの手段でモノに弾かれてるから今のワープみたいな動きができるのか。じゃあすり抜けるの前提で防御をとってみよう。

 

 右後ろに現れた通形先輩の左拳に振り向いた俺がわざと合わせるように自分の防御の手を重ねる。もしモノが弾かれるというのなら、実体化して殴る以上これをやられるとどっちも弾かれるはずだ。俺は重ねた手を通形先輩が殴るのと同速度で動かし、拳が当たると同時に顔面にぴったりつける。思った通り通形先輩はそれをフェイントに変えることにしたようだ。そのまま俺の手と顔面をすり抜けた拳をエサに右拳を左を引き切ると同時に当たるように調整して放ってくる。当然俺だって何もしないわけじゃない。顔面を突き抜けている手をそのままに桜花で首を横に振って片目だけ視界を確保、両手で重ねにかかる・・・ところでズキッと頭痛が来て集中が切れた。しまった集中しすぎて個性を酷使しすぎたか────!!!

 

 「おっと!隙ありだよね!」

 

 「しまっ・・・!」

 

 当然その隙を見逃さなかった通形先輩の容赦ない腹パンが俺に突き刺さった。咄嗟に絶で全身を固めて衝撃に備え何とか最小限のダメージでことを済ませたがもうこれ以上脳みそ酷使は出来ねえな・・・俺は両手をあげて降参の意を示す。

 

 「・・・参りました。俺の負けです」

 

 「うん!了解だよね!びっくりしたよ、初見でここまで防がれるなんてね!」

 

 なるほどこれが雄英の最強、経験を積んだ本物の姿か・・・!相澤先生が手放しに誉めるのも納得できる強さ、そして忘れがちだがヒーローに必要な親しみやすさ・・・それにかなでからある程度話を聞いているが優しさまで兼ね備える傑物らしい通形先輩。インターンでここまで変わるというなら・・・是が非でも行きてえな。

 

 

 



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再・第八弾

アンケートご協力ありがとうございました。


 「ぎりぎり股間は見えないようにしたけどごめんね女性陣!・・・とまァーーーこんな感じだよね!」

 

 「いや何が何だかわかんないんですけど・・・」

 

 「もれなく全員腹パンもらっただけっすよ・・・」

 

 「んーじゃあこう聞いてみようか!俺の個性、強かった?」

 

 「「「強すぎっす!」」」

 

 俺も含め全員が腹パンを頂いた通形先輩との戦闘の後俺たちはそう尋ねた通形先輩にそう返すのだった。すり抜けだかワープだかハイブリッドだかまだ確定してないがとんでもない強個性だ。それを自在に操る通形先輩の技量もやばい。俺の反応速度に当たり前のように張り合って来たからな。

 

 「いやいや強い個性にしたんだよ!えーっとキンジ!君多分後半気づいてたよね?どうかな?」

 

 「すり抜ける方っすよね。物が重なり合うと弾かれるからあんな移動が出来てた」

 

 「そう!正解!俺の個性は「透過」!発動するとあらゆるものをすり抜けることができるんだよね!移動もその応用さ!キンジが言った通り質量のあるものは重なると弾かれるんだ!そこで俺は落下中にポーズや体の角度を変えて出現先を調整してるってわけだね!」

 

 あらゆるものをすり抜ける・・・?さっきの様子も見る限り通形先輩は空気すらすり抜けていた。つまりそれはすり抜けさせるものの取捨選択ができない個性ってこと。あらゆるものというなら音も、光もすり抜けるのだろう。とんでもねえなこの人。何も見えず、聞こえず・・・地面の中で出現位置を完全に予測して動いてたんだ。そして今気づいたがこの人の個性、発動して何をするにでも必ず何工程か必要な工程がある。すり抜けさせて防御するにも当たる位置を予測しそこだけ透過、足は立つためにそのまんま、場合によっては見るために顔だけ実体化なんてこともやってるのだろう。

 

 えげつなさ過ぎる。俺でいうなら両手両足で全く別の技を使えといわれてるような難しさだ。この人はそんな個性を当たり前に使いこなしてトップに立った、努力の人だったんだ。

 

 ほかにも通形先輩がいろいろ言っていたが俺は自分がどうするかでいっぱいだった。幸いコネなら体育祭でわんさかもらった。相澤先生に促され教室に戻った俺は何処の事務所へお願いできるか、そもそも1年生の俺たちが行くことが可能なのか・・・そしてもしいける場合かなでのことをどうするかを考え続けていた。

 

 この場合・・・俺の弱点、というかそういうものを埋められるところに行くべきだ。ファットガムの事務所で俺は防御とカウンターという自分の最大の長所を伸ばすことができた。ならば次は散々俺を悩ませてる機動力!そしてもらった指名の中から広範囲をカバーしてるヒーローは・・・一人。そうと決まれば・・・相澤先生に相談だ。

 

 

 

 

 

 「インターンに・・行きたい、ね。それに伴うお前の妹の処遇についてか。動く前に俺に相談してきたのは評価しよう。俺としては行かせること自体は反対でも賛成でもないがな。この後の職員会議でその是非が変わる。まあもし許可が下りるようなら職場体験と同じように雄英で預かろう。どこへ行く気だ?」

 

 「波動先輩が行かれてるところへ」

 

 「リューキュウか。機動力が問われる事務所だ。トクメンとったお前ならまあ妥当かもな。ああそうだ、バイク届いてるぞ。発目と平賀が弄りまわしてるがな」

 

 「最終チェックですかね。とにかくこの後動きたいんですが」

 

 「構わん。もし雇ってもらえるようならその時点でお前はインターンに行くのは決定だ。途中でケツまくんなよ。お前は指名も来てるだろうが・・・動き方はお前に任せる。自分でやってみろ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 予想外にあっさり許可が出た俺は相澤先生に礼を言ってかなでを迎えに3年生のヒーロー科に向かうことにした。もし波動先輩がいたのならそのままリューキュウに会わせてくれないか頼んでみよう。

 

 

 階段を上って校舎の最上階へ。そこに並ぶ3年生の教室の中、廊下の端っこに存在する今日かなでを見てくれている3年生のA組へ。一応ノックしてドアを開けると通形先輩に高い高いされているかなでと通形先輩からかなでをとろうとしてぴょんぴょん跳ねてる波動先輩、そして危ないよミリオ・・・とあたふたしてる天喰先輩が目に入った。

 

 かなでが「あ、お兄ちゃん様!」と俺を見つけて嬉しそうに声をかけてくれたのだが謎の茶番を行ってた先輩方3人はピタッと俺の方を見て動きを停めた。いやべつに遊んでいただいて嬉しい限りなんですけど・・・そういやいつも迎えに来る時間より早いか。つまり俺が来る前ってだいたいこんな感じなの?

 

 「どもっす通形先輩、波動先輩、天喰先輩。今朝はありがとうございました。かなでを迎えに来たんですが」

 

 「え、あ、うん!キンジ、これはだね・・・・!」

 

 「?いや別に遊んでいただいてるだけですよね?何も気にしてはないですが。な?かなで」

 

 「はい!ミリオお兄さんに遊んでもらってました!」

 

 「通形ばっかりずる~~~い!私もかなでちゃんだっこして高い高いしたいの!」

 

 「いや波動さん・・・波動さん空飛んでっちゃうじゃないか・・・そしたら危ないよ」

 

 変わらずぴょんぴょんかなでをとろうとする波動先輩とそれを器用に避ける通形先輩と振り回されるかなで。とりあえず通形先輩からかなでを受け取り俺が抱っこしておくことにする。さすがに俺からとろうとは思わなかったらしい波動先輩がぷ~とふくれっ面になるのをよくわからないギャグでいさめようとする通形先輩と天喰先輩。仲いいな。

 

 「あ!そうだ遠山!ね!朝、通形に一回攻撃あててたでしょ!?どうやったの!?それに攻撃も防いでたよね!ね!増強系の個性だって聞いてるけどとっても不思議!教えて!」

 

 「あ、それ俺も気になるんだよね!キンジは俺が後ろに回った時一番に警告飛ばしてたし、俺の移動にもすぐ対応した!どういう個性なのかな?」

 

 「えーっとっすね・・・まずオレの個性は「神経強化」脳みそから末端の神経までを総合的に強化します。で、防げたのは通形先輩の拳の周りの空気の流れを見てたからです」

 

 「空気の流れ、かい?」

 

 「はい。通形先輩は防がれるの前提で透過をかけたまま俺に殴りかかったと思います。けど拳を入れるには直前で透過を解除する必要があるはずと仮定を立てて解除される瞬間を空気の流れで見ました。拳が実体化し周りの空気が押しのけられるのを見てから片手ではたいて逸らし、地面に立ってる時点で最低でも足裏は実体化してるはずなのではじいた瞬間に蹴りを入れたわけです」

 

 「ファットガムから聞いた。遠山は撃たれた銃弾を銃弾ではじいて防御できるほど反射神経に優れてるって・・・でもそれくらいなら弾かれた時点でミリオは反応できたはずだ。どうして蹴りを当てれた?」

 

 うわ、すげえそこまで気づかれてる。確かに俺があの時通形先輩に蹴りを入れれたのはもう一つ理由がある。それは・・・・

 

 「瞬きです」

 

 「「「瞬き?」」」

 

 「人間は個人差あれど大体4秒に一回、120ミリ秒の瞬きをします。通形先輩が後衛をなぎ倒し俺の近くへ移動し、実体化して拳を握り、俺に殴りかかるまでおおよそ8秒ありました。実体化した拳が俺に届くまで1秒もありませんでしたが通形先輩はその間に瞬きをしてくれました。俺はそこをついて拳を払って、亜音速で蹴りを入れた。それだけっす。まああとは普通に競り負けましたけどね」

 

 「亜音速!?亜音速って言ったよね今!それってたしかえーっと・・・」

 

 「時速1200㎞よりちょっと遅いってとこだ、波動さん。なるほど納得できた。遠山、教えてくれてありがとう」

 

 「うん!俺もまだまだってことだよね!ありがとうキンジ!いい経験だったよ!」

 

 「お役に立てたようで何よりです。えーっと波動先輩・・・折り入ってご相談があるんですけどよろしいですか?」

 

 自分にお鉢が回ってくるとは思ってなかったのかかなでをうりうり撫でてた波動先輩は目をぱちくりしていたが内容を理解したのか瞳を興味で輝かせ始めた。ごめんなさい、そんな面白いお話じゃないです・・・・

 

 「相談!?うん!いいよいいよ!ねじれちゃんにお任せなさい!ねえ恋!?恋の話題!?」

 

 「いやそうではなくて・・・朝出たインターン、リューキュウにお願いしたいと考えてて・・・ご紹介してもらえませんか?」

 

 「インターン!?いいよ!紹介し「待ってくれ!」」

 

 話を遮ったのは天喰先輩だ。彼にしては珍しく大声で割って入ったと思ったら異様に顔色が悪い。どうしたのだろうか・・・

 

 「い、いま遠山インターン、ファットガム事務所(うち)にこないって言ったよな・・・?ファットガム・・・完全に遠山がインターンくるもんだと思って準備してるんだけど・・・」

 

 「えっ!?いやそのファットガムのところが合わないってわけじゃなくていろんな現場を体験したいんですけど・・・」

 

 気が早すぎないかファットガム!?確かにあんたのとこには大分お世話になったし感謝してるんだけどそれとこれとは別問題であって・・・いや、直接電話して謝るか。申し訳ないし。

 

 「ああ・・・遠山に矛先がずれると思ったのに・・・」

 

 多分天喰先輩はファットガム特有のノリの矛先をずらすスケープゴートが欲しかっただけっぽい感じだしほっとくか。すんませんね天喰先輩。

 

 「ねぇねぇ、どうしてファットガムとかナイトアイじゃなくてリューキュウなの?理由を教えてくれたらちゃんと紹介してあげる!」

 

 「弱点の克服のためっすね。その二つの事務所よりリューキュウは活動範囲が広いっす。俺の弱点は現着までの機動力で克服のためにトクメンも取りました・・・足りないのは経験なんです。冷静に比べてみて、リューキュウほどうってつけなところは見つからなかった。それが理由です」

 

 「うんうん!わかったよ!じゃあすぐ行こう今日行こう!リューキュウには伝えておくから6時に校舎前に集合ね!」

 

 そう言って波動先輩はぴゅーといった具合に走って教室のドアを騒がしく開けて出ていった。えーっとあまりに急すぎてどうしたもんか。固まってしまった俺に通形先輩がこう提案するのだった。

 

 「えーっと・・・かなでちゃん、預かろうか?」

 

 「・・・すんません、お願いします」

 

 「ミリオお兄さん、遊んでくれるんですか!?」

 

 「うん!いいよかなでちゃん!」

 

 俺は頭を下げて通形先輩にかなでを預けることにした。というか通形先輩かなでと仲良くない?そういえばなんか訓練あるたびお邪魔してるからそうなるか・・・とにかくありがとうございます、先輩。

 

 

 

 そのまま相澤先生のところへとんぼ返りした俺は相澤先生にかくかくしかじかで今日会いに行くことになりましたと報告、そうすると呆れた表情になった相澤先生は・・・

 

 「遠山・・・波動の相手は大変だと思うが間違いなく彼女は一線級のヒーローだ。リューキュウだけでなくあいつからも吸収してこい」

 

 と言って外出許可証をくれた。インターンの書類についてはまだ行かせるかどうか決まってないため後回し、ということらしい。すんませんね前のめりで。でも、もう妥協はしないって決めてるんで、迷惑かけます。相澤先生、ごめんなさい。

 

 そうこうしてるうちに約束の時間になったので校舎前に行くと、制服姿の波動先輩が駆け寄ってきた。ふわりとウェーブのかかった髪が揺れ、シトラスっぽい甘酸っぱい香りが漂ってくる・・・そういえばこの人と今から二人っきりなんだよな・・・いろいろ気を付けなければ、美人だし・・・ヒス的な意味で。

 

 

 「あっ!遠山!ね、リューキュウね!会ってくれるって!今から来てもいいよーって言ってたよ!だから、行こ!電車に乗ってすぐだから!」

 

 「すんません先輩!ありがとうございまっ!?」

 

 「いくよーーーー!!!」

 

 俺が答える前に波動先輩は俺の手をひっつかんで駅の方へ猛ダッシュ、俺はなすがまま引っ張られ続けあれよあれよと快速電車に乗って郊外へ引っ張られることへ相成ったのだった。

 

 

 

 「ねえねえ遠山、朝の時ってさ。体操服の中に武器持ってたでしょ!?今も持ってるみたいだし、なんで使わなかったの?不思議!」

 

 「よく気づいてましたね・・・さすがに同校の先輩に銃向ける気はありませんよ。あの個性みると事故の可能性は低いっすけど・・・あと素手でどこまで通用するか知りたかったからですね」

 

 「重心みればわかるよ!通形も天喰も気づいてたし、通形なんて「使わせられなかったーー!」って悔しがってたもん!でも、その感じだと武器メインじゃないんだ?どうして?」

 

 「それはっすね・・・」

 

 まさか銃を持ってることを気づかれてるとは思わなんだ。しかも先輩3人全員に・・・。梔子は流石に制服には仕込めないからヒーロースーツか俺の部屋に置いてあるけどクラスのやつらには言うまで気づかれなかったからな・・・見る人が見ればわかるんだな・・・。

 

 あれこれ俺に関することに興味があるらしい波動先輩の質問攻めに答えながら電車に乗られること一時間ほど、波動先輩にまた引っ張られて駅を降りる。ちょっとこの人天真爛漫で好奇心旺盛なところがあるけど踏み込んじゃいけないラインは弁えてるっぽいな。あんだけ俺に関して質問を飛ばしてきたのにかなでのことに関しては一切聞いてこなかった。本当なら一番気になるだろう所なのにな。

 

 やはりこれも経験か・・・自分が聞ける範囲を見極めて、弁える。そんな所作からも波動先輩の実力の高さがうかがい知れるのであった。

 

 

 

 「ついたよーーー!ここがリューキュウ事務所!おっきいでしょー!?」

 

 「ええ、めっちゃ・・・でかいっすね・・・」

 

 ズドーーーン、とかそんな擬音をつければいいのだろうか?ビル一棟がまるまるすぽっと収まりそうなドラゴンの意匠を施された建物。それが波動先輩がインターンに努め、ドラグーンヒーロー、リューキュウが主をしている事務所か・・・なんかすごいオーラが漂っている気がするぜ・・・・。

 

 

 「リューーーーキュウーーーー!!遠山連れてきたよーーーーー!!!!」

 

 大声でドアを開けるなりそう大声で叫んだ波動先輩にまたまた引っ張られ・・・ていうか俺と波動先輩浮いてない?ていうかイタタタタ!先輩!引っ張るのやめて!俺浮いてるから!右手一本で全体重を支えてるか・・・あっ肩外れた。まああとではめればいいか。ドバン!とドアの一室を開けて中に飛び込んだ波動先輩はそこで急停止して着地、混乱して何もできなかった俺はべしゃ・・・と地面に落下し無様をさらすのだった。

 

 

 「えーっと・・・まずねじれ?ノックをしてドアは静かに開けてね?あともっと落ち着きなさい。それと君は大丈夫?肩外れてるわよね?」

 

 「えっ遠山ごめん!大丈夫?ついついはしゃいじゃって・・・ごめんなさい」

 

 「あいたたた・・・あ、大丈夫です先輩。実家じゃよくあることだったんで。よっと・・・すいません、お見苦しいところを見せました。雄英高校ヒーロー科、一年A組、遠山キンジです。今日は折り入ってお願いがあってきました」

 

 立ち上がった俺がガコン!と音を立てて左手で右肩の関節をはめながらなんとも無様な自己紹介をすると目の前の豪奢な事務机とスツールに腰かけた女性、チャイナドレスっぽいヒーロースーツに竜の爪を模したアクセサリーで顔の半分を覆った金髪の女性、リューキュウが俺が肩の関節を自力ではめたのを見て若干あたふたしながら口を開いた。

 

 「ちょっと!?無茶しちゃだめよ?・・・ようこそリューキュウ事務所へ。私がリューキュウよ。遠山君、体育祭で指名入れたけどインターンで来るとは思わなかったわ・・・で、インターンのことよね?」

 

 「はい。是非ともこの事務所でインターンを受けたいのですが・・・」

 

 「いいわよ?」

 

 えっ軽っ!?そんなあっさりと決めていいのか?と混乱顔をさらす俺にリューキュウと波動先輩はそろってくすくすと笑うのだった。

 




 というわけで一番票数の多かったリューキュウ事務所ルートです。個人的にはファットガムルートが一番人気かなって思ってたので意外な結果でした。

 インターン編はどの事務所に行かせても描きたい場面があって決めきれなかったのでご協力には感謝しています。

 ではまた次回!オリジナル挟みますけど許してください!


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再・第九弾

 まさかの面接も何もなしの一発OKに面食らった俺をひとしきり笑い終わったリューキュウと波動先輩は顔を見合わせて口を開いた。

 

 「えーっとね!体育祭の後職場体験のスカウトいったでしょ!?その時からずーーーっとリューキュウ、遠山のこと狙ってたの!えっと理由はね・・・!」

 

 「はいねじれストップ。ごめんなさいね遠山君。多分ねじれが伝えてると思うけど「小回りが利く強い人材」が今のうちの事務所では不足してるのよ。私は個性が個性だし、ねじれもどっちかっていうと大規模攻撃向きね。サイドキック達も私と似通った個性が多いの。だから、体育祭を見てあなたにビビッと来た!てわけね」

 

 「確かに対人戦はそれなりに自信がありますけど・・・そこまで言われるレベルに達してるとは思いませんが・・・」

 

 「そうね、正確にはあなたの器用さに私は惹かれてるの。体育祭で何度も見せた対応力の広さ、大規模攻撃を相殺する手札の多さ、それに言うまでもなく戦闘力。どれもこれも磨き抜かれたものだわ。しかもファットから聞いたけどあなた武器まで使いこなせるっていうじゃない。私だけじゃないわよ?あなたを欲しがってる事務所は」

 

 えっまじで?あまりにべた誉めされるから混乱してたけど俺欲しがってる奇特な事務所って結構多いのか!?体育祭じゃ興味だけって聞いたからもうみんな別の方面に注目してるもんだと思ってたぞ・・・俺個性自体が派手じゃないから人気商売なヒーローに欲しがられる理由なんてそんなにないと思うんだけど・・・

 

 「わかってないって顔ね?あなたはまだ1年生だから自覚はないのかもしれないけど・・・あなたをサイドキックにしたいってヒーローは多いの。それはあなたがどんな状況でも生き残れる可能性があるから、よ」

 

 「生き残れる・・・ですか?」

 

 「そう。ヒーローは人気商売、もし地元のヒーローがサイドキックをヴィランによって失ったら世間はどう見るかしら?間違いなく人気は下がるわよね?一芸特化じゃヒーローは務まらないわ。いろんな戦闘に対応していく必要があって、失敗は許されない。その中で豊富な手札をもち、個人としての戦闘力も高く、円滑にチームアップして協力もできるとくれば欲しがる事務所は沢山あるの。それにあなたは・・・」

 

 「俺が・・・?」

 

 「気を悪くしないで頂戴ね・・・あなたは、神野の事件でも生き残った。ヴィランのボスに一矢報いるという結果を残して。いい意味でも悪い意味でもあなたは注目されるようになってるの。星の数ほどある事務所から私の事務所を選んでくれたことは嬉しく思うわ。まあそういうわけで、あなたに関しては来た時点で採用確定、というわけよ」

 

 ・・・なるほど。状況は理解した。どうやらプロの界隈では俺は結構な有名人になってしまってるらしい。そうするとなんで兄さんは俺に指名をくれなかったのだろうか・・・?まあいいや。とにかくリューキュウ事務所への採用が決定してくれた!インターンできるってことだよな・・・あーよかった・・・。

 

 拍子抜けした俺がふーっと息を吐きだすとリューキュウはじ~っと俺を上から下まで観察し始めた。あの何の御用でしょうか・・・?

 

 「そういえばさっきねじれに聞いたのだけど、通形君に一発攻撃を当てたのよね?彼、ナイトアイが手塩にかけて育ててるからよっぽどのことじゃないとダメージなんて負わないのにすごいものね。ふふ、これはナイトアイが悔しがる顔が浮かぶわね~」

 

 と口の端から綺麗な肉食獣っぽいギザ歯を見せながら笑うリューキュウ。勝手なイメージなんだがこの人孤高のクールビューティって感じなんだよなメディアだと。こんな親しみやすい性格してるなんて思わなかった。

 

 「にしても残念ね。本当だったらこの後訓練でもして実力を見せてもらおうと思ってたのだけど・・・さっき肩外れてたし今日はやめた方がいいわね。質問が無かったら今日はもう帰っても大丈夫よ?ねじれも今日はありがとうね」

 

 「別に多少動いても大丈夫ですよ?家じゃ関節くらい自分で外したりはめたりできないとダメでしたし・・・外れた状態で組手するとかもざらでしたから」

 

 実際に心臓停めて死んだふりしたりする家だからな、遠山家は。関節一つ外れたくらいならさっさとはめろっていう空気だし。俺がそう言うとリューキュウはちょっと引いたような顔をして

 

 「そ、そうなの・・・・じゃあ、見せてもらいましょうか」

 

 そう言ってスツールから立ち上がったリューキュウの後をついて、俺と波動先輩は事務室を後にするのであった。

 

 

 

 「ここよ」

 

 そう言ってリューキュウが止まった一室はガラス張りになった部屋の中に無数の銃座が並んでいる・・・というか全自動じゃん、めっちゃ金かかってるな。

 

 「遠山君の素手の実力は言うに及ばす、ファットガムが伝えた話でも銃撃戦もこなせるって聞いてるわ。でも、仮免に合格して実弾に代わるでしょう?そうなると伝え聞いた話だと不安なの。ヒーロー社会においてフレンドリーファイアや誤射はとんでもない問題を引き起こす。実力を知らないで使用許可は出せないの」

 

 「おっしゃりたいことは分かります。それで俺はどうすれば?」

 

 「やってほしいことは単純よ。今からこの部屋の中の銃器をすべて起動させるわ。あなたはその脇と腰の銃を使って全ての銃を壊すか使用不能にしなさい?弾切れまでよけるのはなしよ。最速、最短で被害を限りなくゼロにするの」

 

 「・・・壊していいんですか?」

 

 「ええ、どうせ明後日に全部取り換えるもの。撃ちすぎて摩耗が激しくってね。どうせならあなたの実力試しに使ってみる方がただ取り換えるより有意義よ」

 

 ふーん、持ってる場所まで見抜かれてるのは兎も角、実に俺向きなテストだな。確認できる限り、銃は34丁ってところか・・・。いや、隠しがいくつか混じってんな・・・マガジンは最低限しかねえからばらまくわけにはいかねえ。でもヒーロー活動すんならそんな言い訳してちゃダメだからな。着の身着のままでも結果出さねえとダメなんだ。

 

 俺は脇のベレッタと腰のデザートイーグルのホルスターを入れかえながら調子を確認し、持っているマガジンの本数を数えながらリューキュウに返事をする。

 

 「わかりました。ほかに禁止事項はありますか?」

 

 「特にないわ。じゃあ、あなたが部屋の中に入ったら始めるわよ」

 

 「わ!やるの?でもリューキュウ、普段は全部一気に動かすなんてないよね?どうして?」

 

 「それはね、そのくらいの対応力がないとヒーローは銃器を使ってはいけないっていうのが今のスタンダードだからよ。だから今、銃を使うヒーローはみんなこれくらいは対応できるってこと。曲がりなりにも戦力としてインターンするのだから同じ水準を求めないとね」

 

 なんてリューキュウが波動先輩に解説するのをしり目にガラス張りの部屋の中に入り、中央まで歩いてく。ひぇー、見たことねェ形の銃だな・・・これ専用のためのオリジナルか?これ壊していいとか太っ腹もいいとこだぜ。完全自動だからかトリガーが見当たらねえな・・・マガジンも内部機構になってんのか・・・え?これ壊すって結構難易度高くね?全部銃口撃ちしろってこと?・・・やれるだけやってみるか。

 

 兄さんから習ったように足を肩幅に開いて手を下げる。「無形の構え」・・・今からやる兄さんの必殺技に必要な前段階の構えだ。どうせならアピールもかねてやってみよう。銃は使うが抜いてるところは見せない・・・兄さんが開発した究極の速撃ちだ。

 

 

 『準備よさそうね?・・・・じゃあ、はじめ!』

 

 リューキュウの合図とともに短いブザーが鳴り自動銃どもが動き出す。いち早く俺を見つけた正面の5丁が銃口を俺に向け―――――――

 

 

 ガガガガガン!!!という音とともに銃口に銃弾を叩き込まれ銃座から銃が吹っ飛んだ。俺は傍目には何もしてないように見えてるだろう。手は無手のままだらんと垂れ下がりなにも動いてないように見える。唯一あったことといえばマズルフラッシュが5回閃いたことだけ。

 

 『あれ?リューキュウ、今何があったのか見えた?すごい!全然わからなかった!』

 

 『不可視の銃弾(インヴィジ・ヴィレ)ね・・・カナ以外にも使える人がいたなんて・・・』

 

 『インヴィジ・・・ヴィレ?』

 

 そう、こいつは兄さんが開発した拳銃による居合抜き、最速の銃技だ。ヒステリアモードの反射神経を利用して、抜き、狙い、撃つ、仕舞うの4工程を極限まで早くした、ただの速撃ち。あまりの速さゆえに銃本体は見えずに敵はマズルフラッシュしか確認できずそれを見たときにはもう相手の体に銃弾が着弾している・・・つっても兄さんに直接教えてもらったとはいえ兄さんが使ってるリボルバーじゃなく俺のはオートマチックだ。開発者の兄さんが放てば俺の1.5倍くらいは速度が出る。

 

 

 壊れた銃を踏み越えるように前へ出る。横方向に存在する7丁が銃弾を吐き出す前に不可視の銃弾で銃口撃ちを叩き込んでやり黙らせ、逆方向の隠し銃が発砲してくるのをデザートイーグルの不可視の銃弾で真正面から迎撃。運動量で勝るマグナム弾を受けた隠し銃の弾丸はひしゃげ、まっすぐに隠し銃の銃口へ入っていった。相手の弾をそのまま返す鏡撃ち(ミラー)だ。

 

 ベレッタのリロードを済ませ真後ろにある5丁を同じようにぶっ壊す。摩耗のせいかなんなのか知らねえけど思ったより反応速度が遅い、天井の隠し銃を迎撃し前進、流れで6丁を破壊したところで銃の動きが変わった。手加減解除ってか?

 

 ババババババ!!!とさっきとは段違いの速度で弾を吐き出す銃ども。俺は鉛玉の嵐を身をひねって避け、そのままベレッタの残りの弾を不可視の銃弾で全部吐き出す。銃弾撃ちで跳ね返った弾丸がほかの弾丸を巻き込みながら多段的に跳ね返り銃弾の嵐を形成し、10丁の銃を穴だらけにした。鉄風(テンペスト)の強化版、鉄嵐(ディザスター)ってな。

 

 ラストは隠しを入れて10丁、ちょっと距離あるけど問題ねえと思いきや軽く20mはあるにもかかわらず正確にこっちを狙撃してやがる。俺はバタフライナイフを取り出して右前当たりの自動銃に向かってヒステリアモードのロケットスタートを切る。当然迎撃の弾が飛んでくるがジグザグに避け、当たりそうなのはナイフで銃弾切りしたり弾いたり逸らしたりしながら誘導した弾で周りの銃をぶっ壊す。残り4丁。

 

 ナイフで1丁ぶっ壊して残り3丁、右壁と左壁の一部が開いて睨んでた通り銃が登場した・・・って今度はガトリングかよ!爆音で回りだしたガトリングから吐き出された銃弾が俺を挟撃する。身をひねって飛びあがりデザートイーグルで迎撃する。さすがに銃弾撃ちは不可能なのでガトリング砲ならついてるでおなじみバッテリーを狙い撃つ。

 

 着弾し電子系に不備が出たらしいガトリング2丁が沈黙するのを確認、ラストの銃へ歩みを進める。入るときにどこに何があるかは確認したからな。意図的に真ん中の銃だけ残した。キュルキュルと俺を探す銃の死角から真ん前に陣取る。すぐさまギュルン!と俺を見つけた銃が発砲するのと全く同時に俺もベレッタを発砲する。

 

 放たれた銃弾はお互いに掠りながらすれ違い、俺の銃弾は問題なく銃口へ。そして俺の方に迫る銃弾を俺は最近考え付いた技を試そうと掌を広げ、着弾地点に置く。

 

 橘花で銃弾と同じ速度で手を引き、銃弾が手に着弾する瞬間秋水を逆技にして運動エネルギーを受け取って足元へ流す。それと同時に銃弾を同じ方向に手をひねってやると・・・パシッという軽い音とともに銃弾が俺の手の中に納まった。やりゃできるもんだな。素手で銃弾をキャッチする・・・そうだな銃弾掴み(ゼロ)とでも名付けようか。

 

 ってあっつ!そういや素手でつかんだった!バカなことしたもんだぜ・・・投げ捨てるように銃弾を不法投棄した俺がすたすたと出口に向かって歩くとリューキュウからアナウンスが入った。

 

 『・・・終了よ。正直今すぐうちに就職してほしい気分だわ。書類が出来たらすぐに持ってきなさいね?』

 

 「ありがとうございます」

 

 そんな感じで若干ドン引きしたような顔をしているリューキュウの元を去り、瞳がキラキラ輝く波動先輩に引っ張られ(今度はだいぶゆっくりだった)電車に乗り雄英に帰った。その中でも質問攻めにあったが不可視の銃弾のことについてはカナの技であるといったところ「カナ先輩の弟さんだったの!?」とお言葉を頂いた。あ、はい。女装してるけどカナの弟なんです。カナのこと言ったら兄さんは俺のこと4分の3殺しにしてくるので言わないけど。

 

 

 

 「じゃあ遠山!インターンの許可がでたら一緒に頑張ろうね!ね!楽しみにしてるからやめちゃいやだよ!じゃあまた今度ねー!」

 

 と雄英についた途端波動先輩は自分の寮の方へ、空に浮かんで帰っていった。あの、下着見えそうなんでやめてください・・・!というかあの人の個性なんだ?浮遊?よくわかんねえとヒス的な血流を鎮めつつハイツアライアンスに帰り、玄関から共用リビングへ入ると風呂上りらしい切島が珍しく髪を下ろして一人でいた。あいつが一人なんて珍しいこともあるもんだ。たいてい爆豪とかと一緒なのに。

 

 

 「お!遠山帰ってきたな!おかえり!ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか!?」

 

 「ああ、ただいま。お前が俺に頼み込むなんて珍しいな。爆豪とかじゃダメなのか?」

 

 「おう!お前じゃなきゃダメなんだ。えーっとだな・・・ファットガムを、紹介してほしい。職場体験行ってただろ?俺も立ち止まってられねえんだ・・・ファットガムのところにインターンに行きてえ」

 

 切島が・・・ファットガムとねえ・・・めっちゃ目に浮かぶな。相性抜群の組み合わせじゃね?断る理由もないしどうせ俺も連絡するつもりだしちょうどいいか。なんで天喰先輩じゃダメだったのだろうか・・・。

 

 「俺の紹介じゃ聞いてくれるかどうかわかんねえぞ。俺は今回ファットガムのところにはインターン行かねえからな。不義理するのに友達お願いしますなんて虫のいい話が受け入れ・・・あの人なら怒らねえとは思うが・・・まあとりあえず分かった。相澤先生の許可は?」

 

 「もちろんとってきたぜ!天喰先輩にもお願いしたんだけどな・・・通形先輩の後ろに隠れちまって俺と目も合わせてくれねえんだ。だから、お前に頼む!このとーり!」

 

 「よせよせ切島、頭なんか簡単に下げるな。まあ理由は分かった。とにかく今から電話するからよ」

 

 俺はソファに座り込み、スマホを取り出してファットガムに電話番号に連絡をかける。さて、どー謝ったもんかな・・・・。

 

 

 




 よく考えたらリューキュウ事務所超大所帯になりますね。ねじれちゃん、ウラヴィティ、フロッピーの美少女3人衆にクールビューティ―な外見に親しみやすさを備えたリューキュウ・・・そしてその中に放り込まれるキンちゃん・・・あらやだハーレム?

 インターンに上限人数が無かったらいいんですけど・・・一応3人までは確認してるからそんくらいなのかしら。とかく次からオリジナルゥ!


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再・第十弾

 切島に頼まれてファットガムに渡りをつけることになったので、ちょうど用事あってちょうどいいと思った俺は切島が真剣な顔で見守る中ファットガムに連絡を入れることにした。スピーカーモードにしたスマホを卓上に置けファットガムへ電話をかける。ワンコール、ツーコール・・・繋がった。

 

 『キンジ~~~!なんでお前ファットさんのところにインターン来ないんや~~~~~!!!!』

 

 うるさっ!!!まさかの初手大音量で泣きが入ってくるとは思わなかった。俺の返事を待たずにファットガムはさらに続ける。

 

 『さっきリューキュウから連絡が入ったんや~~~!!自慢げにキンジが自分とこにインターンくるってな~~!!ファットさんは悲しゅうて悲しゅうて・・・どうすんねんせっかく作ったこの歓迎の横断幕!!』

 

 いやそれについては知らねえよ。フライングもいいとこだろ・・・?トクメンとらなきゃ確かにファットのとこに行ったのかもしれないけどな。

 

 「いやそれはですね・・・昨日トクメンとりまして、マシンももう届いてるので一回範囲が広い事務所に行くべきだと考えました。ファットの所繁華街で尚且つ歩行者天国ばっかりでしょう?バイクなんか乗れませんよ危なっかしくて・・・必要もないですし」

 

 『トクメンとったんか!おめでとさんやな!まあさっきまでのは軽いジョークや。謝る必要もあらへん。そーいうことならリューキュウのとこはぴったりやな!・・・で、お前さんから電話なんてなんかファットさんにお願いでもあるんか?言うてみい、クラスメイトでも紹介してくれるんやろ?ちょっと前に環から連絡あったわ』

 

 なんだ天喰先輩ちゃんと切島のために動いてくれてたんじゃん。俺いらなくね?切島が驚いたように俺と目を合わせる。というかちょっと感動してるような顔してんな・・・天喰先輩・・・!みたいな感じ。ちょっと素直すぎておもしろいわ切島。

 

 「ええ、お見通しですね。ご察しの通りクラスのやつから仲介を頼まれました。俺の個人的な考えですけど・・・絶対ファット気に入りますよ。根性あって男前で優しくて気配りできるクラスのムードメーカーってやつですからね。コンビ組むならってきかれたらすぐ名前上げるくらいには買ってるやつです。な、切島」

 

 「あえ!?お、おう!切島鋭児郎です!よろしくお願いします!」

 

 俺が切島を誉めながら話を振ると切島は俺にそこまで言われたのが意外だったのかちょっと嬉しそうにしながら自己紹介しをした。言っとくけど俺結構お前のこと買ってるんだぜ?頼りになるやつだってな。あと組んだとき異常にやりやすいからな・・・切島は合わせるのがうまいんだ。しかもどんな時でも腐らない個性だから防御任せて攻撃でも逆でもできる。切島と組んだ時みんな勝率上がってるからな、推して知るべしってやつだ。

 

 『よろしゅうな!ファットガムや!キンジにそこまで言わせるなら気になるやんか~。おっしゃ!明日にでも面接にきい!場所は明日環出勤やから一緒にきいや!キンジもリューキュウのとこが合わんかったらいつでもきてええんやで?ほな、また今度な~」

 

 「お疲れ様ですファットガム、ありがとうございました」

 

 「うっす!ありがとうございました!」

 

 『はいな!頑張りいや~』

 

 そんな感じで電話を切ったファットガム。俺はスマホを自分のポケットの中に入れて一息つく。なんだよファットガム全然怒ってないじゃん。おちょくっては来たけどそんくらいなら普通だな。

 

 

 「良かったな、切島。明日頑張ってこいよ」

 

 「ああ!ありがとう遠山!あ、そういや環先輩に会った時かなでちゃんが一緒だったぜ?3年生の寮に泊まるってよ!」

 

 「まじか、伝えてくれてありがとうな切島。じゃあ俺も風呂入って休むわ。また明日なー」

 

 「おうよ!お互い頑張ろうぜ!」

 

 俺は切島と別れてそのまま風呂に入ってすぐに布団に入って休むのだった。明日から忙しいぞ・・・

 

 

 

 「えーそんなわけで、1年生のヒーローインターンは職員会議の結果・・・多くの先生が「やめとけ」という意見でした」

 

 「ざまァ!!!」

 

 翌日のホームルームにて相澤先生の口から昨日の俺がやったことを全否定する言葉が出てきた。ちょっと愕然としてると爆豪が追い打ちをかけてきたけどまだ続きがあるらしい。

 

 「えー!」

 

 「あんな説明までしておいてそりゃないっすよー!!」

 

 「まあ待て。そんな話になったが、今の方針では強いヒーローは育たないという意見もあり「受け入れ実績の多い事務所に限り1年生のインターンを許可する」という風に決まりました」

 

 「クソが!!!」

 

 なんだよかったー・・・あれ?リューキュウのとこ大丈夫だよな?あと爆豪は謹慎あけでも元気だな。そんな連絡事項を残して相澤先生は帰っていって入れ替わりにセメントス先生が入ってくる。今日はちょっと楽しみなんだよな。なんたって納車されたバイクに乗れるからな。

 

 というわけで午後、今回のヒーロー基礎学は個性圧縮訓練の続き、必殺技強化の時間なのだが完成してるものは自主練みたいな感じだ。なので俺は相澤先生に許可とってサポート科に行くことにした。ちなみに切島は嬉しそうに天喰先輩にくっついて面接に行った。天喰先輩は切島のあまりの陽キャっぷりにまぶしそうな顔をしてたな。というか溶けそうな顔だった。大丈夫かよ・・・

 

 

 「失礼しまーす。パワーローダー先生、発目と平賀さんいますかー?」

 

 「いらっしゃい。発目!平賀!お待ちかねのお客さんだぞー!」

 

 そうパワーローダー先生が声をかけるどドタンバタンガシャーンドカン!と音がして・・・今なんか爆発してなかった?・・・とにかくすごい音がして煤まみれの発目と平賀さんが姿を現した。おお、タンクトップかい・・・目のやり場に困るぞ二人とも・・・。

 

 「やっと来ましたね遠山さん!見てください見てください!ジーサードリーグと文と私の合作ベイビーです!さあ乗りましょう今乗りましょう!」

 

 「遠山くんやっと来たのだ―。しかしすごいもん注文してるのだ。I・アイランドで最近開発された超先端科学兵装(トランサンデ・エンジェ)がふんだんに使われてるのだ。すっごい勉強になってありがたい限りなのだ―」

 

 「よくわからんがそんなやばいもんなのか。ちょっと早いバイクでいいって言ってあると思うんだが」

 

 「いやー・・・それがですね・・・」

 

 「あややたち、ちょっと楽しくなっちゃって・・・それに向こうの会社さんがすごい乗り気だったのだ・・・それで・・・」

 

 いやな予感。やめろよ運転できないもん押し付けてくんのは・・・

 

 「「当初想定してたスペックの2倍くらいのものできました」できちゃったのだ」

 

 「何やってんだよ・・・」

 

 まさかのカタログスペック2倍に俺が恐れおののいていると・・・え?つまり最高速が何キロだ?当初の予定は300くらいだったよな?それに予備の弾帯とかも積み込めればいいくらいのノリだったんだが・・・

 

 「まあとにかく見てみるといいのだ!じゃじゃーん!!」

 

 と口で効果音を発した平賀さんが近くの布をバサッととると黒の車体に黄色のライン、バイクに特徴的なマフラーはなく代わりに車体後ろにかけて流線形のコンテナが2つくっついている。そして何よりも特徴的なのはシートの前、仮面ライダーが乗るみたいな前傾姿勢をとるバイクなのでちょうど俺の胸にくる当たりに蒼い光を放つ装置が組み込まれてる。一応サブシートもあるみたいだ。ジーサードだから派手派手なトリコロールカラーにでもしてくるかと思ったら俺の好みに合わせてくれたんだな。

 

 「完全バッテリー駆動、通常使用の範囲ならフル充電で連続稼働時間は20時間!最高速は驚きの時速500㎞!とーやまくんのご所望通り予備の弾丸や医療キットなどを収めるコンテナが左右二つ付いてるのだ!タイヤはもちろん防弾!」

 

 「そして目玉はI・アイランドで開発され、ジーサードリーグのマッシュ博士が小型化、私たちが調整を施した「慣性制御装置」!これがあれば急ブレーキの際一瞬で止まることも!直角に曲がることも!急発進でいきなり最高速に至ることも思いのまま!デメリットとして使用しながら走れば稼働時間は5時間まで落ちます」

 

 「仕組みは端折るけど簡単に言うなら慣性をため込んで自由に使う装置なのだ。慣性の向きを変えて加速、減速に使ったり一時的に慣性を取り除いて制動に使うための装置なのだー!上限はあるけど加速に使ってれば問題ないはずなのだ。I・アイランドの研究者の人に感謝するのだ」

 

 「というわけでいかがでしょう遠山さん!文と私の最高傑作だと自負しておりますが!」

 

 「・・・乗ってみるまで分からんが、お前らが手伝ってジーサードが作ったんだ。これを乗りこなさなければヒーローなんてなれねえよな・・・そんで?このバイクはなんていうんだ?」

 

 俺が気に入ったようなことを言って、このバイクの名を訪ねると嬉しそうに顔を見合わせた。俺も正直乗るのが楽しみでしょうがない。この後ためすけどな。

 

 「ふっふっふ・・・よく聞いてくれたのだ!」

 

 「なんとジーサードリーグから私たちがこのベイビーを名付けする権利を頂いたのです!その名も・・・」

 

 「「ノックス!!」」

 

 ノックス・・・いいな、いいセンスしてるじゃねえの。由来は何なのか知らないけど・・・

 

 「じゃあ遠山君!フル充電してあるので乗ってくるのだ!」

 

 「感想を楽しみにしてます!不具合があったらいつでもきてください!」

 

 

 

 というわけで説明書を渡されてノックスを引いた俺がクラスのやつらが授業をしている運動場に戻る。ちょうど休憩してたしたやつらがバイク引いた俺のことを見つけて走り寄ってくる。一番は緑谷だ。

 

 「遠山君!それもしかして頼んでいたっていうバイク!?」

 

 「おう、かっこいいだろ?ちょっと試そうと思ってな」

 

 「おわー!いいな遠山!ちょっと乗ってみてもいいか!?」

 

 「・・・だめだ峰田。お前はトクメンとってからな」

 

 「ぎゃああああ相澤先生ーーー!?」

 

 峰田が車体によじ登ろうとするのを猫掴みした相澤先生がいつの間にか俺の近くに立っていた。すっげえびっくりした。ほかのクラスのやつらも熱心にノックスを見つめている。特に八百万、知識欲旺盛な彼女は超技術で構成されたスーパーマシンがお気に召したようだ。

 

 「あの、遠山さん・・・こちらのバイクはどちらの会社で・・・?」

 

 「ん?ああ、ジーサードのとこと発目と平賀さん、技術はI・アイランド製らしい。気に入ったのか?」

 

 「ええ!とても気に入りましたわ。やはりトクメン、取った方がよろしいのでしょうか・・・」

 

 「ま、あとで跨るくらいならやってもいんじゃね?キーは抜くけどな・・・とりあえず一回走らせてくれよ。俺もまだ乗ってねえんだ」

 

 「そうだったのか!みんな一回離れよう!遠山君が動かすそうだ!」

 

 飯田がみんなを放してくれたので俺も有り難く動かしてみることにしる。普通のバイクよりもハンドルについてる機構が多いが問題なし、キーを差し込んで回す。ちなみにこのキーも先端科学でできていて、持ってる人物の指先の静脈パターンを読み取ってくれるのだそうだ。今は俺のしか登録してないけどな。ちなみにガントレッドをつけたままでも問題ないそうだ。なんだその技術?つまり物理キーと生体認証の2段構えというわけだな。あ、ちなみに緊急時はキー無しでもいけるらしい。じゃあなんで付けたと聞いたところ「様式美」と帰ってきた。なんじゃそりゃ・・・

 

 問題なく起動したノックス、普通のバイクのメーター部分に取り付けられたタッチパネルが起動してステータスを表示する。まず慣性制御はなし、通常走行で行ってみよう。アクセルをひねると試験で使ったバイクのような爆音がなることもなく、非常に静かなモーター音が鳴り、音もなく車体が発進した。うわっ!めっちゃ運転しやすい!

 

 加速力も期待以上でグリップもめっちゃ効く。あっという間に時速100kmを突破した俺がグラウンドを一周する。バランスもめっちゃ取りやすいな、最高じゃんこれ。クラスのやつらもめっちゃはやし立ててる。200㎞を突破しても揺れどころかカーブですら理想通りに動いてくれる。ふぅん、なるほどなるほど・・・いいな、これ。

 

 じゃあ次はお待ちかねのトンデモ技術だ。タッチパネルを操作してリミッターを解除、慣性制御をオンにする。すると車体の黄色のラインが蒼に代わり、体にかかってたGが一気になくなった。すっげえ、どんどん加速してんのに俺に負担が全く無いぞ・・・そうか、俺にかかる負荷すら加速力に回してるんだな?試験車で出した時速250㎞を超えあっという間に時速300㎞へ。もはや黒い風になったといってもいい俺がグラウンドを何周もする。ついでにもう一つ機能を試してみよう。

 

 俺はハンドルについてるボタンを弄り、その場でバイクを反転させる。普通の車両なら絶対に不可能な動きを速度を落とさず出来ることに使われてる技術のすごさを感じるな。そしてそのまま両輪駆動のタイヤが二つとも逆回転を始め、バック走行を始める。これも後ろ前反対という操作の違いはあれど運転感は全然変わらない。さすが移動手段に特化させただけはある。まあ頑丈にするようにもお願いしたんだけどな。全身防弾でいざというときの遮蔽物にしたりもしたかったから。

 

 結構無茶苦茶なことを頼んだはずなのに期待以上に仕上げてくれたジーサードと発目、平賀さんには感謝しかないな。バック走行をやめてクラスのやつらが待ってる場所まで一瞬で到達してブレーキ、キュッという音とともに瞬時に停止したノックスをコンコンと誉めてやって、電源を落とす。一度蒼のラインが光った後、黄色に戻ってタッチパネルの電源も切れた。いいバイクをもらったもんだぜ。

 

 「遠山君!すごいバイクだね!最後の方とか目に追えなかったや!」

 

 「ロックじゃん!途中色変わったりとかさ!いいなーやっぱ私もトクメンとりたい!」

 

 「お前ばっかモテ要素そろえやがってよー!うらやましいぜコンチクショウ!」

 

 「わりいな待たせて。あっさっき言った跨るくらいならいいからやりたかったら言えよ」

 

 俺がそう言うとクラスの大多数の手が上がった。おお、めっちゃいるじゃん。というか授業中だけどいいのか相澤先生?と相澤先生の方を見ると好きにしろといった感じで寝袋に入るところだった。いいんかそれで・・・まあ相澤先生がいいというならいいか。と俺はクラスのやつらに「順番な」といいながら輪の中に入るのだった。




 バイクのイメージは仮面ライダー555のサイドバッシャーからサイドカー外して全体的にごつくすれば大体合ってます。
 これでキンちゃんの強化は終了ですね。もうこれ以上はどうにかするつもりは今のところないです。


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再・第十一弾

 順番にノックスに跨るクラスのやつらを眺めながら、説明書を読みこんでく。えーと充電は・・・は?コンセントにつなげばいい?普段の手入れは・・・普通のバイクと同じ。耐荷重は結構あるな・・・メンテは平賀さんか発目にお願いすればいいのか。楽なもんだな。まあ武装は一切してないしな。ただ硬くて速いスーパーバイクだからまあそんなもんか。

 

 めっちゃスマホで写真撮ってるけどお前らイマドキなやつらだな。あ、麗日が間違えて重さゼロにしたノックスを浮かせてる。慌てて解除してガチャンと落ちたノックスを見たクラスのやつらが顔を青くしてるが別にそのくらいなら壊れないし傷つかないから安心しろ。爆豪が爆破しても大丈夫なくらいだぞ。さすがに最大威力では知らんけどな。

 

 「そんくらいなら問題ないぞー。まあ新車だし気を付けてくれよ」

 

 「ごごごめんなさい遠山君!めっちゃ高いやろこれ・・・」

 

 「詳しい値段は知らんがI・アイランドの最新技術だからな、真面目にクソ高いじゃねえのか。知らんけど」

 

 「ひぇ・・・・・」

 

 そう言えば麗日の実家は結構貧乏だったっけか。お金の大切さが身に染みてるからこそできる表情だな。とかく俺は怒ってないから心配すんな。それよりもそろそろ後ろみろー?

 

 「君たち、今は何の時間だったっけ?」

 

 「「「「「ごめんなさい!相澤先生!!」」」」」

 

 さすがにしびれを切らした相澤先生の雷が落ちて俺たちはそれぞれの自主練に戻るのだった。

 

 

 

 そんなことがあり、今は週末。あの後相澤先生に改めてお願いしてインターン用の書類をもらって、かなでのことをお願いした。インターンは基本学校の休日、もしくは公欠とっていくものらしく学校の授業との両立をしなければならないハードなものだ。さすがは校外活動と称されるだけはある。

 

 「緑谷、おはよう」

 

 「おはよう!ごめん急いでるから!」

 

 共用リビングで朝食をとってた俺が挨拶をするとどたばたやってる緑谷がフルカウルで走って玄関を出ていった。大変だな・・・まあ俺も今日インターンするんだけどな。緑谷が何の用事か知らんが、忙しそうだ。一緒に飯食ってる切島と常闇もびっくりしてるわ。

 

 「おはよ、休みだね」

 

 「爆豪も轟も週末は講習かー。そういや今日俺らヤオモモの予習会参加するけどお前らどう?」

 

 「ワリィ、俺も遠山も常闇も今日用事あるんだわ」

 

 「誘いには感謝する」

 

 「ありがとよ上鳴。すまん切島、常闇。先行くわ」

 

 「そういやお前バイクだったな。ガソリン代でんの?」

 

 「全部電気だぜノックスは。というかお前らだって電車代出るだろ?そういうことだよ」

 

 「なるほどなー」

 

 話しながら席を立ち、洗い物を食洗器にいれてヒーロースーツとヘルメットをひっつかんで玄関へ行く。ハイツアライアンスの駐輪場には俺のノックスがその威容をさらし・・・クッソめだってるわ。当然だけど。上級生ですらしげしげとみてるもんな。すでに予備の弾帯、医療キット、その他もろもろをコンテナに収納したノックスにヒーロースーツを積み込み、起動する。

 

 明るく光るタッチパネルにテラナを連動させてかけて、ヘルメットをかぶる。そのまま駐輪場から引いて雄英の校門まで行き、運転を始める。制限してるから普通のバイクと同じ速度で動き出すノックスのタッチパネルにテラナの視線操作で行先であるリューキュウ事務所を打ち込んでマップを起動、案内に従って運転を開始する。

 

 行きかう人々の目線がノックスを見てるのがわかる。見たい気持ちはわかるよ、かっこいいもんな。色も黒と黄色で目立つし。ナビの案内に従って運転すること1時間、この前と同じでっかいでっかいリューキュウ事務所についた俺は駐車場の隅っこにあるバイクの駐輪場を借りてノックスを停め、そのまま事務所内へ入る。すぐ事務員さんに気づかれて挨拶する前にリューキュウの所に行くように言われた。とりあえずお礼を言って案内図を確認しリューキュウの事務室へ向かう。

 

 コンコンコンと扉をノックすると「どうぞ」とハスキーながら聞き取りやすいリューキュウの声が帰ってきたのでドアを開ける。

 

 「失礼します!本日からお世話になります。雄英高校1-A組、エネイブルです!よろしくお願いします!」

 

 「はい、よろしくね。バイクで来たんだってー?ネットでもう画像上がってるわよ。いいもの持ってるじゃない。期待してるわ・・・早速、といいたいところなのだけど・・・暫く待ってて頂戴ね」

 

 「待機、ですか。どこで待ってればいいでしょう?」

 

 「ここでいいわよ。ねじれがね、あと2人紹介したい子がいるっていうから・・・今日来る予定なの。だから、その子たちを見定めるまでは待ってて。まあ私は受け入れるつもりなんだけど・・・どんな子かは会ってみないとわからないでしょう?あ、この椅子座っててね」

 

 「了解です。失礼します。あ、これ書類っす」

 

 「はいありがとう。じゃあこの書類を学校へ持って帰ってね」

 

 なんでももう二人インターン希望のやつらが来るらしい。なるほど人気だなリューキュウ。受け入れ実績が多いこともあるし1年生からの人気が高いのだろうか?ってことは同じクラスかB組のやつらかもしれないんだよな?誰が来るかちょっと楽しみではあるな。

 

 「あっそうだわ!遠山君今乗ってきたバイクってスペックどうなのかしら?特殊車両よね?乗って出てもらうだろうからそこらへん聞かせてもらえないかしら?」

 

 「はい、えーっとですね・・・」

 

 まさかのネットの拡散力を恐ろしく思いながらリューキュウが手ずから入れてくれたコーヒーを飲みつつノックスのことを話していく。どうやらリューキュウはもうすでに俺のバイクによるパトロールを思いついていたらしくふむふむ頷きながら俺にできることできないことを聞いてくるので隠すことなく答えながら雑談交じりに談笑する。しばらくするとどたばたと騒がしくなりドンドンドン!バァン!とドアが開いた。

 

 「リューキュウ!お待たせ!連れてきたよ1年生!なんと遠山と同じA組の、麗日お茶子ちゃんに蛙水梅雨ちゃん!二人ともすっごい熱心だったから負けちゃった!」

 

 「こんにちは!麗日お茶子です!よろしくお願いします!」

 

 「蛙水梅雨です。今日はよろしくお願いします」

 

 「はいよろしくね。リューキュウよ。みんなA組なのね。遠山君は知ってたの?」

 

 「いえ全く。インターンするのかどうかも知りませんでした」

 

 「わ!やっぱり遠山君や!駐輪場にバイクあったもん!ね、梅雨ちゃん!」

 

 「ケロケロ、遠山ちゃんがリューキュウの所に来てるなんて意外だわ。どうしてかしら?」

 

 「ま、それについてはおいおいな。お前らが集中するのは俺じゃなくてリューキュウ、だろ?」

 

 「ふふふ、仲がいいのね。じゃあ面接を始めます。遠山君とねじれは先にスーツに着替えてきてね。ねじれは遠山君を案内してあげて」

 

 「はーい!行こ、遠山!このねじれちゃんがリューキュウ事務所を隅々まで案内してあげる!」

 

 「よろしくお願いします」

 

 というわけであっちこっちに話題が飛ぶ波動先輩に案内されて更衣室へ。なんでもサイドキックも含めこの事務所は男のヒーローがいないらしい。えぇ・・・肩身が狭いなんてレベルじゃないぞ!?一応男子更衣室はあるみたいだけどな、俺みたいなインターンする奴用の・・・というわけで女の花園リューキュウ事務所の知りたくなかった事実を知った俺が諦めて着替え終わり更衣室前で待ってると・・・とんでもなく扇情的なボディラインを惜しげもなくさらしたパッツンスーツに身を包んだ波動先輩がひょこっと現れた。うっげえ・・・ヒス的に非常によろしくない。

 

 最近知ったことだが俺のヒステリアモードは自分の個性でなるのと女で自然になるのとで大分性質が違うのだ。具体的には自然になる方が気障度マシマシになる。つまり黒歴史を製造しやすいのだ。猴に呼蕩やらかしたときみたいにな。というわけで年上にちょっと弱い俺としては波動先輩とかリューキュウみたいなヒーロースーツは鬼門なのである。目をそらせ!視線逸らし(スラッシュ)だ。今適当に考えた。

 

 「ん?遠山視線ずれてない?どーしたのー?ひょっとして天喰の真似!?あはは雰囲気ソックリ―!お!?ねえこのサングラスなにー?おしゃれー!?かっこいいー!」

 

 「そういうわけじゃないんすけど・・・それはテラナっていうサポートメカです。軍用無線と携帯と、パソコンをまとめたようなもんですね。かけると画面が映るはずです」

 

 「んーと・・・こう?わ!すごい視線操作なんだ!?えーっと・・・今日のニュースは・・・」

 

 「使いこなすの早いっすね・・・」

 

 以外にもテラナをかけた顔が似合ってる順応性が高い波動先輩が歩きながらいろいろやってると・・・歩きスマホみたいだからやめてって言おうとした途端波動先輩がこけかけたので咄嗟に肩を持って支える。柔らかい感触にドキッとしたがさすがにこの程度なら大丈夫だ。

 

 「すんません、さすがに危ないっすわ。返してもらいますね」

 

 「えー面白かったのにー・・・はい!どうぞ。そろそろ事務室にもどろーねー」

 

 何を思ったか波動先輩は自分のかけてたテラナを俺の顔に直接戻した。覗き込まれるように波動先輩の美人顔がドアップになった俺は数瞬言葉を失ったが気にせず先に行ってしまった波動先輩をみてかぶりを振り、とりあえずテラナの電源を切って胸ポケにしまって追いかけることにした。インターンいろんな意味で大丈夫かな・・・

 

 

 

 

 「りゅ~きゅ~!二人はどうだった!?合格だよね、ね!二人とも一生懸命だから一緒にヒーロー活動したいなー!」

 

 「あら、おかえり。遠山君も似合ってるわね、素敵よ。面接の結果は・・・合格です。二人とも書類を出して着替えてきてね。ねじれ、悪いけどもう一回行ってもらっていいかしら?」

 

 「梅雨ちゃん!やったぁ!」

 

 「ええお茶子ちゃん、やったわね。これからよろしくお願いします」

 

 「いいよ~!おめでとう二人とも!じゃあこっちに来て、ねじれちゃんが更衣室まで連れてってあげる!」

 

 そんな感じで波動先輩に話しかけられながら麗日と梅雨が出ていったので俺は手持無沙汰になる。と思いきやどうやらこのあとやることが決まってるらしくてリューキュウが俺のところに何かを持ってきた・・・無線機か?耳につけるタイプの・・・俺には骨伝導のヘッドセットがあるんだけど・・・

 

 「もう二人には説明してるからあなたにも説明しておくわね。今日やってもらうことはパトロール。といってもファットガムやほかの所とは違うわよ。私の担当区域がなぜ広いかわかるかしら?」

 

 「・・・空が飛べるから、ですか?」

 

 「正解よ。私は飛行可能なの。だから飛べない他のヒーローよりも担当区域は広いし、機動力の高い人を中心に雇ってるわ。それで、今日は私とねじれ、麗日さんが空から、君と蛙水さんがバイクで同じルートをたどりつつやってもらうことになるわ。女の子と2人乗りなんてドキドキね?君の運転技術次第だけど、期待しておいてあげるわ。その無線機は空にいる私と直接話すための物よ。通信範囲が広く作られてるわ」

 

 「えーとこのメンツわけの理由はなんですか?」

 

 「上空の私たちは浮ける個性だけよ。落ちちゃっても助けられるとは思うけど今日が初めてだからさすがにね。といっても君は基本上まで行くことはないわ。せっかくあんないいマシンがあるんだもの、役立てないとね?今日はゆっくり行くからそんなに心配する必要はないわ」

 

 「了解です。ヘルメットって予備あります?」

 

 「あるわよ~って言っても無しでお願いするわ。視界が狭くなっちゃうから・・・ヒーローたちはみんなヘルメット被ってないでしょ?あると真後ろが見えにくかったりするから基本的にかぶらないのよね。もちろん危険なのは百も承知よ?でもそれ以上に異変を見逃す方が怖いわ。とにかくそれでお願いね」

 

 えーヘルメットなしなの?と思ったけどそういやトクメンの試験でもヘルメットは支給されなかったな・・・クラッシュしたら自分でどうにかしろってことか・・・過激だなあ。というか梅雨とニケツすんのか・・・というか梅雨は納得したのか?俺はヒス的なことに目をつぶれば大丈夫だけど・・・

 

 俺はとりあえず返事をして通信機を受け取りヘッドセットを外して付け替える。外したヘッドセットは装甲の余ってるスペースに入れとこう。そうして俺が耳の通信機の調子を確かめるためにリューキュウと試験通話をしてると波動先輩に麗日、梅雨が戻ってきた。うわー女子女子してる空間になってきた。いろんなスメルがしてヒス的にも悪いなあ。

 

 「おまたせ~ウラヴィティとフロッピー、それにネジレチャン!準備完了だよ!」

 

 「はい、ありがとうねネジレチャン。じゃ、今からパトロールに行くわよ。話した通り私とウラヴィティ、ネジレチャンが屋上。エネイブルとフロッピーは駐車場に行って準備すること。通信はつないだままよ。エネイブル、いいわね?」

 

 「はい!」

 

 「よろしい!じゃあ行くわよ!」

 

 「「「「はい!」」」」

 

 というわけでエレベーターで屋上に行く3人と別れて梅雨と共に、事務所玄関からでてノックスを起動する。コンテナを動かしてサブシートを広げ、乗りやすいようにし引っ張っていく。

 

 「エネイブルちゃん、よろしく頼むわね。ケロ・・・普通に後ろに乗ればいいのかしら?」

 

 「おう、普通にあぶねえから俺の腹に手を回すようにして抱き着いてくれ。こけるかんな・・・大丈夫か?」

 

 乗り方をそう伝えるとちょっと赤くなった梅雨はノックスに跨った俺の後ろのサブシートに腰かけて俺に抱き着いた。ちょっとヒス的な血流が来たがなんとか押さえつけて指示を待つ。

 

 「・・・ちょっと恥ずかしいわ。遠山ちゃんは気にしてないのね・・・さすがだわ」

 

 「んなわけねえだろ・・・クラスの美少女が後ろで抱き着いてんだぜ?意識しない方が無理だっつーの・・・とにかく離すなよ、危ないからな」

 

 「ケロォ・・・わ、わかったわ」

 

 真っ赤になった梅雨が黙りこくってしまったので気まずい沈黙が流れるがリューキュウの通信がそれを破ってくれた。ありがたや・・・

 

 『こちらリューキュウ、聞こえるかしら?準備が出来たならそこから北進して3番目の信号を左に曲がってちょうだい。もちろんおかしなものがあったらすぐ報告、いいわね?』

 

 「こちらエネイブル、了解です。今から発車します・・・行くぞ、梅雨。俺は運転しながらだからお前がパトロールのメインだぜ。頑張ろうな」

 

 「ええ、わかったわエネイブルちゃん。運転よろしくお願いするわ」

 

 「任せとけ、世界一の安全運転だぜ?」

 

 「ケロケロ・・・頼もしいわ」

 

 そう言ってしっかり俺の背に抱き着いた梅雨を確認して俺はノックスを発進させた。さあて初のインターン仕事一発目、気合入れていくか!




 次回、ドキドキ!梅雨ちゃんとツーリング!事件もあるかも?をお送りします。



  作者のネタの泉が枯れなければ・・・・


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再・第十二弾

 梅雨を乗せてノックスを走らせる。パトロールに出て10分ほど立つが特に何か怪しいものもないし、それはリューキュウ側の方も同様。時折「あ!雄英の子!おーい!」みたいな感じで手を振ってくれる人がいるので梅雨が振り返したり俺が振ったりとファンサービスを体験することになった。空から見てる、というか巨大な影を見上げながらノックスを飛ばす。

 

 『いいわね~ヒーローにはファンサービスも重要よ。まあ私はそんなに得意じゃないけどね』

 

 個性「ドラゴン」・・・リューキュウの莫大な人気を支える超強個性だ。巨大なドラゴンにその身を変え空を飛び、爪で切り裂き、パワーで押し潰す・・・Mtレディというヒーローと似通った個性だ。屋内戦に向かない代わりに屋外戦では規格外と言っていい力を誇る。正直かっこいいよな。俺もそう思う。

 

 『エネイブル、ここでいったん分かれるわよ。次を左折して5ブロック先で右折して合流しましょう。この後は高速道路行くからねー』

 

 「了解っす。フロッピー、いったんリューキュウと別行動とるぞ。合流したら高速行くからな」

 

 「わかったわ・・・にしてもノックスちゃん、すごい乗り心地いいのね。もっと揺れるものだと思ってたわ」

 

 「こいつが特別なだけだ。もっとやばいぞバイクは・・・っし、ここだな」

 

 そんな会話をしながら指定された場所を右折する。梅雨は結構しっかり抱き着いてくるので梅雨の体臭というか、さわやかないい匂いがする。俺は割と鼻が利くからこういうのは非常によろしくない。せめてもの救いは押し付けられてる体(特に胸)の感触はつけてる装甲のおかげで一切しないってところだな!正直こんなに女子と密着し続けたことはないので現状とても怪しいのだが・・・何かの拍子にヒスってなんかやらかしたら拳銃自殺ものですね。実弾になったし。

 

 大通りから離れて裏路地みたいなちょっと薄暗い道を飛ばしていると、梅雨が話しかけてきた。

 

 「ねえ、遠山ちゃん。どうして貴方はリューキュウの事務所を選んだのかしら?体育祭の指名を考えるともっと長所を伸ばせるところがあったと思うの。どうしてわざわざ苦手な場所に来たの?」

 

 「そうだな・・・まずトクメンをとったこと。こいつのおかげで俺の移動速度は格段に上昇した。そうすっとどっかでコイツを乗りこなす経験を積む必要がある、通形先輩みたいにな。俺の強みは手札の多さ、誰よりも引き出しを多く確保しておかなくちゃならん。ここまでいやわかるだろ?」

 

 「・・・弱点の克服が、長所を増やす結果になるのね・・・やっぱり、さすがだわ」

 

 なんかいやに今日の梅雨はしおらしいな。声に覇気がない、俺と一緒になってから。チラ見するとパトロールしながらではあるがその横顔は愁いを帯びているように思える。こいつのこんな表情初めて見る。なんとなくいつもより幼く見える梅雨が気になった俺は・・・

 

 「いいたいことがあるなら、言ってみろよ。思ったことをすぐ尋ねる、お前の良いところだろ」

 

 通信はオンのままに、マイクはミュートにする。会話を聞かれるべきじゃない。幸い合流地点まで20分はある。ちょっと話すくらいは問題ないだろう。梅雨は寮に入ったあの夜のように躊躇ったが、ややあって話し始めた。

 

 

 

 「悔しいのよ・・・ねえ、遠山ちゃん。遠山ちゃんは気付いてないかもしれないけど、入学した時から私の目標は、貴方だったの。入学時から強かった貴方に追いつきたかったわ」

 

 「俺が・・・か?俺とお前じゃ方向性が違うだろ?共通点はそんなにないはずだ」

 

 意外だった。クラスの中でもオールマイティに優秀な優等生の梅雨が戦闘一辺倒の俺を目標にしてたなんて。背後で首を振る気配がある。俺は黙って続きを促した。

 

 「そうね・・・私が一番向いてるのは水中戦だもの。でもね、USJのこと、覚えてるでしょう?貴方は脳無の攻撃から相澤先生を守り切り、反撃したわ。私も、緑谷ちゃんも峰田ちゃんも・・・怖くて動けなかったのに。悔しいの・・・何もできなかった自分が。お友達になったばかりの貴方が血を吐いて倒れたのを見て、怖くなったわ」

 

 「でも、お前はここにいる。その恐怖を乗り越えて仮免を取得して、インターンに来てるだろ」

 

 「ううん、今も怖いままよ・・・怖かったけど・・・それ以上に自分が情けなかったわ。だから貴方に頼られるくらいに強くなってやろうって頑張ってきたつもりだった。だけど、努力をすると余計に痛感しちゃうの、貴方と私の差が、どんどん広がって・・・かなでちゃんのことだってそう。私たちは貴方に頼ってはもらえなかった。信用されてなかった・・・貴方は全部一人でやろうとする。何かあるたびに緑谷ちゃんみたいに怪我して、なのに私たちには何も言ってくれない。悔しくて、悔しくて・・・」

 

 そう、だったのか・・・クソッ透の時となんも変わってねえじゃねえか俺は・・・!情けねえ、ああくそ、自分にここまで怒りが沸くとはな。仲のいい奴ほど、俺は問題を押し付けてる、心配させている。信用してる・・・つもりだったのに。そう思わせられてない、それどころか除け者扱いしてると思われてるんだ。

 

 「・・・そうかもしれん、俺は確かに自分やかなでのことを全面的にお前らに明かそうとはしてない。言い訳だが、お前らに危険な目にあってほしくなかった」

 

 「確かに、貴方と比べて私は弱いわ。でも、相談相手くらいにはなれると思ってたの・・・お友達だもの、貴方とかなでちゃんの役に立ちたいの。ただ貴方が傷ついてく姿を見てるだけなのは嫌だわ」

 

 「・・・確信に触れない部分だけ、話してやる。かなでが相手にしてるのは国だ、国家だ。あの子の個性にはそれだけの価値がある」

 

 「ケロッ・・・話して、くれるのかしら」

 

 「根負けだよ。結局俺の独りよがりだからな。ばらそうと思えばクラス全員に明日はなすことだってできる。でもそれをするには俺も、お前らも足りないものが多すぎる。今は雄英にいるから大人しいが、中学の頃は実家にいたころに何度が襲撃だってあった。ジーサードがアメリカで守ってても同じように、いや海外だから規模が大きくなったか・・・とにかく、知っているあらゆる組織がかなでの個性を欲しがってる」

 

 「あのヴィラン連合のボスも、かしら」

 

 「そういうことだ。もう、人体実験の被検体なんてさせたくねえんだ。だからわざわざ雄英付属に入らせて先生たちに守ってもらってる。情報漏洩に備えて最低限の人にしか説明してないし、かなで自身も極力人前で個性は使わせてない。あの子を守るのに必要なのは超法規的な組織力なんだ・・・普通の、女の子なのにな」 

 

 「遠山ちゃん・・・」

 

 自重するように皮肉を言った俺を痛ましげなものを見るように見ている梅雨。なんでこう、雁字搦めになってるんだろうな・・・普通の生活をさせたやりたいだけなのにな。

 

 「正直言うなら、お前に全部話してあの子の理解者になってほしい、とは思う。お前はクラスの中でかなでと一番仲がいいし、扱いがうまいからな。かなでも、隠してることについては後ろめたく思ってるから・・・だから、こう頼む。かなでのこと、できるだけ気にかけてやってくれないか。俺が何かあった時、お前が助けてやってくれ」

 

 「冗談でもそんなこと言わないで頂戴!私は、いやよ。かなでちゃんのお兄ちゃんは、遠山ちゃん・・・貴方だけなの。お願いだからもう・・・自分から傷つきに行かないで・・・」

 

 言葉を荒げた梅雨に押し黙ってしまった俺は、正直どうすればいいのかわからなかった。梅雨としては善意からくるもので純粋に俺を心配してくれてるのだろう・・・けどそれを素直に受け取るには俺もかなでも個性社会の暗部に近すぎる。どうしたって巻き込むんだ。せっかく高校で出来た友人、自分のせいで失うのは嫌だ・・・。

 

 「・・・なあ、梅雨、俺は『エネイブル!?聞こえるかしら!?緊急通報よ!高速道路で暴走車が暴れまわってるらしいの!貴方たちの方が近いわ!すぐに現場へ追いついて頂戴!』了解!すぐ現場へ行きます!・・・フロッピー、話は後にする。仕事だ!飛ばすぞ落ちるなよ!」

 

 「・・・!了解よ!お願いね」

 

 俺が口を開こうとした瞬間、リューキュウからの通信が入った。初仕事だな・・・この気持ちは置いておいて後できちんと梅雨と話し合おう。瞬時に気持ちを切り替えた俺がテラナで現地までのナビを始めノックスを一気に加速させる。ハンドルをいじくってテールの回転灯をつけてサイレンを鳴らしつつ梅雨と一緒に現場へ急ぐのだった。

 

 

 「エネイブルちゃん!多分あのトレーラー!あれが通報のあった暴走車だわ!」

 

 高速道路に入ってノックスのリミッターを解除し青い残光を残しながら車の間をすり抜けつつ加速し続けていると前方に強烈な蛇行運転を繰り返すトレーラーがあった。めんどくさいことにトレーラーのコンテナはご丁寧に窓を開けられそこから突撃銃で武装した幾人かの覆面が何かを叫んでいる。

 

 『そこのトレーラー!武装を捨てて路肩に停まれ!ヒーローだ!抵抗すると罪が重くなるだけだぜ!』

 

 ノックスに仕込まれてるマイクを使って停止命令を出すが返ってきたのは鉛玉だった。ハンドル操作で避けた俺と梅雨が言葉を交わす。

 

 「停止命令無視、ヴィランだな。なんだってこんなことしてるんだが・・・さて、どうするか」

 

 「とにかく銃を何とかしないとダメだわ。遠山ちゃん、私飛び乗るからつけてもらっていいかしら?」

 

 「よし、頼んだ。後ろのやつは俺が何とかするから運転席の方頼む。リューキュウ!現着しました!車種はトレーラー!コンテナ部分を改造し武装を済ませています!実力行使の許可を!」

 

 『許可するわ!私たちももうすぐ着く!危険だと思うならそのまま待機してなさい!」

 

 「危険そうなら待機だってよ。どうする?」

 

 「困ってる人がいる、なら私たちのお仕事よ」

 

 「まあ聞くまでもないわな」

 

 そう言って後ろの梅雨がスーーーッっと周囲の景色に溶け込んでいく。確か梅雨が開発した必殺技「保護色」だったはずだ。すげえな、光屈折迷彩みてえだ。ガントレッドの中から煙幕弾と閃光弾を取り出して握り込む。コンテナの窓は壁を雑にくりぬいただけだ。隙間なんぞ沢山ある。ノックスの加速力に物を言わせて一瞬、近づいて二つの特殊弾を投げ込み、反応してくる覆面にデザートイーグルで威嚇射撃する。自分の顔面の真横にマグナム弾が着弾した覆面どもはひぃ!!と情けない悲鳴を上げて窓から消えた。

 

 「いまだ!行け!」

 

 「ケロォっ!!」

 

 隙をついて限界までトレーラーに近づくと俺の後ろから梅雨がジャンプしコンテナに張り付きペタペタと登って車体の上まで移動していった。ついで閃光弾と煙幕弾が炸裂、トレーラーの中は阿鼻叫喚、悲鳴と誤射したらしき銃声が響き、当たったのか絶叫も聞こえてくる。あーあーあー・・・銃に関しちゃトーシロだな。ってことは裏チャカか・・・

 

 ペタペタと四つん這いでトレーラーの上を移動する梅雨に会わせて俺も前の方に。ダメ押しとばかりに音響弾を取り出してコンテナ内に投げ込んでおく。中は響くだろうから鼓膜くらいはやぶれちまうかもな・・・まあ恨みたきゃ恨め。罪を償った後なら話くらいは聞いてやるよ。

 

 「てめえ!こいつが目に入ったんなら今すぐ・・・・え?」

 

 「すまん、あんまりにも隙だらけだったから先に手が出ちまった。フロッピー!」

 

 「お任せよ!観念して!」

 

 運転席側に俺が近づくと無防備にも片手に拳銃を握った恐らくリーダー格の覆面が窓を開けて片手運転しながら身を乗り出して銃を向けてくるので抜き打ちのベレッタで銃口撃ちしてやると握力が足りなかったのか銃を取り落とす。梅雨が運転席の真上から舌を鞭のように伸ばして男の顎を正確に強打、脳震盪を起こした男は気を失ってしまった。

 

 梅雨はあいたままの窓から運転席に入り込み、目を回してる男の代わりにハンドルを握る。こういう時に備えてヒーロー科では車両のことを学ぶからブレーキとハンドル操作程度は皆できる。実戦で出来るかどうかは別の話だが梅雨は器用に左ハンドルを切って減速し、路肩にトレーラーを停める。そしてそのまま携帯してるワイヤーで犯人を縛りだした。

 

 俺もノックスを停めて三角表示板を取り出して地面に投げつける。ひとりでに組みあがった表示板を確認してトレーラー内へ。やはりというかなんというか耳を抑えたり誤射した部分を抑えたりしたやつらを縛り上げ、その場で応急処置をすます。10人も集めた割にはあっさり終わっちまったな・・・

 

 「エネイブルちゃん!どうかしら?」

 

 「おう、大丈夫だぜ。なあ、さっきの話の続きだけどよ」

 

 「・・・ええ」

 

 「俺はお前らが思ってるよりもお前らのことが大切なんだよ。だから危ねえことには近づかせたくないし怪我させるかもしれねえなら俺が代わりにする。だけどやっぱりきついんだわ・・・あー・・・だからだな、その・・・もう少しだけ、お前らを頼ってもいいか?」

 

 俺が照れて頬をポリポリ掻きながら梅雨にそう伝えると梅雨は少しだけ驚いたように目を見開いてから、まるで雨が上がるような晴れやかで、かわいい笑顔を浮かべてこう返してくれたのだった。

 

 「もちろんよ。だって・・・お友達だもの!ケロッ!」

 




ヴィランども「イチャイチャしてんじゃねえよ・・・ちくしょう」 


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再・第十三弾

 ワイヤーで捕縛した覆面ヴィラン10人と運転席に転がしたリーダー格のヴィランをトレーラーの外に引っ張り出していると、警察車両のサイレンの音と次いで巨大な翼が羽ばたいてる音が聞こえてきた。リューキュウたちだ。ちょっと遅かったけどな・・・まあこっちは被害なしだし、何をするつもりだったかは知らんが何もさせずに終わることが出来た・・・

 

 「ん?なんだこりゃ」

 

 「エネイブルちゃん、どうしたのかしら?」

 

 「ん、ああいや。この拳銃の銃弾な、見てみろよ。実弾じゃねえ、麻酔弾みたいな形してやがる」

 

 俺が違和感を覚えたのはリーダー格が持ってた拳銃。落としたときに拾っておいたものだ。銃口撃ちでぶっ壊してはあるが念のためマガジン外してお片付けをしていたのだが、マガジンの銃弾が従来の物と全く違うおかしなものだった。弾頭に針が付き、薬液が充填されてるのが・・・3発。装弾数とあってない・・・中身の薬が何だか知らんが元から弾数がなかったのか・・・あるいは、何発か使った後だったのか・・・鑑識行きだなこりゃ。

 

 それを梅雨に見せると梅雨もポーカーフェイスを若干ゆがめ・・・たように見えるがとにかく違和感を覚えたらしい。念のためザコが持ってた銃も見聞するが・・・こっちは実弾か。証拠品とするため鑑識用のポリ袋に拳銃と銃弾を分けて入れて外に出ると、ちょうどリューキュウたちが着地したところだった。交通整理してるパトカーもちらほら。

 

 「エネイブル!フロッピー!怪我はないかしら!?よくやったわね・・・!」

 

 「リューキュウ、すんません。個人の判断で動きました。一般人にけが人は出してないですがヴィランの方には・・・」

 

 「ああ、そのくらいなら問題ないわ。一般人もヴィランも無傷なんて基本的に不可能よ。殺しでもしない限り何か問われることはないし・・・応急処置も完璧みたいだしね。フロッピーはどうだったかしら?」

 

 「思ったより冷静に動けたわ・・・訓練通りね。すこし・・・鼻が高いわ」

 

 「ふふ、私からしても高得点よ。ねじれが連れてきただけあるわね。さ、引き渡しよ・・・ファンサービスも忘れないようにね」

 

 トレーラーの中から最後のヴィランを引っ張りつつ出てくると、高速道路の中にも関わらず、車の窓を開けた群衆が列をなして俺と梅雨に歓声を浴びせてきた。すげえな、一車線しかないから渋滞気味なのにみんな怒ってる様子もなく笑顔だ。

 

 波動先輩も麗日も笑顔だ。あっとりあえず押収品をリューキュウに見せておかねえと。

 

 「リューキュウ、ちょっと見てほしいものが・・・」

 

 「何かしら・・・銃?それなら他のとまとめて・・・いえ、弾の方ね。これは・・・薬物?」

 

 「おそらくは・・・残弾数が装填数とあってません。装填数分なかったか・・・使ったか・・・とにかく分けておくべきと判断しました」

 

 「いい判断よ・・・これは別口で捜査ね・・・さ、貴方たちのファンにサービスしてあげなさい?」

 

 そう言われた俺と梅雨が顔を見合わせどうしたもんかと考える。すると梅雨がピン!と来た顔をして手を大きく上にあげた。ああ、なるほど。俺も同じように手をあげて・・・

 

 パァン!と俺と梅雨が頭上でハイタッチを交わすと同時にワァァァァァ!!!とその場が沸いた。車から降りようとした人が警察に注意されたりしたがとにかく大きな混乱もけが人もなく俺と梅雨の初仕事はひと段落着くのであった・・・これにて一件落着ってな。

 

 

 

 「うえええ体験の時より書類が難しいよー!」

 

 「お茶子ちゃん、そこの場所は報告よ、事件詳細はこっち」

 

 「あとそこの押収品項目、銃の数間違ってんぞー。種類も違えし」

 

 「銃の種類なんてわかるの遠山くんくらいやもん!」

 

 「否定せんがプロの仕事なんだから俺に聞くくらいしろ」

 

 というわけで帰ってきたリューキュウの事務所、俺たちは報告の書類をかいているのだが・・・慣れてるリューキュウと波動先輩はさっさと書き上げ、事件現場にいた俺と梅雨もそれに続いたのだが・・・事件に全くかかわっていない麗日が一番時間がかかってる。ヒーロースーツのままなのはこの後今度は徒歩でパトロールに出るからだ。

 

 「なつかしー!私も報告書書くの時間かかったもん!ね、リューキュウ!難しかった!」

 

 「そうねー貴方は特にじっとしてられないものだから困ったわ。今はもうきちんと書けるもの、立派になったわ」

 

 「えへへー」

 

 平和だなあリューキュウ事務所は・・・ファットガムのとこもこんな感じだったけど隙あらば食べ物が出てくるから体重コントロールに苦労するんだあそこ・・・勇気を出して断れば普通に引いてくれるのに気づくまで時間がかかったがな。

 

 「うーんそろそろ時間ね。じゃあ徒歩のパトロール行きましょうか。まず私とフロッピー、ウラヴィティで東側。ネジレチャンとエネイブルで西側。南北はサイドキック達がやってくれるわ。2時間後に事務所に戻ってくること、不審なものがあったらすぐ通報、いいわね?」

 

 「「「はい!」」」

 

 「は~い」

 

 

 

 

 「それでね!その時通形が・・・・」

 

 町へ繰り出した俺と波動先輩、町ゆく人は主に波動先輩の・・・俺の口では言えない部分に目が釘付けである、主に男。なるほど見られてるわけじゃないけどすごいな・・・美人って苦労しっぱなしなんだな。波動先輩は気付いているのかそうじゃないのか気にした様子を見せない。どころか俺の周りをくるくる回りながら持ち前のマシンガントークで話しかけてくるほどの余裕である。

 

 話しながらも周囲の状況は把握し続けているらしく周りの人に手を振ったり愛想を振りまいたりと抜け目ない。すごいよな、女性ヒーローって強くあればいい男と違ってルックスも求められるから相手が自分にどう映るか、見えるかを徹底的に研究しないとやっていけないのだそうだ。カナが言ってた(男だけど)

 

 計算なのか天然なのかは知らないが波動先輩はそこらへん受けがいい。どっから見てもカワイク映るのだ。俺はそんなことを考えながら波動先輩の後をついてパトロールをするのだった。

 

 

 「・・・ね、エネイブル・・・前の8人、どう?」

 

 コソッと小声になった波動先輩の声を受け俺は別方向を見ていた視線を前方に戻す。すると前の方に8人の集団がちらちらと俺らの方を確認しながら足早に路地裏に入っていくところだった。どう見ても怪しい・・・ついでによく見りゃ重心がおかしい。服の中になんか持ってるな?

 

 「怪しい・・っすね。すごく。警戒されてるみたいですけど、どうします?」

 

 「このまま通り過ぎよ。そのあと私が上から見るからエネイブルは待機ね・・・行くよ」

 

 「うっす」

 

 そのまま過ぎ去った俺らを確認するように集団の一人が路地裏から出て適当な店を冷やかしている。後ろをチラ見すると戻っていったので俺らは適当な曲がり角を曲がって波動先輩は浮きあがり、俺は波動先輩の手信号を見て歩き出す。

 

 「どうっすか?」

 

 『あやしい~、とっても怪しいよ。今路地裏で何人かの男が合流したの・・・懐から・・・マガジン、取り出したね。合流した男の方は・・・ジュラルミンケース。中には・・・札束・・・うん、確認しに行こうか。エネイブル、私はこのまま遠隔監視するから接触お願いね』

 

 「了解です。じゃあ、行きます」

 

 俺も裏路地に音と気配を消して入り、個性を使いながらおそらく違法取引であろう現場へ急ぐ・・・薄暗い裏路地にいかにもチャラいという風情の男たちが合わせて16人、8人と8人で合わせたのか知らないけど周りを警戒しながら話し合ってたところだった。俺は死角から彼らに近づき・・・

 

 「どうも、ヒーローです。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 

 「!!・・・いや、びっくりしました。いいですよ、ヒーローに協力するのは市民の義務です」

 

 「ああ、申し訳ない。えーっとまずその手に持ってるやつ。銃検証と帯銃許可証、それと取引なら武器商ライセンス見せてくれ」

 

 「はいはい・・・これと、これと、これですね・・・本物でしょう?」

 

 死角から現れた俺を見た男たちは一気に警戒度を高めたようだ。その中から今マガジンを隠した男をチラ見した俺の視線を遮るように柔和な笑みをたたえた眼鏡の男が俺の対応をしている。やつが差し出した検査証明書を見ると・・・確かに本物だ。武器商のライセンスも同様・・・けど、さっきマガジンを隠したときにチラ見えしてたが、朝押収されたものと同様の銃弾が見えていた。

 

 こっちも確認しないとな、というわけで通信機をコンコン、と2階指で頬をかくふりをして叩く。真っ黒(アウト)の合図だ。

 

 「ん、確かに本物です。いやあ、すいませんでした。それじゃ最後に・・・其処の彼が今内ポケットに隠したマガジンをみせてもらいましょうか」

 

 「・・・なんの、ことでしょう?」

 

 「いやあ、朝ちょっと事件がありましてね・・・其処の彼がしまったマガジンの中身と同じものが押収されたんですよ・・・形状的に許可されてない銃弾だ。現行犯だぜ」

 

 「お前ら逃げろ!」

 

 「もうおそ~い!」

 

 最初からばれていたことを悟った男たちはなりふり構わず俺と反対の道に向かって逃げ出したが、そこに上からスタっと降り立ち道をふさいだのは通報その他を終わらせた波動先輩だ。彼女はヒーローとしてヴィランに対しては実力行使の前に説得が義務付けられてるので話をし始めた。

 

 「はーい!行き止まりだよ!逃げ出したってことはやましいことがあるってことだよね?へんなの!私たちは貴方たちに対して個性及び武器を行使する権限を有しています!大人しく捕まるのであればこちらも手荒な真似は・・・おっと!捕まる気ない?」

 

 「当たり前だろ!お前らやるぞ!」

 

 波動先輩の話が終わる前に着火したライターの火を操って火炎放射を行った男がそう叫ぶ、騒乱罪と個性の無断使用が追加、と。

 

 「しょうがな~い!ちょっと痛いけど許してね!纏う波動(ウェアーウェイブ)!やぁっ!」

 

 周りのやつらもナイフやらドスやらを抜いて半分ずつ俺らにかかってくる。こんな狭い路地裏じゃ武器使用は悪手だ、素手で何とかするぞ。

 

 

 

 「死に晒せボケナスゥ!んがっ!?」

 

 ドスを持っていの一番に襲い掛かってきた俺は振るわれるドスを指の間で刀身を挟み込んで止めてやる。指でやる真剣白刃取り、二指真剣白刃取り(エッジ・キャッチング・ビーク)だ。止められたことに驚いた男の隙をついて顎にフックを叩き込み脳震盪で一人ダウン。続いてかかってきたナイフ持ち二人を一人を顔面ぶん殴って壁に叩き付け、もう一人はあえて装甲でナイフを受け流し肝臓向けてレバーブロー。衝撃で浮き上がった男が倒れ込みながら声にならない声を出してのたうち回ってるのを、追撃の投げで地面に叩きつけて意識を奪う。

 

 波動先輩の方を見ると既に4人昏倒させた後だった。彼女は手足にねじれたような衝撃波を纏っておりパンチやキックのたびにそれが炸裂して威力を何倍にも上げている。まるで新体操のような柔らかく柔軟な動きで鞭のようなハイキックを繰り出しさらに一人をぶっ飛ばした波動先輩に続くように俺も残りの5人を迎え撃つ。

 

 拳銃を向けてくる男に井筒取りで拳銃を取り上げ前蹴りをみぞおちにいれて意識を奪い、タックルをかましてくる男に踵落としからのストンピング、地面にキスをさせて終了、前歯くらいは折れたかもな。続いてマガジンを持ってる男だ。すでに制圧されかけてるからか顔色がとても悪い。マガジンを入れている内ポケとはまた別の所から・・・ガス式の注射器だと!?変なもの持ちやがって!

 

 「おっと、お薬の時間は早いぜ」

 

 目をぎゅっと閉じて首筋にそれを打とうとした男の手をひねって注射器を取り上げて顔面、胸、みぞおちの三段突きを叩き込んで壁に貼り付けてやる。気絶した男はずるずると落ちて座り込むような体制で沈黙。俺はついでにすったマガジンと注射器をポッケにしまって波動先輩の方に向き直る。

 

 波動先輩はすでに制圧を終えており俺の方の残り2人に対して挟み撃ちする形になった。負けを悟りかけてる残りのやつはうろうろと右往左往してるが・・・

 

 「くそっ!どうせ死ぬなら・・・!」

 

 「!まずい!エネイブル!合せてね!チャージ5、出力5!ねじれる波動(グリンウェイブ)!」

 

 「えっちょっ!?・・・炸覇ァ!!!」

 

 一人が完全に負けを認め、忠誠心なのか口封じのためなのか口に銃を突っ込み自殺を図ろうとするのでそれに気づいた波動先輩が男を止めるために個性でねじくれた衝撃波を打った。俺は反対側の方に被害を出さないようにするために炸覇を放つ。辛うじて男の口に銃を突っ込ませる前に波動先輩の衝撃波が2人とも巻き込んで炸裂し俺の方へ吹っ飛んでくる。俺が数瞬遅れてはなった炸覇がそれを何とか相殺し、衝撃波にはさまれる形となった男たちは綺麗に全員が気絶。とにかくこの場は何とかなった。

 

 するとサイレンの音が路地裏に響いた。もう来たのか、通報からそんなに時間がたってないのにな・・・ワイヤーでまとめて男たちを縛り上げると同じく手際よく拘束を終えた波動先輩がとてててと近寄ってくるところだった。

 

 「終わったね!すごいよ!私の必殺技にきちんと合わせられるなんて!ね!ね!接触の時もちゃんとしてたしやっぱエネイブルは優秀だね!」

 

 「いや割とギリギリでしたよ・・・間に合わなかったらどうするつもりだったんすか・・・」

 

 「んー通形の移動を見てさばけるなら咄嗟でもなんとかできるかなって!実際できたもん!誉めてあげちゃう!よしよし!」

 

 「ちょっ、俺の頭をなでる前に仕事しましょ!?ほら運びますよ!」

 

 「わっそうだった!よ~しいくよ~!んっしょっと・・・」

 

 波動先輩が誉めるためなのかなんなのか浮き上がって俺の頭を撫でまわすのを何とかやめさせる。波動先輩のクリっとした瞳にのぞき込まれた年上に弱い俺が動揺しまくりであったが、とりあえず波動先輩の注意をそらすことに成功し俺もまとめたやつらをずりずり引きずりながら路地裏から出る。警察に引き渡しと押収品のアレのことがあるからな・・・

 

 そして路地裏から出る前に俺に振り返った波動先輩は

 

 「やっぱり、リューキュウに紹介してよかったよ!すっごくやりやすかったの!だから・・・これからもよろしくね!エネイブル!」

 

 と今までの幼げな笑顔とは一転して花が開くような、大人っぽく優し気な笑みを浮かべて俺にそう告げてくるのであった。




オリジナルって難しい・・・2つも考えるなんて宣言するんじゃなかった(小並感)


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再・第十四弾

 「今日はお疲れ様!あの後も一件事件があったけどちゃんと対処できたわね!初日から大変だったけどこれなら週明けの会議にも連れていけるわねー」

 

 「週明け?カイギ?」

 

 「そ!今チームアップの依頼が来ててね。なんとあのオールマイトの元サイドキック、サー・ナイトアイからよ」

 

 怒涛のインターンも終わりを告げとっぷりと日が暮れたころ、リューキュウ事務所に戻って着替えた俺たちを誉めていたリューキュウがそんなことを言った。ちなみにあの後普通に警察に引き渡して夜までパトロールを延長して続けたのだが今度はリューキュウの方でアクシデントが発生、巨大化する個性持ちの喧嘩が起こりそれをなだめるために波動先輩が一足先に空を飛んで現場に急行、俺が走ってたどり着いたころには波動先輩と麗日、梅雨の協力プレイで事件が解決したところだった。

 

 結構走ったのに肩透かしになった俺だがまあそれはよし、ノックス持ってくればよかったと思わんでもないが徒歩の機動力はさすがになあ・・・とにかくインターン初日はいろいろ詰まってたが全員無事に終われたことは何よりだな・・・

 

 そんでチームアップだって?しかもナイトアイ?緑谷が今日行ったところじゃねえの?へー、こんな偶然があるもんなんだな・・・にしてもほかのプロともヒーロー活動が出来んのか・・・体験の時はほんとにお客様扱いだったんだな・・・

 

 「覚悟しておいた方がいいわよー?元指定暴力団、現指定ヴィラン団体「死穢八斎會」の調査及び包囲。ヴィラン連合につながるかもしれない大仕事ね。じゃあ次連絡するまでインターンは休みだからしっかりと訓練しておくこと、いいわね?」

 

 「「「はい!」」」

 

 ヴィラン連合か・・・またあいつらかよ。いい加減問題を起こすのはやめてほしいね。逃げた死柄木たちだがあの後から全くと言っていいほど名前を聞かなかったが水面下で動いていたっつーわけか。気を引き締めないとな、あいつらがまたかなでを狙ってこないとは限らん。いるならふん捕まえてとっちめてやる。

 

 「じゃあ今日は終わりね。電車の子たちは遅れないこと。バイクの遠山君は事故起こすんじゃないわよ?寄り道もしないようにね?」

 

 そんな言葉で〆られて帰り支度を済ませた俺たちはリューキュウ事務所を後にするのだった。

 

 

 そんな感じで終わったインターン初日、寮に帰った俺たちが爆睡して翌日、週明けの授業のために登校すると・・・ん?リューキュウからメール?今日のインターンは延期で次の集合場所も変わって現地集合・・・?ヒーロースーツも無しで電車できなさいと。うーん、よくわからんが従わないとな。

 

 「切島コラァ!お前ネットニュースでてんぞ!ヒーロー名だよ!活躍しやがったなお前!」

 

 「お!?え、マジ!?やったぜ!いやーなんか嬉しいなぁ!」

 

 教室に入った俺が挨拶をするのもそこそこに上鳴がそんなことを言い出した。へー、すごいじゃんか。お客様扱いだった体験の時と違って仮免とってるからヒーロー活動が許されるわけだからメディアへの露出もできるようになるってわけだ。俺が席に着き切島の方に向き直る。

 

 「良かったじゃねえの切島。ファットガムのとこどうだった?」

 

 「おお遠山!おはよう!いやすごいのなんのってさ!俺が苦戦したヴィランをファットガムは一発だぜ?やっぱプロってすげえよなあ!?」

 

 「ああ、ファットガムはほんとに強いからな。俺の桜花を普通に受け止めやがんだよ」

 

 「おいおい遠山お前関係ありませんって顔してんじゃねえよ!お前もばっちりネットニュースでてんぜ?しかも梅雨ちゃんと二人乗りしてるやつ!見ろよあの峰田の顔!」

 

 「・・・はぁ?」

 

 素っ頓狂な声をあげた俺が上鳴の差し出したスマホのネットニュースをみると・・・マジだ。俺と梅雨がニケツしてる画像をトップに俺と梅雨のヒーローネームがでかでかと書かれたネットニュースが画面を彩っている。そして上鳴が言った通り峰田の方を見ると・・・血涙を流してこちらを睨みつけていた。ちなみに爆豪も似たような表情をしている。さすがに血涙は流してないけどな。

 

 ちなみに梅雨の方は女子の方で似たようなことを言われてるのかこっちをちらちら見てる。あと透の視線が痛い。頭にじと~というオノマトペが出てるかのようだ。いやヒーロー活動ですからね?俺は何も悪くない・・・はず。

 

 「マジかこれ。あの時報道関係のやつはいなかったはずなんだけどな。どこで撮られたんだ?」

 

 「あ!それ俺も気になる!あぶねえから人は近づけなかったはずなんだけどな・・・」

 

 ヒーローメディア界隈一生の謎かもしれないことを話していると相澤先生が来たので一瞬で静かになり俺たちは授業を受けるのであった。

 

 

 そんなことがあった数日後、またまた週末である。結局あの後インターンに呼ばれることもなく平和な授業の日々を過ごした俺たちであったが、昨日やっと集合日時がリューキュウより届いたので準備を済ませて制服に着替え、寮の玄関をくぐろうとすると・・・

 

 「お!遠山!麗日!梅雨ちゃん!リューキュウ事務所も今日なのか?」

 

 「そうなのよ。切島ちゃんも?もしかして緑谷ちゃんもかしら?」

 

 「え?うんそうなんだ。ヒーロースーツも要らないし集合場所も違うけど」

 

 「緑谷君もなん?私たちもそうなんよー」

 

 「へー、こんな偶然あるんだな」

 

 なんてことを話した俺たちが徒歩で駅へ向かい、途中でいつもより多く姿を見かけるヒーローに送ってもらったりしながら電車で分かれ・・・あれ?

 

 「もしかして使う電車同じか?」

 

 「そう・・っぽいね?」

 

 何とも奇妙なことに使う電車、降りる駅まで同じということらしい。これもしかして集合場所同じか?

 

 「おい切島、緑谷。もしかしてお前らの集合場所ってここか?」

 

 と俺がメールに記載されてる集合場所の住所を二人に見せると二人は急いでスマホを開いて確認する・・・見せてくれた画面は

 

 「「「同じだ」」」

 

 「あー、もしかしてあれか?リューキュウが言ってたナイトアイのチームアップ要請に関してか?」

 

 「多分、それね。切島ちゃん達は何か聞いてるかしら?」

 

 「俺の方はなー・・・特にねえ!!」

 

 「僕も、聞いてないや」

 

 どうやら二人も詳細についてはよく知らないらしい。ぶっちゃけ俺もよく知らないのでそんなもんだろう。電車を降りて駅を出て仲良く曲がり角を曲がり目的地に着くと・・・其処には同じく制服に身を包んだ雄英BIC3の面々がいらっしゃった。いよいよ物々しいな。

 

 「お!来たね1年生!じゃあ中に入ろうか!」

 

 「ミリオ先輩!これって・・・」

 

 「話はあとだ・・・切島君、行こう」

 

 「うっす!」

 

 「やっほー3人とも!仲良くていいねえ!ね!じゃあ中でリューキュウが待ってるよ!いこいこ!」

 

 「どもっす波動先輩」

 

 「こんにちはー」

 

 「これってなんなのかしら?」

 

 そんな感じで先輩方について建物の中に入り会議室と思われる大部屋に入ると・・・其処には見たことないほど多くのヒーローたちと・・・俺たちがインターン先として選んでいる3人のヒーロー、そして・・・

 

 「相澤先生!?グラントリノも!?」

 

 そう、緑谷が今驚いたようになんと相澤先生と緑谷の職場体験先のヒーロー、グラントリノがいたのだ。こんなに大勢のプロが一気に動くなんて聞いたこともないぞ・・・?どうなるんだ?

 

 「ねえねえ!これ何?何するの?会議って言ってたけどー・・・知ってたけど何の会議!?」

 

 「すぐわかるよ。ナイトアイさん!全員揃ったみたいですしそろそろ始めましょう!」

 

 リューキュウが呼び掛けたその先、白いスーツに七三わけの眼鏡をかけたヒーロー、緑谷のインターン先のサー・ナイトアイが重々しく口を開いた。

 

 「今日はお集り頂き感謝します。あなた方が提供してくれた情報のおかげで調査が大きく進展しました。従いまして、死穢八斎會という小さなヴィランを団体が何を企んでいるのか・・・そろった情報を共有し協議を行わせていただきたく思います」

 

 死穢八斎會・・・ちょろっとリューキュウがこぼしていた話だ。とりあえず近場にいた相澤先生に話を聞いてみよう。

 

 「相澤先生、先生がどうしてここにいるのかしら?」

 

 「急に声をかけられてな・・・協力を頼まれた。それにお前たちに話したいこともある。とりあえず席につこう、きびきび動け」

 

 そう相澤先生に促された俺たちはそれぞれ手招きするヒーローの元に行き、用意された席に着く。ホワイトボードを背にしたナイトアイの合図で協議が始まった。

 

 「進行を務めますナイトアイ事務所サイドキックのバブルガールです。我々ナイトアイ事務所は約2週間前より指定ヴィラン団体、死穢八斎會の調査を独自に進めておりました。きっかけは・・・レザボアドックスという強盗団」

 

 「ナイトアイ事務所サイドキックのセンチピーダーです。ここからは私が報告を。ここ一年の間に死穢八斎會は組外、特に裏稼業との接触が多く・・・そして調査開始後すぐにヴィラン連合の構成員、トゥワイスとの接触が確認されました」

 

 !・・・関係ない話だと思ったらここでこう繋がってくるのか・・・!面倒くさい話になってきたぞ・・・つまり死穢八斎會とヴィラン連合のやつらは手を組むかもしれないんだ・・・もしかしたらもう組んだ後なのかもしれない。

 

 「今日は来てないがヴィラン連合の話ってことで俺と塚内にも声がかかった。とにかく小僧・・・面倒なことに引き入れちまったな・・・」

 

 「面倒なんて思ってないですグラントリノ!」

 

 「えー、とにかくこのような過程があり、皆さんに協力を求めた次第です」

 

 「ちょっといいか?ロックロックだ。この場に雄英生とはいえガキがいるのはどうなんだ?話が進まなねえや」

 

 「ぬかせドアホウ!この二人とそこにおるのは超超重要参考人やぞ!」

 

 ガタンと立ち上がったファットガムが天喰先輩と切島、そしてなんでか俺を指した。2人は兎も角俺には全く心当たりがないんだが・・・?二人もなにがなんだかわかってない顔してるし。

 

 「初対面の方!ファットガムです。よろしゅうな!今回死穢八斎會がヤクの売買をシノギにしとったっちゅ―ことでワイに声がかかりました!そんで先日の烈怒頼雄斗のデビュー戦!加えてリューキュウのとこであったトレーラー暴走と裏チャカの取引を潰したエネイブル!両方の事件で回収されたもの・・・今回環に打ち込まれた、「個性を壊す薬」や」

 

 はあ!?もしかしてあれか!?未使用のマガジンと取引の時に取ったやつ!?なんちゅう偶然・・・いや、同じ場所から捌かれたのが末端を通ってそうなったのか・・・つまりは、必然。しかし個性を壊す薬、個性自体に干渉するとなるとどうしてもかなでの顔が頭に浮かぶ・・・関係ないといいんだけどな。

 

 「個性を壊す・・・!?環!?大丈夫なんだろ!?」

 

 「ああ、寝たら回復した。みてくれこのアサリの貝殻」

 

 打ち込まれたという天喰先輩は無事らしい。とにかくよかった・・・

 

 「そんでな・・・撃った連中はダンマリ、銃もマガジンも粉々で手掛かりなしかと思うとったらな・・・切島君が弾いた弾丸が無事だったんや!そして未使用の弾丸を壊す前に遠山君が確保しよった!そんで中身を調べたら・・・成分はほぼ合致したんやけど違いが一つ、あるものの含有量が違ったんや」

 

 あるもの?つまり俺と切島が遭遇した事件で使われた弾丸は似て非なるものだったってことか?完成品を捌いてるわけじゃない?もしくは金のため粗悪品を流した・・・?考えがまとまらねえ。

 

 「あるものっちゅうのはな・・・人の血と細胞や。遠山君が確保したものは切島君が弾いたものよりそれの含有量が少なかった。粗悪品か両方とも未完成品とみるべきやな。そんで切島君が捕まえた男!そいつから流通経路をたどった結果ある中間組織が死穢八斎會と交流があった。接点としてはそれだけや」

 

 「そして先日リューキュウ事務所が対峙した巨大化ヴィランの件、片方の所属組織の元締めがその中間組織だった」

 

 「巨大化した一人は、個性のブースト薬を使っていたわ。効果の短い粗悪品をね・・・」

 

 「そして決定打・・・現死穢八斎會若頭、治崎の個性は対象を分解し、治す「オーバーホール」・・・そして治崎には娘がいる。先日偶然ここの二人が遭遇した時には手足におびただしく包帯が巻かれていた・・・」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ぎゅっと手に力が入った。重なる・・・重なるぞ・・・!人工天才計画の被検体だったころのかなでに・・・!かなでも似たようなことが出来るから、個性に干渉する薬を作るため貧血になろうがお構いなしに血を抜かれ実験を強行されたと聞いている。死にかけるたびに治療系の個性を受けて無理やり復活させながら・・・!

 

 ほかのやつらはまだわかってないみたいだけど察しがついてしまった。死穢八斎會はその娘を切り刻んで作った薬物を売りさばこうとしているのだ。人体実験の行きつく先、かなでのもう一つの可能性だ。こんな話を聞いたからにはもう引けない。何があろうと俺は事件現場に突っ込むだろう。それは、通形先輩と緑谷も同じようで・・・

 

 「つまり、治崎は娘の体を銃弾にして捌いてる可能性がある。現段階の性能はあまりにも中途半端、もしこれが試作段階だとしてももし完成品があったとしたら?悪事の可能性はいくらでも思いつく!その可能性を潰すために・・・」

 

 「「今度こそ!必ずエリちゃんを保護する!!」」

 

 「そう、それが今回の私たちの目的となります」

 

 席を立ちあがって吠えた二人の思いと俺も同じ、完全に壊され助け出せなくなる前に・・・暗闇からその子を救い出してやるんだ。

 

 



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再・第十五弾

 「なるほどな。まあその意気込みはいいとして、だ。若頭にとっちゃその子供は計画の核のはずだ、ヒーロー二人に見られたならどうする?素直に本拠地に置くわけないよな。ナイトアイ、特定はすんでるのかよ?」

 

 一瞬の静寂を打ち破ったのは口が悪いながらも冷静なロックロックだ。彼の現実的な言葉に頭の冷えた俺が血がにじむほど握りしめていた拳をほどき、深く深呼吸をして向き直る。どっちにしろ今すぐどうこうできる話じゃない。それなら会議を円滑に進めて成功率の高い作戦を考えておくんだ。

 

 「問題はそこです。どこまで計画をし、何が起こってるかわからない以上チャンスは一度のみ。ですのでこちら、可能な限り洗い出した死穢八斎會の拠点のリストになります。皆さんには各自その場所を探ってもらい、拠点になりうる場所を探していただきたい」

 

 「待ちい。呼ばれた理由は分かったわ。だけど慎重すぎる。こうしている間にもそのエリちゃんいう子泣いてるかもしれへんのやぞ」

 

 唸るようにそう漏らしたファットガム。正直俺も同意見だ。本拠地を叩いてしらみつぶしした方がいいように思えるが・・・・

 

 「おっしゃりたいことは分かります。ですが失敗しましたでは話になりません!分析と予測を重ねて成功率を限りなく100%へ近づける!とにかく、よろしくお願いしたい」

 

 ファットガムは不承不承といった感じで座り込んだ。すこし強引かもしれないが理には適っている。今ここにいるのはほとんどがリストアップされた地域で活動してるヒーロー、土地勘がある者たちだ。それにしてもヤクザってすげえな。比較的小さい組織なはずなのにこんなにたくさん拠点を持ってるのか・・・恐ろしいな。

 

 「あの、ナイトアイ。あなたの個性の「予知」どんな性能かは知りませんが未来予知が出来るのなら俺たちを見ればいいじゃないですか。このままでは合理性に欠ける」

 

 挙手をしたのは相澤先生だ。へー、ナイトアイの個性は未来予知が出来るものなのか。いろんな個性があるもんだ。もしそれが失敗する可能性があるとしてもあらかじめ対策が取れるというのは心強い。どんなもんだろうか

 

 「・・・できない。少なくとも今の段階では。私の個性の性能は24時間に1回、1時間だけ対象の未来を見るというもの。見える光景は対象の第三者視点、わずかな周辺環境のみです」

 

 「いや、それでも十分なはずだ。できないとはどういうことです?」

 

 ナイトアイの切り替えしに納得いかない相澤先生が詰め寄るとナイトアイは顔を手で覆って下を向いてためらいがちに言葉を吐いた。

 

 「私の個性は見た時点で確定すると言っていいのです。現状見えた未来を回避できたことがない。つまり・・・今見て失敗する未来が見えたのなら失敗する。けど、恐らく・・・分岐はする。今の失敗濃厚なまま見ても失敗の未来が見えるだけ・・・それならば、可能性を出来る限りあげてから使うダメ押しとして使った方がいい。それに・・・例えば、見た人物の将来に死が・・・無慈悲な死が待ってるだけだったら・・・どうします」

 

 「・・・わかりました。俺からはもう特に。ほかの皆さんは?」

 

 誰も、何も言わない。ナイトアイの最後の言葉に実感がこもりすぎているからだ。つまり、何度か見てしまったのだろう。回避できない無慈悲な死というやつを。ナイトアイの個性、俺なりにたとえるならば・・・そうだな、宝くじ、がいいだろう。買ってない状態で予知をした場合、買う、買わないで50%、そこから当たる、当たらないでさらに50%で宝くじが当たっている可能性は低いのだが、もし買ってる場合で予知をした場合当たる当たらないの50%のみだ。つまり後者の方が当たってる未来を見れる確率が高い。ダメ押しとはそういうことだろう。

 

 だからナイトアイは失敗の可能性を出来る限り潰してから未来予知を行いたい、とこの場へ申し出た。プロ達もそれを理解したのかナイトアイにかみつくものはいない。場をとりなすようにリューキュウがまとめにかかった。

 

 「とりあえずやりましょう。困ってる子がいるなら、助けるのが私たち。そうでしょ?」

 

 「対象の居場所の特定、保護。可能な限り確度を高め早期解決をしましょう。ご協力よろしくお願いします」

 

 ナイトアイがそう締めて、俺たちの初めての捜査会議はいったんの終了を告げたのだった。

 

 

 

 「・・・だから、僕たちが保護してれば今頃・・・」

 

 「デク君・・・」

 

 捜査会議を行った部屋とはまた別の部屋で雄英生だけで話している俺たち。相澤先生が話すことがあるからと帰るのを待たせられているので雄英生だけでの話し合い、というか反省会みたいなもんだ。緑谷と通形先輩の話を聞くに、パトロール中に偶然治崎の娘と遭遇、緑谷はその場で保護を通形先輩はいったん泳がせてあとのことを考えたらしいのだが失敗。まさか死穢八斎會が子供の体を切り刻んでるとは思わず自己嫌悪にさいなまれている、という話だ。

 

 もしこれがかなでならば・・・と思うと一概に否定も肯定もできない。俺も緑谷と同じ状態になるかもしくはなりふり構わずカチコミをかけてることは想像に難くない。いかんな、絆されすぎてるような気がする。もし対象に会えた場合でも冷静になれるように自制せねば。

 

 誰も、何も話さない。話せない。かかわった事件があまりにも凄惨すぎて。まるでそこだけ音が切りとられたような静寂が場を支配しているその静寂を破ったのは子細な会議を終えドアを開けた相澤先生だった。

 

 「通夜でもしてんのか。どいつも沈んだ表情して、ヒーローだろ?失敗したなら次に生かせ。少なくともお前らの手を治崎の娘は待ってるだろうよ」

 

 「相澤先生・・・」

 

 「学外ではイレイザーヘッドで通せ。にしても今日は君たちのインターン中止を提言するはずだったんだがなァ・・・」

 

 中止、ね。ヴィラン連合がかかわってる以上、そうするのが学校側としても適切な判断なはずだ。だがさっきの話を聞いた以上、少なくとも俺と緑谷に通形先輩は止まることはないだろう。何が何でもくっついてその子を助け出すって決めてるからな。誰が何と言おうとも、俺はそう覚悟を決めた。

 

 「今更なんで、って思うだろうがヴィラン連合がかかわってくるなら話は別だ。君たちも合宿のことに神野のことを忘れたわけじゃないだろ。けどなあ・・・緑谷に切島、お前らはまだ俺の信頼を取り戻せてないんだよ」

 

 「はい・・・」

 

 「うっす・・・」

 

 話を向けられたのは神野で飛び出していった緑谷に切島だ。二人は思うところがあるらしく特に反論をせず俯いて押し黙ってしまった。俺も、思うところはある。独断専行気味になってしまうのが俺の悪いところだ。特にこういう自分の頭に血が上っちまうような案件では。

 

 「けど、お前ら、特に緑谷。このままインターン中止しても絶対に飛び出していくと俺は残念なことに確信してしまった。だから、するなら正規の活躍をしよう。わかったか、インターン組」

 

 「「「「「はい!!!!」」」」」

 

 相澤先生からの実質的な許可が出た俺たちは威勢よく返事をする。ここからだ。失敗してつかみ損ねた小さな手を今度こそ掴みなおして引っ張り上げる。絶望を希望に塗り替えるんだ。俺だってもう、他人ごとじゃない。

 

 

 

 

 

 「インターン組動きキレてるねえ!」

 

 「てめぇら外で何掴みやがった!言えコラァ!」

 

 「わりぃ爆豪!言えねえんだ!」

 

 死穢八斎會の動きと保護対象であるエリという娘の場所が特定できるまでの間俺たちは待機となった。やる気に満ち溢れる俺たちインターン組の授業への取り組みは如実に表れているらしくインターンに行ってない他の連中にもわかるレベルだ。

 

 本日のヒーロー基礎学は災害地の断崖絶壁を上る登攀の授業、堀蜥蜴を使う俺やワンフォーオールで上る緑谷、腕をがけに突き刺す切島などインターン組が突出して早い。爆豪も何かをけどったようで俺たちに事情を聞き出そうとするが緘口令が敷かれた俺たちが答えるはずもなく爆豪もイラつきながらそれ以上踏み込むことはない。俺たちがそうして牙を研ぐこと数日後、授業を終えた夜のことだ。

 

 

 「おい!お前ら!きたか!?」

 

 「ええ、来たわ切島ちゃん」

 

 「デク君も?」

 

 「うん、遠山君も来たみたいだね」

 

 「ああ、作戦日時だ・・・ん?」

 

 俺たち全員の携帯に結構日を乗せたメールがきた。思わず廊下に集まった俺たちが携帯を見て話しあっていると・・・俺のメールだけ別の一文が追加されていた。明日にリューキュウ事務所に来てほしい・・・?どういうことだ

 

 「どうしたの遠山君?」

 

 「いや、これ見てくれ。なんか知らんが呼び出された」

 

 「ほんまや。遠山君だけ・・・?どうして?」

 

 「俺が知りてえよ。とりあえず明日行ってくるわ。作戦から外れろとかだったら嫌だな・・・」

 

 「お前ェに限ってそらねえと思うけどよ・・・話せるんだったら教えてくれよな」

 

 「ああ、とにかく。エリちゃんは絶対助けるぞ」

 

 「おう!」「ええ」「うん!」「わかってる!」

 

 覚悟を分け合った俺たちはそのまま解散し眠りにつくのだった・・・俺だけ呼び出し、何かきな臭いものを感じる。悪い知らせじゃないといいんだけど・・・。

 

 

 

 翌日のこと、授業を終えリューキュウ事務所に行こうとすると相澤先生に呼び止められた。何でも相澤先生もリューキュウ事務所に呼び出されたらしい。出発の準備をしようとしていたノックスを元に戻して相澤先生の車に乗ってリューキュウ事務所に向かう。同中、相澤先生になぜ俺が呼び出されたのか尋ねると

 

 「俺も知らされてない、がお前だけ呼び出すのはどうも不自然だ。本当なら俺は行く予定じゃなかったんだがな。いやな予感がするんでついていくことにした」

 

 「相澤先生も知らないんですね・・・次の作戦に関してでしょうか」

 

 「ああ、恐らくな。お前らの役割は薄い、と俺は思っているし実際危険な役割をさせるなら反対するつもりでいる。ともかく行ってみよう」

 

 「はい」

 

 ちょうどよくリューキュウ事務所についた俺と相澤先生が事務所内に入ると待ってましたと言わんばかりの事務員のお姉さんに案内されていつもリューキュウがいる事務室ではなく会議室に案内された。そしてその中に入ると・・・リューキュウとナイトアイが雁首揃えて椅子に座って佇んでいた。うっげー嫌な予感。

 

 「ごめんね遠山君、イレイザー、わざわざ来てもらって。ねえナイトアイ、やっぱりやめましょうよ。確かに有効なのはわかるけど彼まだ学生よ?私たちが守るべき子だわ」

 

 「私とてやらせたくない。がほかに手がないのも事実。それにもうセミプロだ。彼の意見を聞かないことには始まらない」

 

 「すいません。話が見えてこないんですが・・・遠山に何をさせる気ですか?雄英の教師としては彼を危険な目にあわすのならば反対させていただきますが」

 

 「すまない、説明をしよう。かけてくれ・・・・よし。イレイザーヘッドはもう知っていると思うが保護対象は未だ死穢八斎會の本部にいる。そして、作戦概要も話した通りだ。ここは関係ないので割愛させてもらう。端的に言えば一つ問題ができた」

 

 「その、問題とは?」

 

 作戦の重要な部分は当日に俺たちに知らされることになっているため省いたナイトアイが目つきを鋭くした相澤先生に向かい合う。問題が出来たというナイトアイ、その問題に恐らく俺がかかわってくるのだろうか?

 

 「死穢八斎會は元指定暴力団、ヤクザだ。今はヤクをシノギにしてると言っても他のことにも手を出してた。それは・・・」

 

 「裏チャカ・・・ですね?」

 

 ピンときた俺がナイトアイに尋ねる。裏チャカ、すなわち銃検を通さず裏に流通してる銃のことだ。そしてその大本は基本的に元暴力団、ヤクザなのだ。個性が出る前からそんなことばっかりやってるからな。正解だったのか頷いたナイトアイが話を続ける。

 

 「そうだ、昨日の会議の終了後・・・センチピーダーから報告が上がった。死穢八斎會、表口ではなく裏門の土蔵は武器庫である・・・というな。協力してるヒーローが遠隔で監視している際、構成員が土蔵に入り銃を持って出てくるのを3回目撃したらしい。つまり、作戦開始と同時に鉛玉の雨が降ってくる可能性が出てきた」

 

 「・・・回りくどい、非合理的だ。つまり、コイツに何をさせたいと?」

 

 「・・・遠山キンジ・・・いや、エネイブル。作戦開始と同時に奇襲をかけ、単騎でこの土蔵を制圧、以後の構成員から守り切ってほしい」

 

 「ふざけるな!」

 

 俺が返事をする前に大声をあげたのは相澤先生だ。彼は椅子から立ち上がり、ナイトアイの所までつかつか速足で歩み寄りバン!と手を長机に叩きつけてまくしたてる。

 

 「何を言うかと思えば単騎での作戦行動だと!?わかってるのか!?コイツはまだ学生だ!しかも仮免許を取って一月もたってない!それはプロがやるべき仕事だ。最低でも通形クラスの人間にやらせるべきだ・・・コイツにやらせるべきじゃない」

 

 「・・・その、とおりだ。だがミリオの装備は防弾性じゃない、対武器への防御力は誰よりも低い。マシンガンなんかで絶え間なく弾幕でも張られたらいくらミリオでも分が悪いのは貴方もわかっているだろう。私が彼にやってほしいと頼んだ理由はリューキュウに彼の対武器テストを見せてもらったからだ・・・・ミリオに一撃あてたと聞いて、気になってな」

 

 「対武器のテスト・・・?遠山、やったのか?」

 

 「はい、ここに面接を受けに行った日・・・実弾を扱うなら錬度を見せてほしいと言われてやりました」

 

 舌を巻いた。多分リューキュウもこうなるとは思ってなかったんだろう。だから、見せた。俺が自動銃相手に無茶苦茶やってる動画を。

 

 「・・・イレイザー、対武器の対処なら遠山君は間違いなくトップクラスよ。40丁のマガジンやトリガーといった弱点部位をなくした銃相手に彼は銃本体を見せずにすべて破壊して見せた。限られた弾丸で、銃弾を銃弾で弾き、ナイフで銃弾を切り、銃口に正確に銃弾を入れ・・・あまつさえ向かってくる銃弾を素手で止めて見せるパフォーマンスまで行ったわ・・・悔しいけど、彼以上の適任は今のところ見つからないの」

 

 今まで黙っていたリューキュウが絞り出すような声でそう言った。そういえば兄さんもジーサードもかなめも今アメリカだ。たしかかなでを狙う動きがあるから潰してくると言ってた。間の悪いことにスナイプ先生は今別件で怪我して戦える状態じゃない・・・俺が、やるしかないんだ。

 

 「・・・想定される銃の種類とか、裏口で張ってる警備の数とか・・・わかりますか?」

 

 「遠山!お前何をするのかわかってるのか!?」

 

 「さすがにわかってます。けど俺がやるしかないならやります。ナイトアイ、そうすれば作戦の成功率が上がるんですね?」

 

 「・・・ああ。銃を持った増援が来ないだけで格段にやりやすくなるだろう。・・・頼んでおいておかしいかもしれないが・・・いいんだな?」

 

 「はい。ですが応援は出来るだけ早くくれると嬉しいですね。一人は骨ですから」

 

 「・・・はあー・・・認めよう。ナイトアイ、あくまでコイツは生徒だからな、忘れないでくれ」

 

 「勿論だ。出来る限り安全に遂行できるように尽力する」

 

 大きなため息をついた相澤先生が諦めたように許可を出し、ナイトアイが即答で答えた。俺も迂闊だなあ、不可視の銃弾に銃弾掴みまで調子に乗ってやるんじゃなかった・・・つっても必要とされてるなら答えねえと。大丈夫、遠山の男は天下無双なんだ。不可能を可能にする男(エネイブル)の名にふさわしい働きを見せてやる。

 

 死穢八斎會、散らせるものなら・・・散らせてみやがれ。




年内に間に合った・・・?多分


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再・第十六弾

 「「「「単独作戦行動~~~!?」」」」

 

 「声がでけえ」

 

 「あ、ごめん遠山君。それで、その作戦って?」

 

 ナイトアイから武器庫の制圧を言い渡された俺がとりあえずどうやるかを考え手順をナイトアイとリューキュウ、相澤先生に告げたところそれで問題ないとの言葉を頂いたので作戦開始と同時に俺がカチコミをかけるのが確定してしまった。まあ別にそれは覚悟の上だからいいんだけどマジで単独行動かあ・・・一応制圧し次第警察と代わってもらえることになってるけど・・・奇襲ね、遠山家の戦術を見直しとくか。

 

 「あー・・・死穢八斎會ってヴィラン団体扱いだけどもともとヤクザって話は聞いただろ?裏チャカが山とあるらしい。俺の仕事はおそらく武器庫になってる裏口近くの土蔵を表が突っ込むと同時に奇襲して制圧することってーわけだ。お前らは多分表の方だな」

 

 「・・・さすがに危なくないかしら?私たちも・・・」

 

 「そりゃダメだ。まずこの作戦は前提として銃器類を過不足なく扱えて尚且つ多数の銃口を向けられてる状態でも無傷で対処できるのが条件らしい。どの種類の銃器でもその場で破壊できるやつっつ―ことだな」

 

 「そうなんや・・・他のヒーローは?」

 

 「スナイプ先生はご存知の通り負傷中、俺の兄弟はアメリカ。近くのやつは全滅だ・・・だから俺にお鉢が回ってきたんだろうしな。まあ表の方が警備は厳重だろう、なんたってヒーローが雁首揃えて門前に並ぶわけだからな。裏口は手薄になるはずだ。そこで武器類の補給を断つ」

 

 帰ってきた俺が部屋にインターン組を呼んであったことを許可された範囲で話す。当日伝えたら混乱で指揮系統が麻痺しかねんからな。あーあーあー・・・頼るって決めたばっかなのになんで頼ったらダメな案件ばっかり来るんだよ。悲し気に瞳を揺らす梅雨に難しい顔をしてる緑谷、苦虫を噛んだような麗日と切島・・・空気が重いんだよ。

 

 「なあ遠山、それってホントに一人じゃなきゃダメなのか?別に銃が使えなくても他のプロなら・・・」

 

 「ああ、俺もそう思ってたんだけどな?一番の適任が俺だそうだ。それならまあ、作戦の成功率を高めるためっつーことで受けることにしたんだよ。取りに行かせる前に潰すのは理にかなってるしな」

 

 「そうね、悔しいけど私たちじゃ力になれないわ。でも、遠山ちゃん・・・約束して。絶対に怪我しちゃダメよ?」

 

 「無茶なこと言ってくれんなー・・・ああ、わかったよ。怪我はしねえ、無傷でカタつけてやる。とにかく任務日は別行動だ、それまでは牙を研いで待ってようぜ」

 

 全員で目を合わせ頷きあって、それぞれの時間に戻るのであった。

 

 

 

 

 『それでは協力いただいたヒーローの皆さん、警察の方々・・・よろしくお願いします』

 

 『こちら可能な限り洗い出した死穢八斎會構成員の登録個性のリストです。目を通しておいてください』

 

 「いよいよ・・・だね」

 

 「ああ、待ちに待った・・・っつったらあれかもしんねえけどよ。反撃の時間ってやつだぜ」

 

 作戦決行日当日、死穢八斎會の本部より少し離れたところで集まった警察とヒーローと一緒に作戦会議をする。すでに周知されているが俺一人で武器庫の制圧をすることにはやはり文句があるらしくロックロックやほかのヒーロー、警察もいい顔をしてない。すでにヒーロースーツに着替え、停めたノックスの隣で他のやつらと話している俺にじろじろと視線を送るやつもいる。8割がた心配の視線でもう2割はこんなガキで大丈夫かという視線だ。

 

 任せとけ、度肝ぶち抜いてやるよと気合を入れなおしていると通形先輩を連れたナイトアイが近づいてきた。通形先輩も腕をぶんぶんと動かして気合満点である。緑谷曰くナイトアイはユーモアを重要視しているそうなのだがナイトアイを見る限りとてもそうは思えない。というか眼力がありすぎてちょっと怖い。相澤先生もそうだけどヒーローってそんなもんなの?

 

 「エネイブル、無茶を言ってすまないが今日はよろしく頼む。君が武器庫を担当してくれたおかげでエリちゃんの保護に人員を割くことが出来た」

 

 「いえ、大丈夫です。俺だって遠山の義士、義をなすために必要な無茶もあるのは重々承知しています。可及的速やかに、制圧します」

 

 「ああ、頼む」

 

 「エネイブルならきっと大丈夫だよね!なんたって俺に攻撃を当ててくるくらいなんだから!それにビデオ見せてもらったけどあんなことできるなら余裕だよ余裕!」

 

 「あれ見たんですか・・・調子乗ってたんでできれば見られたくなかったんですけど・・・」

 

 「どうしてだい?あれだけ軽く対武器をこなせるなんてすごいじゃないか!しかもあの時は防弾装備じゃないうえに被弾無しでしょ!?俺も同じことは出来るけど全部脱げちゃうからね!」

 

 「脱げるって・・・いやそうですけど」

 

 「エネイブル・・・諦めた方がいい。ルミリオンに自虐は通用しないぞ」

 

 通形先輩がまぶしすぎて溶けそうだ。今なら天喰先輩の気持ちがわかる気がする。ここからは俺は単独行動だ。不安がないわけじゃないがやるだけやるしかない。デザートイーグルに込めた特別性の弾丸を確認してノックスの電源を入れる。静かに起動したノックスに跨ってナイトアイに声をかける。

 

 「配置につきます。時間になったら無線で合図を頼みます、少しばかり派手にやるので俺が制圧するまでは警察はこっちにやらないようお願いしますね。誤射がありえるので」

 

 「ああ、わかっている。こちらのことは気にせず・・・というのは違うか。速やかに合流してくれ」

 

 「了解です」

 

 「遠山、無理だと思ったらすぐ連絡入れて逃げろ。それと無線機の電源を切るなよ」

 

 「遠山ちゃん、無事を祈ってるわ」

 

 「遠山君、無理せんといて」

 

 「遠山、漢見せてこいよ。お互い無傷で会おうぜ」

 

 「遠山君、そっちは・・・任せるよ」

 

 「おう。お前らもしくんじゃねえぞ?じゃ、行ってくるわ」

 

 すでに移動を開始し始めているヒーローや警察に混じって俺も作戦開始地点、死穢八斎會本部裏手のビル後ろあたりに気配を隠して止まる。無線機の周波数を合わして他の所の様子を見てみると着々と準備が進んでいるようだ。作戦開始時刻まであとわずか、ノックスのリミッターを解除して待つ。3,2,1・・・

 

 

 

 

 『作戦を開始します!令状を見せてすぐいくぞ!エネイブルはそのまま奇襲を始めろ!」

 

 「了解!」

 

 ビルの影からトップスピードで飛び出したノックスを操りどんどん加速、時速300㎞を超えたところで右手にデザートイーグルを出し予想通り表に人が集まったのか人っ子一人いない死穢八斎會の本部裏手、きれいな白塗りの壁と立派な木の門に向けて2発発砲する。

 

 デザートイーグルから飛び出した先端科学兵装の弾丸は木の門を避け白塗りの壁に着弾し爆炎を散らす。ジーサードからもらった炸裂段だ、しかも火薬倍増の特別性。轟音を伴った爆発は壁に大きな穴をあけその先であんぐりと口を開けた構成員の姿が見える。ウォンッ!とアクセルを全開にしたノックスがさらにスピードを上げ開けた穴ではなくわざと残した木製の門に向かって流星となり駆ける。

 

 「邪魔するぜ」

 

 ドゴンッ!とわざわざ木製の門にノックスごと突っ込んで門をぶち破りながら敷地内に入る。どっちがテロリストかわかんないなこりゃ・・・不審に思ったらしい構成員二人を門ごと跳ね飛ばした俺がすかさずベレッタを構成員が吹っ飛んでいった着弾地点に発砲。着弾すると同時にクッションが膨れ上がり跳ね飛ばされた構成員を受け止める。多分生きてるだろうけど地面に激突させたら死んじまうからな、こいつは平賀さん製の空嚢弾(エアバック)。着弾地点にクッションを作る弾丸だ。いいもんもらったぜ。

 

 そのまま目星をつけていた土蔵の入り口前にノックスの向きを変え走らせる。スピードが乗ってきたあたりで俺は落ちるようにノックスから降りる。最後に慣性を操作して進む方向を変えた俺が地面に着地するとギャリギャリギャリ!と脚甲が砂利とすり合わさって火花を生む。鞘ごと梔子を引っ張り出し引き抜いて地面にさしてブレーキとする。俺はそのまま何が起こったかわかってないまま突っ立っている構成員をスピードが乗った梔子の柄でボディブローすると同時にブレーキとして利用する。

 

 「ごぼっ・・!?」

 

 「わり、あんまりにも隙だらけだったもんでよ・・・さ、ヒーローだぜ死穢八斎會。表も同時に来てるから令状とかは省略させてもらう。言えるとするなら・・・・全員豚箱行きってことだ」

 

 胃の中身をその場にぶちまけ気絶した構成員を脚甲から摩擦熱の煙を出しながら止まった俺が乗り越える。同時にキュッと設定どおりに土蔵の入り口ちょうどで停車したノックスの停車音が聞こえる。さすが平賀さんと発目が作っただけあっていい子ちゃんだ。今のは「駒陸(けいろく)」遠山家の中でも頭の狂った人間が開発した荒業で馬に乗った状態で落馬するように落ち、速度を保ったまま地面をすべって敵陣に超速で切り込むという奇襲にもってこいの技だ。攻撃でブレーキをかけるためちょうどよく構成員がいてよかったな。やりすぎると100mとか制動に使う技だし。

 

 もうすでにヒスっている俺がチン、と梔子を鞘に納め腰にマウントしつつ拳銃を突き付けてそう宣言するとさすがに奇襲だと分かった構成員が敵襲だと叫びだす。すると出るわ出るわ拳銃やらアサルトライフルやらマシンガンを持った構成員たちが。これ土蔵制圧する意味ある?ドス持ってるやつとかもいるけど・・・

 

 「じゃかぁしいわガキィ!てめえどこの族だァ!?」

 

 「ヒーローだっつってんだろ。もう詰んでるんだからさっさと投降してくれ」

 

 「ぬかせ!畳んだるわぁ!」

 

 怖い顔のお兄さんたちが次々に銃を向けてくるので袖口からベレッタとデザートイーグルを飛び出させた俺が先に200発ほど斉射する。壁や地面、時には構成員たちが持ってる銃に当たりながら跳弾した弾の数々は空中で跳弾に跳弾を重ね俺の前に相対する構成員が持ってる武器の銃口やら機関部、トリガーを正確に破壊する。ゴム弾の時と違って直接当てるタイプの延髄切り(ゲットーブラスト)は使えない。先に全部壊しちまおう、そしたらほら・・・あとは烏合の衆だけだ。

 

 「畳めるもんなら、畳んでみやがれ」

 

 「ガァキィ・・・!!!」

 

 一瞬にして丸腰になってしまった構成員のお兄さんたちがあからさまな手加減と挑発に対して顔を真っ赤にしてこめかみに血管を浮かべて怒っている、がとびかかってくるような奴はいない。ここら辺は流石元ヤクザ、戦力の把握が早くて正確だこと。今のお片付けだけで俺がその気になればたやすく自分たちが全滅することが分かってしまった構成員たちはジリ、と後ずさりを始めようとするが何かを恐れているような雰囲気だ。

 

 普通ならこれで戦力を追加するために逃げるのがセオリーなのだが、俺を恐れているわけじゃないな?てことは内部か・・・よっぽど恐ろしい存在が組の中にいるみたいだ。破れかぶれになり駆けている構成員たちは

 

 

 「うおおおおおお!!!!!」

 

 と全員一斉に覚悟を決めたようにとびかかってきた。さすがに一気に30人近く相手するのは骨なので何人かには遅れてもらおう。俺は袖口から銃を戻してシャランと梔子を引き抜き、地面に向かって秋水を込めて振るう。地面を這う衝撃波が構成員を叩く、ついでにショットガンのように飛んだ小石たちが5人ほどノックアウトした。

 

 コイツは「鳴渦(めいか)」地面を円を描くように刀を秋水を込めて振るうことで自分を中心にした周囲の地表にダメージを与える技だ。本来は森の中で戦うときに木々を倒して相手を下敷きにするときに使う技なのだが開けた場所で使っても威嚇には十分、渦を描く衝撃波に何人かが足を止めて一時的に人数を減らしてくれている。今かかってきてるのは5人ほどの根性のあるヤクザだ。誉めてるわけじゃねえけどな、蛮勇ってやつだ。

 

 「死に晒せえ!」

 

 「できるかよ。悪いけど死ぬほど痛いからな」

 

 初っ端から拳からバチバチ電気が走る音を鳴らしながら構成員が殴りかかってくる。俺は電気を食らったら面倒なので梔子を鞘に納めて腰のマウントから取り外し鞘で拳を殴って迎撃する。梔子の鞘は絶縁体だから電気が通ってようが関係無い。拳から嫌な音を鳴らした構成員が悲鳴を上げて膝をつく、俺はそのまま顔面に柄を入れて気絶させる。

 

 「アニキィ!」

 

 気絶した構成員をみて激高したほかのやつらがまとめてかかってくるので俺はマッハ3の桜花を用意して居合の構えから梔子を引き抜いて振るう。今咄嗟にアレンジした天抛の衝撃波を地上で放ったのだ。射線上にいた構成員たちがまとめて吹っ飛び壁に叩き付けられて気絶する。残りはさっきの鳴渦で足を止めたやつらだ。

 

 遠山家の人外技を連発した俺を完全に怖気ついたやつらに対して俺は自分から突っ込む。動揺して隙だらけになったやつに対して梔子を引き抜いて峰でぶん殴る。結構強くやったから顎を砕いてしまったが命に別状に問題はない。口を血を吐いて倒れ伏したやつを乗り越え秋草で蹴りを入れて他のやつをぶっ飛ばす。もう一人を片手の鞘で殴って気絶させラストの一人を梔子を収めた片手で出来るようになったとある技を放つ。

 

 「扇貫っっ!!!」

 

 人差し指で扇貫を、中指で扇覇を放って自分に来る衝撃波を相殺した本来の形の扇貫が少し離れた場所にいた最後の一人を吹き飛ばして壁に叩き付けて気絶させる。周囲にはほかに・・・いない。多分表の方にばっか戦力が集中してこっちには雑魚しかいないんだな。俺は無線機をオンにする

 

 「こちらエネイブル、制圧が完了しました。警察の派遣をお願いします」

 

 『よくやった!警察に引き渡し次第救出チームに合流してくれ!』

 

 「了解!」

 

 とりあえず第一段階と言ってもいい作戦は成功した。あとは本命をたたき出すのみ・・・俺はノックスから弾帯を引っ張り出して補給を始めるのだった。

 



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再・第十七弾

 俺が裏庭にある土蔵周辺を制圧して無線を飛ばしてすぐに警察の機動部隊がでっかいバリスティックシールドを持って突入してきた。そして無傷の俺と倒れ伏す構成員を確認するとすぐに特殊合金製の手錠で持って拘束にかかる。俺はその間にリーダーの警察官に対して情報を共有した。

 

 「拘束お願いします!見てわかると思いますが既に銃器類は何丁か持ち出されてるのかもしれません。これから救出隊のほうに合流しますが何か情報との差異はありますでしょうか?」

 

 「お疲れ様です!地下通路の方ですが幹部の入中の個性により道の変更が起こっているようです!ルミリオンが先行していおり、突入したヒーロー部隊は現在分断されていると・・・」

 

 「・・・わかりました!とりあえず方向だけ確認しますので地図を見せてもらっても?」

 

 「ええ、こちらです!」

 

 俺はナイトアイが確認したエリちゃんへ続く最短距離のマップを現状の向きからおおよそで推測して頭に叩き込んだ。ヒステリアモードの今なら1秒もいらない。俺はノックスを遠隔で起動して邪魔にならない位置に置いて機動隊が道を開けてくれる中死穢八斎會の虎の巣に飛び込んだ。

 

 既に別のヒーローが制圧を終えており、拘束された構成員たちが喚き散らす中地下通路の入り口のなっている掛け軸の裏、開け放たれた穴に飛び込んだ。階段を勢いのまますべて飛び降り、地下通路にたどり着いた俺はすぐさま記憶した方向の道、ついでにうっすら見える先行していったナイトアイたちの足跡をヒステリアモードが見せる超視覚で判別して走り出す。

 

 「こいつは・・・!」

 

 すぐに違和感に気づいた。壁だ。まるで後付けで動かされたような壁。材質をそのままに質量だけ移動させて無理やり作ったような壁がいくつも破壊された跡がある。これが入中の個性ってやつか・・・そして、ようやく破壊されてない壁に続く道の一部から途切れたナイトアイたちの足跡と壁の先に続くルミリオンの足跡・・・!分断はここか!透過で通り抜けたルミリオンと、その場で落とし穴に落とされたようなほかの足跡・・・ここで追うべきは・・・ルミリオン!単独で行った彼の方が危ないかもしれない。幸いただのコンクリだ、ぶん殴れば穴くらい空く!

 

 すぐに俺はこぶしを壁にあて、やっとモノにした大和を使う。衝撃を貫通させるのではなく、猴がやったように内側からぶっ壊す打撃だ。あんな繊細な打撃はまだ俺には打てないが大和を使えば別、衝撃の大きさを大きくしていけば似たような結果は作れる。ガラガラとあっけなく崩れる壁を乗り越えて俺はルミリオンの足跡を頼りに壁をぶち壊し、一つの一本道にたどり着いた。

 

 そこにはルミリオンが倒したと思しきペストマスクの構成員・・・幹部格が二人、そしてすぐそばの戦闘音・・・!近いぞ、ここまで来たら足跡なんかいるか!音を頼りに場所を当てろ!ヒステリアモードならできないことなんてないんだから!

 

 「・・・ここか!」

 

 奥へ奥へと走り、行き止まり・・・!いや、音はこの中からだ!ぶっ壊す!俺は個性を全開にして倍率を最大まで上げるとすぐさま大和でぶん殴って壁に穴をあける。するとそこにあったのは・・・!

 

 エリちゃんと思しき少女に銃口を向けかけている男と治崎と思しき男、そして銃口からエリちゃんをかばいに横っ飛びするルミリオンだった。間に合うか!?いや、間に合わせるんだ!ここで新技を作れ!俺は右半身で桜花を、左半身で不可視の銃弾を同時に放つ。放たれる銃弾の種類がわからないから運動量で勝るマグナムであるデザートイーグル選択し、極度の集中の中、放たれた50AE弾の尻に向かって俺の右こぶしが同じ速度で接触する!ここから!

 

 俺は銃弾と同じ方向で腕を動かしながら追うように全身でありったけの桜花を放つ。とっさに作れたマッハ2の桜花で銃弾を押して2段階ブースターのごとく加速させる!もちろんジャイロ効果を消失させないように銃弾と同じ回転軸で腕をひねりながらだ。狙い通りに加速に成功した50AE弾は横っ飛びするルミリオンの真下で跳弾してアッパー気味の弾道へに、そして、今まさに引き金を引いたペスト野郎の銃を斜めの弾道で()()()()()。おおよそマッハ3の銃弾が、銃口の中にあった撃鉄で叩かれ加速を開始し始めた銃弾ごと、銃身をもぎ取って行ったのだ。

 

 「は・・・え・・・?」

 

 「何・・・?」

 

 「・・・・?」

 

 ペスト野郎がもぎ取られた銃身を見て何が何だかわからないといった様子で呆然と呟き、侮蔑の表情を浮かべていた治崎もそれを見て疑問の声を上げる。エリちゃんをかばったルミリオンは何も起こってないことを確認してすぐさまエリちゃんを抱きかかえて距離を取る。俺はルミリオンに向かって声をかける。

 

 「間一髪でしたね・・・!間に合いました?」

 

 「・・・エネイブル!?」

 

 「はい、エネイブル・・・土蔵制圧を終えて合流しました。その子が保護対象ですか?」

 

 「ああ、それにあっちが・・・治崎だ。危なかったよエネイブル、ありがとう・・・ちなみに何やったの?」

 

 「それは後ってことで。・・・君がエリちゃんか。俺はエネイブル、そっちの人と同じ、ヒーローだ。君を、助けに来た」

 

 瞳に涙をためながら、俺とルミリオンを交互に見つめている。情報通り・・・だけど俺の予想よりもひどいな。手足の包帯も、痩せ気味な体も、希望を見いだせないでいるその瞳も。ふつふつと冷静でいようとする俺に湧き上がる怒りに殺気が漏れそうになる。

 

 「現代病か・・・お前もまた!ヒーローだの、個性だの・・・お前らのようなやつを治してやろうというのに・・・」

 

 「誰も頼んでねーよそんなこと・・・あんま俺を怒らせるな・・・加減が効かんくなるだろ」

 

 「ふざけてんじゃねえぞこのクソガ・・・ッ・・・カッ・・ハ・・・!?」

 

 「黙ってろクソ野郎」

 

 「音本・・・」

 

 治崎と俺の煽りあいに口をはさんできた男にデザートイーグルで2発、弾をぶち込んだ。但し、撃ち方を工夫して・・・天井に向かって発砲した俺の2発の弾は、天井、地面と2回跳弾して音本というらしい男の胸に着弾した。威力の強いマグナム弾をわざと2回跳弾させて減速させ、片肺の真上に着弾、減速した銃弾は防弾服らしい装束からちょうどいい衝撃を与える・・・劣化版羅刹と同じくらいの、という注釈がつくが。やりゃあできるもんだな、遠隔羅刹。俺は見せつけるようにデザートイーグルを袖口から仕舞う。

 

 「御覧の通り俺はあんたらがよく使ってるこの玩具で遊ぶのが大得意でね・・・次はお前だぞ。投降しろ」

 

 「確かにお前は俺よりそいつの扱いはうまい。だが、今この距離なら、俺のほうが早い!」

 

 「っ!!エネイブル!その場から離れろ!!」

 

 治崎が片手を地面につけて何かをしようとする。それを察したルミリオンが警告を入れ、俺はその警告が入る前・・・治崎がモーションを開始した瞬間の筋肉の動作をヒステリアモードの反射神経でとらえていた俺はすでに対処を終わらせていた。地面に両足で秋草を打ち込んで、体を射出、亜音速でかっとんだ俺は地面を這うような潜林の動きで地面につけようとした治崎の二の腕を掬い上げるように掴みその勢いのままに壁にたたきつける。つかんだ瞬間に余りの勢いの反動で治崎の左腕の肩関節が外れたが、まだこの技は完成してない。たたきつける瞬間に秋水で治崎の二の腕を壁と俺の掌でサンドイッチにしてやった。

 

 ぐしゃり、と俺の手の中で治崎の腕がペシャンコになる。よかったな・・・腕で。この技・・・秋花を本当の形で受けたらお前は今頃お陀仏だったぞ。壁が蜘蛛の巣状に陥没していき、状況をやっととらえた治崎の苦悶の声が響く。

 

 「ぐおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 「動くな、もう一度言うぞ・・・投降しろ」

 

 「舐めるなぁっ!!!!」

 

 瞬間、俺の足元が一瞬崩れ、再構成される。飛び出してきたのはコンクリの棘、棘、棘・・・剣山のような物量に俺も逃げざるを得なくなった。飛びのく瞬間、治崎が無事な右手を壁に押し当てており、そこを起点に再構成が起こっているのが見えた。あれが治崎の個性、オーバーホール・・・!片手を潰したくらいで使用不能にはならなかったか・・・!

 

 2度、3度と襲い来る剣山をよけてルミリオンのところまで戻る。チッ、速攻は失敗か。次、俺が近寄れる状況を作れるか・・・?離れてしまった以上、もう治崎は俺を近づけるとは思えん。また秋花で近寄るというのも考えたが直線移動しかできない秋草での跳躍はただの的だ。コンクリ程度なら粉砕できるが対処が間に合うとも思えん。

 

 「すいません、ルミリオン。失敗しました」

 

 「いや、そうでもないよ。これなら、いける・・・!エネイブル!僕を、信じてくれないかい!?」

 

 「・・・ええ、信じてます。初めから!」

 

 ルミリオンが俺の横に並び立ちそのマントに包んだエリちゃんを優しく俺に渡してくる。チームアップ、しかもこんな土壇場で・・・そしてエリちゃんを俺に託したのは自分がメインで動くという意思表示であり、俺なら援護しつつエリちゃんを守り切れると判断したから。俺は治崎の腕を潰した右手ではなく左手でエリちゃんをそっと抱きかかえる。彼女は震えながら俺の顔を見て首を振る。

 

 「ダメ、逃げて・・・あの人に・・・殺されちゃう・・・!」

 

 「大丈夫だ。なんせ、俺とルミリオンは・・・」

 

 「治崎!お前より!強い!」

 

 「その名は捨てた!俺は・・・オーバーホールだ!!!!」

 

 そう言い放った治崎からバン!という破裂音がする。俺たちの視界をふさいでいた剣山が消え、俺たちの先には・・・五体満足、いやそれよりも質が悪い、4本腕の化け物のような姿になった治崎がいた。周りを見ると・・・呼吸困難に陥って気を失っていた音本と呼ばれていた男がいない・・・?まさか・・・!?

 

 「音本・・・お前なら、俺のために死ねるだろう・・・!死穢八斎會の・・・礎になれ!」

 

 やはり、自分と部下を分解して再構成させたのか!両手を地面につけて地面を分解する治崎・・・いや、オーバーホール!それを経験で見抜いたルミリオンとほぼ反射で動いた俺は同時にジャンプする。俺は桜花で、ルミリオンは地面に一瞬だけ透過、それを解除したことによる反発力で。高く飛んだ俺たちを追うようにもう一度分解からの再構成が入る。両側から挟み込むように棘の山が迫る。

 

 「エネイブル!手を!」

 

 「っ!!はい!!!」

 

 俺とルミリオンは手を取り合い、互いの位置を調整する。オーバーホール側にルミリオン、その後ろに俺になるように。そして、ルミリオンは手を透過させて瞬時にそれを解除する。バァン!!と俺の手とルミリオンの手が弾かれ合い、俺は後方へ、ルミリオンはオーバーホールのいる前方へ一瞬で到達する。遅れてグシャァ!と何もない空間を挟んだ剣山が爆音を奏でた。

 

 「お前は確かに強いよ治崎!でもね!いくらお前が壊して、治したところで!俺はすべてをすり抜ける!もうお前に勝ち目はないんだ!」

 

 「一度壊理を見捨てておいて今更ヒーロー面か。そのくだらない夢を、薄汚い個性を・・・全てひっくり返せる!壊理を返してもらおう」

 

 「もうお前の手は届かない!100万を救う男(ルミリオン)がお前を止め、不可能を可能にする男(エネイブル)が守るから!POWERRRRRRRRRRR!!!!!」

 

 天井で、個性によるワープ移動を利用してオーバーホールに迫るルミリオン、俺はエリちゃんを保持したまま空中で姿勢を安定させてルミリオンの個性の反動の勢いのまま壁に両足をつける。一瞬、姿勢が完璧に安定したタイミングで右袖からベレッタを出して斉射する。跳弾なんかさせず、まっすぐオーバーホールを狙って。

 

 当然反応したオーバーホール、距離的にも拳銃の交戦距離を超えているため対処が間に合ってしまう。だが、それでいい。半球状のドーム、材料はコンクリ、目隠しには上出来だ。当然、ルミリオンも俺の狙いに気づいて大きく息を吸い込む。

 

 「必殺・・・・!」

 

 ドームの中へ姿を消したルミリオン。そして遅れて俺たちの狙いに気づいたであろうオーバーホール、だがもう遅い!連続する打撃音が鳴り響く。ルミリオンが個性を高速で使用しながら攻撃してる音だ。オーバーホールが作ってしまった半球状のドームの中、自分で逃げ場をなくしたオーバーホールに降り注ぐ100万の鉄拳だ。ピシ、ピシと威力に耐え切れずドームにひびが入る。そしてとうとう・・・・

 

 「ファントム・メナス!!!」

 

 ボゴォン!!!と遂に威力に負けたコンクリが粉々に砕け散り、ボコボコに殴られたオーバーホールが吹き飛び、壁にたたきつけられた。ルミリオンは、当然健在だ

 

 「投降しろ治崎!もう、お前の好きにはさせない!」

 

 100万を救う男(ルミリオン)は高らかに、そう宣言するのだった。

 



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