Re:緋弾のアリア (Sinku)
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プロローグ

初投稿ですが、よろしくお願いします!
楽しんで頂けると嬉しいです!


————-兄さんが死んだ。

 

 

 

その知らせを聞いた時、頭が真っ白になった。

 

(兄さんが死んだだと…?)

 

なぜ?死んだ?兄さんが?どうして?何があった?どこで?…様々な考えが頭の中を過ぎる。

兄さんが死んだ、そんなことはあり得る筈がない。

あの兄さんだぞ、俺が憧れる最強の武偵だ。その兄さんが死ぬはずなんてないんだ———

だがそんな考えを否定するように目の前の役人は淡々と説明していく。

 

「遠山キンイチ武偵は亡くなられました。」

 

その言葉を聞いてから何も考えられなくなった。

 

 

 

 

 

 

流されるままに葬式が執り行われ、俺は兄さんの遺影を抱いたまま呆然としていた。

兄さんの同僚であろう武偵たちが涙を流し、哀しんでいる姿が俺の目に入ってくる。

彼らはしきりに爺ちゃんとばあちゃん、俺に謝っていた。

辞めてくれ謝らないでくれ、兄さんは死んでいない、きっと生きているはずなんだ。

 

 

「止めてくれっ!!!!!!!!」

 

 

気づけば俺の口から叫び声が上がっていた。

俺の姿を叫び声を聞いた者は、より悲痛そうな顔を浮かべる。

目の前にいた彼らは、皆一度深く頭を下げこの場から離れて行く。

彼らの謝罪を受け入れてしまうと兄さんが死んだ夢が現実になってしまう。嫌だ、認めたくない、だがそれを裏切るように目から一筋の涙が零れおちる。

そんな俺を見て爺ちゃんと婆ちゃんは俺を抱き締めた。

その行動が嫌でも俺に現実を押し付ける。

 

(ああ、そうか、兄さんは死んだんだ——————)

 

いつも力弱き人々のためにほとんど無償で戦い、どんな悪人にも負けなかった兄さん。

あの頼もしかった背中は、もう見れない。俺の憧れであり目標であった兄さんはもういない。もう二度と兄さんと会うことはできない。飯を食べることもできない。そんな想いが止まらない。

 

認めてしまったら、その感情が止まらなくなった。

 

気が付けば俺の目からは涙が溢れる。抑えようとしても止まらない。

俺の気持ちを代弁するように、表すかのように。

それを見た爺ちゃんと婆ちゃんが何も言わずに俺を強く抱き締める。

 

堰き止めていたものが崩壊するように、抑えていた涙が溢れだしていく。鳴く様に、泣いた。嗚咽を混じりに、喉を震わせ、慟哭をあげた。

 

 

「アアァァァアアアアアアアぁぁあああああアアアア!!」

 

 

 

 

涙が枯れ、喉が乾く。感情を剥き出しにしてしまった代償として俺は深い後悔を抱く。

 

(俺は今まで何をしてきたんだろうな…)

 

目標を失いこれから何の為に生きていけばいいのかが分からない。

だがふと冷静になり、周囲の変化に気づいた。

先程まで葬儀場内にいた武偵たちがだれもいない。武偵は誰一人おらず、この場にいるのは俺と抱き締め続けてくれた爺ちゃんと婆ちゃんだけだ。

 

その時葬式場の入り口で怒鳴り声が聞こえた。

 

 

「帰ってくれ!!!!」

 

 

そんな怒鳴り声が何度も聞こえる。

それと同時に耳障りなカメラのシャッター音や男性女性、様々な年齢層の声があがる。

 

 

「おい!今だ!撮れとれとれ!」「遠山キンイチ武偵がなくなったことについて何か一言ください!」「一目でいいのでご家族にあわせてください!」「ご家族の方から何かコメントを!」「事前に防ぐ事が出来なかったんですか!?」「事故が起こる前から武偵側が情報を掴んでいたとう疑惑が上がっておりますが事実でしょうか!?」

 

 

なんだこれは、なにが起こっている、なんだあいつらは

うるさい、だまれ、そんな言葉が頭に浮かぶ。

そんな時信じられないような言葉が耳に入ってきた。

 

 

「無能な遠山キンイチ武偵との声があがっています!!被害会社と被害者に謝罪の言葉はないんですか!?」

 

 

その言葉を聞いたとき彼らが何を言っているのかがわからなくなった。

無能?誰が?兄さんが?謝罪?だれに?会社?被害者?なぜ?

その瞬間、俺を抑えるかのようにより強く抱き締めてくる爺ちゃんと婆ちゃんを振り払い、入り口へ走り出していた。

それに気づいた何人かの武偵が止めようとしてくるがもう遅い。

 

 

「黙れ!!!!!!」

 

 

俺の口から信じられないほどの声量で怒号が上がる。それと同時に一般人でもある彼らに殺気を叩きつけていた。

殺気を浴びた事がないのか、彼らは一同に動きを停止する。

カメラを落とす人、尻餅をつく人、転ぶ人、逃げようとする人、多くの人がそのような状態になった。

だがそれでも彼らはプロである。ネタになる情報があるならばどんな手を使ってでも手に入れ、自分たちの都合のいいように報道する。

その彼らが一般人を恫喝した俺を放って置く訳がない。

無事であった何人かが特大のネタを見つけたぞというような薄気味悪い笑みを浮かべる。

一人が俺が遺族であるという事に気付いたようで、それが周りに広がっていく。それに呼応するかのようにパニックだった人達も冷静さを取り戻す。

何人かの武偵がこの状況はマズイと思ったのか、この場から俺を離そうと行動し始める。だが、彼らがそれを黙って見ているはずがない。

即座に円を作りこちらの逃げ場を無くすように詰め寄る。それと同時に口々に口を開く。

 

 

「おい!あの武偵の遺族だぞ!早くカメラ用意しろ!」「一言お願いします!」「兄の責任をどう取るつもりですか!?」「先程我々を恫喝したかに思えましたが、その行動はどういうつもりでしょうか!?」「会社や被害者への賠償は!?」

 

 

口を開けば先程と同じような聴くに堪えない言葉ばかり、

頭に血が上り懐の拳銃に手を伸ばしかけるが何とか踏み止まる。

 

(ッダメだッ!アイツらに乗るな!)

 

耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!歯を食いしばり今にでも彼らに殴りかかり殺してしまいそうな気持ちを抑え込む。強く握り締めた拳からは血が垂れ、地面に滲みを作っていた。

 

 

「無能な兄を持って残念だったね」

 

 

そんな言葉が遠くから聞こえた。ーーバキッ!

瞬間的に食い縛り、歯が砕けた音が音がする。

無能な兄だと?また兄さんを侮辱したのか。駄目だ、トメレナイ。

俺が何とか抑えていた殺意が溢れ出る。

 

 

今すぐコロス

 

 

懐から拳銃を取り出し、兄を侮辱した奴らを全員撃ち殺そうと考えたその時、

 

ピピッー!

笛の音がいくつも聞こえた。数十人単位の足音が響き、音の方向を見ると多くの警官が駆け付けていた。一番先頭には兄の同僚であったであろう武偵が警官たちを先導していた。

 

(マスコミを排除するために呼んだのか…)

 

一般人でもある彼らを武偵が追い払うのは後々問題になりかねない。そのため警官を読んだのだろう。

ただ俺にとって今はそれがありがたかった。

 

 

 

 

 

 

口々に文句を言うマスコミを警官が蜘蛛の子を散らすように追い払っていく。何人かは不法侵入として事情聴取されている。

それを横目に俺はそのまま座り込んだ。それと同時に握り締め続けていた拳を地面に叩きつける。

ビシッッッッ!コンクリートで固められた地面にヒビがはいり、手から血が流れでる。

痛みに反応したのか張り詰めていた糸が切れるように身体が脱力していった。

 

ーー兄さんは立派な武偵だった。

沈没するアンベリール号から乗員乗客を全員避難させ命を救ったんだ。

それが何だ、なぜこんな罵詈雑言を浴びさせられなくてはならない。

ふと遠くで音が聞こえる。

ワンセグテレビを誰か持ってきたのか、特集で組まれたニュースの音が耳にはいる。

そこでは、クルージングのイベント会社や参加していた乗客らしい人達が一斉に兄を非難していた。

『船に乗り合わせていながら事故を未然に防げなかった、無能な武偵』

先程と同じ様に聴くに堪えない罵詈雑言の数々。

 

(兄さんはこんな奴らを助けて死んだのか…)

 

————兄さんは何故、人を助け、自分が死んだ?

————何故スケープゴートにさせられなくてはならない?

 

ああ。武偵なんかやっていたからだ。結局、武偵なんて、正義の味方なんて世間は求めていない。戦って、戦って、傷付いた挙げ句、死体にまで石を投げられる。ロクでもない、損な役回りなんだ……。

俺の中で何かが折れた音がした。

 

 

 

 

 

 

葬式が終わり俺と爺ちゃんと婆ちゃんは巣鴨にある家に帰宅した。

居間に入り仏壇に置いてある父の遺影の横に兄の遺影を置く。

その光景が俺を何とも言えない気持ちを抱かせる。三人で手を合わせた後、居間には爺ちゃんと俺だけが残った。

 

(爺ちゃんには言わなきゃな……)

 

俺は先程決意したことを爺ちゃんに話そうと決めた。

 

「…爺ちゃん、俺武偵を辞めるよ。」

 

憧れの存在である兄さんを失い、武偵に失望し、目標も何もなくなった俺にはもう武偵として正義の味方としてい続けることはできない。これは俺が遠山家の男として正義の味方として付けるべきケジメだ。

 

「ええ、ええ…キンジが決めたことなら、それでええんじゃよ」

 

爺ちゃんは優しい笑顔を浮かべながらそう言った。

なんで、なんでそんな優しい笑顔が出来るんだ、俺は遠山の義を正義の味方としての役割を放棄しようとしてるのにーーそう考える俺に優しく爺ちゃんは語りかける。

 

「遠山の者は皆、戦ってきた。多くの者が義のため、国のため、人のため、愛する人のため、我が身を犠牲に戦い戦場で散っていった…。

時代がいくら変わろうとそれが遠山の常じゃった。

ワシの父もワシを守る為に命を落とした。金又も人を守り亡くなったと聞いておる。キンイチもそうじゃ。沈みゆく船から大勢の人を助け亡くなった。

キンジよ、お前がその選択をしたのならワシは何も言わん。お前の代で遠山の義を終わらしてもええ。

遠山の者として、これは間違っているんじゃろうな…。だがワシはもうたった一人の孫を失いたくないんじゃよ…。」

 

そう言いながら爺ちゃんは目に涙を浮かべていた。

 

「爺、ちゃん…」

 

その言葉を聞いて、俺は何も言うことができなかった。

うちの家系・遠山家は代々、正義の味方をやってきた。時代によりその職業は違っていたが、HSSという特殊な遺伝子の力で…力弱き人々を守る為、何百年も戦い続けてきた。

 

(だが、それでも俺は——武偵を辞めるんだ)

 

本当に?

 

(これからは普通の人間になる)

 

それでいいのか?

 

(生きて、無責任な事を言うだけ言って、平凡な日々をのうのうと送る側になる)

 

それで満足か?

 

(そう、決めた、決めたはずなんだッッッ!)

 

——————違う。

 

俺は誰に憧れた?兄さんに。

 

兄さんは何をしていた?正義の味方を。

 

兄さんは何で死んだ?人を助けたから。

 

ならそれは間違っていたのか?——-違う、違う、違う!

 

間違っていない、間違ってはいけない、間違うはずがない、例え世間に認められなくても兄さんが間違ってることなんて、何一つない!

 

兄さんは人を助けて死んだ、だがそれは間違いじゃない。

 

人を助け、遠山の義を自身の正義を貫き、力弱き人々を守る為に戦ったんだ。

 

俺がここで武偵を辞めたら兄さんを、いや、父さんや爺ちゃん、今まで戦ってきた遠山家の全てを否定することになる。

 

 

(そんな事あってたまるか)

 

 

俺の憧れた兄さんを父さんや爺ちゃん、歴代の遠山一族を。否定してなるものか。世間がなんだ。何をうじうじしてるんだ。遠山家の男なら義を正義を貫き通せ。

 

そのためには今のままじゃいけない。今の俺じゃ力が足りない。

ならばどうする。強くなるしかない。

 

俺の中で何かが変わった音がした。

 

「…爺ちゃん、ごめん。さっきの言葉は撤回するよ。」

 

爺ちゃんは突然の俺の変わりように驚いたようだが、俺の目を見てこういった。

 

「そうか…。いや、ええ目になったのう」

 

その言葉を聞き、俺は1度目を閉じて大きく息を吸った。

自分の覚悟を伝えるために、遠山の義を兄さんの正義を貫くために。

 

「爺ちゃん、俺を鍛えてくれ。」

 

 

 

 

 

 

——ここから遠山キンジの新しい物語が始まる




しっかり書ききれました!
ちょっと違和感があるところはありますが、後々修正していけたらいいかなと思います!
今後もよろしくお願いします。
誤字脱字があれば教えてください!


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設定
人物設定


先に人物設定を書いてみました。
物語が進むごとに修正していきます。


遠山キンジ(とおやま キンジ)

誕生日:7月5日

身長:170センチメートル

体重:63キログラム

血液型:A型

東京武偵高校在籍時は2年A組所属。

元強襲Sランク→探偵Eランク

 

原作主人公。本作でも主人公です。

大まかな設定は原作と大差ないです。

兄の失踪後、世間やマスコミによる言われのないバッシングを受け武偵という存在に失望します。

そのため一時は武偵高を辞め、一般高に転校しようと考えていました。

本作では様々なきっかけによって立ち直り、兄の正義と遠山家の義の心が正しいことを自身で証明するために武偵に対して少し前向きになりました。

 

技に関しては、祖父である遠山マガネに教えを請います。

その結果未習得であった遠山の技を全て習得し、父である遠山金又と同様に皆伝を受けます。

ただし新しく習得した技は、あくまでも遠山家の技のみです。

銃撃技やキンジが生み出してきた技は原作が進むごとに習得した技であるため今は使えません。

これらに関しては原作通り物語が進むごとに習得していきます。

例外として、銃弾撃ち(ビリヤード)と桜花、橘花は使用可能とします。

銃弾撃ち(ビリヤード)は兄とマガネが宴会でしていたものを見て覚えているので、時系列的には使用可能であるため。

桜花と橘花に関しては、本作の物語を進めていく上で早期に習得していた方が都合がいいからです。

元々、桜花に関してはは風魔ヒナの技がモデルとなっているので、武偵中学時代に技として考え付き、マガネとの組手や鍛錬で覚えたことにすればおかしくはないかと思いました。

後はキンジの桜花と同様の流星という技をGIIIが使用しているためです。歴代遠山家の方々も思いついて、似た技が伝承されている可能性があるかなーと。

ただ装備が揃っていないため超音速では撃てません。装備が揃うまでは亜音速が限界です。無理にやると自損します。

 

HSSに関しては、遠山マガネとの組手や鍛錬においてある程度向き合い、原作より早く白昼夢のヒステリア(ヒステリアレヴェリ)を習得します。

ただしHSSを使う事に対して前向きになっただけで、性知識の欠如や女嫌いは継続中です。

 

ノーマルキンジの扱いですが、非HSS時でも遠山家の技、桜花と橘花のみ使用可能としました。

原作ではノーマルキンジでもいくつか使用しており、皆伝した本作においては使えてもいいのではないかと思いました。

他にも桜花を見て覚えたサイオン、絶楼を使用できる閻、非HSS時の遠山金又などが使えたことから、非能力者や非強化時でも使えるのではないかと考えました。

ただし銃撃が絡む技は、ノーマルキンジでは使えません。

理由としては単純で銃弾が見えないという一点につきます。

HSSは発動時に思考力・判断力・反射神経・視力・聴力などが通常の30倍にまで向上するという設定なので、銃撃技を行うためにはこれらの向上が必要になります。

 

頭脳に関しては、原作同様。

 

あとランク考査は兄の失踪で色々とあったため、原作同様に探偵科のEランクとなっています。

 

まとめると、

1.大まかな設定は原作と同じ

2.キンジが少し前向きになる

3.遠山家の技を皆伝する

4.キンジが原作の戦いで覚えた技はまだ使えない

5.ビリヤードと桜花と橘花は例外として使用可能

6.ヒステリアレヴェリを原作開始時点で習得済み

7.ただし女嫌いと性知識の欠如は継続中

8.ノーマルキンジでも遠山の技は使用可能

9.銃撃が絡む技は使用不能

10.頭脳は原作と同じ

11.ランク考査を受けていないためEランクのまま

 

設定を大幅に変更して無双する話よりも原作でもあり得たかもしれないというレベルでの話にしようと考えているので、こういった設定となりました。

 

長々と説明しましたが、原作の設定をほぼ踏襲しています。

ただ<人間を辞めた日が早まっただけ>という認識でオッケーです。




書いて見て思ったんですが、私が敵なら絶対にキンジに会いたくないですね。
こちら物理攻撃は全て完全無効化、または倍に返ってくる。相手の物理攻撃は基本全て音速となり、一撃が必殺の拳。
私なら潔く降伏します。


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緋弾のアリア
1.


第1話です!


————空から女の子が降ってくると思うか?

 

本来なら映画でしかあり得ないような不思議で特別なプロローグ。

俺はそんな状況に出会ったとき本当の意味での正義の味方として歩み始めたのかもしれない。

 

 

 

 

…ピン、ポーン…

 

 

慎ましいドアチャイムの音で、目が覚める。

枕元の携帯に手を伸ばし、時刻を確認すると——朝の7時だった。

 

(いけね、ちょっと寝過ごしちまったな…)

 

本来なら最近始めたばかりの朝の鍛錬の時間である。

まあ、まだ習慣化できてないからしょうがないか。

 

(ってもこんな朝っぱらから、誰だ…?)

 

特に約束もしてないし、朝早くに尋ねてくるような知り合いもいないので、心当たりがない。

その事実に少し傷つきながらも、ゆっくり身体を起こす。

まああると言えばあるが、あいつは確か今合宿中のはずた。

壁に掛けてあるワイシャツとズボンを履き、玄関に向かう。

 

(いや、けどやっぱあいつだよなぁ…)

 

先程のチャイムの慎ましさには覚えがあるため、半ば確信しながらもドアの覗き穴から外を見た。

 

「……ゔ」

 

やっぱりか。そこには俺の幼馴染である星伽白雪が立っていた。

白雪はそわそわしながら、漆塗りのコンパクトを覗きこみ、せっせと前髪や身嗜みを直している。

一通り直した後、納得がいったのかコンパクトを閉じた。

すると、おもむろにすぅーっはぁーっと深呼吸を始める。

何がしたいんだか…全く訳がわからん。

 

(まあ、訳の分からんのはいつもどおりか…)

 

 

——ガチャ。

 

 

「白雪」

 

俺が名前を読むと慌てて深呼吸を辞め、俺に向き直る。

 

「キンちゃん!」

 

何が嬉しいのか俺の姿を見た瞬間にぱぁと顔を明るくし、いつものように呼んできた。

 

「はぁ、その呼び方前に辞めろっていっただろ」

 

この呼び方子どもっぽくてあんま好きじゃないんだよ。

まあ、何度言っても治らないから放置してしてんだけど。

 

「あっ…ご、ごめんね。キンちゃんを見たらつい、あっ、私またキンちゃんをキンちゃんって…ごっ、ごめんね、キンちゃん、あっ、また」

 

キンちゃんキンちゃんと連呼するためゲシュタルト崩壊を起こしそうである。お前は治す気があるのかないのか。

はぁ、と俺が溜息をつくと、口を押さえみるみる顔が蒼白になっていく。

だが慌てながらも立ち姿は凛としており、良家のお嬢様のような印象をいだかせる。

さすがは星伽神社の現職巫女さんだ。相変わらず、絵に描いたような大和撫子だよ。

 

「前にもいったろ。飯とか世話してくれんのは助かるけど、ここは仮にも男子寮だぞ。女子が軽々しくきていい場所じゃない。」

 

そう言うと白雪は両手の指をつんつんし始め、

「あ、でも、その私、昨日から合宿で伊勢神宮に行ってて…キンちゃんのお世話、何にもできなかったから」

 

「そんな頻繁にしにこなくていいって」

 

白雪は一年の頃から飯を作ってきたり、掃除しに来たりと俺の世話をするためによく家に訪れていた。

最初は嫌だったんで、追い払っていたんだが、追い払っても毎日くるわ、泣きそうになるわで、とうの昔に諦めた。

 

(まあ、飯は美味いし、掃除してくれるから助かってはいるんだけどな…)

 

「……で、でも…キンちゃんに会いたかったし、その…すん…すん…ぐす」

 

いかん、このままだとまた変な噂がたっちまう。

只でさえ、男子寮の部屋を女子が尋ねてくる事自体がタブーなんだ。しかも部屋の前で女子を泣かせる姿が見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。

それに武偵校教師陣、とくに綴や蘭豹なんかにバレて見ろ。拷問された挙句に蘭豹と戦わされ、ズタボロのまま簀巻にされ海に放り込まれない。

 

「あー、もうわかったわかった!だから泣くなって」

 

目を潤ませ泣きそうになる白雪をみて溜息をつきながらも、自身の身の安全の確保のため、部屋に上げてやることにする。

 

「お…おじゃましますっ」

 

そう言うと90度くらいの深いお辞儀をしてから、玄関に上がる。

 

(俺の部屋に上がるだけなのに、何が嬉しいのやら…)

 

白雪は先程の様子とはうって変わり、心の底から嬉しそうな雰囲気だ。

泣きそうだった顔は笑顔に変わり、俺をチラチラと嬉しそうにみてくる。不思議にも白雪の周囲が桃色になり、花がふわふわと舞っているような幻覚が見える。

よし、藪をつついて蛇を出したくないので、放置しておこう。

そう心に決め、白雪をほっておいてそのままリビングに向かう。だが白雪は俺の後をピッタリとついてきていた。いや、近い近いッ!

 

「はあ…。んで、今日はどうしたんだ?」

 

そう言いながら、リビングの座卓の脇にどっかりと腰を下ろす。

 

「えっと、そっ、その…これ!」

 

白雪はふわりと俺の隣に正座すると、抱えていた和布の包みを卓におろし、俺に差し出してくる。

近いって、もう少し離れてくんないかな。

かなり近い距離に座られため、舞った髪から白桃のような白雪の香りが俺の鼻に入ってきた。

 

(うっ…)

 

その匂いに顔を顰め、鼻呼吸を停止し匂いをシャットアウト。

即座に口呼吸に切り替え、白雪スメルの進行を阻止する。

傍にいる俺がそんな状態とはつゆ知らず、差し出してきた包みを白雪は丁寧解いていく。

包みの中にはなんとも高級そうな漆塗りの重箱があった。

そのまま俺に箸を渡し、旅館の女将のような手つきで蒔絵つきのフタをパカリと開く。そこには所狭しと詰め込まれ、食欲をダイレクトに刺激する料理の数々があった。

ふんわり柔らかそうな玉子焼き、向きが揃ってあるエビの甘辛煮、脂がのって肉厚な銀鮭、西条柿といった豪華食材と白く光るごはんが輝きながら並んでいる。いかん、朝飯がまだだから腹が減ってきた。

それに正直めちゃくちゃ美味そうだぞ。コンビニ弁当しか食べてなかったので余計美味そうに見える。

 

「いや、けどこれいつも作ってくれる飯より豪華じゃないか…作るの大変だったんじゃないか?」

 

いつも白雪が作ってくれる飯の5割増し位には気合いが入っているように見えた。

まあ明らかに使われてる食材も高級なやつばっかだしな。

 

「う、ううん、そんなことないよ。けど、その、キンちゃん、ずっとコンビニのお弁当しか食べてないんじゃないかなって…そう思ったら心配になっちゃって…」

 

「……。」

 

図星であったため何も言えなくなる。

まあ実際のところコンビニ弁当ばっかで飽きてたところだ。

ここは有難く頂こう。白雪の飯旨いし。

幸せそうに頰を緩め何も言わず見てくる白雪の視線に耐えながらも、米粒一つも残さずに完食する。やっぱ白雪の飯は美味いな。ただ何も言わずに視線を向けるのはやめてくれませんかね?そんなことを思ってたらふと罪悪感を感じた。

 

(あー、そうだ、最近礼の一つもいってなかったな…)

白雪が押しかけてきているとは言え、助かっているのは事実だ。礼は言っとかないとな。

 

「あー、白雪、ご馳走さま。美味かったよ。それといつもありがとな。」

 

白雪に向き直りながら、そう言った。

そう言うと白雪はキョトンとした顔をし、動きを停止した。

数秒後、再起動を果たすと

 

「えっ。あ、っその、キンちゃんもありがとう…ありがとうございますっ」

 

そう三つ指をつきながら、言ってきた。

 

「いや、何でお前がありがとうなんだよ。助かってるのはこっちだからな」

 

そうぶっきら棒に返す。礼を言って恥ずかしくなり俺はそっぽを向いた。

 

「てか、その体制やめろ。土下座してる風にしか見えないぞ」

 

流石にそこまでされると嫌になってくる。

そう言うと白雪はいそいそと顔を上げた。

 

「だって、だって、キンちゃんが食べてくれて、美味しかったって。それにお礼を言ってくれたから…」

 

白雪は本当に嬉しいそうな笑顔を浮かべており、何故か体をモジモジしながら蚊の鳴くような小さな声でそう言った。

その白雪を見て呆れていると、たゆんたゆんと白雪がモジモジするごとに揺れる胸が目に入ってしまった。

人間の目は動いているものを反射的に目で追う。そのため意識した訳ではないが俺の目は抗い虚しく、白雪の大きな胸に吸い寄せられる。

 

(い、いかんっ!)

 

慌てて目をそらすが先程の光景が頭から離れない。揺れる胸、胸元が少し緩んでいたのかそこから覗く深い谷間と黒いレースの下着。

 

(ダメだダメだダメだダメだっ!)

 

一度意識してしまうと思考が完全にそちらに向いてしまう。

————-ジワリ

体の芯に血が集まるような独特の感覚がしてきた。

 

(落ち着けキンジ、そうだ、素数を数えるんだッ!)

 

俺はその感覚をやり過ごすために頭の中に素数を浮かべ念仏のように唱え続ける。

そのかいあって、なんとか、なんとか瀬戸際でやり過ごすことができた。ふう、どうやらセーフだったみたいだな。

昔よりは慣れてきたとは言え、あのモードには所構わずなりたくないからな…。

俺が1人で戦っている時に、白雪は既に重箱を片付け終えていた。

イスにかけてあった武偵高の学ランを持ってきてくれて、羽織らせようとしてくる。わざわざ受け取るのもアレなので、有難くそのまま羽織る。

ニコニコ笑みを浮かべる白雪を横目に棚に置いてある自身の武装を取りに行く。

棚には俺の愛銃であるベレッタとバタフライ・ナイフ。ベレッタはベルトのホルスターに仕舞いこむ。

バタフライ・ナイフを手にとると、俺は感慨深い気持ちになった。

 

(兄さん…)

 

この緋色のバタフライ・ナイフは俺の兄、遠山キンイチ兄さんの形見だ。

あの事件後、船がサルベージ出来ない海底深くまで沈んでしまったため、兄の亡骸は見つけることができなかった。

だがこのナイフだけは海面に漂う船の残骸に引っかかっており、見つけることができた。

 

(兄さん、俺も2年になったよ。兄さんのような立派な武偵になって、遠山家の義を、俺も正義の味方として背負っていくよ。だから…天国で見守っててくれ。)

 

心の中でそう呟き、バタフライ・ナイフをポケットに収める。

準備が終わり白雪に向き直ると、何故かほっぺに手を当てうっとりしていた。

 

「…キンちゃん。かっこいい。やっぱり先祖代々の『正義の味方』って感じだよ」

 

正義の味方か、以前の俺なら否定していたんだろうな。

そう、心の中で苦笑する。

 

「…ありがとな。」

 

そう言うと、さらにうっとりしていた。

おい、また身体を揺らすんじゃない。

が、何か重要なことを思い出したのか、心配するような顔つきになり、俺に向き直った。

 

「その、キンちゃん、『武偵殺し』には気をつけてね」

 

(『武偵殺し』…?)

何のことか分からない俺を見て白雪が補足する。

「ほら、あの、年明けに周知メールが出てた連続殺人事件のこと」

 

ん?あ、あー、そいやそんなやつもいたな。

爆弾で標的の自由を奪い、マシンガン付きのドローンで追い回して、海に突き落とすっていう手口のやつだ。

確か犯人が捕まったって聞いて興味が失せた事件だな。

 

「あれはもう逮捕されたんじゃなかったか?」

 

そう言うと、白雪は目を伏せながら

 

「そうなんだけど…模倣犯とかでるかもしれないし。今朝の占いでキンちゃんに女難の相が出てたから、私、心配で…。」

 

女難な相か…。もう既に当たったようなもんだな。朝から白雪きたし。

 

「心配すんなよ。それにそんなことになっても何とかしてみせるさ。俺が信じられないか?」

 

大概白雪はこういうと納得してくれる。

そう言うと俺の目論見通り、安心した顔になった。

まあ、模倣犯ぐらいにやられるような柔な鍛え方してないしな。

そんな奴らにやられちまったら兄さんたちに笑われちまう。

 

「あー、俺はPCメールを確認してから出る。白雪は先に行っててくれ。」

 

朝からずっと一緒にいたため、少々気疲れしてしまった。

なので少しでも自分の時間が欲しいためにそう言う。

普段なら一緒に登校したがる筈だが、白雪は生徒会長であるため早めに向こうに行き準備する必要がある。今日なら大丈夫なはずだ。

 

「あ、うん。わかったよ。えっと、後でメールとか…。その、くれたら嬉しいですっ」

 

白雪はそう言いながら、ぺこりと。

深くお辞儀をした後に部屋を出て行った。

よしっ、これで少しはゆっくりできるぞ。

そのままメールを確認し、時間が余ったので武装の手入れをし始めたらつい熱中してしまった。

慌てて時計を見ると時刻は8時。

 

(やっちまったか…。これは自転車で行くしかないな…)

 

バスの出発は5分前のため流石に間に合わない。自転車で向かうのはめんどくさいがしょうがない。行かなければ蘭豹たちにボコられるし。

自転車でも余裕があるから大丈夫だろ。

PCを落とし、そのまま急ぎ足で駐留場へ向かった。

 

 

 

 

———この後空から女の子が降ってくるとは知らず




出来るかぎり早めに投稿します!


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2.

第2話です!


バスに乗り遅れた俺は、自転車で桜並木の道を進んでいた。

流れていく景色、舞い散る桜の花びら、そんな中ペダルをゆっくり回していく。

 

(俺も今日から上級生か…)

 

新入生が大勢歩いている姿を観ながらふと思う。

新しい生活にワクワクしているのか、彼らは一様に楽しそうだ。

晴れやかな顔をしているもの、友達と喋っているもの、同級生の女子を口説いているもの、多種多様な様相を見せる。

 

(———-あいつらも気の毒に………。)

 

彼らを見ているとそんな思いがこみ上げてきた。

彼らの笑顔が数日と経たずに曇る姿が目に浮かぶ。

悲しいことに武偵高では、奴隷の1年、鬼の2年、閻魔の3年という言葉が存在する。言葉通り上級生の存在が絶対であり、下級生は人間以下の存在だ。

彼らがワクワクしながら歩いている桜並木が実は地獄への道のりだとは思うまい。

 

(ま、下級生に負けないように頑張らないとな)

 

そう思いながら自嘲気味に苦笑する。

いやー、一年時代は酷かったな。今生きてるのが奇跡にしか思えん。

過去に思いを馳せるが、数日前まで自身が一年生であった事もあり、余計な地獄の日々を思い出してしまった。

組手と称する蘭豹のストレス発散に付き合いボコボコにされたり、暴れ出せば周りから止めて来いと言われボコボコにされたり、機嫌が悪ければボコボコにされるというそんな地獄だった。

あれ?よく考えた俺蘭豹からしかボコボコにされてねえ。

そのことにゲンナリしながらも自転車を進める。

まあ、あいつらが強襲科(アサルト)に入らないことを祈っておこう。

道が大きく開けると、俺が所属している探偵科(インケスタ)の専門棟が見えてきた。

探偵科(インケスタ)は俺が高1の3学期から転科した専門科であり、人外魔鏡で異常者の巣窟と言われるこの学校で一番マトモな学科だ。

ほんと、この学科でよかった。

 

(確か体育館はこの棟を曲がった先だったな)

 

棟を通り過ぎた後、体育館に向かうべく自転車をターンさせた。

よし、何とか始業式には間に合いそうだ。

教務科(マスターズ)の連中による体罰を免れることができたため、つい顔が緩んでしまう。だがそんな俺を嘲笑うが如く、平和な時間は崩れ去っていく。

 

「その チャリには 爆弾 が仕掛けて ありやがります」

 

チラシを切り貼りしたような脅迫文に、機会音声の奇妙な声が聞こえた。

 

「チャリを 降りやがったり 減速 させやがると 爆発しやがります。」

 

なるほどこの自転車には爆弾が仕掛けられている、と。しかも降りたり減速したら爆発するというオマケつきか。

 

(……は?)

 

いやいや、なんの冗談だ。誰かのイタズラか?

眉を寄せて周囲を見回すと、ギョッとしたことに俺の自転車に妙な物体が何台も併走していた。

その乗り物は昔見たことがある。確か———そう、セグウェイだ。

 

「助け を 求めては いけま せん。ケータイを 使用した場合も 爆発 しやがります」

 

再び奇妙な機会音声が聞こえる。

セグウェイは無人であり、本来人が乗るはずのスペースには小型のスピーカーと1基の自動銃座。————-そこからUZIの銃口が向けられいた。

 

 

「————っ!」

 

 

それに気づくと同時に俺は自転車を急ターンさせていた。

 

(くそっ!)

 

焦りながらも先程得た情報を頭の中で整理する。

爆弾、セグウェイ、無人、銃口————そうだ、爆弾だ。

爆弾という情報を思い出し、自転車を弄ると、サドルの裏に変な物体があった。

落ち着け、落ち着けと言い聞かせながら指でなぞる。

 

——やばい。型までは分からないが、プラスチック爆弾だ。その上この大きさ。自転車どころか自動車でも跡形なく消し飛ばせるサイズだぞ。

 

 

(マ ジ か よっ!!)

 

 

心の中で叫び声を上げる。

サァーっと一気に血の気が引き、冷や汗が全身に滲む。

そうだ、この手口どこかで…。

 

——(「武偵殺しには、気をつけてね」)——

 

そんな白雪の言葉を思い出た。武偵殺し…。

思い出した。この手口は武偵殺しそのものだ。

 

(ってことは——-チャリジャックか!?)

 

心の中で自分の不幸を呪いながらも自転車を走らせる。

万一に備え、とにかく人気のない場所を走り、俺は第2グラウンドへと向かった。

金網越しに覗いた朝の第2グラウンドには、思った通り誰もいない。

 

(これなら————。)

 

そのまま入り口めがけて自転車を漕ぐ。

全力で自転車を漕ぐ俺を余所に、セグウェイは相変わらず銃を向けながら併走している。

さて、ここまで来たはいいがどうする——-。俺はここに来るまで対処法を考えていたが、いい手が浮かばない。

あの()()()なら何とか出来るかもしれないが、あいにく今は通常()()()

あの事件を境にある程度コントロールできるようになったが、使うためには集中力と時間が必要だ。残念ながらこの状況では使えない。

時間がない中、考えを巡らせる。その時だった。

 

「——?」

 

グラウンドの近くにある七階建てのマンションの屋上の縁に、女の子が立っている姿が見えた。

武偵高のセーラー服。遠目にもはっきりわかる、長い、ピンク色のツインテール。

何か呟いたと思うと、そのまま屋上から()()()()()

 

(———飛び降りた!?)

 

くそ、マジかよ!と悪態をつく。

どうにか彼女を助けようと行動するが——ダメだ、間に合わない。

だがその心配は杞憂だった。

ウサギみたいにツインテールなびかせ、ふぁさーっと。

パラグライダーを、空に広げ滑空していた。

 

(よかった…。)

 

チャリを漕ぎながら安堵する。

だがそれも束の間、次の瞬間には吹き飛んだ。

あろうことか、こっち目掛けて降下してくるのだ。

おい、嘘だろ!?

 

「おい! バカ! 来るな! この自転車には爆弾が——-。」

 

俺の叫び声は間に合わない。小柄なせいか予想以上に彼女が降下する速度が速いのだ。

すると彼女は、ぐりん。とブランコみたいに体を揺らし、空中でL字に方向転換。左右のふとももに付いているホルスターから、それぞれ黒と銀の大型拳銃を抜いた。

 

(あれは…ガバメント、か?)

 

そう考えていると同時に、アニメみたいな高い声が。

 

「そこのバカ!早く頭を下げなさい!」

 

バリバリバリバリバリッ!

うおッ、危ね!俺が頭を下げるよりも早く、併走していたセグウェイを銃撃した。

ガガガガガッ!

先程放った弾は魔法のように全弾命中。セグウェイは反撃すら出来ず、バラバラに壊れていく。

 

(———うまいな。)

 

彼女が扱っている拳銃は大型のガバメント。それも二丁である。

威力も俺が扱うベレッタよりも倍近くあり、小柄な彼女が扱うにはかなり難しいであろう代物だ。

それが全弾命中。しかも体制が安定しない空中で、だ。

彼女は空中で、くるっ、くるくるっ。と二丁拳銃を映画の西部ガンマンのように器用に回し、左右のホルスターに収めていた。

そのまま、ひらりと俺の頭上を飛んでくる。い、いかん!

彼女から逃げるように第2グラウンドへ入る。

 

「来るな!この自転車には爆弾が仕掛けられる!お前も巻き込まれるぞ!」

 

セグウェイがどうにか出来た今ならば、俺1人でも何とかなる。

そう考え、彼女に叫ぶ。だが——。

 

「このバカッ!武偵憲章一条にあるでしょ!『仲間を信じ、仲間を助けよ』って!———行くわよ!」

 

一度俺の脳天に着陸すると、ゲシっ!そう叫びながら脳天を足場に再び上昇していく。

 

(行くわよ!って———まさか!?)

 

彼女はこちらへUターンすると、ぶらん。

俺の予想通りパラグライダーのハンドルにつま先をかけ、逆さ吊りの状態になった。

彼女の意図がわかった俺は全力で自転車を漕ぐ。

ぐんぐんと速度が上がり、ぶら下がる彼女との距離が縮まっていく。

お互いがぶつかる瞬間、両手を十字架のように広げた彼女と上下互い違いのまま抱き合った。

ガッ!急速なGを感じながらも空へ攫われる。それと同時に———。

 

 

ドガアアアアアアンッッッ!!!

 

 

爆音と閃光。それ続き爆風が襲いかかってくる。

爆風をもろにに浴び、俺たちは錐揉みしながら空中で吹っ飛ばされた。

パラグライダーは力を発揮せず、爆風と同時に吹っ飛んでいる。

 

(この状況はマズイッ!)

 

吹っ飛ばされながらも冷静に考える。このまま行くと俺たち2人は地面に叩きつけられ、潰れたトマトみたいになっちまう。

彼女は爆風をもろに浴びたせいか既に意識がない、俺は日頃の鍛錬と爺ちゃんとの地獄の組手のおかげで健在だ。

この状況をどうにか出来るのは俺のみ。だったら——-。

吹っ飛ばされ上下左右と視界がぶれながらも何とか両手で彼女を抱きとめる。それと同時に俺のオリジナル技である『橘花』を繰り出す。

橘花とは、受けた相手の打撃エネルギーを受け取る技であり、減速防御に用いる。仕組みとしては単純で、打撃を受けた方向と同じ方向に体を動かすことで威力を無効化、または軽減する。本来は対人専用の技だ。

だが爆風も受ける範囲が広いだけで似たようなもんだ。両手が塞がっているため右足左足しか使えないがしのごの言ってる暇はない。

俺は全身の骨を使えるだけ使い両足から橘花で衝撃を逃がしていく。

バンッバババンッ!と炸裂弾が鳴るような音を周囲に立て続ける。

人1人抱き抱えながらも上手く作用してくれる橘花に安堵し、

 

(よし、このまま衝撃を逃し続ければ…)

 

なんとかなる。そう思ったとき、俺の目にグラウンドの片隅にある体育倉庫の扉が見えた。

 

(くそッ!)

 

あの扉は超々ジュラルミン製で、武偵高らしくバズーカ砲にもビクともしない特性防弾扉だ。

時間が足りない。橘花で衝撃を逃し切る前に扉に激突してしまう。

そう考えた瞬間に橘花をキャンセル。爆風の衝撃を僅かに残し、右足を桜花で加速する。

桜花とは体の各部位を連動して加速させる技で、最高速度は音速に達する。が、今はまだ亜音速までしか出せない。

橘花と同じ要領で全身の骨を使えるだけ使い、自損しない亜音速まで加速させる。

だが空中で錐揉みしている今の状態では上手く蹴りを放つことができない。そこで、遠山家の技である『秋水』、その前提技である『秋草』を併用する。

秋水とは、打撃に余す事なく自身の全体重を乗せた最も技術化させた体当たりで、威力を何倍にも引き上げることができる。

秋草とは、秋水の前提技。簡単に言うと寸勁によるベリーショートキックである。通常、どんな動作をする時も前振りが必要だがこの秋草はそれを必要としない。つまり、インパクトする瞬間に一瞬当てるだけでいいのだ。

 

(扉を吹っ飛ばすにはこれしかない)

 

そう考えている間にも扉が目前にまで迫ってくる。

空中で身体を捻り、秋水による全体重を乗せた桜花気味の蹴りを叩き込む!

 

「秋草ッ!!!」

 

 

ドゴンッ!!!!!

 

 

カノン砲が炸裂したような轟音が周囲に轟く。

扉の中心には大きなクレーターができ、メキメキメキッとひしゃげ、派手な音を立てながら倉庫内へ吹っ飛んでいった。

爆風の衝撃も乗せてあるため自身が思い描いていた以上の威力が出た。

はたして人間が出していい威力なのだろうか…。

だが、橘花を途中キャンセルし爆風による衝撃を逃し切れていなかった俺も彼女を抱き抱えながら体育倉庫へ突っ込んでいくのだった。




遠山家の技をやっと出せました!
キンちゃんならこれくらいやってくれると思う(๑ ˃̵͈́∀˂̵͈̀ )
続きも楽しみにしてて下さい!


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3.

小説書き始めたらどハマりしました笑
書いている時が凄く楽しいです(๑ ˃̵͈́∀˂̵͈̀ )
第3話をお楽しみください!


「ッ…。」

 

(痛ッてぇ……)

 

気がつけば彼女を抱き抱えながら体育館の跳び箱に突っ込んでいた。

跳び箱にぶつかる瞬間、彼女を咄嗟に庇ったため衝撃をモロに受けちまった。体の節々が痛んでしょうがないが、死ななかっただけ良しとしよう。

そんな事を考えながら身体を動かそうとする。

だが———身動きが全く取れない。ところどころ動かせるが、ぬ、ぬけ出せんッ!

俺は彼女を抱き抱え、尻もちをついた姿勢で跳び箱に収まっている。

そのせいか抜け出そうにもスッポリはまっていて脱出ができないのだ。

 

(あー、くそッ…)

 

悪態をつきながら現在の状況を再確認する。

女の子、を抱き抱えながら、跳び箱にはまって、抜け出せない。

…女の子?

ヤ、ヤバイ!たった今再認識したが俺は今、女子と密着してるのだ。

俺の脇腹を左右の細くスベスベしたふとももでガッチリと挟み、両肩には彼女の腕が乗っていた。

そのことを意識すると、フワッ…。

甘酸っぱいクチナシのような香りが俺の鼻を刺激する。

 

(うっ…)

 

ジワッ…と俺の体の芯に、熱くなった血液が集まる。

ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!

この状況はかなりマズイ。このままではあの()()()になりかねないぞ。

 

「お、おいッ…!」

 

この状況を打開すべく、少女に声をかける。

だが返事がない。未だに少女は眠るように気を失っていた。

打つ手なしッ。まさに断頭台に上がってるような気分である。

あれこれ考えて、ワタワタしていると特徴的な少女の容姿が目に入る。ツンツンと長い睫毛に、桜の花びらのような小さい唇。ツインテールに結われた長い髪は、隙間から入る光に、キラキラ…と豊かなツヤを煌めかせていた。色は珍しい、ピンクブロンド。

 

(この状況で観察するとか変態かっ!)

 

ついつい見入ってしまった自身が恥ずかしくなる。

だが———そう、()()()。文句なしに可愛い。

見入ることが可笑しくないレベルで可愛いのだ。

まるでファンタジー映画から飛び出してきたような可憐さである。

すると少女が身動ぎし、名札がちらりと見えた。

名前は—————『神崎・H・アリア』

 

(ってそんなこと考えてる場合じゃない!)

 

早く抜け出さねば。そう考え、脱出しようともがく。この状況を誰かに見られた場合、確実に誤解される。

はたから見れば中等部かそこいらの年齢の子と体育倉庫、それも跳び箱というさらに小さな密室で()()()()()()をしているようにしか見えない。

このままでは通報、教務科(マスターズ)による拷問、逮捕から武偵三倍刑で懲役をくらうことになる。特に教務科(マスターズ)がヤバイ。冗談抜きで俺の命に関わるぞ。

とゴゾゴゾともがいていると上から幼いアニメ声が聞こえた。

 

「……へ……へ…」

 

「———-?」

 

「ヘンタイ—————!!!!!」

 

ドガッと。俺の顔に拳が叩き込まれた。

いてえっ!

 

「さっ、さささっ、サイッテー!!!」

 

どうやら意識が戻ったようで、ぎぎん!と俺を睨んでくる。

そのままボコスカと俺の頭を、殴りまくる。

 

「ちょっ!おい、やっ、やめろ!」

 

そう静止するが御構い無しだ。

俺がそう言っている間にもボコスカ殴りまくり、現在進行形でタンコブを量産中。このままいくとタコになりそうだ。

だがまあ正直、彼女に殴られても文句は言えない。彼女からすれば、気絶している自分の身体をゴゾゴゾと知らない男が弄っているように見えたのだ。むしろ殴られてしかるべきである。

そんな風に考え甘んじて殴られ続けていると——。

 

 

————ドガガガガガガガガガンッッ!!

 

 

突然の銃撃音と、轟音が体育倉庫を襲った。

これは———。

 

「ッ!まだいたのねっ!」

 

アリアはそう叫びながら、外を睨む。

まだ…?そうか、さっきのセグウェイかっ!

自身に起こっていた状況を思い出し、冷静になる。

アリアが全機片付けたと思ったが、まだ残っていたようだ。

 

(クソッ!!)

 

そう悪態をつきながらも胸のホルスターからベレッタを抜く。

アリアもばっと、スカートの中から二丁のガバメントを抜くと、一足早く応戦し始めた。

 

 

バリバリバリバリッ!!!!

 

 

空中で射撃していた時のように大型拳銃ならではの銃撃音が鳴り響く。その銃撃音を聴きながらも、負け時とベレッタのセレクターをフルオートにし応戦する。

 

 

バババババババッ!!!

 

 

9ミリパラベラムらしい軽くはありながらも力強い音が響く。

だが————-ダメだ。俺が応戦したところで焼け石に水である。

 

「ダメッ!これじゃあ火力負けするわ!」

 

アリアはそう叫ぶ。先程確認出来たが向こうは短距離銃(サブマシンガン)。それも七丁だ。対してこちらはガバメント二丁にベレッタ一丁のみ。弾数も圧倒的に向こうに分があり、ジリ貧になるのは眼に見えている。

 

(どうする————)

 

応戦している中でベレッタがホールドオープン。弾切れとなる。

リロードの為、一度跳び箱の中に身を隠す。

あの()()()なら…。そう考えながらも手は動かす。

マガジンを即座に排出、ホルダーから新たなマガジンを取り出し、ガチャッっとリロード。再び応戦しようとしたその時——————。

アリアが胸を俺の顔に思いっきり押し付けていた。

 

(や、柔らかッ…)

 

恐らく先に弾切れになりリロードし終えていたアリアは、俺も弾切れになったことに気づいたのだろう。急ぎ応戦すべく身体を前のめりに突き出してしまったのだ。その先にリロードしていた俺の顔があるとは知らずに。アリアは集中しているらしく、密着していることに気づいていない。

 

ああ。

ああ————-これはアウトだ。

 

ジワ…と血液が沸騰するような()()()()を感じる。

体の芯が熱く、堅く、ムクムクと大きくなっていくような——言いようのない感覚。

ドクンドクン———。波打つ毎に比例してドンドン感覚が増大していく。火傷しそうに熱くなった血液が、身体の中央に集まっていく。

なってしまう。なっていく。変わっていく——その感覚が治ると同時に俺の頭は冴えわたっていた。

 

 

(ああ————)

 

 

なってしまった。あの()()()に。

古くから遠山家に伝わる——-ヒステリアモードに…!

 

 

スガガガッ! ガキンッ!

 

 

再び弾切れの音を派手にあげたアリアが、身をかがめてガバメントをリロードする。

 

「——-やったか」

 

俺は低い声でそう呟いた。

 

「ダメ。射程圏外に追い払っただけよ。きっとすぐまた戻ってくるわ。」

 

アリアはそう言いながら跳び箱から外を覗く。

その彼女を見ながら俺は笑った。

 

「強い子だ。それだけ出来たら上出来だよ」

 

女性をあやすような優しい声でアリアにそう話す。

 

「…は?」

 

いきなり口調が変化した俺に彼女は眉を寄せながらこちらを見る。

雰囲気まで変化したことに気がついたのか、首を傾げながらカメリア色の小さな眼をくりくりさせている。

 

(勘の鋭い子だ)

 

そう考えながらも、アリアの細い脚と小柄な背中に手を回し、俗にゆうお姫様抱っこの状態ですくっと立ち上がる。

 

「きゃっ!?」

 

いきなり自分が抱きかかえたことに驚いたのか、小さな声が桜色の唇から漏れる。

 

 

 

「ご褒美に、少しの間だけ——君をお姫様にしてあげよう」

 

 

 

キザにそう言いながら彼女にウインクする。

そんな俺を見たからか、はたまた言葉を聞いたからか。

 

——————-ボンッ。

 

そんな音が似合うほど急速に顔を赤らめていき、ネコっぽい犬歯をむき出しにした。

俺はバッと桜花気味に地面を蹴り、一息で倉庫の端まで飛んだ。

そして、丁寧に積み上げられたマットの上に—-ちょこん。と座らせる。

その際に、自身の上着を脱ぎ、スカートの上からかけてあげる。

さっき抱き抱えた時に気づいたのだが彼女のスカートの金具が壊れていたのだ。少女(レディ)が身体を冷やすのはいけないからね。

 

「な、なな、なに…?いきなりどうしたの!?」

 

目をパチパチさせながら、ガウッとそう叫ぶ。

そんな彼女を安心させるように優しい声で返す。

 

「お姫様はその席でごゆっくり。言っただろう?少しの間だけお姫様にしてあげるって」

 

そう言いながらアリアにニコリと笑いかける。

再び顔を真っ赤にし、小さな口をあぐあぐとさせる。

そんな空間を邪魔するように————。

 

 

————-ズガガガガガガンッ!!

 

 

再び、UZIが体育倉庫に向け銃撃してきた。

 

(無粋だな…。)

 

お姫様との時間を邪魔され、眉を寄せる。

幸いなことに倉庫の端にいるため、当たることはない。

この時間を邪魔する不届きものを成敗すべく、外へと足を向け歩き出す。そんな俺を見て心配したのか、アリアから声が上がった。

 

「あ、危ない!撃たれるわ!」

 

そう言いながら止めようとしてくれる。

優しい子だ。だけど大丈夫。

王子様は最後にお姫様を迎えにいくものさ。

 

「アリアが撃たれるよりずっといいさ」

 

外に向かい背を向けながらも、そう彼女に伝える。

それにお姫様には傷ついてほしくないからね。

 

「だ、だから!いきなりどうしたよの!?何するの!」

 

赤面し混乱しながらも問いかけてくるアリアに向き直り、俺は———-。

 

 

 

「アリアを、守る」

 

 

 

そう呟いた。外に身を晒すと同時にセグウェイに搭載されたUZIが一斉に撃ってくる。セグウェイはいつのまにか7台から倍近い14台にまで増えており、それに伴い銃撃の激しさも増していた。

モテる男は辛いね。そう思いながらも銃弾は刻一刻と迫ってくる。

だが、当たらない。当たる訳がない。

ヒステリアモードになった俺には銃弾が全てスローモーションで視えてしまう。

銃弾は俺の頭部、頸部、大腿部といった人間の急所目掛けて飛来してくる。頭部だけなら逸らすだけで避けられるが、あいにく今は上着がない。最初に頭部に飛来してくる銃弾を頭を軽く反らしてやり過ごし、その姿勢のまま片手で持っていたベレッタで銃弾を迎撃する。

 

 

————-ガキキキキキキキンッ!!!!

 

 

空中で金属同士がぶつかり合うような甲高い音が鳴り響いた。

その音に連なり、火花のコントラストが美しく空中を彩る。

先程使った技は『銃弾弾き(ビリヤード)』。銃弾に銃弾を当て、強制的に逸らす技だ。兄さんと爺ちゃんが宴会でやっているのを見て覚えた。

弾くと同時にベレッタがホールドオープン。

弾切れになったが、そこはヒステリアモードの俺。

事前に放り投げていたマガジンを、空中で即座にリロードし、左から右へ、腕を横薙ぎにしながら射撃する。

俺が放った銃弾は、それぞれの銃口へと真っ直ぐに飛び込んでいく。

 

 

———ズガガガガガガンッ!!!

 

 

派手な音を立てながらセグウェイに搭載されていた全てのUZIが吹っ飛んだ。俺もまだまだだかな。

 

(これにて一件落着かな。)

 

そう思いながら俺はアリアの元へと向かうのであった。

 

 




今回はあまり遠山の技を出せなかったです。( ´•̥ω•̥` )
今後の参考にアンケートを取りたいと思います。
もし良ければ答えて下さると嬉しいです!


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4.

多くの感想ありがとうございます!
私と同じく緋弾のアリアが、キンちゃんが好きな方が多くて凄く嬉しいです(。 >艸<)
当初は自分が読むために始めた小説ですが、皆さんも楽しんで頂けるよう今後も頑張っていきます!


体育倉庫に戻るとアリアの姿が見えない。

中を見渡すと俺たちが突っ込んでいたとび箱からピンクブロンドの髪の毛がはみ出していた。

そこから顔を出し、俺と目が合うとぎろ!っと睨んでくる。

そのまま再び顔を引っ込めると、

 

「あ、あんたに助けて貰わなくても私一人で何とか出来たわ。これは本当よ。」

 

そう言ってきた。だが何故か一向に出てこない。

跳び箱の中でずっと蠢く。

 

(服の乱れを直しているのかな…?)

 

ああ、そう言えばホックが壊れていたな。

俺はベルトを、シュルッと外すと、跳び箱の中に投げ入れてやる。

しばらくごそごそしていたが、乱れを直し終えひょこりと顔を出す。アリアは跳び箱に足をかけ、スカートを抑えながらもヒラリと出てきた。

着地すると俺が渡していた制服を投げ返してくる。

ふわりと俺がキャッチすると同時に制服からクチナシのようなアリアの香りが漂ってきた。その制服に少し顔を引きつらせながらも制服を着なおす。

 

「一応…礼は言っておくわ。あ、ありがとう。」

 

アリアは言い慣れていないのか顔を赤らめ、小さな声でそう言ってきた。

 

「お互い様さ。アリアも俺を助けてくれただろう?気にしなくていい」

 

そう言うとフンッとそっぽを向きながらも目を向けてくる。

ちゃんと、伝わってるみたいだ。

ふっと笑っていると、再びアリアが思い出したかのように怒り始めた。

 

「だ、だけど!それとこれとは別っ!あんた跳び箱の中で私に何しようとしてたの!」

 

ああ、そのことか。

 

「…アリア、安心していい。俺は何もしていないさ。」

 

そう安心させるのようにニコリと微笑みかける。

アリアはぼふっと顔を赤らめる。おお、耳まで真っ赤だ。

だが、それも俺の次の一言で一変した。

 

「それに冷静に考えてみよう。俺は今年で高校二年生。アリアが魅力的な女の子だからって中学生に何かしようとは思わないさ」

 

ビシッ!と言葉が似合うように空気が凍った。

アリアを見てみると、わぁあー!と言う口になって両手を振り上げた。

言葉が出ないのは絶句しているからのようだ。

そして、わわ、わわわ。ローズピンクの唇を震わせから、がいん!と床を踏みつけた。

 

 

() () ()() 2() ()()()

 

 

と地獄の底から聞こえてくるような底冷えする声で叫んできた。

し、しまった…!どうやら説得に失敗しちまったようだ。

アリアは手をぱし、と左右の太ももにつく。

するとガチャガチャッと恐ろしいくらいのスピードでホルスターからガバメントを二丁ドロウしーー。

 

ばぎゅきゅん!と威嚇射撃を足元に打ち込んできた。

俺がこの状況に顔を青ざめていると、さらに至近距離から銃口を向けてきた。

これはーー。近接拳銃格闘(アル・カタ)か!

部が悪いと判断し、至近距離で突き出してくるガバメントをそれぞれ片手で反らす。

そのままその細腕を両脇に抱え込んで後ろに突き出させた。

 

 

バリバリバリッ!ガキンガキンッ!

 

 

アリアは反射的に引き金を引き、背後の床が着弾した音をあげる。

音で弾切れになったことがわかり、何とか傷つけずに捕縛しようと手を伸ばすとーー。

 

「ーーんっ!ーーやぁっ!」

 

くるっ!身体を捻ったかと思うとアリアは柔道でいう跳ね腰みたいな技で、俺を投げ飛ばそうとしてくる。

このままだと投げ飛ばされるな。が、そこはヒステリアモードの俺。そう簡単に投げられるほど柔な鍛え方はしていない。俺は瞬時に身体を落とし、重心をずらす。

投げ技は重心の位置がかなり重要である。押す、引く、捻ると言った細やかな技術を使い、力がないものでもただ重心を崩してやるだけで投げ飛ばし、相手を無力化できる。有段者レベルになれば数倍の体重差ももろともしない。が、重心さえずらして仕舞えば簡単に投げられられることはない。

まあ、馬鹿みたいな力を持つ者は力づくで投げ飛ばせるから例外だけどな。ただ無効化した反動でアリアの関節に負荷がかかり怪我をしてしまう可能性がある。怪我をしないように力は橘花で無効化しておこう。

 

(って想像以上に力があるね。どこにそんな力があるのかな…)

 

アリアの予想以上の力に驚いた。技量で投げていると思っていたが力も相当あるな。その証拠に足元を見れば小さくズレた形跡が残る。

 

「え、あ、あれ?」

 

投げ飛ばすことが出来かった事が不思議なのか、そんな声を上げた。

気に食わないのか顔を真っ赤にし、何度も投げようと試みてくる。俺はその度に技を無効化していった。

当人は必死なのだが、側から見れば小さな子供がただ引っ張っているようにしか見えない。

 

「ッー!あったまきたッ!もう許さないわよッ!」

 

そう叫ぶと共に距離を取り、片手のみガバメントの銃口を向けてくる。

もう片方の手はわしゃわしゃとスカートの内側を弄った。

恐らく先程弾切れになった拳銃に再装填する、弾倉(マガジン)を探しているのだろう。

だがその弾倉(マガジン)は体のどこを探しても見つかることはない。

 

「お探しの物はこれかい?」

 

そう言いながら距離を取られた際にスカートから掏り取っておいた予備弾倉(マガジン)を掲げーー明後日の方向に投げ捨てる。

 

「ーーあ!」

 

アリアはそう声を上げる。遠くの茂みに落ちていくそれを目で追いかける。それが見えなくなると同時にぎぎん!と此方を睨んできた。

い、いかん。火に油を注いちまった…!

 

「へぇ…!いい度胸してるじゃないの…!」

 

アリアはどうやら挑発行為ととったようだ。ギリギリギリィと歯を歯軋りし、無用の長物となった拳銃を上下にブンブン振り回している。

どうやらあの動作はやったな!やったな!という怒りの動作らしい。

 

「私をここまで怒らせたのはあんたが初めてよッ!覚悟しないッ!」

 

拳銃をスカートの中のホルスターに荒々しくぶち込みながらそう叫ぶ。

するとセーラー服の背中に手を突っ込みーーじゃきじゃき!

げっ!日本刀じゃねーか!

二本の隠していた日本刀を、抜き構えながらだんっ!と突っ込んでくる。

一目で分かるようにそれは業物だ。日本刀は古くから日本で伝わり、日本固有の鍛治製法で作られている。「折れず、曲がらず、良く斬れる」の三要素を非常に高次元なレベルで実現されるため、海外の武偵から大人気の武装。わざわざ日本に来てオーダーメイドして貰う人もいる。

 

(流石にあれを振り回されるのはやめて欲しいかな)

 

アリアの瞬発力は人間離れしており、かなりの速度でこちらに踏み込んでくる。俺の間合いに入ると同時に両肩へ流星みたいにと突き出した。

だがーー当たらない。俺にはその刀がスローモーションで見えるのだ。

ヒステリアモードが見せるスローモーションの中で俺は冷静に対処していた。突き出され刀を軽く身体を傾けながらよけ、突っ込んでくるアリアもするりと躱す。

すれ違いざまにアリアへと手を伸ばし、遠山家の技である『ヰ筒取り(いづつどり)』で刀をばっ!っと瞬時に奪い取る。

ヰ筒取り(いづつどり)とは、相手の携行武器をスリ取る技である。かつてのご先祖様、遠山景晋が自身の部下であった間宮林蔵の鳶穿を真似たもので、相手の武装解除に俺がよく使う。ただ使用に両手が必要かつ表面に携行しているものしか狙えないという制約があるのが難点だ。

気がつくと握りしめていた二本の刀が俺の手の中にあったため、アリアは何が起こったの?というような不思議そうな顔で俺と自身の手を交互に見ている。

だが驚きよりも怒りの気持ちの方がデカイらしい。ビキビキッ!と額に怒りのマークをつけ、再び飛びかからんとしている。

 

(流石にこれ以上は付き合ってられないかな)

 

アリアから逃げるために俺は『(おぼろ)』を使う。

朧とは、知覚される存在感を曖昧にする遠山家の技だ。戦後の世では武士が入り乱れる戦場の中、周りに気付かれず敵の大将に忍びより討ち取るために開発された。

これまでのやり取りで分かったが、アリアは勘が人一倍鋭い。

かかるかどうかは微妙だったが、何とか技に引っかかってくれたようだ。

 

(この隙に逃げさせて貰うよ)

 

途中で少女(レディ)を放置するのは、今の俺の主義に反する。だがこのままだと延々と突っ掛かれかねない。それは流石に勘弁願いたい。

 

「ごめんね。」

 

そう言いながら体育倉庫から脱出した。アリアは目の前から俺が一瞬で消えたように見えたため、驚きで固まっている。

だが去り際にかけた言葉で俺が逃げたということに気がつくと、コンクリートをゲシゲシと踏み締める。

 

 

ーーービシッ!ビシッ!

 

 

と踏みしめる毎にコンクリートにヒビが入っていく。

いったいどんな脚力してんだ。

 

「出て来なさい!この卑怯者!ーーでっかい風穴あけてやるんだからぁ!」

 

 

ーーーガウンガウン。

 

 

と、そんな捨てゼリフと銃声が体育倉庫から聞こえる。

俺はそんな彼女の叫び声を背に、校舎に向けて歩みを進めるのであった。




朧はオリジナルの技名になります!
遠山家の歩法は存在していましたが、技名が分からず存在感を消すという点から朧と命名しました!
名前がわかる方がいましたら教えてくださると嬉しいです。


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5.

戦闘回は最新刊までポンポン思いつくのですが、道のりが遠いです…
特にやりたい回が元公安0課戦と遠山金又戦なので、既に思いついていながらも書けないのが凄くもどかしいですね(>_<。)
とりあえず一巻で1番やりたい戦闘回はバスジャックなので、先ずはそこまで頑張りたいと思います!



ーーヒステリア・サヴァン・シンドローム。

通称HSS。この特性を持つ人間は、一定量以上の恋愛時脳内物質βエンドルフィンが分泌されると、それが常人の約30倍もの量の神経伝達物質を媒介し、大脳・小脳・脊髄といった中心神経系の活動を亢進させる。

つまり性的に興奮すると、神経伝達が鍵となる思考力・判断力・反射神経・視力・聴力などが常人の約30倍にまで跳ね上がるのだ。

俺はこのスーパーモードを『ヒステリアモード』と呼んでいる。本来の名前は別なんだがそっちの呼び方が嫌だから命名した。

 

(…女子と接触してなっちまった……)

 

俺はそんな事を考えながら鬱々と新しいクラスへ向かっていた。

あのチャリジャックの後教務科(マスターズ)で報告すると、エラく褒められた。曰く今まで同様の事件で五体満足だったのは俺だけだったらしい。「武偵殺し」の件で、メディアに武偵という存在をボロクソに叩かれていたため、鼻を明かしてやったってエラく喜んでた。まあそれは一般的な武偵の教官だけだったが。教務課(マスターズ)で特にやばい連中は模倣犯とはいえ「武偵殺し」って言葉をだしただけでピリついてたしな。犯人を捕まえていないから当たり前だが、犯罪者ごときに武偵が翻弄されたことにイラついてんだろう。蘭豹なんか舌打ちしながら机を破壊してたし。まあ、今はそんなことよりもーー。

 

(明日からどうすればいいんだよ…)

 

そう。俺が鬱々としているのは理由がある。

ヒステリアモードになることには抵抗はない。一時期は武偵中学時代に痛い目を見たため逃げ続けていたが、爺ちゃんとの鍛錬で向き合うことができた。その証拠に爺ちゃんや父さん、兄さんのように自身でヒステリアモードになる為の技を習得できたしな。遠山家の男は自在に操れるようになることで一人前に見なされるから、習得できた時はたいそう喜んだよ。

ただ痛い目を見る原因となった欠点については治らんかったので、とうに割り切っている。

それはいい。それはいいんだが…俺にとっては()()()()()()()()()()()()が問題なんだ。

 

(いつか本当に刑務所にぶち込まれかねんぞ…)

 

そういう本やDVDは別にいい。そもそもああいうものには興味がないし、ヒステリアモードのためと思えばなんとか割り切れる。こちらに実害がでることもない。だが生身の女子は別だ。この体質を知られれば中学時代のように利用される可能性がある上に逮捕されかねん。

今までは何故が女子たちが俺に好意的になるため、なんとかなっていたが通常ならセクハラでアウトである。

しかも今回は同級生の女の子だ。同級生の女の子にセクハラして性的興奮した挙句、口説いた後、顔を合わせることに耐えられるか?俺はできん。寧ろそれでも大丈夫な人を見てみたいね。

 

(今後は出会わんことを祈るしかないな…)

 

そう思いながら、新しいクラスである2年A組の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

「先生、あたしアイツの隣に座りたい」

 

そんな声とともに俺の儚い思いは消え去った。

 

(嘘だろ…!)

 

薄情なことにも俺が扉を開けた時にはクラス最初のHRが始まっていた。その上目の前にあのピンクのツインテールが。

しかもそいつが扉を開け注目されている中でそんな事を言ったもんだから、クラスの中の女子はわあーと大歓声。男子は恨みがましい視線を向けてくる。まさに針のムジナである。

絶句。ただ絶句するしかない。

俺がそんな状況で固まっていると、担任である高天原先生がパンパンと手を叩き場を沈めた。

 

「はい、お静かに。彼女は去年の3学期にロンドン武偵高から強襲科(アサルト)で転入してきた神崎・H・アリアさんです。皆さん仲良くしてくださいねー」

 

なるほど、通りで記憶にないわけだ。俺は元々彼女と同じ強襲科(アサルト)だったが、去年の3学期に探偵科(インケスタ)に転科している。転科した後は一度も専門棟に顔を出してなかったし、放課後は任務(クエスト)も殆どせず爺ちゃんと鍛錬三昧。顔を合わせる機会すらないんだから当たり前だな。

 

(ってあいつ何て言った?俺の隣に座りたい?)

 

聞き間違いだろうか。そんな事を言っていた気がする。

というか聞き間違えであってくれ…!!

だがそんな俺の思いも虚しく、別のところから声があがった。

 

「よ…良かったなキンジ!先生!俺、転入生さんと席代わりますよ!」

 

身長190近い男が満面の笑みで俺を見つめ、勢いよく席をたつ。武藤お前もこのクラスだったのか…。って俺が1年の時のクラスとほぼ変わってねえじゃねーかッ!見回すとメンツがほぼ去年と変わっていないということに気づいた。最悪だ…。

 

「あらあら。それなら丁度いいわねぇー、知り合いなら仲良くなりやすいと思うし…じゃあ武藤くん、席を代わってあげて」

 

先生は俺とアリアを交互に見ながらそんな事を言ってくる。

いつのまにか完全に武藤の提案が通ってしまった形でである。

わーわー。ぱちぱち。

そんな状況を楽しんでいるかのように周りから拍手喝采。

おい、男子はさっき睨んでただろうが…!武藤に至ってはこちらにサムズアップしてくる。後で覚えておけよ。

取り消して貰うべく抗議しようとしたとき、アリアが、

 

「キンジ、これ、さっきのベルト」

 

体育倉庫で貸したベルトを放り投げながら、火に油を注ぐような事を言ってきた。しかも呼び捨てである。

 

(これでじゃ知り合いではないとシラを切る作戦ができんぞ…!)

 

俺がベルトをキャッチするとーー。

 

「理子分かった!分かっちゃった!ーーこれ、フラグバッキバッキに立ってるよ!」

 

武藤の近くに座っていた峰理子という女子が、ガタン!と勢いよく席を立つ。理子お前は余計に場を掻きまわそうとするな!

 

「キーくん、ベルトしてない!そのベルトをツインテールさんが持ってたってことはーー彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をしたってこと!つまり2人は熱い熱い恋愛の真っ最中なんだよ!」

 

そんなお馬鹿推理をクラスの中でぶち上げる。

おい、そんな事言ったらーー。再びクラスはわあーと大盛りあがり。

バカの集まりである武偵高は何でもかんでも盛り上がる。いい事でもあるが今回は違う。先生がワタワタと沈めようとしているが、これは沈静化しそうにないぞ。

てか理子!なんだ恋愛って!

 

「キ、キンジがこんな可愛い子といつの間に!?」「ちょっといいなって思ってたのにフケツ!」「遠山くんには不知火くんがいるのに!」「って白雪さんはどうしたんだよ!後で轢いてやる!」

 

そんな声があがる。大抵は面白がっての発言だが数名落ち込んでいる女子もいた。なぜた。っておい、何個か変なもん混じってるぞ。なんで不知火が出てくるんだ。あと武藤なぜ白雪の名前を出す。

反論することもめんどくさくなったので、意識を飛ばしているとーー。

 

 

ずぎゅぎきゅん!

 

 

鳴り響いた二発の銃声が、盛り上がっていたクラスを一気に凍りつかせた。

ーー真っ赤になったアリアが、二丁拳銃を天井に向けて打ったのである。

 

(う、撃ちやがった…!!)

 

チンチンチチーン…カランカラン

 

拳銃から排出された空薬莢の音が、静けさを更に際立たせる。

先程騒いでいた連中はまるで軍隊のような連動した動きでその場に着席。

こいつらも武偵高の生徒であるため、拳銃の音にはなれている。それに武偵高では別に射撃場以外で発泡することが禁止されている訳ではない。そこらじゅうから毎日聴こえてくるため、驚く人の方が少ない。だがーー自己紹介で威嚇射撃をしたものは恐らくこいつだけた。

皆本能でこいつに逆らうとヤバイと気づいたんだろう。じゃないと生き残れないからな。賢いねーほんと。

 

「れ、恋愛なんて…くっだらない! 全員覚えておきなさい! そういうバカこと言うやつには……」

 

天井に向けていた銃口を下ろし、こちらに向けてくる。

ていうかアリアさん?その銃口俺だけに向けてませんかね…?

小さなピンク色の唇を震わせながら、特徴的なアニメ声で、

 

「ーー風穴開けるわよ!」

 

そう俺に言っていたように叫ぶのであった。

 

 

 

 

 




アンケートにご協力ありがとうございました!
緋弾のアリアAAのキャラを入れて欲しいという方が多いので、無理のない範囲で参戦させようと思います!
ただAAは原作を持っておらず、軽くアニメでしか見た事がないので、どなたかAAの時系列的なものを教えてくださると助かります。
今後ともよろしくお願いします!


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6.

第6話です!
いきなりUAが激増してて驚きました笑
緋弾のアリアを、キンジを好きな方が多くて感無量です°ʚ(*´꒳`*)ɞ°
話数別のアクセスを見てみたらやっぱりキンジが活躍する戦闘回が人気でした!私もその回が好きなのでみんな考えることは同じですね!
次の戦闘回は恐らくバスジャックになるかなーって思いますので、気長にお待ちください!


昼休みになると同時に、遠山家の歩法技『(おぼろ)』を用いて教室から脱出した。クラスのアホどもからすれば目の前から一瞬で消えたように見えたため、たいそう驚いただろう。

 

(武藤と理子のやつらめ…)

 

心の中で数名に対し悪態をつく。

率先してクラスを扇動しやがって。本来抑える役の不知火も笑ってみてるし、どうしろってんだ。だいたい俺にアリアのことを聞いても答えられるわけないだろ。今朝初めて会ったんだから。

 

(どうすっかなぁ…)

 

頭を悩ませながら青い空を見上げる。

理科棟の屋上に避難したまではいいが、昼休みが終わればクラスに戻らなければならん。それまでになんとか打開策を提示したいところだが全く思いつかない。

 

「はぁ…」

 

溜息をはきしょんぼりしているとーーギィ…。

屋上の扉が開かれる音がした。誰かきたのか?

目を向けてみるとーークラスのそれも、強襲科(アサルト)の女子が数名喋りながらやってきた。彼女らは俺に気づいてないらしく、無警戒に話している。まあ、屋上の更に上の屋根で寝っ転がってるから気付く訳がない。

 

(もうちょい奥いくか)

 

会話を聞くつもりはないが、盗み聞きしていたと思われたら癪だ。

そう考え貯水タンクの裏まで移動したが…たかだが数メートル程度。否が応でも彼女らの会話が入ってきてしまう。

 

「さっき教務科(マスターズ)から出てた周知メールあったじゃん。あれって絶対キンジじゃない?」

 

「2年男子が自転車を爆破されたってやつ?あ、そうかもキンジ始業式にいなかったみたいだし」

 

「キンジってば不幸だね〜。自転車爆破されて、その上アリアでしょ?」

 

あーそいやさっき周知メール来てたな。内容見ずに放置してたけどさっきの件だったのか。始業式にいなかったのは俺ぐらいなもんだから速攻でバレてるが…さもありなん。っても流石は武偵高、広まるのが早いねー、ほんと。

 

(にしても…アリアか)

 

正直、アリアの情報は欲しい。悩みの種である対象の素性すらわからないのであれば対策のしようがない。名前が上がったということは、今後アリアの話題に流れる可能性がかなり高いぞ。この好機(チャンス)を逃すわけにはいかない。

悪いとは思うが…このまま会話を聞かせてもらうことにしよう。

ごめん。ーー心の中でそう謝り、意識を会話に集中させる。

 

「キンジちょっと可愛そうだったよねー。まあ、私も気になってたから質問してたけど」

 

「だったねー。それにアリア、朝からずっとキンジのこと探って回ってたし。いきなりキンジのこと聞かれたからビックリしたよ」

 

「あ、私もアリアに聞かれた。キンジってどんなやつなのーとか。どんな武偵なのーとか、あと実績も聞かれたかなー。『昔は強襲科(アサルト)で凄かった。今でも教務科(マスターズ)や学年問わず一目置かれてる存在』って答えといた。まあ、実際一目置かれてるのは事実だし」

 

「だよねー。あ、そういえばさっき教務科(マスターズ)の前でアリア見かけたよ。なんか資料とか漁ってるみたいだった。蘭豹とかにも色々聞いてたっぽい」

 

「蘭豹にまで聞くとかマジ? ガチでラブじゃん」

 

彼女たちの会話の節々からいくつか情報を得ることができた。にしてもーー

 

(朝から探られてたのか…)

 

ってことはチャリジャックの後からずっとストーキングされていたってことだ。マズイな…恐らくかなり調べられてるぞ。こっちは何一つ分かってないってのに。

 

「キンジがカワイソー、女嫌いなのに、よりもよってアリアだしねぇ。」

 

「だよね。にしてもアリアって空気読めなさすぎじゃない?ヨーロッパ育ちかなんか知らないけどさー、さっきの教室とかモロじゃん」

 

「きっと()()()()は、日本人に合わせる必要なんかないって思ってんじゃない? そんなんだから、トモダチできないんだろうけど」

 

「あ、やっぱり? この前、お昼も1人でお弁当食べてたの見たんだよね。教室の隅っこにでぽつーんって。」

 

「うわっ、なんかキモぉー!あたしには耐えられないわー」

 

これ以上有効な情報は得ることがないと判断し、耳を傾けるのをやめた。

どうやらアリアは、この変人揃いの武偵高の中でも浮くぐらい目立つキャラらしい。だが…悪口とかは聞くもんじゃないな。こっちの気分まで沈んでくる。若干イライラしながらも先程得た情報を整理する。

朝からのストーキング、相手には情報を掴まれてる、ヨーロッパ育ち、トモダチはいない。

 

(…ロクな情報集まらなかったな)

 

まあ、アリアには俺の情報が知られている可能性があるということがわかっただけ良しとしよう。結局、打開策も浮かばないし。

そう考え、女子たちが屋上から立ち去るのを待ってから俺も教室に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

ーー放課後。

戻った後も根掘り葉掘り聞かれたが、なんとかまくことができた。クラスのバカどもから解放されたが、状況は全く好転していないため、軽く沈みながら寮への帰路につく。

 

(とにかく早く休みてえ…)

 

朝から白雪、チャリジャック、アリア襲来、発砲事件、アホどもからの質問責め…かなり濃い1日を過ごした。身体は平気だが、精神が限界だ。早く自室にてリラックスする必要がある。だがーー誰かに付けられてるみたいだ。気配を隠すのが上手くてギリギリまで気づかなかったぞ。

 

(風魔か…?)

 

この気配には覚えがある。恐らく神奈川武偵中時代の戦妹(アミカ)、風魔陽菜だ。そういえばあいつも東京武偵高に進学するって言ってたな。

 

「風魔」

 

その声を合図にーーざざざぁ。

春風に混じり桜の花吹雪が舞い踊る。桜の花がふわりふわりと幾多にも重なりながら舞い散る様は綺麗だが…周囲にもたらす被害は尋常じゃない。これが街中ならエライことになってたぞ。

花吹雪が収まると、真新しい東京武偵高のセーラー服に身を包んだ風魔が昔ながらの忍者が殿様に傅くように、地面に片膝をつきこうべを垂れた姿勢でいた。

 

「は、ここに」

 

こいつ昔から俺と会うときはこんな感じなんだよな…。

武偵中時代にこいつに押し切られる形で戦妹(アミカ)にしたが、忍者的な様相は相変わらずである。

 

「お前、見ない内に随分と腕を上げたな。ギリギリまで気づかなかったぞ」

 

「是。師匠を想い一心不乱に修行を行っていた成果にござる」

 

「あーとりあえずその姿勢と堅苦しい話し方はやめろ。今は任務(クエスト)でもないんだから普通でいい」

 

とりあえず早く立ってくれ。周りからの色物を見る視線に耐えられん。

すいませんね、皆さん。こいつはこんなヤツなんで勘弁してください。

 

「承知、でござる」

 

その言葉で姿勢を正し始めた、だが…様子がおかしい。

何故か体が震えているな、何かを我慢しているような感じだ。

 

「師匠〜! 会いたかったでござるよ〜!」

 

突然、溜め込んできた気持ちが爆発するかのように満面の笑みで大きく手を広げ抱き着こうとしてきたッ!犬の尻尾がブンブン振られているような幻覚が見える。や、やめろッ!こっちくんな!

至近距離であったためかなりギリギリだったが、何とか頭を抑えることに成功する。危なッ。

 

「お、おいっ!離れろッ!」

 

抑えながらもなお抱き着こうとしてくる風魔を必死で抑えながら、そう言うと

 

「ぶ〜、師匠のいけず、でござる」

 

渋々ながら離れていってくれた。

白雪もだがなんで俺に会っただけでそんな嬉しそうにするかね。全く持って分からん。

 

「はあ…んで何しにきたんだよ」

 

「拙者、本日から師匠と同じ東京武偵高生になったでござる。いち早く師匠にお会いしたく参った次第。」

 

頰を軽く染め黒髪のポニーテールを指でクルクルしながら、落ち着きなさげにしている。ようするに挨拶がしたかったってことか。

 

「ならもういいだろ、今日は色々あって疲れたんだよ」

 

風魔の突飛な行動は昔からだ。そのことに頭が痛くなるが、目的を達成したのならもういいだろう。というか比較的にこいつは安全ではあるが、女子と長時間一緒にいたくない。

 

「待ってほしいでござるっ!あともう一つあるでござるよ!」

 

「…なんだよ」

 

風魔の言葉にゲンナリしながらも、ぶっきらぼうに返す。

 

「久しぶりに修行をつけてつけて頂きたいにござる。拙者の成長した姿を師匠にお見せしたいでござるよ」

 

修行か。今までめんどくさいため使いっ走りみたいなことを修行と称してやらしてきたが…この様子では納得しそうにないな。目をキラキラさせてるよ。

 

「はあ…わかったわかった。またつけてやるから今日は帰らせてくれ。さっきも言ったろ、色々あって疲れてんだよ」

 

流石に今から修行をつけてやる気力はないぞ。

頼むから帰らせてくれ…!!

 

「ほ、ほんとでごさるか!! 」

 

嬉しそうだなー。修行ってもただ組手するだけだぞ。まあ、言ってしまったものはしょうがない。ただめんどくさいので、できる限り先延ばしにしておこう。それで忘れてくれたら万々歳だ。

 

「っても暇な時だけだからな」

 

「大丈夫でござる!久しぶりの師匠との修行、武装を新調して奮発するでござるよ!」

 

「はあ…んじゃもういいだろ。俺は帰る」

 

「約束でござるよ! では…(にん)!」

 

の言葉を合図に再び桜の花吹雪が舞き起こる。みるみる人を1人包めるくらいの大きさになり風魔を隠していくとーー桜が散る頃には風魔の姿はなかった。いちいち派手にしかできんのか。

 

(帰るか…)

 

桜の花びらが散らばっているが、今は桜の季節。放置しても問題ないだろう。そう考え、寮に向けて足を進めるのであった。

 




AAとの時系列を合わせながら書くために早めに風魔に登場してもらいました!
AAと絡めながら書いているので、恐らく一巻の内容が終わるまでに結構時間がかかると思いますが、気長に見ていだだけると嬉しいです!


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7.

第7話です!
いつの間にか評価が真っ赤になっていたので驚きました!(*´罒`*)
お気に入りにしてくれた方、評価をしてくれた方、ありがとうございます!
もし本小説に興味を持った方で、原作を読んだことがない、もしくは読むのをやめてしまった方がいましたら、ぜひぜひ原作も読んでみてください(,,>ლ<,,)
とある魔術の禁書目録に次ぐほどの長編連載小説で、全巻揃えるのは難しいかも知れませんが、後悔はしないと思います!
この小説をきっかけに緋弾のアリア、キンちゃん様のファンが増えてくれると嬉しいです笑


ーー夕方。

風魔との遭遇後は、何事もなく帰宅することができた。これ以上何かあれば俺の身が持たん。

上着を脱ぎ、壁にかける気力も残っていないので雑に椅子に放り投げる。ベレッタとバタフライ・ナイフを机に置くとーーどさっ。そのまま倒れこむように自室のソファーに体を沈めた。

 

(疲れた……)

 

イベントに事欠かないのは武偵高ならではだが…此処まで遭遇するのは俺ぐらいなもんだろう。初日から自身の不運さに涙が出てくるね。

 

「はぁ……」

 

溜息が俺1人が住むには広過ぎる部屋に響き、静けさを強調する。静か過ぎるってのは大抵の人が嫌がるだろうが、俺にとっては有難い。1人ってのは最高だよ。

この部屋にはルームメイトは居らず俺1人しか住んでいない。本来なら4人部屋なのだが、俺が転科したことと、たまたま相部屋になる探偵科(インケスタ)男子がいなかったことで自由気ままな一人暮らしだ。

時々白雪とかが押しかけてくることはあるが…今は俺1人のみ。邪魔するものは居らず、平穏な空間でゆっくりできる。

そう考えながら俺は夕焼け空の東京を窓越しに眺めていた。

 

(『武偵殺し』か…)

 

あれはいったい何だったんだろうな…。先程の出来事が鮮明に頭の中でフラッシュバックする。

今朝のチャリジャックについてはまだ何も分かっていない。セグウェイの残骸、俺の自転車の欠片、プラスチック爆弾(Composition4)の破片を鑑識科(レビア)が回収し、やっと探偵科(インケスタ)が調査を始めたところだ。模倣犯とは言え、武偵高内で事件を起こしたもんだから調査する連中がめちゃくちゃ張り切ってたよ。

 

(なぜ俺が狙われた…?)

 

ソファで考え込んでいると、気が緩んだせいか俺の意識は徐々に思考の海へと沈んでいく。

あれをイタズラの一言で片付けるには事件の規模がデカすぎる上、不自然な点が多い。ましてや爆弾事件(ボムケース)。爆弾魔による犯行だ。大抵の爆弾魔は、ターゲットを選ばず、無差別に爆発を起こす。人々の注目を集め、自身の要求を世間にぶつけるのが一般的な手口だ。まあ、ようは目立ちたがりが多い傾向にある。

爆弾魔によるイタズラなら、より人の多い場所を狙うか使用頻度の高い自転車を狙うはずだ。俺は基本バス通学なため自転車を使う機会がほとんどない。事実、今日俺が乗る前までは駐輪場の奥の方で埃を被っていた代物だ。狙うにしても選択(チョイス)がおかしい。爆弾魔からすれば狙うメリットが少ない。それにただ爆破が起きるだけなら武偵高では日常茶飯事、軽くスルーされる可能性が高いからな。ならーー特定の個人。つまり俺を狙って仕掛けられたと考える方が自然だ。

 

「っても分かってることはないか…」

 

ふう、と口から緊張が溶け込んだような息を吐くと深く沈んでいた意識が徐々に浮上する。

落ちこぼれ同然のEランク武偵ではあるが、これでも探偵科(インケスタ)のはしくれ。日々の授業の習慣でついつい考えこんでしまった。これ以上考えるのは不毛か。

まあ、武偵高では殺人ならともかく未遂程度なら流されるのが普通である。一般人から考えれば頭のおかしい所業ではあるが…悲しいことにここではこれが現実だ。

実際、俺も強襲科(アサルト)のドンパチで慣れすぎていることもあり、そこまで大事に捉えてはいない。アリアのこともあり若干スルー気味だ。

 

「風呂でもはいるかね…」

 

大きく伸びをし、凝り固まった体をほぐしながらそう呟く。風呂にでも入ってリフレッシュしよう。

そう考え立ち上がろうとしたがーー

 

 

ピンポーン。

 

 

そんな気分を邪魔するが如く魔の抜けるようなチャイムが鳴った。

 

「誰だ…?」

 

白雪だろうか。いや、あいつはもっと慎ましげなチャイムのはずだ。なら宅配便か。どっちにしろ面倒だな。居留守でも使おう。

 

 

ピンポンピンポンピンポーン。

 

 

いつか諦めるだろ。無視だ無視。

今日は風呂にでも入って早く寝るに限る。

 

 

ピポピポピポピピポピポポピピピピンポーン! ピポピポピンポーン!

 

 

(しつこすぎるだろ…)

 

どうやら相手は俺がいる事に気付いているようだ。居留守を使ったがダメっぽいな。今日ぐらいは静かに過ごさせてくれよ…。

渋々ながら玄関へと向かうが、流石にイラッときたので開けながら怒鳴る。

 

「あー、うっせえ!頼むから静かに過ごさせてくれ!」

 

バンッと勢いよくドアを開けると、目の前にはピンクブロンドの髪。武偵高のセーラー服をきた中学生にしか見えない小さな身体。

 

「遅い! あたしがチャイムを鳴らしたら5秒以内に出なさい!」

 

びしっ!と手を俺に突きつけ、赤紫色(カメリア)のツリ目をぎぎんとつり上げている。そこには俺の頭を悩ませている元凶ーーそう、神崎・H・アリアがいた。嘘だろッ!!

 

「か、神崎!?なんでここに!?」

 

「アリアでいいわよ」

 

するり、驚きで身を固くしている俺を他所に玄関へと上がる。

しまった…!侵入させちまった…!

 

「お、おい!ちょっと待て!」

 

これはマズイと声を上げるが、時既に遅し。アリアはケンケン混じりで靴を脱ぎ散らかし、とてとてとリビングへ向かっていた。

 

(あ、ありえん…!!)

 

あれだけ静かだっだ空間がいつの間にやら騒がしい空間に。しかも悩みの種であるアリアのおまけ付き。そのことに頭を抱えながら急いで追いかけようとした瞬間、アリアは何かを思い出したかのようにリビングの扉手前で振り返った。

 

「トランクを中に運んどきなさい!」

 

そう言うや否や家主を差し置き、ぱたん。まるで自分の家の如くリビングへ入っていってしまった。女子たちの傍若無人っぷりは身に染みていたが…こいつは今までで一番だ。

 

「はぁ…」

 

既に侵入を許した時点で追い返すことはほぼ不可能。半ば諦めモードになりながら周囲を見回すと、玄関先に小洒落たストライプ柄のトランクが。おそらくアリアが持ってきたものだろう。

 

「……何言われるかわかったもんじゃないな」

 

仮にもここは男子寮。明らかに女物と分かるトランクが置きっぱなしにされているのを見られたら、あらぬ誤解しか招かん。もし部屋に女子を連れ込んだと誤解されれば教務科(マスターズ)から地獄への招待状がプレゼントされるだろう。

自身の命を守るため泣く泣くトランクを運び込む。って重っ!何入ってんだこれ。やたら重いトランクを引きずりながらリビングの扉まで行くがーー入りたくない。入らなければならない事は分かっているのだが、嫌な予感しかしない。

 

(ええい…!ままよ…!)

 

 

ーーガチャリ。

 

 

意を決して扉を開けリビングに入る。強襲科(アサルト)時代、ノーマル状態のまま犯罪組織に突入した時の緊張感を感じ手がじっとりと汗ばむ。

部屋を見渡すとアリアはリビングの一番奥、窓の辺りに立っていた。カーテンの隙間から差し込んでくる夕日に照らされピンクブロンドの髪が水面に映る太陽のようにキラリと光る。

俺が入ってきたことに気づいたのだろう。

くるっーーと。バレエのダンサーのように優雅な動きでアリアは振り返った。

小さな身体を夕日に染め、その容姿も相まってか幻想的な雰囲気を漂わせる。

 

しゃらり。

 

長いツインテールが、優美な曲線を描きながらその動きを追う。その一連の動きは、全くの無駄がなくつい見とれてしまうような美しさをはらんでいた。可憐な妖精に出会ったような感覚を抱かせるが…次の一言でそれも全て吹っ飛んだ。

 

 

「ーーキンジ。あんた、あたしのドレイになりなさい!」

 

 

 

……

 

「………は?」

 

一瞬、何を言われたのか分からなくなった。その言葉が衝撃的だったのか口をポカンと開け呆然としてしまう。

聞き間違えか?ドレイになれと聞こえた気がするんだが…。

いや、聞き間違えてあってくれ…!!というより部屋入って第一声がそれはおかしいだろ!

 

「ほら! 飲み物ぐらいだしなさいよ! 無礼やつね!」

 

意味が分からず固まっているとアリアは飲み物を要求してくる始末。既にテーブルにつき、居座る気満々のようだ。

おい、無礼なやつはお前だろ…!だがこのままでは全く帰りそうにない。腹ただしいが飲み物だけ飲ませて強制的に帰らせよう。

 

「はぁ…ちょっと待ってろ」

 

渋々ながらもキッチンへと向かう。ゴソゴソと棚を漁るとインスタントコーヒーを発見した。最初は紅茶でも出してやろうと思ったが…家には激安スーパーで買ったこのインスタントコーヒーしかない。しかもかなり年季が入っているものだ。まあ飲めればいいか。大して味なんてわからんだろ。

元を入れた白い二つのマグカップにお湯を注ぐと、湯気と共に苦味を感じさせるようなコーヒー独特の香りが辺りに漂う。俺は基本ブラックしか飲まんが、念の為ミルクと砂糖も持っていこう。キレられても面倒だしな。コーヒーが溢れないよう慎重にリビングへと運び、すっと、片方をアリアに差し出した。

 

「?ねえ、これって本当にコーヒーなの?」

 

どうやらアリアはインスタントコーヒーの存在を知らないらしい。

鼻を近づけふんふんしながら首を傾げている。匂いなんかインスタントだろうが豆だろうがそう変わらんだろ。

 

「それ飲んだら帰れよ」

 

早く帰れとの思いを込めながら睨むも、アリアはどこ吹く風。全く意に返さない様子だ。

 

「そのうちね」

 

そのうちって何だよ。俺は早く休みたいんだが。

一向に帰ろうとしないアリアに頭痛がし、額を抑える。

 

「はぁ…んで何しにきた」

 

しょうがないが情報を得る事に専念しよう。

恐らくアリアは納得するまでは帰らん。なんの情報もない今では後手後手もいいとこだ。とりあえず情報を引き出そう。

 

「さっき言ったでしょ。あたしのドレイになりなさい」

 

赤紫色(カメリア)の瞳で俺を見つめながら、もう一度はっきりと宣言する。

 

(聞き間違えであってほしかったが…)

 

今の時代でドレイなんて言葉が聞けるとは思ってもみなかった。

いったい、いつの時代に生きてる人間なんだ。今は平成だぞ。

 

「…そのドレイってのはなんだよ。どういう意味だ。」

 

「あんたそんなこともわかんないの?」

 

「分かるか。いきなりドレイって言われて気づくやつのかおかしいだろ」

 

察する奴のがおかしい。もしわかったやつがいれば、そいつには病院に行く事をお勧めする。

 

「んーあんたならもう分かってると思ったんだけど…まあいいわ。あんた強襲科(アサルト)であたしのパーティーに入りなさい。そこで一緒に武偵活動するの」

 

つまり俺とパーティー組んで武偵活動をしたいってことか。アリアの中ではドレイ=パートナーって認識らしい。

 

(最初からそう言えよ…)

 

こいつの遠回しな表現には頭痛がするが、要件は分かった。だがーー

 

「断る」

 

俺の答えは決まっている。というか何で会ったばかりのやつと組まなきゃならんのだ。あと口調を直してから出直してこい。

 

「だいたいお前、ロンドン武偵局に居たんだろうが。何でそこでパートナーを見つけずにわざわざ東京まで来る必要があるんだよ」

 

アリアが転科する前に所属していたのはロンドン武偵局。そこは武偵の実力が他の地域よりも突出しており桁違いに高い。

武装探偵、略して武偵はイギリスの有名な探偵シャーロック・ホームズを基本として作られた。

そのためかシャーロック・ホームズに憧れを持ち、彼の出身地で活動をしたいと望む武偵は数多く存在する。そうなれば当然、皆憧れの地である英国を目指すことになる。その結果、日本だけでなくアメリカ、ロシア、中国、フランス、ドイツといった主要国など世界中から実力のある武偵が英国へと集うのだ。

ただその分英国内での争いも熾烈になるため、ドンパチの絶えないという悪名で有名なのがロンドン武偵局である。必然だが…争いには勝者と敗者が存在し、勝者はその場に残り、敗者は自国へと帰国する。つまり一部の玉、武偵のエリートの中のエリートしか残らないため、実力が桁違いに高い。それと比較すると東京武偵高はまだ出来たばかりで歴史が浅い。教務科(マスターズ)教師陣(バケモノ)連中の実力はともかく、生徒の平均的な実力には天と地ほどの差があるだろう。一欠片の金を探すのに金の鉱脈を捨てて砂漠に来たようなもんだ。

 

「そんなこと別にいいじゃない。今はあんたよ」

 

「いいわけあるか、そもそも何で俺なんだよ」

 

「太陽は何で昇る? 月はなぜ輝く?」

 

こいつ会話する気あるのか?

だが…このセリフは聞いたことがあるぞ。確かアメリカのアクション映画『ハイランダー』のワンシーンで出てきたフレーズ、その日本語訳版だ。

 

「ってまて、何で今そのセリフが出てくる」

 

「キンジは質問ばかりの子供みたい。仮にも武偵なら自分で情報を集めて推理してみなさい」

 

ダメだ。こいつとは会話のキャッチボールすらままならん。ピッチングマシーンのようにぼこぼこ自分の言葉を投げてくるだけだ。

 

「はぁ…今日は疲れてんだ。とりあえず明日また聞いてやる、帰れ」

 

疲れが酷い中、アリアの対応なんかしてられん。めんどくさいので、明日に持ち越してうやむやにしちまおう。翌日に持ち越すことで時間的な猶予を作り、これ自体を回避する作戦だ。

アリアには時間稼ぎにしかならんだろうが今は休む時間が欲しい。だがーー

 

「嫌よ。キンジが強襲科(アサルト)であたしのパーティーに入るって言うまで帰らないわ」

 

そういうだけでどこ吹く風。足を組み、何処ぞの貴族様のような振る舞いである。なんつー態度だ。

 

「それとあたしには嫌いな言葉があるわ。『ムリ』『疲れた』『面倒くさい』。この言葉は、人間の持つ無限の可能性を押し留める良くない言葉よ。あたしの前では二度と言わないこと。いいわね?」

 

こいつのポジティブ差には見習うところがあるがこの発言は無茶だろ…。逃げることを許されない人間なんぞどこかで破綻するぞ。

 

「なんでもいいが…何と言おうと入らんからな」

 

「何がなんでも入ってもらうわ。私には時間がないの。うんと言わないならーー」

 

「言わねーよ。なら?どうするつもりだ。やってみろ」

 

アリアがもし暴れたとしても恐らく抑えることはできるだろう。女子は極力相手にしたくはないがその場合はしかたない。というか武偵がはいはいと相手の要求を飲むわけないだろ。仮にも元強襲科(アサルト)だ。バレれば蘭豹にボコられかねん。

 

 

「ーー()()()()()()()()

 

 

ーーは!?

その言葉に俺の頰が、痙攣を起こしたかのように引き攣る。

 

「お、おいッ!ちょっと待て!そんなのダメに決まってるだろ!今すぐ帰れ!」

 

一瞬、驚きすぎて頭が真っ白になったが再起動を果たす。男子寮に女子が訪ねることすらタブーなのに、泊まっていくなど言語道断だ。教務科(マスターズ)の連中にバレれば俺の命はないっ。というかこっちは女子と一緒にいたくないんだよ…!

 

「うるさい! 泊まっていくったら泊まっていくから! 長期戦になる事態も想定済よ!」

 

びしっ!と俺が運び込んだトランクを指差し、キレ気味に叫んでくる。

 

(やけに重たいと思ったが、最初から宿泊する気だったのか…!)

 

「んなの認められるかッ!早く帰れ!」

 

「いーやーよ!あんたがパーティーに入るって言うまで帰らない!」

 

 

ーーどったんバッタン。

 

 

アリアを追い返そうと取っ組み合いになるが、なんとか捕獲に成功する。痛ッ!おい、噛むな!お前は小ライオンか!

掴んでいる腕を犬歯で噛まれつい離してしまうが、今度は猫のようにセーラー服の首根っこの部分を掴みトランクとともに引きずっていく。

 

「っておいッ!扉から手を離せ!」

 

「ッーー!入るって言うまで絶対離さないから!」

 

アリアはリビングの扉にしがみついて離れない。こいつどんな力してんだ…!両手で引っ張っても剥がれないぞ!

ガッチリと扉の取っ手部分を掴んでおり引き剥がすのは至難の技。一度手を離せば恐らく逃げ回られ余計事態が悪化する。引っ張ってもビクともしないが、これは根気比べた…!

お互いがお互いに必死になっているとーー

 

 

……ピン、ポーン……

 

 

場違いな()()()()、ドアチャイムの音。

ま、まさか…!ブワッと俺の全身に冷や汗が滲む。

嫌な予感しかしない、だがこの鳴らし方は()()()だけだ…!

あまりの展開についアリアから手を離してしまう。しかしお互いに全力で引っ張り合っていた場合に手を離せばどうなるかはーー明らかだろう。

 

「ミキャッ!!?」

 

「う、うおっ!?」

 

ゴン!?と盛大な音を鳴らしながらアリアは勢いよく扉に激突。

俺はゴロンゴロンと後ろに転がってしまった。後頭部を打ったせいで目がチカチカする…!

 

「キ……キンちゃん!?どうしたの大丈夫!?」

 

あまりにも響いた音がデカすぎたため、ドアの外から白雪の心配するような声が。というかやっぱり白雪だった。

 

「ッー!だ、大丈夫だ」

 

アリアは扉にぶつかった影響で目を回している。よしっ!好都合だ!

未だにフラフラするがなんとか平静を装ってドアを開くとーー巫女装束に身を包み何かを抱えている白雪がいた。

 

「ど、どうしたんだ。そんなカッコで」

 

「あっ…これ、あのね。私、授業で遅くなっちゃって……明日から恐山の合宿でキンちゃんにご飯作ってあげられなくなるから……今日はキンちゃんにお夕飯を作ってすぐ届けようって…それで、その着替えないで来ちゃったの……キ、キンちゃんが嫌だったらすぐセーラー服に着替えてくるからっ」

 

そう言いながら不安そうな表情を浮かべ俺を見つめてくる。

いかん、ほっといたら本気で着替えにいきかねん。

 

「いや別にそのままでいいからっ」

 

「そのままでいいって…キ、キンちゃんはこういうカッコウのがす、すすす好きなの?」

 

何を勘違いしたのか、モジモジしながら上目遣いでそう言ってきた。

お前は何を言っているんだ。だかその時白雪が前屈みになるもんだから胸元が少しはだけ、超弩級戦艦並みの白雪の豊満な胸が見えてしまった。余談だが巫女装束は比較的に脱がし易い構造をしている。…そんな余計なことを考えてしまったせいかーードクン。一瞬ヒステリア性の血流を感じてしまう。い、いかんッ!

 

「そのまま、そのままがいいから早く姿勢を戻せっ」

 

「キ、キンちゃん……!!!」

 

慌てて視線をずらし事なきを得るが焦りすぎて反射的に発言してしまった。大切な何かを失った気がするが…白雪は嬉しそうにしているので、深く考えないようにしよう。とりあえず今はこの状況をどうにかするのが先決だ…!

 

「そ、それで用事は何だよ?」

 

とにかく本当に早く追い払わないとマズイ。アリアが自宅にいる姿を見られてしまえば白雪が暴走しかねんぞ…!

白雪は1年の頃から俺の側に女子がいると、何故かその女子に襲い掛かるという性質を持つ。ついでに俺も巻き込まれるため、普段は優しく安全な側面を持つが場合によっては非常に危険でやっかいな存在になるのである。

記憶に新しいのが強襲科(アサルト)時代の出来事だ。神奈川武偵中からインターンでやってきた風魔が修行と称して俺に付きっきりになり離れないときがあった。その姿を見た白雪はなぜか暴走し、刀を振り回しながら風魔に襲いかかった。そのおかげで風魔は白雪恐怖症になってしまい、しばらくは酷い有様だったな。その上俺も巻き込まれ、全治1週間の怪我をおう始末。今回は絶対に同じ轍を踏むわけにいかん…!!

 

「あ、あのね。こ、これ!」

 

白雪は目をギュッと閉じ、持っていた包みを俺に差し出してくる。

おい、前屈みになるんじゃないっ!

 

「タケノコごはん、今が旬だから…お夕飯に作ってみたの。」

 

「そ、そうか、ありがとうな。よしっ、これで用事は済んだよな。さあ、今日は帰ろう。な?」

 

俺が包みを受け取るとーーぽわっと。頰を桜色に染めながら、嬉しそうに顔を綻ばせる。

満開の桜が咲いたかのような笑顔を浮かべ、幸せそうにしている。飯渡したくらいで何がそこまで嬉しいのやら。

 

「お夕飯を届けるなんて、わ、わたし、キンちゃんのお嫁さんみたいだね…あはは、わ、私ったら何言ってるんだろ。…き、キンちゃんはどう思う?」

 

頰に手を当てチラチラと俺を見てくる。何か期待しているような視線だがそんなことは気にしていられん。というか近づいてくるなッ!近づいてきた白雪から何とか逃げるためつい焦り気味に返す。

 

「わかった!わかりましたから早くお引き取りください白雪さん!」

 

「それって、キ、キンちゃん…!私、お、お嫁さん…」

 

白雪が感激したかのように顔を上げる。だが背後から恐れていた事態が起きつつある。気配でわかった。目を回していたアリアが復活したようだ。まずい…!

 

「いったいわねッ!!!!」

「あーーーーー!!!!」

 

復活したアリアがキレながら声を上げたか、何とか俺も叫び声を上げアリアの声が白雪に届かないように阻止する。

 

「きゃ!ど、どうしたのキンちゃん?」

 

突然の俺の奇行に驚いたがーーよしッ!俺の声で白雪にはアリアの声は聞こえなかったみたいだ。だがこの状況、一刻を争う。

中ではアリアが扉に対し、ゲシゲシと蹴りを入れていた。俺よりも目の前にある扉にイラついたのか八つ当たりしているようだ。だがこのままでは部屋を破壊されかねん。現に周辺にはヒビやら色々と破片が散らばっている。怒りが頂点に達すればいつか拳銃を発砲しかねんぞ…!そうなれば破滅の道だ。怒り狂った白雪が俺ごとアリアを始末しかねん。しかも芋づる式で教務科(マスターズ)にバレる。それだけは何とか避けねば!

 

「? 中に誰かいるの?」

 

「い、いないいない!誰もいないから!」

 

物音が聞こえたからか白雪が勘ぐり始めている。い、いかん!

 

「し、白雪!ちょっと渡したい物があるから待っててくれ!」

 

何とかするために急場凌ぎでそう言うと返事も聞かずにドアをしめる。

時間はできた。とりあえずアリアを何とかせねば。

未だにフラフラしながらも扉に八つ当たり中のアリアに声をかける。

 

「アリア!!」

 

「何よッ!あ、あんた!さっきはよくもやってくれたわね!」

 

「悪かった!それは謝る!だから頼む…!頼むから静かにしててくれ…!」

 

謝罪とともに俺の願いを口にする。

頼む…!俺とお前の命がかかってるんだ…!

 

「何でよ!あんたがパーティーに入るって言うまで黙らないから!」

 

だがアリアは俺の決死の説得にも頑なに黙ろうとしない。

あーくそっ!だが背に腹は変えられん…!!

 

「だー!わかった!わかったって!自由履修って形なら強襲科(アサルト)に戻って、パーティーに入ってやるから!」

 

「ほんとうでしょうね!嘘だったら風穴よ!」

 

現在の俺を助けるために未来の俺を犠牲にしたが、そのかいあって何とか黙らせることに成功する。だがしかし、表にはまだ白雪が残っている。

 

(どうするどうするどうする…!!!)

 

生と死の狭間にいるため、今までになく頭が回転する。だがいい手が思いつかない。このままでは破滅まっしぐらだ…!

悩みポケットに手を突っ込んだとき指先にベレッタの9mm弾(ルガー)があたった。整備するときにベレッタから抜いて入れっぱなしにしていたものだ。その瞬間、天啓が降りたかのように頭に閃きが走る。

 

(生き延びるためにはこれしかないッ!)

 

9mm弾(ルガー)を手に白雪が待つ玄関へと向かう。

アリアは状況がわかっていないのが首を傾げているが、俺の鬼気迫る様子に気づいたのだろう。俺の願い通り黙っていてくれている。

 

「わ、悪い白雪。待たせたな」

 

冷や汗でびっしょりだが悟らせるわけにはいかん。

待たせてしまった白雪に何事もなかったかのように言うが…白雪の様子がおかしい。顔をうつむかせている。

 

「……ねえ、キンちゃん。私に、何か隠してることない?」

 

白雪はゆっくりと顔を上げ、ハイライトがオフになった目かつ無表情で問いかけてくる。

ひいッ…!危うく悲鳴を漏らすとこであったが何とか押しとどめる。

 

「ない!ないないないない!白雪に隠し事なんて絶対にありあ、じゃない、ありえねーから!」

 

即座に否定するが怪しまれている。このままでは部屋に突入しかねん。好機(チャンス)は今しかない…!

 

「し、白雪。これを俺だと思って持っていってくれ」

 

そう言いながら白魚(シラウオ)のような穢れひとつない白雪の手を取り、握りしめていた9mm弾(ルガー)をそっと押し付ける。

 

「キ、キンちゃん?これって…」

 

「御守りがわりだっ。お前が合宿でも無事なようにな」

 

いきなり実弾を渡してくるやつなんぞ、普通の奴なら頭がおかしいと思うだろう。だが相手は白雪。これまで何を渡してきたとしても喜んできたやつだ。その場凌ぎだが実弾でもなんとかなるはず…!

 

「キンちゃん…!!そんなに私のことを想って…!!」

 

涙ぐみながら俺が渡した9mm弾(ルガー)を握りしめ、手を胸元に抱き寄せている。ただの実弾に何故こうなるのかは不明だが…作戦は成功したようだ。

 

「キンちゃん…私頑張って、頑張ってくるからね!」

 

「あ、ああ、頑張ってこいよ」

 

そして暫くは帰ってこないでくれ。そんな俺の願いも知らずにニコッ。

春風みたいに爽やかな笑顔を作ると、ようやく背を向けてくれた。

そのまま白雪を見送ると玄関に座り込んでしまった。なんとか前門の虎が片付いたぞ。だがまだ後門の狼ならぬ子ライオンが残っている。

うかうか休んでもいられない。俺は立ち上がるとアリアが待つリビングへ戻る。タケノコごはんは玄関に置いておこう。

 

ーーガチャ。

 

ドアを開けると先程の慌てようが嘘のように優雅にソファに座っていた。アリアめ、俺がこんな状況だってのに…!

 

「確認よ。さっき言ってたことは本当でしょうね? もし嘘だったら風穴開けるわよ」

 

そんなことをアリアは問いかけてくる。

嘘にしてくれたらどれだけいいのだろうか。だが一度口にしてしまったものを取り消すことはできん。覚悟を決めるしかない。

 

「あー、くそ…。嘘じゃねえよ。ただし条件がある」

 

後から条件を付け足すのは反則ではあるが、アリアの要求はほぼ達成されている。条件をつけてもバチはあたるまい。

 

「ものによるわ。その条件って何よ」

 

「とりあえず1週間だ。1週間パーティーを組んでお互いの息が合うか確かめるってのはどうだ」

 

期限を設けることでこのパーティーが仮であることを意識させる。仮であればまだ解消が効くからな。ある程度任務(クエスト)をこなし、お互いの息が、合わないと感じれば解放される筈だ…!

 

「んーしょうがないわね。私もキンジの実力は確認しときたいし…もしもの保険は必要かしら。いいわ、その条件で」

 

アリアは多少しぶりながらも俺の譲歩案に乗ってくれたようだ。よし。これで一旦は解放されるぞ!

 

「それじゃあ、今日はもういいだろ。とりあえず帰れ」

 

「いいわ。約束どおり出て行ってあげる。た・だ・し仮とはいえパートナーよ。また来るから」

 

そう言って目的が達成できたかのような晴れやかな笑顔で、女子寮へ帰っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さまにお願いがあります!
もし緋弾のアリアAAに詳しい方がいましたら、感想欄で教えて頂きたいです!
時系列やイベント、各キャラの口調、悩み事、裏設定などをぜひお願いします!自分でもネットやアニメで調べてはいるのですが、曖昧な部分が多くて少々苦戦しています……( ˆ꒳ˆ; )
出来れば違和感のないように進めていきたいので、どうかよろしくお願いします!


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8.

第8話です!
遅くなってしまいごめんなさい(´°꒳°`)
色々と忙しくてなかなか書く時間が取れなかったです。
若干短いですが、モチベーションを再び上げていくために暖かい目で見てもらえると嬉しいです°˖✧(⁎ᵕᴗᵕ⁎)


ーーピピピピ。

 

 

設定した目覚ましのアラームで目が覚める。窓から暖かな太陽の光が身体を照らし意識をクリアにさせていく。

 

(昨日はエライ目にあったな…)

 

アリアの帰宅後、限界を迎えたのか泥のように眠ってしまった。ま、睡眠である程度は回復できたな。若干身体が重たいが昨日よりはマシだ。身体を起こし、ポキポキと骨を鳴らしながら寝室を出る。

 

 

ーーピンポンピンポーン

 

 

シャワーを浴び、欠伸をしながら呑気に着替えていると、ドアチャイムが鳴った。

まさか…!嫌な予感が頭をよぎり、ドタバタと急いで玄関へ向かう。ガチャリとゆっくり扉を開くと嫌な予感通り、アリアが仁王立ちで立っていた。おい、またかよ…!!

 

「今日は早いわね。いい心がけよ。この調子で続けなさい」

 

「お前なんでまたいるんだよ…!」

 

「昨日言ったじゃない。また来るわって。バカキンジが逃げないように監視にきたのよ」

 

「翌日の朝に来るとは普通思わんだろ…」

 

白雪もだが朝から男子寮を尋ねるのはやめてほしい。教務科(マスターズ)にバレれば俺の命がない。

 

「そんなことより、ほら、早く準備しなさい!あたしが遅れるでしょ!」

 

全然よくない。なんだこの傍若無人な生物は。というか勝手に来ておいて遅刻の心配ってどういうことだ!

 

「まだ7時じゃねーか…。朝くらいゆっくりさせてくれ」

 

「つべこべ言わない!あたしが準備しろって言ったら準備するの!バカキンジの分際で口答えなんて生意気よ!」

 

がすっと!腹にいきなりハンマーパンチを入れられるそうになるが、片手でとめる。危なっ、相変わらず暴力の化身みたいなやつだな。

 

「あー、もうわかったから、頼むから大人しくしてろ」

 

だがアリアは止められたのが気に食わないらしい。顔を真っ赤にしながらぶんぶんパンチを振り回してくる。それらをヒョイヒョイと軽くかわし、アリアを放置して部屋へ戻る。

 

「避けるんじゃないわよ!」

 

「好きこのんで当たりに行くわけないだろ…」

 

付いてきながらもアリアは未だ諦めずに襲いかかっくる。ぎゃあぎゃあ煩いアリアの手足を避け、止め、軽く受け流しながら、携帯やら拳銃やらを身につけ、椅子に置いてある鞄を掴む。

 

(朝飯は向こうで食うしかないか…)

 

この調子では落ち付いて飯を食うこともできん。

ぶん! と勢いよく繰り出されたハイキックを玄関でしゃがんで躱し、靴を履く。

 

「アリア」

 

みゃうー! となおパンチに混じりキックを繰り出し始めたアリアの、たまご肌のおでこを振り返りながら手でおさえる。ぐいっと奥に押し込むと、アリアの攻撃は手のリーチ差で空を切るばかり。完全に子供をあやしている構図だ。

 

「なによっ」

 

手が届かない上、俺に攻撃がかすりもしないため若干不機嫌だ。むーとハムスターのみたいにふくれっ面になりながら俺を睨みつけ見上げてくる。黙ってれば可愛いんだがな…。

 

「お前、先にでろ。登校するのはいいが時間はずらすぞ」

 

早い時間であるため人目は少ないだろうが…後々、確実に面倒な事態になるな。特に噂が広まり白雪の耳に入った場合がヤバイ。俺は逃亡生活を余儀なくされてしまう…!

 

「なんでよ」

 

大人しくなったため解放してやったアリアが、身嗜みを整えながら問い掛けてくる。こいつ自分のいる場所がわかってないのか?

 

「なんでも何も。お前、自分がいる場所を忘れてるだろ。ここは男子寮だ。朝早くに俺とお前が並んで出てってみろ。見つかれば確実に面倒なことになるぞ」

 

「嫌よ。あんた上手いこといって逃げるつもりね」

 

「同じクラスなうえ隣の席だぞ。どうやって逃げるんだ」

 

今逃げても結局は教室で顔を合わせることになる。そうなれば再び教室で騒ぎ出し、昨日の再来となるだろう。2日連続でその事態は勘弁してほしい。俺の身がもたん。アリアはむうと、唸りながら考えこんでいる。もうひと押しだな。

 

「仮とはいえパートナーにはなったんだ。逃げやしねーよ、男に二言はない」

 

「ぐぬぬぬ…!わかったわよ!先に出ればいいんでしょ!バカキンジ、逃げれば風穴あけるわよ!」

 

ガウっと犬歯を剥き出しにしながら、子ライオンのように叫ぶ。思い通りにいかないため不機嫌そうだが、納得はしてくれたようだ。バンっと玄関をあけ、ドシドシと地面を踏み荒らしながら部屋を出て行く。あいつまだ早朝だってこと忘れてんじゃないだろうな…?

 

(これが毎日続く可能性があるのか…)

 

その事実に頭が痛くなるが、しのごの言ってられん。はぁ…と深い溜息をつきながらも、1週間の辛抱だと自分に言い聞かせる。腕時計を確認し、キッチリ1分後に俺も部屋を後にするのであった。

 

 

 

 

(散々な目にあった…)

 

アリアの奴め。休み時間まで拘束しようとすんのは勘弁してくれよ。理子と武藤が煩くてかなわん。あいつらは日頃の怨みを込めて制裁しといたが…ここ数日のアリア襲来によって俺の日常はブっ壊されつつある。既に仮パートナーになった時点で手遅れな気がするが、何としても平穏な日常を取り戻さなければならん。がしかし、今はアリアより重大な問題に直面している。

 

(とりあえずアリアのことは忘れよう)

 

頭の中からアリアのことを抹消しつつ、俺は探偵科(インケスタ)の専門棟にある依頼掲示板(クエストボード)の前で手頃な依頼(クエスト)を物色していた。理由はただ一つ、金欠である。

 

「何とか弾代くらいは稼がんとな…」

 

武偵高では一限目から四限目まで普通の高校と同じように一般科目の授業を行い、五限目以降、それぞれの専門科目に分かれて実習を行う。大抵はその時間帯かその後に依頼(クエスト)を受けるのだが、探偵科(インケスタ)に転科以降、俺はほとんど受けていない。その時間帯は全て爺ちゃんとの鍛錬に当てていたからな。

今まで生活できていたのは強襲科(アサルト)時代で貯めた貯蓄のおかげだ。その頃はSランクに認定されていたため、授業そっちのけで戦闘に駆り出され、何度も死に目にあった。言わずもがなSランクが招集される依頼(クエスト)なんぞ、危険なものばかりだが報酬はその分破格。おかげでそこいらの武偵よりは稼げていた。その貯蓄が今や風前のともし火…!弾代どころか明日の飯すら危うくなりそうな状況である。

 

(探偵科(インケスタ)らしい任務(クエスト)は…)

 

『青海の猫探し』

単位:0.1 報酬:1万円 必要ランク:Eランク以上

 

「これにするか」

 

そう言いながら貼られている用紙を剥がす。

報酬がいい依頼(クエスト)は他にいくつかあったが…今の俺にはこれくらいしか受けられん。まあ、ランクが足らんからしょうがないな。

依頼(クエスト)にも当たり前だが難易度が存在し、必要ランクが足りなければ受けることができない。低ランク武偵が高ランク依頼(クエスト)で死亡や失敗、逆に高ランク武偵が低ランク依頼(クエスト)での荒らしなど、過去にそう行った行為が横行したため、それらを防ぐための措置である。俺は探偵科(インケスタ)ではEランクに格付けされており、必然的に制限がかかる状態だ。がしかし、例外もある。

 

(強襲科(アサルト)で受けるのは最終手段だな…)

 

俺のように転科した生徒に関してはこのルールが期限付きで除外される。ただ転科する前に所属していた専門科での依頼(クエスト)にしか適用されず、ランクも一段下がる扱いになるため、利用する人は少ない。ま、俺も積極的に使う気はない。あくまでも最終手段だ。探偵科(インケスタ)で探偵術を磨くために転科したのに、強襲科(アサルト)依頼(クエスト)を受けるのは本末転倒だしな。

 

(鬼の居ぬ間になんとやら、触らぬアリアに祟りなしってな)

 

手続きを終え、若干浮かれながら校門へと向かう。

アリアには自由履修で強襲科(アサルト)に戻るとは言ったがいつ戻るかまでは言っていない。約束した手前呼び出されれば潔く従うがその前ならば自由だ。今のうちに依頼(クエスト)を受け、郊外に出て仕舞えば手出しはできないはず。さらに単位がもらえる上に報酬もでる。一石二鳥ならぬ一石三鳥だ…!

 

「キーンジ」

 

意気揚々と校門をくぐると、今は聞きたくない声が耳に入ってきた。反射的に体がビシッと石のように固まり、その場に固定されてしまう。

 

(こ、この声は…ッ!!)

 

恐る恐る振り返るとーー待ち伏せしていたであろう()()()がいた。あまりのショックに膝から崩れ落ちてしまう。くそっ出鼻をくじかれた…!!

 

「なんでお前がここにいるんだよ…」

 

「あんたがここにいるからよ」

 

おい、全く答えになってないだろ。当初の計画が始まる前から頓挫という事実に気が遠くなり頭を抱え込んでしまう。だが…見つかった以上潔く諦めるしかない。

 

「で、今日はどんな依頼(クエスト)を受けたの」

 

「はあ…Eランク武偵にお似合いの簡単な依頼だよ」

 

「あんた、いまEランクなの?」

 

アリアは俺がEランクということが信じられないらしい。赤紫色(カメリア)の瞳に驚きの感情を映しながら首を傾げている。事実であるため反論のしようがないな。

 

「ああ。1年3学期の期末試験を受けてなかったからな」

 

「ふーん、まあランクなんてどうでもいいわ。私の目に留まったことが重要なの。それより、さっき受けた依頼(クエスト)を早く教えなさい」

 

「…まさか付いてくる気じゃないだろうな?」

 

「付いていくに決まってるじゃない。私たちは仮とはいえパートナーよ。行動を共にするのは当たり前だわ」

 

「お前、パートナーの定義を拡大解釈してると思うぞ。依頼(クエスト)の共有は推奨はされてるが絶対じゃない」

 

「いいから早く教えなさい。風穴開けるわよ」

 

焦れたアリアが拳銃に手をかける。無視を決め込みたいが、こいつは教室で発砲したという前科がある。放置しておくと、確実に撃つだろう。

 

「…今日は猫探しだ」

 

「猫探し?」

 

「青海に迷子の猫を探しにいくんだよ。報酬は1万。0.1単位分の依頼だ」

 

こいつに隠し続けても現状デメリットしかない。正直に話し、興味をなくさせるのが吉だろう。

 

「そう、いいわ。それじゃあ、あんたの武偵活動を見せてもらうから」

 

そう言いながら、歩き出した俺の横にピッタリとついてくる。

ダメか…。興味を失うどころか付いてくる気満々である。

 

「はあ…ついてきても時間の無駄だと思うぞ。あと報酬は分けんからな」

 

「それを決めるのはあたしよ。報酬もいらないわ。そのくらいな直ぐに稼げるもの」

 

若干アリアの発言にイラッとしたが、対応するのがめんどくさい。ただでさえ周囲の奴らから白い目で見られてるってのに、余計悪化しかねん。これ以上騒がれるのも嫌だったため、仕方なしにアリアを引き連れたまま青海へと移動するのであった。

 

 

 

 




アンケートの結果から佐々木志乃と島麒麟もヒロインに加えたいて思います!可能な限りキャラ崩壊や違和感なくしていきますので、よろしくお願いします!

PS.緋色の弾丸と聞いて緋弾のアリアかな?って思って嬉しくなりましたが、コナンの新作映画がでした笑
コナンの映画も毎年観ているので、楽しみたいと思います!


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9.

更新が遅くなってごめんなさい( ;˙꒳˙;)
最近特に忙しくなってしまい、中々執筆する時間がとれませんでした…
大変な時期ですが、今だからこそ更新を頑張りたいと思います!
外出を自粛してくだった皆様への娯楽となりますように。



青海駅の構内は多くの人で賑わっていた。観光のため、ショッピングのため、各々がそれぞれの目的を持ち、楽しそうに喋りながら歩いている。

 

(かつて倉庫街だったとは思えんな…)

 

というのもここ青海地区は都市計画により再開発され、今や億ションやハイソなブティックなどが建ち並ぶオシャレな街だ。日本でも特徴的で有名なフジテレビ湾岸スタジオやガンダムがあるのもこの地区である。人混みが苦手な俺にとっては居心地が悪い場所だ。

 

「で、猫探しっていうけど、あんたどうやって探すのよ」

 

綺麗に舗装された道を横並びで歩いていると、アリアが声をかけてきた。

 

「別に。普通に情報を集めてしらみつぶしに探すだけだ」

 

基本的に探偵科(インケスタ)の活動は地味だ。自身の肉体で情報を収集、頭脳を駆使し、それらを元に推理していく。ま、簡単に言えばドラマに出てくる刑事(デカ)みたいなもんだな。戦闘一辺倒だった強襲科(アサルト)とは180°真逆の活動である。

 

「ふーん。あんたならパパッと見つけられると思ったけど」

 

 

「そんな訳ないだろ…。俺は精々Cランク程度の力しかない」

 

ヒステリアモード時ならいざ知らず、通常モードじゃせいぜいそのぐらいだ。これでも3学期から転科した身としては伸びた方だぞ。

 

「そ。まあ、キンジが推理できるのは僥倖ね。わたしと前衛(フロント)でもいいけど、支援(サポート)もありかしら。パーティの幅が広がるわ」

 

ピンと立てた指を唇に当て、首を傾げながらそう呟いた。いつの間にか今後の戦闘配置(ポジション)まで決め始めたようだ。おい、まだ仮パーティーだってこと忘れてんじゃないだろうな。

 

「なんだお前、推理は苦手なのか」

 

「ニガテよ。1番の特徴が遺伝しなかったのよねえ」

 

身長差から俺を上目遣いに見ながら、唇を尖らせつまらなそうに言った。

 

(特徴…?)

 

何のことかは分からんが、強襲科(アサルト)は教師を含めたほぼ全員が脳筋。暴力の化身みたいなアリアが苦手ってのも頷けなくはないか。ただ妙に感が鋭いんだよなーコイツ。

 

(ま、一つ苦手なものが分かったのは収穫か)

 

現在の対アリア戦線は敗北の連続によりキンジ軍は既に死に体。連邦の白い悪魔ならぬピンク色の悪魔が猛威を奮い、このままでは敗戦しそうな勢いだ。首の皮が一枚繋がっているが、まさに体のないジオング状態である。ここから巻き返しを図るためにはアリアのことを詳しく知らねばならん。秘策として()()にも調査を依頼したしな。恐らく今日か明日には情報が出揃うだろ。

 

「ねえ、おなかへった」

 

脳内で今後の対アリアの作戦を練っていると、横からそんな声がかけられた。腹減ったって…。

 

「さっき昼休みだったろ。お前メシ食わなかったのかよ」

 

「食べたけどへったのっ」

 

そう言いながら地面を一度どゲシッと蹴り、ギロリと睨みつけてくる。

 

(燃費の悪いやつだな…)

 

コイツのどこにそんなエネルギーがいくのか甚だ疑問である。

 

「なんかおごって」

 

「自分で買えよ…」

 

どうやらアリアはお腹が空くと短気になるらしい。ギロリと俺を睨みつけ、今にも暴れ出しそうな勢いだ。このまま放置しておくと街中で発砲しかねんぞ…!

 

「はあ…ちょっと待ってろ」

 

深い溜息が漏れてしまったが、これも周囲の安全のため。懐具合が心配だがしょうがないか。どのみち依頼(クエスト)の為に情報収集が必要だったしな。どっかで休みながら調べることにしよう。

 

 

 

 

 

 

「ほら」

 

アリアを引き連れ道の反対側にあった公園に入ると、適当なベンチに座りながらマックの袋を手渡す。

 

「ん、ありがと」

 

俺が買ってきたマックを嬉しそうな顔で受け取ると、そのままどしんと隣に座ってきた。

その際にひらり。と武偵高の赤いスカートがひらめき、太もものホルスターが一瞬見えた。この現象はパンチラならぬガンチラ。車輌科(ロジ)の武藤が名付けたものである。

こいつのなりが小学生みたいであるため、ヒステリア性の血流が起こる心配はないが、油断は大敵だ。

女子ってのはどこに爆弾が潜んでいるか分からんからな…。

 

「ん〜」

 

(にしても美味そうに食うな…)

 

だがまあ、アリアが大人しくしてる今がチャンスか。

モグモグと肉肉しいハンバーガーを美味そうに頬張っているアリアを横目に、俺はコーラを飲みながら携帯を使い情報科(インフォルマ)の専用掲示板から情報収集していた。

ここは情報収集の際に多くの武偵が閲覧し、利用する場所の一つだ。情報科(インフォルマ)という学科名から分かるようにこの学科は主に情報を扱う。手段の合法、違法問わず、日常茶飯事的に国内外から情報収集を行っており、集まった様々なデータをストックしてあるのがここだ。内容は公開すれば政権を失う恐れもある各国政府の闇情報から都内のおススメスポットなど多種多様。中には役にたたん情報(もの)もあるが、恐らく俺の求める情報(もの)あるばず。

 

(お、あったあった)

 

お目当ての情報に辿り着いたため、ついつい顔が綻んでしまった。

ま、こんだけ集まれば十分か。パタンと携帯を閉じ、先程得た情報を元に絡みついた糸を解して行くように頭の中で推理していく。

ふむ…恐らくここらへんだな。

 

「それで、あんたの推理はまとまったの」

 

マックを食べ終えたらしいアリアがハンカチで口を吹きながら赤紫色(カメリア)の瞳をこちらへと向ける。

食べ物に夢中でこっちのことは後回しだと思ったが…案外コイツも考えて行動してたみたいだな。

俺は飲みさしのギガコーラをベンチに置き、アリアへと視線を向ける。

 

「ああ、おかげ様でな」

 

「そ、じゃああんたの推理を聴かせてもらおうかしら」

 

「…期待するような推理は出来んぞ」

 

「別にいいわよ。待ってあげてたんだから早くしなさい」

 

足を組み貴族のような振る舞いをしながら、こちらが話し出すのを待っている。おい、推理を聞くまでテコでも動かん気だぞ。さっさと解決しに行こうと思ったが無理そうだ。

 

(人に推理を聴かせるのも探偵術を高めるためには必要か…)

 

実際に探偵科(インケスタ)でも自身の推理を披露することは推奨されている。ドラマやアニメの中で探偵が推理を披露している姿を見た事があるだろう。一見、大袈裟に見えなくはないが、理にかなった行動だ。嘘や真実を入り混じらせ、対象に聴かせることにより相手の反応・仕草から情報を集める一種のテクニックだ。探偵科(インケスタ)でも授業内でそういった実習は行われているしな。

 

「はあ…まず猫の行動範囲ってのは大体100mくらいなんだよ。自由に動き回るから勘違いされてるが基本的に狭い範囲でしか行動しない。この迷い猫は目を離した隙に脱走したらしいからな。とすれば自宅を中心と考えて約1ヘクタールの範囲内に通常ならいるってのは予想できる。

ただ飼い主が自宅周辺を何度も探しても見つからなかったってことは、通常とは違うイレギュラーがあったってことだ」

 

「ふーん。で、そのイレギュラーってなによ」

 

「さっき掲示板でも確認したが、飼い主の自宅近くには野良猫の集落が複数あるんだよ。これはあくまでも予想でしか無いんだが…多分野良猫に追いかけ回されて逃げたってとこだな」

 

「それがイレギュラーってことね。んーけど追いかけ回されて逃げたのならどこいったかなんてわからないじゃない」

 

「ああ、普通ならな。いったろ複数の猫集落があるって。そこを避けて逃げ回ったんなら大体の居場所は特定できる。最悪のケースが無ければ、こっからもう少し先の水辺にいるはずだ」

 

「なら答え合わせね。早く行くわよ」

 

じゅるうううー。

話をしていて喉が乾いたのかベンチに置いてあったギガコーラを飲み干すと、ぴょんっとベンチから降りた。こいつ…。

 

「早く探しに行くのは賛成だがな。一言、言いたいことがある」

 

「なによ」

 

「それは俺のコーラだ」

 

げほっ!

飲み込んでしまったため大きく咳き込みながら、顔を真っ赤にさせている。その様子をじっと見ていたからかーー

 

「このヘンタイ!」

 

照れ隠しからいきなり殴りかかってきた。だが猛牛を避ける闘牛士さながら、ひらりと回避する。

おい、どう考えても理不尽な流れだろ。

 

 

 

 

 

 

推理したとおり、公園の端の水辺にて迷子の猫を見つけた。

にぃ、にぃ。

弱々しく鳴いていた子猫は依頼の資料にあった通りの特徴をしており、飼い猫の証であるちっちゃな鈴をつけていた。あの猫で間違いないだろう。

 

「おとなしくしてろよー…」

 

水辺にプカプカと浮かぶゴミ箱の中にいたため、動こうにもごけないみたいだ。恐らく逃げる過程で、勢いあまって入り込んだらしい。救出すべく、靴を脱ぎ、ザブザブと水辺に入る。

 

フー!

 

俺が猫を威嚇させないようにゆっくり近くと最後の力を振り絞るかのように声を上げ威嚇してきた。

うーむ…近くに近づけんな。ならばっと考え、ポケットからあるものを取り出す。その名もチャ◯チュール。どんな猫をも虜にすると言われる対猫用必殺兵器(リーサルウェポン)だ。ここに来る前に念の為買っておいたのが役立ちそうだぞ。

そっと差し出すと先程まで威嚇していたのが嘘のように中身をペロペロと舐め始めた。

 

(よし、これなら…)

 

子猫が夢中になっているうちにもう片方の手でガサゴソとゴミ箱を漁り、そっと猫を救出する。チャ◯チュール様様だな。

 

「やるじゃない」

 

「これくらい普通だろ」

 

土手に座り込んだアリアが声をかけてきたので、猫を抱き直しながらもぶっきらぼうに返す。

探偵科(インケスタ)の授業じゃ初歩的なレベルだ。初期の頃の俺なら苦労したかも知れんが、今なら出来て当たり前である。むしろ出来なければ高天原による特別補修を受けねばならん。これが蘭豹なら目も当てられない事態になっていただろう。考えるだけでも恐ろしいね。

水辺から上がり、身支度を整えるとそのまま依頼主の所へ向かうのだった。

 

 

 

 

「おにーさん、ありがとう!」

 

子猫を依頼主に手渡すと満面の笑みを浮かべ、優しく受け取ってくれた。安心したのか子猫はすや…と眠りにつき丸くなっている。

 

「もうはぐれるんじゃないぞ」

 

腰を落とし、少女の目線に合わせながらわしゃっと頭を軽く撫でる。

 

「うん!おにいさん、ありがとね!」

 

バイバーイと元気よく手を振りながら去っていく少女に苦笑しながらも、こちらも手をヒラヒラと振り返しておく。報酬としては大きくないが、こういった地道な活動は探偵科(インケスタ)では必要なことである。ま、今回も一件落着だな。

 

「やっぱりあたしの見込みどうりね」

 

依頼主とやり取りをしている姿を見たアリアが後ろからそう呟いた。

評価されたのは素直に喜べるが、こいつに評価されるということはその分真の自由から遠ざかる。やっちまった…。好感度を下げるどころか上げちまったぞ。

若干気落ちしながらも依頼達成の報告をしに、探偵科(インケスタ)の専門棟へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

報告後は特に問題もなくアリアと別れた。いつものようにしつこく付きまとってくると思ったが、用事があるとのことだ。どんな用事かは知らんが、ここまで感謝することはないだろう。

 

(これで理子の依頼料は大丈夫だな)

 

今は理子への依頼料を買いに帰り道のゲ◯に寄ったところだ。迷い猫の報酬どころか財布の中身も消し飛んでしまったが、これも自身のため。背に腹は変えられん。

 

「あかりさん、前を向いて歩かないと危ないですよ」

「大丈夫大丈夫!」

 

ーードンッ!

 

「うおっ!」

 

「きゃっ!」

 

「あかりさん!」

 

いけね。他のことに集中してたために人が来てることに気がつかず、派手にぶつかってしまった。相手はかなり小柄で中等部かそれくらいの子だと思われる。体格差から俺は軽くよろける位で済んだが向こうは派手に飛ばされてしまった。だがーー

ズザッと小柄な子が転んでしまうよりも先に隣にいた黒髪の子が彼女を庇った。

 

「いたた…しのちゃん、ありがとう」

 

「あかりさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、大丈夫!あ、しのちゃん、足から血が…」

 

「いえ、これくらい大丈夫ですよ」

 

黒髪の子が小柄な子を庇った時に膝を擦りむいたみたいだ。大事にはならんと思うが若干流血量が多い。早めに治療した方が良さそうだ。

相手が女子であるため近寄り難いが…さっと武偵手帳に挟まれている応急処置キットを取り出し、処置をするため彼女たちに駆け寄る。

 

「あーっと悪かった。ちょっと考えごとしてたから反応が遅れちまった。応急処置するから少し動かないでくれると助かる」

 

そう言いながら上着を脱ぎ、片膝だけを避けるように黒髪の子の下半身を覆い隠す。目をそらして事なきを得たが…彼女のスカートが捲れ上がり太腿の際どい部分まで見えそうになっていたのだ。だが妙なことにこの子からはヒステリア性の血流が起きにくい感じがする。理由は分からんが何故かたまにいるんだよな…。

小柄の子がハラハラと心配そうに見ている姿を横目にテキパキと応急処置を施していく。兄に憧れ何かの役に立つだろうと自由履修で受けていた救護科(アンビュラス)の知識が役立ったな。

最後に上からキュッとハンカチを巻き、一通りの処置を終える。

 

「応急処置はしたから傷跡は残らんと思うが、念の為救護科(アンビュラス)に見てもらった方がいい。それと悪かったな。」

 

「い、いえ、私たちも前を向いていなかったので…治療もありがとうございます」

 

「ありがとうございます!」

 

礼を言われたせいか若干照れ臭くなってきた。顔を背け頰を指でかく。

気恥ずかしので、さっさと立ち去ろう。というか中等部の女子とはいえ、女子と長時間一緒に居たくない。

 

「あー…そのハンカチは返さなくていいからな」

 

そう言いながら上着を拾い、返事もきかずその場を後にするのであった。




AA側のキャラと初顔合わせとなりました!ここから物語か加速していくので、乞うご期待です!(*´˘`*)
この描写にした理由はAA原作及び漫画内でキンジとすれ違っている描写があったからです!もし気になる方がいましたらAAの漫画が無料で見られるスクエニのアプリがありますので、そちらで確認してみてください(*´▽`*)
そのアプリは私も小説を書き始めたあたりから愛用しております笑

PS.本小説は今後、徐々にAA側とクロスしていきます。
だだし、あくまでも主人公はキンジであり緋弾のアリアがメインとなるお話です。出来る限りAA側の描写も入れようとは思っておりますが、AA側がメインの方のご期待には添えない可能性がありますので、ご了承頂けると幸いです。
またキンジがAA側の戦闘にメインで加わるということありません。あくまでもそれらは彼女たちの戦いであり、成長の場です。キンジの役割としては、先輩としてアドバイスやサポートをするくらいになります。アリア・白雪・理子・レキといった面々にキンジが加わるという認識でお願いします(* > <)⁾⁾


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10.

大変お待たせしました!
感想お待ちしております(๑⃙⃘˙꒳˙๑⃙⃘)


猫探しの依頼(クエスト)を解決した——その翌日。

俺は依頼したアリア内偵調査の結果を聴く為、()()()()へと足を運んでいた。

本来ならアリアに付きまとわれ、自由行動とは名ばかりの拘束生活だが、アイツは依頼(クエスト)中。近くにいない今が好機(チャンス)だ。

 

「理子」

 

お目当ての人物を見つけ、声をかける。

メールで呼び出しておいた通り、理子はある場所——女子寮前の温室にいた。

ここは尋問科(ダギュラ)が管理するビニールハウスで、()()に使う薬草や花を育てている。

だが基本的に一から育てるよりも専門業者からまとめて買う方が安い。実際に使う人はほとんど居らず、管理とは名ばかりで半ば放置されている。

そのためかいつも人けがなく、秘密の打合せにうってつけな場所なのだ。

 

「キーくぅーん!」

 

バラ園の奥で、猫撫で声を出しながら理子くるっと振り返る。

ふんわり背中に垂らした髪とツインテールがふわりと舞うようにその動きを追う。

緩いウェーブのかかった髪はツーサイドアップで結われており、その身長・容姿と相まってかより幼い印象を受ける。正直、小学生と言われても信じるレベルだ。

 

「相変わらずの改造制服だな…前は別のやつ着てなかったか?」

 

「おおー!きーくんも中々鋭いですなぁ、前のは武偵高の女子制服・ゴスロリ風アレンジでこれは白ロリ風アレンジだよ! 特にこの白いフワフワがお気に入りなの!」

 

「そんな種類言われても俺には分からん。ったく、いったい何着制服持ってんだ」

 

俺なんか1着しか持ってないぞ。防弾・防刃の特殊加工を施された武偵高制服はかなり値が張るってのに。財力の差に涙が出てくるね。

 

「んっとねー、白ロリ風にゴスロリ風———」

 

本格的に指を折り改造制服の種類を数え始めたので、聞く振りをしながらも俺は鞄から紙袋で厳重に隠したゲームな箱を取り出した。

 

「ほら、約束のゲームだ。報酬は渡したんだから頼むぞ。いいか?ここでの事はアリアには秘密だからな」

 

「うー! らじゃー!」

 

びしっ。

先程までとは打って変わり、理子はキヲツケの姿勢となる。

体が若干前屈みになりながらも両手でびしっと敬礼(?)ポーズを取った。

すると——ぽよんっ。

その反動で白雪よりは小さくも勝るとも劣らない胸が弾んだッ。

 

(ゔ……!!!)

 

慌てて目線を逸らし、苦い顔をしながらも理子に紙袋を差し出す。

アリアが小型ボート以下の金だらいレベルならば理子は弩級戦艦である。アリアと暫く行動を供にしていたため油断していた。危険性がまるで違う…!

ふんふんふん。

紙袋を受け取ると理子はまるで獣のように荒い鼻息をしながら、袋をびりびり破いていった。

 

「うっっっわぁ———!『しろくろっ!』と『白詰草物語』と『(マイ)ゴスだよぉー!』

 

ぴょんぴょん跳びはねながら理子が両手でぶんぶん振り回しているのは、女子と擬似的な恋愛をするシミュレーションゲームだ。

しかもR-15指定、つまり15歳以上でないと購入できない所謂ギャルゲーである。

理子は服装からわかる通り生粋のオタクだ。しかも世間一般のオタク女子とは違い、ギャルゲーのマニアという奇特な趣味の持ち主である。

中でも特に自分と同じようなヒラヒラでフワフワの服を着たヒロインが出てくる物に強い関心を示す。

1年の頃、毒の一撃(プワゾン)などの実習試験などでは武藤、不知火、理子の面々とよく組んでいた。

その時から同クラスのよしみでよくつるんでおり、コイツには延々とギャルゲーについて熱く語られた記憶がある。

その際、武藤と不知火は早々サムズアップしながら離脱し、聞くのが俺一人という状況に陥った。そのおかげ、いやそのせいで否が応にも理子が好きなギャルゲー限定で詳しくなってしまったのだ。

 

(嫌な記憶を思いだしちまった……)

 

だがついでに過去の武藤と不知火の所業を思い出したので、奴等は後で制裁しておこう。

もちろん理子も15歳以上なので購入することはできる。しかし先日、学園島のツ○ヤでは身長から中学生と判断され、売ってもらえなかったと俺にぶちぶち言っていた。

そこで依頼(クエスト)料金兼報酬として俺が代わりに買ってきてやった、というわけだ。

 

「あ……これと、これはいらない。理子はこういうの、キライなの」

 

ぶっすぅー、と、リスみたいに膨れっ面になり唇を尖らせながら突っ返してきたのは先程喜んでいた『(マイ)ゴス』の2と3、続編だ。

パッケージも理子好みだし、ゲーマーの理子なら全編やりたがると思ったんだが…。

 

「なんでだよ。これ、他と同じようなやつだろ」

 

パッケージに描かれている絵もそっくりだし、違いが一切分からん。せいぜい数字があるかないかくらいだ。

 

「ちがう。『2』と『3』なんて、蔑称。個々の作品に対する侮辱。イヤな呼び方」

 

そう言いながら膨れっ面だったホッペをより大きく膨らませ、不機嫌に唇を尖らせる。

 

(…ワケの分からんヘソの曲げ方だな)

 

何が気に入らないのかは不明だが『2』と『3』が原因ってのは分かった。気まぐれな理子のことだ。追求すると依頼自体がお釈迦になりかねん。とりあえずこの問題は放置しておこう。

 

「あー…なら、続編以外のゲームだけやる。報酬はその分減るが文句言うなよ」

 

「——あい!」

 

ぴっ。

軽く先程と同じような敬礼(?)をしながら、制服と同じようにフリフリに改造された自身の鞄に突っ返したゲーム以外を詰め込んでいく。

明らかにサイズが足りていないが、不思議にも四次元ポケットのようにするする入っていく。どんな仕組みしてんだ。

 

「はぁ…それで、何かわかったことはあるか」

 

そう言いながらちょうど足がつく高さにあった柵に腰を下ろす。

 

「もっちろーん!理子にかかればお茶の子さいさい!スリーサイズから下着の色までバッチリ!なんでも聞いて!」

 

ぴょん。

軽くジャンプしながら俺の隣に腰を下ろす。だが俺とは違い足がつかないため、膝下をプラプラしている。というかおい、何でその情報をピックアップするんだっ!

 

「そんな情報はいらんっ。たく、あーそうだな…ならまず強襲科(アサルト)での評価を教えてくれ」

 

「ほいほーい!んーランクだけど、Sだったね。2年でSって、どの学校でも片手で数えられるぐらいしかいないんだから凄いよねー」

 

(…だろうな)

 

身のこなしからある程度推測はしていたため、別段驚きはしなかった。あの時は軽くあしらう事ができたが、体捌きなどどう考えても常人のレベルじゃなかったからな。

 

「理子よりちびっこなのに、徒手格闘もうまくてね。流派は、ボクシングから関節技まで何でもありの……えっと、バーリ、バーリ…バリツゥ…」

 

流派を中々思いだせずに、むむむっと両手の人差し指で頭を抑え、うーんと唸っている。だが、バーリとつく格闘技なら覚えがある。

 

「バーリ・トゥードか」

 

「そうそうそれ。それが使えるの。イギリスでは縮めてバリツって呼ぶんだって」

 

(どおりであの身のこなしな訳か…)

 

バーリ・トゥードとは、総合格闘技の原型とも称される、所謂何でもありの格闘技の総称だ。様々な形態の武道(マーシャルアーツ)から技法を取り入れており、扱うだけでも困難な代物である。

体育倉庫でもぶん投げられかけたが、あれだけの技量ならば大抵の奴はものともしないだろう。

 

「あと拳銃とナイフは、もう天才の領域。どっちも二刀流なの。両利きなんだよあの子」

 

「それは知ってる」

 

実際にこの目で見たしな。空中で大型拳銃をまるで自分の手足のように扱える奴なんてそういない。俺の知り合いの中でも真似できるやつはいないだろう。

 

「じゃあ、2つ名も知ってる?」

 

「2つ名?」

 

「そう、双剣双銃(カドラ)のアリア」

 

——双剣双銃(カドラ)

武偵用語では、二丁拳銃ないし二刀流のことをダブラと呼ぶ。

双剣双銃(カドラ)という用語は聞いたことがないが…おそらく文字通りの双剣双銃(カドラ)。アリアの武装である日本刀二工と大型拳銃(ガバメント)二丁、4つ(カトロ)の武器をもつことから来た2つ名だろう。

大体は当時者の戦闘スタイルが自然と定着することが多い。強ち間違いではないはずだ。

 

「笑っちゃうよね。双剣双銃(カドラ)なんて」

 

「笑いどころはよく分からんが…まあ、評価はもういい。次はそうだな…活動、いや実績について教えてくれ」

 

評価は推測していたことが大方当てはまっていた。真新しい情報もあったが優先度的には他の情報より劣る。限りある報酬での情報だ。大事に聞いていかないとな。

 

「おっけー!もうスッゴイ情報があるよ!転校を気に今は休職してるみたいなんだけど、アリアは14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活動しててね———その間、犯罪者を一度も逃したことがないんだって」

 

「逃したことがない?」

 

「そう。狙った相手(ターゲット)を全員逮捕してるんだよ。99回連続、それもたった一度だけの強襲でね」

 

「それは……凄いな」

 

正直、かなり信じ難い内容である。

武偵は落とし物の捜索から犯罪者の捕縛等かなり広い範囲を依頼(クエスト)として依頼主から受注している。様々な依頼(クエスト)が舞い込んでくるが、犯罪者の逮捕などという危険度の高い仕事は極稀だ。というのも犯罪者の捕縛を依頼する側———それは主に警察だ。

只でさえ犬猿の中である警察と武偵である。わざわざ武偵に頭を下げて依頼する機会などそうそうない。大概は自分たちで手に負えなくなった時に依頼するのが常だ。まあ依頼といえば聞こえはいいが、ようはただの押し付けだな。

またその機会も直接プロの武偵に頼むことが多く、武偵高に降りてくる機会は滅多にない。プロでは割に合わない、もしくはプロでも手に負えない依頼が武偵高に降りてくる。それを99回も連続で、一発逮捕とは…

 

(そんなヤツとパーティを組んじまったのか…)

 

今後のことを考えるとかなり気が滅入ってきた。これ以上深掘りすると俺の精神衛生上良くない。話題を変えることにしよう。

 

「あー…他には。体質とかはどうだ」

 

「うーんとね。アリアって、お父さんがイギリス人とのハーフでお母さんが日本人なの」

 

「てことはクォーターか」

 

「そう。で、イギリスの方の家がミドルネームの『H』家なんだよね。すっごく高名な一族らしいよ。おばあちゃんはDame(デイム)の称号を持ってるんだって」

 

「デイム…確か、称号みたいなもんだったか?」

 

少し前に見た洋画でそんな言葉を聴いた気がする。

かなり曖昧な記憶だが、偉い人から与えられる称号だったはずだ。

 

「おー!キーくん、よく知ってたね!そうそう、けど称号は称号だけどイギリス王家が授与する称号だよ。叙勲された男性はSir(サー)、女性はDame(デイム)なの」

 

「てっことはあいつ貴族かよ…」

 

全くイメージが湧かなかったぞ。だが、貴族であるなら所々に現れた気品さに納得がいく。暴力の化身みたいな奴だが、一挙一足から育ちの良さ、というか優雅さが見えたからな。

 

「そうだよ。リアル貴族。でも、アリアは『H』家の人たちとはうまくいってないらしいんだよね。だから家の名前を言いたがらないんだよ。理子は知っちゃってるけどー。あの一族はちょっとねぇー」

 

「教えろ。ゲームやったろ」

 

「理子は親の七光りとかそういうの大っキライなんだよぉ。まあ、イギリスのサイトでもググればアタリぐらいはつくんじゃない?」

 

(…ん?)

 

珍しいな。何か思うところがあるのか、一瞬だけ眉を潜めていた。注視していないと気づかないレベルだが、偶然気づくことができたぞ。

しかし、この反応からするとーー

 

(これ以上は無理か)

 

恐らくこれ以上の情報は得られないだろう。理子自身も話す気がない上に、追加の報酬を要求される可能性がある。既に火の車である俺の財布にこれ以上の負担はかけられん。

 

「俺、英語ダメなんだがな…」

 

「がんばれやー!」

 

弱音を吐いた俺の背中を叩こうとしたらしい理子のちっこい手が——ぶんっ。

背中から大きく外れる形で思いっきり空振った。

 

「っと」

 

そのままいくと俺の手首をブッ叩き、俺も巻き込む形で転びそうだったので——すっ。

身体を半身にずらすことで理子の手を避け、そのまま転ばぬように右腕を伸ばし腰周りを抱き止める。

 

「ったく…おい、大丈夫か」

 

対応が遅れてれば危うく二人揃って転けるところだったぞ。

理子に目を向けると普段から大きな目をまんまると見開き、何が起きたか分からず驚いた様子だ。

声をかけると自分の状況が理解できたのだろう。しきりに目をパチパチ瞬かせながらも俺に顔を向ける。

 

「…あちゃー、失敗失敗。きーくん、ありがと!」

 

てへへっ、と。

ちっちゃな舌を軽くだしながらそう言った。

 

「礼はいいからとりあえず早く離れてくれ」

 

理子ならこのまま抱え続けることは可能だ。がしかし、女子と密着しているこの状況が良くない。

 

「あー、キーくんそっけない!ぷんふんがおーだぞ!女の子と密着してるんだからもっと喜ばなきゃ!」

 

そう言うと体勢を変えながら腰周りを抱え込んでいた俺の腕をガッチリ胸の谷間に挟み込む形で抱え込んできたっ。

むんにゅり。

弩級戦艦並みの胸が大きく歪み、右腕の両側からマシュマロみたいな柔らかい感触をモロに感じる…!!

 

(で、でか…!)

 

瞬時に熱くなった血液が体の中央に集まる感覚がする。まずい…!

するっ。

即座に理子から腕を引き抜くと——-がちゃ。

無理に腕を動かしたせいか、俺の腕時計が外れて足元に落ちた。拾い上げると、金属バンドの三つ折れ部分が外れてしまっている。

 

「うぁー! ごっ、ごめぇーん!」

 

「あー別に安物だから気にすんな。台場で1980円で買った奴だしな」

 

ブランド物でもなく、何処でも買えるような腕時計だ。代えも直ぐに効くためそう言うが——-

 

「だめ! 修理させて! 依頼人(クライアント)の持ち物を壊したなんて、理子の信頼に関わっちゃうから!」

 

ばっ。

返事を聞くよりも早く俺から腕時計をむしり取ると——そのままセーラー服の襟首をぐいーっと引っ張って開け、すぽっと胸の間に入れてしまう。その際に金色の下着がちらりと見えてしまい、即座に目を逸らす。

 

「あーわかったっ、頼む。情報もこれぐらいでいい」

 

まだ理子に若干聴きたいことはあったが、先程の胸の感触と光景が相乗効果を引き起こしヒステリアモードになりかねない。

記憶から消去するために慌ててそう言うと、そそくさと温室を後にした。




未だに原作一巻を抜け出せていないです…
本来ならもっと進めていた筈なんですけど、忙しくて中々時間がとれませんでした( ̄^ ̄゜)
少しずつ落ち着いてきたので、徐々に更新していきたいと思います。
とりあえずは二週間に1回更新出来るよう頑張ります!‎|•'-'•)و✧


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