ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強 (コレクトマン)
しおりを挟む

異世界トータス編
転生、後に異世界へ


ちょっとした息抜き作品です。


1話目です


 

 

遠い昔、遥か彼方の銀河系で……

 

 

 

 

 

 

コア・ワールドのコルスカ宙域、コルサント・サブセクターに位置する惑星“コルサント”。そこは民主主義国家である銀河共和国の首都惑星であった。しかし……その民主主義国家である共和国は解体・再編され、第1銀河帝国という独裁政治国家が誕生した。その帝国が誕生する前、旧共和国にはジェダイ・オーダーと呼ばれる古代から続く禁欲的な平和維持組織が存在した。フォースを信仰し、フォースの意志を遵守しながら平和と正義の守護者として旧共和国に仕えた。

 

 

 

しかし、ジェダイという光あらばフォースのダークサイドを信奉する仇敵、シスという闇も存在していた。

 

 

 

そのシスの暗黒卿であるダース・シディアスは惑星ナブー代表の銀河共和国の最高議長であるシーブ・パルパティーンとして銀河系情勢を影から操作し、ジェダイを自らの手のなかで踊らせながらシディアスが用意した茶番の為の軍隊である共和国グランド・アーミー。通称クローン軍団を使い、分離主義同盟ドロイド軍との戦争、後に“クローン戦争”呼ばれる星間大戦が3年間に及んだ。そしてそのクローン戦争は終結を迎えた直前にシディアスはクローン戦争が始まる10年以上前から温めていた秘密計画を実行に移した。シディアスは銀河系各地の戦場に散らばっていた共和国グランド・アーミーのクローン・トルーパーに“オーダー66”を発令した。バイオ=チップに施された秘密プログラムに強制され、クローン・トルーパーは共に戦ってきたジェダイの指揮官をその場で抹殺した。また、シディアスの弟子“ダース・ヴェイダー”となったアナキン・スカイウォーカーは、第501大隊のクローン・トルーパーを率いてジェダイ・テンプルを襲撃し、聖堂内にいたかつての仲間(ジェダイ)を虐殺した。

 

 

 

そして、その虐殺の最中に一人のジェダイ・ナイトは嘗ての仲間であったクローン・トルーパーとスカイウォーカーの魔の手から逃走していた。彼の名は“ライ=スパーク”。彼は目の前で自分の師を同じジェダイ・ナイトであるスカイウォーカーに殺され、友だったジェダイ達はクローンによって殺され、パダワン見習いであるジェダイ・イニシエイト達はスカイウォーカーによって殺害された。嘗ての仲間であったスカイウォーカーとクローンによるジェダイの虐殺に恐怖を抱いた彼はジェダイ・テンプルから逃げ出し、コルサントから離れるべく貨物船を探したが道中でクローン・トルーパーに見つかってしまい、止む無くライトセーバーを抜き、クローン・トルーパーを斬り伏せる。すると次々と他のクローン・トルーパーが彼を始末しようと包囲する。

 

 

「ジェダイだ!包囲して裏切り者を始末しろ!」

 

「くっ!何故クローン達が……こんな…!」

 

 

そう迷いが生じながらクローン・トルーパー達のブラスターの光弾をライトセーバーの型の一つである第3の型“ソレス”で弾き返すも圧倒的に数の暴力であった為に徐々に疲弊していき、やがてクローン・トルーパーに背後を取られ、そこにブラスターを撃ち込まれ瀕死の状態に追い込まれて膝をつく。

 

 

「がっ……!」

 

「油断するな!確実に息の根を止めろ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

そしてクローン・トルーパー達は彼に止めを刺そうとブラスターを構えて引き金を引こうとする。その時に彼はこの絶望的な状況である事に自問自答していた。

 

 

何故、俺達ジェダイは友でもあり兵士でもあるクローン・トルーパー達に殺されなければならないのか?

 

 

何故、ジェダイ・ナイトのスカイウォーカーがジェダイを裏切ったのか?

 

 

何故、俺は何も分からぬまま死ななければいけないのか?

 

 

 

何故?

 

 

 

 

何故?

 

 

 

 

 

何故?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ない。

 

 

 

 

 

 

……さない。

 

 

 

 

 

 

……許さない!

 

 

 

 

 

 

……許さない!!

 

 

 

 

 

 

死の間際に彼は激しい怒りと憎しみに支配されていた。それはフォースの暗黒面(ダークサイド)に通じており、今の彼は仲間の裏切りや嘗ての師や友を失ったことにより悲しみや怒り、憎しみという感情が爆発し、闇に飲まれてしまう。そして今の彼はジェダイではなく、フォースの暗黒面に囚われた怒りの化身“ダーク・ジェダイ”と化してしまった。

 

 

「……!?あのジェダイ、何かが異常だ!直ぐに……!」

 

 

その異常性を察知したクローン・トルーパーは直ぐに他のクローン・トルーパー達に攻撃命令を出そうとするが、その前に彼がフォースの恩恵による身体能力で瞬時に距離を詰めてライトセーバーで攻撃命令を出そうとしていたクローン・トルーパーの首を跳ねた。それを皮切りに追い詰めた筈のクローン・トルーパー達は逆に彼によって追い詰められ、虐殺する者が最早虐殺される者として立場が逆転してしまったのだ。この時のクローン・トルーパーはバイオ=チップの影響により恐怖を感じてはいない筈だったが、怒りの化身と化した彼と戦うことによって抑制されていた恐怖が各クローン・トルーパー達の表の顔に出ていた。

 

 

ある者は殺さなければ殺される恐怖。またある者は逃げなければ殺される恐怖。

 

 

そのクローン・トルーパー達は怒りの化身の彼と戦った時点で既に終わりを迎えていたのだった。彼はライトセーバーで次々とクローン・トルーパー達を斬り伏せていく。既に瀕死の状態に陥っているのにも関わらず、彼はこの場にいるクローン・トルーパー達を皆殺しにした。そして彼の身体は限界を迎え、近くにある壁に寄りかかってそのまま座り込んだ。

 

 

「俺は結局…怒りに飲まれて、ジェダイの道を……踏み外…した……か………」

 

 

最早虫の息に近い状態になった彼はジェダイとして信じる道を踏み外してしまった事への後悔と、他に生き残っているかもしれないジェダイの安否を祈るしかなかった。

 

 

「マスター……俺も………そちら………に……逝き………ま…………」

 

 

その言葉を最後にライ=スパークはライトセーバーを手放し、そのまま命を落としてフォースと一体化してこの世を去った。

 

 

 

時に19BBY

 

 

 

クローン戦争の終結と同時にジェダイ・オーダーはシディアスの思惑通りに壊滅し、共和国は解体・再編され、第1銀河帝国が誕生するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽系 第三惑星“地球”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またあの夢か」

 

 

彼ことライはフォースとの一体化が失敗した影響なのか彼は自身が知らない惑星こと太陽系第三惑星地球の人間として前世の記憶を受け継いだまま“藤原 雷電”として新たにこの世の生を得た。しかし、その生まれた場所は文明レベルが低く、未だに宇宙へ進出してもいない時代だったのだ。だが、森羅万象に宿る形而上的、霊的、統合的、遍在的なエネルギー場であるフォースはこの銀河にも存在していた。そして何よりも彼は新たな生を得てもなお、フォースを感じ取る事が出来た。こうして彼はこの地球で一人の人間として静かに暮らす事にしたのであった。なお、この星にはライトセーバーの動力源である“カイバー・クリスタル”が存在しない故にライトセーバーを造る事は出来なかったので断念したが、フォースと戯れるのを止める事はなかった。

 

 

 

前世の幼いころからジェダイとして禁欲的な生活を送っていたが、今の現世に生きる彼はこの星の住人と同じ様に普通の生活をしていた。新たな生を得てから彼は改めてジェダイについて考えた。

それは“何故ジェダイは禁欲的で、ちょっとの変化を恐れるのか?”である。その事を考えてから全く思いつかないまま只々日々が経過していくだけだった。そして彼は思いつかず、あまり深く考えずにその考えを切り上げて学校に向かうのであった。

 

 

 

その学校に向かう最中、俺がこの星の初めての友人である“南雲 ハジメ”と出会う。

 

 

「おはようハジメ。元気がない様だが大丈夫か?」

 

「あぁ……雷電か。いや、何でもない」

 

「また夜中までゲームをしていたからか?夢中になるのはいいが程々にした方がいいぞ。まぁ……分からなくはないけどな…」

 

 

彼と初めて出会ったのは中学の頃、下校中の時に偶然子供とその子供の祖母、そして当時中学生であったハジメがガラの悪い男に謝罪しているのを見かけたのが始まりだった。俺が来る前に子供が誤ってガラの悪い男の高級スーツを汚してしまい、最終的に弁償と言いつつも子供に殴り掛かろうとしていたがハジメが代わりに弁償をすると言って事なきを得ようとしていた。しかし、ガラの悪い男はハジメの言葉を聞かずに子供の代わりにハジメに殴り掛かろうとした時に俺がその男を止めて何とか説得しようとしたがガラの悪い男の怒りがエスカレートしていく一方だったので止む無くこの星でフォースを使い、フォース・マインドでガラの悪い男を引かせたのだった。それ以降はハジメとはこの星において初めての友人となったのだ。この星に生まれてから俺はあまり友と言える人物に巡り会えなかった。だからこそか、ハジメは俺にとって掛け替えのない友なのだ。そんなこんなでハジメと駄弁っているともう時間が迫っている事に気付いて急いで学校に向かうのであった。

 

 

 

何とか学校にギリギリ遅刻せずに到着した俺たちは自分たちの教室に向かうのであった。その時にクラスの殆どは舌打ちや敵意の目線を俺たちに向けて降り注ぐのであった。しかし、嘗ての俺はジェダイという調停者としてこの様な事はなれていたがハジメはそうはいかなかった。ハジメの気分が悪くなる前に教室に入るのであった。

 

 

「……全く、彼らも懲りないな?」

 

「はぁ……月曜は本当、憂鬱な気分だよ……」

 

「あ、おはよっ!南雲くんに藤原くん、今日は遅刻ギリギリだったんだね?大丈夫?」

 

 

俺たちに声を掛けて来た女性こと“ 白崎 香織”。この高校のマドンナと言える存在で、世話好きで面倒みもよく、更に責任感も強い為学年問わず人気が高い。先ほどのクラスがあの様な様子をしていたのは彼女の影響によるものだった。彼女自身悪気はなく、クラスが勝手に嫉妬心を俺達にぶつけているだけの話だった。何故人気が高い彼女が俺たちに声を掛けてくるのかは未だに不明だ。

 

 

「あ、あぁ…おはよう白崎さん」

 

「おはよう白崎。南雲は一応少し憂鬱な状態だが問題ない。それよりも……」

 

 

いい加減にクラスの敵意の視線を消す為にクラスの方に向けて一瞬だけ怒りと殺意を混じった物をハジメ達に気付かれない様クラスに少しだけ放つとそれを感じ取った一部のクラスは恐れをなしたのかそのまま黙り込んで自分たちの席の方に座り込んだ。この怒りと殺意は嘗て俺が前世の頃に死ぬ間際にフォースの暗黒面を体得してしまったのが原因だった。俺はこの力をあまり表に出さない様に努力はしているものの、今の様にいい加減にしつこい時はつい怒りと殺意が漏れてしまい、最終的に今の状況に至るのであった。その時に教室にこのクラスの三人の生徒が入ってくるのであった。

 

 

「香織、それに雷電。また彼の世話を焼いているのか?」

 

 

声を掛けて来たのはこのクラスで成績優秀でスポーツ万能といった彼は“天之河 光輝”。そんな彼は他の者から見れば完璧超人と思われがちだが、実際は“ご都合解釈”という自己的解釈……つまりは思い込みが激しいのが欠点の男である。正義感はあることは認めるが、目の前の現実すら見えないのでは正義感という長所が完全に台無しである。因みに俺はそんな彼のことを何故か生理的に嫌っている。本人はそうではないと勝手に思い込んでいるのが逆に腹立たしい。

 

 

「南雲君に藤原君、おはよう。毎日大変だね?」

 

「八重樫に坂上、それに天之河か…」

 

 

その次に話しかけて来たのは“八重樫 雫”。白崎の友人で剣道の大会にて負けなしの現代の美少女剣士。特に俺は剣道に通っており、良く彼女に剣道で何度も打ち合うこともある。因みに余談ではあるが、過去に一度だけ彼女に対して本気で勝負を挑もうとしてついジェダイの使うライトセーバーの型であるソレスを使い、彼女から一本取ったのは秘密である。その後は彼女から空いている日にはもう一度勝負を仕掛けられることがあったのはまた別の余談である。

 

 

「香織もそうだが、雷電も南雲に優しいな」

 

「全くだぜ、やる気のない奴に何を言っても無駄だと思うけどなぁ…」

 

 

最後に“坂上龍太郎”。彼は天之河の親友であり、190cmの高身長で熊の様な体格な持ち主でもある。そして何より、俺は彼と時偶に言い争いに衝突することがある人物でもある。だが、決して仲が悪い訳でもないのは確かである。

 

 

「そう言うな、坂上。ハジメは既に就職する場所が決まっているから今みたいに余裕があるんだ。あまり視野を狭めて外見だけで判断しないでくれ」

 

「あの……雷電。フォローしてくれるのはありがたいけど、今じゃなくても……」

 

「そうは言ってもよ……」

 

「雷電…君の言うことは分かるけど、それだと南雲の成長を阻害している様なものだよ。香織もいつまでも南雲に構ってばかりではいられないんだから」

 

 

天之河のご都合解釈がここでも発揮すると流石の俺でも嫌になる。しかし、今回も適当にあしらうことにする。

 

 

「それはお前の勝手な思い込みと変なご都合解釈から出た答えだろ?それ以前に俺はハジメの友であってどう仲良くしようが俺の勝手だろ?それとも何か?態々お前からいちいち許可を貰わなきゃ行けないって決まりでもあるのか?」

 

「い……いや、別に俺はそんなつもりで言った訳じゃ…」

 

「だったらそう言うことだ。香織も俺と同じ様にハジメと仲良くしたいからこそ自ら話しかけているんだ。いくら自分が正しいことを言ったとしても俺から見ればそれは押し付けられた善意だ。悪意と何の変わりもない」

 

 

本当に嫌になるくらい彼のご都合解釈は俺自身癪に障る。適当にあしらうだけなのに何故か日常の倍以上に疲れる。そんな苦労を知っているのは剣道で剣を交えた八重樫だけだった。

 

 

「……貴方も相当苦労しているのね」

 

「そう気遣ってくれるだけもありがたいよ、八重樫」

 

「あははは……」

 

 

流石のハジメも苦笑いする他になかった。これはこれで俺が体験する筈もなかったある意味一種の日常なのかもしれないと。だが………そんな日常が唐突に終わりを告げ、非日常な日々がやってくることを今の俺たちは気付きもしなかった。

 

 

 

斯くしてその時が来た。全ての始まりは、教室全体に出現した一つの魔法陣だった。

 

 

 

突如として出現した謎の魔法陣は徐々に全体を覆いかぶし、教室にいたクラスを巻き込んだ。無論俺とて例外でなかった。

 

 

「な………」

 

「何だこれは!?」

 

「これは…!(フォースがざわついている?これは一体?)」

 

「……っ!?(これって、ゲームとかの魔方陣…!?)」

 

「教室中に広がっている!!」

 

「みんな!教室から出──」

 

 

八重樫の言葉を皮切りに俺たちは、この地球から姿を消してしまうのだった。そして光が収まり、目を開けるとそこには俺たちがいた教室とは違う場所であることが判明した。クラスの殆どは動揺して混乱に堕ちる中、天之河は持ち前のカリスマでクラスを落ち着かせて纏めさせるのであった。その時に一人の司教と思われる老人が俺たちを出迎える様に挨拶をした。

 

 

「お待ちしておりました。私はこの【聖教教会】教皇の“イシュタル・ランゴバルト”でございます。以後、よろしくお願い致しますぞ」

 

 

教皇イシュタルと名乗る老人から挨拶されて俺は嫌な予感でしかなかった。その時の当時の俺は前世で体験したある地獄(クローン戦争)の様な場所に引き戻された様な気分になっていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦争とステータス

意外と感想が来た事に驚いた自分がいる。(゚o゚;;


2話目です


 

 

突如と俺たちが教室とは違う場所にいて、聖教教会教皇と名乗る老人ことイシュタル・ランゴバルトが俺たちをここに招き入れた張本人であることを理解した。未だに訳の分からない状況に陥っているクラスは少しずつ落ち着いてきたところでイシュタルは俺たちを大広間の様な場所に集めさせて10m以上のテーブルで並んでいる椅子に座っていた。そして俺たちはイシュタルが何故俺たちを呼んだのか理由を聞き出した。

 

 

「……それでイシュタルといったか?一部の者達を除いて俺たちでも気付いているがここは俺たちがいた世界でないのは理解している。何故アンタは俺たちをこの世界に呼び寄せたんだ?」

 

「そうですな。…その事を含めて説明いたしますのでどうか最後までお聞き下され。ここはあなた方がいた世界とは異なる世界“トータス”。あなた方を召還したのは我々聖教教会が崇める唯一神“エヒト”様です」

 

 

どうやら俺たちをトータスと呼ばれる異世界に呼び寄せたのはイシュタルではなく、彼らが崇めているエヒトという神がやった様だ。俺はフォースを信仰しているジェダイとしては多少興味が湧くが俺ならまだしも、他の関係のない人間まで巻き込む神となると迷惑極まり無い。そう思いながらも俺たちはイシュタルからこの世界には三つの種族が存在することを聞かされる。人間族、魔人族、亜人族の三種類の種族が存在し、北に人間族、南に魔人族、東に亜人族とそれぞれの方角によって別けられている。亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと暮らして生きているとのこと。そして肝心である魔人族は人間族と何百年も戦争を続けていること。俺はこの時にクローン戦争の頃を思い出していた。あの戦争で多くのジェダイが戦場で死に、そして戦争終結後には一人のジェダイが裏切りクローン達を率いて反乱を起こし、俺を含むさらに多くのジェダイが無惨にも殺された。

 

 

 

……話が逸れてしまったが、イシュタルが言うには魔人族は人間族に対抗するために魔物(後でハジメに聞いたところ色んなRPGゲームに登場する敵だそうだ)と呼ばれるものを使役することにした様だ。それにより人間族は劣勢に立ち、このままでは人間族が滅びるのも時間の問題だった。そこでイシュタルたちが崇めている神エヒトは人間族が滅ぼさせぬ為に俺たちをこの世界に召喚した。どうやら俺たちは運悪くもエヒトという神に召喚される者として選ばれてしまった様だ。無論、このことで抗議する者がいた。それはこのクラスの担任教師である愛子先生であった。

 

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 

生徒の為に怒る愛子先生。先生の言う通り今いるクラスの家族たちが探しているはず。しかし、俺は二つだけ気になることがあった。それの一つを聞くべく俺はイシュタルに問う。

 

 

「イシュタルさん、アンタが崇めているそのエヒトという神が俺たちを召喚したという事は理解した。…となるとだ、その人類を救済しない限り俺たちは元の世界に戻れないということか?」

 

 

俺の問いに愛子先生や他のクラスはざわめいたがハジメや天之河たちは冷静に事実を受け入れていた。その時に天之河は俺にイシュタルに質問した意味を再確認する為か聞いて来た。

 

 

「雷電、元の世界に戻れないというのはまさか……」

 

「あぁ、天之河が考えている通りだ。そのエヒトという神ははた迷惑にも、戦いや戦争とは無縁の俺たちがこの世界で人類を救わなければ、元の世界に戻さない。戻れる方法は少なくとも存在しないということだ」

 

「左様、あなた方が帰還出来るかどうかも全てはエヒト様の御意思次第です…」

 

 

俺の言葉に便乗する様にイシュタルも言う。それによりハジメや天之河を除くクラス全員は元の世界に帰れないことにイシュタルに罵声を吐く。まるでイシュタル……いや、エヒトを信仰している者たちのやり方が分離主義者による支配と変わりないな。そんな状況でも先生は絶対にクラスを戦争には参加させないと断固として反対していた。…しかし、そんな愛子先生の反対を振り払う者たちもいた。

 

 

「愛子先生、俺は…俺たちは戦おうと思います。この世界は助けを求めている。俺たちがこの世界に来たのも何か意味があるのかもしれない……」

 

「お前ならそう言うと思ったぜ。いっちょ暴れてやるか!」

 

「元の世界に戻れないんでしょ?気に食わないけど私もやるわ」

 

「雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

 

天之河のカリスマに引き寄せられてハジメと愛子先生を除くクラス全員が天之河と共に戦うことを決意する。愛子先生は涙目になりながらも生徒たちを抑えようにも天之河のカリスマの前ではどうすることも出来なかった。その時に俺は天之河の危うさと欠点を見て危険と判断し、天之河に待ったをかけた。

 

 

「雷電?どうしたんだ?」

 

「天之河、確かに皆を元の世界に戻したいのもこの世界の人たちを救いたいのも分かる。しかし、お前は肝心なことを見落としている」

 

「見落とし?一体何を見落としていると?」

 

 

勢いのまま戦いに参加しようとする天之河はまだ気付いていない様だった。こういう所だけ気付かないとかえって質が悪い。

 

 

「前にも言ったがここにいる生徒は戦いや戦争すら無縁だった生活を送って来た者たちだけだぞ。もし彼らがその戦争で“人を殺す”様な状況、もしくは“人を殺してしまった”者になって元の世界に戻った時に何かしらの悪影響があったらどうするんだ?」

 

「そ…それは……」

 

「それ以前に戦争というのは国と国……まぁこの世界に関しては人間と魔人のエゴのぶつかり合いだ。“自分が正義“とか“自分だけの物にしたい“とな。そう言っている間にも大勢の命が失われるのは分かる。だが、これだけは警告しておく。もう少し生徒たちのことや世界の大局を見極めろ。でないと、いくら成績優秀で正義感が強いお前でもその正義感を利用されるだけの操り人形に成り下がるぞ」

 

 

そう天之河に警告をした後に俺とハジメはイシュタル……もとい、エヒトの手のひらで踊る様に止む無く戦争に参加するのであった。一応イシュタルから戦闘経験のない者たちはどうするのかを聞いた所、ここハイリヒ王国の騎士団から翌日から訓練と座学を受けることになるそうだ。

 

 

 

そして翌日になり、騎士団訓練所にてハイリヒ王国騎士団長の“メルド・ロギンス”から訓練と座学を始める前に重要なある物を渡される。

 

 

「今君たちに渡した物は“ステータスプレート”だ。文字通り自分のステータスを数値化してくれる物だ。身分証明書にもなるから失くすなよ?まず一緒に渡した針で血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。これは神代の“アーティファクト”と言ってな、まだ神様やらが地上にいた頃の道具で唯一聖教教会が作成できる物だ」

 

 

アーティファクトと聞いて俺は古代ジェダイが残したホロクロンと一緒なのかと思った。そう考えながらも俺は針で指を刺し、血をアーティファクトに浸して、ステータスプレートに書かれている魔方陣に擦りつける。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いて、この様に表示される。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル1

天職:■■■■■■■■

筋力:130

体力:150

耐性:90

敏捷:120

魔力:500

魔耐:60

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・■■■■■■■■・言語理解

===============================

 

 

ステータスプレートに表示されたものの中にはやはり前世で触れてしまった暗黒面(ダークサイド)が入っていた。それにより、俺はジェダイではなくなってしまった様だ。だが……心を完全に闇に売り渡したつもりもない。俺は地球の人間として、フォースを使って人を傷つけたりせずフォースと共に生きる。しかし、ステータスプレートを見てみたが魔力という部分の数値だけやたら他のより多かった。……恐らくは地球で暇な時に瞑想し、フォースとの絆が強まった影響が今の魔力の多さの原因だと俺は思った。実際は俺でも分からないものだが。それともう一つ、天職と技能の中で一部文字が黒いマスによって塗り潰されて読めないものがあった。後で調べようと俺はそれを後回しにして騎士団長のメルドからステータスについて詳しい説明を受けるのであった。

 

 

 

要点を四つに纏めると一つはレベル。レベルは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。二つめはステータスは日々の鍛錬で上昇し、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなるとのこと。その点についてはメルドでも詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられているそうだ。その後にハジメと話し合い、互いにステータスプレートを確認して見ることにした。なおハジメのステータスはこの様に表示されていた。

 

 

 

===============================

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

===============================

 

 

 

如何にも初期中の初期とも言えるような数値だった。だが、俺はハジメに実戦ではステータスプレートの数値は当てにならないことを説明しておく。

 

 

「ハジメ、何もステータスが全てじゃない。実戦じゃそんなものは通用しない。あまり劣等感で気持ちを挫けるなよ」

 

「実戦じゃ?雷電……君は一体?」

 

「何でもないさ。只のお節介だ」

 

 

ハジメは俺が言っている意味を理解したのだが、その時の俺の顔がまるで戦争を体験したかの様に疲れた顔をしていることに気付いた。この時に俺はハジメに前世の頃のライ=スパークとしてクローン戦争に参加したジェダイであることを悟られない様に適当に誤摩化す。メルドが言っていた様に鍛錬を怠れなければ成長して最強の錬成師となるだろう。しかし、それを妨げる者もいる様だ。ハジメのステータスプレートを奪い取りハジメのステータスを確認している男は俺個人クラスの中で一番嫌いな類の下衆な男“檜山 大介”であった。

 

 

「ひ…檜山…」

 

「あぁ?何だこりゃ?プッハァ!マジうける〜〜!!マジでクソ雑魚じゃねえか」

 

「ぎゃははは~、ムリムリ! 笑っちゃうぜ!」

 

「これはたまげたぜ! ぷはははは~」

 

「まあ、南雲が作った武器とか超イラネー、絶対に死ぬわ~」

 

 

檜山の取り巻きである“斎藤良樹”と“近藤礼一”と“中野信治”がそれを見て檜山と共に大笑いする。それと同時に南雲や俺を目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。しかし、俺にとっては平気かもしれないが南雲に関してはかなり厄介なことになった様だ。今後とも訓練の時でも奴らがハジメに何かしらの虐めを仕出かす様であるならフォース・マインドで無理矢理にでも奴らを下がらせよう。そんな事を考えている時に俺はあることを思いつく。ステータスプレートに一部の伏せ文字をフォースで無理矢理開示出来ないだろうか?と。そう思いついた俺は早速ステータスプレートにフォースで技能の伏せ文字を開示させる様に集中する。するとフォースに反応したのか伏せ文字が解除され、その正体を明かした。しかし、俺はこの時間違った選択してしまったことに後悔してしまう。その隠された技能は………

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル1

天職:■■■■■■■■

筋力:130

体力:150

耐性:90

敏捷:120

魔力:500

魔耐:60

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚・言語理解

===============================

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「クローン……軍団………!」

 

 

その技能を見た時、俺は前世の頃のあの悪夢がフラッシュバックされる。

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

その時にふと何処からともなく声の様なものが聞こえてくる。その声が聞こえる方向には黒い靄の様なものが覆っていた。

 

 

 

何故お前だけが生き延びた?

 

 

 

何故お前だけはにげだした?

 

 

 

何故ジェダイであるお前が暗黒面におちた?

 

 

 

やがて声がよりどす黒いものに変わり、黒い靄が少しずつ晴れて来る。そこにはクローン達やスカイウォーカーに殺されたジェダイ達がいた。彼らの目は怒りと憎しみ、そして恨みといった黒く深い闇の様に渦巻いていた。

 

 

 

お前には失望した

 

 

………やめろ、あの時は仕方なかったんだ。

 

 

お前は私たちを見殺しにしたのだ

 

 

………やめろ!まさかクローン達やスカイウォーカーが裏切るとは予想もしなかったんだ!

 

 

そうだ…自分の命だけは助かろうと仲間を売ったのだ

 

 

…それは違う!!俺はそんな事は一度も……!

 

 

お前は失敗作だ、おくびょうで…裏切り者だ

 

 

 

……やめろ!!そんな目で………そんな目で俺を見るな!!

 

 

 

 

 

 

お前など最早ジェダイなどではない!裏切り者め!!

 

 

 

 

 

 

やめろおおおおぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

 

雷電Side out

 

 

 

僕こと南雲ハジメは檜山にステータスプレートを見られた後にその取り巻きたちにも目をつけられる羽目になった。そこに愛子先生が檜山たちを注意して僕を励まそうと愛子先生のステータスプレートを見せてもらったが逆効果であったことに変わりはなかった。

 

 

 

===============================

畑山 愛子 25歳 女 レベル1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

===============================

 

 

愛子先生の天職は糧食問題を解決させるチート天職だったからだ。殆どの技能が作農に特化していたのだ。こればかりは本当に泣きたいと思った。しかし……そういうことをしている場合じゃない問題が発生した。今まで好調だった雷電が頭を抱えて急に苦しみ始めたのだ。それも尋常じゃない程に。

 

 

「あぁ…あああぁぁぁっぐ、ううっ……ぐうぁぁあああっ!!?」

 

「ら…雷電?!」

 

「藤原くん!?だ…大丈夫ですか?!」

 

 

そんな彼が苦しんでいるのにも関わらず檜山は苦しがっている彼を見ながらも笑っていた。

 

 

「おいおい…彼奴、何か知んねえけど勝手に苦しみやがった。新手のジョークか?だとしたらチョーウケル〜〜!…んで、こいつのステータスは何だったんだ?」

 

 

そう言って檜山は雷電からステータスプレートを確認するべく奪おうとした時に雷電は苦しみながらも必死に声を出そうとした。

 

 

「…めろ!」

 

「あっ?何だって?」

 

 

 

「やめろぉ!!俺をそんな目で見るなぁーーっ!!?」

 

 

 

「はっ?……うおおおぉぉぉっ!!?」

 

 

その時に彼は檜山に対して手を檜山に向けて手を突き出す様に伸ばした瞬間、檜山は何かされたのか勝手に吹っ飛んで行き、彼から遠ざけられた。幸い怪我はしなかったものの、僕はアレが何なのか思い出した。アレはとある映画の作品の中である騎士団たちが持っている技だった。あの時に雷電からステータスプレートを確認し合った時に技能の中にフォース光明面とフォース暗黒面、そしてライトセーバーの型と書かれていた。最初見たときは何の技能なのか分からなかったけど今の檜山が吹っ飛んで行った光景を見て僕はその技能の謎の答えを思い出した。それはスペースオペラの作品の一つである“スター・ウォーズ”と呼ばれるもの。一応スター・ウォーズは齧った程度だけど今僕が見たのは紛れもなくスター・ウォーズ特有の“フォース”であることを理解し、確信した。そう考えている時に彼は何かしらの限界が来たのかその場で倒れ込んで気を失ってしまう。この様な予想外が起こることになることをメルド団長や他の皆も予期せぬことだった。今日の訓練は一旦中止し、訓練中止になった後に僕たちはお城の個室で休むことになり、明日から訓練を開始する方針になった。

 

 

 

気を失っている雷電は今でもベッドに寝たきりだった。何やら悪夢でも見ているのかかなり魘されていた。彼が目覚めるまでしばらくの間僕が看病することになった。そして彼が目を覚ましたのは丁度夜中の時間帯だった。

 

 

「ここ…は……?」

 

「あ…雷電。無事に目が覚めたんだね」

 

「ハジメ…?俺は……どれくらい眠っていた?」

 

「ざっと6~7時間位眠っていたよ。魘されながらだったけど……」

 

 

“そうか…”と彼がそのくらい気を失っていたことを再認識するのであった。そして僕自身も彼から聞きたいことがあった。

 

 

「雷電……あの時の苦しみ方は異常だった。医者でもない僕でも分かる。だからこそ聞かせて欲しい、君は……一体過去で何があったの?」

 

 

あまり人の過去を覗き込む行為はしたくはなかったけど、これだけは確認しておかないと行けない気がした。そうしないと、雷電が僕たちが知らぬ間に遠くに行ってしまう様な気がする。しかし彼僕に気遣ってか自分は何事もなかった様に振る舞う。

 

 

「……すまないハジメ、只の体調不良だ。ちょっとした頭痛だけで「…銀河共和国」……!」

 

 

僕が言った言葉に反応したのか彼は途中で言葉を止めた。そして僕は再び言葉を繋げる。

 

 

「ジオノーシスの戦い。クローン戦争。ジェダイ・オーダー。シス。そしてオーダー66によってクローン兵達が裏切り、反乱を起こしてジェダイ達を粛清した」

 

「…待てハジメ、お前……それを何処で?」

 

「その反応からすると、やっぱり……」

 

 

知ることもなかったことを僕が知っていることに驚きを隠せない彼の顔は初めて見た。そして僕は彼に僕が知ることの全てを話すことにした。

 

 

「良いかな雷電?これは飽くまでも僕の推論なんだけど、君は……()()()なんでしょ?それも向こうの世界の……」

 

 

このことを話してこの先はどうなるのかは僕でも見当がつかない。でもこれだけは分かる。彼には支えとなる人が僕以外を除いていないということ。そのままにしてはきっと彼は壊れてしまうことを……。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去、そして訓練

ストックしていた次話がもうそろそろ尽きそう。


3話目です


 

 

まさかハジメが俺が前世の頃にいた世界のことを知っているのは予想外だった。何よりもハジメが言うにはスター・ウォーズという映画が存在していたことだ。俺自身はあまり映画はあまり見ないから知らなかったが、まさかそのスター・ウォーズが、俺たちが歩んできた歴史が地球では架空の物語であったことには気付きもしなかった。……いや、それは単なる言い訳だ。テレビのCMとかビルの大画面広告とか雑誌などで知る機会があったのにも関わらず、俺は前世で体験したあの悪夢を忘れようと見ぬ振りをしていたのかもしれない。俺が地球に生を得てからスター・ウォーズというものを何度も耳にしたが、聞かなかった事にしていた。前世の出来事という悪夢から逃げようとずっと見ぬ振りをし、聞かぬ振りをしていた。それが俺自身の心の闇にあの悪夢が付け入る隙となったのかもしれない。

 

 

 

話がそれてしまったがハジメの話を聞くとジェダイが粛清された原因でもあるクローン達がハジメがいう“オーダー66”という単語が出て来た。ハジメ曰く、オーダー66とはジェダイを銀河共和国の反逆者とみなし、共和国グランド・アーミーのクローン・トルーパーに彼らの処刑を命じる最高機密指令である。銀河共和国のクローン・トルーパーは脳内に行動抑制チップを埋め込まれており、それまで一緒に戦っていたジェダイ将軍の抹殺を命じられても疑問を持つことなく指令を遂行するようプログラムされていた。クローン・トルーパーを設計したカミーノアンの科学者たちは、この指令が反逆者のジェダイに対してのみ用いられる緊急用プロトコルだと考えていたが、実際はオーダー66はシスの暗黒卿ダース・シディアスこと銀河共和国最高評議会議長シーヴ・パルパティーンがジェダイ・オーダーを壊滅させるために仕組んだ陰謀だった。それ以前に俺たちが倒すべき敵であるシスがこうも身近に存在するとは思ってもいなかった。そして何よりも俺たちジェダイはずっとシスの暗黒卿の手のひらで踊らされていた事に苛立ちを覚えた。

 

 

「それじゃあ俺たちジェダイは議長……いや、シスの陰謀にまんまと乗せられたという事なのか?」

 

「うん。シスのやり方もそうだけど、平和の守護者であるジェダイも、クローン戦争が長く続いたことに影響したかもしれない。1000年以上も平和を守ってきたジェダイでも、腐敗した共和国を維持するのが限界だったかもしれないんだ。例えシスを全て倒したとしても。飽くまでも僕から見た場合の話だけど……」

 

 

ハジメの言う通り共和国はクローン戦争が始まる前から腐敗しており、ジェダイ・オーダーではその腐敗した共和国を維持するのも限界だった。しかし、そうなると何故スカイウォーカーが俺たちを裏切ったのか見当がつかなかった。その時もハジメが説明した。

 

 

「雷電、アナキンは……クローン戦争が始まった後にジェダイの掟に反してナブーのパドメ議員と秘密の結婚をしたんだ。そしてアナキンの師であるオビ=ワンがウータパウに向かった後にパルパティーン議長がアナキンに自身がシスの暗黒卿と名乗ったんだ。その時にアナキンはジェダイ・マスターのウィンドゥに報告したんだ」

 

 

そうハジメから聞かされて俺は驚きを隠せなかった。あのスカイウォーカーがジェダイの掟に反して結婚をしてたとは思わなかった。……とは言え、俺もある意味ではジェダイの掟に反する者の一人。スカイウォーカーと同様同じ穴の狢かもしれん。

 

 

「なるほど……まさかスカイウォーカーにそんなことが。…しかしだ、マスター・ウィンドゥに報告した後のスカイウォーカーはどうなったんだ?」

 

「ウィンドゥはアナキンにはまだ迷いがあるからジェダイ・テンプルに待機する様に言った後、三人のジェダイ・マスターを連れてシスの暗殺を行ったんだ」

 

「暗殺……だと!?」

 

 

ハジメの言葉から暗殺という言葉を聞いた時は頭を打った様な衝撃が走った。もはや驚きの連発である。いくらジェダイでも相手がシスの暗黒卿とはいえ元を正せば相手は元老院最高議長だ。確かに共和国の腐敗はもはや致命的だ。だが、それでも彼らは民意と選挙によって選ばれた者たちだ。そんな彼らを“シスの息が掛かった者たち”と言ってジェダイが断罪すればどうなるか俺でも分かる。そしてハジメは再び話を再開する。

 

 

「ショックを受けている所悪いけど、話の続きに戻るよ。シスの暗黒卿を暗殺しようとしたけどシスは予想以上に強く、ジェダイ・マスターのウィンドゥしか生き残らなかったんだ。でも、剣術的に上回っていたウィンドゥの方が一枚上手だったことでシスを追い詰めたんだ。でもそこにジェダイ・テンプルに待機していたアナキンがやって来たんだ。その時にアナキンからの視点だと無抵抗の議長をジェダイが殺そうとしている光景だったかもしれない」

 

「スカイウォーカーからすればそう見えるだろうな。それで、スカイウォーカーはやはり……」

 

「うん。アナキンはジェダイの掟もそうだったけど、一番は愛する者を守りたかったからウィンドゥから議長を守ろうとウィンドゥの手を切断したんだ。そしてシスの暗黒卿はフォース・ライトニングでウィンドゥに止めをさしたんだ」

 

「そして…議長ことシスの思惑通りスカイウォーカーは暗黒面に堕ちて、シスの暗黒卿がスカイウォーカーに命じて第501大隊を率いてジェダイ・テンプルを襲撃し、各銀河に展開している残りの全クローン兵に例のオーダー66を発令して俺たちジェダイを抹殺を図ったということか」

 

 

“そうなるね”とハジメは辛そうな感じで答えた。恐らくジェダイであった俺のことを気遣っているのだろう。だが、俺自身はもうジェダイではなくフォースを扱えるだけの只の人間となったのだ。ハジメには余り気にしなくて良いとそう伝える他なかった。そして俺たちは明日の訓練に備えて就寝するのであった。

 

 

 

翌日の朝にてメルド騎士団長の指導の下、訓練を行うことを兼ねて俺は過去と向き合う為のちょっとしたテストを行おうと思った。それは技能にあったクローン軍団召喚だ。本来ならクローンの事を憎んでいない訳でもないが、俺たちが元の世界に戻る為に多くの仲間が必要なのは確かだ。もしも召喚したクローンがまだオーダー66に縛られているというのなら自身の手でけじめをつけるしかない。そして俺はステータスプレートを取り出してこの技能はどういうものなのか確認してみた。

 

 

『技能:クローン軍団召喚とは、技能所有者から魔力を消費してクローン・トルーパーを召喚する技能。召喚時には“コール・リパブリック(共和国)グランドアーミー”と詠唱する事によりクローン・トルーパー一名を召喚する事が可能。なお、大人数で召喚する際にはリパブリックの後に編成単位を答える。また、クローンを召喚する時に種類によっては高コストのクローン兵召喚する事が可能。その際はリパブリックの後にARC、またはコマンドーと答える。そして名前付き(ネームド)クローンを召喚する時に“コール・リバブリック◯◯◯”と詠唱する事により召喚が可能』

 

 

 

少し変わった技能ではあるが、魔力を消費するとは一体どんなものか見当もつかないが、俺は試しに召喚リストから三人のARCトルーパーを召喚する事にした。一応名のあるクローンの場合は種類による名無しのクローンの倍の高コストで召喚が可能である事が判明した。そして俺は名前付きのARC(アーク)トルーパーを召喚する為に詠唱を始める。

 

 

「それじゃあ…始めるか。……コール・リパブリック“コルト”、“ハヴォック”、“ブリッツ”!」

 

 

そう詠唱すると俺の目の前で魔方陣が展開され、そこからARCトルーパーの三人が出てくる。俺が召喚したのはランコア大隊のアドバンス・レコン・コマンドー、通称ARCトルーパーのコマンダーである。すると召還に成功したのか、コルト、ハヴォック、ブリッツは俺の目の前で共和国軍式の敬礼をする。

 

 

「御初め御見えになります。自分はランコア大隊所属のコマンダー・コルト。自分の後ろにいるのは同じコマンダーのハヴォック、ブリッツです」

 

「あぁ、俺は藤原 雷電だ。長い付き合いになるが、宜しく頼む」

 

 

そうして俺はコルトと握手を交わした後に互いの持つ情報を交換し合い、今のクローン達はジェダイ抹殺をプログラムされたバイオ=チップが組み込まれているのかを確認をした。その結果、答えはNOだった。

 

 

「……では、召喚されるクローン達は行動抑制チップを取り除かれている状態で召喚されているのか?」

 

「はい。将軍のいうジェダイを銀河共和国の反逆者とみなし、粛清する緊急オーダーこと“クローン・プロトコル66”が発令することはありません。自分はカミーノ防衛戦で戦死してからあの世といえる場所?から見ていましたが、まさかファイブスが行動抑制チップの裏の仕組みを見抜いた時には、すでにその様な隠された仕掛けが我々の頭に組み込まれてたと知って衝撃を隠せませんでした。その後に自らチップを取り除き、スカイウォーカー将軍やキャプテン・レックスに最高議長や“オーダー66”の真実を伝えようとしていました」

 

 

そうコルトから聞かされて俺は隠された真実を見つけたような気持ちだった。まさかクローンの中でシスの陰謀に気付き、スカイウォーカーとレックスに伝えようとしていたとはな。

 

 

「そうか……クローンでも、特にARCトルーパーのファイブスが議長ことシスの陰謀に気が付いたのか。だがファイブスは、シスの手によって議長の命を狙う反逆者の濡れ衣を着せられ、シスの計画をスカイウォーカーやレックスにばれぬ様に謀殺された」

 

「えぇ。あの訓練生がまさかARCトルーパーになるとは思いもしませんでした。我々としては彼は優秀な兵士です。今もそうです」

 

 

“そうだな…”と話を区切らせ、俺はコルト達にここは俺たちが知る銀河系ではない事を伝えるがその事は既に熟知していたそうだ。それならば俺は話題を変えてコルト達にあることを頼む。それは友人であるハジメを鍛えることだった。ステータスはあまり当てに出来ないといった俺が言うのもなんだが、ハジメの場合はステータス状あまりにも低過ぎる為にコルト達から訓練を受けさせようと考えたのだ。この事にコルトは拒否する様子もなく、ファイヴスが訓練生だった頃に所属していたドミノ分隊と同じ様に彼の可能性を見極めようと思っていた。コルト達から承認してもらった後にハジメを呼び出してコルト達を紹介した時に彼は驚きを隠せずアーマーだったりブラスターだったりと色々とコルト達が着る後期型装甲服フェイズIIアーマーの実験モデルをよく観察するのであった。余談ではあるが再び訓練に戻る時にコルト達を連れていた事を忘れていたのかコルト達を何処の国の兵士なのかと勘違いされ、その場にいた騎士団員は戦闘態勢に入り危険な状況になった。その時に俺はメルド騎士団長やクラス全員にコルト達は俺が召喚した兵である事を説明した。様々な事があったが、俺たちはそれぞれの訓練を行うのであった。

 

 

 

訓練を始めてから10日間が経過した。コルトはハジメとマンツーマンで指導し、ハジメを戦う兵士兼錬成師として鍛え上げた。そしてハヴォックとブリッツは教官として訓練しているクラス全員を鍛え上げる。そして訓練の休憩時間の時にコルトとハジメの二人と会うのであった。

 

 

「コルトにハジメか。コルト、ハジメの方はどうだ?」

 

「将軍、お疲れ様です。彼は自分が考えていた通り見込みがあります。このまま指導すれば彼も優秀な戦士になれる筈です」

 

「そうか……ハジメはどうだ?ARCトルーパーのコマンダー・コルトの指導は?」

 

「正直死にかけたけど、何とか食いつけているよ。ステータスの方も、コマンダー・コルトの指導があっての事かこんな感じに……」

 

 

そう言ってハジメはステータスプレートを俺たちの方に見せた。そのステータスの数値が変化していた。

 

 

 

===============================

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル8

天職:錬成師

筋力:37

体力:32

耐性:51

敏捷:42

魔力:32

魔耐:41

技能:錬成・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・言語理解

===============================

 

 

 

少しずつだが、ハジメは確実に成長していた。これはこれで俺自身も喜ばしい事だった。俺は引き続きコルトにハジメの指導を任せるのであった。なおハジメは前から気になっていた錬成についてこの世界の図書館で本を読んで魔物に関する知識を身につけようとしていたのは余談であり、訓練が再開した時に偶然八重樫と会って少し話し合いをした後に剣の稽古に付き合わされるのもまた余談である。

 

 

雷電Side out

 

 

 

彼が召喚したクローン・トルーパーの中で特殊部隊の類に入るARCトルーパーのコマンダー・コルトの指導の下、僕の能力値はそれなりに上がっていい感じになった。けど、たまに図書館で本を読んでいる時に檜山達がやってきて無理矢理僕を訓練所に連れて訓練とは名許りの虐めを受けていた。

 

 

「よぉ南雲。なにしてんの? お前剣持っても意味ねえだろうが。マジ無能なんだしよぉ」

 

「ちょ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ!」

 

「つかなんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ!」

 

「なぁ大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから俺らで稽古つけてやんねえ?」

 

「あぁ? おいおい信治、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲、感謝しろよ?」

 

 

結局はまた同じで殴る蹴るの暴行にいつも通りの魔法攻撃。檜山達のすることはワンパターンだった。もっとも僕自身防御力が上がっているので前ほど痛みは感じないが、それでも痛いことに変わりはない。でもこの時に檜山達は知らない。檜山達の背後からコマンダー達が近づいてくる事を。

 

 

「ちょ、マジ弱すぎ~。南雲さぁ、お前マジやる気あんの?」

 

 

 

「ほぉ…?ではお前は真面目にやる気はないとみるが?」

 

 

 

「あぁ?……てっお前は“ぐほぉっ!?”…なっ!?」

 

 

檜山は後ろを振り返るとそこにはコルトが檜山の取り巻きである斎藤を殴り飛ばし、ハヴォックとブリッツは近藤と中野を銀河共和国式近接格闘術で無力化する。そしてコルトは僕に対して指示を出す。

 

 

「ハジメ!せっかくの訓練相手だ、今お前が持つスキル(技術)を見せてやれ!」

 

「!…はい!」

 

「ハッ!いくら頑張って訓練した所でお前が無能なのは変わりねえっての!!」

 

 

そう言って檜山は僕の顔面を殴ろうとした。けど、コマンダー・コルトの指導の下で訓練していた為か檜山の拳の動きが読みやすかった。檜山が突き出した右腕を僕の左腕で掴む。今までの鈍臭さとは全く違う素早さだった。

 

「なっ!?」

 

 

その後に檜山の顔面に裏拳をかまし、そのまま流れるように一本背負い投げで一気に檜山を地面に叩きつけた。銀河共和国式格闘術はバトル・ドロイドでも多少は通用するが、本来なら対人用の格闘術であるため今の檜山には効果的だった。今まで散々ARCトルーパーのコマンダー・コルトからマンツーマンで技術や格闘術などを叩き込まれ、体で習得してきた技の前には、素人に毛が生えた程度の戦術しか持たない檜山は手も足も出なかった。

 

 

「見事な立ち回りだ。訓練の成果が出ている様だな。もういいぞ」

 

「…分かりました」

 

 

コルトの指示で僕は檜山から離れる。この時の檜山達は驚きのあまり目を見開いて何も言えずにいた。ちょっと前まで何しても反撃してこなかった南雲ハジメが、いじめられっ子という立場に甘んじていたあの南雲 ハジメが、何もできず役立たずの無能だと蔑まれていたあの南雲ハジメが、たった一瞬でリーダー格である檜山を組み伏せて見せたのだ。檜山達が戦慄を覚え、冷や汗を掻いていると、そこにある女子の怒声が飛んだ。

 

「何やってるの!?」

 

ぎょっとして檜山達はその方向を向く。ハジメもそちらを見た。そこにいたのは白崎さんと八重樫さん、天之河君と坂上君、そして雷電の5人だった。この状況、傍から見ればいじめっ子が反撃を受けた構図にも見えるだろう。

 

 

「な、南雲君。これはどういうこと?」

 

「え、あ、違うんだこれは………」

 

 

いくらコマンダー・コルトの訓練を受けていたとはいえ、こういう場合の弁明の訓練は受けていない。そこを天之河君が見逃すはずもなかった。

 

「南雲、何してるんだ! 檜山を放せ!」

 

「いやっ…お前が先ず待て」

 

 

天之河くんは僕に掴みかかろうとしたが、その時に雷電が横から割って入った。雷電は僕よりも滑らかで手慣れた動きで天之河くんを壁に押し付け拘束する。

 

 

「ぐぅっ!?雷電、離すんだ!俺は南雲に…」

 

「お前じゃ余計に状況が分からなくなるだろうが!少しは大局を見極めろと言っただろうが!……コマンダー・コルト、状況報告」

 

「はっ。…檜山を含む4人組はハジメに対して訓練とは名許りの虐めを行っていました。その際にハジメを含め、我々がこの4人を無力化しました」

 

「そうか…ご苦労だった」

 

 

彼はコルトから状況を聞き出して理解した瞬間、怒りを表しているのか拳を力強く握っていた。その拳には多少の血が出ていることを気がつかないくらいに。すると彼は檜山達に警告する。

 

 

「檜山達、これを期にハジメに対する虐めは止める事だ。もしまた同じ事をやらかしてみろ、“次はない”と思え」

 

 

そう彼が言った後に檜山を除く三人は直ぐにその場から離れる。そして檜山は無言のまま僕を睨みつけてその場を去った。多分逆恨みのつもりなのだろうかもしれないけど、明らかに自業自得だった。その時に天之河君がコマンダー・コルト達の行動に対して反発した。

 

 

「……確かに檜山達の行いも悪いのは事実かもしれない。けれど、今まで南雲達がやった事はいくらなんでもやり過ぎだったぞ?」

 

「…つまり、何が言いたい?」

 

 

コマンダー・コルトは天之河くんの言葉に何か癇に触ったのかヘルメット越しでも少し怒りを感じ取れた。

 

 

「南雲はコルトさんと付きっきりで指導してもらって強くなったのは良いが、ハヴォックさんやブリッツさんからは俺たちに教えたのはみんなが死なない様に護身術を教えた程度だ。それだとまるで南雲が1人だけ力を身につけて抜け駆けしようとしているみたいじゃないか」

 

 

雷電が言う様に天之河君には『基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない!』と言う解釈がある。彼の“ご都合解釈”がそう成り立ってしまっているのかも知れない。その時に雷電は天之河君の気づいていない無関心な心に苛立ちを隠せないでいた。するとコマンダー・コルトが呆れた様子を見せながら天之河くんに言う。

 

 

「本当にそう思っているというのなら、その無関心さを少しは自覚する事だ」

 

「俺は人として当たり前の事を言っているだけだ。何も間違った事は言っていない」

 

「間違いだらけだ。お前の言っている事は自分の勝手なご都合解釈を言っているだけだ」

 

「…何だと!」

 

 

コルトと天之河君との対立が増していきながらもコルトは僕たちの前に立ち、あることを告げる。

 

 

「これは俺たち兄弟に言った言葉ではあるが、あえて言わせてもらおう。これだけは覚えておけ!前線では団結が最優先だ!お前達、時に対立しても心は常に一つであれ。ルールその1、“共に団結して戦え”。これはお前達にも共通するものだ。先ほどの檜山達の行いに対しては全く以て酷いものだ。協調性のなさ、虐め、煽り、そして下手をすれば味方殺しに繋がる場合がある。この世界の住人から見ればハジメでは話にならないかもしれんが、俺からすれば檜山達の方が勇者と名乗るのが痴がましい程まるで話にならんな。虐める事でしか自分の存在価値を見出せない、口だけが達者な素人以下だ。だが…ハジメは違う、彼には檜山よりもちゃんとした才能がある。奴がハジメのことを無能と言っていたが、他人の才能を理解せず馬鹿にする奴の方が真の無能だ。それを見ぬ振りをして無自覚にハジメを追い詰めたお前達も極々控えめに言ってもあれだな。お前達のくだらない嫉妬心でハジメを追い詰めている暇があるのならちゃんと真面目に団結しろ。でなければ、死ぬだけだ。そもそもだ、お前達の目的は何だ?この世界を救う事か?それは飽くまで第2目的であって第1の目的は元の世界への帰還だろう?ならばくだらない嫉妬心や嫌悪感を捨ててハジメを含めて一致団結することを心がけろ。良いな?……俺からは以上だ」

 

 

コルトはクラス全員にぶっきらぼうにそう伝えた後にその場から離れるのであった。この時にクラス全員はコルトの言葉に一部心当たりがあったのか誰もコルトに対して言い返せずただ黙るしかなかった。なお天之川君はコルトの言葉には納得いかなかった。これがコルトや他のクローン達と天之河君との間に大きな溝が出来ることを今の僕達には知る由もなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

武器開発と約束

たった三日で評価がこんなに来るとは思わなかった。∑(゚Д゚:)


4話目です。


 

 

檜山達が起こした虐めの一件以降、檜山達はハジメを虐める様子はなく大人しくしていた。そして天之河とクローン達の間で大きな溝が出来ていた。無論、悪い意味でだ。コルトと天之河は檜山達の一件以来、衝突が絶えなくなった。天之河曰く、他の皆を自分が必ず守り抜くと断言しているのにも関わらず、コルトはズブの素人(天之河)には任せられないと言うらしい。…正直に言えばこれはコルトの言い分が正しい。俺やクローン兵達を除く他の生徒は戦争、ましてや戦闘経験がないのだ。それに関してはハジメも同じことだ。特に皆の事で要注意点を上げるのならば訓練の際に対人戦の訓練が入っておらず、人を殺める覚悟を持たないまま訓練をしていることだ。これはコルト達の配慮でもあり、対人と対魔人戦においては俺とクローン達だけで対処しようと考えている。

 

 

 

そんなことを考えながらも俺は自身の武器こと、ライトセーバーの変わりになる武器の開発をクローン、そしてハジメと共に行っていた。武器開発の際、特に注目したのはホロワン・メカニカルズ社が製造した棒状の接近戦武器である“エレクトロスタッフ”である。これは独立星系連合の“IG-100 マグナガード”が標準装備として造られた武装で唯一ライトセーバーに対抗出来る武器でもある。しかし、そのエレクトロスタッフを作るのに欠かせない合金がこの世界には存在しないことにおれたちは頭を抱えていた。その合金とはフリク合金である。何とかフリク合金の代わりとなる合金をこの世界で最高の硬度と靭性の鉱石で作るしかなかった。

 

 

「さて…問題は、このエレクトロスタッフをどうやって長バトンとして作るかだ。色々と問題視する所もあるが、最優先事項は二つ。一つはスタッフをバトンにすることと、もう一つはバトンの先端部分の電磁モジュールの長さだ。83.5cmが理想だな」

 

 

俺が理想とするのはライトセーバーのプラズマの刃の長さを持ったエレクトロバトンだ。あの長さならライトセーバーの代わりにもなり、電磁モジュールの威力を調整すれば非殺傷武器にもなる。そして何よりも、ライトセーバーのプラズマ刃に対して唯一対抗出来る武器であると同時に使い方によってはブラスターから放たれるエネルギー弾を弾く事が出来る。

 

 

「それはジェダイが使っているライトセーバーとしての感覚ですか?」

 

「まあな。ただ……問題点を挙げるなら電磁モジュールのエネルギーだ。只でさえ電磁モジュールを伸ばすとなると消費するエネルギーが倍増になる。となるとバトンにケーブル付きのパワーパックを付ける事を考えなければならないな」

 

 

そう、先端部分である電磁モジュールをライトセーバーのプラズマ刃と同じ長さにするとエネルギーが余計に必要になる。となると古代ジェダイが使っていたと言われるプロトセーバーをベースに作るしかないと思われた。しかしここでハジメがある提案を俺たちに言う。

 

 

「……だったらこの世界の鉱石である“シュタル鉱石”なんかはどうかな?」

 

「シュタル鉱石?初めて聞く鉱石だが、それはどんな鉱石なんだ?」

 

「訓練の合間に僕は図書館でこの世界の鉱石について調べていたんだ。色々な鉱石があったけど、特にシュタル鉱石と呼ばれる物は魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石だって書いてあったんだ。つまり、このシュタル鉱石の特性である魔力を込める分だけ硬度を増す性質を利用すれば……」

 

「なるほど、俺の場合は魔力が異常な位に多いからな。それに、魔力の方でも雷の魔力を込めれば硬度を増すと同時に電磁モジュールに送るエネルギー代わりにもなる」

 

 

そして何よりも、態々ケーブル付きパワーパックでなくても良いという事だ。ケーブル付きだと取り回しが悪くなる原因にもなるし、ケーブルが切断されてパワー不足で起動しなくなるという不慮の事故を避けられる。しかし、問題は魔力となると自身から魔力を供給する量に気をつけなければならない。下手をすれば魔力切れで倒れ込んでしまう場合がある。さらに付け加えるならそのシュタル鉱石だ。もしかしたらフリク合金の代用品として使えるかもしれないが、そのシュタル鉱石が市場に出回っているかどうかだ。だが、これでもハジメの案は最善の方だと俺は思う。何せフリク合金の代わりをどうするか考えていた所にハジメが良い所で案を出してくれた事で代用品の鉱石となる物が判明したのだから。もしシュタル鉱石が市場に出てなければメルド騎士団長に頼んでみる他にないな。

 

 

「ハジメ、ありがとな。おかげでエレクトロバトンの開発が楽になりそうだ」

 

「そ……そう言われると何か恥ずかしいな……」

 

「あまり自身を蔑ろにするな。お前のアイデアや知識のお陰で助かっているんだ。素直に喜んでも罰は当たらんさ」

 

 

そうクローンがハジメに対して言い、ハジメはハジメで何かと照れくさかった様だった。そんな事もありながらもエレクトロスタッフの派生、最新化された“エレクトロ・ロングバトン”の開発ルートが決まるのであった。

 

 

 

訓練を始めてから約三週間が経過した。エレクトロ・ロングバトンの開発は素材などの調達が困難な事があって一週間を要したが、ハジメの協力があって試行錯誤を繰り返してようやくエレクトロ・ロングバトン試作1号の開発に成功したのであった。試しに俺はエレクトロ・ロングバトンに雷の魔力を込めると電磁モジュールに魔力というエネルギーが伝導し、蔓状のエネルギーを発生させた。

 

 

「……よし、いい感じだ。出力も申し分ないし、重さも丁度良い。使いやすい」

 

「では、課題点であるブラスターを弾けるかどうかですね?」

 

「あぁ。トルーパー、実証テストの為にブラスターを低出力で撃ってくれ」

 

「はい、将軍。では……」

 

 

一人のクローン兵がブラスターの出力を調整した後にブラスターを俺に向けて撃った。俺はエレクトロ・ロングバトンをライトセーバーと同じ様にブラスターを弾いてみようとする。エネルギーを纏った電磁モジュールにブラスターのエネルギー弾が直撃するや否や、ブラスターのエネルギー弾が明後日の方角に弾かれる。そう、テストは成功したのだ。

 

 

「どうやら性能の方も申し分ないな。……ただ問題点を挙げるならこれの製造コストが高めであって、斬撃武器ではなく打撃武器だ。少しばかり慣れが必要だが、戦いで使いこなすしかない様だ」

 

「そのようですね。…それと将軍、メルド騎士団長からそろそろ移動をするとの事です」

 

「分かった。俺たちもそろそろ向かうとしよう」

 

 

クローン兵から“イエッサー”と言葉を皮切りにエレクトロ・ロングバトンを持ってクローン達と共にその場を後にした。そして俺たちはメルド騎士団長が率いる騎士団員複数名に連れられ、馬車で移動をしていた。その向かっていた場所とは宿場町ホルアドであり、明日からいよいよ向かうであろう迷宮(ダンジョン)“オルクス大迷宮”であった。ホルアドについた俺たちは一旦明日に備えて新兵訓練によく利用する王国直営の宿屋に泊まる事となった。ここで改めて俺は自身のステータスプレートを確認してみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル10

天職:■■■■■■■■

筋力:180

体力:190

耐性:130

敏捷:170

魔力:720

魔耐:150

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚・言語理解

===============================

 

 

 

相も変わらず天職の方は伏せ字によって隠されているが余り気にする事はないだろう。ただ、明日の迷宮攻略戦では何かと嫌な予感がする。フォースの方も何かとざわついている。明日から起こる未来が見通せない中、俺はここしばらくの間動きを見せなかった檜山達……もとい、檜山が何を仕出かすのか不安が隠せなかった。万が一の事を考えて俺はコルトに階級が高いクローン・キャプテンやコマンダー、ARCトルーパーが携帯するDC-17をハジメに渡す様に頼み、不安要素を減らそうと試みた。だが、その不安が現実のものになる事をこの時の俺は思いもしなかった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電の武器開発に手伝った僕は宿屋で雷電と会い、彼から例のエレクトロ・ロングバトンが完成したのを聞いて嬉しく思った。そして明日に備えて僕は宿屋の部屋でベットに寝転んでいた。その時に僕は今の自分はどうなったのか確認する為に自分のステータスプレートを見ていた。

 

 

 

===============================

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル12

天職:錬成師

筋力:43

体力:40

耐性:59

敏捷:54

魔力:42

魔耐:45

技能:錬成[+精密錬成][+電子機器錬成][+電子機器組立て錬成][+複製錬成]・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・言語理解

===============================

 

 

 

雷電の武器開発に関わって以来錬成する機会が多かったため何度も錬成しては失敗を繰り返して新たなる技能を得た。それが“精密錬成”と“電子機器錬成”と“電子機器組立て錬成”、そして“複製錬成”である。精密錬成はその名の通り何回も錬成をしたことでより精密な錬成が出来る様になった能力だ。電子機器錬成と電子機器組み立て錬成はエレクトロバトンの部品を錬成を行っているうちに技能として会得した物だ。最後に複製錬成は電磁モジュールの部品の仕組みをクローンから教わりながらも錬成しては失敗を繰り返したが、何度も錬成する事で錬成スキルが上がって来たことで新たにこの複製錬成を得たのだ。一度錬成した物を完全に複製して錬成する事が出来るものだった。それによりエレクトロバトンの部品を複製錬成し、万が一失敗してもまた組み立て直す時に素材不足に悩まされる事がなくなったのであった。……正直思えば彼との出会いがなかったら今頃僕は檜山達の様な者達に虐められる者として過ごしていたかもしれない。そう考えていると、ドアからノックする音が聞こえた。…こんな時間に誰だ?と思った時に意外な人物の声が聞こえた。

 

 

「…南雲くん起きてる?白崎です、ちょっと…いいかな?」

 

「白崎さん?い…今開けるよ」

 

 

僕はドアの方に向かい、鍵を外してドアを開けるとそこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの白崎さんの姿があった。流石に僕でも今の白崎さんの姿には恥じらいを覚えるのであった。それでも僕は白崎さんから何しに来たのか聞き出してみた。

 

 

「えっと……何か連絡事項でもあるの?」

 

「え…えっとね……その…なんていうか…少し南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

「い…いや、そんな事はないよ。…と、とにかく廊下だと寒いし、中で話そう」

 

 

正直に言って“なんだこの展開!?”って思える程僕は緊張していた。とりあえず僕は彼女の身体が冷えるといけないのであったかい紅茶をだして一息ついた。そして一息ついた後に僕は白崎さんから何の話なのか聞いてみた。

 

 

「そ…それで、話って何かな?」

 

「うん…明日行われるオルクス大迷宮での実戦訓練の事なんだけど……南雲くんにはこの町で待っててほしいの」

 

「え…?ど、どうしてそんな事を?」

 

 

白崎さんから言われたのは僕はこの町で待ってて欲しいとのお願いであった。最初にそう言われた時はまさかの戦力外通告だと僕は少し思ってしまったが、それは違った。

 

 

「私さっき少し眠ったんだけど……夢を見てね」

 

「夢?」

 

「とても嫌な夢……その夢の中で南雲くんと藤原くんが居たんだけど、何度も声を掛けても全然気がついてくれなくて…どんどん遠くに行っちゃって、走っても走っても全然追いつけなくて……そして最後は二人が消えてしまうの」

 

 

夢か……確かに白崎さんにとって恐ろしく不吉な夢なのかもしれない。でも飽くまでも夢は夢。雷電や天之河くんの様な訳ではない。それ故に彼女は不安を隠せないでいるのであろう。

 

 

「そ……そっか」

 

「だから怖くなって、明日の特訓で何か起こるんじゃないかって」

 

「ハハ…夢は夢だよ白崎さん。今回はメルド団長が率いるベテラン騎士がついてるし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。そして雷電が召喚し、率いるクローン軍団もこの世界の軍隊ですら引けを取らないくらい最強だし、敵が可哀想なくらいだよ」

 

 

実際は雷電が召喚したクローン達が使うブラスターはこの世界の技術力じゃ到底作れない代物だ。事実上彼の軍隊を超える人間族の国家は存在せず、…もっとも唯一対抗出来るのは多分魔人族くらいかな?そう思っていると白崎さんから急に中学の頃の話を持ちかけて来た。

 

 

「…ねぇ南雲くん。中学の時の事を覚えてる?南雲くんが道の真ん中で土下座してたの」

 

「え…土下座!?……って、あー……あの時か。そんな事もありましたねぇ…」

 

 

そう、あの時に雷電とであったのはその時期であったのだ。下校中の時に偶然子供とその子供のおばあさんがガラの悪い男に謝罪しているのを見かけたのが始まりだったな。子供が誤ってガラの悪い男の高級スーツを汚してしまい、おばあさんが怯えながらクリーニング代を渡してたんだった。その場にいた当時の僕はスルーするつもりだったんだけど、ガラの悪い男が子供に手を上げようとするのを見て身体が勝手に動いたんだ。……と言っても相手がドン引きするぐらい土下座とおばあさんが渡した倍のクリーニング代を渡したんだけど…ガラの悪い男は僕の言葉を聞かずに子供の代わりに僕に殴り掛かろうとした時に偶然彼こと雷電がその男を止めて何とか説得してくれた。これが僕と雷電の最初の出会いだった。だが、ガラの悪い男の怒りがエスカレートしていく一方だった。その時の雷電は何かを諦めた様子をしながらも手を翳して“余り怒らない方が言い”と何かしらの暗示を呟くとそのガラの悪い男も雷電の言葉を同じ様に返す様に怒りを鎮めた。そして彼はガラの悪い男に“クリーニング代を彼らに返して、自分でクリーニングに行くべきだ”と言い、男も雷電の言った言葉を復唱し、僕やおばあさんにクリーニング代を返してその男はこの場から離れたのであった。……よくよく思えば彼はフォースを使い、フォース・マインドでガラの悪い男を引かせただっけ?。…と言うか、あの場に雷電以外にも白崎さんがいたんだ。

 

 

「まさか白崎さんに見られていたんだ……いやぁお見苦しいところを」

 

「ううん、見苦しくなんてないよ。あの時の南雲くんと藤原くんは凄くかっこ良かった。強い人は暴力で解決するのが簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒しているし。…でも弱くてもそういうことに立ち向かえる人はそんなにいないと思うよ。実際あの時も私は怖くて…自分は強くないから誰か助けてあげてって思うだけだった。周りの大人もみんな見て見ぬフリだった。でも、その時に藤原くんが来て殴られそうになった南雲くんを助けて、話だけ解決した。だから高校で南雲くんたちを見つけたときは嬉しかった。南雲くん、話しかけてもすぐ寝ちゃうし、藤原くんもいつも昼休みの時は屋上で瞑想したりして話しかけても聞いてもくれなかったけど、あの日からね…南雲くんと藤原くんは私の中で一番強い人なんだ」

 

 

まさか白崎さんが僕たちの事をそんな風に思われていたなんて思いもしなかった。学校で気にかけてくれているのはそれが理由か。…でも、僕なんかよりも白崎さんは雷電のほうがいいと思う。……と雷電に言ってもその気はないと言うかもしれない。何せ彼は前世ではジェダイとして禁欲的な生活をしていたから(と言っても地球に転生した後はジェダイの掟である禁欲から解放されたから普通の人と大差変わらないけど…)恋愛感情に対して薄いかもしれない。

 

 

「ありがとう白崎さん…でも、僕は…白崎さんが思うほど強い人間じゃないよ」

 

「え…!?」

 

「僕はただ面倒事を避けているだけさ。自分が弱いのを嫌というほど知っているから。一応コマンダー・コルトからの指導があるからマシといえばマシになったけど………」

 

 

確かに雷電がクローンの中で精鋭部隊とも言えるARCトルーパーのコマンダー・コルトを召喚して僕の訓練教官になってくれた事で僕は檜山達の虐めから対処出来たのだけど、それでも他のみんなより僕のステータスの能力値の成長が低い分嫉妬や劣等感が溜まっていく感じだった。

 

 

「コマンダー・コルトって、もしかしてコルトさんの事?」

 

「うん。まぁ…指導してくれているのだけれどもやっぱり嫉妬や劣等感とか嫌な気持ちでいつもいっぱいで…この世界に来てからもそうだよ」

 

 

 

「そうか?俺はそんなつもりでお前を指導したつもりはないが?」

 

 

 

白崎さんと話している最中に突如とコマンダー・コルトがやって来たのだ。

 

 

「こ……コルトさん!?」

 

「コマンダー・コルト!?あっ……いや、僕はその……決して疾しいことは」

 

「何を言っているんだ?俺はまだ何も言っていないぞ?それとだハジメ、お前鍵を閉め忘れていたぞ」

 

 

そうコルトが答えると僕は一旦落ち着いて冷静さを取り戻した。コルトが言っていた様にどうやらあの時白崎さんが僕に訪ねて来た時にテンパってドアを閉めたのは良いが鍵を閉め忘れてしまった事に気がつかなかった。

 

 

「訓練の時にも言ったが、あまり自分を蔑ろにするな。お前が積んで来た経験は決して無駄にはならない。現にお前はちゃんと成長をしているし、将軍が言っていたがステータスが全てではない。戦場ではそれは単なる飾りでしかならない」

 

「将軍?……それってもしかして藤原くんのこと?」

 

「あぁ、その認識であっているぞ白崎。俺たちクローンは将軍と共に戦う為に存在するからな。それとだハジメ、将軍に言われてお前に渡すよういわれた物がある」

 

 

そうコルトが言い、ホルスターからDC-17ハンド・ブラスター引き抜いた後に僕にそれを手渡した。

 

 

「これって…DC-17ハンド・ブラスター!?で……でもこれって特に階級が高いクローン・キャプテンやコマンダー、ARCトルーパーが携帯する筈じゃ……」

 

「心配するな、そいつは俺の訓練によく耐えてきたお前への褒美だ。もっとも危機的状況にこいつがあった方が良いと将軍が言っていたからな。誰かに取られない様に大事に持っておけよ?そいつの容量は最大で50発だ。おっと、もう一つ渡す物があった。ほらっ、そいつ専用のパワー・セルのカートリッジだ。そいつがエネルギー切れになったらこのカートリッジで補充するんだ。俺からは以上だ。明日は早いからな、早めに寝ろよ?」

 

 

そう言ってコルトは僕にハンド・ブラスターを渡した後に部屋から出て行った。正直なところまさか本物のブラスターを手にする日が来るとは思ってもいなかった。コルトが出て行った後、白崎さんと話の続きをして、最終的に僕が強くなる度に傷つく事があるので白崎さんの天職である治癒師の力で僕を守って欲しいと約束するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇の暗雲、オルクス大迷宮

ストックが切れたので少し遅れます


5話目です


 

 

他の皆が就寝している真夜中の時間に俺は起きた。エレクトロ・ロングバトンの開発の疲れがまだ残っていたのか余り寝付けなかった。一旦夜風でも当たってからもう一度寝ようと部屋を出て廊下を歩いている時に偶然にもクラスの中で図書委員を務めている“中村 恵里”の姿があった。

 

 

「あ……藤原くん。起きてたの?」

 

「ん?中村か。まあ少しな……夜風でも当たろうと思って丁度外へ向かおうとしていたところだ」

 

 

“そう…”と中村が呟いた時に僅かだが、彼女自身から強い好意と執着心、そして俺に対する憎しみを感じ取れた。一体誰に好意を抱き、執着しているのかは分からないが、俺に対して憎んでいるとなるとこれはこれで危険だった。すると中村から俺にこんな質問をして来た

 

 

「藤原くん、一つ良いかな?」

 

「俺に、何かあるのか?」

 

「うん、藤原くんはどうして天之河くんとぶつかってばかりなの?」

 

 

ここであいつ(天之河)を出してくるとは、どうやら彼女は天之河に対して好意を抱きながらも自分の者にしたいという執着心……いや、もはや執着心以前の問題で天之河を自分の者にする為なら手段を選ばない独占欲の持ち主なのだろう。…もし彼女がフォース感応者だとしたら完全に間違いなく暗黒面に堕ちるだろう。とりあえず俺は彼女の問いに答えるのであった。

 

 

「天之河か……何でぶつかってばかりだというと、正直に言えば生理的に俺は彼奴のことが嫌いなんだ」

 

「え…?」

 

「あいつは確かに成績優秀でスポーツ万能。そして正義感がある。そこは理解出来るし、あいつの良いところだ。…だが、あいつは自分自身の欠点とまるで向き合っていないんだ。その欠点は二つ。ご都合解釈と目の前の現実を直視出来ていないことだ。イシュタルが言った様に、この世界の人間族が滅亡の危機に瀕している状況の中で、あいつはクラスを元の世界へ戻すよりもこの世界を救う方を取った。生徒や世界の大局を見ず、視野を狭めてだ」

 

 

俺は中村の問いを隠さずに答えた。その時の中村の表情は変わっていなかったが、その裏の表情では俺に対しての怒りと憎しみが渦巻いていた。正直に話したらここまで殺意が溢れ出るとは思いもしなかった。流石にこの状況は危険であると思い、急遽話題を変えるのであった。

 

 

「……まぁ、アレだ。俺はあいつのことを嫌いであることは変わりないが、中村の場合はあいつの事はどうなんだ?」

 

「え…!?わ、私?」

 

「あぁ、俺は人の恋路……というのか?それを邪魔する程無粋じゃない。あいつを振り向かせられるかは中村次第だ」

 

 

中村は俺がこのような事を言うのを想定していなかったのか言葉が上手く繋げられなかった。しかし、まさか天之河に好意を抱いているとは思わなかったが、中村の場合は満更でもなかった様だ。だが、念には念で彼女には釘を刺しておく必要がある。

 

 

「しかしだ、もしあいつを振り向かせる為にクラスを利用して危険に晒すというのなら話は別だ。もしそうなったら、その時は俺が止める。…まぁ、そうでなければあいつに振り向いてもらえるまで頑張れ、応援はする。……じゃあ、もう戻るよ」

 

 

そう言い残して俺はこの場を後にするのであった。一応彼女も俺の心の中の警戒リストにいれて置いて明日に備えておく。明日のオルクス大迷宮での実戦訓練で何も起きなければ良いんだが……。

 

 

雷電Side out

 

 

 

翌日の朝、僕たちはオルクス大迷宮の正面入り口付近に集まっていた。僕ら以外……というより、雷電が召喚したクローン・トルーパー達の数が異常だった。…いや、クローンだからこれだけの数がいても不思議じゃないけど、他のみんなからすれば異常すぎる数なのかもしれない。一応彼から何人くらい召喚したのか聞いてみたら一個中隊……つまり、120人前後のクローン・トルーパーがこの実戦訓練で僕らに万が一が起きた時の中隊だそうだ。その中隊のうち20人は青い模様を施したアーマーを身に着けた重武装のARCトルーパーだった。

 

 

「すっごい規模の数だ……」

 

「これ全部、雷電が召喚した奴?」

 

「嘘だろ…おい…?」

 

 

流石にクラスのみんなも雷電が召喚したクローン達を見て驚いていた。まぁ……スターウォーズ知っている人や知らない人でも本物のクローン・トルーパーの軍団と会えるなんて想像出来る筈がないからね。そう考えていると雷電が新たに召喚した名前付きクローンがいた。一人は赤いストライプ模様が施されたフェーズⅠクローン・トルーパー・アーマーを身に着けたARCトルーパー“キャプテン・フォードー”だ。どうやら彼があの一個中隊の指揮官の様だ。

 

 

「将軍、全員準備完了です!」

 

「よろしい……メルド騎士団長、こっちの準備は完了だ」

 

「分かった。……にしても改めて思うが、本当に君が召喚した兵士なんだな?」

 

「まぁ…人間を召喚、というよりは複製人間を召喚するのは多分この歴史に置いて初めてであるかもしれないが彼らはちゃんとした人だ、使い捨ての消耗品じゃない」

 

「分かっている。味方がこんなにも多ければ心強いものだ」

 

「そうだな。……よし、ランコア大隊のコマンダー達。そしてドミノ分隊。俺たちが戻るまでここで待機してくれ」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

コルト達以外にも雷電が召喚したドミノ分隊。“エコー”に“ファイヴス”、“ヘヴィー”に“カタップ”、そして“ドロイドベイト”の5人。エコーとファイヴスはコルト達と同じARCトルーパーである。彼らを召喚した理由は雷電曰く、万が一俺がいないときの場合に備えてのクラスを守る精鋭部隊だそうだ。流石にいくらなんでも過保護的過ぎ何じゃないかなと思った。すると雷電が挨拶して来た。

 

 

「おはようハジメ、そっちはどうだ?」

 

「うん、ぼちぼちってところかな?それと昨日コルトから聞いたけど、これ本当に貰っても良いの?」

 

「ハンド・ブラスターの事か?いや良いんだ。お前に万が一何か起きた場合はそれで己自身を守れる筈だ。それに、何かとフォースがざわついてな。何か良くないことが起こりそうなんだ」

 

 

 

良くない事?それが一体何なのか聞いてみようとした時に白崎さんが態々こっちに挨拶しに来てくれた。

 

 

「南雲くん、藤原くん。おはよう!」

 

「し……白崎さん!?」

 

「白崎か。八重樫と一緒にいると思ったが、態々俺たちに挨拶を?」

 

「うん。雫ちゃんにはもう説明してあるから南雲くん達に挨拶しておきたくって」

 

 

そう言われると流石に少しばかり照れてしまう僕であった。……でも、少し嬉しいと思ったのも事実だし、今回ばかりは良いよね?

 

 

「あーうん、おは……!」

 

「……っ!」

 

 

白崎さんに挨拶しようとしたその時に急に視線の様なものを感じた。そしてそれに気付いた雷電もロングバトンを取り出して何かに警戒しながらも周囲を見渡した。しかし、誰もいなかった。

 

 

「どうしたの南雲くん、藤原くん?」

 

「い……いや、何でもない」

 

「あぁ…どうやら気のせいだった様だ」

 

 

誰かの視線を感じたのは気のせいだとしても雷電は警戒を解かなかった。そして雷電は僕にあることを伝える。

 

 

「ハジメ、今回の実戦訓練は嫌な予感がする。周りには気をつけろ。特に、()()には要注意だ」

 

 

そう告げた後に雷電はクローン一個中隊を率いて大迷宮へ進軍するのであった。その時の僕が彼の言った言葉の意味を理解したのは、迷宮で起きる悲劇の後である事を今の僕は知る由もなかった。

 

 

 

迷宮の中は縦横5メートル以上ある通路で、明かりもないのに周りの一部は薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能な明るさだった。その発光している物の正体は“緑光石”と呼ばれる特殊な鉱物で、それが壁に多数埋まっていた。オルクス大迷宮は、巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。その薄ぼんやり発光している場所でも雷電率いるクローン軍やメルド団長率いるベテラン騎士団員がクラスメイト達を守る様に陣形を固めながら進んでいた。これほど防御が固い陣形を組みながら進むというのは何かと変な気分だな?そう思っていた矢先、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 

メルド団長の言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見は鼠っぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。正直言って気持ち悪い。前衛に立つ白崎さんと八重樫さんの頬がかなり引き攣っている。やはりどんな人間でもあの様なムキムキな魔物を見るのは相当気持ち悪いらしい。僕とて同じ気持ちだ。

 

 

 

そんな前衛の中で天之河君、坂上君、八重樫さん、雷電の4人が迎撃する。その合間に白崎さんと特に親しい女子2人、図書委員を務める中村 恵里と元気っ子の谷口 鈴が詠唱を開始。天之河君は純白に輝くバスタードソード“聖剣”を視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っていた。そして雷電はフォースによる未来予知の通りにエレクトロ・ロングバトンで確実に敵を感電死させて倒していた。……アレは本当に作った甲斐があったよ。坂上君は空手部らしく天職が“拳士”であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだ。坂上君はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士の様だ。八重樫さんは日本の武士らしい“剣士”の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員やクローン兵達を感嘆させるほどである。そうしている間に白崎さん達の詠唱が響き渡った。

 

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──“螺炎”」」」

 

 

3人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。ラットマン達は断末魔の悲鳴を上げる前にパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。流石のクローン達も明らかなオーバーキルには少しばかり引いた様だ。

 

 

「あー……もうそのへんでいいぞー」

 

 

そうメルド団長が僕たちに指示を出して灰と変わり果てたラットマンの亡骸を調べる。

 

 

「勇者組に一階層の雑魚は弱過ぎるな。まぁ今回は訓練だからいいが……」

 

「だが、流石にこれはやり過ぎだな。いくら何でも火力が強過ぎる。もし大火力の強力な魔法や大技を出せばこの迷宮でも崩落する可能性がある」

 

「あぁ、そうだな。…それと魔物の体内にある魔石の回収を忘れるな。特に魔法組は注意すること!さっきみたいな魔法をバンバン使えばすぐに魔力がなくなるからな」

 

 

フォードーとメルド団長がそう僕たちに教えながらも魔物と戦闘する際に交代制で進み続けるのであった。因みにこの迷宮は一体何階層まであるのか予想も出来なかった。そう考えて進み続けていると、次は僕の番が回って来た。僕が相手をするであろう狼型の魔物の方を見るともう既に瀕死状態であった。

 

 

「どうだ?だいぶ弱らせておいたがこれなら倒せるだろう?非戦闘職とはいえ身を守れる位にはなってもらわないと困るからな」

 

 

そうメルド団長の気遣いだった。確かに倒しやすいのは変わりないけど、逆にこれじゃあ一方的で倒しづらい!!そう思った時に雷電がやって来て僕に話しかけて来た。

 

 

「ハジメ、そろそろコルトから受けた訓練の成果を見せて良いんじゃないか?」

 

「まぁ……そのつもりだけど、アレはもう倒してあるようなもんじゃんか。少し可哀想だけど…念の為…!」

 

 

その時に僕は両手の平を重ね合わせ、錬成師の何かを作りだす技を応用した錬成を繰り出す。

 

 

「錬成!」

 

 

そして重ねていた手を離し、片手を地面に付けて錬成を行う。すると弱り切った魔物の下から刺のスパイクが生成され、その魔物の胴体を貫いた。そう、僕が錬成したのは先の尖ったスパイクだ。この錬成を応用した技術は指導してくれたコルトが偶然発した言葉が始まりだった。

 

 

 

“しかし錬成か……それだったら塹壕や妨害用のフェンスも作れるな”

 

 

 

コルトが何気なく塹壕やフェンスの事を呟いたのが切っ掛けだった。特にフェンスについてだ。敵歩兵を足止めするには刺付きのフェンスを使うだろう。しかし、僕が目をつけたのはフェンスの刺だ。その刺だけを敵の間近で錬成して足を止める、もしくは止め用に使えることを思いついたのだ。そして今に至り、僕は錬成の応用で魔物を倒したのだ。これにはメルド団長も僕の戦い方に感心していた。

 

 

「ほぉ…中々面白い戦い方をする。まさか錬成を攻撃に転用するとは思いつきもしなかったぞ。錬成師に実戦向けの能力はないと思っていたが…」

 

「それだけハジメは成長しているってことだ。見ていたぞ、ハジメ。まさか錬成をあんな風に攻撃に転用するとは思わなかったぞ。これもコルトの指導の賜物か?」

 

 

道中で雷電がやって来て僕の錬成の応用に対して褒めてくれた。

 

 

「まぁ…ね。とりあえず、何とかなったかな?」

 

「今はな。お疲れさん、ハジメ……!」

 

 

その時に雷電が何かを感じたのか途中で会話を止めた。すると僅かだけど足音の様な音が聞こえた。それも徐々に近づいてくる。しかし雷電はそれが何なのか既に分かっていた。

 

 

「ハジメ!8時60度だ!」

 

「っ!」

 

 

それは先ほど錬成で倒した魔物と同じ狼型の魔物だった。既にその魔物は僕めがけて飛びかかって来た。しかし魔物よりも先に僕は咄嗟にコルトから貰ったDC-17ハンド・ブラスターを引き抜いてそのまま魔物の頭部に狙いを定めて引き金を引いた。ハンド・ブラスターから放たれたエネルギー弾がそのまま魔物の頭部に直撃し、その魔物は撃たれた反動で逆に跳ね返された様に後ろに倒れ込んで絶命した。一応念を入れて二~三発撃ち込んで確実に止めをさした。

 

 

「ふぅ…オールクリア!……なんてね」

 

「見事な立ち回りだ。ブラスターの取り扱いも上手くなったようだな。他のトルーパーにも引けを取らないな。上手く成長すれば自分と同じARCトルーパーになれるかもしれんな」

 

「……よかったなハジメ。ARCトルーパーのフォードーからの御墨付きだ。誇っても良いぞ」

 

 

まさかフォードーから御墨付きを貰えるなんて思いもしなかった。流石にこれには僕でも照れるくらいに恥ずかしかった。その後に八重樫さんと坂上君が感心した様に言ってくれた。白崎さんも僕の戦いを見守ってくれていた。……でも実際に見守ってもらうとなると流石に恥ずかしいと思った矢先にまた視線の様なものを感じた。…何だろう、とてもいやな予感がする。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

迷宮での実戦訓練を始めてから俺たちは既に二十階層に到達していた。その道中にロックマウントという魔物が現れ、ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”で魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。それを食らってしまった天之河達前衛組が一瞬硬直してしまった。この状況を見てマズいと思った俺は天之河達前衛組の前に立ち、ロックマウントの攻撃に備える。ロックマウントはそんなのお構いなしに突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。

 

 

「させるか!」

 

 

白崎達が詠唱する前に俺はフォースを使い、投げられてきた岩をその場で静止させる。すると投げられた岩に変化が起きた。そう、投げられた岩もロックマウントだったのだ。大方白崎達に対して某三代目大泥棒の飛び込みダイブで白崎達を襲おうとしたのだろうが、今自分がどうなっているのか理解するのに手一杯なのだろう。…だが時間を掛けるわけにもいかず、すまないがお呼びじゃないという感じでフォースを使ってロックマウントを壁に叩き付ける。そして止めを刺す様にエレクトロ・ロングバトンをロックマウントの頭を突く。その結果、ロックマウントは電磁モジュールから送られる電力エネルギーによって感電し、そのまま脳が焼き切られて絶命する。

 

 

「よし……何とかなったか。後はもう一体か」

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──“天翔閃”!」

 

「なっ!?…馬鹿、ここで大技を使うな!」

 

 

天之河が一階層でフォードー達が言っていた事を忘れていたのかここで大技を使って曲線を描く極太の輝く斬撃を放つ。その斬撃はもう一体のロックマウントを縦に両断して葬り、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。本人はみんなに襲いかかって来た魔物を倒したと思い込んでいる様だが、メルド騎士団長やフォードーは違った。天之河は皆に“もう大丈夫だ!”と声を掛けようとした時にメルドの鉄拳よりも先にフォードーの拳が入った。

 

 

「ぶっ!!?クローン!?」

 

「貴様何を考えているんだ!前に言った事を忘れたのか!?ここでは大技や強力な魔法は厳禁だとあれほど言っただろうが!」

 

「…し、しかしだ。香織達が危険な目にあったのは事実だろう?!俺は彼女達を助けようと……」

 

「フォードーの言う通りだこの馬鹿者が。あんな大技を使って洞窟が崩壊したらどうするんだ」

 

「うっ。す…すいません……」

 

 

クローンに反発するもメルド騎士団長には頭が上がらない天之河。こればかりはいくら何でも天之河の視野の狭さには本当に苛立ちを隠せないでいた。とりあえず気分を落ち着かせようと天之河が放った場所を見て見るとそこにはパラパラと部屋の壁から破片が落ちる光景だけが残されていた。すると白崎がその場所にこの洞窟の光に反射するかの様に輝く鉱石を発見した。

 

 

「…あれ?何だろう…宝石?スゴくキラキラしてる」

 

「ん?…本当だ。メルド団長、アレは一体?」

 

「ほぉ、あれは“グランツ鉱石”だな。大きさも中々だ。あれ程大きいのがここで見つかるのも珍しいな。あの鉱石は言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気の代物だ」

 

「キレイ……」

 

 

確かにあの鉱石の純度は中々のものだ。メルド騎士団長が頷けるのも分かるな。この時に俺はこの世界にカイバー・クリスタルと同等の鉱石が存在するんじゃないのかと少しばかり考え込んでしまう。その時に勝手に行動する者が現れる。

 

 

「へぇ?香織、お前アレほしいのか?じゃあオレが取って来てやるよ」

 

「え?檜山くん…?」

 

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに気付いて慌てたのはメルドとフォードーだ。

 

 

「だ…駄目だよ檜山くん!」

 

「貴様!!何勝手なことをしている!!」

 

「大丈夫っスよ。こーゆーの得意なんで」

 

「違う!!いいから早く降りてこい!!」

 

「…っ!!檜山…!ちっ……あの馬鹿が!」

 

 

俺はメルド騎士団長が怒鳴っている声を聞いて考え込むの止め回りを見渡すと檜山が勝手にグランツ鉱石に手を出そうとしていた。クローン達も檜山に降りるよう指示を出すも全く聞く気もなかった。その時に俺は檜山がグランツ鉱石を掴む前に檜山をこっちに引き寄せる為にフォース・プルを使った。

 

 

「オラッ楽勝楽勝……うおっ!?」

 

 

しかし一歩遅く、既に檜山はフォース・プルで俺たちの方に引き寄せられる前にグランツ鉱石に()()()()()。檜山をこちらに引き寄せた時には既に魔法陣が展開していた。

 

 

「いかん、トラップだ!」

 

「くっ!魔法陣から離れようにも間に合わん。全トルーパー戦闘準備!生徒達を守れ!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

即座にフォードーはクローン達に指示を出して生徒達を囲む様に守りに着く。部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

 

場所は変わって、俺達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に皆は地面に叩きつけられた。俺は体制を崩さないで着地し、辺りを見渡す。クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルドや騎士団員達、フォードーにクローン達、そして光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

 

「どこだここは…石橋の上…?」

 

「いや……今は場所を把握するより厄介な事になった様だ。見ろ、あの黒い魔法陣を!」

 

 

俺が指を指した正面の通路側には黒い魔法陣があり、その魔法陣からは一体の巨大な黒い魔物が出現する。その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか、ベヒモス……なのか」

 

 

メルドのその言葉に俺は思わず耳を疑った。どうやら俺の嫌な予感はこの様な形で当たってしまったのだ。しかし、これはほんの序曲でしかないという事を今の俺には知る由もなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベヒモス戦、そして奈落へ…

…ん?評価バーが赤…だと……!?((((;゚Д゚)))))))バカな……。


6話目です。


 

 

メルド騎士団長が言う“ベヒモス”に聞き覚えがあった。確かハジメが言うにはRPGゲームにおいて厄介なモンスターだったか?となると今の生徒達では確実にベヒモスに殺される。そう思った俺はすぐにフォードーや他のクローン達に指示を出す。

 

 

「ARCトルーパーを除く全トルーパー!お前達は脱出路を確保しつつクラス全員を連れて退避しろ!フォードー率いるARCトルーパー達は出来るだけベヒモスの注意をこちらに引きつけるぞ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

「なっ!?馬鹿者ッ!!いくら兵士を率いているとは言え、相手はベヒモスだ!!六十五階層まで行った最強の冒険者でも歯が立たなかった化け物だぞ!!」

 

「心配するな。この手のデカブツ(凶暴生物)はなれている!メルド騎士団長はクラスのみんなを頼む!トルーパー、続け!」

 

 

そう言って俺はフォードー率いるARCトルーパーと共にベヒモスの注意を引きつける。メルド騎士団長は騎士団員である“アラン”、“カイル”、“イヴァン”、“ベイル”に生徒達の護衛に向かうよう指示を出してから俺たちと合流する。ベヒモスは咆哮を上げながらも俺たちに向かって突進してくる。俺とフォードー達は回避するもARCトルーパーの二~三人は回避に間に合わずベヒモスにぶちかまされて、そのまま奈落の底に落ちる。

 

 

「クソッ!三名死亡!」

 

「巫山戯やがって!このデカブツがぁっ!!」

 

 

仲間を殺されて怒るARCトルーパー達はDC-15やZ-6ロータリー・ブラスター・キャノン、レシプロケイティング・クワッド・ブラスターをベヒモスに向けて集中砲火を浴びせるもベヒモスは怯む様子もなかった。流石のフォードーもDC-17をベヒモスに向けながらも俺に話しかけて来た。

 

 

「奴は我々のブラスターでも怯む様子を見せません。将軍、このままではジリ貧です!」

 

「分かっている!飽くまでも時間稼ぎだ、後ろのクラス全員が退避するまで持ちこたえろ!」

 

「了か…!?将軍、伏せて下さい!」

 

 

フォードーは何かを見て俺に警告し、俺はフォードーの言われた通り伏せる。すると俺たちの後方から斬撃が飛んで来て、ベヒモスに直撃するもベヒモスは全く怯む様子を見せなかった。どうやら先ほどの斬撃は天之河から放たれた斬撃の様だ。

 

 

「馬鹿な…天翔閃でも傷一つつけられないなんて、奴を倒すにはどうすれば…」

 

「おい、天之河!何をやっている!お前はこっちより後ろの生徒やトルーパー達の援護に向かえ!」

 

「だが!メルドさんや雷電達を置いて行くわけには…」

 

 

ここでも天之河の要らぬ正義感が走ってここに留まってベヒモスを倒そうとする。流石にこれには俺はキレて後ろへ下がるように怒鳴る。

 

 

「この馬鹿が!今は他人の事心配している場合じゃない!!前にも行っただろうが!大局を見極めろと!お前は急いでクラスの所へ向かえ!!」

 

「しかし…「天之河君、ここは退こう!!」!?南雲?」

 

 

するとそこに南雲がやって来た。どうやらに後方で苦戦している仲間の援護を天之河に向かわせる為であった。

 

 

「今後方ではトルーパー達や騎士団員が頑張っているんだけど、みんなはまだ混乱している。天之河君(リーダー)がいないからだ!みんなトルーパーや天之河君の様に強いわけじゃない!みんなを救えるのは君しかいないんだ!!この状況を切り抜けるには強いリーダーが必要なんだ!!雷電の言う様に前ばかりじゃなく後ろもちゃんと見て!!」

 

「南雲…」

 

 

まさかハジメが天之河に発破をかけるとはな。これは予想以上な成長だ。少しばかり嬉しく思いながらも俺は天之河に無効に向かうよう指示を出し、ハジメに何か策があるのか聞いてみる。

 

 

「そう言う事だ天之河。お前は急いで後方に向かい彼らを手助けしろ。ハジメ、あのデカブツに対して何か策がないか?」

 

「…確かに、奴はどうする?放っておくわけにはいかないだろう!」

 

「大丈夫、僕に考えがある」

 

 

俺達はハジメがいう考えを聞いた。ハジメが言うに先ず天之河とフォードー率いるARCトルーパー達はクラス全員を纏め、退路を確保しつつハジメが考えた作戦を伝える。そしてメルド騎士団長と俺、ハジメがベヒモスの相手をしつつもハジメの作戦を伝えたクラスの皆が準備が完了したらハジメの錬成と俺のフォースでベヒモスの動きを止める。動きを止めた隙にクラス全員が魔法詠唱でベヒモスに当てるという一か八かの作戦だった。天之河はこの作戦に否定しようにも時間がない為に俺たちはハジメの考えた……お世辞にも作戦とも言えない天任せの賭けに乗るのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

将軍はベヒモスを足止めしている間に我々は後方へ退避した生徒達の下へ向かうとそこには無数の骸骨の兵団が行く手を塞いでいた。騎士団の彼ら曰くアレは三十八階層の魔物“トラウムソルジャー”だそうだ。現在のクローン達は将軍の立案の下、新たな戦術ドクトリンとしてデュラスチール合金で出来たシールドを持ったトルーパー達が前衛に立ち、後衛にはDC-15AやDC-15を持ったトルーパー達が前衛のシールド持ちの背後に立ちながら射撃を行う。これによりにトラウムソルジャーを倒していく。しかし、黒い魔法陣から次々とトラウムソルジャーが出現し、倒しても切りがなかった。

 

 

「あーっクソ!まるでドロイド共のブリキ野郎みたいだ!いくら倒しても次から次へとうじゃうじゃ湧いて来やがる!」

 

「それにしてもこの数、本当に厄介ね!」

 

「クソ!まだ出てくんのかよ!?」

 

 

八重樫や坂上、生徒達もトラウムソルジャーの軍勢を相手をしているものの、劣勢に立たされている事に変わりはなかった。しかし、ここで天之河とキャプテン・フォードー率いるARCトルーパー達が戻って来た。

 

 

「みんな大丈夫か、遅れてすまなかった!」

 

「全トルーパー、無事か!」

 

「「「光輝!!」」」

 

「「「サー、無事です!」」」

 

 

将軍の指示でここに戻って来たのかは定かではないが、今は一刻でも増援がほしいところだった。すると天之河が生徒達に指示を出す。

 

 

「みんな聞いてくれ、一旦ここを切り抜ける!!出口を確保するまで後方のベヒモスを足止めする。魔法組はすぐにメルド団長の元へ行き、彼の指示に従え!!後ろは南雲と雷電が食い止めている。皆で援護するんだ!」

 

「トルーパー、天之河の言う通りだ!現在将軍は南雲と共にあのベヒモスを食い止めている。お前達は魔法組と共に援護に向かえ!!退路の確保は俺たちARCトルーパーが引き受ける!!」

 

 

「「「サー、イエッサー!!」」」

 

 

俺達クローン達はフォードーの指示の下、魔法組の方に向かい将軍達の援護の為に準備するのであった。この時に俺は生徒達の中で不審な動きをする者を見つけた。一応その者に警戒して置きながらもブラスターを手に将軍達の元へ向かう。その者がこれから起きる悲劇を作った張本人である事を今の俺は知る由もなかった。

 

 

CT-1373Side out

 

 

 

僕の考えた作戦を雷電達に話した後に天之川君はみんなの方に向かい、雷電とメルド団長と共にベヒモスの足止めをしていた。メルド団長はロングソードを、雷電はエレクトロ・ロングバトンを手にして前衛に立ち、僕はDC-17ハンド・ブラスターで援護する。ベヒモスは目の前の三人を殺そうと体当たりや爪などの攻撃を繰り出してくる。メルド団長はロングソードで防御し、雷電はフォースで強化した身体能力で軽々と避けはロングバトンをベヒモスに当てて感電させる。多少は怯みはするもののあまり効果は薄く、雷電は悪態を吐くくらいに苦戦した。僕はハンド・ブラスターで二人を援護する。その時に何発か撃っている時にベヒモスの左目に直撃し、敵の視力を奪った。視力を失ったベヒモスは怒り狂いながら暴れ回る。

 

 

「やれやれ…あのベヒモスって奴はダソミアの“ランコア”より凶暴で質が悪い!」

 

「それに加え左目の視力を奪ったから余計に凶暴さが増している様だね!」

 

 

ベヒモスを足止めしながらも僕たちは生き延びていた。するとメルド団長が魔法組の配置が完了した事を伝える。

 

 

「坊主、雷電!魔法組の準備は整った!手はず通り頼むぞ!」

 

「了解した!ハジメ、俺がベヒモスの攻撃をしのぐ、その隙に錬成で……」

 

「ベヒモスの足を埋める様に錬成して足を止める!」

 

 

ベヒモスは怒り狂いながらも雷電に向けて爪を振るう。しかし雷電はベヒモスの攻撃を回避した瞬間にベヒモスに向けてフォースを使う。するとベヒモスは何かに叩き付けられたかの様に地面に這いつくばる。その隙に僕は両手の平を合わせ、力を込めた後に合わせた両手の平を離してそのまま地面に着ける。

 

 

「錬成ッ!!」

 

 

すると地面から石が生成されてベヒモスの足から胴体を埋め尽くすように広がっていく。ベヒモスは本能的に危険を察知したのか暴れて石を砕こうにも雷電のフォースによって無理矢理這いつくばされている為に身動きが出来なかった様だ。僕が錬成した石によってベヒモスの上半身は埋もれる様に動かなくなったのであった。その同時に僕の魔力が底を尽きかけていた。

 

 

「くっ…!ぶっつけ本番だったとは言え、上手くいった!」

 

「ハジメ、こっちもそろそろ限界だ……!これ以上フォースで奴を押さえつけられないぞ!」

 

「十分だ、坊主!雷電!急いでこっちに向かって走れ!!

 

「…だそうだ。ハジメ、走るぞ!」

 

 

雷電に続く様に僕は全力でベヒモスからはなれる様に走る。ベヒモスは雷電のフォースから解放されたと理解した瞬間暴れ出して僕が錬成した石を砕いた。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……僕たちを捉えた。僕たちに報復する為か殺気立ちながら追いかけてくる。

 

 

「奴が動き出すぞ、魔法組!!魔法詠唱!!!」

 

「将軍等の逃走を援護するぞ。トルーパー、ロケット・ランチャー用意!!」

 

 

その時にメルド団長とキャプテン・フォードーの号令の下、クラスメイトからあらゆる属性の攻撃魔法とクローン達が持つRPS-6ロケット・ランチャーから放たれるミサイル・ランチャー弾が殺到した。夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法とこの世界において最高の火力を持つミサイルがベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。“いける!”と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走る。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。

 

 

 

しかし、この時に僕は一つ忘れていた。迷宮に入る前に雷電が警告していた言葉を……

 

 

 

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。……()()()()()()()()

 

 

「え?うわあぁ!?」

 

「っ!?ハジメ!」

 

 

それに直撃した僕は来た道を引き返すように吹き飛ぶ。幸いにも直撃は避けれたようだったし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。雷電は僕を助けようと引き返す。その時に僕は雷電の後ろにいるクラスメイトの方を見た。そこには僕たちを嘲笑う様に見つめる()()()姿()()。そしてその檜山は近くにいたクローンに取り押さえられる。

 

 

 

更に最悪な事にベヒモスがこちらに追いついてしまい、腕を上げて僕たちを叩き潰そうとしたが雷電はすぐに僕を抱えて直撃を避ける為に力一杯、皆の方へ飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。

 

 

 

そして遂に……橋が崩壊を始めた。橋は崩落して僕たちはベヒモスと共に橋から落ちてしまう。

 

 

(ああ、ダメだ……)

 

 

そう思いながら対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織が飛び出そうとして雫や光輝に羽交い締めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情で僕たちを見ていた。そして僕たちは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に手を伸ばしながら……

 

 

 

ハジメSide out

 

 

 

最悪な事態になった。将軍とハジメがベヒモスと共に奈落の底へ落ちてしまった。生徒達の中で特に白崎が酷く取り乱している。白崎の友である八重樫は取り乱している白崎を羽交い締めで抑えた。無論、白崎は必死にもがいていた。

 

 

「香織っ、ダメよ!香織!」

 

「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

 

「だめだ香織!君まで死にに行く気か! 南雲達はもうダメだ!このままじゃ、君まで壊れてしまう!」

 

 

天之河は必死に白崎に気を使う言葉を言ったつもりだった。だがそれは白崎だけじゃなく、我々トルーパー達まで逆効果を与えてしまった。

 

 

「お前、本気でそう思っているのか!将軍がそう簡単に死ぬ筈がないだろうが!!」

 

「将軍はハジメと一緒に落ちたが、将軍と一緒ならハジメは無事な筈だ!」

 

「そうよ! それにダメって何!? 南雲くんはまだ死んでない!行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

 

生徒達の誰もがどう考えてもハジメは助からないと思っている。しかし、将軍と一緒なら或いはハジメはまだ生きている可能性がある。もし将軍が死んだとしたら、我々の身体が将軍の死と同時に消えてしまうからだ。我々が消えないあたりまだ生きている可能性がある。しかし、今は生徒達を迷宮から脱出させる為にもブラスターを殺傷能力を抑えたスタン・モードに切り替えて白崎の身体に撃ち込み、気絶させる。これには流石に生徒達やメルド騎士団長も驚く。

 

 

「ちょ…香織!?」

 

「なっ!?フォードー、一体何を?!」

 

「心配は要らない。彼女を一時的に気絶させただけだ。今の彼女はPTSD(心的外傷後ストレス障害)に陥っている状況だ。将軍等を捜索したいが、今は彼女の心がこれ以上壊れる前に早く迷宮の脱出を優先する!皆、一旦引き上げるぞ!」

 

「…だからって香織を撃つことはないだろう!?」

 

 

天之川は白崎をスタン・モードで撃ったことに怒りを表していた。しかし今はそういう時ではない。

 

 

「あのまま彼女に何を言っても逆に心が壊れる時間が早まるだけだ。メルド団長もよろしいか?」

 

「…あぁ、一刻も早く迷宮から脱出する。フォードーの言う通り、もう誰1人死なせる訳には行かないんだ…。お前達も分かってくれ」

 

 

私やメルド騎士団長の言葉に生徒達はノロノロと動き出し、八重樫は気絶した白崎を背負いながら歩き、天之河も私がやった行動に不信感を抱きながらも白崎を運ぶ八重樫の様子を見て歩き始める。そしてトルーパー達は再び生徒達を護衛しながらも前進するのであった。その時にCT-1373から生徒の一人である檜山を気絶した状態で連れて来た。

 

 

「キャプテン、報告があります」

 

「報告?報告は迷宮を脱出した後でいい。今は迷宮の脱出が最優先だ」

 

「先程落ちた将軍達のことで重要なことです。…こいつが将軍達を奈落の底へ落ちた原因で南雲に対して同士討ち(フレンドリーファイア)をした張本人です」

 

 

 

…確かか?俺はそうCT-1373に問いかけると間違いないと言ってきた。将軍は生徒の一人である檜山のことをより警戒していた。まさかそれがこの様な結末になるとは。

 

 

「…分かった。だが、前にも言ったように今はこの迷宮の脱出が最優先だ。脱出するまでは彼の処遇は後にする。一応監視役を何人かつける。それまでお前はそいつを担いで運んでくれ」

 

「サー、イエッサー!」

 

 

そう指示を出した後に私は将軍達が落ちた奈落の底を見下ろし、無事であることを祈りながらも生徒達や騎士団の後を追いかけるのであった。

 

 

フォードーSide out

 

 

 

一体…何が起きたんだ?俺は確か…ハジメが魔法組から放たれた攻撃魔法の一部がハジメに直撃したのを確認して彼を抱えてベヒモスから飛び退く様にベヒモスの攻撃を回避した。その時に橋が壊れてベヒモスと共に俺たちは奈落の底に落ちた筈だ……。

 

 

「…!そうだ、ハジメは!?」

 

 

 

俺はすぐに身体を起こして周りを見渡すと、そこにはあり得ない光景があった。本来なら地球やこの世界では見かけることはないジェダイ・テンプルの中だった。テンプルの中では明かりが照らされており、今の時刻が夜だという事を認識させる。

 

 

「ジェダイ・テンプル…?…だが、あり得ない。俺はあの迷宮にいた筈だ……っ!」

 

 

俺は夢を見ているのかと考える時間すら与えられないかの様にテンプルの入り口付近で軍足の足音が聞こえた。

 

 

「足音…?それも多くの…?……まさか!」

 

 

入り口付近から聞こえる軍足の足音に目を向けると、軍足の足音を奏でながら、完全武装したクローン兵が大軍でこちらに向かってきているのだ。

 

 

「武装したクローン兵が?」

 

「一体なにが起こっているというんだ。とにかく正門前にナイトたちを集めろ」

 

 

ただならぬ様子に警戒心を強めるジェダイ・ナイト達。敵がまず攻めてくるであろう正面の門にナイトたちが集結する中、扉はゆっくりと開かれた。ライトセーバーを構えるジェダイたちは、その扉を開けて“一人”で入ってきた人物を見てライトセーバーを下げた。

 

 

「スカイウォーカー?」

 

「っ!!」

 

 

一人のジェダイ・ナイトがそう言葉を発した時に俺の感情は怒りに支配された。ハジメからスカイウォーカーのことを聞かされたとは言え、心の何処かで俺は師や他のジェダイを殺したスカイウォーカーのことを憎んでいた。正面扉に立つローブを着て、フードで顔を隠したスカイウォーカーを見た瞬間、俺は感情的になり、スカイウォーカーに向かって走って他のジェダイが持っているライトセーバーをフォースを使って奪って、ライトセーバーを起動させてスカイウォーカーに斬り掛かる。

 

 

「…スカイウォォォカァァァァァ!!!」

 

 

スカイウォーカーは自身のライトセーバーを手に持って起動させ、俺の怒りを込めた一撃を防ぎ、そのままライトセーバーのプラズマの刃を打ち合う様に繰り出す。それを皮切りにクローン兵達は他のジェダイを粛清する為にブラスターでジェダイ達を攻撃する。そしてジェダイ達はどういう状況なのか理解する前に攻撃してくるクローン達に対して応戦するのであった。

 

 

 

スカイウォーカーと戦い始めてからあれから何分……いや、何十分経過したのであろう。今戦っている場所は既にジェダイ・テンプルではなく、嘗て自分がジェダイだった頃に最後に死んだ場所にいた。そこで俺とスカイウォーカーはライトセーバーを振るう。その剣戟の中で目まぐるしい速さの光が煌めきながらも何度もぶつかり合った。俺は渾身の一撃をスカイウォーカーに向けて繰り出した。しかし、それでもスカイウォーカーには届かず弾き返されてスカイウォーカーのライトセーバーを躱そうとしたが躱しきれず、顔の左眼部分を斬られてしまう。左眼の視力が失ったと同時にスカイウォーカーのフォース・プッシュによって吹き飛ばされる。俺は受け身を取るのに失敗し、スカイウォーカーに攻撃の隙を与えてしまう。それを逃す筈もなく、スカイウォーカーは情け容赦も慈悲もない一撃を叩き込もうとした。その一瞬の刹那、俺の中で蠢く闇が目の前の死に対して激しい怒りが湧いてくる。

 

 

 

……ふざけるな

 

 

 

…ふざけるな!

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるな!!」

 

 

 

「……っ!」

 

 

俺の激情の言葉に驚いたのかスカイウォーカーは一瞬だけ動きを止めてしまう。俺はその隙を見逃さずフォース・プッシュでスカイウォーカーとの距離を取る。そしてライトセーバーを力強く握りながらも俺はスカイウォーカーに怒濤の勢いでライトセーバーを振るう。

 

 

「うぁぁあああっ!!!」

 

「……っ!?」

 

 

スカイウォーカーは乱舞のような動きを繰り出してくる俺に戸惑っていた。剣戟を徐々に圧倒してゆき、防戦に回るしかないスカイウォーカーを追い詰めながら、怒りを身に委ねるまま、感じるがままにライトセーバーを力強く何度も叩き付ける。

 

 

 

何度も…

 

 

 

何度も…

 

 

 

何度も…

 

 

 

やがてスカイウォーカーはスタミナを切らし、一瞬だけ隙を作ってしまう。俺はその隙を見逃さずスカイウォーカーの機械の腕である義手の右腕を斬り落とし、そのまま首を斬り裂く。“やった……!”そう確信して斬り落としたスカイウォーカーの首を見てみる。しかし、そこにあったのは…

 

 

 

己自身の首と顔の姿であった。

 

 

 

「!?…俺、だと?」

 

 

訳が分からない状況の中、俺は右腕で目をこすった。その時に右腕が鉄の様に冷たく感じた。俺はそっと右手の方を見るとそれは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ど…どういう事なんだ?俺は……一体?」

 

 

その時に俺は鏡の様に綺麗に磨かれた建物を見ると、そこに映っていたのは……()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

 

「う……嘘だ。お…俺は、俺は……!」

 

 

混乱する俺に考える猶予も与えられないかの様に一人のクローン兵が何かを片手にぶら下げたままやって来た。

 

 

「ヴェイダー卿、反逆者であるジェダイの粛清が完了しました」

 

 

クローン兵はその証拠といわんばかりに“すとん”と、片手に持っていた物を置いた。そこにあったのは、俺の師であったジェダイ・マスター“フィリア・メンデル”の生首だった。傷は焼け爛れていたが、その隙間を縫うように赤い血液が流れ出ており、それが俺の足元にまで流れ着いたのだ。

 

 

 

この時に俺は考える事が出来ない状況になっていた。俺は藤原 雷電ではなく、ジェダイを殺したアナキン・スカイウォーカー?嘘だ……!俺はスカイウォーカーではない!だが現実は残酷で非情だった。その証拠に俺の師であるマスター・フィリアの生首がある。

 

 

 

嘘だ……嘘だ、嘘だ……!

 

 

 

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソダ、ウソダ、ウソダ、ウソダ、ウソダ、ウソダ!

 

 

 

 

 

 

嘘だ……!俺は……スカイウォーカーなんかじゃない!!?

 

 

 

 

 

 

「ヴェイダー卿?…っ!?」

 

 

クローンは俺に気遣って声を掛けたが、その時に俺は()()()()()()()()()でクローンの首を切り落とした。これを皮切りに俺は理解してしまった。

 

 

 

結局俺はスカイウォーカーと同様、同じ穴の狢だという事に……

 

 

 

 

 

「…うぁぁぁああああああーーーっ!!!?」

 

 

 

 

 

彼の悲痛の叫びがコルサントに響く。それは虚しいものであると同時に、悪夢の終わりでもあった。

 

 

「……はっ!?」

 

 

あの悪夢から目を覚まし、呼吸を荒立てながらも周りを確認する。そこは洞窟の中であった。先ず俺は乱れた呼吸を整える為に精神を落ち着かせる。

 

 

「はぁ…はぁ……はっ!ハジメは?」

 

 

俺は呼吸を整え、冷静に考え始めた時にハジメがいない事を知る。そして俺は思い出す。途中で橋が崩壊してベヒモスもろとも俺たちは奈落の底に落ちた。その原因の切っ掛けを作った張本人である檜山のことを警戒していたのにも関わらずだ。

 

 

「俺が一番警戒していた筈なのにこの為体か……。俺も未熟ってことか…」

 

 

その時に俺はある違和感を覚えた。左眼に映る筈の景色が全く見えないのだ。俺は左眼の所に手を触れてみると、そこから液体の様な物が流れていた。それは血だった。奈落の底に落ちた時に瓦礫の一部が飛んで来てそれが左眼に直撃して失明したのであろう。

 

 

「……っ。左眼は完全に逝ったか。…せめて装備が無事だといいが……」

 

 

左眼の事は置いといて、俺は一旦自分の装備を確認すべくエレクトロ・ロングバトンの状態を確認した。外見上では異常はないが問題は内部の精密部品だ。それが一つでも破損すると全くの使い物にならなくなる。試しに起動してみると電磁モジュールにエネルギーが伝わり、まだ壊れていない事が判明した。

 

 

「あぁ……壊れてなくてよかった。もし壊れていたら完全に武器無しでハジメを探さないといけなくなってしまうところだったよ」

 

 

そう安堵しながらも俺は、ハジメを見つける為に何階層なのか分からない大迷宮を捜索するのであった。その先に、絶望とも言える過酷な運命が待ち構えていたとしても。…だが、この時に俺は知らなかった。目覚めてから既に数日が経過していたことや、探しているハジメはもう全くの別人になってしまっていることを……。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オルクス大迷宮編
再会とその後の彼等


ヤバい……ストックがあるとは言え、連続投稿はキツい……。


7話目です。


 

 

奈落に落ちてから僕は……いや、()は何日経過したのか分からない。ベヒモスとの戦闘で魔法組が放った攻撃魔法の一発火炎魔法の弾が飛んできて、直撃し、俺は雷電に抱えられてベヒモスから逃げた矢先にベヒモスは橋を壊す程の攻撃を行ったお陰で俺と雷電はベヒモスもろとも奈落の底に落ちた。奈落の底に落ちていきながらも途中で吹き出た水に飲まれ、俺は雷電とはぐれてしまった。俺に向けて攻撃したあの一発の火炎魔法……あれは悪意ある攻撃であった事は覚えているが、奈落に落ちた衝撃で俺に攻撃した奴が誰なのかをすっかり忘れてしまう。

 

 

 

そんな感じで酷い目にあったのにも関わらず、俺に更なる最悪な事に巻き込まれる。雷電を探そうと緑光石の光を頼りに奈落の底を探索しているとそこでウサギっぽい魔物にリンチにされるわ巨大なクマの魔物に左腕を食いちぎられるわで散々な目にあった。だが、俺は左腕を失ったことによる幻肢痛もあり絶望の状況の中、偶然にも回復効果のある“神結晶”と“神水”を発見したことによって生き延びた。……だが、渇きを潤しても飢えだけはしのげなかった。しかし、雷電だったらこんな状況でもジェダイとして諦める筈はない。だからこそ俺は自分自身のありとあらゆる不確定要素……つまりはほとんどの感情を、“全てどうでもいいこと”と切り捨て、生に縋りつくための純粋なる殺意。純度100%のこの世界の誰よりも研ぎ澄まされた殺意だけが芽生えた。……ある意味ではジェダイが嫌うフォースの暗黒面の一つではあるが、俺はあいにくジェダイじゃないしフォースも使えない。だからこそ俺は自身の敵になる奴が人間であれ、魔物であれ、魔人や亜人であろうとも殺す。

 

 

 

そして俺は飢餓感から脱出する為に錬成でトラップを作り、それ(トラップ)に掛かった“二尾狼”をコルトから貰ったハンド・ブラスターで仕留める。そしてその肉を俺が錬成して作った“セーフティー・ルーム”に持ち帰って銃痕以外の部分の魔物肉を喰らった。最初に食った時は強烈な血の味と獣臭があってクソ不味かったが、俺は何度も吐き戻しながらも一心不乱に喰らいついた。その時、魔物の肉特有の猛毒に侵されたが神結晶から生成される神水を飲み、身体の破壊と再生の繰り返しという地獄の苦しみを味わった。幾度も身体の破壊と再生が繰り返された結果、筋肉が発達して身長も10cm以上伸び、髪は白くなり瞳も紅色になった。俺は自身に何が起こったの確認すべくステータスプレートを確認してみた。

 

 

 

===============================

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル14

天職:錬成師

筋力:220

体力:350

耐性:210

敏捷:290

魔力:340

魔耐:450

技能:錬成[+精密錬成][+電子機器錬成][+電子機器組立て錬成][+複製錬成][+鉱物系鑑定]・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

===============================

 

 

 

「いや…なんでやねん……」

 

 

つい大阪弁を行ってしまう程の明らかにステータス上昇が異常だった。だが、これはこれで都合が良かった。分かった事は魔物の肉を食えばそいつの特性を得られるという事だ。それを利用すれば俺はこの迷宮から脱出する為に必要な力が手に入る。その為にも俺は一旦セーフティー・ルームで周囲にあった鉱物を鉱物鑑定で片っ端から調べると“燃焼石”と“タウル鉱石”を発見する。

 

 

 

燃焼石は可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する鉱石だ。そしてタウル鉱石は硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱く。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合するという鑑定した鉱石の中で最高の硬度と靭性を持つ鉱石だ。この二つの鉱物からヒントを得た俺は“ある物”の制作に取りかかる為、片手で錬成を行う。

 

 

 

しかし、片手での錬成……特に精密錬成はかなり苦戦した。1ミリの狂いも許されない超精密な錬成は極度の魔力と集中力を要した。錬成しては失敗と、何度もトライ&エラーを繰り返し、ついに念願の“ソレ”が完成する。

 

 

「全長約35センチ、六連回転式弾倉大型リボルバー型拳銃“ドンナー”……ついに完成したな」

 

 

ドンナー(こいつ)の銃身と弾丸にはタウル鉱石を使用し、弾丸の中には粉末状にした燃焼石(要するにガンパウダーの代わりだ)を圧縮。だがそれだけではない。二尾狼から習得した技能“纏雷”。雷を纏う事によりに弾丸は電磁加速され、小型のレールガン並の威力を持つ武器が誕生した。しばらくの間はドンナーを主力武装として使い、ハンド・ブラスターはドンナーが使えない時の緊急時の予備武器として使う事にした。そして俺は俺の右腕を喰らったあのクマにリベンジするべく向かった。その道中にあのウサギっぽい魔物と遭遇したが、ドンナーのテストショットの(餌食)にはちょうど良く、ドンナーで急所を撃って見るとそのウサギっぽい魔物の頭は吹き飛んでミンチより酷い状態となった。そんでもってウサギっぽい魔物は俺の技能習得の為の食事となりました。その結果俺は新たに“天歩”とその派生である“空力”と“縮地”の技能を習得したのであった。

 

 

 

俺は新たに習得した技能である天歩を使い、クマがいる方に向かっていった。そこで俺は思わぬ人物等と再会するの事を知る由もなかった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメを捜索し始めたのは良いが、ここの魔物は前に戦ったベヒモスよりも凶暴だった。特にウサギ擬きの魔物をロングバトンで仕留めたのは良いが、途中でやってきた尻尾が二つある狼の魔物が襲ってきた。その狼の魔物から放つ雷を防ぐためにロングバトンで防御したのは良いが、そこで狼は飛び掛かって爪で左顔を引っ掻いた。そのお陰で左頬に傷跡が付いた。俺はフォースによる未来予知とフォース・プッシュで狼の魔物を壁に叩きつけた後にメルド騎士団長から支給されたナイフで急所を刺し、辛くも勝利を収める。だが、左眼を失明しておきながら戦うのも限界があると思った俺は考えた。先程の魔物より強い個体と接触する可能性を考慮して、俺は新たなクローン兵を召喚することにした。その召喚するクローンは只のクローンじゃない。共和国において精鋭であり、エリートである特殊部隊“クローン・コマンドー”を召喚するのであった。それも名前付きクローンだ。俺が召喚するクローン・コマンドーはあの“デルタ分隊”だ。

 

 

「よし、始めよう……コール・リパブリック“ボス”、“スコーチ”、“フィクサー”、“セヴ”」

 

 

そう詠唱し、俺の目の前で魔方陣が展開される。その魔法陣からクローン・コマンドーのデルタ分隊が召喚される。

 

 

「デルタ、38。将軍の命により到着しました」

 

「同じく62、到着」

 

「40、準備完了です」

 

「07だ、いつでも行ける」

 

「よし、デルタ分隊。お前達に任務を伝える。この洞窟にいるハジメの捜索、後はこの迷宮の脱出だ」

 

 

“了解っ将軍”と38ことボスは任務を受諾し、俺はデルタ分隊と共にハジメの捜索を行うのであった。

 

 

 

ハジメを見つけるため、迷宮を捜索し始めてから既に数十分が経過した。あたりを探索していると少し広めの場所に出た。そしてその場所にはクマの様な魔物が狩ってきた他の魔物の肉を喰らっていた。

 

 

「将軍、あの生物は?」

 

「あれは……クマの様な魔物の様だ。初めて見る」

 

「おいおい、この星の原生生物ってこんなにも凶暴な顔付きでやばい奴なのか?」

 

「黙れ62、気付かれるだろうが」

 

「いや、40。もう既に奴は気付いているぞ」

 

 

セヴの言う通り、クマの魔物がこちらの存在に気付いた様だ。デルタ分隊はDC-17m ICWS(交換可能兵器システム)を構え、俺はエレクトロ・ロングバトンを構える。そしてクマの魔物は身体を起こす様に立ち上がり、距離があるというのに爪を出して振るおうとした。その時に俺たちは嫌な予感がした。

 

 

「あのクマの魔物…何かマズいぞ……!」

 

「デルタ、散開しろ!ドワーフ・スパイダー・ドロイド並に危険だ、散開(ブレイク)!」

 

「了解!」

 

「有利な位置を探します!」

 

「向かってる…」

 

 

全員散開した後にクマの魔物は爪を出しながら何かを繰り出す様に振り下ろす。すると強烈な風が俺たちが元いた場所の地面を抉り取った。どうやらあのクマは風を圧縮させて風の刃を飛ばしてきた様だ。この異常な攻撃力に俺たちは対処すべく俺はフォースを、デルタ分隊はDC-17mのアタッチメントを対装甲アタッチメントに切り替えてクマの魔物を完全に仕留める体勢に移る。するとセヴがボスに何者かがこちらに向かってきていることを告げる。

 

 

「ボス、HUDに反応があった。何者かがこちらに向かって来ている」

 

「待て、何者かが?……セヴ、そいつは人間か?」

 

「その様だが、このスピードは異常だ」

 

 

それを隣で聞いていた俺は一体誰なのかと思った矢先、この世界にあまり聞くことはない銃声の音がこの空間に響き渡ると同時にクマの魔物の右肩の肉の一部分が抉られ、消し飛んだ。

 

 

「今のは……実弾兵器か?」

 

 

そう考えている間に一人の人間がこの場にやって来た。しかし、その人物に見覚えがあった。

 

 

「よう、久しぶりだな。俺の腕は美味かった?……ん?」

 

「お前……ハジメか?」

 

 

その人物は俺たちが探していたハジメ本人であった。左腕が無く、身長や髪の色、瞳の色が変わっていたが、彼の中のフォースは覚えがあった。

 

 

「雷電っ!?お前……生きてたのか?」

 

「…って、無事に再会した時に言う台詞か?」

 

「いやっ奈落に落ちた時に水に飲まれてはぐれたからてっきり……な?」

 

「あー、取り込み中悪いが将軍……伏せろっ!」

 

 

この時にボスが俺たちを今起きている現実に戻す為に声をかける。俺たちはすぐに我に返り、身を屈む。すると先ほどの風の刃を飛ばしてきたのだ。

 

 

「あー…すっかりこいつのこと忘れてたわ」

 

「…一応聞くがハジメ、あいつに何か因縁でもあるのか?さっき腕とか何とか言っていたが……」

 

「あぁ、あいつに左腕を斬り飛ばされて喰われた。そんで、その報復だ。…つーか、こっちも聞きたいんだが、そのクローン達は何だ?新しく召喚したのか?」

 

「あぁ、デルタ分隊だ。腕前は保証する。…それよりもだ、先ずはあのクマの魔物を倒そう。話はそれからだ」

 

 

一方のクマの魔物はこっちが余裕そうに喋っている事に癇に障ったのかそのままこっちに突っ込んで来た。しかし、デルタ分隊の対装甲アタッチメントことグレネード・ランチャーでクマの魔物の進路を妨害する。そして俺はフォースでクマの魔物の動きを止める。

 

 

「とりあえず動きを止めた。一応止めを刺すがハジメ、ハンド・ブラスターはまだ持っているか?」

 

「ん?あぁ、まだ持っているぜ。安全対策の為に使うんだろ?」

 

 

“ほらっ”と言ってハジメは俺にDC-17ハンド・ブラスターを投げ渡す。それを受け取った俺はそれをクマの魔物に向ける。ハジメやデルタ分隊も同様、己が持つ武器をその魔物に向ける。

 

 

「本来ならこいつは俺の左腕を喰い、一度心を砕かれかけた原因。こいつをここで打ち破らない限り俺は前に進めないと思っていたが、まぁ…何かと呆気ない形で終わったな」

 

「まぁ…とりあえずだ。この魔物は運が悪かったってことだ。だからこそだ……俺たちと合流した時点でこいつの負けは確定した。今言えるのは一つだけだ……」

 

 

 

「「生まれ変わって、出直して来なっ!!」」

 

 

 

俺はハンド・ブラスター、ハジメは実弾のリボルバー、デルタ分隊はブラスターと明らかにオーバーキルな火力でクマの魔物を絶命させる。無事にクマの魔物を討伐し、ハジメと再会することが出来た。

 

 

 

グゥゥゥゥゥゥ~……。

 

 

 

……ただし、ここで俺の腹の音が出なければある意味感動の再会が台無しだ。

 

 

「…やれやれ、こんな時に腹が減るか……緊張感台無しじゃないか」

 

「くっ…ははっ……!確かにな」

 

「ジェダイといっても余り俺たちと変わらないんだな?」

 

「そのようだな。よしっデルタ、周囲の安全確保」

 

 

スコーチが茶々を入れ、ボスはクマの魔物を倒した後にクリアリングをデルタ分隊員に指示を出して一時の安堵を得るのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

将軍やハジメが迷宮の奈落のそこに落ちてから五日が経過した。この五日間は酷い物だった。あの後は宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って我々は王国へと戻った。私はコマンダー達に将軍とハジメの事と、将軍が警戒していた檜山がハジメに向けて攻撃した事を報告した。この事を白崎が知ってしまうと彼女が何をやらかすのか分かったものではない。その結果、白崎達には知られぬ様、檜山の処遇が決まるまでクローン数名を檜山の監視に付けるのであった。そしてメルド騎士団長は将軍とハジメの事に関して国王と教会に報告しに向かった。その時に私は将軍やハジメはまだ生きているという事を伝える為にメルド騎士団長と同行した。そして国王や王国の人間に報告した。その時に王国の人間の反応は、愕然と安堵の吐息を漏らしたのだ。どうやら王国の人間、貴族の人間はハジメのことを“無能”であると認識していた様だ。こればかりは八重樫や坂上が憤激に駆られて何度も手が出そうになった。さらには我々を召喚出来る将軍に目をつけていた様だ。我々の様な軍隊を召喚出来る者がいれば最強の軍事力を得る事が出来ると考えているのだろう。…だが、我々は共和国に忠誠を誓った。決して将軍や共和国以外に仕えるつもりはない。最終的に将軍とハジメの処遇はこう決まった。将軍は行方不明で、ハジメは死亡扱いになった。無論私は抗議したが私の言葉を聞く気にもなくあしらわれた。

 

 

 

そして私はPTSDになりかけた白崎の様子を確認しに向かった。実戦訓練の時にスタン・モードの効果が聞き過ぎたのか気を失ってから五日が経過したのだ。その部屋に入ると、彼女を看病をしているのは白崎の友である八重樫だった。

 

 

「フォードーさん……」

 

「八重樫、今の彼女はどうなっている?」

 

「……まだ目を覚まさない。よほどハジメ君達が死んだ事を受け入れられず深く眠りについているみたい」

 

「まだ彼らが死んだわけではない。特に将軍ならどのような絶望的な状況でも諦めない」

 

「どうしてそう確信が出来るの?あの奈落の底の深さじゃ……」

 

 

将軍はジェダイだからなと答えて白崎を見る。今の彼女は悪夢を見ているのか涙を流していた。八重樫は私の言った意味を理解出来なかったが、今は白崎の手を握りながら、“どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい”と、誰ともなしに祈った。その時、不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

 

「!?…香織!ねぇ、聞こえる?香織!」

 

「……雫ちゃん?」

 

 

八重樫の声が聞こえたのか白崎はゆっくりと閉じていた瞳を開き、意識を覚醒する。

 

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」

 

「いくらブラスターのスタン・モードを受けたとはいえ、アレから既に五日が経過している」

 

「五日?そんなに…どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」

 

 

私は白崎が気を失ってから五日が経過した事を伝える。その時に白崎は徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、マズイと感じた八重樫が咄嗟に話を逸らそうとする。しかし、白崎が記憶を取り戻す方が早かった。 

 

 

「それで……あっ。………南雲くんたちは?」

 

「ッ……それは「彼らはあの実戦訓練で奈落に落ちた。彼らの安否は未だに不明だ」…!フォードーさん!」

 

 

私は白崎に本当の事を話したが八重樫は言うべきではないことを白崎に伝えた事に怒っている。この様子を見て白崎は自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を容易に受け入れられるほど白崎はできていない。

 

「……嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん、フォードーさん。私が気絶した後、南雲くんたちも助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは……訓練かな?訓練所にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わなきゃ……だから、離して?雫ちゃん」

 

「だめよ香織。……残念だけど、香織。わかっているでしょう?……ここに彼らはいないわ」

 

 

白崎は虚ろな眼をしながらまるで壊れた人形の様にこの場にいない筈の人間を探す為に動こうとするが、八重樫はそれを静止させる様に白崎を止める。

 

 

「やめて……」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「やめてよ……」

 

「彼は、南雲君は……」

 

「いや、やめてよ……やめてったら!」

 

「香織!彼は死んだのよ!」

 

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうして、そんな酷いこと言うの!いくら雫ちゃんでも許さないよ!」

 

 

現実を受け入れられない白崎は八重樫の拘束から逃れる為に暴れる。その時に私は八重樫が言っていた言葉に訂正を入れる。

 

 

「だから彼らはまだ死んではいない。未だに彼らは行方不明なだけだ」

 

「どっちも同じじゃない!もうこれ以上香織を傷つけるのは「その優しさが逆に彼女を余計に傷つけているんだ」……!」

 

「確かにあの大迷宮で将軍とハジメが奈落の底に落ちたのは事実だ。だが、将軍はジェダイだ。将軍ならきっとハジメを助けている筈“ppp…”…ん、通信?」

 

 

私は懐にあるホロプロジェクターからホログラム通信が入っていた。その通信先はかのデルタ分隊の者だった。

 

 

「デルタ分隊!?…となるとやはり……」

 

「…デルタ分隊?それって一体?」

 

「あぁ、恐らくだが……いや、確実に将軍が生きてる事が判明した。デルタ分隊は将軍が新たに召喚した特殊部隊のエリートだ」

 

「藤原くんが?……もしかして!」

 

 

白崎も将軍の生存を聞いて僅かな希望を見出した。私はホロプロジェクターからホログラム通信を開く。するとホロプロジェクターから一人のクローン・コマンドーが映し出された。

 

 

《こちらデルタ分隊のデルタ40。キャプテン・フォードー聞こえるか?》

 

「嘘でしょ……これほど立体的な通信が?」

 

「すごい…!」

 

「こちらARCトルーパーのキャプテン・フォードー。通信は良好だ、どうぞ」

 

《了解した。将軍、どうやら無事に繋がった様です》

 

 

デルタ40と名乗るクローン・コマンドーから別の人物がホロプロジェクターから映し出された。それは将軍の姿であった。

 

 

《フォードー、聞こえるか?一応大迷宮内にいるから余り通信状態が良くないが……》

 

「聞こえます、将軍。どうやら無事だった様ですね……?あー…それと、彼女達もいます」

 

《彼女?「えっ?藤原君なの?」「藤原くん?」…えっ?八重樫に白崎?》

 

 

彼女達がいる事を想定してなかったのか将軍は少し動揺した。どうやら将軍は通信するタイミングを見誤った様だ。…だがこれで将軍は生きている事が判明した。これはこれで良しと納得する私であった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷宮探索、そして出会い

またストック切れたので遅れます。


8話目です。


 

 

雷電達がフォードー達に通信を入れる数分前……

 

 

 

俺たちはハジメが錬成で作ったセーフティー・ルームで休みつつも状況を整理していた。デルタ分隊のボスとセヴは他に出口が無いか調査に向かっている。残ったスコーチとフィクサーは万が一の事を考えここに待機している様だ。フィクサーはホロプロジェクターをいじって何か改良を施そうとしていた。そしてスコーチはハジメが作った大型リボルバー拳銃について話し合っていた。

 

 

「へぇ、重ブラスター・ピストルより高威力の実弾銃ってことか?なかなかいい銃作ってるなぁ?」

 

「まぁな。…一応こいつはこの階層にあった鉱石だけで作ったからある意味ではまだ試作段階だけどな」

 

「それじゃあ、ちゃんとした設備がありゃ完成するってことか?良いじゃねぇか、それ!」

 

 

どうやらハジメは、デルタ分隊のスコーチと何かしらと馬が合うようだ。するとフィクサーがホロプロジェクターの改良が終わった事を俺に報告しに来た様だ。

 

 

「将軍、何とか地上のクローン部隊に連絡を取れる様ホロプロジェクターを改良してみたのですが……やはり場所が地下だからか通信状態が余り良く余りません」

 

「そうか……それで、どれくらい通信時間が可能なんだ?」

 

「精々4〜5分が限度です。どちらにせよ、地上に出なければ余り通信状態は良くなりません」

 

 

十分だと伝えた後にハジメに通信をいれることを伝えると驚いた様子でホロプロジェクターを見ていた。どうやら本物を見たのは初めての様だった。そして俺は先ず先に通信先の相手をARCトルーパーのフォードーに繋げるのであった。しかし…繋げたのは良いが、まさか彼女達がいるとは思いもしなかった。

 

 

 

そして今現在に至る……

 

 

 

ホロプロジェクターからフォードーと入れ替わる様に白崎と八重樫の姿が映った。すると八重樫が俺が生きている事に疑った。

 

 

《…ねぇ、あなた本当に藤原君なの?それに、左眼が……!》

 

「八重樫、俺が幽霊というなら最初から足などないだろ?俺はごらんの通り五体満足だ。ただ、見ての通り左眼は駄目になったが……」

 

《藤原くん!…南雲くんは?南雲くんは無事なの!?》

 

「白崎か?あーっ……ハジメは無事といえば無事だが、五体満足じゃない。見れば分かるかもしれないが、少しばかり覚悟した方がいい。ハジメ、良いか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 

そう言って俺はハジメと場所を入れ替わり、ハジメが白崎達とホロプロジェクター越しに対面するのであった。

 

 

雷電Side

 

 

 

クローン・コマンドーのデルタ分隊のフィクサーが用意してくれた通信用ホロプロジェクターの前に立ち、ホログラムとして映る白崎達と対面する。……まさかこんな形で再開するとは思ってもいなかった。

 

 

《!…南雲くん……なの?》

 

「あぁ……白崎、俺だ。迷宮の奈落に落ちた南雲ハジメだ。……つっても、俺はもう白崎が知っている南雲ハジメじゃないけどな」

 

《南雲くん?……!?南雲くん、その腕……》

 

 

案の定白崎は俺の左腕を見て血の気が引いたのだろう。何せ俺の左腕はもう無いのだから。

 

 

「ん?あぁ……この階層のクマの様な魔物に切り落とされて喰われた。もうその魔物は殺したけどな」

 

《そんな……南雲くん……!》

 

 

白崎が俺に何か一言声を掛けようとした時に急に通信状態が悪くなったのかホログラムが途中で途切れ途切れになる。

 

 

「将軍、そろそろ時間が迫っています」

 

「そうか……ハジメ、俺と変わってくれ。白崎はフォードーと」

 

 

そう言って俺は雷電と入れ替わった。白崎はまだ俺に何か言いたげそうだったが時間がない為に八重樫が白崎を退かせ、フォードーと入れ替わった。

 

 

「フォードー、地上のコマンダー達に伝えてくれ。俺とハジメは当分そっちには帰れそうにないと。俺はハジメと共にこの迷宮を脱出する。お前達は引き続きクラスメイト達の護衛を頼む」

 

《イエッサー。それと将軍、フォースと共にあらん事を……》

 

 

お前もな、フォードー。そう雷電が伝えたと同時にホログラム通信が途切れる。どうやら限界時間だったようだ。

 

 

「…通信、切れました」

 

「いや、大丈夫だ。フォードーにはちゃんと伝わっている。向こうは彼らに任せよう。今の俺たちの目的は一つ、この迷宮の早期脱出だ。……それはそうと、問題は食糧だな」

 

「その事なら我々クローンに食事は必要ありません。将軍の魔力で存在維持が出来ていますので」

 

 

フィクサーから意外な事を聞かされて驚く俺たちがいた。つーか、よくよく考えればクローン達が食事する所を見ていなかったな?

 

 

「俗にいうどっかのアニメの使い魔って所か?」

 

「原理は分かりませんが、恐らくはそうではないのかと」

 

「そっか。それと雷電、食糧なら()()しかないぜ」

 

 

そう言って俺が指を指したのは先ほど倒したクマの魔物の肉だった。流石に雷電やフィクサー達もコレにはドン引きしたそうだ。……ていうか、奈落の底に落ちて食糧が無い中絶望的に追い込まれればそれしか道はないだろ?色々な抗議があったものの、雷電は止む無く魔物の肉を喰らう事にしたそうだ。俺が見つけた神結晶から生成される神水を片手に……

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメから聞いた通り、俺は魔物肉を喰う以外他に選択肢は無かった。一応ハジメから聞いたが魔物肉を喰った時に激しい激痛が襲いかかってくるとの事でハジメは持っていた神結晶と呼ばれる回復効果がある水を無限に生成する神水を俺に渡した。その激痛に耐える為の緊急処置だそうだ。燃焼石で火を起こし、肉を焼いてから食べた。下処理が無い分味はマズく、後から来る獣臭に悩まされた。そこは無理矢理でも胃の中に入れこむ為に神水を飲んで何とか食すのであった。その際にハジメが言っていた通り激しい激痛に襲われた。正直言って死ぬかと思った。その時に俺の身体に変化が起きた。黒髪だったのがハジメと同様に脱色の如く真っ白になってしまった。そして俺は自身のステータスプレートを確認してみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル16

天職:■■■■■■■■

筋力:360

体力:390

耐性:400

敏捷:320

魔力:1520

魔耐:300

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚[+共和国軍兵器召喚][+共和国軍武器・防具召喚]・言語理解・風爪

===============================

 

 

「いや、おかしいにも程があるだろ……」

 

「それな。本当にそれな。俺も最初はそうだったよ」

 

 

どうやら魔物肉を食べたことでかなり人外化しているようだ。しかもさっき食べたクマの魔物肉の影響なのか技能の所に風爪(かざつめ)という物があった。俺は試しに近くにある石の塊で実験する。やり方はクマの魔物がやった様に風を圧縮して飛ばすイメージで腕を振り落とす。すると圧縮された風が石の塊を斬り裂いた。凄まじい切れ味だった。因みにハジメもクマの魔物肉を喰ったため同じ様に風爪を習得した様だ。ハジメ曰く、魔物の肉を喰らう事で急激なステータス上昇と技能習得が可能らしい。その分ハイリスクとして食べた者は激しい激痛を伴うとのこと。下手をすれば死に至るだそうだ。それと、技能の方を改めて見てみるとクローン軍団召喚の派生系なのか“共和国軍兵器召喚”や“共和国軍武器・防具召喚”があった。どうやらいつの間にかクローン軍団召喚のスキルが上がって派生の召喚が可能となった様だ。一応物の試しに共和国軍武器・防具召喚でフェーズⅠARCトルーパー・アーマーを召喚してみた。すると本当にARCトルーパー・アーマーを召喚することが出来た。そしてそのARCトルーパー・アーマーはハジメが改良を施した後に着用する事になった。主な改良は正面装甲に増加装甲を取り付けるという簡易な改良だった。なお、その増加装甲の材料はタウル鉱石だそうだ。その後にボスとセヴが戻って来た。彼らの報告によると地上に繋がる出口は存在せず、逆に更に下へと続く下層の道が発見した様だ。

 

 

「うむ……となると、最下層に向かわなければ地上に出る出口は見つからないということか……」

 

「その様だな……だったら上等だ。何が出てこようと敵であるなら、殺して前に進むまでだ」

 

 

“程々にな”と言って俺たちは下層へと続く道へ進み、この迷宮の裏側の迷宮を攻略するのであった。もしも前の場所が一階層であるなら、恐らく次は二階層なのだろう。

 

 

 

あれからどのくらいの時間が経過したのか分からないくらいに俺たちは少しづつ、確実に最下層までの道を進んでいた。その道中に俺はクローン兵二個小隊を召喚し、共に迷宮を探索していたのだが、下層に行けば行く程魔物の強さが上がっていき、その度に何人ものクローン達が犠牲になった。ある者は石化の呪いを受けたり、またある物はサメ擬きの魔物に喰われたりと、犠牲になっていくクローン達の数が絶えなかった。そして五十階層目に到達した時にはデルタ分隊以外のクローン達は既に二十人しかいなかった。俺は新たに増援を召喚する事を考えたが、それは地上に出てからという事で召喚するのは止めにした。そして俺たちはアレからどれ位強くなったのかステータスプレートを確認してみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル47

天職:■■■■■■■■

筋力:810

体力:920

耐性:820

敏捷:1000

魔力:3000

魔耐:690

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚[+共和国軍兵器召喚][+共和国軍武器・防具召喚]・言語理解・風爪・胃酸強化・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性

=============================== 

 

____________________________________________

 

===============================

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル49

天職:錬成師

筋力:910

体力:1020

耐性:990

敏捷:1080

魔力:810

魔耐:790

技能:錬成[+精密錬成][+電子機器錬成][+電子機器組立て錬成][+複製錬成][+鉱物系鑑定][+鉱物探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+超精密錬成]・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解・天歩・[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性

===============================

 

 

もはやステータスなど意味をなさないくらいにバグリまくっていた。もう何だコレ?と言わんばかりだ。

 

 

「……もうアレだな。ツッコンだら負けだな」

 

「あー…そうだな。流石の俺でもこれはないわ……」

 

「将軍、少しばかり休まれては?」

 

 

流石にクローン達もコレばかりには同情した様だ。しかし、俺たちはまだ止まっている猶予はない。俺は声を掛けて来たクローンに大丈夫と伝えて更に奥に向かう。するとそこには何かしらの扉と二つの像が存在していた。

 

 

「五十階層に来てみたが、こんな扉初めて見るぞ……ようやく変化が現れたって事か?」

 

「その様だな。後、あの左右の像。何かと嫌な予感がする。デルタ、頼めるか?」

 

「了解っ将軍。爆破の準備だ、デルタ!」

 

「へっ!待ってました!」

 

「了解、爆薬をセットします」

 

「すぐに向かう」

 

 

スコーチ、フィクサー、セヴの三人はボスの指示の下的確に爆破の為にスコーチは扉を、セヴとフィクサーは扉の左右にある像に爆薬を設置していた。

 

 

「レッド、レッド、グリーンか、レッド、グリーン、レッドか?…へへっ!」

 

「黙って作業してくれ62。07、そっちは?」

 

「もう少し掛かる、後三秒……」

 

 

そして約十秒で爆薬を設置し終えたデルタ分隊はすぐにそこから離れる。

 

 

「爆薬設置完了!指示をボス」

 

「よしデルタ、後方で援護!」

 

 

そう言ってボスは起爆スイッチで先ず最初に扉を爆破する。しかし、爆破した筈の扉は全くの無傷だった。

 

 

「おいおい、嘘だろ?爆破しても無傷かよ!?」

 

「それほどここの守りが厳重ってことだろうな……!」

 

 

するとその扉にはトラップが施されていたのか扉の近くにある二体の像が一つ目の魔物となった。そいつは地球の本で見たサイクロプスと酷似していた。

 

 

「なんだありゃ!?」

 

「デカい……!?他のブリキ野郎より質が悪くて厄介だな!」

 

「なぁハジメ、こういうの確かゲームでもあったよな?お宝を守る番人っていう奴だったか?」

 

「…そうだったな。こいつ等が居る時点でベターといやぁベターだよな。だが……」

 

「あぁ……デルタ、爆薬は?」

 

「いつでも可能だ、将軍」

 

 

そうして俺はデルタに爆破指示を出してボスは起爆装置を押して扉の番人であるサイクロプスの足に仕掛けた爆薬を起爆させる。するとそのサイクロプスの足が吹き飛んで一気に機動力を奪った。その隙を逃さずハジメはドンナーで赤いサイクロプスの眼球に撃ち込んで倒す。デルタ分隊、クローン達は青いサイクロプスに集中砲火を浴びせさせ、俺は青いサイクロプスによじ上りながらもエレクトロ・ロングバトンでサイクロプスの頭部に突いて感電させて動きを止める。そしてデルタ分隊のセヴがDC-17mスナイパー・アタッチメントで青いサイクロプスの眼球に撃ち込んで撃破する。

 

 

「悪いが、空気を読んで堂々と正面からぶつかってやる程出来た敵じゃないんでね」

 

「何とか無力化したな。よし、問題は扉だな……」

 

 

俺は扉の方を見て調べてみると、その扉には何かをはめ込むための二つの窪みがあった。

 

 

「この窪み、何かしらの鍵が必要なのか?」

 

「鍵か……とりあえずさっき倒した魔物から調べねえか?もしかしたら鍵らしいもんでも見つかるんじゃねえのか?」

 

「……そうだな。とりあえずあのサイクロプスを解体して中身を確認しよう」

 

 

そうして俺たちはサイクロプスの解体作業を行うのであった。サイクロプスを解体してから数十分が経過し、一人のクローン兵が何かを見つけた。

 

 

「…!将軍、魔石と思わしき物を発見しました!」

 

「そうか、ご苦労。……ん?もしかしてこいつか?」

 

 

俺もサイクロプスの解体中に魔石を発見する。そしてクローン兵から魔石を回収した後に扉の窪みにはめ込む。すると魔法陣が浮かび上がり、やがて扉の鍵が解除される。

 

 

「さーてとっ……問題は鬼が出るか蛇が出るかだな?」

 

「あぁ、用心に越した事はない。デルタ、お前達は扉付近で待機してくれ。残りは俺に続け」

 

 

デルタ分隊を残し、残りのクローン達を率いて鍵が外れた扉を押開いて侵入する。その部屋は目の前にある一つのアーティファクトが光っており、他は真っ暗で何も見えなかった。

 

 

「ハジメ、ここは夜目で見てみよう。そうすればこのくらい場所でも見える筈」

 

「そうだな、一応見ておこう」

 

 

そうして俺たちは技能の夜目で暗い場所を正確に見渡す事が可能になった。そしてクローン達フラッシュライトを使って辺りを捜索した。

 

 

「あー…何だろうな、こうも暗いんじゃあ気味が悪いな……」

 

「それを言うな。俺だってこういう場所は余り好きじゃないんだ」

 

 

クローン達もこの暗さにぼやきが出る。それでもちゃんと周囲の警戒はしている様だ。この場所を見て俺はにた様な場所を覚えていた。

 

 

「なぁハジメ、この場所……何かと聖教教会と似ていないか?」

 

「あぁ…お前もそう思っていたのか。だが、一番気になるのはあのアーティファクトだ」

 

 

ハジメの言う通りあのアーティファクトの存在である。警戒しながらもそのアーティファクトに近づくと、俺たちを感知したのか暗闇に身を潜めていた緑色の触手がアーティファクトの方へ戻って行くかの様に下がる。クローン達もこれには敵なのかとブラスターを構えて警戒した。

 

 

「将軍、アレは一体……?」

 

「待て、まだ撃つな。流石の俺でも分からない。ハジメ、お前から見てコレは罠だと思うか?」

 

「さあな?…だが、あの緑の触手は敵意を感じられなかった。今は敵じゃねえだろう」

 

 

その時にこの部屋に明かりが灯し、部屋全体を見渡せるくらいの明るさになったその時だった。

 

 

 

“誰…?”

 

 

 

「「「……!」」」

 

 

女性の声がアーティファクトの方から聞こえた。そしてアーティファクトの光が弱まり、消えるとそこには……アーティファクトに埋め込まれて封印されているかの様に()()()()()()()の姿があった。流石にコレは想定していなかったのか今の自分の思考はこんがらかっていた。

 

 

「ちょ……おま……!?」

 

「……っ!」

 

「おいおい……嘘だろ?」

 

 

その時に一人のクローンが呟いたことで俺は我に戻り、どうするべきかと考えた。その時にハジメは既に決まっていた。

 

 

「あーっその…何だ。すいません、部屋間違えました」

 

 

ハジメは何も無かったかの様にこの場から去ろうとした。

 

 

「…って、いやいやいやっハジメ、ツッコム所そっちじゃないだろう!?」

 

「まっ…!?待って…お願い……助けて……!」

 

「いやっ無理だ」

 

「どうして…?私何でもする…だから……」

 

「あのな、こんな所に閉じ込められてるヤツを信用しろっていうのは無理があるだろう?見たところ封印されているようだが…そう見せかけた罠かもしれん。だいたい、こんな奈落の底に封印されているくらいだ。かなりヤバい奴だってのは容易に想像がつく」

 

 

確かにハジメの言っている事は正論であろう。この様な奈落の底で封印されている時点で怪しいのは一目瞭然かも知れない。だが、俺は違うと見た。フォースを通して彼女の悲しみを感じ取れた。彼女の話を聞いても良いのではないのかと思った俺はハジメに何とか彼女を救えないかと説得を試みる。

 

 

「待てハジメ、彼女の話を聞いてやっても良いんじゃないか?」

 

「けどよ…もし罠だったら「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……待って!私……()()()()()()()!」……っ!」

 

 

彼女の言葉に反応したのかハジメは一旦喋るのを止めた。どうやらハジメは同じ境遇かもしれないあの少女に対して同情しているかもしれない。

 

 

「ハジメ、俺はフォースが使える事を分かっているだろう?相手の心を感じ取れることを。だからさ、ここを去る前に彼女の話を聞いてやってくれないか?もしかしたらこの先、彼女の力が必要になるのかもしれない」

 

「……そう言えばそうだったな。分かったよ、話は聞いてやるがまだ完全に信用したわけじゃない。お前は裏切られたと言っていたが、それだけじゃお前を封印した理由には繋がらない。どうしてお前が封印されたんだ?」

 

「……辛いかもしれないが、君の過去を話してくれるか?」

 

「……分かった。話す……」

 

 

それから彼女から齎された情報によると彼女は“吸血鬼”で特別な力を持つ王族の一人だった。彼女は国の為、民の為にその力を使ってきたが、ある日のこと……彼女の家臣達は彼女は最早必要は無いと切り捨てた。彼女の叔父が王になると同時に彼女の力を危険視して殺そうにも殺せない為、この奈落の底に封印されていた様だ。この時にハジメは彼女の言う殺せないという意味を彼女から聞き出した。

 

 

「殺せない?それってどういう意味だ?」

 

「勝手に治る。怪我してもすぐ治る。…たとえ首を落とされても」

 

「強力な再生能力か。……その他にも力があるのか?」

 

「うん……魔力直接操れる。陣もいらない」

 

「マジか……チート待った無しと言われる力だな。おまけに不死身と来てやがる……」

 

「お願い…助けて…」

 

 

この時にハジメは思った。彼女の強大な力は嘗ての家臣や叔父といった権力者に利用されて後は用済みという形でこの奈落の底で死ぬ事も許されず孤独で永遠に封印されていた事を。俺はハジメにどうするのかを聞いてみた。

 

 

「ハジメ、彼女の言っている事は本当だ。フォースを通して彼女の心を感じてみたが、事実嘘偽りは無い。それで、どうするんだ?」

 

「……なんか調子狂うが、お前の言う通りこの先何があるのか分からねえし、戦力は一人でも多い方が良いよな?……雷電、周りの警戒を頼む」

 

「了解したが……ハジメはどうするんだ?」

 

「俺の錬成の力を使えば何とかなるかもしれない」

 

 

そう言ってハジメは彼女が埋め込まれているアーティファクトに手を触れ、錬成を始める。するとアーティファクトがハジメの錬成に抵抗していた。

 

 

「…くっ!やはり抵抗が強いな……だがっ!」

 

 

そういってハジメはアーティファクトの抵抗があろうと関係無く己が持つ全魔力を注ぎ込んでアーティファクトの破壊を試みた。その時に俺はハジメの手に触れて魔力を提供した。

 

 

「…っ!雷電!?」

 

「無理をするなハジメ。俺の方が魔力量が多いからその半分をこいつに使えばお前の負担が減るだろう?」

 

「雷電………はっ!助かるにしちゃ助かるな!!」

 

 

そうして協力しながらも彼女を封印しているアーティファクトをハジメの錬成で完全に破壊し、彼女を解放するのだった。その分、俺とハジメの魔力を半分持っていかれたが……。

 

 

「クッソ…!それなりに鍛えてたんだが、雷電の協力が無ければ魔力全部持っていかれてたかもな」

 

「まぁ…終わりよければ何とやらだ。ハジメ、神水のボトルあるか?どうやら俺だけ魔力の消費量が半端無かった様だ」

 

「あぁ、あるぜ。ちょっと待ってろ…」

 

 

そういってハジメは懐を探り、一本のボトルを取り出してそれを俺に向けて投げ渡す。俺はそれを受け取り、ボトルのふたを開けてボトルの中にある神水を飲む。すると解放された彼女が俺たちにお礼を言って来た。

 

 

「ありがとう……貴方も、ありがとう………」

 

「気にするな、礼ならあいつ言ってくれ」

 

「あ…あぁ……」

 

 

この時ハジメはその言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか分からないでいた。まぁ……この世界に来る前に余り目立つことを避けて来た生活を送っていたためまだ戸惑いがあるのかもしれない。すると彼女が俺たちに名前を聞き出して来た。

 

 

「あの…貴方たちの名前、何?」

 

「…?ハジメだ。南雲 ハジメ」

 

「俺は雷電、藤原 雷電だ。宜しくな」

 

 

そう彼女に名前を教えたら何故か名前を繰り返した。…主にハジメの名前を。

 

 

「……んで、お前の名前は?」

 

 

彼女に名前を聞き出そうとしたら、彼女は自分の名前を名乗るのを拒んでいた。そしてハジメにあることを頼み出す。

 

 

「……付けて」

 

「…はっ?付けるって何だ?まさか、自分の名前を忘れたのか?」

 

「そうじゃないみたいだハジメ。彼女は過去の自分と決別する為にお前に名前をつけて欲しいみたいだ」

 

「うん……私、もう前の名前は要らない!ハジメが付けた名前が良い!」

 

「いやっ……そうは言ってもな……」

 

 

流石にこの様な展開は想像していなかったのか、ハジメはかなり戸惑っていた。その時にハジメは彼女の髪や瞳を見てある名前を思いつく。

 

 

「“ユエ”…なんてのはどうだ?」

 

「ユエ…?」

 

「あぁ、俺の故郷で月を表すんだ」

 

「月?」

 

「最初この部屋に入った時、お前のその金色の髪とか赤い目が、夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな」

 

 

ハジメはハジメで中々ロマンチックな名前を付けた様だ。俺たちから見ればある意味お似合いなカップルみたいな二人だった。少しばかり嫉妬したのは内緒である。

 

 

「ユエ……か。ハジメにしては中々ロマンチックな名前を思いついたな」

 

「雷電……余り茶化すなよ。……それで、どうだ?」

 

「…うん!私、今日からユエ……ありがとう!」

 

 

彼女改め、ユエはハジメに感謝しながら抱きついた。これにはクローン達も茶化したいくらいだったが、今は周辺の警戒の為に気を緩めなかった。

 

 

「良かったなハジメ、別の意味で大切な仲間を得られて」

 

「お……おぉ。……って、おいっ待て!別の意味って何だよ、別の意味って?!」

 

「!二人とも、危ないっ!!」

 

 

その時に二人のクローン兵が俺たちを突き飛ばした。すると俺たちが元居た場所に岩の刺が二人のクローン兵に降り注ぐ。二人のクローン兵は降り注いでくる刺を躱しきれず、一人は完全に絶命して身体全身が光ってそのままポリゴンとなって砕け散る。もう一人は僅かに致命傷は避けたものの既に虫の息であった。

 

 

「っ!トルーパー!」

 

「しょ……将軍。…これ…を……」

 

 

俺はすぐに負傷したクローン兵の元に向かい、傷を確認してみたが既に手遅れであった。そのクローン兵は俺にDC-15Aを渡した後に息を引き取り、ポリゴンとなって砕け散った。俺たちは刺が降り注いだ所を見てみると、そこにはサソリの様な巨大な魔物がこちらを睨みつけるように見ていて“次はお前だ”と言わんばかりに唸り声を上げた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血姫の実力、劣等感

まだストックが溜まっていないですが投稿です。


9話目です


 

 

突如として出現したサソリ型の魔物。その特徴はサソリの尻尾が二つある巨大な魔物だった。その魔物から放たれる岩の刺により二名のクローン兵が犠牲になった。俺やハジメが持つ技能である気配感知に引っかからなかったのは恐らくユエを解放することで出現する仕組みなのだろう。

 

 

「テック!エルガー!……クソッ!二名死亡!」

 

「こいつ…いつの間に……?この部屋に入った時に気配感知には何も反応もなかった。ユエの封印を解いた事で目覚めたってことか?」

 

「どうやらそれ以外になさそうだ。さしずめこいつはユエをこの部屋から逃がさない為のトラップだった様だな、そのおかげでクローン兵が二人やられた」

 

 

俺は死んだクローン兵が消える前に俺に渡したDC-15Aを懐に懸架してエレクトロ・ロングバトンを構える。残ったクローン達もブラスターを構える。そしてハジメはというと……。

 

 

「あー……その前にだ。ほらっ!」

 

 

ハジメはメルド騎士団長から支給され、前まで使っていたコートをユエに渡した。……そういえば彼女はまだ全裸である事をすっかり忘れてた。

 

 

「これを着ておけ。いつまでも素っ裸じゃいられないだろう」

 

「っ!……ハジメのエッチ」

 

 

ハジメはこの状況で反論すると面倒になると察しているようで反論はしなかった。というよりはしている場合じゃなかった。その時にユエは俺の方を見た。

 

 

「ライデンも見ていたでしょ……エッチ」

 

「何っ!?おい、確かに見てしまったのは後でちゃんと謝るが、今はそう言っている場合じゃないだろ!?」

 

 

俺はユエに反論すると“ふーん”とジト目で俺を見ていた。だからそんな目で見るな、戦いづらいだろうが。

 

 

「今喧嘩している場合じゃねえだろ。ユエ、こいつを飲んだ後しっかり俺に掴まっていろ」

 

 

ハジメは神水が入ったボトルをユエに渡した後にドンナーを片手に戦闘体勢に入る。ユエはハジメから貰った神水を飲んだ後にハジメの背中に負ぶる様にしがみつく。そしてサソリの魔物は唸り声を上げて俺たちを威嚇する。

 

 

「どうやらあのサソリ、相当殺る気満々だな?ユエをこの部屋から出さない為の番人ということか?」

 

「上等だ!邪魔するってんなら、殺して喰ってやる!」

 

「俺たちは喰えないが、二人の仇は取るぞ!」

 

「この野郎、奴だけはフライにしてやらぁ!」

 

 

一人のクローン兵の言葉を皮切りにハジメはドンナーを、クローン達はブラスターでサソリの魔物に撃ち込み、そして俺はエレクトロ・ロングバトンで叩き込む。しかし、サソリの魔物の甲殻が固い所為なのかすべて弾かれてしまう。その時にサソリの魔物はお返しと言わんばかりに尻尾の針から毒液を放った。ハジメや数名のクローンは回避に成功するも、残ったクローン達はその毒液を浴びて原形を残さずに溶けてしまって死亡する。

 

 

「くっ……!一体何なんだあれは!?」

 

「あの毒液、かなり強力な酸性のある毒だ。あれをまともに喰らえばさっきの兄弟達と同じ末路になっちまうぞ!」

 

「へっ……だったら、こいつならどうだ!」

 

 

そう言ってハジメは階層攻略中に見つけた引火性の高い“フラル鉱石”を加工して作った焼夷手榴弾を投げ込む。サソリの魔物はハジメは石ころの様な物を投げたと勘違いしたのか除けず、己が甲殻で防ぎきろうとした。しかし、それが間違いだった。その焼夷手榴弾が爆発して、サソリの魔物の身体に炎に包まれて摂氏3000度の熱がサソリの魔物に襲いかかった。

 

 

「どうだ、道中で見つけたフラル鉱石から加工して作った焼夷手榴弾の威力は?そいつは3000度の温度を持った奴だ。そいつで蒸し焼きになってな!」

 

「これは好機だな。トルーパー、デトネーターを投げ込め!」

 

 

俺の指示でクローン達は“サーマル・デトネーター”をサソリの魔物に投げ込む。サソリの魔物は身体に纏ってしまった炎を消そうと藻掻いていた為かデトネーターの存在に気付かずそのままデトネーターの爆発に巻き込まれるのであった。……しかし思った程のダメージを与えられなかったのか甲殻に傷がつく程度だった。

 

 

「ダァ…クソッ!あの野郎、デトネーターをくらってもピンピンしていやがる!」

 

「チィ……あの甲殻が邪魔だな。あいつさえ何とかすれば…」

 

 

流石にこれには厄介な状況になった。あの甲殻を何とかしなければこっちが不利になっていく一方だ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

部屋の外で待機していたデルタ分隊は部屋の中から激しい音が響いている事に気付いた。スコーチはその部屋を覗いて見ると、そこには巨大な原生生物が将軍達を襲っていた。

 

 

「おい、やばいぜ!将軍達、あのバカでかい化け物に襲われているぞ!?」

 

「こっちでも見えた。ボス、指示を」

 

 

セヴは俺に指示を求めた。確かに将軍達を助けに向かいたいがここの脱出経路を確保しなければならない。そこで俺は二手に分けて将軍達を助けに向かう事にした。

 

 

「このまま見ているわけにはいかないが、ここを手薄にする訳にはいかない。セヴとフィクサーは引き続きここで警戒。スコーチは俺と一緒に来い。将軍達を援護する」

 

「「「了解!」」」

 

 

セヴとフィクサーは退路の確保の為に残り、俺とスコーチは将軍達の援護に向かうのであった。

 

 

ボスSide out

 

 

 

サソリの魔物は先ほどの焼夷手榴弾やサーマル・デトネーターのお返しに尻尾から岩の刺をマシンガンの様にこっちに向けて飛ばして来た。俺はユエを抱えたまま回避する。他のクローン達も柱の影に隠れて岩の刺から逃れようとするが回避に間に合わず、直撃して数名死亡するクローン。俺は縮地で岩の刺を回避するも、サソリの魔物は回避の軌道を読んで岩の刺を撃ち込んできた。

 

 

「うぉ…!やべぇ!!」

 

 

俺は頭部に直撃しない様に右腕で防御し、他は致命傷にならない様に祈った。……しかし、いつまでたっても痛みは来なかった。

 

 

「…?何だ……?」

 

 

俺は恐る恐る目を開けて見ると、そこにはサソリの魔物が飛ばして来た岩の刺を全て叩き落した雷電の姿があった。

 

 

「大丈夫か、ハジメ?」

 

「あ…あぁ、何とかな。……つーかよくあの刺を叩き落したな?」

 

「全部が全部じゃないさ。直撃する物だけを叩き落しただけだ」

 

 

雷電の周りを見てみると、そこには叩き落された刺と地面に突き刺さった刺が無数も確認出来た。改めてジェダイっていろんな意味で化け物じみているな?そう考えているとユエが俺から降りて俺の前に立った。

 

 

「…どうした、ユエ?」

 

「ハジメ……私を信じて」

 

 

そう言った後にユエは急に俺と抱き合うと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()。その時に俺は奈落に落ちる前にこの世界の図書室で読んだ本の内容を、吸血鬼族の特徴を思い出した。俺は壁を錬成してサソリの魔物の攻撃を防ぎながらも雷電に時間稼ぎを頼んだ。

 

 

「……好きなだけ吸え、そのぐらい時間を稼いでやるよ。雷電、時間稼ぎ頼めるか?一応錬成で塹壕は作っておくが?」

 

「心配するな、そっちは何か秘策があるんだろ?だったら任せろ。それに、丁度援軍が来た様だ」

 

 

雷電がそう言った矢先、デルタ分隊のボスとスコーチがやって来た。どうやら俺たちが戦っている事に気付いた様だ。

 

 

「おいハジメ、無事か……って、何だその別嬪さんは!?」

 

「黙れコマンドー、私情を表に出している場合ではない。将軍、状況は?」

 

「クローン兵二十人の内八名がやられた。状況は最悪だが、今ハジメとユエがこの状況を打開する」

 

「……ごちそうさま」

 

 

そう雷電がデルタ分隊に指示を与える前にユエが吸血を終えて俺から離れる。ユエは片腕を天に上げ……。

 

 

「“蒼天”!」

 

 

無詠唱でサソリの魔物の頭上に蒼い魔力の塊を出現しさせる。そしてユエが上げた片腕を振り下ろして蒼い魔力の塊をサソリの魔物に叩き付ける。……間近で見て分かるが、スゲー威力だな?その時にユエは久しぶりの魔法だったのか少しふらついていた。俺はユエを抱える様に支えた。

 

 

「お疲れさん、やるじゃないか。大丈夫か?」

 

「ん…!ちょっと疲れた」

 

「改めて思うが魔法というのは凄いな?それと……」

 

 

雷電はユエの魔法に関心しながらもサソリの魔物の方に向ける。俺もその方に向けるとあのサソリの魔物はまだしぶとく生きていたが既に満身創痍であった。

 

 

「へっ……まだ死なねぇか、しぶとい奴だ」

 

「だが確実に効いているな。ボス、お前のそのブラスターを貸してくれ。対装甲アタッチメントでだ」

 

「了解だ、将軍」

 

 

そう言ってボスはDC-17mに対装甲アタッチメントと付け替えて、雷電に渡した。どうやら何か策がある様だ。

 

 

「雷電、何か策があるのか?」

 

「あぁ。ユエがあの魔物の頭上に魔法を叩き込んだおかげで甲殻に罅が入っている筈だ。そこにこいつ(DC-17m)をその魔物の頭上に撃ち込んで、肉が見えた所をこれ(DC-15A)とハジメのドンナーで止めを刺す」

 

「なるほど、お前らしいな。ユエ、後はゆっくり休んでくれ。あとは俺たちに任せろ」

 

「……あぁそうだ、デルタ。お前にこれを渡しておく。一応弾はまだ残っているから使ってくれ」

 

 

雷電は俺が渡したハンド・ブラスターをボスに渡した後にサソリの魔物と向かい合う。そして俺たちはそのサソリの魔物に突っ込んだ。サソリの魔物は俺たちを止めようと鋏で捕まえようと試みるも俺は天歩と空力で飛び上がり、雷電はフォースによる身体能力強化で空高く飛び上がる。そしてデルタ分隊のボスとスコーチは己が持つ武器でサソリの魔物に攻撃を仕掛け、出来るだけ注意をそらす。

 

 

「外さない…!」

 

 

そしてサソリの魔物の頭上に到達した時に雷電は対装甲アタッチメントを付けたDC-17mのグレネード・ランチャーを撃ち込む。これにより甲殻に直撃したと同時に爆発してサソリの魔物の柔らかい部分を守る甲殻を破壊し、唯一の弱点を晒す。そして俺たちはそれぞれの獲物でその晒された弱点部分に対して……。

 

 

「「これ(こいつ)で………THE END(ジ・エンド)だ!」」

 

 

これでもかと言わんばかりに弾を撃ち込んだ。その威力にサソリの魔物は絶えきれず、その場で倒れ込んで絶命する。倒したの確認した後に俺たちはサソリの魔物の頭上から降りた。

 

 

「何とか倒せたな。意外と硬い奴だったから苦戦したな」

 

「あぁ…既にクローン兵の約半数はあいつに持っていかれた。これから先、通常のクローンでは歯が立たない場合もある。…よって、増援は無しにする。厳しいかもしれないが替えがきく消耗品とはいえ、これ以上クローン兵の犠牲を増やすわけにはいかない」

 

 

……それが妥当かもしれんとデルタ分隊のボスも雷電の言葉に賛同した。するとユエが意外なことを俺たちに問い出した。

 

 

「ハジメ…ライデン、今更かも知れないけど……どうして?」

 

「ん?」

 

「…何がだ?」

 

「どうして私を置いて逃げなかったの?」

 

 

どうやらユエは俺たちがユエを解放した後は赤の他人としてここから去ると思っていた様だ。

 

 

「まぁ表の理由はクローン達の敵討ち何だが、例えそうじゃなくても俺たちはそこまで堕ちたつもりはない」

 

「あぁ、雷電の言う通り。俺たちはそこまで堕ちてねえよ。酷い裏切りを受けた筈のお前が、俺たちに身を託すって言うんだ。応えなきゃ、男が廃る…」

 

 

その言葉を皮切りにユエは封印されていた時に忘れていた笑顔を見せるのであった。この奈落に落ちてから約一ヶ月、五十階層で見つけたその扉はさながらパンドラの箱の様なその中には厄災と一握りの希望が入っていた。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメ達がサソリ擬きの魔物と死闘から生き抜いたその頃、一人の少年こと“清水 幸利”はある劣等感を感じていた。当初は異世界に来たことに喜び、主人公のように活躍することを夢見ていたが、自分以上の才覚を発揮する光輝や雷電への劣等感とハジメが奈落に落ちたことで芽生えた死への恐怖心で挫折し、部屋に引きこもる様になる。その時に彼のこと気に掛けたコルト達はカウンセリング兼雑務を担当している“99号”やドミノ分隊に彼のカウンセリングを任せるのであった。99号はともかく、ドミノ分隊と清水の間に意外な共通点があった。それは()()()だったことだ。そして今の俺こと清水は99号やドミノ分隊達と話し合っていた。

 

 

「……じゃあ99号は遺伝的な異常を抱えて生まれた不良品だったのか?」

 

「あぁ……お前さんとは違ってわしは戦闘には適さないと判断されて、わしはクローン達の生まれ故郷であるカミーノのティポカ・シティの清掃業務などの雑務に従事したんじゃ」

 

「…それでも彼は俺たちにとって本物の勇者だった。彼は最後まで自分の役割を果たそうとしたんだ」

 

「俺も流石にあの世で見ていたが、まさか99号がこっちに来ちまうなってな……」

 

 

俺は99号とドミノ分隊達と話し合っていると自身の劣等感を一時的に忘れられそうになる。ハジメ達が奈落の底に落ちて死んでからも彼らクローン兵は未だに現界していた。彼らから密かに聞いた話によるとまだハジメ達がまだ生きているとのことだった。俺は未だに信じられなかったが今いるクローン兵が何よりの証拠だった。因みにではあるが、俺もハジメがオタクである様に俺もオタクでスターウォーズのことをハジメより知っているつもりだったけど、まさか本物とこうして話し合えることは有り得ないことだったが、今もこうして生きていて、話し合えている。俺と同じ、嘗てクローン候補生であった頃のドミノ分隊たちは“落ちこぼれ分隊”と言うレッテルを張られ、俺と同じ様に劣等感を抱えていた。ある意味で俺と同じ劣等感を抱いていたんだなと思った。

 

 

「なぁ…シミズ、お前は憧れていた勇者になりたかったんじゃろ?じゃが、人というのは最初から強いわけじゃないんだ。あのコウキという少年も戦いにはなれているものの、人殺しというものは慣れていないんだ」

 

「あぁ……個人的にも彼奴の性格は嫌いだ。口では何とでも言えるが、いざとなった時にヘマをやらかしたら元も子もない」

 

「ヘヴィー、幾ら何でも言い過ぎだ。確かに彼奴の行動には目に余るが……

 

 

99号と自身と光輝のことで話している時にヘヴィーは光輝のことを嫌っていた。ヘヴィーが毒を吐く中、エコーはエコーなりに光輝のことをフォローしている。ただ、小声で光輝の行動に手を焼かされていることをぼやいていた。流石にこの雰囲気はマズいと思ったのか俺は急遽話題を変えることにした。

 

 

「と…ところで、話は変わるけどさ?ヘヴィー達ってどんな活躍を?」

 

 

本当は彼らの末路は俺自身知ってはいるが、この場の重い空気を変える為にあえてこの話題をだしたのだった。

 

 

「俺か?俺はあんまし活躍はしていないぞ。それにしてもだ……お前達はいいよな、ARCトルーパーになって立派に戦死してよ。俺なんか新兵のまま戦死したんだぜ?ブリキ野郎共を基地と共に道連れにしてさ……」

 

「俺、ドロイドと接敵してすぐっていうくらいマヌケな死に方だし……」

 

「お前らはまだいいよ。俺なんか基地から脱出したものの、背後から巨大ウナギに襲われて餌になっちまったんだぜ?」

 

「長生きしてもなー……俺は議長の陰謀に気付いたからって謀殺されたんだぞ」

 

「俺の場合はジェダイ・マスターの救出の際に重傷を負って敵の囚人となった俺は分離主義勢力に引き渡された後に生きたままサイボーグに改造されたんだよな。戦争終結後は俺は隠居生活を送って静かに息を引き取ったよ。…まぁ将軍が召喚してくれたおかげで五体満足の時の身体に戻れたんだけどな?」

 

「何にせよ、みんなとまたいっしょに戦えてうれしいよ」

 

 

自分の死に様で盛り上がるドミノ分隊の隊員達。流石にこの話には付いていけなかった。いくら俺でもクローン達の死に様のオンパレードを聞いて余りいい気はしない。そんな俺を置いてドミノ分隊が話を盛り上がっている中で99号は俺にこう言ってきた。

 

 

「なぁシミズ、さっきも言った様にお前は勇者になりたいと思っているんじゃろ?だが、一人ではなれん。なぁ、お前にはクラスメイトやわし等クローンという兄弟……仲間がいるんだって言うことを忘れるな。お前は彼らを、彼らはお前を必要としている。自分だけで重荷を背負おうとするな、仲間は常に隣におるんだ!」

 

「99号……」

 

 

まさかヘヴィーに言った言葉を俺に言われるとは思ってもいなかった。この言葉を聞けただけでも俺の中の劣等感が少し薄れた気がした。

 

 

「あぁ…すまんな。何かと説教臭くなってしまったのう」

 

「いや……ありがとう、99号。少しだけ自信が湧いたよ」

 

「どっちにしろ、お前はまだ伸び代があるってことだ。余り劣等感に負けんじゃないぞ?」

 

 

ヘヴィーから励ましの言葉をもらった後、俺は部屋からこもるのを止めてコルト達の訓練に再び参加するのであった。……そうだ、劣等感が何だ!そんなもの、自身の成長を妨げる枷でしかない。それを退き千切った瞬間、俺は更なる一歩を踏み出せるんだ!そう決意しながらも自身を鍛え上げるのであった。

 

 

清水Side out

 

 

 

誰も目につかぬ場所にてフォースに対する探究心を胸に暗黒面の力を極めている者がいた。その者は老人の人間の様で実は違った。その正体は、雷電ことライ=スパークが嘗ていたスターウォーズの世界の住人であり、自らの手で自身の身体を改造した者であった。更にはその老人はスター・ウォーズの世界のライが生きていた時代の約3000年前のシス帝国が存在していた頃の住人でシスの暗黒卿だったのだ。その老人はアーティファクトを通してこの世界ことトータスに召喚された雷電……否、一人のジェダイに目をつけていた。

 

 

「ふむ……よもや、3000年遥か未来のジェダイがやって来ようとは……エヒトめ、中々面白い人物を召喚して来おったな」

 

 

その老人は雷電以外にも光輝にも目を向ける。するとその老人は光輝を見た瞬間、彼の才能を見抜いたかの様に新しい実験台(モルモット)を見つけた様な顔をしていた。

 

 

「それに対してこの者はなかなか良い実験台だ。…此奴をこちら側に引き込ませ、暗黒面を学ばせてやればより強力な弟子に成り得るかもしれんな?その暁には儂は更なる英知に、フォースの先にある高みを極めることになるだろう!クーックックックッ……!」

 

 

そう光輝を見つめた老人はいずれ来るであろう雷電達との接触の時が訪れるまで、ここは身を潜めてその機会を辛抱強く待ち続けるのであった。そう、己が果たす野望の為に……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ユエの過去とお花畑

またストックが溜まったので投稿します。


10話目です。


 

 

サソリの魔物を討伐した俺たちはハジメの錬成でセーフティー・ルームを作り、その中で倒したサソリの魔物の肉を剥ぎ取りながらも甲殻と一緒に剥ぎ取っていた。その頃のデルタ分隊は生き残ったクローン達を率いて下層へと続く道を探していた。その時にハジメはユエのことであることを思い出した。

 

 

「…確か、前に歴史の本で調べてみたが、吸血鬼族って300年前の戦争で滅んだ筈だ」

 

「300年前……」

 

「てことは、ユエは少なくとも300歳以上な訳…か……っ!?」

 

 

はじめに歳のことを聞かれたのユエの顔は非難を込めたジト目になっていた。…ハジメ、いくらなんでもデリカシーが欠けているぞ。

 

 

「…マナー違反」

 

「ハジメ、女性相手に年齢は禁句だぞ。こっちは800歳以上生きたジェダイ・マスターを知っているからあまり驚きはしないが……」

 

「あぁ…そういえば雷電は前世の頃はあっち側だったな?すっかり忘れてた。…それとすまない、流石にデリカシーがなかった」

 

 

そうユエに謝罪するハジメ。その後にハジメは吸血鬼についてユエから聞き出すのだった。

 

 

「……それにしても吸血鬼って、みんなユエみたいなのか?」

 

「ううん、私は特別。自動再生で年を取らない…十二歳の頃に“先祖返り”で力に目覚めて……その時からずっとこの姿」

 

 

そこからユエが解放される前に言ってた通り、ユエが二十三歳のある日にユエの叔父は突然王位に就くことになり、ユエは吸血姫でありながら化け物として処刑されることになったが、彼女自身の再生の力によって死ぬことすら許されず、最後にはここオルクス大迷宮にて封印されることになったそうだ。

 

 

「なるほどな。…ところで、ユエはここがどの辺りか分かるか?雷電は数えていたんだが、ここは彼奴が言うに大体五十階層あたりだって言ってたが……」

 

「分からない。…でも、この迷宮は“反逆者”の一人が作ったと言われている」

 

「……反逆者?」

 

 

ユエから俺たちが知らない言葉が出て来た。ユエが言うには反逆者とは、神代に神に挑んだ神の眷属のことであり、世界を滅ぼそうとしたと世間ではそう伝わっているそうだ。…だが、その反逆者の目論見は神によって見破られ、その反逆者達は世界の果てに逃走したそうだ。その果てがオルクス大迷宮を含む七大迷宮と呼ばれる場所だった。その大迷宮の最深部には反逆者の住処があるとことだ。もしかすると、その最深部に地上への道があるとのことだ。

 

 

「なるほどな……だったら俺たちが目指す場所は決まったな。神代の魔法使いなら、転移系の魔法で地上へのルートを作っていてもおかしくないな」

 

「あぁ……それに、さっきの魔物の甲殻を調べてみたら思わぬ素材を見つけた訳だしな」

 

 

そうハジメが取り出したのはサソリの魔物の甲殻を調べてみたらその甲殻は鉱石でできていたのだった。その鉱石は俺が持っているエレクトロ・ロングバトンの素材となったシュタル鉱石だったのだ。ハジメはその鉱石を使って二つの武器を作っていた。俺とユエはハジメの作業に興味を持ち、ハジメに何を作っているのか聞き出してみた。

 

 

「何作っているの、ハジメ?」

 

「俺も今思ったところだ。ハジメ、お前は一体何を作っているんだ?」

 

「これか?ひとつは俺専用の対物ライフルのレールガンVer.(バージョン)だ。俺の銃、ドンナーは見ただろ?要するに、あれの強力な奴……弾丸も特性だ。ドンナーの威力を上げるのに、丁度良い素材が手に入ったんだ」

 

 

さっきのサソリの魔物の様な固い魔物と戦う時に使うハジメ専用の対物ライフルのレールガンVer.を作っていた様だ。そしてそれは完成して、その武器をハジメは“シュラーゲン”と名付けた。

 

 

「そしてもう一つは雷電、お前専用だ」

 

「俺専用……?」

 

 

そう言ってハジメは作っていたもう一つの武器こと俺用にオーダーメイドした専用武器を渡した。その武器はシュタル鉱石で出来た処刑人の剣(エクセキューショナーズソード)だった。

 

 

「ちょ…おまっ……ハジメ、いくら俺が剣を使えるからってこの剣は無いだろ?確かに使いやすいかもしれないが……」

 

「しょうがねぇだろ?俺も剣について色々と考えたんだが、一番お前が使いやすい剣と言えばこれしか思いつかなかったんだぞ?」

 

 

だからといって嘗てジェダイだった俺に処刑人の剣とかは無いだろう?……確かに斬撃系の武器は丁度必要だなと思っていたのだが、これは流石に無いだろう?一応大事なことなので二回思ったが……。その時にユエは俺たちがどうしてこの大迷宮の奈落にいるのか聞いて来た。

 

 

「……ハジメ達はどうしてここにいる?」

 

「へっ?」

 

「どうしてハジメは魔力、直接操れる?」

 

「あーっ…それはな……」

 

「どうしてハジメ達は魔物食べられる?そもそも二人は人間?それとハジメ、左腕は?」

 

「ちょ…ちょっと待て!順番に説明するから待て!」

 

 

流石のハジメでもユエの質問攻めには参った様だ。その時に俺はユエに自分の過去を明かしても良いだろうと思った。

 

 

「……さて、何処から話を始めようか」

 

「そうだな。……それとだハジメ、ユエには俺の過去を話しても良いだろう?」

 

「?……良いのか?」

 

「良いも悪いも……彼女の過去を聞いた時にある事を思ったんだ。まるで自分に似ているってな」

 

「私が、ライデンと似ている?」

 

「あぁ……裏切られたって言う意味でな。俺からも話すよ、俺の秘密であろう過去……いや、前世の頃の自分を」

 

 

そうして俺たちはユエに俺たちがこの世界に呼ばれた理由や、俺たちがオルクス大迷宮の奈落の底に落ちた理由を話した。そして、俺の過去……前世の自分がこの世界の人間でもハジメと同じ地球の人間ではないことを、俺がまだジェダイだった頃の話を。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺たちが何故この世界にやって来たのか、そして雷電の前世であろうジェダイとしての記憶をユエに話した。一応雷電はユエに誤解されないよう嘗て仲間であり、戦友だったクローンについてはこう説明した。クローン達は敵の陰謀によって自分の意志とは無関係に操られ、雷電や他のジェダイ達が次々に殺されたことを説明する。裏切ったアナキンの話を除いて……。そんな感じでユエに俺たちの過去の事を話し終えるのであった。

 

 

「とまぁ、こんなところだな。正直、今生きているのが自分でも不思議なくらいだ。雷電とクローン達がいたおかげでもあるけどな……」

 

「まぁ……奈落に落ちた後はこっちも大変だったけどな。左眼が失明しておきながらもこの迷宮の脱出路…つまり、この奈落の百階層目に向かわなきゃいけないんだがらな」

 

 

確かにと俺がそう呟く中、ユエは何故か泣いていた。

 

 

「……いきなりどうした?」

 

「……ハジメやライデン、辛い…可哀想……」

 

 

どうやら俺や雷電が語った事に関して可哀想と思ってくれたそうだ。

 

 

「気にするなよ。別に俺はクラスメイトのことは如何でもいいんだ。復讐する事も無いしな。そんな事より、生きる術を磨いて故郷に帰る方法を探すこと。それに全力で取り組まないとな」

 

「…帰る?」

 

「そりゃあ帰るさ。まぁ…色々と変わっちまったけど……故郷に、家に帰りたい」

 

「俺も帰りたいと言えば帰りたいが、今の俺の故郷は地球だ。前世で生きた世界に帰りたいとは思っても無いよ」

 

「そう……私にはもう…帰る場所、ない……」

 

 

俺たちは帰りたい故郷があったが、ユエはその故郷に裏切られてもう故郷ではなくなり、帰る場所すら存在しなかった。流石に盲点だった俺は少し考えた結果……。

 

 

「……なら、ユエも来るか?」

 

「……え?」

 

「いやだからさ、俺たちの故郷にだよ。まっ……魔法の無い人間の世界だから窮屈かもしれないけど、どうとでもなると思うし……」

 

「まぁ……戸籍などは元の世界に戻れる様になった時に考えればハジメの言う通りどうとでもなるかもしれないな。それも、ユエが望むのなら……だろ?ハジメ」

 

 

まぁなと雷電に答えた後、ユエはその様なことを言われる事を想定していなかった様で唖然としていた。

 

 

「……良いの?」

 

「俺は構わないが、言い出しっぺのハジメはどうなんだ?」

 

「お前なら、俺の性格を知ってるんだろう?」

 

 

ユエに俺たちの故郷に勧誘したら、ユエは嬉しそうな笑みをした。その後にクローン・コマンドーのデルタ分隊と八名のクローン兵が戻って来た。残りの四名はどうやら魔物にやられてしまった様だ。その戻って来たデルタ分隊からの情報によると下へと続く階層を発見し、周囲偵察に五名のクローンを派遣させたのだが、生きて帰って来たのはたった一人だけであった。俺たちは偵察で死亡したクローン達に心の内で合掌をし、その持ち帰って来た情報を頼りに更なる下層へ向かうのであった。因みに余談ではあるが、ユエの衣装を雷電の技能である共和国軍武器・防具召喚でジェダイが使うローブと服一式を召喚してユエがそれを着用することでユエの衣装に関する問題は一時的に解決したのであった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

このオルクス大迷宮の脱出路を探し始めてから一ヶ月と数十日。俺たちは今、大迷宮の六十階層目にいて……

 

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

 

「……ハジメ、ファイト……」

 

「お前は気楽だな!」

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

 

この階層に存在する二百体近くの魔物に追われていた。この時に俺やハジメ達が乗っているのは共和国軍が使用していたウォーカーである“全地形対応索敵トランスポート”……通称AT-RTである。それを俺自身の技能である共和国軍兵器召喚で人数分に召喚し、乗り込んだ俺たちは二百体近くの魔物から逃げていた。

 

 

「おいおい……嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?何で原生生物がこんなに寄って集って来ているんだ!?」

 

「黙れスコーチ、喰われたくなければ黙って機体を走らせろ!」

 

「やれやれ……獲物を狩る筈の獣が、逆に獲物となって獣に追われるとはな」

 

「無駄口を叩くなデルタ、今はこいつ等から撒くのが先決だ!」

 

「そう言う事だ、だから今は全力で逃げるぞ!!」

 

 

今の俺から言えるのはこれしか無かった。事の顛末はこの六十階層についた時にユエの実力を余り見ていなかったデルタ分隊に確認してもらうのと、戦いにおいて役立つのかの検証だった。その際にこの階層に辿り着いた時にはクローン兵の人数は既に二人しかいなかった。俺たちは下へと続く道を探していると、そこには地球の歴史の本で見た事のある生物とそっくりな魔物の姿があった。それは恐竜だった。この時に俺は恐竜型の魔物もいるんだなと思った。その魔物の頭に花が咲いている事を除いて。ユエは自身の実力を見せるべくその恐竜の魔物に“緋槍”と呼ばれる魔法でその魔物を倒す。これにはデルタ分隊やハジメも満足だった。彼女は攻撃魔法に特化しており、回復魔法とかは持ち合わせていなかった。回復はハジメが持つ神水で何とか補うとして、俺たちは更に奥に進む。

 

 

 

奥にはまた頭に花が咲かせている恐竜型の魔物がいた。ハジメは一応検証の為に花だけを狙い撃つ。花が消し飛んだ途端その魔物は倒れ、数十秒後には目を覚まして辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。……一体花に何の恨みがあるのか俺たち自身分かりたくもなかった。そしてようやくなのかその魔物は俺たちの存在に気付いた。もはや“何時の間にっ!?”と言わんばかりの表情であった。ハジメは容赦なくその魔物をドンナーで倒す。そして再び奥に向かおうとしたその時にクローン兵の悲鳴が上がった。その悲鳴の方角に向けると、その光景はどこぞの甦った恐竜を使ってテーマパークの名前が出てきそうなパニック映画のワンシーンの如く、クローン兵が他の恐竜型の魔物に喰われて補食された。その一部始終を見てしまった最後のクローン兵が発狂して、武器を捨てて逃げ出してしまう。その時にラプトル型の魔物に襲われて巣に持ち帰られてしまう。流石に形勢的に不利な状況だったので俺たちは数体を倒した後にAT-RTを今いる人数分召喚して乗り込み、魔物の群れから逃げるのであった。因みにユエはハジメにしがみつくことにした為、一体は取り残されたのは内緒である。

 

 

 

そして今現在に至り、俺たちは恐竜型の魔物達から全力で逃げていたのであった。

 

 

「…本当に何なんだよ彼奴等は!?殺しても殺しても、次々に現れやがって!」

 

「それには同意だ!それと奴ら、どんどん数が増えていやがるぞ!」

 

「本当にそれな!おかしいだろ!?…それになんだ、あの頭の花は!?」

 

「……ちょっと可愛い」

 

「可愛くねぇよ!さっきだって彼奴等の一匹が……!」

 

 

途中でハジメは途中で言葉を止め、何かの謎が解けた様だった。俺もハジメと同じ様に魔物達の頭に生えている花について閃いた。

 

 

「なぁハジメ、あの魔物の頭に生えている花は恐らく……」

 

「……寄生」

 

「あぁ…ユエと雷電もそう思ったか?となると、本体がいる筈だ!あの花を取り付けている奴を殺さない限り、俺たちはこの階層の全ての魔物と相手することになる!」

 

「将軍、前方に縦割れの洞窟。あそこなら……」

 

 

デルタ分隊のボスが前方に縦割れの洞窟があるのを発見する。その縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだった。彼所ならあの魔物達もそう簡単に入って来ないだろう。その時に追ってくる魔物達の動きが激しさを増した。

 

 

「……どうやら、彼所が本体がいる場所の様だな」

 

「だったら、好都合だな……突っ込むぞ!」

 

 

そうハジメの言葉を皮切りに俺たちはAT-RTをその場で乗り捨ててその縦割れに入り込み、その奥へと進む。その時に俺は先にハジメ達を入らせた後に迫り来る魔物の群れに対してフォース・プッシュで迫ってくる魔物の群れを吹き飛ばす。そして安全を確保した所で俺は縦割れの洞窟に入り込む。その後ろではフォース・プッシュで吹き飛ばされた魔物の群れが起き上がって再び俺たちに襲いかかろうとする。しかし、縦割れの幅が狭すぎた為に入りきれず、魔物の群れが次々と壁に激突するばかりであった。そして全員が洞窟内に入った際にハジメは錬成でその縦割れの入り口を塞ぐ。

 

 

「ふう……全員無事か?」

 

「デルタ分隊、全員無事です」

 

「これで、とりあえず大丈夫だろう」

 

「お疲れ様、ハジメ」

 

 

一応俺は辺りを確認して見るが、そこには何も無かった。だが、フォースは何かしらとざわめきが収まらなかった。何かといやな予感した為にデルタ分隊はここで待機してもらい、ハジメにはデルタ分隊を守る様に錬成で壁を作るよう頼んだ。そうして俺とハジメ、ユエの三人は辺りの捜索を始めるのであった。

 

 

「今のところ、気配感知には何も反応がないが……」

 

「ん…?ハジメ、何か緑の玉が飛んで来ているぞ」

 

「何っ?……!」

 

 

俺はこの場所にて緑の玉が浮遊しているのを発見し、当たらない様に避ける。そしてハジメは錬成で壁を作り、緑の玉がこれ以上入って来ない様にする。

 

 

「ユエ、恐らく本体の攻撃だ。何処にいるか分かるか?」

 

 

ハジメはユエにそう聞き出すが、ユエは一向に言葉を返して来なかった。

 

 

「…ユエ?」

 

「ユエ?どうした……!?」

 

 

俺はこの時にフォースによって導かれた嫌な予感が的中してしまった事を理解した。

 

 

「あーっ…ハジメ、問題発生だ」

 

「逃げて…二人とも!」

 

 

するとユエはまるで自分の意志とは無関係にユエの手に風が集束する。そしてそれを俺たちに向けて風の刃を放つ。俺たちは咄嗟に回避した為ダメージを受ける事は無かった。するとユエの頭からさっきの魔物と同じ花が咲いた。どうやらここに逃げる前に緑の玉が彼女の身体の何処かに当たってしまい、今は操られている状況に陥った様だ。

 

 

「くっ!さっきの緑の玉か…!」

 

「どうやらその様だな。…とりあえず彼女の攻撃を除けながら本体を探すぞ!」

 

「あぁ、分かってる!」

 

 

そう言って俺たちは左右に分かれてユエの攻撃を分散しながら本体を探す事にした。しかし、走りながらユエの攻撃や緑の玉に気をつけると言うのはあまりにも難しい事だった。

 

 

「ちぃっ、かなりマズいな……ぐぁっ!?」

 

「雷電?!…ぐっ!?しまった……!」

 

 

走っているうちに俺やハジメは緑の玉に直撃してしまう。するとユエの背後からアルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がその姿を現す。…最も、化け物並に気持ち悪い顔付きであったが。そのアルラウネ擬きの魔物はユエを盾にしながら俺たち……特にハジメのドンナーに警戒しつつも前進した。

 

 

「ちっ……やってくれるじゃねぇか……!」

 

「下手に近づけばユエ自身を自らの魔法の的にすると警告している様だ。…本当に面倒な敵だな」

 

「二人とも……ごめんなさい!」

 

 

アルラウネ擬きはユエを操りながらも風の刃を飛ばす。俺はハジメの作った処刑人の剣を使い、その風の刃を後ろへと流した。しかし、その時に再び緑の玉が俺たちの身体に直撃してしまい、俺たちの頭に花が咲いてしまう。アルラウネ擬きは“勝った”と思ったがそれは思い違いだった。その咲いた花はすぐに枯れ果ててしまい、俺たちを操る事が出来なかったようだ。

 

 

「……どうやら、向こうも思わぬ誤算があった様だな、ハジメ?」

 

「その様だな……こちとら魔物を喰らったおかげで耐性が色々ついたから効かねえみたいだな!」

 

 

アルラウネ擬きは俺やハジメを手駒に出来ないと判断してユエを操って攻撃を仕掛けた。俺は操られているユエの風の刃を受け流しつつも反撃の為の策を考える。

 

 

「クソっ…!あの魔物……ユエを盾にしながらこっちを嬲り殺しにするつもりだ」

 

「チィッ…!クソが……!」

 

「ハジメ…ライデン。私は良いから、撃って!」

 

「ユエ……!」

 

 

防戦一方になっていく中、アルラウネ擬きは調子に乗りながらもユエを盾にしつつも操って攻撃を続けた。俺はその攻撃を後ろへ受け流す様に去なす。ユエは涙を流しながらも俺たちに撃つ様に頼む。

 

 

「お願い……撃って!」

 

「え……いいのか?」

 

「いやっ本当は駄目だろう。しかし……この状況だ。ユエ、目を閉じてろ。そして……」

 

 

「「マジで助かるわ(本当にすまない)!」」

 

 

その言葉を皮切りにハジメはドンナーでユエの頭に咲いている花とアルラウネ擬きの左腕を狙い撃つ。アルラウネ擬きはまさかハジメが人質がいるのにも関わらず躊躇わず撃って来た事に戸惑いながらも失った左腕の痛みに悶え苦しんでいた。その痛みをこらえながらもアルラウネ擬きはハジメの方を見た時にある違和感を覚えた。そう、俺こと雷電の姿が見当たらなかったのだ。その俺はというと、ハジメがドンナーをアルラウネ擬きに撃ち込んだと同時にフォースによる身体能力強化で飛び上がる様に跳躍し、アルラウネ擬きの背後を取った。アルラウネ擬きはそれに気付いて背後を確認した時には既に遅く、俺は処刑人の剣でその魔物の胴体を横一閃で真っ二つにし、絶命させた。一方のユエはハジメがまさか躊躇わずに撃ってくるとは思っておらず、未だに唖然としていた。

 

 

「…何とか倒せたか……ユエ、大丈夫か?」

 

「ユエ、無事か?違和感とか無いか?」

 

「……撃った」

 

「えっ?撃って良いって言うから……」

 

「躊躇わなかった……」

 

 

流石のユエでも躊躇わずに撃ったハジメに対して少しだけ脅えていた。

 

 

「そりゃあ、最終的には撃つ気だったし。狙い撃つ自信はあったけど……」

 

「けど…?」

 

「流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、配慮したんだぞ?」

 

 

それを配慮と言えるのか?と思った俺は心の片隅にしまっておくのであった。

 

 

「……ちょっと頭皮、削れた……かも……」

 

「まぁ、それくらいすぐ再生するだろ?問題なし」

 

「いやっ問題ありまくりだろう?幾ら俺でも流石に引くぞ?」

 

「うぅ~……」

 

 

流石に俺ですら引いてしまうくらいにハジメの躊躇いの無さに少しばかり危機感を覚える俺だった。そしてユエも“確かにその通りなんだけど!”と言いたげな顔でハジメの腹をポカポカ叩くのであった。

 

 

 

その後に安全を確保した後にデルタ分隊と合流してそこに新たなセーフティー・ルームをハジメが作り、そこで消費したドンナーの弾薬の製作をしつつも狩ってきた魔物肉を食べるのであった。ハジメはユエに食べないか聞いてみた。

 

 

「ユエも食うか?」

 

「いらない」

 

「まぁ、三百年も封印されて生きていたんだからな。飢餓感はないのか?」

 

「ある……けど、もう大丈夫」

 

「大丈夫って……何か食ったのか?」

 

 

そうハジメがユエに聞き出すとユエはハジメに指を指した。その時に俺はユエが吸血鬼族であることを思い出した。

 

 

「…そういえば、ユエは吸血鬼族だったな?」

 

「あぁそっか……てことは、血を飲めば食事は不要ってことか」

 

「食事でも栄養は取れる。でも、血の方が効率的」

 

「なるほどなぁ……は?」

 

 

すると何かを察したのかハジメの顔が青ざめる。デルタ分隊もハジメが青ざめた理由が察してしまったのか少しだけ引いてしまう。そしてユエは少しずつハジメに迫り寄る。

 

 

「ハジメは……美味。熟成の味…」

 

「お……おい、何言ってんだ?」

 

「ハジメの血…何種類の野菜と肉をじっくりコトコト煮込んだスープ…」

 

「いや、魔物の肉を食べ過ぎて不味そうだが……?ら、雷電!何とかしてくれねぇか?!」

 

 

ハジメはかなりの危機感を抱いていた。俺は助け舟を出そうと思ったが、先ほどのアルラウネ擬き戦においてユエに対して躊躇い無く撃ったこともあったのでこれで相子にしようと考える。

 

 

「ハジメ、俺も人のことを言えないかもしれないが……もういっそのことユエに食われたら?」

 

「ちょ……おまっ?!雷電っ!?」

 

「ライデンから許しが出た……!」

 

 

俺から許しを得たユエはそのままハジメを押し倒す。

 

 

「ちょ…待て、ユエ!お、俺の話を……おわぁっ!?」

 

「逃がさない……いただきます」

 

 

そんな形でハジメはユエの餌食?になった。そう俺が安堵したとたんにユエが“ライデンの血ってどんな味だろう…?”とユエが呟いた瞬間、俺の背筋が凍り付いた様な感覚が襲った後にユエはハジメ後を吸い終わった後に次は俺へと標的を変えてきた。俺はデルタに助けを求めようとしたが、これも貴重なの体験だろうと頭の中で言い聞かせながらも諦めて彼女に血を吸われるのであった。この時に俺が思った言葉は“解せぬ…”という言葉だけであった。因みにユエ曰く、俺の血の味は不思議な味でハジメの次に美味な味わいだそうだ。それってフォースと何か関係しているのではないのかと考えたが、流石に考え過ぎと思い俺は考えるのを止めた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヒュドラ戦、暗黒面の力

暗黒面の力はある意味でハイリスク・ハイリターンなものだなと思う自分がいる。


11話目です。


 

 

俺たちがあの似非アルラウネの魔物を殺し、俺たちはようやく最初にいた階層から百階目になるところまで来た。その百層目のところで俺たちは一旦自身のステータスプレートを確認してみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル77

天職:■■■■■■■■

筋力:1930

体力:2010

耐性:1930

敏捷:3000

魔力:6500

魔耐:1690

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚[+共和国軍兵器召喚][+共和国軍武器・防具召喚]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・風爪・胃酸強化・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・熱源探知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

===============================

 

____________________________________________

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:79

天職:錬成師

筋力:2050

体力:2140

耐性:2230

敏捷:2560

魔力:1850

魔耐:1840

技能:錬成[+精密錬成][+電子機器錬成][+電子機器組立て錬成][+複製錬成][+鉱物系鑑定][+鉱物探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+超精密錬成]・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

===============================

 

 

 

もはや完全にステータスが当てに出来ないくらいにぶっ壊れ性能だった。……まぁ、魔物の肉とか喰っていた所為でもあるけどな。とりあえず俺たちは万全の状態で挑む為に俺はドンナーの弾を錬成で作成し、雷電は精鋭部隊のARCトルーパー一個小隊を召喚した。それもただのARCトルーパーではない。重火器を装備したヘヴィARCトルーパー部隊だった。武装はZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンやレシプロケイティング・クワッド・ブラスター、RPS-6ロケット・ランチャーにPLX-1ポータブル・ミサイル・ランチャーとかなり重武装な重火器を持っていた。一応それらの武器の弾が尽きた時はDC-15ブラスター・カービンやDC-17ハンド・ブラスターで応戦するつもりだそうだ。俺やユエに雷電、そして雷電に召喚されたデルタ分隊にARCトルーパー一個小隊。最早世界に戦争でも仕掛けるつもりかと言わんばかりの軍隊だが、飽くまで俺たちの故郷に帰る為に必要不可欠な仲間達だ。

 

 

「百層目あたりで戦力の増強を行ったのはいいが、流石にこれはやり過ぎたな?」

 

 

流石の雷電もこればかりは少しやり過ぎたと言わんばかりに少し反省していた。ユエは雷電が召喚したARCトルーパー達に驚いていた。……まぁ、ユエにとって人間を召喚する技能を持った者は多分雷電が初めてだろうな?

 

 

「彼ら…全部、ライデンが召喚した者たち?」

 

「あぁ……一応彼らは、所謂使い魔という形の兵隊だ。ちゃんと個々の感情があり、仲間意識が強い最強の兵隊だ。……もっとも彼らは戦う為に造られた命でもあり、見方によっては換えの効く消耗品とも言えるが、俺は彼らをそんな風に見てはいない。彼らだってちゃんとした人であり、人間だ。俺にとって掛け替えの無い戦友達だ」

 

「そのおかげで、俺たちは何とか百層目に到達した訳だが……問題はこっから先にある扉の向こう側だな」

 

 

そう言って俺は扉の方を見る。その扉の高さが異常で、如何にもこの扉の向こうに迷宮のボスがいるのは確実だと本能が訴えてくる。

 

 

「感知系の技能に反応がなくても本能で分かる。この先はマズイってな。怖いか、ユエ?」

 

「ハジメと一緒だから、大丈夫」

 

「ヒューッ!熱いねぇ、お二人さん」

 

「茶化すな62。俺たちのやることは変わりはない、いつも通りでいくぞデルタ」

 

「ボスの言う通りだ。ARCトルーパー諸君、お前たちがこの任務に選ばれたのはお前達が最高の戦士だからだ。諸君等の連携がこの危険な任務を成功へと導く鍵となる。その分お前達には、自分たちの命を懸けてもらうことになる。だが、あえて言わせてもらう…死に急ぐな、生き残れ!」

 

「「「サー、イエッサー!!」」」

 

 

雷電がARCトルーパーに期待しながらも死に急がない様に生き残る様に告げる。これによりARCトルーパーの士気は上がった。そして俺たちはオルクス大迷宮奈落の底の百階層の扉を開き、その部屋に侵入する。侵入した場所は巨大なクリスタルの柱が無数に建ち並ぶ所だった。その時に雷電は無言でARCトルーパーに手でハンドサインを作り、指示を出した。ARCトルーパーは手際良くクリスタルの柱に身を隠しながらもクリアリングを行っていた。俺はARCトルーパーの手際の良い行動を見て流石は精鋭部隊だなと思った。

 

 

「……彼らは何をしているの?」

 

「あれは周囲の安全確保だ。トラップとか敵がいないかの周辺確認だな」

 

「全周囲異常なし。将軍……今の所はクリアですが、トラップの類が発見出来ません」

 

「その様だな、あまりリスクは犯したくないがそうも言ってられない。デルタ分隊にARCトルーパー部隊、全員戦闘準備しつつ警戒せよ!」

 

 

そう雷電がトルーパー達に指示を出し、デルタ分隊やARCトルーパー部隊はクリスタルの柱に身を潜めながら待ち伏せに入る。

 

 

「二人とも、一応トルーパー達の援護があるとは言え、用心しながら進むぞ。あの先がゴールだとするなら必ず門番が存在する筈だ」

 

「まぁ…確かに、お約束と言やぁお約束だな。…いけるな、ユエ?」

 

「うん……大丈夫。私、頑張る!」

 

 

そう俺たちの決意を雷電に伝え、俺たちは慎重に進んだ。すると俺たちの目の前に魔法陣が出現する。しかし、その魔法陣に問題があった。それは魔法陣の範囲の大きさだった。

 

 

「この大きさ……この魔法陣から出てくるのはそれなりにデカい魔物が出現するかもしれん。流石にジロ・ビーストの大きさまでとはいかないが……」

 

「上等だ!……この迷宮のラスボスだろうが俺たちは負けねえ!」

 

「大丈夫、私たち……負けない!」

 

 

俺たちは魔法陣から出てくる敵に警戒しつつもそれぞれの武器を構えた。そして魔法陣から出現した魔物は六つの首が存在するドラゴン“ヒュドラ”の姿であった。ヒュドラは俺たちを認識した瞬間、赤いドラゴンの頭が火炎弾を放ち、先制攻撃を仕掛ける。俺たちはそれを避けてそのまま反撃に移ると同時に雷電はクリスタルに身を潜めている全トルーパーに号令する。

 

 

「全トルーパー、攻撃開始!」

 

 

それを皮切りにデルタ分隊やARCトルーパー部隊は持てる火力の全てをヒュドラにぶつけた。デルタ分隊からはDC-17m対装甲アタッチメントによるグレネード・ランチャー。ARCトルーパーからはZ-6ロータリー・ブラスター・キャノン、レシプロケイティング・クワッド・ブラスター、RPS-6ロケット・ランチャーにPLX-1ポータブル・ミサイル・ランチャーと大火力でヒュドラに攻撃する。それによりヒュドラの赤、青、黄、緑のドラゴンの頭がダメージを受ける。

 

 

「よしっ…これならいけるか?」

 

「いや…まだの様だ、特にあの白いのを見ろ!」

 

 

雷電がヒュドラの白いドラゴンの首の方に指を指す。するとヒュドラの白いドラゴンの頭は詠唱すると、先ほどダメージを受けていた赤、青、黄、緑のドラゴンの頭が傷ついたところが回復していった。

 

 

「クソッ!あの白い奴は回復役か!」

 

「そしてあの黄色のドラゴンの頭は白いドラゴンの頭を守る為にあえてトルーパー達の攻撃を受けていた。これほど厄介な魔物は初めてだぞ?」

 

「チッ!攻撃に盾に回復と、実にバランスがいいことだな!」

 

 

そう言いながらも俺は焼夷手榴弾をヒュドラに目掛けて三つ投げ出した。焼夷手榴弾はヒュドラの上空で爆発し、その炎はヒュドラの身体に浴びる様に覆い被さった。この攻撃にヒュドラの全てのドラゴンの首達が苦しんだ。そして追撃と言わんばかりに雷電は俺が錬成で作った処刑人の剣で赤いドラゴンの頭を切り落とした。

 

 

「先ずは一本…!」

 

「その調子だ、雷電!ユエ、雷電の援護を!」

 

 

そう俺がユエに指示を出し、俺はヒュドラの注意を引くためにドンナーを撃つ。ARCトルーパー達やデルタ分隊も重火器やブラスターで俺たちを援護するのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

六つの首を持つドラゴンの様な魔物を相手にしつつも俺は六つの首を特徴を見極めていた。赤いドラゴンの首は火属性による魔法攻撃役で青いドラゴンの首は氷、緑のドラゴンの首は風。黄色のドラゴンの首は白いドラゴンの首を守る盾役を、白いドラゴンの首は回復役と改めて確認してみたらバランスが整った敵であることを理解した。…しかし既に俺はその赤いドラゴンの頭の首を切り落として残りは五本となった。…ただ問題があるとするのならば、あの黒いドラゴンの頭だ。あの黒いドラゴンの頭は一体何の能力を持っているのか、まだはっきりしてなかった。とりあえず俺は適当に攻撃しつつも敵の特徴の解析を行っていたその時であった。

 

 

「“砲皇”!……きゃあっ!?」

 

「ユエっ!?」

 

 

ユエが黒いドラゴンの首によって叩き落され、咄嗟に俺はユエの方に向かった。しかし、この判断がいけなかった。その時に黒いドラゴンの首は俺とユエの間近にいて、じっとこちらを見ていた。

 

 

「大丈夫か、ユエ……っ!?ユエ、奴の目を見るな!」

 

「…っ、ライデン?」

 

 

俺は直感的に危険を察知して直ぐにユエの目を隠す。すると黒いドラゴンの目が異様な光を放った。その時に俺の周りが暗くなり、辺りが何も見えなくなる。

 

 

「何だ……?まさか、幻覚か?だとしたら不味いな……幻覚耐性はまだ身に付いては……?」

 

 

すると一点の光が漏れ出す。その光の中にはハジメやユエの影の姿があった。

 

 

「ハジメにユエ?……だが影だけ?これは一体……っ!?」

 

 

そう考えている瞬間、突如と青い光の閃光が一閃。ハジメとユエの影の首を両断する。その時に俺は明細に見えてしまった。

 

 

 

ハジメとユエのゆがんだ表情をした生首を……

 

 

 

「いやっ……これは幻覚なんだ!これは幻覚だ、これは………!」

 

 

そう否定する中、俺はハジメ達の影を斬った者は青い光の剣で照らされていることが分かった。そして、その正体が判明した。それはこの世界にいない筈の裏切り者の()()()()()()()()()()()()()の姿だった。

 

 

「お前は……スカイウォーカー………!」

 

 

その時に俺の中で密かに蠢いていた怒りと憎しみと闘争本能があの男を殺せと信号が脳へと伝わってくる。

 

 

 

殺してやる…

 

 

 

殺してやる…

 

 

 

殺してやる…!

 

 

 

殺してやる…!!

 

 

 

そして俺は気付かぬうちに歪んだ表情で笑っていた。怒りと殺意の声を出しながら……

 

 

「く…くくくっ……はっははははっ………!そうだったな、例えこれが幻覚だろうと何だろうと俺の知ったことじゃない!お前が俺たちジェダイ達やマスターを…!お前が、お前がぁっ!!

 

 

 

「……うぅっぉぉぉぉぁぁぁあああーっ!!スカイウォーカァァァー!!!」

 

 

 

俺は怒りと本能のままにハジメが作った処刑人の剣を片手にスカイウォーカーに飛び掛かり、斬り掛かった。その果てが孤独と虚しさが待っていることを知らずに……。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺がヒュドラの注意を引いている時に問題が発生した。雷電がユエを庇ってあの黒いドラゴンの首から何かしらの幻術を掛けられていた。そして黒いドラゴンの頭はそのまま雷電に喰らいつこうとしていた。

 

 

「雷電!?テメェ!させるか「……うぉぉぉぁぁぁあああーっ!!スカイウォーカァァァー!!!」……な、雷電っ!?」

 

 

俺が雷電を助けに向かおうとした途端、雷電は怒り狂った表情をしながらも処刑人の剣でその黒いドラゴンの首を切断した。流石のヒュドラもこれは想定外だったのかかなり焦っている様子だった。そして何よりも雷電の急激な変化に俺やユエ、デルタ分隊にARCトルーパーのクローン達も驚きを隠せないでいた。あの変わりよう……まるでフォースの暗黒面に取り付かれている様なもんじゃねぇか!

 

 

「ハジメ、ライデンが…私を庇って……!」

 

「分かってる!…だが無闇に彼奴のところに近づけば巻き添えをくらうぞ!」

 

「おいおい、将軍が何かヤベぇ感じに暴走しているぞ!?」

 

「…かなり危険だが、何とか止めるしかない。デルタ、将軍を止めるぞ!ARCトルーパーは万が一のことを考え、此処で待機してくれ!」

 

 

デルタ分隊は雷電を止めようと行動し、残ったARCトルーパー達はボスに言われた通り万が一のことを想定し、対応出来る様に待機するのであった。

 

 

「…俺たちもじっとしていられねぇ!ユエ、雷電を止めに行くぞ!」

 

「うん!ライデンは、私を助ける為に庇ってくれた。…だから、今度は私たちが助ける…!」

 

 

俺たちも雷電の暴走を止める為にデルタ分隊の後を追って雷電の下に向かう。

 

 

 

雷電がヒュドラと戦っている最中、俺たちが来た時には既にヒュドラの首は黄色と白の二つしか無かった。その証拠に切り落とされたドラゴン達の首の切り傷が滅多切りにされており、雷電は怒りと闘争本能のまま、完全に容赦なくヒュドラを殺しきるつもりだった。黄色のドラゴンの頭はせめて一矢報いようと雷電に向かって首を伸ばし、雷電を喰らおうとした。だが、個々で雷電が予想外な行動を取った。

 

 

「…邪魔だぁぁああーっ!!」

 

 

雷電がヒュドラに手を前に出した瞬間、手の指先から青白い強力な電撃を放った。俺はあの電撃には見覚えがあった。あれはシスの暗黒卿であるシディアスやドゥークー伯爵が持つフォースの技の一つ“フォース・ライトニング”だった。そのフォース・ライトニングを受けた黄色のドラゴンの頭は感電し、しびれて動けなくなっていた。そんな隙だらけの瞬間を逃さず、雷電は処刑人の剣で首を一閃、両断した。残るは白いドラゴンの頭だけであった。だが、その白いドラゴンの頭は雷電の圧倒的な力と怒りに恐れるあまり、後ずさりしてしまう。しかし、その行動が返って雷電の怒りの炎に油を注ぐことになる。

 

 

「逃がさん……!!」

 

 

雷電がフォースを使って白いドラゴンの動きを止めたと思いきや、その白いドラゴンの頭が苦しがっていた。まるで息が出来ない様な感じで暴れていた。そして雷電がフォースを操っていた手を瞬時に握り締めると、その白いドラゴンの首は曲がってはいけない角度に曲がると同時に“ゴキッ”と決して鳴ってはいけない音を鳴らして絶命する。この様な光景を俺たちは見てしまい、改めて雷電がかなり不味い状況にあると判断する。全てが終わったと思われた瞬間、雷電が俺たちを見た瞬間、獲物を見つけた様に笑っていたのだ。その時の雷電の瞳は魔物の肉を食べる前と変わらなかった紅色の瞳ではなく黄金の瞳へと変わっていた。今の雷電はシスの暗黒卿と同じ暗黒面に取り付かれていることを俺は悟ってしまった。

 

 

「フフフ……!」

 

「雷電……っ!…チィッ!?」

 

 

そして雷電は処刑人の剣で俺だけを狙ってきた。ユエやデルタ分隊を無視して。俺はドンナーの銃身で雷電の処刑人の剣の刃を受け止める。

 

 

「ハジメっ!?」

 

「駄目だ、完全に俺たちに対して眼中に無い様だ!」

 

「チッ……クソがっ!おい、雷電!いつまで寝ぼけてやがる!いい加減目を覚ませ!」

 

「くはははっ……!」

 

 

俺はドンナーで受け止めている雷電の処刑人の剣を外側に去なし、距離を取りながらもドンナーを撃ち込む。その時に雷電はもう一振りとエレクトロ・ロングバトンを取り出してドンナーから電磁加速で放たれる弾丸を処刑人の剣と合わせて二刀流で弾いた。

 

 

「“緋槍”!」

 

「将軍を無力化するぞ、デルタ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

その後からユエの緋槍やデルタ分隊の援護射撃を受けるも、雷電は二刀流で軽々とユエ達の攻撃を去なす。雷電が元ジェダイであるが故にデルタ分隊のブラスター弾を相手に弾き返して来ないあたり、まだ彼奴の意識が僅かに残っている可能性があった。そして俺はある一か八かの賭けに出た。

 

 

「本当ならあのヒュドラにぶちかますつもりだったが、止む終えねえ……!雷電なら多分フォースとかで何とかするだろう。ユエ、デルタ、今から俺の切り札を使う。連発は出来ねえから援護してくれ」

 

「…ん!」

 

「了解だハジメ。デルタ、ユエのバックアップだ!」

 

 

ユエは無詠唱で“緋槍”や“砲皇”、“凍雨”といった魔法を連続で放ち、デルタ分隊も持てる火力を雷電にぶつける。ユエ達が雷電を足止めしている間に俺は切り札とも言えるとっておきである電磁加速式対物ライフル“シュラーゲン”を取り出す。そして照準を雷電に向けながら纏雷を使い、シュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く、纏雷にもよく馴染む。

 

 

「いい加減に目を覚ましやがれ、雷電っ!!」

 

「……くっ!?」

 

 

危険を察知したのか雷電は前を向いたまま距離を取った。しかし、そんなのは関係無い。俺は雷電に向けてシュラーゲンの引き金を引き、銃口から大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

 

 

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら雷電に直撃すると思いきや、雷電は俺が考えた通りフォースで電磁加速で放たれた弾丸を止めていた。しかし、俺が放ったのは電磁加速式の対物ライフルから放たれた弾丸だ。それを止めるのに両手でフォースをコントロールする様に集中する他に無かった。その時に雷電の周りに水色の球体が雷電を囲む様に展開されていた。その球体の正体はユエからは放たれる魔法の一つであった。ある程度の数の球体が雷電を囲った時には既にユエの攻撃準備が終わっていた。この時の雷電はシュラーゲンから放たれた弾丸を止めるのに精一杯だった為かユエの攻撃魔法を躱す余裕が無かった。

 

 

「“天灼”」

 

 

その隙にユエがそう唱えた瞬間、球体から青白い電撃が放たれて雷電に襲いかかった。これはやり過ぎではないのかと思われるが、今の雷電は正気でもなく、フォースの暗黒面に囚われている。相手が殺す気で来る以上、こっちも殺す気で止めなければ逆に俺たちが殺られるのがオチだ。ユエの天灼をまともに喰らった雷電は悲鳴を上げる暇もないまま膝をつく。そして黒いドラゴンから受けたバッドステータスの効果が切れた影響か、雷電の瞳が黄金から元の紅色の瞳に戻り、その場で倒れ込み気を失ってしまう。流石のデルタ分隊のスコーチは雷電が死んだのではないのか不安に思った。

 

 

「お…おい?死んじゃってはいない……よな?」

 

「もし将軍が死んだなら俺たちはとっくに消えている筈だ。つまり、まだ将軍は生きている」

 

「……ったく、面倒かけるな。ユエ、ありがとな」

 

「…ん。……っ!ハジメ!!」

 

「っ!?」

 

 

その時にユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、そこには雷電が倒した……というより黒いドラゴンのバッドステータスによって暴走し、逆に巻き込まれて殺された筈のヒュドラが音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、俺たちを睥睨していた。

 

 

「遮蔽に隠れろ、デルタ!ハジメ、ユエ!すぐに遮蔽に隠れろ!奴の報復が来るぞ!!」

 

 

ボスの言う通り七つ目の銀色に輝く頭は、俺からスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。デルタ分隊は既に遮蔽に身を隠したのだが、俺は動けるにしてもユエは雷電を止める為に魔力を大幅に消費し、魔力枯渇で動けない。

 

 

「っ!…ユエ!!」

 

 

俺は咄嗟にユエの前に立ち、サイクロプスから得た技能の“金剛”である程度のダメージ軽減でヒュドラの銀色の頭からの攻撃を防ごうとした。極光が俺を飲み込んだ時に俺の意識がそこで途切れてしまい、後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決意と光の剣

とうとうあの剣が登場します。


12話目です。


 

 

あの大型の魔物が放つ極光が収まった後に俺たち辺りを見渡した。そこにはユエを庇って極光をまともに受け、地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていて、仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げているハジメの姿と極光の余波で吹き飛ばされて倒れ込んでいる将軍とユエの姿があった。そしてハジメは、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。うつ伏せに倒れこむハジメの下からジワッと血が流れ出してくる。ハジメの“金剛”を突き抜けダメージを与えたのだろう。

 

 

「今の状況ではこちらが不利だ。将軍達を回収した後、一旦あのクリスタルに隠れるぞ!それと40、待機しているARCトルーパーに援護要請!」

 

 

デルタ分隊に指示を出した後に俺ことデルタ38は将軍達を遮蔽に隠す為に行動する。スコーチはハジメを、セヴは将軍を、フィクサーはユエを担ぎ、俺は大型の魔物の注意を引きつける為にDC-17mを撃ちながら撹乱を行う。何とか将軍達を遮蔽に隠す事が出来た後に俺も遮蔽に隠れる。そしてフィクサーの援護要請に答え、この場に駆けつけたARCトルーパーはデルタ分隊を援護しつつもヒュドラに攻撃していた。

 

 

「…三人の容態は?」

 

「ユエはあの魔物の攻撃の余波に吹き飛ばされたとはいえ、軽傷です。ですが……将軍とハジメのバイタルが不安定です」

 

 

三人の容態をフィクサーが答える。ユエはハジメが庇ったおかげで軽傷だが、ハジメや将軍は重傷だ。将軍の場合は暴走していたとはいえ、ユエの魔法をもろに食らったために目を覚まさないくらいに気を失っている。ハジメに至っては容態が酷いものだった。指、肩、脇腹が焼き爛ただれ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

 

「フィールドバクタを使え。特にハジメの止血が最優先だ」

 

 

そう俺が指示を出し、スコーチとセヴはフィールドバクタ*1を取り出してハジメや将軍に向けてフィールドバクタを使用する。そのおかげでハジメの右目の出血を止血し、将軍がユエの魔法によるダメージの回復に成功する。そして、先に目を覚ましたのはハジメだった。

 

 

「…っ!……ぐっ!」

 

「ハジメ、目を覚ましたか」

 

「デルタ…か?俺は……どうなって…っ!」

 

 

ハジメはもう右目が見えない状況の中、ハジメは懐から神水を取り出してそれを飲む。神水の効果でハジメの焼き爛れた傷が完全に治ったが、右目だけは治らなかった。

 

 

「…クソッ!さっきの攻撃で右目が完全にやられたか……!」

 

「無理をするなハジメ。いくら神水で回復したとはいえ、疲労は別だ。ここで回復するのを待て」

 

「冗談っ!ここで大人しく待ってくれる程、敵は優しくはない!」

 

 

ハジメはドンナーを取り出し、利き目をやられているのにも関わらずドンナーをヒュドラに向けて発砲する。しかし、今ハジメは復活したばかりで殆どの魔力は神水の効果で回復したとはいえ、魔力が完全に回復してはいなかった。それでも纏雷によって電磁加速され、発砲出来ただけでもそれなりの威力がある。だが、その弾丸ですらヒュドラの鱗に掠り傷を付ける程度だった。

 

 

「チィッ!やっぱ完全に回復してねえからこれぐらいが限界か!」

 

「……っ。ハジメ?」

 

「っ!?……ユエ!」

 

 

その時にユエが目を覚まして、辺りを見渡して状況を把握する。その時にハジメの痛ましい姿を見た。

 

 

「…ハジメ!?その右眼……」

 

「……気にするな、片眼はまだ生きてる。今は彼奴をどうやって殺すかだ」

 

「でも……っ!そういえば、ライデンは?」

 

「将軍はフィールドバクタで治療したが未だに目を覚まさない。今の状況はかなり不利だ、打開策を見つけない限り……」

 

『デルタ分隊、こちらARCトルーパー部隊!敵の激しい攻撃で負傷者多数、被害が甚大だ!至急応援を求む!』

 

 

ハジメと話している時にARCトルーパーから応援の要請が入る。ヒュドラの方を見ると、ARCトルーパー達がかなり苦戦しており、負傷者が多数存在した。

 

 

「クッソ!彼奴の鱗は俺たちのブラスターですら受け付けないのかよ!」

 

「いやっ……案外そうでもなさそうだ。見ろ、奴の鱗の傷を。少なくとも奴には微小だがダメージは与えられる様だ」

 

 

スコーチはヒュドラの高い防御力に悪態を吐くが、セヴがよくヒュドラを観察したところ鱗にはARCトルーパー達から受けたブラスターの銃痕が残っていた。

 

 

「その様だ。ハジメ、ユエ。本来なら負傷しているところ無理をさせたくはないが……いけるか?」

 

「あぁ……もとよりそのつもりだ!」

 

「…ん!私も、ハジメと同じ……!」

 

「……その意気だ。だが、出来る限り無理はするな。無茶と無理は違うからな。デルタ、将軍を安全な場所に移動させた後、ARCトルーパー達の援護に向かうぞ!」

 

 

そう指示を出した後に俺は将軍を担ぎ、クリスタルの柱に将軍を隠れさせた後にハジメと共にARCトルーパー達の援護に向かうのであった。

 

 

ボスSide out

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は……どうなったんだ?

 

 

 

俺はあのヒュドラの幻覚に惑わされて幻覚であるスカイウォーカーと殺し合っていた筈だった。だが、そのスカイウォーカーの姿すら見当たらず、俺は今何もない真っ暗な暗黒空間にいた。どういうことだと考えている時に何も無いところから声が響いた。

 

 

 

“フッフッフ……良いぞ、その怒りと闘争心が素晴らしい……!”

 

 

 

その声に俺は聞き覚えがあった。その声は嘗て銀河共和国の元老院最高評議会議長であり、シスの暗黒卿であるシーヴ・パルパティーンことダース・シディアスの声だった。

 

 

「ダース…シディアス……!」

 

 

 

“お主は我が弟子ダース・ヴェイダーに対し、激しい怒りと憎しみを持っている。師や友を殺され、そして自分自身に怒りを覚えている”

 

 

 

「黙れ……と言いたいところだが、確かに俺はアナキン・スカイウォーカーのことを激しく憎んでいる。あいつは愛する妻の為に俺たちジェダイを裏切った。俺のマスターを殺し、挙げ句の果てに他のジェダイやパダワン見習いのイニシエイト達を……子供達を殺した彼奴を許せない。だが……その現実に恐怖し、俺は他のジェダイたちよりも先に逃げ出してしまった。そんな自分が許せない!」

 

 

 

そうだ。あの時……俺は自分のことで精一杯で自分だけ助かろうと必死だった。その時に俺はジェダイとしての道を踏み外したのかもしれない。フォースの暗黒面に堕ちる前にだ……。

 

 

 

“そうだ……それこそジェダイの弱点でもあり、弱さなのだ。ドゥークーがジェダイ・オーダーから脱退した際、ジェダイ・マスターや他のジェダイ達は自分たちの見ていないところでドゥークーがどうなっていようが、ドゥークーがジェダイであったという過去が彼らにとっての全てだった。……これがどういう意味か分かるか?”

 

 

 

「…ジェダイは特に保守的な存在でありながら、僅かな変化を恐れていた……と言うべきか?」

 

 

 

“然様……フォースにより未来を見据えているのにもかかわらず、未来のことばかり危険視しておきながら現実のことは全く何も見ていないのだ。全く以って下らない。吐き気を催すほどの無頓着さだ。どの道、あのクローン戦争で力を示し過ぎたことで最早ジェダイは平和の守護者などではなく、暴力装置として成り下がったのだ。その結果はお主の地球人の友から聞かされたのであろう?遅かれ早かれジェダイ・オーダーでは平和を維持するのには限界だった。だから滅びた……フォースはバランスを保つ為にジェダイではなく世界を選んだのだ。その胸の中の()()()()という錘さえ無ければ、お主の本性は我らシスと何ら変わるところはない。クローン戦争で暴力装置と化したジェダイは最早戦いから逃れられぬ存在になり、時代がジェダイを拒絶したのだ”

 

 

 

シディアスが言う様に、ジェダイ・オーダーは本来の役割から逸脱した存在に成ってしまったことで限界が来てしまったことやスカイウォーカーが愛する妻を守りたかっただけなのはハジメから聞かされている。改めて思うと、自分自身はどうなんだ?あの世界で死した後に地球で転生して何事もなく過ごしていた。自分はただ、あの世界で体験した悪夢から逃げる様に忘れたかっただけなのかもしれない。だけど……これだけは確信していることがある!

 

 

「確かに……俺たちジェダイは、本来の役割から逸脱した存在として堕ちてしまった。クローン戦争で力を示し過ぎたことで戦場でしか戦うことでしか許されない戦士に成り果ててしまい、時代から拒絶されてしまった。だが……それでも俺は、フォースのライトサイドとダークサイドの戦いの中にも光を見続けたいのだ!勝ち残るのは正義なのではなく……()()が勝つのだ!!

 

 

 

“フッハッハッハ……!それも良かろう。だが、ジェダイとシスとの永きに渡る因縁の戦いの中からしかその言葉を導き出せなかったこと……よく覚えておくが良い。そして……お主がフォースのダークサイドの力を完全に我が物にした暁には余の弟子として迎え入れよう。何、余は辛抱強くてな。待つには自信があるのでな……”

 

 

 

その言葉を皮切りにシディアスの声が完全に聞こえなくなった。その代わり、己自身の闇であろう死したジェダイ達が俺の前に姿を現した。

 

 

 

何故ここにもどって来た?態々我々に殺されに来たのか?

 

 

 

やはり俺は過去に対して恐れを抱いているからこそ今の状況にいると改めて思わされる。…だが、俺は己自身の闇……即ち過去という悪夢から逃げず、向き合う為に俺は死したジェダイ達の前に立つ。

 

 

「違う……俺はあなた方ジェダイと己自身の悪夢から逃げずに向き合うと決めました」

 

 

 

武器も無しにここに来たお前がか?

 

 

 

するとジェダイ達がライトセーバーと取り出し、起動させてプラズマ刃を展開する。それに対して俺はジェダイと名乗るのは痴がましいことを理解しつつも俺はエレクトロ・ロングバトンを取り出す。

 

 

「俺は最早ジェダイではなく、地球に住む人間の一人。……だけど、フォースは常に俺たちと共にあることをマスター達から教わりました。それに……ジェダイとは平和の守護者であり、ライトセーバーやフォースが使えるからといって、それがジェダイの証ではありません。これは己自身が導き出した答えでもあり、俺自身の闇と向き合う為の試煉です」

 

 

そう言って俺はエレクトロ・ロングバトンを地面に置き、膝をついて無抵抗になる。そして無数のジェダイ達が俺に近づいてそのままライトセーバーを俺に目掛けて振り……落とされることがなかった。ライトセーバーが俺に当たる寸前に止め、ジェダイ達は俺から離れる。そしてライトセーバーを出力を切らず俺を中心に円陣を作る。そして一人のジェダイ・マスターが近づき、俺に声をかける。その声は先ほどの怒りと憎しみが混じった声ではなく。清々しく清らかな女性の声であった。その女性のジェダイは嘗て前世の俺の師であった“フィリア・メンデル”であった。

 

 

 

評議会に与えられた権利とフォースの意思により、ライ=スパーク……いや、地球で生きる藤原 雷電よ。其方がジェダイの騎士として名乗ることを許す…立ちなさい

 

 

 

「マスター……」

 

 

 

我々ジェダイは平和の守護者でありながらもクローン戦争で力を示し過ぎた結果、本来ジェダイとしての本質を見誤った。フォースとの絆は汚され、今やジェダイは共和国……いえ、世界に対する暴力装置へと成り下がった。最早ジェダイは世界の秩序と平和をもたらす存在では無くなってしまった。たとえ、我々が共和国最高議長であるシスを倒したとしてもジェダイと共和国内での内乱は避けられないものだった。そう……既に我々ジェダイはシスの手のひらに踊らされながらも本来の役割から逸脱した存在に成り下がってしまったのだ。…だが、まだ希望が消えたわけではない。雷電、其方は地球に生きる最初で最後のジェダイとして義務を果たしなさい。たとえそれが苦難の道だとしても。其方にフォースと共にあらんことを……

 

 

 

それを皮切りに死したジェダイ達は元のあるべき場所に戻るかの様に消えて行った。マスター・フィリアもまた然りだ。そして俺の意識は現実世界へと戻って来た。俺は地球人で最初で最後のジェダイとして生き延び、ハジメや他の皆と共にもとの世界に必ず帰る決意をするのであった。その時に俺の懐からステータスプレートが勝手に動き出し俺の目の前で止まった。俺は今一度ステータスを確認してみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル77

天職:ジェダイの騎士

筋力:1930《+3000》

体力:2010《+3000》

耐性:1930《+3000》

敏捷:3000《+3000》

魔力:6500《+3000》

魔耐:1690《+3000》

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚[+共和国軍兵器召喚][+共和国軍武器・防具召喚]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・フォース操作[+フォース身体強化][+フォーススキル]・全属性適性・全属性耐性・物理耐性・風爪・胃酸強化・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・夜目・遠目・気配感知・魔力感知・熱源探知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

===============================

 

 

 

ステータスプレートに伏せられていた天職がジェダイの騎士と表示されていた。どうやらフォースと一体化したジェダイ達に認められた様だ。更にジェダイになった事でステータスもジェダイとしての本来の力が反映された。そして俺は意識が覚醒して周りを確認する。するとハジメ達はヒュドラの七本目の頭と戦っているのを確認した。

 

 

「ハジメ達は無事だったんだな。だったら……俺は余り寝ている訳には…いかないな……っ?」

 

 

身体を起こしてハジメ達のところに向かおうとしたその時に、俺は強いフォースを感じ取った。そのフォースが感じる場所はヒュドラの背後にある扉からであった。それが何なのか分からなかったが、俺はそのフォースに呼ばれている気がした。

 

 

「あの扉の向こうから俺を呼んでいる?感じる……」

 

 

そして俺は意識を集中させ、そのフォースの元を辿り、それを引き寄せる様に意識を集中させた。

 

 

雷電Side out

 

 

 

ヒュドラと交戦しているARCトルーパー達の援護の為に到着した俺たちはドンナーやブラスターなのでヒュドラの注意を引きつけながらも弱点を探していた。

 

 

「チィ……!相変わらずあの鱗が固ぇな、あの鱗の固さを凌駕する威力をぶつければ何とかなるが、シュラーゲンはもうぶっ壊れたから使えねえ……!」

 

「こちらも対装甲アタッチメントの残弾はあの六本首の時に全部使い果たした。ARCトルーパーも残っている武器はDC-15やZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンしかない。他にあるとするならサーマル・デトネーターが数個しか無い」

 

 

ARCトルーパー達が所持していたロケット・ランチャーやミサイル・ランチャーは既に弾切れで雷電の技能が無ければ弾の補充がままならない。

 

 

「でも…ライデンがいない今、私たちだけでもやらなくちゃ……!今度は私たちが、ライデンを助ける……!」

 

「あぁ、元よりそのつもりだ。あいつには色々な借りがある訳だしな!」

 

「俺たちはただ将軍が与えられた任務は完遂させる。その為にも今はあの魔物を排除するぞ、デルタ!」

 

 

ユエとボスもヒュドラに対する闘争心が折れていなかった。それはARCトルーパー達も同じだった。俺たちは再び武器を持ち直してヒュドラに挑もうとしたその時、ヒュドラの背後の扉が勝手に開いた。俺らやヒュドラもこれには無視出来ず、その開いた扉の方を見た。

 

 

「……何だ?」

 

 

そう俺が口にしたその時、その扉から金属の柄の様な物体が俺たちの方……いや、()()()()()()()()()引き寄せられる様に飛んできた。その物体は俺たちを通過して雷電の手に渡った。

 

 

「「ライデン(将軍)っ!?」」

 

「雷電!?…お前、目を覚ましたのか?」

 

「……あぁ、少しばかり寝過ごしてしまったがもう大丈夫だ。俺はまだ……戦える!」

 

 

すると雷電は飛んできた柄を剣の様に構え、そして何かしらのスイッチを起動させるとその筒から青白いのプラズマ刃が独特な音を唸らせて出現した。それは宛らジェダイが使うライトセーバーそのものだった。

 

 

「おまっ……!?雷電、それって!?」

 

「分からん。だが、今言えるのは一刻も早くこの状況を打開することだ。デルタ、残存する最大火力は?」

 

「デトネーターだけです将軍。何か策でも?」

 

「いや、策ともいえない賭けだ。ハジメ、ユエ、まだ動けるか?」

 

 

雷電が俺とユエにそう確認した時に俺たちは無言で首を縦に振った。

 

 

「よしっ……ARCトルーパー達にデルタ分隊、出来るだけヒュドラの注意がハジメ達に向かわないように攻撃を継続、ユエは魔力が残っているなら蒼天は使えるか?」

 

「使える。…でも残った魔力じゃ1回しか使えない」

 

「1回使えるのなら十分だ。ハジメ、一応聞くが手榴弾はまだ残っているか?」

 

「まだ残っているぜ。…だが、そいつをどう使うんだ?」

 

「何、簡単なことさ……」

 

 

そう言って雷電はヒュドラの上、つまりはこの部屋の天井を指で示していた。その時に俺はライデンが考えていることを理解した。

 

 

「!……そう言うことか、だったら俺の技能の空力で……!」

 

「頼んだぞ、ハジメ。この賭けはお前の成否に掛かっている」

 

 

雷電は俺の行動に託し、ライトセーバーを手に持ってヒュドラの前にたった。……あぁ、俺は……俺たちは絶対にこの迷宮から脱出して、俺たちの故郷に帰ってみせる!

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺はハジメ達に一か八かの賭けの内容を説明した後に俺はこの世界に存在しない筈のライトセーバーを構え直してヒュドラの前に立つ。するとヒュドラは俺たちのことを危険視したのか切断されたドラゴン達の頭と、非ぬ方向に首が曲がっている白いドラゴンの頭が消滅し、残った一本の銀入りの頭に魔力が集束されていた。魔力感知もそうだが、フォースを通して奴は俺たちに対して本気で倒しに掛かる様だ。…だが、それはこっちも同じだ。

 

 

「いくぞ……フォースと共にあらんことを!」

 

 

その言葉を皮切りに全トルーパーとハジメ達は行動を開始して俺もヒュドラに対してライトセーバーで攻撃するのであった。デルタ分隊やARCトルーパーはヒュドラがハジメに攻撃されないようブラスターによる援護射撃、ハジメは天歩の派生技能である空力を使い、空中を蹴りながらもドンナーで天井を撃ち、手榴弾を填める窪みを作って手榴弾を嵌め込む。そして俺はライトセーバーでヒュドラが放ってくる無数の光弾を弾きながらもヒュドラの注意を引いていた。

 

 

「雷電、こっちはOKだ!」

 

「そうか、ならハジメは離れてろ。起爆させる」

 

 

そうハジメに指示を出す。ハジメはすぐにその場から離れる様に空力で距離を取る。それを確認した俺は無数の光弾の内数発をハジメが仕掛けた手榴弾に向けて弾き返す。そして手榴弾に直撃した途端天井が爆発し、崩壊した天井の瓦礫がヒュドラを襲いかかる。無論これで倒したとは思ってもいなかった。

 

 

「念には念だ……錬成!」

 

 

その時にハジメはヒュドラが万が一に瓦礫から脱出されない様により瓦礫を錬成して穴を塞ぎ、より脱出しにくい形にした。

 

 

「……ユエ、今だ!」

 

「…ん!……“蒼天”!

 

 

そこにユエの魔法による追撃でヒュドラは更なるダメージを受ける。更に追い打ちと言わんばかりにデルタ分隊が行動に出る。

 

 

「今だ、デトネーターを投げ込め!」

 

 

それを合図にデルタ分隊やARCトルーパーが持っているサーマル・デトネーターをヒュドラの銀色の頭に向けて投げ込む。しかし、ヒュドラの頭の高さには届かないのは分かっている為に俺はフォースを使って全てのデトネーターをヒュドラの頭のところまで移動させる。

 

 

「……ハジメェ!」

 

「あぁ……!雷電を弄ぼうとした礼だ、存分に食らいな!!」

 

 

俺はハジメの名を叫んだ時にハジメはドンナーを構え、フォースの力で移動中のデトネーターを狙い、引き金を引いた。放たれた弾丸はそのままデトネーターの方へ飛んで行き、直撃した瞬間に大爆発を起こした。しかし……その大爆発を至近距離で受けたヒュドラはまだ生きていた。…だが、それは想定内だ!俺はフォースによる身体能力強化と技能の一つである空力で一気にヒュドラとの距離を積めた後にライトセーバーで一閃。

 

 

 

……ヒュドラの最後の頭の首を切り落とした。

 

 

 

無事に何とかこの迷宮の最下層の魔物であるヒュドラを倒したのだった。

 

 

「……何とか倒せたな。つっても、最後の最後で美味しいところを雷電に持っていかれたけどな。けどまぁ……おかげで助かった。こっちは流石に…もう限界……だな………」

 

「ハジメ……?ハジメッ!」

 

 

ハジメは復活したばかりのツケが今になって回り、その場で倒れ込んだ。その場にいたデルタ分隊や生き残ったARCトルーパー達がハジメの元に向かい、そして俺もハジメの容態を確認すべく向かうのであった。

 

 

*1
コマンドーが所持するSW版の救急スプレー兼AEDである




今回登場した剣ことライトセーバーです→
【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休息と真実

SWBF2でアプデ来たんでつい遊んでしまい遅れてしまった。すいません。


13話目です。


 

 

オルクス大迷宮の最深部のガーディアンの役割を持つヒュドラを倒してから俺たちは倒れて気を失っているハジメを運んでライトセーバーがあった扉の奥に進むと、予想外な場所にたどり着いた。そこは迷宮の最深部だというのに外と勘違いさせる程の空間があった。更には反逆者の住処と思わしき屋敷があった。

 

 

「ここは……この迷宮を作った反逆者の住処か?それにしては中々凝った趣味をしているな?」

 

「此処じゃあまるで何処かの森林にある村を見つけた様なものだ。見ろ、天井近くの壁から川と思わしき水が流れている。その川には魚が生息している。それに家畜部屋や大きな畑もあるようだ。家畜部屋には動物の気配はないが、ある程度なら自炊できそうだ」

 

「此処がこの世界の反逆者達が作り上げたとなると、それなりの技術力があると見ていいですね。…しかし、解せないことがあります。何故これほどの技術力や迷宮を作れるものが世界を手に入れようとしたのか分かりません」

 

「その辺は俺も知りたいところだが、今はその時ではないぞデルタ。将軍、彼所に寝所と思われる場所がある。そこでハジメを休ませよう」

 

「そうだな……よしっデルタ分隊はハジメをあの場所まで運んでくれ。ARCトルーパー達は半分に分ける。半分は負傷者の治療ともう半分はこの場所と屋敷の探索と家畜部屋に何かしらの動物がいないかの確認をしろ」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

そう俺が指示を出し、ARCトルーパー達は各個に分かれて負傷者の治療とこの場所と屋敷を探索に移る。

 

 

「ライデン、私は……?」

 

「ユエは出来るだけハジメの看病を頼む。万が一ハジメが起きたとしてもまだ動けない筈だ…ユエはハジメの側にいてやってくれ」

 

 

そうユエに伝えるとユエは嬉しそうに俺の頼みを了承した。……あの迷宮での出会いからハジメはユエに気に入られたんだなと思った自分がいた。そう思いながらも俺もハジメが目覚めるまでしばらく此処で滞在することになった。その後にARCトルーパー達から連絡があった。この場所と屋敷は俺たちの読み通り、反逆者の一人が所有していた場所だった。その証拠に屋敷の三階にある奥の部屋に白骨化した人影の骸があった。その白骨化した骸には黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っていたとのことだ。恐らく、その骸こそ例の反逆者の骸の様だ。

 

 

 

……しかし、気になることがあった。この屋敷にある暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレなどがありながらも、長年放置されていたような気配は無かった。……例えるならば旅行から帰った時の家の様と言えば分かるだろうか?しばらく人が使っていなかったんだなと言う感じの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいの様で何かしらと気味が悪かった。そしてその後の調べによると、この世界のドロイド的な存在に位置する“ゴーレム”と呼ばれる物がこの屋敷を長年掃除を繰り返していた様だ。まるで帰らぬ者となった主の帰りをずっと待っているかの様に……。そう考えながらも俺はハジメが目を覚ますまで、しばらくの間はハジメが眠るベッドに寄りかかりながら眠るのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺は……いや、俺たちはどうなったんだ?覚えているといえば俺たちはヒュドラを倒したのはいいが、その時に俺の身体が限界が来てその場で倒れてしまった。その後の記憶が全くねえ。今わかる事といえば、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触だ。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、俺のまどろむ意識は混乱する。

 

 

(どういう事だ?ここは迷宮の筈じゃ……それ以前に何で俺はベッドに……)

 

 

俺は身体を動かす前に残っている左眼で辺りを見渡すと、そこには雷電がベッドに寄りかかりながら眠っていた。俺が起きるのを待っているかの様に。俺は自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。そう考えたその時……

 

 

「……ぁん……」

 

 

何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。

 

 

「ん?……ぅわっ!?」

 

 

その瞬間、まどろんでいた俺の意識は一気に覚醒する。慌てて体を起こし、シーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくが俺自身も素っ裸だった。

 

 

「……んぁ……ハジメ……ぁう……」

 

「ユエ!起きてくれ、ユエ!」

 

「んぅ~……」

 

 

俺はユエに声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。それに対して俺は短気を起こし……

 

 

「…いい加減に起きやがれ!この天然エロ吸血姫!!」

 

 

俺は纏雷を発動させ、バリバリと右手に放電が走る。

 

 

「!?…アババババババアバババ!?」

 

「!?…あばばばばっばっばばらりるれろろろろろろろ!?」

 

「……あっ」

 

 

俺はこの時に雷電がいることをすっかり忘れていて雷電までも纏雷の餌食になってユエ同様に感電する。そして雷電は目を覚ましたや否や、ライトセーバーを起動させて周囲を警戒する。

 

 

「なっ何だ!?新手のシスの攻撃か?!……って、ハジメ?お前起きていたのか?」

 

 

雷電はシスの攻撃ではないことを知ったところでライトセーバーのスイッチを切り、懐にしまった時に途中で声を中断させる。

 

 

「あぁ…何とかな。それと悪い、お前がいるのを忘れてつい纏雷を…な?……それとどうした?俺に何かついているのか?」

 

「……ハジメ?」

 

 

その時にユエが纏雷による感電から

 

 

「あぁ、ハジメさんだ。ねぼすけ、目は覚め……「ハジメ!」!?」

 

 

目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺するハジメ。しかし、ユエがハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

 

「んっ……心配した……」

 

「…んんっ!あーっ……その前にだ、ハジメ。今更かもしれないが、お楽しみ中にすまないと言わせてもらう」

 

「は?お楽しみ…?……って、はいっ?!」

 

 

雷電が言っている意味を理解した俺は必要以上に動揺してしまう。ユエは満更でもないかの様に顔を真っ赤にする。その時にスコーチがやって来て俺たちの今の光景を見て“お楽しみでしたねぇ……だったか?へへっ……”と言ってきた時に俺はブチキレてドンナーをぶっ放した。因みに敢えて当てずにわざと外しておいた。それ以降スコーチは余りハジメをからかうのを止めるのであった。

 

 

 

色々とあったが、雷電とユエからあの後どうなったのか聞いたところ、この反逆者の住処と思わしき場所に辿り着いたらしい。俺が気を失ってから雷電達は、俺を運んで此処のベッドに寝かせつつも神水やバクタを使い、完治するまでしばらくの間ユエが看病していた様だ。その間に雷電はARCトルーパー達にこの場所と屋敷内の捜索を命じて色々と調べてもらいつつも俺が目を覚ますまで一旦此処で休んでいた様だ。もっとも、タイミングが悪く俺が発動させた纏雷の餌食になったのだが……。まぁ…それは置いておくとして、俺が着ていたフェーズⅠARCトルーパー・アーマーはどうなったというと雷電曰く、完全に使い物にならなくなってしまったらしい。その代わりとして反逆者の屋敷から上質な服を持って来てくれたそうだったので俺はそれを着ることにした。因みにユエが着ていたジェダイの服一式とローブは洗濯中だった為にカッターシャツ一枚しか着ていなかった。

 

 

「…なぁユエ、狙っているのか?」

 

「?……サイズ合わない」

 

「ユエ、それは男性用の服だ。サイズが違うのも当然だ」

 

 

雷電の言う通り男物のサイズなんて身長が百四十センチしかないユエには合わないだろう。しかし、それなりの膨らみが覗く胸元やスラリと伸びた真っ白な脚線が、ユエの纏う雰囲気のせいか見た目の幼さに反して何とも扇情的で、俺としては正直目のやり場に困るのだった。……天然なのか狙っているのか分からないが色んな意味で恐ろしいと思った。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメ達が服を着た後に屋敷を探索し始めた。予めARCトルーパー達が探索したから大体のことは把握しているとはいえハジメは別だ。まず、ハジメの目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず“太陽”と称したのである。

 

 

「本当に此処が迷宮だとは思えねぇな?まるで外と変わらねえじゃねぇか……」

 

「……夜になると月みたいになる」

 

「マジか……」

 

「しかし…この場所を作った反逆者はコロニーとしての環境をよく理解出来ている。ここは一家の別荘地として最適なくらいだ。とりあえずこの屋敷を探索してみよう」

 

「あぁ……道案内を任せるぜ」

 

 

そう道案内を任された俺はハジメ達と共に屋敷内を探索するのである。屋敷内をある程度探索した後に外に再び出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。気になった俺は少し確認してみようと魔力を注いでみるとライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしいが、実際はどうなのかは俺には分からない。……だが、風呂があるというのはある意味助かった。

 

 

「風呂か……助かるな。この何ヶ月風呂に入る機会が無かったからな」

 

「確かにな、俺たちに取ってありがたいな」

 

「……入る、一緒に?」

 

「一人でのんびりな……」

 

「むぅ……」

 

 

今のユエの反応からしてユエはハジメに好意を抱いているようだ。そう考えながらも俺たちは再び屋敷内を探索した。ARCトルーパーの報告通り、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしくハジメの錬成でもってしても開けることはできなかった。仕方なく諦め、探索を続ける。そして俺たち三人は三階に辿り着き、反逆者の骸がある奥の部屋に入る。改めてこの部屋を見渡してみると直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

 

「此処が反逆者がいたと思われる場所だ。あの玉座に座り込んでいる骸は既に白骨化しているとはいえ恐らくは……」

 

「反逆者の骸の可能性があるってことか。特にあの魔法陣の位置といい、あの反逆者の骸の位置といい、まるで……誰かを待っている見たいだな。地上への道を調べるには、この部屋が鍵だろうな。俺の錬成を受け付けない書斎と工房の封印を解くには。……ユエ、雷電。もしもの時は頼む」

 

「ん……気をつけて」

 

「十分に警戒して行け、何が起こるのか分からないからな」

 

 

そう俺がハジメに伝えた後にハジメは魔法陣の上に進む。そしてハジメが魔法陣の中に踏み込んだ瞬間、魔法陣が光り出した。その魔法陣の中にいたハジメは光の眩しさに目を瞑っていた。そして光が収まると骸から黒衣の青年が現れた。しかし、俺は違和感を覚えた。突如と出現した黒衣の青年はまるでホログラムの様な感じだった。

 

 

「あれは……ホロクロンと同じホログラムメッセージか?」

 

《試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。“反逆者”…と言えばわかるかな?》

 

「アンタが……それに、これがホログラムメッセージか?」

 

《ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを》

 

 

そうして俺たちはオスカー・オルクスが残したメッセージを最後まで聞くことにした。

 

 

 

その内容はあまりにも酷な話でありながらも俺たちが聖教教会で教わった歴史とユエから聞かされた反逆者の話とは大きく異なった。

 

 

 

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は“神敵”だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、“解放者”と呼ばれた集団である。彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。そのためか“解放者”のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。“解放者”のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

 

 

彼等は、“神域”と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。“解放者”のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。……しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。何と、神は人々を巧みに操り、“解放者”達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした“反逆者”のレッテルを貼られ“解放者”達は討たれていった。この話を聞かされて俺は前世で体験したクローン達の反乱……基、スカイウォーカーの裏切りと酷似していた。俺たちジェダイはシスの陰謀によってジェダイは銀河を支配する“反逆者”兼“暴力装置”として多くのジェダイはクローン達とスカイウォーカーによって討たれた。そして俺もまたその討たれたジェダイの一人だ。何という偶然、何という皮肉。俺が体験した歴史と似過ぎていた。

 

 

 

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。全てを話し終えたかの様にオスカーは穏やかに微笑む。

 

 

《君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを》

 

 

そうホログラムのオスカーは話を締めくくり、消えていった。同時に、ハジメは何かが頭の中に入ってくるのを感じ取ったのか頭を抱え込んで膝をつく。しばらくするとハジメは苦痛から解放されたのか頭を抱えなくなった。

 

 

「ハジメ……大丈夫?」

 

「大丈夫か、ハジメ?何かと苦しそうだったが?」

 

「あぁ、平気だ。……にしても、どえらいこと聞いちまったな」

 

 

そうだなと言いつつも俺たちはオスカー・オルクスの亡骸を建物近くに“勇気ある解放者オスカー・オルクス此処に眠る”という日本語の刻印を刻んだ墓標を建て埋葬した。その後何かしらの鍵になり得るかもしれないと思い、オスカーの亡骸が嵌めていたと思われる指輪も回収しておいた。もし彼が生きている時代に俺たちが来ていればこの様な結末は回避出来たのではないのか?と考えてしまうがよそはよそ、うちはうちと割切り、俺たちは元の世界の故郷に帰る為の手段を考えるのであった。因みにオスカーのホログラムの話が終わった時にハジメは魔法陣から“生成魔法”というアーティファクト制作魔法を習得したそうだ。その生成魔法でハジメは現代兵器やクローン達が使うブラスターなどの光学兵器を開発してしようと思ったのは余談である。

 

 

 

色々なことがありながらも俺はハジメ達に今後のことでどうするかを聞いてみた。

 

 

「……ハジメ、これからどうする?どの道元の世界に帰る為には、あのエヒトという神と戦わなきゃならない様だが?」

 

「あっ?……何でだ?」

 

「俺たちをこの世界に連れ込んだあのはた迷惑な神エヒトという存在だ。もしそいつを野放しにすれば俺たちはその神の妨害を受けることになる。そうならない様にこの世界の創造神であるエヒトを攻略しなければならない」

 

「……なるほどな、一理あるな。俺たちはある意味この世界の力から逸脱した存在だ。そのエヒトって野郎が俺たちこと面白い駒を見逃す筈が無いってことか」

 

「そう言うことになるな。だが、オスカーが言っていた様にもしかしたら神殺しも視野に入れといても損は無いと思う。俺たちの共通の目的は元の世界への帰還。その為にはエヒトを倒さなければ意味が無いという状況だと判断すればいいだけの話だ」

 

 

その為にはもっと数の多いクローン達を召喚しなければならない。欲を言えば乗客定員16.000人を乗せられるアクラメーターI級アサルト・シップを召喚出来れば文句は無い。ヴェネター級スター・デストロイヤーでは定員数が2.000人に限られてしまう為に一個師団を乗せられるアクラメーターI級アサルト・シップの方が理想的だ。それに、ヴェネター級スター・デストロイヤーからの砲撃では明らかにオーバーキルだ。……まぁ、アクラメーターI級アサルト・シップの武装もこの世界にとってオーバーキルなんだが、飽くまで兵員用の輸送艦として運用しようと考えるのであった。すると置いてきぼりだったユエが俺たちに今後の方針はどうするか聞いてきた。

 

 

「それで……どうするの?」

 

「そうだな……しばらくは此処に滞在しようと考えている。地上に出たいのは山々だが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

 

「俺もそうすべきだ。他の迷宮攻略に向けての準備や様々な訓練を行うにはこれほど適した場所は無い」

 

「……ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

 

こうして俺たちは解放者のオスカー・オルクスの住処を拠点に様々な準備や訓練に勤しむのであった。ユエはハジメの推薦で同じ生成魔法を習得したものの相性と適正が悪く、アーティファクトなどの類を作ることは出来なかった。だが、覚えといて損は無いだろう。その後にこの屋敷に封印が掛かっていた書斎や工房の扉をオスカーの指輪を翳すと封印が解けて色々とハジメに取ってありがたいくらいに鉱石や材料が色々とあったのだ。これを機にハジメは生成魔法で兵器開発と乗り物開発、そして失った左腕を補う為に義手開発を行うのであった。そして俺は何故この世界にライトセーバーがあるのか謎に思っていたが、俺はこのライトセーバーに組み込まれているカイバー・クリスタルに導かれたかもしれない。このライトセーバーは絶対に壊さない様にしようと固く心に誓うのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

将軍がしばらくの間此処を拠点にして滞在することになった俺たちは負傷したARCトルーパー達の回復を見送った後に俺達はハジメが錬成で作ってくれた野外入浴セットで出来た簡易風呂で身体を癒していた。俺たちは普段シャワーだけで清潔生を保っていたが、今回の迷宮攻略の際にしばらくの間シャワーですら見込めなかった。しかし、今回は将軍が俺たちを気遣って簡易風呂へ誘ってくれた様だ。

 

 

「いや〜……意外と風呂ってのも良いもんだな?お陰で疲れが吹っ飛ぶぜ〜……」

 

「普段我々特殊部隊は任務が来るたびにシャワーですら惜しむくらいですからこれはこれで新鮮ですね」

 

「狩りの後の疲れの癒しには持って来いだな……」

 

「今回の待遇、感謝します将軍」

 

「いや、お前達には色々と助けられたからな。こっちからも感謝するよ、デルタ分隊」

 

 

そう将軍から礼を言われ、俺たちはしばらくの間風呂を満喫しようとした時に屋敷からハジメの悲鳴が木霊した。

 

 

「な……何だ!?ハジメに何かあったのか!?」

 

「スコーチ、大丈夫だよ。多分ユエだよ」

 

「ユエ?……あーっ成る程な」

 

「何か言ったか、スコーチ?」

 

「いやっ…何でもありませんよ、分隊長」

 

 

この時に俺は将軍とスコーチが何を考えているのか理解出来なかったが、きっとハジメは別の意味でユエに食われたと理解するのであった。

 

 

____________________________________________

 

 

おまけ

 

 

 

俺は今あることをする為にオルクス大迷宮で食糧を確保していた。その食糧は当然魔物肉であった。しかし、これには意味がある。それは魔力を帯びた魔物肉を魔力操作の派生技能である遠隔操作で魔力を調整して神水を使わずとも食べられる様にする為の実験でもある。……もっともこれは俺自身地球に転生した時に趣味として料理を覚えたのだ。その趣味の料理で何処までやれるのかやってみたかっただけかもしれない。

 

 

 

今日俺が作ったのは“魔物肉の肉食定食”だ。“魔物肉のステーキ”や“魔物肉の香草焼き”、“骨付き魔物肉の丸焼き”だ。殆ど肉料理だけだった。試しに俺が試食してみると、意外にも味はよく出来上がっていた。しかも、魔物肉を食べた時の副作用である激痛も無かった。これは実験成功だった。その料理をハジメ達に食べさせてみた。

 

 

「!……こいつは美味い!」

 

「美味しい……!」

 

「そいつは良かった。趣味で料理をやっているとはいえ、上手くいって良かった」

 

 

その後、ハジメはかなり気に入ってガツガツと食べていた。しかし、あまりに急いで食べていた為か途中で喉に詰まらせて呼吸困難になり、ユエはハジメの背中を優しく揺するのであった。……古今東西、食べる際はよく噛んで食べることだと改めて認識させられるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対人戦闘訓練、新たなる力

最近感想や評価が来なくてペースダウンしている自分がいる。


14話目です。


 

 

将軍達の通信から約一ヶ月と数日が経った。長い月日の間に色々な事があった。あのオルクス大迷宮の実戦訓練で将軍達が奈落に落ちてから一部の生徒は将軍達の死……まだ死んではいないがその“戦いの果ての死”というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマという奴だ。それにより引きこもる者達が現れてしまう。そこで生徒達の教頭である畑山愛子は聖教教会のイシュタルに生徒達をこれ以上戦いへと強要しない為に無理強いで訓練をさせないことを抗議した。その結果、教会側は畑山教頭の天職である“作農師”の重要性を手放す訳にはいかず、関係の悪化を避けたい教会側は、畑山教頭の抗議を受け入れた。

 

 

 

天之河を中心とした勇者パーティーと将軍達を奈落に落とした元凶である味方殺しの檜山を中心とした小悪党組、そして永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。そして残った畑山教頭を中心とした居残り組は各地の回ることになった。そして我々も戦力を分断するしか無かった。ランコア大隊の俺ことコマンダー・コルトやキャプテン・フォードーを中心にARCトルーパーを含むクローン・トルーパー三個小隊は天之河達の訓練と迷宮攻略を目的とした攻略部隊として編成され、コマンダー・ハヴォックとコマンダー・ブリッツを中心にクローン・トルーパー二個小隊は居残り組を守る為に護衛部隊として編成されるのであった。なお、ドミノ分隊と99号は畑山教頭やトラウマを抱えた生徒達の護衛を兼ねてカウンセリングの為に編成されるのであった。

 

 

 

ある日のこと、俺は天之河達が万が一俺たちがいない時に魔人族と遭遇し、対人戦闘になった場合のことを考え、対人戦は俺たちだけではなく彼らにもやってもらわなければならない。そう考えた俺たちは天之河達を訓練所に集め、大事な話をするのであった。

 

 

「お前達、今日ここに来てもらったのは他でもない。お前達が万が一魔人族と遭遇した時に()()()()が出来るかどうか確認させてもらう」

 

()()()()……?その対処とは?」

 

 

天之河が俺のいった言葉を理解出来ずに質問してきた。俺は遠回しにいわず率直に説明した。

 

 

「その魔人族の者を倒す……つまり、()()ということだ」

 

「「「っ!?」」」

 

「お前達は確かに訓練で強くなっていることは分かる。だが、飽くまでそれは魔物との戦闘においての話だ。もし魔人族と戦闘になって追い詰めて倒せるところで人を殺すということで躊躇ってしまえばそこで完全に敵に隙を与えてしまうことになる。そうなれば殺し損ねた者が待っている結末は“死”だけだ。そこで、この訓練で人を殺す覚悟があるのかどうか見極めさせてもらう」

 

 

余りにも唐突過ぎる内容に攻略組の生徒達は理解が追いつかなかった。しかし、ここで天之河が抗議してきた。

 

 

「……それじゃあ、俺たちに人殺しをしろと言うんですか!?」

 

「そうだ。いくら相手は魔人族とはいえ元を正せば人だが、今の俺たちはその魔人族と“戦争”をしているんだ。だから今のうちに殺さずに倒すなどと甘い考えは捨てておけ」

 

「だからって、それだけの理由だけで人を殺していい訳がない!」

 

「甘ったれるな!その様な綺麗事だけで事が上手く運ぶと思い上がるな!!……話がずれてしまったが、今回の訓練内容は対人戦を想定して俺たちを相手にしながらも敵の旗を取る訓練だ。一時間後に再び此処に集合だ。それと言って置くが、人を殺したくないから訓練を受けたくないという者は受けなくていい。受けない者には畑山教頭と同じ居残り組として強制的に編成させてもらう。俺からの話は以上だ。……解散!」

 

 

天之河の抗議を聞かず、俺は各トルーパー達に訓練の為に準備を始めるのであった。この時に白崎が何かしらの電波を受信したのか小声で“…この泥棒猫”と呟いていた。…一体何の電波を受信したのか俺には分からなかった。

 

 

コルトSide out

 

 

 

私こと八重樫は藤原君が召喚した指揮官でもあるコルトさんから私たちに人を殺す覚悟があるのかどうかを確かめる為に多数のクローン兵達を相手にすることになった。天之河君は人を殺すことは人として正しくないとコルトさんに抗議したものの聞く耳を持たないかの様にあしらわれる。……正直にいって彼らに勝てる見込みが無い。藤原君がまだ奈落に落ちる前の頃に聞かされた話によれば彼らは一人の賞金稼ぎをホストとして戦う為に生み出された兵士であることであった。つまり、私たち素人が本物の軍隊と相手することになったのだ。私自身、人を殺すことに覚悟が有るか無いかというと無いに等しいものだった。

 

 

「……雫ちゃん、大丈夫?」

 

「香織……正直にいえば厳しいわね。相手がコルトさんというのもあるけど。……香織こそ大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん。私だっていつまでも落ち込んでいる訳にはいかないから」

 

「そう……無理しないでね? 私に遠慮することなんてないんだから」

 

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

 

そう香織と話しているうちに中にあった緊張感が少しだけほぐれた気がした。そして天之河君はというと、コルトさんや他のクローン達のことをあまり認めることが出来ずにいた。……確かにいきなり人を殺せるかどうかと聞かされたら怒るに決まっているが、コルトさんがいっていた様に私たちは安易に戦争に加担してしまった。天之河君の言葉に導かれるがままに……この期に及んで私は事の重大差に改めて痛感した。

 

 

 

それから一時間が経過して、コルトさん等との訓練の時間になった。この時に迷宮攻略のパーティー全員が参加することになった。天之河君も同様でもあったが、彼はコルトさん達の考えを否定してみせると言わんばかりに気合いが入っていた。

 

 

「集まった様だな。その様子だと、全員来ている様だな。よし、これより三つの斑に分けて訓練を受けてもらう!」

 

 

そうしてコルトさんが私たちを三つの班に分けて訓練を行わせるのであった。その三つの斑に分けられたメンバーはこの様な形になった。

 

 

“第一班” “天之河” “八重樫” “中村” “白崎” “清水”

 

 

“第二斑” “檜山” “近藤” “斉藤” “中野” “遠藤”

 

 

“第三斑” “永山” “龍太郎” “谷口” “野村” “辻” “吉野”

 

 

この様に三つの班に分かれることになった。特に意外だったのは藤原君たちが奈落に落ちた後に引きこもっていた筈の清水がこの訓練に参加していることだった。彼曰く、此処にいないクローン・トルーパーの99号さんとドミノ分隊が清水を励ましてくれたお陰だそうだった。それと気になったのはクローン達が檜山達に対しての目つき……ヘルメット越しだから分かりづらいけど、まるで監視しているかの様に見えたのは気のせいだろうか?そう考える時間も与えられず、私たちはコルトさんが用意した訓練に備えるのであった。

 

 

八重樫Side out

 

 

 

迷宮攻略組を三つの班に分けた後に俺はクローン候補生が受ける()()()()()を彼らにやってもらうことにした。

 

 

「お前達には砦攻略コースTHX1138を受けてもらう。前に説明した通りだが敵の包囲を破り、敵の旗を掴むことだ。実際に簡単だと思われがちだが、今回はより対人戦を重視して俺たちは訓練用に低出力で調整したブラスターでお前達に立ちはだかるつもりだ。だが、それだとお前たちに不条理だからな。そこで俺たちが使用する訓練用の低出力のブラスターを貸し出す。受け取るか取らないかはお前たちの個別の判断で構わん。今回は一班ずつ順番に行う。最初は第一班からだ」

 

 

最初は天之河の班でその実力と覚悟を見定めるようとする。訓練用のブラスターの貸し出しにおいて“俺はクローン達と同じ人殺しにはなりたくない”とブラスターを受け取らず拒否した。八重樫と白崎は別の理由ではあるが天之河と同様にブラスターを受け取らなかった。しかし、中村と清水は違った。二人はブラスターを受け取り、そのまま訓練を受けるのであった。天之河と八重樫の前衛が二人と中村と清水の後衛が二人、そして回復役の白崎が一人と少しバランスが偏っている感じがあるが編成的には問題は無いだろう。しかし、いくら編成が良いとしても連携がなっていなければ意味が無い。それも見定める為に俺は生徒達の行動をよく観察するのであった。

 

 

 

結果として言えばクローン候補生が受ける砦攻略コースTHX1138の攻略をどの斑でも出来なかった。先ず第一班は最初は好調だったが、案の定天之河が先行し過ぎことで天之河の背後からトルーパーのブラスターの低出力の非殺傷エネルギー弾を受けてしまい、倒れる。次に八重樫は敏捷性を活かして次々とトルーパー達を峰打ちでダウンさせるも途中でスタミナが切れてしまい、トルーパーに不意をつかれてそのままダウンする。後方で援護していた中村はブラスターを手にしながらも単独で天之河を助けようとしていた。他の者は眼中に無い様に……しかし、それがいけなかった為か背後から狙われていることに気付かずそのまま撃たれて倒れ込む。清水は何処でブラスターの取り扱い方を習ったのか手際よく狙いを定めて前衛の二人を援護していたがその二人が倒れてしまい、中村が単独行動してしまい途中で倒れてしまう事を理解しても尚、抵抗を止めなかった。そしてトルーパー達に包囲され、清水と白崎は流石に状況が不利と判断し降参をして訓練は終了した。

 

 

 

第三斑も第一班とは違って意外な方法で攻略しようとしていたのだ。その意外な攻略方法とは、坂上と永山が前衛兼囮として敵の注意を引きつけながらも谷口の天職である“結界師”の本領を活かし、結界を生成させながらも谷口は迂回しながらも旗の方に向かったのだ。そんな谷口を先頭にしながらも残りの二人は受け取った訓練用のブラスターで後方から援護しつつも旗の方に近づくのであった。しかし、最後の最後で襤褸が出てしまう。囮をしていた坂上と永山はトルーパー達の数の暴力に敗れてダウンし、坂上達を撃退したトルーパー達は谷口達を追ってそのまま死角からブラスターを撃ち込んで第三犯全員をダウンさせる。その結果、第三斑は後一歩の所で砦攻略に失敗する。

 

 

 

この砦攻略コースを攻略出来たのは意外にも監視していた檜山の第二斑だった。彼らが旗を取れたのは遠藤の天職にある暗殺者の隠密スキルでひそかにトルーパー達に気付かれない様に旗の下へ近づいてその旗を掴んでクリアしたのだ。ただし、遠藤以外は全滅ではあったが。この様な例外的攻略方……というよりは遠藤の影の薄さに頭を悩まされたが、結論から言えば不合格だ。旗を取ったのは良いが仲間が全滅しては意味が無い。それと余談ではあるが檜山達はこの訓練の際にブラスターを使ったのだが、射撃のセンスが皆無に等しいくらいにトルーパー達に当たることは無かった。……色々なことがあったが彼らはしばらく対人戦闘訓練を続けさせようと俺たちはそう決めるのであった。

 

 

コルトSide out

 

 

 

その頃、オルクス大迷宮の最深部にある解放者の屋敷を拠点にしつつも俺やハジメ、ARCトルーパー達はヒュドラがいた場所で訓練を行っていた。ハジメがやる訓練とは二丁拳銃による我流のガン=カタの開発だった。何故その様な経緯になったと言うとハジメの左腕用の義手が完成したのでついでにドンナーも改修し、ドンナーと対になる“シュラーク”を作成したそうだ。そしてその二つを応用した戦闘スタイルを確立する為に俺とARCトルーパー達と共に訓練するのであった。……まぁハジメ曰く、ぶっちゃけて言えば実際にマジでガン=カタをやってみたかったのが本音であったらしい。一応訓練用に弾丸は炸薬の量を減らした非致死性のゴム弾を使用するとのことだ。それとオスカーの屋敷で見つけた指輪型のアーティファクト“宝物庫”を持って来た。これはある実験の為のテストに使用する為である。因みに訓練内容は今いるARCトルーパー全員を相手にするという内容だった。

 

 

「それじゃあ敵は一応ARCトルーパーとはいえ油断するな。彼らはホストとなった“ジャンゴ・フェット”から直々に指導を受けた精鋭部隊だ。一つの判断ミスは己の死を招くからな」

 

「分かっている。こっちもこいつらの性能を確認しておきたいからな」

 

「程々にな。……トルーパー、訓練とはいえ油断せずに行け。相手は通常の人間とは思わないことだ。下手をすれば首の根を描かれるぞ」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

そうしてARCトルーパー達は訓練用のブラスターでハジメの相手をするのであった。ハジメは非致死性のゴム弾を装填した新生ドンナーとシュラークを十字架に見立てる様に構える。……確かあの構え方は地球の映画にあった反逆という英名の作品の奴だったか?ハジメが言うにはあの構え方はガン=カタと呼ばれるものか?

 

 

「少しばかし俺の実験に付き合ってもらうぞ。さぁ…何処を撃ち抜かれたい?五秒以内に答えればリクエストに応えてやるぞ?」

 

 

無論ARCトルーパー達は答える筈も無くそのままハジメに向けて訓練用のブラスターから非殺傷レベルに抑えた低出力のエネルギー弾が弾幕となり、ハジメに襲いかかる。しかし、ハジメは臆することもなくそのまま弾幕の方に突っ込んで行った。そしてその弾幕を見切っているかの様に紙一重で回避しつつも一気にARCトルーパー達に至近距離までに近づき、ドンナーとシュラークを近場にいたARCトルーパーの頭部に向けていた。

 

 

「「「っ!?」」」

 

「時間切れだ…!」

 

 

一瞬で間合いに攻められたARCトルーパーはハジメの余りにも早過ぎる動きに対応出来ずに考えが一時的に止まってしまう。そしてハジメは一切容赦することなくドンナーとシュラークの引き金を引き、近場の二人のARCトルーパーをヘッドショットでダウンさせる。そしてその周りのARCトルーパーを確実に当てて行く。ハジメはドンナーとシュラークの回転弾倉に入っている弾を使い切り、再装填の為にドンナーとシュラークを中折式(トップブレイクアクション)で空薬莢を排出したが弾を装填する素振りを見せなかったが、ハジメが填めている宝物庫から非致死性のゴム弾をドンナーとシュラークの回転弾倉の上に空中転送させてそこからゴム弾が回転弾倉に向かって落下して自動的に装填時間を短縮した。どうやらハジメの言う宝物庫の実験とはこのことだったかもしれない。

 

 

 

そこからは一方的なハジメによる無双だった。ハジメは天歩の最終派生技能である“瞬光”でARCトルーパー達から放たれるブラスターの弾幕を見切って回避しつつもドンナーとシュラークによるガン=カタによって二分足らずでこの場にいた一個小隊のARCトルーパー達をダウンさせたのだ。ハジメから聞いた話によると天歩の最終派生技能である瞬光はヒュドラ戦後に習得したらしい。……ジェダイである俺ですらハジメと敵対してしまったら?と考えてしまう程危機感を覚えた。その後からデルタ分隊が来た時にはARCトルーパー達が全滅という光景に驚くばかりだった。

 

 

「おいおいおい、嘘だろ?あの精鋭部隊のARCトルーパー達が全滅かよ!?」

 

「どうやらハジメにしてやられたようですね。訓練とはいえ此処まで彼が急激に成長するとは……」

 

「…どうやら俺たちは、知らぬ間にとんでもないモンスターと一緒にいた様だな」

 

「そもそもARCトルーパー達はフェット教官から直々に指導を受け、鍛え上げられた精鋭部隊だ。今のハジメは俺たちクローン・コマンドーに引けを取らない存在になりかけているな」

 

 

流石のデルタ分隊もこれには複雑な気持ちでもあった。ハジメの成長は凄まじく、内心ドン引きであった。俺も今回ばかりはこれにはドン引きだった。…だけど、心の中でクローン達がこうも一方的にやられてしまうとなると少しばかり怒りが湧き上がってくるな。……これは飽くまで訓練だ。これは八つ当たりではない、()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「……こればっかりはおいたが過ぎるな。全く以て御し難い……ハジメ、今度は俺と模擬戦を行おう。無論、ライトセーバーは使わないが……」

 

 

そう言って俺は処刑人の剣を片手にハジメの訓練の相手をするのであった。その時にハジメは何故か震えていた。……そういえば俺はフォースの暗黒面を技能として持っていたことをすっかり忘れていた。大丈夫だ、ハジメ。オレハ怒ッテナイヨ?

 

 

「あ…あぁ、その……雷電?程々に……な?」

 

「?…何をそう慌てているのだ?俺がお前を殺さない(殺す)訳ないだろ?ちゃんと殺す(生かす)

 

 

これを聞いたデルタ分隊はハジメに何かしらと憐れむ様な感じで見守っていた。……俺って怒るとそんなに怖いのか?そう考えながらもハジメと模擬戦を行うのであった。当の本人であるハジメはヤケクソ気味だったが……。

 

 

 

結論から言えば俺の圧勝だった。ハジメのドンナーとシュラークから放たれるゴム弾を処刑人の剣で弾きながらも確実に近づいてハジメの精神を削りつつも射程距離内に入った時に処刑人の剣を囮に上になげる。それに釣られて気を逸らしてしまったハジメは、俺の接近を許してしまう。そしてそのまま腕を掴んでそのまま背負い投げで一本取り、ハジメをダウンさせるのであった。一部始終を見ていたデルタ分隊は将軍だけは絶対に怒らせない様にしようと固く決意したのは余談である。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が謎のガチギレで軽い模擬戦の筈だったがマジで死にかけた。笑えないくらいに死にかけた。……この時に俺は雷電の闇とも言える裏の姿を見た様な気がする。色々とゴタゴタがあったが、俺はオスカーの屋敷の工房にてドンナーとシュラークが万が一使えない事になった場合を想定して技能の中にある光学兵器知識をふんだんに使い、新たな武器を開発していた。先ず作ったのはスター・ウォーズEP1に出てくるナブー王室保安軍の兵士が使用したブラスター・ピストルである“CR-2ブラスター・ピストル”だ。こいつの魅力はブラスター・ピストルとは思えない程の射撃レートがマシンピストル並に高いのだ。……まぁ外見が“M960Aキャリコ”をベースに作られた架空の武器だからな、その脅威な連射力を受け継いだんだろう。

 

 

 

次に作ったのはクローン達の標準装備であるDC-15Aブラスターだ。そのDC-15Aを徹底的に改造を施して、俺専用の“DC-15A HC(ハジメカスタム)”を作り上げる。こいつの特徴は前方に回転させて銃身下へ折りたためる金属製銃床はオミットし、M4カービンに使用される銃底をDC-15Aに取り付けさせる。更にはDC-15A用に銃身にはクワッドレイルハンドガードシステムやアッパーレールシステムを組み込んでグリップやレーザーサイト、ダットやホログラフィック、オプティカルサイトなどのアクセサリーを取り付けられる様にした。

 

 

「自分で言うのも何だが……我ながらとんでも兵器を作ったなと思うな。…つーか、何気にだが既に俺は人類史上初の光学兵器を作った人間となる……のか?……まぁ、元の世界に無事に帰れたとしてももう作る事は無いだろうからあんまし気にする事は無いか」

 

 

そんな感じで俺は新たにブラスター・カービンとブラスター・ピストルを作り出したのだった。一応ARCトルーパー達に俺が作ったDC-15A HCを見せた時には驚きと魔改造っぷりにドン引きされた。……解せぬ。それと余談ではあるが、神水を生成する神結晶が枯渇して二度と神水が出なくなった。そこで俺は枯渇した神結晶を錬成と生成魔法で加工し、魔力を蓄えられるアクセサリーを作った。それをユエや雷電に渡した時にユエが“…プロポーズ?”と言ってきたのだ。これを聞いたら雷電が噴出し、ARCトルーパー達やデルタ分隊……特にスコーチが何故か俺に対して暖かい目で俺を見ていたのだ。……ガチで止めてくれ。それとスコーチ……お前だけは後で泣かす、ぜってー泣かす!ユエが言った言葉に俺自身は違うと思っていたが、内心では満更でもないと思った俺がいた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リベンジ戦とジェダイの遺産

新型コロナウイルスが拡大して厄介極まりない今日この頃な自分。感染しないように皆さんもお気を付けて。


15話目です。


 

 

対人戦闘訓練から数十日が経ち、将軍達が奈落に落ちてから既に約二ヶ月の月日が経った。今回俺たちはメルド騎士団長と騎士団員、そして生徒達と共に再びオルクス大迷宮に挑戦することになった。生徒達にとって最初の迷宮であり、悪夢となった場所でもある。生徒達はそんな悪夢から乗り越えるために将軍とハジメが奈落に落ちた原因であろうベヒモスがいた六十階層に到達するのであった。

 

 

「あと残り五階層で最高到達階数だ。ARCトルーパー及び、クローン・トルーパーは再度武装の点検を済ませろ。万が一のことがある」

 

 

今回の迷宮攻略ではコマンダー・コルトも参戦して小隊の指揮を取るのであった。キャプテン・フォードーはコルトの副官として行動している。その時に清水はCT-1373とある事を話題に話し合っていた。

 

 

「もうすぐでハジメや雷電が落ちた場所か……今思えば、俺が初めてクラスメイトの死を実感して心が折れたんだったな……」

 

「…確か清水は最初の迷宮攻略の時に参加していたんだな?」

 

「まぁ…ね。でも、俺がこうして立ち直れたのは愛子先生達の所にいるドミノ分隊と99号さんのおかげなんだ」

 

「フッ……良い友を持ったな」

 

 

CT-1373は清水とより絆が深まっていた。以前に対人戦闘訓練の後に俺は清水に何故ブラスターの取り扱いを知っていたのか聞いてみたら“説明書を読んだ”とのことだった。……これは明らかに嘘であることはバレバレだったので本当のことを言うようにいったら本当はトルーパー達の動きを見様見真似で構え方や撃ち方を覚えたそうだ。この時に俺はハジメの次に磨けば輝く原石を見つけたのであった。

 

 

そうしている内に俺たちは六十五階層に到達した。そこには前の戦闘で崩壊した筈の石橋が何もなかったかの様に綺麗に修復されていた。不気味に思った矢先、前方から黒い魔法陣が展開された。その魔法陣は俺たちに取って見覚えがあるものだった。

 

 

「これは……ベヒモスというモンスターが出現したあの時の黒い魔法陣か!?」

 

「何だって?!それじゃあ……本当に奴なのか!?」

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!?」

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!」

 

「……そうと分かれば先手必勝だ。シールド・トルーパーは前衛へ!ARCトルーパーはロケット・ランチャーを!残りのトルーパーは退路の確保を!」

 

「「「サー・イエッサー!!」」」

 

 

相手がベヒモスと判断した時にトルーパー達の行動が早かった。盾持ちのシールド・トルーパーが前衛に立ち、ARCトルーパー達はRPS-6ロケット・ランチャーを構えベヒモスが出てくる瞬間を狙う。そしてベヒモスが出現したと同時に俺はARCトルーパーに指示を出す。

 

 

「よく狙え!……撃てぇッ!」

 

 

その合図を皮切りにARCトルーパー達はRPS-6ロケット・ランチャーから放たれるミサイル・ランチャー弾を発射させる。ミサイル・ランチャー弾がベヒモスに向かって飛翔し、着弾すると爆発を起こす。そして俺は更なる追い打ちをする為に次の指示を出した。

 

 

「次!デトネーターだ!」

 

 

そう指示を出した時にシールド・トルーパーが盾を少しだけ上に上げさせ、下の隙間からサーマル・デトネーターをベヒモスの方に転がす。そしてベヒモスの所に着いたことを確認した後に俺はDC-15Aブラスターでサーマル・デトネーターに直撃させて爆破する。至近距離で爆発を正面に受けた為か少しばかり蹌踉めく。

 

 

「よし……天之河!大技を叩き込め!」

 

「…っ!言われずとも…!万翔羽ばたき、天へと至れ──“天翔閃”!」

 

 

その次に天之河の大技がベヒモスに直撃する。前より違って天之河の大技を受けて少しだけ後ろへと下がった。先ほどのトルーパー達の攻撃が功を奏した様だ。

 

 

「…いける!雫は左から!檜山達は背後!メルドさんとクローン達は右側から!後衛は魔法準備を、上級を頼む!」

 

「ほぉ…迷い無く良い指示だ!」

 

「ARCトルーパー、天之河の言う通り俺たちは右側から行くぞ!残りのトルーパーは引き続き退路の確保!」

 

 

すると背後からトラウムソルジャーが出現して退路を断ったつもりだが、前の経験を活かしてトルーパー達はすぐに行動に移す。そしてベヒモスは散々と攻撃された事に激怒し、そのまま真っ直ぐ突っ込んで来た。すると坂上と永山が前へと出た。

 

 

「させるかっ!」

 

「行かせん!」

 

「「猛り地を割る力をここに!──“剛力”!」」

 

 

その二人が身体能力、特に膂力を強化する魔法を使い、地を滑りながらベヒモスの突進を受け止める。しかしそれに負け時とベヒモスが力押しで二人を押し返そうとする。

 

 

「くっ…!今だ、急げ……!」

 

「俺たちが抑えているうちに……!」

 

 

坂上達がベヒモスを押さえ込んでいるうちにトルーパー達は援護射撃を行い、メルド騎士団長がベヒモスに攻撃を仕掛ける。

 

 

「粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ!──“豪撃”!」

 

 

メルド騎士団長の一撃がベヒモスの角に当たる。しかし、その一撃は角に罅が入るだけであった。

 

 

「くっ!相変わらず固い……!」

 

「任せて下さい!全てを切り裂く至上の一閃──“絶断”!」

 

 

八重樫の技がひびが入っているベヒモスの角に当てるとその角は一刀両断された。角を切り落とされた衝撃にベヒモスが渾身の力で大暴れし、永山、龍太郎、雫、メルド団長の四人を吹き飛ばす。

 

 

「優しき光は全てを抱く──“光輪”!」

 

 

白崎は地面に叩きつけられそうになった四人を助けるべく、形を変化させることで衝撃を殺す光の防御魔法で四人を助け出す。

 

 

「“光爆”!」

 

 

天之河が突きの構えを取り、未だ暴れるベヒモスに真っ直ぐ突進した。そして、先ほどの傷口に切っ先を差し込み、聖剣に蓄えられた膨大な魔力が、差し込まれた傷口からベヒモスへと流れ込み大爆発を起こした。技を何度もうけても尚暴れまくるベヒモスは、技後硬直中の僅かな隙を逃さず足を地面に叩き付け、その風圧で天之河を吹き飛ばす。

 

 

「ぐぅぅうおおおっ!?」

 

「天恵よ、彼の者に今一度力を──“焦天”」

 

 

白崎は個人を対象に回復効果を高めた魔法を天之河に向けて詠唱する。天之河は光に包まれ一瞬で全快する。ベヒモスが、天之河が飛ばした後に折れた角にもお構いなく赤熱化させていく。

 

 

「……角が折れても出来るのね。皆、咆撃に備えて!」

 

 

八重樫が全員に警告し、俺たちもベヒモスの動きに警戒した。するとベヒモスは俺たちを無視するかの様に跳躍で飛び越えて、後方にいる後衛組に狙いを定めた。彼所には後衛組を護衛しているキャプテン・フォードーとトルーパー一個分隊がいる。しかし、彼だけでは荷が重いと判断し、すぐに俺はフォードーに連絡をした。

 

 

コルトSide out

 

 

 

私は後衛組を護衛していた時にベヒモスが前衛組を無視してこちらに向かってきた。するとコマンダー・コルトから通信が入った。

 

 

《フォードー!そっちにベヒモスが行ったぞ!》

 

「こちらでも確認した。谷口!」

 

「分かってる!ここは聖域なりて、神敵を通さず──“聖絶”!!」

 

 

谷口は直ぐに詠唱し、光のドームができるのとベヒモスが隕石のごとく着弾するのは同時だった。凄まじい衝撃音と衝撃波が辺りに撒き散らされ、周囲の石畳を蜘蛛の巣状に粉砕する。しかし、間一髪の処でベヒモスの攻撃を防いだのだ。だが、本来の四節からなる詠唱ではなく、二節で無理やり展開した詠唱省略の“聖絶”では本来の力は発揮できない。実際、既に障壁にはヒビが入り始めている。天職“結界師”を持つ谷口でなければ、ここまで持たせるどころか、発動すら出来なかっただろう。谷口は歯を食いしばり、二節分しか注げない魔力を注ぎ込みながら、必死に両手を掲げてそこに絶対の障壁をイメージする。ヒビ割れた障壁など存在しない。自分の守りは絶対だと。

 

 

「ぅううう!負けるもんかぁー!」

 

「谷口、そのまま抑えてて!それとトルーパー、ロケットランチャーを借りるよ!」

 

「なっ!?おい、勝手に持っていくな!」

 

 

その時に後衛組を護衛する為に残った清水がトルーパーからRPS-6ロケット・ランチャーを拝借し、それをベヒモスの口の元に狙う。そして徐々に障壁の罅が広がっていく中でベヒモスは咆哮を上げる。清水はベヒモスが口を開けたその瞬間を逃さず引き金を引いてミサイル・ランチャー弾を放つ。ミサイル・ランチャー弾は清水の狙い通りベヒモスの口の方へ一直線に飛翔する。ベヒモスは飛翔してくるミサイル・ランチャー弾を噛み砕こうと口を開け、噛み付こうとする。しかし、それが大きな間違いだと気付かないままミサイル・ランチャー弾を噛んだ瞬間、爆発し、ベヒモスが吹き飛んでそのまま後ろへと倒れ込み、絶命するのであった。そして頭無きベヒモスの死体はそのまま塵と消えた。

 

 

「や……やった。何とか倒せた……」

 

「倒せたのは良いが、無茶し過ぎた。馬鹿者」

 

「え?フォードーさ“ビシッ!”ぁ痛たっ!?」

 

 

その時に私は清水の頭にチョップをかまし、清水の無茶ぶりに頭を抱えるのであった。

 

 

「〜〜っ!?……す、すみませんフォードーさん」

 

「全く……確かにあれは最善の策だったが、お前はまだロケットランチャーを使った事も無いだろう?いくら見様見真似でやったとして怪我をしたら元も子もないだろう」

 

「………っ」

 

「……だが、それのお陰で私達や後衛組が助かったのは事実だ。礼を言うぞ、清水」

 

「…っ!……はいっ!」

 

 

こうして私たちは清水の最善な行動と危険な賭けによって無事にベヒモスを討伐する事に成功するのであった。その後でコマンダー・コルトは天之河のリーダーシップを褒めたが、天之河はそれを否定したのは余談だ。

 

 

フォードーSide out

 

 

 

その頃、オルクス大迷宮のオスカーの屋敷にて俺はハジメがいるであろう工房に入った。

 

 

「ハジメ、今戻ったぞ」

 

「応っ雷電。…それで、どうだった?」

 

「あぁ、やはり俺にも適性があったよ。おかげで生成魔法を覚えられた」

 

 

俺がハジメと話している内容は俺も神代魔法である生成魔法の習得だった。最初に言った様に俺にも適性があった為に習得する事が出来た。もし万が一ライトセーバーが破損して壊れた時に直す事が出来る様になったのだ。ただし、細かいパーツなどはハジメの精密錬成で作ってもらわないといけないパーツがある為ハジメの協力が必要不可欠だ。

 

 

「これで何とかライトセーバーのパーツを作れる様になった。これはこれでいいんだが……ハジメ、少し頼みたい事があるんだが……」

 

「あん……何だ?」

 

 

俺はライトセーバーの一部のパーツを分解し、ライトセーバーの動力源であるカイバー・クリスタルを取り出してハジメに見せる。

 

 

「これをハジメの複製錬成で三つ分作って欲しいんだ。無論、人工カイバー・クリスタルをだ」

 

「……なるほどな、つまり万が一ライトセーバーが壊れたとき用の予備のカイバー・クリスタルってことだな?」

 

「それもあるが、実際は違う。実は此処最近、地上からかもしれないが俺以外の強いフォースを感じたんだ」

 

「なっ!?マジかよ……」

 

 

ハジメは俺以外のフォースの使い手の存在に驚いていた。しかし、飽くまでも地上からであるが為に正確の位置は分からなかった。だが、もしかしたらその者と接触する可能性を考慮して予備のライトセーバーを作る為にカイバー・クリスタルは必要不可欠だった。……一応生成魔法で人工カイバー・クリスタルを作る事は出来るが、俺だと品質の純度が低いカイバー・クリスタルしか作れないので今はまだハジメに頼るのであった。

 

 

「……分かった。カイバー・クリスタルはこっちで錬成してみる。一旦それを貸してくれ」

 

「分かった……一応言っておくけどそれは天然のカイバー・クリスタルだから壊さないでくれ」

 

 

分かっているとハジメはそう言って、天職“錬成師”の本領発揮で見事にカイバー・クリスタルを複製、及び生成魔法で三つの人工カイバー・クリスタルを生成する事に成功する。俺は人工カイバー・クリスタルから発するフォースを感じ取り、完全に複製された人工カイバー・クリスタルである事を確認した。

 

 

「……完璧だ。これで十分だ」

 

「そうか。また何かあったら俺を頼ってくれ。それと……これ、返すぞ」

 

 

そう言ってハジメは天然のカイバー・クリスタルを俺に返し、俺はそのカイバー・クリスタルをライトセーバーに組み直してスイッチを入れ、無事に起動してプラズマ刃が生成された事を確認した。

 

 

「これで良し。後はもう……?」

 

「ん?……どうした、雷電?」

 

 

俺はこの工房で何かしらが俺を呼んでいるかの様にフォースを感じ取った。そしてそのフォースが感じる場所に足を運び入れるとそこは壁であった。

 

 

「雷電?壁なんか見つめてどうしたんだ?」

 

「いや…な、ハジメ。この壁だけ何か変なんだ。もしかしたら……」

 

 

俺はフォースで壁を動かすと、そこには隠し部屋が存在していた。

 

 

「マジか……ここ辺りを全部見渡したつもりだったんだが……」

 

「それは確かに俺も同意だが、それと同時に何かが変なんだ。まるで俺を待っていたかの様に……ライトセーバーだってそうだ。あの時はカイバー・クリスタルに導かれてこれはあったのだが、そもそも何故これ(ライトセーバー)が存在しているのか不思議なくらいなんだ」

 

「……確かに。余り気にしなかったが、何であの場所にライトセーバーがあるのかと思っていたが、その答えがこの隠し部屋にあるのか?」

 

「分からない……だけど、行ってみないと分からないのは確かだ。慎重に行こう」

 

 

俺とハジメは工房内で新たに発見した隠し部屋の中に入り、明かりを灯すとそこには本来なら存在する筈のない一体のアストロメク・ドロイドがあった。

 

 

「これは……アストロメク・ドロイド!?」

 

「嘘だろ、おい……しかもこれはR2ユニットだぞ?」

 

 

すると俺たちがこの部屋に入った事に気付いたのかアストロメク・ドロイドが起動し、俺たちの前に立った。

 

 

「♪〜?」

 

「あーっ確か、アストロメク・ドロイドって電子音しか喋る事しか出来ないんだっけか?……雷電、何て言っているか分かるか?」

 

「久しぶりに聞くからな……だけど分からなくないよ。このアストロメク・ドロイドの正式名は“R2-D7”だそうだ。今後ともよろしくだって」

 

「♪〜」

 

 

何やら喜んでいるのか上機嫌な電子音を発しながらも俺たちは後の相棒となるR2-D7ことR2と出会ったのだった。俺はこの部屋に何か無いのかよく念入りに探して見ると、そこには一つのあるホロクロンがあった。それは……フォース感応者でしか開くことが出来ないと言われる“ジェダイ・ホロクロン”であった。

 

 

「ジェダイ・ホロクロン……!まさか過去に俺以外のジェダイがこの世界に来たとでも言うのか?」

 

「分かんねえ。だが、そのホロクロンって確かフォースでしか起動出来ないんだったけか?もしかしたら……」

 

「あぁ……もしかしたら俺が持っているライトセーバーはこの世界に来たジェダイの物なのかもしれない。……取り敢えずユエも見る必要があるのかもしれないから呼んでくれないか?」

 

「分かった、ユエを呼んでくる。……それにしても何でジェダイ・ホロクロンがあるんだ?」

 

 

そう疑問に思いながらもハジメはユエを呼びにこの部屋から出た。そして俺はR2に何か知っているのか聞いてきた。

 

 

「さて…と、R2。もし知っていることがあった教えてほしい。俺以外にもジェダイがいたのか?」

 

「♪〜」

 

 

R2は俺以外にもジェダイがいたという質問に“居たには居た”と電子音を鳴らす。

 

 

「居たには居た?それってつまり……解放者と同じ時期に召喚されたのか?」

 

「♪〜!」

 

 

肯定するように電子音を鳴らすR2。するとR2がホロプロジェクターを起動させて俺の前に一人の男性を映し出す。その男性に俺は見覚えがあった。それは前世のジェダイだった頃の事だ。

 

 

「……アシュ=レイ?」

 

《応っ!……俺は“アシュ=レイ・ザンガ”だ!俺は嘗ての銀河共和国に所属するジェダイ・オーダーの生き残りだ。この映像を見ているということは無事にオスカーの隠し部屋を見つけ、俺のR2を見つけたようだな?R2はこの部屋で誰かが来るのをずっと待っていやがったんだ。俺以外のフォースの使い手が来るのをな……》

 

 

何故彼がこの異世界トータスに居たのかは分からなかったが、これだけは分かった。彼は俺たちより先にオスカー達が生きていた時代に来ていた様だ。その時にハジメ達がやって来てハジメはこのホログラムメッセージに映し出されている人物は誰なのか聞いてきたので俺はアシュ=レイのことを簡単に説明する。

 

 

 

“アシュ=レイ・ザンガ”

 

 

 

彼は雷電と同じジェダイ・ナイトであり、ジェダイ・オーダーの中で多少の問題児であった。彼はクローン戦争において最前線で戦う指揮官でありながらクローン・トルーパー達と絶対的な信頼を勝ち取り、数多の戦場で駆け抜けるのであった。しかし、何故彼がそれほどの実力を持っていながらジェダイ・マスターに昇格出来ないのは彼の性格にあった。彼は他のジェダイと違って多少好戦的な性格であった為にジェダイ評議会も目に余るものだった。しかし、クローン戦争では最前線で戦うジェダイが必要となっているのは事実であった為に一時追放の事を考えていたが、クローン戦争が終結するまで保留とされていたのだった。そんな彼はクローン戦争が終結を迎えた直前にオーダー66が発令されて以降、彼の行方は雷電でも知る由もなかった。

 

 

 

そんな彼が何故異世界トータスに辿り着いたのかは分からないが、恐らくはエヒトが関わっている可能性があると見た。そう考えているとアシュ=レイのホログラムメッセージがある事を告げる。

 

 

《あーっそうだった……一応付け加えておくが、この隠し部屋にはジェダイ・ホロクロンがあるだろう?そいつはこの世界の人間や亜人達、魔人族のフォース感知者のリストが入っているからな。もしジェダイがジェダイ・ホロクロンを開ける事が出来たならそいつ等をジェダイに育て上げてくれ。……こいつは俺のガラじゃねえが、フォースと共にあらん事を祈っているぜ》

 

 

それを皮切りにホログラムメッセージが消えてアシュ=レイの話が終わった。

 

 

「…なぁ、雷電。もしそのアシュ=レイが言ってた事が本当なら……」

 

「ライデンと同じ……フォースを?」

 

「分からない。だが、その答えに近づく為のヒントはここにある」

 

 

そういって俺はフォースでジェダイ・ホロクロンのセキュリティを解除してホロクロンを開くとアシュ=レイが言っていた通り、そこにはフォース感知者のリストが記録されていた。この時に俺はこれはこれで予想外だなと呟いく他に無かった。こうして俺たちはアシュ=レイが残したであろうアストロメク・ドロイドのR2-D7と彼が残したジェダイ・ホロクロンを入手したのであった。…因みに余談ではあるが、俺が持っているライトセーバーはどうやらアシュ=レイのものである事が判明したと同時に、このライトセーバーは外見上ダブル・ライトセーバーであると同時に分割して二刀流にする事ができる事が分かったのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ライセン大峡谷編
旅立ちと残念ウサギ?


ようやくライセン大峡谷編に突入です。それとシアは無意識ですが、既に目覚めています。


16話目です。


 

 

オルクス大迷宮の最深部に至ってから約二ヶ月と数日が経過した。本来なら数日前にここから出ようと思ったのだが、オスカーの屋敷にある工房の隠し部屋が発見された為に、日日を調整すべく数日間ここに滞在した。その間に俺とハジメはお互いに片目を失っている為、ハジメは自分用と俺用に生成魔法で“魔眼石”を作り、それで失った左目に擬似神経を繋いで埋め込んだ。なお、埋め込まれた魔眼石にはハジメが義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになったのだ。

 

 

 

因みに俺の片眼に埋め込んだ魔眼石はハジメが生成魔法を使って生成する時に“魔力感知”と“千里眼”を付与して戦術の幅を広げてくれた。そしてハジメはと言うと“魔力感知”は共通で片方は“先読”を付与した様だ。魔眼では通常の視界を得ることはできない。その代わりに、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核が見えるようにもなった。

 

 

 

そして気になったのはステータスだ。二ヶ月の間、最近見ていない為に俺達は改めて自身のステータスプレートを確認し合ってみた。

 

 

 

===============================

藤原 雷電 17歳 男 レベル???

天職:ジェダイの騎士

筋力:10090《+3000》

体力:11950《+3000》

耐性:10000《+3000》

敏捷:18000《+3000》

魔力:21000《+3000》

魔耐:10450《+3000》

技能:フォース感知者・フォース光明面・フォース暗黒面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][アタル][シエン][ニマン][ジャーカイ]・クローン軍団召喚[+共和国軍兵器召喚][+共和国軍武器・防具召喚][+基地プラント生成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・フォース操作[+フォース身体強化][+フォーススキル]・全属性適性・全属性耐性・物理耐性・風爪・胃酸強化・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・夜目・遠目・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源探知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・金剛・千里眼・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

____________________________________________

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:11200

体力:15010

耐性:11020

敏捷:14700

魔力:16940

魔耐:15900

技能:錬成[+精密錬成][+電子機器錬成][+電子機器組立て錬成][+複製錬成][+鉱物系鑑定][+鉱物探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+超精密錬成]・銀河共和国式近接格闘術・光学兵器知識・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・物理耐性・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

===============================

 

 

 

ハジメのステータスもそうだが、俺のステータスを改めて見た俺は、完全にステータスプレートが仕事を放棄する程ぶっ壊れ性能になっていた事に唖然するしかなかった。…そもそもレベルは100を成長限度とする。その人物の現在の成長度合いを示すものだが、俺達は魔物の肉を喰いすぎて体が変質し過ぎたのか、ある時期からステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまった。

 

 

…それと地上に出る時の装備だが、俺はメルド騎士団長から支給された防具が完全にがたが来た為に破棄して、新たにジェダイのローブと一体化したフェーズⅠクローン・トルーパー・アーマーを召喚して着込み、俺が生成魔法で作った専用のフェーズⅠC T(クローン・トルーパー)カスタムヘルメットを被り、腰にライトセーバーを懸架して準備が完了する。ハジメ達も地上へ出る為の準備を完了させていた。ハジメは黒をベースにしたコートを着い、魔眼石を隠す為の眼帯を装備した。何処の黒の銃士なのかと思った。ユエは普通の衣服とハジメとは正反対に白のコートを着ていた。

 

 

「……ハジメ達も準備を終えた様だな」

 

「まぁな。……にしても雷電、お前本当にそれで良かったのか?俺が言うのも何だが、ジェダイの衣服じゃなくても良いのか?」

 

「この先は長い旅路になるからな。より戦闘向けの装備の方が良いだろう?下手をすれば俺たちは全世界を敵に回す事になるからな」

 

 

事実上、俺たちの武器や力、そしてクローン・トルーパーを召喚出来る俺は地上にとっては異端だ。聖教教会や各国にとって無視出来ない程の武力を持っていると言っても良いだろう。もしもだが、神を自称する者達と敵対すること想定しておいて損は無いだろう。

 

 

「…まぁ、それもそうか。全員準備は万端…最早魔物の肉から何も得られることはない。装備も整った……それでも二ヶ月以上経っちまったがな」

 

「ん……ハジメ達と一緒なら、大丈夫」

 

「そうだな。……雷電、ユエ、分かっていると思うが俺達の武器や雷電の技能は地上においては異端だ。兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

「だからこそ、俺達は俺達で元の世界に帰る為に各地にある大迷宮を攻略し、そして黒幕であろうエヒトを倒す……だろ?」

 

 

俺達の目標は既に決まっている。どんな障害が待ち構えていようとも真っ向から打ち破り、エヒトを倒し、元の世界に帰還する。それが俺達の最終目標である。その時に俺は地上に出る前にハジメにある権限を与えようとハジメに声を掛けた。

 

 

「……と、その前にだ。ハジメ、一旦俺の前で膝をついてくれるか?()()()()を行おうと思う」

 

「ある儀式?……一応聞くが、変な黒魔術っぽい何かの儀式じゃねえよな?」

 

「ジェダイにそんなものがあったら既に暗黒面に落ちているよ。……とにかく、黒魔術の類じゃないから膝をついてくれ」

 

 

ハジメは若干不安を抱えながらも膝をつく。そして俺はライトセーバーを起動させ、プラズマ刃をハジメの横側に向ける。俺がやっているのは、ジェダイ・パダワンがジェダイ・ナイトになる際に行われるナイト昇格の儀式だ。

 

 

「今は無きジェダイ評議会に与えられた権利とフォースの意思により、南雲ハジメ。お前を共和国軍のコマンダーに任命する」

 

「…は?俺が……コマンダー?!」

 

「あぁ、お前ならクローン達を率いても問題は無いと俺は判断した。それに、お前はデルタ分隊のスコーチと仲が良いからな。もし俺が居ない時は、変わりに指示を出してやってくれ」

 

 

俺はハジメをコマンダーに任命した時には、ハジメは面倒くさそうだったが、少しばかり満更でもなかった。こうしてハジメは共和国軍のコマンダーとなったのであった。

 

 

雷電Side

 

 

 

まさか雷電から俺を共和国軍のコマンダーとして任命されるとは思ってもいなかった。だが、これはこれで悪くはないと思った。そうして俺達は、オスカーの屋敷にある三階の部屋に向かった。そこにはデルタ分隊とARCトルーパー達、俺たちがこの屋敷の隠し部屋で発見したR2-D7が待っていた。

 

 

「将軍、こちらは準備完了です」

 

「デルタ分隊もだ。将軍、指令を」

 

「あぁ。……これから俺達はこの部屋にある魔法陣を使って地上へと出る。地上に出た後に、お前達には新たな指令を与える。全員、魔法陣の上に。ハジメ、魔法陣の起動を…」

 

「あぁ…分かってる」

 

 

雷電の指示で全トルーパー、R2は魔法陣の方に集まり、俺は魔法陣を起動させる。

 

 

「さて……ここから新たな旅の始まりだ。俺がユエや雷電を、ユエと雷電は俺を、互いに背中を守りながら行こう」

 

「あぁ……それと、クローン達もな」

 

「だな。…俺たちが揃えば最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

「んっ!」

 

 

そうして俺たちは魔法陣の中で俺達の視界を白一色に染めると同時に、一瞬の浮遊感に包まれ、この場から消えるのだった。

 

 

 

場所は変わって、俺達は空気が変わったのを感じた。光が収まり目を開けた俺達の視界に写ったものは……洞窟だった。

 

 

「…何でやねん」

 

「まぁ…流石に地上から大迷宮まで直通だったら、すぐバレるからな。秘密の通路ぐらいは必要だろうな」

 

「…確かに、転移して直ぐ地上に出たんじゃ隠れ家の意味がないからな。秘密の通路があってもおかしくはないか。それと……」

 

 

俺は目の前にある不自然な岩を見つけた。そこには紋様っぽいものが描かれていた。

 

 

「もしかしたら、オスカーの家で見つけたあの指輪ならいけるか?」

 

「…かもな。一旦指輪を翳してみよう」

 

 

俺は宝物庫からオスカー・オルクスの指輪を取り出し、指輪を紋様に向けて翳すと紋様が光り、岩が左右に分かれる様に道が開く。開いた道でその先にある光りを辿って行く。そして、遂に俺達は外へと出ることに成功した。……その外の場所が大峡谷であったとしてもである。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺達はオルクス大迷宮から地上に出たのは良いが、目に映った景色は左右に長く伸びる崖のような構造だった。この場所は、オスカーの屋敷にある書斎で見つけた地図に記されていた。その名は、“ライセン大峡谷”。どうやら俺達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた様だ。

 

 

「……戻って…来たんだな…」

 

「そうだな。あれから約二ヶ月以上もオルクス大迷宮に居たからな。ようやく俺達は、戻って来れたんだ」

 

「……んっ」

 

 

すると二人はようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

 

「…ぃよっしゃぁああーー!!戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「んーーっ!!」

 

 

周りの事なんか気にせず、ハジメ達はしばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

 

「あはは……地上に戻れて相当嬉しかったんだな?」

 

「おいおい、ハジメとユエの奴。あれじゃ何処かに居るバカップルみたいな感じだぞ?」

 

「62、口は災いの元という諺をお前は知っているか?」

 

「デルタの言う通りだな。……ハジメ、ユエ。お取り込み中すまないが、敵が来たぞ」

 

 

ハジメ達が外に出られた喜びに歓喜しているうちに大峡谷にいる魔物達が俺達を包囲していた。

 

 

「全く…無粋なヤツらだ。もう少し余韻に浸らしてくれよ…」

 

「いや、十分過ぎるでしょ……」

 

「……でもまぁ、地上の敵と殺り合う良い機会だ。雷電、ARCトルーパー達の指揮は任せろ」

 

 

そう言ってハジメは、ドンナーとシュラークを取り出して構える。どうやらハジメはやる気の様だ。

 

 

「そうか?それじゃあ、ARCトルーパー達の指揮をお願いするよ。俺はデルタ分隊を…」

 

 

そして俺もライトセーバーを手にし、起動させてプラズマ刃を二つ生成させる。今の俺の構えはダブル=ブレード・ライトセーバーや二刀流で戦う二マーンの派生の型、“ジャーカイ”である。

 

 

「よし、デルタ分隊は俺と一緒に前方の敵を叩く。ハジメとユエ、ARCトルーパー達は後方の敵を頼む」

 

「任せておけ」

 

「んっ…」

 

 

それぞれ役割分担を決めた後に、俺はダブル=ブレード・ライトセーバーで魔物達を切り捨て、ハジメは二丁拳銃によるガン=カタで無双し、トルーパー達は俺達の援護するのだった。

 

 

 

全ての魔物を一掃したのを確認した後、俺はライトセーバーのスイッチを切り、ハジメはドンナーとシュラークを宝物庫に収納するのであった。この時にハジメはある違和感を覚えた。

 

 

「……どうしたハジメ?」

 

「いや、あっという間に終わった事に何かな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

「ハジメ……俺達は魔物の肉を喰ったことで、異常な力を手に入れた事を忘れたか?奈落の底での戦闘もそうだったし」

 

「あーっ…そう言えばそうだったな。奈落の魔物が強すぎて地上の敵が弱く見えるのもそれか…」

 

 

それほどまでに俺達は強くなり過ぎた事をハジメは改めて実感した後、俺は共和国軍兵器召喚で低空強襲トランスポート、通称ガンシップ、又はLAAT/i(ラーティ)を召喚させる。何故ガンシップを召喚したのかというと、王都にいるコルト達やクラスの為にクローン達の増員と、補給物資を送る為である。今回送るのは今いるARCトルーパー全員だ。デルタ分隊は、引き続き俺たちと共に旅をする事に決定した。ARCトルーパー達はガンシップに搭乗した後、ガンシップはそのまま王都へと進路を取り、俺たちと別れたのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電達が久々の地上に出られたその同時刻、大渓谷に一つの人影があった。水色の長髪にスタイル抜群な体でありながら、露出度の高い服を着た人影。しかし、その人影は頭に兎の耳、お尻には兎の尻尾があった。まるで亜人のような風貌でいた。

 

 

 

その亜人の名前は、“シア・ハウリア”。亜人・兎人族の一部族であるハウリアの族長の一人娘。シア・ハウリアはこの危険地帯であるライセン大渓谷で誰かを待っていた。

 

 

「ふぇ~もう待ちくたびれましたよ~。何時になった会えるんですかぁ~?……それと、余り関係無いのですが、何かと此処から離れなきゃいけないという感じがするです〜」

 

 

私ことシアは固有魔法である“未来視”で、私たち一族を救ってくれる人たちがこの大峡谷にいる事が分かったのは良いものの……それが何時、何処でなのかは全く分からなかったです。それと、この大峡谷に来てから私は魔力以外の何かを感じ取れる様になりました。その何かが私に危険を知らせてくれているのは確かでした。一体何なのか分からないまま私たち一族を救ってくれる人たちを待っていると……

 

 

 

「「グゥルァアアアア!!」」

 

 

 

私の背後からダイヘドアが現れました。……泣きたいです。そしてダイヘドアが私を狙って襲って来ました。

 

 

「ィイヤァァ〜〜!!?早く現れてください〜!?」

 

 

私はまだ見ぬ待ち人に早く現れてくれるのを願いながら、ダイヘドアから逃げるのでした。

 

 

シアSide out

 

 

 

ARCトルーパー達を乗せたガンシップを見送った後に俺は共和国軍兵器召喚で地上用スピーダー・バイクである“BARCスピーダー”を三台も召喚したのだ。三台の内二台は、オプションでサイドカーが取り付けられていた。サイドカー付きのBARCスピーダーにはデルタ分隊が乗り込む。そして俺は、残りのスピーダーに乗り込むのであった。一方のハジメは錬成や生成魔法で作った魔力駆動式のバイク、“シュタイフ”を宝物庫から取り出した後に乗り込み、ユエはハジメにしがみつく様に乗り込んだ。その時に俺はハジメに何処に向かうか聞いた。

 

 

「さてと……ハジメ。此処からどっちに向かう?」

 

「そう…だな。ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「樹海側か……となると、目的は町か?」

 

「あぁ……樹海側なら、町にも近そうだしな。峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか流石にお前も嫌だろ?」

 

 

暑さには慣れているが、流石に何も準備ができていない状態で砂漠側に行くのは俺達でも簡便だった。こうして俺達は樹海側に進路を取り、スピーダーとシュタイフで移動を始めるのであった。

 

 

 

移動し始めてから俺はフォースに何かしらのざわつきを感じていた。まるで地下で感じた地上のフォースの使い手が、徐々に近づいてくる感じだった。

 

 

「……やはりな。進めば進む程にフォースが強く感じる…この先に何かがあるのか?「だずげでぐだざ~い!」んっ…何だ?」

 

 

この先に何かがあるのかと考えている時に、誰かが助けを求める声が聞こえた。言うまででもないが、その声はハジメ達にも聞こえていた。その声が聞こえた方角は前方であった。そこで俺達の目に映ったのは、かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキに追われて、ぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女の姿だった。

 

 

「……何だあれ?」

 

「……兎人族?」

 

「なんでこんな所に?兎人族って谷底が住処なのか?」

 

「……聞いたことない」

 

「じゃあ、あれか?犯罪者として落とされたとか?処刑の方法としてあったよな?」

 

「……悪ウサギ?」

 

 

魔力駆動二輪を止めて、ハジメ達は今こちらに向かってきている兎人族に対して、疑問を抱いていた。いくら面倒事には関わりたくはないからとは言え、放っておくのはどうかと思うが……。そう考えながらも俺は、向かってくるであろう兎人族の少女を助けるべく、スピーダーを加速させ、そのまま双頭のティラノモドキに突っ込む。その時に兎人族の少女はこのタイミングで自棄糞になったのか、双頭のティラノモドキに向けて両手を突き出す。

 

 

「…もう、どうにでもなれです〜!!」

 

 

その瞬間、双頭のティラノモドキが謎の見えない力に押し負けたのか、後方へと吹き飛ばされたのだ。彼女が見せた技は魔法の類ではなかった。何故なら、彼女から魔力が放出された形跡が無かったのだ。だが、問題はそこではない。その兎人族の少女は無意識の内に()()()()()()の一部分を使っているのだ。

 

 

「あ…あれっ?ダイヘドアが勝手に吹っ飛んだです?」

 

「……まさか、今のを無意識で?…地下で感じたフォースが兎人族の少女だったとはな。道理で強いフォースを感じる訳だ!」

 

 

そう、オスカーの屋敷にいた頃に地上から強いフォースを感じたのだ。そのフォースの持ち主が兎人族の少女からだ。本人は全く気付いていないが、彼女はフォースと共にある様だ。そうと分かった時に俺の行動は早かった。スピーダーを双頭のティラノモドキにぶつける為に加速し、突っ込ませる。そしてティラノモドキにぶつかる直前に空力で上空に飛んで脱出し、ライトセーバーを起動させてそのまま双頭のティラノモドキの首を刎ねる。敵を倒した事を確認した後に、俺は兎人族に無事かどうか問い質した。

 

 

「死んでる…ダイヘドアを一撃で倒すなんて…」

 

「大丈夫か、兎人族よ?一応追われていたから助けたが、怪我は無いか?「た……」……た?」

 

「助けていただきありがとうございますぅ!!」

 

「うぉっ!?ちょ…急に抱きつくな!?」

 

 

質問に答えるや否や、兎人族の少女は助けてくれた恩人()に礼を言いながらも抱きついてきたのだった。これはこれで悪い気がしないが、これでは彼女の話が聞けないので俺はハジメにある事を頼む。

 

 

「ハジメ、俺共々構わんから纏雷を頼む」

 

「纏雷って……雷電、お前は大丈夫なのか?」

 

 

ハジメの言う通り、俺は彼女に抱きつかれたままで離そうにも中々彼女が離れてくれないのだ。

 

 

「彼女と正面に話し合う為だ。それと、分かっていると思うがこの大峡谷じゃあ魔法は力押ししないと勝手に魔力分解されるからな」

 

「……分かった。ただし、恨むなよ?」

 

 

そう言ってハジメは俺と兎人族の少女諸共、十倍の威力の纏雷を放つ。

 

 

「「アババババババ!?」」

 

 

俺と彼女はハジメの纏雷を受け、兎人族の少女はハジメの纏雷に痺れたのか、ようやく俺から離れるのであった。

 

 

「あーっ……死ぬかと思った」

 

「うぅ〜…こんな場面、未来視で見えてなかったのに…。それと貴方!さっきは何をするんですか!!私のような美少女によくこんなことができますね!!」

 

「自分で言うか…それ?」

 

 

こうして俺達はこの地上で初の接触者であり、後の仲間になる兎人族“シア・ハウリア”の出会いでもあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハウリア族と賞金稼ぎ

サブタイトル通り、賞金稼ぎが出ます。


17話目です。


 

 

兎人族の少女ことシア・ハウリアを助け出した俺達は、何をしにこの大峡谷に来たのか?シアに何故俺達を待っていたのかを問い出した。シア達ハウリア一族は、亜人国“フェアベルゲン”にある樹海の奥で集落で暮らしていたが、シアという存在の所為で国から追われることになったそうだ。シアには本来亜人族が持つ筈が無い魔力を持ち、直接操作が出来る他、彼女の固有魔法である“未来視”……仮定した先の未来を視る力を有しているとのことだ。…未来視と聞くと、何処かフォースの未来予知に似たようなものだと思った。それ以前に俺達以外にも魔力操作を扱える亜人がいるとは思わなかった。

 

 

 

彼女の一族はシアを殺すことは出来ずに一族諸共、シアと共に亜人国から逃げる様にフェアベルゲンから離れたのだ。彼らが亜人国の追手から逃れる為に北の山脈に向かったのは良いが、道中で“ヘルシャー帝国”の帝国兵に見つかってしまう。ハウリア一族は争いを苦手とする一族であり、半数以上は帝国に捕まってしまったのだ。全滅を避ける為に魔法が使えないライセン大峡谷に逃げ込んだのは良いが、逆に大峡谷のモンスターに襲われてしまう。そこでシアは未来視で俺達が此処に現れることを視て、俺達に助けを求めたそうだ。

 

 

「……お願いです!私たちを、私の一族(かぞく)を助けて下さい!」

 

「…だそうだが。ハジメ、お前は如何「断る!!」…いやっ即答かい!?」

 

「ちょ…ちょっと!?ちょっと待ってください、今の流れからして“安心してくれ、俺達がなんとかする”…って流れじゃないですか!!何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか!?」

 

 

シアはハジメが拒否されることを想定していなかったのかかなり慌てふためいている。……今更かもしれないが、自分で美少女と名乗ってる時点で既に残念性がもろ丸出しなのだが?一応俺は何故ハジメは彼女の助けるのを拒否したのか考えているとハジメが口を開いた。

 

 

「あのなぁ…仮にお前等を助けて、俺達に何のメリットがあるんだよ」

 

「メ、メリット?」

 

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわで、お前さんは厄介のタネだわ。デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ?また帝国に捕まるのが関の山だろうが」

 

「うっ…そ、それは…!?」

 

「ハジメ……」

 

「…雷電。お前の考えていることは分かるが、俺達は元の世界に帰る為にこの旅を始めたんだ。お前が多少お人好しなのは理解してはいるが、そいつを助けたところで俺達に何のメリットがあるんだ?」

 

 

どうやらハジメは俺達の旅にとってメリットにならない厄介事は出来るだけ避けたい様だ。だが…ハジメがどう言おうとも、俺は引き下がらなかった。

 

 

「ハジメ、お前の言いたいことは分かる。しかし、何もメリットが無い訳じゃない。これには二つのメリットがある」

 

「二つのメリット?」

 

「あぁ……一つ目のメリットは、彼女の一族は元樹海の住人だからその道まで案内してもらえる筈だ。そして二つ目のメリットだが……これは彼女自身気付いてはいない様だが、彼女のフォースは強い」

 

「何っ?……確かか?」

 

 

ハジメはメリット以前に、彼女が無意識であるがフォースに目覚めていることに食いついた。あのティラノモドキを吹き飛ばしたのは、俺がフォースを使ったのだと思い込んでいた様だ。…だが、実際は違う。彼女は無意識の内でフォースを使い、フォース・プッシュでティラノモドキを吹き飛ばしたのだ。

 

 

「あぁ…そもそもフォースはジェダイやシスだけにしか使えないんじゃない、誰にでもフォースは宿っているんだ。ハジメやユエ、お前達にもな」

 

「私や、ハジメも……?」

 

「あぁ。樹海には案内人が必要不可欠だし……そして何よりも、彼女のフォースの素質は俺達にとっても大きなメリットだ。それに、ジェダイが()()()()増えた方が負担が減るのは確かだろ?だから頼むハジメ、彼女の一族を助けに行かないか?」

 

「確かにそれもそうだが、だがなぁ……」

 

 

ハジメは俺の言い分に理解しているが、それでもデメリットだけは抱えたくはなかった様だ。その時にユエはハジメにとって予想外な答えを出した。

 

 

「ハジメ、私もライデンと同じ考え。連れて行こう」

 

「ユエ…?」

 

「大丈夫。それに、ハジメは言った。私たちは最強」

 

「……まぁ、お前がそう言うなら」

 

 

ユエが俺の意見に賛同してくれたおかげか、ハジメはユエの頼みには断れなく、呆れながらも俺の意見に賛成してくれた。結果として、俺達はシアと他の兎人族を助けることになった。その時にシアは一族を助けてくれる嬉しさにまた俺に抱きつこうとしたが、二度同じ手は乗らないが如く、俺は最小限の動きでシアの抱きつきから回避したが、何故か逆にシアに怒られることになったのは余談である。

 

 

 

俺はティラノモドキにぶつけたスピーダーの様子を確認してみたが案の定大破しており、使い物にならなくなっていた。そこで俺は新たにサイドカー付きのスピーダーを召喚し、シアを乗せてそのまま兎人族がいる場所まで急行するのだった。その時にシアが俺達にどうしてそこまで強いのか聞いてきたので、俺は簡略に説明した。それを聞いたシアは自分以外にも居たのだと泣きながら改めて認識したのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺達……というよりは雷電が兎人族のシアの一族を救い、案内役を確保するのが前提でハウリア一族の所に向かうのだった。……もっとも、雷電の場合はシアのフォースの素質に光らせていた様だが。そんなこんなで俺達はハウリア一族がいる場所にたどり着いたのは良いが、案の定、ここに生息する魔物の群れに襲われていた。シア曰く、あのワイバーン擬きの魔物は“ハイベリア”というがそんなのは関係ねえ。とりあえず俺はドンナーを取り出し、雷電に伝える。

 

 

「雷電、俺は下から援護するからお前は彼奴らを」

 

「分かった。ハジメ、援護を頼む。シア、お前は出来るだけサイドカーにいてくれ……揺れるぞ」

 

「え?それはどう言う意味ですか?」

 

 

シアの問いに答える暇もなく、雷電はスピーダーのブレーキをかけた後にフォースで身体能力を強化し、そのまま空高く飛び上がった。

 

 

「え?…うぇえええっ!?」

 

 

雷電の異常過ぎる身体能力を目にしたシアは驚くも、俺や雷電は気にせずあのワイバーン擬きことハイベリアを殺すことに集中するのであった。俺はドンナーでハイベリアの眉間を撃ち抜き、雷電は空力で宙を蹴りながらもライトセーバーでハイベリアの首を刎ねる。そして残りのハイベリアも同じ様に片付けて行く。その一部始終を見ていたハウリア一族は俺達のハイベリアを殺す手際の良さに戸惑っていた。

 

 

「な…何だ…?彼らは一体…?」

 

「みんな~、助けを呼んできましたよ~!」

 

「「「っ!シア!!」」」

 

 

シアがハイベリアが一掃された後にハウリア一族に向かって手を振っていた。ハウリア一族はシアの声を聞いて、無事に彼女が戻ってきてくれたことに安堵した様だ。

 

 

 

ハイベリアを全て撃破した後にデルタ分隊や雷電は怪我をしたハウリア一族の治療の為にバクタ溶液が入った容器を使い、彼らの怪我を直していた。その時にハウリア一族の族長ことシアの父親である“カム・ハウリア”がお礼を言いに来た。

 

 

「ハジメ殿にライデン殿で宜しいか?私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ?それより、随分あっさり信用するんだな?亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

「…俺が言うのもなんだが、色々とお人好し過ぎる一族だな?…っと、今はそんなことを言っている場合じゃないな。此処はまだ安全じゃない、グズグズしているとまたハイベリアの様な魔物がやって来てもおかしくはない。ひとまず彼らの怪我を直し次第、峡谷(ここ)から出よう」

 

 

雷電の言う通り、怪我したハウリア一族が完治した後に俺達はすぐに峡谷から移動し始めた。その時に俺は、あのカムというハウリアの族長の腰に筒の様な物を懸架していることに気付いた。その筒の様な物の形状は外見は違うが、雷電が持っているライトセーバーと同じ構造をしている物であることを。この時に俺は何故ハウリア一族の族長が、ライトセーバーと似た何かを持っているのか分からず、謎が深まるだけだった。因みに雷電にこのことを伝えたが、俺と同じ様に分からない感じだった。

 

 

 

峡谷から出られる場所を探し始めて小一時間も時が経過した。道中に峡谷を根城とする数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で俺がドンナーで頭部を狙い撃ち、又は雷電がライトセーバーで斬り裂くか、デルタ分隊がブラスターで迎撃するからである。様々な障害を打ち破った俺達は、ようやくライセン大峡谷を抜けれる場所に着いた。何故か学校にあるような階を挟む事に反対にむくような階段があったのは驚きだったのは秘密だ。

 

 

 

俺達は階段を上るにつれ、雷電は何かを感じたのか先に先行し、その先にいる何かに気付かれないよう僅かに頭を出して、雷電は技能の一つである“千里眼”を使って偵察をした。そしてある程度見終えた後に雷電が戻ってきた。

 

 

「どうだった、雷電?」

 

「あぁ、最悪なことに帝国兵がいた。数はざっと三十だ。下手をすれば交戦する可能性があるが、俺に良い案がある」

 

「良い案?……あぁ、そう言えば雷電にはフォースで()()が出来るんだったな」

 

 

俺が言うアレとはフォースを使った技の一つである“フォース・マインド”の事だ。雷電はフォース・マインドが使えることを俺は思い出した時にシアが何かとおどおどした感じで話しかけてきた。

 

 

「あ、あの…ハジメさんにライデンさん。…まさか戦うんですか?」

 

「ん?あぁ……いきなりは戦わないよ。それは飽くまで最終手段だけどな。出来るだけ交戦は避ける様に交渉してみるよ。無論、ハウリア一族を引き渡さず俺達を通してもらう様にな」

 

「まっ…相手が交渉する意志がなかったら俺達の敵ってことで認識して、殺すだけだ。それと残念ウサギ、お前はこうなることを未来視で見えていたんじゃないのか?」

 

「はい、見ました。帝国兵と相対するお二方を…で、ですが…帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

 

どうやらシアは俺達は同じ人間を殺せるかどうか確認したかった様だ。雷電だったら出来るだけ不殺を心がけるだろうが、相手が殺しに掛かって来ている場合は“その限りではない”と割り切って殺すだろう。だが、俺の場合は別だ。

 

 

「……何か勘違いしている様だから言っておくがな、お前らを守るのは樹海の案内が終わるまでだ。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけだ。…雷電、行くぞ」

 

「あぁ。…一応言っておくが、先に俺が交渉するから下手に相手を挑発する発言は控えてくれ。…ユエ、デルタ分隊、万が一のことを考えてシア達を頼む」

 

「んっ…分かった」

 

「了解だ、将軍。成功を祈る」

 

 

そうして俺と雷電は階段を上りきり、ライセン大峡谷からの脱出を果たすと同時に帝国兵に見つかるのだった。ユエ達はシア達を守る様に前に立つのだった。

 

 

「…おいおいマジかよ。兎人族の連中、生き残ってやがったのか」

 

 

雷電の言う通り三十人の帝国兵がたむろしてた。他にあるとすれば大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、俺達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

 

「何だ…あのガキ共?兎人どもと一緒にいるってことは……」

 

「小隊長ぅ、ありゃもしかしたら奴隷商人かもしれませんぜ?それによく見て下せぇ、小隊長好みの白髪の兎人もいますよ!」

 

「なるほどな……だとしたら辻褄が合うな。…よし、お前等は此処で待ってな。俺が直接あの奴隷商人から兎人の若いやつだけを買い取ってやるよ。白髪の兎人以外だったら好きにしても構わん」

 

「ひゃっほ~、流石小隊長!話がわかる!」

 

 

その様子は、どことなく檜山達に似ているような感覚がした。……今更かもしれないが、オルクス大迷宮の奈落に落ちた原因は檜山であることをこの時に思い出したのは余談だ。俺は非常に吐き気がする、クソ野郎共だと一瞬で悟ると俺はそいつらをゴミを見るような視線を向けた。そうしている間に雷電はその帝国兵との交渉を行う。

 

 

「峡谷から態々ご苦労なこった。そいつら全員、帝国で引き取るから置いていけ」

 

「…誠にすまないが、彼らは俺達がハルツィナ樹海の案内には必要不可欠でね。彼らを渡せないんだ」

 

「……よく聞こえなかったな。俺の聞き間違いじゃなければ、渡せないと言ったか?」

 

「あぁ。それと一つ訂正することがある。俺達は奴隷商人ではないし、彼らは奴隷ではない。あと、君たちに一つお願いしたいことがある」

 

 

そう言って雷電はそいつの前に手を翳して言葉を交わす。

 

 

「…()()()()()()()()()

 

「……あぁっ?」

 

「もう一度言う、()()()()()()()()()()

 

「……()()()()()()()()()()()

 

 

フォース・マインドの術中に嵌まった帝国兵は、まるでマリオネットになったかの様に雷電の言った言葉を鸚鵡返しで返し、俺たちの道を開けた。

 

 

「…本当便利だよな、フォースってのは」

 

「出来るならばこの様な事態にフォースを使いたくなかったけど、状況が状況だからな」

 

 

俺達はシア達の元に向かおうとしたがそれは叶わず、その一部始終を見ていた他の帝国兵は俺達に話しかけて来た奴の異常性に気付いた。

 

 

「なっ…小隊長!?」

 

「あのガキ、何か魔法でも詠唱したのか!?小隊長、しっかりしてくれ!」

 

「あーっ……流石に人が多い時にフォース・マインドは不味かったな」

 

「おい…結局失敗じゃねえか」

 

 

雷電はフォース・マインドの使い時を見誤った様だ。その結果、他の帝国兵の相手をする羽目になった。それとフォース・マインドに掛かっていた帝国兵がようやく目を覚ました。

 

 

「…はっ!?お……俺は、一体何を言っているんだ?」

 

「小隊長!そのガキ共、何かしらの魔法で操っていたようです!」

 

「何っ!?……この、ガキ共がぁ!!」

 

 

その帝国兵の小隊長は雷電のフォースを魔法と勘違いしているが、そんなことはどうでもいいかと言わんばかりに怒りを抱いた様だ。だが、そんなこと俺には関係ない。こいつ等は完全に俺達に敵意を向けた。ならば、そいつらは俺達にとって敵だ。邪魔する奴は殺すだけだ。

 

 

「完全に交渉決裂だな。腹を括れよ、雷電」

 

「あぁ、分かっている。…出来れば穏便に行きたかったが、止む終えない」

 

 

俺はドンナーとシュラークを取り出し、雷電はライトセーバーを引き出し、スイッチを入れて起動させ、戦闘態勢に入る。すると帝国兵の小隊長が剣を抜いて雷電に斬り掛かろうとする。

 

 

「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

 

その瞬間、雷電は相手よりも早くライトセーバーで帝国兵の小隊長が持つ剣を熱したバターナイフでバターを斬る様に破壊し、帝国兵の小隊長が今起こったことを理解する前にその首を刎ねた。そして、頭がなくなった帝国兵の小隊長の身体は動かぬ死体となって“ゴトリッ”と倒れるのであった。

 

 

「な…何だ!?何が起きた!?」

 

「わ…分からん!とにかく、俺達前衛は前へ!後衛は詠唱を!」

 

 

小隊長の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をハジメ達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

 

 

早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、その時に帝国兵にとって聞きなれない音が聞こえた。何の音だ?と詠唱を中断せずに注視する後衛達だったが、次の瞬間には物言わぬ骸と化した。

 

 

 

後衛が聞いた音は雷電がライトセーバーをブーメランの様に投げた音だった。

 

 

 

雷電はライトセーバーで後衛の帝国兵達に目掛けて投げて、フォースで投げたライトセーバーをコントロールしてそのまま後衛達を切り裂いたのだ。そして俺は前衛である残りの帝国兵達をドンナーとシュラークで確実に頭部を狙い撃ち、その数を減らしていった。シア達ハウリア一族はこの一方的な暴力……いや、最早虐殺と言っても過言ではない光景に身を引いていた。そして、最後の一人となった帝国兵はこの一方的な虐殺に心を砕かれたのか、力を失ったようにその場にへたり込む。無理もない。ほんの一瞬で、俺達二人によって仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だ。それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは?と呆然としながら視線を彷徨わせた。そんな彼の耳に、これだけの惨劇を作り出した者が発するとは思えないほど飄々とした声が聞こえた。

 

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら“纏雷”はいらないな。通常弾と炸薬だけで十分だ。燃焼石ってホント便利だわ」

 

「…だからと言ってこればかりはやり過ぎだと思うが?とは言え、俺も人のことを言えないか」

 

 

兵士がビクッと体を震わせて怯えをたっぷり含んだ瞳をハジメに向けた。俺はドンナーで肩をトントンと叩きながら、雷電はライトセーバーのスイッチを切って腰に懸架して、ゆっくりと兵士に歩み寄る。黒いコートを靡かせて死を振り撒き歩み寄る者と、その隣には茶色のフードを靡かせ、見たことのない純白の防具を纏い、光の剣で切り裂きし者。その姿はさながら、愚かな愚者に神罰を与える黒と白の死神だ。少なくとも生き残りの帝国兵には、そうとしか見えなかった。

 

 

「ひぃ、く、来るなぁ!い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」

 

 

帝国兵は命乞いをしながら這いずるように後退る。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。

 

 

「おい…勝手に逃げんじゃねぇ、お前に一つ聞きたいことがある。既に捕まえていた兎人族はどうした。この辺りにいるのか?」

 

「え…?は……話せば、助けてくれるのか?」

 

「はぁ?お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか?別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

 

「ま…待ってくれ!話す!話すから!お…俺達が捕まえた兎人族は、既に帝国に移送済みだ。人数は絞ったから…もうどうしようもない…」

 

 

“人数を絞った”それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。そして雷電はヘルメットを被っている所為か、表情は分からないが上手く平常心を保たせているのだろう。内側に怒りと殺意を抱きながらもだ。俺は、その様子をチラッとだけ見やる。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した……その時だった。

 

 

「「……!」」

 

 

俺と雷電は帝国兵以外の殺意を感じ取り、その場から離れる。すると俺達がいた場所に赤い閃光が二、三発着弾する。この世界の住人にとっては聞きなれない音だったが、俺達はこの音を知っている。今の音は、ブラスターから放たれたエネルギー弾の音だ。俺達はその音がした方に向けると、そこには、フェーズⅠクローン・トルーパー・アーマーのヘルメットのモデルとなった銀色のT字型バイザーのヘルメットにポールドロン、リスト・ガントレット、分割型のアーマー・プレートを装着した一人の戦士がいた。だが、問題はそこではない。俺達はその戦士を知っていた。

 

 

「嘘…だろ?おい…」

 

「アレは…マンダロリアン・アーマー…!それに、あのアーマーの色……まさか!」

 

 

するとそのマンダロリアン・アーマーを着ている戦士は、今でもへたり込んでおり、今すぐにでも逃げたかった帝国兵に近づいた。その時にその戦士から言葉を発する。

 

 

「…やれやれ、他の奴等は既にあの二人に殺られたか。残っているは…お前だけの様だな?」

 

「な…何だ、アンタは…?お…俺を、た…助けてくれるのか?」

 

「…助ける?それは俺を雇うってことか?」

 

「た…助けてくれるのか!?だ…だったら雇うぞ!い…いくらだ?いくら欲し「500万」…へ?」

 

 

帝国兵は戦士が言う500万という意味はどう言うことなのか、理解出来ずに思考が止まってしまう。戦士は相手がどうなっていようが関係無く続け様に言葉を放つ。

 

 

「俺を雇うのなら前金として500万ルタ。それでこいつ等を始末したら1500万ルタ。それらを合わせて計2000万ルタを支払うって言うんなら考えるが?」

 

「そ…そんな大金、払えるわけ内だろう!?それに、2000万って……アンタ、一体何なんだ!」

 

「俺か?……決まっているだろう」

 

 

帝国兵の問いに答えるや否や、戦士はホルスターに収納しているブラスターを引き抜き……

 

 

 

“ビォンッ!”

 

 

 

「…ただの賞金稼ぎさ」

 

 

無慈悲に一発のエネルギー弾を放ち、帝国兵の命を刈り取った。そして、次の標的を定める様にブラスターを俺達に向ける。俺達もその戦士に対して警戒態勢を取った。俺はドンナーとシュラークを。雷電はライトセーバーを。その時に戦士は雷電のライトセーバーを見て、思わず()()()()を放った。

 

 

「ライトセーバー?…まさか()()()()がこんな所にいるとはな」

 

「!…お前、雷電のことを……いや、ジェダイのことを知っているのか?」

 

「ハジメ、どうやらそれ以前の問題だ。…どうしてお前がこの世界にいるのか分からんが、これも何かの因果か?こんな所で会うとは思わなかったぞ。クローンのホストにして、クローン・トルーパーのオリジナル。銀河一の賞金稼ぎ、“ジャンゴ・フェット”…!」

 

 

俺達はクローン・トルーパー達のオリジナルであり、ジオノーシスでジェダイ・マスターである“メイス・ウィンドゥ”に敗れ、死んだ筈の銀河一の賞金稼ぎ、ジャンゴ・フェットが何故この異世界トータスにいるのか逆に謎が深まるだけだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一族の家宝、ジャンゴという男

新型コロナの感染者がまた増えた。厄介極まりないが、それでも書き続ける。


18話目です。


 

 

将軍から発せられた言葉に俺達は驚きを隠せないでいた。本来ならジオノーシスで戦死した筈の俺達クローンのオリジナルであり、戦いの術を教えて下さった教官。ジャンゴ・フェットが目の前にいたのだ。

 

 

「おいおい、マジかよ…フェット教官か!?」

 

「確か教官はジオノーシスで戦死なされた筈じゃ?」

 

「ほう…まさかジェダイだけじゃなく、俺のクローンに会うか。それも、コマンドーの方か」

 

 

どうやらフェット教官は俺達がここにいることを想定してはいなかった様だ。しかし、そんなことはどうでもいい様に将軍は警戒態勢を解かず、フェット教官にライトセーバーを向けていた。

 

 

「再会のところ悪いが、ジャンゴ・フェット。お前には聞きたいことが二つある。一つは、何故死んだ筈のお前がこの異世界トータスにいる?そしてもう一つは、この異世界でお前は何をするつもりだ?」

 

「相変わらず疑り深いな、ジェダイ。…まぁ、依頼主(クライアント)からは俺の秘密を明かすなとは言われてはいないからな。いいぜ、話してやるよ」

 

 

そうしてフェット教官は、将軍が気にしていた何故この世界にいるのかを。自身が死んだ後のことを語った。

 

 

 

フェット教官は、あのジオノーシスの戦いで戦死したのは覚えていた。しかし…運命の悪戯か、彼の魂はこの異世界に呼び寄せただけではなく、生前の肉体やブラスター、マンダロリアン・アーマー一式を持ってこの異世界に呼ばれたのだ。フェット教官を召喚(…というよりは復活と言った方が良いが、ややこしくなるため召喚として例えるとした)したのは将軍をこの異世界に召喚させたイシュタルという聖教教会の教皇だった。……まさか将軍達が召喚される前に先にフェット教官が召喚されるとは思わなかった。

 

 

 

…話を戻そう。召喚されたフェット教官は、召喚された将軍達と同様にこの世界を救ってくれと頼まれたそうだが、フェット教官はその頼みを断ったそうだ。フェット教官はイシュタルに“俺を雇いたければこの世界の通貨を2000万を払う事だ”と告げた。2000万という巨額にイシュタルは混迷し、最終的にその金額は払えないとの事だった。

 

 

 

払えないと分かったフェット教官は、このままハイリヒ王国にいても意味がないと判断し、ハイリヒ王国から去ったそうだ。そしてフェット教官は、何故この世界に呼ばれたのか余り気にせず、生前と同様に世界を放浪しながらもこの世界の賞金稼ぎとして今を生きることにした様だ。…無論、もしこの異世界から出る手段があるのなら、フェット教官はこの異世界を一種の隠れ家として利用するつもりの様だ。

 

 

「…んで、依頼主からは誰でも良いから人間を一人か二人を殺してこいって依頼なんでな。丁度帝国兵どもがいたんでそいつ等に目を付けたのはいいが、予想外にもお前達がいたってことだ」

 

「…つまり、お前とこうして会えたのは偶然という事か?」

 

「そう言う事だ。…もっとも、ジェダイ以外にも俺のクローンと会うとは思ってもいなかったがな」

 

 

そう言ってフェット教官は、将軍がライトセーバーで首を刎ねた帝国兵の小隊長の首を回収した。

 

 

「こいつは貰っておく。賞金をもらうのに証拠は必要不可欠なんでな。「あ…あのっ」……ん?」

 

 

フェット教官が帝国兵の小隊長の頭を持ってこの場から去ろうとした時に、シアがフェット教官に声を掛けたのだ。

 

 

「……こ、こんなことを言うのは変ですが、貴方が殺した人は戦意がありませんでした。あの人は見逃してあげても良かったのでは…?」

 

「…つまりだ。そこのジェダイと坊主が強すぎたからせめて慈悲として見逃して欲しかったとでも言うのか?甘いな…そいつは無理な話だ。そもそも一度剣を抜いたなら殺される覚悟をしておくもんだ。だが、そいつにはそんなもんは無かった。だから殺した。それ以外の理由がいるか?」

 

「で…ですが「そいつの言う通りだ」…ハジメさん?」 

 

 

その時にフェット教官の話を聞いていたハジメが口を開いた。

 

 

「一度剣を抜いた者が、今更相手が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良過ぎだ。……こいつはとある悪逆皇帝が言った言葉だ。“撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだ”ってな」

 

「…成る程な。撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけ……か。坊主の覚悟は良く解った、お前とは話が合いそうだな。…俺を雇うって考えてんなら、最低でも2000万以上は用意する事だ。それとクローン、また会う時は敵同士ではないことを祈るぜ」

 

 

そう言ってフェット教官は依頼が完了した事を依頼主に伝える為に、帝国兵の小隊長の首を持ちながらジェットパックでこの場から離れるのであった。…何故戦死した筈のフェット教官がこの世界にいるのか未だに俺でも分からなかった。

 

 

ボスSide out

 

 

 

ジャンゴがこの場から去った後に俺はライトセーバーのスイッチを切り、再び腰に懸架する。そしてシア達を方を向くと、俺やハジメに対して脅えている様に見えた。ユエはシア達にその様な目で俺たちを見るなと俺たちの前に立つ。…無理もない。何せ帝国兵を相手にこっちは技術的にも、身体能力的にもバグリ過ぎるくらい上でありながら一方的な虐殺を行ってしまったのだ。出来るならばこんなことはジェダイとして避けたかったが、避けられぬ運命だった様だ。

 

 

「…すまない。君たちは争いが苦手な一族であることは分かっていたが、どうしても交戦は避けられなかった」

 

「いえ、謝るのはこちらの方です。ハジメ殿、ライデン殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

 

「ハジメさん、ライデンさん、すみません」

 

「いや、いい…それよりさっさと樹海に向かうぞ」

 

 

俺とハジメは、帝国兵たちを一掃した後に残った二台の大型の馬車を回収し、それを一台ずつシュタイフとスピーダーに取り付け、ハウリア一族が馬車に乗せられるだけ乗せ、余った人数は馬車を引く役割だった馬に乗った後に馬車が壊れない様に、他の馬と時速を合わせられる様に時速13kmをキープしながら、樹海へと移動を開始するのだった。

 

 

 

…ある程度の距離を進んだ俺達は、七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える“ハルツィナ樹海”を前方に見据えた。樹海の入り口付近でスピーダーを止めて、俺達はそれぞれ乗り物から降りた。その時に俺はハジメにあることを聞こうとした。

 

 

「…なぁ、ハジメ?」

 

「ん?どうした雷電?」

 

「今更かもしれないが、聞いていいか?帝国兵たちと戦った時にだが、お前は何で“纏雷”を使わなかったんだ?」

 

 

本当に今更かもしれないが、何故あの時に纏雷を使わずに戦ったのか知りたかった。……まぁ正直に言えば、これ以上のオーバーキルは流石にやり過ぎだと思う。

 

 

「あぁ、そのことか。…まぁ一言で言えば()()だな」

 

()()?……どう言うことだ?」

 

「これからは街中で戦う場面も出てくるかもしれない。敵を“電磁加速砲”で木っ端みじんにするのが、背後の民家や住民まで吹っ飛ばすわけにもいかないだろ?それと、あの帝国兵……基、人間殺しても何も感じなかったが、だからと言って俺は無差別の殺人鬼になるつもりは無い」

 

「ハジメ……今は大丈夫なんだな?」

 

「あぁ、これが今の俺だ。これ以上は堕ちるつもりはない。これからもちゃんと戦えるってことを確認できて良かったさ」

 

 

ハジメはハジメで初めて人を殺したことに感傷に浸ってた様だ。…それもそうだろう。俺ならまだしも、ハジメは争いとは無縁の生活を送っていたのだ。だが、この異世界に来てから状況が一変した。俺達はオルクス大迷宮で奈落に落ちてしまい、俺が合流する前はハジメは一人だけだった。味方もいない状況では追い込まれてしまい、最終的に性格が変わってしまうのも無理もない。そう考えている時にシアが、俺達のことを気になったのか詳しく聞きに来た。

 

 

「あ…あの!ハジメさんとユエさん、ライデンさんのこと、教えてくれませんか?」

 

「?……俺達のことを?」

 

「はい!旅の目的とか、今までしてきたとか、三人自身のこと…もっと知りたいです!」

 

 

シアはまるで夢見る子供の様に興味を持っていた。俺はハジメに俺達が体験して来たことを話すかどうか話し合ったが、ハジメはあっさりと了承した。何故了承したのか聞いてみたら“お前は弟子を育てる側だろ?”とのことだった。…いやっハジメよ。まだシアはジェダイの弟子ではないのだが?…無論、ちゃんと修行させるけども。……そんなこんなで俺はシアに俺達が体験したこれまでの経緯を語り始めた。

 

 

 

その結果は言わずもがな……シアは号泣していた。

 

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもライデンさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

「余り気にするな、もう過ぎたことだ。…それともう泣くな。お前には大事な話があるんだからな」

 

「ふぇっ?…大事な話でずか?」

 

 

俺はシアに使い捨ての布生地を渡し、シアが泣き止むのを待って大事な話をするのだった。その大事な話とは、彼女に宿るフォースのことだ。

 

 

「シア、お前には魔力を直接操れたり、固有魔法である“未来視”以外にも、秘められた力を宿しているんだ」

 

「私の…秘められた力?」

 

「あぁ。それは“フォース”と呼ばれるものだ。森羅万象に宿る形而上的、霊的、統合的、遍在的なエネルギー場だ。そのフォースにシアは無意識だが、目覚めつつある。…だが、完全な覚醒じゃない。これを聞けば、シアの運命が大きく左右される。それでも聞くか?」

 

「…はい、私もそのフォースと運命が気になります!」

 

 

シアは己が運命とフォースについて知る為に最後まで聞く事にした。そして俺はフォースについてのことを俺が知る限りのことを話すのであった。

 

 

 

シアに俺が知る限りのことを話し終えた後、俺はシアにあることを聞き出す。

 

 

「シア。もしもだが、俺の弟子にならないか?」

 

「えっ?ライデンさんの弟子…ですか?」

 

「あぁ。無論、強制はしない。シアの意見を尊重するつもりだが…」

 

 

俺がそう言った後にシアは一度考え込み、数十秒後に答えを出した。

 

 

「……私、ライデンさんの弟子になります!そして、このシア・ハウリア。三人の旅のお供をさせていただきます!!」

 

「そうか。…だがその前に、現在進行形で守られている状態じゃ意味がない。ちゃんとした修行を行い、自分自身の心と身体を鍛えなければならない。でなければ、七大迷宮の攻略の前に他の魔物に瞬殺されてしまうのがオチだ」

 

「うっ…!?そ、それもそうです……」

 

「心配するな。修行をちゃんと受ければお前は確実に強くなる。心も、身体もだ。…それと、俺は自分の弟子を取るのは、お前が初めてなんだ。だからと言って手を抜くつもりはないから十分覚悟を持つ様に」

 

「は…はいです!私も精一杯、頑張ります!」

 

 

こうして俺はシアを俺の弟子として迎え入れるのだった。その時に俺はあることを思い出した。それは、族長のカムが何故ライトセーバーを持っていたのか?である。その事を聞き出す為にカムに声をかける。

 

 

「そう言えばだが、カム族長。アンタから聞きたい事が一つある。アンタが腰に懸架しているその筒状の物、俺が持っているライトセーバー……この世界で例えるなら“光りの剣”なんだが、外見は違えど外見の仕組みが殆どライトセーバーと同じだ。そのハウリア一族が何故それを持っているんだ?」

 

「これですか?これは我が一族の先祖代々から受け継がれてきた家宝です。何でも、私たち一族のご先祖たちが、突如と現れた光りの使者から授かられたと聞きます。私たち一族は、光りの使者から授かった物を一族の家宝として大事に持っているのです。このフェアベルゲンから逃げる時も家宝を持って逃げて来たのですが、この家宝の事をご存知なのですが?」

 

「家宝と言えば家宝ではないな。…さっき話したが、これは俺が使っている武器ライトセーバーと同じ物だ。…少し確認したい事がある。それを貸してくれないか?」

 

 

カムは代々から受け継がれて来た家宝について少し気になったのか、それを確かめる為に俺に渡してくれた。俺はその家宝を良く確認して見ると、やはり思った通りこの家宝は俺が使っているライトセーバーそのものだった。それも、ダブル=ブレード・ライトセーバーでありながら分割が出来るタイプだ。俺はそのライトセーバーをよく確認するべく、カイバー・クリスタルがある部分のパーツを外して中身を確認してみた。しかし、予想外にもこのライトセーバーにはカイバー・クリスタルが()()()()()()()()のだ。

 

 

「…カイバー・クリスタルが入っていなかったか。……だけど、俺達が持っているアレなら…!」

 

「…ライデン殿?」

 

 

カムは何やら不安そうになっていたが、俺は心配ないと伝えてクリスタルがはいっていないライトセーバーに人工カイバー・クリスタルを入れて組み直す。そして組み直した後にスイッチを入れると、ブレード・エミッターから緑色のプラズマ刃が放出される。

 

 

「…これはある意味で運命だな。俺達とシアが大峡谷であったのも、すべてはフォースの導きか…」

 

 

俺はスイッチを切ってプラズマ刃を消し、それをカムに返そうとした。しかしカムはそれを否定し、逆に俺達が持っていって欲しいと頼んだのだ。カム曰く、恐らくはこの時の為に家宝が守られ続けられて来たかもしれないとの事だった。俺はカムに感謝しつつも、シア用のライトセーバーを確保するのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

その頃、魔人族の国“魔国ガーランド”で一人の人間ことジャンゴ・フェットが雷電が斬り飛ばした帝国兵の首をその依頼主である魔国ガーランドの将軍であり、赤髪と浅黒い肌が特徴の魔人族の男性“フリード・バグアー”に渡す。

 

 

「ほらっ…お前さんたちの言う通り、標的を狩って来たぞ」

 

「…まさか、本当に同族である人間を殺すとはな。それもヘルシャー帝国の兵士を狩ってくるとはな」

 

「賞金を懸けてくれるのならどんな奴だろうと狩るだけだ。今回の依頼は人間なら誰でもよく、生死は問わなかったからな。それと…俺が賞金首を狩る時に偶然だが、厄介な奴とあった」

 

「厄介な奴?貴様がその様に評する者は一体誰だ?」

 

 

フリードは俺にそいつは何者なのか問い出して来た。この時に俺は、俺のクローンを除いてジェダイや坊主達の事を話す事にした。

 

 

「ジェダイだ。それと、俺が使っているブラスター……お前たちに分かり易く言えば遠距離用の武器を使っている坊主がいた」

 

「…何っ?確かか?」

 

「あぁ。お前たちが俺の言葉を信じるか信じないかは勝手だが、報酬をちゃんと払ってもらうぞ。それが俺の仕事なんでな」

 

「貴様っ!!人間の癖して我ら魔人族に対して無礼だぞ!身の程を弁え「よさないか」ッ!?フリード将軍?…しかし!」

 

「レイス、お前の言い分は分かる。しかしだ、このまま続けていたらお前と言えどタダではすまない筈だ」

 

 

どうやらフリードは俺がブラスターをいつでも引き抜こうとする様子を見逃さなかった様だ。こいつが将軍の地位にいる理由が分かった気がする。

 

 

「そう言うことだ。将軍に助けられて命拾いした様だな?」

 

「くっ…!」

 

「…賞金稼ぎよ、これだけは忠告させてもらう。あまりその様な態度を取り続ければ、いずれ貴様にそう遠くない死が訪れるぞ」

 

「忠告どうも。アンタ等は人間達が別世界から召喚した勇者共とやらに警戒することだな」

 

 

そう言って俺はフリードから賞金を受け取った後、そのままガーランドを後にするのだった。

 

 

 

所変わって“中立商業都市フューレン”の外側城壁にある森林の中に着地したジャンゴは、隠れ家とも言える場所……否、この世界には存在しない筈の宇宙船。ファイヤスプレイ31級パトロール攻撃艇こと“スレーブⅠ”に入り、フリードから受け取った賞金を確認する。

 

 

「…100万ルタか。取り分としては悪くない。だが…まぁ、あの魔人族の連中は人間族と戦争しているからな。俺が賞金稼ぎとは言え、所詮は人間だと思って、このくらいの額で十分だと思ったんだろう。しかし、まさかこの世界にジェダイや俺のクローンがいるとは思わなかったな」

 

 

そう思いつつも俺はブラスターの点検や、次の賞金首を探す為に下準備として、フリードから受け取った賞金でスレーブⅠの倉庫にある食糧を補充する為に、スレーブⅠから出てフューレンの商業エリアで食糧と数本の投擲用のナイフ、及び毒薬を購入するのだった。

 

 

ジャンゴSide out

 

 

 

シアを正式に俺の弟子として迎え入れた俺はハジメ達とハウリア一族と共にハルツィナ樹海の森へと入り、迷宮の入り口と思われる森の最深部“大樹ウーア・アルト”に向かった。その時にユエはある事に疑問に思った。

 

 

「ハジメ、ライデン。私、思ったんだけど…樹海が迷宮じゃないの…?」

 

「あぁ…俺と雷電もそう思っていたんだが、オルクス大迷宮にいたような魔物が樹海がいるとしたら、亜人たちが住める場所にはならない…」

 

「それとだ…これはカム族長から聞いた話何だが、今俺達が向かっているこの森の最深部にある巨大な樹“大樹ウーア・アルト”があって、その場所は聖地として近づく者は滅多にいないらしい。恐らく、大迷宮があるとしたら多分そこかもしれない」

 

 

これは飽くまでも俺とハジメの推測に過ぎない。そう考えている時にカムが話に割り込んで来た。

 

 

「…お話し中のところ申し訳ない。これより先はできる限り気配を消してもらえますかな」

 

「……そう言えばアンタ達一族はフェアベルゲンにとってお尋ね者の身だったな。確かにフェアベルゲンの者に見つかると厄介だな。ハジメ、ユエ、気配を遮断するぞ」

 

「あぁ、分かった」

 

 

ハジメ達の返事を聞いた後に俺達は技能の“気配遮断”で完全に気配を消す。これにはシアや他のハウリア一族も驚きを隠せなかった。

 

 

「……!」

 

「これは…なんと…」

 

「相変わらず凄まじいな、将軍達は…」

 

「これじゃあ、どっちが化け物なのか分かったもんじゃねぇな?これほど気配が完全に消えたんじゃあ、流石に彼らも将軍達を見つけだすのも苦労するぞ」

 

「いやはや……我々、探索や隠密行動はかなり得意だと自負しているのですが…これでは兎人族の立つ瀬がありませんな」

 

 

そうカムが言うが、俺はそれとは別の気配をフォースを通して感じ取っていた。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。

 

 

「…カム族長、どうやら問題発生だ。コマンドー、戦闘態勢を。ハジメ、ユエ、どうやら俺達は運悪くも……」

 

「その様だな。俺達はその連中に見つかっちまった様だ」

 

「っ!…この気配は…」

 

「そんな…どうしてよりによって…」

 

 

カム達はその正体に気付いたのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。達はそれぞれの武器を取り出して待ち構えると……

 

 

「動くな!何故人間がここにいる!!」

 

 

俺虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人こと虎人族が俺達を包囲していたのであった。この時に俺は嫌な予感を感じ取ったが、今はそれどころではないと切り離し、目の前の状況に対処することに集中するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一触即発と亜人国フェアベルゲン

志村さんが新型コロナによって亡くなってしまい、ショックを受けて一時期執筆が止まってしまった。…惜しい人が亡くなってしまった。

それとあるアンケートを実施します。アンケート次第でタグが変わります。


19話目です


 

 

俺達はこの国の亜人族であろう虎人族に包囲されていた。この時に俺は、密かに技能の“念話”でハジメにどうするかと相談していた。

 

 

(……どうするハジメ?連中はかなり殺気立っている様だが、これはかなり()()()()()()になりそうだ)

 

(だな。…取りあえずだ、俺がドンナーであのリーダー格の虎人族の横にある近くの木にぶっ放して威嚇する。雷電はその後のことを考えて何かしらのアクションを起こしてくれ)

 

(無茶難題だな。どの道、荒事は避けられないか…)

 

 

そうしてハジメとの念話を終えて、俺は相手が行動を起こすまで待った。その時にシアを含むハウリア達は虎人族に見つかってしまったことに戸惑いを隠せなかった。すると虎人族のリーダー格がシアを見た瞬間、より一層に殺意が増した。

 

 

「白髪の兎人族の女…貴様らが報告にあったハウリア族か!亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!」

 

 

そう虎人族が言った瞬間、俺はある一つの感情が沸き上がる。その感情とは、“怒り”だった。確かに、シアは他の亜人族と違って魔力を操れる者だ。…ただそれだけ、それだけなのだ。それに対して虎人族のリーダー格は、彼らハウリア達の弁明を聞かず一方的に反逆者と決めつけ、あろう事かこの場で処刑すると宣言して来たのだ。この時に俺は既に我慢の限界だった。そして俺が取った行動は……

 

 

「総員かッ……うぉ…がぁっ!?」

 

「「「…!?」」」

 

 

その虎人族のリーダー格に“フォース・グリップ”でその者の首を締め上げた。この異様な光景に虎人族だけではなくハウリア族やハジメ達も驚いていた。この時にハジメは俺が先に行動した事について声をかける。

 

 

「!?…おいっ雷電!お前…いきなり何を?」

 

「すまない、ハジメ。流石の俺でも、俺の中のグツグツと煮え滾る怒りの感情を抑えられそうにない。学校もそうだが…人としての生活が長かったから、より感情的になりやすくなっているな…

 

「ぐっ!?……きさ…ま、何…を……!?」

 

 

するとフォース・グリップを受けている虎人族のリーダー格が、苦しみながらもなんとか声を出して俺に問い出して来たがそんな事はどうでもいい。俺は虎人族に告げた。

 

 

「ハウリア族がこの国に取ってお尋ね人であることは彼らから聞いた。だが、俺達の目の前で()()()()()()()()だと?……これは余り言いたくはないが、せめてこれだけは言わせろ」

 

 

 

図に乗るな、ネコ風情が……

 

 

 

俺は抑えきれない感情に流されるがまま、虎人族に向けて怒りと殺意を言葉に乗せて言い放った。そしてハジメは俺に落ち着かせる様に説得してきた。

 

 

「落ち着け、雷電。お前の怒りは最もだが、お前が更に面倒ごとを起こしては本末転倒だろ?俺達の本来の目的を忘れるな」

 

「ハジメ……」

 

 

ハジメの言葉を聞いて俺は、血が上っていた頭を冷やし、徐々に冷静さを取り戻してフォース・グリップを受けている虎人族のリーダー格を解放する。

 

 

「がはっ…ごほっ…!ぐっ!おのれ……!人間がよくも……ッ!?」

 

 

解放された虎人族のリーダー格が俺に敵意を向けるが、その時にハジメがドンナーで“ドパンッ!!”と弾丸を放つ。銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。聞いたことのない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直している。理解不能な攻撃に凍りつく虎人族。しかし、そんな事はどうでもいいかの様にハジメが虎人族に威圧し、警告する。

 

 

「…一応言っておくが。俺は雷電の様に優しくはないし、こいつらを殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな。ただの一人でも生き残れると思うなよ」

 

 

そういってハジメは威圧感の他に殺意を放ち始める。そしてデルタ分隊も虎人族に向けてDC-17mを構えながらいつでも撃てる様にする。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んでいた。……無理もない。この世界では銃という概念が存在しない為、この世界の住人に取っては未知の武器とも言えるのだ。

 

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「ハジメ……自分が先にやっておいて何だが、その台詞…完全にこっちが悪役みたいだぞ?」

 

 

そうハジメと遣り取りしている最中、虎人族のリーダー格が俺達に何をしに来たのか問い出して来た。

 

 

「……その前に、一つ聞きたい。貴様ら…何が目的だ?」

 

「目的か?俺達の目的は、七大迷宮の攻略だ。その為にも、樹海の深部、大樹ウーア・アルトの下へ行きたい」

 

「大樹の下へ……だと?…何故そこに向かう必要がある?」

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

 

 

真の大迷宮のことを虎人族に話したが、まるで話が噛み合っていないかの様に若干困惑していた。

 

 

「本当の迷宮?…何を言っている?この樹海そのものが七大迷宮の一つであるはずだ。一度踏み込んだら最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ「いや、それはおかしい」…なんだと?」

 

「大迷宮ってのは“解放者”たちが残した“試練”なんだよ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ?それじゃあ試練になっていない」

 

「あぁ。……それ以前にだ、ここの樹海の魔物が弱過ぎる。真の大迷宮にいる魔物よりもはるかに下だった。俺達が強過ぎるということもあるが、この樹海が迷宮そのものとは到底思えない。だから俺達は、大樹の下にあるかもしれない真の大迷宮への入り口に向かっている。それが俺達がここに来た目的だ」

 

 

一応この樹海に入ってから樹海の魔物と遭遇しては撃退し、ハウリア族たちを護衛しながらも何とかこの場所まで辿り着いたのだ。しかし、先ほど言った様にここの魔物はオルクス大迷宮の奈落にいる魔物と比較してかなり弱すぎるのだ。

 

 

 

話が別の方に飛んでしまった為、本題に戻ろう。

 

 

 

虎人族は困惑を隠せなかった。俺達の言っていることが分からないからだ。樹海の魔物を弱いと断じることも、“オルクス大迷宮”の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。普段なら、“戯言”と切って捨てていただろう。

 

 

 

だがしかし、今、この場において、俺達が適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのは俺達の方であり、言い訳など必要ないのだから。しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいいと虎人族のリーダー格が判断するのだった。

 

 

「…つまり、国や同胞に危害を加えるつもりはないのだな」

 

「あぁ。そっちが殺るつもりで来るのなら話が別だがな」

 

「…であれば、大樹へ向かうのは構わないと私は判断する」

 

「!?隊長!その様な異例は──」

 

「…だが、これは部下の命を考えた私の独断。本国からの指示を仰ぎたい。お前の話も長老方なら知っておられるかもしれん。伝令が行くまで私とこの場で待機しろ」

 

 

…どうやらこの状況で中々理性的で冷静に判断ができる亜人と判断した俺は少しばかり感心した。そして、今、この場で彼等を殲滅して突き進むメリットと、フェアベルゲンに完全包囲される危険を犯しても彼等の許可を得るメリットを天秤に掛けて……後者を選択した。大樹が大迷宮の入口でない場合、更に探索をしなければならない。そうすると、フェアベルゲンの許可があった方が都合がいい。もちろん、結局敵対する可能性は大きいが、しなくて済む道があるならそれに越したことはない。

 

 

「……懸命な判断だ。より良き隊長の様だな」

 

「…それはそうと、俺の言った通りに曲解せず、ちゃんと伝えろよ?」

 

 

何とか大きないざこざを起こさずに済みそうと思った俺は、少しばかり安堵したのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

しばらくの間、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に終わりを告げる様に霧の奥からは数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族(いわゆるエルフ)なのだろう。

 

 

 

その時に俺と雷電は、瞬時に彼が“長老”と呼ばれる存在なのだろうと推測した。その推測は、どうやら当たりのようだ。

 

 

「ふむ、お前さんらが問題の人間族かね?名は何という?」

 

「ハジメ。南雲ハジメだ」

 

「雷電。藤原雷電だ。そして、俺の隣にいる兵士兼戦友たち、デルタ分隊だ」

 

「私はアルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。“解放者”という言葉、何処で知った?」

 

 

どうやらアルフレリックという長老は俺達が解放者という言葉を何処で知ったのか気になる様だ。論より証拠と言わんばかりに、俺は宝物庫からオスカー・オルクスの指輪を取り出した。

 

 

「オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ。その証拠に、これを見てくれ。オスカー・オルクスの指輪だ」

 

 

そう言って俺はアルフレリックにオルクスの指輪を渡し、確認させた。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。

 

 

「こ、これは…!この紋章はまさしく…。なるほど……信じ難いが、オスカー・オルクスの隠れ家に辿り着いている様だ。…よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

「何?…ちょっと待て。俺達は大樹に用があるだけでフェアベルゲンに興味はない。問題ないならこのまま向かわせて「待て、ハジメ」…雷電?」

 

 

俺が言っている時に雷電が割って入って来た。何かを確認しようとしたのか、雷電はアルフレリックにある確認を取った。

 

 

「少し確認したいことがある。アンタがフェアベルゲンに滞在する許可を出すということは、今は大樹に向かうべきではないと取るが……その辺はどうなんだ?」

 

「…お前さんの言う通り、今から大樹に向かおうとしても無理だ。大樹の周囲は特に霧が濃くて、亜人族でも方角を見失う。一定周期で訪れる霧が弱まった時でなければならん。…亜人族なら誰でも知っているはずだが…」

 

 

俺は聞かされた事実にポカンとした。雷電はなるほどと納得をしていた。その時に雷電はカムの方を見た。そのカムはと言えば……

 

 

「あっ」

 

 

まさに、今思い出したという表情をしていた。流石の俺でも額に青筋が浮かんだ。

 

 

「…おいカム、どういうことだ?」

 

「落ち着けよハジメ、彼らと初めて会ったときは魔物に襲われて切羽詰まっていたんだぞ?それだと忘れてしまうのも無理もない」

 

「あはは……その、何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたとうか…その…」

 

 

雷電のフォローがありながらも、しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、俺とユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

 

「ええい、シア、それにお前達も!なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「な…父様、逆ギレですかっ!?私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと…」

 

「そうですよ!僕たちもおかしいなとは思っていたけど族長が……」

 

「お前たちそれでも家族か!?これはそう…連帯責任だ!!」

 

「父様汚い!」

 

「あんたそれでも族長か!!」

 

 

逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

 

 

こうしている間にも青筋が浮き上がる者がいた。俺もそうだが、その青筋を浮かべていたのは雷電だった。

 

 

「ハジメ、少し待っててくれ。すぐ彼らを沈ませる」

 

「お…応、ほどほどにな……?」

 

 

そう言って雷電は、フォースを使ってハウリア族を2〜3m浮かび上がらせた後にハウリア族を逆さにして、そのままフォースを解いて自然落下で地面に落とした。その結果、ハウリア族の頭部に拳一つ分のたん瘤が出来上がった。その後に雷電の説教を受けるハウリア族だった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハウリア族達を静まらせた後に俺達は、このまま亜人達の国である“フェアベルゲン”に向かうのであった。シア達は未だに出来たたん瘤に痛がっていた。

 

 

「うぇ〜…父様、私たちまで巻き込まないでくださいよぉ〜」

 

「わっはっは、我らハウリア族はどんな時も一緒だ!」

 

「…全く、自分のミスを相手に押し付けるんじゃない。そこは素直に謝れば良かったものを……」

 

 

俺はシア達のあの責任の擦り付け合いに呆れを覚えながらも若干不安を覚えるのだった。その頃ハジメはアルフレリックと大樹の霧について話し合っていた。

 

 

「それで…霧が弱まるまで本当に十日もかかるのか?」

 

「こればかりは我々でもどうしようもないな」

 

 

そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の“国”というに相応しい威容を感じる。

 

 

「さぁ着いたぞ。我々の故郷“フェアベルゲン”だ」

 

「ここが亜人達の国フェアベルゲンか…」

 

「綺麗…」

 

「初めて来たのはいいが、思ったよりいい歓迎ムードじゃなさそうだな?」

 

「無理もないだろう、今回俺達という存在が彼らに取っては異例なんだ。警戒されてもおかしくはない」

 

 

こういうのはジェダイの頃でもなれていたが、また何か荒事が起きそうでいやな予感でしかない。

 

 

 

俺達は現在、長老の家でアルフレリックと向かい合って話し合っていた。内容は、俺とハジメがオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分たちが異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 

「…なるほど。この世界は神の遊戯の盤であったと…」

 

「…驚かないんだな」

 

「この世界は亜人族(われわれ)に優しくはない。今更だ」

 

 

その後にハジメはアルフレリックに解放者について知っているのかどうかを聞いてみると、答えはNOだった。アルフレリック曰く、古くから伝わる長老の座についた者への言い伝えだそうだ。

 

 

「七大迷宮は“解放者”という者たちによって作られた。曰く、“迷宮の紋章を持つ者には敵対しないこと”。“その者を気に入ったのなら望む場所へ連れて行くこと”。お前さんたちの持っていた指輪はその紋章の一つだった。故に敵対せず、案内をしたのだが──」

 

「全ての亜人族がそれを知っている訳ではない。…ということか」

 

「その様だな。それとハジメ、面倒なことに知っていてもそれを守らない者もいる様だ」

 

 

そう言った時に扉を蹴破る音が部屋に響いた。その正体は、熊の亜人がこの部屋に押し入って来たのだ。

 

 

「アルフレリック!!貴様…どういうつもりだ。人間と忌み子を招き入れるなど…!」

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前も長老の座に在るなら事情は理解できるはず」

 

「こんな人間族の小僧共が資格を持つというのか!敵対してはならない強者だと!」

 

 

この熊の亜人が長老の座についているとなると、逆に俺は頭が痛くなりそうだった。熊の亜人の長老は、どうやら地球の言葉でいう“井の中の蛙大海を知らず”という言葉に当て嵌まるようだ。

 

 

「…なぁハジメ、俺たちは今、井の中の蛙大海を知らずと言葉に当て嵌まる亜人に少しばかり頭痛を抱えそうなんだが……」

 

「そう言ってやるな。只でさえ、こいつの視野の狭さに俺だって頭を抱えているんだからよ……」

 

「何だと…!巫山戯るな!ならばこの場で試してやる!!」

 

 

そう言って熊の亜人は殺意を持って俺に向けて拳を振るおうとする。だが、俺はフォースの未来予知でこの程度の攻撃を簡単に左腕に掴み止める。

 

 

「俺は荒事や面倒事は出来るだけ避けたいんだ。だが、殺意を持って攻撃してくる、もしくはしてきたのなら話は別だ。…高くつくぞ」

 

 

俺は掴んでいた熊の亜人の腕を離した瞬間、フォースの力を借りた身体能力強化でそのまま熊の亜人の無防備な腹部に叩き込む。

 

 

「がはっ…!?」

 

 

更に追撃としてフォース・プッシュを叩き込み、熊の亜人をこの部屋か外へと吹き飛ばす。その後に俺はアルフレリックや他の亜人たちにある確認を取った。

 

 

「…一応聞くが、もし俺たちに敵対するというのなら、国が滅びる事を覚悟してもらう事になる。俺としてはその様な事は取りたくない」

 

「俺も雷電と同じだ。それとだ、俺たちは大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……()()()としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう?あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺は雷電と違ってお人好しじゃないぞ」

 

 

ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

「は?何言ってるんだ?先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎だろ?雷電は返り討ちにしただけだ。再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

 

「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」

 

「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

 

「そ、それは!…しかし!」

 

「勘違いするなよ?雷電が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ?なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

 

どうやら俺が吹き飛ばした熊の亜人ことジンと土人族ことドワーフのグゼは仲がよいことが見て分かる。その為、頭ではハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、ハジメはお人好しではない。

 

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

 

アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

 

「ん〜確かに、この少年たちは紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

 

そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目で俺たちを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。しかし、虎人族のゼルは認める様子はなかった。

 

 

「はん、俺は認めんぞ。口伝には気に入った相手を案内するとあるんだろう?…だが俺はこいつが気に入らん。大樹の下への案内は拒否させてもらう。ハウリア族に案内してもらえると思わないことだな。そいつらは忌み子を匿った罪人たち、すでに長老会議で処刑が決まっている。これによって大樹に行く方法が無くなった訳だが…どうする?運良く辿り着く可能性に賭けてみるか?」

 

 

そうゼルが勝ち誇った様に言い、シアは何とか自分以外の一族を助けてもらう様に説得しようとする。そして俺はというと、更に怒りが増すどころか、逆に呆れる他になかった。

 

 

「はぁ…馬鹿を通り越して呆れる他にないな」

 

「本当にそれな。お前アホだろ?」

 

「なんだと!?」

 

 

俺はシアの元に行き、シアの頭に手を置いてそのまま話を続ける。

 

 

「言い方はアレかもしれないが、俺たちはこの国の事情なんて関係無い。もしこのまま彼らを処刑しようと言うのなら、俺たちと()()()()()()に対して敵対するという事だ」

 

「なに……軍団…だと?」

 

「ここで召喚するのも容易だが、俺たちは飽くまでも七大迷宮の攻略だけだ。俺たちと敵対するというのなら、それ相応の覚悟を決めてもらう」

 

 

そう言って俺はライトセーバーを手に、スイッチを入れずに警告する様にライトセーバーを前に出す。すると黙っていたアルフレリックが口を開いた。

 

 

「……本気かね」

 

「本気だ。それと、フェアベルゲンから案内を出そうとしてもそれは無理だ。既に案内人はハウリア族と契約を交わしている」

 

「何故そこまでこだわる?大樹に行きたいだけなら案内は誰でも良いはず。案内人を変えるだけで我々と争わずに済むのだ。問題なかろう」

 

「問題大ありだ。案内するまで助けると約束したからな。途中でいい条件が出てきたからって鞍替えなんて、俺にとって有り得ない事だからな。それと……シアは俺にとって最初の弟子であって、掛け替えの無い仲間だからな」

 

 

そう俺が宣言した際、アルフレリックは何も言っても無駄である事を悟った。

 

 

「……どうやら何を言っても無駄の様だな…。ならばお前さんたちの奴隷ということにでもしておこう。この国の掟では奴隷として捕まり、樹海の外へ出て行った者は死んだ者として扱っている。樹海の外では魔法を使う相手に勝機はほぼ無い。無闇に後を追って被害が拡大しない為の掟だ。よって、掟によりハウリア族は死亡したものとする。すでに死亡したものは処刑できん」

 

 

そう決定された決断にハウリア族は戸惑いを隠せないでいた。そしてゼルもまたその決断に異を唱えるのだった。

 

 

「アルフレリック!屁理屈にもほどが─」

 

「ゼル、分かっているだろう。この少年たちが引くことはない。ハウリア族を処刑すれば確実に敵対する。彼の言う軍団がどれ程の規模なのか分からぬが、どれだけの犠牲が出るか想像できぬわけではなかろう?」

 

「ぐっ…」

 

「──というわけだ。口伝の資格者を歓迎できぬのは心苦しいが……」

 

「気にしないでくれ。全部譲れない事だが、そうとう無茶言っている自覚があるんだ。それと、アンタらが言う魔法を使う相手にほぼ勝機が無いと言ったが、それは違うと言わせてもらう」

 

 

そう告げた後に俺はハジメたちのところに戻って行った。シア達ハウリア族は、未だに自分たちが助かった事に認識するのが出来ずにぽかんとしていた。

 

 

「行くぞシア。俺たちが向かうべき場所に向かうぞ」

 

「雷電があぁ言ってんだ。いつまでも呆けてないで行くぞ」

 

「…ライデンはあなたたちを救った。素直に喜べばいい」

 

 

そうして呆けていたシアは、理解したと同時に目から涙が流れていた。

 

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

「当然だ。お前は俺にとって大事な弟子だ。師たるもの、弟子の成長を見届けずして師とは言えないからな」

 

 

そう聞いたシアは、胸の内に一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 

 

そしてシアは、溜まっていた感情を爆発させ、素直に喜んで今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ライデンに全力で抱きつく!

 

 

「ライデンさ~ん!ありがどうございまずぅ~!」

 

「んなっ!?お…おい!急に抱きつくな!?」

 

「嫌ですぅ〜!絶対に放しません!!」

 

 

泣きべそを掻きながらヒシッとしがみつき顔をグリグリと俺の肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。その時にハジメ達やデルタ分隊は今の俺の状況に対して暖かい目で見守っていた。…いや、見守っている暇があるのならこっちを助けてもらいたいのだが……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶対ハウリア改造計画とフォースの修行

今回の話で、ハウリア族が色んな意味で魔改造されます。


20話目です。


 

 

「…というわけで、これから大樹へ向かうまでの十日間、お前たちには戦闘訓練を受けてもらう」

 

 

俺たちはフェアベルゲンから出た(というよりは追い出された方が正しいが…)後、大樹の近くに俺の技能の一つである“基地プラント生成”で前線基地を設置し、基地の機能を稼働させる為に一個分隊のクローン・トルーパーを召喚して樹海の魔物に対処できるようにオート・ターレットや夜間用照明スポットライトを基地近くに設置し、安全性を確保した後にシア達ハウリア族に告げるのだった。

 

 

「……え…えっと…何故その様な事を?」

 

 

シア達は突然告げられた戦闘訓練の事に余り理解が追いついていなかった。その事を説明する為にハジメが俺の変わりに話した。

 

 

「俺たちがお前たちを守るのは大樹への案内が終わるまでだ。その後のことは考えているのか?」

 

「それはまだ…」

 

「お前たちは弱い。悪意に対して逃げることしかできない。そんな中、故郷(フェアベルゲン)という隠れ家を失った。逃げ場のないお前たちは、魔物や人の格好の餌だ。このままだと間違いなく全滅。せっかく拾った命を無駄に散らすことになる」

 

「そうならない為に、俺たちとデルタ分隊がこの十日間でお前たちを強くさせる。お前たちやシアも何もできないまま殺されたくない筈だ。違うか?」

 

 

俺の問いにシア達ハウリア族は一時沈黙になったが、その沈黙を破ったのはシアだった。

 

 

「──…そんなの…いいわけありません…!」

 

「そうだ!俺たち、弱いままは嫌だ!」

 

「ハジメ殿、ライデン殿、どうか私たちに戦い方を教えて下さい。よろしく頼みます!」

 

 

どうやらハウリア族は強くなりたい決意はある様だ。もとより彼らを強くさせるつもりだ。

 

 

「もとよりそのつもりだ。…早速だが、一時間後に訓練を行う。それぞれコンディションを整える様に…」

 

 

そう告げた後、俺は訓練に必要なブラスターなどの武器を召喚する為に基地に入るのだった。シア達ハウリア族も、訓練に備えて基地に入って一時身体を休めるのだった。

 

 

 

一時間後……訓練開始。

 

 

 

訓練の時間となり、ハウリア族の身体能力を見極める為に俺とハジメ、デルタ分隊で教官することになった。一方のシアはユエによる魔法訓練がある為この場にはいない。

 

 

「これよりお前たちの能力を見極める為に訓練を行う。それぞれに武器を支給するから全員受け取るように」

 

 

そう言って俺はクローン・トルーパーの標準装備であるDC-15Aブラスターを、ハジメは錬成で作った小太刀をカム達に支給した。

 

 

「それぞれ武器を受け取ったな?……どうした?」

 

 

武器を支給させたのは良いものの、カムたちハウリア族が何やらハジメから支給した小太刀……その刃の部分に脅えていた。

 

 

「その…もっと安全な武器はないですかな?」

 

「はぁ!?」

 

「第一声がそれか……かなり重傷の様だな」

 

 

ハジメ、その反応は分かる。それとボス、そう呆れた顔をしないでくれ。だからこそ俺たちは、彼らを強くさせる為に心を鬼にして、彼らを強くさせなければならないのだ。

 

 

「無い。…それ以前にだ、武器というのは戦う為に作られたものだ。確かに非殺傷の武器はあるにはあるが、それでは訓練にはならない。先ず、お前たちの身体能力を見極めると同時におのれの中にある心・技・体を鍛える。精神力、技術、体力を鍛え上げれば、お前たちは強くなる」

 

「雷電の言う通り、飽くまで()()()()()()で強くなるんだ。俺たちはただの手伝い。逃げ出す奴を優しく諭すなんてことはしないからな」

 

「そういうことだ。今度は死に物狂いなるんだ。分かったな?」

 

「「「は、はい!」」」

 

 

とりあえずハウリア族に喝を入れ、そのまま軽く対人、対魔物戦闘訓練を行った。皆自分の危機的状況から色々駆使して生き延びていたか、そこらへんは呑み込みが早かった。これなら順調にいくかと思ったが、肝心の実戦訓練で思わぬ壁に当たってしまい、俺は呆れ、ハジメはイライラの絶頂に達していた。その一つとしては、カムや他のハウリア族が一体の魔物を突き刺して倒すたびに…

 

 

 

 

「ああ…どうか罪深い私を許してくれぇ~」

 

「族長!罪深いのは皆一緒です!いつか裁かれる時が来るとしても、今は立ってください!!」

 

「そうだな…。ネズミっぽい彼の死を乗り越えて、私達は立ち止まらずに前へ進もう!」

 

 

この時に俺はかなり酷いと同時に重症だと察して、理解した。彼らは甘過ぎるのだ。別に情は捨てろとは言わない……だが、これはこれで酷すぎるものだ。

 

 

「予想以上に酷いな……。強くなる以前の問題だ」

 

「分隊長、これはかなり骨が折れそうだ……」

 

「彼らの情が逆にブレーキになっていて成長しにくいようだ」

 

「…こいつはハジメと同様にイライラするな」

 

 

デルタ分隊の辛辣なコメントに俺も同意せざるおえなかった。訓練を続けている最中、カムが突然転んだ。

 

 

「どうした、怪我でもしたか?」

 

「いえいえ…大丈夫です、ハジメ殿。ここに虫の行列があったので危うく踏んでしまいそうになりましてつい…」

 

 

このカムの言葉にハジメの堪忍袋の緒が切れてしまう。無論、デルタ分隊の07ことセヴも同様だった。俺はすぐさま、ドンナーを構えるハジメの怒りを収まらせる為に止む無くフォース・マインドで強制的に怒りを鎮めさせるのだった。

 

 

「落ち着けハジメ。お前が怒りたい気持ちは分かる」

 

「ならどけ、雷電。流石の俺でも我慢の限界だ」

 

「駄目だ、お前だと何かとんでもない方向に行きそうだ。だからさ、ハジメ。()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()…」

 

 

とりあえずハジメを一時的に退場させて、デルタ分隊に教官を任せるのだった。

 

 

「デルタ、すまないが…後は任せる」

 

「了解だ、将軍。デルタ、彼らの教官としての務めを果たすぞ」

 

 

そんな感じでデルタ分隊にハウリア族を任せるのだった。この時に俺はハジメに対してなんて言い訳しようかと考えていた。

 

 

雷電Side out

 

 

 

……ん?俺は確か、ハウリア族の連中の甘さの酷さにブチギレて非殺傷のゴム弾を装填したドンナーを撃ち込もうとした時に……っ!?そう気付いた時には、俺は基地近くに来ていた。雷電のフォース・マインドによって。

 

 

「…おい、雷電!どうして止めたんだ!」

 

「いや…確かに彼らの甘さには酷過ぎると言うことは俺もハジメと同じ考えだ」

 

「…だったら「だからと言って何処ぞの軍曹の真似をして間違った方角にやってしまうと彼らも俺たちが戦った帝国兵と何の変わりはない」…!」

 

「いいかハジメ、彼らに教えるべきは殺しの楽しさなどではない、飽くまで家族や一族、自身の身を守るために戦い方を教えるんだ。そう、彼らが無事に俺たち無しでも生き残れる様、強くなる為に訓練をさせるんだ。それを間違えるな」

 

 

そう雷電が言ってこの場を後にしようとした時、デルタ分隊やハウリア族がいるところからセヴの怒号とハウリア達の悲鳴が飛び交った。

 

 

 

よく聞け、残念駄ウサギ共!死にたくなければ、死に物狂いで魔物を殺せ!死ぬか…殺すかだ!さぁ行け!hurry(早く)hurry(早く)

 

はっはい〜!!?

 

 

 

…向こうではかなり大変なことになっていた。というか、今の怒号はセヴだよな?

 

 

「……なぁ、雷電?」

 

「…知らん。俺は……もう知らんぞ」

 

「…って、おい!最後投げやりかよ!?」

 

 

流石の雷電もこのことは想定していなかった様だ。今の様に最早考えるだけでも頭が痛いような顔をしていた。そうして俺は再び彼らハウリア達の訓練を再開するのだった。そして雷電は、シアのフォースの訓練を行う為に基地に戻るのだった。一応俺はセヴのストッパーとして面倒を見るのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

シア達ハウリア族の戦闘訓練を始めてから三日が経過した。俺はシアにフォースの修行を、ユエは魔力操作の訓練をしていた。現在何をしているかというと、シアが俺に当たるまでの訓練をしていた。無論こちらが回避、反撃を想定しての訓練だ。その時にシアは、ハウリア族同様に気配を殺しながら俺の背後を取ろうとした。

 

 

「隙ありです〜!」

 

「…あまい!」

 

 

俺はフォースの未来予知でシアの動きを読み取っていた。そして攻撃してくるシアにフォース・プッシュで吹き飛ばす。

 

 

「あ〜〜れ〜〜!?」

 

 

シアはまさかのカウンターを喰らうことを想定していなかったのか成す術もなく吹き飛ばされる。しかし、シアはめげずに必死にくらいつく。仕舞いには丸太をこちらに投げつけて来たのだ。

 

 

「でぇやぁああ!!」

 

「…!マジかよ!?」

 

 

俺はフォースでは間に合わないと判断し、ライトセーバーを引き抜いてスイッチを入れ、プラズマ刃を展開して向かってくる丸太を切り裂く。しかし……

 

 

「まだです!」

 

「?…何っ!?」

 

 

切り裂いた丸太に続いてもう一本の丸太が既に投げられていたのだ。対処できないと判断した俺は咄嗟にバックステップで丸太の直撃を避ける。直後、隕石のごとく天より丸太が落下し、轟音を響かせながら大地に突き刺さった。

 

 

 

しかし、そこへ高速で霧から飛び出してきた影が、大地に突き刺さったままの丸太に強烈な飛び蹴りをかました。一体どれほどの威力が込められていたのか、蹴りを受けた丸太は爆発したように砕け散り、その破片を散弾に変えて目標を襲った。

 

 

「くっ…!」

 

 

飛来した即席の散弾は、フォースで横に薙ぎ払って目でシアを探した。すると……

 

 

「もらいましたぁ!」

 

 

既にシアは背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

 

「…フッ!既にそのパターンは呼んでいた!」

 

 

俺はシアにフォース・スロウで動きを停めて、追撃と言わんばかりにフォース・プッシュをシアに向けて放つ。

 

 

「ふぇ!?ちょっ、まっ!あ〜〜れ〜〜!?」

 

 

最終的にシアは吹き飛ばされ、今日の修行はここまでにした。

 

 

「よしっ……今日の修行はここまでにしよう」

 

「うぅ〜、今日もライデンさんに一本も取れなかったです〜…」

 

「……シア、俺のことはマスター(師匠)と呼べといっただろ?」

 

「うぅ、すみません、ライデ……いえ、マスター」

 

 

訓練の二日目以降から、シアとは本格的にジェダイの弟子……本来なら幼い内にジェダイ・イニシエイトとして修行をさせるのだが、今回は特例という形で彼女はジェダイ・パダワンとして修行を行っていたのだ。そのため、シアは師弟子の呼び合いにはなれていなかったのだ。

 

 

「まだなれないかもしれないが、フォースの訓練を始めた時から師弟子の関係になっているだ。お前の内に宿るフォースは既に目覚めいる分、まだ未成熟で危ういんだ。精進を怠らず、気を抜かない様にな」

 

「うぅ〜…はい、マスター…」

 

 

今日の修行のことでまだ引きずっているのか未だにナイーブな気分になっていた。

 

 

「…だが、二段構えの丸太の時は胆を冷やされた。それに…」

 

 

そう言いながらも俺はヘルメットを取り外し、シアの前に自身の首筋のところ見せた。その首筋部分をよく確認して見ると、掠り傷ができていた。先ほどの訓練の時に二本目の丸太をシアが蹴り砕き、無数の破片をフォースで防いだものの、全ては防ぎきれず、一部の破片がヘルメットとアーマーの隙間である首筋部分に掠めたのだ。

 

 

「今回の修行は合格だ。ようやく次のステップに移ることができる」

 

「あっ……ほ…本当です!私の攻撃当たってますよ!あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!」

 

「余り調子に乗るな。そう言う調子じゃ、いつか何処かで転ぶぞ。……それはそうと、次の修行に移るぞ」

 

「えっ?今からですか?」

 

「当たり前だ、まだお前はフォースを感じ取ることができていないんだ。先ずはフォースを感じるのが先だ。その為に先ず、瞑想するんだ。感覚を鋭敏に、精神を研ぎすませるんだ」

 

「は、はいです、マスター!」

 

 

そうして俺はそのままシアのフォースの修行を続行するのだった。

 

 

 

…時が流れて、訓練開始から七日目。

 

 

 

シアが本格的にフォースを感じ取る様になり、この修行において最終段階であるライトセーバーを見つけるという修行だ。本来ならゼロから自身で作るのだが、ハウリア族の家宝がライトセーバーだった為、一部を省略し、シアにはカイバー・クリスタルを組み込んだライトセーバーをフォースの導きで見つけ出すというものだ。

 

 

「シア、お前には俺たちジェダイの半身とも言える()()()を探してもらう」

 

「…?ジェダイの半身……ですか?」

 

「あぁ……本来ならその半身を作るのが正しいのだが、今回は特例だ。お前にはそのある物……基、自身の半身の回収が、お前の最後の修行だ。前の座学でカイバー・クリスタルのことは覚えているな?」

 

「はいです!確かカイバー・クリスタルはエネルギーを収束し、フォースと共振する性質を持っているんでしたよね?」

 

「あぁ、そのクリスタルはお前の半身ともいえる物に組み込んだ。クリスタルはお前のフォースによって共鳴するはずだ。ジェダイがクリスタルを選ぶんじゃなく、クリスタルが俺たちジェダイを選ぶんだ。フォースとクリスタルの導きによってお前が進むべき道を示してくれるはずだ。フォースと共にあれ…シア」

 

「はいです!いってきます、マスター!」

 

 

そうしてシアは自身の半身ともいえるライトセーバーを探しにこの樹海内を探索するのだった。フォースの導かれるがままに……

 

 

雷電Side out

 

 

 

私はライデンさんが言われた通りジェダイの半身とも呼べる物を探していた。しかし、フォースを感じられる様になったとは言え、未だに未熟な私に上手く見つかるかどうか不安だった。その結果、未だにある物を見つけいられずにいました。

 

 

「うぅ〜、最初は張り切っていたのですが、全く見つかる気がしません〜…」

 

 

そのある物を探し始めてから二日が経過して、既に訓練開始から九日目になりました。若干諦めかけたその時に、フォースを通じて何かが呼んでいる気がしました。

 

 

「…何かが、呼んでいる?感じるです……」

 

 

フォースに導かれるがまま、私はその呼ばれている方角に向かうのでした。生い茂る木々の中を抜けて、呼ばれていたと思われる場所に辿り着く。そこには何もなく、無数の木々が生い茂っていた。

 

 

「ここじゃ…ない?……違う。未だに呼んでいる感じがある。……かなり近い?」

 

 

よりフォースを研ぎすませ、呼ばれている場所へさらに奥へと進む。その時にシアはある物を見つける。

 

 

「これは……何かを埋めた後?…それにしてはまだ新しいです」

 

 

巧妙に埋め隠されていた後を見つけた私は、フォースを研ぎすますと、その埋められた場所から私を呼ぶ気配を感じた。

 

 

「ここに…マスターが言っていた私の半身が?」

 

 

その場所を掘り起こしてみると、そこには一つの木箱がありました。作られてまだ新しかったです。その箱の中身を確認するため、そっと開けて見ると、そこには私たち一族の家宝がありました。

 

 

「これは……私たちの家宝?どうしてマスターは私たちの家宝を?」

 

 

そう考えている時に私は、ライデンさんが持っていた光の剣のことライトセーバーを思い出す。そのライトセーバーと比べて見ると、一部の素材や部品、形が違うものの、ライデンさんが使うライトセーバーと似ている気がしました。私はその家宝を剣と同じ様に構え、スイッチを入れると、緑色の棒状の光が出てきました。

 

 

「これって……マスターと同じ?」

 

「…どうやら無事に見つけた様だな」

 

「!…マスター!」

 

 

私がここに来るのを待っていたのか、ライデンさんが突如と現れました。どうしてライデンさんがここに?私の脳裏に疑問が浮かぶばかりです。

 

 

シアSide out

 

 

 

シアは無事にハウリア族の家宝ことライトセーバーを見つけ出せて、俺は内心安堵した。シアは何故俺がこんな所にいるのか疑問に思っているはず。俺はシアに何故ここにいるのかを説明した。

 

 

「……つまりマスターは、私がここに来るまで待っていたのですか?」

 

「そうだな、それを実行したのは今日だったってことだ」

 

「そうですか。…それはそうと、マスターはどうして私たちの家宝がマスターと同じライトセーバーだって分かったんですか?」

 

「あぁ、それか。…それは《ppp…》…ん、通信?少し待ってくれ」

 

 

俺は突然の通信が来た為シアには待ってもらい、俺はその通信に出た。

 

 

《…将軍、フジワラ将軍!》

 

「あぁ、デルタ38。どうした?」

 

《些か面倒なことになった。すぐにこっちに来てくれないか?》

 

「面倒なこと?そっちはハウリア族の訓練を担当していたはずじゃあ…?」

 

《そのハウリア族の訓練に問題が生じた。出来るだけ早く来てくれ》

 

「……分かった。すぐに向かう」

 

 

そう言って俺は通信を切り、シアに今起こっていることを話した。

 

 

「シア、どうやらお前たちの家族に何かしら問題が起きた様だ」

 

「え!…父様達が!?」

 

「とにかく安否を確認するためにもすぐに向かうぞ。いいな?」

 

「はい、マスター!」

 

 

そうして俺たちは急ぎデルタ分隊のところに向かい、デルタ分隊のところに向かう道中ユエと合流し、ユエとシアを連れてデルタ分隊のところに急行するのだった。

 

 

 

デルタ分隊がいる場所に着いた俺たちは、デルタ分隊やハジメと合流するのだった。

 

 

「デルタ、一体何が起きた?」

 

「父様は……他の家族はどうしたのですか?」

 

「将軍にユエ、シアか。待っていたぞ」

 

「それはそうとボス、ハウリア族の訓練で一体何があった?」

 

 

俺は一刻も早く現状を知るべくボスに問い質した。その時にハジメは気まずそうな顔をしていた

 

 

「あぁ…実はな、彼らの教育に失敗した」

 

「失敗?……どう言うことだ、ハジメ」

 

「将軍やコマンダーの言われた通り彼らを訓練をさせたのは良いのですが、訓練初日からセヴが彼らの甘過ぎることにキレてしまい、その結果…「ボスー!戻りました!」…彼らは何か違う方向になってしまったようだ…」

 

 

論より証拠と言わんばかりに、前に見た時によりもよく鍛え抜かれたカム率いるハウリア族達が茂みの中から出て来た。彼らが持っていたのはハイベリアの尻尾だった。それも無数にだ。するとカムが俺を見た瞬間……

 

 

「おぉ、()()。お戻りになられましたか」

 

「……ん?ちょっと待て、カム族長。今、俺のことを将軍と言ったか?」

 

「それなんだよ雷電。セヴが初日に共和国軍クローン・コマンドー式のスパルタ教育の影響か、こいつら全員、完全に兵士になっちまったんだよ」

 

「うぇぇ!?と、父様?何だか口調が……というか雰囲気が……」

 

「それはそうとボス。お題の魔物、ちゃんと狩ってきました」

 

 

カムは混乱するシアを無視し、俺たちの前に無数のハイベリアの尻尾をみせた。どうやら訓練のお題としてハイベリア一体の討伐を彼らにやらせたのだろう。だが、この数は幾ら何でも多すぎだろ?

 

 

「俺は一体でいいと言ったはずだが……」

 

「ええ、最初はそうなんですが、狩っている最中、仲間の群れがわらわらとやって来てこれ以上増えられると面倒だったので纏めて排除しました。その結果がこれです」

 

 

そうは言っているものの、先ほどまで温情だったハウリア族とは打って変わってより統一された軍人そのものになっていた。仕舞いには俺が労いの言葉を送れば、彼らは共和国軍式の敬礼で返してくるのだ。その豹変ぶりに呆然と見ていたシアは一言……

 

 

「……誰?」

 

 

もはやお人好しで温厚だったハウリア族は過去の物になり、今ここにいるのは、多少温厚は残っているものの、スイッチが変わればクローン・トルーパーと同じ兵士と化すハウリア族の兵士だった。

 

 

 

その後の後始末は大変な物だった。シアはハジメやセヴに怒りながらも、“どうしてこうなったのか?”と、樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響いていた。俺はカムたちの様子を見て最早手遅れだと察してしまう。

 

 

「…もう手遅れの類だな、これは……」

 

「将軍、本当に申し訳ない」

 

「…過ぎたことに悔やんだところで、何も戻っては来ない。それに、明日には霧が晴れるそうだ。大迷宮攻略のため、彼らと共に大樹のところに向かわなければならない」

 

 

そうして明日の予定を決めた時に一人のハウリアの少年がスタスタと俺の前まで歩み寄ると、ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。

 

 

「将軍、報告があります!課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

 

 

ハウリアの少年から齎された情報は、俺たちに取って厄介な情報だった。あのフェアベルゲンの一件で、報復する一族が現れてもおかしくはなかったのだ。それが今日になって現れたのだ。

 

 

「……いずれこうなるとは予想はしていたが、よりによって熊人族の族長の仇討ちと同時に目的を目の前にして叩き潰そうという魂胆か」

 

「はっ!宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

 

「まぁ待て。……カム族長、彼らはこう言っているが、いけるか?」

 

 

俺はカムに意見を聞いてみたが、彼もまたハウリア族同様に賛成だった。

 

 

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。なればこそ、我らにご命令を、将軍」

 

 

もはや彼らは戦いに飢えていた。その分危うさがある為に余計に質が悪かった。そこで俺はカムに()()()()を下した。

 

 

「……分かった。やれると言う意気込みは理解した。ただし、その熊人族はブラスターのスタン・モードで無力化しろ。絶対に殺すな」

 

「サー、イエッサー!聞いたな野郎ども!行くぞ!!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

カムの言葉を皮切りに、ハウリア族は俺が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を装着した後、DC-15Aブラスターと小太刀を装備して気配を消しながら熊人族の方に向かうのだった。あの黒いバトル・アーマーとヘルメットはクローンたちの中でも見られない物だった。となると答えは一つしかなかった。

 

 

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 

「もはや、原型がないくらいにな。……それはそうとハジメ。あのハウリア族が装備していた黒いバトル・アーマーとヘルメット、アレは俺でも初めて見るものだ。アレはお前が錬成で作ったんだろ?その辺はどうなんだ、ハジメ?」

 

 

ハジメは俺の問いに“ギクッ”と図星を突かれたのか、額から冷汗が流れ落ちる。シアもそんなハジメに対してジト目で見るのだった。そしてしびれを切らしたのか、ハジメは降参し、俺たちに話すのだった。

 

 

「…分かった、降参だからそんな目で見るな。雷電の言う通り、カムたちが着ていたアーマーとヘルメットは、俺たちの故郷にあるゲームの特殊部隊の兵士が装着していた物を俺なりに再現した物だ」

 

「……因みに、その装備の名は?」

 

「“ヘルジャンパー”。…意味は地獄に飛び込む者だ。彼奴らは俺やデルタ分隊の過酷で地獄のような訓練を受けたことに因んで、俺はあのアーマーやヘルメットを錬成で作ったんだ」

 

「……何か色々とアウトな発言が出て来たが、それは置いとくとしよう。今はカム族長の後を追いかけよう。その他の突っ込み、諸々は後だ」

 

 

そう言って俺たちは熊人族の方に向かって行ったハウリア族を追う為に、デルタ分隊と共に向かうのだった。……何かと嫌な予感がする。

 

 




今回登場したハウリア族の家宝こと、シアのライトセーバーです。
【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一つの貸し、動き出す闇

今回の話で闇の一部が動き出します。


21話目です。


 

 

俺たちはカム族長たちを追って大樹へのルートを進んで行くと、DC-15Aブラスターのスタン・モード特有の音が樹海で響く。戦闘はかなり近いと判断した俺たちは急ぎ現場に向かった。そして到着した時には……

 

 

「ちくしょう!なんなんだこいつら!!」

 

「こんなの兎人族じゃないだろ!」

 

「うわぁああ!来るなっ!来るなぁあ!」

 

 

奇襲を仕掛けようとした相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比なブラスターの非殺傷弾、高度な連携、そして何よりも、ウサ耳が飛び出ている黒いフルフェイスヘルメットで表情が疑えず、冷酷無比を思わせるくらいに無口。それが恐怖へとつながっていた。その全てが激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族に窮地を与えていた。……フルフェイスヘルメットから出ているウサ耳が逆に凄くシュールと思えたのは余談である。

 

 

「うわぁ……これじゃあ一方的なワンサイドゲームだな……」

 

「……怖い」

 

「デルタ分隊、特にセヴ、これを機に反省する様に」

 

「……正直、すまなかった」

 

 

実際、単純に一対一で戦ったのなら兎人族が熊人族に敵うことはまずないだろう。だが、この十日間、ハウリア族は、地獄というのも生ぬるい共和国軍クローン・コマンドー式の特訓のおかげでその先天的な差を埋めることに成功していた。

 

 

 

元々、兎人族は他の亜人族に比べて低スペックだ。しかし、争いを避けつつ生き残るために磨かれた危機察知能力と隠密能力は群を抜いている。何せ、それだけで生き延びてきたのだから。そして、敵の存在をいち早く察知し、気づかれないよう奇襲できるという点で、彼等は実に暗殺者向きの能力をもった種族であると言えるのだ。ただ、生来の性分が、これらの利点を全て潰していた。

 

 

 

そこでセヴが取った行動は、クローン・コマンドー式の特殊訓練を彼らに施したのだ。最初は肉体的にも、精神的にも徹底的に追い詰め、彼らの認識を改めさせた後に、そこから本格的にデルタ分隊やクローン達が受けた軍事訓練を取り組んだ。無論、慈愛や慈悲深さ、温厚を残せるように戦闘態勢になった時には気持ちのスイッチが切り替われる様に感情のコントロールも覚えたのだ。

 

 

 

その結果彼らハウリア族は、日常においてはいつもと変わらない温厚(ただし、口調だけは未だに治らなかった)な一族として振る舞うが、例外が起きた場合はその限りではなくなるのだ。例えると戦闘になった場合、家族や身内に危険が迫るなどが起きれば、彼らの温厚さは消え失せ、より命令に忠実な最強の兵士として、敵対した者は容赦なく排除するのだった。

 

 

 

そんなわけで、パニック状態に陥っている熊人族では今のハウリア族に抗することなど出来る訳もなく、瞬く間にその数を減らし、既に当初の半分近くまで気絶と言う名の無力化されていた。

 

 

「レギン殿!このままではっ!」

 

「一度撤退を!」

 

「ここは私が殿を務めっぐあッ!?」

 

「トントォ!?」

 

 

一時撤退を進言してくる部下に、ジンを再起不能にされたばかりか部下までやられて腸が煮えくり返っていることから逡巡するレギン。その判断の遅さをハウリア達は逃さない。殿を申し出て再度撤退を進言しようとしたトントと呼ばれた部下はブラスターのスタン・モードを受けて気絶してしまう。それに動揺して陣形が乱れるレギン達。それを好機と見てカム達が一斉にDC-15Aブラスターを構えながら熊人族を包囲する。完全に取り囲まれたレギン達。兎人族と思えないくらいに無口且つ、統率された動きと連携で、レギンや他の熊人族は混乱から立ち直れないでいた。中には既に心が折られたのか頭を抱えてプルプルと震えている者もいる。大柄で毛むくじゃらの男が“もうイジメないで?”と涙目で訴える姿は……物凄くシュールだ。

 

 

 

すると赤いラインが入ったヘルジャンパー・アーマーを着たカムが、ブラスターを向けながらそっとレギンの方へ近づいた。その時にレギンは赤いラインが入ったヘルジャンパーがリーダー格であることを理解し、ある事を頼んだ。

 

 

「……聞こえているのかどうかは分からんが、これだけは聞いて欲しい。俺はどうなってもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、部下は俺が無理やり連れてきたのだ。見逃して欲しい」

 

「なっ、レギン殿!?」

 

「レギン殿! それはっ……」

 

「だまれっ!……頭に血が登り目を曇らせた私の責任だ。兎人……いや、ハウリア族の長殿。勝手は重々承知。だが、どうか、この者達の命だけは助けて欲しい!この通りだ…!」

 

 

 

武器を手放し跪いて頭を下げるレギン。部下達は、レギンの武に対する誇り高さを知っているため敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることか嫌でもわかってしまう。だからこそ言葉を詰まらせ立ち尽くすことしかできなかった。

 

 

 

頭を下げ続けるレギンに対するカム達ハウリア族の返答は……

 

 

「………………」

 

 

やはり無言のままだった。しかし…ちがうとすれば、近くにいた他のハウリア族にハンドサインで指示を出していた。デルタ分隊のボスはそのハンドサインを理解していた。

 

 

「……どうやら問題ごとは起きなさそうだ、将軍」

 

「ボス、それは確かか?」

 

「あぁ……あのハンドサインは“警戒しつつ、見張れ”だ」

 

 

ボスの言う通り、ハウリア族はブラスターを向けながらも一定の距離を保ちながら警戒し、熊人族の動きを見張っていた。そして、赤いラインが入ったヘルジャンパー・アーマーこと、カムと思わしき人物がレギン達に背を向け、そのまま俺たちがいる方角に目を向けて通信を入れて来た。

 

 

《将軍、ターゲットの無力化が完了しました》

 

「了解だ。……それはそうと、気付いていたのか?」

 

《えぇ。とはいっても、彼らを包囲した時に気付きましたが…》

 

「そうか、こっちもすぐに向かうから待機しててくれ」

 

 

そう言って俺はハジメ達と共にカム達のところに向かうのだった。

 

 

 

どうにか事が大きくならず、両者共々負傷者は出ず(と言っても熊人族が一方的にやられていたが…)穏便?に済んだのだった。そんな感じで俺はカム達に任務を完遂させたことに褒め称えるのだった。

 

 

「ご苦労だった、よく誰も殺さずに無力化した様だな」

 

「えぇ、将軍の命令なら必ず遂行する所存です。ただ……」

 

「ん?ただ…どうした?」

 

「我々は彼らと交戦し始めた時に、徐々にですが、内心で戦い……いや、殺しを楽しんでいた様に感じました。兵士とは、殺しを楽しむのではなく、義務と使命を果たす者だと。そう内心言い聞かせて、何とか殺しを楽しむ衝動を押し止めていました」

 

 

どうやらカム達は初めての対人戦闘において心のタガが外れない様に押し止めて、何とか熊人族を無力化に成功した様だ。……初めての実戦においてこれは良い成長だと感心したのはちょっとした余談だ。

 

 

「……どうやら嫌な予感は杞憂に終わった様だな」

 

「その様だな。……さてっと、後は()()()()の処遇だよな?」

 

 

ハジメは熊人族の方を見ると、助かったのかと疑問視しながらも迂闊には動けない状態でいた。この時に俺は、ある事を思いつき、ハジメに話した。

 

 

「ハジメ。彼らの件だが、ここは敢えて見逃そうと考えていたんだが……ハジメはどうだ?」

 

「奇遇だな、俺もこいつらを見逃そうと考えていたところだ」

 

 

どうやら本当に奇遇でハジメとの意見と一致した様だ。そうして俺たちは熊人族のリーダー格に近づき、告げるのだった。

 

 

「一つ聞きたい。お前がこの部隊のリーダーか?」

 

「あ…あぁ……俺は熊人族の族長ジンの右腕、レギン・バントンだ。この部隊の隊長を務めている」

 

「そうか。……なら、これだけは告げよう。俺たちはお前たちを見逃すことにした」

 

「何っ!?俺たちを見逃す……だと?」

 

 

熊人族の隊長ことレギンは、俺が言った言葉に疑問に思った。何故我々をあえて見逃すのかを。その時にハジメは見逃すかわりに条件を付け加える。

 

 

「その代わりと言ってはなんだ。見逃す条件として、フェアベルゲンの長老共にこう伝えろ。“貸し一つ”──てな」

 

 

“貸し一つ”という言葉は、今回の不予の騒動を見逃す変わりに次はないという意味であったことを理解したレギンは当然逆らうことなく、従うしかなかった。

 

 

「──っ、わ…分かった…」

 

「伝言はしっかりとな。もし取り立てに行った時、惚けでもしたら…」

 

 

 

「その日がフェアベルゲンの最後だと思え、いいな?」

 

 

 

「……!!」

 

 

このような会話を見ていた俺は、もはやハジメは一種の借金取り立てのヤクザかテロリストの類にしか見えなかった。完全に悪役的な感じだった。ハウリア族により心を折られ、レギンの決死の命乞いも聞いていた部下の熊人族も反抗する気力もないようで、悄然と項垂れて帰路についた。若者が中心だったことも素直に敗北を受け入れた原因だろう。レギンも、もうフェアベルゲンで幅を利かせることはできないだろう。一生日陰者扱いの可能性が高い。だが、理不尽に命を狙ったのだから、むしろ軽い罰である。

 

 

 

霧の向こうへ熊人族達が消えていったのを見届けた俺たちは、一旦前線基地に戻ってデブリーフィングを行った。

 

 

「さて、今回の訓練九日目でお前たちが強くなったのは分かった。しかし、こちら側にも不備があったことに謝罪しなければならない」

 

「いえ、もし将軍達が我々に戦闘訓練をしてくれていなければ、今頃我々はどうなっていたことか……」

 

「そう言ってくれるだけでも幸いだ。それと、教官担当をしていたデルタ分隊のセヴからお前たちに言いたいことがあるそうだ」

 

 

そう言って俺は席を外し、変わりにセヴがハウリア族の前に立った。

 

 

「……あ〜まぁ、なんだ?今回は俺が悪かった。お前たちを短期間で仕上げるためとはいえやりすぎた。そこは俺のミスだ。すまなかった」

 

 

ポカンと口を開けて目を点にするカム達。まさかコマンドーのセヴが素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があった。

 

 

「きょ…教官が謝った!?」

 

「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」

 

「教官!しっかりして下さい!」

 

 

故にこういう反応になる。青筋を浮かべ、口元をヒクヒクさせるハジメ。仕舞いにはドンナーに非殺傷弾のゴム弾を装填し、容赦なく引き金を引いて無理矢理黙らせた。その結果、ハジメの怒りを鎮めさせる為に基地内のクローン達でハジメを押さえ込んだのであった。……ハジメ、いくら何でもブチギレてドンナーでぶっ放すのはどうかと思うが……

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方のハイリヒ王国ではここ数日間、色々なことがあった。ハイリヒ王国に謎の飛行物体が襲来して来て、王国内ではパニックになっていたが、清水が謎の飛行物体こと、将軍が俺たちの為に増員や補給物資などを積んだ低空強襲トランスポートことガンシップが、ここにやって来たことを理解した。因みにその増員というのはARCトルーパーのことだった。

 

 

 

事実上、将軍の生存は確定したものの、未だにハジメの死亡は変わらなかった。ハジメは未だに生存しているのにも関わらずにだ。しかしARCトルーパーのキャプテン・フォードー曰く、今はまだハジメのことは語るべきではないとのことだった。

 

 

 

それと、迷宮を攻略をしつつも生徒達は確実に強くなっていた。ある日を境に迷宮攻略を一時中止して王宮で休むことになった。もっとも、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかった。王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。何でも、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという。

 

 

 

何故、このタイミングなのか気になったが、俺は余り深く考えないことにした。その後どうなったのかというと、割愛を入れて説明するとこうだ。

 

 

1.帝国の使者達がベヒモスを倒したと言われる勇者の実力を測ろうとして天之河に模擬戦を所望し、天之河はこれを受けた。……実際は清水がベヒモスを倒したのだが、明らかに面倒ごとが起きると想定していたが、帝国の使者は清水には眼中になかった様だ。少しばかり複雑ではあったが、何とか面倒ごとは避けられてほっとした清水の姿があったのは余談だ。

 

2.模擬戦を行った結果、天之河は未だに対人戦闘になれていない為かものの見事に惨敗。しかも、その使者の正体がヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人であった。

 

3.その後に俺たちクローン・トルーパーの存在に気になったのか、ガハルドが今度は俺たちに手合わせを所望した。その時に天之河が反対したが、ガハルド曰く、ただの子供に興味はないと天之河の意見を無視した。俺たちは厄介な皇帝に目をつけられたことに面倒くさがった。なお、次のも義戦においてキャプテン・フォードーがガハルドの相手をすることになった。

 

4.模擬戦でガハルドと戦うことになったキャプテン・フォードーはDC-17ハンド・ブラスターをスタン・モードに設定した後、模擬戦が開始された数秒後、キャプテン・フォードーはハンド・ブラスターでガハルドを気絶させた。圧倒的な文明の差により、キャプテン・フォードーの圧勝だった。

 

5.あの後、皇帝ガハルドは俺たちクローンの存在を気に入り、皇帝直々の配下にならないかと誘われるが俺たちは否定した。既に俺たちは共和国に忠誠を誓っている為に鞍替えなどは有り得なかった。しかし、それでもガハルドは諦めきれず“いつでも待つ”と一旦引き下がって俺たちが帝国に来るのを待ったそうだ。

 

6.因みに、模擬戦の後にガハルドとその部下達は王宮で泊まり、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も“まぁ、焦らんさ”と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事になったわけではなかったが、その時、光輝を見て鼻で笑ったことで光輝はこの男とは絶対に馬が合わないと感じ、しばらく不機嫌だった。雫の溜息が増えたことは言うまでもない。

 

 

……以上が、この数日間で起きた出来事である。

 

 

 

帝国の使者こと皇帝の来訪から数日後、俺たちクローンは新たに増員されたARCトルーパーの再編成と同時に、迷宮攻略から降りるものがいるかどうか生徒たちに聞いてみたところ、意外なことに清水が名乗り出たのだった。清水曰く、“俺がベヒモスを倒したのがバレると色々と面倒だから”だそうだ。そうして清水は増員と補給物資を運んで来たガンシップに乗り込むのであった。向こう側にいる兄弟達の増員として。

 

 

「それじゃあ、気をつけろよな。向こうにいる兄弟達に“よろしく”と言っておいてくれ」

 

「分かってるよ。…ところで今更なんだけど、君の名前……というより、ニックネームとかはないの?」

 

「悪いな、生憎と番号が俺の名前なんだ。今まで考えてことはなかったもんでな、思いつこうにも中々思いつかない」

 

 

殆どは“トルーパー”か、“お前”としか言われなかったから余り気にはしなかったが、どうやら清水は気になる様だ。

 

 

「そっか。……じゃあ、その番号って?」

 

「あぁ、CT-1373だ。それが、俺の番号だ」

 

 

その番号を聞いた清水は、数十秒間考え、そしてあるニックネームを思いつく。

 

 

「…あっそうだ!1373の番号に因んで、イザナミ(1373)ってのはどうかな?」

 

「イザナミか……少し変わった名前だが、悪くはないな」

 

「そろそろ出発する。離陸を開始するから離れてくれ」

 

 

すると出発の時間になったのかクローン・トルーパー・パイロットが俺に退避する様に呼びかける。俺は少し下がった後に清水にニックネームのことをくれたことに感謝するのだった。

 

 

「清水、ニックネームをありがとな。気をつけてな」

 

「あぁ。……この場合こう言うんだっけ?フォースと共にあれ、イザナミ」

 

「お前もな、清水」

 

 

そうして清水が乗るガンシップは離陸し、そのまま畑山教頭がいる場所に向かうのであった。そして俺は、再び任務に戻るのだった。

 

 

CT-1373改め、イザナミSide out

 

 

 

俺は友であるイザナミと別れた後、俺が乗っているガンシップは愛子先生がいる場所に向かっていた。…何故俺が迷宮攻略から降りたのかというと、他の皆やクローン達に話してはいないのだが、実は俺にある勧誘を受けていた。その勧誘というのは、()()()からの魔人族側の勇者としての勧誘だった。無論、俺はその勧誘を断った。しかし、何かと嫌な予感がしたため、俺は逃げる形で愛子先生のところで一時的に身を隠すことにしたのだ。

 

 

「……とはいえ、何か気まずいなぁ〜」

 

 

そう呟く以外に他はなかった。今のところ快適な空の旅を送っているが、その安全の旅が危険な旅に早く変わったのは、一つの警報だった。

 

 

「うわぁっ!?な…何だ!?」

 

「敵襲だッ!清水、吊り手に掴まれ!かなり揺れるぞ!」

 

「はっはい!!」

 

 

俺は言われた通り、吊り手に捕まって衝撃で姿勢が崩れない様にした。すると、ガンシップ内で強い揺れが襲った。この時に俺はある疑問を抱いた。低空2000mで敵の攻撃を受けいるのかと。ガンシップの大気圏内の最大速度は620kph。この異世界のドラゴンを撒けるくらいの速度を誇るはずのガンシップは、今現在、正体不明の敵に襲われているのだった。すると一人のクローン・トルーパーがパイロットに敵は何者なのか問い出した。

 

 

「パイロット!敵はなんだ!?一体何に襲われている!?」

 

「ちょっと待ってくれ!今調べて…!?……嘘だろ、おい?」

 

「おい、どうした!敵は何なんだ!」

 

()()()()だ!それも、ヴァルチャー級スターファイターに追われている!!」

 

 

パイロットから告げられた言葉に俺は固まった。ドロイド……それもパイロットが言うにヴァルチャー級スターファイターだった。ヴァルチャー級スターファイターいえば、彼らクローン達が対立している独立星系連合の主力スターファイターのドロイドだ。…何故、独立星系連合のドロイドがこの世界にあるんだ?そう考えている時に、前より強い衝撃がガンシップ内に伝わった。

 

 

「撃たれた!…高度を維持できない、不時着を試みる!!」

 

「クソッタレ!…清水ッ!これから不時着するぞ!」

 

「……おいおい、嘘だろっおい!?」

 

 

余りにも急過ぎる展開に、俺は状況の整理が追いつかなかった。しかし、分かっていると言えばこのガンシップは間もなく不時着することだった。俺は吊り手を話さない様にしっかりと掴んで、助かる様に祈るしかなかった。

 

 

「不時着する!総員、衝撃に備えろ!!」

 

 

そう告げられた後、ガンシップは地面についた瞬間、左ウイングが地面の衝突の影響で折れてしまい、そのまま船体斜めって傾いた形で不時着するのだった。

 

 

 

俺が目を覚ました時にはガンシップが不時着して、ガンシップ内のクローン達の姿がなかった。残っていたのは精々DC-15Aブラスターくらいだった。奇跡的に生き残った俺は一体どれくらいの時間が経ったのか考えたが、分からなかった。このままこの場にいては行けないと判断した後、行動は早かった。不時着し、大破したガンシップからブラスターと少なからずのカートリッジと食糧をクローン達のバックパックに詰め込んだ後、ガンシップから出て、この場から離れようとした。その時に、目の前にこの異世界じゃ見られないはずの黒いアーマースーツと変わったフルフェイスヘルメットを装着した人物がいた。

 

 

『驚いたね。中々思いがけない人物と会えるとはね?エヒトに召喚された勇者の一人じゃないか…』

 

「嘘…だろ……!?」

 

 

俺はこの声の主こと、この人物を知っていた。スター・ウォーズの世界、惑星マラコアで元シス卿のダース・モールによって殺されたはずの七番目の尋問官。

 

 

「帝国尋問官……セブンス…シスター…!」

 

『おやおや、私や他の尋問官のことを知っている様ね、坊や?』

 

 

この時に俺は危機感を覚えたのか、無意識の内にブラスターを向けて、その引き金を引いていた。しかし、セブンス・シスターは“ダブル=ブレード回転式ライトセーバー”を取り出してプラズマ刃を展開し、ブレード放出口を回転させてブラスターから放たれたエネルギー弾を弾く。

 

 

『悪いけど余り遊んでいられないのよ、坊や』

 

「何?…うぉぁっ!?ガァッ!!」

 

 

俺はセブンス・シスターのフォースによってガンシップに叩き付けられた。セブンス・シスターはフォースで俺のことを拘束しつつも独特のフルフェイスヘルメットのバイザー部分が開く様に展開し、その素顔を俺の前に晒した。

 

 

「フッフッフッ……私たちの存在を知っておいてなお、武器を向けるなんてね?だが、丁度いい()が見つかって、こちらとしても都合がいいね…」

 

「ぐっ……何…を……!」

 

「フフッ……坊やが気にする必要はないわ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ガンシップに叩き付けられた影響もあってか、俺の意識は朦朧としていた。そして何よりも、セブンス・シスターの言葉に従わなければならない衝動が走った。俺は抵抗しようにも、フォースに抗う術を持っていないため……

 

 

「俺は…尋問官……の為…に…尽くす……」

 

 

その言葉を皮切りに、俺は意識を手放してしまう。この先に俺はどうなるのか分からないまま……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大樹の秘密、町での下準備

若干スランプになりかけましたが、何とか投稿しました。


22話目です。


 

 

シア達ハウリア族の戦闘訓練を始めてから既に十日が経過して、それぞれの訓練を終えるのだった。シアにいたっては、俺とユエ曰く、魔法適性はハジメや俺と変わらないが、身体強化に特化しており、今のシアが最大値に強化したとして俺とハジメで比べるなら、強化していないハジメの六割くらいで、俺の場合はフォースの恩恵で身体強化をつけて二割くらいだ。

 

 

 

しかし、シアがフォースの修行により、フォースを感じる様になってからその戦闘力が飛躍的に向上した。フォースの身体強化を足して俺たちと比べると本気のハジメの三割くらいで俺のは六割だった。しかも鍛錬次第ではまだ上がる様だ。正直にいえば化け物レベルの成長速度だった。素直に彼女の成長を喜ぶべきだろうが、これはこれで複雑な感じだった。

 

 

 

そんなこんなで俺たちは、丁度霧が晴れる日にカム達ハウリア族に大樹の道案内のもと、大樹に向かっていた。そしてある程度歩いていると、カムが目的が見えて来たことを報告して来た。

 

 

「将軍、コマンダー、大樹が見えてきました!」

 

「よし、でかした!最後まで気を抜くなよ?」

 

 

そうして俺たちは目的である大樹ウーア・アルトに到着した。俺たちはその大樹を見た時にこの様な反応だった。

 

 

「「……何だこりゃ(これ)?」」

 

 

という驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエも、予想が外れたのか微妙な表情だ。俺やハジメ、ユエは恐らく同じこと考えていたのだろう。大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していたのである。しかし、実際の大樹は見事に枯れていたのだ。

 

 

 

大きさに関しては想像通り途轍もない。直径は目算では測りづらいほど大きいが直径五十メートルはあるのではないだろうか。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

 

「フェアベルゲン建国前から枯れているらしいのですが、朽ちることはないらしいです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。…とはいえ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

 

俺たちの疑問顔にカムが解説を入れる。それを聞きながらハジメは大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた。

 

 

「ハジメ…これ…」

 

「あぁ、オスカーの紋章と同じだ」

 

 

ハジメ達の言う通り、その石盤にはオスカーの紋章や他の解放者の紋章が描かれていた。

 

 

「ここがもし大迷宮の入り口と言うのなら、何かしらの仕掛けがあるはずだが……」

 

 

そう言って俺は石盤の裏側を調べて見ると、表の七つの文様に対応する様に小さな窪みが開いていた。その小さな窪みは、オルクスの指輪が入るくらいのサイズだった。

 

 

「ハジメ、オルクスの指輪を出してくれ」

 

「雷電、何かあったのか?」

 

「恐らく、入り口を出現させる仕掛けらしきものを発見した。もしかしたら…」

 

 

そうしてハジメからオルクスの指輪を受け取り、オルクスの指輪を表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めてみる。

 

 

 

すると……石板が淡く輝きだした。

 

 

 

何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 

“四つの証”

 

“再生の力”

 

“紡がれた絆の道標”

 

“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

 

 

「……どういう意味だ?」

 

「“四つの証”は…他の迷宮の証…?」

 

「…かも知れないな。オルクスの指輪がそうであるなら、他の迷宮にも同様の証があるはずだ」

 

「“紡がれた絆の道標”は亜人の案内人ってことじゃないですか?」

 

 

それぞれの意見をまとめて整理してみたが、どうにも引っかかるのは“再生の力”だった。

 

 

「“再生の力”はユエの再生能力か?」

 

「私の再生能力とは違うみたい。…ということは、再生に関する神代魔法…?」

 

「再生…か。…となると、この枯れ果てた大樹と石盤に書かれていた再生の力、何かしらの共通点でもあるのか?」

 

「かも知れねえな。まあ、今すぐ攻略は無理ってことか……面倒だが仕方ない、他の迷宮からあたるか。先に三つの証を手に入れよう」

 

「んっ…!」

 

「…だな」

 

 

こうして俺たちの新たな目的として、残りの三つの大迷宮を攻略することになった。ハジメはハウリア族に集合をかけた。

 

 

「というわけで、俺たちは他の大迷宮を目指すことにする。大樹のもとへ案内するまで守る約束も、これで完了だ」

 

「今のお前たちでも、フェアベルゲンの庇護がなくても生きていけるだろう。俺たちとはここで別れることになる。しかし、お前たちには別の任務を与える」

 

「別の任務……ですか?」

 

「お前たちには、俺が設置した前線基地に所属してもらう形で基地を守ってもらう。その基地にいるクローン達の鍛錬の相手をしてやってくれ」

 

「イエッサー。将軍、コマンダー、どうか娘のことよろしく頼みます」

 

 

カムはシアのことを俺たちに託して、俺からの任務を受諾するのだった。その時にシアがあることを俺に伝えようとした。

 

 

「あ…あの!ハジメさん、マスター…改めてお願いがあります!わ…私を「旅の支度するぞ、シア」…えっ?まだ何も言ってませんけど…」

 

「お前が言いたいことは分かっている。どの道、お前を連れて行くことは雷電が決めていたことだ。俺がどうこう言うつもりはねえよ」

 

「まぁ、そう言うことだ。修行を終えたとはいえ、お前はまだパダワンだ。だからこそだ、シア。俺たちの旅はお前が想像している以上に過酷なものだ。それを覚悟の上か?」

 

 

そう俺が問い出すと、シアは何やらもじもじとしながらも答えようとした。

 

 

「その事は覚悟の上です。ですが、本当はもう一つの理由があります」

 

「もう一つの理由?」

 

「そ、それはですねぇ、それは、そのぉ……」

 

 

シアがもじもじしてしまっている所為か、上手く言葉を伝えることが出来ずにいた。上手く言えない自分にしびれを切らしたのか、シアが“女は度胸!”と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

 

「あぁ、もう!この際師弟子の関係を抜きにして言います!私は、ライデンさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!」

 

「……えっ?」

 

 

シアが途中で噛んでしまったが、俺には理解できた。大胆で、予想外な告白に俺の思考が一時的に止まってしまった。俺が好き?友としてではなく、異性として?ますます判らなくなってしまった俺は、しばらくして漸く冷静さを取り戻した。

 

 

「シア、自分が何を言っているのか分かっているのか?そもそもジェダイは「別にいいじゃねえか、今更…」…おま、ハジメ!?」

 

 

まさかのハジメから、シアの告白を後ろから後押しするかのようにフォローを入れて来たのだ。

 

 

「雷電、お前の言いたいことは分かるが、飽くまでそれは前世の頃ジェダイの(ルール)の話だろ?だが、この世界にジェダイの掟は存在しないし、別にいいじゃないのか?同じ掟に縛られなくても?」

 

「……しかしだな、ハジメ。俺はこれでもジェダイの騎士だ。掟は守らなければ「アナキンだって掟を破ってまででも、パドメと秘密の結婚をしていたんだ。それこそ今更だろ?」ぬぅ…」

 

「まぁ……もう一つ付け足すなら、オルクス大迷宮の奈落での仕返しだな。雷電、お前もそこのウサギに食われちまえ」

 

「ハジメ……お前な、少しばかり根に持ち過ぎだろ!?」

 

 

どうやらハジメはオルクス大迷宮の六十階層のアルラウネ擬き戦後、セーフティー・ルームで俺がユエの吸血を許可して、その血を沢山吸われたことを根に持っていた様だ。その意図返しとしてハジメは俺とシアをくっつけようとしたのだった。正直に言えば前世もそうだったし、俺たちジェダイは感情を自制することを掟により義務付けられているのだ。

 

 

 

だからこそ、シアの気持ちを分からなくはない。しかし…シアの場合は何時からなのかは分からないが、シア()()()好意は理解しているものの、俺自身()()()好意は理解せぬまま告白して来たのだ。俗にいう一目惚れというものだろう。だが、ジェダイの掟がある為にシアの思いを裏切ることになることだと分かっていても、シアの思いを裏切りたくないと思う俺がいる。これが何なのか俺自身にも分からなかった。色々なことがあったものの、俺の中の何かは後で考えることにしてシアの告白はしばらく待ってもらうことにしてもらった。

 

 

 

そんなこんなで俺たちは、樹海の境界でカム達の見送りを受けた俺たちは、再び魔力駆動二輪とスピーダー・バイクに乗り込んで平原を疾走していた。なお、シアは俺が乗っているスピーダーのサイドカーに乗っている。今後の方針として、現在確認されている七大迷宮は、“ハルツィナ樹海”を除けば、“グリューエン大砂漠の大火山”と“シュネー雪原の氷雪洞窟”である。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になるのは確定であるため、グリューエン大砂漠の大火山に向かうべきなのだろうが、偶然にもライセン大峡谷にも大迷宮があるのでついでとしてライセン大峡谷にある“ライセン大迷宮”に向かうことを決めた。そうと決めた俺たちは先ず、資金や食糧を確保する為に地図に書かれてある“ブルックの町”に向かうのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

町が見えて来たのと同時に町の方から俺たちを視認されない様に俺たちは乗り物から降り、宝物庫で乗り物を収納した後に徒歩に切り替え、そのまま町の方に向かった。……流石にバイクや雷電のスピーダーで乗り付けては大騒ぎになるだろう。この時に雷電が俺に大事な話があると言ってきた。

 

 

「ハジメ、この町に入る時にステータスプレートが必要になるはずだ」

 

「何だよ今更?そういうのはメルド団長から聞いたから問題ないだろ?」

 

「……すまない、少し言葉が足りなかった。そのステータスプレートなんだが、自身の能力値を示す様になっているだろ?」

 

「あぁ、確かにそうだが。一体、何が言いた……あっ」

 

 

この時に俺は気付いた。俺たちのステータスの数値は軽く一万超えなのだ。これは普通の人間の数値ではない。

 

 

「……じゃあどうすんだ?無難にステータスプレートが壊れたと言って誤摩化すか?」

 

「それしかないな。それとシアだが、フェアベルゲンの族長が言っていた様にこの世界は亜人族にとって優しくないからな。一応彼女は表向きには奴隷兼剣術の弟子として振る舞ってもらうつもりだ」

 

「そっか。……んで、デルタ分隊はどうすんだ?」

 

「彼らについては正直に話すしかないだろうな。この世界では人の形をした使い魔は、ある意味で異例かもしれないが……」

 

 

そんな形で町に入る前の誤魔化す為の言い分を考えた後、雷電がシアやデルタ分隊に町に入る為の事情を説明した後に俺たちは再び町に向かうのだった。

 

 

 

町に向かって歩き始めてから数十分、遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男が俺たちを呼び止めた。

 

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

「食糧の補給がメインだ。後、素材の換金をしたい」

 

「ああ、それなら冒険者ギルドに行くといい。町の簡単な地図をくれるから役立つはずだ」

 

「それは親切にどうも。……あぁそれと、さっき渡したステータスプレートなんだが……些か面倒なことになってな」

 

「ステータスプレートに?いったいどういう……ん?なんだこのステータスプレート…」

 

 

門番は俺たちのステータスプレートを見てギョッとなっていた。……雷電の言う通り、俺たちのステータス値が異常なために引き気味になってしまうのもこの世界の住人に取っては無理もない。

 

 

「全ステータス値が一万超え…?技能もいったい幾つあるんだこれ……」

 

「そう……それなんだ。俺たちは宿場町ホルアドにあるオルクス大迷宮で修行をしていたんだが、その時に魔物に不意をつかれて、壊れてしまったんだ」

 

「…理屈的には分かるが、そんな壊れ方は聞いたことないが…」

 

「もし壊れていなければステータス値の表示が正しく表示されるはずだ。一万超えの人間だったら、もはや俺たちが化け物の類いみたいじゃないか」

 

「…そうだよな。こんなんじゃ指一本で町が滅ぼされちまう。…で、そっちの六人のプレートは?」

 

 

案の定、門番はユエたちにプレートのことについて聞き出そうとした俺と雷電は手筈通りにユエとシア、デルタ分隊のことを話した。

 

 

「連れはその…さっき雷電が言っていた魔物の襲撃で無くしちまってな」

 

「そしてこっちの兎人族はステータスプレートを持っていない。一応この兎人族なんだが、俺の剣術においての一番弟子なんだ。そんな弟子の安全策としては皮肉かもしれないが……理由は分かると思うが……」

 

「…なるほど。確かに皮肉ではあるが、それが安全であることには変わりないな。それにしても、上手いこと綺麗どころを手に入れたな」

 

「茶化さないでくれ。…それと残りの彼らなんだが、彼らは俺の技能にある“クローン軍団召喚”で召喚した兵士だ。もとよりステータスプレートは存在しないんだ」

 

 

その事を聞かれた門番は、更にギョッとしてデルタ分隊の方を見た。クローンと言う言葉は聞き覚えがない為か、かなり困惑していた。その時にデルタ分隊のボスが雷電に声をかける。

 

 

「将軍、我々はここで待機いたしましょうか?我々の装備やアーマーは他の者たちにとって異質だ」

 

「駄目だ。ここで野宿させるわけにはいかない。そうなってはこの門番や町にも迷惑がかかる。それだけは避けたい」

 

「しかし将軍…「…はぁ、分かった」…ん?」

 

 

雷電とボスが話し合っている時に門番が何かと考えるの止めたのか、俺たちに告げた。

 

 

「とりあえず町に通っていいが、出来るだけ騒ぎを起こすなよ?こっちも面倒ごとは勘弁だからな」

 

「…感謝する」

 

「まぁ、本当に騒ぎを起こさないでくれよ?それとギルドに向かうなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。そんで改めて……ようこそ“ブルック”へ」

 

 

門番から町に入る許可を得た俺たちは、門をくぐり町へと入っていく。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

 

 

こういう騒がしさは訳もなく気分を高揚させるものだ。俺だけでなく、ユエや雷電も楽しげに目元を和らげている。しかし、シアだけは先程からぷるぷると震えて、涙目で雷電を睨んでいた。

 

 

「うぅ…マスター、幾ら何でもこれはあんまりです〜」

 

「……シア、町に向かう時に言っただろう?奴隷でもない亜人が普通に町を歩けるはずがない。兎人族の女であり、容姿とスタイルは抜群。それを狙ってお前を狙う輩が少なからずいるんだ。それを防止する為に皮肉ではあるが、奴隷という立場を利用したんだ。奴隷と示してなかったら恐らく何回も人攫いに合うはずだ。そうなっては本当に面倒な…って、どうしたんだ?そんなにデレて」

 

「も…もう、こんな公衆の面前で何を言い出すんですかぁ、マスターは。世界一可愛くて魅力的だなんて…」

 

 

シアは本当の意味で残念ウサギになっていて俺やユエはただ呆れる他無かった。雷電にいたっては複雑そうにこう思っていたかもしれない。“駄目だこいつ、早く…何とかしないと…”ってな。そんなこんなでメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。俺たちは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ギルド内はかなり清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々酒は置いていないのかもしれない。酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。そして案の定、他の冒険者からの視線を感じた。中にはユエやシアに興味を持った視線もだ。デルタ分隊に関してはこの世界に取って珍しい鎧ことカターン級コマンドー・アーマーに興味を持つ者もいた。

 

 

 

そんな視線を無視しながらもカウンターに向かうとそこには中々元気で恰幅の良い中年女性の姿があった。

 

 

「冒険者ギルドブルック支部にようこそ!ご用件はなんだい?見たところ2:2って感じだけど、そっちのは別かい?」

 

 

この中年女性こと受付嬢は俺たちの関係性を一発で見抜いたことに俺やハジメ、デルタ分隊も内心驚いていた。ハジメは頬を引き攣らせながら何とか返答する。

 

 

「まぁ…彼らの場合は特殊というか何ていうか…」

 

「彼らは俺の部下だ。少し訳ありなんだが、聞かないでくれると何かとこちらも助かる」

 

「分かった、そういうことにしておくよ。…それはそうと、改めてご用件はなんだい?」

 

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

 

「はいよ、買取だね!じゃあ先ず、ステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「ん?買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

 

ハジメの疑問に“おや?”という表情をする中年受付嬢。

 

 

「必要じゃないけど冒険者と確認できれば一割増で売れるよ。さっきの反応からして、アンタたち新人?」

 

「…まぁ、そんなところだな」

 

「ならうちで冒険者として登録できるよ。買取りと一緒にやっとくかい?」

 

「せっかくだ、お願いしよう。そんで、買取りはここでやってくれるのか?」

 

「あぁ、そこに出してちょうだい」

 

 

そういってハジメは樹海で倒した魔物の素材を中年受付嬢の前に出した。すると中年受付嬢はハジメが出した素材に驚いていた。

 

 

「なっ…!…これは樹海の魔物の素材じゃないかい…!?」

 

「此処……というより、世間的に珍しいのですか?」

 

「そりゃあねぇ、樹海なんて並の冒険者じゃ命がいくらあっても足りないよ。しかし、此処での買取りでいいかい?もっと大きい町ならもう少し高く売れそうだけどね」

 

「いや、気遣いはありがたいがここで構わない」

 

 

他の大きな町ならば少しばかり高く買い取ることができたが、今の俺たちに必要な物は食糧と資金だ。…一応この世界のお金こと“ルタ”は、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。この貨幣価値は俺たちが元いた地球の日本と同じだったことに内心驚いた。

 

 

 

そう考えているうちに中年受付嬢が全ての素材の鑑定を終えたのか、金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。

 

 

「冒険者登録もしておいたからね。後、この町の簡素な地図もサービスで付けとくよ」

 

「あぁ、色々と助かるよ」

 

「おすすめの宿や店も書いてあるから参考にでもしなさいな」

 

 

そう中年受付嬢から地図を受け取った俺たちはその地図を見てみた。その地図はより正確に書かれており、立派なガイドマップとして使えるくらいだった。

 

 

「ここまで正確に……これは簡素ではなく、完璧の間違いではないのか?このマップでも十分売り物として使えると思えるが?」

 

「構わないよ。あたしが趣味で書いているだけなんだから。それよりもいい宿に泊まりなよ!その二人を見て暴走する男連中がでそうだからね!」

 

「忠告、感謝します。……ハジメ、資金を無事に確保出来た訳だし、あの人の言う通りいい宿を探そう」

 

「…だな。先ずは宿探しから始めるか」

 

 

資金を無事に確保した俺たちは、中年受付嬢の言った様にこの町のいい宿を探す為に宿を探しに歩き回る。……それにしてもあの中年受付嬢は他ならぬ何かを感じたが、あれは恐らく長年で職務を全うし、それで得た経験者の何かかもしれない。そう思いながらもハジメ達と宿を探すのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新しい装備とライセン大迷宮

FF7REMAKEをやっていたお陰で遅れてしまった。本当に申し訳ない。


23話目です


 

 

ギルドのオバチャンから簡素な地図……というよりもガイドブックと称すべきそれを貰ってから俺たちは、ガイドマップに書かれてある“マサカの宿”を目を通した。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。若干、何が“まさか”なのか気になったというのもあるが……

 

 

 

雷電たちと相談し、その結果俺たちはマサカの宿に向かうことになった。そして宿に到着し、中に入るとその宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

 

「いらっしゃいませー!ようこそ“マサカの宿”へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」

 

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

 

俺が見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

「…一泊で頼む。(つーか、今更かもしれねえが、あのオバチャンはキャサリンって名前だったのか?)」

 

「……どうした、ハジメ?」

 

 

雷電は俺が何処か遠い目をしていることに気付いた様だった。その時に雷電は俺に声を掛けたが、俺は“何でもない”と答えるのだった。すると女の子が俺たちにあることを告げる。

 

 

「え、え〜と…その…お部屋なんですが…。その大人数だと二人部屋と三人部屋が空いていまして…」

 

「あぁ…部屋割りか。デルタを含めて計八人いるとしてだ、デルタ、お前たちは?」

 

「そのことなんだが、一つの三人部屋にはスコーチ、フィクサー、セヴの三人だ。将軍は?」

 

 

ボスがそう言った後に雷電は残りの部屋割りについて話した。

 

 

「その事なんだが、俺とハジメ、ボスは三人部屋にしようと考えている。ハジメは?」

 

「俺はそれで構わないが……」

 

「……ダメ。二人部屋三つで」

 

「わ…私も同じですぅ!」

 

 

何やらユエとシアは雷電の部屋割りに不服だった。ユエからして案の定、俺と色々とするつもりだったらしい。シアはシアでマスター云々より恋人でありたいと強く願ってのことだった。…となると一人置いてけぼりであるボスは二人部屋で一人ということになるだろう。ボスは余り気にしてはいない様だが……

 

 

「お前らな……ここは普通男女に分かれるはずなんだが?」

 

「とはいってもハジメ、どうやら二人は何が何でも二人きりの方がいいらしい。こういうのは諦めも肝心だ。ボス、お前は一人になるかもしれないが、いいか?」

 

「はい、俺は余り気にしていませんので」

 

 

そんなこんなで部屋割りとしては二人部屋には俺とユエ、雷電とシア、そしてボスという形で決まった。その時に女の子は何かにトリップしていたのか“我、ここにあらず”な状態だった。それを見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。部屋の鍵を渡しながら“うちの娘がすみませんね”と謝罪するが、その眼には“男だもんね?わかってるよ?”という嬉しくない理解の色が宿っている。絶対、翌朝になればスコーチと同様に“昨晩はお楽しみでしたね?”とか言うタイプだ。何を言っても誤解が深まりそうなので、急な展開に呆然としている客達を尻目に俺たちはそれぞれの部屋に向かうのであった。

 

 

 

それぞれの部屋に着いた俺たちは、一部の荷物を部屋に置いて、次はどうするかをスコーチたちの部屋で話し合うのであった。

 

 

「──さて、今日の予定なんだが、俺はこれからとあるものを作る作業に入る」

 

「作るものってなんですか?」

 

「それは出来てからのお楽しみだ。構想は出来ているし、数時間もあれば出来るはずだ。…まぁ、少し予定がずれたこと変わりはないが……」

 

 

するとユエとシアは何か自覚があるのかサッと視線をそらした。それを察したのか雷電は二人にフォローに回るのだった。

 

 

「そういってやるな、ハジメ。彼女たちにも悪気はなかったんだ。……それよりもだ、せっかくの町だからここで衣服や食糧などを調達してくるよ」

 

「あ……そ、そういえば私、冒険用の服を探そうと思ってたんでした」

 

「…そういえば私も見てみたい露店があった…」

 

 

雷電のフォローに便乗するかの様にユエとシアも同意だった。

 

 

「いいですね!そしたら買い物しながら何か一緒に食べましょう!」

 

「ん…いい考え…」

 

「ということでハジメさん、マスター、行ってきますー!」

 

 

シアは行ってくる言葉を残してこの場から去った。調達の提案を出したマスターを置き去りにして……

 

 

「…お前ら、実は結構仲良いだろ…」

 

「…だな、あのお二人さんは。…とりあえず俺は、二人の後を追うよ」

 

 

そんな俺たちの呟きも虚しくスルーされ、雷電は買い物を兼ねて二人の後を追うのだった。そして残された俺やデルタ分隊はそれぞれで自身のなすべきことをするのであった。俺はとある物の製作を、デルタ分隊は武器の点検をするのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺は何とかシアとユエに追いつき、目標である食料品関係とシアの衣服、それと薬関係の調達であった。先ずはシアの衣服から手を付けるべく、中年受付嬢ことキャサリンから受け取った地図に書かれている普段着と冒険者向きの衣服を取り扱う店に向かった。そしてその店に入った時に出迎えたのは……

 

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達とお兄さんのようねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 

やけに女性口調の化け物──変わった店長が出迎えたのであった。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。その時にユエとシアは硬直する。シアは既に意識が飛びかけていて、ユエは奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めた目をしている。……ユエにシア、流石に初対面の相手に失礼だと思うが?確かにインパクトが強過ぎるということには否定できないが……

 

 

「あらあらぁ~ん?どうしちゃったの二人共?可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

 

どうかしているのはお前の方だ、笑えないのはお前のせいだ!と盛大にツッコミたいところだったが、ユエとシアは何とか堪える。人類最高レベルのポテンシャルを持つ二人だが、この化物には勝てる気がしなかった。しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれずユエは呟いてしまう。

 

 

「……人「ユエ、それ以上言わない」…ライデン?」

 

「あらあらぁ~ん?今その可愛い子が何かしらよからぬことをいわなかったかしらぁ〜ん?」

 

「…すまない、どうやら彼女たちはあなたの姿を見て少しばかり驚いただけで悪気は無いんだ。」

 

「あらぁ~ん、そうなの〜?…でもまぁ、あなたみたいなお兄さんに免じて、そういうことにしておくわぁ〜ん♥」

 

 

この時に何とかユエがこの変わった店長を人間なのかどうか疑う様な発言を見逃してもらえた。何とか騒ぎを起こさずに済んだ矢先、店に入ってくる冒険者二人の姿があった。

 

 

「いた!マサカの宿にいた美少女と兎人族!」

 

「ウワォ、俺好みだわ!…ところで、確かユエちゃんとシアちゃんで名前合ってるよね?」

 

「?……合ってる」

 

 

俺がいるのにも関わらず話を進める冒険者たち。この男達、実はハジメ達がキャサリンと話しているとき冒険者ギルドにいた男だ。ユエの返答を聞くとその男は、もう一人の男に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめた。そして……

 

 

 

「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」

「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」

 

 

 

会っていきなり早々こいつ何言ってんだ?という状況だった。こんな状況でも楽しむのは変わった店長だけであった。

 

 

「あらららぁ〜ん、中々大胆に告白するのねぇ〜?きらいじゃないわぁ〜ん♥」

 

 

変わった店長の声を聞いたのか冒険者二人はその店主に目線を向けると瞬時に表情が青ざめ、本来の目的よりも道の何かに遭遇した様な感じになった。

 

 

「な…なんだ!?この()()()は…」

 

 

その言葉を皮切りに店長が人が変わったの様に怒りの咆哮を上げた。

 

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「「ひいぃ〜〜〜!?す…すみませんでした〜〜〜!!」」

 

 

怒れ狂う店長にビビってしまった冒険者二人はそのままこの店から出て、脱兎の如く逃げていった。どうやらあの冒険者はまだ新人でこの店の特徴を理解していなかった様だ。一方のユエとシアは怒れ狂った店長に対して脅えていた。ユエがふるふると震え涙目になりながら後退る。シアは俺に抱きついて今はこうさせて欲しいと言わんばかりに涙目で震えていた。この時に俺はユエたちにこれを教訓として忘れない様に伝えるのだった。

 

 

「ユエ、シア。これを教訓に人を見かけで判断しないようにな。あの店長は少しばかり変わっているが、ただそれだけだ」

 

「ん……絶対にあの人は怒らせない……」

 

「わ……私も同意ですぅ〜……」

 

「ごめんなさいねぇ〜?ちょっとばかり騒がさせてぇ。それでぇ?今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 

 

なんとか本題に戻ったところで俺たちは本来の目的を果たす為にユエたち女性陣はシアの衣服を選び、俺は食糧を買いにそれぞれ分担するのだった。因みに、無事に買い物を終えた後に他の冒険者たちがユエたちに告白するもユエたちはそれを問答無用で断った。振られてもなお自分の物にしようと暴走する男がいたが、そこはシアがフォースで動きを封じた後にユエの風の礫で男の股間に連続で叩き込んでその男を漢女(おとめ)にさせたのだった。これを見た男たちは決してユエたちには手を出さないと固く心に誓うのだった。

 

 

 

…余談ではあるが、漢女された男は変わった店主ことクリスタベルに拾われ、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼は、クリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが……それはまた別のお話で、ユエに“股間スマッシャー”という二つ名が付き、後に冒険者ギルドを通して王都にまで名が轟き、男性冒険者を震え上がらせるのだが、それもまた別の話だ。

 

 

 

ユエとシアは、畏怖の視線を向けてくる男達の視線をさらっと無視して買い物の続きに向かった。道中、女の子達が“ユエお姉様……”とか呟いて熱い視線を向けていた気がするがそれも無視して買い物に向かった。……正直に言って、目立ち過ぎたなと思った今日この頃である。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちが買い物に行っている間、俺はとある物の製作を終えた。作ったのは二つ。一つはシア用に作った戦槌型アーティファクト“ドリュッケン”だ。シアの身体能力強化を活かすことが出来る武器として作ったが、シアにはライトセーバーがある為に多分使わないと思うが、これは飽くまでライトセーバーが使えないときに変わりの武器とも言っても過言ではない。そしてもう一つは、余った人工カイバー・クリスタルを使った俺用のレーザーソード型アーティファクト。名前は“アストルム”。ラテン語で“星”を意味する言葉だが、俺個人で言えば星は何かしらと縁起がいいからだ。ただし死兆星、テメェは駄目だ。外見からすれば某アニメのレーザートーチである。外見上トーチ先端部は伸縮式となっており、緊急時にはビームの焦点距離を延ばし戦闘用兵装として機能する仕組みだ。

 

 

「……まぁ、よっぽどのことが無ければ使うことは無いと思うがな」

 

 

そう言いつつもレーザーソードを腰側に懸架するのだった。その時に買い物に行っていた雷電たちが戻って来たのだった。

 

 

「ハジメ、買い物から戻ったぞ」

 

「応、お疲れさん。何か町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 

「……問題ない」

 

「あ~…うん、そうですね。問題ないですよ」

 

「…そうだな、問題らしきことは起こしていないから事実上問題ないはずだ……多分」

 

 

いや、雷電。何だ今の間は?余計に何かあったと思うじゃねえか……。そんな考えを後回しにして俺はシアの衣装を見た。前から着ていたジェダイ用の衣服から最初に合ったときと同じ少し露出高めの物だった。それも冒険用のである。

 

 

「それにしてもだ。冒険用の服なのに初めて会った時の服と同様に露出がほぼ変わってないんだが…」

 

「他の服だと窮屈で、動きが鈍るんですよ」

 

「まぁ、露出云々は置いとくとして、こっちは既に目的は達した。ハジメの方はどうだ、完成したか?」

 

「まぁな。一つは俺用で、もう一つはシア用だ。シア、こいつをお前に渡しておく」

 

 

そう言って俺は完成した戦槌ことドリュッケンをシアに渡すのだった。しかし、身体能力強化をしていないシアに取っては重かった様だ。

 

 

「うわっ!すごく重たいんですけど…」

 

「そいつはライトセーバーが使えない状況になった時のお前用の戦槌だ」

 

「へっ、これが……ですか?」

 

 

シアの疑問はもっともだ。円柱部分は、槌に見えなくもないが、それにしては取っ手が短すぎる。何ともアンバランスだ。

 

 

「ああ、その状態は待機状態だ。取り敢えず魔力流してみろ」

 

「えっと、こうですか?…!わわっ!」

 

 

言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、カシュン!カシュン!という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 

 

「なるほど、戦槌型のアーティファクトか。確かにシアの身体能力強化と相性が良い武器だ」

 

「あぁ、戦槌型アーティファクト“ドリュッケン”だ。そいつには多数のギミックを搭載させてある。お前の力を最大限に活かせるようになっているはずだ。頑張って使いこなしてくれよ?仲間になった以上、勝手に死んだらあいつが大変だからな?」

 

「ハジメさん、言ってることがめちゃくちゃですよぉ…」

 

「おい、ハジメ。なんでそこで俺を出すんだ…」

 

 

雷電も俺がいうあいつの言葉に思い当たったのか今の様な反応を返すのだった。そんなこんなでそれぞれの目的を果たした後に宿のチェックアウトを済ませる。未だ、宿の女の子が俺たちを見ると頬を染めるが無視だ。そうして俺たちの一日を終えるのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

翌日、宿で一泊した俺たちはそのままライセン大峡谷に向かい、大峡谷にあるライセン大迷宮を探すのだった。その時にハイベリアの群れがやって来たが、シアはハジメから貰った戦槌型アーティファクトであるドリュッケンを試すべく相手するのだった。

 

 

「一・撃・必・殺!ですぅ!!」

 

 

自身の技能とフォースを掛け合わせた身体能力強化でハイベリアに文字通り一撃必殺を繰り出してハイベリア一匹粉砕するのだった。そして他のハイベリア達が敵討ちと言わんばかりにシアに襲いかかろうとした。しかし、シアの方が行動が早く、ドリュッケンのギミックの一つを使うのだった。

 

 

「ドリュッケン“砲撃モード”!!これでも喰らえです!」

 

 

ドリュッケン放たれるミサイルがハイベリア達に襲いかかる。ハイベリア達はミサイルが何なのか判るはずも無く気にせずシアに向かう。しかし、そのミサイルがハイベリア達に直撃した瞬間、爆発し、ハイベリア達の肉片が飛び散るのであった。

 

 

「相変わらずハジメの作った物はえげつない位に強力だな?」

 

「まぁな。シアはシアでもう使いこなせている様だな」

 

「えへへ、マスターの言葉を借りるとすれば“これもフォースの導き”です!」

 

 

ハイベリアの群れを一掃した後、俺たちは休憩しつつも地図を見直していた。

 

 

「…迷宮の入り口がライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱり大雑把だな」

 

「確かにな……この大峡谷の長さだ。いったい何処にあるのか判らないぞ」

 

「探すの前提に此処らでキャンプでも張るか」

 

 

そんな形で役割分担でハジメやユエ、デルタ分隊は大迷宮の入り口を探す為に魔力駆動二輪とスピーダーで探すのであった。そして俺は技能の共和国軍兵器召喚で“ニュー級アタック・シャトル”を召喚した後、シアと共に宇宙に出た。シアは初めて宇宙を見て他では体験できない感動を感じていた。

 

 

「うわぁ〜…!とっても綺麗ですぅ!」

 

「あぁ、確かにな。だが、俺たちの目的は綺麗な星を見る為じゃないからな?」

 

 

俺の目的はこの星の衛星軌道にある月付近に宇宙ステーションである“ヘイヴン級医療ステーション”を召喚することだった。月の軌道上に辿り着いた俺は、ヘイヴン級医療ステーションを召喚し、更にクローン・トルーパー四個師団を召喚するのだった。一応この医療ステーションは約60,000名以上を収容することが可能である。そして召喚したクローン達にこのステーションを拠点にいざという時の切り札としての軍団として待機するよう指示を出した。更には“アクラメイター級汎銀河軍事用アサルト・シップ”を召喚し、何時でも出撃できるように万全な態勢をとった。この時に俺は色々と魔力を大量に消費してかなり疲労をためてしまった。そんな下準備を終えた俺とシアは大峡谷にあるテントのところに戻り、張ったテントの中で休むのだった。

 

 

 

時は既に日が暮れる時間になり、何とか一時的に疲労を回復した俺は既に帰っていたハジメ達に状況はどうだったと聞くと迷宮の入り口らしきものが発見できなかったそうだ。今日の迷宮探しはここまでにして俺たちは一日終えようとした。その時にシアが何かモジモジした様子だった。

 

 

「ん……どうした、具合でも悪いのか?」

 

「そ…その…ちょっとお花を摘みたくて……」

 

「谷底に花はないぞ?」

 

「ハ・ジ・メ・さ~ん!

 

 

ハジメ、流石にそれはデリカシーが無いぞ?

 

 

「…まぁでも、グリューエンの大火山に行くついでだし、見つかったら見つかったで儲け物ぐらいでいいか」

 

「あぁ……あったらあったでの話だけどな?」

 

 

そうハジメと話し合っている時にシアが突如と何かを発見した様子で魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。何事かと、ハジメとユエ、デルタ分隊は顔を見合わせ同時にテントを飛び出す。シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た!というように興奮に彩られていた。

 

「こっち、こっちですぅ!見つけたんですよぉ!」

 

「あんまり大声出すな!夜行性の魔物が動き出すかもしれないだろ!」

 

 

なんだかんだでシアが発見した何かを確認すると、そこには壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

 

 

 

“ヤッホー、おいでませー!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮にようこそー♪”

 

 

 

この看板を見た瞬間、俺とハジメ、デルタ分隊はこのような言葉しか出なかった。

 

 

「「「……なんだコレ…」」」

 

 

他にどのような言葉を出せば良いのか判らなかった俺たちであった。

 

 





おまけ


ライセン大迷宮の入り口を探すも見つからなかった俺たちは、明日でまた探すことにして一旦夕食を取るのだった。なお、今日の当番は俺とシアだった。


「おーいハジメ、ユエ、デルタ、食事が出来たぞ」


俺はハジメやユエ、デルタ分隊を呼んで一緒に食事を取ることにした。一応召喚されたクローンは食事は可能ではあるが、普段は食事を必要とせず、俺の魔力で現界維持しているのであった。デルタは遠慮していたが、シアの押しに心を折れたのか一緒に食べることになった。デルタ分隊の顔はジャンゴ・フェットの顔でありながらも遺伝子の突然変異で一部の形状が違っていたのだった。あまり俺たちは気にせず、俺たちが用意した料理を食すのだった。因みに今日の料理はシアが取って来たクルルー鳥の肉やブルックの町で調達した野菜を使ったシチューだ。それぞれスプーンを使って一口頬張る。


「うわっうま!」

「…負けた…」

「悪くない味だ。俺たちの好みの味だな」

「あぁ、確かシチューだったか?けっこうコクがあって美味いじゃねえか」

「確かに……この味を知るとまた食べたくなるな」

「……悪くないな、この味は」


それぞれの感想を聞いた後に俺はシアの方を見た。シアは片手に包丁を、もう片方の手はまたもう一匹捕まえたであろうクルルー鳥を掴んでいた。


「しかしシアが家事全般が得意なんてな」

「はいっ!私、家事全般得意なんで!」


そう言いながらもシアは包丁でクルルー鳥を生きたまま捌いていた。捌かれる瞬間、クルルー鳥は断末魔を上げながらもシアに捌かれて鶏肉となったのだった。この光景を見ていた俺やハジメ達は一瞬だけぞっとした。そんな様子を知らずかシアはのほほんとした表情だった。


「あっ…さっき捕まえたクルルー鳥も食べましょうね。こっちは唐揚げを作りますので!」


この時に俺たちはシアに対しての一言が心の中で一致した。



“温厚な一族とは、一体……”



因みに余談だが、クルルー鳥の断末魔を聞いてから少しばかり休み難かったりそうでなかったりしたのは別の話である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トラップの数々、ミレディ・ライセン

ミレディのウザさを無事に書けたかどうか心配な感じです。


24話目です。


 

 

俺たちは今、ライセン大迷宮の入り口と思われる?場所をシアが発見してからか、このおちゃらけた……というより脱力する様なふざけた看板を見て本当にライセン大迷宮なのか疑うくらいだった。

 

 

「……ユエ、雷電、マジだと思うか?」

 

「名前はあってる…けど…」

 

「残念だが、オスカーの書籍にあった本の通りだ。確かミレディ・ライセンは嫌がらせと煽りの天才と聞くが……」

 

「そんなことより、ついに見つけましたね!大迷宮の入り口!」

 

 

そう言って看板の横の壁に叩いて自慢げに誇るシア。その時、シアが叩いた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。さながら忍者屋敷の仕掛け扉だ。

 

 

「「嘘……」」

 

「とんだカラクリな入り口だな。シア、無事か?」

 

 

俺はシアのことを心配しながらも壁型回転仕掛け扉を動かしてシアを探そうとしたその時、悪寒が走った。すると扉の奥の暗闇から何かが飛んで来た。俺は咄嗟にライトセーバーで切り落とした。その飛んで来た物体の正体は矢だった。恐らく、侵入者撃退用のトラップなのだろう。

 

 

「トラップか。どうやら、ここが大迷宮の入り口であることが判明したな」

 

「それはそうだが雷電、肝心のシアはどうなった?」

 

「あっ…そういえば……」

 

 

ハジメの呟きで思い出した俺は慌てて背後の回転扉を振り返る。扉は、一度作動する事に半回転するので、この部屋にいないということは、ハジメ達が入ったのと同時に再び外に出た可能性が高い。結構な時間が経っているのに未だ入ってこない事に嫌な予感がして、俺は直ぐに回転扉を作動させに行った。果たしてシアは……

 

 

「あぅ〜……」

 

「どうやら別の意味で無事じゃない様だ……」

 

「お漏らしウサギ……」

 

 

……いた。回転扉に縫い付けられた姿且つ、花を摘み損ねたためか足元が盛大に濡れていた。

 

 

「うぅ、ぐすっ、マスタ〜……見ないで下さいぃ~。でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

「無茶難題言うな。…とにかく今、下ろすからじっとしてろ」

 

 

そういいながらも貼付けにされているシアを救出する俺であった。この光景に対してデルタ分隊も気をつけた方が良いと思ったのは余談だ。

 

 

 

大迷宮に入った後、攻略する前に俺はデルタ分隊にある指示を出す。それは別任務の指示だった。

 

 

「将軍、我々はどのような状況でも耐えられる特殊訓練を受けている。トラップの多い大迷宮なら尚更のこと……」

 

「いやっ駄目だ。今回の大迷宮攻略はデルタ分隊を外す。だが、デルタには別の任務を頼みたい」

 

 

俺はデルタ分隊に新たに別の任務を与えて、別々に行動するのだった。その任務とは、王国側に派遣したはずのガンシップが何者かによって撃墜され、墜落したのだ。そのガンシップにはクラスの一人が搭乗していたのだ。何故その情報を得ているのかと言うと、今から昨日までに遡る。

 

 

 

マサカの宿に一泊し、部屋でシアが眠っている中、俺は少しばかり夜更かしをした。窓から夜空を眺めながら気分的にリラックスしていた矢先、ホロプロジェクターから味方の通信を傍受した。その通信の主は王国側にいるキャプテン・フォードーからの通信だった。

 

 

《フジワラ将軍、夜分にすいません。将軍に火急の知らせがあります》

 

「どうしたキャプテン?そっちで何か問題が起きたのか?」

 

《はい。実は、こちらに派遣してくれたガンシップの一機が何者かに撃墜されました》

 

 

まさかの内容に内心驚きを隠せなかった俺はフォードーにその情報が確かであるかどうか確認をした。

 

 

「何っ?……確かか?」

 

《事実です。そのガンシップにはクラスメイトが搭乗していました》

 

「何だって?そのガンシップに乗っていたクラスの名は?」

 

《清水幸利です。彼は攻略からはずれ、畑山教頭の遠征に派遣される予定でクローン数名を乗せてガンシップで送り届ける予定でした。しかし……》

 

「そこに何者かがそのガンシップを撃墜した…か。分かった、こっちも部隊を派遣して生存者を探させてみる。そっちは清水の死亡の隠蔽を頼む。他のクラスに伝わるわけにはいかん」

 

《はいっ将軍。フォースと共にあらんこと…》

 

 

フォードーとの通信を終え、俺は生存者兼、清水捜索任務をデルタ分隊に任せようと考えるのだった。

 

 

 

そして現在、俺の説明で理解はしたものの、一部納得ができない点があるのは変わりなかったが、それも止む無しと判断し、デルタ分隊はその任務を受諾するのだった。

 

 

「……了解だ、将軍。こちらで墜落したガンシップの生存者の捜索を行う。迷宮攻略は……」

 

「あぁ、迷宮攻略は任せろ。そっちの件、頼んだぞ」

 

 

清水の捜索をデルタ分隊に任せ、残ったハジメたちと共にライセン大迷宮攻略を攻略するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

ライセン大迷宮攻略の際にデルタ分隊は攻略から外されたそうだ。雷電曰く、デルタには別任務を与えたそうだ。何故デルタを外したのか分からなかったが、雷電にも考えがあるんだろうと俺はそう考えを区切るのだった。そして俺たちは、ライセン大迷宮の最初の階層で置かれている謎の石盤を目にする。その石盤にはこう書かれていた。

 

 

“ビビった?ねぇ、ビビっちゃったぁ?チビってたりして〜?ぷぷ、うぷぷ♪”

 

 

完全に俺たちに対する挑発兼煽りであった。その煽りに激怒したのは一度トラップに掛かりかけたシアであった。

 

 

「ふんぬー!!」

 

 

シアはドリュッケンでそのウザったるい石盤を破壊するのだった。

 

 

「……相当に頭にきてたんだな」

 

「それはそうと、さっきの石盤なんだが、壊したところに何か文字が書かれていないか?」

 

 

そう雷電が指摘した場所に目を向けると雷電の言う通り文字が書かれていた。

 

 

“ざんねーん!この石盤は一定時間経つと自動修復するよ〜、プークスクス!”

 

「!!ムキィー!!うぜぇ〜ですぅ!このっ…このぉ!!」

 

 

シアの特にやり場のない怒りが、下に書かれている文字に叩き付けるのであった。

 

 

「……どうやら本格的にこの大迷宮は一筋縄じゃ行かない様だな」

 

「あぁ、それ以前にミレディ・ライセンは“解放者”云々関係無く、人類の敵で問題ないな」

 

「……激しく同意」

 

 

そんなこんなで呟きながらも、俺たちは大迷宮の最深部へと目指し、歩を進めるのだった。

 

 

 

ライセン大迷宮を攻略しながらも周りをよく注意しながら進んでいた。

 

 

「…こりゃまた、ある意味迷宮らしいといえばらしい場所だな」

 

「だな、此処は注意深く……」

 

 

そう雷電が言っている矢先、俺の足は何かしらの感圧板を踏んで何かしらのトラップが起動した。

 

 

「言った矢先にコレか……」

 

「……何かその、すまねえ……」

 

「気にするな、今は先ず、目の前のトラップだ」

 

 

雷電のいう通り、俺たちは武器を構え、トラップに対処するのだった。すると目の前から巨大な球体状の岩石が転がって来た。ユエは先に緋槍で巨大岩石を破壊しようとしたが、放出系魔法を発動した瞬間、すぐに魔力が分解された。

 

 

「……やっぱり、ここでは放出系魔法は使えないみたい」

 

「厄介だな、そりゃ!」

 

 

そういって俺はドンナーで巨大な岩石を破壊する。すると破壊した巨大岩石の背後から次々と無数の巨大岩石が転がって来た。

 

 

「なっ!?おいおい、この数「心配するな、ハジメ」…雷電?」

 

 

雷電とシアが俺たちの前に立ち、シアと共に何かをしようとしていた。

 

 

「シア、タイミングは俺に合わせるんだ。できるな?」

 

「もちろんです、マスター!」

 

「それじゃあ……いくぞ!」

 

 

その言葉を皮切りに雷電たちは手を前に突きつける。すると転がって来た無数の巨大岩石が逆方向へと押し返されるかの様に転がっていった。そのおかげで道を確保することができた。

 

 

「これで先に進めるな。行くぞ」

 

 

トラップを切り抜けた後、俺たちは再び歩みを進めるのだった。

 

 

 

その後はトラップの連続だった。ノコギリ壁に落とし穴、液体付き麻痺毒サソリ部屋や盥落とし、粘着糸にローション擬きの白い液体。特に盥落としと粘着糸、ローション擬きの白い液体のトラップに引っかかっていたシアは余計にミレディに対する怒りが込み上がっていた。シアがトラップに引っかかる度に石盤には俺たちに対する煽り言葉が連発した。やれ“頭冴えた?”だの、“今どんな気持ち?”だの色々と俺たちに挑発していた。

 

 

「むぅ〜、ミレディめ!何処までも馬鹿にしてぇ!」

 

「下手にミレディの挑発に乗るな。逆に相手の思うつぼだぞ」

 

 

雷電はシアをなだめつつも俺は進んだ道をマーキングしながら迷宮内を進むのだった。そしてある程度進むと、俺たちは見覚えのある場所に着いた。

 

 

「……何か、見覚えないか?この部屋……」

 

「……もの凄くある。特にアレ……」

 

 

そういってユエが指差した場所にはシアが破壊したであろう石盤と、水たまりがあった。この時に俺は察した。

 

 

「最初の部屋、か…?」

 

「そうみたい……」

 

 

そう判断したその時、地面から文字が浮かび上がった。

 

 

“ねぇ、今どんな気持ち?お察しの通りここはスタート地点でーす!苦労して進んだ先が最初の部屋なんだけど今どんな気持ちー?因みに来た道を戻ろうとしてもムダだよ!この迷宮は一定時間ごとに変化しているから!”

 

 

あからさまに俺たちを馬鹿にしたコメントだった。するとシアはそれにブちぎれたのかライトセーバーを引き抜いてその書かれた文字に斬り刻む。何度も、何度も……

 

 

「フヒ…フヒヒヒ…」

 

「落ち着け、シア。怒りは暗黒面に繋がる。怒りを鎮め、自制するんだ」

 

「こりゃ…かなりの長期戦になるな…」

 

「ん……確かに……」

 

 

これ以上シアが壊れる前に俺たちは急ぎ最深部まで目指そうと決めたのだった。

 

 

 

一週間後……

 

 

 

迷宮に入って今日でおよそ一週間が経った。マーキングをしてある程度迷宮の構造を理解し、探索し続けると、変わった部屋を見つける。その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

 

「いかにもな扉だな。ミレディの住処に到着か?それなら万々歳なんだが……この周りの騎士甲冑に嫌な予感がするのは俺だけか?」

 

「……大丈夫、お約束は守られる」

 

「それって襲われるってことですよね?全然大丈夫じゃないですよ?」

 

「どの道、襲われることには変わりはない。気を引き締めろ」

 

 

そう言っている時に騎士の像が“ガコンッ!”という音が部屋に響いたと同時に騎士たちが一斉に動き出した。騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。内心で“やっぱりな〜”と思いつつも俺たちはそれぞれの武器を取り出す。その時に雷電はユエが取り出した装備に目が向いた。

 

 

「ん?ユエ、その装備は?」

 

「ハジメが作ってくれた。中に水があるからそれに“破断”を発動すれば水が圧縮されて放出される。飛び出た水自体には魔力が含まれていないから分解されない」

 

「……要するに強力な水鉄砲か。魔力によっては圧縮率を高め、水圧カッターになる分、本当に予想外な武器を作り出すな、ハジメは?」

 

「そいつは俺にとっては褒め言葉だ。それよりもだ、此処を突破するぞ!」

 

 

俺のかけ声を合図に、俺たちは奥にある荘厳な扉二向かって走り出した。それを阻止しようと騎士達が立ちふさがるも、文明レベルの差があって俺たちを止められることはできなかった。ある時はドンナーとシュラークで撃ち抜き、またある時はユエに渡したアーティファクトから放出される圧縮された水で押し倒れたり、またある時は雷電たちのライトセーバーで切り裂いたりと無双しながらも扉付近まで近づくことに成功した。しかし、問題は数だ。騎士達を倒しても倒しても次々と湧いてくるため、キリがなかった。

 

 

「相変わらずキリがないな。バトル・ドロイドの軍勢のことを思い出すよ」

 

「あぁ全くだな。とにかく、あの扉は閉まったまんまだからな。物のついでだ、新しい武器の性能でも試してみるか。三人共!耳塞いでろ!!」

 

「んっ…!」

 

「えぇ〜〜!?何をする気ですか!?」

 

 

三人に警告した後に俺は宝物庫からある物を取り出す。それは対軍、対戦車用の兵器であり、十二連回転弾倉付きロケット&ミサイルランチャー。その名は“オルカン”。俺はオルカンで閉まっている扉に向けてミサイルランチャー弾を発射し、扉を破壊する。

 

 

「すごい威力…」

 

「耳がぁ〜、耳がぁ〜〜!」

 

「火力がいくらんでも高過ぎるだろ!?危うく爆風に飛ばされると思ったぞ!」

 

「悪いな。そんなことより、道は開けた!だが再生する可能性がある、急げ!!」

 

 

そう言いつつも俺たちは破壊した扉の方に向かった。その扉はオルカンから放たれたミサイルランチャー弾によって木っ端微塵に吹き飛んでいて、奥へと続く道が出来ていた。扉の向こうには少し離れているが、足場があった。

 

 

「ハジメさん、マスター、扉の向こうに足場が見えます!ですが、どんどん遠ざかって行きます!」

 

 

シアの言う通り扉の向こうの足場が少しずつだが遠ざかって行く。

 

 

「ハジメ!ユエ!シア!お前たちは先に行け!」

 

「おいっ雷電、おま……うぉ!?」

 

「んっ……!?」

 

「うぇ、うぇぇえ〜〜っ!?」

 

 

すると雷電が俺たちをフォースでその足場の方に飛ばした。残った雷電は迫り来る騎士達にもフォースでこっちに来ないように別方向に吹き飛ばす。騎士達を大分距離を取ったことを確認した後に雷電はフォースによる身体能力強化で一気に俺たちがいる足場に跳躍し、着地した。

 

 

「ふぅ……全員無事か?」

 

「あ、あぁ…こっちは何とかな……」

 

「んっ……私は大丈夫」

 

「ふぇ〜、ムチャクチャですよぉ〜マスタ……!」

 

「シア?どうし……!」

 

その時、シアと雷電は何かを感じ取ったのか俺とユエを抱えて別の足場へ飛び移った。

 

 

「お…おい、シア、雷電!何してんだ…」

 

 

俺が雷電たちに問おうとした瞬間、元いた足場に()()()降って来て、その足場を破壊したのだ。もし雷電たちが気がつかずにいたら俺たちはあの足場と同じ末路を辿っていたのかもしれない。

 

 

「……なぁ、その直感はフォースによるものなのか?」

 

「今のはただの直感だよ。それにシア、今のはフォースじゃなくて未来視の方で見たのか?今の光景を」

 

「はい、マスター。未来視で突然何かが降ってくる未来が見えました」

 

 

シアはそう言っているが、問題は元いた足場に降って来た何かが降って来たことだ。あの凄まじい破壊力……まるで隕石の様だった。シアの能力が発動していなければ、今頃俺たちはお陀仏だったかもしれない。そう考えながらも周りを見渡すと、そこはかなり異質な場所だった。様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊している光景だった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺たちが入った場所は超巨大な球状の空間だった。直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことに俺たちはしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

 

「……どうやら完全に重力に関係するこの迷宮のボスがいるだろうな」

 

「となると…厄介だな。ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるっていう可能性もあるな…」

 

 

そう考えていると、下からギンッと何かが二つ光り輝いた。そしてその下から宙に浮く超巨大なゴーレム騎士が俺たちの前に姿を現した。

 

 

「マジかよ…」

 

「如何にも親玉って感じですね…」

 

「だな……(しかし、この妙な違和感は何だ?)」

 

 

俺は超巨大ゴーレム騎士に違和感を覚えながらもその超巨大ゴーレム騎士は光る目の部分を俺たちに向けると、俺たちに挨拶して来たのだ。それもふざけた感じで。

 

 

「やほー!!はじめまして!みんな大好き、ミレディ・ライセンちゃんだよ〜!」

 

「「「……は?」」」

 

「えっと……丁重にどうも。迷宮攻略しに来た雷電だ。よろしく?」

 

 

ミレディを名乗る超巨大ゴーレム騎士がはっちゃけ過ぎるテンションの影響なのかハジメ達はあまりにもこの状況を理解できず口を開けてポカンとしていた。唯一、超巨大ゴーレム騎士ことミレディのはっちゃけテンションに合わせることが出来た?俺は何とか挨拶で返すことが出来た。するとミレディが硬直するハジメたちに対して不機嫌そうな声を出した。

 

 

「返事がないなぁ!挨拶したんだからそっちの人と同じ様に何か返すのが礼儀じゃないの?全く全く…最近の若者は常識も知らないのかい!?」

 

 

何故かミレディに真面目に怒られたハジメたちは若干の戸惑いを隠せないままミレディに問う。

 

 

「…おい。ミレディ・ライセンは既に死んでいるはずだが?オスカー・オルクスの迷宮を攻略した時に奴の手記を読んだ。ちゃんと人間の女として書かれていたぞ」

 

 

ハジメの言う通り、その点に関しては俺も同意だった。ミレディ・ライセンは過去の人間であり、今の時代じゃとっくに寿命を迎えて死んでいてもおかしくなかった。しかし、俺は前に感じた違和感に何かしらの関係があるのか考えたところ、俺はある仮説を一つ立てた。各大迷宮にある()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?と……

 

 

「おお!オーちゃんの迷宮の攻略者なんだね。どう?私について何か書いてた?」

 

「そんなくだらない質問に答えてるヒマはない。俺の質問に答えろ。スクラップになる前に「待て、ハジメ。一つだけ分かったことがことがある」……雷電?」

 

「……コレは飽くまで仮説だが、恐らく、過去にミレディは年老いた肉体が朽ちる前に何かしらの神代魔法で何とか自身の魂をゴーレムに移し替えたんじゃないのか?その結果、今の時代まで生き長らえているという感じだが……」

 

 

俺の仮説にハジメやミレディが唖然とした表情をしていた。ミレディの場合はゴーレムだからか表情は分からないが……

 

 

「なぁ、雷電。そいつは有り得るのか?」

 

「飽くまで仮説だ。そのところはどうなんだ?ミレディ・ライセン」

 

「うわ〜、本当なら私が言おうとしたことをこの人、仮説で言い当てちゃったよ……まぁいいや。どの道合っているわけだし。如何にも、私は解放者の一人“ミレディ・ライセン”だよ。この姿の秘密は君の言う通り神代魔法で解決!どんな神代魔法かは詳しく知りたければ私を倒してみよ!…って感じかな?」

 

「なるほどな……となると次は、そっちが質問する番か?」

 

「そうだね、じゃあ聞くけど……君たちの目的は何?何の為に神代魔法を求める?」

 

 

するとミレディの雰囲気が変わった。俺たちはこの時にミレディを解放者の一人として認識し直した。

 

 

「…俺や雷電は無理矢理この世界に連れてこられた。“解放者(おまえら)”が人を弄ぶ狂った神を倒して欲しくてこの迷宮を作ったんだろうが、俺にはそんなこと関係無い。俺たちの目的は故郷に帰ること。例えそれが狂った神であれ、誰であろうと邪魔する奴は殺す。それだけだ」

 

「俺もハジメと同じ様に故郷に帰る為に行動している。その狂った神ことエヒトを攻略する為に神代魔法が必要不可欠なのも確かだ。だからこそ、俺たちは神代魔法を求めている。最終目的はエヒトを倒し、故郷に帰還することだ」

 

 

ミレディはしばらく、ジッと俺たちを見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言“そっか”とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。

 

 

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ!見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

 

「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか?お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど?それとも転移系なのか?」

 

「どの道、彼女を倒さないと神代魔法が手に入らないのも事実だ。ならば、やることは決まっている。だろ?ハジメ」

 

「んふふ〜、やる気だねぇ?それと神代魔法なんだけど……」

 

 

そうミレディが答えようとすると同時にハジメはドンナーを手にした。そして……

 

 

 

「教えてあーげない!!」

 

「──死ね」

 

 

 

その言葉を皮切りにハジメがドンナーの引き金を引き、一発の弾丸がミレディのゴーレム騎士の胴体に向けて飛んでいくと同時に解放者ミレディ・ライセンと戦う始まりの合図でもあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

重力と秘密兵器

今回はとあるゲームの兵器が出てきます。


25話目です。


 

 

ハジメが放った弾丸はミレディ・ゴーレムの胴体に直撃するも、ゴーレムの装甲の硬度が高い為かその弾丸が弾かれただけだった。肝心のミレディは“何かした?”と余裕な感じで堂々としていた。

 

 

「先制攻撃とはやってくれるねぇ〜。だけどこの程度の攻撃じゃ私は倒せないよ〜?言っとくけど私は強いよ、死なない様に頑張ってね〜」

 

「──悪いが、俺にはさっきの雑魚たちと大差ないように見えるがな」

 

 

そうミレディに挑発で返すハジメ。確かに相手の集中力を欠かせる為には必要の行為なのだが……

 

 

「ハジメ、相手を挑発するのは止しておけ。特にミレディは煽りの天才だから、その程度の挑発はあんまし意味がないぞ」

 

「…ほんと生意気な奴だなぁ〜。そっちの…えっと?「雷電だ」…そうそう!ライくんを見習ったら?……いいよ、教えてあげる」

 

 

するとミレディの真上から前の部屋にいた騎士達と同形のゴーレムが重力の法律を無視して降りて来た。

 

 

「これが私の神代魔法(ちから)。この空飛ぶゴーレムは見たことある?ないでしょ?これが一気にキミ達に襲いかかるわけ!どう?ビビった?今、謝ったら──「……フフッ」ん?どうしたの?」

 

 

この時に俺はミレディが喋っている最中に、ふと少しの笑いが口から漏れた。

 

 

「…いやっ何、ちょっと思い出し笑いをしただけだ。それとミレディ・ライセン、お前は空飛ぶゴーレムを見たことはあるかと聞いて来たな?」

 

 

そう言いながらも俺はライトセーバーを取り出し、スイッチを入れてプラズマ刃を展開してここで俺は新たにクローンを召喚を行う。その時にミレディは俺のライトセーバーに目を疑った。

 

 

「えっ……それってアッシュくんの…?」

 

「ん?アッシュという人物は知らないが、先ほどの問いに答えるなら答えは“YES”だ。……最も、そこの騎士の様ではなく、近未来的な奴だけどな。コール・リパブリック・プラトゥーン“クローン・ジェットパック・トルーパー”!」

 

 

そう詠唱し、俺の背後で魔方陣が展開され、そこからジェットパックを装備した一個小隊のクローン・トルーパーが召喚された。そのトルーパーの正式名は“クローン・ジェットパック・トルーパー”である。

 

 

「フジワラ将軍!ジェット・トルーパー、準備完了です!」

 

「え、えぇ〜!?な…何なのキミ達!?一体何処から現れたの!?それ以前にここって魔法使えないはずなんですけど!?」

 

 

どうやらミレディはここでも魔法を使えない様にしていた様だが、俺のクローン軍団召喚の場合は召喚系の魔法ではある為、魔法陣がこの部屋の魔力分解によって消えることを想定し、通常の三倍の魔力で召喚した為に魔法陣が魔力分解されることなく無事に召喚することが出来たのだ。しかし、この発想は今思いついたものであり、あまりオススメしない方法だ。内心で今後は二度としないことを誓ったのは余談だ。

 

 

「それは秘密事項だ。ジェット・トルーパー、戦闘準備ッ!」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

俺の合図でジェット・トルーパーはブラスターやロケット・ランチャーを構え、戦闘態勢に入る。そして……

 

 

「かかれッ!!」

 

 

その号令を皮切りにジェット・トルーパーはジェットパックで飛行し、取り巻きであるゴーレム騎士達に対してブラスターやロケット・ランチャーで攻撃する。そしてユエも行動に出てたらしく、浮遊するゴーレム騎士達をハジメの作ったアーティファクトで召喚した味方に当てないように迎撃していた。

 

 

「浮いてるだけならただの的…」

 

「助かる!そのまま援護を頼む!」

 

「…アレ?アレレ?そっちも?どうなっているの!?」

 

「おー、戸惑っているな。さてと、こっちはこっちで……」

 

 

戸惑うミレディに目もくれず、ハジメは眼帯で隠していた神結晶を加工して造った義眼でミレディ・ゴーレムの弱点を探ると、ゴーレムの核らしきものを見つける。

 

 

「弱点がないと思ったが、案外人間と同じで左にあるじゃねえか。ユエ、心臓の位置を狙うぞ」

 

「んっ…!」

 

「本当に何でもありだな、ハジメは……シア、お前も行けるな?」

 

「はいですっ!今までの鬱憤を倍にして返してやるですぅ!!」

 

「だから怒りは自制しろと言ったろ。怒りは暗黒面に繋がると何度も……!」

 

 

そうシアに叱りつけようとした時にミレディが持つモーニングスターが俺たち目掛けて振り下ろして来た。俺たちは瞬時に散開して直撃を避けた。

 

 

「あっはは〜、ごめんね?こっちも不意をついちゃってね〜!」

 

「……っ、上等ッ!!」

 

 

俺はライトセーバーで切り掛かろうとフォースによる跳躍で一気にミレディに近づく。

 

 

「一気に距離を積めて来たね?けど…!」

 

 

しかし、ミレディも黙っていない。右腕のフレイムナックルで叩き付けようとする。

 

 

「させないですぅ〜!」

 

 

その時にシアがミレディのフレイムナックルを相殺させようとドリュッケンを叩き込む。しかし、パワーはミレディの方が上だった為に押され気味だった。

 

 

「ぐぬぬぬ…!!」

 

「…中々良いパワーを持ってるね…だけど、ちょっと力不足かな〜」

 

 

そう言ってミレディはそのままパワー押しでシアのドリュッケンを押し返した。

 

 

「きゃあ!」

 

「残念〜、またチャレンジしてねー♪」

 

 

ミレディに力負けして吹き飛ばされたシア。その時にジェット・トルーパーが吹き飛ばされたシアをジェットパックを使用して空中で受け止める。

 

 

「大丈夫か?」

 

「あ……ありがとうございますぅ」

 

「う〜ん、悪くはないけど決定力に欠けるね〜「だったら……コレならどうだ?」……!?」

 

 

ミレディは突如と声が聞こえた方に向けると、そこには雷電がいた。この時に俺は既に移動してミレディとの距離をつめたのだった。

 

 

「…ッ!?いつの間ッ…」

 

「ここは……俺の距離だ!」

 

 

俺はライトセーバーでゴーレムの胴体に切り付けてそのゴーレムの胴体を足場にして蹴り飛ばす様に跳躍し、元の足場に着地する。しかし、俺はミレディを切った時にある違和感を覚えた。

 

 

「…何だ?切ったと思ったが、まるで弾かれた様な感覚は?……まさか!」

 

「ふっふ〜ん!その剣には少し驚かせられてヒヤッとしたたけど、まだ届かないね」

 

 

ミレディはライトセーバーに切られたにも関わらず、何もなかったの様に平然としていた。この時に俺はゴーレムの騎士甲冑の装甲の材質をいくつか思いつくが、その前にミレディがその疑問の原因を答えた。

 

 

「“アンザチウム鉱石”。この装甲を破らない限り私は倒せないよ」

 

「アンザチウム鉱石…!確かハジメが装備を造る際に一部使っていた鉱石か!」

 

「あぁ…この世界で最も固い鉱石だ。厄介なことに変わりはない」

 

「流石オーちゃんの迷宮攻略者、知ってて当然だよね〜。それじゃあ、第二ラウンド行ってみよっか!」

 

 

ミレディの言葉を皮切りに、俺たちの真上から他のブロック状の足場が降って来た。

 

 

「!!避けろ!」

 

 

ハジメの言葉に反応した俺たちは直ぐに別の足場へと飛び移った。足場から足場へと移動しながらも周りを見渡した。その時にある疑問を抱く。

 

 

「…何で浮いてたはずの足場が降って来たんだ?これじゃあまるで…!」

 

 

そう考えている矢先に横から別の足場が重力を無視してこっちに向かって来た。俺は咄嗟にフォースで向かってくる足場の軌道を無理矢理曲げて何とか回避する。

 

 

「オイオイオイッ!さっきの真上といい、横からといい、まるで重力を無視したような……ん、重力?……っ!?もしや!」

 

 

その時に俺は、真上から降って来た足場や、先ほどの横から来た足場の謎が解けた。その正体はミレディによる重力操作によるものであると理解した。

 

 

「なぁハジメ、ミレディの神代魔法って“重力”じゃないのか?今トルーパーが交戦している宙に浮いているゴーレムと動く足場もすべてそれで説明がつくんじゃないか?」

 

「あぁ、俺も同じことを考えていた。あの重力を無視した動きも神代魔法が関係しているって考えれば納得がいく」

 

 

どうやらハジメも俺と同じことを考えていた様だ。するとミレディは予想よりも早く俺たちが浮遊するゴーレムや足場の謎に気付いたことに感心を抱いていた。

 

 

「おー、思ったより早く気がついたね。その通り!重力を操れば例えば……こんなこともできるんだよ♪」

 

 

ミレディは見せつけようと言わんばかりモーニングスターで俺たち目掛けて撃ち出す様にメイス部分を突き出す。するとスパイクボールのメイスが重力の法律を無視して俺たちに向けて飛んで来た。

 

 

「重力か……まったく、本当に面倒極まり無い神代魔法だな!」

 

「あぁ…だが、やるしかねぇ!ユエ、シア!ここは俺たちがなんとかする!二人で奴の動きを封じてくれ!」

 

「んっ…!」

 

「わかりました!」

 

 

すぐさまに分担を決め、俺たちはミレディの攻撃を対応するべく俺は向かってくるモーニングスターのスパイクボール・メイスをフォース・プッシュでブレーキを掛けつつも減速させる。

 

 

「……っ、ハジメ!」

 

「あぁ、任せ…ろ!」

 

 

ハジメは左腕の義手のギミックでショットシェルを装填し、力と魔力を込めつつも先日食ったであろうハルツィナ樹海の魔物から得たであろう技能の“豪腕”を発動させて、そのままモーニングスターのスパイクボール・メイスに目掛けて左腕の義手の拳を叩き込む。その結果、真正面からミレディの攻撃を受け止めることに成功する。これにはミレディも驚きを隠せず、内心冷汗をかいていた。

 

 

「…マジ?正面からこれを受けとめるとか…」

 

「似たようなトラップがあったからな。…そしてこの攻撃がお前の命取りになる」

 

「そう言うこと、だ!」

 

 

ミレディがハジメとか言わしている内に俺は、ライトセーバーでモーニングスターのメイスと直結している鎖を切り裂き、ミレディの武装を破壊した。

 

 

「ちょっ!?何時の間に…」

 

「俺だけじゃないさ。ユエ、シア、今だ!行け!」

 

 

この言葉を皮切りに俺はフォースでユエをミレディのところまで飛ばし、シアは身体能力強化でモーニングスターの持ち手部分まで跳躍する。

 

 

「なぁっ!?くっ…来るなぁ!」

 

「シア!」

 

「はいです!」

 

 

ミレディはユエ達を近づけさせない為にフレイムナックルで殴りつけようとするが、シアがドリュッケンで叩き込み、しばらくの間足止めをした。しかし、質量の差がある為に身体能力強化を施したシアでもどれ程もつか分からなかった。

 

 

「ふぎぎぎ…」

 

「──上出来」

 

 

ユエはハジメが造ったアーティファクトでミレディに右腕に狙いを定めて圧縮された水を放出する。それはまさに水圧カッターと言わんばかりにミレディ・ゴーレムの右腕を切断した。

 

 

「ぐぅっ…このぉ…!」

 

「まだですよ、吹き飛ばされたお返しです!」

 

 

更にシアのドリュッケンによる追撃でミレディを別の足場の方に叩き付ける。確実に追い込まれているのにも関わらず、ミレディはまだ余裕そうにしていた。

 

 

「や…やるじゃないか。でも、こんなことしたって無駄だよ。私もゴーレムだって忘れていないよね?核が破壊されない限り素材があれば再生できるんだよ」

 

「──そうはさせない。……凍って。“凍柩”」

 

 

そう言ってユエはミレディの近くで上級魔法を使う。その瞬間、ミレディ・ゴーレムの身体が凍り付いた。……否、正確にはミレディ・ゴーレムに付着しているユエのアーティファクトから放出された水が凍り付いたのが正しい。こればかりはミレディもユエが上級魔法を使えたことに今まで以上に驚きを隠せないでいた。

 

 

「嘘!?どうしてここで上級魔法が使えるのさ!?」

 

「水を使った攻撃をしたおかげ。これなら水を凍らせるだけで使える。…それでもほぼ全ての魔力を使うけど」

 

 

流石のユエも魔力が分解させる部屋で大量の魔力を消費したらしく、少しばかりスタミナ切れに近かった。俺とハジメ、取り巻きを掃討し終わったジェット・トルーパー達は何とかユエたちと合流する。

 

 

「よくやったぞ、ユエ」

 

「…ん、頑張った」

 

 

ハジメはユエのところに駆け寄り、ユエを褒める。まるで互いに背を預けるパートナーであり、恋人のような感じであった。

 

 

「マスター!私も頑張りました!」

 

「あぁ、よくやったな。シア」

 

 

俺もシアを褒め称えた後にユエの魔法によって凍り付けにされ、身動きが出来なくなったミレディを見る。

 

 

「さて……ミレディ・ライセン。今の状態では再生や身動きはできない。将棋やチェスで言う王手(チェック)に嵌まった状況だ」

 

「そういうことだ。諦めて神代魔法を渡すか、このままトドメを刺されるか──」

 

 

そう俺たちが言うが、一向にミレディから返事がなかった。ミレディの無言に俺は何かと嫌な予感がした。

 

 

「…おい、何黙っていやがる」

 

「……」

 

「無言のままか…(しかし、何かと嫌な予感がする。フォースも何かとざわついているし、特に真上の方を……ん、真上?)」

 

 

俺や恐る恐る上の方を見ると、この部屋の天井に何かしらの亀裂の様な光りが走る。そしてよく耳をすますと、“ピキッ”という音が聞こえた。

 

 

「…っ!ハジメ、直ぐにこの場から離れるぞ!」

 

「何っ?それはどういう……」

 

 

その瞬間、何かを発動させたかの様にミレディ・ゴーレムの眼の部分が強く光る。

 

 

「──ッ!まさかコイツ…!!」

 

「あぁ、そのまさかだろうな!上から天井の一部を落とすつもりだ!」

 

「何っ!?」

 

「…ふふふ、とっておきのお返しだよぉ。今からこの部屋の天井()()をキミ達の頭上に“落とす”。さぁ、見事これを凌いでみせてよ」

 

 

その言葉を皮切りに無数の巨石に分解した天井が俺たちの頭上に向けて落ちて来た。フォースがざわついていたのはコレのことか!

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電の言う通り……というより、一部訂正するならばミレディは重力の神代魔法で天井の一部じゃなくて天井全てを落としてきやがった!

 

 

「ジェット・トルーパー、急いで散開しろ!散らばれ!シア、俺の近くに!」

 

「「「イ、イエッサー!」」」

 

「はっはいです!」

 

「ユエ、俺の所まで来い!」

 

「んっ!」

 

 

ジェット・トルーパーは雷電の指示でジェットパックで急ぎこの場から離れようとする。しかし、頭上か降る無数の巨石の数に回避が間に合わず、そのまま巨石に潰されたり、巨石の破片がジェットパックに被弾して、制御不能となり別の巨石に激突するなどが起きてジェット・トルーパー達の被害が広がる一方だった。そして俺たちもこの場から離れる為に行動するのだった。

 

 

「──しっかり掴まってろよ、ここが正念場だ」

 

 

俺はユエにそう言いながら“宝物庫”から再びオルカンを取り出す。そして落ちてくる巨石に対して十二発のロケット弾を全弾連射した。火花の尾を引きながら頭上の死を吹き飛ばさんと突撃したロケット弾は次々と大爆発を起こすと巨石を粉砕していく。

 

 

 

視界のすべてを覆い、天井が見えなくなるほど密集していた巨石群が、オルカンの攻撃により僅かに綻びを見せた。僅かな隙間から天井が見えている。俺はオルカンを仕舞い、代わりにドンナー・シュラークを抜くと天に掲げて連射した。僅かな生存の道を押し広げるように、計算された精密射撃が砕かれた巨石の破片を更に砕きつつ連鎖的に退けていく。

 

 

 

しかし、いくら迎撃しても限度がある。迎撃し損ねた巨石が豪速を以て落下し、俺たちに到達する。その時に雷電は何かの悟りを開いたのかライトセーバーをしまい、そのまま正座した。

 

 

「おい、雷電!?……って、やばっ!?」

 

 

一瞬の余所見が命取りとはまさにこのことを示すように俺は雷電に気を取られてしまい、脱出するタイミングを逃してしまう。俺は苦し紛れにドンナー・シュラークを構えたその時、落下して来た巨石がその場で静止したのだ。他の巨石も雷電を中心に地面に激突する10mで静止する。その時に俺は雷電がフォースで何とかしてくれていると理解した瞬間、俺はユエを呼び出した。

 

 

「ユエ、一旦雷電の所に向かうぞ!あそこだと何故か安全の様だ!」

 

「んっ…!」

 

 

俺たちは巨石の雨から逃れる為に雷電の近くに向かった。その頃雷電の近くにいたシアはフォースで巨石を静止させていたが、質量の違いがある為か、かなり苦しがっていた。

 

 

「ぬぎぎぎ…」

 

「シア、心を乱すな。フォースは森羅万象のエネルギーだ、大きさは関係無い。心を無にし、フォースに身を委ねるんだ」

 

「マスター……はいですっ」

 

 

雷電の言葉に従ってシアもドリュッケンを起き、その場で正座して心を無にしてフォースに身を委ねる様に集中した。

 

 

 

天井が落ちて来てから数十秒後……

 

 

 

結論から言えば俺たちは助かった。雷電とシアがフォースで天井から降って来た全ての巨石を静止させたのだ。丁度直径10m位の高さと広さだ。これは雷電たちのフォースによってこの空間を維持されているのだ。この高さと広さを確保した俺たちはミレディに対して反撃に転ずる為に準備を行うのだった。

 

 

「ハジメ、何とかこの場を凌いだのは良いが、何も一手も打てない状況じゃあこっちが不利だぞ」

 

「あぁ、分かってる。…だからここで俺の取って置きの()()()()を使う」

 

 

秘密兵器?と雷電は少し気になった様だが、今はフォースでこの空間を維持するのに集中している為に詳しいことを聞かなかった。そして俺は“宝物庫”からその秘密兵器を取り出す。その秘密兵器は、人の形をしておりながら鋼鉄の身体を有し、背中には飛行する為のスラスター付きのバックパック。左腕には盾、右手にはチェーンガンを装備しており、そして何よりも人が乗る前提で造られた架空兵器を俺が完全に再現して作り上げた兵器だ。俺はそれに乗り込む前にその兵器にもう一つ俺が造ったアーティファクトである電磁加速式ガトリング砲“メツェライ”を秘密兵器のバックパックにあるハードポイント部分に装備させる。装備させた後に俺はその秘密兵器に乗り込み、起動させる。……さてと、ミレディ・ライセン。今までの分、たっぷり返してやろうか!

 

 

ハジメSide out

 

 

 

そのころミレディは天井が全て落ちたのを確認し、身動きを封じていた氷を自力で砕いて無事に脱出する。

 

 

「ミレディちゃん…ふっかーつ!!」

 

 

何とか脱出したミレディは生き埋めになったであろうハジメたちが場所に目を向ける。そこには天井の落下により無数の巨石の山が出来上がっていた。この時にミレディは少しばかりやり過ぎたと思っていた。

 

 

「うーん…流石にちょっとやりすぎちゃったかなぁ?でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」

 

 

ミレディは、そう呟きながらハジメ達の死体を探す。と、その時……

 

 

「そのクソ野郎共には興味ないって言っただろうが」

 

「えっ?」

 

 

聞き覚えのある声が響いた。その瞬間、その巨石の山から何かが出て来た。それはミレディでも知らないゴーレム……否、ハジメが造り上げた人型起動兵器(アーティファクト)だった。背中からは何が放出されていて、空中でホバリングしていた。するとそのゴーレムから聞き覚えのある声が聞こえた。そう、ハジメの声だ。

 

 

《PTX-140R“ハードボーラー”。この世界においての初陣だ!》

 

「ど、どうやって……」

 

 

自分の目には確かに巨石群に呑まれたように見えたハジメが、目の前にいることに思わず疑問の声を上げるミレディ。そんな彼女に、ハジメは、機体内でニィと口の端を吊り上げて笑う。

 

 

《答えてやってもいいが……俺ばかり見ていていいのか?》

 

「えっ?」

 

 

先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。ミレディは再び巨石の山の方に目を向けると……

 

 

「倍にして返すぞ!」

 

「どりゃぁぁあ!!」

 

 

そこには雷電とシアが魔法を使っている訳ではないのに巨石を浮かし、そのままミレディに向けて手を振り下ろす。するとそれに引っ張られる様に巨石がミレディの方に向かって行った。

 

 

「嘘!?それってアッシュ君と同じ…!?」

 

「(またアッシュか。…まさかと思うが、アシュ=レイ・ザンガか?それ以前に、ミレディはフォースのことを知っているのか?いや、その考えは後だ。今は戦闘に集中しよう)…ハジメ、今だ!」

 

《あぁ!コイツでも食らってろ!!》

 

 

雷電の掛け声でハジメが乗るハードボーラーは装着されているメツェライで毎分12000発の弾丸を雷電たちが飛ばした巨石諸共ミレディに向けて放つ。圧倒的な弾幕に巨石は砕け散り、ミレディはその弾幕に痛がっていた。

 

 

「痛たたたたたたたっ!?ちょっ……痛いって!?」

 

 

……ゴーレムに痛覚があるのかどうかは分からないが、これを好機と見たハジメはすぐさま射撃を止め、ハードボーラーから降りてそのままミレディの方に向かって跳躍した。

 

 

「くっ…!いくら何度来ても無駄だよぉ!」

 

「その言葉、()()()を止めてから言えっ!!」

 

 

ミレディはフレイムナックルでハジメを叩き落そうとする。対するハジメは“宝物庫”からある物を取り出す。虚空に現れたそれは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構にハジメが義手をはめ込むと連動して動き出した。

 

 

 

ハジメはそのままミレディのフレイムナックルに大筒を叩き付ける。同時に、ハジメが魔力を注ぎ込んだ。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。“ギュイィィィィン”と高速回転が奏でる旋律が響き渡る。その瞬間、大筒の中にある漆黒の杭が打ち放たれた。ハジメが“宝物庫”から取り出したのは義手の外付け兵器“パイルバンカー”である。“圧縮錬成”により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした。世界最高重量かつ硬度の杭。それを大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速で射出する、ハジメのもう一つの切り札でもある。凄まじい衝撃音と共に打ち放たれた漆黒の杭はミレディのフレイムナックルをいとも容易く打ち砕いた。

 

 

「なァ!?」

 

「そのまま死ねッ」

 

 

そしてハジメはパイルバンカーの杭を再装填した後に今度はミレディ・ゴーレムの核に狙いを定めて打ち込み、再び漆黒の杭を打ち放つ。漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。胸部のアザンチウム装甲は、一瞬でヒビが入り、杭はその先端を容赦なく埋めていく。あまりの衝撃に、ミレディ・ゴーレムの巨体が浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディ・ゴーレムは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。

 

 

 

しかし、ミレディ・ゴーレムの目からは光りが消えていなかった。

 

 

「ぐぬぬぅぅぅ…!」

 

 

若干苦しい様な声を出しながらも、ミレディは残った左腕でハジメが装着しているパイルバンカーに殴りつける。その衝撃でパイルバンカーは壊れる。漆黒の杭を残して……

 

 

「ハハハ……ざんね〜ん!!後一歩だったのにねぇ?」

 

 

核の直撃を免れたミレディはこの時に自身の勝利を確信した。……しかし、それは間違いだった。

 

 

「何勝ち誇ってやがる。……雷電!」

 

《分かっている!…全く、本当に無茶をするな、お前は!》

 

「なっ…何ィイイイ!?」

 

 

その時、ハジメの背後から雷電が乗ったハードボーラーが来たのだ。そして雷電は、ハードボーラーのシールド……というより複合兵装の盾部分を前に出し、そのままハジメが打ち込んだパイルバンカーの漆黒の杭に目掛けて加速し、そのまま杭にぶつかり、その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入り、そして砕け散った。これによりミレディ・ゴーレムの目から光が消え、七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。

 

 





今回登場した兵器。ロス◯ラに出てくるVS(バイタルスーツ)こと2ch通称ガチャピンの名を持つハードボーラーでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷宮の在処とジェダイの言葉

お気に入り数が既に500人超えていたこと驚きました。


26話目です


 

 

辺りにもうもうと粉塵が舞い、地面には放射状のヒビが幾筋も刻まれている。激突した浮遊ブロックが大きなクレータを作っており、その上に胸部から漆黒の杭を生やした巨大なゴーレムが横たわっていた。そのミレディ・ゴーレムの上から一機の起動兵器が降りて来て、着地した後に前屈みになってその起動兵器から雷電がコックピットから出たのだった。

 

 

「やれやれ……ぶっつけ本番だったとはいえ、フォースの恩恵がなかったら今頃操縦は愚か、自爆しかねなかったぞ、ハジメ?」

 

「いや、自爆はねえだろ?そいつには自爆装置はつけてねえし……」

 

 

そんなこんなで他愛のない会話が成立し、俺たちは改めて七大迷宮の一つ、ライセン大迷宮を攻略することが出来たなと改めて実感した。その後にジェット・トルーパー達の安否を確認したが、全員死亡していることが判明し、俺はこの迷宮で戦ってくれたトルーパーに哀悼の意を表するためにこの部屋で共和国軍の敬礼をした。そしてシアは、無事に大迷宮を攻略できたことにホッとしたのか少しばかり腰が抜けてしまう。

 

 

「?……大丈夫か、シア」

 

「あ…あはは……マスター。さ、流石に今回は私でも疲れました。特に、あの巨石を静止させるのに。……ですが、何とか大迷宮を攻略できましたね!」

 

 

それもそのはず、今までは温厚で争いごとが苦手な兎人族であり、つい最近まで戦う術を持たなかったシアが一度も“帰りたい”などと弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて大迷宮の深部までやって来て、無事に攻略出来たのだ。

 

 

「まぁ、こいつ(ハードボーラー)を取り出せたのはある意味、雷電とシアのおかげだな。ありがとな」

 

「ふぇ?な、なんだか……ハジメさんが凄く優しい目をしている気が……ゆ、夢?」

 

「お前な……いやまぁ、初対面の時の扱いを考えると仕方ないと言えば、仕方ない反応なんだが……」

 

「まぁ、初対面の時に俺からの頼みだったとはいえ、ハジメが俺ごと纏雷でやったからな……」

 

 

そんなこんなで俺は未だ頬を抓っているシアのもとへ歩み寄って行き、おもむろにシアの頭を撫でた。乱れた髪を直すように、ゆっくり丁寧に。

 

 

「え、えっと…マスター?」

 

「よくやったな、シア。よく心を乱さず、天井から落下してきた巨石をフォースで支えていたな。おかげでハジメたちは無事だった。本当によくやった」

 

 

その言葉にシアの緊張の糸が切れたのかポロポロと涙を流した。

 

 

「マスター……うぅ、あれ、何だろ?何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ」

 

「泣いても良い。今は、この時は泣いても良い……」

 

「うわぁぁんっマスター!私…わたし…怖かったですぅ!何度も死んじゃうって思いましたぁ〜」

 

 

涙を流しながら俺にヒシッと抱きつき泣き出してしまった。やはり、初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていたのだろう。それを俺たちに着いて行くという決意と、俺の弟子であるというジェダイとしての覚悟で踏ん張ってきたのだ。褒められて、認められて、安堵のあまり涙腺がゆるゆるになってしまったようだ。

 

 

雷電に甘えるシア、抱きかかえる俺、それを何とも言えない表情で見つめるハジメとユエ。そんな四人に、突如と声が掛けられた。

 

 

「……あのぉ〜〜、いい雰囲気の所悪いんだけど、ちょっといいかな?」

 

 

物凄く聞き覚えのある声。ハジメ達がハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟にミレディ・ゴーレムに飛び乗り、突き刺さっていたパイルバンカーの漆黒の杭を引き抜いて持つハジメとドリュッケンを構えるシアの姿があった。今まさにもう一度ミレディに止めを刺さんといわんばかりにだ。

 

 

「ちょっとちょっと!!待ってってば!少しだけ話させてよ!」

 

「シア、全力でやれよ」

 

「勿論です!」

 

「大丈夫だってぇ~!試練はクリア!あんたたちの勝ち!核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

 

その言葉を証明するように、ミレディ・ゴーレムはピクリとも動かず、眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返している。今にも消えてしまいそうだ。どうやら、数分しかもたないというのは本当らしい。

 

 

「ハジメ、ミレディの言う通りだ。ゴーレムの核が破壊された以上、もう喋る力しか持ち合わせていない」

 

「──ったく、分かったよ。それで、何の話だ?狂った神を倒してくれなんて話は聞かないぞ」

 

 

ハジメの機先を制するような言葉に、何となく苦笑いめいた雰囲気を出すミレディ・ゴーレム。

 

 

「…言わないよ。話したい…というより忠告だね。必ず私達“解放者”全員の神代魔法を手に入れること。君の望みを叶えるには必要なことだよ」

 

「…なら他の迷宮の場所を教えろ。殆どが記録に残ってねぇんだよ」

 

「あらら…わからなくなる程長い時が経ってたんだ…。きっと一度しか言えないから…よく聞いてね」

 

 

ミレディ・ゴーレムの声が少しづつ力を失い始める。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、ユエやシアが神妙な表情をする。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。ミレディは、ポツリポツリと残りの七大迷宮の所在を語っていく。中には驚くような場所にあるようだ。

 

 

 

次に俺たちが向かおうとした砂漠の中央にある大火山にある“忍耐の試練” “グリューエン大火山”

 

 

 

西の海の沖合周辺にある“狂気の試練” “メルジーナ海底遺跡”

 

 

 

教会総本山“意思の試練” “神山”

 

 

 

東の樹海にある大樹ウーア・アルト“絆の試練” “ハルツィナ樹海”

 

 

 

そして、魔国ガーランドの近郊にあるシュネー雪原に存在する洞窟“反面の試練” “氷雪洞窟”

 

 

 

オルクスとライセンを除く残りの大迷宮の場所を話したミレディは、既に限界が近かった。

 

 

「…以上だよ。…頑張って…ね…」

 

「…随分としおらしいな。あのウザったい口調はどうした?」

 

「あはは…ごめんね?(ヤツ)らと戦う時の為に少しでも慣れて欲しくて…」

 

「おい、狂った神のことなんて関係無いと言っただろうが。……とはいえ、その狂った神が俺たちの前に立ち塞がるなら、俺たちの敵として殺すだけだ」

 

「うん……やっぱり君らしいね。君ならきっと…必ず…神殺しを成す。君は君の思った通りに生きればいい。君の選択が…きっとこの世界にとって……最良の選択だ…」

 

 

そうハジメに告げたその時、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 

 

「さて…時間のようだね…。大丈夫、先には進めるようにしておくから…」

 

 

その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光を失っている眼をジッと見つめる。

 

 

「何…かな…?」

 

 

囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な“解放者”に言葉を贈った。

 

 

「……お疲れ様。色々考えたけど、これ以上の言葉は見つからない」

 

「……っ」

 

 

それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはりこれ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

 

 

「……ふふっ。ありがとね」

 

「……ん」

 

 

その言葉を最後に、役目を終えた様にミレディ・ゴーレムの目から光りが消え、“解放者”の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった嫌な人だと思っていたけど、違ってたのかもしれませんね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

 

「ん……」

 

 

どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わすユエとシア。だが、ミレディに対して思うところが皆無の男、ハジメはうんざりした様子で二人に話しかけた。

 

 

「もういいだろ?さっさと先行くぞ」

 

「ハジメさん…空気読んでください…」

 

「(ハジメの奴、ミレディの性格を見抜いているようだな。空気を読めないのではなく、あえて空気を()()()()んだろうな……(汗)おそらくミレディは後で酷い目にあうかもしれないな。その時はミレディのことの慰めておくことを考えておくか)…ハジメの言う通り、そろそろ移動しよう。向こうで()()()()が待っているはずだからな」

 

 

そう俺が爆弾発言を発した時にユエ達が一瞬の内に固まった。それもそうだろう。ミレディがまだ生きているような口ぶりで言ったのだ。困惑するのも無理もない。

 

 

「えっ?知ってたんですか、ハジメさん、マスター?」

 

「知ってるも何も、あいつ(ミレディ)が消えたら、この後、誰が案内役をやるんだよ」

 

「まぁな。……それとミレディのことなんだが、彼女の性格上、あの口調といい、性根の悪さは恐らく素だろうな。となると、俺たちが戦ったゴーレムはアレも遠隔操作されたもので、本体はこの迷宮の深部の奥にいるだろうな」

 

 

そうユエ達に説明しながらも、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がついた俺たちは、この迷宮の解放者の隠れ家と思われるその場所へと向かう。その道中に浮遊ブロックに飛び乗ると、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁までハジメ達を運んでいく。

 

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

 

「……サービス?」

 

「神代魔法を授かる為にその場所まで誘導してくれているようだな。まぁ、そのおかげで手間が省けたけどな」

 

「……」

 

 

移動中でもハジメは何故か嫌そうな表情で無言のままだった。十秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

 

 

 

ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。ハジメ達が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 

 

 

くぐり抜けた壁の向こうには……

 

 

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよー!」

 

 

戦った巨大ミレディ・ゴーレムと違って小さなミレディ・ゴーレムの姿があった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺の考えてた通り、ミレディはまだ生きていた。ユエ達はこの部屋に来る前に雷電が予めミレディが未だ生きていることを知らされた為か、無言の状態だった。

 

 

「「……」」

 

「ほらみろ、こんなこったろうと思ったよ」

 

「あの巨大ゴーレムは飽くまで遠隔操作用の戦闘用ゴーレムで、こっちが本体か。もしも戦闘用ゴーレムがミレディの本体だったら完全にこの迷宮がもぬけの殻になってしまうからな。それに、あの浮遊ブロックはミレディが操作していたんだろ?だったらまだ生きていることに合点が付く」

 

 

雷電の言う通り、ちっこいミレディ・ゴーレムは巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。さしずめこのゴーレムはミニ・ミレディ・ゴーレムと言った所か。

 

 

「あっちゃー、バレてたか!流石は私の試練の攻略者だね!」

 

 

そうミレディは褒め称えるが、ユエ達は未だにミレディがまだ消滅していないことに若干驚きが内心残っていながらもユエとシアがミレディにぼそりと呟く様に質問をした。

 

 

「…ライデンから聞かされてたから分かっていたけど、あれは演技?」

 

「ん〜?あぁ、女の子たちは消えちゃったと思った?ないな~い!そんなことあるわけないよぉ~!」

 

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

 

「ふふふ、中々よかったでしょう?あの“演出”!!やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて!恐ろしい子!」

 

 

テンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。その時に雷電がミレディにある警告を伝えた。

 

 

「あー……ミレディ・ライセン?テンション上がっているところ悪いが、今はそれどころではないと思うが?」

 

「……えっ?」

 

 

雷電の言う通り、現在ユエ達は完全に怒っていた。ユエは絶対零度の表情を、シアは和やかでありながらも目が笑ってなかった。このことを察したミレディはやり過ぎたと自覚させられるのだった。

 

 

「あ…あの…?もしかしてちょっと…やり過ぎちゃった?」

 

「ちょっとじゃなくて完全にやり過ぎだ。今のうちに謝ることを推奨するよ」

 

「う…うん、そうする、絶対そうするよ!」

 

 

ミレディは雷電の言う通り、ユエ達に謝ろうとした。しかし、通常の謝り方では許してもらえない可能性を考えてなのか、ミレディはこのように謝った。

 

 

 

 

 

「……許してヒヤシンス☆」テへペロッ♪

 

 

 

 

 

……いや、何でミレディはそのネタを知っているんだよ。それ以前に、この様なふざけた謝り方にユエ達は……

 

 

「……有罪(ギルティ)

 

「フフフフッ……」

 

 

ユエ達の怒りを更に買ってしまい、ユエはシアに指示を出す様に指を動かし、シアはドリュッケンを構えた。ゆらゆら揺れながら迫ってくる。

 

 

「ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気でマズイからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

 

 

ミレディがユエ達に対して必死に謝罪するが、先ほどのふざけた謝り方が原因で許してもらえず、完全に殺る気満々だった。その時、それを制する様に雷電がシアのドリュッケンを掴む。

 

 

「落ち着け二人とも、ミレディは未だ生きていることはこの部屋に来る前に言っただろう?」

 

「……ライデンどいて、そいつ殺せない」

 

「マスター、退いて下さい。そいつは殺ります。今、ここで」

 

「(駄目だ彼女ら……全く話を聞く気がない。早く、何とかしなければ…)…とにかく落ち着け」

 

「えっマスター?…痛っ!?」

 

「ライデン?……っ!」

 

 

二人の言葉に雷電は呆れながらもその二人にデコピンをして、二人の暴走を止めて注意する。

 

 

「あのなぁ、怒りたい気持ちは俺でも分かる。しかしな、神代魔法を授かるというのにその授けてくれる人を殺ってしまっては元も子もないだろ?」

 

「そうだ、そうだ、本当に失礼しちゃうよ…アイタッ!?」

 

 

雷電に便乗する様にミレディも言うが、雷電はミレディに対しては拳骨をした。その結果、ミレディはゴーレムの筈が、頭にたん瘤が出来上がっていた。

 

 

「お前もだミレディ、いくらなんでも二人をからかい過ぎた。そんなんだから今になってユエ達に殺されかけたんだろうが……。少しは相手を煽るのも程々にしておけ」

 

「うぅ〜……だからってこんなひ弱な少女を拳骨で殴る?それに今の君の表情は完全に悪役だと気づいてッ「…そうか、もう一発ほしいか?なら、今度はゴーレムの頭が砕けるくらいの威力がいいか?」冗談であります!直ぐに辞めるであります!!だからストープ!!これ以上はホントに壊れちゃう!?」

 

 

何だ彼んだで雷電もミレディに対して少しだけキレていた様だ。雷電の脅しを最後に、俺たちは神代魔法を授かる為に、ミレディの指示通りにこの部屋にある魔法陣に乗った。

 

 

「…はい、みんな魔法陣の中に入ったね〜?それじゃ起動するよ?」

 

……次ふざけたら破壊するから

 

「はいっ!全力でやらせていただきます!」

 

 

ミレディの言葉を合図に魔法陣が起動し、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。俺たちは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりと俺たちはミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる。

 

 

「…思ってた通りだな」

 

「ん…ライデンの言う通り、重力操作の魔法」

 

「金髪ちゃんは適性バッチリ!君たちは…ビックリする程適性ないね…」

 

「やかましい。錬成を使えればそれでいいんだよ」

 

「俺の場合はフォースがあるから別に気にしないから一部の点ではハジメと同意見だな」

 

「ウサギちゃんもできて体重を変えるぐらいかな?」

 

「うぇー……私、適正ないんですね…」

 

 

ミレディの言う通り、俺とハジメ、シアは重力操作の魔法の適性がない為ミレディの言ってた通り自身の体重を変える程度であった。ミレディから俺たちに攻略の証として“ミレディ・ライセンの指輪”を受け取った。

 

 

「攻略の証は、他の迷宮にとって必要不可欠なものだから、大切にとっておいてね」

 

「あぁ、分かっている。それとミレディ、ここで一つ、()()をしないか?」

 

「えっ……取引?」

 

 

指輪を受け取った後に雷電がミレディに取引を持ちかけて来た。何故ミレディに取引を持ちかけたかと言うと、雷電曰く、ミレディが所有する鉱石やアーティファクトがあると思って交換しようと話を持ちかけたのだ。その取引に興味を持ったのかミレディは雷電に何をくれるのか聞き出して来た。

 

 

「う〜ん……内容によるけど、そっちは何をくれるの?」

 

「その点はハジメからの了承がいるが、先ほどミレディ・ゴーレム戦に使ったあの人型起動兵器のダウングレード版の設計図を渡そうと考えているんだが……」

 

「なっ…!?……おい、雷電!お前、何考えてんだよ!?」

 

 

流石の俺でも雷電の提案に抗議した。何で俺がVSのハードボーラーの劣化版……いや、実際には劣化版はなく、別種のVSをミレディに提供することになるんだが……。確かにミレディがゴーレムを遠隔操作していた仕掛けを知りたかったし、他にも使えそうなアーティファクトが存在するかもしれない。しかし、幾ら何でも取引条件がめちゃくちゃだろ!?

 

 

「ハジメ、どの道ミレディが所有する鉱石やアーティファクトに興味があったんだろ?だったら攻略者の特権で全てを貰うんじゃなくて、それぞれ物々交換で話を進めようと思うんだ。俺たちがミレディからゴーレムに使われていた鉱石やアーティファクトを貰うのを条件にこっちもそれなりに見合う対価を払わないと筋が通らないだろ?」

 

「それは、そうだが……」

 

「ミレディからハジメにとって錬成に必要な鉱石+役に立ちそうなアーティファクトを貰う。俺たちがミレディにゴーレム以上に役に立つ起動兵器の設計図を渡す。これでお互いにWin-Winの関係になって損はないはずだ。それに、あの樹海での仕返しのことを忘れたわけじゃないからな。これでお相子だ」

 

「いや…どっちかって言えばオルクス大迷宮でお前が先に………はぁ、もういい。分かったよ、設計図をそいつに渡せばいいんだろ?」

 

 

流石の俺でもこれには心が折れ、雷電の提案を受け入れ、俺はVSの設計図であるGTF-11“ドライオ”の設計図を雷電に手渡した。……本当なら手渡したくないんだが、まぁ、予備の設計図があるからいいんだけどさ。マジで何の断りも無しにさくさくと話を進めるのはやめてくれ……

 

 

 

 

……という感じで、なんだかんだと話が進んで、ミレディからゴーレムを遠隔操作していた仕掛けでもある鉱石“感応石”を大量に受け取った。それといくつか役に立つアーティファクトもだ。そしてミレディはドライオの設計図を見て無事に再現できるのかと困っていたが、この時に俺は雷電が何か言う前にサンプルとして“宝物庫”から量産型のドライオを取り出し、それを提供した。これには雷電は俺に対して感心したようだ。……雷電、お前、俺のことなんだと思っていたんだ?まぁ…それはそうと、ミレディから貰った鉱石を使ってどんな武器を作ろうか楽しみで仕方ない。

 

 

 

「…ま、これだけ貰えりゃ十分だな。これだけの量だ。どんな武器を作るか、楽しみだ」

 

「楽しそうな声で凄いこと言っちゃってるよ…」

 

「まぁ……そこはハジメ・クオリティだからな」

 

 

二人は何かと意気投合している様だが、俺は気にせずに感応石とアーティファクトを“宝物庫”に全て収納する。収納し終えた後にミレディが俺たちにもうやることはないか確認して来た。

 

 

「じゃあ、もうやることは済んだかな?」

 

「?…まぁ、そうだな」

 

「俺はまだ少し……(うん?横から何かが来る?)」

 

 

俺は十分と答え、雷電は言いかけている途中で言葉を止めた。一体何を察したんだ?そんな事をミレディは目もくれず……

 

 

「オッケー☆それじゃ、とっとと出て行ってね♪」

 

 

ミレディは何処ぞのカラクリ屋敷の様に紐を掴み、グイっと下に引っ張った。

 

 

「「「?」」」

 

 

一瞬、何してんだ?という表情をする俺たち。その時に雷電は何かを感じ取ったのか咄嗟にDC-17を召喚した。

 

 

「…あーっこれは不味いな。…シア、掴まれ!」

 

「えっ…うぇっ!?ま、マスター?」

 

 

雷電がシアを抱きかかえ、そのままDC-17を天井に向ける。その時に銃口に付けられているグラップリング・フックが射出され、天井に突き刺さる。そしてそのまま上昇して何かから逃れように上に避難した。その時に俺は雷電の行動の意図に気付いたが、時既に遅かった。その耳に嫌というほど聞いてきたあの“ガコン!!”という音が再び聞こえた。

 

 

「「「!?」」」

 

「あーっ……やっぱりな」

 

 

そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む。

 

 

「てめぇ!これはっ!」

 

「嫌なものは水に流すに限るね!それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

 

「ミレディ……お前後でハジメたちにあったら厄介なことになるんだぞ?それと、すまないハジメ!多分そのルートは外へと通じるルートかもしれない。先に外で待っててくれ!俺はミレディに()()()()を聞いてからそっちに戻る!」

 

「ごぽっ……てめぇ、雷電!そういうのは俺たちに早めに言え!それとミレディ!いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

 

「ケホッ……許さない」

 

 

俺とユエはそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。雷電とシアを残して……

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメたちが穴に流された後に残った俺たちは水が引いたことを確認し、俺はケーブルを切り離し、そのまま落下し、フォースで急減速させて無事に着地した。

 

 

「あの…マスター?ハジメさん達は大丈夫でしょうか?」

 

「多分大丈夫だろう。……でもまぁ、ハジメには申し訳ないことをしたが、まだミレディに聞きたいことがあるからな」

 

「私に聞きたいこと?もう大迷宮の場所やここにある鉱石やアーティファクトのことを話したよ?」

 

 

そうミレディは答えるが、俺が聞きたいのはそれではない。

 

 

「そうじゃない、ミレディ・ライセン。俺が聞きたいのは二つ。一つはミレディがいうアッシュくんについてだ。そのアッシュくんというのは、もしやアシュ=レイ・ザンガのことか?」

 

 

そう、ミレディと戦っていた時にミレディが俺が使っているライトセーバーを見た瞬間“それってアッシュくんの…?”と呟いたのだ。アッシュという名は聞いたことはないが、もしかしたらアシュ=レイのあだ名という意味だとしたら辻褄が合う。そしてその答えは当たりだった。

 

 

「アレ?アッシュくんの名前を知っているというと、君ってもしかしてアッシュくんの知り合い?」

 

「知り合いも何も、あいつはジェダイ騎士団にとって多少の問題児と言われた男だぞ?()()()()と同じジェダイ・ナイトだからな」

 

「えっ?君ってアッシュくんが言うそのジェダイって奴なの?それ以前に、前世のってどういうこと?」

 

「まて、その辺はちゃんと話す。その代わり、聞きたいことの二つ目何だが……」

 

 

俺はミレディに前世の俺のことを順序に話し、説明し終えた後に俺は、アシュ=レイと解放者とはどんな関係なのか聞き出した。ミレディ曰く、解放者たちがまだ生きていた時代にアシュ=レイはシディアスのオーダー66によってジェダイキラーとなったクローン達から逃亡中、運良くニュー級アタック・シャトルを強奪し、命からがら彼はハイパースペースを使ってランダムジャンプを行い、この異世界トータスの星に辿り着いた様だ。

 

 

 

異世界トータスに迷い込んだアシュ=レイは、ある大峡谷(後のライセン大峡谷)に不時着する。彼はミレディ達こと解放者と接触する前は未知の惑星であろう異世界トータスを彷徨っていた様だ。そして彼は偶然にも解放者達と接触し、解放者達と共に狂神エヒトに立ち向かうことになった様だ。しかし、結果は惨敗。エヒトの方が一枚上手で世界を敵に回してしまった解放者達は、それぞれ大迷宮を作り、解放者達の意志を継ぐものが現れるまで迷宮の奥に身を潜めた様だ。

 

 

 

そしてアシュ=レイは、解放者であるオスカーとミレディにある物を渡した。オスカーにはアシュ=レイが使っていたライトセーバーと異世界トータスに存在するフォース感応者のリストだけを収めたジェダイ・ホロクロン。そしてオスカーの協力のもと、不時着し、大破したニュー級アサルト・シャトルの部品を使い一体のアストロメク・ドロイドこと“R2-D7”を製作してオスカーに託した。そしてミレディは他にアシュ=レイ以外のジェダイが来た時の為に別のジェダイ・ホロクロンを渡し、追われながらも身を潜めることはせず、この異世界トータスを放浪したそうだ。そしてそれ以降、ミレディはアシュ=レイの姿を見なくなった様だ。

 

 

「……あいつらしいと言えばあいつらしいな。あの好戦的な性格でありながら破天荒な奴だから……」

 

「あーっ……マスターも何かと前世で苦労したんですね…?」

 

「どうやらその様だね?……あっそうだった!アッシュくんが言ってた様にそのジェダイ・ホロクロン?って奴を渡さなきゃね!」

 

 

そう言ってミレディは懐からオルクス大迷宮で見つけたジェダイ・ホロクロンとは別のジェダイ・ホロクロンを俺に渡した。俺はフォースでそのホロクロンのセキュリティを解除してホロクロンを開くと、そこには共和国から他の星系までの地図やライトセーバーの型などのあらゆる情報が詰まっていた。

 

 

「わぁ……凄く綺麗です。これってなんですか、マスター?」

 

「これは……銀河系の地図だ。まさかこんな置き土産を残しておくなんてな。それに他にもこの世界の地理や様々な情報やライトセーバーの型等も入っている様だ。このホロクロンがあればシアがパダワンからナイトになった際、次の次世代のジェダイ達の訓練に使えるな。……んっ?これは……?」

 

 

その時に俺は、ホロクロンの中にメッセージと思われるものを見つける。

 

 

「メッセージ?アシュ=レイか?」

 

「えっ?アッシュくんのメッセージ!?」

 

 

ミレディは俺が見つけたアシュ=レイが残したメッセージに食いついて来た。俺はそのメッセージを開く。するとホログラム状のアシュ=レイがホロクロンから出て来た。

 

 

《よっ!またあったな!このメッセージを見ているってことは違う順序でミレディの大迷宮を攻略した様だな?》

 

 

相も変わらず元気が有り余っていた表情をしていた。それを見て俺は変わらないなと思った。

 

 

《これを見ているジェダイにある事を伝えておくぜ。俺がこの異世界トータスに来る前にジェダイ聖堂からあるジェダイ・マスターのメッセージをこのメッセージに組み込んでいる。と言っても、後数十秒後に俺と交代する形で入れ替わるだけだけどな。……おっと、時間か。じゃあ見せるぜ》

 

 

その言葉を皮切りに、アシュ=レイから別の人物へと入れ替わる様に姿を消した。そしてアシュ=レイが言うジェダイ・マスターがメッセージとして姿を現した。その時俺は、そのジェダイ・マスターの姿に見覚えがあった。

 

 

「!……マスター・ケノービ?」

 

 

そう、以外にもその人物は、ジェダイ評議会のメンバーの一人である“オビ=ワン・ケノービ”だったのだ。

 

 

《私はマスターオビ=ワン・ケノービ。まだ生き延びているジェダイ達に残念な報告だ。帝国の邪悪な暗闇に、我々ジェダイも共和国も飲み込まれてしまった。これは粛清を生き延びたジェダイへの警告と励ましだ。フォースを信じよ、聖堂に戻ってはいけない。時代は変わった。今未来は不確かな物となった、全員が試されている。我等の信念、信頼、そして友情…だが耐え抜かねばならない、耐えればいつか新しい希望が産まれる。フォースと共にあらん事を……》

 

 

マスター・ケノービのメッセージが終わり、彼と変わる様に今度はアシュ=レイが姿を現した。

 

 

《…まぁ、マスター・ケノービの言う通り、既に俺たちの知る共和国が帝国となっちまって、今じゃ、ジェダイは旧共和国の国家反逆者扱いになり懸賞金も掛けられ見つかれば即処刑だ。その事実だけはもう変わらねぇ。文字通り暗闇に飲み込まれて暗黒の時代に突入しちまった。……だが、諦めるんじゃねえぞ!マスター・ケノービが言ってた様に耐え抜くんだ!耐えれば、いつか新しい希望が産まれるってな!それじゃ、メッセージもここで区切るんでそろそろ閉めさせてもらうぜ!フォースと共にある事を祈ってるぜ!》

 

 

そうしてアシュ=レイのメッセージも終わって、アシュ=レイのホログラムは消えた。

 

 

「あいつ……相変わらず本当にとんでもない問題児だな。こんなメッセージを残して……」

 

「?……マスター。右目、もしかして……()()()()()()()()()?」

 

 

そうシアに指摘された俺はヘルメットを外し、右の頬を触れると、僅かながら液体が右目から流れていた。どうやら俺は無意識の内に涙を流していた様だ。

 

 

「……不味いな、どうも俺は表情が脆く、感情的になりやすくなっているな。……とは言え、それも人間らしいけどな」

 

「マスター……」

 

「すまないシア、心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

 

そう言って俺は涙を拭い、再びヘルメットを被っていつもの調子に戻る。そして俺はジェダイ・ホロクロンをしまい、ミレディから他に出口はないかと聞いてみたが……

 

 

「他の出口?あいにくだけど、さっき君の仲間が流されたその穴しかないよ?」

 

「……マジで?」

 

 

どうやら他の出口はなく、先ほどハジメが流された穴でしか出口が繋がってない様だ。つい間抜けな声を出し、それに呼応する様に……

 

 

「うんうん、マジで。…ということで、君も出て行ってね♪」

 

 

ミレディは再び紐を下に引っぱり、再び四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。中央の穴が開き、俺たちはその流れ込んで来た水に巻き込まれた。

 

 

「それじゃあねぇ☆向こうにいる君の仲間と一緒に迷宮攻略頑張ってね〜♪」

 

「プハッ!……結局こうなるのか!」

 

「ミレディめ、いつか絶対殺ってやるですぅ!ふがっ」

 

 

そうして俺たちはハジメたちと同じ目に合わされて、成す術なく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。穴に落ちる寸前、仕返しとばかりに俺は()()()をフォースを使って投げた。そして俺たちは穴に落ちてそのまま外へと流されるのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

雷電達が穴に流されると、流れ込んだときと同じくらいの速度であっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した。

 

 

「ふぅ~、アッシュくんと同じ様に中々濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師とアッシュくんと同じジェダイ、か。ふふ、何だか運命を感じるね。願いのために足掻き続けなよ……さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やらしばらく忙しくなりそうだね……ん?なんだろ、あれ」

 

 

汗などかくはずもないのに、額を拭う仕草をするとミニ・ミレディはそう独りごちる。そして、ふと視界の端に見慣れぬ物を発見した。突起が付いた丸い球体状の物体。何だろう?と近寄り、そのフォルムを確認してみたが全く見覚えがなかった。その球体から僅かに“ピッ…ピッ…ピッ…”と不吉な音が鳴っていた。その時に私は気がつく。

 

 

「へっ!?これって、まさかッ!?」

 

 

雷電が残していった置き土産である球体状の物体。それは、“クラスAサーマル・デトネーター”であった。始めて見たのにも関わらずミレディは、それが爆発物だと察し、焦りの表情を浮かべながら急いで退避しようとする。しかし、運悪く既に時遅し、ミレディが踵を返した瞬間、白い部屋がカッと一瞬の閃光に満たされ、ついで激しい衝撃に襲われた。

 

 

 

迷宮の最奥に、“ひにゃああー!!”という女の悲鳴が響き渡った。その後、修繕が更に大変になり泣きべそを掻く小さなゴーレムがいたとかいないとか……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宿での波乱と取引

緊急事態宣言が延長になって若干スランプ気味です。

それと、ヒロイン追加のアンケートをこの話で締め切ります。


27話目です。


 

 

一方のミレディのトラップによって流されたハジメたちは激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されていた。息継ぎができるような場所もなく、ひたすら水中を進む。何とか、壁に激突して意識を失うような下手だけは打たないように必死に体をコントロールした。そして漸く出口が見えたと同時にハジメたちは激流に押される。最終的にとある泉から水柱が発生し、そこからハジメたちが飛び出るのだった。

 

 

「どぅわぁあああーー!!」

 

「んっーーーー!!」

 

 

飛び出してきた二人は、悲鳴を上げながら十メートル近くまで吹き飛ばされると、そのままドボンッ!と音を立てながら落下した。

 

 

「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。雷電の奴、ああいうのが分かっているんなら早めに言えっての。そしてあいつ(ミレディ)は何時か絶対に破壊してやる。ユエ、無事か?」

 

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

 

 

何とか水面に上がり、悪態を付きながらも俺はユエの安否を確認する。無事に安否を確認できた後、俺たちは岸に上がり、雷電が戻ってくるまでしばらく待った。

 

 

 

アレから数分後……

 

 

 

しばらく時が数分も経ち、雷電たちを待っていると泉から再び水柱が上がった。その水柱の中から雷電たちが打ち上げられる様に飛び出た。そして俺たちとは対岸側に落下した。何とか水面に上がり、岸に上がった雷電は俺たちと無事に合流した。

 

 

「ッハァ!……やれやれ、ミレディの奴、流石に死ぬかと思ったぞ」

 

「やっと戻って来たか。ミレディに何を聞いて来たんだよ?」

 

「オルクス大迷宮で見つけたジェダイことアシュ=レイの遺産とアシュ=レイと解放者達との関係について聞いて来たんだ。その話は後で追々話すとして、ミレディからもう一つのジェダイ・ホロクロンを手に入れた。これには共和国から他の星系までの地図やライトセーバーの型などのあらゆる情報が詰まっているものだった。この地図にもしかしたら……」

 

「……ところで、シアは?」

 

 

その時にユエがシアがいないことに気付いて俺たちに聞いてきた。それに気付いた俺たちはシアを探した。

 

 

「何っ?…シア?シアッ!」

 

「おい、シア!どこだ!」

 

「シア……どこ?」

 

 

呼びかけるが周囲に気配はない。雷電はもしやと思い、急いで泉に飛び込み、水中に潜り目を凝らす。すると、案の定、シアが底の方に沈んでいくところだった。雷電はこれは不味いと思い、フォースでシアを水面まで押し上げる。そして雷電はシアを抱えて急ぎ岸に上がるのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

雷電たちが泉に到達する数十秒前……

 

 

 

シアは自分達を追い越していく幾つもの影を捉えた。それは魚だった。どうやら流された場所は、他の川や湖とも繋がっている地下水脈らしい。ただ、流される雷電と違って魚達は激流の中を逞しく泳いでいるので、どんどん雷電を追い越して行く。

 

 

 

その内の一匹が、いつの間にか必死に息を止めているシアの顔のすぐ横を並走ならぬ並泳していた。何となし、その魚に視線を向けるシア。

 

 

 

目があった。

 

 

 

魚と。いや、魚ではあるが人間の顔、それもおっさん顔の目と。何を言っているかわからないだろうが、そうとしか言い様がない。つまり、シアと目があった魚は人面魚だったのだ。どこかふてぶてしさと無気力さを感じさせるそのおっさん顔の人面魚は、あの懐かしきシーマ○を彷彿とさせた。驚愕に大きく目を見開くシア。思わず息を吐きそうになって慌てて両手で口元を抑えた。しかし、驚愕のあまり視線を逸らすことができない。シアとおっさん(魚)は見つめ合ったまま激流の中を進む!

 

 

 

と、永遠に続くかと思われたシアとおっさん(魚)の時間は、唐突に終わりを迎えた。シアの頭に声が響いたからだ。

 

 

──何見てんだよ

 

 

舌打ち付きだった。今度こそシアには耐えられなかった。水中でブフォア!と盛大に息を吐き出してしまった。もしかすると、このおっさん(魚)は魔物の一種なのかもしれない。そして“念話”のような固有魔法を持っているのかもしれない。だが、それを確かめる術はなく、おっさん(魚)はスイスイと激流の中を泳ぎあっという間に先へ行ってしまった。後に残されたのは、白目を向いて力なく流されるウサミミ少女だけだった。

 

 

 

そして今現在……

 

 

 

シアを無事に岸に上げた後に俺は、シアを仰向けにして寝かせ、状態を確認した。今のシアの状態は顔面蒼白で白目をむき呼吸と心臓が停止していた。よほど嫌なものでも見たのか、意識を失いながらも微妙に表情が引き攣っている。

 

 

「不味いな、呼吸と心臓が停止している」

 

「そいつはやべぇな…ユエ、人工呼吸を!」

 

「じん…………なに?」

 

 

ハジメはユエに人工呼吸を頼もうとするも、ユエは人工呼吸という行動や言葉は初めて聞いた為に理解できなかった。

 

 

「知らないのか!?気道を確保して…」

 

「知らない。初めて聞く言葉…」

 

「あーっ……俺としたことが、この世界の文明の歴史をすっかり忘れてた。治癒魔法がある分、医学が発達していないんだ」

 

 

そう…この世界には、もしかすると心肺蘇生というものがないのかもしれない。怪我をしているわけでもないし、水を飲んでいるところに更に水分を取らせる訳にもいかないので神水は役に立たない。

 

 

「……仕方ない。これには少し抵抗はあるが、そうも言ってられない」

 

 

いつから意識を失っていたのかわからないが、一刻を争うことは確かである為に、俺は意を決してシアに心肺蘇生を行った。そうなると当然mouth-to-mouth(マウストゥーマウス)が手っ取り早い。俺は何度も心肺蘇生を繰り返した。……最後の最後で死にかけになるとは、本当に残念ウサギでありながらまだ未熟なパダワンだなと思った。

 

 

 

何度目かの人工呼吸のあと、遂にシアが水を吐き出した。水が気管を塞がないように顔を横に向けてやる雷電。体勢的には完全に覆いかぶさっている状態だ。

 

 

「ゲホッ…ケホッ………う……マスター…?」

 

「どうやら無事に息を吹き返した様だな、パダワン。水中の中で何を見たのか知らないが、全く……心配掛けさせッる!?」

 

 

むせながら横たわるシアに俺は至近から呆れた表情を見せつつも、どこかホッとした様子を見せる。そんな俺を、ボーと見つめていたシアは、突如、ガバチョ!と抱きつきそのままキスをした。まさかの反応と、距離の近さに俺は避け損なう。

 

「んっ!?」

 

「んーー!!」

 

 

シアは、両手で俺の頭を抱え込み、両足を腰に回して完全に体を固定すると遠慮容赦なく舌を俺のの口内に侵入させた。シアの剛力と自身の体勢的に咄嗟に振りほどけない状態の俺。実を言うと、何度目かの人工呼吸の時、何故かシアには、俺にキスされていることがわかっていたのだ。体は動かないし、意識もほとんどなかったが、水を飲んだ瞬間、咄嗟に行った身体能力強化がそのような特異な状況をもたらしたのかもしれない。

 

 

 

何度もされるキスに、シアの感情メーターは振り切った。逃がすものかと、俺の体をしっかりホールドすると無我夢中で俺にキスを返した。

 

 

「おい、馬鹿やめっ…んむっ!」

 

「あむっ、んちゅ」

 

「何だコレ……」

 

「残念エロウサギ……」

 

 

一方、そんな光景を見ているハジメたちはというと……呆れた様子で俺たちを見ていた。……いや、そこで見てないで助けて欲しいんだが!?

 

 

「ぷぁっ…マスター……いえ、ライデンさん。いいですよ、私はいつでも…」

 

「ただの救命処置を勘違いするんじゃない!…くそっシアの奴、身体能力強化している分、離れられん!」

 

 

俺は必死にシアを振り解こうとするも、シアの身体能力強化で中々振り解けない。余りにもしつこいシアの求愛に流石の俺でもキレてしまい、俺はホールドするシアから振り解き、シアの頭を掴み……

 

 

「このっ…もう一度溺れてこい、残念エロパダワン(ウサギ)!!」

 

「うきゃぁああ!!」

 

 

そのままシアを再び泉の方に頬り投げた。悲鳴を上げながら泉に落ちたシアを尻目に、俺は荒い息を吐きながら髪をかき上げる。

 

 

「全く……無事に事なきに終わって早々油断も隙もないな。蘇生直後に襲いかかるとか……流石にフォースの未来予知でも読めないぞ」

 

 

そう呟きながらも俺はシアを回収する際に今度はフォースで岸へと引き寄せて回収のだった。この光景の一部始終をみていたハジメとユエは改めてライデンを怒らせない様にしようと心に誓うのだった。

 

 

 

俺たちがミレディによって外に放り出された場所は、以外にもブルックの町の近くにある泉だった。何かと都合のいい場所に放り出された俺たちは、ブルックの町に合流する前に墜落したガンシップの生存者を捜索を終え、ブルックの町に帰還していたデルタ分隊と合流した。デルタ分隊の報告によると生存者は一名を除き、全員死亡との事だった。その一名が何者なのかというと、それは清水だった。墜落したガンシップの内部を調べたところ、愛子先生のところに送るはずの物資と食糧が一部無くなっていたのだ。もしかすると清水がガンシップの墜落から生き延び、一部の物資と食糧を持っていったのかもしれない。

 

 

 

だが、些か気になる事と言えばその清水は一体どこに行ったのかという事だ。フォースも清水の事に関すると何かとざわついてしょうがない分、何かと嫌な予感しかしない。そう考えながらも俺たちはマサカの宿に辿り着き、この宿でチェックインするのだった。

 

 

「いらっしゃいま……って、あぁ!この前のお客様!?その御姿はいったい…」

 

「まぁ、色々あってな。とりあえず、八名一泊。後ついでに風呂を付けてくれないか?できれば直ぐに風呂に入りたい。空いているか?」

 

「は…はい!今の時間帯なら貸切でお使いいただけます」

 

 

そういって女の子はメニューを取り出し、俺たちに見せた。内容からして風呂の貸切時間の値段だった。

 

 

「15分で100ルタか…」

 

「はい、そうです。それで何分ご利用ですか?」

 

「んーそうだな、長く入りたいからな。二時間だ」

 

「にっ…二時間も!?」

 

 

二時間も入る事に驚いた女の子は、顔を赤くして俺たちにその長い時間で何をする気なのか聞いて来た。

 

 

「そんなに使って何する気ですか!?」

 

「いや、普通に風呂に入りたいだけなのだが?こっちは大人数だし……」

 

 

大人数で泊まる為に交代制で入った方がいいと思い、二時間も取ったのだが、女の子は別の意味でそういう年頃の影響なのかかなり気になる様だった。

 

 

「それは分かりますが、そんな筈ありません!この前はそちらの鎧を着た方々は三人部屋と二人部屋で分かれましたが、あなた達の場合はそれぞれ二人部屋に泊まった時だってきっとすごいプレ…「その辺にしなさい!」“ゴチンッ!”痛い!!」

 

 

トリップ的な暴走をしている女の子を母親が拳骨で沈静化させ、黙らせた後に自分の娘を他のお客さんの迷惑にならないような場所に移し、娘の代わりに俺たちに接客をするのだった。

 

 

「すいません、あの子はそういう年頃なんで。どうぞごゆっくりなさってください」

 

「お…おう」

 

「あ…あぁ、すまない」

 

 

古今東西、母は強しという事を知った俺たちは、交代制で最初はデルタ分隊で次は俺とハジメ、最後にユエ達の順番で風呂に入るのだった。

 

 

 

デルタ分隊が入り終わった後に俺たちも風呂に入って、ライセン大迷宮で溜まった疲れをほぐしていた。

 

 

「ふぅ…やっぱ湯船ってのはいいな…」

 

「そうだな。疲れを取るには湯船が一番だ」

 

「だな。…色々と変わっちまったがこの辺はまだ日本人だな」

 

 

そう呟いていると、“ガラッ”と扉が開く音が聞こえた。俺たちはその音が聞こえた方向に目を向けた。この時に俺たちはデルタ分隊の誰かに二度風呂に入りに来たのかと思ったら、予想外な人物が入って来た。

 

 

「ユ…ユエ!?」

 

「シア!?」

 

 

予想外にもユエとシアが入って来たのだ。まだ交代の時間になっていないにも関わらずだ。

 

 

「…え?私に背中を流して欲しい…?」

 

「そんな事一言も言ってないんだが!?」

 

「えっと…背中を流しに来ました、マスター…」

 

「いや待てっ…色々と待て」

 

 

正直言って何が何だが訳が分からなくなった俺は若干混乱していた。何で二人は俺たちが入っているのにも関わらず入ってくるんだ!?

 

 

「…まぁ、今回は貸切だからいいか。ユエ、頼む」

 

「んっ!」

 

「ちょ、おま…!?ハジメ!?」

 

「マスター。こっちも、いいですか?」

 

「いや、それ以前に待て!本当に……ん?」

 

 

その時に俺はユエたち以外の視線を感じた。俺は一旦風呂から上がり、ユエ達が通った扉を開けると、そこにはこの宿の看板娘がいたのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

時は些か数分前に遡る……

 

 

 

ユエたちが丁度雷電たちが風呂に入っている時間帯で風呂へと向かう時、一人の少女がこっそりとユエたちの後に付いて行き、着替え室に潜入したのだった。

 

 

「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

 

看板娘こと“ソーナ・マサカ”は初めて雷電たちがここに泊まった時に彼らの関係を勝手に想像してしまい、色々と夢見る乙女として興味を持ったのだった。ハジメとユエはどのような事をするのか(意味深)。そして雷電とシア。人族と兎人族の愛の行方(意味深)に興味を持ち、それ以降からトリップする様になってしまう。そして雷電たちが再びこの宿に泊まりに来たとのことで、ついにその真相を見抜くチャンスが舞い降りたと判断し、彼らが風呂に向かった後に行動に出たのだ。

 

 

「まさか、こんなチャンスが訪れるなんて思いもしなかったわ。ククク。さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

 

ハァハァと興奮したような気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内で目を凝らすソーナ。そうしてソーナはユエ達が雷電たちがいるであろう風呂場に入った後にこっそりと扉越しで除こうとした途端、扉が勝手に開いた……否、一人の男性に開けられたのだ。その結果、ソーナは雷電に見つかってしまったのだった。

 

 

ソーナSide out

 

 

 

そして今現在……

 

 

 

俺は覗きに来たであろうこの宿の看板娘に対して何をしているんだと仁王立ちで睨んでいた。

 

 

「ち、ちなうんですよ?お客様。これは、その…あの……そう!宿の定期点検です!」

 

「もう少しマシな嘘をつけ。そうじゃなかったらこんな所に覗きに来ないだろう?」

 

「ほ、本当なんですよ~。ほら、夜中にちゃちゃっとやってしまえば、昼に補修しているところ見られずに済むじゃないですか。宿屋だからガタが来てると思われるのは、ね?」

 

「なるほど…確かに、評判は大事だな?」

 

「そ、そうそう!評判は大事です!」

 

「それはそうと、ここに覗きをしようとした奴がいるんだが……その点はどうなんだ?」

 

「そ、それは由々しき事態ですね!の、覗きだなんて、ゆ、許せません、よ?」

 

「ああ、その通りだ。覗きは許せないよな?」

 

「え、ええ、許せませんとも……」

 

 

ソーナは顔を見合わせると“ははは”と笑い始めた。但し、俺は眼どころか表情が笑っておらず、ソーナは小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしている。この時にソーナは悟ってしまった。“…終わった”と……

 

 

「…お仕置き、受けるか?」

 

「ひぃーー、ごめんなざぁ~い」

 

 

俺はその看板娘に一発鉄拳をお見舞いする素振りを見せると、看板娘は脱兎の如く逃げていった。しかしその数秒後、看板娘が逃げていった方向から悲鳴が響き渡った。…どうやら逃げている途中に看板娘の母親に見つかり、お仕置きを受けた様だ。この時に俺は内心でその看板娘に合掌するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

あの看板娘の覗き見事件から約小一時間が経過した。それぞれチェックした部屋で休み、俺とユエも自分達の部屋で休んでいた。

 

 

「…ったく、なんなんだあの看板娘は…?風呂に入ってる客を覗くとか正気じゃないぞ」

 

「…でも、ライデンが撃退した…」

 

 

ユエのいう通り、雷電があの看板娘が覗いている事に気付いてすぐさま対応してくれたお陰であんまし騒ぎにならなくなったのいいんだが……

 

 

「もしかしたらよ、あの看板娘はお前たちや将軍たちのことが気になったんじゃねぇか?」

 

 

そう考えてた矢先、何時の間にこの部屋に入って来たのかスコーチがいた。思わず俺は“ブッ”と吹いてしまった。

 

 

「特に将軍達やハジメたちの関係についてだと思うがなwww」

 

 

ヘルメット越しで分からないが、多分スコーチがドヤ顔していることを俺は想像できた。スコーチのドヤ顔に苛立って、俺はドンナーを取り出してスコーチに向けた。

 

 

「何しれっと入ってきてんだ。お前の部屋は隣だろうが、それとも何か?その脳天をぶち抜かれたいのか?」

 

 

そう怒り文句をスコーチに言ったら“おっと、やべっ…”と思ったのかすぐさまこの部屋から出て行った。全く……あの野郎、何考えてんだか。そう考えていた時にスコーチが退散した方から“げっ…教官!?”と声が聞こえた。スコーチが言う教官という言葉に俺は思い当たる節が一つしかなかった。

 

 

「ユエ、ここで少し待っててくれ。すぐ戻る」

 

「んっ……ハジメ、気をつけて」

 

 

俺はドンナーを片手に部屋を出て、スコーチが去った方角に向かうと、そこにはスコーチとライセン大峡谷であった賞金稼ぎ、ジャンゴ・フェットがいた。

 

 

「まさかこの宿にお前たちがいるとは思わなかったな。坊主」

 

「ジャンゴか。…スコーチが会いたくないやつにあったような声が聞こえたら、案の定アンタがいたって訳だが……」

 

「いや…それ以前に何でフェット教官がこのブルックの町に?」

 

 

そうスコーチがジャンゴに質問をすると、ジャンゴは普通に答えた。

 

 

「何、ただの食糧調達さ。それで、お前たちはこの宿にいる様子だと何かを攻略した後の様だが…違うか?」

 

 

ジャンゴは俺たちがライセン大迷宮を攻略した事を何処で知ったのか知らないが、既に耳にしている様だった。

 

 

「まぁ…な。…んで、お前の本当の目的は何だ?ここで偶然あったにしては話が美味過ぎるからな」

 

「悪いが、それは依頼主から口止めされているんでな。どうしても口を割らせたいんなら……」

 

 

 

「依頼主の倍の額を用意するか、()()()()()()()()……だよな?ジャンゴ」

 

 

 

ジャンゴが言葉が続く途中に第四者の声が出た。瞬間、ジャンゴの右首擦れ擦れ辺りのところに青白いプラズマ刃が出現した。ジャンゴの背後にはライトセーバーを構えた雷電がいた。

 

 

「雷電!?お前…」

 

「…やはりここにいたか、ジェダイ」

 

「ジャンゴ・フェット……お前は何しに来た?態々ハジメやお前のクローンの顔を見に来た訳じゃないよな?」

 

「それすらお見通しじゃないのか、ジェダイ?」

 

 

そうジャンゴが言う中、雷電はライトセーバーのプラズマ刃を消し、ライトセーバーを収納する。

 

 

「完全というわけではないさ。ただ、お前は本当に何しに来たのか聞きたいだけさ」

 

「なら、報酬次第さ。目安としては8000万だ」

 

 

前に一度ライセン大峡谷でジャンゴと会ってから彼を雇いたければ2000万以上を要求した。そして今、俺たちの前で8000万と巨額を示した。その巨額の大金にその巨額の大金に雷電は苦虫を潰した表情をしていた。この時に、俺は思った。クローンのオリジナルであるジャンゴをこちら側に引き込めば、戦力増加と同時に雷電が召喚するクローンの訓練教官としてクローン達を強化する事が可能と踏んだ。

 

 

 

大抵の賞金稼ぎは現代のアメリカにおける保釈保証業者からの逃亡者を捕まえて賞金を受け取る業者である。根拠となる法律は州によって異なり、免許を必要とする州もあれば不要の州も一部には存在する。然し、荒くれハンターによるミスが各地で問題化しており、現在は専用身分証、身分章などの携帯義務を課せられている。連邦保安官とは違い、私立探偵同様に、あくまで州法務省・公安部の許可を受けた民間業者である。

 

 

 

しかし、日本においてはこのような制度は認められておらず、個人が賞金をかけた場合は警察から中止要請が入る。だが、ここは異世界であり、スター・ウォーズ世界出身のジャンゴに取ってはそんな常識は全く通用しない。なので、値段が凄くいい加減なのだ。スター・ウォーズ世界の常識を知らない者は、いったい幾らで雇えるのか見当がつかず、凄くカモられるのだ。しかし、ここは異世界トータス。俺たちがいた元の世界とは違い、この世界でカモることは悪い事ではない。騙され、ぼったくられて雇ってしまった奴がマヌケなのだ。ここで、買い物の仕方を解説しよう。

 

 

「8000万?」

 

 

例えば、この場合“俺は吹っかけられてるのをお見通しだ”という態度を取り…

 

 

「クッ……ハッハッハッハッ!幾ら何でも俺たちを馬鹿にするなよ、少し高いんじゃないか?」

 

 

…と、大声で笑おう。すると…

 

 

「なら、いくらで支払ってくれるんだ?」

 

 

依頼主に決めさせようと探ってくる。

 

 

「3000万にしてくれ。こちらに雇われれば、弾薬やブラスターとジェットパックの整備を無償でやってやるさ」

 

 

俺でもこんなに安く言っちゃって悪いな〜と言うくらいに値段+オマケのサプライズ付きを言うのだ。すると…

 

 

「……フッ…中々面白い冗談を事を言うな坊主。ブラスターの弾薬、及びブラスターとジェットパックの整備は願ってもないが、割と値段が少ないんじゃ話にならないな」

 

 

…っと首を掻っ切る真似をしてくる。しかし、ここで気負けしてはならない。

 

 

「じゃあ、弾薬やブラスター、ジェットパックの話は無しだな」

 

 

帰る真似をしてみよう。

 

 

「分かった、俺からのサービスだ。7000万なら手を打とう」

 

 

…と言って、引き止めてくる。

 

 

「じゃあ、4000万にしろ」

 

 

そして、ここからは本格的な値段交渉が始まるのだ。という訳で……

 

 

 

値段交渉、開始!

 

 

 

「6500万」

 

「4500万」

 

「6000万」

 

「5000万」

 

 

二人が息をついて言葉をそろえる。

 

 

「「…5500万」」

 

 

値段が決まり、ガシッと俺はジャンゴと手を組む。無事に交渉が成立するのだった。正直の話、今の俺たちにはそんな大金はない。この時に俺はオルクス大迷宮にあるグランツ鉱石の様な宝石を次の町で換金して大金を確保しようと考えるのだった。するとジャンゴが…

 

 

「中々思い切った交渉をして来たな。取引の基本は覚えている様だが、俺の方が一枚上だった様だな。まぁ、今回はその度胸に免じて後払いにしておいてやるよ」

 

「そういってくれるとこっちは助かるよ…」

 

「…それで、依頼内容は?」

 

 

そんな感じで俺は無事に賞金稼ぎのジャンゴを雇う事に成功する。依頼内容としては元の依頼主側で雇われた振りをしつつも、トータスの世界から俺たちの元いた世界に帰れるようになったら、その報酬を支払う事にした。なお、ジャンゴの前の依頼主は魔国ガーランドの魔人族に雇われている為に俺たちと対立する可能性がある為、ある程度敵対する振りをしながらもタイミングを見て、こちら側に来るように手引きするのだった。因みに、ジャンゴが俺たちの元いた世界に興味を持ったら、俺たちの世界の通貨の事を考えなければならなくなったのは余談である。

 

 

 

一方の雷電たちはというと……

 

 

「俺たち、完全に蚊帳の外だな」

 

「ハジメや教官。完全に俺たちの事を忘れてないか?」

 

 

完全に置いてけぼりになっていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウルの町での再会編
護衛と襲撃


前回のアンケートの結果、オリ主のヒロイン追加が正式に決まりました。それで次のアンケートなのですが、これは少しだけ複雑ですが天之河の扱いについてアンケートを取りたいと思います。


28話目です


 

 

ハジメがジャンゴと交渉を終えてから翌日、俺たちは次の大迷宮であるグリューエン大火山に向かう為に一旦冒険者ギルドに向かい、キャサリンの所に会うのだった。

 

 

「おや、いつもの坊や達じゃないか。今日はどんな用だい?」

 

「グリューエン大火山の迷宮へ行きたい。何か情報を持ってないかと思ってな」

 

「はいはい、ちょっと待ちな」

 

 

そういってキャサリンは分厚い本を開き、一枚一枚とページをめくって調べている中、キャサリンは俺たちにある事を確認する。

 

 

「そういえばこの間冒険者登録、ここでしたよね?とすると、今のランクは“青”だね」

 

「なんだそのランクってのは?」

 

「冒険者の価値や実力の指標さね、覚えておきな。…と、さぁ待たせたね。大火山の情報だよ。これを見てみな」

 

 

キャサリンの言われた通りに俺たちは本に書かれている地図を見た。俺たちが前にオルクス大迷宮の地図と比較して見ると、こちらの方がより分かりやすかった。俺たちが向かおうとしているグリューエン大火山は大陸を西に進んだ大砂漠の中にある様だ。迷宮に挑戦する場合はそれなりの準備が必要との事だった。準備に必要な物は途中の中立商業都市“フューレン”をキャサリンから勧められた。

 

 

「今ならフューレンへの護衛の依頼が一件あるね。馬車で移動できるから丁度いいと思うよ。どうするかい?」

 

 

更にはフューレンへの護衛の依頼まで勧めてくれた。この時の俺たちは急ぎの旅ではない為、たまには馬車での移動も悪くないと賛成し、キャサリンが勧めた依頼を受けるのだった。

 

 

「キャサリンさん、貴女が勧めた依頼を受けさせてもらうよ」

 

「あいよ。それじゃそのまま正門へ行っとくれ。…あ、ちょっと待ちな」

 

 

するとキャサリンが俺たちを呼び止めて紙に何かを書き始めた。そして書き終えた紙を封に入れ、一通の手紙にしたそれを俺たちに渡した。

 

 

「これは?」

 

「手紙だよ。他の町でギルドと揉めた時にそれを見せな。おっと、詮索はなしだよ?いい女には秘密がつきものさね☆」

 

「アンタいったい何者だよ…」

 

「…だけどまぁ、何から何まで感謝します」

 

 

そうキャサリンに礼を言った後に俺たちはギルドを後にして一度宿に向かうのだった。何でもこの依頼は色々と準備が必要な為、出発は明日になるとの事だ。そこで俺たちは宿で一泊し、最終点検を行うのだった。…それにしても、本当にキャサリンという人物はいったい何者なのかと気になったが、あの人の言う通り余り詮索はせず、その考えを放棄するのだった。

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

俺たちは予定道理に正門で待っている依頼主であろう隊商のリーダーと会うのだった。それ以外のも隊商を護衛する他の冒険者達の姿があった。

 

 

「私の名はモットー・ユンケル。この隊商のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

 

「……もっとユンケル?……隊商のリーダーって大変なんだな……」

 

 

日本のとある栄養ドリンクを思い出させる名前に、ハジメの眼が同情を帯びる。なぜ、そんな眼を向けられるのか分からないモットーは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ」と苦笑い気味に返した。……ハジメ、名前がいくらアレとはいえその反応はどうなのかと疑問に思うのだった。

 

 

「護衛については問題ない。我々があなた方を無事にフューレンまで護衛いたしましょう」

 

「それは頼もしいな。……ところで、早速で悪いが、君に相談がある」

 

 

突然とモットーは俺に何かの相談を持ちかけられた。一体何の相談なのかは分からなかったが、モットーがその口を開いた。

 

 

「その兎人族…売るつもりはないかね?それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

 

そうモットーに言われた瞬間に俺は疑問に思った。こいつは何を行っているのか?と……

 

 

「シアを()()()()()()()だと…?」

 

「ええ。珍しい白髪に美しい容姿の兎人族。これほど珍しい商品は初めて見るものでしてね?見れば随分と懐かれている様子。それなりの額を出しますが…いかがかな?」

 

 

そうモットーはシアを見ながら俺にシアを売る気はないかと聞いて来た。その視線を受けてシアは咄嗟に俺の背後に隠れた。ユエのモットーを見る視線が厳しい。だが、一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは、すなわち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前のことだ。モットーが責められるいわれはない。だからこそ、俺は答えた。

 

 

「…悪いがモットーさん、シアは俺にとって大事な弟子だ。たとえ何処ぞの神が欲しがっても手放すつもりはない。……ここまで言えば後は分かると思うが、敢えて言わせてもらう。お引き取り願おう」

 

「…そこまで言われたら仕方ない、ひとまず今は引き下がろう。ではそろそろ出発しますよ。護衛の程、よろしくお願いします」

 

 

そうして俺たちはモットー率いる隊商の馬車に乗り込み、護衛しながらも中立商業都市フューレンまで向かうのだった。因みに最前列の馬車には俺やハジメ、ユエとシアが乗っており、最後列の馬車にはデルタ分隊が乗っている状態である。因みにシアはというと、匿ってくれたことに嬉しさを隠せないのか、俺の背後から肩に顎を乗せたシアの顔が至近距離に見えた。その顔は真っ赤に染まっており、実に嬉しそうに緩んでいる。

 

 

「シア……分かっていると思うが飽くまで師弟としての意味で言った訳で、特別な意味ではないからな?」

 

「うふふふ、わかってますよぉ~、うふふふ~」

 

 

飽くまで身内を捨てるような真似はしないという意味であって、周りで騒いでいる奴らのように“自分の女”だからという意味ではないとはっきり告げたのだが、果たしてそれがシアに伝わっているのかどうか分からないのであった。

 

 

 

夕暮れ時、ある程度進んだ所で一旦馬車の足を止め、野営の準備の為に焚き火を起こすのだった。今日はどの位の距離を進んだのかモットーから聞いたところ、大体三分の一位は進んだとのことだ。順調に行けばあと四日程で着くとのことだ。するとモットーが俺たちに食糧に関して聞いて来た。

 

 

「ところで、食事はどうされるおつもりで?一応食糧の販売もしてはいますが…」

 

「あぁ、そういったことは心配いらない」

 

 

モットーの問いにハジメが代わりに答えて“宝物庫”から食糧を取り出し俺とシアの任せるのだった。

 

 

「頼んだぞ、食事係」

 

「おまかせくださーい!」

 

「いやっハジメ、それ(宝物庫)態々人前で見せるか?」

 

「は?どういう意味……あっ…」

 

 

俺の言った意味を理解したハジメだが、時既に遅し。モットーはハジメが“宝物庫”から食糧を何もないところから出現させたことに驚きを隠せず、口を開いてポカンとしていた。そして……

 

 

「なっ…なんですかその道具は!?」

 

 

当然、初めて見る道具に興味を示し、俺たちに聞いてくるモットーの姿があった。一応これ以上の厄介ごとを避ける為に俺は“宝物庫”について説明をした。すると案の定モットーは言い値で買い取りたいとのことだった。とりあえず俺はモットーに“宝物庫”についての表側の理由はハジメが錬成で作り出したアーティファクトであると同時に、まだ試作品であるために売るわけにはいかないと嘘の情報で誤摩化すのであった。もしも“宝物庫”がオルクス大迷宮のものであると知ったら、色々と厄介なことになるのは確実であった。そんなこんなでモットーには“宝物庫”のことは諦めてもらい、俺とシアは皆の為に食事を作るのだった。因みに俺たちが作った料理を隊商や護衛隊の者達が食べてみたらかなりの高評価だった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

昨日の“宝物庫”の件でモットーから質問攻めをされて少し寝不足になった俺は、馬車の中で少し休んでいた。その馬車の中には雷電がいた。ユエとシアは馬車の屋根の上にいて、風を感じていた。

 

 

「大丈夫かハジメ?」

 

「大丈夫じゃねえよ。あの後ひたすら質問攻めされて眠いんだよ…」

 

「まぁ確かに…“宝物庫”さえあれば馬車要らずだからな。ある意味では運送業の革命とも言えるアーティファクトだからな?」

 

「その分、モットーの目が血走ってて気味悪かったぞ…」

 

 

“確かにな…”と雷電は少し苦笑いをしていると、雷電が何かを感じ取ったのか馬車から身を出した。

 

 

「シア、お前も感じたか?」

 

「はい、マスター!フォースが少しざわついていたので見たのですが…」

 

「それでどうだった、敵の数は?」

 

「はい、数およそ百以上、森の中から来ます!」

 

 

その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

 

 

「ひゃ…百以上だと!?そんな数聞いたことないぞ!」

 

「最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 

護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。商隊の護衛は、全部で十六人。ユエとシア、デルタ分隊を含めて二十二人。この人数で商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。

 

 

「引き返せ!今ならまだ間に合うかもしれん!」

 

 

ガリティマが引き返すよう指示を出すが、俺はユエにある事を聞き出した。

 

 

「ユエ、お前の魔法ならこの数、何とかなりそうか?」

 

「んっ…。ハジメ、ここは私に任せて」

 

 

そう言葉を残してユエは馬車の上へと移動する。

 

 

「正気なのか!?魔物が百匹もいるんだぞ!それを一人の冒険者に任せるなんて…」

 

「あー…その点は問題ないぞ。ユエの魔法なら何とかなるからな」

 

 

その時には百匹以上の魔物の群れを目視で確認できた。案の定ものすごい数であった。すると雷電は何か案があるのかライトセーバーを片手に取り出した。

 

 

「百匹以上の魔物か。…()()()のテストにはもってこいと言ったところか。ユエ、そっちはいけるか?」

 

「ん…大丈夫、問題ない」

 

「いや、そのネタ……何でもない」

 

 

何でそのネタを知っているのか色々と突っ込みたかったが、時はそれを許してはくれなかった。

 

 

「接敵、十秒前ですよ~!」

 

 

シアの言う通り、既に魔物の群れが徐々に近づいていたのだ。敵に先制攻撃される前にユエは詠唱し始めた。

 

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、──“雷龍”」

 

 

ユエの詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

 

 

「な、なんだあれ……」

 

 

それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。

 

 

 

そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指タクトに合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。“ゴォガァアアア!!!”っと、凄まじい轟音を迸らせながら……

 

 

 

その雷龍は百匹以上もいる魔物の群れの方に向かい、そこに着弾すると、その場にいた魔物達が一瞬で塵となって消え去った。余りにも高過ぎる攻撃力に肉体が持たず、今の様になったのかもしれない。俺たちはユエがいままで見せたことのない魔法に驚き……というよりは若干引き気味になっていた。

 

 

「おいおい……あんな魔法、俺でも初めて見たぞ」

 

「複合魔法、私のオリジナル。雷属性の魔法にライセンで手に入れた重力魔法を組み合わせてみた。…因みに詠唱は、ハジメと私の出会いと未来を詠ってます」

 

 

無表情ながらドヤァ!という雰囲気でハジメを見るユエ。我ながらいい出来栄えだったという自負があるのだろう。ハジメは、苦笑いしながら優しい手付きでユエの髪をそっと撫でた。自慢気なユエを見ていると注意する気も失せた。この時に他の護衛隊がユエの魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は少し壊れ気味になっていたのは余談だ。その時に雷電が声を掛けて来た。

 

 

「あー…和んでいるところ申し訳ないが、敵の一部がまだ生き残っているぞ」

 

 

そう雷電が指摘してユエが放った魔法の方を向けると、前よりも約四十匹前後ぐらい生き残っていた。どうたら本能的にユエの魔法のヤバさに早く気付き、直ぐにこの場から離れ、魔法の直撃から避けられた様だ。まだ残っていた魔物に対してユエは再び魔法を放とうとするが、雷電がそれを静止する。

 

 

「ライデン…?」

 

「もう十分だ、ユエ。後は俺がやる」

 

 

そういって雷電はライトセーバーを起動させ、プラズマ刃を展開する。しかし、今回はいつもとは違って一部のエネルギーが電流の様に“バチバチッ!”とプラズマ刃の周りを走り、電流がプラズマ刃の方に集まっていた。雷電はそのライトセーバーを一突きの構えを取り、向かってくる残りの魔物の群れに向けて詠唱し始めた。

 

 

「のたうて──“鳴神”ッ!!」

 

 

そしてライトセーバーを突き出すと、そこから強力なビーム状の雷撃が放たれた。その雷撃は残りの魔物を飲み込み、雷撃により塵となって跡形もなく消滅した。これを見ていた俺たちや他の護衛隊も今の技に唖然とした。俺は何とか雷電にその技を何処で覚えたのか聞き出した。

 

 

「なぁ雷電、お前その技何処で覚えた?俺の記憶が正しければそいつは……」

 

「あぁ、この技は俺やハジメの故郷であるとあるゲームにあった技を俺なりに再現してみたものだ」

 

「何処ぞの戦国武将だよ、お前……」

 

「今の俺はジェダイだけどな……」

 

 

そう雷電が言うが、いつの日か極殺モードに入るんじゃないのか?…いや、流石にそれは雷電が嫌う暗黒面だろうな。そして唖然として固まっていた護衛隊は我に戻った瞬間、ユエが複合魔法を見せた時と同じ様にまた壊れ気味になった。この時に俺は雷電に対してもう何を言ってもツッコマないことにした。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺とユエが、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 

 

 

馬車の屋根で、俺とシアは共に瞑想し、ユエに膝枕をされ、寝転んでいるハジメ。そんな俺たちにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。大方シアや“宝物庫”を売る気がないのかの再確認なのだろう。

 

 

「ハジメ殿にライデン殿。着く前によろしいか?出発前に話したその兎人族と“宝物庫”、やはり売る気はありませんかな?」

 

「またその話かよ……いい加減しつこいぞ」

 

「ハジメ、その件は俺とて同じだ。だが、彼にとってそれが商人としての生き方なのしれない。とは言え、俺もハジメと同じで売る気はない」

 

「一生遊んで暮らせる額をお支払いしますよ。特に“宝物庫”は個人の手に余る代物」

 

 

モットーの言う通り空間に何でも保管することが出来る“宝物庫”は確かに個人の手に余る代物であろう。だが、これのおかげで俺たちは旅が出来ているのは事実でもあり、厄介ごとに巻き込まれていることには自覚している。

 

 

「この先厄介なことになるかもしれませんぞ?──例えば、彼女たちの身に何か起きたり…」

 

 

モットーが、少々狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるユエとシアに視線を向けた時、ハジメや雷電の姿が無かった。

 

 

「……?あれ…どこに……っ!?」

 

 

瞬間、ゴチッと額に冷たく固い何かが押し付けられた。壮絶な殺気と共に。周囲は誰も気がついていない。馬車の影ということもあるし、ハジメの殺気がピンポイントで叩きつけられているからだ。

 

 

「それは、宣戦布告と受け取っていいのか?」

 

 

静かな声音。されど氷の如き冷たい声音で硬直するモットーの眼を覗き込むハジメの隻眼は、まるで深い闇のようだ。対して雷電はヘルメット越しで表情は伺えないが、モットーの発言によっては止む終えないと見ている様な感じであった。モットーは全身から冷や汗を流し必死に声を捻り出す。

 

 

「ひっ…ち……違っ…!わ…私はあなたがそれを隠そうとしていないので。可能性としてそういうこともあると…たっ…ただそれだけで…」

 

 

モットーの言う通り、ハジメはアーティファクトや実力をそこまで真剣に隠すつもりはなかった。ちょっとの配慮で面倒事を避けられるなら、ユエに詠唱させたようなこともするが、逆に言えば、“ちょっと”を越える配慮が必要なら隠すつもりはなかった。ハジメは、この世界に対し“遠慮しない”と決めているのだ。敵対するものは全てなぎ倒して進む。その覚悟がある。俺の場合はジェダイがまだ復活してはいないが、出来る限り争いごとにならない様に調停者として中立を維持しようと考えていた。そして俺はモットーにドンナーを向けているハジメを静止した。

 

 

「ハジメ、モットーさんが言っていることは本当だ。そういう可能性があるということをモットーさんは、ただそれを俺たちに教えたかっただけだ。別にユエたちをどうにかしようと考えてはいない」

 

「……そうか、ならそういうことにしておこうか」

 

 

俺の説得でハジメはドンナーをしまい、殺気を解く。モットーはその場に崩れ落ちた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

 

「別に、お前が何をしようとお前の勝手だ。あるいは誰かに言いふらして、そいつらがどんな行動を取っても構わない。ただ、敵意をもって俺の前に立ちはだかったなら……生き残れると思うな?国だろうが世界だろうが関係ない。全て血の海に沈めてやる」

 

「ハジメ、あまり商人にそういうことを言ってやるな。……でもまぁ、これで分かったと思うが、つまりそういうことだ。今回の取引は本当に諦めてくれ」

 

「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな……」

 

 

未だ青ざめた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人なのだろう。それに道中の商隊員とのやりとりから見ても、かなり慕われているようであった。本来は、ここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれない。彼を狂わせるほどの魅力が、ハジメのアーティファクトにあったということだろう。

 

 

 

そんなこんなで俺たちは入り口付近に辿り着いた後、モットー率いる隊商の護衛を完了させたという報告をギルドにしなければならないということでモットーと別れを告げるのだった。

 

 

「では私は手続きがありますのでこれにて」

 

「あぁ…」

 

「とんだ失態を犯しました。ご入用の際は是非我が商会を…」

 

「銃口を突き付けられた相手に営業かよ。ホント商魂逞しいな?」

 

「それが商人というものだろう。もし機会があったら立ち寄らせてもらうよ、その時は兎人族と“宝物庫”の話は無しの方角で頼む」

 

 

俺達はモットーと別れる間際にモットーが“またの機会を…”と言葉を交わして別れるのだった。

 

 

 

中立商業都市フューレン。…その名の通りこの世界の商業都市と言ってもいい位に人々が盛んでいて賑わいもある都市だ。流石は大陸一の商業都市といっても過言ではない。現在の俺たちは中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べていた。

 

 

「さて……これを食べ終わったらひとまずギルドで依頼完了の報告と宿探しでもしよう」

 

「…だな。一応この都市のガイドブックはもらっているから問題ないとして、ユエたちはどんな宿がいいんだ?」

 

「…またお風呂がある所がいい。もちろん、混浴で貸切できる所」

 

「私は大きなベッドがいいです!」

 

「俺たちの場合は何処でもいいが、将軍やコマンダーに任せます」

 

 

そんな形で俺たちはユエたちの意見も聞き入れながらも食事を続けるのだった。この時にすぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中がユエたちに声を掛けたかったりしたが近くに俺たちがいる為中々いけなかった。その際に男連中は“視線で人が殺せたら!”と云わんばかりに俺たちを睨んでいたが、すっかり慣れた視線なので、俺たちは普通にスルーした。

 

 

 

そんな感じで食事を終えた俺たちはギルドに向かおうとした時、俺たちは不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。俺とハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 

 

ハジメが“面倒な”と思うと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐ俺たちの方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。…まぁ、ハジメが逃げる事などないだろうが。ブタ男は、俺たちのテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

 

「お、おい、そこのガキ共。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 

フューレンに着いて少しばかし下準備でもしようかと考えていたのだが、どうやら未だに俺たちは面倒ごとから避けられない様だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

厄介事と彼等の行方

二ヶ月も待たせて申し訳ございませんでした。それと天之河についてのアンケートが以外にも原作通りで良いという声が多かったのですが、それだと何かが足りない気がするので、新たなアンケートで詳しい詳細のアンケートを取ります。


29話目です。


 

 

ユエたちに対して気持ち悪い息を上げながらブタ男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエは自分のものになっているようだ。だが、そんなことは許さんと言わんばかりにデルタ分隊がそのブタ男にDC-17mを向ける。ブタ男は“ひぃ!?”と情けない悲鳴を上げると尻餅をついて後退る。一応ブタ男はデルタが持つブラスターをクロスボウの一種と誤認識している為か迂闊にこちらに近づけないでいた。

 

 

「よせっデルタ、この街中でブラスターを向けるな。こっちから騒ぎを起こしたら倫理的に敵わない状況になる」

 

 

俺はデルタに注意しつつも銃を下ろす様にハンドサインで指示を出す。デルタ達はそれに従ってブラスターを下ろす。その後に俺はブタ男に近づき、フォース・マインドで下がらせようと思った。

 

 

 

しかし、そうする前にハジメがそのブタ男に対して殺意を飛ばしていた。その殺気を受けたブタ男は“ひぃ!?”と情けない悲鳴を上げるとその場で股間を濡らし始めた。どうやらある程度手加減はしている様だ。そうでなければ今頃あのブタ男は意識を保てずに気を失う筈だ。

 

 

「…チッ、場所を変えよう」

 

「おいおいハジメ、いいのか?街中であんなに殺気をピンポイントとは言え俺がフォースで…」

 

「いいんだ、周りの視線も鬱陶しかったからな。それに…こいつごときにフォースを使う程でもねえよ」

 

「ま…待てクソガキ共ッ!!」

 

 

それでいいのか?と思いつつもこの場を去ろうとする俺たちをブタ男は何とかハジメの殺気に対する恐怖を怒りで誤摩化す様に堪えながら俺たちを睨む。そしてブタ男は護衛であろう大男にユエたちを除くハジメたちを殺す様に命令する。

 

 

「レ…レガニド!!あいつらを殺せ!私を殺そうとしたのだ!」

 

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 

「い、いいからやれぇ!お、女は傷つけるな!私のだぁ!」

 

「ったく、報酬は弾んでくださいよ」

 

 

そういってレガニドと呼ばれる大男は俺たちの進路を塞ぐような位置取りに移動し、仁王立ちした。

 

 

「おう、坊主共に鎧の兄ちゃん達。わりぃな?俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

 

レガニドはそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだ。そしてデルタ分隊もDC-17mをレガニドに向けていつでも撃てる様に構える。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。

 

 

「お、おい…聞き間違いじゃなければあいつ…“黒”のレガニドじゃないか?」

 

「マジかよ!?“暴風”のレガニド!?金次第であんな奴の護衛もするのか…」

 

「金払じゃないか?結局の所、“金好き”のレガニドだろ?」

 

 

周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察した。ブルックの町でキャサリンから聞いた冒険者ランクについて思い返した。

 

 

 

ランク“黒”

 

 

 

記憶が正しければ上から三番目の冒険者ランクだ。レガニドという男からは闘気が噴き上がっており、ランクに似合う実力を持っていることを理解した。街中でライトセーバーを使うわけにはいかず、俺はフォースの身体能力強化を使って正当防衛で乗り切ろうと考えていた。因みにハジメも俺と同じ様に考えていた様だ。その時にユエ達から制止の声がかかった。

 

 

「マスター、少し待ってください」

 

「シア?…どうしたんだ?」

 

「……ライデン、ハジメ、私達が相手をする」

 

 

ユエ達が俺たちの代わりにレガニドの相手をすると言ってきたのだ。その時にレガニドはユエの言葉に笑いを堪えずに大いに笑った。

 

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって?おいおい、中々笑わせてくれるじゃねぇの『……黙れ、ゴミクズ』ッ!?」

 

 

瞬間、レガニドはユエの辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れたようだ。レガニドは、ユエの言葉通り黙り込む。ユエの魔法が速すぎて、全く反応できなかったのだ。心中では“いつ詠唱した?陣はどこだ?”と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

 

 

「……私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

「あぁ、なるほど……って、それは少しばかり軽率じゃないのか?こっちは余り騒ぎを起こしたくないのだが「既に手遅れだ、諦めろ」……そうですか…」

 

 

ハジメからも既に手遅れだと言われ、もはや厄介ごとは避けられないものだと俺は悟ってしまった。一方のユエとシアはやる気満々である。

 

 

「大丈夫ですよ、マスター!別に殺しあいをするつもりはありませんよ。ただ、周囲の人たちに私達の実力を見せつければいいのですから」

 

「んっ……そういうこと。……悪いけど、報酬のことは諦めて」

 

「いやっそういうことではないんだが……」

 

 

色々とツッコみたいことがあるが、一言では片付かないのでこの時に俺は後先のことを考えるのを止め、今の状況に対処することを考えるのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺ことレガニドは金髪の嬢ちゃんがいつ詠唱したのか、その魔法陣がどこなのかと分析しているのだが、全く以て理解できなかった。ただ、分かっていることが一つだけあった。この嬢ちゃん達は未だに本気を出していないということだ。

 

 

「……どうやら本気でやらねえとこっちがやられるな。坊ちゃんには悪いが傷の一つや二つは勘弁ですぜ」

 

「まぁ、その判断は正しいですね。こっちは手加減はしますけど、そっちは拳だけじゃ危ないですよ?腰の長剣を使ったらどうです?」

 

「ハッ!兎人族の嬢ちゃんにしては大きく出たな!」

 

 

兎人族の嬢ちゃんの安い挑発に乗りながらも、俺は長剣を抜きそのまま長剣を振るう。……だが、この時に俺はある疑念を抱いた。愛玩奴隷という認識が強い兎人族が何故戦鎚を持っているのかを。そう考えながらいるとその答えがすぐに出た。

 

 

「…なっ!(速ぇ!)」

 

「やぁ!!」

 

 

俺が長剣を振るうよりも先に兎人族の嬢ちゃんが戦鎚を構え、そして戦鎚を俺の長剣とぶつかり合う。しかし、重量もある戦鎚に俺の長剣が耐えられる訳も無く簡単に砕かれ、俺はそのまま戦鎚によって勢いよく吹き飛び、ギルドの壁に背中から激突した。この時に俺の脳裏はありえないという言葉しか思いつかなかった。この世界の常識じゃ兎人族は非力の筈だった。…なのに何だこの思い一撃の重さは!?今ので左腕が逝っちまった。

 

 

「おいおい……幾ら何でもやり過ぎだろ?」

 

「大丈夫ですマスター、これでも本気の二、三割しか出していませんので!」

 

「だからといって………はぁ〜っ……もう後には引けないか」

 

 

兎人族の嬢ちゃんが自分の飼い主に本気の二、三割しか出していないと告げられた瞬間、俺は悟ってしまった。この嬢ちゃん達は俺よりも遥かに強いことを。そして、その嬢ちゃん達と共にいる坊主共と鎧の兄ちゃん達もまた俺よりも強いということを……

 

 

「…なるほどな。どうやら俺が間抜けだったらしい。俺としたことが、相手が兎人族なのに武器を持っている時点で気付くべきだった。あれだけの殺気を放ったガキが女に戦いを任せた理由を…」

 

「舞い散る花よ、風に抱かれて砕け散れ」

 

 

追い打ちと言わんばかりに金髪の嬢ちゃんが詠唱し、周囲にあるテーブルや椅子が宙に浮かび、それらが集まって俺の方に向けて飛ばそうと準備をしていた。その時に俺はこの絶望的な状況で思わず愚痴る。

 

 

「…ハッ。坊ちゃん、こりゃ割に合わなさすぎだ」

 

「“風花”」

 

 

その言葉を皮切りに金髪の嬢ちゃんが詠唱を終え、宙に浮かぶテーブルや椅子が一誠に俺の方に向かって襲いかかった。…もう勝てないと悟った俺はテーブルや椅子とぶつかる前に俺は意識を手放した。

 

 

レガニドSide out

 

 

 

ユエ達がブタ男の護衛であろう黒ランクの冒険者と戦った結果、案の定予想するまでもなくユエ達の圧勝だった。護衛の冒険者がやられたことでブタ男は俺たち(主にハジメ)に対して恐怖する他になかった。…それとさっきからハジメから殺気がブタ男に向けられている分何かとおっかないのだが…?

 

 

「ひっ…ひいいぃ!く…来るなぁ!!わ…私を誰だと思っている!ミン男爵家のプーム・ミンだぞ!わ…私に逆らったら…“ゴッ!”プギャ!?」

 

 

そんなブタ男の言葉に聞く耳を持たずにハジメは遠慮容赦なくブタ男の顔面を踏みつける。

 

 

「ギャーギャーと喧しいんだよ豚野郎。発情期か何かか?第一にテメェのことなんざ知るかボケ。…後、地球の全ゆるキャラファンに謝りやがれってんだ」

 

「ハジメ、追い打ちは流石にアウトは故に、その発言はメタいぞ。…そんな事よりもデルタ、一応このレガニドだったか?バクタで治療してくれ」

 

「了解した。40、バクタ治療薬を頼む」

 

 

俺はデルタ分隊に冒険者の治療を指示する。その時にこの騒ぎを何処から聞きつけたのかギルド職員達が今更ながらやって来た。

 

 

「そこの冒険者達、止まりなさい。冒険者同士での争いはギルドにて公正に判断します。そっちの冒険者、一旦その足を退けてはいただけませんか?」

 

 

そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとデルタ分隊が治療しているレガニドの容態を見に行っている。

 

 

「そうは言ってもな、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

 

ハジメがそう言いながら周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。…ハジメ、何気に周囲の皆さんを脅すんじゃないよ……

 

 

「…確かに、証人は大勢いますし嘘ではないのでしょう。ですが、双方の言い分を聞くのが規則となっています。お二人とも、一度ステータスプレートを拝見しても?」

 

「あぁ」

 

「こっちも構わない」

 

 

そういって俺とハジメはステータスプレートをギルド職員に渡した。それを拝見するギルド職員は俺たちのステータスプレートを見てある疑問を抱く。

 

 

「…非戦闘職の“錬成師”?それにこっちは“ジェダイの騎士”?錬成師ならともかく、ジェダイの騎士は初めて聞く職業だ。しかもどちらともランクは“青”。…妙ですね。彼方で治療を伸びている彼はランク“黒”なんですが…其方の六人もステータスプレートをよろしいですか?」

 

 

まさか指名されるとは思っていなかったのかシアは思わず“えっ?”と言葉が漏れてしまう。ハジメはこれ以上厄介ごとにならない様に何とか誤摩化そうとする。

 

 

「あぁ、彼女達はプレートを失くしちまってな。再発行はしていない。…アレ高いだろ?」

 

 

流石にそれで誤摩化しきれないと俺は判断したと同時に、ブルックの町のギルド支部長のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出した。

 

 

「(そういえば、キャサリンさんから貰ったあの手紙…ギルドと揉めた時に出せば良いんだったか?)…ハジメの言っていることは本当だ。それとこっちのクローンは俺が召喚した兵士だ」

 

「召喚した兵士!?貴方が彼等を召喚したというのですか?」

 

「あぁ、俺の技能“クローン軍団召喚”でだ。…それとだ、俺たちのことでブルックの町のギルド支部長から手紙を預かっているんだ」

 

 

手紙を?とギルド職員は何やら気になる様子で俺が手紙を取り出すの待っていた。そうして手紙を取り出した俺はギルド職員に手紙を手渡す。ハジメもキャサリンさんから貰った手紙の存在に今頃気付いたようだ。

 

 

「中身はまだ見ていない。そっちで確認してくれないか?」

 

「…拝見します」

 

 

そういってギルド職員は手渡された手紙の内容を確認した。内容を流し読みする内にギルド職員はギョッとした表情をみせる。

 

 

「──!?こ……これは…」

 

「…?どうした、何か問題でも?」

 

「あっ…いえ、問題ありません。……至急支部長に連絡を入れろ!客人を迎える準備もだ!!」

 

 

何やらトントン拍子の勢いで俺たちを客人の様に扱い、そのまま俺たちはギルド支部長の所まで案内されるのだった。

 

 

「…マジで何者なんだよあのオバサン…」

 

「さぁ?…ただ一つだけ分かっていることと言えば、キャサリンさんは昔何かの御偉いさんであることは間違いなかったんだろう」

 

 

キャサリンさんがいったい何者なのかとハジメと話し合いながらも歩を進めるのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちがフューレンで厄介ごとに巻き込まれている頃の一方、ハヴォックとブリッツ率いる畑山教諭と迷宮攻略から外れた生徒達居残り組を護衛するクローン二個小隊は教諭のや生徒、聖教教会から派遣された教会騎士団と共に各地を回りながらも、現在は“湖畔の町ウル”にて畑山教諭の天職である作農師で稲作の手伝いを全員で行っていた。無論、クローン達や騎士達全員でだ。大人数で手伝いを行っている為にウルの住民からも高評価を得て信頼を勝ち取った。これが後に人々が畑山教諭を“豊穣の女神”と呼ばれ、人々から深く崇拝されるようになるのは遠くない未来であることを俺たちは知ることはなかった。

 

 

 

そんな事よりもだ。約二週間前に向こうの兄弟達からある連絡を受け取った。それはこちら側に新たに増員と物資を送る手筈だったガンシップが何者かに撃墜されたのだ。…そう不時着ではなく()()だ。更にその撃墜されたガンシップのフライトレコーダーの情報も送られて来た。何故その様な情報を送られて来たのかというと、将軍が召喚したデルタ分隊から送られたものだったからだ。その情報は撃墜されたガンシップに内蔵されていたフライト・レコーダーから奇跡的にデータが残っていたのを二組に分けられているランコア大隊のコマンダー達に情報が送られ、事実を知ったからだ。

 

 

 

そのフライトレコードの記録によるとどうやらガンシップ内には将軍のクラスメイトの“清水 幸利”が現在行方不明であることが判明。残りは本来こちら側に送られる筈のクローン兵の増員と食糧と弾薬を積んだ物資だった。その食糧と物資の一部は撃墜され、不時着したガンシップ内にいた清水が生き残り、一部の物資を漁ってこの世界を放浪している可能性が高い。一応彼の捜索は迷宮攻略組のコマンダー・コルトが時間が空いた時にARCトルーパー達を派遣させて捜索させているとのことだ。そんな時に同じランコア大隊のコマンダー・ブリッツが声を掛けて来た。

 

 

「…なぁハヴォック。畑山教諭のクラスメイトはまだ見つかってないのか?」

 

「あぁ。何でも、清水の足取りが掴めないらしい」

 

 

清水が行方不明になってから既に約二週間。これほどに嫌な予感がするのは分離主義勢力が俺たちの故郷カミーノに攻め込んだとき以来だ。ただの気のせいであって欲しいと内心に思うのだった。

 

 

ハヴォックSide out

 

 

 

……所変わって、とある山脈にて魔物の群れを率いる人物がいた。その者はこの世界の物とは思えぬSFチックなアーマーを纏い、黒いフルフェイスヘルメットを装着していた。その人物の背後にはどうやって飼いならしたのか巨大なドラゴンが周囲を回る様に浮遊していた。するとその者は雷電と同じホロプロジェクターを取り出し、その者の主に通信を入れる。

 

 

「尋問官、こちらの任務は30%が完了。残すは魔物の数を増やすだけだ」

 

《分かったわ。引き続き必要最低限の魔物を集めて来てちょうだい、坊や?》

 

「はぁっ…坊や扱いは止めろと言った筈だが?」

 

《そうやって意地になるんだから坊やは坊やのままなのよ。認めて欲しければ与えられた任務を果たしなさい》

 

 

そう告げられると同時に向こうから通信を切断された。その者は不快に思いながらも自身に与えられた任を果たす為に魔物を集めるのだった。

 

 

「全く、人使いが荒いもんだな。あの尋問官……ぐっ!」

 

 

その時に彼は原因不明の頭痛に襲われていた。頭痛が起きるたびに自分が知らない記憶が少しずつ流れてくるのだ。

 

 

“なぁ■■■、さっきも言った様にお前は勇者になりたいと思っているんじゃろ?だが、一人ではなれん。なぁ、お前にはクラスメイトやわし等クローンという兄弟……仲間がいるんだって言うことを忘れるな。お前は彼らを、彼らはお前を必要としている。自分だけで重荷を背負おうとするな、仲間は常に隣におるんだ!”

 

“■■■、ニックネームをありがとな。気をつけてな”

 

“あぁ。……この場合こう言うんだっけ?フォースと共にあれ、■■■■”

 

“お前もな、■■■”

 

 

時折誰かの名が記憶から流れる度にノイズが生じてよく聞き取れないのだ。あの老人は何者なのか?そして何より、少年と兵士らしき人物の会話でもノイズが生じて名前だけが聞き取れなかった。

 

 

「……クソが。一体何なんだ、この記憶は?…もしかすると過去の俺の記憶か?」

 

 

頭痛に悩まされながらも苛立ちを隠せないでいたが、不思議とその記憶に懐かしさを感じながらも逆にそれを不快とは思えなかった。いったいどうなってしまったのかと自問自答してしまうくらいだった。しかし、彼はそんな事はどうでもいいことの様に切り捨てた。

 

 

「……馬鹿馬鹿しい。俺には過去など存在しない。俺は今という時を生きる尋問官達の影……()()()()という存在だ。それ以外に必要は無い」

 

 

そう言い聞かせて彼は再び魔物厚めを再開するのだった。数日後の先の未来に自が記憶に関する運命が待ち構えていることを知らずに……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

依頼と再会

なんとか今月中に次話を投稿することが出来ました。ペース的に少し遅れますので気長にお待ちください。


30話目です。


 

 

ギルド職員達と少しいざこざを起こしてしまったが、雷電が懐からオバチャンが書いた手紙をギルド職員に渡し、手紙の内容を確認してもらった結果がこれだ。厄介ごとを起こした俺たちを客人として迎い入れられた。……何かと事がトントン拍子に運んでいって若干恐怖を覚えたのは内緒だ。ギルド支部の応接の間に待たされてから数分後、この町のギルド支部長らしき人物がやって来た。

 

 

「冒険者ギルドフューレン支部へようこそ。私は支部長のイルワ・チャングだ」

 

「…冒険者の藤原雷電だ。こちらが俺の仲間のハジメとユエ、そして俺の弟子の兎人族、シア・ハウリア。最後に俺の部下のデルタ分隊だ」

 

「38だ。デルタ分隊のリーダーだ。分隊員からボスと呼ばれている」

 

「62、又はスコーチだ。爆破のエキスパートだ」

 

「40です。皆からはフィクサーと呼ばれています」

 

「07……セヴだ。狙撃を得意としている」

 

 

雷電が俺たちの代わりに簡易的に自己紹介をしたと同時に支部長のイルワと握手を交わした。その後に俺たちはイルワが用意した長椅子に座り、テーブルに置かれた紅茶をいただきながらも雷電が渡した手紙の内容に着いて話し合うのだった。

 

 

「手紙は読ませてもらったよ。有望だけどトラブル体質…出来れば目をかけてほしいとあった。あの人らしいな」

 

「あの人らしい……か。イルワ支部長はブルックのギルド支部長とは知り合いなのか?」

 

「おや、聞いてないのかい?」

 

「興味が無かったからな。あんまし気にした事は無かった」

 

 

俺達は飽くまで元の世界に帰る為に迷宮の方に向いていた為にあんましあのオバチャンが何者であるかを詮索しなかった。その時にシアがイルワにオバチャンについて聞き出そうとした。

 

 

「あの〜…キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

「……彼女は素晴らしい人だよ」

 

 

イルワ曰く、オバチャンことキャサリンは嘗ては王都のギルド本部ギルドマスターの秘書長だったそうだ。秘書長を辞めた後もギルド運営に関する教育係になり、それから時が経ってイルワも含め、今現在のギルド支部長の大半がキャサリンの教え子だそうだ。……つーか、何気に雷電が言ってたことはあながち間違いじゃなかったようだな?俗にいう時間の流れってやつか…。そう考えながらも俺はイルワに俺たちが起こしたいざこざの件について聞き出そうと思った。

 

 

「…それはそうと、さっきの件は大丈夫なのか?問題ないならもう行きたいんだが……」

 

「あぁ、彼女の紹介なら身分証明は問題ない。「なら…」その前に一つ良いかい?ドット君、アレを…」

 

 

イルワの指示で俺たちが街中でいざこざを起こした際にやって来て、雷電がオバチャンが書いた手紙を見せた後にこの応接室まで案内したギルド職員ことドット秘書長がテーブルの上に()()()()を俺たちの前に見せる。その書類は依頼書の紙だった。

 

 

「…依頼書か?」

 

「ああ。君たちの腕を見込んでの依頼だ」

 

 

どうやらイルワは俺たちにまた厄介ごとを依頼しようとしていた。この時に俺はキッパリと断ろうとしたが……

 

 

「断…「…分かった。この依頼の詳しい情報は無いか?」!?おい雷電!」

 

 

雷電は俺とは真逆に依頼を受けようとしていた。こっちに何のメリットも無いのに。すると雷電は俺に何で依頼を受ける事にしたのか説明した。

 

 

「そう睨めつめるなよハジメ、イルワさんは俺たちが起こした今回の件はこの依頼を受けることで不問にしてくれると言ってくれてるんだ」

 

「あ?たった今イルワが問題ないって言っただろ」

 

「それは身分証明についてだよ。まだ街中で起こした件は許されていないんだ。もしこのまま依頼を受けなかったらさっきのドット秘書長から言ってた様に双方の言い分を聞くことになっている。向こうの男爵の回復を考えるといつ頃話せる様になるのか分からない故に、更に面倒ごとが起きるのは確定的に明らかだ」

 

 

どうやら雷電はイルワが考えていた事を完全に理解した上でこの依頼を受けようとした様だ。……何でジェダイってのはフォースの恩恵でこういうのには敏感なんだろうかと思ったのは余談だ。雷電の言う通り、これ以上更なる厄介ごとは勘弁して欲しいという意味で、俺も止む無く依頼を受ける前提でイルワの話を聞く事にした。

 

 

「…分かったよ、こっちも聞くよ。流石大都市のギルド長……いい性格してるな」

 

 

“君たちも大概だと思うけどね”と言い返された後、イルワは依頼書の内容を説明した。

 

 

「……さて、依頼内容だが行方不明の捜索だ。ある冒険者一行が予定を過ぎても“北の山脈地帯”から戻って来ない。捜索対象は冒険者の一人、ウィル・クデタ。クデタ伯爵家の三男だ」

 

「伯爵家の?その伯爵家の三男は何故冒険者に?」

 

「彼の両親によるとウィルは冒険者になると両親達の反対を押し切り、家出当然にそのまま家を出て以来彼は些か強引に冒険者パーティーに同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。本来ならあの場所へ逝ける程の実力は持っていない。“北の山脈地帯”は一つの山を超えるとほぼ未開の地だ、強力な魔物も出没している。並の冒険者じゃ二次被害になる」

 

「そこでランク“黒”を瞬殺した()()()にこの依頼を任せようとした……ということか。逆に考えれば俺たち今後の行動の為にランクを上げるの一つの手だが、俺たちには後ろ盾が必要だ」

 

 

そう雷電は言うが、俺自身ランクなんて如何でも良かったんだが、何かしらの後ろ盾は必要だ。そういう意味では俺も雷電の意見に同意だ。

 

 

「分かった、その件についてはこちらで手を打とう。なに、ギルド全体でも相当の影響力があると自負しているよ」

 

「そうか……一つだけ聞いていいか?先ほど言っていたクデタ伯爵家とはどういう関係何だ?」

 

「伯爵とは個人的に仲が良くてね。同行パーティーに話を通したのは私なんだ。確かな実力のあるパーティーなのだから問題ないと思った……」

 

「なるほど、ウィル・クデタを臨時パーティーとして組ませる事で冒険者としての厳しさを伝えようとしたが、それが裏目に出て逆に行方不明という事態に陥ってしまった。……という訳か」

 

「あぁ……まさかこんなことになるなんて……」

 

 

そう言ってイルワは自分が誤った判断でこうなってしまった事に罪悪感を抱いていた。……もし雷電が居なければこういう時に俺は他人事だと切り捨てていたかもしれない。ある意味で俺も雷電のお人好しが移ったかもしれないな。そこで俺はイルワに二つの条件を出す事にした。

 

 

「……だったらその依頼を受ける際に二つ条件がある」

 

「…ハジメ?」

 

「条件?……その二つの条件は?」

 

「一つはユエとシア、二人のステータスプレートの作成。その表記は他言無用を確約すること。二つ目はギルド関連を含む全てのコネクションを用い俺と雷電の要求に応えることだ」

 

「なっ…!何を…言っているんだ…君は…」

 

 

一つ目の条件はまだマシの方だが、二つ目の条件はこればかり俺自身、無茶難題を要求していることは自覚している。しかし今後のことを考えるのならこれぐらいは必要だと考えている。教会の連中と敵対する前提で後ろ盾が必要だ。だから雷電、相手を威圧するような無言の表情をピンポイントで俺に向けないでくれ……(汗)。するとイルワは二つ目の条件について聞いてきた。

 

 

「…何を要求する気かな……?」

 

「大したことじゃない。俺たちが教会から指名手配された時、便宜を図ってくれればいい」

 

 

そう説明した際にイルワは一瞬だけ表情を引きつり、ドット秘書長は青ざめた表情を見せた。

 

 

「教会からの指名手配…?」

 

「あぁ。いつかほぼ確実にされる」

 

「ハジメの言っていることは本当だ。特に、俺の様な誰も知らない職業である“ジェダイの騎士”や兵士を召喚することが出来る技能“クローン軍団召喚”は教会にとって何かしらと都合が悪い分、俺たちを利用する為に何かしらの方法で指名手配される可能性がある」

 

「ば…馬鹿な。教会に敵対するなんて無謀な…」

 

「…わかった、キャサリン先生が認めた人間が言うことだ。きっと何か理由があるのだろう」

 

 

そう言う感じでイルワは二つの条件を呑み、俺たちは後ろ盾を確保することができた。なお、二つ目の条件に関してイルワからは犯罪に加担する要望には応えられないとのことだ。そもそも犯罪を起こすつもりはねぇし、厄介事は避けたいからな。そうして俺たちはイルワからウィル・クデタの捜索の依頼を受け、ウィルが向かった北の山脈地帯の近くの町である“湖畔の町 ウル”に向かうのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

あの若き冒険者ことハジメとライデン、ユエとシアにウィル・クデタの捜索の依頼を頼み、彼等が応接室から去った後に一時的に気を緩めるのだった。ドット秘書長はハジメたちに関して気を緩めず、彼等の秘密について気になっていた。

 

 

「支部長…あんな条件を受けて良かったのですか?」

 

「ウィルの命がかかっていた…仕方ないよ」

 

「しかし…例えそうだとして、彼等の秘密も気になりますね。ステータスプレートに表示されたくない不都合とは一体……それに、あのライデンという冒険者が言っていた事が本当なら、彼等の側近であるデルタ分隊という人物ら…彼等はライデンによって召喚されたことには頷けますが…」

 

 

ドットは未だにハジメたちに対して疑心を隠せないでいた。そこで私はある事をドットに話した。

 

 

「…ドット君、知っているかい?ハイリヒ王国が召喚した勇者たちは皆、とんでもないステータスらしい」

 

「…まさか、支部長は彼等が“神の使徒”の一人であると?しかし彼等は教会と敵対するような口ぶりでした」

 

「──およそ四ヶ月前、その内の二人がオルクス大迷宮で事故が起きたらしい。一人は行方不明で一人は亡くなったらしい。その二人は魔物と一緒に奈落の底に落ちたってね」

 

「…まさかその者達が生きていたと?しかし四ヶ月前と言えば彼等も未熟だったはず……生き残れる筈がありません」

 

 

ドットの言う通り、四ヶ月前に召喚された彼等はまだ未熟と言わんばかりにオルクス大迷宮の奈落の底に落ちてしまえば生き残れる可能性は無い。

 

 

「…そうだね。でも、もし彼等がそうだとすれば何故仲間と合流せずに旅をしているのか?恐らく彼等は奈落の底で()()を見ている」

 

「何かを…ですか…」

 

「──もしかすると彼等は、教会……いや、世界と敵対する覚悟があるのかもしれない」

 

「支部長、どうか引き際は見誤らないでくださいよ」

 

「もちろんだとも──……」

 

 

そう言いながらも私は窓越しに彼等がギルドから出て北の山脈地帯に向かう所を見届けていた。

 

 

イルワSide out

 

 

 

イルワさんから依頼を受諾した後に俺たちは北の山脈地帯の探索の下準備の為に湖畔の町“ウル”に向かっていた。

 

 

「町によらずにこのペースで考えるなら北の山脈地帯まであと半日ってところか?」

 

「今の時間帯だと着く頃には日が沈んでいるからな。近くの町で一泊して早朝から捜索を始めた方がいいな」

 

 

“そうだな”とハジメが俺の問いに答えるとユエは俺たちがウィルの捜索に積極的であることに意外さを感じていた。一方のシアは長距離の移動で疲れていたのか眠りこんでいた。

 

 

「ハジメにライデン…積極的?」

 

「ああ、生きてるに越したことはないからな。せっかくギルドが後ろ盾になってくれるんだ、生きてた方が感じる恩はでかいだろ?」

 

「なるほど……」

 

 

そんなこんなで他愛のない会話をしながらも湖畔の町ウルに到着するのだった。湖畔の町の名だけあって夕日の光りがウルディア湖に反射してより幻想的な美しさがあり、この町の利点は稲作を営んでおり、米が食べられることだ。ある意味では俺とハジメにとって故郷の味をこの町で食べられるという可能性があるという事だ。

 

 

 

ハジメたちが飲食店と宿を探している間に俺はウルディア湖に訪れていた。夕日に照らされた光りがウルディア湖に当たり、キラキラと反射してその幻想的な美しさを表現していた。その時に俺は前世の頃のある惑星のことを思い出していた。

 

 

「…それにしても、本当に綺麗な所だな。ウルディア湖は……ナブーの事を思い出させるよ」

 

「そうか?ナブーって確か、自然が豊かで綺麗な惑星だったか?」

 

 

その時にハジメが俺を捜しにやって来た。どうやらこの様子だと飲食店と宿の目処が立ったようだ。そしてハジメの問いに俺は答えた。

 

 

「あぁ。前世のジェダイだった頃の俺にとってナブーは、精神と心が安らぐ場所でもあったんだ」

 

「…そりゃあこんなに綺麗な場所があったら誰でもそう思うだろうよ」

 

「それもそうか……ん?アレは……ハヴォックとブリッツか?」

 

 

そう話し込んでいると、ふと見覚えのある色違いのアーマーを来た人物等が居た。その人物等は俺が最初に召喚したランコア大隊のARCトルーパーのコマンダー、ハヴォックとブリッツだった。するとコマンダー達も俺たちの存在に気付いたのかこっちに駆け寄って来た。

 

 

「フジワラ将軍!?それに南雲ハジメも……将軍等の生存は迷宮攻略組にいるコマンダー・コルトから聞かされていたのですが、将軍等は何故この町に?」

 

「あぁ、その事なんだが……俺たちはギルドからある人物の捜索を依頼されていてな。この町によったのは目的地に近い町はここしか無かったからだ。だからこうして会えたのは偶然だ」

 

 

ここでハヴォック達と再会できたのは本当に偶然だった。これもフォースの導きなのだろうか?そう考えながらも俺とハジメはユエ達と合流し、全員でハジメ達が見つけてくれたお勧めの飲食店に向かっていた。飲食店に向かいながらも俺はハヴォック達と今現在の状況はどうなっているのかを話し合っていた。

 

 

「しかし、本当に無事で何よりです。将軍等が奈落に落ちてからこっちはこっちで大変でした」

 

「その様だな。…となると、迷宮攻略組は天之河が相変わらずか?」

 

「はいっ…コマンダー・コルトによると天之河は我々クローンに対して反感的でコマンダー・コルトやキャプテン・フォードーも将軍の言う彼のご都合解釈に手を焼かされているようです」

 

「相変わらずか……天之河め、そのくだらないご都合解釈は何れ己の首を自らの手で閉める事になるんだぞ。クローン達だけに反感的になっても意味ないだろうが……」

 

「まっ…天之河が何を考えているのかは俺が知った事じゃないけどな。俺は雷電とユエ達と一緒に元の世界に戻ることが出来れば他の奴は如何だっていい。その為にも他の大迷宮を攻略し、神代魔法を手に入れないとな」

 

 

天之河の件について話し合っている中、ハジメが話に割り込んで来た。確かに、俺も元の世界に帰りたいのは同じだ。しかし、クラスの皆や愛子先生を置いて帰るほど俺はそこまで薄情になったつもりは無い。

 

 

「お前な……確かに俺もあいつは嫌いだけど、クラスの皆や愛子先生を置いて帰るなど俺は…」

 

「分かってるよ。そこまで薄情者になったつもりは無いんだろ?お前のお人好し過ぎることは十分理解しているつもりだ」

 

 

そう言いながらも喋っている間に飲食店に辿り、ハジメはその店のドアを開けて入ろうとした。

 

 

「……とりあえずだ、その件は全ての神代魔法を手に入れてからだな。そうすれば………」

 

 

その時ハジメは扉を開いた先で何を見たのか、何も見なかったかの様に扉を閉め、俺の所に駆け寄って…

 

 

「雷電、一旦シアを貸してくれ」

 

「えっ…シアを?それ以前にハジメ、お前は扉の先で何を見たんだ?」

 

 

俺の問いに答えることなくシアに事情を軽く説明し、その後にシアもノリ気で了承してハジメはシアの背後に回った。そしてシアのウサ耳を使って何かをしようしていた。この時に俺はハジメは一体何がしたいのか分からなかった。フォースで感じる限りでは何かに焦っていることだけだった。その時にハヴォックがある事を思い出した。

 

 

「…そう言えば報告し忘れていたのですが、この町には畑山教諭と迷宮攻略から外れたクラスがおります」

 

「何っ…?それじゃあこの飲食店にか?」

 

「はい、将軍等と再会してすっかり抜けていました。申し訳ございません」

 

 

ハヴォックの言葉で俺は漸くハジメは何に対して焦っているのか理解した。そして飲食店の扉から愛子先生が出て来た。こうして教師と再会するのは俺たちがオルクス大迷宮の奈落に落ちてから約三、四ヶ月ぶりだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

私こと愛子は南雲くんと藤原くんがオルクス大迷宮の奈落に落ちてから既に約四ヶ月近くが経ち、南雲くんたちの死がトラウマとなって戦えなくなった一部の生徒達と共に各地を回りながらも私の天職である“作農師”でいろんな村や町の農作物の栽培と収穫のお手伝いを生徒達と共に行っていました。その際に教会から神殿騎士所属の一部の騎士達を私達の護衛隊して送ってきました。そして今は亡き藤原くんが召喚してくれた兵士、ハヴォックさんとブリッツさんを含むクローンさん達40人が教会から派遣された神殿騎士同様に護衛部隊として同行することになりました。

 

 

 

そして、今現在の私達は湖畔の町ウルで稲作の栽培と収穫のお手伝いを終えてとある飲食店で生徒達や騎士達、クローンさん達と一緒にニルシッシルと呼ばれる香辛料を使った料理を食べるところでした。

 

 

「皆さん、今日もお疲れ様でした!お腹いっぱい食べて、明日も頑張りましょう!」

 

「「「は〜いっ」」」

 

 

そういって生徒達は食事を楽しみました。騎士達は食事は私を含め生徒達が食事を終えるまでお店の通路でお客さんに迷惑をかけない様に端っこに立っていて、クローンさん達も同様に端っこで立っていました。この様子だと一件何も無いかもしれません。……ですが、正直言って不安ばかりです。護衛騎士の隊長のデビットさんを含む騎士達の皆さんとハヴォックさんとブリッツさんが率いるクローンさん達、双方とも仲が悪く、よっぽどのことが無ければ言い争いまで発展しないのですが、何かとデビットさんはハヴォックさん達が嫌いのようです。そんな感じで騎士達とクローンさん達との間でギスギスした関係になってしまい、私は何時言い争いになってしまうのか不安が絶えない分ため息がつくばかりです。

 

 

「はぁ〜っ……」

 

「愛ちゃん先生?ま〜たデビットさんやクローンさん達のことを考えてたの?」

 

 

ため息をつく私に気にかけてくれるのは生徒の園部優花さんでした。周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達、クローンさん達がいて彼等も口々に私を気遣うような言葉をかけてくれました。因みにハヴォックさんとブリッツさんは町の周囲の確認すべくパトロールに行っていてここにはいません。

 

 

「愛ちゃん先生は気にし過ぎですよ。きっと彼等なら大丈夫ですよ」

 

「そのうち、いつの間にか仲直りするだろう」

 

 

流石に生徒達に心配をかけていたら教師としての面子が立たないと思い。私は気持ちを切り替えることにしました。

 

 

「そうですよね!悩んでばかりいても解決しませんね!…すこし、外の空気を吸ってきますね」

 

 

そういって私は席を外して外に出ようと扉に向かおうとしました。その時に扉から誰かが入って来る人と対面した瞬間、私はもう会うことが出来ない筈の人物を目撃しました。それはオルクス大迷宮の奈落の底に落ちてしまった()()くんと瓜二つ……いえ、本人そのもののようでした。少し違いを入れるとなると髪が白髪で背が高身長、そして何よりも右目に眼帯を付けていました。その時の私は一瞬思考が回らなくなってしまい、唖然としていました。

 

 

 

すると南雲くんらしき人は何も見なかったかのように扉を閉めてこの店から離れようとしました。その時に私の思考は再度回りはじめてすぐさま南雲くんらしき人に南雲くんであるのかどうか聞く為に急いで扉を開け、南雲くんらしき人に駆け寄りました。

 

 

「南雲くん…!!南雲ハジメくんですよね!?」

 

「いえ人違いです。私は鳥人間コンテストに参加しにきた一般人で…」

 

「この異世界に鳥人間コンテストはありませんよ南雲くん!!」

 

 

私達の世界でしか知らない競技を知っている時点でその人は南雲くんで間違いありませんでした。南雲くんはウサ耳の女の人のウサ耳を使ってバルバルと振って誤摩化してました。

 

 

「もしこの異世界にも鳥人間コンテストがあったらディスタンス部門での出場とでもいったところか?」

 

「え?…えっ……えええぇぇ〜〜!?藤原くんも!?」

 

 

そう南雲くんの誤魔化しにツッコミを入れたのは、南雲くんと共にオルクス大迷宮の奈落の底へ落ちてしまい、亡くなったはずの藤原くんの姿がありました。藤原くんはクローンさん達と同じヘルメットとアーマーを着ており、素顔が分からなかったのですが声だけで藤原くん本人であることが分かりました。

 

 

「…あはは、お久しぶりです愛子先生。あれから約三、四ヶ月ぶりの再会でしょうか?」

 

 

藤原くんはいつもと変わらない感じで私に接してきた。この時に私は二人が生きていたことに喜びと安堵が湧いてきました。本当に二人が生きてて良かったです……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

状況説明と微細な変化

何かと雑っぽい感じですが、その辺は目を瞑ってくれると助かります。


31話目です。


 

 

愛子先生と迷宮攻略から外れた他のクラスメイト達と偶然の再会を果たした俺は、ハジメたちと共にニルシッシル(異世界版カレー)を食べる為に店の中に入ることにした。愛子先生にユエとシアを紹介した際にユエがハジメの恋人であることを告げた。そしてシアは何かと誤解を招きそうな答えを出しそうな感じがした為に俺の剣術の弟子であることをシアより先に告げるのだった。なお、愛子先生達を護衛している騎士達は教会から派遣された神殿騎士所属であることが判明し、何かと厄介ごとは避けられないなと思ったのは余談で、ユエがハジメの初めてを頂いたという爆弾発言によりハジメは愛子先生から説教を受ける羽目になったのはまた余談である。

 

 

 

なんだかんだで色々とあったが何とか愛子先生は落ち着きを取り戻し、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内された俺たちは愛子先生や園部優花達生徒から怒涛の質問に対処するのだった。なおハジメたちは俺より先にニルシッシルを食べていた。先生達の質問の返答は俺にまかせるように。……ハジメ、幾ら俺がジェダイだからといって交渉を俺に丸投げするのはどうかと思うぞ?それと俺の分のニルシッシルは取っといてくれると助かるのだが?一応質問の返答の際にはヘルメットを外しているが、先生達は失明した俺の左眼に驚きつつも質問をするのだった。

 

 

 

Q、橋から落ちた後、二人はどうしたのか?

 

A、奈落の底に落ちた俺はハジメと無事に合流して奈落の底にいた魔物達と戦い、生き延びて奈落から這い上ってきた。

 

Q、なぜ白髪なのか。

 

A、秘密事項であるが、平たく言うと一部の技能を獲得した際の対価として髪の色が落ちた。

 

Q、その目はどうしたのか。

 

A、俺の場合は奈落の底に落ちた時に瓦礫の破片が左眼に直撃し、失明した。ハジメの場合は奈落の底にいた魔物に右目を持っていかれた。

 

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか。

 

A、今はまだ戻る理由がない為。

 

 

 

一部の質問に半分本当、半分嘘を混ぜ込んだ答えで何とか言い包めようとする。ここで魔物の肉を食べて技能を得たと伝えては回りにいる騎士達がこちらを標的(マーク)してくるだろう。しかし、思わぬことに愛子先生は俺がまだ何かを隠していることに気付いたのか“真面目に答えてください!”と頬を膨らませて怒る。女の勘は鋭いということは聞いたことあるが、本当に女の勘は侮れない。しかし悲しいかな……その怒った表情は全く迫力がない分、少し物悲しい。俺も流石にこれには思わず内心で苦笑いするのだった。

 

 

 

その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

 

「おい!真面目な話なんだ、お前のいっていることが本当なのか怪しいものだ。ちゃんと答えろ!」

 

「ん?愛子先生、其方の騎士は?」

 

「あっ…紹介しますね。こちらは私達の護衛隊長をしてくださっているデビットさんです。聖教教会の神殿騎士の方で…」

 

「よしてくれ愛子…私は教会の騎士としてよりも一人の男としてここにいるんだ。愛子の為なら教会の信仰を捨てる覚悟だよ」

 

 

愛子先生が紹介するデビットという人物は愛子先生にべた惚れなのが一目瞭然だった。その時にハヴォックがこのままでは話が進まないと判断して話に介入するのだった。

 

 

「デビット護衛隊長、まだ話は終わっていません。その様な話し合いは別の機会でしてくれ、これでは話が進まない」

 

「ハヴォックの言う通りだ、大事な話をしている最中だというのに貴方が話を脱線させては本末転倒だろう?」

 

 

俺とハヴォックに指摘されてデビットは苦虫を噛んだ表情で俺とハヴォックを睨みつける。一方の生徒達の中にいる園部はデビットのプレイボーイが雷電たちに指摘されるのを見て少しだけせせら笑ったのは余談だ。

 

 

 

その後に愛子先生から清水のことについて聞き出してきた。この時に俺は情報が漏れたのかと思いハヴォックとブリッツに視線を送ると、その二人は情報を漏らしてはいないと首を横に振った。一応その情報を何処から入手したのか愛子先生に聞いてみたところ、愛子先生と生徒達を護衛する一部のクローン達の会話を小耳に挟んだらしく、クローン達曰く、清水を乗せたガンシップが墜落し、清水は未だに行方不明だそうだ。…まさかクローン達の会話で情報が漏れていたとは……後でそのクローン達は再教育プログラムで訓練し直さないといけないと考えている最中、ハジメたちは自分達は興味はないように食事を楽しみながら美味そうに、時折ユエやシアと感想を言い合いながらニルシッシルに舌鼓を打つ。表情は非常に満足そうである。こればかりには流石の俺でも呆れるばかりだった。

 

 

「お前等な……少しは緊張感を持ってくれよ(汗)」

 

「あ…?あぁ、悪い。あんまし興味ないんでな「ハジメ……このニルシッシルって料理美味しい」ん…?あぁウマいよな。俺たちの世界ではカレーって料理がこれに似てる」

 

「んぅ…おいひぃ…」

 

「ハジメさん、ちゃんと私とマスターの分も取っといてください!!」

 

 

ハジメたちは完全に蚊帳の外(この状況)を利用して食事を堪能していた。その際に愛子先生の隣にいたデビットはハジメたちの行動に苛立ちが増し、今度はハジメたちの方へと再びキレる。

 

 

「貴様らッ!!こいつの様に愛子の話を聞いているのか!?」

 

「聞いてるよ。つかこっちは食事中だぞ、行儀よくしろよおっさん」

 

 

全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がシアに向く。

 

 

「行儀だと!?ガキがッその言葉そのまま返してやる。薄汚い亜人を人間と同じテーブルに着かせるとはな。しかも何だそのふしだらな格好は、汚らわしい!!お前たちの方がよほど礼儀がなってないではないか!!」

 

「デビットさん!なんてことを…」

 

 

デビットの暴言に愛子先生は止めようとするも全く止まる様子はなかった。むしろ逆にデビットの暴言を続けさせてしまう。

 

 

「愛子も教会から教わっただろう。魔法は神より授かりし力、それを使えない亜人共は神から見放された下等種族だ」

 

 

侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアはビクッと体を震わせた。ブルックの町では、宿屋での第一印象や、キャサリンと親しくしていたこと、俺やハジメの存在もあって、むしろ友好的な人達が多かったし、フューレンでも蔑む目は多かったが、奴隷と認識されていたからか直接的な言葉を浴びせかけられる事はなかった。

 

 

 

つまり、俺たちと旅に出てから初めて、亜人族に対する直接的な差別的言葉の暴力を受けたのである。有象無象の事など気にしないと割り切ったはずだったが、少し、外の世界に慣れてきていたところへの不意打ちだったので、思いの他ダメージがあった。シュンと顔を俯かせるシア。

 

 

 

よく見れば、デビッドだけでなく、チェイス達他の騎士達も同じような目でシアを見ている。彼等がいくら愛子達と親しくなろうと、神殿騎士と近衛騎士である。聖教教会や国の中枢に近い人間であり、それは取りも直さず、亜人族に対する差別意識が強いということでもある。何せ、差別的価値観の発信源は、その聖教教会と国なのだから。デビッド達が愛子と関わるようになって、それなりに柔軟な思考が出来るようになったといっても、ほんの数ヶ月程度で変わる程、根の浅い価値観ではないのである。そしてあろうことか、デビットは俺の前でシアに対してある暴言を口にする。

 

 

 

「私達とほとんど同じ姿じゃないですか!どうしてそこまで…」

 

「ならばその()()()()()()()()()()()どうだ。それなら少しは人間らしくなるだろう」

 

 

デビットの……否、愚か者の言葉に俺の中で怒りが渦巻き、暗黒面の力が増長していった。

 

 

 

俺の弟子の()()()()?たったそれだけのくだらない理由で耳を()()()()()だと?それを決めるのはお前のような小物でも誰でもない。そもそも、それ自体この俺が許さん。

 

 

 

俺の怒りが渦巻くその最中、ハヴォックやブリッツ、他のクローン達はデビットや他の騎士達に対して絶対零度の視線を向けていた。ヘルメット越しとはいえ、ハヴォック達から絶対零度の視線に気付いたデビットは一瞬たじろぐも勇者が召喚し、騎士の誇りもないただの兵士に気圧されたことに逆上する。普段ならここまでキレやすい人間ではないのだが、思わず言ってしまった言葉に、愛しい愛子からも非難がましい視線を向けられて軽く我を失っているようだった。

 

 

「なっ…なんだその眼は!!無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

 

思わず立ち上がるデビッドを、副隊長のチェイスは諌めようとするが、それよりも早く、ハヴォックは俺に謝罪しながらも、まるでオーダー66が発令されたクローンの様に冷酷無比に告げた。

 

 

「将軍……申し訳ありません。ここからは私の独断です。部下に罪はありません、責任は私が取ります。デビット・ザーラー、そして他の騎士達。お前たちが俺たちクローンをどう思おうがお前たちの勝手であり、俺たち罵倒するのも勝手だ。しかし、将軍を……ましてや将軍の仲間を侮辱するというのなら、我々クローン軍は、お前たち神殿騎士を敵対勢力として断定する!」

 

 

ハヴォックの指示により他のクローン達は一斉にブラスターをデビットを含む他の騎士達に向けていつでも射撃できる様に引き金に指を掛ける。その時に俺はデビットという愚か者に対して怒りを通り越して逆に呆れていた。自身が撒いた種だというのにそれを自分の所為ではないとくだらないプライドがそうさせているのだ。もはや救えない男だなと思いつつも俺はこの一触即発な状況を静まらせようとフォースを使ってある事を行った。

 

 

雷電Side out

 

 

 

我々は将軍の仲間を侮辱した神殿騎士のデビットを許すつもりはない。兵士として、我々の上官に対する侮辱は断固として許されない。我々はコマンダー達の指示が下るまでブラスターを騎士達に向けたままで引き金をいつでも引ける様に指を掛けた。その瞬間、テーブルにあったコップ等が次々とひとりでに砕け散ったのだ。我々は一体何が起きたのか理解しようとした瞬間、尋常ではない殺気がこの空間に発生していた。その発生源を突き止めようと辺りを確認すると、その発生源の正体は何と、将軍から発せられたものだった。

 

 

 

我々クローンと神殿騎士達との戦闘以前に将軍の怒りが一触即発状態であった。すると将軍は少し息を吸い、何か言葉を発しようとしていた。言葉の内容によってはただでは済まない事を覚悟しながらも我々はより警戒を強めた。そして将軍から発した言葉は……

 

 

「はぁ〜っ……」

 

 

……殺伐とした空気を完全にぶち壊すような軽いため息だった。将軍……警戒を強めた我々の緊張感を返してください。そう思っていると将軍は再び言葉を発する。

 

 

「トルーパー、飲食店内でブラスターを構えるな。他のお客さんの迷惑になるだろうが。それとハヴォック、俺の事や仲間の事を気にかけてくれるのは有り難いが、これは幾ら何でもやり過ぎた。勝手にこの世界で戦争を起こそうとしてどうする。それこそ、お前たちが忠誠を誓ってきた共和国に対する()()()じゃないのか?これ以上、己自身を堕ちるんじゃない」

 

「将軍………申し訳ありません、私の考えがあまりにも軽率でした」

 

 

コマンダー・ハヴォックが将軍に謝罪した後にコマンダーを含め、我々はブラスターを下ろした。それを確認した将軍は少し安堵してコマンダー・ハヴォックの処遇は後で告げると語った後にデビットに視線を向けて言葉を語る。

 

 

「さて、確かデビットさん……だったか?先ほど俺の兵士達が迷惑をかけた様だな。その点についてはこちらから謝罪をしよう。本当に申し訳なかった」

 

 

何と将軍がデビットに対して謝罪をしたのだ。その時のデビットは、将軍が謝罪した際に急に機嫌が良くなったのか前よりもキレた様子が存在しなかった。

 

 

「…全くだ、貴様の兵士は一体どのような教育を施されたのか知りたいものだ。そして何よりもそこの薄汚い亜人を連れてきたこと自体が間違い「…というのは簡単だ」……はっ?」

 

 

デビットが言葉を発しているにも拘らず将軍は途中で介入し、言葉を止めさせた。そして少しずつではあるが将軍から再び殺気が出てきたのだ。

 

 

「しかし…しかしだ。本来ならこの騒ぎを起こす原因となった貴様に対して、何故俺が謝らなきゃならないのだ?

 

 

瞬間、将軍が視線を再びデビットに向けた瞬間、絶対零度より冷たい激凍な視線をデビットは感じ取った。そして何よりも、将軍の右目がシスの暗黒卿と同じ黄金の瞳へと変わっていた。

 

 

俺が貴様に謝る時は、貴様がシアに対していった言葉に謝罪した時だけだ

 

「なっ…何だと!?俺がそんな下らん事の為にあの薄汚い亜人の為に頭を下げ、謝罪しろと!?」

 

…そういう物言いだからこそ、貴様は()()()()()()()だと言われるのだ

 

 

将軍が発したのは嘲りの言葉。たかが種族の違い如きで喚き立て、まだ二十にも満たない少年の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた。

 

 

「…神殿騎士を侮辱する異教徒め、そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる!!」

 

 

将軍にああも言われて歯止め聞かないくらいにキレて、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。

 

 

「隊長、ここは一旦落ち着いてください!」

 

「デビットさん!!相手は私の生徒でまだ子供なんですよ!!」

 

「女子供とて関係無い、あの世で己の愚かしさを……」

 

 

だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で遂に鞘から剣を僅かに引き抜こうしたその時、その言葉は突然遮られた。この時に、デビットは自分の呼吸が止まっていることに気がつく。壮絶な力で首を締め上げられ、デビットの口からくぐもった声をあげた。

 

 

「がっ…はっ…!?」

 

 

かろうじて動く腕が、与えられない酸素を求めてばたつく。その様子に畑山教諭や生徒達、他の騎士達にも同様が走る。その時に我々は将軍の方をよく見てみると、左腕をテーブルの下に隠しながらも左手を相手にバレないように動かしていた。そして残った右腕でそれを悟らせない様な動作でデビットに心配をかける。

 

 

「やれやれ……キレた反動で喋っている途中で息を詰まらせたか?全く、困ったものだな。…トルーパー、彼の背中を優しくさすってやってくれ」

 

 

この言葉を聞いて我々は将軍がフォースで何かをやらかした事を理解した。はぁっ……相変わらずジェダイの考える事には悩まされるな。我々のうち一人がデビットの背中を優しくさすった。ある程度優しく背中をさすった後、デビットはようやく呼吸ができ、不足していた酸素を吸う事が出来た。それを確認した将軍は席から立ち上がり、デビットの元に近づく。

 

 

「ぐっはぁ……はぁ……き…貴様ッ…!」

 

「そう怖そうな顔をしないでもらいたい。まだ酸欠状態から脱したばかりだからまだ息苦しさが残っている筈だ、余りに無茶をするな。それに……貴方がそんなでは愛子先生が余計に心配をかけてしまうだけだ」

 

「それを…貴様が言う…か、この…」

 

 

デビットが言葉を発する前に将軍は彼の肩に手を置き、そして耳元でそっと小さく呟いた。

 

 

「今度俺の弟子を罵倒してみろ、その時はその首をへし折るぞ…」

 

「っ!?」

 

 

将軍がデビットに何を言ったのか声が小さすぎてよく聞き取れなかった。しかし、これだけは分かる。将軍は彼にある程度の注告……いや、警告を告げたのだろう。言いたいことを告げた将軍は、いつもと変わらぬ表情でここにいる皆を安心させようとした。その時の将軍の眼は元の紅の瞳に戻っていた。この時に我々クローン達は改めて将軍を怒らせてはならないことを再認識するのだった。

 

 

「さて……大分騒がせてしまって申し訳ない。彼もそうだが、余りキレすぎてはいけないという事だな。他の人にとっても、迷惑になるからな?」

 

 

将軍はそういうが、我々やハジメ、生徒の男子がこの時に考えていた事が一緒だった。

 

 

(((いや……それ、本日の“お前が言うな”というツッコミはそこか?)))

 

 

色々とツッコミたかったが、下手にツッコムとこちらに飛び火して来るのは明確だったので敢えてツッコまない事にしたのは余談だ。

 

 

クローンSide out

 

 

 

愛子先生を護衛する神殿騎士達と一悶着を起こしてからハジメたちやクローン達、そして生徒達からは何かと俺から何かを見た影響なのか一時的に距離を取っていた。……怒っていた事に関しては自覚しているが、そんなに俺の表情が怖かったのか?その後に愛子先生達に迷惑を掛ける訳にはいかないと判断した俺は、ハジメたちと共に別の宿で泊まることにした。その時にハジメから俺の怒った表情がそんなに怖かったのかと聞いてみたら“表情は笑っている様だが、眼が笑っておらず殺気が漏れていた”だそうだ。…まさかここまで酷いとは思ってもいなかった。こればかりは少しばかりショックだった。

 

 

 

愛子先生たちとが泊まっている宿は別の宿で俺たちはそれぞれの個室で休むことにした。その時にハジメから俺が持っている処刑人の剣を渡してくれと言ってきた。ハジメ曰く、処刑人の剣を別の剣に仕上げる為にまた0から1へと錬成し直すそうだ。俺個人的にはライトセーバーだけで何とかしようと思っていたが、万が一があると考えて俺はハジメに処刑人の剣を渡し、新たな剣の完成を待つことにした。そして俺は個室にて自分自身の怒りについて振り返り、反省していた。

 

 

「やはり感情が表に出やすくなっているな。それもシア関連で……」

 

 

シアと出会ってからかシアを傷つけようとする者、又は罵倒する者に対して俺の怒りは増していき、暗黒面の力に溺れてかけることがあった。……俺は一体どうなってしまったんだ?ハルツィナ樹海から離れる際、シアから告白という大胆な発言を聞いてから俺はより感情的になりやすくなっていた。それだけではない、時偶にではあるが頭からシアのこと時折考えることが多くなった。弟子として見ているつもりなのだが、そうではない自分がいることに何かと不安が絶えなかった。俺は一旦感情を抑制するために瞑想することにした。明日からは本格的に捜索を行う為に俺は瞑想し終わり次第にすぐ就寝するのだった。その時にハジメは密かに愛子先生の所に立ち寄り、オルクス大迷宮で見たこの世界の真実を伝えていたのは余談である。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遭遇、そして激突

久方振りの9000文字越え、かなり詰め込みました。


32話目です。


 

 

愛子先生達と再会し、その護衛している騎士達と一悶着を起こしてから翌日、昨日ハジメに渡した処刑人の剣は完全に別物となって帰ってきた。剣は剣であるものの、架空の剣である蛇腹剣として渡されるなんて誰が予想できようか?しかも名前が名前だけにカラミティ(災厄)ときたものだ。この武器……下手をすれば敵味方からは疫病神の剣として認識されそうだ。それと俺の予想だが、この武器はある戦いで壊されそうな未来しか見えないのだが?ハジメの作り直した武器に若干の不安を残しながらも俺たちは、早朝にウィル・クデタの捜索に向かうのだった。なお、シアは早朝早く起きることに慣れていない為かまだ眠気が残っていた。

 

 

「マスター、ハジメさん。こんな朝早くから捜索するんですか?」

 

「ああ。前にも言ったが、早ければ早い程生存率が上がるからな」

 

「そのウィルという人物が生きていればこちら側に取って大きな恩となるからな。出来るだけ早めに見つけてあげた方が良いに……む?」

 

 

ウィル捜索の為に北門から町を出ようとした矢先に十六名くらいの人数が北門で俺たちを待っていたかの様に待機していた。その北門で待っていた者の正体は愛子先生と生徒達、そして彼等の護衛を務めているハヴォックとクローン・トルーパー八名だった。何故此処にいるのかは俺とハジメは大体想像はつく為に敢えて聞かないことにした。

 

 

「待ってましたよ、南雲くんに藤原くん!南雲くんたちは仕事でここに来たんですよね?それなら人数は多い方がいいはずです。私達も一緒に同行します」

 

「……ハヴォック、先生を抑えられなかったのか?」

 

「申し訳ありません、フジワラ将軍。畑山教諭は教師としての責任が強かった為に、我々が連れて行くことを条件に将軍たちの手伝いをするということになりました」

 

「そうか。……出来ればここに残っていてほしいのが正直の本音なんだが、ここに来たのはそれだけのことじゃないんだろう?」

 

「あぁ、先生が言ってた様にクローン達が清水が行方不明だという話を愛ちゃん先生が聞いてしまったからな。清水の情報もこれ以上この町やクローン達じゃ得られない」

 

彼奴(清水)の情報を少しでも得る為にはお前たちと同行した方が俺たちにとっても都合が良いんだよ」

 

 

案の定、清水の情報は俺たちと共に行動した方が入手しやすい算段のようだ。しかし、そうことはうまくいくか分からないものだ。ハジメは最初から愛子先生たちを連れて行くつもりはなかった。

 

 

「お前達な……別に俺は清水が何処に行方をくらましたのか興味はない。お前たちの都合なんて──」

 

「お願いです南雲くん、藤原くん。私は先生として生徒を元の世界に帰す責任があります。これだけは絶対に譲れません」

 

 

しかし、愛子先生には譲れない思いと決意が瞳に宿していてハジメの気迫に対して少し弱々しいが、それでも立ち向かうような覚悟を秘めていた。愛子先生の思いと決意、そして覚悟にハジメは心折れるのだった。

 

 

「…わかった、同行を許す」

 

「……ハジメがそういうのなら俺も愛子先生たちの同行は許可するよ。ただし、ハヴォックやクローン達の指示は絶対に聞くことだ。それが俺たちと同行する条件だ」

 

 

ハジメが心折れたことに驚くユエとシア。ハジメが心折れるところを見たことなかった為かかなり新鮮だった様だ。

 

 

「ハジメ、ライデン、連れて行くの?」

 

「マスターは兎も角、ハジメさんが折れるなんて珍しいです……」

 

「この人の教師としての行動力はよく知っているんでな。放っておけば何がなんでも俺達を探そうとするはずだ。教会の力を使って指名手配されたらその方が面倒だ。そうと決まれば急ぐことに越したことはない」

 

 

そういってハジメは宝物庫から魔力駆動二輪シュタイフとは違う別の乗り物を取り出した。外見は俺達の世界の自動車“ハマーH2”を似せて作った魔力駆動四輪“ブリーゼ”である。ハジメ曰く、俺やユエ、デルタ分隊などを乗せて移動する為に作ったのだが、俺が銀河共和国の兵器を召喚することが出来ると判明した為にしばらくの間お蔵入りだったが、今回は愛子先生たちが同行するため、使用することになった。異世界に存在する筈のない自動車を見た愛子先生たちは、こればかりは驚きを隠せないでいた。

 

 

「これっ南雲が作ったのか…?」

 

「すげぇ…」

 

「お前たちに会わせたら時間が掛かる。雷電、そっちもスピーダー・バイクを出してくれ」

 

「分かっている。ハジメの車両は全員乗り込むのは無理だ。だからここで分ける、ハジメが運転する車両は女性陣が乗ってくれ。残りの男性陣はトルーパーが乗るスピーダーのサイドカーに乗り込め」

 

 

そういって俺は共和国軍兵器召喚でサイドカー付きのBARCスピーダーを十二台を召喚させた。生徒男性陣は本物のスピーダー・バイクを見て感動していた。…そういえば地球じゃスター・ウォーズはスペースオペラの作品であることをハジメは言っていたな。それを俺が本物を召喚したんじゃ、男の子としてそれは感動せざる終えないだろうな。そう考えながらも俺は今まで乗ってきたBARCスピーダーに乗って、全員が乗り込んだ後に出発し、北の山脈地帯に向かうのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

俺が魔力駆動四輪ブリーゼを運転して北の山脈地帯に向かう最中、俺は愛子先生に質問をされた後に天之河達は今もオルクス大迷宮にいるのか聞いてみると案の定まだいるそうだ。愛子先生曰く、今のところ戦闘経験があるコルトを中心に天之河を含む数名の生徒が実戦訓練+対人訓練を続けているようだ。特に積極的に訓練を受けているのは意外にも白崎だった。どうやら俺とまた会えると信じて力を身につけているようだ。

 

 

 

天之河の様子を聞いたその後に、俺は愛子先生に俺達が奈落の底に落ちた原因は事故ではなく誰かに()()()()()ことを告げる。本当は俺達を落とした犯人は知っているが、敢えて言わないことにした。そんなこんなで話している道中に俺達はあるものを目撃した。それは人間の死体だった。よく見てみると、どうやらこの死体はとある隊商の者たちであることが判明した。愛子先生達にとっては流石に刺激が強すぎて嘔吐する生徒もいた。雷電はこいつらの死因を調べて見るといってその死体に近づいた。俺も一応確認すべくその死体に近づき、よく見てみると、ある驚きの結果が出た。隊商の人間達の死因はどれも共通していて、死因は()()()()の穴だった。何故銃痕擬きなのかというと、雷電が手袋をして死体に穴が空いている所から穿って見ると、そこには()()()()()()()()()()四角く尖った何かが埋め込まれていたのだ。

 

 

「これは……弾丸の弾頭か?…にしてはこの弾頭、火薬による焦げ後がない?」

 

「この世界にも銃があるのか?あるとしたら些か面倒だが、燃焼石のような火薬の代わりを……いや、ましてや火薬を使わない銃なんていやぁ……」

 

 

俺は最悪のケースを考えながらも俺達は隊商の死体等を埋葬した後、ウィル捜索の為に再び北の山脈地帯に向かうのだった。

 

 

 

目的地である北の山脈地帯に到着した俺達は、痕跡を見つけるべく宝物庫から俺がミレディから物々交換で貰った鉱物を使い、“重力魔法”を“生成魔法”で鉱物に付与し、錬成して作った重力制御式無人偵察機“オルニス”を四機飛ばし、上空から痕跡を探すのだった。すると三番機のオルニスの目から送られてきた光景が義眼に届き、戦闘形跡の後を見つけるのだった。

 

 

「どうだ、ハジメ。何か発見したか?」

 

「…見たところ山頂付近に大きな破壊の後があるな。おそらく戦闘形跡のあとかもしれないな。およそ八合目と九合目の間だ、急ぐぞ」

 

 

そうして俺は全てのオルニスを戻し、俺達はその八合目と九合目の間に向かうのだった。こっから先、何かと嫌な予感がしやがるな。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺たちはハジメが飛ばした無人偵察機が見つけた場所に辿り着いた。その場所はかなり激しい戦闘があったのか折れた剣や砕けた盾の残骸があった。…しかし、些か妙なことがある。折れた剣に砕けた盾の残骸があるなら何故死体がないのか?その応えは意外にも単純だった。その死体は灰燼に帰してしまったからだ。

 

 

「ここで激しい戦闘があったのは確かの様だな。幸いにも愛子先生たちに二度も死体を見せられずに済んだな」

 

「そうだな……また吐かれたらこっちも溜まったもんじゃない」

 

「おい…藤原、雷電…お前等…速すぎだって…」

 

 

遅れて到着した愛子先生達、護衛のクローン、ユエ達と行動していた為に俺とハジメを負い帰るのに苦労した様だ。そんな中、シアはこの戦いの跡地で()()()()を見つける。

 

 

「ハジメさん、マスター、ここ見て下さい!」

 

 

シアが見つけた痕跡とは足跡のことだった。足跡の形からして魔物の類であることが判明し、足跡を見た感じでは身長二〜三メートル程の二足歩行と見て取れた。しかしだ、例えそうだとしてもこの様な破壊の仕方が出来るのかどうか怪しかった。強力なレーザー兵器で抉り飛ばしたのならまだその可能性があったが、生憎ここは異世界だ。そんなものは存在しないことは分かっていた。因みに愛子先生達は丁度川沿いの滝の近くで休憩していた。一応俺達もその滝に近づくと気配感知に反応があった。

 

 

「…!ハジメ、あの滝壺から何かがいるぞ」

 

「あぁ、俺も感じた。それを調べる為には……ユエ、頼めるか?」

 

「…ん」

 

 

ハジメがユエに頼んだ後、ユエは近場にある岩に飛び移りながらも滝近くの岩場に移動し終えると指を翳し、魔力をこめて“波城”と“風壁”を唱えると、滝がユエを中心に真っ二つに分かれたのだ。近くで見ていた愛子先生と生徒達はユエのとんでも能力に驚ろいていた。そして滝壺の奥にある洞窟をよく見てみると、そこには一人の横倒しになって気絶している青年がいた。俺達はその青年の元へ駆けつけ、容姿を確認して見ると依頼書に書かれていたウィル・クデタ本人であることが判明した。

 

 

「どうやら当たり(ビンゴ)のようだな。外傷は見るからには浅いが、万が一病気の原因になったら面倒だ。ここは一旦、こいつを起こすか」

 

 

そういってハジメはウィルに近づき、ウィルの顔面にギリギリと力を込めた義手デコピンでウィルの額にぶち当てた。

 

 

“バチコンッ!!”

 

 

「ぐわっ!!いっつぅ……!」

 

 

悲鳴を上げて目を覚まし、額を両手で抑えながらのたうつウィル。愛子達が、あまりに強力なデコピンと容赦のなさに戦慄の表情を浮かべた。ハジメは、そんな愛子達をスルーして、涙目になっているウィルに近づくと確認の為に名前を訪ねる。

 

 

「お前、ウィルか?クデタ伯爵家三男の」

 

「え…?あっ…はい!そうです、ウィル・クデタです!」

 

「俺は、南雲ハジメだ。フューレンのギルド支部長からの依頼で助けに来た」

 

 

名前と容姿が完全に一致して無事本人の生存を確認が取れた後、俺はクローン達にウィルの治療を頼み、ウィルから一体何があったのか事情聴取するのだった。

 

 

 

ウィルから聞かされた情報によると、ウィル達は五日前、俺達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。その正体は突如と現れた漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

 

 

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。……ここまで聞かされると、まるで奈落の底へ落とされた俺達と少し似ている感じがした。ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認することもせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つことしか出来なかった情けない自分、救助が来たことで仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出す。

 

 

「私は最低だ!…みんな、死んでしまったのに……何の役にも立たない私だけ助かって、生き残って……何処かでホッとしていて、それを喜んでいる……っ!」

 

 

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。しかし、例外があった。それはハジメという存在だ。ハジメはツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。

 

 

「南雲く「大丈夫だ、畑山教諭」…ハヴォックさん」

 

 

愛子先生がハジメを止めようしたがハヴォックがそれを静止させる。そしてハジメは、息がつまり苦しそうなウィルに意外なほど透き通った声で語りかけた。

 

 

「生き残ったことを喜んで何が悪い?その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

 

「だが……私は……」

 

「死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も、足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ」

 

「生き……続ける」

 

「そうすりゃ、いつかは今日生き残った意味があったって、そう思える日が来る……かもしれねえだろ」

 

 

涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出し、自分に向けて“何やってんだ”とツッコミを入れる。…どうやら先程のウィルへの言葉は、半分以上自分への言葉だった様だ。要するに少し似た境遇に置かれたウィルが、自らの生を卑下したことが、まるで“お前が生き残ったのは間違いだ”と言われているような気がして、つい熱くなってしまった様だ。ハジメ自身半分以上八つ当たりであることを自覚している分、軽く自己嫌悪に陥る。そんなハジメのもとにトコトコと傍に寄って来たユエは、ギュッとハジメの手を握った。

 

 

「……大丈夫、ハジメは間違ってない」

 

「……ユエ」

 

「……全力で生きて。生き続けて。ずっと一緒に。ね?」

 

「……ははっ、ああ当然だ。何が何でも生き残ってやるさ……一人にはしないよ」

 

「……ん」

 

 

……と、そんな感じでハジメとユエは又もや二人だけの世界に入っていったのだ。この光景に愛子先生達やクローン達、そしてシアもこの二人のバカップルっぷりにはもうツッコム気力がなかった。特にデルタ分隊のスコーチは“ …なんかあの二人を見てると無償に苦い飲み物が欲しくなってくるな?”とそう呟くのだった。……今度スコーチに地球のコーヒーでも紹介しておこうかなと俺は思ったのは余談だ。

 

 

 

捜索対象であるウィル・クデタを無事に見つけ、治療し終えた後に下山しようとした時には既に夕暮れの時間帯になっていて、日没までの時間が少なかった。

 

 

「すっかり遅くなっちまったな……急いで帰ろう」

 

「だな。トルーパー、警戒を現に」

 

「はいっ将軍。お前達、周囲の警戒を怠るな!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

俺達は下山の際に魔物の襲撃を警戒しながら移動していると、途中で妙な音が聞こえた。なお、その音は全員に聞こえていた。

 

 

「な…何?今の音……」

 

(音……それも獣のような声、その声は上空から発したもの……となると距離は……)

 

 

そう考えていると気配感知に反応が引っかかった。その反応は上空からだ。

 

 

「ハジメ、12時60度だ!!」

 

「…っ!」

 

 

ハジメに正確な位置を知らせると同時に、俺達に突如と突風が襲いかかってきた。

 

 

「きゃああぁぁーーっ!」

 

「う…うわぁあっ!」

 

 

愛子先生達は突然の突風に驚き、体力がまだ戻っていないウィルなその突風に吹き飛ばされる。吹き飛ばされたウィルは上空を見上げると、一瞬で表情が青ざめた。

 

 

「!あぁ……あ、()()()()!!」

 

 

ウィルが言うあいつとは、先ほど滝壺の洞窟で話していた漆黒の竜だった。その漆黒の竜はウィルに狙いを付けて突っ込んでいった。その時にハジメはウィルを回収し、その場から離れて黒竜の攻撃を躱す。ハジメはウィルを愛子先生達の方に置いた後にこっちに駆け戻り、改めて黒竜を目にした。

 

 

「ハジメ、どうやらウィルの言ってた黒竜はこいつの様だ。それと、その黒竜の上に()()がいるぞ」

 

「…奴か」

 

 

ハジメがこっちに戻ってきた際に俺は黒竜を良く見てみると、黒竜の上に誰かが乗っていることが判明した。すると黒竜が地面に下りてきて、その黒竜に乗っていた者が黒竜から下りた。その者はクローン達の兵種の一つである“クローン・パラトルーパー”に似たアーマーを黒く塗り替えたものを着ており、ヘルメットはクローン・パラトルーパーの独特な“ビーハイヴ”(蜂の巣)型ヘルメットを黒く染め、バイザーは黒からワインレッドに変えていた。ハジメはあの様なトルーパーは見たことはなかった

 

 

「何だ、あのクローンは?雷電が召喚した……んじゃなさそうだな」

 

「あぁ、あのトルーパーは212攻撃大隊のクローン・パラトルーパーと同じ装備であることは確かだ。…デルタ、お前達は何か知っているか?」

 

「はいっ将軍。アレは“パージ・トルーパー”という銀河帝国軍の前大戦で生き残った旧共和国軍のクローン・トルーパーのみで編成された兵士です。しかし、些か気になるとしたら、何故黒竜と共にいるのか疑問です」

 

「それ以前に彼奴、本当にクローンか?なんか違うような気がするが……」

 

 

ハジメは目の前のパージ・トルーパーに何かしらの違和感を覚えていた。するとパージ・トルーパーが乗っていた黒竜に命令を下した。

 

 

「……殺れ」

 

 

その命令を合図に黒竜はおもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

 

 

「…っ!不味い、ブレス来るぞ!」

 

「ッ!退避しろ!」

 

 

俺はブレス攻撃をしてくると全員に伝え、ハジメは全員に退避するように伝える。しかし、それに反応できたのはクローン達だけで愛子先生や生徒達、ウィルは突然の出来事に体が付いて来れず硬直してしてしまい、動けずにいた。それを見たハジメは若干悪態をつきながらも“念話”で俺とユエ、シアに指示を出しつつ、“縮地”で一気に元いた場所に戻り、愛子達と黒竜の間に割り込む。

 

 

「来いッ!」

 

 

そしてハジメは宝物庫から二メートル程の柩型の大盾のアーティファクトを虚空に取り出し、左腕を突き出して接続、魔力を流して大盾の下部から“ガシュン!”と杭を出現させ、それを勢いよく地面に突き刺した。直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でハジメの大盾に到達したブレスは、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。それに対して大盾は紅く光り輝いていた。これはハジメの“金剛”が大盾に付与されている証拠だ。しかし、そう長くは保たない為に俺達は急遽、黒竜の攻撃の妨害に向かった。

 

 

「ぐぅ!おぉおおお!!」

 

「ハジメ、もう少し粘っててくれ!あの黒竜を黙らせる!」

 

「ハジメ…!待ってて…!」

 

「急いでくれよ、こいつは…ただの魔物じゃねえ!」

 

 

急ぎ黒竜の注意をこちらに引き寄せる為にその辺にあった木をライトセーバーで斬り倒し、その切り倒した木をフォースで浮かせて、そのまま黒竜へと狙いを定めて木をフォースで飛ばした。ブレスの攻撃中に横から飛んでくる木に気付かずに黒竜はもろに食らい、そして俺を睨みつけて今度はこっちにブレスを吐いてきた。俺はフォースの身体能力強化で攻撃を躱しながらもユエに攻撃指示を出す。

 

 

「ユエ、今だ!」

 

「…ん!“禍天”」

 

 

ユエがそう魔法名を宣言した瞬間、黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。見ているだけで吸い込まれそうな深い闇色のそれは、直後、落下すると押し潰すように黒竜を地面に叩きつけた。“禍天”とはライセン大迷宮で得た重力の神代魔法をユエが練り出した重力魔法だ。渦巻く重力球を作り出し、消費魔力に比例した超重力を以て対象を押し潰す。重力方向を変更することにも使える便利な魔法だ。

 

 

 

重力魔法は、自らにかける場合はさほど消費の激しいものではない。しかし、物、空間、他人にかける場合や重力球自体を攻撃手段とする場合は、今のところ、ユエでも最低でも十秒の準備時間と多大な魔力が必要になる。ユエ自身、まだ完全にマスターしたわけではないので、鍛錬していくことで発動時間や魔力消費を効率よくしていくことが出来るだろう。

 

 

 

しかし、それでも空の王者を地面に叩き落すのには十分すぎた。地に這いつくばっている黒竜に対してシアは、好機と判断してドリュッケンで一気に決めようとした。

 

 

「トドメで「俺がいることを忘れるな、ジェダイ」…っ!?あわわ…!」

 

 

しかし…ここでパージ・トルーパーからクローン達の標準装備であるDC-15Aでシアを狙い撃つ。パージ・トルーパーの存在をすっかり忘れていた、シアは咄嗟にライトセーバーを起動させて光弾を弾き、一旦距離を取る。

 

 

「迂闊だぞ、シア。黒竜以外にも奴もいるんだぞ」

 

「す……すみません、マスター」

 

 

そうしている間にハジメは愛子先生達をハヴォック達に任せて戦いに復帰し、黒竜に対してドンナーとシュラークで応戦する。しかし、黒竜の鱗が固い為か貫通は出来ず、弾かれるだけだったが、ノックバックするくらいの威力はあった。

 

 

「チィッ…!やけに頑丈だな……」

 

「このままだと分が悪い、役割分担をしよう。ハジメとシア、デルタ分隊はあの黒竜の相手を頼む。ユエは万が一のことを考えて愛子先生達を守ってくれ。あの黒竜のブレスの前じゃあハヴォック達でも守りきれない」

 

「…で、お前はあのパージ・トルーパーの相手をするってことか。やれるのか?」

 

「あぁ。…むしろそれ以前に奴の正体が気になるからな。彼奴は生け捕りにする…!」

 

 

それぞれ役割を決めた時に生徒達が加勢しようとこっちにやって来た。

 

 

「俺達も黙って見ているわけにはいかない」

 

「加勢するよ!!」

 

「駄目だ!今のお前たちがコイツ(黒竜)が相手じゃレベル不足だ!ハヴォック!お前たちは愛子先生や生徒達と共にユエの元へ迎え、彼女なら守ってくれる!」

 

「で…でも」

 

「はっきり言う、お前たちじゃ俺達の戦いの邪魔になる!ハヴォック、頼んだぞ!」

 

「イエッサー!お前たち、将軍の言う通りここは下がるぞ」

 

 

ハヴォック達に愛子先生達を任せた後に俺はパージ・トルーパーと対峙し、ハジメたちは引き続き黒竜の相手をするのだった。この時に俺はあのパージ・トルーパーという奴の中身の正体はなんなのか、それを見極める為に俺はライトセーバーを構えるのだった。対するパージ・トルーパーもライトセーバーに対抗する為にエレクトロバトン二本を手に二刀流で俺と対峙する。…パージ・トルーパーの存在といい、黒竜といい、一体この世界で何が起ころうとしてるのか今の俺達には知る由もなかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シャドウという男、竜人族ティオ・クラルス

何か思いつくことがありません。


33話目です。


 

 

ハジメたちに黒竜の相手を任せた俺はパージ・トルーパーを相手にライトセーバーの第3の型“ソーレス”の構えでいつでも迎え撃つ体勢に入る。そしてパージ・トルーパーが先に動き出し、エレクトロバトンの二刀流の猛攻を防ぐ。

 

 

「どうした、こんなものか?ジェダイ…」

 

 

二つのエレクトロバトンの攻撃をライトセーバーで受け切りながら、パージ・トルーパーは多少煽りを入れながら睨みつける。だが、パージ・トルーパーの攻撃は些か若いところがあって戦闘技術も荒削りだった。それを補う為に相手に煽りを入れてペースをかき乱し、その隙を狙うといった戦法が今の戦いで理解した。そんな相手の攻撃を去なしながらも俺はパージ・トルーパーに問いかける。

 

 

「今一度、聞きたいことが二つある。一つは何故お前がクローン達の標準装備であるDC-15Aブラスターを所持しているかだ。そして二つは、お前は何者であるかだ。お前のその動きといい、荒削りの戦闘技術、どうもクローンの動きとは思えないくらいだ。クローン以外だとすれば、一体お前は何者だ?」

 

「随分とお喋りなジェダイだな。……まぁ、俺の正体を相手に明かすなと尋問官からは言われていないからな」

 

 

そういってそのパージ・トルーパーは一度エレクトロバトンをしまい、ヘルメットを取ってそのまま自身の素顔を晒した。

 

 

「っ!……清水?」

 

()()?悪いが人違いだ。俺の名は()()()()。上官である尋問官達の影だ」

 

 

パージ・トルーパーの正体が行方不明だった清水本人だった。本人は違うと言っているが、本人である証拠があった。それはそばかすだ。清水の顔にはそばかすが付いており、シャドウと名乗る男の顔にも清水と同じそばかすが付いていた。清水たる証拠をより確定するには彼を無傷で無力化し、拘束してDNA鑑定させれば決定的になる。

 

 

「…悪いが何らかの時間稼ぎのつもりだろうが、その手には乗らん」

 

 

そういってシャドウこと清水はヘルメットを再び被り、今度はエレクトロバトン一本とDC-15Aを取り出し、エレクトロバトンをナイフに見立てるよう左手で逆手に持ち、右手はDC-15Aで俺に向ける様に構える。俺は清水の攻撃を警戒しながら再びソーレスの構えを取る。そして清水はじりじりとこちらへと近づき、少しずつ距離を詰めてきた。徐々に距離を詰められながらも相手の間合いに注意しながら俺はライトセーバーで突きを放つ。

 

 

 

それに対して清水は、エレクトロバトンでライトセーバーを去なし、DC-15Aをこちらに向ける。先に撃たれる前に俺はフォース・プッシュで清水を吹き飛ばす。吹き飛ばされる最中、清水は咄嗟にサーマル・デトネーターを俺の方に投げつけた。

 

 

「おいおい、それも持っているのかよ!?」

 

 

それに気付いた俺は直ぐにそこから離れるように横に飛び込んだ。デトネーターが起爆し、爆発と同時に煙があがる。俺は直ぐに態勢を立て直すと、光弾が数発も飛んで来た。ライトセーバーで弾きながらも俺は清水を肉眼で視認し直し、今度はこっちから仕掛けた。すると清水はDC-15Aを捨て、もう一本のエレクトロバトンを取り出して再び二刀流に持ち直し、そのままライトセーバーの連撃を目まぐるしい速さで捌きながら交錯する。ジェダイではない彼がここまで対等に戦えることには驚いたが、まだ戦闘技術が未熟故に多少の隙があった。

 

 

 

無論、俺とてそれを見逃してやる程甘くはない。僅かな隙を突いて、清水が持つ二本のエレクトロバトンを宙に弾き、フォースでこちらに引き寄せてエレクトロバトンの持ち手を切断し、破壊する。

 

 

「チィッ!…だが、まだだ!」

 

 

近接武器を破壊された清水は多少焦りを覚えながらもホルスターから二丁のDC-17を取り出して弾幕を張り、一旦距離を取ろうとする。逃がすつもりは無い俺はライトセーバーで弾き返しながらも清水との距離を詰める。そしてライトセーバーの射程に入り次第、清水のDC-17二丁を破壊し、そのままフォース・プッシュで再び清水を吹き飛ばす。吹き飛ばされた清水は最早手持ちの武器を全て喪失した為か最早抵抗する意思が見られなかった。一応俺はライトセーバーを清水を向けながら降伏するよう問いかける。

 

 

「お前の手持ちの武器は全て失った。降伏しろ清水、こちらとてお前を殺す理由は無い」

 

「清水ではない、シャドウだ。お前たちジェダイに指図されるつもりは……」

 

 

すると清水の右腕のアーマーに取り付けられているコムリンク通信機から何者かの通信を傍受する。俺はその通信を送った主の存在が気になるため、俺は敢えて出ても構わないと清水に告げる。俺に行動を監視されながらも清水は俺に睨みつけながらもコムリンク通信のチャンネルを開く。

 

 

《首尾はどうかと聞こうと思ったけれど、どうやらそっちは失敗した様だね?》

 

「尋問官か……態々こっちに通信してきたのは俺を笑いにきた訳じゃないだろう?」

 

《そうさね……坊やのお陰で魔物の数は丁度良い位に集まったからねえ。魔人族からも必要以上に集めてくれたと言ってたわ》

 

「心の無い世辞はいい、要点だけ言え。俺は最早魔人族や貴方等尋問官達にとって()()()()()()()()()だ」

 

《あぁら、坊やの癖に中々勘がいいのね。その答えは魔人族にとっては前者だろうけど、私らにとっては後者ね。坊やにはまだやってもらうことがあるわ。…といっても、これが最後かもしれないけどね》

 

「……そういう事か。どの道お前たち尋問官は、俺をその名の如く切り捨てる魂胆だったか」

 

 

彼等の内容からしては、かなりこちらにとって重要な情報だった。尋問官と名乗る者はどうやらシスの暗黒卿の使いか何かだという事だ。その証拠に尋問官の腰にはダブル=ブレード・ライトセーバーらしき物を懸架している。そして尋問官は、清水に最後の仕事として俺と話しをさせる事だった。どうやら尋問官は清水が生きていようが死んでいようがどうでもいい様だ。

 

 

《…通信越しとは言え、お初目に掛かるねぇ?ジェダイ…》

 

「尋問官……と言ったか。単刀直入に問う、お前たちはシスの使いか?」

 

《シス……ねぇ。生憎アタシ等はお前たちジェダイがいうダーク・ジェダイの類さね。帝国に忠誠を誓っている存在、帝国とは言えこの世界のヘルシャー帝国じゃないよ?》

 

「……銀河帝国か」

 

《あら、知っていたのね?だったら話は早いわ。今回は挨拶を兼ねて、お前たちジェダイと裏切り者のクローン達に宣戦布告を言いにきたところさね。次に会うときは戦場で、その首貰い受けるよ、ジェダイ…》

 

 

そういってコムリンクから通信が切れ、この場に残っているのは俺と清水だけだった。流石に沈黙のままでは話が進まないと思い、こちらから清水にこれからどうするつもりか聞いた。

 

 

「…それで、尋問官に見限られたお前はどうするつもりだ?」

 

「どうもこうもない。元々尋問官の奴らは俺をある程度使い終わり次第、何処かで切り捨てるつもりだったんだ。今の俺はシャドウという名前以外に記憶が存在しない」

 

 

清水は己自身の記憶が無いと言っているが、これは本当の事であるとフォースを通して理解した。どうやら清水は尋問官達の手によって一部の記憶改竄を行った様だ。フォースで心を操るというのはフォース・マインドという技があるため理解できるが、記憶を改竄させるとなると俺でも知らないものだった。おそらく、フォース以外にも何かしらの機械の装置で記憶改竄をされたと見て間違いないだろう。

 

 

「……清水、お前には名前以外に記憶が無いと言っているが本当は違う。お前の本当の名はシャドウではなく清水利幸という名前だ。それと、本来あるべき記憶が尋問官という奴らによって消された可能性もある」

 

「もし仮にそうだとして、俺に一体何をしろと?たとえ俺が記憶が戻ったとして、お前等にとってメリットがあるのかもしれんが、俺からすれば、それはメリットではなくデメリットでしかない。最早俺は死んだも当然の兵士だ。いっそのこと、俺を殺したらどうだ?」

 

「それは駄目だ、お前には会わせなければならない人物がいる。そして何より、お前の帰りを待っている者達もいる。だからこそだ清水、ここは勝者の権限でお前を生かし、連れて行く事にする。無論、拒否権は無い」

 

「……思っていたのと違うのだな、これほどまでに自分勝手なジェダイは初めて見たぞ?」

 

 

自分勝手……か。清水に言われるまでもなく、薄々俺は己の自分勝手さを自覚していた。俺はジェダイでありながらも掟に反し、普通の人間の様に生き、他のジェダイでは考えつかない位に自分の欲望に正直に生きてきた。

 

 

「……嘗て(前世)の俺はジェダイとして生き、そして死んだ。…だが、今この世に生きる俺はジェダイであり、一人の人間だ。一人の人間として、俺が信じる信念を貫き通す。例えジェダイの掟に反しようが矛盾していようが、これだけは譲れない」

 

「…フッ。自分勝手どころか余りにも強欲なんだな、お前は。……だが、お前の言う信念が果たして貫き通せるかどうか……いずれにせよ、この目で確かめたいものだな」

 

「…となると、降伏してこちら側に下るという事か、清水」

 

「何度も言わせるな。俺は清水ではない、シャドウだ。……だが、その清水という名は俺の記憶と関係している以上、記憶が戻るまでその名は封じる。それまでの間、俺の事はシャドウと呼べ」

 

「……分かった。しかし、本名は封じる事は出来ない。だが、コードネームでならシャドウと呼んでも問題なかろう?」

 

 

そう俺が言うと清水は“ …好きにしろ”と投げやり的な感じで肯定するのだった。何とか清水を確保した俺はライトセーバーをしまい、清水に手を差し伸べようとしたその時……

 

 

 

 

「ファ''ッ……ア''ア''ア''ァァーーーなのじゃーーー!!!!」

 

 

 

 

突如と女性の悲痛な叫びがこの山頂にて響き渡り俺や清水の耳に入ってきたのだった。その声の発生源の場所は、意外にもハジメたちが黒竜と戦っていた場所だった。

 

 

「なぁシャドウ?普通こんなところで女性の悲痛の叫びを聞くか?」

 

「シャドウではない清水……じゃなかった、シャドウだ。そんなこと、俺が知る訳が無いだろう」

 

「じゃあ聞くが、お前が連れてきたあの黒竜は本来()()()()()?」

 

「……正直、済まんかった。確認を取らずに俺の天職である“闇術師”で洗脳していたからな。洗脳する前の黒竜はマヌケにも眠っていたから洗脳しやすかったがな」

 

 

“それが原因かい!”と思いながらも俺は清水を連れてハジメたちの元に向かった。そしてハジメたちと合流すると、そこには()()()()()()()()()()()()()()姿()があった。この様な光景を目にした俺と清水は思わずカタコトでこう呟いた。

 

 

「「……ナニコレ?」」

 

「おっ!戻ってたか雷電。ちょうどコイツから色々と……って、そいつ敵だった筈だが、何でここに連れてきているんだ?」

 

「え…?あぁ……その点に付いては後でちゃんと説明する。その前にハジメ、その黒竜は喋れたのか?」

 

「あぁ。ユエから聞いた話じゃ、こいつは“竜人族”ていう五百年前に滅びた筈の種族らしい。んで、その辺を詳しく聞く為にこうして聞いているんだが?」

 

 

ハジメはそう言うが、これは俗にいうSM◯レイという奴じゃないのか?流石にこれはやり過ぎだと思った俺は何とか止めさせる様に頼む。

 

 

「それは聞き出しではなく尋問?の間違いだろ?それとケツに刺さっている杭を抜いてやれ。彼女も苦しがっているだろう?情報が逃げる訳じゃないんだから」

 

「そ…その男の言う通りじゃ。ちゃ…ちゃんと説明するから、先ずはお尻のそれを!魔力残量がもうほとんど残っておらぬ…お''ぉーーー!!?」

 

「だったらさっさと全部吐きやがれってんだ、俺はテメエがどうなろう知った事じゃないんだよ!」

 

 

ハジメは容赦なく義手で杭をガンガンと殴り、黒竜のケツにダメージを与えながらも尋問?し、黒竜はハジメの尋問?に悲痛の叫びをあげるのだった。いや、ハジメよ。今喋ろうとしたのに要らぬ刺激を与えてどうする今度は喋らなくなる可能性があるぞ?この光景に流石のデルタ分隊や他のクローン達、愛子先生達もハジメのドSっぷりにドン引きだった。

 

 

「もう止せハジメ、これ以上やったらもう彼女は再起不能になるぞ。情報を吐かせようにも相手が喋れなくなったらそれこそ本末転倒だろうが」

 

「ハジメ…私からもお願い。私と同じ歴史から消えた筈の種族、一度ちゃんと話し合ってみたい」

 

 

俺からの静止とユエのお願いでハジメは根負けして、これ以上の黒竜の尋問?を止めた。

 

 

「…分かったよ。おい、ユエに感謝しろ。今抜いてやる」

 

「お……恩に着る」

 

 

そうしてハジメは黒竜のケツにブチ込まれた杭を加減無しで思いっきり引っ張るのだった。それに対して黒竜は悲鳴と悲痛を叫びながらも何かに目覚めかけようとしていた。そんなことお構いなしにハジメは何とか黒竜のケツから杭を引っこ抜くのだった。その後に黒竜は何かに目覚めてしまったかの様に悲痛の叫びというより甘美な叫びに近い声を上げ、全身を光らせてそのまま竜から人へと姿を変えたのだった。

 

 

「優しくしてって頼んだのに……容赦の欠片もなかったのじゃ…」

 

「その辺は俺の仲間が済まなかった。……ところで貴女の名は?」

 

「いやっ妾こそ操られた身とは言え面倒をかけた、本当に申し訳ない。妾の名は“ティオ・クラルス”。竜人族──クラルス族の一人じゃ」

 

 

その後にティオと名乗る竜人族は事の顛末を話した。ティオは異世界からの来訪者……つまり、俺達を調べる為に生き残りの竜人族が住む隠れ里から出たそうだ。町に訪れる前に一度山脈に着いた後、魔力回復を兼ねて休憩の為に竜の姿のまま眠りに付いたそうだ。ティオ曰く、竜人族の固有魔法“竜化”は魔力消費が激しいらしく、一度眠ってしまうと丸一日起きられないそうだ。眠りについたその後に見られない黒い鎧を着た男こと清水がティオを見つけ利用できると判断し、天職である闇術師で洗脳され、黒竜のティオの実力を見極める為か、偶然にもウィルとその冒険者達をターゲットとし、そのまま襲わせたのだ。その後は適当にうろついてた所を偶然にも俺達と接敵して攻撃、そしてハジメにやられて杭をケツにブチ込まれたそうだ。そして今現在に至るそうだ。

 

 

 

事の顛末を聞いたウィルは納得がいかず、その怒りの矛先をティオに向けるのだった。

 

 

「ふざけるな…!操られていたから、皆を殺したのは仕方ないとでも言うつもりか!!今の話だって本当かどうかわからないだろう!死にたくなくて、適当にでっち上げただけだろう!!」

 

 

ウィルは死んだ冒険者を操られていたとはいえ殺したティオの言葉を信じられずにいた。しかし、ここで予想外の人物がティオの言葉を真実だと告げる。

 

 

「いや、彼女の言っている事は本当だ。その点に付いては嘘偽りは無い」

 

 

そう告げたのは清水本人だった。清水はまだヘルメットを被っている為愛子先生達に気付いていない様だ。それでもウィルは信じられずにいた。

 

 

「なっ…!?一体、何の証拠があって…」

 

「証拠も何も、()()()()()()()。それともう一つ、俺はジェダイの仲間が探していた男でもある……」

 

 

そう言って清水は水からヘルメットを脱ぎ、その素顔を愛子先生達に晒した。

 

 

「えっ……嘘っ!?」

 

「マジかよ……」

 

「し……清水くん?」

 

 

ヘルメットを被っていた者の正体が清水であったこと驚きを隠せないでいる愛子先生達。その姿は愛子先生達が知る清水の面影は無く、より凛々しく、軍人そのものであるような姿だった。

 

 

「悪いが、俺には記憶が無い。だからお前たちが思っている清水という人物とはかけ離れている。今この場にいる俺はシャドウという存在だ」

 

「そんな……どうして……」

 

「貴方が……」

 

 

清水が記憶を失い、あまりの変わりように悲しむ愛子先生。しかし、今度はウィルが洗脳したティオにウィルを守ってくれた冒険者達を殺せと命じた清水に怒りの矛先を向ける。

 

 

「貴方が…!僕を守ってくれた彼等を殺した!!何故殺す必要があったんですか!!」

 

 

そうウィルが清水に駆け寄り、怒りながら問いかける。そんなウィルの怒濤の問いかけに清水は、冷酷な目で見つめるだけだった。流石にしびれを切らしたウィルは清水に何か言わせようと問いかけ続ける。

 

 

「何か…何か言ったらどうなんで“ガッ!” …ぐっ!」

 

 

そんなウィルに清水は言葉ではなく、拳で殴って黙らせるのだった。そして清水は前にハジメがやった様に尻餅をついたウィルの胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。その様子に愛子先生達は慌てふためいていた。

 

 

「仲間が死んだからってそれが何だ?そいつらは既に何時死ぬか分からないことを理解して冒険者をやっているんだ」

 

「だからって……それでも、彼等を殺せと命じたことに変わりないじゃないですか!」

 

「…なら俺からアドバイスしといてやる。死んだ奴のことはいちいち気にするな。死ぬ奴は間抜けな弱者だ。それが魔物であれ、魔人族であれ、人間であれだ

 

 

そう言われたウィルは何かを言い返そうとするが、改めて清水の冷酷な目に恐怖を覚え、何も言い返せなかった。一方の清水はウィルの胸倉を離し、続け様に俺達にある事を告げる。

 

 

「…だが、罪なき人間を殺せと命じてしまったのは事実だ。罪滅ぼしとは言わないが、俺が持つ情報をお前たちに話そう。近々、俺が集めてた魔物達を率いる魔人族が湖畔の町“ウル”に攻めようとしている。「「「っ!」」」それに加え、聞いた情報では()()()()()()()()が湖畔の町に侵攻する魔人族の軍勢と合流する為に移動しているようだ」

 

 

清水の言っていることは本当だ。フォースで清水が言っていることが本当かどうか分かる為、ハジメ達にこの話は本当であると俺は告げる。しかし、謎のゴレーム軍団の存在が気になったその時にティオは自分にも手伝わせてくれと俺達に頼む。

 

 

「なら、妾も手伝わせてくれぬか?妾とて罪なき人々を殺してしまったことは事実じゃ。せめて妾に罪滅ぼしの、悲劇を止める機会を与えてくれぬかの?」

 

「いやっお前の都合なんざ知ったことじゃないし、さんざん迷惑をかけたんだ。詫びとして死ね……って、昔の俺だったそう言ってただろうな。何処かの誰かのお人好しが俺にも伝染したようだ。…んで、清水。お前に一応確認しておきたいことがある。今でもお前は()()()()()?」

 

 

なんだかんだでハジメはティオの同行を許し、今度は清水に対してドンナーを引き抜き、銃口を清水に向けながらある確認を取った。それに対して愛子先生はハジメに銃を下ろすよう頼もうとする。

 

 

「ま…待ってください、南雲くん!清水くんは敵じゃありません!」

 

「さぁな……記憶を失った俺はお前たちの敵かどうか分からん所だ。しかし、これだけは言っておきたいことがある。お前が俺を敵として認識したのなら殺すなり好きにしろ。だが、それはすべてが終わった後にしろ。その時まで俺は逃げはしない」

 

 

その問いにハジメは数秒間ドンナーを清水に向けたままだった……が、敵ではないと認識したのかハジメはドンナーをしまうのだった。一時一触即発な展開だったが、そうではないと発覚した際に愛子先生は少しばかり安堵したそうだ。

 

 

「…辞めだ。今のところお前は俺達の敵じゃないな。下手に弾薬の無駄な消費は避けたい」

 

「やれやれ、一部素直じゃないのは変わりないか。…それよりもだハジメ、俺が言いたいことは分かるな?」

 

「あれだろ?お前と一緒に湖畔の町を守ってほしいってことだろ。それは分かるが、お前としては本音からしてこうだろう、お前のお人好しが出たんだろ」

 

 

 

どうやらハジメは俺の考えていることを理解していた様だ。その際に“まぁな”と俺はハジメに答える。建前としては湖畔の町が失ったら稲作の料理がもう食べられなくなってしまうことだが、本音としてはジェダイとして牙なき人々の盾となり、剣となる。…要は罪なき人々をこれ以上死なせないためだ。

 

 

「なら話が早いな。だが先ずは町に戻ってこの情報を町の人たちに伝えた後に避難させる。ちょうど俺には()()があるからな」

 

 

俺の言うアレとは、ライセン大迷宮を攻略する前に一度宇宙に出て月付近に医療ステーションとアクラメイター級アサルト・シップの存在だ。アクラメイター級一隻なら一個師団のクローン達を収容することが出来る。そうすればその一個師団をウル防衛の為に配備させることが可能だ。そう考え終えた後に俺達は直ぐに行動に出て、愛子先生達と共に急ぎ町へと帰還した。この時に愛子先生はいつもの藤原くんであることに安堵したのは余談だ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘準備と女神君臨?

戦闘シーンを書くつもりでしたが、書けませんでした。すみません…(´;ω;`)


34話目です。


 

 

町に戻る際に俺は無人偵察機であるオルニスを飛ばしながらも魔力駆動四輪ブリーゼを運転し、町へと向かっていた。運転している最中に無人偵察機を通してとある場所に集合する魔物の大群を発見した。

 

 

「おい、お前が清水に操られていた際、最後に魔物の数をどれ位率いていたか覚えている?」

 

「わ…妾が見た時は三千匹ほどじゃったな〜」

 

 

俺の問いにティオはそう答える。因みにティオは何処で返事をしているのかというと、ブリーゼの屋根の上で返事しているのだった。ブリーゼに乗せようにも定員オーバーだったため、清水はブリーゼの荷台に、ティオはブリーゼの屋根の上に縛り上げ、落ちない様に固定した。何故そうなったのかと言うと、俺が黒竜時のティオにブッ刺した杭が原因で完全にティオは完全にMに目覚めてしまった。その結果色々と扱いが面倒くさかったので今に至る訳だ。……話が反れたが、ティオが言っていた情報とは全くもって異なっていた。

 

 

「いや、今はそんな数ってレベルじゃないぞ。桁が一つ追加されるレベルだ。まだ動き始めていないが、今ここで動き始めたらウルの町までおよそ二日って言ったところ……ん?」

 

 

その時に無人偵察機がある集団を発見した。それは清水が言っていた謎のゴーレム軍団だった。その姿はライセン大迷宮で戦った騎士のゴーレムとは違って、より()()()()騎士のゴーレムだった。そのゴーレムの中には白いフードコートを被っている連中がいた。恐らく、あのゴレーム軍団の指揮官だと思われる。すると、そのゴーレムの中で一際と大きい奴が魔人族の男と話していた。どうやらあのゴーレム……いや、他のゴーレムも同様に喋れるのかもしれない。俺は無人偵察機の中に集音声マイクを組み込んである奴を相手に気付かれない様に近づき、奴らの会話を聞き取ろうとした。因みにその集音声マイクは雷電が用意したものだ。…んで、そのゴーレムと魔人族の会話はこうだった。

 

 

《…三日後だと?》

 

《そうだ。敵がこちらの進軍に気づいていると向こう(尋問官)からの通達だ。より万全の状態で攻める為に援軍と物資の提供と配給に丸一日と魔物達と並列しての行軍速度から考えて約二日、それらを合わせて三日後になるな》

 

《……仮にそれが本当だとして、こちらは向こうから送られた愚かな勇者が集めた六万の魔物と、そちらのゴーレム騎士団“アテネス”の兵力は五千。それを束ねて約七万近くの兵力の差がある。一体どこが万全ではないというのだ?ゴーレム騎士団団長こと“ヒュケリオン”将軍よ》

 

《なに…奴らの考えることはこちらも判らん。だが、これまで奴らの言う予感が外れた事は一度もない。つまり、この先は我々の知らない未知の何かが待ち受けているということだ。我々とて出来る限りこちらの被害は最小限で済ませたいという意味では同じではないのかね?》

 

《…それは建前で、本当はその未知の敵と戦ってみたいからではないのか?戦闘狂めが。……どの道、奴らの力を借りる必要はない。それでも奴らの力を借りるというのなら、お前たち騎士団は後方で待機してろ。私は魔物共を引き連れてそのまま進軍する。精々我々魔人族の足を引っ張らないようにすることだな、戦闘狂のゴーレム風情が》

 

 

魔人族の男はヒュケリオンと名乗るゴーレムに見下す視線を送った後、その場から去る。一人となったヒュケリオンは魔人族の態度に対して怒りではなく、呆れていた。

 

 

《そうやって敵や人間を舐め腐るから相手の実力を見誤り、最終的に己自身の首を締め上げるはめになる。あの魔人族は一度死なない限り認識を改めない様だな。……そう思うだろう?()()()()()()?》

 

 

そう言った瞬間、そのゴーレムは無人偵察機の存在に気付いたのか空を見上げ、無人偵察機の目とあった。流石にこれは不味いと判断し、即座に全ての無人偵察機を撤退させた。その後に向こうからの追撃は無かった。まるで見逃されたかの様に……いやっ敢えて見逃したのかもしれない。何れにしろ、あのゴーレムはただのゴーレムじゃないのは確かだ。そう考えている間にウルの町に到着した後、この情報を早急に雷電やクローン達に伝えた。あのゴーレムは勝てなくはないが、どうも嫌な予感がするな……

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ウルの町に到着した時には既に夜の時間帯になっていた。ウルの町の町長に魔物の軍勢がこの町に向かっていることを伝えた後にハジメから無人偵察機から入手した情報を聞かされた。清水が言っていた謎のゴーレムが魔物の軍勢約六万と合流した様だが、ゴーレムを率いる一体のゴーレムの将軍が魔物の軍勢を率いる魔人族の男と意見争いしていたそうだ。ハジメ曰く、どうやらゴーレム軍団はミレディと同じ様に神代魔法で元の肉体をゴーレムに移し替えた様だ。もしかしたら他のゴーレム軍団もその可能性が高いそうだ。そのゴーレムの将軍ことヒュケリオンは魔人族から後方へ待機してろと見下す様な態度で魔物の軍勢を率いて先に攻撃を行う様だ。その会話の中で“尋問官”と言う単語が出てきたが、どうやらあの尋問官はゴーレム軍団や魔人族と何かしらの繋がりがある様だ。

 

 

 

どの道、この町での戦闘は避けられない。尋問官が送った援軍も少し気になるが、今はこの町の住人を避難させることを優先した。俺は月付近の医療ステーションで待機しているアクラメイター級を出動命令を下しながらガンシップを三機召喚させ、アクラメイター級の到着を待った。一方のハジメは魔力駆動二輪シュタイフを運転しながら天職である“錬成師”の錬成で四メートルの外壁を町の外周で錬成しつつも二つの外壁を作る。さらにゴーレム軍団との戦闘を想定し、クローン達は町の男衆と協力し、対ゴーレム戦に備えて戦闘を有利にすべく塹壕を作り、防衛陣地を構築する。外壁の方は四メートルと城壁には届かない高さではあるが、それでも小型種や中型種の魔物にとって登り難い壁ではあるが、大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。ハジメ曰く、一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はないとのことだ。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメや俺達にはないのだから。さらに一方の愛子先生は町の住民に避難するよう呼びかけながら避難誘導を生徒達と護衛騎士団と共に行っていた。そしてハヴォック率いるクローン達も住民を避難させる様に女子供をガンシップ執着地点まで誘導するのだった。なお、今回デルタ分隊は万が一のことを考え避難した住民の護衛の為に配備させた。一応飽くまで万が一のことではあるが、念には念をと抑えといて問題は無いだろう。

 

 

 

避難作業とウルの町防衛陣地構築を始めてから既に二時間が経過した。空では月付近の医療ステーションから出動したアクラメイター級一隻がウルの町にあるウルディア湖上空で駐留していた。余談ではあるが、この世界の住人はアクラメイター級のことを空飛ぶ箱船と表情を表すぐらいに驚いていて、生徒男性陣は本物の宇宙船ことアクラメイター級を見て感動していたのはまた余談だ。住民の避難を優先する為にガンシップに乗せた住民をアクラメイター級に一時収容し、アクラメイター級に搭乗していた一個旅団(六千)のクローンを町へと降ろし、それぞれ敵の襲撃に備えてブラスター・キャノンやブラスター・ライフル、ブラスター・ピストルなどの武器、弾薬をアクラメイター級から運び出し、戦闘準備を進めるのだった。

 

 

「レッド小隊、急げ!第二分隊は外壁の上に土嚢やブラスター・キャノンの設置を行え。ゴーレム軍団が攻めて来た時に上からの援護射撃で地上部隊を援護するのに必要だ」

 

「イエッサー!直ちに…」

 

 

住民の避難を終えたハヴォックが新たに来たクローン達に指示を出し、何れ来る魔物の軍勢やゴーレム軍団に対抗する為、クローン達の配置を急がせるのだった。この時、当時の俺はハジメと共に第二の外壁の上にいた。

 

 

「…それにしてもハジメ、よく俺の意見を受けてくれたな?お前のことだから、仕事を優先して町の人を避難させたら後はお役御免とウィルや俺たちを連れてこの場から離れるかと思ったぞ」

 

「…確かにな。よくよく考えればもしお前と出会わなければ、今頃俺はお前のお人好しに伝染せず、ウィルをフューレンに連れ戻すだけだったかもしれねえな」

 

 

おい、ハジメ。お前俺のことをそんな風に見ていたのかと内心ツッコンでいると、梯子を通して園部が登ってきた。

 

 

「…ん、園部か?」

 

「園部…?一体どうした、そっちで何か問題が?」

 

「あっいや、ちょっと南雲と話があるの。藤原は出来ればちょっと……」

 

「…なるほど、分かった。しばらく俺は物資の確認をしてくるよ」

 

 

そう言って俺は外壁から飛び降りて物資の確認しに向かった。……まあ久しぶりの再会と会話だから多分話が長くなるだろうな。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が物資の確認に行った後に園部が俺に何かを伝えようとしていた。一体何を伝えようしているのか俺には理解できなかった。

 

 

「…あのさ、南雲」

 

「どうした、園部?」

 

「あのぉ……ありがとね、あの時は」

 

 

いきなり園部からお礼を言われて俺が一体何をしたんだと疑問を浮かべる。

 

 

「何のことだ?」

 

「ぁ……お、覚えてないかもしれないけど、大迷宮で助けてくれたよね?だから…ちゃんとお礼を言いたかったんだ」

 

「助けた?……あぁ、あの時か」

 

 

園部が言う大迷宮とはおそらく俺と雷電がオルクス大迷宮の奈落に落ちる前、65階層のベヒモス戦の時だろうな。俺が無能だった頃、雷電たちのところに向かおうとしたところ園部がトラウムソルジャーに襲われかけたんだったか?その時に俺はDC-17ハンド・ブラスターで倒し、園崎を助けた後に雷電たちのところに向かった。多分その時のことを園部が言ってるんだろう。

 

 

「あの時は偶然だ。お前も運が良かったってことだ」

 

「…それでもね、無駄にしない。助けもらったこと、絶対に無駄にしないから!」

 

「そうか……」

 

 

その後、園部は言いたいことを伝え終えた後に“ …じゃあ、行くね”と行ってここを去ろうとした時に俺は園部にあることを伝える。

 

 

「園部、お前は死なねえよ。根性があるからな……ま、多分だけどな」

 

「……ありがとう、南雲」

 

 

そう礼を行った後に園部は外壁に下りて愛子先生達の所へ戻るのだった。その後で俺は木に隠れて気配をバリバリに漂わせている奴に威嚇する。

 

 

「……んで、気配をバリバリに漂わせて何をしている?」

 

 

するとその人物はバレていないと思っていたのか、不意に“ …フェっ!?”と間抜けな声を出した。そしてその人物は木から姿を現した。

 

 

「で…出そびれてしまったのじゃ。で、よいかな?お主に頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

 

 

その正体は竜人族のティオだった。こいつと話し合うと思いっきし疲れるので適当にあしらう感じで話すのだった。

 

 

「……あぁ、ティオか」

 

「な…なんじゃ今の間は!?まさか妾の存在を忘れておったとは…」ハァ……ハァ……

 

「なんで嬉しそうに少し興奮してんだよ…」

 

 

元を正せば俺の所為なんだが、まさかこいつがドが付くくらいのMに目覚めるなんて誰が予想できただろうか?そう考えている間にティオは話を続ける。

 

 

「お主達はこの戦いが終わったらまた旅に出るのじゃろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「それでな、その旅に妾も同行させて「断る」……よ…予想通りの即答…!……もちろんタダでとは言わん!これよりお主を“ご主人様”と呼び妾の全てを捧げよう、身も心も全てじゃ!」

 

 

より面倒くせぇ方向になっていき、余計に同行させたくなかった。

 

 

「どうじゃ?悪い話では“バンッ!”…ぶへっ♡」

 

「巣に帰れ、いやっむしろ土に帰れ!」

 

 

もうティオを喋らせると更に面倒くさくなるのは明確だったので俺はドンナー(非殺傷ゴム弾)でティオを無理矢理黙らせるのだった。しかし、ドMになったティオにはむしろ逆効果でご褒美みたいなものだった。

 

 

「そんな…酷いのじゃ…。妾の初めてを奪っておいて、いきなりお尻で…しかもあんなに激しく…」

 

「もうそれ以上喋んじゃねぇ!つーか、お前と喋っているとこっちも色々面倒くせぇんだよ!!」

 

 

そう言って俺はドンナー(非殺傷ゴム弾)でティオのケツに何発も打ち込むのだった。

 

 

「あひィン!!それじゃ、それがイイのじゃああ〜〜♡」

 

 

ティオはもう完全に俺ですら手に終えないくらいにドMになっちまっている為、この行為すら無意味だった。一方のこの様子を見ていたユエやシア、クローン達は今の竜人族ティアのドMっぷりを見ていた。

 

 

「あのさお前等、ユエが言うには竜人族って高潔な種族じゃなかったのか?あの様なドMっぷりは流石の俺でも引くんだが……」

 

「判るものかよ。ジェダイと同じ様に竜人族の考えることは深過ぎる」

 

「深過ぎると言うか……メチャクチャです……」

 

「…でも、戦力にはなる」

 

 

……ユエは兎も角、お前たちこっちを見てる暇があったらこいつを何とかしてくれと頼みたかったが、雷電だったら“自分で巻いた種は自分でなんとかしろ”って言われるのが目に見えていた為、何も癒えなかった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

一方、物資の確認と表して俺はハルツィナ樹海に設置した前線基地に連絡を取っていた。それは、少数の兎人族ハウリアの人員派遣だった。通信には族長のカムが応じ、男女二人ずつ其方に派遣させることになった。ガンシップを経由しての移動や人員と物資の積み込み、往復を考えるとざっと三時間は掛かるとのことだ。それを了承した俺は派遣されるハウリア達が来るまでハジメ達の所に向かう。俺が着いた時にはティオは何やら満足そうな表情をして身体を震わせていた。何があったのか俺は敢えて聞かないことにし、ハジメには()()()を頼もうとした。

 

 

「ハジメ、少し頼みたいことがあるのだがいいか?」

 

「ん?何だよ急に……」

 

「ライセン大迷宮攻略の際に使用したあの兵器を三機分作れないか?」

 

「あの兵器?…あー、ハードボーラー(PTX-140R)か。作れなくはないが、アレ作るのにかなりのコストが掛かるんだよな。…でもまぁ、お前のことだ。その点は問題ないよな?」

 

 

俺の頼み事とは、ライセン大迷宮攻略の際にハジメが秘密兵器として投入した人型起動兵器の量産だ。あの機体はハジメが作った魔力駆動の乗り物と同じで己の魔力で動かす兵器だ。しかし、魔力駆動式の物には欠点がある。ハジメ曰く、魔力量が少ないと動かせないのが唯一の欠点だそうだ。誰かを乗せる前提なら機体に外部プロペラントタンクを取り付け、活動時間の延長を図った方が効果的だ。その為には機体を製造する為の材料(コスト)が大量に必要となるが、ハジメの言う通り、その点は問題なかった。

 

 

「問題ない。材料についてはこっちが用意する合金や鉱石があるし、専用の設備もある。後はハジメの錬成で機体を作り上げれば問題ない」

 

 

専用の設備というのはアクラメイター級の船内にある格納庫のことだ。あそこならばハジメがあの機体を作るのに最適な場所だ。そう言う形でハジメは俺の頼みを了承し、アクラメイター級へと向かうのだった。

 

 

 

それから翌朝……

 

 

 

ハジメが錬成した外壁の上ではクローン達が設置したブラスター・キャノンに配備し、地上では塹壕の中でクローン達はブラスター・ライフルやカービンなどで敵を待ち受ける態勢に入っていた。なお、クローン達の中にはハジメが設計した試作型標準新型ブラスター・ライフルを持っていた。何故それらをクローンが持っているのかと言うと、ハジメがハードボーラーを作る際についでで新型ブラスターを開発した様だ。…改めて思うが、こうも簡単に俺達の予想を遥かに上回るハジメの開発能力は異常だ。ハジメから聞いても“そんな事は無い”と謙虚そうに言うが、俺はそうとは思えない。しかもハジメは、これ等を作った兵器は全てゲームやアニメにある兵器を錬成で再現させただけだと言っている。それはそれで恐ろしい再現力だなと俺は若干ハジメの能力の異常さに引くのだった。そしてそのハジメは、複製錬成でハードボーラーの機体そのものを複製錬成させ一気に三機を複製させ、最後の仕上げとしてハードボーラーの改造に取りかかっているため後三時間は必要だそうだ。ハジメが戻ってくるまで待っている時に俺が新たに少数に召喚し、偵察に向かわせた“クローン・スカウト・トルーパー”達から連絡が入った。

 

 

《こちらスカウト。現在魔物の軍勢を確認。コマンダー・ナグモの言う通り、敵の数は約六万。我々の十倍の戦力です》

 

「そうか。…それで、接敵まで後どれくらいだ?」

 

《敵の行軍速度からして約二時間半です。これより我々はこの領域から離脱します》

 

「分かった、敵に見つかるなよ。無事を祈る、交信終了………二時間半か……」

 

 

敵との接敵まで二時間半……ハジメが作業を終えるのに後三十分足りない。すぐさまに俺はハジメに連絡を取った。ハジメの報告によると今のペースならば二時間で三機分の改造が完了するが、残りの一機は間に合わないそうだ。俺はそれでも構わないと伝え、三機の改造が完了次第直ぐに戻って来てほしいと頼み、通信を切った。さて……やれることはやった。後はこの先どうなるかは出たとこ勝負だ。

 

 

 

それから二時間が経ち、既に午後昼の時間帯になった。ハジメは量産したハードボーラー三機の改造が完了し、こちらに戻ってきた。そして俺は改めて今この場にある戦力の確認を行った。現在の兵力は六千、一個旅団並の数で敵軍の十分の一だ。第一、第二外壁は既にクローン達が配備されており、防衛陣地を構築されている。この世界の住人からしたら鉄壁の防御陣だと思われるが、俺はそうとは思えない。あくまでこの世界の魔物と戦うことを想定した防衛陣地だ。後からくるであろゴーレム軍団と尋問官が送ってくる敵の増援。それらがこちらに来たらとても面倒だ。…だが、今は目の前の敵に集中することにした。でないと、最終的にハジメ達諸共共倒れになるからだ。そう考えならも俺達は敵が来るまで己が武器の点検しながら戦闘準備を行うのだった。その時に愛子先生や生徒達がやって来た。その愛子先生達の後ろには剣やら鍬など武器になりそうな物を持ったウルの町の住民の男衆と自警団がいた。

 

 

「南雲!藤原!」

 

「園部か。……どうしたんだ、町の住民達は?」

 

「ごめん、私は止めたんだけど…」

 

「私達も戦わせてくれ!町中の戦える者を集めてきた。私達にも自分の町を守らせてほしい。私達の生活は観光業で成り立っている。生き延びても町が破壊されては駄目なんだ」

 

 

どうやら町の住民は俺達に守ってばかりでいられないと自ら武器を持ち、共に戦うと集まった様だ。…彼等の言い分も最もだが、その町で住む彼等が死んでしまっては意味が無い。だが、引き下がる気配すらない。どうするか考えているとハジメが声を掛けてきた。

 

 

「おい雷電。俺にいいアイデアがある」

 

「いいアイデア?彼らを死なせない方法でもあるのか?」

 

「いやっ寧ろ、()()()()()()()()()さ。……それとお前もうまく便乗しろよ?

 

 

利用する?それに便乗するって“一体何を?”って聞きたいくらいだ。するとハジメはウルの町の住民に告げる。

 

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!!この戦いは既に勝利が確定している、我々は女神の加護のもとにあるのだ!!」

 

 

突如と演説を始めるハジメ。町の住民はハジメの言う女神とは何なのか分からなかった一部ではエヒト神ではないのでは?と思う者もいた。しかし、この時に俺は察してしまった。ハジメが言っていた便乗の意味を。

 

 

「その女神の名は、“豊穣の女神”愛子様だ!」

 

「えっ?…え?」

 

「我々の側に愛子様がいる限り敗北はありえない!!愛子様こそ人類の……いや、今の時代に虐げられる弱者達の味方!!私は彼女の剣にして盾!!」

 

 

そう言ってハジメはユエに念話で演出の為に雷龍を放つ様に頼む。ユエもそれに了承し、バレない様に小さく詠唱し、雷の龍を生み出す。

 

 

「これが!!愛子様より教え導かれた……女神の剣の力である!!

 

 

その言葉を合図にユエは塹壕にいるクローン達に被害が及ばない様に塹壕から四百メートル離れた場所に雷龍を落とす。そして落とした地点に(いかづち)の柱が立ち、力を見せつけるインパクトとしては町の住民達には十分過ぎた。そしてハジメは俺にバトンを任せる様に言葉を続けた。

 

 

「女神の剣の力は今見せた通りだ!そして私の友であり、女神愛子様の使徒の軍勢の将軍であるジェダイの騎士“藤原雷電”の御言葉だ!!」

 

 

そうして俺の出番が来た。…ハジメよ、即興とは言え幾らなんでも急過ぎるだろ?そう考えながらも俺は冷静に住民達に対して演説を始める。

 

 

「ハジメの言う通り、私はジェダイ騎士の雷電だ。そして、君たちはもう既に会っているであろう女神愛子様を守りし兵士達、その名も“クローン・トルーパー”。彼等は私が生み出した使徒の兵士であり、女神愛子様をお守りする忠実な兵士である」

 

 

町の住民はクローン達のことを使徒の兵士だということに疑うどころか逆に信じられていた。特に極めつけはアクラメイター級の存在だ。町の住民は天から空飛ぶ箱船(アクラメイター級)が下りてきて、町の住民を救う為に使徒の兵士を送り込んだ。更には女子供をより安全な場所へと運ぶ為に箱船に乗せてもらっているのだ。町の住民を助ける為にここまでやってくれたクローン達を豊穣の女神愛子先生の使徒の軍勢の将軍である雷電はまさに、牙なき人々の牙となる人物だと町の住民はそう思えた。一方のクローン達は、戦う為に造られた存在でありながらこの異世界で使徒の軍勢として崇められるのは些か複雑な気分であった。そして俺は最後の締めくくりとしてクローン達や町の住民に最後の言葉をかける。

 

 

「ここに集まったウルの町の勇敢なる者達、そしてクローン・トルーパー達に告げる!今回の戦いでは第一波と第二派がある!!長期戦になることは明確である。しかし、恐れることはない!ウルの町の勇敢なる者達よ、我々には豊穣の女神こと、現人神の愛子様がおられる!我が友ハジメの言う通り、我々の側に愛子様がいる限り敗北はありえない!!そしてトルーパー達よ、これよりお前たちはこの町を守る為に諸君等の命を賭けてもらうことになる!それが激戦となろうとも我々は戦い抜き、この町を守り抜く!!だから、敢えて言おう……愛子様の為に死に急ぐな、生き残れ!そして為すべきことはただ一つ、愛子様のため!そして愛子様の故郷である共和国(日本)の為に!!」

 

 

 

「「「共和国の為に!!」」」

 

 

 

「愛子様に栄光あれ!!愛子様、万歳!!」

 

 

 

「「「ウオオォォォッ!!愛子様、バンザーイ!!」」」

 

 

 

……本当は愛子先生や俺達の故郷である日本は共和国ではなく中立国なのだが、クローン達やウルの町の人々の指揮を向上させるには丁度良い起爆剤だった。そして愛子先生はハジメや俺が女神として祭り上げた結果、かなり動揺していた。

 

 

「ど…どどどっど……どういうことですか!?」

 

「すまない、愛子先生。皆の指揮を上げるにはハジメの暗に便乗するしかなかった」

 

「せっかく“豊穣の女神”と呼ばれてるんだ。本物の女神になるくらいいいだろ?」

 

「いいわけありません!!「じゃあ後は任せた」…え!?」

 

 

愛子先生は最終的に町の住民に胴上げし、愛子先生を祝福するように祝っていた。一応俺はハジメになんで演説じみたことしたのかを聞きだした。ハジメ曰く、人々の支持を得れば愛子先生の意見が教会や国に通りやすくなる分、下手に愛子先生や生徒達に手出しが出来なくなるからだそうだ。それ即ち、生徒である俺達も適用されることで今後の俺達が旅をする上でメリットになるそうだ。……確かにメリットになることは確かだが、愛子先生にとって余計に負担になるのでは?と思ったのは余談だ。すると第二外壁の塹壕にいるクローンから連絡が入った。

 

 

《フジワラ将軍!敵の軍勢が見えました!!距離、千メートル付近で確認!約五分後で敵と接触します!!》

 

 

クローンの報告で俺はエレクトロバイノキュラーで確認をすると、報告通り魔物の軍勢六万がこちらに向かっていた。後に、異世界トータスの住民の歴史家達によってこの戦いは“第一次ウルの町防衛戦”として次の世代に語り継がれる事になることを今の俺達は知ることはなかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一次ウルの町防衛戦

今日ちょっと体調を崩してペースが遅くなりました。後、厚かましいかもしれませんが評価をお願いします。

あと、新型ブラスターを装備したトルーパーの画像です。
【挿絵表示】



35話目です。


 

 

魔物の軍勢を率いる特殊部隊所属の魔人族こと“レイス”はウルの町に侵攻したのはいいものの、ウルの町の変わりように思わず口を開いていた。主な原因はウルの町の外周に四メートルの外壁の存在と、謎の白い鎧を纏った軍団が我々を待ち構えていた。

 

 

「バカな……たった一日だぞ?たった一日でもう人間共はこちらの侵攻に気付き、あまつさえ防衛陣地を構築しただと…!?それに、何だあの船は?いや……アレは船と呼べる代物なのか…!?」

 

 

自分が想定したことより遥かに予想の斜め上を行き、万全な防衛陣地で待ち受けられるとは予想もしなかった。更にはこの世界では存在しない筈の空飛ぶ船の存在により一層混乱に陥る。その時にレイスはゴーレム軍団のヒュケリオン将軍の言葉が頭によぎった。

 

 

“この先は我々の知らない未知の何かが待ち受けているということだ。我々とて出来る限りこちらの被害は最小限で済ませたいという意味では同じではないのかね?”

 

 

奴が言っていた知らない未知の何かとはこのことだったのか。だが、既にレイスは大見得きって先に進軍し、六万という数の暴力差でウルの町を攻め落とすことしか考えてなかった。

 

 

「……しかし、だからといっておめおめと引き下がる訳にはいかん。ここで引き下がっては私は魔国ガーランドにとって鼻つまみ者になる。…幸いにも愚かな勇者が集めた魔物の数がある。物量に任せれば何れ突破口ができるだろう」

 

 

そうしてレイスは魔物の軍勢に進軍する様に命令し、ウルの町への攻撃を開始した。その先が敗北という二文字しか無いことをしらないまま……。

 

 

レイスSide out

 

 

 

外壁の上で魔物の軍勢を目視で確認した俺達は、それぞれ武器を構える。ハジメはライセン大迷宮攻略の際に使用した電磁加速式ガトリング砲“メツェライ”とメツェライに仕様する専用弾薬BOXを宝物庫から取り出し、専用弾薬BOXと接続した給弾ベルトにセットし、いつでも撃てる様にする。ユエは魔法を、俺はライトセーバーでシアはドリュッケンの砲撃モードで構える。

 

 

「さーてと、お前たち準備は?」

 

「とっくに出来ているよ。後は……」

 

「この町を、守るだけ…!」

 

「みなぎってきたー!」

 

 

それぞれ準備万端だった。その時にハジメは清水の存在に気付いたのか清水がいないことに疑問を抱いた。

 

 

「…そういや雷電、清水の野郎はどうした?」

 

「清水は俺が別任務を与えたから今はいない。…だが任務を終え次第、こっちに戻ってくるぞ」

 

 

時間は一時間前に遡る……俺は清水に魔物の軍勢の後方にいるであろうゴーレム軍団に対して威力偵察に向かわせたのだ。危険な任務ではあるが、今の清水の腕前なら大丈夫と判断してこの任務を任せたため問題は無い。

 

 

清水のことで考えているとティオはハジメから何か貰ったのか嬉しそうな感じだった。よく見たら指輪型の魔力タンクのアーティファクトであることが判明した。

 

 

「神結晶を加工した魔力タンクと言っておったが……素直じゃないの〜?まさか戦いの前にプロポーズとはのぉ?」

 

「おい、それは貸しただけだからな?絶対返せよ」

 

 

ハジメはそう言うがティオは満更ではなさそうな感じで“いやじゃ、いや〜じゃ〜”と言葉を返す。色々とツッコミたかったハジメだが、敢えてスルーすることにした。

 

 

「……精々タンクが空になるまで、竜の力を見せてくれ」

 

「任せておくのじゃ、ご主人様!」

 

「フッ………一気に畳み掛けるぞ!!」

 

「あぁ!トルーパー、迫撃砲用意!地上部隊、及び外壁の援護部隊は迫撃砲の弾着後に一斉射!」

 

 

俺は外壁にいるクローン達に迫撃砲こと“モーター・ランチャー”を用意し、攻撃するよう指示を出す。地上や外壁の部隊がそれぞれブラスター・ライフルやカービン、固定式ブラスター・キャノンで射撃出来る様に待機する。

 

 

「迫撃砲、全てそろいました!」

 

「よし、迫撃砲……放て!!」

 

 

俺の合図で迫撃砲は発射されて砲弾が魔物の軍勢の方へと飛んでいく。

 

 

「5…4…3…弾着、今!」

 

 

迫撃砲を撃ったクローンの合図で砲弾が着弾し、魔物の軍勢の数百を削れたと同時にクローン達に一斉射の指示を出す。

 

 

「全トルーパー、攻撃!!」

 

「撃てぇ!!」

 

 

ハヴォックが俺の言葉に便乗する様に全クローンに撃つ様に命じる。そして地上と外壁からの一斉射撃が始まった。迫撃チームのクローン達も迫撃砲で引き続き援護を行う。各ブラスターから放たれる無数の光弾と迫撃砲から放たれる砲弾が六万の魔物の軍勢に襲いかかる。ブラスターや砲弾を防ぐ術を持たない魔物達は次々とブラスターの光弾の餌食となる。追い討ちをかける様にハジメが持つメツェライによる掃射で魔物達をミンチにし、シアの砲撃モードのドリュッケンによる砲撃で次々と魔物の数を減らす。そしてユエの重力魔法とティオの紫炎の魔法の二つにより更に魔物の数を減らす。最早戦争ではなく一方的な暴力といった感じで魔物の数を徐々に減らしていった。地上から攻め入るのが困難な魔物の軍勢だったが、空中の魔物は我先にと外壁へと向かってきた。

 

 

「トルーパー!敵が上空からくるぞ、対空防御!」

 

 

ハヴォックの指示で外壁上のクローン達は固定式ブラスター・キャノンで対空迎撃を行う。そしてハジメもメツェライの弾薬が残っているうちに上空にいる魔物に向けて対空迎撃する様に掃射する。空中の魔物が為す術も無く掃討された時には密集した大群のせいで隠れていた北の地平が見え始めたと同時に遂にティオが倒れた。

 

 

「むぅ、妾はここまでのようじゃ……」

 

 

そうティオが言った瞬間、ハジメから貰った魔力タンクこと魔晶石の指輪が魔力の底が尽き、役目を終えたかの様に砕け散る。

 

 

「あぁ!?エンゲージリング(婚約指輪)が!?」

 

「変態にしてはやるじゃねえか。後は任せて寝てろ」

 

「…ご主人様が優しい……罵ってくれるかと思ったのじゃが……いや、でもアメの後にはムチが……期待しても?」

 

「そのまま死ね」

 

 

血の気の引いた死人のような顔色で、ハジメの言葉にゾクゾクと身を震わせるティオ。とても満足げな表情をしている。ハジメは、その様子に嫌なものを見たと舌打ちしながら、引き続き地上の魔物を掃討する。戦闘を開始してから既に10分が経過し、魔物の軍勢は当初六万だった筈が今では一万を割り八千から九千まで数を減らされた。その時にハジメのメツェライは既に弾切れだった。

 

 

「俺の残弾は無し……ユエ、魔力の残りは?」

 

「…ん、残りが魔晶石二個分くらい……重力魔法の消費が予想以上。要練習」

 

「十分だ。残りはピンポイントでやる」

 

「……ん、後でご褒美」

 

 

そう言ってハジメは宝物庫からシュタイフを取り出し、乗り込んで俺やシアに続く様に言ってきた。

 

 

「行くぞ雷電、シア!!」

 

「はいです!」

 

「ああ!地上のトルーパー、今が好機だ続け!」

 

「はいっ将軍!よしっ野郎共、将軍達に続け!!」

 

 

そう先導するクローンにつられる様に他のクローン達も“前進、突撃!”と発して、塹壕から出て突撃を行った。ハジメの我流ガン=カタとシアのライトセーバーとドリュッケンを駆使した戦闘、更に雷電のライトセーバーの剣術にクローン達の攻撃で次々と魔物を倒していく。このままいけば全ての魔物を一掃することができるな。なお、愛子先生の所にいた生徒達男性陣は戦う相手がバトル・ドロイドではなく魔物と違う相手ではあるが、最早クローン戦争に近い何かと感じ取っていたのは余談だ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方、後方で待機を命じられたゴーレム騎士団“アテネス”は魔物の軍勢を率いるレイスが魔物の軍勢より十分の一位少ない兵力に圧倒されていたことを偵察のゴーレム兵から聞かされる。そして新たな戦局情報が入ってきた。

 

 

「レイスが率いる魔物の軍勢、兵力が既に五千を下回りました!もはや壊滅状態です!」

 

「やはりこうなることは必然か……」

 

「それともう一つ報告が、我が方の偵察員三名が()()()()()()()()()()

 

 

偵察のゴーレム兵からの報告はまさに予想外な報告だった。しかし、彼ことヒュケリオンにとってはそのことも想定内だったのかかなり冷静だった。

 

 

「そうか……して、被害は?」

 

「はっ…三人の内二名は我々の急所とも言える核が撃ち抜かれていました。それともう一人は敵は我々の急所の核を探っていたのか身体中に無数の穴がありました。ただ、やられた三人の共通の死因は同じ熱量を持った何かに核を撃ち抜かれたことです」

 

 

ヒュケリオンは恐らく前線で戦っている魔物の軍勢が相手をしている白い兵士達の武器のことを考えた。あの武器は我々の使う武器とは違った技術の産物だ。我々ゴーレム騎士団にしか支給されていない武器、それは“プレスガン”。魔力によって感応石を加工した特殊靭帯を収縮させピストンを作動、それによって生じた圧縮空気により弾丸を射出する、いわば一種の空気銃だ。そのプレスガンより勝る武器が向こうに存在していたとはな。あのウルの町のウルディア湖上空で動かずにいる箱船の存在が気になったと同時にヒュケリオンは、内心で思わぬ掘り出し物を見つけた様に心を躍らせていた。

 

 

 

そう考えていた時に一人のゴーレムとゴーレム騎士団と似た鎧を着た二人の魔人族がヒュケリオンの元にやって来た。

 

 

「将軍、もう魔物の軍勢の方は既に壊滅状態。前線を維持することすらままならないでしょう。ここは今が引き際かと……」

 

 

そう報告してきたのは私の補佐官の“ベルセボネ・ウリヤノフスク”。彼は私の忠実な将軍補佐であり、ゴーレムの中で重量級でありながらそうとは思わせない動きを見せることが出来るゴーレムだ。

 

 

「全く…あのレイスって人、散々大口を叩いたくせに少ない敵軍勢に打ち破られるんだから。もっと粘って欲しかったけどね?」

 

「ニケ、あまりそう言ってやるな。相手が相手だ、彼等にとっても想定外過ぎたんだろう」

 

 

“は〜いっ大佐!”と返事をするのは魔人族の女性ニケこと“ニーナ・ケルト”。そして彼女の保護者に近い魔人族の男性“イオ・ケルティス”。二人は生まれ育ち魔国ガーランドの魔人族でありながら、人間達と同じ肌色を持ち、“人間擬き”と迫害された者達でもあった。そんな彼等を私が引き取り、家族当然の様にゴーレム騎士団に迎え入れた。その際にイオは、自分たちを拾ってくれた恩を返そうと私に忠誠を誓い、信頼を勝ち得たのだ。そんな二人に私は、ゴーレムの装甲ともいえるシュタル鉱石を魔国の錬成師に製作させ、鎧を与えた。イオには“トロイア”を、ニケには“ギラトス”を。それぞれ二人の特性を見極めて造らせた鎧でもある。

 

 

「あの者達のことも気になるが、被害がこれ以上広がる前に撤退した方が良さそうだな…。全軍、これよりこの戦域を離脱する。尋問官が送った後方の増援部隊と合流し、態勢を立て直す」

 

 

そう告げて我々は、戦っている魔物の敗残部隊を置いてゴーレム騎士団全員に撤退命令を下す。そして退き間際に私は魔物の軍勢を打ち破る三人の姿を目視で確認する。一人は銃を二つ持ち、もう一人は光る謎の剣を持ち、最後の一人は戦鎚と二人目と同じ光る謎の剣を駆使して次々と蹴散らしていった。

 

 

「我々の戦い方とは違う者達……か。いずれにせよ、二回目の攻撃で戦うことになる筈だ。その時に戦ってみたいものだな?」

 

 

私自身でも自覚している戦闘狂を抑えながらも、ゴーレム騎士団を率いてこの場から撤退する。……本当に思わぬ掘り出し物を見つけたものだ。

 

 

ヒュケリオンSide out

 

 

 

ウルの町防衛戦開始から既に15分が経過し、魔物の数は千を割り残り五百から六百までしかいない状況で、もはや俺達の勝ちが確定していた。そして交戦中の魔物達に変化が起きた。

 

 

「おいっ見ろ、奴ら退却し始めたぞ!」

 

 

一人のクローンが言った通り、他の魔物達が退却を始めたのだ。退却する頃合いとしては完全に遅過ぎるのだが、魔物達を率いる魔人族を逃がす為の囮なのかもしれない。

 

 

「…どうやらあらかた片付いたようだな」

 

「はぅ〜……疲れました」

 

「いや、まだ終わってない。今は魔物の軍勢という名の第1波を凌いだが、あのゴーレム軍団は前線に出ていなかった。戦力を温存して撤退したようだ。これはこれで一筋縄じゃいかないようだ。それとトルーパー、こちらの被害はどうだ?」

 

「幸いにも死者は出ませんでしたが、負傷者が出ました。一部の獣の魔物に噛みつかれて負傷した者が多いようです」

 

 

どうやらクローン達に死者は出なかったものの、負傷者が出たようだ。俺はすぐに負傷者の治療と搬送を指示した後に俺たちは外壁の方へと戻っていった。すると突然、コムリンク通信機から通信が届いた。俺はすぐに通信を開くと通信相手が清水からだった。

 

 

《聞こえるか、雷電》

 

「あぁ、聞こえているぞシャドウ。どうした?」

 

《ゴーレム軍団に対して威力偵察してみたところ、奴らの装甲の材質はシュタル鉱石であることが判明した。それともう一つ、奴らには銃らしき物を所持している》

 

 

清水からの報告からゴーレム軍団の装甲の材質がシュタル鉱石を使用していることと、銃らしき物を所持していることが判明した。まさかゴーレム軍団が銃を所持しているとはな…。清水からゴーレム軍団が所持する銃の詳細を聞き出したところ、一種の空気銃であると同時にウィルを探しにいった時に偶然見つけた壊滅した隊商の死体のことを思い出した。彼等の死因は銃痕擬きによる穴だ。清水にその銃の銃口はどのような形をしているのか聞き出すと円形ではなく四角形の銃口だった。この情報で壊滅した隊商の死体の死因がより明確に判明された。どうやら彼等は運悪くゴーレム軍団と接触して口封じ、或いは物資を略奪されたのだろう。すると清水から無茶な賭けに出ることを告げる。

 

 

《ゴーレム軍団の中に指揮官らしきゴーレムもいる筈だ。可能なら暗殺してくる》

 

「なにっ!?幾ら何でも危険だ!それにお前の任務は飽くまで威力偵察だ、すぐ戻ってこい!」

 

《どの道、奴を生かしておいてはそっちにも支障が来す筈だ。なら、後顧の憂いを断っておく必要がある。それと問題ない、無理と判断したら直ぐに撤退する》

 

「そうじゃない!シャドウ、もし連中が罠を張っていたらどうする!?今すぐ撤退し、こちらと合流しろ!これは命令だ、シャドウ!!」

 

《((雷電)にしては随分と仲間思いなのだな?)……すまない、信号が乱れてきた。悪いが切るぞ》

 

「清水!命令を聞け!」

 

 

そう清水に告げるも途中で清水が通信を切り、こちらとの連絡を断った。清水はああ言ったら絶対にやると思った俺は嫌な予感を感じ、直ぐに俺はアクラメイター級にいるクローンに通信を入れる。

 

 

《フジワラ将軍?何か問題でも…?》

 

「緊急事態だ、至急ガンシップを用意してくれ!人員はこちらで用意する!」

 

《は…はいっ将軍!直ちに!》

 

 

クローンとの通信を終えた後、ハジメ達も俺の異常性に気付いた様だ。

 

 

「おい雷電、清水がどうかしたのか?」

 

「なにか慌ただしい感じでしたけど?」

 

「ハジメ、シア。面倒なことが起きた。清水が独断でゴーレム軍団の将軍を暗殺を行おうとしている」

 

「えぇっ!?」

 

「マジか……つーか、その様子だと救援部隊を送るつもりか?」

 

「そのつもりだ。清水の救援にARCトルーパーを二個分隊派遣させる」

 

 

ハジメ達に簡易的に説明した後、俺はARCトルーパー二個分隊を召喚し、指揮官のキャプテンクラスのARCキャプテンに状況と作戦を説明した後にアクラメイター級から送られてきたガンシップがやって来て、ARCトルーパー達がガンシップに乗り込み、そのまま清水の救援に向かうのだった。しかし……それでも嫌な予感が拭えないでいた。

 

 

「……嫌な予感がする」

 

 

そう呟きながらも俺はARCトルーパー達が清水を無事に連れ戻って来ることを祈った。

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方、ヒュケリオン率いるゴーレム騎士団は尋問官が送った増援部隊と合流する為に岩山のルートを通って撤退していた。その際に魔物の軍勢を指揮していたレイスと合流したものの、レイスは先の戦いの敗北に苛立ちを覚えていた。

 

 

「おのれ…!あのような軍団や想定外の三人さえいなければ、この様な無様をさらすことにならなかったものを……!」

 

「はいはい、たとえあの白い兵隊達がいなくてもあの三人だけでも敗走確定だったもんねぇ?」

 

 

彼等がいう三人とはハジメとシア、雷電のことであり、白い兵隊はクローン・トルーパー達のことをさしていた。レイスが雷電達に敗北し、屈辱を覚える中、ニケはレイスに小馬鹿にする様に煽る。その際にベルセボネがニケに注意し、レイスにフォローを入れる。

 

 

「ニケ、あまりそう言ってはなりません。彼とて私達の同志でもあります。それに、これは飽くまで戦略的撤退です。すこし後方で増援部隊と合流するだけです」

 

「あっそれ使い勝手のいい言葉ですよね、“戦略的撤退”。本当はあの白い兵隊達やあの三人組に徹底的にやられただけだけど」

 

 

ニケの毒舌に流石のベルセボネも何も言えなかった。ヒュケリオンにいたっては“まだ若いな”と思う程度だった。イオの場合は少しばかりニケの言葉使いに困る感じであった。

 

 

「斥候さん、もっと先行って」

 

「はッ!」

 

 

そうニケは斥候のゴーレムに指示を出した後に斥候のゴーレムの後に続こうとした時、イオは何かを感じ取ったのかニケに止まる様に告げる。

 

 

「……ニケ、止まれ」

 

「えっ?……っ!」

 

 

ニケはイオの言葉に従って止まり、先導していた斥候のゴーレムを見た瞬間斥候のゴーレムが何かに狙撃され、核を撃ち抜かれてそのまま倒れ込み、動かなくなった。この異常性を見た全てのゴーレムは近くにある岩場に身を隠し、敵の狙撃を警戒した。

 

 

(一撃……射角……首元の薄い装甲……距離……)

 

 

ヒュケリオンは敵狙撃手がいる所を計算し、上を見上げるとそこには白い兵士とは真逆の黒い兵士がいた。ヒュケリオンはその黒い兵士に見覚えがあった。あの黒い兵士は尋問官の隣にいた兵士である。しかし、その黒い兵士が何故こちらを襲うのかと思ったが、その際に尋問官が増援部隊を送る際にこう言っていたのだ。“裏切り者のパージ・トルーパーには気を付けなさい”と。そう辻褄が噛み合った瞬間、敵であると発覚した。

 

 

ゴーレム騎士団Side out

 

 

 

俺ことシャドウはゴーレム軍団よりも先に岩山のルートで待ち伏せをしていた。待ち伏せをする数十分前、雷電たちが魔物の軍勢と交戦している間に俺は威力偵察で斥候のゴーレムを三つ倒し、倒したゴーレムの装甲の調査と、ゴーレムが所持していた武器を回収してみたところ、何かしらの方法で空気を圧縮して弾丸を飛ばす空気銃らしきものと、ゴーレムの左肩に懸架していたロングソード、そしてシールドの三つだった。そして極めつけはゴーレムの装甲がシュタル鉱石であったことだ。ハジメの研究材料用に俺は空気銃を回収し、ロングソードとシールドは何かの役に立つと思い回収する。そして俺は雷電に通信を入れ、倒したゴーレムの装甲の材質や空気銃の存在を知らせる。その時にゴーレム軍団がこの岩山に通ってくる可能性があると判断し、このままゴーレム軍団の指揮官を狙うことにした。雷電が戻ってこいと命令するが、このまま奴らを放置したら面倒なことになるのは目に見えている。俺は雷電の命令を無視して通信を切り、独断でゴーレム軍団の指揮官暗殺を行うことにした。

 

 

 

そして今現在、俺は岩山の真上で待機してゴーレム軍団がやって来るのを待った。そして斥候らしきゴーレムを肉眼で捕捉出来た後に斥候の後ろからついて来る他のゴーレムの動きを止めると同時に警告を兼ねてDC-15Aで斥候のゴーレムに対して狙撃し、他のゴーレムに威嚇する。その際に白い布で被さった黒いゴーレムが俺の存在に気付いたのか上を見上げてきた。その際に俺はそのゴーレムがゴーレム軍団の指揮官であると断定し、ここで仕掛ける事にした。

 

 

「……仕掛けるなら、今しかないか」

 

 

DC-15Aを懸架し、背中に装備しているジェット・パックを起動させ、敵ゴーレムから奪ったロングソードとシールドを持ってそのままゴーレム軍団の先導にいる水色のゴーレムの鎧を着た魔人族に向けて降下した。

 

 

「ニケ、11時80度だ!」

 

 

黒のゴーレムが魔人族にそう告げ、その魔人族は両手に持つ複合兵装らしき武器で対空迎撃を行った。複合兵装裸子き武器から放たれる弾丸はどうやら空気銃と同じ代物らしく圧縮した空気で弾丸を飛ばしている様だ。そう理解しながらもジェット・パックのスラスターの調整でバレルロール回避しならがら背面に回り込み、ロングソードを使って落下の速度と重さを利用してそのまま魔人族の右腕を切り落とそうとする。しかし、その魔人族は脊髄反射で右手に持つ複合兵装を離し、複合兵装が破壊されることで右腕の切断を逃れる。

 

 

「黒い兵士……!」

 

「ニケ!離れろ!!」

 

「ッ!クッソ、がーー!!」

 

 

魔人族は残った左腕が持つ複合兵装で俺を薙ぎ払う様に振るう。その時に俺は奪ったシールドでその攻撃を受け流し、攻撃後の隙を見て、俺はその魔人族を殺さず足で魔人族の左腕を押さえつけながらロングソードを捨て、魔人族を盾にしながらDC-15Aで射撃する。

 

 

「くっ…!ニケ!!」

 

「ニケど…ぐがあッ!?」

 

 

殆どが岩場に身を隠しているため当たらなかったが、射撃の際に数発の内一発が後方のゴーレムに直撃して倒れた。

 

 

「ニケは殺さず盾に……これでは動けん!」

 

 

味方が盾にされて反撃するのが困難であることに敵の動きが止まり、こちらが弾切れを起こすまで待っていた。しかし俺は無駄弾を撃たない様に射撃を止め、敵の動きをよく見ていた。

 

 

「(反撃が無いところ、コイツ(魔人族)の盾が有効の様だな?)……っ!」

 

 

すると黒いゴーレムは俺が倒したゴーレムから空気銃を回収し、それをなんと盾にしている魔人族に向けて撃った。

 

 

「すまんがニケ、少し痛いぞ」

 

「将軍!?」

 

 

黒いゴーレムが狙ったのは盾にされている魔人族の足だった。どうやら盾にされている魔人族が立てなければ盾になる価値が無くなると見て撃ったのだろう。

 

 

「ぐぅっ!?大佐!!」

 

「…チッ!思ったより頭が回る様だ!」

 

 

案の定足を撃たれた魔人族は倒れ込み、盾としての利用価値が無くなり、俺はすぐにジェット・パックを起動させて後方へと飛翔しながらDC-15Aで指揮官である黒いゴーレムを狙うも、黒いゴーレムはこちらが弱点を狙っていることに気付いていたのか空気銃を盾にして直撃を免れた。

 

 

「飽くまで正確無比。……手強いぞ、狩られるなよ!」

 

 

そう黒いゴレームが言った時に何かが滑る音が聞こえた。俺はその音が聞こえる方へ向けると、そこには何時の間に回り込んだのか両手持ちの戦斧を構えながら滑って来るゴーレムの姿があった。

 

 

「…何っ!?」

 

「粉砕せよっ!虫けらっ!!」

 

 

反応が遅れて回避が間に合わないと思った次の瞬間、何処からともなくブラスターの弾幕が俺に向けて戦斧を振るおうとしたゴーレムに降り注ぎ、身体をズタズタに引き裂かれる様に砕け散った。俺はブラスターの弾幕の発生源らしき場所を見てみると、そこには雷電が寄越したと思われる精鋭部隊のARCトルーパー達の姿があった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

救出作戦と新たなる敵

今回、ARCトルーパーが少し活躍します。


36話目です。


 

 

清水がゴーレム軍団に強襲を仕掛ける数分前、一機のガンシップが清水がいる岩山に向けて敵に見つからない様に低空で遠回りのルートを飛行していた。ガンシップ内ではARCキャプテンを筆頭に二十人前後のARCルテナントのARCトルーパーが戦闘準備として各自装備の最終点検と各ブラスターにパワーセル・カートリッジをセットしたり、アタッチメントである“アンダー=バレル・グレネード・ランチャー”をDC-15に装着し、ハジメお手製の40mm×46HE(高性能炸薬弾)グレネード弾を装填して点検を終える。するとクローン・パイロットがARCキャプテンに目標地点に接近していることを報告する。

 

 

「キャプテン、目標に接近」

 

「よしっ…ハッチ開け」

 

「イエッサー!」

 

 

ARCキャプテンの指示通りガンシップのハッチを開き、外の様子が見える様になる。クローン・パイロットは敵に見つかっていないことをARCキャプテンに報告する。

 

 

「目標地点に接近、敵に捕捉されていません」

 

「突撃ッ!」

 

「イエッサー!」

 

 

ARCキャプテンから突撃命令を下されたと同時にクローン・パイロットがレバーを動かし、ガンシップを最大船足で加速させる。そして着陸地点でARCトルーパー達を降ろす。そしてARCキャプテンがホロマップで清水の居場所を確認する。

 

 

「救出対象、確認。一人は岩場、一人は上で援護」

 

「「イエッサー!」」

 

「残りは、私に続け!!」

 

 

ARCキャプテンの指示でARCトルーパー達はARCキャプテンの指示通りに行動する。Z-6ロータリー・ブラスター・キャノンを持つARCトルーパーがいれば、中にはレシプロケイティング・クワッド・ブラスターを担ぐARCヘビー・ガンナーもARCキャプテンについて行く。そしてガンシップは万が一のことを考えて低空で待機することにした。

 

 

 

ARCキャプテンは清水がいると思われる場所に駆け足で向かいながらもハンドサインで一部のARCトルーパーに指示を出し、ARCトルーパーもARCキャプテンの指示に従い行動する。そして清水がいる所まで辿り着くと、今まさに清水に危険が訪れていた。

 

 

「…何っ!?」

 

「粉砕せよっ!虫けらっ!!」

 

 

清水に向けて戦斧を振るおうとするゴーレムの攻撃から清水を守る為にARCキャプテン含む全てのARCトルーパーが戦斧を持つゴーレムに向けて一斉射を行う。ARCトルーパー達の一斉射によって放たれた光弾の弾幕を受けたゴーレムは、身体をズタズタに引き裂かれる様に砕け散った。倒したゴーレムはゴーレム軍団の士官だったのか、他のゴーレム達は士気が低下して動揺していた。敵が動揺している間に救出対象である清水を確保するのだった。なお、清水は何故ARCトルーパー達がここに来たのか見当がついていた為かあまり驚かなかった。

 

 

「救出対象を確保!これより撤退する!」

 

「待てっ!あの黒いゴーレムを仕留めなければ!」

 

「駄目です!貴方のことを救出しろと将軍から命じられています、急いで脱出しないと…!」

 

 

ARCキャプテンが清水を何とか説得してガンシップへと連れて帰ろうとしたその時、黒いゴーレムが一気に距離を詰めてきたのだ。ゴーレム故に表情はない筈なのに何故かこの黒いゴーレムだけは獲物を見つけて笑っている様にみえ、更に背筋に悪寒が走った。

 

 

「フッ…!」

 

「……っ!下がれ!!」

 

 

ARCキャプテンと清水が黒いゴーレムから振るわれる剣から回避し、ARCキャプテンがDC-17ハンド・ブラスター二丁をホルスターから引き抜き、そのまま撃つ。ARCキャプテンと清水を助けようと他のARCトルーパー達も援護射撃を行う。

 

 

「ホッホゥッ!これは流石に危ないな…!」

 

 

すると黒いゴーレムは走りながらARCトルーパー達から放たれるブラスターの弾幕を後ろへと跳躍を繰り返しながら躱し、楽しそうに大回りに駆け回っていた。ARCトルーパー達も黒いゴーレムに当てられず少しずつ焦りを感じていた。そして何よりも、この黒いゴーレムは他の敵よりも危険であることを理解していた。

 

 

「撃ち落とせ!撃ち落とすんだ!!」

 

 

清水の指示もあってか、ARCトルーパー達は用いる火力で黒いゴーレムを撃破しようとアンダー=バレル・グレネード・ランチャーから40mm×46HEグレネード弾を放つ。しかし、黒いゴーレムはグレネード弾に対して跳躍し、紙一重で避けながらもグレネード弾による爆風を利用し、一気にARCトルーパー達の距離を詰める。

 

 

「…っ!散れ!」

 

 

ARCキャプテンの指示があったものの間に合わず、黒いゴーレムの距離(レンジ)に入ったARCトルーパーは黒いゴーレムが持つ剣に斬られる。そして近場にいたARCトルーパー達も応戦しようとしたその時、黒いゴーレムの肩から黒い尻尾のような鋼鉄製の棘がブラスターごとARCトルーパーの装甲服ごと貫かれる。更には左腕に仕組んでいる射出用の仕込み武器でARCトルーパーに向けて放つ。これをくらった二名のARCトルーパーの装甲服に四角い風穴が空き、そのまま絶命する。僅か数秒足らずで四人のARCトルーパーが戦死した。

 

 

「ガンシップ、援護射撃を!!」

 

《イエッサー!》

 

 

ARCキャプテンの指示でガンシップから主兵装である二基のマス=ドライバー・ミサイル・ランチャーを黒いゴーレムの手前に撃ち出す。

 

 

「ホォ…!今度は空からか!」

 

 

黒いゴーレムはミサイルが地面に到達する前に咄嗟に後ろへと下がり、ミサイルによる攻撃から逃れると同時に敵の視界を奪うことに成功する。ARCキャプテンは撤退する最後のチャンスであると判断し、そのまま撤退命令を出す。

 

 

「この期を逃すな!ガンシップ、着陸して私達を回収後に直ぐ引き上げるぞ!」

 

「いやっ駄目だ、あの黒いゴーレムはまだ生きている!!」

 

「シャドウ、もう限界です!このままでは我々が先に全滅します、状況を考え下さい!」

 

「くっ……了解した!」

 

 

清水の説得に成功したARCキャプテンは清水を含む全員の搭乗を援護しつつもガンシップに乗り込む。そしてZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンを持つARCルテナントがガンシップ内で牽制射撃を行いつつも離陸の援護を行う。クローン・パイロットは全員の搭乗を確認した後にガンシップは離陸し始める。

 

 

「に…逃がすな!撃て、撃ち落とせ!」

 

 

他のゴーレム達はようやく動揺を静めて目の前で怒っている状況を把握し、ガンシップを落とそうと空気銃で弾丸を放つ。しかし、ARCトルーパーが持つZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンから放たれる光弾の弾幕により正確な射撃がままならないでいて、ガンシップの装甲はARCトルーパーの装甲服よりも固いために貫通することは叶わなかった。そしてガンシップは離陸し、ここから離脱するのだった。離脱する際に、ゴーレム軍団の最後列が見えるところでクローン・パイロットは()()()を投下する。

 

 

「な……なんだコレは?」

 

 

最後列にいたゴーレムの一人がガンシップが投下した円形の筒状の何かを拾い上げて確認してみると“ピッピッピッ”と鳴っていてゴーレム達は何かと嫌な予感を覚えた。ガンシップが投下した物はリモートタイプのデトネーターである。ゴーレム軍団から大分距離を取った後にARCキャプテンがリモートタイプのデトネーターを起爆させるスイッチを押す。瞬間、ゴーレム軍団の最後列で連鎖爆発が起きる。無事に清水を救出できたと同時に、ゴーレム軍団に大打撃を与えることに成功するのだった。

 

 

ARCトルーパーSide out

 

 

 

赤いラインの白い兵士を筆頭に青いラインの白い兵士達が黒い兵士……確かシャドウといったか?彼を救助する為に派遣された精鋭部隊であることは確かだ。敵の精鋭部隊が爆弾らしきものによってこちらの被害はざっと四百から五百と戦死者が出た。騎士団の一割を削られたとはいえ、こちらとしてはかなりの痛手だ。

 

 

「イオ、ニケはどうだ?」

 

「右足は負傷してはいますが、治癒魔法で何とか回復できるようです」

 

「もぉ〜将軍!撃つんだったら撃つって言ってよ〜、痛かったんだから!!…まぁ、それはそれで大佐に負ぶってもらったから良いんだけど……

 

「それはすまなかった。だが、お前が死んではイオが悲しむからな」

 

 

“なっ…将軍!?”とイオは何かと焦っていたが、ニケにいたってはそんな言葉を使われてズルイと思ったのか不貞腐れた表情をしながらも顔を赤めて踞った。ニケの安否を確認した後にベルセボネから細かい死者の詳細を聞いた。

 

 

「ベルセボネ、こちらのゴーレム騎士団はまだ動かせるか?」

 

「はっ。隊列を組み直せば再び行動を再開することが可能です。…しかし、先の白い兵士達の強襲でドラギア将軍補佐が殺られました。核も完全に破壊されていて身体の移し替えによる蘇生は叶わないでしょう」

 

 

我々ゴーレムは核さえ無事であれば四枝を失った身体でも核を別のゴーレムの身体に移し替えれば再び戦線に復帰が可能ということだ。しかし、ドラギアや他のゴーレム達の核がやられてしまっている以上、復活は望めない物だ。私はベルセボネに残ったゴーレム達の隊列を戻す様に指示を出したその時、我々が向かっていた増援部隊がいる方向から向こうから増援部隊が来てくれた。尋問官が送った増援部隊は、先ほど我々が戦っていた白い兵士達と似た鎧と装備を身につけている兵士達の姿があった。些細な違いを入れるのならば、つり目型のTの字のバイザーではなく垂れ目型のバイザーで、人間用に調整されたヘルメットを被っていた。更には我々が戦っていた白い兵士達は黒一色の銃を所持していたが彼等は違う。白と黒の二色が施されている銃を所持していた。

 

 

 

その増援部隊の白い兵士達を見たゴーレム達は一瞬“さっきの奴らの仲間ではないのか?”と疑心暗鬼に駆られ、プレスガンを向けるものもいた為、私はゴーレム達に攻撃禁止の指示を出す。すると増援部隊の白い兵士達は中央に道を作る様に整列し、その中央の道から黒い兵士達を率いる尋問官が現れる。

 

 

『おや…どうやら手酷くやられた様だねぇ?』

 

「あぁ。一人の将軍補佐がやられ、他のゴーレム達もざっと五百くらい先ほどの爆発で削られた」

 

『そいつはお気の毒ね。…それで、魔物の軍勢を率いていた魔人族は何処だい?』

 

「向こうでベルセボネと話している。ところで、お前たちが連れてきた兵士達の名はなんだ?向こうの白い兵団と区別するには名前を知らなければな?」

 

『そうさね、私からも先に言っておきたいことがあるからね。先ず貴方達が戦っていた白い兵団は“クローン・トルーパー”という作られた兵器よ。そしてこっちにいるのはクローンとは違い、純粋の人間のみで編成された兵士“ストームトルーパー”だよ』

 

 

どうやら我々が戦った白い兵士達はクローン・トルーパーという名で、尋問官が連れてきた増援部隊の白い兵士達はストームトルーパーという名前の様だ。その際に尋問官の説明に些か気になる言葉が出てきた。

 

 

「なるほど……しかし、クローンとは一体何だ?それに作られた兵器と言っていたが、まるで()()()()()()ような口ぶりだが?」

 

『言葉通りだよ。彼等はとある人間をベースに作られた()()()()さね。そいつらの特徴は戦う為に作られた分、寿命が人間の半分しかないのさ』

 

 

なるほど………道理でより統率が取れている訳か。複製人間となると所謂ドッペルゲンガーに近い何かの存在かもしれないな。だが、今はそんな事はどうでもいいと判断した私は尋問官から増援部隊であるストームトルーパー達を授かった後、再びウルの町へ侵攻の為に戦略を練るのだった。

 

 

 

ヒュケリオンSide out

 

 

 

ARCトルーパー達を乗せたガンシップが清水の救援もとい、救出に向かってから数十分が経過していた。清水が無茶をしていることを愛子先生達に話した為に彼等も清水の無事を祈っていた。ARCトルーパー達の帰りを待っている間にスカウトチームに再び偵察任務を任せる。それから数分後、清水を救出しに向かったガンシップが漸く帰還したのだ。そしてガンシップ内で清水らしきフォースを感じ取り、どうやら無事に救出が成功したことを理解した。

 

 

 

ガンシップが着陸し、ハッチが開くと、ARCトルーパー達と清水の姿があった。ARCキャプテンから状況報告を受け、その後に次の指示があるまでアクラメイター級で待機を命じた。クローン軍団召喚の唯一の欠点は、一度召喚した兵士は死ぬか召喚者が死ぬかの二つで、どちらかが当て嵌まるまで消えることがない。そして清水がガンシップから降り、俺の前までやって来て謝罪してきた。

 

 

「申し訳なかった雷電。お前の言う通り、素直に撤退すればよかった。暗殺は失敗した。ARCトルーパー達が来ていなかったら、今ごろ俺はどうなっていたか。……だが、彼等のお陰で敵の副官は倒すことは出来た」

 

「らしいな。だが、今回の戦いは必要のない戦いだった。そのお陰でARCトルーパー達にも犠牲者が出た。お前の身勝手さには困った物だ。今後は絶対に命令に従ってもらうぞ、勝手な行動が味方の危機に…」

 

 

そう言葉を続けようとしたその時に、スカウトチームから連絡が入った。

 

 

《将軍、聞こえますか?》

 

「あぁ、スカウトか。どうした?」

 

《ゴーレム軍団の増援と思わしき部隊を確認したのですが、その……我々では判断がし難い増援部隊でした》

 

「…どういうことだ?その敵の増援はゴーレムではないのか?」

 

 

そうスカウトに問い出すと、スカウトは違うと返答し、敵の増援について詳しく説明した。

 

 

《はい。厳密に言えばゴーレムではなく、()()()()()()()()()()()()()といえばいいのでしょうか?とにかく、コムリンクに画像を送りますので確認を願います》

 

「……分かった、こちらでも確認してみる。お前たちはすぐに撤退し、こちらの防衛戦に参加してくれ」

 

 

そうスカウトに連絡した後に俺は一旦清水の説教は後回しにし、俺はハジメ達に敵の増援について話し合いがしたいので一度ガンシップで経由してアクラメイター級内の司令室に向かうことにした。

 

 

 

そうして俺とハジメ達、デルタ分隊一同は司令室にてスカウトチームが敵の増援の情報を入手し、これからの行動について話し合うのだった。

 

 

「さて……今回この司令室に呼び出したのは他でもない。スカウトチームが敵の増援部隊を確認したとの情報だ」

 

 

俺がそう説明するとハジメ達はもう情報が入ってきたのかと納得しつつも、ハジメはある疑問を清水に問い出す。

 

 

「なぁ清水、一応聞くがお前が用意した魔物を連中がまだ隠していたってのか?その辺はどうなんだ?」

 

「清水ではない、シャドウだ。…そのことだが、そんな訳ないだろう。今回の襲撃でお前たちが壊滅させた六万の魔物の軍勢が俺が集めた奴で打ち切りだ」

 

「清水の言う通り敵増援部隊は魔物でもゴーレムでもない、相手は人間だ。それもクローン達の装備に似た物を身につけているとのことだ。スカウトチームからその現場から取った画像がある」

 

 

そう言って俺は、スカウトが送ってくれた画像をホロテーブルに映し出す。その敵の増援部隊の兵士はスカウトが言っていた通り、クローン達の装備に似たヘルメットとアーマー、そしてブラスターなどが装備されていた。この時にデルタ分隊はセヴだけを除いてこのトルーパーのことを知っていた。

 

 

「こいつは、銀河帝国軍の“ストームトルーパー”じゃねえか!」

 

「ストームトルーパー?俺達兄弟の新しい装備か?」

 

「いや、セヴ。お前は知らないと思うが501大隊や俺達のような一部のクローン達は年を重ね、4BBY以降使い物にならなくなったことで解散させられた。帝国はその様なことを考えてその穴埋めとしてストームトルーパーはクローンではなく、人間のみの志願兵や徴募兵によって占められるようになったんだ」

 

 

フィクサーがそう説明し、セヴは驚いている最中、俺も内心驚いてはいた。前世の俺が死んだのは19BBYだ。その十五年後でその様なことが起こっていたとは思いもしなかった。しかし、フィクサーはこの時にある違和感を抱いていた。

 

 

「…しかしこのストームトルーパー、何かと我々の知るストームトルーパーとはアーマーと装備が一部デザインが少し異なります」

 

「確かに、我々が知らぬ間に帝国は特殊部隊のトルーパーでも生み出したのか?」

 

「それはこちらでも分からないな。ハジメ、お前は何か知っているか?」

 

 

その時に俺はハジメに何か知っているか聞いてみたが、ハジメはこのストームトルーパーの知っているのか最初はありえないという表情をしていた。

 

 

「……ハジメ、どうした?」

 

「え…あっいや、なんでもねえ。それとこのストームトルーパーなんだが、俺はこいつのことを知っている」

 

「このストームトルーパーを?ハジメ、こいつはどんな奴なんだ?」

 

 

スコーチがそう聞き出すと、ハジメは答える。

 

 

「こいつらは5ABYに銀河帝国が反乱軍……後の新共和国に敗れて崩壊し、銀河協定を締結した後の一部の帝国軍将校、貴族、技術者たちは敗北を認めず、帝国を権力の座に返り咲かせるため未知領域へと姿を消し、やがて“ファースト・オーダー”と呼ばれる暫定軍事政権を樹立し、人間の幼い子どもたちを誘拐して軍隊に加え、新世代のストームトルーパー兵団を創り上げた。帝国のストームトルーパーとの違いを入れるなら、今画像に映っている奴は差し詰め“ファースト・オーダー・ストームトルーパー”といったところか?」

 

「まて、子供達を誘拐して訓練だと?過程は違うが方法の一部が俺達クローン兵の育成に一部共通点がある。俺達クローンは成長速度が速い分、子供のうちに軍事学習を行わせ、早い段階でより忠実な兵士に育て上げることが可能だ。それをファースト・オーダーと名乗る連中は誘拐した子供達にもそれを行い、忠実な兵士を生み出したというのか?」

 

 

“そういうことになるな”とハジメが告げた後に、俺は余計に頭を悩ませることになった。一応クローン達には対人戦においては引けを取らないかも知れないが問題は数だ。スカウトの報告によるとその増援部隊であるストームトルーパーはざっと一個師団もいてゴーレム軍団のも合わせると約二万の軍勢がこのウルの町に押し寄せて来るということだ。魔物の軍勢とは違って奴らは知性と戦略的な攻撃をしてくる分、厄介であることに変わりはなかった。そこで俺は次の戦闘で重砲こと自走式砲台である“AV-7対ビーグル砲”を四台ウルの町に召喚することを決定し、後方の重砲による援護射撃による攻撃で少しずつ敵を削ろうと考えた次第だ。そうして俺はAV-7対ビーグル砲を四台召喚し、ウルの町に配置した。そして数合わせとして一度アクラメイター級を月外縁軌道にある医療ステーションに向かわせ、クローンの増員四千を補充してから戻ってくることにした。アクラメイター級が往復して戻ってくるのにざっと二日は掛かったが、その間に敵の襲撃はなかった。敵の襲撃がないとは言え、何かと不気味な何かを感じた俺はいずれ来るべき戦いに備えるしかなかった。

 

 

 

第一次ウルの町防衛線から三日後……

 

 

 

戻ってきたアクラメイター級から四千のクローン兵の増員と補給物資を受け取った後に俺たちは外壁の上で敵を待ち構えていた。この三日間を利用してハジメに錬成を頼んで外壁にある工夫を施してもらった。その工夫とはブラスト・ドアの設置だ。これにより梯子を使って外壁を超える手間がなくなったのだ。外壁に設置したブラスト・ドアは外の塹壕に繋がっている。これによりクローン達の後退ルートを確保したのだった。なお、この戦いにおいてウルの町の住民だけは参加させない様にアクラメイター級で待ってもらっている。無論、愛子先生達や護衛騎士達もだ。前回の戦いでは虐殺に近かったが、魔物の軍勢を倒すというファンタジー的な戦いであったが今回は違う。人対人、それ即ち、人間同士の……ブラスターで撃ち合う戦争なのだから。聖教教会から派遣された護衛騎士達にストームトルーパーを相手をするには文明の差がありすぎる為に愛子先生の説得のお陰で何とかなったのは余談だ。

 

 

 

そう考えている間にデルタ分隊のボスが敵を捕捉したことを報告する。

 

 

「将軍、敵ストームトルーパーとゴーレム軍団を確認した。左右にストームトルーパーを展開し、後方にはゴーレム軍団と布陣を取っている様だ」

 

「そうか…なら、こちらも行動を起こすとするか」

 

 

“イエッサー”とボスが言った後に自身の持ち場に戻るのだった。そして俺はエレクトロバイノキュラーを取り出して敵軍がいる方角に向けた後に覗き込み、敵の動きをよく観察する。この時に俺は前世の頃の思いでを思い出してしまった。前世で体験した三年間も続いた戦争…“クローン戦争”のことを。独立星系連合のドロイド軍を相手に俺自身よく駆け抜けたものだ。だが、今回の相手はドロイドではなく人間だ。クローン達も複雑な思いをしているかもしれないが、気持ちを切り替えないと死ぬのは己自身であることを理解しつつも戦闘態勢を整っていた。この戦い……恐らく、尋問官の背後にはエヒトが関与している可能性があるがその考えは後にして、クローン達やハジメ達と合流する為に俺も動き出すのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二次ウルの町防衛戦

ほとんどネタに走りました。それと久しぶりの一万字越えです。


37話目です。


 

 

敵を肉眼で細く出来る距離までやって来たゴーレムとストームトルーパーの軍勢。左右のストームトルーパーの数はざっと八千もいて合わせれば一万六千。更にゴーレム軍団の兵力を足せば約二万ほどで俺達の二倍だ。戦力差は二対一と状況は最悪だが、それを補う為に雷電が重砲を用意してくれたのだ。これなら兵力差がある奴らとなんとか戦える。……ちょっとした余談だが、俺は本物のストームトルーパー(ファースト・オーダー版)を見て内心驚きもしたし、ちょびっと感動もした。長生きていればこういう出来事もあるんだな?…だが相手は敵だ、敵ならば容赦はしないとオルクス大迷宮の奈落から脱出する時に既に決めていた。俺はドンナーとシュラークを引き抜き、最前線で敵の様子を見ていた。すると奥にいるゴーレム軍団の陣地の後方で光の柱が空へと上がる。その発生した光の柱を中心に膜の様な円形状のうすい水色の壁が生成される。この時に俺はこの薄い水色の壁の存在を知っていた。

 

 

「マジか……よりによってあいつら、防御シールドを貼ってきやがった」

 

「あぁ、不味いな……こちらが重砲を使うと察してたのか敵は防御シールドで先手を打ってきたな」

 

 

清水が何気にヤバイと思っているとちょうど雷電が戻ってきた。

 

 

「ハジメ、こっちでも肉眼で捕捉したがあれは厄介だ。あのままじゃ重砲による砲撃支援が行えない」

 

「お前のことだからこのことを想定していたんだろう?何か対策はあるか?」

 

 

そう清水が雷電に問い詰めると雷電は“ないことはない”と問い返し、そのまま説明をした。

 

 

「敵の後方陣地に防御シールド発生装置がある可能性がある。それさえ叩けば防御シールドが消え、重砲の砲撃支援が行える。その防御シールド発生装置は俺とシアだけで破壊に向かう。ハジメ達はクローン達を率いて防衛戦を維持してくれ。相手は銃を持っている分、油断はするなよ」

 

「ああ、この異世界においての初めての銃撃戦だからな。死なねえ程度にやってみるさ」

 

「…ん。ハジメは、私が守る」

 

「妾も手助けをしよう。お主も無理がない様にの?」

 

「分かっているさ。……よしっシャドウ、お前もハジメと共に行動しろ。決して前の様な無茶な行動をするなよ」

 

「あぁ……お前こそ、防御シールド発生装置を破壊に向かう際に黒いゴーレムには気をつけろ。奴は他のゴーレムとは違う」

 

「そのつもりだ。ハジメ、シュタイフを貸してくれ。アレで敵陣の中央を突破し、防御シールド発生装置を破壊する」

 

 

“ちゃんと返せよ”と言った後に俺は宝物庫からシュタイフを雷電に貸し出し、雷電はシュタイフに乗り込んだ後にシアを乗せ、そのまま敵陣中央に向けて走らせる。防御シールドの方は雷電たちに任せ、俺達は侵攻して来るストームトルーパーの軍勢を対処する為、今はここにはいないが、別の場所で待機している4人のハウリア族に()()()()が完了しているか確認を取る。

 

 

「“ラビットチーム”、そっちの準備はどうだ?」

 

《準備万端です、コマンダー。いつでも出れます!》

 

「分かった、こっちが合図を出すまで待機してろ。合図は照明弾で知らせる……っ!」

 

 

そう告げて通信を切った瞬間、ストームトルーパーから放たれたブラスターの赤い光弾が俺の前を通り過ぎた。どうやら連中は有効射程まで距離を進めた様だ。

 

 

「……よし、こいつらも前と同じ様に片付けるぞ!」

 

「ん!」

 

「勿論じゃ、ご主人様!」

 

「あぁ。トルーパー、攻撃開始だ!」

 

「イエッサー!野郎共いくぞ!!」

 

 

それを合図に俺達はクローン軍団を率いてゴーレム、ストームトルーパーの軍勢に対して反撃開始するのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

俺はシュタイフを運転し、シアは俺の後ろでシュタイフから落ちないようしがみ付きながらも敵陣の中央に向かっている最中、ストームトルーパーからブラスターによる妨害があった。

 

 

「シア!」

 

「はいですぅ!」

 

 

シアに援護を頼む様に声を掛けるとシアも俺の意図を理解し、ダブル=ブレード・ライトセーバーを分割してライトセーバーの二刀流でストームトルーパーのブラスターから放たれる光弾を弾く。そしてゴーレム軍団が布陣する所にシュタイフを加速させ、そのまま中央突破を図る。

 

 

「こ……こちらに突っ込んで来るぞ!?」

 

「う…撃て!!奴らの狙いは後方にある防御シールド発生装置だ!」

 

 

流石に敵が少数で突っ込んでくることを想定していなかったのか少しばかり混乱があったもののすぐに立て直し、ゴーレム達は空気銃(その名に因んでプレスガンと命名)と支給されたブラスターで応戦する。俺は巧妙にシュタイフを操縦し、プレスガンとブラスターの弾幕を躱しながらもシュタイフでウィリーし、目の前にいたゴーレム一体をジャンプ台代わりにして飛んだ。そして着地してそのまま防御シールド発生装置に向かって行った。無論後方からプレスガンとブラスターによる追撃があったもののシアがそれを弾き返し、俺達は何とか防御シールド発生装置らしき物の所まで着けた。

 

 

「何とか辿り着いたが、油断はするな。まだ敵が潜んでいるかもしれない」

 

「はい、マスター。ここの警備がお粗末過ぎるくらいに薄いところ十中八九罠でしょうね」

 

 

俺達はシュタイフから降り、警戒しながら防御シールド発生装置に向かおうとしたその瞬間、足下に弾丸が着弾する。俺とシアはすぐに武器を手にしてより警戒を強めた。しかし、それ以降敵の攻撃は来なかった。だが、近くに敵がいることは確かだ。

 

 

「存在を感じますが肉眼では見えないです」

 

「確かにいる…」

 

 

そうして俺とシアは警戒しながら進む……と見せかけて、俺達の背後にむけてライトセーバーを振るう。すると空間にライトセーバーによって焼き切られた後が出来き、徐々に空間が歪んで斬ったものの正体が姿を現す。それはライトセーバーによって切断された量産型らしき白いゴーレムの残骸だった。どうやらライトセーバーで振るった際に核もろとも斬ったのだろう。その瞬間、至る所から空間が歪み、そこから百体近くのゴーレムが出現した。

 

 

「マスター、これって完全に……」

 

「どうやら俺達は、まんまと敵の罠に嵌まってしまった様だ」

 

 

どうやってこの場を切り抜けるか考えていたその時、量産型の白いゴーレムの中から一体の黒いゴーレムが堂々と前に出てきたのだ。その黒いゴーレムを見て俺は清水が言っていたことを思い出す。

 

 

“黒いゴーレムには気をつけろ。奴は他のゴーレムとは違う”

 

 

それが目の前にいるということは奴がそうなのだろう。黒いゴーレムが前に出た後に白いゴーレム達が何か慌てた様子だ。

 

 

「将軍!?お下がりください!ここは我々が……ぅおっ!?」

 

 

すると黒いゴーレムの肩の部分からサソリの尻尾の様な物を展開し、後ろにいた味方の白いゴーレムが持っているプレスガンを破壊し、告げる。

 

 

「攻撃中止!全軍、石になれ!」

 

「は……ハッ!」

 

 

するとこの場にいる白いゴーレム達はプレスガンとブラスターの銃口を上に向け、その場で待機した。

 

 

「これより…魔人族であれ、ゴーレムであれ、手を出した者は処刑する!!」

 

 

そう言って剣を抜き出し、俺達の方へ向かって走って来る。あからさまに俺達と戦う為にわざとあのような命令を下した様だ。こちらとしては好都合ではあるが……

 

 

「シア、お前は下がっていろ!こいつは俺が相手をするから、お前は防御シールド発生装置を破壊しろ!!」

 

「は、はいです!」

 

 

まだパダワンであるシアには荷が重いと判断した俺はフォースを使って倒したゴーレムの残骸からロングソードを引き寄せ、手にして構える。するとその黒いゴーレムの足から隠し武器として取り付けられているプレスガンから弾丸が射出する。俺は手にしたロングソードで弾丸を去なし、黒いゴーレムの攻撃を耐えた。そして互いに剣の間合いに入ったと同時に黒いゴーレムは剣を振るうと見せかけてサソリの尻尾擬きの多関節武器を突き出してきた。フォースの未来予知があって後ろに下がることで何とか回避することが出来た俺は一度ライトセーバーをしまい、黒いゴーレムと睨み合った。

 

 

 

何故ライトセーバーをしまったのかと言うとこのゴーレム、何かと武器破壊を狙ってそうな予感がした為だ。そのためライトセーバーを壊されない様に一度しまったのだ。

 

 

「…面白い防御だ」

 

 

このままでは黒いゴーレムの思うつぼだと判断した俺はハジメが処刑人の剣から蛇腹剣へと作り直してくれたカラミティを取り出し、ロングソードと蛇腹剣の二刀流でライトセーバーの第6の型“ニマーン”の派生系であるダブル=ブレード、又は二刀流の型“ジャーカイ”で積極的に攻める。黒いゴーレムも手に持つ剣で二刀流の連続攻撃を去なしながらも何処か楽しそうに見えた。中々決定打が打てない中で俺は一旦黒いゴーレムから距離を取る様に後ろへと跳躍し、距離を取った後に黒いゴーレムに向けて再度跳躍し、ロングソードで突くと思わせて横に振るったが、それを見越していたのか黒いゴーレムはしゃがんで躱したのだ。

 

 

「ホッホッホ…!まさか突くのではなく振るって来るとは!…だが着地の間隙は拭えんぞ?」

 

 

着地の間隙を狙って黒いゴーレムはそのまま俺の方に駆け寄って剣を振るおうとする。

 

 

「…それは、どうかな!」

 

 

そうはさせまいと俺は蛇腹剣のカラミティの刀身内にあるワイヤーを伸ばし、鞭の様に変形させ、それを黒いゴーレムが持つ剣に巻き付け、そのまま破壊する。なんだ……結構使えるんだな、この武器?そう思っている中、黒いゴーレムは俺の蛇腹剣に感心しつつも一旦後ろへと下がる。それを逃がすまいと俺はそのまま鞭形態になったカラミティで追撃する様に振るう。そして黒いゴーレムもサソリの尻尾擬きを出し、二つの多関節武器が絡み合った。蛇腹剣とサソリの尻尾擬きの多関節武器同士の戦いで互いに一歩も引けない中……

 

 

「フッ……多関節武器同士の戦いでは、私に分がある様だな!」

 

「何っ!?」

 

 

黒いゴーレムの一言で一瞬動揺してしまい、その隙に黒いゴーレムのサソリの尻尾擬きが蛇腹剣のカラミティの関節部分とワイヤーを破壊した。武器としての役目を早くも終えてしまったカラミティ。俺は咄嗟に残ったロングソードで黒いゴーレムに一突き入れようとするも、黒いゴーレムはわざと倒れるように躱し、足の仕込みプレスガンで穂先より柔らかい柄に集中連射され、サソリの尻尾擬きでとどめを刺すかのように破壊した。その黒いゴーレムはどういうことか仰向けに寝転んだまま無防備な状態だ。柄だけになってしまったロングソードと使い物にならなくなった蛇腹剣のカラミティを捨て、俺はライトセーバーを手に青い光刃を出し、それを黒いゴーレムに向ける。

 

 

「お前の負け……と言いたいところだが、妙に解せないことがある。お前はわざとその状態で俺が止めを刺せるように誘っているな?特にサソリの尻尾擬きの奴で腕を絡めとろうと考えているのだろう?」

 

「……流石にバレたか。どうもお前の勘は鋭い様だな?」

 

 

俺は警戒しながらも黒いゴーレムから少し下がり、そして黒いゴーレムも倒れている状態から立ち上がる様に身体を起こす。

 

 

「尋問官から聞かされていたが、ジェダイや尋問官には“フォース”……と言っていたか?その力を備わっている分、未来予知や見えない力を操る者たちを示すと言っていたが、どうやら尋問官が言っていたことは本当の様だな。それと話が変わるが、お前たちは北の山脈に向かう際に見ただろうと思うが敢えて聞こう。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

どうやらウィル捜索の為に北の山脈に向かっていた際に見掛けた全滅した隊商達のことを言っている様だ。ちょっとした精神攻撃で揺さぶらせ、隙を取ろうと考えている様だ。こいつの場合、天之河にとって一種の天敵かもしれないな。黒いゴーレムに精神攻撃で揺さぶられたら天之河のご都合解釈によって逆に冷静な判断を下せない状態になるだろうな。

 

 

「どう……か。俺の場合だったら御悔やみを入れるだろうな。そういう精神の揺さぶりは俺達ジェダイには通用しないということを理解してもらおう」

 

「その様だな?お前にとってはつまらん質問だったな。…それはそうと、尋問官からもう一つくれた物が有ったな。なんでもジェダイと対等に戦える武器だとかなんとかだったか?」

 

 

そう言って黒いゴーレムは懐から尋問官から授かったであろうシングル=ブレード・ライトセーバーを取り出した。そしてスイッチを起動させ、赤い光刃を出した。……尋問官め、まさか面倒なゴーレムにライトセーバーを渡すなんてな……!

 

 

「くっ…!まさか、ライトセーバーを渡されていたとはな……!」

 

「どうする?このまま逃げてみるか?人間と兎人族の二人掛かりでここに来たのはここにある防御装置の破壊なのだろう。それが無理と判断したらここまで来た意味がないだろうな?……だが、()()()()()()()()

 

 

その時に黒いゴーレムが放った言葉“無駄ではなかった”という意味を俺はどういう意味なのか探りを入れていた。

 

 

()()()()()()()()…だと?」

 

「お前たちや尋問官が援軍として派遣された兵士達が持つ武器の数々。これ等の武器は決してこの世界では絶対に再現不可能な代物ばかりだ。恐らく何世紀も遥か未来の武器の産物なのだろう。これはヘルシャー帝国……いや、彼等が動く材料になるかもしれん」

 

 

ヘルシャー帝国?それに彼等?何故黒いゴーレムがヘルシャー帝国の話題を出したのか理解できなかった。そして黒いゴーレムが言う彼等という存在も。理解しようにも時がそれを許してはくれなかった。

 

 

「思わぬ拾い物だった!」

 

「……っ!?チィッ!」

 

 

先に黒いゴーレムが俺が考えるよりも先に攻撃を仕掛けてきた為、俺は一旦戦いに集中するのだった。この戦い……何か裏が有りそうだな?

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方のハジメ達とクローン達は敵ストームトルーパーとゴーレム軍団の兵力的物量に押されかけていた。魔物相手ならまだしも敵が人間、それも銃を知っているストームトルーパー(兵士)が相手だとかなり厄介だ。何せ奴らはブラスターで反撃してくる分、俺も避けながら反撃しなければならないからだ。一部の奴らには小型の盾を装備しており、クローン達のブラスターを防ぎながらも反撃して来る。ただ、ドンナーといったリボルバー式レールガンの前だと簡単に砕かれると同時に貫通する為に無意味であったのが幸いだ。ユエやティオに関しては魔法で援護しているものの、ストームトルーパー達のブラスターの集中砲火に苦戦していた。それらを考慮してか盾持ちのクローン達がユエ達の前に立ち、魔法で援護するユエ達を守りながらも援護に徹するのだった。清水にいたってはクローン達から借りたDC-15でゴーレムやストームトルーパーと対等に戦っていた。時には近場にいたストームトルーパーを肉壁という名の盾代わりにしながらというエグい戦法で次々とストームトルーパーを蹴散らしていた。しかし、それでも劣勢であることに変わりなかった。

 

 

「グァッ…!」

 

「一名負傷!衛生兵、来てくれ!」

 

「敵トルーパーとブリキ擬き共を蹴散らせ!!」

 

「誰か武器をくれ!!ガス欠が起きた……ごぁっ!?」

 

 

ストームトルーパーの後方には例のゴーレム軍団がプレスガンで攻撃してくる為にクローン達に死傷者が増える一方だ。俺は錬成で1mの壁を生成させつつもユエ達と合流し、敵のブラスターの雨をやり過ごしていた。ドンナーとシュラークの残弾を確認をして見ると残り僅かしかなかった。すると一人のクローン・サージェントが俺が錬成した壁に退避して状況を知らせる。

 

 

「コマンダー、劣勢です!こちら側は既に二割りもやられました。このままでは全滅を待つだけです!」

 

「分かっている!だが、こっちの残弾は残り僅かだ。ユエ、そっちの魔力残量はどうだ?」

 

「…ん、残りが魔晶石一個分くらい……魔物ほどじゃないけど、敵の数が多い」

 

「まぁな……本来なら雷電が防御シールドをなんとかしてから合図を送りたかったが、そうも言ってられないか。ちょっと早いがラビットチーム、出撃だ!」

 

 

そう言って俺はDC-17を取り出し、照明弾をセットした後に上空に向けて照明弾を放つ。そして俺はクローン達に後退する様に指示を出す。

 

 

「全トルーパー、塹壕の方へ後退しろ!残りは俺達とラビットチームで何とかする!」

 

「コマンダー!?幾らなんでも無謀です!コマンダー達が強いとは言えこの数相手に「これは命令だ、サージェント!急いで部隊を後退させろ!」……イエッサー!お前たち塹壕へ後退だ、急げ!!」

 

 

前線にいた残存クローン達はその場で後退し始めた。そして清水も後退するクローン達に紛れ込みながらも俺達と合流した。

 

 

「なぁ南雲、かなり敵が減る様子がないんだが?」

 

「心配すんな。このクソッタレの状況に彼奴らに合図を送っといた。後はここで粘ればいいだけだ!それと、出来るだけ姿勢を低くしろよ?」

 

 

俺は壊れかけの壁に錬成で最初よりも厚めの壁を生成させてストームトルーパー達とゴーレム達の銃撃を防ぎながらも彼奴らが来るのを待った。彼奴らならこの状況を打開する鍵になるやもしれない。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ゴーレム騎士団とストームトルーパー達はハジメが錬成した壁を破壊する為に一斉射撃を行っていた。しかし、ハジメが錬成させた壁の厚さがあってか中々壊れる様子がなかった。

 

 

「しっかし少人数で殿を務めながらもよく耐えているな!賞賛に与えするぜ!」

 

「奴らに賞賛など不要だ。我々に歯向かう愚かも共は容赦することなく殺せ」

 

 

粘るハジメ達に賞賛したいと思うゴーレム騎士団と、それを否定するストームトルーパー。ストームトルーパーの棘のある言葉に対して癪に障ったのかゴーレムは反論する。

 

 

「おいおい、そんなに悪く言わなくてもいいだろ?これだけの戦力でよく粘っているんだしよ?」

 

「ほざけ、我々は偉大な指導者が築き上げる理想が有ればそれ以外は不要だ。貴様らも手ぬるい攻撃ばかりしてないで突げ…」

 

 

ストームトルーパーが最後まで告げることはなかった。その原因はストームトルーパーのヘルメットの後ろに風穴が空いていて既に絶命していたのだ。何故そうなったのか状況を理解しようにもそのゴーレムも気付かぬうちに核ごとゴーレムの装甲を貫通され、既に事が切れていた。この奇妙な状況に前線を指揮しているイオ達にも伝わっていた。そして斥候のゴーレムがその原因となったと思われる存在を見つけ、イオに伝える。

 

 

「隊長!左翼に敵影ッ!!」

 

 

イオは斥候のゴーレムが言う敵影を確認する為に左翼の方を見た。その時にイオは驚くべき存在を目撃する。それは約5mもあるゴーレム擬きが4体編成を組みながら左翼にいるストームトルーパーとゴーレム騎士団に強襲を仕掛けていたのだ。

 

 

ゴーレム騎士団Side out

 

 

 

時間は数分前に遡る……

 

 

 

クローン・コマンドーのデルタ分隊(主にセヴ教官)によって鍛えられたハウリア族四人組ことラビットチームはもう一人の教官である南雲ハジメから秘密兵器でもある人型起動兵器ことPTX-140R“ハードボーラー”四機に乗り込んでハジメから合図を待った。そして合図である照明弾が打ち上げられたことを確認し、ハウリア族四人組を纏めるラビットチームのリーダー“ラナ・ハウリア”は行動を起こすのだった。

 

 

「…コマンダーからの合図よ、作戦通りに行くわ。バルドフェルド、行けるかしら?」

 

 

バルドフェルドというのはパルのTAGネームのことであり、それぞれにTAGネームがつけられている。……余談ではあるが、このTAGネームこと痛々しい名前を思いついたのは厨二病であるパルが思いついたことであり、彼を感染源としてハウリア族に厨二病が蔓延る事になったのは別の話だ。

 

 

「行けます!」

 

「ネアシュタットルム」

 

「問題ないわ」

 

「リキッドブレイク」

 

「やれます」

 

 

それぞれチームのテンポを確認したラナはラビットチームに次の指示出す。

 

 

「分かったわ。……行くわよみんな、我々の任務は一機残らずの殲滅よ。為すべきことは唯一つ……奴らにとっての地獄を創りなさい!!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 

その言葉を起点に各自ハードボーラーのメインシステムを起動させて機体を動かし、そのまま戦地へと敵左翼に強襲を仕掛ける。彼等が乗るハードボーラーの装備は右手には専用のチェーンガンと左腕には盾であり、複合兵装でもあるチェーンソー型の格闘武器“VSキャリバー”。そして背部のバックパックの左ハードポイント部分に装着されているのはクローン達の武器であるZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンの冷却装置を改造した代物と六砲身からハードボーラー用に新たに作られた三長砲身へと取り変えられていた。そして左翼に強襲する時に啀み合っていたゴーレムとストームトルーパーを目視で確認したパルはチェーンガンで狙撃し、確実に仕留めて各個撃破に移ったところで今現在に至る。

 

 

 

ハードボーラーの特徴であるバックパックのブースターによるダッシュで高機動戦闘を行っていた。そしてゴーレム達やストームトルーパー達も突如と乱入してきたハードボーラーに一時混乱したものの次第に冷静さを取り戻し、ハードボーラーを敵と認識して攻撃する。

 

 

「う……撃てっ!!」

 

 

ゴーレム達からはプレスガン、ストームトルーパー達からはブラスターと弾幕を貼るも高機動力で躱しながらも左ハードポイント部分に取り付けられている改造Z-6ロータリー・ブラスター・キャノンで制圧射撃を行う。制圧射撃に巻き込まれた一部のストームトルーパー達は次々と倒れて行く最中、ゴーレム達と盾持ちのストームトルーパーは盾で守っていた為なんとか難を免れたが、それすら許さないと言わんばかりにネアシュタットルムが駆るハードボーラーが格闘武器であるVSキャリバーを展開し、そのゴーレムに斬り掛かる。

 

 

「VSキャリバーは、剣なんかよりも凶悪な武器よ!」

 

「野郎、素手ゴロならー!!」

 

 

白兵戦に自信が有ったのかヨルガンダルのハードボーラーに向かって剣を振るおうとするゴーレムの姿が有った。しかし、VSキャリバーはチェーンソー型の格闘武器であるがためにゴーレムの剣を簡単に切断し、そのままゴーレムの身体を核もろとも斬り刻むのだった。ハードボーラーを駆るラビットチームの活躍をハジメ達でも確認できた。

 

 

「……ハジメ、敵左翼の攻撃が止まった」

 

「ああ、見えている。ラビットチーム……いい働きだな」

 

「あの兵器……見覚えがある様な気がする……何故だ?」

 

 

そして敵軍でもラビットチームの存在に気付いていた。

 

 

「左翼、敵に打ち破られています!」

 

「もう、左翼の人たちしっかりしてよ!!」

 

「敵影……4……」

 

「ほぉ…確かにあのゴーレム擬きが4体ですね。フッ…人間達にも面白い奴もいるものです。……っと、ヒュケリオン将軍から味方がやられている時に笑う奴がいるかと言われてましたな」

 

 

敵味方それぞれの反応を見せる中でラビットチームは出撃前にハジメに言われたことを思い出していた。

 

 

“いいか、此奴(ハードボーラー)は内部に貯蔵されている魔力で動いている。最大で9999と魔力が貯蔵されているが、此奴はその魔力の消耗率が高いが故に燃費が悪い。満タンの状態で戦闘で消耗する魔力のことを考えればせいぜい活動時間が30分から40分ってところだな。残り5分を切ったら無理に戦闘はせず、すぐに戦場から離脱しろ”

 

 

ラビットチームが戦闘を開始してから既に五分が経過していた。左翼の敵を壊滅的に追い詰めた後にラナは、システム画面を見て残り活動限界時間を確認した。

 

 

「残り時間はざっと20分ね……みんな、後どれくらい持つ?」

 

「まだ余裕です、25分も動けます!」

 

「こっちも同じく」

 

「こっちは20分だ。どの道早めに終わらせることに越したことはない」

 

「そうね……将軍達が防御シールドを破るまで出来るだけ多く敵の数を減らすわよ!」

 

「「「イエッサー!!」」」

 

 

一度ラビットチームは再終結し、後退しているクローン達の援護に向かうのだった。

 

 

ラビットチームSide out

 

 

 

一方、尋問官から授かったライトセーバーを振るう黒いゴーレムと戦っていた雷電は同じライトセーバーで剣戟を繰り出していた。青白と赤の光が目まぐるしい速さで交錯する中、時には黒いゴーレムはサソリの尻尾擬きで突き刺そうにも、雷電はそれを紙一重で躱すも、全てとはいかず雷電が装着しているヘルメットに当たってしまいヘルメットが破損する。一旦距離を破損したヘルメットを脱ぎ捨てると再びサソリの尻尾擬きの攻撃が有った。咄嗟に回避して僅かな隙を見てライトセーバーでサソリの尻尾擬きの一つを切断し、破壊する。それでも黒いゴーレムは怯むどころか逆に攻めてくる。その証拠に黒いゴーレムは一時距離を取って左腕に搭載されている固定式プレスガンで射撃を行う。雷電はライトセーバーを分割し、二刀流でプレスガンから射出された弾丸を自信の身体に直撃する部分にライトセーバーを振るい、身体への直撃を避ける。

 

 

 

そして雷電は分割していたライトセーバーを再び連結させ、両刃となったセーバーで変則的に振り回す。それに対応するかの様に黒いゴーレムもライトセーバーで変則的に振るってくる雷電の剣戟を冷静に対処して凌ぐ。そして黒いゴーレムは守りから攻めへと移り変わり、今度は此方の番とライトセーバーによる猛撃を振るう。雷電は黒いゴーレムの猛撃を防いでいたが手元が限界だったのか次の攻撃を防いだ瞬間、黒いゴーレムにライトセーバーを弾かれ、打ち上げられてしまう。

 

 

「なっ…!?(…殺られる!)」

 

「フッ…!」

 

 

黒いゴーレムはその隙を逃さんとライトセーバー振るう。その同時に雷電は黒いゴーレムの腕を両手で掴み、なんとかライトセーバーを振り下ろされるのを阻止する。

 

 

「止めたか、しかし…!」

 

 

黒いゴーレムはまだ隠していた残りのサソリの尻尾擬きを雷電に向けて突き刺そうとする。……だが、ここで奇妙な現象が起きた。サソリの尻尾擬きが雷電に突き刺さる直前で動きを止めたのだ。

 

 

「……ッ!スコルピオンテールが動かない?」

 

 

黒いゴーレムがそう確認した瞬間、スコルピオンテールという全てのサソリの尻尾擬きが独りでに拉げて破損する。そして黒いゴーレムは雷電の方を見ると、彼に宿す右目には()()()()()()()()。この男は異常ではないかと悟ると同時に更に追い討ちをかけるかの様に黒いゴーレムの左腕の装甲とフレームに亀裂が入った。

 

 

「…!左腕の装甲とフレームに亀裂が……ぬぅっ!?」

 

 

瞬間、黒いゴーレムは見えない力のような何かによって押されたかの様に後ろへと吹き飛ばされた。それは雷電がフォース・プッシュで黒いゴーレムを押し出したからだ。距離を取らされ一触即発の状態になったと思われた瞬間、蒼色の水流が雷電に向けて飛んできた。しかし雷電はフォースでその蒼色の水流の軌道を無理矢理捩じ曲げる。雷電は飛んできたであろう蒼色の水流の位置を肉眼で特定する。蒼色の水流を撃ってきたのは一人の魔人族だった。その魔人族は撃ったであろう蒼色の水流を軌道を捩じ曲げられたことに驚きを隠せずに判断力が欠けていた。そして雷電はフォースで弾かれたライトセーバーを引き寄せ、手にした瞬間……

 

 

「うぉぉおおーっ!!!」

 

 

まるで獣の様に戦っていた黒いゴーレムを置き去りにして技能の一つ“天歩”の派生“空力”と“縮地”で一気に魔人族の方へと向かう。

 

 

雷電?Side out

 

 

 

数分前……

 

 

 

飛行型の魔物に乗りながらも俺はこの戦況を見て少しずつではあるが此方が不利になりつつあることを見て取れた。そこで俺はこの戦況の打開策として防御シールド発生装置を破壊しに来た人間の男がゴーレム騎士団のヒュケリオン将軍と戦っていた。その時に俺は戦いの隙を見て毒針を入れこんだ魔法で不意打ちを試みた。ヒュケリオンはあの男と一騎打ちという形で部下に手出しさせぬ様にしていたが、奴の戯れた戯れ言など知らぬ。

 

 

 

ヒュケリオンと戦っている男が光の剣を弾かれてヒュケリオンに止めを刺されそうになるが、どうやったのかヒュケリオンの攻撃を退け、ヒュケリオンを後ろへと吹き飛ばしたのだ。しかし、これはチャンスでもあった。俺はすぐに詠唱し、毒針仕込みの蒼色の水流弾をその男に目掛けて放った。しかし、ここで予想外なことが起きる。その男は俺が放った水流弾を左腕で払う様に動かすと、水流弾が独りでに軌道を右へと反れて直撃することはなかった。このありえない出来事に俺は混乱していた。

 

 

「バカな……ありえない!?たかが人間如きにこの俺の魔法が……っ!?」

 

 

瞬間、その人間の男は俺を見据えるかの様にこちらを見ていた。すると男が右腕を横に真っ直ぐ伸ばして手を開く。すると弾かれた光の剣が男の手元に引き寄せられて手元へと戻った。そしてその男は俺を睨みつけながらも声を上げ、そのまま此方に向かってきた。

 

 

「……ま…不味いっ!」

 

 

俺はすぐに牽制用に詠唱に一部を省略し、魔法を次々と繰り出した。…しかしその男は光の剣で繰り出される魔法弾を弾き、段々と距離を詰められていく。

 

 

「来るな……来るな……!来るなぁぁぁああああっ!!?」

 

 

そして人間の男の持つ剣の射程距離に到達した際にその男の顔の表情を見た時、その顔はまさに鬼神の如き表情であった。その男の表情を見たのを最後にレイスの視界が激しく揺れ、その後は視界が暗転した。この時にレイスは雷電のライトセーバーによって首を刎ねられ、絶命したのだ。皮肉にもヒュケリオンが言っていた通りの結末になってしまった魔人族の末路であった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進撃のファースト・オーダー、クローンの攻撃

しばらくの間、投稿ペースが遅くなります。すいません……


38話目です。


 

黒いゴーレムが持つライトセーバーに斬られかかった時に急に俺の意識が途切れた。次に意識を取り戻した時には、空中にて俺は魔人族らしき男の首を刎ねていた。そして落下の際にフォースと受け身を取り、なんとか無事に着地することが出来た。しかし、俺はある疑念を抱いていた。

 

 

(…どうなっているんだ?俺は確か黒いゴーレムと戦闘中だった筈。それに……俺は意識を失っている最中、俺ではない別の意思の何かが俺の身体を動かし、魔人族の首を刎ねた。一体俺の身体はどうなっているんだ?)

 

 

疑念を抱く中、黒いゴーレムは考えている俺に足して攻撃してくる意思を見せて来なかった。まるで卿を削がれた様な感じであった。

 

 

「……卿が削がれた。お前との一騎打ちにあの魔人族に水を刺されたのではこれまでの楽しみが消え失せた。だが、お前の異常性には多少は興味は持たせてもらった」

 

「…それは遠回しに俺達を見逃すと言っているのか?」

 

「私の場合はな?……だが、後方にいる尋問官は別ではあるがな」

 

 

“だろうな…”と言いつつも俺はライトセーバーを構え直し、さっきからこちらに向けて殺意を飛ばしてくる方角へと顔を向けるとそこには黒いアーマースーツと専用のヘルメットを纏うこの異世界では見慣れない灰色の肌のヒューマノイド種族の大男と同じく黒いアーマースーツとフルフェイスヘルメットを纏い、ダブル=ブレード・ライトセーバーの赤い光刃を展開する尋問官の姿が有った。そして黒いゴーレムはこの場を尋問官達に任せる様に去って行った。

 

 

『驚いたね……まさかフォースの暗黒面を使えるなんてね?』

 

「…尋問官か」

 

『通信で会った時もそうだったけど、あのシャドウと同じ歳のようね、坊や?』

 

 

そう言う女性尋問官。俺はライトセーバーを分割し、二刀流にして尋問官達と睨み合う。すると敵の防御シールド発生装置がある方で爆発が起きた。……どうやらシアがうまくやってくれた様だ。その証拠に防御シールドの傘が消えていく。そしてシアがシュタイフでここに戻ってきた。

 

 

「マスター!無事に破壊しました!」

 

「よくやった。…後は目の前にいる尋問官達から凌げば俺達の勝ちだ」

 

 

シアもライトセーバーを起動させ、俺の下に加わり二対二となった状況でも女性尋問官は余裕な感じであった。

 

 

『……ハッハッハッハ!どうやらそれは思い違いのようね?』

 

「何っ?…どういうことだ?」

 

 

俺は女性尋問官にそう問い質すと、女性尋問官のフルフェイスヘルメットのバイザー部分が開き、その素顔を晒す。その女性は惑星ミリアル出身のヒューマノイド型知覚種族の“ミリアラン”であることが判明した。……まさかこの世界に来たアシュ=レイ以外にも俺が知る種族と相見えるとは思いもしなかった。

 

 

「防御シールドが()()()()()()()()()()()()()()()()とでも?」

 

「破られることを?……っ!」

 

 

俺は女性尋問官が言う意味を理解したと同時に空を見上げると、そこには数十機のシャトルが四機掛かりで四足歩行の大型ウォーカーをワイヤーでこちらに向けて輸送していた。その大きさは共和国軍の主力ウォーカーである“AT-TE”を上回る大きさだ。

 

 

「な…何か大きいのが来ちゃいましたよ!?」

 

「慌てるなシア。ウォーカーの存在もそうだが、今は尋問官達から凌がなければならない」

 

「あらぁ?今のアナタ達に出来るかしら?」

 

「……ここで殺す!」

 

 

その言葉を合図に尋問官達が先に仕掛けてくる。俺とシアはそれぞれで尋問官達を相手する為に俺は男性尋問官を、シアは女性尋問官を相手をする。俺はジャーカイ、シアは俺が伝授したアタロ。それぞれの型で尋問官達の剣戟をしのぎ、なんとか持ちこたえていた。尋問官達が使うフォームは戦闘型であり、シスの型“ジュヨー”による変則的な剣術で俺達を徹底的に攻めてくる。

 

 

 

……普通のジェダイならかなり苦戦する筈だが、生憎と俺とシアは普通のジェダイではない。俺の場合は大迷宮の奈落の底で魔物肉を食らい、より大幅にステータスを上昇させた。その影響か尋問官達が打ち込んでくる剣の重さが軽く感じた。シアにいたっては生まれ持った魔力操作と身体強化で尋問官よりも上回るアクロバティックな動きで翻弄していた。

 

 

 

女性尋問官はシア相手に決定的な一手を打てずに戦いを長引かせて少しずつだが焦りを出していた。そして男性尋問官は女性尋問官とは違って逆に怒りを力に変えていた筈が、少しずつ怒りに身を任せていた。

 

 

「貴様…!」

 

「悪いが、お前たちと相手してやるほどヒマではない」

 

「…ほざけっ!!」

 

 

俺の言葉に対して癪に障ったのか男性尋問官は柄の部分をリング状に展開し、リング状になった柄に沿わせてブレード放出口を回転させ、そのまま俺に斬り掛かろうとする。だが、怒りに身を任せての行動だった為に対処は簡単だった。俺はフォース・プッシュで思いっきり男性尋問官を吹き飛ばした。それによって男性尋問官は受け身を取ることに失敗し、地面に頭を打ち付けて気絶する。

そしてシアは女性尋問官相手になんとか善戦していた。

 

 

 

「なるほど……どうやらそれなりの修羅場をくぐってきたようね?」

 

「貴女の様な人でも倒せる様にマスターから直々に鍛えて貰っています!これくらい如何ってことないです!!」

 

「そう?なら、これならどう!」

 

 

女性尋問官も柄をリング状に展開し、放出口を回転させシアに斬り掛かる。

 

 

「うぇっ!?そんなのありですか!?」

 

「あらぁ?さっきの威勢はどうしたのかしら!!」

 

「くっ…!舐めないでほしいです!!」

 

 

シアはライトセーバーを分割し、二刀流にして女性尋問官の剣戟を凌ぐ。だが、放出口が回転するライトセーバーを操る尋問官の変則的な動きに今度はシアの方に焦りが生じる。流石に不味いと判断した俺はシアの援護に回る。

 

 

「…っ!マスター!」

 

「シア、無事か!?」

 

 

此方が加勢したことで二対一になってなんとか態勢を立て直した。そして尋問官は男性尋問官の方を見た。その気絶していた男性尋問官は目を覚まし、ライトセーバーを手にこちらに戻ってきてまた二対二へと振り出しに戻った。しかし、これは逆に好都合でもある。

 

 

「……フッフッフ、どうやら振り出しに戻ってしまったようね、坊や?」

 

「それはどうかな?…シア、合わせろ!」

 

「は…はいですぅ!!」

 

 

俺はシアに声を掛けると同時に二人掛かりによるフォース・プッシュで尋問官達を吹き飛ばして距離を取らせ、その隙に俺達はシュタイフに向かい、俺は運転席に乗り込み、シアは運転席に乗る俺の後ろ側へと乗る。そして魔力を流してアクセルを回し、尋問官を無視してハジメ達のところに戻る。そして置いてかれた尋問官達は雷電たちを追いかける様子はなかった。

 

 

「…追いかけなくてもいいのか?」

 

「いいさ。此方が勝とうがジェダイ共が勝とうが、どの道私らの目的は達した。あとはどの様な展開になるのか見届けるだけね」

 

 

そうして尋問官達は増援としてきたファースト・オーダー(FO)の軍勢とウォーカーの指揮を取る為に戻るのだった。

 

 

 

そして俺達はシュタイフを全速力で加速させ、ハジメ達のところに戻るのだった。俺達が戦っている敵側にウォーカーが向かってきていることを伝える為に。

 

 

雷電Side out

 

 

 

その頃、ハジメ達はラビットチームことハウリア族が乗るハードボーラーの活躍によって絶望的な状況をなんとか起死回生することが出来た。そして嬉しいことに敵の防御シールドの傘が消えて重砲による支援砲撃が可能となった。敵も防御シールドが消えたのにも関わらず指揮が低下することはなかった。それどころか、戦局をよく見ていたのかすぐに撤退し始めたのだ。

 

 

 

これは好機だが、何かと嫌な予感がする。俺達は敵の後退に合わせて重砲部隊に砲撃支援を頼みつつも塹壕に後退したクローン達と合流する為に後退する。すると防御シールドを破壊してきた雷電たちが味方の重砲に巻き込まれない様に戻ってきた。……というか、雷電たちが防御シールドを破壊しにいっていることをすっかり忘れて重砲部隊に砲撃支援を頼んだのは失敗だったと反省したのは余談だ。

 

 

「雷電、その様子だと防御シールドの破壊は成功のようだな?」

 

「ああ……だが、防御シールド発生装置を破壊したのは良いがその後方で敵増援の歩兵部隊とウォーカーが迫っている!そのウォーカーの数はざっと八台だ!」

 

「ウォーカーっ!?てことは……なぁ、そのウォーカーは四つ足歩行の兵器だったか?」

 

「はいです!ハジメさんの言う通り、私とマスターが見た時は四つ足歩行の奴でした!てっきり私は新手の魔物かと思いました!」

 

 

雷電とシアから敵がウォーカーを導入してきたことに“マジか…!”と内心そう思いながらも焦っていた。ドンナー&シュラークの代わりにDC-15A HCとCR-2で敵を屠って来たがブラスターを放つ度に熱が溜まり、銃身がへたっていて、既にエネルギーもガス欠だった。そこに追い討ちをかける様に敵の増援であるウォーカーがこちらに迫っている。

 

 

 

どうするかと考えているその時、ラビットチームが駆るハードボーラー達も戻ってきた。だが、激しい戦闘だった為かかなり損傷していて四機の内の二機はかなり損傷具合が酷い。中には右足を欠損して動かなくなった奴もある。するとハウリア族がハードボーラーから降りて俺に敬礼しながらも状況を説明した。

 

 

「コマンダー、敵の大半は粗方潰しました!……しかし、敵ストームトルーパーが放つブラスターをいくつか当たってしまい、この様に機体がもうボロボロです」

 

「そうか。……それで、お前たちの中で損傷が軽微なのは?」

 

「私とパルの機体だけです。ネアは右腕の間接部が直撃して動かなくなり、ヨルは右足をやられ機動力を奪われて行動不能になりました。その際にネアが動かなくなったヨルの機体ごと運んで撤退し、私がネア達の撤退の援護をしてなんとか無事に全員生還しました」

 

 

“そうか…”と一言呟いた後に俺はネアとヨルが乗っていたハードボーラーを見た。急ごしらえの装備だったとはいえ、よく無事に生還出来たなと俺は思った。出来ればより完璧な状態……即ち、重装備で出したかったが敵の第二派のことを考えていた為に武装は最小限しか取り付けることしか出来なかった。

 

 

 

そう考えながらも俺は次の指示をラビットチームに伝えた。

 

 

「よし……ラビットチームはハードボーラーから降りて此処にいるクローン部隊の指揮を頼む。その間に俺は、まだ損傷軽微の機体を優先して修復する。その後に俺がハードボーラーに乗り込み、敵の第三波を蹴散らす」

 

「コマンダー自ら……ですか?」

 

「あぁそうだ。それに…こいつ(ハードボーラー)を作ったのは俺だ。操縦くらいは覚えているさ。雷電、新たな敵増援部隊に対してお前はどうするんだ?」

 

「その点は問題ない。既に手は考えてあるが……少し時間を稼いでくれないか?俺は()()()()を召喚する。そうすれば奴らに不意をつける筈だ」

 

 

雷電の言う()()()()というのが気になったが、そんな時間を与えてくれないかの様に一人のクローンが報告しにきた。

 

 

「将軍、コマンダー!敵陣の奥に敵増援部隊を確認しました!その増援部隊にはウォーカーが確認されています。それも八台、此方に向かって来ています!このままではウォーカーの火力でコマンダー・ナグモが錬成した外壁を破壊されるのも時間の問題です!」

 

「……もう連中は態勢を立て直してきやがったか。雷電、その大隊を召喚すれば僅かに勝機があるんだな?」

 

「あぁ……とびっきりの援軍だ。だからそれまで時間を稼いでくれ!」

 

 

俺は任せろと了承した後に至急損傷が低いハードボーラー一機修理を行い、その次に武装などの換装を行った。ハードポイント部分から改造Z-6ロータリー・ブラスター・キャノンを取り外し、代わりに17口径120ミリ砲こと“VSキャノン”を左右のハードポイント部分に取り付ける。俺が予想する敵ウォーカーに対して実態弾はあまり効果は薄いかもしれないが、俺が錬成で作った弾薬こと17口径120ミリ弾の弾頭は特別製だ。敵ウォーカーの装甲を貫通出来なくとも、ウォーカーの身体を支える脚部を屠るだけの威力はある。

 

 

 

そう考えている間にもうハードボーラーの修復が終わり、武装の取り付けも完了していた。俺は直ぐにハードボーラーに乗り込み、システムの最終チェックを行う。その際にハードボーラーのシステムから“Initialize(初期化)”と音声が出た。俺は初期化した機体のシステムの再設定をした後に再び起動させる。そしてハードボーラーから“Ready”と音声を起点に俺が乗るハードボーラーのコックピット部分がパイロットを守る様に開いていた装甲が閉じて戦闘体勢に入る。そして俺はハードボーラーを動かし、塹壕を飛び越えて前線へと戻った。

 

 

 

前線に戻った際に画面越しに敵のウォーカー八台を捕捉した。そして何よりも、俺が考えていた嫌な予感が的中した。

 

 

「おいおい……AT-ATのことは想定はしていたが、A()T()-()M()6()までいるなんて予想もしてねえぞ……!」

 

 

俺が言うA()T()-()M()6()とはファースト・オーダーがAT-ATを改修し、重強襲ウォーカーとして使用された重武装機動式ウォーカーだ。通常のAT-ATより巨大で、“背中”部分に名前の由来でもあるメガキャリバー6キャノンを積んでいる。あんなのが外壁に向けられて撃たれたら一瞬にして外壁が破壊される。確認したところAT-M6は二台しか居らず、残りはファースト・オーダー仕様のAT-ATだけだった。すると一台のAT-ATが外部スピーカーを通して広域にあることを告げてきた。

 

 

『湖畔の町ウルを守る愚かな抵抗勢力に告ぐ!此方は“ファースト・オーダー”。最高指導者の下、神エヒトに従う軍隊である!我々の次世代兵士達を旧共和国のクローン・トルーパーという旧世代兵士でよく奮闘したことは褒めておこう!…だが、それもこれまでだ。降伏せよ!さすれば然る可き手段で貴様らを処罰してやろう!』

 

 

どうやらあのAT-ATにはファースト・オーダーの士官が乗っているようだ。だったら早い話と考えた俺はこっちも外部スピーカーでAT-ATの群れに向けてこう返答した。

 

 

「…だったらこう返答してやるよ。……“馬鹿め!!”」

 

『なっ…!?おのれ、ファースト・オーダーに舐めた口を……!!全ウォーカー、あの人型兵器を狙え!!奴をファースト・オーダーに逆らった者の末路の見せしめにせよ!!』

 

 

AT-ATやAT-M6が砲塔をこっちにむけて何時でも発射態勢に移行した。こっちも左右VSキャノンとチェーンガン、VSキャリバーといった火器管理システムをオンラインにしていつでも対応出来る様にした。一触即発の中……レーダーに味方の反応が移った。それも多数である。

 

 

「レーダーに味方の反応…?それにこの数……まさかっ!」

 

 

俺はその味方の反応がある方角……即ち、空の方を見上げると、そこには雷電と新たに召喚したクローン達をのせた無数のガンシップを引き連れて降下してきたのだ。中にはAT-TEを運ぶガンシップまでもあった。更にガンシップの上には銀河共和国宇宙軍の主力艦である“ヴェネター級スターデストロイヤー”が衛星軌道上で宙座していた。……どうやら雷電の奴、大隊以外にもヴェネター級まで召喚した様だ。突如と現れたクローン達の増援によって敵士官は混乱状態に陥っていた。

 

 

「何だと…!?観測斑、何をやっていた!!」

 

「そ…それが、敵の増援が一瞬で現れたんです!レーダーから一気に姿を表したかの様に!」

 

「ええい、言い訳はいい!兎も角、新たに出現した奴らも敵だ!!迎撃しろ!!」

 

 

ファースト・オーダーも急に敵の増援が出てきたことに驚きと混乱を隠せないでいたが地上部隊のストームトルーパー達は対空迎撃の為にブラスターで応戦する。しかし、焼け石に水なのは目に見えていた。地上から攻撃してくるストームトルーパーを応戦しようとガンシップからレーザーとミサイルの弾幕をストームトルーパーと敵ウォーカーにお見舞いしていた。そんな中、ガンシップに乗る雷電がクローン達に指示を出す。

 

 

「ハジメを中心に囲み、円形に防衛戦を貼れ!その後、212攻撃大隊はガンシップから降りると同時に攻撃開始!」

 

「イエッサー!野郎ども、続け!」

 

 

そうして俺を中心に数機のガンシップが着陸し、クローン達がガンシップから降りてそのまま防衛戦を貼る様に行動していた。そして雷電が乗るガンシップも着陸してクローン達を引き連れてガンシップから降りる。そのクローン達の中には見覚えのあるクローン・コマンダーがいた。さっき雷電が212攻撃大隊と言ってたからな、そのコマンダーは誰なのかだいたい察した。

 

 

「ハジメ、助かったぞ。よく敵の注意を引きつけてくれたな?お陰で奇襲は成功した」

 

「そりゃどうも。……それはそうと、俺が考えが間違っていなければそのクローン・コマンダーは……」

 

「ああ、コマンダー・コーディだ。212攻撃大隊を指揮するトルーパーだ」

 

「将軍から聞かされています。コマンダー・ナグモですね?自分は“コーディ”。細かい自己紹介は省かせてもらいます。今は……」

 

「…だな、今はファースト・オーダー共を片付けるぞ!」

 

 

俺はハードボーラーを動かし、単身で敵ウォーカーに向かって突撃した。無論、これを黙って見過ごすほど敵は甘くない。ストームトルーパー達はウォーカーを狙う俺に対してブラスターで応戦する。しかし、ハードボーラーのブースターによる高機動モードで回避しつつもチェーンガンで反撃する。その際にクローン達の援護があって敵のウォーカーへの道が開かれた。

 

 

 

俺はその開かれた道を通り、敵ウォーカーに対してVSキャリバーを展開して突っ込んだ。先ずは文字通り敵の足を潰す!

 

 

「敵人型兵器、急速に接近!」

 

「…っ!?全砲門、あの人型兵器に向けて撃て!撃ち落とせっ!!」

 

 

敵もこっちの狙いに気付いた様だが、遅かったな。俺はVSキャリバーで近場のAT-ATの左脚部を二つ切断する。左脚部を切断されたウォーカーはバランスを保てず重力に引かれるがまま左側へと倒れていった。更に止めと言わんばかりに倒れ込んだウォーカーの装甲が薄い首元へと回り込み、VSキャノンで撃ち込み、確実に破壊する。

 

 

 

一体のウォーカーが撃破されたとはいえ動じる様子を見せないストームトルーパー。それに対してお返しと言わんばかりにAT-M6のメガキャリバー6キャノンから砲撃され、後方で援護していたAT-TEを破壊する。しかし、味方のウォーカーが破壊されても上空からガンシップがまた新たなウォーカーを運んで来て最前線へと降ろす。……どうやら最前線で戦って指揮している雷電が戦いと指揮を同時に行いながら破壊されたAT-TEの代わりとして再度召喚したんだろう。

 

 

 

今現在の状況は212攻撃大隊のクローン達の強襲でストームトルーパー達は、ウォーカーの支援があれど苦戦していた。それでも撤退する様子もなく徹底抗戦を続けていた。対してゴーレム軍団の方はと確認してみたが、ゴーレム軍団のゴーレム達は影も形もなかった。何故この場にいないのか気になるが、どうでもいいことだ。今はファースト・オーダー共を蹴散らすのが先だと判断した俺はハードボーラーを動かして次の敵ウォーカーへと向かった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

その頃、尋問官達とヒュケリオン、ゴーレム騎士団は遠くで雷電とハジメ、クローン達の戦いを見ていた。その戦い方は銀河帝国軍の兵士すら引けを取らないくらいの腕前を持っていたことを見て取れた。

 

 

『……どうやら新たに戦略を練り直す必要がありそうね?』

 

「その様だな。こうも味方がやられる姿を見てもいい気分ではないな…」

 

「しかし、必要不可欠な犠牲だ。それに…彼等とて引き際ぐらい弁えている分問題ない」

 

『…とは言え、このまま見殺しにしていたずらに戦力を消耗させるのは良くないね。此処いらが限界ね』

 

 

そう尋問官が判断し、戦闘中のストームトルーパー達やウォーカーに撤退の指示を出すのだった。……彼等に取って目的の一つであろうジェダイや、そのジェダイと共にいる仲間たちの戦闘能力を把握することが出来た。そしてジェダイが召喚したであろうクローン達のことも。十分なデータを収拾することが出来た尋問官達はこのことを最高指導者に報告するのだった。

 

 

尋問官Side out

 

 

 

クローン達や雷電、重砲部隊による砲撃支援によって敵のウォーカー(ハジメからあのウォーカーはAT-M6という名前だそうだ)二台を除く全てのAT-ATを破壊し終えたその時、ストームトルーパー達とAT-M6に変化が起きた。

 

 

「尋問官から撤退命令だ。残存する部隊を纏め、すぐ撤退を開始するぞ!」

 

「了解……全員退却だ、急げ!」

 

 

ストームトルーパー達は進軍して来た方角とは逆の方へと退却し、AT-M6のパイロット達は操縦していたウォーカーを乗り捨て、ウォーカーに搭載されていたであろうスピーダーでそのままストームトルーパー達の方へと向かって逃げて行った。

 

 

「…ファースト・オーダーの連中、退却し始めた様だな」

 

「……その割にはあの無人のウォーカー、何かこっちに向かって来てねえか?」

 

 

ハジメの言う通り無人のウォーカーはこっちに向けて進路を取り、更には砲撃で俺達に攻撃して来たのだ。……どうやらウォーカーを操縦していたパイロットが放棄する際に撤退する歩兵部隊+パイロットの殿として自動操縦(オート・パイロット)を設定し、起動させた様だ。……全く、面倒な置き土産を残していくな。そう思いながらも俺はコムリンクで重砲部隊に砲撃指示を行う。

 

 

「重砲部隊、砲撃だ。目標、敵ウォーカー」

 

 

“イエッサー!”とコムリンクから通信を聞いた数秒後に敵ウォーカーに重砲の砲撃が直撃し、二台のウォーカーは大破轟沈した。敵ウォーカーを破壊した頃にはストームトルーパー達は既に撤退が完了していて姿形もなかった。この第二次ウルの町防衛戦では鉄壁であったものの、それでも此方側に死傷者が多く出た。外壁を防衛するクローン・トルーパー達の死傷者は六割も切っており、新たに召喚した212攻撃大隊は二割の死傷者とウォーカー三台と損害を受けた。…だが、それでもウルの町を防衛することはできた。しかし……ストームトルーパー達が撤退したのは良いが、問題は尋問官とゴーレム軍団だ。ゴーレム軍団に至ってはあまり戦力を削れなかったし、尋問官達もまだ倒せていない。尋問官達の妨害のことを考えれば俺たちの旅はかなり過酷になるのは確定で、エヒトの裏にはシスの何かがいることは確かだろう。そう考えながらも俺はハジメと合流し、そのままウルの町へと帰還するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海人族の少女編
記憶探しと武器新調


9月に投稿する筈が10月になってしまった……orz


39話目です。


 

 

時間は少し遡る……

 

 

 

南雲くんたちが敵の第二派と戦う際に町の人たちや私達を宇宙船に避難させる様にクローンさん達に指示を出していました。デビットさんや護衛騎士達もその第二派の敵と戦おうとしましたが、藤原くんから“それは出来ない”とデビットさん達の共闘を断りました。デビットさんはまだあの時の事を根に持っていた様ですが、私がなんとか説得して藤原くんに何故と聞き出したところ、理由が二つありました。

 

 

 

一つめの理由は、その第二派の敵は()()()()()()()が相手であったこと。藤原くんと南雲くんは私達を人を殺すであろう戦争に巻き込まない様に配慮してくれたのですが、それはつまり、藤原くん達が私達の代わりに()()()という業を背負うことになる。私は藤原くん達の行動に反対しましたが……

 

 

「…すまない、愛子先生。それは出来ない以前の問題で、もう遅いんだ」

 

「……えっ?」

 

「俺とハジメは、既にこの手で()()()()()()()()。人殺しの業を背負ってしまっている。遅すぎたんだ」

 

 

藤原くんの衝撃な告白に私は言葉を失う。それでも藤原くんは言葉を続ける。

 

 

しかし、俺の場合は戦争そのものを経験している分、業が深過ぎるけどな……

 

「……藤原くん?」

 

「…いやっ何でもない。それよりも、二つめの理由だ」

 

 

小声で何を呟いたのかを誤摩化す様に藤原くんは二つめの理由を話し始めました。二つめの理由は敵の()()()()でした。その敵はクローンさん達と同じブラスター……それ即ち、銃を使用しているとの事でした。もしデビットさん達が加勢したとしても遠距離からの一方的な暴力に敗れてしまうのは目に見えていました。デビットさんは納得いかなかった様ですが、他の護衛騎士達と同様にクローンさん達の武器の特性を良く理解していた為に藤原くんの言う通りする他ありませんでした。第一波で魔物の軍勢を倒すというファンタジー的な戦いでありましたが、今回は違います。人対人の人間同士の戦い。即ち、私達が知る世界での人が銃で撃ち合う戦争です。

 

 

 

私達は藤原くんが召喚した宇宙船の中に避難した町の人たち共に藤原くん達の無事を見守る中、敵の第二派と戦う藤原くん達は……いえ、主に藤原くんは戦争そのものを体験しているかクローンさん達に的確な指示を出して、私達を守ろうと行動していました。それは宛らまるで軍人であるかの様に。

 

 

 

……人というはある一つのきっかけで性格が変わってしまうと言います。南雲くんが元々持っていた大切な物──“他者を思いやる気持ち”はわずかに残っていますが、それ以外の物は全て切り捨てていました。清水くんは記憶を失ってしまい、人格すらまるで別人になってしまった為に私達の事はあまり覚えていませんでしたが、それでも私の生徒である事には変わりありません。藤原くんにいたってはあまり自分自身の事を話したがらない故にあまり藤原くんの考える事は分かりません。……それでも私は何があっても私の生徒である事は変わらない様に、彼等の先生であると決意するのでした。

 

 

 

そして今現在……

 

 

 

藤原くん達は敵の第二派を撃退した後に戦いの中で負傷、死んでいったクローンさん達を別のクローンさんから確認してから私達が待つウルの町へと帰ってきました。藤原くん達が無事だったのは良いのですが、この戦いで死んでいったクローンさん達はどんな気持ちで命を散らしてしまったのかこの時の私は考えたくもありませんでした。

 

 

愛子Side out

 

 

 

敵の第二派のストームトルーパー達とウォーカーの撃退に成功した俺達はクローンからこの戦いのでの戦死者や負傷者の数を確認していた。防衛陣地にいたクローンは約四千も死傷者が出て、増援として召喚した第212攻撃大隊のクローンの死傷者は千にも満たないで済んだ。死傷者の中で未だ生きているクローンがいた場合は直ぐに治療を施す様に各衛生兵に指示を出し、俺達はウルの町に帰還するのだった。

 

 

 

敵の襲撃から一時間後……

 

 

 

ウルの町の町長からお礼の言葉を受け取りながらも、俺は町長にこの町に駐屯地の設営の許可を求めた。町長は“愛子様の使徒のお考えであらば”とあっさり許可を取れてしまった。逆にこうも簡単に許可を取れた事に若干恐怖を感じるが、とりあえず無事に許可を取れた事で良いだろうと思いながらもウルの町から少し離れた広い土地で駐屯地に基地と施設、町の住民を避難させるシェルターを設営し、クローン達を召喚してこの町の防衛隊として配備させるのだった。

 

 

 

駐屯地の設営を終えた後に俺はハジメ達と合流し、ウィルをフューレンに送る為にウルの町を後にしようとした時に愛子先生と園部達が俺達を見送りに来た。

 

 

「南雲くん、藤原くん……もう行くのですか?」

 

「あぁ、こっちは仕事出来たからな。ウィルをフューレンに送り届けなくてはならないからな」

 

「こっちの事は心配しなくても大丈夫だ。そっちには新たにクローンと()()()を増員させたからな」

 

 

俺が言うあいつとは、しばらくの間宝物庫に収納されていたR2のことだ。この町から出る前に愛子先生達の方にR2を預からせてもらおうと宝物庫から出したものの、数ヶ月の間ほったらかしにしたことが原因だった為にR2は怒っていて俺達に体当たりしてくる。俺達自身もR2の存在を忘れていた事は悪かったと思い、R2に謝罪するのだった。……人間が機械に謝罪するのは他の人から見て、かなりシュールである。そうしてR2は愛子先生等と共に行動することになったのだ。そしてクローンの方はコルサント・ガードの“コマンダー・ソーン”が率いる一個分隊を護衛として召喚、派遣させて愛子先生達の護衛を増やすのだった。

 

 

「……それで話を戻すが、俺達を見送りに来た訳じゃないんだろ?」

 

 

この時に俺は愛子先生がただ見送りに来ただけではないことを理解していた。

 

 

「あ…その事なんですが、実は……」

 

「俺もお前たちの旅に同行させろ。無論、お前たちが拒否しようが無理矢理でもついて行く」

 

 

思った通りの展開だった。ハジメは最初から断ろうと考えていたが清水に先手を打たれ、逆に内心毒づき、面倒くさがりながらも心が折れ、清水の旅の同行を許すのだった。

 

 

「……はぁ、分かったよ。…だが、付いて来るならこっちの指示をちゃんと聞けよ?前みたいに独断行動されたらこっちも面倒だからな」

 

「そのつもりだ。雷電、お前はどうなんだ?」

 

「こうなる事はだいたい予想していたからな。…だが良いのか?99号とドミノ分隊に挨拶しなくて?」

 

「問題ない、既に挨拶と別れを告げて来た。それに……お前たちと旅をしていれば失った記憶の一つや二つ思い出すだろう」

 

 

どうやら既に挨拶を済ませていた様だ。一応彼等から聞いた話では清水がシャドウという男になる前はドミノ分隊と99号にカウンセリングを受けた様だ。その本人は記憶を失っている為かあまり彼等の事を覚えていなかったが、初めて会った気がしなかったそうだ。僅かにだが、清水の記憶の一部が残っていただけでも良しとしよう。

 

 

「……そろそろ行くぞ。あと清水、お前は雷電のスピーダーに乗っていけ。そっちの方が覚えあるだろう?」

 

「清水ではない、シャドウだ。前にも言ったが清水の名前はだすな。今の俺はシャドウだ」

 

「シャドウってお前な……いちいち偽名で呼ぶなんざ面倒なんだよ」

 

「ほっとけ、記憶が戻るまではシャドウのままだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「……分かったよ。とにかく行くぞ、ウィルをフューレンに送り届けないといけないからな」

 

 

心折れたハジメはもはやツッコム気力すらなく、とにかくフューレンに向かう事だけを考えるのだった。そして俺達は其々乗り物に乗り込みフューレンに向かう準備を終える。そして愛子先生達とはここで別れるのだった。その別れ際に愛子先生は俺達にある事を告げた。

 

 

「南雲くん、藤原くん。行く前にこれだけは言っておきます」

 

「ん……先生?」

 

「この先貴方達に何があったとしても、私は貴方達の先生です。それだけは忘れないでください」

 

「…そのつもりです。先生は園部達を頼みます」

 

 

そう別れを告げた後に俺達はウィルをフューレンに送り届ける為にウルの町を後にするのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

ウルの町から出たのはいいものの、出たのは昼過ぎだったため日が沈む前にフューレンに着く事は叶わなかった。そこで俺達は平原地帯で野営をすることにした。この時に俺はウルの町で戦ったストームトルーパーのアーマーの物質を調べたところ、クローン達のアーマーと同じプラストイド合金製複合材であることが判明した。それも改良を施した最新式だ。俺はそのアーマーのブラスター以外での耐久性がどれくらいかを確認する為に複製錬成で試し撃ち用の的としてアーマーを複製する。因みに何の試し撃ちなのかと言うと、ドンナーとシュラークといったアーティファクトではなく、俺の故郷でもある()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

試しに俺はアメリカ軍が採用しているM4カービンのパーツを錬成し、組み立てる。そしてM4に使われる5.56×45mmNATO弾のFMJ(フルメタルジャケット)をマガジン二つ分錬成で作り、そしてマガジンに弾を込め、込め終えたマガジンをM4本体に装填してそのまま的用のストームトルーパー・アーマーに向けて発砲する。乾いた音が響き渡るが、そのアーマーに穴が空くことはなかった。

 

 

「FMJ弾じゃアーマーに風穴ですら空かないってマジか。……だとすると、普通の徹甲弾じゃ駄目だな」

 

 

そう考えに至った俺は普通じゃない徹甲弾とそれに耐えうる銃をチョイスする事にした。すると清水が俺が何をしているのか気になったのか声を掛けて来た。

 

 

「先ほど発砲音が聞こえたが、何をしているんだ?」

 

「……別にどうもしねえよ。ただ、ウルの町で戦ったストームトルーパーのアーマーに対抗できる銃と弾丸を作ってたところだ。そういう清水はどうなんだ?」

 

「清水ではない、シャドウだ。……それなんだが、お前は確か錬成師だったな?」

 

「あぁそうだが。…お前が言いたいのはアレか?お前用の武器を作ってくれとかか?」

 

「そういうことになる。どの道ブラスター以外の武器で戦う事を想定しておいても問題はないだろう。お前が嫌なら無理には頼まん」

 

 

…マジで清水の喋り方が変わった分、扱いづらい。だが、銃の扱いについてはクローン達を除いて俺の次に上手い部類だろう。その時に俺はあることを思いついた。

 

 

「…いや、出来なくはない。ただ、要望はあるか?」

 

「要望か……ピストルの類は任せるとして、ライフル系のはごつくて正確な奴だ」

 

「ごつくて、正確な奴か……少し待ってろ、すぐ作る」

 

 

そう言って俺は清水の要望した代物を二つ作る事にした。錬成でパーツを作りながらも組み立て、専用弾も錬成で作り出す。そしてその二つが完成する。ここまでかかった時間は1時間も満たない。

 

 

「ほら、一つはHK417とSCAR-Hだ。二つの共通は7.62×51mmNATO弾を使用するバトルライフルだ。見ての通りブラスターと言ったエネルギー銃じゃなく実弾タイプの銃だ」

 

「なるほど……」

 

 

清水が二つの銃を一つずつ手にしては動作を確認し、それぞれの銃の良さを理解する。

 

 

「HK417の重さは大体4k以上5k未満といったところか。対してこのSCARはHK417と比べて約1kも軽い。室内戦闘における扱いやすさで言えばこっち(SCAR)の方がいい。HK417に関してはバレルを短くすれば使えなくもないが、こいつはどちらかと言うと狙撃向きだな」

 

 

どうやら清水は二つの銃を気に入った様だ。俺は続け様に清水にある物を勧める事にした。

 

 

「そうか。…んで、他に何かいるか?俺としてはPDWも勧めるが」

 

「PDW?何の略だ?」

 

「PDWはPDW(パーソナルディフェンスウェポン)の略だ。物のついでだ、サブマシンガンも追加してやる」

 

 

清水に上手くPDWを勧めながらも俺はこんどはPDWの一つであるMP7とサブマシンガンであるクリスヴェクターを錬成で作り出す。

 

 

「MP7はPDWのひとつで使用する弾薬は4.6×30mm。そしてもう一つはサブマシンガンのクリスヴェクターだ。仕様弾薬は.45ACP弾でそこそこ威力があるぞ。後で試し撃ちしてみろ」

 

 

それらを清水に渡した後、他に何か必要なのか聞き出した。

 

 

「まぁざっとこんなもんだろう。ピストルの件は後で渡しておく」

 

「それと締めくくりに何かお勧めはないか?でかくて、大胆なのがいい」

 

「あぁ…それだったらこいつがいいな」

 

 

清水が言うでかくて、大胆というと俺の中ではある銃が引っかかった。そしてその銃を作るべく錬成で作り上げ、清水に手渡す。

 

 

「ベネリM4だ。ボルトキャリアとチャージングハンドルは俺独自のカスタムメイドだ。グリップ部分は滑り止めをコーティングしてある。濡れた手で握っても滑らない」

 

「……確かに、こいつはいい銃だ。結構馴染むな」

 

 

清水は手慣れた手つきでベネリM4の動作を確認していた。……つーか、今まで敢えてツッコマなかったが、この遣り取りって確かジ◯ン・ウィックが装備調達の時の遣り取りじゃねえか……(汗)。……まぁ、あの映画は嫌いじゃねえけどさ。

 

 

「……それで、デザートは?」

 

「…は?デザート?」

 

 

おいおいおいおいっ……!清水の奴、わざとやっているのか?それとも天然か?もし天然だとしても余計に質が悪いぞ…!完全にジョ◯・ウィックのネタじゃねえか!

 

 

「デザートはねえよ。その代わり、こいつをやるよ」

 

 

内心ツッコミながらも、とりあえず俺は清水にデザート代わりに45口径ピストルであるMK23と専用カスタムキットであるスナイパーキットを錬成して作り、それらを清水に手渡した。

 

 

「MK23とスナイパーキットの二つだ。先ずはMK23から説明するぞ、これは45口径自動拳銃だ。ストッピングパワーに優れた.45ACP弾を使用する。装弾数は12発だ。作動不良間発砲可能段数は平均で6000発以上、射弾5発の平均集弾半径(ファイブラウンド・ショットグループ)は1.4インチ。少々でかいが信頼出来る銃だ。更にこいつには俺独自のカスタムメイドのロングバレルを装備されている。もう一つはMK23専用のカスタムキットであるスナイパーキットだ。こいつはMK23と組み合わせる事でカービンになる。このスナイパーキットは俺が作ったロングバレル仕様のMK23と組み付けられる様に作り上げた。状況に応じて使い分けてくれ」

 

「あぁ……もうこれくらいでいいだろう。十分助かった」

 

 

清水の奴、どうやらMK23とスナイパーキットに対してお気に召した様だ。そうして清水はMK23をホルスターに懸架し、残りの武器はそのままブリーゼの方に運んでいった。……この時に俺は清水が記憶喪失だってのは嘘じゃないのかと内心疑ったか、それ以上疑っていると逆に面倒くさいと思えてきたので清水に対して疑うことを止めるのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

将軍等がウルの町から出てから既に数時間が経過した頃、愛子教論と生徒等を護衛する任務を受理したコマンダー・ソーン等はウルの町の農作業の手伝いをしていた。何故この様な事をしているのかと言うと愛子教論がウルの町の住人に農作業を手伝うとのことで我々も護衛を兼ねて彼等を手伝う事になったのだ。本来我々コルサント・ガードは護衛や治安を守る事を前提で作られた存在なのだが、まさか我々がそれ以外の事に必要とされるとは思いもしなかった。正直に言えば、俺ことコマンダー・ソーンは作物の育て方はあまり知らないが故にかなり悪戦苦闘したのは言うまでもない。

 

 

 

それはそうと、将軍等が愛子教論等と別れてから町の住民の様子がおかしかった。一応ARCトルーパーのハヴォック達から聞かされたが、コマンダー・ナグモがウルの町防衛戦にて町の住民の前で演説し、愛子教論を“豊穣の女神”として奉った結果、町の住民は愛子教論のことを本物の女神として認識し、教論を奉るのだった。コマンダー・ナグモが残していった防壁がそのまま残っており、町の住民はその防壁を“女神の盾”と名づけて敬った。そして俺達クローンも“豊穣の女神”の“使徒の軍勢”として認識していたために我々としては複雑な気分でもあった。そう考えている最中、農作業の手伝いをしている愛子教論達を護衛しながらも手伝うドミノ分隊の姿があった。ドミノ分隊であるファイヴスとエコーが何かを話し合っていた。

 

 

「…どうしたんだ、ファイヴス?何か気になる事でもあるのか?」

 

「いやっ別にそうではないが、清水の事で考えていたんだ」

 

「…あぁ、彼は確か記憶を失ってしまったんだったな」

 

「今じゃ彼は清水ではなくシャドウというコードネームで行動しているからな。もはや俺達の知る清水の面影がない」

 

「だけど、清水は俺たちと再会した時は初めて会った気がしなかったそうだ。まだ清水だったことの記憶が残っている事は確かだ。少し時間をかければ彼の記憶も……」

 

「……今はそう願うしかないか」

 

 

俺達は召喚されたばかりだからあまり清水という少年の事は分からないが、聞いた話によると清水という少年はカウンセリングを受けた時にドミノ分隊と知り合いになったが、敵の尋問官に捕まり記憶を改竄されて清水だった頃の記憶を失い、尋問官達の兵士ことパージ・トルーパーのシャドウとして配属されていたそうだ。…ただ、完全にではなく僅かにドミノ分隊の事を覚えているところを視るあたり、まだ清水の記憶が残っている可能性があると見て間違いないだろう。

 

 

「ソーンさーん!こっちを手伝ってくださーい!」

 

「…!直ぐに向かいます!」

 

 

そう考えながらも俺は愛子教論に呼ばれ、農作業の手伝いに向かうのだった。シャドウ兼、清水のことは将軍等が何とかしてくれると思いつつも俺は自分に与えられた任務を全うする為に行動するのだった。……だが、その数日後に俺達にとって思いがけないことが起きることを今の俺達は知る由もなかった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰還と少年幼女の逃走劇

話数のストックをなんとか貯めることが出来ました。


40話です。


 

 

一日も掛かってしまったが、なんとかフューレンに辿り着いた俺達であったが一つ問題があった。それはフューレンの門前近くで車両を停めた為、門前で並んでいた人々は“新種の魔物か!?”と勘違いしてしまう。本来ならフューレンから少し離れたところで降りてからフューレンに向かおうと思ったが、ハジメは“今更だろ?”と一言で片付けてしまう始末。

 

 

 

そんなこんなで各自乗り物から降りて門前まで向かおうとした時に一人のチャラい男が俺達男性陣を無視してユエ達女性陣にナンパして来たが、その前にハジメの腕がチャラ男の頭を鷲掴みにし、濃厚な殺気を込めながらも“何、勝手に触ろうとしてんだ?あぁ?”と口にした時にはチャラ男は一瞬で身を竦めて情けない悲鳴を漏らした。ハジメは、そんなチャラ男の様子を気にかけることもなく、そのまま街道の外れに向かって投擲し、何もなかったかの様に門前で並ぶ人々の列に向かうのだった。……何かとハジメのやり方に、もはやツッコミが起きなくなってしまった俺は異常なのかもしれない。ユエ達に至ってはこれが日常の様に気にする様子はなかった。……まともなのは俺だけか?

 

 

「マスター、その辺はツッコンだら負けです」

 

 

仕舞にはシアに哀れみの目で俺に声をかける始末だった。……解せぬ。そう考えているうちにこの様子を聞きつけて門番の男がハジメに近づき事情聴取を取り、俺達がギルド長直々の依頼帰りという事を理解して順番待ちを飛ばして入場することが出来た。そうして俺達は冒険者ギルドにある応接室に通され、そこでイルワさんが来るのを待った。出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をいただきながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワさんの姿があった。

 

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

 

以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワさん。それだけ心配だったのだろう。

 

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

 

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 

イルワさんは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワさんに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、ついで、俺達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。この時に俺はウィルが母親のこと母上ではなく“ママ”と表したところを見て“マザコンなのか?”と思ったのは別の話だ。

 

 

 

ウィルが出て行った後に改めてイルワさんと俺達が向き合う。イルワは穏やかな表情で微笑むと、深々とハジメと俺に頭を下げた。

 

 

「ハジメ君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

 

「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?女神の双剣様?」

 

 

イルワさんが何処でその情報を入手したのか逆に気になったが、一番気になったのが女神の双剣というワードだ。恐らくこれは俺とはハジメのことを示しているのだろう。……確かに俺は前世の頃クローン達を率いる将軍としてライトセーバーを手に戦場を駆け抜けたが、まさかその様な呼び名が付けられていたことに対して若干内心苦笑いだった。

 

 

「うわっ…俺達ってそんな呼び名が付けられていたのか。……それ以前に、情報伝達が早いですね?」

 

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に着いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど・・・彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

 

イルワさんがいう“とんでもない移動型アーティファクト”というのは間違いなくハジメが作った魔力駆動四輪と俺が召喚したBARCスピーダーのことだろう。…まぁこの世界に存在しない筈の乗り物だからな。混乱するのも無理もない。

 

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい?一体、何があったのか」

 

「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートなんだが……すまないが、もう一つ追加してくれないか?」

 

「それくらいなら構わないよ、プレートを見たほうが信憑性も高まるからね」

 

「おぉ。すまないのぅ、ご主人様」

 

 

斯くして、イルワさんは職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせてユエ達のステータスを登録するのだった。ユエ達のステータスは以下の通りだった。

 

 

 

===============================

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:150

体力:320

耐性:80

敏捷:140

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

===============================

____________________________________________

 

===============================

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:ジェダイパダワン/占術師

筋力:60 [+最大6100]《+1500》

体力:80 [+最大6120]《+1500》

耐性:60 [+最大6100]《+1500》

敏捷:85 [+最大6125]《+1500》

魔力:3020《+1500》

魔耐:3180《+1500》

技能:フォース感知者・フォース光明面・剣術・ライトセーバーの型[シャイ=チョー][ソレス][アタル][シエン][ニマン][ジャーカイ]フォース操作[+フォース身体強化][+フォーススキル]・未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

===============================

 

===============================

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

===============================

 

 

 

俺とハジメには及ばないものの、召喚されたチート集団ですら少人数では相手にならないレベルのステータスであった。特にシアは天職に俺と同じ系統でジェダイだがジェダイパダワンと表示されていた。事実上、シアは俺の弟子だから天職に騎士では無くパダワンが就くのは必然だったかもしれない。流石に、イルワさんも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアの場合は種族の常識を完全に無視している。特にジェダイというイルワさんに取って初めて見る天職がある分、驚くなという方がどうかしている。

 

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

 

流石のドットさんも冷や汗を流しながら、何時もの冷静沈着な表情が引き攣っていた。イルワさんも同様に何時もの微笑みが引き攣っている。そんな中、イルワさんは俺達と共にいる清水のステータスのことが気になった。

 

 

「そういえば君の名前とステータスのことを確認していなかったな。君もステータスプレートを失くしたのか?もし良ければ此方で再発行するが?」

 

「いや、その点は心配ない。俺のは既に持っている。それと俺の名は清水利幸だ。今は訳あってシャドウと名乗っている。清水ではなくシャドウと呼んでくれれば幸いだ」

 

 

そう軽く自己紹介した清水は自信のステータスプレートを取り出し、イルワさんの前に見せた。清水のステータスはこの様になっていた。

 

 

===============================

清水 利幸 17歳 男 レベル44

天職:闇術師/パージ・トルーパー

筋力:210

体力:530

耐性:220

敏捷:200

魔力:650

魔耐:220

技能:黒魔術[+洗脳][+狂化]・光学兵器知識・銀河帝国軍式近接格闘術・対ジェダイ戦闘技術・現代兵器知識・言語理解

===============================

 

 

 

清水のステータスは一部ありふれた職業である闇術師を見て一息ついたと思われたが、その闇術師の横には意味が分からない職業でもあるパージ・トルーパーと表示されていた。技能に至ってもに慣れぬ物ばかりだった。黒魔術ならまだしも、光学兵器知識や銀河帝国軍式近接格闘術、対ジェダイ戦闘技術に現代兵器知識といった聞きなれない技能ばかりでイルワさんも苦労が絶えなかった。

 

 

 

その様子をハジメはお構いなしに事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君達が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

 

「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ?危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう?君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

 

「……そうか。そいつは良かった」

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員“金”にしておく。普通は、“金”を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに“女神の双剣”という名声があるからね」

 

 

イルワさんの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワさんの家紋入り手紙を用意してくれたりした。何でも、今回のお礼もあるが、それ以上にハジメ達とは友好関係を作っておきたいということらしい。すこしぶっちゃけた話だが、隠しても意味がないだろうと開き直っているようだ。個人的にもそれはそれで有り難い。……ただ、“女神の双剣”という名声には少しばかり気恥ずかしい気分だった。

 

 

 

その後、イルワさんと別れ、俺達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

 

 

グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、ハジメが固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。因みに、ハジメがグレイル伯爵と話し合う時にまるで別人になったかの様に態度を変え、上品に話し合うところをユエ達が見て驚いたそうだ。そりゃ、オルクス迷宮の奈落に落ちる前のハジメは、本来優しい少年だからな。驚くのも無理もないだろう。仕舞にはユエ達は礼儀正しいハジメがまるで偽物の様に“貴方は本当にハジメ?”と疑ったそうだ。流石にこれにはハジメも少しだけキレた(ユエだけは特別に許している)が、こればかりはフォローは出来ない状況になってしまったのは別の話だ。

 

 

 

俺達がいるVIPルームは広いリビングの他に個室が四部屋付いた部屋は、その全てに天蓋付きのベッドが備え付けられており、テラスからは観光区の方を一望できる。ハジメは、リビングの超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。ユエが、寝転んだハジメの頭を持ち上げて何時ものように膝枕をする。シアは、足元に腰掛けた。ティオは、キョロキョロと物珍しげに部屋を見渡している。そして俺とデルタ分隊、清水は個室の四部屋のうち一部屋で休んでいた。その際に俺は今後の予定をデルタ分隊と清水に話した。

 

 

「とりあえず今後の予定だが、今日一日は休もうと思う。戦いの後の休息は必要だろうしな」

 

「それは有り難いが、将軍はどうするつもりで?」

 

「俺か?俺はシアと共にこの町を見て回りながらも食料でも買い出しに行こうと思っている」

 

「……とどのつまり、シアとデートか?ジェダイのお前が?」

 

「何でそうなるのだ………特に深い意味はないよ」

 

 

清水が何故その発想に至ったのか解らなかった。確かにシアのことは弟子として思うことは何度もあったが、恋愛感情とは無縁だった俺には理解出来なかった。そしてシアに食料を二人で買い出しに行くことを告げるとシアも買い出し……というより、俺と一緒にいることに賛成した。その際にハジメと清水、デルタ分隊のスコーチから何故かあたたかい目で見守られていた。そんな感じで俺とシアは食料の買い出しの為に町を回るのだった。ただの買い出しなのにシアはとっては二人きりのデートという認識であった。……何でさ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

所変わって、フューレンの下水道にてとある組織の男達が()()()とある人物を探していた。

 

 

「どうだ、そっちにいたか!」

 

「…駄目だ、むこうにはいねぇ。そっちは如何だ?」

 

「こっちも同じだ!……クソがっ!!商品をくすねていったクソガキはどこに行きやがった!!」

 

「まだ近くにいる筈だ!徹底的に探せ!!」

 

 

その男達はとある裏組織の構成員で、組織の商品を奪った少年の粛清と奪われたある商品を見つけるため血眼になって探していた。その男達が下水道の中で捜索する中、影で隠れながらも組織の男達が通り過ぎるのを待っている人影が二つあった。一人は蒼眼で白髪の白人、15にも満たない少年と、もう一人はエメラルドグリーンの長い髪と耳には扇状のヒレが付いている一人の亜人の幼女がいた。

 

 

「やれやれ……フリートホーフの連中には困ったものだ。こうもしつこく追ってくるなんて、本当に参ったものだね」

 

「パパ……ママ……」

 

「もう少しの辛抱だよ、ミュウちゃん。あと少しでこの下水道から出られるからね?「…いたぞっ!あそこだ!」…おっとっと、もう見つかったか!これはマズいな、直ぐに移動しようか!」

 

 

その少年はミュウという名の幼女を連れて組織の男達から逃れる為に走るのだった。逃げて逃げ回ってを繰り返しているうちに逃げ場がない場所までに追い込まれ、絶体絶命の状況に陥ってしまった。しかし、こんな状況かの中で少年は脅えるどころかまるで余裕そうな表情でこの状況を楽しんでいた。

 

 

「フフーン…いやはや、参りましたね。こうも囲まれちゃ逃げ場がないや……」

 

「とうとう追い詰めたぞ白髪のクソガキっ!拾ってやった恩を仇で返しやがって!!」

 

「フフっ…いやだなぁ、恩はちゃんと返しましたよ?拾ってもらった恩として雑用を難なくこなして来たのにも関わらず、貴方達が厚かまし過ぎるくらいに礼を僕に求めたじゃないですか?だから僕はそれに嫌気が差したので慰謝料として彼女を連れて出て行っただけですよ。貴方達に逆上される筋合いはありませんよ?」

 

「ふざけるんじゃねぇっ!!そいつはオークションに出すつもりの海人族のガキなんだぞ!勝手に俺達フリートホーフの商品を慰謝料代わりにくすねるなどとふざけた真似やがって!」

 

 

怒鳴る男達の前でも余裕の表情を崩さない少年は男達に悟られないようにポケットの中からある物を取り出していた。

 

 

「そんなんですから、貴方達は三流の裏組織と舐められるんですよ。僕の様な子供でもね!」

 

 

そう言った瞬間、少年は魔力を溜め込んだ状態手の平サイズの緑光石を男達の前で地面に叩き付けて割り、溜めていた分の光を一瞬で放出させて男達の視界を奪った。

 

 

「うぉっ眩し!?」

 

「どわぁっ!?」

 

「ぎゃあっ!?目…目がぁ……っ!」

 

「それじゃあ、フリートホーフの諸君。アデュー♪」

 

 

そう言って少年はミュウを抱えながらも下水に飛び込み、ミュウを離さない様にそのまま激流に身を任せながら流されるのだった。視界が回復した男達は少年が逃げられたことに怒りながらもまた一から探し直すのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デートと誘拐

連続投稿に遅れてしまった……orz


41話目です。


 

 

「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん! いい天気ですねぇ~、絶好のデート日和ですよぉ~」

 

「あまりはしゃぎすぎるなよ、シア。これでもかなり目立っているかなら…」

 

 

俺とシアは食材の買い出しを兼ねて町を回りながらも束の間の休息を味わっていた。周りの人からすれば人と亜人のデートと見て取れるかもしれないが、飽くまでもこの世界は亜人達にとって優しくない世界だ。一部には人が亜人族の奴隷を連れて町を歩き回っているという認識もいるだろう。しかし、そんな事はどうでもいいことでもあった。特にシアとっては俺とデート(俺は全くそのつもりはないが…)できてかなり上機嫌の様子だった。現在俺とシアがいるのはフューレン観光区という場所だ。そこにはフューレン以外の町からやって来た旅行者や冒険者などがいて血気盛んな区であることが見て取れる。そんな場所で俺とシアは観光区にある水族館“メアシュタット”にて色んな海の生物を見て回っていた。…それにしても、内陸なのに海の生物を大切に扱っているな。管理、維持、輸送などで大変だろうに。

 

 

 

そう感心しながらもメアシュタットの中の様子は極めて地球の水族館に似ていた。ただ、違いを入れるのならば、地球ほど大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術がないのか、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、若干の見にくさはあったが、別に俺とシアに取ってはあまり気にすることでもなかった。

 

 

 

そうして30分も水族館で色んな海の生物を見て回りながら楽しんでいたが、突然シアがギョッとしたようにとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。

 

 

 

そこにいたのは……シーマ○だった。ハジメが教えてくれた某ゲームの人面魚そっくりだった。

 

 

「……な、なぜ彼がここに……」

 

「…シア、この生物に面識が有るのか?」

 

 

何やらシアはこの人面魚に面識があったそうだったので聞き出してみたところ、ライセン大迷宮にてミレディによって迷宮から外へと流される最中、水中にてシアはその人面魚を見てしまい、それによって溺れてしまったの事だった。……シアが溺れてしまった原因はまさかこの人面魚であったとは思いもしなかった。俺は水槽の傍に貼り付けられている解説に目をやった。

 

 

 

それによると、この人面魚は水棲系の魔物であるらしく、固有魔法“念話”が使えるようだ。滅多に話すことはないらしいがきちんと会話が成立するらしく、確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名らしい。ただ、物凄い面倒くさがりのようで、仮に会話出来たとしても、やる気の欠片もない返答しかなく、話している内に相手の人間まで無気力になっていくという副作用?みたいなものまであるので注意が必要とのことだ。あと、お酒が大好きらしく、飲むと饒舌になるらしい。但し、一方的に説教臭いことを話し続けるだけで会話は成立しなくなるらしいが……ちなみに、名称はリーマンだった。

 

 

 

何かと胡散臭い感じではあったが、もし“念話”が使えるというのならと思い、俺はそのリーマンに“念話”を使って対話を試みた。

 

 

“…失礼、俺は藤原雷電という者だ。貴方は本当に話せるのか?言葉の意味を理解できるのかを問いたい”

 

 

突然の念話に、リーマンの目元が一瞬ピクリと反応する。そして、シアから視線を外すと、ゆっくり俺を見返した。シアが、何故か勝った!みたいな表情をしているが気にしないでおこう。

 

 

“……チッ、礼儀はなってはいるが初対面だろ”

 

“突然話しかけてしまい申し訳ない。どうやら念話での会話が可能の様だな。……一つ聞きたいが、リーマンというのは一体何なのか?”

 

“……お前さん。人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。あと名はねぇから好きに呼んでくれ”

 

 

…ふむ、どうやらそれなりに対話が可能であることが分かったが、何かとセリフがいちいち常識的で、しかも少しカッコイイのだ。全くもって予想外である。やる気の欠片もなかったんじゃないのか?と水族館の職員にクレームを付けたいと思っていると、今度はリーマンの方から質問が来た。

 

 

“こっちも一つ聞きてぇ。お前さん、なぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ”

 

 

当然といえば当然の疑問だろう。何せ、人間が固有魔法として“念話”を使っているのだ。なぜ自分と同じことを平然と出来ているのか気になるところだ。普段は、滅多に会話しないリーマンが俺との会話に応じているのも、その辺りが原因なのだろう。俺は、念話が使える魔物を喰ってそれで習得したとかなり端折った説明をした。

 

 

“……若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ”

 

その結果、リーマンに同情された。どうやら、魔物を喰うしかないほど貧乏だとでも思われたようだ。今のそれなりにいい服を着ている姿を見て、“頑張ったんだなぁ、てやんでぇ!泣かせるじゃねぇか”とヒレで鼻をすする仕草をしている。

 

 

 

実際、苦労したことは間違いないので特に訂正はないのだが、何かと人面魚に同情されるとは思いもしなかったと同時に何かと複雑な気分だった。そうおもっているとシアがそわそわし始め、俺の服の裾をちょいちょい引っ張る。…どうやら俺が“念話”でリーマンと会話しているうちに他のお客の目がこっちに向いていることに気付いて一旦リーマンとの会話を切り上げることにした。どうやら知らぬうちに会話が弾み過ぎた様だ。そしてリーマンの方も“おっと、デートの邪魔だったな”と空気を呼んで会話の終わりを示した。そんな感じで俺とリーマンの間で“リーさん”と“ライ坊”と呼び合う中になった。

 

 

 

俺は最後にリーさんが何故こんなところにいるのか聞いてみた。そして、返ってきた答えは……

 

“ん?いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ”

 

 

それを聞いた俺はツーと一筋の汗を流した。それは明らかにライセンの大迷宮から排出された時のことだろう。どうやら、リーさんはそれに巻き込まれて一緒に噴水に打ち上げられたらしい。直接の原因はミレディなのだが、巻き込んだという点に変わりはない。気を取り直して俺はリーさんに尋ねた。

 

 

“あ~…その〜、リーさん。正直言ってここから出たいですか?”

 

“?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ”

 

 

いちいち言葉に含蓄のあるリーさん。既に、リーさんを気に入っていた俺は、巻き込んだこともあるしと彼を助けることにした。

 

“リーさん。なら、俺が近くの川にでも送り届けてやるよ。どうやら、この状況は俺達の事情に巻き込んじまったせいみたいだしな。数分後に迎えを寄越すから、信じて大人しく運ばれてくれないか?”

 

“ライ坊……へっ、若造が、気ぃ遣いやがって……何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。ライ坊を信じて待ってるぜ”

 

 

俺とリーマンは共に笑みを交わしあった。その分かりあったような表情で見つめ合う二人?に“あれ?まさかのライバル登場?”とシアが頬を引き攣らせる。俺はシアの手を引いてその場を離れようと踵を返した。訳がわからないが、取り敢えず俺に付いて行くシアにリーマンの“念話”が届く。

 

 

“嬢ちゃん、あん時は驚かせて悪かったな。ライ坊と繋いだその手、離すんじゃねぇぞ”

 

「へ?…へっ?え……えっと、いえ、気にしてません!おかげでライデンさんとファーストチュウ出来たので!あと、もちろん離しませんよ!」

 

訳がわからないなりに、しっかり返事するシア。そんな彼女に満足気な笑みを見せるリーさん。内心で俺は“お節介だな…(汗)”と苦笑いし、新たな友人のこれからに幸運を祈りつつもハジメに“念話”である物を貸してほしい”と頼みながらメアシュタット水族館を後にした。

 

 

 

そして、その数分後、下部にカゴをつけた空飛ぶ十字架が水族館内を爆走し、リーマンの水槽を粉砕、流れ出てきたリーマンを見事カゴにキャッチすると追いかける職員達を蹴散らし(怪我はさせていない)、更に壁を破壊して外に出ると遥か上空へと消えていくという珍事が発生した。新種の魔物か、あるいはリーマンの隠された能力かと大騒ぎになるのだが……それは別の話だ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電とシアが買い物というよりデートに行ってから一時間後に雷電から“念話”による連絡が来た。なんでも、俺のアーティファクトを貸してくれと言ってきたのだ。一体何があったのかと聞いてみたら“ちょっとした手助けだ”と言ってきた。あいつが何を考えているのかよく解らんが、別に面倒ごとには巻き込まれてないことだけは理解した。そんで俺は遠隔操作型アーティファクトの一つである“クロスビット”を雷電の元に送っといた。まぁ、あいつの事だ。どうせお人好しの為に使うつもりなんだろうな。…といっても、そのお人好しに伝染した俺も人のことを言えた義理じゃないけどな。因みに俺はフューレンの観光区をユエと一緒に回っていた。VIPルームには清水達を留守番に置いてある。

 

 

「ハジメ、何か嬉しそう…」

 

「ん?顔に出てたか?実は雷電のことで考えていたところだ」

 

「ライデン……ハジメ達と初めて会った時は本当に変わった人だった。少しお人好しだけど、冷静でよく周りを見ている。けど…怒った時のライデンは少し怖い」

 

「まぁ…雷電の前世が前世だからな。ジェダイとしての使命を強く思っているんだろう。その分、自分自身が闇に呑まれないようにそれなりに修行を兼ねているからな」

 

 

そうユエと雷電のことで話し合いながらも観光区を歩き回っていると、“気配感知”から下から人の気配を二つ感知した。

 

 

「……ハジメ?」

 

「…いやっな、気配感知で人の気配を捉えたんだが……」

 

「人?…周りの人たちじゃなく……?」

 

「あぁ、俺が感知したのは下だ」

 

「下……となると、下水道?」

 

「気配が二つあるがひとつは普通だが、徐々に弱まりつつある。んでもう一つはやたら小さい故に弱い。これは子供だぞ」

 

「…!ハジメ!」

 

「…あぁ、言わずもがな!」

 

 

俺達はその気配がする方向にそって後を追った。ユエと二人で地下をそれなりの速度で流れていく気配を追う。町の構造的に、現在いるストリート沿いに下水が流れているのだろうと予想し、一気に気配を追い抜くと地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークが発生すると、直ちに、真下への穴が空く。

 

 

 

俺とユエは、躊躇うことなくそのまま穴へと飛び降りた。そして、下方に流れる酷い匂いを放つ下水に落ちる前にユエを抱き寄せながら“空力”で跳躍し、水路の両サイドにある通路に着地する。

 

 

「ハジメ、あそこ…!」

 

「どうやら間に合った様だな。じゃあ後は…!」

 

 

ユエがその気配の持ち主を見つけ、俺は再び地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークと共に水路から格子がせり上がってくる。格子は斜めに設置されているので、流されてきた二人は格子に受け止められるとそのまま俺達の方へと移動して来た。俺は左義手のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供をかかている少年を掴み、そのまま通路へと引き上げた。

 

 

「ゲホッゲホッ…!誰だか知らないが、助けてくれたことには感謝するよ」

 

「……貴方は?」

 

「おっと、名乗りたいのは山々だが、先ず先にこの子を助けてくれないか?」

 

 

そいつ(少年)はかなり変わった奴で、貴族らしいスーツを身にまとっていた。そして子供の方は少し衰弱しているが、まだ息があった。

 

 

「…ハジメ」

 

「まぁ、息はあるし……取り敢えずここから離れよう。臭いが酷い」

 

 

その子供を見て、ユエが驚きに目を見開く。ハジメも、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。

 

 

 

何となく、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けた穴からストリートに出ることが躊躇われたハジメは、穴を錬成で塞ぎ、代わりに地上の建物の配置を思い出しながら下水通路に錬成で横穴を開けた。そして“宝物庫”から毛布を取り出すと小さな子供をくるみ、抱きかかえて移動を開始した。

 

 

 

とある裏路地の突き当たりに突如紅いスパークが奔り地面にポッカリと穴が空く。そこからピョンと飛び出したのは、毛布に包まれた小さな子供を抱きかかえた俺とユエ、そしてもう一人の少年だ。俺は、錬成で穴を塞ぐと、改めて自らが抱きかかえる子供に視線を向けた。

 

 

 

その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。

 

 

「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」

 

「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな」

 

「すまない。その点は大まかに説明したいのだが、先ず先にその子を」

 

 

海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。彼等は、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。そのため、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族なのである。差別しておきながら使えるから保護するという何とも現金な話だ。そんな保護されているはずの海人族、それも子供が内陸にある大都市の下水を流れているなどありえない事だ。犯罪臭がぷんぷんしている。

 

 

 

と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。俺も何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。意味不明な緊迫感が漂う中、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。ちょっとばかり気が抜ける感じだったが、そんな事を気にせずに俺は海人族の幼女に名前を聞き出した。

 

 

「お前、名前は?」

 

「……ミュウ」

 

「そうか。俺はハジメで、そっちはユエだ」

 

 

軽く自己紹介しながらも俺は“念話”で雷電にこっちに来てほしいと連絡を入れ、その後に俺は“宝物庫”から資材を取り出して簡易の浴槽を作るのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメから“少し訳ありな二人を保護したんだが、来てくれないか?”と“念話”による連絡で俺とシアは他の食材の買い出しを一旦中断し、ハジメがいる場所に向かうのだった。そして合流し、ハジメが何処かに行く前に俺に詳しい状況を説明した。なんでも下水道から二人の子供の気配が感知して、その子供らを救出した様だ。一人は白人白髪の男性で、もう一人は海人族の幼女だそうだ。何故その少年幼女らが下水道に流されていたのか、それを白人の少年が説明した。

 

 

「いやーっ僕はとある裏組織に追われていてね、海人族のミュウちゃんを連れて逃げ出したのは良いものの、下水道に逃げたのはマズかったな?その結果、追い込まれて最終的に下水に飛び込んで身をくらまそうと思ったんですが、思ったよりも下水の流れが強くて流されてしまい、最終的に彼等に助けてもらった次第です。あっ…申し遅れましたね?僕はキャスパー、“キャスパ―・マテリアル”。しがない()商人ですよ」

 

 

その少年ことキャスパーは、自らのことを商人と名乗った。フォースを通して彼が嘘をついて居る感じはしなかった。彼は本当に商人ではあるが、少し訳ありの商人であることが判った。

 

 

「その元商人が何故、裏組織に追われているのかは敢えて聞かないが、その裏組織の名は何だ?」

 

「僕らを追っていた組織の名は“フリートホーフ”。人身売買を生業とする裏組織ですよ。もっとも、僕が一番嫌いな部類な奴らでもありますがね…」

 

 

どうやらフリートホーフは人身売買を生業とする裏組織の様だ。個人的にも奴隷といった人権を無視し、道具の様に扱うことを一番嫌う。そう考えながらも俺はキャスパーに何故海人族の幼女ことミュウと共にフリートホーフから逃げていたのかを聞き出したところ、ミュウはフリートホーフに捕まっていたのだが、キャスパーがフリートホーフから逃げる際にミュウを連れて逃げ出したそうだ。…よく捕まらずに済んだなと思ったが、そのフリートホーフという裏組織は恐らくこの町を拠点にし、人込みにまぎれて隙あらばミュウやキャスパーを攫う可能性がある。

 

 

 

そう考えている間にハジメが袋を片手に戻って来た。どうやらミュウとキャスパー用に服を買って来た様だ。それと同時にユエから浴槽が空いたとキャスパーに告げ、キャスパーはミュウが着替え終わるまで待ち、その後に浴槽で身体を洗うのだった。

 

 

 

キャスパーが浴槽で身体を洗っている間に俺は海人族のミュウに自己紹介をし、どうして此処にいるのか聞き出した。その結果、たどたどしいながらも話された内容は、俺やハジメが予想したものに近かった。すなわち、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいということだ。

 

 

 

そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも()()()の幼子たちが多くいたのだとか。そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。

 

 

 

いよいよ、ミュウの番になったところで、その日たまたまキャスパーがフリートホーフから脱走する時に偶然ミュウを見掛けた。その時にキャスパーは“一緒に逃げないか?”と軽い感じでミュウを連れて下水道へと逃げたものの、フリートホーフに追い詰められて、逃げ出す策として下水に飛び込んだのは良いが、結局どのタイミングで陸に上がるのか考えてなく、その結果、流されるがままになってしまったそうだ。……何というかそのキャスパーという少年は結構冒険心があるが、かなり無茶をするなと思った。なお、キャスパーはこの後どうするのか聞いてみたが、“今後のことは自分で何とかしますよ”とはぐらかしながらも俺達にミュウを任せたと同時に別れた。

 

 

「キャスパーから予め聞かされたが、やはりこの世界にも裏組織は存在するか……」

 

「人身売買組織か……海人族の子を出すってことは、裏のオークションか何かだろうな」

 

「こんな小さな子供まで…」

 

「この町には陰に隠れた畜生共がゴロゴロいるってことか。…んで、雷電。お前のことだ、ミュウを俺達の旅に連れて行くと同時に“海上の町エリセン”でミュウの母親のところに送り届ける算段か?」

 

「まぁ…最初はそう考えたんだが、どちらかと言うとミュウは保安署に預けるのがベターかもしれない。流石にまだ五歳にも満たない子供を連れて行くほど俺は馬鹿じゃない」

 

 

“そりゃそうだろうな”とハジメが納得する中、シアだけは納得出来なかった。

 

 

「マスター…ハジメさんの言い分も分かりますが、それは幾らなんでも……」

 

「シア、俺だって同じ気持ちだ。だが、ミュウはまだ若過ぎる。俺達と旅をして、もしもの時にミュウに何があってからじゃ遅いんだ。だから保安署にミュウを預けるんだ。保安署の方々なら手厚く保護される。精々俺達がしてやれることはこれくらいしか出来ない」

 

 

なんとかシアにそう言うが、それでもシアは納得いかない様子だった。それについては俺とて同じだ。だが、現実を見なければならない。ジェダイ騎士は調停者であるが、神様ではないのだ。そこまで万能ではないことを自覚している分、もどかしい気分だった。その時にミュウは不安そうな感じでハジメに声を掛けてきた。

 

 

「ミュウ、どうなっちゃうの?」

 

「ミュウ、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、いつか西の海にも帰れるだろう」

 

「お兄ちゃん達は?」

 

「悪いが、そこでお別れだ」

 

「やっ!」

 

「いや、やっ!じゃなくてな……」

 

「お兄ちゃん達とお姉ちゃん達がいいの!みんなといるの!」

 

 

思いのほか強い拒絶が返ってきてハジメが若干たじろぐ。ミュウは、駄々っ子のようにシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた。今まで、割りかし大人しい感じの子だと思っていたが、どうやらそれは、ハジメとシアの人柄を確認中だったからであり、信頼できる相手と判断したのか中々の駄々っ子ぶりを発揮している。元々は、結構明るい子なのかもしれない。

 

 

 

ハジメとしても信頼してくれるのは悪い気はしないのだが、どっちにしろ公的機関への通報は必要であるし、途中で【大火山】という大迷宮の攻略にも行かなければならないのでミュウを連れて行くつもりはなかった。なので、“やっーー!!”と全力で不満を表にして、一向に納得しないミュウへの説得を諦めて、ハジメが抱きかかえ、俺とシアに“付いて来てくれ”と頼まれた。個人的に気分が乗らないが、仕方なくハジメと同行し、ミュウを強制的に保安署に連れて行くことにした。

 

 

 

ミュウとしても、窮地を脱して奇跡的に見つけた信頼出来る相手から離れるのはどうしても嫌だったので、保安署への道中、ハジメの髪やら眼帯やら頬やらを盛大に引っ張り引っかき必死の抵抗を試みる。隣におめかしして愛想笑いを浮かべるシアがいなければ、ハジメこそ誘拐犯として通報されていたかもしれない。髪はボサボサ、眼帯は奪われて片目を閉じたまま、頬に引っかき傷を作って保安署に到着したハジメは、目を丸くする保安員に事情を説明した。

 

 

 

事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。ハジメの予想通り、やはり大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとした。が……

 

 

「お兄ちゃん達は、ミュウが嫌いなの?」

 

 

幼女にウルウルと潤んだ瞳で、しかも上目遣いでそんな事を言われて平常心を保てるヤツはそうはいない。流石のハジメも、“うっ…”と唸り声を上げ、旅には連れて行けないこと、眼前の保安員のおっちゃんに任せておけば家に帰れる事を根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。特に俺の場合はミュウに対して謝る以外の言葉が見つからない為に、ただ謝るしかなかった。

 

 

 

見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引に俺達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやく俺とハジメとシアは保安署を出たのだった。当然、あまり良い気分ではなく、シアは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。

 

 

 

やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来たころ、未だに沈んだ表情のシアに俺が何か声をかけようとした。と、その瞬間……

 

 

 

ドォガァアアアン!!!!

 

 

 

背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は……

 

 

「なぁ、ハジメ。あの場所ってまさか…!」

 

「チッ、保安署か!」

 

 

そう、黒煙の上がっている場所は、さっきまで俺達がいた保安署があった場所だった。俺達は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。タイミング的に最悪の事態が脳裏をよぎった。すなわち、ミュウを誘拐していた組織が、情報漏えいを防ぐためにミュウごと保安署を爆破した等だ。焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。ハジメ達が、中に踏み込むと、対応してくれた保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。

 

 

 

両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。ハジメが、職員達を見ている間、ほかの場所を調べに行ったシアが、焦った表情で戻ってきた。

 

 

「ハジメさん!マスター!ミュウちゃんがいません!それにこんなものが!」

 

シアが手渡してきたのは一枚の紙。そこにはこう書かれていた。

 

 

“海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い”

 

 

「ハジメさん、マスター、これって……」

 

「どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな……」

 

 

ハジメは、メモ用紙をグシャと握り潰すと凶悪な笑みを浮かべた。おそらく、連中は保安署でのミュウとハジメ達のやり取りを何らかの方法で聞いていたのだろう。そして、ミュウが人質として役に立つと判断し、口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れてしまおうとでも考えたようだ。

 

 

そんなハジメの横で、シアは、決然とした表情をする。

 

 

「ハジメさん!マスター!私、行きます!ミュウちゃんを助けに!」

 

「みなまでいうな。わーてるよ。こいつ等はもう俺の敵だ……御託を並べるのは終わりだ。全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ」

 

「はいです!」

 

「雷電、お前も……?雷電……っ!?」

 

 

その時に俺は確かな怒りを感じていた。何故五歳にも満たない子供が、こうも理不尽に不幸な目に合わなければいけないのか?余りにも理不尽過ぎることに俺自身、許せなかった。故に、俺の怒りの殺意が外に漏れ出していることに気付かなかった。

 

 

「お…おい、雷電!落ち着け…なっ?」

 

「ま、マスター!?お…落ち着いてくださいですぅ!?」

 

 

ハジメとシアに声をかけられて漸く俺は殺意が漏れ出ていることを自覚し、自制するのだった。そして冷静になったところで俺はある事をハジメに言う。

 

 

「ハジメ、お前の“念話”でを至急みんなをここに呼んでくれ。直ぐにミュウを奪還する為に行動する」

 

「おい、雷電。……気持ちは分かるが一応聞かせろ。お前、何を仕出かすつもりだ?」

 

「決まっているだろ、ハジメ?裏組織…いや裏社会にとっての第3次大戦だ……!」

 

 

ミュウを奪還する為の作戦を至急実行する為にハジメに無茶ぶりを言いながらも俺は“クローン軍団召喚”で新たに名前付きのクローンを五人も召喚した。因みにハジメは俺が第3次大戦と行った言葉に反応して“コ◯ンドーネタかよ!?”とツッコンだのは余談だ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏組織撲滅作戦と不死身の傭兵

今回はサブタイトル通り、スターウォーズにおいて不死身の傭兵が出てきます。


42話目です。


 

 

ミュウの救出と同時に人身売買を生業とする裏組織“フリートホーフ”を壊滅させる為に俺は名前付きクローンを五人も召喚する。その名前付きクローン五人の内二人は、第212攻撃大隊、ゴースト中隊の“ボイル”と“ワックサー”で、残りの三人は“リース”、“ジェック”、“サイア”のクローン・ショック・トルーパー達だ。彼等の自己紹介は後回しにして、ここに集まったユエ達に状況を説明する。そうして大体のことを把握してもらった後に俺は本作戦の説明を行う。

 

 

「作戦を説明する。今回の作戦は、フューレンを拠点にし、俺達が保安署に預けた海人族の幼女ことミュウを誘拐した裏組織“フリートホーフ”の壊滅だ。先ほど言った様に敵はミュウを誘拐し、兎人族のシアを条件に人質にし、指定されたポイントに連れてくる様に敵が指示を出して来た」

 

 

そう説明した時にクローン達はその卑劣な裏組織に対して怒りを抱いた。特にワックサーは子供を人質にすること自体が許せなかったがそれを顔には出さず、怒りを通り越して冷静になっていた。すると清水が今回の作戦において質問をした。

 

 

「なら、今回の作戦はその人質になった海人族の幼女を救出するのと同時に裏組織の壊滅が目的か?」

 

「いや…それもあるが、今回の作戦でシャドウとボイル、ワックサーには別行動をしてもらう。それは裏組織が人目が付かない場所で行っているであろう裏オークションの捜索及び、潜入して裏オークションで売られるであろう奴隷達の保護、並びに敵勢力の排除だ」

 

「…なるほどな、了解した」

 

 

与えられた指示を理解した清水は、今回の作戦でベネリM4とSCAR-H、MK23を使用することにした。なお、SCARは建物内での戦闘を想定してホロサイトやバーティクル・グリップといったCQB向けのアタッチメントを装着させている。

 

 

「俺とシアはショック・トルーパー一個分隊を率いて敵が指定して来た場所に殴り込み、敵の拠点を一つずつ潰し回りながらも敵の本部と裏オークションの情報を入手する」

 

「はいです!絶対にミュウちゃんを助け出します!!」

 

「その粋だ。ハジメとユエ、ティア、デルタ分隊、サイア、ジェック、リースはショック・トルーパーもう一個分隊を率いて俺と同様に複数ある敵拠点に強襲と同時に奴隷達の保護。こちらがミュウの居場所が判明したらそこに向かい、ミュウの救出しろ」

 

「……ん。任せて」

 

「任せるのじゃ」

 

「あぁ、奴らは俺達の敵になった。敵になったことを死を持って後悔させてやるさ…!」

 

「よろしい。なお、今回の作戦はスピードが重要視されると同時に裏組織のボスの身柄拘束だ。ギルドも裏組織問題に頭を抱えていたそうだ。ここでもう一つ貸しを作っておいて損はない、間違っても裏組織のボスは殺さない様に注意しろ。ミュウが何時裏オークションにて売られるかは時間の問題だ。各員の迅速な行動が本作戦の成否に掛かっている。……これより状況を開始する。各位、速やかに行動せよ!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

俺の言葉を皮切りに各自それぞれの役目を果たす為に行動に出るのだった。そして俺達も敵からミュウの居場所を聞き出す為にもシアと共に指定された場所に向かうのだった。

 

 

 

俺とシアは敵が指定したであろう敵の拠点を肉眼で捕捉した。率いているクローン・ショック・トルーパー達には敵に見つからないよう後方で待機しながらも先行する俺達から合図が送られたら突入と同時に気絶させた敵の捕縛するよう指示を出した。そして俺はシアに準備は万全なのかを確認を取った。

 

 

「シア、準備は?」

 

「バッチリです!」

 

「そうか。……では、行こうか」

 

 

俺とシアは門番兼見張りをしているであろうフリートホーフの構成員三人の前に姿を表し、敵拠点へと歩み寄った。

 

 

「何だあいつ等?」

 

「白い鎧の上に茶色のフードを被った野郎と白髪の兎人族……連絡にあった二人組の片割れか」

 

「眼帯のガキがいねえのが気になるが、寧ろ好都合だ。報告通り、女の方はかなりの上玉だ」

 

「白い鎧野郎はどうする?」

 

「決まっているだろう?殺せ」

 

 

そうフリートホーフの構成員達が話し合っているが、相手の都合に付き合ってやる程ヒマではない為に俺はフォースを使って三人纏めて宙に浮かせた。

 

 

「うぉっ!?何だっ!?」

 

「身体が……宙に!?」

 

「う……動けねぇ…!?」

 

「悪いが、お前たちの相手をしているヒマはない」

 

 

フォースを操りながらも三人の構成員を壁に叩き付かせて気絶させた後に敵拠点内に足を踏み入れと同時にコムリンクで待機中のクローン・ショック・トルーパーに突入指示を出す。ショック・トルーパー達は気絶した構成員に手錠をかけて捕縛しながらも、先に敵拠点に侵入した俺達の後を追う様に敵拠点に突入するのだった。……さて、ここから先はスピード勝負だ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が敵拠点に侵入したその頃、ハジメ達は別の敵拠点を発見し、その拠点に対して強襲を仕掛けるのだった。すると一人の構成員がハジメの姿を見た。

 

 

「あん?何だあのガキ……」

 

 

その構成員はハジメを視認した瞬間、頭部に一発の青い閃光が貫き、言葉が続かずにその場で倒れ込んだ。その閃光の正体は、後方にて長距離から狙撃したセヴだった。見張りの構成員を無力化したのを確認した後、俺はハンドサインで各トルーパーに指示を出し、突入を行う。

 

 

 

ハジメが扉を蹴破り、そのまま接敵した構成員にドンナーでヘッドショットを決め、敵を即死させて拠点内に突入し、ユエ達も突入する。

 

 

 

敵拠点に突入してから敵構成員と接敵するたびにドンナーかクローン達のブラスター、ユエ達の魔法で攻撃される前に仕留めているためか、敵拠点を簡単に攻略することが出来た。そしてその拠点で有力な情報がないかどうか調べていると、デルタ分隊のボスから連絡があった。

 

 

「ハジメ、こっちに来てくれ!」

 

「…ボスか。そっちで何か見つけたか?」

 

「あぁ、ある意味厄介な代物だがな……」

 

 

俺はボスがいう厄介な代物が入っている箱のところに向かった。そしてその箱の中身を確認して見ると、そこには、本来存在する筈のない()()()()()()()()()()の“DL-18ブラスター・ピストル”が数十挺詰められていた。

 

 

「おいおい…!奴らどういう経緯なのかファースト・オーダーと繋がっているのか?」

 

「その可能性も否定出来ないが、決定的な証拠が足りない。今は海人族の幼女が何処に運ばれたかを調べないとならない」

 

「…只でさえミュウが何処にいるのか判らねえ時に、本当に厄介なことになったな…」

 

 

そう考えながらも俺はコムリンクを通して雷電達に敵がブラスターを所持していることを伝え、その後に俺達は敵がブラスターを使ってくることを想定しながらもそのまま別の敵拠点へと殴り込みに行くのだった。裏オークションが行われる場所を探し求めて……

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメやライデン達がフリートホーフの拠点を潰している頃、フリートホーフのボスが裏オークション会場で海人族のミュウがここに運ばれてくるのを苛立ちながらも待っていた。

 

 

「…チッ!まだ来ないのか!」

 

 

既に会場は仮面を纏った貴族達が裏オークションの本日の目玉である海人族の幼女を競売する為に集まっていた。その肝心の海人族の幼女(ミュウ)が居ないのでは客としてきた貴族達に面子が立たないのは明白だった。すると別の構成員が保安署から誘拐した際に気を失っているミュウを連れて来た。

 

 

「ボス!例の海人族のガキを見つけましたぜ!!」

 

「何っ!?でかした!」

 

「それから、ボス!大変だ!複数の拠点にいる他の構成員から連絡が取れねえ!」

 

「な…何だとっ!?」

 

 

ミュウを抱えた構成員はミュウが再び逃げ出さない様に手錠をかけ、水が入ったガラスで出来た専用の池鉢に入れた後に現在の状況をボスに伝えた。すると構成員が懐からアーティファクトが振動した。構成員が懐から取り出したアーティファクトは音声通信用の物で、そのアーティファクトから他の構成員の声を聞いた。

 

 

《おい…おい!誰か…誰でもいいから、返事をしてくれ!!》

 

「おいっどうした、何があった!」

 

《て…敵の襲撃だ!白い鎧を着た奴ら、ところ構わず次々と俺達の拠点を潰し回っている!!このままじゃやべぇ!早く逃げな…!》

 

 

その瞬間、通信が途絶え、その構成員との連絡が取れなくなってしまう。事態を重く見たボスだったが、それでも裏オークションを開催することにした。

 

 

「…クソッ!今更ここでオークションを中断させてたまるか!!お前等、俺達に喧嘩を売って来た連中に容赦するな!!あのファーストなんたらから貰った武器で下水道から裏オークションへの侵入を防げ!!」

 

「「「お…応っ!!」」」

 

 

ボスの指示の下、構成員達はファースト・オーダーから秘密経由で受け取ったブラスター・ピストルやライフルを手にし、半数は下水道の警備に当たり、残りの半数は万が一の為に、裏オークションの警備に当たらせるのだった。

 

 

「お前にも役立ってもらうぞ、ファースト何たらから送られて来た化け物。お前も下水道で侵入者を確認したら殺せ」

 

「………………」

 

 

化け物と称される者は言葉を返さず、ボスが言われた通りに下水道の警備に向かうのだった。

 

 

フリートホーフSide out

 

 

 

一方、雷電の指示の下、俺は第212攻撃大隊、ゴースト中隊のボルイとワックサーと共に敵の裏オークションに通ずる抜け道を探し始めて十分後、コムリンクを通して雷電から裏オークションへと通ずる地図が見つかったとのことだ。その地図を雷電のヘルメットのバイザーでスキャンし、データ化してその情報を俺達の方に送ってくれた。場所は観光区の美術館の地下に裏オークションの会場が存在すると同時に裏オークション会場の裏手には非常口として下水道と繋がっているとのこと。裏オークションの裏口を確認し終えた時にハジメからも連絡があった。その報告はある意味厄介なことであった。それは、敵が此方の世界のブラスターを所持していたのだ。敵との接触の際に銃撃戦を想定しておく様にとハジメが俺達全員に伝えるのだった。

 

 

 

そうして俺達は、警戒しながらその地図に従い、裏オークションの裏口へと繋がる下水道に向かっていた。その時に俺は人の気配を感じたのかボイルとワックサーにハンドサインで待機する様指示を出した。

 

 

「シャドウ、その先に誰か居るのか?」

 

「あぁ。数は判らないが、それなりに人数が多い。銃撃戦になる可能性が大だ。俺が先に行って様子を見てくる。ブラスターの銃声が聞こえたら援護してくれ」

 

 

ボイル達にそう伝え、俺は単身でその先に居るであろう敵の方へと向かった。すると敵構成員も俺を捕捉したのか俺に警戒しながらも、俺が何者であるかを確認を取った。

 

 

「おいっ貴様!何者(なにもん)だ!」

 

「俺は冒険者だ!下水道を管理している人の依頼を受けて調査しに来た!そっちこそ何者なんだ?」

 

 

俺はその敵に嘘で言い包めようとした。しかし構成員は、俺が言った言葉をあまり信じてはいなかった為か、その敵は“殺れ!”と言葉を言い放つと別の通路から隠れていた他の構成員達が一斉に出て来ると同時に懐からブラスター・ピストルを取り出して俺に向けた。俺は敵が動いた時に咄嗟の判断でMK23を引き抜き、そのまま近くに居た構成員を射殺しながらもボイル達がいる所まで後退し、物陰に隠れた。

 

 

「シャドウ、大丈夫か!?」

 

「あぁ、どうやらここは大当たりの様だ…!ボイル、お前は雷電たちに連絡を!ワックサーは引き続き援護を!」

 

 

ボイル達に指示を出した後に俺はハジメが作ってくれたSCARを手にし、SCARに装填されている二十発入りマガジンを引き抜いて弾を確認した後にマガジン挿入口に再装填し、セレクタを単連射(セミオート)に切り替えた後に敵が放つブラスターの弾幕に当たらぬよう気をつけつつもタイミングを見計らって、物陰から出てすぐさま引き金を引く。SCAR-Hの銃口から放たれる7.62×51mm NATO弾が構成員の胴体、或いは頭に直撃する。ワックサーもDC-15Aで援護射撃をしながらも敵構成員を倒していく。そしてボイルも雷電たちに連絡を終えた後にブラスターで援護するのだった。

 

 

 

数的に此方が不利だったのだが、敵はブラスターなどの銃を使った戦闘の基本的な戦術……即ち、物陰に上手く隠れて応戦することが出来ていない敵がいた為か、隙を突いて少しずつ敵の数を減らすことが出来た。敵が物陰に隠れる際に僅かに足がはみ出ていたり、たまに物陰から俺達の場所を確認しようと頭を出して覗こうとする者もいた。そんな僅かな隙すら見逃さずに俺は物陰からはみ出ているところに7.62×51mm NATO弾を撃ち込み、確実に敵を仕留めていった。

 

 

「(こいつら、もしかしたら連絡にあった俺達のアジトを襲撃している奴らの仲間か!?)…クソっ!一旦逃げるぞ!このことをすぐさまボスに連絡…ごぉっ!?」

 

 

敵構成員は状況が不利になったのか生き残っている構成員に退却指示を出そうとするが、清水が手にするSCARの流れ弾が運悪く頭に直撃し指示を出す前に絶命してしまう。絶望的な状況に耐えられなかったのか、構成員達は“ば…化け物だー!!”悲鳴を上げながらもこの場から逃げ出すのだった。

 

 

「……なんとか敵を退かしたか。こいつ(SCAR)の弾の消費を抑えられた分、作戦継続は可能だな」

 

 

そう呟きながらも空になったマガジンをSCARから排出し、新しいマガジンを装填し、弾が空になった際にショートストロークピストン式によるガス圧作動で後ろへ引いたチャージングハンドルを前へと押し戻し、再び射撃可能の状態にする。消費したマガジンは、今排出した奴を含めて二つ。1マガジンにつき二十発入りである分、地面には排莢された四十発の空薬莢があちらこちらに転がっていた。

 

 

「おーい清水、そっちは如何だ?例の連中はいたか?」

 

 

すると、別通路でハジメとショック・トルーパー一個分隊と合流する。

 

 

「ハジメか。雷電の情報通り、フリートホーフの連中はここで警備していたところを見るに、目的地が近いだろう。それはそうと、俺は清水じゃなくシャドウだと言ってるだろうが。後ついでに、ユエとティアはどうした?一緒じゃないのか?」

 

「ユエ達は各アジトにいた奴隷の子供達を安全な場所に移す為に別行動中だ。後、一々その名で呼ぶのが面倒なんだよ。只でさえ中二病臭いコードネームなんだしよ……」

 

 

“お前な…”と俺は何かを言い返そうとしたその時、四発の赤い閃光が近くにいたショック・トルーパーに直撃し、その命を刈り取った。味方がやられたことで一気に警戒心が上がった俺達は、先程赤い閃光が飛来してきた場所に目を向けると、そこにはガタイがよく、二メートル以上もありそうな感じの高身長で、この世界には見慣れない鎧とヘルメットを着用した人物がいた。その者はブラスター・ピストルを構えており、そのピストルの銃口には小さな煙が上がっていた。…どうやらショック・トルーパーを殺ったのは奴の仕業と見ていいだろう。

 

 

「お前、何者だ?裏組織の仲間って感じじゃなさそうだが……?」

 

「………」

 

 

ハジメは奴に問いかけるが、そいつは無口……というより無反応だった。口では語らず、代わりに右側のホルスターに懸架していたピストルを引き抜き、二挺持ちで俺達に対してぶっ放して来た。俺とハジメ、ショックトルーパー達は咄嗟に物陰に隠れ、その者の攻撃を防ぐのだった。

 

 

「…ちっ!よりによって面倒な敵だな!」

 

「ハジメ、スモークとかはないか?」

 

「あるにはあるが、あれか?奴の目をくらませて一気に仕留めるってことか?」

 

「幾ら奴でも視界が見えなければこっちにもチャンスはある。やって見る価値はあると思うが?」

 

「…まぁ、ファースト・オーダー以外にも厄介な連中は他にもいる訳だし、出し惜しみしてる場合じゃねぇな。……ちゃんと援護しろよ?」

 

「そのつもりだ。俺はこいつ(ベネリM4)で牽制するから、お前が奴を倒せ!」

 

 

“分かってる!”とハジメがそう言葉で返すと同時にスモークを奴の元に投げ込んだ。その結果、スモーク・グレネードから煙が勢い良く噴出し、辺りを煙で覆った。敵は煙幕の中でも慌てる様子もなく、警戒しながらもじっと立っていた。俺はハジメの注意をこちらに向けさせるようベネリM4で牽制する。そして奴も反撃の為にこっちに攻撃してくるが、その隙が命取りだった。その煙幕の中で一気に至近距離まで近づいたハジメは近接武器であるレーザーソード型アーティファクトで敵の胴体を貫いた。

 

 

 

……が、しかし……

 

 

フゥ…フハハハハハハハハハハッ……!!

 

 

そいつはまだ生きていた。レーザーソードを正面に受けた筈だと言うにも拘らずにだ。

 

 

「なっ…!?こいつ、まだ生きて…ぐぉっ!?」

 

 

そこから奴の反撃だった。一瞬手を止めたハジメに対して奴はレーザーソードに貫かれたままの状態でハジメに殴りまくる。そして渾身を一撃をハジメに叩き込み、距離を取らせた。

 

 

「ぐっ…!や、野郎…!」

 

「おいっハジメ、無事か!?」

 

 

俺はハジメを安否を確認するや否や、奴は右手首に付いているであろうニードル弾射出口から無数のニードル弾を放って来た。

 

 

「うぉっ…やべぇ!?」

 

 

ハジメは咄嗟に錬成で半円形状のドームの壁を作り、奴のニードル弾を防ぐ。そして奴は次の手と言わんばかりに左腕を前に出し、そこから火炎放射器らしき部分から火炎を放った。

 

 

「…おいおいおいおいっ!?今度は火炎放射かよ!?」

 

 

ハジメは錬成した半円形状のドームの壁に身を隠しながらも奴の火炎放射の攻撃をやり過ごした。しかし、このままでは状況は不利と判断した俺はMK23(サイドアーム)で直接奴の火炎放射器を狙い、そのまま引き金を引いて火炎放射器を破壊する。

 

 

「行けっハジメ!」

 

「!…あぁ、言わずもがな!!」

 

 

俺はハジメにそう呼びかけながらもMK23からベネリM4に持ち替え、ハジメもホルスターからドンナーを取り出し、錬成した壁から飛び出てそのまま奴の方にドンナーを向けて引き金を引いた。ドンナーから放たれた弾丸は奴の鎧を貫通するも、奴は未だに平然としながらも次の武器はモーニングスターのスパイクメイス部分と連接棍棒を足して割った様な武器でハジメに向けて振るう。

 

 

 

そうはさせまいと俺はベネリM4でピンポイントでスパイクメイス部分を狙い撃ち、ハジメのサポートに徹した。そしてハジメは左義手のギミックの一つであるワイヤ―アンカーを射出し、奴の胸に刺さりっぱなしであったレーザーソードの持ち手に絡み付き、そのままハジメの方に引っぱり、ハジメの手元に戻す。ドンナーとレーザーソードの一挺一振りになったハジメに対して奴はホルスターから二梃のブラスター・ピストルを引き抜き、ハジメを撃ち殺そうとするが……

 

 

「どっかのお人好しジェダイよりも遅ぇっ!」

 

 

ハジメはレーザーソードで奴の二梃のピストルの銃身を切り裂き、奴の攻撃手段を全て奪った。……が、しかし。奴はまだ諦めてはいなかったのか左右の腕に円形状のエネルギー・シールドを展開した。

 

 

「いい加減しつこいんだよ!!」

 

「ここで仕留めるっ!」

 

 

この勢いに乗って俺とハジメはラストスパートをかけ、奴に対して一気に攻めまくる。防戦一方の中、奴は円形状のエネルギー・シールド俺達の攻撃を捌きながらも反撃の隙を伺っていた。しかし、あまり時間をかけたくなかった為に俺はベネリM4で直接至近距離で12ゲージのバックショット弾をお見舞いし、奴を仰け反らせたと同時にハジメがレーザーソードで奴の右腕を切断した後に胴体を両断させて止めを刺した。

 

 

「こいつだけ人間じゃなかったな。魔人族か何かか?」

 

「いやっ…魔人族にこの様な奴はいなかった。…となるとこいつは、ファースト・オーダーが送り出した刺客かもな……」

 

 

そう考えながらも改めて奴を倒したことを確認していると、雷電から通信が入る。

 

 

《ハジメ、シャドウ。こっちは既に配置に付いた。後はお前たちだけだ、急げよ?》

 

「あぁ、分かってる。直ぐ向かう」

 

「了解した。(……一体奴は何者だったんだ?)」

 

 

奴の生死の確認を中断し、俺とハジメ、ボイル、ワックサー、ショック・トルーパー一個分隊は急ぎ裏オークションの裏口へと向かうのだった。

 

 

 

……その時に俺とハジメがレーザーソードで切断して倒した奴の腕と胴体の切断口から触手の様な物が出て、その触手同士で絡み付きながらもそのまま接着する様に元に戻ろうとしていたのを、この時の俺は知らなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏組織の壊滅、傭兵の正体

最近、ネタに走らないと死んでしまうような癖が出ている気がする。


43話目です。


 

 

俺達は裏オークションが行われているであろう美術館の地下に通ずる入り口へと急いで向かいながらも、雷電との通信を入れながらも突入方法を聞いていた。

 

 

《突入方法はシンプルだ。ハジメは一旦俺と合流し、裏オークションへと繋がっている美術館から天井へと移り、そこから突入する。突入と同時に裏オークション入り口からショック・トルーパーが裏オークションに参加している貴族と裏組織の構成員を捕縛する》

 

「そして俺達は、引き続き裏オークションに潜入して残りの奴隷達の保護だったな?」

 

《あぁ。引き続きシャドウとボイル、ワックサーは俺達が突入した際に敵の注意を引きつけている間に奴隷達の保護を頼む》

 

 

清水が雷電の指示に“了解した”と返事を返した後に俺と別行動する様に清水が別れ際に“…また後でな”と言葉を残してこの場を後にした。……本当に変わったな、清水の奴。声はあんまし変わんないが、性格や台詞的にワイルドというか、シブいというか……。そう考えたが直ぐその考えを止め、俺は早急に雷電がいるであろう美術館の所に向かうのだった。

 

 

 

なんとか急いで雷電がいる美術館に到着し、美術館内で雷電とユエ達、ショック・トルーパー達と合流した。なお、美術館は雷電たちが裏オークションに突入を行う際に民間人や館長を外へと避難させていた為か、館内は雷電たちを除いて空き家の如く誰一人もいなかった。

 

 

「…ハジメ、待ってた」

 

「ハジメさん、待ってましたよ!」

 

「ご主人様、妾も準備は出来ておるぞ?」

 

「悪い、少し下水道でタフな奴に時間を食わされた。…だがそいつは俺と清水で片付けた」

 

「…そのタフな奴とは一体何なのか気になるが、今はそう言う場合じゃないな。トルーパー、爆破準備は?」

 

 

雷電はショック・トルーパーに爆破準備が完了しているかを聞いた。それを聞いた俺は、まさか…美術館ごと爆破するつもりか?と思ったが、そうではなかった。

 

 

「準備完了です。この美術館が倒壊しないレベルの爆薬を設置しました。これなら突入口を確保出来ます」

 

「よろしい、ここから作戦の最終段階に移るぞ。各位、気を引き締めて掛かれ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

ショック・トルーパー達もやる気と士気は既に満ちており、何時でも突入可能であった。俺は愛銃であるドンナーとシュラークを手に、何時でも突入できるよう待機した。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ショック・トルーパーが裏オークション会場の天井へと通ずるポイントに爆弾の設置を確認した後、全員に突入準備するよう指示を出す。そして別ルートから侵入している別働隊のショック・トルーパーからの連絡が入った。その内容は、どうやら無事に敵に気付かれずに裏オークション入り口に配置が完了した様だ。その際にクローン・エンジニアが独自に作り上げたチューブ状のカメラを使い、扉の隙間からチューブ・カメラを通してヘルメットのバイザーに表示し、中の様子をモニタリングした。

 

 

「さぁ、本日の目玉の登場です!“海人族の少女”。当オークションでも滅多に現れない気商品です!」

 

 

既にオークションが開催され、水槽の中に入れられているミュウの競売が始まっていた。突入タイミングの為に俺は全員に“爆破と同時に突入”と指示を出し、爆破スイッチを手に押すタイミングを見計らっていた。ただ爆破しては裏組織のボスを逃がすだけになってしまう為、敵の親玉が誰なのかを見定める必要があった。貴族達が競売に夢中になっている最中、ミュウに近づく一人の男がいた。裏オークションを担当する司会者は何やら慌てている様子だった。

 

 

「ちょ…ボス!?幾ら価値観を見せる為だとはいえ商品に手を出すのは……」

 

「うるせぇっ!こっちは今機嫌が悪いんだ!!」

 

 

その男はどうやら裏組織のボスだった。そう判断した時にそのボスはミュウが入っている水槽に蹴りを入れる。

 

 

「おら泣け!喚け!それが出来ないなら芸の一つでもやって見せろ!俺の手を煩わせるんじゃねぇ…半端者の能無しごときが!!」

 

 

この光景を見た俺は、急がなければミュウが危険だと判断し、直ぐにスイッチを入れて爆破する。美術館と裏オークション会場へと通ずる穴を確保した後に俺はそのまま自由落下で突入し、他はケーブルを使って降下しながら突入を行った。

 

 

「なっ何だ、何事だ!?」

 

「その言葉、そのまま貴様に返すぞ。この外道が…!」

 

「なっ…てめえは……ゴォっ!?」

 

 

突入した後に俺はすぐさま敵のボスを殴り倒し、そのまま手錠で拘束した。突然の爆破に状況が混乱に陥った貴族達は我先にと通って来た裏オークション入り口に向かうも、その入り口からショック・トルーパー達が道を塞ぎ、逃げる貴族にブラスターを向けて“特殊部隊だ!全員動くなっ!!”と怒鳴りながらも貴族達の逃走を防ぐ。

 

 

 

他の構成員もブラスターなどで応戦するも、ブラスターを使った戦闘技術はクローン達の方が上である為、あっという間にこの場にいた敵の構成員達の半分は死亡、残りの半分はこれ以上の抵抗は無意味と悟り、ブラスターを捨てて降伏するのだった。突入してからこの間40秒弱で裏オークションにいる裏組織の壊滅とボスの確保、そして裏オークションに参加していた悪称貴族の確保を完了させるのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が突入を開始したその頃、清水達は裏オークション会場の裏舞台にて少年少女の奴隷達の解放、保護を行っていた。その保護した奴隷の数は僅かに数人程度だった。

 

 

「……よし、ボイル、これで全員か?」

 

「あぁ、こっちで見た限りではこれで全員だ。シャドウ、そっちはどうだ?」

 

「いや、こっちはいなかったがまだ奥にいるのかもしれん。こっちは奥を捜索するからボイル達は保護した奴隷達を連れて雷電たちと合流してくれ」

 

「…分かった。だが急げよ?既に将軍等は裏組織のボスを確保したとのことだ。ここを爆破する為に爆薬を使うそうだ」

 

 

どうやら雷電はここで二度と裏オークションが出来ない様にと徹底的に破壊工作を行う様だ。そう理解した俺は分かっているとボイル達に伝え、俺は更に奥へと捜索を行った。

 

 

 

するとその奥で奴隷が収容されている一つの檻を見つける。その檻をよく見てみると、一人の少女が収容されていた。その少女の身体のいたるところには火傷の痕らしきものがいくつもあった。ここまで酷い火傷を負った少女までもが奴隷として売られていたことに痛感していると、檻の中にいた少女が俺に気付いた様だ。

 

 

「…誰……ですか?」

 

「…!……俺はシャドウ。君たち奴隷達を裏組織から解放、保護しに来た。ここに君以外の他の奴隷はいないのか?」

 

「いえ、いません……いるとするなら、毎日私に食事を持ってくる人だけでした」

 

「……つまり、ここに隔離されていたと?」

 

「はい。なんでも、病すら煩ってもいない私に“他の商品の傷物になる”との理由でここに……」

 

 

総称女は語るが、たったそれだけの理由でここに隔離されていたことに俺はその裏組織のボスに内心怒りを覚えていた。しかしそれは雷電たちが何とかしてくれるだろうと思い、俺は少女が収容されている檻の扉に付けられている錠前を手持ちのSCARの銃底で殴り壊し、檻の扉を開けて少女を解放する。突然の行動に少女は何がなんだか分からない状態であったが今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

 

「あの……何を………?」

 

「説明したいが今は時間がない。裏オークション会場で仲間と合流し、この場から脱出するぞ」

 

「仲間……?一体、何が……ひゃっ!?」

 

 

少女の問いに答える暇もなく、俺は少女を抱きかかえる。そしてそのまま雷電たちと合流する為にこの場を後にし、急ぎ裏オークション会場に向かうのだった。

 

 

清水Side out

 

 

 

裏オークションを制圧した後に雷電がオークション会場を爆破する為に爆薬を設置するとのことだ。因みに他の拠点はユエの魔法で一気に破壊するとのことだ。今現在、ショック・トルーパー達は悪称貴族が付けている仮面を剥がし、その素顔を晒すと同時に写真を撮ってその顔を記録していた。ギルドに悪称貴族が裏オークションに参加していた証拠として引き渡すつもりの様だ。悪称貴族の中には“私を誰だと思っている!!”と叫ぶ貴族もいたが、そんなこと知ったことじゃない感じでショック・トルーパーは任務をこなすのだった。そして俺達は水槽に入れられているミュウを解放する為に水槽を破壊し、ミュウに付けられていた枷を壊すのだった。

 

 

「よぉ、ミュウ。お前、会うたびにびしょ濡れだな?」

 

 

冗談めかしてそんな事を言う俺に、ミュウは、やはりジーと見つめたまま、ポツリと囁くように尋ねる。

 

 

「お兄ちゃん…?」

 

「お兄ちゃんかどうかは別として、お前に髪を引っ張られ、頬を引っ掻かれた挙句、眼帯を取られたハジメさんなら、確かに俺だ」

 

 

俺が苦笑いしながらそう返すと、ミュウはまん丸の瞳をジワッと潤ませる。そして……

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

ハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。その時俺は困った表情でミュウの背中をポンポンと叩く。そして、手早く毛布でくるんでやった。

 

 

 

そうしている間に別行動していた清水は()()()()()()()()()()()()()()俺達と合流した。

 

 

「清水、そいつは?」

 

「清水ではない、シャドウだ。この子はオークションの裏舞台の奥に隔離されていた様だ。特に伝染病でも煩っている訳でもないのにだ」

 

 

相思自ら聞かされた時、雷電は裏組織のリーダー格であるボスを汚物を見る様な目で見た。……おい、雷電。お前かなり情に流されていないか?そう考えている時に裏組織のボスが怒鳴りながら俺達に食い付いて来た。

 

 

「て…テメエ等、こんな事を仕出かして只で済むと思っているのか!!」

 

「その台詞はそっくりそのまま返すぞ?クソ野郎。こっちは奪われたもんを奪い返しに来ただけだ。あとは……唯の見せしめだな。俺達の連れに手を出すとこうなるっていうな」

 

「それと今後はお前次第とも言えるな。お前の組織はもはや壊滅したと言ってもいいくらいに此方で各拠点を潰し終えた。後はお前を保安局に引き渡すだけだ………っ!」

 

 

雷電が途中で言葉を止め、ライトセーバーを展開した。その時に俺は気配感知で俺達が開けた穴から知っている気配を感じた。

 

 

「ハジメ、どうやら敵が来る様だ…」

 

「あぁ、それも俺と清水が下水道で戦った奴と同じ奴だ」

 

「何っ?……となると奴か!」

 

 

清水は下水道で戦った奴がまだ生きていることと、此処に来ることを警戒してSCARを構える。俺もドンナーとシュラークを構え、他のショック・トルーパー達もそれぞれブラスターを構える。そして、その穴からジェット・パックを使用して降下してくる奴の姿が見えた。

 

 

「彼奴がそうか……だったら、これでも食らえ!!」

 

 

ジェックの言葉を皮切りに彼が持つZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンの弾幕を張ると同時に俺達も弾幕を貼る。弾幕に阻まれたそいつは無理矢理にでも突破しようとするが、運悪くも弾幕の流れ弾がジェット・パックのノズル部分に直撃してそのまま奴は地面へと落下し、そのままジェット・パックが誘爆を起こす。それでも奴はその爆縁の中である物を俺達に向けて投げ込んだ。その投げ込んだ物の正体はデトネーターだった。清水がそれを見て青ざめた。

 

 

「なっ…やばっ!?」

 

「落ち着けよ、清水。こういう場合は焦ったら負けだってな!」

 

 

そう言って俺は奴が投げたであろう地面に転がるデトネーターを奴に返す様に蹴り返し、そして奴の元に帰った瞬間、デトネーターが爆発を起こし、奴の自爆に終わった。裏組織のボスは奴がやられた際に絶望に打ち付けられた様な顔をしていた。……しかし、この時に俺は奴の気配が消えていない事を察知して警戒を解かなかった。

 

 

「敵の沈黙を確認。もう大丈夫です」

 

「気を抜くなコマンダー。ハジメの情報が確かなら……」

 

「ん……相手はまだ生きている」

 

「あの野郎、生物として考えるのはあれだが……どんだけタフなんだ?」

 

 

警戒しながらもコマンダー・サイアは他のショック・トルーパーに確認を取らせようと指示を出す。そしてショック・トルーパー達はゆっくりと奴が自爆した爆煙に近づいたその時、ヒューマンタイプの右手のグローブを身につけた触手が近づいて来たショック・トルーパー達を払う様に振り飛ばした。そして奴が爆縁の中から出て姿を現した時には奴の鎧は爆発ではがれ落ちていて、その中身が露出していた。その中身が()()()()()()()()()()()()()()であったことを……

 

 

「な……なんだあの触手の化け物は!?ファーストなんたらが寄越した化け物がマジで化け物だったのかよ!?」

 

 

そう裏組織のボスが言っているが、やっぱりこいつはファースト・オーダーと繋がっていた様だな。ファースト・オーダーがこんな化け物を送ってくる辺り、B.O.W(バイオ・オーガニック・ウェポン)でも研究開発でもしているのか?………ぶっちゃけ、何処ぞの薬品を扱う傘が銘の会社だよそれは…。その際に雷電は、あの化け物を知っているのかの様にあまり驚いた様子がなかった。

 

 

「まさか……二千年も生きる賞金稼ぎがこの世界にお目にかかるとはな」

 

「雷電、アイツがなんなのか知っているのか?」

 

「あぁ……といっても、飽くまで前世の頃で噂を聞いた程度だがな。奴は“ジェンダイ”という特殊な種族でな?一説によると、そのジェンダイの寿命はかのマスター・ヨーダを超えるそうだ。そして今、俺達の目の前にいるのがそのジェンダイの賞金稼ぎ“ダージ”だ。クローン戦争中に奴はスカイウォーカーに敗北し、死亡したと聞いたんだが……」

 

 

そう雷電が説明している時に奴ことダージがより低く、曇った声で言葉を発した。

 

 

ジェ……ダイ………!

 

「…!こいつ喋るのか?」

 

「下水道のときもそうだったが、こいつ俺のレーザーソードを突き刺したのにも関わらず不気味に笑っていやがったんだ」

 

殺……す!ジェダイ……マンダロ……リアン……殺す!!

 

 

するとダージは左腕の触手を伸ばし雷電に掴み掛かろうとするが雷電はこれを避け、ライトセーバーで切り落とすも、全く効果がない様に直ぐに再生してダージの方へと引き戻した。そしてダージは雷電に飛び掛かり、素手で殴り掛かってくる。

 

 

「マスター!」

 

「心配ない、大振りの攻撃に当たる程衰えてはいない!」

 

 

雷電の言う通り、ダージの鎧が壊されたことで圧縮していた触手の様な身体が肥大化し、巨大になった為に殆どが大振りとなっていた。それのおかげか雷電は軽々と躱していた。そんな中サイアは、見ているだけには行かないと全ショック・トルーパーにある指示を出した。

 

 

「トルーパー、アセンション・ケーブルの用意を!奴の足を止めるぞ!!」

 

 

そういってサイアやリース、ジェックもアセンション・ケーブルを装着したブラスターを手にし、それをダージに向けて放つ。他のショック・トルーパーも同様にケーブルを装着したブラスターでダージに向けて放ち、撃ち付けられたケーブルがダージを拘束し、その動きを封じ込めた。

 

 

「サイア!?無茶だ!お前たちでは手に終えない相手だ!」

 

「それでも足止め程度にはなります!トルーパー、撃ちまくれ!」

 

 

動きを封じたダージにブラスターによる集中放火を浴びせるショック・トルーパー。しかし、ダージは集中砲火を浴びているのにも関わらず、痛覚すら感じていないかの様に突き刺さっているケーブルに抗っていた。そしてダージはうっとおしいであろうケーブルを無理矢理振り払い、拘束から脱する。そしてダージは標的である雷電を変えて、今度はシアを標的に襲いかかった。

 

 

「え…わ、私!?」

 

「…っ!シア!」

 

 

雷電はシアを突き飛ばしてダージと対峙するが、それがダージの狙いだった。奴は触手の身体を広げて雷電を取り込もうとした。

 

 

「何っ!?こいつ…うぉっ……!」

 

「ま……マスター!!」

 

 

雷電は振り払おうとしたが間に合わず、ライトセーバーを手放してしまいそのまま奴に取り込まれた。

 

 

「ハジメさん!マスターが……マスターが!?」

 

「落ち着けシア!彼奴は奴に取り込まれたがまだ死んではいないだろうが!」

 

「ではどうするんじゃ?流石の妾でもアレに取り込まれるのは勘弁なのじゃ」

 

「…どうするの、ハジメ?」

 

「問題ねえよ。…だが雷電には少し痺れてしまうがそうも言ってられねえ…!」

 

 

雷電を助ける為に俺は左腕の義手に仕込まれているワイヤーアンカーをダージのヘルメットに撃ち込み……

 

 

「ちょいっと痺れるから我慢しろよ雷電!……“纏雷”!」

 

 

技能の一つである“纏雷”でワイヤーアンカーを通してダージを感電させる。ダージもこの様なパターンを想定していなかったのか最初は効いてはいたが数秒で感電に耐性が付き、俺が放った“纏雷”をワイヤーアンカーを通して逆流させてきた。

 

 

「(こいつ…電撃を逆流させて!)……うぉっ!?」

 

 

逆流させてきた電撃に弾かれた俺は一瞬の隙を突かれ、ダージの接近を許してしまう。

 

 

「「「ハジメ(さん)(ご主人様)!」」」

 

「…ちぃっ!!」

 

 

ダージに取り込まれる前にドンナーで抵抗しようとしたその時、ダージに異変が起きる。ダージの身体が徐々に膨らみ、肥大化していく。そして身体が破裂する寸前まで肥大化したダージは苦しみの声を上げながらも何かを押さえ込んでいたが、それが限界に至り、最終的に内側からの力によって身体が破裂し、ダージの身体の一部の触手が飛び散り、ダージに取り込まれていた雷電が無事に脱出し、呼吸を荒くしながらも五体満足で立っていた。……どうやら雷電が取り込まれた際にフォースを使って内側から破裂させて脱出した様だ。

 

 

「…マスター、無事だったんですね!」

 

「将軍、お怪我は?」

 

「平気だ。……まぁ、それにしてもだ。随分と散らかしてしまった様だ」

 

「…そうジョークを言えるならお前はまだ正常なんだな」

 

 

“そうそう俺は死なないよ”と雷電は口にしながらもフォースでライトセーバーを回収し、ショック・トルーパー達に悪称貴族や降伏した構成員達を外へ連れて行く様に指示を出し、俺達もミュウと裏組織のボスを連れて外へと出るのだった。…俺としてはもうダージの様な奴は二度と相手したくないぞ。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

外に出た後に全員の避難が完了させたことを聞いた後に裏オークション会場を爆破しようとしたが此処で問題が起こった。このまま爆破すれば美術館にも被害異が及ぶことだ。それに対してハジメは“今更だろ?”とあっさりと答える始末……更に後で分かったことなのだが、どうやらあの美術館の館長も裏組織の構成員だったらしく、美術館は表向きのカモフラージュで裏組織の重要拠点だったそうだ。俺としては美術館を爆破するのはもったいないと思っていたが、裏組織の重要拠点であり、爆破せず放置するとまた第二、第三の裏組織が使うかもしれないと思い美術館ごと爆破することになった。

 

 

 

爆破する為に俺達は安全な場所ことフューレンを囲う外壁の上に移動した後、ハジメはミュウにあることを聞いた。

 

 

「ミュウ、少しばかしちょっと派手な花火が見れるぞ?」

 

「花火?」

 

「花火ってのは……爆発だ」

 

「爆発?」

 

 

ハジメはミュウに花火について説明をしたが碌な説明が出来ていないが故に、間違った方角へと教えられそうになった為、つかさず俺は修正を入れる。

 

 

「正確には夜空に飛ばす爆弾だ。それとハジメ、こいつは花火じゃなくて建築爆破じゃないか」

 

「言葉の洒落だっての。別に問題ねえだろ?」

 

「大アリだ馬鹿やろう。もしミュウが間違った知識を覚えたら其れこそ大問題だろうが!」

 

 

そう怒りながらも俺達が行おうとしている言葉の間違いを指摘していると、ミュウがこんな事を聞き出した。

 

 

「お兄ちゃん、けんちくばくはって?」

 

「建築爆破ってのは、使われなくなった建物を取り壊す方法の一つだ。周りの建物に被害が及ばない様に安全に爆破することを建築爆破っていうんだ」

 

「んで、その爆発を遠くで見るわけなんだが……」

 

 

ハジメそう言いながら美術館がある方角を見ていた。そんなこんなしているとデルタ分隊のスコーチから爆破準備が完了したとの報告を受ける。

 

 

《爆破準備完了!いつでもOKだぜ!》

 

「よし……起爆しろ!」

 

《了解、起爆!》

 

 

それを皮切りに美術館から煙が上がると美術館そのものが下へと沈んでいき、最終的に“ペチャッ”と潰れたかの様に煙の中へと消えていった。

 

 

「あ……建物、煙の中に消えちゃった」

 

「アレが建築爆破だ。さて……次は第二段階だ。ユエ、頼む」

 

「ん……任せて。……“雷龍”」

 

 

ユエにバトンを任せるとユエは魔法で裏組織の拠点にピンポイントで爆撃し、拠点を破壊するのだった。魔法から出た雷の龍にミュウは少し怖がっていた。

 

 

「アレが建築爆破以外での爆発だ。爆発物を取り扱う際には細心の注意を払わなければならないが、使い方を誤らなければ大丈夫だ」

 

「爆発コワイ…」

 

 

どうやらミュウは爆発に少しばかり恐怖を覚えてしまった様だ。流石にこれは失敗だったことを反省するのだった。一方の裏組織のボスはユエの魔法を見て改めて俺達に敵対したことを後悔していた。するとユエはミュウに近づき、至近距離でユエと見つめあった。

 

 

「ミュウ。一人で良く頑張った。とっても偉い」

 

 

ユエは、優しげに目元を和らげると、抱きしめたままミュウの頭をいい子いい子する。その優しい手つきと温かい雰囲気にミュウは自然と気が緩みホロホロと涙を流し始めた。そのまま、盛大にワッーと泣き始める。ハジメと再会した時は、まだ緊迫の中にあり、きちんと泣く事ができなかった。それが、今この瞬間、完全に気が緩んで今までの辛かった気持ちを全部吐き出したのだ。

 

 

 

ハジメは、流石ユエだなと苦笑いし、ミュウが泣き止むのを待つことにすると同時に俺は最後の仕上げに移るのだった。因みにその考えはハジメも同じだった。

 

 

「…さてっと。ハジメならもう分かっていると思うが……」

 

「奇遇だな、俺も同じことを考えていたぜ」

 

「よし……それじゃあ、後はこいつの後始末だけだな

 

 

それを聞いた裏組織のボスはそのまま保安局に引き渡されることはないと悟ってしまう。なんとか助かろうと必死で謝罪するしかなかった。

 

 

「お……おい、待ってくれ!いや……許してくれ!お前等が探してた海人族の少女を返しただろう!?更には他の奴隷達もお前たちが解放した筈だろう!?もうこれでチャラの筈だろう!?許してくれ!な…な…なぁ!?」

 

「前にも言ったが、俺の連れに手を出した時点でお前の末路がこうなったんだろうが。例え許しを斯うても俺の答えは一つだけだ。NO(ノー)!の一点張りだ」

 

「ひぃ〜!?」

 

「んで…一応殺さない前提の質問だが、右の拳で殴るか、左の拳で殴るか、当ててみろ」

 

 

そうハジメに質問された裏組織のボスは、殴られることを前提の質問にもはや諦めかけていたため、せめて一思いに右でやってもらおうと頼むのだった。

 

 

「せ……せめて右で、やってくれ」

 

「No!No!No!No!No!」

 

「ひ……左か?」

 

「No!No!No!No!No!」

 

「り……両方なのか!?」

 

「Yes!Yes!Yes!Yes!………Yes!

 

「もしかしてオラオラなのかぁ!?」

 

「Yes!Yes!Yes!…Oh my god……(俺もそうだが、何でこいつもこの様なネタを知っているんだ?)」

 

 

清水が何やら考えている様だが、そんな事は関係無しにハジメは裏組織のボスにオラオラはしないものの、ちょっとした怒りをぶつけるのだった。

 

 

「これはミュウの分!!これは爆破された保安署の職員達の分!!そしてこれは…せっかくミュウに買った服をはぎ取られた俺の分だーーーー!!!」

 

「ブギャー!!?」

 

 

……おい、ハジメ。最後の方は私怨じゃねえか!?自分の気持ちが一番大切とはいえ、そこは空気を呼んでおけよ……(汗)。そんなこんなでハジメの私怨を含めて裏組織のボスをぼこり、そのまま保安局に引き渡した後にミュウと共にギルドに向かうのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

フューレンのとある場所でハジメに救出された後に別れた少年ことキャスパーは建築爆破によって崩落した美術館に立ち寄っていた。そこで瓶を取り出し、元美術館だった瓦礫から触手らしき物体を採取していた。

 

 

「やれやれ、お疲れ様でしたね?()()()()。彼等の戦闘データは十分に溜まったようですし、ここらで僕も表舞台から退散するとしますか。この後、世の中がどう転ぶかは彼等次第と言った感じですね?フフーン……フハハハハッ!ファースト・オーダーの連中、旧世代のクローン兵は使い物にならないと言っていたが、その当てが完全に大ハズレだ!」

 

 

そう笑いながらもこの場から移動しながら少年は語り続ける。

 

 

「…だがまぁ、責めはせん。流石の僕でも正直意表をつかれた。まさかジェダイの戦闘力がこれほどとは思いもしませんでしたよ。しかし、一つ解せんことがあるな。奴ら、彼等の戦力を知っているだろうに射撃経験のない裏組織に始末を任せるとは……舐めているのか?ファースト・オーダー…!でも、そんな事はどうでもいいことです。僕は僕で自分なりに商売するだけ、その後は、まぁ…何とかなるでしょう」

 

 

そう言って触手を入れた瓶をしまい、この場を離れるのだった。彼の言う商売が何なのか……

 

 

 

そこはあなた方のご想像にお任せします。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嘗ての仲間との再会編
ハジメ〇〇になる、異常事態発生


家庭事情によるショックから無事復活したので投稿しました。


44話目です。


 

 

裏組織のボスを保安局に預けた後、イルワさんから事情聴取の為に俺達はギルドにいた。イルワさんの手には裏組織“フリートホーフ”に関する報告書である。

 

 

「消滅した建物9棟、倒壊した建物15棟、半壊した建物32棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員98名、再起不能44名、重傷28名、行方不明者119名。民間への被害がゼロなのが奇跡としか思えない。……何か言い訳は?」

 

「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」

 

「本当なら裏組織の相手をすることはなかったのだが、ミュウが攫われたと知った時には救出と同時に壊滅させることにしたんだが……今回ばかりこれは流石にやり過ぎたと思っているよ。…だが、ハジメと同様に後悔はない」

 

 

そうイルワさんに今回の事件のことを報告していた。そしてミュウはギルドが用意したお菓子を美味しそうに食べていた。“お兄ちゃん、このお菓子美味しいの”とミュウが言えば“おう、どんどん食え”とハジメが返す中、イルワさんが今回起きた事件……というより、俺達のトラブルメーカー体質の限度差に頭を抱えていた。

 

 

「ハァ…まぁ私達もフリートホーフには手を焼いていたからね。君の言う通りやり過ぎだが、正直助かったとも言えるよ」

 

「見せしめも兼ねて盛大にやったからな。必要なら俺等の名前を使ってもいいぞ。なんなら支部長のお抱え冒険者ってことにしてもいい」

 

「それなら相当な抑止力になるが…利用されるのは嫌うタイプだろう?」

 

「世話になるし、それ位は構わねえよ。金ランクにもしてもらったことだしな」

 

 

そうハジメとイルワさんが話し合っていると、扉から別の人は入って来た。

 

 

「よくやったボウズ達!!フリートホーフを壊滅させただけじゃなく、フリートホーフのボスを捕まえてくれるとは!本当に感謝するぞ!!」

 

 

そう言って機嫌良く“ワハハッ!”と笑いながらその男はこの場から去っていった。……態々お礼を言いに来たということは、あの人は保安局の人か?

 

 

「…なんだ今のおっさん……」

 

「恐らく保安局の人じゃないのか?イルワさんはあの人を知っていますか?」

 

「保管局の局長だよ。……それはそうと、話を戻そう。ハジメ君、少し変わったかい?前は他人の事などどうでもいいように見えたが、ウルの町で何かあったのかな?」

 

「…まぁ、悪い事ばかりじゃなかったよ」

 

 

“…なら良かった”とイルワさんが言った後に俺達に別件を伝えた。それはミュウのことだった。ミュウを故郷に戻す方法として二つあるそうだ。一つ目は正規の手続きでエリセンへと送還する方法。二つ目はミュウを俺達に預け、依頼という形で送還してもらう方法だった。

 

 

 

二つの方法の内一つ目の方はベターかもしれないが、またフリートホーフの様な裏組織に捕まってしまえば元も子もない。ならば……俺達がとるべき方法は一つしかない。

 

 

「ハジメ、ミュウはこっちで送還させるという形で依頼を受けないか?一つ目の方法はベターな方だが、またフリートホーフの様な裏組織に拉致られる可能性が否定出来ない」

 

「ハジメさん、私からもお願いします。ミュウちゃんは私とマスターで絶対に守ってみせます!」

 

「お兄ちゃん、一緒…め?」

 

「…まぁ雷電のいい分もそうだが、今回は最初からそうするつもりで助けたからな。大火山の攻略が心配だが、なんとかするさ」

 

 

ハジメの賛成の下、正式にミュウをエリセンへ送還させるという依頼を受ける事になった。この時にハジメはミュウから“お兄ちゃん”という言葉にむず痒さを感じていた。

 

 

「…なぁミュウ。流石に“お兄ちゃん”は止めてくれ。普通にハジメでいい」

 

「どうして?」

 

「なんというか、むず痒いんだよその呼び方……」

 

「……じゃあ()()!」

 

 

その一言にハジメやユエ、シアにティアまでもが固まった。ミュウはハジメの事を父親として認識したのだ。それを見ていた清水やデルタ分隊は……

 

 

「おいおい、ハジメが父親って……」

 

「ブッwww駄目だこりゃ…笑いがwww」

 

「完全に父親として認識されている様ですね」

 

「ハジメが初の子持ちか。……フッwww」

 

「お前たち、茶化すのはその辺にしろ。……しかし父親か」

 

 

一番まともだったのはボスとフィクサーくらいだった。一応ミュウに何故ハジメの事をパパと呼ぶのか聞いてみた。

 

 

「ミュウ、ハジメの事をパパって呼ぶのはどうしてなんだい?」

 

「パパね…ミュウが生まれる前に神様の所に行っちゃったの。だからお兄ちゃんがパパなの!」

 

 

どうやら話から察するにミュウの父親はミュウが生まれる前に亡くなった様だ。その時にハジメはミュウにパパは勘弁してほしかった様だ。

 

 

「ミュウ…それは流石におかしくないか?パパは勘弁してくれ「やっ!パパなの!」いやっ駄目だ!お兄ちゃんでいいからそれだけは止めてくれ!」

 

「やーっ!パパはミュウのパパなの〜!

 

「俺はまだ17なんだぞ!!」

 

 

父親呼ばわりされて、色々とミュウに振り回されるハジメであった。ミュウはハジメに任せるとして、俺は清水が見つけたであろう奴隷の少女の事で身元が分かったのかイルワさんに聞いてみたが、その結果がゼロだった。

 

 

「身元不明?……どういう事なんだ?」

 

「こちらでも調べてみたんだが、あの子の身元が存在しなかったんだ。一応ステータスプレートを通して確認して見たんだが……」

 

 

 

そういってイルワさんは清水が救助した少女の為に発行したステータスプレートを俺と清水に見せ、確認した。

 

 

 

===============================

シルヴィ 13歳 女 レベル1

天職:治癒師

筋力:10

体力:15

耐性:10

敏捷:10

魔力:100

魔耐:10

技能:治癒魔法・■■の刻印・魔力操作

===============================

 

 

 

俺達以外が見てもこれが普通かもしれないが、二つだけ気になる技能があった。

 

 

「普通に見ればありふれた感じではあるな。この文字化けした所と魔力操作を除けばだが……」

 

「それもそうだが、技能に書かれている刻印というワードが気になる。何かしらのバットステータスという可能性も否定出来ない」

 

「それもそうなのだが、この子にもハジメ君たちと同じ技能があったんだ」

 

 

同じ技能というのは魔力操作の事である。俺とハジメの場合は、倒した魔物を食った事で得られたもので、少女の場合はシアと同じ生まれた時から得ている技能だ。そして気になるもう一つの技能が文字化けしている■■の刻印というものだった。一体何なのかは不明だが、いずれ何か分かる様な気がする。

 

 

「シャドウ、このシルヴィという少女をどうしたいんだ?」

 

「どう、と言われてもな……」

 

 

清水に少女ことシルヴィをどうしたいのかを聞き出すが、まだ明確に決まっていなく答えを出せない状態だった。するとシルヴィは清水に対してこう告げる。

 

 

「…あの、ご主人様」

 

「ご主っ…!?……それって、俺の事か?」

 

「…はい。前のご主人様は悲鳴を聞いて楽しむのが一番価値のある使い方だって言ってました」

 

 

清水はシルヴィにご主人様と言われた事に驚いたが、もっと驚いた事はシルヴィを奴隷として買っていた前の主人が彼女を痛め付けてその悲鳴を娯楽として扱っていた事であった。その主人は既に亡くなっているため俺達でもどうしようもなかったが、シルヴィにとんでもない心の傷を負わせた事に俺は怒りを隠しきれなかったがあまり表に出さず自制し、押さえ込む。雷電の表情を見ていた清水は声をかける事を避け、シルヴィの問いに答えるのだった。

 

 

「…悪いが俺達にはそんな趣味はない。それ以前に、お前はどこに住んでいたんだ?両親は?」

 

「私の家はもうありません。両親も既に死んでいます」

 

「!……すまない。配慮不足だった」

 

「…いえ。私こそ、ご主人様にちゃんと説明していなかったのです。申し訳ございません……」

 

「……その“ご主人様”って呼ぶのは少し勘弁してくれないか?俺とてそう呼ばれるのは正直言ってむず痒い」

 

「では…何と御呼びすればいいのでしょう?」

 

 

そう言われて困惑する清水。本当にどうしたものかと考えている時に清水は雷電とシアの方を見て何かヒントを思いついたのかシルヴィに告げる。

 

 

「ジェダイの真似事ではあるが……“マスター”と呼んでくれ。そっちの方がまだマシだ」

 

「…分かりました。ではマスター、どうかお手柔らかにお願いします」

 

「あぁ。……という訳なんだが、こいつも連れて行けないか?無論こっちが面倒を見る」

 

 

そう清水は言うが、問題はハジメはどう返答するかだった。しかしハジメは意外にもこの様な言葉が出た。

 

 

「……本来なら連れて行くのは反対なんだが、どの道帰る場所がないんじゃ何処に預けても意味ないからな。というか、そいつを放っておくと何処かで知らぬ間に死んでしまう可能性があるな。本当は面倒だが、お前が面倒を見るというのならミュウと一緒に連れて行くとしよう」

 

 

“すまない…”とハジメに礼を言う清水。そうしてミュウとシルヴィは正式に旅の仲間として此方と共に行動する事になった。因みにシルヴィは奴隷としての生活が長かったのか、誰にでも様付けしてしまう様だったので俺達の場合は普通でいいという形でシルヴィと交流するのだった。

 

 

 

それと余談ではあるがミュウがハジメの事をパパ呼びをした事に笑いのツボに嵌まったスコーチをハジメがしばき倒し、ミュウから母親がいる事を告げられてユエとシアは何故かしょぼんとしていた。……シアよ、何故お前までしょぼんとする必要がある?更にはミュウが俺の事を“おじちゃん”と言ってきたのだ。……まぁ精神年齢的にはあっているが、何だろう?若い身体に精神が引っ張られている所為か、頭では理解しているのに何故か納得がいかなかった。それはそうとミュウが俺をおじちゃんと言った時に笑いを噴出してしまったハジメとスコーチは後でしばく(怒)。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちがミュウとシルヴィを連れて行く事になったその同時刻、オルクス大迷宮にて激しい剣戟と爆音、ブラスターによる銃声が響く。

 

 

 

コルトとフォードー率いるARCトルーパー含むクローン・トルーパー四個小隊と勇者組、メルド騎士団を連れ、オルクス大迷宮の八十九層まで進撃したのだった。そして八十九層に存在する魔物の群れの中で体長五十センチ程のコウモリ型の魔物と交戦していた。天之河が率いる前衛組はそのコウモリの魔物の注意を引き、後衛組の魔法詠唱隊は後方で魔法を詠唱し、前衛組を支援する。そしてクローン達もブラスターなどで牽制射撃を行い、コウモリの魔物を攻撃していた。

 

 

「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!“天翔裂破”!」

 

 

聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つ光輝。今まさに襲いかかろうとしていた体長五十センチ程のコウモリ型の魔物は、十匹以上の数を一瞬で細切れにされて、碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

 

「前衛! カウント、十!」

 

「「「了解!」」」

 

 

ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、空を飛び交うコウモリ型の魔物、そして無数の触手をうねらせるイソギンチャク型の魔物。それらが、直径三十メートル程の円形の部屋で無数に蠢いていた。部屋の周囲には八つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。

 

 

 

前衛を務める光輝、龍太郎、雫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられる。何とか後衛に襲いかかろうとする魔物達を、光輝達は鍛え上げた武技をもって打倒し、弾き返していく。

 

 

 

厄介な飛行型の魔物であるコウモリ型の魔物が、前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる“結界師”が城壁となってそれを阻む。

 

 

「刹那の嵐よ、見えざる盾よ、荒れ狂え、吹き抜けろ、渦巻いて、全てを阻め──“爆嵐壁”!」

 

 

谷口鈴の攻勢防御魔法が発動する。呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出て、突き出した両手の先にそよ風が生じた。見た目の変化はない。コウモリ型の魔物達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。

 

 

 

しかし、その手前で、突如、魔物の突進に合わせて空気の壁とでもいうべきものが大きくたわむ姿が現れる。何十匹というコウモリモドキが次々と衝突していくが、空気の壁はたわむばかりでただの一匹も彼等を通しはしない。

 

 

 

そして、突進してきたコウモリモドキ達が全て空気の壁に衝突した瞬間、たわみが限界に達したように凄絶な衝撃とともに爆発した。その発生した衝撃は凄まじく、それだけで肉体を粉砕されたものもいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ! という生々しい音と共にひしゃげて絶命するものいる程だ。

 

 

「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」

 

 

クラスのムードメイカー的存在である鈴の得意気な声が、激しい戦闘音の狭間に響く。と、同時に、前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒すことよりも、衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取ることを重視した攻撃だ。

 

 

「前衛組、後退!」

 

コルトの号令と共に、天之河達前衛組が一気に魔物達から距離を取る。次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。

 

 

 

巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

 

 

 

自然の猛威がそのまま牙を向いたかのような壮絶な空間では生物が生き残れる道理などありはしない。ほんの数十秒の攻撃。されど、その短い時間で魔物達の九割以上が絶命するか瀕死の重傷を負うことになった。

 

 

「よし、いいぞ!残りを一気に片付ける!」

 

「お前たち!このまま一気に押し込むぞ!」

 

 

光輝の掛け声で、前衛組が再び前に飛び出していき、魔法による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一匹一匹確実に各個撃破していった。全ての魔物が殲滅されるのに五分もかからなかった。

 

 

「コマンダー、この階層に敵はいません。今ので全滅し、安全が確保されました」

 

「そうか。…よし、此処で休憩するぞ。一時間後に行動を再開する」

 

 

周囲の警戒を行い、安全を確保した後に勇者組やメルド騎士団、クローン達のペースを考え休憩をとる事にした。

 

 

「ふぅ、次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

 

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

 

「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」

 

「いやっ八重樫の言う通りだ。どんな時であろうと気を抜いてはならない。下手に気を抜いているとやられるのがオチだ」

 

 

そうコルトが指摘する中、衛生兵の役目を務めるクローン・トルーパー・メディックと勇者組の中で唯一の回復担当である香織は戦闘で負傷した皆を治療していた。彼等の存在のおかげで此処まで来れたとも言える。そして、周囲に治療が必要な人がいないことを確認すると、目立たないように溜息を吐き、奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた。その様子に気がついた雫には、親友の心情が手に取るように分かった。香織の心の内は今、不安でいっぱいなのだ。あと十層で迷宮の最下層(一般的な見解)にたどり着くというのにだ。その時にフォードーは白崎の様子が変だと悟ったのか声をかけるのだった。

 

 

「白崎、あと少ししたら出発する。今の内に休んでおく様に」

 

「あっ…フォードーさん」

 

「……やはり将軍等が気になるのか?」

 

「……はい。南雲くん達が生きていることを知って良かったです。でも……その度に私、不安になるんです」

 

「…将軍等がこの迷宮で力尽きていないかどうかか?」

 

 

そうフォードーが言うと香織は図星を突かれた様な感じで口を閉じた。流石に口が過ぎたと感じたフォードーは香織に謝罪する。

 

 

「……すまなかった。今のは配慮が足りていなかった」

 

「ううん、大丈夫です。私は信じてるんです、南雲くん達がきっと脱出できて私たちとまた出会えることを……」

 

 

“そうか…”と言葉を残し、その場をあとにする。そして一時間が経過し、休憩を終えたあとに九十層へと続く道を捜索し、十分も経たずに発見する。九十層に何が待ち構えているのか不明である為に先にコルト率いるACRトルーパー部隊が先行するのだった。

 

 

 

そうして九十層に到達したコルト達はある違和感を覚える。一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していたのだが、見た目、今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。探索は順調だった。……いやっ順調すぎた。これがコルトが感じていた違和感の正体だった。

 

 

「……どうなってる?まるで空き家みたいだ」

 

「コマンダー、これは細心の注意を払いつつ行動した方がよろしいかと……」

 

「そうだな。…第一、第二分隊は俺と共にこのエリアの探索と同時に警戒。残りの部隊はフォードーと共に学生達の護衛に回れ」

 

 

コルトはクローン達に指示を出したあとに二個分隊を率いて探索を行う。かなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、先行しているコルト達のあとに続いて来た光輝達はここで不可解さが頂点に達し、表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。他のメンバーも同じように困惑していたので、光輝の疑問に同調しつつ足を止める。

 

 

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

 

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。今までなら散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。ワンフロアを半分ほど探索するのに平均二日はかかるのが常であったのだ。にもかかわらず、コルト達や光輝達がこの九十層に降りて探索を開始してから、まだ三時間ほどしか経っていないのに、この進み具合。それは単純な理由だ。未だ一度もこのフロアの魔物と遭遇していないからである。

 

 

 

最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔法を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。明らかな異常事態である。

 

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

 

龍太郎と同じように、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかるはずもない。困惑は深まるばかりだ。

 

 

「……光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

 

雫が警戒心を強めながら、光輝にそう提案した。光輝も、何となく嫌な予感を感じていたので雫の提案に乗るべきかと考えたが、何らかの障碍があったとしてもいずれにしろ打ち破って進まなければならないし、八十九層でも割りかし余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかと考えて、答えを逡巡する。

 

 

 

光輝が迷っていると、不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

 

「これ……血……だよな?」

 

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

 

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

 

表情を青ざめさせるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせる。そして、指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認した。

 

 

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

 

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

 

光輝の反論に、永山は首を振る。永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。その永山が、臨戦態勢になりながら立ち上がると周囲を最大限に警戒しながら、光輝に自分の考えを告げた。

 

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

 

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

 

あとを継いだ雫の言葉に永山が頷く。光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じように険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

 

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 

「ここが終着点という事さ」

 

 

光輝の言葉を引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。光輝達は、ギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

 

 

 

コツコツと足音を響かせながら、広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

 

 

 

光輝達が驚愕したように目を見開く。女のその特徴は、光輝達のよく知るものだったからだ。実際には見たことはないが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……

 

 

「……魔人族」

 

 

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。その時にコルト達はその魔人族の女やこの場にいないもう一つの存在に警戒していた。そしてコルトはプライベート通信でフォードーに連絡を入れ、遠藤を連れてハイリヒ王国から援軍を要請してもらう様に指示を出すのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホルアドでの再会と義理果たし

何とか連続投稿に間に合った……(汗)


45話目です。


 

 

ミュウとシルヴィを旅に連れて行く事を決定した俺達は、それぞれ乗り物に乗ってグリューエン大火山に向かうのだった。因みにハジメが運転するブリーゼにはユエ、ミュウ、清水、シルヴィ、ティオの計六名が乗っていた。デルタ分隊はサイドカー付きのスピーダー・バイクで移動しており、そしてシアと雷電はというと……

 

 

「おいバカッ…!?スピード落とせ!!」

 

「ヒャッハー!ですぅ!!」

 

 

ハジメから借りたシュタイフをシアが運転し、雷電は後部座席で座ってシアに掴まりながらもシアの爆走に振り回されていた。どうしてこうなったと清水が俺に聞き出す。

 

 

「ハジメ……雷電ならまだしも、なんでシアがシュタイフを運転してるんだ?」

 

「ブリーゼより風を感じられて気持ちいいんだとよ。ついでに言えば、雷電が万が一の事を想定してなのかシアにシュタイフの運転技術を上げるのが目的だと言っていたからな」

 

 

その結果がコレという形でシアが運転しているのだった。雷電はシアのアクロバティックな運転に振り回されていた。俺としてはシアがなんでいきなり俺より乗りこなしているのか疑問に思ったが、それもフォースによる恩恵だと思うのだった。シアのシュタイフの運転を見ていたミュウは大きな瞳をキラキラさせる。そして、ハンドルを握りながら逆立ちし始めたシアを指差し、ハジメにおねだりを始めた。

 

 

「パパ!パパ!ミュウもあれやりたいの!」

 

「ダメに決まってるだろ」

 

「やーなの!ミュウもやるの!」

 

「暴れちゃメッ!」

 

「ミュウちゃん……やりたい気持ちは分かりますが、流石に危ないですから駄目です」

 

 

ユエとシルヴィにお叱りを受けてたミュウは“うぅ~”と可愛らしい唸り声を上げながら、しょぼくれるミュウにハジメが仕方ないなぁ~という表情をする。

 

 

「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」

 

「ふぇ? いいの?」

 

「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」

 

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

 

「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ」

 

 

二輪のハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシア。そんなジョ○ョ的な香ばしいポーズをとる彼女にジト目を向けながら、ハジメはミュウに釘を刺す。見てないところでシアに乗せてもらったりするなよ?と。その時に雷電が堪忍袋の尾が切れたのか、隙を見てシアにげんこつを叩き込み、直ぐざにシアと入れ替わる様に運転席に座り、代わりに運転するのだった。シアの事は雷電に任せても大丈夫だろうと思いつつも、俺は今度ミュウと一緒に乗る場合の事でミュウ用にシュタイフの改造案を考えるのだった。

 

 

「…となると二輪は危ないからな。二輪用のチャイルドシートが必要だな。ボディはアザンチウム鉱石にして…錬成方法は…」ブツブツ……

 

「ご主人様は意外に子煩悩なのじゃな。その上で妾への扱いを考えるとこれはなかなか……」

 

「ユエお姉ちゃんにシルヴィお姉ちゃん、シャドウお兄ちゃん……なんかみんな変なの…」

 

「えっと……あの………」

 

「流石の俺でもノーコメントとしか言いようがない」

 

 

ミュウと旅し始めて少し経つが、既に“パパ”という呼び名については諦めているハジメ。当初は、何が何でも呼び名を変えようとあの手この手を使ったのだが、そうする度に、ミュウの目端にジワッと涙が浮かび、ウルウルした瞳で“め、なの?ミュウが嫌いなの?”と無言で訴えてくるのだ。奈落の魔物だって蹴散らせるハジメだが、何故かミュウにはユエと同じくらい勝てる気がしなかった。結局、なし崩し的に“パパ”の呼び名が定着してしまった。

 

 

 

“パパ”の呼び名を許容(という名の諦め)してからというもの、何だかんだでミュウを気にかけるハジメ。今では、むしろ過保護と言っていいくらいだった。シアは残念ウサギだし、ティオは変態だし、雷電は怒らせると怖ぇし、清水は何かと厨二くさい(ブーメラン)し、母親の元に返すまでミュウは俺が守らねば!とか思っているようだ。世話を焼きすぎる時は、むしろユエと雷電がストッパーになってミュウに常識を教えるという構図が現在のハジメ達だった。

 

 

 

グリューエン大火山に向かっている最中、俺はある町と大迷宮の入り口を見つける。

 

 

「!あれは…」

 

「どうしたの?」

 

「オルクス大迷宮の入り口だ。ホルアドもすぐそこだ。思えば、ここから始まったんだな」

 

 

グリューエン大火山に向かおうとしたが、ここで少し寄り道しても問題ないだろうと思い、雷電に一旦寄り道すると伝えると、雷電もちょうど町なんかで休みたかった様だ。シアの激しい運転に振り回されたんだ、そりゃ休みたいだろう。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメが宿場町ホルアドに一旦寄ると言った時、俺は懐かしさを感じた。元を辿れば全てはここから始まったのだ。俺とハジメがオルクス大迷宮の奈落に落ちて以来、ここで色々と変わったのだ。この迷宮でユエと出会い、俺達の最終目的でもある元いた世界の帰還の為に俺達は他の解放者が創りし大迷宮を攻略する事になったのだ。

 

 

 

そして俺達はこのホルアド()でオマケ程度にぶらりと歩き回る事にしたのだった。その時にミュウを肩車で乗せているハジメと俺は当時泊まっていた宿を見つけ、懐かしむのだった。……そう言えばコルトやフォードーに連絡を入れてなかったな?そんなハジメの様子に気がついたようで、不思議そうな表情をしながらミュウはハジメのおでこを紅葉のような小さな掌でペシペシと叩く。

 

 

「パパ? どうしたの?」

 

「ん?…あ~、いや、前に来たことがあってな……まだ四ヶ月程度しか経ってないのに、もう何年も前のような気がして……」

 

「それだけ色々な事があったからな。ファースト・オーダーといい、あの尋問官といい……な?」

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

複雑な表情をするハジメの腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。ハジメは、肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

 

「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして雷電と共に落ちた」

 

「……」

 

 

ある意味運命の日とも言うべきあの日のことを思い出し独白をするハジメの言葉を、神妙な雰囲気で聞くユエ達。ユエは、ジッとハジメを見つめている。ティオが、興味深げにハジメに尋ねた。

 

 

「ふむ。ご主人様は、やり直したいとは思わんのか?元々の仲間がおったのじゃろ?ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい?仲の良かったものもいるのではないか?」

 

 

ティオは、まだハジメ達と付き合いが浅いため、時折、今のようにハジメ達の心の内を知ろうと、客観的に見ればかなりストレートな、普通なら気を遣ってしないような質問をする。それは、単なる旅の同行者ではなく、ティオ自身がきちんとハジメ達の仲間になりたいと思っているが故の彼女なりの努力だ。手に余る変態ではあるが、其の辺の在り方はハジメの好みだった。

 

 

 

なので、特に気を悪くすることもなく、ハジメはティオの質問を受け止める。そして、ふと、月明かりに照らされた真夜中のお茶会を思い出した。まずい紅茶モドキに、白いネグリジェ、月の光を反射して輝く黒髪、自分を守ると誓った女の子、最後の瞬間、悲痛な表情で仲間に羽交い絞めにされながらも自分に向かって手を伸ばしていたあの子……

 

 

 

不意に、自分の腕に触れる手に力が込められるのを感じてハッと我を取り戻すハジメ。見れば、ユエが揺らがぬ強い眼差しで真っ直ぐにハジメを見つめており、触れている手はギュッとハジメの袖を握りしめていた。

 

 

 

ハジメは、そんなユエと目を合わせると、ふっと目元を和らげて優しい眼差しで同じくジッと見つめ返した。

 

 

「確かに、そういう奴等もいたな……でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」

 

「ほぅ、なぜじゃ?」

 

ハジメの様子を見れば答えは自ずとわかるものだが、ティオは、少し面白そうな表情であえて聞いた。ハジメは、ユエから目を離さないまま、自分を掴むユエの手に自らの反対側の手を重ねて優しく握り締める。ユエの表情が僅かに綻ぶ。頬も少し赤く染まっている。

 

 

「もちろん……ユエに会いたいからだ」

 

「……ハジメ」

 

 

ホルアドの町は、直ぐ傍にレベル上げにも魔石回収による金稼ぎにも安全マージンを取りながら行える【オルクス大迷宮】があるため、冒険者や傭兵、国の兵士がこぞって集まり、そして彼等を相手に商売するため多くの商人も集まっていることから、常時、大変な賑わいを見せている。当然、町のメインストリートといったら、その賑わいもひとしおだ。

 

 

 

そんな多くの人々で賑わうメインストリートのど真ん中で、突如立ち止まり見つめ合い出すハジメとユエ。周囲のことなど知ったことかと二人の世界を作って、互いの頬に手を伸ばし、今にもキスしそうな雰囲気だ。好奇心や嫉妬の眼差しが二人にこれでもかと注がれ、若干、人垣まで出来そうになっているが、やはり、ハジメとユエは気がつかない。お互いのことしか見えていないようである。

 

 

「オーオー、ものすごく甘くて胸焼けしそうなバカップルなこって……」

 

「将軍……ここに苦い飲み物とかは売っていませんでしたか?」

 

「……甘ったるい」

 

「我慢しろ……とは言わないが、流石の自分でもこれにはな……」

 

「えっと……マスター。これが愛する者同士の会話でしょうか?」

 

「そういうのは俺でも未経験だから何とも言えん。しかし、デルタの言う通り甘ったるいな……」

 

 

それぞれハジメとユエのバカップルぶりにデルタ分隊は呆れと甘ったるさに困り果て、シルヴィは愛する者同士の会話に少し興味を持っていた。その主人となった清水はデルタと同様に呆れと甘ったるさに困っていた。そして俺とシアは……

 

 

「いつしか私もマスターと一緒に……うぇへへ…」

 

「シア……今のお前少し怖いぞ?」

 

 

シアは俺の事を思っているのは分かるが、流石に度が過ぎるとこっちは困るのだが……?そんなこんなでこの町のギルド“ホルアド支部”にイルワさんから預かっている手紙を手渡す為に訪れるのだった。相変わらずミュウを肩車したまま、ハジメはギルドの扉を開ける。他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。重苦しい音が響き、それが人が入ってきた合図になっているようだ。

 

 

 

前回、ハジメがホルアドに来たときは、冒険者ギルドに行く必要も暇もなかったので中に入るのは今回が初めてだ。ホルアド支部の内装や雰囲気は、最初、ハジメが抱いていた冒険者ギルドそのままだった。

 

 

 

壁や床は、ところどころ壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かのシミがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。内部の作り自体は他の支部と同じで入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。しかし、他の支部と異なり、普通に酒も出しているようで、昼間から飲んだくれたおっさん達がたむろしていた。二階部分にも座席があるようで、手すり越しに階下を見下ろしている冒険者らしき者達もいる。二階にいる者は総じて強者の雰囲気を出しており、そういう制度なのか暗黙の了解かはわからないが、高ランク冒険者は基本的に二階に行くのかもしれない。

 

 

 

冒険者自体の雰囲気も他の町とは違うようだ。誰も彼も目がギラついていて、ブルックのようなほのぼのした雰囲気は皆無である。冒険者や傭兵など、魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が自ら望んで迷宮に潜りに来ているのだから気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろう。

 

 

 

しかし、それを差し引いてもギルドの雰囲気はピリピリしており、尋常ではない様子だった。明らかに、歴戦の冒険者をして深刻な表情をさせる何かが起きているようだ。俺達が足を踏み入れた瞬間、冒険者達の視線が一斉に俺達を捉える。その眼光のあまりの鋭さに、ハジメに肩車されるミュウが“ひぅぅぅ!”と悲鳴を上げ、ヒシ!とハジメの頭にしがみついた。冒険者達は、美女・美少女に囲まれた挙句、幼女を肩車して現れたハジメに、色んな意味を込めて殺気を叩きつけ始める。

 

 

「おい坊ちゃん共、ここには女を侍らせたヤツが来る場所じゃねぇんだよぶっ飛ばされる前に失せな」

 

 

ますます、震えるミュウを肩から降ろし、ハジメは、片腕抱っこに切り替えた。ミュウは、ハジメの胸元に顔をうずめ外界のあれこれを完全シャットアウトした。

 

 

「パパ…」

 

「すぐ終わるからな、ちょっと目瞑ってろ」

 

「はぁ……ハジメ、程々にな?」

 

 

何かとこの後の展開が読めた俺はハジメにやり過ぎない様に釘を刺すが、それも無意味に終わると理解しながらも目の前にいる冒険者達に内心合掌する。その冒険者の中ではハジメが死ぬかどうかの賭け事をしていた。今の状況を理解してない者にとってどれだけ能天気なのか呆れる他になかった。

 

 

「おいクソガキ共。返事くらいちゃんとしようぜ。オルクス大迷宮二十階層をクリアした“紫”ランクのアテウ・マデス様を知らねえのか?」

 

 

そう名乗っている様だが、ハジメにとっては如何でもいいことだった。最近めっきり過保護なパパになりつつあるハジメが、仮とは言え娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、ハジメの額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウをなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 

 

 

そして……

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、ハジメ達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。先程、冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思えるほど絶大な圧力。既に物理的な力すらもっていそうなそれは、未熟な冒険者達の意識を瞬時に刈り取り、立ち上がっていた冒険者達の全てを触れることなく再び座席につかせる。

 

 

 

ハジメのプレッシャー〝威圧〟と〝魔力放射〟を受けながら意識を辛うじて失っていない者も、大半がガクガクと震えながら必死に意識と体を支え、滝のような汗を流して顔を青ざめさせている。……やれやれ、結局こうなったか。

 

 

 

と、永遠に続くかと思われた威圧がふとその圧力を弱めた。その隙に止まり掛けていた呼吸を必死に行う冒険者達。中には失禁したり吐いたりしている者もいるが……そんな彼等にハジメが言葉を放つ。

 

 

「笑え」

 

「…え?」

 

「笑えと言ったんだ、ついでに手をふれ。お前等のせいで家の子がおびえてんだよ。トラウマになったらどうする気だ?ア”ァ”?責任とれって言ってんだよ、お”い”?」

 

 

だったら、そもそもこんな場所に幼子を連れてくるなよ!と全力でツッコミたい冒険者達だったが、化け物じみた相手にそんな事言えるはずもなく、戸惑っている内にハジメの眼光が鋭くなってきたので、頬を盛大に引き攣らせながらも必死に笑顔を作ろうとする。ついでに、ちゃんと手も振り始めた。

 

 

 

こわもてのガタイのいい男達が揃って引き攣った笑みを浮かべて小さく手を振る姿は、途轍もなくシュールだったが、やはり、そんな事はお構いなく、ハジメは満足そうに頷くと胸元に顔を埋めるミュウの耳元にそっと話しかけた。

 

 

「ミュウ、目開けていいぞ」

 

 

そう言われてミュウはおずおずと顔を上げると、ハジメを潤んだ瞳で見上げる。そして、ハジメの視線に誘われてゆっくり振り向いた。そこには当然、必死に愛想を振りまくこわもて軍団。

 

 

「ひうううー!」

 

 

案の定、ミュウは怯えてハジメの胸元に逆戻りした。眉が釣り上がるハジメ。眼光の鋭さが増し、“どういうことだ、ゴラァ!!”と冒険者達を睨みつける。“無茶言わないでください!!”と泣きそうな表情になってツッコミを入れる冒険者達は、ハジメによって全員床に犬神家状態で埋め込まれる様に叩き付けられ再起不能になる。ハジメの親バカぶりを見て既に手遅れの類だと悟った俺は何も言えなかった。

 

 

 

ハジメはギルドの受付嬢にギルド内で騒いだ事を謝罪しながらも手紙を手渡すのだった。

 

 

「ここの支部長と会いたい。フューレンのギルド支部から手紙を預かっている」

 

「支部長からの直接の依頼ということですか?」

 

「あぁ、その為に来た」

 

「ステータスプレートを拝見しても良いでしょうか」

 

 

そうしてハジメは自身のステータスプレートを受付嬢に手渡し、そのステータスプレートを確認する受付嬢はランクの方に目を向けると驚きを隠せずに声を出す。

 

 

「え?金ランク!?」

 

 

それを聞いた他の冒険者は一瞬ざわつく。冒険者において“金”のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、“金”のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての“金”ランク冒険者を把握しており、俺達のこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった様だ。それでも仕事を全うする様に受付嬢はすぐさま気持ちを切り替え、確認不足であった事を謝罪する。

 

 

「も…申し訳ありません!大切な情報を…!」

 

「別にいいから支部長に取り次いでくれるか?」

 

「応接室へご案内します、こちらへどうぞ!」

 

「どんどん有名になっていく…」

 

「もう気にしてねぇよ」

 

「そうだな。余り気に過ぎたらこっちも気が参るからな?」

 

 

そうして俺達は受付嬢の案内の下、応接室の扉まで来た。その時に応接室には先客がいたのかやけに騒がしかった。

 

 

「何か応接室の方……やけに騒がしいな」

 

 

ハジメがそう呟いた瞬間、扉が開き、そこから見知った二人の人物が出て来た。

 

 

「金ランク!どこだ!」

 

「落ち着け遠藤!今慌てて出ても……!?」

 

「…遠藤?」

 

「キャプテン・フォードー?」

 

 

ここらでまさか同じクラスの遠藤とARCトルーパーのフォードーと再会するとは思いもしなかった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

金ランクの冒険者が来ていると聞いた遠藤が飛び出てしまい、私が遠藤を止めようとした時にまさかホルアド支部で将軍等と合流出来るとは思いもしなかった。

 

 

「お前…遠藤か?」

 

「!今の声…南雲!?それに藤原も!生きていたのか!?」

 

「…久しぶりだな」

 

「声が聞こえるのに姿が見えねぇ!生きてんなら出てきやがれ!」

 

 

あまりの慌てように周りが見えてないのか遠藤は今目の前にいるハジメを直視できていなかった。それに苛立ったのかハジメは“目の前にいるだろうがドアホ”と遠藤のケツを蹴り上げる。

 

 

「うわっ!?…は!?お前が南雲なのか!?」

 

「世界一影の薄いお前に気付かれないとか笑えねえよ」

 

「薄くないわ!自動ドアだって三回に一回は開いたぞ!」

 

「それ殆ど自分は影が薄いっているのと同義だぞ?それはそうと、久しぶりだなフォードー」

 

「ハッ!無事にご帰還なされて良かったです。その様子だとオルクス大迷宮を無事に攻略出来たと思えますが?」

 

 

“そういう事になるな”と将軍が返したところで遠藤は漸く将軍の事を直視で確認出来る様になった。しかし遠藤にとっては前の将軍達とは打って変わって見た目がまるで別人になっていた。

 

 

「幾ら何でも変わり過ぎだろ?見た目とか、口調とか、もはや別人だぞ」

 

「奈落の底から這い上がって来たんだ。多少変わるだろ」

 

「いや多少って……普通そういうものなのか?」

 

「さあな?……それよりもフォードー、遠藤の慌てようから察するにお前たちに何かあったのか?」

 

 

そう将軍に言われて私は再会を喜んでいる時間は無いと内心気持ちを切り替え将軍等に説明を行う。そして自分たちが今置かれている状況を思い出した遠藤は南雲達に助けを求める。その時にこのホアルド支部の支部長“ロア・バワビス”も私達の話に参加するのだった。

 

 

 

今から数十分前、九十階層に進んでいたコルト達はそこで魔人族とその配下の魔物達と遭遇した。コマンダー・コルトはその魔人族を警戒して私に遠藤を連れてハイリヒ王国から援軍を要請してもらう為に指示を出し、私は遠藤援をつれて援軍を要請の為に迷宮から脱出し、ギルドを通してハイリヒ王国に援軍を要請しようとした矢先に偶然将軍等と合流したのだ。

 

 

「……なるほど、今現在コルト達が魔人族と魔物達と交戦しているという事だな?」

 

「はい。…しかし、その際にメルド騎士団にも被害が出ている分、兄弟達や勇者組の学生達も危険です」

 

「……だとしてもだ。魔人族の従える魔物はそこまで脅威ではなかったはず。これが事実なら魔人族との戦争に影響が出るぞ。勇者達も助けたいが八十九階層等辿り着く事すら不可能だ…」

 

 

真面目な話をしている最中、ハジメが抱えている少女はギルドが用意してくれた菓子をモキュモキュと食べていた。ハジメが子供を連れている事に関してはシュールとも言える中、遠藤は流石にツッコミを入れるのだった。

 

 

「…つーか何なんだよその子!?この状況を理解してんのかよ!?」

 

「ひぅ!パパぁ!」

 

「てめぇ…何家の子に八つ当たりしてんだ、あ”ぁ”?殺すぞ…!」

 

「ひぃっ!」

 

「落ち着けよハジメ。それと遠藤、この子はまだ幼いんだからその辺は大目に見といてくれ」

 

 

ハジメに抱きかかえられている子はどうやら訳ありの子供の様だ。将軍も将軍で何気に苦労している事を理解した。

 

 

「ハジメ……すっかりパパ」

 

「さり気なく“家の子”って言ってますね」

 

「はてさて、ご主人様は子離れ出来るのかのぉ?」

 

「どうだが……案外離れるのが恋しい可能性もあるな」

 

 

将軍等の仲間がそれぞれハジメの様子にコメントする中、ロア支部長から将軍等に依頼を頼もうと口を開く。

 

 

「ナグモにフジワラ、イルワからの手紙は読ませてもらった。随分と大暴れした様だな?」

 

「…全部成り行きだけどな」

 

「特にフジワラが召喚した六千の軍勢でおよそ六万以上の魔物や、謎の軍勢を殲滅。半日でフューレン最大の裏組織を壊滅。実はお前たちが魔王だと言われても不思議に思わんぞ。それが本当なら、俺からの依頼を受けてほしい」

 

「魔王……か。俺の場合はどちらかというとその魔王側近の騎士と言った感じか?噂的に考えて……」

 

「魔王ねぇ……まぁ、やり過ぎた感は何度かあったからな。そんで、依頼からして勇者達の救出か?」

 

「そういう事だ」

 

 

将軍等がどうするかと考えている最中、遠藤は救出という言葉を聞いてハッと我を取り戻す。そして、身を乗り出しながら、ハジメに捲し立てた。

 

 

「南雲、一緒に行こう!お前がそんなに強いならきっと助けられる!」

 

「………」

 

 

見えてきた希望に瞳を輝かせる遠藤だったが、ハジメの反応は芳しくない。遠くを見て何かを考えているようだ。遠藤は、当然、ハジメが一緒に救出に向かうものだと考えていたので、即答しないことに困惑する。

 

 

「天之河達が死にかけてるかもしれないんだぞ!?何迷ってんだよ、仲間だろ!?」

 

「……仲間?」

 

 

ハジメは、考え事のため逸らしていた視線を元に戻し、冷めた表情でヒートアップする遠藤を見つめ返した。その瞳に宿る余りの冷たさに思わず身を引く遠藤。先程の殺気を思い出し尻込みするが、それでも、ハジメという貴重な戦力を逃すわけにはいかないので半ば意地で言葉を返す。

 

 

「あ、ああ。仲間だろ!なら、助けに行くのはとうぜ……」

 

「──勝手に、お前等の仲間にするな。はっきり言うが、俺がお前等にもっている認識は唯の〝同郷の人間〟であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

 

「なっ!? そんな……何を言って……」

 

 

ハジメの予想外に冷たい言葉に狼狽する遠藤を尻目に、ハジメは、先程の考え事の続き、すなわち、光輝達を助けることのデメリットを考える。ハジメ自身が言った通り、ハジメにとってクラスメイトは既に顔見知り程度の認識だ。今更、過去のあれこれを持ち出して復讐してやりたいなどという思いもなければ、逆に出来る限り力になりたいなどという思いもない。本当に、関心のないどうでもいい相手だった。

 

 

 

ただ、だからといって問答無用に切り捨てるのかと言われれば、答えはNOだ。なぜなら、その答えは雷電の存在……というより、雷電のお人好しに伝染してしまったからだと思う。それに、ハジメはあの月下の語らいを思い出していた。異世界に来て“無能”で“最弱”だったハジメに“私が、南雲君を守るよ”と、そう言った女の子。結局、彼女の感じた不安の通りにハジメと雷電は無茶をして奈落へと消えてしまった。彼女の不安を取り除くために“守ってもらう”と約束したのに、結局その約束は果たされなかった。あの最後の瞬間、奈落へ落ち行くハジメに、壊れそうなほど悲痛な表情で手を伸ばす彼女の事を、何故かこの町に戻ってきてから頻繁に思い出すハジメ。

 

 

「…ただ、義理を果たしたい相手はいる。遠藤、白崎はまだ無事だったか?」

 

「あ…あぁ無事だ。お前たちが落ちてからマジで頑張って、回復魔法が超すげぇんだ」

 

 

“そうか…”と一言いったあと、ハジメは雷電の方を見た。

 

 

「…雷電、どうせお前の事だから俺が断ったとしても天之河達とかクローン達とか関係無く助けに向かうつもりだったんだろ?」

 

「そのつもりだ。どの道お前は義理を果たす為に向かうつもりだったんだろ?」

 

「どっかのお人好しに伝染した所為でな。ユエ、悪いが俺のわがままに付き合ってくれないか?」

 

「私はどこでもついて行く」

 

「ミュウも!ミュウもついていくの!」

 

「私もです!」

 

「もちろん妾もじゃぞ」

 

「俺の記憶に関係する連中がいるんだったら話は別だな。俺も行くぞ」

 

「デルタ分隊も参加する」

 

 

全員一致で将軍等はコルト達の救出に向かう事になった。因みにシルヴィは非戦闘員の為、将軍は新たにクローン・トルーパー一個分隊を召喚し、彼女の護衛に付かせて将軍等の帰りを待たせることになった。そして勇者、クローン部隊救出の際に将軍は新たにクローン・コマンドー分隊を召喚するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔人族と勇者の愚行

久しぶりに一万文字を超えるほど書き込んで結構疲れた作者です。


46話です。


 

 

キャプテン・フォードーと遠藤がハイリヒ王国に援軍要請に向かってからかなり劣勢の状況に立たされていた。魔人族が従える魔物達の強さといい、魔人族が詠唱する石化魔法によってコマンダー・コルトを含むクローン部隊の二個小隊が全滅し、一個小隊がほぼ壊滅状態になっていた。メルド団長率いる騎士団にも被害が出ていた。アランという騎士が魔人族が従える魔物に敗北して死亡し、メルド団長も戦闘の最中で深手を負い、敵に捕らわれていた。そして天之河達にも被害が出ており、結界役の谷口が魔物の不意打ちによって大怪我を受けてしまったのだ。

 

 

 

何故この様な状況になってしまったのかというと、時間は数十時間前に遡る。

 

 

 

数十時間前……

 

 

 

コルトは目の前の魔人族や魔物達の存在にかなり危険視していた。ジャンゴ・フェットの遺伝子というより、戦いの勘がそう告げているのだ。彼等(勇者)を守りながら戦えば確実に被害が出る事は明確だった。この時にコルトはプライベート通信でフォードーに連絡を入れる。

 

 

《コマンダー、どうなされましたか?》

 

「フォードー、緊急事態だ。九十階層で魔人族と接敵した。お前は遠藤と共にこの迷宮から脱出し、王国に救援要請しに向かってくれ」

 

《…!イエッサー、直ちに!》

 

 

フォードーとの通信を終えた後にコルトは魔人族の方を見た。瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。体にピッタリと吸い付くようなデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだった。しかも、胸元は大きく開いており、見事な双丘がこぼれ落ちそうになっている。また、前に垂れていた髪を、その特徴的な僅かに尖った耳にかける仕草が実に艶かしく、そんな場合ではないと分かっていながら幾人かの男子生徒の頬が赤く染まる。対してクローン達は兵士としてのメンタルが強い影響かあまり興味を持たず、寧ろ警戒していた。

 

 

 

魔人族の女の方は先に仕掛けてくる様子は無い。寧ろ、何かと俺達をじっくり観察している様子だった。その時に魔人族の女は天之河の方に目を向ける。

 

 

「勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

 

「あ、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!」

 

「いちいち反応するな天之河。……質問を質問で返して悪いが、魔人族のお前は一体何をしに来たんだ?」

 

 

あまりと言えばあまりな物言いに軽くキレる天之河。それに合わせてコルトは魔人族の女に目的を問いただした。しかし、魔人族の女は煩そうに天之河の怒りを無視し、心底面倒そうに言葉を続け、コルト達に話す。

 

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……白い鎧を着た連中以外は?……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、なに?来ないかって……どう言う意味だ!」

 

「文字通りだ、天之河。あの魔人族はどうやらお前たちをハイリヒ王国から魔人国に引き入れるつもりで勧誘している。もっとも、本人は嫌そうではあるがな…」

 

「あんた、呑み込みが良いね。そっちの呑み込みが悪いね勇者と違ってね?あんたの言う通り、そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?無論、白い鎧を着たあんた等もね?」

 

 

天之河達としては完全に予想外の言葉だったために、その意味を理解するのに少し時間がかかった。しかし、軍人であるコルトはその意味を完全に理解していたため答えを出した。

 

 

「悪いが、俺達が忠誠を誓っているのは共和国だ。お前の勧誘は断らせてもらう」

 

「俺もコルトと同じだ!人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

 

天之河の言葉に、安心した表情をするクラスメイト達。天之河なら即行で断るだろうとは思っていたが、ほんの僅かに不安があったのは否定できない。もっとも、龍太郎や雫など幼馴染達は、欠片も心配していなかったようだが。しかし、コルト達は違った。

 

 

「天之河、お前たちはこの迷宮から脱出しろ」

 

「なっ…!?何を言ってるんですか!相手は魔人族一人、こちらの方が……」

 

「いいから退け!!向こうは何の用意も無しに此処にいる訳ではないんだ!お前が俺の命令を拒んでも強制的に退かせる!第一、第二分隊、学生達を迷宮から脱出させろ!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

「ま…待てっ!魔人族相手に何を……!?」

 

 

天之河の反論すら聞かず、フォードー率いるクローン達に天之河達を連れて迷宮から脱出するよう指示を出す。そしてクローン達も天之河達を連れて迷宮から脱出を図る。それを魔人族の女は追撃もせず、ただ黙ってみていた。そのことに疑問に思ったコルトは魔人族に問いかける。

 

 

「……何故追撃して来なかった?あのタイミングなら追撃できた筈だ」

 

「まぁ…あたしとしてはあの勇者達がどうなろうと知ったことじゃないんだけどね?それはそうと目的はあの勇者もそうだけど、あんた等も勧誘対象に入ってるのさ。一応聞くけど、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

 

「……前にも言ったが俺達クローンは共和国に忠誠を誓っている。勧誘は諦めるんだな?」

 

 

コルトの言葉を皮切りに残りのクローン・トルーパー二個小隊がコマンダー・コルトの下に集まり、戦闘態勢を取る。

 

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応言っておくけど……あんた等の勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね」

 

「俺達は戦う為に造られた存在。戦いで死ぬのなら、兵士として本望さ」

 

「そうかい……ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 

魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、バリンッ!という破砕音と共に、一部のクローン達が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった。

 

 

「…っ!お前たち、何としても彼等が脱出するまでここで時間を稼ぐぞ!!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

こうしてコルト率いるクローン・トルーパー二個小隊は魔人族が従える魔物達と交戦するのだった。己の命を引き換えに……

 

 

コルトSide out

 

 

 

天之河達がクローン達に連れられて八十九階層付近に到着した際にメルド団長率いる騎士団と合流した時に他の魔物と待ち伏せ受ける。その待ち伏せした魔物達を蹴散らした天之河達。しかし、雫達はかなり魔力と体力を消耗していて危険だった。その時に魔法詠唱隊に土壁を作り、そこで治療や休憩を数時間取りつつもフォードーはメルドに遠藤を連れて王国に救援を要請してくると告げる。

 

 

 

メルド団長達としては救援に来られるとは思っていない。しかし、それしか助かる方法はないと判断し、メルド団長はフォードーに遠藤を託して騎士達は天之河達を守る為に護衛に入る。その際にコルトがいないことに気付いたメルド団長はクローン・トルーパーのイザナミにコルトは何処にいるのかを聞き出す。

 

 

「イザナミ、コルトはどうした!?」

 

「コマンダー・コルトは二個小隊を率いて魔人族とそれに従う魔物達を足止めしています!しかし、敵は強力な故に突破されるのは時間の問題かと……」

 

 

コルトが時間稼ぎの為に足止めをしていることを聞いたメルドは悟った。コルト達は自分の命を引き換えに魔人族を足止めしているということを。これ以上の事をメルドは聞かなかった。彼の死を無駄にしない為に。

 

 

「どうやらここにいたようね?」

 

 

すると声が響き渡り、その声がする方に向けると、そこにはコルト達と交戦していた筈の魔人族の女がコルトのヘルメットを持ってここに来た。魔物達を引き連れて……

 

 

「そのヘルメット……コマンダー・コルトのか!?」

 

「あぁ、あいつには手を焼かされたよ。なかなか粘るもんだからね?」

 

 

そういって魔人族の女はコルトのヘルメットをクローン達の方に投げる。イザナミはそっとコマンダー・コルトのヘルメットを回収する。クローン達は魔人族の女に怒りを覚えるが自制し、冷静に状況を判断する。しかし、クローン達以外に例外がいた。

 

 

「…っ!貴様ァー!!」

 

 

それは天之河だった。コルトとはあまり良く思っていなかったが、それでも仲間として殺されたことに撃昴し、魔人族に切り掛かる。体力がまだ完全に回復し切れてない状態で……

 

 

「「「光輝(くん)!?」」」

 

「おいっバカ!?迂闊に突出するな!!トルーパー、あの馬鹿の援護!メルド騎士団も援護を頼む!」

 

「分かってる!もうこれ以上、死なせるものか!」

 

 

そうして天之河の愚行の所為で疲弊した状態のまま魔人族と交戦することになった。フォードー達が援軍を連れてくるまで持ちこたえなければならない。

 

 

 

そして今現在に至る。

 

 

 

クローン達の鎧も所々傷だらけであったが、戦闘続行するには支障は無かった。しかし、天之河達は完全に危険だった。肝心の天之河はメルド同様に別の魔物に捕まってしまっている。

 

 

「勇者くんは本当に期待外れだよ。こうも単機で突っ込んでこんな手に引っかかるなんてね?それに対して白い鎧を着た連中……“クローン”だってね?人間の複製なんてある意味、人間の方が魔物を造っている様に見えるね?まぁ…兵士としては一級品だけどね?」

 

「くそっ!光輝ッ!!」

 

「雫ちゃん…光輝くんが…」

 

「くっ…!」

 

 

八重樫達は囚われている天之河とメルド団長をどう助けるか考えていた。しかし……この絶望の中、魔人族に従える強力な魔物達相手にクローン達は敗れた。その時に魔人族の女は八重樫達に最後のチャンスと言わんばかりに勧誘を勧める。

 

 

「…んで、あんた達にもう一度聞くけど……魔人族側(こっち)に来ないかい?今のあんた達は未熟だけど見込みがある。来てくれるなら歓迎するよ」

 

「だけど、断れば生かす理由は無くなるってところかしら?」

 

 

そんな話の中、後衛を務めていた中村は意見を出す。

 

 

「わ…私は、あの人の誘いに乗るべきだと思う!」

 

「恵里!?」

 

「中村!てめぇ何言ってんだ!光輝達を裏切るってことかよ!?」

 

「よせ、お前たち!中村、そう意見したということは皆の生存を考えてのことか?」

 

「う…うん。みんなに死んでほしくなくて……光輝君のことは、私には……どうしたらいいか……うぅ、ぐすっ……」

 

 

中村の意見に驚く谷口にキレる龍太郎。そしてそれを静めるイザナミ。中村はポロポロと涙を零しながらも一生懸命言葉を紡ぐ。すると、一人、恵里に賛同する者が現れた。

 

 

「俺も、中村と同意見だ。もう、俺達の負けは決まったんだ。全滅するか、生き残るか。迷うこともないだろう?」

 

「檜山……それは、光輝はどうでもいいってことかぁ?あぁ?」

 

「じゃあ、坂上。お前は、もう戦えない天之河と心中しろっていうのか?俺達全員?」

 

「そうじゃねぇ!そうじゃねぇが!」

 

「代案がないなら黙ってろよ。今は、どうすれば一人でも多く生き残れるかだろ」

 

 

檜山の発言で、更に誘いに乗るべきだという雰囲気になる。檜山の言う通り、死にたくなければ提案を呑むしかないのだ。しかし、イザナミを含むクローン達は違った。

 

 

「悪いがその案は反対だ。俺たちの命令はお前たちをこの迷宮から脱出させることだ。それ以外は俺達が認めん」

 

「じゃあ、戦うしか能のないお前たちはここで心中するってのか!?生きてさえいればまだ望みが…「戦場を理解していない素人は黙っていろ!」ヒィッ!?」

 

 

イザナミが檜山を黙らせるところを見ていた魔人族の女は“おぉ…怖い怖い”と小さく呟く中、捕まって気を失っていたメルドは意識を覚醒し、また一つ苦しげな、しかし力強い声が部屋に響き渡る。小さな声なのに、何故かよく響く低めの声音。戦場にあって、一体何度その声に励まされて支えられてきたか。どんな状況でも的確に判断し、力強く迷いなく発せられる言葉、大きな背中を見せて手本となる姿のなんと頼りになることか。みなが、兄のように、あるいは父のように慕った男。メルドの声が響き渡る。

 

 

「……お前達」

 

「…メルドさん!」

 

「…おや、まだ生きていたのかい?」

 

「お前達は…生き残る事だけ考えろ…!今更こんな事を言っても遅いが、ずっと後悔していた。巻き込んで済まなかった……我々のことは気にするな。信じた通りに進み…生きて故郷に帰れ……最初からこれは…私達の戦争だったのだ!」

 

 

メルドの言葉は、ハイリヒ王国騎士団団長としての言葉ではなかった。唯の一人の男、メルド・ロギンスの言葉、立場を捨てたメルドの本心。それを晒したのは、これが最後と悟ったからだ。

 

 

 

天之河達が、メルドの名を呟きながらその言葉に目を見開くのと、メルドが全身から光を放ちながらブルタールモドキを振り払い、一気に踏み込んで魔人族の女に組み付こうとした。

 

 

「魔人族!一緒に逝ってもらうぞ!!」

 

「へぇ、自爆かい?潔いね。嫌いじゃないよ、そういうの。…でも、あんたと一緒は御免だね」

 

 

すると魔人族の後方にいた魔物が呼吸し始めるとメルドが纏っていた光が吸収される。

 

 

「…!?魔力が…!」

 

「残念だったね?せめて楽にしてあげるよ」

 

 

そういって魔人族の女は魔法で砂塵で出来た刃を作り、それをメルドの腹部に突き刺す。腹部から背中にかけて貫かれ、背から飛び出している刃にはべっとりと血が付いていて先端からはその雫も滴り落ちている。

 

 

「……メルドさん!」

 

 

光輝が、血反吐を吐きながらも気にした素振りも見せず大声でメルドの名を呼ぶ。メルドが、その声に反応して、自分の腹部から光輝に目を転じ、眉を八の字にすると“すまない”と口だけを動かして悔しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

後、砂塵の刃が横薙ぎに振るわれ、メルドが吹き飛ぶ。人形のように力を失ってドシャ!と地面に叩きつけられた。少しずつ血溜りが広がっていく。誰が見ても、致命傷だった。満身創痍の状態で、あれだけ動けただけでも驚異的であったのだが、今度こそ完全に終わりだと誰にでも理解できた。

 

 

「あの傷で立ち上がるとは思わなかったよ。…さて、これが一つの末路だよ。あんた達はどうする?魔人族側(こっち)に来るか、ここで全滅するか…」

 

 

メルドが死亡したことで八重樫達は完全に戦意喪失していた。しかし、クローン達はまだ戦意は消えていなかった。己が命に代えても天之河達を守るつもりだった。その時に、魔人族の女は天之河から異常な威圧感を感じ取った。

 

 

「…!?白銀色の瞳!?それにこの威圧感…!(このまま放置してたら、何かマズい!!)アハトド!殺りな!!」

 

 

馬頭、改めアハトドは、魔人族の女の命令を忠実に実行し、“魔衝波”を発動させた拳二本で宙吊りにしている光輝を両サイドから押しつぶそうとした。

 

 

 

だが、その瞬間、光輝から凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。そして、光輝が自分を掴むアハトドの腕に右手の拳を振るうと、ベギャ!という音を響かせて、いとも簡単に粉砕してしまった。

 

 

 

粉砕された右手に絶叫を上げ、思わず光輝を取り落とすアハトドに、光輝は負傷を感じさせない動きで回し蹴りを叩き込む。

 

 

 

ズドォン!!

 

 

 

そんな大砲のような衝撃音を響かせて直撃した蹴りは、アハトドの巨体をくの字に折り曲げて、後方の壁へと途轍もない勢いで吹き飛ばした。轟音と共に壁を粉砕しながらめり込んだアハトドは、衝撃で体が上手く動かないのか、必死に壁から抜け出ようとするが僅かに身動ぎすることしか出来ない。

 

 

 

光輝は、ゆらりと体を揺らして、取り落としていた聖剣を拾い上げると、射殺さんばかりの眼光で魔人族の女を睨みつけた。同時に、竜巻のごとく巻き上がっていた光の奔流が光輝の体へと収束し始める。

 

 

 

“限界突破”終の派生技能[+覇潰]。通常の“限界突破”が基本ステータスの三倍の力を制限時間内だけ発揮するものとすれば、〝覇潰〟はその上位の技能で、基本ステータスの五倍の力を得ることが出来る。ただし、唯でさえ限界突破しているのに、更に無理やり力を引きずり出すのだ。今の光輝では発動は三十秒が限界。効果が切れたあとの副作用も甚大。

 

 

 

だが、そんな事を意識することもなく、光輝は怒りのままに魔人族の女に向かって突進する。今、光輝の頭にあるのはメルドの仇を討つことだけ。復讐の念だけだ。

 

 

「よくも…よくもメルドさんをッ!!」

 

「チィ!お前達!!」

 

 

魔人族の女が焦った表情を浮かべ、周囲の魔物を光輝にけしかける。キメラが奇襲をかけ、黒猫が触手を射出し、ブルタールモドキがメイスを振るう。しかし、光輝は、そんな魔物達には目もくれない。聖剣のひと振りでなぎ払い、怒声を上げながら一瞬も立ち止まらず、魔人族の女のもとへ踏み込んだ。

 

 

 

大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。魔人族の女は舌打ちしながら、咄嗟に、砂塵の密度を高めて盾にするが……光の奔流を纏った聖剣はたやすく砂塵の盾を切り裂き、その奥にいる魔人族の女を袈裟斬りにした。流石のクローン達も天之河の急激な展開に驚いていた。

 

 

「参ったね……あの状況から逆転なんて………三文芝居でも見ている気分だよ」

 

 

魔人族の女はこの様な展開になる事を想定していなかった為か、かなり焦っていた。その時に魔人族の女の懐から何かが落ちた。魔人族の女はそれを拾い上げ、手から離さずに掴む。この時に天之河は魔人族の女は自爆するつもりと判断したのか直ぐに止めを刺そうとする。そして魔人族の女は手に持っていた物ことロケットペンダントを開き、愛すべき人を見つめながら愛しそうな表情で呟く。

 

 

「ごめん……先に逝く。……愛してるよ、ミハイル……」

 

 

その呟きに反応したのか天之河は止めを刺すのを止めてしまう。それを見ていたクローン達は天之河がここに来て最悪な展開が起きてしまったことに焦りを生じてしまう。それこそ、天之河は最後まで魔人族を()()()()()()()()()()()()()()のだ。クローン達は天之河に早く止めを刺すように怒声を上げる。

 

 

「…くそっ!こんな厄介なタイミングでッ…!!天之河、早くするんだ!ここで魔人族を討たなければ魔物達が起き上がり、他の仲間に襲いかかるぞ!聞こえてるのか!?」

 

「天之河、早くしろ!!魔人族や魔物諸共生かしておくな!!」

 

 

イザナミや他のクローン達がそう告げるが、天之河の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その光輝の瞳を見た魔人族の女は、何が光輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した。その眼差しに光輝は更に動揺する。

 

 

「……呆れたね。まさか、今になってようやく気がついたのかい?()を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

「あのクローン達の言葉から察するに、魔人族を人とすら認めていなかったとはね」

 

「ち…違う。俺は…知らなくて…」

 

 

動揺する天之河を無視して魔人族の女は魔物たちに命令する。

 

 

「アハトド!起きな!!あいつ等を皆殺しにしな!」

 

「なっ…どうして!」

 

「このバカ!この土壇場で止めを刺すのを戸惑うからだ!!」

 

「あのクローンの言う通りだよ、本当に何も分かってない坊ちゃんだね?ここで殺しておいた方がいいと判断しただけの話さ。未熟な精神に強大な力、あんたは危険すぎる。これは()()なんだよ!!」

 

 

その言葉を皮切りに一体の猫型の魔物が背後から雫を黒い触手で突き刺そうとした。雫は背後から来る触手に対応できなかった。

 

 

「しまっ…!」

 

「シズシズーッ!」

 

 

その時に大怪我をしていた谷口が雫に割って入ろうとする。谷口はクローン・トルーパー・メディックに治療されて傷口が塞がったものの、まだ病み上がりだった為に上手く身体を動かす事すらままならない。しかし、持ち前の気合いと根性で何とか割って入る事が出来たと同時に再び刺される覚悟をして目を瞑ったが、谷口に襲う筈の痛みがいつまで経っても来なかった。

 

 

「アレ…?な…何で……ッ!?」

 

 

谷口がゆっくり目を開けると、そこには中村が谷口の代わりに受けて腹部を貫かれていた。

 

 

「え……エリリンッ!!」

 

「恵里ッ!?」

 

 

谷口と八重樫は急ぎ触手によって貫かれた中村を助けるべく、八重樫は触手を切り裂き、谷口は中村を抱きかかえながらもゆっくりと降ろす。そして谷口たちを庇った中村は貫かれた衝撃で朦朧としていた。その時に天之河が猫型の魔物を聖剣で倒すと同時に八重樫の安否を確認する。

 

 

「雫、大丈夫か!?」

 

「光輝!私は大丈夫、でも恵里が……」

 

「大丈夫だ!誰も死なせない!今の俺なら…」

 

 

そう構え治した瞬間、いつかの再現か、ガクンと膝から力が抜けそのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 

“覇潰”のタイムリミットだ。そして、最悪なことに、無理に無理を重ねた代償は弱体化などという生温いものではなく、体が麻痺したように一切動かないというものだった。

 

 

「光輝!?」

 

「?……!?」

 

「お前たち、直ぐにこっちに来るんだ!」

 

「イザナミさん!?……了解!」

 

 

八重樫は天之河を、谷口は中村を担いでクローン達のところに運ぶ。そこでは白崎とクローン・トルーパー・メディックが負傷した者たちを応急手当で治療していた。しかし、いくら衛生兵のクローン・トルーパー・メディックの持つバクタ液でも数が足りず、かなり危険な状況だった。

 

 

「香織!光輝をお願い!後は…私がやる」

 

「無茶だ、八重樫!お前たち、八重樫の援護に回れ!!」

 

「「イエッサー!」」

 

 

八重樫とクローン・トルーパー二名が倒れた天之河の代わりに魔人族の相手をする。友人である白崎は不安になりながらも天之河を治癒魔法で治療するのだった。

 

 

「あんたは殺し合いをする自覚はあるね。あんたの方が勇者にふさわしいんじゃないか?」

 

「御託はいい。光輝のツケは私が払わせてもらう」

 

「焦るな、先ずは俺達が援護する!」

 

 

そしてクローン・トルーパー二名はブラスターで応戦する。魔人族の女は砂塵の使った盾を生成し、ブラスターから放たれる光弾を防ぐ。その同時に八重樫は神速の抜刀術で魔人族の女を斬ろうと“無拍子”を発動しようと構えを取った。が、その瞬間、背筋を悪寒が駆け抜け本能がけたたましく警鐘を鳴らす。咄嗟に、側宙しながらその場を飛び退くと、黒猫の触手がついさっきまで雫のいた場所を貫いていた。

 

 

「他の魔物に狙わせないとは言ってない。アハトドと他の魔物を相手にしながらあたしが殺せるかい?」

 

「くっ!」

 

 

魔人族の女は“もちろんあたしも殺るからね”と言いながら魔法の詠唱を始めた。“無拍子”による予備動作のない急激な加速と減速を繰り返しながら魔物の波状攻撃を凌ぎつつ、何とか、魔人族の女の懐に踏み込む隙を狙う八重樫だったが、その表情は次第に絶望に染まっていく。

 

 

 

なにより苦しいのは、アハトドが八重樫のスピードについて来ていることだ。その鈍重そうな巨体に反して、しっかり八重樫を眼で捉えており、隙を衝いて魔人族の女のもとへ飛び込もうとしても、一瞬で八重樫に並走して衝撃を伴った爆撃のような拳を振るってくるのである。

 

 

 

八重樫はスピード特化の剣士職であり、防御力は極めて低い。回避か受け流しが防御の基本なのだ。それ故に、“魔衝波”の余波だけでも少しずつダメージが蓄積していく。完全な回避も、受け流しも出来ないからだ。

 

 

 

そして、とうとう蓄積したダメージが、ほんの僅かに八重樫の動きを鈍らせた。それは、ギリギリの戦いにおいては致命の隙だ。

 

 

 

バギャァ!!

 

 

 

「あぐぅう!!」

 

 

咄嗟に剣と鞘を盾にしたが、アハトドの拳は、八重樫の相棒を半ばから粉砕しそのまま八重樫の肩を捉えた。地面に対して水平に吹き飛び体を強かに打ち付けて地を滑ったあと、力なく横たわる八重樫。右肩が大きく下がって腕がありえない角度で曲がっている。完全に粉砕されてしまったようだ。体自体にも衝撃が通ったようで、ゲホッゲホッと咳き込むたびに血を吐いている。

 

 

「「「八重樫!」」」

 

「雫ちゃん!」

 

 

白崎とクローン達が、焦燥を滲ませた声音で八重樫の名を呼ぶが、八重樫は折れた剣の柄を握りながらも、うずくまったまま動かない。その時、白崎の頭からは、仲間との陣形とか魔力が尽きかけているとか、自分が傍に行っても意味はないとか、そんな理屈の一切は綺麗さっぱり消え去っていた。あるのはただ“大切な親友の傍に行かなければ”という思いだけ。

 

 

 

白崎は、衝動のままに駆け出す。魔力がほとんど残っていないため、体がフラつき足元がおぼつかない。背後からクローン達が制止する声が上がるが、白崎の耳には届いていなかった。ただ一心不乱に八重樫を目指して無謀な突貫を試みる。当然、無防備な白崎を魔物達が見逃すはずもなく、情け容赦ない攻撃が殺到する。

 

 

 

だが、それらの攻撃は全てクローン達がブラスターで撃退し、八重樫へと続く道を作る。そしてクローン二名も二人を殺してなるものかとブラスターで必死に抵抗する。

 

 

「絶対に彼女等を死なせるな!何としても守り抜くんだ!!」

 

「魔物の野郎、ふざけやがって!!」

 

「ここは俺達が抑える!その内に八重樫を!!」

 

 

クローン達の援護のおかげで白崎は、多少の手傷を負いつつも八重樫の下へたどり着いた。そして、うずくまる八重樫の体をそっと抱きしめ支える。

 

 

「か、香織……何をして……早く、戻って。ここにいちゃダメよ」

 

「ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから」

 

「……ごめんなさい。勝てなかったわ」

 

「私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの」

 

 

八重樫を支えながら眉を八の字にして微笑む白崎は、痛みを和らげる魔法を使う。八重樫も、無事な左手で自分を支える白崎の手を握り締めると困ったような微笑みを返した。

 

 

 

そんな二人の前に影が差す。アハトドだ。血走った眼で、寄り添う白崎と八重樫を見下ろし、独特の咆哮を上げながら、その極太の腕を振りかぶっていた。

 

 

 

今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にして、白崎の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。“ああ、これが走馬灯なのかな?”と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた白崎だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

 

 

 

それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって初めて〝好き〟だったのだと自覚した。生存しながらもまた会える事を信じて追いかけた。

 

 

 

だが、それもここで終わる。“結局、また、誓いを破ってしまった”そんな思いが、気がつけば白崎の頬に涙となって現れた。

 

 

 

再会したら、まずは名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を……自然と紡ぐ。

 

 

「……ハジメくん」

 

 

その瞬間だった。

 

 

 

ドォゴオオン!!

 

 

 

轟音と共にアハトドの頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力を以て飛び出した。

 

 

 

スパークする漆黒の杭は、そのまま眼下のアハトドを、まるで豆腐のように貫きひしゃげさせ、そのまま地面に突き刺さった。

 

 

 

全長百二十センチのほとんどを地中に埋め紅いスパークを放っている巨杭と、それを中心に血肉を撒き散らして原型を留めていないほど破壊され尽くしたアハトドの残骸に、眼前にいた白崎と八重樫はもちろんのこと、天之河達や彼等を襲っていた魔物達、そして魔人族の女までもが硬直する。

 

 

 

戦場には似つかわしくない静寂が辺りを支配し、誰もが訳も分からず呆然と立ち尽くしていると、他の魔物たちが再び白崎たちに襲いかかろうとしたその瞬間、崩落した天井から人影が飛び降りてきた。その人物は手に筒状の物体を持ち、それを起動させて青い光刃を発生させ、そのまま白崎たちに襲いかかる魔物たちを全て切り捨てた。

 

 

 

白崎たちを襲う魔物を一掃した事確認しつつも周囲を睥睨する。そして、その者は肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。

 

 

 

白崎たちは突如と現れ、助けてくれた人物はクローン達と同じ装備に茶色のローブと合体させた装甲服を着た一人のクローン?だった。この時に八重樫は遠藤達が連れて来た援軍なのかと思ったその時に崩落した天井から再び人影が飛び降りてきた。その人物は、香織達に背を向ける形でスタッと軽やかにアハトドの残骸を踏みつけながら降り立つと、周囲を睥睨する。

 

 

 

そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う白崎と八重樫を見やった。

 

 

 

振り返るその人物と目が合った瞬間、白崎の体に電撃が走る。悲しみと共に冷え切っていた心が、いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が、突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めた。

 

 

「……相変わらず仲がいいな、お前等」

 

「お前な……ここに来て再会した後の言葉がそれか?」

 

 

その者は白崎たちに対しての言葉に助けてくれたクローン?は苦笑いしながらツッコミを入れる。そんな事をいう彼に、考えるよりも早く白崎の心が歓喜で満たされていく。

 

 

 

髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目つきが違う。だが、わかる。彼だ。生存を信じて探し続けた彼だ。

 

 

そう……

 

 

「ハジメくん!」

 

 

天之河達の間でオルクス大迷宮で死亡した筈の“南雲ハジメ”が再びこの迷宮に戻って来たのだ。それだけではない……

 

 

「ハジメだけじゃないぞ」

 

 

そう言ってクローン?は自らヘルメットを外し、その素顔を晒す。その時に八重樫はヘルメットを外した人物に見覚えがあった。オルクス大迷宮の奈落に落ちて以来、その奈落から通信越しでハジメとクローン達を召喚したもう一人の生存者……

 

 

「藤原…君?」

 

「久しぶりだな、八重樫。約四ヶ月ぶりといったところか?」

 

 

クローン軍団の将軍である“藤原雷電”がジェダイとなって白崎達の救援に来たのだった。仲間と二個分隊のクローン・コマンドーを引き連れて……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無能とジェダイの無双 前編

書きたい分だけ書いた結果、前編、後編に分けることになってしまった。orz

後編は少し時間が掛かります。


47話目です。


 

 

 

時間は少し遡る……

 

 

 

雷電がクローン・コマンドーことクローン・フォース99、別名“不良分隊”と呼ばれる部隊を召喚した後に案内役の遠藤とARCトルーパーのキャプテン・フォードーを連れて全員でオルクス大迷宮に最深部を目指していた。ショートカットとして二十階層にある転移魔法が掛けられているトラップのグランツ鉱石を利用して一気に六十五階層に到達し、そこでベヒモスと戦闘するのだがハジメが先制でドンナーでヘッドショットを決め、一撃でベヒモスを倒すのだった。それでもスピードを緩めず、そのまま天之河達のところを目指して進む。

 

 

「ここから先は私達が先導します。将軍等にとってここからは所見の筈です」

 

「ああ、頼む」

 

「遠藤、フォードーと共に先に立て。俺達もこっから先は所見だ」

 

「お…応!(ベヒモス一撃かよ…!?)」

 

 

そうして下へと続く階段を目指して進むハジメ達一行。その時にシアが付近に近道が無いのかと呟いた。

 

 

「近道とか無いんですかねぇ?」

 

「少しでも早く助けに行かないとのぉ…」

 

 

ティアもそう呟いていると、クローン・フォース99の隊長である“ハンター”が人間離れした感覚で天之河達を感じたのか雷電に報告する。

 

 

「将軍、この下から例の救出対象がいる。それも危険な状況だ」

 

「……確かの様だな。ハジメ、近道を作るために()()を出せるか?」

 

「アレ?……あぁ、なるほどな。止まれ遠藤、フォードー」

 

 

ハジメは雷電の意図を理解して遠藤達を呼び止める。

 

 

「っ!……どうした!」

 

「雷電が近道を見つけたぞ。今からその近道を作る」

 

「へっ?」

 

 

そういってハジメは宝物庫からパイルバンカーを取り出し、地面に突き刺す。遠藤や召喚されたばかりの不良分隊も初めてハジメが作ったパイルバンカーに目が釘付けだった。

 

 

「ナニコレ?」

 

「こいつは……なかなかデカい代物だな」

 

「おいおい、何だよコイツは!かなり面白そうじゃねえか!」

 

「“パイルバンカー”だ。電磁加速と炸薬による爆発力を利用した杭撃ち機さ。そんで杭は鉱石を圧縮錬成して世界最高の強度を持つ、“アザンチウム鉱石”でコーティングしてある」

 

 

そういいながらもパイルバンカーに魔力を流し、電磁加速させて一定量の加速域に到達した瞬間、杭が射出され、地面を砕いて迷宮に穴をあけるのだった。土煙が上がる中、雷電はハジメに先に行く事を伝える。

 

 

「ハジメ、俺が先に行く。後から続いてくれ」

 

「応。それと、安全確保を忘れるなよ?」

 

「分かっているさ。……行くぞ!」

 

 

そう言って雷電はパイルバンカーによってあけられた穴に飛び込みそのまま落下する。その光景を遠藤は驚きの声を上げるのだった。そうしてハジメ達も雷電の後に続いて穴に飛び込むのだった。

 

 

 

そして現在に至る……

 

 

 

雷電とハジメが崩壊した天井から登場した事に八重樫は未だに驚きを隠せないでいた。生きている事は知っているのにも拘らずだ。

 

 

「えっ……南雲君なの?それに、藤原君もクローン達と同じ装備って……なっ何?どういうこと?えっ?ホントに?ホントに南雲君に藤原君なの?えっ なに?ホントどういうこと?」

 

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

「八重樫、あまりの出来事に追いつけてない分キャラが崩壊しているぞ。ハジメが言った様に冷静沈着さがお前の売りなんだろ?」

 

 

そうハジメと雷電が八重樫に指摘した時にユエも崩落した天井から降下してくる。着地の際にハジメに抱っこで受け止めてもらいながらもユエは重力魔法で後から降下してくるシア達を着地しやすいよう重力を操作する。シア達の次にクローン・コマンドーのデルタ分隊に不良分隊が降下し、最後に遠藤とフォードーも降下する。

 

 

「おわっとと、ぁ痛てっ!?た……助けを呼んで来たぞ…!」

 

「「「遠藤!!」」」

 

 

着地に失敗しながらも遠藤は天之河達に助けを呼んで来たことを告げる。そしてフォードーは改めて現在の状況を見て確認する。

 

 

「トルーパー、ここで指揮しているのは誰だ?」

 

「…ハッ!CT-1373のイザナミです!」

 

「イザナミか。……ところで、コマンダー・コルトはどうした?」

 

「…亡くなりました。自分たちを脱出させる為に二個小隊を率いて自ら殿を務め、彼等に敗北しました」

 

 

“そうか…”と言葉を残し、次に残りのクローン達の数を確認した。兵士と衛生兵を含めて計十五名も生き残っていた。たったこれだけの数で持ちこたえられたことに賞賛に与えするところだが、今は魔人族と魔物達を先に片付けてからにすることにした。その時にハジメが……

 

 

「雷電、お前はあいつ等の治療に向かってくれ。こいつらは俺が相手する」

 

「ハジメ……一応聞くが、また何かやらかすつもりなのか?」

 

「何で俺が何かを仕出かす前提なんだよ……ただ普通に目の前の魔人族に警告と確認を取るだけさ。ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。」

 

「ん……任せて」

 

「やれやれ……シア、お前は向こうで倒れている騎士甲冑の男の容態を見てやってくれ。フォードーは残存する兵力の指揮を取ってクラスメイト達を守ってくれ」

 

「了解ですぅ!」

 

「イエッサー!」

 

 

ユエとシア、フォードーはそれぞれの役割果たす為に行動する。そして雷電は引き続き残っているメンバーに指示を出すのだった。

 

 

「デルタ分隊にシャドウはクラスメイトの護衛に付いてくれ。ティオはミュウを守りながらデルタ分隊と同様護衛に当たってくれ」

 

「了解」

 

「分かった」

 

「任せるのじゃ」

 

「のじゃ!」

 

 

デルタ達に指示を伝えた後、最後に残った不良分隊にはハジメのサポートに回るよう指示を出す。

 

 

「最後になったが、クローン・フォース99はハジメのサポートに回りながらも敵の殲滅だ。一応ハジメが敵に警告を出すが、敵がそれを無視したらいつも通りに行動……要はお前たちのスタイルで援護してくれ」

 

「了解です、将軍。よし…不良分隊、戦闘準備だ。“プラン82”」

 

 

そうして全てに指示を出した後に雷電はクラスメイトのところに行くと、そこには負傷者が多数いてバクタ液が全く足りない状況だった。特に状態が酷かったのは雷電たちが奈落に落ちる前、少しばかり危険視していた中村であった。クローン・トルーパー・メディックが持っているバクタ液が中村を除いて全て使い果たしてしまったのだ。そんな中村を死なせないよう傷口を抑えている谷口が死んだ筈の雷電を見て驚いていた。

 

 

「ライライ……?本当にライライなんだね?」

 

「谷口か。久しぶり……といいたいが、再会は後回しだ。中村の腹の傷はどうしたんだ?」

 

「あっ……エ、エリリンが私やシズシズを庇って……それで……」

 

「なるほど……大体分かった。どいてくれ、今から治す」

 

 

谷口を中村から離れるよう言い、雷電は懐から瓶を取り出す。その瓶の中身は回復アイテムの神水が入った物だった。それを中村に飲ませようとする。…すると中村は呼吸が苦しい中、死にかけながら虚ろな目をして雷電の方を見た。

 

 

「藤原……くん?」

 

「中村、無理に喋るな、傷に触る。それはそうと、回復薬だ。飲めるか?」

 

 

中村に神水をゆっくり飲ませる様にそっと口に入れる。しかし、呼吸が苦しかった為か上手くの見込むことが出来ずに咽せてしまう。

 

 

「……マズいな、既に飲み込む力が残ってないのか」

 

「嫌…だよ……私…は、僕……は………死にたく……ない……」

 

 

中村は嘗てない程に弱気になっており、自然と素が出て来た様子だが、そんな事はどうでもいい。このままでは中村が多量出血で死んでしまう。そう判断したら雷電は()()()()を決行する。

 

 

「中村……死ぬなよ。絶対に助け出す」

 

 

そういって雷電は自分の口に神水を含み恵里に口移しで飲ませた。そのお陰で中村の傷が瞬時に消える。谷口達もそうだが、今まで痛覚によって喋りづらかった本人である中村も一番驚いていた。

 

 

「…っ!エリリンの傷が…!」

 

「嘘……!?」

 

「どうやら、無事に回復した様だな。谷口、中村のことを頼む。いくら傷が治ったとはいえ、体力はまだ回復していない」

 

「あ……あの、藤原…くん?そ、その……」

 

「中村、傷のことは谷口から聞いた。この絶望的な状況でよく生きててくれた。それも友達を助ける為に自らを身を投げ出す覚悟は賞賛に与えするが、お前が死ねば悲しむ奴はいることを忘れるな。後は俺たちに任せてゆっくり休め」

 

 

回復したばかりの中村は朧気ながら雷電の事を呼ぶが、雷電は優しい声で恵里に労いと休む様に言った後に戦ってるハジメと不良分隊の元に向かうのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が向こうに行っている間、俺とクローン・フォース99の部隊は目の前にいる魔人族の女と対峙する。白崎は俺のこと心配して俺の名を呼ぶが、俺は“問題ない”と伝えるのだった。

 

 

「新たなクローンにそれを率いる人間か…。フッ…地獄に自ら足を踏み込むとはねえ?」

 

「……一応警告しておく。死にたくなければさっさと消えろ」

 

「なに?」

 

「今なら見逃してやるって言ってんだ。二度も言わせんな」

 

「人間風情が……己の愚かさに後悔しながら死ぬがいい!」

 

 

魔人族の女はそう告げると同時に“殺れ”とハジメを指差し魔物に命令を下した。

 

 

 

この時、あまりに突然の事態────特に虎の子のアハトドが正体不明の攻撃により一撃死したことで流石に冷静さを欠いていた魔人族の女は、致命的な間違いを犯してしまった。

 

 

 

ハジメの物言いもあったのだろうが、敬愛する上司から賜ったアハトドは失いたくない魔物であり、それを現在進行形で踏みつけにしているハジメに怒りを抱いていたことが原因だろう。あとは、単純に迷宮の天井を崩落させて階下に降りてくるという、ありえない事態に混乱していたというのもある。とにかく、普段の彼女ならもう少し慎重な判断が出来たはずだった。しかし、既にサイは投げられてしまった。

 

 

「なるほど……“敵”って事でいいんだな?」

 

 

ハジメがそう呟いたのとキメラが襲いかかったのは同時だった。ハジメの背後から“ハジメくん!”“南雲君!”と焦燥に満ちた警告を発する声が聞こえる。しかし、ハジメは左側から襲いかかってきたキメラを意にも介さず左手の義手で鷲掴みにすると苦もなく宙に持ち上げた。

 

 

 

キメラが、驚愕しながらも拘束を逃れようと暴れているようで空間が激しく揺らめく。それを見て、ハジメが侮蔑するような眼差しになった。

 

 

「おいおい、何だ?この半端な固有魔法は。大道芸か?」

 

 

気配や姿を消す固有魔法だろうに動いたら空間が揺らめいてしまうなど意味がないにも程があると、ハジメは、思わずツッコミを入れる。奈落の魔物にも、気配や姿を消せる魔物はいたが、どいつもこいつも厄介極まりない隠蔽能力だったのだ。それらに比べれば、動くだけで崩れる隠蔽など、ハジメからすれば余りに稚拙だった。

 

 

 

数百キロはある巨体を片手で持ち上げ、キメラ自身も空中で身を捻り大暴れしているというのに微動だにしないハジメに、魔人族の女や香織達が唖然とした表情をする。

 

 

 

ハジメは、そんな彼等を尻目に、観察する価値もないと言わんばかりに“豪腕”を以てキメラを地面に叩きつけた。

 

 

 

ズバンッ!!

 

 

 

ドグシャ!

 

 

 

そんな生々しい音を立てて、地面にクレーターを作りながらキメラの頭部が粉砕される。その同時に雷電が向こうの用事を終わらせたのか、ライトセーバーを起動させ、俺の周りの何もない空間にライトセーバーを一回転させる様に振るう。

 

 

 

すると、空間が一瞬揺ぎ、そこから首を斬られたキメラとブルタール擬きが現れ、僅かな停滞のあと、先に首からぐらりと地面に落ち、それに続いて身体も崩れ落ちた。

 

 

「っ!?な……何で分かったのさ!?」

 

「おいおいっハジメ、お前、最初から分かってて俺に任せたのか?」

 

「…どのみちお前も参加するつもりだったんだろ?だったら好都合じゃねえか?」

 

 

あまりにあっさり殺られた魔物を見て唖然とする魔人族の女や、この世界にあるはずのない兵器()架空兵器(ライトセーバー)に度肝を抜かれて立ち尽くしているクラスメイト達。そんな時に魔人族の女が今いる魔物達に指示を出そうとした時、後方から魔法陣が出現する。その魔法陣から俺達に取って見覚えがあるゴーレム達が出現する。

 

 

 

それは、ウルの町に攻め込んで来たゴーレム騎士団の連中だった。

 

 

「雷電、あのゴーレム達はウルの町防衛戦で見かけた……」

 

「あぁ……あのヒュケリオンというゴーレム将軍の側近とその精鋭部隊ってところか」

 

「ヒュケリオン将軍の命で攻略に行ったカトレア殿の援軍として来てみたら、まさかこんな所で出会うとは思いませんでしたよ、ジェダイ。そして黒の錬成師。こんな所で一戦交えようと思うと、楽しみが減って少々残念ではありますが…」

 

 

そう将軍の側近ゴーレムが言っている最中、魔人族の女ことカトレアが苦虫を噛んだような表情をしていた。

 

 

「ちっ……あのゴーレム将軍の差し金かい。よりによってこんな時に来るなんてね……!」

 

「そう邪険にしないでいただきたい、カトレア殿。我々とあなた方魔人族は同じ同志である事をお忘れなきように……」

 

「……まぁいいさ。で、援軍という割には少な過ぎじゃないか?そいつ等は使えるのかい?」

 

「その点は心配要りませんよ。彼等は本来ジェダイや黒の錬成師達の為に、将軍から授かった精鋭部隊なんですよ」

 

 

そうゴーレムが説明する中、俺は雷電に“念話”でゴーレムの連中の相手をどうするか話し合っていた。

 

 

(ハジメ、魔物とゴーレムの内どっちを相手にする?もしゴーレムを相手にするんだったら魔物の相手は俺と不良分隊が引き受ける)

 

(そうか?…んじゃ、魔物の方は雷電に任せる。俺はゴーレムの方を相手をするさ)

 

 

そう役割分担を決めた俺達。その同時にゴーレムの指揮官が他のゴーレム達に掛け声を上げる。

 

 

「…では“スペルタ部隊”の皆さん、獣になりましょう!!」

 

 

その掛け声と同時に指揮官ゴーレム以外のゴーレム達が一斉に動き出した。その数はあの指揮官ゴーレムを含めて六体。俺はドンナーとシュラークを手にそのゴーレムの精鋭部隊である“スペルタ部隊”の相手をするのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメが敵の増援として新たにやって来たゴーレム騎士団の精鋭部隊を相手にしている間、俺と不良分隊は多数の魔物の軍団を相手にするのだった。

 

 

「よしっ……ハンター軍曹。この世界においての初戦闘だ。気を引き締めておけ」

 

「もちろんです、将軍。さぁて、始めるとしよう…」

 

「オッシャー!腕がなるってもんだ、任せな!!」

 

「了解…」

 

「了解、何時でも行けます!」

 

 

そう言って雷電たちは魔物達と戦闘を開始する。巨体のクローンこと“レッカー”が専用シールドを取り出して前に出る。そして狙撃兵の“クロスヘア”と技術兵の“テック”、不良分隊のリーダー“ハンター”がレッカーの背後の横に展開し、そのまま魔物の群れに突っ込む。その際にレッカーがシールドを前に出し、ハンター達がそれぞれの武器(ブラスター)で応戦する。

 

 

 

そして俺はハンター達の背後を守る様にライトセーバーで向かってくる魔物を切り捨てながらもハンター達を援護する。ハンター達がある場所に止まり、テックが周りにいる魔物の位置を確認し、報告する。

 

 

「…45、マーク151」

 

「45、マーク151」

 

 

それを復唱する様にハンターがデトネーターをその魔物の群れに投げ込む。そしてクロスヘアが投げられたデトネーターがある程度の距離に到達したと同時にスナイパー・ライフルでデトネーターを狙撃する。狙撃されたデトネーターは爆発し、周りにいた魔物達は、その爆風に巻き込まれて絶命する。

 

 

 

それを繰り返す様に再びテックが別の魔物の群れの位置を確認し、報告する。

 

 

「…75、マーク357」

 

「75、マーク357」

 

 

ハンターが再びデトネーターを魔物達の方に投げる。その投げたデトネーターをブルタール擬きが掴み、何なのか確認した。デトネーターを確認しているブルタール擬きの手に持つデトネーターをクロスヘアが狙撃し、ブルタール擬きごと他の魔物達も巻き込んで爆殺させる。

 

 

「こいつら……他のクローンの連中とは違うってことかい!」

 

 

カトレアは戦って、殉職したコルト達とは違うことに気付いたのか、優先的に狙うよう魔物達に指示を出す。その指示を見逃すハンター達ではなかった。

 

 

「例のクリーチャー共が動き出した様だ、散れ」

 

 

ハンターの指示で不良分隊は各自で各個撃破に移る。そして俺もライトセーバーで他の魔物達を次々と斬り捨てる。

 

 

 

ハンターはDC-17で魔物を倒しつつも専用ナイフで他の魔物達を突き刺したり、テックはDC-17を二梃持ちで他の魔物達を応戦。クロスヘアは近距離でスナイパー・ライフルを使いながらも魔物を倒す。そしてレッカーはシールドを鈍器代わりにして魔物を殴り倒す。

 

 

 

すると亀擬きの魔物が口からブレスを吐こうとしていた。しかし、ブレスを吐かれる前に俺がその亀擬きの魔物の首を切断し、絶命させる。

 

 

「(こいつら……想像以上に強すぎる!?)…くっ!回復を“バシュッ”…っ!?こ…これは!?」

 

 

カトレアは肩に止まっていた白鴉の魔物に回復を指示しようとした瞬間、クロスヘアによって狙撃され、回復役の魔物を一瞬で絶命させたのだ。

 

 

「フッ……」

 

「あのクローン…!」

 

 

カトレアは“あと、数センチずれていたら……”とそんな事を考えて自然と体が身震いする。そして気付く頃には雷電とハンター達は殆どの魔物を殲滅していた。その際にレッカーは挑発的に煽る。

 

 

「どうした、もう終いか?もっと来いよ!!」

 

 

完全に向こう側のペースに陥ってしまい、カトレアはかなりの危機感を抱いていた。戦士たる強靭な精神をもっていると自負しているカトレアだが、あり得べからざる化け物の存在に体の震えが止まらない。あれは何だ?なぜあんなものが存在している? どうすればあの化け物から生き残ることができる!?カトレアの頭の中では、そんな思いがぐるぐると渦巻いていた。

 

 

雷電Side out

 

 

 

その頃、単独でゴーレム共の相手をする俺はスナイパー役のゴーレムに威嚇を兼ねてドンナーで牽制射を行った。その同時にスナイパーのゴーレムもプレスライフルで撃って来たが互いに当たることはなかった。そして俺はスナイパーのゴーレムをほっといて直ぐに移動する。

 

 

「…っ!(ポイントを捨てる見極めが早い……もう一発で倒せたのに?)」

 

 

俺が移動していると、正面横から二梃拳銃のゴーレムが出て来てプレスガンを乱射してくる。俺は“天歩”の最終派生技能の[+瞬光]で弾丸の軌道を見切り、跳躍で回避する。するとそれを読んでいたのか跳躍中の無防備なところに撃ってくるが、俺はその弾丸をドンナーとシュラークで全て撃ち落とす。

 

 

「っ!跳躍中に発砲しただと!?…こちらのプレスガンの弾丸を全て撃ち落としたでもいうのか!?」

 

「悪いが、こっちはプレスガンより強力な奴なんでな…!」

 

 

そう言いながらも着地したと同時に俺は右側の方にドンナーをぶっ放す。するとそこには盾で何とか防ぎきった派手なゴーレムがいた。

 

 

「ほぉ?死角を取った筈だが……」

 

「もろバレだっつうの。俺達にとってはの話だがな?素人が…」

 

「フンッ!たかが人間風情が、調子に乗るなよ!」

 

 

そういって派手なゴーレムは盾に内蔵されている固定式の銃を向け、自慢げにベラベラと話す。

 

 

「この俺のゴーレムことアキレウスは魔人国ガーランドの資財から投げ打ち、最高素材のシュタル鉱石で作られた至高のゴ…ッ!?」

 

 

そのアキレウスが喋っている途中で言葉が途切れてしまう。その原因はハジメがドンナーでアキレウスの核を正確に撃ち抜き、破壊したのだった。……要するに、長々と喋っているうちにハジメに殺されたのだった。

 

 

「長々と説明してんじゃねえよ。そういうのは死亡フラグだっての」

 

「あの銃はプレスガンよりも貫通性が高いのか!?」

 

「くっ…!アキレウス殿が…!」

 

 

そんな時に残りのゴーレム二体はアキレウスがやられたのに対してまだ余裕そうな感じを残していた。

 

 

「ダフネス隊長!どうやらアキレウスが殺られた様だ!」

 

「フン、コネでこの隊に入った奴だ。もとより隊員と認めていない!行くぞ、テルトン!!」

 

「了解!」

 

 

その二体のゴーレムの内一体が牽制射を行い、ハジメの動きを止める。その間にもう一体のゴーレムが戦鎌で振るってくる。それを躱して距離を置いた瞬間、左腕の義手に何かが当たる様な感覚があった。その正体は、先ほど戦鎌を振るうゴーレムが戦鎌に内蔵されている隠し武器である何かしらの射出機だった。

 

 

「チッ…面倒な仕組みだな!」

 

 

俺はドンナーで応戦するも、そのゴーレムは俺にドンナーを撃たせる前に直ぐに移動する。そして他のゴーレム達も集まってくる。

 

 

「テルトン、離れろーッ!」

 

「了解っ!」

 

 

そう言って俺と戦っていたゴーレムは距離を置こうとする。その時に俺は瞬時に周りを見て、スナイパーのゴーレムが射撃ポジションに付いたことを理解した。

 

 

「なるほどな。…ま、やらせる程俺は甘くない!」

 

 

そう言いながらも俺は距離をとったゴーレムに付かず離れずの距離で近寄り、離れない様にする。その時に他のゴーレムが何か言っている様だが、そんな事はどうでもいい様にシュラークで迫ってくる二梃拳銃持ちのゴーレムの左肩を撃ち抜き、左腕を使えなくする。そしてドンナーで戦鎌持ちのゴーレムの左腕を撃ち、破壊する。

 

 

「黒の錬成師!付かず離れずで、テルトンを人質にしたか!テルトン、覚悟を決めろぉ!」

 

「うっ!…了解!殺すがいい!!」

 

 

そして、そのゴーレムは戦鎌を持ったまま無抵抗に倒れ込む。その時に俺は直ぐに理解した。

 

 

「捨て身の無抵抗って……大道芸的に古いんだよ。しかも捨て身の無抵抗なら、身体を無防備にしておけっての!」

 

 

この時に俺はそのスナイパーのゴーレムの所にドンナーを撃ち込む。その同時にスナイパーのゴーレムも撃ち込むものの、放たれた弾丸はドンナーの電磁加速した弾丸に砕かれ、そのままスナイパーのゴーレムの頭を撃ち抜く。

 

 

「がぁあっ!なんて奴……!」

 

 

幸い運がいいことにゴーレムの核が破壊されない限りまだ動けるが、目の役割をしていた頭部を失ったスナイパーのゴーレムは事実上、戦闘不能になったのだった。しかし、それでもスペルタ部隊の目的は飽くまでドンナーかシュラークのどちらかを手放せる、或いは破壊することにある。

 

 

 

この時にダフネスと呼ばれたゴーレムが銃剣付きのプレスガンでハジメが持つシュラークを弾き飛ばす。これを好機と思ったのか捨て身の無抵抗(笑)をしていたゴーレムが器用に起き上がり、戦鎌を構える。

 

 

「テメェ……」

 

「ぬ…?…ヌォッ!?」

 

 

お返しと言わんばかりに俺はシュラークを弾いたゴーレムに“威圧”を当てる。威圧に怖じけ付いたのかそのゴーレムは一旦俺から距離をとった。その時に高みの見物を決め込んでいた指揮官ゴーレムが俺に降伏するよう勧告する。

 

 

「黒の錬成師。片方の銃を失った貴方に、何が出来るというのです?降伏しなさい…」

 

 

指揮官ゴーレムが勝ち誇った様子で俺に降伏勧告を告げる。しかし、俺の答えは決まっていた。敵対する奴が何であれ、敵ならば殺すだけだ。そうして俺は 残ったドンナーで指揮官ゴーレムの持つランスとプレスガンが合体した複合兵装の持ち手を狙い撃つ。しかし、それを狙っていることを分かっていたのか撃たれる前に直ぐに手放す。

 

「フッ…!」

 

「そうこなくっちゃなぁ!」

 

 

それを合図に俺を囲んでいたゴーレム達が一斉に動き出した。そして指揮官ゴーレムは手放した武器を回収すると同時に俺に対して告げる。

 

 

「お聞きなさい!私は“アテネス騎士団”主席将軍補佐!」

 

 

なんか言っている様だが無視しながらも最初に襲ってくる戦鎌のゴーレムの攻撃を躱し、近接武器であるレーザーソード型アーティファクト“アストルム”を取り出し、そのままゴーレムの首を刎ね、核を貫く。

 

 

「貴方の武勇を、ここで失うのは……大陸の歴史にとって大きな損失!」

 

 

指揮官ゴーレムがまだなんか言っている様だが気にせずアストルムをしまい、左腕を失ったゴーレムにノールックでドンナーを撃ち、そのゴーレムの核を正確に撃ち抜く。そして銃剣付きプレスガンを持つゴーレムにもドンナーを撃ち込む。その時ゴーレムはなんとか躱すものの、プレスガンを破壊される。破壊されたプレスガンを捨て、近接武器であるナイフを取り出し、俺に接近する。

 

 

「アテネスに来なさい!」

 

 

ゴーレムがナイフで俺に突き刺そうとする。俺は右に躱し、ドンナーをそのゴーレムに向ける。しかし、そのゴーレムは左手に持つ盾でドンナーの銃口を逸らすと同時に僅かな隙を突いてナイフで突き刺そうとする。

 

 

「フン…!……ヌォッア!?」

 

 

だが、それがいけなかった。ドンナーを一時的に封じた隙を突いたのはいい。しかし、まさか義手の左腕で突き刺して来ようとは思いもよらなかったのだがら。

 

 

「…是が非でも、あなた方を迎え入れたい!」

 

 

どうやら指揮官ゴーレムはハジメや雷電を勧誘するつもりで言っていたのだろう。しかし、その頃にはハジメはゴーレムを義手の左腕で核ごと貫いて破壊していたのだから。

 

 

「さっきからごちゃごちゃ言っている様だが、生憎とこっちからは願い下げだ」

 

 

俺の言葉を皮切りに指揮官ゴーレムは目の前の状況を見て呆然とした。

 

 

「っ!?何…ですか?」

 

 

精鋭であった三体のゴーレムがハジメ一人によって瞬殺されていたのだ。呆然としてしまうのも無理もない。

 

 

「この義手は特別製だからな。こういうことも出来るんだよ」

 

 

そう言いながらも俺は貫いたゴーレムから義手の左腕を退き抜く。そして、核ごと貫かれたゴーレムは糸がキレた人形の様に倒れていった。そして俺は指揮官ゴーレムに少しばかり煽りを入れる。

 

 

「ここで出会った不幸を呪うこったな。俺は敵として認識した奴は容赦はしない。どの道テメェも俺の抹殺対象だ」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 

その煽りに刺激されたのか、指揮官ゴーレムは複合兵装のプレスガン部分でハジメを撃とうとする。しかし、それよりも早くハジメがドンナーを撃ち、指揮官ゴーレムの複合兵装のプレスガン部分を破壊する。そしてハジメは一気に距離を積め、そのまま指揮官ゴーレムの両腕をドンナーで破壊する。

 

 

「っ!?これ程とは……!」

 

「お前等ゴーレムごときに遅れを取る程、俺達は弱くねぇんだよ」

 

 

完全に積んでしまった指揮官ゴーレムは敗北を悟り、生き残っているスナイパーのゴーレムに離脱するよう呼びかける。

 

 

「レト!貴方はここから離脱し、ヒュケリオン将軍に連絡を!」

 

「…了解!」

 

 

頭部を失いながらも転移魔法で離脱するゴーレム。この時にハジメは会えて見逃し、目の前にいる指揮官ゴーレムを先に始末することを優先した。

 

 

「……一応聞きますが、何故彼女を見逃したのです?」

 

「どうもしねえよ。ただ単に無駄弾の消費を抑えたいだけだ」

 

「フッ…!やはりあなた方は冒険者やハイリヒ王国などに属すべきではありません!私を殺した後でいい、アテネスに来なさい!いずれ来る大陸を分断する最終決戦にこそ、あなた方の力はふさわしい!」

 

「別に俺はこの世界がどうなろうが俺の知ったことじゃねえ。俺達は元の世界に帰る為に行動している。それを邪魔する奴はゴーレムだろうと、魔人族だろうと、人間だろうと容赦はしない。…ただそれだけだ」

 

 

そう言って俺はドンナーで指揮官ゴーレムの核を破壊し、逃げたゴーレムを除いて精鋭部隊のゴーレム達を俺一人で片付けたのだった。そして弾き飛ばされたシュラークを回収し、魔物達と戦っている雷電たちと合流するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無能とジェダイの無双 後編

後編が無事に完成しましたので投稿です。


48話目です。



 

 

その頃、戦闘不能の天之河達はユエ達に守られていた。白髪眼帯の少年二人の内一人の正体を直ぐさまハジメは見抜けず、正体不明の何者かが突然、突如と出現したゴーレム達を相手に歯牙にもかけず殲滅したとしか分からなかった。

 

 

「何なんだ……一人は雷電であることは分かるが、もう一人は全く分からない。彼は一体、何者なんだ?」

 

「雷電の奴……生きていたのか」

 

 

天之河と坂上が動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。今、周りにいる全員が思っていることだった。その答えをもたらしたのは、先に逃がし、けれど自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤だった。

 

 

「まぁ、信じられないだろうけど……あいつは南雲だよ」

 

「「「…は?」」」

 

 

遠藤の言葉に、光輝達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤を見て“頭大丈夫か、こいつ?”と思っているのが手に取るようにわかる。遠藤は、無理もないがその反応はないだろと思いながらも、事実なんだから仕方ないと肩を竦めた。

 

 

「だから、南雲だよ!あの日、橋から落ちた南雲ハジメだ!」

 

「南雲って…え?南雲が生きていたのか!?」

 

「しんじられねぇ…」

 

「迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ!って俺も思うけど……事実だよ。まぁ……見た目とか、メッチャ変わってるから、無理もないよな。雷電もそうだけど……」

 

 

光輝が驚愕の声を漏らす。そして、他の皆も一斉に、現在進行形で殲滅戦を行っている化け物じみた強さの少年を見つめ直し……やはり一斉に否定した。“どこをどう見たら南雲なんだ?”と。そんな心情もやはり、手に取るようにわかる遠藤は、“いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし”と乾いた笑みを浮かべながら、彼が南雲ハジメであることを再度伝える。

 

 

 

皆が、信じられない思いで、ハジメと雷電の無双ぶりを茫然と眺めていると、ひどく狼狽した声で遠藤に喰ってかかる人物が現れた。

 

 

「う、嘘だ!南雲は死んだんだ!そうだろ?みんな見てたじゃんか!生きてるわけない!適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ!ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「何か細工でもしたんだろ!それか、南雲になりすまして何か企んでるんだ!あんな無能が生きている訳ねぇだろ!」

 

「一体何なんだよ、檜山!本当のことなんだから嘘言っても意味はないだろう!?」

 

 

ハジメの生存を否定する檜山。顔を青ざめさせ尋常ではない様子だ。周りにいる近藤達も檜山の様子に何事かと若干引いてしまっているようだ。

 

 

 

そんな錯乱気味の檜山に、比喩ではなくそのままの意味で冷水が浴びせかけられた。檜山の頭上に突如発生した大量の水が小規模な滝となって降り注いだのだ。呼吸のタイミングが悪かったようで若干溺れかける檜山。水浸しになりながらゲホッゲホッと咳き込む。一体何が!?と混乱する檜山に、冷水以上に冷ややかな声がかけられる。

 

 

「……大人しくして。あなた、ハジメの邪魔をする気?」

 

 

その物言いに再び激高しそうになった檜山だったが、声のする方へ視線を向けた途端、思わず言葉を呑み込んだ。なぜなら、その声の主、ユエの檜山を見る眼差しが、まるで虫けらでも見るかのような余りに冷たいものだったからだ。同時に、その理想の少女を模した最高級のビスクドールの如き美貌に状況も忘れて見蕩れてしまったというのも少なからずある。

 

 

 

それは、光輝達も同じだったようで、突然現れた美貌の少女に男女関係なく自然と視線が吸い寄せられた。鈴などは明からさまに見蕩れて“ほわ~”と変な声を上げている。単に、美しい容姿というだけでなく、どこか妖艶な雰囲気を纏っているのも、見た目の幼さに反して光輝達を見蕩れさせている要因だろう。

 

 

 

…と、その時、カトレアは雷電たちを相手にしながらも仲間達に注意を向けさせればなんとかなると思ったのか、魔物達に天之河達に襲いかかるよう指示を出した。魔物が数体、天之河達に向かってくる。

 

 

「また来た!結界の修復!」

 

「ぐっ…死んでも通すもんか!」

 

 

谷口が咄嗟にシールドを発動させようとする。度重なる魔法の行使に、唯でさえ絶不調の体が悲鳴を上げる。ブラックアウトしそうな意識を唇を噛んで堪えようとするが……そんな谷口をユエの優しい手つきが制止した。頭をそっと撫でたユエに、谷口が“ほぇ?”と思わず緩んだ声を漏らして詠唱を止めてしまう。

 

 

「……大丈夫」

 

 

ただ一言そう呟いたユエに、谷口は、何の根拠もないというのに“ああ、もう大丈夫なんだ”と体から力を抜いた。自分でも、なぜそうも簡単にユエの言葉を受け入れたのかは分からなかったが、まるで頼りになる姉にでも守られているような気がしたのだ。

 

 

 

ユエが視線を谷口から外し、今まさにその爪牙を、触手を、メイスを振るわんとしている魔物達を睥睨する。そして、ただ一言、魔法のトリガーを引いた。

 

 

「“蒼龍”」

 

 

その瞬間、ユエ達の周りに魔力が集まり、頭上から直径一メートル程の青白い球体が発生した。そして、その球体から蒼い龍が出現し、今まさにメイスを振り降ろそうとしていたブルタールモドキ達に襲いかかるとそのまま呑み込み、一瞬で灰も残さず滅殺した。

 

 

 

ゴァアアアアア!!!

 

 

 

爆ぜる咆哮が轟くと、その直後にたじろぐ魔物達の体が突如重力を感じさせず宙に浮いたかと思うと、次々に蒼龍の顎門へと向けて飛び込んでいった。突然の事態にパニックになりながらも必死に空中でもがき逃げようとする様子から自殺ではないとわかるが、一直線に飛び込んで灰すら残さず焼滅していく姿は身投げのようで、タチの悪い冗談にしか見えない。

 

 

「なに、この魔法……」

 

 

流石の谷口と中村もこの光景に唖然とする他になかった。他のクラスメイトも同様である。

 

 

 

一方のシアは重傷で倒れているメルドを治療を行う為に神水を使おうとした時にユエが魔法を使っている所を見ていた。

 

 

「流石ユエさんです。まだ微かに息がありますね。これならハジメさんの回復役で…」

 

 

シアがメルドに神水を飲ませようとした時に、ブルタール擬きが棍棒でメルド諸共叩き潰そうとする。しかし、シアは攻撃してくる魔物に対してライトセーバーで棍棒ごとブルタール擬きごと斬り裂く。

 

 

「邪魔しないでもらいます?」

 

 

そう言いながら先に襲ってくる魔物を殲滅してからメルドに神水を飲ませることにした。

 

 

 

そしてハジメはシュラークを回収し、雷電たちの所に向かいながらもシアの殲滅力の高さに少し不安げだった。

 

 

「シアの奴、雷電の弟子とはいえメルドも巻き添えにしてないよな…?」

 

 

若干不安を抱えながらもハジメは急いで雷電の加勢に向かうのだった。

 

 

 

カトレアは今のままではマズいと判断したのか、今度の標的を白崎達に変え、魔法で最初にハジメに殺られたキメラの尻尾である蛇の部分を独立させて、白崎達に襲わせるよう指示を出す。キメラの尻尾部分の蛇の魔物が白崎達に襲いかかろうとしていることに気付いた八重樫は殺意を撒き散らしながら迫り来る魔物に歯噛みしながら半ばから折れた剣を構えようとする。

 

 

「八重樫、取れ!」

 

 

その時にハジメは宝物庫から何時の間に作ったのか一本の黒い鞘を収めた刀を八重樫に投げ渡す。八重樫はハジメから刀を受け取ったと同時に白崎に謝罪しながらも安全な場所に白崎を突き飛ばす。そして蛇型の魔物は八重樫に噛み付こうとするが、八重樫の本来の獲物(武器)を手にした影響か、抜刀術で魔物を一瞬で斬殺する。

 

 

 

八重樫は初めて使うハジメお手製の刀に驚いていた。その刀は軽量でありながらも鋭い切れ味を誇っていた。これを驚くなというのは無理がある。

 

 

 

全ての魔物を使い切り、完全に不利な状況に追い込まれてしまったカトレア。しかし、この状況を打開できなくても、逃げ出す隙を作ることが出来るが、たとえ出来なくとも道ずれに出来ると判断し、ある上級魔法を放とうと詠唱を始める。

 

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴、大地が産みし魔眼の主、宿るは暗闇見通し射抜く呪い、もたらすは永久不変の闇牢獄、恐怖も絶望も悲嘆もなく、その眼を以て己が敵の全てを閉じる」

 

「この詠唱は…っ!まずい!」

 

 

天之河はカトレアの詠唱に聞き覚えがあった。しかしカトレアは気にせず詠唱を続ける。

 

 

「残るは終焉、物言わぬ冷たき彫像」

 

 

そうして詠唱を終える寸前なのか、カトレアの頭上には魔力が収束していた。この時に天之河はハジメと雷電達に警告する。

 

 

「南雲、雷電!その魔法は絶対くらうなよ!石化系の上級魔法だ!」

 

「石化?…だとしたら不味いな。ハンター、一旦部下達を俺の所に集まれ。敵の魔法を防ぐ」

 

「了解です、将軍。お前たち、聞いての通りだ。集まれ」

 

 

雷電の指示で不良分隊は雷電の所に集まり、カトレアの魔法に対策をとった。しかし、カトレアは狙いは雷電たちではなく、ハジメの方だった。片方を潰せば勝手に瓦解すると判断したのだ。そうしてカトレアの詠唱が終わりを迎えようとしていた。

 

 

「ならばものみな砕いて、大地に返せ──“落牢”!!」

 

 

カトレアが奥の手として放った上級魔法が、ハジメの直ぐ傍で破裂し、石化の煙がハジメを包み込んだ。

 

 

「ハジメくん!」

 

「南雲君!?」

 

「南雲…!」

 

 

雷電の思惑がハズレたのにも関わらず、雷電の表情は一切変わっていなかったのに対し、天之河達が息を飲み、香織と雫が悲鳴じみた声でハジメの名を呼ぶ。そしてミュウもまたハジメの名を呼ぶ。

 

 

()()!」

 

「パ……ッ!?」

 

 

ミュウから爆弾発言を聞いた白崎は一瞬固まった。あのハジメに子供が出来ていたことに驚きを隠せないでいる白崎であった。そんな中、カトレアは無双していた雷電の相棒であるハジメが石化魔法にかかのにも拘らず焦る様子すら見せないでいたことに疑問に思った。しかし、その疑問はすぐに分かることになる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……冗談だろ?一体どんなトリックを使ったんだい」

 

「“魔力放射”だ。所詮は煙、魔力と一緒に押し返せばいい」

 

「上級魔法を押し返す程の魔力だなんて……あんた本当に人間?」

 

「どうだろうな?、実は俺も雷電も、自分自身疑わしいんだ」

 

「俺もかよ。……まぁ、事実上そうなんだがな」

 

 

雷電はそうぼやきながらもハジメと合流する。この時にカトレアは悟った。ハジメ達と出会った時点で既に詰んでいたことを。そんな中、白崎は八重樫の肩を掴みながらミュウの爆弾発言に何かしらの怒りを感じていた。その証拠に白崎の背後から般若の顔をした何かが出ていた。八重樫も今の白崎の様子に驚きを隠せないでいた。

 

 

「……参ったね、最初から詰みだったわけだ」

 

「そうなるな。それに、お前たち魔人族が何故この大迷宮にいるのか気になるがな?」

 

「見れば分かるだろう?勇者一味を殺そうとしていたんだよ。最初はクローン達を含めて魔人族側への勧誘だったんだけどね。勇者が想定より厄介で予定を変更したのさ」

 

 

そうカトレアが言うが、ハジメもそうだが、主に雷電はフォースで相手の嘘を見抜ける為にカトレアが言っていることは本当であるが、他にもまだ隠していることをフォースを通して見抜いていた。

 

 

「……どうやら本当でありながら、他にもこの大迷宮に用があった様だな」

 

「どういう意味だい?」

 

「俺には嘘は通用しない。勧誘の件は本当の様だが、それは本来の目的ではないだろ?そもそも、勧誘なら大迷宮の深部でする必要はないからな。大方、この大迷宮の攻略なのだろう?」

 

「その辺はあんたらの想像に任せるよ。他に喋ることなんてあたしには無いよ。そもそも、人間族の有利になるような事を話すと思うかい?バカにされたもんだね?」

 

 

そう返答を返したカトレアに対してハジメはドンナーでカトレアの両足を撃ち抜く。

 

 

「…っ!?ぐぁぁあ!!」 

 

 

悲鳴を上げて崩れ落ちるカトレア。魔物が息絶え静寂が戻った部屋に悲鳴が響き渡る。情け容赦ないハジメの行為に、背後でクラスメイト達が息を呑むのがわかった。しかし、ハジメはそんな事は微塵も気にせず、ドンナーを魔人族の女に向けながら再度話しかけた。

 

 

「人間族……もとい、この世界の人間達のことなんて知った事か。俺は知りたいから聞いているんだ。それに、質問は既に尋問に変わっているんだ。さっさと答えろ」

 

「くっ……この程度で口を割るとでも思うのかい?「…“神代魔法”だろ?お前たちの狙いは?」

……っ!?」

 

 

口を割るつもりもない筈が、雷電によって目的を見抜かれたカトレアは驚きを隠せなかった。図星を突かれたカトレアを無視して雷電は語り続ける。

 

 

「お前が連れて来た魔物達は戦ってみて分かったが、あれは“神代魔法”の産物なのだろ?魔人族の魔物が急に強くなった理由もそれで説明がつく。魔人族の中に七大迷宮を攻略した人物がいるという事だ。そもそも神代魔法は強力だから故に、すぐに他の神代魔法を手に入れようと動くはず。そんな中、勇者達がオルクス大迷宮にいる情報を耳にし、勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いたということだ。そもそも、大迷宮の攻略は骨が折れるくらい困難を極めるからな。そしてお前の最終目的は、オスカー・オルクスの隠れ家を見つける事。…違うか?」

 

「…っ。そこまで知っているという事は、あんた等も迷宮の攻略者ってことか。“あの方”と同じなら、その強さも納得がいくよ。そしてあのファースト・オーダーとか言う連中がジェダイには注意しろと言った理由もそれか……」

 

「“あの方”…か。大方あの魔物はそいつからの贈り物だったわけか」

 

「それだけではない。あのファースト・オーダーも魔人族と繋がっている事も判明した。これは思ってもいない収穫だ」

 

 

カトレアから少ない情報を収集した雷電たち。するとまたもや魔法陣がカトレアの背後から出現し、その魔法陣から何者かが転移してくる。

 

 

その正体は、現在魔人族から雇われている一人の賞金稼ぎ“ジャンゴ・フェット”だった。

 

 

「ジャンゴ!?」

 

「魔人族から依頼で様子を見に来たんだが、どうやら手遅れの様だな?」

 

「…ちっ。よりによってあんたかい、ジャンゴ」

 

「文句言うな。俺はクライアントからカトレアが無事なら可能な限り連れ帰れという依頼を受けている。無理だった場合は形見でも回収しろと言われているからな」

 

「……だったら、あたしの考えている事くらい分かるだろう?人間族の捕虜になるつもりは無いよ。それと、これをミハイルに…」

 

 

そう言ってカトレアはロケットペンダントをジャンゴに投げ渡す。ジャンゴはロケットペンダントを回収した後に察した。カトレアはここで死ぬつもりなのだと…

 

 

「…分かった。こいつはお前の恋人に渡しておく」

 

「人間のあんたに頼むのはしゃくだけど……頼んだよ」

 

 

ジャンゴは依頼を果たす為にこの場を後にしようとした時、天之河がジャンゴを呼び止める。

 

 

「待てっ!お前は彼女を助けに来たんじゃないのか!?」

 

「クライアントからは飽くまでも()()()()()と言われている。本人が助からないと判断し、そういったんなら、形見を俺に預けた時点で分かっている筈だが?」

 

「…本当に何も分かってない坊ちゃんだね?さっきも言った様にこれは戦争なんだよ」

 

「だからって、味方を見捨てる理由には「別に俺はこいつらの仲間じゃない」……っ!」

 

「俺は賞金稼ぎだ。飽くまで魔人族から依頼を受け、仕事をこなすだけだ。それに、お前にとやかく言われる筋合いはない」

 

 

ジャンゴはそう天之河に対して冷たく言葉を言い放つ。そしてジャンゴは天之河から雷電たちに向けてある警告を告げる。

 

 

「ジェダイにハジメ、一応数分後に例のファースト・オーダーとか言う連中が一個大隊の兵士がこの大迷宮にピンポイントで転移してくるぞ。恐らく、俺の仕事が失敗した事を想定しての置き土産だろうな?」

 

「マジか……つーかそんな事、俺達の前で話して大丈夫なのか?」

 

「俺のクライアントは魔人族だけだ。ファースト・オーダーは別だ」

 

 

そう言ってそのまま転移魔法でジャンゴはこの場から去る。そしてカトレアもジャンゴが去ったの確認したのを確認した後にハジメに直ぐに殺す様に言う。

 

 

「もう、いいだろ?ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね。…もっとも、こんな所で死ぬのは悔しいが……いつかあたしの敵を恋人がとってくれる」

 

「いいだろう。そいつも敵ならあの世で再会させてやるよ。魔人族であれ、敵が俺達の行く手を遮るなら俺達は神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴では、俺達には届かない」

 

 

互いにもう話すことはないと口を閉じ、ハジメは、ドンナーの銃口を魔人族の女の頭部に向けた。

 

 

 

しかし、いざ引き金を引くという瞬間、大声で制止がかかる。

 

 

「待て!止めろ、南雲!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

 

「……」

 

 

ハジメは、ドンナーの引き金に指をかけたまま、“何言ってんだ、アイツ?”と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。光輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

 

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

 

余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。魔人族のカトレアも天之河の甘さに呆れる他に無かった。

 

 

「人間族は厄介なのを抱えてるね……あの坊ちゃんの様な甘ちゃんをさ?」

 

「言っただろ?人間族の事なんて知らねぇよ」

 

 

ハジメの言葉を皮切りに“ドパンッ!”と乾いた破裂音が室内に木霊する。解き放たれた殺意は、狙い違わず魔人族の女の額を撃ち抜き、彼女を一瞬で絶命させた。

 

 

 

静寂が辺りを包む。クラスメイト達は、今更だと頭では分かっていても同じクラスメイトが目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。そんな彼等の中でも一番ショックを受けていたのは白崎のようだった。

 

 

 

人を殺したことにではない。それは、白崎自身覚悟していたことだ。この世界で、戦いに身を投じるというのはそういうことなのだ。迷宮で魔物を相手にしていたのは、あくまで実戦()()なのだから。

 

 

 

だから、殺し合いになった時、敵対した人を殺さなければならない日は必ず来ると覚悟していた。自分が後衛職で治癒師である以上、直接手にかけるのは八重樫や天之河達だと思っていたから、その時は、手を血で汚した友人達を例え僅かでも、一瞬であっても忌避したりしないようにと心に決めていた。

 

 

 

白崎がショックを受けたのは、ハジメに人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切なかったからである。息をするように自然に人を殺した。白崎の知るハジメは、弱く抵抗する手段がなくとも、他人の為に渦中へ飛び込めるような優しく強い人だった。

 

 

 

その“強さ”とは、決して暴力的な強さをいうのではない。どんな時でも、どんな状況でも“他人を思いやれる”という強さだ。かつて大迷宮の奈落に落ちた日に雷電が通信して来てハジメの生存を知ったと同時にハジメから白崎が知る南雲ハジメじゃないと告げられた。だからこそ、無抵抗で戦意を喪失している相手を何の躊躇いも感慨もなく殺せる。ハジメが言ってた通り、自分の知るハジメとは余りに異なり衝撃だったのだ。

 

 

 

八重樫は、親友だからこそ、白崎が強いショックを受けていることが手に取るようにわかった。そして、日本にいるとき、普段から散々聞かされてきたハジメの話から、白崎が何にショックを受けているのかも察していた。

 

 

 

八重樫は、涼しい顔をしているハジメを見て、確かに変わりすぎだと思ったが、何も知らない自分がそんな文句を言うのはお門違いもいいところだということもわかっていた。なので、結局、何をすることも出来ず、ただ白崎に寄り添うだけに止めた。

 

 

 

だが、当然、正義感の塊たる勇者の方は黙っているはずがなく、静寂の満ちる空間に押し殺したような光輝の声が響いた。

 

 

「…何故殺したんだ。殺す必要があったのか…?」

 

 

ハジメは、シアの方へ歩みを進めながら、自分を鋭い眼光で睨みつける光輝を視界の端に捉え、一瞬、どう答えようかと迷ったが、次の瞬間には、そもそも答える必要ないな!と考え、さらりと無視することにした。

 

 

 

そう考えていたその時、この階層に大型の魔法陣が出現し、ジャンゴの言ってた通り、そこからファースト・オーダーのストーム・トルーパー達が多数も現れた。

 

 

 

クラスメイト達はストーム・トルーパーを見て、最初は“クローン達の仲間か?”と思われたが、クローン達は逆にストーム・トルーパー達を敵と認識してブラスターを構えていた。ジャンゴが言ってた事が本当であった事を認識した雷電たち。

 

 

「どうやらジャンゴが言っていた事は本当の様だな?」

 

「その様だ。どっちみち、ここで殲滅しないと安全が確保できないのも事実だな。それと雷電、こいつらの相手は俺がする」

 

「何だ?ゴーレム達を相手していたのに不完全燃焼なのか?」

 

「そんなところだ。ここで完全に燃焼させる」

 

 

雷電は“程々にな…”と言って不良分隊と共にこの場を離れる。そしてハジメはドンナーとシュラークを構える。その時、ポールドロンを装備した隊長格のストーム・トルーパーが一人で挑んでくるハジメに対して甘く見られている事に腹を立てる。

 

 

「おのれ…!我々相手に一人で挑んで来ようとは!その蛮勇が如何に愚かな事である事を思い知らせてやるぞ!」

 

「てめぇらの御託なんざ知らねぇよ。こちとら少しばかり不完全燃焼気味なんだ。悪いが、こっちの我が儘に付き合ってもらうぞ」

 

 

ハジメはそういってドンナーとシュラークをガン=カタの体勢で構える。ストーム・トルーパー達もそれぞれ部ラスターを構える。そしてハジメはストーム・トルーパー達に告げる。

 

 

「ここで俺に出会った不幸を呪え。さぁ…何処を撃ち抜かれたい?五秒以内に答えればリクエストに応えてやるぞ?」

 

「…殺れ!ファースト・オーダーに逆らった事を後悔させてやれ!」

 

 

隊長格のストーム・トルーパーの命令を合図に他のストーム・トルーパー達がF-11Dブラスター・ライフルをハジメに向けて撃ちまくる。しかし、ストーム・トルーパー達はハジメのありえない機動で躱しながらもこちらに向かってくる事を予想が出来なかった。

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

そして懐まで接近を許してしまい、ハジメに目を付けられた二人のストーム・トルーパーはドンナーとシュラークを顔もとに向けられてしまう。ここまで掛かった時間は、ハジメが宣言したどおり五秒ちょうどだった。

 

 

「時間切れだ…!」

 

 

ハジメは一切容赦することなくドンナーとシュラークの引き金を引き、近場の二人のストーム・トルーパーをヘルメットごと眉間を撃ち抜き、そして周りにいるストーム・トルーパー達を急所を撃ち抜く。空になった薬莢を排出しながらも次弾を装填し、再び射撃し、どこぞの髑髏の魔神皇帝の如くストーム・トルーパー達を次々と撃ち抜いていく。そしてある程度撃った後、ドンナーとシュラークに宝物庫からある拡張パーツを空中で出現させ、それを装着させる。

 

 

 

装着したそれはハジメが雷電たちに内緒で密かに作り上げたレーザーソードのレーザー刃発生装置だった。その出力は低く設定されているものの、ナイフくらいの刀身サイズのレーザー刃を展開する事が可能のアタッチメントパーツだった。本来ならドンナーとシュラークの装備ではないが、ハジメが万が一の事を考え急造で作った拡張パーツであった。

 

 

「まだだ、じっくり味わえ!」

 

 

そう言ってハジメは拡張パーツを取り付けられたドンナーとシュラークからレーザー刃を展開し、そのままストーム・トルーパー達に斬り掛かり、一気にその数を減らす。そして気付いた時には隊長格のストーム・トルーパー以外の者はハジメ一人によって殲滅されたのだった。

 

 

「なっ……バカな!?一個大隊のストーム・トルーパー部隊が全滅だと!?」

 

「後はお前だけだな?」

 

「…ちっ!舐めるな!!」

 

 

そして隊長格のストーム・トルーパーはブラスターを捨て、腰に懸架していたZ6暴動鎮圧用警棒を展開し、ハジメと接近戦を仕掛けるのだった。しかし、悲しいかな…ハジメはそんな相手を容赦する事無く、隊長格のストーム・トルーパーが持つZ6暴動鎮圧用警棒を防ぐと同時に弾き跳ばす。

 

 

 

ガラ空きになった隊長格のストーム・トルーパーにハジメはトドメの一発としてドンナーの引き金を引き、その隊長格のストーム・トルーパーの眉間を撃ち抜き、引導を渡すのだった。

 

 

 

そんなハジメ無双を見ていたクラスメイト達はそんなハジメを見てあまりの変わりようにもはや言葉で表現する事が出来ずにいた。そして雷電が召喚した不良分隊達は……

 

 

「おいおい……こいつは少し洒落にならんだろ」

 

「マジかよ。少しばかり自信を失くすぜ……」

 

「もはや彼の独壇場でしたね?実はジェダイだったというオチではなさそうですが……」

 

「……」

 

 

それぞれ思ったことを感想として呟き、これ以上は何も言えなかった。そして天之河は相変わらず何かぶつくさ言っている様子ではあったが、ハジメはそれを無視するのだった。

 

 

もっとも、そんなハジメの態度を相手が許容するかは別問題である……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会のあれこれ、愚者の連行

なんとか早く執筆し終えました。サブタイトル通り、あの愚者が連行されます。


49話目です。


 

 

ハジメが一人でストーム・トルーパー達を無双し、戦闘が終わった後に俺はシアのところに向かい、騎士の男ことメルドさんの容態を確認した。

 

 

「シア、メルドさんの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。…でも、良かったのですか?貴重な神水を使ったりして?」

 

「この人には俺とハジメが色々とお世話になったからな。死なせるのは惜しいし、教会からメルドさん以外の教育係が送られると考えれば、助けた方がいいからな。そうでないとその次に送られる教育係が狂信者だったら、間違った事を教えられ、勇者達と戦わなければならない事だけは避けたいからな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドさんもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはないからな」

 

 

そう呟く中、ハジメはストーム・トルーパー達を一掃し終えてこっちに戻って来た。他にも坂上に支えられつつクラスメイト達と共に歩み寄ってくる。そして天之河が、未だハジメを睨みつけている。

 

 

「……ハジメ」

 

「ユエ。ありがとな、頼み聞いてくれて。遠くでも見ていたが、凄い魔法だったな」

 

「んっ……“蒼天”に重力魔法を組み合わせたオリジナル魔法。限定空間での炎属性は空気と熱の調整が難しい。…少し疲れた。ハジメ成分の補充が今すぐ必要」

 

「ハジメ成分って何だよ……」

 

「ユエさん……空気読んでくださいよ」

 

 

既に病気と言ってもいいくらい、いつも通り二人の世界を作り始めたハジメとユエに、俺とシアがツッコミを入れて正気に戻す。

 

 

 

何やら、天之河とは違う意味で睨む視線が増えたような気がするハジメ。特に、天之河達とは別方向から来る視線に、俺とハジメは自分の背筋が粟立った。

 

 

「ハジメくんに藤原くん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの?見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

「あぁ、それか。それは衛生兵達が持っているバクタ液の上位互換の回復薬を飲ませたからだな。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物らしい」

 

「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」

 

「そりゃ伝説になってるくらいだしな……普通は手に入らない。だから、八重樫は治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

 

「え、ええ……ありがとう」

 

 

俺達に声をかけられ、未だに記憶にあるハジメとのギャップに少しどもりながら薬を受け取り礼をいう八重樫。ハジメは、そんな八重樫の反応を特に気にするでもなく、白崎にも魔力回復薬を投げ渡した。あわあわと言いながらも、きっちり薬瓶をキャッチした香織も、ハジメに一言礼を言って中身を飲み干す。リポビ○ンな味が広がり、少しずつ活力が戻ってくる。白崎さえ回復すれば、クラスメイト達も直ぐに治癒されるだろう。

 

 

 

取り敢えず、メルドは心配ないとわかり安堵の息を吐く白崎達。そして白崎は近寄り、今まで抑えていた感情を少しずつ解放する。

 

 

「ハジメくん……生きててくれた。……ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 

流石のハジメでもどう対処すべきか困っていた。ハジメは雷電に助けを求めたが、その時に俺はハンドサインで×の字を作り、“無理だ”と伝える。

 

 

 

クラスメイトのうち、女子は白崎の気持ちを察していたので生暖かい眼差しを向けており、男子の中でも何となく察していた者は同じような眼差しを、近藤達は苦虫を噛み潰したような目を、天之河と坂上は白崎が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている。鈍感主人公を地で行く天之河と脳筋の坂本、八重樫の苦労が目に浮かぶ。

 

 

 

ユエに関してはいつにも増して無表情でジッと白崎を見つめている。

 

 

 

ハジメは、目の前で顔をくしゃくしゃにして泣く香織が、遠藤に聞いていた通り、あの日からずっと自分の事を気にしていたのだと悟り、何とも言えない表情をした。ハジメは、困ったような迷うような表情をした後、苦笑いしながら香織に言葉を返した。

 

 

「……心配かけた様だな?まぁ、この通りしっかり生きてっから、白崎が謝る必要はないしな。……だから泣かないでくれ」

 

 

そう言って白崎を見るハジメの眼差しは、いつか見た“守ってくれ”と言った時と同じ白崎を気遣う優しさが宿っていた。その眼差しに、あの約束を交わした夜を思い出し、胸がいっぱいになる白崎。そして……

 

 

「ハジメく〜〜んっ!!」

 

 

思わずワッと泣き出し、そのままハジメの胸に飛び込んでしまった。胸元に縋り付いて泣く白崎にどうしたものかと両手をホールドアップしたまま途方に暮れるハジメ。他のクラスメイトだったら、問答無用に鬱陶しいと投げ飛ばすか、ヤクザキックで意識を刈り取るかするのだが、ここまで純粋に変わらない好意を向けられると、奈落に落ちる前のこともあり、邪険にしづらい。

 

 

 

ただ、ユエの手前、ほかの女を抱きしめるのははばかられたので、銃口を突きつけられた人のように両手をホールドアップさせたまま、香織の泣くに任せるという中途半端な対応になってしまった。実に、ハジメらしくない。

 

 

 

傍らにいる八重樫から“私の親友が泣いているのよ!抱きしめてやんなさいよぉ!”という視線が叩きつけられているが、無言で見つめてくるユエの視線もあるので身動きが取りづらい。それに対して雷電やデルタ分隊、不良分隊に清水はただ暖かい目で見送るしか無かった。ハジメは仕方なく間をとって、ポンポンと軽く頭を撫でるに止めてみた。本当に、いつになくヘタレているハジメだった。

 

 

「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。雷電も何故ハジメを止めなかったのかを事も含めて話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」

 

 

クラスメイトの一部から“お前、空気読めよ!”という非難の眼差しが天之河に飛んだ。この期に及んでこの男は、まだ白崎の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う白崎を引き離そうとしている。単に、白崎と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。

 

 

「ちょっと、光輝!南雲君達は、私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?」

 

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」

 

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ?大体……」

 

 

天之河の物言いに、八重樫が目を吊り上げて反論する。クラスメイト達は、どうしたものかとオロオロするばかりであったが、檜山達は、元々ハジメが気に食わなかったこともあり、天之河に加勢し始める。しかし、クラスメイト以外にも例外は存在する。それはクローン達だった。

 

 

「貴様、本当にそう思っているのか!?」

 

「将軍達が助けに来なければ、お前たちは今頃死んでいたのかもしれないんだぞ!」

 

「あの時、貴様が魔人族に止めを刺さなかったからこの様な事態を引き起こした事を忘れたのか!!」

 

 

そうしてクローン達も天之河の意見に反発して次第に、ハジメや雷電の行動に対する議論が白熱し始めた。白崎は、既にハジメの胸元から離れて涙を拭った後だったが、先程のハジメの様子にショックを受けていたこともあり、何かを考え込むように難しい表情で黙り込んでいた。

 

 

 

そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ。

 

 

「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」

 

「あー、うん、そうだな」

 

 

絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、天之河達を“くだらない”と切って捨てたのはユエだ。その声は、小さな呟き程度のものだったが、天之河達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた。一瞬で、静寂が辺りを包み、天之河達がユエに視線を向ける。

 

 

 

ハジメは元々、遠藤から話を聞いて白崎への義理を果たすために来ただけなので用は済んでいる。なので、ハジメの手を引くユエに従い、部屋を出ていこうとした。雷電たちも、周囲を気にしながら追従する。

 

 

 

そんなハジメ達に、やっぱり天之河が待ったをかけた。

 

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

「……」

 

 

天之河が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、“自分の胸に手を置いて考えろ”と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。

 

 

 

ユエは、既に光輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない。天之河は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとした。

 

 

 

このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。

 

 

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前をいちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

 

「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

 

 

ハジメから心底面倒です!という表情を向けられ、不機嫌そうにハジメに反論する天之河に取り合わず、ハジメは言葉を続けた。

 

 

「誤魔化すなよ」

 

「いきなり何を……」

 

「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の……相手を殺したと論点をズラしたんだろ?見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

 

「ち、違う!勝手なこと言うな…お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

 

「敵を殺す、それの何が悪い?」

 

「なっ!?何がって、人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」

 

 

天之河がそう言い返す中、不良分隊のクロスヘアが天之河に対して煽る様に声を掛ける。

 

 

「ほぉ?オタクの理屈や常識が正しいんだってなら、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

クロスヘアの煽りに天之河が口を開く前に坂上がクロスヘアの物言いに怒りを覚えたのかクロスヘアに突っ掛かる。

 

 

「お前な、光輝にそんな言い方はねぇだろ!光輝だって俺達の事を考えて言っているんだ!」

 

「うるせぇな、オメェはよっ!」

 

「なっ!?がぁっ……!!」

 

 

その時に坂上よりも巨体なレッカーが議論に介入して来て、坂上の首元を掴み、片手で軽々と持ち上げる。クラスメイト達も雷電が新たに召喚したクローンが天之河達に対して敵対したのではないのかと不安が一気に込み上がるのだった。

 

 

「りゅ…龍っち!?」

 

「なっ!?お前、龍太郎を離せ!」

 

 

天之河がレッカーから龍太郎を救おうと行動するも、クロスヘアに邪魔される。

 

 

「引っ込んでな…!」

 

「何だとっ!?」

 

「あぁ…皆、止めようよ…」

 

 

そうして激突する中、天之河は未だに回復しきれてない為か、それともハジメから指摘された事にまだ戸惑いを隠し切れてない為か、クロスヘアに一方的にやられるだけであった。不良分隊の中で一番利口であるテックが喧嘩を止めようとするが、天之河達は殆ど聞く耳を持たなかった。

 

 

 

ハンターは天之河の甘さとご都合解釈に呆れるほかになかった。俺に至っては逆に怒りが込み上がっていた。ハンターがレッカー達に喧嘩をやめるよう命令しようとした時に俺は代わりにやると伝え、喧嘩している天之河達の前で怒りと殺意をピンポイントで放出する。

 

 

「「「っ!?」」」

 

「お前たち、いいかげんにしろ。それとレッカー、坂上を降ろせ。今…すぐにだ…」

 

「りょ…了解!(将軍、マジで怒ると怖ぇや…!)」

 

 

レッカーは雷電の怒りにびびったのか、すぐに坂上を手放して地面に降ろすのだった。それを確認した俺は怒りと殺意を静める。クラスメイト達からの目線で見れば雷電の怒りの素顔が一瞬、本物の鬼の顔に変わった様に見えたのは余談だ。

 

 

「お前たち、こんな時にくだらない事で仲間割れするな。それと天之河、今回ばかりお前にも責任がある。お前は人を殺す覚悟がない所為でコルトを含めて多くのクローン達が戦死した。ハジメの言う通り、敵を殺せなかった自分への怒りを俺やハジメに向けているだけだ。それも元いた世界の常識を持ちかけて自分の正しさを強調してな」

 

「なっ!?違う、俺は人として当たり前のことを言っているだけだ!」

 

「そんな常識、この世界には通用しないという事をいい加減に理解しろと言っているんだ!!」

 

 

俺は天之河の自分への正当性という名のご都合解釈にしびれを切らし、怒りを混ぜ込んだ言葉を放った。普段怒る事はない雷電を目の当たりにしたクラスメイト達は雷電の事を初めて怖いと認識したのだった。そんなクラスメイト達を無視して、言葉を続ける。

 

 

「お前は何時もそうだ!そのくだらないご都合解釈の所為でいったいどれだけの仲間を犠牲にしたんだ!コマンダー・コルトはお前たちを魔人族から逃がしたというのに、回復も済んでいない状況で追いついて来た魔人族と魔物達を相手にするなんざ、愚策にも程があるだろうが!」

 

「だ…だが!あの時は戦わなければいずれ香織達が死んでいた筈だ!」

 

「実際にクローン達やメルド騎士団の者たちが死んで、その白崎達が死にかけたんだろうが!何でもそのくだらないご都合解釈で言い訳するな!!対人戦において人を殺すという恐怖に負けて逃げ出したお前にとやかくいう資格はない!」

 

「なっ、俺は逃げてなんて……」

 

 

裏話ではあるが、ハジメ達がピンポイントであの場所に落ちてこられたのは偶然ではない。ちょうど上階を移動している時に莫大な魔力の奔流を感じて天之河達だと察したハジメが、感知系能力をフル活用して階下の気配を探り、錬成とパイルバンカーで撃ち抜いたというのが真相である。

 

 

 

そして、その時感じた魔力の奔流とは、天之河の“覇潰”だった。感じた力の大きさからすれば、あの状態の天之河なら魔人族の女を討てたはずだと、ハジメ達はわかっていた。なので、その後の現場の状況と合わせて天之河が人殺しを躊躇い、その為にあの窮地を招いたのだと看破していたのだ。それが、俺の言う“恐怖に負けて逃げ出した”という言葉である。

 

 

 

天之河が、俺に反論しようとすると、そこへ深みのある声が割って入った。

 

 

「よせ、光輝」

 

「メルドさん!」

 

 

メルドは、少し前に意識を取り戻して、天之河達の会話を聞いていたようだ。まだ少しボーとするのか、意識をはっきりさせようと頭を振りながら起き上がる。そして、自分の腹など怪我していたはずの箇所を見て、不思議そうな顔で首を傾げた。

 

 

 

白崎が、メルドに簡潔に何があったのかを説明する。メルドは、自分が何やら貴重な薬で奇跡的に助けられたことを知り、そして、その相手がハジメと雷電であると聞いて、ハジメと雷電の生存を心底喜んだ。また、救われたことに礼を述べながら、あの時、助けられなかった事を土下座する勢いで謝罪するメルドに、俺は謝罪の必要は無いと伝え、ハジメは居心地悪そうにして謝罪を受け取った。

 

 

 

ハジメとしては、全く気にしていなかったというか、メルドが言った“絶対助けてやる”という言葉自体忘却の彼方だったのだが……深々と頭を下げて謝罪するメルドを前に空気を読んだのだ。

 

 

 

ハジメとのやり取りが終わると、メルドは、天之河に向き直り、ハジメにしたのと同じように謝罪した。

 

 

「メ、メルドさん?どうして、メルドさんが謝るんだ?」

 

「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。それを代わり務めてくれたのは今は亡きコルト達だった。それも本格的な対人戦闘訓練を天之河達にしてくれた。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった……申し訳ない」

 

 

そう言って、再び深く頭を下げるメルドに、クラスメイト達はあたふたと慰めに入る。どうやら、メルドはメルドで天之河達についてかなり悩んでいたようだ。団長としての使命と私人としての思いの狭間で揺れていたのだろう。

 

 

 

メルドも、王国の人間である以上、聖教教会の信者だ。それ故に、“神の使徒”として呼ばれた天之河達が魔人族と戦うことは、当然だとか名誉なことだとか思ってもおかしくはない。にもかかわらず、天之河達が戦うことに疑問を感じる時点で、何とも人がいいというか、優しいというか、ハジメや雷電の言う通り人格者と評してもいいレベルだ。

 

 

 

メルドの心の内を聞き、押し黙る天之河。コルトやメルドからも言われた様にそう遠くないうちに人を殺さなければならないと言われ、魔人族の女を殺しかけた時の恐怖を思い出したようだ。それと同時に、たとえ賊であっても人である者を訓練のために殺させようとしていたメルドの言葉にショックも受けていた。賊くらいなら、圧倒出来るだけの力はあるので、わざわざ殺すなんて……と。

 

 

 

そんな感じで天之河をメルドに任せた後に俺は次に檜山の方に向ける。

 

 

「な……何だよ!?」

 

「檜山、お前の所業はクローンのイザナミから聞かされている。ベヒモス戦で撤退中のハジメに対して意図的に魔法を当て、橋から落とした。間違いないか!」

 

 

そう雷電から告げられた事に檜山は青ざめた。実は四ヶ月前の事、ハジメ達が落ちてから檜山は部屋にて自分がやった事に“俺は悪くない…”と何回も呪詛を唱える様に呟いていた。そんな時に中村が檜山に“素直に誤ったらどう?”と提案を持ちかける。それを聞いた檜山は中村の目的を聞いて、互いに利害が一致し、そして互いに利用する関係を築いたのだ。

 

 

そしてハジメ達が奈落に落ちた翌日、檜山は天之河達の前で自分の魔法が南雲に当たってしまったことを謝罪したのだ。無論、クラスメイト達も檜山の事を許せなかったが、天之河は檜山を許してしまったのだ。心を入れ替えて改心したとご都合解釈で判断したのだ。

 

 

 

そして檜山はハジメと一緒に落ちた雷電に恐怖しながらも苦し紛れに言い訳をする。

 

 

「あ……あぁ。だ、だがアレはワザとじゃないんだ!俺はあの時ベヒモス相手に焦っていたんだ!それに、天之河だって許してくれたんだ!俺は本当に……」

 

「…嘘をつくならまともな嘘を付け。……しかし、俺とて人の子だ。そこまで鬼じゃない。だが、お前には元の世界に戻った際に来るべき裁判を受けてもらう。それまで俺が建造する兵舎で監禁させてもらう。元の世界に戻ったら厳しい処罰を覚悟するんだな」

 

 

檜山のいい分すら聞かず、雷電はクローン二名に檜山を連行するよう指示を出す。その時に天之河が檜山が連行されるところを見たのか止めに入った。

 

 

「待つんだ雷電!檜山はちゃんと反省しながら皆の前で謝ったんだ。改心して、俺達と一緒に迷宮に挑む事で贖罪をしてい──」

 

 

そんな天之河に対して俺はフォース・スリープで強制的に眠らせる。これ以上、天之河の御託に付き合ってやる程、俺は暇ではなかった。

 

 

「たとえ犯人が謝罪したとしても、本心を見抜けないお前では奴が改心している事すら見抜けはしない。それに、それを決めるのは天之河、お前じゃない。ハジメだ。ハジメ、お前は檜山をどうしたい?」

 

 

俺はそうハジメに問いを投げた。そしてハジメは答えは決まっていたかの様にすぐに答えた。

 

 

「今更、檜山がどうなろうと俺の知った事じゃない。復讐なんざ興味はねぇ。俺の目的は元の世界の帰還だからな。お前の好きにしろ…」

 

「了解だ。…トルーパー、追加で悪いが、天之河を運んでくれ」

 

 

そうして天之河はクローンによって運ばれて行き、檜山は二人のクローンによって連行されるのだった。

 

 

「や、やめろ!放せ!」

 

「大人しくしろ!」

 

 

檜山はそれに抵抗するが、無意味である。

 

 

「いやだ……死にたくない!俺はまだ、死にたくないんだー!」

 

 

別に殺される事は無いのに対して檜山はそう叫ぶ他に無かった。そして檜山は後悔した。あの時、ハジメを橋から落とすんじゃなかったと思う一心であった。

 

 

 

檜山が連行されて行くの見送った俺はハジメ達とクラスメイト達を引き連れてこの迷宮から脱出するのだった。この時にユエが白崎に対して嘲笑したことに白崎はその意味を理解して対抗心を燃やしたのは別の話。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宣戦布告と怒り

勇者(笑)がオリ主の地雷を踏みます。


50話目です


 

 

大迷宮入り口にまで戻って来た俺達。その時にハジメはティオからミュウを受け取った後、肩車して父親と子の様な会話をしていた。……最早ハジメは完全に親バカになっていた事に俺はツッコム事すら放棄した。

 

 

「パパ〜!ミュウ、おなか空いたの!」

 

「おーしっ!そんじゃ、何か美味しい物でも食べに行くか?」

 

「パパ〜!」

 

「完全に父親だな、こりゃ……」

 

 

そう呟きながらも入場ゲートの扉を開き、出た瞬間、そこには無数の兵士達がいた。流石のハジメもこれを見て、思わず“何だこれは……!?”と口から出てしまう。その時にホアルドギルド支部の支部長のロアさんがハイリヒ王国から来た兵士達で構成された勇者捜索隊を組んで俺達の後に捜索しよう用意した様だ。

 

 

「あぁ……いや、すまん。勇者の捜索隊を組んだんだが、まさかこんな短時間で……イルワの手紙を信じない訳にはいかなくなったな。いやっ参った……」

 

 

そうしてロアは集まった兵士達に勇者達が戻って来た事を告げ、その後に“解散ッ!”といい、勇者捜索隊が解散されるのだった。その時に俺は白崎の視線がハジメの方に向いていた。白崎は中学の頃からハジメの事を好意を抱き、思っていた。俺は白崎を後押しする様に声を掛けた。

 

 

「いいのか?このまま見送るだけで…?」

 

「えっ……藤原くん?」

 

「確かにハジメには惚れている人がいるとはいえ、何も言わずに後悔するよりも言って後悔した方がマシとも言える。俺が言えるのは精々これくらいだ。後は白崎次第だ」

 

「藤原くん……」

 

 

雷電の助言に白崎は気がつく。ハジメが暴力に躊躇いを見せないのは、そして、敵に容赦しないのは、そうすることで大切な誰かを確実に守るため。もちろん、其処には自分の命も含まれているのだろうが、誰かを想う気持ちがあるのは確かだ。それは、ハジメを囲む彼女達の笑顔が証明している。

 

 

 

白崎は想像した。ハジメは、髪の色を失っている。右目と左腕もない。きっと、想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いないと。何度も、心身共に壊れそうになったに違いないと。いや、もしかしたら……一度は壊れてしまったからこそ、変心したのかもしれない。それでも、ハジメはああやって笑顔に囲まれる道を歩んでいる。

 

 

 

その事実が、白崎の心にかかっていた霧を吹き飛ばした。欠けたパズルのピースがはまりカチリと音がなった気がした。自分は何を迷っていたのか。目の前に“ハジメ”がいる。心寄せる男の子がいる。“無能”と呼ばれながら奈落の底から這い上がり、多くの力を得て救いに来てくれた人がいる。

 

 

 

変わった部分もあれば変わらない部分もある。だがそれは当然のことだ。人は時間や経験、出会いにより変化していくものなのだから。ならば、何を恐れる必要があるのか。自信を失う必要があるのか。引く必要があるというのか。

 

 

 

知らない部分があるなら、傍にいて知っていけばいいのだ。今まで、あの教室でそうしてきたように。想いの強さで負けるわけがない!ハジメを囲むあの輪に加わって何が悪い!もう、自分の想いを哂わせてなるものか!

 

 

「ありがとう、藤原くん。私の事は白崎じゃなくて香織と呼んでね」

 

「何の事だ?俺は単に独り言をいっただけだ。それと、名前の事なら分かった。俺も雷電で構わない」

 

「それでもね?……ありがとう」

 

「香織?」

 

「雫ちゃん。私、行くね」

 

 

白崎改め、香織の瞳に決意と覚悟が宿る。傍らの八重樫が、親友の変化に頬を緩める。そして、そっと背を押した。香織は、今まで以上に瞳に“強さ”を宿し、八重樫に感謝を込めて頷くともう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦いだ!

 

 

 

自分達のところへ歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、“むっ?”と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも“あらら?”と興味深げに香織を見やり、ティオも“ほほぅ、修羅場じゃのぉ~”とほざいている。そして清水は“やれやれ……”と呆れ、デルタ、不良分隊に至っては何とも言えなかった。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。

 

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対に付いて行くから!」

 

「………………は?」

 

 

第一声から、前振りなく挨拶でも願望でもなく、ただ決定事項を伝えるという展開にハジメの目が点になる。思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出た。

 

 

「……お前にそんな資格はない」

 

「資格って何かな?ハジメくんをどれだけ想っているかってこと?だったら、誰にも負けないよ?」

 

 

ユエの言葉にそう平然と返した香織。ユエがさらに“むむっ”と口をへの字に曲げる。

 

 

 

香織はユエにしっかり目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、その揺るぎない眼差しをハジメに向けた。そして、両手を胸の前で組み頬を真っ赤に染めて、深呼吸を一回すると、震えそうになる声を必死に抑えながらはっきりと……告げた。

 

 

「貴方が好きです」

 

「……白崎」

 

 

香織の表情には、羞恥とハジメの答えを予想しているからこその不安と想いを告げることが出来た喜びの全てが詰まっていた。そして、その全てをひっくるめた上で、一歩も引かないという不退転の決意が宿っていた。

 

 

 

覚悟と誠意の込められた眼差しに、ハジメもまた真剣さを瞳に宿して答える。

 

 

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない」

 

 

はっきり返答したハジメに、香織は一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた。香織の背後で、クラスメイト達や兵士達が唖然、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いなしに、香織は想いを言葉にして紡いでいく。

 

 

「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」

 

「ああ、だから……」

 

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

 

「なに?」

 

「だって、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね?違う?」

 

「……それは……」

 

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね?だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 

 

そう言って、香織は炎すら宿っているのではと思う程強い眼差しをユエに向けた。そこには、私の想いは貴女にだって負けていない!“もう、嗤わせない!”と、香織の強い意志が見える。それは紛れもない宣戦布告。たった一つの“特別の座”を奪って見せるという決意表明だ。

 

 

 

香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。

 

「……付いて来るといい。私とお前の差を教えてあげる」

 

「お前じゃなくて、香織だよ」

 

「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

 

「負けても泣かないでね?」

 

「……ふ、ふふふふふ」

 

「あは、あははははは」

 

 

ハジメとは違う意味で、二人の世界を作り出すユエと香織。告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、香織のパーティー加入が決定しているという事に、ハジメは遠い目をする。笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。

 

 

「マ、マスター!私の目、おかしくなったのでしょうか?ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」

 

「……心配するな、俺も見えているという事は全員にも見えているってことだ」

 

「香織お姉ちゃんの後ろにも大っきな白いお顔が見えるの!」

 

「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」

 

 

互いに、スタ○ド?を背後に出現させながら、仁王立ちで笑い合うユエと香織。ハジメは、お前等そんなキャラだっけ?とツッコミを入れたかったが、やぶへびになりそうだったので黙っていた。そして俺は、縋り付くミュウを宥めながら自然と収まるまで待つことにした。俺達をヘタレと言う事なかれだ。

 

 

 

だが、そんな香織の意志に異議を唱える者がいた。……もちろん、勇者という名の“愚者”である天之河光輝だ。天之河は俺のフォース・スリープから無事に目を覚ました様だ。

 

 

「ま、待て!待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?付いていく?えっ?どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話しになる?南雲!お前、いったい香織に何をしたんだ!」

 

「……何でやねん」

 

 

どうやら天之河は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に天之河が気がついていなかっただけなのだが、天之河の目には、突然香織が奇行に走り、その原因はハジメにあるという風に見えたようだ。本当にどこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。そして俺は“またこいつは……”と、怒りを通り越して呆れる他無かった。

 

 

 

完全に、ハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる天之河に、八重樫が頭痛を堪えるような仕草をしながら天之河を諌めにかかった。

 

 

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ?冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織はもうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

 

「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ?協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

 

天之河と八重樫の会話を聞きながら、事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つと頬をピクピクさせるハジメ。俺はそんなハジメに対して落ち着けと声をかけるのだった。

 

 

そこへ、天之河達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく天之河とその後ろのクラスメイト達に語りかけた。

 

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

 

そう言って深々と頭を下げる香織に、谷口や中村、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

 

 

 

しかし……当然、天之河は香織の言葉に納得出来ない。

 

 

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

 

「そんなわけないだろうが。幼馴染だからといって、ずっと一緒にいるという理由にはならないだろうが。そんな事すら分からないのか?天之河……」

 

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」

 

「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 

 

雷電と幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする天之河。その視線が、スッとハジメへと向く。ハジメは、我関せずと言った感じで遠くを見ていた。そのハジメの周りには美女、美少女が侍っている。その光景を見て、天之河の目が次第に吊り上がり始めた。あの中に、自分の・・・香織が入ると思うと、今まで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして、衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する。

 

 

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を“ご主人様”って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

 

天之河の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている天之河はもう止まらない。説得のために向けられていた香織への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる。しかし、それがおのれの首を締め上げる事になることを知らずに……

 

 

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シアだったかな?安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放「いい加減にしろ……天之河」……っ!?」

 

 

 

そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べようとする天之河に俺はライトセーバーを起動させ、青い光刃を展開してその青い光刃を天之河の首元に向ける。雫と香織は突然雷電がシアの事に関してキレていることに驚いていた。無論、天之河も同様に友である雷電(本人は友とは認めていない)がキレている事に驚きを隠せないでいた。

 

 

「ら……雷電?」

 

「気安くその名で呼ぶな、天之河。俺の弟子であるシアを奴隷だと見ていたのか?いい加減そのご都合主義にはうんざりしていたんだ。その口を今すぐ黙らせようか?」

 

 

雷電から発する殺意が天之河に向けられている事に気付いたハジメは、この時に悟った。天之河(この馬鹿)が雷電の地雷という名の堪忍袋の尾を踏んでしまって切れてしまったことを……。

 

 

「な……何故だ、雷電?何故、南雲の事を庇うんだ。南雲はあのシアって子を奴隷に……」

 

「この際だからはっきり言っておく。俺はお前の事が嫌いだ。そのくだらないご都合解釈で勝手に俺のことを友と認識し、挙げ句の果てに俺の弟子であるシアのことを奴隷として見ていた。堪忍袋の尾が切れるくらいにこっちはいい迷惑なんだ。」

 

 

雷電のあまりの変わりように天之河は戸惑うばかりだった。それでも天之河はご都合解釈をフル稼働させる。

 

 

「そうか、君も南雲に弱みを握られてこうするしかなくなったんだ。檜山の事もそうだ、きっと…“ドンッ!”…ぐぅっ!?」

 

 

天之河が言い終わる前に俺はライトセーバーをしまった後に腹パンを食らわせ、強制的に黙らせると同時に俺は本気で怒っている事を表した。クラスメイト達も天之河が殴られたことに対してオドオドする他になかった。

 

 

「ぐっ…!雷……電……?」

 

「これが俺の()()だ。いい加減に理解しろ」

 

 

俺は怒りを通り越して冷静になり、天之河に友ではないと同時にハジメやシアを侮辱する事を許さない事を含めて天之河と決別した。そして天之河も俺の事をハジメと同じであるとご都合解釈で理解するのだった。

 

 

「雷電……いや、藤原。見損なったぞ!」

 

「それはこっちの台詞だ。自分の思い通りに行かなければ駄々をごねるガキが……」

 

「(彼等を見て少しづつ思い出して来たが、天之河という奴……生理的に受け付けられないな。俺はこんな奴と一緒にいたとでも言うのか?)……最早呆れる他に無いな」

 

 

そう清水が呟くなか、天之河は雷電がハジメと同じ穴の狢であったことのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にも俺を睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。天之河は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てると俺に向けてビシッと指を差し宣言した。

 

 

「藤原雷電!俺と決闘しろ!武器を捨てて素手で勝負だ!俺が勝ったら、二度と香織達には近寄らないでもらう!そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

「……とうとうご都合解釈が思考停止の域に到達したか。この愚か者が……!」

 

「何をごちゃごちゃ言っている!怖気づいたか!」

 

聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じように俺が武器を使ったら敵わないと考え直したからに違いない。意識的にか無意識的にかはわからないが……ハジメ達も香織達も、流石に天之河の言動にドン引きしていた。

 

 

 

しかし、天之河は完全に自分の正義を信じ込んでおり、ハジメ同様俺に不幸にされている女の子達や幼馴染を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない。元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた“嫉妬”が合わさり、完全に暴走しているようだ。

 

 

 

そんな天之河の茶番に付き合う訳も無く、俺はフォース・グリップで天之河の首を締め上げる。

 

 

「…っ!?ぐっ……が…ぁ……!?」

 

 

壮絶な力で首を締め上げられ、天之河はくぐもった声をあげた。かろうじて動く腕が、与えられない酸素を求めてばたつく。クラスメイト達は天之河の様子を見て完全に理解してはいないものの、確実に雷電の仕業である事を理解していた。

 

 

 

そんなクラスメイト達の視線を無視し、俺は天之河に告げた。

 

 

「戦いは、常に自分の思い描いた通りにはならないものだ。だから、お前のご都合解釈すら役に立たん。それでもまだそう考えているのなら、愚かにも程がある。お前が俺達の行く手を阻むのなら……」

 

 

 

 

 

 

「今、この場で殺してやろうか?」

 

 

 

 

 

 

俺はそういって、ライトセーバーを取り出して再び青い光刃を展開し、天之河の前に向ける。そしてフォース・プルで引き寄せ、天之河に突き刺そうとする。それを止めようと八重樫は動くものの手遅れであった。天之河も必死に抵抗するが、見えない手の様なものに首元を掴まれているため呼吸が出来ず、藻掻き苦しむだけだった。そしてライトセーバーが天之河に突き刺さろうとしたその時……

 

 

 

 

 

 

「止めてぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

 

突然、大きな声を上げる一人の女性に反応し、雷電は咄嗟に青い光刃を消し、フォース・プルで引き寄せられた天之河を躱して素通りさせる。天之河は首を締め上げられていた為に受け身を取る体勢が出来ておらず、そのまま勢いよく転がり、その場で倒れるのだった。

 

 

 

この殺伐と化した空間の中で待ったをかけたのは以外にも中村だったのだ。

 

 

「中村……?」

 

「エ……エリリン?」

 

「「「恵里(中村)?」」」

 

 

誰も予想だにしなかった事に唖然となった俺やクラスメイト達。中村は、既に感情を抑えきれず、思っていた事を表側に吐き出すのだった。

 

 

「どうしてよっ!せっかく皆が南雲くんたちと再会できたというのに、どうして藤原くんと光輝くんが殺し合いになるの!?」

 

「……」

 

「私は皆にはもう死んでほしくはないの!!まだ私は……()は、まだ光輝くんに本当の思いを伝えていないのに!!」

 

「僕って……エリリン?」

 

「恵里……あなた……」

 

 

この時に中村は、本来の素が完全に表に出てしまっている事に気付いた。何故こんな時に自分の素が表に出てしまったのか彼女本人でも理解できなかった。そして彼女はこの場から逃げる様に去ってしまう。

 

 

 

中村の怒声によって我に返った雷電も、今まで怒りを抱いていた自分の軽率な行動に恥じるばかりだった。

 

 

「八重樫に坂上。すまない、俺から言えた義理ではないが天之河を頼む」

 

「謝んなよ、藤原。光輝もそうだが、流石に今回ばかりは止めなかった俺も悪いと思っている」

 

「そんな事より、恵里の様子がおかしかったわ?あんなに感情を爆発させた彼女を私は初めて見たわ」

 

「どの道、俺の所為でああなったのは確かだ。俺が中村を探してくる」

 

 

天之河を八重樫達に任せ、俺はこの場から逃げてしまった中村を探しに向かうのだった。いくら天之河が嫌いだからといって殺しかけてしまった事を謝る為に……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂気の愛と父親の願い

救済ネタを考えるのに結構時間を食ってしまった。orz


51話目です。


 

 

中村恵里

 

 

ごく普通の一般家庭の娘として産まれた彼女は両親と共に幸せな日々を送っていたが、ある事件を切っ掛けに彼女の幸せが崩壊してしまう。

 

 

 

幼い時に公園で父親と遊んでる時に車道に出てしまい、運悪く黒色の普通の乗用車が居眠り運転でやって来てしまう。それに気付いた恵里の父親が恵里を庇い、代わりに退かれてしまい、この世から去ってしまう。

 

 

 

交通事故で父親に庇われて助かったが、その事故以降、彼女の人生は一変した。父親を失い、父親に依存していた母親に恨まれて毎日罵倒や虐待受けてた。そんなある日、小学生高学年になった時に母親が愛人の男を作り、その男も家に住み始めた。

 

 

 

しかし、その男が恵里を見る目が段々怖くなり身の危険を感じた。恵里は髪を短髪にして男の子口調に変えて一人称を私から僕に変えて女として見られない様に努力したその結果、クラスでは孤立してしまった。

 

 

 

だがある日、母親が居ない隙にその男は恵里を強姦しようとするが、急所を蹴って何とか振り払い近所に助けを求めて警察を呼んでもらい、男は逮捕される。しかし、それを知って家に帰って来た母親は心配するどころか恵里に対し男を誘惑したと夫だけで無くまた私の全てを奪う泥棒猫等と言い放つ。

 

 

 

暴力や罵倒をする男が捕まれば母親は元に戻ると信じていた恵里は絶望し、ある雨の日に川の橋から自殺しようとする。その時に偶然その場にいた天之河に止められ、経緯を話す。それを聞いた天之河が“俺が君を守るから”と言われ、この時に恵里は自分の本心を聞いてくれた天之河に対して何時しか思い焦がれる様になり、やがて彼女は天之河に恋をしている事に気付いた。

 

 

 

それ以降、天之河と一緒になる為に母親を脅したり猫を被ってクラスと仲良くしたりして天之河の隣にいる為に暗躍をする。そしてこの世界に転移した時もそうだった。

 

 

 

しかし、彼女にとって予想外な人物が現れる。それが前世の記憶を持つ藤原雷電だった。雷電は天之河に取って大切な友と語っているが、その本人は全くの真逆で天之河を嫌がっていた。この時に彼女は雷電の事を救ってくれた天之河に酷い態度を取る奴としか認識してなかった。

 

 

 

そしてこの世界に転移しても雷電は天之河の意見に反対したり、雷電が召喚したクローン達にも天之河と対立したりと、恵里は初めて雷電の事を憎んだ。そんなある日、初めてオルクス大迷宮で実戦訓練の受ける前夜で偶然にも雷電とあった。

 

 

 

この時に恵里は、雷電に何故天之河に対してキツい態度だったり、ぶつかってばかりなのかを聞き出した。その時に雷電から天之河に対する本心を聞き出せた。雷電は天之河の事を完全に嫌いであることを……

 

 

 

だが、この時に彼女は雷電から思いがけない一言に戸惑いを覚える。

 

 

“……まぁ、アレだ。俺はあいつのことを嫌いであることは変わりないが、中村の場合はあいつの事はどうなんだ?”

 

 

そう、雷電は恵里が天之河に対して好意を抱いている事に気付いていたのだ。猫をかぶりながらも他のクラスメイト達や友達という名の手段である谷口にも天之河に対する思いを知られていない筈が、何故か雷電だけに知られていた。雷電はそれを理由に脅迫してくると思いきや……

 

 

“俺は人の恋路……というのか?それを邪魔する程無粋じゃない。あいつを振り向かせられるかは中村次第だ。しかしだ、もしあいつを振り向かせる為にクラスを利用して危険に晒すというのなら話は別だ。もしそうなったら、その時は俺が止める。…まぁ、そうでなければあいつに振り向いてもらえるまで頑張れ、応援はする”

 

 

なんと、警告と同時に恵里の恋路を応援してくれる何て彼女自身、夢にも思わなかった。この時に彼女は考えた。雷電以外でここまで僕を見てくれた人は死んだ父親以外にいなかった。そして恵里は、雷電のことを死んだ父親の様な優しさがある人と再認識するのだった。

 

 

 

しかし……そう改めて思ったのも束の間、実戦訓練当日。ベヒモス初戦で、檜山がハジメに対する嫉妬によりハジメを魔法でワザと誤射し、雷電はハジメを助けようと行動するも橋が崩れ落ち、ハジメ諸共、雷電も奈落へと落ちてしまう。

 

 

 

恵里は父親の様な優しさを持つ雷電が死んでしまったことに対してある違和感を覚える。それは、何かが空っぽだった穴を埋めてくれた筈が、また空っぽになってしまった喪失感だった。一体何の喪失感だったのか彼女自身理解できなかった。そして恵里は檜山を利用してでもその喪失感を知ろうと誰にも悟られないよう猫を被りながら天之河に接近しようと訓練を続けるのだった。

 

 

 

そして今日の実戦訓練で、魔人族と配下の魔物達と遭遇してしまい、撤退するも追いつかれてしまい絶体絶命の状況に陥ってしまう。天之河が敗れてしまい、中村は天之河の生存の為に魔人族の案を呑もうと勧める。そしてメルドが最後の力を振り絞り、魔人族を道連れにしようとするも逆に返り討ちに合い、倒れてしまう。この時に天之河がキレて、一気に形勢が逆転したかに見えた。

 

 

 

しかし、天之河が魔人族の事を人として再認識した瞬間、殺すの躊躇ってしまう。その隙に魔人族は魔物達に恵里達を殺す様に指示を出した。この時に一体の猫型の魔物が八重樫の背後を取り、不意打ちしようとした時に谷口が八重樫を庇った。この時に恵里は偽りの友達である谷口が死んでもどうでもいいと思ったが、何故か雷電との会話を思い出し、そして恵里は知らず知らずの内に谷口の前に出て、谷口の代わりに黒い触手に貫かれていた。

 

 

 

彼女自身、一体何をやっているのか理解できなかった。天之河に見てもらいたかったから?偽りの友達である谷口に情が湧いたのか?思考がぐるぐるとこんがらがって何も考えられない状態になった時に天之河が今頃になって助けに来たと同時に心配の声をかけるが……

 

 

“雫、大丈夫か!?”

 

“光輝!私は大丈夫、でも恵里が……”

 

“大丈夫だ!誰も死なせない!今の俺なら…”

 

 

天之河が最初の名を呼んだのが幼馴染である八重樫だけだった。まるで恵里は二の次であるかの様に。この時に彼女は、天之河に対する思いに一部亀裂が生じてしまう。その側で恵里はクローン・トルーパー・メディックの治療を受けてたが、バクタ液が足りなかった為に出血が止まらなかった。鈴は泣きながら必死に恵里を呼び掛けた。

 

 

 

この時に彼女は死にかけながらも走馬灯の様に自分の人生を振り方ってた。父が死んで、母に憎まれて、母の新しい恋人にレイプされかけ、中村を心配してくる人は誰も、誰も居ない。しかも天之河は橋で自殺しようとした自分に“もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる”と言ってくれた癖に貫かれた彼女の事よりも八重樫を心配した。本当は分かってた。心配してくれていると思っていた天之河を、その時の自分のヒーロー願望を満たしたいだけという事を……

 

 

 

そう思っていた時、恵里は死んだ雷電の事を思い浮かべてしまう。何故雷電の事を思い浮かんでしまったのか彼女自身理解できなかったが、どうせなら死んだ父親の様に優しく接してもらいたかったと思った。

 

 

 

恵里がそう思ってた時に天井が崩落し、一本の漆黒の杭が魔物達に突き刺さる。そして、その崩落した天井から一人のクローンが降下し、八重樫達を助けた後にその次に白髪の少年が降りて来た。その時に香織はその少年が奈落に落ちて死んだ筈のハジメである事を理解していた。そして助けに来たクローンはヘルメットを取り外し、その素顔を晒した瞬間、八重樫はその人物が雷電である事を理解した。

 

 

 

雷電たちは仲間を連れて助けに来た様だった。その時に雷電が恵里達のところに向かい、谷口に一声かけた後に何かを取り出し、恵里に神水を回復薬だと伝えて飲ませたのだが、血が行き場を失った結果なのか吐血し、神水ごと吐き出して咽せてしまう。

 

 

 

その最中、恵里は走馬灯に雷電が見えて来て、死が段々と近づいてくる事を理解したのか。彼女自身“死にたくない”という思いが強まった。そんな願いが叶ったのかふと雷電の声が聞こえた気がした。

 

 

“中村……死ぬなよ。絶対に助け出す”

 

 

その言葉が聞こえた瞬間、彼女はそれを現実の声だと理解したと同時に、雷電が回復薬を口に含み恵里に口移しで飲ませたのだ。その瞬間、致命傷であった傷が瞬時に消え、彼女は驚きのあまり上手く口で表現できなかった。助けてくれた雷電に恵里は御礼を言おうとするも、先ほどの口移しの羞恥心が残っていたのか、思う様に喋る事が出来なかった。その時に雷電は優しい声で恵里に労いと休む様にこういった……

 

 

“中村、傷のことは谷口から聞いた。この絶望的な状況でよく生きててくれた。それも友達を助ける為に自らを身を投げ出す覚悟は賞賛に与えするが、お前が死ねば悲しむ奴はいることを忘れるな。後は俺たちに任せてゆっくり休め”

 

 

そう言葉を残し、雷電は戦っているハジメと不良分隊の所へと向かうのだった。この時に恵里の心の中では不思議な感覚が埋まっていた。それは彼女が一度体験した感覚である“恋”が今度は雷電に対して小さく芽生え始めたのだ。この時の彼女は状況が状況だった為、それが何なのか理解できなかった。

 

 

 

雷電たちが救援に駆けつけてから状況は一変した。ハジメが魔人族に止めを刺した後にクローン達と似た装備をした兵士達ことファースト・オーダーのストーム・トルーパー達が攻めて来たのだ。しかし、これをハジメ一人で一掃する。圧倒的な戦闘力を身につけて帰って来たことに驚きの連発で疲れたのは恵里自身の余談である。

 

 

 

ハジメに惚れいていた香織はハジメが生きていたことに嬉しさを隠せないでいた。彼女自身が天之河の恋人候補から遠ざけただけでもそれで良しと思った。………雷電に助けられるまでは……

 

 

 

無論、天之河はご都合解釈をフル稼働させハジメと香織を引き離そうとし、そして無抵抗の相手(天之河視点では)を殺したハジメを止めようとしなかった雷電にも非難の声を上げる。その時に恵里の心に何かがざわついた。それは怒りだった。その怒りは天之河に向けらているものだった。彼女は一度だって天之河に対して本気で怒ることは無かった。それは何故か?

 

 

 

彼女は思い当たる原因を知っていた。それは、雷電の存在だった。彼がいる所為で恵里自身、何かが変わってしまった。雷電に対して怒りたいものの、雷電が来なければ死んでいたのもまた事実だった為に何とも言えず、答えがあやふやでまともな判断が付きにくかった。

 

 

 

そうして大迷宮の入場ゲートに戻って来れたと同時に香織がハジメに付いて行くと言い、ハジメに告白する。しかし、ハジメは香織に思いに答えられないというが、それでも諦める香織ではなかった。ハジメの恋人でもあるユエも香織に“付いて来るといい”と言って香織を仲間であり、ハジメの恋のライバルとして認められたのだった。

 

 

 

しかし、それでも天之河は香織をハジメから引き離そうとする。事もあろうことかユエ達も含めてである。だが、この時に天之河や恵里はある誤算を知る事になる。

 

 

 

それは、天之河が雷電の堪忍袋の尾を踏んづけて切ってしまったことだ。

 

 

 

その切っ掛けとなったのは兎人族のシアという亜人族だった。雷電にとってシアは弟子でもあり、より大切な人であった事を知った瞬間、恵里は心を痛めた。今でも天之河の事を好きだというのに何故か好きになれなかった。それに対して雷電は父親の様に優しく、死にかけだった命を救ってくれた。この差が一体何なのか考えている内に、天之河は雷電との仲が拗れ、しまいには決闘しろと言い張るのだった。

 

 

 

その時に雷電の目付きと眼の色が変わった。瞳の色は赤だったのに対して黄金色に輝き、まるで怒りと憎しみが渦巻く嵐が瞳の中で起きているかの様に見えた。優しかった雷電の面影は消え、今いるのは愛する人を侮辱した輩を殺す眼になり、恵里は雷電の余りの変わりように恐怖を覚え、上手く口を動かす事が出来なかった。

 

 

 

雷電は左手を天之河の方に翳し、手で握り潰す様な仕草をした瞬間、天之河が苦しみ始め、酸素を求めて自分の首を掴みながらも藻掻いていた。雷電が天之河に対して何かしたのは確かだったが、魔法でもない何かでは止めようにも止められなかった。そんな天之河に対して雷電が言った。

 

 

“戦いは、常に自分の思い描いた通りにはならないものだ。だから、お前のご都合解釈すら役に立たん。それでもまだそう考えているのなら、愚かにも程がある。お前が俺達の行く手を阻むのなら……今、この場で殺してやろうか?”

 

 

それは天之河に対する雷電からの死刑宣告だった。このままでは天之河が雷電に殺されてしまう。しかし、恵里はこの時に天之河がどうなってもいいと思ってしまう。思う筈の無い気持ちに彼女はこんがらがってしまい、どうしたらいいのか分からなかった。そして雷電が天之河を殺そうとしたその時に彼女自身の感情が爆発し、雷電に静止を掛けると同時に恵里の本当の素を皆の前に晒してしまうのだった。

 

 

 

その後は自分自身何を言っているのか理解できず、彼女の本来の素をこれ以上見られたくなかったのか、この場から逃げる様に勇者達が利用している宿へと向かい、自分の部屋に閉じこもるのだった。閉じこもった恵里の思考は、一体何処で間違ったのかのか?と、ただ己自身に自問自答を繰り返すばかりだった。

 

 

 

……一体、何が行けなかったの?

 

 

 

心身共に近づけず、天之河を見つめ続けることしか出来なかったえは、それ故に色々と気がつき始めた。……否、この世界に転移される前の地球で最初から気付いていたのかもしれない。

 

 

 

親しそうに話しかけてくれるクラスの女子は“光輝の頼みだから”そうしているだけだということを。

 

 

 

天之河の隣には、あの早朝の鉄橋で言葉を交わしたときよりもずっと前から、“特別”が侍っており、自分の居場所などなかったということを。

 

 

 

天之河にとって、自分は既に終わった人なのだということを。

 

 

 

結局、自分には居場所などなかった。“特別”など幻想に過ぎなかったのだということを。

 

 

 

それに気がついた途端、恵里は毎日狂ったように……否、文字通り狂いながら同じことを考え続けた。

 

 

――もう一人じゃないって言ったよね?

 

――守ってくれるっていったよね?

 

――僕はあなたの特別だよね?

 

――ねぇ、どうして、同じ言葉を他の人にも言っているのかな?

 

――ねぇ、どうして、僕だけ見てくれないのかな?

 

――ねぇ、どうして、今、こんなに苦しいのに助けてくれないのかな?

 

――ねぇ、どうして、他の女にそんな顔を向けるのかな?

 

――ねぇ、どうして、僕を見る目が“その他大勢”と同じなのかな?

 

――ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…………

 

 

嫉妬とも言える狂気は中村を追い込み、更に狂わせるかの様に雷電の事を思い出した。あの優しさは死んだ父親と似ていて、心が安らいだのだ。そして中村は気付いたのだ、雷電の様な優しさを欲している程に愛していることを。そう気付いた彼女はやがてある結論に到る。人の感情や行動など、やり方一つで、幾らでも変えられると母親から学んだ。

 

 

 

ならば、“居場所が奪われる前に無理心中すれば、ずっと一緒にいられる”と……

 

 

 

この時の恵理は自分でも思考が停止するくらいに自暴自棄になりかけていた。そして、雷電がこの部屋に向かって来ていることを彼女は気付きもしなかった。

 

 

恵里Side out

 

 

 

中村が逃げて閉じこもっていると思われる宿屋の個室で雷電は中村からフォースの暗黒面を感じ取っていた。それも危険な程に……

 

 

 

“嫉妬”……“依存症”……“狂気”……

 

 

 

狂気に関しては分からないが、嫉妬や依存症は天之河関係にあると思われたが、中村のフォースから雷電を思う気持ち“好意”を感じ取れた。何故中村にその様な思いを抱いているのかは謎だったが、今はそれどころではない。中村のドス黒い感情が今の中村を支配していた。

 

 

 

謝りに来ただけなのに既に修羅場の様な感覚を雷電は肌を通して感じ取っていた。ここで退いてしまえば中村は、確実に間違った方向へと向かってしまい、取り返しのつかない事になってしまう。

 

 

「これは、覚悟がいるな……」

 

 

そうさせない為に雷電は中村を止めることを決意し、謝罪を含め、対話をする為にドアを軽く叩き、そしてドアノブを手にかけてゆっくりとドアを開けるのだった。そこには窓から外を見上げている中村の姿があった。

 

 

「中村……」

 

「来てくれたんだね?藤原くん……」

 

 

中村は落ち着いた声で雷電に話すも、雷電は気を抜かないまま中村に天之河を殺しかけてしまった事を謝罪する。

 

 

「中村、その……すまなかった。まだ思いを告げてない天之河を殺しかけてしまった。中村にとっては許されない事かもしれない。だが、これだけは謝らせてくれ。……本当にすまなかった」

 

「ううん……気にしないで。色々と言いたい事はあるけど、僕は藤原くんの事を許すよ」

 

「中村……?」

 

 

嫌われる覚悟で謝ったが、予想外にも中村はそれを許したのだ。しかし、中村自身の狂気がまだ消えてはいなかった。

 

 

「僕はね……ずっと欲しかったんだ。僕の事を“特別”と思ってくれる()()()()()を……」

 

「居場所だと……?」

 

「その居場所の為に僕は頑張ったんだ。一生懸命頑張ったんだよ。……でも、駄目だった。どうしても駄目だったの。頑張っても頑張っても……神様はそれを否定して……僕の場所すら与えてくれない。そして思っていた光輝くんも……」

 

 

 

 

 

 

「ボクの事を否定するッ!!」

 

 

 

 

 

 

中村がそう口にすると同時に雷電と対面した瞬間、雷電は中村の瞳の変化に気付いた。中村の瞳が黒色から黄金色に変わっている事を。中村の狂気がフォースの暗黒面へと覚醒し、今の彼女は精神が不安定の状態である事を理解する。

 

 

「中村……お前は……!」

 

「……でも、もうどうでもいい事だけどね?この時にボクは、ある事に気付いたんだ」

 

「ある事……だと?」

 

「そう。ボクはね……コウキくんもそうだったけど、今になってようやく分かったんだ。フジワラくん……いえ、ライデンくん、ボクはアナタの事が好きだってことをね?」

 

 

何故中村がフォースの暗黒面に目覚めたのかよりも、何故雷電の事を好意を抱いているのか最初は分からなかった。しかし、思い当たる節の事を考えれば少しずつ理解して来た。

 

 

「……最初の実戦訓練の前夜で、中村の気持ちを理解した時からか?」

 

「そうだね……あの時のボクはそれが何なのか分からなかった。けど、今になってようやく分かったんだ。ボクはコウキくん以外にもライデンくんの事が好きなんだって」

 

 

雷電はこの時に理解した。中村の依存症に気付かず、このまま放置していた事に自分自身を恥じるばかりだった。どうすれば中村の暴走を止められるのか考えている最中、中村から発するフォースの暗黒面から別のフォースを感じ取れた。それは知らない人物のフォースだった。

 

 

 

ただ、そのフォースは一体誰なのかと模索する中、そのフォースから僅かに声が聞こえる様な気がした。

 

 

 

“誰か、恵里を……娘を救ってくれ”

 

 

 

娘と言う単語が聞こえた時に雷電は理解したと同時に悟った。中村の中にいる別のフォースの正体は中村の前の死んだ父親であったことを。雷電は中村の家庭事情は詳しくは知らないが、世間話の噂くらいは聞いた事があったのだ。……どうやら、その父親は死してもなお、中村の事をずっと見守っていた様だ。そう理解した雷電は中村を助ける為にも対話を続けるのだった。

 

 

「中村……俺への気持ちは理解した。だが、良いのか?俺が言えた義理ではないが、お前には天之河の事を思っていたんじゃ……」

 

「うん……ライデンくんにボクの気持ちを分かってもらえた()()()()だけどね?」

 

「前までは……だと?」

 

「そう……ボクはもうつかれたんだ。ボクの本当の居場所はコウキくんじゃなかった。ライデンくん、あなたがそうだったの。ボクの本当の居場所であって、ボクの事を特別と見てくれるのは……」

 

 

どうやら中村は、依存対象を天之河から雷電に変わり、今でも狂おしい程の愛が向けられていた。そして雷電共々無理心中を果たそうとしている様だ。ここで選択を間違えれば、間違いなく中村が完全に壊れてしまう。そう判断した雷電は苦渋の行動を取る事にした。

 

 

「……だからか。俺もまた天之河と同じ様に中村を特別扱いせず、切り捨てられる事を恐れて、切り捨てられる前にせめて好きである俺を道ずれという事か……」

 

「そう……そうすればボクとライデンくんはあの世でもずっといっしょ。だから……ボクといっしょに死んで?」

 

 

そう言って中村は懐から果物ナイフを手に、少しずつ雷電へと近づく。すると雷電は中村にある事を聞き出す。

 

 

「死ぬ……か。なら聞くが、お前がそう頼んでいるのに()()()()()()()()()()?」

 

「えっ……?」

 

 

ふと中村は自分の触れると、何かの液体が流れていた。それは一雫の()だった。中村は知らず知らずの内に涙を流していたのだ。

 

 

「ウソ……どうして?」

 

「それは、お前はまだ死にたくない証拠でもあると同時に、間違った道を踏み外そうとしているがまだ引き返せる証拠でもある」

 

「何を……言って…いるの?ボクは……」

 

 

そう中村が戸惑う中、雷電は自ら彼女の所に近づく。そして彼女が持つ果物ナイフを手ごと掴み、それを自分の胸の方に向けさせる。

 

 

「な…何を……?」

 

「たとえ俺と共に無理心中をしたところで、お前の中の口惜しさが消える事は無い。むしろお前が壊れてしまう時間を更に加速させてしまうだけだ。それに……俺は()()()()()()()()んだけどな」

 

「えっ……?」

 

 

雷電はいっその事、中村に己の過去を明かす事にした。前世の自分の生い立ちを……そして世界に否定され、仲間であったクローン達によって抹殺されたことを……

 

 

 

中村自身、雷電の前世をとても信じられずにいた。しかし、雷電が嘘をついている様には見えなかった。雷電の過去を聞けば聞く程、中村は雷電とは一つの共通点があった。それは、自分の居場所が世界によって否定されたことだった。もっとも、否定された世界に殺されてしまったのだが……そんな事を気にせず雷電は言葉を続ける。

 

 

「俺はクラスメイト達もそうだが、クローン達にハジメ達、そして弟子あるシアも死んでほしくはない。そして中村、お前もその内の一人でもある。だから……お前は死なないでくれ」

 

「な…何を……!?」

 

 

そう言って雷電は、恵里が持つ果物ナイフを自分の身体に深く突き刺すのだった。雷電の突然の行動に中村は理解できず、果実ナイフを手放した。何故自ら自傷する行動を取ったのかを理解できない中、雷電は突き刺した果物ナイフを抜いた後に投げ捨て、刺した傷を抑えながらそのまま壁越しに座り込む。

 

 

「何でなの……どうして自分でさしたの!?」

 

「ぐっ!……俺にとっての()()かもしれないな。お前を狂わせた本人である俺が、知らず知らずの内にお前を苦しめていたからな……」

 

「や……止めてよ。ボクは…そんなんじゃ……」

 

「中村……いや、この際名字で呼ぶのは止めだ。恵里…お前の本当の気持ちに気付いてやれずに……ごめんな?お前の気持ちにも答えられずに……」

 

 

雷電が自分自身で刺した傷口から大量の血が流れていた。この時に恵里は思ってしまった。本当に雷電の事が好きだというのにも関わらず無理心中を図ろうとしたのに、雷電は最後まで彼女の事を気に掛けていたのだ。例えそれが、自身の命を捨てることを厭わないほどに。…ならば、ただ黙って雷電が死ぬのを見ているだけでいいのか?“いい筈が無い!”そう思って行動した時には恵里の瞳の色は元の黒色に戻り、恵里から放たれていた狂気は消えていた。

 

 

「待って!お願い、お願いだから死なないで!!言葉だけ残して僕を置いていくなんてそんなのやだよ!?……また僕を一人にしないで!!」

 

「恵里……?フフッ……ようやく、元のお前に戻ったか……」

 

「えっ……?雷電……くん?」

 

 

雷電は恵里がフォースの暗黒面から切り離せたことに喜び、少しばかり安堵した。しかし、安心するのはまだ早かった。

 

 

「っ!?……ゴフッ!?」

 

「ら……雷電くん!?」

 

 

突然の嘔吐感が襲ってきて、思わず雷電は口に手を当てる。手を口から離すと逆流してきたのか鮮血が手のひらについていた。どうやら血が雷電が抑えている出血場所から行き場を失ったが為に吐血したのだろう。その時に恵里は雷電を助ける為に助けを呼びに向かうのだった。

 

 

「雷電くん、お願いだから死なないで!今、香織達を呼んでくるから!!」

 

 

そういって恵里は部屋を後にし、香織達に助けを求めに行ったのだった。その時に雷電は、恵里が間違った道を踏み外さなくて本当に良かったと安堵するばかりだった。そして恵里の父親であろうフォースからも“娘を……恵里をよろしく頼む”と言って父親の魂がフォースと一体となり、この世から去り、あの世へと旅立った。この時に雷電は返事は出来なかったものの、心では任せろと言い聞かせ、そのまま意識を落としてしまうのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嫉妬と彼女の告白

ちょっと色々なネタをぶっ込み過ぎた。


52話目です。


 

 

雷電が恵里を止める為に自ら自傷し、気を失ってから次に目を覚ましたのは夜中の部屋であった。

 

 

「……知らない天井…何て言える時点でまだ生きている事は確かな様だな」

 

「その通りだ、このアホ。全く……」

 

 

そう雷電に罵倒したのはハジメだった。どうやら俺は治療を施された後、ハジメによって看病されていた様だ。

 

 

 

一応ハジメから俺が気絶した後にどうなったのか聞き出したところ、恵里はハジメ達に俺が死にかけであることを説明した。そうなった経緯も含めて。その時に天之河は相も変わらずご都合解釈をフル稼働させて俺が恵里を襲ったと思った様だが、そんな時に恵里にドきつい言葉を貰ってから撃沈した様だ。

 

 

 

そして俺は香織に魔法で治療され、安静になったところで部屋に運んでもらって、そこでハジメが俺が起きるまで看病してもらった様だ。

 

 

 

「…ハジメ、俺はどれくらい眠っていた?」

 

「大体、三時間といったところだな。お前が眠っている間、シアやミュウが心配していたぞ。特にクローン達なんかはかなり乱心していたぞ?後でシア達に謝っておけよ?」

 

「……すまない」

 

 

雷電がそうハジメに謝った後に、ドアからシアが出て来た。どうやら雷電のフォースを感じ取った様で直ぐに来たご様子だった。

 

 

「マスター……?」

 

「あぁ…シアか。すまないな、心配をかけ「マスタ〜ッ!!」…って、ちょっとまっ…ウボォッ!?」

 

 

シアに謝罪を掛けるや否や、急にシアが雷電に向かって飛びついたのだった。香織の治癒魔法のお陰で回復したものの、まだ病み上がりであった。

 

 

「マズタ〜〜ッ!私、じんぱいじましたよ〜〜!!」

 

「シ…シア。ギブ……あっいつつ…!」

 

「何でもかんでも背負うとしたお前の悪い癖だ。そのツケが今日回って来たと思って今日一日シアを構ってやりな」

 

 

そうハジメに指摘されてしばらくの間、俺はシアに構ってやる他になかった。それと、傷の方は感知してはいるものの、失った血はどうしようもなかったために輸血で血を補充するのだった。一応出発は明日の早朝に出発するとのことだ。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電の事はシアに任せるとして、俺はバルコニーで夜風に当たっていた。そういや、今日は色々と厄介な事が多かったな。特にクラスメイト達のことで……

 

 

 

白崎の方は雷電が中村の方に向かった後、白崎がミュウの事で色々と質問攻めして来たからな。その時に八重樫に止められたのだが……そのお陰でこっちは面倒ごとを回避できた。

 

 

 

んで、その後が雷電が自傷したという事件が起きたんだよな。そうなった発端である中村からも説明があったが、天之河が相変わらずのご都合解釈で雷電が中村を襲ったとか何とか勝手な事をほざいていたら、中村からきつい一言で轟沈したんだよな?

 

 

 

そんで、少し落ち着いたところで清水がクラスメイト達の前で素顔を晒したんだよな?そん時のクラスメイト達の反応は少し面白かったのは内緒だ。そんで、コルトが亡くなった代わりに部隊を指揮していたイザナミっていうクローンは清水が名付けたクローンだったらしく、再開できてよかったとイザナミ本人も喜んでいたな。その後に清水は留守番していたシルヴィを迎えに行ったな。

 

 

 

……つーか、今日はガチで色々とあり過ぎたな?マジで。そう思っていると後ろから八重樫があの時、自分の獲物が壊れた際に俺が渡した黒刀を持ってやって来た。

 

 

「南雲君……これ、助かったわ」

 

 

そう言って黒刀を俺に返そうとした。……まぁ、俺がいない間、白崎を支えてくれた礼もあるからな。

 

 

「それはやるよ。お前にはこれまで世話になった」

 

「……ありがとう」

 

「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」

 

「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

 

 

一振り二振りし、全体のバランスと風すら切り裂きそうな手応えに感嘆して、笑みを浮かべながら素直に礼をいう八重樫。正直、八重樫の扱う八重樫流の剣術は当然日本刀を前提とするものなので、前の剣ではどうしても技を放つときに違和感があった。なので、刀が手に入ったのは素直に嬉しく、自然笑みも可憐なものになる。

 

 

「むぅ……あれは、ラスボス?」

 

「えっ……雫ちゃん?」

 

「えっ?なに?香織にユエさんまで?」

 

「ただの礼だ!?」

 

「どうしてそんな目で見るの?何なのよ一体っ!?」

 

 

そんなこんなありながらも俺達は明日の早朝の為に部屋に戻るのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

南雲君から改めて黒刀を貰った後に南雲君達が部屋へと戻るのを見送った。その時に光輝が何時から見ていたのか、部屋へと向かう香織を引き止めようとする。

 

 

「香織!……おわっ!?」

 

そんな光輝を私は物理的に引き止める。今また南雲君達と喧嘩になったらそれこそ本末転倒だ。

 

 

「……何も言わないのか?」

 

「何か言ってほしいの?」

 

「……」

 

 

何も答えない……いや、答えられない光輝。頭に浮かぶのは香織が想いを告げたときの光景。不安と歓喜を心の内に、祈りを捧げるように告げられた想いは、その表情と相まって嘘偽りではないのだと、病気レベルで鈍感な光輝を以てして確信させるものだった。

 

 

 

光輝は香織とは十年来の付き合いがあるが、未だかつて、あれほど可憐で力強く、それでいて見ているこちらが切なくなる、そんな香織の表情は見たことがなかった。まさに、青天の霹靂とはこのことだった。

 

 

 

その表情を思い出す度に、光輝の胸中に言い知れぬ感情が湧き上がってくる。それは暗く重い、酷くドロドロした感情だ。無条件に何の根拠もなく、されど当たり前のように信じていたこと。香織という幼馴染はいつだって自分の傍にいて、それはこれからも変わらないという想い。もっと言えば、香織は自分のものだったのにという想い。つまりは、嫉妬だ。

 

 

 

その嫉妬が、恋情から来ているのか、それともただの独占欲から来ているのか、光輝自身にもよく分かっていなかったが、とにかく“奪われた”という思いが激しく胸中に渦巻いているのだった。

 

 

 

しかし、“奪った”張本人であるハジメ(本人は断固否定するだろうが)と共に行くと決めたのは香織自身であり、またハジメという存在そのものと有り得ないと思っていた現実を否定したかったが、より現実に叩き付けて来たのが雷電だった。雷電は一年前からとは言え、友として思っていた(本人は逆にそうは思わず、寧ろ嫌っていた)が、ハジメと同じ狢であったと思い込み、彼との仲がこじれてしまう。

 

 

斯くして光輝が挑んだ決闘では適当にあしらわれるどころか、一方的に雷電に思う様にやられるだけで、あろうことか危うく殺されるという事態まで陥ったのだ。自分の惨めさとか、ハジメや雷電への憤りとか、香織の気持ちへの疑いとか、色々な思いが混じり合い、光輝の頭の中はぶちまけたゴミ箱の中身のようにぐちゃぐちゃだった。

 

 

 

だから、いつの間にか隣にいて何も言わずに佇んでいるもう一人の幼馴染の女の子に向けてみたのだが……返答は、実に素っ気無いものだった。続く言葉が見つからず、黙り込む光輝。

 

 

 

雫は、そんな光輝をチラリと横目に見ると、眉を八の字に曲げて“仕方ない”といった雰囲気を醸し出しながら口を開いた。

 

 

「……今、光輝が感じているそれは筋違いというものよ」

 

「……筋違い?」

 

 

雫から、思いがけず返ってきた言葉に、オウム返しをする光輝。雫は、月から視線を転じて光輝を見やりながら言葉を続けた。

 

 

「そう。香織はね、最初からあんたのものじゃないのよ?」

 

「……それは……じゃあ、南雲のものだったとでも言うのか?」

 

 

ズバリ、内心を言い当てられ瞳を揺らす光輝は、苦し紛れに、ほとんど悪態ともいうべき反論をした。それに対して雫は、強烈なデコピンでもって応えた。“いづっ!?”と思わず額を抑える光輝を尻目に、雫は冷ややかな声音で叱責する。

 

 

「お馬鹿。香織は香織自身のものに決まっているでしょ。何を選ぼうと、何処へ行こうと、それを決めるのは香織自身よ。当然、誰のものになりたいか……それを決めるのもね」

 

「……いつからだ? 雫は知っていたんだろ?」

 

 

“何を”とは問わない。雫は、頷く。

 

 

「中学の時ね……香織が南雲君と出会ったのは……まぁ、彼の方は忘れていた…というより出会ったこと自体を知らなかったみたいだけど」

 

「……何だよ、それ。どういうことだ?」

 

「それは、いつか香織自身から聞いて。私が、勝手に話していいことではないし」

 

「じゃあ、本当に、教室で香織が何度も南雲に話しかけていたのは……その……好きだったから……なのか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「……」

 

 

聞きたくない事実を至極あっさり告げる雫に、光輝は恨めしそうな視線を向けたが、この時に雷電が言っていた言葉を思い出した。

 

 

“そんなわけないだろうが。幼馴染だからといって、ずっと一緒にいるという理由にはならないだろうが。そんな事すら分からないのか?天之河……”

 

 

そう、ただ答えは単純だった。幼馴染だからと言ってずっと一緒ではない。光輝は薄々それを認めたくなかっただけなのかもしれない。そして、雷電が大切にしているであろう弟子である兎人族の少女を奴隷と勘違いした事で、光輝は雷電の逆鱗に触れてしまったのだ。そして逆鱗状態の雷電のあの言葉が、今でも頭から離れなかった。

 

 

“この際だからはっきり言っておく。俺はお前の事が嫌いだ。そのくだらないご都合解釈で勝手に俺のことを友と認識し、挙げ句の果てに俺の弟子であるシアのことを奴隷として見ていた。堪忍袋の尾が切れるくらいにこっちはいい迷惑なんだ”

 

 

ハジメや雷電がいう光輝の短所である“ご都合解釈”。それがこの様な事態を招いてしまった事を。

 

 

 

それだけではない。あの魔人族の女を殺せなかったときもクローン達から罵声を浴びせられた。対人戦闘訓練の時、クローン達の指揮官でもあり、教官でもあったコルトの言葉を今でも覚えていた。

 

 

“甘ったれるな!その様な綺麗事だけで事が上手く運ぶと思い上がるな!!”

 

 

事実上、まさにその通りだった。綺麗事だけ並べて、クラスメイト達に迷惑をかけてしまい、信頼関係すら失いかけてしまった。光輝からすれば何も言えない状況だった。

 

 

「知らなかった……」

 

 

“でしょうね”と雫が言葉を返す。

 

 

「光輝の、真っ直ぐなところや正義感の強いところは嫌いじゃないわ」

 

「……雫」

 

「でもね。もうそろそろ、自分の正しさを疑えるようになってもいいと思うのよ」

 

「正しさを疑う?」

 

「ええ。確かに、強い思いは、物事を成し遂げるのに必要なものよ。でも、それを常に疑わず盲信して走り続ければ何処かで歪みが生まれる。だからその時、その場所で関係するあらゆることを受け止めて、自分の想いは果たして貫くことが正しいのか、あるいは間違っていると分かった上で、“それでも”とやるべきなのか……それを、考え続けなければならないんじゃないかしら? ……本当に、正しく生きるというのは至難よね。この世界に来て、魔物とはいえ命を切り裂いて……そう思うようになったわ」

 

 

雫が、魔物を殺すたびにそんな事を考えていたとは露知らず、光輝は驚きで目を丸くした。

 

 

「光輝。常にあんたが正しいわけではないし、例え正しくても、その正しさが凶器になることもあるってことを知ってちょうだい。まぁ、今回のご都合解釈は、あんたの思い込みから生じる“正しさ”が原因ではなくて、唯の嫉妬心みたいだけど」

 

「い、いや、俺は嫉妬なんて……いや、していたかもしれないな」

 

「そこで誤魔化しやら言い訳やらするのは、格好悪いわよ?それに、そこはちゃんと素直に言わなきゃね?」

 

「……」

 

 

再び俯いて、夜空の月を眺め始めた光輝。ただ、先程のような暗い雰囲気は薄れ、何かを深く考えているようだった。取り敢えず、負のスパイラルに突入して暴走という事態は避けられそうだと、幼馴染の暴走癖を知る雫はホッと息を吐いた。

 

 

 

そして、今は一人になる時間が必要だろうともたれていた欄干から体を起こし、そっとその場を離れようとした。そんな踵を返した雫の背に光輝の声がポツリとかかる。

 

 

「雫は……何処にも行かないよな?」

 

「……いきなりなによ?」

 

「……いや、今のは忘れてくれ、雫」

 

「……」

 

 

どこか懇願するような響きを持った光輝の言葉。光輝に惚れている日本の生徒達や王国の令嬢達が聞けばキャーキャー言いそうなセリフだったが、生憎、雫が見せた表情は“呆れ”だった。香織がいなくなった喪失感に弱っているのかもしれないが……雫はチラリと肩越しに揺らめく月を見やった。先程から、光輝がずっと眺めていた夜空の月だ。

 

 

「少なくとも私はその“月”ではないけれど……縋ってくるような男はお断りよ」

 

 

それだけ言い残し、雫は、その場を後にした。残された光輝は、雫が消えた路地をしばらく見つめたあと、再び、夜空の月に視線を移す。

 

 

「……俺は……無力だな……」

 

 

光輝はそう呟きながらも、月を眺めながらも天手を伸ばせば、無条件に届くと信じて疑わなかった“それ”が、やけに遠く感じる。光輝は、深い溜息を吐きながら、厳しくとも優しい幼馴染の言葉をじっくり考え始めた。

 

 

 

変わるのか、変わらないのか……それは光輝次第だ。

 

 

 

雫Side out

 

 

 

あれから翌日……

 

 

 

早朝よりも早く起きた俺はホルアドの近くに技能で基地を作り出し、そこで檜山を連行、監禁し、シルヴィと共に留守番をさせる為に召喚したクローン達に檜山の監視を命じ、その後にハジメ達と合流し、新たに仲間に加わった香織と共にこの町から出るのだった。その時に谷口達が香織を見送りに来ていた。

 

 

「雫ちゃん……」

 

「うん……」

 

「カオリン、元気でね!鈴はいつでも味方だよ!」

 

「気を付けてね」

 

「…ありがとう鈴ちゃん、恵里ちゃん」

 

「行きなさい、南雲くんの所へ」

 

「雫ちゃん……」

 

 

そうして別れの言葉を告げた後に香織はハジメ達の所に向かうのだった。そして清水もイザナミに一時的な別れを告げる。

 

 

「今度はガンシップではないとはいえ、また行方不明になるなよ?」

 

「そう簡単になってたまるか。……また会おうな、イザナミ」

 

「無論だ……フォースと共にあれ、シャドウ。お前が清水として戻ってくるまで、待ってるからな」

 

「あぁ……俺もだ、イザナミ」

 

 

清水も別れを告げ終え、スピーダー・バイクに向かうのだった。そうして全員が出発準備を終えた後、俺はハジメに先に行っててほしいと頼む。

 

 

「ハジメ、少し先に行っててくれないか?俺は少し野暮用を終えてから合流する」

 

「野暮用?……まぁ、それは構わないが、必ず追いついて来いよ?」

 

 

“すまないな”とハジメに謝った後、ハジメは“宝物庫”からブリーゼとシュタイフを取り出し、ハジメはブリーゼを、シアはシュタイフに乗り込み、全員がそれぞれの乗り物に乗った後にシアが“マスター、早く野暮用を済ませてこっちに合流してくださいね?”といって先にハジメ達がこの町から出るのだった。

 

 

 

ハジメ達がこの町から出たのを見送った後、野暮用を済ませる為に行動する。俺が言う野暮用というのは……

 

 

「さて……お前はどうするんだ?」

 

 

俺は谷口達の方に向けて言う。この時に谷口が自分が呼ばれたのかと勘違いする。

 

 

「えっ……私?」

 

「違う違う……谷口じゃなくて、恵里だよ」

 

「え……エリリン?」

 

「わ……私?」

 

 

恵里は雷電に指名されたことに驚いていた。俺のいう野暮用とは恵里をこの旅に同行するかどうかの確認だった。

 

 

「恵里、お前には二つの選択肢がある。一つは、彼等と共に残り、俺達が帰ってくるまで待つか。そしてもう一つは、俺達と共に旅に出て、この世界の()()()()()を知るかだ」

 

「本当の…真実……」

 

 

そう雷電に告げられた恵里は最初こそは困惑したものの、この時に恵里は雷電に自分の思いを答えるのは今がその時ではないのかと考える。香織はハジメの想いは負けておらず、例えそれがユエがと一緒にいたとしても負けるつもりは無く、たった一つの“特別の座”を奪って見せるという決意表明を示したのだ。

 

 

 

そして恵里もシアという弟子の兎人族であろうとも、香織と同じくたった一つの“特別の座”を奪って見せるという決意するのだった。

 

 

「うん!私も……いや、僕も行くよ!」

 

「エリリン(恵里)!?」

 

「そうか……ならば待ってくれ」

 

 

恵里の承諾を得た俺はサイド・カー付きのスピーダー・バイク一台を召喚する。そして恵里はクラスメイトの皆に謝る。

 

 

「ごめんね、これが本当の僕の素なんだ。それと、この際だから今僕が想っている人に告白しようと思うの」

 

「えっ…こ……告白!?エリリン、一体告白の相手は誰なの!?」

 

 

スピーダー・バイクを召喚し終えた後、俺は今起きているこの状況は一体どうゆう事なのか理解し難かった。

 

 

「これは一体どういう状況だ?」

 

「……ちょっと藤原君、こっちに来て!」

 

「八重樫?一体どうし……うぉっ!?」

 

 

突如と八重樫に引っ張られ、恵里の変わりようについて詳しく説明するよう求めた。

 

 

「ちょっと、どういう事なの!?恵里の性格がまるで別人の様に変わったのよ!昨日恵里にいったい何を言ったの!?」

 

「ちょ……ちょっと待て、八重樫。俺は飽くまで恵里に謝っただけだ…ぞぉ!?」

 

 

そう八重樫に伝える時に今度は恵里に引っ張られ、恵里は俺に何かを伝えようとする。

 

 

「え……恵里?」

 

「雷電くん、あなたにはシアがいるのは分かっている。でも、これだけは言わせて」

 

「言うって、何を……っ!?」

 

 

恵里がいう言葉が何なのか問い質してみようとしたその時に、恵里が俺の唇を奪うかの様に抱きつき、そのままキスをして来たのだ。恵里のまさかの行動に俺の思考が停止しかけた。それはクラスメイト達も同様だった。

 

 

「んっ!?」

 

「んっ……」

 

 

そしてキスを終えた後に俺は戸惑いながらも恵里に問いつめた。

 

 

「え…恵里?今のって……?」

 

「多分雷電くんは初めてじゃないと思うけど、これは僕の初めてキスであって僕の本当の想い。僕は、僕はね……」

 

 

 

「雷電くんの事が……だぁぁぁぃーーーー好きーーーーー!!」

 

 

 

突然の恵里からの告白に雷電は更にこんがらがった。そしてクラスメイト達も唖然としていた。中には“恵里が雷電に惚れていた?”とか、“え…エリリンが……ライライに……?”などと戸惑いを隠せないでいた。なお、先に行ったであろうシアは何かしらの電波を受信したのか“ハッ!?今、マスターが何か大切な物を奪われた様な……!?”と呟いたのは別の話だ。

 

 

 

普段冷静を装っていた雷電でもこれは大きすぎる衝撃だった故に動揺するには十分すぎた。

 

 

「え…あっ……えぇ!?え……恵里?」

 

「い……言っちゃった。僕、言っちゃった……!」

 

 

恵里も恵里で雷電や他のクラスメイト達の前で大胆に告白したことに顔を赤めていた。その時に他の視線を感じ取ったのか、ハジメ達が行った方角に目を向けると、そこには何時戻って来たのか清水の姿があった。しかも、清水の手には何かしらのカメラを持っていた。

 

 

「おい……シャドウ。お前、何時からいた?」

 

「お前が八重樫に説明を求められた時からな」

 

「それで、そのカメラは何だ?」

 

「少しばかし面白い事になるかと思ってカメラに収めとこうと思ったが、逆に予想外な展開を収めたけどな」

 

 

つまり、清水は恵里が雷電にキスをし、大胆に告白した所をカメラに収めていたということになる。そう理解した瞬間、雷電と恵里の顔が真っ赤になり、羞恥プレイでもさせられてる気分だった。

 

 

「なぁシャドウ……警告しておく。今すぐそのカメラを俺達に渡せ、というか直ぐに寄越せ」

 

「ねぇ清水くん?流石の僕でも見過ごせないな?だからそれを渡しなさい」

 

 

俺と恵里の意見はこの時に一致した。早めに清水からカメラを取り上げ、メモリーチップを破壊しようと。そうしないと、恥ずかしい記録を使ってからかってくるのは明確だった。しかし、それを簡単に渡す様な清水ではなかった。

 

 

「そうしたいのは山々なんだが、お前の弟子であるシアに“未来予知”で眼鏡っ子とつながる可能性があるとのことで俺にカメラでその証拠を収めてくれって頼まれた」

 

「ファッ!?シアからか!?」

 

 

清水を動かした黒幕が、まさかの弟子であるシアであったことに俺は驚きを隠せないでいた。なお、この時の雷電はあまりの同様にフォースで嘘をついているのかどうかの判断ができなかった。そして、それが清水を逃がす好機を与えてしまう事になる。

 

 

「ま、そういう事だ。後、ハジメからも早く来いと言ってたからな。早く来いよ?」

 

 

そういって清水は自分が乗っていたスピーダー・バイクに乗り込んで直ぐに急発進して逃走した。

 

 

「なっ!?あの野郎…!恵里、直ぐに追いかけるぞ!!」

 

「うん!流石の僕でも頭にきたよ!!」

 

 

こうして俺は恵里を連れて清水を追いかけるという形になってしまったが、恵里も旅の仲間として同行するのだった。その時に天之河が何か言っている様だが無視してスピーダー・バイクに乗り込み、恵里がサイドカーに乗り込んだ後に清水を追う為にスピーダーを加速させるのだった。

 

 

 

この様な茶番を見ていた雫や他のクラスメイト達は、急すぎる展開にしばらくの間唖然としていて何も言えなかった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

その頃ハジメ達はブリーゼを運転し、グリューエン大砂漠へと進路を取っていた。その時に後部座席に座っていた香織は席順に不満を抱いていた。

 

 

「あの…ハジメくん、どうしてこの席順なのかな?」

 

 

香織が言うにはハジメが運転席でその助手席にはユエとミュウが座り、後部座席には香織とシルヴィ、ティオという位置で座っているのだ。ユエは勝ち誇った様子で香織を見るのだった。シルヴィはこれが普通なのでは?と言うのだった。そして香織はティオにもこれでいいのかと聞き出すのだった。

 

 

「ティオさんはこれで納得できるんですか?」

 

「納得するも何も……妾はどちらかと言えば、こんな扱いの方が身体の心から熱くなるのじゃ!」

 

「本当に変態なんですね……」

 

 

聞いた相手を間違えたかの様に少しドン引きする香織にミュウがとんでも発言をするのだった。

 

 

「ほうちプレイ?」

 

「ぶぅっ!?ミュウ!?何時の間にそんな言葉を…!?」

 

 

ミュウのとんでも発言に戸惑うハジメ。その証拠にブリーゼの運転が少し荒くなってしまうのだった。

 

 

 

その様子を見ていたシアやデルタ、不良分隊も少しばかり苦笑いになりながらも不安になるのだった。その時にシアは一緒にいる筈の清水が不在である事に気付いた。

 

 

「あれ?そういえばシャドウさんは?」

 

「何?確かに、シャドウの姿が見えない。どこに行った?」

 

 

シアとデルタ分隊は清水の事を探そうとした時に後方からスピーダー・バイク二機が接近している事に気付いた。その二機の内一機は清水である事は分かったが、そしてもう一機は野暮用を済ませたのか雷電の姿があった。しかもサイドカーにもう一人の女の子を乗せて清水を追いかけているかの様に見えた。この時にシア達は清水は一体何をやらかしたのかと疑問に思うのだった。

 

 

「待ちやがれ、シャドウ!!そんでもってお前が持っているカメラを渡せ!!」

 

「待ちなさいよ清水くん!!今なら少ししか怒らないから早くそのカメラを渡しなさい!!」

 

「だが断る!!たまには娯楽の写真もあってもいいだろうが!!」

 

 

雷電たちは“ふざけるなぁぁぁーーー!!”と叫びながらもハジメ達を追い越して清水を追いかけていたのだった。清水の逃走劇を見たハジメ達は何ともいえない様子だった。

 

 

 

数分後、清水は雷電と恵里により捕まり、カメラ内に保存されている映像データを消去して雷電と恵里の羞恥プレイシーンを消去するのだった。その後にハジメ達と合流し、雷電が改めて恵里が新たな旅の仲間になった事を説明した。当然ハジメは反対したのだが、もう連れて来てしまったならしょうがないと判断し、雷電が恵里の面倒を見るという条件付きで旅の同行を許すのだった。この時にシアは恵里は師である雷電の恋のライバルであると“未来予知”で理解し、正妻の座は渡さない前提で恵里に警告を兼ねて挨拶を交わすのだった。無論、恵里も同様である為に雷電の負担が少し増えたのだった。

 

 

 

なお、清水のお仕置きは目的地に着くまで縄で縛りつけて芋虫状態のまま後部座席に放置するという処遇を下され、清水は縛り付けられ、芋虫状態で後部座席に収納されるのだった。そして、ティオはこの時に“妾もあんな風に放置プレイされたら…”と妄想し、変態っぷりを見せた時に雷電たちがドン引きしたのは余談だ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリューエン大火山編
死神との契約、消えた愛子


ようやくグリューエン大火山編に突入です。


53話目です。


 

 

「くそっ!くそっ!何なんだよ!ふざけやがって!」

 

「うるさいぞ!少し静かにしてろ!」

 

 

雷電たちが次の大迷宮があると思われるグリューエン大火山に向かって行ったその頃の檜山は、雷電が技能で召喚した基地の牢屋代わりにしている兵舎に監禁されていた。壁に拳を叩きつけながら、押し殺した声で悪態をつく檜山。檜山の瞳は、憎しみと動揺と焦燥で激しく揺れていた。それは、もう狂気的と言っても過言ではない醜く濁った瞳だった。

 

 

 

そして、それに対して怒声で注意する監視役のクローン達。この基地は警備レベルは最大に設定されている為、檜山が逃げ出そうにも逃げられないのだ。雷電が言っていた様に、もし、元の世界に戻れる手段が見つかって地球に戻った後に裁判に掛けられるの覚悟する他になかった。

 

 

 

しかし、そんな檜山にある転機が訪れる。突如と基地の非常警報が発令し、基地内にいるクローン達は警戒体勢に入る。その時に檜山を監視していたクローン達が何者かによって首を刎ねられる。そして死体は残らずポリゴン状に四散する。檜山自身、一体何が起こっているのか理解できていなかった。そして檜山を閉じ込めていた扉が開き、そこから黒いローブを着た一人の男性が入って来た。

 

 

 

檜山から見た視点で特徴を上げるのなら。顔に古傷があり、見ただけで全てを魅了し、何もかもその瞳の中へと沈んでしまいそうな翠の瞳をもつ白髪の男性。檜山にとってはそれがまるで死神の様に見えた。その際に檜山はその死神につい声を掛けてしまう。

 

 

「な……何だよ、お前は!?」

 

「こらこら、小生を見てあまり怖がるものではないよ?もっとも、それを怖がるなと言うのは無理があるがね……キヒヒッ!」

 

 

不気味な笑みと笑をする死神。檜山は最早考えるの止め、一体何しに来たのかを問い出すのだった。

 

 

「……一体、俺に何の様なんだよ」

 

「キヒッ……そう邪険にしなくとも君を取って食いはしないよ。小生としては君に手伝ってもらいたいだけさ」

 

「俺に……だと?」

 

「そう……小生の目的の為に君に手伝ってもらいたいだけ。それを了承してくれるのなら、君の望みを一つだけ叶えて上げるよ?」

 

 

死神から持ちかけられた提案。檜山はそれを悪魔との契約みたいに思えたが、逆にこれはチャンスと見ていた。雷電によってこの基地に幽閉され、裁判に掛けられる運命を辿るかと思われたが、天は檜山を見捨ててはいなかった。その死神の提案を呑むことにしたのだ。

 

 

「分かった。その代わり、絶対に約束を守れよ?」

 

「小生としては目的を果たすのを手伝ってくれれば何でも構わないのだがね?最も、君は仲間を切り捨てる覚悟があればだがね?キヒッ…!」

 

 

檜山は、己の目的の為に新たな共犯者を睨みつける。その視線を受けながらも、目の前の死神は変わらず口元を裂いて笑う。

 

 

 

檜山は、その死神の目的を知っているわけではなかったが、今の言葉で、その目的の中には確実にクラスメイト達を害するものが含まれていると察することができた。自分の目的のために、苦楽を共にした仲間をいともあっさり裏切ろうというのだ。そして、その事に何の痛痒も感じていないらしいと知り、改めて背筋に悪寒が走る。

 

 

(相変わらず気持ち悪い奴だ……だが、俺ももう後戻りは出来ない……俺の()()を取り戻すためには、やるしかないんだ……そうだ。迷う必要はない。これは香織のためなんだ。俺は間違っていない)

 

 

檜山は自分の思考が、既にめちゃくちゃであることに気がついていない。最初の共犯者である恵里に指示されるままにやってきた事から目を逸らし、常に自分の行いを正当化し、その根拠を全て香織に求める。

 

 

 

そして次の共犯者が新たにやって来た死神だった。その死神の目的が何であれ、己の目的の果たす為に何でも利用するつもりだった。

 

 

 

その数十分後には基地内のクローン達は全滅し、檜山もまたその場から消えてしまったのだった。それを知れ渡るのは少し先の話になる。

 

 

檜山Side out

 

 

 

時間は少し進む。

 

 

 

天之河達が、“宿場町ホルアド”にて、雷電たちとの再会によって受けた衝撃と別れによる複雑な心情を持て余していた夜から三週間ほど経った。

 

 

 

現在、天之河達の早急に対処しなければならない欠点、“人を殺す”ことについて浅慮が過ぎるという点をどうにかしなければこれ以上戦えないという事で、彼等は王都に戻って来ていた。魔人族との戦争にこのまま参加するならば、“人殺し”の経験は必ず必要となる。克服できなければ、戦争に参加しても返り討ちに遭うだけだ。

 

 

 

もっとも、考える時間はもうあまり残されていないと考えるのが妥当だ。ウルの町での出来事は、既に天之河達の耳にも入っており、自分達が襲撃を受けたことからも、魔人族の動きが活発になっていることは明らかで、開戦が近い事は誰もが暗黙の内に察している事だった。従って、天之河達は出来るだけ早く、この問題を何かしらの形で乗り越えねばならなかった。

 

 

 

そんな天之河達はというと、現在ひたすらメルド団長率いる騎士達と他のクローン達とで対人戦の訓練を行っていた。坂上や近藤達、永山達も、ある程度の覚悟はあったものの、実際にハジメが魔人族の女の頭を撃ち抜く瞬間を見て、自分にも出来るのかと自問自答を繰り返していた。時間はないものの、無理に人殺しをさせて壊れてしまっては大事なので、メルド達騎士団やクローン達も頭を悩ませている。

 

 

 

そんな、ある意味鬱屈した彼等に、その日、ちょっとした朗報が飛び込んできた。

 

 

 

愛子達の帰還だ。普段なら、天之河のカリスマにぐいぐい引っ張られていくクラスメイト達だったが、当の勇者に覇気がないので皆どこか沈みがちだった。手痛い敗戦と直面した問題に折れてしまわないのは、八重樫や永山といった思慮深い者達のフォローと鈴のムードメイクのおかげだろうが、それでも心に巣食ったモヤモヤを解決するのに、身近な信頼出来る大人の存在は有難かった。皆、いつだって自分達の事に一生懸命になってくれる先生にとても会いたかったのだ。

 

 

 

愛子の帰還を聞いて、真っ先に行動したのは八重樫だ。八重樫は、愛子の帰還を聞いて色々相談したい事があると、先に訓練を切り上げた。ハジメや雷電に対して何かと思うところのありそうなクラスメイト達より先に会って、愛子が予断と偏見を持たないように客観的な情報の交換をしたかったのだ。

 

 

 

ハジメから譲り受けた漆黒の鞘に収まる、これまた漆黒の刀身に鋒両刃造りの刀を腰のベルトに差して、王宮の廊下を颯爽と歩く八重樫。そんな彼女の姿に、何故か男よりも令嬢やメイドが頬を赤らめている。世界を超えても八重樫が抱える頭の痛い問題だ。自分より年上の女性に“お姉様ぁ”と呼ばれるのは本当に勘弁して欲しいのだ。

 

 

 

八重樫は、ウルの町でハジメ達が色々やらかした事を聞いていたので、愛子からハジメについてどう思ったかも直接聞いてみたかった。愛子の印象次第では、今も考え込んでいる天之河の心の天秤が、あまり望ましくない方向に傾くかもしれないと思ったからだ。どこまでも苦労を背負い込む性分である。

 

 

「きっと、ウルでも無茶苦茶して来たのでしょうね……こんな刀をポイッとくれちゃうくらいだし……全く、何が“ただ硬くてよく切れるだけ”よ。国宝級のアーティファクトじゃない」

 

 

そんなことを独り言ちながら、そっと腰の刀に手を這わせる八重樫。愛子の部屋を目指しながら、この刀のメンテナンスについて、国直営の鍛冶師達のもとへ訪れた時のことを思い出す。

 

 

 

この刀、八重樫は単純に黒刀と呼んでいるが、黒刀をこの国の筆頭鍛冶師に見せたときのことだ。最初は、“神の使徒”の一人である八重樫を前に畏まっていた彼だったが、鑑定系の技能を使って黒刀を調べた途端、態度を豹変させて、八重樫の肩を掴みかからんばかりの勢いで迫って来たのだ。そして、どこで手に入れたのか、誰の作品なのかと、今までの態度が嘘のように怒涛の質問、いや、尋問をして来たのである。

 

 

 

目を白黒させる八重樫が何とか筆頭を落ち着かせ、何事かと尋ね返した。すると彼曰く、これほどの剣は王宮の宝物庫でも、聖剣くらいしか見たことがない。出力や魔力を受けるキャパシティという点では聖剣に及ばないが、武器としての機能性・作りの精密性では上をいっているという。

 

 

 

そして、詳しく調べた結果、黒刀は魔力を流し込むことで、最大六十センチほど風の刃で刃先を伸長したり、刀身の両サイドに更に二本の風の刃を形成したり、更にはその刃を飛ばすことも出来るということが分かった。

 

 

 

また、鞘の方にも仕掛けがあり、同じく魔力を流し込むことで雷を纏わせることが出来たり、その状態で鯉口付近にある押し込み式のスイッチを押すことで鐺こじり(鞘の先端部分)から高威力の針を射出できたりすることもわかった。

 

 

 

刃の部分はアザンチウム製なのでまず欠けることもなく、メンテナンスも殆どいらないという。強いて言うなら、消費した針を補充するくらいだ。

 

 

 

ただ、問題があるとすれば、魔力を流し込むための魔法陣がないことである。それも当然だ。ハジメは、直接魔力を操れるし、元々誰かに譲渡する予定などなかったのである。なので、雫が使う分においては、“ただ硬くてよく切れるだけ”という言葉は間違っていない。

 

 

 

そして、これだけの機能を備えていて何故か()()()()()扱えでもしない限り、起動出来ないという不可解な黒刀に(鍛冶師達からはそう見える)王国直属の鍛冶師達は闘志を燃やした。

 

 

 

これほどの機能性・精密性をもった武器は作れないが、使えるようにするくらいはしてみせる!と。要は、何とかして使用者の魔力を流し込めるようにしようというわけだ。結果、三日三晩一睡もせず、筆頭鍛冶師を中心に国直属の鍛冶師達が他の仕事を全てほっぽり出して総出で取り組んだ結果、何とか魔法陣を取り付けることに成功した。

 

 

 

これで、八重樫も詠唱を行うことで黒刀の能力を引き出すことができるようになった。その後、ほとんど全ての鍛冶師達が魔力を枯渇させて数日間寝込んだが、彼等の表情は実に晴れやかだったという。

 

 

 

職人魂の凄まじさを思い出して遠い目をしていると、目的地である愛子の部屋に到着した。ノックをするが、反応はない。国王達への報告をしに行っていると聞いていたので、まだ、戻ってきていないのだろうと、八重樫は、壁にもたれて愛子の帰りを待つことにした。

 

 

 

愛子が帰ってきたのは、それから三十分ほどしてからだ。廊下の奥から、トボトボと何だかしょげかえった様子で、それでも必死に頭を巡らせているとわかる深刻な表情をしながら前も見ずに歩いてくる。

 

 

 

そして、そのまま自分の部屋の扉とその横に立っている八重樫にも気づかず通り過ぎようとした。八重樫は一体何があったのだと、訝しそうにしながら愛子を呼び止めた。

 

 

「先生……先生!」

 

「ほえっ!?」

 

 

奇怪な声を上げてビクリと体を震わせた愛子は、キョロキョロと辺りを見回し、ようやく八重樫の存在に気がつく。そして、八重樫の元気そうな姿にホッと安堵の吐息を漏らすと共に、嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

 

「八重樫さん! お久しぶりですね。元気でしたか? 怪我はしていませんか? 他の皆も無事ですか?」

 

 

今の今まで沈んでいたというのに、口から飛び出るのは生徒への心配事ばかり。相変わらずの愛ちゃん先生の姿に、自然と八重樫の頬も綻び、同時に安心感が胸中を満たす。しばし、二人は再会と互いの無事を喜び、その後、情報交換と相談事のため愛子の部屋へと入っていった。

 

 

 

しかし、その頃のクローン・コマンダー達は王国にて厄介なことなってしまっていることを二人は知らなかった。

 

 

雫Side out

 

 

 

一方の愛子教論の護衛を務めていた教官のハヴォックとブリッツ、そしてクローン・ショック・コマンダーのソーンがフォードーからコルトが戦死したことに少しばかり心を痛めていた。

 

 

「そうか……コルトが先に逝ったのか」

 

「はい、彼は学生達を逃がすべく自ら殿を……」

 

「カミーノ防衛戦では、彼の抵抗は虚しく、命を散らしてしまったが……今度は無事に守れた様だな」

 

「こちらとしてはアミダラ議員を守れなかった自分が悔やまれるな。だが、今度こそ任務を果たしてみせるさ!」

 

 

クローン達は、何時何処の戦場で死ぬのか分からない兵士でありながらも戦う為に造られた存在でもある。しかし、それらを召喚した雷電は彼等クローン達を使い捨ての兵士としてではなく、掛け替えのない戦友として召喚したのだ。その事にはクローン達も感謝している。

 

 

 

そして、今後の方針や行動についてコマンダー達とフォードーで互いに案を出し合うのだった。何故その様なことをするのかというと、数十分前に遡る。

 

 

 

愛子教論がハイリヒ王国の陛下にウルの町で起きたことへの報告をした際に、その陛下が下したことは南雲ハジメ、および藤原雷電を()()()として認定を受けたことである。

 

 

 

もっともと言えばそこまでだが、ハジメや雷電の力は強大だ。僅か数人で六万以上の魔物の大群を、未知のアーティファクトや新たに召喚したクローンの軍勢で撃退した。ハジメの仲間も、通常では有り得ない程の力を有している。にもかかわらず、聖教教会に非協力的で、場合によっては敵対することも厭わないというスタンス。王国や聖教教会が危険視するのも頷ける。

 

 

 

しかし、だからといって、直ちに異端者認定するなど浅慮が過ぎるというものだ。異端者認定とは、聖教教会の教えに背く異端者を神敵と定めるもので、この認定を受けるということは何時でも誰にでもハジメ達の討伐が法の下に許されるという事だ。場合によっては、神殿騎士や王国軍が動くこともある。

 

 

 

そして、異端者認定を理由にハジメに襲いかかれば、それは同時に、ハジメからも敵対者認定を受けるということであり、あの容赦のない苛烈な攻撃が振るわれるということだ。その危険性が上層部に理解出来ないはずがない。にもかかわらず、愛子教論の報告を聞いて、その場で認定を下したというのだ。コマンダー達が驚くのも無理はない。

 

 

「しかし、今後の方針はどうするかだな。いくら将軍達が教会に従わない大きな力とはいえ、結果的にウルの町を救っている上に俺や愛子教論がいくら抗議をしてもまるで取り合ってもらえない分話にならん。コマンダー・ナグモはこういう事態も予想して、ウルの町で唯でさえ高い“豊穣の女神”の名声を更に格上げしたのにも関わらず、だ。一応護衛騎士団の人に聞いてみたが“豊穣の女神”の名と“女神の双剣”の名は、既に、相当な広がりを見せているそうだ。今、将軍達を異端者認定することは、愛子教論達を救った“豊穣の女神”そのものを否定するに等しい行為でもある。愛子教論の抗議をそう簡単に無視することなど出来ないはずなのだが、それでも彼等は強硬に決定を下した。……正直に言って明らかにおかしいな。…今、思えば、イシュタル達はともかく、陛下達王国側の人達の様子が少しおかしかった」

 

「……それは、気になりますね。彼等が何を考えているのか……ですが、取り敢えず考えないといけないのは、唯でさえ強いコマンダー・ナグモやフジワラ将軍に()()差し向けるつもりなのか?という点ではないでしょうか?」

 

「……そうだな。おそらくは俺達が派遣させられる可能性があるが、もっともな話……」

 

「ええ。間違いなく学生達の誰かでしょう。本当に馬鹿げている……」

 

 

そう話しながらも今後の方針と行動として99号を除くドミノ分隊はすぐに将軍達の所に急行し、将軍達が異端者認定されられていると報告すると同時に共に行動するよう指示を出すのだった。そしてコマンダー・ソーン率いるショック・トルーパー達とハヴォック率いる部隊は引き続き愛子教論の護衛に回るのだった。そして残ったブリッツとフォードーは学生達の教導の為に行動すると決めた後にそれぞれ持ち場に戻るのだった。

 

 

クローン・コマンダー達Side out

 

 

 

時刻は、夕方。

 

 

 

鮮やかな橙色をその日一日の置き土産に、太陽が地平の彼方へと沈む頃、愛子は一人誰もいない廊下を歩いていた。廊下に面した窓から差し込む夕日が、反対側の壁と床に見事なコントラストを描いている。

 

 

 

夕日の美しさに目を奪われながら夕食に向かう愛子だったが、ふと何者かの気配を感じて足を止めた。前方を見れば、ちょうど影になっている部分に女性らしき姿が見える。廊下のど真ん中で、背筋をスっと伸ばし足を揃えて優雅に佇んでいる。服装は、聖教教会の修道服のようだ。

 

 

 

その女性が、美しい、しかしどこか機械的な冷たさのある声音で愛子に話しかけた。

 

 

「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました」

 

 

愛子はその声に何故だか背筋を悪寒で震わせながらも、初対面の相手に失礼は出来ないと平静を装う。

 

 

「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが」

 

「いいえ、あなたの行き先は本山です」

 

「えっ?」

 

 

有無を言わせぬ物言いに、思わず愛子が問い返す。と、そこで女性が影から夕日の当たる場所へ進み出てきた。その人物を見て、愛子は息を呑む。同性の愛子から見ても、思わず見蕩れてしまうくらい美しい女性だったからだ。

 

 

 

夕日に反射してキラキラと輝く銀髪に大きく切れ長の碧眼、少女にも大人の女にも見える不思議で神秘的な顔立ち、全てのパーツが完璧な位置で整っている。身長は、女性にしては高い方で百七十センチくらいあり、愛子では軽く見上げなければならい。白磁のようになめらかで白い肌に、スラリと伸びた手足。胸は大きすぎず小さすぎず、全体のバランスを考えればまさに絶妙な大きさ。

 

 

 

ただ、残念なのは表情が全くないことだ。無表情というより、能面という表現がしっくりくる。著名な美術作家による最高傑作の彫像だと言われても、誰も疑わないだろう。それくらい、人間味のない美術品めいた美しさをもった女だった。

 

 

 

その女は、息を呑む愛子に、にこりともせず淡々と言葉を続けた。

 

 

「あなたが今からしようとしていることを、主は不都合だと感じております。あなたの生徒がしようとしていることの方が“面白そうだ”と。なので、時が来るまで、あなたには一時的に、退場していただきます」

 

「な、なにを言って……」

 

 

ゆっくり足音も立てずに近寄ってくる美貌の修道女に、愛子は無意識に後退る。その時、修道女の碧眼が一瞬、輝いたように見えた。途端、愛子は頭に霞がかかったように感じた。思わず、魔法を使うときのように集中すると、弾かれた様にモヤが霧散した。

 

 

「……なるほど。流石は、主を差し置いて“神”を名乗るだけはあります。私の“魅了”を弾くとは。仕方ありません。物理的に連れて行くことにしましょう」

 

「こ、来ないで!も、求めるはっ……うっ!?」

 

 

得体の知れない威圧感に、愛子は咄嗟に魔法を使おうとする。しかし、詠唱を唱え終わるより早く、一瞬で距離を詰めてきた修道女によって鳩尾に強烈な拳を叩き込まれてしまった。崩れ落ちる愛子は、意識が闇に飲まれていくのを感じながら、修道女のつぶやきを聞いた。

 

 

「ご安心を。殺しはしません。あなたは優秀な駒です。あのイレギュラーを排除するのにも役立つかもしれません」

 

 

愛子の脳裏に、白髪眼帯の少年が思い浮かぶ。そして、届かないと知りながら、完全に意識が落ちる一瞬前に心の中で彼の名を叫んだ。

 

 

 

────南雲君!

 

 

 

その瞬間、一発の青い光弾がその修道女に襲いかかるが、修道女はそれを魔法陣で防ぐ。そして一人の鎧を着た男性ことクローン・ショック・コマンダーのソーンが愛用しているZ-6ロータリー・ブラスター・キャノン“ハンマー”を持ちながらその修道女にタックルをぶちかまし、愛子との距離を離すのだった。そして彼の下にクローン・ショック・トルーパー達やハヴォックが集まり、その修道女と対峙する。

 

 

「ハヴォック!お前は愛子教論を連れてこの国から脱出しろ!」

 

「イエッサー!そいつはただの修道女じゃない、死ぬなよ!」

 

 

ハヴォックはそう言って気を失った愛子を担いでこの場から離れる。そして残ったソーン達は謎の修道女に対する殿に打って出るのだった。そして修道女はソーン達を見るや否や、まるで人としてみない視線を向けるのだった。

 

 

「あなた方があのもう一人のイレギュラーのクローンというものですか。人によって造られし偽りの人間擬きが……」

 

「悪いが、そういう煽りは俺達には聞かないんでな」

 

「でしょうね。……ならば、あなた方の未来の兵隊達によって排除されるといいでしょう」

 

 

そういって修道女は後方の地面から魔法陣を展開し、そこからファースト・オーダーのストーム・トルーパー達をソーンが率いる一個分隊に対して三倍程の数の一個小隊を召喚するのだった。

 

 

「こいつらは…!将軍達が戦っていたストーム・トルーパーと言う奴か…!」

 

「古い世代は新しい世代によって滅びるのも一つの真理。ならばこそ、あなた達はここで処分します。ストーム・トルーパー、旧世代のクローン達を排除しなさい」

 

「くそっ!お前たち、何として愛子教論を抱えたハヴォックが逃げ出す時間を稼ぐぞ!」

 

 

そうしてソーン率いるクローン・ショック・トルーパー達は謎の修道女が召喚したストーム・トルーパー達と交戦するのだった。

 

 

 

……しかし、多勢に無勢であることには変わりなく、更には修道女からストーム・トルーパーを更に召喚させ、ソーン達を包囲させて攻撃させる。圧倒的な数の暴力に次々とソーンを除くクローン達が倒れて行く。

 

 

 

そして最後の一人ソーンはストーム・トルーパーのブラスターに被弾したのにも関わらず、ハンマーで殴りつけたり、光弾を連射させたりして“共和国の為に!!”と言葉を発して最後の最後まで抵抗を続けた。しかし、圧倒的な敵の物量にソーンは敵のブラスターを何発も貰い受け、そして最後の一発がソーンに当たり、その場で倒れ込み、絶命してしまう。なお、ソーン達が倒したストーム・トルーパーの数は二個分隊に相当する。

 

 

「時間を取られましたね……ご苦労でした。畑山愛子のことは私が対処します」

 

 

修道女はストーム・トルーパー達に労いの言葉を送った後にストーム・トルーパー達に証拠隠滅を行わせ、そして修道女は愛子を連れて逃げたハヴォックの後を追うのだった。

 

 

 

その頃、愛子を担いで逃げているハヴォックは逃走したのはいいものの、何時追いつかれるの時間の問題だった為に愛子をとある客室近くの廊下に寝かせ、少し離れた所で迎え撃つことにした。

 

 

「……恐らく、ソーン達が全滅した可能性があるな。クソッタレ…!来るなら来い!」

 

「いえ、その必要はありません」

 

「何っ!?」

 

 

ハヴォックは咄嗟に声が聞こえた方角にブラスターを向けるが、それよりも早く、謎の修道女がハヴォックのヘルメットの隙間である首元にナイフを突き刺す。突然の出現に理解できないままハヴォックは何も言えずにそのまま絶命する。

 

 

「ようやくです。あとは彼女を本山に運ぶだけ……?」

 

 

ハヴォックを片付けた後に愛子を、まるで重さを感じさせないように担いだ修道女は、ふと廊下の先に意識を向けて探るように視線を這わせた。しばらく、じっと観察していた修道女は、おもむろに廊下の先にある客室の扉を開く。

 

 

 

そして、中に入り部屋全体を見回すと、やはり足音を感じさせずにクローゼットに近寄り、勢いよく扉を開けた。しかし、中には何もなく、修道女は首を傾げると再び周囲を見渡し、あちこち見て回った。やがて、何もないと結論づけたのか愛子を担ぎなおすと、踵を返して部屋を出て行った。

 

 

 

静寂の戻った部屋の中で、震える声がポツリと呟く。

 

 

「……知らせないと……誰かに」

 

 

部屋の中には誰もいない。しかし、何処かに遠ざかる足音がほんの僅かに響き、やがて、完全に静寂を取り戻した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大砂漠と砂漠の芋虫

連続投降がこれで最後です。少しばかり時間がかかります。


54話目です。


 

 

ハジメ達一行は次の大迷宮があるグリューエン大火山に向かう為にグリューエン大砂漠に向かっていた。そこは、値り一面が赤銅色の世界とでも言うべきだろう。雷電は行ったことは無いが、アナキンの出身惑星である“タトゥイーン”を連想させる。

 

 

 

また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が“生きている”と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 

 

 

もっとも、それは“普通の”旅人の場合である。

 

 

 

現在、そんな過酷な環境を知ったことではないと突き進む黒い箱型の乗り物に縦状の乗り物、魔力駆動四輪とスピーダーが砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている。

 

 

「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

 

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

「僕もそれには同意見だね」

 

 

車内の後部座席で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシルヴィとティオ、恵里がしみじみした様子でそんなことを呟いた。いくらティオがドMの変態でも、流石にこの環境は鬱陶しいだけらしい。

 

 

「前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!パパはすごいの!」

 

「そうだね~。ハジメパパはすごいね~。ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

 

「飲むぅ~。香織お姉ちゃん、ありがとうなの~」

 

 

前部の窓際の席で香織の膝の上に抱えられるようにして座るミュウが、以前、誘拐されて通った時との違いに興奮したように万歳して、快適空間を生み出したハジメにキラキラした眼差しを送る。

 

 

 

それも無理はない。海人族であるミュウにとって砂漠の横断は、どれほど過酷なものだったか。四歳という幼さを考えれば、むしろ衰弱死しなかったことが不思議なくらいだ。そんな環境を耐えてきたミュウからすれば、ギャップも相まって驚きもひとしおだろう。なにせ、この四輪、きちんと冷暖房完備なのである。因みに雷電や清水、各トルーパー達に装備しているアーマーは体温調節機能が備わっている為に強烈な熱気すら耐えられている為、スピーダー・バイクに乗ってても脱水症状を起こすことは無かった。

 

 

 

そして、ハジメを称えるミュウに賛同しながら、砂漠では望めるはずもない冷たい水を普通に差し出したのは、ホルアドの町で、ハジメに対する衝撃的な告白とユエに対する宣戦布告を行い、ハジメの意見をスルーした挙句、いつの間にか仲間になっていた香織である。ちなみに、この水は、やはり車内備え付けの冷蔵庫から取り出したものだ。

 

 

「なぁ、しらさ……香織。ハジメパパって言うのは止めてくれよ。何か、物凄くむず痒いんだ」

 

「?…でも、ミュウちゃんには普通に呼ばれてるよね?」

 

「いや、ミュウはもういいんだ。ただ、同級生からパパと呼ばれるのは流石に抵抗が……」

 

 

生来の面倒見の良さから何かと積極的にミュウの世話を焼く香織は、ミュウが傍にいるときに大抵ハジメのことをハジメパパと呼称する。同級生の女の子にパパと呼ばれるのは、ミュウに呼ばれるのとはまた別の抵抗感があるらしく、物凄く微妙な表情をするハジメ。

 

 

 

ちなみに、ハジメが香織を名前呼びしているのは、香織に懇願された結果だ。曰く、皆名前なのに、私だけ苗字とかズルイ!と。

 

 

「そう? なら呼ばないけど……でも、私もいつか子供が出来たら……その時は……」

 

 

ハジメをチラチラと見ながら頬を真っ赤に染めてそんな事を言う香織。車内に、ミュウを除いて妙な雰囲気が漂う。ハジメが聞こえないふりをする中、香織に答えたのはユエだった。

 

 

「……残念。先約は私。約束済み」

 

「!? ……ハジメくん、どういうこと?」

 

「……別におかしな話でもないだろう。まだまだ遠い将来の話だし」

 

「……ふふ、ご両親への紹介も約束済み」

 

「!?」

 

「……明るい家族計画は万全」

 

「!?」

 

「……ハジメと故郷デートも」

 

「!?」

 

 

ユエの猛攻が止まらない!香織の胸に、次々と言葉の杭が打たれていく。だが、香織とて、このままやられっぱなしの女ではない。絶望的な状況でもハジメの生存を信じぬき、明らかに特別な絆をもつユエに向かって正面から挑んだ胆力を持っているのだ。ユエの言葉が途切れた一瞬の隙をついて反撃に転じる!

 

 

「わ、私はユエの知らないハジメくんを沢山知ってるよ!例えば、ハジメくんの将来の夢とか趣味とか、その中でも特に好きなジャンルとか!ユエは、ハジメくんが好きなアニメとか漫画とか知ってる?」

 

「むっ……それは……でも、今は、関係ない。ここには、そういうのはない。日本に行ってから教えてもらえば……」

 

「甘いよ。今のハジメくんを見て。どう見てもアニメキャラでしょ?」

 

「グフッ!?」

 

 

香織とユエの戦いのはずが、何故かハジメにダメージが入る。そして、スピーダーに乗っている雷電やブリーゼの後部座席で芋虫状態に縛られた清水も思わず笑いが噴出してしまう。

 

 

「白髪に眼帯、しかも魔眼……確か、ハジメくんが好きなキャラにもいたはず……武器だって、銃の種類は違うけど、あの時のクローンさん達に似た敵?と戦う前の台詞、たしかマジ◯カイザー◯KLの銃を使うキャラと同じだろうし……あっでも、戦闘スタイルは完全にリベ◯オンのガン=カタの方かな?どっちにしろ、今のハジメくんも十分にオタクなんだよ」

 

「ガハッ!?か、香織……」

 

「む、むぅ……ハジメの武器がそこから来ていたなんて」

 

「好きな人の好きなものを知らないで勝ち誇れる?」

 

「……香織……いい度胸……なら私も教えて上げる。ハジメの好きなこと……ベッドの上での」

 

「!?……な、な、なっ、ベッドの上って、うぅ~、やっぱりもう……」

 

「ふふふ……私との差を痛感するがいい」

 

 

道中、ことあるごとに火花を散らすユエと香織に、他のメンバーは既にスルー気味だ。最初は、シルヴィ辺りはハラハラと見守っていたのだが、結局深刻な問題にはならないので、今では巻き込まれないようにしている。

 

 

 

ある意味、一番割を食っているのはハジメかもしれない。二人が言い争う要因は、大抵がハジメのことなので、争いの内容を聞いていて身悶えするような気持ちになるのだ。今なんかは、普段から気にしていることを指摘され精神的なダメージを負ってしまった。

 

 

 

そして、ユエが、赤裸々に語ろうとする“夜”の話に、香織は聞きたくないと耳を押さえてイヤイヤをしており、ハジメ自身、そんな事を暴露されたくない上にミュウもいるので、止めに入ろうとする。

 

 

 

が、ハジメより先に二人の言い争いを止めに入ったのは、意外なことにミュウだった。

 

 

「……う~、ユエお姉ちゃんも香織お姉ちゃんもケンカばっかり!なかよしじゃないお姉ちゃん達なんてきらい!」

 

 

そう言って、ミュウは香織の膝から移動すると、後部座席に座る恵里の膝に座り込んでプイッと顔を背けてしまった。途端に、オロオロしだすユエと香織。流石に、四歳の幼女から面と向かって嫌いと言われるのは堪えるらしい。

 

 

「二人とも、あなた達がハジメくんのこと思う気持ちは分かるけど、ミュウちゃんの前でみっともないでしょ?後、教育に悪いよ。ハジメくんの事で熱が入るのは僕も分かるけど、もう少し自重してよ」

 

「!……不覚。恵里に注意されるなんて……」

 

「ご、ごめんなさい。ミュウちゃん、恵里ちゃん」

 

 

恵里から注意されるというまさかの事態に、肩を落とす二人。雷電は雷電で、恵里が無事にユエ達と無事に打ち解け合ったことにちょっとした喜びを見せるのだった。

 

 

「ん?なんじゃ、あれは?ご主人様よ。三時方向で何やら騒ぎじゃ」

 

 

ユエと香織がミュウの機嫌を直すために仲良しアピールを必死に行い、恵里が苦笑いしながらミュウをなだめ、ハジメが“俺は厨二じゃない”と呟きながら前方に死んだ魚のような目を向けていると、不意にそんな様子を面白げに見ていたティオがハジメに注意を促した。窓の外に何かを発見したらしい。

 

 

 

ハジメが、言われるままにそちらを見ると、どうやら右手にある大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっているようだった。砂丘の頂上から無数の頭が見えている。

 

 

 

このサンドワームは、平均二十メートル、大きいものでは百メートルにもなる大型の魔物だ。この“グリューエン大砂漠”にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近くを通ると真下から三重構造のずらりと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神のごとく恐れられている。

 

 

 

幸い、サンドワーム自身も察知能力は低いので、偶然近くを通るなど不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるということはない。なので、砂丘の向こう側には運のなかった者がいるという事なのだが……それにしては何かが変だった。そのサンドワームは獲物となった人物に襲いかからずに、様子を伺うようにして周囲を旋回しているからなのである。

 

 

「……あのサンドワーム、目の前の獲物に対して躊躇している?」

 

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

 

「まぁ、そう見えるな。そんな事あんのか?」

 

「妾の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」

 

 

ドMの変態であるティオだが、ユエ以上に長生きな上、ユエと異なり幽閉されていたわけでもないので知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などでは頼りになる。その彼女が首をかしげるということは、何か異常事態が起きているのは間違いないだろう。

 

 

 

しかし、わざわざ自分達から関わる必要もないことなので、ハジメは、確認せず巻き込まれる前にさっさと距離を取ることにした。

 

 

 

と、そのとき、

 

 

「っ!? 掴まれ!」

 

 

ハジメは、そう叫ぶと一気に四輪を加速させた。直後、四輪の後部にかすりつつ、僅かに車体を浮き上がらせながら砂色の巨体が後方より飛び出してきた。大口を開けたそれはサンドワームだ。どうやら、不運なのはハジメ達も同じだったらしい。

 

 

「くそっ!他にもサンドワームがいたのか!?」

 

「マスター、まだ来ます!」

 

 

ハジメ達は、さらに右に左にとハンドルをきり、砂地を高速で駆け抜けていく。そのSの字を描くように走る四輪の真下より、二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた。

 

 

「きゃぁあ!」

 

「ひぅ!」

 

「おごっ!?」

 

 

香織、ミュウ、清水の順に悲鳴が上がる。強烈な遠心力に振り回され、後部座席のミュウを気にして座席に膝立ちとなり後ろを向いていた香織は、バランスを崩して倒れ込んだ。そして、ユエの膝の上にお尻を置いた状態で仰向けにハジメの膝上へと着地する。

 

 

 

パチクリと目を瞬かせた香織は、そのまま頬を薄らと染めると、上体を捻りギュウとハジメの腰にしがみついた。位置的に、非常に宜しくない場所だ。ハジメの頬が引き攣る。ちなみに、香織の下半身は未だユエを下敷きにしている。

 

 

「おい、しら……香織! こんな時に何してやがる!」

 

「危ないから! 危険が危ないから! しがみついてるの!」

 

「……おのれ、香織。私を下敷きにして、奇襲とは……やってくれる」

 

 

サンドワームの奇襲を受けながら、チャンスとばかりにハジメにしがみつく香織のお尻を、ユエが、忌々しいとばかりにペシペシと平手打ちするが、香織は頬を染めたまま、ハジメの腹部に顔を押し付けて動こうとしない。

 

 

 

そうこうしているうち、現れた三体のサンドワームが、地中より上体を出した状態で全ての奇襲をかわした四輪を睥睨し、今度はその巨体に物を言わせて頭上から襲いかかろうとした。

 

 

しかし、ただでやられる程弱くない雷電とシアはライトセーバーを取り出して光刃を展開し、そのままサンドワームが向かってくる方向にシュタイフとスピーダーを走らせる。そしてサンドワームが雷電たちを食らおうとするも、雷電は右へ、シアは左へと方向転換し、サンドワームの横側につくと同時に、二人はライトセーバーを突き刺し、そのままスピーダーとシュタイフのスピードでサンドワームの土手っ腹を開かせる様に切り裂く。

 

 

 

こうして一体のサンドワームを倒した雷電とシア。ハジメはハジメでブリーゼのもう一つのギミックを解禁するのだった。

 

 

「雷電たちも派手にやってんな?だったら、こっちもこいつ(ブリーゼ)のギミックのお披露目といくか!」

 

 

そんな事を言いながらハジメは、四輪をドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行すると同時に四輪の特定部位に魔力を流し込み、内蔵された機能を稼働させる。

 

 

 

ガコンッ! カシャ! カシャ!

 

 

 

機械音が響き渡るのと同時に、四輪のボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出してきた。そのアームは、獲物を探すようにカクカクと動き、迫り来るサンドワームの方へ砲身を向けると、“バシュ!”という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した。

 

 

 

オレンジの輝く尾を引きながら、大口を開けるサンドワームの、まさにその口内に飛び込んだロケット弾は、一瞬の間の後、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。

 

 

「うへぇ……中村、ミュウが見ないようにしてやっててくれ」

 

「もう、してるよ。南雲くんもこれはこれでやり過ぎだよ」

 

 

更に、迫り来るサンドワームにロケット弾を放つハジメは、ミュウには刺激が強いだろうと恵里に配慮を頼んだ後にハジメは次のギミックを作動させた。

 

 

 

ハジメはロケットランチャーをしまうと、ボンネットの中央が縦に割れて、そこから長方形型の機械がせり出てくる。そして長方形型の箱は、“カシュン!”と音を立てながら銃身を伸ばしていき、最終的にシュラーゲンに酷似したライフル銃となった。

 

 

 

直後、四輪内蔵型シュラーゲンから紅いスパークが迸り、アームが角度を調整すると同時に“ドウゥ!!”と射撃音を轟かせながら一条の閃光が赤銅色の世界を切り裂いた。

 

 

 

解き放たれた超速の弾丸は、もこもこと盛り上がって進んで来る砂地に着弾し、衝撃と共に砂埃を盛大に巻き上げた。その噴火の如き砂柱には当然、砂色の肉片と真っ赤な血が多分に含まれている。

 

 

 

四輪内蔵型シュラーゲンは、その後も次々と紅の閃光を吐き出し続け、獲物を狩らんと迫っていたサンドワームの尽くを地中にいながら爆ぜさせ、不毛の大地へのささやかな栄養として還していった。そして雷電たちもライトセーバーで残りのサンドワーム達を切り刻み、殲滅していく。そして、全てのサンドワームを撃滅したハジメ達。

 

 

「ハジメくん! あれ!」

 

「……白い人?」

 

 

白煙を上げる四輪内蔵型シュラーゲンを収納するのと、香織が驚いたように声を上げ前方に指を差すのは同時だった。香織が指を差した先には、ユエが呟いたように白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた。おそらく、先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。しかし、なぜ食われなかったのかは、この距離からでは分からず謎だ。

 

 

「お願い、ハジメくん。あの場所に……私は“治癒師”だから」

 

 

懇願するような眼差しをハジメに向ける香織。ハジメとしても、なぜ、あの状態で砂漠の魔物に襲われないのか興味があったので香織の頼みを了承する。何か、魔物を遠ざける方法やアイテムでもあるのかもしれない。実際、樹海にはフェアドレン水晶という魔除けの効果を持つ石がある。魔物が寄り付きにくくなるという程度の効果しかないが、もしかしたらより強力なアイテムがある可能性は否定できない。

 

 

 

そんなわけで、四輪を走らせ倒れている人の近くまでやって来た。その人物は、ガラベーヤ(エジプト民族衣装)に酷似した衣装と、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。顔はわからない。うつ伏せに倒れている上に、フードが隠してしまっているからだ。

 

 

 

四輪から降りた香織が、小走りで倒れる人物に駆け寄り仰向けにした。

 

 

「!……これって……」

 

 

フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。だが、香織が驚いたのはそこではなく、その青年の状態だった。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。明らかに尋常な様子ではない。ただの日射病や風邪というわけではなさそうだ。

 

 

 

ハジメは、まるでウイルス感染者のような青年の傍にいる事に危機感を覚えたが、治癒の専門家が診察しているので大人しく様子を見ることにした。香織は“浸透看破”を行使する。これは、魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能である。

 

 

 

香織は、片手を青年の胸に置き、もう片手に自分のステータスプレートを持って診察用の魔法を行使した。その結果……

 

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

 

「香織?何がわかったんだ?」

 

「う、うん。これなんだけど……」

 

 

そう言って香織が見せたステータスプレートにはこう表示されていた。

 

 

 

===============================

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり 

===============================

 

 

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……」

 

 

それでサンドワームが食うか食わざるべきか迷っていたようだ。

俺達が通り掛かったことも含めて、この男の運が良かったと言えよう。

 

 

「しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。天恵よ、ここに回帰を求める──“万天”」

 

 

香織はそう結論を下し、回復魔法を唱えた。使ったのは“万天”。中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除だ。鈴達にかけられた石化を解いた術である。

 

 

 

しかし……

 

 

 

「……ほとんど効果がない……どうして?浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

 

どうやら、“万天”では、進行を遅らせることは出来ても、完全に治すことは出来なかったようだ。体内から圧迫されているせいか、青年は、苦しそうに呻き声を上げている。粘膜から出血も止まらない。その時に雷電は香織にある提案を持ちかける。

 

 

「香織、この青年の魔力を強制ドレイン系の魔法で大外に排出することはできるか?応急措置としてはそれしかない」

 

「……そうね、やってみるわ。光の恩寵を以て宣言する、ここは聖域にして我が領域、全ての魔は我が意に降れ──“廻聖”」

 

 

香織は雷電の提案のもと、青年の魔力を一時的に抜き出すという応急措置を採ることにした。

 

 

 

光系の上級回復魔法“廻聖”。これは、一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法だ。基本的には、自分の魔力を仲間に譲渡することで、対象の魔力枯渇を一時的に免れさせたり、強力な魔法を放つのに魔力が足りない場合に援護する事を目的とした魔法だ。

 

 

 

また、譲渡する魔法は術者の魔力に限らないので、領域内の者から強制的に魔力を抜き取り他者に譲渡する事も出来る。いわばドレイン系の魔法としても使えるのだ。但し、他者から抜き取る場合は、それなりに時間がかかり、一気に大量にとは行かず実戦向きとは言えない。この辺りが“上級魔法”たる所以だ。

 

 

 

もっとも、香織は、本来十小節は必要な詠唱を僅か三小節まで省略し、実戦でもある程度使えるレベルに仕上げていたりする。いかに香織の技量が凄まじいか分かるというものだ。

 

 

 

苦しむ青年にこの魔法を使ったのはもちろん、体内で荒れ狂い体を圧迫する魔力を体外に排出するためだ。ステータスプレートには“体外への排出不可”と表示されているが、上級魔法による強制ドレインならば“あるいは”と試すことにしたのだ。

 

 

 

純白の光が、青年を中心に広がり蛍火のような淡い光が湧き上がる。神秘的な光景だ。目を瞑り、青年の胸に手を起きながら意識を集中する香織の姿は、淡い光に包まれていることもあって、どこか神々しさすら感じる。

 

 

 

香織が、いとも簡単に上級魔法を行使したことに、魔法に精通するユエやティオなど年長組が思わず“ほう……”と感嘆の声を漏らすほどだった。ミュウはシアに抱っこされながら、“きれい……”とうっとりした表情で香織を見つめている。

 

 

 

周囲で、新たな仲間達が感嘆の声を上げていることに気がついた様子もなく、香織は、青年から取り出した魔力を、ハジメより譲り受けた神結晶の腕輪に収めていった。どうやら、上級魔法による強制ドレインは有効だったようだ。

 

 

 

ちなみに、指輪でないのは、過去二回の誤解を繰り返さないためである。

 

 

 

徐々に、青年の呼吸が安定してきた。体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。香織は、“廻聖”の行使をやめると初級回復魔法“天恵”を発動し、青年の傷ついた血管を癒していった。

 

 

「取り敢えず……今すぐ、どうこうなることはないと思うけど、根本的な解決は何も出来てない。魔力を抜きすぎると、今度は衰弱死してしまうかもしれないから、圧迫を減らす程度にしか抜き取っていないの。このままだと、また魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する……可能性が高いと思う。勉強した中ではこんな症状に覚えはないの……ユエとティオは何か知らないかな?」

 

 

青年が危機を脱したことに、一応の安堵を見せるも完全な治療は出来なかったことに憂いを見せる香織が、知識の深いユエとティオに助けを求めた。二人も記憶を探るように視線を彷徨わせるが、該当知識はないようだった。結局、原因不明の病としか言い様がないという状況だ。

 

 

「香織、念のため俺達も診察しておいてくれ。未知の病だというなら空気感染の可能性もあるだろ。まぁ、魔力暴走ならミュウの心配は無用だが」

 

「うん、そうだね」

 

「……一応、彼が起きたら、彼の了承を得た後に血液を採取して、その病原を探すしか無いな」

 

 

ハジメの言葉に頷いて、香織が全員を調べたが特に異常は見当たらなかった。その為、おそらく呼吸するだけで周囲の者にも感染するということはないようだと、ハジメ達は胸を撫で下ろした。そして雷電も青年が煩っている病の正体をつかむ為に彼が起きるのを待つのだった。

 

 

 

そうこうしていると、青年が呻き声を上げ、そのまぶたがふるふると震えだした。お目覚めのようだ。ゆっくりと目を開けて周囲を見わたす青年は、心配そうに自分を間近で見つめる香織を見て“女神? そうか、ここはあの世か……”などと呟きだした。

 

 

 

そして、今度は違う理由で体を熱くし始めたので、いい加減、暑さと砂のウザさにうんざりしていたハジメは、イラッとした表情を隠しもせずに、香織に手を伸ばそうとしている青年の腹を踏みつけた。

 

 

「おふっ!?」

 

「ハ、ハジメくん!?」

 

「おいおい、ハジメ。相手は病人だからあまり手荒なことはするなよ……」

 

 

そう雷電がツッコム中、体をくの字に曲げて呻き声を上げる青年と驚いたように声を上げる香織を尻目に、ハジメは、青年に何があったのか事情を聞く。

 

 

 

青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、“グリューエン大砂漠”最大のオアシスである“アンカジ公国”の特徴的な服装だったとハジメは記憶している。“無能”と呼ばれていたとき、現実逃避気味に調べたのだ。青年が、アンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かうはずだった場所が危険地帯に変わってしまう。是非とも、その辺のことを聞いておきたかった。

 

 

 

ハジメの踏み付けで正気を取り戻した青年は、自分を取り囲むハジメ達と背後の見たこともない黒い物体に目を白黒させて混乱していたが、香織から大雑把な事情を聞くと、ハジメ達が命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと共に事情を話し始めた。

 

 

 

その話を聞きながら、ハジメは、どこに行ってもトラブルが付き纏うことに、よもや神のいたずらじゃあないだろうな?と若干疑わしそうに赤銅色の空を仰ぎ見るのだった。

 

 






プチNGシーンその1 “(ちから)こそパワー”



サンドワームに襲われていた青年を助けた雷電たち。その時に青年は名乗る。


「私は“アンカジ公国”領主の息子“ビィズ”だ。アンカジで原因不明の高熱が流行ってね、助けを呼びに行くつもりが……恥ずかしながら、私も感染していたらしい。助けてくれて感謝する」

「いや…気にしなくてもいい。俺達がここに来たは本当に偶然だ」


そう謙虚に雷電が言っていると、シアが雷電に見せていなかった身体能力強化の失敗例である細身の身体から筋肉モリモリマッチョマンの姿になってビィズにある事を言う。


「筋肉が足りてないからじゃないですかね?」


その様子をハジメや雷電、香織達やビィズもシアの突然の変貌ぶりにSAN値が削られてしまう。



しかし、ハジメや雷電はオルクス大迷宮の奈落で肉体と精神を鍛え上げた為にSAN値はあまり削られなかった。香織達も少しSAN値が削られたが、少しドン引きする程度だった。だが、肝心のビィズはSAN値をゴリゴリ削られてしまい……


「体力あっての健康ですし、やはり筋トレが足りてないのでは……「うわぁぁぁーー!?」っ?」

「…って、おい!病人が逃げた、捕まえろ!!」


ビィズは発狂してその場を逃走してしまう。病人をあまり走らせない為に直ぐにハジメ達がビィズを袋詰めして捕まえるのだった。



────────────────────────────────────────────


プチNGシーンその2 “ユエトワネット”



発狂したビィズを袋詰めして確保し、何とかビィズを落ち着かせることに成功した雷電たち。雷電はビィズに高熱の原因のことを問い出すことにした。


「一つ聞くが、アンカジで起きている高熱の原因似付いて何か知っているか?」

「…高熱の原因は毒素だ。何者かに水が汚染され、国中に広まってしまった。早く救援を呼ばないと、安全な飲み水も後僅かしか…!」


そうビィズが言う中、ユエがある事を告げる。


「ん…人の子は弱い。水がないなら血を飲めばいいのに」

「ユエ、それは本気で洒落にならないから……マジで」

「姫様ちょっと黙って」


ユエの言葉に雷電、ハジメの順でツッコミを入れる。その時にビィズは……


「…そうだな。感染していない民に一人300ml(ミリリットル)ずつ提供してもらうのも視野に入れて……これが本当の血税。なーんて……

「「いやっ…吸血姫ジョークを真に受けんな次期当主」」


雷電とハジメの言葉がぴったり合いながらもユエの言葉を真に受けたビィズにツッコミを入れる二人であった。



ユエがどこぞの王妃様のようなことを知っているのか逆に気になったのは別の話だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンカジ公国とオアシス爆撃?

サイバーパンク2077に夢中で、すっかり忘れていた作者です。それに対して罰が当たったのかプレイするたびに何度もフリーズしてゲームが進まないというオチでございます。orz


55話目です。


 

 

香織の回復魔法により一時的に回復したものの、未だ体内に異常事態を抱える青年は、意識は取り戻したがまともに立つことも出来ない状態だった。砂漠の気温も相まって相当な量の発汗をしており、脱水症状の危険もあったので車内に招き入れ水を飲ませてやる。

 

 

 

一応雷電が青年に、四輪を馬車のようなものだと説明し、それで納得してもらったものの、車内の快適さに違う意味で目眩を覚えていた。しかし、自分が使命を果たせず道半ばで倒れたことを思い出し、こんなところでのんびりしている場合ではないと気を取り直す。そして青年は、自分を助けてくれたハジメ達と互いに自己紹介をした。

 

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 

どうやら助けた青年はとんでもない大物であった。ハジメもアンカジ公国に関しては訓練時期に図書室で色々と調べてた時に目を通していた為に覚えていた。アンカジ公国はエリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所で、その海産物の産出量は北大陸の八割を占めている。つまり、北大陸における一分野の食料供給に置いて、ほぼ独占的な権限を持っているに等しいという事だ。単なる名目だけの貴族ではなく、ハイリヒ王国の中でも信頼の厚い屈指の大貴族である。

 

 

 

何故そのアンカジ公国次期領主がサンドワームに食われかけていたのかを聞き出した所、ビィズ曰く、こういうことらしい。

 

 

 

四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が二万人に上ったという。直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、香織と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

 

 

 

そうこうしているうちにも次々と患者は増えていく。にもかかわらず、医療関係者の中にも倒れるものが現れ始めた。進行を遅らせるための魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、なんの手立ても打てずに混乱する中で、遂に処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。発症してから僅か二日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

 

 

 

そんな中、一人の薬師が、ひょんなことから飲み水に“液体鑑定”をかけた。その結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれていることがわかったのだ。直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定、オアシスそのものが汚染されていた。

 

 

 

当然、アンカジのような砂漠のど真ん中にある国において、オアシスは生命線であるから、その警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。普通に考えれば、アンカジの警備を抜いて、オアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではないほどに、あらゆる対策が施されているのだ。

 

 

 

一体どこから、どうやって、誰が……首を捻る調査チームだったが、それより重要なのは、二日以上前からストックしてある分以外、使える水がなくなってしまったということだ。そして、結局、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てがないということである。

 

 

 

ただ、全く方法がないというわけではない。一つ、患者達を救える方法が存在している。それは、“静因石”と呼ばれる鉱石を必要とする方法だ。この“静因石”は、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か“グリューエン大火山”で少量採取できる貴重な鉱石だ。魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に求めることが多い。この“静因石”を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来るだろうというわけだ。

 

 

 

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまう。また、アンカジの冒険者、特に【グリューエン大火山】の迷宮に入って“静因石”を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。生半可な冒険者では、【グリューエン大火山】を包み込む砂嵐すら突破できないのだ。それに、仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請は必要だった。

 

 

 

その救援要請にしても、総人口二十七万人を抱えるアンカジ公国を一時的にでも潤すだけの水の運搬や“グリューエン大火山”という大迷宮に行って、戻ってこられる実力者の手配など容易く出来る内容ではない。公国から要請と言われれば無視することは出来ずとも、内容が内容だけに一度アンカジの現状を調査しようとするのが普通だ。しかし、そんな悠長な手続きを経てからでは遅いのだ。

 

 

 

なので、強権を発動出来るゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

 

「なるほどな……助けを呼びに行くつもりが自分も感染している事に気付かず、サンドワームに目を付けられたって事か……」

 

「あぁ……恥ずかしながらな。父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にもアンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。護衛をしていた者達も、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

 

 

僥倖だったのは、サンドワーム達がおそらくこの病を察知して捕食を躊躇ったことだ。病にかかったがゆえに力尽きたが、それゆえにサンドワームに襲われず、結果、ハジメ達と出会うことが出来た。人生、何が起きるかわからないものである。

 

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

 

そう言って、ビィズは深く頭を下げた。車内にしばし静寂が降りる。窓に当たる風に煽られた砂の当たる音がやけに大きく響いた。領主代理が、そう簡単に頭を下げるべきでないことはビィズ自身が一番分かっているのだろうが、降って湧いたような僥倖を逃してなるものかと必死なのだろう。

 

 

 

その時にハジメは雷電の方をチラリと見て、どうするかと目で問いかけてくる。だが、雷電の答えは決まり切っていた。

 

 

「…俺達の目的地は丁度グリューエン大火山だ。それと並行してその依頼、承ろう」

 

 

ハジメは少し面倒くさそうだったが、雷電が一度決めたら止めない事を理解している為に了承するのだった。……もっとも、ユエやティオ、香織からも助けてあげて欲しいという意思があったとも言えるし、止めといわんばかりにミュウからも“パパー。たすけてあげないの?”と物凄く純真な眼差しで言ってくる。ミュウにとってハジメや雷電は紛れもなくヒーローなのだろう。そんなミュウとどこか期待するような香織の眼差しに、ハジメは“しょうがねぇな”と苦笑い気味に肩を竦めた。

 

 

 

そんなこんなでビィズからの依頼を正式に受ける事になった。

 

 

「ハジメ殿とライデン殿が“金”クラスなら、このまま大火山から“静因石”を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

 

「まぁ、香織とミュウ、中村とシルヴィ以外は扱えるが……わざわざ王都まで行く必要はない。水の確保はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かいたいんだが?」

 

「どうにか出来る?それはどういうことだ?」

 

「その点については、向かいながら説明します。それよりもビィズさん、アンカジに着き次第、医療院を案内してくれないだろうか?」

 

「医療院に?そこで何をするつもりだ?」

 

「それも含めて説明します。今は早くアンカジに向かいましょう」

 

 

そうして雷電たちは、ビィズの案内のもと、アンカジ公国の所へ向かうのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

赤銅色の砂が舞う中、たどり着いたアンカジは、中立商業都市フューレンを超える外壁に囲まれた乳白色の都だった。外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

 

 

 

ただ、フューレンと異なるのは、不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登っており、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成していることだ。時折、何かがぶつかったのか波紋のようなものが広がり、まるで水中から揺れる水面を眺めているような、不思議で美しい光景が広がっていた。

 

 

「おお、魔法障壁とか……ファンタジーな物が出て来たな!」

 

「ふむ……この魔法障壁を科学で例えるなら、偏向シールド発生装置がこのアンカジ全体をシールドで覆っているということか」

 

「このドームは砂の侵入や悪意ある者、邪な考えを持つ者を防ぐ作用があるのだ」

 

 

ハジメと雷電がそうコメントし、ビィズはその魔法障壁についての説明をした後にハジメ達は、これまた光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。砂の侵入を防ぐ目的から門まで魔法によるバリア式になっているようだ。門番は、魔力駆動四輪やスピーダー・バイク等を見ても、驚きはしたがアンカジの現状が影響しているのか暗い雰囲気で覇気もなく、どこか投げやり気味であった。もっとも、四輪の後部座席に次期領主が座っていることに気がついた途端、直立不動となり、兵士らしい覇気を取り戻したが。

 

 

 

アンカジの入場門は高台にあった。ここに訪れた者が、アンカジの美しさを最初に一望出来るようにという心遣いらしい。

 

 

 

確かに、美しい都だとハジメ達は感嘆した。太陽の光を反射してキラキラときらめくオアシスが東側にあり、その周辺には多くの木々が生えていてい非常に緑豊かだった。オアシスの水は、幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。町のいたるところに緑豊かな広場が設置されていて、広大な土地を広々と利用していることがよくわかる。

 

 

 

北側は農業地帯のようだ。アンカジは果物の産出量が豊富という話を証明するように、ハジメが“遠見”で見る限り多種多様な果物が育てられているのがわかった。西側には、一際大きな宮殿らしき建造物があり、他の乳白色の建物と異なって純白と言っていい白さだった。他とは一線を画す荘厳さと規模なので、あれが領主の住む場所なのだろう。その宮殿の周辺に無骨な建物が区画に沿って規則正しく並んでいるので、行政区にでもなっているのかもしれない。

 

 

 

砂漠の国でありながら、まるで水の都と表現したくなる……アンカジ公国はそんなところだった。

 

 

 

だが、普段は、エリセンとの中継地であることや果物の取引で交易が盛んであり、また、観光地としても人気のあることから活気と喧騒に満ちた都であるはずが、今は、暗く陰気な雰囲気に覆われていた。通りに出ている者は極めて少なく、ほとんどの店も営業していないようだ。誰もが戸口をしっかり締め切って、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているかのような、そんな静けさが支配していた。

 

 

「……使徒様やハジメ殿にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間がない。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。一先ずは、父上のもとへ。あの宮殿だ」

 

 

一行は、ビィズの言葉に頷き、原因のオアシスを背にして進みだした。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

ビィズの顔パスで宮殿内に入ったハジメ達は、そのまま領主ランズィの執務室へと通された。衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

 

 

「父上!」

 

「ビィズ!お前、どうしっ……いや、待て、それは何だ!?」

 

 

そんなランズィは、一日前に救援要請を出しに王都へ向かったはずの息子が帰ってきたことに驚きをあらわにしつつ、その息子の有様を見て、ここに来るまでの間に宮殿内で働く者達が見せたのと全く同じ様に目を剥いた。

 

 

 

無理もない。なにせ、現在ビィズは、宙に浮いているのだから。

 

 

 

正確には、宙に浮くクロスビットの上にうつ伏せに倒れる感じで乗っかりつつ運ばれているのである。ビィズも衰弱が激しく、香織の魔法で何とか持ち直し意識ははっきりしているものの、自力で歩行するには少々心許ない有様だった。見かねた香織が肩を貸そうとしたところ、ビィズが顔を赤くして“ああ、使徒様自ら私を…”等といって潤んだ瞳で香織を見つめ始めたので、ハジメが、クロスビットを突貫させて無理やり乗せると、そのまま運んで来たのである。

 

 

 

ちなみに、別にハジメが嫉妬したとかそういう事情はない。そうなのかと香織が頬を赤くしてハジメをチラチラ見ていたりしたが、単純に第二、第三の光輝や檜山を作りたくなかっただけである。

 

 

 

クロスビットにしがみつきながらという微妙に情けない姿でありながらも、事情説明を手早く済ませるビィズ。話はトントン拍子に進み、執事らしき人が持ってきた静因石の粉末を服用して完治させたビィズに香織が回復魔法を掛けると、全快とまでは行かずとも行動を起こすに支障がない程度には治ったようだ。

 

 

 

なお、完治といっても、体内の水分に溶け込んだ毒素がなくなったわけではなく、単に、静因石により効果を発揮できなくなったというだけである。体内の水分に溶け込んでいる以上、時間と共に排出される可能性はあるので、今のところ様子見をするしかない。

 

 

「じゃあ、動くか。香織はシアと雷電、中村とシルヴィを連れて医療院と患者が収容されている施設へ。魔晶石も持っていけ」

 

「分かった。ハジメ達は彼等の為にも飲み水の確保を頼む」

 

「あぁ。領主、最低でも二百メートル四方の開けた場所はあるか?」

 

「む?うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

 

「なら、香織とシア、雷電に中村、そしてシルヴィ以外はそっちだな。シアは魔晶石がたまったら、ユエに持って来てやってくれ」

 

 

ハジメがメンバーに指示を出す。ハジメ達のやることは簡単だ。香織が、ビィズにやったのと同じように、“廻聖”を使って、患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、“万天”で病の進行を遅らせて応急措置をする。取り出した魔力は魔晶石にストックし、貯まったらそれをユエに渡して水を作る魔力の足しにする。

 

 

 

ハジメは、貯水池を作るユエに協力したあと、そのままオアシスに向かい、一応、原因の調査をする。分かれば解決してもいいし、分からなければそのまま“グリューエン大火山”に向かう。そういうプランだ。

 

 

 

ハジメの号令に、全員が元気よく頷いた。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちに医療院や公共施設にいる患者達の対処を任せて、ハジメ達は先にアンカジの人々が飲む飲み水を確保する為に貯水所を作る為に、まず先にアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっている。普段は、とある作物を育てている場所らしいのだが、時期的なものから今は休耕地になっているそうだ。

 

 

 

その休耕地になっている所にユエが“壊劫”で大地を押しつぶし、二百メートル四方、深さ五メートルの巨大な貯水所を作り、“虚波”という水系上級魔法で大波を作り出して貯水所に水を貯めさせるのだった。横幅百五十メートル高さ百メートルの津波が虚空に発生し、一気に貯水池へと流れ込んだ。この貯水池に貯められる水の総量は約二十万トン。途中、何度かハジメから吸血をし、魔力を補給して半分ほど溜め込んだ。だが、ハジメの血量にも限界はある。

 

 

 

流石にこれ以上、血を吸われては貧血になるという辺りで、現場にシアが飛び込んで来た。手には、香織から預かった魔晶石がある。少量ずつとは言え、数千人規模の患者からドレインした魔力だ。相当な量が蓄えられている。香織が、医療院や施設に趣いてからまだ、二時間も経っていない。その短時間で、それだけの人間に処置を施したという点では、確かに、香織も十分にチートである。

 

 

 

シアが、再び、香織の手伝いに戻ったと同時に、ユエは“虚波”の連発を再開する。ほどなくして、二百メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。

 

 

 

その後にランズィの案内でオアシスへ来たわけだが、オアシスは、キラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えなかった。

 

 

「……ん?」

 

「……ハジメ?」

 

 

ハジメが、眉をしかめてオアシスの一点を凝視する。様子の変化に気がついたユエがハジメに首を傾げて疑問顔を見せた。

 

 

「いや、何か、今、魔眼石に反応があったような……領主。調査チームってのはどの程度調べたんだ?」

 

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

 

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

 

「? いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

 

ランズィのいうアーティファクトとは“真意の裁断”といい、実は、このアンカジを守っている光のドームのことだ。砂の侵入を阻み、空気や水分など必要なものは通す作用がある便利な障壁なのだが、何を通すかは設定者の側で決めることが出来る。そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る。その探知の設定は汎用性があり、闇系魔法が組み込まれているのか精神作用も探知可能なのだ。

 

 

 

つまり、“オアシスに対して悪意のあるもの”と設定すれば、“真意の裁断”が反応し、設定権者であるランズィに伝わるのである。もちろん、実際の設定がどんな内容かは秘匿されており領主にしかわからない。ちなみに、現在は調査などで人の出入りが多い上、既に汚染されてしまっていることもあり警備は最低限を残して解除されている。

 

 

「……へぇ。じゃあ、あれは何なんだろうな」

 

 

アンカジ公国自慢のオアシスを汚され、悔しそうに拳を握り締める姿は、なるほど、ビィズの父親というだけあってそっくりである。そんなランズィを尻目に、ハジメは、口元を歪めて笑った。ハジメの魔眼石には、魔力を発する“何か”がオアシスの中央付近の底に確かに見えていたのだ。

 

 

 

あるはずのないものがあると言われランズィ達が動揺する。ハジメは、オアシスのすぐ近くまで来ると“宝物庫”から五百ミリリットルのペットボトルのような形の金属塊を取り出し、直接魔力を注ぎ込んだ。そして、それを無造作にオアシスへと投げ込んだ。

 

 

「……なぁハジメ?お前、一体オアシスに何を投げ込んだ?何かと嫌な予感でしかない」

 

「なに、次の大迷宮への攻略の為に作った兵器(アーティファクトテスト)でテストを兼ねて底にいる奴を炙り出す。それとだ、少し下がっていた方が良いぞ」

 

 

清水が疑問系にハジメに質問し、ハジメは清水に次の大迷宮こと“メルジーネ海底遺跡”の攻略の為に作ったアーティファクトと説明しながらもスタスタとオアシスから離れ、ユエの隣に並び立つハジメ。皆が疑問顔を向けるが、ハジメは何も答えない。清水やデルタ、不良分隊たちは何かを悟ったのか、戦闘態勢を取る。そして、いい加減しびれを切らしたランズィがハジメに何をしたのか問い詰めようとした、その瞬間……

 

 

 

ドゴォオオオ!!!

 

 

 

凄まじい爆発音と共にオアシスの中央で巨大な水柱が噴き上がった。再び顎がカクンと落ちて目を剥くランズィ達。

 

 

「ちっ、意外にすばしっこい……いや、防御力が高いのか?」

 

 

ハジメはそんなことを言いながら、今度は十個くらい同じものを取り出しポイポイとオアシスに投げ込んでいく。そして、やっぱり数秒ほどすると、オアシスのあちこちで大爆発と巨大な水柱が噴き上がった。

 

 

 

ハジメが投げ込んだのは、いわゆる魚雷である。この先、エリセン経由で向かう事になる七大迷宮の一つ“メルジーネ海底遺跡”は海の底にあるらしいので(ミレディ情報)、水中用の兵器と言えば魚雷だろうと試作品をいくつか作っておいたのである。せっかくだし試してみようと実験がてら放り込んでみたのだ。結果として、威力はそれなりだが、追尾性と速度がいまいち足りないとわかった。要改良である。

 

 

 

ちなみに、この魚雷、“特定感知”や“追跡”を生成魔法により付加された鉱石を組み込んで作成されており、一度、敵をロックオンすると後は自泳して追いかけ、接触により爆発する。つまり、水中の何かは、現在、絶賛未知の兵器に追い掛け回されているということだ。

 

 

「おいおいおい!ハジメ殿!一体何をやったんだ!あぁ!桟橋が吹き飛んだぞ!魚達の肉片がぁ!オアシスが赤く染まっていくぅ!」

 

「ちっ、まだ捕まらねぇか。よし、あと五十個追加で……」

 

 

オアシスの景観が徐々に悲惨な感じで変わっていく様にランズィが悲鳴を上げるが、ハジメはお構いなしに不穏なことを呟いて、進み出ようとする。ランズィは部下と共にハジメにしがみついてでも必死に阻止しようとしたが、清水やデルタ、不良分隊に止められる。

 

 

「落ち着け、ハジメは無作為に魚雷擬きをオアシスに投げ込んでいる訳ではない」

 

「あぁ、そのオアシスの底にいるであろう()()を炙り出しているに過ぎない。少し待て」

 

 

ボスやハンターが言う通り、ハジメの魔眼に映る“何か”を炙り出そうと魚雷擬きを投げ込んでいるのだ。その“何か”を知らないランズィから見れば、いきなりハジメが、正体不明の物体を投げ込んだ挙句、オアシスにある桟橋などの設備や生息する淡水魚などが次々と爆破されていくという状況なのだ。結界の反応から、ハジメが悪意なく破壊活動を行っているという訳のわからない状況で、流石のランズィも困惑が隠せないが。とにかく、オアシスを守ろうと必死である。

 

 

 

清水達は、ハジメを止めようとするランズィ達を必死に止めていた。が、その直後……

 

 

 

シュバ!

 

 

 

風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかった。咄嗟に、ハジメはドンナー・シュラークで迎撃し水の触手を弾き飛ばす。ユエは氷結させて、ティオは炎で即座に蒸発させて防ぐ。清水達はランズィ達を庇いながらも回避する事に成功する。

 

 

 

何事かと、オアシスの方を見たランズィ達の目に、今日何度目かわからない驚愕の光景が飛び込んできた。ハジメの度重なる爆撃に怒りをあらわにするように水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったのである。

 

 

「なんだ……これは……」

 

 

ランズィの呆然としたつぶやきが、やけに明瞭に響き渡った。

 






その頃の雷電たちは、医療院と公共施設にいる患者を救う為に、香織は回復魔法の“廻聖”で患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、“万天”で病の進行を遅らせて応急処置をする。取り出した魔力は魔晶石にストックし、貯まったらそれをシアに運んでもらい、ユエに渡して水を作る魔力の足しにする。



そして雷電は患者を救う為に技能のクローン軍団召喚をフル活用し、医療専門のメディカル・オフィサー・クローンや人手不足を解消する為に衛生兵のクローン・トルーパー・メディックをそれぞれ五十人も召喚させ、クローン達にも感染させない様に派生技能の“共和国軍武器・防具召喚で”メディカル・オフィサー・クローンに専用のハザードスーツを人数分召喚させると同時に、派生技能の“基地プラント生成”で何もない空き地にて専用の汚染除去の消毒室を召喚させる。


「こちらでやれる事は全てやった。後は、アンカジの民達のがんばり次第か……」

「将軍、シルヴィから何か手伝える事はないかと申しておりますが、どうします?」


クローン・トルーパー・メディックがそう指示を仰ぐ中、シルヴィは自分にも何か出来る事はないかと雷電に尋ねて来た。


「あの……ライデンさん。私は、どうしたらよろしいでしょうか?」

「シルヴィか……そうだな、感染させない為にも、君は恵里を手伝ってくれないか?恵里からも話は通しておくよ」

「…はい、分かりました」


そう言いつつもシルヴィは他の人の邪魔にならない様にこの場から離れるのだった。そして雷電は恵里にシルヴィが恵里のサポートに回る事を伝え、出来る限り優しく接してほしいと頼み、他にやり残しがないか確認を行うのだった。



その時に香織は再び何かしらの電波を受信したのか“はっ!?今、ハジメくんが何か血抜きされている様な気がする!?”と言っていた。言葉からして、どうやらユエに血を吸われている様である事を理解したと同時に香織の前でそれを言わないことにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オアシスに潜むものと修羅場

特に言う事はないですが、最近腰が痛い……or”z


56話目です。


 

 

オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。

 

 

 

だが、サイズがおかしい。通常スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいなのだ。また、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。

 

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」

 

 

呆然とランズィがそんな事を呟く。バチェラムとは、この世界のスライム型の魔物のことだ。

 

 

「まぁ、何でもいいさ。こいつがオアシスが汚染された原因だろ? 大方、毒素を出す固有魔法でも持っているんだろう」

 

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

 

ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。ユエは氷結系の魔法、ティオは火系の魔法、清水とデルタ、不良分隊はブラスターで対処している。ハジメも、会話しながらドンナー・シュラークで迎撃しつつ、核と思しき赤い魔石を狙い撃つが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 

 

 

その様子を見てランズィが、ハジメの持つアーティファクトやユエ達の魔法に、もう驚いていられるかと投げやり気味にスルーすることを決めた。そして清水は、オアシスバチュラムを相手にしながらもハジメに勝算を尋ねた。

 

 

「ハジメ、奴の(コア)は捕捉できそうか?」

 

「ん~……ああ、大丈夫だ。もう捉えた」

 

 

清水の質問に対してお座なりな返事をしながら、目を細めジッと動き回る魔石の軌跡を追っていたハジメは、おもむろにシュラークをホルスターにしまうと、ドンナーだけを持って両手で構えた。持ち手の右腕を真っ直ぐ突き出し左肘を曲げて、足も前後に開いている。いわゆるウィーバー・スタンスと言われる射撃姿勢だ。ドンナーによる精密射撃体勢である。

 

 

 

ハジメの眼はまるで鷹のように鋭く細められ、魔石の動きを完全に捉えているようだ。そして……

 

 

 

ドパンッ!!

 

 

 

乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いた。

 

 

 

レールガンの衝撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にオアシスバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻った。ドザァー!と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達。

 

 

「……終わったのかね?」

 

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はねぇよ。原因を排除した事がイコール浄化と言えるのかは分からないが」

 

 

ハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。その際に清水が不良分隊のテックに同じ様に水質の鑑定の指示を出し、水質の鑑定を待った。

 

 

「……どうだ?」

 

「……いえ、汚染されたままです」

 

「テック、彼等と同じ結果か?」

 

「はい。こちらも同じ結果が出ました。厳密に言えば、先程倒した魔物は自分たちに倒されても、毒素は残したままに出来る固有魔法を有してたという事になります。もっとも、その魔物は一体何処からやって来たのかは不明ですが……」

 

 

ランズィの期待するような声音に、しかし部下は落胆した様子で首を振った。そしてテックの説明の通り、オアシスから汲んだ水からも人々が感染していたことから予想していたことではあるが、オアシスバチュラムがいなくても一度汚染された水は残るという事実に、やはり皆落胆が隠せないようだ。

 

 

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

 

ティオが慰めるようにランズィ達に言うと、彼等も、気を取り直し復興に向けて意欲を見せ始めた。ランズィを中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は、みながこの国を愛しているのだということがよくわかる。過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いのだろう。

 

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

 

気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それに答えたのはハジメだった。

 

 

「おそらくだが……魔人族の仕業じゃないか?」

 

「!?魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

 

ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや微塵もない。

 

 

 

ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で愛子を狙い、オルクスで勇者一行を狙ったという事実があるからだ。

 

 

 

おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。

 

 

 

そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。

 

 

 

その辺りのことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

 

 

「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」

 

「まぁ、仕方ないんじゃないか? 王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのもつい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

 

「いよいよ本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……そのアーティファクトといい、強さといい、やはり香織殿と同じ……」

 

 

ハジメが、何も答えず肩を竦めると、ランズィは何か事情があるのだろうとそれ以上の詮索を止めた。どんな事情があろうとアンカジがハジメ達に救われたことに変わりはない。恩人に対しては、無用な詮索をするよりやるべき事がある。

 

 

「……ハジメ殿、ユエ殿、ティオ殿、シャドウ殿、。アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。この国は貴殿等に救われた」

 

 

そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。領主たる者が、そう簡単に頭を下げるべきではないのだが、ハジメが“神の使徒”の一人であるか否かに関わらず、きっと、ランズィは頭を下げただろう。ほんの少しの付き合いしかないが、それでも彼の愛国心が並々ならぬものであると理解できる。だからこそ、周囲の部下達もランズィが一介の冒険者を名乗るハジメに頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだ。この辺りは、息子にもしっかり受け継がれているのだろう。仕草も言動もそっくりである。

 

 

 

そんな彼等に、ハジメはニッコリと満面の笑みを見せる。そして、

 

 

「ああ、たっぷり感謝してくれ。そして、決してこの巨大な恩を忘れないようにな」

 

 

思いっきり恩に着せた。それはもう、清々しいまでに。ランズィはてっきり「いや、気にしないでくれ。人として当然のことをしたまでだ」等と謙遜しつつ、さり気なく下心でも出してくるかと思っていたので、思わずキョトンとした表情をしてしまう。別にランズィとしては、救国に対する礼は元からするつもりだったので、それでも構わなかったのだが、まさか、ここまでド直球に来るとは予想外だった。

 

 

 

ハジメとしては、香織の頼みでもあったし、ミュウを預けなければならない以上、アンカジの安全確保は必要なことだったので、それほど感謝される程の事でもなかった。

 

 

 

だが、せっかく感謝してくれているし、いざという時味方をしてくれる人は多いに越したことはないだろうと、しっかり恩を売っておくことにしたのだ。ランズィなら、その辺の対応は誠実だろうとは思ったが、彼も政治家である以上、言質は取っておこうというわけである

 

 

「あ、ああ。もちろんだ。末代まで覚えているとも……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

 

 

政治家として、あるいは貴族として、腹の探り合いが日常とかしているランズィは、ド直球なハジメの言葉に少し戸惑った様子だったが、やがて何かに納得したのか苦笑いをして頷いた。そして、感染者たちを救うため“静因石”の採取を改めて依頼した。

 

 

「もともと、“グリューエン大火山”に用があって来たんだ。そっちも問題ない。ただ、どれくらい採取する必要があるんだ?」

 

 

 

あっさり引き受けたハジメにホッと胸を撫で下ろし、ランズィは、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。相当な量であったが、ハジメには“宝物庫”があるので問題ない。こういうところでも、普通の冒険者では全ての患者を救うことは出来なかっただろうと、ランズィはハジメ達との出会いを神に感謝するのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

一方、雷電たちが担当している医療院では、香織がシアを伴って獅子奮迅の活躍を見せていた。緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。

 

 

 

シアは、動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからだ。

 

 

 

もっとも、この方法、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったのだが。

 

 

 

医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が香織の指示のもと患者達の治療に当たっていた。

 

 

 

雷電が召喚したクローン達も患者達から血液を採取し、その血液と医療院にあった僅かな静因石の主成分を解析し、その主成分に似せたワクチンを開発を開始していた。開発には時間がかかるが、ないよりはマシだと雷電は判断した。

 

 

 

そして恵里とシルヴィは、数人のクローン達と共に雷電が防具を召喚し、支給されたハザードスーツを着て除菌されたタオルや毛布などを医療院や公共施設に運び、そこでタオルや毛布などの交換を行っていた。

 

 

 

そんな香織を中心とした彼等の元に、ハジメ達がやって来る。そして、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。

 

 

 

その知らせは、すぐさま各所に伝えられていき、病に倒れ伏す人々も、もう少し耐えれば助かるはずだと気力を奮い立たせた。

 

 

「香織、これから“グリューエン大火山”に挑む。どれくらい持ちそうだ?」

 

「ハジメくん……」

 

 

 

歓声に包まれる医療院において、なお、治療の手を休めない香織にハジメが歩み寄り尋ねた。

 

 

 

香織は、ハジメの姿を見て嬉しそうに頬を綻ばせるが、直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめた。そして計算を終えたのか、ハジメを見つめ返して“二日”と答えた。それが、魔力的にも患者の体力的にも、持たせられる限界だと判断したのだろう。

 

 

「ハジメくん。私は、ここに残って患者さん達の治療をするね。静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめなの。ごめんね……ハジメくんがこの世界の事に関心がないのは分かっているけど……」

 

「それだけ集めようってんなら、どちらにしろ深部まで行かなきゃならないだろ。浅い場所でちんたら探しても仕方ないしな。……要は、ちょっと急ぎで攻略する必要があるってだけの話だ。序でなんだから謝んな。俺が自分で決めたことだ。……それに、ミュウを人がバッタバッタと倒れて逝く場所に置いて行くわけにも行かないだろ?」

 

「ふふ……そうだね、頼りにしてる。ミュウちゃんは私がしっかり見てるから」

 

 

香織は、アンカジに来るまでの道中で、ハジメから狂った神の話や旅の目的は聞いており、ハジメがこの世界を見捨てても故郷に帰ることを優先しているということも聞いている。それに納得できないなら、光輝達のもとへ帰れとも。全てを聞いた上で、香織は、それでもハジメに付いてくという意志を曲げなかった。

 

 

 

今回の事も、もしハジメがアンカジを見捨てる決断をしていたなら、説得くらいはしただろうが、それが功を奏しなければ諦めていただろう。

 

 

 

だが、出来ることならアンカジの人々の力になりたいと思っていたことは事実で、ハジメが決断するとき、つい懇願するような眼差しを向けてしまった。自分の思いだけでハジメが決断すると思えるほど自惚れているわけではないが、ハジメは、そんな香織の眼差しを受けて苦笑い気味に肩を竦めていたことから少しは判断に影響を与えたはずだ。

 

 

 

なので、香織は、まるで自分のわがままにハジメを付き合わせたような複雑な気持ちを抱いていた。

 

 

 

だが、つい謝罪を口にした香織に、ハジメはあっけらかんとした態度で手をヒラヒラと振る。香織の気持ちを見透かしたように、自分で決めたことだから気にするなと。香織は、そんなハジメのぶっきらぼうだが自分を気遣う態度に、そして、さりげなく発揮するパパ振りに頬を緩めて、信頼と愛情をたっぷり含めた眼差しを向けた。

 

 

「私も頑張るから……無事に帰ってきてね。待ってるから……」

 

「……あ、ああ」

 

 

香織の、愛しげに細められた眼差しと、まるで戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気に、思わず、どもるハジメ。

 

 

 

元から香織の言動はストレートなところがある。日本にいたときも、光輝の勘違いをばっさり切り捨てたり、ハジメに爆弾を落として教室が嫉妬の嵐に見舞われたり……そういった事は日常と化していた。それが、あの告白の日から、さらに露骨になっている。

 

 

 

雷電は香織の露骨さにもう驚く様子がなかった。寧ろ、清水にとって思い出しの良いネタになると思ったからだ。しかし、雷電を他人事とは言わせないかの如く恵里も雷電の想いに露骨さを見せていた。

 

 

「僕もしばらくの間ここで香織達の手伝いをするよ。雷電も頑張ってね?僕も待っているから……」

 

「あ、あぁ……」

 

 

二人の共通点として何となく目を逸らしたハジメと雷電だったが、逸らした先には……ハジメにはユエがいて、雷電にはシアがいた。ユエの場合は、いつか見た無機質な眼差しでジーとハジメを見ている。すごく見ている。思わず反対側に向き直ると、愛おしさたっぷりにふんわりと微笑む香織が……シアの場合は、膨れ面になっていながらも雷電の事をジーッと見ている。ものすごく見ていた。雷電も、ハジメ同様に思わず反対側に向き直ると、香織と同じ様に愛おしさたっぷりにふんわりと微笑む恵里がいた。内心、腹黒さを抱えてである。

 

 

 

そんな香織達の雰囲気を見て、我らがアイドル、ミュウが爆弾を落とす。

 

 

「香織お姉ちゃん、さっきのユエお姉ちゃん見たいなの~。香織お姉ちゃんもパパとチュウするの~?」

 

「おや?見えておったのか、ミュウよ?」

 

「う~?指の隙間から見えてたの~。ユエお姉ちゃん、とっても可愛かったの~。ミュウもパパとチュウしたいの~」

 

「う~む。妾ですらまだなのじゃぞ?ミュウは、もっと大きくなってからじゃな」

 

「うぅ~」

 

 

ミュウの無邪気な言葉にほっこりしつつ、ティオに“この役立たずが!”と理不尽な怒りをぶつけるハジメ。案の定、“その眼!その眼がぁ!イィ!”と興奮し始めるティオだったが、今は、どうでもいいことだ。

 

 

 

なぜなら、ハジメのすぐ傍に刀を肩に担ぐ般若が出現したからだ。もちろん、香織のス○ンドである。

 

 

「……どういうことかな、かな?ハジメくん達は、お仕事に行ってたんだよね?なのに、どうしてユエとキスしているのかな?どうして、そんなことになるのかな?そんな必要があったのかな?私が、必死に患者さん達に応急処置している間に、二人は、楽しんでたんだ?私のことなんて忘れてたんだ?むしろ、二人っきりになるために別れたんじゃあないよね?」

 

 

目のハイライトを消して、背後に般若を背負ってハジメを見つめる香織。ハジメの頬に自然と冷や汗が伝う。ハジメが、吸血行為のついでみたいなもので、キスのために別れたわけじゃないと言おうとするが、その前にユエが前に進み出た。

 

 

 

誤解を解いてくれるのかと期待するハジメだが、この状況でユエに期待するのは阿呆のすることである。

 

 

 

ユエは、香織と正面から見つめ合うと、堂々と胸を張った。そして、フッと口元を緩めると、

 

 

「……美味だった」

 

 

…と告げた。

 

 

「あは、あははははは」

 

「ふふ、ふふふふふふ」

 

 

医療院に、二人の美少女から不気味な笑い声が響く。今の今まで、香織を聖女のように思っていた医療院の職員達や患者達が、そろってドン引きし、なるべく目を合わせないよう顔を背けている。

 

 

 

無理もない。背後に刀を振り回す般若を背負う者を誰も聖女とは思えないだろう。しかも、相対する方にも背後に暗雲と雷を纏う龍を背負っているのだ。目を逸らしたくなるのも仕方ない。

 

 

 

そして修羅場はハジメだけではなかった。シアもキスの事である事を思い出したのだ。

 

 

「そういえば……キスの事で思い出したのですが、ライセン大迷宮を攻略した後、ミレディに無理矢理大迷宮から追い出された時に流された場所が湖だったのですが、そこで私は溺れてしまって、マスターに助けてもらったんですよね?も…もちろん、キ……キスで……」

 

 

シアもシアで恵里の前で爆弾発言を落とす。例えるなら、炎の中にニトログリセリンをぶちまける様な発言でもあった。

 

 

「あの時は人工呼吸すらこの世界に知れ渡っていなかったんだ、本当ならユエにやらせようと思ったがユエすら知らなかったから教える時間がなかった分、俺がやるしかなかったんだ。だからアレはノーカンだ。……だから恵里、その殺意を込めた魔法を出すのはやめろ。ここで放ってしまっては本当に洒落にならないぞ」

 

 

そう雷電が告げる中、恵里は微笑みを絶えずに(目が笑っていない)怒りと殺意を抱きながらも魔法をシアに放とうとしていたので、雷電は止めようとする。するとシアがそれを制止させる。この時にシアが恵里を止めようとしているのかと雷電は思ったが、それは筋違いであった。

 

 

「大丈夫だよ、雷電?これはほんのちょっとしたシアさんとの戯れだから問題ないよ?」

 

「そうですよ、マスター。これは恵里さんとのちょっとした戯れですから問題ないですぅ。それに……マスターの正妻の座を渡すつもりはありませんから!」

 

「フッ……ファースト・キスは僕が貰ったのにその気でいるんだから、本当は雷電からファースト・キスを貰いたかったんでしょ?」

 

「うぅ……そ…それはしょうがないとして、正ヒロインはいくらマスターのクラスメイトでも恵里さんでもゆずれないですぅ!!」

 

「フフッ……それはどうだろうね?それを決めるのは雷電だからね?」

 

 

最早、女性関係で災いが起こっているハジメと雷電は、笑い声を上げながら睨み合う香織とユエ、互いに睨み合うシアと恵里に溜息を吐きながらも、ハジメは香織達に近づくと素早くデコピンを決める。ズバン!と有り得ない音を響かせて直撃したデコピンに、ユエと香織は思わずうめき声を上げながら蹲った。雷電もハジメ同様にシアと恵里の額にデコピンを決める。それぞれ涙目で“何をするんだ”と見上げてくる四人に、ハジメと雷電は呆れた表情をする。

 

 

「香織。別にユエとそういうことをしたくて別行動したわけじゃない。分かっているだろ?それと、ユエは俺の恋人なんだ。何をしようがお前にとやかく言われる筋合いはない。それも全て承知で付いて来たんだろうが」

 

「うっ……そうだけど……理屈じゃないもの、こういうのは……」

 

 

ハジメに怒られて、シュンとしながらも反論する香織。ハジメは、再び溜息を吐きながら、ユエにも“いちいち、相手するなよ”と注意するが、ユエはプイッ!とそっぽを向くと“これは女の戦い……ハジメは口出ししないで”と突っぱねる始末。

 

 

「二人とも、こんな状況で俺という存在の取り合いをしている場合じゃないだろう。それに、俺自身も恋については初心(うぶ)と言ってもいいくらいまだ理解していないんだ。それ以前に、相手の気持ちを知らずに一方的に自分の気持ちを押し付けては本末転倒だろう?」

 

「あぅ……すみません、マスター、ですが……」

 

「……ごめんなさい、雷電くん。でも、こればかりは雷電くんでもシア相手には譲れないんだ」

 

 

シアと恵里が起こした俺を巡っての修羅場の沈静化は不可能と判断した雷電は、“もうどうにでもなれ…”と、もはや匙を投げるしか他になかった。

 

 

 

ランズィ達は突然の修羅場に置いてけぼりだし、清水やデルタ、不良分隊は“最近影が薄い気がするな”と己の状況を省み中で、ティオは未だハァハァしており、ミュウは、またユエと香織が喧嘩しているとお怒りモードだ。

 

 

 

ハジメと雷電は、事態の収拾を諦めてさっさと“グリューエン大火山”へと向かうことにした。事前に話は通してあったが、医療院で忙しい香織だけでなく、ランズィにもミュウの世話を改めて頼んでおく。ハジメ達の関係に苦笑い気味のランズィは、快くミュウの世話を引き受けた。

 

 

 

あらかじめ言い聞かせてあったものの、ハジメが出発すると雰囲気で察した途端、寂しそうに顔をうつむかせるミュウに、ハジメは膝をついて目線を合わせ、ゆっくり頭を撫でた。

 

 

「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだぞ?」

 

「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ」

 

「ああ、出来るだけ早く帰る」

 

 

服の裾をギュッと両手で握り締め、泣くのを我慢するミュウと、それを優しく宥めるハジメの姿は、種族など関係なく、誰が見ても親子だった。修羅場により冷えた空気がほんわかと暖かくなる。ハジメはミュウの背中を押し、香織達の方へ行かせる。そして、雷電、ユエ、シア、ティオ、清水、デルタ、不良分隊に出発の号令をかけた。

 

 

 

踵を返そうとするハジメに、香織が声をかけた。

 

 

「あ、ハジメくん……その、いってらっしゃい」

 

「おう、ミュウの事頼んだぞ」

 

「うん……それで、その……キス、ダメかな?いってらっしゃいのキス……みたいな」

 

「……ダメに決まっているだろ。ていうか何だいきなり」

 

「ほっぺでもいいよ?ダメ?」

 

 

香織が、頬を染めてもじもじしつつも、意外な程強い声音でそんな事をいう。どうやら、ユエに対抗していくには、こういう時に引いてはならないと考えているらしい。今、思えば、日本にいた時も割かし積極的だった気がするが、自分の好意を自覚し告白した後の香織は、本当にグイグイと押してくる。

 

 

 

ハジメの背後で“あっ、じゃあマスター、私も!”と声を上げるウサミミや“何でそうなる…”とツッコミを入れる雷電をスルーして、ハジメが、きっぱり断ろうとすると、まさかの相手に機先を制された。

 

 

「ミュウも~。ミュウもパパとチュウする!」

 

 

無邪気に手を伸ばして来るミュウに、便乗する香織。ハジメが色々言って躱そうとするが(ミュウには強くは言えない)、遂には……

 

 

「パパは、ミュウが嫌いなの?」

 

 

と、涙目でそんな事を言われてはグゥの音も出ない。

 

 

 

結局、香織とミュウと互いの頬にキスをすることになり、今度は、多くの患者が倒れている中で、生暖かな視線を受けるという意味のわからない状況になって、ハジメは逃げるように“グリューエン大火山”へと出発するのだった。

 

 

 

ちなみに、ティオもキスを望んだが、鼻息が荒かったので思わず罵ってしまい、余計興奮させてしまった。とても気持ち悪かったとだけ言っておこう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリューエン大火山と商人達の脱出

今年最後の投降となります。皆さん、コロナに負けず良いお年を。


57話目です。


 

 

解放者が残した神代魔法を習得する為に雷電達一行はそれぞれの乗り物でグリューエン大火山に到着していた。しかし、グリューエン大火山には厄介なものが存在していた。それは、巨大積乱雲のように巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。この時にハジメは“……まるでラピュ◯だな”と呟き、雷電も“……完全にラ◯ュタだな”と呟くのだった。

 

 

 

しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では“グリューエン大火山”を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

 

 

しかし、今回はその対策としてなのか、雷電がスピーダーから降り、スピーダーをハジメが持つ“宝物庫”に収納させ、新たな乗り物である“HAVw A6ジャガーノート”、別名クローン・ターボ・タンクを召喚させて乗り換えるのだった。そして清水やデルタ、不良分隊もスピーダーから降り、ジャガーノートに乗り換えるのだった。

 

 

 

雷電が新たに召喚した乗り物(ジャガーノート)がデカすぎるが故に、ハジメを除くユエ達は唖然するばかりだった。そしてハジメは改めて雷電の技能であるクローン軍団召喚の派生技能のバグさに呆れる他になかった。そして雷電が操縦するジャガーノートとハジメが運転するブリーゼが巨大砂嵐の中にあるグリューエン大火山に向けて加速させるのだった。

 

 

 

今回は悠長な攻略をしていられない。表層部分では静因石はそれ程とれないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行ってしまえば、おそらく今までと同じように外へのショートカットがあるはずだ。それで一気に脱出してアンカジに戻る算段だ。

 

 

 

ハジメとしては、アンカジの住民の安否にそれほど関心があるわけではないのだが、助けられるならその方がいい。そうすれば、少なくとも仲間である香織達は悲しまないし、ミュウに衝撃の強い光景を見せずに済む。もっとも、雷電のお人好しが伝染したものであると自覚しているものの、悪い気がしなかった。

 

 

 

ハジメは、そんな事を考えながら気合を入れ直し、巨大砂嵐に突撃した。なお、先方はハジメのブリーゼで、後方は雷電のジャガーノートの順である。

 

 

 

砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。“ハルツィナ樹海”の霧のようにほとんど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。

 

 

 

太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、ブリーゼの緑光石のヘッドライトとジャガーノートのヘッドライトが切り裂いていく。時速は三十キロメートルくらいだ。事前の情報からすれば五分もあれば突破できるはずである。

 

 

 

と、その時にシアのウサミミがピンッ!と立ち、一拍遅れてハジメも反応した。ハジメは“掴まれ!”と声を張り上げながら、ハンドルを勢いよく切る。

 

 

 

直後、三体のサンドワームが直下より大口を開けて飛び出してきた。ハジメは、四輪にS字を描かせながらその奇襲を回避し、構っていられるかとそのまま遁走に入る。四輪の速度なら、いちいち砂嵐の中で戦うよりも、さっさと範囲を抜けてしまった方がよい。

 

 

 

一方の雷電が操縦するジャガーノートも、隠れていた四体目のサンドワームからの奇襲にあっていたが、ジャガーノートの車体が大きすぎた為か、サンドワームは丸呑みする事ができずに体当たり程度に終わった。その際にジャガーノートから重レーザー砲塔による反撃で、襲撃して来た四体目のサンドワームは、いとも簡単に排除される。

 

 

 

残ったサンドワーム達を無視して爆走する四輪を、更に左右から二体のサンドワームが襲いかかろうとした。タイミング的に真横からの体当たりを受けそうだ。たかだか体当たりで車体が傷つくことはないが、横転の可能性はある。なので、“気配感知”で奇襲を掴んだハジメは、咄嗟に車体をドリフトさせて回避しようとした。が、ここでジャガーノートからオープン・チャンネルを通して、清水の声が届く。

 

 

《ハジメ、そのまま真っ直ぐ走れ。こっちはミサイルでサンドワームを蹴散らす》

 

「清水か?……って、ちょっと待て!?ミサイルって!?」

 

 

ハジメは、清水から告げられた言葉に耳を疑った。そしてハジメが運転するブリーゼの後方でジャガーノートが実体弾発射装置ことミサイル・ランチャーが展開され、そこからミサイルが発射される。ハジメはミサイルの爆撃に巻き込まれない様、清水に言われた通りに真っ直ぐ走り抜ける。そしてジャガーノートから放たれたミサイルによって、ハジメを襲おうとする左右のサンドワームが蹂躙される。

 

 

 

ミサイルによる爆撃で、二体のサンドワームが倒された後にハジメは清水に文句を言う。

 

 

「おいっ清水!いきなりミサイルをぶっ放す奴があるか!?危うくこっちも巻き込まれるかと思ったぞ!?」

 

《清水ではない、シャドウだ!それに、ミサイルはサンドワームしか狙っていない。お前の事だからこの程度のミサイル、簡単に躱せるだろうと考えて撃っただけの事だ》

 

「だからって心臓に悪いことをしてんじゃねぇよ!」

 

 

ハジメと清水が口喧嘩?をしている最中、最後の一体のサンドワームが、今度はジャガーノートの背後から襲おうと迫ってくる。それに感づいた雷電は、回避する様にジャガーノートを右側に右折させる。

 

 

 

サンドワームにとってデカい障害だったジャガーノートが右折した事で、サンドワームの標的がハジメ達が乗る四輪を狙い始める。地中を進む速度は中々のものだ。鬱陶しくなったハジメは、四輪のギミックを起動させる。車体後部からガコン!と音が響いたかと思うと、パカリと一部が開き、そこから黒く丸い物体が複数転がりでた。

 

 

 

それらは、真後ろから四輪を追跡していた最後のサンドワームが、四輪から出た黒い物体──手榴弾と交差した瞬間、大爆発を起こして、サンドワームを半ばから吹き飛ばした。上半身がちぎれ飛び、宙をくるくると舞ったあと、砂嵐の中へと消えていく。

 

 

「うひゃあー、すごいですぅ。ハジメさん、この四輪って一体いくつの機能が搭載されているんですか?」

 

 

派手に飛び散ったサンドワームを後部の窓から眺めながら、シアがハジメに尋ねた。ハジメは、ニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「最終的に変形して人型汎用兵器――巨大ゴーレムになる」

 

「「「……」」」

 

《いやっ…洒落にならんだろ……》

 

 

そんな馬鹿なと言いたいところだが、ハジメならやりかねないと、尋ねたシアだけでなくユエとティオも無言になってキョロキョロと車内を見回し始めた。そして、オープン・チャンネルでそれを聞いていた雷電はハジメに対してツッコミを入れるのだった。ハジメは“冗談だって。流石に、そんな機能はついてねぇよ……憧れるけどな”と苦笑いする。ハジメなら、いつかやらかすに違いないと、ユエ達は確信した。

 

 

 

そんな余裕のハジメ達の前には、その後も、赤銅色の巨大蜘蛛やアリのような魔物が襲いかかってきた。しかし、四輪とジャガーノートの武装やユエとティオの攻撃魔法の前に為す術なく粉砕され、その進撃を止めることは叶わなかった。そうしてハジメ達は、数多の冒険者達を阻んできた巨大砂嵐を易々と突破したのだった。

 

 

 

ボバッ!と、そんな音を立てて砂嵐を抜け出たハジメ達の目に、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させたような岩山が飛び込んできた。砂嵐を抜けた先は静かなもので、周囲は砂嵐の壁で囲まれており、直上には青空が見える。竜巻の目にいるようだ。

 

 

 

“グリューエン大火山”の入口は、頂上にあるとの事だったので、進める所まで四輪で坂道を上がっていく。露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。活火山であるにも関わらず、一度も噴火したことがないという点も、大迷宮らしい不思議さだ。

 

 

 

やがて傾斜角的に四輪やジャガーノートでは厳しくなってきたところで、ハジメ達は四輪を降り、雷電達もジャガーノートから降りて徒歩で山頂を目指すことになった。

 

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

 

「ん~……」

 

「確かにな。……砂漠の日照りによる暑さとはまた違う暑さだ。……こりゃあ、タイムリミットに関係なく、さっさと攻略しちまうに限るな」

 

「俺としては、前世で火山の星の調査をした事があるからある程度慣れていると思ったが……やっぱり、そう簡単にはいかないか……」

 

「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが……熱さに身悶えることが出来んとは……もったいないのじゃ」

 

「……あとでマグマにでも落としてやるよ」

 

「……それはそうと雷電、一応ジャガーノートは乗員を除いて300人位は乗せられる区画があった筈だが、その区画に採取した静因石をそこに収納できないか?」

 

「それは難しいだろうな。無事に攻略し、外へと繋がる転移魔法があるとしても、入り口付近に戻る訳じゃない場合もある。些か面倒だが、このジャガーノートは勿体無いが、ここで爆破してから先に進もうと思う」

 

 

外に出た途端、襲い来る熱気に、ティオ以外の全員がうんざりした表情になる。冷房の効いた快適空間にいた弊害で、より暑く感じてしまうというのもあるだろう。異世界の冒険者、あるいは旅人だというのに、現代日本の引きこもりのような苦悩を味わっているのは……自業自得だ。

 

 

 

清水が静因石を採取した後にジャガーノートに詰め込めないから遺伝に聞いてみたが、結論からして無理だった。そして、ジャガーノートはここで使い捨てると同時に、技術漏洩が起きない様に爆破してから登山する事になった。

 

 

 

そんなこんなで、暑い暑いと文句を言いながらも素早く山頂を目指し、岩場をひょいひょいと重さを感じさせず、どんどん登っていく。結局、ハジメ達は、一時間もかからずに山頂にたどり着いた。なお、清水やデルタ、不良分隊はアセンション・ケーブルを利用して、何とかハジメ達に付いて行くのだった。

 

 

 

たどり着いた頂上は、無造作に乱立した大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。尖った岩肌や逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場のような有様だ。砂嵐の頂上がとても近くに感じる。

 

 

 

そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。歪にアーチを形作る全長十メートルほどの岩石である。

 

 

 

ハジメ達は、その場所にたどり着くと、アーチ状の岩石の下に“グリューエン大火山”内部へと続く大きな階段を発見した。ハジメは、階段の手前で立ち止まると肩越しに背後に控えるユエ、ティオ、雷電、シア、清水、デルタ、不良分隊の顔を順番に見やり、自信に満ちた表情で一言、大迷宮挑戦の号令をかけた。

 

 

「やるぞ!」

 

「んっ!」

 

「うむっ!」

 

「無論だ」

 

「はいです!」

 

「あぁ…」

 

「デルタ、行くぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

「よし…不良分隊、地獄の釜に突入するぞ!」

 

「了解です!」

 

「ハハハーっ!腕がなるぜ!!」

 

「フッ……」

 

 

それぞれ意気込んだ様子で神代魔法と静因石を得る為にグリューエン大火山に入るのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 

 

 

難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。

 

 

 

まず、マグマが宙を流れている。亜人族の国フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っているのだ。空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っているようだ。

 

 

 

また、当然、通路や広間のいたるところにマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと、頭上のマグマの両方に注意する必要があった。

 

 

 

しかも……

 

 

「うきゃ!」

 

「おっと、大丈夫か?」

 

「はう、有難うございます、マスター。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 

「ここは火山内だからな。俺と雷電以外、何処からマグマが噴き出してくるか分からないからな…」

 

 

と、シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。雷電とハジメが“熱源感知”を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。

 

 

 

そして、なにより厳しいのが、茹だるような暑さ──もとい熱さだ。通路や広間のいたるところにマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。“グリューエン大火山”の最大限に厄介な要素だった。

 

 

 

ハジメ達が、ダラダラと汗をかきながら、天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間で、あちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「お?静因石……だよな?あれ」

 

「うむ、間違いないぞ、ご主人様よ」

 

 

ハジメの確認するような言葉に、知識深いティオが同意する。どうやら、砂嵐を突破して“グリューエン大火山”に入れる冒険者の発掘場所のようだ。

 

 

「……小さい」

 

「ほかの場所も小石サイズばっかりですね……」

 

 

ユエの言うと通り、残されている静因石は、ほとんどが小指の先以下のものばかりだった。ほとんど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、サイズそのものも小さい。やはり表層部分では、静因石回収の効率が悪すぎるようで、一気に、大量に手に入れるには深部に行く必要があるようだ。

 

 

 

ハジメは、一応、“鉱物系探査”で静因石の有無を調べ、簡単に採取できるものだけ“宝物庫”に収納すると、ユエ達を促して先を急いだ。

 

 

 

暑さに辟易しながら、七階層ほど下に降りる。記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だ。そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった。

 

 

 

その瞬間……

 

 

 

ゴォオオオオ!!!

 

 

 

強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如、ハジメ達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んでくる。

 

 

「“絶禍”」

 

 

そんな火炎に対し、発動されたのはユエの魔法。ハジメ達の眼前に黒く渦巻く球体が出現する。重力魔法だ。ただし、それは対象を地面に押しつぶす為のものではなかった。

 

 

 

人など簡単に消し炭に出来そうな死の炎は、直径六十センチほどの黒く渦巻く球体に引き寄せられて余すことなく消えていく。余波すら呑み込むそれは、正確には消滅しているのではない。黒く渦巻く球体──重力魔法“絶禍”は、それ自体が重力を発生させるもので、あらゆるものを引き寄せ、内部に呑み込む盾なのだ。

 

 

 

火炎の砲撃が全てユエの超重力の渦に呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が見えた。

 

 

 

それは、雄牛だ。全身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸の度に炎を吐き出している。耐熱性があるにも程があると思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。

 

 

 

マグマ牛は、自身の固有魔法であろう火炎砲撃をあっさり無効化されたことに腹を立てたのか、足元のマグマをドバッ!ドバッ!と足踏みで飛び散らせながら、突進の構えを取っている。

 

 

 

そんなマグマ牛に向かって、ユエの展開していた超重力の渦が、突如、マグマ牛に向かって弾けとんだ。その瞬間、圧縮されていた火炎は砲撃となって一直線にマグマ牛へと疾走する。レーザーのごとき砲撃はそれを放ったマグマ牛のものより圧縮された分威力がある。

 

 

 

今まさに、突進しようとしていたマグマ牛は出鼻をくじかれ、ユエにより、文字通りお返しとばかりに放たれた砲撃の直撃を受けた。

 

 

ドォゴオオ!!

 

 

爆音と共に空間が激しく振動し、マグマ牛の立っていたマグマが爆撃されたように吹き飛んだ。マグマ牛は、衝撃により後方へ吹き飛ばされ、もんどり打って壁に叩きつけられる。しかし、“ギュォオオ!!”と悲鳴とも怒りの咆哮ともつかない叫びを上げると、すぐさま起き上がり、今度こそ、侵入者を排除せんと猛烈な勢いで突進を開始した。

 

 

「むぅ……やっぱり、炎系は効かないみたい」

 

「まぁ、マグマを纏っている時点でなぁ……仕方ないだろ」

 

 

火炎の砲撃を返したユエが不満そうな声を上げる。それに苦笑いしながらドンナーを抜こうとしたハジメにシアが待ったをかけた。

 

 

「ハジメさん、私にやらせて下さい!」

 

 

既にドリュッケンを手に気合充分な感じで鼻息を荒くしているシアに、いつになく積極的だなぁと疑問を抱いたハジメだったが、シアがドリュッケンに仕込んでいる魔力を魔眼石で見て、新機能を試したいのだと察し手をヒラヒラさせて了承の意を伝える。

 

 

 

シアは、“よっしゃーですぅ!殺ったるですぅ!”と気合の声を上げると、トットッと軽くステップを踏み、既に数メートルの位置まで接近していたマグマ牛に向かって飛びかかった。この時に雷電は言葉使いが荒くなったシアに少しばかり不安になったのは余談だ。

 

 

 

体を空中で一回転させ遠心力をたっぷり乗せると、正面から突っ込んできたマグマ牛に絶妙なタイミングでドリュッケンを振り下ろす。狙い違わず、振り下ろされたドリュッケンは、吸い込まれるようにマグマ牛の頭部に直撃した。と、その瞬間、直撃した部分を中心にして淡青色の魔力の波紋が広がり、次いで、凄まじい衝撃が発生。マグマ牛の頭部がまるで爆破でもされたかのように弾けとんだ。

 

 

 

シアは、打ち付けたドリュッケンを支点にして空中で再び一回転すると、そのまま慣性にしたがって崩れ落ちながら地を滑るマグマ牛を飛び越えて華麗に着地を決めた。

 

 

「お、おうぅ。ハジメさん、やった本人である私が引くくらいすごい威力ですよ、この新機能」

 

「ああ、みたいだな……“衝撃変換”、どんなもんかと思ったが、なかなか……」

 

 

ハジメだけでなく、ユエやティオも思わず感心の声を上げてしまうくらい、なかなかの威力を発揮したシアの一撃。それは、ハジメが口にしたように、“衝撃変換”という固有魔法のおかげだ。

 

 

 

この“衝撃変換”は、ハジメが手に入れた新たな固有魔法で、魔力変換の派生に位置づけられている。効果は文字通りで魔力を衝撃に変換することが出来るというものだ。

 

 

 

先日、“オルクス大迷宮”にいてハジメが問答無用でミンチにしたあの馬頭の能力を、実は杭を回収する時にこっそりと一緒に回収していた肉を喰らうことで手に入れたのだ。因みに雷電もその肉を喰らってハジメ同様に技能を手に入れている。

 

 

 

並みの魔物では、もう能力どころかステータスも変動しないハジメであったが、ハジメが光輝達の位置を掴む原因となった光輝の限界突破の波動は相当なもので、それでも倒せなかった馬頭なら、あるいは効果があるのではと思い喰らってみたのだが……案の定、ステータスは目立つほど上昇しなかったものの、ハジメは馬頭の固有魔法を手に入れることが出来たのである。

 

 

 

その“衝撃変換”を、生成魔法で鉱石に付加し、それを新たにドリュッケンに組み込んだというわけだ。

 

 

 

マグマ牛の爆ぜた頭部を興味深げに見つめるハジメだったが、ユエに促され、先を急いだ。

 

 

 

その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。マグマを翼から撒き散らすコウモリ型の魔物や壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボモドキ、炎の針を無数に飛ばしてくるハリネズミ型の魔物、マグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌をムチのように振るうカメレオン型の魔物、頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐ、やはり赤熱化した蛇など……

 

 

 

生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物は厄介なこと極まりなかった。なにせ、魔物の方は、体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせることが出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況。更に、いざとなればマグマに逃げ込んでしまえば、それだけで安全を確保出来てしまうのだ。

 

 

 

例え、砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る八階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。しかも、それらの魔物は、倒しても魔石の大きさや質自体は“オルクス大迷宮”の四十層レベルの魔物のそれと対して変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層のものとほとんど変わらないとあっては、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。

 

 

 

そして、なにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

 

「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」

 

「むっ、ご主人様よ!ユエが壊れかけておるのじゃ! 目が虚ろになっておる!」

 

「不味いな……殆どがこの熱さにやられかけている様だ。清水、デルタに不良分隊、そっちは大丈夫か?」

 

「アーマーの空調機能があるとはいえ、正直きついな。……デルタや不良分隊はどうなんだ?」

 

「我々に関しては問題ない。…しかし、長期戦になると将軍等が限界が迎えるのも時間の問題だ」

 

「俺もデルタと同じ考えです。このままでは俺達以外がこの熱さに先に参ってしまう」

 

 

暑さに強いティオと雷電、デルタに不良分隊以外、ハジメ達ですらダウン状態だ。一応、冷房型アーティファクトで冷気を生み出しているのだが……焼け石に水状態。止めどなく滝のように汗が流れ、意識も朦朧とし始めているユエとシアを見て、ハジメもあご先に滴る汗を拭うと、少し休憩が必要だと考えた。

 

 

 

ハジメは、広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に“錬成”を行い横穴を空けた。そこへユエ達を招き入れると、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。更に、部屋の壁を“鉱物分離”と“圧縮錬成”を使って表面だけ硬い金属でコーティングし、ウツボモドキやマグマの噴射に襲われないよう安全を確保する。オルクス大迷宮の奈落に落ちた時に作ったセーフティー・ルームを同じ様に作り出したのだ。

 

 

「ふぅ……ユエ、氷塊を出してくれ。しばらく休憩しよう。でないと、その内致命的なミスを犯しそうだ」

 

「ん……了解」

 

 

ユエは、虚ろな目をしながらも、しっかり氷系の魔法を発動させ部屋の中央に巨大な氷塊を出現させた。気をきかせたティオが、氷塊を中心にして放射するように風を吹かせる。氷塊が発する冷気がティオの風に乗って部屋の空気を一気に冷やしていった。

 

 

「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

 

「……ふみゅ~」

 

 

女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが、目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの誕生だ。

 

 

ハジメは、内心そんな二人に萌えながら“宝物庫”からタオルを取り出すと全員に配った。

 

 

「ユエ、シア、だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておけよ。冷えすぎると動きが鈍るからな」

 

「ハジメの言う通りだ二人とも。今の内に汗は拭いておこう」

 

「……ん~」

 

「了解ですぅ~」

 

 

間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアを横目に、ティオがハジメに話かける。

 

 

「ご主人様と雷電は、まだ余裕そうじゃの?」

 

「俺の場合は少し特殊でな。火山の暑さは知っていたが、ここまでとなると厄介だが……」

 

「お前ほどじゃない。流石に、この暑さはヤバイ。もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだった……」

 

「ふむ、ご主人様でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

 

 

参るほどではないとは言え、暑いものは暑いので同じく汗をかいているティオがタオルで汗を拭いながら言った言葉に、ハジメが首をかしげる。

 

 

「コンセプト?」

 

「うむ。ご主人様から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ? 神に挑むための……なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、ご主人様が話してくれた“オルクス大迷宮”は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。“ライセン大迷宮”は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。この“グリューエン大火山”は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

 

「……なるほどな……攻略することに変わりはないから特に考えたことなかったが……試練そのものが解放者達の“教え”になっているってことか」

 

 

ティオの考察に、“なるほど”と頷くハジメ。ドMの変態の癖に知識深く、思慮深くもあるティオに、普段からそうしていれば肉感的で匂い立つような色気がある上に理知的でもある黒髪美女なのに……と物凄く残念なものを見る眼差しを向ける。

 

 

 

しかし、ティオの首筋から流れた汗がツツーと滴り落ちて、その豊満な胸の谷間に消えていくのを目にすると、何となく顔を逸らした。そして、その視線の先に、同じように汗で服が張り付いて、濡れた素肌が見え隠れしているユエとシアがいることに気がつき、今度は、ユエに視線が吸い寄せられる。

 

 

 

汗を拭くためか、大きく着崩された純白のドレスシャツから覗く素肌は、暑さのため上気しておりほんのり赤みを帯びている。汗で光る素肌はなんとも艶かしく、ユエの吐く普段より熱く荒い吐息と相まって物凄い色気を放っていた。

 

 

 

思わず、目を逸らすことも忘れて凝視していたハジメだが、不意に上げた視線がユエとバッチリと合った。ユエの艶姿に状況も忘れて見蕩れていた……どころか少々欲情までしてしまったハジメは、バツ悪そうに目を逸らそうとした。

 

 

 

しかし、目を逸らす一瞬前に、ユエが妖艶な微笑みを浮かべハジメの視線を捉える。そして、服を着崩したまま、まるで、猫のように背をしならせて、ゆっくり四つん這いでハジメに近付いて行った。ハジメの視線を捉えたまま離さない潤んだ瞳と、熱で上気した頬、そして動くたびにチラチラと覗く胸元の膨らみ……

 

 

 

ハジメの、すぐ眼前まで四つん這いでやって来たユエは、胡座をかいて座るハジメを下から上目遣いで見つめると、甘えるような、誘うような甘い声音で……

 

 

「……ハジメが綺麗にして?」

 

 

そんな事を言った。ハジメは手渡されたタオルを無意識に受け取る。視線はユエの瞳に固定されたままだ。ハジメは、内心で“やっちまった。この状態のユエには勝てる気がしない”と苦笑いしつつ、そっと、ユエの首筋に手を這わせようとして……シアからの抗議の声にその手を止めた。

 

「お・ふ・た・り・と・も!少しはTPOを弁えて下さい!先を急いでいる上に、ここは大迷宮なんですよ!もうっ!ほんとにもうっ!」

 

「ハジメ……気持ちは分かるが、俺達は今、この大火山を攻略中だと言う事を忘れるな」

 

「いや、まぁ、何だ。しょうがないだろ?ユエがエロかったんだ。無視できるはずがない」

 

「……ジッと見てくるハジメが可愛くて」

 

「やれやれ……ここでも二人のバカップルぶりは今でも健在か……」

 

「反省って言葉知ってます?私だって、マスターに見てもらおうときわどい格好していたのに……ぐすっ、自信なくしますよぉ~。ねぇ、ティオさんもそう思いますよね?」

 

「まぁ、二人は相思相愛じゃからのぉ。仕方ないのではないか?妾も場所など気にせず罵って欲しいのじゃ。……じゃが、まぁ、ご主人様は妾の胸に少し反応しておったしのぉ~。今回はそれで満足しておくのじゃ。くふふ」

 

 

相変わらず変態的な発言をするティオ。最初に、ティオの胸元を流れる汗に、ハジメがセクシーさを感じたことがバッチリばれていたらしい。それを聞いたシアが、“私は一瞥もされなかったのに!”と怒り出し、先程のTPOを弁えろと言ったことも忘れて、雷電の前で脱ぎだした。流石の雷電も、シアの大胆な行動に顔が赤くなる。ならば、妾もとティオまで脱ぎだし、取り敢えず鬱陶しかったのでゴム弾を発砲して黙らせるハジメ。

 

 

 

胸をモロ出ししてのたうつシアと気持ち悪い笑みを浮かべてのたうつティオを前に、ユエの汗を拭いつつ、ここに香織がいなくてよかったと内心ホッと息を吐くハジメ。そして何気に、ハジメのフォローのおかげで助かったと思いつつも、ここに恵里がいなくてよかったと内心そう思った雷電であった。

 

 

 

この時にアンカジに残っていた香織と恵里は、何かしらの電波を受信したのか“ハジメ(雷電)くんに何かあったような気がする!”と一瞬呟いて、それがなんなのか分からないミュウとシルヴィであった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメ達がグリューエン大火山の攻略をしているその頃、表舞台から姿をくらましたキャスパー・マテリアルと数人の部下と(キャスパー)の半身である“ダージ”は、フューレンのとある建物にて、ファースト・オーダーの女性士官から再び彼等を経由して武器を売り込ませるよう指示を受けるのだった。今いる応接室にはキャスパーとその護衛である彼の半身ダージと筋肉質のある二十代の女性“チェキータ”がいた。

 

 

「……なるほど。今度は、ヘルシャー帝国に武器を売り込むという事ですね?」

 

「そうだ、最高指導者からの直々の命だ。お前たち商人を通して、我々が提供するブラスターや重火器をヘルシャー帝国に売り渡し、異端者である南雲ハジメ、藤原雷電を排除するために必要な事だ。断れば、貴様とて理解している筈だ」

 

「フフーン……一応、書類は拝見させてもらいますね」

 

 

キャスパーは、ファースト・オーダーの女性士官が提出した書類を目を通していた。その時に女性士官の通信機にある信号が入る。その内容は、キャスパー・マテリアルを含む商人の排除であった。要するに、キャスパーはファースト・オーダーの指示に従わないと判断されたのだった。そして書類を拝見したキャスパーはヘルシャー帝国に武器を売り込む事について女性士官に話すのだった。

 

 

「書類を拝見させてもらいました。いいでしょう、その依頼をこちらで承りましょう」

 

「いや、その必要性がなくなった」

 

「……と、言いますと?」

 

 

キャスパーの問いに答えず、代わりに女性士官はSE-44Cブラスター・ピストルをキャスパーに向けて引き金を引き、SE-44Cから赤い閃光がキャスパーに襲いかかるが、当たる前にダージが盾になり、特有の不死身さを見せる。キャスパーを仕留め損ねた女性士官は再びブラスター・ピストルの引き金を引こうとするが、それよりもチェキータの行動が早く、女性士官の顔面に膝蹴りを食らわせる。これを食らった女性士官は一撃で伸され、気を失う。

 

 

「キャスパー、何ぼうっとしてるの?連中は殺しに来たよ!」

 

 

そう言いながらもチェキータは、この世界に存在しないであろう武器である9mm拳銃のGLOCK19を取り出し、スライドを後方に引いた後に倒れた女性士官に近づき、頭部に二発撃ち込んで確実に止めを刺す。

 

 

「ファースト・オーダーは私達を切り捨てたようだよ」

 

「おっとと!度肝を抜かれちゃいましたよ、ダージがいなかったらやられていましたよ」

 

「………………」

 

 

そうキャスパーが言っている時にキャスパーの部下がチェキータの銃声に反応したのか応接室に集まる。まるで予めこうなる事を予想していたのかのように。そうしてキャスパー達は歩きながらも部下達に状況を確認する。

 

 

「他の敵は?」

 

「不明」

 

「人数」

 

「不明、指示を…」

 

「ここにいるのは不味い、ここから脱出する。敵は撃滅する、見つけ次第ぶち殺せ!ギルドや保安局も撒かないといけないし、めんどくさいな〜…」

 

 

そうぼやきながらもキャスパー達はこの建物から脱出を始めるのだった。

 

 

 

そして、ファースト・オーダーの突入部隊はキャスパー達がいるであろう建物に侵入した。すると突入部隊にHQ(ヘッド・クォーター)から通信を傍受する。

 

 

《FN-1536との通信途絶、恐らく死亡したと判断する。突入斑は南階段と北階段で武器商人を挟撃せよ。第一突入斑は南から回れ。第二突入斑、北階段の状況は?》

 

「準備良し」

 

 

第二突入斑は既に北階段を確保し、そこで待機していた。そして南階段から上の階へと昇り、階段へと繋がる通路でキャスパー達を待ち伏せする。

 

 

 

キャスパーの部下達は出口へと繋がる階段の通路に待ち伏せしていることを理解しており、そこで部下達が所持しているPDWの“FN P90”で威嚇射撃を行う。待ち伏せされていることを敵に悟られたストーム・トルーパー達は敵の弾幕が止むまで待った。その時にチェキータがコンバットナイフを片手にストーム・トルーパー達の懐に入り込む。

 

 

 

ストーム・トルーパー達は懐に入り込んで来たチェキータを応戦しようにも相手が素早すぎた為か逆にチェキータのコンバットナイフによって蹂躙される。そして数秒後にはストーム・トルーパー達の死体の山が出来上がっていた。

 

 

「戦いってのは厳しいもんだろう?うちの兵隊はな、場数が違うんだよ」

 

「はっ…やーね。何嬉しそうになっちゃってんのよ、キャスパー?」

 

「はい、実際嬉しいですよ。彼等との戦いは憧れでしたから。正確には、この世界の神ことエヒトの使徒。即ち、その使徒の軍隊とは思えない位の技術力を有する軍事組織、ファースト・オーダーの存在。僕の祖先も、嘗て解放者と呼ばれた者達と共に戦ったが、相当煮え湯を飲まされたと父から聞かされています。そんな相手に力比べしてみたいじゃないですか。でも、この程度だと肩透かしですね。ファースト・オーダーの指揮官にはもう少し頑張っていただけないと…」

 

「やれやれ……どうしてこんな風に育っちゃったんだか?昔は可愛かったんだけどねぇ」

 

 

そう語りながらも建物から脱出する為に移動を続けるキャスパー達。すると北側で待機していた第二突入斑のストーム・トルーパー達が第一突入斑が全滅した事をHQを通して挟撃は破綻した事を悟り、キャスパー達を追撃するのだった。そして後方を安全を確保していたダージと部下が敵を察知したのか銃を取り出し、出てくるストーム・トルーパー達を応戦する。

 

 

「おいおい、まだいるのかい?……まぁいい。殺せ殺せ」

 

 

そう指示を出しながらもこの建物から脱出し、今後の事を考えるキャスパーだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

インディ的な冒険?と最終試練

新年、あけましておめでとうございます。今年も“ありふれないジェダイとクローン軍団で世界最強”をよろしくお願いします。


58話目です。


 

グリューエン大火山を攻略してから数時間、現在のハジメ達は、何処までも続く道をひたすら進み、神代魔法がある最深部へと向かっていた。

 

 

 

具体的には、ハジメ達は宙を流れる大河の如きマグマの上を赤銅色の岩石で出来た小舟のようなものに乗ってどんぶらこと流されているのだ。

 

 

「気分は、ハードモードのインディさんだな……」

 

「……何故インディをチョイスしたんだ?」

 

 

地球で一番有名なアグレッシブ過ぎる考古学者を思い出しながら、そんな事を呟くハジメと、ハジメの呟きにツッコム雷電。

 

 

 

なぜ、こんな状況になっているかというと……端的に言えばハジメのミスである。というのも、少し前の階層で攻略しながらも静因石を探していたハジメ達は、相変わらず自分達を炙り続けるマグマが時々不自然な動きを見せていることに気がついた。

 

 

 

具体的には、岩などで流れを邪魔されているわけでもないのに大きく流れが変わっていたり、何もないのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたり、というものである。

 

 

 

大抵、それは通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならなかったので気にも止めていなかったのだが、たまたま“鉱物系探査”の効果範囲にその場所が入り、その不自然な動きが“静因石”を原因としていることが判明したのである。マグマそのものに宿っているらしい魔力が“静因石”により鎮静されて、流れが阻害された結果だったのだ。

 

 

 

ハジメ達は、ならば、マグマの動きが強く阻害されている場所に“静因石”は大量にあるはずと推測し探した結果、確かに大量の“静因石”が埋まっている場所を多数発見したのである。マグマの動きに注意しながら、相当な量の“静因石”を集めたハジメ達は、予備用にもう少しだけ集めておこうと、とある場所に向かった。

 

 

 

そこは、宙に流れるマグマが大きく壁を迂回するように流れている場所だった。ハジメが錬成を使って即席の階段を作成して近寄り、“鉱物系探査”を使うと充分な量の“静因石”が埋まっていることがわかった。

 

 

 

雷電はハジメに注意して回収する様にと伝え、ハジメは早速、錬成の“鉱物分離”を使い静因石だけを回収するのだったが、暑さによる集中力の低下と何度も繰り返した“静因石”の回収に油断があったのか、壁の向こう側の様子というものに注意が向いていなかった。

 

 

 

ハジメが自分のミスに気が付いたのは“静因石”を“宝物庫”に収納し、その効力が失われた瞬間、“静因石”が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した後である。

 

 

 

咄嗟に飛び退いたハジメだったが、噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊するように、穴を押し広げて一気になだれ込んできた。

 

 

 

あまりの勢いに一瞬で周囲をマグマで取り囲まれたハジメ達。その時に雷電とシアが、フォースを使ってマグマを凌いでいる間に、ハジメが錬成で小舟を作り出し、それに乗って事なきを得たのである。小舟は、直ぐに灼熱のマグマに熱せられたが、ハジメが〝金剛〟の派生〝付与強化〟により小舟に金剛をかけたので問題はなかった。

 

 

 

そして、流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って、階段とは異なるルートで“グリューエン大火山”の深部へと、時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき、現在に至るというわけだ。

 

 

 

ちなみに、マグマの空中ロードに乗ったとき、普通に川底を抜けそうになったのだが、シアが咄嗟に重力魔法“付与効果”で小舟の重さを軽減したのでマグマに乗ることができた。“付与効果”は、シアが触れているものの重量を、自身の体重と同じように調整出来るというものだ。

 

 

「あっ、ハジメさん、マスター。またトンネルですよ」

 

「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」

 

 

シアが指差した方向を見れば、確かに、ハジメ達が流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっているはずだ。

 

 

 

ティオの忠告に頷きながら、いざ、洞窟内に突入するハジメ達。マグマの空中ロードは、広々とした洞窟の中央を蛇のようにくねりながら続いている。と、しばらく順調に高度を下げていたマグマの空中ロードだが、カーブを曲がった先でいきなり途切れていた。いや、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。

 

 

「またか……全員振り落とされるなよ!」

 

 

ハジメの言葉にユエ達も頷き、小舟の縁やハジメの腰にしがみつく。ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでの、あのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に、ハジメ達の小舟が落下を開始した。

 

 

 

ゴウォゴウォ

 

 

 

耳元で、そんな風の吹き荒れる音がする。途轍もない速度で激流と化したマグマを、シアの重力魔法を使った体重移動とティオの風によって制御しながら下っていく。マグマの粘性など存在しないとばかりに速度は刻一刻と増していった。

 

 

 

ハジメは、靴裏にスパイクを錬成し体を固定しながら、油断なく周囲を警戒する。なぜなら、こういう時に限って……

 

 

「ちっ、やっぱり出たか」

 

 

ハジメは舌打ちすると同時にドンナーを抜き、躊躇いなく引き金を引いた。周囲に轟く炸裂音。それが三度響くと共に三条の閃光が空を切り裂いて目標を違わず撃破する。ハジメ達に、襲いかかってきたのは翼からマグマを撒き散らすコウモリだった。

 

 

 

このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれほど高くない。かなりの速度で飛べることとマグマ混じりの炎弾を飛ばすくらいしか出来ない。ハジメ達にとっては、雑魚同然の敵である。

 

 

 

だが、マグマコウモリの厄介なところは、群れで襲って来るところだ。一匹見つけたら三十匹はいると思え、という黒いGのような魔物で、岩壁の隙間などからわらわらと現れるのである。

 

 

 

今も、三羽のマグマコウモリを瞬殺したハジメだったが、案の定、激流を下る際の猛スピードがもたらす風音に紛れて、おびただしい数の翼がはためく音が聞こえ始めた。

 

 

「……ハジメ、左は任せて」

 

「ハジメ、俺とコマンドー達は右と後方をやる。お前は前を頼む」

 

「ああ、分かってる。そっちは任せた。シア、ティオ、船の制御は頼んだぞ」

 

「はいです!」

 

「うむ、任された。ご褒美は尻叩きでよいぞ?」

 

 

ティオの冗談とも本気ともつかない変態発言はスルーして、ハジメとユエ、清水にコマンドー達が小舟の上で対角線上に背中合わせになった直後、マグマコウモリの群れがその姿を見せた。

 

 

 

それはもう、一つの生き物といっても過言ではない。おびただしい数のマグマコウモリは、まるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動のように一塊となって波打つように動き回る。その姿は傍から見れば一匹の龍のようだ。翼がマグマを纏い赤く赤熱化しているので、さながら炎龍といったところだろう。

 

 

 

一塊となってハジメ達に迫ってきたマグマコウモリは、途中で二手に分かれると、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では、普通は物量で押し切られるだろう。

 

 

 

だが、ここにいるのはチート集団。単純な物量で押し切れるほど甘い相手でないことはウルの町で大地の肥やしとなった魔物達が証明済みだ。

 

 

 

ハジメは、“宝物庫”からメツェライを取り出すと、腰だめに構えて、その怪物のトリガーを引いた。

 

 

 

ドゥルルルルルル!!

 

 

 

独特の射撃音を響かせながら、恐るべき威力と連射を遺憾無く発揮した殺意の嵐は、その弾丸の一発一発を以て遥か後方まで有無を言わせず貫き通す。洞窟の壁を破砕するまでの道程で射線上にいたマグマコウモリは、一切の抵抗も許されず粉砕され地へと落ちていった。

 

 

 

さらに、ハジメはオルカンを取り出すとメツェライを持つ手とは反対の手で肩に担ぎ、容赦なくその暴威を解放した。火花の尾を引いて飛び出したロケット弾は、メツェライの弾幕により中央に固められた群れのど真ん中に突き刺さり、轟音と共に凄絶な衝撃を撒き散らした。

 

 

 

結果は明白。木っ端微塵に砕かれたマグマコウモリの群れは、その体の破片を以て一時のスコールとなった。

 

 

 

後方から迫っていたマグマコウモリも同じようなものだ。

 

 

「後方からマグマコウモリが来るぞ、対空防御!」

 

 

清水が指示を出すのと同時にブラスターで応戦していた。デルタに不良分隊も各々が持つブラスターで応戦する。弾切れによる空白の時間を作らない為にタップ撃ちを心がけながらもマグマコウモリを迎撃するのだった。

 

 

 

そして左からもマグマコウモリ達が迫って来た。

 

 

「“嵐龍”」

 

 

ユエが右手を真っ直ぐ伸ばし、そう呟いた瞬間、緑色の豪風が集まり球体を作った。そして瞬く間に、まるで羽化でもするかのように球形を解いて一匹の龍へと変貌する。緑色の風で編まれた“嵐龍”と呼ばれた風の龍は、マグマコウモリの群れを一睨みすると、その顎門を開いて哀れな獲物を喰らい尽くさんと飛びかかった。

 

 

当然、マグマコウモリ達は炎弾を放ちつつも、“嵐龍”を避けるように更に二手に分かれて迂回しようとした。しかし、ユエの“龍”は、その全てが重力魔法との複合魔法だ。当然、“嵐龍”も唯の風で編まれただけの龍ではなく、風刃で構成され、自らに引き寄せる重力を纏った龍であり、一度、発動すれば逃れることは至難だ。

 

 

 

マグマコウモリ達は、いつか見た“雷龍”や“蒼龍”の餌食となった魔物達のように、抗うことも許されず“嵐龍”へと引き寄せられ、風刃の嵐に肉体を切り刻まれて血肉を撒き散らし四散した。なお、ユエが“雷龍”や“蒼龍”を使わなかったのは、マグマコウモリが熱に強そうだった事と、翼を切り裂けば事足りると判断したためである。

 

 

 

最後に、“嵐龍”は群れのど真ん中で弾け飛ぶと、その体を構成していた幾百幾千の風刃を全方向に撒き散らし、マグマコウモリの殲滅を完了した。

 

 

「う~む、ご主人様とユエの殲滅力は、いつ見ても恐ろしいものがあるのぉ」

 

「流石ですぅ」

 

「それもそうだが、清水の指示も的確なのも感心するな」

 

 

小舟を制御して激流に上手く乗りながら、ティオとシアが苦笑い気味に称賛を送る。それに肩を竦めつつメツェライとオルカンを“宝物庫”にしまったハジメは、得意気に胸をはるユエの頬を軽く触れて、前方に視線を戻した。ユエも、触れられたことに目元を緩めて嬉しそうにしながら視線を周囲の警戒に戻す。

 

 

 

マグマの激流空中ロードを、魔物に襲われながら下っているというのに結構余裕のあるハジメ達。だが、その余裕に釘を刺したかったのか、今まで下り続けていたマグマが突然上方へと向かい始めた。

 

 

 

勢いよく数十メートルを登ると、その先に光が見えた。洞窟の出口だ。だが、問題なのは、今度こそ本当にマグマが途切れていることである。

 

 

「おいおい……マジかよ!?」

 

「掴まれ!」

 

 

ハジメの号令に、再び、小舟にしがみつくユエ達。小舟は、激流を下ってきた勢いそのままに猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。

 

 

 

襲い来る浮遊感に、ハジメは股間をフワッとさせながら素早く周囲の状況を把握する。ハジメ達が飛び出した空間は、かつて見た“ライセン大迷宮”の最終試練の部屋よりも尚、広大な空間だった。

 

 

 

“ライセン大迷宮”の部屋と異なり球体ではなく、自然そのままに歪な形をしているため正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径三キロメートル以上はある。地面はほとんどマグマで満たされており、所々に岩石が飛び出していて僅かな足場を提供していた。周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れているところもある。空中には、やはり無数のマグマの川が交差していて、そのほとんどは下方のマグマの海へと消えていっている。

 

 

 

ぐつぐつと煮え立つ灼熱の海とフレアのごとく噴き上がる火柱。地獄の釜というものがあるのなら、きっとこんな光景に違いない。ハジメ達は、ごく自然にそんな感想を抱いた。

 

 

 

だが、なにより目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。海面から十メートル程の高さにせり出ている岩石の島。それだけなら、ほかの足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っているのである。まるで小型の太陽のような球体のマグマが、島の中央に存在している異様はハジメ達の視線を奪うには十分だった。

 

 

「“風よ”」

 

 

飛び出した勢いでひっくり返った小舟を、ティオが空中で立て直し、それぞれ己の姿勢を制御して再び乗り込んだ。ユエが、小舟の落下速度を“来翔”で調整する。柔らかくマグマの海に着地した小舟の上で、明らかに今までと雰囲気の異なる場所に、警戒を最大にするハジメ達。

 

 

「……あそこが住処?」

 

 

ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。

 

 

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな……だが、そうなると……」

 

「最後のガーディアンがいるはず……じゃな?ご主人様よ」

 

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

 

「いや、それはないだろう。解放者の迷宮だからこそ、ガーディアンは必ずいる筈だ」

 

 

ハジメの考えをティオが確認し、僅かな異変も見逃さないとドMの変態とは思えない鋭い視線を周囲に配る。そんなハジメ達の様子に気を引き締めながらも、シアがとある方向を見ながら楽観論を呟いてみたが、雷電はそれを否定し、ここに大迷宮を守るガーディアンがいる事を確信していた。

 

 

 

ハジメが、シアの視線をたどると、大きな足場とその先に階段があるのが見えた。壁の奥から続いている階段で、おそらく、正規のルートをたどれば、その階段から出てくることになるのだろう。

 

 

 

しかし、いくらマグマの空中ロードに乗って流れてくることが普通は有り得ないことだとしても、雷電の言う通り、大迷宮の最終試練までショートカット出来たと考えるのは楽観が過ぎるというものだ。シアも、そうだったらいいなぁ~と口にしつつも、その鋭い表情はまるで信じていない事を示している。

 

 

 

そのハジメ達の警戒が正しかった事は、直後、宙を流れるマグマから、マグマそのものが弾丸のごとく飛び出してくるという形で証明された。

 

 

「っ!ティオ!」

 

「むっ、任せよ!」

 

 

ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマの海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊が相殺された。

 

 

 

しかし、その攻撃は唯の始まりの合図に過ぎなかったようだ。ティオの放った炎塊がマグマと相殺され飛び散った直後、マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンのごとく炎塊が撃ち放たれたのだ。

 

 

「ちっ、散開だ!」

 

 

このままでは、小舟ごと今いる場所に釘付けにされると判断したハジメは、小舟を放棄して近くの足場に散開するように指示を出した。凄まじい物量の炎塊が一瞬前までハジメ達がいた小舟を粉砕し、マグマの海へと沈めていく。

 

 

 

ハジメ達は、それぞれ別の足場に着地し、なお、追ってくるマグマの塊を迎撃していった。迎撃そのものは切羽詰るというほどのものではなかったのだが、いつ終わるともしれない波状攻撃に苛立たしげな表情を見せるハジメ達。それは、マグマの海により、景色が歪むほど熱せられた空気も原因だろう。

 

 

 

そんな状況を打開すべく、ハジメは、ガンスピンしてドンナー・シュラークのリロードを終えると同時に、振り返らず肩越しにシュラークの銃口を真後ろに向けた。そして、前方に向けた義手の肘から散弾を発射してマグマの塊を迎撃しつつ、背後でユエに迫っていたマグマの塊を、シュラークの連射で撃ち落とした。

 

 

 

その意図を、言葉はなくとも正確に読み取ったユエ。一瞬出来た隙をついて重力魔法を発動させる。

 

 

「“絶禍”」

 

 

響き渡る魔法名と共にハジメ達四人の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せていった。黒き小さな星は、呑み込んだ全てを超重力のもと押し潰し圧縮していく。

 

 

 

ユエの魔法により炎塊の弾幕に隙ができ、ハジメは、“空力”で宙を跳ぶと一気にマグマドームのある中央の島へと接近した。

 

 

 

ハジメ達を襲う弾幕で一番厄介なのは、止める手段が目に見えないことだ。場所的に、明らかに“グリューエン大火山”の最終試練なのだが、今までの大迷宮と異なり目に見える敵が存在しないので、何をすればクリアと判断されるのかが分からない。そのため、もっとも怪しい中央の島に乗り込んでやろうと、ハジメは考えたのである。

 

 

 

ハジメは、中央の島へと宙を駆けながら“念話”を使う。

 

 

“俺と雷電で中央の島を調べる。援護を頼む”

 

“俺をご指名か……了解だ”

 

“了解”

 

 

ユエの“絶禍”の効果範囲からマグマの塊がハジメと雷電を襲うが、そうはさせじと雷電がフォースで縁談の軌道を捩じ曲げ、清水達がブラスターで縁談を迎撃する。ティオがマグマの海より無数に炎弾を飛ばして迎撃し、シアもドリュッケンを戦鎚に展開せずショットガンモードで迎撃していく。ユエは“絶禍”を展開維持しながら、更にティオと同じく炎弾をマグマの海より作り出して迎撃に当たった。

 

 

 

ユエ達の援護をもらって、一直線に中央の島へと迫ったハジメと雷電は、“空力”による最後の跳躍を行い飛び移ろうとした。

 

 

だが、その瞬間……

 

 

「ゴォアアアアア!!!」

 

「「ッ!?」」

 

 

そんな腹の底まで響くような重厚な咆哮が響いたかと思うと、宙を飛ぶハジメの直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。

 

 

 

全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからない。また、マグマの海全体に魔力が満ちているようなので魔力感知にも引っかからなかったことから、完全な不意打ちとなった巨大なマグマ蛇の攻撃。

 

 

 

しかし、ハジメと雷電は超人的な反応速度で体を捻ると、辛うじてその顎門による攻撃を回避した。

 

 

 

一瞬前までハジメと雷電がいた場所を、マグマ蛇がバクンッ!と口を閉じながら通り過ぎる。ハジメは、空中で猫のように体を反転させながら、銃口を通り過ぎるマグマ蛇の頭に照準し発砲した。必殺の破壊力を秘めた閃光が狙い違わずマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばす。

 

 

「なにっ!?」

 

 

しかし、上がった声はマグマ蛇の断末魔ではなく、ハジメの驚愕の声だった。

 

 

 

当然、その原因は、マグマ蛇にある。なんと、マグマ蛇の頭部は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。今までの“グリューエン大火山”の魔物達は、基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。断じて、マグマだけで構成されていたわけではない。

 

 

 

ハジメは直ぐに立ち直ると、物は試しにと頭部以外の部分を滅多撃ちにした。幾条もの閃光が情け容赦なくマグマ蛇の体を貫いていくが、やはり、どこにも肉体はなかった。どうやら、このマグマ蛇は、完全にマグマだけで構成されているらしい。

 

 

「身体が完全にマグマで構成されたものか……ある意味、面倒だな」

 

「それに関しては同意見だな!」

 

 

ハジメと雷電は驚きつつも、取り敢えず、体のあちこちを四散させたことでマグマ蛇を行動不能に出来たので、その脇を通り抜け“空力”で中央の島へ再度跳ぼうとした。

 

 

 

だが、マグマ蛇の攻撃は、まだ終わっていなかったらしい。ハジメが、脇を抜けようとした瞬間、頭部を失い体中を四散させておきながらも突如身をくねらせハジメに体当たりを行ったのだ。

 

 

 

その時に雷電は、ライトセーバーでそのマグマ蛇を完全に真っ二つに切り裂いたその時、ハジメ達の背筋を悪寒が駆け抜けた。ハジメは本能に従って、間髪入れず義手のショットシェルを激発させながら、“空力”も併用してその場を高速で離脱する。雷電もハジメ同様に“空力”を併用してその場を高速で離脱する。

 

 

 

すると、ハジメの軌跡を追うようにしてマグマの海からマグマ蛇が次々と飛び出し、その巨大な顎門をバクンッ!バクンッ!と閉じていった。

 

 

 

ハジメは、宙をくるくると回りながら後退すると近くの足場に着地する。その傍にユエ達もやって来た。ハジメが襲われている間に、炎塊の掃射は一時止んだようだ。

 

 

「……ハジメ、無事?」

 

「ああ、問題ない。それより、ようやく本命が現れたようだ」

 

「その本命がマグマで出来た蛇か……面倒な」

 

 

ハジメの腕にそっと触れながら安否を気遣うユエに、ハジメは前方から目を逸らさず、そっと触れ返すことで応え、雷電は本命であるマグマ蛇に対して愚痴るしかなかった。そのハジメの目には、ザバァ!と音を立てながら次々と出現するマグマ蛇の姿が映っていた。

 

 

「やはり、中央の島が終着点のようじゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ」

 

「でも、さっきマスターが斬った相手、普通に再生してますよ?倒せるんでしょうか?」

 

 

遂に二十体以上のマグマ蛇がその鎌首をもたげ、ハジメ達を睥睨するに至った。最初に、ハジメから銃撃を受けたマグマ蛇も、既に再生を終え何事もなかったかのように元通りの姿を晒している。

 

 

 

シアが、眉をしかめてその点を指摘した。ライセン大迷宮のときは、再生する騎士に動揺していたというのに、今は、冷静に攻略方法を考えているようだ。それを示すようにウサミミがピコピコと忙しなく動き回っている。ハジメは、随分と逞しくなったものだと苦笑いしつつ、自分の推測を伝えた。

 

 

「おそらく、バチュラム系の魔物と同じで、マグマを形成するための核、魔石があるんだろう。マグマが邪魔で俺の魔眼でも位置を特定出来ないが……それをぶち壊すしかない」

 

「それしかないか……総員、ここからが正念場だ。気張るぞ!」

 

 

雷電の言葉に全員が頷くのと、総数二十体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。

 

 

 

マグマ蛇達は、まるで、太陽フレアのように噴き上がると頭上より口から炎塊を飛ばしながら急迫する。二十体による全方位攻撃だ。普通なら逃げ場もなく大質量のマグマに呑み込まれて終わりだろう。

 

 

「久しぶりの一撃じゃ! 存分に味わうが良い!」

 

 

そう言って揃えて前に突き出されたティオの両手の先には、膨大な量の黒色魔力。それが瞬く間に集束・圧縮されていき、次の瞬間には、一気に解き放たれた。竜人族のブレスだ。

 

 

 

かつて、ハジメをして全力の防御を強いた恐るべき威力を誇る黒色の閃光は、ティオの正面から迫っていたマグマ蛇を跡形もなく消滅させ、更に横薙ぎに振るわれたことにより、あたかも巨大な黒色閃光のブレードのようにマグマ蛇達を消滅させていった。

 

 

 

一気に八体ものマグマ蛇が消滅し、それにより出来た包囲の穴から、ハジメ達は一気に飛び出した。

 

 

 

流石に、跡形もなく消し飛ばされれば、魔石がどこにあろうとも一緒に消滅しただろうと思われたが、そう簡単には行かないのが大迷宮クオリティーだ。

 

 

 

ハジメ達が数瞬前までいた場所に着弾した十二体のマグマ蛇は、足場を粉砕しながらマグマの海へと消えていったものの、再び出現する時には、きっちり二十体に戻っていた。

 

 

「おいおい、魔石が吹き飛んだ瞬間は確認したぞ? 倒すことがクリア条件じゃないのか?」

 

 

ハジメが、訝しげに表情を歪める。ハジメは、ティオのブレスがマグマ蛇に到達した瞬間から“瞬光”を発動し、跳ね上がった動体視力で確かにマグマ蛇の中に魔石がありブレスによって消滅した瞬間を確認したのである。

 

 

 

ハジメが迷宮攻略の方法に疑問を抱いていると、雷電がその謎が解けたのか、中央の島の方を指差し声を出した。

 

 

「いや、ちゃんと倒せている様だが、こいつらは別の個体だ。それと、回りにある一部の岩壁が妙に光っているぞ。それも八個だ」

 

「なに?」

 

 

言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだ。

 

 

 

ハジメが“遠見”で確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。そして、現在、光を放っている鉱石は八個……先程、ティオが消滅させたマグマ蛇と同数だ。

 

 

「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」

 

「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」

 

「この世界ならではの百人抜きか……本当にいい趣味してるよ、この大迷宮を作った解放者は!」

 

 

ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。大迷宮に相応しい嫌らしさと言えるだろう。

 

 

 

確かに、ハジメ達も相当精神を疲労させている。しかし、その表情には疲労の色はなく、攻略方法を見つけさえすればどうとでもしてやるという不敵な笑みしか浮かんでいなかった。

 

 

 

そうして全員が、やるべき事を理解して気合を入れ直した直後、再び、マグマ蛇達が襲いかかった。マグマの塊が豪雨のごとく降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。

 

 

 

ハジメ達は再び散開し、それぞれ反撃に出た。

 

 

 

ティオが竜の翼を背から生やし、そこから発生させた風でその身を浮かせながら、真空刃を伴った竜巻を砲撃の如くぶっ放す。風系統の中級攻撃魔法“砲皇”だ。

 

 

「これで九体目じゃ!今のところ妾が一歩リードじゃな。ご主人様よ! 妾が一番多く倒したらご褒美お仕置きを所望するぞ!もちろん、二人っきりで一晩じゃ!」

 

 

九体目のマグマ蛇を吹き飛ばし切り刻みながら、そんな事をのたまうティオ。呆れた表情で拒否しようとしたハジメだったが、清水がそれを遮る。

 

 

「おいおい、ティオだけうま味を取ってどうする。俺も参戦するぞ、ハジメ。俺が勝ったら何か奢れ!」

 

 

そんな事を叫びながら、清水は、跳躍した先にいるマグマ蛇の頭部にRPS-6ロケット・ランチャーをぶっ放す。弾頭がマグマ蛇に直撃した瞬間、爆発する。弾けとんだマグマ蛇の跡にキラキラした鉱物が舞っている。RPS-6のミサイル弾頭の爆風の衝撃により砕かれた魔石だ。

 

 

 

一体のマグマ蛇を屠った清水に、背後からマグマの塊が迫る。清水は、その場で転がって回避した。しかし、それを狙っていたかのように、清水が止まる場所にマグマ蛇が炎弾を放って襲いかかる。

 

 

 

しかし、清水は特に焦ることもなく、懐から取り出したある装置を地面に設置した。

 

 

 

清水が置いた装置は簡易式偏向シールド発生装置だった。その装置からエネルギーが上へと登って、三メートル辺りでエネルギーが全方位に拡散し清水を包み込んだ。

 

 

炎弾を偏向シールドに防がれつつも、清水はハジメが作ってくれたベネリM4を取り出し、銃口をマグマ蛇に向けてトリガーを引いた。撃ち放たれたのは散弾ではなくスラッグ弾だ。

 

 

 

ただし、普通のスラッグ弾ではない。ハジメ特製の“魔衝波”が付与された特殊鉱石を使った弾丸で、着弾と同時に込められた魔力が衝撃波に変換される。威力だけなら、グレネード弾を遥かに凌ぐレベルだ。

 

 

 

ベネリM4の銃声と共に飛び出した炸裂スラッグ弾は、狙い違わず背後からマグマ蛇に直撃し、頭部から胴体まで全てを巻き込んで大爆発を起こした。その衝撃で、再び、砕け散った魔石がキラキラと宙を舞う。

 

 

「おい、コラ。お前ら、なにかって……」

 

「……なら、私も二人っきりで一日デート」

 

「やれやれ、でもまぁ、こういう意味ではムードメーカーも重要だな」

 

 

ハジメは、ティオと清水の勝手な競争にツッコミを入れようと口を開いたが、それを遮ってユエも討伐競争に参戦の意を示した。最近仲間が増えてめっきりと減ってしまった二人っきりの時間を丸一日欲しいらしい。

 

 

 

ユエは、楽しみという雰囲気を醸し出しながら、しかし、魔法についてはどこまでも凶悪なものを繰り出した。最近十八番の“雷龍”である。

 

 

 

ただし、熟練度がどんどん上がっているのか、出現した“雷龍”の数は七体。それをほぼ同時に、それぞれ別の標的に向けて解き放った。雷鳴の咆哮が響き渡る。ユエに喰らいつこうとしていたマグマ蛇達は、逆にマグマの塊などものともしない雷龍の群れに次々と呑み込まれ、体内の魔石ごと砕かれていった。

 

 

 

その光景を見て、“やっぱり、何度見てもえげつないな……”と清水が、“ユエはバグっとるよ!絶対、おかしいのじゃ!”とティオが、それぞれ焦りの表情を浮かべて悪態をつきつつ、より一層苛烈な攻撃を繰り出し、討伐数を伸ばしていった。

 

 

「……別に、いいけどな。楽しそうだし」

 

「確かに、こういうのには満更でもないしな」

 

 

そう呟きながらも雷電は、マグマ蛇が纏うマグマに注意しながらもライトセーバーで魔石をピンポイントに突き刺して、破壊する。そしてハジメは、そんな自分が景品になっている競争に闘志を燃やす女子二人と清水に肩を竦めると、若干、諦めた感を醸し出しながら、背後から襲いかかってきたマグマ蛇に、振り向くことなく肩越しにシュラークを連射する。

 

 

 

放たれた弾丸は、マグマ蛇の各箇所に均等に着弾し衝撃を以てそのマグマの肉体を吹き飛ばした。同時に、衝撃で魔石が宙を舞う。ハジメは、すっと半身になって前方から飛んできたマグマの塊をかわしながら、右のドンナーでマグマの海に落ちる寸前の魔石をピンポイントで撃ち抜いた。

 

 

 

ハジメがシュラークで放った弾丸も、シアや清水に渡したのと同じ炸裂弾だ。ただ、弾丸の大きさの問題で、炸裂スラッグ弾程の威力はでない。もちろん、シュラーゲンなどを使えば、それ以上の破壊力をもたらす事もできるが、今回は、初使用なので実験も兼ねて二丁の拳銃で使用している。

 

 

 

拳銃サイズの弾丸では、一撃でマグマ蛇を魔石ごと吹き飛ばす威力はないため、ハジメは、大体二発ほど撃ってマグマの鎧を衝撃で吹き飛ばし、露出した魔石をドンナーでピンポイント狙撃する方法を取った。当然、レールガンならマグマの鎧など無視して魔石を貫通できるが、貫通力が高すぎて、位置を特定しづらい魔石を狙うには不適当だったのだ。

 

 

 

更に、二体のマグマ蛇が左右からハジメを挟撃するが、“空力”と“縮地”で高速離脱すると、空中で上下逆さになり、シュラークを発砲する。

 

 

 

ドォパァアン!!

 

 

 

響く炸裂音は一発。しかし、解き放たれた殺意の塊は四発。猛烈な勢いで以て左右から襲いかかったマグマ蛇達は、突如、見失った獲物に混乱する暇もなく直上から襲い来た衝撃にマグマの体を四散させ、核となっていた魔石を露出させる。

 

 

 

同時に、ドンナーから放たれた二条の閃光が、一ミリの狂いもなく二つの魔石を撃ち抜き粉砕した。

 

 

 

気が付けば、中央の島の岩壁、その外周に規則正しく埋め込まれた鉱石は、そのほとんどを発光させており、残り十六個というところまで来ていた。本格的な戦闘が始まってから、まだ十分も経っていない。

 

 

 

“グリューエン大火山”のコンセプトが、悪環境による集中力低下状態での長時間戦闘だというハジメ達の推測が当たっていたのだとしたら、ハジメ達に対しては、完全に創設者の思惑は外れてしまったと言えるだろう。

 

 

ティオのブレスが、マグマ蛇をまとめてなぎ払う。

 

 

 

──残り十四体

 

 

 

シアのドリュッケンによる一撃と、ほぼ同時に放たれた炸裂スラッグ弾がマグマ蛇をまとめて爆砕する。

 

 

 

──残り十体

 

 

 

ユエに対し、直下のマグマの海から奇襲をかけて喰らいつこうとしたマグマ蛇と直上から挟撃をしかけたマグマ蛇が、とぐろを巻いてユエを包み込んだ“雷龍”に阻まれ、立ち往生する。そして次の瞬間、その二体のマグマ蛇を四体の“雷龍”が逆に挟撃し、喰らい尽くす。

 

 

 

──残り八体

 

 

 

清水やコマンドー達はそれぞれの武器とチームワークで応戦し、確実にマグマ蛇の魔石を破壊していた。

 

 

 

──残り四体

 

 

 

雷電はライトセーバーやフォースを駆使して、襲いかかってくる二体のマグマ蛇を胴体諸共魔石を斬り捨てる。

 

 

 

──残り二体

 

 

 

ハジメに、急速突進してきたマグマ蛇がマグマの塊を散弾のごとく撒き散らす。しかし、ハジメは、ゆらりゆらりと木の葉が舞うようにマグマの塊をかわしていき、マグマ蛇が喰らいつこうとした瞬間、交差しながらシュラークを発砲。弾け飛びながら慣性に従って吹き飛んだ魔石を見もせずにドンナーで狙撃し粉砕した。

 

 

 

遂に最後の一体となったマグマ蛇が、直下のマグマの海から奇襲をかけた。ハジメは、そのまま直上に“空力”で飛び上がると、真下からガバッと顎門を開いて迫るマグマ蛇の口内に向けてシュラークを発砲した。

 

 

 

着弾と同時に紅い衝撃波が撒き散らされ飛び散るマグマ。その隙間から僅かに魔石が姿を現す。ハジメは、右のドンナーを構えた。ユエ達が満足気な眼差しでハジメが最後の一撃を放つところを見つめている。

 

 

「これで、終わりだ」

 

 

それを視界の端に捉えながら、ハジメは“グリューエン大火山”攻略のための最後の一発を放とうとした。

 

 

「…っ!?ハジメ!」

 

「雷電…?うぉっ!?」

 

 

その時に雷電はフォースの未来予知でハジメが極光に飲まれる光景だった。雷電は咄嗟にフォース・プルでハジメを雷電達の所に引き寄せた。

 

 

 

──その瞬間

 

 

 

ズドォオオオオオオオオ!!!!

 

 

 

ハジメが元いた場所の頭上より、極光が降り注いだ。

 

 

 

まるで天より放たれた神罰の如きそれは、ハジメがかつて瀕死の重傷を負った光。いや、それより遥かに強力かも知れない。大気すら悲鳴を上げるその一撃は、攻撃の瞬間という戦闘においてもっとも無防備な一瞬を狙って放たれたが──ハジメは雷電のおかげで喰らう事なく、最後のマグマ蛇だけが呑み込まれるだけであった。

 

 

「ハジメ、無事か?」

 

「ハジメ!」

 

「「「ハジメ(さん)(ご主人様)!!」」」

 

「あぁ、俺は無事だ。それより、今の攻撃は……」

 

「ハジメの考えている通り、アレは第三者の攻撃だ。しかも、油断したハジメを狙った攻撃であると同時に、このグリューエン大火山に乱入して来た奴と見て間違いないだろうな」

 

 

そう言いながらも雷電は上を見上げた。ハジメ達も雷電につられて天井付近に視線を向ける。そして驚愕に目を見開いた。なぜなら、いつの間にか、そこにはおびただしい数の竜とそれらの竜とは比べ物にならないくらいの巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その白竜の背に赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神代魔法の使い手、そして脱出

また緊急事態宣言が発令されたそうです。皆さんもコロナに気をつけましょう。


59話目です。


 

 

ハジメ達は、グリューエン大火山の最終試練を攻略している最中、突如と乱入して来た魔人族の男が無数の竜とそれらとは比べ物にならないくらいの巨体を誇る純白の竜を率いてハジメ達に攻撃して来たのだった。

 

 

「……看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険過ぎる。特に、その男とジェダイと名乗る貴様は……」

 

「ジェダイ……か。その名を知っているという事は、賞金稼ぎのジャンゴから聞いた様だな」

 

「まさか、私の白竜のブレスに気付き、その上で未知の力で躱すとは……おまけに報告にあった強力にして未知の武器に、人の形をした造られた兵器であるクローンの存在……貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」

 

 

ティオに似た黄金色の眼を剣呑に細め、上空より睥睨する魔人族の男は、警戒心をあらわにしつつ睨み返すハジメ達に、そんな質問をした。ハジメ達の力が、何処かの大迷宮をクリアして手に入れた神代魔法のおかげだと考えたようだ。

 

 

「俺が言うのもなんだが、質問する前に、まず名乗ったらどうだ?魔人族は礼儀ってもんを知らないのか?」

 

「……これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

 

「全く同感だな。テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな。ところで、ここに来たのはウルの町に襲撃して来た魔物の軍勢を指揮していた魔人族の敵討ちか?もしそうであるなら、相当な暇人だな?」

 

 

ハジメは、敵である魔人族と白い竜を倒す為に時間稼ぎがてらに、そんな事を揶揄するように尋ねた。魔人族の男の“報告”やら“待ち伏せていた”というセリフから、以前、ウルの町で暗躍し、最後に雷電に首を刎ねられ、死亡した魔人族を思い出したのだ。おそらく、俺達の事はジャンゴから情報を得たのだろうと。

 

 

 

魔人族の男は、それに眉を一瞬ピクリと動かし、先程より幾分低くなった声音で答えた。

 

 

「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

 

「神の使徒……ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか?魔物を使役する魔法じゃねぇよな?……極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいて堪るかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか?強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ」

 

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、“アルヴ様”は直接語りかけて下さった。“我が使徒”と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

 

 

どこか聖教教会教皇イシュタルを彷彿とさせるフリード・バグアーと名乗った魔人族は、真っ向からハジメ達の存在そのものを否定した。その苛烈な物言いに対して、ハジメは不敵に笑うのみ。

 

 

「それは俺のセリフだ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は……皆殺す!」

 

「幾らお前が俺達を否定しようと関係の無いことだ。だが、どんな大義であれ、俺達の前に立ちはだかるなら、押し通らせてもらう!」

 

 

ハジメは、そう雄叫びを上げながらドンナーをフリードに向け引き金を引いた。更に、“瞬光”を発動してクロスビットも取り出し突撃させた。それと同時に、雷電もライトセーバーを分割し、二刀流にした後にスイッチを入れ、青い光刃を展開すると同時にハジメ同様に“瞬光”を発動させる。そんなハジメ達を援護する為にユエが“雷龍”を、ティオがブレスを、シアが炸裂スラッグ弾を、清水とデルタ、不良分隊がブラスターで光弾を放つ。

 

 

 

しかし、灰竜と呼ばれた体長三、四メートル程の竜が数頭ひらりと射線上に入ると、直後、正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁が出現し、ハジメ達の攻撃を全て受け止める。

 

 

 

その障壁は、ハジメ達の攻撃力が絶大であるために数秒程で直ぐに亀裂が入って砕けそうになるのだが、後から更に他の灰竜が射線上に入ると同じように障壁が何重にも展開されていき、思ったように突破が出来ない。よく見れば、竜の背中には亀型の魔物が張り付いているようだ。甲羅が赤黒く発光しているので、おそらく、障壁は亀型の魔物の固有魔法なのだろう。

 

 

「私の連れている魔物が竜だけだと思ったか? この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

 

 

そう言うと、フリードは極度の集中状態に入り、微動だにせずにブツブツと詠唱を唱え始めた。手には、何やら大きな布が持たれており、複雑怪奇な魔法陣が描かれているようだ。新たに手に入れた神代の力と言っていた事から、おそらく、この“グリューエン大火山”で手に入れた神代魔法なのだろう。神代魔法の絶大な効果を知っているハジメ達は、詠唱などさせるものかと、更に苛烈に攻撃を加え始めた。

 

 

 

しかし、灰竜達は障壁を突破されて消し飛んでも、直ぐに後続が詰めて新たな障壁を展開し、ハジメ達の攻撃をフリードに届かせない。本来なら、ユエ達に援護を任せて、“空力”で直接叩きに行くのだが、今はまだ回復しきっておらず、灰竜の群れに叩き落とされるのが関の山だと思いハジメは歯噛みした。

 

 

 

ドンナーをしまい、反動の少ないオルカンを取り出し全弾ぶっ放すが、数頭の灰竜を障壁ごと吹き飛ばして終わりだった。フリードには届いていない。クロスビットも、威力が足りず障壁を破壊しきるには至らない。

 

 

 

と、その時点でタイムアップだったようだ。フリードの詠唱が完成する。

 

 

 

「“界穿”!」

 

「ッ!後ろです!ハジメさん!」

 

 

最後の魔法名が唱えられると同時に──フリードと白竜の姿が消えた。正確には、光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込んだのだ。ハジメ達は、フリードが魔法名を唱えると同時に叫んだシアの警告に従い、驚愕に目を見開く暇もなく背後へ振り返る。

 

 

 

そこには……ハジメの眼前で大口を開けた白竜とその背に乗ってハジメを睨むフリードがいた。白竜の口内には、既に膨大な熱量と魔力が臨界状態まで集束・圧縮されている。ハジメが、咄嗟にオルカンを盾にするのと、ゼロ距離で極光が放たれるのは同時だった。

 

 

 

ドォゴォオオオオ!!!

 

 

 

「ぐぅう!! あぁああ!!」

 

 

轟音と共に、かざしたオルカンに極光が直撃しハジメを水平に吹き飛ばした。凄絶な衝撃に、ハジメの食いしばった口から苦悶の呻き声が上がる。

 

 

「ハジメ!」

 

 

極光に押され吹き飛ぶハジメを助けようと、ユエ達が咄嗟に、白竜に向かって攻撃を放とうとするが、それを読んでいたように灰竜からの掃射が彼女達に襲いかかり、その場に釘付けにされてしまった。

 

 

 

吹き飛ぶハジメは、直撃こそ受けていないものの極光の衝撃で盛大に血飛沫を撒き散らす。その時に義手の左腕があらぬ方向に折れ曲がっていて使い物にならなくなっていた。ハジメは、必死に傷ついた右腕のみで左腕の義手を宝物庫にしまい、そして、オルカンを支え、“空力”で踏ん張りつつも、このままでは煮え滾る海に叩き落とされると悟ったハジメは、“限界突破”を発動した。

 

 

 

傷ついた体で“限界突破”を使うのは非常に危険な賭けだ。普段なら、“限界突破”を使っても、ひどい倦怠感に襲われるだけで済むが、今の状態で使えば、おそらく使用後に身動きがとれなくなるだろう。それでも、状況の打開に必要だと判断した。

 

 

 

ハジメの体を紅い光の奔流が包み込み、力が爆発的に膨れ上がる。

 

 

「らぁあああ!!」

 

 

雄叫びを上げながらオルカンを跳ね上げ極光を強引に上方へと逸らす。それでも、完全に逸らす事は出来ず、極光の余波を喰らい更に血を噴き出しながら吹き飛んだ。

 

 

 

白竜が、追撃に光弾を無数に放つ。そんなところまでヒュドラにそっくりだ。だが、かのヒュドラよりも極光の威力が上である以上、光弾の威力も侮ることは全く出来ない。神代魔法の使い手とのコンビネーションも相まって厄介さは格段に上だ。

 

 

「クロスビットぉ!」

 

 

ハジメは、襲い来る光弾を極限の集中によりスローになった世界で、木の葉のように揺れながらかわしていく。そして、極光により融解して使い物にならなくなったオルカンをしまうと、ドンナーを連射しながら、同時にクロスビットを飛ばしてフリードを強襲した。

 

 

「何というしぶとさだ!紙一重で決定打を打てないとはっ!」

 

 

フリードは、再び、亀型の魔物が張る障壁の中に包まれながら、重傷を負っているはずのハジメのしぶとさに歯噛みすると同時に驚嘆の眼差しを送った。そして、白竜を高速で飛ばしながら、再び、詠唱を唱え始めたその時に、フリードはある事に気付いた。今、強襲しているハジメを除くユエ達の方を見遣ると、一人足りていなかった。

 

 

(…一人足りない?……っ!?)

 

 

そう考えた瞬間、フリードの右斜め上から雷電が強襲して来たのだ。

 

 

「(何時の間にっ!?…だが!)“界穿”!」

 

 

最後の魔法名が唱えられると同時に、フリードと白竜の姿は光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込み、ハジメに不意打ちした様に、雷電の背後へと回り込み、白竜によるブレスで仕留めようとする。

 

 

 

しかし……

 

 

 

「うぅぉぉぉぉぉぉおおおおおーーっ!!」

 

 

雷電は不意打ちしてくる事を分かっていたのか、雷電は“瞬光”で一気に白竜へと突撃し、白竜がブレスを吐く前にライトセーバーで頭から首回りのと頃まで螺旋状に斬りつける。余りにも早すぎる斬撃に白竜は、苦痛の悲鳴を上げる。

 

 

(何…だと……!?)

 

 

フリードは、決して侮っていた訳ではなかった。だが、雷電と言うジェダイの存在が、フリードが想像した以上に驚異的である事を見せつけられたと同時に、かつてジャンゴが言っていた事を思い出した。

 

 

 

“俺が賞金首を狩る時に偶然だが、厄介な奴とあった”

 

 

 

“厄介な奴?貴様がその様に評する者は一体誰だ?”

 

 

 

“ジェダイだ”

 

 

この時にフリードは、率いた魔物達を易々と突破した雷電の事を改めて、ジェダイがより危険な存在であると再認識した瞬間、雷電は次の行動に移していた。その行動は、フリードに向かっていた。

 

 

(ま…拙い!)

 

 

フリードに直接狙おうとする雷電を危機感を抱いたフリードは、秘密組織であるファースト・オーダーに所属する尋問官から、同盟の証としてシスが使用するシングル=ブレード・ライトセーバーを手にし、スイッチを入れて赤い光刃を展開し、雷電を迎え撃とうとするが……雷電はフリードを無視し、そのまま白竜に攻撃を集中させていた。この時にフリードは雷電の目論見を理解した。

 

 

「(こいつ…!私ではなく、白竜の方を!?狙いは白竜か!)…好きにはさせん!」

 

「させねぇよ」

 

「ッ!?」

 

 

雷電の目論見を阻止しようと懐から新たな布を取り出し、再び正体不明の神代魔法を詠唱しようとした。

 

 

 

しかし、それは、背後から響いた声と共に撃ち放たれた衝撃により中断される。

 

 

 

傷口から血を噴き出しながら、いつの間にかフリードの背後に回っていたハジメがドンナーを連射したのだ。一発の銃声と共に放たれた弾丸は六発。その全てが、ほぼ同時に、一ミリのズレもなく同じ場所へピンポイントに着弾した。

 

 

 

フリードの傍にいた亀型の魔物が、フリードが反応するより早く障壁を展開していたのだが、赤黒く輝く障壁はほぼゼロ距離から放たれた閃光と衝撃により、あっさり喰い破られた。焦燥感をあらわにしたフリードの懐へハジメが潜り込む。

 

 

 

そして、ドンナーに纏わせた“風爪”を発動させながら、一気に振り抜いた。

 

 

「ぐぁあ!?」

 

 

間一髪、後ろに下がることで両断されることは免れたが、フリードの胸に横一文字の切創が刻まれる。ハジメは攻撃の手を緩めず、フリードを切り裂いた勢いそのままに、くるりと回転すると“魔力変換”による“魔衝波”を発動させながら後ろ回し蹴りを放った。

 

 

 

ドォガ!!

 

 

 

「がぁああ!!」

 

 

辛うじて左腕でガードしたようだが、勢いを殺すことなど出来るはずもなく、左腕を粉砕されて内臓にもダメージを受けながら、フリードは白竜の上から水平に吹き飛んでいく。

 

 

 

主がいなくなったことに気がついたのか、気を逸らした白竜に雷電のライトセーバーが白竜の両目を切り裂き、視界を奪う。だが、これだけでは終わらなかった。

 

 

「ルァアアアアン!!」

 

「さっきの不意打ちといい、随分と楽しそうだったな!?だったら……もっと楽しんでくれよ!!!

 

 

雷電は白竜の首元に移動する際に、白竜の翼を根こそぎ切り落とす。そして、そのまま落下しながらも、雷電は青い光刃を放つ二振りのライトセーバーで、白竜の首元を超人的な早さで斬り刻む。

白竜の首元の鱗はライトセーバーによる切り傷が出来ると同時に、徐々に鱗の防御力が限界を迎え、雷電は最後に、足とてに力を入れ、ライトセーバーで白竜の首を切り落とし、止めを刺した。

 

 

「……何という奴だ。たった一人で白竜の首を……!」

 

 

雷電の圧倒的な戦闘力を目の当たりにし、そう呟くフリードは現在、率いた魔物の内一体である灰竜に乗っていた。

 

 

 

そんなフリードに対してハジメは、“空力”で追撃を仕掛けようとする。しかし……

 

 

「ぐっ!? ガハッ!!」

 

 

ハジメを包んでいた紅色の光が急速に消えて行き、傷口からだけでなく、口からも盛大に血を吐き出した。“限界突破”のタイムリミットだ。傷を負った状態で、更に限界越えなどしたものだからダメージは深まり、リミットも早かったらしい。“空力”が解除されて、マグマの海に落ちそうになるハジメ。

 

 

「なっ!?…ティオ!」

 

「うむ、任せるのじゃ!」

 

 

雷電は落下するハジメを助けるべく、ティオに声を掛けた後、フォースを使って落下するハジメを空中で止め、そして竜化し、飛翔してきたティオが自分の背に乗せる。

 

 

「ご主人様よ!しっかりするのじゃ!」

 

「ハジメ、無事か!」

 

「ぐっ、ティ、ティオ……雷電……」

 

 

ティオに救助されたハジメは、“限界突破”の副作用と深刻になったダメージに倒れそうになるが、何とか片膝立ちで堪え、ギラギラと光る眼光で上空のフリードを睨みつけた。

 

 

 

見れば、フリードの周囲に、ユエ達を襲っていた灰竜達も集まっている。

 

 

「ハジメ!」

 

「ハジメさん!」

 

「「「コマンダー!」」」

 

 

ユエとシア、デルタに不良分隊達が、ハジメの名を叫びながら駆けつけてきた。ティオは、近くにあった足場に着地する。今のハジメでは、攻撃を受けたときのティオの戦闘機動に耐えられず落下するおそれが高いからだ。同じ足場に飛び移ってきたユエは、直ぐにハジメの傍に寄り添いその体を支えた。

 

 

「……恐るべき戦闘力だ。侍らしている女共や兵士達も尋常ではないな。絶滅したと思われていた竜人族に、無詠唱無陣の魔法の使い手、未来予知らしき力と人外の膂力をもつ兎人族、裏切り者の勇者に、人の形をした人ならざる兵器達……よもや、神代の力を使って、なお、ここまで追い詰められると同時にジェダイに白竜が討たれるとは……最初の一撃を当てられていなければ、蹴散らされていたのは私の方か……」

 

 

何かを押し殺したような声音で語りながら、ハジメと火花散る視線を交わすフリード。肩で息をしながら、無事な右手で刻まれた胸の傷口を押さえている。

 

 

「なに既に勝ったこと前提で話してんだ? 俺は、まだまだ戦えるぞ」

 

 

ハジメは、フリードの言葉に不快げに表情を歪めると、ボロボロの体で、それでも殺意で眼をギラギラと光らせながら戦闘続行を宣言する。

 

 

「……だろうな。貴様から溢れ出る殺意の奔流は、どれだけ体が傷つこうと些かの衰えもない。真に恐るべきはその戦闘力ではなく、敵に喰らいつく殺意……いや、生き残ろうとする執念か……」

 

 

フリードは、一度目を伏せると決然とした表情で再びハジメを睨みつける。

 

 

「この手は使いたくはなかったのだがな……貴様等ほどの強敵を殺せるなら必要な対価だったと割り切ろう」

 

「なにを言ってる?」

 

「……!まさか奴は!」

 

 

フリードはハジメの質問には応えず、雷電は何かを察した様だが気にせず、いつの間にか肩に止まっていた小鳥の魔物に何かを伝えた。

 

 

 

その直後、

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!ゴバッ!!!ズドォン!!

 

 

 

空間全体……いや、“グリューエン大火山”全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた。

 

「うおっ!?」

 

「んぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

「おわっ!?」

 

「ぐっ!」

 

 

突如、下から突き上げるような衝撃に見舞われ、四者四様の悲鳴を上げて必死にバランスをとるハジメ達。激震は刻一刻と激しさを増し、既に震度で言えば確実に七はあるだろう。マグマの海からは無数の火柱、いや、マグマ柱が噴き上がり始めている。

 

 

「ハジメさん!マスター!水位が!」

 

 

シアの言葉に、ハジメ達が足場の淵を見れば、確かにマグマの海がせり上がってきていた。

 

 

「何をした?」

 

 

ハジメが、明らかにこの異常事態を引き起こした犯人であるフリードに押し殺したような声音で聞いた。フリードは、中央の島の直上にある天井に移動する中、雷電が代わりに質問に応える。

 

 

「ハジメ、どうやら奴は、この火山の要石を破壊した様だ!」

 

「要石……だと?」

 

「そこのジェダイの言う通りだ。このマグマを見て、おかしいとは思わなかったのか?“グリューエン大火山”は明らかに活火山だ。にもかかわらず、今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということ」

 

 

「それが“要石”か……まさかっ!?」

 

「そうだ。ハジメが考えている通り、奴はマグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊し、俺達を大迷宮ごとマグマの海に沈めるつもりだ!」

 

「その通り。間も無くこの大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい」

 

 

フリードは、冷たくハジメ達を見下ろすと、首に下げたペンダントを天井に掲げた。すると、天井に亀裂が走り、左右に開き始める。円形に開かれた天井の穴は、そのまま頂上までいくつかの扉を開いて直通した。

 

 

 

どうやら、“グリューエン大火山”の攻略の証で地上までのショートカットを開いたようだ。フリードは最後にもう一度、ハジメ達を睥睨すると、踵を返して白竜と共に天井の通路へと消えていった。

 

 

 

周囲のマグマの海は、既に、まるでハリケーンの勢力圏に入った海のように荒れ狂い、噴き上がるマグマ柱はその数を次々と増やしている。ハジメ達の足場も端からマグマが流れ込みだした。まるで終末世界のような光景である。

 

 

 

ハジメは、僅かな時間、何かを考えるように目を細めた。そして、何かを決断すると、怪我を押して立ち上がった。直後、フリードと灰竜が出て行っても残っていた灰竜達が一斉に小極光を放ち始めた。どうあっても、ここで殺すつもりらしい。

 

 

 

清水が偏向シールド発生装置を起動させて、小極光を呑み込みながら攻撃を凌いでいる間にハジメは、“宝物庫”を手に握ると、頭上の灰竜達にブレスを放とうとしているティオの堅い竜鱗に覆われた頬に手を這わせ自分の方に顔を向けさせた。

 

 

「ティオ、よく聞け。これを持って、お前は一人であの天井から地上へ脱出しろ」

 

 

一瞬、何を言われているのか分からないという表情で目を瞬かせるティオだったが、次の瞬間には傷ついたような表情をして悲しみと怒りの混じった声を響かせた。ハジメの言葉が、まるでティオだけ生き残らせて、自分達を切り捨てろと言っているように聞こえたのだ。

 

 

「ご主人様よ、妾は、妾だけは最後を共に過ごすに値しないというのか?妾に切り捨てろと、そういうのか?妾は……」

 

「ティオ、そうじゃない。時間がないから一度しか言わないぞ。俺は、何も諦めていない。神代魔法は手に入れるし、いつかあの野郎はぶっ殺すし、そして“静因石”を届けるという約束も守る。だが、一人じゃ無理なんだ。だからお前の力を貸して欲しい。お前でなければ、全てを突破して期限内にアンカジに戻ることは不可能なんだ……頼む、ティオ」

 

 

今まで一度も向けたことのない真剣な眼差しで、竜化状態のティオの瞳を見つめるハジメ。傲岸不遜で、何でも一人で出来ると言わんばかりのハジメが、全力で頼っている。全ての望みを叶えるには、俺達が全ての困難に打ち勝つには、ティオの協力がなければならないのだと。ティオの力が必要なのだと。そこには諦めも、自己犠牲の精神も、ティオだけを除け者にするような考えも一切ない。

 

 

 

ティオの心が悲しみや怒りから一転して歓喜に震える。気に入った男から、いや、今や本気で伴侶になりたいと思っている相手から、生死のかかった瀬戸際で大切なものを〝託された〟のだ。これに応えられなければ、女ではない。

 

 

 

それ故に、ティオはただ一言、応えた。

 

 

「任せよ!」

 

 

ハジメは、ティオのウロコの内側へ“宝物庫”を入れる。こうすることで、竜の肉体を通して人状態のティオの手に渡るのだ。

 

 

 

ティオは、身の内に“宝物庫”が入った事を確認すると、そっと、ハジメに頭をこすりつけた。今できる、精一杯の愛情表現だ。ハジメも、最後に優しく一撫でするとティオから離れた。ティオは、ユエとシアにも視線を向ける。二人共、諦めなど微塵も感じさせずに力強く頷いた。

 

 

「ティオ、香織とミュウに伝言を。“後で会おう”だ。頼んだぞ」

 

「俺からも恵里とシルヴィにも伝言を頼む。“後で合流しよう”だ」

 

「ふふ、委細承知じゃよ」

 

 

ハジメと雷電の軽すぎる伝言を受け取り、思わず笑い声を漏らしたティオは、一拍の後、力強い風を纏って一気に飛び立った。小極光が襲いかかるが、バレルロールしながらかわし、一気に灰竜の群れへと突っ込んでいく。黒竜の特攻に危機感を抱いたのか、灰竜達の攻撃がティオに集中しだした。

 

 

 

殺到する小極光をブレスで相殺しようとするが、次々と追加で放たれるので簡単にはいかない。しかし、拮抗するかと思われた瞬間、下方より極光が迸り、ティオに攻撃を加えていた灰竜が数体消し飛んだ。

 

 

ユエが“絶禍”で圧縮した小極光を解放したのだ。さらに、炸裂スラッグ弾が乱発され灰竜達を衝撃波で吹き飛ばしていく。

 

と……その時、フリードと灰竜が外に出たのか、天井の扉が閉まり始めた。時間がないと悟り、ティオは、被弾覚悟で加速することのみに集中する。そのおかげで飛行速度は更に増加したが、灰竜からの小極光がティオの竜鱗を砕き始めた。

 

 

「ふん、この程度の痛みぃ!むしろ心地いいのじゃ!バッチコ~イ!」

 

 

言葉通り、灰竜の攻撃がティオの体にダメージを入れるごとに調子が上がり飛行速度が増していく。“竜化”の派生“痛覚変換”の効果だ。痛みが酷ければ酷いほど、テンションと共に任意の能力が一時的に強化されるという酷い派生能力だ。ちなみに、ハジメと出会ってから数百年ぶりに手に入れたものである。“壁を越えた”というより、“扉を開いた”という表現の方が正しいだろうが。

 

 

 

灰竜達ですら若干引き気味の中、ティオは遂に小極光の嵐を突破して閉まり切る寸前の扉をくぐり抜けた。頭上を見れば、遥か先に小さな光が見える。地上の光だ。それまでに幾つか扉があるようで、順次閉まり始めている。

 

 

 

ティオは、もう後先考えず、残りの魔力を“竜化”が維持できるギリギリを残して、全て使い切るつもりで風を操ることに注ぎ込んだ。自分の長い生を思い出しても、ここまでの速度は出したことが無いと思えるほどの速度で、文字通り、疾風と化して飛翔する。

 

 

 

一つ目、二つ目、三つ目と、扉をくぐり抜け、遂に最後の扉、地上へと繋がる分厚い扉のみを残すところまで上がってきた。黒い風を纏って一発の砲弾のごとく突き進むティオ。そんな彼女に、頭上から光弾が襲いかかる。

 

 

 

どうやら、ティオの存在に気がついて足止めの攻撃を放ってきたらしい。扉は既に半分以上閉まっている。回転しながら回避し、あるいは回避しきれず被弾しながらも速度を緩めず突き進むティオに、白竜からの極光が降り注ぐ。

 

 

 

魔力が尽きかけているのか当初ほどの威力はない。精々半分程度の威力だ。しかし、それでも喰らえば小極光の比ではないダメージを受けるだろう。かと言って回避しても迎撃して飛行速度は落ちる。そうなれば、扉を抜けるには間に合わないかもしれない。

 

 

 

ティオは覚悟を決めて、むしろ被弾した直後に“痛覚変換”で更に速度を上げてやるつもりで突進した。

 

 

 

と、その時、ティオの脇を幾つかの影が走り抜け、ティオと迫り来る極光の間に割って入った。

 

 

 

それは、ティオにとって見覚えのあるもの。浮遊する十字架、オールレンジ兵器、そう、ハジメのクロスビットだ。ティオの直ぐ後ろに付けていたのである。

 

 

 

飛び出した三機のクロスビットは、紅色の輝きを纏うと角度をつけて極光を遮り、脇へと逸らしていく。極光の威力に、一機、また一機と破壊されていくが、極光が途切れるまでしっかりとティオを守り抜いた。更に、ティオを守るように四機のクロスビットがティオのすぐ傍を飛ぶ。

 

 

“ぬはぁー、たまらん!ご主人様よぉ、愛しておるのじゃー!”

 

 

マグマの奔流に襲われているであろうに、ティオにクロスビットを全機付けて地下から操っているハジメに、天地に轟けと愛を叫ぶティオ。竜人族の中でも特に強者であったティオを守る男など、未だかつていなかった。いつだって、彼女は守る側だったのだ。だからこそ、極めて困難な状況において守られているという事実に、今まで感じたことのない喜びが爆発する

 

 

「グゥルゥアアア!!!」

 

 

そして、竜の咆哮をも響かせながら、遂に最後の扉をくぐり抜けた。黒い風の塊と化したティオが垂直に飛び出し、巨大な砂嵐に囲まれながらも太陽の光が降り注ぐ天空を舞う。

 

「あの状況から出て来るとはっ!化け物揃いめっ!だが、いかに黒竜と言えど既に満身創痍。ここで仕留めッ!?」

 

 

頭上を飛び越えたティオに、灰竜に乗ったフリードが驚愕しながらも攻撃を加えようと眼光を鋭くした。だが、その目論見は、言葉と同様に止められることになった。四機のクロスビットが、いつの間にかフリードと白竜を四方から取り囲んでいたからである。

 

 

 

フリードは、すかさず退避の途中で連れてきた亀型の魔物に障壁を張らせる。クロスビットの攻撃力では、障壁を破壊出来ないことは実証済みだ。炸裂弾が装填されていれば、結果は違ったのだろうが、遠距離攻撃に乏しいシアの炸裂スラッグ弾と、ドンナー・シュラークの弾丸を優先したので、時間的にまだ配備出来ていなかったのだ。

 

 

 

しかし、クロスビットには、もう一つ強力な攻撃手段がある。それは、クロスビットに対して余裕の表情を浮かべているフリードの表情が凍りつき、次いで灰竜もろとも大ダメージを喰らって吹き飛ばされるという形で証明された。

 

 

 

ズゥドォオオオオオン!!!

 

 

 

クロスビットが、突如、発砲もせず紅色の輝きを異常なほど強めたかと思ったら、次の瞬間──自爆したのである。

 

 

 

四機のクロスビットが、衝撃を余すことなく標的に伝えるために四方を固めていたため、壮絶な威力の衝撃と内蔵されていた弾丸が嵐の如く飛び散り、障壁を易々と粉砕してフリードと灰竜に襲いかかった。

 

 

「がぁああ!!」

 

「ルァアアアアン!!」

 

 

主従揃って悲鳴を上げながら盛大に吹き飛ぶ。

 

 

 

更に、ダメ押しとばかりに放たれたティオの竜巻が襲い掛かり、フリードと白竜を砂嵐の中まで吹き飛ばした。ティオとしては、ブレスを放って確実に仕留めてしまいたかったのだが、流石に、咄嗟に出せるほど余力がなかったのだ。

 

 

 

ティオは、しばらくフリード達が消えていった場所を見つめ、変化がないことを確かめると視線を転じ、眼下の“グリューエン大火山”を、先程までの変態的なテンションなど微塵も感じさせない静かな眼差しで見つめた。そして、“信じている”というように一つ頷くと、踵を返してアンカジの方角へと飛翔していった。

 

 

 

数十分後、“グリューエン大火山”を中心に激震が走った。轟音というのも生温い、大気すら軋ませる大爆発が発生し、一時的に砂嵐さえ吹き飛した。あらわになった“グリューエン大火山”はもうもう黒煙を噴き上げ、赤熱化した岩石を弾き飛ばし、火山雷のスパークを撒き散らしていた。

 

 

 

現存する歴史書の中で、ただの一度も記録されていない“グリューエン大火山”の大噴火。ある意味、貴重な歴史的瞬間は、どういう原理か数分後には復活した巨大な砂嵐のベールに包まれ、その偉容を隠してしまった。

 

 

 

それでも、まるで世界が上げた悲鳴の如き轟音も、噴き上がる黒煙も、アンカジの人々は確かに観測したのだ。不安が募る。それは、大切な人の帰りを待つ少女と幼子も同じだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灼熱の中、漂流中

かなり間があいてしまった様ですが、何とか投稿です。


60話目です。


 

 

「……自爆はロマンだ」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「いや、そんなロマンがあってたまるか……」

 

 

ハジメがそう呟くと、上から順に雷電、清水がハジメが言う“自爆はロマン説”にツッコミを入れながらも灰竜から放たれる小極光の豪雨を防ぐハジメ一行。ティオが飛び立ってから、周囲のマグマは益々荒々しさを増し、既に中央の島以外の足場はマグマの海に沈んでしまった。五分もしない内に中央の島も呑み込まれるだろう。

 

 

 

降り注ぐ小極光をユエの“絶禍”が呑み込み、焦れた灰竜が直接攻撃を仕掛けてきてはシアのドリュッケンによりマグマの中に叩き落とされるということを繰り返す。灰竜の数も十体を切っている。

 

 

 

中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。その傍らには、地面から数センチほど浮遊している円盤がある。真上がさっきまで開いていた天井のショートカット用出口だったので、本来は、これに乗って地上に出るのだろう。

 

 

 

ハジメ達は、灰竜達がハジメ達への攻撃よりも噴出するマグマ柱の回避に必死になり始めたのを尻目に、漆黒の建造物へと近づいた。

 

 

 

一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。ハジメ達が、その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。ハジメ達が中に入るのと、遂にマグマが中央の島をも呑み込もうと流れ込んできたのは同時だった。再び、スっと音もなく閉まる扉が、流れ込んできたマグマを間一髪でせき止める。

 

 

 

しばらく、扉を見つめていたハジメ達だったが、扉が溶かされてマグマが流れ込むということもないようなので、ホッと安堵の吐息を漏らした。こんな場所にある住処なのだから、万一に備えて、十中八九、マグマに耐えるだろうと予想はしていたが、いざ、その結果が示されるとやはり安堵してしまうものだ。

 

 

「ひとまず、安心だな……」

 

「あぁ、全くだ。前世の頃に火山の星の調査を行った時はこんなトラブルは一度も体感した事もないぞ……」

 

「だとするなら、今世に置いて初の体験になるな。しかも、この異世界(トータス)でだ」

 

「仮に雷電がそうだとしても、俺としては二度とあんな目には遭いたくないぞ。俺的に二度も同じ目を味わったら、あの襲って来た魔人族は必ず殺すつもりだ。……それにしても、この部屋は振動も遮断するのか……」

 

「ん……ハジメ、ライデン、あれ」

 

「魔法陣ですね」

 

 

部屋に入った途端、大地震クラスの振動を感じなくなったことに驚くハジメ達。その呟きに応じながら、傍らのユエが指を差す。その先には、複雑にして精緻な魔法陣があった。神代魔法の魔法陣だ。ハジメ達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。

 

 

 

“オルクス大迷宮”の時と同じように、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、マグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった。

 

 

 

「……これは、空間操作の魔法か」

 

「……瞬間移動のタネ」

 

「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

 

 

どうやら、【グリューエン大火山】における神代魔法は“空間魔法”らしい。また、とんでもないものに干渉できる魔法だ。相変わらず神代の魔法はぶっ飛んでいる。

 

 

 

ユエがフリードの奇襲について言及する。最初の奇襲も、おそらく、空間魔法を使ってあの場に現れ攻撃したのだろう。空間転移か空間を歪めて隠れていたのかは分からないが、厄介なことに変わりはない、二度目の奇襲も、咄嗟に雷電がフリードに強襲してなければ、ハジメは直撃を受けていたかもしれない。更には雷電が極光を放つ白竜を討伐したから、なおさらファインプレーとも言える。

 

 

 

ハジメ達が空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

 

 

“人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う”

 

“ナイズ・グリューエン”

 

 

 

「……シンプルだな」

 

「“Simple is best”とはまさにこの事か……」

 

「シンプルすぎるのはどうかと思うが……まぁ、細かい事は気にしないでおこうか」

 

 

そのメッセージを見て、ハジメ達が抱いた素直な感想だ。周囲を見渡せば、“グリューエン大火山”の創設者の住処にしては、かなり殺風景な部屋だと気が付く。オルクスの住処のような生活感がまるでないのだ。本当に、ただ魔法陣があるだけの場所だ。

 

 

「……身辺整理でもしたみたい」

 

「ナイズさんは魔法以外、何も残さなかったみたいですね」

 

「そういえば、オスカーの手記にナイズってやつも出てたな。すごく寡黙なやつだったみたいだ」

 

「その様だな。シア、ハジメを支えててくれ。証を回収してくる」

 

 

雷電は、ハジメを支える役をシア一人に任せて、拳サイズの開いた壁のところに行き、中に入っていたペンダントを取り出した。今まで手に入れた証と少々趣が異なる意匠を凝らしたサークル状のペンダントだ。それをユエに渡した後、ユエはペンダントをそっとハジメの首にかける。

 

 

「……さて、魔法も証も手に入れた。次は、脱出なわけだが」

 

「……どうするの?」

 

「何か、考えがあるんだよな?たぶん……というより、確実に外は完全にマグマで満たされている。脱出はかなり困難だぞ?」

 

 

懸念を伝えつつも、不安は微塵も感じさせないユエ達。ハジメは、皆から寄せてくれる信頼を嬉しく思いながら脱出計画を話す。

 

 

「もちろん、マグマの中を泳いで進む」

 

「……ん?」

 

「……はい?」

 

「「「……は?」」」

 

 

圧倒的に説明の足りない第一声に、ユエ達が“やはり、ダメージが深いのだろうか?”と多少、頭を心配するような表情で問い返した。その際に雷電がハジメの説明不足にフォローを入れる。

 

 

「落ち着け、ハジメは至って正常だ。ただ、説明が不足しているだけだ。ハジメ、幾ら何でも説明を噛み砕き過ぎだ」

 

「悪かったって……ちゃんと説明するからそんな目で見ないでくれ。えっとな……実は、この建物のすぐ外に潜水艇を用意してある。次のメルジーネ海底遺跡で必要になるだろうと思って作っておいたものだ。果たして、マグマの中でも耐えられるか少々不安ではあったんだが、金剛で覆った小舟が大丈夫だったから、いけると踏んだんだ。やはり大丈夫だったみたいだな」

 

「一体、いつの間にそんなこと……」

 

「お前な……」

 

 

シアや清水が呆れたような声を出す。ユエ達も瞳に呆れを宿しているようだ。流石にこれはフォローできないと判断した俺は何も言えずにいた。

 

 

 

実は、フリードが要石を破壊したと告げたとき、既に“宝物庫”から直接マグマの中に潜水艇を転送しておいたのだ。溶け出すようなら、直ぐに強行突破してティオと一緒に天井から脱出するつもりだったが、しばらく様子を見ても溶け出す様子がなかったので(感応石が組み込んであるので様子がわかる)、マグマに満たされても後から脱出できると踏んだのである。

 

 

 

ただ、明らかにヤバイレベルで“グリューエン大火山”自体が激震し、あちこち崩壊していたことから、スムーズに脱出できない可能性が大いにあった。アンカジへ戻るタイムリミットが迫る中、悠長に脱出ルートを探っている時間はない。なので、その場合に備えてティオを先に脱出させたのである。確実に、タイムリミット内に“静因石”を持ち帰るために。

 

 

「脱出ルートは、当然、天井のショートカットだ。ユエ、潜水艇の搭乗口まで結界を頼む。出来るよな?」

 

「んっ……任せて」

 

「俺達も手伝うぞ、ハジメ。シア、準備はいいな?」

 

「はいですぅ!」

 

 

ハジメの言葉に頷いて、ユエが念を入れて“聖絶”を三重に重ね掛けする。光り輝く障壁がハジメ達を包み込んだ。ハジメ達は、互いに頷きあって扉の前に立つ。そして、煮えたぎるマグマで満たされた外界への扉を開いた。

 

 

 

直後、ゴバッ!と音を立てて、灼熱の奔流が部屋の中に流れ込んでくる。その時に雷電とシアはフォースを使って流れ込んで来たマグマを弾き、ユエの“聖絶”の負荷を軽減させる。そして、ユエの“聖絶”はしっかりとマグマからハジメ達を守ったが、一瞬にして視界の全てが紅蓮に染まった。マグマの中からマグマを見るという有り得ない体験に覚悟していたとは言え、流石のハジメ達も言葉に詰まる。世界は広しと言えど、このような体験をした事があるのはハジメ達くらいに違いない。

 

 

「すぐ外だ。行くぞ!」

 

「んっ」

 

「あぁ。シア、清水、コマンドー達、遅れるなよ?」

 

「は、はいです!」

 

「分かってる」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

ハジメの号令で、全員はゆっくりと部屋の外に出た。何も分からない閉ざされた世界ではあるが、ハジメの言葉通り、本当に出入り口のすぐ傍に待機させていたようで直ぐに“聖絶”に当たり場所がわかった。ユエは障壁を調整しながら、雷電とシアはフォースを駆使してハッチまで行き、ようやく全員は潜水艇に乗り込むことができた。思わず、体に入っていた力が抜けるハジメ達。

 

 

 

と、その瞬間……

 

 

 

ドォゴォオオオ!!!

 

 

 

今までの比ではない激震が空間全体を襲った。そして、突如、マグマが一定方向へと猛烈な勢いで流れ始める。潜水艇は、その激流に翻弄され、中のハジメ達はミキサーにかけられたように上に下に、右に左にと転げまわる事になった。

 

 

「ぐわっ!?」

 

「んにゃ!?」

 

「はぅ!?痛いですぅ!」

 

「おわっ!?この揺れは……」

 

「ぐっ!……まさかな」

 

 

それぞれ船内の壁に体のあちこちをぶつけて、悲鳴を上げる。ユエが咄嗟に“絶禍”の応用版を発動し、自分達を黒く渦く小さな球体に引き寄せることで、何とかシェイクされる状況を脱した。

 

 

「た、たすかった。ありがとうな、ユエ」

 

「有難うございますぅ、ユエさん」

 

「ん……それより」

 

 

ユエが“絶禍”を移動させて操縦席らしき場所にまでハジメを運ぶ。ハジメは、魔力を流し込んで、潜水艇のコントロールを試みるが激しい流れとマグマの粘性に、思うように舵が取れなかった。

 

 

「どうだハジメ、操縦できそうか?」

 

「いや……出来なくはないが、思う様に舵が取れねぇ。ちっ……これが噴火だってなら、外に放り出されて、むしろラッキーなんだが」

 

「……違うの?」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情をするハジメに、ユエが首をかしげる。

 

 

「ああ。マグマの中でも方向を見失わないよう、クロスビットに特定石を仕込んでおいたんだ。自爆する前に、脱出口付近に射出して置いたから、少なくとも天井のショートカットの場所はわかるんだが……この流れ、出口から遠ざかってやがる」

 

「やはり……先ほどの揺れはそれが原因か。面倒な事になって来たな……」

 

「えっ?それって地下に潜ってるってことですか?」

 

「ああ、真下ってわけじゃなくて、斜め下って感じだが……問題は、どこに繋がっているのか分からない。清水の言う通り、面倒な事になったな……」

 

「そういうことだ、皆。やっぱり直ぐには戻れそうにない。このまま行くとこまで行くしかないようだ」

 

 

覚悟の決まった表情でそう語るハジメに、ユエ達はただ優しげに目元を緩めて、そっと寄り添った。

 

 

「……最後まで傍にいる。それが叶うなら何も問題ない」

 

「ふふ……文字通り、例え火の中水の中ですね。私も、皆さんと一緒にいられるなら“どこまででも”ですよ!」

 

「……そうか。そうだな……とりあえず、舵が取れるまで操縦桿を握っていた方がいいな。何時コントロールが回復するのか分からねぇからな」

 

 

ハジメも、そんな二人に頬を緩めると笑みを返し、潜水艦の操縦桿を掴む。

 

 

 

そうしてハジメ達は、潜水艇の中で寄り添いながら、灼熱の奔流に流されていった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

“グリューエン大火山”からの脱出が叶わず、ハジメ達が何処とも知れないマグマが流れる地下道を流されている頃、赤銅色の砂が吹きすさぶ“グリューエン大砂漠”の上空をフラフラと飛ぶ影があった。

 

 

 

言わずもがな、“竜化”状態のティオである。

 

 

「むぅ……これはちとマズイのじゃ……全く、厄介なブレスを吐きおって……致し方ない。ご主人様よ、許してたもれ」

 

 

強行突破のせいで、少なくない極光を浴びていたティオは、極光の毒素に蝕まれて傷を悪化させていた。このままでは、アンカジに到着する前に倒れてしまうと判断したティオは、勝手に秘薬を使う事をハジメに謝罪して、“宝物庫”から神水を取り出し容器ごと噛み砕いて服用した。

 

 

 

ブレスの連発と限界以上に身体能力や飛行能力に注ぎ込んだため大量に消費した魔力が、かなりの勢いで回復していく。また、傷も瞬時に治るわけではなかったが少なくとも毒素の影響は抑えられたようだ。

 

 

 

それから飛ぶこと数時間、ようやく前方にアンカジの姿が見えてきた。これ以上飛行を続ければ、アンカジの監視塔からもティオの姿が見えるだろう。ティオは、一瞬竜化を解いて行くべきかと考えたが、おそらく生きているであろう魔人族のフリードに知られた事と、きっと、今後ハジメの旅について行くなら竜化が必要な場面はいくらでもあるだろうと考えて、すっぱり割り切ることにした。

 

 

 

隠れ里はそう簡単に見つかることはないし、万が一見つかっても、竜人族はそう簡単にやられはしない。それに、五百年前の悪夢(迫害)が襲いかかったとしても、ティオが助けを求めれば、きっとハジメは力を貸してくれるはずである。何だかんだで、ハジメは身内には甘いのだ。

 

 

 

そんな考え事をしているうちに、遂に、アンカジまで数キロの位置までやって来た。見れば、監視塔の上が何やら非常に慌ただしい。勘違いで攻撃を受けても面倒なので、ティオは入場門の方へ迂回し、少し離れた場所に着地した。

 

 

 

ズドオオン!!

 

 

 

と、半ば墜落する形で砂塵を巻き上げながら着地したティオのもとへ、アンカジの兵士達が隊列を組んでやってきた。見れば、壁の上にも大勢の兵士が弓や魔法陣の刻まれた杖などをもって待機している。その時にアンカジの民の治療していたクローン達が、兵士達にティオに攻撃をやめる様に説得する。

 

 

 

もうもうと巻き上がる砂埃が風にさらわれて晴れていく。兵士達が、緊張にゴクリと喉を鳴らす音が響く。しかし、砂埃が晴れた先にいるのが黒髪金眼の美女で、しかも何やら随分と疲弊しているようだとわかると、一様に困惑したような表情となって仲間同士顔を見合わせた。

 

 

 

そんな、混乱する兵士達の隙間を通り抜けて、一人の少女が飛び出す。ティオと同じ黒髪の女の子、香織だ。後ろから危険だと兵士達や領主の息子ビィズが制止の声をかけるが、まるっと無視して猛然と、片膝をついて荒い息を吐くティオのもとへ駆け寄った。そして

 

 

 

監視塔からの報告があった時点で、香織は、ティオが竜人族であると知っていたため、ハジメ達が帰ってきたと察し、急いで駆けつけたのだ。

 

 

「ティオ!大丈夫!?」

 

「むっ、香織か……うむ、割かし平気じゃ。ちと疲れたがの」

 

 

体中、あちこちに怪我を負って疲弊した様子のティオに、香織が血相を変える。すぐ傍に膝をつくと、急いでティオの容態を診察し出した。そして、見たことのない毒素が体に入っているとわかると、すぐさま浄化と回復魔法を同時にかけ始めた。

 

 

「そんな……浄化できないなんて……」

 

 

しかし、極光の毒素は、神水ですら解毒に時間がかかる代物だ。香織の回復魔法だけではすぐさま浄化することは出来なかった。それに、顔を歪める香織だったが、先程服用した神水の効果と香織の非凡な回復魔法のおかげでかなり回復できたティオは、香織に“心配するでない、もうすぐ浄化できるのじゃ”と微笑みながら頭を撫でた。

 

 

 

本当に、ティオの表情から心配ないことを察すると、香織は肩の力を抜いて安堵の笑みを浮かべる。そして、キョロキョロと辺りを見回し、次第に不安そうな表情になった。

 

 

「ティオ……あの、ハジメくん達は? 一人なの? どうして……あの噴火は……」

 

「落ち着くのじゃ、香織。全部説明する。まずは、後ろの兵達を落ち着かせて、話せる場所に案内しておくれ」

 

「あっ、うん、そうだね」

 

 

背後で困惑にざわつく兵達に今更ながらに気がつき、香織は不安そうな表情をしながらも力強く頷いた。ティオが悲愴な表情をしていないことも、落ち着きを取り戻した要因だ。

 

 

 

香織は、ビィズや駆けつけたランズィ達のもとへ戻り、事情説明をしながらティオを落ち着いて話のできる場所に案内した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「それじゃあ、ハジメ君たちは……」

 

「うむ、あとから追いかけてくるはずじゃ。ご主人様は、微塵も諦めておらんかった。時間がなくて詳しくは聞けんかったが、何か打開策があったのは確かじゃよ」

 

 

“グリューエン大火山”で何があったのかを聞いた香織と恵里は、顔を青ざめさせて手をギュッと握り締めた。アンカジの人々を震撼させた大噴火を見たときから感じていた不安が急速に膨れ上がっていく。

 

 

 

しかし、そんな今にも倒れそうな香織が必死に握り締めた手に、ティオが、そっと自分の手を重ね合わせる。そして、力強い眼差しで香織を見つめた。

 

 

「香織、そして恵里よ。ご主人様とライデンからの伝言じゃ」

 

「ハジメくんからの?」

 

「うむ。正確には香織とミュウにはご主人様で、恵里とシルヴィにはライデンなのじゃが……まず香香織達には“後で会おう”で、恵里達には“後で合流しよう”じゃ」

 

 

 

香織と恵里は“必ず帰る”とか“心配するな”など、そんな香織達を安心させるための言葉かと思っていたのだが、“ちょっとコンビニ寄ってくるから後で合流しよう”みたいな滅茶苦茶軽い言葉だったためにポカンと口を開けて呆けてしまった。

 

 

 

脳裏に、“この程度の何に深刻になればいいんだ?”と不敵な笑みを浮かべるハジメと雷電の姿が過る。どんな困難も笑いながら打ち砕いてしまいそうな力強い姿だ。そんな姿をごく自然と思い浮かべてしまうのだから、下手に強い言葉を伝えられるよりも、自分達が一番安心できる伝言だと、香織は苦笑いをこぼした。

 

「……そっか、なら大丈夫だよね」

 

「……そうだね、雷電くん達ならきっと無事だよ」

 

「うむ、例え傍から見れば絶望的な状況でも、ご主人様やライデンなら普通にひょっこりと生還する。無条件にそう信じられるのじゃ……」

 

「うん……ハジメくんなら大丈夫。だから、私達も私がやるべき事をやらないとね」

 

「それもそうだね、僕たちでやれる事をしよう」

 

「そうじゃな。もちろん、妾も手伝うからの」

 

 

香織達は、大迷宮でハジメが行方不明になったという事実に目眩を覚えていたものの、ハジメ達なら大丈夫だと、ティオと同じくギュッと拳を握りながら信じた。そして、先にランズィ達に渡しておいた大量の“静因石”が、現在、粉末状にされ患者達に配られている頃だと判断し、衰弱した人々を癒すためにグッと瞳に力を入れて立ち上がった。

 

 

 

その後、宮殿で、領主の娘であるアイリー(十四歳)に構われているミュウとも合流し、事情説明が行われた。ハジメパパがいないことに泣きべそをかくミュウだったが、ハジメパパの娘は、そう簡単に泣いたりしないとティオに言われて、ほっぺをプクッと膨らませながら懸命に泣くのを堪えるということがあった。

 

 

 

ミュウは海人族ではあるが、“神の使徒”たる香織の連れであることと、少し関わればわかってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特にアイリーに至っては病み上がりで外出禁止となっていることもあり、ミュウを構い倒しているようだ。

 

 

 

ティオが竜人族であるという事についても、ランズィ達は思うところがあるようだったが、命懸けで“静因石”を取ってきてくれた事から、公国の恩人であることに変わりはなく、そう大きな騒ぎにはならなかった。

 

 

 

香織達は、患者達を次々と癒していったが、二日経ってもハジメ達が戻ってこないことに、次第に、表情を暗くしていった。ティオは、何度か“グリューエン大火山”までのルートを探索してみたが、ハジメ達の痕跡はなく途方に暮れた。

 

 

 

そしてティオが戻ってから三日目の晩、香織は、ミュウとティオ、恵里に提案をした。

 

 

「今日で、私の処置が必要な患者さんはいなくなったと思う。あとは、時間をかけて安静にするか、医療院のスタッフとクローンさん達に任せれば問題ないよ。だから……ハジメくん達を探しに行こうと思うの」

 

「僕も同じ事を考えていたよ。幾ら何でも南雲くん達の帰りが遅いから、直接探しに行った方が早いかもね」

 

「パパ? お迎えに行くの?」

 

「ふむ、そうじゃな。妾も、そろそろ動くべきかと思っておった」

 

 

香織と恵里の言葉に、ミュウは嬉しそうに身を乗り出し、ティオは真剣な表情で賛同した。

 

 

「でも、流石に、“グリューエン大火山”にミュウちゃんを連れて行く訳にはいかないよね」

 

「そうじゃな。それでは、ご主人様がここにミュウを預けていった意味がない。それに、今は噴火の影響でどちらにしろまともな探索は出来んじゃろ」

 

「うん、僕もそう思うよ。だから、先にエリセンに行ってミュウちゃんをママさんに会わせようと思ったんだけど……どうかな?」

 

「ふむ、それが妥当じゃろうな……よかろう。ならば、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでなら、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着できよう」

 

 

スイスイと進んでいく話に、ミュウが頭の上で“?”の花を大量に咲かせる。香織が、ミュウに丁寧にわかりやすく説明すると、直接ハジメを迎えに行けないことに悲しげな表情をした。しかし、母親にも会いたかったようで、二人でハジメパパが会いに来るのを待っていて欲しいと伝えると、渋々ではあるが納得をしたようだ。実母と天秤にかけられるとか、どこまでパパなんだと香織とティオは二人揃って苦笑いを浮かべずにはいられなかった。

 

 

 

翌日、引き止めたそうな領主や、特に熱っぽい眼差しで香織を見つめるビィズに見送られながら、竜化したティオの背に乗って香織達は西の空へと飛び立った。背後で、盛大な感謝や香織を称える人々の声が砂塵をものともせず響き渡る。

 

 

 

香織は、再びはぐれてしまった愛しい人を想い、必ず見つけると決意を胸に秘めて、真っ直ぐ前を向いた。

 

 

 

その先で、拍子抜けするほどあっさり再会するとは夢にも思わず……

 

 






プチNGシーン “合法”



ティオがグリューエン大火山から取って来てくれた静因石をメディカル・オフィサー・クローン達は、クローン・トルーパー・メディックに使用方法を教えながらも、患者に服用させていた。



なお、服用方法は静因石を砕き、粉末状にした状態で服用するも良し。または、水に溶かして注射液にして投与するも良しと何でもありだった。そのお陰で、多数の患者を救えた事に変わりはなかった。


「ティオが何とか静因石を運んで来たおかげで、この国の住民達を救う事が出来たな」

「うん!ティオのおかげで沢山の人が助かったよ!ほら見て!」


そういって香織は、一人のメディカル・オフィサー・クローンとティオに患者達がいる場所に向けさせる。ティオ達が見た光景は、何というべきか……まるで危険な薬物に手を出し、その薬物の中毒に陥った様な患者達の姿だった。(※絵面はあれだが、ちゃんとした合法であり、治療である)



中には砕いた静因石の粉末をあぶってアロマセラピーの様に使用する者もいれば、中毒者の様に痙攣しながらもケタケタと笑う者もいた。(※絵面はあれだが、ちゃんとした…以下略)


「みんな、元気になって…!」

「「いやっ絵面…」」


この時にティオとクローンは初めて意見が合い、香織にそうツッコムのだった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メルジーナ海底遺跡編
海上での遭難、思わぬ再会


何とか二月の始まりの投稿には間に合った。


61話目です。


 

 

あの後のハジメ達はグリューエン大火山のマグマの中を丸一日分、漂流されていた。その間、船内はこれでもかというくらいに荒れ続けた。いつまでもユエの“絶禍”に吸い寄せられた状態で体を固定しているわけにもいかず、荒れる船内で試行錯誤した末、ハジメは、何とか生成魔法で重力石を生成し浮遊する座席を作成した。相変わらず、ゴガンッゴガンッ!とあちこちの壁にぶつかる音を響かせ玩具のように振り回される潜水艇だったが、この浮遊座席により、ある程度シェイクされるのは防ぐことができた。

 

 

 

そしてユエとシアは、ハジメの左右にヒシッとしがみつきながら、緑光石の淡い光が照らす船内で眠れぬ時間を過ごしたのである。なお、雷電達は揺れる船内で壁にロープを括り付け、身体を固定した後に仮眠を取り、何時問題が起きても対応できる様に備えていた。

 

 

 

この時にハジメは、もしやこのままこの星のマントルまで行くんじゃないだろうな?と冷や汗と共に疑いを持ち始めた頃に、遂に先の知れない地下の旅にも終わりが来た。これまでで最大の衝撃がハジメ達を襲ったのである。その衝撃は凄まじく“金剛”の防御を貫いて直接潜水艇にダメージを与えるほどだった。そして、その衝撃と共に、潜水艇は猛烈な勢いで吹き飛ばされた。

 

 

 

激しい衝撃に、急いで“金剛”を張り直し、ハジメは、何事かとクロスビットにも搭載されている遠隔カメラの機能をもつ鉱石“遠透石”で周囲を確認した。そうして目に入った光景は、マグマで満たされた赤の世界ではなく、蛇のようにのたうつマグマと猛烈な勢いで湧き上がる気泡で荒れ狂った“海”だった。

 

 

 

どうやらハジメ達は、何処かの海底火山の噴出口から、いわゆるマグマ水蒸気爆発に巻き込まれて盛大に吹き飛ばされたらしかった。その衝撃で、船体が著しく傷ついたわけだが、何とか浸水を免れたのは不幸中の幸いというべきか、それとも流石ハジメのアーティファクトと称えるべきか微妙なところだ。

 

 

 

九死に一生を得て、何とか地上に戻れたことに安堵したハジメ達だったが、その後も、受難は続いた。

 

 

 

噴火によりくるくると回りながら、海中へと放り出されたハジメ達は、少し呆然としつつも、直ぐに潜水艇の制御を取り戻し航行を開始した。両翼や船尾が大破していたが、魔力の放出による航行も出来るので、スクリューや両翼・船尾を使った航行に比べると圧倒的に燃費は悪いものの問題はなかった。

 

 

 

再び、噴火に巻き込まれては堪らないと、急いでその場を離れたハジメ達だったが、そんなシャチ型の潜水艇を付け狙う巨大な影があった。それは、巨大なイカっぽい何か。体長三十メートルはあり、三十本以上の触手をうねうねさせている姿は、海の怪物クラーケンを彷彿とさせる。

 

 

 

そんな怪物が、潜水艇に容赦なく襲い掛かった。触手に絡め取られ、あわや円形に並んだ鋭い牙に噛み砕かれるかという所で、潜水艇搭載の武装(魚雷など)とユエの魔法で撃退した。

 

 

 

しかし、クラーケンモドキを退けても、まだ、終わらない。今度は、サメの群れに襲われたのだ。そのサメも魔物の一種で、連携を取りながら水の竜巻を放って来るという鬱陶しいことこの上ない敵だった。

 

 

 

遂には潜水艇に搭載していた武装も尽き、ユエの魔法頼りとなったが、雷電が技能の派生である“共和国軍武器・防具召喚”で水中戦に特化したスーツとアーマーである“クローン・スキューバ・アーマー”を召喚し、そのアーマーに着替えて酸素ボンベを背負いながらも、雷電が潜水艇から出て、襲撃しているサメ型の魔物を蹴散らす為にライトセーバーを片手に戦闘を開始するのだった。

 

 

 

戦闘の際にユエの魔法の援護があってか、戦闘はかなり楽だった。その間に雷電は魔物を数匹ぐらい倒した後に技能の“共和国軍兵器召喚”で“1人乗り潜水艇デヴィルフィッシュ”を召喚し、それに乗り込んで残りの魔物を倒すのだった。

 

 

 

魔物達を撃退できた後に雷電がハジメ達に先に海面に浮上すると告げた後にデヴィルフィッシュで海面へと移動する。そして海面に到着した雷電は“共和国軍兵器召喚”で共和国宇宙軍主力艦である“ヴェネター級スター・デストロイヤー”を召喚し、アセンション・ケーブルを使ってヴェネター級に乗り込むのだった。

 

 

 

ヴェネター級に乗り込んだ雷電は、この船を動かす為の兵士を9000人を召喚させた後に“念話”でハジメにこちらの魔力を辿って、海面に上がって来てくれと指示を出す。そして数分後、ハジメ達が乗る潜水艇が海面に上がり、ハジメ達を潜水艇ごとヴェネター級へと回収するのだった。

 

 

 

ハジメ達を回収した後、見渡す限り海しかない場所で、方角的に大陸があるであろう方向へ進んだ。進む際に、ヴェネター級は海水に着水したまま航行していた。デュラスチールを装甲に使っている為に出来れば海水に浸からせるのはNGなのだが、他の船と接触した時の場合の事を考えて苦し紛れの偽造である。因みに、回収したハジメの潜水艇は下部のハンガーに収納され、そこでハジメとクローン・トルーパー・フライト・クルー等が潜水艇の修繕作業が半日も掛けて修繕を完了させるのだった。

 

 

 

無事に海面から出てから更に二日も経ち、“グリューエン大火山”攻略から現在まで三日も経った。“グリューエン大火山”攻略は、まさに怒涛の展開だった。どう考えてもハジメ達以外では生き残れる可能性はないと言える状況だった。思わず、ハジメが、某男女平等パンチの使い手の如く“不幸だー!”と叫びたくなったのも頷けるだろう。なお、食料に関してはヴェネター級の甲板の上で釣りをし、魚を釣り上げてそれを食料にしていたので問題はなかったものの、三日間も同じ魚料理では飽きるのだが、生きる為に島に着くまでは我慢するハジメ達だった。

 

 

 

この三日間の間、ハジメの左腕の義手の修繕を終えた後に暇がてらに清水とデルタ、不良分隊専用にハジメと清水が元いた世界こと地球で生産されている銃の一つ、“HK416”をベースに独自に改良を施し、ハジメお手製のカスタムライフルのHK416改こと“5.56mm MkⅢアサルトライフル”を七梃も錬成で製造する。更には対ファースト・オーダー戦を想定してプラストイド合金製複合材のアーマーを貫通、又は破壊できるショットガン“AA-12”もMkⅢアサルトライフルとは少なめに三梃だけ錬成で製造し、弾薬も12ゲージバックショット弾を加え、ハジメお手製のオリジナル弾である“12ゲージ小型グレネード弾”を錬成して作り出した。

 

 

 

この12ゲージ小型グレネード弾は、別名“12ゲージ榴弾”と呼ばれる様になり、バックショット弾と12ゲージ榴弾をそれぞれ900個も錬成で作り出し、いずれファースト・オーダー戦以外にも迷宮攻略においても役に立つだろう。

 

 

 

そんなこんなで三日間も海の上を漂いながらも何時島に辿り着くか分からない長い航海を続けるのだったのだが、突如とそれは終わりを迎えたのだ。ヴェネター級の甲板の上で見たこともない魚の丸焼きに舌鼓を打っていたシアのウサミミが、突如、ピコンッ!と跳ねたかと思うと、忙しなく動き始めた。次いで、ハジメも“ん?”と何かの気配を感じたようで、全長六十センチ近くある魚を頬張りながら、視線を動かした。雷電もフォースの揺らぎを感じ取り、何かが近づいていることに気付き、その感じ取った方角に目を向ける。

 

 

 

直後、ヴェネター級を囲むようにして、先が三股になっている槍を突き出した複数の人が、ザバッ!と音を立てて海の中から一斉に現れた。数は、二十人ほど。その誰もが、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どう見ても、海人族の集団だ。彼らの目はいずれも、警戒心に溢れ剣呑に細められている。艦橋にいるクローン達も突如の海人族出現に驚いたが、瞬時に危険な状況であると判断し、船内にいるクローン達にスクランブル警報を発令し、即座にクローン達が武装し、甲板上に集結する。

 

 

 

ハジメ達を含むクローン軍と海人族。一触即発の状況の中、海人族の一人、ハジメの正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながら、ハジメに問い掛けた。

 

 

「お前達は何者だ?なぜ、ここにいる?その乗っているものは何だ?」

 

 

ハジメは、頬を膨らませながら目一杯詰め込んだ魚肉を咀嚼し飲み込むので忙しい。敵対するつもりはないので、早く返答しようと思うのだが、如何せん、今食べている魚は弾力があってずっしりとボリュームのある強敵。今しばらく飲み込むのに時間がかかる。

 

 

 

ハジメとしては、至って真面目な態度を取っているつもりなのだが、どう見ても、槍を突きつけられ、包囲までされているのに余裕の態度で食事を優先しているふてぶてしい奴にしか見えなかった。

 

 

 

尋問した男の額に青筋が浮かぶ。どうにも、ただ海にいる人間を見つけたにしては殺気立ち過ぎているようで、そのことに疑問を抱きつつも、一触即発の状況を打開しようと、ハジメの代わりにシアが答えようとした。

 

 

「あ、あの、落ち着いて下さい。私達はですね……」

 

「黙れ! 兎人族如きが勝手に口を開くな!」

 

 

やはり兎人族の地位は、樹海の外の亜人族の中でも低いようだ。妙に殺気立っていることもあり、舐めた態度をとるハジメ(海人族にはそう見える)に答えさせたいという意地のようなものもあるのだろう。槍の矛先がシアの方を向き、勢いよく突き出された。

 

 

 

身体強化したシアに、海人族の攻撃が通るわけがないのだが、突き出された槍はシアが躱さなければ、浅く頬に当たっている位置だ。おそらく、少し傷を付けてハジメに警告しようとしたのだろう。やはり、少々やりすぎ感がある。海人族はこれほど苛烈な種族ではなかったはずだ。

 

 

 

だが、例えどんな事情があろうとそれは完全に悪手だった。雷電は、海人族の槍がシアの頬に当たる前にフォースで動きを止め、そしてフォース・プルで槍だけを引き寄せ、海人族から槍を奪い取る。そして奪い取った槍を手の握力だけで圧し折った。

 

 

「「「なぁっ!?」」」

 

 

流石の海人族も面を喰らった様な顔をしていた。そんな海人族を如何でもいいかの様に雷電はこの面倒ごとに呆れていた。

 

 

「(これはまた…荒事前提の交渉になりそうだ) ……落ち着け、俺達はお前たちの敵ではない。それとハジメ、それを早く飲み込まないと会話すらならないだろう?」

 

「ちょっふぉまふぇ、ふぐのみふぉむ」

 

 

“ちょっと待て、直ぐに飲み込む”とでも言ったんだろうが、口に含んでいるせいでうまく言えてない。あと、ユエが急いで飲み込もうとしているハジメを見て微笑ましそうにしているのも、ちょっと今はやめてほしい。周りから、もはや殺気のようなものまで感じる。できるだけ早く、穏便に済ませた方がいいだろう。

 

 

「……先ず言っておくことがある。俺達は別に海人族とはあまり争いたくない。だから、穏便に話し合いといかないか?そっちから手を出されると、こちらとしては反撃せざるを得ない」

 

 

ハジメ達もミュウとおなじ海人族をあまり傷つけたくはない。それが原因でミュウが悲しむというのも、あまりいい気はしない。ただ、海人族の兵士たちは相当警戒心が高いようで、雷電の言葉をまるっきり信じてくれようとしない。それどころか、投擲用らしき短い銛を構えだした。

 

 

「そうやって、あの子も攫ったのか? また、我らの子を攫いに来たのか!」

 

「もう魔法を使う隙など与えんぞ! 海は我らの領域。無事に帰れると思うな!」

 

「手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」

 

「安心しろ。王国に引き渡すまで生かしてやる。状態は保障しないがな」

 

 

何やら尋常でない様子だ。警戒心というより、その目には強烈な恨みが含まれているように見える。“我らの子を攫う”という言葉から、彼等が殺気立っている原因を何となく察するハジメと雷電。もしかするとミュウ誘拐の犯人と勘違いされているのかもしれない。見たことのない乗り物に乗り、兎人族の奴隷を連れ、海人族の警戒範囲をうろつく人間……確かに誤解されてもおかしくないかもしれない。

 

 

 

亜人族は、種族における結束や情が非常に強い。他種族間でもそうだが、特に同種族において、その傾向は顕著だ。シアのために一族総出で樹海を飛び出したハウリア族しかり、族長を傷つけられて長老会議の決定を無視してまで復讐に飛び出した熊人族しかり。海人族も例に漏れず、例え他人の子であっても自分の子と変わらないくらい大切なのだろう。

 

 

 

ハジメは内心、“わざわざ俺を父親扱いしなくても、父親っぽい奴等が沢山いるじゃねぇか”と少し拗ねの入った文句を、ここにはいないミュウに向けて苦笑い混じりに呟いた。そして、ハジメは、ミュウの名前を出して誤解を解こうとした時に、雷電はクローン達にある指示を出す。

 

 

「……やっぱりこうなるか。こういう交渉の時だけは荒事になるのはジェダイの宿命か?」

 

「おいっ雷電、お前、こうなることを知っていたのか?」

 

「出来ればこうなっては欲しくなかったけどな……くるぞ」

 

「やれぇ!!」

 

 

雷電が海人族が攻撃してくることを告げると同時に海人族はモリを次々と投擲し始めてしまった。下半身を海に付けて立ち泳ぎしながらだというのに、相当な速さで飛来するモリは、なるほど、確かに殺すつもりはないようで肩や足を狙ったものばかりだ。しかもご丁寧に、水中から船を突き上げているらしく、船体が激しく揺れている。

 

 

 

普通の人間なら、バランスを崩して回避行動が間に合わずモリに射抜かれるか、海に落ちて海人族に制圧されるかが関の山だろう。しかし、それはあくまで普通の人間なら。

 

 

「シア」

 

「はいですぅ!」

 

 

雷電がシアに掛け声を掛けたと同時に全方位から飛んで来た銛を雷電とシアはフォースで銛の動きを止める。フォースを魔法と見分けがつかない海人族達が驚愕している間に、ユエは雷球を二十個ほど周囲に浮かべる。海人族達は、雷電達に気を取られている時にユエの周りに漂うバチバチと放電する雷球を目撃する。

 

 

「っ!?た、退避ぃいい!!」

 

 

悲鳴じみた号令が響く。サッと青ざめさせた彼等は急いで逃げようと踵を返した。が、時すでに遅し。

 

 

 

ビィシャアアア!! バリバリバリッ!!

 

 

 

雷球は、それぞれ別方向に飛び、海人族達を一人も逃さず……ほどよく感電させた。そこかしこで“アバババババババッ!?”という悲鳴が聞こえ、しばらくすると、プカーと二十一人の海人族が浮かび上がった。流石の雷電や清水、クローン達も“これは酷い”と思わざる負えなかった。

 

 

「ユエ、お疲れさん」

 

「ん……ハジメ、この人達が言っていたのって」

 

「まぁ、ミュウのことだろうな」

 

「エリセンに行っても色々ありそうですね。流石ハジメさん。何の問題もなく過ごせた町が皆無という……」

 

「やめてくれよ、シア。実は、ちょっと気にしてたんだ……ちくしょう。ミュウがいれば何の心配もなかったのに……」

 

「まぁ、仕方ないさ。今回の場合、向こうは切羽詰まっていたんだからな?……とりあえず、浮かんでいる海人族を回収しよう」

 

 

ハジメは頭を抱えながら溜息を吐き、雷電はそんなハジメにフォローを回すのだった。そんな感じで、雷電達は土左衛門になっている海人族達の回収に動き出した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

全ての海人族を回収した後に、船内の収容所に白目を剥いてアフロになっている海人族達を乗せ海原を進む。

 

 

 

ユエが気をきかせて、一人だけ雷撃を弱くしておいたので直ぐに目を覚まさせ事情を説明し港に案内させた。

 

 

 

ハジメが、当初ミュウの名と特徴を知っていたことに、やはり貴様が犯人か!と暴れた海人族の男だったが、ハジメがついイラっとして大人しくなるまで無表情で往復ビンタを繰り返すと、改心してきちんと話を聞いてくれるようになった。

 

 

 

そして、ミュウが現在、アンカジまで戻ってきていることを話すと、一度エリセンまで行き、そこで同行者を決めて一緒にアンカジまで行って欲しいと頼まれた。海人族としても、真偽の確かめようがないハジメの話を鵜呑みにしてミュウの手掛かりかもしれないハジメ達だけをアンカジに行かせるわけにはいかないのだろう。

 

 

 

目の前でエリセンに案内している青年の他にも、先程、ハジメに吠えた者達は直接ミュウを知っている者達だったらしい。ミュウ誘拐の折、母親が負傷したこともあって余計感情的になっていたようだ。ミュウと再会した時に、そんな知り合い達をぶっ飛ばした挙句、適当に放置しましたというのも気が引けたので、ハジメは仕方なく青年の頼みを聞くことにした。

 

 

 

そうして、海の上を航海すること数時間……

 

 

「あっ、ハジメさん!マスター!見えてきましたよ!町ですぅ!やっと人のいる場所ですよぉ!」

 

「ん?おぉ、ほんとに海のド真ん中にあるんだなぁ」

 

「……あれが海上の町“エリセン”か。なんだが、惑星カミーノの首都ティポカシティの事を思い出すな」

 

 

シアが瞳を輝かせながら指を指し“エリセン”の存在を伝える。視線を向けたハジメの眼にも、確かに海上に浮かぶ大きな町が見え始めた。雷電はエリセンを見て、何故かクローン達の生まれ故郷である惑星カミーノの首都ティポカシティのことを思い出していた。

 

 

 

エリセンに入港しようと考えたが、ヴェネター級では大きすぎるが故に目立ちすぎる。そこで修繕を終えてあるハジメの潜水艇で向かうことになった。そうしてハジメの潜水艇は、桟橋が数多く突き出た場所へ向かう。そして、見たこともない乗り物に乗ってやって来たハジメ達に目を丸くしている海人族達や観光やら商売でやって来たであろう人間達を尻目に、空いている場所に停泊した。

 

 

 

すると、すぐ傍に来たことで、潜水艇の荷台に白目をむいて倒れる数十人の海人族達を目撃した海人族達が、大声で騒ぎ出した。ハジメは、事情説明をしてくれる青年がいるので、大丈夫だろうと考え、取り敢えず、青年と協力して桟橋に気絶中の彼等を降ろしていく。

 

 

 

そうこうしているうちに、完全武装した海人族と人間の兵士が詰めかけてきた。青年が、事情を説明するため前に進み出て、何やらお偉いさんらしき人と話し始める。ハジメは、早く、アンカジに戻って香織達と合流したかったので、心の中で“さっさと同行者決めろや!”と多少イラつきながら、その様子を見守っていた。ハジメのとなりにいた雷電が、イラついているハジメを“落ち着けよ”と宥める。

 

 

 

しかし、穏便にいってくれというハジメの思いは、やはりそう簡単に叶いはしないらしい。何やら慌てている青年を押しのけ、兵士達が押し寄せてきた。狭い桟橋の上なので逃げ場などなく、あっという間に包囲されるハジメ達。

 

 

「大人しくしろ。事の真偽がはっきりするまで、お前達を拘束させてもらう」

 

「おいおい、話はちゃんと聞いたのか?」

 

「もちろんだ。確認には我々の人員を行かせればいい。お前達が行く必要はない」

 

 

にべもない態度と言葉。ハジメはイラっとしつつも、ミュウの故郷だと自分に言い聞かせて自制する。

 

「あのな。俺達だって仲間が待っているんだ。直ぐにでもアンカジに向かいたいところを、わざわざ勘違いで襲って来た奴らを送り届けに来てやったんだぞ?」

 

「果たして勘違いかどうか……攫われた子がアンカジにいなければ、エリセンの管轄内で正体不明の船に乗ってうろついていた不審者ということになる。道中で逃げ出さないとも限らないだろう?」

 

「どんなタイミングだよ。逃げ出すなら、こいつらを全滅させた時点で逃げ出しているっつうの」

 

「その件もだ。お前達が無断で管轄内に入ったことに変わりはない。それを発見した自警団の団員を襲ったのだから、そう簡単に自由にさせるわけには行かないな」

 

「殺気立って話も聞かず、襲ってきたのはコイツ等だろうが。それとも、おとなしく手足を落とされていれば良かったってか?……いい加減にしとけよ」

 

 

ハジメは剣呑に目を細めた。目の前の兵士達のリーダーらしき人間族の男は、ハジメから溢れ出る重い空気に眉をしかめる。

 

 

 

彼の胸元のワッペンにはハイリヒ王国の紋章が入っており、国が保護の名目で送り込んでいる駐在部隊の隊長格であると推測できる。海人族側の、おそらく自警団と呼ばれた者達も、ハジメの雰囲気に及び腰になりながらも引かない様子だ。

 

 

 

ハジメとしては、ミュウの故郷であるし、大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の正確な場所を知らないので、しばらく探索に時間がかかる可能性を考えると拠点となるエリセンで問題を起こしたくはなかった。アンカジにミュウがいるのは確実であるし、そうすれば疑惑も解けると頭ではわかっている。しかし、この世界におけるあらゆる理不尽に対して、ハジメは、条件反射ともいえる敵愾心を持っている。なので、そう簡単に言うことは聞く気にはなれなかった。

 

 

 

まさに、一触即発。

 

 

 

緊張感が高まる中、ハジメが、やはりミュウの故郷で暴れまわるわけにはいかないかと、譲歩しようとしたその時、シアと雷電が何かを感じ取る。

 

 

「ん?今なにか……」

 

「この気配……空からか?」

 

 

シアが、ウサミミをピコピコと動かしながらキョロキョロと空を見渡し始めた。雷電も感じ取った方角である空を見渡す。ハジメは、隊長格の男から目を逸らさずに“どうした?”と尋ねる。だが、それにシアが答える前に、ハジメにも薄らと声と気配が感じられた。

 

 

「――ッ」

 

「あ?なんだ?」

 

「なぁ、何か上から声が聞こえるのだが…?」

 

「――パッ!」

 

「おい、まさか!?」

 

「あぁ…ハジメ、問題発生だ。」

 

「――パパぁー!!」

 

 

ハジメが慌てて空を見上げると、何と、遥か上空から、小さな人影が落ちてきているところだった!

 

 

 

両手を広げて、自由落下しているというのに満面の笑みを浮かべるその人影は……

 

 

「ミュウッ!?」

 

 

そう、ミュウだ。ミュウがスカイダイビングしている。パラシュートなしで。よく見れば、その背後から、慌てたように落下してくる黒竜姿のティオとその背に乗った、やはり焦り顔の香織と恵里、シルヴィの姿が見えた。

 

 

 

ハジメと雷電は、落ちてくる人影がミュウだと認識するや否や“空力”と“縮地”を発動。その場から一気に跳躍した。その衝撃で桟橋が吹き飛び、兵士達が悲鳴を上げながら海に落ちたが知ったことではない。

 

 

 

一気に百メートル以上跳んだハジメと雷電は、更に“空力”を使ってミュウが落下して来る場所へ跳躍し、雷電がフォースでミュウの落下速度を落とし、ハジメは確実にミュウを腕の中に収めると、神業とも言うべき速度調整で落下し、衝撃の一切を完璧に殺した。

 

 

 

そして、ミュウを抱きしめたまま“空力”を使ってピョンピョンと跳ねながら地上へと戻る。内心、冷や汗を滝のように流しながら。

 

 

「パパッ!」

 

 

そんなハジメの内心など露ほどにも知らず、満面の笑みでハジメの胸元に顔をスリスリと擦りつけるミュウ。おそらく、上空で真下にハジメがいるとティオ辺りにでも教えられたのだろう。

 

 

 

そして、事故かあるいは故意かは分からないが、ハジメ目掛けて落下した。落下中の笑顔を見れば、ハジメが受け止めてくれるということを微塵も疑っていなかったに違いない。

 

 

 

だからといって、フリーフォールを満面の笑みで行うなど尋常な胆力ではない。そんな四歳児、いて堪るか!と内心ツッコミを入れながら、地上に降りたら盛大に叱ってやらねばなるまいと胸元のミュウを撫でながら、眉根を寄せるハジメであった。流石の雷電もミュウが空から振って来たことには驚いたが、もう二度とこんなことは起きないでほしいと思った。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

母娘の再会、謎の葬儀屋(アンダーテイカー)

久しぶりの投稿でネタを入れ過ぎた。…しかし、後悔はない。


62話目です。


 

 

正直に言って寿命が縮んだと思わせるくらいにビックリした。何せ、向こう(アンカジ)にいる筈のミュウがこのエリセンの上空から落下する様にやって来たのだから。その結果、ミュウはハジメのお叱りを受けていた。それも当然である、ミュウはハジメに会いたいが故にパラシュート無しでの降下をしたのだ。

 

 

「ひっぐ、ぐすっ、ひぅ」

 

 

あれから数分後、ハジメからしこたま叱られたミュウは泣きべそをかいていた。周りの観衆や警備兵たちも、妙に静まり返っている。主な理由はさらわれたはずの海人族の少女が突然空から降ってきたり、俺達がそれを思い切り跳躍してミュウをキャッチしたり、今度は黒竜が背中に人を乗せて空から降りてきたというのもあるのだろうが、やはりミュウの()()()()()が原因だろう。

 

 

「ぐすっ、パパ、ごめんなしゃい」

 

「もうあんな危ない事しないって約束できるか?」

 

「うん、しゅる」

 

「よし、ならいい。ほら、来な」

 

「パパぁー!」

 

 

そう、ミュウがハジメのことを“パパ”と呼んでいることに困惑を隠せないでいる感じである。因みに、先ほどの隊長格の人物には雷電が今度こそ懇切丁寧に説明した。イルワからの依頼書と俺達が“金”ランクの冒険者である証も見せて。

 

 

 

それで、隊長も一応は納得してくれた。まぁ、後にもいろいろと事情聴取されそうな気もするが。

だが、今はハジメたちの方はそっとしておくとしよう。どうやら、ティオと香織も相当心配していたようで、ハジメに抱きついている。

 

 

 

そしてシルヴィもまた、清水と無事に再会できたことに喜び、香織達と同様に主人である清水に抱きつくのだった。……どうやら清水もハジメと同じ様にそっとしておく必要がありそうだ。それを見ていたデルタと不良分隊(主にスコーチとレッカー)は、そんな清水に対してちょっとばかしの茶化しを入れてからかうのだった。

 

 

「……そろそろいいか?」

 

 

そこに、隊長がちょっと複雑そうに声をかけてくる。先ほどから放置されたのは納得いかないが、なにやら大変なことがあったのは察したからどう声をかければいいかわからない、ということか。

まぁ、先ほどまでの警戒心丸出しの声とは違って、一定の敬意は払っているようだが。

 

 

「あぁ、すまない。こっちもいろいろとあってな。それじゃあ、まずはあの子の母親に会わせてもらってもよろしいだろうか?諸々の事情聴取とかは、せめてその後にしてくれると助かる。どのみち、しばらくはエリセンに滞在する予定はあるからな」

 

 

正直、報告したところで、って話ではあるが。俺達の知ってることなんて、もうとっくに王都に報告されているだろう。おそらく、救援を送る準備をしているはずだ。

 

 

「あぁ、それくらいはかまわない。それと、その子は母親の状態を?」

 

「いや、知らない。でも、心配はいらないだろ。こちらには最高の治療師と、最高の薬もある。その点については問題ない」

 

「そうか、わかった。では、落ち着いたらまた尋ねさせてもらおう」

 

 

そう言って、隊長はサルゼと名乗り、野次馬を散らして事態の収拾に入った。どうやら、職務に忠実な人間のようだ。先ほどの高圧的な態度も、自分が隊長だと自覚しての行動だったらしい。とりあえず、ミュウと話したそうにしている者たちを視線で制して、ハジメたちに呼びかける。

 

 

「ハジメ、ミュウ、そろそろ行こう。ミュウ、君の母親のところまで案内を頼めるか?」

 

「わかったの、ライデンおじちゃん!パパ、パパ!早くお家に帰るの!ママが待ってるの!ママに会いたいの!」

 

「そうだな……早く、会いに行こう」

 

 

雷電からミュウの母親のところまでの道案内を頼まれたミュウは、ハジメの手を懸命に引っ張り、早く早く!とハジメを急かす。彼女にとっては、約二ヶ月ぶりの我が家と母親なのだ。無理もない。道中も、ハジメ達が構うので普段は笑っていたが、夜、寝る時などに、やはり母親が恋しくなるようで、そういう時は特に甘えん坊になっていた。

 

 

 

ミュウの案内に従って彼女の家に向かう道中、顔を寄せて来た香織が不安そうな小声で尋ねる。

 

 

「ハジメくん。さっきの兵士さんとの話って……」

 

「いや、命に関わるようなものじゃないらしい。ただ、怪我が酷いのと、後は、精神的なものだそうだ……精神の方はミュウがいれば問題ない。怪我の方は詳しく見てやってくれ」

 

「うん。任せて」

 

 

そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と、数人の男女の声だ。

 

 

「レミア、落ち着くんだ! その足じゃ無理だ!」

 

「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

 

「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」

 

 

どうやら、家を飛び出そうとしている女性を、数人の男女が抑えているようである。おそらく、知り合いがミュウの帰還を母親に伝えたのだろう。

 

 

 

そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア! と輝かせた。そして、玄関口で倒れ込んでいる二十代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。

 

「ママーー!!」

 

「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」

 

 

ミュウは、ステテテテー!と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちている女性──母親であるレミアの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。

 

 

 

もう二度と離れないというように固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。

 

 

 

レミアは、何度も何度もミュウに「ごめんなさい」と繰り返していた。それは、目を離してしまったことか、それとも迎えに行ってあげられなかったことか、あるいはその両方か。

 

 

 

娘が無事だった事に対する安堵と守れなかった事に対する不甲斐なさにポロポロと涙をこぼすレミアに、ミュウは心配そうな眼差しを向けながら、その頭を優しく撫でた。

 

 

「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」

 

「ミュウ……」

 

 

まさか、まだ四歳の娘に慰められるとは思わず、レミアは涙で滲む瞳をまん丸に見開いて、ミュウを見つめた。

 

 

 

ミュウは、真っ直ぐレミアを見つめており、その瞳には確かに、レミアを気遣う気持ちが宿っていた。攫われる前は、人一倍甘えん坊で寂しがり屋だった娘が、自分の方が遥かに辛い思いをしたはずなのに、再会して直ぐに自分のことより母親に心を砕いている。

 

 

 

驚いて思わずマジマジとミュウを見つめるレミアに、ミュウは、ニッコリと笑うと、今度は自分からレミアを抱きしめた。体に、あるいは心に酷い傷でも負っているのではないかと眠れぬ夜を過ごしながら、自分は心配の余り心を病みかけていたというのに、娘はむしろ成長して帰って来たように見える。

 

 

 

その事実に、レミアは、つい苦笑いをこぼした。肩の力が抜け、涙も止まり、その瞳には、ただただ娘への愛おしさが宿っている。再び抱きしめ合ったミュウとレミアだったが、突如、ミュウが悲鳴じみた声を上げた。

 

 

「ママ! あし! どうしたの! けがしたの!? いたいの!?」

 

 

どうやら、肩越しにレミアの足の状態に気がついたらしい。彼女のロングスカートから覗いている両足は、包帯でぐるぐる巻きにされており、痛々しい有様だった。

 

 

 

これが、サルゼが言っていたことであり、エリセンに来る道中でハジメが青年から聞いていたことだ。ミュウを攫ったこともだが、母親であるレミアに歩けなくなる程の重傷を負わせたことも、海人族達があれ程殺気立っていた理由の一つだったのだ。

 

 

 

ミュウは、レミアとはぐれた際に攫われたと言っていたが、海人族側からすれば目撃者がいないなら誘拐とは断定できないはずであり、彼等がそう断言していたのは、レミアが実際に犯人と遭遇したからなのだ。

 

 

 

レミアは、はぐれたミュウを探している時に、海岸の近くで砂浜の足跡を消している怪しげな男達を発見した。嫌な予感がしたものの、取り敢えず娘を知らないか尋ねようと近付いたところ……男は“しまった”という表情をして、いきなり詠唱を始めたらしい。

 

 

 

レミアは、ミュウがいなくなったことに彼等が関与していると確信し、何とかミュウを取り返そうと、足跡の続いている方向へ走り出そうとした。

 

 

 

しかし、もう一人の男に殴りつけられ転倒し、そこへ追い打ちを掛けるように炎弾が放たれた。幸い、何とか上半身への直撃は避けたものの足に被弾し、そのまま衝撃で吹き飛ばされ海へと落ちた。レミアは、痛みと衝撃で気を失い、気が付けば帰りの遅いレミア達を捜索しに来た自警団の人達に助けられていたのだ。

 

 

 

一命は取り留めたものの、時間が経っていたこともあり、レミアの足は神経をやられていて、もう歩くことも今までのように泳ぐことも出来ない状態になってしまった。当然、娘を探しに行こうとしたレミアだが、そんな足では捜索など出来るはずもなく、結局、自警団と王国に任せるしかなかった。

 

 

 

そんな事情があり、レミアは現在、立っていることもままならない状態なのである。

 

 

 

レミアは、これ以上、娘に心配ばかりかけられないと笑顔を見せて、ミュウと同じように“大丈夫”と伝えようとした。しかし、それより早くミュウは、この世でもっとも頼りにしている“パパ”に助けを求めた。

 

「パパぁ!ママを助けて!ママの足が痛いの!」

 

「えっ!?ミ、ミュウ?いま、なんて……」

 

「パパ!はやくぅ!」

 

「あら?あらら?やっぱり、パパって言ったの?ミュウ、パパって?」

 

 

混乱し頭上に大量の“?”を浮かべるレミア。周囲の人々もザワザワと騒ぎ出した。あちこちから“レミアが……再婚?そんな……バカナ”だの、“レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね!おめでたいわ!”だの、“ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……”だの、“パパ…だと!?俺のことか!?”だの、“きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない”だの、“おい、緊急集会だ!レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ!こりゃあ、荒れるぞ!”などの、色々危ない発言が飛び交っている。

 

 

 

どうやら、レミアとミュウは、かなり人気のある母娘のようだ。レミアは、まだ、二十代半ばと若く、今は、かなりやつれてしまっているが、ミュウによく似た整った顔立ちをしている。復調すれば、おっとり系の美人として人目を惹くだろうことは容易く想像できるので、人気があるのも頷ける。

 

 

 

刻一刻と大きくなる喧騒に、“行きたくねぇなぁ…”と表情を引き攣らせるハジメ。その様子を見て何かと察し、内心苦笑いする雷電と清水、クローン達。ミュウがハジメをパパと呼ぶようになった経緯を説明すれば、あくまでパパ“代わり(内心は別としても)”であって、決してレミアとの再婚を狙っているわけではないと分かってもらえるだろうと簡単に考えていたのだが、どうやら、誤解が物凄い勢いで加速しているようだ。

 

 

 

だが、ある意味僥倖かもしれないとハジメは考えた。ミュウは母親の元に残して、ハジメ達は旅を続けなければならない。“メルジーネ海底遺跡”を攻略すれば、ミュウとはお別れなのだ。故郷から遠く離れた地で、母親から無理やり引き離されたミュウの寄る辺がハジメ達だったわけだが、母親の元に戻れば、最初は悲しむかもしれないが時間がハジメ達への思いを薄れさせるだろうと考えていた。周囲の人々の、レミア達母娘への関心の強さは、きっと、その助けとなるはずだ。

 

 

「パパぁ!はやくぅ!ママをたすけて!」

 

 

ミュウの視線が、がっちりハジメを捉えているので、その視線をたどりレミアも周囲の人々もハジメの存在に気がついたようだ。ハジメは観念して、レミア達母娘へと歩み寄った。

 

 

「パパ、ママが……」

 

「大丈夫だ、ミュウ……ちゃんと治る。だから、泣きそうな顔するな」

 

「はいなの……」

 

 

ハジメが、泣きそうな表情で振り返るミュウの頭をくしゃくしゃと撫でながら、視線をレミアに向ける。レミアは、ポカンとした表情でハジメを見つめていた。無理もないだろうと思いつつも、ハジメの登場で益々騒ぎが大きくなったので、ハジメは、取り敢えず、治療のためにも家の中に入ることにした。

 

 

「悪いが、ちょっと失礼するぞ?」

 

「え?…ッ!?あらら?」

 

 

ハジメは、ヒョイと全く重さを感じさせずにレミアをお姫様抱っこすると、ミュウに先導してもらってレミアを家の中に運び入れた。レミアを抱き上げたことに、背後で悲鳴と怒号が上がっていたが、無視だ。当のレミアは、突然、抱き上げられたことに目を白黒させている。

 

 

 

家の中に入ると、リビングのソファーが目に入ったので、ハジメはそこへレミアをそっと下ろした。そして、ソファーに座りハジメのことを目をぱちくりさせながら見つめるレミアの前にかしずき、香織を呼んだ。

 

 

「香織、どうだ?」

 

「ちょっと見てみるね……レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい」

 

「は、はい? えっと、どういう状況なのかしら?」

 

 

突然、攫われた娘が帰ってきたと思ったら、その娘がパパと慕う男が現れて、更に、見知らぬ美女・美少女が家の中に集まっているという状況に、レミアは、困ったように眉を八の字にしている。

 

 

 

そうこうしているうちに、香織の診察も終わり、レミアの足は神経を傷つけてはいるものの香織の回復魔法できちんと治癒できることが伝えられた。

 

 

「これで治療は終わりです。ただ、少し時間がかかります。デリケートな場所なので、後遺症なく治療するには、三日ほど掛けてゆっくり、少しずつ癒していくのがいいと思います。それまで、不便だと思いますけど、必ず治しますから安心して下さいね」

 

「あらあら、まあまあ。もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」

 

「ふふ、いいんですよ。ミュウちゃんのお母さんなんですから」

 

「えっと、そういえば、皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、ミュウは、貴方のことを“パパ”と……」

 

 

香織が、早速、レミアの足を治療している間に、ハジメ達は、事の経緯を説明することにした。フューレンでのミュウとの出会いと騒動、そしてパパと呼ぶようになった経緯など。香織に治療されながら、全てを聞いたレミアは、その場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。

 

 

「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」

 

 

気にするなとハジメ達は伝えたが、レミアとしても娘の命の恩人に礼の一つもしないでは納得できない。そうこうしているうちに、香織の治療もひと段落着いたので、今日の宿を探すからと暇を伝えると、レミアはこれ幸いと、自分の家を使って欲しいと訴えた。

 

 

「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね?ミュウ?ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」

 

「?…パパ、どこかに行くの?」

 

 

レミアの言葉に、レミアの膝枕でうとうとしていたミュウは目をぱちくりさせて目を覚まし、次いでキョトンとした。どうやら、ミュウの中でハジメが自分の家に滞在することは物理法則より当たり前のことらしい。なぜ、レミアがそんな事を聞くのかわからないと言った表情だ。

 

 

「母親の元に送り届けたら、少しずつ距離を取ろうかと思っていたんだが……」

 

「あらあら、うふふ。パパが、娘から距離を取るなんていけませんよ?」

 

「いや、それは説明しただろ?俺達は…「ハジメ、ここは大人しくレミアさんの好意を受け取ろう」…雷電?」

 

 

ハジメは雷電の予想外の言葉に耳を傾ける。

 

 

「ハジメ、ミュウを母親に渡した後、直ぐにお別れじゃあ、ミュウが余計に寂しい想いをするだけだぞ」

 

「嫌、しかしなぁ……」

 

「それに……短い時間であるが、ミュウはお前のことを父親と認識しているんだ。俺の場合は親戚のおじいちゃんという認識ではあるが、ミュウはお前のことが好きなんだ。もう一人の父親みたいにな?逆に聞くが、お前とて、ミュウと別れるのは少しばかり心寂しい筈だろう?」

 

「うっ……そ、それは……」

 

「だからこそだ、ハジメ。改めてここはレミアさんの好意は受け取ろう。な?……レミアさんも、それでいいですよね?」

 

「はい、ライデンさん。いずれ、旅立たれることは承知しています。ですが、だからこそです。ハジメさん、お別れの日まで“パパ”でいてあげて下さい。距離を取られた挙句、さようならでは……ね?」

 

「……まぁ、それもそうか……」

 

「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと“パパ”でもいいのですよ?先程、“一生かけて”と言ってしまいましたし……」

 

 

そんな事を言って、少し赤く染まった頬に片手を当てながら“うふふ♡”と笑みをこぼすレミア。おっとりした微笑みは、普通なら和むものなのだろうが……ハジメの周囲にはブリザードが発生している。

 

 

「そういう冗談はよしてくれ……空気が冷たいだろうが……」

 

「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……ミュウもパパ欲しいわよね?」

 

「ふぇ? パパはパパだよ?」

 

「うふふ、だそうですよ、パパ?」

 

 

ブリザードが激しさを増す。冷たい空気に気が付いているのかいないのか分からないが、おっとりした雰囲気で、冗談とも本気とも付かない事をいうレミア。“いい度胸だ、ゴラァ!”という視線を送るユエ達にも“あらあら、うふふ”と微笑むだけで、柳に風と受け流している。意外に大物なのかもしれない。その時に雷電は、フォースの予知で、いずれ自分もその様な体験をする光景を見て、“いずれ俺も、ハジメと同じ目に合うのか…?”と少しばかり不安になった。

 

 

 

何だ彼んだとあったが、最終的にレミア宅に世話になることになった。部屋割りで“夫婦なら一緒にしますか?”とのたまうレミアとユエ達が無言の応酬を繰り広げたり、“パパとママと一緒に寝る~”というミュウの言葉に場がカオスと化したりしたが、一応の落ち着きを見せた。

 

 

 

明日からは、大迷宮攻略に向けて、しばらくの間、損壊、喪失した装備品の修繕・作成や、新たな神代魔法に対する試行錯誤を行わなければならない。しかし、残り少ないミュウとの時間も、蔑ろにはできないと考えながら、ベッドに入ったハジメの意識は微睡んでいった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

一日目。

 

 

レミアさんの自宅に止まって一泊し、一日目になった。あと二日後に“メルジーネ海底遺跡”へと迷宮攻略に向かわなくてはならない。…しかし、世間の情報が疎くなるのもそれはそれで面倒と判断した雷電は、シアと恵里と共にエリゼンで今の世間の情報を収集するのだった。なお、ハイリヒ王国にいるクローンと連絡を取って情報を聞こうと考えたが、ファースト・オーダーがこちらの通信を傍受する可能性を考慮し、地道に情報収集することにしたのだ。

 

 

 

そんな感じでエリゼンを回りを見て回っている時に、雷電はある店を見かける。

 

 

「…ん?この店は……」

 

「マスター?どうなされたんですか?」

 

「雷電君?……このお店は?」

 

 

シアと恵里も雷電が見ている方に視線を向ける。そこにあったのは、()()()()()()()()と異世界トータス語で書かれた一件のお店だった。アンダーテイカーとは、請負人、引受人、または葬儀屋という意味を持つ。そんな変わった名前をした店を雷電は少しばかり気になったのか、この店に入ってみることにした。シアと恵里は少しばかりこの店に入ることに不安であったが、雷電とそばにいれば問題ないと思いつつも雷電に続いて店に入ることにした。

 

 

 

雷電はドアを開け、店の中に入る。その店の中は、日差しを遮る為か窓にはカーテンが閉じてあり、より暗い空間になっていた。ただし、一条の光がない訳でもない。この店の木製の棺桶の上や所々の場所にロウソク立てが多数存在し、火の明かりが灯されていた。

 

 

 

この様な場所には雷電も少しばかり冷や汗が流れる。この場所に人の気配がないことから、この店の店主は今、出かけていると思ったその時……

 

 

「おや……これは随分と変わったお客だね?キッヒヒヒ…!」

 

「…っ!」

 

 

突如と不気味な男の声音が店内に響き渡る。すると薄暗闇の中から長い銀髪の男が出てくる。その男は黒装束に身を包み、顔と首、左手の小指に傷があり、目は前髪で隠れており、外からは見えない姿だった。シアと恵里もこの男が出て来た瞬間、一瞬であるが背中から悪寒が走ったと同時に少し震えながら思った。“この男は別の意味で危険な男である”と…。

 

 

 

そんな二人の様子を見た雷電は、震える二人を落ち着かせ、その男こと店の店主らしき人物と話し合う。

 

 

「……失礼、貴方はこの店の店主だろうか?」

 

「キヒヒッ!…そうだね、小生はこの店の店主であることは間違いないよぉ?最も…うちは葬儀屋だけどねぇ?」

 

「葬儀屋?このエリゼンで?」

 

 

この時に雷電は不思議に思った。何故このエリゼンで葬儀屋をしているのか気になったが、あまり詳しいことは気にしないことにした。そして本来の目的である世間の情報を聞き出そうとした。

 

 

「それはそうと、えー……」

 

「おっと、これは失敬、まだ小生の名を名乗っていなかったねぇ?巷では小生のことをアンダーテイカー(葬儀屋)と呼ばれていてね?小生のことはアンダーテイカーと呼んでおくれ。…それで、君たちは何かね?」

 

「そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺は藤原雷電、冒険者だ。こっちは俺の弟子のシアと、俺達の仲間の恵里だ」

 

「ライデンにシア、エリ…か。何かと不思議な力を持っている様だね?特にライデンとシアの二人には?おっと、流石にプライベートの話は駄目だったかね?キヒヒッ…!」

 

 

アンダーテイカーと名乗る男はライデンとシアのフォースを感じ取ったのかは分からないが、決して気を許しては行けない男ではあることを雷電は理解した。しかし、それでも情報が欲しいので情報を聞き出した後に即座に退散することに決めた。

 

 

「……早速で聞くが、アンダーテイカー…だったか?ここ最近で何か変わったことはないか?主に世界の様子とかそういう部類の情報を持っていないか?」

 

「どうだったかなぁ?有ったかなぁ?何だか面白いものを見たら思い出す気がするなぁ…」

 

「……何か欲するものが?」

 

 

勿体振る様にアンダーテイカーは何かを求めていることは確かだった。しかし、一体何を求めているのかは不明だ。するとアンダーテイカーは、その求める物を雷電達の前に口にした。

 

 

「何、小生が欲するのは極上の()()というものさぁ!そしたらなんでも教えて上げるよ!キッヒッヒ…!」

 

 

アンダーテイカーの極一部変わった性格を知った雷電達。アンダーテイカーという男は一体どういう生活をしたら今の様に成り立ったのか不思議でしかなかった。シアと恵里に至っては、アンダーテイカーの変人っぷりにドン引きだった。しかし、情報は必要であることには変わらない為にやるしかなかった。だが、アンダーテイカーを笑わせるには少しばかりの下準備が必要だ。雷電は恵里に元の世界で、大晦日にやるテレビのあるバラエティー番組の話を持ち出す。

 

 

「……なぁ恵里?俺達の元の世界で大晦日に一度やるバラエティー番組のことを覚えているか?」

 

「え?それって、笑ってはいけないの奴?」

 

「あぁ、それの一部再現をやろうと思う。その為にはシアの協力が必要だが、ちょっと彼女には内緒にしてほしい?」

 

「あれ?マスターに恵里さん。何か方法が有るのですか?」

 

 

そうシアが聞き出したが、俺はアンダーテイカーを笑わせる方法を話す。……といっても、シアには極一部だけしか話さなかった。これにはシアのリアクションが必要不可欠なのだ。そんな感じでアンダーテイカーに数分待ってほしいと言って店から出て下準備を行う。

 

 

 

雷電が店を出てから三分後……

 

 

 

下準備が終えた雷電が再び店に入り、アンダーテイカーに準備が終わったことを告げる。

 

 

「待たせたな、アンダーテイカー。極上の笑いの為の下準備を終えたぞ」

 

「そうかい?それじゃあ、小生に報酬(笑い)をおくれよぉ!」

 

「あの〜…恵里さん?何だか嫌な予感がするですぅ……」

 

「それは……気の所為じゃないかな?」

 

 

シアは何かと不安になる一方、恵里は内心複雑そうな感じで気のせいであると答える。そんな事を気にせず、アンダーテイカーの期待に応える為に、雷電はあるスイッチを取り出す。そして、そのスイッチをシアに渡し、押す様に指示を出す。

 

 

「シア、このスイッチを押すんだ」

 

「えっ?このスイッチを……ですか?」

 

「あぁ……押すんだ」

 

 

シアは何かと不安になりながらもスイッチを押す。すると、その押したスイッチから“デデーン!”と音声が流れた後に……

 

 

 

《シア OUT》

 

 

 

「えっ……えぇっ!?」

 

「ぶっ!?ぶぅっはっはっはっはっはっはっはぁー!!」

 

 

突如と謎のシアのアウト宣言。いきなりの不意打ちにアンダーテイカーは思わず爆笑してしまう。しかし、それだけでは終わらなかった。店のドアからクローンがケツバットを手に店へと入り込んで来た。

 

 

「うぇっ!?ちょちょちょっ、待ってください!?ま、マスター!これはどういうことですか!?」

 

「すまない、シア。アンダーテイカーを笑わせるにはこれしかなかったんだ。大晦日のバラエティー番組の一部を再現をすればアンダーテイカーでも笑わずにはいられないと思ってな」

 

「じゃ…じゃあ、クローンさんが持っているそれは何ですか!?絶対に必要ないですよね!?」

 

「これも情報を引き出す為だ。言い方は悪いが、シア。情報の為の……犠牲になれ」

 

「いやいやいやっ!?それはないですよ、マスター!?…うきゃあっ!?」

 

 

シアが雷電と話しているのにも関わらず、クローンはシアのケツをしばく。しばき終わった後、役目を終えたのかクローンはこの店を後にする。そして、アンダーテイカーはというと……

 

 

「うっはっはっはっはっはっはぁー!!」

 

 

テーブル代わりにしていた棺の上で転がりながらも大爆笑していた。

 

 

 

大分満足に笑ったアンダーテイカーから齎した情報によると、ハイリヒ王国で怪しい動きが王族と貴族、そして教会の間で起きているそうで、実際それがなんなのかは不明だそうだ。それを聞いた雷電は、恐らくこの世界の神ことエヒトが、俺達に対して何かしらの妨害の準備をしていることを理解した。その情報を受け取った後にアンダーテイカーに別れを告げ、葬儀屋を後にするのだった。

 

 

 

その後、雷電は理不尽にもケツをしばかれたシアに謝罪した。その時にシアは少し納得いかなかったが、許す条件として“それじゃあ、今日一日デートしてくれたら許してあげるですぅ”と条件をつけて来た。雷電はそれを了承し、シアのデートに付き合うのだった。その時の恵里の笑みは絶対零度を発する様な気迫を放っていた。流石にこれには溜まらないと判断した雷電は、二日目には恵里と一緒にデートすることを決めたのであった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

三日目。

 

 

 

妙にハジメとの距離が近いレミアに、海人族の男連中が嫉妬で目を血走らせたり、ハジメに突っかかってきたり、ご近所のおばちゃん達がハジメとレミアの仲を盛り上げたり、それにユエ達が不機嫌になってハジメへのアプローチが激しくなったり、夜のユエが殊更可愛くなったりしながらも、準備を万全にしたハジメ達は、遂に、“メルジーネ海底遺跡”の探索に乗り出した。

 

 

 

しばしの別れに、物凄く寂しそうな表情をするミュウ。盛大に後ろ髪惹かれる思いのハジメだったが、何とか振り切り桟橋から修繕した潜水艇に乗り込もうとする。ミュウが手を振りながら“パパ、いってらっしゃいなの!”と気丈に叫ぶ。そして、やはり冗談なのか本気なのか分からない雰囲気で“いってらっしゃい、あ・な・た♡”と手を振るレミア。

 

 

 

傍から見れば仕事に行く夫を見送る妻と娘そのままだ。背後のユエ達からも周囲の海人族からも鋭い視線が飛んでくる。迷宮から戻って来ることに少々ためらいを覚えるハジメであった。

 

 

 

その様子を見ていたシアと恵里は、可能性の未来である雷電との結婚を夢見ながらも、互いにライバル視しながらも雷電に対してアプローチが激しくなることを、今の雷電は知る由もなかった。

 

 

(…なんだろうな?なんだが、二匹の猛獣に狙われているような気分だ。……こういうのは憂鬱に終わってほしいのだが……)

 

 

……案外そうでもなく、嫌な予感を雷電は感じてはいたが、回避することは不可能であることは変わらなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メルジーネ海底遺跡

少しスランプ気味になっている今日この頃……orz

アンケートにて、キャラの詳細を書いてほしいかを募集します。


63話目です。


 

 

ハジメ達が乗る潜水艇がヴェネター級と合流した後、ヴェネター級に乗り移り、“メルジーネ海底遺跡”へと針路を取る。針路を取って以降、“海上の町エリセン”から西北西に約三百キロメートル。

 

 

 

そこが、かつてミレディ・ライセンから聞いた七大迷宮の一つ“メルジーネ海底遺跡”の存在する場所だ。

 

 

 

だが、ミレディから聞いたときは時間がなかったため、後は“月”と“グリューエンの証”に従えとしか教えられず、詳しい場所はわかっていなかった。

 

 

 

そんなわけでハジメ達は、取り敢えず方角と距離だけを頼りに大海原を進んできたのだが、昼間のうちにポイントまで到着し、ハジメはユエと香織にティオ、雷電の案で修行の一環として同行させるシアと共に潜水艇に乗り移り、潜水艇を潜水させて海底へと潜り、海底の中を探索したものの特に何も見つけることは出来なかった。海底遺跡というくらいだから、それらしき痕跡が何かしらあるのではないかと考えたのだが、甘かったらしい。

 

 

 

ただ、周囲百キロメートルの水深に比べると、ポイント周辺の水深が幾分浅いように感じたので、場所自体は間違えていない……と思いたいハジメだった。

 

 

 

仕方なく、探索を切り上げてミレディの教えに従い月が出る夜を待つことにした。今は、ちょうど日没の頃。地平線の彼方に真っ赤に燃える太陽が半分だけ顔を覗かせ、今日最後の輝きで世界を照らしている。空も海も赤とオレンジに染まり、太陽が海に反射して水平線の彼方へと輝く一本道を作り出していた。

 

 

 

どこの世界でも、自然が作り出す光景は美しい。ハジメは、停泊させた潜水艇の甲板で、沈む太陽を何となしに見つめながら、ふと、このまま太陽へと続く光の道を進んだならば、日本に帰れはしないだろうかと、そんな有り得ない事を思った。そして、何を考えているんだかと苦笑いをこぼす。

 

 

「どうしたの?」

 

 

そんなハジメの様子に気がついて声を掛けてきたのは香織だった。

 

 

先程まで船内でシャワーを浴びていたはずで、その証拠に髪が湿っている。いや、香織だけではない。いつの間にかユエやシア、ティオも甲板に出てきていた。皆、ハジメ自慢の船内シャワーを浴びてきたようで、頬は上気し、湿った髪が頬や首筋に張り付いていて実に艶かしい姿だ。備え付けのシャワールームは、天井から直接温水が降ってくる仕様なので、四人全員で入っても問題ない。

 

 

 

ちなみに、ハジメが甲板で黄昏れているのは、下手をすればシャワールームに連れ込まれていた可能性があったからだ。

 

 

 

シアを除く彼女達が、シャワーを浴びようとした時、ティオがハジメを誘ったのだが、それに香織も、もちろんユエも賛同し、断ったハジメに全員でにじり寄ってきたのである。この光景を見ていたシアは、何かとハジメに対して内心苦笑いしつつも同情するのだった。ユエ以外の女を抱くつもりがないハジメは、他の女と裸の付き合いをするつもりはないとはっきり伝えた。

 

 

 

しかし、そんなハジメの言葉を笑顔でスルーした香織達は、頬を染めてイヤンイヤンしているユエを尻目に、香織とティオでハジメを抑えに掛かり、強制的に連れ込もうとしたのだ。流石に身の危険を感じたハジメは、割かし本気で逃げ出し、甲板に出て来たわけだが……据え膳食わぬは、やはり男の恥なのだろうか?その時、脳裏に誰かしらの言葉がよぎった。

 

 

 

“逆に考えるんだ……“平らげちゃってもいいさ”と”

 

 

 

その過った言葉に一体何を?と内心ツッコミを入れながらもハジメは、そんな疑問と過った言葉をを馬鹿馬鹿しいと頭を振って追い出しつつ、香織の質問に答えた。

 

 

「ちょっと、日本を思い出していたんだよ。こういう自然の光景は、変わらねぇなって」

 

「……そっか。うん、そうだね。向こうの海で見た夕日とそっくり……なんだかすごく懐かしい気がするよ。まだ半年も経っていないのにね」

 

「こっちでの日々が濃すぎるんだよ」

 

 

ハジメの隣に座った香織が、どこか遠い目をしながらハジメの言葉に同意する。きっと、日本で過ごしてきた日々を懐かしんでいるのだろう。

 

 

 

二人にしか通じない話題に寂しさを感じたのか、ユエは、火照った体でトコトコとハジメに歩み寄ると、その膝の上に腰をおろし、暑いだろうに背中をハジメの胸元にもたれかけさせ、真下から上目遣いで見つめ始めた。

 

 

 

その瞳は明らかに、自分も話に入れて欲しいと物語っている。寂しさと同時に、ハジメ達の故郷のことを聞きたいという気持ちがあるようだ。ユエの可愛らしさに内心ノックアウトされながら、ハジメは、隣の香織が般若を出しそうになったので、そのほっぺをプニプニして諌める。

 

 

 

それだけで、途端に機嫌が良くなるのだから、ハジメとしては複雑だ。受け入れてくれない相手に、どうしてそこまで……と、思ってしまう。もっとも、思うだけで口にはしない。それは、余りに彼女の気持ちに対して失礼だから。

 

 

 

香織の頬をプニっていると、背中にはティオがもたれかかった。特に何を要求するでもなく、静かに背中合わせになっている。ただ、体重のかけ具合から心底リラックスしていることが分かった。変態的な要求でもされたら、海に投げ落としてやろうと思っていただけに、ハジメとしては少々意外だった。

 

 

 

もっとも、ハジメの雰囲気から何か感じたのか、一瞬ビクッと体を震わせると、少し息を荒くしていたが……

 

 

 

広大な海の上で、小さく寄り添い合うハジメ達。夜天に月が輝き出すまでは今しばらく時間がかかる。それまでの暇つぶしに、ハジメは、少し故郷のことを話し始めた。

 

 

 

ハジメの語りにユエ達が興味津々に相槌を打ち、香織がにこやかに補足を入れる。そんな和やかな雰囲気を楽しんでいると、あっという間に時間は過ぎ去り、日は完全に水平線の向こう側へと消え、代わりに月が輝きを放ち始めた。

 

 

 

そろそろ頃合かと、ハジメは懐から“グリューエン大火山”攻略の証であるペンダントを取り出した。サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。

 

 

 

エリセンに滞在している時にも、このペンダントを取り出して月にかざしてみたり、魔力を流してみたりしたのだが、特に何の変化もなかった。

 

 

 

月とペンダントでどうしろと言うんだ?と、内心首を捻りながら、ハジメは、取り敢えずペンダントを月にかざしてみた。ちょうどランタンの部分から月が顔を覗かせている。

 

 

 

しばらく眺めていたが、特に変化はない。やはりわけ分からんと、ハジメは溜息を吐きながら他の方法を試そうとした。

 

 

 

と、その時、ペンダントに変化が現れた。

 

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

 

「ホント……不思議ね。穴が空いているのに……」

 

 

シアが感嘆の声を上げ、香織が同調するように瞳を輝かせる。

 

 

 

彼女達の言葉通り、ペンダントのランタンは、少しずつ月の光を吸収するように底の方から光を溜め始めていた。それに伴って、穴あき部分が光で塞がっていく。ユエとティオも、興味深げに、ハジメがかざすペンダントを見つめた。

 

 

「昨夜も、試してみたんだがな……」

 

「ふむ、ご主人様よ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」

 

 

おそらく、ティオの推測が正解なのだろう。やがて、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。

 

 

「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」

 

「全くだ。すんごいファンタジーっぽくて、俺、ちょっと感動してるわ」

 

 

“月の光に導かれて”という何ともロマン溢れる道標に、ハジメだけでなくユエ達も“おぉ~”と感嘆の声を上げた。特に、ミレディの“ライセン大迷宮”の入口を知っているシアは、ハジメやユエ同様、感動が深い。

 

 

 

ペンダントのランタンが何時まで光を放出しているのか分からなかったので、ハジメ達は早速、導きに従って潜水艇を航行させた。

 

 

 

夜の海は暗い。というよりも黒いと表現したほうがしっくりくるだろうか。海上は月明かりでまだ明るかったが、導きに従って潜行すれば、あっという間に闇の中だ。潜水艇のライトとペンダントの放つ光だけが闇を切り裂いている。

 

 

 

ちなみに、ペンダントの光は、潜水艇のフロントガラスならぬフロント水晶(透明な鉱石ですこぶる頑丈)越しに海底の一点を示している。

 

 

 

その場所は、海底の岩壁地帯だった。無数の歪な岩壁が山脈のように連なっている。昼間にも探索した場所で、その時には何もなかったのだが……潜水艇が近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、ゴゴゴゴッ!と音を響かせて地震のような震動が発生し始めた。

 

 

 

その音と震動は、岩壁が動き出したことが原因だ。岩壁の一部が真っ二つに裂け、扉のように左右に開き出したのである。その奥には冥界に誘うかのような暗い道が続いていた。

 

 

「なるほど……道理でいくら探しても見つからないわけだ。あわよくば運良く見つかるかもなんてアホなこと考えるんじゃなかったよ」

 

「……暇だったし、楽しかった」

 

「そうだよ。異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験だと思うよ?」

 

昼間の探索が徒労だったとわかり、ガックリと肩を落としたハジメだったが、ユエと香織は結構楽しんでいたようだ。

 

 

 

ハジメは一旦ヴェネター級にいる雷電達へ通信を送り、雷電達が来るのを待った。そして雷電達が乗るヴェネター級と合流し、雷電達が潜水艇に乗り移った後、ハジメは潜水艇を操作して、海底の割れ目へと侵入していく。ペンダントのランタンは、まだ半分ほど光を溜めた状態だが、既に光の放出を止めており、暗い海底を照らすのは潜水艇のライトだけだ。

 

 

「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この“せんすいてい”?がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」

 

「……強力な結界が使えないとダメ」

 

「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだな」

 

「でも、ここにくるのに“グリューエン大火山”攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」

 

「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかも」

 

 

道なりに深く潜行しながら、ハジメ達は潜水艇がない場合の攻略方法について考察してみた。確かに、ファンタジックな入口に感動はしたのだが、普通に考えれば、超一流レベルの魔法の使い手が幾人もいなければ、侵入すら出来ないという時点で、他の大迷宮と同じく厄介なことこの上ない。

 

 

 

ハジメ達は、気を引き締め直し、フロント水晶越しに見える海底の様子に更に注意を払った。

 

 

 

と、その時……

 

 

 

ゴォウン!!

 

 

 

「うおっ!?」

 

「んっ!」

 

「わわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「何じゃっ!?」

 

「っとと!またか!?」

 

「つーか、これなんかデジャブをかんじるんだが?」

 

 

突如、横殴りの衝撃が船体を襲い、一気に一定方向へ流され始めた。マグマの激流に流された時のように、船体がぐるんぐるんと回るが、そこは既に対策済みだ。組み込んだ船底の重力石が一気に重みを増し船体を安定させる。

 

 

「うっ、このぐるぐる感はもう味わいたくなかったですぅ~」

 

 

シアが、“グリューエン大火山”の地下で流されたときの事を思い出し、顔を青くしてイヤイヤと頭を振った。

 

 

「直ぐに立て直しただろ?もう、大丈夫だって。それより、この激流がどこに続いているかだな……」

 

 

そんなシアに苦笑いを浮かべつつ、ハジメは、フロント水晶から外の様子を観察する。緑光石の明かりが洞窟内の暗闇を払拭し、その全体像をあらわにしている。見た感じ、どうやら巨大な円形状の洞窟内を流れる奔流に捕まっているようだ。

 

 

 

船体を制御しながら、取り敢えず流されるまま進むハジメ達。しばらくそうしていると、船尾に組み込まれている“遠透石”が赤黒く光る無数の物体を捉えた。

 

 

「なんか近づいてきてるな……まぁ、赤黒い魔力を纏っている時点で魔物だろうが」

 

「……殺る?」

 

 

ハジメがそう呟くと、隣の座席に座るユエが手に魔力に集めながら可愛い顔でギャングのような事をさらりと口にする。

 

 

「いや、武装を使おう。有効打になるか確認しておきたいし」

 

 

ハジメが、潜水艇の後部にあるギミックを作動させる。すると、アンカジのオアシスを真っ赤に染めたペットボトルくらいの大きさの魚雷が無数に発射された。ご丁寧に悪戯っぽい笑みを浮かべるサメの絵がペイントされている。

 

 

 

激流の中なので、推進力と流れがある程度拮抗し、結果、機雷のようにばら撒かれる状態となった。

 

 

 

潜水艇が先に進み、やがて、赤黒い魔力を纏って追いかけてくる魔物──トビウオのような姿をした無数の魚型の魔物達が、魚雷群に突っ込んだ。

 

 

 

ドォゴォオオオオ!!!

 

 

 

背後で盛大な爆発が連続して発生し、大量の気泡がトビウオモドキの群れを包み込む。そして、衝撃で体を引きちぎられバラバラにされたトビウオモドキの残骸が、赤い血肉と共に泡の中から飛び出し、文字通り海の藻屑となって激流に流されていった。

 

 

「うん、前より威力が上がっているな。改良は成功だ」

 

「うわぁ~、ハジメさん。今、窓の外を死んだ魚のような目をした物が流れて行きましたよ」

 

「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ」

 

「改めて思ったのだけど、ハジメくんの作るアーティファクトって反則だよね」

 

「それな。俺も南雲のとんでも兵器(アーティファクト)を見てそう思った」

 

「本当にそうよね?南雲くんは自重しないというか何というか……」

 

「下手をすればハジメのアーティファクトは厄災級になるな、これは……」

 

 

それから度々、トビウオモドキに遭遇するハジメ達だったが容易く蹴散らし先へ進む。

 

 

 

どれくらいそうやって進んだのか。代わり映えのない景色に違和感を覚え始めた頃、ハジメ達は周囲の壁がやたら破壊された場所に出くわした。よく見れば、岩壁の隙間にトビウオモドキのちぎれた頭部が挟まっており、虚ろな目を海中に向けている。

 

 

「……ここ、さっき通った場所か?」

 

「……そうみたい。ぐるぐる回ってる?」

 

 

どうやら、ハジメ達は円環状の洞窟を一周してきたらしい。大迷宮の先へと進んでいるつもりだったので、まさか、ここはただの海底洞窟で道を誤ったのかと疑問顔になるハジメ。結局、今度は道なりに進むのではなく、周囲に何かないか更に注意深く探索しながらの航行となった。

 

 

 

その結果……

 

 

 

「あっ、ハジメくん。あそこにもあったよ!」

 

「これで、五ヶ所目か……」

 

 

洞窟の数ヶ所に、五十センチくらいの大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。メルジーネの紋章は五芒星の頂点のひとつから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月のような文様があるというものだ。それが、円環状の洞窟の五ヶ所にあるのである。

 

 

 

ハジメ達は、じっくり調べるため、最初に発見した紋章に近付いた。激流にさらされているので、雷電の魔力のフォローを受けながらも船体の制御に気を遣う。

 

 

「まぁ、五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば……」

 

「……そうゆうことか。改めてこの大迷宮を作った解放者は本当に面倒な仕組みを作ったな?」

 

 

ハジメはそう呟き、雷電が五芒星の紋章に五ヶ所の目印の意味を理解し、改めて面倒なしか背であると呟く。そしてハジメは首から下げたペンダントを取り出し、フロント水晶越しにかざしてみた。すると、案の定ペンダントが反応し、ランタンから光が一直線に伸びる。そして、その光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした。

 

 

「これ、魔法でこの場に来る人達は大変だね……直ぐに気が付けないと魔力が持たないよ」

 

 

香織の言う通り、このようなRPG風の仕掛けを魔法で何とか生命維持している者達にさせるのは相当酷だろう。“グリューエン大火山”とは別の意味で限界ギリギリを狙っているのかもしれない。

 

 

 

その後、更に三ヶ所の紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た。ランタンに溜まっていた光も、放出するごとに少なくなっていき、ちょうど後一回分くらいの量となっている。

 

 

 

ハジメが、ペンダントをかざし最後の紋章に光を注ぐと、遂に、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。ゴゴゴゴッ!と轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れる。

 

 

 

特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。潜水艇を進めるハジメ。すると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。

 

 

「おぉ?」

 

「んっ」

 

「ひゃっ!?」

 

「ぬおっ」

 

「はうぅ!」

 

「おわっと!」

 

「ま、またか!?」

 

「わわっ!?」

 

 

 

それぞれ、多者多様の悲鳴を上げる。ハジメは、股間のフワッと感に耐える。直後、ズシンッ! と轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられた。激しい衝撃が船内に伝わり、特に体が丈夫なわけではない香織や恵里が呻き声を上げる。

 

 

「っつつ……今日は厄日だな。恵里、大丈夫か?」

 

「な……何とかね」

 

「っ……香織、無事か」

 

「うぅ、だ、大丈夫。それより、ここは?」

 

 

香織が顔をしかめながらもフロント水晶から外を見ると、先程までと異なり、外は海中ではなく空洞になっているようだった。取り敢えず、周囲に魔物の気配があるわけでもなかったので、船外に出るハジメ達。

 

 

 

潜水艇の外は大きな半球状の空間だった。頭上を見上げれば大きな穴があり、どういう原理なのか水面がたゆたっている。水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っており、ハジメ達はそこから落ちてきたようだ。

 

 

「どうやら、ここからが本番みたいだな。海底遺跡っていうより洞窟だが」

 

「……全部水中でなくて良かった」

 

 

ハジメは、潜水艇を“宝物庫”に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうとユエ達を促す……寸前でユエに呼びかけた。

 

 

「ユエ」

 

「ん」

 

 

それだけで、ユエは即座に障壁を展開した。

 

 

刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星さながらに襲いかかる。圧縮された水のレーザー(雷電曰く、水圧カッター)は、かつてユエが“ライセン大迷宮”で重宝した“破断”と同じだ。直撃すれば、容易く人体に穴を穿つだろう。

 

 

 

しかし、ユエの障壁は、例え即行で張られたものであっても強固極まりないものだ。それを証明するように、天より降り注ぐ暴威をあっさり防ぎ切った。ハジメが魔力の高まりと殺意をいち早く察知し、阿吽の呼吸でユエが応えたために、奇襲は奇襲となり得なかったのである。当然、ハジメが呼びかけた瞬間に、攻撃を察していた雷電やシア、ティオや清水、デルタと不良分隊にも動揺はない。

 

 

 

だが、香織と恵里はそうはいかなかった。

 

 

「「きゃあ!?」」

 

 

余りに突然かつ激しい攻撃に、思わず悲鳴を上げながらよろめく。香織の傍にいたハジメが、咄嗟に、腰に腕を回して支えた。雷電も恵里が蹌踉めく所を見て、フォースを使って恵里が倒れない様に支える。

 

 

「「ご、ごめんなさい」」

 

「いや、気にするな」

 

「ここは解放者が作った大迷宮だ。これ以上のトラップが待ち構えている筈だ。油断はするなよ」

 

 

香織は、あっさり離れたハジメをチラ見しながら、普通なら赤面の一つでもしそうなのだが、香織の表情は優れない。抱き止められたことよりも、自分だけが醜態を晒したことに少し落ち込んでいるようだ。恵里も香織と同じ様に自身の無力さに少し落ち込んでいる。

 

 

 

そして、それ以上に、ユエの魔法技能の高さに改めてショックを覚える。

 

 

 

光輝達といた時は、鈴の守りを補助する形でそれなりに防御魔法は行使してきた。たくさん訓練をして、発動速度だけなら“結界師”たる鈴にだって引けを取らないレベルになったのだ。それでも、ユエと比べると、自分の防御魔法など児戯に等しいと思わせられる。

 

 

 

“オルクス大迷宮”でハジメ達に助けられた時から感じていた“それ”──分かってはいたが、それでもハジメの傍にいるためにはやるしかないのだと自分に言い聞かせて心の奥底に押し込めてきた──“劣等感”。自分は、足でまといにしかならないのではないか?その思いが再び、香織の胸中を過る。

 

 

 

恵里も香織と共通することはあれど、一つだけ、恵里の中に渦巻いているものがあった。それは“嫉妬”。雷電とハジメがオルクス大迷宮の奈落に落ちてからこの半年間、二人は力を身につけ、更にはこの世界で出来た新たな仲間と共に旅をしている。特にシアは産まれた時からなのか無自覚にフォースに目覚めていて、雷電は同じフォース使いとしてなのかシアを弟子を取り、修行を重ねながらも旅を続けている。そして何より、シアは雷電に好意を抱いているのだ。シアの気持ちを雷電は理解しているが、雷電の前世の影響もあってか、何かと答えが見出せない様だった。

 

 

「どうした?」

 

「えっ?あ、ううん。何でもないよ」

 

「……そうか」

 

「恵里、あまり一人で抱え込まない様にな?」

 

「うん……分かっているよ」

 

 

香織は咄嗟に誤魔化し、無理やり笑顔を浮かべる。ハジメは、そんな香織の様子に少し目を細めるが、特に何も言わなかった。そして恵里も雷電の注告を素直に受け取るのだった。

 

 

 

そのことに、香織が少しの寂しさと安堵を感じていると、未だに続いている死の豪雨を防いでいるユエがジッと自分を見ていることに気がついた。その瞳が、まるで香織の内心を見透かそうとしているようで、香織は、咄嗟に眼に力を込めて睨むような眼差しを返す。

 

 

 

いつかのように、自分の気持ちを嗤わせるわけにはいかない。そんな事になれば、ハジメの愛情を一身に受ける目の前の美貌の少女は、香織を戦うべき相手とすら認識しなくなるだろう。

 

 

 

それだけは……我慢ならない。

 

 

 

香織の強い眼差しを受けたユエは、少し口元を緩めると再び頭上に視線を戻した。同時にティオが火炎を繰り出し、天井を焼き払う。それに伴って、ボロボロと攻撃を放っていた原因が落ちてきた。

 

 

 

それは、一見するとフジツボのような魔物だった。天井全体にびっしりと張り付いており、その穴の空いた部分から“破断”を放っていたようだ。なかなかに生理的嫌悪感を抱く光景である。

 

 

 

水中生物であるせいか、やはり火系には弱いようで、ティオの炎系攻撃魔法“螺炎”により直ぐに焼き尽くされた。

 

 

 

フジツボモドキの排除を終えると、ハジメ達は奥の通路へと歩みを進める。通路は先程の部屋よりも低くなっており、足元には膝くらいまで海水で満たされていた。

 

 

「あ~、歩きにくいな……」

 

「……降りる?」

 

 

ザバァサバァと海水をかき分けながら、ハジメが鬱陶しそうに愚痴をこぼす。それに対して、ハジメの肩に座っているユエが、気遣うようにそう言った。ユエの身長的に、他の者より浸かる部分が多くなってしまうのでハジメが担ぎ上げたのだ。

 

 

 

少し羨ましそうに見つめてくる香織の視線をスルーして、問題ないと視線で返しながら、ハジメはユエが落ちないように太ももに手を置いてしっかりと固定した。ユエも、ハジメの首筋に手を回してぴったりとくっついた。

 

 

 

益々、羨ましそうな眼差しを送る香織達だったが、魔物の襲撃により、集中を余儀なくされる。

 

 

 

現れた魔物は、まるで手裏剣だった。高速回転しながら直線的に、あるいは曲線を描いて高速で飛んでくる。ハジメは、スっとドンナーを抜くと躊躇わず発砲して空中で撃墜し、雷電がライトセーバーでその高速回転する魔物を切り裂き、全滅させた。ハジメのドンナーに体を砕かれ、雷電のライトセーバーで切り裂かれて、プカーと水面に浮かんだのはヒトデっぽい何かだった。

 

 

 

更に、足元の水中を海蛇のような魔物が高速で泳いでくるのを感知し、ユエが、氷の槍で串刺しにする。

 

 

「……弱すぎないか?」

 

「確かに……ハジメの言う通り、ここの魔物達は幾ら何でも弱すぎる」

 

 

ハジメと雷電の呟きに香織と恵里、清水以外の全員が頷いた。

 

 

 

大迷宮の敵というのは、基本的に単体で強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介というのがセオリーだ。だが、ヒトデにしても海蛇にしても、海底火山から噴出された時に襲ってきた海の魔物と大して変わらないか、あるいは、弱いくらいである。とても、大迷宮の魔物とは思えなかった。

 

 

 

大迷宮を知らない香織達以外は、皆、首を傾げるのだが、その答えは通路の先にある大きな空間で示された。

 

 

「っ……何だ?」

 

 

ハジメ達が、その空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。

 

 

「ゼリー状の何か?一体これは……」

 

「私がやります!うりゃあ!!」

 

「っ!?待てっシア!」

 

 

雷電はゼリー状の何かを見て、何かが怪しいと睨んだと咄嗟に、最後尾にいたシアは、その壁を壊そうとドリュッケンを振るう。雷電がシアに制止を掛けるも、シアが振るったドリュッケンは表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫がシアの胸元に付着する。

 

 

「ひゃわ!何ですか、これ!」

 

 

シアが、困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。ハジメ達が視線を向ければ、何と、シアの胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく。

 

 

「ちょ…おまっ!?」

 

「シア、動くでない!」

 

 

咄嗟にティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ。

 

 

「溶解作用のあるゼリーの壁か……となると、この後の展開は……」

 

「っ!また来るぞ!」

 

 

警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じである。だとすれば、同じように強力な溶解作用があるかもしれないと、再び、ユエが障壁を張る。更に、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。

 

 

「正直、ユエの防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」

 

「確かに、“最強の矛と盾”と言った感じか?」

 

 

鉄壁の防御と、その防御に守られながら一方的に攻撃。ハジメと清水がそう呟くのも仕方ない。それを余裕と見たのか、シアが雷電の傍にそろりそろりと近寄り、露になった胸の谷間を殊更強調して、実にあざとい感じで頬を染めながら上目遣いでおねだりを始めた。

 

 

「あのぉ、マスター。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

 

「……シア、お前ワザと言っているだろ?」

 

「いや、ユエさんとティオさんが無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと、香織さんと恵里さんの参戦で影が薄くなりそうですし……」

 

 

シアが、胸のちょうど谷間あたりに出来た火傷の幾つかを雷電に見せつけながら、そんなことをのたまった。

 

 

 

シアに何か一言注意しようとした矢先、雷電の背中に悪寒が走る。その謎の悪寒の正体は雷電でも知っていた。それは、恵里から発する異常な圧を放っていたのだ。それも満遍な笑みで……(ただし、目が笑っていない)

 

 

 

これは下手な発言が出来ないと判断した雷電は、慎重に言葉を選ぼうとしたその時……

 

 

「聖浄と癒しをここに〝天恵〟」

 

 

いい笑顔の香織がすかさずシアの負傷を治してしまった。“あぁ~、お胸を触ってもらうチャンスがぁ!”と嘆くシアに、クローン達を除く全員が冷たい視線を送り、デルタ、不良分隊は苦笑いをする。

 

 

「む?……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

 

嘆くシアに冷たい視線を送っていると、ユエから声がかかる。見れば、ユエの張った障壁がジワジワと溶かされているのがわかった。

 

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」「……この大迷宮は、完全に魔法特化の人にとって相性最悪な場所の様だな」

 

 

 

ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来るらしい。雷電もティオの言葉にそう呟く。ハジメも雷電と同じ考えで、中々に強力で厄介な能力だ。まさに、大迷宮の魔物に相応しい。

 

 

 

そんなハジメの内心が聞こえたわけではないだろうが、遂に、ゼリーを操っているであろう魔物が姿を現した。

 

 

 

天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで、宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、クリオネのようだ。もっとも、全長十メートルのクリオネはただの化け物だが。

 

 

 

その巨大クリオネは、何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らせた。この時に雷電は巨大クリオネが飛び散らせたゼリーの正体を見抜いた。

 

 

「こいつが撒き散らかすゼリーはまさか……気をつけろ!奴が飛ばすゼリーは、さっきのゼリーの壁と同じ溶解作用を持っているぞ!」

 

「ユエも攻撃して!防御は私が!──“聖絶”!」

 

 

雷電が皆に警告する中、香織は派生技能“遅延発動”で、あらかじめ唱えておいた“聖絶”を発動する。それにコクリと頷いたユエはティオと一緒に巨大クリオネに向けて火炎を繰り出した。シアも、ドリュッケンを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。

 

 

 

全ての攻撃は巨大クリオネに直撃し、その体を爆発四散させた。いっちょ上がり!とばかりに満足気な表情をするユエ達だったが、それにハジメが警告の声を上げる。

 

 

「まだだ! 反応が消えてない。香織は、障壁を維持しろ……なんだこれ、魔物の反応が部屋全体に……」

 

 

ハジメの感知系能力は部屋全体に魔物の反応を捉えていた。しかも、魔眼石で見える視界は赤黒い色一色で染まっており、まるで、部屋そのものが魔物であるかのようだった。未だかつて遭遇したことのない事態に、自然、ハジメの眼が鋭さを帯びる。

 

 

 

すると、その懸念は当たっていたようで、四散したはずのクリオネが瞬く間に再生してしまった。しかも、よく見ればその腹の中に、先程まで散発的に倒していたヒトデモドキや海蛇がおり、ジュワーと音を立てながら溶かされていた。

 

 

「ふむ、どうやら弱いと思っておった魔物は本当にただの魔物で、こやつの食料だったみたいじゃな……ご主人様よ。無限に再生されてはかなわん。魔石はどこじゃ?」

 

「そういえば、透明の癖に魔石が見当たりませんね?」

 

 

ティオの推測に頷きつつ、シアがハジメを見るが、ハジメは巨大クリオネを凝視し魔石の場所を探しつつも困惑したような表情をしている。

 

 

「何だか嫌な予感がしてきた……」

 

「……ハジメ?」

 

 

雷電が何かを悟り、ユエが呼びかけると、ハジメは頭をガリガリと掻きながら見たままを報告した。

 

 

「……ない。あいつには、魔石がない」

 

 

その言葉に全員が目を丸くする。

 

 

「ハ、ハジメくん?魔石がないって……じゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

「わからん。だが、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だ。俺の魔眼石には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意しろ。あるいは、ここは既に奴の腹の中だ!」

 

「おいおい、勘弁してくれよ!」

 

 

ハジメが驚愕の事実を話すと同時に、再び、巨大クリオネが攻撃を開始した。今度は、触手とゼリーの豪雨だけでなく、足元の海水を伝って魚雷のように体の一部を飛ばしてきてもいる。

 

 

 

ハジメは、“宝物庫”から黒い大型ライフルのようなものを取り出した。その大型ライフルには、本来マガジンが装填されるべき場所にボンベのようなものが取り付けられており、口径も弾丸を発射するとは思えないほど大きい。そして雷電もまた派生技能の“共和国軍武器・防具召喚”でハジメが“宝物庫”から取り出した黒い大型ライフルと同様の物を二つ召喚し、その一つを清水に手渡し、巨大クリオネに向ける。

 

 

 

ハジメや雷電達が持つそれはライフルではなく……

 

 

 

ゴォオオオオオーー!!

 

 

 

火炎放射器なのだから。タール状のフラム鉱石が、摂氏三千度の消えない炎を撒き散らす。ハジメが狙うのは巨大クリオネでも、触手や飛沫でもない。周囲の赤黒い反応を示す“壁”だ。本体への対応は現在雷電達に任せる。

 

 

 

巨大クリオネには擬態能力まであるのか、何の変哲もないと思っていた壁が、ハジメの火炎放射によって壁紙が剥がれるようにボロボロと燃え尽きていく。どうやら、壁そのものが巨大クリオネというわけではないようで、少しホッとするハジメ。

 

 

 

しかし、半透明のゼリーは、燃やしても燃やしても壁の隙間や割れ目から際限なく出現し、遂には足元からも湧き出した。靴底がジューと焼けるような音を立てる。

 

 

 

ユエ達の魔法の攻撃、雷電と清水の持つ火炎放射器による本体への攻撃も激しさを増し、巨大クリオネもいよいよ本気になってきたのか、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。しかも、いつの間にか水位まで上がってきており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水してきている。ユエに至っては、既に胸元付近まで水に浸かっていた。

 

 

 

ユエ達は何度も巨大クリオネを倒しているのだが、直ぐにゼリーが集まり、終わりが見えない。それに加え、火炎放射器による攻撃も巨大クリオネの再生能力を遅らせる程度の時間稼ぎだった。

 

 

 

殲滅の方法が見つからない上に、戦闘力を削がれる水中に没するのは非常にまずい。なにせ、巨大クリオネには籠城が通用しないのだ。魔法で障壁を張ろうとも、潜水艇を出して中に入ろうとも、殲滅方法がなくてはいずれ溶かされてしまう。

 

 

 

故に、ここは一度離脱するべきだとハジメは決断した。しかし、全ての出入口はゼリーで埋まっている。ハジメは、必死に周囲を見渡す。そして、地面にある亀裂から渦巻きが発生しているのを発見した。

 

 

「ハジメ、こいつはかなり厄介だぞ!このままじゃ、ジリ貧だ!」

 

「分かってる。一度、態勢を立て直すぞ。地面の下に空間がある。どこに繋がってるかわからない。覚悟を決めろ!」

 

「んっ」

 

「それしかないか……了解!」

 

「はいですぅ」

 

「承知じゃ」

 

「わかったよ!」

 

「了解だ!」

 

「分かったわ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

全員の返事を受け取り、ハジメは火炎放射器を振り回して襲い来るゼリーを焼き払いながら、渦巻く亀裂に向かって〝錬成〟を行った。亀裂を押し広げ、ドンドン深く穴を開けていく。雷電と清水は巨大クリオネの注意をハジメに向けない様に火炎放射器で攻撃し、ヘイトをこちら側に向けさせる。

 

 

 

ハジメは、水中に潜り、ポーチから長さ十五センチ直径三センチ程の円筒を取り出した。中程にシュノーケルのマウスピース部分のような突起がついている。これはミュウ監修の下に作り出された小型の酸素ボンベだ。生成魔法で空間魔法を付与した鉱石で出来ており、中には“宝物庫”と同じく空間が広がっていて、空気が入れられている。

 

 

 

ただ、エリセンで準備していたときは、壊れた道具や喪失した装備を優先した上、空間魔法は扱いが物凄く難しく、“宝物庫”とは比べるべくもない狭い空間しか作れなかった。なので、この小型酸素ボンベは一本で三十分程度しか保たない。(なお、当時は潜水時間二分程度の物にしようと思ったが、そのことでミュウに怒られ、潜水時間の重要性を徹底的に教えられたのは余談である)

 

 

 

タイムリミットを頭の片隅に、ハジメは水中で“錬成”を繰り返していき、やがて地面が反応しなくなると、“宝物庫”からパイルバンカーを取り出した。そして、アンカーで水中に固定すると、一気にチャージする。

 

 

 

キィイイイイイ!! 

 

 

 

そして、階層破りの一撃を放つ引き金を引いた。

 

 

 

ドォゴオオオオン!!!

 

 

 

水中にくぐもった轟音が振動と共に伝播する。

 

 

 

次の瞬間、貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。腰元まで上がってきていた海水が、いきなり勢いよく流れ始めたので、ユエ達も足をさらわれて穴へと流されて来る。

 

 

 

ハジメは激流の中、水中で必死に踏ん張りながら“宝物庫”から巨大な岩石と無数の焼夷手榴弾を転送しつつ、ユエ達と共に地下の空間へと流されていった。

 

 

 

背後で、くぐもった爆音が響く。巨大クリオネの追撃に対し、少しでも時間が稼げたのか確かめることは出来なかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

己の劣等感、過去の亡霊

何とか一週間以内に完成した。……正直言って、疲れた。( ;´Д`)


64話目です。


 

 

「けほっ、けほっ、うっ…」

 

「はぁはぁ、無事か、香織?」

 

「う、うん。何とか……皆は……」

 

 

結構な量の海水を飲んでしまい、むせながら周囲を見渡す香織の目には、自分の腰に手を回して抱きしめるハジメの姿と、真っ白な砂浜が映っていた。他に誰かいないのかと、香織は周囲を見渡すと、そこには雷電と恵里の姿があった。

 

 

「ゲホッ…!水に流されるとはな……ライセン大迷宮以来だぞ?恵里、大丈夫か?」

 

「けほっ、けほっ!う、うん。僕は大丈夫……それよりも、他の皆は?」

 

 

雷電は周囲を見渡してみたが、あるのは真っ白な浜辺と自身を含め、ハジメと香織、恵里以外は何もなく、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林のような場所が見えていて、頭上一面には水面がたゆたっていた。結界のようなもので海水の侵入を防いでいるようだ。広大な空間である。ハジメ達と雷電達は一旦合流し、互いに今の状況を整理した。

 

 

「無事にあの巨大クリオネ擬きから撒いたのはいいのだが……」

 

「完全に皆とはぐれたね……」

 

「…だな。……まぁ、全員に小さな倉庫レベルとはいえ“宝物庫”を渡してあるし、あいつ等なら自分でどうにでもするさ」

 

「……うん」

 

 

香織の腰から手を離して髪をかき上げながら軽く言うハジメだったが、香織はどこか沈んだ表情だ。

 

 

 

香織は、隣で立ち上がり堂々と服を着替え始めたハジメの姿を見ながら、つい先ほどの出来事を思い出していた。

 

 

 

巨大クリオネから戦略的撤退を図ったハジメ達。

 

 

 

彼等が落ちた場所は巨大な球体状の空間で、何十箇所にも穴が空いており、その全てから凄まじい勢いで海水が噴き出し、あるいは流れ込んでいて、まるで嵐のような滅茶苦茶な潮流となっている場所だった。

 

 

 

その激流に翻弄されながらも何とか近くにいる仲間の傍に行こうとするハジメ達だったが、潮流は容赦なくハジメ達を引き離していった。ユエが、魔法で水流操作を行うが、流れがランダム過ぎて思うようにいかない。シアが、体重操作とドリュッケンの重さを利用して何とかティオと合流したのはファインプレーと言えるだろう。そして雷電は恵里が激流に流されない様に掴み、フォースで激流から身を守る様に恵里と自身の空間を作り、フォースの壁は激流の水を弾きながらも、雷電達はそのまま激流に流される。

 

 

 

本当なら潜水艇を取り出して乗り込みたいところなのだが、激流の中では無理があった。ハジメは歯噛みしつつ“宝物庫”から超重量の圧縮鉱石を取り出しシアと同じように重さで潮流を乗り切ろうとした。

 

 

 

その矢先、運良くユエが流れてくるのが見えた。このまま行けば、ハジメとかち合い合流することが出来るだろう。既に、シアとティオ、清水やクローン達、雷電と恵里は、どこかの穴に流されたようで空間内に姿が見えない。

 

 

 

これ以上、はぐれる前にと、ユエに手を伸ばしたハジメだったが、その視界に、下方を流れていこうとしている香織の姿を捉えた。苦しげな香織の視線とハジメの視線が絡む。前方には手を伸ばした先にユエがいて、やはり、ハジメと視線が絡んだ。

 

 

二択だ。

 

 

ユエを捕まえれば、香織はおそらく一人で、どこかの穴に流されるだろう。そして、香織を捕まえた場合もしかり。今のハジメには、どちらかの手しか掴むことが出来ない。ハジメは、一瞬とも永遠とも言えるような時間、ユエと視線を交わし、そして決断した。

 

 

 

ハジメは、“宝物庫”から超重量の圧縮鉱石を取り出すと、その重さを利用して一気に下降する。そして、流れてきた香織を、しっかりとキャッチした。香織が驚いたように目を見開くが、直ぐに、そんな事をしていられない程の激流にさらされ、二人は一緒に、一つの穴に吸い込まれるように流されていった。

 

 

 

流されている間、ハジメは、腕の中に香織を庇いつつ〝金剛〟を発動して、岩壁に叩きつけられながらもひたすら耐え抜いた。そして、水流が弱まったところで上方に光が見えたので一気に浮上した。

 

 

 

するとそこは、今現在いる真っ白な砂浜が広がるこの海岸線だったというわけだ。雷電達も流された場所が偶々ハジメ達と同じだった為に合流できたのだ。

 

 

「……ねぇ、ハジメくん。どうして……私を助けたの?」

 

「は?」

 

 

背を向けて着替えるハジメに香織がポツリと疑問をこぼす。ハジメは、いきなり何だ? と首を傾げた。

 

 

「どうして、ユエじゃなくて私を助けたの?」

 

「そりゃあ、香織は死にそうだけど、ユエは自分でどうとでも出来るからだ。ユエも、香織を助けろって眼で訴えてきたしな」

 

「……信頼してるんだね」

 

「当たり前だろ? パートナーだぞ?」

 

「……」

 

「香織……」

 

「(少しばかり気まずいな……下手に声を掛けても彼女が傷つくだけだ。一体、どうしたものか)……んっ?ハジメ?」

 

 

沈んだ表情で先程までの回想をしつつ質問をして、更に沈んだ香織。そんな香織を心配する雷電と恵里。その時に不意に、俯く香織に影が差した。

 

 

 

何だろうと香織が顔を上げると、間近い場所にハジメの顔があった。本当に目と鼻の先だ。もうちょっと近づけばキスが出来そうな距離である。香織が、吸い寄せられるようにハジメの瞳を見つめていると、突然、その両頬がグニィ~と引っ張られた。

 

 

「いふぁいよ! なにひゅるの!」

 

「ちょ…ハジメ!?お前、何やってんだ!?」

 

 

香織が涙目で抗議の声を上げ、雷電は香織の頬を引っ張るハジメにツッコム。

 

 

 

しかし、ハジメは、そんな香織の抗議をさくっと無視して、しばらくの間、彼女の柔らかな頬を存分に弄んだ。ようやく解放され、赤くなった頬を両手でさすりながら恨めしげに見上げてくる香織に、ハジメは“フン”と鼻を鳴らす。

 

 

「落ち込んでいる暇があったら、行動を起こせ。ここは大迷宮だぞ?何時まで、そのずぶ濡れの姿でいるつもりだ?それとも、同情でも引きたかったか?」

 

 

ハジメの辛辣とも言える言葉に香織の顔が一瞬で真っ赤に染まる。それは“羞恥”だ。それに気付いた雷電は、香織と同様に顔が一瞬でまっ赤に染まり、咄嗟にそっぽ向いた。しかし、向いた先が恵里であり、彼女もまた香織と同様に衣服が濡れていていた。雷電は別の意味で八方ふさがりになり、恵里も羞恥で顔を赤くしていたが……“その……雷電くんが良ければ、僕は構わないよ?”と何かと危険な予感がした為に雷電は恵里の言葉を制止させる。言外に、やっぱりここにいるのは場違いじゃないか?と言われた気がしたのだ。

 

 

「そ、そんなわけないよ! ちょっとボーとしちゃっただけ。そ、そのすぐ着替えるから。ごめんね」

 

「そ……それじゃあ、僕も着替えるね」

 

「あ…あぁ、早めに頼む…」

 

「……」

 

 

香織は急いで立ち上がり、恵里と共にエリセンを出る前にハジメから全員に贈られた小型版“宝物庫(極小さい家庭用倉庫程度)”から替えの衣服を取り出して服を脱ぎ始めた。さりげなく背を向けるハジメと雷電。普段の香織なら、恥ずかしくはあるものの、“見てもいい”くらいのことは言ってアプローチするのだが、今は、何だかそんな気になれずそそくさと着替えを終える。

 

 

「で、出来たよ……それで、これからどうするの?」

 

「そうだな……このまま海底に戻っても、あいつらが何処に行ったのかなんて分からないし……深部目指して探索するしかないだろう。アイツ等もそうするだろうしな」

 

「ありえるな。向こうにはチート級の仲間がいるし、合流の為に深部へ向かおうとするだろう。俺達も深部を探す為に移動しよう」

 

 

遠くに見える密林を眺めながら、ハジメが振り返る。香織は、沈んだ心を悟られないように笑みを浮かべ頷いた。そんな香織の笑顔に、ハジメは少し目を細めたが、結局、何も言わずに歩き出した。

 

 

 

真っ白な砂浜をシャクシャクと踏み鳴らしながらしばらく進み、四人は密林に入る。鬱蒼と茂った木々や草を、ハジメがバッサバッサと切り裂いていく。雷電たちは、その後ろをついていくだけだ。

 

 

 

と、その時、ハジメが突然立ち止まり、くるりと香織に振り返ると、そっと抱きしめるように片手を香織の後頭部に伸ばした。

 

 

「ふぇ? あ、あのハジメくん? そ、そんな、いきなり……」

 

 

赤面する香織だったが、スっと体を離し戻されたハジメの手に摘まれたものを見て、一瞬で青ざめた。

 

 それは蜘蛛だった。手の平にすっぽり収まる程度の大きさで、合計十二本の足をわしゃわしゃと動かし、紫の液体を滴らせている。足は、通常のものと背中から生えているものがあって、両面どちらでもいけます! と言いたげな構造だ。激しく気持ち悪い。

 

 

「油断するなよ? 大迷宮は、オルクスの表層とはわけが違う。同じような認識だと、痛い目みるぞ?」

 

「う、うん。ごめんね。もっと気をつける」

 

「……」

 

 

ハジメが取り上げた蜘蛛は魔石を持っておらず、普通にキモくて毒を持っているだけの蜘蛛だった。魔物でもない生き物に殺されかけたという事実が、そして、その尻拭いをハジメにしてもらったということが、更に香織をへこませた。

 

 

 

光輝達といた時は、それはもう八面六臂の活躍だったのに、ハジメ達のパーティーでは、まるで役に立てていない。それが、少しずつ香織の中に焦りを生んでいく。そんな様子を見ていた雷電は、香織と恵里にアドバイスを送る。

 

 

「香織、恵里、これだけは言わせてくれ。俺とハジメはオルクス大迷宮の奈落に落ちてから大迷宮の深部に向かいながらもユエと出会い、ベヒモスよりも凶暴で、強力な魔物達と戦い抜いてきた。……といっても、俺達の経験は特殊すぎるんだけどな?つまり、何が言いたいのかというと、あまり無理してこちら側のペースに合わせなくてもいい。力を欲するのは分からなくはないが、過ぎた力を求めては、自分自身を壊しかねん。だからこそ、自分たちにしか出来ないことをやって、強くなるんだ。心と身体、そして技術をな?今はまだ、焦らなくていい。地道にコツコツと成長すればいい。……俺からは以上だ」

 

 

雷電のアドバイスを受けた香織と恵里は、今まで以上に集中した様子で辺りを警戒し、そのせいか会話も少なく、四人は微妙な雰囲気で密林を抜けた。

 

 

 

その先は……

 

 

 

「これは……船の墓場ってやつか?」

 

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

「しかし、ここに有るのは戦艦クラスの物ばかりだ。それも多数だ。これはどういうことだ?」

 

「確かに……余りにも不自然だよね?」

 

 

密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが、最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだ。

 

 

 

ハジメも香織も思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。逆に雷電と恵里は、何故この大迷宮に多数の戦艦の残骸が有るのか疑問に思った。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、ハジメ達は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。

 

 

 

岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。どの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではなく、一体いつからあるのか判断が難しかった。

 

 

「それにしても……雷電の言う通り、戦艦ばっかだな」

 

「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」

 

 

墓場にある船には、どれも地球の戦艦(帆船)のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもハジメが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。

 

 

 

大砲というものがないなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像できた。

 

 

 

そして、その推測はハジメ達が船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明された。

 

 

 

――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

 

 

「ッ!?なんだ!?」

 

「ハジメくん!周りがっ!」

 

 

突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めたハジメ達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり──気が付けば、ハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 

 

 

そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

「な、なんだこりゃ……」

 

「ハ、ハ、ハジメくん?私、夢でも見てるのかな?ハジメくん、ちゃんとここにいるよね? ね?」

 

「ね、ねぇ…雷電くん、僕も香織と同じ様に夢でも見てるの?それとも……」

 

「恵里……残念だが、どうやら夢ではなさそうだ。実際に俺でも見えているからな。ただ……今見えている奴等は、もしかしたら……」

 

 

ハジメも香織も度肝を抜かれてしまい、何とか混乱しそうな精神を落ち着かせながら周囲の様子を見ることしかできない。しかし、雷電はこう言った場面に慣れているのか、冷静になりつつも、周囲をよく分析する。

 

 

 

そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

 

 

 

そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

 

 

ゴォオオオオオオオオ!!

 

ドォガァアアン!!

 

ドバァアアアア!!!

 

 

 

「おぉ!?」

 

「「きゃあ!」」

 

「くっ!?」

 

 

轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。

 

 

 

ハジメ達の乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。船員が直ちに、魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかる。

 

 

 

戦場──文字通り、このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。

 

 

 

その様子を呆然と見ていたハジメ達の背後から再び炎弾が飛来した。放っておけばハジメ達に直撃コースだ。

 

 

 

ハジメは、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか?などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、とにかく攻撃を受けた以上皆殺しOKの精神でドンナーを抜き、炎弾を迎撃すべくレールガンを撃ち放った。

 

 

 

炸裂音と共に一条の閃光となって飛翔した弾丸は、しかし、全く予想外なことに炎弾を迎撃するどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった。

 

 

「なにぃ!?」

 

 

もう何度目かわからない驚愕の声を上げながら、傍の香織を抱いて回避行動に出ようとする。

 

 

「待って、防ぐから!「…その必要はない」…え?」

 

 

香織の詠唱した時に雷電が止めに入った。

 

 

 

ハジメとしては、確かに魔法の核を撃ち抜いたのにすり抜けた正体不明の攻撃など避けるに越したことはなかったのだが、雷電が避ける必要はない素振りをしていた。一体、雷電は何を考えているのか分からないため、仕方なく“金剛”を発動し炎弾に備える。

 

 

しかし、ハジメの心配は杞憂に終わり、雷電はフォースを駆使し、しっかり炎弾を防いだ。ハジメは、訝しそうな表情となり、まさか射撃ミスか? と首を捻って、再度、飛来した炎弾に向かって発砲してみた。今度も、ハジメの魔眼石には、確かに魔法の核を撃ち抜いたように見えたのだが、やはり、弾丸は炎弾をすり抜けて明後日の方向へ飛んでいく。

 

 

「……そういう事か?」

 

「どうやら、ハジメも気付いた様だな?」

 

「えっと、ハジメくん?」

 

「どういうことなの?」

 

 

香織と恵里はどういうことなのか理解出来ずにいた。ハジメは香織達に説明をする。

 

 

「どうやら、今流れ弾として飛んできた炎弾は、ただの幻覚ってわけでもないが、現実というわけでもないようだ。実体のある攻撃は効かないが、魔力を伴った攻撃は有効らしい。全く、本当にどうなってんだか」

 

 

ハジメが、厄介な状況に溜息を吐いていると、すぐ後ろで“ぐぁああ!”と苦悶の声が上がった。何事かと振り返ると、年若い男がカットラスを片手に腹部を抑えて蹲っていた。見れば、足元に血だまりが出来ており、傍らには血濡れの氷柱が転がっている。おそらく、被弾したのだろう。

 

 

 

咄嗟に香織は、“大丈夫ですか!”と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。彼女の放つ純白の光が青年を包み込む。香織の“治癒師”としての腕なら瞬く間に治るはずだ……と思われたが、結果は予想外。青年は、香織の回復魔法をかけられた瞬間、淡い光となって霧散してしまった。

 

 

「え? えっ? ど、どうして……」

 

 

混乱する香織に、ハジメは少し考えたあと、推測を話す。

 

 

「魔力さえ伴っていれば、魔法の属性や効果は関係ないってことじゃないか?」

 

「……それじゃあ、わ、私……あの人を殺し……」

 

「それは違うぞ、これは現実じゃない。彼等は飽くまで幻覚の一種だ。それも“直接作用できる幻覚”だ。層と考えておけば問題ない。それに、回復魔法をかけられて消えるものを人間とは呼ばない」

 

「ハジメくん……うん、そうだね。ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」

 

 

ハジメの淡々としながらも香織を気遣う言葉に、しかし、香織は、いつものように喜ぶでもなく、ただ申し訳なさそうに肩を落とした。そして、直ぐに笑顔を取り繕う。そんな香織に、ハジメは思わず先程から思っていた事をポツリと呟いた。

 

 

「……謝ってばっかだな」

 

「えっ? 何か言った?」

 

「いや、何でもない」

 

 

ハジメが、香織から視線を外す。

 

 

 

香織との間に微妙な空気が流れそうだったからではなく、不穏な気配を感じたからだ。周囲を見渡せば、雄叫びを上げながら、かなり近くまで迫ってきた相手の船団に攻撃する兵士達に紛れて、いつの間にか、かなりの数の男達が暗く澱んだ目でハジメと香織の方を見ていた。

 

 

香織が、ハジメの視線に気がつき同じように視線を巡らせた直後、彼等はハジメ達に向かって一斉に襲いかかってきた。

 

 

「全ては神の御為にぃ!」

 

「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」

 

「異教徒めぇ!我が神の為に死ねぇ!」

 

 

そこにあったのは狂気だ。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。

 

 

 

相対する船団は、明らかに何処かの国同士の戦争なのだろうと察することが出来るが、その理由もわかってしまった。これは宗教戦争なのだ。よく耳を澄ませば、相対する船団の兵士達からも同じような怒号と雄叫びが聞こえてくる。ただ、呼ぶ神の名が異なるだけだ。この時に雷電は、嘗て前世で体験した戦争、“クローン戦争”を今見ている宗教戦争と重なって見えて、苦虫を噛み潰した表情をしていた。

 

 

 

その狂気に気圧されて香織と恵里は呆然と立ち尽くす。

 

 

 

ハジメは、香織を後ろから抱きしめつつ、その肩越しにドンナーを突き出し発砲した。ただし、飛び出したのは弾丸ではなく、純粋な魔力の塊だ。“魔力操作”の派生“魔力放射”と“魔力圧縮”によって放たれたそれは、通常であれば、対象への物理的作用は余りなく魔力そのものを吹き飛ばすという効果をもつ。魔力が枯渇すれば人も魔物も動けなくなるので、ある意味、無傷での無力化という意味では使える技術なのだが、相対した相手にそんな生温い方法をハジメが選ぶはずもなく、今まで御蔵入りしていた技である。

 

 

 

だが今は、その生温い技が何より役に立つ。ドンナーによって撃ち放たれた紅色の弾丸は、一瞬で空を駆け抜けると、狂気を瞳に宿しカットラスを振り上げる兵士の眉間をぶち抜いた。それだけに留まらず、貫通して更に背後の兵士にも着弾し、その体を一瞬で霧散させる。そして雷電もまた、恵里を守りながらもライトセーバー以外の武器を取り出す。取り出した武器は“DC-17”ハンド・ブラスター。しかし、ただのハンド・ブラスターではなく、ハジメに改造してもらい、ハジメの持つドンナーと同様に魔力弾を放つことが出来る様になっている。このハンド・ブラスターを渡されたのは、エリセンでメルジーネ海底遺跡攻略の下準備している時に雷電に手渡したのだ。

 

 

 

ジェダイである雷電は銃を拒んでいたがハジメが緊急事用に持っておけと言われ、“これは、あまり使われる機械がないことを祈りたい”と思いながらも所持していたのだ。雷電も今回ばかりは仕方なしと思い、DC-17で魔力弾を放ち、兵士達を霧散させる。

 

 

「香織!飛ぶぞ!舌を噛むなよ!」

 

「えっ?っきゃあああ!!」

 

「お…おいっハジメ!?恵里、俺達も追いかけるぞ!」

 

「えっちょっと待って、僕はまだ、心の準備がぁぁああ!?」

 

 

狭い甲板の上で四方から囲まれるのも面倒なので、ハジメは、香織を抱き上げて“空力”を使い一気に飛び上がった。雷電も恵里を抱きかかえながらもハジメと同様に“空力”を使って追いかけるのだった。余りの勢いに香織と恵里から悲鳴が上がる。

 

 

 

ハジメと雷電は、先に物見台にいた兵士を蹴り落としつつ、四本あるマストの内の一本にある物見台に着地した。

 

 

 

下方で、狂気に彩られた兵士達が血走った眼でハジメ達を見上げている。

 

 

 

今の今まで敵国同士で殺意を向け合っていたというのに、どういうわけか一部の人間達がハジメと香織、雷電と恵里を標的にしているようだった。しかも、四人を狙う場合に限って敵味方の区別なく襲ってくるのだ。その数も、まるで質の悪い病原菌に感染でもしているかのように、次々と増加していく。

 

 

 

一瞬前まで、目の前の敵と相対していたというのに、突然、動きを止めるとグリンッ!と首を捻ってハジメ達を凝視し、直後に群がって来る光景は軽くホラーだ。狂気に当てられた香織など、既に真っ青になっている。

 

 

「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるんだ?」

 

「……どこかに脱出口がある……とか?」

 

「海のど真ん中だぞ?」

 

「船のどれかが脱出口になっていたりしないかな?……ほら、ど○でもドアみたいに」

 

「待て、香織。それは流石にNGワードだ」

 

 

香織が例えに持ち出した真っ青な猫ロボの便利道具を思い出しつつ、香織の発言にツッコミを入れる雷電。周囲を見渡すハジメは、船の多さに眉をひそめて嫌そうに反論する。

 

 

「……見た感じ、ざっと六百隻くらいあるんだが……一つ一つ探すのは無理だろ。戦争が終わる方が早いと思うぞ?」

 

「う~ん、確かに、沈んじゃう船もあるだろうし……じゃあ、戦争を終わらせる……とかかな?」

 

「終わらせる……なるほど、取り敢えず皆殺せと?香織も中々過激な事を言うじゃないか」

 

「えっ?えっと、そういう意味じゃ……」

 

「だが…どの道、敵を倒さなければ道は進めないのは確かだ。それに運が良いのか、相手は飽くまで幻覚で出来た兵士達だ。本物の人間じゃない」

 

「雷電の言う通りだ。それ以外思いつかないし、何より俺好みだしな」

 

 

ちょうど、マストのロープを使って振り子の要領で迫ってきた兵士数人を見もせず魔力弾で撃ち抜き霧散させたハジメは、こんなことなら魔力砲でも作っておけばよかったと思いつつ、撃ち放った紅色の弾丸を“魔力操作”の派生“遠隔操作”で誘導し、更に飛来した炎弾を迎撃していく。

 

 

「香織、お前は攻撃系の魔法は不得意だろうけど、ここでは回復魔法すら強力な攻撃になる。脱出方法はよく分からないが、襲われたのは事実なんだから、取り敢えず、全員ぶちのめすぞ」

 

「わ、わかったよ!」

 

「恵里、俺とハジメで敵陣に突っ込む。お前は初級の火炎魔法弾で援護してくれ」

 

「わ…わかった!」

 

 

ハジメと雷電の言葉に、震える体を叱咤して決然とした表情で詠唱を始める香織とこの状況を切り抜ける為に詠唱を始める恵里。狂気が吹き荒れる戦場は、香織達の精神を掘削機のように削り取っているのだろうが、隣にいる想い人に無様を見せたくない一心で気丈に振舞う。

 

 

 

そんな彼女達を守るようにハジメ達は周囲を睥睨した。

 

 

 

眼下を見れば、そこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。ハジメ達が攻撃した場合と異なり、幻想同士の殺し合いでは、きっちり流血するらしい。

 

 

 

甲板の上には、誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。どいつもこいつも、“神のため” “異教徒” “神罰”を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしている。

 

 

 

兵士達の鮮血が海風に乗って桜吹雪のように舞い散る中、マストの上の物見台にいるハジメ達にも、いや、むしろハジメ達を狙って双方の兵士が執拗に襲いかかった。

 

 

 

その度に、紅色の弾丸と蒼色の弾丸が縦横無尽に飛び回り、敵の尽くを撃ち抜いていく。更には、ハジメと雷電、香織と恵里の周囲を衛星のようにヒュンヒュンと飛び回って、攻性防御の役割を果たす魔力弾もあった。

 

 

 

それでも、狂気の兵士達は怯むどころか気にする様子もなく、特攻を繰り返して来た。飛翔の魔法で何十人という兵士達が頭上から、そして、隣のマストやマストにかかる網を伝って兵士達が迫って来る。見れば、ハジメ達の乗る船にやたらと攻撃が集中しており、ハジメの魔眼石には、ハジメ達に向かって手を掲げる術師達から最上級クラスの魔力の高まりが見えていた。

 

 

 

ハジメが、何とか狙撃してやろうかと考えたその時、香織の詠唱が終わり、彼女の最上級魔法が発動する。

 

 

「──もの皆、その腕かいなに抱きて、ここに聖母は微笑む。──“聖典”!」

 

 

直後、香織を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜けた。

 

 

 

波紋は、脈動を打つように何度も何度も広がり、その範囲は半径一キロメートルに及んだ。そして、その波紋に触れた敵の一人一人を光で包み込んでいく。

 

 

 

光系最上級回復魔法〝聖典〟。

 

 

 

それは、超広範囲型の回復魔法で、領域内にいる者を全員まとめて回復させる効果を持つ。範囲は、術者の魔力量や技量にもよるが、最低でも半径五百メートル以内の者に効果がある魔法だ。また、あらかじめ〝目印〟を持たせておけば、領域内で対象を指定して回復させることも出来る。当然、普通は数十人掛りで行使する魔法であるし、長時間の詠唱と馬鹿デカイ魔法陣も必要だ。たった一、二分で、しかも一人で行使できるなど、チート以外の何者でもない。

 

 

 

香織の放った“聖典”の光が戦場を包み込むと同時に、領域内の兵士達は敵味方の区別なく全てが体を霧散させて消え去った。魔法の効果が終わり、香織の体が魔力枯渇で傾ぐ。近くに恵里が、すかさず支えに入った。

 

 

「香織、大丈夫?」

 

「う、うん。ありがとう、恵里ちゃん」

 

「おぉ、メアリー・セレスト号の量産だな。やるじゃないか、香織。いや、流石というべきか?」

 

「香織のおかげで助かった。感謝するよ」

 

「あ、う、そ、そんなことないよ。ハジメくん達の方がずっと凄いし……」

 

 

香織は、ハジメの素直な称賛に照れくさそうに頬を染めつつも、ユエなら、もっと早く、もっと強力な魔法が使えるのだろうなと思い、自嘲気味の笑みをこぼした。そして、“補充”と呟いてハジメから貰った魔晶石のペンダントより失った魔力を充填していく。香織は魔力の直接操作が出来ないので、ハジメが魔法陣を刻んで詠唱で取り出せるように改良したのだ。

 

 

 

ハジメは、香織の表情を見て眉を少ししかめ何かを言いかけたが、新たな敵が迫ってきたのでそれに対処するため、一旦脇に置き、再び戦闘に入った。

 

 

 

物理攻撃が一切通用せず、どのような攻撃にも怯まない狂戦士の大群と船の上で戦わなければならないという状況は、普通なら相当厳しいものなのだろうが、ここにいるのはチートと化け物(ハジメ)ジェダイ騎士(雷電)

 

 

 

二国の大艦隊は、その後、一時間ほどでたった四人の人間に殲滅されたのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「……うっ、げほぉ、かふっ、ごめ゛……」

 

「いいから、我慢すんな」

 

「恵里、お前は大丈夫か?気持ち悪かったら言ってくれ」

 

「う、うん。僕は大丈夫だよ」

 

 

最後の兵士達を消滅させた直後、再び、周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば、ハジメ達は元の場所に戻っていた。

 

 

 

やはり、殲滅で正解だったかと、安堵の吐息を漏らした直後、香織は近くの岩場に駆け込み、胃の中ものを吐き出し始めた。夕食は消化された後なので吐けるものがなく、一層苦しそうに嘔吐えづいている。なお、恵里の場合は過去の影響があってか、狂気には慣れているものの、異常な程の狂信的な狂気に晒された影響か、少しばかり気持ち悪くなっていたが、嘔吐に耐えていた。

 

 

 

目尻に涙を溜めながら、香織は、片手で“来ないで”とハジメに制止をかけた。

 

 

 

しかし、ハジメはお構いなしに近寄り、香織の背をさする。思い人に無様を見られたくない香織だったが、背中に伝わる優しく温かい感触が心地よくて、次第に精神も吐き気も収まっていくのを感じた。

 

 

 

ハジメが“宝物庫”から取り出し、リンゴジュースのような飲み物を香織達に差し出した。素直にコクコクと飲むと活力も戻ってきたようだ。甘く爽やかな味が、胃液の苦さを洗い流した。

 

 

「ごめんね……」

 

 

面倒を掛けて申し訳ないと眉を八の字にして謝罪する香織に、ハジメは目を細める。

 

 

「まぁ、無理もないだろ。俺でも気持ち悪かった。人間ってのはあそこまで盲信的で狂気的になれるもんなんだなって思ったよ。……とにかく、少し休憩しよう。俺も相当魔力を使ったからな回復したい」

 

「……うん。ねぇ、ハジメくん。あれは何だったのかな?ここにある廃船と関係あるよね?」

 

 

立ち上がり近くの岩場に腰掛けながら、香織が問いかける。ハジメは、少し考えたあと推測を話した。

 

 

「おそらくだが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」

 

「コンセプト?」

 

「ああ。“グリューエン大火山”でティオが言ってたんだよ。大迷宮にはそれぞれ、“解放者”達が用意したコンセプトがあるんじゃないか?ってな。それが本当だとすれば、ここは……」

 

「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」

 

「ああ、そんな気がするよ」

 

 

ハジメの言葉を引き継ぎ、答えを呟いた香織は、先程までの光景を思い出して再び、寒気に襲われたように体をぶるりと震わせながら顔を青ざめさせた。

 

 

 

香織が吐き気を催すほど精神を苛んだのは、兵士達の狂気だ。“狂信者”という言葉がぴったり当てはまる彼等の言動が、思想が、そしてその果ての殺し合いが気持ち悪くて仕方なかったのだ。

 

 

 

狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、ハジメ達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所なのだろうが、それにしても余りに凄惨だった。その全て“神の御為”というのだから、尚更……

 

 

 

口元を抑えて俯く香織を見かねて、ハジメは香織のすぐ隣に腰掛けると香織の手を取って握り締めた。狂気に呑まれそうになっている香織を放っておくことは出来ない。香織は、少し驚いたようにハジメを見ると、次いで、嬉しそうに頬を緩めてギュッと手を握り返した。

 

 

「ハジメくん、ありがと……」

 

「気にするな。狂気に呑まれそうになる辛さは……わかる。俺も、奈落の底で堕ちそうになったしな……」

 

「……そうならなかったのはどうして?……って聞くまでもないか……ユエ……だよね?」

 

「ああ、そうだ。奈落の底で、あいつと出会わなければ……どうなっていたことやら」

 

「そう言えば、俺も奈落の底に落ちてから、一部の悪夢を見たな。あの時の俺も色んな意味で堕ちかけたな。己自身が堕ちない様に精進しないとな…」

 

 

懐かしそうに、それでいて愛しそうに遠い目をするハジメ。きっと、ユエと出会った時のことを思い出しているのだろう。そして雷電も、自身が見た夢のことを思い出し、暗黒面に取り付かれない様に気をつけなければと己に喝を入れるのだった。ハジメの表情を見て、香織の胸が締め付けられる。

 

 

「悔しいなぁ。ハジメくんをつなぎ止めるのも、守るのも……私でありたかったよ。って言っても、私じゃ何が出来たかわからないけどね……約束一つ守れなかったし。あ~、ユエは強敵だなぁ~」

 

 

おどけたように笑う香織に、ハジメは、また目を細めた。香織の笑顔が、いつもの温かな陽だまりのような笑みではなく、多分に自虐や自嘲が入ったものだったからだ。

 

 

「……ここに来てから、やたら謝ったり、そんな笑みばかり浮かべるな」

 

「え? えっと……」

 

 

突然のハジメの言葉に、香織は頭に“?”を浮かべる。しかし、次ぐ、ハジメの言葉で笑みが崩れ一気に表情が強ばった

 

 

「……なぁ、香織。お前、なんで付いて来たんだ?」

 

「……それは……やっぱり邪魔だってことかな?」

 

 

ハジメは、俯いてしまった香織に、溜息を吐くと質問には答えず話し出す。

 

 

「あの日、月明かりの下でマズイ紅茶を飲みながら話をしたこと、俺は覚えている。だから、正直、()()()に好意を寄せてくれることが不思議でならない」

 

「ハジメくん、私は……」

 

「だが、否定するつもりもない。きっと、香織には香織にしか見えないものがあって、それが心を動かしたんだろう。その上で決断したことを、他者が否定するなんて意味ないしな。俺は、俺の答えを示したし、“それでも”というんなら好きにすればいいと思う」

 

「そういえば……関係無い話何だが、シアがここ最近、大胆なアプローチをしてくるんだが?この前は、真夜中で就寝している時に寝込みを襲われそうになったことが有ったんだが?」

 

「へぇ?雷電くん、その話をよく詳しく教えてくれないかな?」

 

 

最近、身体能力がバグってきたウサミミ少女を思って、どこか恐ろしげな表情をする雷電。そしてその話を追求する恵里。そんなハジメ達を見て、香織は苦笑い気味に同意する。

 

 

「……うん、あのアグレッシブさとポジティブさはすごいと思う」

 

「最初の頃は、自分で言うのもなんだが、彼女は既にフォースに目覚めていたんだ。それも無自覚にだ。だからこそ俺は彼女を俺の弟子として旅の仲間に迎えたんだ」

 

「……」

 

「そして彼女は、俺がどんなに厳しい修行をさせても、いつも怒ったり笑ったり泣きべそ掻きながら、それでも、どこか楽しげなんだ。例え、適性が全くなくてユエのように魔法を使えなくても、模擬戦で俺やユエにあしらわれても、前を向くことを止めたりはしない。劣等感に苛まれて、卑屈になったりはしなかったな」

 

「……確かにお前の所はそうだったな。それで、香織の場合はどうなんだ?」

 

「わ、私、卑屈になんて……」

 

 

ハジメの言葉を黙って聞いていた香織は、耐えかねたように反論するが、それも力はなく直ぐに尻すぼみになっていく。

 

 

「気がついているか?ここに来てから、事あるごとに謝ってばかりだってことに。笑い方が、前と全然違うことに」

 

「え?」

 

「なぁ、香織。下を向くな。顔を上げて俺の目を見ろ」

 

 

そう言われて、香織は、自分がずっと俯いていたことに今更ながらに気が付いた。以前は、話をするときは、きちんと相手の目を見て話していたというのに……香織は、ハッとしてハジメと目を合わせた。

 

 

「いいか、もう一度いうぞ。俺は、ユエが好きだ。他の誰かを“大切”には思えても、“特別”がユエであることは変わらない。その事に、辛さしか感じないなら、ユエと自分を比べて卑屈にしかなれないなら……香織、お前は、俺から離れるべきだ」

 

「ッ……」

 

 

はっきりと告げられた言葉に、香織は再び俯いてしまう。それを見ながら、ハジメは、言葉を重ねた。

 

 

「あの時、香織の同行を認めたのは、シアと同じで、俺の傍にいるという決断が香織にとって最善だと、香織自身が信じていたからだ。俺の気持ちを理解した上で、“それでも”と願い真っ直ぐ前を向いたからだ。それなら、好きなだけ傍にいればいいと、そう思ったんだ……だけど、今は、とてもそうは思えない」

 

 

ハジメは、一度言葉を切ると、俯いてしまった香織の手を離し、最後の言葉を紡いだ。

 

 

「もう一度、よく考えてみてくれ。なぜ、付いて来たのか、これからも傍にいるべきなのか……香織はシアとは違う。シアは、ユエのことも好きだからな。……場合によっては、親友八重樫のもとに送り届けるくらいのことはするつもりだ」

 

「わ、私……」

 

 

香織は、離された手を見つめながら何かを言おうとするが、やはり言葉にならなかった。

 

 

 

気まずい雰囲気のまま、それでも前に進まねばならないと、ハジメは香織を促し、一番遠くに鎮座する最大級の帆船へと歩みを進めた。

 

 

 

この時に雷電は、先程戦った幻影の兵士達のことを思い返してみた。あの狂気に満ち溢れた兵士達の目は、まるで最高評議会の議長ことシディアスに忠誠を誓うクローン達と少し似ていると思った。

 

 

 

あの兵士達はエヒトに忠誠を誓い、クローン達は行動抑制チップが埋め込まれていた為にシディアスに忠誠を誓い、そして共通する所はエヒト神(シディアス)の敵は彼等の敵。異端者が解放者であるなら、共和国を裏切ったという濡れ衣を着せられたジェダイ達。皮肉にも、雷電が前世の頃に体験したことと多少酷似していた。

 

 

 

この時に雷電はある一つの可能性が脳裏に入った。エヒト神は、もしかしたら行動抑制チップが埋め込まれたクローン達と同様に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?と。

 

 

 

この大迷宮のコンセプトは、他にも何か雷電達に伝えたいことが有るのではないかと思いつつも、俺は進み続けるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

狂気の正体、ハジメの“大切”

今回の話にて、クローン達のオリジナル大隊+オリ設定があります。


65話目です。


 

 

ハジメ達が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。

 

 

 

全長三百メートル以上、地上に見える部分だけでも十階建て構造になっている。そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚、見るものに感動を与えるほどだ。木造の船で、よくもまぁ、これほどの船を仕上げたものだと、同じく物造りを得意とするハジメは、当時の職人達には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

ハジメは香織を抱え、雷電は恵里を抱えた後に“空力”を使って飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると、案の定、周囲の空間が歪み始める。

 

 

「またか……香織、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」

 

「……うん。大丈夫だよ」

 

「………」

 

「雷電くん、どうしたの?何か考え込んでいるみたいだけど……」

 

「いや…何でもない……」

 

 

テンポの遅い香織の返事にハジメは、先程の指摘は迷宮攻略中に言う事ではなかったかと軽く後悔した。明らかに、香織のテンションがダダ下がりである。言わなければならないことだったと確信しているが、もう少し、タイミングというものがあったかもしれない。香織の浮かべる笑みが、ハジメの知っているものと余りに異なり見ていられなくなったのだが……せめて“メルジーネ海底遺跡”を攻略するまで我慢すべきだった、かもしれないとハジメは頬をカリカリと掻きながら思った。雷電は前の幻覚の兵士達との戦闘が終わって以来、何かと一人で考え込んでいた。一体何を考えているのか気になる所だが、今は目の前のことに集中しようと後回しにする。

 

 

 

そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。

 

 

 

時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。

 

 

「パーティー……だよね?」

 

「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」

 

「何だろう……嫌な予感でしかない」

 

「…雷電くん?」

 

 

予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、ハジメと香織は、おそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。その時に雷電は、この後の何かしらの嫌な予感を感じ取る。

 

 

 

すると、ハジメ達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう。

 

 

 

その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。

 

 

「こんな時代があったんだね」

 

「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」

 

「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな?皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」

 

「そうだな……」

 

「……ん?あれは……?」

 

 

楽しげで晴れやかな人々の表情を見ていると、ハジメと香織も自然と頬が緩んだ。雷電はその人々の中をよく見てみると、そこには召喚した覚えのない()()()()()()()()()()の姿が多く存在した。

 

 

「クローン!?ハジメ、この中に俺が召喚した覚えのないクローン・トルーパーが混じっている!」

 

「なにっ!?何処だ?」

 

「クローン達はあそこだ!」

 

 

雷電が指す方角には、甲板に用意されていた壇上の付近に数名のフェーズⅡクローン・トルーパー・アーマーを着たクローン・トルーパーの姿があった。そのアーマーのカラーリングの色はブラックグレーをベースに、深紅のラインマーカーが塗られており、そのクローンの正体を雷電は前世の頃から覚えていた。

 

 

「間違いない、あのクローン達は…!」

 

「雷電、あのクローンは何処の所属か分かるか?」

 

 

ハジメは雷電に向こう側にいるクローン達の所属が何処なのか聞くと、雷電は苦虫を噛み潰した表情をしながらも説明した。

 

 

「……第422機密大隊(シークレット・バタリオン)。あのクローン達は、パルパティーン議長が持つ私兵の大隊だ」

 

「第422機密大隊?……そんな大隊があったのか?」

 

「あぁ……私兵とは名ばかりで、実力はクローン・コマンドー並で、第501大隊に引けを取らない程の精鋭大隊だ。特に彼等の任務は“汚れ仕事(ウェット・ワーク)”……つまり、暗殺を主任務とする大隊だ。しかし、何故彼等が幻覚の一種として現れたんだ?」

 

 

そう雷電が考える最中、甲板に用意されていた壇上の付近に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。彼等の目には一様に敬意のようなものが含まれていた。

 

 

 

初老の男の傍には側近らしき男と何故かフードをかぶった人物が控えている。時と場合を考えれば失礼に当たると思うのだが……しかし、誰もフードについては注意しないようだ。

 

 

 

やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。

 

 

「諸君……平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」

 

 

そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。

 

 

 

どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける。

 

 

 

演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。しかし、ハジメは、そんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた。雷電もまた、壇上の付近にいるクローン達の様子がおかしいことに気付き、警戒をした。

 

 

「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………()()()()()()()()()

 

 

国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に“?”を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く。

 

 

「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」

 

「い、一体、何を言っているのだ!アレイストよ!一体、どうしたと言うッがはっ!?」

 

 

国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。

 

 

 

刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。

 

 

 

場が騒然とする。“陛下ぁ!”と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。

 

 

「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる“エヒト様”に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ!それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ!獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ!そして複製の人形達よ!気は熟した、今は好機!オーダー“666(トライヘキサ)”を実行し、獣共と異教徒共を殲滅せよ!」

 

「了解、アレイスト王…」

 

「フフフ、アーッハッハッハッハッ!!ああ、エヒト様!見ておられますかぁ!!!」

 

 

膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達と第422機密大隊のクローン達が現れた。

 

 

甲板は、前後を十階建ての建物と巨大なマストに挟まれる形で船の中央に備え付けられている。なので、テラスやマストの足場に陣取る兵士達やクローン達から見れば、眼下に標的を見据えることなる。海の上で逃げ場もない以上、地の利は完全に兵士達側にあるのだ。それに気がついたのだろう。各国の重鎮達の表情は絶望一色に染まった。

 

 

 

次の瞬間、遂に甲板目掛けて一斉に魔法とブラスターの光弾が撃ち込まれた。下という不利な位置にいる乗客達は必死に応戦するものの……一方的な暴威に晒され抵抗虚しく次々と倒れていった。

 

 

 

何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく。

 

 

「うっ」

 

「香織」

 

 

吐き気を堪えるように、香織が手すりに身を預け片手で口元を抑えた。余りに凄惨な光景だ。無理もないと、ハジメは香織を支える。

 

 

 

アレイスト王は、部下を伴って船内へと戻っていった。幾人かは咄嗟に船内へ逃げ込んだようなので、あるいは、狩りでも行う気なのかもしれない。

 

 

 

彼に追従する男とフードの人物も船内に消える。

 

 

 

と、その時、ふと、フードの人物が甲板を振り返った。その拍子に、フードの裾から月の光を反射してキラキラと光る銀髪が一房、ハジメには見えた気がした。

 

 

 

周囲の景色がぐにゃりと歪む。どうやら、先程の映像を見せたかっただけらしく、ハジメと香織は元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。この時に雷電は、今見た光景をジェダイ聖堂で起きたクローン達の反乱、ジェダイの大虐殺と重なって見えた。

 

 

「クソッ!……まさかあの光景を思い出す羽目になるなんて……!これじゃあ前世の俺が体験した仲間達が虐殺された()()()()と同じじゃないか!!正直に言って最悪だ…!」

 

「雷電くん……」

 

 

雷電は見たくもない光景を目にし、内心に溜まる怒りを近くにある手摺りに当たる他になかった。恵里はそんな雷電を見て心配そうになる。ハジメも、雷電がここまで怒りを隠せないでいることに心配するが、最も心配すべきなのは香織でもあった。

 

 

「香織、少し休め」

 

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと、キツかったけど……それより、あれで終わりかな?私達、何もしてないけど……」

 

「この船の墓場は、ここが終着点だ。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないか?あの光景は、見せることそのものが目的だったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはな」

 

「全くだ。ここにいても、気分が悪くなるだけだ。早めに移動しよう……」

 

 

この世界の人々は、そのほとんどが信仰心を持っているはずであり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては、相当精神を苛むだろう。そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい魔法の力が攻略の要だ。ある意味、“ライセン大迷宮”の逆なのである。異世界人であるハジメ達だからこそ、精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。

 

 

 

ハジメ達は甲板を見下ろし、そこで起きた凄惨な虐殺を思い出して気の進まない表情になった。ハジメの場合、ただ単にウザそうなだけのようだったが、特に雷電の場合は、前世の頃に体験したジェダイの大虐殺をこの世界版でもある亜人、魔人族の大虐殺を見て蒸し返したくもない過去を思い出してしまい、怒りが収まらなかった。

 

 

 

そんなこんなで四人は、意を決して甲板に飛び降り、アレイスト王達が入って言った扉から船内へと足を踏み入れた。

 

 

 

船内は、完全に闇に閉ざされていた。外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か、全く光が届いていない。ハジメは、“宝物庫”から緑光石を使ったライトを取り出し闇を払う。雷電もライトセーバーで青い光刃を出し、それをライト代わりにする。

 

 

「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことかな?」

 

「そうみたいだな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったか? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのだとしたら、本当に、あんなに慕われると思うか?」

 

「……そうだね……あの人の口ぶりからして、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かな?……問題は何があったのかということだけど」

 

「まぁ、神絡みなのは間違いないな。めっちゃ叫んでたし。危ない感じで」

 

「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」

 

 

どうやら聖教教会の教皇は、女子高生からイタイ人と思われていたらしい。ハジメは少しだけ同情してしまった。一方の雷電は、ある程度怒りが収まった後にアレイスト王の変貌ぶりについて考えていた。あの王が変貌した様子は、まるでクローン達が裏切った原因であろう行動抑制チップの真の役割である“オーダー66”と少しだけ酷似していた。

 

 

「…なぁ三人共、少し冷静になって考えてみたんだが、あの王の変貌について少しだけ分かった事がある」

 

「「「分かったこと?」」」

 

「あぁ……あの王の変貌は、まるでオーダー66を受けた行動抑制チップを埋め込まれたクローン達と少し似ているんだ」

 

「はっ?……いや、それはありえないだろ?さっきのクローン達ならまだ分かるが、あの王には行動抑制チップを埋め込む以前に作る技術レベルまで達していないだろ?」

 

「科学技術的にはそうだが、魔法技術ならありえなくはない筈だ。……で、少し似ている事についてだが、あの王はまるでエヒトのお告げを“真実”だと認識していた……というよりは、させていたようだ。まるでエヒトによって“真実”を認識させ、行動を強制させられたかの様に……行動抑制チップを例えて言うならば、行動を強制させる……差し詰め、“行動強制チップ”みたいな魔法を受けた歳か考えられる。つまり、俺達がいずれ戦うであろうエヒトには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えていいだろう」

 

「マジかよ……」

 

「……この大迷宮の()()()()()()()はまさにそれということだろうな。神代魔法を集め、エヒトの行動を強制させる何かを防ぐ技術、もしくは魔法を産み出す為の必要な行程だったのかもしれない。……だったら尚更、エヒトは俺達にとって大きな障害になる」

 

 

雷電がそう考察しながらも進んでいると、前方に向けられたハジメのライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。

 

 

 

ハジメ達は足を止めて、ライトの光を少しずつ上に上げていく。その正体は、女の子だった。白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。

 

 

 

猛烈に嫌な予感がするハジメ達。特に、香織の表情は引き攣りまくっている。ハジメは、こんなところに女の子がいるはずないので取り敢えず撃ち殺そうとドンナーの銃口を向けた。

 

 

 

その瞬間、女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして、手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛のように手足を動かし、真っ直ぐハジメ達に突っ込んで来た!

 

 

 

ケタケタケタケタケタケタケタッ!

 

 

 

奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。前髪の隙間から炯々と光る眼でハジメ達を射抜きながら迫る姿は、まるで何処ぞの都市伝説のようだ。

 

 

「「いやぁあああああああああああ!!!!」」

 

「うおっ!?落ち着け香織!腕を掴むな!」

 

 

テンプレだが、それ故に恐ろしい光景に、香織と恵里が盛大に悲鳴を上げ、香織はハジメにしがみついた。ケタケタ笑って迫る少女?をドンナーで撃とうとしていたハジメは、香織がしがみついたせいで照準をずらしてしまった。

 

 

「ケギャ!!」

 

 

瞬く間に足元まで這い寄った少女?は、奇怪な雄叫びと共にハジメの顔面に向かって飛びかかった。

 

 

ハジメは、仕方なく銃撃を諦めて、ケタケタ笑う少女?の腹部に必殺のヤクザキックをぶち当てようとした時に、雷電がその間に割り込み、ライトセーバーで少女を切り裂き、フォース・プッシュで吹き飛ばす。

 

 

 

フォース・プッシュによって吹き飛ばされた瞬間、少女は盛大に吹き飛び壁や廊下に数回バウンドしたあと、廊下の奥で手足を更におかしな方向に曲げて停止し、そのまま溶けるように消えていった。この時に雷電は、ライトセーバーでも通用する事に気付き、ライトセーバーだけで対応する事にした。

 

 

 

ハジメは溜息を吐いた後に雷電に礼を言った後、未だにふるふると震えながらハジメにしがみつく香織の頭を拳で軽く叩く。ビクッとしたあと、香織は、恐る恐るという感じでハジメを見上げた。既に目尻には涙が溜まっており、口元はキュッと一文字に結ばれている。マジビビリだった。恵里も恵里で以外にもこの手の物は大の苦手であった。

 

 

「香織って、こういうの苦手か?」

 

「……得意な人なんているの?」

 

「魔物と思えばいいんじゃないか?」

 

「……ぐすっ、頑張る」

 

「恵里、大丈夫か?恵里はこの手の物は苦手だったか?」

 

「怖かった……怖かったよぉ…!」

 

 

香織はそう言って、ハジメから離れた。手だけはハジメの服の裾を掴んで離さなかったが。恵里はもう泣きたいくらいに雷電の横に抱きつくしかなかった。雷電は恵里を宥めながらも頭を優しく撫でるのだった。

 

 

 

先程まで、ハジメに言われたことを気にして、どこか遠慮があったというのに、今は、絶対離れないからね!という強靭な意志が濡れた瞳に宿っている。必死だ。告白したときと同じくらいに。

 

 

 

その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いてハジメ達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……

 

 

 

そのほとんどは、ハジメが魔力弾で撃ち抜くか、雷電のライトセーバーで瞬殺したのだが……

 

 

「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~」

 

「香織、僕だってやだよぉ……でも、この迷宮を攻略しなきゃ帰れないんだよ?」

 

「うぅ〜……」

 

 

船内を進むごとに激しくなる怪奇現象に、香織が幼児退行を起こし、ハジメの背に張り付いてそこから動かなくなった。恵里は何とか香織を元気付けようとするが、効果はなかった。

 

 

 

ちなみに、雫の名を呼ぶのは、小さい時から光輝達に付き合わされて入ったお化け屋敷で、香織のナイト役を勤めていたのは雫だったからだそうだ。決して、ゆりゆりしているわけではない。

 

 

 

“メルジーネ海底遺跡”の創設者メイル・メルジーネは、どうやらとことん精神的に追い詰めるのが好きらしい。ハジメは、奈落の底で、闇と化け物に囲まれながら長期間サバイバルしていた経験があるので、特に、どうとも思わないが、普通の感性を持つ者なら精神的にキツイだろう。もっとも、ユエやティオが驚きむせび泣くところなど想像できないが……

 

 

 

先程までの人生の迷子的なシリアスな雰囲気は何処に行った?と、思わずツッコミを入れたくなるくらいハジメに引っ付き半泣きになりながら、それでも何とか回復魔法で怪奇を撃退していく香織とそれを見守るハジメ。恵里は雷電と一緒ならば平気と暗示を掛ける様に初級の魔法の炎弾で会期を撃退する。雷電も、恵里をあまり負荷が駆らない様にライトセーバーで怪奇を斬り捨てるのだった。

 

 

 

途中、何度か香織が意識を飛ばしそうになりつつも、遂に四人は、船倉までたどり着いた。

 

 

 

重苦しい扉を開き中に踏み込む。船倉内にはまばらに積荷が残っており、ハジメ達は、その積荷の間を奥に向かって進む。すると、少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ!と大きな音を立てて勝手に閉まってしまった。

 

 

「ぴっ!?」

 

「ヒッ!?」

 

「……」

 

「罠か……」

 

 

香織と恵里がその音に驚いて変な声を上げる。何だか、迷宮を攻略したあとも自分のした大切な話を覚えているのか心配になって来たハジメ。ああいう話を何度もするのは勘弁だった。

 

 

 

ハジメが、溜息を吐きながらビクつく香織の肩をポンポンと撫でて宥めていると、また異常事態が発生した。急に濃い霧が視界を閉ざし始めたのだ。

 

 

「ハハハハハハ、ハジメくん!?」

 

「何か陽気な外人の笑い声みたいになってるぞ。今まで通り、魔法でぶっ飛ばせばいいだけだ。大丈夫だって」

 

 

ハジメがそう答えた瞬間、ヒュ!と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。咄嗟に、ハジメが左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。更に、連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する

 

 

「ここに来て、物理トラップか?ほんとに嫌らしいな!解放者ってのはどいつもこいつも!」

 

「そうでもしないと神代魔法を受け継ぐのにふさわしいか如何か分からないだろう?解放者視点で考えればの話だが!」

 

「守護の光をここに──“光絶”!」

 

 

ハジメは、一瞬、意表を突かれたものの、所詮はただの原始的な武器であることから難なく捌き、雷電もライトセーバーで飛んでくる矢を防ぐ。香織も防御魔法を発動し、恵里を守る。直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風がハジメ達に襲いかかった。

 

 

 

雷電はアセンション・ケーブルで地面に突き刺し、飛ばされない様にしつつも恵里を掴んで暴風に耐えていた。ハジメも靴のスパイクで体を固定し飛ばされないようにしつつ、咄嗟に隣の香織を掴もうとしたが、運悪く香織の防御魔法が邪魔になり、一瞬の差で手が届かなかった。

 

 

「きゃあ!?」

 

「香織!?」

 

 

香織は悲鳴を上げて暴風に吹き飛ばされ霧の中へと姿を消す。ハジメは舌打ちをして感知系能力を使い香織の居場所を把握しようとした。しかし、どうやらこの霧は“ハルツィナ樹海”の霧と同じように方向感覚や感知系の能力を阻害する働きがあるようで、あっさり見失ってしまった。

 

 

「マズいぞ、ハジメ!」

 

「チッ…分かっている!香織、そこを動くなよ!」

 

 

舌打ちしつつ香織に呼びかけるハジメに、今度は前方の霧を切り裂いて、長剣を振りかぶった騎士風の男が襲いかかってきた。何らかの技なのだろう、凄まじい剣技を繰り出してくる。

 

 

 

ハジメは、それを冷静にドンナーで受け流すと、大きく相手の懐に踏み込み左のシュラークを腹に当てがって魔力弾を撃ち放つ。腹に風穴を開けられた騎士風の男は苦悶の声を上げることもなくそのまま霧散した。

 

 

 

しかし、同じような並みの技量ではない剣士や拳士、他にも様々な武器を持った武闘派の連中が、霧に紛れて次々に襲いかかってきた。

 

 

「クソ面倒な……」

 

「恵里、このアセンション・ガンをしっかり掴んでいてくれ。俺達は目の前の敵を片付ける」

 

「分かった、気をつけて……」

 

 

悪態を吐きつつ、ハジメは、紅色の魔力弾を衛星のように体の周囲に展開し、“瞬光”も発動して速攻で片付けにかかる。雷電もまた“瞬光”を発動させてライトセーバーで次々と敵を斬り捨てる。その時のハジメは、香織の声が聞こえないのが気がかりだったのだ。

 

 

 

一方、その香織はというと、ハジメ達の姿が見えなくなってしまった事に猛烈な不安と恐怖を感じていた。ホラーは、本気で苦手なのだ。こればっかりは、体が勝手に竦んでしまうので、克服するのは非常に難しい。ただでさえ、劣等感から卑屈になっている点を指摘されてしまい、何とか、そんなことはないと示そうと思っていたのに、肝心なところで縋り付いてしまう自分がほとほと嫌になる。

 

 

 

こんなことではいけないと震える体を叱咤して、香織は何とか立ち上がる。と、その時、香織の肩に手が置かれた。ハジメは、よく肩をポンポンと叩いて励ますことがあるので、自分を見つけてくれたのかと、一瞬、喜びか湧き上がった。

 

 

「ハジメく……」

 

 

直ぐに振り向こうとして、しかし、その前に、香織は、肩に置かれた手の温かみが妙に薄いことに気がついた。いや、もっと正確に言うなら、温かいどころか冷たい気さえする。香織の背筋が粟立った。自分の後ろにいるのは、ハジメではない。直感で悟る。

 

 

 

では、一体だれ?

 

 

 

油を差し忘れた機械のようにギギギと音がなりそうな有様で背後を振り返った香織の眼前には……目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。

 

 

「あふぅ~」

 

 

香織の精神は一瞬で許容量をオーバーし、防衛本能に従ってその意識を手放した。

 

 

 

その頃、ハジメと雷電は、僅か一分程で五十体近い戦士の亡霊達を撃滅していた。大体、二~三秒で歴戦の戦士を一体屠っている計算だ。と、その時、一瞬、攻勢が止んだかと思うと、霧の中から大剣を大上段に振りかぶった大男が現れ、霧すら切り裂きながら莫大な威力を秘めた剣撃を繰り出した。

 

 

 

ハジメと雷電は、半身になってその一撃をかわす。しかし、最初から二ノ剣が想定されていたのか、地面にぶつかった反動も利用して大剣が跳ね上がった。

 

 

 

ハジメは、その場で跳躍すると、“金剛”をかけつつ大剣に義手を引っ掛けその上に飛び乗る。そして雷電は、二ノ剣の攻撃を紙一重で躱し、一瞬で距離を積めてライトセーバーで大男の足を切り裂く。その時に振り切られた大剣の上に膝立ちするハジメは、スっとドンナーを大男の頭部に向け魔力弾を撃ち放った。

 

 

頭部を吹き飛ばされ大男が霧散すると同時に、周囲の霧も晴れ始める。

 

 

「これで全部か?……後は香織だな」

 

「香織!どこだ!」

 

 

ハジメは、香織の気配を感知しようと集中する。しかし、そんなことをするまでもなく、香織はあっさり見つかった。

 

 

「ここだよ。ハジメくん」

 

「香織、無事だったか……」

 

 

微笑みながら歩み寄ってくる香織に、ハジメは安堵の吐息をもらす。そんなハジメの様子に、香織は更に婉然と微笑むと、そっとハジメに寄り添った。この時に雷電は、香織のフォースにある以上を検知したが、どうやらハジメもそれを理解している様だ。恐らくハジメは香織を救う為に大胆な行動をするであろうと予測する。

 

 

「すごく、怖かった……」

 

「そうか……」

 

「うん。だからね、慰めて欲しいな」

 

 

そう言って、香織はハジメの首に腕を回して抱きついた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で、その瞳がハジメの口元を見つめる。やがて、ゆっくりと近づいていき……

 

 

 

ゴツッ

 

 

 

と音を立てて、香織のこめかみにドンナーの銃口が突きつけられた。

 

 

「な、なにを……」

 

 

狼狽した様子を見せる香織に、ハジメの眼が殺意を宿して凶悪に細められる。

 

 

「なにを?もちろん、敵を殺すんだよ。お前がそうしようとしたようにな」

 

 

そう言って、ハジメは微塵も躊躇わず引き金を引いた。ドンナーから紅色に輝く弾丸が撃ち放たれ容赦なく香織のこめかみを穿ち、吹き飛ばす。

 

 

 

カランカラン…

 

 

 

音を立てて転がったのは錆び付いたナイフだ。香織の手から放り出された物であり、抱きつきながら袖口から取り出したものでもある。恵里は一体これはどうゆう状況なのか理解できていなかった。雷電は恵里にこっそりと説明をし、今はハジメに任せようと見守るのだった。ただし、度が過ぎれば介入するつもりである。

 

 

 

コツコツと足音を立てながら、倒れた香織に近寄るハジメ。香織は体を起こし、怯えたように震えた声でハジメに話しかける。

 

 

「ハジメくん、どうしてこんなことッ!?」

 

 

しかし、ハジメは取り合わず再び香織に魔力弾を撃ち込んだ。

 

 

「香織の声で勝手に話すな。香織の体で勝手に動くな。全て見えているぞ?香織に巣食ったゴミクズの姿がな」

 

 

そう、ハジメの魔眼石には、香織と重なるようにしてとり憑いている女の亡霊のようなものが映っていた。雷電にも魔眼石が左眼に入っているが殆ど使用せず、フォースだけで香織に取り付いている亡霊に気付いたのだ。……というか、雷電の魔眼石がただの飾りになってしまっていた。正体がバレていると悟ったのか、香織の姿をした亡霊は、先程までの怯えた表情が嘘のように、今度はニヤニヤと笑い出した。

 

 

「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」

 

 

そう話しながら立ち上がろうとした香織(憑)だったが、ハジメに馬乗りに押し倒され再び倒れこんだ。

 

 

「まてっ!なにをするの!この女は、あんたの女!傷つけるつもりッ!?」

 

「頭の悪い奴だ。話すな、動くなと言っただろう?別に香織は傷つけないさ。魔力弾で肉体は傷つかない。苦しむのは取り憑いたお前だけだ」

 

「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ!それでもいいの!?」

 

 

その言葉に、ハジメが少し首を傾げる。ハッタリの可能性も十分にあるが、真偽を確かめるすべがない。普通なら、躊躇し手を出せなくなるだろう。香織(憑)もそう思ったのか、再びニヤつきながら、上からどけとハジメに命令した。それに対するハジメの返答は……

 

 

 

スパンッ! スパンッ!

 

 

 

魔力弾を撃ち込むことだった。苦痛を感じているのか香織(憑)の表情が歪む。そして焦った表情で更に魔力弾を撃ち込もうとするハジメに怒声を上げた。

 

 

「あんた正気なの!?この女がどうなってもいいの!?」

 

「黙れ、ゴミクズ。お前の言う通り攻撃を止めたところで、香織の体は奪われたままだろうが。それに、逆に言えば、消滅させなければ魂は壊れないんだろう?なら、出て行きたくなるまで死なないようにお前を嬲ればいいだけだ」

 

 

あまりに潔い発言に絶句する女の亡霊。その時に女の亡霊は、その様子を見ていた雷電達に抗議し、助けを求めた。

 

 

「ちょっとあなた達!?この男は自分の大切な女を殺そうとしているのよ!?見てないで助けなさいよ!?」

 

「いや、僕の場合は無理だから……化け物じみたハジメくんを止めるのは……」

 

「それ以前に、アンタは取り付く相手を間違えたんだ。アンタが助かる道は二つ。ハジメの魔力弾によって成仏するか、香織から離れて自己成仏するかの二つだけだ。下手に意地を張ってもアンタが苦しむだけだぞ?」

 

「いやいや、自己成仏って何っ!?そんな言葉初めて聞いたんだけど!?「おい…」…ヒッ!?」

 

 

女の亡霊が雷電の言葉にツッコム中、ハジメの濃密な殺意が宿った眼光によって射抜かれ、硬直する。

 

 

「この状況でよく口が動かせるもんだな?俺の“大切”に手を出したんだ……楽に消滅なんてさせない。あらゆる手段を尽くして、()()()()()()()してやる。あらゆる苦痛を与えて、それでも狂うことすら許さない。お前は敵だが……絶対に殺してやらない」

 

 

ハジメの体から紅色の魔力が噴き上がり、白髪が煽られてゆらゆらと揺らめく。殺気も魔力も荒れ狂い、にもかかわらず瞳だけが氷のように凍てついている。

 

 

 

ハジメは、激怒しているのだ。かつてないほど。ただ敵を殺すだけでは飽き足らない、“残虐性”が発露するほどに。

 

 

 

香織にとり憑いた亡霊は、余りに濃密でおぞましい殺意に、もはや硬直してハジメを凝視する以外何も出来なかった。この時になって、ようやく悟ったのである。自分が決して手を出してはいけない化け物の、決して触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだと。

 

 

 

ドンナーの銃口が、香織(憑)の額に押し当てられる。とり憑いた亡霊は、ただひたすら願った。一秒でも早く消えてしまいたいと。これからされるだろう“何か”を思うと、少しでも早く消えてしまいたかった。

 

 

 

亡霊の正体は、元々、生に人一倍強く執着する思念が変質したものだったのだが、その思いすら吹き飛ばすほど、今のハジメの放つ雰囲気は恐ろしかったのだ。

 

 

 

消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい!

 

 

 

亡霊の叫びが木霊する中、ハジメがまさに引き金を引こうとした瞬間、香織の体が突然、輝き出した。それは、状態異常回復の魔法“万天”の輝きだ。香織が万一に備えて“遅延発動”用にストックしておいたものである。

 

 

 

突然の事態に呆然とする亡霊に内から声が響いた。

 

 

 

──大丈夫、ちゃんと送ってあげるから

 

 

 

その言葉と共に、輝きが更に増す。純白の光は、亡霊を包み込むように纏わりつくと、ゆらりふわふわと天へ向けて立ち上っていった。同時に、亡霊の意識は薄れていき、安堵と安らぎの中、完全にこの世から消滅した。

 

 

 

一拍の後、香織のまぶたがふるふると振るえ、ゆっくり目を開いた。馬乗り状態のハジメが、真上から香織の瞳を覗き込む。香織が輝き出してから、ハジメの魔眼石には、存在が薄れていく亡霊の姿が映っていたので、取り敢えず殺意を薄め、香織の中にいないか確かめているのだ。

 

 

 

間近い場所にハジメの顔があり、押し倒されている状況で、ハジメの視線は真っ直ぐ香織の瞳を射抜いている。びっくりするほど真剣で、同時に、心配と安堵も含まれた眼差し。そんな瞳を見つめ返しながら、香織の体は自然と動いていた。

 

 

 

スっと顔を持ち上げて、ハジメの唇に自分のそれを重ねる。唇と唇を触れ合わせるだけのもの。それでも確かに、香織のファーストキスだ。これには恵里の顔が真っ赤になるのには十分すぎる衝撃だった。

 

 

 

ハジメは、“魂が壊れる”と言われたために、万一を考えて香織に巣食うものがないか“見る”ことに集中しており、ごく自然な動作で迫った香織のキスを避けることが出来なかった。驚いて一瞬硬直するハジメから、香織は、そっと唇を離す。

 

 

「……なにして……」

 

「答えかな?」

 

「答え?」

 

「うん。どうして付いて来たのか、これからも付いて行くのか……ハジメくんの問い掛けに対する答え」

 

 

そう言ってハジメに向けられた香織の微笑みは、いつも見ていた温かな陽だまりのような微笑みだった。ここに来てから見せていた、作り笑いの影は微塵もない。

 

 

 

実のところ、とり憑かれている間、香織には意識があった。まるで、ガラス張りの部屋に閉じ込められてそこから外を見ているような感じだった。それ故に、香織もしっかりと認識していたのだ。未だかつて見たことがないほど怒り狂ったハジメの姿を。香織を“大切”だと言って、敵に激情をぶつけた姿を。

 

 

 

そのハジメの姿を見た瞬間、香織の胸に耐え難い切なさが湧き上がった。そして、それと同時に、告白した時のどうしようもない気持ちを思い出したのだ。

 

 

 

それは、誰に何と言われようと、例えどれだけ迷惑を掛けようとも、このわがままだけは貫かせて欲しい。貫いてみせる。そんな気持ちだ。ハジメを囲むユエ達の輪の中に、自分だけいないことが耐え難かった。自分だけハジメの傍にいないという未来は想像もしたくなかった。自分の力量がユエ達に遠く及ばないことは重々承知していても、気持ちだけは負けていないと示したかった。

 

 

「好きだよ、ハジメくん。大好き。だから、これからも傍にいたい」

 

「……辛くなるだけじゃないか?例えばの話だが、ユエもいなければ、ってわけじゃないだろう?」

 

「そうだね。独占したいって思うよ。私だけ見て欲しいって思うよ。ユエに、嫉妬もするし、劣等感も抱くよ……辛いと感じることもあるかも」

 

「だったら……」

 

「でも、少なくとも、ここで引いたら後悔することだけは確かだから。確信してるよ。私にとっての最善はハジメくんの傍にいることだって……最初からそう思って付いて来たのに、実際に差を見せつけられて色々見失ってたみたい。でも、もう大丈夫」

 

 

ハジメの頬を両手で挟みながら、ふわりと微笑む香織。ハジメは、困ったような呆れたような複雑な表情だ。香織が自分で決めて、その決断が最善だと信じているなら、ハジメに言えることは何もない。幸せの形など人それぞれだ。ハジメに香織の幸せの形を決めることなど出来ないし、するべきでもない。

 

 

「……どうやら、吹っ切れた様だな?」

 

「……そうか。香織がそれでいいなら、俺はこれ以上なにも言わない」

 

「うん。いっぱい面倒かけるけど、嫌わないでね」

 

「今更だろう。学校でも、ここに来てからも……お前は割かしトラブルメイカーだ」

 

「それは酷いよ!」

 

「そうか? 学校でも空気読まずに普通に話しかけて来たし、無自覚に言葉の爆弾落とすし、その度に、周りの奴らが殺気立つし、香織は気づかないし、深夜に男の部屋へネグリジェ姿でやって来るし……」

 

「うぅ、あの頃はまだ自覚がなくて、ただ話したくて……部屋に行ったのは、うん、後で気がついて凄く恥ずかしかった……」

 

「まぁ、そこは香織らしいと言えばらしいかな?僕は今のままの香織が好きだしね」

 

 

顔を赤くし両手で顔を覆う香織の上から退き、ハジメは、そのまま香織を助け起こす。そして、苦笑いしながら香織の肩をポンポンと叩き、そして、霧が晴れてから倉庫の一番奥で輝き始めた魔法陣の方へ歩き出そうとした。

 

 

 

そのハジメの袖をギュッと掴む香織。見れば、少しふらついてる。どうやら、とり憑かれていたせいか、少し体の感覚が鈍いらしい。体に異常はないようなので、直に元に戻るだろうが。

 

 

「少し休憩しよう」

 

 

そう提案したハジメに、香織はいいことを思いついた笑みを浮かべると、ハジメに背を向けさせその背中に飛び乗った。

 

 

「……何してる」

 

「早く先に進んだ方がいいでしょ?いつまで魔法陣が機能してるか分からないし。ぼやぼやしてたら、また霧が出ちゃうかも。だから、ね?」

 

 

確かに一理あることなので、ハジメは“しょうがないか……”と頭をカリカリ掻きながら、香織を背負い直して魔法陣へと歩いて行った。その後方で雷電と恵里は今のハジメ達を暖かい目で見守っていた。

 

 

 

香織は、腕をハジメの首に回して、これでもかというくらいギュッと背中にしがみつく。何がとは言わないが、背中に感じる凄く柔らかい感触を極力無視するハジメ。そんなハジメの耳元に甘い声音が響く。ほとんど触れるような近さで、香織の唇が震え、熱い吐息と共に言葉が囁やかれた。

 

 

「ハジメくん……さっきのもう一度言って欲しいな」

 

「さっきの?」

 

「そう、“何に”手を出されたから怒ったの?」

 

「……さぁ、何のことかわからない」

 

「もうっ、それくらい言ってよ~」

 

 

ある意味、イチャついていると言えなくもない雰囲気で香織を背負ったハジメは、スタスタと進み、躊躇いなく魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 

 

雷電もハジメの後を追おうとした時に恵里からこんな質問をされた。

 

 

「ねぇ、雷電くん」

 

「恵里……?どうした?」

 

「もし、私も香織と同じ目に合ったら、雷電くんは助けてくれる?」

 

 

恵里がもしも、先ほどの女の亡霊に取り憑かれた場合は助けてくれるかどうかだった。この質問に雷電は答え方に悩んだ。この手の質問は、恋愛的要素も含まれているものだと理解していた。正直に言えば、このところ、シアの事を考えるだけで暗黒面の力が増してくる一方だ。そんな想いを片隅に雷電は、ある程度考えた後に答えを出した。

 

 

「助けるには助けるが、俺自身、恋愛に関しては疎いんだ。前世の頃の影響かもしれないが、恵里の気持ちは分からなくはない。ただ……」

 

「…ただ?」

 

「前世で既に血に染まった俺が、幸せを掴んでいいのか分からない……いや、怖いんだ。俺を愛する人を不幸にしてしまわないかとな?俺のフォースが暗黒面に偏り過ぎていって、もはやダーク・ジェダイと言われてもおかしくない位にバランスが不安定なんだ。だから、出来るだけ恋愛は避けたかった。俺の所為で、俺に好意を抱いているシアや恵里を不幸にさせたくない……」

 

「雷電くん……」

 

 

雷電の辛い答えに恵里は何も言えなかった。雷電は、これ以上暗い話をするべきではないと判断し、ハジメ達の後を追うのだった。……この時に恵里は思う。“せめて雷電にも救いがあります様に”と願うのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

封印されし騎士、悪食討伐

今回初めての20000文字です。……キツかった(;´д`)


66話目です。


 

 

淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

 

 

 

その空間には中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

 

 

 

その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには人影が立っていた。ハジメと香織、雷電と恵里だ。

 

 

「……ここは……あれは魔法陣?まさか、攻略したのか?」

 

「えっと、何か問題あるの?」

 

「いや、まさかもうクリアとは思わなくてな……他の迷宮に比べると少し簡単だった気が……最後にあのクリオネ擬きくらい出てくると思ったんだが……」

 

「確かに……オルクス大迷宮やライセン大迷宮の最深部で迷宮のラスボスと戦う事になっていたからな。しかし、この大迷宮は別なのか?」

 

「もしそうなら、あのクリオネ擬きとは戦いたくないかな?僕達でもあれは流石にきついよ……」

 

 

どうやら、メイル・メルジーネの住処に到着したようだと分かり、ハジメは少し拍子抜けしたような表情になり、雷電はまだ仕組みがあるのかと警戒するのだった。それに対して香織は、ハジメ達の肩越しに顔を覗かせて、苦笑いしながら答えた。

 

 

「あのね、ハジメくんに雷電くん。十分大変な場所だったよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だよ。クリオネみたいなのは、有り得ないくらい強敵だったし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力頼りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ?十分、おかしな難易度だよ」

 

「むっ、そう言われればそうなんだろうが……」

 

「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

 

「余計、精神的にキツいか……」

 

「……だな」

 

 

香織の指摘は、要するにハジメが強すぎたという事だ。そこまで言われると、確かに、“グリューエン大火山”も最後のフリードの襲撃さえなければ無傷で攻略出来ていたなぁと納得するハジメと雷電。

 

 

 

そして、そう言えば、ユエ達と合流する前に到着してしまったが彼女達はどうしているだろうかと考えたその時、ハジメの思考を読んだように右側にある通路の先の魔法陣が輝き出した。

 

 

 

爆ぜる光が収まると、そこにはユエ、シア、ティオ、清水、デルタ、不良分隊の姿があった。絶妙なタイミングだった。

 

 

「いいタイミングだな。そっちは大丈夫だったか?」

 

「ん……そっちは……大丈夫じゃなかった?」

 

「あ、香織さん大丈夫ですかっ!」

 

「む?怪我でもしておるのか?回復魔法はどうした?」

 

 

ハジメの呼びかけに、それぞれ元気な様子を見せつつ、ハジメに背負われている香織に心配そうな視線を送っている。それに対する香織の返答は……

 

 

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だよ。半分は甘えているだけだから」

 

 

実に朗らかな笑みを浮かべて堂々と宣言する香織に、ユエはスっと目を細め、ティオは面白そうに“ほほぉ”とニヤついた笑みを浮かべ、清水はハジメ達を見て、小声で“爆ぜろ…”と呟いた。そしてデルタ分隊は清水の毒舌に苦笑いし、不良分隊はそんなハジメに対して何とも言えなかった。

 

 

「おい、香織。もしかして、もう立てるのか?」

 

「えへへ、実は最初から歩くくらいなら問題なかったり……ごめんね?」

 

「はぁ、さっさと降りろ」

 

 

少しバツ悪そうに笑う香織に、呆れた表情を見せながらハジメは香織を降ろした。そして、神殿へと向かいユエ達と合流する。

 

 

「で、何があったんじゃ?ん?ほれ、言うてみよ、ご主人様。香織と何かあったんじゃろ?ほれほれ、何があったんじゃあ?隠さずに言うてッへぶぅ!?」

 

 

ティオがニヤつきながら実にうざい感じで問い詰め出したので、イラっと来たハジメは取り敢えず張り手を繰り出した。足を崩して、艶かしい姿勢で崩れ落ちたティオが荒い息を吐きながら頬を染める。

 

 

「ひ、久しぶりの衝撃じゃぁ~、はぁはぁ、んっ、ご主人様よ、もっとお仕置きしていいんじゃよ?むしろ足蹴にしてくれていいんじゃよ?」

 

 

どこか期待した雰囲気で、そんなことをのたまうティオを無視して、ハジメ達は奥の祭壇へと向かった。背後から“あと一回、一回でいいのじゃ! お願い、妾をぶってぇ”とキモイ言葉が聞こえていたが、全員全力でスルーした。

 

 

「……で? 何があったの?」

 

 

ユエが、ティオと同じ質問をする。しかし、その視線はハジメではなく、香織に向いていた。香織は、ユエに視線を合わせるとニッコリと上機嫌に笑い、いつかのように言葉の爆弾を落とす。

 

 

「ちょっと、ハジメくんとキスしただけだよ」

 

「……ほぅ」

 

「えっ!?ホントですか!?どっちから!どっちからですか!まさか、ハジメさんから!?」

 

 

香織の言葉に、ユエの声が一段低くなり、シアが興味有り気に詰め寄った。

 

 

「私からだよ。……ハジメくんが私の為に怒ってくれて……我慢できなくて奪っちゃった」

 

「わぁ、私の時と同じですね!私も、我慢できなくてマスターの最初を奪いましたから。仲間ですね!香織さん!」

 

「いやっ待て、シア。前にも言ったが、あの時はお前が溺れてたから人工呼吸で蘇生させたんだ。だからアレは「マスター、少し口を閉じてください」……何でだよ」

 

 

雷電の訂正すら聞く耳すら持たないシア。ハジメと雷電の直ぐ傍らで、ハジメ&雷電襲撃計画を練り始める女子二人。ハジメと雷電の頬に冷たい汗が流れる。冗談めかしてキャッキャッとはしゃいでいるように見えるが、その実、香織もシアも目がマジだったからだ。肉食系の眼を向けてくる香織など昔は想像すらしていなかった。

 

 

「……尻尾巻いて逃げるかと思ってた」

 

 

ユエが、香織に探るような眼差しを向ける。ユエは、香織が劣等感を感じて心を苛んでいることに気がついていた。だから、香織にとって最初の大迷宮挑戦になる今回で、あるいは挫折して逃げ帰ることもあるだろうと考えていたのだ。もちろん、自分に宣戦布告した相手を慰めてやるつもりなど毛頭なかった。ここで引くなら、その程度の想いだったと勝利宣言すればいいだけだ。

 

 

 

だが、香織は、どうやら立ち直ったようで、むしろ、前より決然としている雰囲気すらある。何があったのか気になるところだった。

 

 

「……そうだね。ハジメくんにも、いっそそうした方がいいって言われたよ。でも、ユエとの色々な差とか……今更だしね」

 

「……開き直った?」

 

「そうとも言うかも。というかね、元々、開き直って付いて来たのに、差を見せつけられて、それを忘れてただけなんだよ。情けないとこ見せちゃった」

 

「……そのまま諦めれば良かったのに」

 

「ふふ、怖い?取られそうで?」

 

「……調子にのるな。トラブルメイカー」

 

「……それ、ハジメくんにも言われた。……私、そんなにトラブル体質なのかな……」

 

 

辛辣なユエの言葉に、香織の頬が引き攣る。想い人と恋敵に揃ってトラブルメイカー呼ばわりされて若干落ち込みそうなるが、直ぐに気を取り直す。ちなみに、実はユエも、というかハジメ達全員が割かしトラブル体質なので、かなりブーメランな言葉なのだが、ユエにその自覚はなかった。

 

 

「まぁ、ユエの言う通りかもしれないけど……少なくとも私はハジメくんの“大切”だから、頑張って“特別”を目指すって決めたの。誰になんと言われようと、ね」

 

「……そう。なら今まで通り受けて立つ」

 

「うん!あ、それと、ユエの事は嫌いじゃないからね?喧嘩友達とか、そういうの、ちょっと憧れてたんだ」

 

「……友達? 私と香織が?」

 

「そう、友達。日本にはね、強敵と書いて友と表現する人がいるみたい。なら、恋敵と書いて友と読んでもいいんじゃないかな?」

 

「……日本……ハジメの故郷……聞けば聞くほど不思議な国。でも……いいセンスだと思う」

 

「だよね。うふふ、そういうわけで、これからも宜しくね?」

 

「……ん」

 

 

何だかいい感じの雰囲気を放つユエと香織だったが、その傍らで、二人の会話を聞かされているハジメは、物凄く居心地が悪かった。ガールズトークをしている女子の中に一人だけ場違いにも紛れ込んでいる男子のような気分だ。そして、香織が某世紀末の濃ゆい人の言葉を知っている事や、ユエの返しが某ダンボール好きな蛇の言葉だというのもツッコミたくて仕方なかったが、空気を読んで我慢した。

 

 

 

祭壇に到着したハジメ達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。いつもの通り、脳内を精査され、記憶が読み取られた。しかし、今回はそれだけでなく、他の者が経験したことも一緒に見させられるようだった。つまり、ユエ達が見聞きしたものをハジメと香織も共有したのである。

 

 

 

どうやら、ユエ達は、巨大な地下空間で海底都市とも言うべき廃都にたどり着いたようだ。そこで、ハジメ達と同じく空間が歪み、二国の軍隊と都内で戦争して来たようである。というのも、その都は人間族の都で魔人族の軍隊に侵略されているところだったらしく、結局、ハジメ達と同じように両者から襲われたようだ。

 

 

 

都の奥には王城と思しき巨大な建築物があり、軍隊を蹴散らしながら突き進んだユエ達は、侵入した王城で重鎮達の話を聞くことになった。

 

 

 

何でも、魔人族が人間族の村を滅ぼした事がきっかけで、この都を首都とする人間族の国が魔人族側と戦争を始めたのだが、実は、それは和平を望まず魔人族の根絶やしを願った人間側の陰謀だったようなのだ。気がついた時には、既に収まりがつかないほど戦火は拡大し、遂に、返り討ちに合った人間側が王都まで攻め入られるという事態になってしまった……という状況だったらしい。

 

 

 

そして、その陰謀を図った人間とは、国と繋がりの深い光教教会の高位司祭だったらしく、この光教教会は、聖教教会の前身だったようだ。更に、彼等は進退窮まり暴挙に出た。困った時の神頼みと言わんばかりに、生贄を捧げて神の助力を得ようとしたのだ。その結果、都内から集められた数百人の女子供が、教会の大聖堂で虐殺されるという凄惨な事態となった。

 

 

 

ユエ達も、その光景を見たときは流石にかなりキツかったようだ。魔法陣による記憶の確認により強制的に思い出し、顔を青ざめさせている。特に、シアは今にも吐きそうだ。

 

 

 

ようやく記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。ハジメ達の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。

 

 

「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

 

「……見つけた“再生の力”」

 

 

ハジメが悪態をつく。それは、手に入れた“メルジーネ海底遺跡”の神代魔法が“再生魔法”だったからだ。

 

 

 

思い出すのは、“ハルツィナ樹海”の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに“再生の力”が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に“ハルツィナ樹海”に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが。

 

 

 

ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。

 

 

 

人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。

 

 

 

彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

 

《……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています》

 

 

そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

 

「証の数も四つですね、ハジメさん、マスター。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

 

シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、この時に脳裏に浮かんだのは“お帰りなさい、将軍!”と敬礼する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる。ハジメは、証のコインを“宝物庫”にしまうと、シアと同じように“お帰りなさい、将軍!”と敬礼するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した。

 

 

 

と、その時に雷電は、この神殿の祭壇の奥にある壁にある窪みを見つける。

 

 

「……ん?あの窪みは…?」

 

「雷電?……どうした?」

 

「マスター?」

 

 

雷電が見つけた窪みは二つ存在しており、一つは雷電が持つライトセーバーと同じ形の窪みをしており、もう一つはシアが持つライトセーバーと同じ形の窪みであった。雷電はこの窪みの形に違和感を覚えていた。何故自身とシアのライトセーバーと同じ形の窪みがこのメルジーネ海底遺跡に存在するのか?と。

 

 

「この窪み……まるでライトセーバーを填める様にある形だな?もしかして……」

 

「マスター……この窪みは一体?」

 

「……シア、窪みにライトセーバーを填めてみるぞ」

 

「はいですぅ!」

 

 

雷電とシアは壁にある窪みにライトセーバーを嵌め込むと、神殿が揺れ始めた。するとライトセーバーを嵌め込んだ壁が横に開く様に展開し、新たな隠し通路が出現する。

 

 

「隠し通路……か。しかし、何故ライトセーバーが鍵なんだ?まるで雷電達を待っていたかの様に見えるな?」

 

「……罠?」

 

「マスター。この奥に何か有る筈ですぅ」

 

「どの道、調べないと分からないな。慎重に進もう……いつも通りにな」

 

 

そうして雷電とシアはライトセーバーを回収した後に先頭に立ち、隠し通路に進む。ハジメ達は雷電達の後を追う様に出現した隠し通路を通るのだった。進めど進めど、辺り一面は真っ黒であり、雷電達はライトセーバーを明かり代わりにし、ハジメは緑光石を錬成で加工し、作り上げたライトで道を照らしながらも雷電の後に続く。

 

 

 

隠し通路を進み始めてから数十分、終わりが見えなさそうに思えた長い通路も、終わりを迎えた。雷電達の行く道に一筋の光が灯る。その光こそ、この隠し通路の終わり側である。雷電達はライトセーバーを仕舞い、出た場所の辺りを見渡した。そこは真っ白な空間がこの部屋を覆っており、雷電達の前には一つの台座が有った。雷電はその台座を調べると、そこにはコイン状の窪みがあり、何かを入れる為の仕掛けである事を理解する。

 

 

「この形……ハジメ、メルジーネ海底遺跡の攻略の証を貸してくれ」

 

「応っ……何かあったのか?」

 

「自分の読みが正しければ、この証がここにある台座の鍵かもしれない」

 

 

そう言いながらも雷電はハジメからメルジーネの証を受け取り、台座の窪みに証を嵌め込んだ。

 

 

 

すると、仕掛けが起動したのか台座の後ろで異変が起きる。突如と台座の後ろに穴が出現し、その穴から何かが上がってくる。そして数十秒後、その上がってきたものの正体が、雷電達の前に現れる。それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 

 

 

ハジメはその黒い板を見て、何かと見覚えがあった……否、この技術を知っていた。

 

 

「こいつは……“カーボン凍結”!?」

 

「ハジメ……これって?」

 

「ハジメくん、知ってるの?」

 

「あ…あぁ、こいつはカーボン凍結って言ってな?雷電の世界の技術だ。超強力なカーボナイトで高圧ガスなどの不安定な物質を閉じ込める工業テクノロジーであるんだが、通常、知覚種族……つまり、生き物に対する使用は想定されていないんだが、目の前にあるクローンと、誰かは知らねえ男がカーボン凍結されて冬眠状態になっている様だな」

 

 

 

ハジメがユエ達に説明する中、雷電はクローンの事もそうだが、目の前にいるカーボン凍結された青年に対して冷静でいられなかった。

 

 

「嘘……だろ?」

 

「…マスター?」

 

 

シアは雷電の様子がおかしい事に気付くが、雷電はシアからの心配を気にせずに目の前の青年に目が釘付けだった。この青年は雷電に取って知り合いでもあり、腐れ縁でもある人物でもあった。

 

 

「ミレディから聞いていたが……まさか、海底遺跡で眠っているとは思わなかったぞ……()()()()()()

 

 

そう……雷電の前にあるカーボン凍結された青年こと、ジェダイ達の中で問題児と評されたジェダイ・ナイト“アシュ=レイ・ザンガ”がこの海底遺跡の奥で眠っていたのだ。一人のクローンと共に。

 

 

 

シアは雷電がアシュ=レイの名を聞いた時にミレディから渡されたジェダイ・ホロクロンに投影された人物と目の前にいる青年が同一人物であることを理解する。

 

 

「えっ!?も…もしかして、この人がホロクロンを作った人物ですか!?で…でも、もしそうなら何でここで眠っているんでしょうか?」

 

「カーボン凍結を解除させてアシュ=レイに聞けば、その謎も解けるだろう」

 

 

香織と恵里にとってアシュ=レイと言う男がどういう存在なのかは理解していない。しかし、今の時点で分かることは雷電はアシュ=レイとは知り合いでもあり、腐れ縁でもあるということだけだった。そんな彼女の思想を知らずに雷電は、カーボン凍結されているアシュ=レイとクローンの炭素板の横にあるスイッチを押し、カーボン凍結を解除する。そしてカーボン凍結を解除されたアシュ=レイとクローンは、久しぶりの目覚めに上手く足に力が入らずに倒れ込む。

 

 

「いっつ!……っ、一体何だ?」

 

「……つぅ、どうやら何者かが自分たちをカーボン凍結から目覚めさせた様です」

 

「まぁ……そういうことだ」

 

 

アシュ=レイは、ふと懐かしい声を聞いた様な声が耳に入った。そして顔を上げると、そこには白髪の少年の姿があった。この時にアシュ=レイは、その白髪の少年とは初めて会うのだが、不思議と初めて会った気がしなかった。だが、その男性のフォースを感じ取り、自分がよく知る腐れ縁の知り合いのフォースそのものであることを理解する。

 

 

「お前……ライか?」

 

「久しぶりだな、アシュ=レイ。……といっても、今の俺は一度死んで、輪廻転生で“藤原雷電”としてこの世に生まれた存在だ。前世の記憶を受けついでな」

 

「マジか……お前、あの時にか?」

 

「あぁ……あの大虐殺から生還できなかった。その結果、一度死んで地球という星で転生したということになるな」

 

「どういうことだよ、それ。……でもまぁ、また会えて嬉しいことに変わりないな」

 

「……だな」

 

 

雷電は上手く立てないアシュ=レイの手を掴み、腕を引っ張って立たせるのを手伝う。何とか立ち上がるものの、長年カーボン凍結で冬眠状態が続いたことで上手くバランスが取り難かったが、“時間が経てば、そのうち慣れるだろう”と軽口を言って何とかバランスを保てた。クローンもまたデルタ分隊に手助けされながらも立ち上がるのだった。

 

 

 

この時に香織は、雷電が前世持ちの転生者であることを初めて知った。

 

 

「えっ!?雷電くんって前世の記憶を引き継いた状態で生まれ変わったの?それに、“ライ”というは雷電くんの前の名前の?」

 

「そう言えば、香織にはまだ俺の過去のことを話してなかったな?まぁ……噛み砕いて説明すると、俺は前世の頃、コルサントの銀河共和国に所属するジェダイ・ナイトの一人だ。そしてアシュ=レイとは切っても切れない腐れ縁の仲で、同じジェダイ・ナイトだ。最も、クローン戦争が始まる前でも問題児であったことには変わらなかったが……」

 

「おい、一言余計だ!それはそうと……ライ」

 

「ん…?」

 

 

雷電の余計な一言で癪に障ったのか、アシュ=レイは雷電に何か言おうと声をかける。そして……

 

 

 

「お前、一体どういった経緯で記憶を引き継いだ状態で転生したんだよ!?転生するんだったらこっちの世界に転生してくれよ!!」

 

「知るか!!そもそも輪廻転生の常識から外れた転生だから、俺に言ってもどうしようもねぇだろうが!!」

 

 

 

「他にあるだろうが!?この世界に魔法なんかで引き寄せられて来たとか!科学の力で無理矢理この世界に来たとかよっ!!」

 

「何で俺がそっちに来る前提なんだよ!!というか、俺が転生した世界は魔法なんて存在しねえし、科学もまだワームホール技術などを使った転移技術すら確立してねぇんだぞ!!それ以前に、お前は解放者と共にエヒトに喧嘩売ったんだろう!その尻拭いを俺に押し付けるつもりだったんだろうが!!」

 

「しょうがねえだろうが!それに、旅は道ずれ世は情けって言うだろうが!!」

 

「巫山戯んな!お前の場合は“歩く問題児(アシュ=レイ)”だろうが!!」

 

「ぐっ…!正論過ぎて、何も言えねぇ!!……ってか、今ルビに要らねえ文字入れただろう!?」

 

 

……と、言った感じで口喧嘩になり、ハジメ達は雷電とアシュ=レイの急な口喧嘩に付いて行けず、何処をツッコンだら良いのか分からなかった。

 

 

「あのーっ……ハジメさん?マスターって腐れ縁の方と話し合う際はこんな感じなんでしょうか?」

 

「いやっ…そこ、俺に振るか?俺だってあんな雷電の顔を見るのは初めてだ。つーか、あの様子からしてあのアシュ=レイって奴には結構苦労したんだろうな?」

 

「ミレディ以上に癖が強そうです……」

 

「でも……実力は本物みたい」

 

「雷電殿も、変わった友人を持っている様じゃな」

 

「雷電くんから過去の話を聞かされていたから分かっていたけど、アシュ=レイさんのことはあまり話さなかったかな?」

 

「そ……そうなんだ……」

 

「何とも言えないな……お前たち、何かコメントはあるか?」

 

「「「ノーコメントで……」」」

 

 

雷電とアシュ=レイの遣り取り……というより、口喧嘩する様子に対してそれぞれの感想を述べるのだった。そうしている内に雷電とアシュ=レイは口喧嘩によって疲れたのか途中で会話を止め、別の話題に移るのだった。

 

 

「まぁ……お前に色々と言いたいことはあるが、俺達の目的は元の世界の帰還だ。どの道エヒトを倒さないと元の世界に戻れそうないのは事実だ。その為に力を貸してくれるか?」

 

「愚問だぜ?俺とてエヒトにやられた借りを返せるんだ。だったら俺も行くぜ!あっ…後、今更だが、一緒に凍結されていたクローンは俺の相棒兼武器製作のプロフェッショナルだ」

 

「どうも、自分は“ヴォルト”と言います。以後、よろしくお願いします」

 

「あぁ……よろしく頼む」

 

 

そう挨拶を交わした後に雷電達は新たな仲間であるアシュ=レイとヴォルトと共に隠し部屋を後にし、この海底遺跡の神殿から出ようとしたその時、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

 

「うおっ!?チッ、今頃になって強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」

 

「……んっ」

 

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

 

「水責めとは……やりおるのぉ」

 

「メイルの奴……カーボン凍結した俺達のことを考慮して俺達が来たら強制的に排出される様、仕掛けを仕組んだな?」

 

「呑気に解析してる場合じゃないぞ、ハジメの言う通りにするぞ!」

 

 

凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、“宝物庫”から酸素ボンベ取り出して口に装着した。

 

 

 

そしてその直後、天井部分が“グリューエン大火山”のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。ハジメ達もその竪穴に流れ込んで、下から噴水に押し出されるように、猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

おそらく、“メルジーネ海底遺跡”のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネらしくない、滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。しかも、強制的だった。意外に、過激な人なのかもしれない。

 

 

 

押し上げられていくハジメ達は、やがて頭上が行き止まりになっていることに気が付く。しかし、ハジメ達がぶつかるといった瞬間、天井部分が再びスライドし、ハジメ達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。ハジメは確信する。メイル・メルジーネは絶対、見た目に反して過激で大雑把な性格だと。

 

 

 

海中に放り出されたハジメ達は、急いで潜水艇を“宝物庫”から取り出した。そして、ハッチから乗り込もうとするが、その目論見は阻止される。一番、会いたくなかった相手によって。

 

 

 

ズバァアアアアアアッ!!!

 

 

 

ハジメ達の眼前を凄まじい勢いで半透明の触手が通り過ぎ、潜水艇が勢いよく弾き飛ばされた。

 

 

“ユエ”

 

“凍柩!”

 

 

ハジメが向けた視線の先には、一見妖精のような造形でありながら、全てを溶かし、無限に再生し続ける凶悪で最悪の生物──巨大クリオネがいた。わざわざ攻略が終わった後で現れたことに歯噛みしながら、ハジメはユエに“念話”を発動して呼びかける。

 

 

 

巨大クリオネは、再び無数の触手を水の抵抗などないかのように猛烈な勢いで射出した。それに対して、ユエがハジメの呼びかけに応え阿吽の呼吸で周囲の海水を球形状に凍らせて、氷の障壁を張る。

 

 

 

直撃した触手の勢いで海中を勢いよく吹き飛ばされる氷の障壁と中のハジメ達。激しい衝撃に全員が障壁内でシェイクされる。

 

 

“どうするんじゃ!ご主人様よ!〟

 

 

念話石を使って通信してきたティオに、ハジメが答える。

 

 

“全員海上を目指せ。水中じゃあ嬲り殺しだ。時間は俺が稼ぐ!”

 

 

ハジメは、そう言いながら指輪型の感応石を操って潜水艇を遠隔操作した。ハジメ達の背後から、吹き飛ばされ沈んだはずの潜水艇が猛スピードで突き進み、船体を捻りながら襲い来る無数の触手をかわしていく。そして、船底から無数の魚雷を射出した。

 

 

 

一度に射出された魚雷の数は十二。普通に考えれば十分な破壊力。しかし、ハジメは、ここで確実に隙を作らなければジリ貧だと判断し、手を緩めず潜水艇に搭載されている魚雷の全てを連続して射出した。船体を横滑りさせるように航行させ、巨大クリオネを中心に円を描かせる。普通の船なら不可能な動きを実現しながら、次々と放たれた魚雷の数は、総じて四十八発。

 

 

 

泡の線を引きながら殺到したそれらは、狙い違わず巨大クリオネに直撃し凄絶な破壊をもたらした。

 

 

 

ドォウ! ドォウ! ドォウ! ドォウ!

 

 

 

そんなくぐもった衝撃音が鳴り響き、海水が膨張したように膨れ上がる。海上から、巨大クリオネの直上を見ているものがいれば、海面が一瞬盛り上がり、次いで、噴き上がる巨大な水柱を観測したことだろう。

 

 

 

ハジメ達は、全魚雷が爆発した直後、水流を操作して浮上を試みた。いくら化け物じみた再生力を持っていても、しばらくは時間を稼げるはずだ。しかし、巨大クリオネのデタラメさはハジメ達の予測を軽く超えていたらしい。

 

 

“ユエ、上だ!”

 

“っ…ダメ、間に合わない!”

 

 

潜水艇を遠隔操作で回収しながら浮上するハジメ達の頭上に半透明のゼリーが漂っており、数瞬で集まり固まると三メートルサイズのクリオネモドキになったのだ。そして、頭部をガパッ! と大きく開くとそのまま、氷の障壁を呑み込んでしまった。当然、ハジメ達は、障壁と一緒に、クリオネの腹の中である。

 

 

“くそっ、再生が早すぎるぞ!”

 

“ちぎれた触手から再生したみたい!”

 

“マズイですよ、ハジメさん、マスター。周りがゼリーだらけですぅ!”

 

 

どうやら、ちぎれた触手だけでなく、半透明ゼリーは最初から海流に乗ってあちこちに分布していたようだ。

 

“……ハジメ。あまり保たない!腹の中じゃ海水がないから補強できない!”

 

“ちっ、こうなったら……”

 

“ハジメ、皆に衝撃に備える様に伝えてくれ!ここは俺が!”

 

“雷電!?……だーくそっ全員衝撃に備えろ!”

 

 

氷の障壁が凄まじい勢いで溶かされていくのをユエが必死に耐える。ハジメは万が一のことを想定し、障壁に“金剛”を纏わせ防御力を強化させる。そして雷電は、フォースを使う為にユエが張ってくれた氷の障壁の外側であるクリオネの腹の中を押し出すイメージをし始める。

 

 

 

するとクリオネモドキの体が膨らみ、やがて限界が来て破裂する。僅かな時間で“金剛”すら溶けかけていたため、間近で破裂の衝撃を浴びたハジメ達も盛大に吹き飛び、氷の障壁も砕け散ってしまった。

 

 

 

海中に放り出されたハジメ達。ハジメは、水中ではまともに戦えない香織とシアを潜水艇に掴まらせて海上まで運ぼうと遠隔操作した。

 

 

 

しかし、今度はその潜水艇が捕まる。巨大クリオネの一部がいつの間にか船底に張り付いて穴を開けたのだ。船内に海水が流れ込み航行速度が鈍った隙に四散していた周囲の半透明ゼリーが一気に集まり潜水艇を包み込んでしまった。

 

 

 

しかも、ハジメ達が浮上しようとしていることに気が付いていたのか、大量の半透明ゼリーをハジメ達の頭上に覆うように展開している。巨大クリオネの尋常でない再生速度からすると、生半可な方法では突破できないだろう。

 

 

 

溶かされていく自慢の潜水艇に内心悪態を吐きながら、ハジメはユエに念話で呼びかけた。

 

 

“ユエ。“界穿”を頼む”

 

“……四十秒はかかる”

 

“邪魔はさせない。海中から脱するには、それしかない”

 

“んっ……任せて”

 

 

ユエが、集中のため目を瞑り動かなくなった。海流に流されないように香織とシアが引っ付いている。ユエが行使しようとしている“界穿”とは、“グリューエン大火山”で修得した神代魔法である空間魔法の一つだ。空間の二つの地点に穴を開け、二点の空間を繋げる。要するに、ワープゲートを作る魔法である。まだ、修得して日が浅いのでユエをもってして、それだけの時間がかかるのだ。

 

 

 

襲い来る触手を、ティオが縮小版ブレスの連射で何とか薙ぎ払う。しかし、ブレスは魔力消費が激しい上に、水中では威力も射程も相当落ちる上、直線的な攻撃なので触手には当てづらく殲滅力が弱い。もう数秒も持たずに突破されるだろう。

 

 

 

ハジメは“宝物庫”から鉱石を次々と取り出しては、連続して“錬成”していき、先程ユエが形成した氷の障壁のような、球形状の物理障壁を形成していった。

 

 

“ご主人様よ!もう、突破されるのじゃ!”

 

“出来たぞ、全員入れ!”

 

 

五人が十分に入れるくらいの金属製障壁が出来上がり、ティオが最後に入り込むと同時に穴が塞がって完全な金属球となった。さらに、その金属球を紅色の魔力が覆う。“金剛”による強化だ。一応、重力石も組み込んでいるので、沈み続けるということもない。

 

 

 

その直後、金属球に触手が殺到し、一気に包み込み始めた。

 

 

 

即行で魔力そのものすら溶かす半透明ゼリーが“金剛”を食い破ってくる。そして、金属球の表面もみるみると溶かされていった。しかし、金属球に紅色のスパークが走ったかと思うと溶かされる端から金属が盛り上がり、その防壁を辛うじて維持する。

 

 

 

それは、ハジメが中から常に“錬成”をし続けているからだ。幸い、鉱石の類は“宝物庫”の中に文字通り腐るほど入っている。溶解速度に対抗して本気の“錬成”を繰り返し、そして、遂に待ちわびた瞬間が来た。

 

 

“界穿!”

 

 

ユエの空間転移魔法が発動する。金属球の中、ハジメ達の直ぐ傍に楕円形の光り輝く膜が出来上がった。空間を繋げるゲートだ。

 

“全員飛び込め!”

 

 

金属球に手を当てて“錬成”し続けるハジメの号令に従って、全員が一斉にゲートへと飛び込んでいく。ハジメも、最後に飛び込んだ。ハジメが潜ったあと、直ぐにゲートは消滅し、その数秒後、金属球を無数の触手が貫き、溶かしていった。

 

 

 

ゲートを潜ったハジメ達は、凄まじい浮遊感に襲われた。転移した先が、上空だったからだ。少しでも海から離れようと、ユエが、上空百メートルに出口を設定したのである。

 

 

 

すぐさま、ティオが“竜化”をし、その背にハジメ、ユエ、シア、香織を乗せて浮遊した。雷電は技能派生の一つ“共和国軍兵器召喚”でガンシップを召喚し、落下しながらもフォースを使い、残りのメンバーをガンシップに飛ばし、乗せる。そして雷電はアセンション・ガンを使ってガンシップに向けて撃ち出す。ケーブルはガンシップの下側に突き刺さり、ケーブルを伝って登り、何とかガンシップに乗り込むのだった。

 

 

 

ティオの背で、ユエが崩れ落ちかけ、傍らの香織とシアが支える。完全に魔力枯渇の状態だ。急いで、魔晶石から魔力を取り出し補充していく。

 

 

「ユエ、助かった。流石だよ。空間転移は相当難しいだろうに」

 

「……はぁはぁ、ん。頑張った。でも、まだまだ実戦レベルじゃない」

 

 

ユエの言う通り、空間魔法は重力魔法の比ではないくらい扱いが難しく、ユエを以てして未だ、実戦で使えるレベルではなかった。“想像構成”によるイメージでの魔法陣構築には多大な時間がかかるし、魔力効率もまだまだ悪く、百メートルの空間転移をするのに最上級魔法二回分の魔力を消費してしまう程だ。

 

 

 

それでも、ユエが短い期間で発動に到れるまで習熟していてくれたおかげで、脱出することが出来たのだ。香織達からも惜しみない称賛が送られ、若干、頬を染めてユエは照れた。

 

 

 

その様子に皆が頬を緩めたが、次の瞬間、その表情は凍りつくことになる。

 

 

 

ドォゴオオオオオオオ!!!

 

 

 

ザバァアアアアアア!!!

 

 

 

そんな轟音と共に、突然、ハジメ達の背後から巨大な津波が襲いかかったのだ。いや、巨大というのもおこがましいだろう。もはや、壁、そして空だ。上空百メートルほどの高さを飛ぶティオの遥か天に白波を立てながら襲い来る津波は、優に高さ五百メートルを超えているだろう。そして直径は一キロメートルくらいありそうだ。

 

 

「ッ、ティオ!」

 

“承知っ!”

 

 

ハジメの叫びにティオが我を取り戻し、翼をはためかせて一気に加速する。左右に逃げ場はない。空間転移は間に合わない。ならば、何も考えず“前へ”! “グリューエン大火山”から脱出した時に匹敵するような高速で飛行する。

 

 

「──“縛印”、“聖絶”!」

 

「“聖絶”」

 

 

香織が、呑み込まれた時に備えて全員を繋げる光のロープを作り出し、同時に、ユエと共に上級防御魔法を展開する。シアは、何やら集中すると次の瞬間には目を見開いて警告を発した。

 

 

「ティオさん、気をつけて!津波の中にアレがいます!触手、来ます!」

 

 

固有魔法“未来視”の派生“仮定未来”で見た光景を伝えたのだろう。ティオは、シアの言葉を確認することもなく、咄嗟に身をひねった。直後、津波から無数の触手が伸び、今の今までティオの居た空間を貫いていく。

 

 

 

上手く避けることは出来た。しかし、そのせいで津波との差が詰まってしまった。なお襲い来る触手を、ハジメが火炎放射器で焼き払い迎撃するが……

 

 

「ちくしょう! 全員固まれ!」

 

 

ティオの背でハジメは、ユエとシアと香織を抱きしめるように庇い、そして、その直後、天災とも言うべき巨大津波がハジメ達を呑み込んだ。その時に雷電達が乗るガンシップは巨大津波に飲まれる前に回避できたのだが、肝心のハジメ達はその巨大津波に飲まれてしまうところを目撃する。

 

 

「っ…!ハジメ!」

 

 

そう叫ぶ雷電。その頃、津波に飲まれたハジメ達はユエと香織の二人がかりでの“聖絶”のおかげで津波の衝撃を直接受けることはなかったが、それでも壮絶な奔流によって滅茶苦茶に振り回され、海中へと逆戻りとなった。

 

 

 

その“聖絶”も一枚は完全に粉砕され、もう一枚もヒビが入っており、もし一枚しか展開していなければ、今頃ハジメ達は海の藻屑になっていたかもしない。海に叩きつけられた衝撃に頭を振るハジメ達は、顔を上げて表情を更に険しくした。

 

 

「狙った獲物は逃がさないってか?」

 

 

“聖絶”に守られたハジメ達の前に巨大クリオネが既にいたのだ。しかも、その姿は更に巨大化しており、既に二十メートルを超えている。それでも足りないのか、周囲から半透明ゼリーを集めながら、更に巨大化を続けていく。

 

 

「そ、そんな……死なない上に、何でも溶かして、海まで操れるなんて……どうすれば」

 

「……ハジメさん。冗談抜きにマズい状況です。最後くらいマスターとキスしたかったですぅ」

 

「……ふぅ、ご主人様よ。妾は、最後はキスを所望するじゃ」

 

 

香織が絶望に表情を暗くし、ティオが困ったような微笑みを浮かべながらハジメにおねだりをする。シアは今はいない雷電におねだりできないことに残念がっていた。

 

 

 

だが、ハジメに視線を向けた彼女達は、ビクッと体を震わせた。なぜなら、ハジメの眼が爛々と輝いていたからだ。眼光は鋭く、濃密で狂的なほどの殺意を宿し、歯を剥いて巨大化するクリオネモドキを睨んでいる。

 

 

 

ハジメは諦めてなどいなかった。そんな考え微塵もなかった。頭にあるのは、どうすれば目の前の敵を殺せるか、生き残れるか、ただそれだけだ。有り得ないほどの強敵と相対し、諦めが付くくらいなら、ハジメは今この場に立っていない。とっくの昔に奈落の底で果てていたはずだ。

 

 

 

そして、それを理解し、共に奈落の底で死線をくぐり抜けて来たからからこそ、ユエもまた、諦めなど一切持たずに、必死に考えを巡らせていた。

 

 

 

ギラギラと輝くハジメの眼に、香織もシアもティオも心奪われたように、しばらく惚けた表情で見つめたまま硬直していたが、巨大クリオネがいよいよ三十メートル級になり攻撃を開始したことで正気を取り戻した。

 

 

 

慌てて、香織が“聖絶”を張り直す。シアが、“仮定未来”で勝利の可能性を探る。ティオがブレスを放つ。シアを除く彼女達の眼には、もう諦めの色はなかった。潔い女など、ハジメの傍にいるべき者ではないと、そう思ったからだ。シアも雷電の傍にいる為にも諦める様子も見せなかった。

 

 

 

ユエも、まだ打開策は思いつかないものの、取り敢えず生き残るために攻撃と防御の両方をこなしていく。

 

 

 

ハジメは、特に何もせず、ただひたすら考えを巡らしていた。ユエ達が稼いでくれる時間で、“瞬光”を発動しながら高速思考で勝利への道を探し続ける。自分自身に、今ある情報の全てを思い出せと命じる。ハジメの脳内を凄まじい勢いで、今までの光景がフラッシュバックしていった。

 

 

 

そして、思い出す。自分達が一度は、巨大クリオネから逃げ切ったことを。それは疑問に変わる。“これだけの力がありながら、なぜ、一度は自分達を見逃した?”と。あの時と、今の戦いと何が違うのか……それは、

 

 

「火を余り使ってない」

 

 

そう、前回はティオもユエも盛大に炎系の魔法や雷電達は火炎放射器を使いまくっていた。その時、触手はボロボロと灰になり、再生には使われていなかったはずである。

 

 

 

ハジメはそこに光明を見出した。確証のない推測だが、おそらくクリオネ擬きの再生は無限ではない。無限に等しく見えるほどその体を構成する半透明ゼリーが大量にあるのだ。

 

 

 

また、おそらく今までの様子を見る限り自前で生成も出来るのだろう。が、一気に消滅させられれば、補充には時間が必要になるのではないか。だから、前回、大量に消滅させられた体を補充するために、追跡より再生を優先し、ハジメ達は逃げることが出来たのではないだろうか。

 

 

 

ならば、同じだ。クリオネモドキを構成する半透明ゼリーを再生、あるいは生成するより早く消滅させればいい。だが、ここは海中。一番有効と考えられる炎系の魔法は使えないと言っていい。ティオのブレスは高熱ではあるが、消滅させきる事は出来ないだろう。手立てがない。消滅させるための武器がない。ならば……

 

 

「作ればいいだけだっ」

 

 

ハジメは“宝物庫”から次々と鉱石や魚雷を取り出し、何やら凄まじい勢いでものを作り始めた。

 

 

「……ハジメ?何か思いついた?」

 

「ああ。海で火を使うにはこれしかない。上手く行けば倒せるはずだ」

 

「ハジメくん、ホントなの!? 」

 

「流石ハジメさん!信じてましたよぉ!」

 

「それでこそ妾のご主人様じゃ!」

 

「だが、時間がかかる。お前ら、頼んだぞ」

 

 

口元を釣り上げて不敵に笑いながら、そう言うハジメに、香織もシアもティオも直ぐに力強く頷き、より一層、集中力を増して巨大クリオネに相対した。

 

 

 

ハジメは、“瞬光”を最大限にして知覚能力を拡大し、更に、“限界突破”も併用して限界を超えた集中力を発揮し武器制作に全力を注ぐ。

 

 

 

一つ、また一つと出来上がっていくが、作成の難易度が極めて高く弾丸のように一気に大量生産とはいかない。だからと言って、散発的に使っては、巨大クリオネは半透明ゼリーを生成して再生してしまうかもしれない。そうなればジリ貧だ。殺るなら一気に殺らねばならない。“限界突破”の証──紅色の魔力を纏いながら、ハジメの必死の〝錬成〟が繰り返される。

 

 

 

だが、現実は非情だ。海中という巨大クリオネにとって圧倒的にアドバンテージのある場所では、チート集団のユエ達を以てしても、そう長くは拮抗できない。

 

 

 

ユエも香織もシアもティオも苦しそうな表情で必死に踏ん張っているが、とても準備が整うまで持ちそうにない。

 

 

“三分、せめて後、三分あれば!”

 

 

思わず念話を発動しながら、そう叫んだハジメ。遂に、その猛攻を抑えきれず巨大クリオネが眼前まで迫り、頭部がガパッ!と分かれてハジメ達を呑み込もうと襲いかかった。

 

 

 

ハジメは、仕方なく、今出来た分だけでも放って、この瞬間を生き残ろうと決断した。

 

 

 

……が、その瞬間、ユエでも、シアでも、ティオでも、香織でもない、空にいる筈の友人の声が念話によるハジメの叫びに応えた。

 

 

“時間を稼げば良いんだな?任せろ!”

 

“なっ……雷電!?”

 

 

ハジメは巨大クリオネの背後にクローン・スキューバ・アーマーを装着した雷電の姿を目視する。何故雷電が再び海に飛び込んでいるのかと言うと、単純にハジメ達を助ける為に再び海に飛び込んだのだ。巨大クリオネも雷電の存在に気が付き、ハジメ達よりも先に雷電から喰らおうと襲いかかる。

 

 

 

その時に雷電は、ここでフォースの暗黒面の力を使い、フォース・グリップで巨大クリオネを押し潰す様にフォースの力を解放する。巨大クリオネは雷電のフォースの術中に嵌まったのか動くことが出来なくなり、身体の一部が見えない何かしらの力によって圧縮される様に押し潰され始まっていた。巨大クリオネは目の前の出来事に対して本能的に恐怖を抱き始めた。海の中で食物連鎖の頂点に君臨し続けた巨大クリオネにとって初めての体感だった。そして巨大クリオネは理解する。“この生物は危険だ!この生物を殺さなければ、己が殺される!”と。

 

 

 

雷電を殺す為に必死に藻掻く巨大クリオネ。雷電も巨大クリオネの抵抗に少しばかり焦りを感じていた。

 

 

“マズいな…!これ以上、暗黒面の力を使い続けたら…!”

 

 

フォースの光明面と暗黒面は表裏一体。暗黒面の力を使い続ければ、フォースは暗黒面に偏ってしまい、暗黒面の力に囚われてしまうのだ。そのことに焦りを生じたか、無意識の内に念話越しに口が漏れてしまう。何とかこの巨大クリオネをどうにかしなければと思っていた矢先、渋いおっさんの声が念話による雷電の叫びに応えた。

 

 

“よぉ、ライ坊。ヤバそうじゃねぇか。おっちゃんが手助けしてやるぜ”

 

“ッ!?こ、この声、まさかリーさんか!?”

 

“おうよ。ハー坊の友、リーさんだ”

 

 

そう、現れたのは、かつてフューレンの水族館に捕獲されていた、雷電がリーさんと呼ぶ人面魚の魔物リーマンだった。雷電が、驚愕に目を見開いて周囲を見渡すと、突然、銀色の巨大な影が横合いから巨大クリオネに体当たりをぶちかました。雷電のフォースで動けず藻掻いていた巨大クリオネは、完全な不意打ちを受けて吹き飛ばされ、押しやられていく。

 

 

 

その隙に、雷電のすぐ近くへ、確かに見覚えのある人面魚が泳いできた。突然の事態に、ハジメ達も全く付いてこられていない。リーマンの姿を見て、ユエとティオは目を丸くしているし、シアは“あの時の!”と驚愕に目を見開いているし、香織に至っては“ひっ!?”と悲鳴を上げている。

 

 

“シアの嬢ちゃんも息災か?”

 

「ふぇ!?えっと、は、はい!健康ですぅ!」

 

“そりゃ、重畳。で、ライ坊は何ぼさっとしてやがる。あと三分ありゃあ、お前さんの友人が悪食をどうにか出来んだろ?だったら急ぎな、そう長くは持たないぜ?”

 

“あ、あぁ。何かよく分からないが、とにかく助かった。感謝する、リーさん”

 

 

雷電は、突然のリーマンの登場に止まっていた手を動かして、フォース・グリップで巨大クリオネを再び動きを止める。

 

 

 

その間にも、銀色の巨大な影は、巨大クリオネに特攻したり、攻撃をかわしたりして時間を稼いでいる。どうやら、銀色の影の正体は、魚群のようだ。それも魔物などではなく、ただの魚だ。ただの魚でも数万、あるいは数十万匹という数が揃えば、怪物相手でも時間稼ぎくらいは出来るらしい。物凄い勢いで数を減らしているので、確かに、そう長くは保たないだろうが。

 

 

 

何故ここにリーマンがいるのか、その疑問を顔見知りらしいからと無理やり前に出されたシアが代表して聞く。

 

 

“あ、あのリーさん? でいいですか? えっと、一体何がどうなっているんですか?”

 

“ふん、別にどうってことはねぇ。この近くを適当にぶらついていたら、でっけぇ上に覚えのある魔力を伴った念話が聞こえたもんでよ。何事かと駆けつけてみりゃあ、ライ坊が悪食に襲われてるじゃねぇか。色々疑問はあったが、友の危機だ。何もしないなんて男の恥ってもんよ”

 

「えーと、あの魚群は……それに悪食?」

 

“悪食ってのは、あれのことだ。遥か昔、太古から海に巣食う化け物…いや、天災ってやつよ。魔物の祖先なんて言われてたりもするな。あの魚の群れは、俺の能力で誘導したんだよ。俺達の種族が使う念話には、普通の海の生物をある程度操る能力があるんでな”

 

 

驚愕の事実が発覚した。人面魚リーマンは魚使いだったらしい。と、リーマンの話が終わったタイミングで魚群がほぼ壊滅し、巨大クリオネが雷電のフォース・グリップから逃れ、雷電を殺すことは不可能だと判断したのか、再びハジメ達に向かって大口を開けながら襲いかかってきた。

 

 

「すまん、ハジメ!そっちに行ったぞ!」

 

「見えてる!……だが、丁度良いタイミングだ!」

 

 

だが、尊い犠牲の上に稼がれた時間は……丁度きっちり三分。

 

 

 

通常のものより大きい魚雷群がハジメ達を囲む“聖絶”の周囲に整然と展開された。その数は凡そ百二十。そして、不敵に笑うハジメの周囲には同数の円環が浮かんでいる。

 

 

 

ハジメは手元の感応石を起動すると、一斉に魚雷群を射出させた。百二十もの魚雷が気泡の線を引きながら高速で大口開ける巨大クリオネに向かって突貫する。しかし、ただの魚雷では、爆発したところで巨大クリオネの体を四散させるだけで、実質的なダメージもなく直ぐに再生されてしまうだろう。

 

 

 

皆が、一体どうするのだろうと見つめる先で、捕食の邪魔をされるのが嫌なのかおびただしい数の触手を繰り出し、魚雷群の迎撃を図る巨大クリオネ。限界突破中のハジメは、極限の集中力を以て魚雷を操りギリギリでかわしていく。

 

 

「お前は避けたりしないだろう? さぁ、たらふく喰ってくれ」

 

 

ハジメの呟きが響く。巨大クリオネ改め悪食は、何でも溶かせる故に攻撃を避けたりしないだろうと、ハジメは考えていた。

 

 

 

そして、その予想は正しかった。触手の弾幕をかわしきった魚雷群は、避けようという素振りすら見せない巨大クリオネの全身に満遍なく直撃し突き刺さった。

 

 

 

だが、爆発はしない。巨大クリオネの体に埋まり、溶かされながらも一発たりとて爆発しなかった。体中に黒い魚雷群を埋め込まれた巨大クリオネは、まるで全身を毒に侵され斑点模様が出来たような有様。

 

 

 

ハジメは、魚雷群が完全に溶かされる前に、次の一手を打つ。“宝物庫”から大量の黒い液体を虚空に取り出した。それはフラム鉱石が液体化したタールだ。それを周囲の浮かぶ円環の内側に、滝のように注ぎ込んでいく。

 

 

 

すると同時に、巨大クリオネの全身が黒く染まり始めた。まるで、紙に水が染み込み一気に色を変えていくように、半透明だった巨大クリオネの体内を黒い液体が侵食していく。その正体は、ハジメが周囲の円環に注ぎ込んでいるフラム鉱石を液状化させたタールだ。

 

 

 

この円環と魚雷群は、それぞれ小さなゲートで繋がっているのである。円環の内側を通したものは空間を跳躍し魚雷の中に仕込まれた同じ円環を出口とし出現する。つまり、魚雷は爆発物ではなく、円環を運ぶためのものであり、同時に、タールを送り込む間の円環の物理障壁でもあるのだ。

 

 

 

当然、タールそのものも溶かされていくが、総数百二十のゲートから、間断なく大量に注ぎ込まれるタールに溶解速度が追いつかず全身をタールで侵食されていく。

 

 

 

咄嗟に、巨大クリオネは、体を分離して侵食を逃れようとするが、それはユエ達が許さなかった。障壁や氷結、ブレスで分離を徹底的に邪魔する。なお、ユエのゲートが使えないのは、彼女が、まだ、動く標的にピンポイントでゲートを開くことが出来ないからである。出来るのは、定めた二点の空間をつなげるだけだ。

 

 

 

巨大クリオネは、本気になったがために、周囲の半透明ゼリーを集合させ最大級の大きさと戦力でハジメ達に止めを刺しにかかったが、今度は、それがアダになった。ハジメの流し込むタールは、遂に余すことなく巨大クリオネを黒に染め上げた。

 

 

 

ハジメは、口元を歪め、爛々と輝く眼で巨大クリオネを射貫いた。その手には小さな火種が持たれている。

 

 

「身の内から業火に焼かれて果てろ」

 

 

ハジメの親指に弾かれた火種は、放物線を描きながら流し込まれるタールの一つに吸い込まれるように直撃した。その瞬間、摂氏三千度の灼熱が迸り、ゲートを通して一気に燃え広がる。

 

 

 

先程まで、黒く染まり、どこか必死さを感じさせる雰囲気で体内のタールを溶解しようとしていた巨大クリオネは、今度は、灼熱の赤に染まることになった。ハジメの言う通り、体の内側から、抗うことなど出来ない業火が一瞬の抵抗も許さず、その身を焼き尽くしていく。

 

 

 

海中に咲く紅蓮の大花は、遂に、巨大クリオネを体内から飛び出し海中に大量の気泡という名の彩を添えて、外側からも焼滅させていった。そして、超高温の炎が、海水を一瞬で蒸発させて凄絶な水蒸気爆発を起こした。

 

 

 

ゴォバァアアアアア!!!

 

 

 

凄まじい衝撃が迸り、遥か上の海面が冗談のように爆ぜる。海中もまた荒れ狂い、嵐を呼び込んだような有様だ。荒れる海の中で、衝撃をやり過ごしたハジメ達は、障壁越しに巨大クリオネの姿を探す。

 

 

 

刻一刻と静まっていく海中に油断なく視線を巡らすが……どこにも悪夢のようなクリオネの姿は見えなかった。ハジメが、魔眼石や“遠見”を活用して念入りに探査するが、やはり巨大クリオネの痕跡は映っていない。

 

 

 

ハジメ達は確信した。太古の怪物──悪食討伐はここに成ったのだと。

 

 

「ぐっ……何とか、終わったか……」

 

 

周囲に浮遊していた円環が力を失ってバラバラと落ちていき、ハジメの体を包んでいた紅色の魔力もスっと霧散して消えてった。同時に、“限界突破”の副作用でふらついたハジメは“聖絶”の結界内で片膝をつき、酷使しためにガンガンと痛む頭に表情を歪める。

 

 

 

しかし、その眼には、“殺ったぜ!”という勝利と生き残った事への歓喜が溢れていた。

 

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

「ハジメくん、直ぐに治すから!」

 

 

直ぐにユエがハジメの傍に寄り、その体を支える。香織も、直ぐに回復魔法を唱えてハジメを癒していった。ティオは傍らに寄って来て、ハジメに抱きつく。シアも無事に合流した雷電に抱きつくのだった

 

 

「やりましたね!マスター!」

 

「流石、ご主人様じゃ……えぐい殺し方をする。ゾクゾクしたのじゃ」

 

 

香織の癒しに、少しずつ頭痛が治まっていくのを感じながら、集まってきた仲間にハジメも頬を緩めた。ハジメ達が勝利の余韻に浸りながら、和気あいあいとしていると、少し、不機嫌そうなおっさん声が響いた。

 

 

“よぉ、ライ坊。爆発するなら教えてくれよ。死ぬかと思ったじゃねぇか”

 

“あっ、リーさん。すまない。流石の俺でもハジメのやることを想定してなかった”

 

 

どうやら、最後の爆発でリーマンは吹き飛ばされてしまったらしい。あの時のハジメは巨大クリオネを殺すことに全力だったので、リーマンに意識が向いていなかった。それに、最後の爆発は、ハジメの意図したものではない。ハジメは以前雷電が助けた人面魚が彼?出会ったことにちょっとびっくりしたのだ。

 

 

“まぁ、悪食殺ろうってんなら仕方ないか。何にしろ、見事だったぜ”

 

“あー…あれは最終的にハジメが止めを刺したんだけどな?けど、リーさんが来てくれなかったら、本当に危なかった。ありがとう”

 

“どういたしましてだ。まぁ、仁義を貫いただけさ。気にするな”

 

“相変わらず漢だな。流石リーさん。ここに居てくれた偶然にも感謝だよ”

 

“ライ坊、積み重なった偶然は、もはや必然と呼ぶんだぜ?おっちゃんがお前さんに助力できたのも必然、こうして生き残ったのも必然さ”

 

 

ニヤリと笑うおっさん面の魚と“…だな”と同じくフッと口元を緩める雷電。何かが通じ合っている二人に、背後の女性陣がヒソヒソと話し合っている。

 

 

「……なんじゃ、あれは。何か、やたらと通じ合ってないかのぉ?」

 

「……漢の友情?」

 

「ハジメくん……雷電くんが異世界で出来た友達がシーマ○なの?あんなに誰かと意気投合してる姿なんて日本でも見たことないよ!」

 

「俺もあんな雷電を見て、どうしてこうなったとしか思いつかねぇよ。……つーか、何気にあの人面魚のおっさん、何気にシブいな?」

 

「前もあんな感じでしたよ。ガールズトークならぬボーイズトークってやつですかね?まぁ、相手はおっさんですが……」

 

 

自分達より、ある意味親しげな雰囲気の雷電とリーマンに、ハジメ達が戦慄とも困惑ともつかない複雑な表情を向けていると、二人の話も区切りがついたようだ。

 

 

“じゃあ、おっちゃんはもう行くぜ。ライ坊。縁があればまた会おう”

 

“ああ。リーさんも元気で”

 

 

互いに一つ頷くと、リーマンは踵を返した。しかし、少し進んで振り返ると、シアに話しかけた。

 

 

“嬢ちゃん、お前さん、何かとライバルは多そうだが頑張れよ。子供が出来たら、いつか家の子と遊ばせよう。カミさんも紹介するぜ。じゃあな”

 

 

それだけ言い残すと、今度は振り返らずに、そのまま大海へと消えていった。

 

 

 

後に残ったのは……

 

 

「「「「「結婚してたのかよぉーーー!!」」」」」

 

 

そんなハジメ達の盛大なツッコミだった。風来坊を気取っていたが、家庭持ちと考えると、タダのダメ親父にしか見えない。しばらく、大海原にハジメ達のツッコミが木霊していた。

 

 

 

一方の雷電は……

 

 

「……リーさん、家庭持ちだったんだな?」

 

 

前世の記憶が有ってか、あまり驚いた様子はなかった。

 

 

 

一方、ハジメ達の救出に向かった雷電を待つガンシップ内では……

 

 

「「「……何か忘れられている気がする」」」

 

 

今回において、非情に影が薄くなって存在が忘れられかけそうになった清水達だった。そして恵里は……

 

 

「雷電くん……後でOHANASHIかな?」

 

 

何やら少しづつ黒く染まりかけていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

彼女の病み、娘との誓い

今回は若干キャラ崩壊とヤンデレ?っぽいのが入ってます。


67話目です。


「パパー! 朝なのー! 起きるのー!」

 

海上の町エリセンの一角、とある家の二階で幼子の声が響き渡る。時刻は、そろそろ早朝を過ぎて、日の温かみを感じ始める頃だ。窓から、本日もいい天気になることを予報するように、朝日が燦々と差し込んでいる。

 

 

 

ドスンッ!

 

 

 

「あぁ~?」

 

 

そんな朝日に照らされるベッドで爆睡しているのはハジメだ。そして、そんなハジメをパパと呼び、元気な声で起こしに来たのはミュウである。

 

 

 

ミュウは、ベッドの直前で重さを感じさせない見事な跳躍を決めると、そのままパパたるハジメの腹の上に十点満点の着地を決めた。もちろん、足からではない。馬乗りになる形でだ。

 

 

 

まだ四歳の幼子とはいえ、その体重は既に十五、六キロくらいはある。そんな重量が勢い付けて腹部に飛び乗れば、普通の人は呻き声の一つでも出そうなものだが、当然、ハジメは何の痛痒も感じていない。ただ、強制的に起こされたせいで眠たげな呻き声は出たが。

 

 

「パパ、起きるの。朝なの。おはようなの」

 

「……ああ、ミュウか。おはようさん。起きるからペチペチするのは止めてくれ」

 

 

ハジメが起きたことが嬉しいのか、ニコニコと笑みをこぼしながら、ミュウは、その小さなモミジのような手でハジメの頬をペチペチと叩く。ハジメは、朝の挨拶をしながら上半身を起こしミュウを抱っこすると、優しくそのエメラルドグリーンの髪を梳いてやった。気持ちよさそうに目を細めるミュウに、ハジメの頬も緩む。何処からどう見ても親子だった。

 

 

「……ん……あぅ……ハジメ?ミュウ?」

 

 

そんなほのぼのした空気の中に、突如、どこか艶めかしさを感じさせる声音が響いた。ハジメが、そちらに目を向けて少しシーツを捲ると、そこには猫のように丸めた手の甲で目元をコシコシと擦る眠たげな美少女の姿。

 

 

 

寝起きなのに寝癖など全くないウェーブのかかった長い金髪を、窓から差し込む朝日でキラキラと輝かせて、レッドスピネルの如き紅の瞳をシパシパとさせている。ハジメと同じく服を着ていないため、シミ一つない真っ白な肌と、前に垂れ下がった髪の隙間から見える双丘が声音と相まって美しさと共に妖艶さを感じさせた。

 

 

「どうして、パパとユエお姉ちゃんは、いつも裸なの?」

 

 

ミュウの無邪気な質問は、あくまで“朝起きるとき”という意味だ。決して二人が裸族という意味ではない。

 

 

 

そして、“もしかしてパジャマ持ってないの?”と不思議そうな、あるいは少し可哀想なものを見る目でハジメとユエを交互に見るミュウ。幼く純粋な質問に、“そりゃあ、お前、服は邪魔だろ?”等と、セクハラ紛いの返しなど出来るはずもなく、ハジメは、少し困った表情でユエに助けを求めた。

 

 

 

次第にはっきりしてきた意識で、ハジメの窮状を察したユエは、幼子の無邪気な質問に大人のテンプレで返した。

 

 

「……ミュウももっと大きくなれば分かるようになる」

 

「大きくなったら分かるの?」

 

「……ん、分かる」

 

 

首を傾げるミュウに、ゴリ押しで明確な答えを回避するユエ。ミュウの性教育は母親たるレミアにお任せだ。しかし、“う~ん”とイマイチ納得できなさそうな表情で首を傾げるミュウは、おもむろに振り返ると、とある一点を見つめながら更に無邪気な質問を繰り出して、主にハジメを追い詰めた。

 

 

「パパも、ここがおっきくなってるから分かるの?でも、ミュウにはこれないの。ミュウには分からないの?」

 

 

そう言って、朝特有の生理現象を起こしているとある場所を、ミュウはその手でペシペシと叩き始めた。大した力ではないとはいえ、デリケートな場所への衝撃にビクンッと震えたハジメは、急いでミュウを抱っこし直し、なるべく“それ”から引き離す。

 

 

「ミュウ、あれに触っちゃいけない。いいか。あれは女の子のミュウには無くて当然なんだ。気にしなくていい。あと十年、いや二十年、むしろ一生、何があっても関わっちゃいけないものだ」

 

 

至極真面目な顔で阿呆なことを語るハジメ。ミュウは、頭に“?”を浮かべつつも大好きなパパの言うことなのでコクリと素直に頷いた。それに満足気な表情をして、再度、ミュウの髪を手櫛で梳くハジメ。ミュウも、先程までの疑問は忘れたように、その優しい感触を堪能することに集中しだした。

 

 

 

そんなハジメに、隣のユエから何処か面白がるような眼差しが向けられる。その瞳には“過保護”とか“朝から元気”とか“朝からいっとく?”とか、そんな感じのあれこれが含まれているようだった。

 

 

 

それにそっぽを向くハジメ。陽の光で少しずつ暖かさを増していく中、そのほのぼのとした光景は、ミュウが中々ハジメ達を起こして来ない事に焦れたレミアや香織達がなだれ込んで来るまで続いた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ハジメ達が、“メルジーネ海底遺跡”を攻略し、潜水艇を失ったため“竜化”したティオの背に乗って待機していたヴェネター級に帰還した後、そのままエリセンまで帰り、再び町に話題を提供してから六日が経っていた。帰還した日から、ハジメ達は、ずっとレミアとミュウの家に世話になっている。

 

 

 

エリセンという町は、木で編まれた巨大な人工の浮島だ。広大な海そのものが無限の土地となっているので、町中は、通りにしろ建築物にしろ基本的にゆとりのある作りになっている。レミアとミュウの家も、二人暮らしの家にしては十分以上の大きさがあり、ハジメ達五人が寝泊りしても何の不自由も感じない程度には快適な生活空間だった。

 

 

 

そこでハジメ達は、手に入れた神代魔法の習熟と装備品の充実に時間をあてていた。エリセンは海鮮系料理が充実しており、波風も心地よく、中々に居心地のいい場所だったので半分はバカンス気分ではあったが。

 

 

 

ただ、それにしても、六日も滞在しているのは少々骨休めが過ぎると感じるところだ。その理由は、言わずもがな、ミュウである。ミュウを、この先の旅に連れて行くことは出来ない。四歳の何の力もない女の子を、東の果ての大迷宮に連れて行くなどもってのほかだ。

 

 

 

まして、“ハルツィナ樹海”を除く残り二つの大迷宮は更に厄介な場所にある。一つは魔人族の領土にある“シュネー雪原”の“氷結洞窟”。そしてもう一つは、何とあの“神山”なのである。どちらも、大勢力の懐に入り込まねばならないのだ。そんな場所に、ミュウを連れて行くなど絶対に出来ない。

 

 

 

なので、この町でお別れをしなければならないのだが、何となくそれを察しているのか、ハジメ達がその話を出そうとすると、ミュウは決まって超甘えん坊モードになり、ハジメ達に“必殺!幼女、無言の懇願!”を発動するので中々言い出せずにいた。結局、ズルズルと神代魔法の鍛錬やら新装備の充実化やら、言い訳をしつつ六日も滞在してしまっているのである。

 

 

「それでも、いい加減出発しないとな……はぁ、ミュウに何て言うべきか……泣かれるかな。泣かれるよな……はぁ、憂鬱だ」

 

 

ハジメは、桟橋に腰掛けて“錬成”により装備やら何やらを作成しながら、憂鬱そうに独り言を呟く。奈落から出たばかりの頃は、この世界の全てをどうでもいいと思っていたのに、今や、幼子とのお別れ一つに頭を悩ませている。そんな現状に、内心、複雑な思いを抱くハジメ。

 

 

「恨むぞ、雷電。それと先生……」

 

 

この世界の一切合切を切り捨てて、ただ目的のためあらゆる犠牲を厭わないという考えが出来なくなったことに、そんな考えを持つに至ったきっかけたる友の雷電と恩師を思い出して悪態をつくハジメ。しかし、視線の先に、ユエとシア、香織、ティオ、そして彼女達と水中鬼ごっこをして戯れるミュウの溢れる笑顔を見て、言葉とは裏腹に顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

自分には関係ないと、あの時、ミュウを見捨てていれば、あるいはアンカジを放置していれば、そしてレミアを放って置けば、さっさとミュウと別れていれば……きっと、彼女達にあの極上の笑顔はなかっただろう。

 

 

 

例え切り捨てていても、ユエ達は不幸だと感じるわけでも笑顔が無くなるわけでもないだろうが、今浮かべるそれとは比べるべくもないのではないだろうか。それはきっと、ここまでのハジメのあり方が〝寂しい生き方〟ではなかったからに違いない。

 

 

 

海人族の特性を十全に発揮して、チートの権化達から華麗に逃げ回る変則的な鬼ごっこ(ミュウ以外全員鬼役)を全力で楽しんでいるミュウを見ながら、再び、溜息を吐くハジメ。そんなハジメの桟橋から投げ出した両足の間から、突然、人影がザバッと音を立てて現れた。海中から水を滴らせて現れたのは、ミュウの母親であるレミアだ。

 

 

 

レミアは、エメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしており、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。ミュウと再会した当初は、相当やつれていたのだが、現在は、再生魔法という反則級の回復効果により以前の健康体を完全に取り戻しており、一児の母とは思えない、いや、そうであるが故の色気を纏っている。

 

 

 

町の男連中が、こぞって彼女の再婚相手を狙っていたり、母子セットで妙なファンクラブがあるのも頷けるくらいの、おっとり系美人だ。ティオとタメを張るほど見事なスタイルを誇っており、体の表面を流れる水滴が実に艶かしい。

 

 

 

そんなタダでさえ魅力的なレミアが、いきなり自分の股の間に出てきたのだ。ミュウのことで頭を悩ますハジメは、うっかり不意をつかれてしまった。レミアは、ハジメの膝に手を掛けて体を支えると、かなり位置的に危ない場所からハジメを見上げている。

 

 

 

しかし、顔のある位置や肉体の放つ色気とは裏腹に、レミアの表情は優しげで、むしろハジメを気遣うような色を宿していた。

 

 

「有難うございます。ハジメさん」

 

「いきなり何だ? 礼を言われるようなことは……」

 

 

いきなりお礼を述べたレミアにハジメが訝しそうな表情をする。

 

 

「うふふ、娘のためにこんなにも悩んで下さるのですもの……母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

 

「それは……バレバレか。一応、隠していたつもりなんだが」

 

「あらあら、知らない人はいませんよ?ユエさん達もそれぞれ考えて下さっているようですし……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね」

 

 

レミアは肩越しに振り返って、ミュウのいたずらで水着を剥ぎ取られたシアが、手ブラをしながら必死にミュウを追いかけている姿をみつつ、笑みをこぼす。そして、再度、ハジメに視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。

 

 

「ハジメさん。もう十分です。皆さんは、十分過ぎるほどして下さいました。ですから、どうか悩まずに、すべき事のためにお進み下さい」

 

「レミア……」

 

「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣えるようになった……あの子も分かっています。ハジメさん達が行かなければならないことを……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……それでも、一度も“行かないで”とは口にしていないでしょう?あの子も、これ以上、ハジメさん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

 

「……そうか。……幼子に気遣われてちゃあ、世話ないな……分かった。今晩、はっきり告げることにするよ。明日、出発するって」

 

 

ミュウの無言の訴えが、行って欲しくないけれど、それを言ってハジメ達を困らせたくないという気遣いの表れだったと気付かされ、片手で目元を覆って天を仰いだハジメは、お別れを告げる決意をする。そんなハジメに、レミアは再び優しげな眼差しを向けた。

 

 

「では、今晩はご馳走にしましょう。ハジメさん達のお別れ会ですからね」

 

「そうだな……期待してるよ」

 

「うふふ、はい、期待していて下さいね、あ・な・た♡」

 

「いや、その呼び方は……」

 

 

どこかイタズラっぽい笑みを浮かべるレミアに、ハジメはツッコミを入れようとしたが、それはブリザードのような冷たさを含んだ声音により、いつものように遮られた。

 

 

「……レミア……いい度胸」

 

「レミアさん、いつの間に……油断も隙もないよ」

 

「ふむ、見る角度によっては、ご主人様にご奉仕しているようにも……露出プレイ……イィ!」

 

「あの、ミュウちゃん? お姉ちゃんの水着、そろそろ返してくれませんか? さっきから人目が……」

 

 

いつの間にかハジメのもとに戻ってきていたユエ達が、半眼でレミアを睨んでいた。まさか本当にハジメを再婚相手として狙っているんじゃあるまいな? と警戒しているようだ。ここ数日、よく見られる光景である。変態はスルーだ。四歳の女の子に水着を取られて半泣きのウサミミもスルーだ。

 

 

 

一方、睨まれている方のレミアはというと、“あらあら、うふふ”と微笑むばかりで特に引いた様子は見られない。そのゆるふわな笑みが、レミアの本心を隠してしまうので、ハジメに対する時折見せるアプローチが本気なのか冗談なのか区別が付きにくい。これが、未亡人の貫禄だとでもいうのか……

 

 

 

当のハジメはというと、桟橋に上がって四つん這い状態でレミアを睨んでいるユエの水着姿に目を奪われていた。連日見ているのだが、もはや無意識レベルで視線が吸い寄せられている。

 

 

 

黒のビキニタイプだ。紐で結ぶタイプなので結構際どい。ユエの肌の白さと相まってコントラストがとても美しい。珍しく髪をツインテールにしており、それが普段より幼さを感じさせるのに、水着は大人っぽさを感じさせるというギャップが、ハジメとしては堪らなかった。

 

 

 

レミアとバチバチ火花を飛ばしていたユエは、ハジメの視線に気が付くと、どうやら自分に心奪われているということを察したようで“……ふふ”と機嫌良さそうに笑みをこぼし、そのまま四つん這いでハジメに迫る。

 

 

 

しかし、何時までも独走を許してなるものかと、反対側から香織がハジメの腕を取った。恥ずかしいのか耳まで赤く染めながらも白のビキニから覗く胸の谷間にハジメの腕をムニュと押し付けた。上目遣いでハジメを見る目が、“私も見て?”と無言で訴えている。

 

 

 

ちなみに、ティオも中々魅力的な水着姿を披露していたのだが、自分の妄想でハァハァし始めて大変気持ちが悪かったので、ハジメは、持っていた金属片を指弾して強制的に頭を冷やさせた。なので、現在は、土左衛門になっている。

 

 

 

そんな、美女・美少女に囲まれたハジメのもとへ、ミュウが海中から浮かび上がってきた。レミアとハジメの間に割り込むように現れたミュウは、そのまま正面からハジメに飛びつく。咄嗟に抱きとめたハジメに、ミュウは“戦利品とったどー!”とばかりにシアの水着を掲げ、それをパサッとハジメの頭に乗せた。どうやら、娘からの贈り物らしい。

 

 

 

その後からはシアを除く彼女達は、ハジメにそういう思考があると思ったのか頭に女物の水着を乗せ、四方から女に水着を献上される男、南雲ハジメ。

 

 

 

ポタポタとシアの水着から滴る水が、頬を引きつらせるハジメの表情と相まって何ともシュールだった。その光景を目撃した男連中は血の涙を滴らせる。そして、その日を境に何処からともなく噂が広まった。曰く“白髪眼帯の少年に気をつけろ。やつの好物は脱ぎたての水着。頭から被る事に至上の喜びを見出す変態だ”と。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

外でハジメ達が楽しく(だがしかし、ハジメは憂鬱のご様子)過ごしている一方、雷電と清水は、レミアとミュウの自宅で何故か現在、修羅場に立たされていた。雷電は恵里に、清水はシルヴィによって。何故そうなったのか、恵里の場合は、巨大クリオネこと悪食との戦いで雷電が津波に飲まれたハジメ達を救出する為に単身で海に飛び込んだのだった。自分の命を蔑ろにする行為を恵里は不安で溜まらなかった分、エリセンでレミアとミュウの自宅に止まってから六日後に雷電とOHANASHIすることになったのだ。

 

 

 

そしてシルヴィの場合、ここ最近、どういうことなのか身体の火照りが止まらなかった。一応メディカル・オフィサー・クローンに相談し、身体を検査してもらったのだが、特に害するものはないと健康そのものであると告げられた。身体が健康であってもシルヴィにとっては不安要素の一つとなっていた。その結果、この六日間の間我慢していた何かしらの欲求感を抑えられず、恵里に助けを求めたのだ。

 

 

 

恵里も流石にシルヴィの状態を知る由もなかった。そこで恵里はシルヴィのステータス・プレートを確認して見ることにした。すると意外なことが表示されていた。

 

 

 

===============================

シルヴィ 13歳 女 レベル7

天職:治癒師

筋力:20

体力:30

耐性:17

敏捷:19

魔力:200

魔耐:18

技能:治癒魔法・淫欲の刻印・魔力操作

===============================

 

 

 

技能の中に“淫欲の刻印”と表示されていた。淫欲の刻印について詳しく調べようと確認してみたらこう書かれていた。

 

 

 

『技能:淫乱の刻印とは、魔族と人間の間に生まれた混血だけが持つ女性の極僅かに所有する技能。異性との粘膜接触による魔力供給を行うことで技能所有者と粘膜接触者の魔力を増加させ、身体強化を施される。なお、特定の条件を満たすことで魔力供給の力が倍になる』

 

 

 

あまりにも口で説明するには恥ずかしすぎる内容だった為か、恵里の顔は赤く染まる。そしてシルヴィも自分の技能の効果を見て恵里と同じく顔を赤くする。

 

 

 

結果的にどうしようと恵里達は考えた。その時、恵里はあることを閃く。その下準備を兼ねて雷電とのOHANASHIをする為に拉致することにしたのだ。その為にアシュ=レイや一部のクローン達の協力(というよりも、恵里の鬼気迫る圧力に歯向かうことが出来ずに強制参加であるが……)の下、雷電と清水を拉致って、レミアとミュウの自宅にてOHANASHIという名の緊急会議(意味深)が開かれるのだった。

 

 

 

……そして、今現在に至るのだった。恵里は片手にDC-17ハンド・ブラスターを持ちながら正座させられている雷電に話しかける。

 

 

「……それで、雷電くん?どうして僕たちを置いてまで海に飛び込んだの?僕たちのこと、信用してないの?」

 

「いやっ待て、恵里。別に俺はお前や清水、クローン達のことは信用していない訳じゃない。寧ろ信用している方だ。しかしな、あの時にあの巨大クリオネこと“悪食”が出した巨大津波にハジメ達が呑まれたんだ。だからこそだ、ハジメ達が食われる前に救出せざる負えないが故に再び海へ飛び込むしかなかった。……つまり状況判断だ」

 

 

そう雷電が答えたの対して恵里は……

 

 

「ふーん……で?」

 

「いやっだから、状況判断──「で?」いやっ状況──「で?」ジョウキョウ──「で?」……ナンデモナイデス」

 

 

恵里の謎の鬼気迫る圧力に圧倒され、反論すら許されないでいる雷電。出来るだけ恵里を怒らせない様にハンド・ブラスターをしまう様に伝える。

 

 

「…それよりも恵里、そのハンド・ブラスターをしまってくれないか?銃口を向けたまま話すんじゃ危ないだろうに?」

 

「心配しないで、非殺傷のスタンモードにしてあるから。…あ〜でもこの際だから、殺傷モードに切り替えようかな?」

 

「ちょっ!?何がこの際なんだ?!っていうか、幾ら俺がジェダイでも元を正せば普通の人間なんだぞ!当たってしまったら大怪我、最悪の場合は死ぬからな!!」

 

「その点については問題ないよ?飽くまでも四枝を撃ち抜いてあまり無茶しない様にするだけだから」

 

「それ完全に戦闘に支障を来すどころか、旅や日常生活に支障が来すじゃないか!!」

 

「大丈夫。そうなったら朝の()()()()()()()()()()まで私……いえ、“私たち”がお世話してあげるから」

 

「おぃぃいいいっ猟奇的じゃねぇかぁぁあああっ!?」

 

 

最早彼女の瞳のハイライトが消えており、狂気の愛に取り付かれたかの様な表情をしていたのだった。

 

 

「いや待て恵里っ!それは危険な奴だ!それ以前に“おはようからおはよう”までって、それって一日中か?!二十四時間?!最早プライベートすら皆無かい!!それに“私たち”って……」

 

「え、なに?もしかして雷電くん、コッチの方の心配しているの?」

 

「やめなさぁぁああい!!恵里、段々とお前のキャラが崩壊しているぞ?!」

 

 

恵里の意味深な言葉とR指定クラスのハンドシグナルに雷電はツッコマずに入られなかった。それでも恵里は言葉を続ける。

 

 

「もう心配性ね?心配しなくても、シアと一緒に雷電くんの面倒を見るだけだから。何も問題ないよ」

 

「問題大ありだぁーっ!!?」

 

 

最早彼女を抑制できるのは雷電しかいなかった。その様子を見守っていたアシュ=レイとクローン達は自分たちが巻き込まれない様、雷電と恵里の様子を見守るしかなかったと同時に古今東西“男は女には敵わない”と改めて認識するのだった。

 

 

 

一方の清水は、別の意味で危機に瀕していた。シルヴィに拉致された後、その当の本人であるシルヴィにじりじりと距離を詰められていた。一見ただ距離を詰めるだけの様に見えるが、媚薬でも盛られたかの様にシルヴィの瞳の中央はハートになっていた。

 

 

「お…おい、シルヴィ?大丈夫……な訳ない…か?」

 

「あ…あの……マスター……御免なさい。こんな形でしか話せないことを。……実は、マスターに伝えたいことがあるんです」

 

「伝えたいこと?それは一体……うぉっ!?」

 

 

清水はシルヴィから詳しく聞こうとした時に、シルヴィは清水を押し倒してマウントを取る。清水は、現在起きている状況を全く理解できていなかった。

 

 

「シ……シルヴィ?お前、一体何を?」

 

「御免なさい……私、身体が火照ってしまって……もう私自身、押さえ込めないです。ですからマスター……私を抱いてくれませんか?

 

 

その言葉に清水の思考が数秒の間停止した。そして、我に返った清水は暴走気味のシルヴィを止めようとする。だがしかし……

 

 

「お…落ち着け、シルヴィ!こ…ここ、ここはだな!?」

 

 

あまりにも突き付けられた現実に戸惑いを隠せず、クールに気取っていた表情が一瞬で剥がれ堕ちた。そんな清水に対してもシルヴィはお構いなく攻めていく。

 

 

「マスター……もう、我慢できません♡」

 

「よ、止せ……止めろっ!?」

 

 

もはや清水の制止すら聞かず、最終的に清水はシルヴィにくわれるのだった。

 

 

「イタダキマス……♡」

 

 

 

「ぎゃぁぁあああ〜〜っ!!?」

 

 

 

その日、兵士として戦う清水利幸は……大切な何かを失った。清水の絶叫はクローン達の耳にも入り、何かあったのか確かめたかったが、恵里に“男女の関係だから大丈夫よ?”と告げられ、クローン達は悟った。そうしてクローン達は、雷電達の旅が終わった後に何かしらのサプライズを用意しようと思うのだった。

 

 

 

そして、ハジメ達が戻ってきた時には疲れきった雷電と清水の姿があり、顔が艶々になっている恵里とシルヴィの姿があった。雷電は兎も角、清水だけは体力的にも精神的にもかなり堪えていた。何かあったのは確かであったが、何も聞かない方がいいとハジメ達はそう悟るのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

その日の晩、夕食前にハジメ達はミュウにお別れを告げた。それを聞いたミュウは、着ているワンピースの裾を両手でギュッと握り締め、懸命に泣くのを堪えていた。しばらく沈黙が続く中、それを破ったのはミュウだった。

 

 

「……もう、会えないの?」

 

「……」

 

 

答えに窮する質問だ。ハジメと雷電の目的は故郷たる日本に帰ること。しかし、その具体的な方法はまだ分かっておらず、どのような形でどのタイミングで帰ることになるのか分からない。

 

 

 

かつて、ミレディ・ライセンは、望みを叶えたければ全ての神代魔法を集めろといった。もしかしたら、そのタイミングで直ぐに帰ることになってしまうかもしれないのだ。旅の終わりまでエリセンに来ることはないだろうから、あるいは、これが今生の別れとなる可能性は否定しきれない。安易なことは言えなかった。

 

 

「……パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?」

 

 

どう答えるべきかと悩むハジメに、ミュウは、その答えを聞く前に言葉を重ねた。ハジメは、ミュウの両肩をしっかり掴むと真っ直ぐ視線を合わせた。

 

 

「……ミュウが、それを望むなら」

 

 

そう答えると、ミュウは、涙を堪えて食いしばっていた口元を緩めてニッと笑みを作る。その表情にハッとしたのはユエ達だ。それは、どこか困難に戦いを挑む時のハジメの表情に似ていて、一瞬、本当の親子のように見えたのだ。

 

 

「なら、いってらっしゃいするの。それで、今度は、ミュウがパパを迎えに行くの」

 

「迎えに……ミュウ。俺は、凄く遠いところに行くつもりなんだ。だから……」

 

「でも、パパが行けるなら、ミュウも行けるの。だって……ミュウはパパの娘だから」

 

 

ハジメの娘たる自分が、出来ないことなどない。自信有りげに胸を張り、ハジメが会いに来られないなら、自分から会いに行くと宣言するミュウ。もちろん、ミュウは、ハジメが世界を越えて自分の故郷に帰ろうとしていることを正確に理解しているわけではない。まして、ミュウが迷宮を攻略して全ての神代魔法を手に入れ、世界を超えてくるなど有り得ない。

 

 

 

それ故に、それは幼子の拙い発想から出た実現不可能な目標だ。

 

 

 

だが、一体誰が、その力強い宣言を笑えるというのだろう。一体誰が、彼女の意志を馬鹿馬鹿しいと切り捨てられるのだろう。出来はしない。してはならない。レミアの言ったミュウが成長したという言葉の意味がよくわかった。ミュウは、短い時間ではあったが、それでもしっかりハジメ達の背を見て成長してきたのだ。そんな愛しい娘を今更手放せるのか。手放していいのか。いや、そんな事できるわけがない。していいわけがないのだ。

 

 

 

だからこそ、ハジメは決断した。今、ここでもう一つ誓いを立てようと。

 

 

「ミュウ、待っていてくれ」

 

「パパ?」

 

 

ハジメの雰囲気が変化したのを感じ取ったのかミュウが不思議そうな顔をして首を傾げる。先程までの、どこか悩んだ表情は一切なく、いつもの力強い真っ直ぐな眼差しがミュウの瞳を射貫いた。ミュウがずっと見てきた瞳だ。

 

 

「全部終わらせたら。必ず、ミュウのところに戻ってくる。みんな連れて、ミュウに会いに来る」

 

「……ホント?」

 

「ああ、本当だ。俺がミュウに嘘吐いたことあったか?」

 

 

ハジメの言葉に、ふるふると首を振るミュウ。ハジメは、そんなミュウの髪を優しく撫でる。

 

 

「戻ってきたら、今度は、ミュウも連れて行ってやる。それで、俺の故郷、生まれたところを見せてやるよ。きっと、びっくりするぞ。俺の故郷はびっくり箱みたいな場所だからな」

 

「!パパの生まれたところ?みたいの!」

 

「楽しみか?」

 

「すっごく!」

 

 

ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現するミュウ。そんなミュウに、ハジメは優しげに目を細める。ハジメとまた会えるという事に不安を吹き飛ばされ満面の笑みを浮かべるミュウは、飛び跳ねる勢いそのままに、ハジメに飛びついた。しっかり抱きとめたハジメは、そのままミュウを抱っこする。

 

 

「なら、いい子でママと待っていろよ?危ないことはするな。ママの言うことをよく聞いて、お手伝いを頑張るんだぞ?」

 

「はいなの!」

 

 

ハジメは、そんな二人のやり取りを微笑みながら見つめていたレミアに視線で謝罪する。“勝手に決めて済まない”と。

 

 

 

それに対し、レミアはゆっくり首を振ると、しっかりハジメと視線を合わせて頷いた。“気にしないで下さい”と。その暖かな眼差しには、責めるような色は微塵もなく、むしろ感謝の念が含まれていた。

 

 

 

そんなパパとママのアイコンタクトに気がついたのか、ミュウがハジメとレミアを交互に見つつ、ハジメの服をクイクイと引っ張る。

 

 

「パパ、ママも?ママも一緒?」

 

「あ~、それは……レミア?」

 

「はい、何ですか、あなた? もちろん、私だけ仲間はずれなんて言いませんよね?」

 

「いや、それはそうだが……マジ、こことは“別世界”だぞ?」

 

「あらあら。娘と旦那様が行く場所に、付いていかないわけないじゃないですか。うふふ」

 

 

娘を抱っこするハジメと、それに寄り添うレミアの図。普通に夫婦だった。香織達が、“させるかぁー!”と言わんばかりに割り込み喧騒が広がる。最初のしんみりした空気は何処に行ったのか。香織達とレミアが笑顔の戦争を繰り広げていると、いつの間にか蚊帳の外に置かれたハジメに、ユエがトコトコと歩み寄った。

 

 

「……連れて行くの?」

 

「反対か?」

 

 

ユエの質問に、ハジメがそう返すと、ユエは首を振り、どこか優しげな眼差しでハジメを見つめ返した。

 

 

「……それがハジメの決めた事なら」

 

「そうか」

 

「……でも、タイミングを選べなかったら?」

 

 

それは、ハジメの懸念と同じ質問だ。神代魔法を手に入れて、仮に何とか故郷に帰る手段を手に入れたとして、いつでも好きな時に世界を越えられるとは限らないのだ。あるいは、ミュウとの約束が違えられる事態になる可能性も十分にある。そんな事になれば、ミュウの心は深い傷を負うことになるだろう。

 

 

 

しかし、ハジメは肩を竦めると、口元に笑みを浮かべながら決意を宿した強い眼差しをユエに向けた。ユエも、一応聞いてみただけで、答えはわかっているとでも言うように口元が緩んでいた。

 

 

「どうとでもするさ。何があってもミュウのところに戻るし、日本だって見せてやる。ミュウを置いて世界を越えちまったのなら、何が何でも、またこの世界に来ればいい。何度でも世界を越えればいい。それだけのことだろ?」

 

「……ん。それだけのこと」

 

 

互いに分かりあった笑みを浮かべ、間近で見つめ合うハジメとユエ。ユエは、ハジメが誓いを立てるほど、何かを大切に出来たのだと感じ嬉しく思った。ハジメもまた、そんな自分を理解して、微笑んでくれるユエに愛しさがこみ上げる。いつも通り、ハジメとユエのコンビネーション能力“何処でも桃色空間”が発動する。

 

 

 

自分達の喧騒を放置して、二人っきりの世界を作っているハジメとユエに、もはや呆れた表情をする香織達。しかし、娘たるミュウに、そんな能力は通用しないらしく、堂々と間に割って入ると、ハジメパパに再度抱っこを要求した。再会の約束をしたとはいえ、しばらくのお別れであることに変わりはない。最後の夜は精一杯甘えることにしたようだ。

 

 

 

この時に雷電は、ハジメに対してある心配をしていた。

 

 

「一応自分いうのも何だが、ハジメ……お前上手く子離れできれば良いんだが……」

 

「今更な感じですね……マスター」

 

「本当よね?それこそ今更ね」

 

「……(やはり子離れし難いか……)」

 

 

雷電達はそれぞれの感想、思いながらもハジメの心配をするのだった。

 

 

 

その翌日、ハジメ達は、ミュウとレミアに見送られ、海上の町エリセンを旅立った。

 

 






その後の話……



ミュウと別れた雷電達。ヴェネター級でアンカジ公国に向かっている間、ハジメは何やら寂しそうにヴェネター級の甲板上で黄昏れていた。どうやら一時的な親子関係だった為に子離れした後の寂しさがかなり堪えた様だ。



何とかハジメを元気付けられないかと考えてた時に、アシュ=レイが何やら一つの人形を持っていた。


「エリセンにいる間、何かと隙だったんでミュウをモデルにした“ミュウちゃん人形”を作ってみたんだが……おいっハジメ、これやるからいつまでも黄昏れるな」

「いや、人形でどうにかなるのか?それ以前にアシュ=レイ……お前、裁縫とかできたのか?」

「解放者の時代、隙だったんでな?暇つぶしに裁縫スキルを極めといた」


ある意味でジェダイが一部の娯楽を求めるのはタブーとされているが、ジェダイ・オーダーが壊滅した後だとアシュ=レイを縛るものがなくなった為に裁縫が唯一の暇つぶしになった様だ。……それ以前にアシュ=レイの趣味が裁縫なんて初めて聞いたと同時に似合わないと思ったのは自分だけだろうか?と思う雷電だった。



そんなこんなでアシュ=レイがミュウちゃん人形を手渡す。雷電やユエ達もそれでどうかと思っていた矢先、ハジメはアシュ=レイが作った人形をミュウだと思いながらも優しくきゅっと抱きしめる。左眼に一雫の涙を流しながら……


「あっこれでもいいのか……っていうか、かなりショックが大きくないか!?」

「思ったよりもヤバイ状況じゃぞ……」

「やはり子離れが出来ないくらいのショックだったか……」


とりあえずハジメを励ましながらも元気付けるのだった。ここからの旅に支障を来さない為にも……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハイリヒ王国編
武器新調その2、異端認定


新武器のネーミングセンスが皆無な俺を許してください。orz


68話目です。


 

 

エリセンから離れ、アンカジ公国へと向かう一隻のヴェネター級。その艦内で移動している間、ある一室でハジメと雷電はある神代魔法の練習をしていた。その神代魔法はグリューエン大火山で得た“空間魔法”とメルジーネ海底遺跡で得た“再生魔法”である。

 

 

 

特に雷電は再生魔法の適性がハジメ達よりも高かった。その再生魔法に関して一つだけ分かったことがあった。それは“時に干渉する魔法”であることだ。最初は傷を元の状態に再生する治療魔法の最上位級魔法かと思われたが、実際は違う。この再生魔法は治癒というより復元。本来なら、時間そのものに干渉でき、過去を垣間見たり、いくつにも分岐した時の進んだ世界を垣間見ることもできる。言うなれば、シアの固有魔法“未来視”とおそらくこの魔法に由来するものだと推測する。

 

 

 

なればこそ、そこに空間魔法と再生魔法を組み合わせれば兼格闘バトル漫画にある“◯神と時の部屋”と同じ様な空間を作れることをハジメは思いつき、雷電と共に再生、空間魔法を極めるのだった。しかし、一日で極められる程に世の中は甘くはない。その結果、多少は使いこなせる様になったが、それでも魔力消費が多い分、時間干渉の精度が粗い。精々時間干渉の空間を作れたとしても約二倍の空間しか作れない。これでも大きな一歩であることには変わりはしなかった。

 

 

 

神代魔法の練習を終え、ハジメと共に自室に戻ろうとした時にユエがハジメ達を呼び止めた。

 

 

「……ユエ?どうした?」

 

「ヴォルトが呼んでる……私たちに見せたい物があるって」

 

「ヴォルトが……?」

 

 

ヴォルトとは海底遺跡でアシュ=レイと共にカーボン凍結されていたクローンである。海底遺跡から無事に脱出した後にヴォルトを精密検査を受けてもらった。雷電曰く、もしもアシュ=レイと共にこの異世界トータスに来たというのなら、行動抑制チップが頭の中に残っている筈とのことだ。精密検査の結果、頭の中にチップがあったものの破損しており、完全に使い物にならなくなっていたとのこと。これにより“オーダー66”による裏切りはなくなったとも言えるが、万が一ということも考えて精密検査後にチップの除去を終えるのだった。

 

 

 

それ以降、ヴェネター級のとある広い一室でヴォルト専用の研究室を築き上げ、そこでエリセンからアンカジ公国に向かうまで七日間、研究室で武器の開発を行っていた。特に武器の開発においてはハジメの持つドンナーやシュラークといった実体弾を使う旧世代武器(クローン視点)にヴォルトは興味を持ち、そこでハジメ達専用の武装を作ろうと七日間も研究室に籠りっきりだったのだ。

 

 

 

そして、その武器が完成した今、ハジメ達を研究室に集まってもらったのだ。

 

 

「待っていた。丁度、君たち専用の武器が完成したぞ。先ず最初にハジメとユエだ」

 

 

そう言ってヴォルトは完成した品がしまっている倉から二つの拳銃を取り出す。

 

 

「…っ!これって……」

 

「マジか……おいおい、自動拳銃(オートマティック)を作りやがったぞ、このクローン……」

 

「俺は武器製作が得意なんでな?それとその銃には銘がある。白い銃は“ユエ”で黒い銃は“ハジメ”だ。色や名前通り、白がユエので黒がハジメのだ」

 

 

ハジメとユエは、ヴォルトが作った銃に自分の名前を入れられたことに少しばかり恥じらいを覚えながらも銃を手にし、触り心地と動作を確認していた。なお、自動拳銃においてユエは初めて触るため、ハジメが説明しながらも動作を確認する。

 

 

「ん……思ったよりも軽い」

 

「俺のだけはやや少しだけ重いな……」

 

「先ず“ユエ”については連射力を特化したタイプだ。その為重量が軽いと同時に装弾数が多く、反動を出来るだけ軽減する様設計されている。そして“ハジメ”の方は一撃に特化したタイプで反動が少し大きい分、装弾数が少ないが破壊力は折り紙付きだ。そいつ等の共通する点は弾薬と魔力を流し込むことが可能だということだ。ハジメが使うドンナーの弾薬でも使える様に設計してある」

 

 

ヴォルトの説明が終わった後にハジメとユエは、研究所に設置してあった射撃場でヴォルトが作った銃を試射を行った。ユエの銃は引き金を引く度にマズルジャンプが小さく、ユエでも扱いやすい代物だった。そのお陰で、ユエにとって使いやすい銃だった。そしてハジメの銃は引き金を引いた瞬間、マズルジャンプがハジメの想像してたよりも大きく、片手で撃つのにも一苦労だった。しかし、二〜三発撃った後にコツを掴んだのかそれ以降片手でも扱える様になった。

 

 

「軽くて扱いやすい……これなら使える」

 

「コッチは反動が思ってたよりも大きかったが、何とかコツは覚えたな。ドンナーかシュラークが使えなくなったときはこいつを使うか。サンキューな、ヴォルト」

 

「気にするな。それと、まだ俺が作ったものがあるぞ」

 

 

ヴォルトは次へと移る様に作った武器をテーブルの前に置いていき、皆に作った武器の説明説明しながらも、それぞれに手渡すのだった。

 

 

 

※尺の都合上、ここからはダイジェストでお送りします。

 

 

 

シアに送られたのは複合兵装の武器“オルタナティブ・カーバー”。ハジメ曰く、どこかのス◯ロボに出てくる複合兵装だそうだ。

 

ティオにはアザンチウム鉱石をコーティングし、魔力を経由することが出来る鉄扇“アマツバキ”。

 

香織には回復役に万が一のことを考え、DC-17の改造銃“ヘルメス”。

 

清水には武器と強化外骨格のパワードスーツを提供された。武器の銘は“ランサーMk.1”という銃剣付きの大型アサルトライフル。そして強化外骨格の銘はまだ決まってなかったが、ハジメがこの強化外骨格を見た時に、完全に兼洋ゲーにある強化外骨格と同じであったが故に銘を“ミョルニル・アーマー”と命名した。

 

恵里には降霊術師という後衛向きの天職だったために護身用の振動ナイフ“リッパー”にDC-17改造銃“ベロニカ”。

 

 

 

以上がヴォルトが開発し、ハジメ達に渡した武器とアーマーであった。

 

 

 

そうして赤銅色の世界へと繋がる浜辺を目視で確認し、ハジメ達がヴェネター級から降り、再び赤銅色の世界に足を踏み入れ、ヴェネター級と別れてから一日半。

 

 

 

ハジメ達は、砂埃を盛大に巻き上げつつ魔力駆動四輪やスピーダー・バイクを駆りながら一路“アンカジ公国”を目指していた。本来の目的地は“ハルツィナ樹海”ではあるのだが、香織が再生魔法を使えば“アンカジ公国”のオアシスを元に戻せるのかもしれない、是非試してみたいと提案したためだ。

 

 

 

再生魔法は雷電との魔法練習で分かり切っていた分、ちょうど通り道である為、前回は名物のフルーツを食する暇もなかったことから、ハジメ達も特に反対する理由はなく、香織の提案に乗ることにした。

 

 

 

そして現在、アンカジの入場門が見え始めたところなのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。大きな荷馬車が数多く並んでおり、雰囲気からして、どうも商人の行列のようだ。

 

 

「随分と大規模な隊商だな……」

 

「……ん、時間かかりそう」

 

「多分、物資を運び込んでいるんじゃないかな?」

 

 

香織の推測通り、長蛇の列を作っているのは、“アンカジ公国”が“ハイリヒ王国”に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達である。王国側の救援部隊は、当然の如く先に通されており、今見えている隊商も、よほどアコギな商売でもしない限り、アンカジ側は全て受け入れているようだ。

 

 

 

何せ、水源がやられてしまったので、既に収穫して備蓄していたもの以外、作物類も安全のため廃棄処分にする必要があり、水以外に食料も大量に必要としていたのだ。相手を選んでいる余裕はないのである。

 

 

 

ハジメは、吹き荒ぶ砂と砂漠の暑さに辟易した様子で順番待ちをする隊商を尻目に、四輪を操作して直接入場門まで突入した。順番待ちする気ゼロである。これには流石の雷電も苦笑いし、隊商に謝罪しつつもハジメ達の後を追うのであった。

 

 

 

突然、脇を走り抜けていく黒い物体や白い物体に隊商の人達がギョッとしたように身を竦めた。“すわっ、魔物か!?”などと内心で叫んでいることだろう。それは、門番も同じようで砂煙を上げながら接近してくる四輪に武器を構えて警戒心と恐怖を織り交ぜた険しい視線を向けている。

 

 

 

しかし、にわかに騒がしくなった門前を訝しんで奥の詰所から現れた他の兵士が四輪を目にした途端、何かに気がついたようにハッと目を見開き、誰何と警告を発する同僚を諌めて、武器も持たずに出迎えに進み出てきた。更に、他の兵士に指示して伝令に走らせたようである。

 

 

 

ハジメ達は、門前まで来ると周囲の注目を無視して四輪から降車した。周囲の人々は、いつも通り、ユエ達の美貌に目を奪われ、次いで、“宝物庫”に収納されて消えたように見える四輪に瞠目している。

 

 

「ああ、やはり使徒様方でしたか。戻って来られたのですね」

 

 

兵士は、香織の姿を見るとホッと胸をなで下ろした。おそらく、ビィズを連れてきた時か、ハジメ達が“グリューエン大火山”に“静因石”を取りに行く時に四輪やスピーダー・バイクを見たことがあったのだろう。

 

 

 

そして、それが“神の使徒”の一人としてアンカジで知れ渡っている香織の乗り物であると認識していたようだ。概ね間違ってはいないので特に訂正はしないハジメ達。知名度は香織が一番なので、代表して前に出る。

 

 

「はい。実は、オアシスを浄化できるかもしれない術を手に入れたので試しに来ました。領主様に話を通しておきたいのですが……」

 

「オアシスを!?それは本当ですかっ!?」

 

「は、はい。あくまで可能性が高いというだけですが……」

 

「いえ、流石は使徒様です。と、こんなところで失礼しました。既に、領主様には伝令を送りました。入れ違いになってもいけませんから、待合室にご案内します。使徒様の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう」

 

 

やはり、国を救ってもらったという認識なのか兵士のハジメ達を見る目には多大な敬意の色が見て取れる。VIPに対する待遇だ。ハジメ達は、好奇の視線を向けてくる商人達を尻目に、門番の案内を受けて再“アンカジ公国”に足を踏み入れた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

領主であるランズィが息せき切ってやって来たのは、ハジメ達が待合室にやって来て十五分くらいだった。随分と早い到着である。それだけ、ランズィ達にとってハジメ達の存在は重要なのだろう。

 

 

「久しい……というほどでもないか。無事なようで何よりだ、ハジメ殿にライデン殿。ティオ殿に“静因石”を託して戻って来なかった時は本当に心配したぞ。貴殿達は、既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」

 

「いえいえ、我々とてこの国がまだ国としての機能が生きててよかったと思う所存です」

 

「一介の冒険者に何言ってるんだよ。でもまぁ、この通りピンピンしてる。ありがとよ。それより領主、どうやら救援も無事に受けられているようだな」

 

「ああ。備蓄した食料と、ライデン殿が召喚してくれた医師達の派遣、ユエ殿が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる」

 

 

そう言って、少し頬がこけたランズィは穏やかに笑った。アンカジを救うため連日東奔西走していたのだろう。疲労がにじみ出ているが、その分成果は出ているようで、表情を見る限りアンカジは十分に回せていけているようだ。

 

 

「領主様。オアシスの浄化は……」

 

「使徒殿……いや、香織殿。オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化は出来ているようだが……中々進まん。このペースだと完全に浄化されるまで少なくとも半年、土壌に染み込んだ分の浄化も考えると一年は掛かると計算されておる」

 

 

少し、憂鬱そうにそう語るランズィに、香織が今すぐ浄化できる可能性があると伝える。それを聞いたランズィの反応は劇的だった。掴みかからんばかりの勢いで“マジで!?”と唾を飛ばして確認するランズィに、香織は完全にドン引きしながらコクコクと頷く。ハジメの影に隠れる香織を見て、取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィは、早速、浄化を頼んできた。

 

 

 

元よりそのつもりだと頷き、ハジメ達一行はランズィに先導されオアシスへと向かった。

 

 

 

オアシスには、全くと言っていいほど人気がない。普段は憩いの場所として大勢の人々で賑わっているのだが……そのことを思い出し、ランズィが無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせている。

 

 

 

オアシスの畔に立って再生魔法を行使するのは香織だ。

 

 

 

再生魔法を入手したものの、相変わらずハジメとシアは適性が皆無だった。もっとも、シアの場合、まともに発動できなくてもオートリジェネのような自動回復効果があるらしく、また、意識すれば傷や魔力、体力や精神力の回復も段違いに早くなるらしい。どんどん超人化していくシア。身体強化のレベルや体重操作の熟練度も上がっているようなので、自動回復装置付きの重戦車のようになって来ている。

 

 

 

一番適性が高かったのは雷電の次に香織で、その次がティオ、そのまた次がユエだった。ユエの場合、相変わらず、自前の固有魔法“自動再生”があるせいか、任意で行使する回復作用のある魔法は苦手なようだ。反対に“治癒師”である香織は、回復と“再生”に通じるものがあるようで一際高い適性を持っており、より広範囲に効率的に行使出来るようだ。もっとも、詠唱も陣も必要な時点で、ユエの方が実戦では使えるのが悲しいところである。

 

 

 

香織が詠唱を始める。長い詠唱だ。エリセン滞在中に修練して最初は七分もかかっていた魔法を今では三分に縮めている。たった一週間でそれなのだから、十二分にチートである。しかし、ユエ達がバグキャラとも言うべき存在なので、霞んでしまうのだ。本人は、既に割り切っているようだが。

 

 

 

静謐さと、どこか荘厳さを感じさせる詠唱に、ランズィと彼の部下達が息を呑む。決して邪魔をしてはならない神聖な儀式のように感じたのだ。緊張感が場を支配する中、いよいよ香織の再生魔法が発動する。

 

 

「──“絶象”」

 

 

瞑目したままアーティファクトの白杖を突き出し呟かれた魔法名。

 

 

 

次の瞬間、前方に蛍火のような淡い光が発生し、スっと流れるようにオアシスの中央へと落ちた。すると、オアシス全体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていく。それは、まるでこの世の悪いものが浄化され天へと召されていくような神秘的で心に迫る光景だった。

 

 

 

誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。術の効果が終わり、オアシスを覆った神秘の輝きが空に溶けるように消えた後も、ランズィ達は、しばらく余韻に浸るように言葉もなく佇んでいた。

 

 

 

少し疲れた様子で肩を揺らす香織を支えつつ、ハジメがランズィを促す。ハッと我を取り戻したランズィは、部下に命じて水質の調査をさせた。部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。

 

 

「……戻っています」

 

「……もう一度言ってくれ」

 

 

ランズィの再確認の言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。

 

 

「オアシスに異常なし!元のオアシスです!完全に浄化されています!」

 

 

その瞬間、ランズィの部下達が一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。ランズィも深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。

 

 

「あとは、土壌の再生だな……領主、作物は全て廃棄したのか?」

 

「……いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな……まさか……それも?」

 

「ユエとティオも加われば、いけるんじゃないか?どうだ?」

 

「……ん、問題ない」

 

「うむ。せっかく丹精込めて作ったのじゃ。全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い」

 

 

ハジメ達の言葉に、本当に土壌も作物も復活するのだと実感し、ランズィは、胸に手を当てると、人目もはばからず深々と頭を下げた。領主がすることではないが、そうせずにはいられないほどランズィの感謝の念は深かったのだ。公国への深い愛情が、そのまま感謝の念に転化したようなものだ。

 

 

 

ランズィからの礼を受けながら、早速、ハジメ達は農地地帯の方へ移動しようとした。

 

 

 

だが、不意に感じた不穏な気配にその歩を止められる。視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくる。ハジメと雷電が“遠見”で確認してみれば、どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようだった。

 

 

「やれやれ……今アンカジは良い方向に向かっていると言うのにこういうタイミングで空気を読まないか……」

 

「どの道、聖教教会とは敵対する運命だったんだ。それが運悪くも早かっただけだ」

 

「聖教教会と神殿騎士か……いい思い出がねぇな、本当……」

 

 

アシュ=レイは解放者時代の頃を思い出したのか、あまりいい想いはしなかった。そんなハジメ達の傍までやって来た彼等は、すぐさま、ハジメ達を半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。

 

 

 

物騒な雰囲気にハジメは“やっぱりな……”と呟く中、ランズィが咄嗟に男とハジメ達の間に割って入る。

 

 

「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ」

 

「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」

 

フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。

 

 

「ふん、英雄?言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」

 

「異端者認定……だと? 馬鹿な、私は何も聞いていない」

 

 

ハジメに対する“異端者認定”という言葉に、ランズィが息を呑んだ。ランズィとて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知している。それ故に、何かの間違いでは?と信じられない思いでフォルビン司教に返した。

 

 

「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね?きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」

 

 

最後のセリフは声が小さく聞こえなかったが、どうやらハジメが異端者認定を受けたことは本当らしいと理解し、思わず、背後のハジメを振り返るランズィ。

 

 

 

しかし、当のハジメは特に焦りも驚愕もなく、来るべき時が来たかと予想でもしていたように肩を竦めるのみだった。一方の雷電は、フォルビン司教の小声をしっかりと聞いていた為か逆に呆れていた。そしてハジメは、視線で“どうするんだ?”とランズィに問いかけている。

 

 

 

ハジメの視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィに、如何にも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。

 

 

「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。……さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」

 

 

ランズィは瞑目する。そして、ハジメの力や性格、その他あらゆる情報を考察して何となく異端者認定を受けた理由を察した。自らが管理できない巨大な力を教会は許さなかったのだろうと。

 

 

 

しかし、ハジメ達の力の大きさを思えば、自殺行為に等しいその決定に、魔人族と相対する前に、ハジメ一行と戦争でもする気なのかと中央上層部の者達の正気を疑った。そして、どうにもキナ臭いと思いつつ、一番重要なことに思いを巡らせた。

 

 

 

それは、ハジメ達がアンカジを救ってくれたということ。毒に侵され倒れた民を癒し、生命線というべき水を用意し、オアシスに潜む怪物を討伐し、今再び戻って公国の象徴たるオアシスすら浄化してくれた。

 

 

 

この莫大な恩義に、どう報いるべきか頭を悩ましていたのはついさっきのことだ。ランズィは目を見開くと、ちょうどいい機会ではないかと口元に笑みを浮かべた。そして、黙り込んだランズィにイライラした様子のフォルビン司祭に領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。

 

 

「断る」

 

「……今、何といった?」

 

 

全く予想外の言葉に、フォルビン司教の表情が面白いほど間抜け顔になる。そんなフォルビン司教の様子に、内心、聖教教会の決定に逆らうなど有り得ないことなのだから当然だろうなと苦笑いしながら、ランズィは、揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。

 

 

「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」

 

「なっ、なっ、き、貴様!正気か!教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう! 異端者の烙印を押されたいのか!」

 

 

ランズィの言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげるフォルビン司教。周囲の神殿騎士達も困惑したように顔を見合わせている。

 

 

「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ?報告によれば、勇者一行も、ウルの町も彼に救われているというではないか……そんな相手に異端者認定?その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」

 

「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らうことは許されん!公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ!それでもよいのかっ!」

 

 

どこか狂的な光を瞳に宿しながら、フォルビン司教は、とても聖職者とは思えない雰囲気で喚きたてた。それを冷めた目で見つめるランズィに、いつの間にか傍らまでやって来ていたハジメが、意外そうな表情で問いかける。

 

 

「……おい、いいのか? 王国と教会の両方と事を構えることになるぞ。領主として、その判断はどうなんだ?」

 

 

ランズィは、ハジメの言葉には答えず事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。ハジメも、誘われるように視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めたように決然とした表情を見せた。瞳はギラリと輝いている。明らかに、“殺るなら殺ったるでぇ!”という表情だ。

 

 

 

その意志をフォルビン司教も読み取ったようで、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。

 

「いいのだな?公よ、貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ」

 

「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰?私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが?司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

 

 

ランズィの言葉に、怒りを通り越してしまったのか無表情になったフォルビン司教は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。

 

 

 

と、その時、ヒュ!と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン!と音を立ててぶつかった。足元を見れば、そこにあるのは小石だった。神殿騎士には何のダメージもないが、なぜこんなものが?と首を捻る。しかし、そんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。

 

 

 

何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達と治療の為に召喚されたクローン達が大勢集まり、神殿騎士達を包囲していた。

 

 

 

彼等は、オアシスから発生した神秘的な光と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達を見て、何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だ。

 

 

 

彼等は、神殿騎士が、自分達を献身的に治療してくれた“神の使徒”たる香織や、特効薬である“静因石”を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれたハジメ達を取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、“教会のやつら乱心でもしたのか!”と憤慨し、敵意もあらわに少しでも力になろうと投石を始めたのである。クローン達も将軍達やアンカジの民に何かあっては問題だと判断し、全員で出向くことになったのだ。

 

 

「やめよ!アンカジの民よ!奴らは異端者認定を受けた神敵である!やつらの討伐は神の意志である!」

 

フォルビンが、殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。彼等はまだ、ハジメ達が異端者認定を受けていることを知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうと、フォルビンは思っていた。

 

 

 

実際、聖教教会司教の言葉に、住民達は困惑をあらわにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。

 

 

 

そこへ、今度はランズィの言葉が、威厳と共に放たれる。

 

 

「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等は、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた!我らのオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ!そして、汚染された土地も!作物も!全て浄化してくれるという!彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ!救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。……私は、守ることにした!」

 

フォルビン司教は、“そんな言葉で、教会の威光に逆らうわけがない”と嘲笑混じりの笑みをランズィに向けようとして、次の瞬間、その表情を凍てつかせた。

 

 

 

カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!

 

 

 

住民達の意思が投石という形をもって示されたからだ。

 

 

「なっ、なっ……」

 

 

再び言葉を詰まらせたフォルビン司教に住民達の言葉が叩きつけられた。

 

 

「ふざけるな! 俺達の恩人を殺らせるかよ!」

 

「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」

 

「何が異端者だ! お前らの方がよほど異端者だろうが!」

 

「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」

 

「香織様を守れ!」

 

「領主様に続け!」

 

「香織様、貴女にこの身を捧げますぅ!」

 

「おい、誰かビィズ会長を呼べ!“香織様にご奉仕し隊”を出してもらうんだ!」

 

 

どうやら、住民達はランズィと香織に深い敬愛の念を持っているらしい。信仰心を押しのけて、目の前のランズィと香織一行を守ろうと気勢をあげた。中には変な隊までが結成されていたことに雷電は内心でツッコンだ。いや、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。ただ、自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれた“神の使徒”である香織を害すはずがないと信じているようだ。要するに、信仰心がフォルビン司教への信頼を上回ったということだろう。元々、信頼があったのかはわからないが……

 

 

 

事態を知った住民達が、続々と集まってくる。彼等一人一人の力は当然のごとく神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意にフォルビン司教や助祭、神殿騎士達はたじろいだ様に後退った。

 

 

「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て……聞いてはもらえませんかな?」

 

「ぬっ、ぐぅ……ただで済むとは思わないことだっ」

 

 

歯軋りしながら最後にハジメ達を煮え滾った眼で睨みつけると、フォルビン司教は踵を返した。その後を、神殿騎士達が慌てて付いていく。フォルビン司教は激情を少しでも発散しようとしているかのように、大きな足音を立てながら教会の方へと……

 

 

「いやっ……お前たちにとって次はない」

 

「何だと?……っ!」

 

 

……消えていくことはなかった。何故なら、アンカジで待機していたクローン達がブラスターを構えてフォルビン司教や神殿騎士達を包囲したのだ。

 

 

「……何のつもりだ、貴様っ!!」

 

「何のつもりだと?その言葉、そのまま返すぞ。野心剥き出しの似非司教さんよ……」

 

「なっ……何を言って「お前、小声だが領主の前でこう告げただろう?()()()()()()()()……っとな?」……っ!?」

 

 

どうやらフォルビン司教は雷電が小声を聞き取っていたことに気付かなかった様だ。しかし、たとえ聞き取れなかったとしても、フォースを通してフォルビン司教の野心は丸見えだった。その結果、雷電は密かにクローン達に通信を入れ、フォルビン司教達を包囲する様命じたのだ。そしてフォルビン司教は苦し紛れに雷電を異端者の戯れ言だと言い逃れようとする。

 

 

「き……貴様っ!異端者の分際で神に逆らうか!?いずれ貴様は神罰を受けることになるぞ!!」

 

「……いちいち神、神、神と言わなきゃ気がすまないのか?神に頼るしか出来ないお前たちは己の正しさを見出すことが出来ない愚者だろうに?今だって、俺達がアンカジ公国で手助けしているというのに、それを己の野心の為に神のお告げと言い聞かせて俺達を討ち、そしてその暁には、ハイリヒ王国の中央上層部の一員に成り上がるという、まさに()()()()()()()といっても過言ではないのにな?」

 

 

そう雷電が告げた結果、アンカジの民達はフォルビン司教や神殿騎士達のことを冷たい視線で見ていた。その視線には僅かながらも怒りがあった。フォルビン司教の野心の為に恩人であるハジメ達を()()()()()()()()()()()()というふざけた大義名分で己の野心を満たそうとするフォルビン司教に誰も怒らずにはいられなかった。だがしかし、アンカジの民達はフォルビン司教を殺せば丸く収まるとは思ってもいない。それを読み取った雷電は然るべき処罰で罪を償ってもらうことを前提でクローン達に指示を出す。

 

 

「……とは言え、俺達とてここに火種を残すつもりはない。お前たちには然るべき処罰をこの国の民達に委ねる積もりだ。それまでお前達は汚職関係で一時的にこちらで拘束させてもらう。トルーパー、フォルビン司教と神殿騎士等を汚職罪で逮捕、身柄を拘束せよ!」

 

「「「サー、イエッサー!」」」

 

 

雷電の号令の下、クローン達はフォルビン司教と神殿騎士等を拘束する。その際にフォルビン司教は“この異端者め!いずれ貴様に神罰がくだるだろう!!”と言葉を残してクローン達に連れて行かれたのだった。

 

 

 

その一部始終を見ていたハジメは、改めてランズィに問いかける。

 

 

「……今更かもしれないが、本当によかったのか?俺達のことは放っておいても良かったんだぞ?」

 

 

当事者なのに、最後まで蚊帳の外に置かれていたハジメがランズィに困ったような表情でそう告げる。香織達も、自分達のせいでアンカジが、今度は王国や教会からの危機にさらされるのでは心配顔だ。

 

 

 

だが、そんなハジメ達にランズィは何でもないように涼しい表情で答えた。

 

 

「なに、これは“アンカジの意思”だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては……それこそ、私の方が“アンカジの意思”に殺されてしまうだろう。愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ」

 

「改めて良い領主だな、ランズィ殿」

 

「別に、あの程度の連中に殺されたりはしないが……」

 

 

ランズィの言葉に、頬を掻きながらハジメがそう言うと、ランズィは我が意を得たりと笑った。

 

 

「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さないためだ。信じられないような魔法をいくつも使い、我々では計り知れない兵士達を召喚してみせたり、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている……いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」

 

 

ハジメとしては、ランズィが自分達を教会に引き渡したとしても敵対認定するつもりはなかったのだが、ランズィは万一の可能性も考えて、教会とハジメ達を天秤にかけ後者をとったのだろう。確かに、国のためとは言え、教会の威光に逆らう行為なのだ。英断と言っても過言ではないだろう。

 

 

 

ハジメは、覚悟していた教会の異端認定とその結果の衝突が、いきなり自分達以外の人々によって回避されたことに何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。そして、わらわらと自分達の安否を気遣って集まってくるアンカジの人々と、それにオロオロしつつも嬉しそうに笑う香織達を見て、これも愛子先生が言っていた“寂しい生き方”をしなかった結果なのかと、そんなことを思うのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

教会との騒動から三日。

 

 

 

農作地帯と作物の汚染を浄化したハジメ達は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。

 

 

 

視線の先、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っている。湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に、笑顔で満ち満ちていた。

 

 

 

ハジメ達は今日、アンカジを発つ。当初は汚染場所の再生さえすれば、特産のフルーツでも買ってさっさと出発するつもりだったのだが、領主一家や領主館の人々、そしてアンカジの住民達に何かと引き止められて、結局、余分に二日も過ごしてしまった。

 

 

 

アンカジにおけるハジメ達への歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィに頼んで何とか抑えてもらったほどだ。見送りは領主館で終わらせてもらい、ハジメ達は、自分達だけで門近くまで来て、最後にオアシスを眺めているのである。

 

 

「……なぁ、そろそろ目立つから着替えるか、せめて上から何か羽織ってくれよ」

 

「流石の俺達でも目のやりように困る一方だ」

 

 

ハジメと雷電は、そろそろ門に向かおうと踵を返しつつ、傍にいるユエ達にそんなことを言った。

 

 

「……ん?飽きた?」

 

「え?そうなの?ハジメくん」

 

「いや、ユエ、香織よ。ご主人様と雷電殿の目はそう言っておらん。単に目立たぬようにという事じゃろう」

 

「まぁ、門を通るのにこの格好はないですからね~」

 

「でもまぁ、流石の雷電くんもこの衣装は刺激的に強すぎたかな?」

 

 

シアがその場でくるりと華麗にターンを決めながら“この格好”と言ったのは、いわゆるベリーダンスで着るような衣装だった。チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。非常に扇情的で、ちっちゃなおへそが眩しい。この衣装を着て踊られたりしたら目が釘付けになること請け合いだ。

 

 

 

アンカジにおけるドレス衣装らしい。領主の奥方からプレゼントされたユエ達がこれを着てハジメに披露したとき、ハジメの目が一瞬、野獣になった。どうやら、ハジメはこういう衣装に非常に弱かったらしい。そして雷電と清水もユエ達の衣装に顔を赤くさせていた。何せ、ユエだけでなくシアやティオ、香織、恵里、シルヴィにまで思わず目が釘付けになったのだから。

 

 

 

今まで、ユエ以外には碌な反応をしてこなかったハジメである。味をしめたシア達は、基本的に一日中その格好でハジメに侍るようになった。当然、そうなればユエも脱ぐわけにいかず、常に、ハジメの理性を崩壊させるような衣装で魅惑的に迫った。

 

 

 

結局、出発間際の今になっても、全員エロティックな衣装のままなのである。ハジメの意外な性癖が明らかになって、その点をガンガンと積極的に突かれながら、どこか嬉しくも疲れた表情をするハジメはどうやって、普通の服を着させようか悩みながら門に向かうのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

そして、アンカジを出発して二日。

 

 

 

そろそろホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、四輪とスピーダーを走らせるハジメ達は、賊らしき連中に襲われている隊商と遭遇した。

 

 

 

そこでハジメと雷電、清水と香織、恵里は意外すぎる人物と再会することになった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意外な再会、王女リリアーナ

連続投稿です。


69話目です。


 

 

最初に、隊商が族に襲われている騒動に気がついたのはシアだった。

 

 

「あれ?マスター、あれって……何か襲われてません?」

 

「完全に襲われているな……ハジメ、見えてるか?」

 

「あぁ、こっちでも見える」

 

 

例のごとく、ハジメが車内でユエとイチャつき、それに香織が割って入り、パワーアップして氷雪を纏うようになった般若と雷を纏う龍が威嚇し合い、結果、ほとんど前を見ていないという危険運転をしていたハジメは、スピーダーに雷電の言葉でようやく前方に注意を向けた。

 

 

 

シアの言う通り、どうやら何処かの隊商が襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。近づくにつれ、シアのウサミミには人々の怒号と悲鳴が聞こえ、ハジメと雷電の“遠見”にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。

 

 

「相手は賊みたいだな。……小汚ない格好した男が約四十人……対して隊商の護衛は……ん?」

 

「どうしたハジメ?……アレは!」

 

 

ハジメと雷電は、よく目をこらして見てみると、何やら見覚えのある人物……否、クローン達が護衛をしていた。しかも、そのクローン達はハイリヒ王国で天之河達の護衛を務めているキャプテン・フォードーとドミノ分隊の姿があった。

 

 

 

何故フォードー達が此処にいるのか謎であったが、どうやらフォードー達は強固な結界の外側で戦って隊商を守りながらも何とか持ち堪えているようだが、ただでさえ人数差がある分、体力とスタミナを減らしているのだ。もし彼等が敗れて、結界が解ければ嬲り殺しにされるだろう。

 

 

 

そうハジメ達が考えていた直後、結界は効力を失い溶けるように虚空へと消えていった。待ってましたと言わんばかりに、雄叫びを上げた賊達が隊商へとなだれ込んだ。賊達の頭の中は既に戦利品で一杯なのか一様に下卑た笑みを浮かべている。フォードー達が必死に応戦するが、多勢に無勢だ。その時に雷電の左腕に付けられているコムリンクから通信が入る。

 

 

《こちらフォードー!現在、盗賊達の襲撃に遭っている!至急救援を!!》

 

 

その通信を聞いた雷電とハジメの行動は早かった。即座に戦闘準備に入り、介入準備を整える。と、その時、何か酷く驚いたような表情で固まっていた香織が、焦燥を滲ませた声音でハジメに救援を求めた。

 

 

「ハジメくん、お願い!彼等を助けて!もしかしたら、あそこに……」

 

 

ハジメは、香織の言葉を最後まで聞くこともなく、無言で四輪を加速させるという形で応えてみせた。話を聞いて助ける助けないの判断をしているうちに隊商が全滅することは明白だったので、香織が何を言いたいのかは後回しということだ。

 

 

 

四輪の車輪がギャリギャリギャリと地面を噛み、ロケット噴射でもしたかのように凄まじい勢いで加速する。雷電もスピーダーを加速させてハジメ達の後を追った。

 

 

「ハジメくん……ありがとう」

 

 

香織は、皆まで聞かずとも行動で示してくれたハジメに、嬉しそうに微笑んでお礼を述べた。ハジメはただ肩を竦めるのみ。爆走する四輪にハジメが何をするのか察したようで、ユエ達は急いでベルトをし直し、車内の何処かに捕まった。

 

 

「あ、あの、ハジメくん? まさかと思うけど……」

 

 

香織が、刻一刻と速度を上げる四輪に頬を引き攣らせる。確かに、救援を頼んだのは自分なのだけれど、地球の交通常識を知る者として、その方法での先制攻撃を躊躇いなく実行するのはどうなんだろう?と、そう思わずにはいられなかったのだ。

 

 

 

そんな香織に、ハジメは澄まし顔で答えた。

 

 

「犯罪者を見たらアクセルを踏め……教習所で習うことだろ?」

 

「習わないよ!勝手に交通ルールを歪めないで!ほら、ユエ達がそうなのかって頷いてるよ!」

 

「そんな交通ルールがあったら既に世の中も末だぞ?」

 

 

香織と雷電のツッコミが炸裂する中、ハジメはそれを気にした様子もなく、後方から賊達の指揮をとっている男へと突進した。その躊躇いの無さは、自動車とは犯罪者を轢殺するためにある!と言わんばかりだ。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

隊商を護衛をするフォードー達。正確には、隊商の中にいるある人物の護衛である。現にドミノ分隊のカタップとドロイドベイトは盗賊達の魔法弾などに被弾して負傷していた。残ったエコー、ファイヴス、ヘヴィーはそれぞれの武器で応戦していた。しかし、敵の盗賊の人数はまだ八十人もいた。最初に盗賊と接敵した時の数はその二倍の百六十人もいたが、そこは隊商が雇った冒険者とフォードー達で何とか盗賊達の猛攻を凌いでいたが、盗賊の残りが百人を切った時には既に冒険者達が盗賊達との戦闘で負傷し、戦闘不能になり、代わりにフォードー達が冒険者達の分まで凌いでいたのだ。

 

 

 

しかし、それにも限界がある。現にカタップとドロイドベイトが負傷し、既に後方へと下がらせている。そんな逆境の中、フォードーはDC-15ブラスター・ライフルで応戦しつつもコムリンクを使って駄目元で通信を試みる。

 

 

「大至急救援を!敵が多すぎる!繰り返す、敵が…「死ねやおらぁ!!」…っ!」

 

 

迫り来る盗賊にフォードーは容赦することなく射殺する。そして背後を襲撃しようとする盗賊にブラスターの銃床で殴り倒し、ブラスターで止めを刺す。その時にブラスターのティバナ・ガスの残量が尽きたのか更に迫り来る盗賊にガス切れになったブラスターを投げ当てる。当たってしまった盗賊が怯んでいる間にフォード―はホルスターにある二梃のDC-17ハンド・ブラスターを引き抜き、怯んでいる盗賊を射殺して必死の抵抗を見せる。

 

 

 

このままでは持たないとフォードーが焦りが生じた矢先、砂埃を巻き上げて急速に接近して来る七つの謎の物体にようやく気がついた盗賊のリーダーらしき人物が、慌てて仲間に指示を出しつつ、自らも魔法の詠唱を始めた。彼等からは、きっと新手の魔物か何かに見えていることだろう。まさか、人が操作する鋼鉄の塊とは夢にも思うまい。

 

 

 

フォードーは、接近してくる七つの物体が友軍のスピーダーとハジメの四輪であると理解し、即座にドミノ分隊に後退指示を出す。そしてハジメは、魔力を流し込んで四輪のギミックを作動させた。ボンネット下部の両サイドと屋根から長さ一メートル程のブレードが飛び出す。賊達が炎弾をぶっ放してくるが、どうせなんの意味もないので、まるっと無視して問答無用に突撃した。炎弾が何発直撃しても、何の痛痒も感じさせずに突進してくる黒の塊に、賊達の表情が盛大に歪んだ。

 

 

 

ドゴォ! バキッ! グシャ!

 

 

 

戦慄、絶望、困惑──そんな表情を浮かべた賊達が、生々しい音を響かせながら冗談のように跳ね飛ばされていく。

 

 

 

ある者は、ボンネットに乗り上げながら転がっていき屋根のブレードに切り裂かれ、またある者は、横っ飛びに回避を試みたものの両サイドのブレードに体の一部を切り飛ばされ、運良くブレードに当たらなかった者も時速八十キロメートルで爆進する車両の体当たりで骨や内臓を粉砕された。

 

 

 

たった一瞬、それだけの交差で賊の後方集団は七人が絶命するに至った。

 

 

 

ハジメは、賊の後方集団を轢き殺すと、その先でドリフト気味に車体を反転させ停車する。雷電達のスピーダーもハジメの四輪に随伴する様に停車し、スピーダーから降りる。いきなりの殺戮劇に、賊も隊商のメンバーも唖然呆然としてハジメ達の乗る四輪を凝視していた。中には、ブラスターを盾にして鍔迫り合いをしたまま、顔を見合わせている賊とドミノ分隊もいる。

 

 

 

そんな彼等を尻目に、雷電はフォードーに声をかける。

 

 

「フォードー、無事か!」

 

「将軍!?何故ここに……?」

 

「話は後だ!今は盗賊達から退くぞ!」

 

 

そう言った後に雷電はライトセーバーを起動させ、デルタ、不良分隊と共にフォードー達の援護に回るのだった。

 

 

フォードーSide out

 

 

 

ブリーゼから降りたハジメは、香織に視線を向けながら確認するように口を開いた。

 

 

「やるからには容赦しない。奴らは皆殺しにする。慈悲なんてものはない。分かっているよな?」

 

「……うん。わかってるよ」

 

 

それは、いくら香織が優しくても、敵対した者を癒したり庇ったりする事は許さないということだ。それをしたいなら、香織はハジメの仲間ではいられなくなる。行くべきところは勇者パーティーだ。香織は一呼吸置くと、決然とした眼差しでハジメに頷いた。

 

 

「なら、行け。邪魔はさせない」

 

「うん!」

 

 

香織は四輪を降りると脇目も振らず、まず怪我人の元へと走った。四輪には度肝を抜かれたが、向かって来たのが若い女だと分かると、賊達は我を取り戻し、仲間を殺られた怒りで表情を歪めながら走る香織に襲いかかった。

 

 

「このクソアマァ!死ねぇ!」

 

 

怒声を上げながら、賊の男が手に持つ長剣を振りかぶる。

 

 

しかし香織は、そんな賊の男を横目で一瞥しただけで何事もなかったように視線を逸らした。そして、速度を緩めず怪我人のもとへ詠唱しながら走る。そんな己を歯牙にもかけないような様子の香織に更に激高した男だったが、次の瞬間には頭部を爆ぜさせて、あっさりその生涯の幕を閉じた。

 

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

 

周囲に炸裂音が連続して轟くたびに、殺意の風が吹き荒れる。一人また一人と、賊の頭部が粉砕され血飛沫が舞っていく光景に、救われているはずの護衛者達の背筋が粟立った。余りに圧倒的、余りに無慈悲。フォードー達が倒した賊を除き、四十人以上いた賊達は、たった数秒で半数まで数を減らしてしまった。

 

 

 

数人の賊が、非現実的な光景にパニックを起こし、喚き散らしながら人質にでも使おうというのか兎人族の少女に飛びかかっていく。護衛の一人が“危ないっ!”と警告の声を上げる。だが、それは無用の心配だ。何せ、ここにいるのは超人化がどんどん進んでいるシアなのだ。戦闘ウサギに死角はない!

 

 

 

シアは、“宝物庫”からライトセーバーを斜め後ろの虚空に取り出すと、パシッ!と小気味いい音を立てて握り締め、そのまま緑の光刃を展開して一気に振り抜いた。振るわれたライトセーバーは、一斉に迫ってきた三人の賊達の胴体を真っ二つに引き裂いてしまった。

 

 

「あれっ?あっ、これライトセーバーだったですぅ!」

 

 

どうやら、ドリュッケンを取り出すつもりが間違ってライトセーバーをとりだしてしまったらしい。ドリュッケンを取り出したなら、ただぶっ飛ばすだけのつもりだったのだが、技能の“未来予知”で敵の悲惨な光景を見る。どうやらドリュッケンを今までの感覚で使ってしまうと、うっかり上半身だけ勢いで引きちぎってしまう結果になる様だ。それに気付いて少しばかり慌てるシア。

 

 

 

そんなシアに呆れ顔をしながら、ユエとティオも容赦ない魔法の嵐で近づくことすら許さずに賊達を蹂躙していった。

 

 

 

残り十人程になってようやく逃げに入る賊達だったが、そんなことが叶うはずもなく、残りの敵は清水がHK23から放たれる45ACP弾によってあっさり急所を撃ち抜かれて絶命していった。命乞いをする暇もない。本当に容赦の欠片もない蹂躙劇だった。

 

 

 

香織は、複数人用の光系回復魔法“回天”を連続使用して、一気に傷ついた冒険者達や隊商の人々を治癒していく。しかし残念ながら、ハジメ達が来る前に倒れていた一部の護衛の冒険者達は、既に事切れていたらしく、いくら再生魔法であっても死者の蘇生までは出来ないので彼等は助ける事が出来なかった。

 

 

 

そんな彼等を見て歯噛みする香織に、突如、人影が猛然と駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しい。だが、実は先程の結界を張って必死に隊商を守っていたのがその人物であると、魔力の流れと色で既に確認していたので、ハジメは特に止める事もなく素通りさせた。

 

 

「香織!」

 

 

フードの人物は、そのままの勢いで香織に飛び付き、可憐な声で香織の名を呼びながらギュッと抱きついた。香織は、まさかの推測が当たっていたと知り驚愕を隠せない様子で、その人物の名を呟く。

 

 

「リリィ!やっぱり、リリィなのね?あの結界、見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから、半信半疑だったのだけど……」

 

 

香織がリリィと呼んだフードの相手、それは……

 

 

 

────ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ

 

 

 

その人だった。

 

 

 

リリアーナは、心底ホッとした様子で、ずれたフードの奥から煌く金髪碧眼とその美貌を覗かせた。そして、感じ入るように細めた目で香織を見つめながら呟く。

 

 

「私も、こんなところで香織に会えるとは思いませんでした。……僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね」

 

「リリィ?それはどういう……」

 

 

香織がリリアーナの言葉の意味を計りかねていると、リリアーナは、今更ながらにハッと何かに気がついた様子でフードを目深に被り直した。そして、香織の口元に人差し指を当てて、自分の名前を呼ばせないようにした。

 

 

 

どうやら、本当にお供も付けず、隊商に紛れ込んでここまでやって来たようだ。一国の王女がそうしなければならない何かがあったのだと察した香織の表情も険しくなった。

 

 

「……クリア。どうやら盗賊達もアレで打ち止めだった様だな」

 

「香織、治療は終わったか?」

 

 

香織とリリアーナが真剣な表情で見つめ合っていると、いつの間にか周囲の安全確保を終え、傍までやって来ていたハジメと雷電。ハジメは、香織が隊商達の治療が終わったのかと確認する為に声をかけた。全く気配がなかったので、“ひゃ!”と可愛らしい声を上げて驚くリリアーナ。そして、フードの中からハジメと雷電を見上げて、しばらく考える素振りを見せると、ピコン!と頭に電球が灯ったような表情をしてハジメに挨拶を始めた。

 

 

「……南雲さんと藤原さん……ですね?お久しぶりです。雫達からアナタ方の生存は聞いていました。アナタ方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。……特に南雲さん。貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

 

「もうっ、リリィ! 今は、そんな事いいでしょ!」

 

「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ?あとで詳しく聞かせて下さいね?」

 

 

どこかからかうような口調で香織と戯れるリリアーナは、照れて真っ赤になる香織を横目にフードの奥からハジメに笑いかけた。

 

 

 

国民から絶大な人気を誇る王女の笑顔。一度それを向けられたなら、老若男女の区別なく陶然とすること間違いないと思わせる可憐なものだ。雷電はその人が誰なのかすぐに分かったが、一方のそれを見たハジメは、特に何かを感じた様子もなく、むしろ胡乱な眼差しをリリアーナに向けて空気を読まない言葉を放った。

 

 

「……っていうか、誰だお前?」

 

「へっ?」

 

 

ハジメがまだ王国にいた頃からリリアーナと香織達は積極的にコミュニケーションをとっていたし、他の生徒に対してもリリアーナは必ず数回は自ら話に行っている。確かに、ハジメは立場的に微妙だったので、リリアーナと直接話した回数はそれほど多くはないが、それでも、香織も交えて談笑したことはあるのだ。因みに雷電も、ハジメと同様リリアーナと直接話した回数はそれほど少なくないが、ハイリヒ王国の王女であることを認識し、覚えておいたのだ。

 

 

 

そして、リリアーナは王女である事と、その気さくで人当たりのいい性格もあって、一度交流を持った相手から忘れられるという経験は皆無。なので、全く知らない人間を見るような目で見られた事にショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまった。

 

 

 

呆然としているリリアーナに代わって、慌てたように香織がフォローを入れる。周囲にリリアーナが王女であるとばれるのは厄介なので、耳に口元を寄せて小声で話す。雷電も香織に便乗辞して小声で話すのだった。

 

 

「ハ、ハジメ君!王女!王女様だよ!ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ! 話したことあるでしょ!」

 

「ハジメ、お前な……召喚された国の王女の名前を忘れるのはどうかと思うが……」

 

「……………………………………………………………………………………ああ」

 

「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

 

「リリィー!泣かないで!ハジメくんはちょっと“アレ”なの!ハジメくんが“特殊”なだけで、リリィを忘れる人なんて“普通”はいないから!だから、ね?泣かないで?」

 

「おい、何か俺、さりげなく罵倒されてないか?」

 

「そりゃ普通に忘れ去られる人の気持ちになれば心が痛むものだろうに……今のはハジメが悪い」

 

 

涙目になってしまったリリアーナに必死のフォローを入れる香織が地味に酷いことを言うので、ハジメは思わずツッコミを入れるが、雷電から追い打ちを受ける。流石にこれにはハジメも“何でさ…”とぼやく。しかし、香織から“ハジメくんはちょっと黙ってて!”と一蹴されてしまった。しかもリリアーナが“いいえ、いいのです、香織。私が少し自惚れていたのです”等と健気な事を言うので、尚更、文句は言えなかった。全面的に、リリアーナの存在を完全に忘れていたハジメが悪いのだ。

 

 

 

そんな微妙な雰囲気のハジメ達のもとへ、ユエ達と、見覚えのある人物が寄ってくる。

 

 

「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

 

「栄養ドリンクの人……」

 

「は?何です?栄養ドリンク?確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

 

「あ~、いや、何でもない。確か、モットーで良かったよな?」

 

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある」

 

 

握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。

 

 

 

彼の商魂が暴走した事件は、ハジメもよく覚えている。この世界の商人の性というものを、ハジメはモットーで学んだようなものだ。実際、彼の商魂はいささかの衰えもないようで、握手しながらさりげなく、ハジメの指にはまった“宝物庫”の指輪を触っている。その全く笑っていない眼が、“そろそろ売りませんか?”と言っていると感じるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 

 

背後で、シアがモットーとの関係を説明し、“たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……”とリリアーナが更に落ち込んでいたりする。そんな彼女を香織が必死に慰めているのを尻目に、ハジメはモットーの話を聞いた。

 

 

 

それによると、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったようだ。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているらしい。モットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたようだ。

 

 

 

ハジメ達は、ホルアドを経由してフューレンに行き、ミュウ送還の報告をイルワにしてから、“ハルツィナ樹海”に向かう予定だったので、その事をモットーに話すと、彼はホルアドまでの護衛を頼み込んできた。

 

 

 

しかし、それに待ったを掛けた者がいた。リリアーナだ。

 

 

「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」

 

「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」

 

「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

 

 

どうやらリリアーナは、モットーの隊商に便乗してホルアドまで行く予定だったらしい。しかし、途中でハジメ達に会えたことでその必要がなくなったようだ。その時点で、リリアーナの目的にキナ臭さを感じたハジメだったが、文句を言おうにも香織が“これ以上、リリィをいじめないで!”と無言の訴えをしているので、取り敢えず黙っていることにした。

 

 

「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

 

「えっ? いえ、そういうわけには……」

 

 

お金を受け取ることを固辞するモットーに、リリアーナは困惑する。隊商では、寝床や料理まで全面的に世話になっていたのだ。後払いでいくら請求されるのだろうと、少し不安に思っていたくらいなので、モットーの言葉は完全に予想外だった。

 

 

 

そんなリリアーナに対し、モットーは困ったような笑みを向けた。

 

 

 

「二度と、こういう事をなさるとは思いませんが……一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな」

 

「それは、まさか……」

 

「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、お一人で忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

 

 

モットーの口振りから、リリアーナは、彼が最初から自分の正体に気がついていたと悟る。そして、気が付いていながら、敢えて知らないふりをしてリリアーナの力になろうとしてくれていたのだ。

 

 

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

 

「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

 

「え? ……いいえ、わかりません」

 

「それはですな、“信頼”です」

 

「信頼?」

 

「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな?もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

 

 

リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。リリアーナは、諦めたように、その場でフードを取ると、真っ直ぐモットーに向き合った。

 

 

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

 

「勿体無いお言葉です」

 

 

リリアーナに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

 

 

 

その後、リリアーナとハジメ達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。去り際に、ハジメが異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、ハジメもアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。それだけで、ハジメが異端者認定を受けた理由やら何やらを色々推測したようで、その上で“今後も縁があれば是非ご贔屓に”と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人である。

 

 

 

モットー達が去ったあと、ハジメ達は魔力駆動四輪の中でリリアーナの話を聞くことになった。何故王女のリリアーナがフォードー達と共に行動しているのか?それを疑問視していた雷電は、リリアーナにどういう事なのか説明を求めた。焦燥感と緊張感が入り混じったリリアーナの表情が、ハジメと雷電の感じている嫌な予感に拍車をかける。そして、遂に語りだしたリリアーナの第一声は……

 

 

「愛子さんが……攫われました」

 

 

ハジメと雷電の予感を上回る最低のものだった。

 

 

 

リリアーナの話を要約するとこうだ。

 

 

 

最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。

 

 

 

父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように“エヒト様”を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

 

 

 

それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが……

 

 

 

違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 

 

 

そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、リリアーナは一度もメルドを捕まえることが出来なかった。

 

 

 

そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。それが、ハジメと雷電の異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、“豊穣の女神”として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も、全てを無視して決定されてしまった。

 

 

 

有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメと雷電を神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

 

 

 

恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、ハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 

 

 

愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところをクローン達が助け出し、銀髪の女がクローン達と似ている兵士を召喚し、そのクローン達を包囲し、嬲り殺される光景だった。

 

 

 

リリアーナは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

 

 

 

その時に一人のクローンが気絶した愛子をベットの上に寝かせ、銀髪の女と対峙しようと構えるが、何時の間にか銀髪の女がクローンの首元にナイフを突き刺してクローンを絶命させ、気絶した愛子を担いで何処かに去ろうとした時に隠れていたリリアーナの気配を感じ取ったのか、周囲を探しまわっていた。結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、リリアーナを見つけることなく去っていった。リリアーナは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

 

 

 

ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。悩んだ末、リリアーナは、今、唯一王都にいない頼りになる友人を思い出した。そう、香織だ。そして、香織の傍には話に聞いていた、あの南雲ハジメとクローン達の召喚者、藤原雷電がいる。もはや、頼るべきは三人しかいないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。

 

 

 

アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、ハジメ達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。その時に雷電は、ある疑問をリリアーナに問いかける。

 

 

「それは分かったとして、リリアーナ王女よ。何故フォードー達が貴女と共に行動していたのかそれが分からない」

 

「その点は、私が説明します」

 

 

フォードーの話によると、監禁されていた筈の檜山が脱獄したとの事でフォードーとドミノ分隊で調査に向かった所、兵舎は何者かの襲撃にあったのか、壁に切り傷が多数存在していた。その状況をハイリヒ王国にいるブリッツなどに報告し、帰還している所を偶然にも賊に襲われているユンケル商会の隊商を見つけ、彼等の援護を行ったのだ。しかし、数が賊の方が多く、護衛の冒険者達にも犠牲者が出ていた。これ以上被害を出される前にフォードーとドミノ分隊で賊共を迎撃したが、数が多すぎてフォードーが救援要請をし、何とか粘ろうとした矢先にハジメ達がやって来たとの事だ。

 

 

 

「あとは知っての通り、ユンケル商会隊商にお願いして便乗させてもらいました。まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、その途中で賊の襲撃に遭い、それを香織達に助けられるとは夢にも思いませんでしたが……少し前までなら“神のご加護だ”と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

 

 

自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。

 

 

 

香織は、リリアーナの心に巣食った恐怖を少しでも和らげようと彼女をギュッと抱きしめた。

 

 

 

その様子を見ながら、ハジメと雷電は内心で舌打ちする。リリアーナの語った状況は、まるで“メルジーネ海底遺跡”で散々見せられた“末期状態”によく似ていたからだ。神に魅入られた者の続出。非常に危うい状況だと言える。

 

 

 

それでも本来なら、知った事ではないと切り捨てるべきだろう。いや、むしろ神代魔法の取得を急ぎ、早急にこの世界から離脱する方法を探すべきだ。

 

 

 

しかし、愛子が攫われた理由に察しがついてしまったハジメは、その決断を下すことが出来ない。なぜなら、十中八九、愛子が神の真実とハジメの旅の目的を話そうとした事が原因であると言えるからだ。おそらく、駒としての天之河達に、不審の楔を打ち込まれる事を不都合だと判断したのだろう、というハジメの推測は的を射ている。

 

 

 

ならば、愛子が攫われたのは、彼女を利用したハジメの責任だ。攫ったという事は殺す気はないのだろうが、裏で人々をマリオネットのごとく操り享楽に耽る者達の手中にある時点で、何をされるかわかったものではない。

 

 

 

ハジメの生き方が、より良くなるようにと助言をくれて、そして実際、悪くないと思える“今”をくれた恩師のことを、ハジメはどうにも放っておくことが出来そうになかった。

 

 

 

だからこそ……

 

 

「取り敢えず、先生を助けに行かねぇとな」

 

「そうだな。先ずは戦力を整える必要がある」

 

 

ハジメは、それを選ぶ。切り捨てず、見捨てず、救う事を選ぶ。雷電も恩師である愛子を救う事には賛成であった。

 

 

 

ハジメと雷電の言葉に、リリアーナがパッと顔を上げる。その表情には、共に王都へ来てくれるという事への安堵と、意外だという気持ちがあらわれていた。それは、雫達からハジメは、この世界の事にも雫達クラスメイトの事にも無関心だと聞いていたからだ。説得は難儀しそうだと考えていたのに、あっさり手を貸してくれるとは予想外だった。

 

 

「宜しいのですか?」

 

 

リリアーナの確認に、ハジメは肩を竦めた。

 

 

「勘違いしないでくれ。王国のためじゃない。先生のためだ。あの人が攫われたのは俺が原因でもあるし、放って置くわけにはいかない」

 

「愛子さんの……」

 

 

リリアーナは、ハジメが純粋に王国のために力を貸してくれるわけではないと分かり、少し落胆するものの、ハジメが一緒に来てくれる事に変わりはないと気を取り直す。しかし、次ぐハジメの言葉には、思わず笑みがこぼれてしまった。

 

 

「まぁ、先生を助ける過程で、その異変の原因が立ちはだかればぶっ飛ばすけどな……」

 

「お前の場合は邪魔となる勢力は見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だもんなぁ……こっちの負担も考えてくれ」

 

「……ふふ、では、私は、そうであることを期待しましょう。宜しくお願いしますね。南雲さんに藤原さん……」

 

 

 

愛子を攫い、愛子を護衛していたソーンとハヴォックが殺したのは教会の修道服を着た女だ。そして、異常な程教会に傾倒する国王達のことを聞けば、十中八九、今回の異変には教会が絡んでいると分かる。つまり、愛子を助けるということは、同時に異変と相対しなければならないという事でもあるのだ。その事は、ハジメも分かっているはずであり、それは取りも直さず、実質的にリリアーナに助力すると言っているに等しい。

 

 

 

香織と笑みを交わし合うリリアーナを横目に、ハジメは口元を僅かに歪める。

 

 

 

ハジメと雷電には、愛子救出以外にも、もう一つ目的があった。それは“神山”にある神代魔法だ。ミレディからの教えでは、“神山”も七大迷宮の一つなのである。しかし、聖教教会の総本山でもある“神山”の何処に大迷宮の入口があるのか、さっぱり見当もつかない。探索するにしても、教会関係者の存在が酷く邪魔で厄介だった。

 

 

 

なので、先に攻略しやすそうな“ハルツィナ樹海”へ向かうことにしたのだが……今回の事で、“神山”に向かう理由が出来てしまった。そして、愛子を救出する過程で、教会と争う事になる可能性は非常に高い。ならば……総本山をハジメの方から襲撃して、そのまま神代魔法を頂いてしまうべきだろう、とハジメは考えた。

 

 

 

リリアーナの言った銀髪の女……ハジメの脳裏に、“メルジーネ海底遺跡”の豪華客船でチラリと見えたアルフレッド王の傍に控えていたフードの人物が浮かび上がった。船内に消える際、僅かに見えたその人物の髪は、確か“銀”だったと。同一人物かは分からない。時代が違いすぎる。しかし、ハジメには予感があった。その銀髪の女と殺り合う事になる、と。

 

 

 

ハジメは闘志を燃やす。己の道を阻むなら、例え相手が何であろうと、必ず殺してやる!と。瞳を野生の狼のようにギラつかせ、獰猛な笑みを口元に浮かべるハジメ。そして雷電も教会と争う事になることを前提に新たに戦力の増員を考えていた。

 

 

「……ハジメ、素敵」

 

「マスター……私たちで愛子さんを助けましょう!」

 

「……分かっているさ、シア」

 

「むぅ、ご主人様よ。そんな凶悪な表情を見せられたら……濡れてしまうじゃろ?」

 

 

しかし、頬を赤らめて、ハァハァする女性陣のせいで雰囲気は何とも微妙だった。

 

 

 

この時に清水は、心の何処かで嫌な予感を感じ取っていた。

 

 

(何だろうな……このざらつく様な感じは?この先で何やら良くないことが起こりそうな気がする……)

 

 

その嫌な予感が後に、清水の脳裏に隠された()()()が作動し、ハジメ達にある混乱を産み出してしまう事を、今の清水は知る由もなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

使徒の襲撃、及び王都侵攻

連続投稿その2です。


70話目です。


 

 

ハイリヒ王国に向かう際に愛子を救出するチームと、王都に向かうチームに分けてそれぞれ王都で集結という形でハジメと雷電、アシュ=レイは愛子救出の為に神山に向かい、残りのメンバーは王都へと向かって行った。なお、ティオはハジメ達が潜入している間、いつでも介入できる様に王都の何処かに待機している。そして、教会の本拠地とも言える神山に到着したハジメ達は、愛子が捕らえられていると思われる塔をマークし、そこに向かいながらも教会に見つからない様に潜入であった。

 

 

 

薄暗く明かり一つ無い部屋の中に、格子の嵌った小さな窓から月明かりだけが差し込んで黒と白のコントラストを作り出していた。

 

 

 

部屋の中は酷く簡素な作りになっている。鋼鉄造りの六畳一間、木製のベッドにイス、小さな机、そしてむき出しのトイレ。地球の刑務所の方がまだましな空間を提供してくれそうだ。

 

 

 

そんなどう見ても牢獄にしか思えない部屋のベッドの上で壁際に寄りながら三角座りをし、自らの膝に顔を埋めているのは畑山愛子その人だ。

 

 

 

愛子が、この部屋に連れて来られて三日が経とうとしている。

 

 

 

愛子の手首にはブレスレット型のアーティファクトが付けられており、その効果として愛子は現在、全く魔法が使えない状況に陥っていた。それでも、当初は、何とか脱出しようと試みたのだが、物理的な力では鋼鉄の扉を開けることなど出来るはずもなく、また唯一の窓にも格子が嵌っていて、せいぜい腕を出すくらいが限界であった。

 

 

 

もっとも、仮に格子がなくとも部屋のある場所が高い塔の天辺な上に、ここが“神山”である以上、聖教教会関係者達の目を掻い潜って地上に降りるなど不可能に近いのだが。

 

 

 

そんなわけで、生徒達の身を案じつつも、何も出来ることがない愛子は悄然と項垂れ、ベッドの上で唯でさえ小さい体を更に小さくしているのである。

 

 

「……私の生徒がしようとしていること……一体何が……」

 

 

僅かに顔を上げた愛子が呟いたのは、攫われる前に銀髪の修道女が口にしたことだ。愛子が、ハジメから聞いた話を光輝達に話すことで与えてしまう影響は不都合だと、彼女の言う“主”とやらは思っているらしい。そして、生徒の誰かがしようとしていることの方が面白そうだとも。

 

 

 

愛子の胸中に言い知れぬ不安が渦巻く。思い出すのは敵に捕まり、兵士として洗脳され、愛子達を殺そうとした生徒の一人、清水幸利のことだ。あの時は雷電達のおかげで無事に連れ帰る事が出来たが、もしかしたら、また生徒の誰かが、取り返しのつかない事をしようとしているのではないかと愛子は気が気でなかった。

 

 

 

こうして何もない部屋で監禁されて、出来る事と言えば考えることだけ。そうして落ち着いて振り返ってみれば、帰還後の王宮は余りに不自然で違和感だらけの場所だったと感じる。愛子の脳裏に、強硬な姿勢を崩さない、どこか危うげな雰囲気のエリヒド国王や重鎮達のことが思い出される。

 

 

 

きっと、あの銀髪の修道女が何かをしたのだと愛子は推測した。彼女が言っていた“魅了”という言葉がそのままの意味なら、きっと、洗脳かそれに類する何かをされているのだ。

 

 

 

しかし、同時に、会議の後で話した雫やリリアーナについては、そのような違和感を覚えなかった。その事に安堵すると共に、自分が監禁されている間に何かされるのではないかと強烈な不安が込み上げる。

 

 

 

どうか無事でいて欲しいと祈りながら、思い出すもう一つの懸念。それは“イレギュラーの排除”という言葉。意識を失う寸前に聞いたその言葉で、愛子は何故か一人の生徒を思い出した。

 

 

 

命の恩人にして、清水幸利を殺さないでくれた生徒。圧倒的な強さと強い意志を秘めながら、愛子の言葉に耳を傾け真剣に考えてくれた男の子。そして……色々とあって、色々と思うところがあったり、なかったり、やっぱりあったりするのだけど、ないと思うべきで、でも思ってしまう人。

 

 

 

封印しようと努力しているのに中々できないとある記憶を、再び脳内で再生してしまい、そんな場合ではないと分かっていながら頬が熱くなってしまう。頭をぶんぶんと振って記憶を追い出した愛子だったが、ハジメの安否を憂慮する気持ちと何故か無性に逢いたい気持ちに押されて、ポロリと零すように彼の名を呟いた。

 

 

「…………南雲君」

 

「おぅ?何だ、先生?」

 

「ふぇ!?」

 

 

半ば無意識に呟いた相手から、あるはずのない返事が返ってきて思わず素っ頓狂な声が上がる。部屋の中をキョロキョロと見回すが自分以外の人などいるはずもなく、愛子は“幻聴だったのかしらん?”と首を捻った。しかし、そんな愛子へ幻聴でないことを証明するように、再度、声がかけられた。

 

 

「こっちだ、先生」

 

「えっ?」

 

 

愛子は、体をビクッと震わせながら、やっぱり幻聴じゃない!と声のした方、格子の嵌った小さな窓に視線を向ける。するとそこには、窓から顔を覗かせているハジメと雷電の姿があった。

 

 

「お迎えに来ましたよ、愛子先生?」

 

「えっ?えっ?南雲君に藤原君ですか?えっ?ここ最上階で…本山で…えっ?」

 

「あ~、うん。取り敢えず、落ち着け先生。もうちょっとでトラップがないか確認し終わるから……」

 

「出来るだけ早くな?奴らとて、俺達が潜入している事に気付いている可能性だって否定できない」

 

 

混乱する愛子を尻目に、ハジメは“分かってるよ”と返事をしながらも魔眼石で部屋にトラップの類がないか確かめると、紅いスパークを迸らせながら“錬成”を行い、人一人通れるだけの穴を壁に開けて中に侵入を果たした。

 

 

 

愛子のいる部屋は地面から百メートル近くある。にもかかわらず、普通に地面を歩いて入口から入ってきました!とでも言うように、外壁に穴を開けて登場したハジメに、愛子は目を白黒させた。

 

 

 

そんな愛子にハジメは小さく笑みを浮かべながら歩み寄る。

 

 

「なに、そんなに驚いているんだよ。俺が来ていることに気がついてたんだろ?気配は完全に遮断してたはずなんだが……ちょっと、自信無くすぞ」

 

「へっ?気づいて?えっ?」

 

「いや、だって、俺の名前呼んだじゃないか。俺が窓の外にいるのを察知したんだろ?」

 

「あー…ハジメ、多分それは愛子先生が偶然ハジメの名前を呼んだだけかもしれないぞ?」

 

 

もちろん、愛子が“気配遮断”を行使したハジメに気が付けるはずもなく、ただハジメを想って自然と呟いてしまっただけの事を雷電が指摘するのだが……愛子は、まさか、貴方の事を考えていて半ば無意識に呟いてました等と言える訳もなく、焦った表情で話題の転換を図った。

 

 

「そ、それよりも、なぜここに……」

 

「もちろん、助けに」

 

「わ、私のために?南雲君と藤原君が?わざわざ助けに来てくれたんですか?」

 

 

何やら赤面してあわあわし始めた愛子に、先程から妙に落ち着きが無いことも相まって、まさか既に洗脳でもされたのか?と眉をしかめるハジメ。瞳に真剣さを宿して、愛子に魔法が掛けられている痕跡がないか魔眼石により精査する。

 

 

 

ベッドに腰掛ける愛子の元に歩み寄り、間近で愛子を観察し始めたハジメに、愛子は益々赤面し動悸を早めていった。なにせ、直前まで脳裏に浮かんでいた男の子が、自分の窮地に助けに来てくれた挙句、深夜にベッドの傍で、自分を真剣な表情で見つめてくるのだ。これがただの生徒と教師なら、特に何の問題もなくどうしたのか?と尋ねるところだが……そう言い切れない愛子は、ただ硬直して間近にあるハジメの瞳を見つめ返すしかなかった。

 

 

 

ハジメは、魔眼石で見ても愛子に魔法が掛けられている痕跡を発見できなかったことから一先ず大丈夫だろうと考え、愛子の手を取った。魔力封じのアーティファクトを取り除くためだ。

 

 

 

しかし、いきなり手を取られた愛子は“ひゃう!”とおかしな声を上げて身を竦め“ダメ!ダメです!南雲君!そんないきないりぃ!私は先生ぇ!”と喚きだした。

 

 

「愛子先生、とりあえず落ち着いて。多分先生が思っているのとは違うから……」

 

「雷電の言う通りだ。先生、魔力封じられてたら不便だろ?それとも、取ったら何かあるのか?トラップの類があるようには見えないんだが……」

 

「え? あっ、そういうことですか……」

 

「……一体、何だと思ったんだ」

 

「あは、あははは……すいません。何でもありません……」

 

「やれやれ……」

 

 

不審を通り越して、だんだん残念なものを見るような目を向け始めたハジメと、別の意味で苦労する人だなと認識する雷電に、愛子は愛想笑いで誤魔化す。そして、なぜ自分がここに囚われていることを知っていたのかと誤魔化しがてらに尋ねた。

 

 

「姫さんに聞いたんだよ」

 

「姫さん?リリアーナ姫ですか?」

 

「ああ。あんたが攫われるところを目撃してたんだよ。それで、王宮内は監視されているだろうから掻い潜って天之河達に知らせることは出来ないと踏んで、一人王都を抜け出したんだ。俺達に助けを求めるためにな」

 

「リリィさんが……南雲君達はそれに応えてくれたんですね」

 

「まぁな。この状況は俺にも責任がありそうだし……まぁ、皆と合流するまで我慢してくれ」

 

 

ハジメは、苦笑いをこぼしつつ愛子の魔力を封じるアーティファクトを解除して立ち上がった。雷電はライトセーバーを手にしながらも周囲の安全を確保していた。その時に愛子は、ハジメ達が異端者認定された事を語った。

 

 

「……南雲君に藤原君、気を付けて下さい。教会は、頑なに君達を異端者認定しました。それに、私を攫った相手は、もしかしたら君達を……」

 

「わかってる。どっちにしろ、先生を送り届けたら、俺は俺の用事を済ませる必要があるし、多分、その時、教会連中とやり合う事になる。……もとより覚悟の上だ」

 

「俺とて戦闘は避けたいが、状況が状況だ。こっちも同じ覚悟だ」

 

 

強靭な意志を秘めた眼差しで愛子に頷くハジメと雷電。その眼差しに射抜かれて再び頬が熱くなるのを感じながら、愛子は再び憂慮の言葉をかけようとした。

 

 

 

と、その時、遠くから何かが砕けるような轟音が微かに響き、僅かではあるが大気が震えた。

 

 

 

何事かと緊張に身を強ばらせた愛子がハジメに視線を向けると、ハジメは遠くを見る目をして何かに集中していた。現在、ハジメは地上にいるユエ達から念話で情報を貰っているのである。

 

 

「ちっ、なんてタイミングだよ。……まぁ、ある意味好都合かもしれないが……」

 

 

しばらくすると、ハジメは舌打ちしながら視線を愛子に戻す。愛子は、ハジメが念話を使えることを知らないが、非常識なアーティファクト類を沢山見てきたので、それらにより何か情報を掴んだのだろうと察し、視線で説明を求めた。

 

 

「先生、魔人族の襲撃だ。さっきのは王都を覆う大結界が破られた音らしい」

 

「魔人族の襲撃!? それって……」

 

「ああ、今、ハイリヒ王国は侵略を受けている。仲間から“念話”で知らせが来た。魔人族と魔物の大軍だそうだ。完全な不意打ちだな」

 

 

ハジメの状況説明に愛子は顔面を蒼白にして“有り得ないです”と呟き、ふるふると頭を振った。

 

 

 

それはそうだろう。王都を侵略できるほどの戦力を気づかれずに侵攻させるなどまず不可能であるし、王都を覆う大結界とて並大抵の攻撃ではこゆるぎもしないほど頑強なのだ。その二つの至難をあっさりクリアしたなどそう簡単に信じられるものではない。

 

 

「先生、取り敢えず天之河達と合流しな。話はそれからだ」

 

「は、はい」

 

 

緊張と焦燥に顔を強ばらせた愛子を、ハジメは片腕に座らせるような形で抱っこする。“うひゃ!”と再び奇怪な声を上げながらも、愛子は咄嗟に、ハジメの首元に掴まった。すると雷電の左腕のコムリンクが鳴り、通信を受信する。その通信は外で待機していたアシュ=レイからだった。

 

 

《おい雷電!そっちにヤベー奴が向かっている!急いで愛子って女を連れ出せ!!》

 

「ヤベー奴?……っ!」

 

 

ふとフォースのざわめきを雷電が感じ取ったその瞬間……

 

 

 

カッ!!

 

 

 

外から強烈な光が降り注いだ。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

部屋に差し込んでいた月の光をそのまま強くしたような銀色の光に、本能がけたたましく警鐘を鳴らす。

 

 

 

ハジメ達は脇目も振らず外壁の穴から飛び出した。急激な動きに愛子が耳元で悲鳴を上げギュッと抱きついてくるが、今は気にしている場合ではない。

 

 

 

ハジメが、隔離塔の天辺から飛び出したのと銀光がついさっきまで愛子を捕えていた部屋を丸ごと吹き飛ばすのは同時だった。

 

 

 

ボバッ!!

 

 

 

物が粉砕される轟音などなく、莫大な熱量により消失したわけでもなく、ただ砕けて粒子を撒き散らす破壊。人を捕えるための鋼鉄の塔の天辺は、砂より細かい粒子となり、夜風に吹かれて空へと舞い上がりながら消えていった。

 

 

 

余りに特異な現象に、ハジメと雷電は“空力”で空中に留まりながら、目を見開き思わずといった感じで呟く。

 

 

「今の攻撃ってまさか……」

 

「……分解……でもしたのか?」

 

「ご名答です、イレギュラー達」

 

 

返答を期待したわけではない独り言に、鈴の鳴るような、しかし、冷たく感情を感じさせない声音が返ってくる。

 

 

 

ハジメが声のした方へ鋭い視線を向けると、そこには、隣の尖塔の屋根からハジメ達を睥睨する銀髪碧眼の女が二人いた。ハジメと雷電は、何方かが愛子を攫った女だろうと察する。

 

 

 

もっとも、リリアーナが言っていたのと異なり修道服は着ておらず、代わりに白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレのようである。

 

 

 

銀髪の女二人は、その場で重さを感じさせずに跳び上がった。そして、天頂に輝く月を背後にくるりと一回転すると、その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げた。

 

 

 

バサァと音を立てて広がったそれは、銀光だけで出来た魔法の翼のようだ。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。

 

 

 

だが、惜しむらくはその瞳だ。彼女の纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、その瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。

 

 

 

銀色の女は、愛子を抱きしめ鋭い眼光を飛ばすハジメを見返しながら、おもむろに両手を左右へ水平に伸ばした。

 

 

 

すると、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。

 

 

 

そしてもう片方は、雷電と同じ銀色の円筒形のヒルトを左右の手にし、スイッチを入れて純白の光刃を展開する。

 

 

 

銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに振り払った銀色の女とライトセーバーと似た何かを持つもう一人の銀色の女は、やはり感情を感じさせない声音でハジメ達に告げる。

 

 

「ノイントと申します。“神の使徒”として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

「同じくルイントと申します。“神の使徒”として、主の障害は取り除かせていただきます」

 

 

それは宣戦布告だ。“ノイント”と“ルイント”と名乗った二人の女は、神が送り出した本当の意味での“神の使徒”なのだろう。いよいよ、ハジメと雷電が邪魔になったらしい。直接、“神の遊戯”から排除する気のようだ。

 

 

 

ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーがハジメと雷電、愛子に襲いかかった。

 

 

 

愛子は、必死に歯を食いしばって耐えようとするものの、表情は青を通り越して白くなり、体の震えは大きくなる。“もうダメだ”と意識を喪失する寸前、愛子を紅い魔力が包み込んだ。愛子を守るように輝きを増していく紅い魔力は、ノイントの放つ銀のプレッシャーの一切を寄せ付けなかった。

 

 

 

愛子は目を見開いて、原因であろう間近い場所にあるハジメの顔に視線を向ける。するとそこには、途方もないプレッシャーを受けておきながら微塵も揺らぐことなく、その瞳をギラつかせて獰猛に歯を剥くハジメの姿があった。その後にアシュ=レイは雷電が召喚したジェット・パックを使い、雷電達と合流した後にハジメが作ってくれた技能“空力”が付与されたクローン・トルーパー・アーマーのブーツで空中に留まるのだった。

 

 

 

この時にルイントはアシュ=レイを見た瞬間、より一層警戒を強め、ノイントに警告する。

 

 

「ノイント、気をつけなさい。そこの男は、反逆者達に加担した想定外のイレギュラーの一人です」

 

「彼が?……分かりました。ならば早急に排除します」

 

 

見蕩れるように、あるいは惹きつけられるように視線を逸らせなくなった愛子を尻目に、ハジメは、ノイント達に向けて挑発的に嗤いながら同じく宣戦布告した。

 

 

「殺れるものなら殺ってみろ。神の木偶共が」

 

「たとえ神の使徒が相手でも、俺達は容赦はしない」

 

「エヒトに追いやられた連中の分、きっちりと返させてもらうぜ!!」

 

 

その言葉を合図に、標高八千メートルの“神山”上空で、“神の使徒”等と奈落から這い上がって来た“化け物”とジェダイ達が衝突した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ハジメがノイントの襲撃を受ける少し前、ユエ、シア、香織、清水、恵里、フォードー、デルタ、不良分隊、ドミノ分隊、リリアーナの二十人は、王都の夜陰に紛れて王宮の隠し通路に向かう際に雷電がリリアーナの護衛目的に召喚した一個分隊のクローン達を引き連れ、王宮の隠し通路を進んでいた。リリアーナを光輝達のもとへ送り届けるためだ。

 

 

 

本来なら、ユエ達の目的は愛子の救出と“神山”の何処かにある大迷宮もとい神代魔法であり、王国の異変解決やらリリアーナと光輝達の合流の手助けなどどうでもいい事である。

 

 

 

ただ、取り敢えず愛子の安全を確保するためには、救出後の預け先である光輝達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要だった。それに、“神山”は文字通り聖教教会の総本山であり、愛子の救出までは出来るだけ騒動を起こさないことが望ましいところ、彼等に気付かれず愛子の監禁場所の捜索と救出を行うためにもハジメ達三人の方が都合がよかった。

 

 

 

そのため、王都に残ることになったユエ達は、香織がリリアーナに付きそうと言って聞かないこともあり、大した手間でもないことから一緒に行動しているのである。護衛のクローン達を引き連れて。

 

 

 

なお、ティオは雷電の作戦上、万一に備えて王都の何処かで待機している。全体の状況を俯瞰できる者が一人くらいいた方がいいという雷電の判断だ。

 

 

 

そんなユエ達が、隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り何事もなかったかのように鎮座し直す。

 

 

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。……取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います」

 

 

闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は、雫の部屋のようだ。勇者なのに光輝に頼らない辺りが、彼女の評価を如実に示している。それを聞いた恵里は、何かと複雑な気持ちだった。元憧れの存在が王女のリリアーナとの信用の差が雫より下である事に何とも言えない気持ちだった。

 

 

 

リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。雫達、異世界組が寝泊まりしている場所は、現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。清水やデルタ、不良分隊、ドミノ分隊は周囲を警戒しながらも静かに前進する。

 

 

 

そうして、しばらく進んだ時、それは起こった。

 

 

 

ズドォオオン!!

 

 

 

パキャァアアン!!

 

 

 

砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、ガラスが砕け散るような破砕音が王都を駆け抜けたのだ。衝撃で大気が震え、ユエ達のいる廊下の窓をガタガタと揺らした。

 

 

「わわっ、何ですか一体!?」

 

「これはっ……まさか!?」

 

 

索敵のためにウサミミを最大限に澄ましていたシアが、思わずペタンと伏せさせたウサミミを両手で押さえて声を漏らす。すぐ後ろに追従していたリリアーナは、思い当たることがあったのか顔面を蒼白にして窓に駆け寄った。ユエ達も様子を見ようと窓に近寄る。

 

 

 

そうして彼女達の眼に映った光景は……

 

 

「そんな……大結界が……砕かれた?」

 

 

信じられないといった表情で口元に手を当て震える声で呟くリリアーナ。彼女の言う通り、王都の夜空には、大結界の残滓たる魔力の粒子がキラキラと輝き舞い散りながら霧散していく光景が広がっていた。

 

 

 

リリアーナが呆然とその光景を眺めていると、一瞬の閃光が奔り、再び轟音が鳴り響く。そして、王都を覆う光の膜のようなものが明滅を繰り返しながら軋みを上げて姿を現した。

 

 

「第二結界も……どうして……こんなに脆くなっているのです?これでは、直ぐに……」

 

 

リリアーナの言う大結界とは、外敵から王都を守る三枚の巨大な魔法障壁のことだ。三つのポイントに障壁を生成するアーティファクトがあり、定期的に宮廷魔法師が魔力を注ぐことで間断なく展開維持している王都の守りの要だ。その強固さは折り紙つきで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた。戦争が拮抗状態にある理由の一つでもある。

 

 

 

その絶対守護の障壁が、一瞬の内に破られたのだ。そして、今まさに、二枚目の障壁も破られようとしている。内側に行けば行くほど展開規模は小さくなる分強度も増していくのだが、数度の攻撃で既に悲鳴を上げている二枚の障壁を見れば、全て破られるのも時間の問題だろう。結界が破られたことに気が付き、王宮内も騒がしくなり始めた。あちこちで明かりが灯され始めている。

 

 

「まさか、内通者が?……でも、僅かな手勢ではむしろ……なら敵軍が?一体どうやって……」

 

 

呆然としながら思考に没頭しているリリアーナに答えをもたらしたのはユエ達だった。

 

 

“聞こえるかの?妾じゃ、状況説明は必要かの?”

 

 

ユエ達の持つそれぞれの念話石が輝き、そこから声が響いている。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

 

 

“ん……お願いティオ”

 

“心得た。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族と魔物の大軍じゃ。あの時の白竜もおるが、どうやら別の白竜のようじゃぞ。結界を破壊したのはアヤツのブレスじゃ。しかし、主の魔人族は姿が見えんの”

 

 

「まさか本当に敵軍が?そんな、一体どうやってこんなところまで……」

 

 

ティオの報告に、リリアーナが表情を険しくしながらも疑問に眉をしかめる。

 

 

その疑問に対して、ユエ達には想像がついていた。白竜使いの魔人族、フリード・バグアーは“グリューエン大火山”で空間魔法を手に入れている。軍そのものを移動させる程の“ゲート”を開くなどユエでも至難の業ではあるが、何らかの補助を受ければ可能かも知れない。

 

 

 

現に、大陸の南北を飛び越えて、一切人目につかずに王都の目と鼻の先にいるのだ。それ以外に考えられない。白竜が攻撃していながら、その背で指揮を取っていないなら、無茶をした代償に動けない状態なのかもしれない。

 

 

 

そうこうしているうちに、再びガラスが砕けるような音が響き渡った。第二障壁も破られたのだ。焦燥感を滲ませた表情でリリアーナが光輝達との合流を促す。しかし、それに対してユエが首を振った。

 

 

「……ここで別れる。貴女は先に行って」

 

「なっ、ここで? 一体何を……」

 

 

一刻も早く光輝達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかとリリアーナは訝しそうに眉をしかめた。ユエは、窓を開けると瞳を剣呑に細めて一段低い声で端的に理由を述べる。

 

 

「……白竜使いの魔人族はハジメを傷つけた。……泣くまでボコる」

 

 

どうやら“グリューエン大火山”でのフリードがなした不意打ちを根に持っているらしい。ユエらしからぬ物騒な物言いと雰囲気にその場の全員が若干引き気味だ。

 

 

「お、怒ってますね、ユエさん……」

 

「……シアは?もう忘れた?」

 

「まさか。マスターもあの魔人族に手を焼かされたんです。泣いて謝ってもボコり続けます」

 

 

ユエの発する怒気に思わずツッコミを入れるシアだったが、続くユエの言葉に無表情になると、ユエより過激な事を言い出した。普段から明るく笑顔の絶えないシアだけに、無表情での暴行宣言は非常に迫力があった。シアも、あの件は相当腹に据え兼ねていたらしい。

 

 

「そういうわけでリリィさん、貴女は皆さんと一緒に雫さん達の所に向かってください。私とユエさんは、ちょっと調子に乗っているトカゲとその飼い主を躾してくるので、ここで失礼します」

 

「……ん、あと邪魔するならその他大勢も」

 

「……分かった。だが、無理をして倒れる様な事があれば俺はハジメ達に殺されそうになるから出切るだけ無茶はしないでくれ」

 

 

清水がそう言うや否や、ユエとシアの二人は頷き、香織とリリィの制止の声も聞かずに窓から王都へ向かって飛び出して行ってしまった。フリードの命は風前の灯である。逃げてぇ、フリード!超逃げてぇ!と、ここにフリードの仲間がいればそう叫んでいたに違いない。

 

 

 

開けっぱなしの窓から夜風と喧騒が入り込んでくる。しばらく、互いに無言のまま佇む香織とリリィだったが、やがて何事もなかったように二人して進み始めた。

 

 

「……南雲さんと藤原さん……愛されていますね……」

 

「うん……狂的……じゃなかった。強敵なんだ」

 

「僕もそうだけどね?」

 

「香織、恵里さん……死なない程度に頑張って下さいね。応援しています」

 

「うん。ありがとう、リリィ……」

 

「ありがとうね、リリアーナ様」

 

 

あっさり後回しにされたリリィが“私の扱いがどんどん雑に……”と何処か悲しげな声音で呟きつつも、健気に香織へエールを送る。“実は、私も行きたかったと言ったらリリィ泣いちゃうかな?”と頭の隅で考えながら、香織はフォードー達と共にリリィと連れ立って光輝達のもとへ急いだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シア無双とユエ無双

連続投稿その3です。これにて打ち止めです。


71話目です。


 

 

突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 

 

 

人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が“家から出るな!”と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって中に入れろ!と叫んでいた。

 

 

 

夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 

 

 

彼等も急いで軍備を整えているようだが……

 

 

 

パキャァアアン!!

 

 

 

間に合わなかったようだ。

 

 

 

遂に最後の結界が破られ、大地を鳴動させながら魔人族の戦士達と神代魔法により生み出された魔物達が大挙して押し寄せた。残る守りは、王都を囲む石の外壁だけ。それだけでも相当な強度を誇る防壁ではあるが……長く持つと考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 

 

 

外壁を粉砕すべく、魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。魔物も固有魔法で炎や雷、氷や土の礫を放ち、体長四メートルはありそうなサイクロプスモドキがメイスを振りかぶって外壁を削りにかかる。

 

 

 

別の場所でも、体長五メートルはありそうなイノシシ型の魔物が、風を纏いながら猛烈な勢いで外壁に突進し、その度に地震かと思うような衝撃を撒き散らして外壁を崩していく。更に、上空には灰竜や黒鷲のような飛行型の魔物が飛び交い、外壁を無視して王都内へと侵入を果たした。

 

 

 

外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手では、その迎撃も酷く頼りない。突進してくる鋼鉄列車にエアガンで反撃しているようなものだ。

 

 

 

しかし、そんな絶望的な状況の中で魔物の大軍勢に臆せず、戦う兵士がいた。それはクローン・トルーパー達だった。ブリッツが指揮するクローン部隊は王都の警備隊を纏めながらも的確に侵攻してくる魔物達を迎撃する。クローン達がブラスターで応戦し、警備隊はブリッツの指示の下で行動していた。だが、多勢に無勢である事は変わりはなかった。その時に警備隊の兵士はクローン達に王宮の防衛に回る様に頼む。ブリッツとしては仲間を見捨てない積もりだったが、彼等は命をとしてまでもここを死守するという覚悟をしせられて、ブリッツ達は警備隊に敬礼しつつも王宮へと向かうのだった。

 

 

 

そんな様子を、城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエとシアが降り立った。

 

 

「……ティオ、アイツ、見つけた?」

 

「ティオさん、あのふざけた事してくれた人は何処ですか?」

 

「……お主等……いや、まぁ、気持ちはわかるがの?『皆さんが一緒に来てくれて心強いです!』と言っとったリリアーナ姫が少々不憫じゃ……あっさり放り出して来おって」

 

「……細かいこと」

 

「小さいことです」

 

 

ティオが呆れたような表情をしてユエとシアを見るが、二人は全く気にしていないようだった。これもハジメの影響なのか。興味のない相手には実にドライだ。

 

 

 

ユエとシアが目を皿のようにしてフリード・バグアーを探していると、念話石が反応する。ハジメからの通信だ。

 

 

“おい!ティオ!今すぐこっちに来てくれ!”

 

“ぬおっ!ご主人様?一体どうしたのじゃ?”

 

 

念話石から思いのほか強い声音が響き、名を呼ばれたティオが思わず驚きの声を上げた。

 

 

“ヤバイのが二人出てきた。先生を預かって欲しい。今のところ雷電とアシュ=レイのおかげで持ちこたえているが、抱えたままじゃ全力が出せねぇ”

 

“!?相分かった!直ぐに向かうのじゃ!”

 

 

ハジメ達が全力を出さねばならない相手と相対しているという事を直ぐに悟ったティオは、一瞬で“竜化”すると咆哮一発、標高八千メートルの本山目指して一気にその場を飛び立った。

 

 

“……ハジメ、気を付けて”

 

“ハジメさん!マスターに伝えといてください、あの魔物使いは私とユエさんが殺っちまいますから安心して下さい!”

 

”は?お前ら姫さん達といるんじゃ…っうお、あぶね!悪い、ちょっと話してる暇はなさそうだ!何するつもりか知らないが、そっちも気を付けてな”

 

 

ハジメは、シアの言葉に何を言っているんだと疑問を抱いたようだが、よほど戦闘が激しいのか直ぐに通信を切ってしまった。ユエとシアは、愛子を庇いながらとはいえ、ハジメ達を苦戦させる相手が居るという事に、一瞬、自分達も救援に駆けつけるべきかと考えた。

 

 

「ユエさん、どうします?」

 

「……ハジメ達なら大丈夫。ティオもいる。それより、魔物使いを殺る。また、神代魔法の魔法陣を壊されたら堪らない」

 

 

そう、ユエが戦場に出てきたのは、ハジメにされた事に対するお礼参りというのもあるが、同じ神代魔法の使い手であるフリードを野放しにしたくなかったからという理由もあったのだ。

 

 

 

フリードが“神山”の大迷宮の詳しい場所を知っていた場合、先を越されると“グリューエン大火山”の時のように、また魔法陣を破壊されかねない。大迷宮は気が付けば魔物も構造も元通りになっている場合が多いので“グリューエン大火山”も時間経過で元に戻る可能性はあるが、どれくらい掛かるかは分からない。その為、それだけは何としても避けたいユエは、こっちからフリードを襲撃してやろうと考えたのだ。

 

 

 

もっとも、ユエの中の比率は報復が九割だったが……

 

 

 

と、その時、時計塔の天辺にいるユエとシアに気がついたのか、体長三、四メートル程の黒い鷲のような魔物が二体、左右から挟撃するようにユエとシアを狙って急降下してきた。

 

 

 

クェエエエエエ!!

 

 

 

そんな雄叫びを上げて迫ってきた黒鷲に、シアは見もせず射撃モードのドリュッケンを“宝物庫”から取り出し、躊躇いなく炸裂スラッグ弾を撃ち放った。ユエもまた、見もせず右手をフィンガースナップするだけで無数の風刃を上方から豪雨のごとく降らせる。

 

 

 

今まさに二人の少女を喰らおうとしていた二体の黒鷲は、頭部を衝撃波によって爆砕され、また、ギロチン処刑でもされたかのように体の各所を切り落とされてバラバラになり、無残な姿となって民家の屋根に落ちていった。今頃、家の中のいる人達は屋根に何かが落ちてきた音にビクッとなって戦々恐々としていることだろう。

 

 

 

黒鷲が無残に絶命させられたことでユエとシアの存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、黒鷲を落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

ユエ達としては、王都を守るために身命を賭して大軍とやり合うつもりなど毛頭なく、ただフリード・バグアーだけが目的だったので、行きたければ勝手に行けという気持ちだったのだが、襲われたとあっては反撃しないわけにはいかない。

 

 

 

一応、シアが“私達は敵じゃないですよぉ~、さっきのは襲われて仕方なくですよぉ~”と呼びかけているが、彼等はますます馬鹿にしたように笑うだけで攻撃を止める気配はなかった

 

 

 

取るに足らない相手だと侮って幾人かの仲間だけを残し先行した魔人族達は、次の瞬間、背後から響いた断末魔の悲鳴と轟音、そしてその原因を見て驚愕に目を見開くことになった。

 

 

 

ゴォガァアアアア!!

 

 

 

全身から雷を迸らせながら雷鳴の咆哮を上げる龍が、彼等の仲間と魔物達を次々と喰い散らかしていたのだ。

 

 

 

その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達。何とか命からがら雷龍から逃げ出し、先行していた仲間のもとへ必死に飛んできた魔人族の一人が、助けを求めるように手を伸ばす……が、次の瞬間には背後から殺意の風に乗って飛来した炸裂スラッグ弾に撃ち抜かれ、騎乗していた灰竜ごと木っ端微塵となった。

 

 

 

魔人族のものか灰竜のものか分からない血肉が先行していた魔人族達にビチャビチャと降りかかる。

 

 

 

硬直していた魔人族達が、ハッと我に返り、追撃に備えて最大限の警戒をする。そして、仲間を一瞬で粉砕した原因たる少女達を探した。全く予想外のところから振るわれた死神の鎌に己の死を幻視しながら、緊張に流れる汗を拭うことも忘れて視線を巡らせる。そして、向けた視線の先にユエ達はいた。

 

 

 

しかし、その姿は彼等にとって、全くの予想外。なぜなら、自分達への追撃態勢に入っているどころか、ユエ達は彼等を見てすらいなかったのだ。最初と同じく、ただ外壁の外を何かを探すように眺めているだけ。その背中は、何よりも雄弁に物語っていた。

 

 

 

すなわち、眼中にない、と。

 

 

 

それを察した瞬間、緊張に強ばっていた魔人族達の表情が憤怒に歪んだ。戦友を粉微塵にしておいて、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかしていないユエ達に、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。彼等の全身を血液が沸騰したかのような灼熱が駆け巡る。

 

 

「貴様等ぁーーーー!!」

 

「うぉおおおお!!」

 

「死ねぇーー!!」

 

 

怒りに駆られながらも、戦士としての有能さが自然と陣形を整えさせ、絶妙な連携を取らせる。四方と上方から逃げ場をなくすように包囲し、一斉に魔法を放った。魔法に長けた魔人族達の魔法だ。普通なら、絶望に表情を歪める場面である。

 

 

 

しかし、当のユエが浮かべるのは呆れた表情。ついで、細くしなやかな指をタクトのように振るわれる。

 

 

「……彼我の実力差くらい、本能で悟れ」

 

 

そんな言葉と同時に、全ての魔法は雷龍がとぐろを巻いてユエ達を繭のように包むことで完全に防がれてしまった。そして、雷龍が一度その大食らいの顎門を開けば、彼等はまるで特攻しか知らぬと言わんばかりに自らその身を投げ出していく。

 

 

 

ならば反対側からと複数人で貫通性に優れた上級魔法を唱えようとすると、雷龍の一部が開いて、そこからウサミミをなびかせたシアが砲弾もかくやという速度で飛び出した。

 

 

 

咄嗟に、近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の炎弾を無数に放った。

 

 

 

しかし、シアは、まるで気にした様子もなく、ドリュッケンの激発の反動で軌道を変えると全弾あっさり躱し、ギョッとしている詠唱中の魔人族三人に向けてドリュッケンを横殴りにフルスイングした。

 

 

「りゃぁあああ!」

 

 

気合一発。振るわれたドリュッケンは、重力魔法の力でインパクトの瞬間だけ四トンの重量を得る。それを、最近更に上昇した身体強化で振るった。結果は言わずもがな。魔人族の三人は為すすべもなくまとめて上半身を爆砕され、騎乗していた魔物も衝撃で背骨を砕かれて断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

 

 

 

空中にあるシアは、その場で自身の重さをドリュッケンも含めて五キロ以下まで落とし、再度、激発を利用して羽のように軽やかに宙を舞う。そして、ドリュッケンを変形させて射撃モードに切り替え、先程炎弾を放ってきた魔人族に向けて炸裂スラッグ弾を轟音と共に解き放った。狙い通り、王都の夜空にまた一つ、真っ赤な花が咲いた。

 

 

 

シアは、“宝物庫”から取り出した二枚の鈍色の円盤を宙に放ち、重力を無視して空中に浮くそれを足場にした。そして、その場に留まりドリュッケンで肩をトントンしながら周囲を見渡す。

 

 

 

ちょうど、少し離れたところで、ユエ達に襲いかかってきた魔人族の最後の一人が死に物狂いでユエに特攻しているところだった。

 

 

「小娘…がぁああ!! 殺してやるぅ!!」

 

 

血走った目が、刺し違えてでも!という決死の意志を感じさせる。しかし、そんな彼に対するユエの態度は実に冷めていた。

 

 

「……三百年早い、坊や・・」

 

 

雷龍が、彼の仲間を襲っている隙を突いたつもりだったのだろう。ユエが雷龍を戻すより先に仕留められると口元を歪めた魔人族は、直後、ユエが懐から取り出した白い銃から放たれる弾丸に眉間を撃ち抜かれ、錐揉みしながら眼下の路地へと落ちていった。

 

 

 

ユエは、無意味な時間を取ったと直ぐにフリード探しを再開する。隣に、ドリュッケンを担いだままのシアが降り立った。

 

 

「完全に、王国側の戦力と思われたんじゃないですか?」

 

「……関係ない。思いたければ勝手に思っていればいい」

 

「ドライですねぇ。……まぁ、確かにそうなんですけど……」

 

 

軽口を叩き合いながらもフリード・バグアーを探す二人だったが、中々見つからないので、よもや、既に大迷宮の場所を把握していて空間転移したんじゃ……と内心不安になり始めたその時……

 

 

「ッ!?ユエさん!」

 

「んっ」

 

 

シアが警告を発すると同時に、ユエは躊躇うことなく時計塔から飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

 

「やはり、予知の類か。忌々しい……」

 

 

男の声が響くと同時に、楕円形の膜から雷電が倒した白竜に乗った赤髪の魔人族フリード・バグアーが現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが見て取れる。

 

 

 

白竜が完全に“ゲート”から現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。

 

 

 

同時に……凄まじい轟音を響かせて遂に外壁の一部が崩され、そこから次々と魔物やそれに乗った魔人族が王都への侵入を果たし、いくつかの部隊が、ユエとシアの方へ猛然と駆け寄ってくるのが見えた。どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。

 

 

「まさか、あの状況から生還するとはな。……やはり、あの男に垣間見たおぞましい程の生への執念は……危険過ぎる。まずは、確実に奴の仲間である貴様等から仕留めさせてもらおう」

 

 

フリードの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエとシアは二人して不敵に口元を歪めた。そして、同時に同じ言葉を返す。それは奇しくも、八千メートル上空で彼女達の愛する少年が敵に放った言葉と同じだった。

 

 

「「殺れるものなら殺ってみて(下さい)」」

 

 

その言葉が合図になったかのように、周囲の魔物と魔人族が一斉に魔法を放った。

 

 

 

大気すら焦がしかねない熱量の炎槍が乱れ飛び、水のレーザーが空間を縦横無尽に切り裂き、殺意の風が刃となって襲い掛かり、氷雪の砲撃が咆哮を上げ、石化の礫が永久牢獄という名の死を撒き散らし、蛇の如き雷の鞭が奇怪な動きで夜天を奔る。そして、駄目押しとばかりに極光が空を切り裂いた。

 

 

 

魔人族四十人以上、魔物の数は百体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。

 

 

 

しかし、ユエもシアも、逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいた。何人かの魔人族が“諦めたか……”と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけは猛烈に湧き上がった嫌な予感に警戒心を一気に引き上げた。

 

 

「“界穿”」

 

 

ユエが神代魔法のトリガーを引く。

 

 

 

直後、二つの光り輝くゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。

 

 

 

しかし、その予想は、ゲートを一対しか展開していないという事を前提とした考えだ。フリードが自身の限界を基準にした考えでもある。

 

 

だから、ユエとシアが眼前のゲートに飛び込んだ意味が咄嗟に理解出来なかったし、いつの間にか自分達の背後にゲートが開いている事にも直ぐに気がつくことが出来なかった。

 

 

「しまっ、回避せよっ!!」

 

 

ユエ達がゲートの向こう側に消え、極光がゲートを通る瞬間、自分の思い違いに気が付いたフリードが部下達に警告を発するが、“時既に遅し”だった。

 

 

 

フリード自身は回避が間に合ったものの、部下の多くは背後から・・・・極光の直撃を受けて死を意識する間もない消滅を余儀なくされた。

 

 

「おのれ、私に部下を殺させたな。……まさか同時発動出来るとは……まだ見くびっていたということか……」

 

 

瞳に憤怒を浮かべ、同時に自分には出来ないゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエに畏怖にも似た念を抱くフリード。詠唱した形跡も魔法陣を用いた様子もなく、その正体が気なるところだったが、今は、消えた二人を探さなければならない。

 

 

「フリード様! あそこにっ!」

 

 

フリードの部下の一人が外壁の外を指差す。そこには、確かにユエとシアがいた。

 

 

 

真下に民家があっては戦いづらかった。フリード自身がユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。もちろん、万一、フリード達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中に向けて死神の鎌を振り下ろすだけだ。

 

 

 

フリード達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。

 

 

 

明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で“相手をしてあげる”という上から目線……自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。

 

 

「小娘ごときがぁ!」

 

「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」

 

 

そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。

 

 

 

シアは“宝物庫”のおかげで、実質無制限と言ってもいいくらい大量に保管している炸裂スラッグ弾を惜しむことなく連発する。空で、あるいは地上で、シアの魔力が青白いムーンストーン色の波紋となって広がり、次の瞬間には衝撃波に変換されて破壊を撒き散らした。後に残るのは、轢死あるいは圧死でもしたかのようなひしゃげ、砕けた遺体のみ。

 

 

 

と、そこへ、白竜と灰竜から一斉に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。

 

 

「“絶禍”」

 

 

シアの眼下にユエの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのようにシアに迫っていた極光群の軌道を下方に捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。

 

 

「くっ、あの時も使っていたな。……私の知らぬ神代魔法か。総員聞け!私は金髪の術師を殺る!お前達は全員で兎人族を殺るのだ!引き離して、連携を取らせるな!」

 

「「「「「了解!」」」」」」

 

 

どうやら、縦横無尽に飛び回りユエの前衛を務めるシアと、後衛のユエを引き離して各個撃破するつもりらしい。そうはさせじと、シアがユエの近くに退避しようとしたとき、特別大きな黒鷲に乗った魔人族が、巨大な竜巻を騎乗する黒鷲に纏わせて、砲弾の如く突撃してきた。

 

 

 

空中にいたシアは、咄嗟にドリュッケンを振るって弾き飛ばそうとしたが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。ドリュッケンの激発の反動を使用してその場で一回転し、襲い来た全ての魔人族を放射状に吹き飛ばす。

 

 

 

急いで、正面から突撃してきた竜巻を纏う黒鷲と魔人族と相対し直すものの、流石にカウンターを放つ暇はなく、また回避も間に合いそうになかったので、ドリュッケンを盾代わりにかざして防御体勢をとった。ドリュッケンのギミックが作動し、カシュンカシュンと音を立てて打撃面からラウンドシールドが展開される。

 

 

「貴様等だけはぁ!必ず殺すっ!」

 

 

そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたドリュッケンに衝突した。

 

 

 

押されるままにユエから引き離されそうになったシアは、体重を一気に増加させて離脱を試みるが、それを実行する前に、背後で空間転移のゲートが展開されてしまった。チラリと視線を向けてみれば、ユエの方も、フリードが空間魔法を発動する時間を稼ぐために無謀とも言える特攻を受けているところだった。

 

 

“ユエさん!すみません!離されます!”

 

“ん……問題ない。こいつは私が殺っておく”

 

 

ゲートに押し込まれる寸前、ユエが“グッドラック!”とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれてユエから引き離された。

 

 

「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」

 

 

ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。

 

 

「……どこかで会いました? そんな眼を向けられる覚えがないんですが?」

 

「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」

 

 

シアは、なぜそこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男は、それを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げた。

 

 

「貴様等が、【オルクス大迷宮】で殺した女だぁ!」

 

「……………………ああ!あの人!」

 

「きざまぁ~」

 

 

明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。それを、何でもないようにひょいひょいと避けるシア。

 

 

「ちょっと、その人が何なんです? さっきから訳わからないです」

 

「カトレアは、お前らが殺した女は……俺の婚約者だ!」

 

「!ああ、なるほど……それで」

 

 

シアは得心したように頷いた。

 

 

 

どうやら、目の前の男は、“オルクス大迷宮”でハジメに殺された魔人族の女が最後に愛を囁いた相手──ミハイルらしい。どうやら魔人族側にいるジャンゴが、ハジメが自分の婚約者を殺した事を伝えられ、復讐に燃えているようだ。自分がされたのと同じように、シアやユエを殺してハジメの前に突き出したいのだろう。

 

 

「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを……」

 

 

血走った目で、恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。

 

 

「知りませんよ、そんな事」

 

「な、なんだと!」

 

「いや、死にたくないなら戦わなければいいでしょう?そもそも挑んで来たのはあの人の方ですし。ハジメさんは、警告してましたよ。逃げるなら追わないって。愛しい人を殺されれば、恨みを抱くのは当たり前ですけど……殺した相手がどんな人だったか教えられても……興味ないですし……あなたなら聞きますか?今まで自分が殺してきた相手の人生とか……ないでしょう?」

 

「う、うるさい、うるさい、うるさい!カトレアの仇だ!苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

 

ミハイルは、癇癪を起こしたように喚きたてると、大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。どうやら、竜巻はミハイルの魔法で大黒鷲の固有能力ではないらしい。騎乗のミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとした。

 

 

 

シアは、ドリュッケンを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。

 

 

 

しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれない。

 

 

 

シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を一斉に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、炸裂スラッグ弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。

 

 

 

そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ドリュッケンを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと消えていった。

 

 

 

シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。

 

 

「くっ、接近戦をするな! 空は我々の領域だ! 遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

 

 

まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。再び、四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と円盤を足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。

 

 

 

しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。そして、炸裂スラッグ弾だけでは手が足りないと判断し、新ギミックを“宝物庫”から取り出した。

 

 

 

それは赤い金属球だ。大きさは直径二メートルほど。金属球の一部から鎖が伸びており、シアはその鎖の先をドリュッケンの天辺についた金具に取り付けた。そして、重力に引かれて落ちかけた金属球を足で蹴り上げると、大きく水平に振りかぶったドリュッケンをその金属球に叩きつけた。

 

 

 

ガギンッ!!

 

 

 

金属同士がぶつかる轟音と共に、信じられない速度で金属球が打ち出される。

 

 

 

標的にされた魔人族は慌てて回避しようとするが、突然、金属球の側面が激発し軌道が捻じ曲がった。その動きに対応できなかった魔人族と黒鷲は、総重量十トンまで加重された金属球に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬でその命を夜空に散らすことになった。

 

 

 

敵を屠った金属球は、シアがドリュッケンを振るう事で鎖が引かれ一気に手元に戻ってくる。シアは、その間にも炸裂スラッグ弾を連発し、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた金属球を再びぶっ叩き、別の標的に向けて弾き飛ばした。

 

 

 

そう、ドリュッケンの新ギミックとは、重量変化と軌道変更用ショットシェルが内蔵された“剣玉

”なのである。

 

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

 

シアが、そんな雄叫びをあげながら王都の夜空に赤い剣玉を奔らせ続ける。ぶっ飛ばしては引き戻し、またぶっ飛ばしては引き戻す。赤い流星となって夜天を不規則に駆け巡る“剣玉”は、自身の赤だけでなく敵の血肉で赤く染まり始めた。

 

 

「おのれっ、奇怪な技を!上だ!範囲外の天頂から攻撃しろ!」

 

 

ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。シアは、それらの攻撃を重さを感じさせない跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。

 

 

 

そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。

 

 

 

シアは、ドリュッケンを頭上に掲げると柄の中央を握ってグルグルと回し始める。すると、回転の遠心力によって鎖で繋がった金属球も一緒に大回転を始めた。猛烈な勢いで超高速回転するドリュッケンと剣玉は、赤い色で縁取った即席のラウンドシールドとなり、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。

 

 

「もらったぞ!」

 

 

頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルが、シアに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法“砲皇”に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてシアに急迫する。

 

 

 

シアは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。

 

 

 

しかし、標的を見据えるミハイルの目には、絶望に歪むシアの表情ではなく、虚空から現れた拳大の鉄球がシアの足元に落ちる光景が映っていた。

 

 

 

シアは、“宝物庫”から取り出した鉄球を最大強化した脚力を以て蹴り飛ばす。豪速で弾き出された鉄球は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃しベギョ!と生々しい音を立ててめり込んだ。

 

 

 

クゥェエエエエエ!!!

 

 

 

激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。

 

 

 

ようやく頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をギリギリ、ドリュッケンで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。

 

 

「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」

 

「これで終わりだ!」

 

 

石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。

 

 

 

その事に怪訝そうな表情をするシア。

 

 

 

その疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことらしい。中々に嫌らしく厄介な能力だ。

 

 

 

普通は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この戦場にはシア一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。

 

 

 

しかし、彼等の勝利を確信した表情は次の瞬間、唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。

 

 

 

なぜなら……

 

 

「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」

 

 

そう言って、シアは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように目を細めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元の肌色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さった傷口も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。

 

 

「な、なんで!?」

 

「どうなってるんだ!?」

 

 

回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったシアに、魔人族達は、その表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。声も狼狽して震えている。

 

 

 

シアの傷が治ったのは、どうということもない。ただ再生魔法を使っただけである。相変わらず、適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。

 

 

 

ユエの“自動再生”のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことが出来る。時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。

 

 

 

魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。シアを見る目が、かつてハジメと相対した者達が彼を見る目と同じになっている。すなわち、この化け物めっ!と。

 

 

「さぁ、行きますよ?」

 

 

狼狽えて硬直する魔人族達の眼前にシアがドリュッケンを“宝物庫”にしまい、代わりに腰に懸架していたライトセーバーを手にしてスイッチを押し、緑の光刃を出した後にフォースによる身体強化で飛び上がってくる。そして、一撃必殺!と振るわれた一閃で、また一人、魔人族が絶命した。その瞬間、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていった。

 

 

 

シアは、冷静にライトセーバーで敵の攻撃を弾く、又は弾き返しながら確実に仕留めて数を減らしていく。

 

 

 

いよいよミハイル部隊の最後の一人がライトセーバーの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。

 

 

 

シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。

 

 

「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

 

 

ミハイルの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。それはさながら篠突く雷。本来は風系の上級攻撃魔法“雷槌”という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し、広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。それだけでミハイルの卓越した魔法技能が見て取れる。

 

 

 

急降下してくるミハイルを追い抜いて雷光がシア目掛けて降り注ぐ。

 

 

 

おそらく、確実に仕留めるために、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上に、シアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。

 

 

 

そして雷の落ちる速度は秒速百五十キロメートル。認識して避けるなど不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める!という強靭な意志が見て取れる。

 

 

 

しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。

 

 

 

ミハイルの誤算。それは、シアには認識できなくても避ける術があったこと。

 

 

 

シアの固有魔法“未来視”その新たな派生“天啓視”。最大二秒先の未来を任意で見ることが出来る。“仮定未来”やフォースの予知(ヴィジョン)の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。

 

 

「何なんだ、何なんだ貴様は!」

 

「……ただのウサミミ少女で、ジェダイ見習いです」

 

 

自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様にライトセーバーを振るった。

 

 

 

その時にミハイルは咄嗟に躱したものの、完全には躱せず、ライトセーバーの光刃によって切られてしまい、そのまま大黒鷲から堕ちてしまう。その結果、地面へと落下し、激突する。

 

 

 

咄嗟に、風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。

 

 

 

シアは、その傍らに降り立った。

 

 

 

ライトセーバーをしまい、“宝物庫”にしまっていたドリュッケン取り出し、肩に担いでツカツカとミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、ミハイル自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう、笑うしかないという心境なのかもしれない。

 

 

 

自分を見下ろすシアに、ミハイルは己の最後を悟る。内心で、愛しい婚約者に仇を討てなかった詫びを入れつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。

 

 

「……ごほっ、このっ…げほっ……化け物めっ!」

 

「ふふ、有難うございます!」

 

 

ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。

 

 

 

最後に、己の頭に振り下ろされた大槌の打撃面を見ながら、ミハイルは、死後の世界があるならカトレアを探しに行かないとなぁと、そんな事をぼんやり考えながら衝撃と共に意識を闇に落とした。

 

 

 

止めを刺したドリュッケンを担ぎ上げながら、シアは、ミハイルの最後の言葉に頬を緩める。

 

 

「どうやら、ようやく私も、化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね……ふふ、ハジメさん達に少しは近づけたみたいです。…とは言っても、マスターはこういうのは望んではいないでしょうけど、今は必要不可欠ですしね?さて、ユエさんの方は……」

 

 

シアは、かなり離されたユエのいる方を仰ぎ見る。そして、今ならまだフリードを一発くらい殴れるかもしれないと期待して、ユエと合流すべく一気に駆け出した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

天頂に輝く月が見えなくなるほどの灰竜の群れ。

 

 

 

優に百体は超えているだろう。そして、その中心には胸元に傷を付けた白竜と、背に騎乗するフリード・バグアーの姿。

 

 

「悪く思うな。敵戦力の分断は戦いの定石だ」

 

 

空間魔法“界穿”が作り出した転移ゲートの奥へと消えていったシアとミハイル。そして二人を追って飛んでいった黒鷲部隊を横目にフリードは宙に佇むユエに語りかける。

 

 

 

風系統の魔法を使っている気配もないのに、まるで夜天に浮かぶ月のように空に浮かぶその姿に、目を細めながら反応を伺うが、ユエは無表情のまま静かにフリードを見据えているだけだ。

 

 

 

フリードは、魔人族であることに誇りを持っており、例に漏れず、他種族を下に見ている。魔人族が崇める神に対する敬虔な信者でもあり、価値観の多様性を認めないタイプの男だ。

 

 

 

故に、他種族の女に興味を示すことなど有り得ない事だった。だが、そのフリードをして、本物の月が自らの配下である灰竜達により隠されてなお、地上を照らす月の如き輝きを放つ美貌の少女には、“殺すのは惜しい”と思わせるだけの魅力を感じていた。

 

 

 

その思いは、ハジメや雷電を殺すためにも必要だと分かっていながら、そして同胞を殺された事に対する憎しみを抱いていながら、それでも、つい戯言を口にさせてしまう。

 

 

「惜しいな。……女、術師であるお前では、いくら無詠唱という驚愕すべき技を持っていたとしても、この状況を切り抜けるのは無謀というものだろう。どうだ?私と共に来ないか?お前ほどの女なら悪いようにはしない」

 

 

そんなフリードの勧誘に対するユエの反応はというと……

 

 

「……ふっ、生まれ直してこい。ブ男」

 

 

何とも手厳しい、嘲笑混じりの痛烈な皮肉の投げ返しだった。

 

 

 

ちなみに、フリードは十人中十人が美男子と評価すると言っても過言でないほど整った容姿をしている。その力の大きさと相まって、魔人族の間では女性に熱狂的な人気がある。断じてブ男ではない。

 

 

 

しかし、ユエはフリードが“グリューエン大火山”で神を語った時の恍惚とした表情を見ており、それが酷く気持ち悪かったという記憶があるのだ。そんな男が、澄まし顔で誘ってくる。もう、気持ち悪い上に滑稽な男にしか見えなかった。そもそも、ハジメ以外の男に対して何かを感じるという事すらないので、本当に戯言以外の何ものでもなかった。

 

 

 

ユエの言葉を受けて、フリードの目元がピクリと引きつる。

 

 

「殉教の道を選ぶか?それとも、この国への忠誠のためか?くだらぬ教え、それを盲信するくだらぬ国、そんなもののために命を捧げるのか? 愚かの極みだ。一度、我らの神、“アルヴ様”の教えを知るといい。ならば、その素晴らしさに、その閉じきった眼もッ!?」

 

 

全くの見当違いをペラペラと話しだしたフリードに、ユエは白い銃で弾丸を放つことで答えとした。ただ単に、聞くに耐えなかっただけというのもあるが。

 

 

 

夜風に乗って血飛沫が舞う。ユエの放った風刃はフリードが身を逸らしたために肩を浅く切り裂くに留まった。咄嗟に、フリードが風刃に反応できたのは、腐っても大迷宮攻略者ということだろう。でなければ、今頃は腕一本失っているところである。

 

 

 

ユエは、怒りを宿した瞳で自分を睨むフリードに、冷めた眼差しを返す。そして、愚かな魔物の支配者に対し豪然と告げた。

 

 

「……御託はいらない。ハジメが傷ついた分、苦しんで死ね」

 

 

その言葉を合図に、ユエを中心にして極寒の氷雪が吹き荒れた。

 

 

 

一瞬で巨大な竜巻へと発展したそれは、ユエを覆い隠しながら天頂へと登る。地と天を繋ぐ白き嵐は、周囲の温度を一気に絶対零度まで引き下げ、月を覆い隠して上空を旋回していた灰竜達の尽くを凍てつかせた。

 

 

 

竜巻を発生させる風系中級攻撃魔法“嵐帝”と広範囲を絶対零度に落とす氷系最上級攻撃魔法“凍獄”の複合魔法である。

 

 

 

まるで、氷河期をもたらした気候変動により一瞬で凍りついたマンモスのように、その身を傷つけることなく絶命した灰竜達は、地上へと落下すると地面に激突してその身を粉々に砕けさせた。体内まで完全に凍りついていたようで、赤い血肉の結晶が大地にコロコロと跳ね返っている。

 

 

「聞く耳を持たないか。……仕方あるまい。掃射せよ!」

 

 

一気に二十体近くの灰竜を落とされたフリードは、ギリッと歯を食いしばりながら一斉攻撃の命令を下す。それにより、旋回していた灰竜達が一斉に散開し、四方八方上下、あらゆる方向から極光の乱れ撃ちを行った。

 

 

 

夜天に奔る幾百の極光は、さながら流星雨のよう。夜の闇を切り裂き迫る閃光は、中の術者を射殺さんと、吹き荒れる絶対零度のブリザードを剣山の如く貫いた。

 

 

 

無数の極光による衝撃で、氷雪の竜巻は宙に溶けるように霧散していく。散らされた氷雪が螺旋を描き、その中央から現れたのは、極光に貫かれ傷ついたユエの姿……ではなく、前後左右に黒く渦巻く星を従えた無傷のユエだった。

 

 

 

間髪いれず、目視した小さな敵に再び幾百の閃光が奔る。

 

 

 

しかし、本来なら全てを消滅させる強力無比な死の光は、ユエを守るように周囲に漂う黒い星に次々と呑み込まれ、あるいは明後日の方向に軌道を捻じ曲げられて、ただの一つも届かなかった。

 

 

 

ユエは、重力魔法を操作して更に高度を上げる。無数の極光に晒されながら、その表情に動揺の色は皆無だ。ユエの周囲を周回する重力球“禍天”と全てを呑み込む“絶禍”は、さながら月を守る守護衛星のようだ。

 

 

「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで! 行け!」

 

 

フリードの作戦変更命令に、灰竜達はタイムラグなど一切なく忠実に従う。竜の咆哮を上げながら、その鋭い爪牙で華奢な少女の肉体を引き裂かんと眼に殺意を宿して襲いかかった。

 

 

 

波状攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。ユエの周囲は直ぐに灰竜の群れによって灰色に埋め尽くされた。

 

 

 

対するユエは、迫り来る竜達の殺意など微塵も気にせず、静かに瞑目していた。深く集中しているようだ。動かぬならばむしろ好都合と言わんばかりに迫った灰竜達が、その鋭い爪を伸ばし、強靭な顎門を大きく開ける。

 

 

 

もはや逃れようのない死が到達するかと思われたまさにその時、ユエの眼がカッ! と見開らかれた。そして、その薄く可憐な唇が言葉を紡ぐ。

 

 

「“斬羅きら”」

 

 

その瞬間、世界が一斉にずれた・・・。

 

 

 

まるで割れた鏡のように、何もない空間に無数の一線が引かれ、その線を起点に隣り合う空間が僅かにずれているのだ。そして、その空間の亀裂に重なっていた灰竜達は、一瞬の硬直の後、ズルっという生々しい音と共に空間ごと体を切断されて血飛沫を撒き散らしながら地へと落ちていった。

 

 

 

空間魔法“斬羅”。空間に亀裂を入れてずらす事で、対象を問答無用に切断する魔法である。

 

 

 

ユエによる防御不能の切断魔法で、周囲に集まっていた灰竜三十体以上が断末魔の悲鳴を上げる事すら出来ずに絶命した。フリードは、自分でも出来ない発動速度・展開規模での空間魔法の行使に戦慄の表情を浮かべる。

 

 

「なんという技量だ。……もしや、貴様も神に選ばれし者なのか!それなら、私の誘いに乗れぬのも頷ける」

 

 

額に汗を流しながら得心がいったというように頷くフリードに、ユエは“この勘違い野郎、すごく気持ち悪いんですけど……”と誰が見てもわかる嫌そうな表情を浮かべた。

 

 

「……冗談。私が戦うのは何時でもハジメのため。お前如きと一緒にしないで」

 

 

辛辣な言葉に、フリードは自分どころか敬愛する自身の神をも貶されたような気になり(気のせいではない)無表情となった。どうやら、フリードのタブーに触れたようだ。

 

 

「よかろう。もはや、何も言うまい。貴様を殺して、あの男の前に死体を叩きつけてやろう。さすれば、多少の動揺は誘えよう。その時が、あの男の最後だ」

 

「……よく回る口。黙って行動で示せないの? ブ男」

 

 

怒りを押し殺して告げた言葉に、嘲笑を以て返されたフリードの額に青筋が浮かぶ。直後の返答はユエの言う通り、行動で示された。

 

“グリューエン大火山”でも見た、肩に止まる小鳥型の魔物に指示を出すフリード。すると、王都の外壁を破り都に侵攻していた魔物の群れの一部が地上からユエ達の方へと押し寄せて来た。どうやら、地上からも攻撃をするつもりらしい。

 

 

 

ユエは、灰竜達の極光を重力球の守護衛星で防ぎながら、“雷龍”を召喚する。天に立ち込めた暗雲から落雷の咆哮と共に黄金の龍が姿を現した。“絶禍”に溜め込んだ極光を迫り来るフリードと灰竜達に解き放ち牽制しながら、地上部隊を殲滅せんと雷龍を強襲させる。

 

 

 

いつも通り、問答無用に顎門に吸い込み全てを灼き尽くす雷龍……のはずが、体長五メートルを超える六足の亀型の魔物アブソドによってその進撃を止められてしまった。大口を開けた巨大アブソドによって、正面から逆に喰われ始めているのだ。

 

 

 

アブソドは以前、“オルクス大迷宮”でカトレアという魔人族の女が連れていた、魔法を体内に取り込む固有魔法を持つ魔物だ。しかし、地上で雷龍を吸い込んでいるアブソドは、迷宮にいたアブソドとは大きさが違う。おそらく、改良が加えられ更に強化されたのだろう。

 

 

 

それでも、流石の雷龍というべきか。アブソドに呑み込まれながらも、その巨体を浮かせていき、少しずつではあるがその身を灼いていく。どうやら、同時に複数属性の魔法を呑み込むことが出来ないという制限は変わっていないらしい。雷は呑み込めても重力魔法の方は呑み込めないようだ。

 

 

 

徐々に浮かされていく体に焦ったように六足をばたつかせるアブソドだったが、その巨体が雷龍に攫われる前に、もう一体のアブソドが重力魔法を呑み込み始めた。流石に、二体の強化されたアブソドによるフルパワーでの固有魔法“魔力貯蔵”の行使には雷龍も耐えられず、その雷の体を取り込まれてしまった。

 

 

 

その直後、圧縮されたそれぞれの魔法が、ユエに向けて発射される。

 

 

「……鬱陶しい」

 

 

地上より発射された対空砲火二条は、正確な狙いでユエを襲う。灰竜と白竜の極光を防ぐために重力球の守護衛星を全力で使っていたユエは、咄嗟に上空へ“落ちる”ことにより、それを回避した。

 

「ふっ、貴様がその奇怪な雷系魔法を使うことは承知している。アブソドがいる限り、お前の魔法は封じたも同然だ」

 

 

ニヤリと口元を歪めながら嗤うフリード。しかし、ユエは特に焦ることもなく、ジッとアブソドを観察すると、ほんの僅かな時間、何かを考えるように視線を宙にさまよわせ再び集中状態に入った。

 

 

「また、空間を裂く気か? そんな暇は与えんぞ!」

 

 

白竜と灰竜がより一層苛烈に極光を放ち、地上からは空を蹴って黒豹型の魔物が迫った。

 

 

 

極光の嵐を何とか重力球の守護衛星で防ぐものの、ユエの意識の大半は別の魔法を構築中であり、その動きは今までに比べると精細さを欠いた。そこへ、地上から黒豹がその姿を霞ませるほどの速度で迫り、無数の触手を射出し始め、更に、極光を防ぐため動き回る重力球を掻い潜って鋭い爪を振るった。

 

 

 

僅かな攻防の間に、ユエの体に無数の傷がつき、夜空に赤い鮮血が飛び散る。しかし、どれも浅い傷ばかりなので全く問題ない。そもそもユエの本当の防御力とは、障壁でも重力球でもない。その反則的な“再生力”なのだ。

 

 

 

仲間がいれば障壁を張るし、服が破れるのは好ましくないので回避もするが、本来は相手の攻撃を無視して己の再生力に任せ、一方的に攻撃するというのがユエのスタイルなのである。

 

 

 

血飛沫を上げたユエに、半ば勝利を確信して笑みを浮かべたフリードの表情は、目に見えて修復されていくユエの傷を見て驚愕に目を見開いた。

 

 

「それも、神代の魔法か?一体いくつ修得しているというのだ!」

 

 

全くハズレでもないのだが、ユエに関しては間違った推測を口にしながら、ならば治癒が間に合わないほどの飽和攻撃をするまでと魔物達に全力の直接攻撃を命じる。そして、フリード自身も神代魔法の詠唱を始めた。

 

 

 

だが、当然、先に集中状態に入ったユエの方が早く魔法を発動させる。ユエの強い意志の宿った瞳が見開かれ、閃光と咆哮の轟く空間に、その可憐な声が響いた。

 

 

「“五天龍”」

 

 

直後、暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、渦巻く風が竜巻となって吹き荒れ、集う水流が冷気を帯びて凍りつき、灰色の砂煙が大蛇雲の如く棚引いて形を成し、蒼き殲滅の炎が大気すら焦がしながら圧縮される。

 

 

 

その結果、王都の夜天に出現したのは五体の魔龍。それぞれ、別の属性を持ち、重力魔法と複合された龍である。

 

 

 

ゴォアァアアアア!!!

 

 

 

凄まじい咆哮が五体の龍から発せられ、大気をビリビリと震わせる。

 

 

 

巨体を誇り神々しくすらある魔龍の群れに、灰竜達は、本能が己の上位者であるとでも悟ったのか、怯えたように小さく情けない鳴き声を上げた。その瞳には、既にユエに対する殺意の色はほとんどなく、代わりに戸惑いと畏怖が住み着き、主たるフリードに助けを求めるような視線を寄せていた。

 

 

 

フリードもまた、非常識極まりない魔法の行使に白竜の上でポカンと口を開くという醜態を晒していた。その隙を逃さず、ユエは五天龍を地上へと強襲させる。

 

 

 

雷龍が、最初に己を呑み込んだアブソドに突撃し、アブソドも再び喰らい尽くしてやろうと大口を開ける。僅かばかり取り込まれる雷龍だったが、先程とは異なり、雷龍の後ろから飛び出した蒼龍が、その業火を以て相対するアブソドを融解させていった。

 

 

「クァアアアアアアアアン!!」

 

 

生きたまま甲羅から溶かされていく苦痛に、堪らず苦痛の声を上げて固有魔法を解いてしまったアブソドを放置して、雷龍は、次の標的を狙う。それは、嵐龍を呑み込もうとしている別のアブソドだ。神鳴る音を響かせながら雷龍の顎門がアブソドに喰らいつき、その灼熱によって身の端から灰に変えていった。

 

 

 

また、少し離れたところでは、氷龍がアブソドを凍てつかせ、石龍が周囲一帯を根こそぎ巻き込んで石化させていく。雷龍により解放された嵐龍は、身の内に蓄えた風の刃でアブソド以外の黒豹などの魔物共も一緒くたに切り刻んでいった。

 

 

 

流石に、五天龍の行使はキツかったのか、額に大量の汗を浮かべて肩で息をするユエ。早々にアブソドを片付けると、今度は上空の灰竜達に矛先を変えた。

 

 

 

強力無比な竜の群れを従えるフリードに、同じく龍をもって挑むユエ。なすすべなく五天龍の餌食となっていく灰竜達の姿が、そのままフリードとユエの格の違いをあらわしているようだった。

 

 

 

フリードは、ここに来てようやく悟る。自分がとんでもない化け物を相手にしてしまったことを。あの“グリューエン大火山”で自分に痛手を負わせた少年だけでなく、眼前の少女もまた、決死の覚悟で戦わねばならない相手だったのだと。戦う前に言った、自分の下に付けてやろうなどという傲慢な言葉を今更ながらに恥じた。

 

 

 

故に、これより放つ魔法は、文字通りフリードの全力だ。

 

 

「────揺れる揺れる世界の理、巨人の鉄槌、竜王の咆哮、万軍の足踏、いずれも世界を満たさない、鳴動を喚び、悲鳴を齎すは、ただ神の溜息!それは神の嘆き!汝、絶望と共に砕かれよ!“震天”!」

 

 

周囲一帯の空間が激しく鳴動する。低く腹の底に響く音は、まるで世界が上げる悲鳴のようだ。

 

 

 

ユエ自身、知識にあるその魔法に“むっ!”と警戒心を強め、すぐさま防御態勢を整えた。放たれる魔法は範囲が広すぎて回避は既に不可能なのだ。そして、並みの防御では、この魔法には一瞬も耐えられない。

 

 

 

ユエは、五天龍と重力球の守護衛星を解除すると、即行で空間魔法を構築する。他の魔法にリソースを割いている余裕がないからだ。ユエが、驚異的な速度で空間魔法を発動したのと、一瞬収縮した空間が大爆発を起こしたのは同時だった。

 

 

 

空間そのものが破裂する。そうとしか言いようのない凄絶な衝撃が、生き残りの灰竜や地上の魔物すら一瞬で粉微塵に砕いて、大地を抉り飛ばし、天空のまだら雲すら吹き飛ばした。

 

 

 

空間魔法“震天”。空間を無理やり圧縮して、それを解放することで凄まじい衝撃を発生させる魔法である。

 

 

「……んっ、流石……神代魔法」

 

 

しかし、その衝撃の中心にいながらユエはしっかり生き残っていた。服が所々破けていたり、内臓を少しやられたのか口の端から血を流していたりしているが、空間そのものが砕け散ったかのような衝撃の中にいたにしては軽すぎるダメージだ。その軽傷も、一拍後には完全に再生されてしまった。

 

 

 

本来なら、文字通り跡形もなく消し飛ぶほどの威力があったのだが……

 

 

 

その理由は、ユエが“震天”が効果を発揮する直前に空間魔法“縛羅”を発動したことにある。これは、空間を固定する魔法だ。使い方によって防御にも捕縛にも使える便利な魔法である。もっとも、例に漏れず消費コストは白目を剥きたくなるレベルだが。

 

 

 

即行での展開だったので完全には空間を固定しきれず、ダメージを負ってしまったユエだが、“自動再生”による肉体の修復の他、再生魔法により衣服も修復したので、見た目、中身共に無傷である。

 

 

 

周囲の全てが破壊された中、その中心で何事もなかったように佇み月光を浴びる姿は、その呆れるほどの強さと相まって神々しくすらあった。

 

 

 

だが、そんなユエの強さを疑わない者が一人。ユエの死角から強襲する。

 

 

「耐え切るとわかっていたぞ! 少女の姿をした化け物よ!」

 

 

ユエの背後に開いたゲートを通り、極光を放ちながら白竜に騎乗したフリードが出現する。

 

 

 

咄嗟に右側に“落ちる”ことで極光を回避するユエだったが、交差する一瞬で襲いかかった白竜の顎門までは回避しきれず、肩まで一気に喰らいつかれてしまった。

 

 

 

ブシュ!という音と共に傷口から血が噴き出す。白竜は、ユエの片腕を噛み切らず、その鋭い牙を柔肌に喰い込ませたまま、ゼロ距離から極光を放とうとしているようだ。

 

 

 

大魔法の連発で疲弊しきった様子のフリードが、今度こそ殺とったと勝利を確信し歓喜で満ちた眼差しをユエに向ける。しかし、ユエの表情を見た瞬間、フリードの背筋を言い知れぬ怖気が駆け巡り、その眼差しに宿す色は歓喜から恐怖に変わった。

 

 

 

なぜなら、ユエの口元が、まるで三日月のようにパックリと裂けて笑みを浮かべていたからだ。薄い桃色の唇がやけに目に付く。その笑みには、先ほどの神々しさなど皆無。ユエを照らす月明かりは、その荘厳さを示すものではなく魔性を表すものへと変わった。

 

 

 

夜風に吹かれ攫われた美しい金の髪の隙間から煌々と光る紅の瞳が物語る。

 

 

 

すなわち

 

 

 

──私に触れたな?

 

 

 

と。

 

 

 

白い銃の銃口をフリードの方に向け、ユエの口から静かに神代魔法の詠唱が紡がれた。

 

 

「“壊刻”」

 

 

直後、魔性の月光が降り注ぐ夜空に、一人の絶叫が響き渡った。

 

 

「ぐぅああああっ!!」

 

 

白竜はフリードが身悶えしたことで、ユエの腕を噛みちぎる。今度こそ腕を噛みちぎられたユエは、しかし、特に気にした様子もなく重力を操って天空へ上がった。そして、一拍おいて何事もなかったかのように再生された腕の様子を確かめると、全身から血を噴き出して悶えているフリードと白竜を睥睨した。

 

 

「……どう? ハジメから受けた傷は。痛い?」

 

「ぐぅうう! 貴様ぁ、これは……」

 

 

無表情を崩し艶然として月を背負うユエに対し、フリードは壮絶な痛みに歯を食いしばって耐えながら、鋭い眼光を返した。

 

 

 

フリードの状態は酷いものだった。現在のフリードの状態は、胸にある一文字の切創からダラダラと血を流し、砕けた左腕をダランと下げ、内臓が傷ついているのか激しく吐血している。その他にも全身に大小様々な傷が付いており、まさに満身創痍といった有様だった。

 

 

 

それらの全ては、かつて“グリューエン大火山”で相対した時に、ハジメ達によって付けられた傷である。再生魔法“壊刻”──対象が過去に負った傷や損壊を再生する魔法だ。直接・間接を問わないが、半径三メートル以内でどこかに触れていなければならず、再生できる傷は、魔力に比例するという制限がある。

 

 

 

ユエは、出来ることならこの魔法でフリード達を追い詰めたいと思っていた。この戦いは、あくまでユエの個人的な仕返しなのだ。“グリューエン大火山”では、愛おしい恋人を傷つけられ怒り心頭であったのに、仕返しの一つも出来ず逃げられてしまった。あの時から“……次にあったら絶対ボコる”と誓っていたのだ。

 

 

 

そして、再生魔法を“メルジーネ海底遺跡”で手に入れた時に、殺るなら絶対“グリューエン大火山”での一戦を思い出せるように、この“壊刻”を使ってやろうと思っていたのである。ユエの中の“ヤン”な部分が囁いたのだから仕方ない。

 

 

 

しかし、ユエは接近戦が苦手だ。高速で飛べる白竜に乗ったフリードに追いついて、触れて、魔法を発動できるかは微妙だった。なので、適当にダメージを与えて墜としてから使ってやろうと思っていたのだが……わざわざフリード達の方から自分に触れてくれたのだ。思わず、笑みが浮かんでしまったのも仕方ない事だろう。ハジメの敵に、心が“ヤンヤン”してしまうのは止められないのだ。

 

 

「……今の私では……勝利を得られないということか。……かくなる上はっ」

 

「……させない」

 

 

王手をかけられたと察したフリードが歯噛みし、ユエが止めを刺そうと白い銃をフリードに向けたその時、ユエに向けて地上から怒涛の攻撃魔法が放たれた。

 

 

「フリード様!一度お引き下さい!」

 

「我らが時間を稼ぎます!」

 

 

それは、王都侵攻に出ていた地上部隊の魔人族達だった。フリードの窮地を察して救援に来たらしい。

 

 

「お前たち! ……くっ、すまん!」

 

 

救援に来た魔人族達は、満身創痍のフリードと白竜を見て瞳に憤怒を宿し、防御など考えない特攻を敢行した。当然、ただの意気込みだけでユエを殺れるわけがない。しかし、フリードがゲートを開く時間だけはギリギリ稼げたようだ。

 

 

ユエの放った炎槍がフリードと白竜に突き刺さる寸前、フリード達はゲートに飛び込み姿を消してしまった。

 

 

「……邪魔」

 

 

まんまとフリードに逃げられてしまったユエは、未だ“よくもフリード様を!”等と喚きながら攻撃を繰り返す魔人族達を冷たく見下ろすと、白い銃で魔人族達を一人残さず眉間を撃ち抜く。八つ当たり気味に一瞬で殲滅を完了したユエだったが、その表情には、少しの苛立ちが見て取れる。鬱憤は晴れなかったらしい。

 

 

 

ユエが、何とか気持ちを落ち着けようと深呼吸をしていると、戦場には似つかわしくない明るい声が響き渡った。

 

 

「ユエさ~ん!まだ、あの野郎、生きてますかぁ?生きてたら一発殴らせ……うわぁ~何ですか、ここ?天変地異でもあったんですか?」

 

 

ウサミミをなびかせて、空に浮く円盤を足場に跳躍してきたシアが、呆れたような声音で周囲を見渡しながら尋ねた。

 

 

「……逃げられた」

 

 

不機嫌そうなその一言で大体の事情を察したシアは、フリードの意外なしぶとさに内心驚きつつ、苦笑いしながらユエを宥める。

 

 

 

そして、失った魔力を補充しながらしばらく情報交換していると、王宮の一角で爆発が起き、次いで、遥か天空より降り注いだ巨大な光の柱が、外壁の外で待機していた数万からなる魔物の大軍を根こそぎ消滅させるという有り得ない光景を見て、お互い顔を見合わせた。

 

 

「「……ハジメ(さん)」」

 

 

二人の答えはばっちり同じらしい。

 

 

「……取り敢えずマスターも向こうで待っている様ですし、王宮に行きますか」

 

「……ん」

 

 

ユエとシアはハモリながら非常識の犯人はハジメであると断定し、消し飛んだ魔物と巨大なクレーターを一瞥して呆れたような笑みを浮かべると、二人一緒に、ハジメ達がいるであろう王宮に向かうのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神の使徒達、雷電の逆鱗

何かと調子いいのか、ペースが上がっての投稿です。


72話目です。


 

 

月下に銀翼がはためいた。

 

 

 

だが、それは飛翔のためではない。その銀翼から殺意をたっぷり乗せた銀羽の魔弾を射出するためだ。恐るべき連射性と威力を秘めた銀の魔弾は、標高八千メートルの夜闇を切り裂き、数多の閃光となって標的に殺到する。

 

 

 

それに対するは、青き光刃を展開する円筒状の架空兵器と紅色のスパークを迸らせる鋼鉄の兵器。あらゆる敵を粉砕してきた怪物が咆哮を上げる度に、飛来する銀羽は無残に飛び散り四散する。計算され尽くした弾道が、たった一発で幾枚も羽を蹴散らし、壁と見紛うほどの弾幕に穴を開ける。そして、穴から銀羽が飛び交い、その怪物を操る魔王を守護する騎士が青い光刃で飛翔する銀羽を魔王から守る様に防ぐ。必要なのは踏み込む勇気。そして二人の連携。それこそが、完璧な攻撃と防御を生み出していた。

 

 

「ひゃああ!」

 

 

お互いの命をベットした死合に似つかわしくない可愛らしい悲鳴が響いた。場違いな声を我慢しきれず出してしまったのは畑山愛子先生だ。ハジメのメツェライもかくやという銀羽の弾幕を撃ち放つ“神の使徒”ノイントの攻撃を、雷電に守られながらもハジメの片腕に抱かれながら、人生初のドッグファイト(生身バージョン)を経験中なのである。

 

 

「先生!口は閉じてろ!噛みまくって血だらけになるぞ!」

 

「そんなこと言ってみょッ!?か、かんじゃった……」

 

 

ハジメの忠告も虚しく早速涙目になっている愛子。いや、空中戦が始まった時点で涙目だったので、噛んだことだけが原因ではないが。

 

 

 

ハジメとしても、愛子は特別身体能力が優れているわけでもないので、雷電のライトセーバーによる防御で防いで貰っているのだが、激しい機動は避けて“瞬光”を使い、雷電の防御から突破し、襲い来る弾幕を最小限の動きでかわし、それでもジェットコースターなど遥かに超える機動に、愛子は既にグロッキー状態だ。

 

 

 

かといって、そのへんに放り出しておくわけにもいかない。愛子を抱えるハジメに対してノイントの攻撃に容赦がない以上、放り出した途端、愛子の方を狙われかねない。愛子を背にしながら戦うより、抱いて一緒に動く方がずっとマシだった。

 

 

 

それに、この状態がいつまでも続くわけではない。頼もしい仲間が、救援に来てくれているはずなのだ。ハジメは、再び全方位から包み込むように強襲してきた銀羽をシュラークで撃ち抜き、雷電はライトセーバーでハジメと愛子を守りながらも銀羽を弾きながらも敵の攻撃を回避していた。その時にハジメは、ギュッと目を瞑ってハジメにしがみついている愛子に話しかける。

 

 

「先生、もう少し頑張れ。今、俺の仲間がこっちに向かってる。そいつが来れば地上に降りられるぞ」

 

「は、はい!で、でも南雲君達は!?」

 

「もちろん、あの能面女をぶっ殺す」

 

「ぶっ殺すって……もう少しオブラートに言ってくれないか?……と言いたいが、あいつを倒さなければどの道厄介だしな。ハジメと同様にここで倒すつもりだ」

 

「うぅ、足手纏いですみません……」

 

 

自分がお荷物になっていることを自覚して歯噛みする愛子。ハジメは、そんな愛子をギュッと抱きしめて宙返りをし、雷電も横に飛び込む様に回避する。反転した世界で、ハジメの頭上を銀色の砲撃が通り過ぎた。最初に、愛子が幽閉されていた隔離塔の上部を消し飛ばした閃光だ。

 

 

 

再び、シェイクされるような衝撃に声を詰まらせつつも、押し付けられたハジメの胸元から、全く乱れていない規則正しい心音が伝わり、そんな場合でないとわかっていながら妙な安心感を得てしまう愛子。ほんとに、こんな状況で何を考えているんだと自分を叱りつけながらも、より一層強く抱きついてハジメに身を委ねる。

 

 

「気にすんな。元より、多少の無茶をするのは想定内だ」

 

「!わ、私のために……そこまで……」

 

 

もちろん、ハジメが言ったのは、神代魔法を修得するために教会側と衝突するのは想定内という意味であって、愛子を助けるためだけという意味ではないのだが……ちょっと、シチュエーションに酔ってしまった愛子は見事に勘違いする。雷電も愛子の考えを察して“やれやれ…”と内心呆れるしかなかった。そして、現在進行形で抱きしめられ守られているという状況が、勘違いを加速させていく。一刻も早く目を覚ます必要があるだろう。

 

 

「……雑談とは余裕ですね、イレギュラー」

 

「ぬぐぉお!?」

 

「ハジメっ!?」

 

 

銀色の砲撃と銀羽の弾幕をかわした直後、ハジメのすぐ傍で機械的で冷たい声音が響く。咄嗟に、義手の肘から散弾を背後に向かって放ちつつ、その激発の反動を利用して反転する。その目に飛び込んできたのは、双大剣の片方を盾にして散弾を防ぎつつ、もう一方の大剣を横殴りに振るうノイントの姿だった。

 

 

 

銀光を纏う長さ二メートル幅三十センチの大剣は、そこにあるだけで凄まじい威圧感を放っている。そして、その宿した能力も凶悪だ。なにせ、ノイントが操る銀の魔力は全て固有魔法“分解”が付与されているのだから。触れるだけで攻撃になるなど反則もいいところだ。

 

 

しかし、そうは分かっていても、愛子がいる以上無茶な動きは出来ず、ハジメは咄嗟に、シュラークを迫り来る大剣の腹に当てて軌道を逸らしつつ、自らは背中から倒れ込むように落下して、ギリギリ回避した。ハジメの前髪をチリッと掠めながら大剣が通り過ぎ、冷や汗が吹き出る。

 

 

 

数瞬くらいならシュラークや義手でも“金剛”とアザンチウムの結合力が“分解”に抗って攻撃を防いでくれるが、受ける度に傷を負ってしまうのは避けられない。今回も、わずかにシュラークの表面が削れてしまった。何度も同じことをしていれば、そう遠くない内に破壊されてしまうだろう。しかし、雷電のライトセーバーの光刃はプラズマのブレードであるのだが、高密度、高出力のプラズマである為に分解を付与した銀羽の弾幕や大剣程度なら分解される事はない。

 

 

 

ノイントは、振るった大剣の遠心力に逆らわず、月光を反射してキラキラと煌く美しい銀髪を広げながら回転し、散弾を防いだ方の大剣を仰向け状態のハジメに振り下ろした。途轍もない膂力から生み出された剣速は、もはやただの銀閃であり視認することも叶わない……と思われた。もう一人のイレギュラーを除いて。

 

 

 

雷電はハジメとノイントの間に割り込み、ノイントの大剣を受け止める。その間にハジメは、シュラークの銃口をノイントに向けて、三度、引き金を引いた。轟音と共に三条の閃光がノイントの頭部、心臓、腹部に向かって正確に撃ち込まれる。

 

 

 

しかし、ノイントの反応速度も尋常ではない。ハジメが銃口を向けた瞬間には大剣を縦にかざしてその剣の腹で全て受け止めてしまった。

 

 

 

ハジメは、レールガンの威力に押されて距離を離したノイントにクロスビットによる追撃をかける。装填された炸裂スラッグ弾が、紅色の波紋を夜空に波打たせながら、凄まじい衝撃をばら撒いた。ノイントは、その衝撃も、あっさり背中の銀翼で打ち消してしまうが、ハジメの目論見通り、距離を取ることには成功した。

 

 

「はわ、はわわ……何が、どうなって……」

 

「……先生。頼むから殺し合いの最中に、可愛らしい声出さないでくれ。何か気が抜けるだろ?」

 

「かっ可愛っ…南雲君!せ、先生相手に何を言って……」

 

「ハイハイ、コントとかやっている場合じゃないぞ」

 

 

やっていることはコンマ数秒で勝敗が決してしまうような息つまる超高等戦闘だというのに、合間に入る愛子の悲鳴が妙に可愛らしく、ハジメの気勢がガリガリ削られていた。“この人案外余裕なんじゃなかろうな?”と胡乱な眼差しを向けるものの、実は半分くらいは正解であり、それがまさか、自分に抱きしめられている事による安心感が原因だとは夢にも思っていないハジメだった。そんなハジメ達を見ていた雷電はツッコミを入れながらも戦闘中であると指摘するのだった

 

 

「……足でまといを抱えて尚、これだけ凌ぐなど……やはり、あなた達は強すぎる。主の駒としては相応しくない」

 

「そりゃ嬉しい。ニートこじらせた挙句、構ってくれないと駄々こねる迷惑野郎に相応しくないなんて、最高の評価だな。どうも、ありがとう」

 

「そもそも、お前達の神エヒトは俺達を無理矢理この世界に引き込んだくせに強すぎる分、駒として面白くないから処分するなんざ、ただ神と名乗るだけの器量の小さいガキだな?」

 

「……私を怒らせる策なら無駄です。私に感情はありません」

 

「は?何言ってんだ?紛う事なき本心に決まってるだろ?」

 

「お前に感情はないと言っているが、お前は気付いていないだけだ。お前の心の奥底で、俺達に対する怒りが増幅している。それも、お前が信仰しているエヒトを侮辱した事でな。もしそれでも感情がないと言い張るのなら、お前は何かにすがる事しか出来ない人形以下の存在になるな」

 

「……」

 

 

ノイントは、スッと目を細めると大きく銀翼を広げ、双大剣をクロスさせて構えた。果たして本当に感情がなく、ただ無駄な会話をしたと仕切り直しただけなのか…ハジメの目には、どこか怒りを抱いているように見えたが、そんな事は考えるだけ無駄な事だとすぐさま切り捨てた。どうせ、殺すのだ。ノイントが何を考えていようと、何を感じていようとハジメにはどうでもいい事である。

 

 

 

ノイントが再び銀翼をはためかせ、銀羽を宙にばら撒く。だが、今度はハジメに向かって射出されることはなかった。代わりに、ノイントの前方に一瞬で集まると、何枚もの銀羽が重なって陣を形成する。そう、魔法陣だ。銀色に輝く巨大な魔法陣がノイントの眼前からハジメを睥睨する。

 

 

 

そして……

 

 

「〝劫火浪〟」

 

 

発動された魔法は、天空を焦がす津波の如き大火。

 

 

 

どうやら、魔弾だけでなく属性魔法も使えたようだ。今まで使ってこなかったのは、単純に銀の魔弾だけで十分だと判断していたためだろう。つまり、本気になったということだ。

 

 

 

うねりを上げて頭上より覆い尽くすように迫る熱量、展開規模共に桁外れの大火に、一瞬、世界が紅蓮に染まったのかと錯覚する愛子。どうする気なのかと胸元からハジメを見上げてみれば、ハジメは頬に汗を流しながら必死に何かを探している。

 

 

 

ハジメの探し物は、魔法の核だ。魔眼石で捉えられれば、それをピンポイントで撃ち抜くことで霧散させることが出来る。もちろん、針の穴を通すような神業的な精密射撃が必要ではあるが、ハジメにとっては通常スキルだ。

 

 

 

しかし、ノイントの発動した魔法は超広範囲魔法であり、“神山”全体を昼と見紛うほどに照らす大規模なもの。大海に落ちた針を一本探すが如く、核の位置は判然としない。

 

 

 

その時に雷電がフォースを使い、ノイントが放つ超広範囲魔法から守る様にハジメの前に出る。

 

 

 

そして数百メートルに及んだ炎の津波は、ハジメと愛子、雷電を逃がすことなく完全に呑み込んだ。誰が見ても詰み。二人は灼熱に焼かれて骨も残さず消滅したと思うのが普通だ。

 

 

 

しかし、ノイントは、燃え盛る大火の中心から目を逸らさない。

 

 

「……これも凌ぐのですか」

 

 

ノイントがそう呟いた直後、術の効果が終わり、大火が霧散していくその中心で、雷電とハジメ、愛子が無傷で姿を現した。

 

 

 

雷電がフォースを使ってノイントの魔法を斥力で左右に受け流したのだ。

 

 

「超広範囲魔法に対してもフォースは有効だった様だな」

 

「その様だな。本当ならクロスビットで防御しようと思ったが……」

 

「こ、これは……」

 

 

ハジメがどこかホッとしたような表情を見せる。本当ならクロスビットに組み込まれているある仕掛けで防御しようと考えていたのだ。その仕組みとは、生成魔法により空間魔法を付与したワイヤーと鉱石をクロスビットに組み込み、四点で結合させてボックス型の結界を張るというギミックだ。単なる障壁ではなく、空間そのものを遮断するタイプなので、理論上の防御力は折り紙付きだ。ただ、まだ実験段階で、実際にどの程度まで耐えられるのか確証がなかったので、ハジメとしてはちょっと不安だったのだ。

 

 

 

驚いてキョロキョロと結界を見る愛子を抱き締め直しノイントを見れば、彼女は、再び魔法陣を形成しているところだった。

 

 

 

ただし、今度は二十以上の魔法陣を、銀羽をハジメに撃ち込みながら同時展開するという形で。

 

 

 

まさに怒涛の攻撃。おそらく、四点結界は相当な強固さを発揮してくれるだろうが、内側に篭っていてはジリ貧だ。おまけに、ノイントの分解能力にどこまで耐えられるか全く分からない。

 

 

 

この結界の難点は、空間が遮断されているので展開中はハジメも攻撃できないという点にある。なので、ハジメは急いで結界を解除すると、ノイントから大きく距離をとり、再びティオが来るまで回避に徹しようとした。

 

 

 

と、その時……突如、“神山”全体に響くような歌が聞こえ始めた。

 

 

 

ハジメが、銀羽の弾丸をかわしながら何事かと歌声のする方へ視線を向ければ、そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は、地球でも見たことのある聖歌というやつだろう。

 

 

一体、何をしているんだとハジメが訝しんだ直後……

 

 

「……ッ!?なんだ? 体がっ…」

 

「南雲君!?あうっ、な、何ですか、これ……」

 

「ハジメ!?愛子先生!?二人とも、どうした!」

 

 

突如とハジメと愛子の体に異変が訪れた。

 

 

 

体から力が抜け、魔力が霧散していくのだ。まるで、体の中からあらゆるエネルギーが抜き出されているような感覚。しかも、光の粒子のようなものがまとわりつき、やたらと動きを阻害する。

 

 

「くっ、状態異常の魔法かっ……流石総本山。外敵対策はバッチリってか?」

 

 

ハジメの推測は当たっている。

 

 

 

イシュタル達は、“本当の神の使徒”たるノイントが戦っている事に気が付き、援護すべく“覇堕の聖歌”という魔法を行使しているのだ。これは、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔法で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だ。

 

 

「イシュタルですか。……あれは自分の役割というものをよく理解している。よい駒です。しかし……何故、あなただけは効かない?」

 

 

恍惚とした表情で、地上からノイントを見つめているイシュタルに、感情を感じさせない眼差しを返しながらノイントがそんな感想を述べながらも雷電を見る。イシュタルの表情を見れば、ノイントの戦いに協力しているという事実自体が、人生の絶頂といった様子だ。さぞかし、神の思惑通り動く便利な存在なのだろう。しかし、例外である雷電だけは何故かその効果は見受けられなかった。実際、雷電自身も分からなかった。

 

 

「さぁな?だが、どうやら効かないのは俺だけじゃなさそうだ」

 

「…っ?それはどういう……」

 

 

 

ノイントが雷電の言葉に疑問視する最中、ノイントは同じ神の使徒であるルイントの方を見る。そこでノイントはありえない光景を目にする。

 

 

「これは……!」

 

 

それは、神の使徒であるルイントはもう一人のイレギュラーであるアシュ=レイに圧倒されている光景だった。ルイントの身体からは所々に傷があり、そこから血を流してイシュタルの状態異常の魔法を受けている筈のアシュ=レイに苦戦していた。

 

 

「何故……イシュタル達の聖歌が効かない?」

 

「んなもん、俺からしたら三流以下の聖歌だっつうの。それによ、お前等に対する借りはこんなもんじゃねえ。あいつ等の分も含めて千倍にして返してやるぜ!」

 

「……っ、舐めるな!」

 

 

ルイントは苦し紛れに分解が付与した銀羽をアシュ=レイに向けて放つが……

 

 

「…甘ぇんだよっ!!」

 

 

そういってアシュ=レイは二本のバスターソードを手に銀羽を全て叩き落す。その際にバスターソードが分解される事はなかった。

 

 

 

アシュ=レイが持つバスターソードはアザンチウム鉱石を他の鉱石に薄くコーティングして造られたものではなく、アザンチウム鉱石()()()()を使って作られた剣なのだ。その剣は、亡き友である解放者の“オスカー・オルクス”がアシュ=レイの無茶な注文で作られた世界最高の剣だ。

 

 

 

しかし、アザンチウム鉱石で出来た剣だけで使徒の分解魔法を防げた訳ではない。バスターソードが分解されないそのカラクリは、バスターソードにあった。アシュ=レイの持つバスターソードに()()()()が付与されていた。

 

 

 

その魔法こそが解放者達にはないアシュ=レイだけの神代魔法──それは、“消滅魔法”。

 

 

 

消滅魔法とは、文字通りの如く有機物や無機物、魔法すら消滅させる危険な魔法である。アシュ=レイはこの消滅魔法が付与されているバスターソードでルイントを圧倒していたのだ。銀羽を叩き落す際に一時的に消滅魔法をONにし、銀羽を消滅させていたのだ。

 

 

 

ルイント自身も侮っていた訳ではない。ルイントは過去……つまり、解放者達がまだ生きていた時代に一度だけアシュ=レイと戦った事があったのだ。その時はアシュ=レイのライトセーバーやフォースに苦戦を強いられたが、何とか隙を突いてアシュ=レイに傷を負わせる事に成功し、アシュ=レイ逃げられたが、辛くも勝利したのだ。しかし、今回の場合は状況がまるで違う。アシュ=レイの攻撃が過去に戦った以上に過激で隙すら見出す事が出来ない。

 

 

 

そんな事お構いなしにアシュ=レイがライトセーバーの型である“シエン”を更に攻撃に特化させた型“ドジェム=ソ”でルイントを一気に攻める。ルイントでもドジェム=ソの動きに予測が出来ず、防戦一方だった。これを見ていたイシュタル達も神の使徒ルイントの危機に聖歌を詠い続け、駒として役目を果たそうとするのだった。

 

 

 

そんなイシュタル達司祭の中身はともかく、現在、展開している魔法は正直なところ厄介なこと極まりないものだった。

 

 

「……やはりルイントの言う通り、ジェダイという存在は危険過ぎます。イレギュラー諸共、即刻に排除します」

 

 

 

ハジメは、徐々に抜けていく力を、その身に内包する膨大な魔力で補いながら、ノイントの攻撃を回避する。しかし、明らかに先ほどまでに比べれば動きに精細を欠いていた。そして、そんな状態で凌ぎ続けられるほど、ノイントの攻撃は甘くない。

 

 

 

ノイントの周囲に形成された魔法陣から、雷撃が飛び出し、空に不規則な軌跡を描きながらハジメに殺到する。ハジメは、シュラークで雷撃の核を撃ち抜き幾本か霧散させるが、空気を帯電させながら奔る雷撃を完全にかわしきる事は出来ず、僅かばかり感電した。

 

 

 

刹那の硬直。しかし、ノイントからすれば致命的な隙だ。

 

 

「ッ!?」

 

 

超速で踏み込んできたノイントが、双大剣を十字に振るう。感電による硬直のため、僅かに反応が遅れたハジメは、どうにかシュラークで一撃を逸らそうとするが、雷電がフォース・プッシュでノイントを吹き飛ばす。

 

 

「ハジメ、大丈夫か!」

 

「ああ、助かった」

 

 

何とか雷電に助けられたハジメは、愛子を抱えたままでは流石に荷が重いと判断し、“空力”を使って必死にノイントの剣界から離脱を図る。当然、そんな暇は与えないと苛烈な剣戟が襲い来るが、雷電のライトセーバーの型“二マーン”の派生型“ジャーカイ”でノイントの剣界に介入に、剣戟を繰り広げたことにより、どうにか距離を取ることができた。

 

 

「クソッ!思ってたよりも厄介だな!」

 

「南雲君っ!?藤原君が…!」

 

「分かってる!雷電は大丈夫だから、黙ってろっ!」

 

 

雷電の加勢に行きたいものの、愛子を抱えた状態では援護すら難しいと悪態を吐くハジメ。雷電が一人でノイントと戦っている様子に愛子が、ハジメに悲鳴じみた心配の声を上げた。

 

 

 

だが、ハジメとしても愛子を気遣う暇がない。素っ気ない返事をしている間にも、ノイントは雷電と戦いながらも銀羽を射出して急迫しているのだ。ハジメは、シュラークで撃ち落としつつ“金剛”と“風爪”も使って捌く。体にまとわりつく光の粒子と倦怠感のせいで、遂に回避しきれなくなったのだ。

 

 

 

そんなハジメに、ノイントは雷電を振り切り、正面から突っ込む……と見せかけて銀翼をカッ! と発光させた。爆ぜる光がハジメの目を灼く。

 

 

 

しかし、ハジメの持つ感知系能力は優秀だ。すぐさま、見失ったノイントの気配を背後に感じて、振り向きざまにシュラークを連射した。連続する炸裂音が、背後に回っていた……銀羽の塊で作られた人型を霧散させた。そう、背後に現れた気配は、ノイントの銀羽を束ねて作られた囮だったのだ。

 

 

「っ!?」

 

 

ハジメの背筋が粟立った。本能がけたたましく警鐘を鳴らす。ハジメは、振り向く暇も惜しんで、腕だけ後方に向けると狙いも付けずに引き金を引いた。

 

 

 

撃ち放たれた弾丸は、運良くノイントの頭部に飛翔したが、彼女は首を捻るだけであっさり回避した。そして、双大剣の片割れがハジメの背中目掛けて袈裟斬りに振るわれる。ハジメは、“金剛”の派生“集中強化”を全力で行使し、覚悟を決めて斬撃に備えた。

 

 

 

ノイントの大剣は、ハジメの“金剛”と一瞬の間拮抗するも、直ぐに分解能力によってその防壁を切り裂いていき、ハジメの肉体に切っ先を届かせ振り抜かれた。

 

 

「がぁあ!!」

 

「南雲君!」

 

「ハジメ!!」

 

 

背中に焼き付くような痛みを感じ、思わず口から苦悶の声を漏らすハジメに、愛子と雷電が焦ったような表情で声を上げる。しかし、ハジメは斬られた際の衝撃も利用して自ら前方に飛ぶと宙返りしながらノイントと相対した。

 

 

ノイントは、すぐさま追撃に入り、既に大剣を振りかぶっている。

 

 

ハジメは、動きづらい体での対応を諦めクロスビットに“金剛”を纏わせて盾にしつつ、他のクロスビットをノイントの左右に展開し内蔵された弾丸を炸裂させた。

 

 

 

ノイントは、クロスビットの弾丸を回転しながら広げた銀翼で打ち払うとそのまま突進し、ハジメが盾にしたクロスビットを一之大剣で斬り付け、更に、クロスビットに食い込んだ一之大剣に弐之大剣を叩きつけることで、あっさり切断してしまった。

 

 

 

ハジメの目が見開かれ、その瞳を、間近に踏み込んだノイントが覗き込む。その無機質な眼差しが雄弁に物語っていた。すなわち、“これで終わりです”と。

 

 

 

ハジメの目に諦めの色は皆無。されど、この状況で愛子を死なせないためには、対価が必要だ。代わりにハジメが傷つくという対価が。こんな事なら、後の弱体化を覚悟してでも、ティオを待たずに〝限界突破〟を使っておくべきだったかと後悔しながら、左腕を犠牲にする覚悟を決める。

 

 

 

そして、ノイントの大剣が、かざしたハジメの義手を切り裂いて、その奥の肉体に致命傷を負わせようと振るわれたまさにその瞬間……

 

 

 

バチィィッ!!

 

 

 

雷電が再びノイントの前に割り込み、ライトセーバーで大剣を防いでいた。

 

 

「雷電!?」

 

「また邪魔をしますか、ジェダイ……」

 

 

ハジメはこの時、ノイントの一撃を防いだ雷電の様子がおかしい事に気が付く。それは、嘗てオルクス大迷宮の最終階層で戦ったヒュドラ戦で、雷電が暗黒面に取り込まれかけた状況と似ていた。そしてその予感が当たっていた。今の雷電の瞳は()()()()()()()()()()。ノイントも雷電の変貌に驚きを隠せないでいた。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

神の使徒がハジメの義手を切り裂いて、その奥の肉体に致命傷を負わせようと振るおうとしたその時に、一瞬、周りが止まったかの様に見えた。どうしてこうなったかは雷電自身、理解出来なかった。だが、これだけは分かっている事がある。早くハジメの所に行かなくてはハジメ諸共愛子先生までも殺されてしまう。そう考えた時に雷電は、嘗て前世の頃、ジェダイ・テンプルを襲撃してきたスカイウォーカーとクローン達がジェダイ達を皆殺しにする光景を、ハジメと愛子が切られそうになる光景と重なって見えた。

 

 

 

あの時、無力だった自分は、目の前でマスターがスカイウォーカーに殺されるの見ているしかなかった。本当ならマスターの所に駆けつけ、助けたかった。だが、本能は逃げろと訴えかけ、結局雷電は逃げるしか出来なかった。そして今、ハジメ達の命が失われそうになっている。果たしてこれを見過ごしていいものか?……いい筈もない。

 

 

 

そう……どのような事であれ、そんな運命は間違っている。もしそれがエヒトという巫山戯た神が定めた運命だというのなら……許さない。

 

 

 

許さない……許さない!許しはしない!!許されるはずがない!!!

 

 

 

怒りと憎悪が増し、やがて暗黒面の力に呑まれそうになるが自我を保ち、今はするべきことが何なのかを瞬時に理解し、そして“瞬光”でハジメ達に斬り掛かろうとするノイントの前に割り込み、ライトセーバーでノイントの大剣を防ぐ。ノイントは割り込んできた雷電諸共斬り捨てようとするが、今まで感じた事のない怒りと殺意を雷電から放たれている事に気付く。

 

 

「……!(様子が変わった…?)」

 

「……たまるか」

 

「何を……?」

 

 

ノイントは雷電の呟きを耳に聞き取ったが、何を言ってるのか分からなかった。だが、その後に雷電は口にする。

 

 

「もう、これ以上……何もかも、奪われてたまるか。仲間も……友も……全てを!奪われて……奪われて、たまるかぁぁぁっ!!

 

「……っ!?」

 

 

雷電の叫びと気迫に圧倒されたノイントは、咄嗟に雷電から距離を取るが、雷電はそれを許さず、“瞬光”で一気に距離を詰め、ライトセーバーの型“シエン”でノイントに斬り掛かる。今の雷電は、怒りと憎悪に囚われずにいるが、別の何かが己自身の空間や環境の把握・認識力が劇的に向上していることを把握する。しかし、今はノイントを倒さなければならない為に詳しく詮索する時間は無く、ノイントとの戦いに集中するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

あまりにも人柄が変わってしまった雷電の姿を初めて見た愛子は困惑していた。今いる雷電は、何かに取り付かれたかの様な狂戦士となっていたのだ。

 

 

「南雲君、藤原君は一体……」

 

「ヤバいな……彼奴は今、一種の暴走状態だ。」

 

 

あの時の様に見境なくハジメ達に襲って来ないかと不安のハジメ。雷電を止めると同時にノイントを確実に殺す方法を模索する中……

 

 

 

グゥガァアアアアア!!!

 

 

 

竜の咆哮と共に、黒色の閃光が下方から凄まじい勢いで迫って来た。それは、あらゆるものを消滅させる灼熱のブレス。黒き暴虐の嵐は、狙い違わずノイントへと襲いかかる。

 

 

 

咄嗟に、ノイントは銀翼で身を包み防御態勢を取り、雷電は後方に下がって回避を取った。

 

 

 

直後、黒色のブレスはノイントの銀翼に直撃し、分解されながらも凄まじい勢いで吹き飛ばす。黒と銀の魔力が衝突し、空中に黒銀の魔力を撒き散らしながら、ノイントは教会の塔の一つに背中から突っ込んだ。その衝撃により塔がガラガラと音を立てながら崩れ落ちていく。

 

 

 

下方からイシュタル率いる司祭達が上げている悲鳴が聞こえる。信望する神の使徒が吹き飛ばされ動揺しているようだ。

 

 

 

ハジメは“宝物庫”からオルカンを取り出すと、イシュタル達の方を見もせずに十二発全弾を無造作に撃ち込んだ。今度は、違う種類の悲鳴が聞こえてきたが無視だ。なぜなら、そんな雑音などかき消すような聞きたかった声が響き渡ったからだ。

 

 

“ご主人様よ。無事かの?”

 

 

その声に、ノイントを警戒しながらもハジメの頬が緩む。待ち人ならぬ待ち竜の到着だ。

 

 

「ティオ、助かった。ちょっとヤバかったんだ。今でもヤバいけどな」

 

 

ハジメの言葉に嬉しそうにしながらも、それほどまでの強敵かと直ぐに険しさを取り戻す黒竜姿のティオが、翼をはためかせながらハジメの傍らにやって来た。

 

 

“間に合ったようで何よりじゃ、後で折檻……ご褒美を所望する”

 

「……先生を保護できたら考えておこう」

 

“本当か!その言葉忘れるでないぞ!さぁ、先生殿よ、妾の背に乗るがいい”

 

 

ハジメは、こんな状況でも自らの欲望に忠実なティオ(思い返せばユエ、シア、香織もだが)に呆れた表情をしながらも、抱きしめていた愛子をその背に乗せる。

 

 

 

愛子は、なんだか二人の会話にモヤモヤしたものを感じつつも、ようやくハジメの足でまといから解放されるとあって素直にティオの背にしがみついた。

 

 

「えっと、ティオさん。よろしくお願いします」

 

“うむ。任せよ。先生殿はご主人様の大切なお人(恩師という意味で)じゃからの、敵の手には渡さんよ”

 

 

愛子は、ティオの“大切な人”という言葉で更に勘違いを加速させつつ、心配そうにハジメの方を見やった。その表情はどう見ても教師が生徒を憂う類のものではなく、明らかに恋する乙女といった風情だったが、この場にツッコミをいれる者はいない。

 

 

 

と、その時、ノイントの突っ込んだ塔が轟音と共に根元から吹き飛んだ。もうもうと舞う砂埃を、銀翼をはためかせて起こした風圧で吹き飛ばしながら無傷のノイントが姿を現す。ティオのブレスも、銀翼の防御は貫けなかったらしい。しかし、そんな事関係無く雷電は情け容赦なくシエンの型でノイントを攻めまくる。何とか愛子をティオに移したハジメはティオに命じる。

 

 

「……ティオ、行け」

 

“承知。しかし、先生殿の安全を確保したら助太刀するぞ?少なくとも教会の連中は妾が何とかしよう”

 

 

既に猛烈な殺気を噴き出しながらノイントをギラつく眼で睨んでいるハジメに、ティオは、先程ハジメに掛けられていた弱体化の魔法の原因を察して、イシュタル達を睨みながら頼もしいこと言う。ハジメは、ノイントに集中しろということだ。

 

 

 

ハジメは、その言葉に口元を吊り上げると一つ頷き、今度は自らノイントへと向かって猛然と宙を駆けていった。

 

 

「南雲君!気をつけて!どうか……」

 

“……ふむ?ほぉ…これはこれは……”

 

 

両手を胸の前で組み祈るようなポーズの愛子に、何かを察したのかティオが興味深げな、あるいは面白そうな声音を出す。

 

 

“先生殿よ。ご主人様が心配なのは分かるが、少し急ぐのじゃ。貴女を地上に送り届けて、妾はあそこの老害共を叩かねばならん。ご主人様の邪魔をされては敵わんからな”

 

 

 

そう言って踵を返そうとしたティオに愛子は待ったをかけた。何事かと、首だけ振り返って背に乗る愛子に視線を向けたティオに、愛子は、決然とした眼差しを返した。

 

 

「ティオさん。今から私を地上に降ろして、また戻って来るとすればかなりの時間がかかるのではありませんか? ここは標高八千メートルです。往復するのも大変なはず……」

 

“むっ? 確かに、その通りじゃが……まさか先生殿よ”

 

「はい。ティオさんが南雲君のために戦うというのなら、私にも手伝わせて下さい。早急にイシュタルさん達をどうにかしておかないと、南雲君はどんどん衰弱してしまいます。私を下に送り届ける時間が勿体ないです」

 

 

愛子の言うことは最もではあるのだが、ティオとしては正直気が進まない。

 

 

 

オルカンの攻撃で負傷者が多数出たようだが、直ぐに立て直し結界を張りながら再び聖歌の準備をしているイシュタル達を見れば、ティオとしても、今すぐにでもぶっ飛ばしに行きたいところだ。だが、それで万一、愛子が傷つけば、ハジメとの約束を反故にする事になってしまう。

 

 

“じゃが、言っては悪いが先生殿に何ができる? 魔法陣も戦闘経験もなかろう? 司祭達と神殿騎士達を相手に戦えるのかの?”

 

 

愛子は、ティオの厳しい意見にぐっと歯を食いしばると、おもむろに自分の指を口に含んだ。そして、ギュッと目を瞑ると一気に指の腹を噛み切り、指先から滴る血を反対の手の甲に塗り付け即席の魔法陣を描き出す。

 

 

「私、こう見えて魔力だけなら勇者である天之河君並なんです。戦闘経験はないけれど……ティオさんの援護くらいはしてみせます!人と戦うのは……正直怖いですが、やるしかないんです。これから先、皆で生き残って日本に帰るためには、誰よりも私が逃げちゃダメなんです!」

 

 

王国は侵攻を受け、国王も司祭達も狂信者と成り果てた。当初予定していた神を頼っての帰還はもう有り得ないだろう。この異世界で寄る辺なく愛子達は前に進まねばならないのだ。

 

 

 

ならば、先生である自分こそが、たとえ忌避するべきことでも、それがすべき事ならやらねばならない。そんな決意を愛子の眼差しから読み取ったティオは、逡巡したものの、仕方あるまいと愛子の同行を許すことにした。

 

“既に決めたというなら是非もない。ご主人様も、それが先生殿の意志だというなら文句は言うまい。よかろう。共に愚か者共を蹴散らすとしようか!”

 

「はい!」

 

 

愛子の緊張と恐怖、そしてそれらを必死に制しようとする決意が表れた返事を合図に、ティオは聖教教会を象徴する大神殿に向かって一気に飛翔した。相手取るのは、数百人規模の司祭達と神殿騎士団。

 

 

今、ティオと愛子という異色のタッグチームがこの世界最大の宗教総本山に挑む。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堕ちる天使達、教会の最後

連続投稿です。


73話目です。


 

 

初撃はシュラーゲンによる一撃だった。

 

 

 

紅いスパークが迸り、見るからに凶悪なフォルムの怪物兵器から凄絶な破壊力を宿らせた超速の弾丸が一直線に目標へと迫る。ティオのブレスすら正面から貫いた貫通特化の砲撃に、流石の銀翼でも分解する前に貫かれると判断したのかノイントは雷電から距離を取りつつも回避を選んだ。

 

 

 

その場から身を捻りながら落下し、紅い閃光の真下を掻い潜りながら、恐るべき速度でハジメに突進する。

 

 

 

しかし、それを読んでいたのか、そこには既にクロスビットが配置されており、炸裂スラッグ弾が回避不能の近さで轟音と共にぶっ放された。

 

 

「ッ!?」

 

 

ノイントは、紅い波紋を広げる炸裂スラッグ弾を見て、銀翼での防御も間に合わないと見たのか、その手に持つ一之大剣で迎撃に打って出た。

 

 

 

神速で振り抜かれた大剣は、まるでバターを切り取るようにスッと弾丸に入り込みそのまま縦に両断する。内包する魔力を分解された炸裂スラッグ弾だったが、大剣の一撃もその全てを散らすことは出来ず、ノイントの左右に分かれた弾丸が両側から衝撃波を放った。

 

 

 

威力は減じているものの、衝撃をモロに浴びて動きが一瞬止まってしまうノイント。

 

 

 

そんな彼女の懐に、意識の間隙を突くようにいつの間にか踏み込んできたのはハジメだ。“空力”を使った空中での震脚によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、ギミックの“振動破砕”と“炸裂ショットガン”、そして“豪腕”と膨大な魔力を注ぎ込んだ“衝撃変換”による絶大な威力の拳撃を放った。

 

 

 

ノイントは、咄嗟に弐之大剣を盾にした。体と着弾寸前の拳との間に大剣を割り込ませる。その試みはギリギリのところで間に合い、ハジメの鋼鉄の拳をせき止めた。

 

 

 

しかし、その威力までは止められず、ガァアアン!という金属同士が衝突する凄まじい音を轟かせながら、ノイントは猛烈な勢いで吹き飛ばされた。

 

 

 

ドパァアアンッ!ドパァアアンッ!

 

 

 

ハジメは追撃の手を緩めない。即座にドンナー・シュラークを抜くと最大威力で連射する。轟く炸裂音は二発分。夜闇を切り裂く紅い閃光も二条。されど、吹き飛びながらも双大剣をクロスさせて防御姿勢をとるノイントを襲ったのは十二回分の衝撃だった。

 

 

「くぅうううっ!!」

 

 

ドンナー・シュラークそれぞれにつき、一発分しか聞こえない程の早撃ちと、全く同じ軌道を通り着弾地点も同じという超精密射撃。ノイントの呻き声と同時に、彼女の持つ大剣が衝撃に震え、僅かにピキッと嫌な音を立てる。

 

 

 

ハジメ渾身の拳撃とレールガン十二発を受けて尚折れない双大剣の耐久力に呆れるべきか感心すべきか。

 

 

 

更に吹き飛び、再び、背後にあった教会の荘厳な装飾が施された何らかの施設を破壊しながら埋もれるノイント。雷電は、ダメ押しとばかりにノイントに向けてフォース・プッシュを放った。

 

 

 

ノイントは再び大剣で防御するが、防御が意味をなさないかの様に瓦礫の方に吹き飛ばされる。

 

 

 

この時にハジメは雷電に問いかける。

 

 

「雷電……お前、大丈夫か?」

 

「…何とかな。自我を保てる事態、ある意味奇跡的だよ。それよりも、一気に畳み掛けるぞ!」

 

「あぁ…分かってる!」

 

 

ハジメと雷電は追撃の手をまだ緩めない。ハジメは、“宝物庫”からオルカンを取り出し、瓦礫の山に向かって狙いを定めた。

 

 

 

と、その瞬間……

 

 

「っ、下かっ」

 

 

ハジメが眼下に視線を向け直すと同時に直下の地面が爆発したように弾け飛び、その中から銀翼をはためかせたノイントが飛び出てきた。どうやら、魔法を使って地中に退避し、そのまま強襲を掛けてきたらしい。

 

 

 

おびただしい数の銀羽が掃射され、銀の砲撃が撃ち放たれる。雷電はライトセーバーでハジメを守りながらもおびただしい数の銀羽を弾き、叩き落す。ノイントと交差する一瞬で振り抜かれた双大剣をライトセーバーで受け流しつつ僅かな剣撃の隙間を側宙するように通りぬけた。そして、通り過ぎるノイントに向かってハジメは、オルカンに搭載されているミサイルを発射する。

 

 

 

オルカンの威力を知らないノイントは危険だと判断し、銀の光を弾きながら高速飛行し、追尾してくるミサイルから距離をとる。そして背後に向けて銀羽を飛ばして迎撃しつつ、作り出した魔法陣から怒涛の魔法攻撃をハジメに向けて放った。

 

 

 

夜天に撃墜されたミサイル群の爆炎が無数に咲き誇っているのを尻目に、ハジメは、オルカンをしまうと、再びドンナー・シュラークを抜いた。そして、急迫する魔法の核を撃ち抜き、ノイント同様に全て迎撃する。

 

 

壮絶な空中戦の合間に訪れた僅かな静寂。空中でノイントとハジメが対峙する。

 

 

「なぁ、ちょっと聞きたいんだが俺に構っていていいのか?」

 

「……何のことです?」

 

 

教会関係者が地上で起きている魔人族による王都侵攻を知らないわけがない。問答無用に襲われていたので聞く暇もなかったのだが、一時の間が出来た上に、ノイントが会話に乗ってきたので、ハジメは、ちょうどいいと話を続ける。

 

 

「下で起きていることだ。このままじゃ王国は滅びるぞ? 次は当然、この“神山”だ。俺なんかに構ってないで、魔人族達と戦った方がいいんじゃないのか?」

 

「もしこの国が滅びればこの国の責任ではなく、お前達の神エヒトの信仰が大きく減るという事になる。ハジメの言う通り、俺達よりも人間達を守る為に魔人族達と戦う方がいいと思うが?」

 

 

言い直されたハジメのもっともな質問と便乗してきた雷電の意見に、しかし、ノイントはくだらない事を聞かれたとでも言うような素振りで鼻を鳴らす。

 

 

「そうなったのなら、それがこの時代の結末という事になるのでしょう」

 

「結末ねぇ。……やっぱり、エヒト様とやらにとって“人”は所詮“人”でしかなく、暇つぶしの駒でしかないということか。……この時代は、たまたま人間族側についてみただけってわけだ?この分じゃ、魔人族側の神とやらもエヒト本人か、あるいは配下ってところか」

 

「……だったら何だというのです?」

 

「いや、“解放者”達から聞かされた話の信憑性を一応、確かめてみようかと思ってな?ほら、俺達にとっちゃあ、どっちも唯の不審者だし」

 

「確かに、もし神エヒトが実在するなら堂々と出てきてもいい筈なのだが、出て来ないという事は小心者と見てもいいだろう」

 

 

主を不審者、小心者呼ばわりされたせいか眉がピクリと反応するノイント。しかし、ハジメは気にした風もなくにこやかに告げる。

 

 

「なぁ、俺が邪魔なら元の世界に帰してくれてもいいんじゃないか?あと、勇者達も、王国が滅びたら大して機能しなかった残念な駒として終わるわけだし、ついでにさ?」

 

「却下です、イレギュラー」

 

「理由を聞いても?」

 

「主がそれをお望みだからです。イレギュラー、主はあなたの死をお望みです。あらゆる困難を撥ね退け、巨大な力と心強い仲間を手に入れて……そして、目標半ばで潰える。主は、あなたのそういう死をお望みなのです。ですから、なるべく苦しんで、嘆いて、後悔と絶望を味わいながら果てて下さい。あなたが主に対して出来る最大の楽しませ方はそれだけです。ああ、それと勇者達は……中々面白い趣向を凝らしているとのことで、主は大変興味を持たれております。故に、まだまだ主を楽しませる駒として踊って頂きます」

 

 

ハジメは、概ね予想通りの回答だったので特に気にした風もなく肩を竦めると、かつて聞いたミレディ・ライセンの言葉に、内心で深く同意した。すなわち、“確かに、クソ野郎共だ”と。

 

 

 

しかし、自分の事はともかく、最後の言葉はハジメとしても気になるところだ。

 

 

「……面白い趣向?」

 

「これから死ぬあなたにとって知る必要のないことです」

 

 

話は終わりだと、ノイントは、無数の魔法と銀羽を放ち戦闘再開を行動で示す。

 

 

 

もっとも、先程までとは威力も桁も別次元だった。銀羽の一枚一枚がレールガンに迫ろうかという威力を持ち、放たれる魔法は全て限りなく最上級に近いレベルである。よく見れば、ノイントの体全体が銀色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がっていた。まるで、ハジメや光輝が使う“限界突破”のような姿だ。

 

 

「「ッ!」」

 

 

その圧倒的な物量からなる怒涛の攻撃に息を呑みながら、ハジメは右手にメツェライを、左手にシュラーゲンを持って応戦し、そして雷電はライトセーバーで銀羽を弾きながらもハジメのカバーに入る。メツェライが咆哮を上げ、毎分一万二千発の破壊を撒き散らして銀羽と魔法を相殺し、シュラーゲンが射線上の全てを打ち砕いて直進しノイントを狙う。

 

 

 

しかし、銀光を纏うノイントの動きもまた、先程までとは比べ物にならなかった。シュラーゲンの紅い砲撃が確かにノイントを撃ち抜いたと思われた瞬間、彼女の姿は霞のように消え去り、数メートルも離れた場所に現れたのだ。

 

 

 

自らが放つ弾幕を追い越す勢いで進撃するノイントの姿は、余りの速度に残像が発生し、常にその姿を二重三重にブレさせる。

 

 

 

ハジメが“先読”で配置したクロスビットから炸裂スラッグ弾を放つが、やはり撃ち抜くのは残像のみ。フッと姿を消したノイントは、次の瞬間にはズザザザザーと残像を引き連れてハジメの背後に回り込んでいた。そして、独楽のようにクルクルと物凄い勢いで回転しながら遠心力をたっぷり乗せた双大剣を振るった。

 

 

「ッ!?」

 

 

ノイントの最後の動きは、ハジメの〝瞬光〟状態での知覚能力をも上回り、完全な不意打ちとなった。辛うじて身を仰け反らせ直撃を避けたものの、咄嗟に盾にしたシュラーゲンを真っ二つに両断されてしまう。内蔵されたエネルギーが暴発し、ハジメとノイントの間で大爆発が起こった。

 

 

 

それが、ほんの一瞬ではあるがノイントの追撃を遅らせる。ハジメが反撃に出るための時間としてはそれで十分だった。ハジメの全身から紅色の魔力が噴き上がり体を覆っていく。“限界突破”だ。雷電もライトセーバーを分割させ、ノイントと同じく二刀流でハジメと共にノイントを迎え撃つ。

 

 

 

踏み込んできたノイントに対して、ハジメ達もまた一歩を踏み込む。ハジメの手には既にメツェライはなく、代わりにドンナー・シュラークが握られていた。そこからは超接近戦だ。

 

 

「つぁああッ!!」

 

「ウォオオッ!!」

 

「はぁああッ!!」

 

 

一之大剣による唐竹の斬撃を半身になってかわしたハジメに、絶妙なタイミングで弐之大剣が胴を狙って横薙ぎに振るわれる。

 

 

 

雷電は、右手に持つライトセーバーで横薙ぎしてくる大剣を受け止め、ハジメはドンナーとシュラークでノイントの心臓を狙った。撃ち放たれた紅の閃光を、残像を残しながら回転することでかわしたノイントは、その勢いのまま一之大剣を下方より跳ね上げる。

 

 

 

ハジメはシュラークに“金剛”の“集中強化”を大剣の刃が当たるほんの僅かな場所に通常時の数倍の密度でかけて分解に対抗し、大剣の勢いに逆らわずシュラークを跳ね上げて、その軌道だけを逸らした。

 

 

 

そして、水平に切り込んできた弐之大剣は雷電のライトセーバーによって止められ、そしてノイントの持つ弐之大剣を弾き飛ばした。

 

 

 

互いに至近距離で、相手の武器をかわし、逸らし、弾きながら致命の一撃を与えんと呼吸も忘れて攻撃を繰り出し続ける。

 

 

「「おぉおおおおおおおっ!!!」」

 

「はぁあああああああっ!!!」

 

 

ハジメと雷電、ノイントは何時しか互いに雄叫びを上げていた。

 

 

筋一本、神経一筋、扱いを間違えただけで、次の瞬間には死が確定する。互いの攻撃を判断する時間などあるわけもなく、ただ本能と経験だけを頼りに神速の剣撃と銃撃が互いの命を僅かでも削り取ろうと飛び交った。

 

 

 

銀色の剣線が夜の闇に幾条もの軌跡を残し、紅の閃光が血飛沫のように四方八方へと飛び散ち、青色の剣線が銀色の剣線と何度も交差する。銀と紅と青に輝く三人を太陽に例えるなら、三人が放つ攻撃の嵐はさながらフレアだろう。一秒、一手を掻い潜り互いが生き残る度に、際限なく速度は上がっていく。

 

 

 

比例して、僅かにヒットする攻撃が互いを血染めに変えていった。ハジメと雷電はいたるところを浅く切り裂かれ、ノイントは抉るように穿たれた箇所から血を滴らせる。

 

 

 

ハジメと雷電、ノイントの技量は互角。このまま、永遠に続くかと思われた攻防だが、実際に追い詰められているのはハジメの方だった。いや、正確に言うなら、追い詰められる事になるのは、だ。

 

 

 

それはハジメも理解していた。なぜなら、ノイントの魔力が開戦してから全く消費されていないからだ。

 

 

 

言うまでもなく、ハジメの“限界突破”は制限時間付きだ。それを過ぎれば強制的に解除され、しばらくの間弱体化を余儀なくされる。ハジメの魔力が膨大であるとは言え、いつまでも発動し続けられる訳ではないのだ。

 

 

 

それに対してノイントの場合、どうやら何処からか魔力の供給を常に受けているようで実質無制限に強化状態を維持できるらしい。ハジメの魔眼石は、やたらと強く輝き、全く衰える様子のない魔石に似た何かがノイントの心臓部分にあるのを捉えていた。

 

 

ハジメは、このままではジリ貧だと勝負をかける決断をしたその時……

 

 

「待たせたな!俺も混ぜさせろぉ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

 

突如とアシュ=レイがハジメ達とノイントの攻防戦に介入し、バスターソードでノイントに斬り掛かる。ノイントは介入してきたアシュ=レイに反応が送れて回避が間に合わず咄嗟に大剣で防御するが、それを逆手にアシュ=レイは、バスターソードをノイントに投げつける。

 

 

 

「血迷いましたかっ」

 

 

 

ノイントの無機質な瞳が、僅かに見開かれる。その瞳には、アシュ=レイの正気を疑う色が宿っていた。ノイントは投げてきたバスターソードを上空へと弾き飛ばす。しかし、それがアシュ=レイの狙いだったのだ。

 

 

「だからお前等は甘いんだよ!!」

 

「っ!?」

 

 

弾かれたバスターソードをフォースで操り、そのままバスターソードをノイントに向けて飛ばす。不意をつかれたノイントは咄嗟に回避しようとするも、完全に躱す事は出来ず僅かに掠り傷が出来てしまう。

 

 

「この程度の傷……どうという事は「いや、違うな」……?」

 

 

ノイントはアシュ=レイの言葉を理解できなかった。アシュ=レイはそんな事を気にせずに言葉を続ける。

 

 

「お前は俺の剣に傷つけられた時点で、既に敗北してるんだよ」

 

「敗北…?何を馬鹿な……」

 

「分からねえのか?今、お前自身に何が起こっているのかをよ」

 

「私自身に?一体何を……!?」

 

 

すると、ノイントにある異変が起こる。彼女の身体から謎の怠さと目眩が襲いかかる。何故この様な状態異常が起きたのか理解が出来なかった。

 

 

「ぐっ!?イレギュラー……私に何をした」

 

()()させたんだよ、お前の血液の四割をな」

 

「消滅……!?」

 

 

掠めただけで己の血液を消滅させるなど不可能だとノイントは考えるが、アシュ=レイの消滅魔法に掛かれば雑作もないとアシュ=レイは答える。その時にノイントは、アシュ=レイと戦っていた筈のルイントの姿が見えない事に疑問を覚える。

 

 

「……ルイントはどうしたのです?」

 

「確かに……アシュ=レイ、もう一人の使徒はどうした?」

 

 

雷電もルイントの存在を思い出し、アシュ=レイに問い出す。するとアシュ=レイからあっけからんに答えた。

 

 

「彼奴か……もう居ねえよ。肉体はあっても、魂だけは()()()()()からな」

 

「……!」

 

 

魂の消滅。それは死よりも生温いものだった。魂の消滅は、二度と転生する事が出来ない神の所業であるのにも関わらず、それをアシュ=レイはやってのけたのだ。更に、ルイントが倒されたことを裏付ける決定的な武器をアシュ=レイは持っていた。それは、ルイントが持っていたライトセーバー擬きだった。

 

 

「こいつには見覚えがあるだろ?あのルイントとか言う奴が持っていた剣だ。彼奴は能力と魔法に頼った戦い方だった分、剣術はお粗末だったけどな?」

 

「……っ、おのれ…イレギュラー達め……!」

 

「どの道、俺が介入した時点でお前の敗北は決定したんだけどな。そんで、どんな気分だ?たかが

イレギュラー、それも人間に下剋上された気分はよ?今にも地に落されそうな神の使徒さんよ」

 

「……っ!貴様ぁ!!」

 

 

ノイントは貧血状態でありながらもアシュ=レイに接近し、大剣を振り下ろそうとするが……

 

 

「馬鹿が……」

 

「っ!?」

 

 

それよりも先にアシュ=レイのバスターソードがノイントの胴体に突き刺さった瞬間、ノイントの視界が暗転する。ノイント自身、理解できていなかった。アシュ=レイのバスターソードに付与されている消滅魔法によって魂が消滅されたことを。ノイントは、自分に何が起こったのか理解できないまま、ノイントの魂はこの世から消滅したのだ。

 

 

 

魂という入れ物がなくなった肉体は、糸が切れた操り人形の様にそのまま自然落下していく。しかし雷電はフォースを使い、死したノイントの肉体を優しく地面へと降ろした。

 

 

 

その後に雷電達は地上に降り、ノイントの様子を確認した。ノイントの眼は、最早死んだ肉体の様に眼のハイライトが消えていた。

 

 

「―――」

 

「………」

 

 

後に残ったのは、アシュ=レイによって魂を消滅させられ、肉体という抜け殻を残したノイントの姿。バスターソードによって付けられた傷口を雷電は、再生魔法で傷口を治す。ただし、魂だけは再生することは敵わない。雷電なりの慈悲なのか、傷がなくなったノイントの姿は人間味を感じさせない。空気に溶け込むように霧散していく銀翼の中から覗く瞳は相変わらず機械的な冷たさをたたえたままだった。

 

 

 

ただ、それでも、どことなく恨めしそうな雰囲気が混じっているように思えたのはハジメの気のせいか……

 

 

 

そんなノイントの瞼を雷電が閉ざし、そのまま安らかに眠らせるのだった。

 

 

 

ノイントとルイントを無事に倒せた雷電達は、ティオ達と合流しようと行動に移そうとしたその瞬間……

 

 

 

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 

 

“神山”全体を激震させるような爆発音が轟いた。今度は何事かと振り返ったハジメ達の目に映った光景は……巨大なキノコ雲と轟音を立てながら崩壊していく大聖堂を含む聖教教会そのものだった。

 

 

「「「……うそん」」」

 

 

 

思わず漏れたハジメ達の呟きが、やけに明瞭に木霊した。昔、テレビの戦争系ドキュメンタリーでこんな光景見たなぁと思いながら呆然としていると、突然、念話が届いた。

 

 

“ご、ご主人様よ……そっちはどうじゃ?”

 

“お? おぉ、ティオか。いや、こっちはちょうど終わったところなんだが……”

 

“ふむ、それは重畳。流石ご主人様じゃ。ちょうどこちらも終わったところなんじゃが、合流できるかの?”

 

“いや、それが何かすごいことに……”

 

“……その原因はわかっておる。というより、妾達のせいじゃし……”

 

“……何だって?”

 

“取り敢えず、合流出来るかの?”

 

“はぁ、わかった”

 

 

どうやら聖教教会総本山が根こそぎ崩壊した原因を知っているようなので、一体、何があったと頬を引き攣らせながら、ハジメは雷電達に軽く説明した後にティオとの合流を急ぐ事にした。上空に上がると、直ぐに、黒竜姿のティオがキノコ雲から距離を置いた場所で滞空しているのを発見する。

 

 

 

そしてハジメの目には、その背に乗って“あわわわ”といった感じで狼狽えまくっている愛子の姿も映った。なぜ、ここに愛子が?という疑問は湧いたものの、愛子の性格ならきっと、逃げずにティオに協力でもしたのだろうと当たりを付けるハジメ。それよりも、明らかに愛子の“やってしまった”といった様子の方が気になった。

 

 

「……先生、ティオ。二人共無事みたいだな」

 

「な、南雲君!藤原君!よかった、無事だったんですね。……本当によかった」

 

「こっちは五体満足だが、二人が無事で良かったよ。しかし、一体何があった?こっちからでも教会が爆散された様子が見えたんだが?」

 

“ご主人様。それに雷電殿。うむ、一瞬、死ぬかと思ったが何とか生きておるよ。全く、流石はご主人様の先生殿じゃ。まさか、妾のブレスを聖教教会そのものを崩壊させる程に昇華させるとは。天晴れ見事じゃよ”

 

 

ティオの言葉に、ハジメが目を瞬かせる。そして、愛子に“まさか”という引き攣った表情を向けた。

 

 

「……先生、一体何やったんだ」

 

「あわわわわわ、ち、ちなうんです!こんなつもりでは。ちょっと教会の結界が強くて……ティオさんのブレスの威力を高められればと……結界を破るだけのつもりが……」

 

「その結果が結界諸共教会を爆破してしまった……ということか。何でそうなった?」

 

 

ハジメの登場に、安堵の吐息を漏らす愛子だったが、続くハジメの質問で再びあたふたし始めた。狼狽える愛子に事情を聞くと、どうやらこういう事らしい。雷電も愛子の事情を聞いた後、悟って答えに辿り着いたのだった。

 

 

 

愛子は、ティオに騎乗しながら、イシュタル達がハジメに状態異常の魔法をかけられないように戦うことを決意した。しかし、魔法に関して高い適性は持っていても、碌な魔法陣を持っていない愛子に強力な攻撃魔法を行使することは出来なかった。また、大聖堂そのものが強力な結界を発動させるアーティファクトだったらしく、その結界に守られたイシュタル達には、ティオのブレスさえも届かなかった。

 

 

 

このままでは、イシュタル達は安全地帯から悠々と魔法を行使できてしまう。何とか結界を突破できるだけの火力を得ることは出来ないだろうかと、神殿騎士達からの攻撃を凌ぎながら考えて、愛子が思いついたのは……自分の特技を生かす事だった。ちなみに、愛子の特技とは以下にある通り……

 

 

 

====================================

畑山愛子 25歳 女 レベル:56

天職:作農師

筋力:190

体力:380

耐性:190

敏捷:310

魔力:820

魔耐:280

技能:土壌管理・土壌回復[+自動回復]・範囲耕作[+範囲拡大][+異物転換]・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作[+急速発酵][+範囲発酵][+遠隔発酵]・範囲温度調整[+最適化][+結界付与]・農場結界・豊穣天雨・言語理解

====================================

 

 

 

この内、使ったのは発酵操作らしい。“神山”と言えど、人が暮らす場所であるから発酵できるものは大量にある。それから、地球で言うところのメタン発酵というものを行ったようだ。勿論、正確には別の異世界物質だが、可燃性ガスであることに変わりはない。

 

 

 

それをとにかくひたすら教会周辺で行いまくったようだ。攻撃魔法ではなく、ただの発酵なので教会の結界も反応せず空気と同じように結界の内外に溜まり続けた。風に吹かれて霧散しないようにティオが風を操って一定範囲に留めることまでした。

 

 

 

そして、これくらい可燃性ガスが溜まっていれば、ティオのブレスと相まって教会の結界を破壊できるだろうと、いざ、ブレスを放ってみれば……

 

 

「……こうなったと」

 

“うむ。妾達も盛大に吹き飛ばされてなぁ、久しぶりに死を感じたのじゃ。結界を破壊するどころか、教会そのものを崩壊させる程とは……このような方法、妾の長い生のうちでも思いつかんかった。流石、ご主人様の先生殿じゃ。感服じゃよ”

 

「ちなうんです!そうじゃないんです!こんなに爆発するなんて思ってなくて!ただ、半端はいけないと思って!ホントなんです!はっ!?教会の皆さんはっ!?どうなりました!?」

 

 

愛子が、涙目でオロオロしながら弁解し、廃墟と化した教会に視線を彷徨わせる。ハジメ達も一緒に瓦礫の山々に視線を向けるが……

 

 

「……まぁ、まとめて吹き飛んだんだろうなぁ」

 

「教会に留まって防衛していたと考えると、全員死亡たと考えるのが妥当だろう。例え生き残っていたとしても、四枝がバラバラの状態だろうな」

 

“教会の結界を過信している感じじゃったしのぉ。完全な不意打ちでもあったのじゃし、無防備なところにあの爆発では、助からんじゃろ”

 

「あ、ああ……そんな……いえ、覚悟はしていたのですが……」

 

 

自分の幇助が、教会関係者達をまとめて爆殺してしまった原因である事に顔を青ざめさせる愛子。覚悟を決めて戦いに挑んだつもりだが、いざ、その結果を突きつけられると平常心ではいられない。

 

 

 

思わず、その場で嘔吐してしまう。涙を流しながら吐く愛子に、ハジメは頭をカリカリと掻くと、そっと愛子に寄り添った。そして、吐瀉物で汚れているのも気にせず愛子の手を握る。今の愛子には、とにかく暖かさが必要だと思ったのだ。

 

 

 

愛子は、凍えて砕けてしまいそうな心が握られた手から伝わる暖かさに繋ぎ止められるのを感じた。そして、今だけは生徒と教師という事も忘れて、ハジメの胸に飛び込みギュッと抱きついて嗚咽を漏らした。

 

 

“……妾の背中……”

 

「少しぐらい我慢しな。それにあの愛子という女、恐らくだが、初めて人を殺してしまったことに気持ちの整理が追いついていないんだ。ここはハジメに任せておけばいい」

 

 

ティオが、自分の背中の惨状に少し悲しげな声を出すも、アシュ=レイがそうティオに言い聞かせる。ティオは直ぐに気を取り直して再生魔法を行使する。ティオとしても、愛子には時間を掛けて立ち直ってもらいたいという思いはあるし、そもそもブレスを放ったのは自分であって愛子が必要以上に責任を感じる必要はないのだが、今は、その説明が許されるほど時間に余裕のある状況ではない。なので、再生魔法によって、磨り減った精神を僅かばかりに癒したのだ。

 

 

 

気力が戻ってきた愛子は、ハジメの胸元から顔を上げる。涙と鼻水と吐瀉物で大変なことになっていたが、ハジメは特に気にした風もなく“宝物庫”からタオルや水を取り出すと、汚れた愛子を綺麗にしてやった。愛子は、とんだ醜態を見せた事に動揺して、されるがままである。

 

 

「落ち着いたか? 先生」

 

「は、はい。も、もう大丈夫です。南雲君……」

 

 

ハジメの呼びかけにハッと我に返った愛子は、羞恥やら何やらで顔を真っ赤に染め上げた。心なし、ハジメの名を呼ぶ声に熱が篭っている。上目遣いにチラチラとハジメを窺う瞳も熱っぽくうるうると潤んでいた。どう見ても、ただの羞恥心だけから来るものではなく、特別な感情が窺える表情だ。

 

 

 

愛子は教師であるという認識が先に来て“女”として見ていなかったハジメだったが、流石に、そんな表情を見せられては“あれ?なんかこれ違くない?もしかして、そういうこと?”と愛子の感情を察して、頬を引き攣らせた。そんな様子を見ていた雷電は“またか……”と自然にハーレムを作ってしまうハジメに呆れる他になかった。

 

 

 

何だか色々ヤバイ気がすると、咄嗟に目を逸らしたハジメに、ティオから警戒心の含まれた声が届く。

 

 

“ご主人様、雷電殿。人がおる。明らかに、普通ではないようじゃが……”

 

「何だって?」

 

「人…?生存者か?」

 

 

まさか、あの爆発で生き残った者がいるのかと驚きながら、ハジメと雷電がティオの視線を追うと、そこには確かに、白い法衣のようなものを着た禿頭の男がおり、ハジメ達を真っ直ぐに見つめていた。しかし、ティオの言う通り、普通の人間では有り得ない。なぜなら、その体が透けてゆらゆらと揺らいでいたからだ。

 

 

 

禿頭の男は、ハジメ達が自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように動いて瓦礫の山の向こう側へと移動した。そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、ハジメ達に視線を向ける。

 

 

「……ついて来いってことか?」

 

“じゃろうな。どうするのじゃ、ご主人様よ”

 

「……そうだな、さっさとユエ達と合流はしたいところだが……元々、ここには神代魔法目当てで来たんだ。もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。手がかりを逃すわけにはいかないな」

 

“ふむ。そうじゃの。では、追うとしよう”

 

 

ハジメの言葉に、ティオは一つ頷くと、翼をはためかせ瓦礫の山の上に降り立ち、ハジメと愛子を降ろしてから竜化を解いた。そして、背中の汚れに気がついて、少し眉を下げると“宝物庫”から代わりの服を取り出した。ハジメも、それで自分の状態に気がついたのか、“宝物庫”から服を取り出し、素早く着替えを済ませる。

 

 

「あぅ、す、すみません……汚してしまって……」

 

 

その原因である、愛子が、羞恥と申し訳なさで小さな体を更に小さくして謝罪する。女として、自分の吐瀉物で他人の服を汚すなど恥ずかしくて堪らないのだろう。

 

 

 

ハジメもティオも、仕方ない事だと分かっていたので、気にするなと声を掛けるが、そう簡単に割り切れるものでもない。なにせ、先程のやり取りで、愛子自身自分の気持ちを認めつつあり、それ故に、特にハジメに対しては色々と思う所があるのだ。

 

 

 

しかし、いつまでも縮こまっていられても困るので、ハジメはさっさと話題を転換する。

 

 

「先生、悪いが付いてきてくれ。何が起こるか分からないが……あのハゲが何者か、確かめないわけにもいかないんだ」

 

「は、はい。わかりました。……南雲君達に付いていきます……」

 

 

最後の付いて行くという言葉に妙な力と熱が篭っていたような気がするハジメだったが、敢えて気がつかない振りをして、禿頭の男が消えていった場所に歩を進めた。

 

 

 

禿頭の男は、その後も、時折姿を見せてはハジメ達を誘導するように瓦礫の合間を進んでいく。そして、五分ほど歩いた先で、遂に目的地についたようで、真っ直ぐハジメ達を見つめながら静かに佇んでいた。

 

 

「あんた、何者なんだ?俺達をどうしたい?」

 

「……」

 

 

禿頭の男は、ハジメの質問には答えず、ただ黙って指を差す。その場所は何の変哲も無い唯の瓦礫の山だったが、男の眼差しは進めと言っているようだ。問答をしても埓があかないと判断したハジメは、ティオ達と頷き合うとその瓦礫の場所へ踏み込んだ。すると、その瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下の地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

 

 

「……あんたは……解放者か?」

 

 

ハジメが質問したのと、地面が発する淡い輝きがハジメ達を包み込んだのは同時だった。

 

 

 

そして、次の瞬間には、ハジメ達は全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。

 

 

 

ハジメ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。ハジメは、何が何やらと頭上に大量の“?”を浮かべている愛子の手を引いて、ティオと頷き合うと精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。

 

 

 

と、いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず三人とも呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に、一瞬、罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして、攻略者と認められたのか、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれる。

 

 

「……魂魄魔法?」

 

「う~む。どうやら、魂に干渉できる魔法のようじゃな……」

 

「なるほどな。ミレディの奴が、ゴーレムに魂を定着させて生きながらえていた原因はこれか……」

 

「その様だな。アシュ=レイ、こっちから聞かなかったが、さっきのは解放者の一人か?」

 

「あぁ、彼奴の名は“ラウス・バーン”。神代魔法の一つ"魂魄魔法"の担い手だ。昔は聖光教会が誇る実質的な対外戦の最強の騎士団・白光騎士団の団長だそうだ」

 

 

いきなり頭に知識を刻み込まれるという経験に、頭を抱えて蹲る愛子を尻目に、ハジメは納得顔で頷くと、脇の台座に歩み寄り、安置された本を手にとった。

 

 

 

どうやら、中身は大迷宮“神山”の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようだ。オスカー・オルクスが持っていたものと同じで、解放者達との交流や、この“神山”で果てるまでのことが色々書かれていた。

 

 

 

しかし、ハジメには興味のないことなので、さくっと読み飛ばす。ラウス・バーンの人生などどうでもいいのである。彼が、なぜ映像体としてだけ自分を残し、魂魄魔法でミレディのように生きながらえなかったのかも、懺悔混じりの言葉で理由が説明されていたが、スルーである。

 

 

 

そして、最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい。

 

 

 

というのも、あの映像体は、最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事と、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないからだ。つまり、“神山”のコンセプトは、神に靡かない確固たる意志を有すること、のようだ。

 

 

 

おそらくだが、本来、正規のルートで攻略に挑んだのなら、その意志を確かめるようなあれこれがあったのではないだろうか。愛子も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、そんな信仰心より生徒を想う気持ちを揺るがせなかったから、あるいは教会の打倒に十分手を貸したと判断されたからだろう。

 

 

 

この世界の人々には実に厳しい条件だが、ハジメ達には軽い条件だった。

 

 

 

ようやく、神代魔法を手に入れた衝撃から立ち直った愛子を促して、台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、ハジメ達は、さっさとその場を後にした。再び、ラウス・バーンの紋章が輝いて元の場所に戻る。

 

 

「先生、大丈夫か?」

 

「うぅ、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰ることの出来る魔法だってあるかもしれませんね」

 

「全ての神代魔法を集めればですけどね?」

 

 

愛子が、こめかみをグリグリしながら納得したように頷く。その表情は、ここ数日の展開の激しさに疲弊しきったように疲れたものだったが、帰還の可能性を実感できたのか少し緩んでいる。その時に雷電はアシュ=レイにあることを聞き出す。

 

 

「……それはそうとアシュ=レイ、お前、神代魔法を持っていることを何で話さなかった?」

 

「あー、悪い。メルジーネ海底遺跡でお前達に起こされた時にすっかり伝えるの忘れてたぜ。それによ、俺の神代魔法である“消滅魔法”は、解放者にとっても、エヒトの連中にとっても、予想外の魔法だったそうだ。しかも、誰かに消滅魔法を教えたとしても、それを扱いきれず最終的に自分自身を消滅してしまうという危険性を持ったヤベぇ魔法だ」

 

「それは分かった。しかし、何でお前がそんな危険な神代魔法を得たんだ?」

 

 

雷電はアシュ=レイが消滅魔法を得た経緯を聞き出そうとしたが、アシュ=レイは珍しく問いに答えるのを拒否した。

 

 

「悪い、幾ら腐れ縁のお前でも話すことは出来ねぇ。だが、強いていうのなら、大切な何かを失ったその時に消滅魔法が発現したとしか言えねぇ」

 

「アシュ=レイ……」

 

 

これ以上聞き出すのは野暮であると判断した雷電は、あまり聞き出すことはしなかった。そしてハジメも、ユエ達を合流しようと意見する。

 

 

「それじゃ、魔法陣の場所もわかったことだし、早くユエ達と合流しよう」

 

「あっ、そうです!王都が襲われているんですよね?みんな、無事でいてくれれば……」

 

 

心配そうな表情で祈るように胸元をギュと握り締める愛子を促して、ハジメ達は、下山を開始した。といっても、“神山”から王都へ降りるためのリフトがある場所から飛び降りるだけだが。

 

 

 

強制フリーフォールを体験することになった愛子の悲鳴が木霊するものの、ハジメもティオもスルーだ。ぐったりした愛子を肩に担いで地面に降り立ったハジメ達は、あちこちから火の手が上がり悲鳴や怒号が響き渡る王都を尻目に愛子を送り届けるため、まず香織達がいる場所に向かう。

 

 

 

そして、合流した先で見たものは……

 

 

 

ブリッツやARCトルーパー達がシア達に銃口を向けている光景だった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

裏切りと尋問官

ここ最近、調子が良すぎて返ってくる反動が若干怖い。


74話目です。


 

 

時間は少し戻る。ちょうど、リリアーナ達が王宮内に到着した頃。

 

 

 

パキャァアアアアン!!

 

 

 

「ッ!?一体なにっ!?」

 

 

ガラスが砕かれるような不快な騒音に、自室で就寝中だった八重樫雫は、シーツを跳ね除けて枕元の黒刀を手に取ると一瞬で臨戦態勢を取った。明らかに、普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。

 

 

「……」

 

 

しばらくの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると僅かに安堵の吐息を漏らした。

 

 

 

雫が、ここまで警戒心を強めているのは、ここ数日、顔を合わせることの出来ないリリアーナと愛子の事が引っかかっているからだ。

 

 

 

少し前から、王宮内に漂う違和感には気がついていた。あの日、愛子が帰還した日に、夕食時に重要な話があるといって別れたきり姿が見えない事で、愛子の身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。

 

 

 

当然、二人の行方を探し、イシュタルから愛子達は総本山で異端審問について協議しているというもっともらしい話を聞き出したのだが、直接会わせてもらうことは出来なかった。なお食い下がった雫だったが数日後には戻ってくると言われ、またリリアーナの父で国王でもあるエリヒドにも心配するなと言われれば、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。

 

 

 

しかし、雷電が召喚したブリッツ達は別だった。ブリッツは密かに光輝ではなく、雫に愛子を護衛していた他のクローン達のシグナルが消失したことを話す。それ即ち、クローン達は何者かに殺され、愛子はその何者かに攫われたという事だ。ブリッツから聞かされた情報に戸惑いを覚えたが、あまり情報は拡散しない方がいいとブリッツが助言した後、雫は部屋に戻るが、漠然とした不安感は消えず、今のように、どこぞのスパイのような警戒心溢れる就寝をしていたのである。

 

 

 

雫は、音もなくベッドから降りると、数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。香織がハジメ達と共に旅に出てから雫は一人部屋だ。廊下に異常がないことを確かめると、直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。

 

 

 

扉はすぐに開き、光輝が姿を見せた。部屋の奥には龍太郎もいて既に起きているようだ。どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。

 

 

「光輝、あなた、もうちょっと警戒しなさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何するくらい手間じゃないでしょ?」

 

 

何の警戒心もなく普通に扉を開けた光輝に眉を潜めて注意する雫。それに対して光輝は、キョトンとした表情だ。破砕音は聞こえていたが、王宮内の、それも直ぐ外の廊下に危機があるかもしれないとは考えつかなかったらしい。まだ、完全に覚醒していないというのもありそうだ。

 

 

 

ここ数日、雫が王宮内の違和感や愛子達のことで、“何かがおかしい、警戒するべきだ”と忠告をし続けているのだが、光輝も龍太郎も考えすぎだろうと余り真剣に受け取っていなかった。

 

 

「そんな事より、雫。さっきのは何だ?何か割れたような音だったけど……」

 

「……わからないわ。とにかく、皆を起こして情報を貰いに行きましょう。何だか、嫌な予感がするのよ……」

 

 

雫はそれだけ言うと、踵を返して他のクラスメイト達の部屋を片っ端から叩いていった。ほとんどの生徒が、先程の破砕音で起きていたらしく集合は速やかに行われた。不安そうに、あるいは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた全生徒に光輝が声を張り上げてまとめる。

 

 

 

と、その時、雫と懇意にしている侍女の一人が駆け込んで来た。彼女は、家が騎士の家系で剣術を嗜んでおり、その繋がりで雫と親しくなったのだ。

 

 

「雫様……」

 

「ニア!」

 

 

ニアと呼ばれた侍女は、どこか覇気に欠ける表情で雫の傍に歩み寄る。いつもの凛とした雰囲気に影が差しているような、そんな違和感を覚えて眉を寄せる雫だったが、ニアからもたらされた情報に度肝を抜かれ、その違和感も吹き飛んでしまった。

 

 

「大結界が一つ破られました」

 

「……なんですって?」

 

 

思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。

 

 

「魔人族の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました」

 

「……そんな、一体どうやって……」

 

 

もたらされた情報が余りに現実離れしており、流石の雫も冷静さを僅かばかり失って呆然としてしまう。

 

 

 

それは、他のクラスメイト達も同じだったようで、ざわざわと喧騒が広がった。魔人族の大軍が、誰にも見咎められずに王都まで侵攻するなど有り得ない上に、大結界が破られるというのも信じ難い話だ。彼等が冷静でいられないのも仕方ない。

 

 

「……大結界は第一障壁だけかい?」

 

 

そんな中、険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。王都を守護する大結界は三枚で構成されており、外から第一、第二、第三障壁と呼び、内側の第三障壁が展開規模も小さい分もっとも堅牢な障壁となっている。

 

 

「はい。今のところは……ですが、第一障壁は一撃で破られました。全て突破されるのも時間の問題かと……」

 

 

ニアの回答に、光輝は頷くと自分達の方から討って出ようと提案した。

 

 

「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……」

 

 

光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。雫や龍太郎、鈴、永山のパーティーなど前線組だけだった。

 

 

 

他のクラスメイトは目を逸らすだけで暗い表情をしている。彼等は、前線に立つ意欲を失った者達だ。とても大軍相手に時間稼ぎとはいえ挑むことなど出来はしない。

 

 

 

ならば俺達だけでもと、より一層心を滾らせる光輝にニアが待ったをかける。

 

 

「お待ちください、光輝様。貴女方だけで戦うより、早くメルド騎士団長達と合流するべきです」

 

「ニアさん……だけど」

 

「ニアさん、大軍って……どれくらいかわかりますか?」

 

「……ざっとですが十万ほどかと」

 

 

その数に、生徒達は息を呑む。

 

 

「光輝。いくら俺達だけじゃ抑えきれねえ。……ここはメルドさんと合流して数には数で対抗しなければ勝てねえ。一応俺なりに考えたんだが、俺達は普通の人より強い分、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。それには、メルドさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃねえか?」

 

 

多少脳筋の龍太郎の意見はもっともなものだった。鈴も龍太郎の案に賛成だった。

 

 

「うん、鈴も龍っちに賛成かな。今はメルドさんのところにいって合流した方がいいもんね!流石龍っち!」

 

「お…おう……サンキューな」

 

「ふふ、私も龍太郎に賛成するわ。少し、冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」

 

 

幼馴染みと鈴の三人の意見に、光輝は逡巡する。しかし、普段は光輝と肩を並べるほど仲が良い龍太郎との判断を、光輝は結構信頼している事もあり、結局、龍太郎の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流することにした。

 

 

 

光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出した。何処かで三日月のように裂けた笑みをする者には気づかずに……

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

光輝達が、緊急時に指定されている屋外の集合場所に訪れたとき、既にそこには多くの兵士と騎士、ブリッツが率いるクローン達が整然と並び、前の壇上にはハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが声高に状況説明を行っているところだった。ホセの状況説明を聞いている最中ブリッツは、部屋で就寝していた雫達を見かけ、無事であった事に安堵する。月光を浴びながら、兵士達は、みな青ざめた表情で呆然と立ち尽くし、覇気のない様子でホセを見つめていた。

 

 

 

と、広場に入ってきた光輝達に気がついたホセが言葉を止めて光輝達を手招きする。

 

 

「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」

 

「はい、ニアから聞きました。えっと、メルドさんは?」

 

 

ホセの歓迎の言葉と質問に光輝は頷き、そして、姿が見えないメルドを探してキョロキョロしながらその所在を尋ねた。

 

 

「団長は、少し、やる事がある。それより、さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから……」

 

 

ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。居残り組のクラスメイトが、“えっ?俺達も?”といった風に戸惑った様子を見せたが、無言の兵達がひしめく場所で何か言い出せるはずもなく流されるままに光輝達について行った。

 

 

 

無言を通し、表情もほとんど変わらない周囲の兵士、騎士達の様子に、雫の中の違和感が膨れ上がっていく。それは、起きた時からずっと感じている嫌な予感と相まって、雫の心を騒がせた。無意識の内に、黒刀を握る手に力が入る。

 

 

 

そして、光輝達が、ちょうど周囲の全てを兵士と騎士に囲まれたとき、ホセが演説を再開した。

 

 

「みな、状況は切迫している。しかし、恐れることは何もない。我々に敵はない。我々に敗北はない。死が我々を襲うことなど有りはしないのだ。さぁ、みな、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日のために我々は存在するのだ。さぁ、剣をとれ」

 

 

兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。

 

 

「始まりの狼煙だ。注視せよ」

 

 

ホセが 懐から取り出した何かを頭上に掲げた。彼の言葉に従い、兵士達だけでなくブリッツ達や光輝達も思わず注目する。

 

 

 

そして……

 

 

 

カッ!!

 

 

 

光が爆ぜた。

 

 

 

ホセの持つ何かがハジメの閃光弾もかくやという光量の光を放ったのだ。無防備に注目していた光輝達は、それぞれ短い悲鳴を上げながら咄嗟に目を逸らしたり覆ったりするものの、直視してしまったことで一時的に視覚を光に塗りつぶされてしまった。

 

 

 

そして、次の瞬間……

 

 

 

ズブリッ

 

 

 

そんな生々しい音が無数に鳴り、

 

 

「あぐっ?」

 

「がぁ!」

 

「ぐふっ!?」

 

 

次いで、あちこちからくぐもった悲鳴が上がった。

 

 

 

先程の、光に驚いたような悲鳴ではない。苦痛を感じて、意図せず漏れ出た苦悶の声だ。そして、その直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。

 

 

 

そんな中、雫だけは、その原因を理解していた。広場に入ってからずっと最大限に警戒していたのだ。ホセの演説もどこか違和感を覚えるものだった。なので、光が爆発し目を灼かれた直後も、比較的動揺せずに身構え、直後、自分を襲った凶刃を何とか黒刀で防いだのである。目が見えない状況で気配だけを頼りに防げたのは鍛錬の賜物だろう。

 

 

 

そして、閃光が収まり、回復しだした視力で周囲を見渡した雫が見たのは、クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士達の剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられている姿だった。

 

 

「な、こんな……」

 

 

呻き声を上げながら上から伸し倒されるように押さえつけられ、更に、背中から剣を突き刺されたクラスメイト達を見て、雫が声を詰まらせる。まさか、全員殺されたのかと最悪の想像がよぎるが、みな、苦悶の声を上げながらも辛うじて生きているようだ。

 

 

 

そのことに僅かに安心しながらも、予断を許さない状況に険しい視線を周囲の兵士達に向ける雫だったが、その目に奇妙な光景が映り込み思わず硬直する。それは、ブリッツを含むクローン達が無事であった雫にブラスターを向けていた。

 

 

「ブリッツさん!?それに他のクローン達も……一体何をっ!?」

 

 

八重樫の問いに堪える事なくブリッツはブラスターの非殺傷のスタンモードで八重樫を撃つ。八重樫は信用していたクローン達に突然裏切られた形で気絶させられてしまう。

 

 

「雫っ!!」

 

「八重樫!?」

 

「シズシズ!?」

 

「………」

 

 

ブリッツは何も言わず、スタンモード状態のブラスターで光輝たちを撃ち、気絶させた後に別方向からクローン達が報告する。

 

 

「コマンダー、作戦の第一段階が完了しました。次の段階に移れます」

 

「分かった。……よしっお前達、これより我々は主神エヒトの命である()()()()6()6()を実行する。いずれここにくるであろう異端者こと抹殺対象の南雲ハジメと藤原雷電、そして、その仲間等を抹殺する。奴らは共和国だけではなく、このハイリヒ王国や我々までも裏切った反逆者である。よって、その反逆の罪状でジェダイに組する者は一人残さず処刑せよとの事だ。なお、ジェダイと同伴している清水利幸だけは殺すなとのことだ。この命令に従わない兵士も、同じく反逆罪で処刑される。分かったな?」

 

「「「イエッサー!」」」

 

「「「はっ!」」」

 

「既に反逆者が侵入されている可能性も否定できない。王宮には隠れられる場所が無数ある。捜索隊を編制、複数に分かれてしらみつぶしに探せ。残りは勇者達の治療後、ここでジェダイ達が来るのを待つ。いいな?……よし、掛かれ」

 

 

ブリッツの合図で兵士や騎士達は少数のクローン達と共に来るであろうハジメ達を抹殺する為に行動する。そして、残ったブリッツは待機していたニアに命ずる。

 

 

「ニア、お前はここで待機しろ。反逆者を誘き寄せるには彼等やお前の存在が必要不可欠だ」

 

「…了解しました」

 

 

そう命じられた後にニアは、覇気なき声でブリッツの命令を了承する。その時に、ブラスターのスタンモードで気絶させられていた雫は目を覚ます。しかし、つかさずクローンが押さえつける。

 

 

「ブリッツ……さん?それに、ニアも。ど、どうして……」

 

「……」

 

 

ブラスターのスタンモードで気絶させられたとはいえ、ダメージがない訳ではない。顔を歪めながらも未だに信じられないといった表情で、雫はブリッツやニアの方を見上げた。

 

 

 

ニアは、普段の親しみのこもった眼差しも快活な表情もなく、ただ無表情に雫を見返すだけだった。対してブリッツは、ヘルメットを被っていた為に表情などは分からなかったが。人が変わったかの様な激変が起きていた。

 

 

 

雫は、そこでようやく気がついた。最初は、ニアの様子がおかしい原因は王都侵攻のせいだろうと思っていたのだが、そうではなく、彼女の様子が自分の周囲を無表情で取り囲む兵士や騎士と雰囲気が全く同じであり、別のところに原因があるのだと。

 

 

 

ニアは、そのまま押さえつけられている雫の腕を取って捻りあげると地面に組み伏せて拘束し、他の生徒達にしているのと同じように魔力封じの枷を付けてしまった。

 

 

「どういうこと…なの……ブリッツさん」

 

「我々は、命令に従っているだけだ」

 

「命令……?それって、藤原くんの?」

 

「違う。()()()()や南雲ハジメ等を含む者達は主神エヒト、及び共和国の反逆者として抹殺対象である。我々は彼等を抹殺する様、主神エヒトに命じられた。君達はその彼等を釣る為の餌になってもらう。そうすれば、彼等は嫌でも出てくるだろう」

 

「なん……だって?」

 

 

すると、いつの間にか目を覚ました光輝達。そして光輝は、ブリッツに何故こんな事をしたのかを問い出す。

 

 

「どういう……事なんだ。一体…ぐっ…何故俺達を……裏切ったんだ……」

 

「これは裏切りではない、主神エヒトの命だ。お前達勇者には、抹殺対象である藤原雷電を始めとする南雲ハジメ達をこちらに引き寄せる為の餌となってもらうだけの事だ。()()()()()()()()()()()……ただ、それだけのことだ」

 

「まぁ……そういう事になるわね?」

 

 

突如と別方向から黒い装甲服を来た一団がやって来た。中にはオルクス大迷宮でハジメが倒したストーム・トルーパーと似た黒い装甲服を来た兵士達が居り、その前衛に二名の上官らしき人物がいた。ブリッツはその前衛にいる二名を上官として認識し、敬礼をする。

 

 

「勇者達の確保、完了しました。尋問官」

 

「ご苦労様。貴方達は引き続き任務を全うしなさい」

 

「イエッサー!直ちに…」

 

 

そう言ってブリッツは、捜索に行った兵士達と共に雷電達の捜索に向かうのだった。雫は何故、彼等が王宮に侵入できたかは謎であったが、一つだけ確信した事があった。

 

 

「…まさか…っ…大結界が簡単に…破られたのは……」

 

「おやっ……以外と察しが良いお嬢ちゃんの様ね?そうよ、私たちが壊したからさ。大結界の仕組みさえ理解できれば壊すのは他愛無いのよ」

 

 

雫の最悪の推測は当たっていたらしい。魔人族が、王都近郊まで侵攻できた理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは、尋問官と名乗る者たちの仕業だったようだ。尋問官の視線が、彼女の傍らに人が変わってしまったクローン達の反逆に尋問官が関わっていると判断していいだろう。

 

 

「あの坊やが召喚したクローンの一部はエヒトの使いが“魅了”で操った後に密かに知られず頭部にチップを埋め込んだのさ。そのチップには、坊や達が反逆者と認識させる為の認識改変効果があり、今の様に彼等クローンは私らの仲間というわけさね。本当の真実ですら知らずにね?」

 

「馬鹿な…彼等が操られているだけというのか…!」

 

 

光輝がクローン達が裏切った衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。クローン達は光輝にとって嫌いな存在であるが、自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、尋問官に対して拙い反論をする。

 

 

 

しかし、尋問官はそんな希望をあっさり打ち砕く。

 

 

「“オルクス大迷宮”で襲ってきた魔人族の女の遺品を回収しにきた賞金稼ぎの男を知ってるでしょ?そいつがこの国の王宮に忍び込み、王宮の見取り図を入手したというわけさ。その際にエヒトから送られた刺客の案内の下、賞金稼ぎはここの兵士や騎士に見つからずに済んだという訳さ」

 

 

尋問官はその証拠に王宮の見取り図を取り出し、雫達に見せびらかす。尋問官の言葉通り、敵は既に内部に忍び込まれ、最終的に見取り図や兵士達や騎士、クローン達を洗脳したのが彼等であったことに雫達はショックを隠せずにいた。

 

 

「彼等の…様子が…おかしいのは……」

 

「その通り、この兵士や騎士もクローン達と同様にチップが埋め込まれているのさ」

 

 

雫は、もたらされた非情な解答にギリッと歯を食いしばり、必死の反論をした。

 

 

「…嘘よ…仮に何でニアが…他と違うの?……それが分からない…!」

 

「簡単よ、フォースでアタシらに従う様に催眠を掛けただけさね。そのお陰でアナタ達をここに連れて来させるのがとても簡単だったよ」

 

 

そう説明する尋問官。しかし、ここで更なる追い打ちを光輝達に話す。

 

 

「それともう一つ、この世界の神エヒトは、たとえこの国が滅びようと世界がどうなろうと知ったことじゃないそうよ?エヒトを信仰していたものから聞いたら一体どのような反応を示すんだろうね?」

 

 

尋問官の言葉に光輝は許せないでいた。己の正義感としてなのか、人を操る輩を許せないのか分からなかったが、それでも光輝の怒りとしての起爆剤にしては十分すぎた。

 

 

「……許さない。…俺はお前達を……絶対に許さない!!」

 

 

そう宣言した瞬間、光輝に取り付けられた合計五つも付けられた魔力封じの枷に亀裂を入れ始めた。“限界突破”の“覇潰”でも使おうというのか、凄まじい圧力がその体から溢れ出している。

 

 

 

しかし、脳のリミッターが外れ生前とは比べものにならないほどの膂力を発揮する騎士達と関節を利用した完璧な拘束により、どうあっても直ぐには振りほどけない。だが、それでも諦めることはなく、やがて魔力封じの枷が壊れ、“覇潰”で押さえつけるクローンを突き飛ばし、聖剣を片手に尋問官に斬り掛かる。黒いストーム・トルーパー達はブラスターで光輝を撃とうとするも、尋問官に制止させる。

 

 

「勢い任せの攻撃じゃアタシ達には通用しないよ。ましてや、古臭い剣で相手するなんて命知らずにも程があるよ」

 

 

尋問官は、懸架していたライトセーバーを掴み出し、赤い光刃を展開させて光輝の聖剣とぶつかり合う……ことはなく、光輝の持つ聖剣は赤い光刃によって切断され、破壊される。

 

 

「なっ…!聖剣が!?」

 

「悪いけど坊やに構ってやる程、暇じゃないの!」

 

 

尋問官はフォース・プッシュで光輝を吹き飛ばす。光輝は、雷電と同じ力を尋問官達が持っていることを身を以て知ることとなった。それと同時に魔力封じの枷を破壊する際に“覇潰”を使ったことで多くの魔力を消費してしまい、短時間で魔力切れを起こし、動かなくなってしまう。これ以上抵抗されると面倒だと判断した尋問官はある事を思いつく。

 

 

「これ以上あの坊やに抵抗させられたら面倒ね?なら……()()()()位は必要の様ね?」

 

 

そう言って尋問官は、おもむろに一番近くに倒れていた近藤礼一のもとへ歩み寄る。

 

 

 

近藤は、嫌な予感でも感じたのか“ひっ”と悲鳴をあげて少しでも近づいてくる尋問官から離れようとした。当然、完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身じろぎする程度のことしか出来ない。

 

 

 

近藤の傍に歩み寄った尋問官は、何をされるのか察して恐怖に震える近藤に向かって再び、ヘルメット越しでニッコリと笑みを向けた。光輝達が、“よせぇ!” “やめろぉ!”と制止の声を上げる。

 

 

「や、やめっ!?がぁ、あ、あぐぁ…」

 

 

近藤のくぐもった悲鳴が上がる。近藤の背中には心臓の位置にライトセーバーの赤い光刃が突き立てられていた。ほんの少しの間、強靭なステータス故のしぶとさを見せてもがいていた近藤だが、やがてその動きを弱々しいものに変えていき、そして……動かなくなった。

 

 

「アンタ達が抵抗すれば何れこの坊やと同じ末路を辿ることになるよ。ならば、無駄な抵抗はしないことさ」

 

 

無言無表情で倒れ尽くす近藤を呆然と見つめるクラスメイト達の間に、尋問官の声が響く。たった今、クラスメイトの一人を殺した挙句、その死すら弄んだ者とは思えない声音だ。

 

 

 

「尋問官っ!あなた達はっ!」

 

 

余りの仕打ち、雫が怒声を上げる。催眠を掛けられ、操り人形と化したニアが必死にもがく雫の髪を掴んで地面に叩きつける。しかし、それがどうしたと言わんばかりに、雫の瞳は怒りで燃え上がっていた。

 

 

「ふふ。怒ってる様ね?その怒りが最も強力な力を引き出す。だからこそ、とっても素敵な役目をあげるわ」

 

「っ…役目……ですって?」

 

「私たちと同じ()()()なるのよ。お嬢ちゃんの剣術は尋問官に匹敵する程の実力がある。それに、フォースの素質としてもね?尋問官になったアナタが久しぶりに再会した親友を、自らの手で殺す対価として得られる力がどんなものか、アナタ自身、いずれ知ることになる筈よ。もし、アナタがそれを拒否するというのならそれでも構わないよ。その代わり、アナタの親友は私たちで殺すけどね?」

 

 

まさかの尋問官から勧誘されるとは思ってもいなかったと同時に、拒否すれば親友を殺すという言葉に雫の瞳が大きく見開かれる。

 

 

「…まさか、香織をっ!?」

 

「それ以外に何があるのさ?アナタの親友が殺されれば、アナタの力は増すどころか、私たちのとってより尋問官にふさわしい人材になるのよ。そうなれば、最高指導者もお喜びになるよ」

 

「ふ、ふざけっ!ごふっ…あぐぅあ!?」

 

 

怒りのままに、クローン達に抑えられていようとも動こうとする雫に、ニアが剣を突き刺した。

 

 

「あまり動かないでください、雫様。これも尋問官様の命です……」

 

「ぐっ…ニア……!」

 

「辛い様ね?でも、すぐ楽になるさ。私たち尋問官を受け入れ、己の欲に従えばいいのさ。彼等を切り捨ててね?」

 

 

今度は雫の番だというように、ヘルメット越しに甘い勧誘と笑みを浮かべながら歩み寄る尋問官。雫を尋問官側に引き入れようとするのを阻止しようと龍太郎達が必死の抵抗を試みる。

 

 

 

特に光輝は、“覇潰”の反動からまだ完全に回復していないのにも関わらず、無理矢理にでも何とか身体を動かそうとする。すると光輝の目先に、クローン達が持っていたブラスターを目視する。そのブラスターは、光輝が“覇潰”を発動させる前、拘束していたクローン達が所持してたブラスターだった。光輝に吹き飛ばした際にブラスターも吹き飛ばされた様だ。

 

 

 

聖剣を破壊され、武器を所有していないこの時の光輝は、仲間を救う為にブラスターを手にしようとするが、脳裏にある不安が過る。

 

 

 

この武器を使ったら、自分が信じていたものを否定してしまうのではないのか?と……

 

 

 

しかし、刻一刻と雫の危機が迫っていた為に選択の余地がなかった。光輝は幼馴染みの雫を助けるべく、ブラスターを手にする。そしてブラスターの銃口を尋問官の方に向ける。

 

 

「雫を…連れて行かせる……訳には……いかない!!」

 

 

光輝は最後の力を振り絞り、雫を救うためにブラスターの引き金を引こうとする。しかし……

 

 

「相変わらず詰めが甘いのよ、坊や…!」

 

 

尋問官は光輝の行動を読んでいたのかフォース・プルで光輝を引き寄せる。そして尋問官と光輝がすれ違い様に赤い光刃を一閃。ブラスター諸共、光輝の右腕を切り落とす。

 

 

「グアァっ!?」

 

「光輝っ!!」

 

「フッ……」

 

 

龍太郎は、光輝が右腕が切り落とされたことに声を上げ、そして尋問官は、右腕を切り落とした光輝を龍太郎達がいる方にフォース・プッシュで吹き飛ばした。龍太郎達は吹き飛ばされた光輝を受け止める。龍太郎達は光輝に声をかけるも、光輝は“覇潰”の反動や尋問官に右腕を切り落とされた痛みによって気を失っていた。

 

 

「まだ動けることには驚いたけど……とんだ茶番だったね?」

 

 

雫は、出血のため朦朧としてきた意識を必死に繋ぎ留め、せめて最後まで眼だけは逸らしてやるものかと尋問官を激烈な怒りを宿した眼で睨み続けた。

 

 

 

それを、尋問官は何処か期待気に雫を見下ろす。

 

 

「次はアナタの番。これ以上仲間を殺されたくなければ選択することだね?服従か、死か。そのどちらかをね?」

 

 

雫は、尋問官を睨みながらも、その心の内は親友へと向けていた。届くはずがないと知りながら、それでも、これから起こるかもしれない悲劇を思って、世界のどこかを旅しているはずの親友に祈りを捧げる。

 

 

(ごめんなさい、香織。次に会った時はどうか私を信用しないで……生き残って……幸せになって……)

 

 

何も答えず雫は、なお祈る。どうか親友が生き残れますように、どうか幸せになりますように。私は先に逝くけれど、死んだ私は貴女を傷つけてしまうだろうけど、貴女の傍には彼がいるからきっと大丈夫。強く生きて、愛しい人と幸せに……どうか……

 

 

 

沈黙は死を望むと断定した尋問官は、ライトセーバーの赤い光刃を雫に向けて突き下ろそうとする。色褪せ、全てが遅くなった世界で雫の脳裏に今までの全てが一瞬で過ぎっていく。ああ、これが走馬灯なのね……最後に、そんなことを思う雫に突き下ろされた赤い光刃は、彼女の命を……

 

 

 

…………奪わなかった。

 

 

 

「え?」

 

「何?」

 

 

雫と尋問官の声が重なる。

 

 

 

尋問官が突き下ろしたライトセーバーは、掌くらいの大きさの輝く障壁に止められていた。何が起きたのかと呆然とする二人に、ここにいるはずのない者の声が響く。ひどく切羽詰まった、焦燥に満ちた声だ。雫が、その幸せを願った相手、親友の声だ。

 

 

「雫ちゃん!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オーダー66ともう一人の影

何かとスランプ気味になりかけているうp主です。


75話目です。


 

 

時間は少し遡る……

 

 

 

光輝達が緊急時の集結の場所に向かっているその頃、フォードー達はユエ達と別れ、緊急事態時に騎士達が集結する集結場所に向かっていた。リリアーナ曰く、そこなら雫達がいる可能性があるとのことだ。時に、ブリッツが率いるクローンの部隊を見かけた。何やら慌ただしい様子だった。

 

 

「あれって……クローンさんだよね?」

 

「えぇ。アレはブリッツさんが率いる兵士の様です。ですが……何かが変です」

 

「あぁ……俺も何かと嫌な予感がする」

 

 

リリアーナの問いにファイヴスは同意する。この時にファイヴスは何かと嫌な予感をしていた。

 

 

「よしっ…ここは自分とファイヴスで確認に向かう。残りは香織達の護衛だ」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

フォードーがそう指示を出した後、ファイヴスと共にクローン達がいる方に向かう。そしてクローン達もフォード-達に気付いた様だが、何やら様子がおかしかった。それでもフォードーは状況を確認するべくクローン達に状況の説明を求めた。

 

 

「お前達、今どういう状況だ?」

 

「魔人族の襲撃です!…ですがご心配なく。現在、防衛態勢を構築しております」

 

 

そう報告されたが、それでも嫌な予感は拭えなかった。そして、その予感がある通信を傍受し、その内容によって的中してしまうのだった。

 

 

《各位、オーダー66を実行せよ。》

 

「「っ!!」」

 

 

“オーダー66”という単語と命令を聞いたフォードーとファイヴス。するとクローン達がブラスターをフォードー達に向け、引き金を引こうとした。

 

 

「フォードー!ファイヴス!」

 

 

……が、その前に清水はMK23を引き抜き、撃たれそうなフォードー達を助けるべく、フォードー達を射殺しようとするクローン達をヘルメットのバイザーを正確に撃ち抜き、ヘッドショットで息の根を止める。そして生命が停止したクローンはポリゴン状に砕け散った。

 

 

 

これを見ていた香織達は理解が追いつかなかった。清水が何故クローン達を射殺したのか以前に、何故クローン達がフォードー達を撃ち殺そうとしたのかを。

 

 

「「清水くん!?」」

 

「清水さん!?一体何を……」

 

「清水ではない、シャドウだ。あの時、俺が動かなかったら殺られていたのはフォードー達だった。それにフォードー達……特にファイヴスは、今のクローン達の変わり様を知っていたな?アレはもしや……」

 

 

清水はファイヴスにクローン達の変化について聞き出した。ファイヴスは、恐れていたことが別の意味で現実になっていたことに驚きを隠せなかった。

 

 

「はいっ……ですが、あれは本来なら、その……()()()()()筈なんです」

 

「「「ありえない……?」」」

 

「ありえないとは、アレか?行動抑制チップが埋め込まれている可能性があるのか?」

 

 

清水のいう行動抑制チップにリリアーナは、初めて聞く言葉に何なのか想像がつかなかった。一方の香織と恵里は、メルジーネ海底遺跡で雷電がクローン達の変貌の原因である行動抑制チップによる抑制と似ていることを思い出す。そんな彼女等を置いて、ファイヴスは清水の問いに答える。

 

 

「はい。もし兄弟達が、行動抑制チップを頭に埋め込まれているとすれば、今の彼等が行った行動に辻褄が合います。更に可能性を考慮すれば、此処にいる兵士や騎士達も同じ様に埋め込まれている可能性も否定できません」

 

「……となると、次にブリッツ達に会うときは敵と認識するべきか。だが、ブラスターはスタンモードで非殺傷に設定しておく。もし状況によってはお前達の兄弟と殺し合うことになる。それだけは覚悟した方がいい」

 

「……覚悟の上だ」

 

 

そう言って清水はDC-17ハンド・ブラスターをスタンモードに設定した後に“宝物庫”から5.56mm MkⅢアサルトライフルを取り出し、マガジンを引き抜いて残弾を確認した後に再びアサルトライフルに装填し、周囲を警戒しながらも緊急集結場所に向かう。そして、その通り道で香織達はある人物を目撃する。

 

 

「あれは……メルドさん?」

 

「騎士団長?何故此処に……」

 

 

そう発言したのは香織、その次がリリアーナだった。だが、今のメルドは何かを探している様に見えた。するとメルドが香織達を目視した途端、何やら香織達のことを敵として見る様な目をして殺意を抱き、剣を抜く。

 

 

「此処に居たか。主神エヒトの神敵……!」

 

「め…メルドさん!?」

 

「そんな…!騎士団長まで……!?」

 

「…チィッ!!」

 

 

香織とリリアーナはメルドが敵になっていることにショックを受けていたが、清水はこれ以上の面倒ごとは避けたいと判断したのか、スタンモードのDC-17ハンド・ブラスターでメルドを撃ち、即座に気絶させる。

 

 

「まさかメルドまでもが……」

 

「その様だな。一応であるが、このまま寝かせておこう。強いショックで目を覚ましている可能性だってある」

 

「清水さん……ありがとうございます」

 

 

清水やフォードーにとってメルドは“世話になった人物”であり、死なせるのは惜しい人物でもある為、メルドを殺さないでくれたことをリリアーナは清水に感謝するのだった。清水はいつも通りに“清水じゃない、シャドウだ”と言いながらもアサルトライフルを構え直してそのまま王宮の奥へと向かうのだった。

 

 

 

そして今現在に至る……

 

 

 

「雫ちゃん!」

 

 

その声と共に、いつの間にか展開されていた十枚の輝く障壁が雫を守るように取り囲んだ。そして、その内の数枚がニアと尋問官の眼前に移動しカッ!と光を爆ぜた。バリアバースト擬きとでもいうべきか、障壁に内包された魔力を敢えて暴発させて光と障壁の残骸を撒き散らす技だ。

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

咄嗟に両腕で顔を庇った尋問官だが、その閃光に怯んでバランスを崩した瞬間に砕け散った障壁の残骸に打ち付けられて後方へと吹き飛ばされた。

 

 

 

雫を抑えていたニアも同様に後方へとひっくり返る。すぐさま起き上がって雫を拘束しようとするものの、直後、光の縄が地面から伸び一瞬で縛り付けられてしまった。

 

 

 

雫が、突然の事態に唖然としつつも、自分の名を呼ぶ声の方へ顔を向ける。

 

 

 

そして、周囲を包囲するクローン達や黒いストーム・トルーパー達の隙間から、ここにいるはずのない親友の姿を捉えた。夢幻ではない。確かに、香織が泣きそうな表情で雫を見つめていた。きっと、雫達の惨状と、ギリギリで間に合ったことへの安堵で涙腺が緩んでしまったのだろう。

 

 

「か、香織……」

 

「雫ちゃん!待ってて!直ぐに助けるから!」

 

 

香織は、広場の入口から兵士達に囲まれる雫達へ必死に声を張り上げた。そして、急いで全体回復魔法を詠唱し始める。光系最上級回復魔法“聖典”だ。クラスメイト達の状態と周囲を状況から一気に全員を癒す必要があると判断したのだ。

 

 

「おやまぁ…随分とお早い到着の様ね?それにしても、アンタがそっち側で生かされているなんて想いもしなかったわ。ねぇ、シャドウ?」

 

「お生憎様でな?どの道、俺を都合の良いタイミングで斬り捨てる積もりだったんだろ?だったら、その落とし前くらいはつけさせてもらう」

 

 

清水はアサルトライフルを尋問官に向け、尋問官はライトセーバーから赤い光刃を展開して向かい合う。その間にリリアーナは、雫達を回復させている香織を手助けする様に自分と香織を包むように球状の障壁が二人を守る。

 

 

「みなさん!一体、どうしたのですか!正気に戻って!」

 

 

リリアーナは、騎士や兵士達、クローン達が光輝達を殺そうとしている状況にひどく混乱していた。リリアーナは術師としても相当優秀な部類に入る。モットーの隊商を全て覆い尽くす障壁を張り、賊四十人以上の攻撃を凌ぎ切れる程度には。なので、たとえ、騎士達がリミッターの外れた猛烈な攻撃を行ったところで、香織の詠唱が完了するまで持ち堪えることは十分に可能だった。

 

 

 

そしてドミノ、デルタ、不良分隊は雫達を守りながらも敵対するクローン達と黒いストーム・トルーパーと相対する。

 

 

 

その様子を清水と相対しながら見ていた尋問官は、リリアーナの障壁に多少頭を悩ましていたが、何かと余裕のある表情だった。

 

 

「あの王女様もやるじゃないさ。だったら、これを出すとしようかしら」

 

「何……?」

 

 

そう言って尋問官が懐から取り出したのは一つのホロジェクターだった。清水は何故ホロジェクターを取り出したのか疑問に思った。その時にホロジェクターから黒い装束を着たある老人の映像が映し出される。その時、清水の脳裏に電流が走る。

 

 

(この映し出された老人……一体何だ?それに、何故か俺はこの老人のことを知っている。一体どういう……っ!まさか……!)

 

 

この時に清水は最悪のパターンを予測する。そして映し出された老人からある言葉を発する。

 

 

()()()()6()6()を実行せよ…》

 

「…っ!」

 

 

そう聞かされた清水は、認識が塗り潰される様な感覚を覚える。それは、クローン達と共に戦っていた雷電達の光景が()()()()()()()()()()()()()()()()()に塗り潰される。清水はそれが偽りの認識であると自覚しているものの、何かに抑制されて自分の意志で逆らうのは難しかった。

 

 

「はい……シディアス卿」

 

 

そう清水が小さく呟き、了承した瞬間にシアとユエがやって来て香織達と合流する。

 

 

「お待たせしました、皆さん!……って、あれ?クローンさん達の雰囲気が何か違うです」

 

「んっ……確かに、様子が変みたい」

 

「ユエさん!シアさん!」

 

「ユエ、シアさん!気を付けて!今のクローンさん達は正気じゃない!」

 

 

香織の注告にユエ達はクローン達に対して警戒し、クローン達や黒いストーム・トルーパー達もブラスターをユエに向ける。一触即発の状況になったその時に……

 

 

「止せ!」

 

「「「っ!?」」」

 

 

清水が“待った”を掛け、クローン達と黒いストーム・トルーパー達を制止させる。そして、何かに抗うかの様に手は震えながらも“宝物庫”を取り外す。

 

 

「俺が……俺がやる」

 

「シャドウさん?」

 

「シャドウ……どうしたの?」

 

「清水くん?一体どうしたの……?」

 

「清水さん……貴方は一体何を?」

 

 

其々が清水の様子がおかしいことに気付いており、一体どうしたのか声をかける香織達。しかし、それを清水が否定する。

 

 

「寄るな!」

 

「「「…!!」」」

 

 

しまいにはブラスターを香織達に向け、近づくなと警告する。そして清水は、外した“宝物庫”をフォードーに向けて投げ渡す。

 

 

「シャドウ?……お前、まさか…!」

 

「まさか……頭部に()()()()()が!?」

 

「そうらしい…!…っ、とにかく…雷電やハジメに伝えろ……!」

 

 

清水は何かに抵抗し、震えながらもブラスターを香織達に向けていた。

 

 

「伝えるんだ……次に、次に俺と会ったら、迷わずに()()と!!」

 

「っ!“聖絶”」

 

 

清水がブラスターの引き金を引いたと同時にリリアーナが“聖絶”を発動させ、香織達を守る。そして、それを切っ掛けにクローン達や黒いストーム・トルーパー達もブラスターで攻撃を開始する。

 

 

 

シアはクローン達が何故こうなったのかまだ分からなかったが、今は香織達を守ることに専念する為にライトセーバーを手にしてクローン達から放つブラスターの光弾を弾きながらも、ユエは魔法で、フォードーやドミノ、デルタ、不良分隊はブラスターで、クローン達や黒いストーム・トルーパー達に対して応戦するのだった。

 

 

 

まさに混戦となった時に尋問官は、この混戦を利用してリリアーナの背後を取り、後ろから討とうとする。

 

 

「この混戦……まさに好機というんじゃないのかしらね?リリアーナ王女殿下?」

 

「っ!?」

 

 

リリアーナに赤い光刃が襲いかかるが、障壁のおかげで守られていたものの、尋問官の激しい剣戟に障壁が耐えきれず。やがて限界を迎え、障壁が砕かれ、尋問官のライトセーバーの赤い光刃によって貫かれそうになる。

 

 

「しまっ……!」

 

「終わりよっ!」

 

「…!?リリィ!」

 

 

リリアーナが尋問官に殺されそうになっている所を香織は目撃し、咄嗟にリリアーナの所に向かい、香織はリリアーナを守る為に突き飛ばす。

 

 

「きゃぁあ!?」

 

「あぐぅ!?」

 

 

その結果、リリアーナの障壁が解け、香織に突き飛ばされて一命を取り止め、地面に横たわるリリアーナの姿と背後から抱き締められるようにして胸から赤い光刃を突き出す香織の姿だった。

 

 

「香織ぃいいいいーー!!」

 

 

雫の絶叫が響き渡る。

 

 

 

尋問官の思惑が外れたが、これはこれで結果としては上々だった。雫を尋問官(こちら)側に引き寄せる為の贄としては十分過ぎた。そう考えていた矢先に……

 

 

「…っ!」

 

 

「…何っ!?」

 

 

尋問官のライトセイバーに貫かれている筈の香織は、懐からヴォルトが作りしDC-17の改造銃“ヘルメス”を尋問官の方に向けて引き金を引いた。流石の尋問官も香織の予想外の反撃に反応が遅れ、胴体に一発の光弾が直撃する。

 

 

「がぁっ!?……この小娘がっ!!」

 

 

尋問官は香織に突き刺しているライトセイバーを引き抜くと同時にフォース・プッシュで雫達の方に吹き飛ばした。そして、胴体に受けたブラスターの銃創を手で抑えながら痛みをこらえていた。

 

 

「香織!しっかりして、香織!!」

 

 

尋問官に吹き飛ばされた香織は、雫に支えられ、声をかけられていた。そんな彼女は致命傷を負いながら何かを呟いている。

 

 

「────ここ…に…せいぼ…は……ほほえ…む…“せい…てん”」

 

 

致命傷を負ってなお、完成させた最上級魔法の詠唱。香織の意地の魔法行使。

 

 

 

香織にも、自分が致命傷を負ったという自覚があるはずだ。にもかかわらず、最後の数瞬に行ったのは、泣くことでも嘆くことでも、まして愛しい誰かの名前を呼ぶことでもなく……戦うことだった。

 

 

 

香織は思ったのだ。彼は、自分が惚れた彼は、どんな状況でもどんな存在が相手でも決して諦めはしなかった。ならば、彼の隣に立ちたいと願う自分が無様を晒す訳にはいかないと。そして、ほとんど意識もなく、ただ強靭な想いだけで唱えきった魔法は、香織の命と引き換えに確かに発動した。

 

 

 

香織を中心に光の波紋が広がる。それは瞬く間に広場を駆け抜け、傷ついた者達に強力な癒しをもたらした。尋問官も此処が潮時であると判断し、黒いストーム・トルーパーに命令する。

 

 

「お前達、私が引くまで時間を稼ぎなさい。シャドウ、あなたも私と共に引くよ!」

 

「了解した……」

 

 

命じられたことを実行する黒いストーム・トルーパー。そして清水も尋問官の指示に従う様に尋問官と共に撤退する。

 

 

「……よくも、よくも香織をっ!!」

 

 

そんな尋問官を許さないのが、香織の親友である雫だった。今の雫は怒りの感情に支配されており、回復したばかりの身体に負荷をかけさせても尋問官を殺すつもりで黒刀を手に尋問官に向かおうとするが、フォードーに制止される。

 

 

「止せ!一人で突っ込むのは危険だ!!」

 

「はぁぁああっ!!」

 

 

そんなフォードーの制止を聞かず、雫はいかりに身を任せて黒刀で尋問官に斬り掛かろうとするが……

 

 

 

“ドパンッ!”

 

 

 

そんな雫に一発の弾丸が雫の胴体に撃ち抜かれる。

 

 

「かはぁっ!?」

 

「………」

 

 

雫を撃ったのは清水だった。清水は手持ちのアサルトライフルの5.56mm弾を雫に喰らわせたのだ。その結果、雫は清水の凶弾によって倒れ込む。想いも寄らないものが向こうからやって来たことに尋問官は思わずヘルメット越しに微笑む。

 

 

「……想いも寄らない所に来た様ね?でも、丁度良いわ。アナタには少しばかりジェダイの坊やを釣る為の餌になってもらうわ」

 

「ぐっ…香織を……よく…も……!」

 

 

そうして雫は黒刀を手放して気を失い、尋問官は清水に命じて負傷した雫を抱えて、王国から撤退するのだった。

 

 

「雫っ!!」

 

「シズシズーっ!!」

 

 

龍太郎達は雫が敵に捕らわれたことに悲痛の声を出す。だが、それもこの混戦の中では無意味に等しい。そして最悪なことには……

 

 

「行けっ!突撃!」

 

「進め!」

 

「反逆者はあそこだ!」

 

「GO!GO!GO!」

 

 

ブリッツが新たにARCトルーパーとクローン・トルーパーの混成一個中隊を率いてシア達が逃走するであろう通路を塞ぐ様に並び、シア達を包囲する。これには龍太郎達も絶句する。

 

 

「嘘……だろ!?」

 

「クローン達が、戻ってきた!」

 

「反逆者に告ぐ。お前達は包囲された。逃げようにも、通路は此処しかない。無駄な抵抗はせず、大人しく処刑を受けよ」

 

 

ブリッツ達に包囲され、退路を断たれたシア達。龍太郎達にとって絶望的状況の戦場にある二人の声がやけに明瞭に響いた。

 

 

「……一体、どうなってやがる?」

 

「クローン達がどうして……まさか!」

 

 

それは、白髪眼帯の少年、南雲ハジメとクローン達の召喚者でもあるジェダイ、藤原雷電の声だった。

 

 

 

ハジメの登場に、まるで時間が停止したように全員が動きを止めた。それは、ハジメが凄絶なプレッシャーを放っていたからだ。

 

 

 

ハジメは、自分を注視する何百人という人間の視線をまるで意に介さず、周囲の状況を睥睨する。クラスメイト達を襲う大量のブリッツ率いるクローン達と黒いストーム・トルーパー達、一塊になって円陣を組んでいるクラスメイト達、右腕を切り落とされて倒れ伏す光輝、そしてライトセイバーによる何かに突き刺され、命の鼓動を止めている香織……

 

 

 

その姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配が広場を一瞬で侵食した。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う気配。圧倒的な死の気配だ。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。

 

 

 

刹那、ハジメ達の姿が消えた。

 

 

 

そして、誰もが認識できない速度で移動したハジメは、轟音と共に香織の傍に姿を見せる。そして雷電は、シアの傍に姿を現す。ハジメは、片腕で香織を抱き止めると、そっと顔にかかった髪を払った。そして、大声で仲間を呼ぶ。

 

 

「ティオ! 頼む!」

 

「っ……うむ、任せよ!」

 

「し、白崎さんっ!」

 

 

ハジメの呼びかけに応えて、一緒にやって来たティオが我を取り戻したように急いで駆けつけた。傍らの愛子も血相を変えて香織の傍にやって来る。ハジメから香織を受け取ったティオは急いで詠唱を始めた。そして雷電は、シアに現在の状況の説明を求めた。

 

 

「シア!一体どうゆう状況だ?何故クローン達がお前達を襲っているんだ?それに、仲間のシャドウや、クラスメイトの八重樫がいないが、二人はどうしたんだ?」

 

「はっはい、マスター!先ず、私たちを包囲しているクローンさん達は、頭に行動抑制チップというものが埋め込まれています!それと、シャドウさんも知らぬ間にチップが埋め込まれていた様です!その際にシャドウさんがこう言ってました、“次に俺と会ったら、迷わずに()()!!”と。そして八重樫さんは尋問官に連れ攫われました!」

 

「そうか……クソッ!」

 

 

シアの報告に思わず悪態を履く雷電。そして、ハジメのプレッシャーから何とか脱したブリッツとARCトルーパー達は新たに現れたハジメ達にブラスターを向けるのだった。

 

 

「例の反逆者が王宮内に現れた。至急こちらに集結せよ」

 

 

ブリッツは捜索している残りのトルーパーに集結命令を出す。そして、今いる人数で雷電達を撃とうとしたその時にドミノ分隊のファイヴスとARCトルーパーのフォードー、そしてデルタ分隊のボスがそこで待ったを掛ける。

 

 

「待て!撃つな!撃つんじゃない!!」

 

「コマンダー・ブリッツ!如何か銃を下ろさせてくれ!」

 

「私からも待ったを掛けさせてもらう」

 

 

それでもブリッツ達はブラスターを下ろさなかったが、話を聞くだけ聞く様だ。

 

 

「ARC-5555、キャプテン・フォードーにデルタ分隊。我々の使命は共和国の為にある筈。ならばそこの反逆者である藤原雷電と南雲ハジメを処刑しなければならない」

 

「待ってください、コマンダー・ブリッツ!貴方は行動抑制チップの本当の真実を知っている筈!」

 

「ファイヴスの言う通り、オーダー66は共和国を裏切ったジェダイを処刑せよというもの。そこで問題は、此処にいる将軍は我々の世界では“ライ=スパーク”としてジェダイの騎士であったものの、一度は我々に処刑されている。そして将軍は、地球という惑星で転生し、“藤原雷電”という新たな生を得た。何を言いたいのかというと、此処にいる将軍は我々がいた世界のジェダイではなく、地球の人間であるということだ」

 

「それに加え、オーダー66の真相は、黒幕である“ダース・シディアス”ことシーヴ・パルパティーン議長こそが俺達共和国の敵でもあるんだ。その黒幕の命令に従う必要はない筈だ」

 

 

ファイヴス、フォードー、ボスの発言にブリッツはフォードーに対してこう言い返した。

 

 

「フォードー……例えそれが、()()()()()()()()()()()()だとして、我々はその命令を拒否する権限はない。それはお前とて分かっている筈……」

 

「コマンダー・ブリッツ!よく聞いてほしい!もしここで手順を誤れば、自分等が反逆者になる!彼等ではなく!」

 

「貴方にも分かっている筈です!本当はこんな事は間違っていると!」

 

「武器を下ろすんだ、コマンダー。俺達とて、兄弟達を撃ちたくない」

 

 

何とかブリッツを説得し様にも、ブリッツは行動抑制チップの影響で私情ではなく命令を優先したのだった。

 

 

「ドミノ分隊、及びデルタ分隊、クローンフォース99。そしてキャプテン・フォードー。貴官はオーダー66に違反している。共和国軍への明らかな反逆行為と認定。キャプテンの地位を剥奪し、裏切り者“藤原雷電”、“南雲ハジメ”とその仲間と共に、この場で処刑する!」

 

 

その言葉に他のARCトルーパー達はハジメ達にブラスターを向け、オーダー66の命令を実行する為に攻撃態勢に入る。最早これ以上の説得は無意味であると悟ったフォードー達は、心苦しいままブリッツ率いるARCトルーパー達にブラスターを向ける。そして雷電もまた、ライトセイバーを手にし、青い光刃を展開してブリッツ達と対峙する。

 

 

「マスター……心苦しいかもしれませんが、今はこの場を切り抜ける為に気持ちを切り替えなければやられるのは私たちです」

 

「分かっている。……彼等はただ、命令に従っているだけなんだ。彼等の行いに非はない……だが、敵として前に立ち塞がる以上、加減はしない!」

 

 

ここで手心をいれてしまえば、それはブリッツ達にとっての侮辱でしかない。苦痛の決断の際に雷電はハジメに香織の状態はどうなっているのか確認を取った。

 

 

「ハジメ、香織の様子はどうだ?」

 

「今、ティオが香織の魂を肉体から離れないよう固定させているところだ。今はティオに任せるしかないな」

 

「そうか……フォードー達、此処からは兄弟達との戦闘になる。それ相応の覚悟はあるか?」

 

 

そう雷電がフォードー達に問いかけると、フォードー達は答える。

 

 

「……覚悟なら、出来ています。最も、こんな形になってほしくなかったのですが……」

 

「起こってしまったことに悔やんでも意味はない。今はこの状況を切り抜けることが先決だ」

 

「中隊、撃ち方…用意!「待ちなっ!」…何っ!?」

 

 

戦闘が起ころうとした矢先に、一人の男の声に制止させれる。そんなブリッツ達と雷電達の間にアシュ=レイが降りてきた。そしてアシュ=レイは、ブリッツ達の前で着地したと同時にフォース・プッシュでブリッツ達の陣形を崩した。そして、ルイントから回収したライトセイバーを手に堂々と宣言する。

 

 

「アシュ=レイ・ザンガだ!俺を恐れぬ奴は、何処からでも掛かって来やがれ!!」

 

「…ジェダイがもう一人だと!?」

 

 

突然のアシュ=レイの襲撃にブリッツは困惑したが、ジェダイがもう一人増えたことに変わりなく、命令道理にアシュ=レイも雷電達と共に処刑しようとブラスターを向ける。しかし、それよりも雷電がフォース・プッシュでブリッツを吹き飛ばし、王宮の柱にぶつけて意識を刈り取る。

 

 

 

これを合図にハジメ達は戦闘を開始する。ハジメに至ってはある意味複雑の気分でありながらも、オーダー66によって殺された雷電の気持ちが分かった様な気がした。

 

 

「本当に複雑な気分だな。まさかクローン達を本当に敵対することになるとはな……」

 

 

そう呟きながらも特攻の如く迫り来るARCトルーパーにドンナーとシュラークでARCトルーパーを倒すハジメ。ARCトルーパー達は、仲間が次々とやられているのにも関わらず、物量で一気に攻め落とそうと攻撃を続ける。

 

 

「だが……数だけいようが関係ねぇ。敵対する奴はたとえクローンだろう殺す!」

 

 

ハジメが戦っているその頃、ユエとシアは互いに背を守りながらもクローン達と交戦していた。シアがライトセイバーでブラスターの光弾を弾き、ユエが魔法と白い銃で応戦する。攻防一体のコンビネーションでクローン達を蹴散らす。

 

 

 

ドミノ、デルタ、不良分隊、フォードーは同じ兄弟であるクローン達相手に応戦し、撃退していた。特にフォードーやドミノ分隊にとって心苦しいことだった。同じクローンである兄弟達を倒さなければならないことに。それでも割り切って、雷電達やクラスメイト達を守るのだった。

 

 

 

雷電とアシュ=レイは互いに背を向けながら黒いストーム・トルーパー達の攻撃を凌いでいた。そんな時にアシュ=レイは雷電に軽口を叩く。

 

 

「そういやぁ、昔を思い出すな?クローン戦争の中期辺りにこういう状況に陥ったことが合ったよな?」

 

「そういえば、そんな事があったな?だが、その話を今ここで出すか普通?」

 

「そうでもしねぇとお前は何もかも抱え込んでしまって、色々と面倒なことになっちまうだろうが!たまにはこういうのもありだろ?」

 

「……まったく、問題児と言われる割には情が厚い様だな?そういう神経には本当、今では感謝しているよ!」

 

 

そうぼやきながらもアシュ=レイと共に迫り来る黒いストーム・トルーパー達を捌いてく。腐れ縁なだけあって、二人のコンビネーションは意外にも最高だった。アシュ=レイが攻めで雷電が守り。攻守という意味ではユエ達の次に最強だった。

 

 

 

そうして十数分後……

 

 

 

ブリッツを除くARCトルーパー、及びクローン・トルーパー、黒いストーム・トルーパー達は雷電達によって全滅した。雷電は倒されたクローン達に“すまない…”と謝罪と敬礼をしていた。周囲を確認し、他の増援がないかを確認しようとしたハジメに目掛けて極光が襲いかかった。

 

 

「チッ……」

 

 

ハジメは、舌打ちしつつその場から飛び退き、極光の射線に沿ってドンナーを撃ち放った。三度轟く炸裂音と同時に、極光という滝を登る龍の如く、三条の閃光が空を切り裂く。

 

 

 

直後、極光の軌道が捻じ曲がり、危うく光輝を灼きそうになったが、寸前でリリアーナが“聖絶”を発動し、光輝達を守った。更にドミノ分隊のヘヴィーは、万が一の為に持っていた分隊偏向シールド発生装置を機動させ、光輝達とフォードー達を守る。流石に極光で死ぬのは勘弁して欲しいところだろう。

 

 

 

やがて、極光が収まり空から白竜に騎乗したフリードが降りてきた。

 

 

「……そこまでだ、白髪の少年にジェダイ。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」

 

 

どうやらフリードは、ハジメを光輝達や王国のために戦っているのだと誤解しているようである。周囲の気配を探れば、いつの間にか魔物が取り囲んでおり、龍太郎達や雫、そしてティオや愛子達を狙っていた。

 

 

 

ハジメ達が本気で戦えば、甚大な被害が出ることを理解しているため人質作戦に出たのだろう。ハジメは知らないことだが、ユエに手酷くやられ、ハジメ達には敵わないと悟ったフリードの苦肉の策だ。なお、ユエに負わされた傷は、完治にはほど遠いものの、白鴉の魔物の固有魔法により癒されつつある。

 

 

 

と、その時、香織に何かをしていたティオがハジメに向かって声を張り上げた。

 

 

「ご主人様よ!どうにか固定は出来たのじゃ!しかし、これ以上は……時間がかかる……出来ればユエの協力が欲しいところじゃ。固定も半端な状態ではいつまでも保たんぞ!」

 

 

ハジメは、肩越しにティオを振り返ると力強く頷いた。何のことかわからないクラスメイト達は訝しそうな表情だ。しかし、同じ神代魔法の使い手であるフリードは察しがついたのか、目を見開いてティオの使う魔法を見ている。

 

 

「ほぉ、新たな神代魔法か……もしや“神山”の? ならば場所を教えるがいい。逆らえばきさっ!?」

 

 

フリードが、ハジメ達を脅して“神山”大迷宮の場所を聞き出そうとした瞬間、ハジメのドンナーが火を噴いた。咄嗟に、亀型の魔物が障壁を張って半ば砕かれながらも何とか耐える。フリードは、視線を険しくして、周囲の魔物達の包囲網を狭めた。

 

 

「どういうつもりだ?同胞の命が惜しくないのか?お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ?それとも、それが理解できないほど愚かなのか?外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている。お前達がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることが……」

 

 

その言葉を受けたハジメは、フリードに向けていた冷ややかな視線を王都の外──王都内に侵入しようとしている十万の大軍がいる方へ向けた。そして、無言で“宝物庫”から拳大の感応石を取り出した。訝しむフリードを尻目に感応石は発動し、クロスビットを操る指輪型のそれとは比べ物にならない光を放つ。

 

 

 

猛烈に嫌な予感がしたフリードは、咄嗟に、ハジメに向けて極光を放とうとする。しかし、ハジメのドンナーによる牽制で射線を取れず、結果、それの発動を許してしまった。

 

 

 

──天より降り注ぐ断罪の光。

 

 

 

そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、種族も性別も貴賎も区別せず、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で目標を薙ぎ払う。

 

 

 

キュワァアアアアア!!

 

 

 

独特な調べを咆哮の如く世界に響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径五十メートルくらいだろうか。光の真下にいた生物は魔物も魔人族も関係なく一瞬で蒸発し、凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らす。

 

 

 

ハジメが手元の感応石に魔力を注ぎ込むと、光の柱は滑るように移動し地上で逃げ惑う魔物や魔人の尽くを焼き滅ぼしていった。

 

 

 

防御不能。回避不能。それこそ、フリードのように空間転移でもしない限り、生物の足ではとても逃げ切れない。外壁の崩れた部分から王都内に侵入しようとしていた魔物と魔人族が後方から近づいて来る光の柱を見て恐慌に駆られた様に死に物狂いで前に進み出す。

 

 

 

光の柱は、ジグザグに移動しながら大軍を蹂躙し尽くし、外壁の手前まで来るとフッと霧散するように虚空へ消えた。

 

 

 

後には、焼き爛れて白煙を上げる大地と、強大なクレーター。そして大地に刻まれた深い傷跡だけだった。ギリギリ、王都へ()()()()ことが出来た魔人族は安堵するよりも、唯々、一瞬にして消えてしまった自軍と仲間に呆然として座り込むことしか出来なかった。

 

 

 

そして、思考が停止し、呆然と佇むことしか出来ないのは、ハジメの目の前にいるフリードやフォードー達、恵里達も同じだった。

 

 

「愚かなのはお前だ、ド阿呆。俺がいつ、王国やらこいつらの味方だなんて言った?てめぇの物差しで勝手なカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したきゃ、勝手にやってろ。ただし、俺の邪魔をするなら、今みたいに全て消し飛ばす。まぁ、百万もいちいち相手してるほど暇じゃないんでな、今回は見逃してやるから、さっさと残り引き連れて失せろ。お前の地位なら軍に命令できるだろ?」

 

 

同胞を一瞬にして殲滅した挙句の余りに不遜な物言いに、フリードの瞳が憎悪と憤怒の色に染まる。しかし、例え、特殊な方法で大軍を転移させるゲートを発動させているとはいえ、ハジメの放った光の柱の詳細が分からない以上、二の舞、三の舞である。それだけは、何としても避けねばならない。

 

 

 

ハジメとしても、逃がすのは業腹ではあったが、今は一刻も早く香織に対して処置しなければならない。時間が経てば、手の施しようがなくなってしまうのだ。まして、初めての試みであり、ぶっつけ本番の作業である。しかも、実は先の光の一撃は、試作品段階の兵器であり、今の一発で壊れてしまった。殲滅兵器なしに、百万もの魔物と殺り合っている時間はない。……もっとも、雷電が召喚したヴェネター級による軌道上からの艦砲射撃なら一掃することは可能であるのだが。大軍への指揮権があるであろうフリードを殺すのは得策ではなかった。

 

 

 

そうとは知らないフリードは、唇を噛み切り、握った拳から血を垂れ流すほど内心荒れ狂っていたが、魔人族側の犠牲をこれ以上増やすわけにはいかないと、怨嗟の篭った捨て台詞を吐いてゲートを開いた。

 

 

「……この借りは必ず返すっ……貴様だけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

 

 

フリードは踵を返すとゲートの奥に消えると同時に、上空に光の魔弾が三発上がって派手に爆ぜた。おそらく、撤退命令だろう。そんなフリードを相手にする程暇ではなかったハジメは、そんなことは気にせずに、ユエとシアに香織の死を伝える。二人は、驚愕に目を見開いた。しかし、ハジメの目を見てすぐさま精神を立て直す。

 

 

 

そして、ハジメは、その眼差しに思いを込めてユエに願った。ユエは、少ない言葉でも正確に自分の役割を理解すると力強く“……ん、任せて”と頷く。

 

 

 

踵を返してティオのもとへ駆けつけた。そして、ハジメが香織をお姫様だっこで抱え上げ、そのまま広場を出ていこうとする。その時に雷電は、ハジメに香織を任せると同時に雫と清水を救出する為のことを説明する。

 

 

「ハジメ、俺は八重樫とシャドウの救出の準備をする。そっちは香織を頼む」

 

「分かっている。この場に八重樫がいないとすると、あの尋問官っていう連中に攫われたんだろ?こっちは任せて、お前は八重樫達の救出の準備をしてくれ」

 

 

“分かっているさ”と雷電が言った後に、龍太郎達の所に駆け寄った。そこで見たのは光輝の容態だった。

 

 

光輝は既に気を失っていると同時に右腕を切り落とされていて、見るからに弱っている様子だ。龍太郎は、雷電に対して頭を下げて言った。

 

 

「雷電……お前が光輝のことを嫌っているのは重々承知だ!だが、こいつは俺達にとってのダチ何だ!だから、頼む!光輝を助けてくれ!」

 

 

雷電自身、光輝のことはあのホルアドの一件以来、決別したのだが、元の世界に戻るまではまだ生きてもらう必要があった。最も、龍太郎がそんな光輝の為に頭を下げたことに驚いたが、もとより助ける積もりだった。

 

 

「龍太郎……頭を上げろ。今はこいつを天之河に飲ませろ。そうすれば助かるだろう」

 

「雷電……!すまねえ、感謝する!!」

 

 

そうして雷電は“宝物庫”から神水を取り出し、龍太郎に神水を手渡す。手渡した神水が、以前、死にかけのメルドを一瞬で治癒したのを思い出し、秘薬中の秘薬だと龍太郎は察する。雷電としては、光輝が死んではクラスメイト達を纏めるのに困るくらいの認識だったのだが……龍太郎の表情を見れば予想以上に感謝されてしまっているようだった。

 

 

 

そんな感じで龍太郎に神水を渡した後に、雷電は現在の王国とクローン達の被害を確認しながらも雫と清水の奪還作戦を考えるのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方の撤退した尋問官は、気を失っている雫を抱える清水と共に敵の本拠地に帰還していた。そして雫を収容所に入れ、尋問官は香織によって受けた傷を治療室で治療を受けた後、清水と共に他の尋問官達が集まる場所に向かっていた。

 

 

「ご苦労だったね、シャドウ?アンタがあの子を捕まえたおかげでこっちも楽になったもんさ」

 

「俺は命令を実行しただけに過ぎない。俺は尋問官の影として行動する為に作られた存在だ」

 

「それもそうだったね?それなら、もう一つの命令をしようかしら?」

 

「命令?それは一体……うがぁっ!?」

 

 

清水は尋問官に問いつめようとしたその時、背後から何かしらの電流が走り、その場で倒れ込んでしまう。清水を後ろから電流を流したのは、()()()()()()()()()()()()()だった。ただ、違いを入れるとするならば、髪の色がハジメや雷電と同じ白髪である。

 

 

「ご苦労だったねぇ、02……いや、今は“シュピーゲル”だったかしら?」

 

「どういたしまして。それと名前についてはシュピーゲルで合っているよ。それはそうと、彼が僕の兄さん?」

 

「そうさ。彼の遺伝子から貴方が作られたオリジナルでもあり、血の繋がりや遺伝子の繋がり的に言えば、兄弟みたいなもんさね。そのオリジナルにあって少し幻滅したかい?」

 

「少しだけね。……けど、兄さんを使って何をするの?きっと楽しいことだよね?」

 

「もちろんさ。この坊やには最後の最後で役に立ってもらうさ。ある拠点を囮にジェダイの坊や達を釣る為の餌としてね?」

 

 

そう不適に笑う尋問官とシュピーゲル。そんな彼等に清水は、僅かながらも意識が残っていた。この時に、先ほどの不意打ちの電流で清水の頭にある行動抑制チップが破損したことを尋問官達は知る由もない。最も、一番驚いているのは他でもない清水だった。まさか自分のクローンが作られているとは想いもしなかった。

 

 

(これは……マズい…な……!)

 

 

完全に予想外な事に内心毒を吐きながらも清水は、近いうちに自分のクローンと戦うことになることを予測しながらもここで限界が来たのか清水は気を失ってしまう。そして尋問官は、清水を回収しにきたストーム・トルーパーにある拠点に連れて行かせる様に命じた後、シュピーゲルと共に今後のことを考えるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後処理と救出作戦

こっち側もリアル側もスランプ気味で投稿が遅れてしまった。orz


76話目です。


 

 

魔人族襲撃から五日後……

 

 

 

ハジメが広場を去っていった後、龍太郎によって神水を飲まされた光輝はあっという間に全快した。しかし、斬られた右腕は先の戦闘で何処かに吹き飛んでしまったのか、光輝の右腕は義手で治療することになり、今現在はメディカル・オフィサー・クローンの指示の下、義手のリハビリに専念していた。なお、雫が攫われたことを知ったや否や、まだリハビリを終えていないのにも関わらず助けに向かうなど無茶苦茶なことを言い出すのだったが、メディカル・オフィサー・クローンのお叱りを受け、大人しく治療に専念せざる負えなかった。

 

 

 

この戦いで戦死した兵士は五百人規模に上り、敵に埋め込まれた行動抑制チップによって反逆したハイリヒ王国の兵士や騎士達、クローン達の被害も酷かった。広場にいたARCトルーパーやクローン・トルーパーは、ブリッツを除き、ハジメ達によって全滅した。なお、その戦死者の中にイザナミが含まれていた。これを知った雷電は、清水を救出した後に一体何と言えばいいのか分からなかった。因みに、今回の戦いにてARCトルーパーが大量に戦死してしまった為に雷電が新たにARCトルーパーを召喚し、この戦いにて活躍したエコーとファイヴスを除くドミノ分隊全員を正式にARCトルーパーとして昇格させ、ドミノ分隊はARCトルーパーの一分隊として配置されるのだった。

 

 

 

また、敵にチップを知らないうちに埋め込まれて操られていたブリッツとメルドは、それぞれ自分の守るべきものに武器を向けていたとこにショックを隠せず、PTSDの初期症状に悩まされていた。しばらくの間はメディカル・オフィサー・クローンのカウンセリングを受けながらも精神ケアをされるのだった。そしてアシュ=レイは、清水が敵側に付いたことに戸惑いを隠せないシルヴィを落ち着かせ、その後に愛子にシルヴィのカウンセリングを任せるのだった。

 

 

 

後の調査でわかったことだが、王都の近郊に幾つかの巨大な魔石を起点とした魔法陣が地中の浅いところに作られていたようで、それがフリードの対軍用空間転移の秘密だったようだ。

 

 

 

また、国王を含む重鎮達は、反逆したクローン達や兵士により殺害されており、現在は、ハイリヒ王国国王の座は空席になっている。混乱が収まるまでは、リリアーナと無事だった王妃ルルアリアが王都復興の陣頭指揮を取るようだ。おそらく、一段落ついて落ち着いたら、同じく無事だったランデル殿下が即位することになるだろう。

 

 

 

一番、混乱に拍車を掛けているのは聖教教会からの音沙汰がないことだ。

 

 

 

王都が大変なことになっているというのに、戦時中も戦後も一切姿を見せない聖教教会に不安や不信感が広がっているようである。実は、教会関係者は全員、総本山ごと跡形もなく爆殺されました!などと聞いたら王都の人々はどう思うのだろうと、どこかの白髪少年達は少々不謹慎な興味を抱いていた。

 

 

 

また、魔人族の大軍を壊滅させた光の柱は、“エヒト様”が王都を救うため放った断罪の光である!という噂が広まっており、信仰心が強化されてしまったのは何とも痛い話である。ハジメは、噂でも流して、また“豊穣の女神”の仕業にでもしてやろうかと、愛子が聞けば頭を抱えそうなことを考えていた。

 

 

 

“神山”から教会関係が降りて来ないことを不審に思って、当然、確かめに行こうとする者は多かった。しかし、王都の復興やその他もろもろのやらねばならない事が多すぎて、とても標高八千メートルを登山できる者などいなかった。ちなみに、直通のリフトはハジメ達が停止させているので、地道な登山しか総本山に辿り着く方法がない。

 

 

 

一方の雷電は、攫われた雫と清水の奪還作戦を考えていた。雷電は作戦立案のフォローの為に新たに名前付き(ネームド)クローンを召喚した。召喚したのは“レックス”と“ジェシー”の二人だ。その後にヴェネター級の艦橋にて召喚したレックスとジェシー、フォードーとドミノ分隊のエコーとファイヴス、コマンダー・コーディの六人と共に雫と清水の奪還作戦の立案を考え合っていた。

 

 

「さて……清水の場合はアーマーに備えられている信号があるから見つかるのも時間の問題だ。だが、難しい点を言うならば八重樫の方だ。彼女は今、敵の手に捕まっていて場所がまだ特定出来ていない」

 

「更に付け加えれば、敵は尋問官率いるファースト・オーダーだ。そこで彼女が何かされるのが目に見えている。これは早急に見つけ出さなければならない」

 

「分かっている。その為に偵察部隊の派遣を行って情報を収集してもらっている」

 

 

そう、雷電は救出作戦を考える前にA R F(アドバンス・レコン・フォース)トルーパー一個大隊を魔人族がいる魔国ガーランドを除く異世界トータス全体を偵察に派遣させたのだ。

 

 

 

派遣させてから既に五日が経過していた。この五日間の間、これといってARFトルーパーから朗報が入って来なかった。あるとするならば、魔国ガーランドの動きやヘルシャー帝国の動きと行ったことだろう。ヘルシャー帝国では、何やら良からぬ噂が上がっている様だ。何でも“降霊術師が作りし傀儡兵のコントロールを奪取し、自在にコントロールすることが出来る魔導具”が数十日後に御広めになるとか何とか……

 

 

 

こうも時間が一刻と過ぎて行く。それは即ち、雫に危機が迫っているということだ。それまでに雫を見つけなければならないという焦りが生じる。そう考える中で、レックス達から一度休んだらよろしいと勧められてきた。どうやら不安などが表情に出ていたようだ。焦りは余計なミスを産み出す原因になりえることは目に見えていた。雷電は、レックス達の言う通り少しばかり自室で休むことにした。

 

 

 

そして雷電は、自室に着いた後、そこで瞑想を行った。

 

 

 

深く、深く。

 

 

 

思考と感覚の海へと潜る。

 

 

 

粘膜のような海原を潜り、深く、深く、底へと降りてゆく。

 

 

 

フォースを研ぎ澄ませ。

 

 

 

感覚を鋭敏に。

 

 

 

呼吸する息遣いすら感じずに、何もかもの感覚を捨て去り、深淵なる領域へと降りる。

 

 

 

その降り立った領域は、暗く、何もない寂しい所だった。まるで、心の何かがぽっかりと穴が空いてしまった人の心の様な領域だった。

 

 

 

“……けて”

 

 

 

その時に雷電は、僅かだが、誰かの声が聞こえた。周りを見渡してみたが何もなく、ただ暗闇だけが広がっている空間しかなかった。だが、その声は徐々に明確に雷電に聞こえた。

 

 

 

“……助けて”

 

 

 

「……八重樫?」

 

 

フォースを通して、その声が雫のものだと分かった雷電。その時の彼女の声は、悲痛の叫びであると同時に、その声の場所が異世界トータスではなく、宇宙から響き渡ってきたものだと理解した。何故宇宙に雫の声がしたのかは定かではないが、恐らく雫は今、敵の宇宙船、或いは宇宙ステーションに捕まっている可能性があると判断した。

 

 

 

そして瞑想を止め、すぐさま艦橋に向かう雷電。そして艦橋に着いた時にレックス達を始め、ハジメ達と愛子先生救出の時に敵対したエヒトの使徒“ノイント”の姿があった。その時に雷電はライトセイバーを構えそうになったが、以前の機械じみた無表情や声音からは信じられないほど感情を表情や声に乗せて、慌てたように雷電に話しかけたのだ。

 

 

「ま、待って!雷電くん!私だよ、私!」

 

「?」

 

 

自分の名を呼びながら必死に自分をアピールする初対面の女に雷電が訝しげな表情をする。

 

 

 

傍らにいるハジメが“どこかの詐欺師みたいだな……”と呟いていたが、ノイント?がキッ!と睨むとそっぽを向いた。そしてアシュ=レイは笑いを堪えながらも雷電と顔を合わせない様にそっぽ向くのだった。その時に雷電はノイント?……というより、彼女のフォースが何処か知っているようなものだった。そしてそのフォースは死した香織とほぼ同じものだと判明したと同時に、雷電はある結論を見出し、ノイント?の正体を知った。

 

 

「……もしかして、香織か?雫の親友の?」

 

 

自分に気が付いてくれたことが余程嬉しかったのか、銀髪碧眼の女は怜悧な顔をパァ!と輝かせて弾む声と共に返事をする。

 

 

「うん!香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎香織。見た目は変わっちゃったけど……ちゃんと生きてるよ!」

 

「いやっ変わりすぎだろ?フォースが香織のと同じだったから分かったものの、他の人だったら全然分からなかったぞ?」

 

「あはは……実は愛子先生達にこの姿で会いに行った時に勘違いされちゃったことがあって……」

 

 

どうやら香織はここに来る前に一度、愛子先生達の所に行ったのだが、敵対したエヒトの使徒と勘違いされたようだ。無理もない、何せ一度死んだ筈の香織が使徒の身体に入れ替わったのだ。

 

 

 

その時に雷電は思った。何故死んだ筈の香織が使徒ノイントの身体を使っているのか?そのことをハジメに聞き出した所、ハジメ曰く、新たに手に入れた神代魔法の“魂魄魔法”で香織の魂を死した肉体に固定させ、その後にアシュ=レイの“消滅魔法”によって魂を消滅させられ、魂無き人形と化したノイントの肉体に香織の魂を“魂魄魔法”で定着、固定したことで彼女はノイントの姿で蘇生されたそうだ。

 

 

 

……改めて思うと、神代魔法はとんでもなくチートすぎる魔法だなと再認識せざる負えなかった。それ以前にアシュ=レイの奴、この事を知っててワザと隠してたな?雷電はこの時に後でアシュ=レイはしばくと考えるのだった。

 

 

 

そんな呆ける雷電にハジメは声を掛けて現実へと引き戻す。

 

 

「呆けてる場合じゃない筈だろ?お前のことだ、敵に拉致られた八重樫達の居場所を見つけたんだろ?」

 

「……そうだった!雷電くん、雫ちゃんは今どこにいるのか分かる?」

 

「待て、二人に関しては偵察のプロが捜索中だ。……といっても、八重樫に関してはフォースを通して彼女がいる方角を感じ取ったから大体の位置は分かる」

 

「そうか……んで、清水の方は?」

 

 

ハジメから清水に関してのことを聞かれたので答えようとした時に、コムリンクから通信が入ってきた。一旦ハジメ達に待つように言った後に通信回線を開く。

 

 

《フジワラ将軍、偵察部隊から報告です。報告によると、チップによって敵側にいるシャドウの信号を敵の補給基地にて確認しました》

 

「補給基地?それに敵ということは……ファースト・オーダーか?」

 

《はい。なお、八重樫の方はガーランドを除いてどの大陸にも確認できませんでした。申し訳ございません》

 

「いや、清水を見つけただけでも良い報告だ。それと、八重樫の方はこちらで見つけた。偵察部隊は即時帰投してくれ」

 

《イエッサー!これより帰投します。交信終了…》

 

 

そうして通信を切った後に雷電はハジメ達に偵察部隊から齎した報告を伝えた。そして雫がこの異世界トータスにはいないことを告げる。

 

 

「そんな……!それじゃあ、雫ちゃんは……」

 

「待て、話を最後まで聞け。八重樫は異世界トータスのこの惑星にはいなかった……しかし、その八重樫は今、宇宙の何処かに捕らえられているとしたら?」

 

「……つまりだ雷電、お前は八重樫が敵の宇宙船か宇宙ステーションに囚われていると言いたいのか?」

 

「そういう事になる。最も、敵は巧妙に隠れている事に変わりないが、自分視点で北西の方角、役1000光年先に彼女のフォースを断片的に感じ取れた。恐らく、彼女は其処にいる可能性がある」

 

 

そう雷電が説明した後、ハジメ達も納得したところでレックスが雷電に作戦指示を求めた。

 

 

「将軍、説明中の所を失礼。そろそろ、作戦指示願います」

 

「……そうだったな。レックス、コーディ、お前達はドミノ分隊とコマンドーのデルタ分隊にクローン・フォース99をここに集めてくれ。そこで作戦を説明させる」

 

「「イエッサー!直ちに」」

 

 

レックス達は一緒に旅してきたデルタ分隊に不良分隊、そして短い間だったがハイリヒ王国までリリアーナを護衛したドミノ分隊を招集しに向かう。

 

 

 

そして数十分後、デルタ、ドミノ、不良分隊が艦橋に集まったことを確認した後に雷電はホロテーブルを起動させ、今いる異世界トータスの惑星と今いるヴェネター級のアイコンが表示させる。表示を確認した後に雷電は作戦を説明する。

 

 

「みんな、よく聞いてくれ。今回の作戦は言わずとも八重樫とシャドウこと清水の救出兼奪還だ。…先ず清水についてだが、彼は異世界トータスのハイリヒ王国から2.4kmから敵の補給基地らしきところから信号が検知された。偵察部隊の情報によるとその補給基地はどういう訳か、放棄された後のようで敵らしき姿が見当たらなかったようだ。これは十中八九、俺達を誘き寄せる為の罠だろう。しかし、それでも罠ごと噛み砕いて清水を救出しなければならない」

 

「様はアレだろう?敵をぶちのめして清水たちを助けりゃいいんだろ?任せな!」

 

「言うのは簡単だが、敵は易々とこちらの都合を考えてはくれない。問題は八重樫の場所だが、厄介なことにこの異世界トータスには居らず、宇宙にいる可能性が浮上した」

 

 

雷電はホロテーブルのパネルを操作し、銀河系を広げて八重樫がいると思われるポイントに移動させ、マーカーを付ける。そこは、別の惑星が存在する星系だった。

 

 

「ここの惑星……仮にこの惑星を“トータス”と名付けるが、そこから役1000光年先の星系宙域の何処かに八重樫が捕らえられている筈だ」

 

「将軍……それはフォースの導きと言う奴でしょうか?」

 

「そうとも言えるが、正直に言って嫌な予感でしかないのは確かだ。問題は、八重樫が捕らえられていることを考慮すれば敵の宇宙船か宇宙ステーションに捕まっているだろう。二人の早期救出の為にここは地上と宇宙の二手に別れようと思う。地上組はハジメを中心にユエとティオ、ドミノ、不良分隊は惑星トータスにいる清水の救出だ。そしてもう宇宙組は俺を中心にシアと恵里、香織にデルタ分隊、そしてアシュ=レイは八重樫の救出の為に艦隊を率いて八重樫がいると思われる座標にハイパースペースでジャンプする。そして到着次第、敵の猛撃を突破し、奪還する」

 

 

そういってホロテーブルから映し出された地図を消し、作戦の大まかな説明を終える雷電。その時に香織は、雷電にもしもの質問をした。

 

 

「雷電くん……もし、私たちが行く場所に雫ちゃんがいなかったら?」

 

「もし彼女がいなかった場合、宇宙組の作戦は中止して即座に撤退する。そうなった場合は、八重樫を助けるチャンスを失うとも言える。残念だが……」

 

 

その言葉に香織は暗い表情をする。もしもの可能性が現実のものになってほしくないという気持ちが一杯なのだろう。雷電自身も出来る限り雫たちを助けるつもりでもある。しかし、敵はそう簡単に雫たちは奪還させまいと抵抗してくるだろう。そんな暗い話を切り上げて、雷電は作戦決行日を皆に伝える。

 

 

「……作戦決行日は明日だ。急いで八重樫たちの救出に向かいところだが、準備ができていない状態で向かっても敵の罠によって潰されるだけだ。その為にも…「将軍、我々に通信が入って来ました。敵からです」…何っ?」

 

 

話している最中にクローンが入ってきて敵から通信が入ってきたと報告を受ける。それを聞いたハジメ達も表情が変わり、敵からの通信に対して警戒していた。そして雷電は、この敵からの通信は明らかに敵の罠でもあり、挑発的な誘いであると視ていた。

 

 

「(敵からの通信……確実に罠だろうな。それも、俺達を誘い出す為の)……分かった。通信をこのホロテーブルに繋いでくれ」

 

 

そうクローンに指示を出しながらも雷電は、ホロテーブルのパネルを操作してこちらに敵の通信を受信する様設定するのだった。そして通信が開かれた瞬間、その通信相手は尋問官だった。

 

 

「尋問官……!」

 

「それも“セヴンス・シスター”か……」

 

「……どうも嫌な予感でしかない」

 

 

シアはウルの町防衛戦やハイリヒ王国で会った尋問官が通信相手であったことにおどきつつも警戒し、ハジメはその尋問官がセヴンス・シスターであると見抜いて他にも尋問官がいるなと考え、雷電は尋問官が告げる言葉に嫌な予感を感じていた。そして通信越しに尋問官の口が開き、雷電達に告げる。

 

 

《この通信を拾ったということは、こちらとの通信が届いた様ね?一応言っておくけど、この通信は貴方たちの声は聞こえない様にしてあるから返答は無意味よ。それはそうと本題だけども、貴方たちに私たちが立案した()()()()()に招待しようと思ってね?もちろん勝った方には今捕まっている彼女を返すわ》

 

 

その時に尋問官が画面から離れると、そこにはボロボロの状態になった雫の姿があった。

 

 

「雫ちゃん!?」

 

「惨いこと……!」

 

 

そんな雷電達の様子を楽しむかの様に尋問官は雫の所に向かい、再び雷電達の目線に合わせた。

 

 

《ごらんの通り生きてはいるものの、早めに助けにきた方が良さそうよ?ゲームのルール自体は簡単、今から72時間以内に助けに来れなければ彼女の命がない。シンプルにそれだけよ。それじゃあ、貴方たちが来るのを待っているわ》

 

 

そうして尋問官からの通信が切れると同時に雷電はハジメ達にある事を伝える。

 

 

「みんな、予定変更だ。決行日は今日だ、すぐに準備しろ」

 

「「「はっ(えっ)?」」」

 

「敵は時間を正確に言ってきたが、向こうが丁重に約束を守るとは思えない。それに八重樫のあの傷だ、アレは香織の治療が必要不可欠だ。ハジメ、お前は三時間後にドミノ、不良分隊と共に清水の救出に向かえ。その三時間なら自分の下準備ぐらいは出来るだろ?」

 

「急だな、おいっ?……まぁ、そのくらいの時間があれば十分だ」

 

「そうか。……それと、清水を救出したらこいつを清水に渡せ」

 

 

雷電はフォードーから渡された清水が持っていた“宝物庫”をハジメに投げ渡す。ハジメは渡された宝物庫をしまった後にそのまま自室に向かい、そこで武器の点検と弾薬の補充を行うのだった。

 

 

「残りもみんなも急で申し訳ないが、各々出撃準備として武器の点検をしておいてくれ。俺は艦隊の編成を行う為に宇宙船の召喚を連続で行う。三時間後にはそれぞれ与えられた任務を遂行してくれ。俺からは以上だ。……フォースと共にあらんことを」

 

 

そう告げた後に雷電はハンガーへと向かい、ガンシップに乗り込んだ後に魔力タンクのアーティファクトを三つ装備して宇宙に出た。そしてクローン軍団召喚の派生技能“共和国軍兵器召喚”でヴェネター級を三隻とアクラメイター級を四隻、そして八重樫の治療のことを考えてペルタ級フリゲートを三隻を召喚させる。スター・デストロイヤー級とアサルト・シップ、ペルタ級など大量に召喚したことで一気に三つの魔力タンクのアーティファクトが壊れ、残りの魔力は雷電自身の魔力半分を消費するくらいの量を召喚に回したのだ。その後に神水を飲み、魔力を回復させた後に召喚した艦隊に搭乗させるクローン兵を召喚するのだった。

 

 

 

そして三時間後……

 

 

 

ハジメはこの三時間を利用して自身の武器のメンテをし、終えた後にユエと共にヴォルトの所に向かいヴォルトに黒い銃と白い銃のメンテと同時に銘を変えるよう頼むのだった。そして黒と白の銃は銘を改名し、黒い銃は“リベリオン”。白い銃は“クレセント”と名付けるのだった。

 

 

 

そしてハジメの率いる清水救出斑は、ガンシップでトータスに降りた後に魔力四輪駆動車とスピーダー・バイクで清水がいる敵の補給基地に向かうのだった。そして残った雷電達も十三隻で編成された艦隊を率いて雫が捕らえられている座標にハイパースペースの準備をしていた。

 

 

「トルーパー、各艦の状況は?」

 

「ヴェネター級五隻、アクラメイター級五隻、ペルタ級三隻とも航行に異常なし。全艦ともに戦闘準備良し」

 

「よろしい。全アクラメイター級はハイパースペースから出た後、ファイター部隊を発艦させて制宙権を確保。敵はファイターを出してくる可能性がある。ファイター部隊は敵のファイター部隊の迎撃、及び八重樫の居場所が判明次第、突入部隊のガンシップの援護。そして全ヴェネター級は敵のスター・デストロイヤーの迎撃だ。ペルタ級は八重樫を救出されるまで出来るだけ戦闘は避けろ。八重樫を収容後即座に撤退する。分かったな?」

 

「「「イエッサー!」」」

 

「良し……ハイパースペースによるジャンプ開始。八重樫の救出に向かうぞ」

 

 

そうして雷電率いる艦隊は、八重樫がいる座標にハイパースペースでジャンプし、救出に向かうのだった。その先で、敵の艦隊が待ち構えており、雷電にとって久しぶりの艦隊戦でもある戦いでもあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハジメルート 清水救出と人狩部隊

色々と間が空きすぎてすいませんでした。orz


77話目です。


 

 

清水達救出の為に宇宙と地上に別れた雷電達。地上を担当するハジメ達は、ガンシップでトータスに降りた後にそれぞれの乗り物で清水がいるであろう敵の補給基地に向かうのだった。そして目標地点に到着したのだが、敵基地の姿が何処にもなかった。せっかく辿り着いたと思った矢先に何もないことにレッカーは愚痴がもれる。

 

 

「何だよ?何もねぇじゃねえか!せっかく到着したってのによ!」

 

「レッカー、そう急くな」

 

「ハジメ……此処で合っている?」

 

「あぁ、清水の気配は確かにここに示している。だが、全く姿が見えないとなると何かしらの方法で姿を隠されているだろうな」

 

「フム……具体的にどういうことじゃ?」

 

「要するに、敵は何かしらの光学迷彩か魔法によるステルスで姿を隠していることになります。……ところでコマンダー、ステルスとなるとどちらだと思いますか?」

 

 

テックがハジメにステルスの問いを尋ねる。テックの言う様に光学迷彩によるものか、魔法による認識阻害のどちらかである。

 

 

「……恐らくは前者だろうな。一応“魔力感知”で調べてみたが、清水以外の魔力は感じられなかったな。ハンター、お前はどうだ?」

 

「コマンダーの言う通りかもしれません。僅かですが、微弱な電磁波を感じます」

 

 

ハンター特有の人間離れした感覚で特定の電磁波を感じ取り、その方角を指で示す。ハジメは“宝物庫”からシュラーゲンA・Aを取り出し、ハンターが示した方角に銃口を向け、魔力による電圧で電磁加速させて最大出力になったと同時に引き金を引く。

 

 

 

シュラーゲンA・Aから放たれる咆哮と同時に弾丸が何もない場所に飛翔し、何かしらの壁にぶち当たる音が響く。そして何もない場所の空間が歪み、やがて隠れていた基地がハジメ達の前に姿を表したのだ。その基地をよく見てみると、ハジメが放ったレールガンの銃創痕が残っていた。

 

 

「どうやら、探す手間が省けたようですな」

 

「今のところはな。問題は、放棄された基地だっていうのにステルスで姿を隠す必要があるのかってことだな」

 

「完全に罠……」

 

「十中八九罠じゃのぅ?」

 

「罠だろうが何だろうが噛み砕けばいい話だ」

 

 

そう雑談しながらもハジメは敵基地に入る前にオルニス一機を入り口の上に置いた後、そのままユエ達と共に入り口から基地内に入り、清水がいるであろうフロアに向かうのだった。

 

 

 

敵基地に侵入してから数分……

 

 

 

ここまで敵と遭遇することはなかった。その代わりにハジメ達が清水がいる地点に向かう度に侵入者排除用の対人レーザー・ターレットが出迎える。その対人レーザー・ターレットを破壊しては前進を繰り返し、最終的に清水がいるであろうフロアに辿り着くのだった。

 

 

 

念入りにクリアリングを行い、安全を確保した後にハジメ達はそのフロアに侵入する。するとそこには清水が棺桶型の拘束装置によって身柄を拘束されていた。

 

 

「……ようやく見つけたぞ。テック、清水の拘束を解けるか?」

 

「その程度なら可能です」

 

 

テックは腕に取り付けられているウェラブルコンピューターを操作し、拘束装置のハッキングを行い清水の拘束を解除する。拘束を解除された清水は、意識がないのかそのまま倒れ込む。その時にファイヴスが清水を支え、急ぎ清水の容態を確認する。

 

 

「シャドウ…おいっシャドウ!しっかりしろ!」

 

「……っ、ファイヴス…か?」

 

「ファイヴスだけじゃねえぞ、アホ」

 

「ハジメ……お前も?」

 

 

どうやら清水はハジメ達が己を助けに来たことを理解すると同時にハジメ達にあることを告げる。

 

 

「ハジメ、今すぐ俺を置いて逃げろ。これは罠だ!」

 

「あぁ、そんな事はとっくに知っている。だからこそ来たんだろうが。それに……もう手遅れだ」

 

 

ハジメの言葉を皮切りにこのフロアにあったモニターから尋問官のセヴンス・シスターの姿が映し出された。

 

 

《どうやら罠と知っていながらも態々ここに来るとはねぇ?感動的だけど、無意味なものさね。それともう一つ、アンタ達に言っておきたいことがある。その基地には自爆装置が組み込まれているのよ。それも細工した奴でね?その自爆装置を解除する為の解除コードはこの基地にはないよ。もしハッキングするならそれでも構わないよ。アンタ等だったら()()()()で十分でしょう?》

 

 

セヴンス・シスターがモニターから消え、代わりに自爆タイマーらしき数字が“1:00”と表示され、そこからカウントダウンが開始される。

 

 

「マズいぞ……ここから遠隔でハッキングと言っても、時間が足りなすぎる!」

 

「問題ない。テック、ウェラブルコンピューターでハッキングできるか?それも最短で…」

 

「…何秒くらいがお望みでしょう?」

 

 

“お前に任せる”とハジメが言った後、テックの行動は早かった。テックはウェラブルコンピューターを操作し、自爆装置の妨害を試みる。こつこつと迫りゆくタイムリミットの中、ドミノ分隊はかなり緊張していた。対してユエ達はあまり緊張してはいなかった。この差は一体何なのかと考えている間に残り二十秒になる寸前で自爆タイマーが停止する。どうやらテックは無事にやり遂げたようだ。

 

 

「ふぅ……何とか止められました。一応自爆タイマーが再会しないようジャミングを掛けましたが飽くまで一時凌ぎ、タイマーが再び再開するのは約二十分後。それまでに脱出すればいいだけです」

 

「そうだな……って言いたいところだが、外で待機させていたオルニスの映像が来た。どうやら、敵が来たようだ」

 

 

ホッとしたのも束の間、ハジメは外に待機させていた偵察機が映す映像が魔眼石に送られてきた。敵は二個中隊規模で、その敵の編成はデス・トルーパーとパージ・トルーパーの混成部隊だった。

 

 

「敵は二個中隊規模、それもデス・トルーパーとパージ・トルーパーの混成部隊だ。んで、この流れからして敵の第二派も予測されるなその規模はどれくらいかは分からねえが……」

 

「マジかよ……まるでリシ基地の再来だな?」

 

「敵は二個中隊か……かなり面倒だな」

 

「フハハハハッ!そんなやつら、軽く捻り潰せばいいだけのことよ!」

 

「それが出来たら苦労はねえよ。それと清水、神水飲んだ後は戦線復帰できるな?」

 

「清水じゃない、シャドウだ。回復すれば戦えなくはないが、武器はあるのか?」

 

「あぁ、お前の武器はちゃんと持って来てある」

 

 

ハジメはフォードーから渡された清水の“宝物庫”を清水に渡す。清水は渡された“宝物庫”からMP7にMK23とスナイパーキットを取り出し、MK23をスナイパーキットに装着させる。そして.45ACP弾が込められているMK23のマガジンとMP7の4.6×30mmマガジンを各アーマーに入れ、戦闘準備を終える。

 

 

「それで出るのか。つーか、そんな装備で大丈夫なのか?」

 

「問題なかったらそれでよし。そうじゃなかったら臨機応変に対処するつもりだ。それとも何か?“大丈夫だ、問題ない”というフラグが立つと思ったのか?」

 

「何でそのネタ知ってんだよ。お前、やっぱり記憶失っているていうのは絶対嘘だろ。……まぁ、そんな事はどうでもいい。清水、お前の得意なことを存分にやれ」

 

「清水じゃない、シャドウだ。得意なことって、何をだ?」

 

「無論、“狩り”だ。お前達もそうだ、連中は俺達を狩りにきたのだろうが、逆に連中を狩り尽くしてやれ」

 

「「「サー・イエッサー!!」」」

 

「……悪くないな」

 

 

そうしてそれぞれ戦闘準備を行い、この基地の脱出経路を確認する。

 

 

「いいか、ここから先は三チームに別れて行動する。俺とユエ、ティオで一組。ドミノ分隊で二組。そして清水、不良分隊が三組だ。それぞれ別ルートで進み、基地入り口に向かい、脱出する。当然だが、連中がそれを邪魔してくるのは明白だ。……まぁ、ベターって言っちゃあベターだけどな?俺達のやることは変わらない。邪魔する奴は何者であろうと全て殺す。お前達……特にドミノ分隊は前の戦闘で経験済みだろうが、パージ・トルーパーがお前達の兄弟だったとしてもだ。その時は容赦するな、生き残ることを優先に戦え。……話は以上だ。直ぐに行動するぞ」

 

 

そうして、それぞれ三チームに別れて基地からの脱出を図る。ハジメ達は中央のルート、ドミノ分隊は右からの迂回ルート、そして清水、不良分隊は左からの迂回ルートとそれぞれ脱出ルートを進むのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

基地からの脱出の為に中央のルートを進むハジメ達。するとゲート付近でハジメの“気配感知”に反応したのか、ユエとティオに警告する。

 

 

「いるな……それも八人だ」

 

 

その言葉を皮切りにユエとティオはゲートの壁側に付く。ハジメはドンナーとシュラークを取り出し、ユエはクレセント、ティオは鉄扇のアマツバキを取り出す。そして、敵がゆっくりと迫り来る中、ハジメはスリー・カウントで合図を送る。

 

 

 

そしてカウントがゼロになったと同時にハジメはドンナーとシュラークを、ユエはクレセントでデス・トルーパーとパージ・トルーパーに向けて撃つ。ハジメ達の不意打ちによって敵は三名もやられて一瞬戸惑ったが、すぐに状況を理解してそれぞれブラスターで応戦する。ハジメとユエは敵の反撃から身を隠した後、ハジメは“宝物庫”から閃光手榴弾を取り出し、安全ピンを抜いた後にタイミングを見計らって敵の方に転がす。敵も手榴弾に気付いたが既に遅く、閃光手榴弾は敵の前で起爆と同時に170-180デシベルの爆発音と15メートルの範囲で100万カンデラ以上の閃光を放った。

 

 

 

これを諸に受けた敵は突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生し、一時的に動けなくなる。その間にティオは鉄扇を通して炎の魔法を敵に撃ち込む。これを受けた敵は無事でいる筈もなく、そのまま炎に焼かれて絶命する。敵を倒したユエ達は先に進もうとした時に、ハジメは敵のアーマーを見た。そのアーマーに使用されている鉱物を確認するべく“鉱物系鑑定”を行う。すると驚くべきことが判明する。“鉱物系鑑定”から出た結果がアザンチウム鉱石と出たのだ。

 

 

「アザンチウムって……マジか。するとアレか?プラストイド合金製複合材にアザンチウムをコーティングして防弾、及び防光弾性を飛躍的に強化させたってことか。俺やユエのはレールガン並に撃てるから貫通できるとしてだ、他の連中はそうはいかないか」

 

 

ハジメは移動しながらも別ルートで進んでいる清水達に連絡を入れる。ここから先はアーマーが強化された敵と戦いながらも進むしかなかった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ハジメ達が敵と接敵する数分前、左迂回ルートを進んでいた清水と不良分隊も敵を目視で確認する。クロスヘアが敵の数を確認する。

 

 

「どうやらこっちは貧乏くじを引かされたようだな。…ざっと四十はいるな」

 

「一個小隊規模か。シャドウ、お前ならどうする?誘い出して一人一人殺るか?」

 

「いや、この数に一人一人殺るのは得策じゃない。ここは真っ向から攻めて一気に潰す。それに、俺個人、奴らには借りがあるからな」

 

「ハンッ!……悪くないね」

 

 

やり方を決めた後に其々武器を手に、迫り来る敵に備えた。そして先行するデス・トルーパー二名を目視したと同時に攻撃を行った。突如の不意打ちにデス・トルーパー達はアーマーに数発受けた後に倒れ込む。

 

 

「よし、奥に進むぞ」

 

「……いや、まだのようだ」

 

「何?……っ!」

 

「……っ」

 

 

なんと、ブラスターの光弾を数発まともに受けた筈のデス・トルーパーが立ち上がろうとしたのだ。それを黙って見てやる程優しくはない清水は、クリスヴェクターで立ち上がったばかりの近場のデス・トルーパーに.45ACP弾を撃ち込む。だが、防弾性に優れていたのか銃弾が弾かれる。しかし.45ACP弾のストッピングパワーにデス・トルーパーは反撃しようにも出来ず、後ろに下がるしかなかった。

 

 

 

そして壁側に追い込んだ清水はデス・トルーパーのアーマーの硬度を確認すべく数発も撃ち来む。

 

 

「固いな……面倒くさい。……ん?」

 

 

もう一人倒れていたデス・トルーパーが起き上がろうとするも、清水がそれを許さずクリスヴェクターに撃ち込まれ再び倒れ伏す。

 

 

 

そして清水は、敵のアーマーの特性を理解しつつもヘルメットの首元の隙間の薄い部分にクリスヴェクターの銃口を向け、そのまま二〜三発撃ち込み、射殺する。その次に倒れているデス・トルーパーが起き上がる前に数発アーマーに撃ち込み、起き上がらせない様にしてデス・トルーパーのヘルメットを掴み、首元の隙間に銃口を向け、二〜三発撃ち込み、確実に仕留める。これを見ていたレッカーは思わず唖然としていた。

 

 

「やるな、腕はそれなりに立つ様だな?」

 

「茶化すな、それよりも新手が来るぞ!」

 

 

清水の言う通り、敵が清水の銃声を聞きつけて集まってきたのだ。敵はブラスターで攻撃する中、清水と不良分隊も応戦する。しかし、敵のアーマーが固いだけあって数発撃たれても倒れる気配がなかった。

 

 

「チッ…!いやに固い奴らだ」

 

「狙うなら首元の隙間を狙え。それか接近戦、もしくはグレネードを使うしかないがな」

 

 

敵の固さに難儀している最中、レッカーがハンターにブラスターを渡し、軽く身体を動かした後にヘルメットを被り直し、そのまま敵の懐に突っ込んで行った。流石の清水もレッカーの行動に困惑した。

 

 

「あいつ、何をするつもりだ!?」

 

「“レッカー・タイム”の始まりだぜぇ!!ハッハッハッ!」

 

 

レッカーの並外れた行動に敵も困惑している最中、レッカーは自慢の怪力でデス・トルーパーやパージ・トルーパーを掴んでは投げてと無双して行く。敵はレッカーを先に仕留めようとレッカーだけに集中するも、レッカーの進撃を止められることはなかった。

 

 

「正直、敵対した奴らには同情する」

 

「だが、そのおかげでこっちは楽になった」

 

 

レッカーが突っ込んだことで四十人近くいた敵も、今では残り五人しか残らなかった。残ったのはデス・トルーパー二名とパージ・トルーパーが三名であった。清水はレッカーと交代する形で入れ替わり、クリスヴェクターで残りの敵をダウンさせる。アーマーが固いのだが、衝撃までは緩和されていないのが清水にとっての救いだった。問題は、敵が固い分こちらの弾薬の消費が激しいということ。

 

 

 

清水は何とか、無駄弾の消費を抑えるべく一対一に持ち込む様に敵を追い込む。仕留める方法は首元の薄い部分に撃ち込むしか他にない。清水は敵に近づき次第に敵のヘルメットを掴み、隙間部分に銃口を向けて確実に息の根を止める。そして接近してくる敵はヘルメットのバイザー部分を集中的に狙う。そしてバイザーに直撃し、貫通して絶命する敵。残りの二名はクリスヴェクターの全弾を敵の足止めに使い、弾が尽きたと同時にクリスヴェクターを敵に向けて投げつける。投げられたクリスヴェクターに当たった敵は怯み、敵が怯んだ隙に清水はもう一人の敵を掴み、肉壁にしながらも怯ませた敵をMK23で確実に追い込んで行く。

 

 

 

ある程度肉壁として利用した敵を転ばせた後、追い込んだ敵のヘルメットを掴んでMK23で隙間の部分に撃ち込む。そして最後の一人となった敵がブラスターを構えるが、清水が敵のブラスターを掴み、押さえ込むと同時にMK23の銃口を隙間に向けて撃ち、倒れた後も止めに二〜三発も隙間に撃ち込むのだった。全ての敵を倒したのを確認した後にクリスヴェクターを回収する清水であった。

 

 

「これで一息つけるが、さっきの連中がまだいるとなると厄介だな」

 

「……だったら、より強力な奴がいるな。ハンター、確かハジメから貰った武器があるよな?アレを使うぞ」

 

「そのようだな。不良分隊、各自実弾兵器を使うぞ」

 

「おぉっ()()ですか?待ってました!」

 

 

そうしてハンター、テックは5.56mm MkⅢアサルトライフルを装備し、レッカーはAA-12を装備する。クロスヘアは清水からHK417を受け取り、清水はベネリM4を装備してから脱出ルートへと進むのだった。その時にハジメからの通信で、敵のアーマーはアザンチウムでコーティングされて防御力が上がっていることだった。実際に体験した為、今度はショットガンといったパワー強めの銃で次に挑むのだった。

 

 

清水Side out

 

 

 

一方のドミノ分隊は、運が良かったのか敵と遭遇することなく進むことができ、ハジメの通信で敵のアーマーの防御力が上がっていることを聞かされる。その報告を聞いたドミノ分隊は、より警戒心を強める。そして数分後、敵部隊がドミノ分隊と接敵。敵を肉眼で捕捉次第にブラスターで攻撃を開始する。

 

 

 

この時にドロイドベイトは、ハジメの力作である大盾型のシールドを前に出して縦の裏側にある二枚のプレートを展開し、ヘヴィー達を敵のブラスターから守る。カタップはその隙にデトネーターをタイミングを見計らって敵側に投げつける。敵がデトネーターの存在に気付いた時には既に遅く、爆発し、爆風と破片に敵数名が巻き込まれる。

 

 

 

敵の陣形が崩れたところをヘヴィーのZ-6ロータリー・ブラスター・キャノンによる制圧射撃で敵に圧を掛ける。そしてエコーとファイヴスがブラスターで敵のヘルメットのバイザーを狙い撃ちする。これによって敵を倒すことができたのだが、ARCトルーパー成り立てのヘヴィーやカタップ、ドロイドベイドにとって厄介な敵であり、装甲が硬いと同時に数という物量で圧倒されている為、苦戦を強いられていた。

 

 

「だぁっクソ!こいつら、スーパー・バトル・ドロイドと同様にタフだな!」

 

「それも大部隊で来たものだから厄介だな。こっちの装備で何処まで持つか……」

 

「とにかく撃ち続けるんだ!そうでもしないとやられるのはこっちだぞ!」

 

「だが、ジリ貧なのは変わりない。面倒なことになった……」

 

 

そうへヴィーとカタップがぼやく中、エコーとファイヴスはブラスターで装甲が脆い部分であるバイザーを狙うも、敵が物陰に隠れたりして中々狙えなかったこのままでは後から来る敵の増援による物量で押しつぶされてしまう。ドロイドベイドも大盾でヘヴィー達を守っているものの、敵のブラスターを受けるたびに衝撃が襲いかかる。大楯で守りきることは難しく、かなり危機的状況に追い込まれたドミノ分隊。追い込まれて、一度は死を覚悟したその時……

 

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

 

「「「…っ!!」」」

 

 

この空間で聴きなれない乾いた音が響いた瞬間、敵パージ・トルーパーが装甲に風穴が開き、血吹雪を上げて絶命する。絶命したパージ・トルーパーの装甲をよく見てみるとブラスターの焦げ跡の銃創が無く、物理的に風穴が空いており、そこから血が流れ出ていた。

 

 

 

その乾いた音が発生した場所は、敵の右側からであった。そこには左側のルートに進んでいた筈の清水と不良分隊の姿があった。何故彼らがここにいるのかは定かではないが、ドミノ分隊にとって有り難い援軍だった。清水がベネリM4に装填されている12ゲージスラグ弾で敵部隊に攻撃を仕掛ける。ハンターとテックはMkⅢアサルトライフルで応戦し、クロスヘアはHK417で敵の装甲の薄い隙間を狙い、狙撃する。そしてレッカーはAA−12を連射させ、某エクスペンダブルな感じで敵を次々と倒していた。

 

 

レッカーはが使用している弾はハジメお手製12ゲージグレネード弾で、これをまともに受けてた敵は装甲と一緒に肉も爆発で抉れてしまう。

 

 

「うぇっ…!威力が強すぎるな、こりゃあよう?コイツは使い所を考えなきゃならねえな……」

 

 

レッカーも12ゲージグレネード弾の威力を見て、流石に対人に使うにはオーバーキルであることを悟り、ハジメが作ったグレネード弾にドン引きする。しかし、そんな時間すらないほど敵が増える一方だった。レッカーはグレネード弾入りのマガジンを抜き、スラグ弾が入ったマガジンと交換し、チャージングハンドルを引いて再び戦闘に戻る。

 

 

 

一方の清水は、ベネリM4に装填されているスラグ弾で敵を確実に倒す。そして頃合いをみては物陰に隠れてスラグ弾を二つ持って同時に薬室に装填する。清水が行ったのは“デュアルリロード”と呼ばれるもので、弾を縦に二つ持って装填する技術である。これを4回行い、装填が完了した後に再び敵に向けて発砲する。その時に敵が清水に近づいてベネリM4を奪い取ろうとする。清水は抵抗するものの中々離れず、止む無くホルスターからDC−17ハンド・ブラスターを取り出し次第に発砲、敵をよろけさせる。その間にエジェクションポート前方に装着されたマッチセイバーズと呼ばれるシングルシェルホルダーに付けられているスラグ弾のシェルをエジェクションポート内に装填次第、清水の武器を奪おうとした敵に向けて射殺する。

 

 

 

清水の容赦ない攻撃にドミノ分隊は若干引き気味だった。

 

 

「おいおい、アレは清水なのか?完全に別人みたいな戦闘スタイルになっているぞ」

 

「最早、俺たちが知っている清水の面影がないな……」

 

「コマンダーや将軍から聞いていたが、あの動きは完全に兵士の動きそのものだった」

 

「アッハハハ……これを期に清水を怒らせないようにするよ。流石の自分でも、清水の逆鱗に触れたくない」

 

「俺……この世で怒らせてはならない人物を改めてみたよ……」

 

 

上から順にヘヴィー、エコー、ファイヴス、カタップ、ドロイドベイドから今の清水の様子を一言呟くのだった。

 

 

「清水じゃない、シャドウだ。それはそうとドミノ分隊、出口のルートはすでに確保した。後はお前たちだけだ、急いで此処から出るぞ」

 

「やれやれ……まさか脱出する前に“レック”達の救出とはな?」

 

「レックだと?」

 

 

クロスヘアの皮肉にヘヴィーは反応し、突っかかろうとするが清水が制止させる。

 

 

「クロスヘア、少しは言葉を自重しろ。ヘヴィー、いちいち反応するよりも先に脱出が優先だ。揉め事は後にしろ」

 

 

そう言った後に清水は先行し、脱出ルートへ進むのだった。不良分隊とドミノ分隊は清水の後を追い、急ぎ基地から脱出するのだった。

 

 

ドミノ分隊Side out

 

 

 

一方のハジメ達一行は、迫り来る敵を返り打ちにしながらも中央のルートを強行突破し、脱出口である基地の出入り口に辿り着く。それに続いて清水達もハジメ達と無事に合流し、そのまま敵基地から脱出する。外に出たハジメ達の前に待っていたのは、一個中隊規模のデス・トルーパーとパージ・トルーパーの姿だった。

 

 

「……ったく、連中はどんだけ敵を寄越してくるんだ?いい加減相手するのも飽きたぞ?」

 

 

そうハジメがぼやく。しかし、そのぼやきに返事を返すものはいなかった。

 

 

「それは貴方というイレギュラーを排除するまでですよ」

 

 

………かに思えた。

 

 

 

ハジメのぼやきに答えた者は、デス・トルーパーとパージ・トルーパーを指揮する一人の銀髮の女性だった。この時にハジメはその女性の正体を見破っていた。その正体は、愛子救出の時に雷電とアシュ=レイと共に戦ったエヒトの使徒である天使ノイントとルイントと同じ存在だ。しかし、どういうわけかその天使は感情を殺しておらず、にこやかに俺たちの前に現れたのだ。

 

 

「ノイントとルイントの件は随分とお世話になったようですね?」

 

「そりゃどうも。……んで、お前は?」

 

「申し遅れました。私はエヒト様の使徒であり、ノイント達天使のモデルとして作られた存在。名を“ラミエル”と申します。以後、お見知り置きを。………といいましても、今日がアナタ達イレギュラーの命日でありますが……」

 

 

エヒトの新たな刺客とも言える新たな敵“ラミエル”。ハジメ達は、そのラミエルという存在に警戒するのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハジメルート 天使の起源とリベンジ戦

ようやく書き終わりました。待たせてしまって申し訳ございません。ハジメルートはこれで終わりです。


78話目です。


 

 

ハジメも当分ユエのサポートはハジメたちの前に立ちはだかるはエヒトの使徒“ラミエル”とデス・トルーパーとパージ・トルーパーたち。

 

 

 

しかし、ハジメはラミエルが言うノイント達のモデルとなった天使という言葉に反応を示していた。

 

 

「……あいつらのモデルだと?」

 

「えぇ、彼女たちは私という高性能にして失敗作をモデルに作られた存在。その実力はイレギュラーである貴方がよく知っているはずです」

 

 

ラミエルからまさかのカミングアウトにハジメ以外の者たちは驚きを隠せないでいた。しかし、ハジメは気になったのはそこではなく、ラミエルが自ら()()()と名乗り出たことに疑問視していたのだ。

 

 

「……逆に聞くが、何で自ら自信を失敗作と評しているんだ?まるで自虐しているみたいによ?」

 

「私はノイント達と違って感情が豊か……といえば納得いくのでは?」

 

 

ラミエルの言葉にハジメは幾つかの合点がつく。確かに、ノイントのような感情が無に等しい位に無表情に対してラミエルは何処かと楽し気な笑顔をハジメたちの前に出している。どうやらエヒトは感情豊かで些細なことで躊躇する駒より、感情無比で何の疑いも持たずに躊躇なく行動を実行することができる駒を作った方が効率が良いのだろう。例えるなら、ノイント達は行動抑制チップによって感情を抑制されたクローン・トルーパー達と同じとも言えよう。

 

 

「……なるほどな。あいつ等のモデルとなったとなると、やはり分解魔法はお前が起源だったのか。……つーか、その取って付けたような敬語はお前の口調じゃないだろ?」

 

「……流石にわかりますか。それでは、私自身の口調で話させてもらうわ。正直、エヒトのところにはもう未練はないし、飽き飽きしていたところだしね」

 

 

まさかのフランクな口調にハジメたちは少し驚いていた。エヒトの使徒でありながらも本来の口調に戻ったとたんにエヒトのことを様付けせず、寧ろエヒトから離れたい一心であることが一番の驚きであろう。ラミエルは自分が生まれた経緯を説明する。

 

 

「エヒトは、最初は暇つぶしという理由で私という存在を創った。当初は感情なき人形という形で創ったのだろうけど、私には感情があった。それ以来エヒトは、私のことを高性能で失敗作という烙印を押された。そんな私を創り出してから数年後、エヒトは私をモデルに新たな天使を無数も創り、その内の一体の天使を私の部下としてつけさせた。同じ容姿でエヒトに対して何の疑いも持たない忠実な駒をね?そのへんはあなた達クローン・トルーパーと同じじゃないかしら?」

 

 

ラミエルはクローンのドミノ分隊の方を見ながら口にする。その言葉に癇に障ったのかヘヴィーが反応する。

 

 

「……何が言いたい?」

 

「あら、癇に障ったかしら?あなた達クローン・トルーパーは戦うためだけに作られた兵器。つまり、クローンを作った者にとって、あなた達は戦争の駒という名の()()()()なのよ」

 

「何だと…!」

 

「よせ、ヘヴィー。いちいち相手の言葉に突っかかるな。たとえそれが正論だとしてもだ」

 

 

感情的になるヘヴィーを止めて制する清水。それでもヘヴィーの苛立ちは抑えられないでいたが、目の前の状況に集中するために気持ちを切り替えるのだった。ラミエルは脱線していた話題を戻すべく本来の話に戻る。

 

 

「……話がずれたようね。私をモデルに創った天使を一体部下として渡したと同時に私の監視だったでしょうけど、寧ろ逆にその天使を私色に染め上げさせて頂いちゃったけどね?」

 

「私色に染めるって……若干言い方が卑猥に聞こえるんだが?」

 

「あら、そう?それはそうと、私色に染めた天使は私と同様に感情を得て、私にとっての良い優秀な部下となったわ。私の問題性を重く見たエヒトは、とうとう匙を投げたのか、私たちのことを放置することになり、それ以降私たちは数百年の間好きに過ごさせてもらったわ」

 

 

どうやらエヒトですら匙を投げる程のレベルの存在にハジメたちは何とも言えなかった。この時にハジメは、“エヒトにも手に負えないことがあるんだな”とエヒトの意外性をしった。ただし、同情はしなかった。

 

 

「そして今、貴方というイレギュラー達が表れて以来エヒトは私たちをぶつける様に頼んできた。あなた達“イレギュラーの抹殺”をね?エヒトの考えとしては、私たちがぶつかり合ってどちらかが倒れれば良しと考えてのことでしょうね?」

 

「それで、お前ともう一人の天使(部下)はエヒトの野郎の頼みを聞いたってことか?」

 

「数百……いえ、数千年くらいかしら?長い年月の間は暇だったからね?長く生き過ぎた私たちは、この世界にもう飽きちゃったのよ。だから私たちは、ノイント達を殺したあなた達に期待してエヒトの頼みを承諾したわ。今のあなた達なら、私を殺すのも造作もないよね?」

 

 

ラミエルがそう言いながらもノイントと同じ大剣を構え、ハジメたちに向ける。ハジメとしては厄介なやつをエヒトは、ハジメたちに押し付けたとうんざりそうな顔をする。そんなハジメたちの前にジェット・パックを装備した一人のパージ・トルーパーがやってきた。

 

 

「なんだ、あのトルーパーは?」

 

「パージ・トルーパーが単体で?一体、奴は…「長話はもういいんじゃないかな?」…!」

 

 

清水は聞き覚えのあるような声を聴いた瞬間、やってきたパージ・トルーパーに目をやる。そしてパージ・トルーパーが、ヘルメットをハジメたちの前で外し、その素顔をさらす。その素顔は()()()()()()()()()()

 

 

「…!?おい、マジかよ…!」

 

「お前は…!」

 

「やぁ、あの時以来だね?兄さん。それと君たちは初めまして……で、合っているかな?僕はシュピーゲル。シャドウ兄さんのクローンであり、弟だよ」

 

 

自らをシュピーゲルと名乗り、清水のクローンであることを告げた。清水は、気を失う前に一度だけシュピーゲルを見たことが分、初対面ではない。特に、清水が気にしているのはそこではなく、この場にいるシュピーゲルがいるという時点で、清水はある可能性に至る。それは、パージ・トルーパーの正体がオリジナルであるジャンゴ・フェットのクローンではなく、自分自身ではないかという可能性である。

 

 

「兄さん、パージ・トルーパー(彼ら)はもしかして僕だと思っている?」

 

「…っ!……何故そう思った?」

 

「僕は兄さんの弟だよ?兄さんの考えぐらい、知っていて当然だよ。彼らは()()ジャンゴのクローンだよ」

 

()()?……ファースト・オーダーは、いずれ俺のクローンの兵士を作るつもりか?」

 

「そうとらえてもいいよ。どの道、君たちはここで終わるか、それとも生き残るかのどちらかだけどね?…まぁ、僕にとってはどうでもいい。僕の目的は、兄さんを殺すこと。ただそれだけだよ」

 

 

そうシュピーゲルが言った後にヘルメットをかぶり直した瞬間、ジェット・パックを起動させ、清水に向かって突貫してくる。清水はシュピーゲルの予想外の行動に回避行動をとれず、そのままシュピーゲルによって連れ去らわれてしまう。

 

 

「おわっ!?またかよ!」

 

「清水っ!?」

 

「清水ではない!シャドウだぁっ!!」

 

 

連れ去られる清水は、ハジメにコードネームの訂正だけは忘れずに言い、そのままシュピーゲルに連れ去られるのだった。そして残されたハジメたちは、ラミエルや敵兵士たちの対処するためにそれぞれ武器を手にするのだった。

 

 

「やれやれ……シュピーゲルも困ったものですね。…では、こちらも始めましょうか?私たちの戦いを……」

 

 

ラミエルはノイントたちと同じ大剣を持ち、兵士たちもブラスターを構えてハジメたちを排除を試みる。

 

 

「…上等だ。実際のところ、ノイントたち(あいつら)との戦闘経験が少ないからな。どうせなら、戦闘経験を得ると同時に、お前には俺が作った新兵器の実験に付き合ってもらうぞ!」

 

「ハジメ……悪そうな顔をしてる」

 

「相変わらずな性格をしておるのぉ?」

 

「どのみち、あいつらと一戦交わることになるな……」

 

 

ハジメ以外はエヒトの使徒であり、天使たちのモデルとなったオリジナルである天使(ラミエル)を相手に警戒しながらも、敵兵士たちに対処するためにそれぞれの武器を構える。そしてハジメは、かつて戦った天使の戦闘経験が浅いためにこの戦いを期に、ラミエル相手に天使戦の経験の糧にすべく、リベンジ戦を行うのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

その頃、シュピーゲルによって連れ去られた清水は、基地から少し離れた場所に投棄される。清水はなんとか受け身を取り、武器を構えてシュピーゲルの方に視線を向ける。清水を投棄したシュピーゲルは、ジェット・パックで地面に着地した後、再び清水と会話をする。

 

 

「ごめんね?ちょっと荒っぽかったけど、こっちのほうが僕にとって都合がよかったんだ」

 

「…お前の都合なんざ知らん。俺を無理やりここに連れていきやがって……俺に何をさせたい?」

 

「ちょっとしたプレゼントを兄さんに渡そうと思ってね?これが、そのプレゼントだよ」

 

 

そう言ってシュピーゲルは清水に何かが入ったケースを投げ渡す。清水は渡されたケースを受け取った瞬間、シュピーゲルを見た。シュピーゲルは清水がケースの中身を確認するのを待っていた。ケースの中身にトラップでも入っていることを想定しながらも、警戒しつつケースを開封する。そのケースの中身は、三本の注射器であった。

 

 

「注射器…?こいつの中身はまさか……!」

 

「そうだよ兄さん。中身はそれなりに危険な薬物でね?それを摂取した人間の身体能力を大幅に強化することができるドーピング薬だよ。…もっとも、副作用が強烈でね?心臓に悪影響を及ぼすほど危険なもので、これに耐え抜いて適合できるのは僕と兄さんだけだよ」

 

「こんなドーピング薬を渡して何がしたい?俺にどうしろと?」

 

「やだなぁ、兄さん。そんなの……分かりきっているじゃないか?……フッ!」

 

 

シュピーゲルは清水に渡した同じ注射器を自らの首に打ち込み、その薬物を投与する。清水は一瞬、血迷ったかと思われたが、そうではなかった。

 

 

「……っ!ハハッ…ハハハッ!」

 

 

ドーピング薬を打ち込んだシュピーゲルは、狂気じみた笑いを発しながらも体に変化が起きていたことは確かだった。清水は、シュピーゲルが先手を取る前にこちらから仕掛けようと手にしていたベネリM4の銃口をシュピーゲルに向けようとしたその時、シュピーゲルの行動が早かった。シュピーゲルはバイブロ=ナイフで清水を切りつけようとするが、清水はとっさの判断で回避する。だが、それを読んでいたのかシュピーゲルは清水に組み付き、そのまま拘束し、そして懐から同じ注射器を取り出す。この時に清水は、最悪な展開を予測した。

 

 

「フフッ…!」

 

「や…止め…ろ……っ!」

 

 

清水の静止すら聞かず、シュピーゲルは清水の首筋に注射器を打ち込み、薬物を投与する。

 

 

「…っ!?グッ…ガァァッ!?」

 

 

投与された清水の首筋には血管が浮き上がり、心臓の鼓動が早くなり、もはや自分では抑えられない程の興奮が蓄積されていく感覚が清水に襲い掛かる。

 

 

「グッ……ァァァァアアアッ!!

 

 

清水は、奇声をあげながらもシュピーゲルの組み付きから脱出し、“宝物庫”から“ランサーMk.1”を取り出してシュピーゲルに銃口を向けて引鉄を引く。ランサーMk.1の銃口から出るマズルフラッシュが出ると同時に大口径の弾丸が放たれ、弾丸がシュピーゲルに向かっていく。しかし、シュピーゲルはジェット・パックを使って、その機動力で清水の攻撃を躱す。

 

 

「そうだよ兄さん、そうこなくちゃ!もっと兄さんの力を見せてよ!!」 

 

 

シュピーゲルは、どこか楽し気にしながらもホルスターからSE-44Cブラスター・ピストルを取り出し、ブラスター・ピストルとバイブロ=ナイフを構えて清水と対峙するのだった。一方の清水は、早めにシュピーゲルを倒し、解毒しなければ命にかかわることになるだろう。タイムリミットが分からないが故に、清水の焦りは増すばかりだった。

 

 

清水Side out

 

 

 

清水がシュピーゲルと戦闘しているその頃、ハジメたちはエヒトの使徒であるラミエルとファースト・オーダーの兵士たちと交戦していた。ハジメとユエはラミエルの相手をし、ティオと不良分隊、ドミノ分隊は敵兵士たちによるハジメたちの妨害を阻止するように交戦していた。

 

 

 

既にハジメは“限界突破”で身体強化をし、ラミエルを相手にしていたが、それでもラミエルに追いつくのがやっとだった。そこはユエの魔法攻撃による援護によってなんとか互角に戦えている。幸いにもハジメたちの行動を妨害する弱体化魔法を詠唱する聖教ラミエルの翼から放たれる“分解魔法”が付与された銀羽がハジメたちに襲い掛かる。

 

 

「…クソッ!厄介だな、分解魔法が付与された攻撃は!…つーか、前から思っていたが翼から放たれるって、ラ〇スロット・〇ルビオンかよ!」

 

「ハジメ……それ、私に言ってもわからない」

 

「いったい誰のことかは分からないけど、あなた達に息つく間も与えないよ!」

 

 

ラミエルは大剣で一気にハジメたちに急接近し、そのまま切りかかろうとする。ハジメとユエは横へ飛んで回避し、反撃にハジメはドンナーとシュラーク、ユエはクレセントで応戦する。しかし、ラミエルは大剣でハジメたちから放たれる数発の弾丸を弾いて防ぐ。

 

 

「クソッたれが!対使徒用に作った特殊弾すらあの大剣に弾かれちゃあ効果が薄い!」

 

「あなたが使うそれはかなり危険そうだからね。そうそう当たってやるわけにはいかないよ!」

 

 

ハジメがドンナーとシュラークに装填されている弾丸はただの弾丸ではない。アシュ=レイの協力のもと、消滅魔法が付与された弾丸、“エクスターミネイト弾”(別名、消滅弾)である。その弾丸の効果は文字通り消滅であり、これを受けた対象は消滅してしまう。しかもハジメは、ノイント戦でアシュ=レイが消滅魔法を使って血液の四割をピンポイントで消滅させたことを参考に、様々なバリエーションの〇〇消滅弾を作り上げたのだ。

 

 

 

今ハジメのドンナーとシュラークには対使徒用の血液消滅弾が装填されているが、ラミエルの持つ大剣によって防がれ、決定打が決められずにいた。埒が明かないと判断したハジメは、ドンナー&シュラーク用のアタッチメントパーツであるレーザー刃発生装置をドンナーとシュラークに装備させ、接近戦を仕掛け、ユエもクレセントと魔法を使ってハジメを支援する。ラミエルは大剣でハジメの攻撃をいなし、ユエの支援攻撃を躱しながらも反撃に銀羽を広範囲に放つ。

 

 

 

ハジメとユエは、ラミエルの攻撃を躱すもハジメのドンナーとシュラークに付けられているレーザー刃発生装置が銀羽に当たってしまい、装置が分解され、壊されてしまう。

 

 

「…くっ!クソがっ!」

 

 

ハジメはシュラークをしまい、壊された装置の代用としてにレーザーソードのアストルムを取り出そうとするが、ラミエルは次の手を出させないためにアストルムをハジメから離すように弾き飛ばした。この時に、偶然にもアストルムが弾かれて落ちてういった場所がユエがいる場所であった。

 

 

「ハジメ!」

 

 

ユエはアストルムを回収し、クレセントで援護しようにも、ハジメとラミエルが組み付くように接近戦を繰り広げているため、下手に撃てばハジメに当たってしまうと同時に、一部のデス・トルーパー達の妨害があってハジメの援護ができなかった。

 

 

 

ハジメも、当分ユエのサポートは受けられないと判断し、単身で使徒を相手にする他に手段はなかった。空中戦では分が悪いと判断したハジメは地上へと降下し、地上戦を仕掛ける。ラミエルもまた、ハジメを追いに地上に降下すると同時に魔方陣を展開し、そこからストーム・トルーパーを召喚する。

 

 

「今度は物量で潰す気か?」

 

「今更卑怯だなんて言わないよね?殺す手段として手札を切ったに過ぎないわ」

 

「言わねえよ。どのみち、殺す相手が増えたことした変わったことはない」

 

 

そう口にするも、ハジメは追い詰められていることに変わりなかった。敵兵士たちを相手しながらも使徒の相手をするということは、スタミナを多く消費する。ハジメはどうにか対策を練ろうと考えて周囲を見渡す。するとハジメの目に映ったのは、ハジメたちが脱出した敵補給基地の存在だった。その基地を目にしたハジメの脳裏に電流が走る。ラミエルも、ハジメの悪だくみを見逃さなかった。

 

 

「そう様子だと、私に勝つ方法でも見つけた様だけど、いかなる手段を用いても全ては無意味に終わるわ」

 

「ほぉ…?その割りには俺とユエ相手に苦戦していたようじゃねえか?それも、ストーム・トルーパーを召喚してまで俺たちに勝とうとするなんざ、お前の実力はそれほど大したことないんじゃないのか?」

 

 

ハジメはラミエルに煽りを入れ、ハジメの策に乗せようと挑発する。ラミエルは冷静にハジメの挑発を流すが……

 

 

「それほど私を倒せる確証を持った自信の策かしら?まぁ…くだらない挑発に乗ってやって少しばかり試してみるとしようかしら?」

 

 

ラミエルは召喚したストーム・トルーパー達に攻撃支持を出し、ハジメの様子を見る。ハジメは、わざとハジメの策に乗ろうとするラミエルの考えが読めなかったが、それでもストーム・トルーパー達を連れただけでもよしと考えた。そして、ハジメのとった行動が敵補給基地に再び入ることだった。ラミエルはストーム・トルーパー達に追撃するよう指示を出し、ハジメの行動を見極めようとした。敵補給基地に戻ったハジメは、交戦中のテックにある指示を出す。その指示は、テックすら狂ったのかと思えるぐらいのめちゃくちゃな指示だった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

ラミエルはハジメが何故、自爆寸前の補給基地に戻っていったのかは定かではない。するとハジメを追撃しに行ったストーム・トルーパーから連絡が入った。

 

 

《天使ラミエル様、敵は追撃部隊のこちらを迎撃しながらも基地のフロア奥まで後退しています》

 

「(敵がフロア奥に…?私を誘い出すための罠かしら。だとしても、何かが引っかかるわね…)…分かったわ。それで、状況は?」

 

《こちらの被害は死傷者が4名、戦闘続行は可能。このまま敵を追い詰めますか?》

 

 

こちらが敵を追い詰めたことには変わりはないが、何かが引っかかる分、慎重に行動しなければならない。

 

 

「いえ、そちらに増援を送ります。そして、敵を奥に追い詰めた後に私も向かいます。増援部隊と合流次第、各フロアの制圧し、敵を追い詰めなさい」

 

《了解。帝国のために!》

 

 

通信を終えたラミエルは、更にストーム・トルーパーを召喚して増援を送り込む。そしてホロプロジェクターを取り出し、補給基地のフロアマップを開く。基地入口にて青い点が各フロアを埋めるように移動している。青い点は味方のストーム・トルーパーであり、残った赤い点はハジメである。その赤い点の位置は、少しずつだがフロアの奥へと進んでいた。

 

 

 

先ほどハジメが口にしたことは口だけのことだったのか、それとも、これも策のうちなのかは定かではない。そう考えていると、ハジメを追撃していたストーム・トルーパーから連絡が入る。

 

 

《ラミエル様、敵はフロア奥に追い詰めました》

 

「分かったわ。私が来るまでその場で待機してちょうだい(奥に追い詰めたとは言え、こうも簡単に事が進んでいる事態、怪しすぎるし嫌な予感がする。…どのみち、こちらから行かないと相手の真意を見破ることはできないのも事実。…もどかしいわね)」

 

 

僅かな不安を残しつつもハジメを追うために基地内に侵入するラミエル。この行動の結果がどう出るのかは、彼女自身、知る由もなかった。

 

 

 

ハジメがいるであろうフロアの入り口に到着したストーム・トルーパーたち。ハジメはフロア奥の扉をロックを掛けられて開けられないのでラミエルの到着を待ちながらもハジメが移動する様子を見逃さないように監視を行う。そしてラミエルが到着したと同時にストーム・トルーパー達はフュージョン・カッターで扉を溶断し、強引に開ける作業を行う。フロアの扉が開かれる時に、ラミエルはある違和感を覚える。

 

 

(やはり、何か違和感を感じるわ。普通、ここに立てこもっても何のメリットがないというのに……どういう事かしら?)

 

 

そう考えている間に扉の溶断が完了し、そのままこじ開けて突入するストーム・トルーパー達。ラミエルも後に続き、フロアの周囲を確認する。そのフロアにあったのは液体ティバナが満載した“PLNKシリーズ・パワー・ドロイド”が二体もいた。パワー・ドロイドの体には何かしらの機械が取り付けられていた。これを見たラミエルは、今まで感じていた違和感の正体であると同時にハジメが用意した罠であることに気が付く。

 

 

「…っ!不味い!」

 

 

ラミエルは逃げても間に合わないと悟り、身を固めると同時に防御強化魔法“金剛”でステータスにバフをかけて全身を防御を取る。ストーム・トルーパー達は間に合わないと分かっていながらもこの基地から脱出しようとする。その時にパワー・ドロイドに取り付けられていた機械がある信号を受信したと同時にパワー・ドロイドの中にある液体ティバナが引火して大爆発が起きる。その爆炎は、ラミエルと脱出をしようとするストーム・トルーパー達を巻き込んで……

 

 

ラミエルSide out

 

 

 

数分前……

 

 

 

フロア奥についたハジメは、このフロアに来る途中でパワー・ドロイドを回収し、液体ティバナを満載させ、パワー・ドロイドに起爆ユニットを取り付けていた。

 

 

「これで良いだろう。……まさか、クローンウォーズのあのシーンを再現する羽目になるとはな」

 

 

そう言いながらもハジメは、駄目押しに手榴弾を数個置いていき、その後にこのフロアにあるダクトを通って、ストーム・トルーパー達に見つかないように基地から脱出したのだ。その後に十分に距離を取った後に通信でテックに合図を送る。そして数秒後、ラミエルやストーム・トルーパー達がいる敵補給基地が大爆発を起こす。ハジメは補給基地が大爆発した様子をしっかりと見ていた。

 

 

 

何故、補給基地が大爆発したのかは時間は少し遡る。ハジメは補給基地に入ったと同時にテックに通信を入れていた。この時にハジメは、テックから敵を補給基地におびき寄せたら自爆装置のジャミングの解除と同時に時間を早めさせ、ハジメが仕掛けた爆弾とリンクして爆発する仕掛けを同時に起動させたのだ。その結果が今現在に至り、補給基地は木端微塵に吹き飛んだのだった。

 

 

「一応、誘い込んだ後に爆破だからな。これで生きていたら完全にお手上げだな」

 

「ハジメ!」

 

 

ハジメが冷静に分析しているときにユエたちがハジメと合流するために集まったのだ。どうやらユエたちが相手していた敵は、あらかた片付いたようだ。

 

 

「こっちは何とか片づけたのじゃ。なかなかの数じゃったが、苦戦するほどでもなかったのう?」

 

「あぁ…パージ・トルーパーはともかく、デス・トルーパーの連中は少しばかり骨が足りなかったな」

 

「ハッハッハッ!あいつ等じゃまだまだ物足りねえくらいだ、もっと来てほしかったぜ!」

 

「…少しは大人になれ」

 

「なあ、エコー。あいつ等っていつもああなのか?」

 

「…癖が強いけど、慣れれば心強い味方だよ」

 

 

それぞれの感想が出る中、爆破された補給基地から何かが飛び出るように瓦礫を吹き飛ばし、上空へと上昇する。その正体は、補給基地の自爆から生き延びたラミエルだった。しかし、その姿は美しい天使とはかけ離れており、左腕は基地の自爆によって無くっており、左顔部分が基地の自爆による爆炎で焼けただれていた。最早、地に堕ちた天使という言葉しか思いつかないくらいラミエルは、基地の自爆から生き延びたのだ。

 

 

「…っ!ハジメ!」

 

「あの野郎、まだ生きていたのか!」

 

「…正直に言って、死にかけたわ。あれが罠であることを早めに気づけなかった私自身にも落ち度はあるわ」

 

 

その言葉を皮切りに、ラミエルから尋常ではない魔力と凄まじい光が溢れ出し、それが奔流となって天井へと竜巻のごとく巻き上がった。“限界突破”終の派生技能[+覇潰]をラミエルが発動させたのだ。それによりラミエルは、先ずはハジメの周りにいるユエたちを威圧だけで吹き飛ばした。

 

 

「くっ……んんっ!」

 

「ユエ!?」

 

「よそ見とは、自分の命を捨てる行為よ!」

 

 

ラミエルは残った右腕の持つ大剣でハジメを切るために走り出す。ハジメはドンナーを引き抜いて引鉄を引いたが、弾は出ることはなかった。

 

 

「げっ…!?ここに来て弾詰ま(ジャム)りかよ!」

 

 

ハジメはドンナーをしまい、ドンナーの代わりにシュラークで応戦しようとしたその時に、ユエがある物をハジメに投げ渡す。

 

 

「ハジメ!」

 

「……っ!」

 

 

ユエが投げ渡したのは、ハジメのレーザーソード型アーティファクトのアストルムだった。ハジメはユエから受け取ったアストルムを手にして電源を入れ、レーザー刃を展開する。

 

 

「光の剣!?……しかし!」

 

 

ラミエルはハジメの持つアストルムを警戒し、大剣で横薙ぎと見せかけてのフェイントから突きを放つ。ハジメはアストルムのレーザー刃でラミエルが放つ突きを下から滑らせるように防ぎ、そのままラミエルの胴体を捉える。

 

 

「…っ!?」

 

 

そしてハジメは、アストルムのレーザー刃の出力を最大にし、そのままラミエルの体を斬り捨てた。ハジメによって斬られたラミエルは、ふとハジメの方を見た後に、己の死を感じ取った。

 

 

(そう……これが“死”…なのね……)

 

 

何も思い残しが無いかのようにラミエルは、そのまま瞼を閉じ、自身の死を受け入れるのだった。辛くも勝利したハジメは、アストルムのレーザー刃を消し、そのまま脱力するのだった。

 

 

「はぁ……はぁ……もうこんな目には遭いたくないぞ…」

 

「…ハジメ!」

 

 

ユエはハジメに駆け寄り、抱きしめる。彼女もハジメが無事に生き残ってくれたことにうれしさを隠せないでいた。

 

 

「よかった……ハジメ」

 

「ユエ……助かったぜ。こいつを投げ渡さなきゃ、ギリギリ危なかった。サンキューな」

 

「ハジメ……」

 

「ユエ……」

 

 

ハジメとユエは、いつもの雰囲気に入ってしまい、取り残されたティオと不良分隊、ドミノ分隊は蚊帳の外になっていた。

 

 

「おぉっ…久々の放置プレイ……たまらん」

 

「おいおいっ…俺たちの前で言うか普通?流石に引くぜ、おいっ…」

 

「こいつは手遅れの類だ。何を言っても無駄だろう」

 

「噂によると、コマンダー・ナグモが彼女をああなった原因であるとかなんとか聞かれますが、間違いなくそうでしょう」

 

「やれやれ、変わっているのは俺たちだけじゃなさそうだな」

 

 

ティオの変体っぷりにレッカー、クロスヘア、テック、ハンターの順に感想を述べるのだった。その時にドミノ分隊のエコーは、ここであることを思い出す。

 

 

「…っ!そういえば、シャドウはどうしたんだ?」

 

「「……っ!!」」

 

 

ハジメとユエは、エコーが清水のことを言いだしたことで我に返り、清水がまだいないことに気が付く。清水のクローンであるシュピーゲルに連れ去られてから大分時間が経っている。ハジメたちは、一刻も早く清水が連れ去られた場所に向かうのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

その頃の清水はというと、強化薬物による身体強化でブーストされた体で、同じく薬物を使用したシュピーゲルと殺しあっていた。清水の体には、バイブロ=ナイフによる切り傷が多数あり、ランサーMk.1の残弾は残っていなかった。そしてシュピーゲルは、清水との戦いでジェット・パックを破壊されており、同じ土俵で戦っていた。地上戦においては清水の方が一枚上手だった。

 

 

「流石だよ…兄さん。こんなにも強いなんて…!」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

薬物の副作用が今になって清水の体を蝕んでいき、体力的にも限界が来ていた。しかし、同じ薬物を投与したシュピーゲルには副作用らしいものは診られなかった。そんな二人だけの戦いに意外な形で終わる。

 

 

「…んっ?撤退命令?……しらけるなぁ」

 

「何…だ……?」

 

 

清水は副作用に耐えながらも、シュピーゲルから目を離さぬよう見ていた。するとシュピーゲルは、残念そうな顔をしながらも清水に告げる。

 

 

「残念だけど兄さん、どうやら時間切れのようだ。今日の殺し合いはここまで。また次の殺し合いの時までには、その副作用を克服してからだね。それじゃあ…ね!」

 

 

そう言ってシュピーゲルは、何かを地面に叩きつけると煙が舞い、清水の視界を遮った。煙幕による目くらましでシュピーゲルは逃走した。清水は戦いが終わったと認識した瞬間、副作用による体の負荷がとうとう限界に達したのか、口から何かが逆流してくる感覚を覚え、そのまま口から何かを吐き出した。清水が吐き出したそれは()だった。体の負荷に耐えきれなくなった分内出血が起きて血が漏れ出し、行き場所を失って口から吐血したのだ。

 

 

「これが…副作用の代償……か」

 

 

清水はそう理解したと同時に意識を手放し、そのまま眠るかのように倒れこむのだった。その後でハジメたちがやって来て、倒れこんでいる清水を回収と同時に清水の治療のためにハジメが迎えのガンシップを要請し、やって来たガンシップに清水を乗せた後にそのまま医療ステーションに搬送されるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷電ルート 電撃戦と天使の異能

雷電ルートを作るのに半年以上掛かってしまって本当に申し訳ない。orz


79話目です。


 

 

雷電率いる艦隊は、八重樫がいる座標へとジャンプを開始してから数分、雷電は香織たちこの場にいる全員に雫救出作戦のおさらいをする。

 

 

「…ではこれより、八重樫救出作戦におけるお前たちの役割をもう一度説明する。行動開始は全艦がハイパースペースから出た後だ。全艦がジャンプ完了次第、アシュ=レイが指揮するファイター第1から第3編隊を発艦、先行させてステーションに攻撃を仕掛ける。残りのファイター編隊は艦の直掩に当たらせる。アシュ=レイを中心とする編隊は、陽動と同時に第一突入チームの突入路の確保のために敵軍を混乱させろ。突入チームの俺たちはシャトルでアシュ=レイたちが確保する進行ルートに進み、ステーションに侵入。マップルームにて八重樫が捕らわれている場所を特定し、奪還する」

 

「はいっマスター!」

 

「了解、将軍」

 

「分かったわ」

 

「…だが、突入チームのシャトルが狙われる可能性がある為、数隻のおとり用のシャトルを飛ばす。敵ステーションへの突入ルートと制宙権の確保を頼んだぞ、アシュ=レイ」

 

「分かってるぜ。俺に任せな!」

 

「将軍、間もなく目的に着きます」

 

 

雷電の補佐を務めるクローン航法士官の言葉を皮切りに、雷電達はそれぞれの役割を果たすために行動に出るのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

一方のファースト・オーダーは、突如と表れた雷電の艦隊を対処しようと行動していた。ファースト・オーダーTIEファイター・パイロットたちがTIE/fo制宙戦闘機ことファースト・オーダーTIEファイターに乗り込み、スター・デストロイヤーから発艦する。ステーションからもTIEファイターが発進し、来る敵軍の排除に向かう。ステーションの司令部でセヴンス・シスターと一人の銀髪の女性がTIEファイターたちが出撃する様子を見ていた。

 

 

「案の定、攫われた姫を助けに連中が来たようね」

 

「尋問官、分かっていると思いますが敵がどの様に動くのか見極めなければなりません。慢心に浸って敵に隙を突かれないように」

 

「分かっているさ。“白夜の天使”という肩書きを持ったアンタに従うさ」

 

 

セヴンス・シスターは皮肉を込めて銀髪の女性に言った後、ステーションの警護に当たるのだった。予言の天使という二つ名をもつ彼女の正体は、地上のハジメたちが交戦した使徒ラミエルの部下“アエリア”という天使である。アエリア自身、最初は感情はなき人形のような存在であったが、ラミエルの部下として行動していた影響なのか感情が少しだけ芽生え始め、らみえる以外には滅多に表情を表すことはないがラミエルと一緒の時は人間と同じように表情が柔らかになる。それはさておき、アエリアはファースト・オーダーの士官やオペレーター達に指示を出す。

 

 

「敵は尋問官が連れてきた仲間を救出しに来たのでしょう。TIEファイター部隊は敵艦から発艦される敵ファイターの迎撃。リサージェント級スター・デストロイヤーを中心とする第32航宙艦隊は、敵の旧型スター・デストロイヤーが射程圏内に入り次第攻撃せよ」

 

「「「了解」」」

 

 

敵がどう動くのかを司令部から見通して、それに対応できるよう指示を出すのだった。しかし、アエリアはある一つのことを確信していた。この戦いはあることを除けば()()()()()()()()()()ということを。

 

 

 

そうとは知らずにファースト・オーダーはアエリアの支持を全うするべく行動するのだった。

 

 

アエリアSide out

 

 

 

ハイパースペースによるジャンプが完了し、雷電達が搭乗しているヴェネター級を含む他の艦隊もハイパースペースから出てきて艦隊が無事に全艦そろった。

 

 

「よしっ…予定通り作戦を開始せよ」

 

「イエッサー!グール、ハーピィー、フェアリーは発艦したと同時にポイント237に向かえ。他の部隊は各艦の直掩に回れ」

 

 

クローン・オペレーターは艦に搭載されているファイター部隊に出撃指示を出す。ファイターは主力機となっている“ARC-170スターファイター”を中心とするハーピィー中隊と爆撃を中心とする“BTL-B Yウイング・スターファイター”のフェアリー中隊、そして両翼の下に大型の特殊ミサイルを二つ搭載した“クローンZ-95ヘッドハンター”を中心とするのグール中隊が発艦された。そしてアシュ=レイが乗る“イータ2アクティス級軽インターセプター”が発艦し、アシュ=レイが指揮するファイター編成部隊は予定ポイントに向けて飛行していた。残りのファイター編隊は発艦し、帰りの船を守るために直掩に当たるのだった。

 

 

 

アシュ=レイ率いるファイター編隊はクローン・オペレーターが指示したポイント237に向かっていた。アシュ=レイは各隊の機体が良好であるか確認を取った。

 

 

「アシュラ1よりグール、ハーピィー、フェアリーリーダー、準備はいいか?」

 

「グール・リーダーよりコマンダー、各機の状態良し」

 

「ハーピィー・リーダー、こちらも準備は万全」

 

「フェアリー・リーダー、各機ともに良好」

 

「良しっ!それじゃマスターアームをオンにしておけ。もうそろそろ敵が見える頃だ」

 

 

各隊の確認を取ったアシュ=レイは、敵のTIEファイターの軍勢をレーダーで捕捉する。するとヴェネター級の艦橋から通信が入る。

 

 

《アシュラ、グール、ハーピィー、フェアリーへ、こちらは観測ブリッジの“ウィッチウォッチ”。敵機が迎撃ラインに接近。機種はTIEファイター、数は100。…思ってたよりも数が少ない、恐らく本命を隠していると思われる。敵の増援に注意しろ》

 

「了解だ。…全機、コンバットオープン!グール中隊、これより雷電(あいつ)が生み出した迎撃フォーメーション17に移行するぞ!ハジメが作った例のお手製ミサイルを奴らに食らわせてやれ!」

 

「「「グール中隊、了解!」」」

 

 

アシュ=レイの支持と同時にグール中隊が乗るクローンZ-95ヘッドハンターの両翼に取り付けられた大型特殊ミサイルを発射する。発射されたミサイルは宇宙空間を飛び交い、TIEファイターの軍勢とすれ違う瞬間で起爆され、爆発という名の大きな黒紫の閃光が無数に出現する。ハジメが作ったミサイルとはライセン大迷宮で習得した重力魔法を応用し、擬似ブラックホールを発生させる特殊ミサイルだ。ハジメ曰く、ブラックホールを発生させるミサイルもありじゃないか?と発想の下にハジメが製作したのだ。

 

 

 

その黒紫の閃光こと擬似ブラックホールに巻き込まれたTIEファイター数十機は擬似ブラックホールに引き寄せられて圧壊し、宇宙の藻屑と化す。敵の効果的ダメージを確認したアシュ=レイはクローン・パイロットたちに次の指示を下す。

 

 

「…よっしゃ!ミサイルの効果は覿面だ!こっから先は迎撃態勢に移るぞ!各機散開して格闘戦に持ち込め!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

アシュ=レイ率いる一個中隊は、敵航空機を引き付けて雷電たちが突入しやすいように陽動を行いつつも潜入部隊の進行ルートを確保し、敵を迎撃するのだった。

 

 

 

アシュ=レイたちが敵ファイターを迎撃、ルートを確保している間に雷電達はニュー級アタック・シャトルに乗り込み、出撃準備を完了させる。

 

 

「あぅ…緊張してきたですぅ……」

 

「そういうのは今更でしょ?」

 

「それもそうですが、この輸送機が撃墜されないか不安なんです」

 

「ザンガ将軍が進行ルートを確保している。もうしばらく待てば……」

 

「雫ちゃん……待っててね。直ぐに助けに向かうから!」

 

「あまり気を張りすぎるなよ。俺たちで八重樫を助けに行くんだからな」

 

 

雷電がそう言っているときにクローン・オペレーターから連絡が入る。

 

 

《ウィッチウォッチからキャリア1へ、アシュラ、グール、ハーピィー、フェアリーが進行ルートを確保した。速やかに発進せよ》

 

「キャリア1了解。……聞いての通りだ、これから敵ステーションに潜入するぞ」

 

 

ボスの指示を皮切りに突入チームが乗るニュー級アタック・シャトルが発進すると同時におとり用のシャトルも発進する。

 

 

クローン軍Side out

 

 

 

一方のステーション内のファースト・オーダーは、雷電率いるクローン軍による攻撃に被害報告が絶えなかった。

 

 

「敵部隊の攻撃により戦力の損耗率が30%に達しました!」

 

「防衛隊の10%をポイント237に至急増援として回せ!…何っ?もう回せる機体がないだと!?」

 

「第32航宙艦隊と対艦爆撃部隊は敵艦と交戦中!しかし、敵の守りが強固で突破が困難とのこと!」

 

「敵はステーションにいる捕虜の奪還が目的であることに変わりありません。引き続き防衛に専念しなさい」

 

 

アエリアの指示で何とか奮戦しているファースト・オーダーだが、それでも旗色が悪いことには変わりはなかった。尋問感はアエリアにそろそろ頃合いではないのかと告げる。

 

 

「連中も思ったよりもやるじゃないさ。そろそろアンタの()()とやらを使うときじゃないのかい?」

 

「……敵は新型兵器を使用してきた分、向こうが優勢なのは確実。正直に言えば、もう少しだけ粘ってほしかったが……」

 

「そうも言ってられないようだよ。連中はこのままこっちに侵入しようとしているわよ?」

 

「問題ありません、これも策のうちです。むしろこちらに入れてあげなさい。誘い込み次第あの術を使います」

 

 

アエリアの言葉に尋問官は何やら不敵な笑みを浮かべており、ファースト・オーダーの下士官は不安を抱きながらも兵士たちにアエリアの作戦指示を伝える。この時にアエリアは敵の作戦を解析していた。

 

 

 

最初のファイターによる先制攻撃と陽動。敵の突入部隊によるターゲットの救出。そしてその先の展開は……

 

 

アエリアSide out

 

 

 

アシュ=レイ率いるファイター編成部隊は突入ルートを確保しつつも雷電達が乗るシャトルことキャリア1を護衛していた。艦の直掩に回っていた一部の部隊はキャリア1の直掩に回り、敵のファイターには近づけさせないよう護衛していた。

 

 

「おっし!このまま守り通せよ!」

 

《各機、キャリア1には指一本触れさせるな!》

 

「「「イエッサー!」」」

 

 

アシュ=レイとウィッチウォッチの指示通り雷電達を守る数十機のファイター。しかし、突如と戦局か大きく変わるようにウィッチウォッチのレーダーに異変が生じる。

 

 

《む…?レーダーが急に………何だ?》

 

 

異変が起きたのはレーダーだけではなく、この宙域にも変化が起きていた。黒の空間ともいえる宇宙空間が突如と正反対の()()()()に変わった。更には黒い靄を出してだ。この様な変貌にアシュ=レイたちも驚いていた。

 

 

「なんだ…こりゃ?宇宙(そら)の色が……変わった?」

 

「どういうことだ?俺たちは宇宙で戦っているはずだ。一体……」

 

 

宇宙が白い空間に包まれ、黒い靄がまるで惑星の大気圏内にある曇の気流のように動いていた。原因が分からない状況の中、クローン・パイロット達にある悲劇が訪れる。黒い靄に入った一部の味方のファイターが突如と次々と爆発した。

 

 

「何っ!?」

 

「…っ!グール9!その黒い靄に入るな!」

 

「駄目だ、間に合わない!ぐわぁあっ!」

 

 

アシュ=レイが何かに気付き、味方に警告するも時すでに遅く、グール9の機体が黒い靄に入ってしまった。その時に何かが機体に切り刻む音が響き、そして味方の断末魔と共に機体が爆発する。

 

 

「うわぁあっ!?」

 

「各機退避!退避しろっ!」

 

「駄目だ!……ぐあぁっ!!」

 

「緊急退避!」

 

「ぶつかる…ああぁっ!?」

 

 

そこからは阿鼻叫喚な光景だった。味方のファイターが次々と黒い靄によって堕とされ、士気が云々という状況ではなかった。無論、被害は前衛の部隊だけではなく後方の味方艦隊にも被害が出ていた。ヴェネター級の甲板に黒い靄が当たったところから爆発が起きていた。それも何か所に。この様な状況に通信ではクローン・パイロットの混乱の声が蔓延していた。

 

 

「あの黒い靄は、まるで微細で尖ったデブリだ!」

 

「GPS、ロスト!」

 

「計器が……方位が確認できない!」

 

「指示を……指示をくれ、ウィッチウォッチ!」

 

 

前衛の部隊は未知の展開に士気が下がり、混乱に陥っていた。観測ブリッジの通信兵が観測カメラを通して黒い靄の正体を突き止めた。

 

 

「……観測カメラで黒い靄を確認したところ、アレはデブリだ!それも今の戦いで倒した敵や味方のファイターの残骸の集まりだ!」

 

「なんだって?…だが、あのデブリの集まりはまるで意思を持っているように動いているのはどう説明するんだ?」

 

「それを考える時間を敵は与えてくれないのは確かだろうな。とにかく、今は前衛の部隊は至急非難させろ!そして黒い靄には近づかないよう指示をだせ!」

 

「そ、それじゃあ……あれが全部………!」

 

 

観測ブリッジから見た光景は、白い空間に黒い靄が雲の乱気流のように漂って味方ファイターを撃墜していた。何とか打開策を練らなければとステーションに突入する雷電達に伝えるのだった。

 

 

 

一方の雷電は、シャトルの艦首で外の様子を把握していた。それはもはや地獄絵図の状況で、黒い靄に入っただけで切り刻まれて撃墜されるファイター。敵の謎の攻撃に雷電も“してやられた”という苦い表情が表に出ていた。

 

 

「敵の攻撃……というよりは、空間魔法に近い何かと黒い靄が俺たちを攻撃してきている。おそらく、敵にはエヒトの使徒がいる可能性がある」

 

「フジワラ将軍、ウィッチウォッチから通信です。あの黒い靄はデブリの集まりだそうだ。アレに入ると機体どころか体も切り刻まれるそうだ」

 

「なるほど。……それで、白い空間に関しては?」

 

「残念だが、未だに解析不能とのことだ」

 

 

“そうか…”と最悪な状況になったことには変わりないことを理解しながらも敵ステーションまで後500mのところでシャトル自体に大きな揺れが襲い掛かる。

 

 

「ぐっ…!どうした!?」

 

「シャトルが被弾した!ですが、ステーションまではもう少しです!このまま強行着陸します!将軍らはしっかり掴まって!」

 

 

クローン・パイロットは何としてもステーションに侵入するためにダメージ・コントロールしながらもステーションのファイター発艦口に侵入し、不時着する。

 

 

 

雷電の様子をアシュ=レイは見ていた。アシュ=レイは雷電達が敵ステーションに突入したことをウィッチウォッチに告げる。

 

 

「ウィッチウォッチ、聞こえるか?キャリア1が被弾しながらもなんとか敵ステーションに入り込んだ!」

 

《了解。ウィッチウォッチからアシュラ1へ、部隊を一度後方に下げる。このままではそちらが全滅するのも時間の問題だ》

 

「その点は問題ねえ!もう少しだけ粘ってみるさ!グール、ハーピィー、フェアリー、お前たちも持ちこたえろよ、ここからは持久戦だ!」

 

「「「イエッサー!」」」

 

《無茶は止せ!あの黒い靄は変則的に動くデブリの集まりだ。下手に持久戦に持ち込んだらあの黒い靄に巻き込まれるだけだぞ!》

 

「だったらその靄に入らないよう彼奴らが戻るまで粘れば良いわけだ。それまで何としてもここを維持するぞ!」

 

 

アシュ=レイはバラバラだった前衛の部隊を率い、雷電が脱出するまでの時間を稼ぐのだった。それが圧倒的に不利な状況に立たされながらもだ。

 

 

アシュ=レイSide out

 

 

 

シャトルがステーションに強行侵入を行い、機体が大破しながらも敵ステーションに突入に成功した雷電たち。しかし、ステーションに侵入した際に機体は大破し、パイロットも死亡していた。更に追い打ちをかけるようにストーム・トルーパーたちが雷電達を迎え撃つために集まっていた。

 

 

「痛た……危うく死にかけましたよ、マスター」

 

「少し強引すぎるんじゃないかな、雷電くん?」

 

「っ~!」

 

 

上から順にシア、恵理、香織でそれぞれのリアクションをだし、香織にいたっては打ち所が悪かったのか頭を抱えて痛がっていた。何か言葉を返したかった雷電だが、ストーム・トルーパーの猛攻に返す余裕はなかった。

 

 

「その点は申し訳ない。それはそれで後で聞く!今は八重樫を救出するぞ!」

 

 

雷電の掛け声と同時に雷電とシアはライトセーバーを引き抜き、光刃を展開して敵のブラスターを弾いて道を作る。恵理とデルタ分隊もブラスターで射撃し、香織は魔法で雷電達を回復させながらも使徒(ノイント)の体を駆使して二振りの大剣で敵を翻弄し、突破口を確保しながらも雷電達はステーションのマップルームへと向かう。

 

 

 

ステーション内のファースト・オーダーは、ステーション内に侵入した敵の対処とステーションの外で戦闘している敵艦隊の対処で手一杯だった。しかし、一人のファースト・オーダー士官から吉報が告げられる。

 

 

「報告!味方増援部隊の第一波が30分後に到着するとのことです!」

 

「そうか。ならばそのまま敵をこの宙域に釘付けにしなさい。増援のと合流して敵を挟み撃ちにします。侵入した敵は尋問官、そして私自ら出向きます」

 

「エヒトの使徒、自らですか?」

 

「そうです。あなたたちはこの戦況を維持しなさい」

 

 

アエリアは自ら侵入してきた敵を打って出るために尋問官と共に雷電達のところに向かう。

 

 

「まさか、自らご出陣とはどういう風の吹き回しだい?」

 

「貴女には関係のないことです。貴女は亜人のジェダイの相手をお願いします」

 

 

尋問官の質問に答えず、決められた役目を果たせと言わんばかりにアエリアは大剣を持って進む。雷電がいるであろう場所に。

 

 

アエリアSide out

 

 

 

敵の迎撃部隊を突破した雷電たち。追っての部隊に追われながらもマップルームに到達する。追手が入ってこられないよう扉のロックを掛け、フィクサーがマップルームの端末にアクセスして雫の居場所を探る。

 

 

「デルタ、どれくらいかかりそうだ?」

 

「1分……いえ、三十秒で探し当てます」

 

 

フィクサーがそう答え、ハッキングしながらも雫の居場所を急いで探す。小休憩を入れながらも雷電は端末にアクセスして脱出に必要なシャトルを探す。突入したシャトルは既に大破しており、もう使えそうにもなかった。端末にアクセスし、マップをよく確認してみたら第二格納庫に一機だけ兵員輸送シャトルがあった。脱出手段を見つけたと同時にフィクサーも雫の居場所を特定に成功する。

 

 

「将軍、収容所のエリア3に八重樫を確認しました。43番の部屋に囚われている模様です」

 

「よくやったデルタ。後は……!」

 

 

途中で言葉を止める雷電。この時に雷電とシアはフォースの暗黒面を感じ取り、尋問官がすぐ迫っていることに気付く。

 

 

「デルタ、恵理、香織。お前たちは先に八重樫がいる場所に行くんだ」

 

「えっ?……雷電くん、それってもしかして……」

 

「別に死に急ぐわけじゃない。お前たちじゃ手に負えない敵が来ただけだ。…シア、構えておけ」

 

「分かってます、マスター。あともう一人は別の感じがします」

 

 

シアの言うもう一人は尋問官ではないことを雷電も感じ取っていた。その感覚は前に戦ったエヒトの使徒の者と同じ感覚だった。…となると、敵は尋問官とエヒトの使徒のタッグでここに来たという事になる。そして閉じてた扉が開き、そこから尋問官のセヴンス・シスターとエヒトの使徒が出てきた。

 

 

「また会ったわね、坊や?今度こそこの手で殺してあげるわ!」

 

「貴方たちにはここで消えてもらいます。八重樫雫を奪わせないために」

 

 

尋問官たちはそれぞれの武器を構え、雷電たちをいつでも仕掛けるようにする。雷電は恵理たちにすぐに雫がいるところに向かうよう急かす。

 

 

「急げ!八重樫とて体力的に持つかどうか分からない。ここは俺たちが食い止める」

 

「行ってください!ここは私とマスターで食い止めます!」

 

「雷電くん……シア……」

 

「恵理ちゃん、ここは雷電くんとシアさんに任せよう。私たちは雫ちゃんを助けないと」

 

「将軍なら大丈夫だ。お前なら、そのことくらいは分かっているだろう?」

 

 

恵理は正直迷っていた。しかし、刻刻と時間を掛けるわけにはいかず、このまま雷電たちに任せることを決断する。

 

 

「……分かった。雫を助けたらすぐ戻るから、絶対に無事でいてね!」

 

 

そうして恵理たちは雫が囚われているであろう収容所に向かうのだった。恵理たちが行ったのを確認した後、尋問官たちの方に視線を向ける。

 

 

「シア、尋問官の相手を頼む。俺はエヒトの使徒を相手にする」

 

「はいです。マスターも気を付けて」

 

 

シアの言葉を皮切りにライトセーバーを手に、光刃を展開してそのまま尋問官、エヒトの使徒との戦闘に入るのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電、シアと別れて立ちふさがる敵を蹴散らしながらも恵理たちは雫がいる収容所を目指していた。そして収容所にたどり着いた時には敵はかなりの数で追ってきていた。収容所の扉をしめ、デルタ分隊がフュージョン・カッターで溶接して一時的に時間を稼ぐ。

 

 

「ここに雫ちゃんが……早く見つけよう」

 

「そうね。フィクサーさん、43番の部屋のロックの解除をお願い。私たちで雫を探すから」

 

「分かっている。ここは俺たちが食い止めておくからお前たちは八重樫を」

 

 

恵理たちを雫の救助を任せ、デルタ分隊は一時しのぎで溶接した扉が敵に破られることを想定して迎え撃つ準備をする。そして恵理と香織は雫が収容されている43番の部屋を探していると、雫がいるであろう43番と書かれた収容部屋を発見し、スイッチを押して扉を開ける。部屋の中には傷だらけの雫の姿があった。

 

 

「雫ちゃん!」

 

「…香…織……?」

 

 

雫を見つけたや否や香織はすぐさま雫のもとに駆け寄り、雫の容態を確認する。ハイリヒ王国で受けたであろう傷は治療されていたが、それとは別の傷があった。その傷はこのステーションで尋問された後の傷だった。香織は雫の傷を癒すべく中級回復魔法である“万天”を詠唱し、雫の傷を癒す。傷を癒された雫は自信を回復させたものを見るべく顔を上げると、そこには香織ではなく銀髪の天使がいた。

 

 

「えっと……誰?」

 

「あっ……雫ちゃんはこの姿を見るのは初めてだったね?…雫ちゃん、私だよ、香織だよ!」

 

「えっ?……かお、り?香織…なの?」

 

「うん!香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎香織。見た目は変わっちゃったけど……ちゃんと生きてるよ!」

 

「……香織…香織ぃ!」

 

 

そう香織が告げた言葉に雫の瞳に涙が溢れ、親友が何故天使の様な姿になったのかさっぱりわからなかったが、それでも、親友が生きて目の前にいるという事実を真綿に水が染み込むように実感すると、ポロポロと涙を零しながら銀髪碧眼の女改め新たな体を手に入れた香織に思いっきり抱きついた。しかし、感動の再会の時間に浸らしてくれないかの如く恵理は香織たちに割って入る。

 

 

「二人とも、感動の再会のところ悪いけどすぐに移動するよ!急いでこのステーションから脱出しないと!」

 

「恵理?」

 

「あっごめん、恵理ちゃん。雫ちゃん、これを…」

 

 

気持ちを切り替えた香織は雫の武器である黒刀を渡す。雫も状況は少しだけ飲み込めなかったが、香織たちが雫を助けに来たという事は理解した。香織から黒刀を受け取った雫はここから脱出するために香織たちと共に行動する。

 

 

「色々と説明したいことが沢山あるけど、今はここから脱出しよう!」

 

「…そうね。でも、これだけは言わせて。香織、あなたが生きてて良かった」

 

「…っ!うん!」

 

「おしゃべりは終わった?ほらっ行くよ!」

 

 

雫を救出し、香織たちは急いでデルタ分隊と合流して扉を破ろうとする敵と迎え撃ちながらも脱出するために第二格納庫に向かうのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷電ルート ウサギのやらかしと勝利の代償

ようやく雷電ルートが終わった。……時間を掛けすぎて申し訳ない。


80話目です。


 

 

香織たちを行かせてシアと共に尋問官とエヒトの使徒を食い止める雷電。シアは尋問官を相手に防御、カウンター重視の剣術の型であるソレスで尋問官の変則的な剣術ことジュヨーを受け流しながらも持ちこたえていた。そして雷電は、シアとは真逆の攻撃型剣術であるシエンでエヒトの使徒ことアエリアを相手にしていた。剣戟のさなか、途中で戦う相手の交代したりを入れながらそれぞれ一進一退の攻防が続いた。

 

 

 

道中でストーム・トルーパーが増援として駆け付けたが、四人の戦いに介入せず雷電たちの戦いを見届けていた。ストーム・トルーパーたちも理解しているのだ。下手に介入すれば死ぬのは自分であると。戦い続けてどれくらい経ったのか分からなかった。数分がまるで長い時間のように感じていた。気づけば戦っていた場所がマップルームから橋が多い動力室まで戦いながら移動していた。恵理たちとは別のところに来てしまったことで雷電の中で焦りが生じた。

 

 

「ここはこのステーションの動力室か?……よりによって面倒なところに来てしまったか」

 

「幸いなのは、香織さんたちと別行動にしてよかったことですね」

 

「あら、ずいぶんと余裕そうね!」

 

 

“そうだな…”とホッとするのも束の間、尋問官たちが雷電達を休ませず攻撃を仕掛ける。

 

 

「このままではまずいな…!シア、此処は二手に別れるぞ!俺はエヒトの使徒を!」

 

「わかりました!」

 

「我々がそれを許すとでも?」

 

「舐められたものねっ!!」

 

 

作戦を即座に決め、雷電はアエリアの相手をしながらも尋問官から遠ざける。シアは取り残された尋問官を相手にする。

 

 

「悪いですけど、ここであなたを倒します!」

 

「悪いけど今はあなたには興味はないの!」

 

 

シアはライトセーバーを二分割し、二刀流で尋問官たちを相手にし、分断に成功した雷電はアエリアの相手をするのだった。

 

 

 

シアと尋問官。二人の剣術はほぼ互角であったが、フォースの扱いにおいては尋問官の方に分配が上がる。尋問官はシアが乗っている足場の橋をフォースの力で壊し、シアの体勢を崩す。

 

 

「あわわっ!?あ…足場が!」

 

「これで終わりだよっ!」

 

 

一瞬の隙を見逃さなかった尋問官はシアに向けてライトセーバーを振るった。しかし、シアは寸での所で躱してみせる。そしてシアはすぐさま尋問官に組み付く。

 

 

「何っ…!?」

 

「おぉぉりゃぁぁぁああああーーー!!」

 

 

そして尋問官をジャイアントスイングで投げ飛ばし、距離を遠ざけたのだ。投げ飛ばされた尋問官はフォースを使って受け身を取り、再びシアのところに向かおうとするが、シアは追い打ちと言わんばかりにドリュッケンを取り出して砲撃モードで攻撃する。

 

 

 

…しかし、これがいけなかった。シアが放ったドリュッケンの砲撃は尋問官のフォースで軌道を変えられてしまい、そして最悪なことにステーションの原子炉に直撃してしまい、ステーションの自爆装置が起動してしまう。

 

 

《緊急事態発生、緊急事態発生。原子炉に破損、及び爆発の恐れあり。修復は不可能です。緊急プロトコルに従い自爆装置が起動されました。自爆装置の解除は不可能です。ステーション内の乗員は速やかにステーションから退避してください》

 

「あっ…どどどっどうしましょう!?」

 

「これは不味いことを仕出かしてくれたわね…!」

 

 

尋問官もさすがにこれには予想外だった。止む無くシアの相手をするのを止め、先にステーションから脱出するのだった。シアもシアで自身がやらかしたことに慌てながらも急いで雷電と合流するべく駆け抜ける。その時にシアの未来予知で雷電が危険な状態になることを予知し、一刻も早く雷電を見つけるのだった。

 

 

シアSide out

 

 

 

雷電はアエリアの繰り出す攻撃をライトセーバーで防ぎつつもカウンター交じりで反撃し、一進一退の攻防を繰り広げていた。雷電もただ防戦一方というわけでもなく、攻撃の型である“シエン

”で攻勢を切り替える。そのシエンに対してアエリアは変則的かつ効果的な攻撃を繰り広げた。アエリアの剣術に雷電は何かしらの違和感を覚えた。それは、アエリアの剣の型があるジェダイが使う型と重なって見えた。

 

 

「相変わらずでたらめな強さだな、ホント!(しかし、あいつの剣の型に見覚えがあるのはなぜだ?俺はあの型を知っている?)」

 

「流石にしぶといですね。…では、少し攻め方を変えましょう」

 

 

そんな雷電の考えを知らずにアエリアは剣の型を変える。腕を上に掲げ、大剣を横に倒すような独特のフォームを構えた。その構えは、嘗てジェダイ・マスターの一人“メイス・ウィンドゥ”が極めたライトセーバーの型の一つ“ヴァーパッド”だった。

 

 

「ヴァーパッド…だと!?貴様、その型を誰に教わった!」

 

「貴女に答える義理はありません。何故なら、あなたはここで終わるのです」

 

 

そこから一気に攻勢が再び逆転した。雷電はソレスで防御を固めるが、アエリアの使う型はシスの型であるジュヨーから派生したヴァーパッドは自らが持つ力を最大限に引き出し、目にも止まらぬ速さで連撃を繰り出し攻撃する型であるがため相性的に雷電は苦戦を強いられる。デメリットとしては、小数戦を前提にした短期決戦向けのフォームであるために使用者のスタミナの消費が激しいのだが、相手はエヒトの使徒であるためスタミナに関してはほぼ無限に等しく、雷電は徐々にアエリアに追い詰められていった。この時に雷電は、この危機的状況を打破するために己の内に潜む闇を解放するべきかどうか悩んでいた。

 

 

「(このままでは、奴に押し切られるのは明白だ。しかし、だからと言って暗黒面の力を闇雲に開放する訳にはいかない。どうする…?どうすればいい…)…本当に面倒なことになったな」

 

「それが最後の言葉なら、今ここで散りなさい。ジェダイ」

 

 

アエリアは雷電にとどめの追い打ちを仕掛けようとしたその時、ステーション内で大きな揺れが襲い掛かる。突然の大きな揺れにアエリアは何事かと一瞬だけ動きを止めてしまう。

 

 

「…!今だっ!」

 

「……っ!?」

 

 

その隙を逃さず雷電はライトセーバーでアエリアに一閃。アエリアもカウンター交じりに大剣を振るい、互いに交差する。交差した際にアエリアは雷電の攻撃を紙一重に躱し、右腕を切断する。

 

 

「…ぐっ!右腕などくれてやるっ!!」

 

「…なっ!?」

 

 

雷電は切断された右腕の痛みに耐えながらも、反撃に出る。アエリアは一瞬の勝利に浸ったために隙を作ってしまい、雷電の左腕に持つライトセーバーによって左腕を肩ごと切断されてしまう。アエリアには痛覚遮断のスキルを持っているためか痛みによる苦痛の表情はでなかった。しかし、切断された左腕の消失感を拭いきれはしなかった。雷電はライトセーバーを腰に掛け、専用の治療用バクタ液で切断された右腕の止血を行い、切り落とされた右腕からライトセーバーを回収する。

 

 

「ここも何かとまずいな。……ならば!」

 

 

ジェダイとエヒトの使徒の戦いは、互いに腕を切り落とすという痛み分けの形になった。雷電は切断された右腕からくる激痛に耐えながらも雷電はフォースで身体能力を上げ、その場から逃げるように走る。切り落とされた右腕を残して。アエリアは雷電を追う様子を見せず、切り落とした雷電の右腕を回収し、懐からコムリンク通信機を取り出し、()()()に向けて通話をする。

 

 

「はい……例の男のサンプルを手に入れました。貴方様の計画通りです」

 

《良い吉報だ。これで我の計画は一つ進んだ。そなたは引き続きジェダイの相手をしつつもエヒトの裏を突くのだ》

 

「…はい、これよりサンプルを持ってそちらに向かいます。我が(マスター)……()()()()()()様」

 

 

アエリアは通信を切った後、ステーションの揺れのことについて何かしらの問題が起こったと悟り、すぐに脱出艇に向かうのだった。

 

 

 

アエリアから逃げ切った……否、見逃された雷電は今は無き右腕の喪失感に打ちのめされていた。右腕を失う相撃ち覚悟で挑んだものの、やはり失われた右腕の喪失感は耐え難いものだった。右腕からの痛覚はもう感じられない筈だが、それでも()()という錯覚が起きる。一旦体を休ませる為に壁に寄りかかりながらもその場で座り込む。

 

 

「……これは、ハジメに義手を作るのを頼む以前に恵理に殺されそうだ」

 

 

そう言い聞かせるようにつぶやく雷電。その時にシアが駆け足でやってきた。どうやら無事に尋問官を巻いたようだ。シアは雷電の切られた右腕を心配していた。雷電は問題ないように振る舞いたいがそんな余裕がないために急いで香織たちと合流するため第二格納庫に向かうのだった。

 

 

アエリアSide out

 

 

 

一方の雫を救出した香織たちは、ストーム・トルーパーたちの追撃を巻きながらも第二格納庫に向かっていた。先頭には香織と雫が立ち、後方にはデルタ分隊が追撃してくるストーム・トルーパーに応戦しつつも香織たちの後ろを守っていた。そして恵理はDC-17の改造銃であるベロニカでデルタ分隊の援護をしつつストーム・トルーパーを倒していた。そうして第二格納庫にたどり着いた香織と雫は脱出のシャトルを探していた。そして後から来た恵理たちも第二格納庫に到着した後に扉を閉じた。その際にデルタ分隊のボスが閉めた扉の向こう側の敵が扉を開けたりしないように操作盤を破壊してある程度の時間稼ぎをする。

 

 

 

香織たちはマップルームで見つけたシャトル“AAL-1971/9.1兵員輸送船”を見つける。何とか脱出手段を得た香織たちだが、まだ雷電たちと合流できずにここについてしまった。更には第二格納庫に向かう際にステーションの動力室で異常が発生したためか自爆装置が起動していて時間があまり残されていなかった。

 

 

「どうしよう……まだ雷電くんが戻ってきてないよ!」

 

「…えっ!?雷電君もここにきているの?」

 

「うん、エヒトの使徒や尋問官を足止めするために別れて行動していたんだけど今は何処にいるのか……」

 

 

雫は香織たち以外にも雷電も助けに来たことに多少驚いていた。トータスとは別宇宙にいたはずなのにここにいることを特定できたことが雫の大きな驚きでもあった。そんな驚きの中、香織たちから少し離れた場所の地面から青白い光刃が突き出た。青白い光刃は円を描くように一周して地面を切り取って穴を作った。そしてその穴から雷電とシアが飛び出てきた。

 

 

「最短ルートを通るためとはいえ、メンテナンス通路を通るなんて誰も思いませんでしたよ、マスター。メンテナンス通路も一部爆発しているところもありましたし」

 

「そのお陰でギリギリ間に合ったんだ。それに、ステーションの原子炉にドリュッケンをぶっ放すことをしなければ良かったのだが…?」

 

「あ…あははっ……ごめんなさいです」

 

「「「雷電(くん)!」」」

 

「「「コマンダー!」」」

 

 

香織たちは雷電達が無事に戻ってきたことに一瞬の喜びを感じた。しかし、今の雷電は右腕が無くなっている状態だった。これを見た恵理はあまりにも衝撃が強すぎたためか言葉がでなかった。雫も雷電の右腕の状態に驚きを隠せないでいた。

 

 

《自爆まで、あと二分です。乗員は速やかにステーションから退避を》

 

「…どうやら急がないとまずいな。急いでシャトルに乗り込んで脱出するぞ!」

 

 

雷電の一言で皆は急ぎシャトルに乗り込む。その時に時間稼ぎのために閉じてた扉が開き、そこからストーム・トルーパーたちが出てくる。そしてシャトルを強奪して脱出しようとする雷電達を見かけてはブラスターで撃墜しようと試みる。しかし、歩兵用ブラスターでは火力不足であり、撃墜することは不可能だった。その結果、雷電たちはステーションから脱出することに成功するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

その頃のステーション外で戦闘していたアシュ=レイたちは敵の更なる増援艦隊によって徐々に押されていた。既に主力艦のヴェネター級が四隻、兵員、空母を兼ねた宇宙船のアクラメイター級一隻、雫のことを考えて用意した医療船のペルタ級二隻が撃沈している。敵はリサージェント級スター・デストロイヤーが数十隻と約千機のTIEファイターという過剰ともいえる物量戦力が完全にファースト・オーダーの方が上だった。これでもなんとか戦線を維持し、持ちこたえたアシュ=レイは流石というべきだろう。しかし、いくら戦上手のアシュ=レイでも体力的にも精神的にも限界が近かった。

 

 

「クッソ!あいつ、女を助け出すのにどれだけ時間を掛けてやがんだ!とっとと終わらせやがれってんだ!」

 

《アシュラ1、こちらウィッチウォッチ。我が艦隊の被害が甚大だ。これ異常の戦線維持は長く持たないぞ!》

 

「分かっている!クソッたれが!!」

 

 

そう悪態を吐くアシュ=レイ。その時、ステーションである異常が起こった。それステーションが()()()()()しているのだ。

 

 

「何だっ!?中から爆発しているぞ?」

 

「我々ではないぞ。いったい誰が?」

 

 

クローン・パイロット達も突然のステーションの内部からの爆発に驚いていた。そんな爆発するステーションからファースト・オーダーのシャトルが一隻ステーションから出てきた。それと同時にステーションが大爆発を起こし、ステーションが完全に崩壊した。ステーションから出てきたシャトルを最初は敵かと思われたが、そのシャトルからオープン回線で通信が入る。

 

 

《こちら雷電、作戦は成功した!八重樫は既に救出した!我が軍に告げる、戦線より離れろ。作戦は成功した。各部隊、生き残ることを優先して速やかに対応するように!以上だ!》

 

 

雷電の通信でアシュ=レイを含むクローン達も士気が上がる。しかし、オープン回線での通信だったためにファースト・オーダーのTIEファイターの群れが雷電達が乗るシャトルを落とそうと向かってくる。

 

 

「ようしっお前等!最後のもうひと踏ん張りだ!何としても雷電を守り抜くぜ!」

 

《イエッサー!》

 

 

アシュ=レイは残存するファイター部隊を率いて雷電が乗るシャトルをファースト・オーダーの攻撃から守りにつくのだった。ファースト・オーダーの大群のTIEファイターがシャトルを数という物量で堕とそうとするが、それをアシュ=レイが駆るイータ2アクティス級軽インターセプターとクローン達のファイターが立ちふさがる。雷電はシャトルを近くのヴェネター級の上部甲板の発進ゲートから着艦し、無事にTIEファイターの攻撃から逃げ切ることに成功する。

 

 

「将軍らが乗ったシャトルの着艦を確認した。これより我が艦は戦線より離脱する。各艦、及びファイター部隊は撤退のタイミングを逃すな」

 

《イエッサー》

 

 

そうして雷電を回収したヴェネター級は戦線から離脱するために被弾覚悟でハイパースペースによるジャンプを行う。生き残った艦隊の一部もファイター部隊を回収した後に同じくジャンプで離脱を図る。しかし、ファースト・オーダーの艦隊がそう簡単に逃がすわけもなくレーザーの弾幕で妨害する。被弾覚悟でハイパースペースの準備をする無防備のヴェネター級。それを守るために二隻のアクラメイター級がヴェネター級の前に立って盾となり、本来受けるはずの攻撃をアクラメイター級二隻によってヴェネター級は無傷で済んだものの、盾となった二隻のアクラメイター級が轟沈する。

 

 

「アクラメイター級“ファルケ”、“ビルガー”、沈黙。しかし、彼らのおかげでハイパースペースの準備が完了しました」

 

「彼らが盾になってくれたことでハイパースペースの準備ができた。彼らの死を無駄にしないためにもハイパースペースでジャンプし、離脱するぞ!」

 

 

ヴェネター級の艦長は盾になった二隻のアクラメイター級の犠牲を無駄にしないために直ぐにハイパースペースでジャンプを開始する。生き残った艦隊も同じくジャンプを開始。ファースト・オーダーの艦隊はヴェネター級に集中砲火をするが、盾となったアクラメイター級の残骸がヴェネター級への攻撃を遮る。その結果、ヴェネター級を含む生き残った艦隊はハイパースペースで逃げ切ることに成功する。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

今回の作戦は成功ともいえるが、あまりにも犠牲が多い戦いだった。約十万のクローンが宇宙の藻屑となり、残りは生き残ったものの負傷者が八千と無視できない数となっていた。その八千の中には雷電も含まれる。雷電は雫の救出の際にエヒトの使徒と尋問官の戦闘で右腕を切り落とされた。そのため今現在、雷電はヘイヴン級医療ステーションで治療を受けていた。ちょうど医療ステーションにはハジメたちもいた。ハジメたちも清水の救出に成功したが、その清水は敵に何かしらの危険な薬物を投与されていて、危険な状態だった。清水は今、体内に残る薬物の除去のために集中治療を受けていた。

 

 

 

ハジメたちの方でもエヒトの使徒と交戦したようだ。そして何とか倒せたとのことだ。なお、死体は回収しており、香織同様に何かあった時用の保険として保管していた。その際に恵理がハジメたちに何かお願いをしていたようだが、それについてはあまり触れないで置いた。治療を受けながらも雷電はハジメに義手を制作を頼み、しばらくの間は体を休めることにした。

 

 

雷電Side out

 

 

 

ハジメは雷電よりも先に医療ステーションに到着し、救出した清水の治療を医療ステーションにいるメディカル・オフィサー・クローン達に治療を任せていた。治療が終わるまで待っていた時に雷電の艦隊が戻ってきた。だが、戻ってきた艦の数があまりにも少なかった。嫌な予感がしたハジメは雷電がここに来るのを待った。そして雷電が医療ステーションに入港して合流したときに雷電の姿を見たときにハジメは驚いた。雷電の右腕が切り落とされていたのだ。それと同時に雷電は少しばかり何処かやつれていた。何故雷電がやつれているのか雷電の周りを見てみると、雫と恵理、そしてシアが原因であると判明した。……要するに、雷電の自業自得だった。

 

 

「お前、どこをどうしたらそうなるんだよ?お前の無茶っぷりは知ってはいたが……一体なにをやらかしたんだ?」

 

「聞くな。…それよりもハジメ、右腕(こいつ)の義手を作ってくれないか?やはり右腕がないと不便だからな」

 

 

雷電の頼みをとりあえず聞いておくことにしたハジメ。その後に救出作戦で得た互いの情報を交換した。どうやらハジメたちは清水を救出した際にエヒトの使徒のモデルとなったオリジナル?の敵ことラミエルと清水のクローンであるシュピーゲルと交戦したそうだ。ラミエルはハジメが倒したが、清水はシュピーゲルに何かしらの薬物を投与され、その副作用によって体の負荷が限界に達して体がボロボロになったそうだ。

 

 

 

雷電の方は無事に雫を助け出したものの、艦隊が壊滅状態まで追い詰められた。そしてステーションに侵入した際にエヒトの使徒と尋問官を雷電とシアが対応した。雷電が使徒を、シアは尋問官と分断して相手をしていたが、雷電はエヒトの使徒がライトセーバーの型であるジュヨーの派生系ヴァーパッドを使って雷電を追い詰めたそうだ。その際に雷電は右腕を犠牲にして使徒の左腕を肩ごと切り落とし、痛み分けという形で見逃された。その際にシアが尋問官と戦っている時に動力室でドリュッケンをぶっ放した所為でステーションが自爆することになったそうだ。……シアの奴はいざっていうときに残念駄ウサギになるという呪いじみたなにかをもっているんじゃないか?と内心思ったのは雷電に内緒だ。それと雷電がやつれている原因は恵理と雫、シアが関係していたそうだ。香織は雷電のフォローに回ると思われたが、逆に恵理たちの方に回ったとのことだ。……結論から言えば、雷電の自業自得であり、どこの世界でも女は強しという事を改めて認識された。

 

 

 

とりあえず今のハジメたちに必要なのは休養であったためにしばらくの間ハイリヒ王国で一時的に休むことにした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

偽善の言葉、覚悟の示し

二月中に何とか投稿できた。……疲れたorz


81話目です


 

 

雫と清水の救出作戦を終えてから三日が過ぎた。医療ステーションにいる雷電はハジメが作った義手を三日の内に慣らした。態々と思うが、義手にしなくても神代魔法の再生魔法で右腕を再生させればよくないかとハジメに聞かれたことがあった。雷電自身もそれはそれで盲点だったが、右腕の傷は戒めを兼ねてそのままでいいと答えた。再生させるのは全てが終わってからと雷電はそう心に決めていた。

 

 

 

一方の清水の方は体内に蝕んでた薬物の排出が完了し、香織の回復魔法で完全回復を果たす。その時の清水は迷惑をかけてすまないと雷電達に謝罪した。雷電はあまり気にしてはいなかった。ことの発端は清水の頭に埋め込まれてた行動抑制チップが原因であると雷電はエコー達から事前に聞いていた。清水に埋め込まれたチップを摘出するために雷電は、しばらくの間は医療ステーションに待機するように清水に告げる。

 

 

「もう体は大丈夫かもしれないが、万が一という事もある。一度行動抑制チップを摘出してもらったほうが良い」

 

「わかっている。不安要素は確実に排除しておくつもりだ。戦線に戻れるようになったらすぐに駆け付ける」

 

「あぁ。…それともう一つ、彼女(シルヴィ)を一旦ここに連れてくる。お前が向こうに行ったことで精神が若干不安定だ。もう二度と彼女のもとからいなくなるなよ?」

 

「……肝に銘じておく」

 

 

そんな形で清水は治療という建前で行動抑制チップ摘出のため一時ハジメたちのパーティーから外れることになった。雷電は内心これでよかったのかと思うこともあるが、それは己自身の自己満足かもしれないとその考えを止めた。その時に雷電を迎えに来た一人の()()()()()がいた。

 

 

「雷電くん。身体の調子はどう?」

 

「あぁ、問題ないよ。ハジメが作った義手のおかげで右腕の不具合さはない。それよりもだ、本当にその体になって後悔はないのか、()()?」

 

「大丈夫だよ。僕も覚悟を改めてハジメに無理を頼んでこの体にしたんだから」

 

 

そう、銀髪の女性の正体は恵理だった。何故彼女が銀髪の女性こと香織と同じエヒトの使徒の体になっているのか?時間は三日前に遡る……

 

 

 

当時の恵理は雷電が最前線で戦い、傷つきながらも戦い抜いていた。しかし、今回の救出作戦で雷電は右腕をエヒトの使徒との戦いによって失い、ハジメと同じように義手をすることになった。この時の恵理は今のままではだめだと思った。雷電ばかりに縋っていてはいずれ雷電が死んでしまうことになる。それが嫌で恵理はハジメに無理言って香織と同じようにしてほしいと頼んだ。ハジメは恵理の頼みを最初は断った。しかし、雷電の右腕を見て万が一という事もあると考え悩んだ結果ハジメの心が折れ、恵理の頼みを了承した。そして、雷電と清水の治療が始まってから一日が経った頃、魂魄魔法でラミエルの体を入れ替えた恵理が雷電用の義手を持って雷電に渡しに来た。この時の雷電は驚きはしたが、香織と同じであると理解したときに雷電はハジメに対して怒りを感じた。しかし、恵理の強い意志での頼みであったためにむげには出来なかった。その為、ハジメに対する怒りは直ぐに消えた。そんなこんなでしばらくの間は恵理に看病されながらも傷も完治して今現在に至る。

 

 

 

ちなみに恵理は香織の体ことノイントの体とラミエルの体を区別するために元の体でも使用していた眼鏡をかけていた。眼鏡はハジメが作ったレンズが入っていない伊達メガネである。更にはラミエルの固有技能であろう“肉体変化”という自身の肉体を変化させるものがあった。恵理はこの技能を使って、前の体と同じ身長と骨格に変異したのだ。恵理の前の体と比べると髪色が違うのとステータスが違う程度だ。現在の恵理のステータスはこうなっている。

 

 

 

====================================

 

中村恵里 17歳 女 レベル:2

 

天職:降霊術師

 

筋力:1000

 

体力:1000

 

耐性:1000

 

敏捷:1000

 

魔力:1000

 

魔耐:1000

 

技能:黒魔術[+縛魂]闇属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・再生魔法・言語理解・双大剣術・分解能力・全属性適性・複合魔法・肉体変異

 

====================================

 

 

 

見るだけ見ても最早バグっているとしか他に言葉が見つからなかった。レベルはラミエルの肉体と入れ替えたためか初期化されていたが、高水準のステータスがそれを補っていた。極めつけなのはラミエルの光属性適応を恵理も継承されていたことだ。しかし、恵理も香織と同様に未だ、肉体を掌握しきれていないためか香織のステータスよりも少しだけ低い。強化されたとはいえ、油断はできないと雷電は少し不安気味だった。

 

 

 

そんなこんなで恵理と共にシャトルでトータスに降り、ハジメたちと合流するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電が無事に完治したと医療ステーションにいるクローンから通信を聞いてやっとかと安堵するハジメ。雷電が完治するまでの間、ハジメはまったくとは言わないが、少しばかり休めた気がしなかった。魔人族に襲撃されてから五日、清水と雫の救出+雷電と清水の治療から三日を含めて計八日も過ぎたのだ。三日間の間、ハジメはリリアーナの頼みで大結界の修復と街の復興を行った。そんな苦労を抱えながらもハジメは雷電たちが乗るシャトルが着陸するであろう広場に向かうのだった。

 

 

 

八日が過ぎてクラスメイト達は既に体力的に回復したものの、精神的な傷は深く、回復は難しかった。心強いクローン達の裏切り(敵にひそかに埋め込まれた行動抑制チップの影響だが、彼らには裏切りにしか見えなかった)やクラスメイトの死からあまり立ち直れていなかった。何処からか情報が漏れたのか檜山の脱走と失踪。尋問官によって殺された近藤の死に、いつも一緒だった中野や斎藤は引きこもりがちになっている。更には雫が尋問官に連れ去らわれ、主戦力である光輝も尋問官に右腕を切り落とされるなど、これ以上の衝撃はなかった。

 

 

 

現在の光輝はメディカル・オフィサー・クローン達とクローン・エンジニア達が作り上げた最新の義手で失った腕を補っていた。光輝の切り落とされた右腕は魔人族襲撃の際にどこかに消えてしまったため、光輝はあまりクローン達とは好かなかったが止む無しと判断し、苦渋の決断をするのだった。

 

 

 

そんな心身共に深い傷を負った光輝達は、リリアーナ達の王都復興に力を貸しながらも、立ち直るために療養しつつ、あの日から姿を見せないハジメ達の事をチラチラと考えていた。

 

 

 

前線組や愛ちゃん護衛隊のメンバーはハジメと雷電の実力を知っていたつもりだが、それでも光の柱で大軍を殲滅したような圧倒的な力までは知らず、改めて、隔絶した力の差を感じて思うところが多々あった。

 

 

 

光輝達ですらそうなのだから、居残り組にとっては衝撃的な出来事だった。帰還したメンバーからハジメと雷電の生存や実力のことは聞いていたが、実際のハジメの凄まじさは、自分達の理解が万分の一にも達していなかったことを思い知ったのだ。誰も彼も、ハジメの事や、連れて行かれた香織、ハジメの仲間の事が気になって仕方ないのである。

 

 

 

そんな彼らに三日前にハジメ達がやってきて、連れ去られたであろう雫と、死んだであろう香織を連れてきたのだ。しかし、ハジメ達の中に雷電と恵理の姿が見当たらない。ハジメ曰く、雷電は今現在は療養中で、恵理は雷電の看病中とのことだ。

 

 

 

雫が雷電によって助けられたことに光輝は複雑な気持ちになった。香織がハジメに連れ去られたあの日、一度は友としての縁を切り、仲違えになった。しかし、今思い返せばアレは自身が蒔いた失態だ。今更雷電に顔を合わせる資格がないと下向きに考えてしまう。そして、彼自身気づいてはいない……否、気づきたくないのかもしれないが光輝は二度に渡って何も出来ずハジメと雷電に救われたという事実に相当落ち込んでおり、自分とハジメの差や香織を連れて行かれたこと、雷電がハジメの側に付いたこと(光輝の中ではそういう認識)も相まって、ハジメに対してはいい感情も持てていなかった。

 

 

 

それが、いわゆる“嫉妬”であるとは、光輝自身自覚がない。仮に、気が付いたとしても認めることは容易ではないだろう。認めて、その上で前に進めるか、やはりご都合解釈で目を逸らすか……光輝次第である。

 

 

 

それから三日が経ち、いつも通りに療養している中、一隻のシャトルがやってきた。そのシャトルが気になったのか光輝はシャトルのところに向かう。そして着いた先が広場であり、ハジメたちがシャトルが着陸してくるのを待っていた。シャトルが着陸し、シャトルの扉から完治し終えた雷電と雷電の看病に付きっ切りだった恵理がシャトルから降りてくるのであった。

 

 

 

この時に恵理の姿が違うことに少しばかり戸惑ったが、あの姿は前にハジメが香織を蘇生した時にエヒトの使徒の体を使ったのと同じだと見抜いた。そんな光輝の考えを知らずに雷電はハジメにクラスメイト達と愛子先生を集めるように頼んでいた。一体なにをするのか全く見当もつかなかった。

 

 

 

そうしてクラスメイト達と愛子先生が集められた。更にはリリアーナも同席している。何故彼女がここにいるのかは香織から大事な話があるためとのことだ。それは雷電たちが今話そうとしていることと関係があるらしい。ハジメはあまり面倒なことは避けたい様子だったが、どのみち話すのが早まっただけのことだと雷電は言いながらも、雷電は光輝たちに狂神の話とハジメ達の旅の目的を話し、そして、自分が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を話し出した。

 

 

 

全てを聞き終わり、真っ先に声を張り上げたのは光輝だった。

 

 

「なんだよ、それ。じゃあ、俺達は、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか?なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!オルクスで再会したときに伝えることは出来ただろう!」

 

 

非難するような眼差しと声音に、しかし、ハジメは面倒そうにチラリと光輝を見ただけで何も答えない。無視だった。その様子を見ていた雷電は何かを見定めるように何も言わず、無言のままハジメやクラスメイト達を見ていた。その態度に、光輝がガタッ!と音を立てて席を立ち、ハジメに敵意を漲らせる。

 

 

「何とか言ったらどうなんだ!お前が、もっと早く教えてくれていれば!」

 

「ちょっと、光輝!」

 

 

諌める雫の言葉も聞かず、いきり立つ光輝にハジメは五月蝿そうに眉をしかめると、盛大に溜息をついて面倒くさそうな視線を光輝に向けた。

 

 

「俺がそれを言って、お前、信じたのかよ?」

 

「なんだと?」

 

「どうせ、思い込みとご都合解釈大好きなお前のことだ。大多数の人間が信じている神を“狂っている”と言われた挙句、お前のしていることは無意味だって俺から言われれば、信じないどころか、むしろ、俺を非難したんじゃないか? その光景が目に浮かぶよ」

 

「だ、だけど、何度もきちんと説明してくれれば……」

 

「アホか。なんで俺が、わざわざお前等のために骨を折らなけりゃならないんだよ?まさか、俺がクラスメイトだから、自分達に力を貸すのは当然とか思ってないよな?……あんまふざけたことばっか言ってっと……檜山の二の舞だぞ?」

 

 

永久凍土の如き冷めた眼差しで睥睨するハジメに、クラスメイト達はさっと目を逸らした。

 

 

 

だが、光輝だけは納得できないようで未だ厳しい眼差しをハジメに向けている。ハジメの隣でユエが、二度も救われておいて何だその態度はと言いたげな目を向け、更には雷電の隣で恵理は、嘗て救ってくれた光輝に対してこんなご都合主義な男に助けられたのかと落胆と同時に絶対零度の目線を向けているが光輝は気が付いていない。

 

 

「でも、これから一緒に神と戦うなら……」

 

「待て待て、勇者(笑)。俺がいつ神と戦うといったよ?勝手に決め付けるな。向こうからやって来れば当然殺すが、自分からわざわざ探し出すつもりはないぞ?大迷宮を攻略して、さっさと日本に帰りたいからな」

 

 

その言葉に、光輝は目を大きく見開く。

 

 

「なっ、まさか、この世界の人達がどうなってもいいっていうのか!?神をどうにかしないと、これからも人々が弄ばれるんだぞ!放っておけるのか!」

 

「顔も知らない誰かのために振える力は持ち合わせちゃいないな……」

 

「なんで……なんでだよっ!お前は、俺より強いじゃないか!それだけの力があれば何だって出来るだろ!力があるなら、正しいことのために使うべきじゃないか!」

 

 

光輝が吠える。いつもながら、実に正義感溢れる言葉だ。しかし、そんな“言葉”は、意志なき者なら兎も角、ハジメには届かない。ハジメは、まるで路傍の石を見るような眼差を光輝に向ける。

 

 

 

「……“力があるなら”か。そんなだから、いつもお前は肝心なところで地面に這いつくばることになるんだよ。……俺はな、力はいつだって明確な意志のもと振るわれるべきだと考えてる。力があるから何かを為すんじゃない。何かを為したいから力を求め使うんだ。“力がある”から意志に関係なくやらなきゃならないって言うんなら、それはもうきっと、唯の“呪い”だろう。お前は、その意志ってのが薄弱すぎるんだよ。……っていうか、お前と俺の行く道について議論する気はないんだ。これ以上食って掛かるなら面倒いからマジでぶっ飛ばすぞ」

 

 

ハジメはそれだけ言うと、光輝達に興味がないということを示すように視線を戻してしまった。

 

 

 

その態度からハジメが本気で自分達や世界に対して、嫌悪も恨みもなく唯ひたすら興味がないということを理解させられた光輝。また、自分の敗北原因について言及され激しく動揺してしまい口をつぐむ。自分には強い意志がある!と反論したかったが、何故か言葉が出なかったのだ。

 

 

 

他のクラスメイト達も、何となく、ハジメが戻ってきて自分達とまた一緒に行動するのだと思っていたことが幻想だったと思い知り、そして、下手な事をすれば雷電が檜山を投獄したように同じく投獄されるかもしれないと震え上がった。そしてなにより、今のハジメは例え相手がクラスメイトであろうと殺すことが出来ると断言できる。更に言えば、嘗て光輝と決闘で一方的に打ち負かし、殺そうとした雷電も、怒りに触れるようなことをすれば殺されるのもわけもない。

 

 

 

なにせ、訳ありで操られていたとは言え、雷電が召喚したクローン達を含めて顔見知りもいた騎士達を何の躊躇いもなく肉塊に変えてしまった相手なのだ。居残り組に関しては、ハジメが奈落に落ちる前のこともあり視線すら向けられないでいた。

 

 

「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまで滞在して欲しいのですが……」

 

 

そう願い出たのはリリアーナだ。

 

 

 

未だ、混乱の中にある王都において、大規模転移用魔法陣は撤去したものの、いつ魔人族の軍が攻めてくるかわからない状況ではハジメ達の存在はどうしても手放したくなかったのだ。相手の総大将らしきフリードは、ハジメがいるから撤退した。ハジメ達は、そこにいるだけで既に抑止力になっているのである。

 

 

「神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぎたいんだ。香織の蘇生に五日もかかったしな。それとアンタの頼みで大結界や街の復興に協力もした。これ以上は欲深いんじゃねえか?明日には出発する予定だ」

 

 

リリアーナは肩を落とすが、ハジメ達が出て行ったあと、フリード達が取って返さない保証はないので王女として食い下がる。

 

 

「そこを何とか……せめて、あの光の柱……あれも南雲さんのアーティファクトですよね? あれを目に見える形で王都の守護に回せませんか?……お礼はできる限りのことをしますので」

 

「……ああ“ヒュベリオン”な。無理だ。あれ、最初の一撃でぶっ壊れたし……試作品だったからなぁ。改良しねぇと」

 

 

ハジメが、魔人族の大軍を消し飛ばした対大軍用殲滅兵器“ヒュベリオン”は、簡単に言えば太陽光収束レーザーである。【神山】を降りる前に上空へ飛ばしておいたものだ。

 

 

 

“ヒュベリオン”は、巨大な機体の中で太陽光をレンズで収束し、その熱量を設置された“宝物庫”にチャージすることが出来る。そして、臨界状態の“宝物庫”から溢れ出た莫大な熱量を重力魔法が付加された発射口を通して再び収束し地上に向けて発射するのだ。

 

 

 

そして、この“ヒュベリオン”最大の特徴は、夜でも太陽光を収束できる点にある。その秘密は、オスカー・オルクスの部屋を照らしていたあの擬似太陽だ。あれは、太陽光を空間魔法と再生魔法、それにハジメの把握しきれていない神代魔法の力が加わって作り出された〝解放者〟達の合作だったのだ。

 

 

 

今のハジメでは、擬似的とはいえ太陽の創造など到底できない。そして“ヒュベリオン”は試作段階だったせいもあり、その自身の熱量に耐えられずに壊れてしまったので、もうあの一撃は撃てないのである。もっとも、ハジメが作り出した大軍用殲滅兵器は“ヒュベリオン”だけではないのだが……

 

 

「そう……ですか……」

 

 

ハジメの言葉に、再びガクリと肩を落とすリリアーナ。そこで雷電、香織、愛子の視線がハジメに突き刺さる。三人ともハジメのスタンスを理解している。ハジメが、いくら多少周囲を慮るようになったとはいえ、基本的に、この世界のことに無関心であることに変わりはない。周囲にも手を伸ばすのは、そうすることでユエ達が間接的にでも悲しまないようにするためだ。だから、三人とも言葉にはしない。しないが、その眼差しは雄弁に物語っている。

 

 

 

ハジメは、用意された茶を飲みながら無視していたが、余りにしつこいのでボソリと呟くように告げた。

 

 

「……出発前に、雷電が何とかしてくれる。それでいいか、雷電?」

 

 

ハジメの言葉に雷電は頷く。そしてハジメと交代するように雷電が口を開く。

 

 

「リリアーナ王女、自分の技能であるクローン軍団召喚なら失った兵力の補充と兵器の配置、軍備増強が可能です。ハジメが作ったアーティファクトほどの抑止力はありませんが、それでもある程度の抑止力になります」

 

「…本当ですか!南雲さん!藤原さん!有難うございます!」

 

 

パァ!と表情を輝かせたリリアーナを無視して、これでいいだろ?と香織達に視線をやるハジメ。三人ともリリアーナと同じく嬉しそうな笑顔をハジメに返した。

 

 

 

何だか、ほんとに甘くなったなぁと思いつつも、隣にいるユエやシアまでハジメに微笑み掛けてくるので、「まぁ、悪くないか」と肩を竦めて、ハジメは苦笑いを零した。

 

 

「それで、南雲君達はどこへ向かうの? 神代魔法を求めているなら大迷宮を目指すのよね? 西から帰って来たなら……樹海かしら?」

 

「ああ、そのつもりだ。フューレン経由で向かうつもりだったが、一端南下するのも面倒いからこのまま東に向かおうと思ってる」

 

 

ハジメの予定を聞いて、リリアーナが何か思いついたような表情をする。

 

 

「では、帝国領を通るのですか?」

 

「そうなるな……」

 

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

 

「ん? なんでだ?」

 

「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう?それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」

 

 

何とも大胆というかフットワークの軽いリリアーナの提案にハジメは驚くものの、よく考えれば助けを求めるために単身王城から飛び出し隊商に紛れて王都を脱出するようなお姫様なのだ。当然の発想と言えば当然かと、妙に納得する。

 

 

 

そして、通り道に降ろしていくだけなら手間にもならないので、それくらいいいかと了承の意を伝えた。ただし、釘を刺すのは忘れない。

 

 

「送るのはいいが、帝都には入らないぞ? 皇帝との会談なんて絶対付き添わないからな?」

 

「ふふ、そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで十分です」

 

 

用心深い発言に、思わず苦笑いを浮かべるリリアーナだったが、そこへハジメに黙らされた光輝が再び発言する。

 

 

「だったら、俺達もついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲が何もしないなら、俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ!神代魔法の力が!お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」

 

「いや、場所くらい教えてやるから勝手に行けよ。ついて来るとか迷惑極まりないっつうの」

 

 

勝手に盛りがって何言ってんだと呆れ顔をするハジメ。非難しながら頼るとか意味がわからなかった。そこに、愛子がおずおずと以前のハジメの言葉を指摘する。

 

 

「でも、南雲君、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちだって言ってませんでした?」

 

「……いや、それは、あれだよ。ほら、“無能”の俺でも何とかなったんだから、大丈夫だって。いける、いける。ようは気合だよ」

 

「無理なんですね?」

 

 

自分の発言をきっちり覚えていた愛子に、ハジメは目を逸らしながら無責任な事を言う。

 

 

 

ハジメとしては、自分達が世界を越える手段を手に入れた暁には、クラスメイト達が便乗するのを許すくらいのつもりはあった。だが、彼等が一から神代魔法を手に入れる手伝いをするなどまっぴらごめんだった。時間のロス以外の何ものでもないからだ。

 

 

「南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

 

「寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

 

「もちろんよ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします。何度も救われておいて、恩を返すといったばかりの口で何を言うのかと思うだろうけど、今は、貴方に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」

 

「鈴からもお願い、南雲君。もっと強くなって、みんなを守りたい。だからお願い!このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

 

 

今のままでは無理という愛子の言葉を聞いて、雫が一つだけ神代魔法を手に入れる助力をして欲しいと懇願する。その顔は、恩も返せないうちにまた頼らなければならない事を心苦しく思っているのか酷く強ばっている。

 

 

 

雫に感化されて、ずっと黙っていた鈴まで頭を下げだした。どうやら、雫が尋問官に連れ去られた事で色々考えているようだ。その声音や表情には必死さが窺えた。光輝は、その光景を見て眉をピクリと反応させたが、結局何も言わなかった。

 

 

 

ハジメは、逡巡する。本来なら、【ハルツィナ樹海】の攻略に光輝達を連れて行くような面倒ごとを引き受けるなど有り得ない。さっさと断って、【オルクス大迷宮】でも【ライセン大迷宮】でも好きなところに逝ってこいと言い捨てるところだ。

 

 

 

しかし、この時、ハジメの脳裏にノイント達との戦闘が過ぎったがため少し判断に迷った。

 

 

 

というのも、ノイントは【メルジーネ海底遺跡】でも垣間見たように時代の節目に現れて裏から権力者達を操ったり邪魔者を排除したりと、文字通り神の手足となって暗躍してきた神の意思をそのまま体現する人形だ。

 

 

 

ならば、明らかに作られた存在である“神の使徒ノイント”と“神の使徒ルイント”は、果たして、あれ一体だけと言えるのだろうか。そう言い切るのは楽観的に過ぎるというものだろう。

 

 

 

ノイントは言った。ハジメと雷電はイレギュラーであり、苦しんで死ぬのが神の望みだと。ならば、ノイントのような存在を多数送り込んで来ることは十分に考えられることだ。だとすると、その時のために、光輝達に力を持たせておいてぶつけるというのもいいのではないか?とハジメは考えた。

 

 

 

自分を狙う敵に他人をぶつけるなど鬼畜の所業だが、「まぁ、勇者とか神と戦う気満々だし問題ないよね?」と軽く考えて、最終的に【ハルツィナ樹海】に限って同行を了承することにした。一応、ユエ達にも視線で確認を取るが、特に反対意見はないようだ。

 

 

 

雫達の間に安堵の吐息と笑顔が漏れる中、ハジメは、残り二つとなった大迷宮とこれからの展開に思いを巡らせる。

 

 

 

何があるにせよ、この旅も終わりが見えてきたのだ。どんな存在が立ちはだかろうと、どんな状況に陥ろうと、必ず全てを薙ぎ倒して故郷に帰る。この世界で手に入れた“大切”と共に。

 

 

 

その誓いを、新たに重ねてきた絆と想いで包み込み、更に強靭なものとする。ハジメは、心の中で更に大きくなった決意の炎を感じながら、そっと口元に笑みを浮かべた。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

色々あって明日には光輝たち勇者組とリリアーナと護衛・侍女たちがハジメ達に同行することとなった。雷電はリリアーナの希望通り抑止力の代わりであるクローン師団を召喚し、更にはガンシップを始め、AT-TEやAT-RT、TX-130セイバー級ファイター・タンクにターレットなど召喚してはクローン達に配備させるよう指示をだす。そしてある程度のクローンや兵器を召喚した後に、雷電はもう一つの用事を済ますために召喚したクローン達に任せてこの場を後にした。その用事というのは、光輝の本当の覚悟を見定めることだった。

 

 

 

雷電は光輝を探している道中で光輝を見つける。雷電自身、光輝とは最初から仲は良くないとはいえ、そのまま赤の他人として無視できないでいた。光輝のご都合主義解釈によってクラスメイトが殺されることはどうにも我慢ならなかった。光輝も雷電が声をかけてくるとは思いもしなかったようだ。

 

 

「雷……いや、藤原か……」

 

「天之河、一度しか言わないからよく聞け。すぐに訓練場の広場にこい」

 

「訓練場…?どうして訓練場なんだ?」

 

「話は訓練場についてからだ。異論は受け付けん」

 

 

何故雷電に呼ばれたのか光輝は雷電の行動を理解できなかった。そして流されるがまま訓練場についた。そして雷電は腰に懸架していたライトセーバーを二分割にする。

 

 

「藤原…?一体なにを…?」

 

「お前の本当の覚悟を見定める。それだけだ」

 

 

そう言って雷電は分割したライトセーバーの片方を光輝に投げ渡す。いきなりの投げ渡しだったので光輝は受け取り損ねそうになったが、何とかライトセーバーを手にする。

 

 

「これは……。これを渡して、一体なにを……」

 

「ここからは、語る言葉はない。…いくぞ!」

 

「……っ!?」

 

 

雷電はライトセーバーを起動させるや否や、フォースによる身体能力強化で大ジャンプと同時に光輝に対して切りかかる。光輝は慌てて咄嗟に横に飛び込んで回避する。

 

 

「な…なにをするんだ!?いきなり襲い掛かってくるなんて!」

 

「……!」

 

 

光輝の言葉すら聞く耳を持たず雷電はシエンで光輝を攻めまくる。光輝も只、やられっぱなしという訳にはいかず、見よう見まねでライトセーバーを起動させ、光刃を展開して雷電の剣戟を捌く。

 

 

 

しかし、雷電が使うシエンの力を込めたスイングで、相手の防御の構えを弾くほどの強さを持つ。その為、光輝は雷電の重い一撃を防御するのに精一杯で攻撃に転じることが出来ずにいた。光輝自身も何故雷電が自身の覚悟を見定めようとするのか理解できなかった。

 

 

「戦いに雑念を抱くな!」

 

「……っ!?」

 

 

雷電に指摘され、一瞬の油断を生み出してしまい、光輝の手元からライトセーバーが弾かれるように雷電の一撃によって手放してしまう。このままではやられると悟った時には、光輝の首元に雷電のライトセーバーが向けられていた。完全に勝負がついたと判断した雷電は、ライトセーバーのスイッチを切り、光刃を消す。そして雷電は弾いたライトセーバーをフォースで引き寄せ、回収する。

 

 

「覚悟はいまいちだ。そんな半端な覚悟で戦うつもりなら、今すぐ戦いから降りろ。むしろ足手まといになる」

 

「くっ…!だからってこんなことをしなくても……」

 

「必要はないとでも?すでに覚悟はできているとでも?笑わせるな。天之河、今のお前は中途半端な男であり、ご都合解釈の塊だ。それを改めなければ、お前の思い込みやくだらない理想によって仲間が危険にさらされる。それこそ、ハジメが言ってたように檜山の二の舞だ。ここ(ハイリヒ)を出る頃にはご都合解釈や思い込みを捨てておけ。でなければ、いずれそれが自身の足かせとなり、やがて皆に置き去りにされるだろう」

 

 

そう言い残し、雷電は訓練所の広場を後にした。ポツンと一人取り残された光輝は、まさか雷電にもハジメと同じことを言われるとは思いもしなかった。この時の光輝は雷電に対するある感情を二つ、無自覚に抱いていた。それは“憎悪”と“劣等感”。憎悪は雷電の棘のある言葉と行動に対してである。いつから憎悪を向けるようになったのかは、恐らくオルクス大迷宮で雷電と仲違いした時にであろう。そして劣等感は、雷電と光輝の差が違いすぎることだ。光輝よりも雷電の方が戦争のことをよく知り、無限とも言える雷電が召喚するクローン軍団。そして光輝よりも高いカリスマでクローン達や他の人たちに慕われている。

 

 

 

それに対して光輝はどうだろうか?相手の言葉に踊らされ、目の前の現実を見ず、ただ偽善の言葉で皆を巻き込んで、危うく犠牲を出すところだった愚か者としか言いようがない。

 

 

 

覚悟の示しもつかず、決定的な挫折。自身を変えようと取り組んだものの、結局はハジメ達に助けられてばかりだった。知らず知らずのうちに光輝の心の中に潜む闇が少しずつ増長していった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ編
最終審議と転移される者達


番外編という名の自作小説のコラボ編です。


82話目です。


 

 

雷電たちが明日の準備をしているその頃、魔人族襲撃の際にチップの影響でPTSDを患ったメルドとブリッツ。チップの影響とはいえ、事実上味方に武器を向け、手にかけたことに心を痛んでいた。

 

 

 

メルドの場合は、チップによってプログラムされていたとはいえ、この国の王女であるリリアーナに剣を向けたことだ。幸いなのは、彼が誰に手を掛ける前にチップが原因であると清水やクローン達に聞かされたリリアーナ達に出会ったことだろう。その為、清水によって無力化されて誰も殺めることはなかった。そのお陰でブリッツより早く立ち直ることが出来た。だが、ブリッツは違う。ハジメ達によって全滅した前ARCトルーパーたちを含め、チップによって感情や意思を抑制され、エヒトの傀儡となってハイリヒ王国の国王を含め騎士たちを虐殺したのだ。その光景をブリッツは記憶にひどく焼き付いていた。これではオーダー66の二の舞だと心に刻まれながらだ。

 

 

 

そのブリッツとメルドはというと、ブリッツはハイリヒ王国の地下牢の一室でひどくうなされていた。メルドの場合は王女に剣を向けたことが他の貴族たちに広まり、国家反逆罪の疑いがメルドにもたれてしまうが、リリアーナが事の顛末を知っているために御咎めはあまり言及せず、国家反逆罪には至らなかった。但し、それでも貴族達の方は納得がいかない為にメルドを騎士団長の地位を剥奪。新騎士団長をリリアーナの付きの元近衛騎士である“クゼリー・レイル”がメルドの後釜として新騎士団長に就任する。メルドはクゼリー傘下の騎士団の一員として再編成されるのだった。そうして自身の処遇が決まり、この場を後にしたメルドは面会を建前に時折ブリッツの見舞いに来ていた。

 

 

「ブリッツ、大丈夫か?まだ立ち直れそうにないか?」

 

「…メルドか。あぁ……毎晩、同じ悪夢を見ている。チップによってそうなるようプログラムされていたとはいえ、自分は共和国に対して反逆したのだ。ましてやこの国の国王をこの手で殺めてしまったのだ」

 

 

ブリッツはチップの影響で操られていたとはいえ、自らの手でハイリヒ王国の国王をブラスターで射殺したのだ。国王殺しの大罪と罪悪感がブリッツ自身を押しつぶそうとしていた。ブリッツの犯した大罪はこの国の法によって裁かれるのだが、クローン達の急変は侵攻してきた魔人族に協力していたファーストオーダーの策略であると雷電が異議申し上げる。更にはリリアーナもクローン達や兵士が操られているところを現場で見ていた為、雷電の異議には真実味が帯びていることを裁判官たちに告げている。その結果、この国の裁判ではブリッツは極刑を免れた。しかし、罪状の重さは変わることはなかった。その為、今のブリッツは最終的な処罰が決定するまで地下牢で幽閉されていた。

 

 

 

メルドも何かしら言葉を掛けようと考えるが、罪状の大きさが大きさでなんて言葉を掛ければいいのか分からなかった。そんな時に一人の兵士がやって来てブリッツがいる牢の扉の鍵を開けて告げる。

 

 

「ブリッツ殿、王女殿下がアナタを王室の間に連れてくるようにとのご命令です。それとメルド殿もご同行願います」

 

「王女殿下が?」

 

 

メルドも王女からの命令でブリッツと同行することとは思いもしなかった。一体何なのか確認するためにもブリッツと共に同行するのだった。

 

 

メルドSide out

 

 

 

王室の間ではリリアーナや雷電、貴族たちが集まっていた。どうやらブリッツに対する最終的処罰を決めるために集まったのだろう。一部の貴族たちは雷電やクローン達に対してあまりいい関係ではない。貴族たちは雷電の持つ技能をうまく私物化すれば無敵の軍団を簡単に手に入れられると思い込んでいるのだ。しかし、そんなことを雷電が簡単に許す筈もないのは承知の上でどうにかブリッツをあの手この手で引き込めて人質にすれば状況が有利になると貴族たちは考えていた。

 

 

 

一方の雷電は、ブリッツの処罰についてや貴族たちに対する抑止を考えていた。例えフォースを使わなくても貴族の考えていることは丸わかりだった。ブリッツを如何にどう守りながらも貴族たちに対する抑止を作るか、基盤を組み立てながらも考えていた。そうしている間に兵士がメルドとブリッツを連れてやってきた。彼らが来たところでリリアーナがブリッツに対する処罰をめぐって審議が始まる。

 

 

「……ではこれより、藤原さんの配下であるブリッツさんの処罰について審議を始めたいと思います。ブリッツさん、アナタは公の為に命を捧げると誓った兵士であるという事は違いありませんか?」

 

「はい。私は共和国の為に戦う存在です」

 

「今回は異例の事態であるが為、この審議はこちら(ハイリヒ)の通常の法が適応されない兵法会議とします。決定権は全て私に委ねてさせてもらいます。アナタの生死も、今一度改めさせてもらいます。異論はありますか?」

 

「…ありません」

 

 

ブリッツから改めて今回の審議についてのことを確認したリリアーナは、早速本題に移るのだった。

 

 

「分かりました。…では、単刀直入に言います。今のアナタは私の父である国王“エリヒド・S・B・ハイリヒ”を殺害した大罪人です。こちらで隠蔽するのにも限界があります。いずれかの形で公表しなければ魔人族とは別の脅威が発生しかねません。今回決めるのは、アナタの動向をどちらに委ねるかです。貴族達か、藤原さん率いるクローン軍か、あるいは新たに編成されたハイリヒ王国騎士団か。先ずは、騎士団より案を聞かせてください」

 

 

リリアーナが新騎士団長であるクゼリーに案を聞き求めた。クゼリーは騎士団で考え、纏め上げた案を発表した。

 

 

「はい。我々は、彼を新たな兵士育成としての教官に任命すべきと考えております。彼の技能は兵士や指揮官において重宝すべきものなのは明白です。しかし、国王殺しの罪は消えることはないのは事実です。従って、我々の監視下でブリッツ殿には兵士や指揮官としての経験を新たな新兵に提供してもらい、次世代の新兵教育を務める教官として勤めてもらいます」

 

 

クゼリーの案は、ブリッツを騎士団の監視下で新兵の教官として管理するというものだ。言うなれば、ブリッツを新兵教育を務める教官という形で飼いならすということだ。このクゼリーの案に貴族側から反対の声が上がる。

 

 

「危険だ!その男は冷血で人を殺すことに躊躇をしない、人間の皮をかぶった化け物だ!騎士団の案に異議を申し立てる!」

 

「貴族の皆様方は不必要な発言はお控えなさい」

 

 

リリアーナの発言で一時的に場は静寂になる。数秒後にリリアーナは再び発言する。

 

 

「…それでは、貴族の皆様から案を伺います」

 

「先ほどは失礼した。では改めて……その男は国王を殺した大罪人であることは変わりありません。しかし、騎士団長の言うようにその男の技能はこの国において重宝すべきなのはこちらも同意です。だが、国王殺しの大罪人に兵士を教育させるのは危険だと判断します。よって、我々はその者を地下牢に幽閉していただきます」

 

 

貴族側はブリッツを幽閉という形で人質にするつもりである。そうして最後になった雷電にリリアーナは案を聞き出す。雷電はどう答えるか。すべては雷電の言葉にかかっていた。

 

 

「…では最後に、藤原さん率いるクローン達の案を聞かせてください」

 

「はい。我々共和国軍は、ブリッツを共和国軍から除隊。後にクゼリー騎士団長の案と同じく、ブリッツを騎士団の監視下に置き、新兵教育のための教官として「異議あり!」……」

 

 

雷電が案を説明する中、それに割り込むように貴族側からまたしゃしゃり出てきた。

 

 

「そもそも国王の死の原因は藤原殿の管理が原因であると思われますぞ!藤原殿がより命令に忠実な兵士を生み出さなければこの様な悲劇が起きなかったのではないのか?」

 

「藤原殿が召喚した兵士の管理がズボラである以上、我々が管理すべきと考えております!」

 

 

藤原の管理不足が招いた事態と主張する貴族たち。その賠償として藤原が所持する軍隊を管理という名目でクローン軍を貴族たちによこせと言ってきたのだ。だが、雷電も貴族たちの意見を背くように反論する。

 

 

「クローンはこちらが召喚した兵士であるが、ただ命令を遂行するだけの人形でもなければ奴隷の軍隊ではない。あなた方の発言は、あまりにも人権を無視した言葉であることを理解しての発言ですか?」

 

「何をぬかすか!大量の兵士をだすことが出来る以上、たかが数百~数千人ぐらいどうという事はない筈だろうに!」

 

「彼らは通常の二倍の速度で成長し、人間より早く歳を取る。仮に数千人をそちら側に管理するとして、この世界の文明ではコスト的に釣り合わないのは目に見えているほど明白なのではないか?」

 

 

貴族側と雷電の口論が始まり、少しずつヒートアップしていく。このまま論議が続けば審議を続けることが出来ないと判断したリリアーナはその場で静まるよう告げる。

 

 

「静粛に。個人の主義主張は別の場所で訴えてもらいます。藤原さん、改めて聞きますが、アナタは騎士団長と同じ案であるという事ですね?」

 

「はい、リリアーナ王女殿下。我々もブリッツの処罰を決めるために新騎士団長と相談し、この案を採用しました」

 

 

そう雷電が言った後に貴族側に目線を向け、忠告する。

 

 

「一応、貴族たちの皆様に忠告しますが、もし仮にクローン達をあなた方が管理し、粗末に扱うものならクローン達はあなた方に牙を向けることになるでしょう。彼らが団結すれば、この国の兵士たちでは対抗することは難しいが故に、国の一つを陥落させることが可能です。その結果、国の滅亡させる原因となった貴族たちは、末代の恥として永遠に語られることになるでしょう」

 

 

貴族たちはクローン達が反旗を翻せば一つの国が滅びるという最悪なシナリオを想像したのか顔が青ざめていた。クローン達の使う装備は、どの国でも存在しない武器であり、もし彼らが人類に敵対するなら間違いなく敵対した国は滅亡することになる。忠告を告げた雷電は、リリアーナに提案を言う。

 

 

「王女殿下、ご提案があります」

 

「ご提案ですか?」

 

「ブリッツはこの世界の常識をまだ完全に把握していません。彼の管理を、元騎士団長のメルドさんに任せ、新兵教育の教官を補佐する副教官としてメルドさんを配置すべきと思います」

 

 

雷電の提案は、ブリッツにとってこの世界の友人ともいえるメルドに管理を任せ、ブリッツの補佐として副教官に配置させることだった。

 

 

「ブリッツさんの管理ですか……。メルドさん、アナタに出来ますか?」

 

「はい、王女殿下。もし彼に何かあれば、私が命に代えても……」

 

 

それから数秒の沈黙が続き、リリアーナは審議の結論が決まる。

 

 

「……結論が決まりましたね。ブリッツさん、アナタを騎士団長の案、そして藤原さんのご提案の下、騎士団に委ねます。この決定に異論は受け付けません。……これにて兵法会議を閉廷いたします」

 

 

リリアーナの宣言でブリッツの審議は終わり、ブリッツは共和国から除隊され、新たにハイリヒ王国の新兵育成の教官として新たな人生を歩むことになった。ブリッツの補佐としてメルドはブリッツの管理を兼ねながら副教官として任につくのだった。

 

 

 

ブリッツを共和国軍から除隊するという事は、彼はもう共和国軍の兵士ではなくなったとことを意味していた。言い方は悪いが、ブリッツは雷電によって“廃棄処分”されたことになる。だが、雷電は生きて罪を償うための止む無き処分であると同時に、残りの余生はブリッツの好きに生きても良いことを説明した。ブリッツも自分の処分に対して納得している。こうしてブリッツはこの世界で余生を過ごし、天命を全うするのだった。因みに、ブリッツが次世代新兵教育の教官になったことで、後の未来のハイリヒ王国の兵士たちが雷電の召喚したクローン軍を除いてどの国家において世界最強の軍隊として君臨するのはまた別の話。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

クローンの召喚だったり、光輝の覚悟の身定めだったり、ブリッツの最終審議だったりと色々と疲れた雷電。それから一日が過ぎての翌日のある日、雷電の方で問題が発生した。それはリリアーナ達を連れていく際に使用する乗り物である。雷電の召喚するシャトルやスター・シップではあまりにも目立ちすぎるがためにどうするか考え、ハジメと相談した結果、ハジメがオルクス大迷宮で作ったアーティファクトである飛空艇“フェルニル”で移動することに決定した。その際にアシュ=レイとヴォルトから呼び出しを受けた。何事と思いながらもハジメと雷電はアシュ=レイたちのところに向かうのだった。

 

 

 

アシュ=レイたちのところには光輝たちとティオを除くユエたちがいた。そして呼び出した雷電達も無事に到着した。

 

 

「お、よく来たな!」

 

「お前が呼び出すことは余計に碌なことでしかないことを忘れたことはないからな」

 

「それはもう気にするなよ。それよりもだ、俺が暇つぶしがてらにヴォルトと共に作った(もん)がこれだ!」

 

 

アシュ=レイは自慢したげに近くにある覆いかぶさった布を取り、その姿を露わにする。それは、円形の門のような形をした何かしらの機械であった。見た感じなにかは分からなかったシアは質問をする。

 

 

「あの~……何ですか、これは?」

 

「こいつか?こいつは俺が暇つぶしに作った“異世界転移門(仮)”の試作型の装置だ。こいつは様々な異世界にゲートをつなげる事ができるって品物だ」

 

 

アシュ=レイの説明に鈴はもしかしたらという可能性を抱く。

 

 

「えっ!?もしかして、これを使えば鈴たち、地球に帰れるってこと!?」

 

「いや、こいつはまだ試作品だ。それに、まだお前たちの地球を把握してないから転移は不可能だぞ?」

 

 

儚い希望があっけなく砕かれた鈴。それでも帰れる可能性をアシュ=レイが作ってくれたことに僅かな希望が出来たと納得するのであった。アシュ=レイは続けて装置の説明を続ける。

 

 

「こいつに特定の座標を入力した後に転移装置を起動させる。そうすることでその世界に転移することが出来るって代物だ。ただし、座標を入力しないで起動させると面倒なことになるから絶対に起動させるなよ?それと、この装置の端末にある青いボタンがあるだろ」

 

「えっ…これですか?」

 

 

そう言ってシアが青いボタンを押す。

 

 

「そいつは装置の起動させるボタンだから決して押すなよ……って!?何押してんだよ!!」

 

「何やっているんだ、シア!?」

 

「ひぃ~っ!?す、すみませんですぅ~~!?」

 

 

まさかのシアのやらかしで装置が起動してしまう。幸いなのは、門が開くまで時間がかかるという事だろう。何とか装置を停止させるためにハジメがアシュ=レイに装置の止め方を聞き出す。

 

 

「アシュ=レイ!お前、この装置の止め方ぐらいはあるだろう、どうすれば止まるんだ!」

 

「あるにはある。ハジメ、端末にある青いボタンの隣に赤いボタンがあるだろう?」

 

「っ!こいつか!」

 

 

つかさず赤いボタンを押すハジメ。すると転移装置にワームホールが発生する。

 

 

「そいつは転移装置の門が強制的に開くボタンだから決して押すなと言おうと思ったんだが…」

 

「オイィィィィーーー!!!?それを早く言え!!もう押してしまったぞ!?」

 

「あーっ……これは面倒なことになったぞ」

 

 

ハジメのツッコミに雷電はこの後の展開を悟った。その結果、ワームホールから強力な吸引力によってアシュ=レイやヴォルトを除くハジメ達を吸い込み始める。

 

 

「のわぁぁぁあああーー!?」

 

「んっーーーー!!」

 

「結局こうなるかっ!?」

 

「あーーれーーー!?」

 

「ハジメくん!?」

 

「雷電君っ!!」

 

「香織!?ちょっと……わぁぁああっ!?」

 

「だっ駄目だ、吸い込まれる!?」

 

 

そうしてハジメたちはワームホールに吸い込まれ、ハジメ達が吸い込まれた後にワームホールが消滅し、吸い込まれないよう物にしがみついていたアシュ=レイとヴォルトだけが残った。残されたアシュ=レイたちは……

 

 

「……やべぇことになったな(汗)」

 

「急ぎ彼らが飛ばされた座標を確認しましょう」

 

 

ハジメ達が飛ばされた世界を特定するためにすぐさま行動するのだった。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

ワームホールに吸い込まれたハジメたち。ワームホールの中でどれくらいの時間が流れたのか分からぬまま出口に放り出された。放り出された後にハジメと雷電は軽く毒を吐きながらユエたちの安否を確認する。

 

 

「…っつぅ。ヴォルトとアシュ=レイの野郎、変なものを作りやがって!戻ったら絶対にシバく!…ユエ、大丈夫か?」

 

「……んっ。平気」

 

「アシュ=レイの奴、無事に戻ったら絶対に泣かす!…それにしても、此処はどこだ?不思議と知らない気がしない」

 

「マスター、此処ってどこですか?」

 

「ここがアシュ=レイさんたちがいってた別世界なのかな?」

 

「そのようね。実際、目の前に明らかに亜人っぽい人もいるわけだし。……それと天之河もいるし

 

「ここは一体?…はっ!それよりも、龍太郎たちは!?」

 

「ここにいるぜ、光輝!…にしてもよ、此処はどこだ?」

 

「私たち、本当に別世界に来ちゃったの!?」

 

「そうとしか言いようがないわね。その証拠に藤原くんが召喚したクローンとは別のクローンが沢山いるわけだし…」

 

 

それぞれ皆の安否を確認したハジメ達。だが、雫の言葉にハジメは周りを見渡した。そこには雷電が召喚したとは思えないクローン達と人間サイズのガンダムが存在していた。

 

 

「…おいおい、何かの冗談か?なんでこの世界に人間サイズのガンダムがいるんだ!?しかもクロスボーン・ガンダムかよ!」

 

「俺を知っている…!?君たちはいったい……?」

 

 

流石にガンダムの存在にツッコミを入れるハジメ。その側ら、雷電はかつて前世で見た光景をこの世界の光景がある惑星と同じであると判断した。

 

 

「惑星クリストフシス……だと!?それに212、501大隊のクローン達もいるということは……!」

 

 

雷電は周囲を見渡すと、そこにはジェダイ・マスターのオビ=ワンとその弟子、ジェダイ・ナイトの()()()()の姿があった。

 

 

「アナキン……スカイウォーカー……!」

 

 

雷電は、己の過去の世界と近いようで遠い並行世界にて、ジェダイが滅ぶ原因となった諸悪の根源であるアナキンを目の前にするのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

デジャヴな戦い、クリストフシス攻防戦

中々にネタが思いつかない……


83話目です。


 

 

アシュ=レイとヴォルトが作った転移装置のワームホールによって、雷電が前世のライ=スパークとして歩んだ世界ではなく、限りなく近くて遠い別のSTARWARS世界に飛ばされた。異世界に召喚されて次は別世界、それもSTARWARSの世界に来て何が何だか訳が分からないと嘆きたい。そこには何故か二体の人型のドロイド?がアナキンたち率いるクローン軍と共にいた。ハジメ曰く、あのドロイドはガンダムというもので、この世界には存在しないものだそうだ。しかも、そのガンダムは宇宙海賊を生業としていながらも海賊らしからぬ義賊行為を行っているそうだ。

 

 

 

海賊がそんなのいいのかと内心思わずにいた雷電。だが、問題はこの世界において雷電たちの戸籍は存在しないという事だ。当時のオビ=ワンやアナキンもこれには参っていた。

 

 

「まいったな……今はまだ戦闘中だというのに、こんな時にワームホールから放浪者が出てくる何て……」

 

「そう言うな、アナキン。君たち、すまないが戦闘が終わるまで共和国が保護しよう」

 

 

オビ=ワンから共和国が保護すると雷電達に告げる。しかし、ハジメはオビ=ワンからの保護を否定する。

 

 

「断る。自分の身は自分で守れるつもりだ。万が一があっても……」

 

「いや、ここはジェダイの保護を受けよう」

 

「は?雷電、いいのか?」

 

「良いも悪いも、この世界じゃ俺たちは存在しない者達だ。どの道共和国軍に保護してもらう他にない。(本当なら個人的に嫌なのだが……)

 

 

ここで雷電が保護を受けることを推奨してきた。その時の雷電の表情は、表には出てないが不服そうな気持ちが渦巻いていた。その様子を察したのかガンダムことキンケドゥが妙案を出した。

 

 

「……だったら、お前たちが帰る手段が見つかるまで俺たちの船で保護しようか?一応俺たちの船には人間用の食料を備蓄しているからな」

 

「良いのか?いくら君でも彼らを保護をするなんて……」

 

「問題ないさ。それに、今はまだ戦争中だしな。どっかの流れ弾に当たって死んでしまったら誰でも目覚めが悪い」

 

「それが良いかもしれないな。君たちの行いは名だけは海賊といっても、義賊の宇宙海賊だからな。ここはキンケドゥたちに任せるしよう」

 

 

オビ=ワンから更っとキンケドゥの正体を晒したが、言い出した本人も自分で言うのもなんだがという何とも言えない気持ちを感じ取れた。しかし、ここで光輝がキンケドゥの正体が海賊であると分かった瞬間、否定的な態度をとる。

 

 

「海賊だって…!?海賊に俺らを保護してもらうなんて正気ですか!?」

 

「ちょっと、光輝!オビ=ワンさんから説明があったのにそこまで言うことはないでしょう?」

 

 

案の定のご都合解釈+認識の狭さに雫も苦労する。恵理にいたっては光輝をまるで汚物を見るようなジト目で見ていた。そんな光輝の暴走を止めるようにハジメと雷電が光輝に対して言う。

 

 

「天之河、そこのガンダムことキンケドゥはそこのジェダイが言うように義賊系の海賊だといったはずだぞ?」

 

「ついでに言えば、この世界は完全に俺たちの知る世界じゃないんだ。いつまでもご都合解釈で片付けるな」

 

「だからって人の物を平然と盗み、人を殺すような奴らに「「お前の中の常識で物事を図るな」」…っ!」

 

 

ハジメと雷電は光輝の反論を黙らせる。この時のキンケドゥは、光輝の言っていることは人として正しい判断だと何とも言えない気持ちだった。

 

 

「逆に聞くが、俺らの元いた世界こと地球の特撮もので海賊をテーマにした戦隊があって、その戦隊が一度も人を襲ったことはあるか?」

 

「それは……」

 

「つまりはそういう事だ。彼らことキンケドゥは、自分たちの行動はなんちゃって海賊行為をする宇宙義賊ということになる。お前は視野を狭めすぎて目の前のことしか見えてない。いい加減に周りを見ろと言っているんだ」

 

 

雷電の止めの言葉に光輝は何も返すことが出来なかった。保護が決まった後に雷電は改めて自己紹介をするのだった。

 

 

「……すまない、自己紹介がまだだったな。俺は藤原雷電。少し訳ありの別世界のジェダイだ」

 

「何っ!?…おいおいおい、新しいパダワンの次は別世界のジェダイだって?これ以上は多すぎるぞ」

 

「信じられない……と言いたいが、彼の言っていることは本当だろう。しかし、そのジェダイである君が何故……」

 

 

アナキンは今の戦況やアソーカのことでいっぱいだったために頭の処理が追い付かないでいた。オビ=ワンにいたっては雷電の言葉に嘘はないことと、彼自身が抱える闇を見抜いていた。それを察知したのか雷電がオビ=ワンに待ったをかける。

 

 

「…すまないが、それに関しては黙示させてもらう。それで、こっちのウサ耳と尻尾が特徴の兎人族は……」

 

「シア・ハウリアです!マスターことライデンさんと同じくジェダイで、ライデンさんの弟子であり、マスターの恋人ですぅ!」

 

「「「…えっ?」」」

 

 

シアからまさかの爆弾発言でアナキンたちは固まった。基本的にジェダイ達は“ジェダイ・コード”という教義によってフォースの暗黒面(ダークサイド)へとつながる執着心を禁じられており、この教義によって特定の誰かに愛情を抱いたり、結婚して家族を持つことを禁じられている。キンケドゥは雷電の言う少し訳ありの意味を理解していたのかあまり追及してこなかった。

 

 

「えっ…嘘でしょう!?それってジェダイの掟に反するんじゃないの?」

 

「さっき言ったようにこっちは訳ありなんだ。それと、シアとは()()恋人関係じゃない」

 

 

そう雷電が訂正を入れる。これ以上聞き出すのは野暮だと判断したのかキンケドゥが話題をそらして自己紹介をする。

 

 

「まぁ…彼には彼なりの訳があるからあまり聞かないでおこう。それはそうと、俺はクロスボーン・ガンダムの一号機、X1だ。またの名をキンケドゥだ。よろしくな」

 

「自分はキンケドゥさんと同じクロスボーン・ガンダムの三号機、X3です。別名トビアといいます」

 

 

キンケドゥ達が自己紹介を終えた後にハジメ、ユエ、香織、恵理、光輝、龍太郎、鈴、雫の順で自己紹介をした。そして、雷電たちは異世界であるトータスという世界で彼らの故郷でもある地球という惑星にある日本に帰還するために神代魔法を探す旅をしていることを話した。魔法という単語にアナキンたちは信じがたい様子だったが、ハジメが“フォースを使うジェダイも似たようなもんだろ?”と言ったことにキンケドゥが少しだけ笑ったのは別の話。

 

 

 

話が纏まったところでキンケドゥたちは、雷電たちを戦闘が終わるまで後衛陣地で待機させようとしたが、ハジメや雷電、ユエとシアに天使の少女の香織は早期決着のために戦うと決め、戦況を確認しに行った。この時に光輝もついていこうと動いたが、雫と恵理、龍太郎に止められて行こうにも行けなかった。この時、既にシアとアソーカは同じパダワン見習いということですぐに仲良くなれたそうだ。

 

 

 

因みにキンケドゥは雷電達を連れてアナキンのところに向かったときにアナキンの部下であるレックスがアナキンはパダワンを持たないというところで丁度アソーカがアナキンのあだ名を“スカピョン”と名付けたことに雷電は、アナキンのあだ名にツボったのか笑いを抑えるのに必死だったのは余談だ。

 

 

 

その後にキンケドゥは一度ハジメたちと別れてアナキンと共に戦況を確認に向かった。残ったハジメたちはアソーカとレックスと共に重砲陣地で重砲の配置を確認しながらも歩きながら会話をしていた。シアから戦場では経験が全てに勝るということを話し合っていたらアソーカが“じゃあ、経験が勝るというのなら早く経験したいな?”とフラグ発言し、ハジメはアソーカのフラグ発言にツッコもうとした時に敵陣地からエネルギー・シールドが展開されていた。雷電達はデジャヴを感じながらも急ぎキンケドゥたちのところに戻るのだった。今から迫りくるドロイド軍に対抗するために。

 

 

雷電Side out

 

 

 

どうやらドロイド軍が重砲対策として防御シールドを張り、拡大しながらも再び進軍を開始してきた。どうにか重砲の砲撃を防ぎながら進軍してくるドロイド軍を撃退する方法を模索していたのだが、誰も思いつかなかったようだ。

 

 

「シールド・ジェネレーターの位置はこの辺り…部隊の進軍より少し先んじて、有効範囲を拡大している」

 

「重砲ではシールドを破れません」

 

「敵が近づいたら、ビルの中に誘い込むしかないな。それでようやく対等に戦える」

 

「シールドがそんなに問題だったら、無くしちゃえばいいじゃない?」

 

「言うだけなら簡単だ」

 

 

悩んでいたところにアソーカがシールドを無くす案を出す。レックスの言うように言葉だけなら簡単だろう。しかし、問題はどうやってシールドを消すか?である。だが、アナキンやハジメと雷電もアソーカの案に賛成した。

 

 

「いや、僕も彼女に……んんっ!…賛成だ。誰かが行って、シールド・ジェネレーターをぶっ壊す。それしかない」

 

「俺もアソーカの案に賛成だ。俺たちも似たような経験をしたからな。ハジメもそれでいいな?」

 

「あぁ、構わねぇよ。ただ、こいつは急がないといけねぇのは確かだ。ここは四人だけでシールド・ジェネレーターを破壊するしかないな。そこで、俺なりに即席の作戦を思いついた」

 

 

立体ホロジェクターに指をさしながらもアナキンたちに作戦を説明した。その作戦は、ハジメたちとキンケドゥたちが迫りくるドロイド軍を足止めをし、その間に雷電とシア、アナキンとアソーカが敵陣にあるシールド・ジェネレーターの破壊し、重砲が使用可能にすることである。敵のシールドが消失したと同時に重砲の火力で一気に蹴散らす算段だ。

 

 

「その作戦、僕は賛成だ。ハジメ、君は良く思いもよらない作戦を思いつくな?」

 

「そりゃどうも。それよりも、急がないとシールドが迫ってくるからな。特に雷電、分かっていると思うが……」

 

「分かっている。ちゃんと割り切るつもりだ」

 

 

そうしてアナキンたちとハジメたちは作戦通り別々に行動をするのだった。ハジメは宝物庫からシュタイフを取り出し、そのまま乗り込んで道路上を滑走し、敵の進軍ルートにウルの町防衛戦で使った戦術こと防壁を錬成するのだった。

 

 

ハジメSide out

 

 

 

アナキンとアソーカと共にシールド・ジェネレーターを破壊するために同行する雷電とシア。先頭で崩壊したビルから敵のシールド・ジェネレーターの位置を改めて特定する。シールド・ジェネレーターの破壊にアソーカがアナキンに聞き出す。

 

 

「それで、どうすんの?」

 

「…お前に考えがあると思ったが?」

 

「ううん、あるのは若さとやる気。経験があるのはそっちでしょ?そいつを学ばなきゃ!」

 

 

アソーカのおてんばにアナキンは内心呆れながらエレクトロバイノキュラーで敵ドロイド軍の動きを見ながら説明する。

 

 

「先ずシールドの内側に潜り込み、次に戦車をやり過ごす」

 

「それより迂回したほうが楽だよ?」

 

「時間がかかりすぎる…」

 

「真ん中をすり抜ける?」

 

「無理だな。ドロイドに変身出来れば別だがな?」

 

「いや、真ん中をすり抜ける方法が一つだけある」

 

 

アソーカとアナキンが案を出し合っている中、雷電がシールドの突破方法を告げる。

 

 

「あるのか?」

 

「あぁ。…だが、これはハジメの作ったアイテムが役に立ちそうだ」

 

「あれですか?あれってあのドロイドたちに通用するのでしょうか?」

 

「…何だろうな、ものすごく嫌な予感がしてきた」

 

「うん、あたしも……」

 

「言うな、こっちだってこれが通用するのか分からないんだ。だが、ハジメの作ったものは便利なのは確かだ」

 

 

ハジメが作ったアイテムに不安を抱くアナキンたち。雷電もシールド・ジェネレーターの破壊に向かう際にハジメからもらったアイテムに少しばかり不安を覚えている。

 

 

 

雷電がアナキンたちと共にシールド・ジェネレーターに向かう数分前……

 

 

 

シールド・ジェネレーターを破壊するために向かおうとした時にハジメが待ったをかけた。

 

 

「雷電、少し待て。お前たちに渡すものがある」

 

「渡すもの?」

 

 

ハジメは宝物庫からあるアイテムを二つ雷電に渡した。これを見た雷電は微妙な表情をしていた。

 

 

「ハジメ、これは何の冗談だ?」

 

「冗談じゃねえよ。見た目に反して高性能なアイテムだ。上手く使えよ?」

 

 

そうしてハジメからアイテムを受け取った後に直ぐアナキンたちと合流するのだった。ハジメから渡されたアイテムというのは……

 

 

 

そして、今に至る……

 

 

 

ドロイド軍が重砲陣地に進軍する中、進軍ルート上に()()()()()()真ん中に立っていた。

 

 

『んっ?何だあれは?』

 

『どうした?』

 

『いや……目の前に妙な箱があるんですが?』

 

『妙な箱?うーん……あれか?』

 

 

その箱はハジメたちの世界の戦車をモデルにした段ボールで出来た戦車ことダンボール戦車だった。見たことのない戦車の形をした段ボール箱にドロイドたちは困惑していた。

 

 

『見たことのない戦車……いやっ箱か?というか、そんなの気にしている場合じゃないだろう。常識的に考えて…』

 

『いやっでも…罠だったら?』

 

『うるさい、今は前進することだけ考えろ!』

 

『アー…ラジャラジャ……』

 

 

ドロイド同士のコント的な会話をしながらもダンボール戦車を無視して進軍するのだった。

 

 

 

ハジメが作ったダンボール戦車の効果に雷電は意外と思わずにはいられなかった。

 

 

「…まさか、この世界で段ボールによる隠密効果が有効だとは思いもしなかったな」

 

「あの~、マスター?これはこれで有効なのは分かったのですが、普通の箱でも良かったのでは?」

 

「それもそうだが、ハジメ曰くこのダンボール戦車は内部の熱を探知できないようにした物で、ドロイドの熱探知に引っかかることはないそうだ」

 

「…なんかハジメさんの趣味が分からない気がします」

 

 

本当にそれなと思いを抱きながらもシールド・ジェネレーターに向けて少しずつ前進する。一方のアナキンもハジメの作ったダンボール戦車の効果に感心していた。アソーカにとっては少しだけ不服だった。

 

 

「これって最悪だよ。隠れてないでさぁ、外に出て戦おう?」

 

「こうしてるだけでエネルギー・シールドが通り過ぎてくれたんだ。前線を抜けないなら、前線を行かせればいい」

 

「言ってれば?……それにしても、ただの箱を改造して玩具風の戦車に似せた箱で敵が気付かないなんて、なんか納得いかない」

 

「そう言うな。だが、この箱に関しては少し興味があるな。この戦いで生き残れたらハジメにこの箱の仕組みでも聞くか」

 

 

アソーカがちょこっと愚痴りながらもバレないように前進するのだった。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

ある程度の距離を進んだ際にアソーカが隠れるのにはもう限界だと告げる。

 

 

「もう敵が通り過ぎたよ、そろそろ出ても良くない?」

 

「まだだ。ジェネレーターの場所まではまだ距離がある」

 

「ずっと屈み歩きで進むつもり?我慢できないよ。もうやだ、立って歩こう」

 

 

アナキンもアソーカのわがままに付き合いながらも立って歩くことにした。雷電たち未だに屈み歩きで前進していた為、アナキンたちと距離を離されてしまう。

 

 

「マスター、アナキンさんたちが立って移動し始めましたよ?」

 

「なにっ?流石に立って歩くんじゃこの箱の効果が薄れるぞ?」

 

 

そう雷電の言うと、雷電の言ったとおりになってしまった。アナキンたちが進んでいると、ジェネレーターの警護と巡回していたデストロイヤー・ドロイドことドロイデカにぶち当たってしまう。その結果、ドロイデカは周囲に球状の偏向シールドを発生させ、強力なツイン・ブラスターを連射し始める。アナキンたちはライトセーバーでブラスターを弾いて防御しながらもブラスターをドロイデカに弾く。しかし、偏向シールドによって防がれていたため不利な状況だった。

 

 

「シールドを破れないよ!」

 

「二人とも、後方に向かって走れ!シア、砲塔を後方に向けろ!」

 

「了解です!」

 

「分かってる、走るぞ!」

 

「嘘!?ジェダイは逃げたりはしない!」

 

「走れと言っているんだ!!」

 

 

そうしてドロイデカに背を向けながらも走る雷電たち。逃がさんと言わんばかりにドロイデカはボール形態に変形し、転がって追いかける。しかし、それが雷電の狙いだった。

 

 

「今だっ撃て、シア!」

 

「はいですぅ!」

 

 

雷電の合図でシアは箱の中にあった引き金を引く。するとダンボール戦車の砲塔から実態弾が発射され、ドロイデカに直撃し、爆散する。ダンボール戦車の砲撃にアナキンたちは驚きを隠せなかった。

 

 

「おいおいおい……そんなのありか?雷電、その箱型の戦車は一体なんだ?砲撃ができるなんて聞いてないぞ?」

 

「私もよ。何でそんなものをハジメに渡されたのよ?」

 

「聞くな、俺だってこれを使うのはぶっつけ本番なんだ。……それよりもだ、急いでジェネレーターのところに行くぞ」

 

 

そう言って話を区切ってジェネレーターのところに向かう雷電たち。すると後方で大きな爆音が響いていた。アナキンたちは後ろの方を振り向くと、そこには雷を纏ったモンスター()が舞っていた。その方角はオビ=ワンとキンケドゥ、ハジメ達がいる場所で、そのモンスターが暴れまわっていた。そのモンスターの正体を雷電が知っていると判断したのかアナキンたちは雷電の方に視線を向ける。その視線に気づいた雷電は、何も言わずにただ縦に一回首を頷くのだった。

 

 

「……もう君たちのことは、常識にはとらわれない人外と認識するよ」

 

「向こうの世界で慣れていたとはいえ、スカイウォーカーにだけは言われたくなかったな……」

 

「悪いけど、私もスカピョンの意見に賛成よ。もうアナタ達、人の枠から脱線しているし……」

 

「あはは……そう言われると何も言い返せないです」

 

 

後方はハジメたちが何とかしてくれていると思いながらもジェネレーターのところに向かうのだった。そこで厄介な連中が待ち構えていること知らずに……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やらかしと一難去って……

最近、気温が上がったり下がったりが多くて体調が崩れやすい。


84話目です。


 

 

徒歩で何とかシールド・ジェネレーターにたどり着いたアナキンたち。アナキンたちは警戒しながらジェネレーターに近づく。何かが待ち構えていると考えながらも近くにある瓦礫に隠れて様子を見ていた。ジェネレーターへと続く道には、棒状のなにかが地面から数十本くらい出ていた。

 

 

「明らかに何かが待ち伏せしているな」

 

「確かに……存在を感じますが、何処にいるのか分かりません」

 

「警戒しておくことに越したことはないな。アソーカ、離れるなよ、用心して行かないと……」

 

 

アナキンはアソーカに警戒するよう告げるが、アソーカはアナキンの忠告を無視してそのままジェネレーターに向かって走るのだった。

 

 

「お先!」

 

「な……おい待て!」

 

「何で?すぐそこじゃん、早く……」

 

 

その時にアソーカは足に何かを引っかけてしまい、何かしらの仕掛けを起動させてしまう。アソーカの周りの地面には何かしらの棒状のアンテナが立っていて、そこから地面が盛り上がり、その正体を現す。その正体はLR-57コンバット・ドロイドこと、通称リテイル・コーカス・ドロイドだ。どうやらアソーカはリテイル・コーカス・ドロイドのアンテナに触れてしまった為にドロイドたちが起動してしまったのだろう。これには思わずアナキンも悪態を吐く。

 

 

「だから待てと!」

 

「もう言っても後の祭りだ。シア、ヴォルトから受け取った()()()()を使うんだ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

雷電の指示の下、シアは宝物庫からヴォルトが作った複合武器オルタナティブ・カーバーを取り出す。

 

 

 

ここで改めて、複合武器のオルタナティブ・カーバーについて解説しよう。オルタナティブ・カーバーは文字通り複合兵装の一つで、近・中・遠距離に対応できるようにその三つの特徴を一つに統合したヴォルトの傑作品だ。近距離戦では振動刃ことバイブロブレードを搭載した“ブレード・カーバー”を展開して敵を切り裂き、中距離戦では内蔵されている“ブラストターレット”による支援や牽制射撃。そして遠距離戦ではミサイルランチャーとして使う“ディス・ブラストターレット”。まさに近・中・遠距離を一つに統合させた万能武器だ。しかし、この武器にも欠点もある。それは度外視した製造コストと、メンテナンス性の悪さである。

 

 

 

近・中・遠の三つを一つまとめたのだから当然のことだが、そのコストとパーツの複雑さは厄介だが、それに似合う性能を有している。早速シアがオルタナティブ・カーバーの遠距離用のディス・ブラストターレットを使用する。この時のアソーカは、シアの持つオルタナティブ・カーバーの仕組みを理解したのかすぐにドロイドたちから離れ、アナキンたちと合流した。

 

 

「いっけ~!」

 

 

シアの掛け声と同時にオルタナティブ・カーバーからミサイルが発射され、リテイル・コーカス・ドロイドに向けて直進する。ドロイドがロケット弾の存在に気付いた時にはすでに遅く、直撃を受けると同時に爆散。しかし、此処で運が悪いことにその爆風で飛ばされた筒状の胴体は地面に転がりながらも他のドロイドたちが潜伏している地面からはみ出ているアンテナに触れてしまう。その結果、多数のリテイル・コーカス・ドロイドを起動させてしまった。これにはシアもやってしまった感を隠せず、この世界でも残念なウサギという汚名を返上出来ないでいた。これにはアナキンと雷電は思わず口にする。

 

 

「おいシア……お前な、倒すのはいいが他のドロイドを呼び出せとは言ってないぞ」

 

「お前どっちの味方だ!?」

 

「ひぃ~!?ごめんなさいですぅ~!?」

 

「そんなことより、ドロイドが来るよ!」

 

 

アソーカの言う通り、ドロイドたちが迫ってきていた。雷電は少しばかりため息をつきながらもライトセーバーを手にしてドロイドたちの前に立つ。

 

 

「……仕方ない、俺が敵を殲滅する。爆薬設置は任せた!」

 

「おい、雷電!何を勝手に…!」

 

 

雷電はライトセーバーを起動させ、そのままドロイドたちの方に向かって走り出す。その時にドロイドたちは2連レーザー砲で雷電の迎撃を行う。雷電は自身に当たる光弾だけを弾き、間合いを詰める。

 

 

 

先頭にいた二体のリテイル・コーカス・ドロイドを通り過ぎる間際に雷電が切り裂く。そこに一体のドロイドが2連レーザー砲を鈍器のように雷電に向けて振るう。雷電は軽やかに躱しながらも身体能力でドロイドの頭上に乗りかかり、そのままライトセーバーを突き刺す。その時に一体のドロイドが味方のドロイド諸共雷電に向けて2連レーザー砲を放つ。雷電はすぐさまこちらに撃ってくるドロイドの頭上に乗り換えるように飛びつき、今度はフォースで連射する2連レーザー砲の向きをドロイドたちの方に変え、同士討ちさせる。

 

 

 

雷電の後方から更にドロイドが迫る中、雷電は今乗っているドロイドにライトセーバーを突き刺して飛び降りる。飛び降りた先はドロイドの間近だった。ドロイドは2連レーザー砲で雷電を叩きつけようとする。その際に雷電はライトセーバーを二分割し、そのままドロイドを細かく切り刻んだ。

 

 

 

雷電の驚異的な戦闘力にアナキンたちはどう言葉にしていいのか分からなかった。そうしている内に次のドロイドたちが雷電に向かって行く。雷電は分割したライトセーバーを連結した後にフォース・プッシュで奥のドロイドを押し倒し、近寄ってくるドロイドはライトセーバーで胴体を両断する。そして残った最後の三体が雷電を囲む。雷電は三体のドロイドを対処しようとしたその時、一体のドロイドが2連レーザー砲でライトセーバーを上に弾き飛ばす。それを合図に残り二体のドロイドも2連レーザー砲を雷電に向けて撃つ。

 

 

 

自身の武器を飛ばされても雷電は動揺せず、ドロイドの攻撃をまるで踊っているかのように軽やかに躱す。その時に丁度上に弾かれたライトセーバーをキャッチし、そのまま飛び上がり三体のドロイドをライトセーバーで突き刺す。突き刺されたドロイドは、まるで糸が切れたかの様にそのまま倒れて機能停止する。雷電がドロイドたちを殲滅にかかった時間は一分半とちょっとだった。

 

 

「……もはや何でもありだな」

 

「私たち、ほとんど何もしてないよね」

 

「あはは……それがマスターの普通ですから……」

 

「三人とも、惚けてないでジェネレーターに爆薬を仕掛けるぞ」

 

 

そう雷電が言った後にジェネレーターに爆薬を仕掛け、安全距離で爆薬を起爆させてジェネレーターを破壊するのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちが爆薬をセットする数分前……

 

 

 

重砲陣地では敵ドロイド軍の大軍が迫っていた。トビアたちの援護があったとしても防衛するクローン達もかなり限界が近かった。

 

 

「敵が多すぎる!」

 

「ここは危険だ、退却!退けーっ!」

 

 

クローン達が後退する中、敵戦車の砲撃で巻き込まれるクローンも少なからずいた。この時に一人のクローン・トルーパーが砲撃に巻き込まれた。

 

 

「ぐぁああっ!?」

 

「一人やられた!」

 

「ウーリ、衛生兵を呼んでくれ!」

 

「いえ、ここは私が!天恵よ、彼の者に今一度力を──“焦天”」

 

 

負傷したクローンを香織が回復魔法で癒し、ユエはクレセントでドロイドを迎撃する。恵理も出来るだけ援護するべくDC-17の改造銃“ベロニカ”で援護射撃を行っていた。そしてトビアもIフィールドでクローンたちを守りながらもドロイド軍のヘイトを集めていた。しかし、このままでは敵の数による物量によってやられてしまうのも時間の問題だった。

 

 

「……ライデンたち、遅い」

 

「このままじゃ、数で圧倒される…!」

 

「諦めないで!あと少し、あと少しだけ持ちこたえて!」

 

「きっと雷電君たちならやってくれる筈!それまでは……!」

 

 

この絶望的な状況でも諦めないユエたちとトビア。レックスとコーディもクローン達に激励の言葉を言う。

 

 

「お前たち、あいつらと同様に諦めるんじゃないぞ!何としても持ちこたえるんだ!」

 

「スカイウォーカー将軍たちがシールドを破壊するまでの辛抱だ!それまでブリキ共を一体でも多く片付けるぞ!」

 

「「「サー・イエッサー!」」」

 

 

レックスたちの激励を受けたクローン達。その時に彼らに希望が生まれ出た。それは、敵のシールドが消失したのだ。

 

 

『アッオゥ……シールドが消えちゃったぞ?』

 

『うっそーん…』

 

『シールドはどうなった?』

 

「砲撃だ!目標、敵戦車!」

 

 

このチャンスを見逃す筈もなくレックスが重砲部隊に砲撃指示をだす。AV-7対ビークル砲から放たれる砲撃は敵ドロイド軍の戦車だけではなく、歩兵のバトル・ドロイドたちも戦車の爆発による二次被害によって次々と倒されていく。形勢が逆転し、彼らの上には援軍としてやってきた味方のアクラメイター級が惑星クリストフシスに降り立ち、辛くも勝利を収めるユエたちだった。

 

 

ユエSide out

 

 

 

ジェネレーターを破壊した雷電たち。この時にアソーカは自身が犯した失敗に少し落ち込んでいた。とくにシアにいたっては深く落ち込んでいた。

 

 

「ふぇぇ……」

 

「あの、シア?今回は偶々運が悪かったわけだし、ね?」

 

 

同じパダワンのアソーカに慰められていた。一方の雷電とアナキンはというと……

 

 

「すまないな。シアは剣やフォースの筋は良いが、些か問題点がある」

 

「そう言う意味では、あのアソーカもそうだ。元気溌剌なのは良いが、無鉄砲過ぎる。とてもオビ=ワンのパダワンは務まらない。だが、僕なら別かもしれない」

 

「それぞれ良い点、反省点をどの様に活かすのかは、その弟子を持つ師の教え次第だろうな。人は誰だって間違えることはある。それを補う為にお互いに支えあう事こそが師弟の一つの在り方なんだろうな」

 

 

そうして雷電とアナキンは、アソーカとシアを慰めつつも迎えに来たガンシップに乗り込んでオビ=ワンたちがいる陣地に帰還するのだった。

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

オビ=ワンたちの陣地に帰還した雷電たち。ガンシップが着陸した場所にはハジメ達やキンケドゥ達がいた。更にはオビ=ワンと援軍としてきたグランド・マスターのヨーダもここにいた。アナキンやアソーカ、雷電はヨーダに敬意を表してお辞儀する。シアにとってヨーダは初対面でもあり、誰なのか分からなかった。この時に雷電はシアにヨーダはジェダイ達の中でフォーム4のアタルを極め、最も知恵のある長老に与えられる称号“グランド・マスター”を有するジェダイ・マスターであると説明し、シアは改めてヨーダにお辞儀して挨拶をするのだった。

 

 

「ふむ……新しいパダワンにてこずっておるのか?」

 

「状況は私からマスター・ヨーダに説明しておいた」

 

「…ですか」

 

 

どうやらオビ=ワンがヨーダにアナキンが弟子を持つ余裕がないことを告げたようだ。

 

 

「パダワンを持つ余裕がないなら、この子はオビ=ワンに預けて……」

 

「いえ、待ってください。アソーカが多分に荒削りなのは認めます。しかし十分に実戦を積み、忍耐を学べば、必ずものになります」

 

 

アナキンの言葉にアソーカは嬉しそうな表情を見せる。

 

 

「では連れて行くがよい。テスの惑星系に」

 

「テス?あそこはドロイド軍が避けて通る辺境です」

 

「ジャバ・ザ・ハットの息子が攫われた」

 

 

どうやらヨーダから話された内容はタトゥイーンの犯罪王ジャバの息子が誘拐されたとのことだ。アナキンはあまり乗り気ではなかった。しかし、この戦争でドロイド軍に主要なハイパースペース航路を奪われているため、一つでも多く航路を確保する必要があるためやむを得ないことだった。

 

 

「それとキンケドゥ、お主たちにジャバから息子を攫った海賊ではないかと疑っておる」

 

「マジか……ジャバとは縁がないのだが、冤罪を掛けれたらこっちが面倒だな。分かった、こっちもアナキンたちと共にテスに向かう。冤罪を晴らすためにもジャバの息子を探さないとな」

 

「うむ……ところで、そこの者達はオビ=ワンから聞いた。異界から来た放浪者とな?」

 

「はい、マスター・ヨーダ……」

 

 

ヨーダと目が合った雷電は複雑な気持ちであった。別世界のマスター・ヨーダとはいえ、雷電は嘗て前世のライ=スパークとして歩んだ人生にて一度ジェダイの道を踏み外してしまったことを未だに後悔を残している。ヨーダは雷電のフォースを読み取り、雷電の中に潜む暗黒面を感じ取っていた。

 

 

「……どうやらお主には過去を通して暗黒面に一度取りつかれているようじゃな?」

 

「はい、マスター・ヨーダ。自分の過去は、この世界にとって分岐が大きく変わってしまうが故にあまり話せませんが、とある一人の男の裏切りによって自分は暗黒面に堕ちたことがあります……」

 

「裏切りによる恐怖か……恐怖は暗黒面へつながっておる。恐怖は怒り、怒りは憎しみ、憎しみは…苦痛につながる。それがお主を暗黒面へと駆り出させた」

 

「一人の男の裏切りにより、自分はその男に殺されることに恐れ、そして死に際に恐怖は怒りに変わり、そして自分は暗黒面に堕ちた。そして死してこの世を去った時の自分は……いや、俺にあったのは後悔と現実逃避だった」

 

 

雷電はライ=スパークだった前世の自身が体験した人生をトラウマの様に感じていた。未だに暗黒面から抜けられずにいるが、怒りや憎しみに囚われないでいるのはジェダイであろうとする心と雷電の仲間たちによって支えられていることが大きな要因だろう。

 

 

「…すみません、マスター・ヨーダ。これ以上、自分の過去を語るのにはあまり……」

 

「よい。お主にも言いたくないことはあるだろうに、無理に話させてすまぬ」

 

「いえ、まだ過去を完全に振り切ってはいませんが、いずれ己の過去と向き合う時が来たら、その時は決着をつけます」

 

 

そうヨーダに告げる雷電。その際にキンケドゥは雷電を呼んでいた。どうやら雷電がヨーダと話している内にハジメたちはシャトルに乗り込んだようだった。雷電はヨーダにお辞儀をした後にその場を後にするのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちを共和国軍から借りたニュー級アタック・シャトルに乗せ、そのままキンケドゥたちの母艦であるマザー・バンガードに着艦する。この時のハジメは生きている内にガンダム世界の母艦に乗れるとは思いもしなかったようだ。マザー・バンガード内にはキンケドゥやトビア以外にもF90やF90Ⅱ、F91に三機のフリントがいた。その六機は人格データがあり、そのまんま機動戦士クロスボーン・ガンダムに出てくる登場人物の人格そのものだった。但し、シュンとナナは別作品のガンダムからなのでクロスボーン作品とは無関係である。だが、それでもハジメにとって生のガンダムを見られたことには感動を隠せないでいた。

 

 

 

キンケドゥ達以外にもマザー・バンガードの搭乗員として働いているヘビーガンやGキャノンなどがいた。雷電も前世の頃にこの様なドロイドは存在しなかった。この世界は雷電の知る世界とはかけ離れた世界と改めて認識するのだった。そう考えている最中、キンケドゥは雷電たちにあることを告げる。

 

 

「さて……保護されているところですまない。俺たちは今からテスに向かう」

 

「テスか……テスと言えばアナキンが言ったようにドロイド軍が避けて通る辺境の星系だったよな?」

 

「あぁ。何故テスに向かうのかというと、犯罪王ジャバ・ザ・ハットの息子が誘拐されたとのことだ。その誘拐に俺たちが関与しているんじゃないかとジャバは疑っている。恐らく、ドゥークーが仕向けた嫌がらせかもしれない。だから、俺たちは掛けられた冤罪を晴らす為にジャバの息子を助けに行く」

 

 

まさかのジャバの息子捜索に向かうことになったことに勇者組は戸惑っていた。ハジメ達はまた面倒ごとに巻き込まれたなと思うしかなかった。特に犯罪者の息子を助け出すことに反対したのはやはり光輝だった。

 

 

「犯罪者の息子を!?…俺は反対だ!犯罪者を助ける道理なんてないじゃないか!」

 

「道理があろうがなかろうが関係ない。あの犯罪王のことだ。犯人をひっとらえる為ならあの手この手の手段を使うつもりだ。ジャバには色んなパイプを持っている分、下手に逆らうより貸しを作っておけばこっちにも得がある」

 

「だからって……」

 

「お前がどう考えているのかは俺には分からない。ただ、この世界はお前の知る常識が全く通用しない世界なんだ。その事だけは理解しておくようにな?」

 

 

光輝の口論を区切り、キンケドゥはマザー・バンガードの舵をテスに向け、ハイパースペースでジャンプするのだった。そのテスでは、本来存在しない筈の新型ドロイドが待ち構えていることを今の雷電達やキンケドゥ達は気づくこともなかった。

 

 






マザー・バンガードがテスへとジャンプしている間、ハジメはクリストフシスで戦ったドロイドの残骸を使って何かを作ろうとしていた。それを見かけたキンケドゥはハジメに何をするのか聞きだした。


「ハジメ、いったい何をしているんだ?」

「あぁ、キンケドゥか。ちょっとバトル・ドロイド(こいつら)を使って俺独自のドロイドを作ろうと思ってな」

「ドロイドを?なんでまた急なんだ?」

「何でってそりゃ……男はロボット好きなのは変わりないだろう?」


キンケドゥはそういうものか?と少し納得したのかどうかは分からないが、少なくとも共感は出来たようだった。しかし、初めてのドロイド開発にハジメはクリストフシスで集めたバトル・ドロイドの残骸をすべて使いきってしまい、開発は凍結し、ハジメは雷電に扱かれていた。雷電曰く、この世界に余計なものを作るんじゃないとのことだ。この時の雷電の顔は鬼ような形相をしており、流石のキンケドゥも雷電を怒らせないようにしようと思ったのは余談だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

派手な歓迎、命がけの山登り

GW中に仕上げるつもりが結構掛かってしまった……


85話目です。


 

 

ハイパースペースで超長距離移動をしているマザー・バンガード内で雷電はハジメにキンケドゥの存在について話し合っていた。

 

 

「なあ、ハジメ。お前も気づいているかもしれないが、あのキンケドゥというドロイド?というよりガンダム?なんだが、この世界のドロイドとして存在しているのは理解しているのだが……」

 

「アレだろ?あのキンケドゥがお前と同じ()()()っていう可能性の話だろ」

 

 

雷電は薄々キンケドゥが自分と同じ転生者ではないかと気づいていた。それはハジメも同じく気づいていた。一体どのような形で死に、この世界に転生したのだろう?それが雷電にとって大きな謎だった。

 

 

「俺自身、なんでこの世界だけガンダムが存在するのか訳が分からなかったが……まぁ、それがこの世界の特徴だって言うんならこっちとしては役得だけどな」

 

「……それでいいのか?ハジメ……?」

 

 

なんだかんだで少しだけ納得が付かない雷電だったが、これ以上の詮索は無粋であることは明白であるためにこれ以上のことは考えるのを止めるのだった。そうしている間にもテス星系に到着するまで時間がかかるため、残った時間をシアとの訓練に回すのだった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

マザー・バンガードの格納庫内で雷電とシアが格納庫の平地場所で互いにセーバーを前に構えて訓練を始めた。その光景をハジメ達は離れた場所で錬成で作った即席ベンチに座って見学していた。(なお艦内での錬成を既に許可をもらっている。)同じく勇者一行も雷電の修行の様子を遠くから見ていた。

 

 

「剣を構えろ!下げるじゃない、上に構えるだ!」

 

「はい!マスター!」

 

 

今、雷電とシアがしてる修行はライトセーバーを使った対人と多数対一の敵に有効な訓練をしていた。雷電の指摘が厳しく響きそれにシアも負けない様に強く答えた。

 

 

「ホロクロンの記録にあったスカイウォーカーの型を参考に防御しろ。良いか?」

 

「はいマスター!いつでも!」

 

「では行くぞ!1、2、3、4、5、6、7、8、9!!」

 

 

雷電の掛け声と同時にシアに対して猛攻を仕掛ける。シアは雷電の言われた通りにアナキンの使用しているシエンの派生の型“ドジェム・ソ”を参考にしながら防御するが……あまりにも激しい攻撃を仕掛ける雷電の猛攻に弾かれて尻もちをついてしまう。

 

 

「うっ!……きゃあ!!」

 

「どうしたシア!もう終わりか!?」

 

「平気です!どんど行きましょう!!」

 

 

2人の剣戟は激しく例え倒れても雷電は手を抜く事なく続け、シアもそんな雷電の指導に必死に喰らい付いた。

 

 

「……シア、凄いねハジメ」

 

「あぁ…雷電の訓練は厳しいのは身をもって知ってるがあそこまで激しいのは俺も知らない」

 

「ジェダイの修行ってこれが普通じゃないの?」

 

「雷電くんが言うにはジェダイの修行は厳しいと良く言われてるけど、それを抜きにしてもこれは激しい過ぎるよ」

 

 

ハジメ達はベンチで座りながら思い思いの感想を言いながら雷電達の修行の感想を言い合った。

 

 

「確かに雷電はともかくシアは普通のジェダイが本来ならあそこまでに出来る様になるまで少なくとも数年は掛かる。…だがシアの場合はステータスの恩恵もあって本来年単位で身につく実力が僅か数ヶ月得る事が出来たんだろ」

 

「それじゃあ、近いうちにシアさんも騎士の称号を貰えるんだね」

 

「それは分からない…全ては雷電の判断次第だ」

 

 

ハジメと香織は2人の修行を見ながらシアが近いうちにジェダイの騎士になるのではとそんな会話をしていた。

 

 

「足も使って注意を払へもう一度だ!」

 

「はい!マスター!」

 

 

そして遠くから見ていた光輝たちも雷電の修行にどう言葉にしていいのか分からなかった。

 

 

「まさか……ここまで厳しくするなんて……」

 

「あいつ、あんなに厳しくして体が先にぶっ壊れないか?」

 

「鈴、ライライの修行初めて見たけど、あれは異常すぎるよ……」

 

「私も剣術を極めていたつもりだったんだけど、藤原君が強い理由がジェダイだからということも納得かな…?」

 

 

四者それぞれの感想を述べる中、光輝は雷電たちの激しい剣戟を見て己の心の中にある憎悪と嫌悪、嫉妬が少しずつだが増しつつあった。未だに覚悟の示しのことで言われたことを気にしながらも雷電の修行を見て、だんだんと自分と雷電の差が遠ざかっていくことに焦りが生じていた。自分の居場所がだんだんとハジメや雷電に奪われるんじゃないかという欺瞞が膨れ上がってくる。しかし、ここでご都合解釈が働いて雷電に対する欺瞞を一時的に消していた。しかし、それは何時まで持つのかは分からない。そんな時限爆弾を抱えながらも雷電達の修行を見ているのだった。

 

 

光輝Side out

 

 

 

テス星系に到着したキンケドゥたち。アナキンたちが乗っているアクラメイター級のアナキンの話によるとジャバの息子を誘拐した誘拐犯はとある要塞化された修道院に集まっており、敵の数はドロイドを中心の二個大隊が修道院で何かを厳重に守っているようだ。キンケドゥはジャバの性格を考えてのことか速攻でジャバの息子を探す必要があるとのことだ。

 

 

「俺たちはこのシャトルでジャバの息子がいるであろう要塞化された修道院に向かう」

 

「その修道院なんだが、要塞化されているという事は対空砲の存在に注意する必要がある。敵とて俺たちが空からくることを見越している筈だ」

 

「そうだな。それはそうと、お前たちはどうする?この船に残るのならそれで構わない。無理に参加させるつもりはないしな」

 

 

キンケドゥは雷電たちにジャバの息子の捜索の手伝いをするかと聞き出した。その時にハジメが雷電の代わりに答えた。

 

 

「俺は参加するぞ」

 

「…意外だな?なにか理由はあるか?」

 

「別に。どの道、面倒ごとに巻き込まれたんだ。関わった以上、最後まで付き合うさ」

 

「ん…私もハジメと同じ……」

 

「俺とシアも参加する。この事件、裏方の黒幕が何かしらの方法で手引きしている筈だ。今回の事件の解決は俺とシア、ハジメとユエで対処する。香織と恵理、勇者一行は後方支援としてこっちの世界のクローン達の治療を任せたい」

 

「うん、任せて」

 

「分かったわ」

 

 

雷電の指示で最前線にはハジメとユエ、雷電とシアの二組が行き、残りは戦闘で負傷したクローン達の治療に回される。この時に光輝が何か言ってくるかと警戒していたが何も言ってこなかった。その沈黙はなにかしらの前兆だと思いたくはないが警戒しておくことにした。キンケドゥ達がアナキンたちに借りたニュー級アタック・シャトルに乗り込むのだった。因みに運転は雷電が務め、キンケドゥ達は後方支援の香織たちを搬送する為に先陣を雷電達に任せるのだった。

 

 

 

マザーバンガードからシャトルが発進し、アナキンたちのガンシップ編隊と合流する。目標地点に向かっていると、修道院から激しい弾幕が待っていた。

 

 

「ぐっ…思ってた以上に弾幕が厚い!火線の下に潜るぞ!降下準備をしろ!」

 

「ここまで熱烈な歓迎となると、例のジャバの息子がいる可能性が大だな」

 

 

アナキンたちのガンシップと同様に火線の下に潜り、地面に着陸すると同時にハッチを開き、ハジメ達は出撃した。そして雷電もシャトルから降りてハジメ達と合流し、アナキンたちと共に崖下まで進軍する。AT-TEとクローン達も弾幕を張りつつ進軍することで何とか崖下まで到達することに成功する。その時に一体のエレクトロバイノキュラーを持ったバトル・ドロイドが落っこちてきた。どうやら不運にも足を滑らして落ちてしまったのだろう。

 

 

「さあ、お楽しみはこれからだよ?」

 

「競争と行くか?」

 

「先に行って良いよ?」

 

「後悔するぞ!」

 

「アセンション・ケーブル、用意!」

 

 

アナキンたちジェダイは崖下にあった蔓に掴み、それを辿って上る。クローン達もアセンション・ケーブルを使って登り始め、AT-TEも崖を登る。そしてハジメたちは……

 

 

「ユエ、このまま登り詰める。しっかり掴まってろ」

 

「ん…。援護は任せて」

 

「シア、お前はあそこのAT-TEを護衛してくれ。連中は先ず先にウォーカーを狙うはずだ」

 

「ハイです!任せてください!」

 

 

それぞれ役割を決め、ユエはクレセントを取り出してハジメの背にしがみつく。シアはアセンション・ケーブルでAT-TEに打ち込み、そのままAT-TEの正面コックピットまで登りライトセーバーで敵の光弾を防ぐことに徹するのだった。そしてハジメと雷電は技能の天歩の派生技能“空力”で空中を蹴りながらも崖を登っていく。雷電は空中を蹴りながらもライトセーバーで敵ドロイドを切り裂き、ハジメはユエを抱えながらもドンナーとシュラークでドロイドを撃ち抜き、ユエはクレセントでハジメが撃ち漏らした敵を迎撃する。

 

 

「嘘でしょ……空中を蹴って登っている……」

 

「もう驚かないつもりだったんだが、これは想定外だ……」

 

「もう我々は彼らの常識外れな能力について考えるのを止めました」

 

 

アソーカやアナキン、レックスもハジメたちの規格外な行動に何とも言えなかった。最もまともだったのがシアくらいだった。そう思われたのだが、ここでまた予想外なことが起きる。シングル・トルーパー・エアリアル・プラットフォームことSTAPに乗ったバトル・ドロイド三体がシアが守っているAT-TEに攻撃を仕掛けようとしたが、それよりも早くシアが近くのバトル・ドロイドをフォースでSTAPから引き離すように引き寄せる。そして宝物庫からドリュッケンを取り出し、戦槌モードで引き寄せたドロイドに叩き込み、そのまま他のドロイドの方にぶっ飛ばすのだった。

 

 

「うぅっりゃああぁぁーー!!」

 

『アァァーレェェー!?』

 

 

ぶっ飛ばされたドロイドは悲鳴を上げながら崖に張り付いていたドワーフ・スパイダー・ドロイドに直撃し、その衝撃で崖に固定していた足が離れてしまい、そのまま落下してしまう。それを見たシアはフォースで落下コースを変えて自分に振ってくるように修正、そのままドリュッケンでドワーフ・スパイダー・ドロイドを修道院の方にぶっ飛ばす。まるでパチンコ玉のように弾かれたドワーフ・スパイダー・ドロイドは修道院から攻撃していたスーパー・バトル・ドロイドに直撃し、そのまま機能停止する。一番まともそうかもしれない人が、実は雷電たちと同じ規格外な人物であると改めて再認識するのだった。

 

 

 

一方の雷電とハジメ達は技能を駆使し、丁度STAPに乗るバトル・ドロイドの第二派がやって来たのを確認し、雷電たちはドロイドを蹴落として強奪。アナキンもドロイドからSTAPを奪い取り雷電たちと共に修道院に向かい、アソーカに“早くついてこい”と告げ、レックスに続くように指示をだす。その時にレックスは“…んな無茶な”とぼやいたとかなんとか。そうして雷電達はアソーカ立ちより先に修道院にたどり着く。そこで待ち構えていたドロイドたちが雷電達を包囲する。

 

 

『降伏しろ、ジェダイども』

 

 

そう言ってブラスターを雷電達に向けるバトル・ドロイドたち。しかし雷電とアナキンのライトセーバー、ハジメたちの銃によって一掃され、スクラップと化す。現在修道院にいるドロイドを全部片づけたと判断した雷電達は少しだけ一息つくのだった。

 

 

「まさかあそこまで熱烈な歓迎とは思いもしなかったな。ハジメ、残弾はまだ残っているか?」

 

「問題ない、まだ腐るほど残っている。ユエ、そっちはどうだ」

 

「残弾はまだ残っている。こっちも大丈夫…」

 

 

それぞれ戦闘継続可能かどうかを確認していると、修道院から何かが転がってくる音が聞こえた。その方角に目を向けると、デストロイヤー・ドロイド三体が転がって来て、雷電たちの前に立ちはだかったのだ。

 

「アソーカの馬鹿が…離れるなと言っておいたのに……!」

 

「敵はこれだけか?もっといると警戒していたが……」

 

「逆に多すぎてもこっちが困るだけだろ普通?……けどまぁ、どうやら連中も間に合ったようだな」

 

「ん…、いいタイミング」

 

 

そして雷電達の後方から砲撃が放たれ、その砲撃はデストロイヤー・ドロイドに直撃し、三体破壊するのだった。砲撃した方向に目を向けるとアソーカがいて、シアが手を振っていた。そしてレックスたちも無事に登り切ったのだった。

 

 

「これなら文句ないよね?スカピョン!」

 

「…まぁそのうち来るとは、思ってた」

 

「アンタを守ると約束したでしょ!」

 

「マスター!お待たせましたですぅ!」

 

「本当に良いタイミングだ」

 

 

その後に登り切ったクローン達が敵残存兵力がいないか確認をし、修道院を制圧するのだった。制圧を確認した後にシャトルが修道院に着陸し、キンケドゥ達と後方支援部隊の香織たちと勇者一行が降りて、負傷したクローン達の治療を行うのだった。

 

 

 

その修道院の上階でアナキンたちを見張っている者達がいた。一人はドロイドで、もう一人は黒いフードをかぶった女性だった。

 

 

「ドロイドはその役を果たした。次はお前の番だ……」

 

 

女性はドロイドに告げた後に闇に紛れて姿を隠し、次の行動に備える。そしてドロイドは女性に言われた通り自分の役割を行動するのだった。

 

 

 

アナキンは倒したドロイドたちの数に違和感を感じていた。それはキンケドゥも同じだ。

 

 

「海賊にしては兵隊が多すぎる。背後にドゥークーの匂いがする」

 

「俺も今回の事件にドゥークーが関わっている筈だ。早くジャバの息子さんを見つけるとしよう」

 

「あぁ、キンケドゥの言う通り早くジャバの息子を探そう」

 

「ちょろいって、後は楽ちんよ!」

 

「そのちょろいは止めろ」

 

 

そうしてアナキンたちは修道院内に足を入れる。雷電達もアナキンたちに続くように修道院に入るのだった。修道院の中は明かりが灯されていない為か暗く、クローン達はヘッドライトを灯して進む。雷電達も警戒しながらも進むのだった。

 

 

「どうも気に食わん。気味の悪いところだな」

 

「あぁ、この暗さだからな。不意打ちをしてくる可能性すら捨てきれないな」

 

「ここってボマール山の修道院にそっくり……ジェダイ寺院で習った教科書に載ってた」

 

「密輸業者がここを乗っ取り、自分たちの拠点に改造したんだ」

 

「お坊さんは黙っていたの?」

 

「相手は密輸業者だぞ、逆らえば殺される「アナキン、前方に何かいる」……!」

 

 

キンケドゥの言葉にアナキンはライトセーバーを構える。すると雷電達の前に一体のプロトコル・ドロイドが現れた。

 

 

「…プロトコル・ドロイドか」

 

「あぁ…良い奴?それとも悪い奴?」

 

「何者だ!」

 

 

警戒するアナキン達にプロトコル・ドロイドが己の正体を明かす。

 

 

「あぁ…ただの管理人でございます。バトル・ボットどもに脅されておりました。おかげで救われました」

 

 

この修道院の管理人と名乗るプロトコル・ドロイド。アナキンや雷電、キンケドゥ達はこのドロイドは胡散臭いと感じていた。アナキンは修道院の管理人にジャバの息子が何処にいるか問いただす。

 

 

「ハットは何処にいる?」

 

「あいつらは囚人を地下牢に閉じ込めました。地下は危険です、どうかくれぐれもご用心を……」

 

 

すると管理人はアソーカとシアを見て召使いと勘違いした。

 

 

「そこの召使いたちは置いていかれては……!?」

 

 

その時に管理人は雷電から何かしらの危険信号を検知した。雷電から発する何かをアナキンたちは感じ取っていた。ハジメ達にいたってはもう見慣れた光景だったので内心管理人に合唱をするのだった。

 

 

「すまないが、彼女たちは召使いではないんだ。彼女らはジェダイ見習いなんだ。そこは間違えないでほしい」

 

「そ…それは、ご無礼をいたしました」

 

 

そう笑顔で雷電は答えるが、内心怒りが渦巻いていることを機械である管理人は察することが出来た。そしてこのジェダイだけは怒らせてはならないと警戒するのだった。

 

 

「ハットを探してくる。君らはここで見張りを頼む」

 

「お任せを、将軍」

 

「トビア、お前は彼女たちの護衛に回ってくれ」

 

「分かりました」

 

「よし、後方支援部隊はクローン達と共にここを見張っててくれ。恵理、万が一の場合があったらすぐに知らせてくれ」

 

「うん、分かったわ」

 

 

そうしてジャバの息子を探す側とゲートを見張る側の二手に別れ、行動するのだった。その修道院の地下牢にて、存在する筈のないある物が眠っていることを今の雷電達が知る由もなかった。

 

 

雷電Side out

 

 

 

雷電たちが修道院の地下牢に向かうその頃……地下牢のある一室ではバトル・ドロイドとは思えない外見をした数十機ドロイドが存在していた。その異常な数のドロイドたちの共通しているところは左右可動式のモノアイ・カメラを搭載しており、袖にエングレービングが描かれていることだった。

 

 

 

すると一体が近づいてくるであろう雷電達を感知したのかモノアイが点灯して起動した。それにつられて一体、また一体とネズミ算式に次々と起動する。まるでここに漂う怨念が我が怨敵がこの修道院に来て目覚めたかのようにだ。

 

 

『…オ……ジオ………万…………』

 

『……ダム………我……ジ………怨敵………!』

 

『…せよ……壊せよ、破壊せよ。ガンダムを破壊せよ』

 

 

そのドロイドたちはガンダムを口にしながらも武器を手に取り、キンケドゥ達を待ち構えるのだった。

 

 

???Side out

 

 

 

地下牢を探索し、ジャバの息子を探す雷電たち。奥に進めば進むほどあちらこちらに隠れているバトル・ドロイドが通り過ぎる雷電たちの後を追うように静かに後を追う。これを雷電たちやアナキンたちも気づいていた。

 

 

「マスター、これって罠だよ。気づいている?」

 

「勿論」

 

「アナキン、お前ワザと敵を誘き出しているのか?」

 

「マスター、またドロイドが出てきました」

 

 

雷電たちの背後を狙うドロイドたちが部屋から出てブラスターをいつでも撃てるように構えてついてくる。

 

 

「全部で四体。何でほっとくの?やっちゃってもいい?」

 

「…そうだな。そんなに汗をかきたければ、好きにしろ」

 

「やれやれ、何気に弟子に意地悪だなアナキン?」

 

「シア、敵は四体だがアソーカと共にやれるか?」

 

「もちろんです」

 

 

シアの了承を合図にシアとアソーカがライトセーバーを展開し、後方からついてくるバトル・ドロイドを二体ずつ破壊する。この時にアソーカがドロイドの持つ武器を破壊してからドロイドを破壊し、シアは武器を持つドロイドの腕を切り裂いてからフォースで吹き飛ばす。

 

 

「悪くない、ちゃんと先に武器をやったな」

 

「シアもいい判断だ。対人戦でもそれを生かせれば手数が増える」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

「当然よ、シアと一緒なら誰かさんより上かもよ?」

 

 

アソーカが調子に乗っているときにアナキンと雷電が、それぞれ部屋に隠れていたドロイドを破壊する。

 

 

「どうかな?見落としだぞ」

 

「アソーカ、調子に乗りすぎると思わぬところで足下をすくわれるぞ。それとシア、お前も見落としがないように気を付けろ」

 

「はいですっ!」

 

「マスターたちに残しておいたの」

 

 

ドロイドを蹴散らしてから先に進むと、地下牢のある一室から悪臭がした。アナキンと雷電曰く、ハット特有の体臭だそうだ。

 

 

「攫われたハットは、この中だ」

 

「当たりのようだな。この悪臭、間違いなくハットの物だ」

 

「うぅ……分かる。匂うもん」

 

「うぅ……私、この匂い苦手ですぅ……」

 

「ん……私もシアに同意。これはキツイ……」

 

「臭っせぇ匂いだな……ハットの匂いってここまでひどいのか?」

 

 

ハジメ達もこの匂いにはたまらないものだった。アナキンはフォースで扉を開けて中を確認すると、そこにはジャバの息子と思われる小さな赤ん坊だった。これにアナキンは想定していたものと違っていて少し驚いていた。

 

 

「思っていたよりずっと小さいな?」

 

「うわぁ~…まだ赤ん坊じゃない!これなら仕事もうんと楽になる。なんて可愛いんだろ?」

 

(((可愛い……?)))

 

「こいつが大人になった姿を見てから言え」

 

「…とにかく、重要人物は無事に確保した。後は撤収するだけだな」

 

「そうだな。……それはそうとアソーカ、仕事が楽になると言っていたが、どうやらそうはいかないようだぞ」

 

 

そうしてジャバの息子を地下牢から連れ出そうとした際にキンケドゥが敵を感じ取ったのかバスターガンを敵がいる方向に向ける。雷電たちもそれぞれ武器を手にし構えて、敵を待ち構える。すると敵がその姿を現した。だが、その敵はキンケドゥやハジメにとってこの世界に存在しない筈の機体だった。

 

 

「まさか……この世界で本来存在しない筈の連中が使っている機体が、ドロイドとして存在しているなんてな……!」

 

「嘘だろ……!?なんでよりによってこの世界にキンケドゥたち以外のMSがあるんだ!?」

 

 

キンケドゥたちの前に現れたのはネオ・ジオン残党こと通称“袖付き”が使用するモビルスーツである“AMS-129 ギラ・ズール”が数十機、彼らの前に立ちはだかったのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。