悪堕ちTS狂信者主人公 (猫毛布)
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悪堕ちTS狂信者主人公
世界は汚れていた。
生まれ落ちた僕はゴミ溜めへと放り投げられた。僕を拾った男は一人の好事家であったし、悪く言えば変態でもあった。果たして自身に何をされたかなどあまり覚えていない。身体に刻みついた傷痕だけは全てを語る事ができる。
好事家には妻が居た。彼女もまた嗜虐家であった。度を越した、と冠を被った嗜虐家である。
人の命など何も思っていない。道具を愛する心も持っていない。
僕の人生という物はその程度の経歴でしかない。得た物は楽しませる為の教育と痛みを快楽にするという逃避行為と耐えられる身体。失ったのは片腕と両目、声、そして人生だ。
「なるほど、貴方の人生ってとっても面白いわ」
その声は僕の人生を面白いと言ってのけた。好事家でも嗜虐家でもない楽器の如く美しい声であった。視界を失ってから鋭敏になった耳が足音を捉える事はなかった。
突如として現れた声は足音すらさせず、それでいて恐らく金属製の檻を容易く通り抜けてこの場に在った。
「何が面白いって顔をしているわね。そんな汚い世界でも生きようと足掻いている君を面白いと思わずにどう思えというかしら」
生きてはいたい。それは好事家達を悦ばせる為の意思ではない。
生きてみたい。それは嗜虐家達を楽しませる意思ではない。
生きたい。それは元来に備わった僕の意思である。
けれどもそれは叶わないだろう。こうして檻の中には僕と、そして恐らく神の使いがいるのだ。衰弱して、既に好事家達にゴミとして処理されている僕を迎えに来たのだろう?
「ハッハハハハハハ!! 神の使いでは無いわ。ましてや死神だなんて高尚な物でもない。ワタシは君たちの言う所の悪魔かしら? 神とは真逆の立ち位置ね」
これでも昔は神様だった、と嘯いた悪魔は吐息が当たる程に顔を寄せてくる。
悪魔というのならば、取引をしに来たのだろうか。僕の魂を得る代わりに、何かを成してくれるのだろうか。
「いいえ、貴方の魂は好きだけれど、それはもう少し後でいいわ。何よりワタシも死活問題だし。貴方には生きていてほしいわね」
生きる?
「そう。ワタシの信徒になればいい。ワタシを信じ、貴方の思うがまま生きればいい。ワタシを信じる限り、君に力と生を与えましょう。悪魔のようでしょう?」
……もしも生きれるというのなら、僕はアナタを信じよう。
「いいえ、ワタシは悪魔じゃない……今は悪魔ですけど、貴方がいれば神にだってなってあげる。
うん。だから貴方の信仰は後払いでいい。
さぁ、一緒に世界を壊しましょう」
目が覚めたのはいつもの檻の中であった。
夢の中で何かが語りかけ、そして契約をしたような気がする。瞼を閉じて、
片腕で身体を起こし、冷たい空気を吸い込んで、瞼を上げる。目の前には鉄の檻。そして檻の内側には巨大な斧が突き刺さっていた。暗闇すら容易く見える瞳に映る、持つことすら困難と思える戦斧。
「あぁ……神様……」
感嘆と震える声が檻の中に響き、僕はその手を戦斧へと伸ばす。
冷たい感触。手に持った部分から熱が奪われ、重い筈の戦斧は容易く持ち上がった。鋭い刃は檻を簡単に両断してみせた。ガランと音を鳴らして落ちる鉄棒が現実を僕に
裸足のまま、石畳を歩く。高揚して逸る気持ちを抑える。何も問題はない。だって神様が見てくれているのだから。
「おい、何のお、」
「あは、ハハハ」
突然出てきた兵士を鎧ごと両断する。鉄棒よりも容易く切れた身体から赤い液体と臓物が撒き散らされ、石畳を汚していく。ああ、コレが赤なのだ。
兵士が持っていて、今は床に転げ落ちた蝋燭の灯りがぼんやりと世界を照らす。遠くから聞こえる沢山の足音。金属の擦れる音からすれば、同じ兵士なのだろう。
きっと、同じ兵士になるのだ。
月明かりに照らされた液体と肉片で出来た赤い絨毯を歩く。
コチラに迫ってくる兵士達は即座に切り捨てて肉塊にしていく。邪魔なのだ。全て、全て全て全て。僕のする事には邪魔でしかない。
「なんだこの女! どこから現れた!」
「わかりません! 急いでお逃げ、」
「待ってくれるかな?」
戦斧を投げつけて好事家を縫い止める。途中にいた兵士が両断されて千切れたけど、別に気にしない。
久しく視界にいれる事の出来た好事家は少しだけ年老いただろうか。
「お前、まさかクリスタルか!?」
「そうだよ。ああ、見た目が代わってるのによく気付いたね」
育ての親、というだけの事はあるのか。それとも僕の刻みつけられた傷に覚えがあったのか。どちらにせよ、性別も変化してしまった僕の姿を見て気付けるのは素直に凄いと感じる。それも戦斧が服に突き刺さって動けないというのに。
「なぜ、いや。待て! お前、私が拾った恩を忘れた訳じゃないだろうな!」
「覚えてるよ。だからこうして感謝しに来たんだけど……」
耳障りな声をなるべく思考の端へと追いやって、両手を組んで神様へと祈る。
こうして愛を与える事ができる希望をくださった事に。そして、この世界を浄化させてくれる責務を与えてくださった事に。
「上手く出来てるかな? 神様に祈るのなんて初めてだったけれど」
「ああ! ああ! 上手かった! だから私を放してくれ!」
「どうして? 僕はアナタに感謝をしてるんだよ? 愛を返そうとしてるんだよ」
どうしてこんなに喚き散らしているんだろうか。さて、僕が鳴いた時はどうしてたんだっけ。これは愛だから、きっと神様もそう願っている筈だ。
まずは、そう、腹を捌こう。その後は顔面を叩きつけるんだっけか? 覚えてないけれど、一通りすればきっと僕の愛が伝わる筈だ。
【一夜にして一国は炎に包まれた。
そこから逃げてきた者が言うには一人の悪魔がいたらしい。その悪魔は身の丈よりも巨大な戦斧を振り、人間を容易く葬むった。
我が国の王族は国境の警備を――】
「怖い世の中だなぁ」
「シスターさんも気をつけなよ」
「大丈夫さ。僕は神様を信じてるから。きっと貴方も信じれば救われるよ」
どうだか、と言って立ち去った男の人を見送る。
やはり神様を信仰するのならこういう格好の方がいいだろう。戦斧は使わない間は失っていた片腕に成るようだし。これも神様を信じているからだろう。
「さて、世界を
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