ガンヴォルト 現地オリ主原作開始前スタート (琉土)
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施設編
第一話 青き交流(リトルパルサー)の産声






《【フェムト】さん! 発進準備、出来てますか?》


 通信経由で私の名前が今いるコックピットの中に響き渡る。 

 私の名前はフェムト。

 とある事情で皇神グループに所属している電流を操る能力者。

 今は新型戦車の試運転を行おうとOS起動等の準備に追われていた。

 この戦車は私専用の物で、私の足りない能力を補う為に創られた専用の有人戦車。

 この話を開発部署に持ち掛けて提案した際「昔とは違い、AI制御の無人戦車が主流な今の世の中では、珍しい試みだ」と言う理由で、この戦車は生まれる事となった。


「もう少し待ってください! ()()()()()()が残ってますので!」

《了解です! 上手く完全起動させてくださいよ! そうじゃなきゃ俺達の苦労が台無しになってしまいますからね!》

 管制官と通信による連絡をしつつ、全システムがオールグリーンである事を確認した私はこの戦車を能力の支配下に置くと言う最後の工程に取り掛かり、能力を用いて……いや、()()()()()()()()それを実行する。

 この戦車に流れる電流を経由し、動力源を始めとした戦車を構成する全てを掌握していく。

 優しく繊細に、そして全てを包み込む様に。

 そして無事に私の自慢の能力(相棒)が、全て掌握したと言葉なき声でそれを私に伝えてくれた。


「能力による掌握、完了しました。これより、本格的な試験運用に入ります!」

《了解です。では、今から指定した動きをお願いします》


 私はこの戦車を能力を用いて操縦する。

 その動きは私と管制官の考えうる想定通りの予定調和な動きであった。

 そして次に、私の能力を用いて動力源の出力を引き上げ更なる機動を試みる。

 その動きは私も含め、この場に居る全ての人達も驚くくらい凄まじい物であった。

 少なくとも現時点の主力無人戦車【マンティス】では到底出来ない動きだ。

 その後も順調に試運転は進んで終わりに差し掛かろうとした時、()()()()から連絡が入った。

 私と同じ施設で生まれ、私以上の能力を持った人物がテロリストとして表れたと言う連絡を。






 

 

 

 

 話はまだ私がとある研究施設に居た頃まで遡る。

 

 この施設では何やら怪しげな実験が現在進行形で行われていた。

 

 そこで私に関わる研究の担当している研究員はその研究における計画の名前を何処か忌々しそうに口から(こぼ)す。

 

 その計画の名前は【プロジェクト・ガンヴォルト】。

 

 私の前に居る研究員が言う事を要約すると人間発電機を作る計画なのだと言う。

 

 何故そんな計画が立ち上がったのかは分からない。

 

 ただ分かるのは私がこの計画の失敗作である事と、本計画の別の可能性を模索せよと言う名目で追い出された研究員が目の前に居る事だけ。

 

 彼は追い出された事を酷く悔しがっており、今もこの専用の個室に響き渡るように怒鳴り声をあげていた。

 

 

「糞! あいつらめ! 適当な理由を吹っかけて俺の事を計画から外しやがって! ふざけるな! 俺がどれだけ、この計画に力を注ぎ込んだと思ってやがる!!」

 

 

 普通ならこの怒りの矛先が私に向かうと想像するだろう。

 

 だが、この研究員は私を責める事はしなかった。

 

 元々彼は私を含めこの計画の被検体達を大切に扱おうと主張していた人物だ。

 

 既に記録が抹消されている事実なのだが、過去にとある非道な実験をその被検体に施し続けた結果、その被検体が持つ能力が暴走し、研究施設ごと消滅したと言う()()が発生していた。

 

 研究員はどういう訳かこの事実を知っていた。

 

 だから被検体達のメンタルケアは最重要であり、大切にするべきだと主張していたのだ。

 

 しかし、そんな彼に対して不満を持つ者も多かった。

 

 何故ならば、それが理由で研究が予定よりも大幅に遅れていたからだ。

 

 だからそんな事等考えず、被検体達をもっと酷使するべきだと考えていた研究員達から彼は爪弾きにされた。

 

 皮肉にも、彼が主導で行われた能力の移植実験の被検体であった私を押し付けると言う形で。

 

 そんな研究員である彼に、私は恐る恐る声をかけた。

 

 

「あ、あの……」

 

「……ああ、騒がしくしてしまって済まねぇな、フェムト。これは元々、俺があいつらと気が合わなかった事が原因だからな。お前が気にする事じゃあないさ」

 

 

 彼は私の青がかったブロンドの長髪に、指を絡めるように撫でながら答えた。

 

 フェムト。

 

 彼が付けてくれた私の名前。

 

 この名前の由来は彼は私を初めて見た時、その余りの背丈の小ささに驚いてこの名前を付けたのだと言う。

 

 小さな背丈にブロンドの長髪。

 

 私自身が言うのもアレなのだが、見事に外見だけならば幼女と称されてもおかしくは無かった。

 

 そんな私だが、ある特徴を持っている。

 

 成功例である被検体を参考にこの計画の要とも言える電子を操る能力、【蒼き雷霆(アームドブルー)】を扱う為に必要な【能力因子】。

 

 これを誰でも扱えるようにゲノム編集を行うが如く弄り回した数多くのモノの一つを移植し、奇跡の様な確率で成功した存在……それが私だった。

 

 しかし、能力因子を弄り回したのが理由なのか、能力の持続力は成功例の被検体の物と変わらなかったが、致命的に出力が足りなかった。

 

 具体的に言うと、無から雷撃を生成する量が圧倒的に足りなかったのだ。

 

 どの位その差があるのかは不明だが、圧倒的等と表現されている以上、その差は絶対と呼べるほどの物なのだろう。

 

 そんな私に対して、彼以外の研究員達が侮蔑(ぶべつ)的に私の事をこう称した。

 

 出来損ないの【リトルパルサー】と。

 

 だからこの能力移植の失敗例を理由に彼は、本研究であるプロジェクト・ガンヴォルトから外されたのだ。

 

 

「でも、私のせいで【ニコラ】は研究から外されて……」

 

 

 ニコラは私の目の前に居る研究員の名前。

 

 見た目は細身で、黒色の短髪。

 

 研究員である事から、白衣を身に纏っている。

 

 どこか大雑把な性格をしているが、私を始めとした被検体達を大切にしようと考えている所から、何所か優しい部分もあるのは間違いない。

 

 そんな彼が、私のせいでこんな事になってしまったのだ。

 

 私は、そんな彼の事を気に病んでいた。

 

 

「ふぅ……。フェムト、俺は気にするなと言ったぞ。それにな、もうここまで来ちまったら俺一人じゃどうしようもねぇ。それよりも、もっと建設的な事を考えるべきだ」

 

「建設的?」

 

「ああ、そうだ。奴らも言っていただろう? 本計画の別の可能性を模索せよってな。……なあフェムト。前まで俺も研究していた蒼き雷霆は、無限の可能性があるなんて言われてるんだ。電子を操る能力。それが理由でな。だから、俺はお前を通じてその可能性を模索しようと思っている」

 

「可能性? 失敗作って言われた私に、その様な物があるのですか?」

 

 

 私は失敗作だ。

 

 私が成功していれば、ニコラは計画から外される事は無かった。

 

 だから私に可能性があるなんて、とても思えない。

 

 そんな心の中を見透かすかのように、ニコラは私に話しかける。

 

 

「あるに決まってんだろ。あいつ(成功例の被検体)もそうだったが、お前移植実験が終わった後、()()()()()()()()()()()()んだぜ? まだ五歳にも満たないお前がだ。普通そんな幼い年で、こんな風に俺を気にして会話出来るだなんてありえないんだぞ」

 

「……」

 

 あの移植実験が終わってから、妙に頭がすっきりしていた事に私は気が付いた。

 

 これまで良く分かっていなかった言葉の内容や意味が、まるで手を取るように把握出来たのだ。

 

 これまで失敗作と呼ばれ続けていた事が理由で、私はこの事を把握出来ていなかった。

 

 

「ほら、そうやって押し黙る所とか、まんま大人だろうが。普通なら「そんな事ないもん!」だなんてダダをこねるのが子供の相場なんだぜ? それに、何であれ能力移植その物は成功したんだ。もっと胸を張れよ。元々成功率が低いあの計画の移植実験の成功例はまだ三……いや、二人しかいないんだからよ」

 

「……はい! ありがとう、ニコラ!」

 

「どういたしましてだ。……ふぅ、やっと元気になったな。じゃあ早速だが始めるぞ」

 

「え? 始めるって、何をですか?」

 

 

 私はニコラの突然の開始宣言に、オウム返しをするように尋ねる事しか出来なかった。

 

 が、この後直ぐに、彼が何を始めるのかを把握する。

 

 ニコラは研究員だ。

 

 ならば、やる事は一つしか無い。

 

 

「決まってるだろ? 研究さ!」

 

 

 そう、今はまだ被検体である私がこの世界に対して示せる可能性の研究が今、始まった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇現地オリ主であるフェムトについて
ガンヴォルトがOVAでも大人顔負けに冷静で知性的な理由の一つに蒼き雷霆の能力移植によって脳を流れる電気が活性化した事を理由にでっち上げ、それをフェムトにも適応させた結果冒頭から相応の知性を獲得させました。
名前の元ネタはナノやマイクロ等で使われる単位。
見た目は青がかった、腰の高さまで届く程の金色の長髪で、同年代と比べ身長が小さい。
性別は男。
じゃあ何故女と間違わせるような長髪設定にしたのかと言えば、オリ主は腐っても雷撃能力者である為、髪の性質もガンヴォルトと同じと設定しているからです。
後にテールプラグめいた、余剰電力の蓄積機能を持った髪留めも用意される予定です。
声のイメージは鋼の錬金術師に登場するアルフォンス・エルリック。


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第二話 青き交流(リトルパルサー)の可能性、その一端

 

 

 

 

 研究が開始してしばらくの時間が過ぎ、その間、能力を用いた際の身体検査が行われ、昨日でようやく能力を用いた五感の検査が終わった所だった。

 

 そして今日、今は身体能力その物を強化した際の計測が行われていた。

 

 

「凄い! ニコラ! 体が嘘みたいに軽いです!」

 

「そいつはご機嫌だなフェムト。こっちもいい数字出てるぜ。同年代の身体能力の平均を比べて見ても、倍以上は差が出てるな」

 

 

 例えば体中に流れていると言う、生体電流を操って増幅したらどうなるのか?

 

 その結果は、私も驚く程に凄まじい物であった。

 

 体が羽の様に軽いのだ。

 

 それだけでは無く人を優に超える程の跳躍も可能で、走るのも相応の速度を叩き出せる。

 

 

「んじゃあ昨日やったみたいに次は、その強化した感覚を頭に集中させてみてくれ」

 

「はい。……えっと、どうですか?」

 

「おう、数字的な脳波は異様な数字を叩き出してるが……フェムト、今どんな感じだ? 昨日と同じように感想を述べて見てくれ」

 

「何て言うか、やっぱり今まで以上に周りが鮮明に感じ取れますね。こう体感的に、前にニコラに教えてもらった五感と言う物が、より強化された感じです。視力、聴覚、嗅覚、の三つは体感できてます。味覚と触覚については……良く分かりませんが」

 

「んじゃあ、こいつを食ってみろ」

 

「はい。……ニコラ! これって、昨日食べた羊羹の残りですか? 前よりもずっと甘く感じます! ただ、その中に含まれてる僅かな雑味も感じてしまうようですが」

 

 

 その制御能力を脳に集中させたらどうなるのか?

 

 答えはこの通り。

 

 五感が強化され、より鮮明にこの世界を感じ取る事が出来る。

 

 だから当然、この様に昨日食べていた羊羹もより美味しく、それでいて…。

 

 

「ふむ、味覚に関して言えばいい事ばかりじゃないって事だな。んで、嗅覚はどうだ? その羊羹、結構高い奴だからな。その辺りも分かりやすいと思うんだが」

 

「……ちょっと意識してなかったんで、もう一度食べても」

 

「ダメだ。お前のその顔、もう一口食べたいって言う魂胆が透けて見えるぜ。……そんな目で見るなよ。ったく、しゃーねーな、感想を言えたら喰っていいぞ」

 

 

 むぅ……嗅覚の事を口実に使ってもう一口食べる魂胆はバレバレなんですね。

 

 私ってそんなに分かりやすいのかな?

 

 でも、食べられるのは変わりないから、まあいっか。

 

 私はニコラに香りの感想を述べ、もう一口食べた所で、次の検査に入った。

 

 

「んじゃあ、次は視力検査なんだが……なあフェムト、昨日は気にする事が出来なかったんだが……その、目は大丈夫なのか? こう、ドライアイ的な」

 

「ドライアイ? …ニュアンスは目が乾いている症状であってますか?」

 

「大体そんな感じだな。ほら、涙や角膜の水分が微量な電気による水分の電気分解で影響が出るんじゃねぇかと思ってな。一応、こっちの観測結果でもほんの微量だが水分量の低下が確認されてるからよ」

 

「あ~…。確かに、昨日能力を使う時は気になりませんでしたけど、今はちょっと乾いてる感じがします」

 

「やっぱりか。乾燥防止用の目薬は今はねぇからなぁ……。ドライアイ対策の当座は瞬きを意識して多くする事で対処してくれ。そうすれば涙が多く出て視力低下は抑えられるはずだから、やってみな」

 

 

 ニコラに言われた通り、私は瞬きを意識して繰り返す。

 

 それを繰り返している内に、確かに目の渇きが能力発動前の感じに戻った事を感じ取った。

 

 その後、改めて視力検査をした結果、やはり視力はちゃんと向上していた。

 

 脳を能力で活性化させた影響で、視力に使う筋肉を意識的に、かつ柔軟に扱えるようになったのが理由なのだとか。

 

 だけど、ドライアイ対策をしないと別の要因で視力低下が発生する為、そこは注意する様にと言われた。

 

 

「よし、次は聴覚だな。んじゃあ、これ目隠しな」

 

「目隠しですか。昨日はこう言った物は無かったですけど、これは必要な物なのですか?」

 

「ああ、聞く事に集中する場合、視覚は遮断した方がいいんだぜ?」

 

「分かりました。……っと、こんな感じでいいですか?」

 

「おう、問題ねぇぞ。……絵面がひでぇなこりゃ。これでフェムトが男じゃ無くて女だったら、下手したら犯罪者扱いされそうだぜ

 

「……絵面が酷い? 犯罪者?」

 

「あちゃ~……。さっきの俺のつぶやき、聞こえちまってたか。まあ今は気にすんな。後で教えてやるからな。一応さっきので聴力が強化されてるのは確認出来たから次行くぞ」

 

「分かりました。……昨日の検査の時とは違って今日は随分緩いですよね? こんな適当でいいのでしょうか?」

 

「そうだな。本当は良くねえから、その指摘は正しいぞ」

 

「では、どうしてこのように緩いのですか?」

 

「それはな……前提の話が必要だから、先にそれを話してもいいか?」

 

「はい、よろしくお願いします。ニコラ先生」

 

「先生って……俺はそんなガラじゃあねぇけどな。まあ、話を進めるぞ」

 

「はい」

 

「先ず研究と言うのは俺達以外の連中に分かってもらう必要がある。なぜ必要なのかって? そりゃあ将来大勢の人達がこの研究で出来た技術を使う可能性があるからさ。んで、分かりやすくしたり、再現性を高くするのに数字って奴は必要不可欠。ここまではいいよな?」

 

 

 そう、研究は分かりやすく、それでいて誰でも出来る様にと言う再現性が要求される。

 

 研究は大勢の人が使う可能性のある物だ。

 

 だからより分かりやすく、簡潔に、それでいて誰でも同じ事が出来る様にする必要があるという訳だ。

 

 しかも安全面の問題だとか、様々な人々が使う可能性等を考慮しながら。

 

 その中でも数字と言う物はこれ等に必要不可欠であり、無いと全くお話にならない。

 

「このくらい」とか、「あのくらい」とか、「少々」とか書かれても、分かるはずが無く、「1」「2」「3」なら分かりやすい。

 

 でも数字でのイメージにも限界があり、単位が「10000000000000」とか「0.0000000000001」なんて多すぎたりすると途端にイメージが分からなくなるから、レポート等による文字で伝えるのは大変だとニコラは愚痴っていた。

 

 

「ならどうして、今日はこんなに適当な感じなのですか?」

 

「質問に質問で返すのは本当は良く無いんだが……。一つ聞くが、あんな堅っ苦しい検査を毎日するとか、フェムトはどう思う? 本音で言ってくれ」

 

「それは……。本音を言えば正直気が滅入りますし、あんなの続けられたら頭が変になりそう……あ! つまりそう言う事なんですね?」

 

「そう言う事だ。たまにはこんなお遊びとも言える実験を入れないと、参っちまうだろ? それにこういった事で新しい事実が見つかる事もあるんだから、侮れねぇんだよなぁ。とは言え、これが理由で研究が滞って追い出されちまったんだから世話ねぇが」

 

「あはは……」

 

「……フェムトは確かに被検体なのは間違いなく、俺達研究員の指示には基本従わなけばならない。それはあの研究(プロジェクト・ガンヴォルト)の過程で生まれた実験体クローン【デザイナーチャイルド】とかも例外じゃあない。だが、お前を始めとした多くの被検体達は非合法の他所から送られてきたり、創られたりした人材だ。そう、つまり表沙汰には出来ない。だがな、逆に言えばそんな被検体は好き放題出来るのさ。何しろ周りに知られる事何て基本無い訳だしな」

 

 

 この話を聞いた時、私は自身を取り巻く環境がどれだけ恵まれているのかを自覚することが出来た。

 

 何故ならば、もし自分がニコラと同じ立場で、私みたいな大勢の被検体達を好きに使って研究してもいいだなんて言われたら……。

 

 しかも、好きに使ってもよい事に喜ぶ研究員が周りに大勢いたら……。

 

 多分、私はニコラみたいに拒めない。

 

 

「じゃあなんで、ニコラは私の事でこんなにも気を使ってくれるのですか?」

 

「それはな……前にフェムトに話した記録から抹消された研究の話、覚えてるよな?」

 

「はい。確か、過去にとある非道な実験をその被検体に施し続けた結果、その被検体が持つ能力が暴走し、研究施設ごと消滅したって話ですよね?」

 

「おう、合ってるぜ。んでだな、この話を聞いてお前はどう思った?」

 

「それは……同じ事が繰り返されない様に対策を考えます。ですが、それだったら拘束具を使って対処すればいいと思いますけど」

 

「普通に考えればそれで間違いは無い。だけどな、今研究している蒼き雷霆(アームドブルー)の事になると話は別になる。これはまだお前には話してなかったが、俺達が研究している蒼き雷霆は、分類上【第七波動(セブンス)】って呼ばれてる超能力の総称とされているんだ」

 

「第七波動…ですか」

 

「そうだ。んで、第七波動って奴はな、能力因子の多さだけじゃ無くて、他にも所有者の意志によってその力を増減する事が分ってるんだ。でな、この所有者の意志って奴がまた厄介でなぁ……、怒ったり、気分が滅入ったりする事で引き出される力が増減しちまうんだ」

 

「つまり力の揺れ幅が大きいから、メンタルケアをこまめにする事でデータを均一化するって事ですか?」

 

「そうだ。そもそもあの計画の研究をしてる理由は今使ってる発電方法に限界を感じていたから始まった研究だ。つまりこの研究が成功した暁には、大勢の人々がこの研究の恩恵を受ける事になる。何しろ電気はもう俺達の生活に欠かせないし、それこそ無くなったら国や企業を始めとした共同体の維持すら出来なくなっちまう。ここまでは良いよな?」

 

「はい」

 

「続けるぞ。発電方法には色々あるんだが、結論を言えば安全で、ブレが少なくて、簡単に出来て、頑丈で、何よりも()()()()()()のが望ましい。何故なら大勢の人々が恩恵を受ける大本だからな。ここが不安定でぶっ壊れやすかったら話にならん。……ほら、ここでデータの均一化の必要性が出てきただろ?」

 

 

 そう、これがニコラがメンタルケアを気にする大きな理由なのだ。

 

 最も本人は直接言う事は無いけど、ニコラ本人の人柄も大いに関係しているのは間違い無いと私は思うのだが。

 

 ニコラが考えるあの計画の最終目標は、簡単に言ってしまえば誰でも安全に扱える発電施設と言った所だ。

 

 そうなると……そもそもあの研究は根本から間違っているのでは?

 

 何故なら感情で左右される発電施設だなんて、正直利用するのは怖い。

 

 気が滅入っていれば電気が足りなくて、怒っていれば電圧が増して、電線の強度を上回って断線したりする危険性を考えると…。

 

 

「えっと、そもそも根本的にあの計画は間違っているんじゃ無いですか? こんな不安定な力、とても運用出来るだなんて思えないです」

 

「気が付いちまったか……。まあ、それを何とかしろっていうのがあの計画であり、研究な訳だ。まあ、結局俺達は計画から外されちまったがな。とは言えだ、逆に言えばこの状況はチャンスとも言える」

 

「チャンスですか?」

 

「おう、これまではそれこそ人間発電機を作る為の研究だったが、今回の研究は追い出された口実であると言う事実さえ無視すれば、結構有意義な物だと俺は思ってるぜ。そしてそれは、今の所すこぶる順調だ」

 

「身体能力強化も出来ましたし、五感を強化する事も出来ましたよね」

 

「っと、五感で思い出した。まだ聞いてなかったが、触覚の方はどうだ?」

 

「え? うーん……昨日もそうでしたけど、体感ではちょっと良く分からないです」

 

「あぁ、そのゆったりとした服装じゃあ体感するのは難しいか。…まだ五感の強化は維持してるよな?」

 

「はい」

 

「それじゃあ、ちょっと足の裏(くすぐ)るから、アリと無しを調べるぞ」

 

「えぇ~~っ!」

 

「良いからやるぞ。終わったらもう一口、羊羹喰っていいから」

 

 

 結局ニコラのこの提案を私は受ける事となり、結果は予想通り、触覚が強化された影響で敏感になってしまっていた。

 

 まあそれは兎も角、これであっさりした五感の研究は終わり、次はこの状態を維持し、勉強したらどうなるかと言う研究が始まった。

 

 やり方は簡単に説明するとこうだ。

 

 ニコラが簡単に教えてくれた暗記問題を、能力ありと無しで簡単に学び、解くと言う物。

 

 その結果はやはりと言うべきか、能力有りの方が良い結果を収めることが出来た。

 

 

「予想はしていたが、やはり能力有りの方が結果はいいよな。とりあえず、これと身体能力強化でのテストは継続していくぞ」

 

「何故ですか?」

 

「俺の予想だが、フェムトの精神的なコンディション次第でこの結果は変わりそうだからな。何しろ大本がそうなんだから、これも、前にやった身体強化もそう言った要素が出てくるだろうしな。それとだ、勉強とかを個人的にするんだったらその能力はフルに使っておけよ。きっと役に立つだろうからな」

 

「はい」

 

「ああそれとだな……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この言葉を持って、今日の研究は終わりを迎えた。

 

 後の時間は、私個人の時間だ。

 

 私はニコラからこう言った自由時間を用意されていた。

 

 私の部屋にはベッドと机、それに電気に関する本であったり、基礎学習に必要な教本等のデータが纏められているパソコンも用意されている。

 

 但し、パソコンはインターネットには繋がっていないけれど。

 

 今日もこのパソコンを用いて、勉強したい事を調べ、学んでいく。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()と言う形で。

 

 このパソコンにハッキングし、片っ端から中のデータをコピーし、それを私の持つ脳に対応できるようにデータを組み換え、ペーストしていく。

 

 これを私は、能力の補助だけで簡単にこなす事が出来る。

 

 何故ならば、パソコンにも電気が流れているから。

 

 ニコラの言うあの勉強法とは、この事を指していた。

 

 初めてこの勉強法を彼に見せた時、ニコラは「脳波で文字入力をしたりするのは既知技術だけどよ。それでも専用の機器が必要だし、何よりもこんなに早く処理何て出来ねぇ。ましてや、その逆をやっちまうのがとんでもねぇ」と言っていた。

 

 そして、あまり人には見せてはいけないと言われた理由は、ちゃんとある。

 

 私みたいに第七波動と言う能力を持つ人の事を【能力者】と呼ぶ。

 

 その能力者は、外の世界ではあまり好まれた存在では無い。

 

 ハッキリと言ってしまえば、嫌われているのだ。

 

 それこそ、中には能力者の事を化け物呼ばわりして、迫害する人も多いと聞いている。

 

 その理由を聞いた所、一つの小さな国を滅ぼしたとか、治安が崩壊した国もあるなんて言う物騒な話が出て来て、私は納得するしかなかったが。

 

 そう言う事も有り、一通りの勉強が終わったらパソコン操作の練習もやっている。

 

 古典的なキーボード操作から、脳波を用いた文字入力、内部のアプリの操作等だ。

 

 ニコラはこう言った助言を、何かあって私がこの施設から外に出る事になった場合を想定してくれている。

 

 つまり、普通の人として生きて行く為に必要な知識を教えてくれているのだ。

 

 まるで、この研究が何かしらの理由で出来なくなってしまうのではないかと言う予感を感じているかのように。

 

 そう、私も漠然と感じている、そんな嫌な予感を。

 

 恐らく、ニコラもそう感じているはず。

 

 口には出してはいないけど、彼はそういう所があるのだ。

 

 私はそんなニコラの事を頼る事しか出来ない被検体。

 

 だからこそ彼のそんな予感と、これまで感じた彼の人柄を信じる以外に道はない。

 

 ……この施設はニコラが私に対して色々と気を使ってくれているお陰で、多少窮屈に感じる事以外、特に不満は無い。

 

 今までの研究内容も、私個人としては楽しい物であったし、これからも一緒に協力していきたいと思える程に、充実した物であった。

 

 だからこそ、私は願う。

 

 如何か、こんな日々が続いてくれますようにと。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇フェムトを研究対象とする研究員【ニコラ】について
比較的人道的に真っ当な研究員。
見た目は細身で、黒色の短髪。
研究員である事から、当然白衣を身に纏っている。
どこか大雑把な性格をしているが、フェムトを始めとした被検体達を大切にしようと考えている甘ちゃんでもある。
だが、こうして大切にするのは彼が甘ちゃんなだけでは無く、ちゃんとした理由がある。
それは、前の話でも出てきた施設が消滅したと言う事故。
この話をニコラが知った経緯は、彼の口から決して語られる事は無い。
……ただ一人の例外を除いて。


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第三話 運命の分岐点

 


 

 

 

 

 漠然とした嫌な予感を僅かに感じる日々を、蒼き雷霆(アームドブルー)の別の可能性を模索する研究に費やしていく私達。

 

 そんなある日の出来事。

 

 定期的に提出する事が決められていた研究レポートを出しに行ったニコラが戻って来たのだが、どうにも様子がおかしい。 

 

 その表情は、まるで苦虫を噛み潰したかのような表情だったからだ。

 

 その理由を私は尋ねたのだが、その理由をニコラは話してくれた。

 

 あの計画(プロジェクト・ガンヴォルト)の成功例、その被検体の実験に立ち会う事を許可されたからだ。

 

 それも、私も含めて。

 

 曰く「あいつらの性根を考えると正直嫌な予感しかしねぇ。って言うか、俺らの努力は無駄だと間接的に言いながらマウント取って来る魂胆が見え見えなのに腹が立つ!」のだとか。

 

 そういう訳で、少々異例である他者の研究の実験に立ち会う事をニコラのおこぼれと言う形でその権利を得ることが出来た。

 

 その実験に立ち会う場所へと向かう道中、私は成功例の彼の事を考えていた。

 

 一体どんな人なんだろう?

 

 仲良くなれるのだろうか?

 

 そもそも被検体同士で話すことが出来るのだろうかと、その時は実に楽観的なおのぼりさん的な気分であった。

 

 一緒に歩いているニコラの顔が、これまでに見た事が無い程に歪んでいるのを、下から見上げる事で確認する時までは。

 

 そんなニコラの顔を見てしまってからと言う物、私は彼の手を強く握りながら身を縮める様に歩く事しか出来なかった。

 

 そうしてたどり着くまでに何人かの知らない研究員とすれ違ったが、彼らがどんな表情をしていたのかはまるで分らない。

 

 ただ、私の方に視線を感じる事は無かった為、少なくとも相手にされていない事は何となく分かったのは幸いではあった。

 

 そして遂に成功例の彼が居る専用の研究室へと、ニコラと共に足を運んだ。

 

 そこで待っていたのはこれまで私とニコラがしてきた和気藹々とした実験風景などでは無かった。

 

 話には聞いていた。

 

 研究員は被検体に対して好き勝手出来るという事を。

 

 だから私も相応の覚悟でこの場所に足を踏み入れたつもりであった。

 

 だけどそんな覚悟は一瞬の内に砕け散り、塵となって消えてしまったのだ。

 

 ニコラとは違う、冷たい印象しか残らない無表情の研究員達の姿、そして……。

 

 憔悴しきり、この世の全てを恨んでいるかの様な表情をした、成功例の彼を姿を見た事で。

 

 この時、私は彼と目が合った。

 

 その目の輝きはニコラは愚か、この場に居る研究員達と比べても明らかに曇り切っており、まるで先の見えない闇が広がっているかの様な錯覚を、私は感じ取る。

 

 その瞳はまるで、私の事を恨んでいるかのように見え……。

 

 

ひっ……!

 

フェムト落ち着け……そうだ、落ち着いて俺の手にしがみ付け。怖がる必要は無い。何かあったら、俺が守ってやるから安心しろ

 

 

 小声で優しく話しかけるニコラの言う通り、私は通路を歩いていた時よりも強く彼の手に強くしがみ付き、落ち着きを取り戻した。

 

 そうして改めて周囲を見回してみる。

 

 この研究室は、明らかにここは私達が普段使っている研究室とは広さも質も段違いだ。

 

 見た事も無い様な大型の機械に加え、何やら沢山の薬が入った瓶が一杯、棚に並べられているのをガラス越しに確認出来る。

 

 他にも用途不明の機材が色々とあったけど、この研究室で何よりも異質だと思ったのは、中央の、何やら人が仰向けに寝てられるほどに広い台だ。

 

 何故私がそう思ったのか?

 

 それは、見る限り明らかに逃げるのを防止する為の拘束具がセットになっていたからだ。

 

 そんな私の思いを無視するかのように、この研究室での実験が始まった。

 

 私もこんな風に扱われる可能性のあった、余りにも残酷な実験が。

 

 

「何……これ……」

 

「…………」

 

 

 これは、何だ?

 

 私は今、何を見せられている?

 

 成功例の彼は何故中央の台で拘束され、大きな悲鳴を上げながら苦しめられている?

 

 そんな彼を研究員達は、まるで無関心と言ってもいい無表情でデータを計測している。

 

 こんな光景、余りにも酷すぎる。

 

 見ているだけで頭がおかしくなりそうだ。

 

 こんなの、私の知る実験等では無い。

 

 

「うああああああああああああ!!!!」

 

「おい! あの子は大丈夫なのか!? アレはどう見てもやり過ぎにしか見えねぇぞ!」

 

 

 成功例の彼の悲鳴と、ニコラの強い怒気が籠った言葉が研究室に響き渡った。

 

 だけど、ニコラの質問に答える研究員は、目の前で繰り広げられている惨劇を前に「問題ありません」と言い切る。

 

 この言葉に、私はここに居る研究員達には血が通っていないのかと思う事しか出来なかった。

 

 そうして今私の目の前で繰り広げられている惨劇は能力を無理矢理引き出し、その出力を計測すると言う実験だ。

 

 この実験そのものは、私もニコラの主導の元で何度かやった事はある。

 

 だけど、ニコラはちゃんと事前に警告してくれたし、危険だと判断したらすぐに止める事も約束してくれ、私は安心してこの実験に挑むことが出来た。

 

 私の場合、成功例の彼みたいに悲鳴を上げる程に強い出力が引き出される事は無かったが、回数を重ねる毎に出力は少しづつ増える発見をした事で、失敗作であると言われた私にも成長性が確認出来たのだ。

 

 そうしてこの実験は、終わった後に貰ったご褒美の羊羹も含め、私達の研究を進める有意義な物となった。

 

 なる筈だったのだ。

 

 この悍ましい実験を見るまでは。

 

 話を戻すが、そんな成功例の彼が命を振り絞って悲鳴を上げながら能力を無理矢理引き出されている際の出力は、私達のそんななけなしの自尊心を木っ端微塵に打ち砕くのに十分な破壊力を秘めていた。

 

 その出力は私と比べるのも烏滸がましい程に高く、それこそ私が出した最高記録なぞ砂粒に過ぎないと、目の前の、成功例の彼が指し示す数字は流暢に物語る。

 

 更に追い打ちをかけるかのように、あの数字はこれまで出た出力の中で最高記録であり、私と同じように成長性がある事が判明した。

 

 この事を彼の出力計測を担当している研究員の口から語られる事で、私の中で残っていた僅かに有利だと思っていた成長性と言う希望を、無機質な言葉と共に容易く踏みにじった。

 

 そしてトドメと言わんが如く、今回の成長率だけで私の出した総出力を越えているデータを、残酷なまでに突きつけられたのだ。

 

 そう、上には上が居る。

 

 文字にすれば簡単な言葉の意味を、私は魂の底まで刻み付けられる。

 

 そしてこの実験が切欠で私は、納得がいかない事も、曲がった事が嫌だった事も、どうしようもないの一言で割り切る事が出来る様になった。

 

 なってしまった。

 

 あんな圧倒的な光景を見せつけられて、そう思わない方がどうかしている。

 

 私の持つ劣等感を、全力で直接ぶん殴ると言う行為を、受けてしまったのだから。

 

 

「…………」

 

 

 そんな二重の意味で悲惨で悍ましい実験が終わり、私達は自分たちの研究室へと戻る。

 

 あの研究室とは違い小さくて簡単な機材しか無いけど、何処か温かみのある、私達の居場所へと。

 

 そんな研究室で私が初めてここに来た時と同じ様に、ニコラは怒鳴り声を張り上げる。

 

 

「……人間発電所なんて物を本気で創ろうとするんだったら、アレ位の出力は出せねぇと話にならねぇよなぁ!! 糞ったれめ!! ああそうだよな。確かに結果は出てるだろうさ。だがな、このままじゃあの子は持たねぇ! 折角の成功例である彼が、このままでは奴らの際限の無い暴挙の如き研究で台無しになっちまう!」

 

「……ニコラ」

 

「……すまん、フェムト。あん時みたいに怒鳴り声上げちまって」

 

 

 私も、同じ被検体としての格差を思い知らされ、最初にこの研究室に来た時と同じ様に、床に膝を抱えて座り込む事しか出来なかった。

 

 あの研究員達は私達を特に気にする様子は無く、正しく眼中にないと言わんが如くデータを淡々と読み進めていた。

 

 何故ならばそれだけで私達を絶望の淵に叩き落すのに、十分な破壊力があるから。

 

 ただいつもやっていると予想されるデータ取りを見せつけるだけで良かったからだ。

 

 そしてこの日を境にニコラはこの研究室を留守にする機会が増え、逆に彼と顔を合わせる機会が減り続け、過ぎ行く日々の中、遂に彼と話をする所か、顔を合わせる機会すらほぼ無くなってしまった。

 

 私はニコラの居ない日、彼が残したメモによる実験を繰り返すようにと言う指示に従うだけの人形に成り果てている。

 

 こうして狭くて少し窮屈だったけど、それでも居心地の良い世界は音を立てて崩れ去った。

 

 そうして出来た残骸の世界で、ニコラのメモの内容を淡々とこなしながら私は思う。

 

 あの成功例の彼は、無事なのだろうかと。

 

 被検体としての性能は、それこそ比べる事も烏滸がましい程の差があったのは事実だ。

 

 ニコラが留守気味になった理由も、あの実験が切欠なのは間違い無い。

 

 悔しいと思う気持ちも、寂しいと思う気持ちも、当然ある。

 

 だけど名前も知らない彼はこの瞬間も苦しみ続けているのだ。

 

 あの時の悲鳴が夢に出てくる事も珍しくない。

 

 だから私は時々考える事がある。

 

 私は失敗作だったけど人の温かさを知り、幻ではあったかもしれないけど可能性と言う物をニコラと共に日々追及する事が出来た。

 

 それに対して彼は成功者だったけど、あの計画の犠牲者と明確に言える程に、あの大勢の、血も涙も通っていないような研究員達に弄ばれ、辛く厳しい日々を今も過ごしている。

 

 だから、彼は私を恨んでいるのではないか、と。

 

 そう考えていた時であった。

 

 これまで感じた事の無い大きな音と振動がこの研究室、いやこの研究施設全てを襲ったのだ。

 

 それが鳴りやんだ後、扉からこれまで留守になりがちだったニコラが現れ、慌てて私の元へと駆け寄り、何があったのかも語らぬまま私の手を引き、研究室を後にした。

 

 

「ニコラ! これ! どうなってるの!?」

 

「俺にもわからん!! お前をこの研究施設から出す為にコネを最大限利用して受け入れ先を漸く探し出して戻ってきた途端これだったんだ!! 把握何て出来る訳ねぇだろ!!」

 

「ニコラ……! それって!」

 

「お前! 前から言ってたよな!! この場所は窮屈だってよ!! だから!! 俺は探してたのさ!! お前を受け入れてくれる場所を!! 何しろあいつら、完全にお前の事眼中になかったからなぁ!! だから、思ったよりも時間が掛からず上手く見つける事が、出来たのさ!!」

 

 

 この研究施設を衝撃と爆音が襲う中、私達は駆け抜ける。

 

 そして、何が起きたのかを知らせる、機械的な警告音声が響き渡った。

 

 

『警告。現在この研究施設は、テロリストと思われる武装集団により攻撃を受けています。配置についている警備員は、速やかに研究施設内に居る研究員を脱出させてください。繰り返します。現在…』

 

「テロリストだと!? となると、【フェザー】の連中か!! 全く、なんてタイミングで来やがる!!」

 

「フェザーって! ニコラが話してくれた! 能力者の自由を掲げてる! 人達だって聞いたけど!」

 

「あいつらの言い分ではそうだがな!! 世間一般では!! レジスタンスと称したテロリストなのさ!! とりあえず走れ!! いいか!? 良く聞け!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! この通路を出れれば外に出られる!! 後はそのまま真っすぐ行けば迎えが居るはずだ!! 気張れよ、フェムト!! ここがお前の、【運命の分岐点】って奴なんだからな!!」

 

「分かってるよ!! ニコラも遅れない様に、ちゃんと付いて来てよね!!」

 

「当り前の事を言うなよ!! こちとら()()()()から生き残った!! 曰く付きの研究員なんだからなぁ!! それと!! お前の新しい場所の上司の名前、教えておくぞ!! 【月読紫電】!! 月読紫電って言ういけ好かないガキだ!! 覚えとけよ、フェムト!!」

 

 この爆音でも声が響く様に、私達は途切れ途切れになりながらも大きな声で会話を続けながら、出口であろう場所へと全力で走っている。

 

 私達が今現在進行形で走っているその通路は、既に多くの残骸と火の手が回っており、早く脱出しないと崩壊するのは私の目で見ても明らかであった。

 

 そんな通路を走りながら私は考えていた。

 

 この施設がフェザーに狙われたその目的は、恐らく成功例の彼。

 

 何処からかこの研究施設の情報が洩れ、彼らはこの施設を襲ったのだ。

 

 そう考えれば、彼の安全は保障されたと考えてもいいだろう。

 

 では、私はどうだろうか?

 

 ……無理だ。

 

 私は弱い。

 

 仮に私がフェザーに行ったとしても、そこには私の居場所は無いだろう。

 

 何故なら、そこには私の完全上位互換である彼が居るのだから。

 

 迷う事は無い。

 

 私はニコラを信じて付いて行くだけ。

 

 ニコラは私に居場所を与える為に、コネを総動員して居場所を用意してくれた。

 

 だから絶対にこの手は離さない。

 

 ……っ!

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう思っている内に、私達は外に出ることが出来た。

 

 後は真っ直ぐ向かうだけだ!

 

 それにしても、()()()()()()()()()()()

 

 もっとこう、重みがある筈なのに。

 

 そう思いながら横を見た私は……。

 

 

「え? ニコラ? ……嘘、だよね? どうして!? だって、私はちゃんとニコラと手を繋いで……!?」

 

 

 これまで順調であった研究。

 

 それを打ち壊され、それでも私の為に居場所を外に創ろうとしてくれたニコラ。

 

 そんな彼はもう、この世には居ない。

 

 その居なくなった証である私が繋いだ筈の、ニコラの手だけを残して。

 

 それをハッキリ認識した時、私はただ大粒の涙を零し、彼が残した手を抱きしめながら泣き叫ぶ事しか出来なかった。

 

 そんな私が、フェザーに見つからなかったのは奇跡と言ってもいいだろう。

 

 そんな奇跡が実現したのはフェザーよりも先に私を見つけてくれた人物が居たからだ。

 

 そんな人物が泣き叫んでいた私に対して、こう話しかけてきた。

 

 不思議な事に、まだ爆音や私の鳴き声が響き渡っていたにもかかわらず、その声は私の耳に何も障害が無いかの様に響いた。

 

「君があの計画の移植実験に成功した、ニコラが自慢していたフェムトだね?」

 

「う……、うぁ……」

 

「無理に話そうとしなくていい。……ニコラは、君の特徴をよく話していたからね。こっちでちゃんと把握しているよ」

 

 

 私は何とか涙を拭い去り、此方に手を差し伸べている少年を見た。

 

 その姿は私よりも背は高いけど、ニコラの言う通り私と同じでまだ子供。

 

 黒髪に一部、その中央に白い髪を持ち、全体的にとがった様な髪型しており、その姿は何やら特徴的な防護服を身に纏っていた。

 

 私は何処か捉え所の無い、不思議な雰囲気を放っているそんな彼に対して手を伸ばし、名前を尋ねた。

 

 

「ん? ボクの名前かい? ……ボクの名前は月読紫電。ちょっとした特殊部隊に所属しているんだ。それでこれから、君の上司となる者でもある」

 

 

 そう、これがニコラの言っていた運命の分岐点であり、長い付き合いとなる、紫電との出会いだった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。




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皇神改革編
第四話 新たな立ち位置


 


 

 

 

 

 あの運命の分岐点とも言える惨劇から暫くの年月が経ち、私の取り巻く環境が劇的に変化した。

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)の別の可能性を模索するべく、一緒に頑張って来たニコラは帰らぬ人となり、いつもの研究室のあったあの施設は完全に破壊されてしまったのだ。

 

 そう、この国に潜伏していると言うフェザーを名乗るテロリストの手によって。

 

 その後、亡くなる前のニコラのコネで、とある特殊部隊に所属している紫電と言う人物の部下になる事となった。

 

 だけどその時の私はニコラの死の影響が余りにも大きかった為、それを解決するべくしばらくの間、と言っても全力で能力を脳に行使し体感時間を加速させて自問自答を繰り返すと言う方法で、何とか会話を交わすだけの精神的な余裕を無理矢理確保。

 

 体感時間は一週間位だったけど実際は一日程度の短い時間で済んだと考えれば、悪くない結果だと思った。

 

 これまではニコラが私の面倒を見てくれていたけど、今は違う。

 

 私から直接動かなければ、自分の立ち位置を確保する事が叶わない。

 

 それは紫電の所属している【能力者部隊】と呼ばれる、様々な第七波動を持った能力者達による特殊部隊に私は所属する事となったからだ。

 

 まずここでやらされたのは、当然能力の披露であった。

 

 何しろここは能力者達の部隊だ。

 

 何かしらの特技が無ければあっという間に爪弾きにされてしまうだろう。

 

 だから私は、出し惜しみ無く今使える能力を行使する。

 

 身体能力を強化したり、五感を強化するだけで無く、あの研究施設に居た日々の中で新たに得た生体電流の制御による自然治癒や、普段私が良くしている勉強法で使っているハッキング等も披露。

 

 他には他者の生体電流を操作した全身マッサージであったり、あらゆる機械に互換性を持たせた規格の電気の発生等、今の私が出来る事をすべて出し切った。

 

 その結果、私はこの特殊部隊における情報処理関係の仕事を始めとした後方支援がメインの立ち位置に定まる事となる。

 

 とは言え、特殊部隊に所属している以上、最低限の訓練を受ける必要はあるのだけど。

 

 でも私の中ではこの待遇は、正直意外な物であった。

 

 何故ならば、能力者で構成されているとは言え特殊部隊と名乗っている、つまり荒事がメインだと私は考えていたからだ。

 

 だけど私が言うのも違う気がするけど、能力者と言う者はどうにも若年層が多く、戦闘に特化した人達が多い傾向がある。

 

 例えば、私の先輩の一人にあたる【イオタ】と言う、光子を操作する第七波動【残光(ライトスピード)】の能力者である生真面目な彼が、最たる例であろう。

 

 そういう訳もあり、情報処理に特化したような私の能力運用は紫電所か、他の能力者達からも諸手を上げた歓迎を受ける事となった。

 

 特に、離れた場所同士を繋げる第七波動【亜空孔(ワームホール)】を持つ能力者でありながら、この部隊における知能担当で、同じく私の先輩にあたる面倒くさがり屋な【メラク】からは特に歓迎された。

 

 実際この部隊の情報処理は紫電とメラク、そして一部の知識人のみで回していた為、本来紫電がやりたかった本当の目的の為の足場固めが、順調とは言えなかったのだ。

 

 これは恐らく能力者が嫌われているのが理由で、情報処理を専門とした人達がこの部隊に配属されなかったからだと私は予測している。

 

 ……私達の所属する能力者による特殊部隊を保有し、あの計画(プロジェクト・ガンヴォルト)を推し進めていた巨大複合企業【皇神グループ】であっても、そういう風潮は根強い。

 

 そういう訳で、この部隊に入って一ヵ月位の時間経過の間に情報処理に関して言えばほぼ私の独壇場となった。

 

 それもあり、メラクからは面倒な部分を私に押し付ける事も大幅に増える事となるのだが……。

 

 とは言え、私の場合この作業が能力運用の習熟に役立っているし、彼は楽できるので両得な状況なので問題は無い……筈だ。

 

 そのお陰で紫電も遠慮なく足場固めに動く事が出来、今現在は防衛部隊管理役にまで地位を向上させている。

 

 その時に部隊の再編も行われ、その稼働率も前の時と比べ倍以上の結果を誇る結果となったのだ。

 

 これは部隊再編に加え、私の情報処理と生体電流操作によるマッサージが部隊内で好評で、疲れが良く取れて万全な状態で能力を行使できる状態を維持した事も理由だと紫電は語っていた。

 

 この技術は元々ニコラが研究レポートを纏め終わり、かなり疲れている表情をしていた為、本人に許可を取り試してみた事が始まりであった。

 

 これにはニコラも「あ”あ”ぁぁぁ~~~~」と心地よさそうな声を上げながらリラックスしつつ疲れが取れたのを、科学的にも体感的にも把握出来た為この生体電流マッサージも日課に加わったのだ。

 

 こうして私はこの部隊の中での居場所を確立する事となったのだけれど、逆に私自身の負担を心配する声が出始めていた。

 

 

「流石にさ、フェムトはいい加減休んだ方がいいと思うよ? いくら面倒事を押し付けるのが大好きなボクでも、多少の良心はあるんだよ?」

 

「ありがとうメラク。でも疲れは生体電流を操作すれば大丈夫だし、それに…休んでいると、ニコラの事、思い出しちゃってさ」

 

「私にも軍人時代に似たような事を経験した覚えがある。だが、その時は周りに居た仲間達が無理矢理私の事を休ませる為に骨を折る事となった。あの時は何故ここまでするのかと思った物だが……。こうして客観的に見れば、その理由も良く分かる」

 

「イオタ……」

 

「フェムト、お前はよくやってくれている。お前のお陰で、紫電殿の計画は当初の予定よりも大幅に早く進行しているからだ」

 

「だからよォ、お前はいい加減寝とけって。こっちからすれば突然ぶっ倒れる方が迷惑なんだ。ここは素直に好意に甘えておけよ」

 

 

 私に寝とけと言う彼は、紫電がスカウトした能力者の一人。

 

 私の後から皇神グループに所属した、熱エネルギーを操る【爆炎(エクスプロージョン)】の能力を持つ、乱暴な雰囲気を持った、【デイトナ】と呼ばれる少年だ。

 

 言葉使いはどこかニコラを思わせる位に悪いけど、それでも外の世界における能力者の現実を知る、常識的な人でもある。

 

 話を戻すがデイトナの言う通り、思い返してみればここ最近一週間に一度、それも四時間位しか休んでいない。

 

 再編してからさらに忙しくなった部隊の仕事に加え、亡くなったニコラの研究を引き継いで自身の能力の研究等も進めているのだから、この結果は当然の帰結であった。

 

 そう考えてみれば、確かに私はいい加減休んだ方がいいのだろう。

 

 一応、私が居ない時のマニュアルは用意してあるし、この行為に甘えても……。

 

 と気を緩めたその時、私の身体から力が抜け、そのまま床へと――。

 

 

「っと、危ねぇ危ねェ。全く、暫くゆっくり休んでろよな。この大馬鹿野郎が」

 

 

 ――倒れず、デイトナに支えられる事となった。

 

 私は彼にお礼を言って立ち上がろうとしたのだが、どうにも体が素直に動かない。

 

 これまでの無茶が祟ったのだろう。

 

 仕方が無いので、このままデイトナに私の部屋まで運んでもらう様にお願いした。

 

 デイトナはメラクに飛ばして貰えと言って断ろうとしたが、そんな面倒な事を、メラクがするはずも無い。

 

 そして、イオタも既にこの場から居なくなっており、結局デイトナが引き受ける事となった。

 

 そうして彼は私を抱え、少し遠い位置にある私室へと向かう事となる。

 

 その道中の最中…。

 

 

「しっかしよォ、フェムト。お前その見た目何とかならねぇのか? これじゃあまるで、オレが女を背負ってるみたいじゃねェかよ」

 

「……? 私の何所が女なのですか? 良く分かりませんが? 少なくとも服装はよくある雑誌にありそうな男物のズボンにシャツで、その上に白衣を着てるだけで、女性に間違われる事何て無い筈ですが」

 

「んなもん! その喋り方に加えて声の高さ! それにオレらよりも低身長に加えてアホみたいに長い髪に複数の髪留め! お前の能力を補助する男物のアクセサリーや服装だけで、如何にかなる訳ねェだろうが!」

 

 

 ……この場所に来る前、私自身知らなかった事があった。

 

 私はどうにも世間的な一般男性の外見をしておらず、女性の様な外見らしい。

 

 思い返してみれば、ニコラも私の事をさり気無くデイトナと同じような事を言っていた事に気が付く。

 

 低身長や声の高さは、正直仕方がない。

 

 何しろそれは生まれつきや年齢と言う私自身ではどうしようもない要素だからだ。

 

 喋り方も気が付いたらこんな感じであったし、ニコラもその辺り気にしてはいなかった。

 

 そうなると、この見た目でネックなのは髪の長さ。

 

 だけどこれは私の能力の出力を補助する重要な意味を持つ。

 

 一度ニコラに髪を切ってから出力計測をした事が有り、その結果はやはりと言うべきか、能力の出力低下が確認された。

 

 故に、それ以来私は髪を一度も切ってはいない。

 

 ただ、これで問題となるのが視界が髪で隠れたり、腰所か背伸びした際の足のつま先よりも長い髪を如何束ねるのか。

 

 この問題は私がここに来てから発生した物で、研究の最中にインターネットで髪型を検索し、それを独自に試行錯誤しながら解決する事となる。

 

 その結果、今の私の髪型はポニーテールをベースにした髪型となった。

 

 その際私の髪の性質を改めて調べ直し、髪留めに蓄電機能を持たせて能力の補助をすると言うアイデアが湧き採用できたのは棚からぼた餅と言える成果で、デイトナの言う男物のアクセサリーにも、その機能を持たせている。

 

 これにより、出力の問題は多少はマシになった。

 

 ただ、成功例の蒼き雷霆(アームドブルー)には到底及ばないが。

 

 まあそういう訳なので、デイトナの要望に私は答える事が出来ないのだ。

 

 そうしてデイトナが文句を言いながらも私を抱えて進み、私の部屋の前まで差し掛かろうとしたその時、()()()()()と、それを囲む警備員や研究員達が私達の視界に飛び込んだ。

 

 その時の少女を目撃したデイトナは顔を真っ赤にしつつ、歩みも遅くなった。

 

 そう、この少女は紫電が最近になって進めている計画である【歌姫(ディーヴァ)プロジェクト】の(かなめ)とも言える人物。

 

 

……【シアン】ちゃんだ。おいフェムト見て見ろ、生シアンちゃんがいるぞ!

 

ああ、確かに、シアンが、居るね……

 

おぉ! シアンちゃんが笑顔でこっちに手を振ってくれたぞ! お前も見ただろ! なあおい!

 

デイトナ、返事を、したいけど、そろそろ、限界、かも……。っていうか、シアンとは、昨日も、一緒に、話をした、ばかり…………

 

 

 その子の名前はシアン。

 

 私と同じ位の背丈で、ショートの少し淡い紫色の髪をした女の子。

 

 計画の中心人物である以上、彼女も当然能力者だ。

 

 彼女の持つ第七波動、その名は【電子の謡精(サイバーディーヴァ)】。

 

 私が知る限りこの能力は前代未聞だ。

 

 それは精神感応能力である事もそうだが、何よりも特筆すべきことは、()()()()()()()()()()()()()()と言う点。

 

 つまり、生きているのだ。

 

 それ所か姿を現す事も出来、その見た目は私ですら知っている今をときめくバーチャルアイドル【モルフォ】の姿であり、本人だったりする。

 

 そのお陰でこの能力を知った時、私の中で()()()()が浮かび上がった。

 

 そう言う意味では、彼女を知れた事に大いに感謝している。

 

 そして私も、やはり情報処理と言う形でこの計画に関わっていた。

 

 そんな立場を利用して彼女との会話を試み、以降それを積極的に行っている。

 

 まあそれはさておき、シアンを見たデイトナのこの反応。

 

 多分デイトナは、彼女の事が好きなのだろう。

 

 ニコラとの雑談の際の、好きな女の子に対する男の手本とも言える反応だったからだ。

 

 その事に関して私は応援しているので、デイトナとの会話の機会も設ける様に立ち回っている。

 

 その際、何だかんだで私の前で微笑ましい会話を繰り広げている事もあり私は生温かくその様子を見守っている。

 

 それらは私と会話をしている時と同じで、彼女の持つ不満等のストレスを発散させる意味もあった。

 

 だけど、それ以上に積極的に会話をする大切な理由が、私の中にある。

 

 それは、嘗てあの計画(プロジェクト・ガンヴォルト)にて成功し、今ではどこに居るかもわからない成功例の彼。

 

 ニコラが言うには、彼はあの計画の要だったと言うのに、何も知らされていなかったのだ。

 

 その事を聞いた私は、もしこの施設から出て研究員となり、似たような状況の子が担当になったら、ニコラの様に力になろうと決意していた。

 

 そしてシアンもあの時の彼と同様、計画について何も聞かされていない事が判明。

 

 ……今の私は研究員では無い。

 

 だけど、それでも私はどうしても伝えたかった。

 

 何故ならば、私はあの計画の事を知らされていたし、その結果力になろうと自発的に思えるようになったと言う経験があったからだ。

 

 だから事前に紫電から許可を取りつつ、可能な範囲で計画の事を話し、柔らかく計画の協力の要請をしつつ、可能な限り力になると私はシアンに約束した。

 

 そう、私はニコラの様になりたかったから。

 

 そして、その際にある約束を交わす事となった。

 

 この計画が終わったら、「外の世界で歌を歌いたい」と言う、シアンにとっての大切な約束を。

 

 それを思い出しながら、私はこれまで蓄積された疲労による微睡の中に、身を委ねた。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇シアンとフェムトとの関係について
予め宣言しておきます。
私は基本ガンヴォルト×シアン派なので、この二次小説内でシアンがフェムトに対して恋心を抱く事など無く、フェムトもシアンに恋心を抱く事はありません。
そもそも、フェムトの見た目がこの話の中である様に、一部の人が倒錯する程アレな見た目なので、シアンはフェムトが男である事に気が付いていません。
なおモルフォにはバレており、シアンが気が付いていない事を面白がって黙っている模様。
じゃあデイトナはどうなのと言えば……ノーコメントで。


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第五話 宇宙の灯台が照らす光

 


 

 

 

 

【宝剣】。

 

 端的に言えば、体外に摘出した能力者の力の源である能力因子を隔離管理する為の器。

 

 第七波動(セブンス)を制御する為に必要な触媒。

 

 そして、皇神に所属している能力者の社会的地位を保証する為の存在でもある。

 

 これを作る為にはその名の由来となった実在の刀や皇神が保有する()()()()によるアーティファクトを組み合わせ、今の技術で加工する必要がある。

 

 それ以外にも最近では更なる能力封印を施す為の【サブ宝剣】と呼ばれる物も開発されている。

 

 これの利点はアーティファクト等の独自技術が不要な完全人工宝剣であるという事。

 

 つまり量産がしやすいと言う所だ。

 

 そんな宝剣であるのだが、私の知る限りでは紫電、イオタ、メラク、デイトナは既にこの宝剣の処置が施されている。

 

 何故ならば彼らは強い力を持った能力者達だからだ。

 

 だけどそうなると今度は別の問題が発生する。

 

 それは私も含めた彼らは能力者としての力を利用した防衛部隊である以上、能力を封印されるという事は有事の際の任務を全うする事ができない。

 

 そういう訳なので任務の際は皇神の管理機関の承認を経た上で宝剣内に移植された能力因子を開放し、その宝剣と一緒に能力因子と融合する事で能力が再使用できると言う。

 

 なお宝剣と一緒に取り込む事で、一部副作用が存在している。

 

 その副作用と言うのは、より能力を使用するのに適する身体に姿を変えてしまう【変身現象(アームドフェノメン)】を引き起こす事。

 

 これについては寧ろ利点と言え、普通に能力を使うよりもずっと強力に運用することが出来る。

 

 だけどもう一つの副作用がよろしくない。

 

 話を変えるが、第七波動とは意思の力の強弱でその出力も上下する。

 

 これは一部薬物によっての強化でも可能である事から確認された事だった。

 

 その事を踏まえ変身現象を引き起こし、能力に適する体へと作り変えられるという事を考えると当然、意志を引き出しやすい体になるという事でもあるのだ。

 

 つまりエゴが増大しやすく、自己中心的な考えを持ちやすくなり制御が効きにくくなると言う、場合によっては致命的な副作用が発生してしまうのだ。

 

 しかもそうして大部分の能力を封印しても、紫電やメラクを始めとした強力な能力者は従来の出力は発揮できないけど宝剣無しでも能力を行使することが出来てしまう。

 

 だから安全なのかと言われると疑問の声が出てくるが、そこは皇神グループの中でも公然の秘密と言う扱いになっている。

 

 だからこそサブ宝剣と呼ばれる物が開発される流れが出来るのは必然であり、他にも様々な宝剣が生み出される下地にもなっていた。

 

 そんな宝剣なのであるが、この性質に興味を持った私は、宝剣を開発している部署へと紫電の持つコネを利用してとある交渉を持ち掛けた。

 

 その内容は私が持つ()()()()を何も知らない他者に対して証明する為に必要な宝剣の作成の依頼。

 

 最初は私の仮説に対して開発部署は懐疑的であった。

 

 だけどそれを私が独自に立証したデータに加え、それを用いて宝剣の性質である変身現象の原理を説明した事で、そんな宝剣の作成許可が下りたのだ。

 

 まあ、それだけの理由で宝剣の作成を依頼した訳では無いのだが。

 

 私はこれまで自身のなけなしの能力をフルに行使して紫電達に貢献してきた。

 

 だけど、最近では能力の強い能力者以外にも宝剣をと言う風潮が皇神グループに広がりつつある。

 

 私の場合は紫電の部隊が私の能力有りきでの運用で成り立っているので、あえて封印せずにそのままの方が皇神グループ全体の利益を考えると有用と判断された為、これまでは暗黙の了解と言う形で見逃されてきた。

 

 今も尚その暗黙の了解は続いているが、今はまだこの国の情勢が比較的安定しているからであり、何時私も宝剣所持の義務を背負う事になっても不思議では無い。

 

 だからこそ、自分からこうして宝剣作成の依頼をする形で皇神グループに心象を良くしてもらおうと言う魂胆もあるのだ。

 

 それに私の仮説を前提とした宝剣によって、私が考える第七波動とは何なのかと言う答えが判明すれば今は無理だろうけど、きっと将来能力者の見方も変わると信じている。

 

 まあ、焦る必要は無い。

 

 既に賽は投げられたのだ。

 

 それに、もし仮説が間違ってたとしても普通に宝剣処理を受ければいいだけで、仕事内容は何も変わらない。

 

 まあエゴが増大すると言う点には、意識して注意する必要はあると思うが。

 

 だけど、の欠点も私の仮説が正しければ、解消できる可能性もある。

 

 

「ふぅん……キミもいよいよ宝剣持ちになるんだね、フェムト」

 

「ええ、今はまだ何も言われてませんけど、こう言うのはこちらから動いた方が向こう(皇神グループ)への心象は良いでしょうし」

 

「まあ、確かにそうだけど。……所で、君は自分の能力の名前を考えたかい?」

 

「私の能力の名前、ですか?」

 

「そうだよ。君は仕事漬けで最近の情報に疎いから伝えておくけど、最近フェザーによるテロ行為の実行犯に、蒼き雷霆(アームドブルー)と思しき能力者が居る疑惑があるんだ」

 

「……っ! 紫電、それ本当ですか!?」

 

「ああ、本当だよ。まだ憶測の域は出て無いけど、ハッキングの形跡が君の仕事のそれにそっくりだったから、そういう疑惑が浮上したんだ」

 

「…………」

 

 

 この話を聞いて私は彼が無事であった事に安堵すると同時に、憤りを強く感じた。

 

 何故ならばあの施設で散々苦しみ抜いてきたはずの彼が、テロ行為と言う戦場の最前線へと姿を現したからだ。

 

 戦場は様々な人達の思惑や願いが複雑に入り混じって衝突し、多くの人達が傷つく場所。

 

 それは当然能力者の特殊部隊で最前線で戦っているデイトナやイオタ達も例外では無く、時に大怪我を受け、私も生体電流マッサージをさらに発展させた応急処置による治療に駆り出される事もあった。

 

 勿論そう言った事が今後も起こらないように、デイトナ達は厳しい訓練も欠かさず行っている。

 

 そう、そんな辛く苦しい訓練を日々熟しているデイトナ達ですらそう言った事があるのだ。

 

 つまり彼も当然、そう言った辛い訓練を熟しているはず。

 

 ……この世界は残酷だ。

 

 彼はあれだけ苦しんで来たのに、それでも尚苦しみを与えようとしている。

 

 私が見たあの実験の様子を考えれば、彼自身がそれを望んだ可能性も高いのは事実だ。

 

 だけど、環境が違えばそう言いった事を望む事なんて無かったのかもしれないのにと、思わずにはいられない。

 

 だから、私は願う。

 

 紫電の言っている事が何かの間違いであって、彼は戦う事は無く、安全な場所でその傷を癒しているのだと言う事を。

 

 そして、もしそうじゃ無かったら……。

 

 早く彼がテロ行為から足を洗う事を、私は願う。

 

 

「こんな事を伝えた後で済まないけど、続けるよ。そう、つまりはそう言う事なんだ。君の能力を蒼き雷霆としてしまうと、皇神グループ内でも君の立場が悪くなってしまう可能性があるんだ。テロリストが使う能力と同じ力を持つ人物って言う風にね」

 

「そうですか。それに関して言えば私は失敗作ですから、名前を変える事に抵抗はありませんが」

 

「君は、自分を失敗作だと思っているのかい?」

 

「能力因子に適応出来た何て言っても、私はほんの少しだけ能力因子を受け入れられただけの存在です。恐らく、蒼き雷霆を名乗る彼と同じ量の能力因子を移植されていたら、私は下手をすればこの世には居なかったでしょう」

 

「……フェムト、少しボクの話を聞いて欲しい」

 

「紫電……?」

 

「ボクはね、過去にとある能力の移植実験に挑み、失敗してこの能力、【念動力(サイコキネシス)】を得た経歴があるんだ」

 

「とある能力の移植実験?」

 

「そう、蒼き雷霆の移植実験の事さ」

 

 

 私は目を見開いて驚愕した。

 

 今の話を聞いたのが始めてだったのもある。

 

 だけど、それ以上に私は、私自身をぶん殴りたくなった。

 

 だって、蒼き雷霆と比べるのはおこがましい程に弱い私の能力とは言え、私はそんな彼の前で何も知らずにのうのうと能力を行使していたからだ。

 

 そう、私は紫電のコンプレックスをこれまでずっと刺激し続けてきたのだから。

 

 

「……紫電、私は」

 

「フェムト、キミは失敗作なんかじゃない。キミはこれまでボク達の事を後方からずっと支えてくれた。それに、少しだけとは言えボクとは違って、蒼き雷霆の能力因子に適合した貴重な存在なんだ。だから、もうそんな失敗作だなんて理由で逃げないで欲しい」

 

「…………」

 

「キミの能力は確かに出力は低い。だけどキミのソレは、多くの人達を間接的に救っているんだ。ボク達を支えると言う形でね。そして、新たに別の可能性を切り開こうとしている。ボクですら歌姫(ディーヴァ)プロジェクトと言う妥協案でしか、時間を稼ぐ事しか出来なかったと言うのに」

 

「……私の出したあの仮説によるアイディアは、そんな歌姫プロジェクトが前提に成り立っている付け足されただけの物だよ。計画の名前だって変化している訳でもない。だから、褒められたものじゃないんだ」

 

「いや、十分に褒められる事だよ? 君には言っておくけど、あのプロジェクトは以前のままでは急場凌ぎにはなるけど、あくまで一時的な話だ。時が来れば必ず崩壊し、後に待つのは混沌に満ちた世界だろう。ボクだけではそんな世界になるはずだったけど、キミの考えるあの仮説は、何も見えない闇を照らす灯台の光なんだよ、フェムト」

 

「紫電、まだあの仮説が正しいって決まった訳じゃ」

 

「正しいさ。ボクはその仮説を信じた結果、宝剣における副作用の一つであるエゴの増大による高揚感が消えている事が体感できている。デイトナもイオタも驚いていたよ? この事を知って体感した時にね」

 

「…………」

 

「さあフェムト、もうキミの周りには失敗作扱いする人間は居ないよ? いい加減自分を認めるんだ。そうで無いと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そう、私の考えているある仮説とは、【第七波動とは能力因子と言う形で存在する群体生物である】と言う物だ。

 

 そう考えると、色々と説明が付くのだ。

 

 ヒントは電子の謡精(サイバーディーヴァ)モルフォの存在。

 

 意志を持つ第七波動と言う、世界で稀だと言われる第七波動の事だ。

 

 この存在を元に、私はこう考えた。

 

 意志を持つ第七波動とは稀にでは無く、それどころか全ての第七波動が意思を持っているのではと。

 

 そう考えると、所有者の意志によって力が増したり、能力に適応するしないの説明や、宝剣の挙動にも説明が付く。

 

 だから私は、この仮説を立証する為に紫電達にあるお願いをしていた。

 

 自身の持つ第七波動を生き物として、良き隣人として扱って見て欲しいと。

 

 私自身でそれを試した場合、私の持つ第七波動はこれまでの倍以上力を引き出せるようになった。

 

 だけど、これは私だけの話なのかもしれない。

 

 それを立証する為に紫電達にお願いをしていたのだけれど、その返事を今まで聞く機会が無かった。

 

 よって、紫電のこの言葉には私も驚き、それと同時に私の仮説が正しかったと認めることが出来た。

 

 そして、そんな私の喜びに呼応するように、私が持つ第七波動は活性化している。

 

 

「……そうだね、紫電は私に辛い過去を話してまで励まそうとしてくれた。そして、私の中の第七波動も、同じように励ましてくれている。それに、これ以上駄々をこねてたら、向こう側に居るニコラに怒られそうだ。……ありがとう、紫電。お陰で私は立ち直る事が出来そうだよ」

 

「どういたしましてと言いたい処だけど、そろそろ決めた方がいいんじゃない?」

 

「……?」

 

「君の能力の名前の事だよ。蒼き雷霆を名乗れない以上、君の持つ能力は名無しのままだ。それでは可哀そうじゃ無いか。いい加減決めてやりなよ」

 

「あぁ、そう言えばそうだった。……っと、ごめんごめん、忘れてたわけじゃ無いんだ。だからそう拗ねないでくれよ」

 

 

 私の中の第七波動が拗ねた様に活性を弱める。

 

 このままでは次の仕事に支障が出てしまうだろう。

 

 ……さて、私以上に駄々っ子な彼、或いは彼女に名前を付ける必要がある。

 

 とは言え、実は既に名前は私の中では決まっていた。

 

 それをこの子は一体化している故に把握しているのだけど、どうにも私の口からその名を呼んで欲しいと駄々をこねていた。

 

 その名前は様々な意味が込められている。

 

 理性、自由、知性を象徴する色。

 

 その名は青。

 

 人間と第七波動と言う異なる種族が入り混じる能力者としての在り方、そして一定の周期で流れの向きを変える電流でもある。

 

 その名は交流。

 

 その能力と精神は、小さく幼い。

 

 だけど、私の前に立ち塞がる無限の暗闇とも言える宇宙(先の見えない未来)を儚く照らす、宇宙の灯台(パルサー)でもある。

 

 そんな第七波動と言う種族の存在の証明は、そんな未来を照らす、希望の光。

 

 皮肉なことだが、嘗て侮蔑の意味で言われたあの名前がそのまま採用される形となった。

 

 これには私もこの存在も苦笑いだ。

 

 とは言え、こうして意味を込めて見れば、何ともいい名前ではないか。

 

 

「いいかい? 良く聞くんだ。君の名前は【青き交流(リトルパルサー)】だよ。昔言われた侮蔑の意味なんかじゃ決してない。僕が一生懸命考え、そして君が納得した名前だ。……それじゃあ改めて、青き交流。これからもよろしく頼むよ」

 

 

 今まで力を貸してくれた事に、そしてこれからも力を借りる感謝の気持ちを新たに、私の第七波動「青き交流」は、本当の意味で産声を上げたのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇この二次小説における第七波動について
この二次小説内におけるトンデモ模造設定。
第七波動には意志が存在しており、能力因子は群体生物と言う設定で存在し、「気に入った相手」に対して力を貸してくれる、新たな種族です。
逆に、これまでの能力に適合する、しないと言うのは能力因子側が拒んでいたからです。
つまり第一から第六階梯の波動と異なる波動が検知されるのは、つまり「第七波動と言う生物」が発していた波動だったからです。
だから適応者のクローンを沢山用意しても、気に入らないと拒まれるのは当然なのです。
では、宝剣はどの様な扱いになるのか?
封印しているのだから、さぞや恨んでいるのではないかと考えられますが、そうでもないのです。
理由は案外単純で、宝剣は能力因子たちにとっては安全な場所であると認識されているからです。
イメージはポケモンのモンスターボールな感じです。


〇第七波動【青き交流(リトルパルサー)】について
この二次小説における、フェムトに対するメインヒロイン。
大本は蒼き雷霆(アームドブルー)であった存在であったが、フェムトの在り方をずっと見てきた事で、その存在は大きく変質した第七波動。
こうして名前を与えられ、本格的に力を振るうことが出来る様になったけど、やはり青き雷霆と比べると出力差はどうしようも無い差がある。
そう、出力で敵わないと嘆き続け、そして可能性を追い求めたフェムトに応え、()()()そうあろうと努力した結果、もはや元の蒼き雷霆とは別の能力と化した。
例えば、他者の生体電流を操れる干渉能力であったり、様々な電気の規格に対応できる柔軟性であったり、水の中でも電気を拡散させない操縦性であったりと多種多様。
だけど、戦闘で真っ向から蒼き雷霆と衝突すると如何足掻いても勝てない。
声のイメージはグラブルのワムデュス(人型)、もしくはメイドラゴンのカンナ。


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第六話 蒼き雷霆(アームドブルー)との邂逅

 


 

 

 

 

《すまないねぇ…今宝剣を開放できるのも、現場の位置に一番近いのもフェムトだけなんだ》

 

「確かに私なら諸事情で宝剣の開放許可は常時ある様な物ですし、既に開放済みで現場からは近いですけど」

 

《今の状況を説明するよ。例の彼、【ガンヴォルト】がモルフォとシアンの乗っている列車の最後尾に乗り移っているを確認したって報告が入ったんだ。今はまだ無人戦車【マンティス】を三機ほど向かわせたから暫くは足止め出来ると思うけど》

 

「蒼き雷霆が相手では、それが限界ですよね…。一つ言っておきますけど、今私が()()()()()()()()()()()()、試作品である以上一瞬で蹴散らされる事も十分にあり得ますよ?」

 

《出来る範囲で構わないさ。元々君の第七波動は戦闘にはどうしても不向きだからね。まあ、その欠点を補う為の君専用の戦車なんだけどね。……正直、今彼女達を失うのは不味い。彼は電子の謡精(サイバーディーヴァ)の抹殺ミッションを受けているみたいだからね。彼がまだどんな人物なのか把握出来ないし、運良くお人よしであるだなんて都合のいい保証なんて何所にも無い以上、最悪の事態は回避したい》

 

「皆の宝剣開放許可、間に合いますか?」

 

《君の頑張り次第さ。…気を付けるんだよ? 君に倒れられると部隊が回らなくなってしまうし、未来も閉ざされてしまう。「まだ行ける」と思ったら、素直に戻るんだ。いいね?》

 

「……分かったよ、紫電。やれるだけはやってみます」

 

《ありがとう、フェムト。……それじゃあ、ボクからの緊急ミッション、宜しく頼むよ。この埋め合わせは小切手を用意しておくから。それと、ナビゲートもボクがやるよ。開放許可が降りないと動けないけど、この位なら出来るからね》

 

「了解だよ、紫電。それじゃあまた連絡するから」

 

 

 一体どうしてこうなってしまったのか……。

 

 少し時間を巻き戻すが、私は皇神グループのロボット兵器開発部門の人達にお願いして、マンティスの技術をベースに小型簡略化し、機動力と正面装甲に特化して作られた試作型有人戦車【リトルマンティス】の試運転を行っていた。

 

 丁度その頃、フェザーの電子の謡精抹殺ミッションを実行しようとしていたテロリストが、此方の流した偽情報に引っかかり、皇神第一ビルにて尋問を受けていたらしい。

 

 だけど、情報を引き出された上に脱走を許し、そのままシアン達が護送されている列車に乗り込まれ、今に至る。

 

 

「……共に行こう、青き交流よ(リトルパルサー)。私達の今出来る最善を!」

 

 

 


 

STRIKE

 


 

 

 

 私は開発部門の人達に即座に今までの稼働データを転送しながら事情を説明し、直ちに現場に向かった。

 

 このリトルマンティスの利点は、小型高機動なお陰で従来のマンティスよりも現場までの道のりや戦闘の場所を選ばない所にある。

 

 つまりこの機体のコンセプトは、対能力者を想定した物だ。

 

 生半可な攻撃は正面装甲で防ぎ、装甲を貫く程の攻撃は機動力で対処。

 

 武装は既存の皇神兵の手持ちの武装から、無人戦車が扱っている高火力装備までの広い範囲で運用することが出来る。

 

 これは無人戦車と共通のウェポンラックに加え、本来マシンガンになっている両腕の部分をマニピュレーターに換装できるようにした事で実現。

 

 その代わり、積み込める武装は少なく、信頼性の高い実弾兵装は余り積み込めず、エネルギー系統の武装がメインで、マンティスから流用した自前の動力源だけでは不足しがちなのが欠点だ。

 

 ただし、その欠点は自前で積み込まれている動力源を青き交流の能力と同調させ、増幅する事、そしてその際に発生した余剰エネルギーを保持するコンデンサを積む事で解消している。

 

 今の武装は両腕に皇神兵が装備している標準的なエネルギー弾を発射する銃と、火炎放射器。

 

 そして両肩に私の能力を利用した試作型の生体電流探知による誘導レーザーを二門搭載している。

 

 そんな状態のリトルマンティスで、私は一刻も早く現場へと急いだ。

 

 そして、もう少しで現場に差し掛かろうとしたその時、モルフォの歌によるソナーを解析した簡易的なレーダーが反応し、アラートが点灯。

 

 即座に進路を変更したと同時に、レールガンらしき物による着弾の音と衝撃が響き渡る。

 

 これは恐らく、ガンヴォルトの仲間であるフェザーのテロリスト達の仕業だろう。

 

 それと同時に、爆発音が二つ発生し、先行していたマンティス二機の反応も消失した。

 

 

「紫電! 今フェザーと思われるテロリストからレールガンによる妨害を受けてる! このままじゃ現場に到着する所か返り討ちに合いかねないよ! 先行してたマンティスも二機やられてる!」

 

《狙撃ポイントは把握しているかい?》

 

「勿論! データはもう贈ったから、何とか狙撃による妨害を止めて欲しい!」

 

《分かったよ、フェムト。…………そろそろ狙撃が止むと思う。その隙を突いて早く現場に向かうんだ》

 

「……狙撃が止んだのを確認! ありがとう、紫電」

 

 

 こうして私は現場に向かったのだけれど、シアン達の居る車両の近くには、破壊されたマンティスの残骸が転がり、ガンヴォルトに確保されてお姫様抱っこされたシアンの姿があった。

 

 遅かったと思うと同時に、シアンが無事で良かったと言う何とも複雑な気持ちで、私とガンヴォルトは対峙する。

 

 向こうとしても私の存在は予想外だったらしく、シアンを一度降ろし、その背に庇う様に立ちふさがった。

 

 

「紫電、現場には到着したけど、シアンは既にガンヴォルトに確保されてる。だけど、危害を加えてはいないみたいだ。それ所か、護ろうとしてる」

 

《彼はどうやらテロリストらしからぬ相当なお人よしみたいだね。まあ、そのお陰で最悪の事態は回避できたけど》

 

「ホントだよ。シアンが殺されなくて、本当に良かった。けど、どうしよう? 正直このまま戦闘に入ると、シアンを巻き込みかねないよ」

 

《確保されてしまった時点で、ボク達の負けだよ。誠に遺憾だけど、このまま逃がすしか無い。不幸中の幸いと言えるけど、歌姫(ディーヴァ)プロジェクトにおける、彼女が居なきゃ出来ない必要な研究はもう終わって、後は最終調整だけだ。これも、君の日頃の頑張りのお陰だよ》

 

「だけど、シアンが居なきゃ肝心の計画は実行出来ないでしょう?」

 

《その通りだけど……まあ、これも外に出るいい機会さ。しばしの自由を満喫してもらおう。君だって、彼女に不自由を強いているのを気に病んでいただろう?》

 

「だけど、それじゃあ紫電が……」

 

《それに、今回の不手際はあの()()()()()()()()()()()()()の責任だからね。ボクの本当の目的を考えれば、結果としてはマイナスでは無いのさ。これに関しては君も大歓迎だろう? 本人は隠してるつもりみたいだけどあの人、君の事を()()()()()()狙ってたんだからさ》

 

「……分かった。ちょっと拍子抜けだったけど、撤退するよ」

 

 

 私は通信を終えた後、そのままガンヴォルトを改めて正面から観察する。

 

 蒼き雷霆の雷撃にも対応した専用の青い防護服。

 

 金色の長い三つ編みに、あの時の目の曇りなど嘘のように何処までも真っすぐで、綺麗で強い意志が込められた青い瞳。

 

 その様子から、テロリストに言うのは間違っているかもしれないけれど、いい人に拾ってもらったらしい。

 

 そんな彼は私の乗るリトルマンティスに対して警戒しながら、身動きが取れない状態にある様だ。

 

 それが理由なのか、彼は臨戦態勢に入るかのように雷撃を身に纏い、周囲に羽を舞い散らせる。

 

 私はその事に驚き、思わず彼に対して外部音声で思わず話しかけた。

 

 …まあ、周囲には誰も居ないのだから、少しくらいは大丈夫だろう。

 

 

『君の雷撃は自分の意志で展開するとそんな風に羽が舞い散るんだね。とても綺麗で驚いたよ』

 

「……っ! この無人戦車、中に人が居るのか!」

 

「その声、フェムト?」

 

「シアン? 知り合いなのか?」

 

「うん。私に色々と良くしてくれた人なの」

 

『……私は一応宝剣持ちの能力者だけど、戦闘要員じゃないからね。シアンとの面識もそこそこあるんですよ、ガンヴォルト』

 

「…………」

 

『そう警戒しないで下さい……と言うのは私の我儘なんだろうね。個人的には君とは二人きりで話をしたかったけど……』

 

 

 そうガンヴォルトに話した途端、なにやらシアンの目つきが変化した。

 

 なんだろう、今のシアンの視線はどうにも、冷たい感じがする。

 

 何と言うか…うーん、言葉が出てこない。

 

 ただ、これ以上脱線した話を続けるのは宜しくない雰囲気が放たれているのは確かだ。

 

 一先ず、早く要件を話そう。

 

 

『単刀直入に言うけど、私は君を見逃そうと思う』

 

「……どう言うつもりだ?」

 

『簡単な事だよ、ガンヴォルト。皇神はあなたを高く評価していてね。Sランク越えを相手じゃあ戦闘要員でもない私ではとても太刀打ち出来ないんだ。それに、戦闘の余波でシアンに何かあってはこちらも困るし。勝負はもう、君がシアンを確保した時点で決しているからね。見逃した方が被害が少ないからそうしてるってだけなんだ。だから今の内に行って欲しい。私は見逃すつもりだけど、後から来る皇神兵達はそうはいかないから』

 

 

 そうして一通り話をした後、私はハッチを開放し、姿を現す。

 

 そんな私の姿を見て、ガンヴォルトは少し驚いているみたいだ。

 

 まあ、私の見た目と声はどうにも少女じみているから、驚いているのだろう。

 

 身長もシアンと同じくらいだし、向こうから見れば、場違いな少女が出てきたと思っても不思議ではあるまい。

 

 それに、こうしてハッチを開けたのは、シアンを助け出す程のお人よしならば通用すると踏んで彼の良心を信じ、私が無害だとアピールする為だ。

 

 これできっと、彼は信用してくれる筈だ。

 

 ……シアンからの視線がますます冷たくなっている気がする。

 

 早く続きを話そう。

 

 

「何のつもりだ?」

 

「何って…無害アピールだよ。見逃すから早く行けって言うね。……正直、こうしているのはちょっと怖いから早く行って欲しい。こっちは戦闘訓練とか最低限しかしてないんだから」

 

「シアン」

 

「フェムトの事は、信じても大丈夫。少なくとも、嘘はついてない」

 

「……分かった。行こうシアン。しっかり掴まってて」

 

「うん」

 

 

 そうしてガンヴォルトはシアンを再びお姫様抱っこで抱え、この場を去った。

 

 蒼き雷撃を身に纏いながら、稲光の如く。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 …………あぁぁぁぁ~~~~!!!!

 

 正直物凄く怖かった!!

 

 何あれ?

 

 あの時計測したデータすらぶっちぎってる癖に何であんなに出力安定してるの!?

 

 私の可愛いリトル(青き交流)も怯えちゃうくらい縮こまっちゃってるし!

 

 いやホント、戦闘にならなくて良かったよ。

 

 …だけど、勇気を出して対峙した価値はあったかな。

 

 少なくとも、同じ研究で生まれた同胞が無事なのを確認出来た。

 

 それに……。

 

 

「それでいい。…今回は私達の負けだよ。暫くは君にシアンを預ける。後で必ず取り戻すから、ちゃんとしっかり守るんだよ」

 

 

 今は違うけれど、もしかしたら何時か進んでいる道が一緒になる日が来るのかもしれない。

 

 そう、私は思う事が出来たのだから。

 

 こうして一先ず最低限の任務を達成し、私は紫電に連絡を入れる。

 

 

「紫電、聞こえる?」

 

《聞こえるよ、フェムト。彼はもう行ったかい?》

 

「うん。ちょっと送り出すのに手間取ったけど、特に被害も無くね。まあ、あくまで私が無傷って意味なだけだけど。マンティスは全滅してるし、死亡も含めた怪我人が多いのも事実だし」

 

《うん、それは良かった。丁度今開放許可が降りたタイミングだったんだ。でも、もう居ないんじゃあ仕方がないよね?》

 

「うん、仕方がない」

 

《それじゃあ任務お疲れ様、フェムト。後はボク達が処理をするから、君は戻って……》

 

 

 戻ってくれと、紫電が言いかけたその時、今私が居る位置から南で、大規模な爆発が発生。

 

 そんな突然の事態に、僕も紫電も驚きを隠せなかった。

 

 ……あの位置、確か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったような……。

 

 

「紫電」

 

《分かってるよ。……全く、だから彼女の力を無理に研究するのを、僕は反対したんだけどね》

 

「もう情報は入ってるの?」

 

《うん。あの位置は君も分かってると思うけど、最近メラクが連れてきた女の人、そう確か……【エリーゼ】だったかな。彼女が連れて行かれた地下施設があるんだ》

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。







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第七話 生命輪廻(アンリミテッドアニムス)との運命の出会い

 


 

 

 

 

「やっぱりですか……」

 

《まあ不幸中の幸い、さっきの一幕で宝剣の開放許可は下りてるのは継続してるから、今度は僕()一緒に現場に向かえるよ》

 

「……私も行かなきゃダメなんですか?」

 

《そうだね。出来れば一緒に急行して欲しい。彼女の持つ力はボクでも厄介だから、キミの()()があると、とても助かる》

 

 

 そういう訳で、私はあの爆発のあった現場へと足を運んだ。

 

 そこで待っていた物は、散乱した瓦礫に加え、地下への入り口らしき物から這い出てくるゾンビとしか形容できないナニカであった。

 

 そのナニカを私が発見したと同時に、宝剣を開放した紫電がその場に姿を現す。

 

 その姿は、私から見て左が黒く右が白いアーマーを纏った姿。

 

 彼の正も負も飲み込み、それでも今出来る事の最善を尽くそうとする意志が具現化したような、そんな姿をしていた。

 

 

「おまたせ、フェムト」

 

『待って無いよ。私も丁度ここに来た所なんだ。それよりも……』

 

「ああ、予想以上に酷い有様だ。ここは一応皇神が管理している倉庫という事になっているから、表向きの被害はそこまででもないけれど」

 

『ここに居た研究員達の被害は甚大だと思うよ。でも、あの女の人の能力【生命輪廻(アンリミテッドアニムス)】を目当てに、欲望のままに好き勝手した報いでもあるけどね』

 

「そうだね。……まあ、今は被害を抑える事に専念しよう。数はそこそこ居るみたいだから、フェムトは左側を頼むよ。ボクは右側を殲滅するから」

 

『了解だよ、紫電』

 

 

 せめて、研究員達の中にニコラの様な人が一人でもいてくれたら……いや、それは無理な話だ。

 

 だって、私ですらこの能力を知った時、ニコラの事を生き返して貰おうって考えが何度も過ってしまったのだから。

 

 そもそも、今の彼女ではその生き返すと言う効果は本人以外には適応されない。

 

 それ以外の人達は今の所例外なくゾンビと化してしまう。

 

 だからこそ、私はそんな誘惑に抗うことが出来たのだ。

 

 だけど、もし彼女が完璧に能力を使いこなせるようになったのだとしたら……多分、私は抗えないし、紫電も利用しようとするだろう。

 

 そんな風に考えていると、リトル(青き交流)から叱咤の意志が流れてきた。

 

 ……今は目の前の戦闘に集中しなければならない。

 

 そもそもこいつ(リトルマンティス)は試作型でも、相応の殺傷能力を持ち合わせている武装を持っている。

 

 今にして考えれば、相手がゾンビである事に安堵するべきなのかもしれない。

 

 何故ならば、そもそも生きた人間に対してトリガーを引いた事すらないのだから。

 

 それに、生き返った影響で誘導レーザーにおける生体電流誘導が通るので、持ちうる火力を全て発揮出来るのも悪くないし、実戦データも持ち帰れるのも好都合だろうと言う思考で自身の怯える心を奮い立たせ、前を見据える。

 

 そうして、私の本当の初陣、ゾンビ達の掃討が紫電と協力する形で始まった。

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 私は全武装のウェポンロックを解除し、私がモニターに捉えているゾンビ全てをロックオン。

 

 しかる後、前進しながら近くのゾンビを火炎放射で焼き払い、離れた位置に居るゾンビをエネルギー砲で正確に打ち抜く。

 

 それと同時に、まだ残っているゾンビ達に対し、二門の誘導レーザーが火を噴いた。

 

 そのレーザーは想定された従来のスペックを大きく超えた規模で放たれ、狙ったゾンビまでの通り道に居たゾンビも纏めて薙ぎ払われた。

 

 その威力は今得られたデータから、マンティスの装備している高出力輻射(こうしゅつりょくふくしゃ)式増幅光砲(しきぞうふくこうほう)に匹敵する数字を叩き出しており、これには私も思わず目を見張る。

 

 これは恐らく、リトルの力で従来の出力が増幅されたのが理由なのだろう。

 

 そして、この攻撃が決め手となり、私が担当したゾンビの群れは蹴散らされた。

 

 

(周囲の敵性反応は無し。よし、予想以上に早く片付ける事が出来た。……心配はしてないけど、紫電の方はどうなって……)

 

「そっちも終わったみたいだね。こっちも丁度終わった所さ」

 

『……流石だね、紫電』

 

 

 こっちは一応完全武装してる筈なのに……

 

 こうして見ると、やはり紫電もガンヴォルトと同様に規格外の能力者だって言うのが良く分かる。

 

 彼の持つ能力は分かりやすく単純であるが、その分応用も効きやすく使い勝手がいい。

 

 それに最近では自身の能力である念動力とも仲が良く、良い関係を築けている事で更に能力の出力が増しており、皇神の上層部は三本目のサブ宝剣をと言う話まで出ているのだ。

 

 正直な話、彼の能力を研究すればもっと出来る事も増えるのではと思うし、物体に干渉出来るって事は、理論上電子なんかにも干渉出来ると思うから突き詰めれば蒼き雷霆みたいに電気を操る事だって出来そうだし……。

 

 まあ、操作に必要な演算能力が人の持つ脳だけでは足りないから現実的では無いのだろう。

 

 ただ、この演算能力に関して言えば後付けする方法が確立しつつある。

 

 そう、私の持つ試作型の宝剣によって。

 

 この試作型の宝剣には名前は無いし、それ所か剣の形ですら無い。

 

 宝剣担当の研究者が言うには、取り合えず第七波動を封印できる器があればそれは宝剣なのだとか。

 

 そう考えると、私達能力者自身も宝剣と捉える事が出来るという事に……?

 

 そんな風に、何処か引っ掛かりを感じつつ紫電との会話は続く。

 

 

「これも君のお陰さ。能力が生き物であると発見してくれたお陰で、ボクは更なる高みへと至る事が出来たんだから。それに、彼、あるいは彼女(念動力)は結構好奇心旺盛でね、ついつい話が弾んで、気持ち的にも癒しになってくれて助かっているんだ」

 

『あぁ、それ分かるよ紫電。うちの子も同じように好奇心旺盛でさ、情報処理の際の余ったリソースでインターネットサーフィンしてて、一仕事終わった後でその事を話しの種にしてくれるんだよね。その様子が何とも一生懸命な雰囲気が伝わってくるから、カワイイんだよね』

 

「ふふ……。君はすっかり親馬鹿…じゃ無かったね。そう、第七波動(セブンス)馬鹿になりつつあるね」

 

『それは紫電もだろう?』

 

 

 そんな風に話しながら発生源である地下施設の入り口まで向かっていたら、()()()()()を発見した。

 

 一人目は何処かおどおどして怯えており、何とも場違いな雰囲気をした女の人。

 

 二人目は自信に満ち溢れており、何処か高圧的で我儘な雰囲気のある女の人。

 

 三人目は理性の欠片等、どこにも感じさせないような狂った蛇の様な表情をした女の人。

 

 そして何より、三人の姿形がまるで三つ子の様に同じなのが異常であった。

 

 そもそも、エリーゼには姉妹なんて居ない筈であり、怯えている女の人だけがエリーゼの筈なのだ。

 

 そして、あの強気の女の人は、メラクの情報にも出てきた別人格の情報と酷似している。

 

 だとすると、生命輪廻の能力による何らかの作用が働き、彼女達はここに居るのだろう。

 

 そんな三人が、宝剣を開放した状態でこちらを捕捉していた。

 

 そして、その三人に対して紫電は降伏勧告を当たり前のように優しく行う。

 

 

「やぁ。さっきのゾンビを作ったのは君達だね?」

 

「え、えっと……」

 

「キシャシャシャシャ!!」

 

「エリーゼ1、アンタは引っ込んでそいつを抑えてな。……だとしたら如何するんだい、坊や?」

 

出来ればこのまま武装解除してくれると嬉しいんだけど、そんな気配は無いか。……そうだね、力ずくでも止めようかなって思ってる。悪いけどこっちも仕事なんでね。見逃す訳にはいかないのさ」

 

「は! そんな脅しでアタシは止められやしないさ! アタシ達の生命輪廻の力で、全ての生物をゾンビにしてやる!」

 

『分かってはいたけど交渉決裂だね、紫電』

 

「ああ、分かってはいたけどね…。さて、この様子だとやっぱりフェムトの()()が必要みたいだ」

 

「……アレ、あんまり使いたくないんだよね」

 

「まあ、アレを使うその前に、あの三人をギリギリまで追いつめる必要があるから、その過程で降伏してくれる事を祈ろう」

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 その紫電の言葉と共に、エリーゼを名乗る女の人達との戦いが始まり、自然と私が弱気のエリーゼを、そして紫電が強気のエリーゼと狂ったエリーゼを相手にする事となった。

 

 ……とは言え、こんな事を思ってはいけないのだと思うけど、正直あまり気が進まない。

 

 能力持ちなのは間違いないし、実際その能力は厄介なのは事実だ。

 

 だけど……。

 

 今回の場合、相性と言うのだろうか?

 

 彼女の攻撃の大半は正面装甲で受けれれるし、そもそも攻撃その物がデイトナやイオタと比べると明らかに甘いので、私でもある程度は避けられる。

 

 いや、彼女が投げたクナイが蛇に変わって襲い掛かって来るのも、腕が鞭になって装甲を傷つけたのも驚いた。

 

 けど、それが致命的かと聞かれると……うん。

 

 それに彼女の攻撃手段は、既にメラクからの情報で把握しているのだ。

 

 つまり、今正に放とうとしている石化光線に対しても…

 

 

「えぇ!? どうして効かないんですか!?」

 

『そりゃあ物理的に光線を遮断してるんだから効くわけないでしょう? まあ、念のため目は瞑りましたけど。センサーを経由するかどうかはまだ不明ですし

 

「うぅ……」

 

『…悪い事は言いません。今すぐ降伏して下さい。貴女の攻撃は私には通用しない。それに……向こうを見れば、その理由も分かると思う』

 

「え? ……っ!」

 

 

 気弱なエリーゼの視線の先では、既に紫電に追いつめられていた強気なエリーゼと狂ったエリーゼの姿があった。

 

 それに動揺し、明らかに狼狽する弱気なエリーゼ。

 

 紫電は明らかに余裕を持って二人を追いつめている。

 

 だからこそ蘇生の力を持って何度でも立ち上がっても無駄なのだと弱気なエリーゼには知って欲しかった。

 

 そうして紫電は二人を追いつめ、その動きを念動力を用いて止める。

 

 

「ふぅ……思ったよりも手間取ったね。そっちの子は……必要無いみたいだね。じゃあフェムト、お願い出来るかな?」

 

『正直あまり気は進まないけど……』

 

 

 そう言いつつ、私はマニピュレータにあった両腕の装備をその場に置き、拘束された彼女達へと近づき、マニピュレータで二人を優しく握る。

 

 その後、彼女達の生体電流に干渉し、一部生命に関する機能を除いた全ての機能を停止させた。

 

 この方法は手足を動かすのに必要な生体電流が必要な部位に届くのを干渉し、停止させる事で実現しており、その気になれば肺や心臓等に送る生体電流も意図的に停止させる事が出来る。

 

 つまりこれは生体電流マッサージや治癒をさらに発展させたような物なのだ。

 

 多分その気になれば生体電流経由で脳に干渉して洗脳なんて事も出来るはず。

 

 まあ、これを試すなんて余程の事が無い限りしたくは無いのだけれど。

 

 ただしこれを使うには他者と直接的、或いは間接的に繋がるように接触する必要がある。

 

 例えば今回の様に、リトルマンティスを経由してこの二人のエリーゼに干渉している。

 

 しかも、リトルマンティスの動力炉から得た電気出力も上乗せする形で。

 

 それがもしこのリトルマンティスが、リモコン操作で直接乗り込む形では無かったら、この様な事は不可能なのだ。

 

 

「うんうん、やっぱり役に立ってくれたね、フェムト。この手の再生する相手は無力化して捕獲するのが人道的な意味も含めて正しいやり方だからね」

 

『そりゃあ確かにそうだけど……私は基本表に出ないから、余り活用は出来ないよ』

 

「だけど、それを活用させようとこの技術を元に対犯罪者用捕縛弾頭(クリミナルスナッチャー)なんて作っているんだろう? しかも、一部で試験運用が開始されているだとかって聞いてるし、評判もいいみたいだけど」

 

『私の()()に比べれば性能は落ちてるから永続しないし、効果時間もあまり長くは無いけどね』

 

「そこが評判のいい理由なんじゃないのかな? 君の能力の場合は解除する際も同じ事をしなきゃいけないし、そして何よりも、()()()()()()()()()()()()()。能力発動の原理が解明されたお陰で、それを盛り込んだ能力発動の阻害も出来ているみたいだしね」

 

 

 とは言え、アレも完璧かと言われると微妙な所と言わざるを得ない。

 

 先ず、変身現象(アームドフェノメン)した能力者には通らないし、恐らくだけど私と同じ雷撃系能力者にも通らない。

 

 実際に私もこの弾頭の被験者になって効かなかったんだから、そこは間違い無い筈だ。

 

 それに、ある程度の強度のある防護服辺り、具体的には皇神兵の標準装備で容易く防げる為、直接的な戦闘で役に立つかは微妙な所だと私は思う。

 

 まだまだあの特殊弾頭は仕様の穴が多そうだけど、あれはあくまで犯罪者捕縛用なので、これで良いのかもしれないが。

 

 まあ取り合えず、弱気なエリーゼもこの様子を見て投降してくれたからこれで任務は完了だ。

 

 後は今日の戦闘等で得られた稼働データをロボット兵器開発部門の人達に渡すだけ。

 

 ……思えば今日は、本当に長い一日だったなぁ。

 

 エリーゼは多分今回の件で紫電の管轄下に戻るのは間違いないし、明日からは色々な意味で忙しくなりそうだ。

 

 

「それじゃあ任務お疲れ様、フェムト。後の事はボクに任せて君は戻ってくれ。明日からは多分、忙しくなりそうだからね」

 

『了解だよ紫電。エリーゼ達の事、よろしく頼むよ』

 

「大丈夫さ。今度こそ、彼女達を好き勝手させるつもりは無いから。……そういう訳だから、もう安心していいからね?」

 

「は、はい! お手数をお掛けします……」

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 こうして私はロボット兵器開発部門の人達にデータの提出とリトルマンティスの返却を行い、自分の部屋に戻り、その部屋にあった鏡で、今の私の姿を改めて眺めた。

 

 その姿は私の見た目と願望を反映したのが理由なのだろう。

 

 アーマー何て言う物は無く、何故か女性物らしきの服装(巫女服)を身に纏い、その上に白衣と言う何とも言えない姿であった。

 

 それでいて従来の防護服よりもずっと頑丈に出来ているし、機能面も衛生的だったり、パワーアシストだったり、普段着みたいに脱げたりするのでとても便利なのだ。

 

 その上宝剣開放許可も事実上制限が無い為、最近ではこれがもう普段着になりつつある。

 

 実際便利なんだから仕方がないし、何よりもリトルがなるべく普段こうしていて欲しいと強請るのが理由なのだけれど。

 

 とは言え、流石にお風呂に入る時や寝る時はどうしようもない。

 

 そういう訳で、今から私はお風呂に入るので変身現象を解除し、リトルを元の宝剣の姿へと戻す。

 

 そして私は、宝剣の姿となったリトルに対して何時もの様に()()()()()

 

 

「じゃあ私はお風呂に入るから、一緒に入ろうか」

 

「うん。はやくいっしょにおふろはいろう(早く一緒にお風呂入ろう)

 

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()として話しかけてくるリトル(青き交流)に対して。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇第七波動【青き交流(リトルパルサー)】を封印する宝剣ついて
ペンダント型の宝剣や生きた宝剣があるって言うんだから、ヒューマノイド型の宝剣もあってもいいよね! と言う理由で出来た模造設定によって誕生した宝剣。
少女型なのはリトル本人の性別の申告もあるけれど、それ以上に宝剣開発部門が別部門の人達を巻き込んで頑張り過ぎた結果、こうなった。






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第八話 蒼き雷霆(アームドブルー)との会話、前哨戦



サイドストーリー





「こちらGV。フェザーへ、任務完了しました」

 今日の仕事を終えて帰宅した僕は、依頼人に任務完了の報告を入れる。

 あの出来事から半年、私設武装組織(レジスタンスグループ)フェザーを辞めてフリーの傭兵と言う名の何でも屋のような事をするようになった。

 最初の頃は戸惑いも苦労する事もあったけど、今のこの生活にもそれなりに板に付いて来たと言う実感を持ちつつある。

 そのお陰か、たった半年ではあるけれどこの隠れ家にも愛着が出来ており、ここがボクの新たな居場所であると言う感覚すら感じていた。

《お疲れ様、GV。今日も大変だったわね。……ねぇ、GV? 結局の所、貴方が受ける依頼って殆どうち(フェザー)からの物なんだし…また戻って来る気は無いの?》

「フェザーからの依頼は実入りがいいから受けているだけですよ。あの時、アシモフが言っていた通りです。そこ(フェザー)にシアンの居場所は無い。彼女には、()()が必要だと思うんです。ボクにとっての【アシモフ】や【モニカ】さんに【ジーノ】達がそうだった様に。だから、今は彼女に付いていてあげたいと思うんです」

《……はぁ、分かったわ。ごちそうさま。シアンちゃんによろしくね》

「ごちそうさまって……別にそういう訳じゃ」

《まあそれは置いといて……真面目な話に戻すわよ。GV、分かってると思うけど最近皇神兵の装備が変化しつつある事、気が付いているわよね?》


 そう、この半年の間に皇神兵の装備に様々な変化が起きており、その間フェザーは徐々にではあるけれど劣勢に立たされる事が増え、ボク以外のミッション達成率も緩やかに減少傾向にある。

 例えば、火炎放射器を持つ皇神兵。

 明らかに放出される炎の強さと射程が増しており、間合いが取りにくくなっている。

 そして何よりも特徴的で衝撃的だったのが、その火炎放射器から第七波動(セブンス)反応を検知した事であった。

 そして、これ等は他の皇神兵にも同じ事が言え、エネルギー砲の射程が伸びていたり、投擲の射程が伸びていたりと、明らかに皇神兵は第七波動を戦力として利用し、力を付けている。

 ただ、まだそういった装備が行き渡っておらず、数が少ないのが救いと言えば救いなのだけれど。

 しかし、時間の経過につれて増えつつあるのはボクも肌で感じている為、楽観的にはなれない。

 しかも最近、同じ第七波動を運用する規格化された皇神兵まで出てきた話もある。

 その戦力は突発的にその部隊と衝突したフェザー隊員達が、ミッションの達成よりも撤退を余儀なくされる程であったのだと言う。


《GV、貴方ならこの位どうって事は無いと思うけど……万が一何かあったらシアンちゃんが悲しむから……だから気を付けてね》

「了解です、モニカさん」


 モニカさんとの通信が途切れ、ボクは彼女の忠告を心に留めながら隠れ家の扉を開き、シアンの元へと向かう。


「あ、おかえりなさい、GV。お仕事お疲れ様。はい、これどうぞ」

「これは……コーヒー?」

「うん。ネットで調べて入れて見たんだけど……どうかな? 一応味見もしてみたんだけど」


 コーヒーその物の原液は濃かったけど、それをミルクと砂糖を入れて補っている為、温かくて少し甘い、疲れも取れる何処かホッとする気持ちになる味であった。

 シアンはこう言った事は詳しく無いと思っていたけど、どうやらまだ向こう(皇神)に居た頃に、ネット検索等のやり方を教えてもらっていたのだそうだ。

 そう、あの時僕とシアンを見逃してくれた皇神の能力者、フェムトによって。

 そのお陰でボクはこうしてシアンからコーヒーを頂く事が出来たと考えれば感謝するべきなのかもしれないが、その事を嬉しそうに話すシアンを見ていると、何やらモヤモヤした気持ちになってしまう。

 この感情が一体何なのかが言葉には出来ないのが、どうにももどかしい。


「……本当は、わたしももっと色々な事が出来たらいいなって思ってるんだけど……」

「シアンは十分にボクの力になってくれているさ。……それに、ボクがミッションを行っている時、調子がいいとモルフォの歌が聞こえてくることがある。そんな時は、必ずボクはシアンの所へ戻るんだって決意する事が出来るんだ」

「GV……」


 こうした他愛の無いシアンとの会話は、ボクの戦いで疲れた心を癒してくれる。

 そんな風に思いながら話を進めている内に、突然モルフォが現れる。

 モルフォはシアンの第七波動、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の化身で、こうして勝手に出てくる事が良くあるのだ。

 そんな彼女はシアンの分身の様な物なのだけれど、明るくて自由奔放なモルフォと大人しく、しっかりしているシアンの二人の関係は、仲の良い姉妹を思わせる。


『フフ……アタシ達はいつもGVの事を想っているから……。それが貴方に伝わっているのよ。後、どうにもフェムトが言うには雷を操る能力とアタシ達の力の相性って物凄くいいみたいなの。まるで相思相愛みたいにね』

「そ、相思相愛って……。もうっ! あんまり恥ずかしい事言わないで引っ込んでてよ!」

『はいはい…じゃあまた……っ! GV!!』

「モルフォ? ……GV! 大変だよ!!」

「どうしたの? シアン、モルフォ?」


 ボクがそう尋ねようとした時、扉から呼び鈴が鳴った。

 ……二人のこの反応、もしかしてこの場所が皇神にバレたのか?

 その可能性を考慮に入れつつ、ボクは装備を確認しつつ扉に付いたモニターを経由して鳴らした人が誰なのかを確認する。

 その画面に映っていた人物、それはあの時の見慣れない戦車に乗っていた人物であり、ボク達の事を見逃してくれた()()

 その少年の名前はフェムト。

 ボクの蒼き雷霆(アームドブルー)と似た能力を持つ、電流を操る能力者の姿があった。

 その姿を見てボクは、この生活が終わってしまうのではないかと言う危機感による動揺を胸に仕舞い、何が起きてもいい様に気を引き締め、扉を開けた。






 

 

 

 

 良かった。

 

 あの時あった頃の彼ならば扉越しの不意打ちなんてしないと信じていたので、こうして堂々とお邪魔する事にしたのだけれど、上手くいったみたいだ。

 

 一先ず、第一関門は突破出来た。

 

 実はシアンの行方は三ヵ月位で把握する事が出来ていたんだけど、その時のシアンの状態を知り、私は頭を抱える事となったのだ。

 

 そう、彼女は学校に通っていた。

 

 それもご丁寧に何重にも偽装情報を気が付かれない様に重ねる事で。

 

 しかも、あのガンヴォルトも一緒にだ。

 

 学年は流石に違うみたいだけど、そんな事は如何でも良かった。

 

 何しろ、ここまで巧妙だと下手に手が出せないのだ。

 

 シアンは最終的に、歌姫(ディーヴァ)プロジェクトが終わり次第学校に通える位の自由を与えるつもりであったのだから。

 

 それなのに、私達の勝手な都合で無理矢理連れ出してしまったら、彼女の経歴に傷がつくのは避けられず、その後に学校生活が送れるようになっても、後ろめたい事を噂されるのは避けられない。

 

 そして、その噂が原因で彼女が狙われたら目も当てられないのだ。

 

 それを何とか出来る様に、歌姫プロジェクトの調整を週に一度程度に収められるように四苦八苦する事になったけど、そのお陰で冗長(じょうちょう)性が飛躍的に向上したので、悪い事ばかりでは無かったのが不幸中の幸いであったのだけれど。

 

 そういう訳であの計画は、紫電の原案ではシアンが居ないと成り立たない物であったのだが、第七波動の正体が判明した今、彼女の持つ能力因子の一部だけでも十分に出来る様になっているのだ。

 

 それに、洗脳して戦力と言う案も変更されて、従来のソナー機能に加えて能力封印のみに変更されている。

 

 これは戦力確保の手段が別に確立しつつあったからだ。

 

 そう、()()()使()()()()()と言う可能性に行きついた事で。

 

 つまり、第七波動達を本格的に実用可能な軍事転用と、戦力の規格統一が出来る可能性が出てきたのだ。

 

 その原理は能力因子が込められた宝剣に生体承認機能を持たせ、それに該当した人に力を貸すと言う形で変身現象(アームドフェノメン)を介さずに運用すると言う物。

 

 その試作タイプとして、専用の小さな宝剣を従来の装備に埋め込む事で強化すると言う形で進んでいる。

 

 例えば、火炎放射器に爆炎(エクスプロージョン)の能力因子の一部が込められた小さな宝剣を仕込んで効果を引き上げたり、エネルギー砲に青き交流(リトルパルサー)を同様の方法で仕込んだりと様々だ。

 

 そうなると当然問題になるのが、彼らに対してこの様な扱いをしてもいいのかと言う疑問が発生する事だ。

 

 その問題について彼らに直接訪ねてみた所、どう言う形であれ増える事が出来るのなら歓迎すると言う回答をリトル経由で皇神に所属している第七波動達から聞く事が出来た。

 

 これは恐らく、産めよ増やせよと言う生物的本能が理由だろう。

 

 彼らの本体である能力因子その物の培養は既に確立された方法である為、群体生物である彼らからすれば、何もせずとも安全に増えることが出来る為、結果として私達皇神と第七波動達からすれば両得なのだ。

 

 そしてこの事は、当然私達人間だけでは無く、私達が所属している第七波動達全員も含めて話し合われて決めた事だ。

 

 先ず話を聞いてもらうには相応の力を付ける必要と、彼らが人間と言う種族その物に敵意は無いという事を知ってもらう必要がある。

 

 力を付ける為に誰でも使える宝剣を、そして敵意が無い事を知ってもらう為に歌姫プロジェクトを通す事で。

 

 元より彼らは人間を傷付けたい訳では無く、ただ生きたいだけなのだ。

 

 だからこそ、今の時代の能力者と無能力者の争いは、彼らからしても損所か自身の生命を脅かす争いに他ならない為、こうして私達に力を貸してくれている。

 

 そして、この事を知った皇神グループの紫電派の関係者も、この事に対して未来に希望を持つことが出来る様になったと、目を輝かせて仕事に打ち込んでいる。

 

 そう、もう彼らは人体実験等と言う非人道的な行為をしなくて済むようになったのだ。

 

 だけど、それはそれとして別の問題がある。

 

 それは国内に潜入しているフェザーの連中だ。

 

 彼らの存在のお陰で、どうにも能力者は危ないと言うイメージが拭えないし、実際奴らのお陰で歌姫プロジェクトが必要になった側面もある。

 

 その中で特に厄介なのが、今はフェザーをやめて傭兵になっているらしいガンヴォルトの存在。

 

 それを何とかする為に、私はこうして足を運んできたのだ。

 

 彼を説得し、紫電の協力者になってもらう為に。

 

 

「とりあえずここで話すのもなんですから、上がってもいいですか?」

 

「…………」

 

「まあ、やっぱり警戒しますよね。予め言っておきますが、私は貴方と話をする為にここに来ました。もう分かってると思いますけど、既にこの場所は皇神に把握されています。そして、()()()()()()()()()も例外無く……ね。……ちなみに、この隠れ家は四人の宝剣持ちの能力者に囲まれています」

 

「……僕はもう、フェザーをやめている」

 

「知っています。ですが、私達はこうして貴方達の事を知っているのに、逆に貴方が状況を何も知らない状態で話し合おうだなんてフェアじゃない。そう言うのが嫌いな性格なんだって、あの時のやり取りで何となく分かりますから。だから如何か、この話し合いに応じて欲しい」

 

「……妙な事は、どうかしないで欲しい」

 

「分かっています。私も貴方と争うなんて絶対に嫌ですから」

 

 

 そうして私はこの家に上がり、その中にあったリビングにあるテーブルにて、ガンヴォルトとシアンの二人と対面する様に座り、対峙する事となった。

 

 ……シアンの様子を見る限り、彼に良くしてもらっている様だ。

 

 それに何所と無く、二人の間に流れる雰囲気と言う物があの時と違う感じがする。

 

 これは……デイトナ、君の恋は叶わないかもしれない。

 

 あの時は気にしては居なかったけど、ガンヴォルトは俗に言う「イケメン」と言う奴だ。

 

 背も私と比べて高いし、性格も実に誠実である事がこれまでの会話で分かっている。

 

 それに、さり気無く敵対している筈の私に飲み物まで用意してくれると言う気配りも出来ており、男として色々と負けている感をヒシヒシと感じるのだ。

 

 まあそれが分かった事で、益々彼が根っからの善人である事が分ったのは朗報なので、それはそれでいいのだけれど。

 

 

「さて、何から話しましょうか。正直、こうして貴方と対面すると何を話したらいいか分からなくなってしまいますね。……先ずは自己紹介をしましょう。私は貴方の事を知っている以上、先ずはこれを話さないとフェア所じゃないからね。……私の名前はフェムト。皇神に所属する電流を操る青き交流(リトルパルサー)の能力者です。改めて、よろしくお願いします」

 

「……ボクも改めて名乗るよ。ボクはガンヴォルト。嘗てフェザーに所属していた、蒼き雷霆の能力者だ。こちらこそ、よろしく」

 

 

 そうして始まった会話なのだが、それは少しの緊張感を含みながらも、何処か穏やかな物であった。

 

 他愛の無い日常の会話から始まり、シアンが最近やらかした事を話したり、皇神はこんな商品を流行らせようとしている裏話等の、互いを知る為のコミュニケーションは静かに、そして確実に進んだ。

 

 ただ、そうして私とガンヴォルトが仲良くなるにつれて先程からシアンによる冷たい視線が強くなるのを感じていたので、折角の機会なのでそれを尋ねる事にした。

 

 

「そう言えばシアン。私がガンヴォルトと話すにつれて視線が冷たくなってる気がするんだけど…」

 

「別にー、気のせいなんじゃないですかー?」

 

「……ねえガンヴォルト? シアンが私にあんな風にすっとぼけた態度を取るの初めてなんだけど、何か心当たり無い? 正直ちょっと辛い」

 

「うーん……ボクには良く分からないな。こういう時、モルフォが出て来てくれたら助かるんだけど」

 

 

 そうガンヴォルトが話した途端、彼女からモルフォが現れた。

 

 

『流石にもうこれ以上はフェムトが可哀そうよね。いいわよ。シアンがどうしてフェムトにそんな態度取ってるか教えてあげるわ』

 

「ちょ……ちょっと待ってモルフォ!」

 

『いい? シアンはね、フェムトの事を女の子と勘違いしてるの。本当は男の人なのにね♪』

 

「え……ちょっとモルフォ! それってどう言う事!? 私、そんな事聞いてないんだけど!!」

 

『何も聞かなかったシアンが悪いのよ? ただ、流石にこれが切欠でGVに嫌われるなんて嫌だし、この際話す事にしたのよ。って言うか、アタシが知ってるんだからシアンだって知ってる筈でしょうに。大方、聞き流して記憶の奥底に沈んじゃったって所かしら?』

 

「……まあ、誤解を招くような外見をしている自覚はありますので、私がこの事に文句を言う資格は無いのですが。まあ、誤解が解けたようで良かったです」

 

「うぅ~~~……」

 

「あはは……それにしても、どうしてその様(巫女服に白衣)な恰好を?」

 

「ええ、これは宝剣を開放した際のアーマーの様な物で、私の願望や見た目が元に形になっているんですよ。私の憧れる研究者から白衣が、そして、見た目が理由で巫女服がと言った感じで……。何しろ私は能力を利用して後方における情報処理を担当していますし、戦闘能力は私単独ではからっきしなので常時宝剣の開放が出来るんです。それこそ、この姿を解除するのはお風呂に入る時や寝る時くらいですよ」

 

「なるほど……じゃあ、髪がそんなに長いのは?」

 

「それはガンヴォルトと同じ理由だと思います。髪を切ったらただでさえ少ない出力が落ちたので、こうして髪を伸ばし続けているんですよ。他にも、髪飾りに蓄電機能持たせたりとか、髪が痛まない様な手入れだとか」

 

「あぁ~~……。分かります。ボクのコレ(テールプラグ)もそうなんですよ。……という事は、肌が乾燥したりも?」

 

「ええ、お陰で肌の乾燥にも気を配るようになってしまって…。ただでさえ低身長なのに、益々女の子らしい外見になってしまっているのを自覚してるんですよ……」

 

「それに関しては、ボクも他人事では無いですよ。時折潜入任務で女装を勧められそうになったりしますし……」

 

『雷関係の能力者って、突き詰めると女の人みたいに色々と手入れをする必要があるのねぇ……』

 

「強かったり便利だったりしても、手入れは色々と大変なんだね、モルフォ」

 

 

 シアンの誤解が解けた事が切欠で、私はガンヴォルトと上手く打ち解けることが出来た様だ。

 

 やっぱりこうして見ると、彼にはやはりテロリスト等辞めて欲しいと言う気持ちがより強く感じるようになった。

 

 お陰で、電子の謡精が()()()()と言うマイルドな表現をゴリ押しした甲斐があったと言う物だ。

 

 ただ、それでも世間における希望が攫われたと言うのは痛い。

 

 だからこそ、そろそろモルフォに復活して貰わないと皇神の信用問題にも関わる。

 

 さあ、ここからはいよいよ本題に踏み込もう。

 

 ガンヴォルトの引き抜き、そしてあわよくばフェザーを取り込んで、私達の本当の計画、皇神の乗っ取りに加担してもらう為に。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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第九話 蒼き雷霆(アームドブルー)との会話、交渉戦(ネゴシエイション)

 

 

 

 

「それじゃあガンヴォルト、そろそろ本題に入ろうと思う」

 

 私のこの言葉によって先ほどまでの柔らかな雰囲気が四散し、緊張感溢れるソレに変貌する。

 

 その本題とは、シアンの事だ。

 

 

「単刀直入に言いますが、私はシアンを連れ戻しにここまで来ました。それは私達皇神グループで計画されている歌姫(ディーヴァ)プロジェクトに必要な人材である為です」

 

「歌姫プロジェクト…」

 

「はい。この計画は簡単に言えばこの国の範囲内で従来のソナー機能だけでなく、能力者の能力の発動を阻害する物です。勿論無差別では無く、対象も選べます」

 

「……っ! それは!」

 

 

 これだけ聞けば能力者ならばそんな反応をするのは普通だ。

 

 シアン達にはこの計画については攫われる前に話を済ませており、少なくとも反対はしなかった。

 

 まあ、元は能力者を洗脳による戦力化だった時と比べればかなり穏健な対応だと思う。

 

 

「……これは私達の国内の治安と能力者を守る為に必要な計画なんです」

 

「それでは……それではシアンの自由はどうなるんですか! シアンは漸く学校に通い始め、友達も出来ているんです!」

 

 

 ガンヴォルトとの雑談の際、良く出てきた言葉が自由と言う物だった。

 

 彼はその言葉に並々ならぬ拘りがある様で、何でも育ての親であり、フェザーの頭目であるアシモフから影響を受けているらしい。

 

 シアンを連れ去った理由も、殺して欲しいと懇願した彼女を助け出し、自由にする為であり、ある意味共感を持てる部分もあるのだ。

 

 そう、シアンがまだ攫われて無かった頃、彼女を取り巻く環境は余り宜しいものでは無かった。

 

 その理由は簡単な事で、その当時は能力者を人として扱わない研究者の排除が完全に出来なかったからだ。

 

 なまじそう言った頭のネジが何処かぶっ飛んでいる研究者は非情に優秀であり、その上歌姫プロジェクトにおいては必須だったのもやりきれない事実である上に、歌姫プロジェクトに必要なデータだけでは飽き足らず、本人の意思など無視する様に関係無い研究をしていた事が発覚した時には怒りを通り越して呆れてしまった。

 

 そうした事もあり、私はシアンを少しでも癒す為にデイトナや紫電を連れて空いた時間にちょくちょく会いに来ていたし、「外の世界で歌を歌いたい」を言う約束も交わしていたのだ。

 

 だけど、そうした私達の奮闘を以てしても、彼女を初対面のガンヴォルトに「殺してください」等と言わせてしまう程に追い詰めてしまったのだけれど……。

 

 そういう訳で今はもうそう言った研究者は()()()()()()退()()()()だ。

 

 その方法は……私の能力を用いたとだけ言っておく。

 

 本当はやりたくは無かったけど、彼らの知識その物を無駄にするのも惜しいし、殺すのはもっとマズイ。

 

 よって、真っ当な研究()()をする様に()()()()したのだ。

 

 だけど、この方法を取れたのはガンヴォルトがシアンを攫った事を引き金に、彼女が居なくなった事で、彼女の能力を研究していた彼らが溢した台詞が切欠であった。

 

 そう言う意味では、ガンヴォルトに感謝しなければならない。

 

 

「それについてはシアンが居ない間に色々と済ませました。例えば歌姫プロジェクトで使われる機械があるんですけど、一度シアンと接続してデータを取り終えれば週に一度通ってもらう程度に抑えられますので、これまで通り同じ学校に行く事に支障はありませんし……」

 

「…………」

 

「彼女達の事を私達の目から隠れて玩具にしていた研究者達にも、()()()()させてもらいました。彼女を好き勝手に、()()に弄んだ報いを受けて貰いました」

 

『フェムト……』

 

「申し訳ありません、シアン、モルフォ。私達の目が節穴だったばかりに、貴女達には不便をかけました。ですからもう、私達の所に戻っても大丈夫……という訳にもいかないのです」

 

「……? フェムト、それは一体どう言う事だ?」

 

「皇神にはフェザー以外にも敵が色々と存在しています。例えば東の海を越えた大国であったり、()()()()()()()()を名乗る過激派組織だったりね。その中の誰なのかは知らないけど、最近スパイが居るだなんて話が出ているんです。そして、そのスパイがシアン達を狙っている何て噂も」

 

 

 実際、この話は本当の事である。

 

 私が皇神グループで情報処理を担当している関係で、外部からの不正アクセスは勿論なのだが、皇神内でも繋がっていない筈の場所から電子の謡精に関する情報の不正アクセスがあるのだ。

 

 その場所を辿ってみれば能力者狩り(ハンター)部隊を管理している情報端末であった事から、()()()()が候補に挙がっている。

 

 その人物の名前は【パンテーラ】。

 

 デイトナの後に私の知らない間に皇神の能力者として登録されていた、性別すら自在に変更する虚像を操る能力【夢幻鏡(ミラー)】の能力者だ。

 

 他にもこの部隊には第七波動も含めたあらゆるものを引き付ける特殊な磁力を操る【磁界拳(マグネティックアーツ)】の能力を用いる【カレラ】も居るけど、彼は所謂戦闘狂(バトルジャンキー)である為、候補からは外れる。

 

 夢幻鏡はデータを見せて貰った際、紫電の念動力(サイコキネシス)やガンヴォルトの蒼き雷霆(アームドブルー)と比べても本当に恐ろしいと思った能力の一つ。

 

 基本、幻に関わる事なら何でもできてしまうのだ。

 

 だからこそ、幻によって私を含めた他の人達の認識が弄られているのをリトルからの指摘で気が付いた時には肝を冷やした。

 

 ただ、この事からパンテーラはまだ第七波動の秘密には気が付いていない事の裏付けを取れたのが不幸中の幸いと言うべきだろう。

 

 何故ならば、対象であったのが私も含めた人間だけだったのに対して、第七波動達には何ともなかったからである。

 

 つまり、第七波動達を生物であると認識していなかった為、対象外だったのだろう。

 

 ……さあ、ここからが正念場だ。

 

 ガンヴォルト相手では純粋な戦いの場では勝ち目は無い。

 

 だからこうして()()()()()()()()()()()に持ち込む事で、地の利を得る。

 

 最低限の勝利条件は、ガンヴォルトの説得。

 

 この序にフェザーも芋づる式に取り込めれば万々歳だ。

 

 国内の脅威を取り除くだけでは無く、戦力の拡充も出来るのだから。

 

 ……これまでの彼は明らかにシアンの事を守ろうとしている。

 

 叶うならば彼女にはこれまで通りの生活を贈って欲しいとも、自由であって欲しいとも思っている。

 

 そして、彼は形だけではあるけど、形式的にはフリーの傭兵なのだ。

 

 だからこそ、この方法を取る。

 

 

「そこでなのですが、ガンヴォルト。()()をしたいのです。そう、フリーの傭兵としての貴方に対して」

 

「依頼……ですか?」

 

「ええ、その内容は()()()()()()。彼女が日常生活を贈れるように、陰で支えてあげて欲しいのです」

 

「フェムトさん! それって……!」

 

『これまで通りって事なの?』

 

「大雑把に説明すると、これまでの学校生活に加えて週に一度先の説明に合った機械と接続してもらう形になります。そしてこれも最終的にシアンに依存しない形でシステムを維持出来る様にするつもりでもあります。そうすれば本当の意味でシアンも自由になります」

 

「…………」

 

「ですが、それでもシアンが狙われていると言うのもまた事実。私達もリソースをそちらに回したいのですが現状では色々とカツカツな為、それもままなりません。それに赤の他人に護衛されたり監視されたりするのはプライベート面では大問題でしょう? どうせなら共同生活を贈っている彼に護衛と監視を依頼した方が効率的だし、そして何よりも、嫌では無い筈です」

 

「フェムト……キミは……」

 

「急にこんな事を依頼されるのは貴方の都合も考えれば困る筈です。ですので、貴方の仲間ともしっかり相談するといいでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()様ですし」

 

「……っ! 何時からそれを」

 

「最初からですよ。私だって電流を操る能力者です。この位探知できなければ名折れもいい所ですので。それに、こう言った事に対する臨機応変な対応もするだろうと予想してましたし、私も同じ事をしていますのでお互い様です」

 

 

 そう言いつつ、私は飲み物であるオレンジジュースを飲み干し、一息付く。

 

 その後、席を立ちつつガンヴォルトに話の終わりを伝え、玄関に向かおうとする。

 

 

「キミは…」

 

「ん?」

 

「キミは何故、僕にここまでしようとしてくれるんだ?」

 

「それは、私の罪滅ぼしです」

 

「罪滅ぼし?」

 

「ええ、ガンヴォルト。貴方は覚えていないのかもしれませんが……私は、一度貴方に会っています。貴方を苦しめていた研究所で、同じ被検体として」

 

「なっ……!」

 

「その時の私は失敗作扱いされて、とある研究者を追い出す為のダシに使われて、一緒に別の研究をお願いされる形で追い出されました。その内容は、蒼き雷霆の可能性を模索すると言う物でした。そこでの私の生活は、今の私を形成するとても大事で、掛け替えの無い時でした。私を担当する研究者にも恵まれ、ぬくぬくと笑顔で過ごしていたんです。……貴方が苦しんでいたであろう時に」

 

「…………」

 

「ですが、転機が訪れてあの研究所はフェザーに襲撃され、貴方はその時に保護され、今に至ったのでしょう。そして私も、この事が切欠で皇神の能力者部隊に所属する事になりました」

 

『……そうだったのね』

 

「ええ。……私と同じ研究で生まれた同胞であり、成功例であったガンヴォルト……。貴方の事が心配でした。拾われた先で元気にしているかってね。だからこそ、もし貴方と再会したら手を差し伸べようって決めていたんです。私の事を助けてくれた大切な研究者の彼と同じように」

 

「……ボクは」

 

「ですが、このお節介を押し付けるつもりもありません。何故ならばガンヴォルト、貴方は今()()だからです。自由だからこそ、縛るような真似もしたくありませんし、選択する際の責任の重さも把握していると思っているからです。……どのような結果であれ、私は貴方達の選択を尊重します。ですが、これはあくまで私個人の話。私以外の皇神に所属する能力者達はその場限りではありません」

 

「…………」

 

「ですので、フェザーの仲間やシアン達と相談しつつ、自分達で決めて下さい。自由とは、そう言う物でしょう?」

 

「……分かったよ、フェムト」

 

「……うん。ありがとう、フェムト」

 

「私個人が最大限に通せる筋はここまでです。では、良い返事を期待しています。詳細も、依頼を引き受けてくれた場合はその後にきっちりと契約内容を詰めましょう。そして、出来れば共に歩む仲間として、歌姫プロジェクトの先に有る灯台に照らされた光の先を、共に歩める事を切に願います」

 

 

 そうして私はガンヴォルトに対して頭を下げつつ、この場を去ろうとした。

 

 それをガンヴォルトが待ったをかける様に私を呼んだ。

 

 

「フェムト」

 

「? はい」

 

「今更かもしれないけど、ボクの事はGVと呼んで欲しい。ガンヴォルトだと長いって仲間から良く言われているんでね」

 

「……ふふ。分かりました。ではGV、シアン、モルフォ。また会いましょう」

 

 

 愛称を呼ぶ事を許された私は、きっと良い返事を貰える事を半ば確信した。

 

 まあ、流石に取らぬ狸の皮算用をするつもりは無いけれど。

 

 僕達の会話を通信機越しに聞いていた紫電達も、ホッと胸を撫でおろしている事だろう。

 

 何しろ私は戦闘経験が無い故に甘ちゃんな所があると皆からも言われていますし、私自身も自覚していますので。

 

 ……約一名激しく落ち込んでいる気配も感じてしまったけれど。

 

 シアンは兎も角、GVはまだ自覚していないみたいだしね。

 

 チャンスはまだまだあるから、そんな風に落ち込む必要は無いと私はデイトナを通信機経由で慰めながら、この場を去った。

 

 そして後日、GVから依頼を受けると言う返答を、私は貰う事となるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。












サイドストーリー





《灯台に照らされた光の先ねぇ……正直どう思うよ? モニカ》

《現段階で分かる訳無いでしょう? ジーノ》

《フェムトの言う灯台の光(サーチライト)……それが何を意味するのかは本人に聞かねば分かるまい》

「じゃあ、皆はボクが依頼に乗るのは賛成すると?」

《オレ個人としては賛成してぇなぁ。シアンちゃんの待遇もあまり変わらないんだろ? 上手くすれば皇神の内情も把握出来るしよ》

《私は余り賛成出来ないわ。その話が本当なのかもまだ分からないし、GVを誘う罠だって考えられるもの》

《もしそうなら、オレだったらGVの隠れ家をぶっ壊してシアンちゃんを攫う事を優先するぜ? それをやらなかった上に、しっかり戦力も伝えてるんだ。敵対者相手に示す誠意としては明らかに上等の分類だぜ? 普通、力のある企業や国はオレ達の様な組織相手に話し合いなんてするのは下策だって考えるみたいだしよ》

《確かに、その辺りはジーノの言う通りね……。それでGV、肝心のシアンちゃんはどう思っているの?》

「……しばらく時間が欲しいって言っていましたけど、多分皇神に戻るのに賛成すると思います。フェムトは雑談の中でシアンとの約束を果たそうとしていた事も話してくれました。そして、彼女を取り巻く環境も改善出来ている事も」

《……それだけの待遇も含めて考えれば、貴方も一緒なら賛成するでしょうね》

《それでGV。お前はどうする? 皇神の依頼を受けるか、それとも断るか》

「……正直、ボクもまだ色々と整理が出来ていません。ですが、フェムトは信用できるとボクは感じました」

《そうか、ならばお前の思う様に行動するといい》


 そうしてアシモフ達との会話を終え、通信機を切ろうとしたその瞬間、ボクの装備であるダートリーダー等の整備を担当してくれている人の声が響き渡った。

 その声の主は確かアシモフの知り合いで、何処かの機関に所属していた()()()だった人の物だ。

 細身で黒髪の、どこか大雑把でアシモフ相手でもぶっきらぼうで遠慮の知らない口調で話す胆力を持ち、()()()()()になっている高い技術力を持った人物。

 その人はボクが物心ついた頃は昏睡状態であったけれど、初めてフェムトに出会ったその日に目を覚まし、この半年であっという間にフェザーに馴染んで今の立ち位置に立ってしまった。

 アシモフもそんな彼に対しては余り頭が上がらないらしい。

 曰く、()()()()なのだとか。


《おいGV! お前今フェムトって言っただろう! 詳細を聞かせろ! 今すぐにだ!!》


 こんな風にボクに対して怒鳴り声を上げているけれど、この人は今でもボクがミッションに向かう事に対して気に入らないと思っている人だ。

 だけど、ボクがミッションに帰った後は必ず差し入れとして果物が用意してあったり、蒼き雷霆にも詳しいらしく、ボクに対してアシモフとは別視点でより効率的で専門的な生体電流の操作を教えてくれた人物でもあった。

 そんなぶっきらぼうで、何処かお節介で優しい所もあるその人の名前は――






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第十話 歌姫(ディーヴァ)プロジェクト発動 浮き彫りになる問題



サイドストーリー





 ライブ会場に見立てた舞台が展開されるその場所は人工島【オノゴロフロート】と呼ばれる場所に建てられた軌道エレベーター【アメノサカホコ】の先にある【アメノウキハシ】と呼ばれる衛星拠点。

 見上げれば満天の星空と大きな青き地球を同時に見る事の出来る、地上では動画越しでしか拝めない大迫力な光景と呼べる場所。

 そこでは今、二つのある計画……事前に説明のあった歌姫(ディーヴァ)プロジェクトと説明の無かったモルフォ復帰記念ライブの同時進行をする為の最終調整等が行われていた。

 例えば、テロへの警戒も含めた不測の事態の際の各スタッフの動きの確認だとか、モルフォの動きに合わせた照明や大規模なAR技術を利用した立体映像等の外部エフェクトの微調整等だ。

 それらの計画でボクはシアンの護衛と言う形で皇神のマークが背に描かれている専用の防護服を身に纏い、シアンと共に専門のスタッフの人達と打ち合わせに参加していた。

 この二つの計画、当初打ち上げられた時は両方を実現するのは不可能に近い環境にあり、特にモルフォ復帰記念ライブは計画すら立てられておらず、今の様な真っ当な空気を持った計画では無かったと言う。

 その理由は、シアンの事を実験体扱いしかしない心無い科学者達であったり、能力者達に対する皇神社内の差別的な風潮。

 更に歌姫プロジェクトは当初、全世界の能力者達を洗脳すると言う後ろめたい非道な、誇れるものでは無い計画。

 そんな計画な物だから、真っ当なスタッフを始めとする関係者は日に日に病んで行き、精神に支障をきたし……簡潔に言えば、空気が最悪に近い状態だった。

 これを何とかしたのが僕を護衛と言う形で依頼をして来たフェムトと、彼の上司であり、歌姫プロジェクトの責任者であった紫電を始めとした皇神所属の能力者達の努力だった。

 特に、僕がシアンを連れ去った事が切欠でそれ等の問題を何とかする事が出来たのだそうだ。

 その方法の詳細はフェムトが言うには禁じ手を使ったり、ボクがシアンと共に逃げた事に対する責任を合法的に押し付けて地位を高めたり等、真っ当な方法では無かったらしい。

 まあそんな訳で、シアンは再び戻った当初、以前の皇神グループ内の雰囲気が各段に柔らかくなっている事に驚いていた。

 これらの事を振り返りつつ護衛を続けていた僕の目の前で、シアンは()()を渡されていた。


「じゃあ、最後に腕輪着用時の動作の最終チェックをしよう」

「はい! ……モルフォ、お願い!」

『任せなさい、シアン。GVや私の帰りを待ってくれた沢山のファンの皆の為、失敗は出来ないもの』


 シアンが受け取り身に付けている腕輪は、フェムトが言うには彼女が持つ電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力を増幅する為の機械と接続する為に必要となる専用のアーティファクトの様な物……らしい。

 この様な形となった背景には歌姫プロジェクトの大幅な見直し、つまり今の仕様に変更する際の大改装の序に行われた事が上げられる。

 当初はシアンをコアと言う形で直接機械に接続すると言う物であったのだが、()()()()()()()()()()()が起こった事が主な切欠で、計画の見直しと共に大幅にシアンの負担を軽減する事に成功。

 その結果、アメノウキハシ内で専用の腕輪を身に付け、腕輪の接続先の機械が埋め込まれた専用の舞台でモルフォを歌わせれば、一週間はシアンが居なくても効力を発揮するようになったのだ。

 因みにフェムト曰く、シアンが戻って来る直前まで安全性重点に力を入れ過ぎた結果デスマーチが続いていたと、その当時を思い出したかのように死人の様な顔でボクに話をしていたのであった。

 ……モルフォが舞台の上で軽やかな動きを見せている。

 その動きは一部の仕事の終わったスタッフも見惚れる程に美しい物だ。

 曰く、以前のモルフォと比べて動きはあまり変化は無い物の、感情表現に関しては格段に良くなっているとの事。

 その感情表現は人によって様々な意見がある。

 例えば、表情や身振り手振りがより人間らしくなったとか、恋を覚えた少女の様な雰囲気を纏う様になったとか、歌い方が変化した等、他にも様々な意見が噴出していた。

 そんな風に意見がバラバラでも、共通している事もある。

 少なくとも、以前のモルフォよりもずっと魅力的になったという事だ。

 そんなモルフォを、何処か怪し気に見つめる存在がボクの視界に収まって……いや、意図的に外さない様に視界に収めた人が一人。

 その人の名前はパンテーラ。

 フェムトが言うには、彼は電子の謡精の情報を調べていた形跡があった為、何処かの組織のスパイなのではと疑われている。

 能力者狩り(ハンター)部隊の隊長であり、皇神において最強の能力者と言われている紫電とも互角にやり合えると噂されており、幻を扱う能力を持つ。

 そう、彼はフェムトがボクにシアンの護衛を依頼する切欠とも言える存在だ。

 そんな彼が何故この場に居るのかと言えば、リスク的に計画から外して目を離す方が危険であると判断された為。

 ……彼は何処か焦がれるような視線でモルフォを見つめている。

 少なくともモルフォに対して関心は高いのは確かなようだ。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 実はフェザーのメンバーの一部、具体的に言えばチームシープスの皆が、ボクが事前に送っていた施設の構造の情報を元に潜入していた。

 彼らは人気の無い場所で待機しており、退路を確保した上で僕の持つレンズと指輪を経由してこの会場内の様子を見て、聞いている。

 このレンズと指輪のアイディアと作成には、アシモフの古い知り合いのとある人物の力によって実現した物だ。

 生体電流を利用した思考による通信を始めとした機能も、ボクの蒼き雷霆(アームドブルー)による余剰電力で賄っており、隠密性も高い。

 その筈なのだけれど……どうにも皇神側に意図的に見逃されている可能性が高いと僕は感じている。

 何故ならば、このアメノウキハシの施設内部の全てが、フェムトの青き交流(リトルパルサー)の能力による監視下にあると後に聞かされて尚、アシモフ達はスルーされているからだ。

 こんな風にスルーされてしまうと、逆に動くに動けない。

 無警戒なのか、そうで無いのか。

 その見極めが難しくなった為、結果としてアシモフ達は何かあった時、即座に退却する事を前提で動かざるを得ないし、ボクも相手が皇神とは言え護衛の依頼を引き受けた以上、もしアシモフ達が見つかったら形だけの形式とは言え応戦せざるを得ない。

 しかもこのまま何も対策しないまま滞在していた場合、ソナー機能によって捕捉され、能力の封印までされてしまうだろう。

 それでも尚ここにアシモフ達が居るのは、無策で突入したからでは断じて無い。


(……皆、どうやら最終リハーサルが終わったみたいだ。これから歌姫プロジェクトが始まるから、注意して欲しい)

《了解だ、GV。しかしまあ、見事にオレら、釣られちまったな》

《ええ……》

《だが、電子の謡精によるソナー機能が起点であったのが幸いしたな。お陰で、私の古き友人が用意してくれた妨害装置が役に立つ。備えあればと言う奴だ》

《だけどよ、何でオレらは見逃されてるんだろうな?》

《GVの情報が正しければ、私達はもうとっくに捕捉されている筈よ》

(……将来的に、ボクを起点にフェザーを取り込もうと考えているのかもしれません)

《おいおい……いくら何でもそりゃあ無いんじゃねぇの? もしそうなら、甘ちゃん所か下手したら害悪扱いされても不思議じゃねぇぞ》

《本当にGVの言う通りならば、実に甘いと言わざるを得ないが……》

《……これまでGVから得た皇神の内部情報だけど、ビックリする程能力者達の待遇が良くなっていたわね》

《それだけでは無く、最近のメディア関係で経由される情報も、徐々にではあるが能力者達に関してポジティブな物に変化しつつある。そしてそれは、皇神の内部における技術的革命が起きたとされる日を起点に発生している》

《技術的革命ねぇ……まあ確かに、GVが調べてくれた日を起点に皇神の奴らの装備や宝剣持ちの能力者も洒落にならねぇ勢いで強化されてるもんなぁ。オレ達チームシープスは兎も角、フェザー全体で見りゃあ苦戦や敗走する事も増えてきちまってるしよ》

(皇神はボクが持つこれまでの情報を合わせると、能力者達に対して大幅な歩み寄りを見せているとしか言いようが無い)

《客観的に見れば、我々フェザーの主張を徐々に受け入れている様にも見える……か。なるほど。このままでは近い未来、私達フェザーは能力者達からも切り捨てられ、孤立する事になる可能性が高い。実に巧妙な手口だ》

《つまりよ、今までオレ達は知らない内に外堀を埋められていたって事なのか?》

《……このまま私達が戦い続ければ、無関係な人達から見ればフェザーは歩み寄ろうとしている皇神を拒んでいる様に見えてしまうわ》

《そしてフェザーを支援しているスポンサーも大義名分をやがて失い、旗色が悪くなり……我々は最終的に切り捨てられデッドエンド……そう言う事だろう》


 つまり、皇神からすればフェザーを排除するにしろ取り込むにしろどちらでも良いと言う、アシモフ達からすれば積みの状況に追いやられてしまったのだ。

 このシナリオを描いた人物は、恐らくフェムトでは無く別の存在だ。

 彼はこれまでの付き合いで、少なくとも嘘を付いたり誰かを騙せるような性格をしている様には見えない。

 では、誰がこのシナリオを構築したのか?

 そう考えている内に、遂にモルフォ復帰記念ライブも兼ねた歌姫プロジェクトが始まり……フェザーはその後、新たな事実を突きつけられる事で、大義名分を将来必ず無くす事が確定する事実が発覚するのであった。






 

 

 

 

 GVとの交渉を終えた後の流れは比較的穏やかだった。

 

 フェザーがGVを通じて情報収集に集中して潜伏するようになった事で表立った直接的なテロが大幅に減った事に加え、シアンが戻ってきた事で計画されていた歌姫(ディーヴァ)プロジェクトが現在進行形で発動しているからだ。

 

 当初の案では世界中の国に居る能力者全員を洗脳すると言う過激な案であった歌姫プロジェクト。

 

 これが今の様に比較的落ち着いた案になった背景には様々な要因が存在している。

 

 それは世界中の能力者を洗脳した場合、それを理由に各国がこの国に対してヘイトを稼ぐ要因になるのではないかと言う物。

 

 他には世界中の能力者達を収容する施設の確保や維持、そして決定的だったのが、この計画を維持するのに一人の能力者であるシアンに対して恒久的に依存しなければならないと言う冗長性の無さが致命的だった。

 

 だけど、そんな穴だらけの案なのにも関わらず通さなければならない程、世界中の情勢は何が起きても不思議では無い酷い物であり、それは現在でも変わりは無い。

 

 そんな中、第七波動(セブンス)の正体が把握出来た事が大きな転換点となった事で一気に技術的な進歩や応用が広がった。

 

 代表的なのが、既存の装備の拡張パーツとして理論上誰でも使える宝剣とか、シアンの能力を拡大させる機械の大幅な改良辺りだ。

 

 こんな風に技術的な革命が続いた為、歌姫プロジェクトは今の様な形に至る事となった。

 

 それと同時にモルフォ復帰記念ライブも行われ、それは凄まじいと言う言葉では表せない程強い熱気を持った大勢の人達によって諸手を上げて再び歓迎される事となる。

 

 そう、帰って来た国民的バーチャルアイドル、平和の象徴として。

 

 それはまあさて置き、歌姫プロジェクトが発動して仮初の平和を手に入れてから一ヵ月が経過した。

 

 

「現段階のこの国に居る能力者達の収容率は一割程度か……まだまだ、先は長いね」

 

「歌姫プロジェクトが実施されてから一ヵ月程度しか経ってないし、まだまだノウハウが最適化されてない状態で一割は上等だと私は思うけどね、紫電」

 

「って言うかよ、オレ達能力者がこの国にどれだけ居るのかちゃんと分かるようになったってのは、大きな進歩だろ?」

 

「確かに、デイトナとフェムトの言う通りなんだけど……しかし、ここまで能力者の発生が広がっていたなんて想定外もいい所だよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()も含めれば、我が国の能力者の割合は実に七割を超えている……頭の痛い問題ですな、紫電殿」

 

 

 歌姫プロジェクトを発動させた際、アメノウキハシにある会議室にてイオタが言う様にこの国の七割の人達が既に能力者だという事が発覚した時、あの場に居た計画の要であったシアンとその護衛であるGV、そしてスパイ疑惑のあるパンテーラも含めた私達全員が、その余りの結果に茫然としてしまった。

 

 いやまあ、潜在的な能力者はそれなりに居るだろうとは思っていたけれど、それでも七割は多すぎる。

 

 ここまで詳細に調べることが出来た理由は、範囲を限定した上で電子の謡精の力の増幅率が、当初の目的に必要な出力と安定性を改善前よりも大幅に増した事で、モルフォの歌を聞いて具合が悪くなる人達を無くしつつ、より潜在的な能力者の割り出しが可能になったからだ。

 

 念の為潜在的な能力者と既に発現している能力者との区別が出来る様にした事は実に不幸中の幸いであり、優先順位をハッキリ出来たのは私達皇神グループの負担軽減に大いに貢献してくれた。

 

 流石にここまでの大人数を優先順位が不明慮なままで管理するのは物理的に不可能であり、非現実的と言わざるを得ない。

 

 そう考えると、あの時GVがシアンを連れ去った事は危険思想持ちの研究員の()()や、歌姫プロジェクトに欠かせないシアンの力を増幅する機械である【プシューケーデバイス*1】を改良する時間が得られたと考えると結果としてファインプレイであると言わざるを得ない。

 

 因みに紫電の言う一割と言うのは、現段階で能力が具体的に発現した能力者達の割合だ。

 

 

「一応歌姫プロジェクトその物の方はシアン無しでも()()()恒久的に維持できる見通しは立っているけど、元々この計画は突貫的な物で、この国の軍事や治安の問題を根本的に解決する為の時間稼ぎが目的の計画だからね。計画そのものは上手くいっても、本気で恒久的に続けられる物じゃない」

 

「それはボクも分かってるつもりだよフェムト。だけどこのあり様では当面の間はこの計画に依存せざるを得ないのが実情だね。まあ少なくともこの問題を何とかする時間は稼げたし、悪い話ばかりじゃないさ。例えばストラトス……例の薬物の依存を許してしまった彼の治癒の活路に、最近スカウトした植物を操る能力者の力を借りたりしてね」

 

「あの人の能力の強さその物はアサガオを咲かせるくらいでしたけど、能力因子を培養して誰でも使えるようにした事で、品種改良が物凄く捗って好評であると試験を担当している現場では喜んでいますよ」

 

「あの能力、上手く使えば今ある環境問題や食料問題にも本格的に着手出来そうなのが大きい。間違い無く将来、わが国の大きな礎の一つとなるでしょう」

 

「ま、将来的な問題は今じゃどうしようもねェもんなぁ。今のオレ達に出来るのは、コツコツと出来る事を積み上げていく事だけだしな。オレの能力の爆炎(エクスプロージョン)も試験的にだけど人工的な温泉とかにも使われてるって言うしよ。……オレみたいな乱暴者の能力も、暴力以外で人様の役に立てるって言うのは、悪くねェ気分だぜ」

 

「だけど、実際に現段階で民間での運用ができるようになるまでにはまだまだ総合的にノウハウを積み上げて、無人戦車を始めとした軍隊装備の更新がしばらくは続く事になると思うけどね。夢が広がったのは嬉しいけど、民間利用にはまだまだ研究も積み重ねも足りないと言わざるを得ない」

 

 

 とまあ、こんな風に能力者を能動的に効率よく探せるようになったお陰で恩恵を受けている面もあるので将来的には絶望よりも希望の方が大きい。

 

 ただそうやって第七波動に依存すると、別の問題が浮上して来る。

 

 例えば、能力者に対して敵意を持っていたりする差別者等だ。

 

 これに関してはこの国の外では物凄く深刻で致命的な問題となっており、心無い発言や行動で能力者達を激怒させ、致命的な問題を起こすと言う流れがあちこちで発生しまくっているお陰で中には国を維持できない状態にまで追いつめられた地域も数多く存在していると言う。

 

 そうなると能力者側も自衛せざるを得ず、最終的に出来上がったのが多国籍能力者連合エデンやフェザー等の組織だ。

 

 ただ、これらの組織に関しては歌姫プロジェクトのお陰でこの国での第七波動を用いたテロ行為が未然に防がれているので実害は計画発動前に比べて大幅に低下した。

 

 特にフェザーに関しては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が効いているのもある。

 

 その詳細を後で聞いた時、実にメラクらしい方法と言えた。

 

 何しろ自分達は動かなくても勝手に相手は崩壊するか軍門に下るかの二択を強要させたのだから。

 

 人は正義を掲げられればテロ行為だって容易く行える。

 

 しかし、もしもその正義が取り上げられてしまったらどうなるか? 

 

 その答えが、今のフェザーの状態なのだろう。

 

 なので、現在では能力者の差別を煽っている勢力をどう叩き出すかが課題となっていたのだが、それについては私達の中では余り問題視していない。

 

 何故ならば、一度第七波動を用いた生活用品が将来的に普及して生活水準が上がってしまえばそれから抜け出す事は困難である事。

 

 そして自身も潜在的な能力者である可能性が極めて高く、現状でもこの国の能力者の割合が約七割である事。

 

 他にもこの一ヵ月間でのデータを纏めただけでも、将来的にこの割合は上昇を続ける事が確認出来る位に上昇している為、どう足掻いても近い未来、彼らの主張は必ず矛盾し、破綻するからだ。

 

 故に、これらの主張は今はまだ幅を利かせるかもしれないが、将来的には確実に消えてなくなる。

 

 ……と、これ等に関して喜んでいられたのは連絡要員の皇神兵の報告を聞くまでだったのだけれども。

 

 

「……パンテーラがやられただって? 能力者狩り(ハンター)部隊はどうなっている?」

 

「ハッ! 能力者狩り(ハンター)部隊その物は壊滅しておらず、状況的にピンポイントでパンテーラが狙われたとの予測が立てられています」

 

「……フェザーの活動も今は抑えられているこの状況で彼がやられるなんて、よほどの事が無い限りありえない。何か情報は残っていないかい?」

 

「それに関してなのですが、パンテーラがやられた情報が入る直前に紅白の甲冑(アーマー)のような装備をまとった少年が目撃されていたとの事です」

 

「……なるほど、彼ですか。報告ありがとう。持ち場に戻っていいよ」

 

「ハッ! それでは、失礼しました!」

 

「……知ってるの? 紫電」

 

「パンテーラを倒した相手は恐らく神園博士の息子、【アキュラ】で間違い無いだろうね」

 

「アキュラ?」

 

「……彼は私怨で動いている()()()()()だよ」

 

「おいおいマジかよ。あのパンテーラの野郎はいけ好かない野郎だが、お前とタメ張れる位には強かった筈だぜ。そんな奴がただの人間相手に不覚を取るなんてあり得るのかよ?」

 

「それがあり得るのさ、デイトナ。……世の中には居るんだよ。ごく稀に、本物の天才って言うのがさ」

 

「……ねぇ紫電。彼は私怨で動いているって言うけど、それは何故?」

 

「……そうだね。フェムトもある意味関係者だ。知る資格はある。でも、あまりいい話じゃ無いよ?」

 

「…………」

 

「まあ、もし知りたければ後でボクの部屋に来て欲しい。この話はあまり大っぴらにしたくは無いからね」

 

 

 そうしてこの場の話は終わり、一旦この場は皆解散し、その後私は紫電の部屋へと赴き、その事情を聞く事となった。

 

 その内容は紫電が客観的に集めた情報を見た上での予測も含まれるが、彼の私怨の根底には皇神グループによる神園博士の死の隠蔽と博士本人が主張していた能力者の危険性が関連しているらしい。

 

 彼は第七波動を制御する様々な技術の根幹を開発した科学者であり、その分野は霊的遺物も含めたオカルトすらも含まれていると言う。

 

 実際、紫電やデイトナ達の持つ宝剣はその技術が使われており、私の持つ自立型の宝剣よりも強い力の制御、封印措置を可能としている。

 

 但し皇神側からしてみれば、あまり融通の利かない性格を持った人との認識もあったようだ。

 

 例えば、言動も能力者の事を「バケモノ」と言い嫌悪する様子もあり、人工的に能力者を作る事にも非常に強い嫌悪感を持っていたり、再三に渡って能力者に対する危険性について上層部に説いていたりと言った感じにだ。

 

 他にも、神園博士の娘である【ミチル】と呼ばれる少女が持っていた、今ではシアンが持つ第七波動である電子の謡精の能力因子を摘出したり等もしていたらしい。

 

 そして、そんな彼の死因は当時のプロジェクト・ガンヴォルトの被験者であった蒼き雷霆(アームドブルー)の能力移植を受けた少年【タケフツ】による能力の暴走。

 

 その結果研究施設は消滅し、皇神は世間的に公表するのはマズイとして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、神園博士の死因を事故として隠蔽した。

 

 

「とまあ、神園博士についてはこんな感じだよ。……正直な話、君はどう思った?」

 

「……仕方がないと思う一面もありますが、自業自得な一面もあると言うのが率直な感想です。恐らくですが、第七波動を激しく嫌悪した背景には研究データと、娘であるミチルさんが第七波動で苦しんでいた事だと私は考えています。そして、アキュラはそんな彼の影響を多大に受けていると考えるのは自然な流れだと思っています」

 

「その通り。それが理由でアキュラは僕達能力者の声に耳を貸す事は無い。仮にボク達が隠蔽した事実を公表しようとしても、彼は耳を貸さないだろう。それこそ、()()()()()()()()でもない限りね。……だから、彼に対して説得しようだなんて事は止めてくれよ? 彼は能力者に対してはガンヴォルトの様に甘く無い。同じ方法を用いても自殺行為にしかならない」

 

「だけど、彼を放っておくのは私達から見れば危険な行為だよ。何か手を打たないと不味いと思う」

 

「実際、表面的には発覚してないけど彼の暗躍によってパンテーラ以外、襲われている能力者が居るのは事実だ。……一応、手は打ってある。少し前に皇神の機密情報……主に神園博士関連のセキュリティに関する情報をこっそり神園家の関係者に流す事でね。そうすれば嫌でも裏取りしてくれるだろうし」

 

「……どうしてそんな回りくどい事を?」

 

「自分の身内が手に入れた情報って、赤の他人に聞かされるよりも信用できると思わないかい?」

 

「……言われてみれば確かに」

 

「こういう面倒な事も、皇神グループに所属している内にすっかり慣れてしまったよ。……話を戻そう。まあそういう訳で、ボク達が出来るのはこうして向こう側がしっかり情報を集めてくれるのを待つしか無い」

 

「……紫電、神園博士の研究データの中に、第七波動は群体生物であるって情報、含まれていると思う?」

 

「……分からない。神園博士は皇神にも残していない研究データもあったらしいって言う話も()()()()()()聞いていたから、もしかしたらその中に含まれている可能性は否定できない。だけど、もし含まれていたら能力者では無く第七波動その物を嫌悪すると思うから、状況的にその可能性は低いと考えていい」

 

「そう考えると神園博士の研究データそのものには含まれては居ない可能性は高いけど……だけど彼は、アキュラは紫電も認める程の人物だ。神園博士から引き継いだ研究データを元に私達と同じ様に、第七波動に対して同じ結論に至る可能性はある筈だよ」

 

「彼に対して皇神の技術的アドバンテージは無い、若しくは下回っている可能性も考慮に入れる必要があるか……まあ彼は天才であるとは言え所詮は個人で動く人さ。少し前のフェザー程優先するべき相手じゃない。まあ取り合えず話はここで終わり……いや、そう言えばもう一つ用事があったのを忘れてたよ。確かこの辺りに……はいこれ。この手紙を君に渡すようにガンヴォルト経由で渡されたんだ」

 

「GV経由で……? 直接私に渡せばいいのにどうして?」

 

 

「仕事の関係上君とすれ違っちゃったみたいでね。ボクが代わりに預かっていたのさ。君の手が空いた時に渡して欲しいってね。ここ最近君はずっとシステム構築を始め、様々な仕事が重なってデスマーチに近い状態だったからね。落ち着くのを待っていたんだ」

 

 

 こうして私は紫電経由でGVからの手紙を受け取り、その後部屋に戻って読む事になったのだが……()()()()()()()()()()()

 

 まだ研究施設に居た頃に見た覚えのある筆跡。

 

 そう、この手紙は私が死んだと思い諦めていた彼からの手紙。

 

 その事実を知った時、彼が生きていた事が、肝心の手紙の内容が頭に入らない位嬉しく、僕の中に居る青き交流(リトルパルサー)も喜びの感情を私に送る。

 

 私は、そんな歓喜の感情に包まれた後、改めて手紙の内容を読み直すのであった。

 

 そう、本人の持つぶっきらぼうな性格を隠そうともしない筆跡で綴られた、ニコラから贈られた手紙を。

 

 

 

 

*1
シアンの第七波動「電子の謡精」の力を増幅する大規模な舞台型の機械装置。当初はシアンと直接機械で接続する形式であったのだがシアンが攫われた事で改良する時間が稼げた事に加え、原作とは違い第七波動の正体を把握出来た為、直接接続する形では無く専用の腕輪を身に付け、アメノウキハシ内に居るだけで効果が発揮するようになった。デイトナは悲しみに包まれた。そして効果が洗脳では無く能力使用の際の封印と従来のソナー機能、そして潜在的な第七波動能力者と既に能力を発現している第七波動能力者の選別も出来る様になっている。それと、第七波動の封印機能は「封印の第七波動能力者」の能力因子を用いてその強度を増している。それ以外にもこの機械が万が一暴走した際のカウンターとしても機能する。そしてこの機械装置、冗長性の確保と定期的なメンテナンスをする為にもう一カ所、これと全く同じ物がアメノウキハシの施設に存在している。なお、原作にはこの様な都合のよい機械装置は無い。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
それと、投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。






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第十一話 引き継がれる意思

 

 

 

 

『こうして手紙を直接書く何て今のご時世には合わんが、俺はもう公式的には死んじまってるからな。メールを始めとしたデータのやり取り等から足が着いて実は生きていた何て痕跡を残す訳にはいかん。だからこんな風にGV経由で手紙を贈る事にしたって訳だ。ま、大昔のアナログなやり取りはこういう時に便利だから覚えとくといいぜ』

 

 

 前置きに悪知恵を教えてくれるあたり、相変わらず本人は元気でやっているのがこの手紙からは伝わって来る。

 

 今私が読んでいるニコラの手紙に書かれている通り、彼はこの国や皇神内部において公式的に()()()()()()()()()により死亡したと発表されてしまっていた為、今後表に出る事は非情に難しい立場となってしまった。

 

 その理由なのだが、当時似たような立場であった私の場合はニコラが事前に紫電経由でスカウトした能力者と言う筋書きが用意されていた為問題は無かったのだが、彼の場合は神園博士の時とある意味同じ理由……簡潔に言えば「人体実験をしていた研究所を公表するのは世間体に良くない」からだ。

 

 

『そんな前置きはここまでにして……俺はあの後フェザーに拾われてな、結構長い時間昏睡しちまってたんだ。おまけにあの時の爆発で左手が捥げちまってるし、散々だったぜ。まあ、フェザーはテロ組織だけあって義手なんかの用意もばっちりだったお陰で生活には支障はねぇけどな。そんな訳で今はフェザーの技術者紛いな事をやってるぜ』

 

 

 ……あの時潜入していた彼ら(チームシープス)が何故増幅された電子の謡精の影響を受けずに撤退する事が出来たのかが何となく分かった。

 

 実は歌姫(ディーヴァ)プロジェクト発動の日、彼らが潜入していた事をアメノウキハシ内の全施設の監視網と能力を用いて同調していた私を経由して紫電達は把握していた為、メラクが事前に考えていたであろうシナリオを用いて敢えて彼らを潜入させていた。

 

 それは監視網がある事を彼らが潜入し、ある程度深くまで潜り込んだのを確認した後GV経由で情報を流し、あえてこちらから直接手を出さない事で深く内部まで潜入させて退路を引き延ばしつつ、迂闊に動けなくすると言った感じだ。

 

 この時、取れる選択肢は三つ。

 

 一つ目は即時撤退する事。

 

 二つ目はこちらの出方を伺う為に身動きを取らずに様子見に徹する事。

 

 三つ目は追いつめられたと判断して玉砕覚悟で私達の居る舞台へ突入する事。

 

 突入している人達の練度はデイトナやイオタが監視網経由で見る限り、素早さと慎重さが合わさった、文句無しの精鋭チームと呼べる物。

 

 よって三つ目の選択肢はあり得ず、即時撤退するか様子見に徹する二択に絞る事で、どう転んでも戦闘を発生させないようにする状況を作り出す事が出来た。

 

 後は歌姫プロジェクトを成功させれば相手が即時撤退しようが様子見に徹しようが増幅された謡精の歌で無力化出来る。

 

 その当時の私達はそう考えていたのだが……。

 

 ニコラは神園博士と一緒に研究していた人だから、電子の謡精の事を知っていて、その対策も出来る技術力を持っていても不思議じゃない。

 

 そう考えれば、歌の影響下で動けてた理由も十分説明できる。

 

 あの時は歌姫プロジェクトの安定化や、戦闘による外部からの影響を避けたかったのもあり、結局彼らを取り逃がす結果となってしまった。

 

 但し、この策はメラクにとってはお遊びであり、彼らが潜入する前にフェザーはどう転んでも最終的に()()様に仕組まれていた為、再びシアンが再び攫われない限り問題は無かったのだが。

 

 

『しっかし驚いたぜ。GV引き抜いて、オマケにフェザーを活動停止に追い込んじまうなんてよ。お陰でもう皇神相手にテロは出来なくなっちまったから戦力を海外に移すだの、一部ではフェザーを解散する話にまで進展しちまってるんだぜ? まあ解散に関しては頭目である()()()()がモチベーション無くしちまったのが原因なんだが。ま、気持ちは分からんでもない。皇神はGVを経由して得た情報によると急速に健全化しちまってる事が判明している上に、将来どう転んでも能力者が台頭するのが確定しちまったしな』

 

 

 ……歌姫プロジェクトの方針転換と私達の努力は実を結んだ。

 

 これまでは調整に次ぐ調整や合間を縫ってその他諸々の雑事のお陰でデスマーチ状態で、これまで私はこの事を実感している暇が無かった。

 

 だけど、こうしてゆっくりニコラの手紙をここまで読んで初めて今、私は実感する。

 

 この結果は私達の努力を始めとした様々な要因が複雑に絡み合って出来た物だと。

 

 そう、胸を張って誇れる事を成したと。

 

 仮にだけど、もしどれか一つ……例えば、GVがフェザーに居たままだとか、歌姫プロジェクトの方針転換が無かったとか、努力を怠っていたとかの様々な要素が含まれていたら、ここまで上手くいかなかっただろう。

 

 そう考えると、私の歩みは決して無駄じゃ無かった事を実感出来き、皆の事も誇りに思うと同時に、改めて私とリトルの力に自信を持つことが出来る。

 

 この時を以て私は、自分の頑張りは勿論、何よりも皆の助けによって確たる自信を得ることが出来たのだ。

 

 

『まあ何にせよ、お前も俺の手から離れて随分と成長して、GVもテロリストから足を洗うことが出来た。もう俺が思い残す事はねぇ……と言いたい所だがフェムト、俺の勘が正しければ皇神入ってからずっと仕事漬けなんじゃないかと予測してあえて書いておくが、偶には休んで外に出ておくのを勧めるぜ。自分が何を成したのかが良く実感出来るはずだ。友達だってお前の人柄ならもう何人か出来てるだろうし、誘ってみるのもいいと思うぞ』

 

 

 ……ニコラはどうして私が仕事漬けなのを察することが出来たのだろうか?

 

 まあそれは置いといて、そう言えば皇神に入社してから外に出たのは仕事の時位で、移動中も車内で携帯端末の画面と睨めっこをしてたから、街並みを始めとした外の景色等を気にした事も無かった。

 

 基本私は物心ついた時から施設の中で過ごしていたし、私の能力も社内で使うのが効率的で、情報を集めるのだってネットがあるし、ハッキリ言って引きこもってばかりだった。

 

 ただ、皇神に初めて入社する際は、初めてあの施設の外から出られたと言う体感を得られた貴重な機会ではあったのだけれど……経緯が経緯な上に、入って早々事務作業等の戦力として扱われた。

 

 そしてある程度慣れてきたら開発部等にお邪魔するようになったりと、初期の頃は自分から仕事を増やしていた事もあり、外を気にする余裕なんて欠片も無かったのだ。

 

 これを機に、外に出てみるのもいいかもしれない。

 

 歌姫プロジェクトを始めとした大きな仕事は一段落したし、その過程で私の能力を用いた時と同じような情報処理が出来る設備と人材も大分整ったお陰で、今では私が居ないと無理な案件は無いと言っても良いのだから。

 

 それに、現行のプロジェクトはもう私が居なくても継続は出来る様になっているし、最近紫電を始めとした一部の人達…あろう事か、あのメラクからも有給を取るようにと言われてしまっている有様だ。

 

 皇神はこの国が誇るトップの大企業であり、基本的に表面上、即ち第七波動に関わっていない企業の大部分がホワイトな企業だ。

 

 ……逆に言えば、第七波動に関わっている企業や能力者達は例外という事でもある。

 

 但し、今は能力者の扱いが皇神内で急速に改善された事、第七波動の正体が群体生物であると判明した事、そして何より、歌姫プロジェクトが完遂出来た事が決定的となりこの例外の部分が大幅に緩和され、私達能力者のホワイト化も急速に進んでいる。

 

 つまり有給を取るように言われているのは、そのあおりを受けているからである。

 

 そう考えつつ、手紙をゆっくりと読み進める。

 

 

『まあ未練と呼べる物を敢えて言うなら……プロジェクト・ガンヴォルトは()()()()()()完遂させたったなぁ。フェムトには話したと思うが、アレは元々人間発電機を創る事が目的だ。だけどな、それはあくまで道半ばの目的にすぎねぇ。本当の目的は()()()()()()()()()()()()()だ。どこの国も革新的な発電方法が無いから行き詰ってコイツが死活問題になってやがる。このままでも人類の存続と言う視点で考えると問題は無いだろうが、何処の国も人口調整の名目で少子化の強制、或いは多くの人々が死に絶える事が近い内に……そうだな、()()()()()()で本格化するだろうな。だからこそ、それを解決した新しい発電方法を創りたかった。 ……それに、神園博士が居た初期から俺も関わっていたプロジェクトだったからな。正直未練たらたらだぜ。だからよ、フェムト。もしお前が良かったらでいいんだが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあ、気が向いたらでいいぜ。やる、やらないの判断はそっちに任せるから、やる場合はよろしく頼む』

 

(ニコラ……)

 

 

 この人口調整等の話はネットの一部ではひと昔辺りから話題となっており、皇神専用の閉ざされたSNS内でもこれに関する活発な議論が進んでいる。

 

 そもそも、何故ここまでエネルギー問題云々が言われるようになったのか。

 

 それはこの近未来、私のような雷撃能力者、特にGVの蒼き雷霆(アームドブルー)にとっては力を発揮でき、あまつさえ最強の能力等と謳われる理由にすらなっている、極めて都合のいい時代。

 

 つまり今の時代は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ私はニコラの未練を解消したいと思った。

 

 電気に依存しているという事は、それだけ有利に動けると言う私自身の生存戦略的な意味も勿論ある。

 

 だが、それ以上に私はニコラに恩を返したかった。

 

 今の私が形作られたのは……そして、私がここに今立っているのは間違い無くニコラのお陰なのだから、そう思うのは当然だ。

 

 それにリトルもニコラにお礼がしたいのだ。

 

 そう、リトルの意思と呼べる物はあの研究所に居た時からあった。

 

 故に、自分を捨てず、可能性を見出してくれたニコラに感謝している。

 

 

(ん。ニコラにお礼する。頑張ろうね、フェムト)

 

(リトルもニコラにお礼がしたいんだね。 ……なら、やってみよう。私もニコラが生きていたと分かってから、お礼がしたいって思ったからね)

 

(うん!)

 

 リトルも随分感情を表に出すようになった。

 

 最初の頃は何となく嬉しいとか悲しいとかが分かる位だったけど、途中から言葉も理解できるようになり、今ではもう頼れる相棒と言っても良い。

 

 そう思いながら読み進めていたら、気になる記述があった。

 

 

『後は……そうだな。最近一部で能力者達が狩られているって情報は知っているか? 正確にはフェザーとは違う別の裏組織の能力者達の話なんだが』

 

 

 能力者が狩られている?

 

 今日紫電から聞かされた話と似ている気がするけど……裏組織に居る能力者と言う情報は入ってなかった筈だ。

 

 

『歌姫プロジェクトが発動して以来、少しづつだがそう言った報告がフェザーの諜報部から流れて来てな。まあそいつらは所謂質の悪いヤクザ、或いはマフィアみたいな連中だから潰れてくれるのは別に構わんのだが、目撃情報でちと厄介な事を思い出してな。……まあ結論を言えば、これをやったのは神園博士ん所の糞ガキだ。全く、妹の嬢ちゃん方はあんなに可愛いのに、兄の方はどうしてここまで捻くれちまったんだか』

 

 

 神園博士ん所の糞ガキって……これは多分紫電が話してくれたアキュラの事だろう。

 

 ……ニコラなら、彼との面識があっても不思議じゃ無いのか。

 

 

『報告内容を見る限りどうにも倒され方がバラバラなんだよな。炎で焼かれた物だったり、何かに喰われたような跡があったりって感じでな。んで、目撃情報では何でも白い鎧にデカイ盾、それに()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしき物を引き連れているみたいなんだ。……まあ、あの糞ガキの目的は何となくだが想像は付く。今回の件はデータ取りも兼ねた前準備で、最終的な目標は恐らく電子の謡精だろうな。大方歌姫プロジェクト発動時の歌に本来の持ち主だった嬢ちゃんが感応したから気になったか、若しくは()()()()()()()()()()()()()()()()にでも焚きつけられたかって所さ』

 

 

 紫電から聞かされた機密情報に近い内容が軽い感じに書かれている辺り、流石はニコラだと思うのと同時に、今回の件は予想以上に厄介な事になりそうだと思った。

 

 一先ずこれらの事は纏めて、基地内に居る紫電にメールとして送って……と。

 

 よし、後は紫電が何とかしてくれるだろう。

 

 私は情報を纏めたり調べたりするのは得意だけど、戦闘に関してはリトルマンティスに乗って無いとからっきしな上、乗っていても皇神の戦闘部隊やデイトナ達が相手だとトレーニングの相手になるのが精々と言った所なのだ。

 

 まあそもそも私は戦闘要員では無く、情報処理等の後方支援要員なのだから当然と言えば当然であり、訓練に参加するのは体に血を巡らせる事も兼ねた気分転換なのと、リトルとのコミュニケーション等の意味合い、そして最低限の自己防衛をする為の鍛錬もある。

 

 餅は餅屋、戦いの経験の無い私が直接戦場に出向く何て事態は、それこそGVと対峙した時やエリーゼの時みたいに時間や戦力等が逼迫する事態にでもならないとあり得ない。

 

 

『あいつは能力者を神園博士の影響で恨んではいるが世間に迷惑を掛ける位ならそれなりに我慢できる程度には自制出来る……いや、正確には自制出来る様にしたんだ。俺とメイドの二人掛りでな。何しろ父親譲りの頑固さと、母親譲りの影響の受けやすさを持ってたからな。あのまま放っておいたら間違い無く今頃大っぴらに「セブンススレイヤー」なんて呼ばれるくらい大暴れしててもおかしくないぜ?』 

 

 

 セブンススレイヤーって……いやまあ確かにこれまで調べた情報を知るに、そうなっても何ら不思議じゃ無いのは分かるんだけども。

 

 

『まあ、今回の件は本来なら止める筈のメイドもあの嬢ちゃんがらみになると話は別だ。あの糞ガキと利害が一致して協力したとしても不思議じゃねぇ。 ……まあそういう訳だ、GVにも知らせてあるがシアンの嬢ちゃんは間違いなく狙われるから、そっちでもマジで気を付けとけよ? ま、今は言いたい事はこんなもんだ。後もし俺に返事したかったらGVを経由してくれ。手紙の返事位なら紫電も大目に見てくれるだろうさ。二重スパイだとかそう言う名目でって感じでな。……ああそうだ、お前に()()()()()()()()()がある』

 

 

 ちょいと物騒な土産って……少なくとも手紙には何か仕込まれた形跡はないのは確認済みだ。

 

 紫電は何も言っていなかったから、多分ソレはGVが預かっているのだろう。

 

 

『まずは【鉄扇】。まあ所謂、ちょっとした護身具さ。 ……大昔の言葉で言えば、暗器とも言うがな。フェザーが俺達の居た研究所を襲った際に一緒にくすねた【ヒヒイロカネ片】を使った特殊合金で出来ててな、広げた後に少量の電流を流すと特殊な防御フィールドを展開してくれる優れものさ。これがヒヒイロカネの力ってやつさ。凄いだろ? お前用に調整してあるから、殺傷力よりも自衛力を重視してある。展開していれば、前面の攻撃限定だが防げない物はほとんど無い筈だ。後、閉じたまま電流を流すと防御フィールドが棒状に収束する。リーチや破壊力を伸ばす際に便利だが、守りが疎かになるから自衛する際はあまりお勧めはしないな。ま、ヒヒイロカネの特殊合金で出来てるだけあって防御フィールドだけじゃ無く、本体の鉄扇もすこぶる頑丈だ。そこは保障するぜ』

 

 

 ちょっと待って、鉄扇? 

 

 一応皆から、特にデイトナには「外に出る際は何かしら身を守る手段を持って行った方が良いぜ」とは聞いてはいたけども、これはどうなんだろう。

 

 まあ外では社内に居た時の様に宝剣を常時展開する訳にもいかないし、手に入るタイミングも含めてありがたいのは確かだけど。

 

 ……鉄扇の使い方、いつも私の訓練相手をしてくれてる皇神兵(忍者兵)の人達に聞けば分かるかな?

 

 

『それと、GVが付けているのとおそろいの【ペンダント】だ。こいつは所謂【電磁結界(カゲロウ)】っていう現象を引き起こす為の演算機みたいな物でな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですまんが、その時もしこいつが使えたら、少なくとも二、三回は連続で扱える計算だ。だからまあ、少なくとも邪魔にはならない筈だ。 ……逆に言えば、それ以降はお前のEPエネルギーはスッカラカンだから、あまり頼り過ぎない様に気を付けろよな』

 

 

 電磁結界……そう言えば戦闘データ経由で見せて貰った事がある。

 

 それは自身の身体を電子に変換して攻撃を無効化すると言う反則に近い結界の類で、発動時はまるで天使の羽が舞い散るような現象を引き起こしながら体を電子に変換し、攻撃をすり抜けると言う物。

 

 GVが扱える力を最低でも二、三回だけとは言え使えるのなら大いに助かる。

 

 ペンダントと言う形も、普段から持ち歩くのも違和感ないだろうし。

 

 

『後は【ワイヤーガン】だな。これはGVの持つ【ダートリーダー】って言う雷撃誘導をする為の弾丸を発射する銃にあったオプションパーツを元に作った物でな。GVの奴、身体能力が高すぎるからかああいったオプションを全然使わねぇんだ。だから、折角だから再利用してやったぜ。発射する原理はGVの持つヤツと同じだ。あいつの持つ銃は本人が電源になっているからお前が扱うにはちと厳しいが、外部のバッテリーを外付け出来る様にした上で機能制限で軽量化もしてあるから、予め充填しておけばお前でも十分扱えるはずだ。それに、少なくともパワーは大の大人が引っ張られるくらいにはあるぞ』

 

(ワイヤーガンって……これは流石に普段から持ち歩くのはどうかと思うよニコラ……)

 

(ん~……これを経由すれば、リトルも電撃流せるかな?)

 

(出来るとは思うけど……GVみたいにはいかないと思うよ? それに多分、これは私が逃げるのに使う物だと思うし)

 

(そっかぁ……残念)

 

『……まあぶっちゃけ、その銃と鉄扇については俺のシュミみたいなもんで、本命はペンダントだ。その二つは適当に部屋に転がしといて構わんぞ。鉄扇は兎も角、銃なんぞ普段から持ち歩くわけにもいかんだろうしな。後、それらの装備はGVから貰ってくれ。流石に紫電に手紙と一緒に渡すと苦笑いされちまいそうだしな。 ……ま、次があるかは分からんが、少なくとも今は暫くの間はサヨナラだ。じゃあなフェムト。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 手紙の内容は、ここで終わっていた。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。


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第十二話 休暇の為の前準備(プラクティクス) 次の段階(ネクストフェーズ)への道筋



サイドストーリー





 我は紫電様直属の【忍者部隊の頭領】。

 と言う事になっているが、実体は皇神(スメラギ)の元となった組織から枝分かれした国防の要である表沙汰には出てこない組織【裏八雲】から派遣された隠密と言った所だ。

 そんな我の任務は皇神グループの監視、そして……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 この二つがそうであった。

 この事を仮に皇神グループの関係者が聞いたとしたら、皇神に存在している宝剣開発部門が存在している事をおかしいと思うだろう。

 その答えは宝剣開発部門は裏八雲によって製造されている宝剣の出所を隠す為の偽装なのだが……皇神グループ内、正確には紫電様の周辺においてとある理論が流れ出してから、宝剣開発部門と言う組織の存在意義が変化し始めた。

 その理論とは、()()()()()()()()()()()()と言う物だ。

 当時の話を時の我は何を馬鹿なと思った物だったが、それを裏八雲の長達に報告した際、宝剣の鍛造を行っている長が興味深そうに聞いていたのを見逃さなかった。

 そしてその理論を出したフェムト殿の宝剣の要望を聞いた鍛造の長は、嬉々として作業を始めたのだ。

 あの気難しい、常に張り詰めた雰囲気を切らさないあの長がだ。

 そうして完成した物が、今はフェムト殿の持つ第七波動(セブンス)を封印するのに使われた人型の宝剣、その素体であり、もしも第七波動に意思が存在すると言うのなら動かせるはずだと、裏八雲に存在する古の古文書に記されていた傀儡人形に使われる技術すら組み込んだ特注品。

 その後、第七波動摘出手術を行ってフェムト殿から第七波動因子を取り出し、手術が完了してフェムト殿が別室で療養目的で眠りについていた時、それは起こった。

 あれは、第七波動青き交流(リトルパルサー)を宝剣へと封じ、我は一部の職員たちと共にその後の経過観察をしていた時の事だった。

 突如として青き交流を封じた宝剣の素体から、淡い藍色の柔らかな輝きが、繊細と表現するほかない電流と共に放たれたのだ。

 その輝きは、宝剣本体と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を包む様に幻想的に揺らめいた少し後、爆発したかのように煌めいた。

 これはこれまでの第七波動には無かった未知の現象。

 本来ならば速やかに我も職員達も退避、或いは止めなければならなかったのだが、誰一人としてこの場を動く事が出来なかった。

 何故ならば余りにも神秘的で美しい光景だったからだ。

 藍色の輝きと電流が、裏八雲にある式札に描かれた術式とでも、もしくは幾何学模様の魔法陣とでも表現すればよいのだろうか?

 そんな非現実的な美しい輝きが我らの目を潰す事無く優しく飛び込んで来る。

 この藍色の煌めきは暫くの時間、約半刻ほど続いた。

 その後、少しづつ輝きが消えていき、やがて夢から覚めたかのように収まった。

 その、宝剣のあった場所には……。


「あ、ありえない……」

「宝剣が、完成している……いや、完成()()()のか! 自力で! 青き交流本体が!」

「だが、情報処理能力的には可能だとしても、青き交流はそもそもこんな事が可能な出力は出せない筈。……いや、これは!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() それも()()()()()()()()()()()()


 少女型のヒューマノイド(完成した人型の宝剣)の姿が、そこにはあった。

 ……とまあこんな顛末を経た事で、フェムト殿は紫電様と同じ様に裏八雲でも一目置かれる事となった。

 そんなフェムト殿ではあったが、初めにフェムト殿が紫電様に紹介された時の最初の印象は、「春に咲き誇る花々」のように、または、最も美しいとされる月であると言われる「秋の月」を連想させるような、正しく「春花秋月」を体現したかのような美しさを持った少女に見紛う程の少年と言う物であった。

 初対面の時期は確か……フェムト殿がまだ入社してまだ半年も経っていない頃だった筈であり、その切欠は紫電様から、我等忍者部隊の鍛錬にフェムト殿を参加させてやって欲しいとの命令を受けた事。

 曰く「彼が後方支援での雑務処理がメインであるのは確かで、こっち(武力)に力を入れるのはおかしいと思うだろうね。だけど、それを通して彼の能力を伸ばすとその後方支援による効率も良くなるんだ。実際、通常の訓練を始める様になってから目に見えて効率が段違いになった。だけど……彼は通常の訓練だと自身の力を持て余してしまうんだ」と語っていた。

 当時のフェムト殿はまだ入社して半年も経っていない時期。

 いくら能力者であるとは言え、半年ほどの訓練では半分ほどの工程辺りで音を上げる普通であり、それは通常の能力者であっても例外では無かったが、フェムト殿は違った。

 そう、曲がりなりにも最強の能力の一つであると言われる蒼き雷霆(アームドブルー)から派生した第七波動の持ち主なのだから、力を持て余すのは、何もおかしな話ではないと我は思った。

 それにフェムト殿は、何やら日頃から能力を鍛える為にある習慣を付けていたという。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う物だ。

 これはどうやらフェムト殿が研究施設に居た時から行っていた物で、当時一緒に居たニコラ殿にも内緒だったそうだ。

 なんでも、当時のフェムト殿は少しでも自身の能力を使いこなしたいと言う思いと、体を鍛えると能力の扱いも良くなったと言う成功体験があった為、気が付けば体に負荷をかけるのが普通となり今日に至っているとの事。

 そう言った話を聞いて確かにそれでは通常の訓練では持て余すかもしれないと思うと同時に、フェムト殿の身長が伸びない理由にもなっていた。

 常に筋肉に負荷をかけ続けているという事は、同時に成長するはずであろう骨の成長を阻害してしまう事が考えられるからだ。

 流石に眠っている時は負荷を消しているそうだが……そうで無ければフェムト殿は体を壊していただろう。

 これを知った時のフェムト殿の落ち込み様は何とも言えず……しかも、完全に癖になってしまっているので、眠る時、或いは意識しないと負荷を解除できない領域にまで突入してしまっているとの事。

 つまり、フェムト殿はやりすぎてしまったのだ。

 だが低身長である事は我が率いる忍者部隊において、必ずしも不利になるという事は無い。

 寧ろ的が小さく、懐に飛び込みやすい利点も考えると長所であるとすら言える。

 ……話を戻すが、紫電様はそう言った理由で我らの訓練にフェムト殿を加える様に命令され、我等もこれを引き受けた。

 フェムト殿の能力を伸ばすという事、これは即ち皇神の、紫電様の利益に直結するのだ。

 実際フェムト殿が居ない時の能力者部門は、それはもう雑務処理を始めとした情報処理が得意とする人材が少なかった為、毎日が雑務に追われる日々であり、我等も陰ながら支援せねばならなかった程であった。

 それがフェムト殿が入社してからは劇的に改善され、それどころか他の部署の手伝いまで始める様になり……今ではフェムト殿は皇神における総合的な情報処理における長の地位に上り詰めるにまで至った。

 そんなフェムト殿は紫電様の直轄でもある為、結果的に紫電様は更なる権力を得ているのだ。

 そしてフェムト殿を鍛えている我も装備がより充実したり、陰ながら手助けしていた雑務処理もする必要が無くなった所か、にこちらの、表に出しても大丈夫な物限定ではあるが、それの情報処理を手伝ってもらったりするといった形などで恩恵を受けている。

 そんなフェムト殿なのだが……


「……今、なんとおっしゃいましたか?」

「紫電が私に休暇をいい加減に取ってくれって言ってたから、そろそろ休暇を取りたいんだ」


 アイエエエ!? キュウカ!? キュウカナンデ!? 我はしめやかに爆発四散……する幻想を一瞬垣間見てしまった。

 ……いや、普通に考えてこれはおかしな事でも何でもない。

 フェムト殿は我から見ても働きすぎな所があるのだから、休暇を取る事は何もおかしくはないのだ。

 だがしかし、フェムト殿が休暇で居なくなると皇神で再び雑務処理と言う名の地獄(デスマーチ)が始まってしまう。

 何しろ一時期のフェムト殿は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 とは言え、情報処理部門を立ち上げる様になってからは流石にそう言った事は無いのだが……

 それが理由で我らが珍しく動揺を隠せずに狼狽えている事を心配されたのか、フェムト殿は既に対策を立てている事を話してくれていた。


「流石にいきなり休暇の申請はしないよ。今はまだ各部署に根回しを済ませている段階で、今すぐに休暇をって訳じゃ無いんだ。それに休暇に入る前にする事は沢山あるからね」

「と、いいますと……?」

「例えば私が立ち上げた情報処理部門の私抜きでの稼働状況の確認であるとか、休暇をする際に外出をする為の服の調達だとか、一緒に私の休暇に付き合ってくれる人を誘ったりするとかね」


 よ……よかった……。

 本当に、ほんつつつとうに良かった。

 フェムト殿が、あのメラク殿みたいに急に休暇に入る様な御方では無くて。

 しっかりと根回しして貰えるならば、我も安心できると言う物だ。


「それと、()()の習熟もしないといけないから」

「それは……鉄扇ですな。なるほど、我に頼みたい事とは、それのことですか」

「ええ、忍者である頭領さんならば扱い方を指導してもらえるかなと思ったのです」

「確かに、それならば我の力を貸す事が出来ますな」

「では鉄扇の扱いの指導、お願いできますか?」

「ええ勿論です。我等はフェムト殿に間接的にではありますが、いつも助けられていますからな。……早速ですが、今から始めても?」

「ええ、よろしくお願いします」

「では我が持つ鉄扇を用いた際の御業、その基礎のみですがフェムト殿にお教えしましょう。何、いつも我等の訓練に参加していたフェムト殿ならばそう難しい事ではありますまい。……本当ならば、奥義もお教えしたい所でありますが」

()()()()()()()()()()()()()における奥義は秘中の秘だと紫電からも聞いています。そこまで求めるのは贅沢と言う物。それに自衛するだけならばそこまで必要にはならないでしょう」

「……そうですな」


 フェムト殿はご自身を後方支援役で、戦闘はからっきしだと思っているみたいですが、そんな事は無いとこれまで共に訓練をして来た我を含めた忍者部隊の皆は思っている。

 何故ならば……現段階のフェムト殿は、純粋な体術戦において、既に我等を圧倒している*1からだ。

 だがそもそもフェムト殿は活躍の場が後方支援が主であり、そんな彼はどうしても第七波動能力者において重要な要素である直接的な戦闘能力は美しく、可愛らしい見た目もあいまってあまり高くは無いと一部の者を除き周りからは思われており、それはフェムト殿自身も例外では無い。

 それもあってかフェムト殿は様々な条件が重なり、戦場に出陣せねばならない事が起こりうる事を想定し歌姫プロジェクト完遂後、正式に実戦配備されたフェムト殿専用の機械人形(リトルマンティス)*2が紫電様の権限によって与えられている。

 そんなフェムト殿の戦における最大の武器は、自身の能力によってブーストされたその学習能力。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う普段から情報処理をしてる際の能力の使い方が、その理由だ。
 
 そして、フェムト殿はそんな学習能力を持ちながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 これで戦闘がからっきしであると言うのは、逆に無理があると言う物。

 それでもなおその認識が皇神内で広まっているのは、紫電様の指示で隠蔽されているのが主な理由。

 当時は歌姫(ディーヴァ)プロジェクト等の極めて重要な案件が山の様にあった事や能力者専用の情報処理部門が無かった事等もあり、フェムト殿を戦場に出す等、よほどの事でないかぎりあってはならない事だったからだ。

 それこそ、フェムト殿が居ないと少し前の能力者部門では瞬く間に機能を停止してしまう程であり、その重要性はフェムト殿本人が思っているよりも極めて高い。

 そう言った理由で、電子の謡精(サイバーディーヴァ)に関わる事以外でフェムト殿を意図的に戦に出さない様、様々な工作が行われたのだ。

 そんなフェムト殿だが歌姫プロジェクトが一段落ついた後、自身が居なくても大丈夫なように部下を持ち育てており、本人の見た目や気質もあり、彼は先に記したように独自に能力者専用の情報部門を立ち上げるに至った。

 その上歌姫プロジェクト等の重要な案件も大幅に減少し、皇神は仮初ではあるが平時の落ち着きを取り戻したのだ。

 それでもなおフェムト殿が居なくなると各部署が大変な事になると言うのは変わりは無いが、機能停止する事は無くなったと考えれば格段に大きい進歩と言えるだろう。

 そう言った理由もあり紫電様はフェムト殿に休暇をする様に言ったのだと我等は考えている。

 ……さて、話は逸れたがフェムト殿の鉄扇の習熟の案件はやはりと言うか当然と言うべきか、一通りの型を見せただけであっという間に完了してしまった。

 フェムト殿は先にも話した通り、大半の人間とは異なる体感時間を獲得している。

 なのでフェムト殿視点では、加速した体感時間における膨大な時間を情報分析リソースとして扱う事が出来るのだから、この結果も当然の事だ。


「ふっ! はっ! せい! ……ふぅ、大体型を覚える事は出来たと思います」

「お見事ですフェムト殿。我が扱う鉄扇の御業の基本は護りにありまする。使いこなせればあらゆる戦場において生き残る確率は飛躍的に増すでしょう」

「ええ、お陰で助かりました。ありがとうございます。これで相応にコレ(鉄扇)を扱えそうです」

「……我がお教え出来るのはここまででございます。後はフェムト殿自身が研鑽を積み続けると良いでしょう。そうすればどの様に応用すればいいのかも見えてくるはず。……では次は実戦形式にて、我が直接お相手させて頂きます」

「分かりました。……ではお手柔らかにお願いします」


 腰を落とし、鉄扇を持つ右手を前に構えるフェムト殿。

 やはりそのお姿は本当に美しい。

 この近未来に至っても尚続いている歌舞伎における女方にも、全く引けを取らないほどに。


「では、参りますぞ」


 そんな風に思いながら、我はフェムト殿への指導を続けるのだった。






*1
但し裏八雲特有の技術や実戦経験の有無と言った事は勘定に入ってはいない。入っていると頭領が圧倒する。あくまで試合形式、或いは訓練におけるお話。

*2
第六、七話で登場した試作品がコスト問題の諸々を解決して正式採用されたロックマンXシリーズにおけるライドアーマー枠のメカ。ハードポイントが各所に散りばめられ、換装によるカスタマイズも可能。当たり前だけど、原作には無い。

 

 

 

 

 休暇の準備に取り掛かる日々の中、宝剣開発部において私の持つ宝剣のアップデートが行われていた。

 

 これは私が休暇に行く際リトルも当然私がいつものように変身現象(アームドフェノメン)するものだと思っていたらしいのだが、流石に紫電から待ったが掛かった。

 

 要約すると流石に非常時でも無いのに皇神社外での常時宝剣開放許可は下りない、との事。

 

 リトルは外見こそヒューマノイドではあるのだが特に自衛手段を持たせている訳では無い為、このままではお留守番をする事となってしまうのだ。

 

 そうなると私から離れたがらないリトルとしては大問題。

 

 そう言った訳でなんとかリトルを連れて行けるよう色々と各部署を巡り、様々な調整を行った。

 

 その結果……

 

 

「どうかなフェムト。私の新しい身体」

 

 

 リトルの器とも言えるヒューマノイド型の宝剣。

 

 以前の物でも既に物凄く精巧な物であったのだが、今回は更に上回っていた。

 

 以前の姿は所々機械のパーツが見え隠れしていたりしていたのだが、今のリトルの姿はもう普通の女の子の外見と全く見分けがつかない姿となっている。

 

 青みがかった銀色で、サラサラな長い髪。

 

 藍色の、吸い込まれるような瞳。

 

 私と同じくらいの背丈。

 

 真っ白なワンピースに、私とおそろいの電力を貯蔵できるアクセサリー。

 

 そんな姿をしたリトルが、はにかむような笑顔を私に向けた。

 

 

「……綺麗だよ、リトル。正直驚いたよ。ここまで見違えるなんて」

 

「ありがと、フェムト。私の身体を作った人(私自身)、物凄く気合入れてた。だからそれが理由なんだと思うよ。……それに、外に出る時は以前の姿だとはみ出した機械の部分が目立っちゃうんだって」

 

(今の姿も十分目立ってると思うんだけど……既に私の外見の時点で目立ってるから、今更かな。それに、最悪宝剣である事がバレなければいいのだし)

 

 

 そんな見た目が完全に華奢な少女となったリトルではあるのだが、その中身は皇神の様々な技術が所狭しと詰め込まれている……らしい。

 

 本来は因子の封印を解除して能力者に戻す際に発生する副作用である変身現象(アームドフェノメン)を、これまで蓄積された稼働データを元により効率よく運用出来る様になっていたり封印強度及び容量が増大していたり、リトル本人も器の状態のまま戦えるようになっているとの事だ。

 

 その際、私の訓練時の戦闘データを参考にモーションパターンを組んでいるらしい。

 

 なのでその手にはヒヒイロカネ片では流石に無いが、それに勝るとも劣らない特殊合金で出来た鉄扇を忍ばせている。

 

 とまあ、こんな感じで着々と私の休暇の準備は滞り無く進んだ。

 

 ……一部の部署では泣きつかれたりした時もあったけども。

 

 まあ、こんな風に私が休暇等の様々な理由で居なくなってもいい様に【情報処理部門】を立ち上げていたのだから、そんなに泣かないで欲しい。

 

 そして本日の予定が片付き、私達は部屋へと戻った。

 

 そこで一息ついていると、リトルから珍しく相談を受ける事となった。

 

 

「リソースが余っているだって?」

 

「うん、例えて言うなら、【ベルレコ】*1にある種族が持つスキルを必要な分だけカンストさせたけど、割り振れるスキルポイントは沢山余ってるって感じかな」

 

 

 その相談内容は青き交流(リトル自身)についての話だ。

 

 リトルが言うには()()()()()()()青き交流による情報処理能力は私の能力を扱う際の練度以外での上昇はとっくに止まって(カンストして)いるらしい。

 

 

「つまり、今リトルは伸び悩んでいるのかな?」

 

「んと……私達(第七波動)の成長の方向性は基本、宿()()()()()()()()()()()()()()なの。フェムトは基本情報処理能力とか、効率とかを重視してたよね? 一日中ずっと私の事を使いながら。だからこそ成長限界に到達するのは早かった」

 

 

 私がリトルに望んでいたのは本人の言っている通りだ。

 

 青き交流は蒼き雷霆(アームドブルー)から派生した能力であり、出力はからっきしなので、私がそれ以外の分野である情報処理能力や効率などを求めるのは必然だった。 

 

 それと皇神における業務に必要であったのも大きい。

 

 だけどそれ以上に蒼き雷霆に勝る『何か』が欲しかったと言う潜在的な想いもあったのだろう。

 

 ただの蒼き雷霆の劣化では無いと、別の可能性があると、ニコラと同じように高らかに叫びたかった願いが確かにあったのだ。

 

 だからこそリトルはそんな私の想いに応え、皇神に入社してから急激な成長を遂げる事となる。

 

 だけど私が想う以上に頑張り過ぎた結果、私の望む成長はもう止まってしまい、方向性の定まらないリソースばかりがリトルの中で蓄積される事となってしまった。

 

 

「だからフェムト、良かったら私にこの成長リソースの方向性を示して欲しいの。今のフェムトなら昔の、まだ私達(第七波動)を認識していなかった頃とは違う。こうやって意思疎通が出来る様になったお陰で、私達も成長する際の方向性をより詳細に把握と設定が出来る様になったから」

 

「それは分かったけど、どう伝えればいい? 伝えるなら何かに例えるとかでも大丈夫かな?」

 

「うん、私の場合はそれこそさっき話したベルレコのシステムで例えてもいいし、ネットで閲覧できる情報を元に伝えてくれるのもいい。ネット小説とかであるお話によく出る【魔法】みたいな事も、リソースの範囲内だったら【特殊技能(ノーマルスキル)】って形で何とか出来るから。例えば今使える物と言ったら、他の人や自分に簡易的な治療を施せる【キュアーヴォルト】、体感時間を更に加速させる【フィールアクセラレーション】、並列思考数を増やす【シンキングアップ】とかが私、青き交流の代表スキルだね」

 

 

 特殊技能(ノーマルスキル)

 

 それは第七波動能力者による力の発現の形の一つ。

 

 それは時に魔法めいた挙動をする事も良くある。

 

 その中には必殺技、或いは到達点とも形容すべき【特別な特殊技能(スペシャルスキル)】と呼ばれる物も存在する。

 

 私が知る範囲での代表例と言えばGVの【ライトニングスフィア】、デイトナの【サンシャインノヴァ】、イオタの【終焉ノ光刃(ゼロブレイド)】等がそれに当たる。 

 

 

「ただ注意して欲しい事もあるの。リソースの方向性を決定してもベルレコみたいに直ぐには結果はでないよ。リソースを馴染ませる時間も必要。後、私達が多種多様に存在する様に得手不得手もある。フェムトならもう当たり前の事だと思うけど、私は出力……具体的に言うと電気(EPエネルギー)を発生させるのは苦手。だけどそれを効率よく運用したハッキングだとか情報処理なんかは得意だよ。後、フェムトが普段付けてるアクセサリーを見てたお陰で、外部の電気を掌握したりため込んだりして運用するとかも出来るよ。だから、それを踏まえて考えて欲しいかな。あ、後これも物凄く重要な事なんだけど……」

 

「重要な事?」

 

「うん。これは後の話になるのだけれど、今の余ったリソースが馴染んだ後、私は【()()()()】に移行すると思う」

 

次の段階(ネクストフェーズ)?」

 

「うん。壁を越えた、或いは限界突破、上限解放、限界超越とでも表現すればいいのかな? 次の段階に突入する前の成長の方向性を元に爆発的に力が増す現象って私は定義してる」

 

「でも、どうしてそんな事がリトルには分かるんだ?」

 

「んと、何て言えばいいのかな……時期が迫ると私達の本能が直感的に教えてくれる感じかな。だから今、リソースが余ってる事も分かった感じだったの」

 

「なるほどね。という事は、私の考えた方向性次第では取り返しのつかない事になるかもしれない一面もあるって事でもあるんだね」

 

「うん、実際……()()()()()()()()()()()感じがするの。これは持ち主であるGVが()()()()()()()()()()()()と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が重なっているんだと思う。今はまだ()()()の蒼き雷霆の制御は出来てる。でも……」

 

「次の段階に移行すると、それが出来なくなる可能性があると?」

 

 

 私のこの質問に対してこくりと、リトルは頭を下げて答えた。

 

 ……GVにはまだ第七波動達が意思を持っている事は話していない。

 

 何故ならばGVはまだ形式的には傭兵であり、部外者だからだ。

 

 皇神に入社さえしてくれればこの事を話すことが出来るけど……GVが入社する事は今の所無いだろう。

 

 何故ならばGVは自由に並々ならぬ拘りがあるからだ。

 

 それこそ何かしらの切欠でもない限り、彼が自発的に皇神に入社する事は無いだろう。

 

 それにリトルが言うにはGVがそうなってしまうのはまだまだ先の話……それこそ、この国を揺るがす程の大きな戦いに一人で何度も挑むなんて無茶をやらかさない限り当分の間は大丈夫なのだと言う。

 

 後シアンまたはニコラ経由で話が伝わっている(情報漏洩している)可能性だってある。

 

 ……まあとりあえず、この事も紫電に報告して皆と相談しないといけないだろう。

 

 それに今は私自身の将来の問題であるリトルの方向性を決める必要がある。

 

 そもそも次の段階に到達しそうなのは私の方なのだ。

 

 安易な考えで方向性を決めれば、私自身が取り返しのつかない事になりかねない。

 

 

「……リトル、変身現象を」

 

「ノーマルスキルを使うんだね。分かった」

 

 

 リトルの手を取り、私は変身現象を発動。

 

 リトル(宝剣)から藍色の光と電流が放たれ、私と絡み合い、包み込んだ。

 

 その後光は収まり、振り向いた先に有った鏡で私自身の姿を確認。

 

 その姿は、藍色を主とした巫女服を更に豪華にしたような感じとなっており、敢えて言うならば、【戦巫女】と形容してもいい外見となっている。

 

 そして以前あった白衣の要素は肩にかかる程度の少し大き目な、光沢持ったケープに変化。

 

 全体図で見れば以前の姿の時よりもまとまりが出来てより一体感を持った姿となった。

 

 

『フェムト、前よりカッコよくなった』

 

「ありがと、リトル。……じゃあ行くよ?」

 

 

 私はフィールアクセラレーションとシンキングアップを発動、私自身の持つ能力を加味し、どの様な方向性に成長すればよいかの模索を開始。

 

 思考を加速し、分割し、再び加速し、分割しを繰り返し、増えた人格は随時シミュレーションを開始。

 

 それと同時に今私の部屋にあるネット回線から直接アクセス。

 

 自身を生体コンピュータに見立て、部屋に置いてある端末をサブ演算装置として接続。

 

 改めて電気の基礎から応用、出来る事、()()その他諸々を検索。

 

 検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄……

 

 

《アレは元々人間発電機を創る事が目的だ。》

 

 

 検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄……

 

 

《どこの国も革新的な発電方法が無いから行き詰ってコイツが死活問題になってやがる。》

 

 

 検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄……

 

 

《何処の国も人口調整の名目で少子化の強制、或いは人口調整の名目で多くの人々が死に絶える事が近い内に……そうだな、約百年後辺りで本格化するだろうな。》

 

 

 検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄、検索、検討、結論、放棄……

 

 

《だからよ、フェムト。もしお前が良かったらでいいんだが……プロジェクト・ガンヴォルトを、本当の意味で完遂させて欲しい。》

 

 

 検索、検討、結論……

 

 

「……決まったよ、リトル。方向性が」

 

 

 体感時間で1年ほど時間を掛け、私は結論を出した。

 

 その結論は……

 

 

 

 

*1
皇神グループの関連会社が運営するMMORPG。この作品は原作ではモルフォと直結した能力者感知システムであり、メラクの為に作られたゲームであり、この小説内においてもそれらの設定は基本変わらない。だが、フェムトの介入によってモルフォの感知システムとゲーム部分は非常時、或いは必要が無くなった時に備えて切り離して普通のMMORPGとして運営出来る様になっていたり、採算が取れるような運営が出来たお陰で、原作の様に使いまわしの続編である【セプテンベル・ヒストリア】、通称【ベルスト】が存在しない。今でも正式に稼働しており近く、ゲームデータ移行も可能な富裕層を狙った価格帯でのVR版の発売も間近に迫っている。フェムトもメラクに誘われて仕事中に自身の余った並列思考のリソースを回して楽しんでいた。が、こっそりとメラクは自身とのゲームに付き合ってくれていたフェムトに対して自分の相手も仕事の内という事にしてフェムトの給料を上乗せしていたりする。後、ゲーム内においてメラクのレベルに付いてこれるフェムトが居るお陰でゲームバランスもかなりユーザー向けになっているのも、採算が取れるようになった要員の一つとなっている。正式名称【セプテンベル・レコード】




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
次回からは休暇編に突入します。
内容は前作で言うトークルーム編的な感じになる予定で、短いお話を三話くらい、時系列をある程度無視する感じに展開する予定になります。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇フェムトの現段階の戦闘力について
一応プレイアブルキャラクターとして最低限の性能を持つようになりました。
具体的には移動、ジャンプ、ダッシュ、キッククライミング、ヒッフッハ(三段切り)電磁結界(カゲロウ)、スキル、固有アクション『鉄扇による防御結界』、ワイヤーアクション辺りが出来ます。


初期ステータス

HP100。原作GVやX2のアキュラ君は200。

EP1000。原作GVは500。但しこれはフェムトがため込むことが出来る量なだけであり実際に自然回復出来るのは50まで。950の部分は別枠であり、消費されるのは自然回復分から行われる。後は外部から調達したり事前準備にてため込む必要あり。カッコイイポーズ(チャージ)無し。容量が倍なのは電力保持アクセサリーを大量に装備しているのとリトルが頑張ってるのが理由。通貨『MG』を消費して電力を買い取る形で事前準備が可能。ゲームにおける表示は自然回復分が青色で、蓄積部分は緑色で表示される。

SP6。原作GVは3。この部分は回復速度も含め、明確に青き雷霆を上回っている……が、スキルを発動させるのにSPに加え、各スキルに対応したEPを消費する。

EP回復速度は原作GVの十分の一。

電磁結界の消費EPは25。GVはペンダントによって変化。ニコラから受け取ったペンダントに能力を用いて接続し、自身の持つ演算能力を上乗せする事でEP消費を軽減している。ここも明確にGVを上回っている。だけど前述の通り、カッコイイポーズも無いし回復速度もお察しなので事前準備無しだとEPが辛い。


初期スキル
フィールアクセラレーション
体感時間を加速させる。挙動としてはイクス2のタイムフリーザーに近い……が、あくまで体感時間を加速させるだけなので、実際に動く自分も遅い。一度発動させるとかなり長持ちする。SP1と同時にEP5消費する。

キュアーヴォルト
他者にも利用可能なヒーリングヴォルト。SP1と同時にEP15消費する。

シンキングアップ
並列思考数を増やす。
スキルを一度に複数同時発動させることが出来る。発動させるスキルを増やすごとにSP1と同時にEP5消費する。

なお、一部の例外や抜け穴を除き、変身現象しないとスキルの使用は出来ない。


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休暇編
第一話 初めての休暇 私達は広く浅く繋がっている リトルと食べ物


ここから休暇編へと突入します。
前話でも書いた通り、短いお話を三話くらい投下するような形となっております。
それでは、改めてよろしくお願いします。







 

 

 

 

初めての休暇

 

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたの? フェムト」

 

 

 私は今、悩んでいる。

 

 

「こうして休暇を取れたのはいいんだけど…正直、休暇中って何をすればいいんだろうね、リトル」

 

 

 そう、私は休暇中に何をすればいいのか悩んでいるのだ。

 

 

「フェムトは何も考えて無かったの?」

 

「休暇をする為の調整や準備で忙しかったから、何も考えて無かったよ……。今日じゃない休暇の予定では誰かが付いて来てくれるように予定を組む事は出来たんだけどね」

 

 

 本当はGVやデイトナ達も誘いたかったのだけど、予定が合う日の休暇は今日では無く別の日。

 

 その事を忘れてしまっていた為、こうして悩む事となってしまった。

 

 普段の仕事中だったならこんな風に忘れるなんて事は無かったんだけど……私も初めての休暇という事も有って、浮かれていたのかもしれない。

 

 

「うーん……こうして悩んでも仕方が無いから、とりあえず外に出て街を歩いてみない? 私達、街を直接歩き回った事無かったし……、下見は大事だと思うの」

 

「確かに……」

 

 

 まあ、下見は街のマップデータを取り込んでシミュレートすればこの場でも可能だけど……それでは風情が無い、と言う奴になってしまうのだろう。

 

 

「じゃあリトルの案を採用して今日の休暇は皆との予定の場所の下見をする、という事にしよう」

 

「ん。そうしよう、フェムト」

 

 

 そんな行き当たりばったりな形で、私達は街へと繰り出す事となったのだった。

 

 まあでも、偶にはこんな風に仕事中ならばしないであろうポカをしてもいいのだろう。

 

 それが許されるのが休暇なのだから。

 

 

 

 

私達は広く浅く繋がっている

 

 

 

 

 私は今とある街の中央通りをリトルと共に歩いている。

 

 この場所は人通りが多く、かつ多くの店が立ち並んでおり、私達は完全におのぼりさんその物となっていた。

 

 

「初めて本格的に外に出て街を歩いてみたけど、人が多くて活気が凄いね」

 

「うん。それに、街のあっちこっちにモルフォの立体映像が飛んでてキレイだよ、フェムト」

 

 

 このモルフォはあくまで立体映像その物であり、本人という訳では無い。

 

 ある者はモルフォに目が釘付けになっていたり、またある者はそんなモルフォを写真に収めようと携帯端末をかざしていたりとその人気ぶりは今も健在だ。

 

 正直、この通りの様子を見ただけでも休暇を取った価値があった。

 

 何故ならばこの場所は私も間接的に情報処理、または雑務処理と言った形でかかわった場所でもあり、この国の社会に私も繋がっているという事を改めて実感することが出来たからだ。

 

 その時ふと、研究所に居た時のニコラが話していた時の事を想いだした。

 

 人々は仕事を始めとした様々な事象を通じて広く、浅く繋がっているのだと。

 

 それは例え閉じこもっていたり、果ては大自然の真っただ中だったとしても例外では無いのだと。

 

 人は最低でも食べ物、飲み物を摂取しなければ生きられない以上、これらを何かしらの形で手に入れなければならない。

 

 そうなると必然的に何らかの形で人々はかかわらざるを得ないのだ。

 

 人は一人では生きられない。

 

 中には一人で居るのがいいと言う人々も居るがそれはある意味正しく、間違っている。

 

 なぜならばそう言った物は大抵ネットで「一人で居るのがいい」と言う主張を通じて無自覚に繋がっているからだ。

 

 そう、私達は確かに繋がっている。

 

 広く、浅く、無自覚に。

 

 

 

 

リトルと食べ物

 

 

 

 

「どうリトル? 初めて食べ物を食べた感想は」

 

「うん。とっても不思議で幸せな感覚。新しい体になって食べ物を取る事が出来る様になったけど、病みつきになりそう」

 

 

 リトルは今街角のアイス屋で購入したアイスクリームを口にしている。

 

 新しい体となったリトルは人間の食べ物も摂取できるようになっていた為、物は試しに街角にあったアイスクリーム屋でアイスを購入し、食べて貰ってみたのだ。

 

 

「う~~……」

 

 

 リトルが私の事を恨めしそうに見ている。

 

 どうしたのだろうか?

 

 

「フェムトはズルイ! こんな幸せな事をずっと私の前でしてただなんて!」

 

「え? ……ひょっとして私と一体化してた時も味って共有出来ない?」

 

「もし出来てたらフェムトにもっとおねだりしてた!」

 

「そっか……。ごめんねリトル」

 

「やだ!」

 

 

 あぁ、完全に拗ねてしまった。

 

 ここまではっきり「やだ!」って言われたの、初めてだ。

 

 ……予想以上に精神的なダメージが大きいが、不謹慎ながらそんなリトルが可愛く感じるのも、なんと言えばよいのか分からないが不思議な感覚だと思う。

 

 なにしろアイスをほおばりながら口をむくーと膨らませているのだからそう感じるのも無理はない。

 

 

「……リトルはどうしたら許してくれる?」

 

「む~~~~~。…………色んな食べ物、沢山食べさせてくれたら許してあげる」

 

「分かったよリトル。じゃあ次は反対側にある喫茶店に行ってみよう。きっと色々メニューもあるはずだよ」

 

「……! うん!!」

 

 

 こうして私達は喫茶店へと足を運んだのであった。

 

 ……この事が切欠で、リトルは新たに食べ歩きが趣味の一つに加わる事となる。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇リトルの以前の身体について
リトルが今の身体になる前の器はあくまで試作品だったという事も有り、視覚以外の五感は未実装或いは最低限の機能でしたが、新しい体には正式に実装されています。お陰で様々な事がカルチャーショック的な感じとなっており、実は初めて新しい姿で登場した時も、服を着た感触等で一悶着あったりします。


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第二話 家の自慢の(第七波動) 戦士の休息 一つの恋の終わり

 

 

 

 

家の自慢の(第七波動)

 

 

 

 

 私はとある病室の特殊な隔離施設に居る。

 

 その目的は紫電が皇神の改革に本格的に乗り出す前にあった不祥事による実験、その犠牲者となっていたとある人物のお見舞いだ。

 

 

「こんにちは。具合はどうですか? 【ストラトス】さん」

 

「あぁ、久しく空腹感が無い。本当に久しく、満たされた気分だよ。……こうして正気で会うのは初めてだね。フェムト君」

 

「ええ、私からも改めて……初めまして」

 

 

 彼の名前はストラトス。

 

 彼は紫電の管轄外の能力者であったが為に非人道的な実験を繰り返され、最終的には【皇神薬理研究所】と呼ばれる場所で生成された【S.E.E.D】と呼ばれる抗ストレス剤を用いて制御するしかない程に壊されてしまっていた。

 

 だけど、シアンが居なくなっている間に皇神の本格的な改革に乗り出した際に、紫電が合法ギリギリの範囲内ではあるが強引にストラトスの管轄を得て、本格的な治療が始まった。

 

 その治療の際、歌姫プロジェクト後にスカウトした【植物を操る能力者】の第七波動によって生成された植物を元に生み出された薬が完治させる際の決定打となり、今に至る。

 

 

「君の声を聞く様になって、少しづつではあったが飢餓感が減っていくのを感じたよ。まだ正気では無かったにもかかわらずね。本当に、何と礼を言えばよいのか」

 

「いえ、私がやったのは声掛けと、グチャグチャになっていたストラトスさんの断片化した精神状態を最適化しただけです。貴方をこちらに引き込んだのは紫電ですし、薬はまた別の人達の力を借りています。私だけの力ではありませんよ」

 

「知っているさ。だけど、フェムトは私の持つ暴走しかかった能力の根本を矯正する切欠を与えてくれた。……正直、驚いたよ。第七波動【翅蟲(ザ・フライ)】が意思を持っていた事に」

 

「その子は、どんな感じでしたか?」

 

「……一言で言えば、無垢だったよ。ただ只管に、私の願いを叶える為に一生懸命だった」

 

 

 第七波動とは基本的に無垢な存在だ。

 

 こちらが彼、或いは彼女達を認識しない限り。

 

 だが彼らを認識し、互いにコミュニケーションをするようになると話は変わる。

 

 

「今では私の話す外の世界に興味が沸いているみたいでね。退院したら是非見せてやりたいと思っているんだよ」

 

「いいですね。私の方は最近では『ご飯食べたい』がまず第一声で耳に飛び込んできますよ」

 

「それはまた、随分と可愛らしい(第七波動)じゃないか」

 

「それはお互い様ですよ」

 

「そうだな……ああ、まったく、その通りだ」

 

 

 こうして私達は、お互いが持つ自慢の相棒(第七波動)を中心に話を咲かせるのだった。

 

 

 

 

戦士の休息

 

 

 

 

 私とリトルは今、イオタと共にとあるお店に向かっていた。

 

 

「こんな横道に、こんなお店(食事処)があったんですね」

 

「ああ、ここは約一年前だったか……とある能力者のテロに巻き込まれそうになった所を助けた事が切欠で私に贔屓してくれるようになってな。機会があれば、是非フェムト達をつれて行きたいと思っていたのだ」

 

 

 この場所の事件の事は後にデイトナからも話を聞いていたのである程度は把握していた。

 

 それは歌姫プロジェクトが発動する一週間前辺りだろうか、今私の居るこの区画で、突如として能力を用いたテロが発生。

 

 その緊急性の高さと脅威度、及びメラクがその時手が離せない状況になっていた事からイオタが担当となり、彼の能力を用いて文字通り光の速さで現場に急行し、これを収めたのだ。

 

 恐らくこの事が切欠で、今紹介されているこのお店との結びつきができたのだろう。

 

「何て言うか、どこか落ち着いた雰囲気のあったお店ですね」

 

「うむ、秋になれば庭にある紅葉の色どりも良くなってより落ち着いた雰囲気を楽しめるぞ。それでいてメニューのレパートリーも豊富だ。きっと食べ盛りのリトルも満足してくれるだろう」

 

「フェムト! イオタ! 早くお店に入ろうよ! 早くご飯食べたいよぉ!」

 

「リトル、そんなに急かさなくてもご飯は逃げないよ」

 

「それだけ待ち遠しいのだろう。さあ、我々も行くとしよう」

 

 

 そうして私達はこのお店で料理を満喫する事となった。

 

 普段は常に気を張り詰めているイオタも珍しく穏やかな表情をしている。

 

 ようやく歌姫プロジェクト、及び後始末にも一段落ついたお陰で余裕を持つことが出来る様になったのも要因だろう。

 

 

「ふぅ……こうして平和な時が続くと、気が緩んでしまいそうになる。私はこの国の護国の為に身を捧げていると言うのに」

 

「人間である以上、常に気を張り巡らせたりするのは無理ですよ」

 

「ん。イオタは自分に厳しすぎ。残光(ライトスピード)も心配してる」

 

「むぅ……だがこれが私の性分なのでな。なかなか直ぐには直らぬよ」

 

 

 そう言った会話を繰り広げながら私達は落ち着いたこのお店と料理を堪能するのであった。

 

 本人の口ぶりとは裏腹に、珍しく少しだけ気を緩めたイオタと共に。

 

 

 

 

一つの恋の終わり

 

 

 

 

 今、私の目の前で一つの恋が終わりを迎えた。

 

 そう、デイトナが遂に心の準備を頑張って終わらせ、勇気を振り絞ってシアンに告白をして……振られたのだ。

 

 もう既にこの場にはシアンは居ない。

 

 それ所かもう振られてシアンが居なくなってから既に三十分位経っている筈なのに、デイトナは動く気配が無い。

 

 なので私は恐る恐る声を掛ける事にした。

 

 

「デイトナ……」

 

「……フェムトか。ハハッ! 情けねェぜ。自分でもうっすらとわかっちゃあいたんだがな。いざ振られてみればこのザマよ」

 

「デイトナは頑張ったと思うよ。シアンと初めて会った日から色々と気に掛けたりアプローチしてたし」

 

「何がいけなかったんだろうなァ……」

 

「何って……私からは二つ原因があると思ってるけど」

 

「っておい! フェムトから見ても二つもあんのか! オレは一つしか思い浮かばなかったぞ!」

 

 

 その要因の一つはGVの存在だろう。

 

 私も彼と仕事、または友達として付き合う様になって暫く経ったので彼の人となりや性格をある程度把握出来る様になったのだが、仕事には誠実だし意外と細かい所にも気を使ってくれる優しい一面もある。

 

 それでいて彼はどこか天才肌な所もあり、何でもそつなくこなせる所も大きい。

 

 見た目も容姿端麗、美形であるのは間違いないし年齢以上に大人びた雰囲気もあるのだ。

 

 その事をデイトナに指摘すると彼も納得をしていた。

 

 どうやらこの事は分かっていたみたいだ。

 

 

「ああそうだな。悔しいが、ガンヴォルトのヤロウが原因なのは間違いねェ。オレはアイツの事は紫電と同じように気に喰わねェと思ってるが、その実力は確かだ。それに、直感的に信用できるヤツだって思えちまうしな。敵だと厄介極まりなかったが、味方になると途端に頼もしく見えちまう」

 

「ですね」

 

「だがよフェムト、お前はもう一つ原因があるって言ってたよな? それって何なんだ? オレにはサッパリ分かんねェぞ」

 

「あ、これはデイトナは把握して無いと思いますよ。ある意味突発的な事故みたいな物ですから」

 

「事故だァ?」

 

「ええ。……覚えていますか? ()()()()()()()()()()()()()()()()を」

 

「すまん、あんまし覚えてねェ。……ちょっと待て。オレもしかしてそこでシアンちゃんになんかやらかしたってのか!?」

 

 

 そう、デイトナはやらかしていた。

 

 宝剣による変身現象(アームドフェノメン)、今ではその欠点は克服されているのだが、デイトナが試験的に開放していた時は違っていた。

 

 その欠点は、変身現象によって能力を行使しやすくなる身体に再構成する事でエゴが増大しやすくなる事。

 

 簡単に言えば。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 つまり……

 

 

「うっ嘘だ……そんなセリフをシアンちゃんに聞かれてただなんて、そんなの……そんなの嘘だァァァァァ!!!」

 

「あぁ!! デイトナッ!! ……行っちゃった。でも、デイトナがああなっちゃうのも無理は無いかな。何しろ……」

 

 

 何しろ聞かれた内容が『機械に繋がれたシアンちゃんはなッ!! サイコーに胸キュンなんだよッ!!!』と言うデイトナ本人から見ても倒錯したセリフだったのだから。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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第三話 環境は人を変える 新たなる戦場 お騒がせなハッカー

 

 

 

 

環境は人を変える

 

 

 

 私は今エリーゼを連れて街を歩いている。

 

 エリーゼとはあの時紫電の管轄下に入った際、あの恐ろしい二つの植え付けられた人格を私の能力によって完全に消去し、本人の人格へ影響が出ない様に統合した事を切欠に、私とエリーゼはそれなりに話せる間柄になっていた。

 

 

「あの……フェムト君」

 

「? どうかしましたか、エリーゼ」

 

「わたし、こんな街中に出ても大丈夫なのでしょうか……?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ちゃんと紫電からも許可はとりましたので。それに、護衛もちゃんと付いていますので

 

「エリーゼ、フェムト、早く早く! あそこのお店のケーキ、売り切れちゃう!」

 

「あ、リトルちゃん! そんなに急がなくてもケーキは逃げないですよ!」

 

 

 彼女は皇神に関わる前に居た女子高では本人の押しの弱さと、当時は強かった能力者に対する差別もあり、陰湿ないじめに会っていた。

 

 そのせいであんなに弱気になってしまい、それが原因で無理矢理二つの人格を植え付けられたのだ。

 

 だけど今はその二つの人格は排除され、私と、紫電と、デイトナと、イオタと、リトルと……色んな人達との触れ合いによって、初対面だった際のあの怯えも含まれたであろう弱気な所が大分緩和されている。

 

 ……とある学者の論文によると、環境は人を変えるものだと言う。

 

 

「リトルはケーキの味を覚えてからいつもあんな調子なんですよ」

 

「……フフ」

 

「? どうかしましたか、エリーゼ」

 

 

 ならば、私達はエリーゼに対して良い影響を与える環境を与えることが出来たと胸を張って言えるだろう。

 

 

「わたし、こんな風に誰かと一緒に出歩けるようになれた事が、今でも信じられなくて……以前のわたしだったら、差し伸べられた手に対しても、怯えていたのに」

 

「……大丈夫ですよ。今は信じられないかもしれませんが、必ずいつか当たり前に変化するはずです」

 

「……ありがとう。わたし、フェムト君より年上なのに、いつも励まされてばっかりだね」

 

「年齢は関係ありませんよ。それに、切欠は何であれ私も紫電と一緒にあの場に居た当事者ですし、拾った責任もあります」

 

「フェムト君……」

 

「わぁ! ケーキ屋さん発見! ケーキ! ケーキ!」

 

「あ、リトルちゃん! そんなに走っちゃ危ないよ!」

 

 

 何故ならばエリーゼは私とリトルに今、屈託の無い笑顔を見せてくれているのだから。

 

 

 

 

新たなる戦場

 

 

 

 

「んと……よし。終わりましたよ、カレラ」

 

「うむ。フェムト坊、休暇中だと言うのにかたじけない。……小生はこのような作業は得意では無くてな」

 

 

 私は今、カレラの任務におけるレポートの作成の補助及び編集を行っており、たった今終わった所だ。

 

 カレラは元能力者狩り(ハンター)部隊の隊員だったのだが、そこの長だったパンテーラが消息不明となってしまった為解散*1してしまい、今は紫電直属の戦闘部隊に所属している。

 

 その実力はカレラの第七波動磁界拳(マグネティックアーツ)による対第七波動特攻の性質、そして何よりも本人の強さに対する執着もあり、他を寄せ付けない程に圧倒的。

 

 ただし、そんなカレラにも弱点は存在する。

 

 こう言ったミッションレポートを纏める事も含めた情報処理全般だ。

 

 

「いえいえ、こう言ったミッションレポートの処理は私の得意分野ですから。適材適所と言う奴です」

 

「そうであるな。……小生は、ただ己が強ければよいと思っていた。ここ(天皇神)に来るまで、多くの道場破りをしてより闘争を求めた」

 

「道場破りなんてやってたんですか……」

 

「うむ。……だが、ここに来て思わぬ難敵が立ち塞がったのだ」

 

「レポート提出を始めとした情報処理、ですね」

 

「そうだ。この分野において小生は無力であった。能力者狩り部隊に居た時は完全に小生は戦いを任されていたが故に。そう、戦場の無い小生は無力だ」

 

「カレラ……」

 

 

 カレラの言う戦場と言うのは、歌姫(ディーヴァ)プロジェクトによって激減した能力者によるテロや犯罪の事だ。

 

 そう、()()()()()()のだ。

 

 これは即ちカレラが力を振るう場が激減していると言う事であり、更に宝剣の副作用も無くなった事で、従来よりもただ強さを求めると言った事も無くなってしまい……故にカレラはここの所心、ここにあらずと言ったあり様となってしまっている。

 

 そんなカレラにリトルが声を掛ける。

 

 

「そんな事無いよ。だって、カレラが居ると皆安心するもん」

 

「安心……でござるか?」

 

「ん。カレラは戦いで強いから。同じミッションに参加しているのなら皆は成功を確信する。違っていても、何かあった時には心強い救援が控えているって安心する」

 

「……!」

 

「そうですね。強い人が一緒だったり控えに回っているのなら、これほど心強い事は無いですね」

 

「なる程……リトル嬢、感謝するでござる。小生は新たな戦場を見出したで候」

 

 

 カレラの瞳に力が戻る。

 

 そこには新たな戦いに心を燃やしその為の力を求める漢がいた。

 

 

 

 

お騒がせなハッカー

 

 

 

 

 私は今メラクと共に遂に発売されたVR版ベルレコを楽しんでいた……のだが。

 

 

「また来た……全く、しつこいったら無いよ」

 

「よりにもよって、プライベートで楽しんでいる時に来ますか」

 

 

 私達がうんざりしているのは、VR版では無かった頃からベルレコに()()()()()を掛けているハッカーが、性懲りもなくやってきた事だ。

 

 しかもまだこのVR版ベルレコで未実装の飛行型の大ボス(ドラゴン)の姿で。

 

 おまけに、ご丁寧に無敵化コードを引っ提げて。

 

 何しろこのハッカー、ベルレコの初期から現れており、HPの減らないモンスターをプレイヤーに嗾けたりする愉快犯であると同時に常習犯。

 

 しかも、私以上に能力を用いたハッキングに精通しているらしく、発信源を追跡しきれないのだ。

 

 

『ち~~~~すwwwww VR版が出たと聞いて文字通り飛んできましたwwwww 詳細ヨロww つってwww』

 

「……フェムト、()()()()()()お願い。ボクは追跡の方に回るよ。多分、また撒かれると思うけどね」

 

「了解」

 

 

 メラクが珍しく怒っている。

 

 メラク待望の新作を楽しんでいたら悪質ハッカーに邪魔されたのだから当然と言えば当然か。

 

 後普段の口癖である「めんどくさい」が抜けている為割と本気っぽい。

 

 まあでもあのハッカーが常習犯と呼ばれる程こちらにハッキングしている以上、こちらもその対処法を確立している。

 

 まず有無を言わずに追い出そうとするとはダメだ。

 

 可能か不可能かで言えば可能ではあるのだが相手の方が能力が高い為、追い払うのに時間が掛かるし被害も大きくなる。

 

 なので様々な試行錯誤がされたのだが……

 

 

『ちょwwww コード速攻で剥がさ始めたんですケドwwwww このゲームでもあのGMいるのwww 続投乙wwwww』

 

「あ、こっちでも居るのか【TSOドラゴン】! 皆! こいつは暫くの間はHPは減らないけど()()()()()()()()()()()()()()()()()になるから粘れよ!」

 

「こっちでもあの良イベあるってマジ? じゃあデスペナ無視してでも参加しねぇとな!」

 

 

 その結果、追い出すまでの間は()()()()()()()()()()として対処するのが一番ごまかしも効きやすくプレイヤー達にも好評と言う、結果的に一石二鳥の策に纏まったのだ。

 

 ちなみにプレイヤーに好評な理由は報酬が参加するだけで物凄く美味しいからだ。

 

 何しろ相手はコードで超強化している状態で相手をして貰っており、実質クソゲーを強要しているような物であり私達の尻拭いまでさせているのだから、せめて報酬は良くしようと思うのは当然の帰結であった。

 

 

 

「おら! とっとと沈め糞ドラゴン!!」

 

「俺達の金と経験値、そしてガチャ石と化せ!!」

 

『うはwwww こいつら相変わらず必死すぎwwwww ワロスwwwwww とりま、ブレスいきますね~~~~wwwww』

 

「げっ! 開幕クソ範囲ブレスすんなし!!!」

 

「こっちでもそれかよコンチキショウ!! まだ序盤なのもあって装備揃ってねぇんだぞ!!」

 

『アレ?wwww 一発で消し飛ぶとかザコすぎるんですケドwwww 弱すぎっつってwwwwww』

 

「こ、このクソドラゴン……!!」

 

 

 

 ……プレイヤーが楽しんでいるのはまだ納得出来るけど、あのハッカーも楽しんでいるのが何とも言えない。

 

 しかしあのハッカー、まだ電子の謡精(サイバーディーヴァ)を用いて能力者の炙り出しをしていた時からハッキングしていたので歌姫プロジェクト、或いは電子の謡精目当てなのかと疑っていたのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のでその線は消えてしまった。

 

 ……っと、準備完了。

 

 プレイヤーの皆、後はよろしく。

 

 

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 超バフktkr!!!」

 

「これで勝つる!!!」

 

『うはwwwww コード剥がされたwwww ちょwww おまwwww 弱体効果多すぎwwww しかも永続wwww テラヒドスwwwwwww』

 

「「「「俺達の報酬と化せ! クソドラゴン!!!!」」」」

 

 

 結局、この一連のどんちゃん騒ぎもベルレコから引き継がれてしまった。

 

 

(まあでも皆楽しそうだしいい……訳無いよなぁ。いい加減、なにかしら対処はしたいんだけども)

 

 

 そうしてしばらく時間が経ち……

 

 

「……あ~くそ! またロストした! 今回はいけるかと思ったのに!」

 

 

 メラクの悔しそうな声と共に、TSOドラゴン(ハッカー)討滅戦は終了したのであった。

 

 

 

 

*1
なお、パンテーラが消息不明となった際、一部の隊員も消息不明となっている。ちなみに消息不明と言う扱いになっているのは、アキュラにやられたと言う事実の隠蔽も兼ねている。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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第四話 柴犬?の正体 自由の代償 刹那に見えた悪夢の断片

 

 

 

 

柴犬?の正体

 

 

 

 

 休暇を利用してGVの拠点にお邪魔させてもらった際にシアンとどの様に過ごしていたのか話を聞いていた時、なんとも珍妙な話を聞く事となった。

 

 その内容はシアンが学校の帰りに犬の鳴き声がする猛犬注意のステッカーの貼ってあった家に居た柴犬らしき犬に右手を嚙まれたとの事。

 

 ただ、どの様な犬だったかを尋ねた際、変な事を話していたと言う。

 

 

「紫色の犬……ですか」

 

「ええ、ボクも少し気になったんで見に行こうとしたんだけど、その騒ぎがあったせいかその家はもう引っ越してしまってて……」

 

「ねぇフェムト。多分フェムトと一緒に働いてる部署の人が時々連れて来てるワンちゃんの事だと思うよ」

 

「……そういえば居ましたね。休暇中に見た記憶があります」

 

「そっか。皇神ビルの近くに引っ越してたんだ」

 

「ええ、確か丁度その時期に私の部署の部下として配属された人だったはずです。ただ単に新居を仕事場の近くに移しただけですよ」

 

「だから、シアンは何も悪く無いよ」

 

「そっかぁ……よかったぁ」

 

 

 そうして話は紫色の犬は何なのかにシフトしたのだが……

 

 

「え? そうなの?」

 

「ええ、シアンの言う紫色の犬とは犬型の警備ロボットtype【ゴスペル】の事だと思いますね」

 

「typeゴスペル?」

 

「ええ、警備ロボと同時にペットロボの機能を併せ持った犬型……では無く狼型のロボットです」

 

「警備にロボットを用意するのは分かるけど……」

 

「ペットは飼いたいけど世話をする時間が無いって人には需要があるんですよ。ペットロボットは」

 

「なるほど。そのオマケに警備もしてくれるなら一石二鳥でもある……と」

 

「そう言う事です。GV……っと、コレですね」

 

 

 そうして会話をしながら持っている端末でネット検索をして映し出した画像をGV達に見せる。

 

 

「そうこの子! この子に間違い無いよGV!」

 

「……思ったよりも、カッコイイ感じなんですね」

 

「狼型みたいですからね。確かにこのデザインはカッコイイ感じです」

 

 

 狼型の警備兼ペットロボゴスペル。

 

 その画像と共にあったレビューの内容は上々なようだ。

 

 

 

 

自由の代償

 

 

 

 

 街中でGV、シアン、リトルと共に会話をしていたら一羽の小鳥がシアンの型に止まった。

 

 

「わぁ……! ねぇGV! この子、前家に来てた(しめじ)だよ!」

 

「言われてみれば……確かにあの時の小鳥だ」

 

 

 シアンがまだGVの拠点に居た時、窓を開けながらGVが夜風に当たっていた時に迷い込んだ小鳥との事。

 

 ただこの小鳥、何所か元気が無いようにしているのが気になるのだが……ちょうど私達の視界から死角になっていた方角から見たリトルはある事に気が付く。

 

 

「ねぇ、その子怪我してるよ?」

 

「え……あ、本当だ。GV、この子怪我してる」

 

「…………」

 

「……GV? どうかしたのですか?」

 

「あぁ、ちょっと思う所があってね……一先ず、治療をしないと」

 

「なら私がキュアーヴォルトで治します。野生の生き物にも効果は実証済みですので安心して下さい。さあリトル、手を」

 

「ん。この子を治してあげて」

 

 

 私は基本、変身現象(アームドフェノメン)をしなければノーマルスキルの使用は出来ない。

 

 が、何事にも抜け道は存在する物で、私の場合はリトルと物理的な接触があれば効果が落ちてしまう代償はあるが、ノーマルスキルの使用が可能となっている。

 

 淡く藍色に輝く電流が小鳥を包み込み、その傷を癒していく。

 

 

「……これでよし。これで外傷は大丈夫でしょう。但し……」

 

「またこうなる可能性があるって事だよね?」

 

「そう言う事です」

 

……これが自由の代償……か。一歩間違えてたらボクもシアンもこの小鳥のように……

 

「……GV?」

 

「……何でも無いよ、シアン」

 

 

 その後再び小鳥は元気に飛び立っていった。

 

 何処までも吸い込まれるような広い空へと羽ばたきながら。

 

 私達四人は、懸命に飛び立った小鳥のその旅路を祈るのであった。

 

 

 

 

刹那に見えた悪夢の断片

 

 

 

 

「GV、こっちの下ごしらえは終わったよ」

 

「ありがとうフェムト。……よし、これで準備は完了。後は仕上げに取り掛かろう」

 

「ご飯♪ ご飯♪」

 

「リトルちゃん。私達もそろそろ食器を並べよっか」

 

「うん♪」

 

 

 私達は今、私とリトルの住む住居にて料理を共同で作っていた。

 

 切欠はリトルが「久しぶりにフェムトの手作りご飯食べたい!」と言ってきた事が切欠だった。

 

 そう言った流れで私は料理を作り始めたのだがさり気無くGVが「ボクも料理出来るから、手伝おうか?」と尋ねられたのでこれを承諾。

 

 少し前から料理に凝っているらしいGVのお手並みは見事な物で、結果として完成までに大幅な短縮をすることが出来た。

 

 

「やっぱり経験者が手伝ってくれると作業がだいぶ楽になって助かるよ」

 

「お邪魔している以上この位の事はさせて貰わないとね。ボクの拠点での時はフェムトに手伝ってもらってたから、そのお返しもあるけど」

 

「フェムト、GV、シアン、早く食べようよ~~!」

 

「ご飯は逃げないからそんなに慌てなくても大丈夫だよ、リトルちゃん」

 

「……リトルももう待ちきれないみたいだし、そろそろ食べ始めよっか。じゃあ……」

 

「「「「いただきます」」」」

 

 

 ……うん、今回の出来もなかなかだ。

 

 リトルは……幸せそうによく噛んで食べている。

 

 GVは……シアンの分の料理を取り皿に移している。

 

 シアンは……それを受け取って嬉しそうに微笑んでいる。

 

 そう、この瞬間は紛れもなく幸せだと確信できる、そんな一時。

 

 その刹那……ほんの一瞬だけであったのだが【地獄】が顕現した。

 

 

(……!!)

 

 

 GVとシアンが血まみれの姿で倒れている姿と、その姿を銃を構えながら見下ろしている誰か。

 

 なんだこれは。

 

 そう思った刹那、再び元の幸せな光景へと回帰する。

 

 

「……どうしたのフェムト? 大丈夫?」

 

 

 先ほどの光景で血まみれだったGVが、心配そうに声を掛けてくる。

 

 

「う……うん。ゴホゴホッ! ゴメン、ちょっと変な所にご飯が入っちゃって」

 

「そっか、なら大丈夫そうだね」

 

「フェムト、普段から仕事ばっかりだったから疲れてるんじゃないのかな?」

 

「……そうかもしれない。心配かけてゴメンね、シアン」

 

「フェムト、フェムト! ご飯お代わりする!」

 

「ちょっと待ってねリトル、今用意するから」

 

 

 この時は、リトルの食欲に助けられる形となってしまった。

 

 ……あの光景は一体何だったのだろうか?

 

 出来る事なら、あのような光景は二度と見るのはゴメンだと、私は思うのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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第五話 謡精のライバル? 隣の芝生は蒼く見える ベルレコにおける昆虫人(セクト)の立ち位置

 

 

 

 

謡精のライバル?

 

 

 

 

 私とGVが軽い談笑をしている時、動画を見ていたリトルが何やら慌ただしくシアンとモルフォを呼ぶ。

 

 

「シアン! モルフォ! 大変大変!!」

 

「どうしたの? リトルちゃん」

 

『アタシまで呼ぶなんて、何かあったの?』

 

「コレ! これ見て! ほら、GVもフェムトも!」

 

 

 そこに映っていたのは一人の女の子だった。

 

 別にそれが珍しいという訳では無いのだが、ただどうしてリトルが慌てたのかは理解できた。

 

 見た目は緑髪のショートで、活発な雰囲気を持った少女。

 

 背中にスピーカーと一体化した不死鳥の翼らしき物を背負っており、その背後には後光すら見えている。

 

 全体的にリトルが比較対象していると思われるモルフォとはある意味真逆な印象を受けるが、問題はそこでは無かった。

 

 

「モルフォとは違う、新しいバーチャルアイドル?」

 

「ん! モルフォと歌の雰囲気全然違うけど、()()()()()()()()()()()!! 何て言うか、【野生の電子の謡精(サイバーディーヴァ)】みたいって言えばいいと思う!」

 

「バーチャルアイドル自体は珍しいものって訳じゃあないんだけど……うん、とても良く出来てる。少なくとも他のバーチャルアイドルとは一線を画してる。断言してもいい。それだけの魅力がこの子には詰まってる。可能なら是非スカウトしたいのが正直な感想かな」

 

「二人が言う事も何となく分かるかもしれない。聞いていて、元気が出る感じがするよ。……ボクはそこまで歌に詳しい訳じゃ無いけどね」

 

「『…………』」

 

 

 私達三人はこんな感じに感想を言い合っていたのだがシアンとモルフォは食い入る様に動画を見ている。

 

 その様子は真剣そのもの。

 

 私達はそんな二人の雰囲気を察して、途中から黙って歌を聞く事に専念した。

 

 

『無くしたものなら すぐ側にあった それに気づかず泣いてた 過ぎた自分にさよなら ここで止まったら 何の意味もない 終わらない旅の途中 手探りでも掴んだら 最後まで行けるはずさ』

 

「「「「『…………』」」」」

 

 

 うーん、それにしてもよく出来てる。

 

 動画作りも振り付けなんかも私が見ても手馴れているし、長い時間投稿を続けた技術的な安心感すら感じるのはもはや奇跡と言ってもいい。

 

 正直この子が何で今まで埋もれていたのかさっぱり分からない位だ。

 

 そこでふと気になって私の方の端末でこの動画情報を閲覧してみたのだが……

 

 

(投稿日時が昨日? それに動画投稿数もこれが最初だ。……最近の生放送のアーカイブを調べてもこの子らしき姿は影も形も無い。なら数年前位遡って……いや、そもそもそれだけ前にこの子が居たら相応に話題になった筈。なんだろう? この、突然パッと出て来たかのようなこの違和感は)

 

 

 こうして調べている間にこの動画の再生数は私が見た中でも信じられないような速度でうなぎ上りに増えて行く。

 

 コメント欄でも「期待の新人バーチャルアイドル」「皇神グループ秘蔵の新人さんとか?」「モルフォと雰囲気違って明るくて活発そうなのいい……」みたいなコメントが多い。

 

 そんな事を私が調べている間に彼女の歌は終わり、最後にはこの動画をロケしていたであろう砂漠をバックに終わりを迎えた。

 

 

「……フェムト、皇神広報部の人達、今すぐ集めて」

 

 

 私が今まで聞いた事が無い強い口調でシアンがそう言い放った。

 

 

「……え?」

 

『何を呆けてるのフェムト! これはアレよ! アレ! そう、アタシに強力なライバルが現れたのよ! こうしちゃいられないわ!』

 

 

 そう言いながらシアンは私の手をこれまでの彼女からは考えられない力で引っ張られながら強制的にこの場から連れ出されてしまう。

 

 

「え? え? ちょっと待ってよ二人共!」

 

「……私達も行こうGV。このままじゃ置いてかれちゃうよ」

 

「了解……【希望の歌姫】か。案外二人にはいい刺激になったかもしれないね。この子は」

 

 

 この後モルフォの新衣装を考えたりこれまでに無い歌のバリエーションを増やす様々な事が行われる等、珍しく皇神広報部の人達を率いてシアンが主導でアレコレする様になるのであった。

 

 

 

 

隣の芝生は蒼く見える

 

 

 

 

「蒼き雷霆と青き交流って、基本的に出来る事はある程度は共通してるけど、具体的にどんな違いがあるの?」

 

 

 と言うシアンの言動が発端となり、私とGVは互いの第七波動の違いを比べてみようと言う流れになった。

 

 昔の私だったらかなり複雑な心境になっていたけど、今ではそんなに気にしてない。

 

 むしろ私所かリトルもGVも気になるみたいなので、ここで改めて比べてみる事となった。

 

 

「まず共通している部分から纏めようか」

 

「EPを扱う、身体強化、ハッキング、電磁結界(カゲロウ)、電力をEPに変換する、EPの貯蔵、ノーマルスキル……この辺りは共通してるかな」

 

「二人のやれる事って結構被ってるんだね」

 

「フェムトの青き交流はボクの蒼き雷霆から派生した能力だからね」

 

「そう言う事です。じゃあ次は、それぞれ出来る事を纏めてみましょう」

 

 

 先ずは蒼き雷霆。

 

 その代表的な物と言えば【雷撃麟*1】、【チャージ*2】、【空中における高機動(エアダッシュと空中ジャンプ)】、スペシャルスキル、そして他の第七波動とは一線を画す出力辺りになるだろう。

 

 こうして改めて蒼き雷霆で出来る事をパッと並べて見ると凄まじいの一言に尽きる。

 

 紫電からも最強の能力者の一角と言われる所以がとても良く分かる。

 

 では、青き交流の方はと言うと……

 

 

「端末の持つ演算能力を私の物として扱う、EPを各機械に対応した電力、電圧に変換する、【生体ハッキング】できる位ですかね」

 

「……生体ハッキング? 随分と物々しい響きに聞こえるけど」

 

「ええ。実際私にとって一部嫌な使い方……直接的な洗脳なんかも出来てしまいます。元々はEPを利用した【生体マッサージ】だったのですが、それがこう言った形で発展してしまったみたいで」

 

「フェムトの生体マッサージ、わたしも体験した事あるけど体の疲れとかすっかり取れて気分爽快になるんだよね」

 

「実際この生体マッサージからスキルに昇華してキュアーヴォルトが出来た事を考えると喜ばしい事ではあるんだけど、洗脳まで出来てしまうとちょっと私自身の倫理的には複雑な感じなんです」

 

「……フェムトがそう言った認識を持ってて安心したよ」

 

「ん。だから私もフェムトに力を貸すの」

 

「で、話を戻すけど……見た感じ、役割分担は出来てる感じはしますね」

 

「そうだね。GVは戦闘系、フェムトはサポート系って感じでちゃんと分かれてる」

 

「でも、私の方がちょっと見劣りする感じかな……」

 

 

 こうして並べてみると役割分担は出来てる様に見えるが、リトルも言っている様に私の方が見劣りしているのは否定できない所だろう。

 

 

「……そんなことはないんじゃないかな。直接戦場に立つ立場から言わせてもらうと、フェムトの力は正直かなり凄く感じるよ。ボクの力はあくまで傷つける事、破壊する事に特化している。一応傷も治す事とかも出来るけど、それはあくまでボク自身だけなんだ」

 

「GV……」

 

「フェムトの力は他の人を癒したり助けたりすることが出来る。それはボクにとって、とても羨ましい事なんだ」

 

 

 ああそうか、つまりこういう事だ。

 

 

「つまり、隣の芝生は青いって事?」

 

「……そう言う事だよ。シアン」

 

「ん! ありがとう、GV! そう言ってくれるととっても嬉しい!」

 

 

 こうして羨ましかったのはお互い様だった事が分かり、また一つGVと心を通わせることが出来たと確信できたと思ったのであった。

 

 

 

 

ベルレコにおける昆虫人(セクト)の立ち位置

 

 

 

 

「へぇ……シアンがベルレコに興味を、ですか」

 

「ええ。その時は学校の友達に誘われて、みたいな感じだったかな」

 

 

 リトルがおやつを夢中で食べる姿を背景に、GVの拠点でシアンがどのように過ごしていたのかを話題に始まり、今はシアンがネットゲームをしていた話へと移行していた。

 

 そう言えば、あの時期は初心者を誘うと貰える特殊なアイテムを配布するキャンペーンをやっていた筈。

 

 シアンの友達である旗乃さんはGVの話を聞く限り熟練プレイヤーだろうから誘ったのだろう。

 

 

「それでシアンは種族を何にしてました?」

 

「【エルフ】でしたね。ボクとしてはシアンは初心者だから【昆虫人】を勧めていたんだけど」

 

『むぅ……あの時も言ったけどGVってば、アタシの事考えて昆虫人を勧めたのよ! フェムトもヒドイって思わない?』

 

「そうだよ! モルフォは虫じゃないもん! 妖精さんだもん! サイバーなエルフさんだもん!」

 

「…………」

 

 

 GVが眼をそらしている。

 

 以前の事を思い出して少し気不味そうだ。

 

 が、ちょっと待って欲しい。

 

 確かに昆虫人は見た目がグロテスクで()()()()()不人気だったのは事実なのだけれど。

 

 

「確かあの時期、昆虫人は既にアップデートがされてた筈です」

 

「……アップデート?」

 

「ええ。その見た目がグロテスクなのが不評なのに初心者向けだなんて銘打っちゃっていたので、私がその辺手直ししたんです」

 

「え? フェムトってベルレコの開発者さんだったの?」

 

「途中参戦でしたけどね。当初は能力者を探し出す為のゲームでしたけど、私の手が届く様になったので色々と利益の出る様手直ししたんです。シアンが居なくなっても普通にゲームが出来る様にしたりとかもしてますよ」

 

「……そういえばジーn……ボクの仲間がベルレコの事絶賛してたっけ。今でもプレイしてるみたいだけど」

 

「あぁなるほど、()()からソナー機能に足がついちゃったって感じですか。まあでも好評いただけたようで何よりです。今は唯のゲームですしね」

 

「でも、【旗乃さん】……はたちゃんから見せて貰った昆虫人、かなりグロい感じだったけど……」

 

「その昆虫人はかなりコアなプレイヤーだと思いますよ。あのアップデート前の姿は設定から警告表示も見つつ変更しないといけないんで初心者にはハードルが高い筈です。お友達もかなりコアなプレイヤーみたいですね。あの状態の昆虫人、設定を弄らないとデフォルメ設定になる筈なんですよ。まあそれよりも……」

 

 

 そう言いながら私が持つ携帯端末からベルレコを起動し、キャラ作成の画面へと変える。

 

 そこに映っていたのは、私が手直しした昆虫人の姿。

 

 

『あれ……? 思ったよりもグロくない?』

 

「ええ、いきなりあのグロテスクな姿を見せるのは初心者にはマズイです。ああいったのは一部の上級者向けにするのがセオリーなんですよ。そう言った層には意外と需要、あったりしますし」

 

「へぇ、デフォルメ感が強い感じでちょっとカワイイかも……だけど、やっぱりモルフォとはイメージが遠いよ」

 

「ちなみにベルレコは性別の選択も出来るのですが……」

 

 

 そうして映し出したのは、明らかにモルフォを意識したデザインの姿な昆虫人。

 

 ベルレコの設定レベルまで弄って女性の性別の昆虫人は人型の外見に蝶の羽を持っている姿とした事で実現したこの姿を作るのは大分苦労させられた。

 

 

「ちなみに羽の色や形も変更可能だったりします。中にはモルフォを忠実に再現したキャラクターデザインを作ったプレイヤーもいたりするんですよ」

 

『わぁ……エルフに負けない位キレイ』

 

「これは……随分気合を入れて作ったんだね、フェムト」

 

「ええ。初心者向けだからこそ気合を入れないとお客様は呼び込めませんからね。実際このデザインに変更したら売り上げが伸びましたよ。ちなみに最近始まったVR版でも人気が高いですね。昆虫人の女性は初心者向けで尚且つ初期から空が飛べるアドバンテージがありますので」

 

「うーん、これなら昆虫人を選んでも良かったかも……ああでも選んじゃったらモルフォが虫扱いになるって認めちゃう事になるんじゃ……うぅ、悩ましい」

 

 

 その後、シアンがベルレコに対して電子の謡精を持ち込んでゲーム禁止令が出てしまったり、それがダメ押しの決定打となってGVの拠点の居所が判明した話だったり、このデータを観測できたお陰で歌姫(ディーヴァ)プロジェクトにおいて改良点が見つかったと言った話も出たが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

*1
GVの持つ(ダートリーダー)弾丸(ダート)に誘導する強力な雷撃と共に雷撃のバリアを展開する攻防一体の主力攻撃。空中で使用するとホバリング出来るし、暗い所もバリア範囲内なら照らす事も出来るし、バリアを経由したハッキングも可能。これだけでもう強い。

*2
EPを全回復する特殊な型。精神集中する為の自己暗示みたいなものらしい。別名カッコイイポーズ。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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第六話 養われるGV? 乙女達の恋愛模様 意外な人選による共通の話題

 

 

 

 

養われるGV?

 

 

 

 

 リトルが目を瞑り、日向ぼっこをして気持ちよさそうに窓際で座っている横で、私はシアンに今月分の報酬の一部を口座に移した事を伝えていた。

 

 

「シアン、今月分振り込んでおいたよ」

 

「あ、フェムト。いつもありがとう」

 

「…………」

 

「……? どうしたのGV?」

 

「……ちゃんと報酬を受け取ってるんだなって思ってね」

 

 

 シアンは今をときめくバーチャルアイドル、モルフォでもある。

 

 なのでこれまでの活動による報酬が貰えるのは普通に考えれば当然と言えば当然と言えるだろう。

 

 

「GVが懸念するのは分かりますよ。シアンに対する報酬の話は機密等の問題云々とか言って無しって話に初期の頃はなりかけてましたからね」

 

「えぇ!? そうなの?」

 

「ええ。しかもその報酬、その意見を言った人に最終的に行く形になっててね……。明らかに着服する気だったし、その人は皇神でも問題児扱いされていたので最終的には紫電が直々に()()を下したけどね。まあ今はもうこの話は決着がついてますから、そういった心配はありませんよ」

 

「そっかぁ……良かったぁ」

 

『言ってみれば、アタシ達の頑張りの結果だもの。横取りなんてされたらたまらないわ』

 

 

 それで話が終わるかに思えたのだが、ここで私達と一緒に話を聞いていたデイトナが疑問を投げかける。

 

 

「そういえばよォ。シアンちゃんってどんくらい給料もらってンの?」

 

「デイトナ……それを聞くのはどうかなって、ボクは思うんだけど」

 

「ぁ……。いやいや、気になるのは仕方がねェだろうガンヴォルト。今の話を聞いたらよォ。受け取ってる報酬が不当だって可能性もあンだからよ」

 

「それは確かにそうだけど……」

 

「そう言えば……わたしいつも報酬の一部をフェムトから受け取ってる感じで実際に貰ってる報酬の事、あんまり把握してなかったけど」

 

「実際、シアンの報酬は私が管理してますね。何しろ額が額ですので」

 

「なんでェ、フェムトが管理してたのか。チッ、余計な心配しちまったぜ」

 

『で、結局アタシってどの位報酬受け取ってるのかしら?』

 

 

 モルフォからも催促が出たので私は今のシアンの口座を確認。

 

 ……改めて、凄い数字が並んでいる。

 

 

「えっとですね……もう十一桁は突破してますね」

 

「十一桁を突破って……」

 

「オイオイちょっと待て! 桁が違いすぎンだろ!」

 

「この位当たり前ですよ。モルフォは今復活した勢いもあって更にブームが加速してるんです。近い内に十二桁位到達しても不思議では無いですね」

 

「……わたしって、そんなに凄かったんだ」

 

『フフフ♪ やったわねシアン! これで最悪GVが皇神から契約切られちゃっても、アタシ達で養ってあげられるわ!』

 

 

 モルフォから凄い発言が飛び出し、デイトナとGVが固まってしまった。

 

 ……まあ、気持ちは分からない訳では無いけど。

 

 

「……フェムト」

 

「大丈夫です。現時点でGVとの契約を皇神側が切る事はありえません。ありえませんが……盤石にしたいのなら、皇神に入社する事をお勧めします。無理にとは言いませんが」

 

「……善処、するよ」

 

 

 私の答えに辛うじて絞り出したかのような声でGVが返事をしたのを最後に、盛り上がるシアン達とは対象にデイトナとGVは沈黙すると言う何とも言えない空気が構築されるのであった。

 

 

 

 

乙女たちの恋愛模様

 

 

 

 

 リトルと共に一緒に買い物を終え私の施設にある客向けの部屋の一つへと足を運ぼうとした際、女性陣による話し声が聞こえて来た。

 

 話しているのは主にシアン、モルフォ、エリーゼの様だ。

 

 

(このメンバーで話が盛り上がっているのは珍し……くはないか)

 

 

 最近ではGV達も私を通じて有力な皇神能力者でもある皆とも交流があり、今日は別の部屋でGV、デイトナ、イオタ、カレラの四人で話が盛り上がっている。

 

 なのでその邪魔をしてはいけないと私の部屋へと戻ろうとした時、丁度私やGVの話題になった為つい立ち聞きをする事となった。

 

 ただ、問題なのはその内容が……その……。

 

 

「それでね、フェムトくんってカワイイけど凄く頼りになってくれるんです。わたしなんかの為に色々と手続きをしてくれたり、矢面に立たされそうになると何処からともなく出て来て助けてくれますし」

 

「エリーゼにとってはフェムトはヒーローなんですね」

 

「はい♪ でも、最近は、何て言うかこう、なるべく表には出さない様にはしてるんだけど」

 

『あ~~……。なるほどね。何となく察したわ。つまり、エリーゼはフェムトの事が好きなんでしょ?』

 

「モッ、モルフォさん!? そんなにハッキリ言われると恥ずかしいです……」

 

 

 つまりこういう事である。

 

 ……私としては非情に喜ばしい事ではあります。

 

 何しろ私自身見た目が完全に女の子の姿ですので、恋愛的な好意を持ってくれるヒトなんて貴重です。

 

 

(フェムト、なんだかうれしそう)

 

(……ええ。珍しく舞い上がってしまう気分です。私自身そういった恋愛なんて遠い場所の話だって思ってましたから。)

 

 

 あぁ、なるほど。

 

 世の男性が求めてやまぬその理由を体感出来たかもしれません。

 

 確かにこれは良いものだ。

 

 

「そっ、そう言うモルフォさんだってGVさんの事大好きじゃないですか!? わたしはまだ自覚したばかりですが、そちらの方は結構時間、立ってますよね。……何か進展はあったんですか?」

 

『それがねぇ……シアンってば何だかんだで奥手だから、なかなか進展しないのよ。GVは自分からグイグイ来るわけじゃ無いからアタシ達の方からアプローチしなきゃいけないってのに』

 

「あ! モルフォったらズルい!! そう言うモルフォだって肝心な時は引っ込んでるだけのヘタレ妖精(エルフ)じゃない!! ……それにこの間、いい雰囲気になったもん!!」

 

『あの時の二人きりの旅行は確かにそうだったけど、恋愛的な意味ではほとんど変化なかったわよね!? それに、あの時はアタシが空気を読んだだけなんだから! ヘタレ妖精なんかじゃ、ないんだから!!』

 

「あっ、あわわ……二人共落ち着いて下さい! 今のはわたしの話題のふり方が悪かったですから!」

 

 

 ……これ以上立ち聞きするのは野暮と言う物だろう。

 

 私とリトルはこの場から離れ買い物の荷物を整頓した後部屋へと戻り、考え込んだ。

 

 

「それにしてもどうしてエリーゼは私の事をそう思ってくれたんだろう? あの場には紫電もいたし、紫電の方に行きそうな物だと思ったんだけど」

 

「ん~~……。紫電、いつも忙しいからってフェムトにエリーゼの事をお願いされたからじゃないかな」

 

 

 紫電は相も変わらず多忙を極めている。

 

 私に休暇を与えていると言うのに紫電は何かと理由をつけて形式的には休暇を利用してるけど、その時間を根回し辺りに利用したりしているし。

 

 だからこそ紫電は名義上はエリーゼの身分を保証しているが、細かい面倒なんかはあの場に居た私が請け負っている形となっている。

 

 まあでも紫電も紫電で()()()()()()()()()()と楽しそうに会話をしている所を見かけたりしているし社内でも実際に人気は高いのもあり、何だかんだでモテているのは間違いない。

 

 まあそんな訳でこういった理由を当てはめて考えると、まあ、確かに? エリーゼがそう思ってくれた理由も納得できる。

 

 ……いけない。

 

 多分、今の私の顔は凄く真っ赤になってると思う。

 

 リトルもちょっと心配してるし、切り替えないと……。

 

 そう思いつつ、何とか表情を表に出さない様に私は四苦八苦する事になるのであった。

 

 

 

 

意外な人選による共通の話題

 

 

 

 

 今日は紫電の休暇が私と被った為珍しく、本当に珍しく紫電は休暇を取り私の居る施設へとやってきていた。

 

 

「ここの所本当に忙しかったけど漸く一段落ついたよ。全く、こう言った面倒事も小切手で解決できれば楽なんだけどね」

 

「紫電はもう何だかんだで副社長に上り詰めた身だからね。それにそう言った相手は基本的にお金には困って無さそうだし、小切手が通じないのは分かるけど」

 

 

 そうお互い話しながらリトルが用意してくれたコーヒーを私達は飲んで一息入れる。

 

 

「ふぅ……。リトルも随分、感情が豊かになったね。初期の頃とは大違いだ」

 

「ん。色んな人達とお話しできたから、色々覚えることが出来たよ」

 

「リトルの初期の頃を知ってる紫電が言うと、感慨深い感じがするよ」

 

「何だかんだでフェムトとボクは付き合いが長いからね。今でも思っているんだよ? 君を皇神グループに加えて良かったってね」

 

 

 そんな風に穏やかな時間が過ぎ、その話題はニコラの事にシフトした。

 

 紫電は私が皇神グループに加入する前からニコラとも付き合いは合った。

 

 実際ニコラから紫電へと話を通してくれていたのもあり、私は皇神グループへ入社することが出来る様になっていたのだから。

 

 

「昔のボクとしては、ニコラの話は非情に興味深かったよ」

 

「ええ。ニコラってぶっきらぼうな所が前面に出がちですけど、しれっと為になる話を聞かせてくれるんですよね」

 

「本当にさり気無く、だけどね。……その中でもボクが印象に残った話があってね」

 

「……どんな話ですか?」

 

「要約すれば、『悪を一番求めているのは正義を掲げる人達』だって話さ。……当時のボクには図星、いや、核心に迫られた話だったよ」

 

「それ、私も聞かされた事あります。その話って、何も無い所から悪を見出して、そんなでっち上げられた悪をしゃぶりつくす連中が本当の悪人、みたいな話でしたよね」

 

 

 こんな感じにニコラは研究に関係の無い話題を振る事も多い。

 

 

「他には『異性にモテたきゃ暴力性を身に纏え、相手に選択肢を与えるな』とか」

 

「『怠ける努力を全力でやれ。そうすりゃ怠けた分のリソースを上手く使えるからな』みたいな」

 

「『人間は基本怠ける生き物だ。そして、人間は環境に大きく影響を受ける。だから仕事を捗らせたいときは環境構築には気を遣え』なんて事も聞いたかな」

 

「『努力は基本裏切られる物だ。だからこそ努力は続けなければならない。なぜならば、その過程で得た物は自身の糧となるし、実際努力に裏切られた時は進路が予測不可能、かつ未知数で、混沌渦巻いている。だがその混沌にこそ希望はある』みたいな事も聞きましたね」

 

「フフ……」

 

「なんかいいですね。こうやって話すのは」

 

「ん。私の知らないニコラの話を聞けるの、嬉しいなぁ」

 

「何て言うか、彼はいい意味で科学者らしくない。そうは思わないかい? フェムト」

 

「全くですよ。紫電」

 

 

 そうやってニコラの話をしていたら、GVとシアンが訪ねてきて……その結果、GVもニコラと面識があったこともあって私達の談義に加わる事となった。

 

 その後、この話で盛り上がりGVと紫電も何だかんだで打ち解けて話せるようになっていた。

 

 ……紫電はGVに密かなコンプレックスがあった。

 

 だが今はもう、その影は完全に払拭されている。

 

 

(この光景は、もしかしたら奇跡的な光景なのかもしれませんね)

 

 

 そう思いながら、私達は会話を続けるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。






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第七話 チャタンヤラクーシャンクは実在する 意外な相談相手と解決法 見学と言う名の雑用

 

 

 

 

チャタンヤラクーシャンクは実在する

 

 

 

 

  私はたまたま休暇中にリトルと共に体を動かす目的でトレーニングルームへと足を運んでいた。

 

 

「ハァッ!!」

 

「いっってぇ!! やりやがったなぁ!!」

 

 

 そこではGVとデイトナによる模擬戦が行われていた。

 

 どうやらそこそこ時間が経っているらしく、お互い若干負傷している。

 

 デイトナは特に型は存在しないが、皇神に入社する以前に喧嘩に明け暮れていたいた時の我流の足技を得意とする。

 

 その技は見る人が見れば粗削りな物だったらしいのだが、入社後は独自に研究や実戦を重ねる事で洗練され、今では生半可な相手ならば即座に蹴り倒せる程だ。

 

 鋭いスライディングによる強襲、カカト落としによる強撃は間違いなく脅威だろう。

 

 実際、GVにもそれなりに有効な打撃を与えている。

 

 対して、GVはと言うと……

 

 

「……っ! そこ!」

 

「ちぃ! 普段は近接戦なんてしねぇだろテメェは!」

 

向こう(フェザー)に居た頃に、みっちり仕込まれてね!」

 

 

 あれは……何かしら一定の型であるのは分かる。

 

 強いて言うならばカラテに近い。

 

 そう私が考えている内に、GVの鋭い掌底が油断したデイトナの顎に直撃。

 

 そのままデイトナは軽い脳震盪を起こしたのかそのまま撃沈し、勝負は終わった。

 

 そんなデイトナに対してGVは手を差し出す。

 

 

「……すまねぇな。付き合わせちまってよ」

 

「構わないさ。ボクもいい刺激になった」

 

「しっかしガンヴォルト。テメェの()()、何なんだ? カラテみてぇな感じはしたんだがよ」

 

「ああ、これはアシ……ボクの師匠が言うにはカラテの【チャタンヤラクーシャンク】をベースにしたオリジナルのマーシャルアーツだって言ってたけど」

 

「……??? ちゃたんらや……なんだって?」

 

 

 チャタンヤラクーシャンク……ちょっと軽く調べて見ましょうか。

 

 私は手にした端末で検索。

 

 そこに記されていたのは大雑把に言うと「沖縄をルーツにした最高難易度のカラテの形」といった感じだった。

 

 

「……なぁガンヴォルト、ソレって本当に存在すんのか? なんか騙されてねェか?」

 

「……正直、余り自信は無いかな。あの人はバリツを実在の格闘技だと思っているタイプの人だから」

 

「おいおい。そんな事言われたらオレはエセ格闘技でやられた情けねぇヤツになっちまうじゃねェか……っと、フェムトにリトルじゃねぇか。その様子だとオレらの模擬戦見てたんだろ。丁度いいぜ。そのちゃたん何とやらが実在するのか調べててくれねぇか?」

 

「アハハ……もう調べてありますよ。物凄く簡単に言うと、最高難易度のカラテの形なんだそうです。ほら、こんな感じです」

 

「なんかすっごく難しいんだって!」

 

 

 そう言いながら私はチャタンヤラクーシャンクが実際に用いられた試合の動画を二人に見せた。

 

 

「お! この型、さっきのガンヴォルトの動きそのまんまじゃねぇか!」

 

「……本当に実在してたんだ。チャタンヤラクーシャンク」

 

 

 その後、私もリトルと共に忍者の頭領さんから教わった鉄扇の基本の型をリトルと共に行い、それを見て興味を持ったGV達と模擬戦をする事となるのはまた別の話である。

 

 

 

 

意外な相談相手と解決法

 

 

 

 

(あそこに居るのは……カレラとGV?)

 

 

 廊下で何やら話し込んでいる二人を見つけた為、私も気になって話に参加。

 

 その内容は、GVのバトルスタイルについてだ。

 

 

「ボクが使っている電磁加速銃(ダートリーダー)は特注品でね。今はまだ予備はあるし、新しく調達する伝手は今の所あるけど、正直そろそろ怪しい感じがするんだ」

 

「怪しい……ですか」

 

「うん。向こう(フェザー)がちょっと……いや、かなり大変みたいでね」

 

「GV、それは……」

 

「大丈夫、今の皇神はボクから見ても信用出来ると思うよ。まだ少し、複雑な感情も無い訳じゃあ無いけどね。……話を戻すけど、ボクのバトルスタイルの基本はこの銃が中心になっているんだ。だから……」

 

「なる程、貴殿の得物が将来使えなくなる可能性を見越し、新しい戦術を考案、と言った所でござるか。しかし、何故小生に相談を?」

 

「ああ、カレラよりも前にデイトナとイオタにも相談しててね。その時に「格闘術と能力を組み合わせてみたらどうだ」って言われたんだ」

 

「あぁ、なるほど。だからカレラに相談を持ち掛けたんだね。何しろ格闘術と能力を組み合わせた磁界拳(マグネティックアーツ)を扱えるから」

 

「そう言う事だね」

 

 

 そういう訳で私達三人でトレーニングルームへと向かい、色々と試行錯誤する事となった。

 

 今回の目的はGVの銃に依存しないバトルスタイルの確立。

 

 格闘術との組み合わせが勧められたのはミッション中のGVが折角の格闘術を持て余している所もあると思うが、恐らくはシアンの為だろうと私は思っている。

 

 何しろ、シアンの護衛中は基本学校とかの公共の場が殆どであり、そんな場所で武装など出来ないからだ。

 

 

「手や足に雷撃を集中させて殴るとかはもうやってるよね」

 

「流石にね」

 

「フム……貴殿のスペシャルスキルを見る限り、剣であったり鎖であったりと物質化する物が多いでござるな。ならばそれを簡略化しつつ、貴殿の拳を守る籠手の形に物質化する、と言う案はどうでござるか?」

 

「スペシャルスキルを、あえてダウングレードさせて運用するって事ですか?」

 

「うむ。貴殿が望んでいるのは言葉は違えど継戦能力の獲得と場所を選ばぬ獲物であろう? ならば貴殿の格闘術の邪魔にならず、かつ守る力もある籠手が最適でござろう。後はこれを軸に、出来る事を増やせばよいであろう」

 

 

 カレラのこの一言で方針は決まった。

 

 物質化した籠手による鋭い一撃は後に用意した分厚い装甲版も打ち抜いたのもダメ押しとなった。

 

 その後、脚の方もグリーブを物質化する形で蹴りも強化。

 

 結果として継戦火力では雷撃麟には劣るものの、瞬間火力と取り回しの良さ、更には機動力も副次的に増す事となりGVの総合的な戦闘力は飛躍的に向上する事となった。

 

 そのGVの新しいバトルスタイルは後に【ヴォルティックアーツ】と呼ばれる事となるのは、また別の話である。

 

 

 

 

見学と言う名の雑用

 

 

 

 

「すっごくおっきいね、フェムト」

 

「そうだね、リトル。……これが大型自律飛空艇(ドローン)【飛天】、ですか。この大きさは圧倒されますね」

 

「うむ。我が皇神の威光を広める為、そして護国の為の新たな力となるであろう」

 

「あ~~……だるい。何でボクがここに来なきゃいけないのよ」

 

 

 メラクがそうぼやいているが、そもそもここの仕事の担当はメラクであり、私とリトルは付き添いで、イオタは私達の護衛だ。

 

 ここに来た目的の一つは将来能力者部隊の移動拠点として稼働予定であるこの飛天の見学だ。

 

 そしてもう一つは……

 

 

「じゃあフェムト、後はよろしく」

 

「え? ちょっと待ってよメラク!」

 

「……行ってしまったな」

 

「凄い勢いで居なくなった!」

 

「はぁ……まあ、メラクが面倒臭がるのも分かるけどね。()()()の欠陥を何とかしろとか無茶振りされたら……ね」

 

「無人戦闘機【フェイザント】……見た所、ほとんど完成している様に見えるが」

 

 

 世間からは極秘裏に開発が進んでいたと言うこのフェイザントの欠陥を直す、或いは直す目途を立てる事だ。

 

 その欠陥と言うのが、エンジンの出力不足だと現時点では言われている。

 

 正直エンジン以外にもハード面の問題があるのではと思いながら作業員へと挨拶を済ませ、宝剣を開放しつつ解析を始める。

 

 

(…………うーん。意外だけどエンジンを中心に全体を解析して見た感じハード面は問題無いのか。そうなると……あぁ、なるほど。ここをこうして……)

 

「フェムト殿、解決できそうか?」

 

「そうですね。機体その物の設計には問題無いのですが、ソフト面に問題があるみたいです。各パーツの制御系統のプログラムに幾つか不備を見つけました。もう少しで終わりますよ」

 

「うむ。やはりこう言った事を任せる時はフェムト殿は頼りになる」

 

「それを分かってて、メラクは私を飛天に誘ったんですよ。……まあ、面倒臭がりだからこそ、こう言った人材派遣を的確に出来るんですよね」

 

 

 さっき別れたメラクも今頃めんどくさいとぼやきながら頑張っている事だろう。

 

 主に自分が怠ける為に。

 

 ……よし、これで不備は粗方潰せた。

 

 次はこの状態での挙動をシミュレートして……

 

 うん、スペック通りの挙動をしてくれた。

 

 なので、整備員さんを呼び、作業が終わった事を報告する 

 

 

「終わりましたよ」

 

「え? もう終わったんですか?」

 

「制御系統のプログラムに幾つか問題があったので、此方で直しました。使わせてもらった端末に詳細データを即席で用意しましたので、後はそちらで確認をお願いします」

 

「ありがとうございます! いやぁ噂には聞いていたのですが、仕事が早いですねぇ」

 

「メラクの面子を潰す訳にはいきませんからね」

 

 

 そうして私は宝剣による変身現象(アームドフェノメン)を解除し、再び元に戻ったリトルとイオタと一緒に飛天の見学へと戻る。

 

 だがこのフェイザントの不備を直すのは序の口で、飛天に存在する多種多様な他の問題をメラクの指示という事で解決する事になる。

 

 ……私も乗る可能性がある事と、飛天の内部構造を詳細に把握する事が出来たのは個人的にプラスだったので不満は無かったのだが。

 

 そう思いながら無事試験飛行を開始したフェイザントを飛天の大型ヴィジョン経由で私達は見学するのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。





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第八話 ドレス姿の男の娘 無自覚のピンチ(倫理的な意味で) 神楽舞う謡精(モルフォ)

 

 

 

 

ドレス姿の男の娘

 

 

 

 

 ここはとあるパーティ会場の控室。

 

 そのパーティが終わりを迎え私達は控室へと戻り、ようやく一息ついていた。

 

 

「やれやれ、やっと終わったみたいだね。……うん、もう大丈夫そうだ」

 

「……紫電、やっと終わったんですね」

 

「うん。お疲れ様フェムト。()()()()は大変だったろう?」

 

「……おい紫電、もうそろそろ話してもいいんじゃねェのか?」

 

「ん? 何をだい? デイトナ」

 

「決まってんだろ!! 何で()()()()()()()()()()()()()()!! 俺もそうだがシアンちゃんもガンヴォルトも……って言うか、試着の時であの場に居た全員固まってたぞ!?」

 

「……紫電、キミの事だから多分事情があったんだと思うけど」

 

 

 どうしてこのような事になってしまったのか。

 

 それを遡る事数日前、紫電から富裕層をもてなすパーティに同席して欲しいと頼まれた事から始まった。

 

 何でもその手のパーティに紫電が単独で居るとハニートラップ目的の女の人達が迫って来るのだと言う。

 

 今まではパンテーラにそのお願いを頼んでいた為問題は無かったのだが、彼、或いは彼女はもう皇神に居ない為、私に白羽の矢が立ったのだと言う。

 

 最初は他に適任者が居るのではと思い抵抗を試みたのだが、まずエリーゼやシアンをそう言った場に立たせるのは論外なので選択肢からは必然的に外れてしまう。

 

 そして紫電と年が近く、尚且つパートナーだと思われている存在となると相当限られてくるのだ。

 

 それに相手側も馬鹿では無い。

 

 縁の薄い人に代役を頼んだ所で直ぐにそれを看破され、付け入る隙を逆に与えてしまう。

 

 そうなるともう頼める相手が居なくなってしまい……

 

 

「……まあ、そういった事情があったんならしょうがねェけどよぉ」

 

『それにしてもフェムトってば、改めて見て見ても怖い位に合ってるわね……』

 

「何も知らなければ何処かの令嬢に見える様に仕立ててもらったからね。当然さ」

 

「その()()を男であるフェムトに要求するの、どうかと思うんだけど……」

 

「でも、フェムトには良く似合ってる。かわいい」

 

「何か、負けた気分……」

 

「リトル……それにシアンも」

 

 

 ただまあ私からすれば今更と言えば今更の話だ。

 

 私の容姿は私自身から見ても女の子にしか見えない。

 

 それに皇神で仕事をしている時なんて巫女服姿な上、私自身もそう言った事(女装)に抵抗感すら無くなっている。

 

 ただ、気になる事が一つ。

 

 エリーゼがそんな私をどう思うのかがものすっごく気がかりだった。

 

 

「……ねぇGV?」

 

「……ボクは嫌だからね?」

 

『まだ何も言って無いわよ? GVにドレス、絶対に似合うと思うのに……

 

「なら二人共、どうしてそんなに期待した目でボクを見るの?」

 

これに巻き込まれるのはヤッベェ気がする。今の内にスタコラサッサだぜ

 

同感だね。ボク達もお暇しよう

 

「私もフェムトみたいなドレス、何時か着て見たいな~♪」

 

 

 後にエリーゼにこの事態が発覚した時、彼女の目はとても輝いていたのはまた別の話。

 

 

 

 

無自覚のピンチ(倫理的な意味で)

 

 

 

 

 とあるある日の夜。

 

 リトルは何時もの様に私に声を掛けた。

 

 

「フェムト、そろそろお風呂の時間だよ」

 

「あ、もうそんな時間ですか?」

 

「……思ったよりも時間が経っていたんだね」

 

「そうだね。GV、そろそろ私達お暇しなきゃ」

 

『ほら、エリーゼも早く支度しましょう? もっと長く居たい気持ちは分かるけどね

 

「うん……」

 

 

 だがリトルの次の言葉で皆、時間が止まってしまった様に固まってしまう。

 

 

「早く早く! ()()()()()()()()()!」

 

「「「『…………え?』」」」

 

 

 最初はどうして皆が固まってしまっていたのかを理解できていなかった。

 

 と言うか、そう言った事をその瞬間私は察知する事が出来なかった。

 

 だが後の事を思えばそれは正解であり、結果的に動揺する事無く私は何時も通りの言葉をリトルに還す。

 

 

「はいはい。ちゃんといつも通り水着を着るの、忘れない様にね」

 

「は~~い♪」

 

 

 そんな私達のやり取りを聞いた後、皆はどこか胸を撫でおろしたかのようにホッとしていた。

 

 そこまで見て私はどうして皆が一瞬固まってしまっていたのかをようやく理解した。

 

 理解した上で、私は素知らぬ顔で皆に話しかけた。

 

 

「(危ない危ない。よく考えたらリトルは皆から見れば唯の女の子にしか見えないんだった)……皆、どうかしたの?」

 

『あ~~……えっとね、ちょっとその……ビックリしたと言うか……』

 

「フェムト君って、リトルちゃんといつもお風呂に入っていたって事実に驚いてたって言うか……」

 

「でもちゃんと水着を着せてたみたいでボクとしてはホッとしたと言うか……」

 

でも実はほんの少しだけ、期待してたって言うか……

 

「あぁ、驚かせてゴメン。リトルはヒューマノイドだけどお風呂が大好きでね。何でも、()()()()()のとお風呂から出た時の()()()がいいみたいで」

 

『……なんとなく分かるような分からないような基準ねぇ』

 

「フェムト~~! 早く早く! お湯が冷めちゃうよ~!」

 

「待ってて! 今行くから!」

 

 

 その後日、リトルが今度は皆とお風呂に入りたいと言い始めたので代わりに温水プールへと足を運ぶ事となり皆の、特にエリーゼの水着姿を見ることが出来たので何だかんだいい結果に終わったと私は思ったのであった。

 

 

 

 

神楽舞う謡精(モルフォ)

 

 

 

 

 とあるモルフォのライブの最中。

 

 

『暗い夜も暗くないと 寒い冬も寒くないとほら 零れ咲く花片に 鮮烈の刻』

 

 

 虹色に装飾された扇子を両手に、青色の蝶を引き連れながら装いを新たに神楽を舞うが如く華やかに飛ぶ電子の謡精。

 

 その光景は何所か幻想的で、彼女の歌声も相まって会場は一体感に包まれている。

 

 その様子を見ながらネットでの反応を見て見れば、衣装が変化している事も、舞い踊るモルフォの姿も好評一色に染まっている。

 

 

(舞の指導、頭領さんにお願いして良かった)

 

(ん。モルフォ、すっごくキレイ)

 

(例の野生の電子の謡精(サイバーディーヴァ)に触発されたのが、いい結果になったみたいだね)

 

(退院した直後に生配信しているモルフォを間近で見られるとはね。紫電には、感謝しないといけないな)

 

(小声で済みませんが、退院おめでとうございます、ストラトスさん)

 

(ありがとう、フェムト君)

 

 

 この前日、ストラトスさんが無事退院して私達の所属する能力者部隊に合流。

 

 リハビリも兼ねてGVと共に今日のライブの警備に回っている。

 

 

『探し続けて 求めて 辿り着く先の 降り注ぐ陽の光 桜の演舞 知るはずも(知らないの) 無いままで(無くしたの) 巡るは散りゆく鴇色』

 

「ひゃっほぅ~~~! シアンちゃ~~~~ん!!」

 

 

 デイトナ、凄い目立ってる……隣に居るイオタも、少し肩身が狭そうだ。

 

 ストラトスさんもGVも、そんな彼の様子に気が付いたのか苦笑いをしている。

 

 そして歌が終わると同時にライブ会場は観客の歓声で溢れかえり、一部のSNSでは今時珍しくサーバーがダウンすると言う形で歓声が巻き起こった。

 

 そんな長い歓声が鳴りやむとともに何処か名残惜しそうにモルフォは観客の前から陽炎が如く蝶を残して姿を揺らめかせ、静かに消えて行った。

 

 その蝶も(モルフォ)が居なくなったのをトリガーに、観客の方へと舞い散りながらその姿を消す。

 

 その静かな余韻に浸りながらライブは終わりを告げた。

 

 

「いやぁ~~今日のライブも最高だったぜ!」

 

「お疲れ様、シアン」

 

「すっごく綺麗だったよ、シアン!」

 

「練習の成果、ちゃんと発揮出来てましたね」

 

「ありがとうGV、リトルちゃん、フェムト。……それで、どうだったGV? モルフォのライブを間近で見てみて」

 

「正直、圧倒されたよ。画面越しで見る事はあったけど、直に見ると全然違うね。こう、ライブ全体の一体感に圧倒されたって言うか」

 

 

 そうしてライブの感想を言い合っている間に、ネットで新たな動きが発生していた。

 

 具体的には、例の野生の電子の謡精による新しい動画だ。

 

 彼女は暫く様子を見て気が付いたのだが、どうも皆を集めてライブすると言った事はしないらしい。

 

 だがその歌唱力や演技力はモルフォと比べても引けを取らない為、人気は徐々にではあるが、確実に伸ばしている。

 

 

『孤独 祓う 言葉力(パワーエナジー) ぼくが キミにあげるから 独り だけでも 諦めないで 無くした未来 光は見える……』

 

 

 こちらの動画もやはりトレンドに上がる程話題となり、『電子の謡精vs希望の歌姫』と言うワードすら浮上。

 

 流石にまだ本格的に論争が起こっている訳では無いが、そうなるのも時間の問題と言った所だ。

 

 

『……こうしちゃいられないわ! シアン、特訓よ! 特訓!』

 

「うん! 絶対に負けないんだから!」

 

「……やれやれ、ライブが終わった後だと言うのに、彼女は元気だね」

 

「あはは……引き続き護衛頑張りましょう、ストラトスさん」

 

 

 ライブ直後だと言うのに特訓を開始するシアン達をどこか微笑ましそうに見守りながら、今日も夜は更けていく。

 

 

 

 




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第九話 雷霆覚醒 (スキル)を磨くならば、先ずは己を理解すべし 節約する理由が無い

 

 

 

 

雷霆覚醒

 

 

 

 私とリトルは今、とある映像を見ていた。

 

 それはGVが覚醒する瞬間の映像だ。

 

 話は少し撒き戻るが、まだGVがシアンと逃亡生活をしていた最中の話。

 

 そして私はデスマーチの日々に明け暮れていた時でもある。

 

 そんな時期のある日、一度だけGVを追いつめ撃破寸前まで追いつめた事があったのだと言う。

 

 その時の布陣はデイトナ、メラク、イオタの三人に加え、紫電が指揮を担当。

 

 こちら側のミッション内容はフェザーの隠された施設の一つを強襲、陥落させる事。

 

 後にGVから聞いた事なのだが、対してフェザー側から緊急ミッションで派遣されたGV側のミッション内容は撤退戦の支援、つまり殿を務める事だった。

 

 フェザー側からすれば突然の強襲であり、尚且つ最高戦力に相当する宝剣開放能力者三人を相手取る絶望的状況。

 

 それをひっくり返してみせたのがGVだ。

 

 彼の獅子奮迅の戦いによってフェザー側の人員の被害は最小限に抑えられ、撤退を成功させたのだ。

 

 だが流石のGVとて無傷という訳にはいかなかった。

 

 流石にデイトナ達三人を相手取るのは無謀だったらしく、デイトナの必殺の一撃がGVを遂に捕らえ蒼き雷霆の伝説は終わりを迎える……かに、思えた。

 

 その瞬間、あの場に居た全員は【声】を、そして【歌】を聴いたのだと言う。

 

 

『こんなところで終わらせない!』

 

 

 

 

SONG OF DIVA(ソングオブディーヴァ)

 

 

 

 

『あなたは死なせない……アタシの歌が、貴方の(チカラ)になる!』

 

『だから……立ち上がって、GV!』

 

 

 その歌に呼応し、蒼き雷霆は真の覚醒を果たす。

 

 

 

 

 

響き渡るは謡精の歌声

 

轟かせるのは龍の嘶き

 

総身総躯、雷神と化せ

 

 

雷霆開放(アンリミテッドヴォルト)

 

 

 

 

 

 ここからは先ほどとは全く逆の展開となった。

 

 蒼き稲妻を、迸るオーラを身に纏い覚醒したGVは正しく最強の第七波動能力者と呼ぶに相応しかった。

 

 辺り一面に落雷が、鎖が広がり蹂躙していく。

 

 雷の聖剣がGVを中心に複数本顕現し、乱れ飛ぶ。

 

 蒼き巨大な雷球が打ち出され、その余波で複数の雷球が発生し裁きを下す。

 

 あらゆる常識と共に、戦場そのものを蒼い閃光が滅ぼしかかる。

 

 こうなってしまっては流石のデイトナ達もどうしようもなく、逆に瀕死の重傷を負いながら撤退に専念する事しか出来なかった、と後に私は聞かされた。

 

 映像は蒼い閃光が広がった後、焼かれるように途絶え終わりを告げた。

 

 

「…………」

 

「……すごかった」

 

「そうだね……話には聞いていたけれど、ここまで凄まじいなんて」

 

 

 映像越しだと言うのに、凄まじい圧力を感じた。

 

 これが蒼き雷霆。

 

 最強と謳われる第七波動の力。

 

 

 

 

(スキル)を磨くならば、先ずは己を理解すべし

 

 

 

 

 私はイオタからある相談を受けていた。

 

 その内容は彼のスペシャルスキル『終焉ノ光刃(ゼロブレイド)』の狙いをどうつけるかと言った物だ。

 

 

「私の方でも色々と手を尽くしてはいるのだが、正直八方塞がりでな。何か手は無いだろうか、フェムト」

 

「うーん、残光(ライトスピード)はイオタの第七波動である以上、私に出来る事は余り無いと思いますが……そうですね。そもそもの話になりますが終焉ノ光刃とはどのような原理が働いているのか分かりますか?」

 

「…………考えた事も無かったな。あれは感覚的にやって出来た物だったものでな。なる程確かに、そもそも私は原理すら理解していなかったようだ。これでは残光にも笑われてしまう」

 

「やる事は決まりましたね。先ずはデータ取りから行いましょう」

 

 

 そういう訳でイオタには何度も終焉ノ光刃を撃ってもらう事となった。

 

 その都度データを私と言う名の生体コンピュータに蓄積させ、原理を読み解いていく。

 

 そして解き明かされたその原理とは。

 

 

「詳しく説明すると時間が物凄く掛かるので簡潔に要約すると「観測している物だけが実在すると言う量子力学的発想を拡大解釈、世界を形作っているのは『光』であると認識。その光を操り、ゼロとする事で世界、即ち空間そのものを切り裂く」と言った感じですね。それで肝心な問題点と言うのが、膨大なエネルギーを扱うと言う点にあります。……ここまでは大丈夫ですか?」

 

「ああ、続きを頼む」

 

「では続けます。なので私が出せる案は二つほどあります。一つはエネルギーの消費を落とした上で一点集中する事で制御しやすくする案。そしてもう一つが、残光自身の力も合わせて制御を試みる案です。……私が出せるのはここまでですが、どうでしょうか?」

 

「そうだな。正直な話かなり参考になった。……しかし、私は自分の事も碌に把握出来ていなかったとはな。情けない話だ」

 

「そんな事はありませんよ。自分の事と言うのは第三者が存在して初めてわかる事の方が多かったりするんですよ」

 

「全くもって、その通りだな。……今回の件でその事が骨身にしみた。きっとこの事柄は、私を新たなステージへと進める礎となってくれるだろう。ありがとうフェムト」

 

 

 その後、範囲を抑えつつ取り回しの良さを重視した『終焉の穿孔(ゼロプロパレーション)』を習得。

 

 そして残光と力を合わせた事で遂に、終焉ノ光刃は本当の意味で完成する事となるのであった。

 

 

 

 

節約する理由が無い

 

 

 

 

 それはある日の昼下がり。

 

 モテモテになった男の子が、迫ってくる女の子を眼力で気絶させるというちょっとコメントに困るゲームをリトルが楽しそうにプレイしているのを微笑ましく見ていた時、一緒に居たシアンから声を掛けられた。

 

 

「そういえばフェムトの第七波動ってGVと同じ雷撃なんだよね」

 

「ええ、そうですけど……どうかしましたか?」

 

「…………」

 

 

 

 シアンの隣に居たGVがどこか難しそうな表情をしている。

 

 何かあったのだろうか?

 

 

「それで……電気代って節約できないのかな?」

 

「電気代ですか」

 

 

 そう言えばそんな試みを試した事があったのを思い出した。

 

 

「出来ますよ。一時期私自身日常で能力を扱う訓練目的でやってた事も有りましたよ。ですが、今ではやっていませんけど」

 

「へぇ……日常で訓練するって発想はボクにはなかったな」

 

「あ、やっぱり出来るんだね。……でも今はやって無いんだ」

 

『なんだか勿体無いわね。どうしてやめちゃったのかしら?』

 

 

 その理由として、一つはその訓練をしていた当時はリトルを宝剣に移していなかった事が一点。

 

 そしてもう一つが……

 

 

「仕事が忙しくて自分の家に戻る機会が激減していたからですね」

 

「……フェムトってさ、ワーカーホリックな人って良く言われない?」

 

「言われてますね。私の場合仕事そのものが第七波動の訓練として機能するって側面もありますし。紫電やメラクには良く色々と頼まれ事を受けていましたので。それに、もう一つ理由もあって……」

 

 

 その理由とは「そもそも電気代に困る程お金に困っていない」事だ。

 

 その事に対して三人はごもっともと言った表情を見せ、納得。

 

 

「確かにフェムトほど仕事をしていれば、当然だろうね」

 

『同じ訓練ならお仕事する方がお金も稼げて一石二鳥。そもそも節約する理由なんて無いんだから、やらなくなるのは当然よね』

 

「そういう訳です」

 

「やった! スコアアタック更新出来た!」

 

「あぁ……! わたしのスコアが抜かされてる!」

 

 

 頭の可笑しいゲームにおいてシアンの出したスコアを更新したリトルの声が、私達の話を終えるトリガーとなった。

 

 その後、シアンとリトルによるスコア更新合戦が始まってしまうのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 




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第十話 戦の始まりの予感 不安を感じるリトル 許されざる罪

 

 

 

 

戦の始まりの予感

 

 

 

 

 トレーニングルームにて場違いだと思われる程の華やかな二人の舞が繰り広げられる。

 

 一人はポニーテールの金色の髪を靡かせながら対峙する相手と演舞が如く肉薄する私。

 

 そしてもう一人は青みがかった銀色の長髪を靡かせ、私と鏡合わせの如く同じ動きを以て相殺するリトル。

 

 今行われているのは互いの動きの最適化。

 

 互いに切り結ぶ回数が増える程にその動きに無駄が無くなり、洗練される。

 

 動きに迷いが無くなり、セーブされていた速さが増していく。

 

 甲高い金属音の鳴り響く音の速さが加速する。

 

 

「「…………」」

 

 

 私の頬を、汗が伝う。

 

 紙一重に見える攻防の緊張感が、どこまでも駆け上がれる高揚感と呼べる物が心地よい。

 

 しかし、この楽しい時間はそろそろ終幕を迎える。

 

 私達の演舞を見ていた人達の視線を感じる事で。

 

 

「ぁ……終わっちゃった」

 

「前にも見せて貰ったけど、改めて見ると随分と本格的だね」

 

「あ~あ、もっと見たかったなぁ」

 

「エリーゼ、それにGVにシアンも」

 

「みんな来てたんだ」

 

「ボクらだけじゃないよ。ほら、周りを見て」

 

 

 GVに促されるように周りを見て見ると同じトレーニングルームで訓練していたであろう人達が私達を取り囲んでいた。

 

 感心している人、恍惚としている人、驚きを隠せない人等、色んな表情を私達に送り届ける。

 

 

「うちの上司(フェムト)にあんな特技があったなんて」

 

こっち(皇神ビル内)では貴重なリトルちゃんの意外な一面が見れてお姉さん幸せ~♪」

 

 

 ……どうやら私の部署の部下まで来ていたらしい。

 

 それに意外な人達の反応もある。

 

 

「……へぇ、何だかんだ紫電様のお気に入りって言われるだけの理由はあるって事か」

 

「いっ意外とやるじゃねぇか……」

 

 

 その人達とは能力者部隊の人達だ。

 

 私はデイトナ達や大多数の人達とは比較的仲は良好ではあるのだが、一部の人達からはあまり良く思われていない所があったりする。

 

 この部隊は元々戦い的な意味で実力主義的な所が部隊の性質上存在しており、不当な特別扱いなんかを嫌う傾向にある。

 

 つまりそう言った人達にとって後方支援に専念している私はどうにも快く思われていなかったのだ。

 

 ……そう言えばこの訓練をここでやるようになった切欠は紫電が作ってくれた物だった気がする。

 

 だとしたらその時点で()()()が終わっていたのかもしれない。

 

 

「うーん……」

 

「どうしたんですか? フェムト君」

 

「私も近い内に前線に出る機会があるのかなって考えてたんです」

 

「フェムトを戦いに出すのってどう考えてもおかしいってわたしでも思うんだけど」

 

「普通に考えたら確かにそうだけど……紫電の事だ、何か事情があるんだろう。フェムトに実戦を積ませなければならない事情がね」

 

「その通りさ、ガンヴォルト」

 

 

 いつの間にか紫電が私の横におり、周りに居た人達もいつの間にか居なくなっていた。

 

 

「フェムトはボクら皇神グループから見ても物凄く貴重な人材で、替えの効かない存在だ。その重要度は君達が思っているよりもずっと高いのさ。……だからこそ、フェムトの重要性に外部の連中が勘付いた。今はまだフェムトに守りを付けてあげられるけど、いつまでもそういう訳にはいかない」

 

「……最近外国で問題になってる、()()()()の事?」

 

「【多国籍能力者連合エデン】……ここに居る皆も何かしらの情報媒体で聞いた事がある筈だ。彼らは前からボクらの国にもちょっかいを掛けててね。今はまだ散発的な物だけど、いつ本格化しても不思議じゃない。もちろんフェムトには最低限の守りは確保出来るようにはしているけど、最低限である以上絶対では無い」

 

「だからこそフェムトにも実戦経験を積ませて、自分の身は自分で守れるようにする、と言った所かな?」

 

「そう言う事。元々フェムトの下地は十分すぎる程整っているからね。実戦をいくつか経験すれば相応に自衛出来るはずさ」

 

 

 つまり今回の()()()の目的はある程度戦える事を認めてもらう事だった。

 

 この事を知った私は、遂にGVやデイトナ達の領域である戦いに身を投じる可能性を感じずにはいられなかったのであった。

 

 

 

 

不安を感じるリトル

 

 

 

 

 リトルが何やら真剣にネット検索をしている。

 

 何を調べているのかと横から見たら、その内容は発電についてだった。

 

 

「……電気を作るのって、無駄になっちゃう部分が多いんだよね」

 

 

 今リトルが見ているのは『発電端熱効率』と呼ばれる項目だ。

 

 簡潔に言うと発電機の発電電力量と燃料の発生熱量との比率の事を指す。

 

 昨今でエネルギー問題が叫ばれる中、新たな発電方法が模索されるのはこれも関係していると私は考えている。

 

 

「……これを考えるだけでもGVが、蒼き雷霆(アームドブルー)がどれだけ凄いかが改めて分かるね」

 

「ん。あの子は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ここが蒼き雷霆が次世代のエネルギーとして注目された理由だ。

 

 燃料を始めとした外部要因が不要。

 

 ただあるだけで電気(EP)を生み出し続ける。

 

 正しく次世代のエネルギーとしては理想と言える物なのかもしれない。

 

 だからこそ、別の問題も孕んでいるのだが……

 

 

「火力、水力、原子力、核融合……こうして発電の種類を見ると人類が如何にエネルギー問題に四苦八苦してるかが良く分かるよ。……そういえば、どうしてリトルは今更発電について調べてるの? あの時一度この手の電気に関わる内容は一通り調べたと思うけど」

 

「……わたしの進む次の段階(ネクストフェーズ)、本当にこれで良かったのかが、分からなくて」

 

 

 あぁ、なるほど。

 

 リトルは不安なんだ。

 

 第七波動も生き物で、感情がある以上自分の進む先に疑問を持って当然だ。

 

 

「……ごめんね。フェムトといっぱい考えて決めた事なのに」

 

「大丈夫。どんな結果であれ私は受け入れるよ」

 

 

 そう言いながらリトルのサラサラな髪の毛を撫でる。

 

 リトルはそんな私に背を預けながら、心地よさそうに目を瞑る。

 

 ……こうして見ると、とても宝剣にもヒューマノイドにも見えない。

 

 れっきとした生身の人間だと錯覚してしまいそうになる。

 

 そう思っていると、リトルのお腹からご飯の催促の要求の声が聞こえた。

 

 

「安心したら、お腹空いちゃった」

 

「じゃあそろそろご飯を造ろうか。確か今日はデイトナ達が来る筈だしね」

 

「ん! 私、頑張る!」

 

 

 ……お腹が空く様になったのも次の段階の影響だったりするのだろうか?

 

 あれから暫く経ったけど、明確な変化が起こったのはこれが一番最初だった。

 

 そんな時、玄関からチャイムが鳴った。

 

 なのでふと頭から出て来た疑問を片隅へと置いて、私達はデイトナ達を招き入れ、夕食の支度を始めるのだった。

 

 

 

 

許されざる罪

 

 

 

 

「ねぇ聞いてよフェムト! GVったらヒドイのよ!」

 

 

 珍しくシアンが一人で私とリトル、エリーゼの居る部屋へとやって来てGVに対して不満をあらわにしていた。

 

 

「シアンさん落ち着いて下さい。何かあったんですか?」

 

「シアン、そんなに怒るの珍しい」

 

「ですね。……良かったら、話してもらえませんか?」

 

 

 シアンが怒っているその内容とは私からすれば余りにしょうもない内容だった。

 

 

「GVったら、たこ焼きの事を『ボール状のお好み焼き』だなんて言ったんだよ!」

 

 

 ……はい?

 

 私は表に出さない様に内心呆れていると、何故かエリーゼとリトルが同調してしまった。

 

 

「な……なんて罰当たりな」

 

「許せない! たこ焼きの事馬鹿にしてる!」

 

(えぇ……二人共どうしてそこで同調するんですか?)

 

『フェムトもそう思うわよね!?』

 

(ひぇ……!)

 

 

 突然のモルフォに私は悲鳴を押し殺すのに必死だった。

 

 ……一体どうしてたこ焼きとお好み焼きの違いでここまで怒れるんだろう。

 

 どうして……落ち付こう、私。

 

 こういった時の対処法はニコラがサラッと話してくれていた筈。

 

 確か『相手は「答え」を求めているのではなく、「同意」を求めているから取り合えず合わせとけ。但し、躊躇ったり少し考える素振りを見せたらアウトだから即応しろ』って感じの内容だった。

 

 なので、私はニコラのアドバイスに従い、モルフォの同意に間髪入れずに同意する事で何とかこの場を切り抜けることが出来た。

 

 そうしてこの場に居る女性陣の怒りが収まり、話は別の物へと変化。

 

 その間私は折角なのでたこ焼きとお好み焼きの違いを調べてみる事に。

 

 

(えっと、何々……なるほど、粉が違う感じなんですね。粉末醤油が入っている場合が多いのがたこ焼き粉で、ほとんど入っていないのがお好み焼き粉と……)

 

 

 それに焼き上がりの状態も結構違いがあるらしく、たこ焼きの生地は表面はカリッと焼き上がって中がとろりとした食感となり、お好み焼きはもっちり焼き上がってふんわりとした食感となる様だ。

 

 ……折角だし、今度ホットプレートとタコ焼き機を買って振舞ってみよう。

 

 そう思いながら良く分からない理由でシアンに怒られたであろうGVに静かな黙祷を捧げるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
次のお話はちょっと色々な意味で別視点のお話になります。
その次で休暇編を締めるエピローグ的な話をした後に、改めて本編に戻る形となります。
























 異分子(フェムト)の起こした蝶の羽搏き(バタフライエフェクト)は、確かに皇神を、この国を豊かにした。

 だが、その羽搏きによって不利益を被った事例もまた、当然存在する。

 同じ物事には常に別の側面がある。

 宝剣を持つ皇神の能力者は第七波動の本質を理解し、その力を更に高めた。

 当然その中には()()()()()()()()()()()()()()カレラも含まれる。

 ならば、()()()()()()()()もまた、例外なく強くなっているのもまた必然。

 故に……


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???編
第十三話 〇〇〇〇〇



サイドストーリー

 

 

 

 

 いつかの未来、どこかの島国。

 

 暴走した管理AIを打倒し、平和となった世界。

 

 オレは【白き鋼鉄のイクス】、或いは英雄などと人々から呼ばれている。

 

 そして、そんなオレとの永きパートナーで居てくれる希望の歌姫と人々から呼ばれ、愛されている【RoRo(ロロ)】。

 

 オレ達は平和を掴み取ったその旅の過程で仲間となった少女【コハク】とその仲間達と共に、日々研究をしながら穏やかに過ごしていた。

 

 その最中、突然現れた謎のライフル型情報端末であるキーライフルの導きによってオレ達は異世界へと飛ばされる事となる。

 

 そこは【ワーカー】と呼ばれる機械生命体のロボット達が暮らす、砂漠の異世界。

 

 一緒に飛ばされてしまったロロとコハク、そしてこの世界で出会った【使命】を持たないワーカーの少女【ヌル】と共に元の世界へと戻るべく、あらゆる知識が収められていると言う塔【グレイヴピラー】へと挑む事となる。

 

 そこでは色々とあったが使命に縛られ暴走していたこの世界の管理AI【マザー】を開放し、魂だけの存在となったオレの並行同位体である【創造主】と共にこの世界から姿を消し、この世界は正しくワーカー達の物となった。

 

 その後、同行していたヌルも含めた皆と共に帰還を果たす。

 

 そうして再びオレは趣味である研究に打ち込む日々へと戻った。

 

 

「ふぅ……漸く【ブレイクシフト】の最適化に一段落ついたか」

 

『お疲れ様、【アキュラくん】。そういえばブレイクシフトの時のアキュラくん、最初の時動きづらそうだったよね。そのせいもあってグレイブピラーまで強行突破した時もかなり消耗しちゃってたし』

 

「あの時は直ぐにでも元の世界に戻らなければならなかったからな。最適化、実働テスト、各新機能の習熟を必要最低限で済ませていたのもあった」

 

『今まであった【EX(エクス)ウェポン】も【アンカーネクサス】を除いてぼくのアップデートの影響で使えなくなっちゃってたし、【カゲロウ】もアンインストールしてたのも大きいよね』

 

「そうだな。だがその最適化も少し前に一段落付いた。()使()()()()()E()X()()()()()も含めてな」

 

『【アバランチソード】に【テイルバンカー】、【ラストドップラー】に【ミリオンイーター】……なんだか懐かしい感じがするよ。あ、そういえば()()はどんな扱いになってるんだっけ?』

 

「アレ? あぁ、【グリードスナッチャー】の事か」

 

『そうそう! 昔のアキュラくんにとっては嫌な思い出のあるEXウェポンかもしれないけどね』

 

 

 グリードスナッチャー。

 

 磁界拳(マグネティックアーツ)と呼ばれる【セプティマ(第七波動)】を解析し作った対能力者用特殊弾頭。

 

 【セプティマホルダー(能力者)】のセプティマの流れを乱し空気中に拡散する事で一時的に能力を無効化する、直撃すれば必殺たりえた必滅の弾丸だ。

 

 

「時間もあったからな。一応【ディバイド】で撃てるようにはしてある。製造コストも昔は高くついたが、異世界の技術に触れた今のオレならば、もうコストの問題も解決済みだ」

 

 

 だが作られた当時は兎も角、今はもうあれから百年以上は経過している。

 

 ならば当然今の時代、その対策も取られている。

 

 

「だが昔コイツで痛手を負ったアシモフ、いや【デマーゼル】によって対策装備が標準化している。今ではもう、過去の遺物の骨董品と言う側面しか持たない物に成り下がってしまった」

 

『う~ん。正しく、諸行無常だねぇ~』

 

「だが平和になった今ならば、それでいいのだろうとオレは思う」

 

 

 昔はこんな事があったと、コイツが改めて装備されたディバイドを見て、ふと思い出して感傷に浸る。

 

 それだけの使い道に成り下がってしまうと言うのも、悪い事では無いだろう。

 

 それに今のオレの武装は【ブレイクホイール】。

 

 ディバイドはもう予備兵装、或いはお守り代わりとして念のため装備する程度の重要度しかないが、同時に百年以上オレを支えてくれたモノでもある。

 

 手放すには惜しいと思う感情も、今のオレにもまだ残っている。

 

 

「あ、いたいた! アキュラくん、ロロちゃん!」

 

「こんにちは、アキュラさん、ロロさん」

 

「あぁ、コハクにヌルか」

 

『そういえばアキュラくん、そろそろヌルちゃんのメンテナンスをする時間だったよね』

 

「そうだな。そろそろ始めるとしよう」

 

「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

『ヌルちゃん、それはちょっと言葉の意味が違うような……』

 

 

 ロロよりもチェック箇所は多いが、ヌルのメンテナンスは向こうで既に何度も行っている為、その工程はスムーズに進める事が可能だ。

 

 …………各部チェック再確認。

 

 よし、こんなものだろう。

 

 最後にロロから【ABドライブ】の電気を送れば終わりだ。

 

 この工程は本当は必要無い物だが、ヌルはこの電気を気に入っているからな。

 

 

「はわわぁ~~♪ やっぱり、アキュラさんのメンテナンス後のロロさんの電気は格別ですね~♪」

 

「ロロちゃんの電気って、ヌルちゃんもそうだけど向こうのワーカーさん達にも評判良かったよね。なんでだろう?」

 

「ワーカーの嗜好について詳しい訳では無いからハッキリとは言えないが、恐らくABドライブで作られた電気だからだろうな」

 

『昔ではこの電気の事、EPなんて呼ばれてたよね』

 

「正式名称、【ELECTRIC PSYCHO(エレクトリックサイコ)エネルギー】……蒼き雷霆(アームドブルー)のセプティマから発生していた電気エネルギーの事だな」

 

「EPに蒼き雷霆……また私の知らないこの世界の単語が出てきました~」

 

「大丈夫だよヌルちゃん、あの時みたいにまた私と勉強しようね」

 

「はい! その時はよろしくお願いします~」

 

 

 そんな風にオレたちが雑談をしていると、突然机の上に置いてあったブレイクホイールが輝きだした。

 

 この光……いつぞやの異世界に飛ばされた時に近い感じの物……!

 

 また別の世界に飛ばされてしまうのかとオレ達は身構えていたが、光は徐々に落ち着きを取り戻し、光輝いた以外特に何かしらの現象を起こす事無く収まった。

 

 

「……ヌル、コハク。オレは今から何が起きてもいい様に準備を整えてからブレイクホイールを調べる。その間はこの部屋からは離れていてくれ」

 

「またあの時みたいに異世界に飛ばされちゃうかも……って事?」

 

「そう言う事だ。ロロはオレから離れるなよ。調べている最中にロロが居ない状態で飛ばされたらオレが出来る事は相当限られてしまうからな」

 

『了解。アキュラくんはぼくが居ないとダメな体になっちゃってるもんねぇ~♪』

 

「はわわ……これが噂に聞く、比翼連理と言うモノなのですね……!」

 

「……ヌル、そんな言葉を何所で覚えた」

 

 

 コハクとヌルはオレの居る部屋からは離れて貰い、準備を整えてから作業に取り掛かった。

 

 このブレイクホイール、当たり前の様に武器として使っているが一部では今のオレでも解析できないブラックボックスが存在している。

 

 なので慎重に調べを進める。

 

 そうして調べている内に、オレが把握出来ている記憶領域になにやら座標らしき数字を発見することが出来た。

 

 その数字の桁が余りにも多い事から、これは別の異世界の座標を指していると予測。

 

 だが、この数字の最後の部分に妙な引っ掛かりを感じた。

 

 俺は作業の手を止め、その理由を考える。

 

 

(この数字は……どこか既視感(デジャブ)を感じる。ずっと昔に、何処かで見た事があるような……ダメだ。思い出せん)

 

 

 結局この座標を示した数字以外、変化した所は発見する事は出来なかった。

 

 作業場でブレイクホイールを動作させてみても異常は無かった。

 

 ……この数字の意味を調べるのならば、もう残された手段は一つしか無いだろう。

 

 その手段とは、この座標にブレイクホイールの力で飛ぶ事。

 

 異世界へと飛ぶ機能は今でも健在で一度異世界から帰還した後、再度向こうの異世界へと足を運ぶ事が実証実験も兼ねて何度かあった。

 

 よって、飛ぶ事その物と帰りの足は問題無い。

 

 それに今回は前回の時とは違って事前準備も整えて、しかもオレが制御した状態での転移だ。

 

 仮に敵対する何かと出合っても、最悪この世界へ撤退する事も出来る。

 

 なのでオレはこの座標に示された世界へと向かう事を決定。

 

 そしてコハクとヌル、そしてコハクの姉に事情を説明し、挨拶を済ませる。

 

 

 

 


 

 

 

BREAK OUT

 

 

 


 

 

 

 

「アキュラくん、ロロちゃん……」

 

『心配しないでよコハクちゃん。前の時とは全然状況が違うからね』

 

「何かあったら、直ぐに戻ってきてくださいね」

 

「ああ」

 

「そして、何か助けが必要になったら私達に頼ってくれ、イクス。お前達が飛ばされた時、私は何も出来なかったからな」

 

「……そうだな。その時が来たら【ブレイド】として頼りにさせてもらおう」

 

『じゃあ皆! ぼく達そろそろ行くから離れてて!』

 

「コハク、ヌル、ブレイド……いってくる」

 

「うん! いってらっしゃい! アキュラくん! ロロちゃん!」

 

「いってらっしゃいませ。アキュラさん、ロロさん」

 

「イクス、ロロ。コハク達の為にも必ず戻ってこい」

 

 

 皆と挨拶を済ませ姿が消えたのを確認し、オレはブレイクホイールの転移機能を起動。

 

 オレは目の前に出現した光のゲートへと足を踏み入れた。

 

 異なる空間を移動する独特の感覚に身を任せつつたどり着いたその先は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

幻夜

 

 

真夜中の歓楽街に踊る愛欲の蠍

 

色惑う夢幻鏡(ラストミラージュ)

 

異分子(イレギュラー)の齎す羽搏きが、あり得た可能性がX(極限)の前に姿を現す

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移したその先は何処か見覚えのある街並み。

 

 そこは煌びやかな真夜中の歓楽街の一角。

 

 この場所を見た瞬間、オレはここが何所なのかを鮮明に思い出すことが出来た。

 

 ここは確か当時ガンヴォルトを相手にしていたパンテーラに対して不意打ちを行う為の待機場所だった筈。

 

 あの時は相手が相手だったが為に幾重にも前準備を重ね、専用の弾丸、専用の使い捨て兵装等を用意。

 

 その上で奴がガンヴォルトに気を取られている所を不意打ちとありったけの武装を叩き込み、辛うじて勝利をもぎ取った。

 

 ……今にして思えば、万が一しくじった場合の逃亡手段も用意していたとは言えアレはかなり無謀だった。

 

 何しろあのパンテーラは本体では無く幻影であり、その上で本体も控えていたのだから。

 

 そんな事を思い出しつつ、周りを油断無く軽快しながら自身の状態のチェックを行う。

 

 

「……各部システム正常。ロロの方はどうだ?」

 

『こっちも大丈夫。全EXウェポン、【アビリティ】、【ヒーリング】、【クロスシュトローム】、全部使用可能だよ!』

 

「少なくとも、()()()の様な不具合の発生は無いみたいだな」

 

『あの時は大変だったよねぇ。アビリティもヒーリングも使えなくなっちゃってたし』

 

「だが結果的に現兵装の限界スペックを引き出せた。そのお陰で有用なデータも多く揃える事が出来たと考えれば、悪くないだろう」

 

『だね。それにしても、ここってどこだろう? 怪しげな看板が多いみたいだけど』

 

「ここはとある町の繁華街だな」

 

『アキュラくん、知ってるの?』

 

「ああ。ついさっき思い出したところだ。ここは昔、オレがパンテーラを待ち伏せした時の待機場所だ。ロロはまだバトルポッドとしては未完成で連れて行かなかったからな。お前が知らなくて当然だろう」

 

『そうなんだ……ってアレ? となると、ここって』

 

「まだ確定はしていないが、少なくとも百年以上時を遡っている。どうやら座標さえ把握出来ればブレイクホイールは世界だけでは無く、時間も超える事が出来る様だ」

 

『あの世界、時間を操るワーカーもいたんだから時間移動も当然出来るんだね』

 

「そう言う事だな。……念のため、用意していたコレが役に立ちそうだ」

 

 

 そう言って取り出したのは顔面を覆う仮面。

 

 【イプシロン】と呼ばれるワーカーの付けていたモノとカラーリング以外はほぼ同じ物だ。

 

 顔を完全に覆うこの仮面ならば、オレの特徴を把握している存在以外に対しては少なくとも簡単に見破られる事は無いだろう。

 

 そんな仮面をオレは装備する。

 

 

「……視界良好。ボイスチェンジャーも無事機能しているみたいだな」

 

『うわぁ……』

 

「どうした、ロロ」

 

『ゴメンねアキュラくん。なんか、痛い人に見えちゃって』

 

「……仕方あるまい。今居るこの世界でもオレの並行同位体と出合わない保証が無い上に、ソイツがどんな立場なのかも分からないのだからな。用心するに越した事は無いだろう」

 

『でもそうなると、ぼくの場合は……あぁ、だからアキュラくん、背中にぼくがドッキングできるハードポイントを増設してたんだね』

 

「そう言う事だ」

 

『背中からドッキングするから表面を見られるって事も無さそうだし、最悪ぼくの並行同位体と接触しても大丈夫そうだね』

 

 

 会話もドッキングした状態ならば思考でする事が可能である為、情報のやり取りもよりスムーズに行える。

 

 それにドッキングすればロロのABドライブのパワーの恩恵をよりダイレクトに受ける事が可能だ。

 

 モードディーヴァを始めとした各種形態も、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の具現化能力によって問題無く変化出来、クロスシュトロームとヒーリングの使用にも、支障は無い。

 

 

『じ……じゃあ、合体するね』

 

「……何を躊躇っている。早くドッキングを始めてくれ」

 

『もう! アキュラくんってば、ほんっとうにデリカシーが無いんだから!』

 

「……??」

 

 

 ロロは何処か緊張した様子でドッキングを開始する。

 

 そういえば、テストでのドッキングの際も今回以上に躊躇っていたな。

 

 その時も似たような事を言われたが。

 

 ……よし、問題無く機能しているな。

 

 ドッキングが終わったと同時に、脳内にロロの声が木霊する。

 

 

(あ~、あ~、ただいまマイクのテスト中、マイクのテスト中。どうアキュラくん? ぼくの声、聞こえる?)

 

(問題無い。ロロの方はどうだ?)

 

(こっちも問題無しだよ、アキュラくん)

 

(よし、ならば早速、行動を……!)

 

 

 始めようとしたその時、少し離れた場所から爆発音が響き渡った。

 

 ……なにやら、嫌な予感がする。

 

 確信めいた、とても嫌な予感が。

 

 あの座標はキーライフルの導き、いや、オレの場合はブレイクホイールの導き……なのだろうか?

 

 

 

 

MISSION START


 

 

 

 

 それを確かめる為に、オレは空を舞い、ブリッツダッシュを用いて現場に急行。

 

 その場所で待っていたのは……

 

 

(え……嘘……アキュラ、くん? 【ノワ】?)

 

(……やはり、こういう事だったか)

 

 

 【(メガンテレオン)】を、【(エクスギア)】を砕かれ多くの血を流し、倒れ伏したこの世界のオレ。

 

 失敗した場合の保険として待機していたノワの傷ついた姿。

 

 そして、そんな二人に余裕の笑みを浮かべる()()のパンテーラの姿だった。

 

 その姿を見た瞬間、ある可能性に行きついた。

 

 ここで二人とも倒れてしまえば、誰が、ヤツ(この世界の俺)の妹を……【ミチル】を守ると言うのだろうか?

 

 それに思い至った瞬間、身体は既に動き出していた。

 

 

 

 

READY 


 

 

 

 

(ロロ、【タイムフリーザー】を!)

 

(……っ! りょ、了解!!)

 

(あの二人の傷……時間が無い。ここは直ぐにでも始末をつける!)

 

 

 タイムフリーザーの起動、そしてアビリティ【ウロボロスシステムX】の動作を確認後、オレは駆けだした。

 

 それと同時にオレの士気のかつてない上昇を受け、ロロが【モード・ディーヴァ】へと変身し、持ち歌である【白金の約束(プロトコル)】がゆっくりとした時間の中で流れ出す。

 

 それと同時に普段は使っていないアビリティ【リミットブレイク】を起動。

 

 これは一度でも被弾するとモード・ディーヴァが解けてしまう諸刃の剣だが、今回の様な超短期決戦においては極めて有用なアビリティだ。

 

 進む時間の流れが遅い中パンテーラ達は気が付いたのかこちらに対してゆっくりと振り向こうとしている。

 

 あのパンテーラ達……どちらかが幻影を維持する為の起点である筈。

 

 ならばとオレはアンカーネクサスを起動。

 

 赤い糸による絶対的な追尾性能によって起点を見破り、【ルシフェルメイス】によって強化された一撃を用いてパンテーラを吹き飛ばすと同時に【ロックオン】。

 

 ダメ押しでブレイクホイールを抜き放ち、【ロックオンホイール(ホーミングショット)】を無数に叩き込む。

 

 そしてタイムフリーザーの効果が切れると同時に、起点と思しきパンテーラを撃破。

 

 ヤツはまるで鏡の様にその身が砕け散り、同時に居た女の幻影も姿を消した。

 

 

(……どうやら、何とかなった様だな)

 

(うん……それよりも、二人を早く何とかしなきゃ! ノワも倒れちゃったよ!)

 

 

 恐らくヤツ(この世界の俺)を守ろうと言う意思によって辛うじて意識を保っていたらしい。

 

 パンテーラが倒された瞬間安堵したのが引き金となってしまったのだろう。

 

 先ずはロロにヒーリングを二人に使って応急処置を施し、オレはそんな二人と破損した盾と少し離れた場所に転がっていた【(ボーダー)】を抱え、その場を後にした。

 

 

 

CLEAR


 

 

 

 

(とりあえず何とかなったけど、これからどうするの?)

 

(……恐らくだが、この世界にもヤツ(この世界の俺)が作った秘密の研究施設がある筈だ。そこで二人の目が覚めるのを待とう)

 

 

 その後、昔の記憶を頼りに秘密の研究施設へと到着し、二人を安静な状態にした後、目を覚ますのを待った。

 

 

(大丈夫かな、二人共)

 

(……少なくとも生体反応は安定している。直に目を覚ますだろう)

 

(だといいけど……)

 

「う……」

 

(あ! ノワが気が付いた!)

 

(この、ヤツ(この世界の俺)程傷を負っていた訳では無いからな。当然だろう)

 

(それよりも、分かっているな?)

 

(うん。ぼくは大人しくしてるね。……アキュラくんも、分かってるよね?)

 

(ああ)

 

 

 流石にオレも素直に名乗りを上げる訳にはいかない為、この世界ではイクスを名乗ろうと思っている。

 

 これは元の世界でコハク達からオレがそう呼ばれていた為だ。

 

 

(コハク達には、感謝しないとな)

 

(そうだね。……じゃあ、ぼくは黙ってるから)

 

「ここは……アキュラ様の……」

 

「気が付いたか」

 

「貴方は……どうやら、私達は助けられたようですね」

 

 

 一先ず、ここまでの経緯を矛盾無く説明しようと先ずはイクスと名乗ろうとしたのだが……

 

 

「助かりました、()()()()()。まさかこうして別世界のアキュラ様に助けて貰える事は想定していませんでしたので」

 

「…………はぁ。何時から気が付いていた?」

 

「目を覚まし、声を掛けられた時からです」

 

 

 何となくだが、ノワには正体を見破られる予感があったのだ。

 

 だからこそ顔を見られない様にしたり声を変えたりと様々な対策を施したのだがな。

 

 まさかこんな短期間に、しかも目を覚ました瞬間に把握されるとは思わなかった。

 

 

「何故オレに気が付いたのかは、この際聞かん。どうせ適当にはぐらかすだろうからな」

 

「気が付きますとも。そもそもこの研究施設はアキュラ様と私以外知らない場所です。それにここに入る為にはパスワードも必要ですからね。ならば、そう考えるのもおかしくは無いかと。……ロロも、背中に隠れているみたいですし」

 

『えぇ! なんでバレたの!? ……ぁ』

 

「そう言う所です。まだまだ精進が足りませんね、ロロ。……折角なので、顔を見せて貰っても?」

 

ヤツ(この世界のオレ)がいつ目を覚ますか分からないからな。コレ(仮面)を外す訳にはいかん」

 

「それは残念です。……では、ここでは何とお呼びすればよろしいでしょうか?」

 

「イクスだ。向こうでオレは白き鋼鉄のイクスと呼ばれている。身内には、名前で呼ばれているがな」

 

「…………」

 

「どうした、ノワ?」

 

「アキュラ様に身内が出来ているとは驚きました」

 

「……どういう意味だ、ノワ」

 

 

 久しぶりに……本当に久しぶりのノワとの会話は、まるで昔に戻ったと錯覚してしまう程、言葉には出さなかったが……嬉しかった。

 

 正直、これだけでもうこの世界に来た意味があったと、オレは思う。

 

 後は、ヤツ(この世界の俺)が目を覚ませば、この世界にオレ達が居る理由は無くなり元の世界に帰還出来る。

 

 そう思っていたのだが、ヤツ(この世界の俺)はどうやらパンテーラに何かしらの細工をされたらしいとノワは言う。

 

 それが影響しているのが理由なのか、ヤツ(この世界の俺)は一向に目を覚ます気配が無い。

 

 おまけにこの世界のロロは時期が重なってしまったのが理由なのか、メンテナンス中で意識が落とされている状態だ。

 

 ……この時期のロロはミチルの話相手になっていた。

 

 ヤツ(この世界の俺)が倒れ、ロロまで突然居なくなってしまったら、この世界のミチルはどうなる?

 

 それにこの世界のロロが今のヤツ(この世界の俺)の姿を見たら、どうなる?

 

 創造主を失い、暴走したマザーの姿を見る限り、間違い無く碌な事にならないだろう。

 

 ……方法は、無いわけでは無い。

 

 だが、ソレは許される事なのか?

 

 必要であった事とは言えミチルを、妹をこの手にかけたオレに……厳密には別人ではあるのだが、だとしても、この世界のミチルと会う資格があるのだろうか?

 

 脳裏に浮かぶは悪魔のマシンと成り果て、自身の死を懇願する妹の姿。

 

 

(ミチル……オレは、どうすればいい?)

 

『アキュラくんちょっといい?』

 

「どうした、ロロ」

 

『この世界の事、ちょっと調べてみたんだけど……』

 

 

 ノワが目覚めるまでの間、ロロはネットで情報を収集していた。

 

 まずガンヴォルト、紫電、そして宝剣持ちの能力者達全員が未だ健在である事。

 

 次に歌姫(ディーヴァ)プロジェクトがオレの知らない形で実現している事。

 

 そのお陰で今は仮初ではあるがこの国は平穏を取り戻しつつある事。

 

 それが影響しているのか、フェザーが解散の危機に追いやられている事。

 

 ……これらの出来事は、オレの居た世界とは大きく流れが変化している。

 

 ならばノワにはヤツ(この世界の俺)の事を誤魔化してもらい、オレ達は陰から見守るだけでいいのでは無いのか?

 

 

「アキュラ様。……ミチル様には、お会いにならないのですか?」

 

「…………だめだ」

 

「何故ですか?」

 

「……妹を、ミチルを、オレはこの手にかけたからだ」

 

「……っ!」

 

 

 ノワの目が見開かれた。

 

 普段は完璧なメイドとして振舞いどんな時でも冷静でいる彼女が、揺らいだ。

 

 

『……ぼく達の世界では、ミチルちゃんはスメラギに攫われて……そこで、目茶苦茶にされて……!』

 

「平和と言う名のディストピアを支える、【恒久平和維持装置】と成り果てていた。……言えるのは、ここまでだ」

 

「……そんな事が、あったのですか」

 

『いくらノワでも、これ以上は話せない。……ただ言えるのは、ぼく達は、「それ」を乗り越えた上でここにいるんだ』

 

 

 流石に、これ以上の事は言う必要は無い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だの、()()()()()()()()()()()だの、言うだけノワを傷つけるだけだ。

 

 そう思いオレ達は陰で見守る事を提案しようとしたのだが、ノワからある提案と賭け事を挑まれた。

 

 まず提案と言うのは、一度ミチルとノワの知り合いと言う形で会ってみると言う物。

 

 そして賭け事とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う物。

 

 それに対しオレ達は……内容を理解した上で一度だけ、そう、一度だけならばとその提案を受ける。

 

 その後、ヒーリングで対処したとはいえノワも消耗が激しかった為この場は解散。

 

 再びオレ達二人だけとなった。

 

 

『ねぇ、アキュラくん……本当に、良かったの?』

 

「問題無い。街に紛れ込めるよう、私服姿にもなれるからな」

 

『そう言う事じゃ無くて!』

 

「分かっている。……大丈夫な筈だ。今のオレは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からな」

 

 

 だからこそ、ミチルがオレの事を見破れるかどうか等と言う賭け事が成立するはずが無いのだ。

 

 成立する筈が無い……無い筈なのだ。

 

 なのに、何故だ……

 

 

「……おかえりなさい、アキュラくん」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()のはこの際どうでもいい、些細な事だ。

 

 

「そのお面どうしたの? また新しい発明品?」

 

 

 何故オレの事が分かる?

 

 

「そうだ……ねぇアキュラくん、そろそろロロとまた会いたいな。一人じゃちょっと寂しいから」

 

「オレは、アキュラでは……」

 

「ううん、アキュラくんは、アキュラくんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その位、分かるよ」

 

「……っ! う……ぁぁ……」

 

 

 俺を護る仮面が落ちる。

 

 不要だと思いつつ、それでもどこか人間としてありたいと足掻いて付けた涙の機能が、初めて効果を発揮する。

 

 

「だって、わたしはアキュラくんの妹だから」

 

 

 そう言いながらミチルはオレの元へとたどたどしく歩き出し、オレの事を抱きしめる。

 

 

「アキュラくんの泣いてる所、始めて見ちゃった。……わたしの知らない所で、一杯頑張ってたんだね」

 

「……あぁ。……あぁ。やれるだけの事は、やったんだ。だが、それでも、オレは、お前を、護れなくて……それ所か、オレは、お前を、この手で……!」

 

「きっと、あなたの知るわたしは、それでも幸せだったと思うよ」

 

「……っ! 幸せなものか! あいつは! オレの知るミチルは! 何十年も捕らわれ続けていたんだぞ!!」

 

 

 止まらない涙を流しつつ、ノワにも伝えていなかった話を、こみ上げる感情を止めることが出来ないまま伝える。

 

 

「それでも、最期はアキュラくんに会えた。……違う?」

 

「それは……! 確かに会えはした! だが、だがオレは……!」

 

「だったらきっと、アキュラくんの知るわたしは、最期にこう言ってると思うな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???(イクス)編第十三話

 

 

ありがとう

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇イクスさんについて
ハードモードクリア+DLCコンテンツ網羅を成し遂げたイクスさんなので、とっても強いです。

〇ヌルについて
イクス2のハードモードクリア時、ヌルがアキュラくんの居る世界へとついて行く描写があるのですが、それは確定した訳では無くぼかした表現になっています。
なので、この小説内ではアキュラくんについて行った事になっています。

〇ブレイクシフトの最適化について
この辺りの設定は殆ど模造です。
いきなり装備が変わってプレイヤー()によるアキュラくんの操作感が変化した事を表現してみた、と言った感じです。
実際、最初にグレイヴピラー付近まで接近する際にヒーリングのチュートリアルで流されていましたが、かなり消耗していたのはそう言った理由もあったのでは? と言う想像も含まれています。

〇ガンヴォルト爪に登場するEXウェポンが使える事について
イクス世界線ではアキュラくんはエデンと実際に戦ったのかは本編では不明です。
なので、この小説内ではなんやかんやあってエデンと戦い、勝利したと言う形を取っています。

〇グリードスナッチャーの陳腐化について
イクス世界線でもアシモフはグリスナの脅威を把握しています。
実際に倒れたGVとシアン、そして銃を構えたアシモフと言う回想シーンもあります。
なので対策するのも当然なのではと思ってこんな設定を生やしました。
アキュラくんがグリスナ持ってなかった理由付けにもなるだろうし、いいかなって……

〇『座標』について
申し訳ありませんが、現段階では最後の数字の部分が『パンテーラを撃破する日の決行日時である』という事しか語れません。

〇ドッキングについて
当たり前ですが、模造です。
ゲーム本編でそんな機能はありません。
なので、ドッキングを恥ずかしがるロロが見られるのはここだけ……だと思います。

〇本編第十話における皇神兵の報告と今回の結末の食い違いについて
これについても多くを語る事は出来ません。
ただ言えるのは、何者かの手により情報操作が行われている、位です。

〇ノワが初見で見破った件について
ノワだからなぁ……で説明が付くと思います!

〇この世界のアキュラについて
パンテーラに敗北した結果、ナニカサレタヨウダ……
残念ながら本格的な出番はしばらく後になります。
本当に申し訳ない。

〇この世界のロロについて
アキュラくんと同じく、本格的な出番はしばらく後になります。
本当に申し訳ない。

〇涙の機能について
当たり前ですが、模造です。
ただアキュラくんは意外とそう言う機能は不要だと断じながらも、どこか人間らしさを残したいと本能的に思いながら付けたと言う模造設定です。
この辺りは、ロックマンXの涙を流さないゼロと涙を流すエックスを意識していたりします。

〇ミチルちゃんが見破った事について
……これについては、語る必要は無いでしょう。
この小説を読んだ読者の皆様方の想像にお任せしたいと思います。


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休暇編 閉幕
第十四話 青き交流(リトルパルサー)の初陣




サイドストーリー





 皇神グループによって近年まれにみる程に治安を回復させたこの国。

 その、とある街外れに存在する一人で暮らすには分不相応なお屋敷。


「一人ぼっちは、さびしいですね……」


 誰も居ないその屋敷で、わたしの声だけが響いた。

 三ヵ月ほど前、わたしの事を沢山かわいがってくれた家政婦のお婆様が亡くなってしまった。

 そこに、国内有数の大企業『桜咲家』の連絡員が世話役兼監視役の補填を申し出て来たのです。

 ですが、わたしの事をまるで我が子の様に可愛がってくれたお婆様が居なくなってしまったのもあり、今更そんな他の者に気を許すなんて簡単には出来ませんでした。

 なのでこの時、わたしは一世一代のワガママを申し出たのです。


「わたしももう十六。結婚だって出来る年頃です。家事も、人並み以上には出来ます。なのでどうか、しばらくの間だけ、一人暮らしをさせては頂けませんか?」

「……分かりました。しばしお待ちを」


 ですが、この申し出はあっさりと了承されてしまいました。

 あまりにもすんなり許可が降りてしまったので、わたし自身のこれまでの生活は何だったんだろうと一瞬考えてしまいましたが、きっと桜咲の家には桜咲の家なりの事情があったのだろうと考えました。

 そういう訳で、週に一回の定例報告と今通っている女子高を卒業するまでを条件に、わたしのひとり暮らしが始まったのです。

 これは元々、わたしから言いだした事。

 弱気になってはいけないのは分かってはいるのです。

 と、そんな風に考えていたらわたしのお腹がご飯の催促をしてきました。

 時計を見れば、もうお昼を過ぎていました。

 今日は休日の、とても陽気ないいお天気です。

 家の洗濯物を始めとした家事全般は終わらせましたが、買い物はまだでした。

 なので、キッチンテーブルの上にあったキャンディをひとつ口の中に入れ、わたしは駅近くのスーパーマーケットへと向かう事にしました。

 身支度を整え、屋敷から外に出ると、入り口の近くには最近購入したばかりの自転車がわたしをお出迎えしてくれます。

 わたしはそれに乗り、風を切りながら目的地へと漕ぎだしました。

 温かな日差しとそよ風が心地いいです。

 そんな風に日差しとそよ風に身を任せながら先へと進み、あっという間にスーパーマーケットが見えて来たと思ったその時、わたしはそこの駅近くの踏切に人が取り残されているのを見つけてしまいました。

 踏切の鳴る先を見て見れば、普通の電車では無く、貨物列車。

 普通の電車ならば駅が近いのでスピードを落とす過程で踏切に取り残されている人に気が付くと思うのですが、貨物列車は駅に止まらない関係上、スピードを落とさずにそのまま来てしまいます。

 それに、踏切に取り残されていた人は、お婆さんでした。

 ……気が付いたらわたしは、自転車を全力で漕いでいました。

 今思えば、あのお婆さんにわたしのお婆様を重ねていたのかもしれません。

 わたしは夢中になって踏切へと向かい、お婆さんの所までたどり着きました。

 そのお婆さんは脚を不自由にしていたらしく、わたしは何とか引きずるようにして踏切の外へと向かったのですが……


(もう列車が近いです……! 間に合うかどうかは、ギリギリでしょうか)


 そんな風に思いながら、最後まであきらめずに進んでいたその時、女の人の声と共に手を差し出されたのです。


「もう列車が近くまで来てるよ! わたしも手伝うから急ごう!」

「あ、ありがとうございます!」


 その後、その女の人と力を合わせ、お婆さんと一緒に踏切の外へと脱出することが出来ました。

 それとほぼ同時に、貨物列車が踏切を通過。

 正しく、間一髪でした。


「ふぅ……お婆さんもお姉さんも、何とか無事でよかったよ」

「流石に、もうダメかと思ったわい」

「わたしも、正直間に合わないかと思ってました……」


 一息ついてわたしの事を助けてくれた人を見る。

 活発な雰囲気を出す為なのだろうか、わたしの服装とは違い、露出の大目なスポーツウェア風な意匠で纏められた服装と腰のポーチの付いたスカートが特徴的な、ポニーテールな髪型の女の人。

 何と言えばいいのでしょうか、どこか街の人達とは雰囲気が違う感じがする女の人です。

 その後、お婆さんは救急車で運ばれました。

 二人でそれを見送った後、わたしとその女の人とで中断していた買い物をしながら暫く自己紹介も兼ねてお話する事になりました。
 

「では改めまして……わたしは『オウカ』。街から少し離れた場所にあるお屋敷で一人で過ごしています」

「オウカ……いい名前だね。じゃあ、わたしも自己紹介するね。わたしは『コハク』。アk……私の仲間がこの街でしばらく滞在する予定だから、わたしは付き添いみたいな形で付いて来たって感じだよ」

「まあ! そうなのですね」

「でもこの辺りに来るのは初めてだから、実を言うとちょっと迷子になってたんだ。そんな時にオウカがお婆さんの事を助けようとしてる所に遭遇して……」


 ご自身が迷子になっていたのに見ず知らずのわたしとお婆さんの事を助けてくれたコハクさん。

 この事が切欠で、コハクさんはわたしのお友達となって下さいました。

 その後はわたしのお屋敷で一緒にお昼ご飯を一緒に食べて、コハクさんの仲間の人が連絡を受けて迎えに来るまでの間、今まで一人で寂しかった分、沢山お話をしました。

 ……この日以来、わたしのお屋敷は少し賑やかになりました。

 元々わたしは庶子である噂もあった為、お友達になってくれる人は全くいなかった訳ではありませんでしたけど、多くはありませんでした。

 だから気軽に尋ねて来てくれるコハクさんがお友達になってくれて、わたしはとっても嬉しかったんです。

 それだけでは無く、コハクさんのお知り合いの方ともお友達になれました。

『キョウタ』さんに『ジン』さんに『マリア』さん、そして『イクス』さんに『ヌル』さん。

 そして、今ネットでも話題になっている『RoRo』さんともお友達になってしまいました。


「オウカねーちゃん! こっちは終わったぜ!」

「ありがとうございます、キョウタさん」

「こっちも終わりましたよ、オウカさん」

「ジンさんも、ありがとうございます」

「キョウタもジンくんも気合入ってるねぇ」

「ただの食事の準備なのに、不必要に気合を入れ過ぎなのです。コハクの時とは反応が違い過ぎて、下心が丸見えなのです」

『まあまあマリアちゃん……キョウタもジンくんも、オトコノコってヤツなんだと思うよ。ぼく達の周りにはああいうタイプの女の人は居なかったし』

「……そう言う物なのか?」

「人間さん達にも、色々な側面があるんですねぇ~」


 少し前までは広く感じていたこのお屋敷も今は賑やかで、少し狭く感じてしまう様になってしまいました。

 我ながら贅沢な話です。

 ですが、この楽しい時間も長くは続きません。

 コハクさん達がこの街に居るのはあくまで一時的な物。

 用事が終われば、居なくなってしまいます。

 コハクさん達の用事が終わらなければいいのにと、イケナイ事を思ってしまう。

 こんな賑やかで楽しい事を知ってしまったら、元の一人暮らしに戻るのはありえない、そう考えてしまうのです。

 だからこそ……わたしはこの偶然がもたらした奇跡のような時間を胸に刻み付けていきたい。

 そう、思ったのです。

 そんなわたしにとっては奇跡の様な日々の中での、ある日の出来事。

 わたしは何時もの様にコハクさんと一緒に買い物へと出かけていました。

 そこで、思いもよらない出来事が待っていたのです。


「動くな! 我々はこれより、この施設を占拠した! 死にたく無ければ、大人しくしていろ!!」


 コハクさんと買い物に出かけていた先のデパートで、テロリストの立てこもり事件に巻き込まれてしまったのです。

 今、この国で主にテロ活動をするのは今ではすっかり大人しくなった『フェザー』と呼ばれる組織が主だったのですが、別に彼ら以外のテロリストが居ない訳ではありません。

 主義主張も無く、ただ暴れたいが為にテロ行為に走ると言った事も、稀にですが存在するらしいのです。

 こう言ったテロ行為に巻き込まれる確率は、今ではそれこそ宝くじの一等に当たるか当たらないか、そのくらい小さな確率だと言われています。

 ですが、わたし達は不運にもそれに当たってしまいました。


どうしましょう……

こういう時は、とりあえず大人しくしておけば大丈夫! それに、いざとなったら……

いざとなったら?

この煙幕玉を使うからね


 コハクさんはテロリストの人達を警戒しながら、そう言ったのでした。


(コハクさん、こういう荒事には強い人なのでしょうか? ……いいえ、詳しい詮索はダメです。コハクさん達もわたしを詮索する事を避けてくれているのです。わたしばかりがワガママを言う訳にはいきません)


 そう思っていると、テロリストの一人が私達の方へと向かい、わたしの手が無理矢理引っ張られます。

 どうやらわたしの事を見せしめとして扱うつもりの様です。

 コハクさんはそれを止めようとして下さいましたが、流石に彼女まで巻き込む訳にはいかなかったので「わたしは大丈夫ですから」と言って止めました。

 こうして無理矢理連れて行かれ、コハクさんまで連れて行かれなくてよかったと内心安堵していた、そんな時でした。


「え……()()()()()?」


 コハクさんのそんな声と共に、わたしの視界へ『天使の羽』が舞い降りたのです。






 

 

 

 

「モルフォの歌で能力によるテロが無くなったのは良かったのですが……」

 

「ま、こう言ったモンってのは能力があろうがなかろうが何処かで何かしら発生するからな。まあでも、お前のデビュー戦を考えればおあつらえ向けってヤツさ」

 

 

 遂にこの日が、私自身が戦いへと身を投じる事となる日がやって来た。

 

 その舞台は人通りも多い大動脈と呼んでも差し支えない道路沿いにある十階建ての大型デパート。

 

 このデパートを武装したテロリストが占拠しており、一部の人質を除いて一般市民の避難は完了していると言った状況だ。

 

 そして、別の意味で問題になっている事もある。

 

 

「……GVとシアンも、あのデパートの中に居るんですよね」

 

「あぁ、丁度買い物に出かけてたらしくってな。全く、タイミングがいいんだか悪いんだか」

 

「普通なら最悪と言っても良いタイミングなのでしょうが……」

 

 

 GVから連絡が私達の所へと届き、あの大型デパートの中で人質として大人しくしているらしいのだ。

 

 普通、単純な戦力的に考えればGVだけで鎮圧する事は容易い。

 

 だが、シアンの護衛が本来の目的な事もあり、自分が迂闊に動いて彼女を危険に晒す訳にもいかないのだ。

 

 それでもまあGVなら何とかしてくれる、そう思える位頼りになるのは間違いない。

 

 だからこそ、私は早めに行動しなければならない。

 

 

「……このままほっといたら、全部GVが終わらせちまいそうだな。アイツ最近近接格闘に能力を組み合わせるようになったしな。いつものエモノ(ダートリーダー)が無くても、あの程度の連中なら瞬殺しちまいそうだ……準備はもう出来てるな、フェムト」

 

「ええ、変身現象(アームドフェノメン)も済ませていますから、何時でもいけますよ。デイトナ」

 

「なら問題ねぇな。今回のオレや現地の機動部隊はテロリスト達の視線を釘付けにする為のオトリ役だからこの場からは基本動けねぇ。だからお前が頼りだ。フェムト」

 

「はい。……では、行ってきます」

 

「おう。さっさと終わらせて来いよ」

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 私は静かにこの場を後に、テロリストの視界から姿を消すと同時に行動を開始する。

 

 先ずは青き交流(リトルパルサー)の能力を用い、大型デパートの内部情報を全て丸裸にする。

 

 その後、この大型デパートに存在する監視カメラを統括する監視室へと向かう。

 

 道中、テロリストは当然居たのだが、私はリアルタイムで位置情報を把握している為、無理無く見つからずに目的地へと到着。

 

 通信を傍受し、監視室に居るテロリストへの定期連絡が終わった直後を狙いすまし、室内へと静かに突入する。

 

 それと同時に今ではもうすっかり手に馴染んだ鉄扇を抜き放ち、首にある急所を狙った一撃で、テロリストを昏倒させた。

 

 

「ガッ……」

 

(ふぅ……先ずは第一段階クリア。……よし、デパート内に爆弾は仕掛けられて無いみたいだね)

 

(ん。後は人質になってる人達を助けて各個撃破だね、フェムト)

 

(そうだね、リトル。……さあ、ここからは時間との勝負。急ぎつつ、かつ慎重にいかないと)

 

 

 そうして次に人質が捕らわれているであろう最上階へと向かおう……そう、思っていた時だった。

 

 監視室を掌握し、監視カメラの映像も共有出来る様になった画像に映し出された物。

 

 それは、人質の女の人に対して乱暴に手を引っ張っている光景。

 

 恐らく外に居るデイトナ達に対して見せしめにするつもりなのだろう。

 

 ……あぁ、このテロリスト、やってしまった。

 

 そこには私の友達がいる。

 

 曲がった事が大嫌いで、ソレが目の前で起こったら、思わず行動を移さずにはいられない、そんな人物。

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)ガンヴォルト、そんな彼の逆鱗を踏み抜くような行為を彼らは知らなかったとは言え、してしまった。

 

 あんな風に人質が扱われてしまったら、次はシアンの番が来るかもしれないとGVが考えて行動を移すのは当然の事だ。

 

 何しろGVとの契約には『シアンの身に危険が生じる可能性がある場合、()()()()()()()()()()その危険を排除する為の独自行動をしても構わない』と言った内容も含まれている。

 

 なので、外に居るデイトナへ作戦の変更を伝達する。

 

 

《あいつら、やっちまったか》

 

「ええ、なのでここからは隠密行動はやめて、派手に立ち回ろうかと思います」

 

《テロリストの目をお前に釘付けにするって訳か》

 

「その方が、GVも動きやすいと思いますので」

 

《なら、フェムトはそのまま最上階を目指しな。オレらも人質の安全が確保され次第突っ込むからよ》

 

「了解。では、その手筈で」

 

 

 私は監視室から飛び出した。

 

 ……使う予定は無かったが念のために持ち出し、腰に吊り下げていた『ワイヤーガン』を左手に持ち、行動を開始。

 

 早速、テロリストの一人と遭遇。

 

 ワイヤーガンを斜めに打ち込み、ワイヤーを巻き取る時に出来た勢いを利用しての一撃を叩き込む。

 

 それに気が付いた別方向に居たテロリストが仲間に伝達した直後の隙を狙ってワイヤーガンを直接打ち込む。

 

 巻き付いたのを確認した後、『生体ハッキング』を用いて生きる為に呼吸等の最低限の機能を残したまま四肢の動きを封じる。

 

 それと同時に、監視カメラで視界を共有した先に有る人質の居る最上階ではGVが行動を開始。

 

 最近習得した『ヴォルティックアーツ』を用いて即座に人質となっていた女の人を救出後、瞬く間に一カ所に集められた人質の居る部屋に居たテロリスト達を無力化してみせた。

 

 その異変に気が付いたのか、外に居たテロリスト達も内部へと潜入するが、雷速で動くGVにまるで対応出来ずに沈んでいく。

 

 

(流石GV。あっという間に最上階、制圧しちゃった)

 

(こちらの意図も察してくれたみたいで、タイミングも完璧でした。これでもう人質の事は気にしなくて大丈夫そうですね)

 

 

 なので、デイトナに連絡を送る。

 

 私はここまで来るのに監視室のある五階までテロリスト達を隠密行動でスルーしていた。

 

 なので監視室より下の階層に居るテロリスト達はデイトナ達に任せれば大丈夫だ。

 

 よって、私は今居る五階よりも上の階に居るテロリスト達の制圧へと、デイトナ達が突入したタイミングと同時にエレベーターの電源を落としつつ向かう。

 

 

「このガキ……グハ!」

 

「かっ体が動かねぇ……」

 

「あのバリアはなんなんだ!? 銃撃がまるで通じないなんて!!」

 

 

 鉄扇を展開し、結界を展開。

 

 そのまま結界を盾にしつつ、素早く懐に飛び込み()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そのままジャンプしながら切り上げる。

 

 それと同時に、ワイヤーガンを斜め下に発射、着弾と同時に空中から退避。

 

 その直後にさっきまで居た空中に弾丸が飛び交う。

 

 

「アイツ、俺達が狙っている事を察知して……!」

 

「こうなったら皇神からくすねたロボットを使わせてもらう!」

 

 

 そうして出て来たのはチェーンソーを持つ中位の大きさのロボット。

 

 既に皇神からすれば旧式のモノなのだが、それでも訓練を受けた皇神兵でも手こずるであろう相手だ。

 

 だけど、この手のロボットは私にとってはカモがネギを背負って出てくるのと同義。

 

 ワイヤーガンを打ち込んで即座にハッキング。

 

 その気になれば逆にテロリスト達を襲わせる事も出来るが、今回は安全を考慮に入れ、機能を停止させるに留める。

 

 

(……フェムトを相手にロボットを出すのは自殺行為なのに)

 

(確かにその通りですが、それを相手側に求めるのは酷と言うモノです)

 

「どうした!? 何故動かない!」

 

「あのワイヤーに当たった瞬間、機能停止を確認……! あれは恐らくですがハッキングです!」

 

「あの一瞬でそんな事が出来る等……そんな事があってたまるか!」

 

 

 そんな事を言い争っている相手を前に、ロボットを盾に私自身の小さな体を駆使して残りの相手へと突貫。

 

 今度は鉄扇を閉じ、結界の力場を収束させて蒼く輝く剣として扱い、勢いと共に薙ぎ払う。

 

 こうして残りのテロリスト達も薙ぎ払われ、気が付けば既に人質達とGVの居る最上階へと到達。

 

 それと同時に、デイトナから通信が入る。

 

 

《こっちは片付いたぜ、フェムト。お前の送ってくれた内部データのお陰でこっちの被害は無しだ。そっちはどうだ?》

 

「こちらも制圧は終わりました。最上階も……うん。GVは人質の皆さんと話をしているみたいですね」

 

 

 そして、念の為もう一度テロリストが隠れていないかを監視カメラ経由と、そして倒れたテロリストの情報端末経由で調べ上げ、無事制圧が完了した事を確認。

 

 後始末はデイトナに任せ、私はGVと合流する事にした。

 

 そして、最上階の人質が居るであろう部屋へと到達。

 

 

「皆さん、聞こえますか! テロリストの制圧が完了しました! もう安心して大丈夫です! 但し念の為、別動隊による後始末が終わるまではこの場で待機していてください!」

 

 

 そう扉の前で大きな声で伝えると、GVから応答の声が届いた。

 

 

その声は……!  こっちの人質の安全確保は出来てる。中に入っても大丈夫だよ。フェムト」

 

「分かりました。では、お邪魔しますね」

 

 

 そうして扉を開けたその先では、無力化されたテロリスト達が武装を解除された上で縛り上げられ、一カ所に固められていた。

 

 固められた全員は気絶しており、それらを油断無く監視しながらGVはシアンと乱暴に手を引っ張られていた女の人と、この女の人と一緒に居た別の女の人と会話をしていた様だ。

 

 ただ、シアンの様子がどうにもおかしい。

 

 手提げバッグを両手で抱えながら、GVの事を睨んでいる様にも見える。

 

 一体何があったのか……

 

 そう思いながら、助けられた女の人を改めて見て見る。

 

 第一印象は、この国の美人に例えられる言葉である大和撫子を体現したかのような、優しそうな人と言った感じだ。

 

 ただ、この人がGVを見る目が何処か親近感を感じた。

 

 

(……あぁそっか。この女の人、GVに一目惚れしちゃったのかも)

 

(シアン、GVの事取られちゃうって思ったからあんなに不機嫌だったんだね)

 

 

 そう思っていると別の女の人が私の事を見て、おかしな事を叫んだ。

 

 

「えぇ!? 今度はお姉ちゃんが縮んじゃったよ~!?」

 

 

 おかしい、私はこの子の姉では無い筈なのだが。

 

 そう思いながら、この混沌とした場所でデイトナ達が後始末を終わらせるのを待つ事となるのであった。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
アンケートを始めました。
内容はちょっと倒錯した(エッチな)事についてです。
今の所今回の二次小説内では前回の物とは違って(私の中では)そう言った描写は抑える様にしているのですが、もう少し欲望に忠実でもいいのかなと言った意見を知りたいです。
アンケートの答えをクリックするかタップすればいいので、もし宜しければご協力をお願いします。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。


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駆け出し(チュートリアル)
第十五話 初ミッション後の一休み




サイドストーリー





 最初にフェムトくんと出合ったのは倉庫として偽装されていた地下施設から外に出た時でした。

 あの時わたしは、地下施設に居た研究員達によって作り出された私の別人格『エリーゼ2』と『エリーゼ3』と共に宝剣によって封印されていた力を開放し、流されるがまま能力を振るっていました。

 ……いいえ、流されるままにだなんて物はただの言い訳。

 わたしの心の奥底に渦巻く本音は妬ましい気持ちで溢れていました。

 わたしに対して痛くて苦しい事を沢山しながら悦に浸る研究員(ゴミクズ)共がのうのうと生きているのが許せない。

 こんなにもわたしが苦しんでいるのに外でのうのうと生きている人々が妬ましい。

 だから研究員達を『ゾンビ』へと生まれ変わらせた上で引き連れて、地上全ての人間をゾンビにしてやろうだなんて御大層な事を、その時は朧気ながらに考えていたのです。

 そうしてエリーゼ2とエリーゼ3は意気揚々と、わたしはオドオドしつつも内心は少しだけ期待しながら外へと出ました。

 そんな時でした。

 皇神グループの最強の能力者である紫電さんと共に、ロボットに乗り込んでいたフェムトくんと遭遇したのです。

 そこからは、ほとんど一方的でした。

 フェムトくんはロボットを乗りこなし、紫電さんと共にゾンビ達を全滅させたのです。

 その後、わたし達が直接相手をする事になったのですが、エリーゼ2とエリーゼ3は捕獲され、私は保護される形で決着がつきました。

 これでわたしを取り巻く一連の出来事は終わりを迎え、全ては元通りに……なりませんでした。

生命輪廻(アンリミテッドアニムス)』を持つが故に多くの存在がわたしを狙っている事を紫電さんに聞かされ、彼の保護下に入る事となったのです。

 そして先ず行われたのがわたしに植え付けられた疑似人格である二人の消去でした。

 最初はそんな事が可能なのかと少し疑っていましたが、フェムトくんは特に苦も無く、二人を消去……いいえ、あるべき形へと戻してくれました。

 そもそもフェムトくんが言うには、あの二人が誕生した切欠は外部から齎された疑似人格に加え、私の奥底にあった想いを核として生まれた存在なのだそうです。

 だから、あの二人もわたしの一部である……そう、説明されたのです。


「これであの二人はエリーゼさんの中であるべき姿に戻りました」

「…………」

「……自分の中に、ああいった一面があった事にショックを受けているみたいですね」


 わたしは黙って頷く事しか出来ませんでした。

 わたしはこれからどうなるんだろう?

 こんな醜いわたしを知ったフェムトくんや紫電さんに切り捨てられたら……そんな想いが浮かんでは消えていました。

 またわたしは絶望の底に叩き落されてしまうのでは?

 そもそもわたしはどうしてこんな思いをしなければならないの?

 この時のわたしは、そんな負の無限ループによる思考で支配されそうになっていました。


「ではハッキリ言わせて頂きますが……エリーゼみたいな想いを抱いている人はそう珍しくは無いんです。紫電にも、私にも、ああいった思いが全く無いなんて事は無いんです」

「……え?」

「皆、多かれ少なかれ同じような想いを持っているんです。環境なんかによる外的要因に適応する為に脳内に存在する沢山の、私でも把握出来ない程の沢山の小さな人格達が切磋琢磨して私達の知る『人格』と呼ばれるモノが出来上がるんです」

「…………」
 
「そうだと分かれば、特にに気にする必要も感じなくなります」

「本当に、そうでしょうか?」

「……」
 
「本当に、わたしは大丈夫なんでしょうか? わたしは……わたしは!」

「……エリーゼは、希望を信じていますか?」

「そんなもの! 信じている訳……ないじゃないですか!! こうして保護されるまでこんな目にあわされて、そんな事、信じられる訳無いじゃない!! わたしは、あなたみたいに立派じゃないし、頭も良くないもの!!」

「……私も、自我と言う物を認識した時点では失敗作扱いされていました」

「……ぇ?」

そこ(研究施設)では楽しい事もありましたが辛い事も、悔しかった事も当然ありました。死にかけた事だってありました。……ですが、私はここに居ます」

「……どうして? どうしてあなたは、それでもわたしみたいになっていないの?」

「大勢の人達に手を差し伸べられました。ですが、それ以上に重要な事があります。エリーゼ、あなたは()()()()()()()()()()()


 その言葉を聞いた時、不思議と、ストンと私の心の中に納まりました。

 この感覚は初めてのモノでした。


「ネガティブな考えを強要されるような環境だと、どうしてもそう言った絶望を信じてしまう。過信してしまうんです。だから言わせて貰います。エリーゼ、希望は信じなくても構いません。ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………」

「じゃあそうなって来ると、何を信じればいいのかって話になると思いますが……敢えて言うなら、あなたに手を伸ばしている人の事を信じて欲しい。ただ、『救い』とは簒奪性を孕むものでもあります。救われると言うのは、自分の支配権を相手に委ねる側面もあります」


 ……本当に、不思議な感覚でした。

 まるでわたしが持つ漠然とした不安の正体を、フェムトくんが暴いてくれているのだと言う感じがしたのです。

 そう思っている内に、フェムトくんはわたしに手を差し出しました。


「……この手を取る行為は、エリーゼにとっては物凄く勇気の要る行為だと理解はしています。「この人に自分をまかせて大丈夫なのか?」「信じていいのか?」「また裏切られるのでは?」……そんな思いで一杯だと、私は認識しています。だから、私はこうします」


 そう言って、フェムトくんは()()()()()()()()わたしの手を優しく握りました。


「……ぇ? ……ぁ、ぇ?」


 当然わたしの頭は混乱の渦中へと飲み込まれます。

 男の人とこうやって手を繋いだのは初めてだったから。


「私も最初はこうやってニコラに……私の恩人に無理矢理引っ張り出されてポジティブな環境で居られる場所へと連れて行かれました。だから、私もそうさせてもらいます」

「え……? ちょっと? フェムトくん?」

「さあ、行きましょう。早速私の友達にエリーゼの事を紹介させて貰いますね」

「わ……わたし、そう言うの、したことが無くて……!」

「やらない理由を探すより、まずはやってみましょう。失敗しても恥をかいても、一度やってしまえばもう経験者です。そして次に同じ事をやった時、一回目よりもうまく出来る自分に気が付く筈です」


 その後もう、あれよあれよとわたしを取り巻く環境が目まぐるしく変化していきました。

 友達も増え、今までやろうともしなかった料理なんかの家事も出来る様になりました。

 フェムトくんが言う様に絶望を信じなくなったあの日から、わたしは自分を受け入れ、確かに変わることが出来たのです。

 わたしのその歩みはきっと、一人ではあまり早いものでは無いでしょう。

 ですが、わたしの手を取ってくれる人達が力を貸してくれます。

 だからこそわたしは、わたしの思い描くわたしへと変わることが出来る。

 そう、信じる事が出来る様になったんです。

 あんなに可愛らしい外見や仕草とは裏腹に物凄く積極性のあるフェムトくんの意外な一面。

 そんなフェムトくんに惹かれている事をわたしが自覚するのは、もう少し先のお話となります。






 

 

 

 

 本当の意味での初陣が終わったその翌日。

 

 私は先日のミッションをレポートに纏め、イオタにそれを提出していた。

 

 

「ふむ……突発的な状況に対して上手く分析し、立ち回る事が出来たみたいだな」

 

「そうでしょうか?」

 

「ああ。まず当たり前の事ではあるのだが、ミッション開始前の情報そのものが当てになるのは場所位な物だ。敵戦力は勿論の事、相手次第では地形すら当たり前の様に変化するし、何よりも少しの情報すら無い事もある」

 

 

 今回のミッションではテロリスト達が大型デパートを占領した事と、具体的な人数辺りが正確な情報だった。

 

 

「実際、情報に無い相手と戦った事もあっただろう」

 

「ええ。皇神のチェーンソーを持ったロボットとの戦闘がありましたね」

 

「そうだろう。まず大抵の者は情報と違う、或いは突発的な出来事と遭遇するとまともに実力を発揮できないことが多いものだ」

 

「私の場合は実戦ではありませんが、仕事をする時も突発的な事は良くありましたので、それである意味慣れていた、と言うのもあると思います」

 

「……あぁ、そう言えばメラクからの突然の無茶振りなんかに振り回される事が多かったな。フェムトは」

 

 

 実際、私の仕事が組んだ予定通りに終わった試しはあんまり無かった。

 

 それにメラクだけでは無く、紫電やデイトナ達からも突然のお願いをされる事が多々あった為、予定が未定なのは私の中では当たり前の事だったのだ。

 

 

「ええ。ですが今後の事を考えると、そう言った経験もしておいて良かったと思っています。精神的に大分余裕が持てたので」

 

「うむ。この調子で頑張って欲しい。……フェムト、今日は帰ったら直ぐに休むといい」

 

「……? 昨日のミッションの疲れはもう抜けてますよ」

 

「いや、そうでは無い。ミッションは突発的な物だ。いつどこで何が起こるのかすら分からんのだ。だから普段からなるべく体調を整え、出来るだけ万全の状態で挑む必要がある」

 

「休む事も仕事の内、という事ですか」

 

「そう言う事だ。それが出来なければいざ本番と言う時に碌に力が発揮出来ん。……デイトナも初期の頃はこの辺りで苦労していたな」

 

 

 デイトナは直情的な所があるから、休めと言われて「はいそうします」何て言うような人では無い。

 

 初期の頃は苦労していたと言うのは、そう言う事なのだろう。

 

 

「分かりました。今日は直ぐに休むようにします」

 

 

 そうして私はイオタにミッションにおけるアドバイスを貰った後、外で待っていたリトルと一緒に真っ直ぐに帰宅。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()のドアを開けると同時に挨拶を済ませる。

 

 

「ただいま~」

 

「ただいま、()()()()

 

「お帰りなさい、リトルちゃん。フェムトくん。ご飯、もう出来てるよ?」

 

 

 第三者からみれば、この光景を不思議に思うだろう。

 

 エリーゼが私の自宅に当たり前のように居ると言う事に。

 

 

「もぐもぐ……うん! 美味しい! エリーゼ、また料理がおいしくなってる!」

 

「本当? ありがとうリトルちゃん♪」

 

「うん。前回のモノよりずっと美味しくなってるよ」

 

「えへへ♪ フェムトくんのアドバイスのお陰だよ」

 

 

 切欠はエリーゼが保護され、紫電名義で立場が保証されて暫く時間が経過した頃まで遡る。

 

 それは休暇中の出来事で、シアン達とエリーゼは恋愛談義をしており、その際にエリーゼが私の事が好きになったという事が判明。

 

 私自身エリーゼにそう想われていた事に満更でも無かったし、そもそも私の外見は女の子その物でもあった為、そう言った恋愛事は無縁だと内心諦めていたのもある。

 

 それに、エリーゼも私も皇神においては重要人物扱いされている為、護衛の事を含めて考えてもメリットは大きい。

 

 ただ、そう言うメリットデメリットを考える私自身が嫌になる時も当然あったけど、逆に言えばそう言う損得云々とエリーゼの好意を一緒くたにするのは嫌だと言う事に気が付いたりした為、私は私が想っている以上にエリーゼの事が好きなんだと自覚するに至った。

 

 なので、この機を逃さずにその次の休暇の日に、私がエリーゼにデートをした上で告白をしたのだ。

 

 こう言った告白は男性側からやるのがセオリーである、鉄は熱いうちに叩け等とニコラから聞いていた。

 

 それが上手く行ったのかは分からないが、結果的に私の告白はエリーゼに受け入れられ、その日から同棲生活をするようになったのだ。

 

 ……このデートの時は本当に、ほんっっとうにニコラには心の底から感謝した。

 

 まだ研究施設に居た時、意中の女の子と仲良くなる方法を実験が始まる際の暇つぶしに聞かされたりした事もあった。

 

 当時の二コラの話を聞いていた私にはちんぷんかんぷんで良く分からなかった事も多かったのだが「とりあえず頭の片隅にでも仕舞っておけ。その内きっと役に立つ時が来るはずだ。何しろお前は外見にハンデ背負ってるからなぁ」等と言っていた為、この時が来るまでは本当に良く分からないまま頭の片隅に仕舞われた状態であった。

 

 とは言え、流石の私もこのニコラからの情報だけを鵜呑みにするのは怖かったので、ネットでの情報収集、更に今までの実体験も含めてデートの仕方や告白等に関して総合的に調べたりする事となった。

 

 今だからハッキリと言えるが、私はこの事に関しては仕事以上に能力を行使していた。

 

 後から振り返れば何をやっているんだ私は……となる事請け合いの、実に頭の可笑しい行為。

 

 良く巷では恋愛は人を狂わせるだの、おかしくするだの、キモくするだの言われていたが、それを私自身が体験する事となってしまったのだ。

 

 正直こんな事に付き合わせてしまったリトルには申し訳ないと、今の私は思っている。

 

 ただ幸いな事に、リトルはエリーゼと私がくっ付く事を歓迎している。

 

 と言うより、リトルは第七波動と言う形で私の一部とも言える為、私の影響を当然のことながら受ける。

 

 なので私がエリーゼの事が好きだと自覚してからはリトルもエリーゼがより一層好きになっている。

 

 具体的に言うと、スキンシップが激しい。

 

 

「エリーゼ、また大きくなった?」

 

「ふぇ? だ、ダメだよリトルちゃん! 胸ばっかり触っちゃ……!」

 

「えへへ♪ エリーゼってすっごくふかふか~♪」

 

「……もう、しょうがないなぁ。抱っこしてあげるからおいで」

 

「うん!」

 

「……リトル、エリーゼに迷惑を掛けるのはほどほどにね」

 

「は~い♪」

 

 

 後ろに居たリトルがエリーゼに抱っこされ、幸せそうに微笑んでいる。

 

 何と言えばよいのか、見ているだけで微笑ましい光景だと私は思う。

 

 これが巷で良く言われる、『尊い』と呼ばれるモノなのだろうか?

 

 

「すいません。うちのリトルがいつもこんな調子で」

 

「いいんですよフェムトくん。わたしもリトルちゃんに懐かれるのは大歓迎ですから。それに、リトルちゃんがわたしにこんなに懐いているって事は、フェムトくんはそれだけわたしの事が……

 

 

 あぁ……私の気持ちがリトル経由でエリーゼに筒抜けになってしまっている。

 

 これは、かなり恥ずかしい。

 

 

「むぅ……」

 

「ふふ……♪」

 

「エリーゼ?」

 

 

 エリーゼが突然私の手を取り、歩き出した。

 

 歩き出したその先はお風呂場だった。

 

 

「え、エリーゼ、さん?」

 

「『やらない理由を探すより、まずはやってみましょう。失敗しても恥をかいても、一度やってしまえばもう経験者です。そして次に同じ事をやった時、一回目よりもうまく出来る自分に気が付く筈です』……何時かの時のお返しです。覚悟して下さいね♪」

 

「やったぁ♪ フェムトとエリーゼと一緒にお風呂だぁ♪」

 

 

 …………

 

 この場面の事は、語るまい。

 

 とまあ、後はもう眠るだけとなり私達は眠りにつこうとしたその時、大きな爆発音と共に私専用の通信機器からけたたましい音が鳴り響く。

 

 

 

 


緊急ミッション

 

 

 

 

『フェムト。応答してくれ』

 

「イオタ! 今の爆発音は?」

 

『あぁ、老朽化した化学工場が大爆発を起こしたのだ』

 

「老朽化した化学工場……! あそこは確か封鎖されていた筈です! ……まさか」

 

『そのまさかだ。これも断定は出来んが恐らくテロ行為だろう』

 

 

 通信を聞きながら私はエリーゼに出かける事を告げる。

 

 

「気を付けてね、フェムトくん」

 

「行ってくるよ、エリーゼ」

 

「必ず戻って来るって、信じてるから」

 

「必ず戻りますよ。私はまだやらなきゃいけない事も、やりたい事も沢山ありますから。……リトル!」

 

「うん!」

 

 

 リトル(宝剣)を開放し、変身現象(アームドフェノメン)を起こす。

 

 エリーゼに見送られ、私は爆発音の鳴り響いた方向へと駆け出した。

 

 

『緊急ミッションだ、フェムト。今回の主な内容は人命救助だ。爆発の余波は住宅街にも広がっている。そこへと赴き、怪我人の応急処置と安全の確保を頼む』

 

「了解。……まさか昨日と合わせて今日もミッションを受ける事になるなんて」

 

『こういう事も我々からすれば別段珍しい事では無い。……体を休めておけと言った意味が良く分かっただろう?』

 

「ええ、全くもって!」

 

『今回のミッションは私も出撃する。恐らくまだ近くに首謀者が居ると踏んでいるからな。場合によっては私との共闘も視野に入れて欲しい。最悪、()()()()()()を使う事も視野に入れている』

 

「あのシステムを使うんですか!? 確かにVRを用いた訓練では成果は出せましたが、色々と問題も多いんですよ!」

 

『現状、自由に動けるのは私と私直属の数名の部下、そしてフェムトのみ。デイトナ達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状態。当然、他の能力者部隊の皆も同様だ。ならば、やってみせるしかあるまい』

 

「……分かりました。私も腹を括ります。……リトル、『TAS(タッグエアレイドシステム)』を使う事になるかもしれない。だから何時でもイオタと『同調(シンクロ)』出来る様に準備を

 

(ん。まかせて、フェムト)

 

 

 こうして私は静かな夜を引き裂いた大爆発で苦しんでいる人々を助ける為の緊急ミッションへと向かうのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
アンケートを始めました。
内容はちょっと倒錯した(エッチな)事についてです。
今の所今回の二次小説内では前回の物とは違って(私の中では)そう言った描写は抑える様にしているのですが、もう少し欲望に忠実でもいいのかなと言った意見を知りたいです。
アンケートの答えをクリックするかタップすればいいので、もし宜しければご協力をお願いします。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。


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第十六話 戦いの序曲(オーヴァーチュア)

 

 

 

 

 私が向かう現場は閑静な住宅街。

 

 主に中流階級の人達が中心に住まうこの場所はそれなりに離れている筈だった化学工場の大爆発によって未曽有の被害を受けていた。

 

 強化された私の視界に飛び込んできた光景はその大爆発の凄さを物語る。

 

 だが、私は妙な違和感を感じずにはいられなかった。

 

 

(おかしい……爆発があった方角に近い住宅の被害状況はシミュレート通りなのに、所々シミュレートと違う結果になっている)

 

 

 具体的にはまるで爆弾を直接投げ込まれたかのような爆発痕(クレーター)があちこちに散乱しているのだ。

 

 この爆発痕はまだ出来てからそんなに時間は経っていない。

 

 そうなるとこの爆発を引き起こした首謀者達はこの場所からそう離れていない筈だ。

 

 なので私はまだ繋がっている電柱を登りそこから電力を拝借。

 

 私が能力を使うのに必要なEPエネルギーへと変換する。

 

 これは前回のミッション時の消耗がそのままで補給が終わっていなかった事が原因だ。

 

 

(これを機にミッションが終了した直後はEPを補充する癖をつけた方がいいかもしれないですね。……リトル、【EPレーダー】をアクティブ。補給しつつ生存者の位置特定と()()の手配を済ませます)

 

(りょーかい。……アレに乗るの? でも今から要請すると来るの、結構後になりそうだけど)

 

(万が一の保険です。……今回は緊急ミッションですので来るのが後になってしまうのは仕方がありません。出来れば使われる事が無いといいのですが)

 

 

 アレの手配を済ませつつ、EPを利用した特殊なマイクロ波を広域に展開して生存者の索敵を開始。

 

 このEPレーダーはリアルタイムで周辺の状況を把握する事が出来る上、ある程度狙った対象を検索する事も可能だ。

 

 但し当然のことながらEPと名前が付いている通り索敵範囲に比例してEPを使う。

 

 例えば私の周囲位ならば自然回復出来る範囲程度で済むのだが、今回の場合は被害にあった住宅街全域を索敵している為相応のEPを消費している。

 

 だからこそ補給の際に使っているのだけれど。

 

 

(大部分の人達は既に指定された避難所へと向かっているみたいですがやはり一部で取り残された、或いは身動きが取れない人達も居るみたいですね)

 

 

 私のミッションはこう言った人達の人命救助。

 

 イオタは首謀者が居るであろう工場跡へ、イオタの部下達は現地の救急隊と連携して避難所の安全確保等を行っている。

 

 ……さて、必要な情報も一通り集りEPエネルギーもある程度確保出来た。

 

 ミッションを始めよう。

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 鉄扇を右手に、ワイヤーガンを左手に構えながら電柱から降りそのまま一番近くにあった生命反応の元へと向かう。

 

 罅の入った道を全速力で駆ける。

 

 その視線の先に有った爆風の当たり所が悪かった一部の建物。

 

 そこから先程の生命反応があった為、そのまま内部へと潜入。

 

 足をやられたのだろう、身動きの取れない女の人を発見した。

 

 

「痛い……痛いよぉ」

 

「失礼します! 救援に来ました!」

 

「あ……助けが来たの?」

 

「ええ、もう大丈夫です」

 

「でも、足がこんなありさまで……私、もう助からないのかな……」

 

「大丈夫です。そのままじっとしていて下さい」

 

 

 【キュアーヴォルト】を発動し、淡く藍色に輝く電流が女の人の足へと流れ込む。

 

 その不可思議な現象と共に足の痛みが引いて行くのを感じているのだろう。

 

 女の人はまじまじと現在進行形で治療されている自分の足を眺めていた。

 

 その後、光は収まり治療は完了。

 

 

「ありがとうございます! 私、本当にダメかと思ってました。所で、あの……」

 

「避難所の場所ですね? それはここからだと……」

 

「あ、ハイ。……小さくてカワイイ。私に一生懸命な所が尊い……

 

 

 しっかりと立てるようになった女の人は私にお礼を述べ、私から避難所へのルートを聞き出した後頭を下げて足早にその場を後にした。

 

 ……小さな呟きは、聞かなかった事とする。

 

 

(先ずは一人目。この調子で行こう)

 

(うん!)

 

 

 そうして始まった人命救助は順調に進む。

 

 ある時は倒壊寸前だった建物で瓦礫に足を取られていた男の人を間一髪で救助に間に合い、またある時は子供が瓦礫の隙間に埋まっている所を何とか助け出そうとしている父親と協力して助け出す事に成功する。

 

 一緒に避難所へと向かう際に肩を借りていた男の人を道中で応急処置をすませたり、意識の無くなっている人を発見して避難所へと担ぎ込んだりもした。

 

 そうこうしている内に最後だろうと思われる人を誘導し、無事避難所へと到達した事を確認。

 

 念の為もう一度道中で消耗したEPを回復がてら電柱へと登り、EPレーダーを使用する。

 

 

(…………うん、生存者はみんな避難所へ到着したみたいだ。それと、アレもついさっき避難所に着いたみたいだね)

 

(アレの出番無かったの、ちょっと残念)

 

(アレは保険みたいな物だから、使わなければ使わないにこした事は無いよ。……ここまで持ってきてくれた人達には申し訳ないけどね)

 

(そっかぁ……じゃあこれでミッションはおしまい?)

 

(ううん、まだだよリトル。……そろそろイオタからの連絡が来てもいい頃なんだけど……!!)

 

 

 もう後は消化試合でイオタの連絡を待つばかりだと思っていたその矢先、()()()()()()()()()()()が住宅街から真っすぐに避難所へと向かっていくのを確認した。

 

 私は猛烈に嫌な予感を感じて発光体をEPレーダーで捕捉し、万が一に備え発光体を迎撃出来る様に避難所へと戻りながら解析を進めた。

 

 その解析が終わった直後にその発光体の大部分がイオタの物であろう空中からのレーザーによって迎撃されたと同時発光体は大爆発。

 

 それと同時にイオタから連絡があった。

 

 

《聞こえるかフェムト! 首謀者を発見した! どうやら工場跡地から住宅街まで移動していたらしい! そしてヤツは発光体を避難所のある方向へと発射し始めた! 迎撃はある程度は済ませたが撃ち漏らしが一部発生している! 私はこれ以上撃たせない為に首謀者とクロスレンジで交戦する為、それらを迎撃する事は叶わん! そちらの方で何としてでも残りの発光体を迎撃して欲しい!》

 

「分かりました! 残りはこちらでどうにかします!」

 

《頼んだぞ、フェムト!》

 

 

 いやな予感が的中してしまった。

 

 あの発光体には凄まじい高エネルギーが凝縮、或いは圧縮していたのだ。

 

 つまり、道中で見かけたクレーターの正体は……!

 

 

(あの発光体が爆発した物という訳ですか……! 撃ち漏らしてる数は……三つと言った所ですか)

 

(どうするの?)

 

(ここに来る道中にアレの……【リトルマンティス】の手配を済ませていたでしょう? それを使って迎撃します!)

 

 

 リトルマンティス。

 

 それは以前GVと初めて出会った時に乗り込んでいた試作型有人戦車のデータを元に完成したこの近未来では珍しい有人戦車……では無く、()()だ。

 

 当たり前の話ではあるのだが、GVとの初遭遇を終えた後もリトルマンティスの開発に私は関わっていた。

 

 その際に気が付いたのが小型な割に頑丈でパワーもあって小回りも効き操縦も私以外でも簡単出来る様になっていた為、重機としても使えないかと思ったのだ。

 

 そうしてブルドーザー用のブレードとか油圧式ショベルなんかを装備出来る様にしてみた結果、思いのほか良いデータが取れた為これを提出。

 

 その結果重機としてなら大々的に広める事も出来、汎用性も備わり、更にマンティスの生産ラインを始めとした既存の生産ラインでパーツの流用が容易である事から、重機として皇神グループが販売を開始したのだ。

 

 その売り上げは海外への輸出をしていない事を差し引いても主力商品の一つとしての地位を獲得している。

 

 そして私が使っている物は専用のカスタマイズと拡張性を兼ね備えた特注品。

 

 たしか今回の装備は試作品だった時からあった誘導レーザー、皇神兵の使っていたシールドとエネルギー砲を大型化した物だった筈だ。

 

 

(見えた! 急いで乗り込んで迎撃しないと……!)

 

 

 私は避難所にあったリトルマンティスへと飛び込む様に乗り込む。

 

 普段ならば色々と起動プロセスが必要なのだが、今回は既にそのプロセスが完了してエンジンが温まっている状態だった。

 

 

(わぁ……! もう温まってる!)

 

(緊急要請だから向こうが気を効かせてくれたんです! 後は……よし! リトルマンティス、起動!)

 

 

 メインカメラが光を放ち、リトルマンティスを起動させると同時に発光体をロックし、誘導レーザーを用いて撃ち貫く。

 

 発光体はその場で大爆発を起こし、これで一先ずは安心。

 

 だが、この避難所も安全という訳にはいかなくなった。

 

 今はまだイオタが首謀者を抑え込んでくれているから何とかなってはいるが……

 

 

(ここからでも凄い爆発音が響いてる……あの爆発は凄い範囲だった。いくら素早く動けても広範囲を薙ぎ払われたらあの威力を考えると宝剣を開放したイオタも厳しいかもしれない。……いや、ちょっと待って)

 

 

 あの発光体はどう考えても第七波動(セブンス)で無いと不可能な現象だ。

 

 それに、ここまでイオタが苦戦しているのもそれが理由だろう。

 

 それを踏まえて考えると、この首謀者は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな時、イオタから再び連絡が届いた。

 

 

《聞こえるかフェムト! ヤツは私では相性が悪い! ()()()()()()を使う!》

 

「了解! こちらはもう【同調(シンクロ)】するだけの状態になっています!」

 

《上出来だ! それと避難所にいる人達は私の部下達が主導で退避させる! 後の事は彼らに任せてこちらに掩護に来てくれ!》

 

 

 私はリトルマンティスを駆りイオタの元へと急ぐ。

 

 首謀者は能力者でありながらモルフォの歌の封印が効いていない。

 

 それが何故なのかは不明だが今はそれ所では無いのだ。

 

 あのイオタが苦戦している。

 

 それもあり、私はかつてない程に緊張していた。

 

 その様な相手に私が加勢した所で意味はあるのか?

 

 成す術も無く無駄死にするだけでは無いのか?

 

 嫌な思考が頭を過る。

 

 

『『やらない理由を探すより、まずはやってみましょう。失敗しても恥をかいても、一度やってしまえばもう経験者です。そして次に同じ事をやった時、一回目よりもうまく出来る自分に気が付く筈です』……何時かの時のお返しです。覚悟して下さいね♪』

 

 

 …………

 

 

『必ず戻って来るって、信じてるから』

 

 

 戦場で女の人の事を考えるのは良くないなんて何処かの創作物では言われていたけれど……逃げてはいけない場面ではつい考えてしまう。

 

 そして何故考えてしまうのかも、良く分かった。

 

 恐怖に打ち勝つためだ。

 

 なけなしの勇気をかき集めるためだ。

 

 怖くて怖くてたまらなくても、それでも立ち上がらなければならないためだ!

 

 私がエリーゼに向かって言った言葉がエリーゼから返され、その言葉が私の(チカラ)となるのを、今この時感じ取った。

 

 

(……凄い。フェムト、今までにない位燃えてる。力が、溢れてくる!)

 

 

 この事で一つ壁を突破(レベルアップ)した感覚を私は感じた。

 

 それと同時に、イオタと首謀者を遂に私の視界に捉えた。

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 その首謀者は宝剣を開放した皆の様な姿形をしていた。

 

 黒とオレンジ色の大型のハサミと装甲を兼ね備えた大型クローを両腕に、その周辺にはバリアフィールドと思わしき物が展開している。

 

 大型クローからはあの例の発光体が発射されており、それをイオタは避けるが爆風は大きく、発光体を避難所に撃たせない為のクロスレンジ戦闘では逃げ場が無い為爆風を受けてしまっている。

 

 正に重装甲高火力を体現したような存在であり、戦い方を制限されたイオタとでは相性が最悪と言っても良い。

 

 

「お待たせしました、イオタ!」

 

「待ちかねたぞフェムト!」

 

『ハハハハハハhhh………! ばk発ダぁ!!』

 

 

 私が来たと同時に聞き取りづらいノイズの混じった声と共に大型クローから乱れ飛ばすかのように相手は発光体をばら撒く。

 

 私はシールドを展開し咄嗟に防ぐが、やはり威力はけた外れであり、リトルマンティスの腕と共にシールドは消し飛んでしまう。

 

 よって、これ以上リトルマンティスに乗っていても的になるだけと判断し、私は表に出ると同時に例のシステムを起動する。

 

 

「【TAS(タッグエアレイドシステム)】起動! 同調対象、残光(ライトスピード)!」

 

(力を貸して、残光!)

 

 

 TASとは第七波動の理解が深まった事で可能となった特殊なシステム。

 

 その原理は、第七波動達とリトルが放つ特殊な電波を介して同調する事で、その力を増幅させると言う物。

 

 そして、このシステムの最大の特徴と呼べる物がある。

 

 

「そこっ!」

 

 

 私は首謀者を相手にワイヤーガンを打ち込む。

 

 当然バリアらしき物に弾かれるが、それと同時に首謀者の周囲に()()()()()()()()()の様な物が形成される。

 

 それと同時に、私と入れ替わるようにクロスレンジから抜けたイオタから分離した背面のビットによる降リ注グ光ノ御柱(ルミナスレイン)が発動。

 

 通常ならばあのバリアに阻まれるだけに終わるレーザー攻撃。

 

 だが、そのレーザーは()()()()()()()()()()()()()()()()()し、バリアをすり抜け首謀者に確実なダメージを与えた。

 

 

『ぐh……! ボkのaーてィすティkkな爆hのジャ魔を……!』

 

 

 このカラクリは私の攻撃が当たったと同時に発生した幾何学模様の魔法陣の様な物にある。

 

 これは一言で言えば【ロックオン】と呼ばれる現象だ。

 

 GVがダートで誘導する必中の雷撃と同じように、このロックオンで捉えている間の攻撃から逃れられる方法は存在しない。

 

 但し、欠点もまた存在する。

 

 それは同調した能力者に役割(ロール)を強制してしまう事と、ロックオンの時間があまり長くない事。

 

 そして、護衛対象である私が危険の渦中に飛び込む必要があると言う本末転倒な所がある事だ。

 

 

「……! ロックが外れた!」

 

『hハハ! 散r!!』

 

「チィッ!」

 

 

 私は鉄扇による防御結界(パルスシールド)を咄嗟に最大展開し、避け切れないと判断した発光体の直撃を防御するが、この爆発は結界の防御を容易くすり抜けてしまうだろう。

 

 だが、全く無意味ではない。

 

 私の結界に発光体が当たった瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

 これは所謂【カウンターロックオン】と呼ばれる。

 

 私を攻撃した相手を逆探知してロックオンすると言う、受動的な物だ。

 

 そして結界を貫く肝心の爆風はペンダントによる【電磁結界(カゲロウ)】によって回避。

 

 

電磁結界が無ければ即死でした……ですが……イオタ! 今です!」

 

「ああ! これで終わらせる……!」

 

 

 

 

 

集いし残光、輝く刃

 

終焉を告げる光の煌めき

 

穿つ一撃よ、無へと還せ

 

 

終焉の穿孔(ゼロプロパレーション)

 

 

 

 

 

 光を操り、0()とする範囲を絞った閃光(穿孔)の一撃が首謀者に直撃。

 

 この一撃は展開されていたバリアを貫き、一撃の下に首謀者を下した。

 

 

『あーtニ……散ル!!』

 

 

 それと同時に、首謀者は内包するエネルギーを暴走させ、まるで()()()()()みたいに激しいノイズと共に消え去った。

 

 こうして、私とイオタ達による緊急ミッションは終わりを迎え、それを祝福するかのように朝日が私達を照らすのであった。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
それとアンケートを始めました。
内容はちょっと倒錯した(エッチな)事についてです。
今の所今回の二次小説内では前回の物とは違って(私の中では)そう言った描写は抑える様にしているのですが、もう少し欲望に忠実でもいいのかなと言った意見を知りたいです。
アンケートの答えをクリックするかタップすればいいので、もし宜しければご協力をお願いします。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。






〇初ミッションについて
所謂フェムトの基本操作に関するチュートリアルの為のステージと位置付けしています。
ここで基本の攻撃、ダッシュ、ジャンプ、ワイヤーアクション、防御結界等を覚えるみたいな感じです。
今後のミッションは駆け出し編の間はゲームにおけるフェムトの操作をする際のチュートリアルみたいな側面を取り入れつつ話に落とし込む事をテーマにしています。

〇三段切りを始めとした鉄扇による攻撃について
ゲーム的には初撃は畳まれた鉄扇による上段からの片手での振り下ろし、二撃目は流れる様に展開した鉄扇による横向きの斬撃、三段目は収束した結界を展開した閉じた鉄扇による両手での上段からの力強い振り下ろしを行う。
所謂ヒッフッハッ。
空中時では開いた上で結界で攻撃範囲を拡大した鉄扇による薙ぎ払いを行う。
鉄扇による攻撃判定の一つ一つには【ガードポイント】と呼ばれる物が存在しており、
飛び道具を撃ち落としたり、突進攻撃なんかによる接触攻撃等もタイミング良く攻撃する事でダメージを受けずに受け流すことが出来るが、一部受け流せない攻撃も存在する。
本小説内では割と好きに振るっている感じです。

〇ワイヤーアクションについて
左手に装備されたワイヤーガンを用いた基本アクション。
イメージはゼルダの伝説におけるフックショット。
ゲーム的なイメージだとフェムトを中心に八方向へ打ち込む事が可能。
発射時に独特なタイムラグが存在しており、そのタイミングに方向キーを入力する形で撃つ方向を指定する。
真上に天井がある場合、上に撃って忍者兵みたいに張り付く事が可能で、側面も同様。
敵に打ち込むと動きを止める事が可能で、特にロボットが相手の場合打ち込んだロボットを相手に嗾ける事も出来る。

防御結界(パルスシールド)について
鉄扇にEPを流す事で発動するフェムトの前面に展開する防御結界。
まず大抵の攻撃は防ぐ事が可能で雷撃麟でも防げない攻撃も防げるが、一部の強力な攻撃を防ぐ事は出来ず、結界を貫通してしまう。
まず現地で登場する雑魚敵の攻撃はほぼ防ぎきれるが、背後からの攻撃は防ぎきれない。
電磁結界との併用が可能な為、耐久力の少ないフェムトにとって極めて重要な生命線となる。

〇今回のミッションについて
現地(ステージ)内でのEPエネルギーの補充方法、EPレーダーについて、レスキュー、リトルマンティス、レベルアップ、TAS、ロックオン等のシステムや操作を覚える、みたいな感じです。

〇EPエネルギーの補充について
現地内に存在する電源からEPエネルギーを補充する事が可能。
但し、補給には時間が掛かる。
現地内で時間が無い、或いはそもそも電源が無いと言う理由で補充が不可能な場合もある。

〇EPレーダーについて
EPを利用した特殊なマイクロ波を広域に展開して現場の状況を把握する、所謂マッピング機能。
今回は地形と生存者を把握する為に使用されたが、敵対者等も捕捉する事や、後に紹介するロックオンを一定範囲(ゲームで言う画面全体)の敵にEPを消費する事で付与出来る。

〇レスキューについて
現地で怪我などで動けなくなっている人達を助け出すと言う物。
救助する人はキュアーヴォルトを使用する為EPとSPを消費して救助が可能。
一部の人達は救助をした上で特定のポイントまで護衛する必要もある。
ゲーム的な話になってしまうが、HPが回復したり、アイテムが貰えたりするメリットがある。
ロックマンX6やロックマンゼロのオープニングステージにおけるシエルの護衛辺りをイメージしています。

〇リトルマンティスについて
第六話で登場した試作型有人戦車が色々あって重機として完成。
ミッション開始前、或いはミッション開始直後に要請する事が可能で、開始前だと最初から乗り込む形となり、開始直後はゲーム的に言うと半分程進んだ後で乗り込む形となる。
装備はミッション開始前にカスタマイズすることが出来る。
ロックマンXシリーズのライドアーマーをイメージしており、重機設定も土木作業用のメカニロイドと言う設定を拾った形です。

〇レベルアップについて
ガンヴォルトシリーズにて、一定数の敵を倒すとレベルが上昇し、一部のステータスが増加した上でHPが全回復する。
フェムトの場合はエリーゼの言葉が木霊した事が引き金となってレベルアップシステムが解禁と言う流れとなる。
フェムトの場合レベルが上がるとHP、EP貯蔵量、SP回復速度が増加する。

〇TASについて
正式名称tag Airlaid system(タッグエアレイドシステム)、略してTAS。
リトルと同調した第七波動によって生まれたフェムトが戦う為の力の一つ。
ガンヴォルトシリーズにおいて必須であるロックオンを何とかフェムトに取り入れさせた物。
元ネタは【地球防衛軍シリーズ】に登場するプレイヤーが操作できる兵種【エアレイダー】。
爆撃機やガンシップ、砲兵隊等から攻撃要請や誘導をする事で味方部隊を掩護する戦い方をするのが元ネタなのだが、本作品は要請者を能力者に、誘導を次の項目であるロックオンに任せる事でガンヴォルトシリーズにおける戦い方に近づける感じになった。
まだまだ現時点では発展途上で未完成のシステムだが、この時点でも十分強力。
能力者による強力な攻撃を周辺被害を抑えた上で敵に集中しつつ威力を上げることが出来る利点もある。
EPレーダーからの広域ロックオンから纏めて一掃するなんて事も可能。
同調した能力者の攻撃は複数あり、それぞれにクールタイムが存在する。
今回のイオタの場合は【降リ注グ光ノ御柱(ルミナスレイン)】【災禍ノ裂槍(カラミティリッパー)】【煌ク断罪ノ滅光(ジャッジメントレイ)】【影絶ツ閃光ノ牙(フラッシュスティンガー)】の四つの攻撃手段にクールタイムが存在するが、何度でも使うことが出来る。
スペシャルスキルである【終焉ノ光刃(ゼロブレイド)】【終焉の穿孔(ゼロプロパレーション)】はミッション時に一度しか使うことが出来ない。
なお、tool-assisted speedrunの略ではない。

〇ロックオンについて
ガンヴォルトシリーズにおいて無くてはならない物。
GV場合はダートで、アキュラの場合はブリッツダッシュにおける突進時、きりんの場合はお札でするのに対してフェムトは元の戦闘力が低い代わりに複数のロックオン方法があると言った感じ。
一つは鉄扇による攻撃で、三回当てるとロックオン時間及びロックオン攻撃の際の威力がアップ。
一つはワイヤーガンによる攻撃で、一度で三回当てた分のロックオン時間と攻撃力が得られるが、外すと一定の隙を晒す事となる。
一つはEPレーダーによる瞬間索敵で、フェムトを中心にした一定の範囲内(ゲームにおける画面全体)に居る敵を三回当てた分のロックオン時間と攻撃力を得られるが、使用する際にEPを消費する。
一つは防御結界で防いだ攻撃を元に逆探知を行うカウンターロックオンで、成功すると一度で三回当てた分のロックオン時間と攻撃力が得られるが、受動的な側面がある為リスクが高い。
それとフェムトのロックオンはバリアを張っている対象にも付与する事が可能。


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第十七話 インターミッション(初回)

 

 

 

 

「フェムト、どうだ?」

 

「…………反応無しです。一先ず撃退には成功しました」

 

「しかしあの消え方は妙だ。まるでホログラムが故障した時のようだ。……ヤツは能力者では無いのか?」

 

「戦闘中も可能な限り分析はしましたけど、分かったのは宝剣開放クラスの能力者らしき人物を模倣した()()である事だけですね」

 

「なるほどな。だから謡精の歌の封印が機能しなかったという訳か」

 

「ええ。……これ以上ここに居ても情報は得られないでしょう」

 

「そうだな。後の事は避難所に居る部隊に任せ、我々は帰還するとしよう」

 

「了解です」

 

 

 戦いは終わり、私達は元凶を撃破する事に成功。

 

 しかし首謀者は未知の現象によって能力者を模倣した存在であった為、その正体を掴む事は出来なかった。

 

 だが幸いな事に今回の事件における人的被害で重傷者はそこそこ出てしまったが、死者は0であった。

 

 その後、後続の能力者部隊とは別の部隊に任務の引継ぎを行い帰還し、基地内でイオタを始めとした怪我をした部隊員の治療及びケアを目的とした生体マッサージ等を始める。

 

 

「ふぅ……今回のフェムトのマッサージは格別だぜ」

 

「ホント、クタクタだったのがソッコーで元気になれちゃうから助かるわぁ」

 

「しかし今回の相手はヤバかったみたいですね。あの隊長がここまで傷を負ってしまうなんて」

 

「まだまだ私も精進が足りぬと言う事さ」

 

「今回のイオタは周辺被害を出さない様に立ち回った事が負傷の主な要因です。本来の戦い方ならば後れを取る事何て無かった筈ですよ。……どうですか?」

 

「うむ。痛みはもう無い。相変わらずいい仕事だ」

 

「フェムトの生体マッサージとキュアーヴォルト、無かったら今頃俺達過労死してるんじゃないかな……」

 

「同感。モルフォ様の歌が無かった頃は本当に過労死するかと思っちゃったし。……あぁ、モルフォ様ぁ」

 

「あちゃ~~……まーた始まったよ。こりゃ暫く戻ってこねぇな」

 

その人(女性隊員)がそうなるのは何時もの事です。そっとしておきましょう。……よし。これで全員終わりましたね」

 

 

 イオタを含めた部隊員の治療を終えた後、部隊員達は治療室で休んでいてもらい私とイオタは今回の緊急ミッションの報告を紫電にする為に彼の居る部屋へと向かった。

 

 今の紫電の部屋は副社長に上り詰めた事もあり相応に広く、仕事をする環境面から見て機能的な感じに仕上がっている。

 

 私はそんな部屋の扉をノックし、中に居た紫電から入るように促され入室する。

 

 

「やあ二人共。今回は随分と苦戦したみたいだね」

 

「耳が早いですな、紫電殿。いやはやお恥ずかしい限りです」

 

「そりゃああれだけ大規模な戦闘をすればこの場に居るボクの耳にも入るさ。……それで、フェムトはどうだったかな?」

 

「戦闘に関しては何とか及第点と言った所でしょうな。まだ少し慎重過ぎる所が抜けていませぬ」

 

「ふむ。……隊員の皆から訓練の鬼と呼ばれてるイオタがそう言うんだっから大丈夫そうだね。じゃあ肝心な緊急ミッションの詳細を聞こうか」

 

 

 私は紫電に今回の顛末を話した。

 

 人的被害についてに加え今回の首謀者についても。

 

 

「能力者を模倣した何か……か。厄介なのが出て来たね。モルフォの歌はあくまで第七波動(セブンス)に対して効果を発揮する物。だから別の形で模倣されたら対象外だから歌は通用しないという訳か」

 

「ええ。流石に今回の戦闘だけでは何によって模倣された物なのかは解析は出来ませんでした」

 

「……珍しいね。フェムトが解析しきれないなんて」

 

「相手が宝剣持ちクラスだったから解析のリソースを余り回せなかった事もあったけど、それ以上に()()()()()()()があった事が要因だと思いますね」

 

「技術格差だって? ……ボク達皇神に匹敵しそうなのはそれこそアキュラ位な物だとばかり思ってたけど」

 

「あの首謀者は本来の戦闘スペックを発揮していないんですよ。イオタもその辺り、肌で感じたんじゃないですか?」

 

「……そうだな。思い返してみれば何処か動きがぎこちなく感じた。声にもノイズが入っていた事も関係しているのだと推測は出来るが」

 

「現時点で出来るのは推測までですね。もっと詳細なデータはそれこそあの首謀者と遭遇して直接解析しないと何も分かりません」

 

「ふむ。……そろそろ首謀者では無く何か呼称を付けよう。そうだね……【ホログラム能力者】なんてのはどうだい? 安直だとは思うけど、こう言うのは分かりやすい方がいいだろうし。じゃあ次は……ん? ああごめんね。デイトナから連絡が来たからちょっと待ってて」

 

 

 デイトナからの連絡によると、向こうでもホログラム能力者と遭遇したのだと言う。

 

 その時デイトナが相手にしたのは赤い糸を操る羊の様な姿が特徴のホログラム能力者。

 

 その相手も声にノイズが入っており何処か動きがぎこちなかったとの事。

 

 

「やれやれ、最近はエデンに少しちょっかいを出されてる以外はこの国も平穏だったんだけどね。また忙しくなりそうだ」

 

「そうなるとフェムトはまた後方に集中する事に?」

 

「いや、フェムトにはホログラム能力者の解析をして貰う必要があるから今回は兼業してもらう事になるかな」

 

「兼業ですか」

 

「普段は後方で何時もの業務をして貰う形で、ホログラム能力者が出現したらフェムトと護衛の宝剣持ち能力者で組む形になる。TAS(タッグエアレイドシステム)も実用レベルで扱えるようになったのなら足手纏いにはならない筈だ」

 

「しかし、フェムトを前線に送るのはリスクが高いかと思われますが……」

 

「それは分かっているんだよ、イオタ。……ボクのこれまでの経験則的に考えると、早めに事態を収拾しないと大変な事になる」

 

「経験則……ですか?」

 

「何て言えばいいのか……そうだね。()()()()使()()()()()()()()()()()()みたいだと言えばいいのかな。そんな不気味さを感じるんだ」

 

「リハビリ……まさか! 紫電、デイトナからの戦闘データを借りますよ!」

 

 

 デイトナから贈られた戦闘データも合わせて自分達の相手のデータを再検証。

 

 ……紫電の言う通り()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………フェムト」

 

「はい」

 

「正直な事を聞かせて欲しいんだけど、ホログラム能力者が仮にフルスペックを発揮したとしたら、ボクらに勝ち目はあるかい?」

 

「……現時点の私達の戦力を換算すると宝剣持ちの能力者を投入して()()()()()ば五分五分と言った所です。紫電やGVだったら余裕をもって勝てるとは思いますが」

 

「一対一ならば……か。最悪を想定するなら()()()()()()()を想定するべきだろうね」

 

「ええ。複数を相手となると一気に勝ち目が薄くなります。何らかの形で戦力を増強するべきだと私は考えます。……紫電、だから私を最前線に送る必要があるんですね?」

 

 

 現時点でホログラム能力者を相手に明確に技術格差があると現時点で解析出来たのは私のみ。

 

 つまりホログラム能力者を相手に最前線でリバースエンジニアリングが可能な人材は私だけという事になるのだ。

 

 時間さえあれば私が直接出向かずに後方でイオタ達が送ってくれるだろう戦闘データを時間を掛けて解析すればいいが今回は時間が無い為、私が直接出向いて直にデータを取る必要がある。

 

 

「……今回の件はボクも必要ならば最前線に出る必要があるだろうね」

 

「大丈夫なのですか? 紫電殿」

 

「権力闘争も一段落付いて現時点では落ち着いているよ。ボクもずっと政務ばかりだったからね。たまには鈍った体をほぐさないと。それに今回はフェムトも最前線で頑張って貰う事になるんだ。このくらいは……ね」

 

「紫電……」

 

「しかし紫電殿。それでホログラム能力者達と戦えるようになったとしても、()()()()()()を見つけ出さない限り被害を食い止めるまでしか出来ませぬ。何か当てはあるのですか?」

 

「そうだね。首謀者の居所の当てに関しては心当たりは全く無いけど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「紫電の知り合いにそんな人が居るんですか?」

 

「ボクも直接会った事がある訳じゃ無いんだ。ただ、その人は何でも不思議な方法で未来を的中させているんだと()()()()が話していてね。正直ボクも眉唾なんだけどまあ、何とかするさ。フェムト達はホログラム能力者達に対抗出来る様にする事に専念して欲しい。……とりあえず今日はここまでにしよう。日も跨いでいるし、休息は必要だ。帰ったらゆっくり休むように。()()()()()()()()()()()()()()()()()。分かっているとは思うけど、キミはキミが思っているよりもずっと消耗している筈だからね」

 

「……はい」

 

 

 この紫電の一言によって報告は終わり私はエリーゼの待つ我が家へと戻る事となった。

 

 玄関へと辿り着き、変身現象(アームドフェノメン)を解除。

 

 それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()も解除されると同時に私はその場でうずくまってしまった。

 

 

「フェムト! しっかり!」

 

 

 恐ろしかった。

 

 前回のミッションの時は後方でデイトナが控えていたし相手も能力を扱わない武装したテロリストだった為、心に余裕を持つことが出来た。

 

 だけど今回の緊急ミッションは違う。

 

 あのホログラム能力者の攻撃の一つ一つが全て私を殺しうる必殺の一撃だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 技術格差もあり直撃すれば私を殺しうる攻撃を持つ相手に戦いながらデータ取りをするなんて正気の沙汰では無い。

 

 あのホログラム能力者と対峙する前から恐怖心をリトルに抑制して貰っていた。

 

 そうしなければ私はまともに動けず冷静な判断も下す事無く何も出来なかったからだ。

 

 身体が震える。

 

 鉄扇の防御を貫通したあの爆風が目を焼き付いて離さない。

 

 電磁結界(カゲロウ)があるから平気だなんてとても思えない。

 

 これでは到底今後のミッションをこなす事等出来ないのではないか?

 

 そんな風に恐怖に支配されていた時、温かなモノが私を包み込んだ。

 

 温かなモノは、エリーゼとリトルだった。

 

 

「…………エリーゼ? リトル?

 

「フェムトくん」

 

「フェムト……」

 

 

 柔らかなネグリジェを着たエリーゼが正面から優しく私を抱きしめる。

 

 いつものワンピース姿のリトルが私の背中を抱きしめる。

 

 温かく、心地よい音が恐怖を克服するチカラを私に与えてくれる。

 

 

「ゴメン二人共。少しの間、このままで居てもいいかな?」

 

「うん。……こんなに弱ったフェムトくん、初めて見ちゃった」

 

「こんなに弱った私を見せたのはリトル以外ではエリーゼが最初です。……幻滅、しちゃいましたか?」

 

「ううん。そんな事無いよ。幻滅されちゃうんじゃないか何てわたしの方が想う位」

 

 

 そう優しく私に囁きながらエリーゼは私の頭を優しく撫でる。

 

 心地よい掌の感触と温もりが心地よい。

 

 そんな風に考えている内に気が抜けてしまったのか、目蓋が急速に重くなっていく。

 

 そう言えば今日は日を跨いで徹夜だった。

 

 意識が薄れていく。

 

 二人の心地よい温もりと柔らかさが私を微睡に導いていく。

 

 そうして私が夢の世界へと旅立つ、その刹那。

 

 

フェムトくんは死なせない。絶対に、何があっても。その為にわたしは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 エリーゼの声を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

トークルーム

 

 

 

 

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 意識が朦朧としている。

 

 部屋は暗く、まだ夢現な頭を横に向けて外を見れば立ち並ぶビルの光が僅かに照らしている。

 

 机の上に置いてあるデジタル時計を見れば、今は夜中であると教えてくれる。

 

 背中の柔らかな布団が私を包んでくれる。

 

 何時もの様に寝間着姿のリトルが私の腕を抱き枕に眠っている。

 

 そして、その反対側にネグリジェ姿のエリーゼがどこか妖しい雰囲気を出しながら私を抱き枕にしている。

 

 

……エリー……ゼ?

 

「フェムトくん? ……まだ、寝ぼけてるのかな?

 

 

 頭が少しづつ覚醒していく。

 

 ここは私の部屋のベッドの中。

 

 リトルが一緒なのは何時もの事なのだが、エリーゼまでベッドの中に居る。

 

 エリーゼは私を抱き枕にしている為、彼女の温かな体温を感じ取っている。

 

 それに、私は寝間着姿に着替えさせて貰ってしまっている。

 

 きっとエリーゼがリトルと一緒に着替えさせてくれたのだろう。

 

 そんな風に微睡ながら、まだ半分寝ている頭で考えながら外のビルからの僅かな光に照らされたエリーゼの顔を見る。

 

 初対面の時のような暗い雰囲気等どこにも無く、優し気で少しトロンとした眼が私の顔を映し出している。

 

 お互いの顔の距離が近い。

 

 少し動いた際の絹擦れの音が聞こえる。

 

 エリーゼの足が心地よく私の足を絡め合わせる。

 

 心なしか、エリーゼの顔が徐々に私の方へと近づいていくように感じる。

 

 私では無い心臓の鼓動が早くなり、その音が私に伝わって来る。

 

 この状況に半分眠っている私の頭は夢であると認識させる。

 

 エリーゼに、恥をかかせる訳にはいかない。

 

 そう思いながら私の方からそのままエリーゼを抱き寄せながら口付け(キス)をする。

 

 

「ん……! んぅ……」

 

 

 エリーゼはそれに対して少し驚いたそぶりを見せたが、逆に私の頭を両腕で抱き寄せた。

 

 最初はただ口と口を合わせるだけだった。

 

 だけどそれにしびれを切らした私が口の中に舌を入れようと唇を舐めて開ける様促し、エリーゼはそれを受け入れ、口を開き舌を絡める。

 

 

「んぁ……ん……」

 

 

 粘膜が混じり合う音がベッドに木霊する。

 

 ピチャピチャと、夢中になって互いの舌を絡め合う。

 

 そして、私は膝をエリーゼの……

 

 

「エリーゼ、フェムトと大人のチューしてる」

 

「ぷぁ……! ちょ……! リトルちゃん!?」

 

 

 目を覚ましたリトルの声にエリーゼが声を荒らげながら暗い部屋でも分かる位顔を赤くして狼狽してしまっている。

 

 その声に私の頭は完全に覚醒。

 

 

「……エリーゼ? リトル?」

 

「あ……起きちゃいましたか。……さっき何したか、覚えてます?」

 

「チューしてた! フェムト、エリーゼとチューしてた!!」

 

 

 顔を真っ赤に恥ずかしさで目元に涙を溜めたエリーゼが可愛すぎる。

 

 羞恥に染まるエリーゼの、何と可愛らしい事か。

 

 

「半分寝ぼけていたとはいえ……しちゃいましたね。大人のキス」

 

「あぅ……しちゃいました。大人のキス」

 

「エリーゼ、フェムト、大人のチューってどうだった? やっぱりスゴイの?」

 

「え、えっとね、リトルちゃん……」

 

 

 ……さて、リトルに何て説明すればいいのやら。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 あの後、何だかんだあって寝る時はエリーゼも一緒という事が決まった。

 

 そのお陰もあり私は落ち着きを取り戻すことが出来た。

 

 かつて私が「一度やってしまえば経験者です」と言った様に先の恐怖は私の中で確かな経験となって、私の一部となった。

 

 それと並行し現時点でのホログラム能力者から得られたデータを纏め、分析を開始。

 

 

(……やはり、()()()()()()()()()。この差はかなり絶望的な数字ですね。しかし、それだとまだ不完全である事を差し引いても、もっとイオタ達が苦戦する筈なんですよね。……この差は、第七波動に対する理解の差でしょうか? ……現時点では、ここまでが限界ですね)

 

 

 進捗状況はおおよそ二割から三割。

 

 余り大した事は分かってないように感じる数字かもしれないが、相手は少なくとも百年は先を行っている為、これだけ進めることが出来れば十分な成果と言える。

 

この情報解析がさらに進めば宝剣持ちの能力者を強化する為の【アビリティ】を組み上げる事が出来るだろう。

 

 

(【HPアップ】、【ガードアップ】。今はこの二つだけですが、データがもっと集まればより強いアビリティを増やせます。そして、この恩恵は私自身も含まれる。……死中に活を求めるとはこの事ですね。生き残る為には、危険を冒さなければならないのだから)

 

 

 それにこの情報解析はTASを強化する上でも重要だ。

 

 今回の戦闘ではロックオン時間が問題となった為、そこを伸ばせる【ロックオンプラス】を組む事が出来る。

 

 やはりVRでは無く実戦データの方が得られる情報量は多い為、こんな短期間による強化が可能なのだ。

 

 今はまだTASは能力者限定の力だけど、強化が進めば能力者以外の人達とも同調(シンクロ)することが出来る様になるだろう。

 

 例えば忍者部隊の頭領さん辺りがその候補に上がる。

 

 それと、同調できる人数も増やすことが出来る様にもなる筈だ。

 

 ただその場合、名前を変更する必要が出てくるかもしれない。

 

 ……まあ、出来る様になったら考えるとしよう。

 

 


 

 

GET ABILITY HPアップ ガードアップ ロックオンプラス

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
アンケートを始めました。
内容はちょっと倒錯した(エッチな)事についてです。
今の所今回の二次小説内では前回の物とは違って(私の中では)そう言った描写は抑える様にしているのですが、もう少し欲望に忠実でもいいのかなと言った意見を知りたいです。
アンケートの答えをクリックするかタップすればいいので、もし宜しければご協力をお願いします。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。





〇インターミッションについて
インターミッションでは【トークルーム】【情報解析】【出社】【ミッション選択】が可能です。メタ的にさらに踏み込むと【クエスト】【オプション】【タイトルに戻る】みたいな項目もあったりします。

〇トークルームについて
エリーゼといちゃこらと会話して心の繋がりを感じる本編以上に重要度が物凄く高めなシステム。
どの位重要なのかと言えば、具体的にはG()V()()()()()()()()()位には重要です。
頑張ってフラグを立てましょう。
でないと……

〇情報解析について
宝剣能力者と共有するアビリティとTASを強化するシステム。
メタ的な事を言うとゲーム本編でいう所の【スコア】と【MG】を通貨として獲得、消費する形でアビリティをゲットすると言った感じです。

〇出社について
今回は話としては省きましたが、内容は何時もやっている情報処理の仕事をして通貨であるMGを多く獲得するコマンドです。
ただ、逆に言えばMGを稼ぐだけでもあるので制限時間との兼ね合いも必要です。
実はもっと細かいシステムがあったりしますがそれは出社の話が出てきた時に改めて説明します。

〇制限時間について
制限時間が経過するとメタ的に言うと本当の首謀者の位置が特定可能となり、突入することが出来る様になります。
逆にメタ的に踏み込んで言えば突入しないでそのままにする事も出来ます。
イメージはロックマンX5のコロニー破壊の要素に近い感じです。
なので、情報解析等が終わっていない状態で突入してしまうと……


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第十八話 悲哀のクラフトマンズドリーム



サイドストーリー





 夢を見ている。


『この根暗! オドオドしててキモいんだよ!』

『あの子、能力者なんだって……』

『カワイイ子なのに……人は見かけによらない物ね』


 かつてのわたしが形成されていた頃の、嫌な環境の夢を見ている。


『全く、どうしてこんな子に育っちゃったんだか』

『こんな事も分からないのか!』


 やだ……やめてよ……


『この娘の持つ能力は正しく究極の能力、人類の夢、人類の希望!』

『このグズが! チッ、これでは使い物にならん!』

『こうなったら、我々に従順な仮想人格を……』


 痛いよ……苦しいよ……


『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

『か、身体が、身体か腐って……!!!』

『い、嫌だ! ゾンビになるのは嫌だぁ!!!』


 誰か……


『アハハハハハ! いいザマだねぇ! ほら、アンタもそう思うだろう?』

『キシャシャシャシャッ!! 楽シイ! 楽シイ!!』


 助けて……助けて!!

 これまでにわたしを絶望の底に貶めた様々な事象が、わたしを辱めようとしていた。

 だけど、助けてくれる人は何処にも居なくて……

 そして大勢の人達に私が捕らえられようとしたその瞬間、私の手を誰かが強く引っ張り上げあっという間に私は安心できる場所へと強引に連れて行かれました。


『ボクはあまりキミにあまり構ってあげる事は出来ないけど、代わりに身分と安全を保証する事は出来る』

『アイツの知り合いだってんなら力になるぜ』

『めんどうだけど、キミがそうなっちゃったのはボクにも多少の原因、あるからね』

『私も、微力ながら力を貸そう』

『何かあれば小生の影に隠れればよい! フハハハハハ!』

『わたしはシアン。エリーゼさん、よろしくお願いします!』

『ほら、もっとしゃっきりなさいな。エリーゼもちゃんとしてれば美人なんだから、そんなんじゃアタシも滅入っちゃうわ』

『ボクも微力ながら力になるよ』


 そこに居る人達は、とても暖かかった。

 涙が出そうな位、暖かかった。

 わたしの大切な人に強引に連れて行かれた場所は、わたしを少しづつ変化させていきました。

 以前は強いストレスから眠れなかった事もあり酷く目に残っていた隈が消えた。

 抜け毛も枝毛も収まり、髪に光沢が生まれた。

 酷い肌荒れもすっかり収まってくれた。

 いつも痛かったお腹が痛く無くなった。

 頭の中のモヤが少しづつ晴れ、物覚えが良くなった。

 言葉を知り、不安の正体を知り、これまでの不安を拡大解釈していた事に気が付いた。

 絶望を信じなくてもいいと言う意味を、これでもかと知ることが出来た。

 わたしは改めて穴の底に居る絶望を見る。

 その絶望は明らかに小さくなっており、わたしは彼らが怖く無くなった。

 わたしに、大切な人が出来た。


『私はエリーゼの力だけが欲しいんじゃ無いんです。貴女の全部が欲しいんです。頭の先から、つま先までの全部が』

『だから私と……私と、結婚を前提に付き合って下さい』

『どうしてエリーゼを選んだのか、ですか? それはとても簡単な事です。エリーゼが、私の事を異性として一番最初に好きになってくれたからです』

『だから私、仕事そっちのけでデートプランとか必死に考えてたんですよ』

『男は案外馬鹿で単純なんです。自分の事が好きな人の事を、簡単に好きになっちゃうんですよ』

『だから私は心の底からこう思っているんです。エリーゼが最初に私の事を異性として好きになってくれて良かったって』

『エリーゼと家族になれるの!? やったぁ!』

『エリーゼ、嫌な事があったらたくさんご飯食べてお風呂入って沢山寝れば元気になれるんだよ!』

『ただ、もし仮に眠れないなら、寂しいなら、嫌な事があったら……私とフェムトが一緒だから大丈夫。だからその時は、遠慮なく私達を頼って』

『その代わり、フェムトが大変な事になったら助けてあげて欲しい』

『大丈夫! エリーゼに抱きしめて貰えばフェムトは直ぐに元気になるよ!』


 わたしよりも小さくて可愛らしいけど、そんな見た目とは裏腹にちょっと強引な所があったり、それでいてやさしい所もあったり、意外に体付きは逞しかったり、情熱的な所もあるわたしだけの大切な人達。

 フェムトくんとその一部のリトルちゃん。

 わたしは今でもそんな二人に引きずられるように手を掴まれている。

 決してわたしの事を離さない様に。

 それが例え、夢の中だとしても。


「んぁ……」


 夢が終わり、目が覚める。

 そこに居るのは穏やかな表情で眠るフェムトくんとリトルちゃんの姿。

 外は朝の日差しが一日の始まりを告げてくれる。

 ……確か、今日のフェムトくんは休みだった筈。

 わたしはフェムトくんを抱き枕のように優しく抱きしめる。

 自身の胸元をフェムトくんの顔に優しく押し付け、その温もりを拝借する。

 温かい……

 本当に温かいです。


(叶うなら、このままずっとこうしていたいな……)


 そんな事を願いながら、私は二度目の夢へと旅立った。

 次はもっといい夢を見られるだろうと言う確信を持ちながら。







ミッションセレクト

 

 

 

 

 ホログラム能力者対策に乗り出してから数日が経過した。

 

 その間、彼らの出現パターンに法則性がある事が判明したのだが、一度出現したポイントに再度出現する事が判明。

 

 その新しく出現したホログラム能力者は最初の時とは違い不用意に近づかなければ暴れる様子も無く、逆に近づくと問答無用で襲われる。

 

 恐らくだが私達の事を待ち構えているのだろう。

 

 それが何の為なのかは紫電が考察していたが、こういった彼らの挙動から考えるとこの考察は案外的中しているのだろうと私は思った。

 

 そして、肝心のそのポイントについてなのだが……

 

 

《一つ目は前に一度テロのあった大型のデパート。フェムトの初ミッションを行った場所だね》

 

「あのデパート、また被害にあってしまったんですか?」

 

《残念ながらね。ただ今回はホログラム能力者対策の資金が潤沢に回せるからそこに出店していた店舗を持っている人達を始めとしてホログラム能力者に占拠されている場所で日々の営みをしていた人達には十分な補償金が払われ、場合によっては仮設住宅が提供される手筈になっている。少なくとも当分の間生活する分には困らないだろう。……さて話を戻すけど、そこはデイトナと一度交戦したホログラム能力者、コードネーム【クラフトマンズドリーム】が占拠している》

 

「確か赤い糸を使う羊姿のホログラム能力者ですよね?」

 

《その通り。現段階で判明している攻撃手段は糸状のエネルギーをトゲ付きハンマーに編み込んだ物を振り回す攻撃や大型の赤いギロチンによる急降下攻撃、そして赤い巨大なガトリング砲による攻撃が確認されている》

 

「戦闘データを解析した時も思いましたが、予想以上に攻撃手段が多彩ですね」

 

《ああ。少なくとも今の段階でもスペックそのものはボク達宝剣持ちとなんら差は無いだろうから、データを取る時も気を付けて欲しい。それとこれは他の場所でもそうなんだけど、ホログラム能力者が占拠した場所には旧皇神兵の使っていた装備をした連中やそいつらが率いているであろうロボットが防衛に回っているって情報も入って来てるんだ》

 

「そんな連中が居るんですか? いや、それ以前にホログラム能力者に近づいても襲われていないと言うのはおかしいですよ」

 

《全くだね。ただこの事からホログラム能力者達の背後には何かしらの存在が居ると言うのは分かった。良く分からない存在から一歩前進したとも言えるね》

 

 

 今回の事件は完全に私達は後手に回っている。

 

 早くデータを収集し、対策しなければならない。

 

 

《……ああ、忘れていないと思うけどEPはミッション前に補充するのを忘れない様にしてね》

 

「分かってるよ紫電。私の住む住居にも専用の充電器を設置してもらいましたから」

 

《それとあのデパートは大型だからリトルマンティスの使用は可能だ。もう前回の破損の修復は終わってるから有効に使ってくれ》

 

「それは助かるよ。今回はまだ壊しちゃってから日も浅かったから使うのは諦めてたんです」

 

《壊れ方が片腕だけキレイに吹っ飛んだだけだったのが幸いだったみたいでね。予備の腕の取り付けだけで終わったから間に合ったみたいだよ》

 

「整備班には感謝しないといけませんね。じゃあそろそろ現地行ってデイトナと合流します」

 

《頼んだよフェムト》

 

 

 リトルを呼んで変身現象(アームドフェノメン)を行い、EPを充填して準備完了……では無い。

 

 前回作成したアビリティであるHPアップ、ガードアップ、ロックオンプラスをアクティブにするのを忘れずに行う。

 

 その後、不安そうに私の事を心配してくれるエリーゼから抱きしめられつつ「必ず帰って来てね」と、か細い声を私の耳にそっと伝え名残惜しそうに私を送り出してくれた。

 

 こうして私は初ミッションの時の大型デパートへと再び向かう事となった。

 

 準備運動も兼ねてビルからビルへの飛翔(ジャンプ)による移動をしつつ、強化された視界で目下で日々の生活を営んでいる人々の姿を捉える。

 

 一見すれば何事も無かったかのような何時もの平穏な光景に見えるが、人々の表情はどこか不安そうにしている人達がちらほらと居た。

 

 今までにない事件が起こっているのだから、不安になるのも当然だ。

 

 

(早く事件を解決しないといけませんね)

 

 

 私は改めて決意を固めデイトナとの合流を急ぎ、合流予定時刻よりも早く大型デパートへと到着し、そこには私と同じく変身現象を行っているデイトナが居た為挨拶を済ませる。

 

 

「よぉフェムト。いつも通り予定よりも早く来たな」

 

「それを言ったらデイトナもです」

 

「まァな。……今回の事件、嫌な気配がするんでな。今までとは何かがおかしい。ハッキリ言えば気に入らねェ。完全にオレらが舐められてる感じだ」

 

「そう言うの、分かる物なんですか?」

 

「あぁ。皇神に入社する前ちょいと物騒な集団のリーダーやってた時期があってな。そう言った所に居た連中ってのはな、そう言う相手を下に見る視線なんかには敏感なのさ。何しろその界隈、舐められたらぶん殴るのが基本で何もしないヤツは終わりな所があるからなぁ」

 

「……そう言う一面も、この街にはあるんですね」

 

「そりゃああるに決まってんだろ。世の中はキレイ事だけじゃ回らねぇ。んでもって、回らなかった時のシワ寄せがこういった所で噴出してんのさ。……しかし、またこのデパートに来る事になっちまうなんてなぁ」

 

 

 大型デパートの周辺は警備兵の人達が油断無く警備しており、辺りは物々しい雰囲気で包まれている。

 

 今の所周辺への被害は無いが、それが何時まで続くかは不透明だ。

 

 

「それで今回はどうすんだ? オレがそのままあの羊ヤロウのまでの道中の雑魚を蹴散らして進むってのも、後々の事を考えると不味そうだしな」

 

「リトルマンティスの要請を出していますから道中はコレで何とかしたいと思ってます。デイトナの力はホログラム能力者の為に温存したいですし」

 

「んだな。そうなるとオレは後方支援って言うか、TASで同調しとくって感じになりそうだな」

 

「そうですね。リトルマンティスに乗っている間はEPレーダーも使い放題ですし、死角からの奇襲はTASで対処する形にしましょう」

 

「羊ヤロウと戦う時は状況に応じて、だな」

 

「ですね。そのままデイトナが余裕をもって倒せれば私は戦闘データを収拾する事に専念出来ますし」

 

「逆に追い詰められたらTASを使ってスイッチする、何て事も出来るしな。そん時は頼りにさせて貰うぜ、フェムト」

 

「ええ。それじゃあミッションを開始しましょう」

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 私はリトルマンティスへと乗り込みデパート内へ突入を開始。

 

 その後ろからは死角を補う形でデイトナが追従する。

 

 今回の装備は建物内な事もあり、攻撃を敵に集中出来る誘導レーザーに加え両腕にトンネルを掘る時に使うボーリングマシンの先端の様なドリルが装備されている。

 

 

《なんっつうかよ、その腕の奴かなりゴッツイよな》

 

「トンネル掘りに使われるモノを参考にしたらしいですからね。では、先ずは索敵をしましょうか」

 

 

 EPレーダーを広域展開。

 

 基本的な構造は前回の時とは変わらないが、その代わりに所々突貫的にバリケードの様な物が山積しており、そこに私達を待ち受ける敵が居ると言った感じになっている。

 

 そして道中の目立つ通路では旧式ではあるがチェーンソウや盾を持ったロボットに加え、あのマンティスにも使われているミサイルを専門に扱うミサイル戦車なんかもおり明らかに何かしらの組織がバックに居る事が透けて見える、と言った感じだ。

 

 このマッピング情報はTASを起動していると同調している相手にも共有される為、デイトナはこの情報を見て顔をしかめた。

 

 

《こりゃ背後になんか居るのは確定だな。こんな規模、相応にデカイ組織じゃねぇと用意なんて出来ねぇ》

 

「フェザーよりも明らかに大規模ですよね。どうやら私達の知らない組織が暗躍しているのは確定みたいです。……それでは、行きますか」

 

《おう。派手に暴れてやんな。コイツらに一体誰に対して喧嘩を売ったのか、分からせてやらねぇとな!》

 

 

 先ずはバリケードに隠れている旧装備の皇神兵の装備をしているロックオン済みの暫定テロリストを誘導レーザーで蹴散らす所から始まった。

 

 

《うわぁぁぁ!》

 

《な……侵入者だと! あんな重機を持ち出すか!》

 

「不法占拠しているテロリストに侵入者なんて言われる所以はありませんよ!」

 

 

 前面に展開されているロボ相手に両腕のドリルを前に構え回転させ、その状態で突進を慣行。

 

 背後のブースターが火を噴き、足に装備されているローラーダッシュも合わさりリトルマンティスは勢いよく加速する。

 

 その勢いは複数のロボットを同時になぎ倒す程の物だった。

 

 その後の硬直に合わせ即座にEPレーダーを短期照射。

 

 突撃先で十字砲火(クロスファイア)の体勢で待ち構えていたテロリスト達をロックオンする。

 

 

《ひゅ~♪ 派手にヤルじゃねェか! へっ、そう来なくっちゃなぁ! んじゃあ、今度はオレの出番だぜ! 受け取りなぁ!! オラオラオラァッ!!》

 

 

 TASによる誘導が加わったデイトナの十八番である着弾時に小規模の爆発を起こす火炎弾【アングリーボム】が炸裂。

 

 リトルマンティスの背後、丁度テロリスト達からは死角になっていた場所から放たれたソレは炎の軌跡を描きながら全てテロリスト達に着弾し、その意識を奪った。

 

 

《なんでぇ、対した事ねェ奴等だぜ。こんなんじゃまだフェザーの連中のほうがマシだな。あいつらは少なくとも一発は耐えるぜ》

 

「フェザーの人達って、アレに一発は耐えられるんですね……」

 

 

 そんな予想外な情報をデイトナから聞きつつ私達は先へと進み、部屋へと潜入。

 

 それと同時に背後にあったシャッターが閉まり、天井の真上からサイレンが出現し、警報が鳴りだす。

 

 

《チッ! 【警報システム】かよ!》

 

 

 その警報を聞きつけ現れるテロリストとロボット達。

 

 彼らは侵入した私達に対してミサイルやビームを始めとした様々な攻撃を一斉に浴びせかけた。

 

 それに対して私はリトルマンティスの両腕のドリルを回転させつつ盾代わりに構え、それらの攻撃を迎撃。

 

 この両腕のドリルは極めて頑丈に出来ている為、回転させていれば強力な盾にもなってくれる。

 

 その間にロックオンを済ませ、誘導レーザーとアングリーボムによる反撃で大半を沈黙させる。

 

 

《フェムト! 今の内に警備システムを黙らせてくれ! お前ならハッキングで一発だろ!》

 

「分かった!」

 

 

 私はリトルマンティスから一時降車し、天井にあった警備システムにワイヤーガンを打ち込んでからのハッキングでその機能を停止させる。

 

 その結果、サイレンは鳴り止み私達を閉じ込めていたシャッターは開かれた。

 

 

《しっかしコイツら、テロリストとしては大した事ねぇのにこんな警備システムを短期間に用意しちまうなんて変にあべこべな奴等だな》

 

「そうですね。練度は皇神兵で例えるなら新兵にも満たないレベルです。どこかおかしいのは間違いないでしょう」

 

(フェムト、反応が近いよ。そろそろあの羊さんの人と遭遇するかも)

 

「(ありがとう、リトル)……デイトナ、そろそろ例のホログラム能力者と遭遇すると思うから切り替えて行こう」

 

《そうか。ならオレもそろそろ気合を入れ直さねぇとな! 所でそのリトルマンティスはどうするよ? 前回の時はでけぇ的になっちまったんだろ?》

 

「……ホログラム能力者が相手ですと図体が大きいのは的になるリスクの方が高そうです。もうこのデパート内の敵はホログラム能力者だけみたいですし、ここからは私も降ります。それと一度TASのロックオン機能を解除しますので、デイトナは思いっきり暴れて下さい。この状態ならTASの恩恵を受けつつ自由に動ける筈です」

 

《おうよ! フェムトはデータ取りに専念、頼んだぜ!》

 

 

 私はリトルマンティスから降車し、デイトナと共にリトルが言う反応がある大部屋へと向かう。

 

 そこには、あの戦闘データの時と同じ姿で佇む羊姿のホログラム能力者【クラフトマンズドリーム】の姿があった。

 

 

……さん、か…さ…、僕は、…まで捕ら……い……れば………い……

 

「……何だか様子がおかしい。デイトナ、気を付けて!」

 

「あぁ。こいつは、嫌な感じだぜ」

 

『……来たかい。【怒れる爆炎(バーントラース)】。そして【異端者(イレギュラー)】』

 

「コイツ、しゃべりやがった!」

 

(怒れる爆炎? 異端者? この人は何を言っているんだ?)

 

『キミ達には恨みは無いけど、死んでもらうよ。僕はもういい加減家族の顔が見たいんだ』

 

 

 優し気な表情をしていた羊姿のホログラム能力者は一転して険しい表情に変化。

 

 それと同時に私は後方へと下がり、デイトナが前に出る形で戦闘が始まった。

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

『僕は()()()()()に利用され、挙句こんな姿になってしまった。死んでしまっても生き返る、()()()()()()姿()()()

 

「不死身だと!? ホログラムってそう言う事かよ!」

 

()()()()()()()()()……だなんて言っても、キミ達には分からないだろうね。まあ僕にもどういう原理かは分からないけど』

 

 

 その動きは前回の物とは明らかに違ったモノであった。

 

 ハンマー状の攻撃、大型ギロチンによる急降下攻撃、ガトリング砲による攻撃もさることながら新たにワイヤー移動からの死神の鎌を彷彿とさせる武器による強襲も加わっている。

 

 そして何より動きが明らかに洗練されており、その稼働率は理論値の100%に到達していた。

 

 

『やるね、怒れる爆炎。僕らの間で伝説になっただけの事はある。だけど()に比べればどうという事は無いね』

 

「誰と比べてんのか知らねぇが、舐めんじゃねェぞ! そのツラ、蹴り潰すっ! ディヤァーッ!」

 

『おっと……! ふふ。甘いよ』

 

「またそれかよ! ちょこまかと移動しやがって!」

 

 

 デイトナの空中から振り下ろされる炎を纏ったカカト落とし【ボルケーノアックス】が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()された。

 

 この行動も今回の戦闘において初めてのモノであり、それもあってかデイトナは苦戦を強いられる事となった。

 

 

(やはり、根本的な性能差が明らかに違う。データそのものは順調に取れてるけど、このままじゃ……)

 

『さて、そろそろキミとの戦いも終わりにしよう……』

 

 

 

 

 

 

 

運命が紡ぐ一筋の糸

 

我等はその手に結びて辿り

 

鮮血の彼方は手操りて待つ

 

 

レッドラインデッドレイヴ

 

 

 

 

 

 

 

 彼は自身を糸状に変化させ、それを部屋中に張り巡らせ始めた。

 

 これは私もターゲットにされているらしく、私にもその糸が迫って来る。

 

 あれは当たると絶対に助からない。

 

 そんな確信が、私にはあった。

 

 私はとっさにフィールアクセラレーションを起動。

 

 全てが遅い加速された世界へと突入し、私は自身の回避に専念するしか無かった。

 

 赤い糸が迫る。

 

 足元に、飛んだ先に、最終的には部屋の半分まで埋め尽くす勢いで赤い糸が命を刈り取ろうと迫った。

 

 

「ぐあッ!」

 

「デイトナ!」

 

『捕まえたよ。怒れる爆炎。さあ、これで終わりだ!』

 

 

 全身を赤い糸に捕らわれたデイトナに、赤いドリル状の糸を纏ったホログラム能力者が迫る。

 

 その一撃は直撃すればデイトナの命を容易に刈り取るだろう。

 

 私はゆっくりとした世界で少しづつデイトナに迫っているホログラム能力者の突撃の軌道を鉄扇による防御結界(パルスシールド)を最大出力で展開しつつ軌道を逸らそうと試みる。

 

 しかし、計算上私が吹っ飛ばされ、デイトナは貫かれて終わると言う結果も同時に出していた。

 

 だけどそれは諦める理由にはならない。

 

 先ずはやってみる。

 

 そして、「やれば『()()』出来る」

 

 かつて施設に居た頃にニコラが教えてくれた言葉だ。

 

「やれば出来る」人と言うのは実際には限られた人達しか出来ない物だが、「やれば何か出来る」と言うのは殆どの人に当てはまる物だ。

 

 だからニコラから教わったこの言葉は私の心の中で強く心に残り、何だかんだで私はここまで来れたのだ。

 

 もうダメだと思って諦めるよりも、何かした方がいいのだ。

 

 ……私はデイトナにこれまで沢山助けられ、同時に助けもした。

 

 それに考えてみればこれは何時も行っている事であり、初めての事では無かった。

 

 だからこそ今回も必ず助ける。

 

 いつか来る別の機会に、私が助けてもらう為に。

 

 この瞬間、そんな私の強い想いにリトルが答える。

 

 

(フェムトの強い想いが伝わって来る……デイトナを守りたいんだね。なら、私がそれを叶えてあげる!)

 

 

 頭の中に、言霊が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

天体の如く揺蕩う雷

 

是に到る総てを祓い清めよ

 

 

パルスエクソシスム

 

 

 

 

 

 

 この瞬間、私自身を中心に雷の聖域が展開された。

 

 物理現象を超越する攻撃性能の無い守りに特化した雷の聖域は赤いドリル状の糸を羊のホログラム能力者諸共弾き飛ばした。

 

 

『何!? 異端者……ここに来て障害になるのか!』

 

「そんな風によそ見をしていいのですか?」

 

 

 吹き飛ばしたと同時に()()()()()()()()()を付与。

 

 これでもう、糸状になって転移して逃げる事も出来ない筈……!

 

 

 

「やってくれたなぁ羊ヤロウ! ブチギレたぜ!」

 

 

 

 

 

 

太陽の如く燃え盛れ熱波

 

激情の灼熱、うねる猛火

 

煉獄の焔に残るは灰燼

 

 

サンシャインノヴァ

 

 

 

 

 

 

『……っ! しま……』

 

 

 

 周囲は炎に包まれデイトナは背中のバックパックを開放しつつ突撃し、羊のホログラム能力者を跳ね飛ばすと同時に空中へと飛翔して炎の弾幕を無数に放出する。

 

 そしてその無数の炎の弾幕一つ一つが全てTASによるロックオン誘導によって一点に集中し、極大の火柱を上げる。

 

 

『みんな……ゴメン……』

 

 

 羊のホログラム能力者はその火柱の中で断末魔を残しながら自身が持つ内包するエネルギーを暴走させ、ノイズと共にホログラムが如く消滅したのだった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
アンケートは引き続き行われています。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。





〇ホログラム能力者が待ち構えている場所について
この世界の大型デパート、実は未来世界に存在する廃デパートだったりします。
なので、ホログラム能力者の出現位置はX経験者ならばある程度予測することが出来ると思います。

〇ホログラム能力者について
何故かは不明だが本来の意識が存在している模様。
今回の戦闘では100%のスペックで襲ってくるのと初見攻撃が多い為、デイトナもかなり苦労しました。
ちなみにこの小説内の100%スペックは白き鋼鉄のXでいう所の難易度ノーマル時の性能の事を指します。

〇パルスエクソシスムについて
デイトナを守りたいと言うフェムトの想いに呼応してリトルがそれに応えた形で生まれたフェムト待望のSPスキル。
このスキルそのものには攻撃性能が無く、ゲームでいう所の無敵判定を一定範囲展開し、その範囲内に居る敵対者を弾いた後で永続ロックオンを付与する。
一人ではその場しのぎにしかならないが、TASで同調した仲間が居ると途端に頼もしくなる仲間と共に戦うフェムトらしいSPスキル。
但し当然のことながらSPと合わせてEPを相応に消費する。
具体的にはSP2とEP200程。
EPを予め補充しておくのが前提なSPスキルでもある為、補充出来ない状態で尚且つ貯蔵EPが空だと使用不能。


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第十九話 インターミッション(二回目)



サイドストーリー





 ボクは今、一触即発の真っただ中にいる。


『うぅ~~~!』

『むぅ~~~!』

「あらあら」

「モルフォ。オウカさんに迷惑かかっちゃうからそろそろ……」

『ダメよシアン! ここで引き下がったら、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の名折れだわ!!』

「どうしようGV……モルフォが言う事聞かないよ」

「……シアン、コレはボクにはどうしようもないよ」

「ロロ、いい加減そんな風に睨み合うのは……」

『アky……イクスは黙っててよ! ぼくの【超時空歌姫】としての第一歩が掛かってるんだからね!』

「…………」

「はわわ……イクスがたじたじになっちゃってるよぉ~」

「コハク、ヌルの言葉遣いが移ってしまっているのです」

「なあなあジン、これってどうやって止めればいいんだ?」

「残念ですがキョウタ、僕らには止める術はありません……」


 切欠はボクが大型デパートで助けた女の人、オウカがその時のお礼に屋敷へと招待してくれた時の事だった。

 そこでボクはシアンと共にオウカからのおもてなしを受けていたんだけど、そこでボク達とは違う客がやって来た。

 その客はそれぞれイクス、コハク、キョウタ、ジン、マリアを名乗り、ボク達はオウカを切欠に彼らと知り合いになった。

 イクス以外の四人はボクの事を見て姉そっくりである事を話しており、気になったのでその事について尋ねたらその人の写真の入ったロケットを見せてくれた。

 その写真の人物は確かにボクに似ており、これなら間違えるのも仕方がないと思った。

 それと同時にフェムトを見て縮んだと言っていたのも納得出来た。

 そこまでは良かったのだが、問題はここからだ。

 イクス……()()()()()()どこか只ならぬ雰囲気を持った彼にオウカがこう尋ねたのだ。


「イクスさん。今日はロロさんは居ないのですか?」

「ロロはオレ達が出かける前に()()()()()()()()から少し遅くなる」

「あ、ロロちゃんまた動画上げてるんだね」

「ああ。近頃のアイツは妙に気合が入っていてな……」

「あの……イクスさん。ちょっといいですか?」

「……なんだ? ミt……シアン」

「その、ロロさんって何をやっている人なんですか? 動画を上げているって言っていましたけど」

「ああ、それはだな……」


 イクスがシアンに説明しようとした時、オウカの屋敷の玄関から勢いよく()()が聞こえた。

 そして、その足音の人物はボク達の前に姿を現した。


『じゃじゃ~ん! おまたせ~~! ロロちゃん、ただいま参上!』

「あ! ロロちゃん。動画の投稿、終わったんだ」


 その子の名前はロロ。

 緑色のボーイッシュな髪型をした活発そうな女の子。

 その子は明るくボク達に自己紹介を済ませ、あっという間にこの輪の中に溶け込んでしまった。

 ただその子は何処かで見た事があった様な既視感を感じた為、ボクは記憶を掘り返していたのだがシアンが先に気が付いたらしく、大きな声を上げた。


「あ! 思い出した! ロロちゃん、【希望の歌姫】そっくりなんだ!」

『へぇ~~……。よく気が付いたね! そうさ! ぼくが希望の歌姫、ロロなのだ~! ドャー!』

「え? 本当に?」

「ああ、本人のシュミみたいな物だ。何でも自分の歌がどこまで通用するのか試してみたいと言っていてな。オレは止めたんだが、コイツは歌の事になると頑固でな」

「そうなのか……世間は意外と狭い物だね」

「全くだ。……こんな所でお前と会った事も含めてな。ガンヴォルト。

「ロロちゃんの歌は、わたし達の間じゃすっごく有名なんだ~♪」


 ここまでは実に和やかなムードだったのだが、問題はここからだ。


「そもそもどうしてロロは動画を上げるようになったんだ?」

『そりゃあ勿論、電子の謡精モルフォへの挑戦状さ! ぼくは今世界を股に掛ける超z……歌姫を目指してるんだ! モルフォへの挑戦はその試金石なのさ』


 このある意味挑発ともいえるロロの発現によって、希望の歌姫と聞いてうずうずして出てくるのを我慢していたであろうモルフォが表に出て来てしまった。


『試金石って……! アタシは踏み台だって言いたいのかしら?』

「モルフォ……! 出て来たらマズイって!」

「えぇ!? 女の人が出て来た!? ひょっとして、ユーレイさん?」

「コハクさん、彼女はわたし達の国が誇るバーチャルアイドル。電子の謡精モルフォさんです。少なくとも、ユーレイさんではありませんよ。」

「びっ……びっくりさせないで欲しいのです!」

「うぉーー! 綺麗な姉ちゃんが出て来た!」

「……僕はロロさん一筋ですので」

「……出て来たか。ノワが言うにはミチルの体の不調の原因は……

「やれやれ、どうしたものか……」


 モルフォが出てボク達はてんやわんやしていられたのは今の内だけだった。


『だとしたら、どうする?』


 ロロの明らかな挑発目的のこの一言が切欠で互いに言い合いとなり、先の一触即発の状況へと戻る。

 さてどうしたものかとボク達は頭を悩ませていたのだが。


「ふふ♪ 二人共、仲がよろしいんですね」

「えぇ!? オウカさん、あの二人どう見ても喧嘩してる様にしか見えないんですけど!?」

「ああやって本音を言い合えるのですから、何だかんだで互いを認めていると言う何よりの証拠です」

「……そう言う物なのか?」

「ええ。その内直ぐに仲直りすると思いますから今の内におやつの用意をしましょうか」


 その後オウカの言う通り二人は本当に仲直りをし、しかも意気投合までしてしまった。

 そしてロロから『ぼくがもっと有名になったらコラボしようね』と約束まで取り付けてしまう。


(……この件はフェムトに相談する必要があるだろうな)


 そう思いながらボクはオウカから貰ったコーヒーを飲んで一息入れるのであった。






 

 

 

 

 羊姿のホログラム能力者【クラフトマンズドリーム】が消滅したのを確認し、残心しつつ互いの状況を確認する。

 

 

「終わったみてぇだな」

 

「ええ。一先ずは」

 

「んで、データの方はどうよ?」

 

「二度目という事もあって進捗状況はあまり伸びていませんが、総合的には悪くない結果です。少なくとも新しくいくつかアビリティを組む事は出来そうです」

 

「そうじゃなきゃオレ達がこうして苦労した意味ねぇからな。それにしてもこのアビリティってやつには助けられたぜ。何だかんだ数発はいいのを貰っちまったし」

 

「私の方はデイトナが攻撃を引き受けてくれたお陰でダメージはありませんでしたけど精神的な安心感と言う物が違いますね。一回二回多く受けても大丈夫と言う安心感は動きに迷いを生じさせない点では助かりました」

 

「……ただ、あの最後の攻撃には肝を冷やしたけどな。フェムトが機転効かせてくれなかったらヤバかったぜ」

 

「あれはリトルが私の想いに応えてくれたんです」

 

(ん。リソースが少し馴染んだから出来る様になった)

 

 

 以前、青き交流(リトルパルサー)の方向性を決めた際に説明されていたリソースの事を覚えているだろうか?

 

 今回SPスキルを習得出来たのはこのリソースの一部が馴染んだ事に加え、リトルが私の想いに応えて頑張ってくれたのが理由だ。

 

 

「しかし、フェムトも【SPスキル持ち】になれたのは朗報だぜ」

 

「そんなに違う物なんですか? SPスキルがあると」

 

「そりゃあな。コイツを扱えるのは一握りの能力者だけだ。つまり、扱える奴は一目置かれるんだぜ。周りの連中からな。つまりだな、もうお前を舐めてかかる奴は早々出ないって事だ」

 

「それは助かりますね」

 

「まあそれでもお前は小せえし女顔なのもあって完全にって訳にはいかねェだろうが、SPスキルを持つってのはそれだけ大きな意味があんのさ。……んじゃあ、一息入れられたしそろそろ戻ろうぜ」

 

「ええ、戻りましょう」

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 私達はミッションを終えて外に出て、デイトナと周辺で見張りをしていた隊員に対してキュアーヴォルトを施す。

 

 見張り続きで疲れが出ていた隊員達は元気を取り戻し、再び職務に戻る。

 

 それを確認した後で基地へと帰還。

 

 今回の顛末を紫電に報告する。

 

 

「……なるほどね。今度は意思を持ち出したか」

 

「ああ。オレが相手した中ではガンヴォルトを除けばかなり厄介な分類に入るぜ」

 

「しかし、気になる事を言っていたみたいだけど」

 

「オレに対して【怒れる爆炎(バーントラース)】、フェムトに対して【異端者(イレギュラー)】。なんか御大層なコードネームを付けられてたな」

 

「そう言ったコードネームは採用した覚えは無いんだよね。向こうが勝手にそう言っているのか或いは……」

 

「後、【魂が捕らわれている】と言っていた事も気になります」

 

「それに関してはボクでもお手上げだよ。オカルト分野は扱って無いからね。ただこれに関しては心当たりはある。まあ、フェムトも分かるとは思うけど」

 

「頭領さん、ですか?」

 

「そう言う事だね。今回持ち帰ってくれた情報は貴重だ。ホログラム能力者は意思を持つ事、協力しているテロリスト組織が存在する事、オカルト方向からのアプローチが必要になるかもしれない事、こちらをそれなりに把握している事が分かったのは大きいよ。……あぁそれと、キミがSPスキル持ちになれた事は今日一番の朗報だよ」

 

「デイトナも言っていましたけど、それってそんなに重要なんですか?」

 

「重要さ。何しろ能力者部隊において本来上の立場になる為の必須技能だからね。コレのある無しは扱いが本当に変わる。キミの場合は特別待遇で上の立場になっていたからより強く実感すると思うよ」

 

「オレもサンシャインノヴァを習得した前と後の待遇の差には驚いたモンだったぜ。ま、フェムトなら直ぐに慣れるさ」

 

「なんだかちょっと期待半分、不安半分ですね」

 

「ボクとしては少し肩の荷が下りてホッとしてるんだけどね。……それじゃあ、今日はもう解散しよう。次のミッションについてはまた別の日に通達するから」

 

 

 そうして私はミッションの報告を終え、エリーゼの待つ私の家へと帰還する事となった。

 

 何だかんだで今回のミッションは早く終わった為、今の時刻はお昼を回った所だ。

 

 なので携帯端末を取り出しエリーゼにこれから帰る趣旨を伝える。

 

 

《フェムトくん?》

 

「ええ、今日は早く終わる事が出来ましたよ」

 

《そっかぁ、良かったぁ。……怪我はない? 何処か痛かったりしない?》

 

「今回も無傷でしたし前回みたいに酷いトラウマを植え付けられた訳でも無いので平気ですよ」

 

《それならいいんだけど。……あ、今わたしお昼ご飯作ってるの。フェムトくん、早く帰れそう?》

 

「今話しながらそっちに向かってる所です。……何かお土産買って来ましょうか?」

 

《ううん。早く戻って来てくれる事の方が嬉しいからそのまま戻って来て欲しいな……なんて》

 

「ふふ。承りました。エリーゼ。お姫様は早く帰ってくることがお望みみたいですので」

 

《お……お姫様って……わたし、そんなんじゃ……♪》

 

 

 と、会話をしている間に私の家へと帰還し、自動ロックを解除して扉を開ける。

 

 扉の先には顔を赤くして何処か嬉しそうに携帯端末を耳に向けているエリーゼの姿。

 

 

「……ぁ」

 

 

 ……うん、かわいい。

 

 今日も私の恋人はとてもかわいいです。

 

 私は変身現象(アームドフェノメン)を解除し、リトルと一緒にエリーゼに声を掛ける。

 

 

「ただいま、エリーゼ」

 

「ただいま、エリーゼ!」

 

「あぅ……コホン。おかえりなさい。フェムトくん、リトルちゃん。ご飯もうすぐ出来るから先にお風呂入りながら待ってて欲しいな。二人共、疲れてると思うから」

 

「ん! フェムトフェムト、早くお風呂入ろう!」

 

「リトル、そんなに急がなくてもお風呂もご飯も逃げないから」

 

 

 そうしてエリーゼはお昼の仕上げに、私達は風呂に入る事になった。

 

 私の家の風呂は良くリトルが一緒に入る事が多かった為元々一回り大きな浴槽を用意していたのだが、最近は日によってエリーゼも含めた三人で入る事も良くある為思い切って浴槽も含めた新しい浴室を別に用意。

 

 そこは三人所かもっと五人くらい一緒でも余裕をもって寛げる大浴場に仕上がった。

 

 この広いお風呂にリトルはご満悦し、エリーゼはナニを想像したのかはさておき、顔を赤くしながら悶々としていた。

 

 とまあそんな事はさて置き私とリトルはご飯が出来るまでの間、ここで過ごす事になった。

 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

「ごくらくごくらく~~♪」

 

 

 

 広い湯船に浸かる私とリトル。

 

 ミッションの疲れを湯船に溶かしながら私達は()の休息をしていた。

 

 そう、裸である。

 

 今まで水着を着ていた筈のリトルも、裸なのである。

 

 理由は当然あり時間は初ミッションをしていた日まで遡るが、その日私はエリーゼとリトルと共に浴室に強制連行された事があった。

 

 その時は当然水着を着てもらうつもりでいたのだけれど……言い訳するのは、よそう。

 

 兎に角その時に水着を着ずに標準的なお風呂スタイル、即ちバスタオル以外は完全に裸で一緒にお風呂で過ごした事があった。

 

 あの時何があったのかは……まあ、そう言う事*1だ。

 

 そんな事が切欠でリトルが水着を着ると言う習慣が無くなり、普通にお風呂に入るようになった。

 

 

「えへへ……」

 

 

 私が湯船で足を延ばしながらゆっくりと浸かっている所、リトルは私の膝の上に乗ってそのまま身を任せる。

 

 限りなく人間に近いヒューマノイドらしからぬその肢体。

 

 柔らかく、しっとりと吸い付く肌は心地よく、こうしてただ触れ合っているだけで大きな幸せを感じる。

 

 

「フェムト」

 

「ん?」

 

「ギュッってして」

 

「はいはい」

 

「ふわぁ……」

 

 

 リトルを後ろから両腕で優しく抱きしめる。

 

 心地よさそうに息を吐き、気の抜けた声を出しながら安らぎを感じてくれている。

 

 それに気を良くした私はリトルのお腹を優しく撫でる。

 

 

「ん……むぅ~~……」

 

「嫌だった?」

 

「私、太って無いよ?」

 

「あぁ、そう言う……って、リトルはヒューマノイドなんだから太らないでしょ?」

 

増えてた……

 

「え?」

 

「体重、増えてた……」

 

「え?」

 

「どうしよう……このままじゃフェムトに捨てられちゃう……」

 

「え?」

 

 

 いやいやちょっと待って、流石にそんな所まで再現したヒューマノイドなんて私でも聞いた事無いんだけど。

 

 ……念のため、変更後の最初のデータと比べて……

 

 

「……! 比べるの、ダメ!」

 

「リトルに何かあったら私が困るから。素直に調べられなさい」

 

「でも、でも!」

 

「リトルを捨てるなんてあり得ないから、ね? それにそんな事したらエリーゼや皆から私がボコボコにされちゃいます」

 

「あぅ……分かった」

 

 

 そうして最初のデータと今のデータを比べて見た結果、驚くべき事が判明した。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 身長は私と変化は無い物の、身体がより女性らしく変化していると言った感じだ。

 

 まっ平だった胸がほんの少しだけ膨らんでいたり、お尻も少し大きくなってたり、髪も少しだけ長くなっていたりする。

 

 ただこれは普通に生活しているとまず分からない程の小さな変化な為、私でも比べて見なければ気が付けなかった。

 

 

「……リトル、正直に言ってください」

 

「えぅ……」

 

「新しい体に更新した時、何かしましたか?」

 

「えっと……」

 

 

 リトル曰く、変更時の際宝剣開発部の人達にありったけの生体パーツを要求し、今までこっそりと集めていた女性の身体のデータを元にリトル自身が新しい宝剣(カラダ)を更新。

 

 それが理由なのか今のリトルの身体は宝剣の機能以外ほぼ完全に生身の身体に近くなっているのだと言う。

 

 

(通りで宝剣開発部の人達、あの時目が泳いでいたりどこか様子がおかしかったりした訳だ)

 

「……黙ってて、ごめんなさい」

 

 

 リトルは私の方に体を向け、泣きそうな表情で謝った。

 

 

(……これで宝剣としての性能が本来の設計の時より落ちていたら怒らなきゃいけないんだけど……上がってるんですよね、性能。と言うか宝剣の性能以外の物も色々と。しかもその恩恵、知らなかったとは言え私も受けちゃってますし*2

 

「……グスッ」

 

「……リトル、次からは黙っていない様にして下さい。何かあったら大変ですから」

 

「許して、くれるの?」

 

「ええ。()()許しますよ」

 

「ぁ……良かったぁ~~……えへへ♪ ありがと、フェムト♪」

 

 

 ……リトルの視界の死角でエリーゼが珍しく怒った表情をしている。

 

 実はリトルの「体重、増えてた……」の辺りからご飯が出来た事を知らせにここに来ていたのだ。

 

 つまり……

 

 

「でも、わたしは許すとは言っていませんよ?」

 

「ぇ……エリーゼ!? いつの間に!?」

 

「フェムトくん、リトルちゃんをそのまま捕まえててくださいね」

 

「分かったよ、エリーゼ」

 

「フェムト!?」

 

「今逃げても怒られるのが増えるだけだから大人しくしなさい」

 

「うぅ~~……」

 

 

 一糸纏わぬ腕を組んだエリーゼから珍しく怒られたリトル。

 

 終わった後は物凄く落ち込んでいたけれど、分かって欲しい事がある。

 

 普段怒らないエリーゼが怒ったのはリトルの事が心配で、とても大切だからなのだと。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 リトルを慰めつつ昼食を済ませ、私は今回得られた戦闘データの解析を始める。

 

 今回のデータは二度目なのもあって進捗状況は三割半と言った所。

 

 だけど有用なデータである事は変わりなく、アビリティも新しく組むことが出来る。

 

 どんな攻撃も一撃は耐えられる【シャリーアライブ】、私達の精神状態(クードス)次第で攻撃力が変化する【ハイプラウド】。

 

 そして今回のTASの運用データから役割(ロール)に縛られなくなる【フリーラン】。

 

 シャリーアライブはあの死を予感させた一撃(レッドラインデッドレイヴ)が、ハイプラウドはデイトナのサンシャインノヴァの止めが、そしてフリーランは一度TASのロックオン機能を解除した時のデータで作り上げられた。

 

 

(ふぅ……これで一段落ついたかな)

 

(お疲れ様、フェムト)

 

 

 この調子でアビリティを増やして行こう。

 

 

 

 


 

 

GET ABILITY シャリーアライブ ハイプラウド フリーラン

 

 


 

 

 

 


出社

 

 

 

 

「いってらっしゃいフェムトくん、リトルちゃん。お仕事頑張ってね。それと……はい、これ」

 

「お弁当、いつもありがとう。……じゃあ、行ってきます。帰りは何時もの時間までには終わらせるから」

 

「行ってきま~す! 今日のお弁当なんだろな♪」

 

 

 今日は兼業になって初めて情報処理部門へと足を運ぶ日。

 

 それなりに日が空いてしまった為、向こうは結構てんやわんやになっているらしい。

 

 なので既に用意していた部下を労う為のお土産を引っ提げ、私は何時も通りの時間に出社し、受付のお姉さんに挨拶を済ませる。

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございま~す」

 

「おはようございます……あぁ、フェムトさん! リトルちゃん! やっと来てくれたんですね! 前線でのお仕事と兼業と聞いて、私すっごく心配したんですよ!」

 

「心配をかけてすみません。暫くはこんな調子で日を跨ぐことになりそうです」

 

「いえいえ……二人共無事ならいいんですよ。あの日以来社内で色々と心配の声を聞いていたもので」

 

「皆には心配かけちゃったみたいだね」

 

「ごめんね。受付のお姉さん」

 

今日も二人共尊い……好き……コホン、とりあえずフェムトさんは情報処理部門の皆さんを安心させてあげてください。皆、()()()()()()心配してましたから」

 

「……その様子だと、大分()()()()()みたいですね」

 

「ええ。今日までずっとデスマーチ状態みたいだから早めに行って助けてあげてください」

 

 

 そういう訳で私は足早に情報処理部門へと足を運ぶ。

 

 そして辿り着いたそこは、死屍累々と呼べばいいのだろうか。

 

 私が初めて出社した程では無いにしろ、皆鬼気迫る表情で仕事に打ち込んでいた。

 

 

「終わらない……仕事が終わらないよぉ~~……」

 

「データが……データの津波が迫って来る……!」

 

「オレ……死ぬのかな……死んだはずのじいちゃんとばあちゃんが見える……」

 

「フェムトせんぱ~い! 早く戻ってきて~~~~!!!」

 

「はい。戻ってきました」

 

「おまたせ、みんな~」

 

 

 私達が声を掛けた瞬間、私達の方へ皆が顔を向け、時が止まったかのように動きを止めた。

 

 そして……

 

 

「来た! フェムト先輩来た!!」

 

「俺達の希望が帰って来た!!」

 

「あはは……私の留守の間、頑張ってくれてありがとうございます。この様子だと大分追いつめられているみたいなのでコレで一息入れて下さい」

 

「フェムト先輩のお土産!」

 

「あれは有名店の限定品の高級スイーツです!!」

 

「あのケーキ、生クリームは甘すぎないし果物盛り沢山だからオレも好きなんだよなぁ……」

 

 

 私が戻ってきてお土産を渡した瞬間部下の皆は復活を果たした。

 

 美味しそうにケーキを皆がほおばっている間に私はコーヒーの入った魔法瓶を開け、皆のコップに注ぎ手渡ししていく。

 

 

「このコーヒーがたまんねぇんだよなぁ~♪」

 

「……ふぅ。生き返る」

 

「フェムト先輩、何時もありがとうございます!」

 

 

 そうして部下の士気を回復させ、改めて私もリトルと変身現象をしつつ仕事に取り掛かる。

 

 ……私が思った以上に皆、頑張っていたみたいですね。

 

 予想よりもずっと仕事の片付き具合がいい。

 

 

「……え? あの、え?」

 

「この状況で、片付き具合がいい???」

 

「……そうだったな。言われてみれば確かに、フェムトが来る前を考えれば十分片付いている状態だったな」

 

「あの、先輩??? それ、本当ですか?」

 

「本当だ。……今のお前らには想像できねぇかもしれないが、そもそもこの情報処理部門が立ち上がる前はどの部署も帰れないのが基本だったんだぞ」

 

「帰れない……? ひょっとして、このビル無駄にシャワーや仮眠室が多いのって……!」

 

「ま、そう言うこった。……フェムトにはマジで感謝しろよお前ら。コイツがここまで効率化して無かったらお前らも家に帰れないって事になってたんだからな」

 

 

 その後、兼業で私の能力が上がったことが理由なのか仕事が思ったよりも早く終わり、エリーゼのお弁当を食べて一息入れてから余った時間は部下の面倒を見る事としたのだった。

 

 

 

 


 

 

GET MG 10000

 

情報処理部門Lv1→Lv2up!

 

 


 

 

 

 

*1
番外編案件です。お察しください。

*2
番外編案件です。お察しください。




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
アンケートは引き続き行われています。

6/25追記
アンケートは第二十話の投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。




〇出社について2
フェムトが出社してMGを稼ぐのが基本なのですが、その際にフェムトの部署である情報処理部門のLvを上げることが出来ます。
基本、放置する時間が長い程Lvを上げることが出来るのですが、放っておきすぎると士気が低下して間接的にフェムトの居る能力者部隊にしわ寄せが来て本末転倒な状況となる為注意が必要。
具体的にはミッション開始前に体力が減った状態でスタートするハメになったり、ミッションの評価が下がったりする事もあります。


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第二十話 交錯する青き交流(リトルパルサー)極限(イクス)



サイドストーリー





 ミチルの居る療養施設へとロロと共に向かう。

 その道のりはかつて大昔に見た懐かしい景色だった。

 温かな風、優しい日差し……本当に、かつてのあの頃のままだ。

 歩いている間、オレの中ではもう色あせてしまっていた記憶に再び色彩が蘇る感覚をこの機械の身体(サイボーグ)で感じていた。


『アキュラくん』

「どうした? ロロ」

『こうやってミチルちゃんの所まで()()()()()の、なんだか新鮮だなって思ってさ』


 今のロロはオレが異世界の技術で作成した仮初の身体を操り隣を一緒に歩いている。

 異世界の機械生命体ワーカーは【Pix(ピックス)】と呼ばれるプログラム粒子に込められたデータによって姿形、個性が決まる。

 この構造を利用し作成したのが今のロロの姿であり、本体も今のロロを構成する素体とドッキングしている状態だ。


「そうだな。……こんな風にまたミチルの元を尋ねる事が出来るとは本当に、夢にも思わなかった事だ」

『そうだね。……ぼく達、()()()いつまでこうしていられるかな?』

「……それは」

『今だに(この世界のアキュラくん)は目を覚まさない。だからぼく達はミチルちゃんを守る為って言う理由でここに居られる。でもさ、目を覚ましちゃったらぼく達は戻らなきゃいけない』

「…………」

『アキュラくん、ぼく、今凄く嫌な事考えてる。このまま彼がずっと目を覚まさなきゃいいのにって、思ってる。……この世界のミチルちゃんはさ、ぼく達の知ってたミチルちゃんよりも体調はいいし、おしゃべりも出来てる。コハクちゃん達とも仲良くなってるし、ミチルちゃんも笑顔がいっぱい増えた。……かつてぼく達が目指してた光景が、この世界にはあるんだ』

「それでもオレ達はいつか帰らなければならない。奴が目を覚ませばどうなるか。ロロも良く分かっているだろう?」

『そりゃあね。……間違い無くぼく達の事を追い払おうとするだろうね。この時のアキュラくんは正に狂犬! 復讐の鬼! みたいな状態だったし』

「……そうだな」


 そんな風に話をしている内に療養施設にあるミチルの部屋の扉の前までたどり着いた。

 ……この扉を開ける瞬間、オレは何時も緊張している。

 扉を開けた瞬間、この幸せな時が終わってしまうのではと漠然と考えてしまうからだ。

 嘗て一度、失ってしまったが故に。


「…………」

『アキュラくん』


 オレはロロに促され、意を決して扉を開ける。

 そこには机の上で勉強をしているミチルが、勉強を見ているノワが、机の上に飲み物を出しているヌルが居た。


「あ! アキュラくん! ロロ! いらっしゃい。今、ノワにお勉強を見て貰ってるの」

「お帰りなさいませ、アキュラ様 ロロ」

「はわ! お帰りなさい、アキュラさん ロロさん」

『ただいま~ミチルちゃん! ノワ! ヌルちゃん!』

……ただいま

「ふふ♪ アキュラくん照れてる♪ それにその()()、着けてくれてて嬉しいなぁ」

「……お前から貰った物だからな」

「眼鏡姿のアキュラさん、知的な所がより際立ってて新鮮な感じですねぇ~」


 ミチルがこうして喋れている理由、それは週に一度定期的に流れる電子の謡精(サイバーディーヴァ)の歌にある。

 オレは最初この歌が恒久平和維持装置(バタフライエフェクト)のように人々を洗脳するのに使われている物だと思っていたのだが、この歌は人に対してなんら影響を及ぼしていない事が確認された為、オレは疑問を持った。

 なぜこの歌を定期的に流しているのかを。

 よって色々と独自の方法で調べてみたのだが、この歌は第七波動(セプティマ)に対して働きかけている事が分かった。

 つまりこの歌は第七波動を直接狙いすました歌であり、能力を封じると言う点において限りなく理想に近い方法であると言える。

 そしてこの歌、ミチルに対しては本来の能力者だからなのか力を送り込むと言う形で副次的に作用しており、これによってミチルは体調が回復し、更にしゃべる事も出来る様になった、と言う訳だ。


「ん? もう勉強はいいのか?」

「うん。ちょうど一区切りついた所だったから。それに、アキュラくんとロロとお話したくて」

『ぼく達、丁度いいタイミングで来れたみたいだね♪ じゃあさ、何を話そっか』

「えっとね……アキュラくんの好みの女の子の話とか」

「……何? いや待て、何でそうなる?」

「今のアキュラくんは、何て言うか成熟したオトナな雰囲気を感じるから、そう言った人が居るんじゃないかなって思ったんだけど」

「オレにそんな相手は居ないぞ」

「本当? コハクは違うの?」

「何故そこでコハクの名前が……」

「それとも、ヌルだったり?」

「はわ!? わたしがアキュラさんとですか!? ……一応私を始めとした女性型のワーカーにはそう言った【人間さんにご奉仕する為の機能】があったりしますけど」

『えぇ!? そんなの初耳だよヌルちゃん!?』

「私達の世界では人間さんが居なくなって長い時間が経っていますので、そう言った事をする機能はあっても使われる事はありませんでしたので言う必要は無かったんですよ。……そう言えばロロさんはどうしてそんなに驚いているのですか?」

『そ……それは、別に……ヌルちゃんは嫌じゃ無いの?』

「私は嫌ではありませんね。私達ワーカーは人間さんのお世話をする事が目的ですから。ただ……その……そう言った特別なお世話をするなら、アキュラさんがいいかなって……

「わぁ……ヌルってば、意外と積極的なんだね」


 そう言えばロロの仮初の身体を作った時の参考にした女性型のワーカーを形作るPix内のデータには人工子宮を搭載している物が当たり前だったな。

 これは恐らくマザーによる人類復興の試みの一つだとは推測できるが……

 いや、それよりも。


「何故オレに迫って来る?」

『それは、まぁ……』

「気になるからじゃ……ダメ?」

「アキュラさん! アキュラさんが望むならこの不肖ヌル、精一杯何時でもお相手いたします!」

「…………そもそもオレは全身機械のサイボーグ。生殖機能等、とうの昔に切り捨てた。そう言った事を期待するのはやめておけ」


 こう言えば問題はあるまい。

 実際、オレはサイボーグになった際戦いに不要な機能はそぎ落としているのだから。


「ならば、()()()()()()()()

「ノワ、そんな事出来るの?」

「このままではそちらの世界において神園家の御家断絶の危機です。向こうの神園家はアキュラ様からの情報でもう跡形も無くなっていると聞いている以上、放っておく訳にはいかないでしょう」


 ……この場から今すぐ抜け出さなければならない。

 何故ならば、ノワならば何らかの形でやってしまいそうな気がしたからだ。

 だからオレは足早にミチルの部屋から脱出しようとしたのだが……。


「アキュラ様、判断が遅いです」

「……っ! ノワ、ヌル、それにロロまで」

「アキュラさん。素直に捕まって下さい!」

『ごめんねアキュラくん。でもね、ぼくも実はソウイウコトには興味あるんだ』



 その気になれば振りほどく事は容易いのだが、そんな事を今すれば皆に怪我や傷を負わせかねないからそれは出来ない。

 なので、オレは縋る様な思いでミチルに助けを求めるのだが……


「……ゴメンね、アキュラくん。流石にお家断絶はマズイと思うの」

「…………分かった。分かったから放してくれないか」


 妙な方向に話が逸れてしまったが、そもそもこの身体を勝手に弄られる訳にはいかん。

 特にノワには前科(モニターのカド叩き)があるからな。


「アキュラ様、当てはあるのですか?」

「今のオレの身体を生身に見せかけているのに使っているPixのデータを書き換えれば大丈夫な筈だ。それに、ある意味丁度いい機会だろう」

「丁度いい……ですか?」

「ああ、この世界に来てからヤツ(この世界のオレ)に対しての()()()()をそこらのゴロツキ(テロリスト)相手に試験的に試している所でな」


 オレはこの世界で歌姫(ディーヴァ)プロジェクトが発動して一ヵ月位のタイミングでやって来た。

 そのタイミングでパンテーラを下し、傷つき倒れたヤツとノワを回収し、紆余曲折あってオレ達はミチルに受け入れられた。

 その後、ミチルはオレ達の仲間と話をしてみたいと言う願いを聞き、皆を呼び話相手になってもらい……今に至るという訳だ。

 そしてオレはその間、ミチルや新たな知り合い(オウカ)の相手をしていただけでは無い。

 ヤツが目覚め、オレ達が居なくなった時に備え、ヤツの(メガンテレオン)(エクスギア)の修復及び改造をイプシロンのデータを元に行っていたのだ。

 オレ達が居なくなった後でも、ヤツがミチルを守ることが出来る様にする為に。

 本来ならばオレが以前使っていた装備(ヴァイスティーガー)にした方が総合的には良いのだが、アレは特殊な訓練に時間を費やす上にABドライブが、蒼き雷霆(アームドブルー)のデータが必要になってしまう。

 アレは例えヤツが相手でも気軽に渡すつもりは無い。

 それにこの世界のロロに手を加えるのは避けたかったのもある。


「まだヤツが扱う事を想定したデータを……生身における運用データを取って無い。だから丁度いいのさ」

「はぇ~~~……アキュラさんは彼の事も考えているのですね」

『だけどさ、彼が良く分からない相手からの施しなんて受けるかなぁ? アキュラくんだってそんなの嫌でしょ?』

「それは当然だ。だが他に選択肢が無い以上ヤツは受け入れざるを得ん。それがミチルを守る事に繋がるのだから。……オレも同じ立場ならば、施しを受けた屈辱すら飲み込んで見せるがな」

「…………」

「ミチル様……」

「いいの。今更わたしだけ何も知らずに居るなんて事、絶対にイヤだから」

『ミチルちゃん……』


 思えば、ミチルを守れなかったのは全てを打ち明ける勇気をオレが持てなかったのが理由だったのかもしれない。

 ミチルを大切に思うがあまり結果的に突き離し、あのような悲劇を許す結果となってしまった。

 だからこそ、今回は間違えない。


「そういう訳だから、オレは研究室に戻る。今はこれで勘弁してくれ」

「わかりました、アキュラ様。……お家断絶の件、努々忘れないようお願いします」

「分かっている。……ヌル、引き続きミチルの事を見てやってくれ」

「はい♪ ミチルさんのお世話は私にお任せください」

「頼んだぞ、ヌル」

「アキュラくん」

「ヤツが眠っている間、お前は必ずオレ()が守る。その上で、必ず戻る。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……っ! うん!」

『それじゃあ、そろそろ戻って最後の仕上げだ! 行こう、アキュラくん!』

「ああ、行くぞロロ」


 そうしてオレは生身の際のデータ取りを済ませる準備の為に研究室へと戻った。

 そしてこの日から数日後、オレ達はこの後の運命を左右する重要な出会いを果たす事となる。







強制ミッション

 

 

 

 

「ホログラム能力者の反応が、よりにもよってあそこで発生するなんてね」

 

「【スメラギ第拾参ビル建設予定地】……あそこはまだ土地を確保しただけの真っ新な場所です。少なくとも人的被害の事は考えなくても良さそうなのは不幸中の幸いと言えますが」

 

「それは確かにね。……今回はボクが行かせてもらうよ」

 

「紫電が?」

 

「ああ。今回のミッション、何か予感がするのさ。いい予感と、悪い予感がね」

 

「それはまた、何ともコメントに困りますね」

 

 

 今回のホログラム能力者の発生場所は建設されれば世界最大規模になると言われているスメラギ第拾参ビル建設予定地。

 

 まだ資材搬入も済んでいない広大な土地からホログラム能力者と思わしき反応が検出された。

 

 ただ今回の反応は今までの反応とは違い、明らかにケタ違いの()()が検出されている。

 

 よって、今回のミッションは紫電が同行する事となった。

 

 未知の敵である事に加え、場所が広大で開けた土地な為()()()()()()が使える事も大きい。

 

 

「ボクも一度はフェムトのTAS(タッグエアレイドシステム)を実戦で体感してみたかったんだよね。デイトナとイオタからも評判良かったみたいだし」

 

「まだまだ未完成もいい所だけどね」

 

「ボクからすればアレで未完成なのが信じられないよ」

 

「このシステムは皆が使えて初めて完成するんです。今はまだ私達(能力者達)だけしか使えませんから」

 

 

 私はこのシステムが最終的には()()()()()()()運用出来るようにする事を最終的な完成と定義している。

 

 アビリティの共有に加え役割(ロール)の明確化、そして攻撃の誘導。

 

 これらは部隊運用をより効率化するのに加え、周辺被害を抑えながら火力を集中出来る。

 

 ……正直な事を言えば、この技術を導入した結果で多くの人が傷つく可能性がある事は否定できないし、否定するつもりは毛頭ない。

 

 そもそも私はこの技術を()()で作っている訳では無い。

 

 紫電から部隊運用におけるより効率的なシステム作成の依頼を受け、私はその事に対価を貰い承諾した、つまり()()として作っている。

 

 善意は狂気への入り口であり、見えない悪意の源泉だ。

 

 それを自覚した上で制御せねば、たちまちそれに飲み込まれてしまう。

 

 だからこそ依頼を受け、対価を受け取る事は極めて重要なのだ。

 

 

「なるほどね。だったら報酬は飛び切りの物を用意しないとね。……小切手でいいかい?」

 

「飛び切り高い金額を書き込ませてもらうけど、それでよければ」

 

 

 紫電の何時ものセリフに対して、私も同じく何時もの答えを紫電に返す。

 

 入社して以来、個人的な依頼を受けた際の、私達の間におけるお約束のやり取りだ。

 

 

「「……フフッ」」

 

「あぁ、やっぱりキミとのこう言ったやり取りは良いモノだね」

 

「所謂お約束ってヤツですからね」

 

「……フェムト、紫電、そろそろ出かけないといけないんじゃ」

 

「ふむ……もうこんな時間か。ありがとうリトル。知らせてくれて」

 

「それじゃあミッションを始めよう、紫電。……リトル、おいで」

 

「うん! ミッションスタートだよ! あ……」

 

「どうしたの、リトル?」

 

「リトルマンティス、今回はどうするの?」

 

「もう既に手配済みだから大丈夫さ」

 

 

 そういう訳で、私達はスメラギ第拾参ビル建設予定地へと向かう事となった。

 

 そこに向かう道中で何があってもいいように私達は変身現象(アームドフェノメン)を済ませ、それと同時にTASを起動。

 

 アビリティも新しく作成したシャリーアライブ、ハイプラウド、フリーランの動作も確認すると同時に現場近くにリトルマンティスの投下を確認。

 

 今回の装備は小型化した高出力輻射式増幅光砲を背中に二門、両腕には【耐高熱ホウオウ鉱】で作られた特殊な徹甲弾を搭載した実弾ライフルとミサイルランチャーと言った遠距離仕様だ。

 

 エンジンは既に温まっており、何時でも暴れることが出来るだろう。

 

 私は早速何時もの様に乗り込み、EPレーダーを広域に展開。

 

 すると、奇妙なもう一つの反応を検知する。

 

 この反応……私達よりも先に誰か現場に来てる存在が居るようだ。

 

 

「紫電。今回は珍しく先客が居るみたい」

 

《へぇ。それはまた珍しい》

 

 

 その存在はどうやらこの先に存在する何かと対峙しており、既に戦闘は始まっている。

 

 そして、大質量を持ったホログラム能力者と同じ反応がどんどん衰えていき……()()()()

 

 

「……っ! 紫電!」

 

《ボクも感じるよ。この気配、気味が悪いね》

 

(嫌な気配。気を付けてフェムト)

 

 

 その後直ぐに現場へと到着した私達を待っていたのは、()()()()()()()()()()()()姿()と、それと対峙する()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 ホログラム能力者の反応は戦車の方から発しており、その戦車は相対する相手にこっぴどくやられたのか顔に相当する表面装甲が完全に破損しており、機械なのにグロテスクな姿を私達に晒していた。

 

 紫電の言う気味の悪い気配は、この戦車から発している物だった。

 

 対してその戦車をそこまで追いつめた相対者は全くの無傷である事に加え、()()()()()()()()()()()()()()()と共に猛攻を仕掛けている。

 

 このままいけばまず間違い無く白い鎧を着た存在が勝利するだろう。

 

 だが、それを嘲笑うかのようにもう一体の戦車が姿を現す。

 

 その姿は何と言えばいいのか……恐らくはあの正面装甲が破損した戦車と同一の物だと言うのは間違い無い筈なのだが。

 

 敢えて言うならば、今正に猛攻を加えている丸いメカにそっくりの外見をしていたのだ。

 

 そのどこか場違いに感じる戦車が正に白鎧に攻撃を仕掛けようとしていたので……

 

 

《詳しい詮索は後回し。先ずはあの無傷の戦車の相手をしよう》

 

「了解!」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 先ずはEPレーダーを即時展開し、対象の戦車の弱点と思わしき正面装甲にあるセンサーをロックオン。

 

 これで私達の攻撃は必中となり、白鎧に対して誤射するという事は無くなった。

 

 よってここから始まるのは戦闘では無く、一方的な展開であった。

 

 

《先ずはボクから行かせてもらうよ。【陰の化身(パンターフォース)】、【陽の化身(レイヴンフォース)】……蹂躙しろ》

 

 

 紫電の二つのサブ宝剣【黒豹(クロヒョウ)】【八咫烏(ヤタガラス)】を核として姿を変えた忠実な(シモベ)が攻撃を開始。

 

 双方は縦横無尽に駆け巡りながらレーザー攻撃を叩き込む。

 

 そうして怯んだ隙を私のリトルマンティスに搭載されている火器のありったけと紫電本人からのリング状のレーザーを弱点と思わしきセンサーへと必中させる。

 

 当然相手も反撃する筈なのだが、その悉くを紫電の僕達が出掛りを潰している為反撃する事が出来ていない。

 

 なので成す術も無くこの戦車は破壊され、ホログラム能力者と同じように姿を消す事となった。

 

 

《こいつは実に効率的だね。いいシステムだよフェムト》

 

「それは何よりです。……それよりも」

 

《…………》

 

 

 白鎧の方も私達よりも先に戦車を撃破したらしく、私達の方へ臨戦態勢の状態を維持しつつ様子を伺っている。

 

 この戦闘の間も白鎧の事を観察していたのだが、その手際は余りにも洗練され過ぎており、その技巧は頭領さんみたいに長年戦って来た歴戦の戦士を彷彿とさせる物だった。

 

 盾に炎を纏わせた対空攻撃を始め、大型のビーム刃まで発生させる多彩な攻撃を巧みに扱っており、それらは宝剣能力者に打撃を与えるのに十分な威力が秘められていた。

 

 故に、下手をすれば紫電やGVも敗北しうる。

 

 そう思わせる程にこの白鎧は強い。

 

 ……いや、ちょっと待って。

 

 白鎧?

 

 それは確か紫電やニコラが言っていたアキュラと思わしき人物の特徴その物だった筈だ。

 

 よって、紫電が白鎧に対してこう挨拶するのは当然の事であった。

 

 

《やあアキュラ。こんな所で会えるなんて奇遇だね》

 

《…………》

 

《おや、ダンマリかい? キミなら何か嫌味の一つでも飛んでくるかと思ったんだけどね》

 

《…………来るぞ》

 

《うん?》

 

 

 暫定アキュラと思わしき人物が声を出したと同時に、これまでとは比べ物にならない数の戦車がこの地へと降下し、あっという間に私達を取り囲んだ。

 

 

「……っ! 今までのは様子見だって事ですか」

 

《やれやれ、この戦車達の主は無粋な輩みたいだね。折角彼と語り合おうと思っていたのに》

 

《……無粋な輩と言うその内容には同意しておこう》

 

《へぇ……いいのかい? キミの大嫌いな能力者相手に同意しちゃってさ》

 

《……さてな》

 

 

 そう言いながら彼は流れる様に再び盾を構え、私達は臨戦態勢へ移行する。

 

 

《まあ、今回の始末はボクに譲って欲しいかな。折角()()を試運転できるチャンスでもある訳だし》

 

《……好きにしろ》

 

《じゃあ遠慮なく……フェムト、この場に居る戦車達、全部ロックオンしてくれ》

 

「分かったよ。確かにこの状況はアレを使うのにはうってつけだ」

 

 

 そう私が言ったと同時に戦車達から一斉に様々な攻撃が飛んでくる。

 

 緑色の大型の円月輪らしき物。

 

 青色の可視化する程に強力な螺旋状の竜巻。

 

 私のかつてのトラウマとも呼べる爆発する圧縮エネルギー。

 

 バウンドするあの丸いメカと思わしきピンク姿のエネルギー弾。

 

 捕縛機能があると思われる布の弾丸。

 

 これらの全てを時には掻い潜り、時に分厚い正面装甲で受けながらEPレーダーを最大展開し、全ての戦車に対してロックオン。

 

 こうして舞台は整った。

 

 この国のはるか上空に位置するレーザー兵器が搭載された【特攻衛星“星辰”】を紫電が振るい、全てを蹂躙する舞台が。

 

 

 

 

 

 

天に御座す星々の輝きよ

 

我が国を守護する星々の瞬きよ

 

我等に相対する彼の厄災を浄化する煌めきを今ここに

 

 

スプライトフォール

 

 

 

 

 

 

 衛星軌道上に存在する紫電の力によって増幅された星辰による一斉同時砲撃。

 

 数多の光の柱が天から降り注ぎ、その一撃一撃がロックオンによって軌道が物理法則を無視したかのようにねじ曲がり、爆心地に居るはずの私達を一切傷つける事無く戦車達を蹂躙していく。

 

 そうして後に残ったのは私達と白鎧、そしてほんの少しのクレーターのみだった。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 それでも私達は追加の増援が来る事を警戒してしばらく身構えていたが、再び現れる気配は無かった。

 

 

《これで打ち止めみたいだね》

 

(あの嫌な感じは消えたみたい。もう大丈夫かな)

 

「それなら一安心だけど問題は……」

 

《…………》

 

 

 白鎧は丸いメカと共にこちらを警戒している。

 

 あの攻撃を見れば逃げるのが懸命の筈なのだが警戒しつつこちらの様子を伺っているのは自信の表れなのか、それとも……

 

 そんな風に考えていたら白鎧はこちらに対して言葉を投げかけて来た。

 

 

《お前達はアレが何なのか分かっているのか?》

 

《いいや、ボク達もあの戦車を相手にするのは初めてさ》

 

《アレを操る存在は危険だ。直ぐに居場所を突き止め元凶を討滅しなければならない》

 

《まるであの戦車達の事を知っているかの様な口振りだね。じゃあさ、最近ボク達の姫巫女(モルフォ)の歌を聞いてくれない無粋な輩の事も知っているのかい?》

 

《それだけでは何も分からん》

 

「じゃあこれまでに私達が遭遇した相手の特徴を話します。なのでもし知っているのでしたら……」

 

《………………いいだろう》

 

「ありがとうございます。では、私達が遭遇した通称ホログラム能力者の特徴なのですが」

 

 

 私達は白鎧にその特徴を説明する。

 

 黒とオレンジ色の大型のハサミと装甲を兼ね備えた大型クローを両腕に持つ爆発を操ると思われる存在の事を。

 

 赤い糸を用いて様々な攻撃や移動手段を持った羊姿の存在の事を。

 

 

《……なる程な》

 

「私達が遭遇したのは今の所これで全部です。何か知っている事はありませんか?」

 

《それを聞いて相手が誰なのか確信を持つ事は出来た》

 

「それは本当ですか!? ならば是非……」

 

《しかし……》

 

 

 そう言いながら白鎧は盾を構え私達と対峙する。

 

 

 

 


 

緊急ミッション

 

 

 

 

《お前達がヤツと対抗できる力があるのか試させてもらおう。()()()()()()()()()()()を相手に敗北するようでは足手纏いになりかねんからな》

 

「……っ!」

 

《ふぅん……あの戦車達を蹴散らしたのは試しにもならないのかい?》

 

《ならんな。それ位出来て当然だろう?》

 

《言ってくれるね……》

 

 

 だけどあの白鎧はそれを言うだけの力は持っている。

 

 あの戦車の群れも恐らく彼一人で始末することが出来ただろうから。

 

 

《フェムト、リトルマンティスから降りるのが賢明だ。彼が相手では的にしかならないからね》

 

《……そいつは見た限りサポート要員だろう。下がらせないのか?》

 

《おや、こちらの心配をしてくれるのかい? ……本当にキミがアキュラなのか疑わしくなってきたね。お陰で逆に興味がもっと出て来たよ》

 

《……フン》

 

《それに、あまりボクの親友を甘く見ない方がいい》

 

 

 その紫電の言葉と共にリトルマンティスから降り、いつもの鉄扇とワイヤーガンを構え紫電と共に白鎧と相対する。

 

 ……こうして画面越しでは無く直接見た限り、やはり頭領さんみたいな雰囲気を彼は発している。

 

 少なくとも私達が知るアキュラとは別人のように感じるのだ。

 

 だが、その装備は私達持つ技術よりもけた外れに優れていることが戦闘中の解析データから見て明らかだ。

 

 アレの解析をするならば、ワイヤーガン辺りを何回か撃ち込んでデータを収集してから持ち帰って調べる必要がある。

 

 

「お前は……いや、戦ってみれば分かる事だ」

 

「それじゃあ背中は任せたよ。フェムト」

 

「了解」

 

(凄い威圧感……気を付けてね、フェムト)

 

 

 こうして私達は白鎧の相手をする事になるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。
アンケートはこの投稿が終わった時点で受付を終了しました。
その結果、番外編を書きつつ倒錯(えっち)なネタを増やす事に決めました。
私の考える倒錯ネタは駆け出し編辺りから反映される感じになっています。
それと、番外編は話が一区切りついた所まで、或いは気が向いたら書く予定ですので投稿が始まったらその時は活動報告辺りで誘導を行いますのでよろしくお願いします。





〇ミチルちゃんがお話できている件について
歌姫プロジェクトによって増幅された歌を経由して力が流れ込み、およそ一ヵ月位の時間を掛けて体調が回復し、声を取り戻すに至りました。
つまりアキュラくんがこの世界に来たタイミングとある意味ドンピシャであり、あの時ミチルちゃんが話をすることが出来たのはお披露目でもあったという訳です。

〇女性型ワーカーの設定について
この小説内の模造設定です。
まだワーカーと人間が共存していた頃の名残、或いは人類復興の一環です。
決してマザーが創造主とイケナイコトをしようと思った訳ではありません。

〇Pixについて
白き鋼鉄のX2のwikiにある用語集によると「ワーカーを構成するプログラム粒子。墓守含めどのワーカーも素体は共通であり、このPixの違いによって個体差が生まれる。墓守たちを撃破した際、周囲に飛散する」と書かれていたので拡大解釈して【万能粒子Pixさん】みたいな感じで私は考えています。
ガンダムでいう所のGN粒子やプラフスキー粒子みたいな感じ、と言えば分かるでしょうか?

〇この小説内における人類復興について
Pixを上記の説明でこの小説内で定義したのもありますが、そもそもマザーは人類を作り出す事その物は出来ると私は考えています。
ただ生み出す事は出来ても人類の持続可能性を維持出来ず、結果として人類復興は出来ない、みたいな感じです。
多分ある程度数を増やして反乱、みたいな流れが何度もあったんだろうなと想像したりもしています。
マザーの人類の基準が創造主なのでは疑惑を取り入れた前提もありますが。
後、鎖環の設定から考えるに龍放射暴龍の設定が人類復興が出来なかった最大の要因である可能性もあります。

〇イクス世界線の神園家について
ヤツならばアキュラの血縁関係者を片っ端から亡き者にしてそうだなと生えた設定です。
お陰でアキュラくんは色んな意味で大変な事になりますが……それはまた別のお話です。

〇強制ミッションについて
メタ的な話になりますがホログラム能力者を一定数撃破する、或いはデータの収集が一定以上集まる事で発生するミッション。
相手は特殊なボスであったり、ボス戦後に連続でミッションが発生したりする事もあります。
なお、こう言った特殊なミッションは難易度は高めに設定されている代わりにフェムト側もTASで接続できる相手が今回の紫電の様に強力なパートナーだったりします。

〇リトルマンティスの装備について
これ等の装備はミッションクリア、出社、情報解析等を始めとした様々な条件を一定基準で達成すると増える、みたいな感じになっています。
準備している間に装備変更をする、と言った感じになっています。
そして、装備が増える毎にリトルマンティスの基本スペックも上昇する為、装備集めもまた重要になります。

〇スプライトフォールについて
全ての特攻衛星“星辰”のレーザーを一斉発射すると言った感じのこの小説内における模造設定による紫電のSPスキル。
レーザーの威力その物が原作とは別の形でパワーアップを果たしている上に紫電の力で増幅されている為、その威力は原作以上。
本来ならば広範囲を莫大な周辺被害と引き換えに殲滅するSPスキルなのだが、フェムトのロックオンのお陰でその問題も大分改善されている。
とは言え、流石に開けた場所以外での運用には問題が残るのだが……
元ネタは地球防衛軍シリーズにおけるエアレイダーの要請で、謎の女科学者(サテキチおばさん)によるレーザー攻撃要請と言った感じになります。


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第二十一話 極限(イクス)に挑む青き交流(リトルパルサー)

 

 

 

 

 私は改めて暫定アキュラもとい白鎧とお供と思わしきビットを操る丸いメカを見据えるように観察する。

 

 白鎧の装備は合理性と奇抜さが高度な技術力と複雑に合わさりその完成度を高めているように見える。

 

 私も技術者を齧っている事もあり、目の前にある白鎧にある種の芸術性すら感じてしまった程だ。

 

 それでいて自身の持つ装備の力に溺れる事も無く私達を見据えるその姿は歴戦の戦士を思わせる。

 

 言わば完全武装した(フルアーマー)頭領さんを相手にするような物だ。

 

 そしてもう一つ、そんな白鎧と完全に息を合わせた動きをする何処か愛嬌も感じる丸いメカ。

 

 変幻自在に、それでいて多種多様な攻撃を繰り出すのに使うビットを巧みに操り白鎧を掩護するその姿に、何処か比翼連理の言葉が思い浮かぶ。

 

 そう言った動きをする事からあのメカに搭載されているであろうAIも白鎧と同様に、歴戦の戦士と呼んでなにもおかしくは無い。

 

 故にここからは先の戦いの時みたいな無駄口を叩く余裕は無いだろう。

 

 

「フェムト、ここからはボクも無駄口を叩けそうにない」

 

「分かった」

 

「……行くぞ」

 

 

 故に、いつも無理に時間を作って私との訓練に付き合ってくれていた紫電に感謝しなければならないだろう。

 

 こちらのやりたい事、紫電のやりたい事がもう互いに良く分かるようになっていたのだから。

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 私は即座にフィールアクセラレーションを用いて体感時間を加速。

 

 この戦い、僅かな隙を晒せば容赦なくそこから私達は崩れると判断したからだ。

 

 その判断は正しく、白鎧と丸いメカは即座に私を狙って来た。

 

 相手もこちらの動きを見ていたと考えるならそれは当然の、当たり前の選択肢だ。

 

 私はTASの中枢、言わば(ロックオン)を司っている存在なのだから。

 

 

『【ハイドロザッパー】!』

 

「ハァッ!」

 

 

 ビットから射出されるのは凄まじい圧力があると思われる()()()()による攻撃。

 

 ゆっくりとした世界とは到底思えない程の速度で放たれた水を解析した結果、それは自然界には存在しないあり得ない濃度を誇る電解液である事が判明する。

 

 そして白鎧はそんな電解液を盾から大量の水しぶきと言う形で纏いながらの高速移動もかねた突進(シールドチャージ)を繰り出す。

 

 私はこれに対して鉄扇による防御結界(パルスシールド)を用いた受け流し(ガードポイント)で対処する。

 

 頭領さんに教わった鉄扇の技術とニコラから受け取った鉄扇の機能を合わせた複合技術は、広範囲に影響を及ぼす攻撃で無いならばほとんどの攻撃を容易く防ぎきる。

 

 

『嘘、防がれた!? あの子からはEPが検出されてた筈なのに!』

 

「ガンヴォルトとは違うという事か……面白い」

 

 

 私の体感時間内に合わせて同期させた声を拾い上げつつ紫電の方へ顔を向ける。

 

 紫電はもう既に陰の化身(パンターフォース)陽の化身(レイヴンフォース)を嗾けながら攻撃体勢に移行していた。

 

 その動きは私が攻撃を捌き切りつつカウンターロックオンを仕掛ける事を信じてくれたから出来た事だ。

 

 ゆっくりとした時間の中で紫電と目が合う。

 

 ――流石だね。

 

 ――そちらこそ。

 

 互いを信頼出来ている事を嬉しく思いながら、今回の攻撃に思考を割きつつ次の一手の為に動き出す。

 

 あの攻撃は私が雷撃能力者、もっと正確に言えば蒼き雷霆(アームドブルー)である事を前提とした攻撃手段だった事が考察出来る。

 

 何故ならば、拾った会話の情報を元に調べてみた結果、あの電解液ならGVを過剰負荷(オーバーヒート)に持ち込む事が解析結果から見て可能であると判明したからだ。

 

 確かにGVだったらアレで即座に一時的に無力化、或いはチャージングアップを使わせる際の隙を作る事が出来ただろう。

 

 だが蒼き雷霆に出力でどうしようもない差を付けられており、それを補う為に()()()()()()()()()()()()青き交流と、その力を鉄扇の防御結界と言う形で経由する事で防ぎきる事が出来た。

 

 私とリトルにとって戦いの間のEPは貴重な有限リソースである為、電解液にEPを拡散される事は即ち戦闘不能と同義。

 

 つまり、電磁結界(カゲロウ)を使うのは今回の場合悪手になる可能性がある。

 

 

(あの攻撃を電磁結界で受ければそこを起点に青き交流でもEPを全部持っていかれる。あの電解液による攻撃の直撃だけは避けなければ)

 

(むぅ……あのお水、キライ!)

 

 

 いっそ電磁結界をオフにするのも手だと思うがあの白鎧たちの攻撃手段は多種多様。

 

 電磁結界無しで挑むのは無謀な為、状況次第でオンオフを切り替える必要が出てくるだろう。

 

 そうこうしている内に戦局はゆっくりとした時間の中進んで行き、紫電と嗾けた僕達はロックオンした白鎧達に果敢に攻撃を加える。

 

 このまま白鎧に必中する攻撃で成す術無く終わって欲しいと言う私の願いは当たり前のように届くはずも無く、その攻撃は後方に回転するようにジャンプする形で()()されてしまう。

 

 

(……! ロックオンが外れた!?)

 

(フェムト、あのジャンプの瞬間妨害電波みたいなのが検知されたよ。多分それで外したんだと思う)

 

 

 ……この情報は紫電と即座に共有しなければならないが、今の私は体感時間を加速させている状態である為、周りの声を加速した体感時間に合わせて最適化する事は出来るが逆に伝える事は通常の方法では無理だ。

 

 そこでTASを経由して伝える事を試みた。

 

 TASは青き交流と他の第七波動が共鳴し、リトルの中に偶発的に作り出されたEPを用いた特殊戦術プログラムである為、突発的な状況下で追加機能を付与する事も不可能では無い。

 

 ただ事前準備無しで行う事とアビリティと言う最適化した形に出来ない為確実性に難ありなのが欠点なのだが今は四の五の言ってはいられない。

 

 故にシンキングアップを二重に発動させ、新しく構築された並列思考達を用いて機能追加を行う。

 

 それと同時にまだ着地していない白鎧に対してワイヤーガンを発射。

 

 このタイミングでは計算上盾で受け止められる事は確定しているが、それで問題は無い。

 

 何故ならば私の目的はワイヤーを経由したハッキングとロックオンなのだから。

 

 

(これで動きを止められれば御の字、だけどこちらを蒼き雷霆と想定していた相手である以上この手の対策をしてないなんて到底思えないけど、この距離で今出来る私の手札はこれだけだ)

 

 

 そして私の予想通りワイヤーガンはゆっくりとした時間の中で盾で防がれ、弾かれるその刹那の時間を用いてハッキングを試みる。

 

 やはりと言うべきか、そのプロテクトは強固だった。

 

 だけど今の私なら突破は不可能では無かった。

 

 これまで私自身が一日一日を懸命に生きて培ってきた能力の習熟は私を裏切らなかった。

 

 だが、逆に言えば突破するので精一杯でもあった。

 

 なのでロックオンは確定するがデータを収拾するか動きを封じるかは二者択一となる。

 

 個人的にはデータ収集を優先したい所だが白鎧達が相手ではその様な余裕はない。

 

 故に動きを封じる事が最善ではあるのだがそれでも一瞬の間だけになるだろう。

 

 

(ですがその一瞬の、TASを書き換える為の時間が私には必要なんです!)

 

 

 動きを封じる選択をすると同時に私自身も仮想人格達と共にTASの書き換えに参加する。

 

 もう書き換えはほとんど終わっており、私がするのはその後押しだけだった。

 

 

(よし、これで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出来る様になりました!)

 

(早く紫電と連絡しよう!)

 

 

 早速私はフィールアクセラレーションを共有し、思考で紫電と連絡を取る。

 

 

(これがフェムトの加速した体感時間の光景か。珍しい光景だけどコレが毎日だと気疲れしそうだよ)

 

(私としてみれば仕事中はこれが普通なんですけどね。それよりも、相手は即座にこちらのロックオンを外す手段を持っているみたいでこれまでのようにはいかないみたいです)

 

(SPスキルの方はどうだい? アレは確か永続させる事が出来たと思うけど)

 

(まだ試していないので何とも言えません。ですが同じ方法で無効化されたら戦い方を根本的に変える必要があります)

 

(そうだね。複数のパターンを想定しよう)

 

(ロックオンが維持出来なかった場合、或いはSPスキルが外れた場合は一対一にそれぞれ持ち込む形で、維持出来たら一気に決める案でどうですか?)

 

(それで行こう。こう言った相手の場合はシンプルな案で行く方がいい)

 

 

 そういう訳で先ずは私のSPスキルを当てに行く為に改めて行動を開始する。

 

 紫電は改めて僕達と共に白鎧に肉薄し、私もそれに続きながらフィールアクセラレーションを再度発動。

 

 それに対して白鎧はSPスキルらしき攻撃を発動させ、私達を迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

闘争心を糧に燃える灼熱の業火

 

黄昏を呼ぶ鮮烈なる竜巻

 

互いに混じりて炎の嵐と化せ

 

 

フレイミングシャワー

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい炎を纏った大竜巻が私達を襲うが、既に()()()()()だ。

 

 ……短期間でスキルを多く使い過ぎた為、このSPスキルで私のスキルを用いた手段はほとんど使えないだろう。

 

 故に、ここは確実に当てに行く!

 

 

 

 

 

 

天体の如く揺蕩う雷

 

是に到る総てを祓い清めよ

 

 

パルスエクソシスム

 

 

 

 

 

 

 雷の聖域を展開し、炎を纏った大竜巻を防ぎつつ白鎧を弾き飛ばすと同時に永続ロックオンを付与。

 

 それに対してロックオンを解除する事を優先して白鎧は例のロックオン解除と体制を立て直す事を目的とした後方への回転ジャンプ(ロ-リングステップ)を行う。

 

 それと同時に丸いメカが白鎧の周辺にビットを展開するとバリアと共にランダム方向へのレーザーが発射される。

 

 これは恐らく白鎧の隙をバリアとレーザーで補うと言う思惑あっての事だろうが……

 

 

「……そうか、あいつの狙いはコレか」

 

『感心してる場合じゃないよ! ロックオンもそうだけど今の結界で()()()()()()()()()()使()()()()になっちゃったんだよ!?』

 

 

 フィールアクセラレーションの連続使用による負荷もあり、効果が切れて二人の会話が声を拾って最適化しなくても普通に聞こえるようになった。

 

 丸いメカが何かしらのアクシデントに見舞われたのか、大きく動揺している様だ。

 

 

「ボク達の狙いとは別に思わぬ幸運を拾えたみたいだ。……その隙、見逃すボクでは無いつもりだよ。見るといい……」

 

 

 

 

 

 

天が意思、皇の神気

 

仇なす輩を狩り立てん

 

 

サイコフュージョン

 

 

 

 

 

 

 紫電のもう一つのSPスキルである念動力(サイコキネシス)の力による紫色の弾丸が永続ロックオンに導かれアビリティ、ハイプラウドの効果を乗せて白鎧へと殺到する。

 

 当然白鎧は防ごうとするが永続ロックオンによる必中攻撃は防ぎきれず弾丸は強かに白鎧を撃ち、その仮面をはぎ取る事に成功する。

 

 その素顔は歴戦の戦士に似合わぬ端正な顔立ちであると同時にその瞳だけは相応の迫力と何処か意志薄弱な部分が混ざり合ったちぐはぐとした物だった。

 

 

「やっぱりアキュラじゃないか。……だけどキミはボクの知ってるアキュラでは無いね? こうして素顔を見て確信したよ」

 

「…………」

 

「いやはや、どれだけの地獄を味わったらそんな風になれるのか興味は尽きないが、そこを突っ込むのはやめた方が良さそうだね。折角の機会を無駄にしてしまいそうだ。……もうそろそろボク達の事を認めて欲しい物だけど」

 

「……そうだな。これならば足を引っ張る事は無いだろう」

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

 素顔を晒したアキュラからの言葉に私は一安心し、思わずその場でへたり込みそうになった時、彼はそれに待ったを掛ける様に声を掛ける。

 

 

「だがもう少し付き合って貰うぞ」

 

 

 

 


 

 

 

BREAK OUT

 

 

 


 

 

 

 

「どう言う事ですか?」

 

「フェムトと言ったな。お前の事はコハクから話を聞いている」

 

 

 コハクと言えば初ミッションの時にGVに助けられたオウカと呼ばれる女の人と一緒に居た子の名前だ。

 

 私を見て「お姉ちゃんが縮んじゃったよ~!」と言っていたので印象に残っており、その後はオウカと共にGVと知り合いになった事を私は聞かされていた。

 

 

「デパートで助けたあの子と知り合いなんですか?」

 

「ああ。……お前の第七波動(セプティマ)の残滓がABドライブと共鳴している」

 

「セプティマ? ABドライブ? それに共鳴って……!?」

 

 

 その瞬間あの丸いメカから膨大な、それでいて極めて安定したエネルギーが溢れ出す。

 

 

『うわぁ……こりゃすごいや。ABドライブの安定度が跳ね上がってる。これなら……んんんんんーーーー! ドヤァーーーー!』

 

「この反応、電子の謡精(サイバーディーヴァ)!?」

 

「しかもその姿は……!」

 

 

 

 紫電が珍しく声を荒らげる。

 

 それはそうだろう。

 

 目の前で丸いメカが電子の謡精の反応を持った女の子に姿を変えたのだから。

 

 しかもその姿は最近話題になっている希望の歌姫としての姿なのだから、場違いもいい所だ。

 

 そしてその影響を受けているのか、アキュラの背中と盾から()()X()()()が浮かび上がる。

 

 その事に私も突然の展開に驚きを隠せず、思わず過剰に身構えてしまう。

 

 

(リトルは希望の歌姫の事を野生の電子の謡精って言っていたけど、つまりこう言う事だったんですね)

 

(ん。そう言う事)

 

(私の認識のズレ、多分他の皆も一緒だと思うから後で共有しないといけませんね……)

 

『よぉ~し♪ モードチェンジ完了! オーバードライヴ!! そして更に……!』

 

「待てロロ、そこまでやる必要は……」

 

『もうバレちゃってるし気にしない気にしない♪』

 

「そう言う意味では無くてだな」

 

『そんな事言ってぇ♪ 本当は物凄く興味ある癖に♪ ぼくの動力源のABドライブはアキュラくんの精神波とリンクしてるんだからバレバレなんだよ?』

 

「むぅ……」

 

「アキュラ、キミの相棒は実に愉快な子だねぇ。どうしたらこんな風になるのか興味が尽きないよ」

 

「……言うな、紫電」

 

「あはは……」

 

 

 何処か緊張感が抜けすっかり戦う雰囲気では無くなってしまった時、リトルから私に声を掛けられる。

 

 

(ねぇフェムト)

 

(ん? どうしたのリトル?)

 

(あの子、あのままでいいのかな?)

 

(もう戦う雰囲気では無さそうだし問題ないんじゃ……)

 

(私達、このまま()()()()()()()()()()な感じがするんだけど)

 

 

 そんなリトルの言葉に合わせる様に希望の歌姫ことロロから更なる力の波動が流れ出す。

 

 

『普段は火事場のなんとやらなんだけど……ハァァァァァァッ!』

 

「ロロッ! ……全く、仕方のないヤツだ」

 

 

 

 

 

 

SONG OF DIVA(ソングオブディーヴァ)

 

 

 

 

 

 

 ロロは元々高かった露出度の服から更にその姿を変え、色々と際どいながらも白をメインとした何処か神々しい仏を連想させる姿となった。

 

 

『やったぁ! 自力での【モード・アウェイクニング】の発動と安定稼働の実現が出来たぁ!』

 

「……ロロ」

 

『何? アキュラくん』

 

「今回だけだぞ」

 

 

 

 

MISSION START


 

 

 

 

「……紫電」

 

「何だいフェムト?」

 

「今私、ものすっごく嫌な予感がするんですけど」

 

「奇遇だね。ボクもさ」

 

 

 そんな私達の予感は的中したかのように、アキュラとロロは改めてこちらに振り向く。

 

 アキュラは表情を変化させないままだが何所と無く目の輝きが違う気がする。

 

 そしてロロは私達を見ながら飛び切りの()()()()()()()を見せつける。

 

 ……笑顔とは大昔、威嚇から派生した物だと言われている。

 

 つまり、この場合のロロの笑顔の意味は間違い無く……!

 

 

「本来ここまでするつもりは無かったが……まあ、そう言う事だ。もう少しの間だけ付き合って貰うぞ」

 

『行っけぇーーー! アキュラくん!!』

 

 

 

 

READY


 

 

 

 

 そこからのアキュラとロロの猛攻は更に凄まじく、正直この時の記憶はよく覚えていない。

 

 なので戦闘データを見直した際、この時の私はよく生き残れたものだと自分の事ながら感心してしまった。

 

 更にシャリーアライブの発動も確認してしまった為、一度は致命的な一撃を受けていた事を知ってぞっとしてしまったと同時にデータが取れて良かったと言う何とも複雑な感情も抱く事になってしまったのは内緒だが。

 

 逆に紫電はこの時の戦闘を大変有意義な物として受け止めていた為、最強の能力者の一角を担うだけの力と器を持つ存在であると改めて知る結果となった。

 

 この戦闘で紫電は自身の力を限界以上に引き出し、まだまだ自分は強くなれる事を確信して喜んでいた為、紫電にとって今回の戦いは明確に自身の糧になったのだろうと私は思った。

 

 まあ、私の方もTASの完成度が高まった事は結果的に+だと思ってはいるけども……

 

 こうして最後は苦労する事になったけど私達は白鎧ことアキュラ、そして希望の歌姫ロロとの出会いを果たすのであった。

 

 

 

 

CLEAR


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇今回のミッションについて
まさかの三連ミッション。
途中からアキュラにプレイヤー操作が変更されてフェムトと紫電の二人がボスを担当する事に。
メタ的に踏み込むとここで盾イクスさんのチュートリアルを受ける感じです。
このお話の途中でイクスを意識した特殊タグの使い方をしたのはそう言ったメタ的な理由があります。

〇白鎧について
この世界のアキュラの破損した強化ジャケットであるメガンテレオンをイプシロンのデータを元にエクスギアと共に強化した物。
動力源はワーカーの素体の物を参考に今の時代の技術力を基準に作られており、ABドライブ程ではないが従来のバッテリー駆動よりも高いパワーと維持性を誇る。
因みにシールドチャージが合わさったリコイルダッシュや【プロミネンスアッパー】等の盾を用いた対空攻撃等でX(イクス)マークのロックオンが可能。
後二戦目の時はこの鎧の動力源のみだったのだが、三戦目はABドライブに切り替わっている。

〇開幕ハイドロザッパーについて
イクス時空ではハイドロザッパーを蒼き雷霆持ちに撃ち込んだ経験は無かったりしますが、この小説内ではブレイドを相手にその性質を試しており、蒼き雷霆への効果を確認しています。
なので蒼き雷霆が発生させるエネルギーであるEPをフェムトから検知した事から開幕ハイドロザッパーと言う手を打つに至りました。
フェムトの場合電磁結界無しで受ける分には青き交流の制御能力によってEP拡散を防げますが、電磁結界ありで受けると体が電子化した所からEPが流出して一気に0まで持っていかれてしまうと言った感じになります。

〇アキュラくんの水を纏った体当たりについて
ニムロドの水を纏った体当たり(スプラッシュダッシュ)を参考にしており、盾バージョンにおける対蒼き雷霆を想定した物。

〇一部のスキルを共有と思考で会話する事が出来る様になった事について
TASのデータを書き換える事で可能になった物。
だけど戦闘中に突発的にプログラミングした物である為最適化が終わっていない。
後にこの戦闘が終了した後の情報解析にて最適化され、アビリティと言う形で改めて機能追加される事となる。

〇クロスシュトロームが使用不能になった事について
正確に言うと【モードダークネス】が使用不能になった為連鎖的にクロスシュトロームが使用不能になったと言った形です。
ただこれは一時的な物で時間が経てばまた使えるようになります。

〇ABドライブとフェムトの第七波動が共鳴している事について
これに関しては詳しい事は語れません。
ただ語れるのは共鳴する事で安定性がさらに向上する事だけです。
ただ、ABドライブと共鳴するという事は即ち……


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第二十二話 互いの望んだ共依存

 

 

 

 

(うぅ……今日はもう限界です……まだお昼も回って無いと言うのに)

 

(フェムト、お疲れ様)

 

 

 戦いと言う名の蹂躙から何とか命からがら耐えきる事に成功し、結果として新たな出会いを果たす事に成功した私達であったが、その代償は高くついた。

 

 その為話し合いやミッションの報告等は後日に後回しにされる事となり、今日は先の戦いの疲れを癒す事に専念し、後日改めてと言った感じになった。

 

 一応リトルマンティスの電源からEPを拝借してキュアーヴォルトをする、なんて事も出来るし既にやっているのだが、今回の戦いは肉体的な物よりも精神的な疲れが激しい事もあり身体だけは元気、みたいな状態となっている。

 

 ここまできつかったのは頭領さんの所で初めて訓練をした時以来であり、その時は頭領さんにおんぶをして貰ってベッドまで運んでもらっていた。

 

 その時に比べれば今の私はかなり心身ともに鍛えられていると思ってはいたのですが、その自信は今日粉々に粉砕されてしまった。

 

 とまあそれは置いといて、今私はリトルマンティスを返却しそのまま我が家へ帰る道中に差し掛かっている。

 

 精神的な疲れが元気な筈の身体の方にも表に現れているせいか、足取りが重く感じる。

 

 この辺りまで来れば玄関までもう少し……と言う所で頭の中から私を応援する優しい声が響く。

 

 

(フェムト、もう少しだから頑張って)

 

 

 それは何て事は無い、いつものリトルの声。

 

 だけど疲れが溜まってしまっているせいか、そんなリトルの声にゾクゾクとした心地よさを感じてしまう。

 

 

ほらフェムト、がんばれ。がんばれ。もう少しでエリーゼにいっぱい()()()()出来るよ。エリーゼとフカフカするの、とっても気持ちいいよ。いっぱい甘やかしてもらえるよ。いっぱいお返ししてもらえるよ。だから、がんばれ。がんばれ

 

(……リトル、どうして頭の中に響かせる声を小さくしてるんですか?)

 

こうするととっても気持ちよくなれるからだよ。……私ね、コレを最初にフェムトにして貰った時、とっても心地よかった。凄く()()()()した。それにフェムトはこう言ってたよね? 疲れてる時はキモチイイコトをするのがいいって。こんな風にお話しすると気持ちよくなれる事を教えてくれたのは、フェムトだよ? だからフェムトも気持ち良くなって。私の声で、癒されて

 

 

 ……リトルは今意図的に小さな声を頭に響かせて【ASMR】を私に施している事が判明した。

 

 ASMR、正式名称【Autonomous Sensory(オートノマス・センサリー・) Meridian Response(メリディアン・レスポンス)】と呼ばれ、この国の言葉に翻訳すると【自律感覚絶頂反応】と言う言葉になる。

 

 このASMRとは今から大分昔の超大型の動画投稿サイトで流行り出した物で、例えば雨粒が傘に当たる音であるとか、焚火をした時の音であるとか、出来立ての揚げ物を食べた時の音のような、所謂マニアックな音を聞く事で脳をじんわりと浸透、刺激する事でとろけるような快感を頭に優しく注ぎ、ストレスを癒すと言った物だ。

 

 確かに今のリトルの声は聴いていてとても心地よい物ではあるのだが、今それに委ねてしまうと既に見えている玄関前で眠ってしまう。

 

 

(リトル、このままでは私は寝落ちしてしまいます……)

 

いいよフェムト。後は私にまかせて

 

(リトル……?)

 

私がフェムトの事、運んであげる。フェムトは今日いっぱいがんばったんだから、休んだってバチは当たらないよ? 眠ってる間は、全部私に任せて。身を委ねて、楽になろう?

 

 

 玄関前までたどり着き、リトルの方から変身現象(アームドフェノメン)が解除され、私は解除されたささやかな反動にも逆らえずそのまま倒れそうになってしまう。

 

 だけど、そんな私を宝剣状態(人の姿)に戻ったリトルがそっと支え、今にも意識が途切れそうな私の耳元から脳へと浸透させるか細い声を届ける。

 

 

フェムト、私、役に立ってるよね? フェムトの力になれてるよね?  いらないって思ってないよね?

 

 

 そんな事、私が、思う訳、無い。

 

 むしろ、()()()()……

 

 

私に何でもしていいよ? 私に何でも頼っていいよ? ()()()()()()()()()() だからお願い。そばに居て。ううん、一緒に居させて。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ……リトルの様子が、おかしい。

 

 なのに、もう、意識が……

 

 私がこの時最後に見たのは、玄関の開いたドアの先に居る慌てた様子のエリーゼの姿だった。

 

 

 

 


サイドストーリー

 

 

 

 

 洗濯物を干す為に玄関のドアを開けたらリトルちゃんとフェムトくんの姿がありました。

 

 フェムトくんはリトルちゃんに抱きかかえる形で意識を失ってしまっており、リトルちゃんは今にも涙が零れ落ちそうな程顔を歪ませてフェムトくんにか細い声で呼びかけている。

 

 その声の内容は要約すれば「一緒に居て欲しい」と言った物で、この時のリトルちゃんの瞳からは光沢が消え、何処か遠くを見ている虚ろな目をしており、正気を失っている状態と言っても良い有様でした。

 

 

……ぁ。 エリーゼ、見ちゃダメ!!」

 

「……リトルちゃん?」

 

「やだ……やだやだ! 捨てちゃやだ! 離れちゃやだ! 一緒に居て! ずっと一緒に居て!」

 

 

 気を失っているフェムトくんを抱きしめながら、わたしに対して倒錯したかのように八つ裂きに声を荒らげるリトルちゃん。

 

 ……リトルちゃんは、時々こんな風にフェムトくんやわたしに発作を起こした時みたいに縋りつきながら一緒に居て欲しいと言ってくる事があります。

 

 こうなってしまった切欠はフェムトくんが皇神グループに入社する前、まだ施設に居た頃のお話まで遡ります。

 

 この施設においてフェムトくんの事を研究していたニコラさんと呼ばれる研究者さんがいました。

 

 その人がある日の出来事を切欠に疎遠になってしまった事があったのですが、これはフェムトくんを皇神グループに入社させる為にあれこれと手を回していた結果そうなってしまっただけでした。

 

 ですが、()()()()()()()()()()()()()()()が無くなる訳では無いのです。

 

 この疎遠になっている間、フェムトくんは潜在的にニコラさんに【捨てられた】と思っていたとわたしに当時の事を話していました。

 

 そして、このフェムトくんの想いは当然その一部であるリトルちゃんも抱いている想いです。

 

 なので、主にわたしやフェムトくんの前で何か失敗をする事が引き金(フック)になってリトルちゃんはこうなってしまう……と言う訳なのです。

 

 なので、私はいつもこうしています。

 

 

「ふぁ……フワフワだぁ……」

 

「大丈夫。わたしはリトルちゃんを……フェムトくんを捨てたりしないですから」

 

 

 リトルちゃんの腕の中に居るフェムトくんも含めて一緒に二人を抱きしめる。

 

 離さない事を誓うかのように、強く、力いっぱい。

 

 こうやって力いっぱい抱きしめる事でリトルちゃんに絶対に離さない事を行動で伝える事で、いつもリトルちゃんは落ち着きを取り戻してくれます。

 

 

「……ごめんねエリーゼ。またやっちゃった」

 

「ううん。リトルちゃんがそうなっちゃうのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()からでしょう?」

 

「……ん」

 

 

 リトルちゃんはフェムトくんの一部。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事でもあります。

 

 リトルちゃんは、言わばフェムトくんの潜在的な代弁者と言っても良いのです。

 

 リトルちゃんのワガママは大体フェムトくんが本当にしたい事だったりしますので、気持ちが筒抜けであるとフェムトくんは恥ずかしそうに不満を漏らす事がありますが、わたしはそんな風に思っていません。

 

 なぜならば、その筒抜けになった想いはわたしに対して向けられた物がとても多いからです。

 

 それも、わたしの事を大切にしていると言う想いが。

 

 だからリトルちゃんの事も普通に受け入れることが出来るんです。

 

 

「よしよし……」

 

「んぅ……もっと撫でて……」

 

「ふふ、うりうり♪」

 

「あぅ、えへへ♪ ……エリーゼ、一緒にお風呂入りたいな」

 

「いいよ。お風呂はもう何時でも入れるようになってるからね」

 

「やったぁ♪ お風呂♪ お風呂♪」

 

「眠ってるフェムトくんも、一緒に入れちゃいましょう」

 

「うん! ……あのねエリーゼ、お願いがあるの」

 

「? なあにリトルちゃん?」

 

「私とフェムト、今日はいっぱい頑張ったの。だから……」

 

「だから?」

 

「エリーゼの()()()が欲しいなぁ……」

 

 

 リトルちゃんの目が艶やかに、妖しく輝く。

 

 先ほど元気を取り戻した時の様な明るく活発でくりくりとした瞳では無く、明確に()()()()()()を表に出した、魔性の瞳。

 

 フェムトくんと同じような背丈で、幼さを前面に出したその姿とのギャップは余りにも激しく、わたしから見ても今のリトルちゃんの姿は酷く倒錯した淫らな物でした。

 

 こんな風にリトルちゃんがわたしの事を見ているという事は当然、フェムトくんもわたしの事をこんな風に見てくれているという事です。

 

 そう、()()()()()()()()()()()という事なのです。

 

 フェムトくんとリトルちゃんはわたしの()()では無く、()()()()()()を求めてくれている。

 

 わたしの髪の先から足のつま先まで、その全部を。

 

 その事が、リトルちゃんを通じて真っ直ぐ伝わってきます。

 

 なので髪を撫でていた手を耳へと移し、焦らすように優しく優しくなでなでします。

 

 

「んぅ……」

 

「どうしようかなぁ……♪」

 

「やぁ……エリーゼ、意地悪しちゃやだぁ……んむ」

 

 

 わたしの空いた手の人指し指をリトルちゃんの口の中へと優しく挿入し、舌を優しくぐりぐりします。

 

 そのぐりぐりに合わせてリトルちゃんは身体を痙攣させ、心地よさそうにしている反面何処か物足りなさそうな切ない表情を今の私に向けています。

 

 ……今のリトルちゃんはフェムトくんを抱えている状態。

 

 なので今のわたしは色々な意味でやりたい放題です。

 

 

「ぷぁ……エリーゼ、焦らしちゃヤダぁ……もっと強いの。もっと強いのがいいよぉ

 

「リトルちゃん。わたしの事、そんなに欲しいの?」

 

欲しいよ。エリーゼがいっぱい欲しいよぉ……

 

 

 フェムトくんと出合う前、わたしはわたし自身を求められる事はありませんでした。

 

 親からは諦められ、通っていた女子高の同級生からはキモいと突き離され、挙句ゲーム内でも不要と切り捨てられる始末でした。

 

 そして心無い研究者達からもわたしは求められず、()()()()()()が求められ、挙句の果てには能力を有効に使える疑似人格達が求められ、私は、私自身が求められる事はその時まで決してありませんでした。

 

 ……だからこそ、わたしをそう言った切り捨てから守ってくれたフェムトくんの事が好きになりました。

 

 当時はあまり好きじゃ無かった能力を操る訓練にも積極的につきあってくれて、私自身も嫌っていた生命輪廻(アンリミテッドアニムス)をありのままに本音を交えて受け入れてくれたのも嬉しかったです。 

 

 わたしを否定せず、その上で能力も受け入れてくれたフェムトくんのお陰で私自身、生命輪廻を受け入れる覚悟を持つ事が出来ました。

 

 そして……フェムトくんと結婚を前提とした付き合いをするようになりました。

 

 

エリーゼ、お願い。もっと強いの、して。もっと、()()()()させて……

 

 

 リトルちゃんは涙の溜まった淫猥な瞳を蕩けさせ、顔を赤くしてだらしなく開いた口から透明な粘液が垂れ、まさに夢心地といった感じになっています。

 

 ……あぁ、キモチイイ。

 

 求められるのが、キモチイイ。

 

 もっとわたしを求めて。

 

 もっとわたしを好きになって。

 

 わたしが居なくなったら寂しくて死んじゃうくらい好きになって。

 

 

「今はダメ」

 

「ぇ……」

 

 

 涙目でショックを受けてるリトルちゃん、カワイイ……♪

 

 そんなにわたしが欲しかったんだ……

 

 欲しくて欲しくて、たまらなかったんだね♪

 

 あぁでも、これ以上はリトルちゃんが可哀そう。

 

 だから……

 

 

「ここは玄関だよリトルちゃん。……続きはお風呂で、ね?」

 

 

 

 


エリーゼと訓練

 

 

 

 

 

 気が付いたら私はお風呂の中で二人と一緒に()()()()()()()をしてました。

 

 それもあって精神的な疲れも癒され、また元気を取り戻す事が出来ました。

 

 ……あの後疲れを始めとした色々な要因があったとは言え意識を失ってしまったのは不覚でした。

 

 まあ過ぎた事を悔やんでも仕方がありませんので、今日の余った時間はエリーゼの訓練に付き合う事にしました。

 

 とは言え、訓練と言っても本格的な物では無く所謂組手に近い物ではあるのですが。

 

 

「えい! やぁ!」

 

「ふっ! せい!」

 

 

 我が家にある専用のトレーニングルームで変身現象した私とエリーゼの声が響く。

 

 エリーゼの手にあるのは私と初めて出会い、戦った時に使っていたクナイ。

 

 対する私の手にあるのはもうすっかり私の手に馴染んだ鉄扇。

 

 互いが持つのは奇しくも両方とも暗器と呼ばれる種類の特殊な武器。

 

 最初はゆっくりと、型を合わせる様に互いの武器を合わせる様に動き、徐々にその速度を加速させていく。

 

 エリーゼのクナイの扱いは私経由で頭領さんに見て貰っていたので、その型の基礎は例の名前を出せない裏組織の物。

 

 それに加え、この訓練は私がエリーゼの事を任されてから始めた物なので、今やエリーゼの動きも堂に入る立派な物だった。

 

 

「はぁ! そこ!」

 

「ふっ! はっ!」

 

 

 私の足を払うようななぎ払いに対してエリーゼは一歩下がり、流れる様にクナイを私の腕に切りつけようとする。

 

 それを読み切っていた私はなぎ払いの勢いを舞を踊るかのように利用して開いた鉄扇で受け止める。

 

 甲高い金属音がトレーニングルームに響き渡る。

 

 お互いに目を合わせ、鏡合わせの様に距離を取り、構えを取る。

 

 構えを取っているエリーゼの姿は実に堂々とした物。

 

 最初の頃のビクビクしていた頃の面影はすっかり無くなり、今はその表情に自信すら満ち溢れている。

 

 

「それじゃあ準備運動はこのくらいにして……本番、いってみますか」

 

「はい! よろしくお願いします、フェムトくん!」

 

 

 私はリトルが人型の時に使っている鉄扇を左手に持つ。

 

 対するエリーゼもクナイを左腕に持つ。

 

 お互い二刀流の状態になった上で訓練を再開する。

 

 切る、払う、受ける、避ける、突く、下がる、振り向く、受け流す。

 

 二刀流になった事で互いに手数が増え、自然と訓練は白熱した物に変化していく。

 

 我が家のトレーニングルームはこう言った変身現象を行った能力者同士の衝突にも耐えられる上に防音設計されている為、熱が入ると自然とそうなってしまうのだ。

 

 この時の私達はまた違った意味で繋がりを感じている。

 

 こんな風に熱の入った訓練と言うのは一歩間違えれば大怪我をするし、実際に初期の頃は何度か私達の間で事故を起こした事もある。

 

 だけどそう言った積み重ねを得た上で互いを信頼し、技を競い合う。

 

 終わった後で録画したデータを見直し、次に生かし、そしてまた訓練をと繰り返す。

 

 そうしている内に、私達は互いの手が手に取るように分かるようになった。

 

 普段から互いが互いを求めている事もあり、そんな領域に至ったのもまた早かった。

 

 

「ひとつ! ふたつ! みっつ!」

 

「ふん! せい! たぁ! ふっ!」

 

 

 リトルと同調し、最適化を行う時とはまた違う感覚。

 

 互いを想い合っているが故の独特な繋がりの感覚。

 

 あぁ、出来る事ならば……ずっとこんな風に続けていたい。

 

 だけど、それは互いの体力が限界になる事で幕を下ろす事となる。

 

 激しく強かに、互いの得物を打ち付ける衝撃で私達は動きを止めた。

 

 

「終わっちゃいましたね。……もう少し、続けたかったなぁ」

 

「私も同じ意見です。もっとエリーゼと舞いたかったですね」

 

 

 その言葉と共に私達は変身現象を解除。

 

 リトルが再び姿を現し、エリーゼはボディラインが強調された姿からスポーツウェアの姿へと戻り、その手に宝剣【布都御魂(フツノミタマ)】を携える。

 

 

「フェムトとエリーゼの訓練、すっごくキレイだったよ。それに、今までで一番長かった」

 

「ありがとうリトル。これは見直すのが楽しみですね」

 

「わたしもです。……貴女もそう思うでしょう? 【アニムス】」

 

 

 エリーゼの呼ぶ声に対して宝剣が紫色の優しい輝きを以て答えを返す。

 

 アニムスとはエリーゼの生命輪廻に対するあだ名。

 

 普段から【アンリミテッドアニムス】と呼ぶのは名前が長すぎる為、エリーゼは自分の能力の事をこう呼んでいる。

 

 その性格はリトルが言うには母性溢れるお姉さんと言った感じらしく、最近のエリーゼはとても明るく元気になってくれた事を心から喜んでいるとの事。

 

 

「リトルちゃん、アニムスは何て言ってるか分かる?」

 

「えっとね……『二人がとっても仲良しで嬉しいわぁ。ねぇエリーゼ、結婚式はいつかしら?』って言ってるよ」

 

「ちょ……アニムス!?」

 

「結婚式は私が十八になったらですよ。アニムス」

 

「ふぇ……フェムトくん!?」

 

「責任はしっかり取ります。だから安心して下さい」

 

 

 私のこの答えに満足したのか、アニムスは自身を封印する宝剣を淡い輝きで数回瞬かせた後、沈黙した。

 

 リトル曰く、宝剣を光らせて意思を伝えるのは大変なんだとか。

 

 ……最近宝剣をリトルと同じようにヒューマノイドの姿にしようと宝剣開発部の人達は気合を入れているらしい。

 

 何でも、リトルから得られたデータは物凄く重要だったらしく、それのお陰で元々の宝剣とは関係ないヒューマノイドの品質が劇的に向上し、その利権が宝剣開発部の懐に飛び込んでフィーバー状態なのがその理由。

 

 つまり、予算制限が大幅に緩和されたのだ。

 

 それだけでは無く、リトルを見て宝剣をヒューマノイド型にしてみたいと名乗る能力者もおり、その一人がメラクだと言う。

 

 まあ、彼のそのめんどくさがりな所を考えれば名乗りを上げるのは納得出来るけど、ヒューマノイド型の宝剣の面倒はリトル以外の事が分からない為不明だ。

 

 そんなギャンブルに付き合って大丈夫なのかと内心思ったけど、これは私が決める事では無いので何も言わない事にした。

 

 さて、話を戻そう。

 

 訓練も終わり、改めてエリーゼの姿を見る。

 

 以前のデータよりも全体的にしなやかに鍛えられ、そんな身体を全身汗だく状態のスポーツウェアがより一層魅力を引き上げる。

 

 普段の長い髪もヘアバンドで短く纏められ、そのお陰で普段見えないうなじが見えている。

 

 

(……この姿を見れるだけでも、エリーゼとの訓練に付き合う価値があるんですよね)

 

「……? どうしたのフェムトくん?」

 

「エリーゼは今日もカワイイなって」

 

「うん! エリーゼは今日もカワイイ!」

 

「もぅ! 二人共! 全く、しょうがないんだから……

 

 

 顔を赤くしたエリーゼと共にトレーニングルームを後にする。

 

 その後、お互い汗だくだったのでお風呂へとまた入り、私達は汗を流すのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。






〇リトルの依存について
リトルはフェムトの過去に負った心の傷、そして第七波動の「宿主の役に立ちたい」と言う本能が複雑に絡み合った結果生じた物。
主に自分が原因で失敗してしまうとそれが切欠(フック)となり、フェムトとエリーゼを自身に依存させようとあらゆる手段を講じてくる。
その片鱗は十九話辺りで見ることが出来、今回の場合はパルスエクソシスムが結果的にロロをパワーアップさせた事が引き金になっている。

〇エリーゼの依存について
エリーゼはフェムトに出会うまでに友達は愚か両親からも見捨てられている(と設定している)為、求められる事に強い欲求を感じている。
なので自分の事を初めて必死に求めてくるフェムトとリトルがそれはもう魅力的に映ります。
それこそ、自分の全てを捧げてもいいと思える程に。
なのでフラグはしっかり立てましょう。

〇フェムトの依存について
フェムトは強靭な理性によってそう言った依存とは無縁……ではありません。
これに関しては本人も自覚しておらず、本能が巧妙に理性を操っていると言う良く分からない状態になっています。
具体的に言うと、「無自覚に相手を依存させる」
これに関しては心の傷も要因の一つではあるのですが、本命はフェムトの性癖。
この対象は以前は居なかったのですが、今はエリーゼが居る為この本能が全力稼働している状態です。
一見エリーゼに対して自立を促そうとあれこれ催促している様で、実は色々と雁字搦めに離さない様にしている感じです。
こうした要素が複雑に混ざり合って凄い速度で恋人同士となり、今の関係が出来ている、と言った感じです。

〇この世界の依存に対する認識について
激重依存ソングを歌う電子の謡精(サイバーディーヴァ)モルフォが大人気である事から、お察しください。

〇エリーゼと訓練について
エリーゼと出合った初期のころから始めていた物ですが、メタ的にシステム開放される条件はトークルームで心の繋がりを沢山得る事で開放されるシステム。
フェムトと()()()()()()()()()()()が出来る様になる。

〇アニムスについて
フェムトと出合ったばかりの頃はアニムスに対して否定的でしたが、第七波動に意思が存在すると知った事と、フェムトが告白の際に「能力も含めたエリーゼの全て」を肯定した事が切欠で少しづつ向き合う様になり、現段階ではこうして話が出来る様になりました。
その軌跡の断片は十七話で見ることが出来ます。
性格は母性溢れるお姉さんで、エリーゼの境遇を憂いていたのだがフェムトが現れて一安心している。
声のイメージはグラブルのハーゼリーラ。


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第二十三話 インターミッション(三回目)


なにもない一日

 

 

 

 

 かすかに昇りはじめている朝日の光が私達の部屋のカーテンの隙間から優しく差し込んで来る。

 

 その光に私は目を覚まし、私の腕の中の愛しい温もりも同時に感じた。

 

 温もりの正体は淡いピンク色のシルクのネグリジェを着たエリーゼだ。

 

 私自身身長は高く無い為正確にはエリーゼの上半身に背中から抱き枕みたいに抱きしめている状態で、私の両腕はエリーゼの腋を経由して両肩を包むと言った状態である。

 

 そんな状態である為、必然的に彼女の体温やスベスベしたシルクと女性特有の柔らかさを持った背中の感触だけで無く、光沢を纏ったサラサラな銀色の髪からチラリと見えるうなじが視界に入った。

 

 場所が場所だけに手入れが大変だと言いながらも、毎日欠かさず手入れがされている彼女のうなじ。

 

 そこから発する言葉に出来ない魅力が私の寝起きの脳髄を侵食し、判断力を根こそぎ奪い取る。

 

 そんな魅力にやられた私はうなじに顔を埋め、より強くエリーゼの体温を感じ取った。

 

 少し寝汗を掻いていた事もあり、何処か甘く感じる匂いが私の嗅覚を刺激する。

 

 その甘い香りは男である私の脳が彼女の寝汗に含まれているフェロモンによる錯覚なのは分かってはいるのだが、逆らう理由も無い事もありそのまま息を鼻から吸い込んで、香りを堪能した。

 

 

「スゥーー……ハァーー……」

 

「ん……」

 

 

 私は間違い無く第三者視点で見れば気持ち悪い行動をしている。

 

 恋人が出来る前はこんな事して何が楽しいのか、意味があるのかと冷めた目で見ていたと言うのに。

 

 やはり男とは、本気で好きな人が出来ると馬鹿で気持ち悪くなってしまうのだろうと私は思う。

 

 そして、そんな風になった事を私は嫌だと思わない。

 

 誰かを本気で好きになると言うのは、理論や理屈を容易く粉砕するほど強い力を秘めている。

 

 私はそれを、身をもって現在進行形で体験していた。

 

 何しろ、好きな人(エリーゼ)体の一部(うなじ)だけでこうも容易く私は夢中になってしまうのだから。

 

 

「スゥーー……ハァーー……」

 

「んぅ……」

 

 

 私の静かな吐息がエリーゼのうなじに吹きかかる。

 

 その度に聞こえる悩ましげな声は、私の耳を幸せにしてくれている。

 

 甘い匂いが少し強くなる。

 

 私はそのままうなじに口付けをして、優しく吸い上げる。

 

 まるで吸血鬼が美女に対して吸血行為を行うかのように。

 

 

「ん……」

 

「ゃぁ……」

 

 

 口の中を経由して、甘い香りが私の口腔を満たす。

 

 肌の体温が私の舌に伝わって来る。

 

 甘い香りと寝汗によるかすかな塩気の味が舌の上で複雑に混じり合う。

 

 舌を経由した電気信号が脳髄を侵食し、もっとよこせと私の身体を突き動かす。

 

 先ほどよりも強く私の口で痕が付く程強くうなじを吸い上げる。

 

 エリーゼの口から、明確に甘い嬌声が響き渡った。

 

 

「あぁっ! …………すぅ」

 

 

 ……ここまでされたら間違い無く目を覚ますはずだ。

 

 なのにエリーゼは寝息を立てて動く気配が無い。

 

 その代わり、私の鼻から先ほどよりも強い匂いが流れ込んで来る。

 

 エリーゼの背中から伝わって来る心臓の音が少しづつ早くなっているのを私は感じた。

 

 トクン、トクンと、安らぎを与えてくれる音が木霊となって私の身体に伝播する。

 

 間違いない。

 

 エリーゼは目を覚ましている。

 

 目を覚ました上で()()()()()()()()()()()()

 

 それを確かめる為に私はエリーゼの口元に指を近づけ、唇をそっとなぞる。

 

 私からの()()の合図だ。

 

 嫌ならば口を開かずそのまま眠っていればいい。

 

 では、嫌じゃ無ければ?

 

 その答えは私の指が温かく湿った感触で包まれる事で判明する。

 

 

「ん、んぅ……れろ……」

 

 

 わざと音を強く上げ、唾液を舌で塗して私の指を吸い上げる。

 

 でも指が一本だけでは物足りないのか、吸い上げる力や舌先の動きがどこかぎこちない。

 

 私は既に入れている人差し指と合わせて中指もエリーゼの口へ挿入する。

 

 待ってましたと言わんが如く二本の指を口腔の喉元寸前までくわえ込む。

 

 フリーだった両腕が私のくわえ込んだ指のある手をそっと支え、本格的に口腔と舌で歓迎の奉仕が始まった。

 

 そう、これがエリーゼ側からのOKの合図の一つだ。

 

 この誘いとOKの合図は状況によって色々と違うのだが、今回の様に一緒にベッドで眠っている場合はこんな感じのやり取りを行う。

 

 

「ふぁん……あふ……んく、んく……っ!」

 

 

 口の中にある舌を二本の指で優しく挟み込み、人差し指で表面を優しく擦る。

 

 爪を立てず横にかきだすように指を動かし、全体を刺激した。

 

 動かす度に体を震わせるエリーゼに、私はそっと耳元に優しく息を吹きかける様に囁きかける。

 

 

今日も始まるよエリーゼ。甘く苦い、なにもない(退廃的な)一日が

 

ふぇふと……ふん(フェムト……くん)

 

今日はお互い、いっぱいダメになりましょう。理性を捨てて、ケモノになってしまいましょう……

 

 

 ASMRめいた声を届けたと同時に身体が大きくビクンと痙攣し、私の手を抑えていた両腕から力が抜けたのを確認して手を引き抜く。

 

 エリーゼの舌と私の指の間に刹那に出来る光の線が奉仕をしていた事を瞬間的に、それでいて淫らに主張する。

 

 そんなエリーゼをベッドの正面にあるパネルミラーへと向けて抱き起こし、私は舐める様な視姦でその姿を楽しんだ。

 

 何処か虚空を見つめているかの様な瞳から歓喜の涙が流れ、私の指を奉仕していた口は力なく半開きの状態でだらしなく一筋の光を垂れ流す。

 

 先のやり取りでボタンが外れたネグリジェが着崩れ、胸元が辛うじて隠れている淫猥な姿が私を昂らせる。

 

 さあこれから余韻に浸っているエリーゼをどう可愛がろうかと考えていた私の視界に、さっきまで同じベッドに眠っていた筈のリトルが起き上がって姿を現す。

 

 寝ぼけた瞳で私達を視界に収め、その瞳はたちまち意味深な物へと姿を変える。

 

 その瞳はエリーゼを捉えた後、真っ直ぐに愛嬌のある可愛らしい顔を近づけ、自分の唇をゆっくりと舌を回しながら粘液を塗しつつゆっくりと、まるで捕食者の様に四つん這いに迫る。

 

 口を開け、力無く半開きになったエリーゼの唇にリトルの唇はついに到達し、舌を這わせる。

 

 舌の粘膜をマーキングするかのように塗し、吸い上げる。

 

 その刺激で再びエリーゼの身体がビクンと跳ねる。

 

 このエリーゼの反応に満足し、唇を堪能していたリトルが満を持して口腔へと舌を侵入させる。

 

 

「んぅ……ふぇりーぜろしら、おいひぃ……(エリーゼの舌、おいしい……)もっろ、もっろぉ……(もっと、もっとぉ……)

 

 

 互いの粘膜が絡み合う心地よい調べが奏でられる。

 

 求める気持ちの強さが高まったのか、エリーゼの後頭部を両手で自身の方へと押し付け、激しさが増していく。

 

 調べが奏でられる度に、身体が震え悦んでいる事が抱きしめている私に伝わって来る。

 

 力が抜け、成すが儘に貪られるエリーゼ。

 

 そんなエリーゼを嬲るように捕食するリトル。

 

 二人が私の視界でもたらす淫靡な光景に元々崩壊していた理性が泡となって消え……

 

 こうしてなにもない(退廃的な)一日は本格的な始まりを迎えるのであった。

 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

 なにもない一日を過ごした翌日の朝、台所からまな板で材料を切る音が小気味良く響く。

 

 テーブルに食器を置いた音が完成した料理を待ちわびる。

 

 

「フェムトくん。こっちはもう終わったよ」

 

「ありがとうエリーゼ。後はこっちで仕上げるよ」

 

「うん。それじゃあわたしはリトルちゃんと一緒に洗濯物を干しに行くから、それが終わったら朝ご飯にしましょう」

 

「ええ。よろしくお願いします」

 

 

 こうして当たり前のようにエリーゼと生活するようになって暫く経つ。

 

 最初はお互いぎこちなかった物だったのだが、今ではすっかり互いの息が自然と合う様になり始めていた。

 

 流石にまだ私の年齢の関係もあって夫婦を名乗る訳にはいかないが、それなりに同居生活を続けた仲睦まじい恋人同士と名乗ってもいいとは私は思う。

 

 

(……よし、これで出来た。先ずは味見を……エリーゼはもうちょっと濃い方が好みだった筈だから……よし、これで大丈夫)

 

 

 出来上がった料理を大皿に乗せ、小皿等が既に用意されているテーブルへと運び、中央に置く。

 

 その後冷蔵庫にあるオレンジジュースの入ったクーラーポットを取り出し、既にテーブルに用意されていた三つのコップに注ぎ込む。

 

 これで朝食の準備は終わり、後はエリーゼ達を待つばかりになったと同時に洗濯物を干し終わった二人が戻って来た。

 

 

「あ、フェムトくんの方も終わったんだね」

 

「ええ。こうやってお互いの行動がぴったり終わると、なんだか嬉しくなりますよね」

 

「うん。わたし達、息が合ってるって感じがいいんですよね」

 

 

 そうお互い語り合いながら自然と距離が近くなる。

 

 私はエリーゼの頬に手を添え、エリーゼもまた私の頬に手を添える。

 

 お互い見つめ合い自然と()()()()()()()が流れ始め――

 

 

「二人共! ()()()()()のはご飯食べてからにしようよ!」

 

「「……っ!」」

 

 

 ――なかった。

 

 リトルが顔を膨らませ、抗議する事で私達は朝ご飯を食べ始める。

 

 リトルはご飯の事になると優先順位がそう言った事よりも高い。

 

 なので、改めてリトルに促される形でテーブルにあるイスへと座り、食前の挨拶を済ませて朝食が始まった。

 

 

「はいエリーゼ、あーん!」

 

「あーん。……ふふ。ありがとうリトルちゃん。それじゃあお返しにどうぞ。あーん」

 

「はむ! ……えへへ♪ やっぱりフェムトのご飯、エリーゼに食べさせてもらうと元々美味しいのがより一層美味しく感じる!」

 

 

 二人が仲睦まじそうにあーんをしている光景はとても微笑ましく、思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 それを心のアルバムにそっとしまい込みながら私はご飯に手を付けようとすると……

 

 

「今度はフェムトだよ! はい、あーん!」

 

「フェムトくん。あーん」

 

 

 二人があーんを私に対してしてくれた為、私はそれに応えてあーんと口を開け、頂く。

 

 料理そのものは私が作った物なのでその味はお馴染みの物の筈なのに、このあーんの儀式によって何倍も美味しく感じる。

 

 ただこうして食べさせ合っているだけで美味しく感じてしまう辺り、我ながら単純であると思いつつもそれを受け入れている私が居る事に気が付く。

 

 こんな光景も今や我が家では当たり前の物となった。

 

 それはとても喜ばしく、幸せな事だと私は思う。

 

 

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

 

 だからこそ私は時々こう思う事がある。

 

 何時かこの幸せは終わってしまうのでは無いかと。

 

 二度と訪れる事の無い日々になってしまうのではないかと。

 

 こうしている間に近くでホログラム能力者が姿を現し、我が家を攻撃したら――なんて事をふと考えてしまう。

 

 これもまた、幸せを得た代償なのだろうか?

 

 

「……フェムトくん、また難しい事考えてる」

 

「……顔に出ちゃってましたか」

 

「うん。まあ、それだけじゃ無いんだけどね」

 

 

 そう言いながらエリーゼの胸元に不安そうに顔を埋めるリトルを私に見せる。

 

 私の不安がリトルへと伝播して、ああいった行動を取らせてしまったらしい。

 

 

「……この幸せが唐突に終わってしまうんじゃないかって、思っちゃってね」

 

「…………」

 

「今私、自分でも信じられない位幸せなんです。時々命懸けな事もありますが、毎日が充実していると言ってもいいです」

 

「それだったら……」

 

「だからこそ、不安になってしまう。唐突な終わりをふと考えてしまうんです。我ながら贅沢な話だと分かってはいるんですけどね」

 

 

 私は現状の幸せゆえの不安をエリーゼに話す。

 

 それを聞いたエリーゼは私の頬に手を優しく当てつつ撫でながら口を開く。

 

 

「大丈夫です。そんな辛さはわたしが忘れさせます」

 

 

 手から伝わる体温が私の不安を温めながら溶かしていく。

 

 私を見つめる慈愛に満ちた瞳が幸せの代償等と言う私の考えを石化させ、急速に風化させる。

 

 それはさながら、ギリシャ神話に登場する怪物に変えられた美少女と謳われるメドゥーサの魔眼の如く。

 

 

「きっとこれからもそう言った事は何度もあると思います。ですが、その度に忘れさせます。フェムトくんがわたしの事をここまで引っ張ってくれた時の様に」

 

「エリーゼ。……ありがとう」

 

 

 これからもきっと、私のこうした不安や恐れはエリーゼの持つ慈愛(石化)の瞳によって何度も風化させられるのだろう。

 

 そう思いながら、私は手から伝わる体温を愛おしく思うのであった。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 私は前のミッションの愛嬌のある戦車との戦い及びアキュラとの戦いの戦闘データの解析を進めていた。

 

 アキュラとの情報交換及びミッション報告は後日日を改める形となった為、今の内にこう言った作業を済ませる事も必要だ。

 

 あの戦車は戦闘力は十分宝剣能力者で対処出来る相手ではあるが、数が凄まじく紫電のSPスキルを使わなければ被害を抑えて対処するのは難しかった。

 

 なのでその分得られたデータは控えめな為、これだけではアビリティを得るのは無理だろう。

 

 そしてアキュラとの戦闘データに関してなのだが、こっちでは突発的なプログラミングをした事もあり相応にアビリティが増やせそうだ。

 

 

(一部のスキルをTASを経由して共有する【スキルシェア】、TASを経由した思考会話を可能とする【TASテレパス】、追いつめられる程に攻撃力が上がる【ハイスイブレード】、同じく追いつめられるほど防御力が上がる【ケンシュシールド】。プログラミング以外のデータでは追いつめられっぱなしだっからそれに対応したアビリティが組めましたね)

 

 

 これで次にあの状態のアキュラの相手をする時、少しはマシになる……筈。

 

 


 

 

GET ABILITY スキルシェア TASテレパス ハイスイブレード ケンシュシールド

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇なにもない一日について
メタ的な所で言う所謂【スキップ機能】。
アキュラとの戦闘で消耗した為大事を取ると言った形でこれのチュートリアルが始まる。
ミッションや出社、情報解析等を一切せずにその日を飛ばすのに使われる。
そもそもこの期間は制限時間が存在する為今回の話以降使われる事はまず無い……のだが、スキップすると特殊なCGが回収出来る感じになっており、その上この選択を選び続ける度に回収できるCGがどんどん過激に倒錯的になっていくプレイヤーの好奇心を狙った罠めいた側面が存在する。
その為なにもない一日を選び続けてフラグを立てられずにバッドエンドに突入するプレイヤーが少なからず存在する……と言う設定。
今回の話の内容は手に入るCGの内容を詳細に語った感じになっており、話は途中で終わるが、その後は正しく退廃的な一日を過ごす事になる。

〇リトルの三大欲求について
まず食欲が最優先されます。
その次に性欲、睡眠欲と続く感じになります。
なので目の前にご飯がある時にイチャつこうとすると抗議されます。
但し皆で性欲発散中にお腹が空いた場合は別の挙動を取りますが、詳しくは番外編で語る事になると思います。

〇フェムト達がやたらイチャコラしてる件について
身体が若く一つ屋根の下に一緒に暮らしている恋人がいる。
突発的に正しく絶望的な技術格差を理解しつつ命懸けの情報収集を行っている。
この二つが重なった事に加えてフェムトが元々は後方支援専門で一般人メンタルであった為生存本能が強く刺激された状態となってしまって()()()発散させる必要が出てくる感じとなっている。
GVなんかは原作開始時点で覚悟完了している戦闘者だったし、シアンは恋人と言うより保護者的な要素が強かった違いも表している。
こう言った理由以外にはこの三人がこう言った事を良くする事を読者の皆様に印象付ける「仕込み」が理由でもあったりする。
何でそんな事をする必要があるのかはまだ語れませんが、暫く後でまた解説をする予定。

〇現小説が仮にゲームになった場合の仮定について
良く「メタ的に」とかみたいなゲームになった場合の事をここで話しているのですが、淫帝=サンが作った場合とファンによる年齢制限ありの同人ゲームの場合を想定しています。
淫帝=サンの場合は倒錯要素は全カットした上でストーリーも必要最低限でアクション関係に力を入れてくれる感じになり、同人ゲームの場合はアクション関係は大味でストーリーとかキャラゲー要素、倒錯要素が山盛りみたいな想定をしています。
ちなみにどうして年齢制限ありの同人ゲームの想定もしているのかと言えば、そもそも現小説は「二次創作」なので、ゲーム化するなら同じ二次創作な同人ゲームだろうと考えているからです。


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第二十四話 敵対者の正体 紫電の覚悟



サイドストーリー





 オレ達との戦闘で激しく消耗していた紫電とフェムトが回復するまでの間、その時の戦闘データからEXウェポンを作成する為に一度元の世界へとオレ達は帰還していた。

 久しぶりの第七波動能力者(セプティマホルダー)から作成するEXウェポンであった事に加え、再現する能力の難易度と同時進行している作業も相まって思ったよりも時間が掛かってしまっている。

 だが今日それは終わりを迎え、遂に完成するに至った。


「EXウェポン【ツインフォース】。ようやく完成したか」

『紫電の戦闘データから作成したEXウェポンだけど、あの厄介な二体の動物メカを再現した物だよね?』


 紫電が従えていた陰の化身(パンダーフォース)と呼ばれる黒豹を模した(シモベ)陽の化身(レイヴンフォース)と呼ばれる神話に登場する八咫烏(ヤタガラス)を模した僕を再現したEXウェポン、それがツインフォースだ。

 オレの居た世界ではアメノウキハシでガンヴォルトと遭遇戦をする事となり、結果当時のオレが敗北してしまった為紫電と直接戦う事は無かった。

 それが理由で戦闘データが無かったのだが、メガンテレオンの改良型である【スミロドン】のデータ取りの際に遭遇した()()()()()()()()()()()()()()()()との遭遇戦の時に出会い、成り行きで戦闘データを得る事に成功する。


「ああ。一度展開すればアンカーネクサスの様に常時展開しつつ、オレを掩護するようになっている」

『ん~……。データを見る限りだと効果は凄そうだけど、持続時間が短そうだね。それに一度展開する度に【ワイドサーキット】みたいに消費が激しいみたいだし』


 特に力の強い第七波動能力者(セプティマホルダー)からEXウェポンを作成する際、効果は高いが消費が激しく常用出来ないモノが多い傾向にある。

 紫電は当時ガンヴォルトを上回る戦闘力を持つとされていた第七波動能力者。

 故に、その効果も消費も文字通りケタ違いと言えるだろう。


「その問題は【LPCS】で【ムゲントリガー】と合わせれば解消出来るはずだ」

『それって、例の共鳴現象を再現する為の?』

「ああ。スミロドンの予備動力源も兼ねた新しい動力機関だ」


 正式名称【Little Pulsar(リトルパルサー) Control System(コントロールシステム)】。

 青き交流(リトルパルサー)第七波動能力者(セプティマホルダー)であるフェムトが持つ第七波動(セプティマ)を解析して作られた火器管制システムと予備動力機関の性質を併せ持った複合動力機関。

 紫電と共にサポートに徹していたフェムトの第七波動の残滓にABドライブが共鳴した事に興味を持ち、作成した物だ。


『ワーカーの動力源を元にしてるから、スミロドンに換装するのも簡単だったよね』

「互換性を持たせていたからな。当然だ」

『じゃあ早速試してみる?』

「いや、先にツインフォースの試射を試す」

『了解だよ!』


 オレはこの場に的であるターゲットを用意。

 出現したターゲットをロロが目視すると同時にツインフォースを発動する。


『うわぁ! 本物に比べて小さくてカワイイなぁ。ミチルちゃんも喜ぶかも!』

「お前のビットで再現するとどうしてもそのサイズになってしまうんだ。仕方があるまい」

『いやいや、むしろ可愛くてお得だってぼくは思ってるからね?』

「だが、戦闘においてそう見られるのはあまりいい事では……」

『いいんだってば! まったくアキュラくんったら、変な所でズレてるんだから』

「……お前がいいならそれでいい。早速指示を出してみてくれ」

『分かった! それじゃあ……いっけぇーーー!』


 ロロの指示に忠実な二匹の僕達(ツインフォース)は我先にと競う様にターゲットを破壊していく。

 一度指示を出してしまえば後は自動で指定したターゲットを攻撃してくれるため、単純に手数を増やすのにも便利だろう。

 攻撃の指定方法はロックオンしなければ近場の敵を、した場合はロックオン対象者を優先的に狙う設定になっている。


『こりゃあいいや! ボクがもう二人増えたみたい!』

「手数が足りなくなったらコイツに頼るのも悪く無いだろう」

『だね! じゃあ試射も終わった事だし、そろそろ本命行ってみる?』


 ロロがスミロドンの起動をオレに促す。


「そうだな。先ずは起動させて見なければ何も始まらん。――スミロドン起動。Pix粒子全開放(フルアクティブ)。装着開始」


 オレはそれに応え、機械の身体の全身からスミロドンのデータが入ったPix粒子が広域に展開される。

 オレの周りに展開された幻想的に白く輝くPix粒子がオレの身体全体に収束し物質化。

 瞬く間にオレはラフな格好から起動したスミロドンの装備を完了させた。


「装着完了。ロロ、このまま無接触給電を」

『OKアキュラくん! それじゃあ行くよ! えいや!』


 ロロからの給電が始まり、改めてオレの精神波とABドライヴがリンクする。

 前回の戦闘データの時は青き交流の残滓によってあの現象は発現した。

 それを再現する為にオレはLPCSを開発し、こうして再現実験を始めたのだ。


『キタキタキターーー!! ABドライヴとの共鳴を確認! このままオーバードライヴしちゃうよ!』


 ロロがあの時と同じ様にモード・ディーヴァの姿に自力で姿を変える。

 戦闘中はあまり気にしていなかったが、その姿の解像度は以前の物と比べてより細かく、それでいて立体映像特有の僅かなノイズすら発生していない。

 それ所かそのまま出歩いても今のロロを立体映像だと触らなければ見抜けない程姿がハッキリしている。


「よし。そのままの状態を維持してくれ。これよりデータ収集を開始する。……ABドライヴ出力の最高出力理論値を極めて安定した状態、いやコレは……全く変動が無いだと? 最大出力を、()()()()()()()()()()()()()()()()()出来ているのか。ロロ、調子はどうだ? お前視点の意見を聞きたい」

『えっと、ちょっと待ってねアキュラくん。……この状態だと普段の変身前の姿よりもすっごく楽だなぁ。何て言うか、負担が全く無い感じだね。いつもだったらもっと気合入れたりとかしなきゃいけないのに、今は特に自然体で維持出来ちゃってるし』

「それに、エネルギーロスが0に近い。……この挙動、【ダークネストリガー】とは真逆の性質を持っているらしいな。無駄なエネルギー消費を極限に無くし、その上で最大のパフォーマンスを叩き出している」


 ロロの意見と今オレの前で解析されたデータを見る限り、LPCSを加えた後のロロの稼働データは新たな次元へと昇華されていた。

 ABドライヴの出力を理論値まで上昇させ、ブレが無くその状態を維持させる規格外の安定性。

 それでいてロロ本体に対して負荷を全くかけないエネルギー運用効率。

 各パーツの消耗も通常のABドライヴの稼働時よりもずっと消耗が少ない。

 メカと調和し、その性能を最大限に引き上げつつ負担を減らす。

 このLPCSはABドライヴの欠点を理想に近い形で補強している。

 まるで、それが当然だと言わんがばかりに。


『真逆の性質を持ってるって事は……あーーー! だからあの時クロスシュトロームが使えなかったんだ!!』

「あれはダークネストリガーを限定開放する事が前提のSPスキルだからな」


 そう考えるとダークネストリガーはお役御免になるかと一瞬考えたが、それは無いと考えを改める。

 ロロに対する負荷も大きく、エネルギー運用効率も劣悪でパーツの消耗も激しい欠点もあるEXウェポン。

 だが、ダークネストリガーはABドライヴの出力を理論値以上に上昇させる利点がある為使えない、という事は無い。

 それにダークネストリガーが使えなくなったのは真逆の性質を持っていたが故の対消滅では無いのだ。

 あの時、雷の結界によって弾き飛ばされたオレ達はダメージが無かった事もあり、即座に反撃のクロスシュトロームを放とうとしていた。

 その為に一時的な暴走の力を開放させようとしたのだが、一方的に青き交流の残滓に整った力に変換されてしまった事でロロのモードチェンジが阻害される。

 それによってクロスシュトロームにエラーが生じてしまい、使用不能になってしまったという訳だ。


『何て言うか、ぼくにとっていい事された結果エラーが出ちゃったのはちょっと複雑な気分』

「だが、この時のABドライヴ出力の数字を見てくれ」

『わお! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そう言う事だ。上手く組み合わせれば現状のクロスシュトロームを、いや、モード・ダークネスを更に強化する事も出来るだろう。これはプログラミングの問題だからな。直ぐに出来るからそのままの状態で居てくれ」


 クロスシュトロームの挙動を制御するプログラムの書き換えを行う。

 ダークネストリガーによる暴走の力でABドライヴ出力の限界を突破しつつLPCSで反動を打ち消すプログラムを追加。

 これにより、理論的にはダークネストリガー及びロロのモード・ダークネスは限界を突破(ブレイク)するだろう。

 そして余りにも効果も反動も強すぎる事が理由で採用を見送っていたアビリティ【ダークネストリガーX】も同時に採用する事すら出来る可能性が出て来た為、起動が成功したら後にコレも試す予定だ。


「これでよし……ロロ、試してみてくれ」

『分かった』


 ロロは先の時とは違い真剣な表情でダークネストリガーを起動。

 初めて起動させた時にオレを傷つけてしまった事に加え、今回の起動実験は新しく機能追加された事もあってロロは慎重に段階的に起動させ、それに合わせて段階的に紫色を伴った姿形へと変化。

 最終的に紫色の揺らめく焔が顕現する事で変身が完了するのだが、まずこの焔に変化が起きる。


「…………」


 オレは不覚にも、その変化した焔に見とれてしまっていた。

 以前の焔は何所か禍々しさを感じる物があったのだが、今の焔は何処までも透き通った蒼天の空を思わせる色をしていた。

 それでいて極めて安定しているのが理由なのか、その揺らめきは全く無く、明確に光の翼の形となって姿を現す。

 その光の翼からはあのガンヴォルトが能力を行使した際に発生する天使の羽の様な物が舞い散り、ロロをより幻想的に引き立てる。

 そして次に、先ほどまでは紫色の姿形だったのがさらに変化を起こした。

 ロロを包む鎧の色が藍色に、それでいて以前の焔と同じような禍々しさが無くなり、その姿はまるで神話における戦女神を思わせる。


『……モード・ダークネス、起動完了』


 理性を維持しようと集中する為に目を瞑っていたロロの目が開かれる。

 その色は以前の物なら虚空を見つめる紫色をした瞳だった。

 
『どう? アキュラくん。ぼく、どこか変じゃない?』

「…………」

『アキュラくん、そんなに呆けちゃってどうしたの? まさか、何か異常が見つかったんじゃ……』

「……っ! ああ、すまんロロ。姿形が変化していたから驚いてしまってな」

『えぇ!? それって大丈夫なの!?』


 今のロロの瞳もあの蒼天の焔と同じ何処までも透き通った色をしており、更には理性の光まで含まれている。

 ……オレは見惚れていた事を誤魔化すように今のロロのデータを閲覧する。

 ダークネストリガーの欠点が、ほぼ完全に打ち消されている。

 流石にエネルギー運用効率やパーツ消耗率は出力相応に増しているが、それでも通常起動時と同じくらいのブレに収まっている。


「少なくともデータ上の問題は無い」

『ほ……それなら良かったよ。またあの時みたいに理性が暴走してアキュラくんの事を傷つけちゃったらって思ってたからさ』

「それについてはクロスシュトロームを実装させた時点で克服していただろう?」

『それでもだよ! ぼくはもうあんなのはゴメンなんだからね!』


 そんな事を言いつつこの実験に協力してくれるロロに内心感謝しつつ、オレは改めてロロに今の姿をモニターで確認してもらった。


『え……? この姿ってモード・ダークネスを発動させたぼくだよね?』

「ああ」

『……ねぇアキュラくん』

「なんだ?」

『この姿じゃモード・ダークネスって名前、分不相応になっちゃってる様な気がしない?』


 言われてみればその通りだった。

 今のロロの姿は一言で表せば神話に登場する戦女神と言った出で立ちだ。

 ならば当然名前を変更する必要が出てくるだろう。


『うーん。……そうだ! ヴァルキュリア! 【モード・ヴァルキュリア】ってのはどう?』

「戦場で生きる者と死ぬ者を定める女性の名を冠した名前か……お前がそれでいいならオレは構わん」

『やったぁ! じゃあこれからはこの姿の事、モード・ヴァルキュリアって事でよろしくね、アキュラくん!』


 新たにモード・ヴァルキュリアの姿を獲得したロロはご機嫌になってオレにそう答えた。

 その後、何処まで暴走の力を引き上げる事が出来るかを検証する為にプログラムで出力調整を繰り返す。

 そして、ある一定のライン――具体的に言うとダークネストリガーXを起動させてさらに出力を上げた時、ロロの姿がモード・ダークネスに戻った。


『あらら、モード・ダークネスに戻っちゃった』 

「この辺りが限界のラインか。……どうだロロ?」

『以前の物とは比較にならない位楽と言えば楽だけど、このままで居るのはちょっとだけ辛いかなって思う位になってる感じだね』

「分かった。リミッターはここで設定しておこう」

『これでクロスシュトロームは復活した訳だけど、またあの雷の結界を張られちゃったら使えなくなりそうだけど大丈夫?』

「それはモード・ディーヴァ、モード・ヴァルキュリア、モード・アウェイクニングでも使用可能にする事で解決できる筈だ。使えなくなったのはあくまでモード・ダークネスのみを前提にしていた事が理由だからな」

『そっか。ならこれで一安心だね!』

「そう言う事だ。……さて、そろそろ各モードのEXウェポンの試射を始めよう。それと、戦闘機動も含めた挙動のチェックも済ませなければ……」

『えぇ~~~~!? ちょっとぼくの事酷使しすぎじゃない? それに向こうでの集合時間に間に合うの?』

「ブレイクホイールの転移時の時間設定を弄れば問題無い。それに酷使とは言うがLPCSのお陰で負担はかからない筈だ」

『あ! それズルイ!』

「そういう訳だ。もう少し付き合って貰うぞロロ。普段お前のシュミに付き合わされているんだからこの位ガマンしてもらう。ミチルの安全も掛かっている訳だしな」

『むぅ……ミチルちゃんの名前を出されたら断れないよ。全く、しょうがないなぁアキュラくんは。仕方がないから付き合ってあげる。だから感謝してよね!』

「どの口が言う」

『この口が言う!』


 そんな憎まれ口を言いつつ嫌な顔をしないロロにオレは内心感謝しつつEXウェポンや新たに設定したクロスシュトロームの試射を試すのであった。
 








EXウェポン「ツインフォース」と「スミロドン」と「LPCS」を獲得!


               OK               










 

 

 

 

 今日はミッション報告及びアキュラとの情報交換を済ませる日。

 

 あの時私の消耗が激しかった事もあって紫電達から心配されてしまい少し日を跨いで休むように言われていた。

 

 その間に色々と精神的に癒された事で完全復活。

 

 エリーゼとリトルの二人には物凄く色々と頑張って貰ってしまった為、私は正直感謝してもし足りない気持ちで一杯だ。

 

 

「エリーゼ。行ってくる」

 

「行ってきます! エリーゼ!」

 

「いってらっしゃいフェムトくん、リトルちゃん」

 

 

 私は変身現象(アームドフェノメン)をしつつ紫電が待っているであろう対ホログラム能力者前線基地へと足を運ぶ。

 

 複数の映像だけのモルフォが飛び交い人々を癒す大通りを見下ろす形で屋根伝いに移動する。

 

 

(エリーゼと特訓をしていた時も思いましたが、身体のキレと呼べばいいのでしょうか? それが体感できるくらい良くなっている感じがしますね。これもあの時の戦いを経験することが出来たからでしょうか?)

 

(私の方も、前よりも多くリソースが馴染んだ感じがする)

 

 

 これは恐らく私視点の話になるが、極限戦いを経験する事で生存本能が刺激された為多く階位が上昇(レベルアップ)したのだと推察出来る。

 

 それをこの道中で体感しつつ、私は紫電の待っている基地へと足を運び門番の人に挨拶を済ませる。

 

 

「おはようございます。任務遂行お疲れ様です」

 

「おはようございます、フェムト殿。……顔付きが少し変わりましたね。また一つ壁を越えましたか?」

 

 

 門番の人……いや、門番の人に変装した頭領さん直属の忍者が私を見てこう答えた。

 

 ……やはり、分かる人には分かるみたいだ。

 

 

「ええ。お陰様で。ただそれと同時に私自身の実力不足が更に良く分かりました」

 

「自身の足りぬ所を自覚し、克服する。それを繰り返して人はやがて一人前となるのです。これからも精進してくだいませ。フェムト殿」

 

「分かりました。……あぁそれと、頭領さんによろしく伝えておいてください。その内顔を見せに行きますので」

 

 

 そう言ったやり取りの後、私は門を潜り紫電の元へと足を運ぶ。

 

 その間、様々な人達とすれ違ったのだが、どこか私を見る目が変わったように感じる。

 

 ある者は何処か畏怖するかのような眼差しを。

 

 またある者は尊敬の眼差しを。

 

 その事を私は不思議に思っていたのだが、ふとデイトナと紫電の言葉が脳裏を過る。

 

 

『しかし、フェムトも【SPスキル持ち】になれたのは朗報だぜ』

 

『コイツを扱えるのは一握りの能力者だけだ。つまり、扱える奴は一目置かれるんだぜ。周りの連中からな。つまりだな、もうお前を舐めてかかる奴は早々出ないって事だ』

 

『お前は小せえし女顔なのもあって完全にって訳にはいかねェだろうが、SPスキルを持つってのはそれだけ大きな意味があんのさ』

 

『キミがSPスキル持ちになれた事は今日一番の朗報だよ』

 

『何しろ能力者部隊において本来上の立場になる為の必須技能だからね。コレのある無しは扱いが本当に変わる。キミの場合は特別待遇で上の立場になっていたからより強く実感すると思うよ』

 

 

 そう言えば少し前から私はSPスキル所持者となっていた。

 

 つまり彼らのこの視線は、私がそうなった事を知ったからだ。

 

 

(むぅ……なんかこの視線、むずむずする)

 

(私もです。しばらくすれば慣れるとは思いますが、ちょっと変な感じですね)

 

 

 今までの私の場合はどこか微笑ましく、悪く言えば侮られて見られる事が多かったのもあり、こう言った視線に対して戸惑うばかりだった。

 

 ただまあそれでも少しだけそう言った視線があったのだが、周りの同調圧力めいた物を感じているらしく、いつもならその手の人が私の耳に聞こえそうな嫌な噂を言うような事は無かったが。

 

 そんな風に私は色んな人達からの視線の変化に戸惑いながらも紫電の居る部屋へと到着。

 

 ドアをノックし、中へ入る。

 

 中の時計は予定時刻より三十分ほど早い時刻を指示していた。

 

 

「やあフェムト。この前は大変だったね」

 

「ええ。お陰様で」

 

「……うんうん。顔付きが少し変わったね」

 

「私の顔って、そんなに分かりやすいですか?」

 

「自分の本当の成長はなかなか気が付きにくいモノだからね。こう言ったモノは第三者の方が気が付きやすいのさ」

 

「そう言う物ですか」

 

「……その様子だと、もう大丈夫みたいだな」

 

「……っ! ええ、お陰様で。あの時は随分ひどい目に合ったと思ってましたけどね」

 

「アレは流石に済まないと思っている。オレも未知の現象に少々張り切り過ぎていた」

 

 

 中には特注のオフィスデスクで座って待っていた紫電とその横で腕を組んで待っていたアキュラの姿があった。

 

 紫電の姿は何時もの物だが、アキュラの姿はあの白鎧を略式に装備したかのような軽装を身に纏っている。

 

 戦いの時に使っていた仮面は無い代わりに眼鏡をつけており、その手の人達から絶大な人気を集めそうな姿を今のアキュラはしていた。

 

 

「その恰好、怖い位良く似合ってますね」

 

「言うな。好きでこんな恰好をしている訳では無い」

 

「はは。良く似合ってると思うよ。()()()()()()

 

「余りからかうのはやめてもらおうか、紫電」

 

「いいじゃないか。この位」

 

「……どうやらまた痛い目を見たいらしいな」

 

「ふふ……」

 

 

 アキュラと紫電、互いが何処か意味深な表情をしながら臨戦態勢に入ろうとしているが、私は特に慌てる様子も無く見守っている。

 

 何故ならばこのノリは普段の紫電とデイトナのやり取りに極めて似ていたからだ。

 

 口でああだこうだ言いあって喧嘩になりそうでも何故かそうならない、独特な空気。

 

 どうやら私が来る前から話し合っていたらしく、二人はもう相応に話せる仲になっているらしい。

 

 そんな風に私が想っていると、そんなアキュラ達の頭上から女の子の声が響き渡る。

 

 

『ふっふ~ん。ぼく達と一緒にコーディネートしたんだから当然さ!』

 

「……っ!」

 

『おっとごめんよ。驚かせちゃってさ。ぼくがネットでは希望の歌姫って呼ばれてるのは知ってると思うけど、名前はまだだったよね? だから改めて自己紹介しちゃうね。では、オホン。ぼくの名前はロロ。今やこの国で大人気な国民的バーチャルアイドルモルフォに挑戦する歌姫さ。よろしく! フェムト()

 

 

 ……?

 

 今私を呼ぶとき違和感があった様な……まあ嫌な感じはしなかったから大丈夫でしょう。

 

 それよりも、この丸い球体の姿をしたメカがあの希望の歌姫と呼ばれる存在、ロロだ。

 

 この丸いメカを見ただけでは希望の歌姫と結びつけるのは難しいのだが、私はもう既に彼女が変身する事を知っている。

 

 その実力に裏打ちされた歌唱力もだ。

 

 まあそれは兎も角、これで役者は揃った。

 

 先ずはミッションの報告を私の口から済ませる。

 

 ミッション内容は紫電も一緒だった為厳密に言えば必要無い行為ではあるのだが、形式的には必要なのだ。

 

 

「……以上を纏めるとホログラム能力者は現れず、代わりに【ホログラム戦車】が出現。これらをこの場に居る私達が始末してミッションは終了。と言った所です」

 

「うん。報告(茶番を)ありがとうフェムト」

 

『……こんな面倒な事、普段からやってたんだね』

 

「記録を残すと言うのはそれだけ大事なのさ。政治でも議事録を残すなんて事をしているだろう? それと一緒さ」

 

「ご苦労な事だ」

 

「ボクとしては無視してもいいんだけど、それをすると何処からともなく痛くもない腹を探られてしまうのさ。嫌になっちゃうよ。全く」

 

「紫電の場合立場が立場ですからね。腹を探られる過程で関係者の事も調べ上げられて、みたいな感じになっちゃうんですよね」

 

「場合によっては冷たく突き放す発言も必要になって来る。例えばイオタに対して駒であると言い切ったりね」

 

『……そんな嫌なコトまでして、どうして皇神グループで上を目指そうとしてるの?』

 

「この国を守るのに必要な事だからさ」

 

「……そろそろ始めて貰おうか、紫電」

 

「だね。そう言えばアキュラ、流石にこの場での記録を残さないといけないから、キミをどう呼べばいいのか教えて欲しいんだけど。流石にそのままアキュラと残すのは不味いだろう?」

 

「イクスだ。オレは一部の人達からそう呼ばれている」

 

「イクスか……じゃあフェムト。アキュラの名前は全部イクスで処理するようにお願いね」

 

「分かったよ、紫電」

 

 

 こうしてアキュラとの情報交換が始まった。

 

 先ずあのホログラム能力者について話を聞く。

 

 

「まずお前達が一番最初に目撃したヤツの名前は【クリム】。【起爆(デトネーション)】の第七波動能力者(セプティマホルダー)だな」

 

「君の居た地域では第七波動(セブンス)能力者の事をそう呼ぶのかい?」

 

「ああ。……次からはこちらに言葉を合わせよう」

 

「そうしてくれると助かるよ」

 

「続けるぞ。……生前表向きはカリスマ美容師として人気があったらしいが、それはあくまで表の姿。奴の真の姿はその第七波動が示す通りの【放爆魔】だ。それのせいなのか分からんが、無作為に選ばれる【翼戦士】と言う存在に抜擢されている」

 

「翼戦士……嫌な響きを感じるね」

 

 

 紫電が嫌な響きと感じるのは「翼」の部分にテロリスト組織であるフェザーを連想させたからだ。

 

 だが、このアキュラの語るクリムと言う人物及び翼戦士と言う存在は今の皇神グループには存在しない。

 

 その事を私はアキュラに指摘すると、難しい顔をして考え込んでしまった。

 

 これは多分、なんて説明したらいいのか分からないと言った状態なのだろう。

 

 

「正直な話、コレをお前達に言っても信じて貰えるか分からん」

 

「うん? 何か突拍子も無い事でもあったのかい?」

 

「そもそもだが、お前達はオレをアキュラと認識しているのは分かっているが、お前達の想像するアキュラとは何処かがおかしいと思っているか?」

 

「そりゃあ勿論! 違和感だらけさ。ボクの知るアキュラは復讐者。他人には決して心を開かず、会話する事も無い孤独者」

 

「故に、もし能力者が遭遇してしまったら戦うか逃げるしか出来ない存在であると、私達は認識しています」

 

『わお! 実に的確な()()アキュラくんへの人物像だねぇ』

 

「……そうだな」

 

「うん? 昔のだって? それじゃあキミはまさか……いやそんな事、そもそも可能なのかい?」

 

「可能ではありますよ。但し「理論上」なんて言葉が付け加えられますけど。【可能性世界】の存在は一部の学者達が存在を主張していました」

 

 

 つまりここに居るアキュラは、この世界に居る私達が認識しているアキュラとは別人。

 

 そして、何処から来たのかと言えばまだ私達の時代でも仮説扱いされている可能性世界からやって来た。

 

 つまりこういう事だ。

 

 

「つまりここに居るアキュラは私達とは違う別の世界からやって来た存在と見て間違い無いでしょう」

 

「……オレが言うのも変な話だが、それを信じるのか?」

 

「信じますよ。と言うか、信じざるをえません。その前提が加わった事でどうしてホログラム能力者達と明確な技術格差があるのか分かりましたし」

 

 

 この言葉をアキュラが聞いた瞬間、何所と無く目が輝いた気配を感じた。

 

 この感じは例えて言うならそう、不器用な友人が共通の話題を見つけたかのような、そんな感じだ。

 

 

「分かるのか」

 

「ええ。具体的には百年位差が付けられている感じですね。解析率はまだ半分も行っていませんが」

 

「フェムト、ボク達とヤツらでそこまで差が付けられていたのかい? 初耳だよ」

 

「あの場でそんな事を言ったら紫電は変に抱えようとするじゃないですか」

 

「だけどねフェムト、ほうれんそう(報告 連絡 相談)を怠るのはどうかと思うんだ」

 

「それはこの場で話した事で許して下さい」

 

「全く、しょうがないなぁ」

 

『ねぇ、アキュラくん……』

 

「分かっている。ここからはお前達がオレを信じている事を前提に話す。よく聞いておけ」

 

 

 ここからアキュラから齎された情報は極めて重要な物だった。

 

 アキュラの居た世界の話。

 

 セプティマホルダー、マイナーズ(無能力者)、翼戦士。

 

 これらの情報をアキュラは詳細に語ってくれている。

 

 そして、私達にホログラム能力者を嗾けている相手を知る。

 

 その正体は【人類進化推進機構スメラギ】を掌握していた管理AI【デマーゼル】。

 

 嘗てアキュラの居た世界で能力者だけの世界(ディストピア)を目指し、無能力者の完全駆逐を目論んでいた存在だ。

 

 

「ここで【ファウンデーションの誕生】の登場人物である宰相の名前が出てくるなんてね」

 

『フェムト君ってば、そんな古典の名前良く出てくるよね』

 

「……? 何を言っているロロ。一般教養だろう?」

 

『いやいやちょっと待って、流石にコレを一般教養何て言うのはちょっと無理があるんじゃない?』

 

「少なくともドット絵の詳細よりずっと有名な筈だ。……話を続けるぞ。ヤツは何らかの方法でこれまでオレが倒した翼戦士達を再現させる力がある」

 

 

 そう言いながらアキュラは私達にその当時の戦闘データの動画を見せる。

 

 そこに移されていたのは私達の知る装備では無く、機動力に特化したであろうアキュラの姿。

 

 そんなアキュラが私達がデイトナと二人掛りで苦労し撃退した羊の能力者を相手に無傷で優位に立ち、これを撃破。

 

 その瞬間、私達にとってはもはやお馴染みのホログラムが消える様に姿を消す死んだはずの翼戦士。

 

 これを見た瞬間、私の中の技術格差等の予想は確信へと変わった。

 

 

「恐らくだが、デマーゼルはこの世界の何処かに潜伏していると予想される。ヤツが何故生きているのか、何故この世界に居るのかは不明だがな」

 

「私達からすればこの世界に存在しない筈のアキュラがここに居る時点で何が起きても不思議はないと言う認識ですけどね」

 

「全くだ」

 

「……頭が痛い問題だね。まさか仮説である可能性世界からの侵略をも想定しないといけないなんて」

 

「紫電……」

 

「まあでも、やるだけやってみるしかない。原因その物は分かったんだ。後は居場所を突き止めてデマーゼルを止めるだけ。実にシンプルじゃないか」

 

「……そう考えられるのが紫電、お前の強さなのだろうな」

 

「ボクは強くなんて無いさ。周りはそう持て囃すけどね」 

 

 

 こうして私達はこの騒動の主犯と思われる存在、デマーゼルの事を知る事になった。

 

 そして、この事に関係する可能性がある情報としてアキュラはある人物の探索を私達へと依頼する。

 

 

「フェザーの頭目である【アシモフ】の居所が知りたい。オレも独自の方法で調べてはいるが、なかなか尻尾が掴めなくてな」

 

「確か、その人が最終的にデマーゼルになるんでしたよね」

 

「ああ。それを抜きにしてもヤツの存在は危険だ。あのエラーを起こした時のデマーゼルの台詞をそのまま信じるならばこの国を乗っ取るつもりでいるらしいからな。それに……ロロ、頼む」

 

『……いいの? ()()()()()()()

 

「今のこの二人なら大丈夫だろう」

 

 

 そう言ってロロが映し出したその画像は、私達に多大な衝撃を与えた。

 

 ……確かにアキュラから話を聞く度に()()()()()が頭を過っていた。

 

 だけど、これは……!

 

 

「GV……シアン……アキュラ、これは何の冗談だい?」

 

 

 紫電がアキュラに対して先ほどとは打って変わって殺気だった声を向ける。

 

 そこに映し出されていたのは私が何時か見た光景だった。

 

 銃を構えるアシモフらしき人物。

 

 血だまりに沈むGVと、胸に風穴を開けられGVに折り重なるように倒れ伏すシアンの姿。

 

 この画像はロロが当時のアメノウキハシに存在した隠しカメラが捉えた映像をハッキングして収集したのだと言う。

 

 

「ヤツは必要とあらば自身の身内も、女子供すら冷徹に処理出来る人物だ。放っておく訳にはいかない。それに……オレの妹も、ヤツの犠牲になった」

 

「…………」

 

「この事態を引き起こしたのはオレにも責任がある。必要ならば一発殴って貰ってもかまわん」

 

「……これから協力者になる相手にそんな事は出来ないさ。でもまあ、キミが責任を感じるのは理解しているよ。彼が持っているあの銃は、確かアキュラが使っていた物だった筈だ。正確に言えば、神園博士の持っていた物と言えるが」

 

「…………」

 

「この二人がボク達の世界のGVとシアンじゃなくて、正直ホッとしているよ。こんな事がこの世界で起きていたら、ボクはどんな手段を用いてもヤツの息の根を止めに行かないといけなくなっちゃうからね。……しかし、因果な物だよ

 

「紫電?」

 

「……いや、何でもないさ。それよりもアキュラ、キミからの依頼だけど勿論承諾するよ。フェザーの頭目がここまで危険だと分かった以上、野放しには出来ない。GVには悪いけど……ね」

 

「紫電……」

 

「この事は準備が済み次第ボクが直接GVに伝えるよ。その時が来たらアキュラにはその付き添いを頼むよ。本当はフェムトにも付いて来て欲しいけど、キミは何かと多忙な身だからね。……フフ。蒼き雷霆(アームドブルー)との直接対決、一度はやって見たかったんだよね」

 

 

 紫電は不敵に、それでいて自信に満ちた表情(仮面)で私達に語り掛ける。

 

 そう、紫電は知っている。

 

 GVから話を聞いている。

 

 GVがどれだけアシモフに感謝しているのかを。

 

 ならばこの事を話せばどうなるか等、火を見るより明らかだ。

 

 本来ならこんな事を本人に直接伝える必要も義理も無いと言うのに。

 

 

「フェムトは引き続きホログラム能力者からデータを収拾してくれ。それがボク達の戦力増強に繋がるからね」

 

「分かったよ、紫電」

 

 

 アキュラの技術力を頼る方法も出来なくはないが、今の私達には正直劇薬に近いし、アキュラ側も応じる事は無いだろう。

 

 なので、こうして地道に積み上げていくしかないのだ。

 

 こうして私達はいつか来るであろう決戦のための準備を開始するのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇EXウェポンツインフォースについて
紫電の戦闘データを解析し、陽の化身と陰の化身を疑似再現し、作成したEXウェポン。
一度展開すると地上と空中の両面からアキュラくんを支援する。
ロックオンしていない場合は近くの敵を、している場合はそいつを集中して狙う性質を持っている。
ゲーム的には本体と攻撃手段であるレーザーに当たり判定があり、それぞれの攻撃にはアキュラの通常攻撃と同じクードス上昇効果が存在する。
但し、その代わり【AERIAL EX】と言う空中で敵をEXウェポンで倒す際に得られるボーナスが無いと言う欠点が存在する(【AERIAL】は存在する)。
その上、このEXウェポンの攻撃力は通常攻撃以上に高い事もあり、スコア狙いの上級者には相手にされない悲しい欠点が存在する。
つまり逆に言えばこのEXウェポンは、初心者救済用と言える。

〇スミロドンについて
イプシロンのデータを用いて破損したメガンテレオンを改良した新型の強化ジャケット。
それと合わせて新型のエクスギアもセットでこう呼ばれる。
Pix粒子を用いた変身めいた瞬間着装が可能。
この装備は二組作られており、一つはこの世界のアキュラくんが使うPix粒子対応型で、もう一つはフェムト達の居る世界の技術力で再現した現物型の二種類が存在している。
動力源としては二種類存在し、後に記載するLPCSが強化ジャケットと新型エクスギアに装備されている型はこの世界のアキュラくん仕様で、もう一つの型はフェムト達の居る世界の技術力で再現した(デチューン)したワーカーの動力源が使われている。
この二種類に()()()()()()()()()()性能差は存在しない。
名前の元ネタはサーベルタイガーの種類であるスミロドン族から取っている。

〇LPCSについて
正式名称Little Pulsar(リトルパルサー) Control System(コントロールシステム)
現小説の主人公フェムトが持つ第七波動青き交流を解析して作られた火器管制システムと予備動力機関の性質を併せ持った複合動力機関。
ワーカーの動力源を元に作られており、これ単体ではワーカー達の動力源よりもむしろ性能は落ちる。
その為強化ジャケットとエクスギアによる複合動力とする事で同じ性能になるようにする事で問題を解決している。
なのでこれ単体ではあまり強化された物であるとは言えないのだが、本来の使い方であるABドライヴと共鳴する事で真の力を発揮する。
ABドライヴの最高出力理論値を、全くブレを発生させずに叩き出す事が可能な上に、暴走の力すら掌握する事が可能。
その為、ロロは任意にモード・ディーヴァ、モード・アウェイクニング等にアキュラくんの精神波に関係無く変身する事が可能となった。
じゃあ精神波の変動に意味が無いのかと言われるとそんな事は無く、きっちりアキュラくんの精神波の影響を受けた上で更に強化する。
アキュラくんはムゲントリガー持ちな為無しの場合も解説すると、従来よりもEXウェポンのエネルギー消費量は十分の一にまで減少している事に加え、ゲージ回復速度も2倍に引き上がっている。
今回の話では記述しなかったが、何気にスパークステラーの性能も強化され、フラッシュフィールドも復活(任意ONOFFも可能)している。
ハードイプシロン版の物も使えるようになっている。
火器管制システムとしての性能も記載していなかったが、ロックオン時間が永続化する機能(任意ONOFFも可能)とEXウェポンを複数種類同時に使用出来る。

〇モード・ヴァルキュリアについて1
暴走の力をLPCSで可能な限りコントロールする事で追加されたロロの新たなる姿。
リスクの無いモード・ダークネスと言う代物に近い。
他にもまだ現時点で解明されていない機能が存在するが、その機能は本小説内でも核心に迫る情報である為、後に語る予定。

〇現小説内におけるモード・アウェイクニングについて
LPCSによってアキュラくんの体力が0になった際に発動するソングオブディーヴァが確定で発動する。
それ以外にも任意での発動も可能で、発動した瞬間HP及び全EXウェポンゲージが全回復する。

〇現小説内におけるモード・ダークネスについて
現小説内で安定性が高まったモードダークネス。
理性が暴走しなくなった為アキュラくんに対してロロが攻撃する事は無くなったが、今度はEXウェポンの威力が高くなりすぎてその余波がアキュラくんを襲う様になった。
つまりHPが減る仕様は健在である為リスキーなのは変わらない。
なので主な使い道はクロスシュトローム使用時の限定開放だったりする。

〇デマーゼルについて
感想でも名前を出せないと感想を送るしか無かったのですが、この話で解禁となります。
但し現時点で分かっているのはこの世界に存在する事のみであり、誰が、どうやって、何の為にデマーゼルをこの世界に送り出したのかは不明。
そもそも、何故デマーゼルが生きているのかも、紫電達に手を出しているのかも不明。
そして、協力者が一体誰なのかも不明と色々と現時点では不明尽くしなヤツです。


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第二十五話 獅子王旋迅 螺旋(スパイラル)マフィア



サイドストーリー





 フェムトが部屋を出るのを見送った紫電は改めてオレに顔を合わせ、笑みを浮かべる。


「さて……ここからはボク個人が気になる事を聞かせて欲しいんだけど……」

「…………」

()()()()()()()()()()()()()()()()

「そうだ」


 オレがそう答えた瞬間、紫電の顔はそのままだったが目だけは明確に変化した。

 それは怒っているとも、何故だと言う疑問とも取れる視線だ。


「理由を聞いても?」

「この世界のオレがやられそうになっていたからな」

「自業自得じゃないか。この世界のアキュラがどうなろうと知った事では……あぁそうか。妹さんを一人には出来ない、か」

「そう言う事だ。それにオレはこの世界において異邦人だ。オレがヤツに成り代わる訳にはいかない。妹の兄と言う居場所を奪う訳にはいかないんだ」

「キミにも色々と事情があるのは分かった。だが、それとこれとは……」


 オレの目から見るに、紫電はパンテーラに対して妙にこだわっているように見える。

 パンテーラは紫電と同格の第七波動能力者(セプティマホルダー)だ。

 同じ高みに居る者同士で何かしら思う所があるのかもしれんが……紫電のこの様子、まさか()()()()()()()()()()

 いやいやまさかそんな事は無いだろう。

 パンテーラがエデンのスパイである事は把握している筈だ。

 それが見抜けぬほど紫電が耄碌しているとは思えん。

 ……ほうれんそう(報告 連絡 相談)は大事、か。

 オレが把握している事を紫電は把握している筈だと思い込んですれ違う可能性があるな。

 ならば、確認しておく必要はあるだろう。


「ヤツは生きているぞ」

「…………なんだって? だけど、宝剣の反応はもう無くなっているのをボクも確認済みなんだけど」


 紫電の表情に明確な変化が現れた。

 なるほど、紫電が怒っていたのはコレが原因か。


「そもそもヤツが幻を操る夢幻鏡(ミラー)のセプティマホルダーである事、そしてエデンのスパイである事はお前なら知っている筈だ」

「それ位ボクは把握しているさ。だけどそれが今の話とどう関係……! まさか」

「そのまさかだ。()()()()()()()()()()()()()()()。本人に言わせればあのパンテーラですら()()()()()()()()()()()()()()

『アキュラくん、あんましあのヘンタイさんの事思い出させないでよね……』

「仕方あるまい。話せる事は話しておく必要がある」

「……因みにだけど、アキュラはパンテーラの本体を知っているのかい?」


 紫電のヤツ、妙にパンテーラの事に関心があるみたいだな。

 まあ分からなくもない。

 ヤツは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だからな。

 その時のヤツを始末するのは大分苦労した記憶がある。


「オレは向こうの世界でヤツを討滅した過程で本体を見ているからな」

「……そう言えば、その時のキミは能力者憎しの状態、だったね」

「今のオレから見れば恥ずべき記憶だがな……ロロ。嫌だと思うが画像を出してやってくれ」

『りょーかい。まあでもあのヘンタイさんモードじゃないパンテーラならぼくの精神的負担は小さいからいいんだけどね』


 そう言ってロロが映し出したのは紫電のイメージからかけ離れているであろう幼い少女の姿。

 童話【不思議の国のアリス】を連想させる姿をしながら年齢に合わないパンテーラ特有の雰囲気は一部の人々を惹きつける何かがある。


「…………」


 その画像を、紫電は食い入る様に見つめている。

 表情には出ていないが、目が喜びを隠せていない。


「……フェムトを女装させて付いて来させた時のパーティーで知り合った女の子がキミだったなんてね。なるほど、妙に話が合う訳だ。……ありがとうアキュラ。()()が生きてて安心したよ」

「この世界のお前とは敵対するのは避けたいからな。しかし、生きててよかった等と安心していいのか? ヤツはエデンを束ねる存在なんだぞ」

「……は?」

『……え?』

「……待て紫電、何故そんな反応をする? お前ならその位把握、或いは予測している筈だろう?」

「……アキュラはボクを何だと思っているんだい? そんなの分かる訳ないじゃないか」


 ジト目でオレの事を睨む紫電。

 その視線には敵対の意思はまるで無く、コハクが時折オレに対してする拗ねる様な視線と良く似ていた。

 ……まさか紫電が正体を把握していないとはな。

 なので、紫電が把握していなかった理由をオレは尋ねる。


「普通組織のリーダーが単身敵地でスパイ行動するなんて思わないだろう? ボクはてっきりパンテーラの事をエデンに所属している、或いは依頼された専属のスパイだとばっかり……」

『あぁ~~……言われてみれば確かにそう思ってもおかしくないかも』

「だが、皇神グループ内でもヤツのシンパが増えている事は知っていただろう? そこから割り出せなかったのか?」

「把握はしていたさ。だけどさ、それって組織のリーダーがやる必要ってあるかい?」

「……無いな」

『……無いね』

「まあ、アキュラは正体を知っていたから疑問に持てなかったんだろうね」

「そうだな。お前がフェムトにほうれんそう(報告 連絡 相談)の事を言わなければオレは黙っていたままだった……所で」

「何だいアキュラ」

「何故そこまでパンテーラに拘る」

「ボクがここまでの地位に至る事が出来た要因の一人だからさ」

『パンテーラが?』


 一言で済ませるならば、互いの利害が一致したのが理由だと言う。

 無能力者を殲滅する事を掲げているエデンに所属しているパンテーラ。

 皇神グループ内でトップを目指す紫電。

 一見すると何も交わっていないように見える。

 しかし、当時の皇神グループ内のトップ層が無能力者(マイナーズ)のみで構成されていて、それも能力者に対して差別的だったとしたらどうだろうか?


「……随分とリスクのある行動を取ったんだな。下手をすれば外患罪が適応されるだろうに」

「この程度のリスクも背負えないんじゃあボクみたいな子供がトップを目指すなんて到底無理さ。……だけど、ボクがこう言ったリスクを取ってでもトップを目指そうと思ったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだけどね」

『やれる時間?』

「そうさ。……当初の能力者部隊はそれはもうヒドイあり様でね。資料作成や情報整理なんかの、所謂後方支援を担当出来る人材が皆無だった。だからボクもそっちに付きっ切りで居ないといけなかったんだけど、ある時にとびっきりの優秀な人材が転がり込んでくれたのさ」

「……フェムトの事か」

「その通り。フェムトは当時から今に至るまで情報処理に関して右に出る物は居ない。今では彼の居る居ないで皇神グループの利益にも影響が出るレベルにまで到達している」

『あの子、そんなに凄かったの!? ……人は見かけによらないなぁ』

「見た目が見た目だから侮られがちだけど、仕事に関しては本当に優秀なんだ。フェムトが居なければボクは未だにプロジェクトリーダー辺りでくすぶっていただろうね。……話を戻そうか。そう言った時間をもぎ取れたからパンテーラと手を組んだのさ。そして結果は、この通り。今やトップ層はほぼ能力者に対して好意的な人達で固められている状態さ。そしてボクは副社長にまでなるに至った」

「…………」

「あの駆け上がっている瞬間は本当に楽しかった。互いが敵だと分かっていながら互いの利益を追求できたあの時間は、ボクにとって掛け替えのない物だった。それに……」

「それに?」

「……パンテーラが生きていて、その上で再びボクと接触してきた以上()()()()()()()()()()()()と想像できる余地が出来ただけ儲けものなのさ」

「……?」

『あ~~……ひょっとして紫電ってパンテーラに……』

「おっと、それ以上はいけないよ。ロロ」

「……??? お前達は何を言っている?」

『「…………」』


 二人になにやら変な目で見られてしまった。

 何か可笑しかったのだろうか?


『……まあ、アキュラくんだしね』

「ボクとしては助かったと思うべきなんだけど……ちょっと複雑な気分だよ」


 その後、()()()()()()()()()()を始め喋っていない事等を含めてお互い情報交換を交わした後、オレはミチルの元へと帰還する。

 そして、療養施設へと入ろうとしたその時だった。


「ぐあぁぁぁぁぁ!」

「こっこんな奴がいるなんて聞いてな……グハ!」


 療養施設の奥からあってはならない声が響き渡った。

 オレは迷わずミチルの元へと急ぐ。

 その道中、先ほどの声の連中だった物が()()()()()()()転がっていた。

 そして、駆け行くオレの視界に蛇腹剣を携える剣士を捉えた。


「戻ったか、イクス」

『ブレイド! ミチルちゃんは、皆は大丈夫なの!?』

「問題無い。ノワがさり気無く防音機能を持たせた勉強部屋に連れて行っていたからな」

「……噂をすればなんとやらか。すまないブレイド。お陰で助かった」

「あなたからデマーゼルが生きていたと聞かされた以上、私も出る必要があると思ったからな」


 ブレイドがここに居る理由、それは普段スメラギの統治で四苦八苦しているのを見かねたコハクとロロが気分転換にとミチルの事を紹介したのが切欠だ。

 そもそもの話だが、ブレイクホイールによる転移は時間移動も兼ねている。

 僅かな休憩時間の合間にこの世界に誘い、用事が済んだらその時間に戻る等という事が可能なのだ。

 ブレイドも最初は渋っていたが、こちらでなら時間を気にしないで居られる事と、コハク達と過ごす時間も出来る事が決め手となった。

 それによってオレとブレイドの交代制ではあるが、街へと繰り出す事が可能となったのだ。

 これが出来なければそもそもオレはごろつき(テロリスト)相手にスミロドンの試験運用による外出や、コハクと知り合ったオウカの屋敷へ尋ねに行く等してミチルの傍から離れるなんてあり得ない。

 そんな事が出来る様になったのはブレイドのお陰なのだ。


「奴らはこの世界におけるデマーゼルの先兵と見て間違い無いだろうな」

「恐らくはな。だが……」

『何か気になる事でもあるの、ブレイド?』

「練度があまりにもお粗末すぎる。まるで素人に付け焼刃を持たせたかのようだ」


 そのブレイドの言葉を裏付けるかのように、ここに至るまでの壁等に戦闘痕が無かったのが相手が素人である事を裏付けた。

 この事に、オレは違和感を感じる。


「妙だな……」

「ああ。デマーゼルにしては()()()()()。ヤツならば翼戦士の一人や二人を同時に送り込んでくるはずだ。あの子には、それだけの価値があると分かっている筈だからな」

「……あまり認めたくはないが、その通りだ」


 ヤツもまた万全では無いと思えば楽なのだろうが、油断は出来ない。

 ……いっその事ミチルもオレ達の世界へ逃がせれば良かったのだが、それをすると今度は増幅されたモルフォの歌が聞けなくなり再び体調を崩し、声を失ってしまうのだ。

 こうして襲われてしまった以上、未来へ逃がすのが正解なのだろう。

 だが、逃がした後のミチルはまた部屋で閉じこもる生活に逆戻りしてしまう。

 それはきっと、浅くは無い心の傷を作る事になる。

 そんな風にオレが考えていた時、ノワが俺達の前に姿を現す。


「アキュラ様」

「ノワ、ミチルは?」

「勉強疲れでお休みになられました。今はヌルが見てくれています。アキュラ様、今の内に()()()()()を済ませましょう。考えるのは、その後でよろしいかと」

「……そうだな。この様な汚物共をミチルの視界に入れる訳にはいかん」

『「…………」』

「どうした、二人共?」

「お前がそんな風に感情的になるのが珍しくてな」

『この世界に来てから何て言うか、昔のアキュラくんに戻ってる感じがしてちょっとほっこりしちゃったよ』

「……あまりそんな目で見るな。それよりも早く片付けるぞ。ミチルが何時目覚めるか分からんからな」


 オレは少し気恥ずかしさを覚えつつも、これからの事を考えながら汚物共の処理を始めるのだった。







ミッションセレクト

 

 

 

 

 ホログラム能力者にはそれぞれ出現パターンが存在している。

 

 【大型デパート】、【老朽化した化学工場(後の自動増殖プラント)】、【皇神第拾参ビル建設予定地】、【超級電波塔“ツクヨミ”】、【データバンク施設】、【第二データバンク施設建設予定地】の六ケ所だ。

 

 この事をあの時アキュラに尋ねてみた所、それらの場所は彼の居た世界において翼戦士と交戦した場所なのだと言う。

 

 既に大型デパートに居る羊のホログラム能力者である【リベリオ】と老朽化した化学工場に居るクリムのデータは集まっている為行く場所からは除外。

 

 皇神第第拾参ビル建設予定地ではあのホログラム戦車が出現していたのが理由なのか、元々そこに居たホログラム能力者は姿を現していない。

 

 なので私が向かう候補は超級電波塔“ツクヨミ”、データバンク施設(第一データ施設)第二データバンク施設建設予定地(第二データ施設)の三カ所となる。

 

 

《ツクヨミに居る翼戦士の名前は【イソラ】。【分身(コンパニオン)】の第七波動(セブンス)を持つ、生前アイドル活動をしていた女性。次にデータバンク施設に居る翼戦士の名は【バクト】。【螺旋(スパイラル)】の第七波動を持つ生前マフィアのリーダーを務めていた男性。そして最後に、第二データバンク施設建設予定地に居る翼戦士の名前は【ダイナイン】。【偏向布巾(ベクタードクロス)】の第七波動を持つ、同じく翼戦士である【インテルス】の秘書を務めていたヒューマノイド。こうして改めて聞いてみると、随分と個性的なメンバーだねぇ。……それでフェムト、先ずはどこから向かう予定かな?》

 

「先ずはデータバンク施設の方へと向かおうかと思います。あそこは世界中のデータが集まる場所ですからね。それに昨日になって協力者と思われるテロリスト達が占拠したと言うのも気になりますので」

 

《優先順位としては妥当な判断だね。それで、誰を連れて行く予定かな?》

 

「カレラに同行をお願いしようと思っています。相手は戦い方を見る限り武闘派と言っても良い相手です。戦い方もかみ合うでしょうし」

 

《カレラをあそこに連れて行くのかい? まあ、TASがあれば周辺被害は大丈夫だとは思うけど。それよりも……分かっているね?》

 

「ええ。逃げ遅れた人達の救援は最優先に、ですよね?」

 

《それもあるけど、別の事さ。アキュラから聞いた()()()だよ。カレラを連れて行く以上、この問題は避けられない》

 

「……やはり、カレラの持つ磁界拳(マグネティックアーツ)が対策されているのは厄介ですね」

 

 

 翼戦士達に共通している事が存在している。

 

 それは磁界拳に対して……正確に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対策が施されているのだ。

 

 これはデマーゼルが昔、アキュラの銃に装備されている対能力者用特殊弾頭(グリードスナッチャー)と呼ばれる装備に対して多大な脅威を認識したのが理由だとアキュラ本人が推測していた。

 

 

《カレラもとんだとばっちりだね》

 

「本人は気にしないと言うか、むしろ喜びそうなのが目に浮かびますけどね」

 

《カレラは戦闘狂な所があるからね。対策された事も自身を高める為の試練だと認識してるみたいだし》

 

「そう言う前向きな所は私も見習いたいですよ。……それじゃあ、そろそろ」

 

《うん。朗報を待っているよ、フェムト》

 

 

 私は専用回線を利用した通信を終わらせ、データバンク施設へ向かう為の準備を始めた。

 

 今回向かうデータバンク施設は施設内である事に加え狭い為、リトルマンティスの要請は無し。

 

 各種アビリティを確認し、セットを完了。

 

 後は……

 

 

「フェムト、EPの補充を忘れちゃダメだよ!」

 

「大丈夫だよリトル。忘れて無いから」

 

 

 充電器のある部屋でEPの補充を済ませた後、リトル(宝剣)を用いて変身現象(アームドフェノメン)を発動させて全ての準備を完了させる。

 

 その後、エリーゼに行ってきますの挨拶をしようと彼女の部屋へとお邪魔した。

 

 

「フェムトくん。今日もお仕事頑張ってね」

 

「エリーゼもリモート授業、頑張ってね。確か今日はテストだったと思ったけど」

 

「うん。今日のテストはフェムトくんに教えてもらった範囲の内容だから大丈夫」

 

 

 エリーゼの前居た女子高は退学扱いされてしまっていた為、私がエリーゼの面倒を見る様になって間もなくオンライン授業に対応した別の学校でこうしてリモート授業を受ける様になっていた。

 

 最初の頃は画面越しでも恐る恐ると言った感じで授業を受けていたのだが、今ではすっかり慣れて堂々と授業を受けれるようになっている。

 

 

「あ、もう始まる5分前だからそろそろ……」

 

「うん。それじゃあ行ってきます。エリーゼ。今日もなるべく早く終わらせるから」

 

「帰って来るの、待ってるからね。……いってらっしゃい。フェムトくん。ん……」

 

 

 私の額に口付けをして、エリーゼは私を送り出してくれた。

 

 ……普段はもっとすごい事をしている筈なのに、どうして額に口付けされただけでこんなにも嬉しさが溢れてくるのか。

 

 そう思いながら私はデータバンク施設へと駆ける。

 

 その道中、同じく変身現象を済ませたカレラと合流し、並走しながら情報交換を行う。

 

 

「バクト殿……でござるか」

 

「ええ、体格も良く、マフィアのリーダーを務めていたのもあって生粋の武闘派な相手です」

 

「ふむ……今日は素晴らしい一日になりそうでござるな。きっとそのバクト殿とやらは、小生に苦境と言う名の試練を授けて下さる事でござろう」

 

「磁界拳、対策されている事は覚えていますよね?」

 

「勿論でござる。小生は間違い無く不利でござろう。だがここで挑まぬのでは武士(もののふ)としての名折れであり、恥さらしでござる。……それにでござるな」

 

「……?」

 

「フェムト殿と共闘出来るのは小生、実に楽しみにしていたで候。少し見ぬ間に大きく成長を遂げたみたいでござるからな」

 

 

 私と違い、恐れる所か逆に戦意を昂らせるカレラ。

 

 その在り方をどこか羨ましく思いながら、私達はデータバンク施設に到着する。

 

 

「……カレラ」

 

「我らの戦に水を刺そうとする連中が居るでござるな」

 

「ええ。ここからはTASを使用します。データ保護も兼ねてますので」

 

「うむ。たす(TAS)とやらの力、試させてもらうでござる」

 

 

 リトルがカレラの磁界拳と同調し、TASが起動。

 

 私が持つアビリティがTASを経由してカレラに新たな力を与える。

 

 

「それでは、ミッションを始めましょう!」

 

「道先案内、よろしく頼むでござる。その道は小生が切り開くが故に」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 先ずは入り口を占拠しているテロリスト達に対してマッピングも兼ねたEPレーダーによるロックオンを行う。

 

 それと同時にカレラが複数の小さな【電磁加速拳】を形成し、射出。

 

 それらは全てロックオンされたテロリスト達へと必中し、倒れる。

 

 周囲に敵が居ない事はEPレーダーで確認済みな為、このまま入り口を制圧し、内部へと突入する。

 

 

「むぅ……所せましとカラクリが敷き詰められているでござるな」

 

「道中は周辺被害に気を付けないといけませんね」

 

「うむ。小生が苦手な分野でござるが、これもまた試練で候。……ぬ、フェムト殿」

 

「ええ。逃げ遅れた人達が居るみたいですね」

 

 

 私は倒れていた人に対してキュアーヴォルトを施し、救助(レスキュー)を行う。

 

 どうやらこの施設で働いていた管理人の一人らしい。

 

 

「……すいません。助かりました」

 

「いえ、これも任務ですので。それで、逃げ遅れた人達は?」

 

「まだ奥に四人ほど居ます。それぞれ各部屋に立てこもっていますが、正直時間の問題でしょう。ですので、もし宜しければ……」

 

「ええ。可能な限り救援に向かわせて貰います」

 

 

 管理人から情報を得た上で私は近くのデータバンク施設へアクセスする為の情報端末をハッキング。

 

 データバンク施設のマッピングを行うと同時に私……正確にはリトルにデータバンク施設内での戦闘で失う可能性のあるデータをバックアップを行う。

 

 

(ん。これでもう大丈夫)

 

(ありがとう、リトル)

 

(……ふむ、これが「てれぱす」とやらでござるか。なんとも不思議な感覚でござる)

 

(カレラ、ここからは敵地ですのでテロリスト達を壊滅させるまで会話は基本これでお願いします)

 

(心得たでござる。フェムト殿)

 

 

 マッピングとバックアップを終わらせ、施設内部を制圧する為に本格的に動き出す。

 

 ここに居るテロリスト達は大型デパートの時と同様、大した事の無い相手だ。

 

 銃撃を鉄扇で弾き飛ばしながら鋭い突きを喉元へと加え、昏倒させた。

 

 その巨体から放たれる拳で装備諸共能力無しで体全体を粉砕する。

 

 私とカレラのコンビネーションは即席なれど、TASによる繋がりのお陰で息を合わせる事が出来ている。

 

 そして、この場に居るテロリストを殲滅した事で部屋に立てこもっていた管理人の同僚の一人の救出に成功。

 

 腕を怪我していた為キュアーヴォルトで癒し、救援する。

 

 

か……カワイイ……オホン。助けて頂いてありがとうございます」

 

「これも任務ですので。怪我の方は大丈夫ですか?」

 

「勿論です。少し弾丸を掠めた程度ですので」

 

「では、このルートを使って脱出して下さい。クリアリングは済ませていますので」

 

 

 この調子で二人目、三人目と救出に成功し、最後の四人目の居る場所ではメカ達が部屋の入口を出待ちしていた。

 

 なので、私はワイヤーガンを盾を持ったメカへと撃ち込んでハッキングを行い、周りに対して嗾けた。

 

 それと同時に私達は飛び出し、二重の不意打ちを以てメカ達を破壊し、四人目の居る部屋へと突入する。

 

 そこには多くの血を流し、今にも死にかけている管理人の同僚を発見。

 

 すぐさまキュアーヴォルトによる治癒を行うが、一度では癒え切らない為、複数回使う事で何とか一命を取り留めた。

 

 

(危なかったですね。私達の行動がもう少し遅かったら彼は助からなかったでしょう)

 

(間に合ってよかった~)

 

 

 こうして私達はデータバンク施設においてテロリスト達の戦力を壊滅させる事に成功した為、一度この人を連れて外へと脱出(エスケープ)する。

 

 既に外で待機していた別動隊の人達に任せた後、再び私達はデータバンク施設の奥に存在する第二サーバールームへと足を運ぶ。

 

 ホログラム能力者であるバクトの反応がある、その部屋へと。

 

 

『ようやく誰か来よったか! ……ほう、お前さんらが【欲深き磁界拳(マグネットグリード)】カレラ、それに異端者(イレギュラー)フェムトかい。随分といいツラしよるのぉ』

 

 

 そこには、私達を明確に認識しているバクトの姿があった。

 

 青い獅子王とも形容すべき姿をしており、見る物を圧倒させる迫力を併せ持っている。

 

 それを見た私とカレラは自然と身構え、相手の放つ闘気と呼べる物を肌で感じ取る。

 

 バクトもそんな私達を見て笑顔と言う名の威嚇を行いながら殺気を放ち、独自の構えを見せる。

 

 

『御託はいらん、っちゅう訳じゃな。ほな……ワシが持つセプティマ、螺旋(スパイラル)で、全身千々に裂かれんさいやぁーッ!!』

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 バクトはその拳に螺旋による力場を収束させながら突撃し、カレラに対してその拳を突きだす。

 

 それに対してカレラは同じく磁界拳で予め周囲の金属を収束させていた拳によるストレートで迎撃。

 

 お互いはじける様に吹き飛び、獰猛な笑みを浮かべる。

 

 バクトは闘争心に火が付いた事で、カレラは想像以上の苦難がやってきた事への喜びに対して。

 

 そんな二人の激しい衝突に負けじと私も今回は出番が無さそうなワイヤーガンからリトルが扱う鉄扇に変更し、エリーゼの訓練の際にやっていた二刀流を用いてバクトへと切り込む。

 

 今までの私ではこんな行動をする事は無かったのだが、アキュラとの戦いにおいて私自身階位が上がった(レベルアップした)事に加え、精神的な度胸も身についた為こんな行動に打って出れるようになったのだ。

 

 

『ほう! ()()()も思い切りがええのぉ!』

 

「思い切りだけではありませんよ! ハァッ!」

 

 

 切る、突く、払う、切り上げる。

 

 受け止める、受け流す、紙一重で躱す、反撃する。

 

 カレラとスイッチする様に切り込んだ私はバクトに対して何とか立ち合えている。

 

 そこへカレラが磁力による体当たりを慣行。

 

 私の鉄扇による攻撃で既にロックオンしていたバクトに直撃させ、吹き飛ばす。

 

 

『突進ならワシも負けん! 行くぜェ! オラッ! 【穿岩襲】!』

 

「ヌゥッ!」

 

「カレラ!」

 

 

 青い螺旋を纏った体当たりをカレラはモロに受け、そのまま吹き飛ばされる。

 

 

『何所見とんじゃ! アアアッ! 死に晒せェ! 【獅子嵐陣】!』

 

「チィッ!」

 

 

 私は即座にフィールアクセラレーションを使用し、足元とその反対側からの青い大竜巻を辛うじて回避しつつ余波を防御結界(パルスシールド)で防ぐ。

 

 私はゆっくりとした時間の中でカレラの元へと駆け寄り、キュアーヴォルトを用いて手当を済ませる。

 

 

(かたじけない、フェムト殿)

 

(お礼はまた後で……どうやら相手はこちらに止めを撃つつもりの様です!)

 

(ならば、小生も迎え撃つまで……フェムト殿、合わせて下され!)

 

(分かりました!)

 

 

 ゆっくりとした時間の中で、バクトは止めの一撃(SPスキル)を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

転遷が生む螺旋の流線

 

降誕双つ混沌の回転

 

仁義の許より向かうは極道

 

 

双稜螺岩穿(ソウリョウラガンセン)

 

 

 

 

 

 

 

 それに対して私はシンキングアップを発動させた上でSPスキルを()()()()()()()()()対処する。

 

 今カレラはSPスキルの準備中。

 

 身動きが取れないのでここでどうしてもバクトのSPスキルを止める必要があるのだ。

 

 無茶苦茶な事をやっていると思うかもしれないが、その位の無茶をする覚悟が無いとバクトのこのSPスキルは防ぎきれない。

 

 そんな私の迎え撃つと言う覚悟に対し、リトルが反応する。

 

 

(フェムトの想いと願い、受け取ったよ! だから、私がそれを叶えて上げる!)

 

 

 あの時と同じ様に、言霊が浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

煌めくは雷纏いし城塞

 

守護の聖域よ 二重に重なり城塞と化せ

 

 

パルスサンクチュアリ

 

 

 

 

 

 

 

 バクトの放つ二つの巨大なドリル状の青い螺旋と、私が放つ聖なる雷の二重結界によって出来た城塞が衝突。

 

 互いのSPスキルは幻想的な青い粒子をまき散らしながら対消滅を起こしていく。

 

 だが、先に私の結界の方が消滅し、残った螺旋の余波が私を直撃する。

 

 後に解析して知った事なのだが本来ならば電磁結界(カゲロウ)で防げたはずの一撃だった。

 

 しかしこれまでのEP消費に加え、このSPスキルの消費も重なり発動できない程EPが枯渇してしまっていた。

 

 

(かはっ!)

 

(フェムト!)

 

(フェムト殿!)

 

(大丈夫です! それよりもカレラ、今の内に一撃を!)

 

(心得たでござる! ぬぅぅぅん……受けよ!)

 

 

 

 

 

 

糾合せし磁力 引力が爆ぜる

 

全てを望み 全てを欲し

 

奪い、掲げよ、その豪腕

 

 

超重磁爆星

 

 

 

 

 

 

 カレラから放たれた小さな黒い球がバクトへと直撃し、それはやがて大きくなっていく。

 

 それと同時にフィールアクセラレーションが切れ、私達の体感時間が元の時間の流れに戻る。

 

 

「無駄じゃあ! おんしの攻撃は対策済みじゃけぇ!」

 

 

 動きを止めながらも、ダメージがあまり入っていない様子のバクト。

 

 だけど、対策済みな事も私達の中では予測の範囲内。

 

 これでカレラが終わるはずが無いのだ!

 

 

「そんな事は百も承知! この重力は、ただの呼び水で候! さあ受けよ! 小生達の新たなる力を!」

 

 

 

 

 

 

極限に収束されし我が磁力

 

集めて集めてまだ集め

 

いざ解き放て、極光の光

 

 

爆縮開放 極超新星(ハイパーノヴァ)

 

 

 

 

 

 

 超重磁爆星によって発生したブラックホールを更に極限まで圧縮。

 

 そして、圧縮した力をパルスサンクチュアリによるロックオン対象者であるバクトに対して解き放つ、S()P()()()()()()()()()()S()P()()()()

 

 カレラだけでも、私だけでも出来ないであろう暗闇から生まれた極光がバクトを飲み、断末魔を上げる事も許さずに消滅させた。

 

 こうして私達はバクトを相手に何とか勝利を収める事に成功するのであった。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇紫電がパンテーラに拘っている事について
フェムトが稼いだ時間を利用して利害が一致したパンテーラと組む事で最終的に副社長へと上り詰めることが出来た為、彼女に対してかなり特別な感情を持っていたりします。
その感情が何なのかは現段階では読者の想像に任せますが、アキュラから話を聞いた前と後とで変化を起こしているとだけは言っておきます。

〇紫電がパンテーラの正体を見抜けなかった事について
紫電はパンテーラの事を「エデンのスパイ」である事は分かっていましたが、「エデンのリーダー」である事は流石に見抜けませんでした。
普通に考えるとリーダーが直接スパイ活動っておかしい……おかしくない?

〇紫電がパーティーでパンテーラ本体と会っていた事について
休暇編第八話でフェムトが女装した時の富裕層を持て成すパーティーで出会っています。
ちなみにどう富裕層としての体裁を整えたのかと言うと、日本国内の皇神グループ関連企業の一つを乗っ取る形で実現しています。
何気に休暇編第六話で出てくるフェムト視点での「私よりも年下の女の子」がパンテーラ本体だったりします。

〇ブレイドが参戦した件について
彼女の贖罪もかねたスメラギの運営を見ていたロロとコハクに自分達が出かけている世界で友達になったミチルと作中では書きませんでしたがオウカを紹介して癒されてもらおうとしたのが切欠でこの世界へ。
アキュラと交代でミチルの護衛を請け負っており、そのお陰でアキュラは外出する事が出来る様になっている。
なお、ミチルとオウカとは大分仲良くなれている。
後にデマーゼルが暗躍している事が分かった為、知った後の護衛の際は嘗ての装備を身に纏って気合を入れて護衛している。

〇死にかけの管理人の同僚について
ミッション攻略に手間取るとここの同僚は死亡する。
生存しているとミッションクリア後に新しいノーマルスキルを習得する。

〇鉄扇の持ち替えについて
ミッション中左手のワイヤーガンをリトルが持っている鉄扇に持ち帰る事が可能。
鉄扇の二刀流は攻撃回数とガードポイントが増える為、近接戦闘する際は持ち換えていると有利に戦える。
開放方法は【エリーゼと特訓】を開放して一度選択する必要がある。

〇パルスサンクチュアリについて
GVでいう所の【スパークカリバー】のポジションに位置するフェムト第二のSPスキル。
範囲内に居る味方と自分を守護する雷の聖域で作られた城塞によって守りつつ触れた相手を吹き飛ばす。
永続ロックオンも勿論完備している。
今回の対消滅と言う表現は、所謂ゲームにおけるSPスキル発生時間による無敵時間を表現した物で、今回の場合は双稜螺岩穿の発生時間が僅かに長かった為防ぎきれなかった、みたいな感じです。
SP3とEP500消費するフェムトにとっては大技である為、正に切り札的SPスキル。

〇爆縮開放 極超新星について
カレラの磁界拳が対策されていた為、バクトとの戦闘の間にカレラが閃き、発動させたSPスキル。
超重磁爆星を爆発四散させずに更に圧縮し、それの開放エネルギーをTASによる永続ロックオンで誘導する事で対象を消滅させる。
このSPスキルはフェムトの永続ロックオンと超重磁爆星が前提のとても贅沢な物で、それが理由でSPスキルの名前にカタカナが含まれている。


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第二十六話 インターミッション(四回目)

 

 

 

 

 バクトの消滅を確認した私は思わず座り込んでしまう。

 

 戦闘の緊張感に加え新しいSPスキルの発動と、螺旋の残滓に直撃してダメージを受けていた事が重なった為だ。

 

 

「フェムト殿!」

 

「大丈夫だよカレラ。ちょっと気が抜けちゃったのとEPがほぼ無くなっちゃっただけだから」

 

「それならばよいのだが……」

 

 

 カレラと私との合体SPスキルと呼べる【爆縮開放 極超新星(ハイパーノヴァ)】は確かに威力は凄まじく、正しくロックオンした状態のバクトを撃破した。

 

 だが、その威力があまりにも大きすぎた為、バクトを撃破しても尚有り余るエネルギーの余波がサーバールーム内で巻き起こる。

 

 結果、数あるメインサーバーの内の一つが完全に破壊されてしまったのだ。

 

 

「相手が手練れ故そこまで気にする事が出来なかったでござる。本当に申し訳ない事をしたで候」

 

「大丈夫ですよカレラ。突入前にバックアップも取っていますし、データそのものは無事です。それにここのサーバールームがバクトに占領されてからこうなってしまってもいい様に前もって手配してましたので」

 

 

 ただ、不幸中の幸いとしてこのサーバールームは老朽化していたので元々新しいサーバーに変える予定があった事に加え、サーバールームその物が極めて頑丈に出来ていたのが理由で巻き起こったエネルギーによる被害が部屋内に収まった為、被害は最小限に抑える事に成功している。

 

 まあ、その始末書やその他諸々の手配は情報管理部門が担当する事になるのだが……

 

 そろそろ向こうのタスクも溜っている頃なので、一度様子を見た方がいいだろう。

 

 

「ともあれ、そろそろ戻りましょう。私も動ける位には回復しました」

 

「うむ。ここで長々話をしていても邪魔になるだけでござるからな。小生達は戻るとしよう」

 

 

 そう言いながらカレラは私の事を自然にお姫様だっこをする。

 

 私はこの事に恥ずかしさを覚えながら大丈夫と抗議したのだが、降ろしてくれる気配が無い。

 

 それ所か、逆に私が諭される事となった。

 

 

「フェムト殿は自分が思っているよりもずっと消耗しているで候。EPが無いという事は傷を癒す手段が無いという事。素直に大人しくしているでござる。何、電力を補充できる場所まで運ぶだけでござるよ」

 

 

 ここからEPが補充できる場所と言うと……まず、データバンク施設内の電源を使うのは万が一を考えるとやめた方がいいだろう。

 

 そうなると、外にある電柱までと最初は思ったのだが、私がこの様な状態で電柱に登らせる事はカレラはしない。

 

 一応私達の基地に迎えの連絡を入れる手があるのだが、それだと我が家に戻る時間が遅くなってしまう。

 

 このままカレラに抱っこされたままなのは恥ずかしい。

 

 だけど、エリーゼに早く会いたい。

 

 私の答えはこの二択を迫られた時点で決まっていた。

 

 

「…………よろしくお願いします。カレラ

 

「うむ。任せるで候」

 

 

 私は結局基地までカレラに抱っこされる形となった。

 

 その道中、データバンク施設を出て管理人の人達と会い、第二サーバールームの惨状を伝える。

 

 

「このような惨状を許した事をお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」

 

「そんなに畏まらないでください! フェムトさんは私達を助けて下さいました。それだけでは無く、データの保護までして頂いたのですから私達が責める理由は御座いません」

 

「それにあそこは元々老朽化が進んでいたのです。却って丁度いいですよ。それに……そこまで負傷して戻って来た恩人を責める程、私達は人でなしではありません」

 

 

 正直罵倒の一つや二つは覚悟していたのですが、ここの人達はそれをせずにいてくれた。

 

 私が社内の仕事をしていると、よくそう言った理不尽なクレーム等で対応に追われる事もあり、それが理由で心を壊しかけた人も多く居たので、この対応は本当にありがたいと思う。

 

 

「それに貴方は元々私達寄りの人間ではないでしょうか? そうでなければ事前にこの様なデータ保護なんてする発想はまずありえません」

 

「そうですね。元々は情報処理が専門です。今は色々と事情があって兼業をしている形になっていますが」

 

「……貴方はもしや、噂に聞く【皇神の電子姫】ではありませんか?」

 

「はい? そんな事は無いと言うか、そもそもその様な異名は聞いた事が無いですよ」

 

「……そうですか。いえ、最近皇神グループ内で噂になっているんですよ。あの若き副社長を陰で支えた大変見た目麗しい()()の存在が」

 

「なんでも、今までパーティー等で表に出てこなかったのが急に表に出てきたのが切欠で噂が広がったみたいなんですよ」

 

 

 パーティー……ひょっとしてあの時の!?

 

 以前、紫電に頼まれて女装して裕福層のパーティーに出席した事があった。

 

 それは元々紫電に対するハニートラップ対策であったのだが、これが思いのほか上手くいってしまったらしい。

 

 その事が切欠で私の存在がそう言った層に周知され、陰で役職等も調べ上げられ、その結果この様な異名が生まれてしまったのだろう。

 

 私は会社ではほぼリトルと変身現象(アームドフェノメン)している為、常に女装をしていると言っても過言ではない。

 

 その上私自身の普段着の時も主に蓄電用のアクセサリーを多く身に付けている関係上、見方次第では十分女性に見られても不思議では無いのだ。

 

 

「そ、そうですか。そんな噂があったのですね」

 

「最初見た時はてっきり貴女がそうなのだと思っていたのですが……いやはや、人違いだったみたいで。……申し訳ありません。怪我を負っている状態で長々と引き留めてしまって」

 

「いえ、この位能力者部隊の間では日常茶飯事ですよ。では、私達はこれで……と、その前にこのデータチップを受け取ってください。保護したデータを閲覧できますので、復旧に使ってください」

 

「ありがとうございます」

 

「では今度こそ、私達はこれで……カレラ、お願いします」

 

「うむ。任せよ、フェムト殿」

 

 

 その後、管理人の人達に別れを告げ、基地へと戻る事となった。

 

 カレラの腕の中で任務の終わりにホッとしているのと同時に、先ほどから黙ったままなリトルが心配になった為、声を掛ける。

 

 

(リトル)

 

(…………フェムト……私……頑張ったけど、ダメだった……フェムトに、怪我、させちゃった……

 

(戦いである以上、こうやって怪我をするのは当然の事です)

 

(でも! でもぉ……)

 

(EPを使い切って怪我をする今回の様な事はいつか必ず起こる事でした。反省しなければならないのは私の方です)

 

(フェムト……)

 

(道中のペース配分を考えればよかった。予備の携帯バッテリーを持ってくればよかった。アクセサリーを改良して蓄電量を増やせばよかった。私が気を付けるべき反省点はいくらでもあるのです。……リトルは私に対して最善を尽くしてくれました。そうでしょう?)

 

(……うん)

 

(そのお陰で私もカレラも無事ですし、目的も果たせました。なのでこれから私達がするのは今回の戦闘の反省と改善です。それと、少し前に忍者さんに言われた事を覚えてますか?)

 

(「自身の足りぬ所を自覚し、克服する。それを繰り返して人はやがて一人前となるのです」……そう言ってた)

 

(そう。私達は生き残り、今回改めて足りない所を自覚出来ました。そして、私達は克服すると言う意思がある。この時点で私達は十分元は取れているんです)

 

(……うん)

 

 

 やっぱり、リトルは新しく覚えたSPスキルで防ぎきれなかった事を気にしていた。

 

 第七波動(セブンス)達は「宿主の役に立ちたい、守りたい」と言う本能が存在する。

 

 なので、今回の様に第七波動側が全力を出しても尚宿主を守れなかった事に対して深く心の傷を負ってしまう。

 

 しかも今回のパターンは新しいSPスキルを覚えてもなお怪我を負わせてしまった事が、リトルにとって私では想像も出来ない程のとてつもないショックとなっているのだ。

 

 それだけでは無く、リトルは私自身の心の傷とも連動している。

 

 私がニコラに捨てられたのではと考えていた時期に出来たそれは、リトルに更なる精神的な脆さを作ってしまった。

 

 

(リトル、多分リトルの事だからこれだけ私が言っても気にしないだなんて事は出来ないと思います)

 

(……ん)

 

 

 リトルが欲しがっているのは慰めの言葉ではない。

 

 本当に欲しがっている物は、別にある。

 

 それは……

 

 

(なので……帰ったらリトルに()を与えようと思います)

 

(……!!)

 

 

 この罰と言う言葉を聞いた瞬間、リトルから喜びの感情が濁流の如く流れ出した。

 

 リトルが恐れているのは私やエリーゼに捨てられてしまう事。

 

 そもそも罰を受けると言うのは期待されていた事への裏返しでもあり、確実に次に期待すると言うある種の側面が存在する。

 

 自身の罪悪感を浄化し、その上で捨てられる事は無いと確信できる行為。

 

 リトルにとって罰とはそう言う事なのである。

 

 この事を体感したのは恐らくお風呂場でエリーゼに怒られた時だ。

 

 あの真剣に、尚且つ静かに怒られたと言う罰を知ったリトルは表面上落ち込んではいたが、内心喜んでいた。

 

 何故なら、普段誰かに真剣にリトルの事を想って怒られるなんて事が無かったからだ。

 

 そう言う意味では私もリトルを甘やかしてばっかりであると言う事実も突きつけられた為、反省しなければならないのだが。

 

 よって、今回はその反省を生かして私はリトルに罰を与える事に決めたのだが、私がエリーゼみたいに怒るのは今の時点では難しい。

 

 そもそも私は職場でミスをした部下に対しては怒るよりも先ずは寄り添い、その上で諭すような方法で対応している。

 

 これは端末経由で尚且つスキルによる疑似人格を用いて対応している為、このような事が可能なのだ。

 

 それに、ついカッとなってしまう事も変身現象しているとそう言った昂った感情を抑制する事が出来る為、そもそもそう言った機会が無い。

 

 なら蓄積されたストレスはどうしているのかと聞かれると……その、色々な方法で発散しているのだ。

 

 そう、色々と。

 

 

(フェムトの(おしおき)、待ってるからね)

 

(……うん)

 

 

 リトルにこう言われてしまった以上、手は抜けない。

 

 よって、帰ったらネットで色々と調べてみよう。

 

 そう思いながら、私はカレラに抱っこされつつ帰路に就くのだった。

 

 ……後にリトルは私が与える罰のお陰で精神が安定するようになるのだが、その過程が色々とアレなので、また別のお話となる。

 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

「ロロがモルフォに挑戦状を叩きつけて、最終的にコラボも約束した……と」

 

「ええ。正にあっという間の出来事でしたよ。最初は喧嘩していたのに、あっという間に仲良くなってしまって」

 

「正直嬉しい誘いではあるのですが、今は時期が悪いですね。一応紫電にも連絡はしておきますが……あまり期待しないで下さいね」

 

「モルフォの歌も、ロロの歌も私は大好きだから早く実現して欲しいなって思ってるんだけどね……」

 

「そうなんだ、二人共……折角ロロと約束出来たのに……」

 

「まあまあシアン。ロロの方ももっと有名になったらって言ってたから時間的猶予はある筈だよ」

 

『ならその間、アタシ達は更に磨きをかけないといけないわね』

 

 

 今GV達から話を聞いている内容、それは以前GVが助けた女性オウカの屋敷でロロとシアンが遭遇し、色々あって最終的にコラボしようと言う約束をした事だった。

 

 普段なら諸手を上げて喜ぶ話なのだが、先の話の様に今はデマーゼルへの対処を優先している為、現時点でコラボ企画が実現するかは不透明。

 

 実現すれば本格的な打ち合わせもしたいし、なんなら()()()()()()を作成してもらうのもアリだ。

 

 そんな風に話し合っていると、エリーゼが私達の為にお茶と和菓子をテーブルへと運んでくれた。

 

 

「はい。どうぞ。羊羹と金鍔(きんつば)、あんみつもありますよ」

 

「わぁ……エリーゼ、ありがとう♪」

 

「やったぁ♪ 甘くて美味しい和菓子だぁ♪」

 

「ありがとうございます。いつもシアンが来ている時に出してもらって、助かります」

 

「いえいえ、喜んでもらえたなら何よりですから。……はい。フェムトくんの分」

 

「ありがとう、エリーゼ」

 

『むぅ……こういう時、アタシは除け者になっちゃうのよね』

 

「仕方ないよモルフォ。実体が無いんだもん。……はむ。……っ! うーん♪ 美味しい!」

 

『ちょっとシアンったら! いつもそうだけど、これ見よがしにアタシの前で羊羹食べるのズルいわよ!』

 

「あはは……」

 

 

 そんなやり取りを微笑ましく見ながら私はエリーゼの出したあんみつを一口。

 

 ……うーん、これは。

 

 

「エリーゼ、これってひょっとして手作りだったり?」

 

「あ、フェムトくん正解」

 

「えぇ!? これ、エリーゼの手作りなの!?」

 

「味と見た目がお店の物とあまり変化が無いから気が付かなかったよ……」

 

「フェムトくんが良くお土産にお菓子を買って来てくれてる事が切欠でわたしもやってみたいって思ったんです」

 

「器は私が買ってきた物の中で再利用出来そうなのを使っていますね」

 

「あんみつおいひぃ(おいしい)~♪」

 

 

 そう言いながらエリーゼは私の口に一口サイズにカットされた竹串で刺した羊羹を自然に差し出し、私はそのまま頬張り味を楽しむ。

 

 冷たく甘すぎず、それでいて滑らかな口触りが心地よい。

 

 そうやって味を堪能していたら、三人が凄い目で私とエリーゼを見ていた。

 

 まるで何か見てはいけない物を見たかのようなその視線。

 

 その視線にエリーゼは何かを勘付き、ハッとした表情で顔を赤くしながら顔を俯かせた。

 

 そんなエリーゼを見た瞬間、私もその理由に思い至る。

 

 

「あ……。えっと、これはですね……」

 

「あぅぅぅぅぅぅ……」

 

『あ、貴方達、何時の間にそんな関係になったの!?』

 

まさか先を越されちゃうなんて……そんな……

 

「流石にちょっと驚いたよ。……これって、()()()()()()()()()()()()

 

 

 三人から「私、興味あります!」と言わんがばかりの視線が突き刺さる。

 

 その視線から逃れる様に目線を横に向けると今度は金鍔を頬張っているリトルの姿があった。

 

 こんな状況でも笑顔で金鍔を頬張れるリトルの図太さがある意味羨ましい。

 

 ……いや、そもそも私達が結婚を前提とした付き合いをしている恋人同士である事は隠してはいないのだ。

 

 やましい事は何もないのだから、堂々と公言すればよい。

 

 それに、こういう時は私が矢面に立つのが筋と言う物。

 

 故に、私はGVからの問いに改めて視線を戻した上で自信を持って、胸を張って、誇る様に答えた。

 

 

「ええ。そう言う事です。私達は結婚を前提のお付き合いをしています」

 

『「きゃ~~♪ やっぱり貴方達そう言う関係だったのね!? 最近同棲生活始めたって聞いてたから怪しいって思ってた()!」』

 

 

 私の答えに対してシアンとモルフォは同一人物である事を示すようにシンクロして騒がしく声をハモらせた。

 

 しかも動きまでシンクロしていた為、その迫力に思わず引いてしまいそうになる。

 

 ただ、GVの方は落ち着いた反応を返してくれたので一安心と言った所なのだが。

 

 

「やっぱり……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それでそれで、どっちが告白したの!?」

 

フェムトくんはあそこまで堂々と言ってくれたんだから、わたしもしっかりしなきゃ……! えっとね、フェムトくんから告白されたよ」

 

『どこで!?』

 

「それは内緒。だってフェムトくんが見つけてくれた私達だけの場所だから……ね」

 

『あぁ……それいいわねぇ~♪ それでそれで、貴方達、そこまで堂々と言えるんだからキスくらいは済ませてるわよね!?』

 

「ちょっとモルフォ。そこまで突っ込んだ話は聞かなくていいんじゃ……」

 

『GV止めないで! 今大事な話をしているの!』

 

「そうだよ! 今の質問はとっても重要なんだから!」

 

 

 あまりの二人の迫力にGVもタジタジである。

 

 ……まあ、キスしてるかしてないか位は言っても大丈夫だよね?

 

 横目でエリーゼをチラリと見る。

 

 エリーゼも同じように私を見ていて、頭を少しだけ上下に動かす。

 

 

「勿論告白と同時に済ませましたよ」

 

『どんな風に!?』

 

「こう、フェムトくんが両手でわたしの頬をそっと包んで背伸びして……」

 

わぁ……いいなぁ……

 

 

 流石にファーストキスした時の状況の説明は恥ずかしかったのか、エリーゼは途中から顔が再び赤くなって声を小さくして俯いてしまった。

 

 それに対して、シアンとモルフォは水を得た魚の如くグイグイと押していく。

 

 それを同じように聞いていたGVはシアン達とは対照的に顔を逸らしながら耳を赤くしている。

 

 ……巷では無敵の蒼き雷霆(アームドブルー)と言われているGVも、恋愛話に対しての免疫はあまり強く無い様だ。

 

 

『そ、それでなんだけど……エリーゼ』

 

「な、なんでしょうモルフォさん」

 

『キ……キス以上の事は、してたりするの?』

 

「えぁう!? そ、それは……その……」

 

 

 流石のモルフォも恥ずかしかったのか、顔を赤くしてちょっと躊躇う口調でエリーゼに質問を投げかけた。

 

 対するエリーゼは流石に其処まで踏み込んで来るとは思わなかったのか、思わず奇声を上げてしどろもどろになってしまっている。

 

 そんな二人の様子をシアンとGVが黙って見守っている。

 

 ……流石にこれは、ちょっとマズイのではないだろうか?

 

 ハッキリ言えばエリーゼと()()()()()()()はしている。

 

 それ所か、リトルも巻き込んでしてしまっている。

 

 流石にこの事がバレるのはちょっと避けたい気持ちが私にもあるのだ。

 

 でも、エリーゼのこの態度が既に答えを言っているのと同じなのではと諦めの気持ちもある。

 

 それにここで私が口を挟むのも答えを言っている様な物ですし、ここはもう、正直に話すしか……

 

 そんな風に思いつつ、諦める様に私が口を開こうとした時、白熱した質問攻めの熱を一瞬で覚ます出来事が起こる。

 

 

「むぐむぐ……ふぅ。ごちそうさま~♪ エリーゼ、和菓子美味しかったよ~♪」

 

『「「「あ……」」」』

 

「リトルちゃん、一人で全部食べちゃったの!?」

 

 

 私達が恋愛話に夢中になっている内に、リトルが皿に分けられていた羊羹等の和菓子を全部平らげてしまった。

 

 残っているのは個人の各器に盛られているあんみつのみ。

 

 

「あぁ~~!? 私の羊羹が、金鍔がぁ……」

 

「だ、大丈夫ですよ! 多めに作りましたので、まだ冷蔵庫に……」

 

「食べた」

 

「え?」

 

「皆お話に夢中だったから、食べた」

 

「え?」

 

「私の事、除け者にするのが悪い。あんみつに手を出さなかっただけ、ありがたいと思って欲しい」

 

「そ、そんなぁ~……」

 

『これはアタシ達が悪いわね……ごめんなさいリトル』

 

「ボクからも謝るよ。ごめんね、リトル」

 

「ん。次からは私も相手にしてね」

 

 

 珍しくリトルが怒っている事を和菓子を食べつくす形でアピールされてしまった為、ここで恋愛話はお開きとなる。

 

 この後、私をイスにする形でリトルを抱っこする事で機嫌は元通りとなり、今度はリトルも会話の輪の中に入り、別の話で盛り上がった。

 

 その際、モルフォが先ほどの和菓子を食べている様子を見て『アタシもいつか生身の身体が欲しいわねぇ……』と言っており、実際に生身の身体が後に出来る事になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 エリ-ゼから出された麦茶を頂きながら、バクトとの戦闘データの情報解析を進めている。

 

 今回も私自身、かなり反省させられる戦闘及びミッション内容であった。

 

 

(今回の件はデータ保護の関係上電力を施設内から補充する訳にはいかなかった。その事を考えて最悪でもキュアーヴォルトが最低一度でも扱える程度の小型バッテリーを持ち歩くべきでした。それに、そろそろ私が今使っているアクセサリーも更新しないとダメでしょう。それが出来ればペース配分にももう少し余裕が出るはず)

 

 

 先ずはアビリティを構築する前に、それ以外で解決出来る事をまとめ上げる。

 

 その上で、改めてアビリティを組み上げる。

 

 反省をし、次に生かし、改良を施す。

 

 そして、己の糧とする事で明日を生きる力と自信を得る。

 

 恐らくこれからも私は失敗をし続けるだろう。

 

 だけど、その度に私は何度でも立ち上がって見せる。

 

 そんな風に決意を固めながら作り出したアビリティはこんな感じだ。

 

 

(SPスキルの効果を上げる【SPアップ】、SPスキルの消費を抑える【SPセーブ】、SPスキル発動中から終了直後までダメージを軽減する【SPザンシン】、近接攻撃のダメージを軽減する【ニアーレジスト】)

 

 

 主にSPに関わるアビリティを多く作成することが出来た。

 

 私も今やSPスキルを二つも取得している身だ。

 

 なのできっと役に立つだろう。

 

 そして、今回のデータ収集によって全体の六割ほどのデータ解析が完了。

 

 その為、TASの方にも参考に出来そうなデータも発掘出来た為、それを改めてプログラミングを開始する。

 

 そして出来上がったのは、私個人では待望の第七波動以外ともTASで接続できるようになるアビリティ【マイナーズリンク】だ。

 

 これでまた一つTASは紫電の要望を満たすことが出来る。

 

 なので近い内にテストをしたいが、それはもう既に予定に組んである次のホログラム能力者からデータ収集をするまでお預けだ。

 

 それまではこのアビリティを寝かせてしまう事になるだろうが、接続テストをお願いしたい頭領さんの都合を合わせる期間と考えればちょうどいい塩梅になるだろう。

 

 

 

 


 

 

GET ABILITY SPアップ SPセーブ SPザンシン ニアーレジスト マイナーズリンク

 

 


 

 

 

 


出社

 

 

 

 

 最初の出社から日が経っている為、私は様子を見る事も兼ねて情報管理部へと足を運ぶ事を決めた。

 

 出かける前のエリーゼのお弁当も受け取り、それだけでなく最近お菓子作りに凝っているのもあり今回は季節の果物盛り沢山の手作りゼリーも手土産にしている。

 

 いつも思う事だが、こうしてお弁当が貰えるのは本当にありがたい。

 

 私の為に時間を作ってくれているのだと思うと、心が温かくなってくる。

 

 

「フェムトくん、良かったら職場の人達から感想も聞かせて貰えると嬉しいな」

 

「分かったよエリーゼ。じゃあ、行ってくる」

 

「エリーゼ、行ってくるね!」

 

「いってらっしゃい、フェムトくん。リトルちゃん。ん……」

 

 

 エリーゼは私の額に口付けを落とし、私達を送り出す。

 

 この額の口付けは、もう当たり前にするようになっていた。

 

 少し離れた後振り返り、私達は手を振る。

 

 それに合わせ、エリーゼも笑顔で私達を見送った。

 

 いつも通りの道を歩く私達。

 

 会社への道のりは私達にこれから始まるであろう一日を暗示させる。

 

 時刻は丁度始まる十五分前程の時間。

 

 私達は無事何事も無く会社へと辿り着き、受付のお姉さんに挨拶を済ませる。

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございま~す!」

 

「おはようございます。フェムトさん、リトルちゃん。今日も相変わらず情報管理部門はてんやわんやですよ。それにしても……無事な姿を見れて本当に良かったです」

 

「……? 何か変な噂でも流れましたか?」

 

「ええ、何でもフェムトさんが負傷したと言う噂が流れまして……」

 

「(あぁ、カレラに抱っこされた時の姿を誰かに見られたんですね)……大丈夫ですよ。ほら、見て下さい。これが負傷している様に見えますか?」

 

 

 私はくるりとその場で回り、怪我が無い事をアピールする。

 

 そんな私の姿を見て受付のお姉さんは「はうっ!」と胸を抑える様にうずくまってしまった為、今度は私が心配する事態になってしまった。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

不意打ちは卑怯ですよフェムトさん。……ごちそうさまです……ええ、大丈夫です。ちょっとびっくりしてしまっただけですので」

 

「じゃあ、私達はもう行くね、お姉さん!」

 

「っとその前に……このゼリー、良かったらどうぞ」

 

「わぁ……手作りなのは分かりますけど、良く出来てますねぇ~」

 

「もし良かったら後で感想を下さい。()()エリーゼがお土産に作ってくれたゼリーなんです」

 

「……ぇ? ぁ? ぇ?」

 

「……お姉さん?」

 

「ああうん大丈夫よフェムトさん! 行ってらっしゃい! そ、そんな……フェムトさんに彼女らしき人の影が……! こうしてフェムトさんもオトナになって行くのね……

 

「……?」

 

 

 受付のお姉さんにゼリーを渡した後、私達は情報管理部門へと足を踏み入れた。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「………………ふぅ」

 

 

 皆、黙々と作業を進めている。

 

 が、その様子をよく見ると一部のベテランを除いて皆目が虚ろになっていた為、私は急遽大きく声を掛ける。

 

 

「皆さん! お疲れ様です!」

 

「ぁ……あぁ……」

 

「これは幻覚かな? フェムト先輩の姿がミエルヨ……」

 

「……おう。何とか持たせたぜ、フェムト」

 

「フェムト、先ずは皆を回復させないと!」

 

「ええ。リトル、変身現象(アームドフェノメン)を」

 

「ん!」

 

 

 リトル(宝剣)を開放し、部下達一人一人にキュアーヴォルトを施す。

 

 施された部下の皆は正気を取り戻し、涙ながらに私の帰還を喜んだ。

 

 

「ブェ゙ム゙ドざん゙~~! ぶじで、ぼん゙どゔに゙ぶじでよ゙がっ゙だよ゙ぉ゙~!!」

 

「うぅ……フェムト先輩がもうダメなんじゃないかって噂が飛び交ったから、私達昨日からずっと家に帰らないで頑張ってたんです~!」

 

「……情報管理部ではお前が負傷した事で噂が持ちきりだったからな。だから皆、このザマだった訳さ」

 

「それは……心配を掛けました。ですが私はこの通り大丈夫です。皆さんは一先ず休憩に入って下さい。昨日からずっと居たと聞いた以上、これ以上の無茶は許しません。ああそれと、いつもの机の上にコーヒーの入った魔法瓶を、冷蔵庫に手作りゼリーを置いときますね。休憩が終わって一息入れたら食べてみてください。それじゃあ後は私が引き継ぎます」

 

 

 そうして部下の皆を休憩させ、私は皆の仕事を引き継いで作業を開始する。

 

 進捗状況は……前よりもずっと片付いていた。

 

 時間効率的にも前回のアドバイスが効いたのかより改善されており、順調に私が居なくなった際のリカバリーが少しづつ出来つつある。

 

 この事を私は嬉しく思ったけれど、同時に少し寂しさを感じた。

 

 このペースならば、やがて私無しでもやっていけるようになる日が近い、そう思いながら。

 

 

 

 


 

 

GET 20000MG 

 

情報処理部門Lv2→Lv4up!

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇サーバールームの惨状について
原作においてカレラ戦の後でデータが破壊された所のリスペクト、所謂お約束と言う物です。
但し、今回はフェムトが事前にデータの保護をしていた為被害は物理的な物に抑えられています。

〇皇神の電子姫について
紫電がフェムトを女装させた時に付けられた女装フェムトの二つ名。
裕福層のパーティーに出席した事で背後関係を調べ上げられ、その様な異名を付けられてしまった。

〇罰について
一言で言えばいつも優しくされているが故の反動。
怒られる事を望むのはより強い感情を潜在的にリトルが欲している事も背景に存在している。
なのでエリーゼに初めて怒られた時はこの感情にリトル本人は戸惑っていた。
だけど、そんな感情をフェムトに看破させられ、罰を与えると言われた瞬間この感情に気が付く、と言った感じです。
……ええ、番外編案件なのでお察しください。

〇デュエット曲について
一体どんな曲になるんだろうねぇ……
まあ原作監修済みなら分かると思います。
「貴様は独り寂しく、ハミングでも口ずさんでいるんだな!」って事には少なくともなりません。どうか安心して欲しい

〇マイナーズリンクについて
トゥルーエンド必須のアビリティ。
習得すると第七波動だけで無く、人間やAIを始めとした意思を持つ存在と接続が可能となる。
「能力者」とでは無く、「人間」と接続が可能になるのがポイント。

〇受付のお姉さんについて
密かにフェムトの事を狙っていた受付のお姉さん。
フェムトが結婚可能な年になったら告白する予定だったのだが彼女(エリーゼ)の存在を会話から感じ取り、あえなく撃沈する。


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第二十七話 月読(ツクヨミ)に響く偶像(アイドル)の歌声 城塞の真の力


ミッションセレクト

 

 

 

 

 バクトを撃破し、無事にデータの収集を終えた数日後。

 

 次に向かう場所である超級電波塔“ツクヨミ”の近くで今回同行するメラクと合流する為、予定よりも少し早く訪れていた。

 

 

(ここがツクヨミかぁ……)

 

(イオタが何時も守ってる【大電波塔アマテラス】の兄弟塔ですね。最近完成したばっかりだったんだけど、よりにもよってそのタイミングでホログラム能力者が現れたんですよ)

 

(えっと、確かあの人達(アキュラとロロ)が言ってたけど、そこに居るのってイソラって言う女の人なんだよね)

 

(ええ。なんでも翼戦士と兼業でアイドル活動をしていたとか言ってましたね)

 

 

 情報提供者であるアキュラとロロからの情報によると、彼女は生前翼戦士として働く事を条件にスメラギから様々な形でサポートを受けていたと言う。

 

 その時のイソラ本人曰く、【翼戦士系★アイドル】を自称しており、アキュラ達の世界に居る第七波動(セブンス)能力者達からは知名度が高かったらしく、今でも彼女の事を惜しむ声は多いらしい。

 

 惜しむ声が多い理由に関してだが、これは向こうの世界ではイソラは「翼戦士として死亡した」と発表されておらず、「無期休止」と発表されているからだ。

 

 これはデマーゼルによる情報操作が主な理由なのだが、本当の事を知らせるとアキュラ達に危害が加わる可能性を考えて新しい統治者はあえてそのままにしているとの事。

 

 そんな彼女の持つ能力の名前は分身(コンパニオン)

 

 人型のエネルギービットや本人そっくりなデコイを自在に動かし、それと合わせて通常の姿(ノーマルモード)高機動形態(アリーナモード)を切り替えて戦闘を行う高機動遠距離戦を得意とする。

 

 その代わり防御面は脆い為、今回の人選はメラクを選択したのだ。

 

 そんな風に考えながら時間を待っている時、メラクから連絡が届く。

 

 

「どうしたんですか? メラク」

 

《そっち行くのメンドイ》

 

「えぇ……」

 

《って言うかさ、ボクがそっち行く必要ってあるの?》

 

「それは……そう言えばそうですね。TASの方をちょっと弄れば遠距離接続も出来る筈ですので」

 

《だよねぇ……聞いといてよかったよ。危うく外に出るなんて面倒をする所だったよ》

 

 

 メラクの第七波動である亜空孔(ワームホール)は空間にひずみを発生させ、離れた場所同士を繋げる第七波動だ。

 

 なので、TASで接続してしまえばメラク本人は動かずに、かつ一方的に攻撃に集中することが出来る。

 

 それはさながらシューティングゲームの様に。

 

 なので、TASに遠距離接続用のプログラムを急遽作成する。

 

 まだ出発前で敵地に突入している訳では無い為、余裕を持ってプログラミングが可能だ。

 

 ……よし、これで遠距離接続が可能になった筈。

 

 

「メラク、終わりましたから接続しますよ」

 

《りょーかい。……ふぅん。これがTASか。これはボクとかなり相性がいいシステムだねぇ》

 

「ええ。亜空孔との相性はかなりいいと思いますよ。……では、出発します」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 今回の施設はリトルマンティスの使用はデータバンク施設と同じように場所が場所だけに出来ない。

 

 なので私単独での潜入となる。

 

 

(フェムト、大丈夫なの?)

 

(今回は前回の反省を生かして小型バッテリーを持ち出しましたし、アクセサリーの更新も終わっています。それに、今回の場所はEPの補充ができる筈ですのでペース配分を間違わなければ大丈夫です)

 

(……気を付けてね、フェムト。私も頑張るから。それと昨日覚えた【シールドヴォルト】と【スピードヴォルト】、ちゃんと発動させてね。一度使えば変身現象(アームドフェノメン)を解除するまで維持するから)

 

(分かったよ。リトル)

 

 

 二つの新たなノーマルスキルを発動させ、地上に存在する搬入経路から静かに潜入する。

 

 この単独潜入は最初のミッションである大型デパート以来。

 

 なので私自身の小柄な体と能力を駆使し、ツクヨミの攻略を始めた。

 

 現在、ツクヨミは例のテロリスト集団がこれまでよりも大規模に戦力展開した上で占拠している状態だ。

 

 なので、初期の頃の私ではかなり苦戦を強いられると思われるが今は違う。

 

 私自身も様々な戦いを経て成長し、更に今回はTASとの相性が抜群のメラクがバックに就いている。

 

 するとどうなるか?

 

 まず私がEPレーダーを広域に展開してマッピングを行い、テロリストやロボ達の位置情報を割り出す。

 

 次に連絡網及び定時連絡のタイミングを把握し、それを元にパターンを作成する。

 

 そして最後にメラクと情報共有を行い、タイミングを見計らいながら各部隊を相手にEPレーダーで一斉にロックオン。

 

 ここからは完全にメラクの独壇場だった。

 

 

(お、きたきた……はいドーン)

 

(……分かってはいましたけど、ある意味ヒドイ光景ですね)

 

(いいじゃんいいじゃん。お互い楽出来てさ)

 

 

 ロックオンと同時にメラクの亜空孔が展開し、ミサイルやレーザーによる一斉攻撃でテロリスト達が纏めて駆逐される。

 

 この一連の流れで、一度に一個小隊を撃破出来てしまう。

 

 なのでもう、ここから先は作業と何ら変わらない形でテロリスト達が駆逐される流れとなった。

 

 いやはや、前に何度か亜空孔をTASで運用するシミュレートはした事はあったのだが、ここまで圧倒的だと……ちょっと待って。

 

 

(メラク、ちょっといい?)

 

(ん? 手短に頼むよ)

 

(一度に展開出来てる亜空孔、増えてるよね?)

 

(多分宝剣を人型(ヒューマノイド)に更新したからじゃない?)

 

(更新終わってたんですか。珍しいですね。メラクがそこまで迅速に更新を済ませるなんて)

 

(ああそれはね、フェムトの青き交流(リトルパルサー)見てさ、()()()()()()使()()()()なんて出来そうって思ったんだ。んで、これがドンピシャでさ。亜空孔って座標とか把握するのメンドイんだけど、変えた後はこの辺自動でやってくれるから、楽出来て助かるよ)

 

(私もリトルにスキル管理をお願いする時がある事を話してたのを覚えていたんですか)

 

(まあね。実際上手く行ったから感謝してるよフェムト)

 

 

 実際やろうと思えばだが……大幅に効果が落ちてしまうがリトルは単独で能力を行使することが出来る。

 

 但し、宝剣として身に纏っている時は予め指示しておけば適切なタイミングでスキルを発動してくれる為、メラクはこの方法で亜空孔を使っているのだろう。

 

 そんな風に考えていた時、TASテレパス経由で聞きなれない()()()()()()()()()

 

 

(メラク様、敵性反応の消失を確認。撃破完了でございます)

 

(これなら任せてよさそうだね。ボクはネトゲやってるから、後はよろしく()()()

 

(了解で御座います、メラク様。この亜空孔にお任せを)

 

 

 その声は亜空孔からの物だった。

 

 どうやらメラクは男性型ヒューマノイド型の宝剣にしたらしい。

 

 メラクは女性と言うか、そもそもあまりベタベタされるのはネトゲの邪魔になる為好きでは無い。

 

 なので、そう言った事もしないだろう執事タイプの男性型にしたのだと推測できる。

 

 

(では、早く終わらせましょうフェムト様)

 

(……ええ。改めてよろしくお願いします。亜空孔)

 

 

 何と言うか、向こうでぐうたらしながらネトゲをしつつ亜空孔にお世話されているメラクが目に浮かぶ様だ。

 

 ……気を取り直して、私は先へと進む。

 

 EPレーダーで広域ロックオンを済ませ、亜空孔で一斉攻撃の繰り返しで索敵と殲滅を繰り返している内に、ツクヨミの管理者達が捕らわれている部屋の前を制圧。

 

 内部をEPレーダーで調べ上げ、テロリスト達の反応が無い事を確認して部屋の中へ。

 

 そこには一人血が流れている片腕を無事な方の手で抑えてぐったりして座り込んでいる人がまず目に飛び込んだ。

 

 なので、先ずはキュアーヴォルトによる手当を優先する。

 

 

「これで大丈夫なはずです」

 

「ありがとうございます。……よろしかったのですか? 私達の為に力を使ってしまっても」

 

「大丈夫ですよ。今回みたいな事も想定していますので」

 

 

 手当が終わった後は軽く挨拶と情報交換を済ませる。

 

 なんでもホログラム能力者が出現した直後の時点では、本人が居座っている部屋から出てこない上にこちらから手を出さなければ無害であった為、通報を入れた後は刺激しない様にそのまま放置していたらしい。

 

 そしてここからが重要なのだが、今回のホログラム能力者ことイソラはこれまでの相手とまた違っており、なんと自分のアイドル活動を動画にして欲しい等とお願いをされた事もあったのだと言う。

 

 何故か分からないけど生き返り、その場から動けないのならばその時間をアイドル活動を再開する為のリハビリに使うのだと言うイソラ。

 

 この事から彼女は自分の仕事に関して真摯である事が伺えるのだが、それと同時にある事実も浮かび上がって来る。

 

 それは薄々分かっていた事なのだが、ホログラム能力者側は一枚岩では無いという事。

 

 特にホログラム能力者を支援している動きを見せるテロリスト達なんかがその典型例といっても良い。

 

 こいつらは正直何の為にホログラム能力者達を支援しているのかまるで分っていないのだ。

 

 一応生き残った連中は拘束して連れ帰っているのだが、翌日には歯の奥から検出された毒物で自殺をしている為、情報習得の目途が立っていない。

 

 なのでまだ生きている内に私が頭の中を生体ハッキングする事で調べ上げた事もあった。

 

 だが、その事すら見越しているのかこのテロリスト達は皆例外なくミッション内容の大まかな内容しか知らされておらず、依頼主は代理人を経由している為足取りが掴めない。

 

 正直私としてはデマーゼルよりもこちらの方が思惑がまるで分らず不気味であると言う印象がぬぐえないのだ。

 

 

「それで、今もイソラはアイドル活動再開の為のリハビリを続けていると?」

 

「ええ。あんないい子がどうしてあんな風になってしまったのかは私達には分かりません。ですが、あの子は少なくとも自分の意思でこんな状況を引き起こしたかった訳では無いという事はハッキリと分かります。なので、出来ればでよろしいのですが……」

 

「それは相手の出方次第になりますね。私は過去に三人ほど似たような境遇の人達と遭遇しましたけど例外なく襲い掛かってきました。なので申し訳ありませんが今回の子を特別扱いは出来ません」

 

 

 クリム、リベリオ、バクトの三人とは戦うしか出来なかった。

 

「魂を縛られている」とリベリオは言っていた為、その辺りの意見を頭領さんに聞いて見た所、オカルトの領域では良くある話なのだと言う。

 

 その方法の種類は流派によって様々だが、大雑把に纏めると契約、或いは一方的な隷属を強要している状態が一番可能性として考えられるらしい。

 

 

「そうですか……」

 

「ですが、その子がこちらに歩み寄ってくれるのなら話は別です。その時はまた対応を変えます。……今出来る譲歩はここまでです」

 

「ありがとうございます。それで十分でございます」

 

 

 そういう訳で、テロリストを駆逐した後でイソラと接触した際、可能なら話し合いに持ち込むサブミッションが加わった。

 

 正直あまり期待は出来ないし、戦闘データを習得しそこなうのは惜しい面も否定できないが、流石に戦う意思のない相手に無理やり喧嘩を売るような真似はしたくない。

 

 

(それってさぁ、犯罪者に同情しちゃうストックホルム症候群ってヤツなんじゃないの?)

 

(私もその辺り疑ってますが、あそこまで頼まれたら無碍にも出来ません。イソラの居る部屋はあそこからも見れたので約束を破ればすぐにバレますよ。だから信用を損ねるのも避けたいのでやれるだけはやりますが)

 

(全くあいつら、フェムトに無用なリスク抱えさせちゃって何様のつもりさ)

 

(メラク?)

 

(フェムト。忘れがちだけどミッションってさ、基本命懸けなのよ。んで、フェムトはボk……この皇神グループでは必須の存在って言われてるでしょ? 最近忘れがちだけどさ。全く、紫電もそうだけど無茶し過ぎ。もうちょっとボクみたいに力を抜けばいいのに)

 

 

 本音が一部漏れてはいるものの、メラクの言い分も間違ってはいない。

 

 なんだかんだで心配してくれているメラクに感謝をしつつ先へと進み、テロリスト達を撃破し、メカ達をハッキングして嗾ける事を繰り返す。

 

 

「ごはぁっ!」

 

「ばっバケモノめぇ!」

 

 

 最後のテロリスト小隊を撃破し、遂に最上階までの道のりを制圧し、実質ツクヨミを開放する事は出来た。

 

 後はこの先の最上階に存在するイソラだけだ。

 

 

(フェムト、準備できてる? ネトゲでもそうだけど、勝負は前準備で大体決まるからね)

 

(EPの補充も済ませてるから大丈夫。何時でもいけるよ)

 

(よし、ここからはボクも真面目にやらせてもらおうかな)

 

(頼りにさせてもらうよ、メラク)

 

 

 準備が整ったのを確認し、私はイソラの居る部屋へと乗り込む。

 

 右手に鉄扇、左手にワイヤーガンがあるのを改めて確認しながら、ゆっくりと。

 

 そんな私の視界に飛び込んで来たのは、何かの振り付けだと思われる動きをしつつ歌を歌っているイソラの姿。

 

 翼戦士としての彼女の姿もまた、いかにもアイドルである事をアピールした可愛らしさとほのかな色気が混ざった絶妙なバランスで構築された姿だった。

 

 

『GO! フルスロットル! GO! フルスロットル! ベタ踏み全開フルスロットルで!! 希望は いつも キミと共にある ずっと! GO! フルスロットル! GO! フルスロットル! 限界突破フルスロットルで!! さあ 行こう……』

 

 

 どうやら歌を歌うのに集中しているらしく、こちらに気が付いてい無い様だ。

 

 ……歌そのものはアイドル基準に準じており、まだまだ発展途上と言った感じは拭えないが、ひたむきさは伝わって来る。

 

 なので私は彼女が歌い終わるまでその場で待つ事にした。

 

 

『そばにいるよ いつまでも 駆けつけるよ どこにいてもねぇ 届けるよ Delivery the song! ……ふぅ。ご清聴ありがとう★ イソラの歌、どうだった? 異端者(イレギュラー)のフェムトくん★』

 

「出来ればこちらでスカウトしたい位には良かったですよ」

 

『ほんと? イソラ、とっても嬉しい★ ……正直言うとね、イソラはアイドル活動出来ればそれで良かったの。元々翼戦士になったのだって活動を支援してもらう為だった。だけどイソラはイクスくんとロロちゃんに負けちゃって……他の人達はどう思っているのか分からないけど、イソラは出来るならファンの皆の所へ帰りたいの。だから……』

 

 

 イソラのこの様子を見る限り、今回は戦いにならなさそうだと一安心。

 

 これなら身柄の安全を保障しつつ交渉に臨めば戦う必要は無いかもしれない、そう思っていた時だった。

 

 嫌な気配が、辺りを包んだ。

 

 あのホログラム戦車、通称【ジャイアントロロ】から放たれていたソレよりももっとドス黒いナニカが、イソラを捉える姿を私は見た。

 

 

『えっ……なにこれ……っ!』

 

 

 

 

 

 

 

01011 01001 01100 01100(KILL)

 

01011 01001 01100 01100(KILL)

 

01011 01001 01100 01100(KILL)

 

 

ベルセルクトリガー

 

 

 

 

 

 

 

『あ、あ、あ、あぁ、あぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 先ほどまで私に笑顔すら届けていたイソラが、まるでこの世の終わりを告げるかのように絶叫し、()()()()()()()()()()()()()をその身に宿した。

 

 その視線は虚空を見つめ、完全に正気を失っている。

 

 それでいて明確な殺意を目の前の私に向けている為、戦いは避けられそうにない。

 

 

(……はぁ。こりゃあダメだね。少しはサボれるかもしれないって期待してたのに)

 

(…………)

 

(戦闘する意思を見せなければ暴走させて操ってでも無理矢理戦わせるとか、ブラック所じゃないよね、全く。……デマーゼルって奴をほっといたらボクらもこうなる可能性ありそうだし、こりゃ本気(ガチ)で行かないとダメかな)

 

(……メラク)

 

(……フェムト、切り替えないと死んじゃうよ。アレは絶対にヤバイ。亜空孔、お前も頑張れよ? ああなるの、ボクはゴメンだからね)

 

(勿論です、メラク様。あの邪悪な気配、我等(セブンス)から見ても危険です。なので、早急に片づけます。……さあフェムト様、気合を入れて下さい。鉄火場に居るのは貴方一人なのですから)

 

(メラク……亜空孔……分かった。今は戦いに集中しよう)

 

(フェムト……)

 

 

 不安そうなリトルの声が私の頭の中に響き渡る。

 

 先ほどまで友好的ですらあった相手が突然豹変してしまったのだ。

 

 リトルも動揺を隠せていない。

 

 内心怖気づいている私も含め、何らかの方法で精神的に立て直す必要があった。

 

 ……そう言えばふと思い出した事がある。

 

 GVはミッションの際、強敵と遭遇した場合己を鼓舞する為に決められた口上を叫ぶ時があると。

 

 ならば、私もそれに倣おうと思う。

 

 己と相棒(リトル)を鼓舞し、なけなしの勇気をかき集め、立ち上がれるように。

 

 高らかに私は叫んだ。

 

 

「調律せよ! 青き交流(リトルパルサー)! 捕らわれしひたむきな想いと願いを解き放て!!」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 私のこの言葉を合図に戦いは始まった。

 

 リトルが私の鼓舞を受け取ったのか、私の中を駆け巡る第七波動が強く活性化している。

 

 その上今回は前回の戦闘後に新たに習得した守りの力を高めるシールドヴォルト、ダッシュ速度や攻撃速度等が更に早くなるスピードヴォルトを使用している為、私自身の耐久力と機動性はこれまで以上に強化された。

 

 更にアビリティもこれまで以上に充実しており、正直今の私ならば今までの翼戦士相手なら引けを取る事は無い。

 

 しかし、今回の場合は強制的に戦う意思の無い相手が無理矢理操られて戦わされている事に加え、能力がアキュラから見せられた戦闘データの物よりもずっと強化されていた為、私は完全に攻めあぐねている。

 

 その理由なのだが、今回の様な相手の場合は基本カウンターロックオンが機能するのだが、イソラの攻撃手段が分身による物がメインである事が厄介さをさらに引き上げている。

 

 具体的に言うと、カウンターロックオンの対象がイソラでは無く分身になってしまうのだ。

 

 

(分身にカウンターロックオンが持ってかれちゃってる!)

 

(……っ! こうして戦ってみると厄介ですね!)

 

 

 ただし、全くどうしようもないという訳では無い。

 

 暴走しているのが理由なのか定かではないが、攻撃パターンに一定の法則が存在している。

 

 これは操っている側がイソラ本人の意思を完全に掌握出来ていないからだと私は考えた。

 

 現に、一瞬だけではあるが攻撃する瞬間明確に隙が出来る時があるからだ。

 

 

(分身による真上からの強襲パターン……! 次は私を狙って分身を直接ぶつけるパターン……基本はこの二つ。何とか慣れて来ましたね)

 

 

 私なりのパターン構築が完了した為、今度はこちらから打って出る事にした。

 

 攻撃のタイミングは分身を直接ぶつけるパターンの時の分身を一度回収しているその瞬間を狙う。

 

 

「はぁ!」

 

『……っぅ! あぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 

 開いた鉄扇による横一文字の一閃を叩き込み、ロックオン。

 

 それと同時に回収した分身を高速で私に射出するイソラ。

 

 一塊になった分身を防御結界(パルスシールド)を展開して防ぎきり、メラクに合図を送る。

 

 

(今です!)

 

(亜空孔)

 

(ええ。今が好機……そこです!)

 

 

 私の目の前に巨大な亜空孔によるワームホールが出現し、そこから巨大な拳がイソラ目掛けて叩きつけられる。

 

 この拳はメラクが変身現象をした際に使う戦闘用のイス型武装から放たれた物を亜空孔によるワームホールの出口側を大型にする事で巨大なサイズになっており、その一撃は強力無比。

 

 イソラはまともに受け、跳ね飛ばされる。

 

 

『あぁっ! うぅぅぅぅぅぅ……!』

 

 

 しかし、イソラは暴走の力を爆発させながら再び立て直し、今度はスカート部分を変形させた高機動形態で私達を翻弄。

 

 これまでとパターンが変更された為、私はいくつかの被弾を許してしまう。

 

 本来ならば電磁結界(カゲロウ)で防げたはずの攻撃なのだが、蒼黒い雷を纏っているのが理由なのか、発動する事は無かった。

 

 

「っぅ……! まだまだ!」

 

(フェムト! ……電磁結界が、どうして!?)

 

(理由は後回しで! とりあえず私は平気です! リトルは身体のダメージのモニタリングの継続! 危険域に突入したらキュアーヴォルトを!)

 

(ん!)

 

 

 分身を引き連れた突進。

 

 上空から光柱を左右に発生させ、最後に中央に大きい光柱を発生させる攻撃。

 

 イソラ本人が分身した上での光柱による攻撃。

 

 そろそろパターンを構築する事が出来そうだ。

 

 私はメラクに攻撃準備の合図を送り、機を待つ。

 

 仕掛けるのはイソラ本人が分身した時のタイミング。

 

 そう、今この瞬間だ!

 

 

「そこ!」

 

『……! あぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!』

 

 

 私がワイヤーガンを直撃させると同時にイソラは光柱を私に集中して叩き込む。

 

 それを見越してワイヤーガンからリトルの鉄扇に即座に持ち替えつつガードポイントを駆使してさばき切った。

 

 この光柱を私に集中させている際、イソラは大きな隙を作る。

 

 仕掛けるなら今だ。

 

 

(メラク!)

 

(やれやれ……やっと仕留められそうだ)

 

 

 

 

 

 

森羅万象に穴穿つ

 

縦横無尽変幻自在

 

世界を貫く破滅の光柱

 

 

レイジーレーザーver.2

 

 

 

 

 

 

(いい加減消えなよ!)

 

 

 メラクのSPスキル【レイジーレーザーver.2】。

 

 今回放たれたソレは私の知るレーザーを転移させ続けて相手を追い込む物とは違う。

 

 亜空孔でミサイルを放つ時、メラクはワームホールの穴を複数に増やす事でミサイルその物を分裂させることが出来る。

 

 今回のレイジーレーザーはミサイルの部分をレーザーに変えた物。

 

 つまり巨大なレーザーで四方八方から同時に攻撃しているのだ。

 

 よって、これにて決着が付き、ミッションは完了――

 

 

 

 

 

 

我が往くは天下の花道

 

汝に贈るは死出の旅路

 

群衆の鬨よ舞台を満たせ

 

 

ラストナンバー;ファナティクス

 

 

 

 

 

 

『皆に……届けぇ!』

 

 

 ――するはずも無く、レーザーの直撃による爆発の中からイソラによるSPスキルが発動。

 

 本体と分身による虹色のレーザーが戦場を覆いつくし、トドメとばかりに光柱を叩きつける。

 

 この攻撃は完全に私を狙っておらず、闇雲に放たれた物だった。

 

 結果、ダメージの危険域に一度突入してしまったが、何とか耐えきる事に成功する。

 

 しかし……

 

 

『アン……コールぅ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

我が往くは天下の花道

 

汝に贈るは死出の旅路

 

群衆の鬨よ舞台を満たせ

 

 

ラストナンバー;ファナティクス

 

 

 

 

 

 

 ここに来て、もう一度SPスキルが放たれた。

 

 流石にこの攻撃を受けてしまったら回復を挟んでも助からない可能性が高い。

 

 よって、私はフィールアクセラレーションを発動させつつ賭けに出るしか無かった。

 

 

(現在のEP残量を数値化すると600弱……! ここで切らないとどっちみち終わりならば、足掻かせてもらいます!)

 

 

 

 

 

 

煌めくは雷纏いし城塞

 

守護の聖域よ 二重に重なり城塞と化せ

 

 

パルスサンクチュアリ

 

 

 

 

 

 

 私はあえてイソラの元へと突貫しながらSPスキルを発動し、雷の聖域による城塞を用いて抵抗を試みる。

 

 前回のバクトの一撃を防ぎきれなかったこのSPスキルだが、どういう訳かイソラのSPスキルに対しては極めて高い防御性能を叩きだし、余裕を持って耐えきる事に成功した。

 

 その事に私は一瞬あっけに取られてしまいかけるが、理由は後回しと永続ロックオンされながら吹き飛ばされているであろうイソラを探し、見つけ出す。

 

 だが、またしても様子がおかしい。

 

 

(あの蒼黒い雷が消えている?)

 

(うん。嫌な感じ、消えたみたい)

 

(……どうやら、やっと終わったみたいだね)

 

(そのようです)

 

 

 少しづつ体の外側からホログラム状に変化させ、消滅していくイソラ。

 

 その姿は先ほどの戦いのお陰でかなりボロボロの際どい姿をしていたが、本人の表情はどこか晴れやかな物だった。

 

 そして、イソラの目と私の目が合い、彼女は微笑みかけて……その姿を消した。

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。



〇フェムトの装備について
今回のミッションからフェムトの装備が更新。
アクセサリーの変更で最大EPが1000から1200となり、EPが空になったら自動で、或いは任意にEPを100回復させる小型バッテリーが追加。
メタ的に言うとボスを三体撃破すると装備が更新される。

〇シールドヴォルトについて
基本性能はGVの物と同じだが、効果時間が実質ミッション終了まで持つ為使い得なノーマルスキル。
SPを消費しない代わりに最大EPを50消費する。

〇スピードヴォルトについて
攻撃速度やダッシュ速度等を強化する。
こちらもシールドヴォルトと同じようにミッション終了まで持つ使い得なノーマルスキル。
SPを消費しない代わりに最大EPを50消費する。

〇第七波動によるスキル管理について
第七波動にスキルの使用や面倒な能力の管理を変身現象中限定ではあるが任せる事が可能。
これもメタ的に言うとボスを三体撃破すると可能になる。

〇メラクの宝剣について
メラクを脳内シミュレートした結果、女性型ヒューマノイドは解釈違いと言う結論が出てしまった為男性型のヒューマノイドになりました。
実際女性型にしていたら目茶苦茶ベタベタされていた為、メラク的にはこの選択は正しい。

〇第七波動の性別について
無性、男性、女性の三種類がランダムで決まるのが基本なのだが、身体を与える場合はその体の性別に準じる形となる。
が、リトルの様に例外も多い。

〇ベルセルクトリガーについて
メタ的に言うと解析率やボス撃破数等の特定の条件を満たすとボス戦で自動発動する。
戦闘力は白き鋼鉄のXにおけるスペシャルミッション基準。
そして全ての攻撃が電磁結界を貫通し、()()()()()S()P()()()()()()()()()()()()()()()()

〇決められた口上について
所謂GVで言う所の「迸れ! 蒼き雷霆(アームドブルー)!」だったりアキュラの「その〇〇、オレが討滅する!」みたいなヤツ。
こう言った口上もガンヴォルトシリーズでは欠かせない。
フェムトの口上は「調律せよ! 青き交流(リトルパルサー)!」
これでガンヴォルトシリーズにおいてのお約束は大体出せたとは思いますが……何か足りないですよね?
それも最も重要だと思われる物が。

〇レイジーレーザーver.2について
本来はレーザーと亜空孔を用いて相手を追いつめるSPスキルだった物をスパロボシリーズに登場するグランゾンのワームスマッシャーみたいに四方八方から同時にレーザーを叩きつける方法に変化させた物。


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第二十八話 インターミッション(五回目)

 

 

 

 

 ツクヨミの最上階は先程の戦闘によって見るも無残な状態だった。

 

 それ程までに今回の戦闘は凄まじく、これまで以上に準備を整えた私でも消耗が激しい。

 

 よって、先ずは辛うじて残ったEPを用いて自身にキュアーヴォルトを施し、傷を癒す。

 

 

(……ふぅ)

 

(お疲れ様、フェムト)

 

(お疲れ様です。フェムト様)

 

(やれやれ、これでミッションは完了。お疲れフェムト)

 

(皆もお疲れ様。今回はこれまで以上に本当に大変でした。物理的にも、精神的にも)

 

(そりゃああんなモノ見せられたらねぇ……)

 

 

 今回の戦いは避けられるはずの物だった。

 

 先ほど私に笑顔を送って消えたイソラは少なくとも戦う意思は無かったのだ。

 

 だけど、突然現れた蒼黒い雷の様な物を身に纏った途端正気を失い襲い掛かって来た。

 

 アレは、尋常では無い。

 

 ……少なくとも相手にはあのように無理矢理言う事を聞かせる手段があるのが分かったのは収穫だ。

 

 戦闘データもこれまで以上に充実した物で、解析が進めば最低七割半位は進むだろう。

 

 本来ならばそれを喜んでいい筈なのに、私の胸の中を嫌なモヤモヤが蓄積し、喜ばしい筈の事実を反転させる。

 

 

(それじゃあ、一旦戻る? 今回は特別に亜空孔(ワームホール)を使わせてあげるけど)

 

(……管理者の人達に終わった事を先に伝えましょう。それが終わったら――)

 

(あーはいはい。じゃあまずはそっちに送るわ)

 

 

 ワームホールが私の目の前で展開される。

 

 私は迷わずその中へと入り、ツクヨミの管理者達の居る部屋の前まで飛ばしてもらった。

 

 今回の結果は既に向こうの人達も把握しているだろう。

 

 その理由もあって、この部屋に入る事に少し躊躇いを覚える。

 

 けど、このままスルーする訳にもいかないので、意を決して部屋へと入り、今回の顛末の報告を済ませた。

 

 

「……そうですか。その様な事が」

 

「ええ。……結果として戦う事になってしまいました。申し訳ありません」

 

「いえいえ、元より戦いが起こる事は前提だったはずなのです。明確に彼女に戦う意思が無い事が分かっただけで十分ですよ」

 

 

 その後、管理者の人達と今後の事を話しつつ、再び彼女が現れたらこれまでと同じ対応をお願いし、私は再びメラクの作り出したワームホールで帰還を果たした。

 

 帰還したその先は能力者部隊の基地内にあるメラクが指揮する時の部屋だ。

 

 その部屋でまず目に飛び込んだのは明確にロボットだと分かる執事姿の亜空孔。

 

 今ヒューマノイドはリトルから得たデータによって技術的革新が進んでいる。

 

 それでもあえて機械の身体に拘ったのはなんともメラクらしいと思った。

 

 そんな亜空孔から飲み物を手渡され、先ほどの戦いで乾ききった身体を潤していく。

 

 執事姿になったのは最近の筈なのだが、妙に手馴れているのは普段からメラクを見ていると何となく想像出来る。 

 

 

「お疲れ様です。フェムト様」

 

「ありがとう亜空孔。……メラクは?」

 

「もうお休みになられてますよ」

 

「分かりました。では戦闘データ等はこちらで預からせて貰います。報告等もこちらで済ませますので、メラクに後の事は任せて欲しいと伝言をお願いします」

 

「畏まりました」

 

 

 一息ついた私はメラクの居る部屋から紫電の居る部屋へと向かい、今回の出来事について報告する。

 

 生き残ったテロリスト達の処遇や、ホログラム能力者であるイソラについて。

 

 そして、今回起こった新たな脅威的な現象。

 

 

「……首謀者は随分と()()()()()してるみたいだね。それはもう、嫌になる位に」

 

「ええ」

 

「しかもやっている事が初期案の歌姫(ディーヴァ)プロジェクトに近いと言うのが輪をかけて質の悪さを強調しているよ」

 

 

 初期の歌姫プロジェクトの概要は電子の謡精(サイバーディーヴァ)の歌の持つ精神感応能力を応用し、世界中の能力者を洗脳・管理する計画と言った物だ。

 

 それと今回の事を照らし合わせて考えると、的を得ている部分が多数見受けられた。

 

 

「何て言うか、規模は違えどかつてボクがやろうとしていた事をまざまざと見せつけられた気分だよ」

 

「紫電……」

 

「でもね。同時にこうも思った。ボク達がここまで駆け上がって別の形で歌姫プロジェクトを発動出来たのは間違いじゃ無かったってね」

 

「ええ。それは本当に。あれだけ無茶なスケジュールを押し通した価値は間違い無くありました」

 

「だからこそ今回の事件、確実に解決しなければならない。今はまだホログラム能力者達に適応されている段階だけど、これらがやがてボク達に向けられる可能性は十分にある。……戦闘データの方はどんな感じだい?」

 

「今は七割半から八割に近い感じですね。残るホログラム能力者はダイナインとインテルスですが、今回みたいな事が起こっても起こらなくてもデータは取り切れる計算になります」

 

「それならいいんだ。引き続きデータ収集とアビリティの作成に力を入れて欲しい。勿論、生き残った上でね」

 

 

 紫電に対する報告を終え、私は部屋を後にした。

 

 今回はツクヨミを一番下から最上階まで駆け上がった事もあり、夕方を過ぎて夜に差しかかり、街は窓から溢れる光で煌々と輝いている。

 

 ――これまでのミッションは遅くても夕方になる前に終わるのが普通だった。

 

 それに加え、今回のミッションは無理矢理操られた上で強化された相手であった為、精神的にも肉体的にもかなり疲労を実感するくらい追い込まれている。

 

 なので、早く戻ってエリーゼの顔を見たい気持ちが私の中で大きく膨む。

 

 そんな私の気持ちを糧に帰宅する足取りを現段階の疲労度の酷さを無視するように疾走している。

 

 まだ変身現象(アームドフェノメン)を解いていないのでスピードヴォルトの効果が続いている為、間違い無く帰宅までの時間は短い。

 

 なのに今日は何故か帰宅までの時間が長く感じた。

 

 これは遅くまでミッションが掛かってしまった事に対して、私がエリーゼに負い目を感じているのが理由なのだろう。

 

 そんな事を考えながら我が家の玄関を視界に捉え、玄関前に着くと同時に変身現象を解除する。

 

 この前のアキュラとの戦いの時は疲労困憊で玄関前で倒れてしまったが、今回はまだやせ我慢できる範囲の疲労で済んでいた。

 

 何だかんだ、私もしっかり成長しているのだ。

 

 だけど、少し気になる事がある。

 

 我が家の明かりが付いていない。

 

 普段ならこの時間帯は間違い無く明かりが付いていてもおかしくは無いのに。

 

 まさか、エリーゼの身に何かあったのでは?

 

 そんな思考と共に鍵の掛かっていたドアを開ける。

 

 夜の中走っていた事もあり、私の瞳は夜目が効いていた。

 

 そんな私の視界に飛び込んで来たのは、玄関の土間の目の前にある廊下で体育座りをしながら俯いていたエリーゼの姿。

 

 そんなエリーゼがドアが開いた音に反応し、顔をこちら側に向ける。

 

 それと同時に私は駆けつけ、優しく両手でエリーゼの頬に触れた。

 

 その両頬は涙と思われる水分で湿っており、改めて顔をよく見れば今でもさめざめと涙を流し続けている。

 

 

「…………フェムト、くん?

 

「ただいま、エリーゼ」

 

 

 ただいまの挨拶をすると同時に、今日の朝もエリーゼがしてくれた額に口付けを今度は私が行う。

 

 一瞬ビクッと震え、私を視界に収めながら暫く呆然とするエリーゼ。

 

 

「ただいま! エリーゼ!」

 

「あ……あぁ……お、おか……えり……リトル、ちゃん。……フェムトくん!」

 

 

 言葉を詰まらせながらおかえりの挨拶をすると同時にエリーゼは私達を両手で抱きしめた。

 

 エリーゼの持つ女の人特有の柔らかな感触と温かさに私は帰ってきた事を改めて実感し、理解する。

 

 心配を、かけさせてしまった事を。

 

 

「遅くなってゴメン」

 

「エリーゼ、ゴメンね……」

 

「ううん。いいの。二人共ちゃんと帰って来てくれれば、わたしは……」

 

 

 待つと言う行為は受動的な物だ。

 

 だけど、それが楽な物かと言われると、また別の話。

 

 私自身、前線に出る前はエリーゼと同じ待つ側だった。

 

 なので、今のエリーゼの気持ちは理解できる。

 

 何かあったのでは無いか?

 

 酷い怪我をしたんじゃないのか?

 

 もう、物言わぬ躯となってしまったのではないか?

 

 普段の帰りよりも遅くなればなるほど、そう言ったネガティブな考えが頭の中を支配する。

 

 絶望が首をもたげるのだ。

 

 そう言った考えに支配されると、とても辛い。

 

 苦しくてたまらない。

 

 そして、なまじエリーゼは一度絶望に長く身を置いていた事もあり、もう一度味わう可能性のある絶望に対して酷く敏感だ。

 

 そう考えると、この後行われるエリーゼの行動は、ある意味必然であると言えた。

 

 ――私達から徐に離れると同時にエリーゼは宝剣を呼び出し、変身現象を行う。

 

 ヘビと忍者を組み合わせたかのような姿に加え、最近ますますスタイルが良くなっている為、元々強調されていたボディーラインが更に自己主張を強め、見る者を魅了する。

 

 

「エリーゼ?」

 

「フェムトくん。じっとしてて。ん……」

 

「んむ!? んぅ……」

 

 

 突然の口付け。

 

 舌は入ってはいないものの、代わりに何か温かいモノがエリーゼの口を経由して入り込んでくる。

 

 その温かいモノが入り込めば入り込むほど、身体の奥底から活力が生まれる感覚が私の中で生まれてきた。

 

 つまり今エリーゼが行っているそれは、私が良く使うキュアーヴォルトに相当する何らかの回復系のスキルだ。

 

 元々エリーゼの能力である生命輪廻(アンリミテッドアニムス)は初期の頃は少し傷を癒す位の第七波動だと聞いた事がある。

 

 なので、今やっているコレはその延長線上の物なのだろう。

 

 ……それにしても、長い気がする。

 

 もう私は十分元気になったんだけど、何時まで続けるんだろうか?

 

 って言うか、これ以上続けると逆に元気になりすぎてしまうし、エリーゼの消耗が気がかりになってしまう。

 

 そんな私の気持ちを反映してか、リトルがエリーゼに声を掛ける。

 

 

「……エリーゼ、そんなに力を使っても大丈夫なの?」

 

「ん……大丈夫……わたしの増幅させた生命力(ライフエナジー)を流してるだけ、だから……ん……」

 

「エリーゼ、フェムトはもう十分に元気になったよ?」

 

「ん……ダメです……んむ……もっと……もっと流し込まなきゃ……」

 

 

 この温かなモノの正体はエリーゼの生命力そのもの。

 

 生命輪廻の力で増幅させて溢れた余剰の生命力を私に流し込んでいるのだ。

 

 そして今気が付いたのだが、流し込まれた生命力は私の身体の奥深くに存在するキュアーヴォルトでも癒せないダメージを修復していた。

 

 これらのダメージは所謂栄養素の欠如によって生じるモノ。

 

 キュアーヴォルトはあくまで体を活性化させて新陳代謝を高めて傷を癒すと言う原理なので、必要な栄養素が足りなくなると回復もそこで限界が来てしまう。

 

 しかし、エリーゼのコレはそう言った限界の壁を容易く越え、私自身認識していなかったダメージを生命力で補填する形で癒している。

 

 ああ、でも、これ以上はマズイ。

 

 リトルが言う様に元気になり過ぎてしまう。

 

 なので、そろそろ離れようとエリーゼの口付けからいったん離れた上で催促しようとしたら、リトルが背後から私を抑えつけた。

 

 

「リトル!?」

 

「……エリーゼがこうやってフェムトにしてるの、何か訳があると思う。だから、そのまま続けよう」

 

「だけど、これ以上は別の意味で問題が……!?」

 

「だめだよフェムトくん。口を離しちゃ……ね?」

 

 

 この時目を合わせたエリーゼはどこか切実で真剣な表情をしていた。

 

 それに気圧され、私は思わずエリーゼの言葉に従ってしまう。

 

 ……改めて、一度離した口付けが再開される。

 

 今度は変身現象によって長くなったエリーゼの舌が私の中に入り込む。

 

 その舌先が私の喉奥まで入り込み、そこからエリーゼの生命力が再び流れ込んで来た。

 

 その間、私は考える。

 

 エリーゼは何故私にここまで生命力を流し込んでいるのかを。

 

 私自身の体調は毎日能力を用いて数値化している。

 

 これは皇神グループに入社してデイトナ達と知り合った辺りの時期に過労で倒れた事があった為、その対策として導入した物だ。

 

 肉体的な疲労は勿論の事、精神的な疲れも数値化出来る為、それ以降前線に出るまでは過労で倒れるなんて事は無かった。

 

 勿論前線での戦いでも引き続きこの数値化は続けており、倒れたのも肉体的な物では無く精神的な物が理由である為、健康面には問題無い筈なのだ。

 

 ……ひょっとして、お返しのつもりなのだろうか?

 

 普段エリーゼの身体に流れる生体電流を増幅させていた事の。

 

 この行為はエリーゼの身体の新陳代謝を高め、物理的な面で高い健康効果が期待できる行為であり、私自身も愛用している生体ハッキングを利用した方法の一つだ。

 

 実際、恋人同士になってから始めたこの行為以降、目に見えて分かる位エリーゼは綺麗になったし、スタイルも身体つきも良くなった。

 

 但し、これには副作用的な物も存在している。

 

 それはエリーゼ自身の気持ちが性的に高揚した時、身体がとても敏感になってしまう事だ。

 

 それはちょっと問題があると思い原因を調べてみた所、大雑把に言うと体中に存在する生体電流が流れる経路を定期的に全て活性化させる事そのものが原因であった。

 

 そしてこの敏感になると言う特性、生体電流の制御を手放すと私とリトルにも適応される。

 

 なので、普段から制御している私達は兎も角、エリーゼはちょっと不味いなと思って事情を説明し、やめた方がいいのではと話した。

 

 だけどエリーゼは止めなかった。

 

 その事に、私は内心喜んだ。

 

 エリーゼに私の力を流し込むと言う行為に喜びを感じるからだ。

 

 私色にエリーゼを染めていると言う実感を、より強く感じる事が出来るからだ。

 

 ……話を戻そう。

 

 つまりエリーゼも、そうなのでは無いだろうか?

 

 私をエリーゼ色に染めたいと、思ってくれているのだろうか?

 

 だとしたら、こんなにうれしい事は無い。

 

 互いの身体や想いだけでは無く、()()()()()()()()()のだから。

 

 ……後に聞かされた事なのだが、エリーゼから見て私の魂と呼べる物が酷く損傷していた為、あのように生命力を流したのだと教えてくれた。

 

 純粋に私を助けてくれていた事を知り、私は内心物凄く恥ずかしく悶える事になるのはまた別の話だ。

 

 

 

 


 

 

フェムトの魂の損傷が修復された為、バッドエンド【魂の過労死】を回避しました。

 

 


 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

 最近宝剣のヒューマノイド化の流れが活発化している。

 

 それは一番長く稼働している宝剣型ヒューマノイドと言えるリトルから収集したデータが実用段階まで持っていける位蓄積され、大分前に提出していた事が切欠だった。

 

 そのデータから宝剣としての性能の向上だけでは無く、実は封印の安定性も大きく向上している事が判明。

 

 何でも第七波動を()()()()()()()()()がオカルト方面から見て有用らしく、封印効果がより強く高まるのだとか。

 

 それ以外にも副次的に変身現象をした際の性能の向上にも繋がっている事から、戦力的にも封印的にも重要度が跳ね上がり、人型宝剣への流れが加速している、という訳だ。

 

 因みに人型であればロボットに近い姿形でも問題無い為、メラクみたいな既存の機械色の強いヒューマノイドでも大丈夫である。

 

 なのでその流れは、必然的に強い能力を持つメラク以外の七宝剣の能力者全体に及んだ。

 

 当然、その中に含まれているエリーゼも例外では無い。

 

 

「えへへ♪ アニムスが人型になるの、楽しみだなぁ♪」

 

「リトルは人型の仲間が増えるから嬉しそうだね」

 

「うん♪」

 

「わたしも楽しみ。アニムスとは変身現象の訓練の時位しか会話が出来なかったから」

 

「どんな姿になるんだろうね。エリーゼ」

 

「話をしている時は何て言うかお姉ちゃんとか、お母さんみたいな感じだったから……それに近い姿になるんじゃないかなぁ。……フェムトくん」

 

「? どうしたの、エリーゼ」

 

「……フェムトくんの負担、増えちゃうかなぁって思って」

 

「そんなの今更ですよ。それに、一人増えた所で我が家は広いですし、それでも足りなければ拡張すれば大丈夫ですし、生活費も十分余裕があります」

 

 

 実際、我が家は年々高くなっていく私自身の給料を注ぎ込む貴重な消費先の一つ。

 

 土地も広く確保しているし、今の時代は拡張する事も専門知識が無くても容易くなるような材料が普通にホームセンター辺りで売られているのだ。

 

 今のこの時代、家ですら十分な土地を用意出来れば一人で一から作れてしまう。

 

 なお、本当に重要な基礎等の部分は専門職の腕が必要になるので、そこをケチると大変な事になるのだが……

 

 ――話を戻して、今更一人増えた事で我が家の台所事情はビクともしない。

 

 なので安心して欲しい事を私はエリーゼに話をしたのだが、どうにも歯切れが悪い感じがする。

 

 何か別の事を懸念しているのだろうか?

 

 

「えっとね、フェムトくん。アニムスはフェムトくんに物凄く感謝しているの。私の事を立ち直らせてくれた事もあるし、私とアニムスとの関係を修復してくれた事もそう。だけどそれ以上に……」

 

「それ以上に?」

 

「ほら、私に告白してくれた時、フェムトくんはこう言ってくれたよね? 「貴女の全部が欲しい」って」

 

「ええ。あの時の事は忘れませんよ。大切な思い出ですから」

 

「えへへ、嬉しいなぁ……♪ ってそうじゃ無くて」

 

「……?」

 

「これってつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ええ。当然ですよ」

 

 

 エリーゼの第七波動なのだから、全部欲しいと言う言葉には当然アニムスも含まれる。

 

 そんな今更な事をどうして確認するのだろうか?

 

 

「つまり、フェムトくんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ……」

 

「あの時は宝剣に収まってたからアニムスは知らなかったんだけど、あの後私と変身現象して()()()()()()()()に知っちゃって……それに、フェムトくんなら分かると思うけどリトルちゃんって、フェムトくんの想いの影響を沢山受けるでしょ? それと同じようにアニムスもフェムトくんの事、私と同じくらい大好きなんだよ。だから……その……」

 

 

 つまり、エリーゼはこう言いたいのだ。

 

 所謂アレな事をする際に、私の負担が増えるのではないかと。

 

 まあ確かに、現段階でもリトルとエリーゼ二人の相手をしている。

 

 これにアニムスが加わると、三人に増える事になるのだ。

 

 いやまあ私としては男の子である以上大歓迎ではあるのだけど、ちょっと引っ掛かる所もある。

 

 

「こんな形の負担ならいくらでも背負いますよ」

 

「……ふふ♪ フェムトくんならそう言ってくれると思ったよ」

 

「ですが、ちょっと気になる事もあるんですよね」

 

「? 何か気になるんですか?」

 

「ええ。一応形式的には私とエリーゼの一夫一妻って形じゃ無いですか」

 

「うん」

 

「ですが、ここに第七波動であるリトルとアニムスを加えると……これって、私のハーレムって事になっちゃうんじゃないかな、って思ってしまって」

 

「うーん、わたしとしてはリトルちゃんもフェムトくんの一部だから気にならないし、逆にお得に思っちゃうけど」

 

 

 そんな風に話をしていた時、我が家のインターホンが鳴り響く。

 

 誰が来たのかを確認する為にドアホンを確認。

 

 そこに映っていたのは、エリーゼに似た銀色の髪に紫が混じったような長い髪を靡かせ、大人っぽい黒いワンピース姿の綺麗なお姉さんの姿だった。

 

 スタイルはパッと見た感じでは今のエリーゼと同じ、或いはそれ以上であり、彼女はスーツケースを片手に今か今かと私達を待っている。

 

 私はエリーゼとリトルの二人と顔を合わせ、笑いあう。

 

 正に、噂をすれば何とやらと言う奴だ。

 

 私達は話しを中断し、全員で彼女を迎えに玄関まで向かう。

 

 ドアを開けると同時に、私の中ではお馴染みの第七波動の力を感知する。

 

 そう、生命輪廻の波動の力を。

 

 

「えっと、フェムトくんのお家はここでいいのかしら?」

 

「ええ。来てくれてありがとう、アニムス」

 

「アニムス! やっとこうやってお話出来るね!」

 

「……アニムス。今日からここが貴女の居場所だよ」

 

「ふふ♪ これでわたくしも仲間外れではありません。……では、改めまして。わたくしはエリーゼの第七波動、生命輪廻ことアニムス。フェムトくん、リトルちゃん、そしてエリーゼちゃん。不束者ですが、よろしくお願いしますね」

 

 

 こうしてアニムスが合流し、我が家はより賑やかになったのであった。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


エリーゼと訓練

 

 

 

 

 新たに我が家の一員になったアニムスと、早速変身現象を行うエリーゼ。

 

 こんな風に簡単に変身現象を私達は行っているが、本来ならばこれを行う際には事前に許可が必要だ。

 

 だけど、今はホログラム能力者やその協力者のテロリスト集団が我が国の治安を乱しているのが理由で変身現象をする際の許可が一時的に大幅に緩和されている。

 

 なので、この様に気軽に変身現象が可能なのだ。

 

 

「どう? エリーゼ」

 

「凄い……以前の物と比べ物にならないよ……」

 

 

 人型宝剣となったアニムスとの初めての変身現象。

 

 その特徴として、まず扱える力の増加が最初に来る。

 

 そして、ここは人によって違う部分も出てくるが、変身時の姿形が変化する事があり、彼女は変化するパターンを引いていた。

 

 エリーゼの場合、忍者とヘビを組み合わせたかのような姿だったのに対し、今はヘビの成分が抜け落ちている。

 

 その代わりに増しているのが衣装の豪華さ。

 

 言い過ぎかもしれないが、まるで女神が身に付けている衣装なのではと思える意匠なのだ。

 

 但し忍者成分が抜けていない為、ボディラインが強調されているのは変化が無い。

 

 そして最大の特徴が、背中から生えた大きな白い翼。

 

 まるで神話に出てくるペガサスを思わせるそれは実際飾りでは無く、動かして空を飛ぶ事も出来る様だ。

 

 なので早速外に出て、我が家の敷地内で飛ぶ練習を行う事になった。

 

 普通ならばこう言った突然増えた新たな器官と言うのは扱いに困る物だ。

 

 実際、VRベルレコで空を飛ぶ際も相応に訓練が必要だったりする。

 

 

(どう? フェムトくん。凄いでしょ?)

 

(……まさか初めてでそこまで空を飛べるなんて)

 

(いいなぁ……)

 

(ふふ♪ 実は初めてじゃないんだよ)

 

(え? ……あぁ、そう言えばエリーゼはVRベルレコで空を飛んでる経験してましたね)

 

(うん。まさかこんな形で役に立つなんて思わなかったよ)

 

 

 嬉しそうに空を飛んでいるエリーゼ。

 

 リトルも羨ましそうに見ているので、一度エリーゼに降りて貰い、同じく変身現象をしている私を抱えてもらう事をお願いした。

 

 VRの時以上の浮遊感を感じつつ、空へと上がっていく私達。

 

 普段見慣れている筈の街並みは、空から見るとまるで別物の絶景に写る。

 

 その事に喜ぶ私たちなのだが、先ほどからアニムスが黙り込んでいた。

 

 今私達はエリーゼが空を飛んでいた事もあり、TASテレパスで言葉のやり取りをしている。

 

 なので、こうして黙っているとすぐに分かってしまうのだ。

 

 

(アニムス、どうしたの?)

 

(……エリーゼが楽しそうなのを見て、感動しちゃったのよ)

 

(え?)

 

(わたくしから見たエリーゼは、フェムトくんと出合う前は何時も暗い顔をしていたから……だから、わたくしの力でそんな風に笑っている姿を見れたのが、嬉しくて)

 

 

 アニムスはエリーゼと記憶を共有している事もあり、その感動も一入なのだろう。

 

 そんな風に思いながら空からの眺めを楽しみ終えてエリーゼが我が家の敷地内の庭に着地した次の瞬間、敷地外から何かがぶつかる音が響き渡る。

 

 私達は急いで外へと駆けつけて見ると、そこには車に轢かれて即死したと思われる猫と思しき物体が転がっていた。

 

 

(フェムト、あの猫ちゃん……)

 

(……認めたく無いけど、【みーちゃん】で間違いないですね)

 

(……っ!)

 

 

 みーちゃんとはこの付近では皆に愛され、可愛がられていた野良猫の事だ。

 

 皆からお世話されていた事もあり毛並みもツヤツヤの三毛猫で、その愛くるしい姿と可愛らしい鳴き声は皆を魅了し、SNSでも時々見かける程の人気猫でもあった。

 

 ――野良猫である以上、こう言った突然お別れが訪れる可能性は当然あったのだ。

 

 だから私達を含めたこの近辺の人達はみーちゃんを飼い猫にしようとしていたのだが、本人ならぬ本猫は何処か一カ所に居着く事は無かった為、手を出せずにいた。

 

 その原因は定期的に私達も含めたこの付近に住んでいる人達が動物病院に連れて行った事も含まれていると思うが、それ以上にこのみーちゃんが自由奔放だったのが最大の理由と言えよう。

 

 

(…………)

 

 

 エリーゼが、何か意を決してみーちゃんだった物体を抱きかかえる。

 

 身体に返り血が付く事も気にせずに。

 

 抱きかかえたままエリーゼは我が家へと戻り、そこでとんでもない事を行使しようとする。

 

 

「フェムトくん」

 

「エリーゼ。……まさか! だけど、それは……下手をすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「そうなったら、わたしが責任を持って還す。だから、試させて」

 

「…………」

 

「何もしないまま、終わらせたくないの」

 

「……分かった。だけど、試すならここではダメだ。我が家のもっと奥、そう、トレーニングルームで試そう。それとちょっと待ってて。この辺りの監視カメラに細工を施さないと。それと、証拠隠滅もしないと」

 

 

 エリーゼをトレーニングルームへ行くように催促し、みーちゃんが引かれた痕跡を消し、その後で私はこの辺りに存在する監視カメラに細工を施す為にハッキングを行う。

 

 その際、監視カメラの映像も確認する。

 

 ……やはり、この辺りでは見慣れない車に轢かれた事を確認出来た。

 

 現在の時刻はエリーゼが空を飛ぶ事もあり、周りに迷惑を掛けないようにする必要もあったので真夜中だ。

 

 なので、監視カメラを見た限りでは誰もこの辺りに来ていない。

 

 その事を確認した後監視カメラに収められたみーちゃんが轢かれた部分の動画に細工を施す。

 

 それが終わり、私はエリーゼの待つトレーニングルームへと向かい、合流を果たした。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

廻る輪廻が生命を紡ぐ

 

不可逆の帳を超えて

 

魂よ、現世に還れ

 

 

リザレクション

 

 

 

 

 

 

 

 ――その奇跡は見事にみーちゃんに作用し、先ほどまで物言わぬ躯だった筈なのだが、何事も無かったかのように蘇った。

 

 これこそが生命輪廻に【絶対(アンリミテッド)】と言う言葉が付与されている理由であり、エリーゼが狙われる理由。

 

 これまでは外付けされた別人格のみが可能としていた蘇生だったが、今回の件でエリーゼ本人による完全な蘇生が可能となった。

 

 ……人間に対して成功した訳では無い為理論上、と言う言葉が付け加えられるが。

 

 

「みゃあ~ん。ゴロゴロゴロゴロ……

 

「あ……。やった……やったよ。フェムトくん。わたし、出来たよ。……出来ちゃったよ」

 

「おめでとう、エリーゼ。これで、大きな壁の一つを越えることが出来ましたね」

 

「うん、うん……!」

 

 

 エリーゼの身体が震えている。

 

 それはまるで自分の成した事実に怯えているかのように。

 

 嬉しい事も間違い無くあるだろうが、実際にこうやって完全な蘇生を実現してしまった。

 

 私も、改めて気を引き締めないといけない。

 

 

「エリーゼ。強くなろう。少なくとも、自分の身を守れる位には」

 

「うん。わたし、強くなる。フェムトくんの足を引っ張らない様に、アニムスに相応しいわたしになれるように」

 

 

 エリーゼが生き返ったみーちゃんを下ろし、私達はこのまま訓練を始める……つもりだったのだが。

 

 みーちゃんがエリーゼにゴロゴロ言いながら足元をスリスリしている為、訓練に移れない。

 

 そもそも今は真夜中だ。

 

 いくらトレーニングルーム内は防音であるとは言え、流石にこれ以上は切り上げた方が良いだろう。

 

 

「みゃう?」

 

 

 その事に気が付かせてくれたみーちゃんに感謝しつつ、私達は変身現象を解いて、みーちゃんを綺麗にする事の序にお風呂場へと向かった。

 

 ……因みにみーちゃんはこの事が切欠になったのか、我が家に住み着く様になり改めて私達の飼い猫となる。

 

 こうしてエリーゼは一つの大きな壁を乗り越え、更にみーちゃんと言う新しい家族が増える事になるのであった。

 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 今回入手した戦闘データ。

 

 その質はこれまでの物とは比べ物にならない程充実した物で、今回も良質なアビリティを作ることが出来るだろう。

 

 だけど、無理矢理操られた時のイソラの絶叫が、ホログラム状に消えゆく姿が私に罪悪感を植え付ける。

 

 ならばこそ、この戦闘データを無駄にしてはならないと私は新たに決意を固め、アビリティの作成を始めた。

 

 

(メラクと遠距離接続した際に出来たプログラミングをアビリティにした【TASディスタンス】、ノーマルスキルの効果を引き上げる【スキルアップ】、SP回復速度を上げる【スキルリジェネ】、リトルによる継戦回復の恩恵から【オートリカバー】、遠距離攻撃を軽減する【リーブレジスト】、あの蒼黒い雷に対しては……データが足りないか)

 

 

 今回習得出来た戦闘データで合計七割半から八割ほど解析が完了している。

 

 遂にここまで来たかと思ったが、油断をしてはいけない。

 

 残る二人のホログラム能力者も、あの蒼黒い雷を纏う可能性があるのだから。

 

 それと、思わぬ形で遠距離通信アビリティを獲得することが出来た。

 

 これがあれば、少なくともこの国の範囲内に居れば通信を維持する事も出来るだろう。

 

 ……さて、明日はいよいよ頭領さんとマイナーズリンクを試す日だ。

 

 これが成功すればTASの完成は間近と言っても良いだろう。

 

 それに、成長した私の姿を見せるのも楽しみだ。

 

 

 

 


 

 

GET ABILITY TASディスタンス スキルアップ スキルリジェネ オートリカバー リーブレジスト

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇エリーゼに生命力を流し込まれた件について
これは生命輪廻がまだ力の無い少し傷を癒す程度だった時の物を今の力の規模に合わせて使用したエリーゼのオリ設定のノーマルスキル【ライフリカバリー】。
エリーゼ本人の増幅した生命力を流し込む事で、どんなに重症であっても生きてさえいれば瞬く間に完全復活を遂げる破格の効果を持つ。
実は口付けをする必要は無く、どこからでも生命力を流し込むことが出来る。
なので今回の手法はエリーゼのシュミ的な物も含まれており、フェムトくん以外にはやらない方法だったりする。

〇エリーゼの生体電流の増幅を行っていた事について
フェムトが体調を維持する為に行っていたソレに興味を持ったエリーゼに施した事が始まり。
新陳代謝を良くしたり、自律神経を整えたり出来るので健康面において極めて有用だったりする生体ハッキングの応用の一つ。
但しこれを行った状態で制御を手放した上で性的に興奮すると、たとえ使い手であるフェムトとリトルでも性的な意味で敏感になる副作用が襲い掛かる欠点も存在する。
因みに第二十三話のなにもない一日でエリーゼがちょっとおかしい位敏感だったのはコレが理由だったりする。

〇バッドエンド【魂の過労死】について
実はフェムトくんは今まで能力を物凄く酷使し続けていた影響で物理的な体の異常に現れない魂が現段階で酷く損傷していた。
何気に致命的だったのが歌姫プロジェクトの際のデスマーチで、この時点で何もしなければ短命である事が確定していた。
それに加えて今回の兼業によって更に魂の損傷が加速し、エリーゼの治療が無ければインテルスを撃破する、即ち六人の翼戦士を倒す頃に魂が完全に崩壊し、そのまま帰らぬ人となっていた。
回避する為にはインテルスを撃破するまでにエリーゼと特訓を最低一度行う必要がある。
魂の崩壊の自覚症状は亡くなるその時まで分からないのに加え、個人差が存在する。

〇人型のアニムスについて
生命輪廻がヒューマノイド型宝剣に器を変えた姿。
エリーゼと心をある程度重ね続けると人型になってフェムト達と合流する。
見た目はエリーゼの姉か母を思わせるお姉さんと言った感じ。
銀色の髪に紫が混ざった様な長髪で、普段は黒いワンピースを着ている。
第七波動は宿主の影響を強く受けるので、エリーゼの影響を強く受けている。
なので、フェムトとリトルへの好感度がこの時点で限界突破している。
エリーゼを立ち直らせ、嫌われていた自分(アニムス)と和解させる切欠を与え、能力の習熟の手伝いも買って出てくれて、生活の保障もして、ダメ押しに互いに滅茶苦茶いちゃついてるエリーゼの影響と記憶を共有しているのだから当然と言えば当然なのだが。
トゥルーエンド必須である為、かなり重要なイベントだったりする。

〇エリーゼが行った人型宝剣との変身現象について
今回の変身現象でエリーゼの姿が変化したのは彼女自身の心境の変化に加え、人型宝剣に変化した事が極めて大きい。
そのお陰で動物相手ではあるがリザレクションによる蘇生に成功する為、このイベントもトゥルーエンド必須な重要イベントだったりする。
見た目の変化について解説すると、ヘビ成分が抜けたのは彼女の元ネタと私が考えるメドゥーサの怪物に変えられた呪いが解けた事を暗に示し、背中の翼はメドゥーサの子供であるペガサスが元ネタと言った感じ。
今回は見せる事は出来なかったが、戦闘態勢に移行すると背中の翼から()()()()()()()()()()()()()()()()()がバチバチと展開する。
これは元ネタで「ゼウスのもとで雷鳴と雷光を運ぶという名誉ある役割」を持っていた事からと、もう一つは……
なお、忍者成分が抜けていない為ボディーラインは強調された上で動きやすい恰好となっている。
ちなみに、翼の出し入れも可能。

〇みーちゃんについて
フェムトの拠点付近の住民達から可愛がられているご近所のアイドル三毛猫。
今回不運にも車に跳ね飛ばされ、エリーゼに蘇生された幸運猫。
その事を知ってか知らずか、エリーゼに懐いてフェムトの拠点における飼い猫として住み着く事になる。
珍しく、お風呂場を始めとした水場を嫌がらない変わった猫だったりする。

〇TASディスタンスについて
メラクと組むことが条件で習得できるアビリティ。
何気に国内を覆う位の範囲がある。
これもトゥルーエンド必須だが、修得条件がゆるゆるなので気にされない。


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第二十九話 あり得ざる少女の幻影(ホログラム)



サイドストーリー










BREAK OUT










「……紫電」

「構えないのかい、GV?」

「どうしてボク達が戦わなければならない!」

「簡単な事さ。ボクはアシモフの居所が知りたい。この国にとって飛び切りの危険因子だからね。だけど当然、キミは拒絶する。……当たり前だよね? キミが命の恩人だと言っていたアシモフを売るような真似をするはずが無いのをボクは知っている」

「…………」

「お互い平行線である以上、答えを出すなら戦う外無い。そうだろう?」

「GV……」


 オレは今、スミロドンを身に纏いつつガンヴォルトと紫電の戦いに付き添う形でここ、スメラギ第拾参ビル建設予定地に居る。

 この場所が選ばれたのは以前と変わらず更地の状態でありながら、広大な土地を確保している為周辺被害を気にしなくても良い場所だからだ。

 先の会話の通り、ガンヴォルトと紫電の交渉は決裂し、互いがぶつかり合う寸前の状態だ。

 このまま行けば、もう二人が争うのは避けられないだろう。

 それこそ、()()が起こらない限り。

 それを見守る形で、シアンも不安そうに二人を見守っており、ロロはスミロドンにも装備されているドッキング機構でオレと合体して、何かあった時の為に何時でも動けるようにしている。


「……分かったよ、紫電」


 沈痛な面持ちでガンヴォルトは自身に秘めた第七波動(セプティマ)を開放し、雷撃をその身に纏う。

 それに合わせ紫電も変身現象(アームドフェノメン)をする為に、()()をこの場に呼び寄せる。


「……その子は?」

「紹介するよ。この子はボクの念動力(サイコキネシス)を封じる宝剣【シス】。こんな可愛らしい見た目だけど、立派な宝剣なんだよ」

「……よろしく」


 紫電の第七波動は物静かで寡黙な()()と言った風貌をしている。

 どこか本体のパンテーラの見た目に似ているのは戦友として特別な想いを抱いているが故なのかは定かでは無い。

 その子を用いて、紫電は改めて変身現象を行う。


「光栄に思うといいよ。この姿で戦うのはキミが初めてなんだから」


 変身後のその姿は以前の物と大きく変化していた。

 確か前は左右がそれぞれ黒と白に別れたアーマーの様なモノを身に付けた姿だった。

 だが、今の姿は黒と白の混じり合った灰色のアーマーを身に纏っている。

 黒と白。

 悪と正義。

 その両方を飲み込み、受け入れ、紫電の出した答えがあの姿なのだろう。

 そうして互いが戦闘態勢に移行し、動き出そうとしたその刹那。

 ――二人の意識が互いに向いている事を知っているかのように()()が姿を現す。

 それと同時にヤツはその手に持っていた対戦車用レールライフル【E.A.T.R.】を構え、()()した。

 そう、ヤツは()()()()()()()、俺とシアンを含めた四人を狙ったのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()




MISSION START







『うわぁ! ()()()()()()()()、本当に来た!!』

「まさかここまで上手く嵌るとはな」

「本当だよ。まさかここまで食いついてくるなんてラッキーだよ。本当に」

『って、ちょっと待って!? これって紫電の策なんでしょ? 何で本人がそんな反応なのさ!?』

「フフ、これはメラクからの受け売りなんだけど……策と言うのはね、結果がどう転んでも美味しくなるように仕込むのが肝要なのだそうだよ。そして今回は、飛び切りの大物が転がり込んで来た。大当たりさ」


 因みにだが、シアンは既に事前に用意されていたメラクの亜空孔(ワームホール)により難を逃れている。

 今回の紫電の策。

 それは簡単に言えば()()だ。

 蒼き雷霆と電子の謡精(サイバーディーヴァ)、ヤツにとって極めて重要だと位置付ける二人が居る上で、紫電と決闘をする。

 もしこの状況が見えているならば、電子頭脳にエラーを起こしたデマーゼルなら食いつく可能性が十分にあった。


「これは……()()()()()()()!? これは一体……!」

「アレがボク達がアシモフを危険視している理由の一つさ」

「後で詳細、話してもらえるんだろうね? アキュラの事も含めて」

「勿論」


 騙すなら、先ずは味方からと言う言葉がある。

 この策、ガンヴォルトとシアンには何も知らされて居ない。

 その理由は全員が演技をしているとバレる可能性があったからだ。


「気を付けろ、ガンヴォルト。ヤツはお前と同じ蒼き雷霆を使う」

「ボクと同じ……!」

「そして、ヤツらは見て分かる様に本体では無い」

『だから、思いっきりぶっ飛ばして大丈夫!』


 ロロがモード・ディーヴァを発動させ、姿を現すと同時に小ビットを展開。

 オレもそれに合わせ、(エクスギア)を構えてアシモフ達と対峙した。

 ……昔は手負いの状態で、かつ慢心もしていたが故に敗北した時の記憶が蘇る。

 奇しくも、オレの装備はあの時とほぼ同じ。

 これはオレにとってある意味、リベンジ戦と呼べる物なのかもしれない。




READY







「相手は四人に対してこちらは三人。さて、どうしようか?」

「戦闘経験のあるオレが先行して陣形を乱し、即座に一体を沈める。後はそれぞれ一対一に持ち込めば十分勝算はあるだろう」

「だけど、ボクの知ってるアシモフならばそんな簡単にはいかないと思うけど」

「ヤツらはスペックその物は変わりないが、所詮意思の無い木偶の様なモノだ。本物は、こんな物では無い。……行くぞ、ロロ」

『OKアキュラくん! モード・ヴァルキュリア!』

「先ずはヤツらの陣形を乱す」








舞い踊るのは我等双刃

審判せしは千万無量

因果断ち切る白銀の十字架


クロスシュトローム








 オレとロロによるコンビネーションによって四人のアシモフ達にダメージを与えつつ陣形を乱す。

 それと同時にガンヴォルトと紫電がそれぞれ一対一へと持ち込む。

 残り二体のアシモフは雷撃麟を纏った状態でオレに突撃を仕掛けてくる。

 以前の装備(ヴァイスティーガー)ならば避ける事でしか対処する手段は無かったが、今は違う。

 オレは盾に()()()()()()を纏わせ、真っ向からシールドチャージ(リコイルダッシュ)を仕掛ける。

 それと合わせ、ロロのビットから同じ特殊な電解液を収束放水する形で放射するハイドロザッパーによる援護射撃が二体のアシモフ達を襲う。

 その衝突の結果は……



『ぐぅっ……!』

「やはり、蒼き雷霆には()()が極めて有効らしいな。……先ずは一体」

『フェムト君には通用しなかったからちょっと心配だったけどね』


 雷撃麟を打ち消し、正面から打ち勝った上でロロからの追撃によってあっけなく一体目を撃破。

 やはり、意思が無いからか手応えがまるでない。

 ガンヴォルトと紫電の様子を見ても、彼らは初見故少し手間取っているみたいだが、
逆に言えばそれだけだ。


『チャージ!』

「遅い」


 残ったもう一体目がオーバーヒートから即座に回復(チャージングアップ)後、オレに対して雷撃弾を放とうとする。

 それに対してオレは盾を地面に突き立て突き立てた先から()()()()()()()()()を形成して跳ね飛ばす。

 空中で無防備になった残る一体を、盾に灼熱を宿した対空攻撃(プロミネンスアッパー)による追撃を叩き込み、これを撃破。

 それとほぼ同時に、ガンヴォルトと紫電の方も決着が付こうとしていた。








煌くは雷纏いし聖剣

蒼雷の暴虐よ 敵を貫け


スパークカリバー












天が意思、皇の神気

仇なす輩を狩り立てん


サイコフュージョン








 紫電の渾身の一撃が、ガンヴォルトの聖剣の一撃がそれぞれのアシモフ達に直撃。

 そのままヤツらはホログラム状に姿を消し、この場での戦いは終わった。


「ふぅ……アキュラの言う通り、歯ごたえ無かったね」

「ええ。アシモフの本当の強さは冷静沈着、かつ卓越した技量にありますからね。本人の強みがまるで生かされて無い。あれでは文字通りピカピカ派手なだけだ。……さて、そろそろ色々と話してもらおうか。あのアシモフモドキ達も含めて色々とね」


 ガンヴォルトのその言葉と同時に、俺達の目の前にワームホールが出現する。

 シアンを即座に安全な場所に避難させていたメラクが開いた物だろう。


「詳しい話はこの先の落ち着いた場所でしよう。最近ボク達が何に対処しているのかについても含めてね」

「……分かったよ。紫電。でも先に、これだけは言わせて欲しい」

「なんだい?」


 この時のガンヴォルトの言い放った言葉はオレにとっては天地がひっくり返る程の衝撃を与えた。

 その事実は、オレの知るアシモフならば絶対にあり得ない物だったからだ。


「ボクの知るアシモフは、()()()()()()()()()()()()()




CLEAR






強制ミッション

 

 

 

 

 今日は私に鉄扇を扱う基礎を教えてくれた頭領さんと合流する日。

 

 TASで接続できる対象を第七波動(セブンス)以外の意思のある存在に広めるアビリティ、マイナーズリンクのテストを行う事を目的としている。

 

 今回は戦いが目的では無く、TASを能力が発現していない人間と接続した時の運用データを収拾する事が目的だ。

 

 何しろやっている事は意識を繋ぐと言うデリケートな行為。

 

 理論上上手く行くと分かっていても、実際に使われたデータがどうしても欲しいのだ。

 

 今回はまずTASで接続した上で頭領さん達の巡回パトロールに私も参加すると言う形で最初のテストを行う。

 

 TASを接続した際に意識に負荷が掛かって無いか、移動時での状態はどうなっているか等の基本的なデータを集める予定となっている。

 

 

「お待たせしたな。フェムト殿」

 

「いえ。私も今来た所です」

 

「とーりょーさん! おはよう!」

 

「うむ。今日もリトル殿は元気がよろしくて何より」

 

 

 今私達の居る場所は頭領さん達忍者部隊の人達が普段巡回している経路における出発地点の一つ。

 

 具体的に言うと、大型デパートと封鎖された化学工場の、ちょうど真ん中あたりに位置する場所だ。

 

 ここから人目を忍んでホログラム能力者達の様子を見る為にパトロールを行い、日夜人々の安全を守る事が今の忍者部隊の務めと言われている。

 

 そんな経路をTASで接続した状態で進むのが今回の最初のミッションだ。

 

 頭領さんが合流したので、早速私は変身現象(アームドフェノメン)を行い、頭領さんとTASで接続を行う。

 

 

「頭領さん。何か異常があったり、違和感があったら報告をお願いします」

 

「うむ」

 

 

 今回の事を頭領さんにお願いしたのにはもちろん訳がある。

 

 能力を発現していない人間において単純に最高峰の実力者である事、客観的に自身の状態を把握出来る事、何よりも私の師であり信頼できる人だと言うのが大きい。

 

 ――早速、頭領さんとTASで接続を試みる。

 

 マイナーズリンクが無事機能すれば、先ずは成功への第一歩と言えるだろう。

 

 

……ほう。これがTASであるか。フェムト殿、こちらへの接続を確認した。そちらは如何か?」

 

「ええ、こちらでも確認しました。先ずは接続完了ですね頭領さん。何処か具合が悪くなったり、違和感があったりしますか?」

 

「しばし待たれよ。…………うむ。問題は無い」

 

「ありがとうございます。では、今から既に発動しているマイナーズリンクを除いた全アビリティを一つづつアクティブにしていきます。何か変だと思ったら声を掛けて下さい」

 

「心得た」

 

 

 HPアップ、ガードアップ、ロックオンプラスを起動。

 

 頭領さんの身体データの変化の異常は無しで、本人の主観的にも変化は無し。

 

 シャリーアライブ、ハイプラウド、フリーランを起動。

 

 同じく頭領さんの身体データの変化の異常は無しで、本人の主観的にも変化は無し。

 

 スキルシェア、TASテレパス、ハイスイブレード、ケンシュシールドを起動。

 

 ここからはスキルシェアとTASテレパスが機能するかを確認する。

 

 先ずはテレパスでの会話を私の方から始めよう。

 

 

(あー、あー、テスト。テスト。ただいまテレパスのテスト中。頭領さん、聞こえますか? 聞こえたら考える形で返事をして下さい)

 

(うむ。問題無い。寧ろこちらの方が我にとって馴染みのある連絡手段であるな)

 

(そうなの? とーりょーさん)

 

(詳しくは語れぬがな……)

 

(案外、考える事は同じなのかもしれませんね。……では、次にスキルシェアが適応するか確認します。――リトル)

 

(ん! シールドヴォルト、スピードヴォルトを起動するよ!)

 

 

 守りの力と運動性能を引き上げる二つのノーマルスキルを使用する。

 

 数値化したEPは1200/1200から1100/1100へと変化した事でスキルの発動を確認。

 

 これでスキルシェアの条件を満たした筈だ。 

 

 

(どうですか?)

 

(ふむ……少し、動いてみても?)

 

(お願いします)

 

 

 私のお願いと同時に縦横無尽に残像を置き去りにしながら縦横無尽に動き回る頭領さん。

 

 その速度は以前模擬戦をした時よりもデータ上では早くなっているのが確認出来る。

 

 ……しかし何と言うか、相変わらず頭領さんは人間を辞めている身体能力を発揮していた。

 

 アキュラみたいにアーマーのサポート無しでこれなのだから、人間はまだまだ可能性に満ち溢れていると私は感じている。

 

 

(人間、頑張ればここまで到達出来る事を改めて実感出来ますね)

 

(とーりょーさん、凄いよね!)

 

(ええ。……私ももっと、頑張らないといけませんね)

 

(いえ、フェムト殿は頑張り過ぎであります。もっと休む事を覚えなくてはなりませんぞ?)

 

(そうですかね?)

 

(そうですとも。……それでなのですが、フェムト殿のスキルの共有、しっかり出来ている事を確認出来申した。コレは中々、良い物モノですな。全盛期の頃を思い出しまする)

 

 

 頭領さんの全盛期はどんな感じなんだろうか?

 

 って言うか、頭領さんって幾つなんだろうか?

 

 見た目が覆面を付けた典型的な忍者姿である為、その辺りが全く分からない。

 

 ……いや、忍者的には見破られない方が正しいのだから余計な詮索はやめよう。

 

 続いて今度はフィールアクセラレーションを使う事を頭領さんに伝え、発動させる。

 

 ゆっくりとした時間の中へと私達は突入する。

 

 

(ほう、これが普段フェムト殿が見ている光景であるか)

 

(ええ。仕事中は愛用しています)

 

(ふむ……フェムト殿。コレの連続使用は控えた方がよろしいかと)

 

(え?)

 

(体に対する負荷もそうでありますが、()()()()()()()()()()()()()()

 

(魂に、ですか?)

 

(うむ。魂、と仰られても我等の本業とは縁の無いフェムト殿には馴染みの無い事かもしれませぬが)

 

(……そんなに、マズイのですか?)

 

(少なくとも()()()()()()()()()()()()が無ければ文字通り命にかかわりまする)

 

 

 そう言えば昨日エリーゼから私の魂らしきモノが酷く損傷していたと聞いたような……

 

 いやでもそれはエリーゼのスキルであるライフリカバリーで治ったと聞いている。

 

 ……私は知らない間に死にかけていたらしい。

 

 酷く損傷していたと聞いてはいたけど、まさか原因がフィールアクセラレーションだったなんて思わなかった。

 

 

(あくまで連続使用しなければ問題無いのです。この負荷具合ですと、最低五分ほどは冷却期間を設けるべきですな。……魂の損傷には自覚症状がありませぬ。それに気が付く時と言うのは、即ち息絶える時。本当に、気を付けて下され)

 

(分かりました。……因みにですが、今の私の魂の状態って頭領さんは分かりますか?)

 

(我自身のモノならば分かりまするが、他者のモノともなれば陰陽師に相当する術師の領域となりまする。或いは()()()()()()()()ならば分かる可能性がありますな。ですが、こう言った魂を観測できる人材は今の時代、纏まった影の組織以外ではめったにお目にかかれませぬ)

 

(そう言った人材はやっぱり貴重なんですね)

 

 

 ここで一度話を切り上げ、再びアビリティの起動へと戻る。

 

 SPアップ、SPセーブ、SPザンシン、ニアーレジストを起動。

 

 頭領さんの身体データの変化の異常は無しで、本人の主観的にも変化は無し。

 

 TASディスタンス、スキルアップ、スキルリジェネ、オートリカバー、リーブレジストを起動。

 

 ここでオートリカバーの発動の挙動を確かめる為に、頭領さんに少し切り傷を付けるようお願いした。

 

 頭領さんは了承し、親指に少し血が出るまで切れ目を入れる。

 

 暫くすると、その傷は瞬く間に塞がった。

 

 

(軽い切り傷程度ならば直に治りますな)

 

(オートリカバーの機能を確認。……これで現状持つ全アビリティを起動しました。何か違和感とかはありますか?)

 

(……現状、我自身に問題はありませぬ)

 

(分かりました。ではこの状態を維持して巡回パトロールを始めましょう)

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 頭領さんとのTASでの接続に問題が無い事を確認し、私達は巡回パトロールを始める。

 

 とは言え今日のノルマ分は終わっているとの事なので、私達は幾分か気を楽に挑むことが出来た。

 

 走る。

 

 奔る。

 

 疾る。

 

 以前は加減してもらった頭領さん相手でもついて行く事もままならなかった私だった。

 

 今もまだ頭領さんは加減してくれているが、それでも追走出来る様になったのは見事に成長できた証だと言えるだろう。

 

 屋根を伝い、電柱を足場に跳躍し、ビルの間を抜けつつ天辺まで登る。

 

 気配を消しながらおおよそ道とは言えぬ進路を突き進む。

 

 この間にこれまでホログラム能力者達と戦った戦場を巡り、いよいよパトロールも終わりに差し掛かろうとしていた。

 

 

(む……フェムト殿)

 

(頭領さん、何かあったんですか?)

 

(何やら良からぬ気配がこの辺りに満ちておりまする)

 

(この辺りは確か……アキュラが良く出入りしている療養施設があった筈です)

 

(如何なさいますか?)

 

(……一度、様子を見ましょう)

 

 

 私達は不穏な気配を探す為にさらに強く気配と音を殺し、この場に降り立つ。

 

 少し先にアキュラが通い詰めている療養施設が見える。

 

 その更に先の、療養施設で死角になっている辺りから頭領さんの言う不穏な気配を、私も感じ取ることが出来た。

 

 私達が少しづつ足を進めると、何やら剣戟の音らしき物が聞こえてくる。

 

 やはり、何かこの辺りであったらしい。

 

 私は頭領さんの方へ向き、頭を縦に動かす。

 

 この先に進むと言う意味だ。

 

 気配と音を殺し、療養所の死角となっていた場所へたどり着いた私達が見た物は、二人の流派が異なる剣士同士の戦いであった。

 

 片方は蛇腹剣を持った纏めた金色の髪を靡かせる絵に描いたような女性剣士。

 

 そして、もう一人は仕込み杖を持った私の恰好に近い()()()()()()()少女。

 

 不穏な気配は少女の方から伝わっている。

 

 ここでふと、先ほどから静かにしている頭領さんを見る。

 

 その姿は普段と変わらないように見えるが、私には分かった。

 

 頭領さんは、驚愕している。

 

 その事を私が確認すると同時に、テレパス経由で頭領さんが話を切り出した。

 

 

(バカな……)

 

(頭領さん?)

 

(……あの出で立ち、仕込み杖。間違いなく我らの組織(裏八雲)の物に相違ない)

 

(え?)

 

(なのに、()()()()()()()()()()()()()。我の所属する組織の構成員は全て記憶している筈だと言うのに)

 

 

 私は改めて少女を見る。

 

 あのホログラム能力者達ですら意思と呼ばれる物がハッキリとしているのにも関わらず、能面のように意思が無いかの如く表情に変化が無い。

 

 対する女性剣士の方は、私達からは見えないが背後の誰かを庇いながら戦っているらしく、少女に対して劣勢だ。

 

 それを少女も分かっているのか攻撃を緩める気配は無い。

 

 何処かで見た覚えのある挙動からの強襲。

 

 爆発の反動を利用した居合の一閃。

 

 投げつけたお札と思われる物が円月輪に変化し、変幻自在の挙動で襲い掛かる。

 

 その場に杖を突きたてた瞬間、女性剣士の足元から巨大な剣と思しきものが不意打ちで生えてきた。

 

 投げつけたお札と思われる物を三枚同時にランダムに投げつけ、そのお札が少女の姿となって突撃を仕掛ける。

 

 何処かで見た螺旋と共に放つ対空攻撃。

 

 そんな多種多様な攻撃を少女は女性剣士に仕掛けるが、その全てを捌かれている。

 

 私達はそんな二人の戦い気配を消しながら視認しつつ移動した。

 

 女性剣士が誰を守っているのかを確認する為だ。

 

 そして、守られている存在が私達の視界に入る。

 

 そこには大型デパートで私を見て「今度はお姉ちゃんが縮んじゃったよ~!?」と言っていた女の子、コハクの姿があった。

 

 それを思い出し、私は改めて女性剣士を見る。

 

 確かに、言われてみればそんな風に見えなくもない。

 

 そんなコハクは少女から不意打ちを受けてしまったのか、腕から血を流して動けない状態にある様だ。

 

 だが、この戦いの最中に突然乱入するのも女性剣士の事を考えると間が悪い。

 

 如何した物かと考えているとコハクはこちらに気が付いたのか、私達と目が合った。

 

 私達を見て、コハクは女性剣士に応援が来た事を咄嗟の機転で知らせる。

 

 

「お姉ちゃん! 応援が来たよ!」

 

 

 この言葉を合図に、私達は飛び出した。

 

 まず頭領さんは少女の方へと向かい女性剣士と咄嗟に交代し、戦線を維持。

 

 私はコハクの方へと向かいながらエリーゼのライフリカバリーを参考にした新しいノーマルスキルを発動させる準備をする。

 

 

「大丈夫ですか!? コハクさん!!」

 

「ちょっとやられちゃったけど、なんとか……」

 

「ジッとしていてください……」

 

 

 エリーゼのライフリカバリーのデータを収拾し、それを私達なりにアレンジしたノーマルスキル【リカバリーヴォルト】を発動。

 

 生体電流を活性化させる際に発生していた余剰の生体電流を余す事無く効率運用する事で、キュアーヴォルトよりも効果を高めたノーマルスキル。

 

 怪我の度合いも直る速度も段違いに上昇しており、緊急時の取り回しが更に良くなっている。

 

 

「……どうですか?」

 

「うん! 元気全開! コハクちゃん大復活! もう大丈夫だよ!」

 

「それは良かったです」

 

「フェムト殿! そちらの娘は大事無いか!?」

 

「私がもう動ける状態に直したので大丈夫です!」

 

「ならば、その娘の護衛を頼み申す! そうすれば我等も憂い無く戦えます故に!」

 

「分かりました!」

 

「お姉ちゃん! わたしはもう大丈夫! だから、思いっきりやっちゃって!!」

 

「コハク……! ならば、ここからは遠慮は無しだ!」

 

 

 女性剣士からG()V()()()()()()()()()()()

 

 驚いた事に彼女は能力者だった。

 

 それもGVと同じ、雷撃の第七波動。

 

 蒼き雷霆(アームドブルー)の雷だ。

 

 

「往くぞ! そこの忍、合わせられるか!?」

 

「無論! 先ずは我が往く!」

 

 

 

 

 

 

 

斬入ること閃光の如く

 

迸ること血風の如し

 

裏八雲が奥義

 

 

二十九式・無双鬼砕き

 

 

 

 

 

 

 歴代最強の忍と謳われた頭領さんの放つ光を置き去りにする神速の抜刀。

 

 周囲の空間諸共対象者を切り伏せ血風の嵐を引き起こす、人間の到達点に至ったが故の大技(スペシャルスキル)

 

 それを迎撃するかの如く、少女は頭領さんとほぼ同時に仕込み杖を抜刀する。

 

 

 

 

 

 

斬入ること雷霆の如く

 

迸ること百華の如し

 

裏八雲が奥義

 

 

九十二式・乱れ夜叉砕き

 

 

 

 

 

 頭領さんの神速の抜刀の大半を相殺する少女の抜刀。

 

 しかし技量の差なのか、または能面の様に意思が無いのが理由なのか、一部を通し、仕込み杖が弾き飛ばされた。

 

 その隙を、女性剣士が見逃す筈も無く……

 

 

 

 

 

 

 

煌くは雷纏いし魔剣

 

暗黒の暴虐よ 命を貫け

 

 

コレダーデュランダル

 

 

 

 

 

 

 展開した蛇腹剣を振り下ろし、戦場の広い範囲を雷が落ちる。

 

 少女はそれを回避しようとするも先の相殺で隙を晒してしまっており、直撃を受けた。

 

 それだけでは終わらず、銅を薙ぐ様な雷の一閃が少女を薙ぎ払い、トドメに広範囲を覆う雷刃が広範囲の空間を少女諸共切り裂く。

 

 それで限界になったのか、少女は吹き飛ばされながらホログラム状に姿を消した。

 

 これまで戦って来た翼戦士達と同じように。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇シスについて
紫電の宝剣【天叢雲(アメノムラクモ)】を組み込んだ()()()ヒューマノイド。
身に纏うと以前の白黒のアーマーだった物が、その二つが混ざり合ったアーマーに変化している。
アキュラは寡黙な少女と表現している為おかしいと思うかもしれないが、それを解決する言葉が存在する。
その言葉の名前は「男の娘」
つまり、本体パンテーラそっくりの男の娘なのがシスなのである。
どうしてこうなってしまったのかは定かではないが、噂によると「とある二名の存在」が紫電の性癖を壊したとかなんとか言われている。
紫電くんの性癖、何もしてないのに壊れちゃった。
一体誰がこんな酷い事を……

〇紫電の「策」について
実は二十四話の時点でその策は始まっており、具体的には「GVとシアンが同時に居る状態で紫電がGVと衝突した時、敵はどう出るか」をこの時点で考えていた。
今回は上手く敵側がアクションしてくれたのでGVと戦わなくて済んだが、話の流れ次第では本当に戦う事になっていた。
メタ的に言うと今回のクリティカル判定はトルゥーエンド条件を満たしてますよ~と言うプレイヤーに対するメッセージであり、満たしていない場合は本当にGVと紫電が衝突し、話が変に拗れてGVとの協力体制が解消されてしまう、みたいな感じになる。
因みに勝敗の行方に関しては……ご想像にお任せします。

〇今回のミッションの戦闘について
アキュラくんがクロスシュトロームでアシモフ達を散らばらせ、ハイドロザッパー等で一体目を撃破した直後にプレイヤーの操作に委ねられる。
背景で紫電とGVがそれぞれ戦っている、みたいな感じ。

〇頭領さんについて
フェムト達の時代における裏八雲最強の実力を持つ忍であり、ただの人間。
シンフォギアに出てくるOTONAにニンジャスレイヤーを混ぜたようなイメージ。
人前では必ず覆面を付けている為、性別は……君は男だと想像してもいいし、女だと想像しても良い。
そんな素振りは絶対に表には出さないが、極めて重度のショタコンな一面も存在し、十二話の初登場時でその片鱗が垣間見える部分があったりする。
ノータッチの精神の持ち主でもある為、無害なので実際安心。
今回のミッション限定のゲストなので、これ以降のミッションには直接登場しない予定。

〇魂の負荷について
このタイミングでフェムトの魂、ヤバいんじゃね? と言う情報が開示される。
理由はメタ的な話になるが、この時点でまだトークルームを全くして無くても少し余裕を持ってインテルス戦までに魂の修復が間に合うタイミングだから。

〇今回のミッションについて
道中の敵が存在せず、只管頭領さんを見失わない様に走り抜けるミッション。
基本アクションは勿論、ワイヤーアクションなんかも要求される。
因みにこのミッションにはフェムト視点では珍しくボス戦が存在しない。

〇リカバリーヴォルトについて
キュアーヴォルトの上位互換。
リヴァイヴヴォルトに相当する回復量を持ちながら、SPとEPは据え置き。
キュアーヴォルトと差し変わる。

〇「少女」について
現時点では明言出来ませんが、仕込み杖を持っている時点で何となくその正体の予想は出来ると思います。
攻撃手段は各翼戦士の一部の技を参考にしているが、雷霆煉鎖は習得していない。


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第三十話 フェムトの出生の秘密 ミチルの初恋



サイドストーリー





「ふぅ……ここも随分寂しくなっちまったな」


 俺のつぶやきが部屋の中に木霊する。

 ここはフェザーの日本支部の本陣の隠蔽された施設の一角。

 あの日、爆風の衝撃で左手首を捥がれながらも気絶していた俺は、結果的にアシモフとの再会を果たす。

 中々長い時間眠ってしまっていたが、目を覚ました時に見たアシモフの顔には驚かされた物だった。

 アイツはまだ俺が神園博士と一緒に研究をしていた時に、外部から自力で能力を制御出来ない失敗作としてこの【皇神未来科学研究所】へと送られてきた少年だった。

 確か当時、皇神から与えられた【タケフツ】と言う仮初の名前(コードネーム)で呼ばれており、不法入国者同士の間に生まれた浮浪児でもあったらしい。

 どういった経緯で捕まったのかは不明だが、結果として無理矢理植え付けられた蒼き雷霆(アームドブルー)の移植に失敗し、常に能力が暴走すると言う危なっかしい状態になってしまった。

 それでまあ、研究するのは当時の俺達からすれば当たり前の事だが、その方法が俺の中では極めて重大な問題と言えたのだ。

 それは人道的等と言う言葉を投げ捨てた、今思い出しても非常に胸糞悪い研究方法。

 苦痛を伴う能力の引き出し何て当たり前で、当時のアシモフ相手に罵声をぶつける研究員も珍しく無かった。

 それに、神園博士本人は隠しているつもりみたいだったが、彼の中の能力者の扱いは正に害獣であり、バケモノ扱いしていた事も拍車を掛ける。

 こんな研究環境に対して、当時の俺は待ったを掛けた。

 第七波動は能力者の意思や精神状態によってその強さが変化すると言う極めて不安定な物。

 それなのにこんな環境、内容での研究が横行しているのだ。

 これではどう考えても必ず大事故につながる。

 取り返しのつかない事になると俺は神園博士達に訴えたのだが、当然の如く聞く耳は持たれなかった。
 
 ……正確に言えば、持つことが出来なかったと言うべきか。

 本当はこんな事をやりたく無いと思っている研究員の方が多い筈なのだが、それだけ第七波動の研究は重要であり、必要不可欠だと言われていたのだ。

 それに、当時の俺は研究員の中では若輩者であった事もあるが、それ以上に能力者に対する悪い意味での差別が世間で横行していたのもある。

 だからこそ、こんな閉鎖空間と呼べる皇神未来技術研究所内で非道な実験がエスカレートしていったのだろう。

 そんな空間だったからこそ、俺は連中の目を盗んではアシモフに対して色々と手を回したのだ。

 身体検査に引っかからない程度の嗜好品を用意したり、時には親身になって話を聞いたり、逆に俺の方が話をしたりなんかもした。

 あえて拘束具を外したりなんかもしたな。

 初回の時は思いっきりオレに対して襲い掛かって来たもんだから、思わず()()()を使って能力を抑制して黙らせたが。

 まあ、当時のアイツは常時暴走状態だったから仕方がないっちゃ仕方がないんだが……

 あの時のアシモフの表情は確か、あっけに取られていたっけな。

 そう言った積み重ねもあり、俺の前でだけだったがアイツは笑う事が増えたのだ。

 アシモフと言う名前も、本人がタケフツと言う名前が気に喰わなかったから俺が好きな古典SFの作家である【アイザック・アシモフ】の名前から拝借してみたらどうだと提案した事もあった。

 だが、結局連中の、本当は一部を除いてだれも望んでいない筈の非道な実験の積み重ねによってアシモフは俺の懸念通りに暴走し、結果研究所は機材も人材も含めて俺を除いて全焼。

 俺自身は()()()()()()()()()()()()から平気だったが、肝心のアシモフ本人は俺の前から姿を消してしまった。

 まあ、そうして外に出たアイツが「アシモフ」を名乗っていたのは俺としては嬉しい事だったのだが。


「フェムトのヤツ、今頃どうしてるかねぇ……」


 そんな風にアシモフの事を回想しつつフェムトの事を考えていたら、俺の視界に()使()()()が舞い散る。

 フェムトの様子を見終わったんだなと思いつつ、視界を上に向ける。

 頭にはピンク色の輪っか。

 背中に同じ色の小さな羽。

 それとは対称的なターコイズブルーの髪をツインテールに纏めた少女が姿を現す。


ホウダイ様! ただいま戻りました!」

「その名前をここで出すのは勘弁してくれ。今の俺は「ニコラ」だぜ? えころ。んで、どうだったよ? フェムトの様子は」

「フェムトくん、魂が修復されて元気になってました。一時期はもう手の施しようもない位酷い有様でしたのに……」

「そうか……そいつは良かった。折角彼女も出来て幸せの絶頂期だって言うのにそんな事で死んじまったら悲し過ぎるからな」

「はい! 何しろわたしとホウダイ様との()()()()()()()()()()ですから」

「あのなぁ……まあ、いいか。今は二人きりだしな。……実際、()()()()()が無かったらフェムトはとっくに死んじまってた。それに元々あいつは生まれが生まれだからか魂の強度が脆かったからな」

「はい。それなのに本人は何も知らずに無茶ばかり……全く、誰に似たんでしょうかね?」

「さてな……」


 えころの持つ天使の因子と俺の遺伝子を組み合わせた因子適合用の実験体クローン【デザイナーチャイルド】、それがフェムトだ。

 元々は俺の遺伝子だけを使ったデザイナーチャイルドだったんだが、ただでさえ未知の蒼き雷霆(アームドブルー)の因子を弄ったモノと適合させるだなんて無茶振りをさせられた結果、案の定拒絶反応を起こした。

 そう、本来フェムトは死ぬ定めにあり、助かる筈の無い、記録にも残らない非検体の一人となる筈だったのだ。

 そんなタイミングで()()()()以降も俺と定期的に会ってくれているえころが現れ、ダメ元でコイツの舞い散る羽の一部を拝借して因子として組み込んだ結果、拒絶反応は収まった。

 よって、結果的にフェムトは俺とえころとの間の、大切な息子みたいな感じになっている。


「んで、今アイツは何処に居るんだ?」

「今はミチルちゃんの居る療養施設に居ますね」

「おいおい、確かあそこにはミチルちゃんの面倒を見てるくろなが居るはずだよな? あいつとフェムトを会わせて大丈夫か?」

「うーん。どうでしょうか? 昔と違って大分マシにはなってますから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()暴走するなんて事はまず無いと思いますけど」


 この言葉を聞き、俺は何処か引っ掛かりを覚えた。

 何かを忘れている気がすると。


「ふふ……」

「どうしたえころ? そんな嬉しそうに」

「だってフェムトくん、()()()()()()()()をちゃんと使ってくれてたのが嬉しくて」

「あぁ、アレはお前の持ってた銃をモデルにしたモノだからな。嬉しいと思うのは分かるが……ちょっと待て」

「どうかしましたか? ホウダイ様?」

「あの銃、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よな?」

「はい! それはもう、これでもかと念入りに」

……強く生きろフェムト。今のお前なら生き残る事だけなら何とかなる筈だ

「??? どうかしましたか?」

「いや、何でもねぇ」


 そう言いつつ、俺は立ち上がり、えころの頬をそっと優しく触れる。

 それに反応し、えころは顔を赤く染める。


ホウダイ様……ダメです。こんな所で」

()()()()()なら別にいいだろうが。俺とお前の仲だし、今更恥ずかしがるこたぁねぇだろうに」

「そんな事言って、()()だった試し何て無かったのですが……ぁ」


 俺はそのまま満更でも無いえころを抱き寄せ、そのまま勢いに任せて色々と致そうとした。

 ……したのだが、扉をノックする音と同時にこの部屋に入り込んだアシモフに阻まれる事となる。


「ニコラ、今空いているか(フリーでいるか)? ……フム。逢引(ランデブー)の最中であったか」

「ひゃあ!?」

「おま……この、アシモフてめぇ! なんてタイミングで出て来やがる!」

「フフ……あの時の仕返し(リベンジ)さ。ニコラ」

「しかもわざとかよ!」

「仕方あるまい。あの時お前は私とモニカとの逢引(ランデブー)を邪魔したのだからな。……仕返し(リベンジ)出来る内にするのは当然の事さ」

「モニカとイチャつこうとした時に部屋に入り込んだのをまだ気にしてんのか! 女々しいぞアシモフ!」

「フ……好きに吠えろ。幼い天使に固執する、情けない親友(フレンド)遺物(HENTAI)よ」

「こ……コノヤロウ……! 表に出ろアシモフ! ぶちのめしてやる!」

「ほ……ニコラ様、それはダメですよ!」

「止めんなえころ! って言うか、お前も邪魔されたんだから手伝え!」

「え?」


 俺がえころに協力要請を出すと同時に、アシモフはそれに合わせたかのように笑みを浮かべつつ、()()()()()()()()を口にしながら俺達と対峙する。


「やれやれ……どうやら我々は道を違えてしまったようだな……仕方あるまい……」

「え? ちょっと待って……」

「今のお前達は、我々の前に立ちはだかる――敵だッ!」


 そう言いながらアシモフは自身の秘めたる蒼き雷霆(アームドブルー)を開放する。

 普段のコイツならこんな軽率な行動に出る事は無いのだが、今のフェザー本部に居る人員は俺達とチームシープスの面々に加え、アシモフの秘密を知る一部の信頼できるフェザー隊員のみの状態だ。

 残りの面子はアシモフがテロ行為を辞めさせるために立ち上げた真っ当な警備会社の方に移っている。

 俺達がこうして残っているのはフェザーを畳む為の、言わば後片付けが理由なのだ。


「訓練所に行くぞ、ニコラ」

「へっ! 上等!」


 そう言いながらオレもフェムトに渡したモノとはまた別の、言わば()()()()()()()()()()()()()を両手にそれぞれ持ち、訓練所へと向かう。

 この鉄扇は()()()()()()()の後も俺は()()()()()()()()()()()()()()ので、自衛も兼ねてえころと一緒に作成した、言わば現存する【聖遺物】の様な物だ。

 ちなみにだが、フェムトに渡した物はこれのデータを元に改良を重ね、更にヒヒイロカネ片で強化した一品だったりする。


「あ、あの! 本当に戦るんですか!? 戦っちゃうんですか!?」

「当り前に決まってんだろ? ほら、とっとと行くぞえころ。背中は任せたからな」

「あぁもう! 男の人ってどうしていつもこうなんですかぁ!?」


 そんな風に文句を言いつつも、えころは両手に大型の拳銃【デザート・エンジェル】を装備している。

 以前の時は使いこなせなかった事もあり命中率0と言う情けない腕前であったが、今では年月を経た事もあり、大体の相手に必中させる腕前を持つまでに成長していた。

 そして、俺達は訓練所にたどり着き、互いに対面し……真っ向から衝突する。


「っつう!? ハッ! どうした!? そんなもんか!!」

「まさか。本番(プロダクション)はここからさ!」

「全くアシモフったら、こんなに楽しそうにして……少し、妬いちゃうわ」

「モニカさん、何時の間に! わわっ!」


 何時の間にか居たモニカがえころ相手に複数の戦闘用ドローンを飛ばして足止めしている。

 それをバックに俺達は何も考えずに、馬鹿みたいに互いに攻撃を打ち込み合う。


「オラァ!」

「チィッ! やはり電磁結界(カゲロウ)対策(メジャース)されるか!」

「俺を相手に電磁結界が通用すると思うなよ! ……グホッ!」

「フ……()()()()よりも鈍った(ダァルした)のではないか? ニコラ。……グァ!」

「へっ! 肉を切らせて何とやらってなぁ!!」


 こんな風に俺達はバカみたいな大騒ぎと言う名の鬱憤晴らしを楽しむ。

 そんな俺達を、呆れるような視線で見つめる少年が居た。


「全く、リーダーもニコラも仲がいいのは結構な事だけどよ。コレ片付けんのオレなんだぜ? 全く、もうちょっと加減と言う物をだな……っとあぶねぇ!」

「ジーノ! 手伝いなさい! 貴方もチームシープスなんだから!」

「……マジかよ。ってうおっ!」

「ならば、動き出す前に潰します!」

「か、勘弁してくれ……」

「ま、迂闊にここに入り込んじまった自分を恨むんだな」

「ジーノ……グッドラック!」

「グッドラックじゃねぇ! ……まあでも、あんなに笑うアシモフに付き合うのも悪く無いか。もうすぐフェザーも無くなっちまうしな


 ジーノも加わり、お祭り騒ぎ(どつきあい)も佳境に差し掛かる。

 よって、オレとアシモフは互いに大技を仕掛ける。


「決着を付けよう! ニコラ!」








滾る雷火は信念の導

轟く雷音は因果の証

裂く雷電こそは万象の理


ヴォルティックチェーン








 アシモフの放つ蒼き雷霆(アームドブルー)最強の必殺技(スペシャルスキル)【ヴォルティックチェーン】による鎖と雷撃が俺を襲う。

 本来ならば、第七波動を持たない相手に対して使っていい技では無い。

 だが、アシモフは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()放つ。

 ならばこそその信頼に応え、迎撃する。

 俺は自身に秘めたる【第五の力】と、二つの鉄扇に秘めたる【第六の力】を開放。

 その身に纏い、現れるは蒼き雷霆とは雰囲気の違う【豊穣の雷】。

 遥かなる大昔、【聖人】や【神獣】が大地を潤したとされる春雷(しゅんらい)


「ヘ! 上等だぜ!」








我が舞うは雷の舞

大地を潤す煌めく稲妻

春雷よ 冬を切り裂き春を告げろ


雷撃扇(らいげきせん) 冬裂春雷(とうれつしゅんらい)








 全身に春雷を纏い、この場に似つかわしくない舞を舞う。

 無軌道に飛んでくる鎖を舞特有の独自の動きを以て迎撃し、その軌跡に生じる雷は、アシモフの放つ雷を相殺する。

 そう、これがあの時引き起こされたアシモフの暴走から身を守った俺の大技(スペシャルスキル)

 えころと長く交わる事で副次的に習得した力と、あの事件以降も俺を巻き込んだ数々の事件が俺を鍛え上げ、知識を身に付けさせた。

 その結果として俺は博士号を習得し、様々な縁に導かれてプロジェクト・ガンヴォルトに参加する事になったのだ。


「ふぅ……ま、こんなもんだろ」

「そうだな。ここで終わり(エンド)としよう」

「おーいえころ! もう終わったから戻ってこい!」

「やっと終わりましたか……もう! 昔のニコラ様は優しかったのに、今はどうしてこうなってしまったのでしょうか……」

「散々お前がらみの事件に巻き込まれればこうもなるさ。それに、嫌じゃねぇんだろ?」

「それは……はい。嫌ではありませんが……」

「モニカ、ジーノ。訓練(レクリエーション)は終了した。今すぐ戦闘を終了せよ」

「ふぅ。お疲れ様、アシモフ、ジーノ」

「や、やっとかよ……全く、今日は厄日だぜ」

「んな事言うなよジーノ。折角ここを片付けた後、飯を奢ってやろうとしてたってのに」

「……ゴチになります!」

「変わり身早!! それでいいんですか、ジーノさん!?」


 こうして俺達は訓練所を片付けた後、お得意先の食事処へと足を運び、そこの料理に舌鼓を打つのだった。

 これからの俺達の事と、フェムトの事を考えながら。







緊急ミッション

 

 

 

 

 

「うわぁっ! とと、落ち着いて下さいノワさん!」

 

「縁起物……来るな……DEATH!」

 

「ノワ! 一体どうしちゃったの!?」

 

 

 私は今、ノワと呼ばれているメイドさんに先ほどの戦いの場で追われている。

 

 あの少女を撃破した後、コハクと一緒に居た女性剣士の【ヒスイ】さんと情報の共有をしていた時にいつの間にかノワさんは現れた。

 

 その姿は物語に出てきそうな隙の無いメイドと言った物で、頭領さんも警戒レベルを上げる程の人だ。

 

 その時はこの様な様子も無く、私達をこの療養施設に居るアキュラの妹であるミチルと呼ばれる人の元へと案内してもらう筈だった。

 

 とは言え、流石に武器を持ったまま彼女に会いに行くのはマズイという事で、私達は武器をノワさんに預ける事になったのだが、最初にワイヤーガンを渡そうとした瞬間、ノワさんが豹変。

 

 まるで暴走したかのようにいつの間にか持っていた()を片手に私に襲い掛かって来たのだ。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 幸いターゲットは私のみであり、コハクとヒスイと頭領さんは狙われていないので何とか手持ちの鉄扇で対処する事となった。

 

 なお、ワイヤーガンはノワさんが暴走した元凶らしい為、頭領さんにノワさんから見えない様に忍の服の中に隠してもらっている。

 

 後は何とかノワさんの正気を取り戻せばよいのだが……

 

 

「DEATH! DEATH! DEATH!!」

 

「うわ! ととっ! ふっ!」

 

 

 今の私はシールドヴォルトとスピードヴォルトによって守りと速さが強化された状態だ。

 

 その上、アビリティもちゃんと機能している。

 

 それなのにこうやって捌き切るので手一杯な為、ノワさんは相当の手練れなのだと分かるのだ。

 

 しかも正気を失っている状態でコレなのだから、意識があったらどうなっていたか。

 

 ただ、今の所何とかなっているのでこのまま捌き切って体力を使い果たさせれば何とかなる。

 

 そう思っていたのだが……

 

 

 

 

「滅殺DEATH!」

 

「えぇ!?」

 

「うわぁ……槍からビーム出ちゃってる」

 

「…………」

 

「頭領殿、先ほどから黙っているみたいだが、何か分かったのか?」

 

「……いや、某には何も分からぬ。……神園家には我等裏八雲と話を付けた悪魔が仕えていると言う噂があったのだが、それは本当の事であったか

 

 

 

 槍から突然放ってきたソレからは、()()()()()()()()()()()

 

 これは所謂、オカルトに関わる物なのだろうか?

 

 そんな事を考えながら防御結界(パルスシールド)を展開しつつ受け流す。

 

 そうしている内に、事態はどんどん悪化の一途をたどっている。

 

 遂には空を飛び、魔法陣らしき物を出現させ、そこから私を狙う光弾を発射し始めた。

 

 

「DESTROY!」

 

「っつぅ」

 

(フェムト、大丈夫!?)

 

(平気です! ……暴走しているせいか、動きが目茶苦茶なお陰で何とかなってる感じですね)

 

(ん。でも、このままじゃ……)

 

(……一度SPスキルを使って仕切り直ししましょう。こちらも一度、体勢を立て直さないと!)

 

 

 

 

 

 

 

天体の如く揺蕩う雷

 

是に到る総てを祓い清めよ

 

 

パルスエクソシスム

 

 

 

 

 

 

 

 私を中心に雷の聖域が展開され、空中に居たノワさんは聖域を掠めたその衝撃によって、()()()()()()()()弾き飛ばされた。

 

 それを見た私は、思わず戦いの手を止めてしまう。

 

 

「……あれ?」

 

「うわぁ……凄いねフェムトくん! あんなことが出来たんだ!」

 

「ふむ、見事な()()ですな。……暴走していた力が収まっていく気配を感じる。もう、大丈夫であるな

 

 

 このSPスキルはダメージは無い筈なので、傷つく事は無いと思っていたのだが、思いの他吹き飛んだ為心配になってしまった。

 

 なので、私は吹き飛ばされたノワさんの元へと向かい、木に引っかかって目を回していた彼女を発見して介抱し、目を覚まさせた。

 

 

「……本当に、申し訳ありませんでした」

 

「私はこの通り大丈夫ですので、どうかお気になさらずに。ですが、どうしてあのような暴走を?」

 

「……申し訳ありませんが、黙秘させて下さいませ。ただ、あの銃を見せなければ大丈夫とだけは言わせて貰います」

 

「……何か事情があるみたいですけど、見せなければ大丈夫なんですね?」

 

「はい」

 

 

 あのワイヤーガンはニコラから譲り受けた物だ。

 

 それに反応していると言う事は、ノワさんはニコラと面識があるのだろうか?

 

 

「あの、一ついいですか?」

 

「何なりと」

 

「ニコラと言う名前に、聞き覚えありませんか? その銃は彼から貰った物なんです」

 

「ニコラ……ですか。ええ。ええ。存じております。存じておりますとも」

 

 

 口調は静かな物だったが、ノワさんはニコラの事を知っており、それでいて明らかに怒っている様に見える。

 

 なので、これ以上ニコラの話をするのは危険と判断し、当初の目的であったミチルとの対面を果たす事を優先する為にここで話を切り上げた。

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

「では、紆余曲折ありましたがミチル様の元へ案内します。こちらへどうぞ」

 

 

 いつの間にか先の戦闘でボロボロだったメイド服は元のしっかりとした物に戻っていたノワさんに案内された先に居た部屋に彼女は居た。

 

 当時は体が弱かった為、あまりに強すぎた電子の謡精(サイバーディーヴァ)を神園博士に摘出された第七波動能力者。

 

 その子の名前は神園ミチル。

 

 あのアキュラの妹とされる人物だ。

 

 ……正確には、世界線の違いが存在するのだが、それは細かい事だろう。

 

 

フェムト様。先の戦いの件は、どうかご内密にお願いします。

 

心得ています。ミチルに心配をかけさせる訳にはいかないですし

 

「あ! ノワ! 凄い音がしたけど、大丈夫だった?」

 

「ええ。こちらにいらっしゃったフェムト様と頭領様のお陰で、大事無く終わらせました」

 

あ、お客様だ……おほん。ノワ達の事、助けてくれてありがとう。フェムトさん。頭領さん」

 

「たまたま通りかかっただけですよ」

 

「うむ」

 

 

 最初の挨拶はこんな感じで始まり、少しぎこちない感じで会話が進んだ。

 

 その後に、見た事の無い型のヒューマノイドの少女ヌルも会話に加わり、大いに盛り上がった。

 

 

「ちなみに私、こんな外見してますけど男なんですよ」

 

「えぇーー!! そんなにカワイイのに!? ……わたし、男の娘を見るの初めてだったけど、全然分かんなかったよ」

 

「わたしも最初はビックリしたよ。本当に男の娘っていたんだなぁって驚いちゃったもん。見た目がお姉ちゃんの小さい頃とそっくりだったのもあって」

 

「そうだな。確かにフェムトは幼い頃の私にそっくりだ」

 

「はわわ。ヒスイさんにもそんな小さかった頃があったんですね」

 

「……どういう意味だ、ヌル」

 

「私達ワーカーにはそう言った物理的な意味で幼い頃と言うのは存在しませんから」

 

 

 そうして話を進めて行く内に、今度は恋愛事情について話が移行した。

 

 私自身恋人が居る事もあり、この話も盛り上がりを見せる事になるが、そこからまた別の話題に話が切り替わる。

 

 そう、ミチルの初恋についての話に。

 

 

「ミチルちゃん、好きな人が居るって本当!? わたし初耳だよ!?」

 

「それはそうだよ。だって最近になって自覚した事なんだもん」

 

「それで、相手は誰だ? 流石にフェムトという訳ではあるまい」

 

「えっとね……ヌル。少し前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が居たの、覚えてる?」

 

「はわ? 少し前ですか……あ! あの人ですね! ()()()()()()()()()()()()()()と一緒に居た!」

 

「うん」

 

 

 それはひょっとしてGVなのでは無いだろうか?

 

 それを確認する為に話に参加する。

 

 

「その人って、私みたいに金髪で、眼鏡をかけてて、長いおさげをしていませんでしたか?」

 

「そうだよ。フェムトくんも知ってるって事は友達だったりするの?」

 

「ええ。GVとは仲良くさせて貰ってます」

 

「あ、その愛称を知ってるって事はそうなんだね」

 

「ええ」

 

「じゃあ、今GVがフリーなのか分かったりする?」

 

「そうですね。今の所はフリーなのは確認してますが……」

 

「してますが?」

 

「……ライバルは多いですよ? GV、物凄くモテますので」

 

「……っ! そ、そうなんだ……」

 

 

 明らかにミチルは落ち込んでいるように見える。

 

 まあ、それはそうだろう。

 

 何しろ自分はかなり出遅れている事が分かってしまったのだから。

 

 だけど、まだミチルにも十分チャンスがある事は伝えたい。

 

 

「今から参戦してもまだ間に合いますよ。GVは自分の恋愛事に関しては鈍いので」

 

「……本当?」

 

「何しろGVに長くアプローチしている人が居るのですが、未だにそう言った事になっていませんので……」

 

「そっか、アキュラくんみたいに【にぶにぶさん】なんだ」

 

 

 アキュラ、キミも恋愛事に関しては……ってよく考えたらアキュラはサイボーグだって言ってたし、そう言った事には無縁だから仕方が無いのか。

 

 

「じゃあ、どんな人がライバルなのか、知ってる?」

 

「えっと……それは流石にプライベートの関係もありますし、簡単に話す訳にはいかないんです。すいません」

 

「そっか。……そうだよね。でもまあ、わたしにもチャンスがあるって分かっただけでも儲け物だよ」

 

「ミチルちゃん、何時になく燃えてるね……」

 

「うん。……わたしね、こんなにアキュラくん以外の人を想うなんて初めてなんだ。好きだって事を知って、言葉にして……改めてGVの事を考えたら、すっごく胸がドキドキしてるの。病気で苦しかったそれとは違う、苦しくない、温かくなるドキドキを感じるの。これって、とっても素敵な事だって思うんだ」

 

 

 そんな時、扉の前でガタンと大きな音が響いた。

 

 それに合わせ、間髪入れずにノワさんが扉を開けたのだが、そこには誰も居なかった。

 

 

逃げましたかアキュラ様……まあ、いいでしょう。……どうやら外に立てかけてあった教材が倒れただけの様です」

 

聞こえてますよ、ノワさん。……でも、黙っておきましょう。これに首を突っ込むと大変な事になりそうな予感がしますので……それならいいのですが」

 

 

 妹の初恋にどう思っているのかは分からないが、出来れば祝福してあげて欲しいと、私は願うのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇ニコラについて
ニコラの正体はえころルートトゥルーエンド時の久時 峰大その人。
あの頭のおかしい出来事を乗り越えた後も様々な事件に巻き込まれつつ、幼馴染の神園しのぶ経由でプロジェクト・ガンヴォルトに手を出す事になる。
本人がアシモフと戦えるぐらい強いのはえころと交わり続けて因子を取り込んだ事と、数々の語られていない事件を乗り越えて来た事で【第五階梯】に相当する力を獲得しているのと、フェムトに渡した鉄扇の、【第六階梯】に相当するえころとの合作聖遺物の鉄扇を二つ所持しているから。
そう言った経緯もあり、昔は優しかったニコラは今ではぶっきらぼうなわるわる男になってしまっている。
因みに世間で発売されている「頭の可笑しいゲーム」はニコラのその時の体験談をよりマイルドにした物と言う設定。
なお、イクス世界線の彼は神園真夜のルートを経由している為……

えころについて
くろなもといノワが居るなら彼女もいますよねと言う形で登場した天使
フェムトのSPスキルがどうして退魔に関わる名前なのかを示す根拠でもあり、因子的に母親に相当する。
ノワとは今でも付き合いがあり、時々ノワ単独では手に負えない出来事があった時は手を貸したりしている。
何気にニコラとの付き合いは紆余曲折あって天界公認をもぎ取っている為、比較的大っぴらにイチャイチャ出来る間柄になっている。
フェムトの事を自身の持つ権限ギリギリの範囲でデバg……温かく見守っている。
なお、イクス世界線の彼女はそもそも本人ルートをニコラが経由していない為、天界に帰還している。

〇フェムトについてその2
ニコラの遺伝子によって誕生したデザイナーチャイルドだったのだが、能力因子の適合に失敗し命を落としそうになっていた為、丁度良く現れたえころの因子を組み込んで生き永らえる事に成功した本小説の主人公。
そう言った経緯もあり、青き交流(リトルパルサー)には聖なる力が宿っており、悪魔を始めとした邪悪に対して強力な破邪の力を持つ。

〇ワイヤーガンについて
えころの持っている銃をモデルに作られた特注品。
ノワが思わず暴走してしまう程の目茶苦茶な祝福が施されており、実はこの銃も凄まじい退魔の力を有する。
何気にワイヤー部分がアシモフのヴォルティックチェーンを意識した作りになっている。

〇鉄扇についてその2
数々の事件の過程でえころと共に作り上げられた、ニコラの持つ第五階梯の力を第六階梯相当に増幅させる人造聖遺物。
豊穣を約束する春雷を操る力を有しており、これが防御結界の元の力となっている。
後にフェムト用に作られたソレは、コレにヒヒイロカネ片を加えて強化した物。

〇アシモフについて
ニコラと関わってしまった為、元々愉快だった人が更に愉快な事になり、目茶苦茶憎悪が漂白された。
……逆に言うとニコラと合流するまでの間は原作以上に色々とヤバかった。
現段階のニコラとはこんな冗談も言えたり殴り合い出来る間柄であり、精神状態も極めて良好。
しれっとモニカを恋人にしている。
そして、何気にニコラがフェムトのデータを流用してアシモフの暴走問題を解消している為、第二の人生に対して極めて前向きな姿勢でいる。

〇ノワについて
そういう訳で、くろな本人と言う設定になっている。
攻撃方法は白き鋼鉄のX2の彼女を参考にしている。
今回の戦闘では彼女は気が動転した暴走状態であった為、本来の力が微塵も発揮されていない。
因みに銃がダメで鉄扇が平気なのは鉄扇の持つ暗器と言う性質が神聖さと相殺しているのが理由。
そう考えると銃もまた同じような理由で大丈夫そうなのだが、「えころの持っている銃」と言うのが神聖さを増幅させている為、ノワは耐えられなかった。
ちなみにイクス世界線の彼女は、ミチルを人質に取られてしまった事が引き金で……

〇ヒスイについて
ブレイドの本名と言う形で採用したオリ設定。
DLCでの暴走状態の雷の色がこの色に近かった為採用しました。

〇ぼやけた文字について
メタ的に言うとプレイヤーの想像を掻き立てる為の演出。
今回の場合、ぎゃる☆がん だぶるぴーすで検索すると幸せになれます






サイドストーリー











BREAK OUT










『ねぇ、本当にやるの?』

「当然だ」


 世の中の兄と言う存在は、妹の初恋に対してこの様な感情を抱いていたのだろうか?


『ミチルちゃんの初恋だよ? 応援しないの?』

「本来ならば、喜ぶべき事なのだろう。だが……」


 ミチルはオレの恋愛事情の事に関して祝福してくれていた事を考えれば、今から行う行為は実に浅ましく、改めてミチルの懐の深さを思い知る思いだった。

 そんな事も露知らず、ガンヴォルト(ミチルの心を奪った男)が姿を現す。




MISSION START







「アキュラ、用事があるって聞いたから来たんだけど……なんだか、物々しい雰囲気だね」

「態々来てもらって済まないな、ガンヴォルト。……早速だが、オレの開発した新兵器のテストに付き合って欲しい」

「……いきなりだね。アキュラ。ボクは何かキミの恨みを買うような事をしたかい?」

『ゴメンねGV。アキュラくん、初めての感情に戸惑っちゃってるんだ。ボクとしては本当に申し訳ないって思ってるんだけど……付き合ってあげて欲しいな』

「……なんだか良く分からないけど、ボクで良ければ付き合うよ」




READY







 このガンヴォルトの良く分かっていない態度が、オレの感情を更に逆なでする。

 ――今のオレの顔は、どんな表情をしているのだろうな。

 そう思いながら、オレは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う、所謂【最終決戦仕様】の装備を身に纏い、この収まらぬ気持ちをガンヴォルトにぶつけるのだった。

 ……この事が切欠でオレもヤツの事を「ガンヴォルト」から「GV」と呼ぶことになるのは予想外だったが。





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第三十一話 インターミッション(六回目)

 

 

 

 

 

 ミチルの療養施設にて、私達はあの後も引き続き会話を楽しんでいる。

 

 ミッションはまだ途中だったのだが、TAS使用時の頭領さんのデータは謎の少女との戦いの時に想定以上に集まった為、変則的な形になるがここでミッションを完了させ、頭領さんには先に帰還してもらった。

 

 今回のミッションは私は頭領さんに依頼した形で受理された物なので、私自身に今回のミッションの決定権がある。

 

 なので、この様な事が可能なのだ。

 

 他にも、ミッション終了予定時刻になった直後から頭領さんが帰還したいと申し出ていた事もあった。

 

 あの少女の存在を一刻も早く報告したかったからだ。

 

 ならばあの少女を撃退した直後に申し出てくれれば良かったのだが、本来の予定時刻まで時間があった為、その帳尻合わせもあって途中まで付き合ってくれた。

 

 頭領さんはその辺り本当に律儀だと私は思う。

 

 そして、本来なら私自身も帰還する予定だったのだが、ノワさんがあの後昼食を用意してくれる為、私も参加する事になった。

 

 なったのだが……

 

 

(フェムト……お腹空いた)

 

「(あ……ちょっと待っててリトル。ノワさんに話してみるよ。ここの人達はアキュラとの関りが深いみたいだし、リトルを見せても大丈夫でしょう)すいませんノワさん、ちょっといいですか?」

 

「何かありましたか?」

 

「物凄く厚かましい事は承知なのですが、もう一人分余分に食事を用意してもらってもいいでしょうか?」

 

「フェムトくん、見た目とは裏腹にいっぱい食べれるんだ。ちょっと意外」

 

「あぁ、そういう訳では無いんです。……実際に見て貰った方が早いですね」

 

 

 変身現象(アームドフェノメン)を解除。

 

 私の近くに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()長髪を揺らめかせ、一人の少女(リトル)が現れる。

 

 服装は何時も通りの飾り気のない白いワンピース姿で、身長に変化は無いが最近目に見えてスタイルが良くなり始めているのが少し気になっている所だ。

 

 

「こんにちは」

 

「えぇ~~~!」

 

「な……!」

 

「わぁ……」

 

「はわ! 女の子が出てきました! けど……人間さんの反応じゃなくて私に近い感じですねぇ」

 

「え? そうなの、ヌル?」

 

「はい。物凄く良く出来てますけど、ワーカーに極めて近い子ですねぇ」

 

「……こんなに見た目が人間らしいのにか」

 

「これはちょっとびっくりしちゃったよ。フェムトくん」

 

「すいません。ですが、これに関しては一度見せた方が早いと思ったので……彼女はリトル。私の能力である青き交流(リトルパルサー)を封じるヒューマノイド型の意思を持つ宝剣です」

 

「宝剣……【翼戦士(よくせんし)の羽根ペン】に近いモノか」

 

「ヒスイさん、その話、後で聞かせてください。今回の襲撃に関係のあるかもしれないんです」

 

「いいだろう、フェムト」

 

……成程、あのアホ天使がこの前自慢していたのはこの事でしたか。こちらは大丈夫なのですが、先の話では彼女はヒューマノイドだと聞いています。人と同じ食べ物を与えても大丈夫なのでしょうか?」

 

 

 ノワが疑問に持つのは当然の事だ。

 

 私はもう慣れてしまっているが、普通ヒューマノイドは人間の食べ物を摂取したりなどしないし、する必要も無い。

 

 但し、リトルやそのデータを元に生まれたアニムスなんかは偶然(リトルが好き勝手した結果)の産物ではあるものの、有機物(食べ物)が必要になる程に精密に作られている。

 

 その為、この様にお腹を空かせたりなんかもしてしまうのだ。

 

 

「大丈夫です。既にご飯を食べる様になってから結構な時間が経ってて実証データもありますので」

 

 

 私のこの言葉と同時に、リトルのお腹から空腹を訴える音が鳴り響く。

 

 

「うぅ……お腹空いた……」

 

「ノワ、リトルちゃんの分もお願い出来るかな?」

 

「分かりました。リトル様の分も用意しましょう。……ここまで精密なヒューマノイドを皇神は作成可能なのですか……それに、宝剣だと言う話も気になります。後であのアホ天使を問い詰めなければいけませんね

 

 

 今ノワさんが何か小言を言っていたが、今の私は変身現象を解除している為、その声を拾い切れなかった。

 

 嫌な気配は感じないので私には関係の無い話だとは思うけども。

 

 その後、ノワさんが昼食を用意する為にその場を後にし、その間の話題はリトルの事で盛り上がった。

 

 

「つまり、言い方は悪いかもしれませんが、リトルさんは()()()()()という事で宜しいのでしょうか?」 

 

「ん。大体そんな認識で考えてくれればいい」

 

「あのあの、そんな話、わたし達が聞いても大丈夫なのかな? なんかこう、機密っぽい感じのお話な気がするんだけど……」

 

「ここに居る皆さんは私達が現時点で協力関係にあるアキュラとの関係が深いでしょう? なので、その辺りを信じて話しています。それに……」

 

「それに?」

 

「この屋敷と周辺には()()()()()盗聴器の類が無いのを確認してますので」

 

「はわ!? と、盗聴器ですか!?」

 

「私の居る職場では良く見つかるんですよ。もう調べて除去するなんて当たり前の習慣になってしまいましたね……」

 

「はぇ~~~……」

 

「所謂産業スパイの類という事か」

 

「ん。これが例外的に会社内なら私を使って何時でも変身現象してもいいって言われてる理由の一つ。皇神は敵が多いって事、物凄く実感出来る」

 

 

 そんな風に話を進めていると、ノワさんが食事の用意が出来たと知らせに戻ってきた。

 

 私達はその場所へと向かい、そこに用意されていた昼食に舌鼓を打つ。

 

 並べられた料理の内容はミチルの健康面と美味しさを両立させた物で、見る人が見れば見事な物だと思わせる。

 

 

「むぐむぐ……ん~~……口の中でお肉が解けてくる感じが凄くいい」

 

「それでいて、優しい味付けがされているからいくらでも食べれちゃいますね」

 

「恐縮です」

 

「えへへ。アキュラくんに付き合う形でこの場所まで来て良かったって思えた事の一つなんだ♪」

 

「そうだな。私達の場合はこう言った食事は生まれもあってか、あまり食べる機会は無かった。何度味わっても本当に、温かい。そう感じるよ」

 

「はわ~……私、なんだか皆さんが羨ましくなってしまいました」

 

「ヌルちゃん。だったらご飯食べられるようにアキュラくんに改造して貰ったらどうかな? アキュラくんなら頼めばやってくれそうだし」

 

「流石にそれは……どうでしょうか?」

 

「今は忙しいみたいだから、落ち着いたら尋ねてみたらいいんじゃないかな?」

 

 

 この後、食事を終えて満足したリトルと再び変身現象を行った。

 

 普段着だった私の姿が、再び戦巫女の恰好へと姿を変える。

 

 

「もう行っちゃうんだ……」

 

「ええ。エリーゼが待っていますので」

 

「フェムト様、今日ご用意した食事で余った物を纏めさせてもらいました」

 

「ありがとうございますノワさん。彼女もきっと喜んでくれます」

 

 

 その後私は足早にその場を立ち去り、エリーゼの待つ我が家へと帰還する為に駆け出した。

 

 それと同時にスピードヴォルトを発動させ、只管その身を加速させる。

 

 その際、今回のミッションで頭領さんの体の動かし方をデータ化していたのでそれを参考に自身に最適化を施す。

 

 

(……! 思ったよりも体の負担が軽い)

 

(とーりょーさん、速さと体の負担の両方を考えた上であんな動きしてたんだ……)

 

(この体の動かし方を学べた時点で私の中では十分お釣りが出る位得をしました。お陰で私自身、もっと早く動けるようになれそうです)

 

(ん。早くエリーゼとアニムスの所へ帰ろう)

 

 

 今回はまだお日様が登っている状態なので、前回みたいな失態を犯さずに済みそうだ。

 

 そうして出かけた時よりもずっと速い速度で私は我が家へと加速していく。

 

 頭領さん直伝とも言える気配殺しを行いながら。 

 

 そうして我が家が見え始め、ラストスパートも兼ねてさらに勢いを付けようと高く飛び上がった私の視界には()()姿()()()()()姿()があった。

 

 何を隠そう、我が家にはパーティーが開ける位の所謂超大型のプールを完備している。

 

 今日は気温も高かったし、涼む目的でプールを利用したのだろう。

 

 それもあってか、猫用の小さなプールにみーちゃんが目を瞑りながら伏せた姿勢で心地よさそうにしている。

 

 こうして私はエリーゼとアニムスの水着姿を見れた事に内心感謝をしつつ、こちらに対して手を振っている二人にただいまの挨拶をしたのであった。

 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

 我が家に帰った私は早速外に居るエリーゼ達と同じように水着に着替えてプールへと乗り出した。

 

 そして、改めてエリーゼ達の姿を見る。

 

 エリーゼはトップに紫色のフリル、ボトムはオーソドックスな白いビキニタイプの水着に、同じく白い麦わら帽子を被った可愛らしい姿。

 

 対するアニムスは、ホルダーネックタイプの胸元をより強く強調する黒色のビキニで、エリーゼよりも大人っぽい雰囲気を持った姿だ。

 

 

「フェムトく~~ん!」

 

「リトルちゃん! こっちこっち!」

 

 

 二人が私達を出迎え、エリーゼが私の手を、アニムスがリトルの手を取りプールへと飛び込んだ。

 

 プールの冷たさが心地よい。

 

 飛び込んだ勢いで水の中に居た私は目を開ける。

 

 水中の中でエリーゼと目が合う。

 

 声は届かないので、私は微笑みながら改めて手を取り外へと顔を出す。

 

 すると、エリーゼ達以外に来訪者が居る事に気が付く。

 

 

「あ、フェムト。戻って来たんだ。泳ぎながら待ってたんだよ」

 

『あらフェムト。プール、利用させてもらってるわよ』

 

 

 シアンとモルフォの二人が水着姿で私達を迎え入れてくれた。

 

 シアンは上下にカラフルなフリルの付いたビキニタイプの可愛らしさを強調した水着を着ており、モルフォは自身の魅力を引き立てる青いタイサイドビキニを身に付けていた。

 

 ……って、アレ?

 

 

 

「戻ってくるのが何時になるか分からなかった私達を待っててくれてありがとう。……そう言えば、GVは何処に?」

 

「…………」

 

「シアン?」

 

『……そこの、ビーチパラソルの所で眠っているわ』

 

 

 そこで私の目に飛び込んで来たのは、大型デパートで知り合った水着姿のオウカに膝枕してもらって眠りについている、同じく水着姿のGVだった。

 

 オウカはボトムの方にスカート状のフリルを付けたピンク色の水着を身に付けており、あの時の落ち着きのある姿とは一転、意外と大胆な姿をしている。

 

 そして横になっているGVは私と同じように青色の短パンの水着を着ていた。

 

 因みにだがリトルはモノキニと呼ばれる前から見るとワンピース型、後ろから見るとビキニに見える水着を身に付けており、色は私とおそろいの青色だ。

 

 ……話を戻すが、オウカはGVから視線を外さず、優しく頭を撫でている。

 

 そして肝心のGVなのだが、体その物に傷は無いけど心なしか随分とボロボロになった様な雰囲気を私は感じていた。

 

 

「……これは一体どう言う状況なんです?」

 

「えっとね、わたし達が知る限りでの話になっちゃうんだけど……」

 

 

 何でもGVは何処かで普段の戦闘服がズタボロになってしまう程の激しい戦闘を行ったらしく、心身共に多大な疲労を背負いこんでしまっていた。

 

 そこでエリーゼに連絡を取ってプールを使わせて欲しいと連絡し、GVにリフレッシュしてもらおうとここにお邪魔しようとしていたのだが……

 

 

「そこまでの道中で水着を購入して帰宅途中だったオウカさんと遭遇して、シアンさん達と合流したんです」

 

「そこまでは良かったのですが、その後で問題が発生しちゃって……」

 

 

 そこからの問題を要約すると、一通り遊んだ上で心地よい疲れが出てプールで横になって微睡んでいたGVに対して膝枕をする権利を巡って静かな争いが勃発。

 

 最終的に言い争いになりそうだったので、ここは公平に決める為にエリーゼがあみだくじを即席で用意して決める事となり、それにオウカが勝利した。

 

 よって、シアンとモルフォは残念そうにオウカとGVを睨みつける様に見つめていた、という訳なのだ。

 

 

『もう! GVったら、オウカにデレデレしちゃって!』

 

……GVのバカ

 

GVはプールに来て私達と一通り遊んだ後力尽きて眠ってしまったから不可抗力なのでは……

 

『「何か言った?」』

 

「ひぇ……な、何でもないですはい……

 

エリーゼ、しっかり

 

 

 心身ともに立ち直っている筈のエリーゼが気圧されている。

 

 そして、アニムスの応援も小さい為、彼女も二人の雰囲気に圧されてしまっていた。

 

 まあそんな訳でGVを取られてしまった為か、シアンとモルフォの機嫌はよろしくない。

 

 しかし、GVを見て改めて思うのだが……気のせいだろうか?

 

 GVはデレデレしてる所か物凄く魘されているように見える。

 

 それが理由なのもあって、オウカは物凄く心配そうに優しくGVの頭を撫でていた。

 

 ……そもそも、どうしてあそこまでGVはボロボロになってしまったのだろうか?

 

 彼は私が知る限り紫電と並ぶ最強の能力者の一角。

 

 あそこまでGVを追いつめる事が出来る相手はかなり限定されるだろう。

 

 ……私の脳裏に浮かぶのは、普段は冷静沈着で頼れる仲間とも言えるアキュラの姿。

 

 もしかしたら私とリトルがミチル達と食事をしていた間、GVを呼びつけていたのだとしたら――

 

 

(十分あり得そうな話ですね。アキュラがあの話を聞いていた事は確認済みですし)

 

(ん)

 

(それよりも、この惨状をどうしましょうか)

 

 

 そう思った矢先、テーブルの上にあった端末からタイマーらしき音が鳴り響いた。

 

 

『オウカ! 時間よ! アタシ達と交代して頂戴!』

 

「あら、もうそんな時間なのですか? ……名残惜しいですがシアンさん、モルフォさん、GVをよろしくお願いします」

 

「やっと時間になったぁ! ……えへへ。GV、GV♪」

 

 

 どうやら膝枕をする時間は決まっているらしく、この時のオウカとシアンは物凄く息を合わせてパパっと膝枕を交代した。

 

 何て言うか、仲が良いのか悪いのか……

 

 そんな私達の視線に気が付いたオウカは私の方へと足を運び、挨拶をしてくれた。

 

 

「こんにちは、フェムトさん。あの時の大型デパートでは本当にお世話になりました。ありがとうございます」

 

「いえいえ。私はあの部屋では何もしてませんでしたよ。あの時はGVに任せちゃいましたし」

 

「ですが、あの後色々とわたしの生活に支障が無いように手配してくれたとGVから聞き及んでいます。なので、お礼を言うのは当然だと思いますよ」

 

 

 こうしてオウカと話しかけて見て思ったのだが、彼女は物腰柔らかな大和撫子と言った感じの人だ。

 

 何て言うか、無条件にこの人にならGVを任せてしまえる、そんな雰囲気すら私は感じてしまう。

 

 そんな優しい包容力のある人なんだと私は思ったそんな時、エリーゼが私の腕を引っ張りながら声をかけて来た。

 

 

「ねぇフェムトくん……わたし達も、やってみたいな」

 

 

 それはエリーゼからの膝枕のお誘いだ。

 

 既に後方でアニムスとリトルが新しくビーチパラソルとプールマットを用意しつつ、床を冷やす為に伸ばしてきたホースから水を撒いていた。

 

 

「ふふ♪ どうやらわたしはお邪魔虫みたいなので退散させて頂きますね♪」

 

 

 そう言いながらオウカはシアンに膝枕してもらっているGVの元へと向かっていった。

 

 そして、オウカが去った後の私はと言うと……

 

 

「どう? フェムトくん」

 

「これはいいですね……何て言うか、凄く落ち着きます……」

 

「ふふ……♪ よしよし……」

 

 

 エリーゼに膝枕をして貰っていた。

 

 普段私と訓練しているのもあって、適度な柔らかさを持った太ももが私の後頭部を優しく受け止めてくれている。

 

 その上で、エリーゼの柔らかな手が私の頭をよしよしと撫でてくれており……あ、これはダメです。

 

 絶対に癖になってしまう。

 

 そんな風に思った矢先、今度は私の足の方にそれぞれ別の柔らかな感触を感じた。

 

 

「こんなのはどうかしら、フェムトくん。疲れた時は足を高くするといいってエリーゼの記憶から読み取ったのを参考にしてみたの」

 

「ん。フェムトどう? 気持ちいい?」

 

 

 今度はアニムスとリトルが私のそれぞれの足にそれぞれの太ももに膝枕をする様に乗せたのだ。

 

 それと、疲れている時は足元にクッション等を敷いて高くすると疲れが取れやすくなると言うのは本当の事だったりする。

 

 ですが、あぁ、いけません。

 

 アニムスが、リトルが、私の足裏を指でマッサージしてくれている。

 

 それは生体マッサージとはまた違う正に天にも昇る心地よさであり、何時までもこうしていたいと思わせた。

 

 ……これでは私、本当にダメ人間に成り果ててしまう。

 

 これよりももっと凄いコト、してる筈なのに……

 

 そんな風に思いながらGVの方に目をむけてみたら――

 

 

「『あーーー! オウカってば、ズルイ!』」

 

「ふふ♪ どうですかGV? 気持ちいいですか?」

 

足の裏が心地いい……あれ? ……シアン? それに……お、オウカ!? 二人共、何をやって……!?」

 

『ダメだよGV。ジッとしてなきゃ』

 

「モルフォまで……分かったよ」

 

 

 オウカはGVの足を自分の膝に乗せ、アニムスたちと同じようにマッサージをしていた。

 

 その刺激で微睡んでいたGVが気が付いたらしく慌てて起き上がろうとするが、それをモルフォが待ったをかける。

 

 そんなGVは心身の疲れがまだ抜けきっていないのもあり、観念するかのようにその身を二人に預けた。

 

 それを見た私は、心の中でGVの事を応援しながらエリーゼ達の施しに身を任せる。

 

 心地よい微睡の中、私はそのまま意識を落とすのであった。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


エリーゼと訓練

 

 

 

 

 トレーニングルームにて、私と対峙しているのは変身現象で新たな姿を獲得したエリーゼ。

 

 正面から見た彼女は以前よりもずっとボディーラインを強調した新たな装いもあり、変身現象中であるにも関わらず強い魅力を放っていた。

 

 それでいて下品さを感じさせず、むしろカッコよさすら感じる程の意匠と本人の堂々とした出で立ちが、更に魅力を押し上げる。

 

 今は近接戦闘の訓練前と言うのもあり背中の翼を仕舞って、両手には苦無……では無い。

 

 左手に持つのは苦無で間違いないが、利き腕である右手には苦無よりもリーチが長く、取り回しも効きやすい小太刀を装備している。

 

 これは装いが新たになった影響によって一部の苦無が小太刀に変化したのだろう。

 

 対する私も既に変身現象でリトルと一つになった状態で、いつもの両手に鉄扇を装備していた。

 

 私とエリーゼ、互いの感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 

 今回はエリーゼの装いが変化してからの初めての訓練。

 

 なので、今回はいつもよりも集中して対峙する必要があった。

 

 ……互いが構え始めてから五分ほどの時間が経過した後、まるで惹きつけられるように同時に飛び出し、訓練と言う名の真剣勝負が始まる。

 

 

「フッ!」

 

「ハァ!」

 

 

 互いの得物が衝突した甲高い金属音が響き渡る。

 

 その衝撃は得物の変化も含まれるが、明らかに以前のエリーゼよりも力強い物。

 

 即座に私の中でエリーゼのデータの更新を行い、対応。

 

 その後の二度目の打ち合い。

 

 今度は速度がデータを上回った為、再び即座に修正。

 

 三度目。

 

 四度目。

 

 互いに打ち込む回数が上がるにつれてエリーゼのデータは更新され続けて行く。

 

 この事から、エリーゼ自身も己の力を測りかねている様だ。

 

 ならばこそ、それを受け止めるのが私の役目。

 

 

「エリーゼ! もっと遠慮せずに打ち込んでください! 私は大丈夫ですから!」

 

「……! うん!」

 

 

 そこからエリーゼの動きに残像が加わるようになった。

 

 この動きの速さは訓練時の頭領さんに匹敵する程の物だ。

 

 以前の私ではまず対応出来なかっただろう。

 

 

「はっ! やぁ! たぁ!」

 

「まだまだ!」

 

 

 それに、先ほどからエリーゼの全身から()()()()()()()()()が迸っている。

 

 これを解析した結果、驚きの事実が判明した。

 

 この雷撃は()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「えへへ♪ わたしの溢れてた生命力(ライフエナジー)をフェムトくんの真似が出来る様に生体電流に変化させてみたんだ」

 

 

 これが出来る様になったのは恐らく、本当につい最近なのだろう。

 

 実際、生体電流その物の扱いはまだ慣れていないらしく、初期の私と同じくらいの練度に留まっているからだ。

 

 だけど、元々私と互角に打ち合えていたエリーゼが使った場合は話は別になる。

 

 元々生命力を体に循環させ、漠然とした強化をするだけに留まっていたのだが、それに加えて生体電流による強化も上乗せされたのだ。

 

 普通に考えたら私自身力負けする。

 

 その筈だったのだが……

 

 

(どうして私は今のエリーゼと()()()()()()()()()()()()()()()()? 普通に考えたら、私の方が明らかに力負けする筈だと言うのに)

 

「ぁ……」

 

 

 その時、エリーゼが何かに気が付いたのか、その手を止めてしまった。

 

 その事に対して私はどうしたんだろうと思いながら武器を下ろして尋ねる。

 

 

「どうしたの、エリーゼ?」

 

「……フェムトくんから、()()()()()()()()()()()()()()の。()()()()()()()()()()()()()()()()みたいに」

 

「……え?」

 

 

 私は慌てて自身のセルフチェックを行う。

 

 だが、肉体的な変化を発見する事が……いや。

 

 何かを、感じる。

 

 私の心臓辺りからほのかに温かく、身に覚えのある波動を。

 

 これは間違い無く生命輪廻(アニムス)の波動。

 

 その波動が、私の心臓を中心に体全体に行き渡っているのだ。

 

 

「これは……エリーゼの?」

 

「うん。間違い無いよ」

 

 

 そう言えば、先ほどからリトルが沈黙している事に私は気が付いた。

 

 最初は訓練に水を刺さない様に黙っているのかと思っていたのだが……

 

 

「わたしの方も、アニムスの返事が無いの」

 

「そうなると、考えられるのは……」

 

 

 考えられるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 リトルは私がエリーゼ達と肌を重ねた際に摂取したアニムスの因子を取り込んで最適化を始め、アニムスも同様に私達と肌を重ねた際に摂取したリトルの因子を取り込んで最適化を始めたのだろう。

 

 ならば、私達がする事はただ一つ。

 

 

「エリーゼ、構えて」

 

「うん」

 

 

 私の言葉に合わせ、エリーゼは再び構えを取る。

 

 私も同じく構えを取り、再び訓練を再開。

 

 衝突する度に、互いの持つ因子がより強く結びついて力となる感覚が、私達に得も言われぬ高揚感を与える。

 

 打ち込めば打ち込むほどにそれは増して行き、お互い得物をぶつけ合っているにも拘らず、まるで何時もの様に互いに一つになっているかの様な錯覚すら覚えた。

 

 そうして互いが衝突している内に、私の内側から頼れる相棒(リトル)の声が響き渡る。

 

 

(フェムト、終わったよ)

 

(リトル)

 

(心配かけてゴメンね。私の中にあったアニムスの因子を取り込んで最適化するのに忙しかったんだ。多分、向こうも同じだと思うよ)

 

 

 エリーゼの方もアニムスと会話をしているのか、心配そうな表情から喜びの表情に変化させていた。

 

 そうして私達は訓練を切り上げる為に変身現象を解いたのだが……

 

 リトルの髪の色が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと変化を遂げたのだ。

 

 対するアニムスはリトルみたいに髪の色こそ変化は無いが、瞳の色がリトルと同じ藍色に変化しており、互いが互いの影響を受けている事を如実に表していた。

 

 

「どう、フェムト。似合う?」

 

「ええ。良く似合いますよ」

 

「……ゴメンね。私もこう言った事は初めてだったから、何も連絡出来なかった」

 

「アニムスもそうなの?」

 

「ええ。わたくしもリトルちゃんと同じでしたわ。……本当に、ごめんなさいね。エリーゼ」

 

「ううん。アニムスが平気ならそれでいいの」

 

 

 そういう訳でリトルとアニムスは互いの取り込んでいた因子を最適化した事で、私達は新たな力を得た事を互いに喜び合うのであった。

 

 その新たな力はきっと、私達の事を大いに助けてくれるだろうと、互いに確信しながら。

 

 

 

 


 

 

エリーゼが青き交流の因子を、フェムトが生命輪廻の因子を取り込んだ為、バッドエンド【滅びゆく世界(バニシングワールド)ver.生命暴龍】を回避しました。

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 プールから上がり、GV達がリフレッシュして帰宅したその翌日。

 

 朝食を皆と済ませた私は早速前回のミッションで習得したデータを元に情報解析を始める。

 

 今回の少女との戦いでは私は後方で皆の動きをよく観察することが出来た。

 

 今回は頭領さんによるTAS運用がメインであった為、本来ならばアビリティは一個出来れば上等の筈だった。

 

 だが、療養施設を襲撃していた少女との戦いによる戦闘データによって、それは覆る。

 

 

(移動速度を上げる【ダッシュ】、跳躍力を増やす【ハイジャンプ】、各種行動の隙を減らす【レデュースアクション】、主観加速(フィールアクセラレーション)時の負担を軽減する【フィールプロテクション】、攻撃を連続で当てる事で通常よりも多くダメージを与える【チェイン】、SPスキルを連続で当てる事で通常よりも多くダメージを与える【SPチェイン】……こんな所ですね)

 

 

 今回は頭領さんの指摘のお陰で主観加速に多大な負担がかかる事が分かった。

 

 今の私だけの事を考えれば連続使用しても後でエリーゼに負荷の掛かった魂を修復して貰えば大丈夫なのだが、TASで接続している人達も負担がかかるとなれば話は別だ。

 

 なので、今後フィールプロテクションは目に見えない形にはなるが、きっと役に立つ事だろう。

 

 そして、今回は移動も含めた体捌きに関わるアビリティが多く習得することが出来た。

 

 これらはスピードヴォルトとも重複するので、ミッション前の打ち合わせの際、動きになれる必要が出てくるだろう。

 

 体捌きに関わるアビリティである為、この辺りの話し合いはしっかりしておきたい。

 

 中には必要無いと答える人も出てくるかもしれないだろうし。

 

 チェインとSPチェインはゲームで例えるならコンボと言えば分かりやすいだろうか?

 

 連続で攻撃を当て続けると徐々に攻撃力の倍率を引き上げてくれるアビリティだ。

 

 TASは最終的に大人数で接続した上での運用を考えているので、思わぬ効果が期待できると私は考えている。

 

 ここまでは問題無いと言えるのだが、問題はノワさんの戦闘データだ。

 

 

(やはりダメですね。オカルト関連はそもそも基礎的なデータも足りていません。これでは解析所じゃない。……いい加減オカルト関連にも手を付けた方がいいかもしれませんね。この国を守る最終国防結界「神代」にも霊的防御と言う形でそう言った技術が使われているらしいですし)

 

 

 そう思いながら、私はエリーゼに出してもらった氷の入った麦茶を飲みながら一息つくのであった。

 

 

 

 


 

 

GET ABILITY ダッシュ ハイジャンプ レデュースアクション フィールプロテクション チェイン SPチェイン

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇リトルの髪の色の変化について
えころの持つ天使の因子が生命輪廻の因子と極めて高相性だった為、その影響がリトルの髪の色に反映されている。
それに合わせ、青き交流における退魔の力も初期の頃よりもずっと強くなった。

〇フェムトの家のプールについて
お金持ちの豪邸でよくありそうなパーティーが開ける位広いプール。
何気にフェムトが普段どれだけ稼いでいるかが端的に分かる施設。
外からは基本見えなくなっており、大っぴらに水着姿になることが出来る。
今まで描写は無かったが、身内には無条件で解放されている為デイトナを始めとした多くの人達が利用している。
最近引っ越してきたみーちゃん用の小さなプールもある。

〇今回のオウカについて
ここでのオウカが何も反応しなければフェムトくんが過労死する事はありません。
但し、血相を変えて反応した場合は……なんて事だ、もう助からないゾ♡
……という事はありません。
ここまでトークルームを進めていればエリーゼと特訓が解禁されてる筈なので直ぐにやりましょうと言う合図である。

〇ボロボロなGVについて
本編第三十話の時に()()()物凄い表情をしたアキュラに新兵器のテストと称してボコボコにされた……のだが、そこは流石の蒼き雷霆。
あの状態のアキュラを相手に辛うじて相打ちに持ち込んでいる。
勝負の決め手は新しい戦闘スタイルを確立できた事、つまり近接戦闘が出来る様なった事。
このアキュラとの戦闘によってGVは新しい戦い方を学んだ為、結果的には得をしている。

〇フェムト達をイチャつかせてる理由について
先ず第一に、GV達を始めとした友達以上、恋人未満な人達を焚きつける事が主な目的。
今回の場合はフェムト達がいちゃついている所を見たオウカがリトル達の真似をして座ってGVの足を膝にのせて足裏マッサージをする場面辺りがそうだったりする。
要するに、GVに過剰なアプローチをする理由になって欲しいと言った感じ。
……だってそうしないと互いが牽制している関係上、何時までもくっ付かない気配ががg

〇リトルとアニムスが互いの因子を取り込んでいる事について
ガンヴォルト鎖環の描写を見るに、相性のいい能力の因子を取り込むとある程度反映される事が分かったので追加された設定。
今回の場合リトルはEPを生命力に、アニムスは生命力をEPに変換し、変換先の力も使って身体能力を更に高めることが出来る様になった。
現段階ではここまでだが、更に互いに因子を取り込み続けると出来る事が増える。

〇バッドエンドについて2
物凄く簡単に言うと、フェムトが死ぬと世界が滅びます。
逆に言うとフェムトが死ななくなる、或いは即時復活させる手段があると今回の様に回避出来ます。
因みにですが、時間が物凄く経ってフェムトが()()()()()()()()老衰して死んだ場合も滅びます。
それが回避できたという事は……まあ、そう言う事です。


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第三十二話 鋼の意思を持つ従者の、決死の覚悟



サイドストーリー





 プールを一通り満喫し、夕食も食べ、お風呂も皆と入って楽しいお話をした。

 GV達は来客用のお部屋へと向かい、私達はいつもの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと向かう。

 本来ならこの後エリーゼ達と色々とするのだけど、今日はお客様が来ているのでフェムト達はパジャマ姿のまま眠りについた。

 私も、フェムトの背中を抱き枕にする様にしがみ付きながらベッドに入る。

 …………

 皆が寝静まったのを確認し、私はベッドから抜け出す。

 音を立てない様にドアを開け、私の部屋へと向かう。

 机に座り、明かりをつけ、私専用の端末を起動。

 そこに書かれているのは、歌詞と思しき文字列。

 その内容は、私がこれまで生を受けて感じた事と、フェムトへの感謝の気持ちを表した物。

 それを少しづつ書き進めながら、私は改めてあの光景を思い浮かべる。

 GVの覚醒した時の映像を。 


(この力を再現出来ればフェムトを生き残らせる大きな力になる。道筋もアニムスの因子を取り込めたお陰で見えてる。……もう少し、頑張ろう)


 それは電子の謡精(サイバーディーヴァ)(チカラ)

 第七波動(私達)がより力を引き出すには使い手の精神状態と密接な関係にある。

 そこで、使い手の精神状態に働きかける事で第七波動もより強く力を引き出せる、というのが大体の原理。

 後はそれを私がやりくり出来る範囲で再現出来ればよいのだが、これまでは机上の空論に過ぎなかった。

 だけど、数日前にアニムスの因子を取り込む事で生命力(ライフエナジー)を扱う事が出来る様になった事で、技術的問題点を突破。

 大雑把に言うと生体ハッキングの応用によって精神面を補強し、生命力を扱う事で物理面を補強すると言った感じだ。

 後は形に倣うと言う事でこうして歌を作成する事にしたのだが、これがまた難しい。

 そんな風に悪戦苦闘していると、壁の向こう側からモルフォが透過する形で私の部屋に入り込んで来た。


『あらリトルったら。まだ起きてたんだ』

「それはこっちの台詞。こんな夜更けにどうしたの?」

『え? あ……いや、その……ね』

「……大方、私達の寝てる部屋を覗こうとしたんでしょ?」

『ギクッ……! そ、そんな事、無いわよぉ~』


 明後日の方向を見ながら目線を逸らして誤魔化そうとしているモルフォだけど、その態度が答えを如実に表していた。

 以前、モルフォはキス以上の事をしているのかとエリーゼに尋ねた事がある。

 それに対してエリーゼが答える前に、私がおやつを食べきる形で答えを妨害してうやむやにした。

 だけどモルフォはあの時のエリーゼの態度からキス以上の事をしていると判断した為、こうしてこっそり覗こうとしたのだろう。

 ……それはそうと、歌詞で悩んでる時に丁度いいタイミングで来てくれたモルフォに、私は相談を持ち掛けた。


『なるほどねぇ。……ねぇリトル。この歌は誰に対して歌いたいのかしら?』

「フェムトに対して歌いたい」

『なら、それが答えよ』

「……?」

『歌詞って言うのはね。全部が正解なのよ。伝わり難かったり、ちんぷんかんぷんだったり、小難しかったり……恥ずかしい物だってそうだし、さっき答えたリトルの言葉もまた正解なのよ』

「…………」

『多分だけど、リトルは歌うのを恥ずかしがっている、或いは怖がっているだけだと思うの。フェムトに笑われたり、場合によっては拒絶されたりするのを』

「……ん」

『でも、落ち着いて考えて見て? フェムトがリトルにそんな心無い事すると思う?』 

「ありえない」

『でしょ? だから恐れる事何て何もないわ。貴女の心の思うままに歌えばいいの』

「ん! ありがとうモルフォ」


 こうして私は答えを見つけ、まだ途中だった歌詞を書く作業へと戻った。

 戻ったのだが……

 今度はモルフォが私に質問を投げかけた。

 その内容は、フェムトとエリーゼが付き合うまでの速さについての物だ。

 この端末は思考操作によって書き込む物である為、思考を分裂させて話を聞く事にした。


『ずっと不思議に思ってたけど、どうしてフェムトとエリーゼってあんなに早く恋人同士になれたのかしら?』

「……私の推測混ざるけど、それでもいい?』

『勿論よ!』

「じゃあ先ずは結論から言うね」

『ドキドキ……』

「フェムトのアプローチが凄かったのと、それに答える形でこっそり出されたエリーゼのアプローチをしっかり拾ってたのが理由」

『エリーゼもアプローチしてたの!? そういう所、アタシ見た事無かったんだけど』

「本当にさり気無くだし、本人も自覚してるかどうか怪しい。例えば身に付けている小物が見慣れない物だったり、髪型が若干変化してたりする小さな、それでいてよくありそうな物だったから。エリーゼの場合は無自覚な方だと思う。そう言うのを隠すの、エリーゼは苦手だし」

『無自覚アプローチ、そう言うのもあるのね……』

「ん。フェムトのアプローチが凄かったのはね、そう言った細かい所を私を使ってでも全部拾って主軸にした事。自分が好きな人の為にした事を本人に褒められるのが凄く嬉しい気持ち、モルフォも分かると思う」

『ええ。それはもう』

「当時の拾いっぷりは色々な意味で凄かったよ。多分その様子を見たらドン引きしちゃうと思う。フェムトもその辺り自覚してたし」

『そ、そんなに凄かったんだ……』


 エリーゼの無自覚アプローチを見つけては頭の中で狂喜乱舞するフェムトの図はドン引きさせるのに十分な破壊力がある。

 だけど、その事をエリーゼに話したら顔を赤くして物凄く喜んでいた。

 人の事は言えないけど、恋は盲目とは良く言った物だと私は思う。

 ……こうして情報を並べて見ると、また別の答えが浮き彫りになる。


「とりあえず、男の人側が相手を恋愛的な意味で好きであると自覚してくれないとダメって事なんだと思う」

『そうなると、今のGVじゃあ……』

「多分ダメだと思う。GVはシアンの事は好きだとは思うけど、その好きは恋愛的な意味じゃないだろうし。もしちゃんと恋愛的な意味で好きになってたらGVの場合は挙動が変化すると思う」

『そっかぁ……』

「GVに好きになって欲しかったら、諦めないで色々やってみる事が大事だと思う。今日みたいに私に相談するのもいいし、いっその事正面から告白するのもアリだと思う」

『分かったわ。……でも、正面から告白するのはちょっと恥ずかしい……』

「そんな調子だからシアンにヘタレ謡精(エルフ)なんて言われるんだよ?」

『んな!? あ、アタシはヘタレ謡精なんかじゃないわよ!』


 こんな風に私がモルフォとお話しするのはそう珍しい事では無い。

 何故ならば、第七波動の中で私が一番最初にモルフォの話相手となり、今みたいな友達になれたからだ。

 そう考えると、モルフォとの付き合いも随分と長いなと私は思った。

 ……折角だから、ずっとモルフォにお願いしたかった事があるのを話そう。


「ねぇモルフォ」

『なぁにリトル?』

「一度モルフォとTASで接続してもいい?」

『TASって……あぁ、フェムトがミッションで使ってるシステムの事よね? アレってフェムトが居ないとダメなんじゃないの?』

「ううん。TASのシステムが格納されてるのは私の中。だから私だけでも最低限の起動はできる」

『なるほどねぇ……で、どうしてアタシと接続したいのかしら?』

「モルフォの使う謡精の歌(ソングオブディーヴァ)を再現する為のデータ取りをしたい。……フェムトの戦い、ドンドン激しくなってる。だから少しでも生き残れる手段は用意しておきたい。モルフォ、お願い」

『ふふ♪ しょうがないなぁ。リトルがそこまで言うなら接続してもいいわよ。それに、フェムトにはアタシ達の歌関係で散々お世話になりっぱなしだったし』

「ん! ありがとモルフォ! ……それじゃあ接続するね」


 私はTASをセミアクイティブで起動。

 この状態はアビリティの恩恵は殆ど受けられず、主に接続テストをする時に使う物だ。

 このTASと言うシステムは一度繋いだ第七波動達のデータも収集する機能が存在する。

 これはTASを完成させる為のデータ収集が目的であり、接続する前に事前に説明する必要のある項目だ。

 これを利用し、電子の謡精のデータを収拾しようという訳だ。


「接続完了。……どう? 何か違和感とかある?」

『ううん。特に何も。強いて言うならちょっと不思議な感覚がするわね』

「その位なら許容範囲内って感じだね。……ん。終わったよ。接続を解除するね」

『あら? もういいの?』

「データ取りだけなら直ぐだよ。……でも、解析するのは時間かかりそう。パッと見た感じ、モルフォを構成する第七波動、すっごく複雑だから」

『ふふん♪ 伊達に電子の謡精なんて言われて無いわよ』


 とりあえず目的のデータは収集出来た為、歌詞が出来たら解析しよう。

 そんな風に思いながらモルフォとの会話を続けて行くと、モルフォから少し前にフェムトとエリーゼの恋愛事情を話した後に盛り上がった話題に切り替わった。

 それは、生身の身体の事についてだ。


『ねぇリトル』

「ん?」

『あの時は軽く聞く程度で済ませちゃったから改めてちゃんと聞くけど……生身の身体を持つってどんな感じなのかしら?』

「一言で答えるのは難しい。……ちょっと長くなる。それでもいい?」

『ええ』


 私はモルフォに今の身体が起動してからの事を話した。

 起動して生まれたままの姿の時の肌寒さや心細さを。

 服を渡され、身に付けた時の温かさを。

 歩いた時の重心の移動、小指がカドにぶつかってしまった時の初めての痛さ、その時の、初めて目から流れる涙。

 これら全てが当時の私にとって新鮮だった。

 特に印象深く、私の中で鮮烈に残ったのはフェムトに綺麗だよって言われた時。

 あの時私は何でもない様に会話してたけど、内心では不思議な感覚に戸惑っていた。

 温かく、胸が高鳴る不思議な感覚。

 今にして思えば、それはきっと好きだと言う感情だったんだと思う。

 初めて髪を撫でて貰った時も思考の六割ほど真っ白になっちゃったし、抱っこしてもらった時は得も言われぬ高揚感を得た。

 そして、肌と肌を重ねた時は……


『……ゴクリ』

「……色々と凄かったよ。何しろ科学的にも肌と肌の触れ合いによる幸福感って実証されてるから。モルフォも一度味わったら病みつきになると思う」

『へ、へぇ~……』

「……? どうしたの?」

『な、何でもないわ! まさかリトルがオトナの階段を上ってたなんて……アタシ、思いっきり出遅れてる……!

「……じゃあ続けるね。それでね、フェムトとするのも凄いんだけど、エリーゼとするのも凄いんだよ」

『え?』

「エリーゼの肌ってすっごくスベスベで温かいんだ。触ってるとクセになっちゃうくらい」

『え?』

「モルフォも生身の身体を得たら色々と触って見るといいよ。例えばオウk……」

『それじゃあアタシはシアンの居る部屋に戻るから歌詞を書くの頑張ってね!』


 顔を真っ赤に凄い勢いでモルフォは立ち去った。

 ……この位軽く受け流せないからシアンにヘタレ謡精なんて言われちゃうんだよ?

 まあでも、これが切欠で恋愛的な意味で進展があるといいんだけど。

 そう思いながら私は再び歌詞作りに全意識を集中するのであった。

 フェムトを死なせない為に。

 そして、私のありったけの気持ちを伝える為に。







ミッションセレクト

 

 

 

 

 朝食を取り終え、今日のミッションにおける最終確認をする。

 

 装備の手入れ……OK。

 

 体調……OK。

 

 リトルマンティスの要請……OK。

 

 TASの動作チェック……OK。

 

 EP残量……全快。

 

 その他諸々の項目の確認も済ませ、私はリトルと変身現象(アームドフェノメン)をして玄関へと向かい、我が家の外の庭に出る。

 

 そこではエリーゼとアニムスが洗濯物を干しており、そんな二人を朝日が優しく照らし出す。

 

 そんな二人の元へと足を運び、行ってきますの挨拶を済ませる。

 

 同時に今日のミッションも無事に終わらせ、必ず帰ってくる事の約束もした。

 

 

「必ず帰って来てね。エリーゼを悲しませたらダメよ?」

 

「ええ。今日も必ず生きて戻ってきます。絶対に」

 

 

 そう言って私はそのまま出発しようとしたのだが、それを引き留めるかのようにエリーゼは私を背後から抱きしめる。

 

 後頭部にエリーゼの柔らかなモノが当たっており、夏場なのにも関わらず心地よい体温が私を包み込む。

 

 

「エリーゼ?」

 

「……ごめんね。ちょっとの間だけ、こうさせて」

 

 

 今日のエリーゼは朝からあまり調子が良く無さそうだなと思っていたのだが、案の定であった。

 

 こういう時のエリーゼは大抵嫌な夢を見て感情がグチャグチャになっている事が多い為、心の拠り所と言える私やリトル、最近ではアニムスにこうして身を任せて不安を取り除こうとする。

 

 それもあり、私はミッションを始めとした重要な物事を始める際は、時間に余裕を持って何か不測の事態がある程度起きても間に合うように調節している。

 

 

(最近は落ち着いていたと思ってたんだけど……久しぶりだな。エリーゼがこうなるのは)

 

 

 私と出合う前の学校内での陰湿ないじめだったり、苦痛を伴う人体実験に晒されている時等の夢をエリーゼはどうしても見てしまう。

 

 心の傷の問題を解消することが出来ても、心の傷その物が無くなる事は無い。

 

 こう言う場合、先ずは話を聞くのがセオリーだ。

 

 

「……夢を見たの」

 

「嫌な夢でも見たんですか?」

 

「うん。わたしが一番見たくない夢。……フェムトくんが、死体になって帰って来る夢」

 

「…………」

 

「それでね、夢の中のわたしはまだ諦めてなくって、フェムトくんの事を生き返らせようとしたの。アニムスと一緒になった上で。でも、フェムトくんはゾンビになっちゃった。フェムトくんだったモノに、変わり果てちゃったんだ。……その後のわたし、何をしたと思う?」

 

「……周りに当たり散らした、とか?」

 

「大体当たり。フェムトくんの居ない世界何て要らないって叫びながら()()()()()()()()をまき散らしたの。生き物全てをゾンビにしようとしてね。勿論、そんな事をすれば皆が私を止めようとするんだけど、わたしが手を翳して力を込めただけで例外なく皆はゾンビに成り果てちゃった」

 

「…………」

 

「……それでね、気が付いたらわたし、()()()()()()()()()()()()()()()()()。理性何て残ってなくて、ただただ滅ぼす事しか考えて無かったの。それで最後に、フェムトくんだったモノを手で掴んで、そのまま口の中に入れようとして……そこで、目が覚めた」

 

「エリーゼ……」

 

「嫌な夢だった。最悪な夢だった。そして何よりも……夢の中のわたしに共感しちゃうわたし自身も嫌だった。だってあの夢の内容、わたしは途中まで絶対に同じ事するって確信できちゃうんだもん……!」

 

 

 私を抱きしめる力が強くなる。

 

 本当に、嫌な夢だったんだろう。

 

 

(フェムト、どうしよう? こんな状態のエリーゼを放ってミッション何て行けないよ)

 

(私も同感です。……久しぶりにやりましょうか)

 

(ん。エリーゼの事、いっぱい優しくしよう)

 

 

 人の肌の温もりと言うのは、感じた相手を安心させる力がある。

 

 私とエリーゼはもう数えきれない程に肌を重ねているが、いたずらに性欲を発散させているだけでは無く不安を払拭させ、精神を安定させると言った理由でする事もあった。

 

 ……なんて理屈を色々と並べているが、まあ、そう言う事だ。

 

 我が家に泊まっていたGV達は朝食を私達と取ってから既に帰宅している。

 

 なので、色々と解禁しても大丈夫だろう。

 

 私はエリーゼとアニムスを連れて()()()()()()()()()()()()へと向かう。

 

 その部屋で変身現象を解き、彼女の不安を払拭する為に、皆で肌を重ね合わせた。

 

 この時重要なのが、激しくすれば良い訳では無いと言う事だ。

 

 この辺りは人それぞれらしいので断定は出来ないが、エリーゼの場合は優しい言葉と触れ合いが重要になる。

 

 今回の場合は心を癒す事が主な目的なので、激しくするのはなるべく避けたい。

 

 なので性的に気持ち良くするのでは無く、単純に肌と肌を重ねると言う行為がメインになる。

 

 ただ触れ合うと言うだけの行為を勿体無く感じる人も居るかもしれないが、この単純な触れ合いが最もエリーゼの心を癒すのに効果があったのだ。

 

 そうして、暫くの時間が過ぎた。

 

 

「皆ありがとう。わたしはもう大丈夫」

 

「ん。エリーゼの顔色良くなった」

 

「これで一安心ですわね」

 

「ですね。これで私も安心してミッションに……エリーゼ?」

 

「フェムトくん。時間、まだある?」

 

「……まだ一時間半位は余裕ありますよ」

 

「わたしね、今日のオンライン授業休みなんだ」

 

「…………」

 

「それに、宿題なんかの用事も全部終わってるの。だから……」

 

 

 エリーゼの言葉を聞く前に、私は彼女の口を私の口で塞ぐ。

 

 私を抱きしめるエリーゼの腕に力が籠った事を合図に、第二ラウンドが始まった。

 

 その一時間後……

 

 

「エリーゼ、続きはミッション後に……ね?」

 

「ひゃ……ひゃい……」

 

「アニムス、私達が戻るまでエリーゼの事をよろしく」

 

「は……はひぃ……」

 

 

 私がエリーゼを、リトルがアニムスを腰砕けにした後、改めて変身現象を行い我が家を飛び出し、第二データバンク施設建設予定地へと足を運んだ。

 

 現段階でも30分ほど余裕があるので、遅刻する事無く目的地に到着。

 

 現場では今回組む相手であるストラトスさんが現地入りする事になっている。

 

 彼はかなり前から通院していた病院から無事退院し、宝剣を新調して現場へと復帰を果たしたのだ。

 

 そんな彼を視界へと収めるが、その隣にリトルよりも小さな女の子の姿があった。

 

 彼女はストラトスさんに懐いている為、必然的に正体は判明する。

 

 

「ストラトスさ~ん!」

 

「おぉ、フェムトか!」

 

「ええ。元気そうで何よりです。……その子が例の?」

 

「ええ。……【ライ】、挨拶を」

 

「は~い! わたしは翅蟲(ザ・フライ)の第七波動。名前はライっていうの。よろしくね!」

 

 

 リトルよりも小さな女の子の姿をした第七波動のライ。

 

 リトルとは違い元気が溢れて活発そうなブロンドのショートの髪型が特徴で、活発さを表すかのようにオーバーオールを着込んでいる。

 

 今ではこんな可愛らしい外見をしているが、以前の翅蟲は暴走寸前の、極めて危険な状態だった。

 

 それは以前の宝剣ですら抑えきれない程で、制御する為にストラトスさんが入院する元凶と言える薬物である【S.E.E.D(シード)】を使わなければならなかった程だ。

 

 だけど第七波動に意思がある事が判明し、直接翅蟲に語り掛ける事で暴走も衝動も収まった。

 

 更にダメ押しとして新型宝剣に換装する事で、私達と同じ基準の安全性の確保に成功している。

 

 

「今日のミッション、よろしく頼む」

 

「ええ。こちらこそ」

 

「こちらこそ!」

 

「では、早速始めよう。……ライ、頼む」

 

「あいあいさー! 合体(がったーい)!」

 

 

 元気な掛け声と共に、ストラトスさんが変身現象を起こす。

 

 その姿は黒と黄色のアーマーを身に纏った物だ。

 

 しかし、この姿は安定度が高まったからこその姿。

 

 以前の姿は身体その物がエネルギー体と呼んでも良い程に不安定な物だったらしく、今のこの姿は正しく奇跡だと一部の研究者は語っていた。

 

 

「その姿も大分様になりましたね」

 

「ええ。お陰様で。……では、接続を」

 

「分かりました。……リトル」

 

(ん。TASでの接続、開始するよ! それと同時にスピードヴォルトとシールドヴォルトも一緒に発動するよ!)

 

 

 ストラトスさんとTASで接続し、私達はミッションを開始する……はずだった。

 

 突然、第二データバンク施設建設予定地に見慣れぬ建築物が姿を現す。

 

 その外観はパッと見た感じ、今の建築物よりも数段上の技術で作られた代物である事が分かる。

 

 更にこの建築物からは例の反応が検知された。

 

 そう、ホログラム能力者の反応だ。

 

 

(うわぁー! おっきぃー!)

 

(建築物まで出来る様になるなんて)

 

(……厄介な事になりそうだ)

 

(ですね。……正直な話、一度撤退しておきたい所ではあるのですが)

 

(俺も同意見だ。……だが、相手はそれを許してはくれないらしい)

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 建物の中からワラワラと()()()()()()の皇神兵と思しき相手を始め、その時代に合ったと思われる戦闘メカがこちらへと向かってきている。

 

 私は即座に起動済みのリトルマンティスに乗り込み、全武装をアクティブにすると同時にEPレーダーを広域展開。

 

 迫りくる脅威全てにロックオンが施され、私は両肩に存在するホーミングレーザーと手持ちの二丁のレールガンを斉射する。

 

 だが当然撃ち漏らしは発生する為、そこはストラトスさんによる何でも食らい尽くす夥しい数の羽虫で攻撃する【ミリオンイーター】と呼ばれる攻撃で掩護してもらう。

 

 これにより、第一波は完全に殲滅。

 

 しかし、第二波が来る気配が無い。

 

 恐らくだが、私達を待ち伏せするつもりなのだろう。

 

 ならば、相手の思惑に乗らず突入せず撤退するのがいいと思うのだが、多分私達が引こうとするとまた同じように嗾けてくるとも考えられる。

 

 そうなると、選択肢はもう一つしか無いだろう。

 

 幸い入り口はリトルマンティスでも入れる位広い為、このまま潜入する事は出来る。

 

 よって、私達は突然出現した謎の施設へと足を運ぶ事となった。

 

 

(見た所、ここはデータを扱う施設みたいですね)

 

(分かるのか?)

 

(ええ。私の扱っている分野その物ですから……いますね)

 

(そうだな。待ち伏せが多い)

 

(ん。頑張って蹴散らそうね)

 

(がんばろー!)

 

 

 内部で待ち構える敵を蹴散らし先へと進むと、この世界でもおなじみの物が姿を現す。

 

 そう、【ゲートモノリス】だ。

 

 

(やはりこの施設にも存在するのか)

 

(これ知ってる。わたしの居た病院にもあった!)

 

(空間を隔離するのに便利ですからね。ゲートモノリスは……ですが)

 

 

 私はリトルマンティスの持つレールガンの先端をゲートモノリスに接触させ、そこを起点にハッキング。

 

 物の数秒も待たずに解除する。

 

 

(私には無意味です)

 

(ん。私達にこの手の技術は通用しないよ)

 

 

 この調子で私達はどんどん先へと突き進む。

 

 ……しかしこの施設、どうしても気になる事がある。

 

 それは何かというと……

 

 

(どうしてこんなに針がびっしり敷き詰められているんだろう……セキュリティの一種だって考えるのも無理が出そうだし……)

 

(ふむ、何でだろうな?)

 

(それが分かれば苦労はないがな。ライ)

 

(一応針を隠す為の機構もあるからやっぱりセキュリティの一種でいいんじゃないかな、フェムト)

 

 

 そういえば、アマテラスにも同じような機構が……この手の事は深く考えちゃいけないのかもしれない。

 

 私は気が抜けてしまったと判断して頬を両手で叩きながら気合を入れ直し、先へと進む。

 

 そして、遂に最深部と思しき場所へと辿り着く。

 

 そこには……

 

 

(もう、形振り構わないという事ですか……!)

 

(あの黒い雷みたいなの、嫌な感じがする!)

 

(俺にも分かる。アレは危険だ)

 

 

 あの時のイソラと同じように蒼黒い雷を身に纏うヒューマノイドの翼戦士の一人、ダイナインの姿があった。

 

 

《グゥ……ラ、来訪者、ですか》

 

「……! 意識が残ってるんですか!?」

 

《辛うじて……ですが。ワ……ワタシは、【ガルガンチュア】謹製、お嬢様付きの万能秘書、ヒューマノイド、ダイナイン。以後、お見知りおきを》

 

 

 ダイナインはそう挨拶を済ませつつ、その手に光の剣と思しき物を手に取り、構える。

 

 

《申し訳、ありません。本来、ならば、この様な、無礼な事は、許されない、のですが……お嬢様を、人質に、取られている以上、こちらも、引くわけには……行かないのです!》

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

「人質だって!?」

 

《お嬢様を助ける為ならば、ワタシはこの様な苦痛、いくらでも耐えて見せましょう!》

 

(詮索は後回しだフェムト。……向こうにも事情があるのは分かった。だが、それで躊躇すればやられるのはこちらだ)

 

「ッ! 分かりました!」

 

 

 痛みを無視している為か、さっきまでとは打って変わって言葉を流暢に話すダイナイン。

 

 そんな状態なのにも関わらず、彼の攻撃には理性が宿り、更には暴走の力をも利用すると言ういいとこ取りを意志の力で実現した。

 

 ……アキュラによると彼は心を理解し、三原則をも凌駕している可能性を持ったヒューマノイドと言われている。

 

 それだけ彼は「お嬢様」に対して強い想いを秘めているのだろう。

 

 現に私のリトルマンティスはマントを大型のバイソン型に変化させた攻撃によって中破し、私は下りて戦う事を余儀なくされているのだから。

 

 この時、私は不意打ち気味に鉄扇を一閃したのだが、この動きは相手に見破られていた。

 

 

『来なさい……』

 

「マズ……!」

 

『甘いですね』

 

「……っと! まだまだ!」

 

 

 マントを構えたダイナインに迂闊に鉄扇による攻撃してしまった私は、そのままベクトル操作の作用を持ったマントに弾き飛ばされる。

 

 だが、ロックオンその物は出来てる為、そこを起点にストラトスさんがフォローするような形で攻撃を仕掛けた。

 

 

「行け! ミリオンイーター!」

 

『グッ……その攻撃は、貪り尽くす翅蟲(グラトニーフライ)の物!』

 

「お前の力は身に付けている布を起点としている! ならば、喰らってしまえばその力は発揮出来まい!」

 

 

 ストラトスさんの羽虫による攻撃はあらゆる物を食べつくす性質がある。

 

 よって、物質に依存する第七波動【偏向布巾(ベクタードクロス)】の明確な弱点と言えるだろう。

 

 

ダメージレベル……危険域……確かにその通り……だが、それでも……ワタシは負ける訳には行かないのです! スキルスタンバイ……!』

 

 

 

 

 

 

 

悲劇の終わりの始まりに

 

深更の幕が下ろされて

 

全ては闇に染められる

 

 

光無き世界(シャットザワールド)

 

 

 

 

 

 

 ダイナインの生成する布が、羽虫によって食い荒らされるのもお構いなしにストラトスさんを捉える。

 

 拘束されたストラトスさんに、凄まじい数の光の斬撃が襲い掛かろうとしていた。

 

 アビリティ、シャリーアライブによって致命的な攻撃は一発は耐えられるが、これはデータによると複数回攻撃している為、当てには出来ない。

 

 よって、私はイソラの時の様にダメージを与える事を密かに期待しつつ発動速度と防御性能の高い城塞の力を使う。

 

 

 

 

 

 

 

煌めくは雷纏いし城塞

 

守護の聖域よ 二重に重なり城塞と化せ

 

 

パルスサンクチュアリ

 

 

 

 

 

 

 

 私の聖なる城塞がストラトスさんを守護しつつ、ダイナインが纏う青黒い雷を消し去っていく。

 

 しかし、それでもダイナインは止まらない。

 

 大切な人を人質に取られている彼には、止まると言う選択肢は無いのだ。

 

 なので、その引導をストラトスさんが渡す事となる。

 

 

 

 

 

 

 

貪る翅蟲の羽音が響く

 

終わりなき飢餓の牙

 

全てを喰らい咀嚼せよ

 

 

デスティニーファング

 

 

 

 

 

 

 

 新たな姿となった事によって名前は同じだが、その性質が変化したストラトスさんのSPスキル【デスティニーファング】。

 

 以前の物は長くチャージを必要とする性質があったのだが、今回の物は攻撃範囲を片腕に狭めた事で発動速度を大幅に早めている。

 

 その運命を喰らう牙の一撃を以て、漸くダイナインはホログラム状に姿を消すのであった。

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇リトルの歌について
所謂ソングオブディーヴァ枠。
今までは実用の目途が立たずに頓挫していたけど、アニムスの因子のお陰で突破口を開けた為、ようやく実用に向けて最終調整をする事に。
生命力を使う都合上、その代償はエリーゼが居ないと高くつく。

〇リトルとモルフォの関係について
余り描写はしませんでしたが、第七波動の中でモルフォと初めて友達になったのはリトルだったりする。
なので、モルフォも結構砕けた調子で話す位にはリトルとは仲が良い。
何気に付き合いの長さもそれなりにある。

〇エリーゼの夢について
前回のバッドエンドの大まかな内容が夢の正体。
フェムトが居ない状態で暴龍と化した彼女を止める術は存在しない。
再び絶望に叩き落された彼女の嘆きは世界をも滅ぼす。
愛しいあの人が居ない世界になぞ何も価値が無いと叫びながら。

原作のエリーゼは精神面がズタボロの状態でも相手をゾンビにしたり石化させたり出来る位には強い。
そこから立ち直らせて鍛え上げれば当然原作の時よりも強くなる訳で、そこから更に絶望に叩き落すとこうなると言った具合です。
可能性世界と言う設定があるからこそ出来る芸当です。
つまり、何処かの世界では実際に起こっているという訳で……

〇ライについて
リトルよりも小さな元気っ子な第七波動。
このような見た目なのは食べ物を食べる際、直ぐにお腹いっぱいになれるからと言うのがその理由。
物を食べる事が好きと言うよりも、お腹いっぱいな感覚が好きな為、好き嫌いは基本存在しない。
他には自身の能力を用いて分解して取り込む形で無機物も食べる事が出来る。
一時期は暴走寸前まで行った危険な状態だったが、様々な要因が重なった事でその問題は解決。
晴れてストラトスと共に現場に復帰する事になった。

〇見慣れぬ建築物について
イクスシリーズに存在する第二データ施設がイマージュパルスの技術派生によって試験的に構築された物。
相手側もこの技術を物にしつつある事を端的に表している。

〇ゲートモノリスについて
詳しい事が分からない為、この小説内では一定の空間を隔離する物と定義しています。
もし詳細の分かる人が居たら感想を書く序に指摘していただけたら幸いです。
メタ的にはコレが理由で描写はしていなかったのですが、本小説内の設定ではフェムトに対しての足止めには何の役にも立たないと言う理由もあって省略しています。

〇針について
ふむ、何でだろうな?

〇ダイナインについて
お嬢様に対する想いにより色々と限界突破しており、あのベルセルクトリガーをも意思の力でねじ伏せている。
ゲームシステム的には電磁結界(カゲロウ)を無視した上でSPバージョンにプラスして更に攻撃力が上がっている状態で、リトルマンティスも一撃で中破に追い込んでいる。

〇デスティニーファングについて
暴走寸前の状態が収まった事で性質が変化したSPスキル。
発動速度が光速(はや)くなった代わりに範囲が狭くなった。


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第三十三話 黒死蝶の女王



サイドストーリー





 俺は今、紫電の居る前線基地へと忍び込んでいる。

 目的は紫電に会いに行く事だ。

 ……しばらく見ない内に、結構警備も良くなってきてるな。

 ま、本人には言うつもりも無いし、俺に出し抜かれてる以上まだまだと言わざるを得ないんだが。

 そうこうしている内に、紫電の部屋の前までたどり着いた。

 情報が合っているなら、今紫電は部屋の中に居るはずだ。

 ドアに手をかけ、取っ手を引いて当たり前であるかのように入り込む。

 部屋の中には情報通り紫電がおり、俺に対して呆れた表情と生暖かい視線を送っていた。


「よお紫電、しばらく見ない内にでかくなったな」

「……ニコラ、キミは一応死人として扱われてるんだから、もう少し行動を慎んでもらえると助かるんだけど」

「固い事言うんじゃねぇ。文句があるならもう少しマシな警備体制を構築するんだな」

「全く、あの時不覚を取っておいてその言い草は無いだろう?」

「あん時は得物(鉄扇)をメンテでえころに預けてたからな。それがありゃあ不覚なんて取らなかったさ」

「でも不覚を取ったのは事実だよね? 全く、あの時フェムトがどれだけ悲しんだか理解しているのかな? 彼は立ち直るまで丸一日……体感時間で換算すると一週間位閉じこもってたんだよ? 寧ろその程度で立ち直ったのが奇跡だった位さ」

「……それを持ち出されたら何も言えねぇな。スマン」

「謝るなら直接フェムトに言うんだね」

「そうだな。情勢が落ち着いたら会いに行くのも悪かねぇ」

「それで、態々ここにキミがリスクを冒して来た目的は何かな?」


 っとと、雑談で時間を潰すのはいかんな。

 さっさと必要な目的を済ませちまわねぇと。


「おう、アキュラに会いに来たんだ」

「へぇ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「お前、分かってて言ってるだろ?」

「さて、何の事やら。……フフ」

「全く、すっかり生意気に育っちまいやがって」

「ま、そんなに気になるなら別にいいさ。()()()()()みたいだしね。ちょっと待ってて……今彼はこの基地内でGVと訓練と言う名の拷問をしてる筈だから」


 GVのヤツ、最近メキメキと実力を身に付けてたのはそれが理由だったのかよ!

 通りで立ち振る舞いに隙が無くなってる訳だ。

 紫電は館内放送でアキュラを呼ぶよう指示を飛ばす。

 これでしばらくすればヤツは来るだろう。

 ……さて、このアキュラは話が通じるヤツかねぇ。

 GVをボコボコに出来る癖に俺の知るアキュラみたいなヤツだったら手に負えんからな。


「さて、彼が来る間少し話でもしようか。……正直な所、ニコラはこの騒動をどう見てる?」

「さてなぁ……俺はこの騒動に関してまだ手を突っ込んでねぇしな。ただ、一つ気になる事がある」

「何だい?」

「お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「うん? それはどういう事だい?」

「一度本社に戻って、金の流れを調べて見ろ。面白いモノが見れると思うぜ? 今の解散寸前のフェザーでも掴めた情報だからな。お前なら直ぐだろ」

「面白いモノ……ハァ。ボクの考える懸念の一つが当たりそうで嫌になるよ。全く」

「なんでぇ、分かってんじゃねぇか」


 ま、こんだけヒントを出せば頭の回転のいい紫電なら気が付くよな。

 そう思っていたらドアの開く音が聞こえ、振り向くとそこには()()()()()()()()俺の知るアキュラの姿があった。


「どうした紫電? オレは装備の調整で忙しいのだが」

「アレを良く装備の調整だなんて言えるよね? 下手したら死人が出るよ? アレは」

「フン……GVがあの程度で不覚を取る筈があるまい」


 う……嘘だろ?

 誰だコイツ?

 本当にあの父親譲りの頑固で、母親譲りの思い込みの激しさを最悪な意味で兼ね備えた、あのアキュラなのか?

 俺の知るアキュラとのあまりのギャップに、思わず目眩をおこしてしまいそうだ。

 しかもその恰好をよく見たら、おしゃれにすら気を使っているように見えるのが俺を更に混乱の渦へと叩き落す。

 なまじ背格好が同じなせいか、違和感が物理的に体感出来てしまう位俺の脳味噌を思いっきり揺さぶるのだ。


お……落ち着け、俺。狼狽えるな。心を冷静に保て。あのアキュラは別人だ。俺の知るアキュラじゃねぇんだ

「……所で、そこで大汗を流しながら自問自答している男は何者だ?」

「彼はニコラ。フェムトの育ての親と呼ぶべき人物でもあり、生前の神園博士とも共同研究をしていた人さ。その関係で、この世界のキミやミチルとも知り合いみたいだよ?」

「……何だと?」

「大方、彼の知るアキュラとここに居るキミとのギャップが酷すぎてああなっちゃってるんだろうね。フフ……お陰で良い物を見れたよ。あんなにおかしなニコラを見るのは初めてだよ、本当に」


 クソ、紫電のヤツ、好き勝手言いやがって。

 ………………ふぅ、やっと落ち着いて来た。

 全くコノヤロウ、まだ何もしてないって言うのに俺をここまで狼狽させやがるとは。

 それに……


「……おい、なんて目ぇしてやがる」

「……?」

「これでもかと地獄を見て来たかのような、えっぐい目ぇしてんぞ。……いや、そうじゃねぇな。先ずは挨拶済ませねぇとな。俺はニコラ。その様子だと()()()には俺が居なかったみたいだな」

「……そうだな。分かっているとは思うが、オレはアキュラだ。最も、お前の知るアキュラでは無いがな。しかしお前は……叔母の所に居た男に似ている」

「ほう、その口ぶりから察するに、向こうの俺は真夜ちゃんの所に居るみたいだな。てっきりしのぶ辺りとくっ付いたのかと……いや、そうなったらお前はそもそも生まれねぇか」

「叔母と母さんを知っているのか?」

「勿論。あいつらとは幼馴染だしな。……ま、話を戻すがちょいと気になる事があってな。お前に会いに来たんだ」


 俺の気になる事、それはまず第一に俺の知るアキュラがどうなっているのかだ。

 目の前に居るコイツは悪い奴では無い事は今の会話で分かったが、それなら何故居ないのかが気がかりだと言える。

 場合によっては、実力行使も必要になる可能性も捨てきれないのだから。


「ヤツは不覚を取って大怪我をしてな。今はミチルと同じ療養施設で眠りについている」

「……あのバカ。遂にやりやがったのか」

「それについてはノーコメントだ。オレも向こうでは同じ事をしたからな」

「って、お前もかよ!?」

「まあオレはヤツとは違って不覚を取る事は無かったがな」

「不覚を取らなきゃいいって訳じゃねぇんだぞ! 分かってんのかその辺り!?」

「ミチルにはバレなかったから問題はあるまい」

「あのなぁ……あの子はそういう時、察してて黙ってる子なんだぞ?」

『ま、その辺分からないからアキュラくんなんだよねぇ』


 俺の話に合わせる形で聞きなれない声と共に現れたのは丸っこいメカだった。

 見た所メンテは良く行き届いているが、所々の細かい傷がここに居るアキュラが見て来た地獄を連想させ、長い間アキュラと一緒だった事が良く分かる。

 ……このアキュラ、見た目通りの年じゃねぇな?

 ま、そこを突っ込むのは野暮ってもんか。


「ん~……見た所、戦闘補助用のバトルポッドみたいだが……」

『へぇ。ぼくの事分かるんだ』

「そりゃあそんだけ細かい傷跡が残ってればな。おいアキュラ、女の子をキズモノにしたんだから責任は取らにゃいかんぞ?」

「当り前だ。ロロはオレが動く限り、最期まで面倒を見るつもりだ」

『あ、アキュラくん……』


 こ、コイツら……からかうつもりだったのに自然な流れで惚気てやが……いや、アキュラの方は分かって無さそうだな。

 こういう所が同じなのは残念と言うか、良かったと言うか。

 ま、このアキュラが信用できるって事は分かった。

 そろそろ、本題に入るとしよう。


「所でアキュラ、お前は神園博士からのデータも含めて第七波動の事、どれだけ把握している?」

「未だ分からないことだらけだな。この世界に来て初めて分かった事もある位だ。そもそも、俺の生きる世界でもまだまだ未知の分野だしな」

「いや、そう言う事じゃねぇ」

「……?」

「【龍放射】、この言葉に聞き覚えは?」


 この言葉を発した瞬間、落ち着いていたアキュラの様子が一変した。

 その様子は俺の知っているアキュラに近い馴染み深いモノで、まるで禁忌に触れた咎人を見るような目で俺を睨みつけている。


『……? 龍放射って、何?』

「ロロ、お前は知らなくていい事だ。……余り、その言葉を表に出すのはやめて貰おうか」

「……その様子じゃあ、そっちの世界でもお手上げな状態って訳か」

「………………」


 気まずい雰囲気が当たりを包む。

 こりゃあ、この件はアキュラとのみ話す必要があるな。


「悪ぃ、ちょいとアキュラと二人にしてくれねぇか。出来れば防音部屋も用意した上で」

「それは、ボクにも話せない事なのかい?」

「悪ぃな。これに関してはいくらお前でもまだ言えねぇ。それだけ重要な事なんだ」

「まだ……ね。じゃあ、話せる時が来たらでいいよ。凄く気になる所ではあるけどね」

「すまんな」

「ロロ、悪いがここで少し待っていろ。コイツとは、少し込み入った話をする必要がある」

『……分かったよ。本当は納得できないけど、いつかは話してくれるんでしょ?』

「ああ」

「じゃあ紫電、ちょいと行ってくr」


 最後まで俺が言葉を出すよりも前に、紫電の部屋にある通信端末から音が鳴り響く。

 紫電は端末を手に取り、用件を聞く。


「何? フェムトから救援要請? ……ふむ。……! それは本当かい? 困ったね。それを目撃されたら我が社のアイドルのイメージダウン待ったなしじゃ無いか。ありがとう。悪いけどこの事は戒厳令を出させてもらうよ。君も、口を慎むようにね?」

「……どうした? フェムトに何かあったのか?」

「どうやらミッションに問題が発生したみたいでね……悪いけどアキュラ、救援に向かってくれないか?」

「何故オレが行かねばならない? イオタ辺りを向かわせればいいだろう? ヤツはオレよりも移動するだけならば早いからな。それに、今はそれ所では……」


 その後の紫電の言葉に、アキュラは血相を変えて場所を聞き出すと同時に玉っころを引き連れ、飛び出すようにこの部屋を後にした。

 紫電もこれから忙しくなるし、俺はこのままアシモフの所へと帰還を決める。

 ……そう言えばアシモフの件、聞きそびれちまったな。

 まあ最も、アシモフ本人から直々にボコボコにされたと聞いてはいたから顛末その物は知ってはいるんだが。

 ま、それと合わせてあの様子を見る限り、神園博士の件は吹っ切れたと言ってもいいだろうな。

 だが、それはあのアキュラだからこそそれで済んだと言えるのであり、俺の知るアキュラだとこうはイカンだろう。

 ま、アレはアシモフの咎だから本人が背負わにゃならんし、俺にもアシモフを止められなかった責任もある。

 それに、吹っ切れた事は別にいい事ばかりでは無い。

 あのアキュラは研究そのものは続けているだろうが……

 きっと、心の奥底では()()()()()

 これは俺の推測になってしまうが、ミチルが電子の謡精(サイバーディーヴァ)の能力者である事を知っちまったのが原因だろう。

 だが、それに待ったをかけられる可能性があると知ったら、アイツはどんな顔をするだろうか?

 しかもその鍵を握るのが、フェムトだと知ったら。

 そう思いながら俺は、この部屋を後にするのであった。







緊急ミッション

 

 

 

 

 ダイナインを撃破し、ようやく一息つけるかと思われたその矢先、施設全体が振動を始め、辺りが少しづつホログラム状に分解され始めた。

 

 これだけならば一見何も問題は無いと思われるが、この施設を移動している際、地下へと潜る事が多かった為、ここで施設が完全に分解されてしまうと生き埋めにされてしまう可能性がある。

 

 なので、急いで地上へと急がなければならない。

 

 私は中破したリトルマンティスへと乗り込み、状態をチェックしながら破損、或いは移動するのに邪魔になるパーツをパージしていく。

 

 装甲、腕、各種武装等をどんどん切り離し、最終的にコックピットを守る装甲すら取り除かれた、後に【超高機動モード】と呼ばれる形に姿を変える。

 

 この状態になったと同時に、ストラトスさんを呼んで後部に存在するサブシートへと乗り込んでもらう。

 

 

(いいぞ! 出してくれ!)

 

(分かりました! では行きます! リトル、念のため全周囲の索敵をお願いします! 道中の敵は全て撃破しましたが、油断は出来ません!)

 

(ん! まかせて!)

 

(それじゃ、出発(しゅっぱーつ)!!)

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 ライの掛け声を合図にエンジンを唸らせ、背中のブースターに火が灯り、脚部のローラーダッシュ機構が甲高い音と共に猛烈に回転し、リトルマンティスは来た道を猛スピードで逆走する。

 

 移動する事だけに特化させただけあり、今のリトルマンティスは私の細かい操縦に対して良く追従してくれている。

 

 普段の重武装状態では重さによる慣性も計算に入れて動かす必要があった為、その差は歴然。

 

 だけど、これは私が操縦しているからこの様な評価を出すことが出来るのだが、他の人が操縦した場合は真逆の評価になるだろう。

 

 操縦性が劣悪で、ピーキーであると。

 

 

(すごーい! はやーい!)

 

(まるで遊園地の絶叫マシンみたいだな。……失敗すれば最悪死ぬ事を考慮しなければの話になるが)

 

(情勢が落ち着いたら紫電に打診してみても……っとと、いいかもしれませんね!)

 

 

 そのまま道なりに進んでいたら、突き当りに差し掛かる。

 

 マップを見る限り、ここから飛ばなければ地上に戻る事は出来ない。

 

 パージ前では無理であったが、今の状態ならば行ける筈。

 

 エンジンを唸らせ、ブースターを全開にしつつ脚部のパワーを最大に設定して跳躍。

 

 そのまま無事に上部の通路に着地を済ませると同時に再加速する。

 

 

(今の跳躍、凄かった!)

 

(戦車にしては破格とも言える跳躍力だな。【マンティスレギオン】でもこうはいくまい)

 

(今の状態は移動に不要なパーツを極限に取り除いた状態ですからね。この位余裕ですよ!)

 

 

 来た道を高速で戻りつつ、並列思考を増やすスキル(シンキングアップ)を使い、操縦を代行させながら辺りの景色を見る。

 

 少しづつではあるが、ホログラム状に分解される速度が増している。

 

 これは思った以上に時間が無いのかもしれない。

 

 私はエンジン出力を更に高め、もっと速度を加速させて脱出を急ぐ。

 

 そんな時であった。

 

 

(……フェムト)

 

(どうかしましたか? リトル?)

 

(後方から何かが近づいてくる)

 

 

 コックピットの後方を移す画面をオンにすると、後方からレディバグ(てんとう虫)を模倣したと思しきメカが迫ってきていた。

 

 しかも、そのメカの上には先ほど撃破したはずのダイナインの姿もあった。

 

 当然、あの蒼黒い雷を纏った状態だ。

 

 ついさっき撃破したはずの彼がどうしてと思っていたら、そのダイナインの後方に居る存在に気が付く。

 

 その存在は、復活したダイナインと言う異常事態が矮小になってしまう程に重大なモノだった。

 

 

(アレは……()()()()だと! どう言う事だ!)

 

(よく見てストラトス! あのモルフォ、()()よ!)

 

(クッ……! リトル! 私の仮想人格と合わせて情報解析を!)

 

(ん! これは……あの黒いモルフォから流れる力がダイナインに集中してる! これ多分、謡精の歌(ソングオブディーヴァ)だよ!)

 

 

 ――リトルからのテレパスに操縦桿を握る手に冷や汗が伝う。

 

 不幸中の幸いだが、外部に連絡をする事は出来たので、TAS経由で救援を要請。

 

 誰が来るかは不明だが、外に出る頃には来てくれるだろう。

 

 ……今のリトルマンティスは装甲も武装も無い状態だ。

 

 それに追いつくあのメカの機動性は大したものだと称賛したい所だが、追いつかれたら間違い無く私達は最悪生き埋めになってしまう。

 

 これ以上リトルマンティスに無理はさせたく無かったが、仕方がない。

 

 リトルマンティスの制御を青き交流(リトルパルサー)で完全に掌握し、全リミッターを解除。

 

 その全ての性能を限界まで引き出し、更なる加速を行う。

 

 これによってようやく速度が拮抗し、ここから私達は命懸けの逃走劇を始める事になった。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 速度が拮抗したのを察知したのか、ダイナインがメインウェポンと思われる光剣をこちらに複数投げつけた。

 

 これをただの投擲と侮るなかれ、謡精の歌が上乗せされた力から放たれたそれは、今のリトルマンティスを撃墜するのに十分な威力を秘めている。

 

 現に、後方を映し出すカメラが、外れた光剣が床に突き刺さった時の余波によって出来たクレーターを捉えていた。

 

 

(ひぇぇ……)

 

(EPレーダーでロックオンします! ストラトスさんは迎撃を!)

 

(任せろ。ライ、もうひと頑張りだ)

 

(あいあいさー!)

 

 

 

 私はEPレーダーをメカの方に対してのみロックオン。

 

 今はこの施設を脱出する事が最優先である為、ダイナインの足となっているメカを狙う。

 

 ストラトスさんの第七波動による羽虫は高速で着弾する光剣を撃墜するのには不向き。

 

 ならば、それの迎撃は諦め足となっているメカを落とした方がいい筈だ。

 

 

(行け、ミリオンイーター!)

 

(虫ロボットを食べちゃえ!)

 

 

 ミリオンイーターによる攻撃が、レディバグ型のメカへと殺到。

 

 ダイナインは迎撃しようとするが、ロックオンされている以上よほどの事が無い限り迎撃は不可能だ。

 

 これで勝負あったと思われたのだが……

 

 

(何だと!?)

 

(六角形のバリアみたいなので防がれちゃった!)

 

(あれは……!)

 

 

 確かあれは【電子障壁(サイバーフィールド)】と呼ばれる電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力によるバリアだった筈だ。

 

 モルフォ本人がライブ中に即席の足場なんかに使っていたから、私の中では割と馴染み深いモノなのだが、まさかロックオンも剥がされるレベルで防御性能が高いだなんて……!

 

 

(フェムト! 黒いモルフォから高エネルギー反応!)

 

(エネルギーが収束され出しててビームとか出そうな雰囲気だよ!)

 

 

 今私達が突き進んでいる通路は一直線の通路。

 

 私達だけならばともかく、メカで移動する場合は狭い場所だ。

 

 こんな所でビームに相当する何かを撃たれたら私達に逃げ場は無い。

 

 ならば、持てる手段を全部使うしかない。

 

 幸いEPはリトルマンティスに乗り込んでいる為、急速回復は出来ない物の、ある程度ならば自由に扱える。

 

 今のリトルマンティスでは装甲で受ける事は出来ない以上、私の持つSPスキルで防ぐ以外に手は無いだろう。

 

 私は体感時間を加速させるスキル(フィールアクセラレーション)を発動させる。

 

 このスキルは頭領さん曰く、連続で使うと命を削る危ないスキルらしいので今まで控えていたが、解禁する他無いだろう。

 

 

(む……これは)

 

(なんだか、周りの景色がゆっくりになってる!)

 

(体感時間を加速させました! ストラトスさんとライはダイナインとメカの方の警戒をお願いします! 私はあの黒いモルフォの攻撃に対処しますので!)

 

(分かった!)

 

(あいあいさー!)

 

(フェムト……来るよ!)

 

 

 ゆっくりとした時の流れの中で、後方から凄まじいエネルギーの奔流が迸る。

 

 収束されたエネルギーがビーム状に放たれ、私達を穿たんと一直線に迫った。

 

 その規模は私の想像を超えており、直撃すればまず助からないだろう。

 

 なので、ここは城塞の力を用いるしかない。

 

 私は自身に気合を込める為に、声を高らかに口上を上げる。

 

 

「調律せよ! 青き交流(リトルパルサー)! 私達を穿たんとする殺意の奔流を祓い清めよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

煌めくは雷纏いし城塞

 

守護の聖域よ 二重に重なり城塞と化せ

 

 

パルスサンクチュアリ

 

 

 

 

 

 

 

 私の口上の影響で活性化したリトルの力を上乗せした聖なる城塞。

 

 それが展開されると同時に極大のビームが着弾。

 

 城塞による防御を莫大なエネルギーの奔流で削り取りながら、その殺意を私達に突き立てんとビームが迫る。

 

 ゆっくりとした時間の中で起こるそれは、まるで死のカウントダウンだ。

 

 

(わわわ! 抜かれちゃうよぉ!)

 

(フェムト! このままじゃ防ぎきれない!)

 

(なら、展開されているEPエネルギーを着弾点に再収束すれば!)

 

 

 

 聖なる城塞に着弾した所に、これを構成するEPエネルギーを収束。

 

 不要な聖なる城塞の展開部分を再利用する形で運用し、着弾した場所を補強する事でビームに対抗する。

 

 その結果……

 

 

(やった! 防げた!)

 

(……久々に、生きた心地がしなかったな)

 

(全くです)

 

(出口が見えた! もう直ぐ外に出られるよ!)

 

 

 辛うじてビームを防ぎきると同時に、出口を目視で確認する所まで到達。

 

 それと同時に体感時間の加速(フィールアクセラレーション)が解除され、通常の時間に戻される。

 

 それに合わせるかのようにダイナインが布で出来た反射する槍【クロスランサー】をこちらに投げつけた。

 

 この槍はダメージは無いものの、足止めを目的とするならば最適解と言わざるを得ない攻撃。

 

 当たれば布にくるまれ、動けなくなってしまうのだ。

 

 

(させないよ!)

 

(フェムトの城塞をヒントにした【イーターシールド】……即行だが、上手くいったようだな)

 

 

 羽虫をシールド状に展開し、一か八かと思われるダイナインの放ったクロスランサーを防ぎ切り、ストラトスさんは会心の笑みを浮かべる。

 

 そして、私達はこの施設から脱出に成功。

 

 飛び出した勢いを殺すように180度反転し、ダイナイン達を改めて迎え撃つ為にEPレーダーを発動し、再度ロックオン。

 

 今度はメカ以外の全員をロックオンし、ストラトスさんがミリオンイーターで攻撃を慣行。

 

 だが、これは先程と同じように当然黒いモルフォによる電子障壁で防がれる。

 

 

(やはり攻撃を通すのは無理か)

 

(ですが、そろそろ救援が来る筈。それまで何としてでも粘りましょう!)

 

 

 私達は役目を終えたリトルマンティスから降車。

 

 改めて鉄扇とワイヤーガンを構え、ダイナイン達を見据える。

 

 その刹那。

 

 メカは爆ぜ、ダイナインは一瞬で体中を細切れにした状態で吹き飛びながらホログラム状に消え去った。

 

 

(何が起きた!)

 

(ほんの一瞬だけですが、人影が見えました。恐らくですが……)

 

 

 ダイナインがホログラム状に消え去った事で視界が開け、誰が救援に来たのかが判明する。

 

 その人は、ホバリングをしながらこちらに背を向けつつゆっくりと降下。

 

 黒いモルフォを視界から外さない様に、油断無く上空に居る彼女を視界に収めている。

 

 

「アキュラ! 救援に来たのは貴方だったんですね!」

 

「助かった。礼を言う」

 

「………………」

 

 

 私達の声に対して、アキュラは反応を示さなかった。

 

 私達はそれを懸念に思いつつ、見慣れない装備を身に纏うアキュラの横に並ぶ。

 

 先ほどまでは白い鎧だった筈なのに、着地した瞬間赤い鎧へとその姿を変化させている。

 

 それだけでは無く、今ではもう見慣れた盾に加えて、逆に一転して見慣れない銃と思しき物も装備しており、その様相は尋常な物では無い。

 

 きっと今、私達が見ている装備がアキュラの持つ本来の装備なのだろう。

 

 これらの可変式の鎧や銃について詳しい事を聞きたい所だが、今はそれ所では無い。

 

 私達が対峙しているあの黒いモルフォは私から見ても異様な空気を纏っている。

 

 何処までも真っ黒な闇を思わせる瞳に、暗い紫色と表現出来る衣装。

 

 私達の知るモルフォの色鮮やかな羽に対し、黒いモルフォは深い紫色のグラデーションの羽を持つ。

 

 そんな黒いモルフォに対して、流石のアキュラも警戒しているのが理由であのような態度だったのではと思いつつ、横目で彼の様子を見たのだが……

 

 その表情は、私達が見た事も無い位怒気を孕んだ物だった。

 

 普段は無表情と言っても良い彼が、ここまで分かりやすく感情を露わにするなんて、今まで見た事が無い。

 

 あの黒いモルフォは、アキュラと何かしらの因縁があるのだろうか?

 

 そんな風に考えていたら、アキュラの傍に希望の歌姫ロロの姿が顕現する。

 

 彼女はライみたいに明るく元気なムードメーカーなのだが、そんな彼女ですらアキュラと同じような怒気を孕んだ表情を隠そうともしない。

 

 そんなアキュラとロロの姿を見た黒いモルフォは何を思ったのか、表情が視認できる位の距離まで近づいてきた。

 

 先程の私達の時とは打って変わったかのように、ゆっくりと近づく黒いモルフォ。

 

 しかし、その表情は私達の知るモルフォとは余りにもかけ離れた物だった。

 

 人を喰ったかのような不敵な、それでいて何処か壊れてしまったかのような、不気味な笑顔。

 

 それは何も知らない私達ですら、最大限の警戒を促すのに十分な破壊力があった。

 

 

「……随分と舐めたマネをしてくれるな。デマーゼル」

 

『デマーゼル? フフ……アハハハハハ!! ゼンマイジカケのテツクズが良く吠えるわねぇ!? あんなのとわたしを一緒にするなんて!!』

 

「……なんだと?」

 

 

 先ほどの笑顔が一転、怒気を孕んだ恐ろしい表情でアキュラに喰ってかかるように黒いモルフォはアキュラにそう告げる。

 

 心の底から侮蔑の態度を隠そうともせずに。

 

 これに対し、先程まで怒気すら孕んでいたアキュラは一転して困惑の表情を浮かべる。

 

 

『分からない……か。まあ、当然よね。貴方はわたしの知るテツクズ(アキュラくん)じゃないし。ま、顔見せは出来たから良しとしますかねぇ』

 

『キミは誰? ミチルちゃんじゃ……』

 

『その名前でわたしを呼ぶな!! ……()()()()()()、もう忘れたわ』

 

『……ッ!? 昔……だって?』

 

 

 おかしい。

 

 どうにも互いが互いの事を知っている筈なのに、話が噛み合ってない様に思える。

 

 それが何かは分からないが、とにかく何かが致命的にズレているのだ。

 

 

「デマーゼルはどうした? この一連の騒動、ヤツの仕業では無いのか?」

 

『さっきから質問ばっかりねぇ……このわたしが教えるとでも思うのかしら?』

 

「…………」

 

『ぶっちゃけ、貴方達の事なんてどうでもいいの。それよりも……』

 

 

 黒いモルフォは、何処までも吸い込まれるような黒い瞳を私に向ける。

 

 このまま見つめ続けていたら、心が捕らわれてしまいそうな錯覚を感じてしまう。

 

 ……怖気づいてはいけない。

 

 この一連の騒動、ここに居る黒いモルフォの仕業の可能性が極めて高いのだから。

 

 

『あぁ……カワイイわねぇ♪ ……このまま食べてしまいたい位』

 

「……!?」

 

『貴方、フェムトだっけ? お遊びとは言えこのわたしの攻撃を凌いじゃうなんて、大した物じゃない。見直しちゃったわ。流石は異端者(イレギュラー)って所かしら。……決めた。キミの事、わたしのモノにしちゃおうかな……♪』

 

 

 黒いモルフォが私に対して手を伸ばす。

 

 先程とは打って変わって恍惚で、致命的な何かが壊れてしまったかのような笑顔をこちらに向けながら。

 

 私はそれから逃れる様に下がり、鉄扇とワイヤーガンを改めて構える。

 

 

『へぇ……()()()()()

 

「……? そりゃあ、嫌な感じがしたのですから下がりますよ。普通は」

 

『そう言う意味じゃあ無いんだけど……まあいいわ。思った以上の逸材みたいだし、ますます気にいっちゃった♪』

 

 

 あの口ぶり、知らない間に私に対して何かしらの干渉をしたのだろうか?

 

 リトルが何かやってくれたのかと思ったのだが、否定の感情を私に向けた。

 

 ……今分からない事を気にしても仕方がないので、改めて私達の状況を整理する。

 

 ストラトスさんは私と同じように警戒してくれているけど、その表情に余裕が無い。

 

 彼女の放つプレッシャーによる圧力がそうさせているのだろう。

 

 ライは彼女に怯えてしまっており、怖くてテレパスも出来ない有様だ。

 

 まあ、初任務でこんな異様な雰囲気を持った相手と相対してしまった為、仕方の無い事なのだが。

 

 リトルもストラトスさんと同様なのだが、相手が相手である為、沈黙を続けて警戒している感じだ。

 

 何しろ、相手は私達の知るモルフォと同じ精神感応系の能力を保有している可能性は極めて高い。

 

 その力で、こちらのテレパスを読み取られる可能性は十分にあるし、既に読まれている可能性も当然ある。

 

 それに、知り合いだろうと思われたアキュラとロロには何故か辛辣で、しかも彼らにこれ以上口を開かない以上、ここは私が気張るしかない。

 

 ニコラも言っていたが、やれば出来るとは言わないが、やれば何かが出来る。

 

 それを信じ、私はなけなしの勇気を振り絞って話を続けた。

 

 

「……貴女は一体、何なんですか?」

 

『フフ……こう見えてもわたし、【恒久平和維持装置】だった時もあったのよ? でも色々あって、最近では【第七波動能力者(セプティマホルダー)の守護者】を名乗るようになったわね。ま、そう名乗れたのはほんの少しだけだったけど……ね』

 

「(……ッ! 今一瞬、ノイズが走ったような……?)その肩書は、確かデマーゼルが名乗っていた物だったと聞いています」

 

『ふぅん……あのマケイヌ共(アキュラくんとロロ)からある程度の話は聞いているのね。そうねぇ……わたしの事は【黒死蝶の女王(ペスト・ティターニア)】とでも呼んで頂戴な。長いと思うなら適当に略しちゃっても構わないわよ』

 

「……では、【ペスニア】と呼ばせて頂きます。一応、ナス科の一年草である【ペチュニア】を少し変えた感じですね」

 

『ふぅん……花言葉は心の安らぎ、かぁ。思ったよりもいい名前を貰えちゃった♪ ま、それでいいわ。それで、何だっけ? あぁ、デマーゼルの事だったかしら?』

 

「ええ」

 

 

 まるでデマーゼルの事等どうでもいいような口調で語る、黒いモルフォ改めペスニア。

 

 この事から察するに、彼女にとってデマーゼルは過去の人物、或いは下位の存在として認識していると推測できる。

 

 

『……まだ内緒♪ だって、()()()()()()()()()()()()なのにネタばらしだなんて、つまらないと思わない? 折角今まで色々と()()()もしたって言うのに』

 

「やはり、ホログラム能力者達を嗾けていたのはペスニアなのですね」

 

『ええ。()()()()()()()()()()()だったのよ』

 

「何を企んでいる……と聞くのはダメそうですね」

 

『あは♪ わたしの事、分かってるじゃない♪ アイツらとは大違いね。だけどここで大ヒント、出しちゃいま~す! フフ……♪ ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何をするかは、その時のお楽しみってコトで♪』

 

 

 わたし()だって?

 

 彼女以外にも、まだ誰かが背後に潜んでいるとでも言うのだろうか?

 

 

『言いたいコトは大体言えたし、わたしはもう行くわ。それじゃあまたね♪ ……次に会ったら、心も体もわたしのモノにしてあげるから。フフ♪ 楽しみねぇ♪

 

 

 そう言い残しペスニアはその場から姿を消した。

 

 ……ふぅ。

 

 あの手の相手をするのは、ベルレコで色々な意味で濃いユーザーを相手にしていた時以来だ。

 

 この経験が無ければ、まともに話せていたかどうか……

 

 そんな風に私はホッと胸を撫でおろし、一息ついた。

 

 

「…………」

 

『アキュラくん……』

 

「何がどうなっている? デマーゼルでは無く、何故ミチルが出て来る? いや、そもそも本当にアレはミチルなのか?」

 

『ぼく達に、凄く辛辣だったね』

 

「そうだな。まるで、オレ達の事を恨んでいるかのようだった」

 

『……ぼく達、ちゃんとミチルちゃんの事を楽にしてあげた筈だよね?』

 

「ああ、オレは確かにこの手でミチルを眠りにつかせた。デマーゼルを倒した後はむき出しだった生体部分を遺灰にして埋葬も済ませた。因子も灰になった以上、再び蘇る要素等無い筈だ。……オレは何を見落としている?」

 

「……ここで考えていても仕方がありません。一度戻りましょう。考え事は、ゆっくり出来る環境でするからこそ捗るモノですので」

 

『そうだね。一回戻って落ち着かなきゃ、だね。ありがと、フェムト君』

 

 

 こうして私達はミッションを終え、帰還するのであった。

 

 多くの謎を残したまま……

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇アシモフのその後の顛末について
第二十九話でGVからフェザーの事情を聞いた後、色々あってフェムト達の居る世界のアシモフと対面。
その後、神園博士との仇の件等もここでぶちまけ、ここでアシモフとアキュラは一戦交える事になるが、モニカの乱入によってこの世界のアシモフがデマーゼルとは違う事を知った為、アキュラは彼と和解する事となる。
が、あくまで和解できたのはこのアキュラだった為であり、この世界のアキュラの場合はこうはいかない事も告げている。
後、厳密に言うとこのアキュラの仇はアシモフでは無くデマーゼルである事も和解できた要因の一つだったりする。

龍放射について
本小説内ではアキュラは神園博士から受け継いだデータでこの事を知っていると言う扱い。
何故そうしたかと言うと、能力者を相手にバケモノと平然と言えるかの解像度を上げる為であり、新たに一定の説得力も付与出来ると考えられるから。
原作では能力者の誰もがなりうる暴龍となるのに必要な要素であり、蒼き雷霆による電力供給に乗る形で国全体に拡散しており、その状況はかなり絶望的な状況と言えるトンデモ設定。
人間だけでは無く機械すら暴走させる為、まず大抵のガンヴォルト世界は滅ぶ。

〇超高機動モードについて
リトルマンティスを稼働させるのに必要なブースターを除く最低限のパーツで構成されたモード。
各種武装と全装甲が取っ払われている為、極めて高い機動性を誇るが、耐久力はお察し。
おまけに操縦性がお世辞にも良いとは言えず、極めてピーキーな仕上がりになっている。
まあこれは専用のOSが無く、全部マニュアルで動かしているのが理由でもあるのだが……

〇レディバグを模したメカについて
ダイナインの居る第二データ施設内の道中に存在する中ボスに当たる存在。
主に体当たりと、ブリッツダッシュによる接触を無効化しつつ反撃する地面での回転が主な攻撃方法。
今回は復活したダイナインの乗り物として活躍する事に。

〇第二データ施設もとい、第二データバンク施設建設予定地について
実はこの施設、ガンヴォルト爪でテセオさんが電脳化したデータ施設と同一の物だったりする。
それがどうして建設予定地になったのかと言うと、フェムトがデータバンク施設内で余裕を持ってデータが収まる様に定期的にデータの最適化や整理整頓(デフラグ)等をしており、その影響で実際にこの施設が必要になった時期がズレこんだのが理由。

〇黒いモルフォ改め、ペスニアについて
彼女h

――unknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknownunknown

……まだ、語る時では無い。


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第三十四話 インターミッション(七回目)

 

 

 

 

 黒い衣装を身に纏ったモルフォの姿をしたペスニアと呼ばれる存在が立ち去った後、私達は前線基地へと帰還し、一息ついていた。

 

 ――人と言うのは無能になる瞬間が存在する。

 

 それは多大なストレスを抱えてしまった時だ。

 

 こうなってしまうと頭の回転が大幅に鈍り、直球に言うと「アホ」になってしまう。

 

 この状態で出した考え事による結論は総じてろくでもない結末を迎える事が多い為、先ずは気持ちを落ち着かせるために一息入れるのは非情に重要な事なのである。

 

 ……という事を情報管理部に居るベテラン社員の人から聞いていた為、先のやり取りで多大なストレスを抱えたであろう二人(アキュラとロロ)を落ち着かせると言う意味で、あの時私は帰還を促したのだ。

 

 それにストラトスさんとライも、私とリトルもペスニアの放つプレッシャーに対して初見であった事もあり精神的負荷が非常に強く、疲弊してしまった事も当然ある。

 

 その為、冷房の効いた休憩室で私達は気持ちを落ち着かせるホットミルクココアを飲んで一息入れた。

 

 暑い時期で少し寒く感じる位冷房の効いた部屋で飲む温かな飲み物は、不思議と贅沢に感じてしまう物だ。

 

 これは冬に暖房の効いた部屋で食べるアイスクリームみたいな物と一緒なのだろう。

 

 こうした贅沢をしていると言う感覚も、ストレスの緩和に効果が高いと私は考えている。

 

 そして、一息ついて落ち着いて安心したのが引き金で感情が一気に溢れてしまったのだろう。

 

 ライはホットミルクココアを飲み終わって一息ついた後、目尻に涙を浮かべてストラトスさんに泣きついていた。

 

 

「ゔえ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ん! ごわ゙がっ゙だよ゙ぉ!」

 

「よしよし……怖かったな、ライ」

 

 

 彼女は思いっきり感情を表に出す第七波動()なので、ああやって感情を吐き出せるならストラトスさんもついているし大丈夫だろう。

 

 リトルは体を持つのが早く、私と一緒に多くのミッションをこなした事もあり、ココアを飲んでホッと一息ついた状態だ。

 

 但し、私にくっ付いた状態で傍を離れようとしない辺り、精神的な負担は相応にあったと見るべきだが。

 

 私もココアを飲みながら、何処か気の抜けた状態で寄り添っているリトルの頭をそっと優しく、労るように撫でる。

 

 

変身現象(アームドフェノメン)で一つになっている時よりも、こうやって人の姿で寄り添っている方が不思議と落ち着く。互いの距離は遠くなっている筈なのに」

 

「身体を持つと言うのは、アイデンティティ(自我同一性)を強く持ちやすくなるのかもしれませんね。それに加えて、零距離だった私との距離をあえて少し置く事で見えてくるモノもあるのでしょう。以前エリーゼと一緒に空から見た景色の様に」

 

「……そう言う物なのかな?」

 

「そう言う物です」

 

 

 この事を私は断言しているが、別に根拠があって言っている訳では無く、所謂「根拠のない自信」と言う物だ。

 

 人は不安に晒されると、自信に満ち溢れた人から受ける言葉に対し、強く影響を受けやすくなる。

 

 その自信に根拠があればなお良いのだが、逆に言ってしまえば根拠が無くても自信さえあれば大体何とかなってしまう。

 

 この事にピンとくると言うのは難しいかもしれないが、この事の逆を文章にしてみると分かりやすい。

 

 根拠はある、但し自信は無い。

 

 次にこの文章の場面を頭の中で想像してみる。

 

 間違い無く、その根拠に対して疑問を持つ筈だ。

 

 故に、私はリトルから不安を取り除く意味でこの様な方法を取ったのだ。

 

 ……因みにだが、この方法はエリーゼと恋人関係になる為に使ったテクニックでもある。

 

 モノにするのは大変だったし、今では逆に甘える機会も多かったので立ち振る舞いでボロが出ないか内心心配ではあったのだが、何とか上手く行ったので一安心と言った所だ。

 

 

「ん……落ち着く……」

 

「よしよし」

 

 

 目をトロンとさせながら力の抜けた表情をして私により強く体を預けている様子から、完全にリトルはリラックスしている。

 

 これで少し時間を置けば、ペスニアと相対した際の精神的負担も大きく和らぐ事だろう。

 

 ……何やら、視線を感じる。

 

 リトルから目を離し、顔を上げた。

 

 

「おぉぉ~~……ねぇ? これが【オトナのカンケイ】ってヤツなのかな? ストラトスって確か恋人いたよね? ねぇねぇ、どうなの? わたしに教えてよ」

 

「さてな。……まあ、俺からはノーコメントとさせてもらおう」

 

『前から思ってたけどフェムト君ってば、女ったらしだよね。そう思わない? アキュラくん?』

 

「……良く、分からん」

 

こ、こんなに分かりやすいのに…………アキュラくんに期待したぼくが馬鹿だったよ

 

 

 私達の一連の流れを見られていたらしい。

 

 まあそれは別に構わないし、今更な話でもある。

 

 それにロロはあんな風に残念がっているが、アキュラはロロに対して表情を見せていない。

 

 その上で私からは辛うじて見えていた為分かったのだが、アキュラは少し恥ずかしそうな表情をしていた。

 

 多分、分かっていないのは本当の事なのだろうが私から見るに、これはアキュラの中では物凄く重要な第一歩であると直感的に感じたのだ。

 

 ……そろそろ、少しペスニアについて考察してみるのもいいかもしれない。

 

 私は彼女についての考察を、この場に居る皆と共に行う事とした。

 

 幸い、あの時の会話のデータはロロが保存していた為、こうして落ち着いた状態で改めて聞くことが出来るのは本当に有り難い事だ。

 

 あの時は皆冷静ではいられなかったが、今ならば落ち着いて考えをある程度纏める事も可能だろう。

 

 

「う~ん……わたしには良く分からないや」

 

「そうだな。憶測ならばいくらでも出来るだろうが……」

 

「では、分かっている事だけを纏めましょう」

 

 

 一つ目、彼女はデマーゼルでは無い事。

 

 二つ目、彼女はアキュラ達に強い恨みを持っている事。

 

 三つ目、ペスニアがミチルを自認していたのは、彼女視点で考えると昔の話である事。

 

 四つ目、デマーゼルの代わりに第七波動能力者(セプティマホルダー)の守護者を名乗っていた時期がある事。

 

 五つ目、彼女の名前に【黒死蝶(ペスト)】の名前が入っている事。

 

 他にも私が異端者(イレギュラー)と呼ばれて居たりと細かい事は色々あるが、気になる所と言えばこの辺りになるだろう。

 

 

「奴がデマーゼルで無いのは間違い無いだろう。これまでの妨害の手緩さを考えるとな」

 

『そうだね。あいつ、話し方はともかく、何だかんだで「遊び」は入れないヤツだったからね』

 

「そしてアキュラ達を恨んでおり、かつ彼女視点では昔の話である事を考えると……」

 

「ペスニアは多分、()()()()()()()()()()()()()()()()んだと思う。そう考えると、おかしく無い」

 

「オレ達が敗北した世界……か」

 

『あまりそう言うの、考えた事なんて無かったな』

 

「私から見ればこの辺りは納得出来ますね。私視点の話になりますが、()()()()()()G()V()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と捉える事も出来ますし」

 

「そう考えると、自然と守護者を名乗っていた理由も朧気ながら浮かんで来るな」

 

「力関係が何かしらの理由で逆転を起こしたのだろう。……ヤツがそんなヘマをするとは思えんが」

 

「ねぇねぇストラトス、この五つ目の黒死蝶って何?」

 

「ライ。それはな、かつて大昔に存在した伝染病である【黒死病(ペスト)】とモルフォを象徴するモルフォ蝶を合わせた造語だろう」

 

「あるいは大昔の探偵物の創作物で登場した事件の名前でもありますが、これは関係無いでしょうね」

 

『……前から思ってたけどさ、フェムト君ってどうやってそんな情報を持ってきてるの?』

 

「ネットサーフィンを私の能力を用いてするとこう言った雑学知識が入って来るんですよ。まあ、詰め込むだけ詰め込んでしまう関係上、思い出せる時と出せない時がありますが……」

 

 

 さて、黒死病と言えば世界で猛威を振るい、億人単位で当時の人々を死亡させた恐るべき病気の名前だ。

 

 これを切欠に世界は経済面、環境面、宗教面等において凄まじい変化をもたらしたと言う。

 

 それでも今ではもう大した事の無い病気であるのは確かだが、ペスニアが自身の名前にコレの意味を含ませると言うのは、何か重要な意味合いがある筈。

 

 

「黒死病と言えば伝染病において極めて重要な意味合いを持つ病気の名前。彼女は恐らく、それに関わる何らかの要素を持っていると見ていい」

 

『うーん、ペスニアは何かを伝染させる要素があるって事? リトルちゃん。まあ確かに電子の謡精(サイバーディーヴァ)を上手く使えば全世界配信なんてのも出来ると思うよ? でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何て洗脳位しか思いつかないけど……』

 

「でもそうなると、守護者を名乗れた時期が短かった理由が分かりません」

 

『だよねぇ……アキュラくんはどう思う?』

 

「………………」

 

 

 アキュラは難しい表情をしながら考え込んでいる。

 

 そして、何かに気が付いたような表情をして……

 

 

「……すまないが、今日の所はここまでにして欲しい」

 

『アキュラくん……?』

 

「どうしたのですか? 何かに気が付いたみたいですが」

 

「急用が出来た。ロロ、紫電の所に行くぞ。()()()と話をする必要がある」

 

『あの男って……って、ちょっと待ってよアキュラくん!』

 

 

 その言葉を最後に、アキュラとロロは足早にこの部屋から立ち去ってしまった。

 

 アキュラの何かに気が付いた後の様子は何処か焦りが見え隠れしており、いつも冷静でいる彼らしく無い態度に、私は疑問を覚える。

 

 しかしもう本人は立ち去ってしまった為、これ以上話をするのは無理だろうと判断。

 

 私達はストラトスさん達と解散し、変身現象を行いつつスピードヴォルトを再使用してこのまま我が家へと帰還する事になった。

 

 

(どうしてアキュラは紫電の所へ行ってしまったのだろう? ロロはあの様子から見て何も知らないみたいだし……それにあの男って誰の事なんだろう?)

 

(分からない。でも、アキュラがそれだけ深刻に考えるって事は、私達に出来る事は無いんだと思う)

 

(……ですね。餅は餅屋とも言います。私達は邪魔をせず、必要になったら協力する形でアキュラ達に手を貸すようにしましょう。何も言わずに立ち去ったのも、理由があると思いますし)

 

 

 彼は物事を一人で抱えるタイプだとロロから聞いた事があったが、今回の件では紫電を頼っている為、その辺りは改善されていると考えていいだろう。

 

 なので私はそんなアキュラを信じて考えを切り上げ、我が家へと向かう足取りを早める。

 

 気配を殺し、体捌きに気を使いつつ、最適な動きを意識して私は駆け抜けた。

 

 そうして見え、たどり着いた我が家なのだが……何かを忘れている気がする。

 

 一応今日は何だかんだでお昼を少し回った所で終わったので、帰ったら昼食を食べるつもりだったのだが。

 

 その忘れている内容を思い出したのは、我が家に入ってから()()()()()()()()()()()()事で思い出した。

 

 そう言えば、()()()()()で待たせていた筈だ。

 

 私はベッドが置いてあるだけの部屋の前で変身現象を解き、中へ入る。

 

 そこで待っていたのは、互いに一糸まとわぬ姿で絡み合っている二人(エリーゼとアニムス)の姿だった。

 

 二人は律義にあの時から()()()()()為に二人で色々な意味で気持ちを高め合いながら私達を待っていてくれていた。

 

 

「あぅ……おかえりなさい、ふぇむとくん。みっしょん、おわったんだね」

 

「ただいま、エリーゼ。……待たせてゴメン。もう、我慢しなくていいからね」

 

 

 エリーゼはもう呂律が回らない位出来上がってしまっており、正しくまな板の上のコイと言った様相を呈している。

 

 わたしの事を好きにして欲しい――そんな気持ちが完全に筒抜けになってしまっている状態だ。

 

 対するアニムスも同様、フラフラの状態でリトルの元へと向かい、留守にしている間に頑張っていた事を報告していた。

 

 エリーゼと同じように、呂律が回っていない状態で。

 

 

「ん……りとるちゃん。やくそくどおりえりーぜのこと、()()()()()()()()みましたわ。だから……」

 

「ん。アニムスは約束を守った。だから()()()、いっぱいあげるね」

 

 

 この時刻を境に、翌日の朝になるまで我が家から生活音は一切聞こえず、明かりも一部の部屋からカーテン越しに漏れ出ている光を覗いて真っ暗なままだった。

 

 その中でナニが行われていたのかは、ここで語られる事は無い。

 

 

 

 


トークルーム

 

 

 

 

 最近、私自身ワクワクしている事がある。

 

 

「……リトル、どう?」

 

「ん。ちょっと待って……フェムト。うん。今日もほんの少し、そう、ほんの少しだけだけど、()()()()()()()

 

 

 この事実に、私は心の中でガッツポーズをした。

 

 ――話はエリーゼと同棲生活を始めて暫く経った後まで遡る。

 

 私は身長に関してこの時点では諦めていた。

 

 何しろこれまでの努力が逆効果で身長が伸びないと、頭領さんに宣告されてしまっていたからだ。

 

 なので、宣告されるまでは毎日記録していた身長のデータをこの時まで測る事は無かった。

 

 だけどエリーゼがお風呂場で私を後ろから抱きしめている時に、気が付いてくれたのだ。

 

 身長が伸びている事に。

 

 最初はエリーゼの気のせいなのではと思ったのだが、それで話を終わらせるのは彼女に対して良くない。

 

 なので内心諦めてはいたものの、再び身長を測った事でこの事実が判明したのだ。

 

 伸び率は私と同年代の人達と比べ、ぶっちぎりに悪い。

 

 それこそ私の背が伸びた事を知っているのはエリーゼとアニムスしか居ない位だ。

 

 だけどもう伸びないと思っていた身長が、実は伸びていたと言う事実は私の心に多大な希望を齎した。

 

 私自身、身長が小さい事を気にしていたが故に。

 

 

「フェムトくん、どうだった?」

 

「ええ。ほんの少しだけですけど、また今日も身長が伸びています」

 

「ん。フェムトはまた伸びた。正直、ちょっと羨ましい」

 

「でも、リトルちゃんはその代わりスタイルが良くなってきてますわ」

 

 

 リトルが成長していることが判明した後、私の身長が伸びる速度と同じペースで少しづつスタイルが良くなっている。

 

 身体に艶やかな丸みが出来、胸も成長が発覚した時よりもほんの少しだけ大きくなっているし、お尻もまた同様だ。

 

 他にも、初期の頃は心配になる位細かった太ももだったが、ほんの少しだけだが太くなってきているし、髪の長さも初期と比べれば目に見えて分かるようになった。

 

 

「私としては、体重が徐々に増えてる感じがしてちょっと複雑……」

 

「リトルちゃんは細すぎですわ。もっとご飯を食べて成長して、わたくし達を安心させてくださいな」

 

「む~~~……でも、皆がいいなら私、頑張る」

 

「ええ! その意気ですわ! リトルちゃん!」

 

 

 ……話を戻すが、私自身身長を気にしている理由がある。

 

 それはエリーゼを正面から抱きしめてあげられない事と、迷惑を掛ける事が多かったからだ。

 

 これまでもそうだったのだが、私とエリーゼでは大人と子供と言っても良い位身長に差が存在していた。

 

 外でデートをした時とか、私が小さいのに加えてエリーゼが綺麗になった事もあり、ナンパ目的で他の男から声を掛けられたり、姉弟であると間違われる事も多かったのだ。

 

 なのでそれが何とかなる可能性が芽生えて、私としては本当に嬉しかった。

 

 嬉しかったのだが……

 

 この成長が何時まで続いてくれるのだろうかと言うのが、私にとっては気がかりだった。

 

 それに私の身長の伸び率よりも、エリーゼとアニムスの身長の伸び率の方が高いのも気になる。

 

 私と初対面の時ですらエリーゼは身長が約170cmあるのに今でも成長を続けており、今では172cm程にまで成長しているのだ。

 

 それに対して私は132cmと、シアンよりも少し……いや、最近ではシアンも成長著しく、知らない間に私は身長を抜かれてしまっている。

 

 ……改めて考えて見ると、希望なんて無いのでは無いかと思ってしまう。

 

 いや、なまじささやかな希望があるからこそ、絶望は……いや、私自身言っているじゃないか。

 

 絶望を信じすぎるなと。

 

 そんな風に考えていると、エリーゼから声を掛けられる。

 

 

「わたしとしては、フェムトくんが小さくてよかったなって思ってるよ?」

 

「……エリーゼ?」

 

「だって、こんな風に抱きしめてあげられるから」

 

 

 そう言ってエリーゼは私を正面から抱きしめた。

 

 私の正面の視界が、エリーゼの胸元でいっぱいだ。

 

 ふわりと抱きしめられ、その温かく、柔らかで、いい匂いが私の脳髄を蕩けさせる。

 

 

「ねぇフェムトくん。知ってる? こうする事でしか摂取出来ない栄養素が存在するって事」

 

「……そんな物があるのですか?」

 

「うん♪ これが無いとわたし、とてもじゃ無いけど生きていける気がしないんだ。……フェムトくんがわたしの事、いい匂いがするとか、柔らかいとか、温かいって思ってくれてるけど、わたしも似たような事を感じているの」

 

「…………」

 

「例えば、フェムトくんの匂いだとか、温かさとか、見た目とは違う逞しさとか。後はサラサラの髪だったり、何処までも吸い込まれるような青色の瞳だったり……沢山の【フェムトくん成分】のお陰で、私はこうやって笑顔でいられるんだよ?」

 

「エリーゼ……」

 

「……それに私は多分、寿命じゃもう死ねない身体になってると思う」

 

「ぇ……」

 

「今はまだ成長してる途中だからフェムトくんは分からないと思うけど、わたし自身、何となく分かるの。でもね、これはフェムトくんが悪いって訳じゃ無い。この感覚はあの忌まわしい実験の時に疑似人格を植え付けられた時から感じていた事。だから、あの時点でわたしは手遅れだった」

 

 

 私はとんでもない秘密を知ってしまったのかもしれない。

 

 エリーゼの言っている事は、人類の夢とも言うべきモノ。

 

 

「きっとわたしは、成長しきったらずっとそのままなんだろうなって、思ってる」

 

 

 それは肉体年齢のピーク時を維持した状態での不老。

 

 それ所か、このままエリーゼを成長させ続ければ、今度は死ぬ事すら出来なくなってしまうかもしれない。

 

 

「だからね、わたしはフェムトくんの成長が物凄くゆっくりで、内心ほっとしちゃってるの。わたしは一秒でも長くフェムトくんと一緒に居たいから。でも……」

 

「でも?」

 

「それでもいつか、フェムトくんは居なくなっちゃう。遠い未来の話だけど、それでも、いつかフェムトくんは……フェムトくんは……!」

 

 

 私を抱きしめる腕の力が強くなり、私の頭上から温かな液体が零れ落ちる。

 

 絶対に離したく無いと強く、強く願っているからだ。

 

 ……確かに今のままでは、私はエリーゼを残して死んでしまう可能性が極めて高い。

 

 この戦いが終わった後、また戦いが始まらない保証はどこにも無いし、そもそも私自身の寿命と言う問題もある。

 

 ――ならば私に出来る事はそう、寿()()()()()()()()だ。

 

 これが出来なければ、エリーゼの男であると堂々と名乗る事等不可能と言っても良い。

 

 彼女と同じ時を歩めずして、何が将来の伴侶か。

 

 それに、私自身もっと強くなる必要がある。

 

 寿命を超越するという事は、同じ場所にずっとは居られなくなる可能性も出て来るし、今後の戦いに巻き込まれる事がほぼ確定したような物だからだ。

 

 

「エリーゼ」

 

「やだ……やだよぉ……」

 

「大丈夫。私は居なくならない。ずっと一緒にいる」

 

「そんな、そんな……出来もしない事を約束されたって、わたし……!」

 

「出来るよ。その方法はもう、私達は知っている」

 

「ぇ……」

 

「互いの持つ因子を取り込み合うんです。そのお陰で私は生命輪廻(アニムス)の持つ一部の力が使える様になりました。だから、このまま取り込み合えれば、私もエリーゼと同じ時を生きることが出来ます」

 

「フェムト、くん……! でも、そうなったらフェムトくんまで……! そんなのダメだよ。そんな酷い事、わたし、出来ないよぉ!」

 

 

 まるで駄々っ子の様に泣き叫ぶエリーゼに対し、私はこれまでの訓練で培われた体術を用いてエリーゼを床に組み伏せ、目を合わせる。

 

 そんな突然の出来事に、エリーゼは目を丸くして驚いていた。

 

 初対面の時は輝きすら失っていたエリーゼの暗い紫色の瞳。

 

 それは今まで私と共に歩み続けた結果、瞳に光が宿り、より強く彼女の魅力を引き立てる様になった。

 

 しかし、そんな綺麗な瞳に今、悲しみの涙が流れ続けている。

 

 私は優しく手でそれを拭いながら、それ以上に優しい声でエリーゼを諭す。

 

 これ以上、悲しみの涙を流してしまわない様に。

 

 

「私がそうしたいからそうするんです。エリーゼが私とずっと一緒に居たいように、私だってエリーゼとずっと一緒に居たいんです」

 

……信じていいの?

 

「ええ。勿論。私の事、信じられませんか?」

 

ううん。そんな事ない。ぁ……

 

 

 エリーゼの返事を確認すると同時に、私はエリーゼの柔らかな唇に口付けを落とす。

 

 エリーゼと同じ時を歩む、誓いの口付けを。

 

 ……何て言うか、ずっと生き続ける事が決まったら、私の身長の悩み何てどうでも良くなってしまった。

 

 何故ならば、長い時を生きられるなら身長なんてどうとでもなるからだ。

 

 私はそのままエリーゼを押し倒したままの状態で、この身をエリーゼに預ける。

 

 互いの頬に手を当て、見つめ合う。

 

 ふと、周りが静かな事に気が付き、私とエリーゼは同時に横を見る。

 

 

「ん。大丈夫。私達はずっと一緒。エリーゼも、フェムトも一緒。だから泣かないで、アニムス」

 

「リトルちゃん……わたくし、わたくし……!」

 

 

 リトルとアニムスは、奇しくも私達と同じ構図で言い争っていた形跡があり、今しがた仲直りした所らしい。

 

 この光景を見て私達はお互い笑い合い、改めて互いの将来の事を誓い合うのであった。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

フェムトはエリーゼと決して離れぬ強固な決意を固めた

 

 


 

 

 

 


エリーゼと訓練

 

 

 

 

 私は今、トレーニングルーム内で信じられ無い物を見てしまった。

 

 そのあまりのとんでもなさに、私は思わず沈黙してしまう。

 

 

「どう? フェムトくん。何処かおかしな所は無いかな?」

 

「…………」

 

「……やっぱり、変?」

 

 

 一体何がとんでもないのかと言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 エリーゼは私が身長の事を気にしているのを知っている。

 

 だから生命輪廻の力を使ってこの様な事をしてくれたのは理解できるのだが……

 

 いけない。

 

 エリーゼが、可愛すぎる。

 

 私の持つ語彙力が追い付かず、可愛いが私の頭の中を埋め尽くしてしまう程に。

 

 

「変じゃない。エリーゼは可愛い。すっごく可愛い」

 

「ぁ……」

 

 

 私はそう言いながらエリーゼを正面から抱きしめる。

 

 今のエリーゼは生命輪廻の力で私よりも小さな姿だ。

 

 それに合わせ変身現象による衣装もダウンサイジングされており、ボディラインを強調させる点は変わらないが、意匠は可愛らしさ重点と言った感じになっており、美しさよりも可愛い点をより強調した物となっている。

 

 

「えへへ……なんだか不思議な感じ。こうしてフェムトくんに包まれるの、すっごく心地良くって幸せで……新しいフェムトくん成分を補充出来そう♪」

 

 

 私の腕の中で可愛らしい生き物(エリーゼ)がその頭を私の胸にスリスリと擦り付けている。

 

 普段のエリーゼ以上に体温が高く、それでいて女の子特有の柔らかい感触を私に齎す。

 

 しかし、エリーゼはどうやって小さくなったのだろうか?

 

 私が少し目を離している内にこの様な姿になってしまっていた為、詳細を聞かないと原因が分からないのだ。

 

 

「えっとね……最初に出会った時、仮想人格達(エリーゼ2とエリーゼ3)の身体を無から作った事があったでしょ?」

 

「ええ。あの時は本当に驚きましたよ」

 

「それでね、だったら私自身の体の大きさ位変化させる事が出来るんじゃないかなって思ったの。それでさっき試してみた結果がこの姿なんだ」

 

 

 生命輪廻の力はここまで直接的に肉体の操作すら可能だという事に、私は驚いた。

 

 ……もしかしたら、私も上手く行けば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないだろうか?

 

 

「多分出来ると思うよ。身長を縮めるよりも、伸ばす方が簡単な感じがするの。でも……」

 

「でも?」

 

「フェムトくんはまだ因子と練度が足りないと思う」

 

 

 確かにその通りだ。

 

 私が今生命輪廻の力で出来るのは、生命力(ライフエナジー)による身体強化位しかないのだから。

 

 だけどこれは大きな可能性を秘めている為、諦めると言う選択肢は私の中には存在しない。

 

 

「なら両方とも頑張らないと、ですね」

 

「うん! だから早速で悪いんだけど……お手合わせ、お願いしてもいい?」

 

「ええ、勿論」

 

 

 私は両手にそれぞれ鉄扇を構え、エリーゼは大人の時と同様に小太刀と苦無の二刀流で私を迎え撃つ。

 

 ……リトル達はあの時と同様に静かになっている。

 

 ならば私達は互いに打ち合い、因子をより強く馴染ませる為の手伝いをする必要があるのだ。

 

 よって、互いが同時に飛び出すまでにかかった時間は余りにも短かった。

 

 

「はぁぁ! せい! やぁ! たぁ!」

 

「……っ!(思ったよりも攻撃が軽い! でも、その分踏み込む速度も速い! 甘く見ていると手数で押されてしまいそうになる!)」

 

 

 ――この行為は、互いを高める為の儀式。

 

 それは鋼と鋼をぶつけて鍛え上げる鍛冶師が如く。

 

 互いに重い感情をぶつけ合うようなライバル同士での戦いが如く。

 

 恋人同士が互いに一つになるかの如く。

 

 青き交流(リトルパルサー)と生命輪廻、互いを想い合う第七波動達はフェムトとエリーゼの身体をそれぞれ経由してぶつかり合い、力を高め、交わる。

 

 最初は私と同じくらい小さくなった影響で動きがぎこちなかったエリーゼだったが、あっという間にその体に合った動きに適応させ、私と互角に打ち合うようになった。

 

 その動きは正しく鏡合わせ。

 

 寸分も狂わぬ互いの攻め。

 

 こうした得も言われぬ高揚感を持った、楽しい時間。

 

 そんな時間が、もう終わろうとしていた。

 

 リトルとアニムスが互いの因子をまたもう一段階強く結びつけることによって。

 

 

(フェムト。終わったよ)

 

 

 このリトルの声を合図に、私の手が止まった。

 

 同じようにエリーゼの手も止まる。

 

 お互い動きを止めたまま見つめ合い、笑みをこぼす。

 

 こうして私達はまた一つ、強くなる事が出来た。

 

 但し、まだ身体を操作できる程因子が交わった訳では無い。

 

 それが出来る様になるのは、もっとずっと未来の話になるだろう。

 

 私達は訓練を終え、互いに変身現象を解除。

 

 それと同時にリトルとアニムスが姿を現した。

 

 現したのだが……アニムスも今のエリーゼと同様に小さくなっていた。

 

 それも、リトルよりも小さな姿に。

 

 

「どうかしら? リトルちゃん。わたくし、おかしくないかしら?」

 

フェムトの気持ち、良く分かった。すっごく可愛い。ん。どこもおかしくない」

 

 

 リトルが感想を言い終わると同時に小さくなったアニムスが、彼女の胸元へと飛び込み、幸せそうで蕩けた表情をしていた。

 

 そんなアニムスに、リトルは頭を優しく撫でる。

 

 

「おぉ……これは新感覚。まるで妹が出来たみたい」

 

「あぁ……()()()……♪」

 

「…………ッ!!!! アニムス。今の言葉、もう一度言って」

 

「? お姉様?」

 

「……エリーゼの気持ち、良く分かった。フェムトからしか取れない栄養素があるって聞いた時は良く分からなかったけど、今のアニムスを見てるとそれが良く分かる。そう、今のアニムスからしか取れない栄養素がちゃんと認識出来る」

 

 

 どうやらリトルは、所謂【アニムス成分】を見出したらしい。

 

 今の姿のアニムスが放ったお姉様と言うセリフは、リトルには物凄く衝撃的だったのだろう。

 

 ……まあそれは置いておくとして。

 

 

「あぅぅ……服がブカブカになっちゃってるよぉ」

 

「……その姿で外に出る時専用の服を用意しないとダメですね」

 

「うん……」

 

 

 変身現象を解いてもそのまま小さな姿を維持出来ているのは流石だと思ったけど、それが理由で元の姿の服が着られなくなってしまうのは当然の帰結。

 

 なので一度服を全部脱いでもらい、この時の姿でも着られる服を後で購入する為に身長を始めとした体形のデータを取った後、私達は汗を流す為にお風呂場へと向かうのであった。

 

 

 

 


 

 

エリーゼを次のミッションから出撃メンバーとして選択する事が可能になりました

 

ミッション出撃時にエリーゼの姿の設定が出来る様になりました

 

 


 

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

 ダイナインとの戦いでは思わぬ要素が目白押しだったお陰か、解析率は九割五分と言う後少し、本当に後少しと言う所まで迫った。

 

 これはあのペスニアによって彼が蘇生した事で発生した特殊な戦闘によるものが大きい。

 

 そう言った意味では大いに助かったと思っても良いのだが、死にかけた事を考えると複雑な気分であると言わざるを得ない。

 

 リトルマンティスも今回の戦いであちこちにガタが来てしまい、最終的に一から作り直した方が早いとまで言われてしまう程だった。

 

 まあ予備パーツは一機分余裕で賄える位にはある上に、どうやら私はこんな状態でも想定以上に消耗を抑えられていたらしいのだ。

 

 むしろここで派手に壊れたお陰で、これまで蓄積されたデータを取り入れた新たなリトルマンティスを新造出来ると喜んですらいたのだから、整備班の人達は逞しいと思う。

 

 ……さて、アビリティ作りを始めよう。

 

 ここまでデータが揃ったならば、いよいよTAS本来の想定である多人数接続に必要なアビリティの作成も可能だ。

 

 これに関してはマイナーズリンクがいいデータを取ってくれていた。

 

 これは人間やAIを始めとした意思を持つ存在と接続が可能となるアビリティで、コレのお陰で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 初期のTASではこれが出来る前は第七波動のみと接続していたのが理由で繋がりが甘い所があり、ここがボトルネックとなって多人数接続を阻んでいた。

 

 しかし、マイナーズリンクによって人ともリンクする事が可能になった為、人を経由して第七波動と接続する事でより強固な接続が出来る様になっており、接続維持に極めて高い安定度を叩き出した。

 

 そのお陰でリトル以外の第七波動達の声もTASで拾う事が出来る様になったのだ。

 

 さて、多人数接続が出来る様になるのだからTAS(タッグエアレイドシステム)もそろそろ名前を変える時が来たと言ってもいい。

 

 ……のだが、今一名前にピンとこない為、先ずはダイナインから得られた戦闘データをアビリティにする作業を優先する。

 

 

(先ずは私達の精神状態で攻撃力が変化するハイプラウドを強化と最適化を施した【デタミネーション】、相手の攻撃に合わせてこちらの攻撃を当てた際の威力を上げる【カウンター】、TASに蓄積された第七波動のデータから相手の弱点を割り出す【オートアナライズ】、シャリーアライブの欠点である一度だけと言う制限をチェインスキルのデータを利用してある程度克服した【ガッツ】、ダメージを無視して動けるように(ノックバックしなく)なる【インデュア】、投擲物もロックオンした対象に誘導できる【スローイン】、SPスキルの集束率を調整できる【SPフォーカス】)

 

 

 何と言えばよいのか、まだ本命を完成させて無いのにこれだけのアビリティが出来上がってしまった。

 

 初期の頃は三つだけだったと言うのに。

 

 まあ、解析面でも成長できたと喜ぶべきだろう。

 

 しかしやはりと言うべきか、あの蒼黒い雷の解析は簡単には行かないらしい。

 

 手応え的にはもう少しで解析は出来ると思うのだが。

 

 ……さて、実はもう多人数接続が可能になるアビリティは作成できており、後は名前だけと言う状況だ。

 

 TASの頭文字である【Tag】とは、主に二人組で協力して事に当たることを意味する。

 

 私としては略称を変えるのは嫌な気持ちもあるので、ここは戦術の意味合いを持つ単語に置き換えようと思う。

 

 

(正式名称はTactical Airlaid System(タクティカルエアレイドシステム)、これならばそのままTASと略称を変更せずに済みます。そしてこれを成すアビリティ【マルチプルコネクション】……アビリティの増設はこれからも行いますが、これでTASの一通りの完成と見ていいでしょう。後は欠点を洗い出し、最適化を進め続けるだけです)

 

 

 勿論今の段階でもバグ取りは重点的に行うが、それでも実際に使ってみないと分からない事もある。

 

 今の戦いを行いつつぶっつけ本番でテストを行うと言うのは自殺行為に他無いので、次のミッションは開始前により念入りに動作テストとバグ潰しを行う必要があるだろう。

 

 私にとってこのシステムは生命線その物なのだから。

 

 

 


 

 

GET ABILITY デタミネーション カウンター オートアナライズ ガッツ インデュア スローイン SPフォーカス マルチプルコネクション

 

 


 

 

 

 


 

 

TAS(タクティカルエアレイドシステム)とリトルのSPスキル【Song of pulsar(ソングオブパルサー)】が完成しました

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。






〇ストラトスに恋人が居る事について
オコワで実験体となる前は人望の厚い好青年であったと言う設定から、恋人の一人や二人は居るものと判断して出来たオリ設定。
ストラトスは望まぬ薬物漬けによってヒドイ事になっていたのでリハビリも大変である事が想定された為、支えになる人が必要なのではと吟味した結果でもある。
なお、恋人の名前は出さない予定。

〇フェムトのネットサーフィンについて
青き交流の力を用いてランダムに情報を収集し、記憶に蓄積させると言う物。
その性質上、記憶の中に格納されている任意の情報を引き出すのにリトルの力を借りる必要があり、なかなか融通が利かない一面もある。

〇リトルとアニムスの関係について
リトルの今回の行いにより、アニムスはバイセクシャルに目覚めた。
元よりアニムスはリトルに対して好意的だった事もあり、今回の件が色々な意味でトドメとなった。
が、アニムスは小さくなる事で逆にリトルに対して新しい扉をこじ開けると言う快挙も成している。
因みにだが、リトルはエリーゼに対してもバイセクシャルの扉を既にこじ開けている為、アニムスがそうなってしまうのは必然であると言う側面も存在する。

〇フェムトの身長が伸びている件について
実は体を鍛えすぎている事が伸びない原因では無く、フェムトの中に存在する天使の因子が理由で成長が凄まじくゆっくりになっているのが原因。
なので相応の時間をかければエリーゼ以上に背が高くなる可能性が存在する。
だが、その為に必要な時間は到底普通の人間の寿命は過ぎてしまう為、何気にフェムトも寿命の長さで周りから取り残されるリスクがあった。

〇エリーゼの寿命について
ただでさえ原作で言う所の地下施設に運ばれるまでの怪事件によって能力が強化された状態だと言うのに、それに加えて仮想人格の植え付けをされた実験の副作用によって能力が高まった影響で寿命によって死ねなくなってしまった。
勿論オリ設定です。
今まではその事を自覚する事は無かったが、自身が成長するにつれて自覚するに至り、それに加えてフェムトが少しづつ成長していると言う事実がエリーゼを精神的に追いつめる引き金となった。

〇いつもとトークルームの締めが違うことについて
互いの好感度がMAXになった状態であり、エリーゼが参戦する為の条件の一つ。
勿論トゥルーエンドの条件であると同時に、フェムトがエリーゼと共に本当の意味で歩む事を決意する話でもある。
なので、ここからはエリーゼも何処か遠慮していた部分が完全に取っ払われ、リザレクションの成功率が(もう何があってもフェムトくんは)100%になった(死ねなくなった)
なお、メタ的に言うと死ねなくなったタイミングはもっと前の話なのは内緒だぞ♪

〇エリーゼとアニムスが小さくなれた事について
生命輪廻による肉体を無から生成する力を転用し、自身の身体を操作する事で出来る様になった高等技術。
何気にアニムスと離れた状態でも出来る様になっており、エリーゼ自身の成長と第七波動の力の増加を表す描写でもある。
そしてフェムトの希望(身長が伸びる事)の一つでもあるのだが、それが可能となる為には沢山因子を交わらせ、その上で使いこなす為に鍛える必要がある。
その為、本編でこの事を描写できるかは不透明。

〇エリーゼが選択可能になった事について
エリーゼと互いの好感度がMAXになった状態で規定回数エリーゼと訓練をこなすと解禁。
解禁出来るタイミングはここが最速である為、ミッションで連れて行ける頻度は少ない。
それと同時に小さくなる事も可能になった為、出撃時に体の大きさを選択する事が可能。
性能の違いは大人姿だと攻撃性能が高く、子供姿だと回復性能が高いと言った特徴を持つ。
メタ的な話になるが実は罠要素でもあり、次のミッションにエリーゼを連れて行くとトゥルーエンドフラグが折れ、ノーマルエンド確定の状態となってしまう。何故そうなるかと言えば、エリーゼは元々隠蔽されなければならない存在である為、早い段階で存在が露呈してしまうと色々とヤバイ事になってしまうから

〇TASについて2
正式名称Tactical Airlaid System(タクティカルエアレイドシステム)
二人組と言う縛りが解除され、複数の能力者と組むことが出来る様になった。
それに加え、組んだ能力者をアビリティで強化する事で戦力増強も可能である為、ロックオンを主体とした戦いに参加しなくても十分な恩恵を得られる点もある。

メタ的に言うと沢山居る味方が一部のインフレに置いて行かれないようにする為のシステムでもあり、突然誰かがイベントによって仲間になって中途半端な性能で足並みが乱れる、と言った事を防ぐ狙いもある。
それと、フェムトの力の設定がGVを上回らない状態で強化をする為のギミックでもある為、この方式でならいくらでもフェムトを強化できると言う(作者)自身の思惑も存在する。

Song of pulsar(ソングオブパルサー)について
本編第三十二話で頑張っていたリトルがSONG OF DIVA(ソングオブディーヴァ)をリトルなりに模した事で完成させたSPスキル。
フェムト死亡時に発動し、強化した状態で蘇生する。
ガンヴォルトシリーズで無くてはならないシステムの一つであり、今回の話でようやく実装されるに至った。
条件は翼戦士を五体撃破とTASの完成とエリーゼの参戦。
因みに魂の修復も条件の一つではあるのだが、これはエリーゼの参戦の条件を満たす事で自動的に達成する為省略している。
勿論トゥルーエンドに必要な条件でもある。


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第三十五話 暗躍する黒蝶 現れる皇神第拾参ビル



サイドストーリー





 ここは皇神ビルの副社長に与えられた一室。

 今回の事件において様々な可能性を予想していたケースの内の一つがほぼ確定である事が分かった為、事前に()()()()()()()()()()()()()を待つ序にここでその詳細をボクは把握していた。


(やっぱりか……皇神を成長させると言う点においては価値観を共有していると思っていたんだけどね。本当に、残念だよ)


 目の前に広がっている多くのホログラム画面に映し出されているのは、ボクがここまでの地位に至るまでに政争で争い合った人達による秘密裏の金の流れを纏めた物。

 この金の流れは途中でアナログな手法が使われているらしく、彼らならではの老功ぶりにボクは苦笑いを浮かべるしか無かった。

 何しろこのお陰で全容解明に時間が掛かってしまったのだから。


(フェムト達のミッションに事あるごとに現れていたテロリスト達。彼らの資金源がここからだったなんてね。全く、嫌になるよ)


 一体何が彼らをそうさせてしまったのか?

 ボクは彼らを追い落としはしたが、会社に居られなくなる程に追い詰めた訳でも無いし、ボクなりに慈悲を与えたつもりだったのだが。

 追い落としたボクが言うのはアレだけど、彼らはボクよりも長く生きているだけあって、馬鹿では無い。

 むしろ従順な振りをして、隙を見せたら再びボクを追い落とそうと機会を伺うタイプであり、直接テロリストを嗾けるような短絡的行動を取る人達では無いのだ。

 それに彼らの思惑は様々ではあったが、皇神グループを成長させる事に関しては共通していた。

 何しろ皇神グループは国内だけでは無く、海外の企業や国等にその技術を狙われている。

 そうなると当然上層部である彼らも狙われる為、思惑は違えど団結しなければ忍び寄る敵対者にやられるのは必然と言えた。

 中にはボクみたいにあえてスパイを泳がせたり協力すらする人達も居るが、それらは大抵何時でも根切り、或いはそれを逆手にとって利益にすらしてしまう為の布石だ。

 まあ、こんな連中だからこそボクはパンテーラの力がどうしても必要だったんだけどね。

 そんな風に彼女の事を考えたのが理由なのだろうか?

 ボクから少し離れた位置に紫色の縦に長い鏡が二枚現れ、くるくると横に回ると同時に二人の女性が姿を現した。

 一人はボクも良く知る皇神内での活動時の女性の姿をしたパンテーラ。

 今のボクに対して向ける不敵な笑みは相変わらずと言った感じであり、その様子にボクも思わず笑みを返す。

 そしてもう一人はボクの知らない女性だ。

 何とも不思議な雰囲気と美貌を持った女性であり、何処かの国の富裕層を思わせる気品さも併せ持っている。


「やあパンテーラ。()()()()()()()()嬉しいよ」

「フフ……ワタシもよ。紫電。この出会いに、愛を感じるわぁ」

「キミは相変わらずみたいで何よりだよ。……所でそこの女の人は、例の?」

「ええ」

「ワタシ、【ニケー】と申シます。アナタの事、パンテーラかラ良く聞いテいマス」

「よろしく、ニケー。もう知っていると思うけど、ボクは紫電。月読紫電。パンテーラの力を借りてここまで来た(皇神の副社長の座を得た)者さ。出来れば長くお付き合い出来ればボクも嬉しい。……ちなみにだけど、どんな風に聞いているか尋ねても?」

「エエ。パンテーラ、アナタのこトを良k……」

「ニケー? それはミステリアスに隠しておいて欲しいわぁ。……秘匿される愛もまた美しい。そうでしょう?」


 その先の言葉が気になるんだけどねぇ……先ずは要件を済ませるとしよう。

 パンテーラが連れて来た彼女はニケーと呼ばれる女性で、裏八雲の人達も用いていると言う【占星術】の使い手だ。

 本当は裏八雲側の方の力を借りたかったんだけど、流石にボク位の立場の人間が色々な手順をすっ飛ばして秘匿技術(オカルト)の恩恵に与るのは、最悪色々な意味で摩擦を生みかねない。

 なので、今回の黒幕の居所を探る為に彼女の力を借りようという訳だ。


「デは、早速……見えマす。隠された地下収容施設(カタコンベ)、かつテ命を司ル三匹ノ蛇を弄ビ、禁忌ヲ犯しテ滅ビた場所。そコの更ニ奥深クに彼らハ居ます」


 随分と抽象的だが、ニケーの言いたい事は何となく分かった。

 ボクは以前、フェムトと共に緊急ミッションで倉庫に偽装した研究施設が存在する地下施設に向かった事があった。

 そこは()()()()()()()で既に壊滅しており、ボク達が到着した頃にはゾンビが這い出て来るなんて言う創作の中でしか起こりえない出来事に遭遇。

 そこでボク達は事態の収拾を図り、結果として今はフェムトと同居しているエリーゼを保護するに至る。

 つまり、ニケーが言っているのはそこの事だろう。

 命を司る三匹の蛇に該当する存在は当時のエリーゼ達以外当てはまらないだろうから。

 そこまで分かればもう大丈夫だとボクはニケーにお礼を言おうとしたのだが……何やら様子がおかしい。

 先ほどまでは普通であった顔色が、一転して真っ青の状態になってしまっている。

 この事態に、流石のパンテーラも困惑を隠せない様だ。


「黒い……黒イ蝶ガ見えマス……黒い蝶がワタシ達を……! そ、そんナ、()()()()()()()……!?」

『あらあら? 覗き見するのはマナー違反よ? まだ準備中なんだから……ね?』

「……! これは驚いたわぁ。まさかニケーの愛を逆探知しちゃうなんて」


 占星術を始めてニケーの様子が変になった後、ボク達の目の前に彼女の言っていた黒い蝶……即ち、フェムトから報告を受けていた黒いモルフォ改め、ペスニアと呼ばれる存在が突然姿を現した。

 彼女はボクが使っている机に脚を組みながら座り、不敵で何処か壊れてしまったかのような笑みをこちらに向けている。

 正に彼女はフェムトの報告通り黒いモルフォと形容するべき外見をしているが、意外な事に服装はボク達の知るモルフォよりも逆に露出が少ない。

 本来のモルフォが肌を見せている上半身は、少しだけ肌がうっすら見える黒のインナーで、スカートからチラリと見える太もも部分も黒のストッキングによって隠されている。

 この事から何と言うか、ボクは彼女に対して意外にも【身持ちが堅い】印象を受けた。

 まあそれはさて置き、突然現れた彼女に対して反射的にボクとパンテーラはニケーを守る様に立ちふさがる。

 それと同時に光学迷彩で姿を隠していたシスをボクの傍らに出現させ、何時でも変身現象(アームドフェノメン)を起こせるように身構えた。

 立ち塞がる際に見たパンテーラは表情こそ何時もの物だったのだが、目だけが笑っていなかった為、彼女もまた警戒しているのが良く分かる。

 背中に流れる冷や汗と共に、彼女の存在はこれまでの人生で感じた事の無い危機感をこれでもかとボクの意識に訴えかけた。

 目の前の存在は危険であり、放置すれば間違い無く国を乱す。

 それ所か、下手をすれば海外の方にも飛び火する可能性は十分ある。

 こうして場の緊張感が高まり、戦いの始まりが秒読み段階にまで差し掛かろうとしていたのだが……


『あぁ、心配しないでいいわよ。今日は別に貴方達を襲おうって思ったわけじゃ無いから』

「何?」

『ただちょっと、()()()をする悪い子に釘を刺しに来たってだけよ』

「あ……アぁ……」

()()()()()()もそうだけど貴方達みたいなのって、こう言う安全な場所からコッチをのぞき見するの大好きよねぇ。全く、証拠隠滅(ネタバレ対策)するわたしの身にもなってみなさいな。……思わず、皆殺しにしたくなっちゃうじゃない』

「……ニケー、下がりなさい」

「パ、パンテーラ……! 申シ訳、あリませン……」


 ボクの聞きなれない口調でニケーを下がらせるパンテーラ。

 普段は人を喰ったかのような彼女だが、本来の彼女はこっちの方が本性なのかもしれない。

 ……さて、どうするか。

 下手に刺激をすれば何をしでかすか分からない相手である以上、迂闊な動きをする訳には行かない。

 そう思っていたら、ペスニアがボク達に、いや、正確にはニケーに対して歩いて近づき、恐怖で青ざめている彼女の顎に手を添える。

 まるでボク達の事を無視するかの如く。


『フフ♪ 随分と怯えちゃって、カワイイわねぇ♪ ……ねぇ。何か他に見えてたりしないかしら? 得意なんでしょう? 占星術って言うの』

「ア……あァ……」

「ニケー! ……身体が、動かない!?」

『大人しくしててね。()()()()()()。貴女に動かれると面倒だから。勿論、副社長さん達も同様に、ね。今、すっごく大事な所なんだから』

「…………」


 最強の能力者の一角だなんて言われているボク達が身動き一つ取れず、ペスニアに生殺与奪の権利を一方的に奪われてしまっている。

 これは第七波動であるシスも例外では無く、自身に何が起きているのか分からず困惑の表情を浮かべている有様。

 ……状況は最悪一歩手前と言った所で、ペスニアの機嫌一つでいかようにも変化する絶望的状況と言った所だ。


『ほら、早く言いなさいな。わたしもあまり暇じゃ無いんだから。……あぁ、大丈夫よ。別に殺しはしないわ。今回は……ね』

「……すこシ、集中すル時間ヲ下さイ」

『ええ。いいわよ』

「………………………………」


 辛うじて落ち着きを取り戻したニケーが目を瞑り、集中している。

 それに合わせ、何やら淡く薄い黄色の輝きが彼女を包み込む。

 これが恐らく、彼女が全力で術を行使した場合の状態だ。

 ――これはボク達だけの命運では無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな直感を、ボクは半ば確信したように感じ取った。

 そんなボク達の運命は……


「見エましタ。……小さク淡い青色ノ星が、多クの星々を束ネ、混沌を照ラスでしョう。そしテ、あナタの野望ハ潰えマす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『………………へぇ』


 どうやら、ニケーはボク達にとって悪くない未来が見えたらしい。

 ボクとパンテーラはペスニアによる何かしらの干渉によって、ニケーの様子を見る事は出来ない状態だ。

 なので声音で判断するしかないのだが、少し気になる事がある。

 声音が妙に高揚している風に聞こえるのだ。

 いや、別にこの絶望的状況でより良い未来が見えたのなら多少そうなると言うのは何となく分かるのだが、何と例えればよいのだろうか?

 そう、例えるならば……信者が覚醒してしまった(お目覚めしてしまった)時の声に近い。


「アナたは滅びルのでス。小さき救世主(メシア)の手にヨって」

『ふぅん……そっか。そうなんだ。……ふふ。ふふふ♪ アハハハハハハハハハハ♪ そう! そうなのね! やっぱりあの子は、わたしを終わらせてくれるのね! すっごくイイコト聞いちゃった♪ もう最高の気分だから貴方達の事、見逃してあげる♪』


 ペスニアの許しと同時に、ボク達は体の制御権を取り戻した。

 なので、真っ先にニケーの方へと顔を向ける。

 彼女は先ほどと打って変わり、とても穏やかな表情でペスニアを見据えており、顔を青くしていた時とはまるで別人と言っても良い。

 そして、肝心のペスニアはそんなニケーに対して狂ったように笑い続けている。


「……あんまりその姿でそんな笑い方、しないで欲しいな。モルフォのブランドイメージが崩壊しちゃうじゃないか」

『いいじゃない。別に。この部屋は防音なんだし、漏れやしないわよ。それに……知っているかしら? 希望が光輝いている程、闇は暗い影を落とすってコトを』

「何が言いたい?」

『簡単に言うと……闇落ちモルフォって、意外と需要が高いのよ? わたしのこの姿が生まれた経緯ってそんな感じだったし』

「そんな話、聞いた事が無いけど」

『そりゃあそうよ。このせk……っと、しゃべり過ぎるのも良く無いわね。フフ♪ 機嫌が良いと口が軽くなっちゃうから、そろそろお暇させて貰うわ。チャオ!』


 ペスニアはそのままビルの窓の壁をすり抜けながらこの場から飛び立ち、姿を消した。

 それによって緊張感が切れ、ボクは思わずシスに寄りかかってしまう。


「紫電、大丈夫?」

「大丈夫……とは、あまり言えないかな。正直寿命が縮まるかと思ったよ。まあでも、生き残れたから勝ちは勝ちさ。そう思わない? パンテーラ」

「……紫電」

「何かな?」


 ボクの返事に対して、パンテーラは少女の姿(本来の姿)に戻る形で答える。

 ボク所か、下手をすればシアンよりも幼い姿の彼女。

 不思議の国のアリスと、年不相応の大人びたその瞳によるミステリアスなアンバランスさが、彼女の持つ妖しい魅力を引き立てている。

 しかし間違い無く彼女は多国籍能力者連合エデンを束ねる巫女であり、頂点に君臨する存在だ。

 そんな彼女がこの場で、あの大人びた姿からこの姿になったのは大きな意味を持つ。


「これよりエデンは、皇神と一時休戦する事を提案します。全てはあの黒き蝶から、皆の愛を守る為に」

「その提案、歓迎するよ。今はどんな形であれ戦力は欲しいからね。アレは危険だ。ボク達が文字通り手も足も出なかったんだから」


 こうしてボク達は一時的であるとは言え、エデンとの休戦と共闘をする盟約を交わす事になるのであった。






 

 

 

 

 最近、睡眠欲と言う物が少なくなったように感じる。

 

 何と言えばよいのか……そう、敢えて言うなら身体が常に活力がみなぎっている状態と言えば適切だろうか?

 

 この事をエリーゼに話して見た所、彼女はもうずいぶん前からその様な状態が続いていたのだと言う。

 

 具体的に言うと研究施設で仮想人格を植え付けられた時からであり、その際に生じた副作用とも言うべき能力の高まりが原因だと彼女は話した。

 

 私が関わり始めた初期のエリーゼは目に隈が出来ていたのを覚えているが、文字通り眠れなかったのが原因だった。

 

 思えば肌も荒れ、抜け毛も枝毛も多く、いつもお腹が痛かったのも眠れなかった事にプラスしてむごい仕打ちを受けていた時の多大なストレスが理由だと今では分かる。

 

 そうなると、一つ疑問が出て来くる。

 

 何故眠れていないのにこれらの症状が治まり、逆に健康になったのか?

 

 その理由は私にあるのだと言う。

 

 色々な人を紹介し、コミュニケーションできるようになった事。

 

 困った事があったら何処からともなく現れて助けてくれる事。

 

 勇気の無かった彼女の手を無理矢理取り、彼女がイメージしていた檻から連れ出してくれた事。

 

 その他さまざまな要因によってエリーゼの精神状態が改善され、生命輪廻(アンリミテッドアニムス)に向き合う勇気を持つ事が出来た。

 

 お陰で自然と生命力の扱いが習熟し、このリソースがエリーゼの健康面を維持する事に貢献しているのだ。

 

 そして、身体が完全に健康になった時を境に、エリーゼから睡眠欲と言う物が完全に消し飛んでしまった。

 

 以前の状態だったならそれは更なる絶望へと叩き込む事実だったのだが、この頃はもう私と恋人となっていた為、逆にエリーゼにとっては祝福と呼べる物になる。

 

 彼女はこれまでの絶望的環境下では無気力で、何かを取り組もうと言う気持ちが存在せず、何も出来ずにいた。

 

 その時間を取り戻すと言う意味で、文字通り眠らずに様々な事に取り組んだ。

 

 お菓子作りや料理、裁縫等の家事なんかもその一環であり、最近では自身の戦い方への幅を広げる意味も兼ねて踊りなんかも始めている。

 

 そういう訳で、私が眠れなくなったのはアニムスの因子を取り込んだ事で生命力(ライフエナジー)を扱うようになった事だった。

 

 

「あれ? でもエリーゼって、私と一緒の時は眠っていたような……」

 

「ごめんね。ずっと寝たふりをしてたんだ」

 

「……エリーゼには悪い事をしたのかもしれませんね。私が眠るまで寝たふりをしなきゃいけなかったんですから」

 

「ううん。そんな事ない。だって目を瞑ってから眠るまでの時間なんてすぐだったし、眠っているフェムトくん、すっごくカワイイんだもん。ずっと見ていられるくらいに。それにね。フェムトくんから貰ったネグリジェ、着心地すっごくいいし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()♪」

 

「えぇ……それ、初耳ですよ?」

 

「フェムトくんって、リトルちゃんを使う関係で脳をよく使うでしょ? だから、一度眠ると朝まで何をしても絶対に起きないの。……色々とやりたい放題出来て、楽しかったなぁ」 

 

 

 エリーゼはこう言うが、今まで眠っていた時は疲れはちゃんと取れてたし、むしろ朝目覚めた時はものすごく快調なのが普通だった為、イマイチイタズラされたと言う実感がない。

 

 その理由も、エリーゼから語られる事になった。

 

 

「わたしの余剰の生命力をフェムトくんに流し込んでたから色々と元気だったんだよ」

 

「あぁ……いつも気分よく目を覚ませてたのはそれが理由だったんですね」

 

「うん。それに……その頃は色々と試行錯誤もしてた時でもあるから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() もう魂にヒビがあちこちに入ってたから、生命力を流し込んでも駄々洩れ状態で……フェムトくんと訓練してライフリカバリーが使えるようになってなきゃ、どうなってたか……」

 

「……私の知らない所で、試行錯誤してくれていたのですね」

 

「そうだよ。だから……ちゃんと責任取ってね? わたしを置いて逝っちゃダメだからね?」

 

「ええ。置いて逝きません。絶対に」

 

 

 改めてエリーゼと共に生きる決意を固めたので話を戻すが、私もこのまま因子を取りこんで習熟すれば、エリーゼと同じように眠らない状態で健康を維持する事も出来る様になる。

 

 だけど、その間に関しては少々問題になりそうだ。

 

 つまり、今の私は色々と中途半端な状態なので眠らなくても良くなったが、眠気が無くなる訳では無く、中途半端な覚醒を維持する状態になってしまう。

 

 一応リトルを使えば問題は解決できるが、それによって割かれるリソースによって作業効率が落ちてしまうのだ。

 

 

「それなら解決する方法は簡単だよ」

 

「エリーゼ?」

 

 

 エリーゼは私を抱きしめると、何やら温かなモノがエリーゼから流れ込んで来る。

 

 その温かな物は、心地よさと共に私の身体に更なる活力を与えた。

 

 

「フェムトくんが習熟するまでの暫くの間は、私の生命力を使ってね」

 

「ありがとうエリーゼ。……最近私はエリーゼから貰ってばっかりですね」

 

「ううん。わたしがフェムトくんから貰った沢山のモノに比べれば全然。だから、わたしに出来る事限定でだけど……もっと頼っていいんだからね?」

 

 

 そうは言うが、エリーゼは私の命の恩人でもある為、何かお返しがしたいと言うのは事実だ。

 

 なので、どうして欲しいか尋ねた所……

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()な。ワガママで、無理なお願いなのは分かってるけど……」

 

 

 確かに、この願いは普通に考えたら無理な事だが……

 

 可能性が無いわけでは無い。

 

 考えてみれば、()()()()()()を長期間同じ相手と繋いだ場合のデータと言うモノが無かった。

 

 なので、ここはひとつ提案をしてみる事にした。

 

 

「エリーゼ、その願い、叶えてあげられるかもしれません」

 

「え?」

 

「ですが、これをする事で行動制限がきつくなる可能性が大きいですし、多大なリスクを抱える可能性もあります」

 

 

 順を追って説明すると、あのシステムと言うのはTAS(タクティカルエアレイドシステム)の事だ。

 

 そもそもの話になるが、TASで長時間接続した際の挙動のデータを取っていなかった。

 

 ミッションが日を跨ぐ位長期化する可能性を考慮すると、こう言ったデータ取りも必要になって来る。

 

 エリーゼのお願いのお陰で、その事に気が付けた。

 

 それにペスニアの存在も、エリーゼと常時繋がっていたい事の理由でもある。

 

 彼女の存在が一緒に暮らしているエリーゼ達に多大なリスクを与えてしまっているのだ。

 

 あれ程強大な力を持った存在である為、一時はエリーゼと離れる事も視野に入れた事もあったが、エリーゼも私も今更離れ離れで生活するなんて考えられないのだ。

 

 それならいっそ、多少のリスクを抱えてでも……TAS経由でエリーゼの存在が露呈してしまってもいいと割り切った方がマシだと私は考えている。

 

 彼女がその気になれば私の居所など即座に把握するだろうし、今の生活を続けていればそれによって芋づる式にエリーゼの存在も露見するのだから、気にしても仕方がない。

 

 ……ペスニアの事について、エリーゼには既に話している。

 

 その上で、彼女はノータイムでそれでも一緒に居る事を選択してくれたのだ。

 

 ――私達はもう、運命共同体。

 

 私が死んでも、エリーゼが生き返してくれるだろう。

 

 だけど、逆に私を置いてエリーゼが逝ってしまったら……その時私が彼女と同じように生き返す手段があるなら、私は迷わずその手段を取る。

 

 だけど、その手段が無かったら……私はエリーゼの元に向かう(エリーゼと心中する)

 

 これはもう決定事項だ。

 

 誰にも覆させやしない。

 

 その時私を止める相手が紫電やGVであろうとも。

 

 

「「(わたし)達は何時いかなる時も皆を想い合い、支え、共に歩む事を、ここに誓います」」

 

「「(わたくし)達は何時いかなる時も皆を想い合い、支え、共に歩む事を、ここに誓う(誓いますわ)」」

 

 

 私達の話を黙って聞いていたリトルとアニムスと共に、私達は【誓いの言葉】と共にTASで接続する。

 

 健やかな時も、病める時も、何時いかなる時も繋がり続ける事を誓いながら。

 

 

「凄い……前よりもずっと強く繋がってる感覚がする」

 

「これが完成されたTASです。何気にエリーゼ達が一番乗りですよ。接続したのは」

 

「えへへ、嬉しいなぁ♪ これでわたしも、フェムトくんのミッションに参加出来るかな?」

 

「まだダメです。もうバレるのは時間の問題ですが、それでもエリーゼの事は可能な限り伏せておきたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈だったのですから。……今後しばらくの間、私とエリーゼは前線基地で生活、及び待機する形になるでしょう。前線基地にリスクを晒してしまいますが、元より基地と言うのはそう言う物ですし、エリーゼの力による怪我の治療なんかも考えると合理的です」

 

「わたしの方も学校の方は夏休みに入ってるし、宿題も全部終わってる。だから暫くの間はそう言った行動制限をされても大丈夫。それにいざとなったらやめる事だって考えてるんだから」

 

「エリーゼ……でも、それだと」

 

「大丈夫。わたしには時間が無限にある。だから何度でもやり直せばいい。そうでしょう?」

 

 

 こうして私達の意見がまとまった為、この案を紫電に相談して見た所、OKを貰えた。

 

 なんでも紫電の所にもペスニアが現れたらしく、その脅威を実感出来たのが理由なのだと言う。

 

 そういう訳で私達は暫くの間、我が家を留守にする事になるのであった。

 

 なお、飼い猫であるみーちゃんは私達と離れるのが嫌であるらしい為ついて行く事となり、その愛らしさで前線基地でも人気猫となるのは、また別の話だ。

 

 

 

 


ミッションセレクト

 

 

 

 

「それじゃあデイトナ、イオタ、TASの接続テスト、始めるよ」

 

「おぅ。頼むぜフェムト」

 

「完成したTASがどのような物か、見せて貰おう」

 

「それじゃあリトル。接続を」

 

(ん。接続を開始するよ)

 

 

 ここは前線基地にある訓練所。

 

 今回はデイトナとイオタに新しくなったTASによる接続テストの協力を依頼しており、問題が無ければこのまま今回のミッションに向かう流れになっている。

 

 このテストを始める前の段階でバグ取りは可能な限りしたが、実際の運用データはどうしても欲しい。

 

 ここで手を抜いてミッション中に何かあったら、取り返しがつかないからだ。

 

 

「接続完了。どう? 二人共? 何か違和感とかある?」

 

「問題ねぇよ。って言うか、前よりもすっげェ力がみなぎるぜ。完成したって言うのは伊達じゃねぇな」

 

「イオタの方はどうですか? 何かおかしなところがあったら言ってくださいね」

 

「うむ。……少し動いてもいいだろうか?」

 

「ええ。お願いします」

 

「お、ならオレも付き合うぜ。()()()も早く動けってせっついてるしな」

 

 

 私がお願いしたと同時にイオタが訓練所を縦横無尽に飛び回り、デイトナが背中のバックパックを変形させて四つ足形態となり、炎を纏いながら駆け抜ける。

 

 ここの訓練所は空中機動の訓練が出来る位広めに作られている為、イオタが飛ぶ分にも、デイトナが走る分にも困らない。

 

 ある程度動き回ったイオタは、そのまま自身を光に変えての移動も行う。

 

 ……以前見た時よりも光子から肉体に戻った際のスキが少なくなっている。

 

 これはアビリティの恩恵もあるだろうが、イオタ本人の努力と宝剣を人型に変えた事も大きい。

 

 それにデイトナの方も、足裏から小規模に指向性を持たせた爆発を利用する事で加速力をが増している。

 

 あの扱い方は敵を踏み台にする時もダメージを与えると言う点でも有利な為、機動性と攻撃を兼ね備えた一手と言えるだろう。

 

 

「うむ。体感してみて良く分かった。このシステムは将来この国を守る為の大きな力となるという事がな。良く完成させてくれた。フェムト」

 

「ありがとうございます。ですが、本当の意味で量産化させるのはまだまだ先の話になりそうです。ここから無駄を削ぎ落して皇神兵達にも扱えるように調整する必要がありますから」

 

「オレ達だけが強くなってもこの国全体が守れるって訳じゃあねェからな。こう言った底上げもしとかねぇとオレ達も無駄に苦労しちまう。持ちつ持たれつってヤツだな」

 

「それじゃあこれらのデータを一旦纏めてTASに反映させますので、一旦接続を解除します。その間、二人は変身現象を解いて休んでいてください」

 

「おう。【エクス】。変身現象を解除。休憩すっぞ」

 

 

 デイトナの返事と共に彼の変身現象が解除され、現れたのはデイトナを一回り小さくしたかのような男の子の姿。

 

 爆炎(エクスプロージョン)の第七波動である彼の名前はエクス。

 

 かなり強気で好戦的な性格をしているが、その野性味あふれる見た目からは想像が出来ない位教育が行き届いており、意外と常識的な一面も存在する第七波動()だ。

 

 何処か野生的でギラギラした瞳をしており、人の形を取った途端デイトナに対して拳を突きだし、デイトナも突きだされた拳に自身の拳を軽く当て、笑顔で軽く言葉を交わしていた。

 

 

「へへ♪ どうよ? オレ様も随分と様になっただろ?」

 

「へっ! 良く言うぜ。……ま、及第点ってトコだ。もっと精進しとけよ。エクス」

 

「ムカッ! もう少し位褒めてくれてもいいじゃんか!」

 

「褒めたら調子に乗りまくる癖が直ったらちゃんと褒めてやるよ」

 

「ぐぬぬ……」

 

「相変わらず猪突猛進ですねぇエクスは。もう少し我を見習って落ち着きを持ったらよかろうに」

 

 

 そう言いながら姿を現したのは残光の第七波動である【フォトン】。

 

 緑と赤のオッドアイを持つ緑がかった長い銀髪の軍服姿の、女性タイプのヒューマノイド宝剣だ。

 

 性格はイオタに似ていかにも軍人と言った感じだが、彼女はイオタ以上に【言葉遊び】を好む所がある。

 

 

「あんだと? やんのかコラ!」

 

「フッ。貴様では光そのものである我を捉える事等出来ぬさ」

 

「とか言いながら、オレ様に一発喰らったのはどこの誰だったかねぇ? あん時のなっさけねぇ姿はケッサクだったぜ!」

 

「あれはエクスが音速(おそ)すぎたから花を持たせただけにすぎぬ。そんな事も分からぬか」

 

「それがめっちゃ床をゴロゴロして痛がってたヤツが言うセリフかよ! なっさけねぇの! なにが光速(はや)いだ! ちょいと手や足を置けば勝手に自爆するだけじゃねェか! それに、言葉遊び(中二病ゴッコ)もたいがいにしろよな! 恥ずかしくねぇのかよ!?」

 

「お、おのれ……! 言わせておけば!」

 

 

 初対面のデイトナとイオタを彷彿とさせるやり取りに、私は懐かしい気持ちになった。

 

 きっとこの二人(エクスとフォトン)は、今の二人(デイトナとイオタ)と同じように仲良く……いや、もうなっているのだろう。

 

 彼らは長くデイトナとイオタを経由して互いを知っているのだから。

 

 ……よし、TASの更新は問題無し。

 

 バグも多少は見つかりましたがすべて修正済みだ。

 

 後は細かい所を調整して……

 

 

「しっかしよぉ、今日はやけに怪我人多くねぇか? 医務室前に列が出来ちまってるじゃねぇか」

 

「今日からこの基地に臨時に配属された()()の能力を測る為のテストの一環だ。治療が出来る第七波動能力者は私達の様な戦闘者よりも貴重な存在。今はまだ落ち着いている故、治療に手の回る限界を測りたいのだろう」

 

「本当かよ? だったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってのはその一環って事なのか?」

 

「……待て、デイトナ。それは確かか?」

 

「あぁ。……何て言うか並び直した奴等、すっげぇだらしねェツラしてやがる」

 

「ミッションが終わったら矯正する必要があるか」

 

「だな。……所でよォフェムト。アレ、放っておいて大丈夫か? あそこで頑張ってる彼女はお前の()()だろ?」

 

 

 そう言いながら、デイトナは()()()()()()()()私に話を振った。

 

 ……本音を言えば、今すぐあの列に居る人達全員吹っ飛ばしたい気持ちはある。

 

 だけどそれ以上に、私は彼女の――エリーゼの事を信じているのだ。

 

 

「大丈夫ですよ。信じてますから」

 

「ふむ。あの位では動じぬという訳か」

 

「なんっつうか、互いに通じ合ってる感すげぇよな。お前ら。……しっかし、まさかフェムトに先を越されちまうなんてなぁ」

 

「私の場合、この手のチャンスはどうしても少ないですからね。頑張りましたよ。本当に」

 

「あん時のお前、無茶苦茶必死だったもんなぁ。まるで別人みたいだったぜ。はぁ……何処かに良さそうな子、居ねぇかなぁ」

 

 

 こんな風にデイトナは言っているが、彼は皇神グループ内の女性陣からの人気がかなり高い。

 

 普段乱暴な所がある人が時折見せる優しさや、本人の外見からは想像できない位常識的な所を持つ点が魅力的なのだとか。

 

 本人には知られていないが、決着が付くのがしばらく先になりそうな位の争奪戦が繰り広げられており、何故か私も――と言うか、この外見のせいなのだろうけど――巻き込まれた事があったりする。

 

 だけど、私はそんな女性陣に対して思う事があった。

 

 そんな風に争っていると、横からサっと掻っ攫われるのではないのかと。

 

 デイトナは私から見ても良き友人であり、男なのだから。

 

 ちなみにだが、イオタは昔ながらのお見合いによって決まった婚約者が居るらしく、この手の悩みには無縁の存在だったりする。

 

 軍人の名家の生まれであるイオタには、今ではすっかり珍しくなったお見合いをする為の人脈があるのだろう。

 

 ……これでよし。

 

 細かい調整はここまでで大丈夫。

 

 後は調整後の確認も兼ねて、エリーゼにテレパスで様子見も合わせて連絡を取ってみる事にした。

 

 まあ、あの状態だからこちらに応答している暇は無いのかもしれないが。

 

 

(テスト。テスト。ただいまテレパスのテスト中。テレパスのテスト中)

 

(あ、フェムトくん。調整終わったの?)

 

(ええ。二人の協力のお陰でバッチリです。そちらの様子は大丈夫ですか? 何やら列が凄い事になってますが)

 

(全然平気。皆思ったよりも傷は浅いみたいだから。ただ、何度も並んでいる人もちらほら居るからちょっと心配な所もあるけど)

 

(それは多分、エリーゼの事が目当てで並んでるだけだと思う)

 

(そうかなリトルちゃん? わたしから見るとアニムスの事を目当てにしているように見えるのだけど)

 

(……アニムスが表に出ているんですか?)

 

(うん。人手が足りないからこう、生命輪廻の力で身体を構築して人手を増やすって感じ。ほら、前に仮想人格達(エリーゼ2とエリーゼ3)に身体を作った事あったでしょ? それと同じ感じかな。……う~ん、一人一人を治療してたらキリが無いなぁ)

 

(これはエリーゼに対する能力テストの一環も兼ねていますからね。音を上げるまでこのままな可能性があります。まあ、ここまで休みなく治療できれば十分合格だと思いますが)

 

(じゃあもうしばらく頑張るね。多分こう言った事って、最初が大切だと思うから)

 

 

 テレパスのテストを終え、TASの調整も完了した私達は早速今回のミッション先である皇神第拾参ビル建設予定地へと向かう。

 

 そこは本来、何もない真っ新な土地だけが存在する筈であった。

 

 しかし移動している最中、前回のミッションと同じ現象が起こる。

 

 そう、ホログラムで構成された建物が姿を現したのだ。

 

 その建物は、恐らく完成した皇神第拾参ビルそのもの。

 

 それだけならば、前回とあまり変わらないと判断することが出来たのだが、今回は更に輪をかけて異常事態が発生している。

 

 

(おいおいマジかよ。話には聞いてたけどよ)

 

(突然ビルが出現するとは面妖な。……それにこの()()()()、これまでの相手とは訳が違うらしい)

 

(アキュラが言うには今回の相手と想定されているインテルスと言う女性は、重力を操る第七波動能力者だと聞いています。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも聞いています)

 

(そりゃあこんだけの事が出来るってんなら、最強なんて言われてもおかしくはねぇだろうな)

 

(へっ! 最強だろうが何だろうが、オレ様の爆炎で消し飛ばせば一緒だぜ!)

 

(おいエクス。重力は我が光に干渉出来る力でもある)

 

(だからなんだってんだよ?)

 

(油断をするなって事だよ! 別に、お前の事を心配してるわけでは無いからな! 本当なんだからな!)

 

(んなムキになんじゃねぇよ。……まあ、お前がそう言うのは珍しいからな。忠告はしっかり受け取っておくぜ)

 

(そ、それなら良いのだ! それなら)

 

 

 第七波動同士による微笑ましい青春にちょっと心を癒されつつ、私達は改めて少し離れた位置から出来たばかりのビルを眺める。

 

 入り口付近を見る限り、リトルマンティスを突入させるスペースは存在しないらしい。

 

 まあ前回のダメージと、これまでの戦闘データの蓄積を反映させる作業もあってどちらにしろ出撃は不可能であったのだが。

 

 とは言え……

 

 

(真正面から突入するのは避けた方がいいな)

 

(ですね。私でも見た事の無いパターンのセキュリティがあるみたいですし。解析する事も多分出来ますが……)

 

(余計な労力は使いたくねぇな。……そういえばよォ、アキュラから突入方法とかを何か聞いてねぇのか?)

 

(そう言えば……資材搬入用の移動中の輸送列車に取り付いて突入したって話を聞いた事があります)

 

(って事はだ。どっかにそれに該当する横穴みてぇなのがあるんじゃねぇか?)

 

(一度周りを良く探索してみるのも手だという事か)

 

 

 ただ、どう言ったルートを進んだとしても私達が来ている事がバレているのは間違いない。

 

 そうで無ければ私達が来たと同時にビルが出現するなんてありえないのだから。

 

 まあどちらにしろ、周りを一度探索する必要はあるだろう。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 私達から見て丁度死角の位置に、資材搬入用の列車が入り込む横穴であろう箇所を発見。

 

 そこも案の定守りを固めている様子が見て取れたが、それ以上に目立つ存在があった。

 

 あれは入り口付近にも居た見た事の無い無人自立型戦闘機らしきモノだ。

 

 確か、アレについてアキュラからデータを受け取っていた筈だ。

 

 

(型式番号BSM-02【ガランド】。向こうの世界でも最新鋭の戦闘機ですか)

 

(おぉ! 未来の技術なだけあって、カッコイイではないか! なあなあフェムト、あの長い砲身、名前がついていたりしないのか!?)

 

(えっと……高出力エネルギー砲【アクセルブラスト】と呼ばれるモノみたいですね)

 

(おぉ! 良い。良い響きじゃないか!)

 

(まぁーた始まりやがったよ。コイツの悪い癖が。……んで、アレに弱点見てぇなのは無いのか?)

 

(爆発物に弱いみたいですね。なので、ここはデイトナの攻撃を主軸にして、私達は周りのメカ達を相手にするのがいいかと)

 

 

 本来ならば私自身が直接取り付いてハッキングから無力化と言う手もあるのだが、前回みたいに建物が崩壊するような事を考えると、完全に破壊する方がリスクは少ない。

 

 それにTASの運用データ取りも兼ねている為、なるべく戦闘データは多めに確保しておきたい思惑もある。

 

 

(んじゃ、その手筈で行こうぜ。他に入り口らしきはねェし、ビルの正面にはコイツが三体居るしな)

 

(では、EPレーダー発動と同時に仕掛けて下さい。デイトナ、頼りにしています)

 

(こっちもお前らの事、頼りにしてるぜ。……この場の軽くなれる性質、利用させて貰うとするか)

 

(周りの相手は私達に任せて貰おう)

 

 

 作戦開始の合図にEPレーダーを発動。

 

 ガランドには【赤いロックオンマーカー】が、その他のメカには【緑のロックオンマーカー】が付与される。

 

 これを合図にデイトナがボルケーノアックスによる炎を纏ったカカトオトシの強襲を叩き込み、間髪入れずに至近距離で爆炎の力による炸裂弾であるアングリーボムを叩き込んだ事で一気に半壊。

 

 それと同時に周りのメカはロックオンする前に展開していたビットからのレーザーによる攻撃である降リ注グ光ノ御柱(ルミナスレイン)によって撃破。

 

 残った相手も縦横無尽にレーザーをばら撒く煌ク断罪ノ滅光(ジャッジメントレイ)によって壊滅。

 

 それでも半壊したガランドは辛うじて無事だった砲身にエネルギーを収束させ始めたのだが、全ては遅すぎた。

 

 

「これで仕舞いだ! デヤーッ!」

 

(あぁ! 折角のカッコイイ戦闘機がぁ……)

 

(フォトン、お前それでいいのかよ……)

 

 

 空間を蹴ると同時に小型エネルギー弾をばら撒く【フェイントアサルト】を離脱と同時にデイトナが放った事がトドメとなり、ガランドを撃破。

 

 私達は無傷での突破に成功する。

 

 まあ、この位出来なければ話にならないだろう。

 

 こうしてこの場に居る敵を全滅させ、私達は先を進む。

 

 そして、私達の視界がゲートモノリスの姿を捉えた。

 

 

「お、ゲートモノリスじゃねぇか。未来でも現役なんだなぁ。コイツはよ」

 

「我らの時代よりも未来でも、変わらぬものもあるという訳か。……フェムト、頼む」

 

「ええ」

 

 

 ゲートモノリスを解除し、私達はビル内部へと突入。

 

 内部は外よりもずっと重力異常がヒドイ有様で、周りに存在するゴミらしき存在が漂うような形で宙に浮いている。

 

 その中には汚れたモルフォ人形なんて物もあり、未来でのモルフォは過去の存在なのだと私達に物悲し気に伝えられた気がした。

 

 そんな中、私達の前に見慣れぬ皇神兵らしき存在が()()()()()()()()複数現れる。

 

 これまでにない相手が現れた事で様子見していると、彼らは()()()()()()()()()()()()()による攻撃を行った。

 

 ……間違いない。

 

 これは紫電も使っている念動波(サイコキネシス)の波動だ。

 

 念動波は移植する際に適応できる人達が多い能力であると聞いている為、珍しい事では無いのだが、それでも一般兵にも能力を使わせることが出来る時点で十分脅威だと言える。

 

 しかし、私達にとってその行為は神経を逆なでするのに等しい行為でもある為、彼らの末路は例外無く消滅すると言う結末である事は確定事項であった。

 

 

「ハッ! 温過ぎんだよ! アイツ(紫電)はこんな生温いナメた攻撃なんざしねぇ!」

 

「紫電様を模倣するのは良い着眼点であるとは思うが……いささか使い方が甘いと言わざるを得ん! ビット達よ、かの者達を断罪せよ!」

 

 

 デイトナとイオタは紫電との付き合いが長い。

 

 なので、この様な事をされたら二人の逆鱗を逆なでする事と同意義であると言えるのだ。

 

 そして、憤っているのは二人だけではない。

 

 私自身、例外では無いのだから。

 

 私は残った相手に対してワイヤーガンを射出し、直撃させる。

 

 そのまま能力と動きを封じ込め、自由落下させる形でかの者に死を与え、ホログラム状へと崩壊させた。

 

 その後、私達は最上階へと続くであろうエレベーターを発見。

 

 電源は落とされておらず、このまま乗り込んで使う事も出来るだろう。

 

 ……念の為、エレベーターをコントロールする為の端末にハッキングを仕掛けて見る。

 

 

(これは……()()()()()()()()()()()みたいですが……ダメですね。下を見る限り、()()()()()()()()()()()()()みたいです)

 

 

 それでも万が一の可能性も考えて降りる事も試してみたのだが、途中まで降りる事は出来た。

 

 だが土の部分を突破するのは流石に無理だったらしく、戻れるギリギリの所で停止してしまう。

 

 なので結局、私達はインテルスが居ると思われる最上階へと向かうしか無かった。

 

 そちらに関しては幸い問題無く機能してくれて、私達は特に障害も無く最上階へと向かう事に成功する。

 

 そして、社長室と思われる場所に突入した私達を待っていたのは……

 

 

『ね? 凄かったでしょ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の必死っぷり♪』

 

 

 いきなりの大暴露をインテルスに叩き込んでいるペスニアの姿であった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇テロリスト達に資金提供をしている皇神上層部について
これまで登場していたテロリスト達は、彼らの資金援助によって活動していた。
何故彼らがこんな短絡的な行動に出たのかは不明だが、目撃者によると彼ら一人一人例外無く()()()()()()()()()()()()()()目が虚ろであったのだと言う。
そしてある日を境に姿をくらませてしまっており、その行方は不明とされている。

〇パンテーラについて
一部で話の矛盾(紫電が久しぶりに会えてと言った所)がありますが、これは勿論ブラフ。
今回は兼ねてより敵対者の正体を把握する為に、前から協力をこっそりと紫電が依頼していた事、即ちニケーの占星術で敵の正体と拠点を知る事を果たす為に戻って来たといった感じ。
本来は共闘する予定など無かったのだが、自身が文字通り手も足も出なかった事から皇神と()()()()共闘する事を提案するに至った。

〇ニケーについて
髪を操る第七波動【タングルヘア】の能力者。
オカルト技術筆頭の、鎖環における裏八雲でも使われている占星術を扱う事が出来る御方。
しかしこの強力な探知能力が今回逆にピンチを招く要因となってしまう。
が、メタ的に言うと最後のトゥルーエンド判定持ちであり、今回の事を口にした場合確定となり、エリーゼを次のミッションに連れて行くと言う選択肢が存在しなくなる。
逆に絶望的な内容を口にした場合は……残念ですが、次のフェムトくんに期待しましょう。
因みにだが、ニケー以外のオカルト探知能力持ちの海外のオカルト組織の人達はペスニアによる逆探知で全て捕捉されてしまっており、彼女は自身を偏在させつつ探りを入れた全組織に対して今回の様に釘を刺している。
そのお陰で副次的に海外ではカルト的な黒モルフォブームが到来するのだが、それはまた別の話。
なお、今回の裏八雲に紫電は話を回さなかった為、後から紫電が頭領さん経由で調べようとするとマズイ事を知らされる為セーフだったりする。

〇紫電達の身体が動かない事について
ある資格を持たない者がペスニアと対峙すると、彼女の許しが無い状態では問答無用で動けなくなってしまう。
本小説内で資格があるのはフェムト、GV、アキュラ、アシモフ、シアン、ミチル、ロロ、テセオさん、ブレイド辺りが該当します。
メタ的な話になりますが対策は勿論存在しており、実はもう現時点で既に対策済みだったりします。
逆に言うと、コレの対策が出来ていないとノーマルエンドが確定してしまう。

〇シスの光学迷彩について
シスは自身の能力を利用して姿を消しており、必要になるとその姿を現す。
理論上いかなる物理現象も引き起こせる念動波の応用の一つであり、本小説内のオリ要素。

〇フェムトとエリーゼが睡眠欲を感じなくなっていることについて
これは生命力が常に体を満たしている事で身体を維持するのに睡眠が不要になってしまったのが理由。
副次的に体の傷の治りが常人に比べてとても早くなっている。
それでも無理矢理眠る方法も当然ある。
それは何らかの形で意識を失う事。
……つまり、番外編案件です。
フェムトくんはエリーゼに対して色々とアレな事をしていますが、逆にエリーゼもフェムトくんに対して色々と致してしまっている。
生命力が体に満ち溢れているという事はつまり元気いっぱい(性欲を持て余している)という事でもある。
だから二人が事あるごとにイチャつく機会も必然的に多かった。

〇エクスについて
爆炎の第七波動がヒューマノイド型宝剣に換装した姿。
デイトナを小さくした感じの男の子であり、性格もそれに準ずる。
後に記載するフォトンとは文句を言い合いながらも、何だかんだでつるむのは悪く無いと思っている。

〇フォトンについて
残光の第七波動がヒューマノイド型宝剣に換装した姿。
思いっきりイオタの言葉遊び好きの影響を見た目も含めて受けている軍服姿の女の子。
エクスに対してツンデレめいた挙動をしているが、まだ互いに色々と自覚していない為喧嘩をする事が多い。

〇イオタの婚約者について
イオタは優秀な軍人を輩出している名家の生まれと言う設定が存在している為、そう言った名家ならお見合い位存在しているだろうと言う事で発生した設定。
これもストラトスの時と同様、名前を出さない予定。

〇デイトナの人気が高いことについて
宝剣による感情の高まりによってボロを出さなければ間違い無くいい人だと思うので生えた設定。
誰に掻っ攫われるのかはまだ未定。

〇ロックオンマーカーの色の違いについて
色に対応した能力者の攻撃が誘導する感じで、対象設定はフェムトが行う形となる。
ゲーム的な設定では、連れてきているメンバーの中で一番効果的な攻撃が可能な人達の色に自動で変化する。


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第三十六話 迫りくる死神の(ヤイバ) 響き渡る少女(リトル)の歌


サイドストーリー

 

 

 

 

 突然現れたビルの最上階へと辿り着いたオレ達の目に先ず飛び込んで来たのは二人の女の姿だった。

 

 一人はフェムトの報告で聞いていた黒いモルフォの姿をしたペスニアって言う姿を見ただけでヤベェって断言出来る女。

 

 もう一人はちょいと変わった薄緑色のボブの髪型をした見るからに「デキる女」みたいな雰囲気を持った女。

 

 フェムトからのまた聞きになっちまうが、確かコイツの名前はインテルスっつう名前だった筈だ。

 

 オレ達が来ている事なんて分かっているだろうに、変身現象(アームドフェノメン)もしていない状態でペスニアと何やらおかしな話をしている。

 

 

『ね? ね? 見てよここ♪ 「お嬢様を助ける為ならば、ワタシはこの様な苦痛、いくらでも耐えて見せましょう!」って部分! 愛されてるわねぇ~インテルスったら♪』

 

『……ペスニア、あまりふざけるのもいい加減にしとき。こないな事で、ウチの心が揺れると思わへんことや』

 

『ふぅん……そんな事言うんだ。でも体は正直よねぇ~。顔がニヤけてるの、隠せてないわよ。いい加減素直になったらいいのに。貴女はもうお嬢様でもガルガンチュアの敏腕女社長でも無くて、只の女なんだから……ね』

 

『…………』

 

『ここには貴女の思う信用ならない部下だって居ないのに、どうしてそんなに片意地張っちゃってるのかしら?』

 

『……アンタ、分かってて聞いとんなぁ?』

 

『フフ……♪ わたしは貴女を()()()()()()()()()()()なんだけどねぇ……そんなに怖いのかしら? ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何て言うか、意地の悪い会話だぜ。

 

 オレ達の視界には()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()姿()()()()()()っつうのに。

 

 しかもご丁寧にインテルスからは完全に死角と来たもんだ。

 

 ひょっとしてペスニアのヤツ、恋のキューピットでも気取ってるつもりかよ?

 

 何が目的でこんな事してやがるんだよ全く。

 

 しっかしあのダイナインってやつ、さっきから顔が二転三転してて初々しいなオイ。

 

 フェムトが言うにはアイツ、三原則だかって言うのを突破してるって話だったな。

 

 ……コイツはある意味ヤベェ状況じゃねぇか。

 

 今迂闊に前に出たら、馬に蹴られてゴー・トゥ・ヘル案件になっちまう。

 

 っておい!

 

 

(イオタ! まだ前に出るんじゃねぇ!)

 

(何故だ? 仕掛けるなら今がチャンスだろう?)

 

 

 オレは前に出ようとしているイオタの肩に手を置いて必死になって止めに入る。

 

 イオタは婚約者居るんだからそんくらいわかりそうなもんなんだが……

 

 

(今は黙って見とけ! 下手に突っ込んだら地獄逝き待ったなしだぞ!)

 

(……ですね。それにインテルスとダイナインは兎も角、ペスニアはこちらに気が付いている様です。不意打ちは通用しないでしょう)

 

 

 フェムトは恋人が居るだけあって理解が早くて助かるぜ。

 

 しっかし、なんっつうか、焦らされてる気分だなこりゃあよぉ。

 

 

(なーなーデイトナ。何の話してんだ?)

 

(オトナの話だ。お前もその内関係して来るかもしれねぇから黙って見とけ)

 

(ふ~ん……)

 

 

 話を戻すが、ペスニアがこっちに気が付いてるのは確かであり、こちらの事を時折チラリと確認しているのだ。

 

 しかもその視線には「今前に出たらコロス」って意思をこれでもかと分かりやすく込めてやがる。

 

 いや、マジでイオタを止めて大正解じゃねぇか。

 

 こんなやっべぇ馬に蹴られるのはゴメンだぜ、全く。 

 

 

『…………そんなん! 恐ろしいに決まっとるやん! ダイナインに嫌われてもうたら、ウチはもう生きていけへん! ただでさえこんな意味分かれへん状況に巻き込まれとるって言うのに!』

 

わたしも好きで巻き込んでる訳じゃないんだけどねぇ……こんな意味分かんない状況だから素直になれって言ってんのよ。ダイナインはもう三原則を越えた存在よ。貴女の想い位、しっかりと受け止めてくれる筈なんだから』

 

『でも、ウチは……』

 

 

 くそ、焦れってェな。

 

 とりあえずあの女社長が素直じゃねェのは分かった。

 

 こういう場合、経験者であるフェムトだったらどうするんだろうな?

 

 そんな風に思いながらダイナインの方へと視線を向け……()()()()()

 

 やべェと思ったのだが、ダイナインはこちらに対してインテルス達に知らせる様子はない。

 

 むしろ何て言うか、これは……助けを求めている?

 

 おいおいちょっと待て、オレは恋愛経験なんてゼロに等しいんだぞ。

 

 こういう時は経験者に頼るのがセオリーだから……

 

 

(フェムト、何かこう、何とかなんねェか?)

 

(……少なくともインテルスさん側に期待するのはダメですね。あの手のタイプは強引に告白に持ち込むのが正解でしょう)

 

(つまりダイナインに頑張ってもらうしかねェって事なのか?)

 

(ですね。こう言う場合男性側が覚悟を決める必要がありますので)

 

(なあフェムト。ソレをあそこに居るダイナインに伝えらんねぇか?)

 

(それをやってしまったら見つかっちゃいますって。……ひょっとして、もう見つかっていますか?)

 

(ああ。オマケに助けも求められてる。訳が分かんねぇ)

 

(えぇ……ですが、状況を動かすにはそれしかありませんね。このままでは千日手なのは確実です。……ここまで短距離なら指向性を持たせたEPレーダーを応用すれば……よし)

 

 

 フェムトが何とかダイナインに通信を送ったらしく、ヤツの表情が変化し、目を白黒させていた。

 

 その後、覚悟を決めた表情をしつつ、オレらの方へと身体を向け頭を下げた。

 

 ……なんっつうか、律儀なヤツだぜ。

 

 そして、意を決してヤツはインテルスの前へと躍り出る。

 

 

『え? ちょ、ちょっとダイナインったら、何で今出てきちゃうのよ!』

 

『な……! ダイナイン! まさか、今までのウチらの話を聞ぃとったんか!』

 

『はい。お嬢s……()()()()()

 

『な……ダイナインが、ウチを呼び捨てに……?』

 

『申し訳ありませんインテルス。ワタシが未だ感情を理解しきれていなかったせいで、貴女をここまで苦しめてしまいました』

 

『…………』

 

『正直に申し上げます。ワタシはインテルスの話を聞いて感情が高ぶりました。心地よい高揚感すら感じたのです。これは恐らく人間でいう所の恋、或いは愛と呼ばれる感情なのでしょう』

 

『ダ、ダイナイン……アンタ、まさか……』

 

 

 あの目茶苦茶お堅い女社長なインテルスがGVに熱視線を送っているシアンちゃんみてェな表情をしている。

 

 具体的に言うと、褐色の肌からでも分かる位熱に浮かされた様に顔を赤くさせて目を潤ませており、正に恋する乙女と言った風貌だ。

 

 女は化けるなんて聞いてはいたが、ここまで変わっちまうもんなのかよ。

 

 

『ワタシはインテルスを愛しています。例えワタシの事をどの様に思っていたとしても、ワタシのこの想いは決して変わる事は無い』

 

『……! ダイナイン!!!』

 

 

 溢れた感情が爆発してしまったのか、遂にインテルスはダイナインの元へと駆け寄り、彼の胸に縋りついた。

 

 そんな彼女をダイナインは優しく抱き止め、髪を撫でる。

 

 そんな状態でしばらくの時間が過ぎ……ダイナインの腕の中で、インテルスが独白する。

 

 

『なぁダイナイン……正直に言うけどウチ、ウチな……ウチの事で一生懸命だったアンタを見て、胸がときめいてたんや。必死にウチの為に頑張っとるアンタを見て、身体を熱くさせとったんや。最低やろ? こんなん、嫌われて当然や』

 

『大丈夫ですよ。その様な事で、ワタシはインテルスを嫌いになるはずが無い。……今にして思えば、インテルスはこれまでの業務上その様な事が許される立場ではありませんでした。だからこそワタシは思うのです。もっと、素直になられても良いのだと』

 

『ダイナイン……』

 

『先のペスニアの言葉の通り、今のインテルスはガルガンチュアの代表取締役社長でも、お嬢様でも無く、只の女性なのです。……ではインテルス、貴女の答えを聞かせて下さい』

 

『ウチは……ウチも、ダイナインの事、好きや! 大好きなんや! 誰にも渡さへん! ダイナインはウチのなんや!!』

 

『ええ。ワタシのこの身はインテルスの為に存在しているのです』

 

『もうウチから離れたらアカン。ずっと一緒や、ダイナイン……』

 

 

 ……すげぇもん見ちまったぜ。

 

 しっかしまあ、人とヒューマノイドとの恋、か。

 

 正直ちょいとしんみりしちまいそうだが、そうもいかねぇ。

 

 一先ずこの二人はいいとして、肝心のペスニアは……こっち見てんなぁ……

 

 具体的に言うと、フェムトの方を見てサムズアップしてやがる。

 

 しっかし、何だってペスニアはこの二人をくっ付けようとしたんだ?

 

 それにさっきっから敵であるオレ達に対して好意的に振舞うその意図は何なんだ?

 

 

『全く、最初っから素直になりなさいよね』

 

『……何の事だか』

 

『ま、いいでしょ。……出て来ていいわよ。アンタ達』

 

 

 やっと許可が降りたと思いつつオレ達はヤツらの前に姿を現す。

 

 しっかし、すっかりやり難くなったな。

 

 

『……! 侵入者が来とったんか』

 

「まーな。一先ずはおめっとさんと言わせてもらうぜ。本当は不意打ちでもかますのが正解なんだろうが……馬に蹴られてゴー・トゥ・ヘルはゴメンなんでな」

 

「そう言う事です」

 

『ふむ……フェムト殿、感謝いたします。アナタのお陰で、ワタシはインテルスと想いを添い遂げることが出来ました』

 

「いえ、ありふれたアドバイスを送っただけで、実行したのはダイナインです」

 

『ありがとうございます……それ故に、本当に残念で仕方がありません。貴方達と戦わなければならない事が』

 

「ええ。こちらもです。……今からでも遅くはありません。剣を引く事は出来ないのですか?」

 

『それが出来れば苦労はあれへん。()()()()()()()()()()()()。ここにおるペスニアのお陰で縛りは緩んどるが、大本が大本だけに根本的にどないもならへんわ』

 

「大本だと……」

 

 

 ただでさえコイツの時点でヤベェってのに、まだ背後に何かいるってのか。

 

 ……いや、そもそもペスニアはシアンちゃんでいう所のモルフォと似たような存在だ。

 

 だったらペスニアを操る大本の存在が居ても不思議じゃねぇのか。

 

 

『ペスニアは第七波動(セプティマ)や。つまり、それを操っとる第七波動能力者(セプティマホルダー)が大本ってことなんや』

 

『ペスニアの大本の第七波動能力者、その名称は■■■■■■■■■■と呼ばれております』

 

「あん? なんだって?」

 

『……やはり、検閲されていますか』

 

『……っ! ちょっとダイナイン! あんまし()()を刺激するの、やめて頂戴な。抑えるの大変なんだから。もし仮に龍放射が洩れたらわたし達もタダじゃすまないわよ』

 

(今、変なノイズみたいなのが……どういう事だ?)

 

『申し訳ありません』

 

「……一つ、いいですか?」

 

 

 フェムトがペスニアに向かって質問を投げかける。

 

 何やら気になる事があるらしい。

 

 

『あら? 何かしら? 今は気分がとってもイイから、ある程度なら答えるわよ』

 

「貴女が翼戦士を嗾けていると聞いていたのに、貴女はまるで彼らを助けようとすらしている。この矛盾、どう言う事なんですか?」

 

『フフ……「わたし」と「わたしを操る能力者」って、貴方達が知っている概念で例えるなら電子の謡精(サイバーディーヴァ)みたいな感じなのよね。そう、互いに同一人物って認識しているみたいにね』

 

「…………」

 

『嗾けてるのは本当よ。「わたしの本体」がそうしてるんだもの。色々と準備をしているのも企んでいるのも本当。それは「わたし」がしている事だから』

 

 

 なんだか話がややこしくなって来たぞオイ。

 

 なんっつうか、ペスニアと本体は互いに思惑が違うってのか?

 

 

『そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()。あるのはもう、只の防衛本能と呼べる物だけ。嗾けているのは結果であり、実態はただの暴走。……ホントにホントの大サービスよ? これ以上はその時に、然るべき舞台で、ね?』

 

「……ありがとうございます。では……」

 

『ええ。始めましょうか。……これもまた大サービスってヤツよ。未来の変身現象(アームドフェノメン)がどんなモノなのかを見せてあげるんだから。二人共、よろしくね』

 

『任しとき』

 

『分かりました』

 

 

 っと、来やがるか。

 

 ……色々とごちゃごちゃとしてきたが、それを考えんのは後回しだ。

 

 今は集中しねぇとな。

 

 ダイナインは胸元の内ポケットから、インテルスは着崩した制服の襟から【羽ペン】のような物を取り出し、切っ先をこちらに向けると同時に幾何学模様の魔法陣らしきものが展開される。

 

 

『『コントラクト!』』

 

 

 それらが二人の身体を通過すると同時に一瞬光ったその間に変身を終える。

 

 ダイナインはさしずめ騎士と闘牛士を混ぜたような風貌をしており、光の剣を片手にオレ達と対峙している。

 

 インテルスは独自の姿をしており、足の部分が一つに繋がって大型の剣のような下半身をしており、両肩に重量がありそうな円月輪を携えた状態で宙に浮いている。

 

 

『更にここから追加よ! 響きなさい! わたしの歌よ!』

 

 

 

 

 

 

 

我が歌うは嘆きの歌

 

誰も守れず悲嘆に暮れ

 

瓦礫の山にて虚しく響く

 

 

SONG OF TITANIA(ソングオブティターニア)

 

 

 

 

 

 

 

空が落ちて 騒ぎ出した 世界の片隅で

 

 

 

静かに藍を織りなす糸 生命縫い止めて

 

 

 

いまこうして 生まれ変わる ふたりの運命は

 

 

 

朽ち果て消えゆくその日まで

 

 

 

たとえ苦しんでも 今は見えなくても

 

 

 

 

 この歌はまだオレ達の世界では発表してねぇモルフォの歌である【藍の運命】。

 

 それをこうしてペスニアが歌っているって事は、やはりコイツは電子の謡精のなれの果てなのだと言う事実をオレ達に突きつける。

 

 この歌と共に、ダイナインとインテルスに蒼黒い雷が纏わりついた。

 

 本来ならばこの時点で二人は暴走するはずなのだが、二人の表情に暴走したと言う痕跡は無い。

 

 コイツの歌で纏う蒼黒い雷は、どうやら暴走を引き起こさないシロモノらしい。

 

 そうなるとフェムトが目撃していた暴走を引き起こしていたのは、コイツの本体の仕業と考えるべきなのだろう。

 

 

『ほな、始めよか。……頼りにしとるで、ダイナイン』

 

『お任せを。インテルス』

 

 

 フェムトからすれば相手が今まで暴走してたから何とかなっていたのだろうが、今回の相手は違う。

 

 強化された力を暴走無しに、存分に振るってくる相手だ。

 

 フェムトは兎も角、オレ達は初見。

 

 TAS(タクティカルエアレイドシステム)が強化されたとは言え、油断をすれば一気に押し負けてしまうだろう。

 

 この手の歌による強化の恐ろしさを、オレとイオタは身をもって知っているのだから。

 

 

「オレ達も気張っていくぞ! お互い望まねぇ戦いだが、向こうは容赦しちゃくれねぇからな!」

 

「ええ!」

 

「うむ。我が国を守護せんが為……この戦、必ず勝たせてもらう!」

 

『望んでいないのは本当で、わたし達も同じだけど、勝負とあらば勝たせて貰うわよ。もう既に布石は撒いてあるんだから』

 

「布石だぁ?」

 

『そもそもの話だけど、第七波動は精神がモノを言うわ』

 

 

 ペスニアはそう言いながら二対の【翠の鎌】と形容すべき武器を出現させ、連結させた状態で構える。

 

 その姿は黒いモルフォの姿もあり、まるで【死神】を連想させるもので、本気でこちらの命を刈り取ろうと言う意思をありありと見せつけた。

 

 

『貴方達はダイナインとインテルスと話をし、少なからず共感してしまうだけじゃ無く、二人の問題を解決すらしてしまった。そんな二人を相手にするのは心苦しいのでは無くて?』

 

「ハッ! オレ達がそんなタマに見えんのか! 舐めんじゃねぇぞ!」

 

「公私混同など、我等にあるまじきことだ」

 

『流石、七宝剣の能力者っちゅうだけあるな。……せやけど、()()()()()()()()()()()?』

 

「……!」

 

『フェムト様は見た限り、お優しい方なのは間違い無いでしょう。ですが……』

 

『それはこの戦いにおいては致命的なのよねぇ~。……動きが鈍ってるわよ! それじゃあこの先の戦いを生き残れないわ! 前に言ったわよね? 次に会ったら身も心もわたしのモノにするって。……本当に、そうなっちゃうわよ?』

 

 

 ちょっと待て、コイツらまさか、最初からフェムトの事を……!

 

 いけねぇ、立て直すまでフォローに回らねぇと!

 

 

『ダイナインはデイトナの足止め! インテルスは()()()()よろしく!』

 

『畏まりました』

 

()()()()()人使いの荒いやっちゃな。全く。ほな、見せたるわ!』

 

 

 インテルスの両肩の大型の円月輪が宙に浮き、ある程度距離を離したと同時に指向性の重力波が地面に放たれ、フェムトは身動きを取れなくなってしまう。

 

 アレは初見で躱すのは困難であり、オレでもある程度喰らわないと見切るのは難しい。

 

 その指向性の重力波が発射されたと同時にイオタがインテルスにビットによる攻撃でこれ以上手を出させないようにしているが、正直かなりヤバい。

 

 実際オレもダイナインに足止めされてしまっており、フェムトの救援に向かうことが出来ない状態なのだ。

 

 

『んふふふ。つ・か・ま・え・た♪ ……フェムト、貴方はもう助からない。これで人生ゲームオーバーよ。それで、次の転生先は……わたしのコ・マ・よ♪』

 

「ぐ……」

 

『さあ、先ずは刈り取る為の前準備! 行きなさい!』

 

 

 ペスニアから本人と同じ姿の黒いモルフォが無数にフェムトにゆっくりと向かっていく。

 

 向かって来た黒いモルフォが触れると同時に、フェムトの頭上に()()()()()()()()()()()が四つ現れ、その一つが消失した。

 

 アレが何を意味しているのかは分かんねぇが、全部消失しちまったら碌な事にならないと言うのは確信できる。

 

 それだけに、もう間に合わないのが確定してしまっているのが歯がゆくてしょうがない。

 

 

「退きやがれ! 今はテメェに構ってる暇はねェんだよ!」

 

『残念ですが、それは出来ません。……それにもう手遅れです。ああなってしまってはもう助かりはしません』

 

『ま、ウチらからすれば()()()()()()()()()()()や。ウチとダイナインに良くしてもろた礼もある。少なくとも、悪いようにはしぃひん。……と。今のウチはこんな事も出来るんや。あんたんのお得意のレーザー、通用せぇへんよ』

 

「ぐ……」

 

 

 インテルスは自身に放たれたレーザーを屈折させ、直撃を避ける。

 

 そういえばフォトンのヤツが重力は光に干渉出来るって言ってたっけな。

 

 って言うか、そんな事はどうでもいい!

 

 今はフェムトだ。

 

 アイツの頭上の霊魂らしき物はもう一つしか残っておらず、更に追加で黒いモルフォが接触しようとしていた。

 

 

『フフ……これで前準備はおしまい。B.B……わたしに力を貸して

 

 

 ペスニアは愛おしそうに連結した鎌を携え、口付けを落とすと同時に大型の緑色の刃を展開。

 

 対するフェムトには何やらドクロの様な物がロックオンされたかのように張り付いており、それはさしずめ死の宣告を告げているかのようだ。

 

 

『フェムト! 貴方はもう、死んでいるわ!!』

 

「かは……!」

 

 

 大型の死神の鎌がフェムトを捉え、その首と身体を分けた。

 

 それと同時にフェムトの身体は爆散し、辺り一面にアイツだったものの残滓が幻想的に青い輝きと共に舞い散る。

 

 

「フェムトォォォォォーーー!!!」

 

『アハハハハハハハ♪ これでもう貴方はわたしの……』

 

 

 

 

――――させない

 

 

 

 

『え?』

 

 

 

 

――――フェムトは、私が護る!

 

 

 

 

 

 

 

私の歌はただ一人の為の歌

 

貴方に捧げる魂の歌

 

そして、貴方を繋ぎ止める楔の歌

 

 

SONG OF PULSAR(ソングオブパルサー)

 

 

 

 

 

 

 

初めて貴方から離れた時 私は不安だった

 

 

 

一つで居るのが当たり前だったから

 

 

 

でも 私は知った

 

 

 

貴方の姿を 貴方の声を 貴方の温もりを

 

 

 

少し離れた景色が綺麗である様に

 

 

 

少し離れた貴方は 一つで居た時よりも綺麗だった

 

 

 

 

 フェムトが散った場所を中心に、リトルの歌が響き渡る。

 

 その歌はモルフォやペスニアの歌に比べれば拙く、お世辞にも上手とは言えない物だ。

 

 だけど彼女の心からの想いは伝わって来る。

 

 フェムトに対する感謝と愛情が。

 

 そして、散ったフェムトの残滓が再集束し、一人の少女の姿が顕現する。

 

 背中に小さな赤い羽根を、頭に赤い輪っかを携えながら。

 

 

『こんな所で終わっちゃダメ! 立ち上がって!』

 

 

 天使と見紛う姿をしたリトルが両手を掲げると、その手の先から爆散したはずのフェムトが肉体を再構成する形で復活を果たす。

 

 これはあの時の、まだ敵だった頃のGVを追いつめて仕留めたと思ったら復活を果たした時と同じ現象だ。

 

 そして、そんな復活をするという事は当然……

 

 

『何やて!? あの状況で復活!? イクスと同じ事するんかこのボウズは!?』

 

『フ……フフ……アハハハハハハハハハ♪ そうよ! そうよ! そうこなくっちゃ! そうじゃ無いと張り合いが……!? あうっ……!!』

 

『ペスニア!』

 

 

 当然、フェムトの第七波動(セブンス)も同様に力が開放されてるって事になる。

 

 今のフェムトは体全体から本人の長い金髪が大きく靡く程の蒼白い雷のオーラを身に纏っており、何て言うか、()()()()()()()()()()のだ。

 

 そんなフェムトは復活の直後、手をペスニアにかざすと同時にSPスキルである雷の聖域(パルスエクソシスム)をノータイムで発動。

 

 ペスニアを吹き飛ばすと同時にフェムト達はオレ達と合流する。

 

 

「ありがとうリトル。危うく彼女を一人にしてしまう所でした」

 

『ん。こんな時が何時か来るって思ってた。だから、色々と準備してた』

 

「「フェムト!」」

 

「デイトナ! イオタ! 心配をかけてゴメン」

 

「ゴメンじゃねぇよバカヤロウ! 後で色々文句言ってやるからな! もうくたばるなんて真似したらタダじゃおかねェぞ!」

 

「相手は体勢を崩している。フェムト、勢いのある今の内に、一気に畳みかけるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 フェムトが復活した影響なのか、TASを経由してオレ自身にも力がみなぎっている。

 

 これは恐らく今のフェムトからのおこぼれみたいなものだろう。

 

 今ならイオタと考案中だった合体SPスキルを扱う事だって出来るはずだ。

 

 

「合わせろイオタ! 例のアレをぶちかますぞ!!」

 

「奇遇だなデイトナ! 私もそう思っていた所だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

陽より来たれ核熱の龍

 

気高き憤怒の赤光よ

 

総て焼き切る終焉の刃となせ

 

 

プロミネンスブレイド

 

 

 

 

 

 

 

 体勢を崩している三人に対し、畳みかける様にオレ達は兼ねてより構想を練っていただけの合体SPスキル【プロミネンスブレイド】を発動。

 

 本来ならば初期段階の攻撃部分は相手を追いつめる為の牽制目的で放たれる物なのだが、それをフェムトが覆す。

 

 これまでは攻撃した直後のタイミングでEPレーダーを発動しても初弾の攻撃の誘導は間に合わない筈なのだが、今の強化されたフェムトならば十分に間に合う。

 

 

「これがEPレーダー改め、【フラッシュダート】です! タイムラグなんて与えません! デイトナ達の連携攻撃の全て受けて貰います!!」

 

『アカン! こうなったら被害を抑える為に少しでも落とさんと……! ダイナインはフェムトの一撃で目ぇ回しとるペスニアをマントで守るんや!!』

 

『畏まりました』

 

 

 

 

 

 

 

夢破れた秩序なき墓

 

鋼の遺物たちが目を覚まし

 

踏み入るものを包み砕く

 

 

グラヴィトンスクラバイター

 

 

 

 

 

 

 

 オレ達の連携攻撃に対しダイナインはペスニアの護衛を、インテルスは迎撃を選択。

 

 彼女は巨大化させた円月輪を盾に、オレ達の攻撃を迎撃するつもりなのだろう。

 

 だが、今のフェムトのロックオン誘導は一味も二味も違う。

 

 俺達の攻撃は円月輪を透過し、真っ直ぐに三人目掛けて突っ込んでいき、弾幕を浴びせかけて動きを封じる。

 

 そして、イオタはトドメに終焉ノ光刃(ゼロブレイド)を放ち、オレは……()()()()()S()P()()()()()()()()

 

 それはGVの雷の聖剣を参考にした、オレの足に宿る焔の聖剣。

 

 

 

 

 

 

揺らめくは太陽宿りし聖剣

 

紅炎の暴虐よ 敵を貫け

 

 

プロミネンスキャリバー

 

 

 

 

 

 

 

 オレはイオタの終焉ノ光刃に合わせて最大戦速で突っ込み、右足に宿る焔の聖剣を前に出し、そのままの勢いで飛び蹴りをインテルスに叩き込む。

 

 

「オオオオオオオオオオオオッ!!! 貫けぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

『クッ……ダイ、ナイン……!』

 

『申し訳ありません、インテルス……!』

 

 

 終焉ノ光刃に飲まれる寸前だったダイナインはペスニアを影響範囲外から弾き飛ばす。

 

 それと同時に、自身は光が創り出した虚無に飲み込まれ、そのままホログラム状に姿を消した。

 

 インテルスもオレの蹴りがそのまま身体を貫通し、同じくホログラム状に姿を消す。

 

 これで勝負は決した。

 

 そう、オレ達の逆転勝利だ!

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

『……あ~ぁ、今回はわたしも参加したんだからイケると思ったんだけどなぁ』

 

「へっ! あんましオレ達を甘くみんなってんだ!」

 

『ま、いいわ。これで()()()()()()()()()()()()()()()わたしの最低限の目的は果たされたし』

 

「……なんだと?」

 

『フフ……策士って言うのはね、どんな状況になっても美味しくなるように仕込むモノなのよ? わたしはインテルスの開放が出来たし、貴方達の現状の力を見ることが出来た。フェムトに関してはもう少しだったんだけど……ま、これ以上はヤブヘビになりそうよね』

 

『…………』

 

『おお怖い怖い。そんなに睨まないで頂戴な。カワイイ顔が台無しじゃない』

 

『やだ。フェムトの事、取ろうとした。……私知ってる。貴女のような人の事、【泥棒猫】って言うんでしょ?』

 

『ちょ……! 違うわよ! フェムトはあくまでカワイイのとわたしの目的に必要なだけで、わたしの想い人は別に……! っと、危ない危ない。余計な事を口にする所だったわ。なんて恐ろしいのかしら、この子は。ま、これ以上ここに居てもしょうがないから、わたしはお暇させてもらうわね』

 

 

 そう言いながら、ペスニアはそのまま壁を透過し、去っていったのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇ペスニアが二人をくっ付けようとしていることについて
これに関しては複数の理由が存在し、余りにもこの二人がじれったく見えてしまう事が一点。
互いがくっ付いた時に発生する精神的高揚による第七波動の強化(バフ)が一点。
フェムト達を巻き込み、二人に対して遠慮させる事による一時的な精神的弱体化(デバフ)が一点。
そして最後に、自身の時h……まだ、語る時ではない。

〇この二人をくっ付けずに不意打ちをした場合について
例えばまだこちらに気が付いていないダイナインに不意打ちをして退場させるとインテルスに怒りによる超強化が付与され、今回のお話以上に苦労する事になる。
と言うか、二人をくっ付けた方が結果的に強化幅を抑えることが出来る為、結局の所フェムト達は最適解を選んだと言う扱い。

〇ペスニアのSPスキルの詠唱について
彼女がこの世界に来る直前、どの様な境遇だったのかを端的に示した物。
彼女は自身を第七波動能力者(セプティマホルダー)の守護者と名乗っていた時期もあったと語っていたのだが……

〇二つの蒼黒い雷について
これまでのお話において、イソラと初回のダイナインが纏っていたモノはペスニアの本体からの物で、強い力を発揮することが出来るが強すぎる暴走の力のお陰で意識すら奪われかねないシロモノ(ベルセルクトリガー)
もう一つはペスニアによるSPスキル。
制御が出来る代わりに強化幅は大本に比べて低め。

〇翠の鎌について
イマージュパルス技術を応用したモノで、ペスニアがこの世界に来る前に組んでいた相方が使っていた得物。
彼女はこの鎌とかつての持ち主に対して並々ならぬ想いを秘めている。

〇フェムトの初死亡について
メタ的な話になりますが、今回の戦闘による死亡は所謂【ムービー銃】の様な物で、復活ソングのチュートリアルの為に死亡する、みたいな感じ。
なお、設定的な話をするとこれまではフェムトと組んでいた能力者も合わせて数の上で翼戦士側に対して優位に戦えていたのが、今回の戦闘では三対三である上に色々と仕込みによる敵側の精神的バフと味方側の精神的デバフも上乗せした結果初死亡、と言った感じになっている。
実際にプレイヤーに操作が委ねられるのは復活後で、そこから無双する流れでカタルシスを得ると言う設計。

〇覚醒時のリトルについて
天使の因子が活性化する事でえころと同じ羽と輪っかが顕現し、空を飛べるようになる。
ゲーム的な話になりますがそれだけでは無く、原作の歌姫(モルフォやロロ)みたいに背後でふよふよ佇んでくれる他、自動で回復やロックオンもしてくれる。

〇覚醒時のフェムトについて
青白い雷のスーパーナントカ人的なオーラを身に纏い、様々な能力が超強化されたフェムト。
この間EPとSPの制限が解除され、SPスキル等が撃ち放題となる。
勿論スキルそのものの性能も強化されており、EX凍結都市でのGVみたいにノータイムでSPスキルが使用可能となるだけでは無く、蒼黒い雷を纏った相手からによる攻撃を電磁結界(カゲロウ)で回避可能となる。
他にはTASで接続されている仲間の基本性能の底上げや一部特殊なSPスキルの解禁等、今回の話では説明できない要素も多数存在している。

〇フラッシュダートについて
EPレーダーを覚醒時に使用する際に強化された時の名称。
EPレーダーの着弾速度がノータイムとなり、画面全体に存在する敵全てを瞬時にロックオンする事が可能。
ガンヴォルト鎖環での暴走GVが使うフラッシュダートと効果は同じで、逆輸入した物。

〇プロミネンスブレイドについて
ガンヴォルト鎖環において、二人が使うSPスキルを逆輸入。
ロックオン要素も加わった事で全ての攻撃が必中である為、メタ的な話になりますが威力は上位に位置する。

〇プロミネンスキャリバーについて
デイトナがGVのスパークカリバーに対抗しようと編み出したSPスキル。
単独でも使えるが、プロミネンスブレイドの締めにも使う。
右足に焔の聖剣を纏わせた飛び蹴りによる一撃は本家の物(スパークカリバー)と遜色ないと言う設定。


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第三十七話 龍を調律する希望の光 歌の力の代償



サイドストーリー





 【龍放射】。

 それは第七波動能力者(セプティマホルダー)が行き着く果てと呼ばれている【暴龍】と呼ばれる存在がまき散らす放射線。

 この放射線は浴びた他の第七波動能力者を暴龍に変えてしまう性質を持つ。

 そして暴龍となった第七波動能力者は理性のタガが外れ、やがて人の姿を維持出来なくなり、本能のままに破壊と殺戮をもたらすバケモノと成り果てる。

 まだ未熟な頃のオレは、父さん(神園博士)が残した研究データに残されていたこの情報を根拠に彼らの事をバケモノと呼んでいた。

 人類を滅ぼす害悪、人に仇成す悪鬼羅刹と罵り、父の仇であるという事、そして意思を継いだと言う大義名分(ハリボテ)の正義を胸に秘めて。

 最初はこれで正しいのだと思っていた。

 しかしある時を境に、この考えは思わぬ形で覆される事となる。

 それはオレの妹であるミチルが能力者であると言う事実。

 オレの世界で討滅したパンテーラから知らされた認めたくない、だが間違い無く事実であるこの情報は、オレをミチルから遠ざけた。

 ……いや、違うな。

 ミチルが能力者であると言う事実から逃げた臆病者、それがオレなのだ。

 そうして逃げ出してしまったから、オレはミチルを守ることが出来なかった。

 脳を摘出され、機械に繋がれ、恒久平和維持装置等と言う悍ましい存在に成り果ててしまったのはオレの責任なのだ。


(……一人で居ると、余計な事ばかり考えてしまうな)


 こんな事を考えているオレは今、紫電に頼んで用意してもらった前線基地に存在する防音室の中に居る。

 この世界で父さんと共同研究をしていたと言う、ニコラと話をする為に。

 ……龍放射の件は、ロロには話していない。

 何故ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 オレ達の使う第七波動は【疑似再現】と呼ばれる科学的手法で再現した、極めて安全性が高いとされている技術を用いている。

 これまでの実戦も含めたデータを見る限り、()()()は龍放射をロロから検出したと言う事実は無い。

 だが、それが何時までも続く保証等どこにも無いのだ。

 事実、ロロの並行同位体である【マザー】は暴走してしまっている。

 彼女が暴走した原因が龍放射であると確信は出来ないが、もしそうであったならば……

 オレ自身、覚悟を決める必要がある。


「よう。待たせたな」

「………………来たか」

「おう。んじゃま、早速情報をすり合わせるぞ」

「ああ。……龍放射の件、何処まで知っている?」

「暴龍が放つ特殊な放射線で、能力者が浴び続けると同じように暴龍になっちまうシロモノって辺りだ」

「……大体オレと同じ範囲だな」

「んじゃあ、次はこっちから質問させて貰うぜ。【青龍計画】、【宝玉因子(スフィアファクター)】、これ等の言葉に聞き覚えは?」

「……? なんだそれは」

「知らねぇか。って事は、この辺りがお前の世界と俺の世界とで明確に差がある要素って事だな。んじゃま、説明させてもらうぜ」

「頼む」


 オレの今の心境は、正に溺れる者は藁をも掴むと言った状態だ。

 何故ならば、一人で居た事で目を背けていた事実と向き合わざるを得なかったからだ。


「まずは青龍計画についてだ。青龍って言えば春を司る存在であり、転じて生命力、或いは可能性をもたらす存在でもある。つまりこの計画にある青龍ってのは無限の出力と可能性を持つとされている蒼き雷霆(アームドブルー)の暗喩だな」

「…………」

「んで肝心の計画の内容なんだが……蒼き雷霆の因子から龍放射を何とかする可能性のある因子を取り出す、或いは作り出すってのがこの計画の趣旨だな。んで、龍放射を何とか出来そうな因子、コイツを宝玉因子と俺達は呼んでいた」


 宝玉因子……その様な都合のいいシロモノが本当に存在するのか?


「だが、そもそもの話になるがこの計画の成功率は限り無く0に近かった。何せこの計画は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからな。何せ当時の皇神グループは微塵も信用出来なかったし、その関係で人手も絶望的だったしな。この辺り、お前も良く分かるだろ?」

「ああ。それはもう嫌になる位にな」

「そんなんだったからこそ、見つけた時は目ん玉ひっくり返る位驚いたんだぜ? いやぁ~アレは神園博士の機転が無かったら見つかんなかったぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて目茶苦茶な案だったんだけどな」

「……良く父さんがソレを実行したな」

「俺に浄化する手段(春雷)があるのを知ってたからな。もっとも、浄化できる範囲が狭いし乱発も出来ん。オマケに科学的再現も無理だったもんでなぁ……。まあそれでも隔離所内の龍放射を浄化する位は出来るのさ」

「(……この男、父さんが認めるだけの事はある)それともう一つ質問がある。……()()()()()()()()()()()()()?」

「……お前、分かってて聞いてるだろ? ノーコメントだ。それについては俺の口からも話す訳にはいかん。ただ言える事があるとすれば……それだけ俺も神園博士も必死だったって事さ」

「どれだけ危ない橋を渡っているか、理解しているのか?」

「しているさ。だが結局の所、何もしなければ結末は同じさ。……そのセリフも、神園博士から言われたなぁ」


 それは禁忌の中の禁忌。

 決して起こしてはならない忌むべき赤子。

 その名はメビウス

 恐らくだが、ニコラは恐れ多くも禁忌の赤子から龍放射を採取したのだろう。


「話を戻すぞ。まあそんな訳で宝玉因子を見つける事は出来た。だがな。問題はここからさ」

「……因子に適合する人物が居なかった。そう言う事だろう?」

「ああ。そりゃあもうダメダメだったさ。この頃はもう神園博士もお前の知る出来事で亡くなっちまったし、実質俺一人の作業だったからな。辛うじて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言うカバーストーリーを作って居場所を確保するので精一杯だった。正直、この時点で俺自身半分は諦めていた。何しろ適合者が居ねぇんだ。どうしようもねぇ」

「ならば、適合者は見つからなかったのか?」

「見つけたさ。いや、正確に言えば創り出したと言った方が正しいか。それもあって半ば強引でヤケクソな方法ではあったがな。簡単に言うとだな、知り合いの【天使の因子】を用いて拒絶反応を無力化したのさ」

「……? 今、何と言った?」

「あ~……いきなり【天使】なんて言われてもピンと来ねぇよなぁ……まあ、アレだ。オレは科学者ではあるが、それ以上にオカルト知識の方が豊富なのさ。それが理由で未来研究所で神園博士と知り合えたってのもあるが。因みにだが、【悪魔】なんてのも存在するぞ」

「……あまり関係の無い事を話されても困るのだが」

「んなこたぁねぇだろうよ。何しろお前の……おっと、何でもない」


 いや待て、何でそこで止める。

 それでは仮にも退魔の一族である俺の家系に悪魔が入り込んでいると暗に言っているのと同じでは無いか。


「まあいいじゃねぇか。少なくとも害はねぇんだからよ。……また脱線しちまったな。まあそんな訳で、めでたく適合者は現れた。ソイツの名前はフェムト。俺もお前も良く知るアイツだ」

「……! フェムトだと!?」

「おう。……本当に、奇跡に奇跡が重なったと言っても過言じゃねぇ経緯でアイツは生まれた。よって、これで俺の世界は救われ、末永く人の世は続くのでありました。めでたしめでたし……という訳にはいかなかった。ま、当たり前の話だが。まだ問題点は残ってんだ。それはな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。こう言った解析は神園博士の分野だからな。色々と悪あがきもしたが、俺じゃあどうしようも……」


 そうか。

 オレが諦めていた龍放射への対処の鍵は、フェムトだったのか。

 ならばオレは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事になる。


「ニコラ」

「あん?」

「オレは以前、フェムトと紫電を相手に戦った事がある」

「おう。それは知ってるぜ。お前とある程度渡り合えるなんてフェムトのヤツも随分成長したもんだと思ったもんだが」


 ガラにも無く、オレの無い筈の胸の鼓動が高鳴っているのを感じている。

 父さんが本当の意味で求めていた人類を真に救済する手段。

 それをオレはもう所有している事になるのだから、高鳴るなと言うのも無理があるだろう。


「オレは戦った第七波動能力者の力を再現する、疑似再現と呼ばれる技術を持っている。当然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……マジか」

「元々蒼き雷霆を疑似再現した動力炉であるABドライブと、フェムトの第七波動が共鳴した事に興味を持ったのが理由で作成してみたのだが……」

「待て待て待て! 一度にヤベェ情報を雪崩のように出すんじゃねぇ! 何しれっとプロジェクト・ガンヴォルトの悲願を出してやがる! それに、共鳴したってどういう事だ!? 俺はそんなん知らんぞ!」


 ニコラは青龍計画と宝玉因子の事に関して話をしている時、妙に得意げな顔をしていたのだが、その理由が今のオレには良く分かる。

 恐らく今のオレの表情は、さっきまでのニコラと似たような得意げな顔をしているのだろうな。


「共鳴した理由については俺も同じように分かっていない。だが、お前から聞いた経緯を考えれば想像は出来る。言わば蒼き雷霆と青き交流(リトルパルサー)は兄妹の様な物なのだから。……一応言っておくが、ABドライブの情報を渡すつもりは無いぞ?」

「当り前だ! んなもん表に出しちまったら戦争だぞ! 冗談抜きで! ……ったく、こう言う事をシレっとする所、神園博士そっくりだぜ」

「父さんに?」

「ああ。神園博士は俺達の基準ではぶっ飛んだ事を、今のお前の様にさも当然の事みたいに話すもんだからなぁ……ま、それは置いておくとしてだ。フェムトの疑似再現したブツはこの場にあるのか?」

「あぁ。オレが使用している装備の予備動力源として運用している」

「なら早速研究するぞ! 龍放射が浄化される原理が分かればこっちのもんだからな!」

「……研究するならば、一度戻って未来にあるオレの研究施設を使うのが良いだろう」

「あん? ひょっとして連れてってくれるのか?」

「ああ。お前は龍放射に関して情報を共有できる貴重な相手だからな。それに、向こうで研究する場合はこちらでの時間の事を気にする必要は無いからな」


 こうして龍放射に関して互いに情報を交わし、オレ達はそれぞれ準備をする為に部屋を後にした。

 オレは足早にロロの元へと急ぐ。

 恐らくだが先の話を聞いた限り、ロロが暴龍と化す可能性はもう無いだろう。

 LPCS(リトルパルサーコントロールシステム)の力によって。


『あ、アキュラくん。終わったの?』

「ああ。……ロロ、早速で悪いが一度元の世界へ戻る。あの男を連れてな」

『えぇ!? それって大丈夫なの!?』

「ああ。ニコラはオレ達、いや……人類存続の為の研究に必要なんだ。それに、GVから得られたデータを元に装備の最終調整もする必要がある」

『向こうなら時間を気にする必要無いもんねぇ。……アキュラくん、なんだかスッキリしたような顔してる。何かいい事でもあった?』


 ……ロロはオレの事を良く見てくれている。

 そう思いながら、徐にロロの小さなボディを抱き寄せ、顔を合わせる。


『わわっ! どうしたのアキュラくん? らしく無い事しちゃってさ。……ひょっとして、今更ぼくの魅力に気が付いちゃったり、なんて』

「大事な話がある。お前の事に関わる、とても大事な話だ」


 オレはロロに龍放射の事を打ち明ける。

 そして、ロロが暴龍になってしまうのではと言う疑念の事も。


『……そっか、ぼくはそんな風になっちゃう可能性、あったんだ』

「ああ」

『でもさ、それはもう大丈夫なんだよね?』

「ああ、フェムトの第七波動のお陰でな」

『そっか……因みにさ、もしぼくがそうなっちゃったら、アキュラくんはどうしてた?』

「…………生きるも死ぬも、お前と一緒だ。オレが言えるのは、これで精一杯だ」

『……ならいいや♪ それじゃあもう辛気臭い話はおしまい! 早く戻って研究しよう!』


 その言葉とオレがロロの事を手放したタイミングでモード・ディーヴァへと姿を変え、オレに向かって笑顔を見せた。

 こうしてオレ達は龍放射に対する希望を知り、一度未来へと帰還するのであった。






 

 

 

 

『あぁそうそう、このビルはもう消しちゃうから、脱出頑張ってね~♪』

 

 

 壁を透過し、去っていくペスニアが最後に私達に告げた言葉は、ダイナインの居た施設から脱出した時と同じ状況になるという事を端的に表していた。

 

 現に辺りを見回してみればホログラム状に分解され始めている。

 

 しかし、今回は前回と違って状況が少し違う。

 

 前回の時は初見なのに加え、地下であった事から脱出を急ぐ必要があった。

 

 しかし、こうなると分かっているのならば話は別だ。

 

 私はTASを予め待機していたメラクへと遠距離接続し、連絡を入れる。

 

 

(メラク!)

 

(思ったよりも早く終わったみたいだね。もっとゆっくりしてくれても良かったのに。んじゃま、亜空穴(ワームホール)に指示出しとくから早く脱出しなよ)

 

(ありがとう!)

 

 

 連絡を終えた直後、メラクの展開したワームホールが出現。

 

 私達は即座にワームホールへと飛び込み、無事脱出に成功する。

 

 

ちょ……ちょっと貴方達! 折角脱出の為のシチュエーションを用意したのに!! いくら何でもそれはズルい……

 

 

 何か聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

 そんな訳で私達は無事に前線基地へと帰還し、変身現象(アームドフェノメン)を解除する。

 

 それと同時に、私はその場に倒れこんでしまう。

 

 この天井は訓練場の物であり、私が倒れこんでいるのは丁度中心と言った所だ。

 

 私はそっと首に手を当て、繋がっている事を確認する。

 

 ……あの時の、首を斬られた感触がまだ残っている。

 

 そんな風に思った時、私を見下ろす形で変身現象を解いたデイトナが話しかける。

 

 

「お疲れさんフェムト」

 

「デイトナ」

 

「今回は流石のオレも肝を冷やしたぜ。……その様子じゃあ随分と堪えているみたいだし、今回はこの位で勘弁してやる。歯ぁ食いしばりな!」

 

 

 そう言いながら、私の頭に痛みを感じる程度のゲンコツが降り注いだ。

 

 頭に響くこの痛みが、私はまだ生きている事を実感させてくれる。

 

 今回は本当に私自身反省すべき所が余りにも多かった。

 

 私自身が真っ先に狙われる可能性を考慮に入れなかった事を初め、相手に情けをかけた事による精神的な戦い難さを付けこまれる、敵地であるにも関わらず警戒が甘かった点等、挙げてしまえばキリが無い。

 

 それに、心の何処かで私自身死ぬ事は無いと漠然と思っていた事も原因だろう。

 

 

「フェムト」

 

「イオタ……」

 

「お前は本来戦士では無い身でありながら、これまで本当に良く戦ってくれている。これは誇っていい事だ。……だが、戦いはこれから激化すると聞いている。ならばこそ、今回の戦いを糧にして再び立ち上がってくれる事を、私は信じている」

 

 

 私はイオタの言葉を聞いた後、目を瞑る。

 

 思い浮かぶのは、エリーゼの笑顔。

 

 大丈夫。

 

 私は立ち上がれる。

 

 そう思いながら目を開けると、今度はリトルが私を見下ろしていた。

 

 

「フェムト」

 

「リトル。今日は本当に助かりました」

 

「ん。フェムトを守るのが私の役目」

 

 

 そう言いながら、リトルは私に手を差し伸べる。

 

 彼女の手を私は迷わず手に取り、力を借りて再び立ち上がった。

 

 そして、改めてリトルの姿を見る。

 

 私が蘇生した時と同じ様に、リトルの頭と背中に赤い輪っかと羽が生えており、その姿は正しく天使を連想させた。

 

 私は徐に輪っかにそっと触れてみる。

 

 リトルは顔を赤く染め、声を殺すような仕草をしながら身体を震わせた。

 

 どうやらこの輪っかには感覚が存在する様だ。

 

 リトルは頭の輪っかを手で隠すようにしながら私に話しかける。

 

 

「フェムト、輪っかに触るの禁止」

 

「ゴメンゴメン。見慣れない物だから、つい気になっちゃって。……その輪っかと羽、仕舞えないの?」

 

「ん。フェムトを蘇生させた時の影響なのか、ずっとこのまま」

 

「そうやって表に出されると、ついつい気になって触ってしまいそうになるよ」

 

「む~~……。触るのはお家でエリーゼとアニムスが一緒の時だけ。その時なら好きなだけ触っていいから

 

 

 リトルから許しを得た所で、私は一緒に自室へと向かう。

 

 その帰りの最中、見かけた医務室は落ち着きを取り戻していたのでエリーゼの様子見と怪我人の有無の確認をする為に入室する。

 

 私の場合、治療手段であるリカバリーヴォルトが使える為、フリーで入室する事が出来るのだ。

 

 部屋の中では私もお世話になった事がある治癒の第七波動を扱える女性医師が居るのだが、今は留守にしている様で、代わりにエリーゼが部屋の中で待機していた。

 

 ミッションに向かう前はあれだけ沢山居た怪我人もおらず、エリーゼは見事にさばき切ったのだろう。

 

 

「あ、フェムトくん!」

 

「戻ったよ、エリーゼ……!」

 

 

 エリーゼは私とリトルの姿を見た途端、駆け寄って私達の身体を抱きしめた。

 

 心なしか、いつもより強く抱きしめられているように感じる。

 

 

「良かった……良かったよぉ……」

 

「エリーゼ?」

 

「フェムトくんの生命力(ライフエナジー)の反応が突然無くなっちゃって……それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から心配で、心配で……」

 

 

 今の私とエリーゼはTASを通じて繋がっている。

 

 なので、私が一度死んでしまった事を感知してしまったのだろう。

 

 だけど、リトルの生命力が急激に失われたって……まさか!

 

 

「リトル」

 

「…………」

 

「あの歌で沸き上がった力、アレは何処から調達した物ですか?」

 

「………………あの歌は、モルフォの謡精の歌(ソングオブディーヴァ)を再現した物。でも、その効果を再現するのにどうしても私自身の力だけじゃ足りなかった」

 

「だから自身の生命力を使ったと?」

 

「どの道フェムトが死んじゃったら私も一緒に死ぬしかない。なら、少しでも生き残る確率を考えたらこれしか無いって思った。それに……今の私はアニムスの因子を取り込んだお陰でEPエネルギーを生命力に変換する事が出来る。だから、フェムト達が考えているよりもずっとリスクは低い形で再現出来るの」

 

「それだったら問題は……」

 

「リトルちゃん。嘘はダメ。わたしの眼は誤魔化せないよ。原理そのものは嘘を付いているって訳じゃ無いと思うけど、リスクが少ないのは嘘。()()()()()()()()()()調()()()()()()?」

 

「……ん」

 

「でもね、それでリトルちゃんを責めてる訳じゃ無いの。ただ、事前に教えて欲しかったんだ。今回はTASで繋がった状態だったから()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

 

 

 今回の事を纏めると、リトルの歌によって消耗した生命力はTASを経由してエリーゼが補填したと言った感じだ。

 

 リトルがギリギリまで消耗する程の力を送り込んでエリーゼは大丈夫なのかと思ったのだが、そこは生命輪廻の力のお陰か、余裕を持って賄えるのだと言う。

 

 但し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは元々の謡精の歌(ソングオブディーヴァ)での二連続での蘇生のデータが無いのが主な理由だ。

 

 ここからは私、リトル、エリーゼの精神面、心の強さによって上手く行くか行かないかが決まるとの事。

 

 

「データがあれば確立を上げる事が出来るけど、そもそもそんな機会なんて無い方がいいし、これを理由にフェムトに危険を強要するのは本末転倒。だから二度目は未知数」

 

「一度目の時点で十分奇跡だと言っていい程に破格なんです。これ以上を求めたらバチが当たってしまいますよ」

 

「じゃあこれでこのお話は終わりでいいとして……リトルちゃん。さっきから気になってたんだけど、その輪っかと羽はどうしたの?」

 

 

 エリーゼは私と同じようにリトルの輪っかと羽が気になる様だ。

 

 これに関してはここまで来る間に他の人達からも注目されていたからしょうがないと言えばしょうがないのだが。

 

 

「フェムトを蘇生させてから、ずっとこうなの」

 

「そうなんだ……」

 

 

 そう言いながら、エリーゼはリトルの羽に触れる。

 

 手のひらより少し大きい位の羽なのだが、どう言う原理なのか物理法則を無視して飛ぶことが出来る摩訶不思議な代物だ。

 

 そんな羽なのだが、エリーゼが触れた途端、私が輪っかに触った時の様な反応を見せる。

 

 

「エリーゼ、羽に触るのダメ!」

 

「羽、敏感なんだね」

 

「ん……ここは私達のお家じゃないから、触るのはダメ」

 

「羽も敏感なんですね」

 

 

 リトルの羽も輪っかも非常に目立つ為、触ろうとする人が続出する事が考えられる。

 

 そうなると、ここまでリトルが明確に反応する位敏感な箇所が露出してしまっている状況は何とかしなければならないだろう。

 

 

「どうしようフェムト、エリーゼ。この輪っかも羽も触られると大変だから何とかしたい」

 

「ん~……EPエネルギーでコーティングしてみるとかどうでしょう?」

 

「やってみる……ふぁ♡ い、EPエネルギーはダメみたい。流したら、もっと敏感になっちゃう」

 

「それじゃあ生命力の方はどうかな?」

 

「えっと……あ、こっちの方は大丈夫そう。フェムト、エリーゼ、触って見て」

 

 

 私は輪っかを、エリーゼは羽の方を恐る恐る触れてみる。

 

 が、リトルは先ほどの様に敏感に反応はしなかった為、生命力でのコーティングが正解で間違い無いだろう。

 

 とりあえずリトルの問題が解決した為ホッと一息入れていると、医務室の奥から片付けを終えたアニムスが姿を現す。

 

 やはりと言うか、リトルの今の姿を見た途端輪っかと羽を触りに行った為、敏感なままだったら大変な事になっていただろう。

 

 その後、私達は女性医師が戻って来るまでの間にこの基地内での過ごし方や注意点等を話し合った。

 

 ここは我が家とは違って大っぴらに()()()()()事は出来ない。

 

 しかも私達は生命力が溢れている関係上眠れない状態にある。

 

 おまけに、ここでの私達はそれぞれ別々の部屋であると言う有様だ。

 

 一応夜勤なんかもあるにはあるが、周りに休んではいけないのではと言う空気を作り出してしまう為、私達が一日中動き回っているのは宜しく無い。

 

 まあ流石に我が家でならばともかく、基地内で風紀が乱れる問題はトラブルを考えると避けるべきだろう。

 

 が、実は抜け道もまた存在する。

 

 一応各部屋の備品なんかは比較的自由である為、ゲーム機なんかの持ち込みも認められている。

 

 それはVRなんかも含まれており、これが抜け道だ。

 

 昔ならばいざ知らず、今のVRは現実と見紛う程に進歩しており、専用の機器も小型化されている。

 

 これはVR版ベルレコを始めとして他にも様々なゲーム、または医療や訓練なんかにも使われているのだ。

 

 そう、このVRを使って夜間を乗り切ろうという訳なのだ。

 

 お互い部屋が離れているが、VRならば一緒に居ることが出来る。

 

 折角なので久しぶりにVRベルレコへとログインしようと約束し、私達はそれぞれ部屋へと戻った。

 

 

「ベルレコにログインするのも久しぶりですね」

 

「ん。フェムトがヒューマンで私が昆虫人(セクト)だったはず」

 

「エリーゼがソーサラーで、アニムスがエルフだったかな」

 

 

 私達は本当にやる事が無かった場合、こうしてVRベルレコを遊ぶ時がある。

 

 私は開発者としてもベルレコに関わっている為、実際にプレイヤー視点での問題点の洗い出しをするのも兼ねており、実際に何度か修正をした経緯もあった。

 

 そんな訳で早速ログインすると、私達は最後にログアウトしたマイホームへと降り立つ。

 

 その広さはGM特権もあり我が家と同じくらいの広さがあり、間取りも大体同じ感じだ。

 

 その少し後に、アニムスとエリーゼがログインし、この場で私達は全員集合する。

 

 ……実はこのVRベルレコ、【プライベート機能】なるものが存在しており、普段は制限されているアバターの五感のリミッターを外すことが出来る機能が存在する。

 

 そして、マイホームは一種のプライベート空間である為、()()()()()()()()()()()()()()と言う特殊な空間だ。

 

 プライベート機能はマイルーム限定でアバターも現実のものと差し替える事も出来るし、課金すれば成人指定な事も出来てしまう。

 

 但し、審査を通過するのに相応の手間と時間を要する為、ベルレコでアレコレするよりも、私達の様な年齢制限の問題が無ければ最初からそう言う目的のVRアプリを使った方が良いのだが……

 

 そういう訳なので、私達はナニをする準備をしようとしたのだが、ここに来て思わぬ邪魔者が姿を現した。

 

 

「えぇ……このタイミングで【TSOドラゴン】が現れるんですか」

 

「フェムト、GMの人達大丈夫かな?」

 

「【対TSOドラゴンテンプレ】を用意してありますから大丈夫だとは思いますけど……」

 

「何か気になるの? フェムトくん」

 

「ええ。このタイミングでTSOドラゴンが出るのは今までに無かったパターンなので、少し気になってしまって」

 

「フェムト。こういう時、大抵何かあったりする。調べた方がいいかもしれない」

 

 

 リトルの進言通り、私はGM側に連絡を取って、今TSOドラゴンは何所で何をしているのかを確認する。

 

 するとやはりと言うべきか、普段ならばプレイヤー達を煽りながら上空から攻撃をする筈が、今は何故か大人しい状態で降り立っているのだと言う。

 

 但し、プレイヤーからの攻撃は一切通用しない状態になっており、まるで誰かを待ちわびているような感じなのだそうだ。

 

 ……あのドラゴンの中の人は、GMで活動していた私やメラクの事を把握していた。

 

 ならば、待ち人と言うのは私かメラクのどちらかと言った所だろう。

 

 メラクも本当は呼ぶべきだろうが、今の時間帯は真夜中である為、呼ぶのはマズイ。

 

 よってメールだけ送り、私がGMアバターに変更した上で向かう事となった。

 

 向かう先は、初心者が賑わう一番最初の平原MAP。

 

 その中央に、TSOドラゴンは鎮座していた。

 

 私は視界に入るように降り立ち、近づいていく。

 

 そして、一定の距離に到達した時、向こうから話しかけられた。

 

 

『お、いつもテセオさんを追いかけてるGMの片割れじゃないっスか。こんな真夜中までわざわざ出勤乙w』

 

「珍しいですね。こうして何もせずに話しかけて来るなんて。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何だかんだ、このハッカーとは長い付き合いをしている為、どうしても情が移ってしまう。

 

 最初は迷惑行為でしか無かったのだが、TSOドラゴンが出現するとゲーム全体が盛り上がる。

 

 よって、不思議と奇妙な仲間意識を持ってしまうのだ。

 

 ……ペスニアの件で敵対者に情を持つ事に懲りた筈なのだが、どうやら私はどうしても非情になりきれないらしい。

 

 

『……はぁ。いつもテセオさんに付き合ってくれるGMには誤魔化せないッスか』

 

「……何かあったんですか?」

 

『いやね、テセオさんはとある組織に所属してるんですケド、()()()()()()()()()()()()()()()()()なんスよ。草が枯れて荒野になっちゃうレベルで』

 

 

 やはりこのドラゴンの中の人は何かしらの組織に所属していたらしい。

 

 私は珍しく気落ちしているドラゴン(ハッカー)を相手に詳しく話を聞こうと、本格的に仕事モードへと移行するのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇伏字が解かれた件について
この話から龍放射や天使等の話が解禁されました。
但し、メビウスはまだです。

〇ロロが暴龍になる可能性について
これに関してはただのアキュラのネガティブな考えなだけであり、実際は暴龍になる可能性は無く、大丈夫であると言う設定。
一人で居る事もあり、普段ならばあり得ない事も考えてしまうと言う状態と、一緒に居るロロにどれだけ救われているのかを表している。

〇青龍計画について
龍放射を知ったニコラが神園博士を巻き込んでこっそり立ち上げた計画。
アイデア自体はニコラが出した物だが、実際に実現するには神園博士が居ないとどうしようもなかった。
そしてこの計画によって青き交流、もといリトルは誕生する事となった。
なお、龍放射を採取する際、ニコラは()()()()()()()()()と言う。

〇宝玉因子について
青き交流の本来の名前。
龍が生み出すとされる宝玉に因んだ名前を持っており、その希少性と絶望的な発見率から半ば諦められていた因子。
龍放射を浄化し、暴龍を鎮める力を持つ。
リトルが持つ雷撃の力は蒼き雷霆から見つけた際のおこぼれ。
現段階でどの様に龍放射を浄化するのかのメカニズムは不明。
なお、この因子が発見された時、やはりニコラは()()()()()()()()()と言う。

〇春雷について
神話から伝わる第六階梯規模の豊穣の雷。
浄化にも用いる事が可能だが、範囲は限定的で乱発は出来ず、科学的再現も不可能な神秘の雷。
ニコラ専用という訳では無く、素質のある者がオカルト的修練を積んで聖遺物を保持していれば他の人でも出来る可能性が存在する。
そして、第七波動を持っていると使えない、という事は無い。

メビウスについて
この赤子は持っている能力と無印の時点で登場している【リトライマーカー】の存在も踏まえて既にこの時点で居ると本小説内では設定している。
アキュラもニコラも神園博士も把握している。
なお、これ以上の情報に関しては現段階では語れない。

〇空気を読まないワームホールについて
実はTASによって追加された【エスケープ】機能のチュートリアル。
まあ一度あんな目に合ったんだからフェムト達ならば対策はするよね? と言う感じ。

〇リトルの輪っかと羽について
えころの弱点でもある為、リトルも同じように弱点。
その為、生命力によるコーティングで対策を取る事で対処している。
因みに輪っかはリトルが持つ第七波動を増幅し、羽は飛ぶ機能を持っている。
なお、EPエネルギーを流すと……

SONG OF PULSAR(ソングオブパルサー)について
リトルのありったけの力と生命力を合わせて謡精の歌を再現している。
その性質上、エリーゼがTASに接続していないと最悪リトルが消失する多大なリスクが存在する。
が、フェムトが死ねばリトルも同じように死ぬ(フェムトの後追いをする形で自殺する)為、一か八かの賭けの中では上等の分類。
一度目の蘇生は確定成功で、二度目以降はトークルームで心を通わせた回数分成功確率が上昇する。
エリーゼがTASで接続している間は一度目の確定蘇生を消費する形で任意での発動も可能。
但し、蘇生回数が増えれば増える程成功確率は減少する。
一応EPエネルギーを確保出来ればエリーゼの代わりの代用が可能だが、その量はフェムトが蓄積できる量を優に超えている為現実的では無い。

〇時系列について
世界線を無視して考えると本小説内では以下の通りに設定しています。

無印→爪→鎖環→X(イクス)→X2

なので、本小説内ではXの世界線で鎖環のキャラが登場する場合、年齢が原作よりも高くなります。






















サイドストーリー





「ふぅ……龍放射のサンプルは、こんなもんでいいかなっと」

「全く、お前といると命がいくつあっても足りんよ。……しかし、いつ見ても不気味な赤子だ」

「そうかねぇ……意外と愛嬌があってカワイイもんだと思うけどな」

「……お前の感性は一体どうなっている?」

「コイツに愛嬌を感じるのはオカルト関連の事件にどっぷり浸かっちまってるのが原因なんだろうな。少なくとも【魔界植物くん】に比べれば雲泥の差だ」

「また良く分からん例え方をする。……しかしニコラよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「当然だ。もしやってもやらなくてもダメならやった方がマシだろうが。……お前もそうは思わねぇか? なあ……」








・・4・D@・D・・

・M・U・・Q・・・

・6・6・・0・・・




うじし
もなた
おおわ
読み方は・を消して逆方向に右下から左上へと縦にキーボード対応のカナ読みをする。@マークは濁点を表す。


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第三十八話 突きつけられた現実 分断された楽園(エデン)



サイドストーリー





 話は歌姫プロジェクトが発動した直後に加え、パンテーラが一度アキュラに撃退されて失踪する前まで遡る。

 この計画によって我が国に存在する第七波動能力者による暴走及び悪用を大幅に抑える事に成功している。

 これは治安維持的に考えて実に革命的な事で、能力者に対する不安を払拭する極めて重要な一手となった。

 しかし、これ以上に重要な情報もこの計画によってもたらされる。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。

 この情報が何を意味するのか。

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 人類史において、数は力だと言われている。

 それを踏まえて考えれば、この事実はボク達能力者にとって重大な一つの節目と言えるだろう。

 とまあ大袈裟に言うが、これだけならば我が国の話の中だけで納まる話だ。

 だが、何処から聞きつけたのか様々な各国の外交筋からある依頼が殺到する事となる。

 その内容は言葉を濁しているが、要約するとこんな感じだ。


「我が国の能力者の発生がどの程度なのかを知りたい」


 この情報を調べる事は、やろうと思えば出来る。

 要は歌の範囲を拡大すればよいのだから。

 しかしそれは依頼した外国から見れば、我が国に対して情報を売り渡す行為でもあるのだ。

 下手をすれば売国行為と取られかねない。

 そんなリスクを飲み込んででも能力者の発生を知ると言うのは、依頼した国にとって極めて重要度が高いという事なのだろう。

 そういう訳で、定期的に行っているモルフォライブに合わせてその調査もする事となった。

 あくまで能力者の発生を調べるだけならば負担はそう変わらない。

 歌の影響範囲を調整すればよいだけの話なのだから。

 そうして調べ上げた結果はやはりと言うべきか、依頼したどの外国でも我が国の物と同じ割合の結果となった。

 一応地球上全ての人口を調べ上げた訳では無いので確定した訳では無いが、これによって能力者は無能力者と人口が逆転したと言う説が現実味を帯びる事となる。

 後にこの出来事は【セブンスショック(能力者が覇権を得た日)】と呼ばれ、世界的に能力者と無能力者との力関係が完全に逆転した歴史的な出来事として語り継がれる事となった。

 そして、この事実によって大きな不利益を被る名を馳せた国際組織が大きく分けて二つ存在する。

 一つ目は我が国でも活動(テロ行為)を活発に行っていたフェザー。

 この組織は海外のとある人権団体のメンバーが中核となり組織されたレジスタンスグループで、能力者の自由の名の元に皇神に対してテロ行為をしていた存在だ。

 元々歌姫プロジェクトはこう言った能力者を抱えるテロ組織に対抗する意味もあった為、彼らが我が国で活動出来なくなり、弱体化するのは予想出来ていた。

 それに加え、メラクの策として能力者に対する融和を掲げ、フェザーから動機(正義)を取り上げる事で弱体化の果てに消滅するか、皇神の軍門に下るかの二択を強要させるに至った。

 よって、どう転んでもフェザーは皇神に対してほぼ手出し出来ず、資金や物資を提供している人権団体(スポンサー)に損切りと称し切り捨てられた。

 我が国に居たフェザーはテロによる経験を生かす形で警備会社を立ち上げており、後にこの警備会社は監視目的も兼ねて皇神グループの傘下に入る事となるのはまた別の話だ。

 そして海外のフェザーも似たような末路を辿っており、それぞれの現地の国で会社を興している。

 そしてもう一つの組織である多国籍能力者連合エデン。

 彼らもまたこの出来事で大きな不利益を被った組織の一つ……の筈だ。

 何故このように言い淀んでいるのかと言えば、目の前に居るエデンに所属していると思われるパンテーラが余りにも不利益に対して無自覚だったからだ。

 彼、或いは彼女はボクと並ぶ程の能力者でスパイをしている以上、エデンにおいて()()()()()()()()()()相応の立場である可能性は高い。

 それなのにも関わらず極めて楽観視していたのだからボクは別の意味で心配になってしまった程だ。

 全く、情報の最前線に居るであろうパンテーラがこの調子では、エデン構成員の思考はもっとヒドイ物なのだと想像してしまい、頭を抱えそうになってしまう。

 まあパンテーラの正体を後に知った後ならば、この楽観視も年相応の純粋さなのだと考えると納得がいったのだが……

 当時のボクはそんな事等知る筈も無く、副社長室で二人きりになった時にそれと無く話をする事にしたのだ。

 エデンが将来どうなってしまうのかを。

 ボクを副社長まで導いてくれた個人的な恩義を返す事も兼ね……いや、この動機は地獄への道は善意で舗装されている事と同じになりかねない。

 なのでまずは冷静に、皇神の利益を考える。

 ……うん、仮に拒絶されてしまっても、直ぐに不利益を被る事は無いだろう。

 むしろ利益を考えるならば拒絶されて居なくなってくれた方が良いまである。


「ねぇパンテーラ、キミはこのままここに居て大丈夫なのかい?」

「紫電はもうワタシは用済みって言いたいのかしら? ワタシはまだ愛を振りまき足りないと言うのに」

「そういう訳じゃ無いさ。ボク個人としてはこのままで居て貰ってもやぶさかじゃあ無いんだけどね。これはキミが故郷(エデン)において相応の立場の人間だと思っての忠告さ」

「忠告?」

「今更だけどさ、キミはエデンから来たスパイだよね?」

「さて、どうかしら?」

「(流石にはぐらかすか)今から話す事はキミがそうであると言う前提の話。もし違うのならコレはボクの勘違い。聞かなかった事にしてくれればいい」

「…………」

「ボクはね、エデンの事は海外の能力者達の受け皿として期待していた。ボクの手は国内で精一杯だったからね。……古今東西、過激派と呼ばれる組織は結束力が高いと言われているが実際は違う。その逆で、実に脆いんだ。一応「敵」が存在するならば、むしろその攻撃性は頼もしく見えるだろう。だけどね、その攻撃性故に所属している人間は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから脆いのさ」

「……それが、ワタシに何の関係があるのかしら?」

「エデンの「敵」は無能力者だ。強大な()を持った「敵」だ。そんな「敵」である無能力者が落ちぶれ、彼らは「敵」足りえなくなってしまった。何故ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。そして、迫害されたと言う共感も当然あるだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。団結する為の、実に良い理由だった。それが無くなってしまった。するとどうなる? 相互不信が芽生えるのさ」

「…………」

「それを回避するなら「敵」を新たに作るしかないんだけどさ、皇神は能力者に対して融和的姿勢を持つようになった。能力者差別を悪だと認めた。能力者を優遇するようになった。これはキミも知っている筈だ。何しろそうなるようにボク達は暗躍していたのだから」

「……ならば逆に問うわ。紫電、どうしてアナタは()()()()()()()()()()()()()のかしら? 最初は皇神グループ内で成り上がる為の口実で、実際は無能力者を殲滅する方向に切り替えるものだとばっかり思っていたのに、アナタはそれをする気配が無い。ここまで地位を高めれば、ワタシの力も合わせれば決して不可能では無いと言うのに」

「そうだね。今ならやろうと思えば出来ない事も無いだろうね。だけどボクは少なくとも()()()()殲滅しようなんて意思は無いよ。個人的感情はさておいてね」

「無能力者はワタシ達の愛を受け取る価値も無い存在。歌によってワタシ達は誰が能力者で、誰が無能力者なのかがハッキリと分かる以上、殲滅するのは理にかなった行為ではないかしら? 紫電も無能力者に対して思う所はあるでしょう? 今まで散々醜い所をここ(皇神グループ内)で見て来た筈なのだから」


 パンテーラがボクを睨みつけると同時に問いただす。

 ここまでエデンの事を酷く言われた以上、もう隠す気は無いのだろう。
 
 だけどねパンテーラ、ボクからすればそれこそが甘い考えであると言わざるを得ないんだ。


「パンテーラはさ、現在進行形で能力者の出生率が増え続けているのは知ってるよね?」

「ええ。ワタシ達の愛を受け取れる人達が増えるのはとても喜ばしい事よ」

「そして、現時点で能力者は無能力者と人口が逆転している。これらが何を意味するのかと言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからボクは融和策を敷いたのさ。彼らはもう放っておけば滅びゆく人達なのだから、わざわざ直接滅ぼす為のリソースと時間を割くのは余りにも無駄であると言わざるを得ない。だからボクはやらないのさ」

「……! だけどその間に無能力者によって犠牲となる能力者も出て来るわ! 流暢に待ってなんかいられない。今すぐにでも殲滅する為の行動に移すべきよ! その様な慈悲、彼らには与える価値も無いのだから」

「慈悲? ボクはそんなものを彼らに掛けた覚えは無いよ? ……まあ、キミの言い分も一理ある。確かにそう言った犠牲が出るのは確かさ。だけどね、()()()()()()()()()()()()()()にそう言った犠牲を払ってでもしなければならない事があるんだ」

「しなければならない事ですって……ワタシ達が犠牲になる事以上に重要な事なんて、存在する筈が……」

「あるんだよパンテーラ。悲しい事だけどね。……それが何なのかを分かってないから、ボクはキミの事が心配なのさ」

「では! 紫電の言うしなければならない事とは一体何なのですか! ()()()は何を見落としていると言うのですか!?」

「それはね、()()()()()()()()()()()()()さ」

「え……何を、言って、いるのですか……その様な事、起こる筈が……」


 あぁやはり、パンテーラは甘い。

 無能力者が居なくなれば平和になるだなんてあり得ない事を考えている。

 そう、これらの事実(無能力者達の衰退)が発覚した為、早急に能力者同士の争いに備える事が必要となったのだ。

 今はまだ()()()()()()()()が辛うじて存在しているからこの様な事は表面化していない。

 しかし彼らが力を本格的に失い、衰退していけばソレは表面化する。

 例えば能力の強弱による格差であるとか、気に喰わない能力を持つ者を差別する等と言う形で。

 そうなってしまえば、待っているのは目を覆わんばかりの新たな地獄。

 能力者同士で殺し合う、見るに堪えない光景を目に焼き付ける事となってしまうだろう。

 だからこそ、そんな事(無能力者の殲滅)にリソースと時間を割いて等居られないのだ。


「それが起こりえるのさパンテーラ。エデンやフェザーの様に正義を掲げる人達と言うのはね、「敵」と呼ばれる物が存在しなくなると新たに「敵」を作り出そうとするのさ。実際、フェザーなんて物資と資金を提供していた人権団体と実行部隊と呼べる元テロリスト側とで対立が発生してしまっている。損切りされた恨みと言うヤツだね。幸い我が国のフェザーの実行部隊は大人しく皇神グループの傘下に加わってくれそうだけど、外国ではそうはいかない。足場固めが終わったら報復に出る所もあるだろうね」

「そんな……」

「キミもフェザーに対してやり方が甘いなんてボクに話した事があったけど、そんな甘いとされる彼らですらご覧のあり様だ。より過激な主張をしているエデンがどうなるかなんて火を見るより明らかさ」

「その様な事は……!」

「まさか私達は大丈夫なんてお花畑な事、言わないよね? 歴史を紐解けばこう言った過激派の末路は決まっている。このままでは確実にエデンは碌な末路を辿らない。ボクはそれを分かっているから今も全力で様々な事に取り組んでいるのさ。例えばそうだね。今やろうとしている事の一つを紹介しようか」


 話が変わるが、そもそも能力と言うのは狙って自分の都合のいい物を得られるなんて事は無い。

 何故ならば、彼ら第七波動(セブンス)達は意思を持った群体生物であり、寄生先の人間との相性が存在するからだ。

 ではそもそもの話になるが、何故相性などと言う物が存在するのだろうか?

 それを調べて行く内に、面白い事が分かったのだ。

 それはまだ能力が発現していない人達が持つ能力因子を採取する事で判明したのだが、彼らは発現してい無い間何をしているのかと言えば、()()()()()()()()()()()()調()()()()()のだと言う。

 そうして調べ上げたデータを元に彼らは自身を組み換え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これによって能力発現のタイムラグに関しては寄生先の人間のデータを調べ上げたり、自身を組み替えたりする速度で上下する事が判明した。

 但し、まだ能力の強弱等を始めとした検証は終わっていない為、能力発現の詳細な条件はまだ分かってはいないのだが……

 よって、ボクらが相性と称していた事は実は間違いであり、彼らの方が人間に対してより強く結びつく為に自身を組み替えていた事が原因で、他の人間への移植が無理であったという訳なのだ。

 言わば宿主に対して完全適合する為に自身を組み替えているのだから、移植しても成功率が稀であると言うのは当たり前の事だった。

 さて、ここまで話すと疑問に思う事が出てくると思う。

 それはまだ自身を組み替えていない第七波動、さしずめ【無色の第七波動】達の移植は如何なのだろうかと言う疑問だ。

 その答えはやはりと言うべきか、協力してもらった被験者全員が暴走等の副作用無しで適応した。

 つまり、能力を発現していない能力者を人工的に、かつ安全に作り出す事に成功したという事になる。

 ……では、話を戻そう。

 ボクがやろうとしている事、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 流石にいきなり実は君達は病気だったんだ、何て言うのは無理な話だが、能力者が多数派になった場合はまた別の話。

 今はまだ能力に対する理解が浅いのもありこの様な事は不可能ではあるが、将来はワクチンと称して無色の第七波動達を無能力者達に投与する制度を導入する予定だ。

 共同体に属する人間と言う物は、本能的に仲間外れになる事を嫌う。

 それは仲間外れにされ、一人になってしまうと生きていく事が難しくなるからだ。

 ……今の時代、物理的な意味では()()()一人で生きる事も出来るだろう。

 しかし、それでも人は群れる事を辞めなかった。

 何故なのか?

 それは一人で居る事は心を蝕み、精神を摩耗してやがて自死へと至るからであり、本当の意味で一人で生きられる存在と言うのは驚くほどに少ないのだ。

 そんな人としての性質を利用し、この制度で誘導すれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。


「アナタと言う人は……何故そこまで無能力者に慈悲を、愛を与える事が出来るのですか!? 彼らがわたし達にどれ程の殺戮と迫害をして来たか、分からない貴方では無い筈!」

「慈悲だなんてとんでもない。これは我が国の治安を守る為に必要な事の一環さ。ましてや愛を与えたつもり何てこれっぽっちも無いさ。あくまで無能力者が自発的に滅びるのは結果であり、本命はまた別さ」

「まだ何かあると言うのですか!?」

「では、無能力者がほぼ居なくなった世界のエデンで能力者同士の夫婦が居るとしよう。二人は仲睦まじく、幸せな日々を送り、遂に子供も授かる事となった。だけどそんな彼らは悲劇に見舞われる。そう、()()()()()()()()()()()()()()

「……っ!!」

「そして、周りの人達はそんな子供に対して嫌悪の感情を抱く。それはそうだろう。自分とは違う存在であり、憎むべき対象である無能力者が居るのだから。……さて、パンテーラ。能力者の夫婦から生まれた無能力者であるこの子供をどうする?」

「ぇ……そ、それは……」

「エデンは無能力者の殲滅を掲げている以上、例え能力者同士から生まれた子供でも無能力者ならば殺すしかない。そうしないとエデンにおける秩序は保てないからだ。そして、子供の両親はエデンに対して表面上は賛同するかもしれないけど、内心はどう思っているだろうね? 大切な子供が殺されたんだ。恨まないはずが無い」


 嫌な例を出して悪いねパンテーラ。

 だけどスパイであるキミはこの事を、責任を持ってエデンの盟主へと伝える必要があるんだ。

 エデンの方針を転換してもらう為にね。


「キミも知ってると思うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()は珍しい訳じゃない。我が国でも、そして世界的に見ても変であると言う話でもない。だからこそ、ボクは今の状況から将来起こりうる悲劇に対してこう考えた。無能力者である事を病気であると称すれば、この様な悲劇による分断は防げるんじゃ無いかってね」

「…………」

「こうした未来の事に想いを馳せ、先手先手を打って政策や制度を打ち出す。これが今ボクが全力で取り組み始めている事さ。そして、この政策も一つの事例に過ぎない。まだまだ問題は山積みで、それらを把握したり何とかする為の政策や制度を作る為には多くの時間とリソースが必要になる。……きっとボクがこうやって四苦八苦しても沢山必要な政策や制度は抜け落ちるだろうし、悲劇を無くすことは出来はしないだろう。だけど、少しでも減らす事は出来るはずだ。だからハッキリと言わせてもらうよパンテーラ。とてもではないが、()()()()()()()()()()()()()()()には付き合っていられない」

「無能力者の殲滅が……お遊び?」

「無能力者が覇権を握っているならばいざ知らず、これからは能力者が覇権を握る時代だ。それなのにこんな甘ったれた事を言っているんだから心配もするさ。……この情報は表に出ている物では無い。だからこそ、今が方針を転換するチャンスであるとも言えるんだ。このアドバンテージを活用しない手は無いだろう? キミだけでもいい。いい加減、目を覚ましてくれ。そして、無能力者を滅ぼせば世界は平和になるだなんて言うナイーブな考えは捨てるんだ」

「……っ!」


 パンテーラはまるでボクから逃げるように、鏡を利用したテレポートを用いて姿を消してしまった。

 はぁ……これは嫌われてしまったかな。

 あえて嫌われる言い方をしちゃったけど、本当はキミに嫌われるのは避けたかったんだけどね。

 まあ最後の言葉は少し言い過ぎだったかもしれないけど、この事はどうしてもエデンの盟主に伝えて貰わなければならないんだ。

 彼らにはボクの手では届かない海外の能力者達の居場所となって貰いたいし、彼らの居所へと直接向かってこの事を伝える何て出来ないのだから。

 全く……本当に、ままならない。






 

 

 

 

 まず私が行ったのは、GM権限を利用した隔離部屋への転移だ。

 

 何しろ真夜中である事を差し引いても平原の真っただ中で様子のおかしいTSOドラゴンが鎮座していると言う光景は余りにも目立ちすぎる。

 

 それに、ああいったプレイヤーが移動できる場所と言うのはログ取りが義務付けられている為、機密的な話をする事は適さない。

 

 なので、この部屋に転移したという訳だ。

 

 

「ここは私が使っている専用の隔離部屋です。主に違反者相手に使うのがメインなのですが、こう言った内緒話をする時にも使えるんですよ」

 

『GMも内緒話なんてする事あるんスね』

 

「ええ、それはもう。では詳しく話を……その前に自己紹介をしましょうか。何だかんだお互い名前も知らないのですから」

 

『では先ずはテセオさんからで。改めましてどもども。【テセオさん】でーすw エデンって言うホームで諜報活動やってまーすw そこんとこよろしこwww』

 

「……私はフェムト。皇神では情報関連の仕事をしている身です」

 

 

 自己紹介の時点で極めて重要な情報が飛び込んで来た。

 

 それは目の前に居るテセオと呼ばれる存在が海外の多国籍の能力者達を束ねる組織、エデンに所属していたという事だ。

 

 TSOドラゴンが出現していたのはもう随分と前の話だったので、最低でもその時点で探りを入れられていた事になる。

 

 それなのにも関わらず私達に捕捉される事無く今まで過ごしていたのだから、ネットにおいて彼の持つ力は相当な物なのだろう。

 

 言動は少しおかしいが、実力は確かである為油断は出来ない。

 

 

『いやぁ~まさかテセオさんがGM相手にガチ相談する事になるなんて、人生分からないもんっスねぇ』

 

「世の中そんなものですよ。一部を除いた人の先を見通す力なんてたかが知れてますし。……ですがどうしてこのような相談を私の様なGMなんかに?」

 

『とぼけなくていいッスよw GMは皇神のトップにすっごいコネがあるのは調べて(ググって)ますのでw』

 

「それなら話は早いですね。……では改めて聞きましょう。外部の人間にまで頼らなければならなかったあなたの話を」

 

 

 テセオの話を要約すると、今エデンは三つの派閥に分断されているのだと言う。

 

 一つ目は従来の無能力者の殲滅を掲げる【エデン過激派】。

 

 二つ目は従来の方針を転換して無能力者の殲滅を取りやめ、その代わりに能力者達が安心して暮らせる為の政策や制度を作るべきだと主張する【エデン穏健派】。 

 

 最後は双方の立場を取らず、様子見に徹している【エデン中立派】の三つの派閥が存在しているのだと言う。

 

 一見するとエデンと言う組織の性質上対立する理由は無さそうに見えるこの三派閥。

 

 主に何に対して互いに反発しているのかと言えば、時間とリソースの使い方だ。

 

 エデン過激派は主に無能力者の殲滅にリソースを割くべきだと主張し、エデン穏健派は武力は自衛に回して制度作りにリソースを回すべきだと主張している。

 

 ここまで説明してからドラゴン姿で居るのはマズイと思ったのか、ドラゴンの姿がブレると同時に緑髪の少年が姿を現す。

 

 どうやらこの姿がテセオの本当の姿なのだろう。

 

 ならば相手なりの誠意に応え、GMの姿から本来の姿へと戻る。

 

 そうなると、対話に必要なテーブルや椅子も必要になると踏み、私は即座に私達に合わせた椅子とテーブル、飲み物なんかを用意。

 

 更に周囲の景色を芝生とある程度の木々に囲まれた感じの状態に変化させ、落ち着いた状態で会話出来る様にセッティングする。

 

 人は環境によって様々な影響を受けるので、先ずは環境構築が重要になる。

 

 その為、VRにおいてゲーム内ではフレーバー程度の意味しか無かった装飾品やマイホームのバリエーション等には数字には見えない格差が存在しているのだ。

 

 

「お、気が利くッスねぇ」

 

「この位は当然です」

 

「……それにしても」

 

「?」

 

「いやホント、ちっさいッスねぇその姿はw テセオさん、【ジブリール】ちゃんより小さい()()()を見るの、初めてッスよww」

 

「生憎ですが、私は男ですよ?」

 

「ちょ……え゛、それマジ? リアル男の娘なん? その姿アバターとか偽装じゃないのん?」

 

「ええ。こんな見た目ですが、アバター等ではありませんよ」

 

 

 ……話が脱線してしまったので軌道修正をしつつ戻すが、今はまだ直接的な衝突はしていないと言うが、それもテセオから見るに秒読み段階と言った所なのだそうだ。

 

 切欠は皇神でスパイをしていたエデンの盟主であるパンテーラが持ち帰った情報にあった。

 

 私としてはあのパンテーラがエデンを束ねる存在である事に驚いた物だが、エデンにはエデンなりのやり方と言う物があるのだろう。

 

 そんなパンテーラが持ち帰った情報の内容は色々とあり、その中で特にきっかけと言える物は、能力者が無能力者よりも人口が上回り、能力者達が覇権を獲得したと言う情報だ。

 

 この情報がもたらされた時、初期の頃はエデンに居るほぼ全ての構成員が沸き立った。

 

 知らぬ間に無能力者達は能力者達に人口を逆転されていたのだから、エデンからすれば当然の話だと言えよう。

 

 更に皇神特有の技術に加え、()()()()()()()()()の回収もこなした事で、エデンは戦力的な意味でも大幅に強化され、今では皇神とも真っ正面からやり合える位にまで戦力を蓄えているのだと言う。

 

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)を入手する事は出来なかったが、結果として多くの技術を入手した事でエデンで独自に開発している【模造宝剣】もほぼオリジナルと同等の性能を叩き出せるようになったそうだ。

 

 

「皇神をも越える技術……そんな物を一体どこで」

 

『なんでも一度戻る前に目茶苦茶嫌な事があったらしくてその数日後に一人で散策してたらしいんスケド、突然()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいなんスよ。んで、()()()()()()()()()()()()()()()これまたすっごい技術のてんこ盛りで、()()()()()()()()()()みたいなんスよねw いやぁ~機嫌の悪いパンテーラを襲って返り討ちに合うなんてテラワロスwww』

 

 

 このテセオの発言を受け、私は思い当たる節があった。

 

 それはアキュラ(イクス)から聞いた話の事だ。

 

 この世界のアキュラはパンテーラに返り討ちにあい、そこを助けたのが別の世界から来たアキュラであった。

 

 そして、怪我はもう治っているが今でも眠りについていると言う彼が目を覚まさない理由もこの時の会話で察しがついた。

 

 つまり、パンテーラによって彼の頭の中に眠る技術を吸い出された事が原因で目を覚まさないのだろう。

 

 ……話を戻すが、戦力を蓄えたエデンはいよいよもって皇神が存在する我が国へと侵攻しようと計画を立てようとした所、待ったをかける人物がいた。

 

 皇神グループへスパイを行った張本人、エデンの巫女であるパンテーラ本人が。

 

 エデンからすれば当たり前の話だが、その時は何故止めるのかと【グリモワルドセブン】、通称G7のメンバーの大半の人間が憤りを露わにしていた。

 

 いよいよ面白くなってきたと言うのに待ったが掛かった為、その時はテセオも不満を露わにしていたようだ。

 

 

「最初はテセオさんもハァ? って思ったッスケド、話を聞いて納得はしたッスね。確かに考えてみれば何もしなくても滅びる無能力者(クソザコ)相手にリソース割くのはもったいないし、だったらテセオさん達自身の為に使うのが有意義だって言うパンテーラの主張は目から鱗だったッスね」

 

「だけど、他の人達はそうでは無かったと」

 

「その通りッス。特に今で言う過激派メンバーの【アスロック】、ジブリールちゃんはガチギレしてたッスねぇ。あの二人はG7メンバーの中で無能力者相手に相当ヒドイ目にあったみたいッスから。ただ同じくらいひどい目に合ってたらしい【テンジアン】は意外に冷静だったッスね。でもパンテーラ率いる穏健派じゃなくて中立派に居るんだから思う所はあるんだと思うんスケド」

 

「ふむ……」

 

「他には【ガウリ】ってユカイなヤツは中立派で、占星術なんて胡散臭い事が得意なニケーが穏健派ッスね。後意外に思ったのが【ニムロド】なんスよね。アイツはてっきり中立派か穏健派辺りだと思ってたんスケド、過激派なんスよねぇ~」

 

「そんなに意外な人なんですか?」

 

「ニムロドって言わば陽キャなヤツなんスよね。テセオさん程じゃ無いケド結構エデンで人気もあって「アニキ」なんて言われて慕われてるトコありますしおすし。それに、ニムロドってエデンと【環境保護団体】を掛け持ちしてるんスよねぇ~。だからあんまし悪い印象を持たない感じッスね」

 

「あ~……」

 

「どしたのん?」

 

「環境保護団体と聞いて納得しました」

 

「それ納得する要素なんスか?」

 

「彼らは大抵環境保護を歌いながらその実やってる事は企業の手先ですからね。しかも手先にされてる事に無自覚なのが本当に質が悪い。そのくせ海の生態系を守る所か逆に荒らしまわるんで、私の中では本当にもう悪い印象しか無いんですよね。その手の連中に対しては」

 

「目茶苦茶辛辣っスねぇ。何か恨みでもあったり?」

 

「……あの手の連中の度を越えた勘違いなクレームで皇神で働いていた優秀な人達が何人も病んで退職している光景を見て来たんです。しかもその中には私と同期の人も居たんですよ。年上のお兄さんみたいな優しい人だったんですけど……日に日に病んでいってしまって、そのまま……」

 

「oh……テセオさん、思わぬ情報を知ってしまったんですケド……」

 

 

 この手の事は興味があったり直接関わったりしない限り調べようとは思わない情報なので、テセオみたいに興味の無い事はスルーしそうな人には分からない物だと思う。

 

 まあ、話が逸れたので軌道修正も兼ねお茶に手を付ける。

 

 温かく、ほのかな甘みと苦みでホッとする味だ。

 

 ……気を取り直し、カップを置いた後、テセオに話を続けるように促す。

 

 

「あ、因みにテセオさんは穏健派ッスよw テセオさんは基本面白ければ何でもいい訳なんスケド、勝負の決まりきった虐殺何て面白くも何とも無いんスよねぇ。何て言うか、動画投稿者である以上取れ高に期待したい所、ありますし?w その取れ高もこのゲームで暴れてた方が沢山取れるワケでw いやぁ~あのガチギレしたプレイヤー達の姿は最高なんですケドww 目茶苦茶悔しがる所がいいんスよww ……ハァ」

 

「……?」

 

「今は取れ高イイ動画が作れても、今の【エデン公式チャンネル】では見向きもされないッス。穏健派は臆病風に吹かれてるだの過激派は間違ってるだのの応酬で、動画内容も互いの派閥のバッシングばかりで……テセオさん渾身のサイトがオワコン化しちゃってるんスよねぇ……」

 

 

 しかし、テセオの話を聞いて疑問に思う所がある。

 

 何故今になって盟主であるパンテーラはこの様な悪手を打ってしまったのだろうか?

 

 

「あ~~……一度帰ってきた後直ぐにニケーに相談してたんスよね」

 

「相談ですか?」

 

「ニケーの場合占星術なんてオカルトが扱えるんで、良くパンテーラの相談役になったりするんス。因みにテセオさんの場合は派閥が出来てしばらく後になってからだったッス。相談内容はシミュレーションの依頼だったッスね」

 

 

 そのシミュレーションの内容は穏健派の路線で行くか、過激派の路線で行くかのどちらがエデンをより存続させることが出来るのかと言う物だ。

 

 テセオの持つ能力である【ワールドハック】と呼ばれる力はこう言った事をするのに適している為これを受け入れ、早速試してみたのだそうだ。

 

 その結果は順当に穏健派の方がより長くエデンを存続させる事に成功している。

 

 因みにだが、ニケーの占星術でも同じような結果を出していたようだ。

 

 ……彼女の扱う占星術とやらは、強力なオカルト技術の一種だと考えた方が良いだろう。

 

 

「因みにその時は何も知らずに一丸となって攻め込むシミュレーションもしたッスね。結果は過激派の主張と同じように全滅だったッス。……フェムトの居る国ヤバ杉で草生えるんですケドww」

 

「日々努力してますからね。簡単には攻め落とさせませんよ」

 

 

 他にはアスロックのフォーチューンクッキー占いだとか、兄であるテンジアンに相談していたりとか、情報を知らせた後エデン構成員の【ポーン】達の様子を調べていたりなど、様々な事をしていたらしい。

 

 その上で出した結論が、攻撃に待ったをかけると言う物だったのだろう。

 

 

「とまあ、前置きはこの位にしてっと……それじゃあ早速本命ッスケド、しばらくテセオさん達穏健派メンバーをソッチの国に移したいんスよ」

 

「過激派と距離を置くという事ですか?」

 

「そう言うコトっスね。この衝突するまで秒読みな状況を何とかするなら距離を置くのが確実ッス。ちなみにですケド、中立派が残るのは過激派を抑える為でもあるッス」

 

「う~ん……この案件は紫電に回さないとダメですね。私だけでは権限がありません」

 

「それで十分ッスよw」

 

「ちなみにですが、拠点は大丈夫なんですか?」

 

「モチのロンで大丈夫なんでスケドww テセオさんがちょちょいと改z……ゲフンゲフン、合法的に用意していますっつって~www」

 

 

 ……時間があったら色々と調べ直そう。

 

 そう思いながらテセオの話を了承し、これで解散する事に……ならなかった。

 

 

「そういえばフェム㌧。ちょいと気になる事があるんスケド」

 

「何ですか? 改まって」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「黒い……蝶!?」

 

 

 私は即座に現実でも扱っている鉄扇を顕現させ、戦闘態勢へと移行しつつテセオの言う黒い蝶を視界に収める。

 

 見た所本当にただの黒色の蝶に見えるが、VRベルレコで黒い蝶等実装されていない。

 

 それに私がここで環境構築をした時、虫なんかの生き物を用意した訳でも無いのだ。

 

 ……電子の謡精は蒼き雷霆よりも繊細なハッキングが可能なのだと言う。

 

 ならば、電子の謡精のなれの果てだと思われる彼女もまた、同じような事が出来ても不思議では無い。

 

 

『あらら、バレちゃった』

 

「やはり貴女ですか、ペスニア」

 

「え? 何? フェム㌧ってば、この昆虫とお知り合いだったり?www」

 

「ええ。敵と言う形で、ですが……」

 

『どうかしら? この優雅に舞うわたしの姿は。ヒラヒラ飛ぶの、結構好きなのよ』

 

 

 黒い蝶の姿のまま、私が使っていたティーカップの淵に向かって紫色の光を儚く散らしながら飛ぶペスニア。

 

 そして、そこに止まりゆっくりと羽を動かしながらこちらに対し改めて話しかけて来る。

 

 モルフォとは違い虫扱いされてもまるで動じていない辺り、謡精としての気質の違いを感じさせた。

 

 

「それよりも、何故貴女がここに」

 

『いいじゃない別に。わたしの世界にはこんなの(VRゲーム)なんて無かったんだから。探検したくなるのは当たり前でしょ? ……まあでも、お陰で思わぬ発見が出来て良かったわぁ』

 

 

 この言葉を聞いた途端、嫌な予感が頭を過った。

 

 ……分かっていた筈だ。

 

 いつか彼女は見つかってしまうのだと。

 

 そうであって欲しくはない。

 

 しかし私のこの手の勘は、嫌になる程当たってしまう。

 

 

「…………何を、見つけたのですか?」

 

『【嫉ましき生命輪廻(アンリミテッドエンヴィー)】っと、ここではそんな二つ名は無かったわね。生命輪廻(アンリミテッドアニムス)第七波動能力者(セプティマホルダー)、エリーz……』

 

 

 ペスニアが言い終わる前に、私は鉄扇の突きを黒い蝶の彼女に放っていた。

 

 だが、私の攻撃は当然電子障壁(サイバーフィールド)によって遮られてしまう。

 

 

『わお! すっごい剣幕! ……フフ。今までで見た事も無い様な顔してる。男の子って感じ。好きなのね。彼女の事が』

 

「ええ。生きるも死ぬも一緒だと誓い合い、身も心も重ね合った間柄です」

 

『え……? いや、ちょっと待って! 貴方達、()()()()しちゃってるの!? Cまでいっちゃってるの!?』

 

「ええ、それはもう」

 

昔の子ってこんなに進んでたの!? もっとこう、顔を赤らめながらも気丈に振舞うみたいなカワイイ感じの答えが返って来るかと思ったのに……

 

「……なんか、目茶苦茶落ち込んでるッスね。この蝶」

 

『……オホン。ま、まあそれは置いておくわ。とにかく、わたしが探してたエリーゼが見つかったのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから。これで一安心って所ね』

 

「エリーゼを、どうするつもりです?」

 

()()()()()()()()()。今は……ね。まあでも、心配はしないで頂戴な。あの子に手を出す時は、貴方も一緒に手を出すから。二人一緒の方が寂しく無いでしょう? わたしにとって重要なのは、あの子がちゃんと存在している事なのだから。……じゃあわたしはそろそろ行くわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉を最後に、ペスニアは姿を消した。

 

 その後、テセオとの会話を終わらせた私は紫電に今回の会話の内容をメールを送りながらマイホームへと転移。

 

 慌てて扉を開けてエリーゼの安否を確認したのだが、彼女は特に何かされた様子も無く、私を出迎えてくれた。

 

 どうやら、ペスニアは嘘を言って無い様だ。

 

 しかし今回の件で、また一つ謎が浮かび上がった。

 

 彼女はどうしてエリーゼを必要としていたのだろうか……と。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇無能力者と能力者の数が逆転している件について
紫電達の居る国以外の国も逆転していることが発覚。
これで明確に能力者の方が人口を上回る事になった。
ただし、発現していない能力者の割合が大半である。

〇セブンスショックについて
上記の出来事を切欠に、世界各国の国々で凄まじい未曽有の大混乱に見舞われた出来事の事。
この大混乱が発生したお陰で皇神、序にエデンも力を付ける絶好の機会となった。
別名、能力者が覇権を得た日。

〇紫電くんのマジレスについて
目茶苦茶パンテーラに対して厳しい事を言っているが、これは中の人が11歳の女の子である事を把握していないが為に起こった悲劇。
知っていたらラーメンハゲみたいな事を言わずにもっと言葉を選んで優しく諭していた。
実はパンテーラの口調が途中から素になっていたのだが、紫電くんまさかのスルーをしてしまう。
因みに本編二十五話でパンテーラの事を滅茶苦茶気にしていたのはこの事も理由の一つだったりする。

〇無色の第七波動について
発現していない能力者達が持つ能力因子。
宿主の人間を魂を含めて解析しつつ、その人間が望む能力を発現するように己を再構築する性質がある。
逆に、既に能力が発現している第七波動は【色の付いた第七波動】と呼ばれる。
拒絶反応は色の付いた第七波動のみ発生する。

〇能力者と能力者の夫婦から無能力者の子供が生まれる件について
無能力者同士の夫婦から能力者が生まれるなんて事が普通なら、逆に能力者同士の夫婦から無能力者が生まれるなんて事があっても良いだろうという訳で出来た設定。

〇派閥の詳細について

過激派:従来のエデンの掲げる無能力者の殲滅に力を入れる派閥。
主に明確に無能力者達に迫害を受けた層で構成されており、一部を除き理性よりも感情が先立っている所がある。

中立派:主に過激派を抑えるのが役割の派閥だが、過激派と穏健派に当てはまらない狭間の人達を纏める役割もある。
迫害を受けてはいるが何かしらのストッパーがある、或いは直接的な迫害では無く間接的な迫害を受けた経験のある層で構成されており、何らかの形で双方に理解があるが故に板挟みな所がある。

穏健派:来るべき将来に備えて能力者達の為に制度等を整備し、より足場固めを重視する派閥。
理性の強い人達、或いは迫害を受けた経験が無い人達で構成されており、迫害された経験を知らないが故に理性が働いている人達も多く、そこが過激派との対立を深める理由の一つとなっている。

〇エデンの各派閥のメンバーについて
簡単に纏めると


エデン過激派:アスロック ジブリール ニムロド

エデン中立派:テンジアン ガウリ

エデン穏健派:パンテーラ ニケー テセオ


と言った感じ。
それぞれ理由も記載すると


アスロック:家族を無能力者による家の放火によって亡くしてしまっている為。

ジブリール:娘が能力者である事で病んだ父親が母親を()()によって命を奪ったのが引き金。

ニムロド:人口を手っ取り早く減らせる派閥がここだから。

テンジアン:理性がパンテーラの成長に喜んでいる反面、感情が無能力者を許せないと言う板挟み状態なのが理由。

ガウリ:原作のGV編で、何だかんだであのアキュラに対して気を使える聖人っぷりが理由の一つ。
でもスケートの道を能力者だからと阻まれ、ダンスの道も同様に阻まれている為、穏健派かと聞かれると微妙な所。

パンテーラ:原作では無能力者を殲滅すると言う結論を出しているが、本小説内ではそれさえも甘いと紫電から断じられる事で精神的に成長を遂げる事となり、穏健派を立ち上げる。

ニケー:大体占星術で占ったで済むと思います(真顔)

テセオさん:楽しければ大体おkな人だと思うのと、クソザコと化した無能力者相手では取れ高が取れないのでは? と言うのが理由。

〇皇神をも越える技術について
フェムト世界のアキュラくん最大のやらかし&大功績。
パンテーラに敗北した事で幻覚を精神に作用させる部分を応用され頭の中に眠っている技術の大半を幻術を応用したコピペで回収される事に。
これが最大のやらかし。
技術序に龍放射の情報も吸い出してしまい、この事が決定打となって穏健派を立ち上げる決断をパンテーラにさせたのが大功績。

〇フェム㌧について
テセオさんの友達判定をクリアした為、あだ名で呼ばれるようになった。
誤字じゃ無いです。






















サイドストーリー





 今日は週に一度の楽しい時間。

 【歌のお姉さん】が私の前に出て来る日。


「離れてい~たか~らこそ 分かったことがあるの~♪ ……早く来ないかなぁ。歌のお姉さん」


 いつもこの日にビビビって不思議な感じがした後に姿を現してくれる歌のお姉さんは、とっても歌が上手で、私の大切な楽しみの一つ。

 そろそろ、ビビビって来る筈なんだけど……

 そう思っていると、()()()()()()()()()()()()()()()を私は感じた。

 何て言えばいいのか、こっちのビビビはなんだか悲しそうな感じがする。

 そう思っていたら、()()()()()()()()()()()()()()()が姿を現した。

 いつもの歌のお姉さんとは違って、()()()()()()()()()()()()をした、どこかオトナっぽい歌のお姉さん。


え……オルガおばあちゃん?


 オトナっぽい歌のお姉さんはいつもの歌のお姉さんと違って、私に何か話しかけて来てくれた。

 最初の言葉はザザーって音と一緒だったから良く聞こえなかったけど、私にとっても優しくしてくれたんだ。

 歌のお姉さんも知らない新しいお歌も教えて貰えて、とっても嬉しかったなぁ♪

 だけど、ちょっと気になる事もある。

 どうして私の顔を見て、泣いちゃいそうな顔をしていたんだろう?

 泣いてなんか無いって黒いお姉さんは言ってたけど……私の気のせいだったのかな?


「今を越~えてく 繰り返してく 葬礼にはまだ早い 閉ざ~された回廊 堰を切って~ 駆け抜け~た♪」


 でもでも、新しいお歌を教えて貰えて、とっても嬉しかったなぁ♪

 黒いお姉さんが言うには、この歌はお友達から教わったって私は聞いている。

 でも、そのお友達は()()()()()()()()って言ってた。

 なんでも色々あって……しんじゅう(心中)? をしたんだって。


『ごめんね【オルガ】、わたしそろそろ行かなくちゃ』

「え……もう行っちゃうの?」

『ええ。ちょっとここに……【ベラデン】に居る人達に用事があるの』

「そうなんだ……」

『……大丈夫。また会えるわ』

「ほんとう?」

『本当よ』

「約束だからね! 嘘ついたらイヤなんだからね!」

『ええ。約束よ』
――――ゴメンね。その約束、守れそうもない。

 黒いお姉さんはその言葉を最後に、歌のお姉さんと入れ替わるように姿を消した。





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第三十九話 ラスト・インターミッション



サイドストーリー





 ボクの顔の横を丸ノコ状の力場が通り過ぎる。

 それを放つアキュラに対して返す刃で突進し、ロックオン。

 そのまま突撃(ライトニングアサルト)を行い、吹き飛ばした所をダートリーダーで追撃のロックオンをしようとするも、死角から放たれていたブーメランに阻まれる。

 そして、そこを起点にアキュラの猛反撃が始まった。

 こちらに高速の体当たり(ブリッツダッシュ)を行いながら攻撃が始まるのにタイムラグが存在するガトリングを出現させる。

 本来ならば回避しなければならないのだが、それは不可能であると即座に判断し、雷撃を防御に回す(シールドヴォルトを発動させる)

 ロックオンされる感覚を肌で感じる。

 アキュラにロックオンされる時、ボクはいつも肝を冷やす。


「遅い」

「くっ!」

「以前に比べれば大分動きは良くなった。だがその程度ではミt……お前の大切な物を守る事は出来ん」


 小型の丸ノコ状のエネルギー弾を何とか捌きつつ、丁度アキュラの死角となっている左手に雷撃を球状に収束(霆龍玉を発動)させ、解き放つ。

 そのタイミングで後方にあったガトリングが火を噴くが、ボクの放った雷撃によって阻まれる。

 そして、雷撃の輝きによって一時的に視界を封じ、ダートリーダーによるロックオンを試みた()()()()()

 これが功を奏し、炎を纏いながら球状の雷撃を突き抜け、ボクに対して炎を纏った盾による(プロミネンス)アッパーを叩き込もうとする。

 ボクの動きに誘導されたアキュラに対し、ボクを中心に雷を落として(吼雷降による)迎撃を行い、直撃させた。


「ちぃ!」

「アキュラの動きも大分慣れて来た。もう、見切れない程じゃない!」

「言ってくれる……だが、そう来なくてはな!」


 そうして更に戦いが激しくなると思われていたのだが、それに待ったをかける存在がこの場に現れた。

 そう、シアンとミチルの二人だ。


「アキュラくん。もうそろそろ戻ろう? 時間、大分立ってるよ。ロロが待ちくたびれちゃってるんだから」

「GVもだよ。そろそろ終わりにしないと」

「もう少し待てミチル。まだGVとの訓練が終わって……」

「それ、今日はもう何回も聞いたよ?」

「しかしだな……」

「アキュラくん?」

「……分かった」


 流石のアキュラも妹であるミチルには弱いという事なのだろう。

 とは言え、ボクとしては正直残念な気持ちもある。

 何しろようやく身体が温まってきた所で止められてしまったのだから。


「GV?」

「……分かってるよ、シアン」


 ボク達は皇神の特殊部隊で使われていた訓練所を借りてアキュラと本格的な訓練をしていた。

 最初のアキュラとの訓練の時は装備の調整と称していた為ボクも少し困惑していたけど、いざ始まって見れば本当に大変な戦いとなったのだ。

 その時は何とか引き分けに持ち込めたのだが、その後の訓練では勝った負けたが繰り返され、ガラにも無くボクは躍起になった。

 これまで一対一でボクと互角以上に戦える存在とここまで訓練に打ち込んだことが無かったのもあり、今では訓練を始める直前になると不思議と高揚感を感じるようになっている。

 そして、今ボク達が向かっているのは次のライブの最終確認の為の打ち合わせの為の会議室だ。

 厳密に言うとボク達の身内限定の最終確認と言った感じで、仕事的な意味での最終確認は終わっている。

 それなのにもかかわらず、やる必要がある理由がある。

 それは今回のライブでアキュラの妹であるミチルが観客と言う形で初参加する事になったからだ。


『もう! アキュラくん達遅いよ! 何時まで訓練やってんのさ!』

「すまんなロロ」

「ゴメンねロロ」

『全くもう……シアンちゃんもといモルフォとのコラボライブ、ようやくもぎ取れたんだから。打ち合わせはしっかりしなきゃだよ。それに、ミチルちゃんの初めてのライブ参加でもあるんだからね!』

『ようやく実現したアタシ達のライブだもの。ミチルちゃんにはいい思い出を残してもらいたいわ』

「ありがとうモルフォ」

「…………」

「……? どうしたGV?」

「……何でもないよ」


 何でも無いなんて言うのは嘘だ。

 シアン、モルフォ、ミチルの三人がああして会話をしている光景を目の当たりにしていると、何故かボクは胸の奥が締め付けられる感覚に襲われる。

 そして……ボクの第七波動である蒼き雷霆(アームドブルー)からも、あの三人に対して()()()()()()()()()を感じ取れるのだ。

 ニコラに教えて貰った事なのだが、第七波動には意志が存在しているのだと言う。

 それはフェムトがいつも連れ歩いているリトルを見れば一目瞭然だ。

 しかし、ボクの蒼き雷霆はリトルの様に直接話しかける事は無い。

 その代わり、何となくこうして欲しい、ああして欲しいみたい等の気持ちの気配を感じ取る事で、ボクと蒼き雷霆はコミュニケーションを取っている。


「ミチルちゃん。ライブに行くときはちゃんとライブ用の耳栓を用意しなきゃダメだよ。ものすっごい音が沢山溢れてるの。すごいんだよ?」

「ライブ用の耳栓……そんなものがあるんだね」

『ライブ会場全体に音を響かせる関係上、どうしても大音量になっちゃうのよねぇ』


 だがそれを差し引いても、蒼き雷霆がどうしてあの三人に対して懐かしんでいるのかは分からない。

 ……青き雷霆は、世界で最初に発見された第七波動だと言われている。

 では発見される前、彼は何処に居たのだろうか?

 ここに居るアキュラが別の世界線から来た存在であるように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだとしたら――


「GV? 大丈夫? 考え事をしてるみたいだけど」

「……アキュラとの訓練で少し疲れただけだよ。シアン」

「なら、いいんだけど……」

『GVもしっかりしてよね! アナタはシアンを守る天使様なんだから!』

「天使様って……それはちょっとオーバーな表現だと思うよ」

「……天使、か」

『アキュラくん?』

「いや、天使と聞いて母さんから聞かされていた話を思い出しただけだ」


 ――いや、こんな事を考えても仕方が無いだろう。

 ボクがこれからもシアンを守ると言う約束(ちかい)が変わる事は無いのだから。







トークルーム

 

 

 

 

 背中に感じる体温と女性特有の柔らかさを感じる。

 

 それと一緒にゆらゆらと揺れる感覚が私の心を癒し、解きほぐす。

 

 

「フェムトくんを抱っこするの、すっごく落ち着く……」

 

 

 今私は真夜中のVR空間のマイホームにある規則的に緑生い茂る庭で、ロッキングチェア(揺れる椅子)に座っているエリーゼに抱きかかえられている。

 

 隠すべき場所以外はシースルーなVRゲームでないと存在すら難しい色々な意味でカスタマイズされたシルクのローブを彼女は着ている事もあり、彼女の体温と共にシルク特有の人肌に近い感触も私に伝わっている。

 

 どうしてこのような事になっているかと言えば、前線基地に一時的であるとは言え引っ越しをした事で、エリーゼの生活環境が一変した事によるストレスが原因だ。

 

 慣れない仕事に加え、多くの知らない人達との交流は彼女の負担を増大させた。

 

 一応それ相応の成果もちゃんと出しており、医務室での仕事の評判は上々だし、以前とは違って人見知りが激しかった点が大幅に改善されている為、基地内でのエリーゼの評判はかなり良い。

 

 それ故に、エリーゼは良くも悪くも注目を集めてしまう。

 

 ただでさえエリーゼ本人だけでも魅力的なのだが、彼女の第七波動であるアニムスも人手として認知されているのが注目を集める事に拍車を掛けている。

 

 その原因はハッキリと言ってしまえば、二人共物凄く綺麗な点にある。

 

 それも、女性すら惹きつけてしまう程に。

 

 これは恐らくだが、まあ、その……私達がいつも体を重ね合わせているのが原因なのだろう。

 

 私達がそう言った行為をする際、大抵二人一組で()()()するのだが、そうなると当然同性なペアが出来る。

 

 なのでそれが理由だと思われるのだが、どうにもリトルも含めたエリーゼ達は同性を惹きつける気配を出している……らしい。

 

 この情報は私が廊下で聞こえた噂話によって小耳にはさんだ話である為、イマイチ信憑性に欠けている。

 

 だけど、エリーゼと一緒に働いている女性医師の見る目がちょっと怪しい感じがする時があるので、恐らく本当の事なのだろう。

 

 慣れない環境に加え、好意的であるとは言え多くの視線に晒されれば必然的にストレスは溜まる。

 

 そんな訳で、真夜中でのVRベルレコは貴重なストレス発散の機会という訳なのだ。

 

 因みにアニムスも同様である為、今彼女はリトルと一緒にVRベルレコで冒険を堪能している。

 

 魔法が得意なエルフでの広域殲滅がお気に入りらしく、前衛を務めている昆虫人(セクト)であるリトルがマップの敵をかき集めてから纏めて始末する、と言った流れで楽しんでいる。

 

 ただこのやり方は通常マップではMPK案件になりかねない為、PT単位で生成されるインスタンスダンジョンを始めとしたMAP、及びマイホームの機能であるダンジョン作成機能で生成した【プライベードダンジョン】でのみ推奨される。

 

 ……話が逸れたが、そんな訳で私はエリーゼのストレス発散に付き合っているという訳であり、私もそれに合わせて副次的に幸せのおすそ分けを受けている状態だ。

 

 

「ごめんねフェムトくん。わたしの都合に着き合わせちゃって」

 

「そんな事無いですよ。寧ろ私の方が得しているまであります」

 

「そうかな?」

 

「今の恰好、エリーゼに包まれてる感じがして凄く心地良いんです。後頭部の柔らかい感触で幸せですし、こうやってユラユラ揺れている感覚もいいんです。愛し合っている時とはまた違う良さが……ね」

 

「えへへ♪ ありがと。……やっぱりフェムトくんの髪はサラサラだなぁ。それにいい匂い。フェムトくん成分が沢山取れて幸せ……」

 

 

 私の髪は普段蓄電機能等を高める為にポニーテールに三つ編みを合わせたような髪型をしているのだが、今はそれをエリーゼが解いている状態だ。

 

 その状態だと髪が地面を引きずる状態となってしまい汚れてしまう為、普段は寝るとき以外滅多に解くという事は無い。

 

 する時はそれこそ()()()致している時位だ。

 

 そして今の私の服装は彼女と同じ物で、所謂ペアルック。

 

 ……エリーゼが私の後頭部に顔を埋め、匂いを嗅ぎながら抱きしめている手で器用に私の髪を指でこすり合わせながらその感触を楽しんでいる。

 

 ならば私も負けじと脇の下から腕を通して抱きしめている関係上フリーである両手でエリーゼのツヤツヤな銀髪の感触を堪能。

 

 その影響で互いの髪が絡み合い、その様子はまるで髪で出来た金と銀の織物の様に見える。

 

 髪と髪で互いが繋がっている視覚的情報と感覚は、私達の心を大いに癒す。

 

 

「フェムトくん。わたしね、思えばすっごく遠い所に来たなって思ってるの。閉じこもりで全然ダメダメだったわたしがお仕事をしたり、色んな人と話せるようになって……こんな風に、大切な人(フェムトくん)と心を通わせることが出来て」

 

「…………」

 

「フェムトくんに連れ出されて、わたしは沢山救われた。お友達も出来たし、お料理や裁縫とか、出来る事もたくさん増えた。だから、改めて言わせてもらうね。……わたしをここまで引っ張ってくれて、本当にありがとう」

 

「ふふ。どういたしまして。でも私だってそんなエリーゼに沢山助けられました。文字通り命を救われた事だってありました。だから私も改めてお礼を言います。……ありがとう。私の手を拒まないでくれて。私の事を信じてくれて。私を、好きになってくれて」

 

「えへへ……♪ どういたしまして」

 

 

 その後私達はお互い沈黙し、VRによって作られた心地よい環境音に身を任せた。

 

 頭上にある木々から溢れる人工的な木漏れ日は、私達を優しく照らし出す。

 

 時々流れる風が奏でる森の音色が、私達の耳を楽しませる。

 

 ……この静かな光景は、さながら嵐の前の静けさその物だろう。

 

 ペスニアが私に「ちょっと戦力の補充をしないといけないから」と言って姿を消した後、私達の情報網に彼女が引っ掛かる事は無かった。

 

 そして、エデン穏健派も我が国内に拠点を構え一息ついている。

 

 あれから四日程経過していた。

 

 この国を滅ぼしかねない嵐が巻き起こるのは、そう遠くないだろう。

 

 そんな風に考えていたら、私の髪を弄っていたエリーゼの手が私の頬に触れ、顔と顔を向かい合わせる様に促した。

 

 私はそれに応じて体の向きを変え、エリーゼと至近距離で目を合わせる。

 

 宝石のように綺麗なエリーゼの目の瞳孔にハートマークが付いている錯覚をこの時感じた私は、きっと間違ってはいないだろう。

 

 この時のエリーゼは熱い吐息を漏らしながら私を見つめていたのだから。

 

 ――緑あふれる庭先で、私達の影は完全に重なる。

 

 後に訪れる、破滅的な嵐を乗り切る為の力を互いに共有するかのように。

 

 

 

 


 

 

エリーゼとの心の繋がりを感じた

 

 


 

 

 

 


エリーゼと訓練

 

 

 

 

 私とエリーゼは互いに向かい合う。

 

 ここは私達の自宅にあるトレーニングルームとは違う、前線基地にある訓練場。

 

 私はリトルを、エリーゼはアニムスを呼び出し、互いの第七波動(セブンス)達は宿主の傍で佇む。

 

 緊張感のある空間を見守る隊員達に見守られながら、私達は変身現象(アームドフェノメン)を行う。

 

 リトルが天使の姿になった影響なのか、変身現象を終えた私の身体を青白い膜の様な物が覆っている。

 

 対するエリーゼも同様に、歌によってリトルに大きく力を流した影響なのか、その出力が更に引き上がっていた。

 

 お互いの変身現象を終え、私達は武器を取り出し、構える。

 

 私は鉄扇の二刀流、エリーゼは右手に小太刀、左手に苦無を手に取りながら。

 

 変身現象によって更に魅力が引き立った姿で威風堂々と構えるエリーゼの姿がこうして多くの人達の前に晒されるのは初めての事。

 

 なので、始める前はそんな視線に委縮してしまうのでは無いかと心配した事もあったが、そんな心配は必要無かった様だ。

 

 目の前のエリーゼは委縮する所か、凛と構えた鋭い視線を私に向けている。

 

 しばらくの間、互いの隙を伺う。

 

 動きは全くないが、それでも何かが蓄積するような感覚は気のせいでは無い筈だ。

 

 それは焦燥感か、或いは緊張感か。

 

 言葉に出来ない感覚が頂点に達した時、私達は同時に動き出した。

 

 お互いの蹴り出した地面が砕け、蒼白い残像を伴いながら私達は衝撃波を周りに散らしながら衝突する。

 

 今回はこれまでと違い、互いにこれまで習得したアビリティを全乗せしている状態、即ち完全な実践を想定しており、互いに致命傷を負う事も想定に入れての訓練だ。

 

 これは互いに回復する手段があるから実現可能な事なのだが、こう言った訓練をする際は特別な許可が必要な為、滅多に出来る事では無い。

 

 こんな実戦形式が認められた背景には、ペスニアがエリーゼを狙っている事が私達の中で共有されたからだ。

 

 なので早急に実戦に近い戦闘をエリーゼに経験してもらう必要があった。

 

 因みにだが、私との戦いが終わった後は他の能力者達とも実戦形式で戦う予定となっている。

 

 

「はぁぁぁぁ……せいや!!」

 

「まだまだ!! ハァ!!」

 

 

 リトルの開いた鉄扇を防御に回し、返す刃に収束させた防御結界(パルスシールド)をエリーゼに叩き込む。

 

 それを苦無で受け流しつつ、まるでダンスを踊っているかの如く小太刀との連撃を返される。

 

 それはさながら刃の嵐(ソードダンス)と呼ぶべきもの。

 

 これによって優勢だった私は防御に専念する事となる。

 

 時には受け止め、受け流すが、それでもエリーゼは止まらない。

 

 何しろエリーゼの身体は常に生命力(ライフエナジー)に満たされている為、スタミナ等の体力面に関して気にする必要等無いからだ。

 

 従来の訓練とは違って本格的に第七波動も交えた訓練である為、こう言った芸当も可能なのである。

 

 

「どうしたのフェムトくん! 防戦一方だよ!!」

 

「……っぅ」

 

 

 ここでエリーゼに乗ってペースを上げて反撃するのは悪手であり、仮に乗ったとしたら私はたちまちスタミナ切れで詰みとなってしまうだろう。

 

 なので、ここはあえて我慢をする場面だ。

 

 リトルにデータ取りをお願いしつつ心を落ち着かせ、冷静に動きを見極める。

 

 これだけ激しい動きなのだ。

 

 間違い無くエリーゼ特有の型が存在する、即ち何かしらの法則性がある筈。

 

 そうしてしばらく防戦一方で受けている内に、私はリトルに頼んでいたパターン検出を完了させる。

 

 よって、勝負は――

 

 

「(タイミングはもう少し……よし、今だ!)……! そこぉ!!」

 

「弾かれた!? あ……」

 

 

 ――これにて終幕。

 

 私は適切なタイミングでエリーゼの力も利用する形でリトルの鉄扇を用い、苦無を叩き落す。

 

 そして、収束させた防御結界の切っ先をエリーゼの首元に突きつける。

 

 勝負の結果は、一目瞭然だろう。

 

 

「まさかあそこから逆転されちゃうなんて。能力込みだから今回は勝てるかもって思ってたんだけどなぁ……」

 

「能力が込みなら戦闘中にパターン検出なんて出来ますからね。そうして動きを読んだんですよ」

 

「あ、リトルちゃんを頼ったんだね」

 

「そういうことです」

 

 

 エリーゼは実戦を経験していないにも関わらずここまで動けるのは良い誤算であった。

 

 今の段階でも最低限の自衛が出来る筈だろうから、後は経験だけと言えるだろう。

 

 ……そう言えば、辺りが静まり返っているのはどうしてだろうか?

 

 そう思いながら見回して見ると、彼らは何故か視線を合わせようとしてくれない。

 

 その原因を教えてくれたのは、こちらに向かってくるデイトナであった。

 

 

「あんな派手にやりあってるトコ見せられたんだ。自分達じゃ相手になんねェって分かったんだろうさ」

 

「デイトナ」

 

「いや、オレも正直驚いたぜ。まさかエリーゼがここまで戦れるだなんてよォ。……次はオレが相手だ。フェムト程優しくは出来ねぇが、その分いい経験にはなる筈だ」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

「デイトナ、分かってるとは思うけど……」

 

「あん? 悪いが手加減何て器用な事は……」

 

()()()()()()()()()。今の私との戦いでエリーゼは本格的にアニムスに、自身の第七波動を頼る事を覚えました。なので次は私の時の様にはならないと思います」

 

「……へぇ。恋人相手に随分スパルタな事言うじゃねェかお前は」

 

「ペスニアが何時動き出すのか分かりません。ならば、可能な限り経験を積ませた方がいい。エリーゼが狙われているのは確かなのですから」

 

「ま、それもそうだな。……しっかし、女の肌を焼く事になるのはちいとばかし気が滅入るぜ」

 

「大丈夫です。エリーゼはそんな()()ではありません。私だって訓練の際、エリーゼの身体に散々深い傷を刻みましたので」

 

「お前ら、想像以上にハードな事してんのな……」

 

「お互い回復手段がありますからね。私も当然エリーゼに深手を何度も受けています。お互い様ってヤツですよ」

 

()()()()になっているのはお互い様って訳かい」

 

「そういう事です」

 

 

 その後、デイトナとエリーゼとの訓練は正に実戦さながらと言うか、凄まじく派手な戦いとなり、見物人と化した隊員達を大いに驚かせた。

 

 そしてこの訓練後、他の隊員たちの私とエリーゼを見る目が良い意味で変化する。

 

 具体的に言うと、舐められるという事が無くなった。

 

 これまで続いていたワザと軽い怪我をしてエリーゼの治療を受けると言った事も無くなった為、医務室での仕事もようやく落ち着きを取り戻したのだ。

 

 何と言うか、今回の出来事は力を持つだけでは無く、力を見せる事の重要性を学べたような気がする、そんな一幕なのであった。

 

 

 


情報解析

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 ダイナイン、インテルス、ペスニアの三人との戦いにより、無事解析が終了。

 

 そのお陰で百年程あった技術格差をソフト面限定ではあるが如何にか埋め合わせる事が出来そうだ。

 

 特にあの翼戦士の羽ペンによる変身現象を見れた事は大きい。

 

 アレのお陰で宝剣開放時の基礎性能を大幅に引き上げる事が出来るアビリティの作成が可能になったからだ。

 

 まあ逆に言うと、アビリティと言う形でしか間に合わせることが出来ないとも言うが……

 

 こう言った基礎的な事はハード面が重要である為、強化幅はそれ相応の範囲に留まるだろうが、次世代以降の宝剣は間違い無く高性能になる事だろう。

 

 特に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を得る事が出来たのは大きい。

 

 今私達の使っている宝剣は能力摘出をすると言う工程を挟む関係上、どうしてもコストがかさんでしまう。

 

 なのでコスト面から見てもお得な技術である為、量産する事も考えると本当に重要なのである。

 

 それにこの戦闘では、あの蒼黒い雷が二種類存在する事も分かり、そのお陰でこれについても解析が進み、対抗する為のアビリティも作成出来た。

 

 その対抗手段とは、奇しくも同じ戦闘で私が覚醒した時に発生した蒼白い雷にあった。

 

 どうにも覚醒時の私が放つ蒼白い雷には蒼黒い雷を調律(チューニング)して取り込む性質があるようで、これらのデータを利用すれば相手の力を逆利用する事も出来る様になる。

 

 これによって私達は大幅に力を増す事になるだろうが、油断するのはダメだろう。

 

 何しろ、ペスニアの放ったあの死神の一撃とも言える攻撃はほぼ全アビリティを貫通したのだから。

 

 

(宝剣開放時の基礎性能を大幅に引き上げる【アウェイクニング】、二種類の蒼黒い雷に対抗する【ブルーチューニング】、拘束時、振りほどくのを早める【シーカーオフ】、覚醒する際に使うエネルギー効率を最適化する【オプティマイズ】、EPレーダー使用時のEP消費を半減させる【ハーフレーダー】……こんな所ですか)

 

 

 以前作成したアビリティよりも数は少ないが、これは戦闘が直ぐに終わってしまった影響が大きい。

 

 それでも最低限必要なアビリティに加え、さらに追加で三つも作成できたのは良い事だろう。

 

 ともあれ、これで私が出来る範囲での話になるが、可能な限り技術格差を縮める事は出来ただろう。

 

 だが、この技術格差について一つ疑問が浮かび上がって来る。

 

 V()R()()()()()()()()()()()()()()()()()V()R()()()()()()()()()()()()()と言う点だ。

 

 変身現象においては私達よりも百年は先を行っているにも関わらず。

 

 それに、本人の証言を纏めると私の知るアキュラと時間軸に関して言えばほぼ同等、或いはそれ以上な可能性すらあるのにこの証言をすると言うのは技術的な意味であり得ないのだ。

 

 一応アキュラにもVRゲームについて尋ねた事があるのだが、第七波動能力者(セプティマホルダー)達の間では珍しくない娯楽らしいと言う情報を聞き出す事が出来た。

 

 この事から察するに、ペスニアが活動していた時代背景は所謂【ポスト・アポカリプス】、つまり()()()()()()()()()()()なのではと言う疑惑が浮かび上がって来る。

 

 アキュラが敗北してしまった世界の未来なのだから、そう考えるのが自然であると言えるだろう。

 

 ……しかし仮にそうだとしたら、その様な世界からどうして彼女はこの世界へと足を運ぶ事になってしまったのだろうか?

 

 疑問は尽きないが、前提の話すら仮定である以上、考察するのはここまでにした方がいいだろう。

 

 とにかく今は、ペスニアを相手に生き残る事を考えるべきだ。

 

 もう当分の間、()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

 

 


 

 

GET ABILITY アウェイクニング ブルーチューニング シーカーオフ オプティマイズ ハーフレーダー

 

 


 

 

 

 


出社

 

 

 

 

 この静寂な時が続いている内に、情報管理部の様子を見ようと紫電に申告した結果OKが出た。

 

 なので、これまでよりも長く間を開けてしまったあの場所の様子を見に久しぶりの出社をする事となった。

 

 いつもの我が家からなら徒歩で迎える距離なのだが、前線基地からだと車でも相応の時間が掛かる。

 

 なので、出社をする際は変身現象を使用しなければならなかった。

 

 

(…………)

 

(リトル?)

 

(私ね、会社に向かう時の、ゆっくり歩きながら見る街並みが好きだったんだ。だから、少し寂しいなって思ったの)

 

 

 我が家から出社しなくなった事で失われてしまった物はそれなりにある。

 

 先ほどのリトルの事もそうだが、エリーゼから手渡される手作りのお土産を持ち出すことが出来ないし、魔法瓶にいつも詰めているコーヒーも同様だ。

 

 一応老舗のお菓子屋さんでお土産も購入したし、コーヒーも私の行きつけの専門店で特別に淹れて貰った物も用意している。

 

 しかし、当たり前に出来た事が出来なくなると言う寂しさが無くなる訳では無い。

 

 我が家で皆が喜ぶ所を想像しながら淹れる香り立つコーヒーの匂い。

 

 エリーゼが味見を私にお願いする事をひそかな楽しみにしていた事。

 

 人によってはどうでも良い、何気ない日常の一コマと呼べる物なのかもしれない。

 

 だけど、これ等は間違い無く私達の生活に彩を与えていたのだ。

 

 なのでリトルが寂しさを感じている様に、私も同様に少しだけだが寂しさを感じていた。

 

 大人になると言うのは、こう言った寂しさも受け入れる事なのかもしれないと私は思いつつ、情報管理部のあるビルへと向かう。

 

 そうして進んで行く内に、やがて見慣れた景色へと変わる。

 

 ……今の時刻的に考えて、ここから変身現象を解いた状態の歩きでも十分時間に間に合う距離だ。

 

 なので、私は死角となる場所へと飛び込むと同時に変身現象を解除する。

 

 リトルの大好きな歩きながら見る街並みと言う日常を無くさない為に。

 

 

「ぁ……」

 

「行こうリトル。ゆっくりと街を見ながら」

 

「……っ! うん!」

 

 

 いつも通りの道を歩く私達。

 

 会社への道のりは私達にこれから始まるであろう一日を暗示させる。

 

 時刻は前回の時よりもずっと早い、形式的に情報管理部の一日が始まる一時間前程の時間。

 

 街を行き交う人々は、私達が解決の為に奔走している先の騒動等気にする事も無く、それぞれの日常を精一杯生きている。

 

 そんな精一杯生きている人達によってこの街は、国は、世界は成り立っているのだ。

 

 その事を改めて胸に刻みながら、私達は歩く。

 

 そして、これまでの日常と同じように私達は会社へと到着し、受付のお姉さんに挨拶を済ませた。

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます。フェムトさん、リトルちゃん。今日は早いわねぇ。……情報管理部の様子を見に来たの?」

 

「ええ。今少しの間だけですが落ち着いたので」

 

「フェムトが何とか予定をねじ込んだ。皆の様子、気になるから」

 

「フェムトさんの方は大変みたいだと聞いていたのに……きっとみんな、感謝すると思いますよ」

 

 

 受付のお姉さんとの挨拶を済ませ、私達は情報管理部へと足を運ぶ。

 

 そして、扉の前に立ったのだが……仕事をしている気配が感じられない。

 

 気になって中を開けてみれば、ベテラン社員さんのみが机の上で缶コーヒーを飲んで一息入れていた。

 

 

「ん? おぉ、フェムトにリトルか」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます!」

 

「ああ、二人共おはよう。随分と早く来たもんだな。まだ作業開始時刻まで十分に時間があると言うのに」

 

「え?」

 

「前来た時、お前が社員全員にアドバイスやレクチャーをしただろう? そのお陰で大分効率よく纏まって動けるようになってな。まあ残業その物はあるにはあるが、早出をする必要は無くなったのさ」

 

 

 考えてみれば、当たり前の話であった。

 

 この時間帯は本来、まだ誰も来ていない筈なのである。

 

 これまでは仕事の忙しさや慣れの問題もあったので早出が必要だったのだが、ベテラン社員さんが言うにはそれも改善しており、お陰で皆は少しだが余裕を持つ事が出来る様になったのだと言う。

 

 

「でも、それならどうして貴方はこんな時間に出社を?」

 

「……恥ずかしい話だが、習慣さ。必要無くなったとは言え、俺にとってはこれが()()だったからな。それに……いや、何でもねぇ」

 

「日常、ですか」

 

「ああ。忙しい日々ではあったが、いざ無くなるとなると寂しさを覚えちまう。これは間違い無くいい事の筈なのにな。全く、何とも身勝手な考えだと思わないか?」

 

「そんな事、無い」

 

「リトル?」

 

「大変だった事を覚えてる人が居れば、また同じ事をやろうって人は居ないと思うから。だから、そんな事無い」

 

「これから新しく入る連中に警告を与える事が出来るって訳か。まあ、そう言う考えも悪かねぇな」

 

「……コーヒーとお土産、持ってきたんですよ。どうですか?」

 

「おう、ありがたく頂かせて貰うぜ。……いつもありがとうな、フェムト」

 

 

 私達の取り巻く環境が変わるように、私が関わっていた情報管理部もまた、日々変化を遂げている。

 

 私のアドバイスやレクチャーはこの部門の新たなマニュアルとして纏められ、将来ここに来るであろう人達の道標になると聞かされた。

 

 それはとても、喜ばしい事の筈だ。

 

 なのに、どうしてだろうか?

 

 どこか寂しさを感じてしまう。

 

 

「そりゃあそうだろうなぁ。言わば手の掛かっていた子供が巣立ちの時を迎えるようなもんだ。寂しくなるって言う気持ちは分からん訳でもないさ」

 

「そう……なのでしょうか?」

 

「お前も恋人が居る身だ。やがて子供を持ち、育て、巣立つ所を見送る立場になるだろう。……こういう経験も悪かねぇはずだ」

 

 

 ベテラン社員さんの表情は、どこか寂し気な物だった。

 

 きっと今、私達の気持ちは一つになっているのだろう。

 

 そう、手の掛かっていた子供(情報管理部)がやがて巣立ちの時を迎えると言う寂しさによる気持ちを共有した事によって。

 

 

 

 


 

 

GET 100000MG 

 

情報処理部門Lv4→Lv8up!(MAX)

 

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
今の章のインターミッション回はこれで最後になります。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。









〇今のGVの出来る事について
無印、爪、鎖環の三要素のアクションやスキルが大体出来る感じ。
流石に無限エアダッシュや無限ジャンプなんかは装備や謡精の補助が無いと出来ない。
更に本小説では休暇編第七話にて、両手足に籠手とグリーブの実体化と言う要素が加わっている為、【ライトニングアサルト】及びジャンプ、ダッシュ系のアクションが強化されている。
その副次効果として雑魚敵限定ではあるが【ヴォルティックバスター】も使用可能。
変身現象(アームドフェノメン)をした能力者相手に使うのは覚醒状態で無いと無理と言った感じ。

二人(GVとアキュラ)の訓練について
メタ的に言うと、本小説内のGVは原作と比較して圧倒的に実戦経験が不足してしまっている為、その埋め合わせと言った感じ。
お話し的にはお互い遠慮なくぶつかっていける事が何気に双方気に入っているらしく、ついつい熱中してしまう事もあると言った感じ。
それだけお互い心を許していると言う本小説なりの描写でもある。

〇ライブについて
第二十六話で話していたロロとのコラボライブが実現する事になった。
ロロが何だかんだで成果を出し続けたお陰で極めて短期間で実現にこぎつけた。
フェムト達のやっている事が噂になり出し、人々が不安を感じるようになって来たのを払拭する皇神側の狙いもある。

〇エリーゼ達が同性から変な目(意味深)で見られている事について
エリーゼ達が普段色々と致している影響なのか、身振り手振り、気配等が何所と無く同性を惹きつける魔性を帯びている。
なので意味深な視線を向けられてしまうと言った感じ。

〇お互いキズモノになっている事について
第二十二話で「実際に初期の頃は何度か私達の間で事故を起こした事もある」と軽く流していた物を少し詳しく語った物。
これもあり、エリーゼは何気に自身が受けた怪我に対する耐性も高い。
フェムトに対するマゾヒスト気質なのは内緒だぞ♪

〇イクス世界線のVRゲームについて
無能力者(マイナーズ)達の間では専用機器の関係で流行っておらず、そう言った物を取りそろえることが出来る環境下にある第七波動能力者の間では流行っていると言った感じ。
その為、アキュラが知っているのはネットを良く調べているロロから得た知識と言った感じ。
なので、ペスニア世界線でもフェムト視点で見るならば、存在している筈なのだが……

〇アビリティの作成が出来ない件について
メタ的に言うと全アビリティを習得しましたよと言うサイン。
お話し的にはこの後そんな暇が無くなる事を示唆している。





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第四十話 黒死蝶(ペスニア)と言う存在



サイドストーリー






(どうだい? 地下施設の様子は?)

(はっ! 今の所、異常は見当たりません!)

(それならいい。だけど、何か発見したら即座に報告を。状況次第ではそちらの判断で撤退してくれても構わない)


 ボクは今、かつてエリーゼを保護した場所である地下施設の入り口に居る。

 ここは以前、GVがシアンを連れて行った後で発生した大爆発によって施設諸共消し飛んでしまった上に、以前の未熟だった頃のエリーゼの力によってゾンビまで発生していた曰く付きの場所だ。

 あれから時が経った今でこそ入り口付近は大分片付いてはいるものの、それ以降の内部はほぼ手付かずの状態となっており、一種の禁足地と言う扱いすら受けていた。

 そんな状態を今まで放置していたのは、単純に歌姫(ディーヴァ)プロジェクト等を始め様々な事で忙しかったのもあり、優先順位が低かったからだ。

 そんな優先順位の低いこの場所を何故今更になって本格的な調査を始めたのか?

 それは以前パンテーラが連れて来てくれたニケーの占星術によって割り出されたペスニアの潜伏先と思われる場所だからだ。

 とは言えボクが所属しているのは皇神である以上、「占いで場所を特定しました」等と言う訳にもいかない為、こうして裏取りをしているという訳なのである。

 それに、ボク達がペスニアの足取りを今まで掴めなかったと言うのも理由の一つ。

 何しろ彼女はオカルト的な索敵すら逆探知してその場に赴く等と言うとんでもない事を仕出かすことが出来る存在。

 しかも本人は神出鬼没である事から、追跡は愚か発見する事も非常に困難であった。


(これは……培養装置か。全く、何を実験していたのやら)

(こっちには……電灯(ライト)メカか。見慣れたモノがあると気が抜けてしまうな。気を付けねば)

(荒れた床が鋭利なトゲになっている。総員、足を取られない様に)


 そして、ボク自身ここに来てからあの時と同じように嫌な予感が止まらない以上、ここには何かがあるのは間違いない。

 道中で転がるゾンビにすらなれなかった死体も、ボクの嫌な予感に拍車を掛けた。

 なので、現在ここを調査している潜入班には独自の判断で戻っても良いと言う趣旨を伝えてある。

 更に潜入班よりも先に外部操作の音声も拾える動画撮影機能付きのドローンを先行させている為、コイツに何かあっても即座に撤退するよう徹底しているだけでは無く、彼らと待機班のボク達もフェムトのTASで接続している。

 これは一般隊員達に対しての運用テストもかねており、安全性も保障されている為、問題は無い。

 これまでの会話もTASの機能によるテレパスで行っており、特殊な電波を使っている関係上、その機密性は相当な物だ。

 危険であると分かっている場所に送る以上、これぐらいの事はして当然と言えるだろう。


(こちら潜入班。中層までたどり着きましたが異常は……! 異常発見! これは……ドローンの映像をそちらに送ります!)

(これは……電子障壁(サイバーフィールド)か)


 そこは大規模な研究設備がずらりと並ぶ大広間。

 そのあちこちに血痕が付着しているが、その割に死体が見当たらない。

 恐らくここに存在した死体だった物は敵だった頃のエリーゼ達が引き連れて行ったのか、それともその後で片付けられたのか。

 まあどちらにしろ、不気味である事には変わりは無い。

 そして、その大広間のさらに奥に大穴とソレを塞ぐかのように大規模に展開されている電子障壁が映し出される。

 この奥に何が広がっているのかは定かではないが、ペスニアがここを拠点としているのは確定と言っても良いだろう。

 なので、ボクは即座に皇神兵達の撤退を命じる。


(ありがとう。確認は取れたから直ぐに撤退を。長居をしていい事は無いからね)

(了解しました。では、現時点を以て撤退する! 総員直ちに反転せよ!)

(了k……ヒィ!)

(おい、どうした?)

『あ……あぁ……や、やめろ……来るな……来るなぁ!!!』


 離れている筈のドローンを経由して、隊員の叫び声が木霊する。

 送られてきている映像からペスニアの姿が現れたと同時に。


(あれが紫電様が仰っていた……やむを得ん!)

『ぅ……』


 部隊長が叫び声を上げている隊員を打撃で気絶させて倒した後、即座に抱きかかえてボクの居る中継地点へと撤退を開始する。

 ドローンから送られている映像に映ったペスニアはドローン本体に気が付き、視線をドローンに向けて手を翳す。

 するとたちまちドローンは制御不能となり、ペスニアに付き従う僕と化した。

 しかし、僕と化したドローンであってもこちらに映像と音声を送り続ける機能が無くなった訳では無い。

 よって、彼女の独り言の音声(愚痴)を拾う事に成功している。


『全く、このわたしを見て悲鳴を上げるだなんて。失礼しちゃうわ。こんなに可愛らしい姿をしているのに』


 確かに大本はモルフォの姿なので可愛らしいと言うのは事実だろう。

 しかし、これまでの所業を考えると残念ながら当然であると言わざるを得ない。

 オカルト的索敵手段に反応して世界各国に出没する、()()()()()()()()()()()、あまつさえフェムトを一度殺害した事も考えれば当然の事だ。

 しかし、今回ボクが率いている皇神兵達は少数精鋭の特殊部隊、所謂エリートに相当する隊員で構成されている。

 当然ボクも部隊構成も隊員のプロフィールも把握しており、今回のミッションに耐えうると判断して投入しているのだ。

 ……あの怯え切った隊員は普段は常に先陣を切り、正に恐れを知らぬと言う言葉を体現した人物だった筈。

 なのにも関わらず、あそこまで怯えるなんて明らかにおかしい。


『ああ言ったタイプの人って確か……()()()()()って聞いていたわね。まあ無意味に十字架を掲げられたり、塩を投げつけられたりしないだけマシよね。中には顔を見せただけで気絶するような人も居るし』


 顎に手を当て、いかにも考えていますと言うジェスチャーをしながらこのように愚痴を溢すペスニア。

 この言葉を聞き、あの隊員のプロフィールにそう言った記述があったのを思い出した。

 ……まさか、本当に?

 いやしかし、仮にそうだとしたら霊感などと言うその手のシロモノを持っていないボクを含めた様々な人達ですらペスニアの姿を捉える事が出来ると言うのは明らかにおかしい。

 一体どういう事なのかと思案している間、ペスニアの様子に変化が現れる。

 撤退する隊員達に対して手を翳しており、何かしらの干渉をしようとしていたのが見て取れた。

 恐らくだが、以前ボクとパンテーラを動けなくした、一種の金縛りを仕掛けているのだろう。

 しかし――


『まあでも、折角来てもらったんだから歓迎しないと……アレ? 動きが止まらない? ちょ、ちょっと待ってよ! どうして止まらないのよ~!?』


 ――どういう訳か効果が無いらしい。

 ペスニアは不発に終わったのが予想外だったのか、目を白黒させながら慌てている様子が映し出された。

 以前のボク達と今のボク達で違いがあるのだとしたら、それはフェムトのTASを皆が接続している点だ。

 恐らくだが、コレのお陰で彼らは動けているのだろう。

 しかしそれがペスニアの興味を引いてしまったのか、彼女は隊員達の追跡を始めてしまった。

 そうなると、ボクが殿を務める必要が出て来るだろう。


(紫電様!)

(うん。予定通り、皆戻ってくれたね。……後はボクに任せて欲しい)

(了解しました。……ご武運を)


 ボクは側に居たシスを用いて変身現象(アームドフェノメン)を行い、ペスニアに備える。

 今回はあくまで隊員達が撤退し、何かあったら増援に来る予定のフェムト達が来るまで時間を稼げばいい。

 以前は何も出来なかったが今回は動ける以上、不覚を取るつもりは無い。

 そう考えていると、ボクの視線に彼女の姿が映し出される。

 何と言うか酷く興味を刺激されているらしく、慌てていた筈だったのが一転して嬉しそうにこちらに向かって来ており、向こうがボクを視界に収めた途端、更に笑みを深めた。


『あらあら、紫電じゃない。ん~……やっぱり通じないみたいね。()()()()()()()()()()()()()()()。一体どういうカラクリなのかしら?』

「さあね。仮に知っていても教えるつもりは無いよ」

『う~ん……見た所わたしの所在の確認だけが目的だったみたいだし、見逃してもいいかなぁ』

「へぇ。見逃してくれるんだ」

()()()()()()()()()()()。ふふ♪ 色々と暗躍した甲斐があったわぁ♪ お陰でもう、()()()()()()()()()()()()()わ』


 その言葉と共に、()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まるで、()()()()()()()()()()みたいに。


『本番は明後日よ。それまでにしっかりと準備を整えてらっしゃいな』

「そっちはもう準備が整ってるのに、直ぐには決行しないんだね。キミの様なタイプは真っ先に実行しそうな物なのに」

『だって、明日はモルフォのライブの日じゃない。コラボもやるって聞いたわ。……コラボ対象があの玉っころだって言うのとこっちの都合で初日だけしか見れないのがちょっと不満だけど』

「……キミの様な人でもああ言ったイベントには興味あるみたいだね」

『こんな事やる余裕、わたしの居た場所では無かったんだから当然でしょ? それに、一度直接見て見たかったのよねぇ。わたしの姿をしたあの子がどんな風に歌うのかを』

「…………」

『そう警戒しなくても大丈夫よ。初日のライブの邪魔はしないわ。それに……明日は()()()()()()()()()だしね』

「……キミは、この国を滅ぼすつもりなのかい?」

『個人的には残ってて欲しいって気持ちはあるわよ? 楽しい事や興味のある事でいっぱいな所だから。……でも、そうね。結果的にそうなっちゃうわね。全く、嫌になるわ』

「だったら今すぐにでも辞めてくれるとボクとしては助かるんだけど?」

『そうもいかないのよねぇ……わたしにはわたしの事情があるのよ。残念ながらね。ま、滅ぼされたく無ければ、精々頑張んなさいな。フフフフフ……アハハハハハハハハハハハ…………♪』 


 木霊する声と共に、ペスニアは姿を消した。

 彼女の気配は消え、視線も感じなくなった。

 恐らくだが、ペスニアの神出鬼没な所はコレが由縁なのだろう。

 ……全く、この手の相手の領分は裏八雲の方だと言うのに。






 

 

 

 

 今日私達は本日開催されるモルフォのライブ会場である専用のドームの中に居る。

 

 既に一般客も入り込んでおり、ドーム内はほぼ満員と言った様相を呈しており、その熱狂ぶりが伺えた。

 

 しかもネットで話題となっている希望の歌姫とのコラボをすると言うのだから、既にドーム内は凄まじい熱気に包まれていると言っても過言では無い。

 

 このライブの目的はいつもの能力抑制では無く、ロロとのコラボと私達の明日に向けての応援の意味がある。 

 

 それに加え、私達の活動が市民の間で噂になっているらしく、その不安を取り除く事も目的にある様だ。

 

 因みにだが、能力抑制はこの翌日に行われる予定で、昨日判明したペスニアの拠点に突入するのと同時に開始する事で私達も含めた突入班の士気を上げる狙いもある。

 

 

「俺らが特等席に陣取れるなんて……皇神兵やっててこんなに嬉しい事は無いぜ」

 

「ああ、全くだ。ここ最近はずっと忙しかったからな」

 

「明日はいよいよ決戦だって聞いてるから、このライブでリフレッシュ出来るのは本当にありがたいよ」

 

「しかし、俺らにも明日の出番があるなんて思わなかったよな」

 

「まあ出番なんて言われちゃいるが、主に火力支援がメインだからな。俺達は後方で指示通り撃つだけでいいんだ。楽なもんだぜ」

 

「ここ最近の俺らの装備、本当に充実したよなぁ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なお陰で狙うのも簡単になったし」

 

「一回ロックオンされた対象に試射したけど、あの弾道の曲がり方は凄かったよなぁ」

 

 

 一般客とは別の特等席に居る隊員達が話しているのは明日の私に関わる話だ。

 

 彼らの扱っている武装は現時点において第七波動を用いた最新式の物。

 

 そんな彼らの明日の主な任務は、私の支援要請で行う火力支援だ。

 

 主に爆炎の第七波動(エクス)によって作られた特殊な弾頭を放つカノン砲と、破片の代わりに翅蟲の第七波動(ライ)の羽虫が着弾地点を中心に広域に拡散する榴弾砲によって行われる。

 

 これらの武装は本来ペスニアが潜伏していると思われる場所である地下施設では不向き所か、下手をすれば自爆もあり得る代物だ。

 

 しかし、既に紫電から受けた大まかな説明によると、突入時は星辰によるレーザー攻撃を集中させる事によって大穴を開け、部隊運用をする為の広さを確保すると聞いている。

 

 それならば確かにこれらの火力支援も生かす事が出来るだろう。

 

 しかし、そこまでやってしまうと派手になり過ぎてしまうのではと思ったのだが、紫電が言うにはペスニアは本当にこの国を滅ぼそうとしているらしく、手段を選んではいられないのだと言う。

 

 だからこそ、まだ未完成であるはずの火力支援部隊まで投入する必要に迫られているのだろう。

 

 そんな風に考えていると、デイトナ達が特等席に入る為の入り口から姿を現す。

 

 既にここまで満員となっている関係上、この場に居る私とリトル、エリーゼにアニムスと合流する事は出来ないだろう。

 

 

(もう直ぐで始まるね。モルフォとロロのライブ)

 

(……ねぇフェムトくん。TASをこんな風に使っちゃっていいのかなぁ)

 

(大丈夫ですよエリーゼ。こう言った場所での運用もデータに残しておけばいい訳が立ちますので)

 

(フェムトくんも強かですわね)

 

(この位のいい加減さにも柔軟に対応できてこそのTASですよ。アニムス)

 

(フフ♪ そうですわね)

 

(あ、暗くなって来た……サイリウム、何色にしようかな)

 

(私は水色にしますね)

 

(じゃあ私もフェムトと同じで)

 

(わたしは白色にしようかな。アニムスはどうするの?)

 

(わたくしもエリーゼと同じ白色にしますわ)

 

 

 そう言ったやり取りを行っている内にライブ会場であるドームは真っ暗となった。

 

 それと同時に少しづつ開いていたドームの天井が完全に開放され、夜空が私達の視界に姿を現す。

 

 モルフォとロロのコラボライブが、いよいよ始まる。

 

 前奏が流れ出す。

 

 世間においては新曲であり、私とリトル、デイトナとイオタ、エクスにライは図らずとも聞いてしまったその曲。

 

 その名は藍の運命。

 

 曲が進むにつれて明かりが急速にともり出し、場を沸かせる。

 

 曲に合わせサイリウムが動く光景は、私達に強い一体感を与えた。

 

 そして――

 

 

 

 

空が落ちて 騒ぎ出した
空が落ちて 騒ぎ出した

 

 

 

世界の片隅で
世界の片隅で

 

 

 

静かに藍を織りなす糸
静かに藍を織りなす糸

 

 

 

生命縫い止めて
生命縫い止めて

 

 

 

いまこうして 生まれ変わる
いまこうして 生まれ変わる

 

 

 

ふたりの運命は
ふたりの運命は

 

 

 

朽ち果て消えゆくその日まで
朽ち果て消えゆくその日まで

 

 

 

たとえ苦しんでも
たとえ苦しんでも

 

 

 

今は見えなくても
今は見えなくても

 

 

 

 

 ――モルフォライブが遂に始まった。

 

 二人の歌声による新曲は、開幕のデュエットと合わせ私達に大きな衝撃を与え、ドームの盛り上がりは早くも最高潮に向けて加速し出す。

 

 

 

 

熱を帯びて壊れた町は

 

 

 

昼と夜の 狭間を暈す

 

 

 

あの日 君は 右手を掲げ

 

 

 

高く振った 見え無くなるまで

 

 

 

彷徨い 悩んで 辿り着いた在り処

 

 

 

現世の幻影

 

 

 

飛ばせ 消えゆく果てへ

 

 

 

撃ち抜いた暗黒も 忘れ去り 眠れ

 

 

 

 

いま再び 巡り会えた
いま再び 巡り会えた

 

 

 

世界の傍らで
世界の傍らで

 

 

 

いつかは藍に変わるからと
いつかは藍に変わるからと

 

 

 

空を抱きとめて
空を抱きとめて

 

 

 

またこうして 走り出した
またこうして 走り出した

 

 

 

ふたりの運命は
ふたりの運命は

 

 

 

朽ち果て消えゆくその日まで
朽ち果て消えゆくその日まで

 

 

 

たとえ失っても
たとえ失っても 

 

 

 

いまは遠すぎても
いまは遠すぎても

 

 

 

 振り付けと同時に二人にもたらされる数々の光溢れるエフェクト。

 

 時には藍色の光の柱が立ち並び、時には光の粒子が幻想的に宙を舞う。

 

 そして、サビに突入した事による盛り上がりがドーム全体の一体感をこれでもかと私達に体感させてくれる。

 

 私自身何度か体験した中でも、今回のライブは過去一番の盛り上がりと言っても良いだろう。

 

 そんな風に思っていた時、リトルが私の袖を引っ張った。

 

 

(どうかしましたか? リトル)

 

(フェムト、あそこ)

 

 

 リトルが周りの動きに合わせながらも顔だけを別方向へと向けていたのでその先を見て見る。

 

 そこは丁度モルフォ達のステージの対面に位置する、一見すると何もない夜空に彼女達は居た。

 

 私達がこれまで倒してきた翼戦士であるクリム、リベリオ、バクトにイソラ、ダイナインにインテルス。

 

 そして、それ以外にも私の知らない()()()()()を引き連れ、ペスニアは夜空からライブ会場を眺めていた。

 

 五人の人影の構成は男性と思われる影が4、女性と思われる影が1。

 

 そこでふと、ペスニアの「ちょっと戦力を補充しないといけないから」と言う言葉を思い出す。

 

 きっとあそこに居る五人はペスニアが言っていた補充された戦力なのだろう。

 

 まあここまでは別に良いのだが……

 

 あろう事かそこにほぼ居る全員、ライブの歌に合わせてサイリウムを振っていた。

 

 何と言うか、これから滅ぼすとまで宣言しているこの国で催されているライブを楽しんでいるペスニア達を見ていると、何だか気が抜けてしまう。

 

 いやいや、これもあの時の様に彼女なりの心の付け入る隙を作り出す戦術なのかもしれない、しれないのだが……

 

 リトルと手を繋いで能力を行使して強化した視覚で改めて見て見ても、全力で楽しんでいるようにしか見えない。

 

 全く、とんでもない自由奔放っぷりだ。

 

 私の知らない五人組やバクト辺りは顔を少し引き攣らせている為、多分ペスニアにやらされているのだろう。

 

 逆にダイナインやリベリオ辺りの人達は楽しんでいるように見える。

 

 そして、その中で特に異彩を放つのがイソラだ。

 

 皆がサイリウムを振っている中、彼女だけはメモ帳に記載しながらライブを食い入るように見ていたからだ。

 

 本人のアイドルに対する真摯な想いを私は彼女と対峙していた為知ってはいたけど、まさかここまでだったなんて……

 

 まあでもあの様子なら、私が紫電から聞いていた約束は守るつもりの様だ。

 

 ならば今日だけは、敵味方関係無く楽しもう。

 

 世界を股に掛けた奇跡の歌姫達のコラボを。

 

 そう思いながら視線をライブ会場へと戻し、私もこの場に居る全員と一体となって楽しんだ。

 

 そして、この日のライブは過去最大の盛り上がりを見せ、それによってネットの方も盛り上がり、一部のSNSサーバーをあり得ない程の負荷によって容易く沈黙させる等の珍事を起こし……夜は開けた。

 

 

「ん……ふぁぁぁぁ。おはよう、フェムト」

 

「おはようリトル。今日は長い一日になりそうだから、準備を入念にしないとね」

 

「ん。頑張ろう」

 

 

 運命の一日が始まった。

 

 とは言え、朝私達がやる事はいつもと変わらない。

 

 シャワーを浴び、身だしなみを整え、朝食を取る。

 

 何時もやっている当たり前の事だが、これらの作業すら緊張で満足に出来ない様では、この先の戦いは間違い無く無様な結果となるだろう。

 

 鉄扇とワイヤーガンのメンテナンスを終わらせ、TASに異常が無いかを確認し、自身の体調のセルフチェックを行い、異常が無い事を確認する。

 

 ……これで、私自身が出来る全ての準備は終わった。

 

 後は紫電の命令を待つばかりだ。

 

 そんな時、私の部屋のドアにあるインターホンが鳴り響く。

 

 外を映し出す画像を覗き、私は思わず固まってしまう。

 

 何故ならば、会いたかった人がそこに映し出されていたからだ。

 

 私はリトルと共に思わず駆けだした。

 

 玄関までの短い道のりが、今日はやけに遅く感じる。

 

 興奮のあまり、脳が限界を超えて活性化しているのが原因なのだろうか?

 

 そんな風に思いながらも何とかドアの前へと辿り着き、一呼吸を置く。

 

 居る。

 

 ドアの前に、私の知るあの人の気配を感じる。

 

 ずっとずっと会いたかった。

 

 私の成長した姿を見せたかった。

 

 私は意を決してドアを開く。

 

 そこに居たのは一人の男性。

 

 見た目は細身で、黒色短髪。

 

 こんな場所なのにも関わらず、トレードマークである白衣を身に纏っていた。

 

 あの時私が繋いでいた左手は義手になっており、その時の爆風によってちぎれたと言う事実を私に伝えて来る。

 

 そんな、私の会いたかった人物。

 

 

「ニコラ!!」

 

「おっと! おうおう。ちったぁ背が伸びたじゃねぇか」

 

「会いたかった! ずっと会いたかったよ!」

 

「……そうかい。だったら会いに来たかいがあったってもんだな」

 

「ニコラ!」

 

「っとと、今度はお前かリトル」

 

「私の事、分かるの?」

 

「そりゃあ分かるさ。()()()()()()()()()()()()()()から話を聞いていたからな。それにしても……輪っかに羽が生えてやがる。リトルはえころの特徴を引き継いでるみたいだな

 

 

 私達を抱き止め、頭を撫ででくれるニコラ。

 

 あぁ……この感覚、あの研究施設に居た頃と変わらないや。

 

 温かくって大きな手だ。

 

 

「……うっし。フェムト、リトル、ちょいと俺に着いて来てくれ」

 

「……? もう直ぐ紫電に呼ばれるからあまり時間は取れませんよ?」

 

「その紫電から許可は貰ってる。だから心配すんな」

 

 

 そうして私達が連れてこられたのは、ここ(前線基地)にある訓練場だった。

 

 そこにたどり着き、ニコラはその中心へと私達を置いて歩み、こちらに振り向く。

 

 そして、何処からともなく両手に私が使っているのと似たような鉄扇を持ち、構えた。

 

 その姿から放たれる気配はあの頭領さんにも負けないくらい凄まじいもので、私の知るニコラとはまるで別人だ。

 

 

「ニコラ?」

 

「よく見とけよフェムト、リトル。これからするのは、所謂()()()()イベントってヤツだ」

 

「奥義……伝承……?」

 

「突然の事で良く分からんだろうが、まあ一度見ときな。お前がこれから戦うであろう存在と対峙するのに、きっと役に立つ筈だ」

 

「…………」

 

「大切なのは内に眠る力を把握する事。そして、絶対に諦めないと言う意志の強さだ。さあ、しっかりと目に焼き付けな。――俺の呼吸、力の流れ、独自の型……」

 

 

 そうニコラが呟くと同時に、周囲から地鳴りと共に小規模の地震が発生する。

 

 いや違う。

 

 ニコラから発生する私の知らない力が全身を包み、私が覚醒した時の様なオーラを展開しながら辺りを揺らしている。

 

 

「その一挙手一投足を、お前の頭に、魂に、しっかり刻み込みな!」

 

 

 振動とオーラがさらに強まり、ニコラの全身から【温かな雷】と表現出来る物が迸る。

 

 それと同時に両腕の鉄扇を展開する。

 

 そこから先の光景を、私は決して忘れる事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

我が舞うは雷の舞

 

大地を潤す煌めく稲妻

 

春雷よ 冬を切り裂き春を告げろ

 

 

雷撃扇(らいげきせん) 冬裂春雷(とうれつしゅんらい)

 

 

 

 

 

 

 

 全身に温かな雷を纏うニコラの舞はとても綺麗で美しく、普段のガサツさなんて想像も出来ない程だ。

 

 それでいてこの舞は独自の型が存在しているらしく、一定の法則で雷の軌跡を描く。

 

 私とリトルはそれを食い入るように見つめていた。

 

 その幻想的で、温かな雷の舞を。

 

 そうしている内に、何時までも見ていたい程の美しい舞は終わりを告げる。

 

 

「ふぅ……あの時は済まなかったな。この両手にある俺の得物(鉄扇)がメンテ中じゃ無ければ、お前を置いて居なくなる事も無かったんだが」

 

「それは結果論って奴です。今更そんな事、気にもしません。だって、それがあったからこそ今の私が、リトルが、ここに居るんですから」

 

「そうかい。……強くなったな。俺が思っている以上に」

 

「そう言われると、なんだかこそばゆいですよ。ニコラ」

 

「だがな、これからお前と対峙する相手は、お前の思っている以上にずっとヤバい相手だ」

 

「……? ニコラ、ペスニアの事を知ってるの?」

 

「知ってるも何も、お前らよりも前に会った紫電に()()()()()()()()()()()()だったからな。ついさっき会ったばかりだから当然知ってるぜ」

 

「え? ()()()()()()()()って、どういう意味ですか?」

 

「オカルト的な意味での【憑りつく】だ。お前の言うペスニアはな、所謂【幽霊】の類だ。魅入られたらたちまちに取り込まれちまうほどに強烈なヤツだ」

 

「ゆ、ユーレイ……ですか?」

 

「おう。それこそ日本古来の【崇め奉る】と言う奥ゆかしい封印措置を取らねぇとヤベェ程のヤツさ。……そう言うヤツから身を守るのにあの舞は役に立つ。本当ならもっと成長してから教えたかったんだが、アレを見た以上は付け焼刃だろうが何だろうが教えて置かねぇとヤバイって思ったのさ」

 

 

 もし本当にユーレイの類だと言うのなら、それこそ頭領さんが所属する裏組織(裏八雲)の出番という事になるんじゃと私は思ったのだが、ニコラが言うには、既に私達の作戦に対して見えない形で全面的に協力しており、宝剣の人型化なんかもその一環なのだと言う。

 

 ……そう言えばこの基地に居る皇神兵の中には頭領さんの部下が変装して潜り込んでいる事もあったけど、もしかしたらコレが理由だったのかもしれない。

 

 

「アイツは所謂【崩霊(ほうれい)】と呼ばれる類のヤツでな。一度何らかの理由で崩壊した魂が時間を掛けて再構成して生まれる感じなのさ。その性質上、どんなヤツが生まれるのかがランダムなのも厄介な点さ。それに加えて一応法則性もあってな。()()()()()()()()()()()()()()()()性質もある。後、身近に存在する何かを参考にする事例も多い。ま、簡単に言えば【幽霊ガチャ】みてぇなもんだ」

 

「ゆ、ユーレイガチャ……身も蓋もない言い方ですね」

 

「実際そうなんだから仕方がねぇ。んでだ。ペスニアは俺が見た中で最上位に位置する……ゲームで言う所のUR(アルティメットレア)だとか、LR(レジェンドレア)に相当するヤツだな。彼女は冗談抜きでヤベェ。それこそ世界レベルって位にな。オカルトが得意分野な俺でも戦うか逃げるかを選べたら初手で逃げる事を選択するぜ。まあでも、逃げられないからどうしようもないんだけどな! フハハハハ!」

 

「笑い事じゃ無いですよソレは!」

 

「いやこんなの笑うしかねぇだろ。最終国防結界も紙の様に素通りするヤツだぜ? 裏やk……【印帝】の連中も通り抜ける様子を目視した時は頭抱えてたらしいからな。ま、紫電の作戦がこれまで以上に苛烈な理由が良く分かっただろ? もう手段何て選べねぇのさ」

 

「…………」

 

「そういう訳で、まあ兎に角気を付けろよ。俺も本当はこの戦いに向かいたいが、先ずはやらなきゃいかん事があるからな」

 

「やらなきゃいけない事……ですか?」

 

「おう、ちょいとばっかし力を借りようって思ってるヤツが居てな。まあ、普段は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だがな。今回は流石に相手が相手だ。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは果たして、大丈夫な人なのだろうか?

 

 まあニコラが言うのなら大丈夫なのだろう、きっと。

 

 曰く、力を借りれれば百人力なのだとか。

 

 

「んじゃ、俺はもう行くぜ。ちょいと急がねぇと不味いからな。今度会うときは、そうだな……お前の彼女でも紹介してくれ。挨拶しときてぇ」

 

「分かりました。……必ずお互い生き残りましょう」

 

「じゃあね、ニコラ!」

 

「おう! お前らも気を付けろよ!」

 

 

 ニコラは本当に急いでいる為か、物凄い駆け足でその場を後にした。

 

 私達も当然時間を押しているので、駆け足で紫電が居る会議室へと向かう。

 

 

 

 


強制ミッション

 

 

 

 

「すみません! 遅くなりました!」

 

「事情はニコラから聞いてるよ。時間も予定よりも早い位だから大丈夫さ。……さて、これで全員揃ったかな。では、改めて作戦を説明するよ」

 

 

 今回の作戦内容を簡単に言うと、先ず地下施設で支援火力を扱えるようにする事と私達が戦いやすい場を作る事を目的に、紫電個人が運用する特攻衛星「星辰」を用いて地表部分を消し飛ばす所から始まる。

 

 あのような暗く狭い場所での部隊運用は、一纏めになった所を一網打尽にされるリスクが高いからだ。

 

 過去にダイナインの居た施設での出来事を考えれば十分にあり得る為、相手の戦力を削ると言う意味でも重要な工程と言えるだろう。

 

 その後、前衛部隊、後衛部隊、遊撃部隊に分けて対応すると言った形となる。

 

 前衛部隊は少数精鋭で、紫電を始め私達も含めた力がある能力者達と、外部協力者であるアキュラも含めて構成される。

 

 そして後衛部隊は前線基地内に存在する皇神兵による火力支援要員に加え、治療を担当するエリーゼと、後方の指揮と負傷した前衛の救援要員を担当するメラクで構成される。

 

 更にパンテーラ達率いるエデンの部隊も存在しているが、彼らは部外者であると言う関係上連携を期待できない為、遊撃部隊として好きに動く感じになっている。

 

 それらの確認を終え、私達はいざ決戦の地へと向かう。

 

 その場所は私にとっては正式に初ミッションを行う前に経験した記録に残らないミッションをこなし、エリーゼと初対面を果たした場所でもある。

 

 その場所は当時、表向きには皇神の管理する倉庫と言う扱いだった。

 

 しかし、その地下に存在する施設では不老不死の実験と称してエリーゼに対して非道な実験を繰り返していたのだ。

 

 その結果、この施設で研究をしていた人達は報いを受け、ゾンビと成り果てて最終的には私と紫電が引導を渡すと言う結末を辿る事となった。

 

 そんな曰く付きの地下施設だが、入り口付近は綺麗になっているものの、紫電が言うには内部は当時のままなのだと言う。

 

 非常電源も既に消えてしまっており、内部はゾンビにすらなり損ねた腐乱死体や足を取られる程に鋭い切っ先を持つ床などで大変だったらしい。

 

 そんな所をこの大部隊で突入する訳にも行かない為、今回の作戦という訳なのである。

 

 そういう訳なので、早速変身現象を済ませていた紫電が作戦開始の合図として星辰を操作しようとしていたその時、私達の前に黒い幾何学模様の魔法陣と思しき物と共に、ペスニアが姿を現した。

 

 

『あらあら、思ったよりも大所帯ねぇ。フフ、どうかしら? 昨日のライブを参考に派手に登場してみたのだけれど…………皆固まっちゃってるわねぇ。もしかして緊張してるのかしら?』

 

 

 ここに居る全員、ペスニアについてのある程度の情報は先の最終確認の際に共有している。

 

 それでもなお黒い衣装を身に纏っているとは言え、国民的バーチャルアイドルであるモルフォの姿をした相手と敵対する事にどうしても浮足立ってしまう点は否めない。

 

 普段見る事の無いありえざる狂気の笑みを浮かべるモルフォのインパクトは私達ならばともかく、皇神兵達からすれば相当な物なのだろう。

 

 そんな事も露知らず、ペスニアは自身の大きな胸元を両腕で手を組むような形で支えるポーズを取りながら、こちらに対して語り掛けた。

 

 

『まあいいわ。折角来てくれたんだし、そもそもわたしが何をやろうとしているのかを話してあげる。もうネタバレを気にする必要も無いし。何が起こったのかもわからず国が亡びる様を見るのは嫌でしょうし』

 

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 

『まどろっこしいのは嫌そうだから、先ずは結論から言うわね。この施設の地下にわたしと一緒に転移した存在である【謡精暴龍バタフライエフェクト】をこの世から消滅させたいのよ』

 

「謡精……暴龍だと!?」

 

『それに、【バタフライエフェクト】だって!?』

 

 

 ペスニアの言葉に反応したのはアキュラとロロだ。

 

 彼らはペスニアから理由も分からずに恨まれていたのだが、彼らの反応から考えるに、先のワードには極めて重要な意味合いがあると思われた。

 

 

『そうよ。わたしの世界のアンタ達テツクズ共がよりにもよって肝心な所でしくじったからわたしはその後処理をしてるって訳。……なんて言われても、この場に居る大半の人達は分からないわよねぇ。折角だからわたしの覚えている限りの話になっちゃうけど、どう言う事かちゃんと説明してあげる。長くなるから覚悟してよね』

 

(フェムト)

 

(分かってるよ紫電。記録はちゃんと残す)

 

(頼むよ)

 

『そもそもわたしはこの世界の存在じゃないわ。こことは違う別の世界線から来たの。そこに居るテツクズ共とは途中までは同じ世界線からね。その世界は恒久平和維持装置バタフライエフェクトによって維持されていたわ。でもね、それによって成り立つ平和って言うのは所謂ディストピア的な物だったのよ。だから当然、ソイツらみたいに反抗する存在も多く居たわ』

 

 

 アキュラの居た世界の生い立ちに関しては詳しく聞いた事は無かった。

 

 しかしペスニアの説明を聞く限り、とてもでは無いが良い物であるとは言えなかった様だ。

 

 その説明の過程でバタフライエフェクトと呼ばれる存在も、アキュラの妹であるミチルの脳を生体パーツとして組み込んだ醜悪なマシンである事がペスニアから語られる。

 

 その姿はご丁寧に画像までデカデカとペスニアが用意してくれた為、私達も把握する事が出来たのだが、正直二度と見たくない画像であった。

 

 中には胃の中の物を全て吐き出す皇神兵も居た辺り、その悪魔の行いは筆舌に尽くしがたい。

 

 

『それで紆余曲折あってコイツラが元凶である筈のバタフライエフェクトを捕捉して対峙出来た所までは良かったわ。でもね……あろう事か、()()()()()()()()()()()()()()()()!? そのお陰でバタフライエフェクトに辛うじて残っていたミチルの意識が、それを引き金に完全に崩壊してしまったのよ!』

 

『そんな……』

 

『それ以降はこのディストピアの体制を維持してたデマーゼルってヤツがマイナーズ……この世界では無能力者だったわね。彼らを只管屠殺していったわ。老若男女、大人子供も関係無くね。中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まで居たらしいわよ。ホント、何処からそんな執念がにじみ出てくるのかしら?』

 

コハク……

 

『因みにだけど、そこのポンコツ共の末路は死体から持っている技術と記憶を全部吸い上げられて溶鉱炉送りだったそうよ。ま、当然の末路よね。……前置きはまだ続くわよ。大丈夫かしら?』

 

「ちょ……まだ前置きなのかよ!」

 

『そうよデイトナ。そもそもまだわたしが登場して無いじゃない』

 

 

 言われてみれば確かに。

 

 今までの話の内容にペスニアは登場していない。

 

 しかし彼女の話を聞く限り、この時点で私が予想していた以上に悲惨な世界で聞いている私も嫌な気分になってくる。

 

 

『それじゃあ話を続けるわね。無能力者が完全に駆逐されて、修復された上に人格と言う雑音(ノイズ)まで無くなったバタフライエフェクトによる統治は完璧だったって()()()()()としては残っていたわね。でも、そこでアイツ、とんでもない事をしだしたのよ。……皇神未来技術研究所って知ってるかしら?』

 

「未来技研……私達の世界では最先端の第七波動研究を行っていた場所ですね。今は再建作業がようやく完了した直後だとは聞いていますが」

 

『流石はフェムト、話が早いわね。じゃあ、これは知ってるかしら? そこには封印された、皇神でも本当に一握りの存在しか知らない秘密があるのを』

 

「……?」

 

『その様子じゃあ分からないみたいねぇ……ほらテツクズ、出番よ。説明してあげなさいな』

 

「……眠りにつく生まれながらの【暴龍の王】。世界に混沌をもたらす【無限の星詠(アストラルオーダー)】の能力者。第七波動を越える【第八波動(エース)】の領域にある者」

 

『その名は【メビウス】。……フフ♪ これで貴方達は知ってはいけない事を知っちゃったわねぇ♪ でもまあ、どうせ今日この国は滅ぶのだから関係無いわよね』

 

(……紫電)

 

(ボクもこの話は聞かされていない。恐らくだけど、副社長になって長く勤めていない関係上、ボクには資格が無かったんだろうね)

 

 

 何と言うか、とんでもない情報が次から次へと送り込まれてくるお陰で正直戦う前から大分消耗してしまった気分だ。

 

 しかも、アキュラの口からまた分からない単語が飛び出してきたのだ。

 

 暴龍の王、無限の星読み、第八波動……そもそもの話になるが、暴龍の王と言う言葉にある暴龍の意味すら分かっていない。

 

 それを分かっているのか、ペスニアは説明の捕捉を行った。

 

 

『暴龍って言うのはね。簡単に言えば力を高め過ぎた能力者の末路よ。最初は理性を無くして暴れる程度で済むんだけど、最終的に文字通りバケモノの姿になっちゃうの。これだけならまだいいんだけど、一度暴龍になっちゃうと周りの人達まで暴龍にしちゃう龍放射って言う波動をまき散らしちゃうのよね』

 

(やはり、モルフォに頼り過ぎると良く無いと言うボクの予想は正しかったか)

 

(頼り過ぎたらペスニアの言う暴龍に成り果ててしまう可能性があるって事ですからね。依存しない方向に舵を切って本当に良かったです)

 

『捕捉は終わったから話を戻すわね。デマーゼルったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何て言うトチ狂った事をやり出したのよ。しかもご丁寧に、バタフライエフェクトで深い眠りにつかせて、その体を一度バラバラにした後にね』

 

「……何を、言っている?」

 

『流石のテツクズでも言葉を失うわよねぇ……でも事実なの。わたしの予想になっちゃうけど、デマーゼルって今居る世界だけじゃ飽き足らず、外の世界にも手を出そうとしたんじゃないかしら?』

 

「…………」

 

 

 流石のアキュラも言葉を失っている。

 

 ペスニアの齎した情報は、数多の戦いを勝ち抜いたアキュラであっても相当にショックが大きい様だ。

 

 

『まあそんな無茶をしちゃった訳だから、バタフライエフェクトが暴龍と化すのは必然だったわ。んで、デマーゼルは止めようとしたらしいんだけど、()()()()()()()()()()()のよ。当たり前よね。自分よりも力が強くなっちゃったんだから。まあ、こう言った経緯で謡精暴龍は誕生したって訳』

 

「……ヤツの電子頭脳のエラーはそこまで深刻だったという訳か」

 

『長く統治し過ぎたせいか、経年劣化が酷かったんでしょ。多分。……さて、前置きはここまで。改めて自己紹介をさせて貰うわ』

 

 

 ペスニアは私達の前で高らかに名乗りを上げる。

 

 この国に滅びを与える災厄としての名を。

 

 

『わたしは理性無き謡精暴龍バタフライエフェクトの持つ第八波動の領域にある能力【黒死蝶の謡精女王(ペスト・ティターニア)】が意思を持った存在、ペスニア。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その力は能力者が約七割居るとされているこの世界において、正しく黒死病(ペスト)の到来を告げる黒死蝶の名を冠するのに相応しい物だ。

 

 よって、彼女は正しく私達(能力者達)の天敵と呼べる相手であり、この国を滅ぼす力を持った災厄その物である事を私達に告げたのであった。

 

 

 

 




本小説の全ての話を合わせて五十話目の投稿が出来ました。
ここまで感想、或いはお気に入りや評価、UAにPVと言った形で応援してくれた皆様に多大なる感謝をいたします。
では改めまして……ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここから先も宜しければ引き続き、応援よろしくお願いいたします。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇ペスニアの金縛りを無力化した件について
元々ペスニアの金縛りは能力による精神干渉を用いて体を動かす為の電気信号を遮断して動きを封じていると言った感じ。
なので、遮断された電気信号に対して何らかの対策が取れる能力者、即ち雷撃能力、或いはその派生能力を持った人達ならば無意識に対策を取る事が可能。
なので第三十五話で書いてあった「資格」とは主に雷撃能力を指す。
そして、そんな雷撃能力者であるフェムトとTASで接続すれば自動で無力化が可能である為、TASの完成がトゥルーエンドに必須という訳なのである。

〇火力支援について
能力を技術的に組み込んだ特殊装備による集団砲撃。
フェムトの指示によってロックオン対象に地球防衛軍シリーズのエアレイダーみたいに要請をかける事で合図を送り、砲撃を必中させる。
その性質上、誤射がほぼ存在しない事に加え、ある程度の訓練を積んだ人達でも十分な戦力として数える事が可能となる。
ゲーム上では何回でも使えるクールタイムのある使い勝手の良いノーマルスキルとして扱われる。

〇奥義伝承イベントについて
待望のフェムトの攻撃に使えるSPスキルを習得する前振りのイベント。
現時点ではまだ使用する事は出来ないが、とある条件を満たすと扱えるようになる。
ライブアライブのクンフー編を意識しています。最近リメイクが出ているので興味のある人は是非購入して楽しもう! ボイスアリはいいぞぉジョージィ……

〇崩霊について
一応本小説のオリ設定で、崩壊した魂が時間を掛けて何らかの形で再構成したオカルト的存在。
何気にフェムトの魂が崩壊するバッドエンドの時、コレの存在が示唆される。
簡単に言うと幽霊ガチャ。
後、生きている人間から一時的に離脱している霊である【生霊】タイプと、死んでいる人間から生まれている【死霊】タイプと言う二種類のタイプが存在している。
崩壊した魂で再構成されている関係上、他者の魂をそのまま自身に取り込む事が出来る性質を持つ。

〇謡精暴龍バタフライエフェクトについて
デマーゼルがあろう事か解体したメビウスをバタフライエフェクトに組み込んだ事に加え、あまつさえデマーゼル本人も取り込まれた事で誕生したぼくのかんがえたさいあくのぼうりゅう。
理性が存在せず、自身の持つ能力である黒死蝶の謡精女王を本能で無差別にまき散らす最悪の存在で、ペスニアが居ない状態で本気で暴れさせると世界全体が瞬く間に暴龍の楽園と化す。
メビウスの持っていた無限の星読みの能力も劣化した形で健在である為、「能力者の持つ能力は原則として一つ」と言う縛りすら破っている。
現時点では凄まじい弱体化(デバフ)を受けており、その本来の力を発揮できない状態になっている。

〇ペスニアの正体について1
バタフライエフェクトと化した神園ミチルが目の前でアキュラ達が死亡した事が引き金で、これまでの過程で崩壊寸前だった魂に止めを刺されて崩壊してしまう。
その崩壊した魂が謡精暴龍となるまでの長い期間で再構成された崩霊として生まれたのがペスニアと言う存在。
幽霊ガチャで例えるとランクはURかLRの最上位の位に相当する。
アキュラとロロを恨んでいるのは肝心な所でしくじったのもそうだが、あの時感じたミチルの絶望の影響を強く受けているのが主な理由。
そのオカルト的能力は最終国防結界「神代」を無意識に素通りできる程に強力。
それだけでは無く、彼女は謡精暴龍バタフライエフェクトの持つ能力、黒死蝶の謡精女王でもある為、ガチで暴れさせるとこの国は愚か、文字通り一つの世界を容易く滅ぼすことが出来る存在でもある。
因みにだが、彼女の相方の持つ能力によって実体化している。
声のイメージはこの素晴らしい世界に祝福を! に登場する女神アクア。
つまり残念要素があるって事だよ!

〇黒死蝶の謡精女王について
龍放射を歌の力で意のままに操る力。
メビウスを組み込んだ影響で第八波動の領域にある規格外の能力。
それに加え電子の謡精の性質も残っている為、暴龍その物を直接操る力も有する。
デマーゼルを取り込んだ影響で蒼き雷霆の出力も上乗せする事も可能。
他の能力者を暴龍に変えてしまう龍放射の性質から、伝染病の代名詞である黒死病(ペスト)を連想させる形で黒死蝶の名前が加わっている。
逆に言うと、龍放射を一カ所に集中させて隔離する事も出来ると言う意味でもある。

〇ペスニアのコンセプトについて
ペスニアは一言で言えば初期の爪シアンちゃんをより尖った形で強調したコンセプトで設計しています。
なのでその自由奔放っぷりや幽霊であると言う事柄を強く意識した作りになっています。
つまり、彼女の相方が彼なのにも相応の理由があったりするって訳です。

〇オルガについて
本小説では第三十八話に登場した彼女は蒼き雷霆ガンヴォルト爪のドラマCDである【蒼き雷霆ガンヴォルト爪 楽園狂騒曲(Eden's Party)】に登場するキャラ。
他者の第七波動を受信し、顕現させる事ができる能力を持つ。
作中では海を隔てた他国の能力者が持つ第七波動を顕現させている描写がある。
受信可能範囲は限りなく広く、この力を無意識に発動させる形でペスニアを呼び寄せた。
ペスニアは彼女の事を知っているようだが……





















サイドストーリー





「うぁ……アスロック……ニムロド……テンジアン……ガウリ……テメェ、よくも、よくも!!!」

『フフ……最初の威勢は何処に行っちゃったのかしら?』


 コイツが現れたのは突然だった。

 何時もの様にテンジアン達と言い争いになっていた時、コイツが現れた。

 最初はオレ達は有利に戦えていたと思っていた。

 だけど、気が付いたらオレ以外みんなやられちまってた。

 【ポーン】の皆も例外無く、一人残らず。


「く、くそ! 動け! 動けよ!! 何でオレの身体、動かねぇんだ!!」

『……ねぇ。おチビちゃん。()()()()()()()?』

「な、何言ってやがる! 誰がテメェなんかの……!」

『何物にも負けない力。あのパンテーラにだって負けない力よ。……貴女が望むなら、あげてもいいわよ。但し……貴女の全てを貰うけど』


 お、オレの全てだって!?

 冗談じゃねぇ!

 誰がこんなヤツなんかに!! 

 そう思っている筈なのに、心の中のオレは媚びへつらってやがる。

 オレのこの気持ち、一体何なんだよ!


『さあどうするの、ジブリール? わたしに従えばとってもスゴイのよ? 沢山の破壊の限りを尽くせるのよ? 何も考えずに、ただただ只管に』

「お、オレ……()()()は……」

『アナタの言う()()()は皆賛同したし、とっても喜んでたわ。だ・か・ら……我慢なんてしなくていいのよ? さあ、わたしの手を取りなさいな』


 アタシは、その破滅的な誘惑に抗えなかった。

 アスロック達と同じように。

 圧倒的な存在に身も心も叩きのめされ、敗北を刻まれたアタシは、心の底から湧き上がる熱い気持ちを感じずにはいられなかった。

 それが何なのかも分からないまま、アタシはこのバケモノ女の手を取った。

 もう何も考えたく無かった。

 全てを壊せるなら、それでいいと考えちまったから。





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第四十一話 降臨する暴龍

 

 

 

 

 私達は相対する相手であるペスニアに戦慄していた。

 

 目の前の相手は本人の事を信じるならば能力者に対する天敵であり、完全な上位者と呼べる存在だからだ。

 

 少し前まであった士気は急速に落ち込んでいる気配を私でも感じ取れており、まだお互い何もしていないと言うのにこちらの敗色が濃厚になってしまっている。

 

 しかし、そんな私達に希望の光を与えてくれる存在が居た。

 

 

『いきなり諦めちゃダメだよみんな! ()()()()()()()()()()()()()()()んだから!』

 

『……へぇ。もし本当なら()()()()()()()()()なんだけど』

 

「ロロの言っている事は本当かい? アキュラ」

 

「ああ。暴龍や龍放射の事はこの戦いが終わった後で話す予定だった。最近解決策が用意出来た所だったからな」

 

「そいつは何より。それで、その解決策って?」

 

「今から見せる。……ロロ、モード・ヴァルキュリアを起動」

 

『了解! みんなには初のお披露目だね!!』

 

 

 元々ロロは人型の姿をしていたのだが、その姿形が更に変化を起こす。

 

 藍色の鎧のようなものを身に纏い、両足のふくらはぎに位置する部位からは蒼天の空を思わせる色をした光の翼を展開。

 

 その光の翼から、GVが能力を使う際の天使の羽を思わせるエフェクトがはらはらと多く舞い散る。

 

 その美しい光景は、さながら創作物にありそうな戦乙女の姿を彷彿とさせる。

 

 

『変身完了! これでもう龍放射は怖く無いよ! みんな、立ち上がって!』

 

「これが希望の歌姫……」

 

「すげぇ。力が溢れてくる!」

 

 

 ロロから流れる()()()()()()()()()()()()がTASを通じてこの場に居る全員に広がっていく。

 

 その力の広がりに比例して私達の士気も回復していくのを感じる。

 

 これで少なくとも龍放射を操ると言うペスニア相手に何も出来ずにやられるなどという事は無いだろう。

 

 そして、個人間のテレパス経由でアキュラから連絡が入る。

 

 

(フェムト、聞こえるか?)

 

(聞こえてますよ、アキュラ。凄いじゃ無いですか! こんな切り札があるなんて)

 

(流石にこの戦闘で使う事は想定していなかったがな。それよりも……フェムト。お前は何としてでも生き残れ)

 

(アキュラ?)

 

(今のロロの姿が切り札なのは事実だが、大局的に見れば見せ札でもある。……本当の意味で切り札になるのはフェムト、お前だ)

 

(え? それってどう言う事ですか?)

 

(ロロの力を分配しているTASを維持できるのはお前だけだからなのが一点。そして、今のロロの力はフェムト、お前の力を模倣した物なんだ)

 

(……!)

 

(お前は龍放射に対抗する力がある。今は詳しく語る事は出来ないが、それだけは間違いない。だから何としてでも生き残れ。お前がやられてしまったら、オレ達を除くここに居るほぼ全員がペスニアの手によって暴龍へと成り果てる。それだけは何としてでも防がねばならない)

 

(…………後で全部、話してくれますか?)

 

(勿論だ)

 

 

 ならば迷う必要はどこにも無い。

 

 私は鉄扇を取り出し、ペスニアと対峙する決意を改めて持ち直しながら彼女を見据える。

 

 周りを見て見れば、みんなもそれぞれの形で決意を固めてペスニアを見据えていた。

 

 

『うんうん。そうこなくっちゃ』

 

「……ねぇペスニア」

 

『あら? 何かしら』

 

「キミの目的は謡精暴龍とやらを倒す事が目的だと話していたね」

 

『ええ。そうね』

 

「ならば何故ボク達の国を滅ぼす必要がある? 普通に考えたらそんな事をする必要があるなんてとても思えないんだけど」

 

 

 紫電の言う事も最もだ。

 

 そもそも倒すべき相手が定まっていると言うのに、なぜそれを無視して私達を滅ぼす必要があるのだろうか?

 

 これまでの彼女の言動から考えるに、今までの行動には何か意味がある筈なので、無意味にこの様な事をする訳では無いと言うのは分かっている。

 

 ……彼女の能力は歌で龍放射を操ると言う物だ。

 

 そして、電子の謡精(サイバーディーヴァ)の力もこれまでの戦いから考えるに存在している事を確認済みだ。

 

 これらの事を総合して考えるに彼女は龍放射以外にも、暴龍そのものを意のままに操れる力を持つのでは無いか?

 

 そう考えれば彼女がこの国を滅ぼす動機が浮かび上がって来る。

 

 

『わたしの操る暴龍を確保をする必要があるからよ。この世界に来る前のわたしの元に居た暴龍達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()しちゃったから。だ・か・ら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って訳。それで結果的にこの国が滅んじゃうって事なのよ』

 

 

 やはり私の予想通り、操る為の暴龍の確保が目的だった。

 

 しかし、元々彼女はどれだけの暴龍を従えていたのかは不明だが、この国の人口の七割分の暴龍が必要であると彼女は判断している辺り、その数は相当な物なのだろう。

 

 一応、この国の人口は約一億辺りをうろついていると近年のデータから判明している。

 

 なので、ペスニアは最低でも七千万体もの暴龍を従えようと企んでいると考えていいだろう。

 

 ……暴龍が一匹につきどれ程の戦力になるのかは定かでは無いが、それでも謡精暴龍に対抗する為に最低でも七千万体等と言う途方もない数が必要だと彼女が考える辺り、その脅威はとんでもない物なのだろう。

 

 それを知ってか知らずか、紫電は彼女に対して交渉を試みる事にしたらしい。

 

 

「……つまり、謡精暴龍とやらを倒せる戦力があればそんな事をする必要は無いと言う考えであってるかな?」

 

『そうよ』

 

「だったら……」

 

『でもダメ。だって貴方達弱いもの』

 

「んな……! オレ達が弱ええだと!?」

 

『そんなにムキにならないで頂戴な。そうねぇ……()()()()()()()()()()()()()貴方達は上位に位置する位強いと思うわ。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。純粋なフィジカル的に考えてもね。そんな弱い相手と組む利点、わたしにあると思うのかしら?』

 

 

 確かにペスニア視点で考えればそうなるのはもっともの話だ。

 

 古来より力を持たない相手との交渉と言うのは無視して跳ねのけるのが定石だ。

 

 良くネットでは「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない」等と煽り目的で言われる事が多々あるのだが、逆に言えば「レベルに差があると争いが発生しない」という事でもある。

 

 まあ、これが平和的な意味で使われるのなら問題は無かったのかもしれないが、露悪的な意味で使われる場合は別の話。

 

 一方的な蹂躙と言うのもまた、争いとは呼ばれない。

 

 そして、蹂躙が通用する相手に一々交渉等する必要が無い。

 

 アリの巣に水を流し込む遊びの様に、虫を捕まえ手足を捥ぐと言う遊びをする様に。

 

 

「……なるほど。キミの視点から見て、そもそも話し合いの場に立てる程のレベルにボク達は達していないって事か」

 

『そういうことよ』

 

 

 つまり私達はペスニア相手に単純に力が足りていない。

 

 故に相手が交渉の席に立つ事も無い。

 

 むしろ、こちらの話を聞いてくれるだけマシまである。

 

 まあだからと言ってこちらには何もせずに諦めると言う選択肢は存在しないのだが。

 

 

『……まあでも、チャンスを与えないとは言っていないわ』

 

 

 そう言いながらペスニアは()()()()()()()()()()()()を取り出す。

 

 アレは確か……そう、頭領さんがヒスイさんと一緒に戦っていた時の相手である少女が持っていた物と同じ形の錫杖だ。

 

 

『わたしの居た世界には無かった娯楽や興味のある事が沢山あるこの国を無くすのはわたし自身も嫌なのよ。だから……わたしを納得させてみなさい! 参ったと、わたしの口から言わせてみなさいな!』

 

 

 ペスニアは本音を言えばこの国を滅ぼしたいとは思っては居ないのだろう。

 

 昨日のライブを楽しんでいた様子は紛れも無く本物であったし、VRゲーム内で探検していた好奇心もまた本物だった。

 

 だけど、楽しんでいたそれら全てを投げ捨ててでも謡精暴龍を倒さなければならない理由がペスニアにはあるのだろう。

 

 しかしだからと言って、私達も黙って滅ぼされるままに終わるわけには行かない。

 

 そんな気持ちを示すかのように、この場に居る私達は覚悟を決める。

 

 

「……総員、ボクに命を預けて欲しい。この一戦、何としてでも勝つ」

 

「いいだろう」

 

『頑張ろうね! みんな!』

 

「ったく、しゃーねぇーなぁ!」

 

「この命、護国の為に」

 

「天よ! 小生に与えたまえ!! この荒神をねじ伏せる力を!!」

 

「やれやれ……ダルいけど、今回は真面目にやらないともっとメンドい事になりそう……」

 

「行くぞライ。お前の力、頼りにしている」

 

「ワタシ達の愛の障害を取り除く為に……」

 

「キタキタキターーー!!! 取れ高満載な予感がビンビン来てるんデスケドwww」

 

「星ノ導キよ……小さキ救世主(メシア)ヨ……どうかワタシ達を導いテ下さイ」

 

「フェムトくん」

 

「エリーゼ」

 

「必ず生き残ろうね」

 

「ええ。勿論」

 

 

 戦いが始まる。

 

 この国の未来を賭けた運命の一戦が。

 

 そして、私達の長い一日が始まる。

 

 長く、激動と呼ぶに相応しい一日が。

 

 

『さあ、先ずは小手調べからよ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……【麒麟(きりん)デバイス】起動! それと同時に【モード・イマージュパルス】発動! さあ、現れなさい。わたしの僕達よ!』

 

 

 ペスニアが両手で掲げた錫杖が黄色く光り輝き、現れ出でるは私達が翼戦士と相対する道中でこれまでに戦った相手。

 

 テロリスト連中を始め、紫電の能力を使う量産型の能力者まで、そしてアキュラと初めて遭遇した時に出て来た戦車(ジャイアントロロ)も含めて目白押しだ。

 

 その数はこの場をほぼ埋め尽くすほどの物で、こちらに対して数の暴力をしようと言う魂胆が透けて見える。

 

 恐らく、これまで私達が目撃したホログラム技術に関わる全てをあの錫杖が関わっていたのだと推察できる。

 

 さらに言えば、あの錫杖へとデマーゼル由来と思われる膨大なEPエネルギーが流れ込んできている為、エネルギー切れを期待するのは無理だろう。

 

 

「……! 実体を持ったホログラムか」

 

『そうよ。コレの名前は【イマージュパルス】。わたしの記憶を元に謡精暴龍に取り込まれたデマーゼルの力で具現化した物を、この麒麟デバイスで固着させる事で可能となった技術。このイマージュパルスってのは【鎖環(ギブス)】って言う第七波動(セプティマ)を持った人を()()()()()()アイツ(デマーゼル)の都合のいいように組み変えて出来たこの錫杖型のデバイスでコントロールする曰く付きの代物よ。ま、言うなればバタフライエフェクトの親戚みたいな物ね』

 

『デマーゼルのヤツ、ミチルちゃんだけじゃ飽き足らず、こんな事まで……!』

 

『以前のわたし(ミチル)の時と同じ様に、不確定要素を嫌ったんでしょうね。それじゃあ早速……』

 

 

 始めましょうとペスニアが言おうとしたその時、紫電はメラクと共に動き出していた。

 

 それを私も把握していた為、即座にEPレーダーを使用してこの場に居る膨大な敵対者を全員纏めてロックオンする事でお膳立てを済ませる。

 

 後はもう、二人の独壇場だ。

 

 

「メラク、頼むよ」

 

「もう、しょうがないなー」

 

 

 

 

 

 

 

天より現れ出でたるは

 

星の光の万華鏡

 

天より現る縦横無尽な煌めき、瞬き、輝きの三重奏

 

 

スプライトフォール デストロイ

 

 

 

 

 

 

 特攻衛星“星辰”から放たれる数多の光の柱がメラクの亜空孔(ワームホール)を経由し、亜空孔の出口を増やす事で星辰の光の柱を同時に増やして殲滅力を更に高めた二人のSPスキル【スプライトフォール デストロイ】。

 

 その無慈悲な光の嵐がロックオン誘導に導かれ、ペスニアが呼び出した敵全てを薙ぎ払う。

 

 お前達に用は無いと暗に告げるが如く。

 

 辺り一面を土埃が舞う最中、まるで当然であるかのようにペスニアの声が響き渡る。

 

 一応彼女にもロックオンを施した為、紫電達のSPスキルによる攻撃を受けている筈なのだが。

 

 

『へぇ~……一瞬で全滅させちゃうなんてやるじゃない。まあでも、この位出来て貰わないとわたしも困るんだけど』

 

 

 土煙が晴れ、電子障壁(サイバーフィールド)を展開していたペスニアが姿を現す。

 

 モルフォのソレとは出力が桁違いな事もあり、紫電達の放つ光の柱も難なく防がれている。

 

 

「……これでそのまま倒れてくれれば御の字だったんだけどね。そこまで都合よくはいかないか」

 

「うわぁ……すっごいキラキラした目でこっち見てるよ。面倒事は勘弁して欲しいってのに」

 

『フフ♪ またイイモノを見ちゃったわ♪ 本当に、この国は面白いモノが沢山あるのねぇ♪』

 

 

 作戦の予定通りに地表部分は消し飛ばされた為、部隊展開をする為のスペースの確保に成功する。

 

 そして、即座に事前に打ち合わせをした通りのフォーメーションを組み、改めてペスニアと対峙する。

 

 さて、彼女はここからどう出るのだろうか?

 

 

『この様子だと今更翼戦士を強化した状態で六人全員出した所でたかが知れてそうよねぇ。……予定よりも少し早いけど、暴龍を出しちゃおうかしら。丁度スペースも広がった事だし』

 

「来るか……!」

 

 

 ペスニアはいよいよ暴龍を繰り出すつもりらしく、彼女の周辺を極大規模の電子障壁が展開される。

 

 これは私達の妨害を防ぐ事が目的なのだろう。

 

 その電子障壁内で、六人の人物が()()()()()()()()()浮遊した状態でペスニアの前に姿を現す。

 

 何やら話を始める雰囲気があるので、私は聴覚を強化して会話を盗み聞く事を試みた。

 

 距離が離れているが故に声は小さいが、聞き取る事は辛うじて出来る。

 

 

『さて……分かってるわよね?』

 

『うん。勿論』

 

『これから更に派手にアーティスティックな爆発を楽しめる身体になるのだろう? ならば僕は大歓迎さ!』

 

『ワシは何時でも構わん』

 

『インテルスと結ばれた今、ワタシに悔いはありません』

 

『ウチも同じや。ダイナインが傍におれば、それでええ』

 

『……本音を言えば、もっとアイドルとしての研鑽を積みたかったかな』

 

『アンタはそういう所ブレないわよねぇ。……ま、そこは相手側が奇跡を起こす事を期待しなさいな。イソラ以外の皆もそうだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。わたしの目的はあくまで謡精暴龍を倒す事。倒す相手がわたしだろうとそうじゃなかろうと、最終的に謡精暴龍が倒れてくれればそれでいいのだから』

 

『本当に、ペスニアはそれでいいの?』

 

『何言ってるの。わたしがあいつらに負けるとでも?』

 

『……そうやって、また自分の本当の気持ちを押し殺すのね』

 

『……過ぎた話よ。それに、わたしの本当の気持ちをさらけ出したい()()()はもう、居ないのよ』

 

『…………』

 

『わたしの大切な()()()()を奪ったアイツを滅ぼす事が、今のわたしがこうしている理由。わたしはわたしの都合で皆をこきつかってるんだから、貴女もこれくらい割り切ればいいのよ』

 

『……分かった。わたしも覚悟は出来たよ』

 

『それじゃあイソラも覚悟が出来たという事で……さあ、始めましょう』

 

 

 電子障壁内で、等間隔に距離を離して宙に浮いた六人が立ち並ぶ。

 

 この距離感から考えるに、暴龍としての大きさは下手をすると小さなビル相当の建物規模になると推察できる。

 

 ペスニアが謡精暴龍を倒そうとしているのは、彼女が大切に思っていた人を奪われたからだと言う。

 

 あの六人に対して裏切っても構わないなんて言い切っている辺り、その信念と呼べる物は本物なのだろう。

 

 ……ああそうか、だから彼女は本当は滅ぼしたいとは思っていないこの国を、それ所か自分自身すら平気で犠牲に出来るのか。

 

 謡精暴龍を倒すと言うのは、言わばペスニア自身を殺す事と何ら変わりがない。

 

 第七波動とその使い手の関係とは、その様な物なのだ。

 

 つまり彼女の本当の目的は()()()()()()

 

 いや、彼女が幽霊である事を考えるに、()()()()()()()の方が正しいのかもしれない。

 

 ペスニアの大切な人を奪った謡精暴龍の存在が、皮肉にも彼女が存在する為の(未練)となっている。

 

 ならば私達に出来る事は――そんな風に考えていた時、ペスニア達の居る電子障壁の中心から()()()()()()()()()()()が流れ出した。

 

 

 

 

■■■■■■(空、茜差して) ■■■■■■■■(寄りそう影ふたつ)

 

 

 

■■■■■■■■■■(慈しみの灯がこぼれる)

 

 

 

■■■■■■■(いつもの帰り道)

 

 

 

■■■■■■■■■(ここにいてもいいと)

 

 

 

■■■■■■■■■(ここにいてほしいと)

 

 

 

■■■■■■■■■■■(望まれ生まれ生きてゆく)

 

 

 

■■■■■■■■(月に見放されても) ■■■■■■■■■(あの光が道を照らす)

 

 

 

■■■■■■■(帰るべき場所は) ■■■■■■■■(ほら、すぐそこに)

 

 

 

 

 ペスニアの透き通る声が辺りに響き渡る。

 

 私も知らない謎の言語による歌である為、内容が分からない。

 

 しかし内容は分からなくとも、それが綺麗な歌であるという事だけは、何となく分かる。

 

 そう思っていた矢先、ペスニアの丁度真下の位置から膨大な量の蒼黒い雷が出現する。

 

 その蒼黒い雷はやがて龍を思わせる姿に変化し、翼戦士達を飲み込んだ。

 

 きっと、これまで見て来たこの雷こそが龍放射だったのだろう。

 

 ……私達もこの一連の行動を黙って見ていた訳では無い。

 

 ペスニア達が話し合いをしていた段階で紫電はメラクの亜空孔やテセオのワールドハック等での転移による突破を試みていたが、どう言う原理なのか不明だが妨害されている。

 

 同じく障壁が張られた直後、アキュラもその手に持っていたブレイクホイールと呼ばれる武装によって電子障壁の突破を試みており、ロロの特性も合わさって一部破りかける事に成功しているが、恐らく間に合う事は無いだろう。

 

 そして、私も含めたそれ以外の皆も持てる武装とSPスキルを電子障壁に叩き込んでいる為、時間を掛ければ突破する事も出来るだろうが、こちらも間に合う事は無いのは明らかだ。

 

 故に私達は、抵抗を続けながらも実質見ている事しか出来ない。

 

 暴龍が誕生する、その瞬間を。

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■(ああなつかしの声に心が震え)

 

 

 

■■■■■(灯をともす)

 

 

 

■■■■■■■(迷わないように)

 

 

 

■■■■■■■■■(「おかえり」の狼煙) ■■■■■■(夜空にあげて)

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■(嵐の日も寒い夜も夢の中でも)

 

 

 

■■■■■■■■■■■■(あなたの帰りを待ち焦がれ)

 

 

 

■■■■■■■■(月に見放されても)

 

 

 

■■■■■■■■(この光を標にして)

 

 

 

■■■■■■■(帰るべき場所は)■■■■■■■■(ほら、ここにある)

 

 

 

 

 蒼黒い雷は加速度的に肥大化し、その大きさは私の見立てよりも少し大きなサイズにまで膨らんでいる。

 

 それはまるで、暴龍の卵を彷彿とさせた。

 

 そして、その卵と思しき力場に罅が入り――

 

 

『『『『『『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』』』』』』

 

 

 ――この世界に、暴龍の降臨が果たされる。

 

 赤と黒のコントラストを兼ね備え、頭の部分に赤く巨大な天使の輪を彷彿とさせる赤い糸の塊を宙に浮かせた暴龍が。

 

 オレンジと黒のコントラストを兼ね備え、全身を甲殻類を彷彿とさせる鎧を身に纏ったかのような暴龍が。

 

 白、黒、緑で構成され、両肩の部分に超巨大な円月輪と思しき物体を背負った女性的なフォルムを持った暴龍が。

 

 黄色と黒のコントラストを兼ね備え、背中に超大型のマントと思われる物体を靡かせた暴龍が。

 

 白、黒、ピンクで構成され、結んだピンク色のリボンの様な羽が特徴的で、女性的なフォルムを持った暴龍が。

 

 青と黒のコントラストを兼ね備え、尻尾の部分を始めとしたあらゆる箇所からドリルを出現させている暴龍が。

 

 

「く……なんて威圧感だ」

 

「これが、暴龍ってヤツなのかよ」

 

「星の光ヲ容易く曇らセル程の存在……何ト恐ろしイ姿なノでショウ」

 

 

 かくて、六体の暴龍は降臨した。

 

 それぞれの特徴は違うが、共通しているのはその巨体だ。

 

 そこからあふれ出る威圧感と迫力は、純粋なフィジカル的な強さも私達に伝えて来る。

 

 ペスニアは私達を弱いと称した。

 

 なる程確かに、この龍達を前にすれば納得せざるを得ない。

 

 

『ふふ♪ 久々だから張り切っちゃったわ。……暴龍達を始めて見た感想はどうかしら? 素敵でしょう?』

 

「これが……この様な存在が、()()()の愛する能力者達の末路だと言うのですか!!」

 

 

 パンテーラが余裕の無い声でペスニアに問いただす。

 

 確かに、この光景は穏健派になったとは言え、かつては能力者至上主義の過激派であった彼女からすれば納得出来ないだろう。

 

 

『そう。これが暴龍。一体でも野放しにすれば世界を滅ぼす可能性を持った存在。貴女達能力者の行きつく最果て……』

 

 

 その言葉と同時にペスニアの背中からモルフォの翼と重なるように、()()()()()()()()()()()()()が新たな両翼として姿を現す。

 

 それは例えるならば、【龍翼】と呼ばれても良い外見をしていた。

 

 新たな翼らしきものを出したペスニアから発する威圧感も周りの暴龍のそれと同等になった辺り、彼女もまた本気を出してきたと考えるべきなのだろう。

 

 そして、以前の戦闘で出した二振りの鎌も連結させた形で宙に浮いている。

 

 

『さあ、始めましょう。この国の命運をかけた一戦を』

 

 

 かくして私達の本当の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 私達の国をベット(Bet)に賭けた、暴龍と言う未知なる敵との運命の一戦が。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇モード・ヴァルキュリアについて2
フェムトの能力を元に作成したLPCS(リトルパルサーコントロールシステム)との共鳴により、龍放射に対抗する事が可能となった。
更にTASと接続する事で、この機能を接続している仲間達と共有する事が可能。
話の中ではフェムトの本当の価値をペスニアから隠す為の見せ札としての役目も存在している。

〇麒麟デバイスについて
相手方のホログラム技術の根幹を担う特殊なデバイス。
イクス世界線に存在していた鎖環の第七波動能力者(セプティマホルダー)から作られた曰く付きの制御装置。
フロントミッション…カレンデバイス…うっ、頭が

〇イマージュパルスについて
イクスシリーズにおけるボスラッシュ及びアシモフ戦で登場した物とガンヴォルト鎖環で登場したイマージュパルスを関連付けた結果、本小説内ではこの様な感じの扱いになった。
ペスニアの記憶とデマーゼルから直接供給されるエネルギーを用いてイマージュパルスを運用している。
以前のイマージュパルスが未完成だったのはこのデバイスが破損していたのが理由で、修復をする為にお金を持ってそうな連中(皇神グループの上層部)を洗脳し、そいつら経由で得た人的リソースを獲得し、時間を掛けて修復していた。
その非道な作成方法から、本小説内ではある意味バタフライエフェクトの親戚扱いされている。

〇スプライトフォール デストロイについて
地球防衛軍シリーズに存在するスプライトフォールの強化版。
元ネタでは威力よりも主に手数が増えており、適正レベルでの運用をする場合、手数を利用したヒットストップによる拘束を範囲内にばら撒くと言う役割を持つ。
本小説内の代物はメラクがワームホールの出口を増やす事で手数を増やしている。

〇ペスニアの言う「あの人」及び「おじさま」について
第三十七話で説明した通り、Xの世界線で鎖環のキャラが登場する場合、年齢が原作よりも高くなると言う説明をしました。
そして、鎖環本編で能力が高まると年が取らなくなると言う要素とこれらを合わせた結果、【イケオジ鎌の人概念】、或いは【イケオジとペスニアが感じているだけの鎌の人マダオ概念】が爆誕する事となった。
どちらになるかは現時点では未知数だけど、一応どちらになってもいい様に話は組んでいます。

〇フェムトの知らない言語の歌について
この歌は【Dragon Marked For Death(ドラゴン・マークト・フォー・デス)】に登場する主題歌である【家路(ファラナジャ)】と呼ばれる歌。
歌そのものは【ドラゴン語】と呼ばれる架空言語で歌われており、本小説内で掲載しているのは翻訳された物。

〇ペスニアに新たに生えた緑色の龍の形をした翼について
ペスニアは上記の作品に存在する巫女とはイクス2で言う所の【並行同位体】と言う形で繋がりが存在している。
その為、このような龍翼を持っていたりしている。
電子の謡精はやろうと思えば電脳体である自身の姿を好きな姿に変える事が出来る。そして、この要素は黒死蝶の謡精女王となった今でも継承されている。つまり……

〇第八波動について
前回の話で登場した第七波動を越えた新たな領域に立つ能力を指す。
ガンヴォルト鎖環が初出で、メビウスの能力「無限の星読み(アストラルオーダー)」の能力がこの領域にあるとされている。
第八波動と書いてエースと読む。

〇無限の星読みについて
生まれながらの暴龍の王メビウスの持つ第八波動の領域に存在する未来を見通し選択する規格外の能力。
元が赤子だからなのか、目を覚ますと世界中に放たれた龍放射と共にこの能力で予測不可能な混沌をもたらすと言う極めて厄介なことが起こると言われている。

〇メビウスについて
ガンヴォルト鎖環ではGVという囮と封鍵による結界の裏に皇神が隠していた、生まれながらにして真の「暴龍の王」と言われている。
その姿は龍の赤子そのものであり、明らかな人外。
この子のSPスキルである【存在抹消(ダムナティオメモリアエ)】での詠唱におけるメビウス語を解読して見た限り、私の中での話になりますが、メビウスは悪者では無いのではと言う考えから本小説内では基本いい子な設定。
因みに解読された文章は「せかい ほふる あおき ちから わたし たおす」と言った感じになる。









サイドストーリー





「かは……!! き、貴様、何故生きて……」

「黙って眠っとけ」


 オレは手持ちの鉄扇で研究員の一人を気絶させる。

 ここは皇神未来技術研究所。

 かつて第七波動能力者を対象とした非倫理的な人体実験が繰り返されていた研究施設だ。

 今では紫電達の改革のお陰で名実ともに「新時代のエネルギーの研究」を名目とする事が出来る様になった場所でもある。

 今でこそ能力者相手に非合理な実験をする事が出来なくなっているが、中にはそう言った監視の目を欺いた一部の連中が非合理的な実験に手を染める事もまた存在する。

 丁度ここで倒れている研究員のように。

 こいつはフェムトの居た研究施設に着任した時からの俺との同期だが、そんな非合理的な実験が大好きなクソ野郎だ。

 ちゃっかり生き残ってここに舞い戻る辺り、悪運の強さと優秀さは一級品だと言えるだろう。


「ほ、ホウダイ(ニコラ)様、よろしいのでしょうか?」

「別に構いやしねぇ。今は緊急事態だし、裏八雲のお墨付きって奴さ。ついでに言うと、こいつ非合法な実験してた現行犯だしな」

「あ……あぁ……」

「おい、大丈夫か?」

「は、はい。お陰様で」

「ならお前は後から来るヤツの指示に従ってくれ。ソイツにお前の事情を話してあるから大丈夫な筈だ」

「分かりました! 本当に、ありがとうございます!」

「……一応言っておくが、俺の背中に居るコイツ(えころ)は見なかった事にしてくれ。イイネ?」

「アッハイ」


 名も無き能力者を助けた後、俺は先へと進む。

 こうして堂々と歩いていられるのは裏八雲経由での皇神に対する根回しが完了しているからだ。

 以前はここまで迅速に根回しする事は不可能だったのだが、紫電が副社長になった事でかなり融通が利くようになったと裏八雲の連中は話していた。

 そうしてたどり着いたのは暴龍の王が眠る封印の間。

 強固な封印で形成されているガラス越しに、その龍の赤子のメビウスが存在している。 


「ホウダイ様、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「アキュラを信じろ。必ず上手く行く。……それに、コイツも俺達が来てから外に出たがってるみたいだしな」

「そうなのですか?」

「幼いながら、随分と賢い子じゃねえか。俺達が何を持ってきたのかも把握してるらしい。ま、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのを知ってればどうという事は無いさ、えころ」

「因みにですが、どうやってそれを?」

「根気良く話しかけたら返事してくれてな。その時に前居た世界線での出来事を聞かされたのさ。まあ暴龍の王何て言われちゃいるが、コイツはれっきとした赤子だぞ? 外で騒がしくすれば訳も分からずパニックになっちまうのは当然だろうに。コイツも気の毒なヤツだぜ。全く」

―――――――――(はやく そとに でたい)

「っとと、いけねぇ。早く外に出たいんだよな。ちょっと待ってろ……」

「え? 今の声は……」

「コイツの声を翻訳した物さ。コイツの言語が()()()()()()()()()()()グレイヴピラーに眠ってたから何とか翻訳機も用意出来たって訳よ。いやホント、グレイヴピラー様様ってヤツさ」


 そう言いながら、オレはアキュラの居た世界線で共同開発した蒼色の宝玉【龍宝玉(ドラゴン・スフィア)】を掲げる。

 龍宝玉は俺の手から離れ、一人でに宙に浮いた状態となった。

 この龍宝玉と呼ばれる代物は、俺の持つオカルト技術とアキュラの持つ科学技術、そしてグレイヴピラーで得た技術も合わさり完成した物。

 理論上、これでメビウスが目覚めると同時に無意識に放つ龍放射を無害な波動へと調律(チューニング)する形で無力化する事が可能となる。

 そして、無限の星読み(アストラルオーダー)の制御の補助すら可能な科学と神秘の合わさった神器と呼べる代物だ。

 この宙に浮いた龍宝玉を起点にメビウスは転移。

 それと同時に龍宝玉からメビウスを保護するような形で透き通った蒼色のバリアの様な物が形成される。

 ……龍放射を計測する【D(ドラゴニック)-カウンター】の値は基準値を維持している為、問題無く龍宝玉はその機能を発揮しているのを確認。

 これでメビウスは自由に外に出る事が出来る様になった。

 コイツも周りに迷惑を掛けずに外に出れたのは初めてだったらしく、嬉しそうな思念が翻訳機経由で俺とえころに流れ込んで来る。


――――――――(たのしい うれしい).――――――――(ありがとう にこら えころ)

「おう。……三文字以上の言葉も話せるようになったな。えらいぞ」

「本当に賢いですねぇ。メビウスちゃんは」

「んじゃま、早速で悪いがちと頼みがある。お前も分かってるとは思うが、この国にはやっべぇヤツがいる。分かるよな?」

――――――――――――――――(わかる せかい ほろぼす うたの ちから).――――――――(かなしい 【りゅうのみこ】)

「そいつを何とかするのに今からこの国の龍脈を抑える為に使われてたって言う【封鍵】を回収するのを手伝って欲しいのさ。まあ、四本ある内の三本はもう裏八雲最強のアイツがフェムト達に届けてる最中だから大丈夫だとは思うんだが……何だか胸騒ぎがしてな。オレの役目はお前を回収した後は基本後詰めだけだから本来は気楽でいられるはずなんだが、そんな時に限って嫌な予感ってのが当たっちまうものなのさ。ま、そういう訳だから力の使い方の練習がてら頼む」

―――――――――(わかった れんしゅう だいじ)

「おう。頼りにしてるぜ。場所は……ここだな」


 オレは立体型の地図を表示し場所を指し示す。

 そこは龍脈が近い影響で事故が多発しているコンビナート。

 今はエネルギー問題の影響もあり、こんな所でも採掘が行われている。

 豊富な化石燃料が取れる場所なのだが、有毒ガスもセットなのが問題点であると言える厄介な場所だ。

 勿論あの最強忍者ならここも攻略する事は出来るだろうが、先にも言った通り有毒ガスなんかの影響でどうしても慎重になる必要が出てくるため時間が足りないと言える。

 よって、本来はここの封鍵は回収する為のカウントには含まれていない。
 
 ただアイツから余裕があるなら回収して欲しいと頼まれていた為、回収に行こうという訳なのだ。

 ……オレの今までの経験上、こう言ったモノを逃すと大抵痛い目に合う。

 こう言ったオレの経験則は何度も死線を潜って得て培った物なので、胸騒ぎがする等の直感的な警告には素直に従うようにしている。
 
 しかも今回のこの警告はかなりドギツイ代物である事から、()()()()()()()()()()()()()()()()を開放する必要が出てくるのは確定だろう。

 正直、あんましコレに頼るのは個人的には嫌なんだが……贅沢は言えねぇよなぁ。





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第四十二話 イマージュパルスと暴龍、その脅威



サイドストーリー










BREAK OUT










 龍放射を計測するD(ドラゴニック)-カウンターの数値が危険域を優に超えた水準であるとロロを経由してオレに警告を発する。

 この龍放射の濃度は並大抵の第七波動能力者(セプティマホルダー)の精神を狂わせるのに十分な量であり、ロロのモード・ヴァルキュリアとTAS、そしてフェムトの存在が居なければ戦いにすらならなかっただろう。

 アイツは龍放射に対抗できる宝玉因子(スフィアファクター)である為、TASで接続していれば今のロロと同じように龍放射の影響を防ぎ切ることが出来る。

 オレとロロはともかく、他のメンバーはほぼ第七波動能力者で構成されている為、TASを維持するフェムトと言う存在が文字通りの命綱だ。

 この命綱が無ければ、彼らは暴龍に成す術が無い。

 故に、この戦いにおける勝利の鍵を握るのはフェムトの存在その物であると言える。




MISSION START







 右手にブレイクホイール、左手にエクスギアを携え身構える。

 目の前に存在する暴龍達に対して、オレの装備がどこまで通用するのかは未知数だ。

 しかもコイツらを仮に倒したとしても、謡精暴龍なる存在も後に控えている。

 この事から考えるに、ハッキリ言ってしまえばオレ達の勝率はあまり高くはないだろう。

 しかし、何もせずに終わるわけには行かない。

 オレにとっては暴龍と相対するという事は即ち、父さんから引き継いだ意思の決着を付けると言う意味もあるからだ。

 ……ふと、オレは相棒(ロロ)を見る。

 暴龍を前にしていると言うのに、コイツは相変わらず太々しい余裕な態度だ。

 
『アキュラくん。今回は何時もみたいにぼく達だけじゃない。こんなに沢山の人達が一緒に戦ってくれる。……凄く、心強いよね』

「ああ。……いいものだな。仲間が居ると言うのは」

『アキュラくんからそんな言葉が出るなんてねぇ~』

「いけないか?」

『ううん。全然。……それじゃあアキュラくん、行こう!』


 お前がそうして何時も通りだからこそ、オレはここまでやって来れた。

 だからこそ、今回で終わらせなければならない。


「ああ。龍放射に纏わる因縁、オレが討滅する!」


 龍に纏わる因縁を。




READY







 皆の先陣を切る形でオレはブリッツダッシュで先行する。

 それに合わせ、オレに対して迎撃の姿勢で突撃して来るのは暴龍と化したバクト。

 ヤツは螺旋を身に纏いながらこちらに対して突撃する。

 その巨体もあり、単純な突撃だけでも脅威に値する為即座に【スピンチョッパー】を用いて紙一重で突撃と身に纏う螺旋を回避。

 間髪入れずに今のロロの形態のお陰でチャージ時間を無視出来る様になった最大チャージ版の【プリズムブレイク】を叩き込む。

 このEPウェポンは射出速度は遅いが、その威力は折り紙付きである上に相手は巨体。

 それに加えて至近距離である事から例えロックオン無しの状態でも避けられる道理は存在せず、バクトの纏う螺旋を突き抜けて直撃する。


『グオォォォォ!!』

『この武器効いてるみたいだよ! さっすがアキュラくん!』

「実体の無い螺旋を突破するならば、超硬質の物体をぶつけるのが確実だからな。しかし……」

『グアァァァァ!!』

『向こうはまだまだ余裕あるみたい!』


 このプリズムブレイクは本来、この武器を弱点に持った能力者であるならば直撃すればただでは済まない筈の代物だ。

 さらに言えば、威力その物も今のロロの形態であるモード・ヴァルキュリアのお陰で跳ね上がっている状態。

 それなのにも関わらず、暴龍と化したバクトはまだまだ余裕のある様子をこちらに見せている。

 この事から、ペスニアの言う様にフィジカルの面では圧倒的であると言わざるを得ない。

 しかし、暴龍である故の弱点も存在する。

 それは理性が存在しないという事だ。

 本能のままに暴れると言うのはそれだけで脅威であると言うのは事実だが、それ故に大きく隙を作りやすく、場合によっては能力者で居た時よりも戦いやすい。

 TASのテレパス経由でも既にこの情報は共有されており、他の暴龍を相手にしている皆もこれらを踏まえて対処している様だ。


(兵長さん! カノン砲をお願いします!)

(要請、承った。カノン砲発射準備! フェムト殿からの初の要請だ! しくじるなよ!)

(了解! ロックオン確認! 【ブレイジングカノン】、発射準備よし!)

(カノン砲、発射する!)


 ブレイジングカノンの着弾音が俺の耳を揺さぶる。

 この兵装は爆炎(エクスプロージョン)の第七波動に加え、皇神の持つ宝剣技術を用いた物だと聞いている。

 オレのEXウェポンである【ブレイジングバリスタ】とは違い、着弾時にルミナリーマイン位の規模を持った爆発が発生するようになっているようだ。

 ……さて、こちらも新たな新機能を試させてもらうとしよう。

 それはGVとの訓練の際、ヤツが見せた電光石火の強襲(ライトニングアサルト)をオレなりに再現した物だ。

 その名は【ブリッツアサルト】。

 アンカーネクサスによる追尾するブリッツダッシュと同時にタイムフリーザーを瞬間的に発動させる事で成し得る新たなる機能。

 これによってオレは敵の攻撃を掻い潜りながらのロックオンが可能となる。


「ハァ!!」

『うわっとと。慣れないとちょっと酔いそうになっちゃうね』

「だが、有用であるのは事実だ」


 オレ達から見れば普通にブリッツダッシュをしただけの感覚だが、相手からすればまさに電光石火の強襲に映る。

 時間操作とブリッツダッシュの合わせ技は、この様な芸当も可能なのだ。

 これによって暴龍と化したバクトの顔面にロックオンし、同じようにプリズムブレイクを、そしてロックオンホイール(ホーミングショット)を叩き込む。

 しかし相手も負けておらず、こちらの攻撃を何度も受けつつも自身の周辺に大規模な螺旋の竜巻を発生させ、周囲を飛んでいるオレを吹き飛ばそうとする。

 今は高機動形態のブリッツシフトである為、回避する事は容易だ。

 ロックオンもされている以上この螺旋の竜巻も無視した攻撃も出来る為、遠距離戦になるのは寧ろ望む所。

 土埃も上がっている為、向こうの視界も塞がっている。

 今が決め時であると言えるだろう。


「ロロ! ()()をやる! ドッキングを!」

『了解! ……よっし、本体の接続完了!』

「ディバイド……またお前の力を借りる事になるとはな」


 オレはエクスギアにマウントしていた嘗ての愛銃ディバイドを取り出し、構える。

 その後、銃の周囲にロロのビットが集結し、円陣を組むと同時に俺から見て時計回りで回転を始めた。


『ABドライヴ出力最大! フォトンエネルギー増幅率、500%オーバー! 危険域(エマージェンシー)! アキュラくん!!』

「行くぞ!」


 それは嘗てまだオレが未熟だった時の未完成だった兵装。

 ABドライヴに過負荷をかけると言う都合上、機能だけを残して使われる事は無かった。

 その兵装の名は――
 
 






集う、集う、光が集う

屠龍を成す為の輝きが集う

雷霆の心臓より供給される殲滅の閃光 今ここに


ハートブレイザー








 ディバイドから放たれるフォトンエネルギーをビットを用いて増幅して解き放つ殲滅攻撃、その名は【H(ハート)ーブレイザー】。

 オレの居た世界線において対エデンを相手に一度だけ使用した兵装だ。

 この兵装は当時、ABドライヴに大きな負荷をかけるが為にその時以降使われる事は無かった。

 しかし、LPCS(リトルパルサーコントロールシステム)のお陰で出力最大の状態を極めて高水準に安定させる事が出来る様になったお陰で、この機能を本格的に復活させる事が出来た。

 その性質から、暴龍のような大型の相手に対して高い効果を発揮する。


『グギャァァアァァ!!!!』


 殲滅の閃光を顔面に受け、暴龍バクトは崩れ落ちる。

 倒れた衝撃によって土煙が上がり、そのままヤツの肉体が崩壊していく。

 これで暴龍であるバクトの撃破を成したと考えてよいだろう。




CLEAR







『やったぁ! 暴龍何て言っても大した事無かったね、アキュラくん!』

「頑丈さと能力の規模だけは目を見張るものはあったがな。しかし、戦いにおいて重要な理性が無い以上、この結末は当然と言えるだろう」


 辺りを見て見れば、フェムトはペスニアに切り込んでおり、上手く彼女を抑えることが出来ている。

 他の暴龍も、オレが撃破したのとほぼ同じタイミングで撃破されており、ついさっき最後の暴龍であるイソラもまた倒れ伏した。

 これでもう、残るはペスニアだけだ。

 それを確認したのか、ペスニアはフェムトをその手に持つ大きな鎌で弾き飛ばした後、こちらに対して顔を向けた。


『あらら。もう皆倒されちゃったの? ふぅん……わたしの思った以上に出来るのねぇ』

「ハッ! こんなモンでオレ達を止められると思うんじゃねェ!」

「小生には良き相手であったぞ」

「確かに暴龍は世間一般から考えれば十分脅威だと言えるけど、相手が悪かったね」


 今や残るはペスニア一人。

 勝負あったとこの場に居る殆どの者が確信している。

 しかしオレの中の経験から来る直感は、それを否定していた。

 ペスニアは確かに驚いてはいるが、その態度にはまだ余裕が残っている。

 それ所か消耗している様子さえ見せていない。

 間違い無く、まだ何かある筈だ。


『そっか、そっか、そうなんだ♪ ()()()()()()()()()()()()()()()()♪』


 ペスニアのその言葉と同時に先程倒し、消滅したはずの暴龍が翠色のオーラと共に再び姿を現した。

 ……一度目は遠くからであったが故に分からなかったが、あの翠色のオーラ……間違いない。

 アレは【翡翠の死神】、或いは【死と踊る霊翼(オージーオブザデッド)】の異名を持つ【B.B(ブラックバッジ)】の第七波動(セプティマ)の波動だ。

 オレは一度だけだがヤツとの遭遇戦をした記憶がある。

 まだバタフライエフェクトの所在を把握する為に各地を転々としていた時、コイツは現れた。

 三十から四十辺りの歳を取った風貌を持った赤髪の男で、その見た目通りの戦いの技巧を持った人物だ。

 突然の強襲だったが故にお互い会話を交わす事は無かったが、オレが取り逃した数少ない第七波動能力者(セプティマホルダー)の一人であり、何処の技術かは不明だが変身現象(アームドフェノメン)もしていた。

 翡翠の死神と言う二つ名はその変身現象をした時の姿から取られた物なのだろう。

 確か、ヤツの第七波動の名前は……


「何!? 復活しただと!?」

『アハハハハハハ♪ これがおじさまがわたしに遺してくれた【死霊(ガイスト)】の第七波動! ()()()()()()()()()()()()()()よ!! 以前ダイナイン達と一緒に戦った時に話したわよねぇ!? ()()()()()()()()()()()()()って!』

「それって、まさか……!」

『貴方達が謡精暴龍に奪われていた麒麟デバイスを、暴走と言う形で使われて仮初の身体に捕らわれた彼等を開放してくれたから、こんな事が出来る様になったの。わたしはその時麒麟デバイスをアイツから取り上げたり、それを修復したりで忙しかったから感謝しているのよ? 本当にありがとう。お陰で余計な手間をかけなくて済んだわ♪』

「こ、コノヤロウ……アイツらを如何にかするのにどんだけ苦労したと……!」

『いいじゃない別に。アンタ達はそっからデータを解析して戦力強化してたんだから。その辺り、お互い様でしょう?』

「……能力は原則につき一人一つしか持てない筈です。何故その第七波動を扱えるんですか?」

『フフ♪ わたしの想像以上の実力を持った貴方達だから、特別に教えてあげる。……わたしを残して死んでしまったおじさまの第七波動の残滓の全てを取り込んだからよ』

「能力を取り込むだって……!?」

「んなデタラメな事が出来るってのかよ!」

「……なるほど、【普遍化(ノーマライズ)】に近い現象を用いたか」

「……!!」

『……? 普遍化って、何なのかしら?』

「……簡単に言えば、任意の第七波動を誰でも扱えるようにする技術の事だ」

『ふーん……ま、ポンコツにしては上出来よ。一応礼は言っておくわ』


 この言葉は専門用語だから分からないのも無理は無い……か。

 だとしたら、ペスニアは感覚的にそれが出来てしまっている特異な例なのだろう。

 話は変わるが、普遍化は昔エデンを壊滅させた際にヤツらが何を企んでいたのかを調べた時に出て来た言葉で、それによると電子の謡精(サイバーディーヴァ)を普遍化する事でエデンを率いる能力者達を強化し、当時の無能力者(マイナーズ)達を相手に戦争を仕掛けようと企んでいたらしい。

 現に、オレのこの言葉にパンテーラが明確に反応している。

 ……流石にこの世界の情勢においてそんな事を企んではいないらしいが、やろうとした時期はあったのだろうと推察できる。

 そうで無ければわざわざこの国へと潜入する理由も無いだろうからな。

 まあ、それは置いて話を戻そう。

 つまりペスニアはB.Bの第七波動をそう言った形、或いは近い形で取り込んでいるから死霊の第七波動を扱えるのだと思われる。

 この事が何を意味するのか。

 それはオレ達が更なる困難に直面する事を端的に表している。

 先ほどの様に、暴龍達が復活すると言う形で。


『ん~……。同じ事しても面白く無いわねぇ。……そう言えば、理性がどうとか言ってたっけ』


 その言葉と同時に、ペスニアは歌い始める。

 またあの時と同じ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を用いた歌を。

 その歌と同時に、暴龍の濁り切った瞳に光が宿る。

 コイツ、まさか……!


『ちょっとペスニア。コレが出来るんなら、最初からやっとき!』

『あはは♪ ごめんなさいねインテルス。大抵の相手は暴れさせるだけで何とかなってたから、つい♪』

『全く……いくらこの姿でも倒される程の攻撃を受けたら痛いんだから、その辺り察して欲しいよ』

『リベリオったら、細かい事を気にしてはダメよ?』


 龍放射を操ると言う事、そして電子の謡精の能力も残っている事から察してはいた。

 ペスニアの能力には暴龍を操る力も備わっているのだと。

 恐らくだが本能を抑えると言う形で操り、理性を取り戻させたのだろう。


『それじゃあ気を取り直して第二ラウンドを始めましょう。今度は簡単には行かないわよ?』


 事態は完全にふりだしに戻って……いや、それ以上に後退してしまった。

 暴龍である彼らに理性の光が宿った以上、苦戦は免れないだろう。

 そう思いながらオレは、再びヤツらに向かってブリッツダッシュで飛び込むのであった。

 これまで以上に心を研ぎ澄ませながら。






 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 最初の内は私達が圧倒していた。

 

 初の【宝剣兵装】の運用も順調に機能し、爆竹の勢いで暴龍達を撃滅出来ていた。

 

 しかし、ペスニアがそんな彼らを一度蘇生してから流れが悪くなり出した。

 

 彼女の歌によって理性を宿した暴龍は凶悪そのもので、かなりの苦戦を強いられる。

 

 しかし、その巨体故の小回りの利かなさを付け入る事で誰一人かける事無く再び勝利する事に成功。

 

 だがやはり、彼女は再び暴龍を蘇生させる。

 

 それ所か、今度は彼女が手に持つ麒麟デバイスと呼ばれる物で暴龍のイマージュパルスまで出現させたのだ。

 

 それをもう何度か繰り返される度にイマージュパルスで呼び出される暴龍が増加し、それに比例する形で暴龍の力も増している。

 

 このままではジリ貧になるのは避けられないだろう。

 

 

『アハハハハハ♪ 凄い! 本当に凄いわ! 貴方達はどこまでわたしを喜ばせれば気が済むのかしら!?』

 

「貴女を喜ばせる為にやってる訳ではありませんよ……!」

 

「クソッ! また数を増やしてきやがった!」

 

 

 今の所まだこちらの被害は無いが、それもいつまで続くかは未知数だ。

 

 私の支援スキルであるスピードヴォルトとシールドヴォルトは使用済みで、私の出来る事はリトルの歌(ソングオブパルサー)以外、可能な限り行っている。

 

 それに、途中から大型自律飛空艇(ドローン)飛天がこの戦場に到着した事で、この飛空艇に新たに搭載されたイオタの第七波動(セブンス)である残光(ライトスピード)を元に開発されたレーザータイプの広域宝剣兵装である【レイストーム】による要請が可能となった。

 

 更に、完成した無人戦闘機フェイザントの編隊による純粋な航空爆撃である【プランZX】と言う要請も可能となった事で、もうこの戦いは一種の戦争の域に到達してしまったと言える。

 

 この国にとっては滅ぶか滅びないかの瀬戸際である以上、戦争と言う表現も間違っていない筈だ。

 

 それでも不幸中の幸いと言うべきか、この事を見越して紫電はこの周辺の地区に住んでいる人達を戦いが始まる前に避難させており、民間人への人的被害を気にしなくても良くなっている。

 

 お陰で私も遠慮無く兵装の要請を飛ばすことが出来ると言う物だ。

 

 

(こちらフェムト。レイストームの発射をお願いします!)

 

(要請受諾。ロックオン確認。……レイストーム、発射(はっしャァッ)!!!)

 

 

 上空に居る飛天から放たれる無数の光が暴龍イソラに向かって放たれる。

 

 紫電の扱う星辰程では無いが、この武装は取り回しが良く連射が効くのがウリだ。

 

 それと合わせ間髪入れずに暴龍クリムの足止めを目的にフェイザントによる爆撃、プランZXを要請。

 

 フェイザントは無人機である為、こちらが要請の意思を伝えれば即座に行動に移してくれる。

 

 

(皆さん! 暴龍クリムに対して航空支援を要請しました! 近くに居る人達は一度エリーゼからの治療を受ける事も兼ねて退避して下さい!)

 

(すまねぇフェムト! 手間かけさせちまった見てェだな!)

 

(傷を受けた人はわたしの所へ! フェムトくんのアビリティと私の【ライフリジェネ】のお陰で余波位なら多少は誤魔化せますが、暴龍の攻撃の直撃は誤魔化しが効きません! マズイと感じたら即座に後退して下さい!)

 

(動けなかったらボクに言ってくれれば直ぐに転送するからね。……はぁ、こんな事をボクがするのは今日限りの貴重な機会なんだから、しっかりありがたみを噛み締めて欲しいね)

 

(ヌゥ……! 小生はまだ戦えるでござる!)

 

(カレラ、無理をするな。一度後退して傷を癒せ)

 

(そうだ。嘗ての俺の様に手遅れになってからでは遅いのだぞ)

 

(済まぬイオタ殿、ストラトス殿。……メラク殿、頼めるか?)

 

(はいはい。ボクにお任せあれ~ってね)

 

 

 暴龍クリムの一撃を受けていたカレラがフェイザントの航空支援による爆風を盾にしつつ、メラクの力を借りて一時退避する。

 

 あの強化された爆発の直撃は、流石のカレラでも一時後退せざるを得ない代物らしい。

 

 とまあ、この様な事がありながらも今回もイマージュパルスを含めて暴龍の撃破に成功。

 

 そして、同じ轍を踏まない様に私もデイトナと共にペスニアに肉薄しているのだが、彼女はあろう事か戦いながら歌いだしたのだ。

 

 それ所か歌いながらしゃべる事も出来るらしく、張りついて止めるという事も出来ない。

 

 

「くっそ! 無駄に器用な事しやがって!」

 

『この手の精神感応能力持ちにとっては当たり前の芸当よ。そこに居る玉っころや今頃ライブ中なモルフォだってそうでしょうに。……さあ、また難易度を引き上げるわよ。どこまで耐えられるかしら? アハハハハ♪』

 

「……何故一思いに始末しない?」

 

「紫電?」

 

「ボク達は完全に遊ばれている。情けない事だが、ペスニアの態度から見てそれは明らかだ」

 

『別にそう言うつもりはないんだけどなぁ。わたしはただ貴方達の戦い方を学んでいるだけよ。ネットで調べた事も実戦しながらね。向こうに居た頃は戦い方なんてそれこそ個人対個人が普通だったし、謡精暴龍との戦いだって操っていた暴龍を特攻させて後は各個体に任せただけだったし……だからね。貴方達の様に創意工夫を凝らして戦っている姿はわたしにとって、とても新鮮なのよ。新しい可能性を感じずにはいられない。もしかしたらって考えちゃう』

 

 

 恐らくだが、ペスニアの居た世界線ではその手の戦術、戦略的な書物やデータベース等が消失してしまっているのだろう。

 

 だからこそ、初期の頃は純粋な力押ししか出来なかったと言える。

 

 

『でもね、まだ足りないのよこれじゃあ。とてもじゃ無いけど、謡精暴龍相手じゃ全然足りない。一撃を受けただけで撤退しちゃう位の脆弱な体では、面白い戦い方が出来ても宝の持ち腐れだわ』

 

 

 ペスニアは表情こそころころと目まぐるしく喜怒哀楽を変化させているが、眼だけはちっとも変化していない。

 

 暗い決意を宿した深淵の眼は、謡精暴龍に対する憎悪によって暗黒の炎と呼ぶべき意志の強さを物語る。

 

 

「この状況……まるで蠱毒を思わせるね。互いに喰らい合わせ、謡精暴龍に対する毒を作り出すかのように」

 

『……ええそうね。わたしがやろうとしているのは正にそれよ。互いに喰らい合い、生き残った者が謡精暴龍と戦うの。私が勝てば貴方達を暴龍にした上で決戦に臨めるし、貴方達が仮に勝つ事があるならば、このわたしを撃破したならば謡精暴龍も大幅な弱体化は避けられないし、何よりわたしに勝った以上、負ける事何てあり得ないでしょ? つまり如何足掻いてもわたしの得になるって訳』

 

「本気かよ……狂ってやがるぜ。こいつはよ」

 

『あはははは♪ ……おじさまの居ない色あせた世界で、正気で何て居られる訳ないでしょう!? わたしは謡精暴龍を倒す為なら何だってやるわ! 自分の身を犠牲にしてでも、刺し違えても、何を犠牲にしても必ず倒すわ!!』

 

「……そんなにその人が大事だったのですか」

 

『ええそうよ! おじさまはわたしに色の付いた世界を教えてくれた大切な人だった! 大好きな人だった! 愛していたのよ! 貴方だって想像すれば分かるでしょう!? あの子が、エリーゼが居なくなったらって考えれば!』

 

「それは……」

 

『でも安心して? わたしは貴方達を離れ離れにするシュミは無いの。だから……二人仲良く、暴龍にしてあげるのよ!!!』

 

 

 ペスニアの気迫が爆発的に膨れあがり、それに呼応して暴龍達の力もさらに活性化している。

 

 ……これからの戦いはリトルの歌を、エリーゼのリザレクションを解禁しなければならないだろう。

 

 もう本当に、私達に手段を選ぶ選択肢が無い。

 

 私はエリーゼに対して専用回線を開く。

 

 

(エリーゼ)

 

(フェムトくん……)

 

(リザレクションを解禁する。恐らくだけど、ここから先は私達の誰かに犠牲が出るのは避けられない。紫電にも作戦が始まる前に話だけは通してある。だから遠慮無くやって欲しい)

 

(分かった。わたし、頑張るから)

 

(……ごめん、エリーゼ。結局リザレクションを解禁せざるを得なかった。この事は秘匿しなきゃいけない事だったのに)

 

(謝らないでフェムトくん。……わたしね、嬉しいんだ)

 

(嬉しい?)

 

(だって、こうやってフェムトくんの支えになれてるんだもの)

 

(エリーゼ……ありがとう)

 

 

 私は専用回線を解除し、これまで会話に参加せずにTASの維持やスキルの管理に専念していたリトルに対して指示を出す。

 

 歌を解禁する指示を。

 

 

(リトル、返事できそう?)

 

(……ん。何とか慣れて来た)

 

(それなら、歌う事も出来そうかな?)

 

(大丈夫。龍放射の満ちたこの環境ならリスク無しで歌えるよ)

 

(……? どう言う事です?)

 

(アキュラがわたしの事を切り札だって言った意味、分かった気がするの。だって、さっきから私達の周辺にある龍放射、EPに凄い勢いで変換されてるの。アビリティのソレとは関係無く。これがきっと、調律(チューニング)するって事なんだと思う)

 

(リトル……)

 

(フェムト。私頑張るね。一生懸命歌って、皆を助けるの。今も一緒に戦ってるロロみたいに。今もライブと言う形でこの国の人達に希望を与えているモルフォみたいに)

 

 

 リトルの存在感が急速に高まるのを感じる。

 

 周囲の龍放射をEPに調律し、その力を用いて歌を発動させる。

 

 今後私達に力の供給をする事が大変になるであろうエリーゼの負担をゼロにした上で。

 

 私だけでは無く、皆を助ける為の歌を。

 

 

 

 

 

 

 

私の歌は皆の為の歌

 

共に歩む人達に捧げる魂の歌

 

そして、仲間を繋ぎ止める楔の歌

 

 

SONG OF PULSAR(ソングオブパルサー)

 

 

 

 

 

 

 

近すぎると見えなくなる

 

 

 

近すぎると感じなくなる

 

 

 

近すぎると傍に居る事に気が付けなくなる

 

 

 

だから私は少しだけ離れるの

 

 

 

大切な貴方を感じる事が出来る様に

 

 

 

互いに触れ合える喜びを感じ取れる様に

 

 

 

 

 私を中心に、リトルの歌が響き渡る。

 

 以前よりも少しだけ上手になった彼女の歌が。

 

 変換したEPを糧に、リトルが顕現を果たす。

 

 少しでも皆の力になれる事を信じて。

 

 

『みんなお願い。頑張って!!』

 

 

 リトルの顕現と同時に私も含めた全員に蒼白いオーラが迸った。

 

 このオーラが周囲の龍放射を打ち消す所か、取り込んで纏う者に対するチカラとなって恩恵を授けている。

 

 しかも今回はアビリティやロロの力との相乗効果も合わさり、以前よりもずっと力強い。

 

 そして、この恩恵はTASで接続している途中参戦した飛天やフェイザントにも及んでおり、パラメータを可視化した情報を見た限り、その性能を限界以上に引き出されているのを確認出来る。

 

 

『……! やっと出て来たわね!』

 

『……』

 

『改めて対峙して見て分かったわ。貴女は龍放射を打ち消す所か、何らかの形で取り込んでチカラに変えているのね! これは間違い無く謡精暴龍に対する切り札になり得るわ! だから……そのチカラ、わたしに捧げなさい! 貴女を取り込んで、わたしは謡精暴龍を倒すわ!』

 

『ダメ。わたしの存在の全てはフェムトの為にあるから』

 

『なら! フェムトをエリーゼと一緒に暴龍に変えて、貴女共々切り札として使わせて貰うわ!! 総てはおじさまの仇を討つ為に!!!』

 

 

 戦いは激しさを増していく。

 

 互いの攻撃による余波が地下施設のあった場所だけでは無く、その周辺にある地区の施設を始めとした建物等を粉砕する。

 

 暴龍インテルスによる重力制御の嵐が辺り一面を微塵に砕く。

 

 暴龍ダイナインの背中にある超大型の偏向布巾(ベクタードクロス)が私達の攻撃を周囲に弾き飛ばす。

 

 暴龍イソラの分身(コンパニオン)で出来た無数の巨体で出来た分身が私達の元に特攻する。

 

 暴龍バクトの放つ無数の螺旋のドリルが回転を加速させ、地表を砕きながらこちらの陣形を乱そうと突貫する。

 

 暴龍リベリオの変幻自在の赤い糸が攻防一体となって私達を阻む。

 

 暴龍クリムの圧縮された爆発エネルギー弾による無慈悲なる無数の散弾が私達を襲う。

 

 そして、決意を纏ったペスニアがSPスキルを発動させ、遂に私達のメンバーに犠牲者が出る事となった。

 

 

『捉えたわ! さあ、最初の犠牲者は貴方よ! 紫電!!』

 

「しま……っ!」

 

 

 暴龍リベリオの赤い糸に紫電が捕らわれる。

 

 直ぐにでも救出しようとアキュラとパンテーラが駆けつけようとするが、他の暴龍に阻まれて近づく事が叶わない。

 

 仮に今からメラクやテセオに転移の指示を出したとしても、このタイミングでは間に合わないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

狂騒の宴 翠の鎌が閃き踊る

 

その手に抗うすべはなく

 

迫る死線に ただ祈れ

 

 

デスプロセッション

 

 

 

 

 

 

 

 ペスニアの持つ麒麟デバイスが光り輝き、姿を現したその存在。

 

 イマージュパルスと言う形で現れた彼は、正しく翡翠の死神と呼ぶにふさわしい外見をしていた。

 

 赤髪の壮年の風貌である所から、ペスニアの言う通り「おじさま」と呼ばれるに相応しい姿であると言えるだろう。

 

 そんな彼はペスニアと共に連結させた大鎌で闇夜に紛れながら紫電を切り刻む。

 

 そしてヨハネの黙示録に登場する第四の騎士、ペイルライダーを思わせる翡翠のオーラを纏った大型のバイクに二人は乗り込み、そのまま紫電に対して突撃を慣行。

 

 そのまま何度も往復する形で引きずり回し、ダメ押しと言わんが如く二人は同タイミングで大きく死神の鎌を振るい、紫電に絶命と言う致命傷を与えた。

 

 上半身と下半身に別れた紫電は爆発四散し、辺り一面に彼だった物の残滓が散らばる。

 

 

「紫電!!!」

 

「……間に合わなかったか」

 

 

 パンテーラの悲痛な叫び声とアキュラの意気消沈した声が私の耳に届く。

 

 紫電はこの部隊の士気にかかわるだけでは無く、私の友であり、この戦いが終わった後でも必要になる人だ。

 

 だからこそ、こんな所で終わらせるわけには行かない。

 

 

(準備は出来てるよ! フェムトくん!)

 

(エリーゼ、お願いします!)

 

(任せて! ……貴方はわたしとフェムトくんを引き合わせてくれた人。だからその恩を今、返します!!)

 

 

 

 

 

 

 

廻る輪廻が生命を紡ぐ

 

不可逆の帳を超えて

 

魂よ、現世に還れ

 

 

リザレクション

 

 

 

 

 

 

 

 紫色の荘厳なる光の柱の中心に、散らばった紫電の残滓が集う。

 

 そして肉体は再構成され、私達の目の前で確かに命を散らせた紫電は復活を果たす。

 

 この奇跡的な、そして禁忌とされる光景を目の当たりにしたのが理由なのか、敵味方合わせて動きが止まる。

 

 

(くぅ……どうやら助けられたみたいだね。ありがとう、エリーゼ)

 

(あの時のお礼も兼ねてますので気にしないでください)

 

(紫電……あぁ……良かった。本当に良かった。これもまた、愛のなせる奇跡なのですね)

 

(なんかパンテーラ、キャラが違くね?)

 

(アレが素なんだと思いますよ)

 

 

 紫電が奇跡的な蘇生を成した事で、私達の間に再び強い士気が蘇る。

 

 それに呼応し、私達は勢いづいて最初の頃の勢いを取り戻し、再び爆竹の如く暴龍達を撃滅。

 

 これはペスニアが動きを完全に止めた所が大きく、私達は見事にチャンスをモノにしたと言えるだろう。

 

 しかし、私達はまだ気が付いていなかった。

 

 この時彼女は強い、とても強い憤りと悲しみを感じていた事を。

 

 

『死者の、蘇生……今更……今更そんな物があるからって、何だって言うのよ!! おじさまはわたしと一つになったからもう何処にもいないのに!! どうして、どうして今になってそんな希望が出てくるの!? どうして失った後でわたしを嘲笑う様に出て来るのよぉ!!!!』

 

 

 この感情の爆発に呼応し、全滅させたはずの暴龍に加えて今まで通りの暴龍のイマージュパルスが再度出現する。

 

 それだけでは無く、今度は私の知らない男の姿が無数に現れる。

 

 共通しているのは皆同じ顔をしており、GVと同じような蒼き雷をその身に迸らせている事だ。

 

 

(ここに来てアシモフのイマージュパルスだと! それにヤツらの持っているあの銃、まさか……!)

 

 

 アキュラがテレパス経由で出現した男たちの正体を看破したと同時に、その男たちが持っている銃からカレラの力を感じる漆黒の弾丸が一斉に放たれる。

 

 その弾丸は決して早いものでは無く、一見するとあまり強そうには見えない。

 

 なので、私は鉄扇を用いてこの弾丸を防ごうとしたのだが……

 

 

(フェムト避けろ!!)

 

(アレに当たっちゃダメ! 避けて!!)

 

(……!!)

 

 

 私は決死の声のテレパスで避ける事を促すアキュラとロロに従い、漆黒の弾丸を回避する。

 

 しかし突然の攻撃のせいなのか、回避しそこなったストラトスさんが直撃しそうになってしまう。

 

 その直撃コースの漆黒の弾丸を、横から飛んできた同じ漆黒の弾丸が叩き落す。

 

 振り向いてみれば、それはアキュラが持っていた銃から放たれた物だった。

 

 

(く……すまない)

 

(無事ならそれでいい)

 

(あの弾丸、カレラの力を感じました。……まさか!)

 

(そのまさかだフェムト。あれの名は対能力者用特殊弾頭(グリードスナッチャー)。嘗てのオレがカレラの能力を参考に作った能力者殺しの特殊弾頭。直撃すれば例えほぼ不死身であると言えるエリーゼにも死を与える必滅の弾丸だ)

 

(……! そう言えばペスニア世界線のアキュラの技術は、デマーゼルによって回収されていました)

 

(それもあるだろうが、大本は一度オレがヤツと戦った際に奪われた銃だろう。そうで無ければ態々あの男にオレの父さんの形見でもある(ボーダー)を持たせたりはしない筈だ)

 

(それをさっきお前が放ってたって事は、こっちも同じような手札があるって事じゃねぇか。数は足りないにしても、不利になった訳じゃあねぇんだろ?)

 

(そうもいかないんだデイトナ。向こうはこの弾丸に対策が施されている。その性質は暴龍に変化した状態でも引き継がれている筈だ。不利になったのはこちら側と言えるだろう。それも一方的にだ)

 

 

 つまり、相手側はこちらに対して必滅の弾丸を一方的に誤射も気にせず撃ち込めると言う状況を作り出したという事になる。

 

 ……私達のこの部隊の大半は能力者だ。

 

 つまり、この弾丸を扱える相手側からすればカモがネギを背負っている状態である事と同じと言える。

 

 故に、その後の私達がどのような末路を辿るのかは明白であった。

 

 先ず落とされたのは遊撃隊に参加していたニケーだった。

 

 これを即座にエリーゼに頼んで蘇生しようとしたのだが、ペスニアはニケーに対して死霊の能力で即座に仮初の肉体を与え、蘇生を妨害してしまう。

 

 

「そんな! ニケー!!」

 

『……もういいわ。貴方達からはもう十分に経験を積ませてもらった。だから……わたしの手に堕ちなさい! そして後悔なさいな!! わたしの前で無意味な希望を見せつけた事をねぇ!?』

 

 

 仮初の肉体を与えられ、更に身動きを取れ無い状態にされたニケー。

 

 しかし、彼女はそんな状況下に置かれたにも関わらず、とても穏やかな表情をしている。

 

 まるで今起こっている絶望が覆される事を分かっているかのように。

 

 そんな事等関係無いと言わんが如く、次々と私達の仲間が漆黒の弾丸の餌食となってしまう。

 

 例外と言えるのは能力を持たないアキュラと必滅の弾丸の元の能力を持ったカレラ位だが、それを分かっているのか、暴龍達はこの二人に対して集中攻撃を仕掛ける。

 

 アキュラは歴戦の戦士であり、彼の持つ装備は生存を重視しているが故に逃げ切る事は出来るが、カレラは持ち前の力で機動力を補強してもそれには及ばない。

 

 故に、純粋に暴龍の圧倒的フィジカルに叩き潰されてしまうのは道理であった。

 

 

(……現時刻を以て、各自の自由行動を認める。皆、自分の生存を優先した行動をして欲しい)

 

(紫電!?)

 

(ああまでされたらもうボクらに勝ち目は無い。能力者殺しの弾丸に加え、蘇生封じまでされてしまったらね)

 

(あ~ぁ、ダメだったかぁ……)

 

(メラク、君も早く逃げるといい。能力を使えばすぐだろう?)

 

(そうしたいのはやまやまだけど……逃げても無駄そうな雰囲気なんだよねぇ……折角だから後方部隊の人達や遊撃隊のエデン構成員だけでも飛天に移しておくよ。彼らは幸いボク達とは違ってヘイトを稼いで無いみたいだし)

 

(……すまない)

 

(紫電)

 

(アキュラ……君は元々この世界の人間では無い。ならば逃げ切れる手段を持っている筈だ)

 

(生憎だけど、ぼく達は諦めが悪いんだ。だからギリギリまで戦うよ)

 

(そういう事だ)

 

 

 後方部隊や遊撃隊のエデン構成員達はメラクとテセオによって飛天へと飛ばされ、この場に残っているのは以下の通りだ。

 

 私とリトル、エリーゼに紫電、メラクにテセオ、そしてパンテーラにアキュラにロロの計9人。

 

 名前のあがっていない人達は全員やられてしまい、ペスニアによって仮初の肉体を与えられるという形で捕らわれてしまっている。

 

 まだ戦えるメンバーは揃ってはいるものの、このまま戦いを続ければ全滅するのは時間の問題と言えるだろう。

 

 そんな時だった。

 

 ペスニアの動きが止まったのは。

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

『……時間切れ、か。フフ……タイムリミットよ』

 

「タイムリミット? 何のことだ?」

 

『この国の人達全員を一瞬で暴龍にするだけの龍放射が溜まったのよ』

 

「なんだって!?」

 

『貴方達は誇ってもいいわ。わたし達を相手にここまで粘れたんだから。だから見せてあげる。この国が暴龍に満ちるその瞬間を』

 

「初めからそのつもりだったと言う事か」

 

『違うわよ。本当は溜まり切る前に貴方達全員を屈服させるつもりだった。所謂保険その一って所かしら。前にも言ったでしょう? 策士とはどんな状況になっても利益になるように策を立てるって。……さあ、始めましょう。この国を暴龍で満たす為に。わたしの復讐を成す為に』

 

 

 悔しいが、今の私達にペスニアを止める術は無い。

 

 彼女の周りには暴龍達が守りを固めているし、イマージュパルスで出現した彼らやアシモフと呼ばれる男の複製体が私達に手を出させないからだ。

 

 故に、黙って見ている事しか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

我が歌うは悲哀の歌

 

想い人を守れず奈落に沈み

 

亡骸の山にて虚しく響く

 

 

SONG OF DRAGOON(ソングオブドラグーン)

 

 

 

 

 

 

 

 インテルス達を暴龍にした蒼黒い雷こと龍放射。

 

 それがペスニア達が出現した穴から信じられない量が出現する。

 

 それらがペスニアに一度集い、彼女を中心に歌と言う形での広域拡散が開始された。

 

 しかし、その様子は何所かおかしい。

 

 何故ならば、その拡散速度は私達が目視できる程度の速度だからだ。

 

 

『龍放射の拡散が想定よりもずっと遅い? これは……そう、そうなの。ここに来て貴女もわたしの邪魔をするのね。電子の謡精(サイバーディーヴァ)モルフォ!!』

 

『どう言う事や、ペスニア?』

 

『元々この国はモルフォの歌に満ちていたのよ。その目的が何なのかは分からなかったけど。まさかこう言った形で拡散を妨害されちゃうなんて』

 

 

 話を聞く限り、どうやら定期的に行っている歌姫(ディーヴァ)プロジェクトのお陰で首の皮一枚繋がったらしい。

 

 だが、そうも言ってはいられない。

 

 何故ならばこの事が判明した以上、彼女が取る行動が何なのかが分かり切っているからだ。

 

 

『ウフフ……わたし、ちょっと用事が出来ちゃったわ』

 

「そう簡単に行かせるとでも?」

 

 

 ペスニアが向かう先は間違い無くモルフォの居るアメノウキハシと呼ばれる衛星拠点だ。

 

 今のこの時刻のモルフォは、歌姫プロジェクトによる歌の拡散も兼ねたネットライブを行っているからだ。

 

 だからこそ、私達は可能な限りここに居る暴龍達を足止めする必要がある。

 

 ペスニアを行かせてしまうのはどうしようもないかもしれないが、ここに居る戦力の足止めくらいならば出来るはずだ。

 

 彼女が居なければ、この人数でもここに居る戦力位なら何とか出来る。

 

 まだ飛天もフェイザント部隊も健在であり、皇神の砲兵の皆も無事なのだから。

 

 それに、モルフォの傍には最強の能力者の一角であるGVが居る。

 

 彼が何とかここの戦力を片付けるまでにペスニアの足止めを行ってくれれば、辛うじて勝機はある。

 

 

『そういう訳にもいかないわ。……大丈夫よ。全国に最も美しい暴龍の誕生を生中継してもらうだけだから。きっと綺麗な翼を持った暴龍になるわ。ふふ♪ 楽しみねぇ♪ ああそれとなんだけど……わたし、予備の戦力を持っていないなんて一言も言っていないわ』

 

「な……!」

 

『正に、「こんな事もあろうかと」ってヤツよ。この国のアニメでも使われる代表的な言葉よねぇ。……それじゃあみんな、足止めよろしくね』

 

『まかしとき』

 

『頑張ってね、ペスニア』

 

「待て!」

 

『あ、序だから捕まえた彼らも戦力として使わせてもらうから。下手な希望は持たない事をお勧めするわよ♪』

 

 

 私達に更なる絶望を与えつつ、ペスニアはものすごい勢いで天に存在するアメノウキハシへと文字通り飛んで行ってしまった。

 

 ……ここに居る戦力を何とかするにはこの場に居る全戦力が必要不可欠。

 

 故に、GVに対する増援と言う形でメラクとテセオを送り込む事は出来ない。

 

 私達が唯一出来るのは、アメノウキハシに対して最大級の脅威が迫っている事を連絡する事だ。

 

 これは遠距離通信を可能とするアビリティであるTASディスタンスを用いれば出来る事であり、少なくとも突然の乱入による不意打ちを避ける事だけは出来る筈。

 

 しかし出来る事ならばGVにTASで接続したいのだが、彼はメラクの時とは違って予めTASの接続に必要な個人データを仕込んでいた訳では無い為、近くに居るなら兎も角、遠距離での接続は不可能だ。

 

 今すぐにTASを弄ってでも如何にかするべきなのかもしれないが、こちらもギリギリである以上、下手な事をして取り返しのつかない事態を引き起こす訳には行かない。

 

 どうしたものかと頭を悩ませていたら、リトルから連絡が入る。

 

 

(フェムト)

 

(リトル?)

 

(GVに直接接続するのは無理だけど、()()()()()()なら何とかなるかもしれない)

 

 

 その言葉は福音の言葉であった。

 

 その言葉と同時に、私の視界に頭領さんの姿を捉える。

 

 背中に()()()()()()()()()を背負った、彼の姿を。

 

 私達はまだ終わっていない。

 

 それ所かこのリトルの言葉と頭領さんの存在は、全てをひっくり返す逆転劇の始まりでもあった。

 

 そんな事を、今この時の私達は知る由も無かったが……

 

 

(そうですよね。まだ私にも出来る事はある。やれば出来るとは言わないけど、「やれば何かが起こる」。諦めるのはまだ早い。そうだよね? ニコラ)

 

 

 この時の私は、そう思っていたのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇D-カウンターについて
龍放射を計測するイクス世界線でニコラと一緒に共同開発した機器。
危険域かそうじゃ無いかの計測も可能。

〇要請について
要請とは事前準備と言う形で砲兵部隊等をステージの後方に展開する事で、その部隊に対して火力支援をしてもらう事が可能となるシステム。
今回のフェムトは今回のミッション開始時に二つの要請を、そして時間が経過するとさらに二つの要請をノーマルスキルと言う形で扱う事が可能。
元ネタの地球防衛軍のエアレイダーを意識した感じになっており、発煙筒や誘導レーザーの代わりにロックオンが使われており、どの武装もほぼ確実に必中する性質を持つ。

〇宝剣兵装について
本小説第十話にて、第七波動を用いた兵器の更新によって作られた兵装。
この世界特有の第七波動を理解した上での兵装であり、各第七波動達からは事前に許可を貰っている。

〇ブレイジングカノンについて
フェムトが要請できる爆炎の第七波動を用いた宝剣兵装のカノン砲。
着弾時にルミナリーマイン規模の爆風が発生する強力な武装で、追尾誘導する関係上砲兵に対する要求される技量を大幅に減らしている。

〇レイストームについて
フェムトが要請できる残光の第七波動を用いたレーザータイプの広域宝剣兵装。
飛天に増設された沢山の砲身から放たれるレーザーは、ロックオンの影響でねじ曲がりながらロックオン対象に殺到するその有様は正しく光の嵐。
この事からレイストームと呼ばれている。

〇プランZXについて
正式名称【無人戦闘機フェイザント プランZX】。プランの名前はロックマンZXから。
フェイザント部隊から放たれる数多のミサイルとガトリング、そして対地爆弾による上空からの火力支援。
汎用性の高いミサイルやガトリング等で使われる弾丸等には無色の第七波動が使われており、何気にフェイザントの武装も宝剣兵装に換装されている。
そのお陰でフェムトのロックオン誘導が働く為、狙いを付けずにミサイルやガトリング等を垂れ流しながら離脱に専念することが出来る為、機体損耗率は極めて低い。

〇ライフリジェネについて
エリーゼの扱うノーマルスキル。
某ファンタジー等でもお馴染みの徐々に傷を癒す効果を持つ。
このスキルはフェムトのシールドヴォルト等と同じようにTASに乗せて拡散させる事が可能で、一度発動させればミッションが終わるまで永続する。
フェムトのアビリティとも効果が重複する為、その回復量は破格と言える。
しかし、今回のミッションにおいて相手が暴龍である為、今回はお守り程度の扱い。

〇ブリッツアサルトについて
アキュラがGVのライトニングアサルトを見てそれを彼なりに模倣した新たな機能。
主にEXウェポンのアンカーネクサスとタイムフリーザーが使われており、電光石火の速度を持って対象にタメージを与えつつロックオンする。

〇ハートブレイザーについて
原作のガンヴォルト爪にて飛天の動力炉をぶち抜いた際に使われた兵装。
本小説ではLPCSのお陰で実戦運用が可能となり、アキュラの新たなSPスキルとなった。
そのお陰で副次的にお守り代わりだったディバイドがエクスギアにマウントされる形で出番が復活した。

〇アキュラがB.Bと遭遇していた事について
本小説内のオリ設定で、白き鋼鉄のXが始まる前に遭遇していたと言う設定。
突発的な遭遇戦であった為、お互い手の内を余り晒さずに戦いは終わったと言った感じ。

〇今回のミッションについて
ゲーム的に考えるとアキュラ視点では普通のミッションだが、フェムト視点では一定時間暴龍の攻撃に耐え忍ぶと言う内容になっている。
暴龍を全滅させても時間が過ぎるまで無限湧きな上に、全滅させた回数に比例してイマージュパルスで呼び出される暴龍の数も増える。
上限もまた存在しており、ボーダーを持ったアシモフの群れが出現するのが合図となっており、それ以上の上限は存在しない。
初心者プレイヤーだと鬼門となるミッションだが、上級者視点ではクードスを大量に稼げるミッションと言った感じ。










サイドストーリー





 モルフォのライブの最中、ボクはフェムト達の事が気がかりだった。

 詳しい事は皇神の機密に抵触する為聞く事は出来なかったが、今朝のニュースを見た限り、かなり大規模な部隊を率いていた事が分かったからだ。

 それに、フェムト達が向かっている場所の地域一帯での避難が完了したと昨日のニュースでもやっていたので、武力が必要な何かが起こっているのは確かと言える。

 そんな風に考え物思いにふけっていたら、横から久しぶりに聞いた声がボクの耳に届く。


(…………)

「ようGV、久しぶりだなぁ」

「……! その声はジーノ? どうしてここにいるの?」

「ちょっと前に警備会社を立ち上げたのを覚えてるだろ? その会社が皇神グループの傘下に加わる事になってな。ウチの社長兼リーダーが何をしたのか知らないが、あっという間にモルフォライブの護衛って言う仕事をもぎ取っちまったのさ」

「……その様子だと、アシモフ達も元気にやってるみたいだね」

「おうよ。……所でよ、どうしたんだGV? 浮かない顔してよ」

「フェムトが心配でね。今朝やってたニュースに出た大部隊に彼が居るんだ」

「あぁ、あのニュースでやってたヤツか。それじゃあ心配するのは無理ねぇよなぁ」


 ボクは皇神グループとはフリーの傭兵と言う形でシアンの護衛に専念するという契約を結んでいる。

 だから、それに関わる物以外の情報がボクに届く事は基本無い。

 それが嫌であるとは思わない。

 シアンを守る、それが今のボクがやるべき事だからだ。

 ……だけど、最近はフェムトも前線に出ていると言う噂を聞いている。

 間違い無く後方で働いていた方が皇神グループの利益になるであろうあのフェムトがだ。

 別の世界線から来たと言うアキュラの存在といい、今この国は何かが起きている。

 紫電からの説明ではアキュラと同じく異なる世界線からデマーゼル何て言う存在が現れている何て聞かされてはいるが……

 そんな風に考えていた時、ジーノが持つ通信機から連絡が入る。


「んぉ? ちょっと待ってろGV。……こちらシープス2。どうしたんだリーダー? 何か問題でも起きたってのか? ……何? モルフォを狙う存在がここに迫って来てるだって!? マジかよ!」

「……!!」

「おう、分かった。GVとはうまく連携して何とかリーダーが来るまでにモルフォちゃんを守って見せるぜ。急いでコッチ来てくれよな。頼んだぜリーダー。……大変な事になったみたいだぜGV」

「モルフォが狙われてるって、本当なのか?」

「ああ、間違いねぇ。ソイツは真っ直ぐここ(アメノウキハシ)に向かって来てやがるってよ。ったく今日は()()()()()()()()()()()()()っつうのに、最悪じゃねぇか! オレは避難を急がせる! GVは急いでシアンちゃんの所へ急げ! ああそれと、後でシープス3(モニカ)をオペレーターに付けるから、それまでは一人で行動を頼む!」

「了解」

「頼んだぜ! GV!!」


 ボクはジーノと分かれ、急いでシアンの元へと駆けつける。

 今シアンはモルフォを操っている関係上、ステージの裏側と言う近い位置に居る。

 首謀者がモルフォを狙って居る以上、このままではシアンが巻き込まれるのは避けられない。

 シアンの元へと向かう最中、アメノウキハシに侵入者を知らせるサイレンが鳴り響く。

 その音に焦燥感を覚えながら、シアンの居るステージへと最速で駆けのぼる。

 サイレンが鳴り響いている以上、もうライブ所では無い。

 だからボクはもう直接ステージの上に駆け上り、モルフォの元へと辿り着く。


『GV! 何があったの!?』

「何者かがキミを狙っているとジーノから教えて貰ったんだ!」

『アタシを? シアンじゃ無くて?』

「恐らく彼女も含まれている筈だ」

『ちょっと待って、今シアンを呼ぶわ。…………よし、もうこっちに来る筈』

「GV!!」

「シアン!! 無事でよかった」

「このサイレン、どうなってるの? うぅ……折角近くでミチルちゃんとそのお友達にモルフォの事を自慢してたのに」


 一先ずシアンの無事を確認出来た。

 そうボクが安心したつかの間に、彼女は現れた。

 黒い衣装を身に纏ったモルフォの姿で。


『ウフフフフフ……見つけたわ。この国の国民的バーチャルアイドル、電子の謡精モルフォ!』

「……! 何物だ!」

『わたしはモルフォのなれの果て。黒死蝶の謡精女王(ペスト・ティターニア)のペスニア……わたしの歌を響かせるのに、貴女の存在が邪魔なのよ。モルフォ』

「GV……あの人、怖いよ……」


 ボクは咄嗟にシアンとモルフォを庇う様にペスニアと名乗るモルフォにそっくりな彼女の前に立ち塞がる。

 その出で立ちはモルフォその物と言えるが、彼女には無い特徴もある。

 衣装の下に黒いインナーとストッキングを身に付けている事や、背中に龍を連想させる翼をモルフォの色違いの翼と一緒に持っている事。

 そして何よりも、モルフォに似つかわしくない死神を連想させる大鎌と錫杖を所有しており、戦いを生業にしていると思われる程に、その立ち振る舞いに隙が無い。

 この感覚は勘が正しければ、目の前の存在はアシモフや紫電、そしてアキュラを越えたレベルの脅威を持った存在であるとボクに告げている。


『アタシと同じ姿!? ……生憎だけど、歌を響かせたいならもっと別の手段を使って頂戴! こんなズルをするなんて、アタシのイメージまで落ちちゃうじゃない!』

『そんな事を心配する必要は無いわよ? だって――』


――この国はもう、今日を以て終わるのだから






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覚醒編
第四十三話 新生する歌姫達 龍と宝玉が揃いし時



サイドストーリー

 

 

 

 

「オウカさん! しっかりして下さい!」

 

 

 わたしは今、シアンちゃんとコハクちゃんとヒスイさんと一緒に気絶してしまったオウカさんを介抱している。

 

 元々わたし達はロロのツテを頼りにここ、アメノウキハシと呼ばれる場所でモルフォのネットライブの様子を生で見る機会を得ていた。

 

 しかし突然オウカさんは顔を真っ青な状態となり、そのまま倒れてしまった。

 

 なので、ヒスイさんは私達と一緒にそんなオウカさんを抱えて休める場所へと向かおうとした時、警報が鳴り響く。

 

 

「ふえ!? 何何? どうなってるの!?」

 

「何だか、怖い感じがする……」

 

「妙な感覚だ……それに、この気配は一体?」

 

「何があったんだろう?」

 

 

 そんな風に考えていたら、モルフォのステージにGVが現れる。

 

 曰く、何者かがモルフォを狙っているらしく安否確認の為にGVに呼ばれたシアンちゃんはこの場から離れた。

 

 そして、二人は無事合流していざ避難を始めようとしたその時、彼女は姿を現す。

 

 その女の人はモルフォの姿をした女の人なんだけど、彼女に似つかわしくない大鎌や杖の様な物を持っており、明らかに異様な雰囲気を漂わせている。

 

 そんな彼女は、衝撃的な言葉をこの場に齎した。

 

『この国はもう、今日を以て終わるのだから』と言う言葉を。

 

 

「この国を、終わらせるだって?」

 

『そうよ。っていきなりこんな事言われても分からないと思うから説明してあげる』

 

 

 黒い衣装を身に纏ったモルフォの姿をしたペスニアと言う怖い女の人は語りはじめる。

 

 ステージの近くに居るわたしにも聞こえる位の声で。

 

 その話は要約すると、彼女は謡精暴龍と言う存在と戦う為のチカラを得る為に、この国に住んでいる能力者達全員を暴龍と言う怪物に変化させようとしていた。

 

 しかし、準備を終えいざそれを始めようとしたら定期的に流しているモルフォの歌のチカラに阻まれてしまった為、ここまで来たのだと言う。

 

 

『そう言う訳なんで……歌の排除も兼ねてモルフォの事を暴龍にしようって訳なのよ。理解できたかしら?』

 

「……理解は出来る。そして、貴女のその境遇に同情できる部分も確かにある。だけどモルフォを、彼女を犠牲にしていいと言う理由にはならない!」

 

「GV……」

 

『……ふぅん。そっかぁ。貴方達、()()()()()()なのね。フフ♪ 大丈夫よ。そこのカッコイイ男の子も一緒に暴龍にしてあげるから。好き合ってる二人を引き裂くなんてシュミ、わたしには無いから安心して?』

 

 

 ペスニアのこの発言を受け、GVは困惑した表情を見せ、シアンちゃんは怯えた表情にうっすらと赤みを帯びている。

 

 モルフォの方はもっと分かりやすく、顔を赤らめながらもにやける顔を抑えるのに必死な感じで表情を取り繕っていた。

 

 ……後でシアンちゃんとはお話をする必要がありそう。

 

 でも、そんな事を考えていられたのはこの瞬間までだった。

 

 

『そういう訳だから……先ずは貴方を無力化させてもらうわね。邪魔になりそうだし』

 

「……っ!」

 

『ん~……誰がいいかしら? ……決めた。早速だけど、彼らに頑張って貰おうかしら?』

 

 

 この言葉と共に、彼女の周囲に三人の鎧を着たような姿をした人達が姿を現す。

 

 三人共何処か苦しそうな表情をしており、ペスニアに対して抵抗している風にわたしは感じた。

 

 

「な!? デイトナ! イオタ! それにストラトスも!」

 

『すまねぇGV……』

 

『ぐ……まさかこの様な形で国に剣を向けてしまうとは……!』

 

『体の言う事が効かない……どうなっている?』

 

「皆に何をした!?」

 

『フフ♪ わたしの持つ第七波動の支配下に置いただけよ。……この状況を覆したいと思うのならば、チカラを示して見なさいな。このわたしを倒すと言う形で。それが出来なければ、貴方も彼らと同じ末路を辿る事になるわ』

 

『GV! 遠慮すんな! オレ達諸共ぶっ倒せ!!』

 

「しかし……! デイトナ!」

 

『加減をする等と言える相手では無い! やるのだ!』

 

『オレからも頼む……!』

 

「二人共……分かった。ならば、ボクは迷わない!」

 

 

 GVがチカラを開放し、蒼き雷霆(アームドブルー)と呼ばれる能力によって蒼き雷撃が舞い散る天使の羽と共に迸る。

 

 そのチカラを目の当たりにしたペスニアは、まるで玩具を見つけた子供みたいに笑顔を晒す。

 

 

『へぇ~……。貴方、そのチカラを扱えるのね。軽くあしらうつもりだったけど、これなら少しは期待できるかも。本当は貴方達を暴龍にしてしまう方が手っ取り早いと思うけど、念の為……ね。ちょっと確かめてみようかしら』

 

「……シアン、モルフォ。二人は下がっているんだ」

 

「うん」

 

『気を付けてGV! それとゴメン……アタシ、さっきのライブでチカラを使っちゃって……』

 

「ありがとうモルフォ。気持ちだけで充分だよ」

 

 

 シアンちゃん達がステージから退場し、わたしの居る場所へと向かってくる。

 

 それと同時に先ほどのライブによって消耗していたモルフォは姿を消し、シアンちゃんがステージから降りたタイミングで、戦いは始まった。

 

 炎が、光が、黒い粒子の様な物がGVへと殺到する。

 

 しかし、それらの攻撃はGVには当たらない。

 

 相手をしている三人に戦う意思が無いという事もあるだろうが、何よりも彼らを相手に戦い慣れている様にわたしは感じた。

 

 その結果、三対一という状況なのにも関わらず終始GVが優勢を保っている。

 

 ……こうしてGVが戦う姿を見るのは初めてでは無い。

 

 実はアキュラくんとの訓練をこっそり覗き見た事がある。

 

 その内容は素人目で見ても分かる位、アキュラくんとGVは拮抗していた。

 

 だから大丈夫。

 

 GVは負けない。

 

 それに、手が足りなければヒスイさんもこの場に居る。

 

 そんな風にわたしは考えていた。

 

 

『この三人にずっとかまけてて大丈夫かしら?』

 

「……? 何を言っている?」

 

『フフ……こういう事よ!』

 

 

 ペスニアが錫杖を掲げると同時に、私達の近くにGVが戦っている三人の姿をしたナニカが姿を現す。

 

 この三人はわたし達を明らかに狙っており、先の言葉から察するに目的は明らかだった。

 

 

「シアン! 皆!」

 

『フフ♪ よそ見をして大丈夫かしら?』

 

「……っ!?」

 

 

 この事からGVの気が散ってしまい、彼は一部の攻撃を掠めしてしまう。

 

 普段ならば当たる筈の無い攻撃。

 

 ……わたし達は今、GVの足手纏いになってしまっている。

 

 シアンちゃんも同じ風に考えているのか、表情がとても暗くなっていた。

 

 

『アハハ♪ 難易度上昇ってヤツよ♪ 確か……【タワーディフェンス】ってジャンルのゲームだったかしら? 彼女達が捕まったら当然あなたの負けよ? 頑張んなさいな。……新しく増えたその三人も相手しながらね』

 

『こ、コノヤロウ……えっぐい手を使いやがって! シアンちゃんに何しやがる!』

 

『この様な邪悪な手口に手を貸す事になろうとは……!』

 

『くそ……!』

 

「悪いが、そうはいかない」

 

 

 しかし、この状況に待ったをかけたのがヒスイさんだ。

 

 彼女はGVと同じチカラを扱えるとアキュラくんから聞いている。

 

 そんな彼女がわたし達の前へと立ち、チカラを開放した。

 

 GVと同じ蒼い雷をその身に宿し、刃の無い持ち手から雷光と共に特徴的な刀身(蛇腹剣の刀身)を出現させる。

 

 あの剣はアキュラくんがヒスイさんの為に作っ物らしく、彼女のチカラを刀身に変える性質を持っているのだと言う。

 

 その剣が一瞬煌めき、私達の近くに出現した三人は瞬く間にノイズの走ったかのような不思議な消え方をして消滅した。

 

 

「ヒスイさん……! すいません。助かります!」

 

「こちらの事は気にするなGV。お前はお前の成すべき事を成せ」

 

『え……あぁ! 貴女、ブレイドじゃない! こんな所で会うなんて思わなかったわ!』

 

「お姉ちゃんを知ってるの?」

 

『ええ。ええ! 知ってるわ! 知ってますとも! わたしの世界線の彼女はチカラを貸してくれた戦友の一人だったんだから! あぁ……嬉しいわねぇ。あのポンコツ(アキュラくん)経由でこっちに来てたのね。違う世界線であるとは言え、会えて嬉しいわ!』

 

「……それにしては、貴女の知る私の姿が見当たらないみたいだが?」

 

『それはそうよ。わたしの知る貴女は向こうの世界での決戦の時に、暴龍に姿を変えて特攻したのだから』

 

「……そうか」

 

 

 ペスニアの表情から察するに、彼女の世界線? に居たヒスイさんとは仲が良かった事を伺わせる。

 

 それが理由なのか、一瞬だけペスニアは表情を歪めた後、こう切り出した。

 

 

『貴女の実力はよく知ってるつもりよ。抜け殻なあの三人ではさっきみたいに戦いにもならない事も。……さあ、出番よ貴方達! 相手はあのブレイドなんだから、気合を入れなさいな!』

 

「まだ戦力を隠していたのか!」

 

『当たり前でしょう? 謡精暴龍と戦う直前の段階まで来てるんだから、ある程度の戦力は確保しているつもりよ。つ・ま・り……まだまだこんな物じゃ無いって事よ!』

 

 

 その姿と共に現れたのは本当に見慣れない六人の姿。

 

 その六人全員、なにやら蒼黒い雷を身に纏っており、明確な意思を感じる事は無い。

 

 

『彼らはこの世界の……確かエデンだったかしら? そこから調達した子達よ。名前はそれぞれテンジアン、ガウリ、ニムロド、ニケー、アスロックにジブリール』

 

「……かつて存在していた多国籍能力者連合の能力者達か」

 

『そういう事♪ 貴女を相手にするのだからこの位用意しないとね』

 

「……それは大変光栄な事だが、誰かを忘れてはいないだろうか?」

 

『え?』

 

「この距離……今だ!」

 

 

 ペスニアがヒスイさんと話をしている間にGVが三人を倒したらしく、その手に光り輝く雷の剣を携え彼女に切り込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

煌くは雷纏いし聖剣

 

蒼雷の暴虐よ 敵を貫け

 

 

スパークカリバー

 

 

 

 

 

 

 

『っとと、危ない危ない』

 

「受け止めた!?」

 

 

 ペスニアはその手に持っていた大鎌と龍の形をした両翼で雷の剣を受け止めていた。

 

 ただ、その表情は少し苦しそうな事から余裕を持って受け止めた訳では無いらしい。

 

 

『……っぅ。痺れるわねぇ! やっぱりこの雷、わたし少し苦手だわ』

 

「なら! このまま押し込む!」

 

『そういう訳にはいかないわ。……さあ、出てきなさい!』

 

「何を……! くッ!」

 

「GV!」

 

 

 ペスニアの持っている杖が光り輝くと同時にGVの横合いからナニカ巨大な手の様な物が彼を吹き飛ばす。

 

 その光景の衝撃に、思わずシアンちゃんがGVの名前を叫ぶ。

 

 不意打ちだったのもあり、彼はその直撃を受けわたし達の居る場所まで吹き飛ばされてしまう。

 

 その巨大なナニカの正体。

 

 それはペスニアの言う暴龍と呼ばれる存在だった。

 

 

「しっかりして! GV!」

 

「……大丈夫、この位平気さ。……電磁結界(カゲロウ)が反応しなかった。恐らくペスニアの干渉だと思うけど

 

『この短期間であの三人をやっちゃうなんて。貴方ブレイドと同じ位強いのねぇ♪ きっと強い暴龍になるわ♪ 今から楽しみねぇ♪ ……それでどうかしら? 【名も無き暴龍】の一撃を受けた感想は』

 

「……ただ馬鹿力を持っただけって所かな。思ったよりも見掛け倒しなんだな」

 

 

 そんなの嘘だ。

 

 今もわたし達を庇うその背中から沢山の血が流れていると言うのに。

 

 GVの纏う蒼い雷が傷を少しづつ癒してはいるけれど、これが見掛け倒しだなんてあり得ない。

 

 彼は強がっているだけだ。

 

 わたし達を守る為に。

 

 

『へぇ……言ってくれるじゃない。でもそんな嘘、わたしには通用しないわ。後ろの子達に心配させまいと強がってるみたいだけど。……膝、笑ってるわよ?』

 

「……!」

 

『その気になれば貴方は逃げる事も出来るだろうけど……そんな事、貴方はしないわよねぇ。守りたい人達を置いて行くなんて事』

 

「逃げるなんて、するつもりは無い!」

 

『でも、頼みの綱のブレイドは六人を相手に手が離せない。……所謂チェックメイトってやつよ。そろそろ諦めたら?』

 

「諦めるつもりは無い! 何故ならば……()()()()()()()()()!」

 

 

 GVのこの言葉と同時に四方八方から大型の鎖が暴龍を、六人の能力者達を絡め取る。

 

 そして、それを成したであろうGVとヒスイさんと同じ蒼い雷を身に纏う水色の長髪の男の人が姿を現した。

 

 

「待たせたなGV」

 

「アシモフ!」

 

「話はお前の通信機を経由して聞いていた。そのモルフォに似た彼女が恐ろしい危険な相手(クレイジーなデンジャラスガール)である事はコチラも把握している」

 

 

 

 

 

 

 

閃く雷光は反逆の導

 

轟く雷吼は血潮の証

 

貫く雷撃こそは万物の理

 

 

ヴォルティックチェーン

 

 

 

 

 

 

 

 暴龍達を絡め取る鎖から雷撃が迸り、その一撃が決め手となり彼らは消滅。

 

 アシモフと呼ばれる男の人の増援によって一気に形成が逆転した。

 

 それと同時に、GVの通信機らしき物から女の人の声が聞こえる。

 

 

《GV! 遅くなってごめんなさい! アシモフは間に合ったかしら?》

 

「ええ。お陰様で」

 

《そう。良かったわ》

 

「ふぃ~……リーダーが間に合った様で一安心だぜ」

 

「ジーノ!」

 

「へへ! 避難民の誘導はここに居るシアンちゃん達以外全部終わったぜ」

 

「助かるよ。ジーノ」

 

「おうさ! チームシープス、久しぶりに全員集合だぜ! これが物語ならもうオレ達の勝ちが確定している流れなんだが……」

 

「現実はそうもいかないらしい。……私の親友から彼女についての話は聞いている。ペスニアと呼ばれる彼女は所謂幽霊(ゴースト)と呼ばれる存在らしい」

 

《ゴーストって、それって幽霊!?》

 

「おいおい、そんなオカルトめいた事……えころを知ってるオレ達からすれば居るのも納得って所か」

 

「そういう事だ」

 

『……話は終わったかしら?』

 

「待たせてすまないな。幽霊少女(ゴーストレディ)

 

『まさかデマーゼルの大本だった貴方が出て来るなんてね。ふぅん……イマージュパルスで使役してた時は気にしなかったけど、よく見るとなかなか渋くてカッコイイじゃない。まあ、おじさまには及ばないけど』

 

 

 ゆ、ユーレイさん!?

 

 そう言えばオウカさんが真っ青になって気絶してたけど、その理由って……!?

 

 この事を知ったわたしやシアンちゃん、それにコハクちゃんは顔を真っ青にしてしまう。

 

 

「だが少し待って欲しい。相手がゴーストだと言うのなら、何故私達の目で捉えられる?」

 

『それはわたしのおじさまの第七波動(セプティマ)のお陰ね。幽霊であるこの身を実体化させたり、デイトナ達を実体化させて嗾けたりするのにも使えるのよ?』

 

「デイトナ達がそうなっているという事は、フェムト達はもう……」

 

『あぁ、彼らはまだ抵抗を続けてるわよ? 歌に阻まれてるのが分かったから途中で抜けてここまで来たのよ。だから安心して頂戴な。……もっとも、全滅しちゃうのは時間の問題だと思うけど』

 

「なら、オレ達がその前にお前さんを倒せばパッピーエンドって所だな」

 

『フフ♪ そう簡単に行くかしら?』

 

 

 ペスニアがそう言いながら再びデイトナ達を翠色のオーラと共に呼び出す。

 

 それだけならば問題は無かったけど、今度は杖も一緒に輝き、先程の暴龍と呼ばれる存在も姿を現す。

 

 

『うーん……ここはちょっと狭いから呼び出せるのはこれで限界かしら。ここの施設はモルフォの歌で満ちたこの国にわたしの歌を拡散させるのに便利そうだし、派手にぶっ壊す訳にも行かないのよねぇ。……まあでも、貴方達を始末するのには十分かしら。ここからはわたしも手を出すし、何よりも……貴方達は足手纏いが四人も居る以上、これだけの数を相手にまともに戦う事も出来ないでしょう?』

 

「くっ……」

 

 

 そう言いながら、わたしとシアンちゃんとコハクちゃん、そして気絶しているオウカさんをペスニアは視界に収める。

 

 ああ、情けない。

 

 わたし達は今明確にGV達の足を引っ張ってしまっている。

 

 内心そう意気消沈していたその時、コハクちゃんの様子がおかしい事に気が付いた。

 

 

「コハクちゃん?」

 

「え? この感じ……ひょっとしてチカラを貸してくれるの?」

 

「どうした、コハク?」

 

「うん、うん……大丈夫。わたし、覚悟は出来てる。それでみんなを、お姉ちゃんやアキュラくんを助けられるなら」

 

 

 何やら上の空と言った形で、まるで見えないナニカと話しているコハクちゃん。

 

 その瞬間、コハクちゃんを中心に何やら黒く緑色の線の入ったブロックの様な物が収束し、彼女の姿を変化させる。

 

 

「こ、コハク……その姿は」

 

「この姿の事は後! お姉ちゃん。今は目の前の事に集中しよう! 終わったらちゃんと説明するから!」

 

 

 深い紫色の腕の様な翼。

 

 蒼いレオタードのような姿。

 

 彼女を守る四つの蒼い水晶のような遠隔機器。

 

 そして、髪やふくらはぎ辺りから迸るように揺らめく黄色い波動。

 

 その姿はアキュラくんが以前戦闘データと言う形で異世界の冒険談を話してくれた時の、マザーと言う存在に操られていた時のコハクちゃんの姿だった。

 

 

 

 

――ぼくが開放されるまでの間、貴女達には沢山迷惑を掛けてしまった

 

――それ所か、貴女達はマスターに再び会わせてくれた

 

――だからこれは、そのお詫びとお礼

 

――ぼくの遺したこのチカラで未来を切り開いてくれる事を、切に願う

 

 

 

 

 この姿になったコハクちゃんの参戦によって、戦いは大きく変化する。

 

 緑色の数多の細いレーザーの規則的な攻撃。

 

 水晶を飛ばす攻撃。

 

 翼にある腕と同時に放つ氷の刃による攻撃。

 

 そして、本人を守る強固なバリアもあり、GV達の戦いは何とか拮抗する膠着状態まで持ち直した。

 

 ……逆に言うと、今の状況ではここまでが限界でもあった。

 

 そう、わたしとシアンちゃんとオウカさんの存在が理由で。

 

 

(折角何とななるかもしれないのに、ここまで来てわたし達が足手纏いになっちゃうなんて……わたしも戦いたい。何も出来ずに終わっちゃうなんて、そんなの、そんなの……)

 

「ミチルちゃん!」

 

「ぇ……」

 

 

 シアンちゃんの声のお陰でわたしに対して丸ノコらしきものが飛来してくるのを確認することが出来た。

 

 しかしこの時、皆手が離せない状況となっており、わたしに飛んで来る攻撃に対して何とか出来る人は存在しない。

 

 わたしはここで終わってしまうのだろうか?

 

 ……それでもいいと、わたしは考えてしまう。

 

 アキュラくんやヒスイさん達に守ってもらっている筈なのにもかかわらず。

 

 でも、この場での戦闘はわたしが居ない方が有利になる事は間違い無いのだからと生きる事を諦めようとした……その時。

 

 私の目の前に白衣を着た男の人が割り込み、その攻撃を弾いた。

 

 

「ぁ……」

 

「ふぅ~……何とか間に合ったみたいだな」

 

 

 その男の人はわたしの知る人。

 

 ノワとは知り合いで、ぶっきらぼうだけどやさしくて、私の知るアキュラくんは反発しているけど、内心認めているおじさま。

 

 そして、おじさまの傍にいつも一緒いる彼女も一緒だ。

 

 

「はい! ギリギリセーフですね! ほ……ニコラ様!」

 

「ニコラおじさま! どうしてここに!?」

 

「パーティー会場はここだと()()()から聞いてたもんでな」

 

――――――――(だいじょうぶ? けがはない?)

 

「え? あ、はい。ご親切にどうも……」

 

『あ! 貴方、以前わたしの邪魔をしたおじさんじゃない!』

 

「憑りつこうとした所を祓い清めただけさ。って言うか、おじさんは酷いじゃ無いか。せめてミチルちゃんみたいにおじさまって言って欲しいもんだぜ」

 

『それを呼んでいいのはあの人だけ! 貴方なんかおじさんで十分よ!』

 

「……ヒデェなあおい」

 

 

 ニコラおじさまは少しガッカリしながら両手に鉄扇を携える。

 

 そんなおじさまの背中には見慣れない剣らしきものがあり、それがわたしの眼を惹きつける。

 

 他にはおじさまに付き添う形でノワの親友であるえころさんと、何やらフワフワと浮いてる小さな赤ちゃんみたいな変わった姿をした子も一緒だ。

 

 おじさまはこう言った変わった生き物をよく連れて来ていてくれていた為、珍しい事では無い。

 

 だからこの赤ちゃんみたいな子もそうなのだろうと、わたしはあたりを付けた。

 

 そんなつかの間の最中、シアンちゃんがニコラおじさまに話しかける。

 

 

「あの……」

 

「おう、久しぶりだなシアンちゃん。GVとは仲良くやってるか?」

 

「はい! ……ニコラさん、わたし、わたし……」

 

「……ミチルちゃんと同じで、足手纏いな事を気にしてんのか」

 

「……うん」

 

「なら、そんなシアンちゃんとミチルちゃんに朗報だ」

 

 

 そう言いながら、ニコラおじさまは背中に背負った剣らしきものをわたし達に差し出す。

 

 その剣は黄色い取っ手に青い刀身を持った変わった形をした……所謂、儀式に使われる剣と呼べる代物だ。

 

 

「この剣の名前は封鍵。この国に流れる龍脈を制御するのに使われていた大層ありがたい霊験あらたかな代物さ。このチカラを()()()()()()使()()()、少なくとも足手纏いにはならない筈だ」

 

「わたしも……ですか?」

 

「以前説明したから分かると思うが、ミチルちゃんは電子の謡精(サイバーディーヴァ)を嘗て所有していた、言わば本来の持ち主だ。そして、ミチルちゃんとシアンちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()()()。……これがどう言う事か、二人なら分かる筈だ」

 

「……!」

 

「だが、フェムト達の様に一つになった後で終わったら元に戻れる保証はねぇ。一発勝負だ。互いの存在をかける形のな。ただハッキリしている事もある。それはモルフォの持つチカラが増すという事だ。最悪、そこで倒れている子を守る位の事は出来る。……さあ、どうする?」

 

 

 ニコラおじさまの誘いに、わたしとシアンちゃんは迷うことなく乗る事に決めた。

 

 おじさまから渡された封鍵を二人で手を取り、想いを乗せる。

 

 どうかチカラを与えて下さいと。

 

 その時、封鍵は一瞬でその場から姿を消し、それ由来と思われる頭上から莫大な黒いエネルギーの塊がゆっくりと落下し、わたし達を包み込む。

 

 この瞬間、わたしはシアンちゃんのこれまで過ごした記憶を垣間見る事となる。

 

 恐らくだけど、今わたしとシアンちゃんの記憶が統合されているのだろう。

 

 シアンちゃんもきっと、わたしの記憶を垣間見ていると思う。

 

 そして、黒いエネルギーが弾けると同時にシアンちゃんの姿は居なくなっていた。

 

 恐らくリトルちゃんの時みたいにわたしと一つになったからだろう。

 

 そして、今のわたしの姿は……

 

 

「良く似合ってるぞ、ミチルちゃん」

 

「う~ん。コレは紛れも無く【魔法少女】の姿ですね! ロロさんの姿を模した杖も持ってますし、間違い無いです!」

 

 

 そう、ニコラおじさまとえころさんの言う様に、わたしはアニメや漫画なんかで良く出て来る魔法少女のような姿をしていた。

 

 そして、同時にわたしに眠るチカラもまた、感じ取っていた。

 

 そのチカラを開放し、わたしはモルフォを出現させる。

 

 その姿は先ほどの時と比べて衣装が変化しており、蝶を思わせる意匠があちこちに追加されており、本人の周りにも蝶と思われるエフェクトが飛び交っていた。

 

 

『チャオ! アタシ、完全復活よ! う~ん、これは凄いわ! まるでお風呂に入った(デフラグを終わらせた直後)みたいに清々しい気分! 今まで足りないと感じてたナニカがちゃんと収まったって感じね!』

 

 

 そしてもう一つ、わたしの中で早く出して欲しいと訴えかける存在に気が付く。

 

 彼女が消えていない事に安堵し、その願いを叶える形で杖を掲げ、その子を、シアンちゃんを出現させる。

 

 その姿はモルフォを小さくしたかのような姿をしており、シアンちゃんの年齢相応の姿をしていた。

 

 世間一般で言えばモルフォのバージョン違いであると言っても十分通用しそうな程可愛らしいとわたしは思った。

 

 

『これがモルフォの感覚……凄い。今のわたし、何でもできちゃいそうな気分だよ』

 

「シアンちゃん! 良かった……消えないでいてくれて」

 

『それはお互い様だよミチルちゃん。……これでわたしも、GVのチカラになってあげる事が出来る』

 

 

 そんな風にシアンちゃんの無事に安堵していた時、何かが繋がった様な感覚を覚えた。

 

 その瞬間、モルフォとシアンちゃん、そしてわたしから蒼白い雷のオーラが迸ると同時に頭の中に声が響き渡る。

 

 

(やっと繋がった)

 

(この声、リトルちゃん!?)

 

(モルフォのデータを経由して何とか繋げる事が出来た。そっちは無事みたいで良かった)

 

(それはこっちのセリフ! そっちは大丈夫なの?)

 

(私達の方はもうすぐ決着が付きそう。とーりょーさんが増援に来てくれたから)

 

(そっか……あの人が来てくれたんだ)

 

(ん。早速で悪いけど、モルフォにお願いがある)

 

(何かしら?)

 

(貴女の歌で皆に私とロロのチカラを経由して欲しいの。そうすれば勝機は生まれる筈)

 

(分かったわ! この生まれ変わったアタシに任せなさい! さあシアン! 早速で悪いけど歌うわよ! 【輪廻(リインカネーション)】を!)

 

(うん! 任せてモルフォ! 今のわたしなら、思いっきり歌える!)

 

 

 

 

 

 

 

新たなる歌姫の誕生

 

祝福と歓喜を以て祝おう

 

愛しい人に捧げる歌と一緒に

 

 

SONG OF DIVAS(ソングオブディーヴァス)

 

 

 

 

 

 

 

解けないココロ溶かして 二度と離さないあなたの手

 

 

 

いつの日か世界が終わる時も あなたさえいれば怖くないの

 

 

 

冷たく降りしきる雨 (降りしきる)

 

 

 

陽炎消えて (陽炎)

 

 

 

切れ間から差し込んだ 光の梯子 生命の道標(コード)

 

 

 

あどけない寝顔見つめる 月明かり真白の花

 

 

 

戯れに裂いた水面に 広がって消えていく

 

 

 

茨の道でも優しさ 此処にある胸の奥に

 

 

 

解けないココロ溶かした あなただから

 

 

 

 

 モルフォとシアンちゃんの歌が響き渡り、彼女達の歌がこの場に居る皆にチカラを与える。

 

 この歌のお陰か、オウカさんも目を覚ました。

 

 そして、この歌によってロロとリトルちゃんのチカラが皆に接続されたその時、ニコラおじさまの意味深な声がわたしの耳に届いた。

 

 この後何が起こるのかを暗示するかのように。

 

 

「なるほどねぇ……宝玉の真のチカラを引き出せるのは生み出した龍そのものであるって事かい」

 

 

 わたしの前に立つGVからわたし達が放つオーラの輝きとは違う、綺麗な蒼いオーラを立ち昇らせる。

 

 背中に受けていた深い傷が瞬く間に塞がり、GVの周囲に戦闘中に展開している雷の膜の様な物がわたしの目でも分かる位極めて安定した状態で展開された。

 

 それでいてGVが無意識に体の周囲に迸らせている電流が無くなっている。

 

 何と言えばよいのだろうか?

 

 GVのチカラは間違い無く跳ね上がっているのに、それと反比例する形で静かになっている、みたいな……

 

 ああ、こう言えばいいのだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 それを把握した時、わたしは思った。

 

 今のGVはきっと、誰にも負けない。

 

 だって……

 

 

「行こう二人共。ボクと一緒に」

 

『『うん! わたし(アタシ)達の歌が、貴方の(チカラ)になる!』』

 

「迸れ! 蒼き雷霆(アームドブルー)! 響け! 謡精(ディーヴァ)の歌声よ! そして……調律せよ! 青き交流(リトルパルサー)! 雷の調和を齎す三位一体(トリニティ)のチカラと可能性、悲しみと絶望に堕ちた龍の巫女に示せ!!」

 

 

 だって、シアンちゃんとモルフォの二人の歌姫、そしてわたし達が一緒に居るんだから!

 

 

 

 




最終章【覚醒編】まで遂に漕ぎつけることが出来ました。
本編はこの章で完結予定ですので、宜しければ最後までお付き合い下さい。
では改めて……ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。






〇ペスニアがGVに対してノーマークだった事について
ペスニアは途中まではイクス世界線を辿っている、つまり白き鋼鉄のXの副題にある【THE OUT OF GUNVOLT】な世界線である事からそもそもGVの事を認識していなかったのが理由。

〇ペスニア世界線のブレイドについて
謡精暴龍との戦いにおいてペスニアとは戦友の間柄。
本小説の世界線に来る直前のペスニア視点での最終決戦と呼べる局面で、()()()()()()()()()()と共に暴龍と化して命を燃やしながら特攻して血路を開き、魂諸共完全消滅する末路を辿っている。

〇名も無き暴龍について
無色の第七波動能力者が暴龍と化した存在。
能力によるチカラは無いが、純粋な暴龍としてのフィジカルは色の付いた第七波動能力者とは全く引けを取らない。
何気に第四十二話にも今回の話の時の様にイマージュパルスで登場している。

〇コハクちゃんの変身について
白き鋼鉄のX2でのラスボス第一形態の姿そのまま。
本小説内で実はマスターと共にコハク達の行く末を見守っていたマザーがチカラを貸した事で変身が解禁。
これ以降はコハクちゃんの意思で任意の変身が出来る様に。

〇ニコラが変わった生き物を良く連れて来ていた事について
ミチルちゃんに対して何か面白い物を見せたいと思ってニコラはちょくちょく面白生物をミチルちゃんに見せていたりする。
例えばちっこい魔界植物くんだったり。
そう言った不思議生物からミチルちゃんを守る為に(フェムト世界線での)アキュラもこの時付きっ切りだったりする。
これの影響で何気にニコラは(フェムト世界線での)アキュラから変な意味で一目置かれている。

〇シアンちゃんが小さなモルフォみたいな姿になったことについて
ガンヴォルト爪ではミラーピースと言う形でバラバラにされた際に弱体化した時の姿。
つまり通称【爪シアンちゃん】の事。
シアンちゃんを生存させつつも爪シアンちゃんを登場させたい。
これを叶える為に第三十一話で「生きた宝剣」と言う形でリトルと関連を持たせました。
この事は既に鎖環発売前に私の中で決まっていたのですが、発売後にミチルちゃんが真真エンドで魔法少女になっていたのでこのネタも入れています。
ニコラには戻れるか分からないと言われていますが、ちゃんと戻れます。
序にミチルちゃんの方も一度シアンちゃんと一つに戻った事で、互いの繋がりを獲得した為虚弱体質が完治しており、もうモルフォの歌に頼らなくても平気になった。

〇ミチルちゃんの魔法少女姿について
リトルの事を「生きた宝剣」と定義する事でミチルちゃんとシアンちゃんによる変身現象(アームドフェノメン)と言うのを当初は設定していたのですが、封鍵や鎖環での真真エンドのミチルちゃんの魔法少女姿のお披露目があった為、それらを組み込んでみました。
この姿では白き鋼鉄のXのバタフライエフェクトが出来る事は大体出来ると設定している。

〇GVの覚醒について
これについては本編第二十一話と三十一話辺りでABドライヴがフェムトの第七波動に反応すると言う形で伏線を張っています。
TASでGVと接続するとこの現象が発生し、GVのチカラを鎖環本編で言う覚醒GV、或いはバニシングワールド時のGVに相当する能力をリスク無しで行使できるヤベェ覚醒。
これに追加する形で封鍵で強化されたシアンちゃんとモルフォの歌とTASによるアビリティの強化も上乗せされている。
そして、フェムトの雷撃の特性も付与される為、龍放射を調律(チューニング)する特性ときわめて強力な退魔のチカラも追加される。
この状態のGVは本小説内では味方側におけるぶっちぎりの最高戦力と位置付けています。
なお、この現象はアシモフやヒスイ(ブレイド)でも上記と似たような感じで発生するが、GVほど強烈な物にはならない。





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第四十四話 降臨 青龍ガンヴォルト


サイドストーリー

 

 

 

 

 今の蒼き雷霆(アームドブルー)のチカラはボクの知らない未知の領域まで引き上げられており、全能感に酔ってしまっても不思議では無い。

 

 それなのにも関わらず頭の中は酷く冷静で、かつてない程に冴え渡っている。

 

 精神を昂らせる二人の歌姫(モルフォとシアン)の歌声が響いているにも関わらず。

 

 何と言えばよいのか、とても不思議な感覚だ。

 

 ……背中の致命傷に近かった傷が瞬く間に塞がっていくのを感じる。

 

 普段蒼き雷霆の力を開放していた時の余剰に漏れる電流は鳴りを潜め、完全に制御された形で体内で渦巻く。

 

 ボクの冷め切った思考が目の前に居る(ペスニア)を脅威であると認識していない。

 

 そう、モルフォとシアンの歌を経由してフェムトのチカラが接続された瞬間、ボクは悟った。

 

 彼女に、ペスニアに負ける要素はもう無いのだと。

 

 ボクのこの姿を見て確信の笑みを浮かべたデイトナが炎を纏った飛び蹴りで突っ込んで来る。

 

 ダートリーダーを構え、フェムトのEPレーダーを参考に銃口を中心に放射線状にロックオンをする為の電磁パルスを放射。

 

 デイトナと後方に居るペスニアを除く全員を巻き込む形でロックオンし、ボクは特に意識せずに、当たり前のようにスパークカリバーを前面に展開してそのまま突っ込んで来たデイトナ撃墜し、いつもの調子で雷撃麟を展開した。

 

 しかし、展開されたのは雷撃麟ではなく、SPスキル【ライトニングスフィア】と複数の雷球だった。

 

 

「おいおいマジかよ。GVのアレ、ライトニングスフィアだよな?」

 

「見た目だけならそうだろう。しかし、アレは雷撃麟の様に長時間展開できる代物では無い。ましてや、展開中に自由(フリー)に動ける等あり得ない事だ」

 

「スパークカリバーも特に力んで使ってる訳じゃねぇ。自然体に、それこそ当たり前のように振るってやがる。アシモフ。お前もフェムトと接続してる筈だ。ああはならんのか?」

 

「ならないな。そもそもの話だが、私の蒼き雷霆には()()()()()()()()()()。恐らくだが、私のコレはGVの蒼き雷霆の残滓(レズィドゥー)と言う事なのだろう」

 

「GVが特別だったりお前の能力が暴走していたのはその辺りが関係してそうだな。……しっかしまぁ。これはひどい」

 

「オレ達の出番、マジでねぇな。あの一瞬で全部片付いちまってるし。……アレ、本当に大丈夫なのか? 心配になっちまうぜ。力の使い過ぎで昔のアニメみたいにドワォするなんて勘弁なんだけどな」

 

《こっちでGVのモニタリングをしてるけど、ビックリする位力の波が存在して無いわ。あんなに沢山暴れている筈なのに、本当に静かなのよね》

 

「この辺りはフェムトの青き交流がチカラを安定させているんだろうな。何て言うか、ただチカラを振りまく蒼き雷霆に制御ユニットがくっ付いた感じなんだろう」

 

 

 戦いの最中に皆の会話を拾い上げ、ハッキリと認識出来ている。

 

 周囲の状況を事細かに把握すら出来ており、本当に世界が変わったように感じた。

 

 きっとこの光景は、何時もフェムトが見ている物なのだろう。

 

 そう考えつつペスニアが呼び出した幻影(イマージュパルス)亡霊(デイトナ達)を撃破したのを確認し、自然体に残心する。

 

 

『あぁ……! 凄い! 凄いわ! 貴方からこのわたしでも計り知れないチカラが渦巻いてる! 謡精暴龍に匹敵する凄まじいチカラが!』

 

「……投降するんだ。キミはもう分かっている筈だ。勝ち目はもう無い事を」

 

『フフ……お断りよ。わたしにはまだやるべき事がある。貴方の力をこの身を以て確かめる事が』

 

「いくら幽霊だからと言って、なぜそこまで自分の身を蔑ろに出来る?」

 

『そんなの決まってるわ。謡精暴龍を倒す事が今のわたしの全て。その為なら、この身は惜しくない。……いいえ。正確にはこうね。わたしはね、()()()()()()()()()()()()()()()のよ。死ねない身でおじさまの、愛する人の居ない世界で意識を持つなんて地獄その物。だからギリギリまで待っていたのよ。わたしを、謡精暴龍を消滅させうる存在が現れるのを』

 

「…………」

 

『覚えておきなさいモルフォ。大切な人に好意を伝えるのは早ければ早いほどいいわ。……わたしは強がってばっかりで、結局おじさまに伝える事も出来なかったから』

 

『ペスニア……貴女……』

 

『……もう勝負が実質ついた以上、ここで戦うのはマズイわね』

 

 

 そう言いながらペスニアは錫杖を用いてメラクの姿をした幻影を呼び出す。

 

 そして彼の持つ能力によって行き来可能なワームホールが形成される。

 

 ペスニアは死地へとボクたちを導こうとしていた。

 

 ボク達のでは無く、彼女自身の死地へと。

 

 

『この先で決着を付けましょう。結末が約束された勝負の決着を』

 

「お、おい!」

 

 

 ジーノの静止の声にも反応せず、ペスニアはワームホールの先へと向かった。

 

 ボク達と対峙していた時のプレッシャーを完全に四散させ、達成感すら感じさせる狂気を四散させた優しい表情をしながら。

 

 

「……行ってしまったか」

 

《GV、どうするの?》

 

 

 モニカさんの言葉を聞いた後、ボクは後ろを振り向く。

 

 小さなモルフォと言うべき姿となったシアンと新たな衣装を身に纏ったモルフォ、そしてミチルやヒスイさんを始めとしたこの場で協力してくれた皆を改めて視界に収める。

 

 皆の答えは言葉に出なくとも、その表情を見るだけで分かり切っていた。

 

 

「……行きます」

 

『うん! GVならそう言うって思ってた!』

 

『当然アタシも行くわ! この状況じゃあライブの再開をするのにも時間が掛かっちゃうし。それに……ここで引いたら電子の謡精(サイバーディーヴァ)の名が廃るわ!』

 

「今のわたしなら足手纏いに何てなりません! 一緒に行かせてください!」

 

「わたしも同じくだよ! マザーの遺してくれたこのチカラがあれば、お姉ちゃんと一緒に戦えるんだから!」

 

「全く……二人が行くと言うのなら、私も行かなければならないな」

 

「相手が相手だからな。オレも当然行くぜ。コイツらと一緒にな」

 

「わたしも勿論向かいます!」

 

―――――――(わたしも いっしょ)

 

「そうなると……オレ達は居残りかねぇ。リーダー?」

 

「そうだな。この場の混乱した事態を収拾する必要はあるだろう。元より、その為の私達だ」

 

《そういう訳だから、チームシープスはアメノウキハシでの混乱を何とかする方にチカラを入れるわ》

 

「助かります。モニカさん、ジーノ、アシモフ」

 

「GV……どうか、無事に戻ってきてください。皆と一緒に」

 

「大丈夫だよオウカ。ボクは必ず皆と戻る。約束するよ」

 

 

 そういう訳でチームシープスとオウカ以外のメンバーであるシアン、モルフォ、ミチル、コハク、ヒスイさん、ニコラ、えころさん、そしてメビウスと言う少し変わった赤子の姿をした存在と共にワームホールの先へと足を踏み入れた。

 

 その先は凄まじい戦闘痕のある戦場で、その周囲にある多くの建物や施設にまで被害が及んでいる。

 

 恐らくここは昨日ニュースで避難を終えていたエリアであり、紫電達はこうなる事を予期していたのだろう。

 

 そして、ボクの視界にフェムト達の姿が映る。

 

 モルフォとシアンの歌を通じて無事な事は確認出来ていた。

 

 しかし、この目で見ない事には安心など出来るはずも無い。

 

 デイトナ達は犠牲になってしまったが、それでもフェムト達が無事で本当に良かったとボクは思う。

 

 

「フェムト!」

 

「GV! それにシアン達も!」

 

『フェムト! そっちは大丈夫なの?』

 

「ええ! 頭領さんが応援に駆けつけてくれました!」

 

「アキュラくん! 無事でよかった……」

 

「ミチル!? どうしてここに? いや、それよりもその恰好は……」

 

「ロロちゃん! 大丈夫?」

 

『こ、コハクちゃん!? それを聞きたいのはコッチの方だよ!? ミチルちゃんもそうだけど、どうしてそんな恰好をしてるのさ!?』

 

「こっちでも色々あってね……」

 

 

 互いに無事を確認し、情報交換を行うボク達。

 

 こちらでは何でも能力者殺しの武装を扱う存在に苦戦を強いられたらしく、それが切欠でデイトナ達が犠牲となってペスニアの眷属にされてしまったのだと言う。

 

 彼女がボク達の所に来る前の時も置き土産と言う感じで大量の暴龍と一緒に同時に襲い掛かって来た為、全滅も覚悟していたらしいのだが、それは紫電直属の頭領さんと呼ばれる人物が持ち込んだ三本の封鍵によって切り抜けたとの事。

 

 使用したのはフェムトに紫電、そしてエリーゼ。

 

 現在は一時戦闘を終了していた為封鍵開放状態は解除されており、三人がそれぞれ手にしている状態だ。

 

 そこまで話していて、フェムト達の後ろに見慣れない人達が居る事に気が付いた。

 

 何でもこの人達はペスニアに協力していた人達らしく、彼女の持つ能力である死霊(ガイスト)と呼ばれる第七波動の影響下にあった。

 

 そのお陰で倒しても何度も復活する為、暴龍として強化されていた事も合わさりフェムト達はジリジリと追いつめられていったのだが、封鍵とエリーゼの存在が逆転する決定打になる。

 

 その方法とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う逆転の発想。

 

 何度倒しても復活するのならば、逆に蘇生してしまえばよい。

 

 その考えは上手く嵌り、エリーゼがフェムトの持つ龍放射を浄化する性質も合わさり人の姿に戻した状態での蘇生を可能とした。

 

 変身現象をする為に必要な翼戦士の羽ペンと呼ばれる道具も没収されている為実質無力化しており、彼らはもう脅威では無い。

 

 そういう訳で後はペスニアを如何にかしてデイトナ達を蘇生して謡精暴龍を倒せば事態は収まる。

 

 そこまでボク達が話をまとめ上げたタイミングで先にワームホールで姿を消していたペスニアが再びボク達の前に姿を現す。

 

 アメノウキハシ内で対峙した数が馬鹿らしく見える程の大量の暴龍達と特徴的な銃を持った幻影アシモフ達、そして死霊の影響下に晒されている人達(デイトナ達やヒスイさんと戦っていた六人)を引き連れて。

 

 先ほど別れた時と同じ様に初めて対峙した時のような狂気を完全に四散させており、決意を固めた、或いは覚悟を決めたと言った表情をしている。

 

 そんな彼女はフェムト達の後ろに居る六人の協力者たちに、最後の別れとも言うべき言葉をかけた。

 

 

『まさかそんな(蘇生する)形で死霊の影響下から外すだなんて、ビックリしたわよ』

 

「スマンなぁペスニア。捕まってしもたわ」

 

『いいのよ。元はと言えばわたしが巻き込んだ形だったんだから。……そのまま彼らに協力してあげて頂戴な。ダイナインと幸せにね、インテルス』

 

「いいのかい? ペスニア」

 

『構わないわよ。折角生き返ったんだし、貴方達までわたしに付き合う必要は無いわ。世界は違えど、あのポンコツ経由なら貴方も家族に会えるはず。今の内に何て言葉をかけるか考えておきなさいな。リベリオ』

 

「ペスニア……」

 

『良かったわね、イソラ。……折角奇跡が起きたんだからその命、大切になさいな。アイドル活動、応援してるわよ』

 

「僕としては君と一緒の方が都合が良かったんだけどねぇ……」

 

『わたしと一緒だと壊す物が最終的に無くなっちゃうからこれで良かったんじゃない? クリム』

 

「ペスニア、われは本当にそれでええのか?」

 

『構わないわよバクト。貴方もファミリーの内乱だったりわたしに振り回されたり散々だったんだから、少しは落ち着く時間が必要でしょ? 折角真っ新な状態で蘇生したんだから、精々この先どう生きるかを考えておきなさいな』

 

「……インテルスの件、感謝しています」

 

『エリーゼの蘇生って随分器用なのね。ご丁寧に機械の姿で蘇生しちゃうだなんて。……インテルスの事、今度はちゃんと守り通してみせなさいな』

 

「ええ。今度は必ず守り通して見せます」

 

『頑張んなさいな、男の子♪ ……待たせてごめんなさいねフェムト。それに他の人達も』

 

「…………ペスニア」

 

『もう事情はGV達から聞いたと思うから言わせてもらうけど……同情はいらない。わたしはこの世界に酷い事をした自覚位あるわ。だから、ちゃんと責任は取らないとね』

 

 

 話を終えたペスニアは麒麟デバイスと呼ばれる錫杖をこちらに向けた。

 

 それと同時にペスニアの真下に名も無き暴龍とは明らかに違う二体の暴龍が出現。

 

 その姿の全体像は赤で統一されており、非実体型の炎の翼を持ち、人間で例えるなら髪に該当する部分の先端が緑色に染まっている。

 

 それだけでは無く、背中に巨大な黄色い紋章の様な物も背負っていた。

 

 もう一体の全体像は対照的に青で統一されて女性らしいフェルムを持っており、その身をボクが持つ蒼き雷霆と同じような雷撃を身に纏い、尻尾の部分がヒスイさんの持つ蛇腹剣を展開したような感じになっている。

 

 双方とも幻影であるにも関わらず、明らかに名も無き暴龍と比べて別格の存在感とプレッシャーをボク達に与えた。

 

 

『この二体の暴龍こそがわたしの本当の切り札。【暴龍ZEDΩ.】、そして【暴龍ブレイド】よ! わたしの知る最強第七波動(セプティマ)太陽(核融合)を操る【金色の黎明(ゴールドトリリオン)】。そして貴方達も良く知っている蒼き雷霆……わたしの集めた戦力と、この二つのチカラを操る最強の暴龍達。見事乗り越えてみなさいな!』

 

「総員、奮起せよ。目標はペスニア達の撃破。そして、デイトナ達の蘇生だ」

 

「封鍵のチカラ、再び使わせてもらいます!」

 

気のせい……かな? ペスニアの中に誰かが居るような……さっきの様に封鍵のチカラを借りれば、きっと分かる筈

 

 

 紫電、フェムト、エリーゼが封鍵を掲げる。

 

 封鍵は掲げた瞬間姿を消し、それ由来の莫大な黒いエネルギーの塊が彼等の頭上に現れ、ゆっくりと降下。

 

 三人を黒いエネルギーの塊が包み込んで弾け、新たな装いをした三人が姿を現す。

 

 蒼い外装を新たに身を纏い、より天使らしい服装を身に纏ったリトルを従えるフェムト。

 

 ヘビの巻き付いた杖を右手に、黄金の剣を左手に持った雷を纏う純白の翼を持つエリーゼ。

 

 よりシャープに洗練された灰色の鎧と呼ぶべき物を身に纏った紫電。

 

 封鍵のチカラとはミチルが魔法少女と呼ぶべき姿をした様に、使い手によって姿形の変化に差があるらしい。

 

 そして、この変身を終えたタイミングでペスニア達は動き出し、戦いは始まった。

 

 ペスニアが言う「結末が約束された勝負」が。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 開幕にエリーゼがSPスキルを使用する為か、右手に持った杖を掲げ力を集中させる。

 

 それと同時にフェムトはEPレーダーを強化したと思われる電磁パルスを器用にデイトナ達へと放射しロックオン。

 

 アキュラは能力者殺しの特性を持った銃を持つアシモフモドキ達を電光石火の動きで牽制。

 

 モルフォとシアン、そしてミチルは広域に歌を展開し、更に強力な精神的高揚(バフ)を与える。

 

 そしてボクはフェムトと目を合わせ、縦に首を振ったのを確認しフェムトのロックオン対象に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

煌くは雷光纏いし数多の聖剣

 

蒼雷の暴虐達よ 敵を貫け

 

 

アンリミテッドカリバー

 

 

 

 

 

 

 

 ボクの周りにフェムトがロックオンした数よりもはるかに多くの数のスパークカリバーを展開。

 

 これら一本一本が事前にアンリミテッドヴォルトを仕込んだスパークカリバー並みの威力を兼ね備えている。

 

 これを射出し、一度デイトナ達を死霊の支配から逃そうとしたタイミングでエリーゼの力が開放された。

 

 

 

 

 

 

 

蛇神の血が命を紡ぐ

 

医神のチカラを双蛇の杖に宿し

 

さあ、今こそ死を超越せよ

 

 

ライトブラッドアスクレピオス

 

 

 

 

 

 

 

 エリーゼ杖から放たれる神秘的な紫色の光がデイトナ達を包み込む。

 

 そして、この光に紛れるようなタイミングでボクが用意した無数の雷剣が稲妻の軌跡を描き突貫する。

 

 強化された雷剣はデイトナ達を見事に貫き、瞬間的ではあるが死霊の支配からの脱却に成功。

 

 しかし、これまで通りならこの後ペスニアが死霊による蘇生を行うだろう。

 

 だがそれはデイトナ達が居た場所から紫色の光が再び輝きだした事で覆される。

 

 

『……なるほど、こうやってインテルス達を死霊の干渉から弾き出したって訳なのね。さしずめ()()()()()()()って所かしら』

 

「そういう事です! デイトナ達は返してもらいますよ!」

 

「スマンフェムト! お陰で助かったぜ!」

 

「この恩は決して忘れぬ。感謝するぞ、フェムト!」

 

「お礼はエリーゼに言ってください! 私はロックオンしただけですよ!」

 

「そうだったな! ありがとうな、エリーゼ!」

 

 

 蘇生したデイトナ達がこちらの戦列に復帰する。

 

 それだけで無く、ヒスイさんが相手をしていた六人もパンテーラを中心に集結し、戦列に加わっていた。

 

 彼らはエデン直属のG7(グリモワルドセブン)と呼ばれる人達らしく、ペスニアに戦力増強と称しコマにされていた人達だ。

 

 その中に居る一人の小さな女の子がボクに対して顔を上気させながら強く視線を向けている。

 

 まあ、仕方が無かったとはいえ救出手段がかなり乱暴であった為、もしかしたら恨まれているのかもしれない。

 

 この戦いが終わったら謝っておこうと思いながら残りの手勢の相手をする。

 

 しかしペスニアが結末が約束されたと称する通り、もう既にボクの放つ雷だけで半数近くの戦力を削ぎ落している。

 

 当然フェムト達の様々な補助や支え等の援護があるからこそなのだが、冷静に考えられる事が出来なければ容易くチカラに飲まれ、酔いしれてしまいそうだとメタ視点を強めながら意識を強く持つ。

 

 今のボクは、世界中が敵に回っても平気だと漠然と思える程のチカラを振るっている。

 

 だからこそ、己を強く保たなければならない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……?

 

 以前とはいつの頃だろうか?

 

 取り返しのつかない事態とは何なのか?

 

 突然頭の中から出て来たその言葉に対してそんな風に考えながら雷撃を放ち、フェムトが導く様にロックオンした対象に向かい、電光石火で突撃する。

 

 その移動の最中、名も無き暴龍に衝突しそうになる時もあったが……

 

 

「穿つ!!」

 

 

 己を雷に変えながら通り抜けつつスパークカリバーによる追撃行い、さらにその先に居た名も無き暴龍を()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「砕け散れ! おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

「うわぁ……GVのヤツ、とんでもねぇ事になってやがる……」

 

「小さなビル程大きい暴龍を持ち上げて集団に突っ込む? ちょっと意味が分からないんだけど」

 

「……ヴォルティックバスターをあの巨体相手に決めるとはな」

 

『なんかもう、完全に人間やめちゃってない?』

 

「大丈夫です。GVが人間を辞める事はありませんよ! っと」

 

『ん。私がチカラを制御してる。だから大丈夫』

 

「あれで制御出来てるっつうのも変な感じだな!」

 

「まあでも、残りはもう彼女の切り札である二体の暴龍だけです!」

 

『油断しちゃダメよ! ここまで来たんだから!』

 

『わたしとモルフォとミチルちゃん、そしてロロとリトルの歌で皆を支えます! 頑張って、GV! 皆!』

 

 

 ここまで追いつめられているペスニアはフェムトに張り付かれている。

 

 現時点ではもう大勢は決したと言っても良いが、これまでの彼女自身、手を抜いている訳では断じて無かった。

 

 アシモフモドキは能力者殺しの銃のターゲットをボクに集中させていたし、彼女なりにやれる事の最善手を出来る限り行った上で、この結果なのだ。

 

 それに、今のこの状況下でも彼女は出来る限りの手を打っている。

 

 それでもボクがフリーで暴れられたのは、あの切り札と言われる二体の暴龍を紫電達が抑えてくれていたからだ。

 

 だからこそ、ボクは引導を渡そうと思う。

 

 ペスニアの切り札であるあの二体の暴龍へと。

 

 真なる聖剣のチカラを以って。

 

 

 

 

 

 

 

掲げし威信が集うは切先 

 

夜天を拓く雷刃極点

 

齎す栄光 聖剣を超えて

 

 

グロリアスストライザー

 

 

 

 

 

 

 

 真のチカラを解き放った雷の聖剣を虚空より抜き放つ。

 

 それと同時に天使の羽のエフェクトが舞い散り、ボクに対して勝利と言う名の栄光を授ける真なる雷剣が顕現した。

 

 それに対して二体の暴龍はボクが危険だと判断したのか、それぞれその口から強力な雷撃と核融合由来のチカラを持った吐息(ブレス)を放つ。

 

 そのブレスを聖剣を用いて打ち消しながら突き進み、二体の暴龍を同時に貫く。

 

 これによって二体の暴龍はホログラム状に姿を消し、遂に残るはペスニア一人となった。

 

 その事に気が付いた彼女は、張り付いていたフェムトを弾き飛ばし、改めてボク達の方へと振り向く。

 

 姿形は変わっていないが、これまでの戦いの時とは違い彼女は明らかに疲弊していた。

 

 

『ふ……フフ……流石に、こんなにあっさり全滅しちゃうだなんて、思わなかったわ』

 

「ペスニア……」

 

『これならもう謡精暴龍が倒されるのは約束されたも同然……さあ、わたしを終わらせて。そのチカラを以って、消滅させて頂戴な……』

 

 

 ボクは彼女の望みを叶えるべく、未だ顕現している聖剣を振りかぶる。

 

 フェムトが持つ退魔のチカラの宿った雷の性質が聖剣へと宿り、ペスニアを屠らんとうなりを上げた。

 

 さあ、後はこれを振り下ろすだけで決着が付く。

 

 だけど、ボクの心は何処か引っ掛かる。

 

 振り下ろしてしまったら取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうのでは無いかと。

 

 

『何を躊躇っているの? ……お願い、わたしを終わらせて。大好きな、愛するおじさまの元へと連れてって。貴方の持つその剣で。一思いに』

 

 

 ペスニアが懇願するように、縋りつく様にボクにトドメを刺すように促す。

 

 ボクはそれに従おうと、聖剣を振り下ろそうとして……

 

 

「ダメです!!!」

 

 

 エリーゼの放つ大きな声によって、ボクは止められた。

 

 それと同時に雷の残滓をまき散らしながら聖剣は消え去る。

 

 もう役目を終えたと言わんばかりに。

 

 

『なんで! どうして止めるの! こうするのが貴女達にとっても最善手の筈でしょう!? お願いだから、いい加減終わらせてよぉ!!!!!』

 

「ダメなんです!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

『ぇ……何を、言っているの?』

 

「その人が誰なのかはわたしには分かりません。ですが、その人はペスニア、貴女の事を案じてます。消滅させないで欲しいと願っています! それを無下には出来ません!」

 

『……嘘。そんなの嘘よ。だって、そんなの、そんなの……!』

 

『……話せない、触れ合えない状態の人の存在を証明するのは難しい。ましてや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『そうよ……結局、触れ合えなきゃ、言葉を交わせなきゃ……意味なんて無いじゃない……!』

 

「だから、わたしがそれを可能にします。わたしの持つこのチカラで」

 

 

 そうしてエリーゼはペスニアに対して手を差し出す。

 

 戦っている時には見せなかった慈悲深く、優しい表情を向けながら。

 

 ペスニアは手を差し出さなかった。

 

 表情を見る限り彼女自身、今更救われようなんて考えてなどいなかったのだろう。

 

 しかし、エリーゼは差し出さなかったペスニアの手を優しく両手で握った。

 

 

『……何の、つもりよ……?』

 

「救うと言う行為には相手にある種の剥奪感を与えるとフェムトくんから聞いています。それによって恨まれる事もあるかもしれないとも」

 

『そこまで分かっているのに、どうして……』

 

「わたしもそうやって救われたからです。こうして手を無理矢理繋いでもらって、引っ張られたんです。わたしもその時は戸惑いや困惑の方が大きかったけど、最終的には笑顔で過ごせるようになりました。だから、()()()()()()()()()。ちゃんとお話しして、貴女の中にいる人と向き合って下さい」

 

『やめなさい……』

 

「いいえ。やめません。それをしたければこの手を振りほどけばいい」

 

『お願い、やめて……』

 

 

 ペスニアはやめてと懇願しながらも、繋いだ手を振りほどく事は無かった。

 

 そうしてペスニアがまごまごしている内にエリーゼにチカラが収束していく。

 

 

『今のわたしをおじさまが見たら、嫌われちゃう』

 

「そんな事は無いよ。だって……今も貴女の事を優しい瞳で見つめているから!」

 

 

 

 

 

 

 

廻る輪廻が生命を紡ぐ

 

不可逆の帳を超えて

 

魂よ、現世に還れ

 

 

リザレクション

 

 

 

 

 

 

 

 ペスニアに対し……いや、()()()()()()()()()()に対してエリーゼの蘇生が発動。

 

 ペスニアの隣に人の輪郭が形成される。

 

 その輪郭は彼女の身長を越え、やがて一人の壮年の赤毛の男が姿を現す。

 

 恐らくだが、この男こそ彼女が言うおじさまと呼ばれる人物なのだろう。

 

 

「………ふぅ」

 

『ぁ……あぁ……』

 

 

 エリーゼは蘇生を終えた後、こっそりとボク達の元へと戻り、ペスニアと赤毛の男の動向をボク達と同じように様子を見る。

 

 何故ならば雰囲気から察するに、あの二人は所謂二人だけの世界に突入していると感じていたからだ。

 

 赤毛の男は黙って彼女を抱きしめ、頭を撫でる。

 

 まるでこれまでの彼女の苦労を労るかのように、優しく、優しく。

 

 それと同時に、ペスニアの姿に変化が現れる。

 

 黒いモルフォ姿だったのが、徐々に、少しづつ。

 

 彼女はやがて黒いローブの様な物を身に纏い、後ろに三つに束ね、正面を両耳が隠れる様に束ねた白く長い髪をした少女へと姿を変化させる。

 

 背中の龍の翼と呼べる物は、そのままに。

 

 

『B.B……おじさまぁ……! わたし、わたし……!』

 

「オレっちの分までよく頑張ったな、【アミカ】」

 

 

 彼女の本当の名前と共に、この戦いは終幕した。

 

 恐らく、彼女の想像を超える形で。

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。






〇ペスニアの野望もとい本当の目的について
彼女は出来る事ならば消滅したいと望んでいた。
何故ならば彼女が大好きであったおじさま(B.B)は一つになって消えてしまったから。
一つになったのだから寂しく無いと最初は考えていた。
しかし、長い時は容易くその考えを打ち壊した。
なまじ近すぎるが故にその存在を感じ取れなくなってしまう。
そう、言葉が、温もりが無ければその人が本当に居るかどうかの証明は出来ない。
例え能力と言う形でその痕跡が残っていたとしても。

ニケーの占いはそんな彼女の野望である消滅する事が潰える未来が、つまり今回の話の結末が見えていたからこそ、死霊の支配下に置かれても穏やかな顔でいられたと言う側面がある。

〇今回のミッションについて
真に覚醒したGVもとい【青龍ガンヴォルト】操作のチュートリアルミッション。
出来る事は鎖環の覚醒GVと大差は無いが、どんなにチカラを使っても暴走しない超絶チート状態になっている。
ペスニア自身消滅したがっている側面もある事から、このミッションはそれこそオープニングでのフェムト操作よりも簡単な難易度となっている。
メタ的に言うと難易度的に前々回の耐久ミッションが最難関となっており、プレイヤー間ではあそこがラスボス戦で、後のミッションは特殊条件でのミッションが多い事からエンディング演出のウィニングラン状態等と言われている。

〇暴龍ZEDΩ.について
彼はペスニアが出会ったその時点で暴龍へと姿を変えていた。
謡精暴龍が暴れに暴れていた影響を受けた結果として。
だが、彼がそうなってしまったのは傍を離れようとしない少女と歌姫を龍放射から少しでも守る為でもあった。
最終的に彼は少女と一つとなり、謡精暴龍相手に暴龍ブレイドと共に特攻をする。
その時の戦いぶりとチカラは今回のミッションで扱えるGVと全き引けを取らなかったとだけ明記しておく。
今回GVに圧倒されたのはやはり幻影であったからと言うのが極めて大きい。
もしGVの相手が本体が相手だった場合、世界を股に掛けた大戦争が始まっていた。

〇アンリミテッドカリバーについて
青龍ガンヴォルト形態で使えるSPスキル。
一つ一つがアンリミテッドヴォルトで威力を引き上げたスパークカリバーに相当する雷の聖剣を大量に出現させ、ロックオン対象に雷の軌跡を走らせながら全て射出する。
ゲートオブバビロン……いや、何でもない

〇ライトブラッドアスクレピオスについて
一言で言えばFFシリーズでおなじみのリレイズ。
それをエリーゼが封鍵のチカラによって広範囲に展開出来る様になったSPスキル。
彼女の持つアスクレピオスの杖を模した双蛇の杖を用いた物で、本来の用途のリレイズ的な性質を利用してインテルス達やデイトナ達を死霊の影響下から開放している。
名前の由来はメドゥーサの首の右側から流れる死者を蘇生させるチカラを持った血液と医神でもあるアスクレピオスから。
ちなみにだが、これと対になるSPスキルも存在している。

〇女の子が顔を上気させていた件について
ナニがとも誰とも言いませんが……圧倒的なGVの雷撃によって上書きされた結果とだけ言っておきます。
少なくとも、本人は自身の性癖を自覚してしまう程に目茶苦茶喜んでいる。


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第四十五話 戦巫女の亡霊

 

 

 

 

 ペスニアもといアミカとの戦いを終えた私達。

 

 頭領さんから受け取った封鍵のチカラを解除し、胸を撫でおろすように一息つく。

 

 今回の戦いは過去に類を見ない程の大規模戦闘で、尚且つ死傷者すら出てしまったが、終わってみれば予想を超えた完全勝利。

 

 デイトナ達も戻って来たし、エデン側もG7と呼ばれる人達も同じく復活し、オマケにダイナイン達も復活させた事で捕縛する事が出来た。

 

 他にはポーンと呼ばれるエデン構成員やペスニアとして活動していた際に洗脳及び眷属化していたテロリスト達も復活しており、後者はダイナイン達と同様に捕縛されている。

 

 こうして人的被害を結果的に無かった事に出来たのは生命輪廻(アンリミテッドアニムス)のチカラを持つエリーゼのお陰だ。

 

 本来ならば秘匿しなければならなかったのだったが、間違い無くこのチカラが無ければ私達は彼女達に勝つ事は出来なかっただろう。

 

 そういう訳で、後は謡精暴龍を倒して終わり……と言いたい所なのだが、問題が発生していた。

 

 それはアミカの処遇についてだ。

 

 人的被害は無かった事に出来たのは確かだが、建造物等の被害までは無かった事には出来ない。

 

 他には皇神の業務や国の運営に多大な影響を与えたり、エデンの本拠地でもあるベラデン要塞の被害を始めとした海外等で諸々な問題を発生させていたりと様々だ。

 

 特に重要なのが、彼女の存在が謡精暴龍に対する要でもあるという点。

 

 仮にアミカを消滅させる事が出来れば謡精暴龍を大幅に弱体化出来ると本人が口にしている以上信憑性は高い為、この点は無視できない。

 

 ならば消滅させれば話は早いのだが、インテルス達や一部の感化された人達が反対している。

 

 折角感動の再開を果たした二人を再び引き裂くのはどうなのだろうかと。

 

 しかし、謡精暴龍を倒すと言うミッションを確実にする為には彼女の消滅は必要不可欠。

 

 反対するならば相応の、生かす事のメリットや情報を開示する必要がある。

 

 その為の話し合いの場である飛天内部の会議室にて、話し合いは行われた。

 

 

「龍放射を制御出来るチカラは皇神から見ても喉から手が出る程欲しいんとちゃう?」

 

「確かに魅力的ではある。だけどそれを理由にこの国の存亡を天秤にかけるのは難しい。ボク自身は魅力的だとは思うけどね」

 

『インテルス……もういいの。わたしはもう十分幸せになれた。おじさまに頭を撫でて貰えた。それでもう十分なの』

 

「アミカ!」

 

『それにね、ここでやっぱり嫌ですなんて言えない。謡精暴龍を倒す誓いはおじさまが復活しても消える事なんて無い。だからわたしは……』

 

「オレっちとしても、アミカを消滅させるのは反対だな」

 

『おじさま!? だめよ! これだけは、いくらおじさまでも……!』

 

「それが使えんのは()()()()()()限定の話だぜアミカ」

 

「……詳しく聞かせてもらおうか」

 

 

 アミカを消滅させると謡精暴龍が弱体化すると言うのは本当の話だとB.Bは前置きした上で説明に入った。

 

 アミカは黒死蝶の謡精女王(ペスト・ティターニア)の能力の要と言える存在なのは確かなのだが、それ故に彼女の存在が消えると謡精暴龍は制御を失った龍放射を無差別にばら撒く存在と化してしまう。

 

 その影響は弱体化してなお世界規模にも及ぶ為、今のこの世界では逆にリスクになってしまうのだ。

 

 B.B達の居た世界はもう人類はほぼ完全に絶滅しているが故にこの方法に近い手(アミカを謡精暴龍から引き剝がす事)を取る事が出来たらしいのだが、私達の世界ではそうもいかない。

 

 つまり私達は生かすにしても消滅させるにしても何かしらリスクを背負う事になる。

 

 龍放射をまき散らしてしまうリスクを許容するか、謡精暴龍を確実に倒せるメリットを捨てるか。

 

 この話を聞いた後、最終決定を下す紫電は顎に手を当てながら目を瞑り思案していた。

 

 流石の紫電も世界規模の災厄を許容して確実性を取るか、リスクを負って弱体化していない謡精暴龍と対峙するかの決断を簡単には出せないらしい。

 

 そんな風に私が考えていたら紫電は目を開け顔を上げ、私達を見回していた。

 

 そして、GVと目が合う。

 

 彼は縦に首を軽く振り、紫電はそれを見て意味深に笑みを深める。

 

 

「龍放射の拡散を今の情勢で許せば、仮にボク達が返り討ちにあった後の世界と大差は無いだろう。ここはリスクを背負う選択を取る。だけど、当然彼女にもリスクを負ってもらう。具体的には保険と言う形でね。彼女を消滅させるのは本当にどうしようも無くなった時だ。それまでは可能な限り手を打つ」

 

「紫電……」

 

「ボクも何だかんだ、ハッピーエンドは嫌いじゃない。だから足掻けるだけ足掻きたいんだよ。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『うんうん。アミカにはちゃんと生きて責任を取って貰わないとね! 幽霊だって言うのはさて置いてね。……アタシのライブが中断しちゃった件、忘れて無いんだから』

 

『貴方達……お人よしが過ぎるわ……』

 

「まあそれ以前に幽霊であるキミは責任を取れる立場じゃ無いから、生き返ったB.Bが責任を取る形になるんだけどね?」

 

「……だろうなぁ。この中で責任取れそうなの、オレっち位だし」

 

「具体的な責任の取り方は主に借金をする形になるかな」

 

「え゛っ。しゃ、借金!? 本当に(ジーマー)!?」

 

「フェムト、軽く見積もりを教えて欲しい」

 

「えっと……建造物破壊、能力者部隊の運用費その他諸々を踏まえると……この位ですかね」

 

「ぜ、0が13個位ついてるの、オレっちの見間違いかな?」

 

「見間違いじゃ無いさ。……まあ、利子を要求しないだけ良心的だと思って欲しいね」

 

 

 手持ちの情報端末で軽く弾き出した計算の結果、ひと昔前の国家予算に相当する金額が表示される。

 

 その数字を見たB.Bは生き返ったばっかりだと言うのにまるで死人みたいな真っ青な顔になってしまっており、正直見ている私としては少し気の毒だ。

 

 そんな彼に対し、アミカは追い打ちをかける様に声を掛ける。

 

 

『大丈夫よ! わたしがおじさまの代わりに身体を張って沢山稼ぐわ!』

 

「デュクシ! オレっちの心に致命的な大ダメージががg……」

 

『あぁ! おじさまぁ~~~!!!』

 

「…………」

 

「GV、どうかしましたか?」

 

「何だか、他人事だと思えなくてね……」

 

 

 心労が限界に達したのか、そのまま泡を吹いて倒れてしまうB.B。

 

 その様子を見て遠い目をしているGV。

 

 まあ、うん、女性側の方が多く稼いでいる(実質ヒモという)立場は男の尊厳的な意味である意味大変だろうと思う。

 

 とまあそんな一幕もあったが、大変なのはこれからだ。

 

 何しろ弱体化せずに謡精暴龍と戦わなければならないのだから。

 

 それに、直ぐに立ち直ったB.Bが言うにはどうやらあまり時間が無いらしい。

 

 そもそも謡精暴龍がこれまで大人しかったのには理由がある。

 

 

『おかしいと思わなかったかしら? 謡精暴龍が今の今までこんなに大人しくしている事に』

 

「確かにそうだな。本能のままに暴れるってんならとっくに被害なんて出てる筈だしよ」

 

「アミカが抑えていたとしても、さっきまで疲弊していましたからね」

 

『でしょう? わたしは何もこの世界に来た直後から一人だったって訳じゃ無いのよ。謡精暴龍を抑える協力者も当然居るって訳。その人の名前は【きりん】。あの麒麟デバイスで犠牲になった能力者でもあるわ。……だけど、そろそろ抑えられるのも限界に近い。正確には後一ヵ月位は抑えられるって本人は言ってたけど……』

 

「この世界に来て最初の内はチカラを取り戻す事も無かったんだが、最近謡精暴龍のヤツ、チカラを日に日に戻り出しちまってるからな。抑えが効いてる内に仕掛けないと超大変だぜ?」

 

『そもそもの話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈だったの。わたし達の世界に存在するほぼ全ての人間と引き換えに。だからチカラを取り戻す、取り戻さない以前の問題だった。だからこの世界に転移した直後は嬉しかったわね。絶滅してしまった人間を再び見ることが出来る様になったんだから』

 

 

 話があちこちに飛び散ってしまっているのでここで一度整理しつつ、更に詳しい話を二人から尋ねた上で要約するとこの様な感じとなる。

 

 ――謡精暴龍を倒し、アミカとその仲間の一人であるきりんは人間の居ない世界で幽霊としてそれなりに長い年月を過ごしていた。

 

 幸いB.Bが持っていた死霊(ガイスト)の能力の引継ぎのお陰で幽霊状態でも自由に動くことが出来た為孤独で寂しいという事は無かったが、それでも幽霊としてのB.Bに対する強い未練がオカルト的なチカラの源泉になる位深く傷を負っていた。

 

 そんなある日の最中、何時もの様にきりんと一緒に謡精暴龍の亡骸の元へと向かう。

 

 亡骸はそれなりの年月を経た事で腐敗が相応に進んでおり、頭にはこれまで一緒に戦ってくれた仲間達の墓標代わりに役目を終えた麒麟デバイスが突き立てられていた。

 

 そうして出来た即席の墓標に対し、二人はいつもの様に祈る。

 

 そして、祈りを終えていざこの場所から離れようとした時、異変が発生。

 

 亡骸であるはずの謡精暴龍から未知のチカラが溢れ出し、それによってアミカ達は私達の世界へと転移してしまう。

 

 時系列的には私が皇神で活動を始めた辺りかららしく、思ったよりも前から二人はこの世界に転移していた。

 

 最初の内は戸惑いの方が大きかったが、アミカ視点では絶滅した筈の人類を再び見る事が出来て嬉しかったのだと言う。

 

 歳を取らなくなり、故に長く生きて来たB.Bの話の中でしか国や都市と言う概念を知らなかったからだ。

 

 転移した原因は今でも分かっていないが、B.Bの考えでは謡精暴龍に組み込まれたメビウスが何かの拍子で悪さをしてそうなってしまったのでは無いかと語っている。

 

 しかし、謡精暴龍が転移した場所が問題であった。

 

 その場所はエリーゼの生命輪廻を研究していた地下施設の更に地下の、地面で埋まっている筈の場所であった事だ。

 

 実験の過程で発生した不完全な生命輪廻の力が、研究員達も知らない近くに転移した謡精暴龍へと少しづつ流れ込みだした。

 

 その影響で謡精暴龍の一部のチカラが復活する。

 

 そう、龍放射を放出すると言う性質が。

 

 それに気が付いた二人は死霊のチカラによって実体化したきりんの第七波動である【鎖環(ギブス)】のチカラで封印を施そうとした時、それは起こった。

 

 そう、私達も知るエリーゼ達の暴走だ。

 

 あの暴走の原因は流れ出した龍放射がエリーゼを意図しない覚醒を促した事による物だった。

 

 更に最悪なのが、その覚醒によって謡精暴龍は【ドラゴンゾンビ】と呼ぶべき状態に復活してしまう。

 

 その際に麒麟デバイスで魂だけの状態で眠りについていたインテルス達も謡精暴龍に捕らわれてしまい、後に私達が知るホログラム能力者として各地に散らばる事となった。

 

 幸い中途半端な復活だったのもあり、鎖環のチカラで龍放射の拡散防止及び動きを止める事その物は成功を収める。

 

 だが、日に日にチカラを取り戻しつつある事を二人は感じとった為、アミカは行動を開始する事となった。

 

 再び謡精暴龍を倒す為の戦力集めをする為に。

 

 しかし突発的な復活だった事もあり、早急に戦力を集めると言うのは不可能に近かった。

 

 アミカ達の戦力の中核であった暴龍ZEDΩ.、暴龍ブレイド、そして終末世界であったが故にそんな彼らと同等の強さを持ったB.Bがもう居ないからだ。

 

 そこで考えたのがあえて龍放射の封印のみを解除し、アミカの能力で一カ所に収束させ、相応の量が溜まったら歌にのせて広域拡散させる事でこの国の能力者達を暴龍に変えると言う方法だった。

 

 アミカ達が見て回った限り、この国は以前居た世界の総人口よりも多く能力者達が居ただけでなく、最終国防結界が他国への龍放射の拡散を防ぐと言う性質から考え出された物で、彼女達の視点ではこれでもこの世界にかなり配慮された方法であると言える。

 

 ただこの方法を取るとなると龍放射の蓄積を待つだけと言う関係上、アミカの手が余る。

 

 そこで彼女はもう一つ、自身の野望である消滅する事も兼ねた別口での戦力確保を考えた。

 

 それが私達も知る先の動乱だ。

 

 この事は動乱中も定期的にきりんとも話しており、相応に揉めたが最終的に合意に至っていた。

 

 そして、後は私達の知る流れと合流する事となる。

 

 

『とまあ、大体こんな感じよ。……これで分かったでしょ? わたしがエリーゼを求めていた理由が』

 

「謡精暴龍の【不死(イモータル)化】を解除するのに必要だったんですね……」

 

『そういう事よ』

 

「つまり今度の戦いでもエリーゼの生命輪廻がカギを握る事になる訳か。……彼女にはまた大きな負担をかけてしまうね」

 

「昔のわたしなら兎も角、今のわたしなら平気です。フェムトくんや色々な人達に鍛えられましたし、この封鍵のチカラもありますから」

 

 

 その後話し合いは終わって一時解散となり、飛天内部での休憩も兼ねた僅かな自由時間を設ける事となった。

 

 いくら急いでいるとは言え、このまま強行軍をするには互いに疲弊してしまっている為だ。

 

 しかし、自由時間ではあるが突発的な龍放射の発生を警戒する必要がある為変身現象(アームドフェノメン)とチカラの解除はしていない。

 

 ……私はエリーゼと共に飛天に設けられた一つの部屋で、互いに背中合わせに寄りかかり、目を瞑っている。

 

 顕現しているリトルはエリーゼの腕の中で私達と同じように目を瞑っていた。

 

 いよいよ謡精暴龍と対峙するミッションが始まる直前であった為、緊張する心を解きほぐす目的もあり、私達は瞑想に近い真似事をしている。

 

 視覚情報を閉じ、心を鎮め、心から信頼できるパートナーと背中合わせに共に居る。

 

 胡坐をかき、姿勢を正し、これまでの戦いを冷静に振り返る。

 

 少なくとも、私一人では間違い無くどうしようもなかった。

 

 それでも何とかここまで来れたのは私自身の努力を惜しまず、無理だと分かれば仲間を頼り、共にチカラを合わせたから。

 

 そして何よりも、エリーゼが傍に居た。

 

 だからこそここまで来る事が出来たのだ。

 

 音を遮断する部屋で、トクントクンと鳴る互いの心音を背中越しに共有する。

 

 背中から伝わるエリーゼの熱が、私に安心を与えてくれる。

 

 ふと、私は上を向く様に振り向いた。

 

 そこには同じく下に振り向いたエリーゼの顔が間近に迫っており、そのまま唇が触れてもおかしくない距離まで迫っている。

 

 お互い考えている事が同じであった事が嬉しくて、思わず二人で笑みを浮かべてしまう。

 

 そして私達はそのまま雰囲気に任せて互いに唇を重ねようとして……何も無い筈の壁から、視線を感じた。

 

 エリーゼも感じたらしく、珍しく困った様な顔をしている。

 

 その視線の先を目だけで見て見れば、そこには私達の様子を覗いている(デバガメしている)三人の存在に気が付く。

 

 モルフォと黒モルフォ(ペスニア)の姿をしたアミカ、そしてモルフォと同様に電脳体へと姿を変える事が出来る様になったシアンの三人が、壁を透過する形で私達をガン見していた。

 

 

『わぁ……』

 

『…………』

 

『わたしも何時か、おじさまに……』

 

 

 ゆっくりと近づきながら、改めてエリーゼと視線を合わせる。

 

 ……どうやらエリーゼは見せつけるつもりの様だ。

 

 私は彼女の意図を読み、そのまま口付けを始める。

 

 三人の歌姫達はそんな私達の様子に静かに沸き立ち、固唾を飲んで見守っている。

 

 しかし、私もエリーゼも流石にこの先まで見せるつもり等無く、キスを終えたと同時に三人の居る方へと顔を向けた。

 

 

『あ、バレた……』

 

『何を呆けてるのシアン! 撤収、撤収よ!』

 

『あ、待ちなさいよ二人共~~!』

 

 

 見つかった三人は即座に壁の向こうへと姿を消してしまい、その様子に私達は笑い合う。

 

 何だかんだ、敵対していた筈のアミカが私達に馴染んでくれているのが嬉しかったからだ。

 

 ……再び、私達は先と同じように瞑想に近い真似事に戻る。

 

 このリラックスした雰囲気を楽しみ、最後の鋭気を養う為に。

 

 

 

 


強制ミッション

 

 

 

 

休憩を終え、私達は複数の班に分かれての行動を開始する。

 

 これは謡精暴龍までの道のりが狭いという事もあるが、それと同時にアミカ達の知る行動パターンを考えての物だ。

 

 謡精暴本体の持つチカラとして、他の終末世界から突出した存在を呼び寄せるチカラを持つとアミカ達は語る。

 

 これはメビウスの持つ無限の星読み(アストラルオーダー)のチカラが劣化した物で、規模こそメビウス本体と比べて縮小されているが、能力の用途が最悪な方向に特化してしまった為、その脅威は相当な物だ。

 

 その性質上初見殺し的な要素も含まれている為、一カ所に固まっていると下手をすれば纏めて全滅してしまう危険性も高い。

 

 それだけでは無く、謡精暴龍本体はその巨体に任せた大規模な咆哮に龍放射を乗せて無差別にまき散らすと言う行動パターンもあるのだと言う。

 

 そう言った情報を得た事と新たな協力者も増えた為、私達は今の部隊を更に複数の班を作ると言う形で再編制する事となったのである。

 

 私の班はエリーゼ、GV、紫電、パンテーラ、アキュラ、ロロで構成されている。

 

 謡精暴龍に対するキーマンと言うべきメンバーと私達の世界の各組織の代表が私の班には集結しており、正しく現時点の私達の持つ戦力の中枢と言えるだろう。

 

 他にはエリーゼ以外の七宝剣メンバーで固まった班にエデンのメンバーで固まった班と後方支援火力班、そしてアミカやモルフォ等の歌姫達とその護衛で固まった班の、計五つの班に分かれている。

 

 そうして私達は謡精暴龍の待つ地下施設の更に奥へと足を運ぶ事となった。

 

 道中は暗く、装備された照明やイオタの残光(ライトスピード)による明かり等を頼りに私達は進む。

 

 その道中は以前紫電が潜入班を向かわせていた事もあり、最低限片付けられていた。

 

 しかし、ゾンビにすらなれなかった物や鋭利なトゲになっている荒れた床等が無くなった訳では無い。

 

 それらに注意しつつ先へと進むと、大規模な研究設備が多く立ち並ぶ大広間へと辿り着く。

 

 所々血痕が残っており、その不気味さはホラー映画も真っ青になってしまう。

 

 ……私は目線をエリーゼに合わせる。

 

 彼女は少し不安そうな顔をしていただけで、変にトラウマを刺激されたと言った様子は無い。

 

 それ所か私の目線に気が付いて無理の無い笑顔までこちらに向けている。

 

 この様子なら、彼女は過去のトラウマを完全に乗り越えたと判断しても良いだろう。

 

 

『謡精暴龍はこの大広間の更に奥にある大穴の先に居るわ。封印を担当しているきりんと一緒にね』

 

「所でアミカ。きりんってどんな人?」

 

『人並み以上にストイックだけど、モフモフ好きなカワイイ所もある女の子よ。服装は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()感じね。本人が言うには由緒正しき戦巫女の恰好だなんて言ってたけど』

 

「私の色違い……ですか?」

 

『ええ。もしかしたら何かわたしの知らない因果関係があるのかもしれないわね』

 

 

 きりんと言う人の事を聞き出しつつ、私達は大穴へと向かう。

 

 そこからの道中はホラー特有の不気味さは無くなったが、謡精暴龍の放つプレッシャーと呼ぶべき圧力を体感するようになった。

 

 先へと足を進める程にその圧力は強まり、明らかにこの先に居る存在はヤバイと私の持つ全ての感覚が訴える。

 

 やがて私達は先の大広間よりもずっと広い空間へと足を踏み入れる。

 

 そこは謡精暴龍のチカラの影響なのか空間が歪んでおり、強度的な意味で明らかにあり得ない程に広い空間が広がっていた。

 

 その空間内を見上げて見れば星空の様な沢山の光が散らばり、原理不明なチカラで浮いている岩が所々に存在し、それでも何故か空気は存在すると言う意味不明な空間。

 

 そんな場所の中央に、かの謡精暴龍は鎮座していた。

 

 その姿は所々腐食しており、背中に生えている電脳体で構成されている翼が辛うじてこの暴龍が電子の謡精(サイバーディーヴァ)のなれの果てであると言う事が分かる程に損傷が激しい。

 

 その様相は正しくドラゴンゾンビと言える姿であり、バケモノその物であった。

 

 かの存在は、五つの方向から鎖の様な力場で構成されたチカラで動きを封じられている。

 

 それを成している存在は、謡精暴龍の足元に居た。

 

 それは以前ミチルの居た療養施設で頭領さんとヒスイさんの二人と対峙していた少女の姿。

 

 第七波動を封じ込める唯一無二のチカラを持ったが故にデマーゼルによって見るも無残な状態へとなってしまった彼女。

 

 その名はきりん。

 

 頭領さんとアミカ達の情報を合わせて考えるに、彼女は向こうの世界での裏八雲に所属していた戦巫女。

 

 その姿はアミカと同じように半透明に透けており、彼女もまた幽霊である事をその身をもって私達に告げていた。

 

 そんな彼女に、アミカとB.Bは言葉を告げる。

 

 謡精暴龍を倒す準備が出来た事を。

 

 

『お待たせきりん』

 

『思ったよりも早かったね、アミカ』

 

「久しぶりだな、きりん」

 

『久しぶりB.B。話は聞いてたけど、会えてうれしいよ』

 

「オレっちもだ」

 

『アミカから聞いたわよ? 復活して早々に借金背負ったんだってね』

 

「うぐっ……!」

 

『昔からそうだけど、ホントあんたってしょうがないヤツよねぇ』

 

「今回は不可抗力だっての!」

 

『「今回は」って言葉が出る時点で語るに落ちてるわね』

 

「ぐふっ……!」

 

『きりんってば、相変わらずおじさまに容赦無いわね。もう少し優しくしてもいいと思うんだけど』

 

『コイツの扱いはこんなんでいいのよ。アミカはちょっと甘すぎ』

 

 

 久しぶりに会えたからなのか、嬉しそうに会話を繰り広げる三人。

 

 アミカから容赦無い等と言われているきりんだが、B.Bに語り掛ける際の目は優しく笑っている感じだった為、これが普段のやり取りである事が容易に想像が出来る。

 

 そんなきりんが、私達を見てこう切り出した。

 

 

『じゃあ改めて……わたしの名前はきりん。向こうの世界の裏八雲に所属していた戦巫女の亡霊って所よ』

 

「……その身のこなし、相当の使い手と見て取れる。以前出合った幻影とは比べ物にならぬ」

 

『その姿……もしかしてアンタ、歴代裏八雲最強の……こんな所で会えるなんて思わなかったわ』

 

『この人、知ってる人なの?』

 

『裏八雲の歴史を語る上では避けて通れない程の人だよ。何しろ特殊能力を持たない只の人間でありながら歴代最強だなんて言われてたんだから。……改めて聞くけど、本当に謡精暴龍に挑むつもり?』

 

「勿論さ」

 

『…………分かった。今は鎖環の封印が効いてるから前回の時と同じ位の力関係で戦えると思う。だけど心して。手負いの獣は何をしでかすか分からないって事を』

 

 

 きりんはB.Bの死霊のチカラで実体化した後で私の班へと合流。

 

 これによって、本当の意味で各勢力の代表がこの班に揃う事となった。

 

 ……要請暴龍のチカラによって歪んだ空間内において戦いが今、始まる。

 

 この世界の命運を賭けた、最後の大戦(おおいくさ)が。

 

 私達の戦意を感じ取った謡精暴龍の龍放射混じりの咆哮が開戦の合図となり、私達は戦いに身を投じるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします





〇B.B(イクス世界線及びアミカ世界線)について
とある事情により死霊の第七波動のチカラが原作の時よりも高まった事で三十を過ぎた辺りで年齢が止まってしまったB.B。
そのチカラは魂に形を与えるだけに留まらず、魂だけの存在を自身の眷属にする事も出来る様になっている上に、眷属のチカラも自身のチカラとして振るう事も出来るようになっている。
向こうの世界では決戦時、人類はB.B本人以外絶滅していたのもあり暴龍ZEDΩ.等と並ぶ程に強かった。
主に別ゲーの【ENDER LILIES(エンダーリリーズ)】の少女とほぼ同じ戦い方を身に付けていたが故に。
鎖環世界では仲間であった【シロン】、【レクサス】、【カミオム】、そしてきりんは向こうの世界では既に死亡していた為幽霊と言う形でB.Bの眷属として共に戦っていたが、最期の血路を切り開く為に万が一を考えてきりんを残し、暴龍ZEDΩ.達と共に決死の特攻を行い、見事B.Bがラストアタックを決めた。
しかしその代償は大きく、使役していた眷属はきりんとアミカを除いて全滅し、B.B本人は激しく損傷した魂をアミカと同化させて自身の持つ能力を継承させる事で一度は息絶える。
しかし封鍵を始めとした様々な強化の上乗せをしたエリーゼの手によって存在を感知され、蘇生される事で復活を遂げる事となる。
元居た世界では【翡翠の死神ブラックバッジ】だなんてタイトルが付くくらい主人公をしている。
やっぱりB.Bにイケオジ設定は無理があったよ……

〇きりん(イクス世界線及びアミカ世界線)について
デマーゼルによって麒麟デバイスと化した裏八雲の戦巫女の亡霊。
裏八雲の修行のお陰か、霊の姿になっても自我を保てており、デマーゼルが謡精暴龍に取り揉まれた後にアミカとB.Bに出合い、行動を共にする事となる。
その道中は本編で語られる事は無いが、本編の会話の内容から察するに鎖環世界線のきりん達と同じ位仲がいい様だ。
鎖環世界線とは違い髪は長く、雷霆煉鎖を習得していない以外の違いはほとんどない。
アミカ世界線での最終決戦ではB.Bの眷属として最後まで戦い抜いた。

〇エリーゼの暴走について
第七話におけるエリーゼの暴走が原作よりも早まったのは転移してきた謡精暴龍の龍放射の影響による物。
これのお陰で早い段階で原作のボス(二回目)として登場する時のチカラを身に付けている。
何気に龍放射の影響を受けてエリーゼは危なかったのだが、宝玉因子(スフィアファクター)であるフェムトと接触できた為龍放射は浄化される事で難を逃れている。
そう言った意味でもあの時のエリーゼとフェムトの出会いは運命的であったと言える。

〇不死化について
生命輪廻が非道な実験のせいで中途半端に謡精暴龍に作用してしまったが為に起こった人為的な事故。
それ故にアミカからエリーゼは求められていた。
そもそもエリーゼを無理矢理研究何てしなければこの様な悲劇は起こらなかった為、これはエリーゼのやらかしというよりも、エリーゼを無理矢理研究していた人達のやらかしと言うべきだろう。
それもあり、謡精暴龍戦おいてGVと同じ位エリーゼも重要なキーパーソンとなりうる。

〇フェムトときりんの服装がほぼ同じな事について
二人の服装は色違い以外の変化は無いと言ってもいい位同じ。
これの理由は鎖環世界線でのラストバトルにおける真エンドルートが関係しており、どのように関係しているのかはこの後の話で語られる事となる。


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第四十六話 現れ出でるは悲惨な末路の境界面(IF)

 

 

 

 

 謡精暴龍を倒す為にはいくつかのプロセスを積み上げる必要があったとB.Bは語っていた。

 

 まず謡精暴龍本体は、自身を強固な電子障壁(サイバーフィールド)で身を守りながら別の終末世界から突出した存在を呼び出し嗾けると言う行動パターンが存在する。

 

 呼び出した存在を維持するのにリソースが必要なのかは不明だが、それらを倒すと謡精暴龍のチカラが減少し、電子障壁が弱体化する。

 

 これを何度か繰り返していけば電子障壁は消滅し、謡精暴龍に攻撃する事が可能となる。

 

 しかし、障壁が解けると謡精暴龍は後先を考えない物量重視の呼び出しを行うようになる。

 

 しかもこの呼び出しは質も伴っている為、ここからはこちらがチカラ尽きる前に謡精暴龍を倒し切る時間との戦いを要求される。

 

 これらの工程が分からなかった向こうの世界での謡精暴龍との決戦の時は、優に七千万体もの暴龍達とありったけの戦力になる幽霊をかき集めて用意したにも関わらず、最後に残ったのはアミカときりんだけであった。

 

 では、今回の場合はどうだろうか?

 

 相手は不死(イモータル)化しているとは言え鎖環(ギブス)の弱体化が入っており、その上まだチカラが戻り切っていない事に加え、少し前のアミカとの戦いの際も麒麟デバイスのイマージュパルスと言うカタチで謡精暴龍からチカラを吸い上げている為、相応の弱体化を与える事に成功している。

 

 きりんの見立てではついさっき話したように、アミカを謡精暴龍から引き剝がした時と同じ位だと言っていた為、結果的には前回と同じ位の脅威度だと語っていた。

 

 何気に私達と戦っていた時もちゃっかり謡精暴龍の弱体化をアミカは行っており、イマージュパルスでの建築物創造もその一環だったりする辺り、弱体化に関しては実に念入りに行っていた事がこれまでの出来事を振り返って見ると良く分かる。

 

 とは言え、この弱体化方法ではある程度削る所までは出来るのだが、一定量をオーバーすると謡精暴龍からのチカラの供給が止まってしまう為、これだけで如何にかする事は出来ない。

 

 まあつまる所、トドメは私達がきっちり刺さなければならないという事だ。

 

 ……さあ、始めよう。

 

 この動乱の幕引き(カーテンコール)を行う為に。

 

 

「目標は謡精暴龍バタフライエフェクト! 総員、奮起せよ!」

 

「「「「「「了解!!!!!」」」」」」

 

 

 紫電の掛け声とそれに応える私達の声と共に、戦いは始まった。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 謡精暴龍の咆哮と同時に自身に電子障壁を展開し、更に人知を越えたチカラが収束する。

 

 それはやがて不規則な幾何学模様の立体型の魔法陣と形容すべきモノとなり、そこから私達よりもずっと大きな巨人と呼べる存在が出現。

 

 私から見て右半身が白く、左半身が黒いその巨人はどこか紫電を彷彿とさせる。

 

 それを裏付けるかのように私達の知る紫電と同じように、禍々しいオーラを放つ陰の化身(パンターフォース)陽の化身(レイヴンフォース)を従えていた。

 

 但し、こちらの二匹の(しもべ)達は私達の紫電の従えている僕よりも大型化している上に、謡精暴龍から常に放たれる龍放射によってチカラのブーストがされているらしく、目視できるオーラは決してまやかしでは無い。

 

 

「……なるほど、さしずめフェムトが居ない状態で歌姫(ディーヴァ)プロジェクトを強行したボクと言った所か」

 

『ボクは、天を統べる神の皇(ザ・ラストエンペラー)……ボクこそが皇神(スメラギ)なんだ。正義を体現する全能の存在なんだ。なのにどうして……どうして守れなかった? 何を間違えた? 分からないワカラナイWAKARANAIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

「いきなりこんな物を見せられる羽目になるなんてね。少し前まで見ていた悪夢そのままじゃないか」

 

「紫電……」

 

「やるよフェムト。……彼が歩んだ道のりは、きっと今のボクからは想像も出来ない程に過酷で絶望的で、どうしようもなかったんだろう。だからもう、休んでもらわないとね」

 

 

 封鍵のチカラを開放した紫電が先陣を切る形で白黒の巨人(終末世界の紫電)との戦闘が始まった。

 

 開幕、頭上から無造作に光が降り注ぐ。

 

 これは特攻衛星“星辰”から放たれるレーザーと酷似しており、その威力も着弾した際のクレーターを見る限りこちらが使うソレと同じだ。

 

 このレーザーによる被害は直撃した班が無かった為自動治癒の範囲でどうとでもなったが、直撃すればリザレクションが必要になってしまう。

 

 現時点のエリーゼは謡精暴龍に対する不死化を解除する為のラストアタック要員の一人である為、安易にチカラを使う事は避けている状態。

 

 なのでこの戦闘で死亡した場合、復活できるのは戦闘が終了した上でエリーゼのチカラが回復するまで出来ない。

 

 その代わり、一時的にB.Bの死霊(ガイスト)の能力の影響下に入ってもらい戦闘を継続すると言う段取りとなっている為、龍放射対策に必須な私とアキュラとロロ、そして純粋な火力要員兼ラストアタック要員の一人であるGVと彼のチカラを維持するシアン、モルフォ、ミチルの三人、そして同じくラストアタック要員であるエリーゼ以外は最悪死んでしまっても戦い続ける事は出来る。

 

 しかし、それを踏まえてもまだ始まったばかりのこの序盤で脱落者を出してしまう様ではこの先の戦いを勝ち抜く事はとても出来ないだろうと私は思う。

 

 その相手が例え別世界の紫電であったとしても。

 

 陽の化身から放たれる神風でこちらの動きを制限し、そのチカラで出来た風玉が誘導しながらこちらにゆっくりと迫って来る。

 

 陰の化身から放たれる地を這う衝撃波も同時に迫る。

 

 これらの攻撃はここまで来た私達ならばいなすのは難しくない。

 

 しかし、こちらの攻撃はあの白黒の巨人に対してダメージを与えているようには見えない。

 

 一応弱点らしき箇所は見つけ出しているのだが、そこは謡精暴龍の電子障壁と同等な強度を持った障壁が展開されており、攻撃が通らない。

 

 しかもあの位置はメラクの亜空孔(ワームホール)を開く条件を満たせない。

 

 なので、私達はこのままではジワジワと消耗する事になってしまうのだが……

 

 

何だ? 頭の中に映像が……これは! 皆! あの白と黒の僕に攻撃を集中させるんだ! そうすれば弱点である胸元を守る障壁が消失する筈!」

 

 

 GVの言葉を信じてこの手順を用いた結果、弱点を守っていた障壁は消失し、巨人に対してダメージを与える事に成功する。

 

 どうしてGVがこの手順を把握したのかは分からないが、効果がある以上今はその疑問を追求するのは後でも問題は無い。

 

 まあ何にしろ、ダメージを与える手段さえ確立できてしまえば、後はもうこっちの物だ。

 

 しかし、相手は紫電である以上このままで終わる筈も無かった。

 

 

『まだだ! まだ、終わっていない! 鳴動の虚空、彼方より招来れ……!』

 

 

 

 

 

 

 

天統べる神の帝

 

銀河の彼方より招来れ天星

 

これが神罰 滅びよ愚者よ

 

鳴動(めいどう)虚空(ソラ)彼方(かなた)より招来(きた)るもの

 

 

 

 

 

 

 

『ボクの意思は、星をも動かす! さあ天津星よ! かの者達を押しつぶせ!!』

 

 

 頭上を見上げれば大質量の隕石がこちらに飛来してきている光景が飛び込んで来た。

 

 私の分析からしてもあれは間違い無く質量を持ったモノで、まやかしでは無い。

 

 故に、仮に飛来する前に白黒の巨人を倒せたとしても、あの隕石を迎撃しなければこちらが壊滅的被害を受ける事になる。

 

 

「……! こうなったら」

 

「待ちなよGV。キミはまだチカラを温存してもらわないと」

 

「しかし……!」

 

「あれはボクとフェムトが対処する。……いや、対処させて欲しい。あの存在はボクにとって、乗り越えなければならない相手だからだ」

 

「紫電……」

 

「それに、向こうの世界のボクに可能性はあった事を教えてやりたいのさ。せめてもの手向けにね」

 

「……分かった。信じるよ」

 

(紫電様、私は準備万端です)

 

「紫電! こっちは何時でもいけるよ!」

 

『同じく!』

 

「シス、フェムト、リトル。彼に見せてあげよう。この世界の可能性の一端をね!」

 

 

 

 

 

 

 

我等の天雷は皇の導

 

共に往こう、我が親友(とも)

 

青と紫の理は此処に在り

 

 

クロスヴォルテッカー

 

 

 

 

 

 

 

 私は現存するEPを開放し、紫電に譲渡する。

 

 そして、紫電はEPを念動力(サイコキネシス)で制御する事で疑似的に雷撃能力者に相当するチカラを一時的に獲得。

 

 EPを実体化させ、その権能を振るう。

 

 白黒の巨人が放つ天津星を、無数にX型に編み込まれた鎖が受け止め、両端からGVの真なる聖剣(グロリアスストライザー)を模倣した紫電の聖剣が紫の軌跡を描きながら受け止めたソレと白黒の巨人のコアを打ち砕く。

 

 

『ば、バカな……そのチカラは……!』

 

「ボクは確かに蒼き雷霆(アームドブルー)に適応できなかった。その事実を恨みもした。だけどね、仲間を増やして、話し合いをして……そんなボク自身を認めた上で乗り越えたからこそ、チカラを借りると言うありふれた発想を得る事が出来た。……念動力でEPを操れる事が分かってからは、早かったよ?」

 

『…………』

 

 

 白黒の巨人が私に視界を向ける。

 

 まるで本当に欲しかったものを見つけたかのように。

 

 

『そうか……ボクに足りなかったのは、心から頼れる親友だったという事か』

 

「そうだね。キミとボクの違いは親友(フェムト)の有無だった。彼が居なければGV(ガンヴォルト)の事をGVと呼ぶ事なんて出来なかっただろう」

 

『は……はは……正直、キミが羨ましいよ。気が付いたらボクの周りには、誰も居なかったのだから』

 

「キミの分までボクは生きる。そして、この国を必ず守り通して見せる。……だからもう、休むんだ。キミは十分頑張ったのだから」

 

『そう……させて……もらう……よ』

 

 

 辛うじて立っていた白黒の巨人はそのまま仰向けに倒れ、砂となって消滅した。

 

 それと同時に謡精暴龍の電子結界が弱まり、再び不規則な幾何学模様の立体型の魔法陣が展開される。

 

 感傷に浸る暇も無い忙しなさだが、相手はこちらの都合など知った事では無いのだろう。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 そうして出て来た第二の刺客は、背中にカードの絵柄のハートをベースにしたような翼を持った少女だった。

 

 その姿を見た女性の姿をしたパンテーラが動きを止め、少女の事を彼女らしくない憂いを持った表情で見つめていた。

 

 

電子の謡精(サイバーディーヴァ)との完全融合を果たし、大いなる愛で世界を満たす【夢想境(ワンダーランド)】のチカラを手に入れる事が出来た筈だったのに……どうして……どうして()()()()()()()()()()()()()()()は争うのです? どうして傷つけ合うのです? どうして楽園を地獄へと陥れるのです? どうしてドウシテDOUSITEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

「……やはり、こうなってしまうのね」

 

「さしずめ、今度は理想を体現出来た筈のパンテーラと言った所か。この姿を見るのはオレも初めてだが……いっそ憐れみを覚えるな」

 

『……人間を作った神様って、案外こんな気持ちだったのかもね』

 

「やれやれ……やっぱりこうなったか。いや本当に、忠告が出来て良かったよ」

 

「…………」

 

『GV?』

 

「何でも無いよ、シアン。また頭の中に映像が……もしかしてキミなのか? 蒼き雷霆

 

 

 アキュラや紫電達の会話から察するに、この少女はパンテーラの真の姿であり末路だと思われる。

 

 元々何でもありと言っても良い夢幻鏡(ミラー)のチカラが更に強化された夢想境と呼ばれるチカラが何なのかは不明だが、推察は出来る。

 

 夢幻鏡は現実に影響を与える程に精巧な幻覚を操る第七波動であった。

 

 それが強化されたと考えるに、それこそ神様の様に何でも作れる能力なのだろう。

 

 きっと、人間そのものも例外では無い。

 

 能力だけを見れば幸せな楽園を創るポテンシャルは十分にあっただろう。

 

 そして、彼女は恐らく「いい人」でもあるのだろう。

 

 ……だからこそ、楽園は地獄と化した。

 

 私の言うその手の「いい人」と言うのは情に厚く共感的で、人々からも信頼されうる普遍的に多くの人達がイメージしている人物像なのだが、その手の人達はイライラする事やモヤモヤする事に対する耐性、所謂認知的耐久性が低い傾向にあるのだと言う。

 

 故に、気の合わない人達の事を積極的に排除しようとするし、ふとした切っ掛けで致命的な分断を招き、争いが勃発しやすくなる。

 

 どの様な過程かは分からないが、どどのつまり彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()のが原因で楽園が地獄と化してしまったのだろうと言うのは安易に想像が出来る。

 

 

「やれそうかい? パンテーラ」

 

「……平気よ。ワタシの愛はこの位でへこたれたりしないわ。むしろ感謝したい位よ。だって、今のワタシの愛が間違ってない事が証明されたのだから」

 

「フフ……頼もしい限りだよ」

 

「でも一つ、ワガママを言わせてもらおうかしら?」

 

「何だい?」

 

「エスコートを、お願い出来るかしら?」

 

「……喜んで」

 

 

 今度も引き続き紫電、そして新たにパンテーラが先陣を切る形で戦いは始まった。

 

 開幕早々少女は自身のチカラを用い、信じられない数の兵士を出現させる。

 

 当然G7と呼ばれる人達も含まれており、それ以外ではどう言う経緯かは不明だが皇神でロールアウトまでもう少しと言った所まで開発が進んでいる第十世代戦車(ジェネレーションテン)【プラズマレギオン】や、何やら構造的に何らかの第七波動が無いと動かせないような巨大ロボットも含まれていた。

 

 しかも、部隊展開を終えた少女は歌を用いた攻撃まで用いて来た。

 

 電子の謡精を取り込んだと言っていたので、その手の攻撃があるのも当然という事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

謡精の歌を奏でよう

 

有象無象の異界の戦士達に

 

安らかな死という安らぎを

 

 

楽園幻奏(らくえんげんそう)

 

 

 

 

 

 

 

 歌による攻撃はこちらの陣営のチカラを確実に削り落とす程に強力で、この状態で少女達を相手取るとなると敗北は必至だろう。

 

 しかし、歌を扱ったチカラを使えるのは何も相手側だけでは無い。

 

 何しろ、こちらには多くの歌姫達が居るのだから。

 

 

「歌には歌で対抗します! シアンちゃん、モルフォ! 押し返そう!」

 

『うん!』

 

『任せなさい!』

 

「ロロ、お前も手伝ってやれ」

 

『了解! 希望の歌姫、オンステージだ!』

 

「頼んだぜ、アミカ!」

 

『勿論よ! おじさまの頼みなら、わたしは何だって聞くんだから!』

 

 

 

 

 

 

偽りの楽園に苦しむ悲しき少女よ

 

絶望への結末を慰める消失の歌を捧げよう

 

せめて、心安らかに

 

 

楽園消失(パラダイスロスト)

 

 

 

 

 

 

 

総てを超えて ふたりは 高く…
総てを超えて ふたりは 高く…

 

総てを超えて ふたりは 高く…
総てを超えて ふたりは 高く…

 

 

 

風が鳴り止み 透き通る
風が鳴り止み 透き通る

 

風が鳴り止み 透き通る
風が鳴り止み 透き通る

 

 

 

これから起きる出来事
これから起きる出来事

 

これから起きる出来事
これから起きる出来事

 

 

 

示唆するように
示唆するように

 

示唆するように
示唆するように

 

 

 

解放された 自由さえ
解放された 自由さえ

 

解放された 自由さえ
解放された 自由さえ

 

 

 

もどかしくて 声の無い声あげた
もどかしくて 声の無い声あげた

 

もどかしくて 声の無い声あげた
もどかしくて 声の無い声あげた

 

 

 

次の領域(フィールド) 始まっている
次の領域(フィールド) 始まっている

 

次の領域(フィールド) 始まっている
次の領域(フィールド) 始まっている

 

 

 

あなたを連れて行くわ
あなたを連れて行くわ

 

あなたを連れて行くわ
あなたを連れて行くわ

 

 

 

――大丈夫、怖がらないで

 

 

 

 四人の歌姫が歌うは私達の世界では希望の歌姫であるロロがネット配信で最初に披露した【成層圏(ストラトスフィア)】。

 

 決戦前夜のモルフォライブでもデュエットと言う形で歌われており、当然シアンもアミカも知っている歌だ。

 

 しかも今回は四人での歌である為デュエットならぬカルテット。

 

 単純に数の暴力もあるが、それ以上に封鍵で増幅されたチカラを持ったシアンとモルフォ、共鳴現象を起こして強化されているロロ、そして幽霊として最上位に位置するオカルトパワーを上乗せ出来る黒モルフォ(ペスニア)姿のアミカと言う質の暴力も含まれている上に、その歌にはリトルの龍放射を浄化するチカラも追加で上乗せされている。

 

 故に、少女の歌を押し返すだけでなく、この場の龍放射を一時的に完全に浄化する事にも成功した為、紫電に譲渡したEPを即座に取り戻すことも序に出来た為、私としても非常に助かった。

 

 更に少女が呼び出した大部隊を大幅に弱体化させた為、直接かち合った際は正に鎧袖一触。

 

 碌にチカラを発揮出来ぬまま少女を残して全滅させる事は出来たが、場合によってはこちらがこうなる事は十分にありえた。

 

 

『まだです! まだ、わたしは……!』

 

 

 少女は相応のダメージを負っており、今にも先の紫電と同様に消失しようとしている。

 

 しかし未だ諦めている様子も無く、抵抗の意思を見せている。

 

 そんな少女に対し、パンテーラがそのまま歩み寄る。

 

 徐々にこの少女と同じ姿になりながら。

 

 

「もう、よいのです。貴女は十分に頑張りました。貴女の信じた愛を貫きました」

 

『……わたしは、何を間違えたのでしょう?』

 

「きっと、無能力者を殲滅すれば平和になるという事を信じてしまった事でしょう……わたしは紫電にこう言われました。『無能力者を滅ぼせば世界は平和になるだなんて言うナイーブな考えは捨てるんだ』と」

 

『…………』

 

「きっと、信じすぎてしまったのが原因だったのでしょう。人の良心を」

 

『なら、貴女はもう能力者(同胞)達に与える愛は無いと……?』

 

「信じすぎない事と、愛を与えない事は同一ではありません。愛とは時に、痛く苦しい物でもあるのだから。……わたしはこれからも多くの愛を与える事を辞める事はありません。ただ少し、別のカタチで与える機会が多くなると言うだけです。皆と意見をすり合わせ、少しづつ良くしていくと言う形で」

 

『……貴女は、強いのですね。わたしの愛を凌駕する程に』

 

「この強さはわたしだけの物ではありません。みんなが、紫電がくれた強さなのです」

 

『なるほど、わたしに、足りなかった……のは…………貴方……だったの、ですね………………紫電

 

 

 最期の言葉と同時に少女はパンテーラに向かって倒れる。

 

 それを受け止めたパンテーラだったが、倒れた少女はそのまま白黒の巨人と同様に砂となって消失。

 

 最初の時は厄介になりそうだと思ったが、結果的には消耗は最小限に抑えることが出来た。

 

 同時に謡精暴龍の電子結界が更に弱まり、再び不規則な幾何学模様の立体型の魔法陣が展開される。

 

 その規模は前回の二人と比べて非常に大規模な物となっており、恐らくだが、次の相手はこれまで通りにはいかないと私は思った。

 

 

『予想以上に謡精暴龍の電子結界のチカラを削ぐのが早い……次を撃破すれば結界は消失すると思う』

 

「つまりこの後からが本番という事か」

 

『だからと言って、次も油断しちゃダメだよ。何だかんださっきは何とかなったけど、ぼく達が居なかったら大変になってたんだからね!』

 

 

 ロロのその言葉がフラグとなったのかは分からないが、次に出て来たのはそんなロロを成長させたかのような女の人と、巨大な塔であった。

 

 

 

 

READY


 

 

 

 

 その眼を見る限り、長き時の果てに疲れ果てたと言う印象を私に与えた。

 

 何と言えばよいのか……そう、私達に分かりやすく例えるならば、皇神で働き終わって疲れ果てたOLさんに近い感じだ。

 

 最も、相手はそんなか弱い相手では全く無かったのだが……

 

 

『何でもいい。誰か、誰か私を、ぼくを終わらせて……もう嫌なんだ! ワーカー達を滅ぼしても、「使命」を超越出来ても、「塔」がぼくを終わらせてくれないんだ! 誰か……誰かぁァァァァァァァァァァァァaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

『そんな……』

 

「……並行世界とは無数に存在する世界。あのマザーはオレ達と関わったマザーとは違う存在なのだろう」

 

「どうしてそれが分かるの? アキュラくん」

 

「オレ達の攻略した塔であるグレイヴピラーにはマザーに対してそこまで強制力のある機能は備わっていなかった。これは龍放射対策の知識を得る為に調べた時にも確認済みだ。しかし、今オレ達の目の前に居るマザーが管理する塔は強い強制力があった。そこが分岐点となったのだろう」

 

「そっか……」

 

「……終わらせるぞ、コハク、ロロ」

 

「うん」

 

『そうだね。ちゃんと眠らせてあげないと』

 

「つまり、彼女達を撒きながらあの塔を攻略する必要があると」

 

「そういう事だ」

 

 

 話を纏めると、アキュラ達の言うマザーと呼ばれる存在を足止めする班と、攻略する班とで別れる必要がある。

 

 あの塔は見た限り、入り口に強固なエネルギーフィールドが展開されている。

 

 アレを突破するのは骨が折れそうだと思ったが、あの入り口は人間を検知する事で開く仕組みとなっている為、私達ならば問題は無いと思われる。

 

 仮に何かしらの理由で第七波動持ちは弾かれるだとか、逆に開かないと言った事があってもこの場にはニコラや頭領さんも居るので大丈夫だ。

 

 しかし、問題はその内部にも戦力が居るという事。

 

 つまり……現在進行形で塔から出て来ているワーカーと呼ばれる機械達が全て敵に回るという事でもある。

 

 と言うか、あの規模は先のパンテーラが呼び出した戦力を軽く超えている。

 

 恐らく純粋な戦力は向こうの方が完全に上回っていると言っても良い。

 

 さて、どうしたものかと思っていたら、私の視界に居るB.Bが()()()()()()()()()()()()の頭上を見上げて何やら話し込んでいる所が映る。

 

 

「ふんふん……協力してくれるの? 本当に(ジーマー)!? そりゃあマジで助かるぜ!」

 

『ちょっとB.B、誰と話し込んでるのよ』

 

()()()()()()()を名乗る二人の幽霊とちょっとな」

 

「……何だと?」

 

『あの二人、こんな所まで付いてきちゃったの!? てっきりあの後天国みたいな所に逝っちゃったのかと思ってたんだけど』

 

アンタら(アキュラ達)の行く末が気になったって感じさ。じゃあ、実体化させるぜ?」

 

 

 そうしてB.Bが呼び出したのはバイザーを付け、大盾を持った白い鎧姿の男と、敵対しているマザーと呼ばれる存在と酷似している女性の姿。

 

 彼等はかつて、この塔がある世界では創造主と呼ばれた人物とその従者兼管理AIとして存在していた。

 

 

「……こうしてまた直接顔を合わせる事になるとはな」

 

『別世界であるとは言え、アイツを放っておくことは出来ないからな。それに……あのようなカタチでアイツや塔を使役する等、許される事では無い』

 

『世界は違えど、見た限りこの塔はぼく達の創った物と大差はないでしょう。ぼくとマスターが共に居るならば、攻略は容易。ですよね? マスター』

 

『当然だ。お前が共に居るならば、不覚は取らない』

 

「ありがとうございます。正直どうしようかと思っていましたので」

 

『オレ達がチカラを貸すのは謡精暴龍を倒すまでだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それで十分です。今はどんな手も借りたいですし」

 

 

 B.Bのお陰で思わぬ人達が期間限定で協力してくれた事で、攻略の道筋は立てられた。

 

 役割分担はB.Bが居る歌姫班が塔へ突入し、残りの班はマザーたちの足止めだ。

 

 便宜上あの二人は私の中では【マスター】【アナザーロロ】と呼ばせてもらうが、彼等が言うには仮にこの場で敵対しているもう一人のマザーを倒しても塔が戦闘モードへと入っている為、Pix粒子なるモノを中心とした技術を用いる事で即座に戦線に復帰させる機能が備わっているらしい。

 

 つまり、先にも言ったが何とかするべきは塔なのだ。

 

 

『マスター……会いたい。会いたいよぉ……』

 

『……やはり、お前ももうオレの事を認識出来ないか』

 

『早く解放してあげましょう。マスター』

 

『そうだな。行くぞ、()()

 

『……っ! はい!』

 

 

 今回の戦いは先の戦いの時の様に簡単には行かず、後方支援火力班が集中的に狙われ、壊滅してしまう。

 

 しかも今回はB.Bが居る歌姫班は現在塔の攻略中である為、少なくとも塔攻略が終わるまでは死霊による使役も出来ない状態だ。

 

 相手は無限に再生して来る不死身の集団。

 

 徐々に、徐々にこちらは消耗を強いられる。

 

 特に厄介だったのがマザー以外に突出した能力を持っていた炎を操る【デイサイト】、風を操る【ヴェスパ】、光学兵器と変形機能を持った【オートクロム】、大型アーマー【ヘヴィバサルト】を駆る【ブリガド】、氷と時間を操る【ヘイル】、ニンジャを模した【スラグ】の六体の特別なワーカー達だ。

 

 彼らの戦いは実に巧みで、こちらとしても見習うべき点がとても多い存在であった。

 

 しかし、このままでは次の最終フェーズにおいてかなりの支障をきたしてしまう。

 

 そう思っていたその時、ワーカー達の動きは止まった。

 

 そう、塔の機能が停止したのだ。

 

 それと同時にTASを通じて連絡が届き、私はメラクにお願いして彼らの居る座標を目安にワームホールを開いてもらう。

 

 そこから出て来た歌姫班は塔内部でも戦闘があったのかそれなりに消耗していたが、全員無事であった。

 

 

『塔が……止まった?』

 

『……トドメはオレ達に譲って欲しい』

 

『ぼく達の手で、送り出してあげたいんだ』

 

 

 

 

 

 

 

親愛なる相棒の心臓部

 

流れ出る命の雷

 

異界の(マザー)よ 眠れ、心安らかに

 

 

スパークステラー

 

 

 

 

 

 

 

 マスターの持つ盾から計り知れない程の雷が迸り、謡精暴龍に呼び出されたマザーはその直撃を受ける。

 

 放電を浴び続け、徐々に砂へと朽ちて行くマザー。

 

 その時、彼女の目の焦点がマスターの方へと向かい、その瞳が遂に彼を捉えた。

 

 

『マスター……あぁ、マスター……ぼくを、止めて……くれたの、ですね』

 

『お前は本当に良く頑張った。だから、お前のマスターの待つ場所(天国)へと、逝くといい』

 

『ありがとう……異世界の、マスターとぼく。そして、異世界の人々よ……』

 

 

 そう言い残し、マザーと背後に聳え立つ塔は砂となって消えた。

 

 それと同時に、遂に謡精暴龍の電磁結界がきりんの見立て通りに消失。

 

 その間に壊滅した後方支援火力班をB.Bが死霊のチカラで復帰させ、体勢を整えて突撃する準備を整える。

 

 さあ、ここからが本番だ。

 

 そう思いながら、私は気合を入れ直す為に両手で頬を叩き、喝を入れるのであった。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇謡精暴龍戦について
物凄く簡単に言うとガンヴォルトシリーズ及びイクスシリーズに出て来る通常のラスボスと戦うミッションで、通称【ラスボスラッシュ】。
今回の話では双方のシリーズを合わせて五作品中無印からは紫電、爪からはパンテーラ、X2からはマザーがそれぞれIFを引っ提げて登場。
それぞれの世界を簡単な解説をするとこの様な感じになります

紫電の場合はGVを返り討ちにして歌姫プロジェクトを強行した場合の世界。

パンテーラの場合はGVまたはアキュラを撃破した後の世界。

マザーの場合はアキュラ達では無く別の世界の人間が塔を登った時と、マザーに対する塔の拘束力がより強い世界。

と言った感じになります。

〇GVが見る頭の映像について
これは蒼き雷霆の意思が持つ記憶をEPに乗せてGVへ伝えていると言った感じ。
何故蒼き雷霆の意思がこの事を知っているのか? それは……

〇クロスヴォルテッカーについて
ガンヴォルト鎖環の最新アップデートの設定を逆輸入し、フェムトと紫電の合体SPスキルと言う形で実装しました。
その身に青き雷霆を宿せぬのならば、EPだけを借り受ければいいと言う発想から出来たスキルで、TASで接続し、かつフェムトが覚醒していることが条件で発動可能となる。
これはTASで接続している事が前提だが、フェムトが覚醒すると雷撃能力者並の雷耐性も副次的に獲得できる事がアミカ戦で判明した為。
ぶっつけ本番ではあったが、フェムトと紫電はお互い長い付き合いをしていた為、阿吽の呼吸でこのSPスキルを成功させている。
エリーゼが邪な目で見つめている……
パンテーラは嫉妬している……

〇楽園消失について
楽園幻想に対するアンチSPスキル。
歌の内容が成層圏だったのは何気にこの歌はモルフォだけでは無く、新旧二人のロロが歌っている事、即ちガンヴォルトシリーズとイクスシリーズを繋ぐ歌でもあった為。
そして、歌に含まれている言葉であるモルフォ版の「大丈夫、怖がらないで」と言う部分も使いたかったからでもあります。

〇マスターとアナザーロロについて
実はこれ、急遽決まった設定で元々は幽霊と言う形で見守るスタンスを取っていたのだが、幽霊を実体化出来ると設定したB.Bが仲間に加わった事で実現。
謡精暴龍戦限定ではあるけどチカラを貸してくれる事になった。
いやほんと、こういう事を突発的に思い付くから話を書くのは面白い


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第四十七話 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 こちらが態勢を整い終わり、謡精暴龍の電子結界(サイバーフィールド)が消失して少ししたタイミングで爆発的な龍放射混じりの衝撃波がまき散らされる。

 

 その後、謡精暴龍の周囲を覆うように不規則な幾何学模様の立体型の魔法陣が小規模な物から大規模な物まで、凄まじい数が展開された。

 

 そこから現れ出でたるは、違う道を辿った私達の末路(IF)と呼ぶべき人達。

 

 彼等は変身現象(アームドフェノメン)で構成された(アーマー)と呼ぶべき物がひび割れ、生身を晒している箇所は爛れ、まるでゾンビと言うべき様相を呈している。

 

 目の焦点もあっておらず、中には腕や足が千切れかけている人達も居るが、何らかのチカラが働いているのか、動く事に支障は無いらしい。

 

 そして、そんな彼らを率いる()()()()()()()()()()が出現したその瞬間、私はこの暴龍のチカラの波動に酷い既視感(デジャブ)を覚えた。

 

 いや、既視感なんて物じゃない。

 

 このチカラの波動は私にとって、とても馴染み深い物だ。

 

 

『あの暴龍から、感じた事の無い深い絶望を感じるわ。本当に、底知れない絶望を』

 

(……認めたく無いけど、あれは間違い無くエリーゼの物よ)

 

 

 エリーゼの第七波動の意思であるアニムスが、あの暴龍の正体を看破する。

 

 私の既視感をプラスした上で彼女がそう判断する以上、間違い無い。

 

 よって、あの紫色の暴龍(並行世界のエリーゼの末路)は便宜上【生命暴龍】と呼ぶ事にする。

 

 そんな生命暴龍なのだが、視線は私に集中しており、少なくとも彼女は私と出合っているのは間違いない。

 

 その上で黒モルフォ(ペスニア)姿のアミカが読み取った感情と、生命暴龍と一緒に呼び出されたゾンビ能力者達から察するに、向こうの世界の私は何らかの理由で死亡してしまい、それに対して彼女は蘇生を試みたが、失敗してしまったのだと予想できる。

 

 あの生命暴龍は私の考えうる限りの最悪を想定したかのようなIFであり、目を背けてはならない事実。

 

 この様な未来も起こりえたと、改めて己を自戒せねばならない。

 

 私の隣に立つエリーゼがそうなってしまわないように。

 

 私は横目でエリーゼを見る。

 

 自身のIFを直視してしまった為か、悲しそうで憂いを持った表情と視線を生命暴龍に向けていた。

 

 やはり、この様な姿になってしまった自身を見るのは相当に堪えているようだ。

 

 

「エリーゼ」

 

「大丈夫……とはあまり言えないかな」

 

 

 私はそんなエリーゼの手を優しく取る。

 

 私の手の体温を感じ取り、震えていたその手は落ち着きを取り戻す。

 

 ……これまでの謡精暴龍の行動を見る限り、明らかに意思の様な物を感じ取れる。

 

 アミカは本能のみで意思が無いと言ってはいたが、私達にこれまでぶつけて来た戦力は明確にこちらの動揺を誘う相手ばかりであった。

 

 紫電、パンテーラ、マザー。

 

 ランダムな終末世界から呼ばれると言うのならば、本当に私達に関係の無い存在が出て来てもおかしく無い。

 

 それに、きりんが言うに想定よりも早く電子結界が消失した事も気がかりだ。

 

 本来ならばこちらの戦力はこの段階に到達した時点でもっとキツくなる筈だった。

 

 これはアミカ達の記憶ときりんから得た情報を元に私がシミュレートをした謡精暴龍の戦力換算から導き出された物で、正確性は相応にあると自負している。

 

 この事から考えるに、謡精暴龍は他の要因で更に弱体化しているのでは無いかという事。

 

 それは本来喜ばしい事の筈なのだが、どうにも引っかかりを覚える。

 

 何か、別の意思によるの意図を感じてしまう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう感じずにはいられないのだ。

 

 

「フェムト、どうした?」

 

「私の弾き出したシミュレートの想定を大幅に超えてこちらが戦力を保持出来ているのが気がかりなんです。本来ならば喜ばしい事の筈なのですが」

 

『ん~……考えすぎじゃない? それに、悠長に話してる暇はもう無いと思うよ。あの召喚陣みたいなの、今もどんどん増え続けてる』

 

「ここまで来た以上、ボク達に選択肢は残されていない。フェムトの言っている事は気がかりではあるが、目の前の脅威を撃破しない事には始まらないからね。……準備は整った。これよりボク達は死地へと突貫する。二段構えであるとは言え、ここを失敗すれば世界は終わる。総員、己が役目をしっかり果たしてくれ」

 

 

 この引っ掛かりは気になるが、紫電の言う通り先ずはこの場を切り抜けなければならない。

 

 紫電の言葉と同時に、今まで温存していたGVとエリーゼはチカラを開放。

 

 GVが纏う私達のモノとは違う蒼く透き通るようなオーラが勢いを増し、三つ編みの長いおさげがそれに連動して激しくはためく。

 

 エリーゼは背中の翼から私の扱う雷が迸り、左手に持つ黄金の剣から血液と思わせる赤い液体がコーティングされる。

 

 突撃の準備の整った私達は、今も増え続けている召喚陣を展開している謡精暴龍と呼び出された数多の存在を使役する生命暴龍へと突撃を開始。

 

 それと同時に後方支援火力部隊からの火砲(ブレイジングカノン)及び榴弾砲(ミリオン榴弾砲)による支援と、これまで温存されていた飛天のレイストームとプランZXによる航空支援がメラクのワームホール経由で炸裂し、露払いと選別が行われる。

 

 それに合わせ生き残ったゾンビ能力者達が一斉に動き出し、突撃した私達と衝突する。

 

 手応え的に火力支援と航空支援のあるこちらが優勢だが、生命暴龍によるそれなりの質を伴った数の暴力はマザー戦の時よりも厳しい。

 

 こちらの五感に訴えかける嫌悪感による要素も加わっているのが地味に厄介で、私も正直に言うと少し怖いと感じてしまっている形で気圧されている。

 

 しかし、こんな泣き言など言ってはいられない。

 

 現に私達の仲間が血路を開いてくれているのだから。

 

 

「行くよ! シアンちゃん! モルフォ!」

 

『うん!』

 

『先ずはアタシ達の歌で!』

 

 

 

 

 

 

 

あるべき場所へと戻りし謡精

 

新たに生まれたやさしき謡精

 

従える少女と共に 三位一体の歌を紡ぐ

 

 

ソングオブディーヴァ トリニティ

 

 

 

 

 

 

 

 ミチル達を中心に謡精の歌が広がり、私達全体に限界を超えた強化(バフ)が付与される。

 

 これに合わせ先陣を切ったのは、残光(ライトスピード)のチカラを持つイオタ。

 

 

「残光よ! 無へと帰す輝きの刃で、我等の道を切り開け!」

 

 

 

 

 

 

 

集いし残光、輝く刃

 

終焉を告げる光の煌めき

 

地平を裂いて無へと還す

 

 

終焉ノ光刃(ゼロブレイド)

 

 

 

 

 

 

 

 イオタの放つ空間を切り裂く一閃がゾンビ能力者達の一部を消滅させ、この一撃で出来た空間に沿いながら私達は突貫する。

 

 その隙間は私達が突撃して直ぐに埋まってしまいそうになるが、この間にブラックホールを収束させていたカレラが私達の前へと躍り出て、そのチカラが開放される。

 

 

「往くぞ磁界拳(じかいけん)! 小生と共に!」

 

 

 

 

 

 

 

極限に収束されし我が磁力

 

集めて集めてまだ集め

 

いざ解き放て、極光の光

 

 

爆縮開放 極超新星(ハイパーノヴァ)

 

 

 

 

 

 

 

 針の穴を刺すように私が謡精暴龍へ施したロックオンを頼りに、カレラの放つ極光は道を阻むゾンビ能力者を巻き込みながら突き進み、胴体へと直撃する。

 

 当たり前であるが謡精暴龍は健在、しかしその大きな巨体に風穴を開ける事に成功しており、不死化していなければ明確な致命傷と言えたであろう。

 

 

「切り開く。行くぞ、ロロ」

 

『任せて! アキュラくん!』

 

『わたしも続くよ!』

 

「コハク、合わせられるか?」

 

「任せてよ! お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

舞い踊るのは我等双刃

 

審判せしは千万無量

 

因果断ち切る白銀の十字架

 

 

クロスシュトローム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬入ること雷霆の如く

 

迸ること百華の如し

 

裏八雲が奥義

 

 

九十二式・乱れ夜叉砕き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昏き雷光纏いし(ツルギ)

 

(マザー)より受け継がれた無尽の絶爪

 

共に交わり かの者達を斬滅せしめん

 

 

雷霆絶爪(ヴォルティックソウ)

 

 

 

 

 

 

 

 アキュラとロロが前面に居る能力者ゾンビ達をコンビネーション攻撃によってかき乱し、きりんの剣戟による神速の追撃とヒスイさんとコハクのコンビネーション攻撃が敵対者を粉砕する。

 

 

「お兄様! 合わせて下さい!」

 

「委細承知! 任せてくれ、パンテーラ!」

 

 

 

 

 

 

白夜に揺蕩う愛憎模様

 

咎人は極光を仰ぎ

 

氷愛の檻に囚われん

 

 

楽園氷獄(ワンダーアイスプリズン)

 

 

 

 

 

 

 

 パンテーラと義理の兄であるテンジアンによる合体SPスキルがゾンビ能力者達を氷獄と幻影で隔離し、惑わし、私達に勝利への道を切り開く。

 

 

「テセオさん必殺(ひっさ~つ)!」

 

「こう言うノリ、キッツいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

識閾越境 比良坂直行

 

なす術絶無の屠龍劇場

 

此れは怠惰の絶命Channel

 

 

レイジーノイジーフォートレス

 

 

 

 

 

 

 

 数多のゾンビ能力者達が電脳で作られた迷宮へと隔離され、封殺される。

 

 それ以外にも、多くの仲間達が持てるチカラを振り絞り、謡精暴龍への道を切り開く。

 

 

「始めるぜ……!」

 

 

 

 

 

 

 

疾走を始めた獣の本能

 

その身貫く無数の鋼刃

 

痛みを越えて至る楽土

 

 

アイアンメイデン

 

 

 

 

 

 

 

「藻屑と消えな!」

 

 

 

 

 

 

 

水面が映す我が写し身

 

全を飲み込む大いなる潮流

 

地上の穢れを清め流す

 

 

アクアアバタール

 

 

 

 

 

 

 

「終焉の時間……」

 

 

 

 

 

 

 

果てなく伸びる金色の髪

 

艶やかなる乙女の命

 

天をも貫く塔となれ

 

 

エンタングルブロンド

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ。最終工程に入る」

 

 

 

 

 

 

糸が紡ぎし機人の演舞

 

絡み手繰るは死の運命

 

この戦場こそ我が厨房

 

 

ビートアップアントルメ

 

 

 

 

 

 

 

Vibes(バイブス)上げてくぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

心躍らす煌めきのプリズム

 

聳え立つよう並ぶプリズマ

 

逃れ得ないインプリズン

 

 

プリズムプリズマプリズン

 

 

 

 

 

 

 

「お見せしよう……大輪の花を!」

 

 

 

 

 

 

 

眩き爆炎が咲く絵画を

 

輝く大火が飾る世界を

 

賞し賛えて狂喜せよ

 

 

カーニバルデプスチャージ

 

 

 

 

 

 

 

「終わりにしよう……」

 

 

 

 

 

 

 

運命が紡ぐ一筋の糸

 

我等はその手に結びて辿り

 

鮮血の彼方は手操りて待つ

 

 

レッドラインデッドレイヴ

 

 

 

 

 

 

 

「これぞワシの道ィ!」

 

 

 

 

 

 

 

転遷が生む螺旋の流線

 

降誕双つ混沌の回転

 

仁義の許より向かうは極道

 

 

双稜螺岩穿(ソウリョウラガンセン)

 

 

 

 

 

 

 

「皆に届け……!」

 

 

 

 

 

 

 

我が往くは天下の花道

 

汝に贈るは死出の旅路

 

群衆の鬨よ舞台を満たせ

 

 

ラストナンバー;ファナティクス

 

 

 

 

 

 

 

「スキルスタンバイ……」

 

 

 

 

 

 

 

悲劇の終わりの始まりに

 

深更の幕が下ろされて

 

全ては闇に染められる

 

 

光無き世界(シャットザワールド)

 

 

 

 

 

 

 

「取って置きや……!」

 

 

 

 

 

 

 

夢破れた秩序なき墓

 

鋼の遺物たちが目を覚まし

 

踏み入るものを包み砕く

 

 

グラヴィトンスクラバイター

 

 

 

 

 

 

 

「しょうがねぇ、ここは腹を括るか。えころ! 合わせろ!」

 

「はい! ニコラ様!」

 

「見せてやるよ。(ガン)シューテングってヤツをなぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

胸が高まる領域にて

 

その眼から逃れられる存在無し

 

昇天へと導く極限の早撃ち

 

 

ドキドキフィールド・(ガン)サイトモード

 

 

 

 

 

 

 

「アミカ! 一緒にツーリングと洒落込もうぜ!」

 

『うん! わたしも一緒に行く!』

 

 

 

 

 

 

 

狂騒の宴 翠の双鎌(ソウレン)が閃き踊る

 

その手に抗う術はなく

 

迫る数多の死線に ただ祈れ

 

 

デスプロセッション

 

 

 

 

 

 

 

 後先考えないチカラの開放のSPスキルによる殲滅によって謡精暴龍による召喚速度よりも一時的に上回る事で、私達は遂に攻撃する為に必要な射程圏内へと突入する事に成功する。

 

 それに対して油断してしまったのがいけなかったのか、GVの近くへと一体のゾンビ能力者の接近を許してしまう。

 

 その姿は他のゾンビ能力者と違い鎧を纏っておらず、完全な生身。

 

 それもそうだろう。

 

 彼はGVがゾンビと化した存在だったのだから。

 

 そんなゾンビGVが穢れた蒼き聖剣(スパークカリバー)を突きつけようとした時、デイトナが横からゾンビGVを炎を纏った捨て身の飛び蹴りで引き剝がした。

 

 

「ここまで来て、んな事させる訳ねェだろうが! 燃え上がれ! 俺の脚ィィィィィィ!!!!」

 

「デイトナ!」

 

「オレに構うんじゃねぇGV! そのまま行けぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

揺らめくは太陽宿りし聖剣

 

紅炎の暴虐よ 敵を貫け

 

 

プロミネンスキャリバー

 

 

 

 

 

 

 

 デイトナがGVに対抗する為に編み出したSPスキル「プロミネンスキャリバー」が、奇しくも別世界で生命暴龍の犠牲となったゾンビGVへと炸裂。

 

 太陽のチカラを秘めた脚撃によって、彼は燃え尽き浄化された。

 

 ……燃え尽きるその瞬間、彼の表情が安らかであったのは気のせいで無かったと思いたい。

 

 これで残す障害は生命暴龍のみ。

 

 生命輪廻のチカラをねじ曲がった状態で極限まで成長した生命暴龍を撃破する事はまず不可能と言っても良い。

 

 例外は同じチカラを持ち、ここに居る生命暴龍とは異なる成長を遂げる事が出来たエリーゼのみだ。

 

 故にエリーゼは生命暴龍に対し、同時に謡精暴龍を巻き込む形で左手に持つ黄金の剣を用いたSPスキルを発動させる。

 

 それは生命に終焉を齎すメドゥーサの首の左側から流れる血のチカラ。

 

 絶望に沈む生命暴龍への、せめてもの手向けの鎮魂歌(レクイエム)

 

 

「わたしの持てるチカラの全部をこの剣に! フェムトくん!」

 

「ええ! これで終わらせましょう!」

 

 

 

 

 

 

蛇神の血が命を奪う

 

黄金の剣に絶命のチカラを宿し

 

さあ、今こそ安らかな死を与えん

 

 

レフトブラッドクリューサオール

 

 

 

 

 

 

 

 絶命を齎す血を纏う黄金の剣のグリップを私とエリーゼは一緒に固く握り、ありったけの生命力(ライフエナジー)を込めながら二人一緒に突貫する。

 

 その突撃によって生命暴龍の身体を貫通し、謡精暴龍へと剣を突き立てる事で不死化を解除する事に成功。

 

 私はこの一撃による反動でそのまま気絶してしまったエリーゼを抱え離脱すると同時に、生命暴龍へと視線を向ける。

 

 視線の先には砂となって消えようとしている生命暴龍の姿があった。

 

 ……どのような経緯で彼女がそうなってしまったのかは憶測や想像をする事しか出来ない。

 

 しかし何にせよ、これで彼女は開放された事だろう。

 

 だって、暴龍の姿となっても分かる位、私に向ける視線は安らぎに満ちていたのだから。

 

 ――生命暴龍の消滅を確認した後、私は再び謡精暴龍へと視線を向ける。

 

 不死化を解除された謡精暴龍はボロボロであった身体の痛みを思い出したのか、狂ったように暴れまわっていた。

 

 そんな謡精暴龍へとトドメの一撃を放たんと真にチカラを開放した聖剣を携えたGVが、先と同じように事前に私のEPを受け取っていた紫電が、そんな二人に無限の星読み(アストラルオーダー)の未来を選択するチカラを与えるメビウスが迫る。

 

 この戦いに終わりを告げる一撃を叩き込む為に。

 

 

――――(ちから かす) ―――――――(ふたりとも がんばって)

 

「掌握せよ! 念動力(サイコキネシス)! 友のチカラを束ねた一撃で、この国を安寧へと導け!!」

 

「迸れ! 蒼き雷霆(アームドブルー)! 終止符を齎す導きの雷光で謡精暴龍に、安らかな眠りを!!」

 

 

 

 

 

 

 

那由他の星の海宙より

 

選び手繰りて実と成す

 

昏き幻想のアルカディア

 

 

無限の星詠み(アストラルオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天体の如く揺蕩え 数多の雷

 

我等に至る全てを打ち払い

 

我が盟友に勝利を捧げん

 

 

ライトニングボルテックス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掲げし威信が集うは切先

 

夜天を拓く雷刃極点

 

齎す栄光 聖剣を越えて

 

 

グロリアスストライザー

 

 

 

 

 

 

 

 真なる聖剣はGVによって極限までチカラを引き出された事で剣身から凄まじい蒼き光の柱と呼べる物が形成され、唐竹割りの要領で振り下ろされる。

 

 それに合わせ、私のありったけのEPを再び譲渡された紫電の無数の紫色の雷球が謡精暴龍の周囲に出現し、謡精暴龍にダメージを与えつつ動きを封じる。

 

 光の柱は謡精暴龍を飲み込み、その身を光の柱による電熱で焼かれもだえ苦しむ。

 

 更にダメ押しとばかりにGVは振り下ろした聖剣を腰だめに構え、直接聖剣をその額に突き立て、ありったけのチカラを直接注ぎ込んだ。

 

 

「オォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 GVの咆哮と共に注ぎ込まれるEPエネルギー。

 

 それはこの空間内の龍放射を全て浄化しつつ、同時に謡精暴龍へのトドメの決定打となった。

 

 

「ハァッ、ハァッ……これで、どうだ?」

 

 

 チカラを注ぎつくしたGVは真なる聖剣を消失させ、ゆっくりと後方に下がりながら片膝を地面につける。

 

 流石のGVも、ここまでチカラを出し尽くした為、膝を付いてなおフラフラの状態だ。

 

 紫電はこれまでの陣頭指揮の疲れも重なってしまったのか、意識を失い倒れてしまっている。

 

 メビウスも赤子である為か、浮遊するチカラも残っていないらしく、紫電の倒れている近くの地面に転がってしまっていた。

 

 そして、戦いが終わったのを察したのか、謡精の姿から元に戻ったシアンがGVの元へと駆け寄る姿を私の眼が捉える。

 

 それを切欠に周りを見渡してみれば、他の皆もほぼ例外無く動けない状態になってしまう程にチカラを使い尽くしており、中には完全に大の字になって倒れこんでしまっている者もちらほらといた。

 

 謡精暴龍もそうだが、ゾンビ能力者達も数が多く一体一体が相応に手強かったのだからこうなってしまうのも無理はない。

 

 そして、私自身も例外では無い。

 

 EPはほとんど空で、今も気絶しているエリーゼを男としての見栄による空元気で何とか支えているだけの状態。

 

 もしこれ以上何かあれば、まともに戦えるのは今でも余力を残せているアキュラとロロ位だと思われるが、そんな彼らも倒れてしまっているミチルを介抱している様子から、即座に戦線への復帰は難しい。

 

 とは言え、謡精暴龍がチカラ尽きたのは間違いない。

 

 その巨体の重みの勢いで大きく地面を揺らしながら横たえたのを確認した私は心から安堵し、エリーゼを抱えたままその場で座り込む。

 

 それと同時に、私の意識が急速に閉じようとしている。

 

 私自身、慣れないチカラを使い過ぎたのが原因なのだろう。

 

 そう思いながら意識が閉じようとしている間、現界していたリトルが私に対して意味深な言葉を告げる。

 

 

『……()()()()()()()()()()()()

 

「リトル?」

 

『フェムトと私のこれまでの経験と、決めていた方向性……次の段階(ネクストフェーズ)への条件が、整った』

 

「まさか、このタイミングで?」

 

『ん』

 

 

 目蓋が酷く重く感じる。

 

 リトルが告げている事実は極めて重要な事であると言うのに……

 

 

『大丈夫。ここからは私が頑張る。フェムトはエリーゼと一緒に休んでて』

 

「リトル……」

 

『私ね、とっても嬉しいの。フェムトが示してくれたチカラの方向性は、私に新しい可能性を与えてくれたから』

 

 

 そう言いながら、リトルはエリーゼを抱えたままの私を寝かしつけ、膝を頭に乗せて優しくその小さな手で私の頬を撫でた。

 

 私の顔に、聖母と見間違える程に綺麗な微笑みを向けながら。

 

 私はその心地よさとこれまでの疲れに身を任せ、瞼を閉じた。

 

 次に目覚める時は、どの様な可能性を持ったリトルが新生するのかを想像しながら。

 

 

 

 


サイドストーリー

 

 

 

 

 チカラを使い果たしたボクの傍に、元の姿に戻ったシアンが駆け寄る。

 

 ボクと同じくチカラを使い果たしたのが理由なのか彼女もフラフラで、今にも倒れてしまいそうで危なっかしい。

 

 案の定、少し出っ張った足元の地形に引っかかって倒れそうになってしまう。

 

 でも既にボクの近くまで来ていた為、直ぐに駆け寄り倒れる前に抱き支える事に成功する。

 

 

「あぅ……ゴメンねGV」

 

「大丈夫だよ。この位、何とも無いさ」

 

 

 そう言いながらシアンを抱きかかえつつゆっくりと座り込み、チカラ尽きて倒れ伏した謡精暴龍を見据える。

 

 もう戦いは終わっている筈なのだが、何故か倒れ伏した謡精暴龍から目を離せない。

 

 しかしそれ以上に、ボクの両手に収まるシアンの体温が、ボクを安心させてくれる。

 

 ……何はともあれ戦いは終わり、今回も無事にシアンを守り通す事が出来た。

 

 そんなボクの気持ちに連動しているのか、蒼き雷霆に宿る意思も嬉しそうだ。

 

 思えば遠い所まで来たものだ。

 

 フェムトの提案を飲み、シアンを守る護衛に着き、こんな異空間で世界を賭けた戦いを繰り広げて……

 

 そんな風に物思いにふけっていたら、ボクの視界に収まっている倒れ伏した謡精暴龍の亡骸から少しだけ蒼き光が漏れている事に気が付く。

 

 その光は徐々に大きさを増し、それと同時に猛烈な嫌な予感がボクの脳裏を駆け巡る。

 

 ボクは辺りを見渡す。

 

 皆チカラを使い果たし身動きが取れず、アキュラもミチルの介抱に集中している為か謡精暴龍の異変に気が付いていない。

 

 フェムトはエリーゼと共に倒れ伏し、現界していたリトルも姿を消している。

 

 アミカときりん、そして後方支援をしていた人達も含め、B.Bがチカラを使い果たしてしまった為、リトルと同じように現界出来ない為手を借りられない。

 

 仮にあの蒼き光を放つ存在が敵であった場合、アキュラ達は気絶しているミチルを始め、動けない人達を守らなければならない為、まともに動く事を期待するのはやめた方が良いだろう。

 

 故に、自由に動けるのは実質ボク一人。

 

 

「GV……?」

 

「まだ、終わっていないみたいだ」

 

「そんな……皆もう動けない状態なのに」

 

「今辛うじて動けるのはボクだけだ。だから、シアンは下がっていて」

 

「うん。気を付けてね、GV」

 

 

 本当に、肉体的なダメージが無かったのは不幸中の幸いだった。

 

 枯渇しかけたチカラをかき集め、辛うじて使用出来たチャージングアップを用いて何とか以前の戦い方が出来る位までチカラを取り戻しつつシアンを腕から降ろし、ボクよりも後ろに下がらせる。

 

 ダートリーダーを油断無く構え、今も勢いを増している蒼き光を見据える。

 

 その光は謡精暴龍の亡骸を食いつぶしながら勢いを増しており、それと同時にプレッシャーと呼べる圧力が徐々に強くなっていく。

 

 やがてその蒼き光は謡精暴龍の亡骸を喰い尽くし、異形の人の形へと姿を変える。

 

 

『フ……フハハハハハハ! 遂ニ、遂ニ成シ遂ゲタゾ! 謡精(クイーン)ノチカラト、アストラルオーダーノチカラヲ得ル事ヲ!』

 

「……お前は何者だ?」

 

『ホウ……随分ト懐カシイ姿デハナイカ、ガンヴォルト。ソシテシアンヨ』

 

「わたしの事も……!」

 

「お前はまさか、アキュラが言っていた……!」

 

『アノオールドエイジノ遺物ヲ知ッテイル……ナルホド、私ノシラヌヤツモ、コノ世界(ワールド)ヘト来テイタノカ。イイダロウ、デリートスル前ニ教エテヤロウ。私ハセプティマホルダー全テノ守護者、電人“デマーゼル”ダ』

 

「デマーゼル……アシモフの、もう一つの可能性……!」

 

『始マリハ、オールドエイジノ遺物共ヲデリートシタ時マデ遡ル。ヤツノ持ツ知識カラメビウスノ存在ヲ、可能性世界ノ存在ヲ知ッタ私ハコウ思ッタ、私ノ支配ガ及ンデイナイ世界ハ星ノ数程存在スルト』

 

「…………」

 

『故ニ、可能性世界全テヲ掌握シヨウト行動ヲ開始(スタート)シタノダ』

 

 

 言っている事が目茶苦茶なアシモフ……いや、電人デマーゼルか。

 

 もうヤツからはアシモフであった面影は存在していない。

 

 可能性世界全ての掌握だって?

 

 そんな大それた事、させる訳には行かない!

 

 ボクの気持ちに呼応し、枯渇しかけていた筈の蒼き雷霆に再び熱が戻り、身体から蒼き雷が迸る。

 

 

「その結果、守る筈だった人達を見殺しにしたのか!?」

 

『アレハ完全ナルイレギュラーダッタ。可能性世界ヲ掌握スルニハメビウスト謡精ノチカラガ必要不可欠ダッタ。シカシ、結果トシテ私ハ無敵ノチカラヲ得タ。何モ問題ハ無イ』

 

「問題が無いだって……!? 言っている事が目茶苦茶だ!」

 

『可能性世界ニ点在スル人々ヲ支配スレバ、犠牲トナッタ者達ノ埋メ合ワセハ容易ニ出来ル』

 

「お前の考えは危険だ! 仮に全て上手く行ったとしても、容易に守るべき人々を見捨てるその考えには賛同できない!」

 

『好キニ吠エロ。今更オ前ノ様ナエイジ遅レノセプティマホルダーノ意見ナド、聞クニ値シナイ』

 

 

 デマーゼルはボクに手を翳し、計り知れない程の雷撃を四方八方から同時に浴びせかける。

 

 一撃。

 

 そう、たった一撃でボクは容易く膝を付いてしまう程に追い込まれてしまった。

 

 

「ぐぁっ……!」

 

『同ジ雷撃能力者トシテノセメテモノ情ケダ。アノ時ト同ジ様ニ、長ク痛ミヲ感ジサセヌママデリートシテヤロウ。()()()()()()()()()()

 

「……!!!」

 

 

 あの時と、同じ?

 

 そう思った瞬間、蒼き雷霆から映像が送り込まれる。

 

 アキュラも使っていた漆黒の弾丸を用いたアシモフに撃ち抜かれたボクの姿が。

 

 薄れゆく意識の最中、胸から血を流し崩れ逝くシアンの姿が。

 

 電子の謡精(サイバーディーヴァ)と一つになったシアンが、その身の全てを賭けて倒れたボクを蘇生している姿が。

 

 あぁ……ダメだ。

 

 こんな結末は許されない。

 

 そう思いながら、再び立ち上がろうとしたその時。

 

 

 

――方法はある

 

 

 

 蒼き雷霆から、初めて明確な声が聞こえた。

 

 それと同時にボク自身の体感時間が、デマーゼルがほぼ止まっていると感じてしまう程に加速する。

 

 

 

――それはボク自身が封じているチカラを開放する事だ

 

――だけどそれは、取り返しのつかないリスクを齎す

 

――ボクが消滅しない限り、世界の破滅を覆す事が不可能になると言うリスクを

 

 

 

(……それで、本当に何とかなるのか?)

 

 

 

――目の前に居るデマーゼルと言う存在に勝てる事は、保証するよ

 

 

 

 ボクは改めて考える。

 

 今まで関わり合いになった人達の事を。

 

 紫電の事を。

 

 チームシープスの、フェザーに居る皆の事を。

 

 アキュラの事を。

 

 フェムトの事を。

 

 オウカの事を。

 

 ミチルの事を。

 

 モルフォの事を。

 

 そして、シアンの事を。

 

 ボクは皆を失いたくはない。

 

 例え、ボク自身が犠牲になったとしても!

 

 

 

――分かった

 

――それじゃあ始めよう

 

――ボクとキミとの、記憶の統合を

 

――無限の星読みですら覆せなかった

 

――破滅を齎す、真のチカラの開放を

 

 

 

 蒼き雷霆の持つ記憶が、ボクの中に流れ込んで来る。

 

 アシモフを倒し、モニカさんは泣き崩れ、ジーノに呼び止められる。

 

 ボクと一つになったシアンに対して疑心暗鬼となり、追いつめられるボク自身。

 

 オウカの優しさに触れ、能力者と無能力者だって分かり合える事を知った。

 

 飛天の内部で気絶したミチルと出合うボク。

 

 パンテーラに【ミラーピース】と言う形でバラバラにされてしまったシアンの姿。

 

 エデンとの戦いで徐々にチカラを戻していくシアン。

 

 パンテーラとの決戦を制し、蘇生したミチルと対峙するアキュラの姿。

 

 何とか撃退したアキュラを庇う、ミチルの姿。

 

 町で出会った、記憶を失いボクと関わる事が無くなったミチル。

 

 時は流れ……ボク自身の暴龍のチカラでオウカを傷つけてしまった。

 

 それを理由にオウカと別れ、皇神に投降するボク。

 

 きりんと出合い暴走するチカラに封印が施され、その副作用で犬の姿にされてしまった。

 

 龍放射の影響を受けた能力達を次々と助け出し、【治龍局】はどんどん賑やかになっていった。

 

 【ATEMS(アテムス)】がアマテラスを占拠し、それを開放する為に治龍局メンバーで出撃した。

 

 ZEDΩ.と対峙し、雌雄を決した。

 

 きりんがZEDΩ.達とチカラを合わせ、ボクを、メビウスを封じた。

 

 ボクはその身を赤子へと転じ、過去へと跳んだ。

 

 世界で最初の能力、蒼き雷霆として名を遺した。

 

 そして、そして、そして……

 

 

 

――紫電、キミの言う通りだ

 

――ボクは綺麗事を吐きながら十字架を背負うヒーロー気取りだ

 

――シアンの事を、泣かせる事になるだろう

 

――皆にもきっと、怒られてしまうだろう

 

――だけど、それでも……

 

(――それでも!)

 

(こんなにも綺麗で優しいこの世界を、守り通したいんだ!)

 

 

 

 記憶が統合されたその瞬間、()()()()()()()を、ボクは確かに聞いた。

 

 そして、無限のチカラと形容すべきモノが溢れてくる。

 

 体感時間が元に戻り、溢れ出るチカラと共にボクの姿形が変化する。

 

 身長は伸び、服装とダートリーダーはそれに合わせて再構成。

 

 そして、そんなボクの横にはチカラを使い果たしていた筈のメビウスの姿。

 

 

――――(わたしも、てつだう) ―――――(デマーゼル、きけん)

 

(メビウス!? ……ありがとう。そしてゴメン。またこんなボクに付き合わせてしまって)

 

―――――(だいじょうぶ) ―――――――――(いまは あのときと ちがう)

 

(違う? それは一体……)

 

 

 メビウスはそれ以上は何も答えずに、あの時と同じ様にボクと一体化。

 

 それと同時にボクの背中から蒼く輝くモルフォの翼が広がる。

 

 その様子を見ていたデマーゼルは、驚愕していた。

 

 あり得ない存在を目の当たりにしたかのように。

 

 

『バカナ……何ダソノ姿ハ!? ソノチカラハ!? メビウスノチカラハ兎モ角、貴様ハ謡精ノチカラヲ取リ込ンデ等居ナイ筈!』

 

「お前がそれを知る必要は無い!」

 

「GV……?」

 

 

 不安そうな声で、シアンはボクに語り掛ける。

 

 それはそうだろう。

 

 今のボクは彼女の目の前であり得ない成長をした上で、服装まで再構成してしまっている。

 

 それに背中からモルフォの翼を出しているのだから、どう考えても普通では無い。

 

 だからこそ、ボクは優しく話しかける。

 

 

「シアン……」

 

「ぁ……」

 

 

 ボクがシアンに振り向いた瞬間、彼女の顔はほのかに赤くなる。

 

 ……シアンのこの反応と、これまでのこの世界の出来事と過去の記憶を統合した今、シアンはボクに惹かれていたのだと、この時ボクは初めて把握した。

 

 だけど、ボクは世界を破滅へと導く事を運命づけられた存在へと戻ってしまった。

 

 もう、ボクはシアンの手を取る事は出来ないだろう。

 

 だけど……

 

 

「大丈夫」

 

 

 それでも……

 

 

「シアンはボクが守る。だって、それが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚醒編第四十七話

 

 

大切なキミとの約束(ちかい)なのだから

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇生命暴龍について
本編第三十一話にて示唆したバッドエンドでモザイク込みで名前だけ登場した存在。
大体本編第三十二話で起こった出来事によって暴龍と化したエリーゼその物。
謡精暴龍によって呼び出されたゾンビ能力者達は彼女が使役している存在でもあり、その脅威度は謡精暴龍とタメを張れる程。

〇ゾンビ能力者について
見た目がひび割れた鎧を纏った能力者と言った姿をした生命暴龍の犠牲者達。
世界中の能力者が犠牲となってしまっており、それはGVや紫電も例外では無い。
それらがどんどん出現していた為、急いで謡精暴龍を仕留めなければ戦力差は逆転されていた。

〇ミリオン榴弾砲について
ミリオンイーターで使われている羽虫を着弾点を中心に拡散させる榴弾による火力支援。
純粋な威力の高いブレイジングカノンと違い、こちらは広範囲を腐食させるデバフ的な扱いで運用する。

〇ソングオブディーヴァ トリニティについて
ミチル、シアン、モルフォの三人のチカラを合わせたSPスキル。
広域に謡精の歌(ソングオブディーヴァ)のチカラを機械による増幅無しで拡散させ、大勢の第七波動能力者達のチカラを強化する。

〇雷霆絶爪について
ヒスイのコレダーデュランダルとマザーの【アタックコード:SS(ダブリューエス)】を合わせたような合体SPスキル。
乱れ舞う雷纏う蛇腹剣と絶爪の組み合わせは大軍をもなぎ倒す。

〇楽園氷獄について
ガンヴォルト鎖環からの逆輸入。
本小説では少女姿のパンテーラがテンジアンと組んで発動させている合体SPスキルである為、鎖環の時とは内容が少し異なる。
幻影と氷を使う点は変わらないが、隔離する方向性が強いと言う特徴を持ち、強い拘束力を発揮するSPスキルとなっている。

〇レイジーノイジーフォートレスについて
これも同じくガンヴォルト鎖環からの逆輸入。
内容も鎖環の時とほぼ同じ内容だが、巻き込んでいる規模が違う感じとなっている。

〇ドキドキフィールド・眼ガンサイトモードについて
ニコラ(ホウダイ)とえころの合体SPスキル。
名前と効果は【マイティガンヴォルトバースト】から頂いている。
ギャルがんではリソースを消費して一人の女の子を集中的に狙う時なんかで発動するのだが、それを戦闘用にした物がこのSPスキル。
ニコラ本人が封じていた【フェロモンショット】を解禁できる唯一のSPスキルでもある。

〇デスプロセッションについて
ガンヴォルト鎖環のデスプロセッションが超強化したような感じの合体SPスキル。
名前の変化は無いが、若干詠唱に変化がある。
黒モルフォ(ペスニア)姿のアミカが一緒に居るため、回避難易度は鬼のように高い。
本当は死霊合唱団ネタを拾いたかったんだけどそれが出来るメンツはこの世界に来る頃には全滅していた為ボツとなりました……

〇レフトブラッドクリューサオールについて
メドゥーサの子供であるクリューサオールの持つ黄金の剣に、人の命を奪うメドゥーサの首から流れる左側の血を纏わせた後、突貫する感じのSPスキル。
本来は一人でも使用可能なのだが、生命暴龍の出現に伴い、フェムトもありったけのEPを生命力に変換して注ぎ込むと言う形で参加している為、合体SPスキルと言う感じになっている。

〇ライトニングボルテックスについて
ガンヴォルト鎖環の紫電が蒼き雷霆を開放した時に使ってくるサイコフュージョンとライトニングスフィアを組み合わせたような攻撃方法に名前を付けた感じのSPスキル。
本小説内で使用したクロスヴォルテッカーと同じように、フェムトのEPを借り受けて発動している。

〇フェムトの次の段階について
本編第十二話で示唆されていた物。
条件が整った為、リトルは一時的に眠りに就き、今までの経験とフェムトの示した方向性を元に自身を再構成する段階へと突入する。
GVのソレと名前が一緒だが、方向性が明確に定まっている為、暴走する事は無いと言う設定。

〇デマーゼルについて2
前話での後書きでラスボスラッシュと称していたのに飛ばされていた白き鋼鉄のXに登場するラスボス。
謡精暴龍をこの世界に転移させた元凶でもある為、本小説内では全ての元凶とも称すべき存在でもある。
異物であるアミカを引き剥がしつつ謡精暴龍を食らい尽くした為、青龍GV状態ならばともかく、通常のGVではまるで歯が立たない程に強い。

〇蒼き雷霆の意思について
その正体は無印、爪、鎖環で活躍したガンヴォルト本人。
鎖環のラストバトルにおいて、きりんによって施された強固な封印に身を任せ、巡り巡ってこの世界のGVの能力として生きる事になる。
何気にこの世界の第七波動の多くが意思を持っている原因でもある。
フェムトの存在に希望を見出していたが、今回の話の流れの結果、この世界のGVと記憶の統合を果たし、互いに真に一体化する事で鎖環世界でのラスボス【暴龍の王ガンヴォルト】としてのチカラをこの世界のGVに与えた。
やっと把握する事が出来たシアンの想いと引き換えに。
ここまで来たら絶対にバッドエンドでは終わらせないから安心してくれよな!

〇暴龍の王ガンヴォルトについて
ガンヴォルト鎖環におけるラスボス。
ラスボスラッシュで彼が抜けていたのは「かつてアシモフ(デマーゼル)の魔の手から守れなかったシアンを今後こそ守り抜く」と言うシチュエーションと、「ラスボスvsラスボス」と言うシチュエーションと、無印における「蒼き雷霆vs蒼き雷霆」と言うシチュエーションを合わせたこの場面を書きたかったから。
あらゆる未来を支配しようとするデマーゼルに対し、あらゆる未来を粉砕するGVをぶつけると言うシチュは個人的に凄い好き。書きながらニヤついちゃったの、正直に言うと初めてでした


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第四十八話 支配者(グランドマスター)を圧倒する龍王のチカラ


サイドストーリー

 

 

 

 

 シアンを下がらせたボクは改めてデマーゼル(アシモフ)を見据える。

 

 アシモフとしての肉体は消え、雷撃が人のカタチをしたかのような、歪な姿。

 

 以前アキュラからあの姿は「自らを電脳へと変じた雷撃能力者として最も純化した究極の姿」だと聞いている。

 

 そして、その姿は特殊な真空管の中でしか維持出来ない筈の物だとも。

 

 なる程確かに、限定環境下でしかチカラを発揮出来なかった枷から開放され、謡精のチカラやメビウスのチカラを取り込んだ上で強いチカラを得られたと言うのなら、可能性世界の全てを掌握しようだなんて考えるのはありえそうな話だ。

 

 そう、メビウスに飛ばされた可能性世界で再会したアシモフの事を考えれば。

 

 あの時の彼は誘いを断ったボクと一緒に戦っていたきりんの事を利用する算段があった。

 

 しかも「邪魔なパーツはリムーヴさせてもらう」等とも言っていた。

 

 その戦いが終わった後の言葉から、それらの挑発的な言葉はボクを動かす為のブラフである事は何となく察してはいた。

 

 しかし、あの時ボク達が敗北していたら、ボクの知るきりんはアミカの消えた場所に転がっている麒麟デバイスにされていたであろう事は容易に想像が出来る。

 

 そしてソレが転がっているという事は、ボクの想像がアキュラの居た世界で実際に起こったという事だ。

 

 ……こんな事を仕出かすデマーゼルを、生かしておく訳にはいかない。

 

 ヤツからはもうアシモフでいた時のわずかに残った良心や人間味が消え失せてしまっている。

 

 何としてでも、人間(ヒト)として生きられる命を燃やしてでも倒さなければならない。

 

 今のボクが持つ、世界を破滅させうる強い強制力を持ったチカラを用いて。

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

『ナゼダ……ナゼ今更、ソノヨウナパワーヲ得タ! ソレガアレバ、世界(ワールド)支配(コントロール)スルナド、ベビーノ手を捻ルヨウナモノダトイウノニ!』

 

「このチカラはそんな便利な物じゃない! 破壊する事しか、壊す事しか出来ないチカラだ! 未来を破滅へと導くチカラだ! この世界には不要なチカラだ! だけど、こんなチカラでも使い道はある! デマーゼル! お前を滅ぼすと言う使い道が!」

 

 

 互いにライトニングスフィアを身に纏い、衝突する。

 

 それは一度目のアシモフとの戦いで、ヤツにダートを当てる為にオーバーヒートを狙った雷撃麟同士の衝突による相殺を彷彿とさせる。

 

 あの時は相殺した際互いにオーバーヒートしたが、こちらは謡精(シアン)の加護のお陰で瞬時に回復出来た為優位に立つ事が出来た。

 

 では、今回の場合はどうだろうか?

 

 

『グゥ……一方的(ワンサイド)(プッシュ)されるナド!』

 

「オォォォォォォォ!!!」

 

 

 こちらのチカラが完全に上回り、デマーゼルを一方的に押し返す。

 

 怯んだ隙を突いてフラッシュダートを飛ばしてロックオン。

 

 その後、ライトニングスフィアを再展開しながら放電を叩き込み、突撃しながら畳みかける。

 

 己を雷撃と化して、デマーゼルを通り抜けながらスパークカリバーによる追撃を行いつつ背後を取る。

 

 そのまま聖剣のチカラを開放し、上段から一刀に切り伏せる。

 

 その衝撃は超大型の三日月型の衝撃波となり、地面に雷撃を残しながらデマーゼルを押し込む。

 

 

『マダダ! コノ程度デハ終ワラン!』

 

「この程度で終わるだなんて、ボクも思っちゃいない!」

 

『オォォォォォォォッ! スティンガー!!』

 

 

 デマーゼルはボクが扱う聖剣(スパークカリバー)を自身の周囲に展開し、こちらの放った衝撃波を打ち消す。

 

 そして、そのままこちらに突っ込んで来る。

 

 その気になれば回避する事は難しくないが、ここはあえて受ける選択をボクは取った。

 

 そして、電磁結界(カゲロウ)が発動する。

 

 

『電磁結界ダト!? 我ガ雷撃を無力化シタトデモイウノカ!』

 

 

 本来ならば電磁結界は蒼き雷霆の雷撃を無力化する事は出来ない。

 

 しかし、本来のチカラが開放されたボクの扱う電磁結界はそのルールを容易く覆す。

 

 これは鎖環で出力を制御されていた時でもそうであった為、それが開放されて十全に振るえるようになった以上、こうなる事は必然であった。

 

 デマーゼルの攻撃は悉く無力化されていく。

 

 ライトニングスフィアも。

 

 ヴォルティックチェーンも。

 

 スパークカリバーは愚か、虎の子で放ったであろうグロリアスストライザーも。

 

 とは言え、これ等の攻撃を無力化するのに全く代償を払っていない訳では無い。

 

 明確にチカラは目減りしている。

 

 ただ目減りしている以上に、ボクからチカラが溢れて止まらないだけだ。

 

 

『ナラバ、モットチカラヲ引キ出スマデダ! オォォォォォォォォッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

那由他の星の海宙より

 

選び手繰りて実と成す

 

昏き幻想のアルカディア

 

 

無限の星詠み(アストラルオーダー)

 

 

 

 

 

 

 

 無限の星詠みを解放した事でデマーゼルの雷撃の出力が更に上昇し、その影響からか体の中心部に存在するコア以外の雷の外装を黒く変質させ、雷撃も紫電が扱う物とは違う禍々しい紫色へと変化。

 

 攻撃は更に苛烈さを増し、少なくとも謡精暴龍よりもずっと驚異的な存在であるのは間違いない。

 

 しかしフェムトと同調していた時のボクならばいざ知らず、今のボクが相手では焼け石に水以外の何物でもない。

 

 その姿はもう、ボクから見れば愚かな能力者(ピエロ)であった時よりも滑稽であった。

 

 

『マダダ! マダ、終ワリデハナイ!』

 

 

 

 

 

 

 

蒼き信念は畏怖の導

 

奔る吼雷は終焉の証

 

砕く霆玉こそ万象の裁定

 

 

ヴォルティックチェーンメテオ

 

 

 

 

 

 

 

 デマーゼルは姿を消し、ボク達の居る戦場を数多の鎖が囲み、逃げ場を奪う。

 

 その中央に千切れ跳んだと思しき鎖の破片が球状に集結し、膨大な雷撃が収束。

 

 周囲に雷撃の余波をまき散らしながら、更に鎖が追加され続ける。

 

 それはやがて雷撃で作られた隕石(ミーティア)と形容すべき物へと変わり、デマーゼルの意思を反映して動き出す。

 

 ……このまま電磁結界でやり過ごしても何も問題は無いだろう。

 

 しかし鎖の結界の隙間から見える()()を見て、ボクは考えを改める。

 

 

「フェムト。借りさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

煌めくは雷霆纏いし城塞

 

守護の領域よ 数多に重なり城塞と化せ

 

 

ヴォルティックリージョン

 

 

 

 

 

 

 

 右手を迫りくる雷霆の隕石へと翳し、フェムトの扱うSPスキル「パルスサンクチュアリ」をボクなりにアレンジした雷霆の城塞を展開。

 

 そのまま受け止め、膠着状態へともつれ込む。

 

 集束された雷撃同士の衝突による甲高い音が周囲に響き渡り、周囲に衝撃波をまき散らす。

 

 ボクの足元は攻撃を受け止めた衝撃でひび割れ、少しづつではあるが徐々に押し込まれている。

 

 ボクの作り出した城塞を突破する為に囲いの鎖を消失させてリソースの集束を行う事で雷霆の隕石は勢いを増し、ボクを飲み込もうとする。

 

 そんな状況の中、飛来物が雷霆の隕石へと着弾。

 

 それは着弾と同時に細かく分かれ、雷霆の隕石の周囲を飛び交う。

 

 同時に隕石と雷撃の勢いは減衰し、デマーゼルは驚愕する。

 

 

『ナ……! 鎖環ノチカラダト!』

 

『会えて嬉しいよ。デマーゼル』

 

『きりんだけじゃないわ!』

 

「オレっち達の事、忘れて貰っちゃ困るぜ」

 

 

 そこに居たのはチカラをギリギリまで振り絞っているB.Bと、現界しているきりんとアミカ。

 

 彼らはここに居るデマーゼルの居た世界の、最後の生き残りだ。

 

 ヤツを見る三人の視線は憤怒や怨念等と言う言葉では到底表現できそうもない程に壮絶で、何が何でも仕留めようと言う意思をボクは感じた。

 

 故に、彼らのお膳立てをしようと現在進行形でこちらに突っ込んでいるデマーゼルをヴォルティックチェーンを用いて拘束する。

 

 

『キ……貴様ラ……! グァッ! コレハ、GVノ……!』

 

「ボクが動きを拘束する。トドメは任せた」

 

『ありがとGV。さてと……ホントアンタって、横から掻っ攫うの大好きだよね。イクスの時も、わたしの時もそうだったけど。ま、そっくりそのままお返しさせて貰ったよ。

……………………………裏八雲の、皆の仇!』

 

『嘗てのわたしだったミチルの恨み……』

 

「シロン、レクサス、カミオム……オレっちの仲間が受けた苦痛と絶望を、全部纏めて受けて貰うぜデマーゼル!!!」

 

『何故動ケル! オ前達ハ先ノ戦イデチカラヲ使イ果タシタ筈!』

 

「生憎こちとら誰かさんのお陰で、超ヤベー極限状態で動くのは慣れてるんでなぁ!」

 

『行くよ二人共! わたしの動きに合わせて!』

 

『分かったわきりん!』

 

「任せな! さあ、地獄へ落ちやがれ! デマーゼル!」

 

 

 

 

 

 

 

織り連ねしは漆黒の軌跡

 

因業断ち切る禍威剣閃

 

戦巫女、死神、龍の巫女が刃の怨念

 

 

零式・朧村正

 

 

 

 

 

 

 

 三人の持つありったけの想いを乗せた数多の因業を断ち切る漆黒の剣閃がデマーゼルを捉える。

 

 しかし、ヤツが謡精暴龍を取り込んだ事もあり仕留めきれない。

 

 

『まだ動けるの!? でもまだ……!』

 

『マダ倒レン! ココデ、デッドエンドスル訳ニハ……!』

 

 

 彼らはもう完全にチカラを出し尽くしてしまっている。

 

 トドメを譲れなかったのは残念だが、仕方が無い。

 

 ボクのこの手で、ヤツを終わらせる。

 

 それに同調する形で、メビウスがボクにチカラを貸してくれた。

 

 

「いや、これで終わりにさせて貰う!」

 

――――――(これで おわり)

 

 

 

 

 

 

 

殺戮 選択 破滅 覚醒

 

犠牲 堕天 未来 輪廻

 

————————拒絶する

 

 

VVVVVVVV(オクテスヴェトー)

 

 

 

 

 

 

 

 両手でボクのおさげと直結したダートリーダーを構え、その銃口を中心に雷撃を収束。

 

 そのチカラの高まりに合わせ、ボクの背中にあるモルフォの翼は大型化し、虹色に輝く。

 

 既にボクの鎖で拘束されているデマーゼルに対し、再びダメ押しの護符による封印が重なった事を確認した後に、トリガーを引き絞る。

 

 放射された雷撃は収束に収束を重ねた結果、あり得ない規模の荷電粒子砲と形容すべきエネルギーの奔流へと変化し、断末魔をあげるデマーゼルを完全に飲み込み、この不可思議な空間の一部に大穴を空けた。

 

 やがてエネルギーの奔流は収まり、辺りに静寂が訪れる。

 

 ダートリーダーの銃身は収束した雷撃の余波に巻き込まれて完全に消失し、残っているのはグリップとトリガーの部分のみと言う有様だ。

 

 ……ヤツの放つ禍々しい波動は完全に消え失せている。

 

 戦いは終わった。

 

 デマーゼルの完全消滅を以って。

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 

 デマーゼルの消滅を確認したのか、本当の意味でチカラを使い果たしたB.Bはその場に座り込んでしまう。

 

 それと同時にきりんとアミカは再び消失し、彼だけが取り残される。

 

 頭を俯かせていた為その表情は見えなかったが、地面に落ちる涙と嗚咽から、ボクは察する。

 

 彼の世界の詳細はあまり詳しく聞いていなかったが、先の台詞から察するに、B.Bは向こうの世界でもシロン達とは仲間で、デマーゼルはそんな彼らの仇だったのだろう。

 

 今はそっとしておくのが正解だと判断して彼の傍を離れ、倒れていた人達の安全を確保し終わり、シアンにミチルの介抱を任せていたアキュラへと近づく。

 

 アキュラは今のボクの尋常じゃない様子から警戒しつつもこちらへと同じように近づいてくる。

 

 

「……終わったのか?」

 

「デマーゼルは滅びた。今度こそ、跡形も無く」

 

「そうか」

 

「……アキュラ、頼みがある」

 

「なんだ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。多分キミの事だから、保険としてその手の手段を用意しているだろう?」

 

「ちょっと待ってGV、何を言ってるの!」

 

 

 ミチルの介抱をしながら話を聞いていたシアンの声が木霊する。

 

 何故その様な事をする必要があるのかと言う疑問を出しながら。

 

 

「今のボクがどう言う状態なのか、キミなら良く分かる筈だ」

 

「…………」

 

「ぇ……GV?」

 

『……GVから観測されるエネルギーは今も尚上昇を続けてる。このままだとボク達にも危険が及ぶ可能性がある位に』

 

「そんな……そ、そうだ! フェムトくんが居る! 彼ならGVの暴走何て止めてくれる筈!」

 

「残念だが、今のヤツのチカラを御する事は不可能だろう」

 

「……嫌。嫌だよGV! こんなに沢山頑張ったのに、追放だなんて! それにどうして、こんな危険なチカラの解放なんてしたの!?」

 

「……済まないシアン、あの時のデマーゼルと戦うにはこうするしか手が無かった」

 

 

 こうして会話を続けている間も際限なくチカラが高まり続ける。

 

 今はまだボクの中に居るメビウスが抑えてくれているから何とかなっているが、もう間もなくボクの知るきりんと対峙していた時の状態に陥ってしまうだろう。

 

 それも、あの時以上に高められたチカラによって。

 

 

「やだよGV! わたしを置いて行かないで!」

 

「シアン……! ダメだ! こっちに来ては……ぐぁっ!」

 

 

 シアンがボクに駆け寄ったそのタイミングで、限界は訪れた。

 

 ボクから迸る暴走する雷撃がシアンへと迫る。

 

 それを読んでいたかのようにアキュラが間に入り込み、その手に持つ盾で受け止める。

 

 

「限界か」

 

「どうやら、そうみたいだ……」

 

 

 膝を付き、ボクはメビウスの制御から漏れて荒れ狂うチカラの制御に専念する。

 

 顔を上げ、シアンの顔を僕は見る。

 

 目頭に涙を溜め心の底から悲しそうな表情をボクの視界は捉える。

 

 ……確かにボクはシアンを守る事は出来た。

 

 しかし、彼女の心を守る事は出来なかったようだ。

 

 彼女の想いを知りながら、居なくなろうとしているボクは最低だ。

 

 しかしもう、こうするしか世界を救う方法は無い。

 

 頼みの綱の鎖環を扱えるきりんもB.Bがチカラを使い果たして燃え尽きてしまっている為、姿を現す事が出来ない。

 

 その上、あの時ボクを封じる事が出来たのはZEDΩ.と彼の歌姫のチカラも合わせていたのもある。

 

 代わりとなり得るシアン達もチカラを使い果たしている以上、本当にどうしようもないのだ。

 

 

「アキュラ……頼む。まだボクの、理性が、残っている内に……!」

 

 

 アキュラは目を瞑りながら悔しそうな表情をにじませた。

 

 やがて決心したのかボクの懇願を聞き、その手に持つ複雑な銃の様な物から緑色の光が溢れる。

 

 そして、そのチカラがボクに向かって放たれようとしたその時、彼の表情に変化が現れた。

 

 

何……メビウス? ……時間を稼げだと? ……そうだな。悲劇にはもううんざりしていた所だ

 

「……アキュラ?」

 

 

 最初は困惑していたその表情は、やがて新たに決意を固めた表情へと変化し、戦っている最中の鋭い視線をボクへと向ける。

 

 それはまるで、何かを確信したかのように。

 

 

「生憎だが、お前の頼みを聞く訳にはいかない」

 

「な……!」

 

『あ、アキュラくん!?』

 

「メビウスがオレに語り掛けて来た。『漸く見つけ出す事が出来た』と」

 

 

 見つけ出す?

 

 それは一体……

 

 そう思った矢先、この空間の入り口からいつか見た覚えのある戦車(リトルマンティス)が足についているローラーダッシュを用いて侵入してきた。

 

 その肩にはジーノが乗っており、真っ直ぐこちらに迫って来る。

 

 やがてその戦車は倒れているフェムトの傍で止まり、中からアメノウキハシで事後処理をしていた筈のアシモフが降りて来る。

 

 

「アシ……モフ」

 

「遅くなって済まなかった。状況を説明して欲しい」

 

「……時間が余り無いから手身近に話す。今ヤツはチカラの暴走を引き起こそうとしている」

 

「マジかよ! って言うか、GV背が伸びてねぇか?」

 

《本当ね。これも蒼き雷霆のチカラの一端なのかしら?》

 

「これを何とかするにはある程度時間を稼ぐ必要がある。……手を貸してもらうぞ、アシモフ」

 

「良いだろうデンジャラスボーイ。お前と手を組めばオーガにバットだからな。それに暴走する辛さを、私はよく知っている。……例え違う(ロード)を往こうと、GVは私達チームシープスの仲間であり家族だ」

 

「そう言うこった! ここで見捨てたとあっちゃあ後味悪すぎだからな!」

 

《それはそうと、シアンちゃんを泣かせた罰は、後できっちり受けて貰うつもりよ。……だからGV、貴方は私達が必ず何とかするわ》

 

「アシモフ……ジーノ……モニカさん……!」

 

「……行くぞ、ロロ」

 

『OKアキュラくん!』

 

「自分のチカラに負けないで! GV!」

 

「アキュラ……ロロ……シアン……!」

 

 

 そして遂にチカラの高まりはボクの制御からも離れ始め、身体があの時の様に勝手に動き出す。

 

 目の前に居る彼らを殲滅せんが為に。

 

 ボクの望まぬ戦意を感じ取った皆はそれぞれ戦闘態勢へと移行する。

 

 アシモフが今ではもう役目を終えている【雷霆のグラス】を外し、蒼き雷霆のチカラを開放。

 

 ジーノはシアンを避難させ、倒れている仲間達の直衛に入る。

 

 アキュラはロロをモード・ヴァルキュリアへの変身を指示し、身構える。

 

 そうして戦いは始まった。

 

 ボクを倒す為の戦いでは無く、助ける為の戦いが。

 

 

 

 

READY


 

 

 

 

「これは……出し惜しみ(ステンジィー)等してはいられ無いか! オォォォォォォォォォッ!」

 

 

 

 

 

 

理越えし蒼き福音

 

我が(いなな)きにて神代を標さん

 

創世総壊、雷の徒たれ

 

 

アンリミテッドヴォルト

 

 

 

 

 

 

 

 アシモフは開幕から自身のチカラを開放し、ボクに対して雷撃麟を展開しながらの突進を慣行。

 

 ボクはそれの直撃を受ける。

 

 デマーゼルとの戦いでは何も遠慮せずにチカラの解放をしていたから電磁結界が発動していたが、今ボクは全力でチカラを抑えに回っている為、発動が抑制されている。

 

 しかし、この状態も長くは続かないだろう。

 

 

『ハイドロザッパー!』

 

「ダメ元だが……!」

 

 

 ロロのビットから特殊な電解質を持った超高水圧が、アキュラの盾にマウントされていた銃から漆黒の弾丸(グリードスナッチャー)が放たれる。

 

 これら二つの武装はそれぞれ蒼き雷霆に対して高い効果を発揮する。

 

 但し、チカラを開放する前の話になってしまうが。

 

 

『嘘! 着弾する前に蒸発しちゃうなんて!』

 

「こちらも同じ結果とはな」

 

「正に焼石(ホットストーン)(ウォーター)と言った所か……!」

 

 

 超高水圧は着弾前にボクのチカラの余波で電気分解されつくし、漆黒の弾丸も同じようにボクに到達する前に消失。

 

 ボクの知るきりんのイマージュパルスでの漆黒の弾丸の時は直撃させて時間稼ぎする事も可能だったのだが、今はその時以上にチカラが高まっている為どうしようもない。

 

 そんなボクの思考とは関係無くボクの身体は勝手に動き出し、アキュラ達に複数のグロリアスストライザーを蒼き雷撃の軌跡を残しながら飛ばすと言う暴挙に出る。

 

 それに対してアキュラ達はそれぞれ回避に専念する事で避けてくれているが、それが何時まで続くかは未知数だ。

 

 

「アキュラ! 今からでも間に合う! ボクを飛ばすんだ!」

 

「断る。非常に気に喰わないが、貴様を飛ばすとミチルが悲しむからな」

 

「なっ!? アキュラ、キミは……!」

 

「世界と妹の気持ちを天秤にかけるつもりかと言いたげだな」

 

『GV? アキュラくんはね、勝算が無きゃこんな事しないんだよ』

 

「そういう訳だ。分かったら気合を入れてチカラを抑えろ。ミチルを泣かせる気か」

 

「全く……キミと言う人は! 以前は悪鬼羅刹だの、神の摂理に背くだの言っていただろうに!」

 

「随分と昔の事を掘り出してくれるな」

 

『昔のアキュラくんはそうだったよねぇ~』

 

「……いや待て、何故その事を言いだす? お前には話していない筈だ」

 

「蒼き雷霆の意思と記憶を統合して知ったんだ!」

 

「なるほど、ソイツはオレの知るヤツ(ガンヴォルト)と極めて近い存在らしいな」

 

「話を戻すけど、エデンとの戦いが終わった時なんてキミはボクに対して八つ当たりをするし、挙句の果てにシアンを守れなかったボクに『ハミングでも口ずさんでいるんだな』と来た! 今だから言うけど、アレは本当に腹立たしかったんだ!」

 

『えぇ……アキュラくん、それはちょっとヒドくない?』

 

「待て! 流石に身に覚えが無いぞ! お前のその話はここに居るオレの事ではあるまい!」

 

 

 統合した記憶を元にした言い争いのお陰か、図らずともチカラの抑制が強まり、ほんの少しだけ動きを鈍らせる事に成功する。

 

 その機を逃さずにアシモフはボクを拘束する為にヴォルティックチェーンを発動。

 

 ボクの動きを一時的に拘束する事に成功する。

 

 

「くっ! アシモフ……!」

 

クロゥティー(残酷な)ボーイ! 後どの位持たせればいい!?」

 

「もう少しの筈だ!」

 

「ならば今ある私のチカラ、全て引き出す! 行くぞ、GV!」

 

 

 

 

 

 

 

万象統べし蒼雷よ

 

我が憤激の楔となりて

 

愚かなる運命を抹消せよ

 

 

ヴォルテクスレイジ

 

 

 

 

 

 

 

 アシモフが持てるチカラを全て解放し、更に強い拘束力を持った鎖でボクを拘束。

 

 その後、複数のライトニングスフィアを始め、スパークカリバーからグロリアスストライザーの連撃を叩き込み、最後に全身に収束させた雷撃をボクに叩きつける。

 

 それと合わせ、アキュラも動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

集う、集う、光が集う

 

龍を救う為の輝きが集う

 

雷霆の心臓より供給される調律の閃光 今ここに

 

 

ハートブレイザーフォーカス

 

 

 

 

 

 

 

 アキュラの前方に円陣を組んだビットが回転しながら集結し、チカラが収束される。

 

 それを中心にアキュラが銃を構え、引き金を引く。

 

 そこからはアミカとの戦いの時よりも収束された光がボクに向かって放たれる。

 

 その光はフェムトの持つ青き交流を模倣したチカラが込められており、それはボクが行っているチカラの抑制を大いに助ける一助となった。

 

 そんな中、アシモフが声を上げる。

 

 

「ニコラ! 何時までダウンしているつもりだ! いい加減ウェイクアップしないか!」

 

「……全く、おっさんをこき使いやがって……!」

 

「こんな時ばかりオールドする(老けこむ)のは感心しないな。ニコラ!」

 

「んだとぉ!? 舐めんな! オレはまだジジイじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

我が舞うは雷の舞

 

大地を潤す煌めく稲妻

 

春雷よ 冬を切り裂き春を告げろ

 

 

雷撃扇(らいげきせん) 冬裂春雷(とうれつしゅんらい)

 

 

 

 

 

 

 

 アシモフが発破を掛けた事で戦線に復帰したニコラが放つのは第七波動では無い別の波動を用いたSPスキル。

 

 それはかつてこの世界のアシモフの暴走を抑制するのに使われた物だとボクは聞かされている。

 

 実際、この舞から放たれる温かな雷は更にボクのチカラの抑制に成功……したかに思えた。

 

 

 

 

CLEAR


 

 

 

 

 しかし度重なる抑制が原因なのか、ボクの中に眠るチカラがそれに対抗する為にボクの意思とは関係無く唸りを上げ、彼らの決死の抑制が全て解き放たれてしまう。

 

 それに気が付いたボクは即座に声を上げたが、突発的だったのと大技を放った後だった事もあり、皆はこのチカラの解放に対応しきれなかった。

 

 

「皆逃げろ! グァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「何!?」

 

『うわぁ!?』

 

「かはっ!?」

 

「マズ……!」

 

 

 この雷撃の衝撃によってアキュラは盾を全損し、アーマーも半壊。

 

 ロロはSPスキルの際に背中にドッキングしていた為奇跡的に本体は無傷だが、ビットは全損。

 

 アシモフは咄嗟に自身の雷撃を防御に回したが、アキュラと同じようにボクの雷撃の直撃を受けてダウン。

 

 ニコラは辛うじて受け流す事に成功したらしいが、その代償として手に持つ鉄扇が解け落ちてしまっている。

 

 実質壊滅状態に陥ってしまった彼らを後目に、ボクは何とか荒れ狂うチカラの暴走がシアン達の元へと届かぬよう必死だった。

 

 しかしボクの努力は虚しく届かず、いよいよシアンに雷撃が触れるその瞬間。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

(な!?)

 

―――――――(よかった まにあった)

 

(間に合った?)

 

――――――――――(めを さました ちょうりつの ちから)

 

(調律のチカラ……まさか!)

 

 

 辛うじて動かせたボクの眼は、起き上がったフェムトを捉えた。

 

 彼はアシモフがここまで来た時の脚として使っていた戦車の上に、いつかの時と同じ姿勢でこちらを見据えていた。

 

 その姿は完全にきりんの衣装の色違いの姿となっており、その手には麒麟デバイスでもある錫杖型の仕込み刀があった。

 

 フェムトが使っていた鉄扇は、リトルが扱っていた鉄扇と合わせて彼の周囲をX字に回りながら防御結界らしき物を形成し、彼を守っている。

 

 そして、彼の背後に飛んでいる電子の踊精(サイバージーン)の歌姫の衣装に近い恰好をしているリトルも彼と同じ様にこちらを見据える。

 

 この構図はZEDΩ.(ジエド)達がきりんにチカラを貸した時と相似していた。

 

 ……彼のチカラは以前の時と比べて確かに増しているが、単純な出力は相も変わらずこちらが圧倒しているのは変わらない。

 

 しかしアキュラ達が、メビウスが彼が目覚めるのを待っていた事には意味がある。

 

 そう信じ、ボクは再び彼と対峙したのであった。

 

 この世界で初めて彼と出会った時の事を思い出しながら。

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇STRIKの色の変化について
今のGVの記憶と蒼き雷霆の意思(原作のガンヴォルト)の記憶が統合した事で最新作の鎖環世界線と合流した事で変化。
本格的に鎖環GVとしても振舞うようになった事を表している。

〇世界を破滅させるチカラについて
鎖環のトゥルーEDの追加演出にて、「GVが生きている限り、世界の破滅は免れない」と言う因果を主軸とした物。
ソレによる運命の強制力は相当で、あの無限の星読みですら破滅していない未来を選べなかった程。

〇ライトニングスフィア同士の相殺について
鎖環で追加されたアシモフ戦で実はライトニングスフィアを纏ったアシモフの突進を同じくGVのライトニングスフィアでの相殺が無印の時の雷撃麟相殺と同じ感覚で出来る事から描写に採用しました。
それ以外に鎖環でアシモフが実装された影響を沢山散りばめていたりします。

〇デマーゼルの雷撃を電磁結界で回避した件について
これは鎖環GVの被弾時の演出をそのまま持ってきた感じで、GV操作時はどんな攻撃も電磁結界で回避できる所を描写した感じです。

〇ヴォルティックリージョンについて
GVがフェムトのパルスサンクチュアリを参考に自身の雷撃で再現したSPスキル。
フェムトの物とは違って退魔のチカラは無いが、その分より強固な城塞として機能するようになっている。

〇零式・朧村正について
きりん、アミカ、B.Bの終末世界における生き残りである三人がチカラを合わせたSPスキル。
彼等の様々な言葉では表せない程の強く暗い感情を乗せて叩きつけられる奥義。
零式なのは裏八雲に存在しない奥義であると言う意味でもある。
名前の元ネタは和風アクションゲームの【朧村正】から取っています

VVVVVVVV(オクテスヴェトー)について
プレイヤー操作である為、ラスボス時とは少しアレンジした形に内容を変更している。
主に広範囲に雷撃をまき散らす部分をおさげとダートリーダーを接続できる設定も合わせてゾイドシリーズに出て来る荷電粒子砲をもっと凄くした感じへと変更している。

〇ハートブレイザーフォーカスについて
フェムトのチカラを模倣した閃光を放つハートブレイザーの派生SPスキル。
集束率がより高く設定されており、より効率よくGVにチカラを投射する。
しかしフェムトのチカラの模倣であると言う点から、暴走したGVに対しては時間稼ぎ程度しか出来ない。


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第四十九話 雷霆に届けるは言葉と雷撃(コトバ)

 

 

 

 

 心地よい微睡の中。

 

 真っ暗闇の空間内に私は居た。

 

 身体は動かず、それでいて意識が朧気で、夢であると言われれば先ずそうだろうと断定する程に良く分からない状況。

 

 そんな中、少し離れた位置から一筋の光が漏れ出し、そこから何やら映像の様な物が映し出される。

 

 そこに映し出されたのは膝を付いているGVの姿。

 

 但し私の知るGVよりも背が高くなっており、背中にモルフォの翼を纏った姿をしている。

 

 その空間内は黄色を基調とした大広間となっており、所々激しい戦闘痕らしきものが多く存在しており、実際に激しい戦闘があった事を物語っている。

 

 そして、この映像にはGV以外にもう二人程の少女達の姿が映し出されていた。

 

 一人は謡精暴龍との決戦前に合流した少女であるきりん。

 

 そしてもう一人は、背中に暴龍ZEDΩ.(ジエド)が背負っていた紋章の様な物を背中に纏った妖艶な踊り子の姿をした名前も知らない少女。

 

 GVは苦しそうに身を屈め、きりんはそんな彼に対して鎖環(ギブス)のチカラをこれでもかと集中させたお札を投げつける。

 

 その瞬間、映像が切り替わった。

 

 そこはGVとメビウスだけが存在する精神世界と呼ぶべき空間。

 

 二人はそんな摩訶不思議な場所で、会話を交わしていた。

 

 

『……? これは……!? 無限の星読み(アストラルオーダー)のチカラがボクに流れ込んで来る!?』

 

――――――(せかい はめつ ちかい)

 

『そうか……キミがボクに視せた破滅の運命は、もうそんな間近にまで迫っていたのか。……キミはただ、この世界を守りたかっただけなんだね。無限の星読みと共にボクが命を絶てば、破滅の未来を回避できる。そう考えていたけれど……人に生きる事を訴えて来たボクが、自分の命を諦めるなんて、許されない』

 

 

 この映像は一体何なのか?

 

 朧気だった意識がいつの間にかこの映像についての考察まで出来る位回復しており、私はそのまま食い入る様に映像を見る。

 

 

『それに、もしここで諦めていたら……ボク自身が、きりんに影を落とす事になる。彼女に希望を、世界を繋いでもらう為には……』

 

――――――――(のばす おくる チカラ あわせる)

 

『延ばして、先送りして、みんなで協力して変えていく……か。メビウスが視せた未来、「今の姿のボク」が引き起こす破滅であるならば……()()()()()()()()()()()()()()()()。それが、今のボクに出来る限界。……きりん。キミに出会って、ボクは本当に救われた。……ありがとう。でもごめん。結果として大変な役割を押し付ける事になってしまうけど、この世界を、未来を、キミ達に託したい』

 

 

 GVが、世界を破滅させる?

 

 一体、何が原因でそんな事に?

 

 

『いつかまた、必ず破滅の未来が訪れる。でも、キミや治龍局の皆なら、きっとより良い答えを見つけられる筈だ。……また、キミに会えるといいな』

 

 

 GVは目を瞑り、とても苦しそうな表情で沈黙する。

 

 何かしらの迷いを、未練を断ち切っているのだろうか?

 

 

『ボクはまだ、そこへ行く訳にはいかない。――チカラを貸してくれ、メビウス! 迸れ! 蒼き雷霆よ(アームドブルー)! そして、無限の星読みよ(アストラルオーダー)! 我が運命(すがた)の定めを覆せ!!』

 

 

 GVのこの言葉を最後に、映像は先ほどの戦闘痕の激しい空間へと戻る。

 

 彼は青白く光り輝き、きりんはその様子を見て困惑を隠せない。

 

 そして、光の収縮と共にGVの身体も大人から子供、子供から赤子へと姿を変えて……天高く、舞い上がった。

 

 映像はそんなGVを付きっ切りで追いかけ続け、成層圏を越え、周回軌道を越え、宇宙を越え……やがて、深いジャングルの奥地と表現すればよい程の鬱蒼とした森に着陸する。

 

 しばらく月日が流れ、彼はこの世界において最初の第七波動能力者として歴史に名を残す事となった。

 

 そこで映像が一度途切れ、今度はとある研究施設で被験者となっている幼いGVらしき姿が映し出される。

 

 非道な人体実験が繰り返され、彼は日に日に疲弊していく。

 

 ……この研究施設には、身に覚えがあった。

 

 ここは私も居た研究施設。

 

 つまり、皇神の持つ研究施設だ。

 

 但し、まだ非道な実験をしていた頃の。

 

 

『うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

 

 幼いGVの悲鳴が木霊する。

 

 この映像にも見覚えがあった。

 

 この実験は初めて私がGVを目撃した時に行われた時の物だ。

 

 しかし、この映像には()()()()()()()()()()()()

 

 たまたま死角になって映っていないのか、或いは……

 

 そんな風に考えている内に、映像は彼がアシモフに救出される場面を映し出す。

 

 そして、アシモフから彼は『ガンヴォルト』と名付けられ、やがて彼の所属するフェザーでも有数の能力者として蒼き雷霆の名を轟かせる事となる。

 

 その後、GVはシアンとの運命の出会いを果たし、フェザーを脱退する。

 

 しかしやはりと言うべきか、シアンを連れてその場から立ち去る場面では私の姿は無かったし、エリーゼの暴走を引き起こした大爆発は起こらなかった。

 

 それから約半年の月日が流れ、そこからGVは傭兵稼業を本格化させる。

 

 その先の光景は、私から見れば辛い物だった。

 

 今ではすっかり打ち解けて軽口すら叩けるようになっていたデイトナ達との、壮絶な殺し合いの映像が映し出されたからだ。

 

 イオタが、カレラが、メラクが、デイトナが、ストラトスさんが……エリーゼが、次々と倒されていく光景は本当に心に来た。

 

 その合間の出来事でパンテーラと戦うのかと思ったら彼女は倒され、アキュラとの戦闘になった時は驚いた。

 

 その時のアキュラは以前紫電の語っていた通りの人物像で、正しく復讐に燃える、こちらの聞く耳を持たない存在であった。

 

 これほどの鮮烈な印象を持ったアキュラが、私の知る今のアキュラに落ち着くと言うのが、正直な話になるがとても想像が出来ない。

 

 そうして暫くの月日が経ち、シアンはエリーゼの蘇生によって復活したメラクに連れ攫われ、GVはチームシープスと合流し、救出を決断。

 

 そのまま起動エレベーター【アメノサカホコ】へと乗り込み、復活したメラク達を撃破し、アキュラを撃退し、遂に紫電を手にかけてしまう。

 

 その後、GVはシアンを救出した後に脱出しようとした際に合流したアシモフの誘いを断り……GVとシアンは彼が持っていたアキュラの銃によって撃たれてしまう。

 

 GVは瀕死の重傷で、シアンは即死。

 

 この時、モルフォと意識を統合した電脳体となったシアンがGVと一つになる事で瀕死だった彼を蘇生する。

 

 その姿はあの時の、デイトナ、イオタ、メラクの三人で一度GVを追いつめた時に見せたオーラを纏った物だった。

 

 アシモフを追う道中で遭遇したカレラを撃破し、シアンを殺されて復讐鬼と化したGVによってアシモフは倒され、彼はそのまま仲間の静止を聞く事も無く立ち去ってしまう。

 

 この映像と共に映し出される画面にヒビが出現し、亀裂が発生した。

 

 ……この亀裂やヒビも、何か意味があるのだろうか?

 

 私は映像にヒビが入ったタイミングを頭の片隅に入れ、映し出される映像に集中する。

 

 画面は切り替わり、今度は街外れにある裏通りでGVがオウカを救出している場面を映し出す。

 

 この時のGVはパッと見ただけでも分かる程に心身共に限界に達していたが、この時助けたオウカの献身によって何とか立ち直る事が出来た様だ。

 

 しかし、立ち直っている合間にオウカと似たような経緯で助けた海外のフェザーに所属していたとされる青髪の少年【シャオ】から、新たな戦いを告げるミッションが齎された。

 

 その過程で私達が移動拠点として使っていた飛天へと潜入し、そこで彼は気絶しているミチルを発見し、保護する。

 

 そこまでは良かったのだが、この後色々あってシアンのチカラがパンテーラの手によってミラーピースと言う形でエデンの手に渡ってしまう。

 

 それを何とかする為にGVは各地に潜んでいるエデンの構成員達を撃破し、シアンのチカラを取り戻していく。

 

 その過程でエデンの拠点であるベラデンの存在を突き止め、乗り込んだ。

 

 拠点である以上戦いは激しさを増し、GVは傷つきながらも突き進む。

 

 そして、遂に最後のミラーピースを集めきり、後はパンテーラを撃破するだけの状況となった。

 

 だが、ミチルが本来の電子の謡精の持ち主である事を利用してGVからシアンを引き剥がし、彼女を普遍化(ノーマライズ)する事で取り込み、パンテーラは新たなチカラ「夢想境(ワンダーランド)」へと覚醒する。

 

 窮地に追い込まれるGVだったが、GVの中にも歌はある事をシアンが語り掛け、それに応える形でGVが歌を歌う事で窮地を脱出し、最終的にパンテーラを撃破。

 

 戦いは終わり、シアンは消え、残されたのは冷たい体となったミチルのみ。

 

 そんな状況下で遅れてやってきたアキュラは、この状況を見てGVに八つ当たりと言う名の戦いを仕掛けた。

 

 この戦いも当然GVが勝利するが、アキュラの撃破に呼応したミチルが彼を歌のチカラで蘇生、パワーアップさせる。

 

 

『感じるぞ。……これは、ミチルの力。オレに味方してくれている。……ミチルはオレに貴様を倒せと言っている!』

 

『そんな……バカなことが……』

 

『現に謡精はオレに歌いかけている! 貴様は独り寂しく、ハミングでも口ずさんでいるんだな!』

 

 

 私から見てもあまりにも酷すぎる言葉を投げかけられたGV。

 

 それでも何とかアキュラを撃破し、彼に歩み寄ろうと近づくが、それをミチルが阻む。

 

 そんな彼女にGVは語り掛けるが、彼女は徐々に言葉を詰まらせる。

 

 そして、GVは彼女の言葉から記憶を失っている事を、そしてシアンは彼女と一つになった事を察し、アキュラに彼女を託してその場を後にした。

 

 この映像が終わる瞬間、またしても亀裂が生じ、ビビが大きくなった。

 

 その後、オウカと出かけていた私服姿のGVは街中でミチルと再会する。

 

 彼女はGVの事をどこかで会った事があるのではと語り掛けるが、GVは気のせいだよと言い、彼女と別れた。

 

 その後、オウカとの少しだけの穏やかな時間と、激化する戦いの時間を行ったり来たりする映像が映し出される。

 

 ミチルが魔法少女の姿になっていたり、GVがこの時代に合わない侍の男と共闘したりする事もあった。

 

 そして、そんな戦いが終わる度にヒビが入る事に朧気ながらに分かって来たタイミングで、それは起こった。

 

 GVから荒れ狂うチカラが溢れ出し、それがオウカを傷つけてしまったのだ。

 

 そして、この映像と共に画面は完全に砕けちり、何も映し出さなくなった細かい破片らしき物が私の足元に残った。

 

 これで終わりなのかと思ったその矢先、またしても映像が出現する。

 

 その場面は、()()()()()()()()()()だった。

 

 きりんがチカラをありったけ込めた札を投げつけ、同じようにGVとメビウスの会話が起こり、同じようにGVは赤子の姿となって飛び去り、同じようにジャングルの森の中へと着陸し、同じように最初の第七波動能力者として名を轟かせ……

 

 暴走したチカラでオウカを傷つけてしまったタイミングで、再び画面は砕け散る。

 

 キラキラと落ちて行くその破片は、先に砕けていた破片と合流し、蓄積された。

 

 そして再び映像が出現し、やっぱりきりんがチカラを込めたお札を投げる所から始まり……

 

 これが、何度も何度も繰り返された。

 

 

(……繰り返される映像は一見同じ内容に見える。でも、少しづつだけどGVのチカラが増しているように感じる。……それだけじゃない。動きも映像が繰り返された回数分良くなっているし、ミッション内容も良くなっているように見える。これはきっと気のせいじゃない)

 

 

 映像が繰り返される度にチカラを増し、動きを洗練させている事から、私はある仮定を導き出した。

 

 G()V()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 未来から過去へ。

 

 過去から未来へ。

 

 何度も何度も、同じように。

 

 そうで無ければ、この映像の説明は出来ない。

 

 この事実に気が付いた私は、非常に強い憤りを感じた。

 

 

(……酷い。酷過ぎる。生き続ければ世界を滅ぼしてしまう。かと言って死ぬ事も許されない。輪廻転生だなんて言えば聞こえは良いのかもしれない。でも、こんなの、あんまりだ。これじゃあGVは何時まで経っても進む事も、終わる事も出来ない。こんなの、生き地獄その物じゃないか!)

 

 

 そうして憤っている私の事等お構いなく映像は続き、砕け、破片は私の足元へと蓄積していく。

 

 しかし遂に、何度も何度も続いたそれに変化が現れた。

 

 それはGVが世界で最初の第七波動能力者として名前を轟かせた後の事。

 

 これまで通りならこの後の映像は幼いGVが映る筈だった。

 

 だけど、映っていたのはニコラと私の知らない男の姿。

 

 

『本当にあった……』

 

『やったな神園博士!』

 

『あぁ! 遂に探し出すことが出来た。宝玉因子(スフィアファクター)を! 人類の希望を!』

 

『へっ! コッソリ忍び込んであいつ(メビウス)に願掛けした甲斐があったってもんだぜ!』

 

『全くお前と言う奴は……まあいい。後は適合者を見つけ出すだけだ。寧ろここからが本番と言ってもいいだろう。気を抜くなよ、ニコラ』

 

『わ~ってるよ』

 

 

 しかし、そんな二人の想いとは裏腹に、神園博士は研究施設の崩壊に巻き込まれて死亡。

 

 ニコラは持ち前のSPスキルで生き残り、保管されていた宝玉因子を守り通した。

 

 その後、ニコラは私も知る研究施設へと配属されるが、こっそり裏で進めていた宝玉因子の適合者は現れず、一人、また一人適合できずに終わってしまう。

 

 そして、ニコラは遂に禁忌とされるデザイナーチャイルドと呼ばれるクローン人間を用いる決断を下す。

 

 彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()をしており、その瞳から意思を感じ取る事は出来ない。

 

 この少年はニコラの遺伝子を元に作成された存在だ。

 

 しかしだからと言って適合するかしないかは別問題で、やはりと言うべきか、デザイナーチャイルドであったこの少年も拒絶反応が起こる。

 

 しかも今回は今までの適合実験とは違って拒絶反応が激しかった為、彼は生まれて間もなく命を落とそうとしていた。

 

 そんな時だった。

 

 そんなニコラの元に、天使の少女が姿を現したのは。

 

 

『えころか!』

 

『どうしたんですかホ……ニコラ様? この少年は……』

 

『例の移植実験だよ! 拒絶反応が酷過ぎてヤベェんだ! お前の天使パワーでこう、何とか出来ねぇか!?』

 

『わたしのチカラはそんなに万能じゃありませんよ! まあ、出来る限りの事はしてみます!』

 

 

 えころについては謡精暴龍との決戦前にニコラから軽く紹介されたと言った感じだ。

 

 二人の間柄を横から見た限り、それなりに長い付き合いがある事は何となく想像は付いていた。

 

 えころは自身のチカラは万能じゃない等と言ってはいたが、それでも少年の拒絶反応を抑える事に成功している。

 

 しかし逆に言うと、抑える事しか出来ていないという事でもある。

 

 

『うぅ……抑えるので精一杯です……!』

 

『どうすればいい……どうすれば……! えころ。お前の羽、少し借りるぞ!』

 

『え? いきなり何を言って……? ひゃん! ビックリしたじゃないですか! ニコラ様、わたしの羽なんて何に使うつもりなんですか!?』

 

『お前のチカラで抑えられてるんだ。コレを因子としてコイツに移植すれば……!』

 

 

 そうして日を跨いだ大手術が終わり、少年は生き残った。

 

 但し、その過程で少年は姿形を変化させていた。

 

 GVと同じ様な長い金髪と、幼女と間違えられてもおかしくない姿へと。

 

 そう、彼は、私だった。

 

 幼い頃の、私だったのだ。

 

 その後の映像は私の知る物と共通していた。

 

 ニコラとの生活。

 

 施設の崩壊と彼との別れ。

 

 紫電との出会い。

 

 皇神での仕事の日々。

 

 そして……

 

 

『いいかい? 良く聞くんだ。君の名前は青き交流(リトルパルサー)だよ。昔言われた侮蔑の意味なんかじゃ決してない。僕が一生懸命考え、そして君が納得した名前だ。……それじゃあ改めて、青き交流。これからもよろしく頼むよ』

 

 

 この映像と共に、今までの過程で足元に蓄積されていた映像の破片が光り輝き、人の形を形成する。

 

 それは今映し出されている映像を巻き込んで更に輝きを増し、その姿は徐々に私の背丈に近くなり、やがて光は収まった。

 

 そこに居たのは、私の知るリトルの姿。

 

 

「フェムト。終わったよ」

 

「終わった?」

 

「ん。私は無事に次の段階(ネクストフェーズ)へと覚醒することが出来た。でも……」

 

「でも?」

 

「名前がまだ決まってない。だから新しく付けて欲しい。私の新しい名前を」

 

「それはいいけど、その前に確認したい事があるんだ。リトル、今の映像は一体?」

 

「あれは私の奥底に眠っていた()()。私が私になる前の物。……私の大本はG()V()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この破片達はGVの事をずっと見ていた。何とかしたいと足掻き続けた。そうして破片達はループを重ねる度に少しづつ、少しづつ解決策を模索しつつチカラを蓄え、自身を変化させた」

 

「…………」

 

「きっとこの破片達はきりんの意思の残滓があったんだと思う。GVを助けたい。何とかしたいって想いの残滓が」

 

「だから青き交流には龍放射を浄化するチカラが、蒼き雷霆との共鳴によるGVを安定させるチカラがあったんですね。GVと共に歩み、少しずつ自身を変化させ、チカラを身に付けると言う過程を経る事で……」

 

「ん。つまり私達は、GVを助ける為に存在していた。それが間接的に世界を救う事にも繋がるから」

 

 

 そうして疑問を晴らした所で、改めてリトルの名前を考える。

 

 リトルの元となった存在はきりんのチカラの残滓がループを経て集積した物。

 

 …………

 

 決めた。

 

 長き時間共にあり続けた事で、きりんのチカラは蒼き雷霆に染まった。

 

 私の扱っていた雷撃がGVと同じEPエネルギーなのはその為だ。

 

 そして、きりんの名は恐らく中国神話に現れる伝説上の動物【麒麟】から取られた名前。

 

 麒麟は時に()()()()()と同一視される。

 

 その名は【黄竜】。

 

 【青龍】【朱雀】【白虎】【玄武】の四神の中心的存在、または、四神の長とも呼ばれる。

 

 

「麒麟のチカラが長い長い輪廻の元に蓄積し、蒼きチカラに染まり、生まれ変わった。……【蒼き黄龍(リトルスフィア)】。そう、キミの名前は蒼き黄龍だ」

 

「蒼き黄龍……ん。分かった。今日からわたしは蒼き黄龍。改めてよろしくね。フェムト」

 

 

 蒼き黄龍改めリトルは自身の名前が定まったと自覚した瞬間に光り輝き、その姿を変化。

 

 背丈に変化は無いが、髪がターコイズブルーの髪の色の先が少しだけ赤く染まっており、服装と胸元と腰回り等があの映像に映し出されていた踊り子に近い感じに変化。

 

 以前の天使の衣装と踊り子の衣装が合わさった感じとなっており、露出度は控えめながらも何処か妖艶な雰囲気を醸し出している。

 

 羽と輪っかは消失したかと思いきや、任意に出し入れ出来る様になったらしく、私の前で出したり引っ込めたりしてリトルが確認している。

 

 そうしている内に、私達の居る空間に光が溢れ出し……気が付いたら、元居た場所に居た。

 

 

(戻って来れた。……エリーゼは横に居る。他の皆は……! このチカラの波動は!)

 

 

 あの映像でも感じていた波動に気が付き、そちらへと振り向いてみれば、飛び込んで来たのは暴走していると思われるGVの姿と、彼を押しとどめようとしているアキュラ達の姿。

 

 今は何とかギリギリで抑え込めているが、突破されるのは時間の問題と言えた。

 

 何しろ今のアキュラ達はTASによる支援が無い状態である以上、あの謡精暴龍以上にチカラを開放しているGVを止めるのは無理に近い。

 

 他の皆もエリーゼと一緒に気絶している人達も多く、早く立て直しを図る必要があるだろう。

 

 とは言え、私は覚醒を果たす事に成功したが、今は先の戦いで一度EPエネルギーを使い切っている。

 

 どうした物かと思ったが、よく見たら皆の傍にはリトルマンティスの姿があった。

 

 これまでの戦いのデータの蓄積を反映され、従来の物よりもさらに小型化され、洗練された新型の姿になっている事から、技術者達の苦労が偲ばれる。

 

 恐らくだが、私に届けると言う名目で今もアキュラと一緒に戦っているアシモフが足として利用したのだろう。

 

 早速私はエリーゼを抱きかかえる形でリトルマンティスへと乗り込もうとする。

 

 その道すがら、麒麟デバイスも転がっていたので拾い上げつつコックピットカバーを開け、エリーゼを副座席に座らせて私も乗り込む。

 

 メインシステムを起動させ、現在のコンディションを把握する為に開いたデータを見る限り武装は無い真っ新な状態だが、コイツの持つ発電機能を持ったエンジンからEPエネルギーの生成を開始。

 

 しかし、これまでよりも明らかに生成できるEPエネルギーの多さに私は戸惑いを隠せない。

 

 

(フェムト、私のチカラの方向性の話、覚えてる?)

 

(ええ。色々と考えましたが、主に()()()()()()決定したはずです)

 

(ん。そのお陰で今の私は()()()()()()()()()()()()()()()()()E()P()()()()()()()ようになった)

 

 

 リトルの言う「発電機を元に」とは、蒼き雷霆の様に無からEPを生成する物では無く、何かしらのリソースをEPに変換すると言う物。

 

 蒼き雷霆に比べれば一見すると劣化しているかのように思えるが、強化前の青き交流の頃はそもそもEPを自力で調達出来ず、外部からの電気や龍放射からEPを生成していた事を考えれば十分な進歩と言えるだろう。

 

 それにこのチカラはエリーゼのチカラを取り込んで生命力(ライフエナジー)をEPに変換出来るようになった事の、更に先を行くチカラ。

 

 思えばあの時それが出来る様になった時点で、このチカラが身に着くのは必然と言えた。

 

 それに、蒼き黄龍になって強化されたのはそれだけでは無い。

 

 

(EPの許容量が……計測不能?)

 

(ん。今の私は無限にEPを溜め込める。だからもう無駄な電力が発生する事は無い)

 

 

 それはEP許容量、分かりやすく例えるならバッテリーと言った所だろう。

 

 バッテリー等の蓄電池は近未来の今でも完全な物、つまり無制限に電気を溜め込める代物は登場していない。

 

 そう考えれば十分恐ろしい事だと私は思う。

 

 何故ならば、その気になればリトルはこの国の電気を全てその身一つに収めることが出来る様になったからだ。

 

 他にも色々と能力の変化と強化が施されているが、今はそれを把握している暇は無い。

 

 何故ならば、操縦席の画面の向こう側でアキュラ達がGVの暴走のチカラに巻き込まれて、大打撃を負ってしまったからだ。

 

 そして、GVの暴走する雷がシアンに迫ろうとしていた。

 

 私はそれに対して無意識に、咄嗟にEPレーダーを放つ要領でチカラを向ける。

 

 シアンに迫る雷は蒼き光へと調律(チューニング)され、リトルが運用可能なEPエネルギーとして取り込まれた。

 

 それを確認した私は皆の前に盾になるようにリトルマンティスを立ち塞がらせ、麒麟デバイスを片手にコックピットから出て、変換したEPエネルギーを元に戦闘態勢へと移行する。

 

 最初はどうして私の変身現象の姿が戦巫女のソレに近かったのかが分からなかったが、今ならばそれが良く分かる。

 

 リトルのチカラの大本が、元々はきりんのチカラだったからだ。

 

 故に、私の今の衣装がきりんの戦巫女の装束が蒼色に染まった物に変化したのは必然と言えた。

 

 私が変身現象を終えると同時に、私の鉄扇とリトルの鉄扇が開いた状態で独りでに動き出し、私の周辺をX字に動きながら防御結界らしき物が展開。

 

 後ろを振り向いてみれば、踊り子成分の混ざった新衣装を身に付けたリトルが得意げな表情(ドヤ顔)で現界しており、私は思わず苦笑いをしてしまう。

 

 私は改めてGVの方へと顔を向ける。

 

 背中に虹色に輝くモルフォの翼を背負い、あの映像の時と同じ衣装と背丈へと変化していた彼は、暴走するチカラに苦しんでいた。

 

 この規模の暴走はあの映像の時よりもずっと酷い。

 

 つまり今の私でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと言っても良い。

 

 当たり前の話だ。

 

 何しろ蒼き雷霆は数多のループによって鍛え上げられた第七波動。

 

 こちらも同じようにループを共にしているとは言え、そもそもチカラの規模がまるで違う。

 

 でもだからと言って、諦めるつもり何てこれっぽっちも無い。

 

 GVのあんな生き地獄を知ってしまった以上、そんな選択肢はこの場に立った時点で捨てている。

 

 

「フェ……フェムト……」

 

「GV。貴方はずっと、戦い続けていたんですね。昔も、今も、未来も……何度も何度も、繰り返して」

 

「フェムト? キミは、何を言って……」

 

「私の持つチカラが教えてくれたんです。GVは、記憶を失いながらも過去から未来へ、未来から過去へとループしていた事を」

 

「…………そう、か。なら、話は早い。フェムト、キミならこの雷の嵐を抜けて、ボクと接触が出来る筈。だから……」

 

「……覚えてますか? 貴方が初めてシアンに会った時の事を」

 

「……? 忘れた事何て、ないさ。それがボクの、本当の始まりだったんだから」

 

「貴方はシアンにこう言った。『簡単に命を投げ出すな! キミが自由を望むのならボクが(チカラ)を貸す。ボクはキミを助けたい……キミの本当の願いは何?』と」

 

「…………」

 

「その上で聞きます。G()V()()()()()()()()()()()()()

 

 

 荒れ狂う雷の嵐を調律しつつEPを溜め込みながら、彼の答えを待つ。

 

 雷の嵐か吹き荒ぶ環境音をバックに沈黙は長く、GVは暴走するチカラでは無い別の理由で苦渋の表情を滲ませている。

 

 そして、GVが口を開く。

 

 

「……ダメだ。ボクのその願いは、フェムトに、皆に、シアンに迷惑を掛けてしまう。とても、口には出来ない」

 

「……昔、ニコラから聞かされた話があるんです。『人は生まれた瞬間から迷惑を掛けている。赤子の出産の時点で母親に命をかける事を要求しているし、生まれた後も泣いたり喚いたりと散々だ。故に、人は生涯に渡って誰かに迷惑を掛ける事を宿命づけられている。……だから、困った事があったら素直に周りを頼る事だ。助けを求める事だ。そして、周りの誰かが困っていたら手を差し伸べろ。それが人の営みなんだ』って」

 

「……でも、ボクのチカラは、もう、人としての物じゃ……」

 

「何言ってやがるGV」

 

 

 ニコラが話に割り込んだ。

 

 持っていた鉄扇は半ば解け落ちてしまっているが、その瞳の意志の強さから察するに、私と同じように今のGVを見捨てるつもりは毛頭ない事が良く分かる。

 

 

「お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってだけさ。第一、そんな気遣いをこんな状態で出来る時点で十分人間出来過ぎてるんだ。何を遠慮する必要がある?」

 

「ニコラ……」

 

「まあ確かに今のGVの迷惑を掛ける範囲の広さは相当だけど、それでも今のボクの方がまだ迷惑を掛ける範囲は広いと思うよ? こんなボクでも、今や副社長だ。……これからも皆には迷惑を掛け続けるだろう。でも、ボクはそんな皆に可能な限り手を伸ばし続ける。勿論、それはキミも当てはまる」

 

「紫電……」

 

「GV。思えば、何時の間にかお前から誰かに助けを求める事は無くなってしまっていたな。……私はお前の(ペアレント)として、大切な事を教え忘れていたようだ」

 

「アシモフ……」

 

「手を伸ばせGV。誰かに見返りを求めるのは決して間違いでは無い。無償の施しなど、却って毒なだけだ」

 

『そうそう、GVってば変な所で遠慮するよねぇ。もっと素直に手を貸してもらってもいいとボクは思うな』

 

「アキュラ、ロロ……」

 

「GV……」

 

「シアン……」

 

「わたしはGVに助けを求めた。そしてGVは、わたしの手を掴んでくれた。だから、今度は……今度はわたしが、GVに手を伸ばすの! だからGVも手を伸ばして! あの時のわたしみたいに、助けを求めて欲しいの!」

 

「だけど、それは……」

 

 

 GVが手を伸ばす事を拒む気持ちは良く分かる。

 

 人を助けると言うのは、ある種の加害性を有している。

 

 それは暗に『お前は私の助けが無ければ生きられない』と告げる形で相手のプライドを刺激すると言う側面が存在するからだ。

 

 そして、彼は名実ともに最強の第七波動能力者。

 

 例え本人がそんな事を思わなくても、言葉に出来なくても、本能的な部分で助けを拒んでしまうのは当然の事なのだ。

 

 

「どちらにせよGV、私は貴方の選択を待つつもりはありません」

 

「フェムト……何を、言って……」

 

「私は貴方を助け出します。それこそ、貴方が口で拒んででも、必ず助け出します」

 

 

 だからこそ、私はGVが手を伸ばす事を待つつもりは無い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私が加害者であると言う責任と覚悟を喜んで背負いながら。

 

 そう、あの時のエリーゼと同じように。

 

 

「何故ならば……」

 

 

 不思議と馴染む麒麟デバイスを構え、私はGVを見据える。

 

 TASを経由しこれまで蓄積したEPの一部を治癒のチカラに変換し、この場に居る全員を癒す。

 

 これによって皆は戦線に復帰し、エリーゼも目を覚ましてコックピットから出て来て私の横に並ぶ。

 

 私は横目でエリーゼを見る。

 

 その視線の先には、私と同じく横目でこちらを見ている彼女の姿。

 

 互いに微笑み合い、改めて正面を見据える。

 

 さあ、役者は揃った。

 

 ……GVにぶつけるのは、この手に持つ錫杖(ヤイバ)では決してない。

 

 

「貴方に幸せになって欲しいと私が、私達が願っているからです!」

 

 

 私が、私達がGVにぶつけるのは、ありったけの言葉(コトバ)雷撃(コトバ)だ!

 

 

 

「調律せよ! 蒼き黄龍! 生まれ変わったそのチカラで、蒼き雷霆に私達のありったけの想いと言葉を届ける懸け橋となれ!」

 

 

 

 


 

STRIK

 


 

 

 

 

 GVを中心に巻き起こる雷撃の嵐の中を動けるのはそれこそ一握りの存在だけと言ってもよい。

 

 だけどTASが復旧し、次の段階へと移行したリトルの加護を得た事で、この場に居る全員が動ける資格を得た。

 

 しかし、GVを何とかする場合、アキュラ達のやっていた様に外部からのチカラの抑制では逆効果になってしまう。

 

 故に、やるのなら別の方法が必要となる。

 

 そう考えていた時、暴走するGVを中心に雷の嵐の中から人影が姿を現す。

 

 アレは、イマージュパルスだ。

 

 

「……成程、超高密度の雷の嵐による力技か」

 

 

 何時の間にか映像で見た時の武装(ヴァイスティーガー)に装備をチェンジしていたアキュラは、何が起きたのかを把握する。

 

 どうやらあの人影達は問答無用の力技と様々な偶発的な要素が噛み合って出来た代物らしい。

 

 

「アレらはオレ達に任せろ。お前はミチル達と共にGVを頼む。終わり次第オレ達も手伝おう」

 

「分かりました。……ご武運を」

 

「さあ行こうシアンちゃん! モルフォ! GVを助けよう!」

 

『ええ!』

 

『うん! GVはわたしを助けてくれた! だから今度はわたしの番! 行くよ皆! わたし達の歌が、皆の(チカラ)になる!』

 

 

 

 

 

 

 

あるべき場所へと戻りし謡精

 

新たに生まれたやさしき謡精

 

従える少女と共に 三位一体の歌を紡ぐ

 

 

ソングオブディーヴァ トリニティ

 

 

 

 

 

 

 

君と僕の果てなき光 届け蒼の彼方へ……

 

 

 

 

 三人が紡ぎ出すこの歌は私達の時代にモルフォと言う存在を刻み付けた決定的な歌である【蒼の彼方】。

 

 この歌をバックに私達は雷の嵐の中へと突入する。

 

 総てはGVのその手を引っ張り出す為に。

 

 

 

 

昏い闇の向こうから響く あの叫びに震え眠る夜も

 

 

 

止まらない鼓動を胸に灯して 壊れそうな思い出にすがり

 

 

 

この先のことなど分からないまま

 

 

 

行けるならどこまでも手を取り…

 

 

 

 

「皆、どうして……どうして、ボクなんかの為に……!」

 

「テメェが居なくなるとシアンちゃんが悲しむだろうが! んな事位分かってんだろうが!」

 

「GV、お前は皇神と手を結び、我等と同士となった。それ以上の理由は必要あるまい」

 

「ヌハハハハハハ! 小生の生涯の目標に相応しいチカラを持つオヌシを放っておく訳にはいかぬで候!」

 

「電子の謡精の護衛にキミが付いてから、ボクの仕事がかなり楽になったんだ。捨て置く理由は無いね」

 

「あの時オレが薬物中毒から復帰した時、それを祝ってくれた。理由なんてそれで十分だろう」

 

「蒼き雷霆の……いや、GV。キミのチカラはこれからも必要になるだろう。だから助けるのはボクのワガママさ。キミが気にする必要は無いよ」

 

 

 デイトナが、イオタが、カレラが、メラクが、ストラトスが、そして紫電が、イマージュパルスと戦いながらGVに語り掛ける。

 

 これまでのループでは、GVは彼等を殺す事しか出来なかった。

 

 しかし、今は違う。

 

 彼らと話し合い、手を取り、時には助け、時には助けられる間柄となった。

 

 

 

 

君と僕の境界線を 砕く閃光の空

 

 

 

果てない光心に抱き 届け蒼の彼方へ

 

 

 

 

 私はGVに向けてSPスキルを放つ。

 

 攻撃する為では無く、雷撃(コトバ)を届ける為のSPスキルを。

 

 

 

 

 

 

 

煌めく雷光は須臾(しゅゆ)の導

 

瞬く雷閃は普遍の証

 

繋ぐ雷撃こそは黄龍の理

 

 

フェムトファイバーの組紐

 

 

 

 

 

 

 

昏い瞳何を見つめ問うの その涙に甘く滴る罪

 

 

 

帰らない君の優しい声が 凍えそうなこの胸溶かして

 

 

 

この先の未来も分からないまま

 

 

 

出来るならどこまでもかざして…

 

 

 

 

 須臾(フェムト)単位で構成された縁を結ぶ雷撃の組紐を形成するSPスキル【フェムトファイバーの組紐】。

 

 GVのヴォルティックチェーンを参考に放たれたソレは私とGVを繋ぎ、それを導線にする事で私の、皆の言葉に出来ない熱い想いを乗せた雷撃(コトバ)を送り込む。

 

 

 

 

君と僕の境界線を 繋ぐ輝ける空

 

 

 

果てない想い心に抱き 届け蒼の彼方へ

 

 

 

 

「GV、お前にはまだ輝かしい未来(フューチャー)がある。諦めるな。ウェイクアップするんだ。GV!」

 

《私とアシモフの結婚式に貴方も招待するつもりなんだから、ここで終わるなんて絶対にダメよ!》

 

「こちとら散々GVに助けられたんだ。偶には俺達がお前を助けたっていいだろう?」

 

「アシモフ……モニカさん……ジーノ!」

 

 

 GVの目から温かな涙が零れ落ちる。

 

 それは彼等の言葉だけでは無く、言葉に出来ない彼に対する想いをTASと私の組紐を通じて伝えているからだ。

 

 

 

 

つきつけられたこの現実で無限の螺旋階段を巡り続ける

 

 

 

世界があなたの敵になっても

 

 

 

わたしはずっとここにいるから

 

 

 

 

「お前とこうして話してみて、案外悪く無いとオレは感じた。ミチルが認めるだけの男であると、辛うじて、そう、辛うじて思えるようになった」

 

『アキュラくんにここまで言わせるなんて相当だよ? だからさ、もっと胸を張っていいんだよ!』

 

『貴方はわたしを止めてくれた。止めを刺さないでいてくれた。そのお陰でわたしはおじさまに再会できた。だから、わたしはフェムトとエリーゼと同じ位、貴方には感謝しているの! だから生きて! わたしやきりんみたいに死んじゃったり、おじさまみたいに居なくなってはダメよ!』

 

「アキュラ、ロロ……アミカ……」

 

「お前はオレなんかと違ってまだまだ若い。人生これからだろう? それに……知ってるか? この国には一夫多妻制が存在する。後は判るな?」

 

「な……! 全くニコラは、こんな時にそんな事を……!」

 

「ははははは! だが、これでしみったれた雰囲気は消し飛んだだろう!」

 

 

 ニコラが変な事を言ったせいでGVは泣き笑いすると言う何とも言えない状態になってしまったが、次に語り掛ける相手を考えれば、それでよかったのかもしれない。

 

 

 

 

輝きを求めて突き進むもの 永遠に続いてく記憶と

 

 

 

 

『天下の歌姫であるこのアタシ、電子の謡精モルフォにここまで想われてるんだから、居なくなったらぜったいに許さないんだから!』

 

「凄く遅くなったけど……わたし、GVの事が好きです。大好きです。シアンちゃんに、オウカさんに負けないくらい、大好きなんです!! だから、だから……!」

 

『GV……わたし、GVと一緒に生きたい。これからもずっと、ずっと一緒に!』

 

 

 GVを想う三人の少女の言葉が、想いが、組紐を通じてGVの心にダイレクトに届く。

 

 嘘偽りの無い彼女達の想いを一身に受け、遂に――

 

 

「モルフォ……ミチル……シアン……! ボクは、ボクは……! ボクもシアン達と一緒に生きていたい! 皆と一緒にこの世界を生きて行きたい! だから、どうか……!」

 

 

 

 

――――ボクを、助けて欲しい

 

 

 

 

「その言葉が、聞きたかった!!!!!」

 

 

 ――GVが、私達に助けを求めた。

 

 ……その言葉を出すのは怖かっただろう。

 

 負ける事が許されなかったGVにとって、ありったけの勇気を振り絞る必要があっただろう。

 

 だからこそ、私は、私達は延ばされた手を迷わず取る。

 

 そして、組紐を通じて()()()()()()()()()()を送り込んだ。

 

 これまで培われてきた私の持つ熟練させた技術の、ありったけを。

 

 元々蒼き雷霆は無限の可能性を持った第七波動だと言われている。

 

 だから制御法をGVが知れば何とかなるとあたりを付けていた。

 

 しかし、GVは私達と生きる事を諦め、助けを拒んでいた。

 

 この状態で制御方法を送り込んだ所で、拒絶されて終わってしまうだけだ。

 

 だからこそGVの本音を引き出して心をさらけ出してもらう必要が、私達と共に生きたいと思ってもらう必要があったのだ。

 

 後はもう、蒼き雷霆の可能性とGV本人の意思次第。

 

 だけど、その結果がどうなるのかなんて分かり切っている。

 

 何故ならば……

 

 

 

 

君と僕の境界線を 砕く閃光の空

 

 

 

果てない光心に抱き 届け蒼の彼方へ

 

 

 

 

 もう既に雷の嵐は止み、彼の腕の中にはシアンが収まっていたのだから。 

 

 

 

 


 

CLEAR

 


 

 

 

 




ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。




〇ループ設定について
ガンヴォルト鎖環からの描写を独自解釈した物。
原作では歌や演出で匂わせている感じなのであしからず。
ただ、鎖環の追加EDのお陰でその辺りのイメージがより鮮明になったのは個人的には朗報でした。

〇宝玉因子がどの様に発生したかについて
リトルの大本である宝玉因子は、鎖環のラストバトルにおいてGVに対してありったけのチカラを込めて形成された封印が、オウカを傷つけて暴走した時に粉砕して出来た残滓が数多のループによって蓄積された事によって偶発的に発生した、正にイレギュラーと呼べる物。
アミカがフェムトの事を異端者(イレギュラー)と呼んでいたのは、正しくガンヴォルト世界において正しく異物だった事を本能的に察知したからと言う設定がある。

蒼き黄龍(リトルスフィア)について
青き交流と蒼き黄龍、ルビは違うけど漢字の読み方は共通して「あおきこうりゅう」。
その能力は一言で言うなら「超凄い発電機とバッテリー」。
あらゆるリソースをEPに、EPを任意のリソースに変換する事が出来るチカラと、EPを無制限に保有するチカラを持つ。
第十二話で発電機と言う方向性を与えられ、今までEP残量がネックになっていた事からこの様なチカラの獲得に至った。
勿論龍放射の調律や蒼き雷霆との共鳴現象等のチカラも残っている。
他にもフェムトが把握していないチカラも存在しているらしいが……

〇リトルの変化について
リトルの核である封印の残滓はきりんのチカラ以外に電子の踊精(サイバージーン)金色の黎明(ゴールドトリリオン)のチカラの一部も混ざっている。
これは鎖環ラストでZEDΩ.とルクシアのチカラを借りている為。
ルクシア要素は衣装と身体つきに、ZEDΩ.要素は髪の先端の色に現れている。
ちなみにだが、フェムトの衣装が戦巫女なのもこれと同じ理由で、こちらは蒼き雷霆の影響で衣装の色合いが蒼色よりに変化している。
それと、リトルの口調はレイラの影響を受けている。

〇今回のミッションについて
今回のミッションが「本編」における正真正銘のラストバトル。
その内容はGVの説得。
メタ的には恐ろしい密度の攻撃に対する耐久で、時間経過でイベントが進み、自動的にクリアとなる。

〇蒼の彼方について
拙者、ラストバトルで最初に聞く歌が流れるのが大好き侍。
異議のある者は、拙者が相手いたす。

〇フェムトファイバーの組紐について
蒼き黄龍に覚醒したフェムトのSPスキル。
ヴォルティックチェーンを参考に作成されており、超高密度で限りなく細く形成された組紐で、これを導線に相手に言葉に出来ない想いを伝えることが出来る。
一応攻撃転用も出来るが、そうすると結構スプラッタな事になったりする。
元ネタは東方Projectに登場する架空の繊維。フェムトと主人公の名前を設定した時からやってみたいと思ってたんですよね~


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第五十話 それでも明日は続いていく

 

 

 

 

 

 あれからそれなりの月日が流れた。

 

 謡精暴龍を撃破し、デマーゼルを撃破し、暴走していたGVを助け出し……平和になりましたとさ、めでたしめでたし……とはならない。

 

 物語ならばこれで終わっても良いのだろうが、生憎私達は現実を生きている以上、これで終わるなんて事はまずあり得ない。

 

 被害にあった地区の復興は勿論の事、今回の事件の顛末や被害の補填等々、やるべき事が盛り沢山だ。

 

 幸い戦場は限定されていた事、避難は既に済ませていた事、そしてエリーゼが居た事で人的被害は0であったのは朗報と言える。

 

 しかし思ったよりも周辺被害が酷く、復興するのに相応の時間が掛かる事が確定している為、私も暫く情報管理部門で缶詰になる必要があった。

 

 その忙しさは何時ぞやの歌姫(ディーヴァ)プロジェクトにおけるデスマーチに相当していた為、本当に大変だった。

 

 それでも私の能力が強化された事に加え、情報管理部門の設立のお陰で大幅に負担は軽減されていた為、かなりマシにはなっていたのだが。

 

 

「フェムトくん、お疲れ様」

 

「ありがとう、エリーゼ」

 

 

 情報管理部門における私室での作業場にて、エリーゼが一息ついた私にお茶を差し出す。

 

 それを受け取った私はゆっくりとお茶を飲み、ほっと息を吐きながら力を抜きつつ、彼女が何故ここに居るのかを回想する。

 

 まず簡潔に言えば、エリーゼはやりすぎた。

 

 必要な事であったとは言え、死者の蘇生の乱発は今の人類における価値観では到底処理しきれない奇跡。

 

 そして、こう言った噂は戒厳令を出して情報封鎖を行っても、どうしても広まってしまう物だ。

 

 なので死者の蘇生に関してはカバーストーリーが作られる事となった。

 

 簡単に述べると「最前線で戦っていた戦士達を蘇生するのにチカラを使い果たしてしまった」と言った感じだ。

 

 実際チカラを使い果たして気絶しているエリーゼを目撃していた人は多い為、信憑性はそれなりにあるだろう。

 

 勿論これだけでは周りを誤魔化すなんて不可能な為、基地内での活動が評価された形として私直属の秘書として就職する事でより強く私や紫電の後ろ盾を得る事で、彼女の身の安全を守っている。

 

 無事に学校を卒業出来た事と合わせての就職である上に、相応に努力してくれていたお陰でどの分野の成績も高水準を維持出来ていた為、外から見る分には違和感は余り無い。

 

 とまあ、そう言った経緯でエリーゼはここに居るという訳だ。

 

 

「何にしても、学校をちゃんと卒業出来たみたいで何よりだよ」

 

「うん。一時期はダメかなって思ってたけど、思ったよりも早く事件が終息してくれたから支障無く授業も受けられたよ。オンライン授業だったお陰でもあるかな」

 

 

 エリーゼはそう言いながらテーブルに置いてあったリモコンでモニターを起動させる。

 

 映し出されたのはモルフォに引っ張られながらちょっと恥ずかしそうにしているシアンと、逆に堂々とモルフォの横を歩くアミカの姿。

 

 この映像は少し前に放映されたモルフォスペシャルライブの物で、この時は物凄く大きな反響がこの国に響いた物だった。

 

 私達からすればもう慣れた物だが、他の人々からの視点では皇神から新たに発表された新しいバージョンのモルフォと言っても良かったからだ。

 

 この時のシアンは決戦の時の小さな姿をしており、顔を赤らめながらモルフォの影に隠れている。

 

 人々の前に初披露した姿がこれであった為、その愛くるしさから一気に国民のハートを鷲掴みにする程の人気を獲得しており、評判は上々だ。

 

 対するアミカも、モルフォとは正反対の印象を与える黒モルフォ姿での登場は別の意味で大いに国民を驚かせた。

 

 あのモルフォの闇落ちを連想させるような姿は、この国に住む者にとって絶大な衝撃を与えるからだ。

 

 それに加え、私と最初に会った時みたいな挑発的で上から目線的なキャラ設定だったのもそうだろう。

 

 そして彼女は以前のやらかしが原因なのか、一部海外でカルト的な人気が爆発している。

 

 何でも頭領さん曰く、彼女は幽霊としての恪が世界的に見ても絶大である事から、霊能者を始めとしたオカルト関係者を強く惹きつけるらしい。

 

 彼女を直視すると強すぎるチカラのお陰で並大抵の霊能者は気絶してしまうが、離れた上で画面越しに見る分には大丈夫らしく、裏八雲内でも彼女の人気は高い。

 

 ……改めて、あの場面でアミカのアキレス腱と言うべきB.Bを借金漬けにした紫電の手腕はお見事であったと思う。

 

 借金と言うのは余り宜しくないイメージを持たれるが、それが一定の金額を超えるとまた意味が変わる。

 

 何しろ借金を回収しなければいけない以上、お金を貸した側も全面的に協力せざるを得ないからだ。

 

 今回のB.Bの借金漬けはその性質を利用した物で、この国に住む為の彼の身分証明やその他諸々の手続きを行わせる事に加え、首輪を付けると言う意味合いも存在する。

 

 ハッキリ言えばそれだけの価値がB.Bにはある。

 

 彼を慕うアミカは謡精暴龍を倒した事で能力的な意味で弱体化してしまったが、それでも龍放射を操ると言う特異な能力は間違い無く有用だし、現裏八雲が保有する封印の第七波動の上位互換とも言える能力を持つ鎖環(ギブス)を持つきりんの存在もそうだし、B.Bの持つ死霊(ガイスト)も有用な能力だ。

 

 これから能力者が増え続け、最終的に能力者だけになるこの世界。

 

 極めて有能な能力を抱えるこの三人を確保できたのは本当に有意義だったと思う。

 

 それに、国家規模の借金何て言われているが、回収する事は十分に可能だろうと私は考えている。

 

 何しろアミカの人気は相応にあるし、B.Bときりんも皇神社員として入社しているし、何より紫電が借金を回収できる道筋を立てているからだ。

 

 借金を負った直後は青い顔になっていたB.Bだけど、今ではこれらの話を聞かされたお陰か顔色は良くなっている。

 

 そこまで回想してエリーゼにお茶のお代わりを要求しようとしたその直後、ドアを叩くノックの音が鳴り響く。

 

 遠隔操作でドアを開けてみれば、そこに居たのは()()()()()()アキュラとロロだった。

 

 

「久しぶりだな。二人共」

 

『久しぶり! フェムト君、エリーゼ!』

 

「お久しぶりです。アキュラさん、ロロさん」

 

「久しぶりです。アキュ……()()()。今日はどうしたんですか?」

 

「また暫くこの世界で厄介になる。だから仮拠点の用意を頼みたくてな」

 

「分かりました。()()()()()()()()()()()()()()以上、そうせざるを得ないでしょうし」

 

『アキュラくんってさ、ほんっとうにミチルちゃんに甘いよねぇ。まあそれに賛成しちゃうぼくも、人の事は言えないんだけどさ』

 

 

 戦いが終わって暫くした後、この世界のアキュラが目を覚ました。

 

 つまり、私の知るアキュラ(イクス)がこの世界に居る理由は無くなってしまったのだ。

 

 元々いつでも目を覚ましてもいい様な手筈は整っていた為、帰還する分には問題無かった。

 

 しかし、ミチルに「もう会えなくなっちゃうのは嫌だ」と涙目で言われてしまった為、同じように懇願されたコハク達も一緒に定期的にこの世界へとお邪魔するようになったと言った感じだ。

 

 ただし、仮に見られてもいい様に仮面を付け、ロロも身体を用意すると言った措置を済ませているが。

 

 

「それで今回来たのはミチルの頼みでもあるが、別の事情もある」

 

「別の事情……ああ、あの事ですか」

 

 

 戦いが終わった直後、メビウスは私達に意味深な言葉を残してGVの中で眠りについた。

 

 その言葉の内容を要約すると、「この世界は非常に特異な世界で、とても良く目立っている。だからこれからも定期的に別の可能性世界からの来訪者が訪れるだろう」と言った感じだ。

 

 つまり、今後も否応なくこの世界は来訪者達が訪れ、場合によっては先と同じ様な事件が起こるという事でもある。

 

 そう考えると今回の事件である【暴龍事変】を比較的被害を抑える形で経験できたのは、逆にこれから起こるであろう様々な事件のチュートリアル的な意味で有意義であったと私は思う。

 

 そんな風に考えつつアキュラの仮拠点の手続きを終わらせ、彼らがこの部屋から出たタイミングで携帯端末から通信が入った。

 

 

『やあフェムト』

 

「どうしたの紫電? こんな時間に連絡を入れるなんて珍しい」

 

『この世界にまた来訪者が現れたと思しき痕跡を発見してね』

 

「痕跡ですか?」

 

『そう。ただ前回の時とは違って、今回はこの国の外で現れたらしいんだ。今はまだ目立った活動はしていないらしいけど、どうにもキナ臭い感じがする。また近い内にキミの出番もあるかもしれない』

 

「私としてはもう前線に出るのはこりごりなんですが……」

 

『分かっているさ。ボクとしてもフェムトを前に出すのは避けたい。だけど万が一という事もある。とは言え、GVが皇神に正式に入社してくれたから戦力的な意味で困る事は無いけどね』

 

「でも、GVは基本シアン達の護衛が仕事じゃ無いですか。簡単には動かせないでしょう?」

 

『それがそうでもないんだ。彼はキミから雷撃操作能力を伝授してもらった結果、座標さえ指定すれば何時でも何所でも()()()雷速で転移出来る様になったみたいだから』

 

「……もう何でもありですね、GVは」

 

『敵ならばともかく、味方である以上これほど頼もしい存在は他にはいないよ。……でも、相手がそれを承知している可能性もある。そこでキミに声を掛けた訳さ。フェムトも能力が強化されたから、ある程度は仕事しながら自由に動けるだろう?』

 

 

 私の能力が蒼き黄龍(リトルスフィア)になって強化されたお陰で、TASを経由しながら遠隔で何時でも何所でもリモートワークをする事が可能となった。

 

 これは私がこれまで仕事中にやっていた一時的に並列思考数を増やすスキル(シンキングアップ)が常時発動できるようになった事で出来る様になった事だ。

 

 お陰で眠りを必要としない体質もあって、物凄く仕事が捗るようになったのは朗報と言えるだろう。

 

 しかし、それで他の人の仕事を奪ったりするのはマズいと私も紫電も承知しているので、デスマーチ状態にならない限り基本セーブしている、或いはプライベートにおける作業にその労力を回していたりする。

 

 例えばTASの最適化であったり、錫杖の扱いであったり、ニコラから教わった奥義の練習であったり等様々で、最近は奥義の習得にチカラを入れている。

 

 ニコラの奥義に関しては、物語の様にぶっつけ本番で扱う事は出来なかったが、それでも決戦の時は見よう見まねで動きだけを真似ただけで大分戦いやすくなったので、ちゃんと習得出来ればこの先起こるであろう事件でも大きなチカラになってくれるだろう。

 

 

『話は変わるけどフェムト。TASを用いた実証試験部隊、思ったよりもいい結果が出てるよ』

 

「本当ですか? それは良かった」

 

『このまま順調に行けば()()()()()()()()()()()に目途が立ちそうだよ。いやホント、感謝してるよ』

 

「そう言って貰えると、苦労して実証データを集めてシステム構築した甲斐があったってもんです」

 

 

 能力者が台頭して問題になる事、それは能力の格差。

 

 特に純粋な暴力として振舞う際のチカラの差と言うのは能力者部隊を抱えているこの皇神に置いて、絶対に避けては通れない問題だ。

 

 一般的な部隊運用をする場合、特殊な運用をする部隊は別として、基本的に戦力を平均化しなければそもそも部隊と言う物は機能しない。

 

 そこで紫電から個人的な依頼として、この問題を何とか出来るシステムを構築して欲しいと頼まれていた。

 

 これを聞いた当初は余りにも無理難題でどうしようもないと思っていた物だが、色々とこれまで四苦八苦したお陰で何とか依頼を果たせそうだと今では安心している。

 

 その過程で生まれたTASの最適化は今も続いており、実証試験部隊が集めてくれたデータの反映も常に行われており、今のTASは暴龍事変の頃とはもう既に別物と言っても良い出来になった。

 

 アビリティはTASに完全にシステムとして組み込み、かなり特殊なアビリティはONOFFを任意に出来る様にして、パラメーター表記の簡略化も大分進んでいる為管理も容易で扱いやすくなっている。

 

 

『部隊内での評判も上々だし、このまま……うん?』

 

「どうしたの、紫電?」

 

『連絡が入ったからちょっと待ってて欲しい。……ふむ。……ふむ。なるほど、分かった。それはこちらで何とかするよ。それじゃあ、通信を切るよ。……ふぅ。お待たせフェムト。さっきの連絡は例の来訪者達の件だよ。どうやら思った以上に厄介な連中らしい』

 

「…………」

 

『近い内に、本当にキミの出番が来るかもしれない。だから今の内に練度を高めておいて欲しいんだ』

 

「分かったよ紫電。こっちでも色々と準備しておくから」

 

『それじゃあ通信を切るよ。皆にこの事を知らせないといけないからね』

 

 

 この言葉を最後に紫電との通信を終えた。

 

 ……どうやらまた厄介な事が起こり始めようとしているらしい。

 

 

『頑張ろうね、フェムト』

 

「わたしは何時だってフェムトくんと一緒です」

 

「わたくしも同じです。一緒に、この世界を生き抜きましょう」

 

 

 私の愛しい、そして生きる意味でもある三人から激励の声を掛けられる。

 

 私はそれを嬉しく思いつつ、部屋に立てかけていた錫杖を持ち出し、エリーゼと共に訓練場へと向かうのであった。

 

 この賑やかな世界で生き抜く為に。

 

 リトルと、エリーゼと、アニムスと共に歩む為に。

 

 一歩ずつ、確実に。

 

 

 

 




これで本編は無事完結しました。
ここまで来れたのは一重にここまで読み進めてくれた皆様のお陰であると言わざるをえません。
この後のお話と番外編も続けて行く予定ですが、本小説は諸事情により投稿間隔が空く事をご了承下さい。
より詳しい詳細は活動報告にてお知らせしています。
そして誠に恐縮ですが、もし宜しければ評価と感想をよろしくお願い致します。

では、改めまして……ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。
ここ以降は独自設定のオマケ話みたいな物なので興味の無い方はスルーでお願いします。





〇立てかけてある錫杖について
麒麟デバイスでは無く、裏八雲で鍛造してもらった物。
決戦の時にあまりにも手に馴染んだ為、フェムトが自発的に扱ってみようと手を出し、訓練に励んでいる。
なお、見本となった麒麟デバイスは犠牲となったきりん本人の希望によって完全に破棄されている。

〇GVの転移能力について
鎖環本編で暴走能力者達を全員鎮圧した後で発生したイベントで、ミサイル(と言う名の艦艇)を迎撃に向かった際に使用された物。
鎖環本編では安全性に問題があるから使用はこの時限りの物だったが、フェムトから伝えられた雷撃操作能力によってこの問題がクリアされている。

〇各種エンディングについて
トゥルーエンドはこの様な感じに終わりますが、他のエンドでは当然結末が違います。

ノーマルエンドはGVが暴走した際、アキュラに滅びた可能性世界に飛ばされて終わり、その後時間が経ってからフェムトが次の段階(ネクストフェーズ)へと覚醒し、GVを迎えに行くタイミングで終わるある程度希望のあるエンドとなっている。

バッドエンドはデマーゼル出現時の時点でエリーゼ、リトル、アニムスが諸々の事情で消滅してしまっており、その場にいたアキュラとロロとアミカときりんを除くGVや仲間達はデマーゼルに倒されてしまう。それでも四人が何とか新生デマーゼルと奮戦している間にフェムトを中心に無印でも起こったアレに近い現象が発生し、蒼き雷霆がフェムトに宿ると言う超展開が発生。
エリーゼ達が消滅してしまった為皆は生き返らず、紫電も含めた皆も死んでしまった為フェムトは復讐者と化し、執念でデマーゼルを撃破する。
しかし、紫電を始めとした主要な人物が死亡してしまったこの国を立て直す事は到底出来ず、しかも近い未来、フェムトはGVと同じ末路を辿る事となり……
なお、B.Bが復活していないルートである為、アミカがペスニアとしてフェムトのヒロインをやるルートでもある。
GVの代わりに蒼き雷霆による悲劇は続いて行くと言う意味で別名【ネバーエンド】とも呼ばれる。

大まかなエンドはこのような感じだが、「TASが完成していない」「エリーゼが立ち直っていない」「アニムスが人型になっていない」等でより細かく分岐する。
中にはストーリーを進めている間に起こる「魂の過労死エンド」や「滅びゆく世界(バニシングワールド)ver.生命暴龍エンド」なんかも存在している。


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