博打少女まどか☆マギカ【確率の物語】 (カピバラ@番長)
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第一話 この話し、前も聞いたような……

 どうも。お久しぶりのようなそうでもないようなカピバラ番長です。
以前より考えていたまどマギの二次小説を書き始めました。
全十二話とプラス一話を予定していますが、どうなるかはわからないです。
それでもよろしければ、どうぞお手にとって頂きたい。

……なお、なぜR15指定をしたのかは、読み出しでわかると思います。
なのでもう一度、言います。

なんでも許せる人向け、です。

それでは、どうぞ。


 ある日、見滝原市に巨大な娯楽施設が突如として現れた。

施設の名は【乙女の社交場・パチンコ⭐︎スロット】。

その名の通り、パチンコ・スロットが二千台近く設置されている大人の遊戯施設だ。

この施設は一晩のうちに現れたにも関わらず、市の人間も、県の人間も、国の人間でさえ、昔からあったモノだと認知している。

更に驚くべき事は、この賭博場に入店できる層だろう。

それは、女性だけ。

それも、中学校一年生から、現役入学で考えた大学四年生の年齢までのみが入場を許さている。

そういった理由からか、施設の外観は可愛らしく、猫のような白いマスコットを模している。

しかし、ここはあくまでも人の狂気と欲望が渦巻く賭博場。

訪れた者達を取り巻く環境は決して可愛いものではなかった。

 

 「どうして…!どうしてなの!どうして後千円を入れられないの!!」

 

 「ほむらちゃん、もう諦めようよ。私達の年齢じゃ、週に一万円が限度だもん」

 

 「だとしても!どうしてあんなに高い継続率の当たりを1回目ではずすの!?どうして……あの後追っちゃったの……」

 

 「仕方ないと思うよ?なんだか、当たりそうな雰囲気があったし…」

 

 「うぅ…。演出なんてあてにならない事、知ってるのに……どうして……。まどかぁ……」

 

 あらゆる作品のBGMが狂喜乱舞する遊技施設内。その端にある、休息所にて桃色のツインテールをした少女と、黒く艶のある美しい長髪を乱した少女が、長椅子に腰掛けている。

桃髪の少女・まどかは涙無く泣き崩れるほむらの虚無に満ちた顔を、白いニーソックスで覆われた太腿で受け止めていた。

 

 「でもほら!今日はいつもよりも負けは少なかったみたいだし…ね?」

 

 「違う、違うのよまどか。私はただ遊びたいの。その上で少しでもプラスになれば良いなって思ってるだけで……」

 

 「その考えがダメなんじゃ無いの〜?」

 

頭を抱えて落胆するほむらの下へ、異界と現実を隔てる自動ドアからショートカットをした青髪の少女が意気揚々と現れる。

瞬間、まどかの太腿から弾かれたように離れ、ほむらは髪を靡かせる。

まるで何事もなかったのように。

 

 「あら、美樹さん。今日は、随分と余裕そうな表情ね」

 

 「ふっふー。まぁね〜」

 

 「さやかちゃん。どうだった?」

 

彼女の行動を、微笑ましく見つめるまどか。

その後、さやかに向き直り、戦果を尋ねる。

 

 「にしし。ホクホクだよ、ホクホク」

 

 「……貴女、前から思ってたけど、サディストよね」

 

 「アンタにだけね〜」

 

ニコニコとほむらの隣に座り、いくつか重なっている白と赤の板をひらひらと見せつけるさやか。

彼女のその行動に目を細め。

 

 「ざっと四万、ってところかしら」

 

ほむらはまどかの方へとそっぽを向いた。

 

 「投資五千円でこれだからね〜。いやー、よかったよかった」

 

 「おめでとう。そのお金があれば限度を超えても打てるわね」

 

 「いやいや、今月はもう打たないから。当たった後はそれ以上にスッちゃうタイプだもんね、あたし」

 

 「あ、あはは」

 

ピリピリと張り詰める空気に、まどかは苦笑いを溢すしか無い。

彼女達は同じ高校に通う同級生だ。

元々、まどかとさやかは古くからの幼馴染みで、交友関係は小学校の入学式よりも遡る。対して、ほむらは中学二年生の時に転校してきた少女である。

誰とでも分け隔てなく接してくれるまどかに、ほむらは他者に対するよりもほんの少しだけ思いが強かった。

そのせいなのか、まどかの取り合いーーまでは行かずとも、さやかとほむらは彼女が側にいると妙に仲が悪かった。

以降、不穏な言い合いを繰り返し、今日のまどかと同様に周囲を困らせていた。

だが、共通の友人を持つ以上、決して互いを嫌っているわけではなく、寧ろ悪友的な関係である。

高校入学後はそれが特に顕著で、時折二人きりで出かける事もあった。

……そのため、久々に訪れたこの剣呑な空気に、まどかは何を口にすれば良いかわからず、心臓を押し潰されそうになっていた。

 

 「ちょっと二人とも?まどかが困ってるでしょう?」

 

 「あ!マミさん!」

 

その最中に現れた、檸檬色の艶髪を下ろした女性。

大人びた雰囲気のある彼女は、同じ檸檬色だが光沢の無い長財布を手に三人の前に立ち塞がった。

 

 「えへへ、ちょっとはしゃぎ過ぎたかな」

 

 「えぇ、ちょっとだけ、ね」

 

 「こら、貴女達?後二週間で大学生なんだから、良い加減やめなさい」

 

二度目の強い口調に、僅かに顔を俯かせる二人。

その後、直ぐに笑みを見せて、反省を口にした。

 

 「はーい」

 

 「そうね。ごめんなさい」

 

 「全くもう。

まどかも、ちゃんと言わなきゃダメよ?勝った負けたの話なんて、ここじゃ御法度なんだから」

 

 「…はい」

 

大きくため息を吐き、三人の向かい側の長椅子に腰掛けるマミ。

三人のやり取りを諫めるのが疲れたのか、どこか浮かない表情をしている。

 

 「そう言えば、杏子は?」

 

 「……彼女なら、多分、当分出てこないわよ」

 

 「げっ、そんなに当たってんの?」

 

 「えぇ。びっくりするくらい」

 

 「道理で、いつも余裕な貴女が落ち込んでるわけね」

 

 「あはは。そう見える?なら、私もまだまだ修行が足りないわね」

 

そう言って壁に背を預け、もう一度大きく息を吐くマミ。

ポケットらしい空間に大きな膨らみがない事や、落胆している様子から見て、彼女もそれほど芳しく無いようだ。

 

 「さ、今日はもう帰るわ。さやかとまどかはまだしも、私やほむらは、杏子とは話辛いもの」

 

はにかみ、マミは長椅子から立ち上がってほむらに視線で尋ねる。

 

 「……そうね。本当にそう。

ごめんなさい、まどか。私も先に帰るわね。もう少し、この台の事を勉強しないと」

 

受け取った彼女も同様に長椅子から立ち上がり、見下ろす形でまどかに微笑んだ。

 

 「ほむらちゃんはもうちょっとパチンコから離れた方が良いと思うけど……」

 

 「言っとくけど、スロットもだかんね。アンタ、確率がどうのとか、演出がどうのとか、レア役がとかいう割に全然だし」

 

 「……考えておくわ」

 

休息所の出口にあたる自動ドアにマミと並び立ち、返答するほむら。

しかし、その返事の中に反省の色は特に見当たらず、学べば勝てるはずだ、という強い思い込みが感じられた。

 

 「……………ダメだこりゃ。まどか、教えてくれるからってあんまりアイツに頼っちゃダメだからね」

 

呆れ返り、さやかはまどかを嗜める。

当人がダメなら友人を。といった考えなのだろうが。

 

 「大丈夫。そんな事くらいで辛い気持ちになる程、浅い経験じゃ無いわ」

 

二人の間に割って入ったほむらに訂正されてしまった。

 

 「いつも真っ先に帰るしか無くなる奴が何を言うんだか……って、もしかして魔法で」

 

肺の中を全て出すようなため息を吐き、ジロリと睨みつけるさやか。

けれど、その先にほむらはおらず。

 

 「……もう、いないわね」

 

遠い目をしたマミしか居なかった。

 

 「ほむらちゃん……」

 

 「ほっとけほっとけ。そのうち気がつく」

 

 「だと良いけど。……って、私もそろそろ行かないと。杏子と鉢合わせたら大変だわ」

 

 「あ、私も一緒に行きます。私も、負けたわけじゃ無いんですけど、プラスが五千円くらいで……」

 

まどかは口にしながらチラリとさやかを覗き見る。

 

 「ん、気にしなくて大丈夫。杏子は勝った時、結構面倒だからね。あたしが相手しておくよ」

 

 「ごめんね、さやかちゃん。普段はそんな事ないんだかど……」

 

 「わかってる、わかってる。あたしだって、同じような状況じゃないと一緒にいられないもん、ここ来た時はさ。だから、マミさんに送ってってもらいな」

 

 「そうね。確か、まどかが今日打ったのは、その日暮らしが泣く頃に、だったわよね。どんな台だったか聞きたいから、お願いしても良いかしら?」

 

 「だってさ。ほら、行った行った」

 

 「…うん!それじゃ、マミさん」

 

 「えぇ」

 

どこか申し訳なさそうにさやかに手を振り、マミと共に休息所を後にするまどか。

彼女達の背中が見えなくなるまで見守っていると、反対側の自動ドアが開き。

 

 「いや〜!!勝った勝った!バカ勝ちだぁ〜!!」

 

声高らかに、換金用の板を手に抱え、赤髪でポニーテールの少女が現れた。

 

 「あれ、もうみんな帰っちまったのか?」

 

 「うん。あたし以外、あんまり良くなかったんだってさ」

 

 「んだよ。せっかく焼肉でも奢ってやろうと思ったのに」

 

 「お、ゴーセーだねー。じゃ、ご相伴に預かろうかな」

 

どっかりと、さやかの隣に腰を下ろし、片膝を抱えるようにした彼女は、数分の間、何がどうなってこれほどの事故が起きたのかを興奮気味に語った。

 

 

 

 時刻は夕暮れ。

彼女達五人が、今どんな状況に置かれているのかを思い出すには、まだ少しだけ黄昏が足りない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be next story.

 




 と言うことで、始まりました博打少女まどか⭐︎マギカ[確率の物語]。
ファンの方でもそうでない方でも、パチやスロで彼女達が出ている事は知っているかと思います。
……端的に言えば、「まどか達がスロットとかやったらどうなんだろう」。
思いつきのもと書き始めました。
にわか打ちさんな私が書きますので、それなりにやっている方には退屈なものとなってしまうかと思いますが、どうか最後までお付き合いいただけるとありがたい限りです。

………更新は凄い遅いと思いますが。


それでは、また次回。
さよーならー


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第二話 その演出はとっても嬉しいなって

 思いのほか早い投稿となりました、第二話目です。
どぞー。


 幸福と絶望。

 虚と実。

 無と有。

表裏するあらゆる損得感情が渦巻く大ホール。

ある者は幸福に満たされ、ある者は絶望を食む、[乙女の社交場 パチンコ☆スロット]。

その一角で、とある少女は天秤にかけられていた。

 

 「……来た。とうとう、来たわ」

 

 「ほ、ほむらちゃん……!」

 

脚を閉じ、なだらかに傾けて座る暁美ほむらと、その隣で胸の前で祈るようにして左手を握りしめて椅子に座っている鹿目まどか。

二人が注視するは音楽に紛れて怪音を撒き散らす釘だらけの眼前。そこを狂ったように暴れ回る幾つもの銀の玉。

 

 「信用度約五十%からのチャレンジ成功。そこから準主役キャラが出てきて、データとしてはアツめ。後は、この演出に打ち克てば……!」

 

荒れ狂う暴音が二人の鼓膜を刺激する。

けれど、彼女達は微塵も意に返さない。その心を縛るのは、目の前で繰り広げられるアニメーション映像のみ。

 

ーー黒髪の少女が長髪を振り乱して夜を駆けている。

屋根伝いに月へ急いでは辺りを見回し、誰かを探す。

 

 『どこ…。どこにいるの?』

 

右を、左を、絶え間なく振り向き、誰かの影を問う。

だが、時刻は宵。まともな明かりもない中で、人の姿が見えるはずもない。

頼みの綱の月光は、今や叢雲に沈んだ。

 

 「……ほむらちゃん」

 

 「えぇ。ここよ」

 

 緩やかに晴れていく雲。差し込む月の光。

 

 「……!!!来た!!」

 

 天井に輝くは、三日月ーーではない。

 

 「初当たり、確定、演出!!」

 

 神々しく煌めく、満月だ。

 

 『……!いた!!』

 

 アニメの中の少女が目を見開き喜びに満ちた表情で駆け寄った先にいる、ツインテールの学生服の女の子。

彼女は、月光のベールでさえ見劣りする柔らかな笑みを浮かべ、手を差し出した。

 

 『行こう?ここが……ここからが、本当の始まりだよ』

 

 セリフが終わると同時に吐き出される音楽。

それは、機体がいつも流している通常BGMでも、心臓に負荷を与えるだけの憎きBGMでも、ましてや初辺り時に聞くことのできる胸アツのBGMでもなかった。

 

 「ほ、ほむらちゃん……!こ、これって……!!」

 

 「ま、ま、まどか!」

 

今流れているのは彼女が打っているパチンコ[少女錬金@マイ]における最強の当たり演出時にのみ聞くことのできる、アニメの主人公のテーマソング。

通常、初当たりからこの曲を聴くには三度最上位のラッシュを継続させ、その上でかなりの低確率を潜り抜けねば突入できないという、マイパチを打つ者全員が望んで止まない演出。

この曲を聞けたのなら二万発は固いと言われているほどの当たりであり、場合によっては十万の投資さえチャラになる。

彼女はそれを超々低確率である[初当たりの代わり]として引き当てた。

本来ならまずありえないとされるこの機体のみの変則的初当たりーー有名なパチプロに『盆と正月が同時に来た日に宝くじの一等前後賞を当てるくらいの狂運がないと無理です』と言わしめるほどの事故突入。

この交通事故を起こした際の恩恵は計り知れない。

本来の継続率が約八十%であるのに対し、変則的初当たり以降のラッシュ継続率は常に九十五%にまで引き上げられ、仮に外したとしても同パーセンテージでの巻き戻し、及び保留連。更にはバックグラウンドで大当たりが発生し、実質的に[二つ同時に大当たりが進行している]状態になる。

よって、単純計算しても出玉は倍に増え、憚りなく大仰な言い方をすれば[国家予算も賄える]。

 

 「……良かった。本当に、良かった!!」

 

 「うん…!うん!!やったね、やったねほむらちゃん!!」

 

ハンドルを握る手を互いに決して離さず、頬を寄せ合う二人。

ほむらの目には当然の事、まどかの目にさえ涙が溢れている。

 

 「入学式当日、閉会と当時に来たはいいものの、鼻で笑う気も失せたリーチ演出ばかりを見て疑った自分の行動……。嬉々としてお財布に詰めたお金は心と同時に消えていった…。あるのは、ただの意地とぐるぐる回る液晶の数字だけ」

 

 「うん…うん……!本当は止めた方がいいんだろうなって思ってた。でも、ほむらちゃんの真剣な目を見てたらとても言えなかったんだ……。

でも!」

 

 「えぇ、でも!!」

 

 「「当たった!!」」

 

鼻が擦り合ってもおかしくない至近距離で涙に濡ぬれた笑顔を溢し合うほむらとまどか。

周囲から寄せられる驚きの視線も何のその。今この時だけは、二人の時はフリーズしているように長く、幸福に満ち溢れていた。

 

 「粘って、本当に良かったぁ……」

 

 「そうだね…!そうだね!!

さぁ、ほむらちゃん!!」

 

 「うん、そうだね。こんな、泣いてる場合じゃない」

 

頷き合い、空いている左手を一度だけ絡ませると、ほむらは頬を拭い、事故を起こしている愛機に背を正す。

現在の出玉は約六千。他の機体に比べて圧倒的に出玉スピードが速いのは、バックグラウンドで行われているもう一つの当たり演出のおかげだ。

受け皿へどんどん溢れてゆく幸福の銀の玉。その一つ一つは四円の価値を持っている。

 

 「ねぇ、まどか」

  

 「なに、ほむらちゃん」

 

耳にした人々全てが思わずほころんでしまうような声で隣に座る少女の名を呼ぶ。

 

 「確か、新しい春服が欲しいって、言ってたよね?」

 

 「うん、言ってたけど、それがどうかしたの?」

 

 「明日、一緒に行かない?お買い物に」

 

ほむらは、どこまでも、どこまでも澄んだ笑顔でまどかに語り掛ける。

その意図を一瞬で理解した、幸福な彼女の、心からの親友は瞼の端から再び涙を溢して頷いた。

 

 「……うん。ちょっと高いけど、平気?」

 

 「もちろん。今の私なら、車だって買ってあげられるよ」

 

 「なら、一緒に免許取らなきゃだね!」

 

小さく、伝って行く笑み。

耳にこそばゆい、二人の少女の笑い声は、当たりのBGMにかき消され、近くにいる互いにしか聞こえない。

ーーはず、だった。

 

 「……ほむらちゃん?」

 

 「どうしたの、まどか」

 

今まで得た事の無い量の幸福の処理が分からず普段からは想像もできないほど締まりのない表情をするほむらに対し、どこか不安な面持ちのまどかは自身の台から僅かに身を乗り出し、マイパチの画面をのぞき込む。

 

 「ちょ、ちょっと、近すぎるって……あれ、まどかシャンプー変えた?」

 

 「う、うん。昨日の夜にね。

じゃなくて、ほむらちゃん!」

 

突如として慌て始めたまどかを見て、ほむらの顔に僅かに焦りの色が現れる。

 

 「な、なんだか、この前にほむらちゃんが一回目で継続を外した時に似てない…?」

 

 「……私にはわからないけど、どういう事?」

 

 「この、上の数字。……うん、間違いない。二週間前にほむらちゃんが外した時と同じ数字になってる!」

 

左手でまどかが指し示すのは右上に現れている、三つの数字。

両脇が六と六のリーチで止まっていて、真ん中の数字が同様に六で止まればそのまま継続する状態だ。

 

 「い、言われてみれば、確かにそうかも」

 

 「私ね、この間少し調べてみたの。……って言っても、確立とかを教えてくれるサイトじゃなくて、オカルトばかり集めてるサイトなんだけど……」

 

少しずつ沈んでいく声のトーン。

 

 「……マイパチでの最悪のリーチ目、ってやつ、だよね?」

 

 「う、うん……」

 

その理由は、あらゆるものに存在する、所謂オカルトと呼ばれる迷信だった。

ビギナーズラックに始まり、特定の曜日は必ず外れる、や、徳を積めば当たる、などと言った、一種の願掛けなどだ。

マイパチにおける迷信の一つには、[六のリーチ目だと、どれだけ高確率でもその時の保留は必ず外れる]と言うものがある。

当然、それはオカルトの域を出ず、実際にまどかが打った際には六のリーチ目から継続を引いたのをほむらは確認していた。

 

 「だ、大丈夫。そんなの、迷信だ……し……。あ」

 

ほむらが言い終えるよりも僅かに早く、七で固定された数字。

つまりは、今の抽選では継続が出来なかった事になる。

 

 「だ、大丈夫。大丈夫。ストックはまだ後四つある……し………?」

 

二度目ーー通算では三度目の抽選が、まどかの方を向いていた間に外れる。

 

 「ま、まぁ、そんなこともある、と思う…し」

 

 「ほむらちゃん……」

 

次第にほむらの顔から血の気が引いてゆく。

 

 「……つ、次もハズレ……?」

 

四度目のリーチ目はまたしても六。そして、流れるがままに外れる。

 

 「あ、あと二つあるし、平気…平気……平気、だよね、まどか?」

 

 「……ほ、ほむらちゃ」

 

 「あ、ハズレた」

 

僅かに虚無を孕んだほむらの声が五度目の抽選の結果をまどかに伝える。

アニメ映像の中では、原作の中のラスボス的立ち位置にある異形の化け物が主人公のマイと、その無二の親友であり、唯一となってしまった仲間のこがねを追い詰めている。

……本来ならば、ここでこがねの秘められていたもう一つの錬金術によって、死んでしまっていた仲間たちの力を自身と融合させて逆転する、のだが………。

 

 「リーチ目にすら、ならないの……?」

 

マイとこがねは無惨にも化け物に踏みつぶされ、抜けてしまった岩盤の底で、来世での共闘を誓い合って、息耐えた。

これが意味する事を、まどかは口が裂けても言えなかった。

 

 「ね、ねぇまどか」

 

画面に大々的に映し出されるのは[Total15342]という、最終的な出玉の数。

それに四をかけるとおおよそ六万千になる。

ーーつまり、換金した際に端数分はお菓子などにあてられるため、得られるのは六万と千円だ。

 

 「今日、泊っても……いい?」

 

 「……もちろん。ほむらちゃんが帰りたくなるまで、ずっといても平気だよ」

 

 「ありがとう。まどか」

 

出玉を全てデータへと変換し、カードに保存したほむらは、機体の右隣からそれを取り出だす。

 

 「お、やってんねぇ~二人とも!首尾はどうだい?なんつってな」

 

静かに…ただ静かに。周りの喧騒さえも吸収できてしまうのではないかと言う程静かに一連の動作を行ったほむらへ掛けられた声。

ホットパンツに、白のティーシャツを着て上着を第一ボタンでだけ留めるという、いつもの私服姿で現れたのは、彼女達の友人・佐倉 杏子だ。

右手には中身の減っていないジュースを持っていることから、丁度今打ちに訪れ、台選び最中に友人がいたから声をかけたというところだろう。

 

 「あ、杏子ちゃん…。あ、あの!この台、あげるね!」

 

 「あン?何言ってんだよまどか。まだラッシュ中じゃねぇか。せめて打ち切ってからの方が……」

 

 「じゃ、じゃあ!私の代わりに打っちゃって大丈夫だから!」

 

 「……?なんかよくわかんねーけど、後でカード渡しゃいいか。ま、練習だと思ってやらせてもらうわ」

 

 「う、うん!それじゃあね!」

 

 「おう、またな!」

 

困惑する杏子をよそに手短に会話を切り上げ、俯いたまま一言も言葉を発さなくなってしまったほむらの肩に手を回して外へと続く自動ドアへと歩みを進める二人。

 

 「……しっかし、久々になんにも喋んなかったな、アイツ」

 

その後姿を、杏子は小首を傾げて眺めた。

そうしてふと、ほむらの打っていた台が気になったのか、杏子は機体の上部に設置されているパネルを操作し……

 

 「………ゼロから始まってんな。んで、アイツが回してるのが大体二千回転か。……って、二千!?とんでもねーハマり方してんなぁ、おい。

そりゃあーなるか。これじゃあ事故でも起きねーと挽回は無理だろ。南無」

 

一人、散っていった仲間に黙とうを捧げ、ハンドルを握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be next story.

 

 




 
 ほむら。君にはもう少しだけ、悲しみを背負ってもらうよ。

といった感じの内容でした。
正直、ほむらがバカ勝ちしてるところを全く想像できないです。
……まぁでも、かわりにまどかと一緒の布団で寝れる権利を自然に得られたし、イーブンよね。南無。


しかし、やはり専門外は難しい……
自分はいつもスロットしかやっていないので、色々調べながら書きました。(なお、目押しは基本無理な模様)
まぁ、一度パチで初当たりを引いたこともあるのでその記憶も頼りに……
多分読めないものではなかったかと思います。
ちゃんとやってる人からすれば『なんだその当たり!?』ってなるようなものだったかもしれませんが、お許しいただきたいです。



それではまた次回。
今度は三話目だし、マミさんの話しでも書こうかな。


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第三話 もう確率なんて怖くない

 どうもこんにちは。Twitterで告知した通り、三話目になります。
本日の主役は我らが先輩巴マミ。
それでは、どうぞ。


 早朝。

澄み渡る空を見上げる、檸檬色の艶髪をした少女ーーマミ。

両サイドで緩やかに髪を巻いた彼女は若干肌寒い中、数人の後ろに立っていた。

 

 「(ふぅ、流石にまだ寒いわね)」

 

思わずこぼされた言葉に反応する者はいない。

 ここは乙女の社交場パチンコ⭐︎スロットの入口よりほんの少しだけ離れた場所。

前方にはまだ閉鎖されている自動ドアと五人程の人が立ち、後方には十人強の人々が、ちらほらと人を増やしながら並んでいる。

 

 (まさか、ほむらまで来れないなんてね)

 

白に近いグレーの肩掛けポーチから取り出したスマートフォンを覗きつつため息を漏らす。

映し出されているのはSNSのグループだ。

最新のログには、見滝原市が誇る魔法少女達五人のチャットが一言ずつ残されている。

だが、それら全てはマミにとって良い返事ではなく、見返している彼女の心に再び影が射し込んでしまった。

 

 (さやかと京子は御家族でお出掛け。まどかとほむらは、前に約束した春服を買いに行く予定があってダメ…か)

 

ログを見直しながら僅かな寂しさを感じるマミ。

彼女はここ最近、大学の課題や研究室の最終的な引き継ぎに追われ、休日らしい休日を過ごせていなかった。

先輩にあたる四年生が作った資料の紛失もあり、実際の予定を大幅に超えたおおよそ二週間。彼女は、友人達と遊ぶどころか、アルバイトのシフトを変更してまで大学へ足を運んでいた。

同時にこなしていた課題こそ量は少なかったものの、簡単にできるものでもなく、不本意ながらも徹夜を余儀無くされた日さえあった。

 

 (私も、お買い物とかにすれば良かったのかしら)

 

そうして、とうとうやってきた丸一日の休日。

異様な忙しさの後に訪れた休息は、彼女の思考から選択肢を奪い取っていた。

 

 (……まぁ、今更そんなこと考えても仕方ないか)

 

微かに感じた後悔に決着をつけスマフォをポーチへとしまい入れる。

それと同時。前方から大きな声が上がった。

 

 (ん、もう開店ね。良い番号が獲れるといいけど)

 

緩やかだが確実に進んでいく列。

彼女が再びスマフォに触れるよりも早く、抽選の時が来た。

 

 (この瞬間、ドキドキよねぇ)

 

女性の店員が二人、PCとキューブ型の機械がのせられている台の側に立っている。

PC画面に映し出される、三面のリール。四角の中に黒色のモヤらしきものが激しく入れ替わり………。

 

 (……えっ)

 

[005]と、映し出された。

 

 (ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット!)

 

キューブ型から出て来た番号の書かれている紙を女性の店員から受け取り、マミは流れのまま中へと入っていく。

 

 (番号が一桁ってだけじゃなくて、私達と同じ数だなんて、今日は運がいいのかも)

 

小さく微笑み、彼女は喧騒のまだ薄い自動ドアの側に立って店員の指示を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約三十分後。

マミは憂う事なく望んだ台に腰を落ち着けていた。

打っているのはスロット[Holly Magic 2]。

現在は放送が終了してしまっているアニメーションを題材とした台だ。

六号機へと機種が移行してしまった現在ではあるが、これはそれよりも前に設置されている。機種は五号機。純増が一.五枚と少々控えめだが、ゲーム数毎の上乗せがあり、場合によっては万枚を目指せる、俗に言う爆発台の一つだ。

………が、それはあくまでも上振れた場合の話。

確かに、低設定でも出る時は出るが、それは稀な話。

彼女が打っている台では、現在、奇数設定の挙動ばかりが確認できている。

つまり、一・三・五、のどれかの確率が高い。

二度ボーナスを引いてはいるが、そこからラッシュに繋がっていないことからも低設定の可能性が高いだろう。

 

 (台選び、失敗しちゃったわね)

 

小さく息を漏らし、マミは音の弾けている隣を覗き見る。

そちらでは、同様に早番を引いた女性が、同じ台で上乗せゾーンに入っていた。

ちらりと確認できるゲーム数は既に三桁。かなり美味しい状態だ。設定的にも上の方だろう。

 

 (あーあ、あやかりたいわ)

 

もう一度ため息を溢しそうになったその時。

 

  《おめでとうっ!》

 

 (あら)

 

リールがレア役を示し、映像の右下部分に[Win]の文字が現れていた。

 

 (ふふ、どんな事でも、考えてみるものね)

 

僅かに頬を綻ばせて、ビッグボーナスへと移行した画面の指示通りにリールを止めていく。

アニメキャラが戦場を駆けながら魔法を放って敵を倒している映像が繰り返し流れている。

そんな中、リール止めの指示なしの状態で主人公の親友がカットインで現れてきた。

 

 (ん、珍しいわね)

 

一瞬、マミは気持ちを引き締め、リールの動きを目で追う。

この映像は、Holy Magic2のボーナス中に稀に現れる前兆の一つだ。

スイカ、もしくは強チェリーで止めることができれば、ボーナス後のラッシュ抽選で、当たる確率が五十%よりも上の抽選が一回分約束される。

抽選に挑戦できる回数のストックは全部で三回で、うち一度でも達成できればラッシュに入れるため、この演出はかなりアツい。

 

 (まぁ、リール自体は全然見えるのだけど……)

 

回転するリールの絵柄を七、八割方目で追いつつため息が溢れてしまう。

と言うのも、リールの役がどれで止まるのかはレバーを入力した段階で決まってしまっている、と聞いた事があったからだ。

彼女自身、どこまで本当かは分かっていないが、ほぼ確実に目押しが出来る動体視力を持ってしてもリールがスベって止まった事があるため、その噂の信憑性は高い。

勿論、ボーナスに移行するためにスリーセブンを揃える際などは目押しで確実に出来るため、何もかもがというわけではないだろう。

問題なのは、今現在行われている抽選が、目押しで確実に止められるものなのか、だ。

この台を打ってまだ数度目の彼女には初めての演出であり、ネットの情報でもちらりと確認しただけのため、一確がどのリールなのかすら分かっていない。

 

 (……うん。スイカもチェリーもちゃんと見えるわね。図柄の順番も、一緒に収まるようになってるし、止まる確率は高そう)

 

リールをよく観察し、押すタイミングを図る。

ここで役を決められればラッシュ入りは濃厚だ。そのため、ボタンを押すための指にも微かな躊躇いが出てしまう。

 

 (ちょっと、怖いかも。……けど)

 

心を落ち着かせ、マミは、気をてらうことなく右から順に押していった。

 

一つ目のリールは真ん中にスイカが止まる。

ーーアニメ映像のキャラはステッキを構えた。

 

二つ目のリールは、残念ながらスベり、一番下にスイカが止まる。

ーー映像ではステッキを大きく振り、先端から魔力砲のようなものを放射。敵の一つに轟音を立てながら迫りゆく。

 

三つ目のリール。

結局は低設定か、と、心の中でマミは一度諦めてしまい、適当に押そうとした。

だが、親指が一瞬止まる。

その理由は、例えダメな可能性が高かったとしても、スロットで遊んでいる以上、存分に楽しみたい、と考え直したからだ。

レバーインの時点で決まっていようが、低設定で当たらなかろうが関係ない。自分の意思でリールを止めそれが幸運をもたらすのだと、思いながら押したい。

そう、気を持ち直し、彼女はタイミングを合わせてリールを押した。

狙ったのは強チェリー。

止まった位置はーー

 

 (………ふふ。適当にしなくて良かった)

 

リールの最上部。つまりは、強チェリーだ。

僅かに点滅するリールの枠と、敵に命中した魔力砲。

強チェを止められた際に流れる演出だ。

 

 (さてと。これで少しは期待できるわね)

 

再び始まった指示に従い、マミは滞りなくリールを止めていく。

特にミスも無く終了したボーナスは、ラッシュチャレンジへと移行した。

 

 (……紫ね。確率は確か、七十%くらいだったかしら。当たるといいけど…)

 

映像右端に縦列で並ぶ、小さくデフォルメされた三つのステッキ。

色は上から順に黄、青、紫。

期待値が青→黄→赤→紫→桃の順なため、期待してもいい状態ではある。

だが、桃色以外の当たる確率は全て七割以下。紫はまだしも、五十%の赤は勿論、それ以下の青と黄も外す可能性はかなり高い。

今の場合だと、紫以外は期待するだけ無駄だろう。

 

 (ま、赤じゃなかっただけ良しとしましょ。大丈夫大丈夫。当たるわ)

 

どこか楽観的に自身を納得させ、普段通りにレア役を補助する図柄の右バーを一番下で止め、他二つを適当押しするマミ。

役は特に揃っておらず、アニメキャラが「pushボタンを押して!」と呼びかけた。

 

 (おながいねっと)

 

それとなく気分の盛り上がったタイミングでpushボタンを押したマミ。

その瞬間、映像が煌びやかに流れ……

 

 《その調子だわ!》

 

 (えっ?)

 

チャレンジが成功したことを知らせる演出が流れた。

 

 (へぇ〜。珍しい事もあるものね)

 

確率で言えばおよそ二十%の抽選は見事成功する。

これにより、紫を待つ事なくラッシュが確定した。

 

 (こうやって安心して打てるのって良いわよねー)

 

緩んでしまった頬を特に引き締めたりせず、二度目の抽選を始める。

一度目と同様、右下にバーを止め、他二つは適当押し。今度は、レア役である横ベルが揃った。

同時に流れるキャラセリフにあわせ、pushボタンを押す。

……と。

 

 (う、ウソ!)

 

 《……悪く、ないよ》

 

成功率が一桁しかない青ステッキで、抽選が成功した。

 

 (す、凄いわね。低設定だと思ったけど、もしかして違かったのかしら?)

 

若干の動揺のまま訪れた三度目の抽選。

最後は、確率が七十%ほどの紫ステッキ。

結果は勿論。

 

 《ははっ!誇っていいぜ!》

 

成功だ。

 

 (……夢、じゃないわよね)

 

周りに人がいなければ頬をつねってしまいそうにマミが鳴るのも当然だろう。

何故なら、この抽選が三回とも全て成功した場合に入るラッシュは通常のものとは違うからだ。

 

 《Holy Magic!!》

 

マミの耳元に届くアニメキャラ四人全員の声。

通常とは別のラッシュ、それは、直接上乗せゾーンへと移行する、特殊なラッシュだ。

本来、ラッシュ中に行われる数回の抽選によって移行するかが分かれる上乗せゾーンへの抽選だが、先程のチャレンジーー通称、ステッキチャレンジで三回とも成功すると、直接上乗せゾーンへと移行するのだ。

Holy Magic2最大の上乗せゾーンである[Holy Magic]では、敵討伐の最低継続率七十五%が失敗するまで上乗せを行うことになっている。

最低が二十枚、最大で五百枚が狙えるため、このゾーンを引けてしまえば勝ったも同然と言える。

 

 (ふ、ふふふ。諦めずに打ってた良かったわ!)

 

指示通りにリールを止め、一戦目を難なく勝利で納める。上乗せ分は五十枚。悪くはない。

続いて始まる二戦目。

こちらも討伐が成功し、百枚上乗せされた。

 

 (ま、まずいわね。笑い声が出ちゃいそう。今日は焼肉かしら!)

 

仮にもし、液晶がブラックアウトでもしようものなら身悶えものの緩み顔のままリールを止めていくマミ。

まだ四戦目が終了したばかりだというのに、獲得枚数は既に四百枚を超えていた。

 

 (ふ、ふふふ!もう確率なんて怖くない!)

 

リールを止め、上乗せを確認し、またリールを止める。

なんて事のない、なんなら飽きてしまうような単純作業を一つの苦も感じずこなしていく。

………その結果、この上乗せゾーンは十二戦目まで続き、彼女は念願だったエンディングを見ることとなった。

その日の最終的な獲得枚数は約四千五百枚。

万枚までは流石に届きはしなかったが、それでも、投資約五千円でこの額であれば充分以上の勝ちだろう。

 

なお、彼女の座っていた台の設定は二。

これほどの当たりが出たのは、かなりの幸運だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

to be next story.

 

 




 本編ではほんのちょっとだけかわいそうな目にあいやすいマミさんですが、今回は作者特権でとてもいい目を見てもらいました。
このあと、彼女はショッピングに向かい買いたくても買えなかった服などを数点買った後、少なくなってしまった来月分のバイト代を補うため、残った分の半額を預金通帳に納めました。堅実です。

ちなみに、一話の頃から気になってる方もいらっしゃるかと思いますが、今作の中でマミさんはほかの四人のことを下の名前で呼び捨てにしています。
と言うのも、まどかが円環の理になる必要がなく、また、マミさんもさやかも杏子も死なない、ほむらの望んだ完璧な世界だった場合、それぞれと仲良くなったマミさんはみんなを呼び捨てにするんじゃないかなと思ったからです。

と言う感じで、三話目は終わりになります。
次回四話目はどうするかまだ決めてないので、スロットでもしながら考えようかと思います。

それではまた次回。
さよーならー





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第四話 後悔なんて、あるわけ……

どうもどうもお久しぶりです。
最近ほとんど打ちに行っていないカピバラ番長です。
改めて思うのは、よくもまぁこんな世界観でものを書こうとしたなコイツ(自分)って事です。
100回同じ時間巡ったってほむらはパチンコもスロットも打たんでしょ…。

とは言え、この世界の彼女や他のメンバーは打つんです。
ではどうぞ。



 数羽の雀が電線に留まり、羽休めをしている時間。

早朝と言うには遅く、昼とするにはまだ早い頃。

愛らしく首を傾げ囀る小鳥達の声は何処か目覚ましにも聞こえる。

 

 「ほむらちゃん、おはよー」

 

 「おはよう。まどか」

 

少しずつ羽音も響き渡り始めた空の下、バス停で待つ三つ編みとメガネ姿の少女ーーほむらの元へ、小さな肩掛けバッグを携えたまどかが駆け寄ってくる。

 

 「ごめんね、少し遅れちゃった」

 

 「ううん。全然平気」

 

 「それで、えっと、バスは……」

 

 「後、もうちょっとで来るよ」

 

 「そっか。乗り遅れてなくてよかったぁ」

 

 「ふふ。珍しいね。いつもはお母さんを起こすために早起きしてるって言ってたのに」

 

謝り、乱れてしまった衣服や髪型を直すまどかに、待っているバスの表を指差すほむら。

彼女達は以前乙女の社交場で交わした約束の通り、新しい洋服を買いに行為に隣町へと行く途中だった。

 

 「でも、本当に良いの?あの日はほむらちゃん、その……」

 

 「うん。気にしないで、まどか。確かに酷い目にあったけど…。でも、負けた額自体はそんなに多くなかったし、あの日はちょっと強引に連れて行っちゃったからそのお詫び。

それに、たまには私からも贈り物をしたいから」

 

 「……そっか」

 

頷いてはにかんだほむらに、瞼を閉じて微笑むまどか。

昨晩からまどかが危惧していたほむらの心的なダメージだったが、彼女のその言葉を信じるなら問題は無さそうだった。

 

 「あ、ほら。バスが来たよ、まどか」

 

 「うん、乗ろっか!」

 

やってきたバスが停車し、音を立てて扉が開いていく。

休日とはいえ中途半端な時間帯時間だからか乗車している人は少ない。

学校に行く日や、新台入替の日とは比べられるはずもなく、二人は難なく座席に座る事が出来た。

 

 「ねぇまどか。貴女はどんな服が欲しい?」

 

 「んーそうだなぁ……。明るい色のスカートとか、かな?」

 

 「いいわね。私もたまにはそういうの着てみようかな」

 

 「そっか、ほむらちゃん落ち着いた色の服が多いし、イメチェンも良いかもね!」

  

 「ふふ、ならついでに選んで貰おうかしら」

 

駆動音が僅かに響く車内を彩る柔らかな二人の会話。

それは、目的の場所に着くまで色を失う事は無かった。

 

 

          ーーーー

 

 

 

 『次は風見野ーー風見野ーー』

 

 「あ、ここだ」

 

 車内に流れたアナウンスに応じ停車ボタンを押すまどか。

その数分後にバスが停車する。

 

 「いこっか」

 

 「うん」

 

通路側に座っていたまどかの言葉を合図にバスを降りていく二人。

アスファルトに立ち、見えたのは見滝原よりも繁華街として発展している風見野の街並み。

 

 「わ~、懐かしいなぁ。ここに来たの実は小学生の頃以来なんだー」

 

 「へぇ、そうなんだ。それなら、もしかしたら私の方がこの街には詳しいかも」

 

 「えっ?ほむらちゃんって結構来るの?」

 

 「えぇ、実はね」

 

ほむらの案内を頼りに店へと向かう最中、取り止めのない会話を交わす二人。

 

 「ショッピングとかしに来るのかな?」

 

柔らかに微笑んだほむらにまどかは興味深々といった感じで話に食いつく。

 

 「それもあるわね。けど、大体は佐倉さんと一緒かな」

 

 「杏子ちゃんと?」

 

予想していなかった人物の登場に驚きを隠せないまどか。

そんな彼女の顔が可笑しかったのか、ほむらは小さく笑うと話を続けた。

 

 「あそこで一緒になって、彼女が勝ったりするとね、よくご飯に連れて行ってくれるの。美味しいラーメン屋さんに」

 

 「へー!意外!ほむらちゃんってラーメンとか食べるんだ!」

 

 「ええ。普段はあまり食べないけど、佐倉さんは好きだから。連れて行ってもらうってなると、そういうお店になるの」

 

 「今度みんなで行ってみたいな〜」

 

 「それもいいわね。けど、思ってるのよりもヘビーだと思うから、下調べしてからの方がいいよ?」

 

 「家系っていうやつ?」

 

 「大半がそうね。たまに普通の…って言うか、そんなに重くないところもあるけど」

 

 「杏子ちゃん沢山食べるもんねぇ。ほむらちゃんも実は、結構食べれたりするのかな?」

 

 「うん。時間魔法はお腹すくから」

 

 「そっかぁ。なら、もし行くことになってもいいようにダイエットしとかないと」

 

 「ふふっ、そうね。その時は私も付き合うわ」

 

 「やったぁ!二人ならきっと大丈夫だよね!」

 

 「えぇ、勿論」

 

途切れる事の無い会話を紡ぎ道を行く二人。

すると、いつの間にか目的の店が目前に現れていた。

 

 「わ!すっごくおしゃれなのが沢山!」

 

一目でそこが目的地だと理解出来たまどかは小走りに駆け寄ると、窓ガラス越しに飾られているマネキンを見つけて目を輝かせる。

 

 「喜んでもらえたみたいで嬉しいわ。私の行きつけの一つなの」

 

 「そうなんだ!やっぱりほむらちゃんはセンスいいなぁ」

 

落ち着いた印象を覚えるマネキンのコーディネイトを見つめるばかりのまどか。

けれど彼女の感想に対し、ほむらは首を横に振った。

 

 「そんな事無いよ。可愛いのはまどかの方が選ぶの上手だし」

 

 「私のはほら、子供っぽいだけだから、ちょっと違うよ」

 

ほむらの言葉に落ち込み気味に答えるまどか。

彼女がそう口にしたの原因は、以前大学の友人に言われた『子供みたい』という言葉が原因だった。

 

 「ううん、そんなことないわ。私は好きだし、可愛らしいのが似合う貴女に嫉妬しただけよ」

 

 「……そう、かな」

  

 「えぇ。少なくとも私はそう思ってる」

 

落ち込んだままのまどかの肩に手を置き、改めて違うと口にするほむら。

恐る恐るその目を覗き見たまどかは、そこにウソが含まれていないと分かると、薄く微笑んだ。

 

 「…えへへ。ありがとう」

 

 「お礼なんていいわ。本当の事だもの。

さ、そろそろ中に入りましょ」

 

元気を取り戻したまどかに笑顔を返したほむらは服屋の扉に手を伸ばす。

からん、と、軽やかに音を立てる鈴の音に僅かに聴き入るまどか。

普段はデパートなどに入っている洋服店ばかりを利用するからか、こんな些細なところにも感慨深いモノを感じているのだろう。

 

 「わぁ……」

 

鼻腔を通る服屋独特の匂いに胸を高鳴らせ、それに違わぬ色彩を放つマネキン達のコーディネイト。

外で見たダミーモデルにさえ目を輝かせていたまどかにしてみれば、複数に及ぶマネキンのその圧倒的な着こなしに舌を巻くのは当然だった。

 

 「ふふふ。奥に試着室もあるから気に入ったのがあれば着てみると良いんじゃないかしら?」

 

 「うん!ちょっと、見てくるね!」

 

 「えぇ」

 

駆け出さんばかりの勢いでその場から歩き出したまどかはほむらに一度振り向いて頷くとそのままコートの類が並んでいる商品列へと向かう。

それらがまた可愛い系の物であるとほむらは気が付いていたが、彼女は敢えて何も言わなかった。

 

 「……さてと。待ってる間に私も何か…」

 

遠目からでも分かるほどに楽しんでいるまどかの後ろ姿から視線を外し、店の端の方に設置されている本棚へと向かうほむら。

この服屋にはコーディネイトの参考のため数冊のファッション誌が置かれており、彼女は来店した際はまずこれらに目を通すようにしていた。

 

 ーーいきなり着こなしがどうの、なんて言っても臆病にさせちゃうだけだものね。まずは自分の好みで選んでもらって……

 

嬉しそうに服を選んでいるまどかを一瞥し、ほむらが最初に手にしたファッション誌はクール系。

……の中に、ワンポイントで可愛さを演出する方法が載った物。

 

 ーーん?

 

ぱらりぱらりと捲られていくフルカラーのページ達。

掲載されているのはどれも表紙の煽り文句に違わない写真ばかりだったのだが、数ページだけ、毛色の違う項目があった。

 

 ーー【[乙女の社交場]に居ても浮かないファッション十選】………?

 

普段なら兎も角、今日一日は絶対に縁がないだろうと考えていた単語・乙女の社交場。

通称、パチンコ・スロット店。

 

 ーーまさかこんなところでお目にかかるとはね。

 

特集の末端まで行ってしまったページを遡り、嘲りの笑みを誰にも気付かれない程度に浮かべたまま羅列されている文に目を通すほむら。

ページの端から端までに繋げ直せば一行にも満たない解説文は、だがなるほど。書かれていた内容はほむらが常々気に掛けていたモノだった。

 

 ーー【きっちりし過ぎはダメ。けれど、だらしがないのもイマドキ乙女じゃなくなっちゃう!だったら、どうするのが浮かずにいられる!?】……ね。

 

幾度と無く世界を繰り返し、やっと手にした安寧の今。

そこは彼女が知るそれまでとは明らかに異質で、先が見えない。

本当なら自然とそうなるだろうはずの生き方は、しかし人生の蓄積が他者とは途方もなく違った為に作り上げられた彼女の精神性ーー果ては物事の考え方に至るまで、固定化されてしまっていた。

故にこそ。

 

 ーー浮かないようにする為には……

 

他の人と……取り分けあの四人と差異のない生活を送りたいと思っていた。

 

 ーー……そういうこと。つまり、小物に気を配れば良いわけ。

 

文の周辺に載せられている年相応の服装したモデル達の写っている写真と、その人物達が身につけているアクセサリーやピアスのアップ写真。

これらから読み取れるのは[普段と同じ格好に、どこか勝負師を思わせる小物を身に付ける]といった事。

 

 ーーシゴロサイが付いてるイヤーカフスとか、売ってるかしら?

 

ページを読み進め、出した結論が正しかったと確信を得たほむらは雑誌を棚へと戻す。

そうしてアクセサリー類が置いてある棚へと向かおうとした時。

 

 「ねぇねぇほむらちゃん!これとこれ、組み合わせたらどうかな!?」

 

幾つかの候補から選び出したのであろうロングスカートと薄手のセーターを手にしたまどかが彼女の近くに戻ってきていた。

 

 「……そうね」

 

一見すれば幼さを思わせる色合いの二つ。

けれど。

 

 「……ヒフミサイが付いたイアリングとか、合うかも知れないわ」

 

そこにほむらは大人びたイメージを思わせながら可愛らしさも演出できるイヤリングを提案した。

 

 「…ええ、そうね。私がシゴロならまどかはヒフミよね…」

 

 「………ひふみ、さい……?」

 

独り言ちて納得するほむらを他所に首を傾げるばかりのまどか。

結局その後、値段に目を丸くしたまどかがどうにかほむらの申し出を断り、別の雑貨店で例のイヤリングを購入してもらうことで約束は一先ず果たされた。

 

 

 

………後日、他の三人にイヤリングの評価をされた彼女達は、2人で打ちに行く時以外付けないことに決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

to be next story.

 

 

 




初めに一二三サイや四五六サイを考えた人って天才ですよね。
どんな生活してたらこんな画期的なアイテム思い浮かぶんでしょうか…,

あ、因みに彼女達はパチる際磁石使ってゴト(イカサマ)とかはしないので安心してくださいね!
そしてしないでくださいね!(突然の注意喚起)


それではまた次回。さよーならー


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第五話 こんなの絶対おかしいわ!!!

お久しぶりです。
シンフォとギアスに飽きてベルセルクを打つようになったカピバラ 番長です。
スロットは滅多に手を出さなくなりました。やっぱり右手の運動は腱鞘炎にも繋がって良くないですからね!

ではどうぞ。


 ーーおかしくねぇか、これ。

 

長い赤髪をひとふさに束ねたポニーテールの少女・佐倉 杏子は自分の打っている台のデータを片手間に見ながら訝しんだ。

 

 ーー千ハマり以上してる台は当たりやすいはずなのに、何で保留変の一つも起きねぇ?もう五百は回してるんだぞ。

 

彼女は思わず口に出してしまいそうな感情を押し殺しつつ、ハンドルを固定し過ぎて痛みを若干覚え始めた右手首にイラつきを覚え始める。

ここは乙女の社交場パチンコ⭐︎スロット。

昼夜問わず人の悦と恐が混在する混沌の場。

その中でも比較的勝ちを得られている彼女は台の挙動に驚きを隠せなかった。

 

 ーー貯めてた分の球だ。投資はそんなに怖くねぇけど、いくらなんでも異常だろ。

 

追加で十ほど回された彼女の打っている台は[昨日食べたご飯の名前をワシはまだ知らない]というアニメを題材にしたパチンコ。

バラエティ機にも関わらず根強い人気を誇り、現在は四代目となっている。

 

 ーー確かに昨ワシは小当たりで吸い取られるかハマって爆発するかのどっちかみたいな台だ。ハマり自体は悪いことじゃねぇ。けど、ハマってる時に期待の一つもさせないような色気の無い台でも無いはずだ。なのに今回は点滅する保留すら来ないなんてどーいう了見だ??

 

募っていた苛立ちは更に積み重なり,ハンドルの位置を僅かにずらしてしまう。

途端,比較的安定して電チューに入っていた球がバラけて底に吸い込まれていく。

 

 「(ヤッベ)」

 

思わず小声を出してしまった杏子は急いでハンドルを定位置に戻し,元の挙動に戻りつつある球の流れを見守った。

が。

 

 ーーあーくそ!一回ミスるとすぐこれだ!

 

先程と同じはずの強さで打っているにも関わらず球は電チューに殆ど入らなくなってしまった。

 

 「ぬかったわね。佐倉さん」

 

 「あん?……って、ほむらじゃねーか。随分遅い出勤で」

 

 「ええ。たまにはね」

 

するりと流れるように隣の台へと腰を下ろしながら彼女に話しかけたのは打ち友でもあり、同じ魔法少女として手を取り合った相手・暁美 ほむら。

綺麗に整えられた黒髪を靡かせながらサンドに万札を入れる姿は同じ女性である杏子にすら妙な美しさを覚えさせる。

 

 「何かあったのか?今日一応入れ替えの日だったのに」

 

 「まどかの家に泊まっててね。さっきまでご飯を一緒に食べてたの」

 

ほむらは貸し玉ボタンを押し、銀玉を排出させるとハンドルを捻る。

パチンコはテーマ台毎にハンドルの硬さがちがうため、最初は何発か無駄玉を打ってしまうものなのだが彼女は一発で適度な強さに捻ると,釘の癖を見つつハンドルを調整し始める。

 

 「の、割にはそいつはいねーみてーだけど」

 

 「ご家族と用事ができてしまったみたいで帰ったわ。私もそのまま…とも思ったのだけれど、新台入れ替えの日なのを思い出してね」

 

微かに悲しげな表情を見せ、それでも台の液晶からは視線を外さないほむら。

彼女としては今日一日をまどかとの時間に使う予定だったのだろう。しかし、家族からの呼び出しとなれば口は出せない。

それ故ほむらは渋々ーー実のところはいつの間にかーー乙女の社交場へと足を運び,台選び中に見つけた杏子の隣に腰を落ち着けたようだ。

 

 「っは!流石にパチンカスだな!我慢できなかったか」

 

 「お互い様。……それより、かなりハマってるみたいだけど」

 

話をしながらちらりと杏子の打つ台のデータに目を向けたほむらはそのあまりのハマりっぷりに若干息を呑む。

と言うのも,ここ最近で似たような目にあって結果負けたので他人事とは思えないからだ。

 

 「ん?ああ、って言ってもアタシが打った分は千から先だからなぁ。実はそーでもねぇぜ?」

 

 「昨ワシだものね。それが正解よ」

 

 「……の、はずなんだけどよー。どーにも駄目なんだよな。色変どころか点滅すらこなくてさー」

 

 「保留が?」

 

 「そー。流石に気味悪くって」

 

粗野に足を組み直しつつこれまで感じていた苛立ちの一端を不安へと形作りほむらに漏らす杏子。

ほむらとてパチンカーだ。大なり小なりあるにしろハマり自体が珍しいもので無いのは心得ている。心得ではいるが、その間に保留変等の挙動を一切見せないというのは流石に聞いたことがない。

先の千回転分は別の人であるためどうだったか確認の取りようは無いが、少なくとも五百から先……彼女が回した中ではそういった動きが見られなかった。

となれば、台の設定ーー引いては店側の思惑が少なからず絡んでいると見て間違いない。

 

 「……なら、あの噂は本当なのかしらね」

 

人一倍データを取り、実践しているほむらにしてみればそのような推測を超えた憶測を思うのは当然だった。

そしてそれは同時にこれまで懸念していたもう一つの不安を彼女に思い起こさせる。

 

 「噂?」

 

 「ええ。……この店が意図的に【当たらない台を置いている】って話がね、結構前からあるのよ。それも結構耳にするわ。…ここの休憩所とかで」

 

ほむらが打つ手は止めずに口にした噂の内容。

始め、杏子はキョトンとした顔でそれを聞いていると、次第に両口の端が引き攣り始め、気がつけば目尻が緩んでいき……。

 

 「アッハッハッハ!お前、それ本気で言ってんのか!?」

 

気が付けば打つのをやめて腹を抱えて笑っていた。

 

 「ちょ、ちょっと。うるさいとは言っても公共施設よ?静かにしなさい。恥ずかしい」

 

今日は平日。とは言え大学生が主なターゲット層であるため客自体はそれなりにいる。

ほむらの不安通り、台のBGMよりも大きな声で突然笑い出した杏子に小首を傾げた人の視線がいくつも集まっている。

当然一緒に話していた隣のほむらにも視線は向けられており、そもそも他の三人含む彼女達五人は【いつ行っても誰かしらいるグループ】として少なからず注目を浴びている状態だ。

そのせいかほむらには集まってくる視線が少しだけ痛かった。

 

 「あ、あー。悪い悪い。……けどよぉ、あのクールビューティー気取ってる暁美ほむらがまさか負け犬の陰謀論を間に受けてるとはねぇ……。アハハハ、お腹痛い」

 

 「…貴女、そういうところあるわよね」

 

 「お前こそ、案外可愛げあるよ。まぁ、まどかじゃ天然過ぎて気が付かねーだろうけど」

 

 「どうしてそこでまどかが出てくるのよ!」

 

 「っと、声だぜ、声」

 

 「ぐっ…」

 

突如話題に登った名に対して柄にもなく感情的になるほむら。

その姿が余程おかしいのか、杏子は声こそ出さないもののお腹を抑えて笑い出し、更にほむらの羞恥心を煽った。

 

 「とっ、とにかく。そういう話があるにはあるの。貴女も食い物にされたく無いならちゃんと見切りを付けるのね」

 

 「ああ。わかったわかった。他でもねぇお前の忠告だ。今日はここまでにしとくよ。……丁度、頃合いみてーだし」

 

 「……頃合い?」

 

未だ治らない笑みを手元で隠しながら会員カードを抜き取り手帳型スマフォカバーのカードポケットにしまう杏子。

すっかり帰り支度としたらしい彼女は残っていた十数球を適当に打つと椅子から立ち上がり後ろを振り向く。

 

 「……なんて、久々にカッコつけてみるもんだな。ホントに頃合いが来やがった」

 

 「???」

 

不可解な彼女の言動に釣られ同じ方を向くほむら。するとそこには辺りの台を見回しながら島を進んでいく桃色の髪の一人の少女……

 

 「……まどか?」

 

鹿目 まどかがいた。

 

 「その台、お前にやるよ。もう五百くらい回してからでも噂の真偽を決めるには遅くねぇだろ?あ、でも当たったらなんか奢ってくれよ。最近お菓子買ってくとさやかの奴が怒るからさ。どっか二人で。他のがいるとチクられそーだからな」

 

 「え、ええ。それはまぁ、友人のハイエナしてるようなものだし、構わないけれど……」

 

 「ん。じゃあ取引成立。代わりにアタシはアタシで噂のこと調べといてやるよ。んじゃーな」

 

 「さ、佐倉さ…」

 

 「あ、ほむらちゃん!」

 

まどかの声が上がると同時、杏子はほむらの席を後にする。

入れ違う形で彼女と合流したまどかは立ち去っていった杏子の背を見つけるとほむらへと向き直ると俯きつつ上目でほむらを見た。

 

 「もしかして、タイミング悪かった?」

 

 「ううん。ほら」

 

 「……あ、あー」

 

どこか萎縮気味に口を開いたまどかに杏子の座っていた台のデータをほむらは指差す。

それだけで全てをなんとなく察したまどかはもう何も言わず、昨ワシの台に腰を下ろすと意を決した顔をして薄桃色の財布を取り出し。

 

 「きょ、今日は私が仇を取る!」

 

殆どいつも一緒に行動しているほむらですら滅多に見れないやる気を満ち溢れさせて千円札をサンドに入れた。

 

 「で、でもまどか。その台は……」

 

 「う、うん。多分当たらないんだよね?でも大丈夫!こういう時のためにほむらちゃんに色んなこと教えてもらったんだもん。少しくらい頑張らないと!」

 

 「……ふふ。そうね、その意気。パチンコとスロットに勝つのに必要なのは勝つっていう強い意志だもん。まどかなら大丈夫」

 

 「うん!」

 

別れ際に杏子が口にした約束は兎も角、これからまどかが打とうとしている台は不穏な噂となっている可能性がある台の一つ。

ほむらとしてはできれば打ってもらいたくは無いのだが、やる気に溢れているまどかをなんとしてでも止めるというのは気が進まない。

杏子の言っていたように追加で五百……とまではいかずとも、適度な回数を回したらそれとなく帰宅を促して反省会をしよう。

…と、そう考えて隣から聞こえる貸玉の落ちてくる音を聞きながらほむらは自分の台のハンドルを握った。

 

 「…………あれ?ほむらちゃん。これ、魚群かな?」

 

 「え」

 

無駄玉をいくつか出してようやく電チューに入ったまどかの一発目。

その途端液晶にはかなりアツい演出・魚群を模したキャラの大群が右から左に流れていき。

 

 「あ、当たっちゃった」

 

もはや耳障りとも言える音を立てて七のゾロ目が揃った。

 

 「……お、おめでとうまどか。その台はハマってから当たると一万発くらいは確定してるから、安心していいわよ」

 

 「ほ、ホント!?じゃあ、今度は私がほむらちゃんにアクセサリー…を?」

 

 「……大丈夫…大丈夫だから」

 

 「……?」

 

パチンコに於いては師匠とも言えるほむらからの太鼓判を貰い喜びを露わにし視線を向けるまどか。

しかし、そこにはほむらの顔はなく、何故か反対の席側に顔を向けて俯いていた。

耳を真っ赤にして。

 

  ーーお願いよ佐倉さん。私が陰謀論者じゃ無いことを証明して見せて……。お菓子くらいいくらでも買うから……!

 

 「あ、繋がった!しかも最大ラウンド数だよ!ほむらちゃん!」

 

 「え、ええ、そうね」

 

 「夜ご飯、どうしようかな〜」

 

途端に景気良く鳴り始めた出玉の音に混じりながら聞こえるまどかの感嘆の声。

だが、ほむらの羞恥心からくる慟哭はそこに決して混ざらない。

 

 

 

 なお、付き合う形でまどかの当たりが終わるまで打っていたほむらは財布を軽くして、半ば止められる形で帰っていった。

 

 

 

 

to be next story.

 

 




 こんなふざけたお話のくせに実は起承転結の承と転を担ってるってマジ?
ほむらが可哀想だろ…

と、久し振りに描いてみました。どうでしたでしょうか。
超個人的見解ですが、ほむらはなんかやっても空回ってるってイメージが強いんですよね。なんらかのアンソロジーの影響と思われます。

そうそう。お菓子を買ってくるとさやかが怒るのは、杏子の裸を見た時にあまりのスレンダーさにダイエットを決意したからです。
……ホントにたまたまなんですかね?不思議ですね。
ちなみに二人は映画基準の同じ屋根の下で暮らしてたところから発展して、同じ大学に通うため現在は二人きりで借家でルームシェアしてます。
五人で集まる時は大体マミさんの家かこの二人の家になってます。そんな話も書ければいいですね。
また、まどかが家族に呼ばれたのは目を離した隙に迷子になったタツヤを一緒に探してもらうためです。場所的にそれほど遠く無い所で遊ぶのを知っていたパッパが焦って連絡したのです。
幸いまどかが駆けつけた頃には見つかっていたのですが、タツヤの手には何故か一口チーズが。
きっと迷子だと察してくれた大人の人が、疑われるのは嫌だが放ってはおねなかったので取り敢えずチーズを渡して落ち着かせてくれたのだろうとパッパは言ったのですがまどかはどこか思うところがありながらもほむらのところへ戻っていった。
そんな感じです。(別れた場所にいなかったから社交場に向かったのは仕方ないとは言え天然サディスト感ある)
パッパはしっかりまどかに叱られました。罰はマスターデュエル一週間禁止らしいです。

ではまた気が向いたら書きます。
さよーならー


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第六話 本当の気持ちと向き合えましたか?

連投した。偉い。
でもちょっとテイストが違う。

とりあえず,どぞ。


 ボーイッシュな髪型をした青をイメージさせる少女が街を歩いている。

行き交う人は皆ただの人。魅入られた存在はどこにも居ない。

 

 ーー魔女が出なくなってからもう随分経つけど、やっぱ嘘みたいだなぁ。

 

手提げ鞄を片手にそれと無く辺りを見回している少女の名は美樹 さやか。

かつて、魔法少女の宿命にその身をやつしかけた彼女は一人の少女ーー佐倉 杏子に救われ、今日までを過ごせている。

現在は命の恩人とも言える杏子と二人暮らしをしながら同じ大学に通い、平穏な人生を手に入れるために勉強に力を注いでいる。

 

 ーー平和って、やっぱりいいよね。…私達のしてきた事が正しかったんだって実感できる。

 

ふつと湧き上がる感慨に胸を掴まれ思わず立ち止まってしまうさやか。

そんな彼女の肩を叩く影があった。

 

 「よ。珍しいな。さやかが自分からこんなとこ来るなんて」

 

 「あれ、杏子じゃん。今日も打ちに行くって……」

 

 「だから来たんだろ?」

 

さやかの肩を叩き、流れるように肩を組んだのは同居人の杏子。

トレードマークの赤いポニーテールを揺らしながら彼女は右隣を指差す。

 

 「……え」

 

 「大学の帰りだろ?どうせだし一緒に打とーぜ!」

 

 「あ、ちょっと!!」

 

示されるがまま向いた先にあったのは少女の社交場パチンコ⭐︎スロット。

さやかの友人四人の行きつけであり、たまに付き合いで彼女も嗜んでいる遊技場だ。

彼女は、自身のの専らの悩みの種であるそこにいつの間にか足を運んでしまっていたらしい。

 

 「あたし、今日は貸せるほど持ってきてないからね!」

 

 「大丈夫だって。貯めてる分があるからさ!」

 

 「あんたはまたそうやって…!」

 

杏子に腕を引っ張られるまま、抵抗する暇もなくさやかは社交場の入り口まで連れて行かれてしまう。

……彼女の悩み。それは同居人のーー同じ財布を持つ杏子の、パチ屋への入り浸り具合だ。

 

 「なーに打とうかなー」

 

 「全く…」

 

扉一枚抜ければそこは地獄の叫びもかくやという程の喧騒が乱立する世界。

半ば呆れているさやかとは対照的に杏子は今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気で台を見て回っていた。

 

 「お。これ前にさやかが好きって言ってたアニメじゃなかったっけ?[ヒト娘ビューティフルストーリー]」

 

 「げっ!こんなのまであるの!?」

 

杏子が指差したのは【新台】とポップの張り出されているスロット機。

数年前に放送されたアニメを題材としている今機は未だ冷めやらぬ熱狂の中で出されたためかなり期待値が高いとされていた一台だ。

実際、実装されるまでの間に明らかにされた内容だけ見ればかなりの良台。暫くの覇権とすら見なされていた。

……のだが。

 

 「ま、出て一ヶ月で化けの皮剥がされちまったからなー。今じゃ原作が好きな奴くらいしか打ってねぇダメ台だ」

 

 「あ、あはは。世知辛い」

 

 「結局打ててなんぼだからしゃーねーんだけどな。まぁまず、打つ奴はいねーわな」

 

小さく苦笑いを零し、台の説明書を取る杏子。

数秒ほどゲーム内容を見ると説明書を元の場所に戻して椅子を引いた。

 

 「……なのに座るんだ」

 

 「まーな。珍しく来てくれたんだ、どうせなら興味あるやつ打ちたいだろ?」

 

 「別に、一人でもいいけど…」

 

 「アタシが一緒に打ちたいんだ。大丈夫だって!メダルも貯めてる分あっからさ」

 

 「いや、そこは気にして無いけど…。じゃあ、うん…」

 

杏子は会員カードを入れつつ打つ態勢を取りながらさやかを促す。

さやかにしてみても少なからず打ち手。それも好きな作品の台だ断る理由があったとしても心は惹かれてしまう。

思うところはあれど結局最後は隣に腰を下ろして五千円札をサンドに吸わせてしまった。

 

 「てか、データとかいいの?いっつも見てるのに」

 

 「あー、この台はいいんだよ。ぶっちゃけ設定差とか関係ねーからグラフ見てもなんにもわかんないんだ」

 

 「へ、へぇ。そんな台もあるんだね」

 

 「たまにな。で、その中でもコイツは折り紙付きに酷いってだけさ。でも当たったらまぁまぁ凄い。良く言えば爆発台ってところかな。殆どシケッてるってだけ」

 

 「よくわかんないや」

 

 「あっはは。ま、アタシも騙されて何度か打ったクチだからさ、何かあれば少しは教えてやれるよ」

 

 「じゃあそん時は頼むよ」

 

 「任せな!」

 

会話もそこそこにリールを回し始める二人。

景気良くタイトルコールが行われ,不覚にも期待を持ってしまうさやか達は,しかし数回回すと表情が無に変わった。

 

 「……お、今日はやけに速いな」

 

それから十分ほど打っていると杏子の台からチャレンジ演出の音が出始めた。

アニメーションが気になるさやかは液晶に視線を向け,自分の台を疎かにする。

見たところ当たればボーナスに向かっぽい演出だ。自分の台ではないが、むしろ人の台だからこそ軽い気持ちを持ったまま期待の篭った眼差しでさやかは行方を見守ってしまう。

…のだが。

 

 「だー!ハズレかよー」

 

至極当然のようにハズれ、そのまま通常ステージに移行してしまった。

 

 「ま、しゃーないか」

 

 「え?あ、うん。そうだね」

 

覗き込んでいたさやかに笑顔を向け,杏子は新しく貸しメダルを出すと再びリールを回し始める。

その様子をさやかはどこか思うところを持ちながら眺めていた。

 

 ーーいいのかな、ホントに。

 

回しっぱなしだった自分のリールを止めながらさやかは思考に耽る。

……耽ってしまう。

 

 ーーいつからだっけ。あたし達の生活に【打つ】が紛れ込んだのは。……今まではどうやって過ごしてたんだっけ。

 

レバーを入れ、回るリールを止め、またレバーを傾ける。コインが無くなれば補充し、同じことを繰り返す。

 

 ーーやってて楽しくない……ってわけじゃないんだけど、なんだかなぁ。

 

激アツ演出以外が現れても特に踊らなくなってしまった胸。

いつだったか彼女は杏子と共に社交場に一週間通い詰めた事があった。その時に実感し、理解したのは【当たった時以外喜ぶべきではない】という教訓。所詮ハズレが常のパチンコ・スロットに於いて一喜一憂などという感情は排するべきモノ。心臓に悪いだけ。

けれど、それらを踏まえたところでアツいとされている挙動が見られれば喜んでしまうのが人のサガ。

……なのに、何故かソウルジェムは濁らない。

絶望を筆頭とする負の感情はソウルジェムを濁らせる要因の一つでありその最大峰。にも関わらず、何故か彼女達のジェムはワルプルギスの夜を屠り、数の減った魔女を駆り尽くして以来輝いたままだ。

 

 ーー魔女がいなくなったからその機能だけが失われた……だとは思うけど、それでもこれまでの常識と違ってくれば怖いのは当然、だよね。あんたはどう思ってる?杏子。

 

ちらりと杏子の横顔を覗き見て、そんな思考を掻き消すようにさやかはレバーを入れる。

 

 ーーダメだダメだ。みんな幸せに暮らしてて、ソウルジェムも濁らない。これの何が悪いっての?考えすぎなんだって。きっとさ。

 

だくだくと溢れてくる悪い考えを抑えるようにスロットを回していくさやか。

その姿は側からみればメダルを無駄にしているように思われなくもない。

だが魔法少女として戦い続けていた彼女にしてみればリールの目押しなど造作もない。

むしろ手練れの打ち手である杏子ですら目を丸くするほどの速さでかつ正確にリールを止めている。

 

 「なんだぁ〜?荒っぽい打ち方する様になったじゃんか。アタシも真似してみるかな」

 

 「そーいうんじゃないから。今日は一万くらいやったら帰るよ」

 

 「はー!?なんだよそれ!そんなんただの募金じゃんか!」

 

 「当たる時は千円使わなくったって当たるんだから多いくらいだっつの。それとも夕飯抜きにされたい?」

 

 「うへ〜。わーかったよ。お前が一万使い終わったらお仕舞いにするって」

 

 「よろしい」

 

放っておけば気が済むまで際限なく打ってしまう杏子を嗜めつつさやかは台に向き直る。

それから少ししてさやかがラッシュを引き当てると、二千枚手前までメダルを獲得して今日はそれまでとなった。

のだが、さやかのラッシュが終わるまで打ちながら見守っていた杏子は大負け。

台選びの件も含めて自分にも非はあると考えたさやかは『授業にちゃんと来るなら』という口実のもと勝ち分の一部を断る杏子に譲った。

……そんな、会話をした後の換金所での事。

 

 「……一口チーズ?」

 

 「向こうで端数切り忘れたのかね」

 

換金用の板を受け口に送り、出てきたお金と一緒にトレイにのっていたのは一口サイズのチーズ。

 

 「青色のパッケージか。…なんか、さやかっぽいな!」

 

 「ちょっと。髪の色だけで言ってるでしょ」

 

 「あはは、バレた?」

 

その時は何も不思議に思わずお金と共に受け取ったさやかだが、帰宅して一息つくとなにか不思議な感情が湧き上がってきた。

 

 「……あたし達、これで本当に良かったんだっけ?」

 

雨降る闇の中で一人で取り残されたような不安感を抱くさやか。

得体の知れない不安に身体を抱き締める彼女をカーテンの掛かった窓から小さなシルエットが覗き見、姿を消した。

 

 

 

 

 

to be next story.




 なんでこんな感じになってしまったかって言うと、話が動き出しましたからなのです。
今後もおそらくこんな感じの雰囲気になるかも…。

初期の感じが好きな方には申し訳ないと思いつつも、最後までお付き合いいただければ幸いだと思います。


ちなみに杏子の大学の単位は足りてないです。あまりになさすぎて日に何度かさやかが代返してます。いい加減バレてますがどうせ来ても寝てるだけなので知らないふりしてます。代わりに追試がヤバいです。そんな時の勉強は大体さやかが、タイミングが合えば他の三人もあれで見てあげてます。
ピュエラマギホーリークインテット!って杏子が茶化すのでだいたいマミのスパルタ家庭教師が始まります。


ではまた次回。
さよーならー


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第七話 アタシって、ほんっっとバカ

 土日は休む。それが私の流儀だ。

ではどうぞ。


 その日彼女は珍しくーー否、久方振りに苛立っていた。

生きていれば自然と生まれてくる日常的な苛立ちではない、本能に突き刺さるような苛立ち。

或いは敵意とも呼べる……数年前まではごく当たり前に日常的に感じていたそれ。

 

 ーーなんだってんだ。魔女なんかどこにもいねぇって言うのに。

 

普段なら気にも止めなくなったパチンコ・スロットの暴力的な音にさえ敏感になっている彼女ーー杏子は不必要にハンドルを強く握ってしまう。

 

 ーー久し振りだぜ全く。お陰で打つ手に力が入っちまう。

 

杏子の打つ台の液晶に浮かび上がる【右打ちに戻して下さい】という警告文。

しかし彼女は一切気にも止めず、周囲に視線を巡らせている。

 

 ーーそこか?

 

僅かに強まる気配。左手に隠していたソウルジェムの輝きを見るに彼女の察知は正しい。

が。

 

 「……いない?」

 

弾かれたように振り向き臨戦態勢を取るもあるのは一般の客だけ。それらしい姿は何もなく、口づけも確認できない。

むしろ唐突な行動に出た杏子に対して驚き、疑問的な視線を送っている。

 

 「あ、わ、悪い」

 

 「い、いえ…」

 

目が合ってしまったがためにひとまず謝罪を口にして椅子に座り直す杏子。

 

 ーーな、なんだ?なんだってんだ?たかだか数年で訛っちまったのかよアタシは。

 

途端に湧き上がってくる羞恥心だが、それをなんとか抑え込み、己の判断を問い質した。

 

 ーーいや、そんなはずねぇ。ソウルジェムだって光ったんだ。なんかいたのは間違いない。……それに、問題はそこじゃねぇ。

 

どこで誰が見ているか分からない。故に彼女は平静を装いハンドルを握り銀玉を打ち出し、一般客を演じる。

だがその胸中にあるのは一抹どころではない不安ーーいや、恐怖。

 

 ーー本当に魔女だったのか?アレ。

 

負の感情渦巻く場所に現れては人を惑わし、結果的に死に至らしめる存在である魔女。

少女限定の遊技場とは言えここはパチ屋。天国を見る以上に地の底に叩き落とされる存在の方が多い。魔女が寄りつくのはおかしな話では無い。

だが、ならば何故口づけを施された人がいないのか。

可能性としてあるのは魔女に人を襲う気がないというのと、先ほどの杏子のーーそれこそソウルジェムの輝きでさえーー単なる気のせい。

 

 ーーいや、そんなはずはねぇ。アタシは腐っても魔法少女だ。風見野じゃ敵なしだったアタシがそんな間違いするはずねぇ。

 

ならば可能性は一つしかない。

魔女は実在するが襲う気はない。そして今回はたまたま感知出来た。

……そう。たまたま。

 

 ーー…………っは。

 

薄く,杏子の頬に自嘲的な笑みが浮かぶ。

 

 ーーなわけあるからバカ。ちょっと平和に浸ってたからって日和っちまったのか?……そんなんだからさやかを失いかけるんだよ。馬鹿。

 

彼女の瞼の裏に浮かび上がるのは今となっては遠い日の記憶。まだ中学生だった頃に日々魔女と戦いあっていた時の事。

本来なら誰も寄り付かないだろう路地裏。妙な胸騒ぎを頼りにそこへ向かった杏子は数人の不良を殴り倒して返り血を浴びていた魔法少女姿のさやかを見る。

 

 『すごいよね、この身体。ホントに痛みも消せるし傷だってすぐ治っちゃう』

 

光の届かない中で建物の影を浴びながらそう言ったさやかの右手は歪な形から本来のあるべき姿へと還り、その拳で彼女は自分の顔を殴った。

 

 『お、おい!やめろよ!何考えてんだ!!』

 

 『痛くない。痛くないんだよ。こんな、指とか手首とか折れるくらい強く殴っても痛くないんだよ?ねぇ、あんたはどうなのさ。杏子』

 

 ーーどうもこうもあるかよ。

 

眼前の台の中で暴れ回る銀玉は無い。

ただ、パツンパツンと気の抜けた軽い音だけが空しく響いている。

 

 『アタシだって辛いに決まってる。でもそれじゃ何にも始まらねぇ。だったら気の向くまま生きてやりゃいい。どうせ自分の都合で始めたケンカなんだ、誰に指図される言われもねぇだろ。……それでも、一人じゃ寂しいってんなら一緒に居てやる。……独りぼっちが寂しいのは知ってるんだ』 

 

……気が付けば、杏子は台に身体を預け,泣いていた。

瞼の裏に,脳裏に焼き付いていた映像は全てを捨てた気になって生きていた杏子が初めて生き返った日。

それは同時に混乱し深淵に嵌っていったさやかを抱き寄せた日でもある。

彼女にとっては一生忘れられる事のない記憶が、いつもなら思い出さないようにしていたそれが、何故かこの時ばかりは胸の中で溢れかえっていた。

 

 「…ちょっと、あの」

 

泣く声は音にかき消され周囲全てに届いているわけではない。だが傍に座っている者、近くを通る者には聞こえる。

無論、呼びかけてくる人の声も。

 

 「…………さやか?」

 

 「きょ、杏子?何やって……さてはあんた、今月分全部使っちゃった……?」

 

 「……さやかぁぁ〜〜」

 

 「ちょぉ!?なんで泣いてんの!?」

 

傍から見れば生活費の全てもつぎ込んで負けたように見えていた杏子の傍を通ったのは同居人でもあるさやか。

さやかはどうも見覚えのある人物が台で突っ伏しているのを見て、思わず声をかけてしまっただけのようだ。

 

 「さやかぁ〜〜!」

 

 「えぇ!?なになにどうしたの!?ってぇ!引っ付くなぁ!」

 

 「ごめんなぁ〜〜」

 

 「う、嘘でしょ?一昨日渡したばっかなのに…って!!恥ずかしいから離れろっての!」

 

止めどなく溢れてくる涙と謝罪の気持ちに押し潰され、立っているさやかに縋るようにして身体を預ける杏子。

明らかに異様な瞬間を、だが周りの人間は注意するでもなくただそれとなく見ているだけだ。

 

 「さやかぁ〜〜…」

 

言われた通りに縋り付くのをやめ、明日に座り直した杏子はぐずぐずになった目元を袖で拭う。

 

 「え、えぇ〜?なんかよくわかんないけど……取り敢えず、帰る?」

 

 「帰る…」

 

 「うっわ。本格的にダメっぽい。一応聞くけど歩けるよね?」

 

 「……大丈夫」

 

普段では……どころか、今まで一度も見た事のない杏子の姿にさやかは驚きを通り越して不安を覚える。

それどころか滅多に見せない素直な返答は同時に不可解な勘繰りを生み。

 

 「…なんか、あったの?パチンコ以外でさ」

 

 「……家着いたら話す」

 

彼女は不意に嫌な予感を掻き立てられた。

まるでとっくに終わった戦いが蘇るかのような考えたくも無い予感が。

 

 

 

 

to be next story.




 ちなみに私は杏さやではなくさや杏派です。さや攻めです。{唐突な火種)

このお話の世界線ではさやかは魔女化してません。なので彼女達はまだ魔女の正体がなんなのかを知りません。
なので魔法少女化した事に対しての不安や恐怖なんかはあっても魔女化するなんてのは夢にも思ってない状況です。
さやかが杏子を何故命の恩人と言ってるかと言うと,路地裏で助けてもらえなければ自らソウルジェムを砕いて死ぬつもりだったからです。
ちなみに不良達は他校の女子生徒を攫ってにゃんにゃんしようとしてました。お金を掛けずに整形をしてもらえました。現在は地下王国でカードゲームしてます。

なお、杏子はお小遣いを全部使ってました。家に帰ったら普通に叱られました。

ではまた次回。
さよーならー


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第八話 そんなの、私が絶対許さない。

 書いた私は偉い。
どぞ。


 結論から言って、彼女は負けていた。

 

 ーーこれが、噂の台……ね。

 

顔はクールに心は穏やかに。

装って装って、その上でハンドルを握る手は震えている。

投資は八万、残玉は五十。財布の中は今週分の生活費のみ。

辛うじて銀行にお金はあるが、結局のところは大負け。それでもまだ挽回のチャンスはなくはない。

 

 ーーこのくらいの圧力で私が屈するとでも?

 

美しい長い黒髪を持つその少女の名はほむら。

見滝原を守っていた五人の魔法少女の一人であり,その中では最も度し難いパチンコ愛好者。

これまで熱意の全てを注いでいた鹿目 まどかの魔法少女化阻止とワルプルギスの夜討伐を達成し、とうとう意中のまどかと同じ大学に通える世界を手繰り寄せ、行く末はルームシェアさえをも約束した今の彼女は、しかしこれまで永遠とも言える長い時間を繰り返し続けながら保っていた熱意の吐口を失ってしまった。

そんな、まどかと過ごす時間以外はまるで心ここに在らずといった様相を呈していたほむらが見つけたのが乙女の社交場パチンコ⭐︎スロットだった。

規制が緩かったかつてはプロと呼ばれる存在がいた以上、勝つための法則はある。そしてそれは長きに渡り身についてしまった情報収集能力と傾向判断能力を遺憾無く発揮出来るジャンルでもあった。

故に,ハマった。

とことんまでハマり、日々の生活に鹿目 まどかという存在以外の潤いが生まれた。

 

 ーー……どれだけ徹底的に調べても結局は運なのはこんなところでも変わらないのね。皮肉なものだわ。

 

が。

悲しい事に暁美 ほむらには恐ろしいまでに運が欠けていた。

例えば,彼女が現在打っている[マンハンタートライ2ndG]という、有名ゲームを題材にした台。

根強い人気を誇るこの台は乙女の社交場に六台ほど設置されており、週毎に当たりの出る台が順繰りに変わる。

設定が無いとされているはずなので単なる偶然とも言えるのだが、実装されてから約一ヶ月間この法則が外れたことは無い。

前々週は六番機、前週では一番機で万発を超える当たりが出ているのはデータを見て確認している。そして現在ほむらが座っているのは二番機。セオリー通りであれば必ず当たる台。

にも関わらず、万発を超える連チャンはおろか単発当たりすら一度たりとも姿を見せない状態でここまで至ってしまっていた。

 

 ーー玉は理想値以上に入っているのに、どうして?

 

千円分で回る回数で表される『このくらい回れば当たりを期待できる台だよ』とされる理想値は二十回転より上。そのところをばらつきはあるもののおおよそ四十回転もしているガバクギ状態。

だからこそ計算上は残り五十あれば八発前後は入り、抽選が行われるはずだ。

 

 ーー大丈夫、大丈夫よ。これだけつぎ込んだんだもの。あと一、二回も回れば当たるに決まってるわ。

 

長らく握るだけだったハンドルをゆっくりと傾けるほむら。

今更打つのを辞めたところで帰ってくるのはせいぜい飴玉。だったら残り五十発にお祈りして爆発を期待するしか無い。

そうわかっているのに、ほむらの打つ手は傾けようとする半歩手前で止まっていた。

溢れ出るのは後悔と恐怖の念。

八万円もあれば出来た事。

残りの玉を使い切れば何も出来なる事。

その二つがほむらの頭の中でひたすらに渦を作り,まるでかつての強敵・ワルプルギスの夜を彷彿とさせる影を幻視させる。

 

 ーー……ふふ。私にもまだ、こんな人間らしい感情が残っていたなんてね。

 

そんな錯覚を前に、ほむらは一歩も引かずハンドルを固く握り締めた。

 

 ーー残念ね、私の中の私。打つのを辞めさせたかったんでしょうけど、ここでワルプルギスの夜を持ち出すのは失敗よ。

 

静かに瞳を閉じ、数秒の時が流れる。

そして。

 

 ーーアイツに屈するなんて、そんなの、私が絶対許さない。

 

財布を開き、生活費をサンドに捧げた。

貸玉の電子板に表示される五十という文字。それが示すは五千円。

追加投資、五千円。

今週を生きる為の、五千円。

 

 ーー負けないわ。本物のアイツに比べたら、こんなモノ怖くも恐ろしくも無い!

 

打ち出される元の残玉は当たりを呼ばず、次いで放たれる礎となった生活は激アツを呼び込んでも結果は伴わない。

それでもと、打ち続け、やがて残りの電子表記が五になった時。

 

 「あ、当たった……」

 

台のキャラクターが微笑んだ。

 

 ーーやったよ、まどか。私、諦めなかったんだよ……?

 

安らぎを体現したかのような微笑みを浮かべ、切なく小首を傾げるほむら。

瞳は僅かに潤み、心は広く満たされる。

だが所詮は初当たり。これだけでは失った金銭を取り返すには程遠い。

 

 ーーううん。ダメよね。これだけで満足したら。ここからが本番だもの。

 

決して忘れてはならないパチンコのシステム。連続した当たりをーー連チャンを呼び寄せ続けなければ今の出玉など高が知れている。

故に諦められない。諦めてはならない。

勝ちを手に入れるその瞬間まで、運を呼び寄せ続けなければただの道化になってしまう。

その結果。

 

 ーー……えぇ、悲しくは無いわ。

 

投資額・八万と五千円を若干下回る量の玉を吐き出させ、連チャンは終わった。

 

 ーー千円ないくらいで一日遊べた。そう思えば、むしろお得よね。実質勝ちみたいなモノだわ。

 

換金し、自宅へ帰る道中。

ほむらは俯き気味に視線を落とし、頬を引き攣らせながら小さく笑う。

 

 「もしもし、まどか?今日、一緒に夕飯食べに行かない……?」

 

なんとか気持ちを持たせようと、精神安定剤としての役割さえ持っているまどかに電話を掛けた彼女の声はほんのり震えている。

 

 「(………見てられないのです………)」

 

そんなほむらの背中を見つめている少女がいた。

 

 

 

 

 

To be next story.




 連チャンって、元は麻雀用語なんですってね。知りませんでした。
親が続くーーつまり上がり続ける事を連荘(れんちゃん)といい、転じて同じ物事が続く事を言うようになったそうです。
私はずっと連続チャンスの略だと思ってました。だとしたら使われ方が若干おかしいのでようやっと納得できました。知識が広がるのは気持ちがいいです。


そうそう。実はこの世界線、まどかは魔法少女になってないです。
これまで五人の魔法少女と表記してきたこともあると思いますが、まどかは基本バックアップと、みんなの平穏を保つ為の均衡を担ってました。
つまりはほむらの望んだ完璧な世界です。
唯一問題があるとすれば当のほむらがパチンコにどハマりしてる事、くらいですかね。
制御役のまどかは大変です。ぶっちゃけルームシェアの目的の半分くらいはほむらの凶行を抑制する為でもあります。もう半分は人の感情の極みです。
なお、ほむらのルームシェアの目的はは感情の極みが全てです。
お酒にハマらない事を祈るばかりですね。


それではまた次回。
さよーならー


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第九話 もう確率には頼らないのです

 いつまで連投を続けられるのか。見ものですねぇ。
どぞ。


 ーー不穏な空気は確かに感じていた。

 

 月明かりの下、不夜城が如き輝きを放っていた店の消灯を見届けながら暁美 ほむらは落ち着いた黒色をした小さなトートバッグに財布を入れる。

 

 ーー佐倉さんに協力を仰いでいて良かった。でなければ確かめるより早く撤退する羽目になったもの。

 

恨みな憎しみ、或いは落胆といった感情とは程遠い瞳を向け、ほむらは踵を返す。

彼女の背に佇むは乙女の社交場パチンコ⭐︎スロット。

中学生からストレートで入った大学卒業生までの女性のみが入場できる場所。

およそ常識とはかけ離れた治外法権とも呼べるこの店は、しかし法の手からは逃れ、少なくとも四年は利用されている。

そう、少なくとも。

 

 「……私とした事がなんてザマ。四年しか認識出来ていないなんて。明らかに異常なのに今の今まで気が付かなかった」

 

以前、乙女の社交場で杏子に告げた噂の台。

どれだけ打っても絶対に当たらない地獄のハマり台をほむらは今日という日のために杏子と協力して台を特定していた。

 

 『話だとランダムらしい。けど、選ばれる台に傾向があるのも事実だ。だから噂を信じてる奴らはその台を絶対に打たない。……ってな具合だ。前はああやって笑っちまったけど、どーもきな臭ぇ。アタシの資金からもいくらか貸すから確かめてくれ』

 

昨晩ほむらの家に現れた杏子が口にしたのは半月かけて集めた信頼性の高い情報と、依頼。どうやら杏子は現在、さやかからのお達しによって打ちに行く事を禁止されているらしい。

 

 『とは言っても…ね』

 

六万ほど金を受け取り、杏子を見送ったほむらは閉められた扉に向かって独り言ちる

杏子が聞いた相手は顔馴染みになってしまった同大学の生徒。確かにネットの書き込みよりかは信用できるだろうが、だからと言って手放しに信用していいとも限らない。

しかし他に手がかりも無い。となれば取れる手段は一つ。

彼女が最も多く手段として取ってきた根比べだ。

ほむらはとにかく、確率が高いとされる台を毎日打つ事にした。

同じ大学に通うまどかに事情を伝えず、静止してくるだろう友人との連絡を断ち切り、この一ヶ月間貯蓄を切り崩しながら打ち続けた。

当然、ハマり台に座っていなければそれだけ打っていらのだから当たる日もある。

お陰で当初ほむらが想定していた出資よりかは安く済みはしたがマイナスはマイナス。生活が困窮している日々が続きもした。

それでもと。通い詰める事でほむらはとうとう噂を体現した台を引き当てた。

そして彼女は確信を得る。

 

 「財布は軽くなってしまったけれど、これではっきりした。この店は、百パーセント政府の管轄外にある施設だわ」

 

中学生は一円パチンコ及び五円スロット機まで上限五千円で利用が可能。

高校生は四円パチンコ及び二十円スロット機までを上限一万円で利用が可能。

大学生は上限を撤廃し、通常のパチンコ・スロット店と同様に利用可能。

ただし、店内で当選し景品と交換した金銭を用いて利用する場合は上限額はないものとする。

それが乙女の社交場に於ける未成年に対するルールだ。

普通に考えれば世間に国に許諾されるはずのないこのルールは、だが大人の中ではこう認識されていた。

『順を追って大人の遊びを経験できる場所』と。

確かに考えようによってはそう解釈する事も可能だろうが、それが全ての大人ーー少なくとも乙女の社交場に来店する少女達全員の親が理解していて、同時に世間からのクレームもないのだから市内で反対している人はいないことになる。

ゲームセンターの型落ちパチンコ・スロット機ではいざ知らず、現行の筐体を使って未来の練習をさせるのは明らかに異常。

その事をほむらは今日初めて正しく認識した。

 

 「こんな簡単なことに今まで気が付かなかったなんて飛んだ間抜けね。いい笑い者だわ。……でも、今日からは違う」

 

街頭の下を黒髪を靡かせながら歩くほむらは冷徹な怒りを孕んだ瞳で行先を見据える。

 

 「魔女かインキュベーターか。どっちだって構わない。勝負はここからよ」

 

彼女の手に握り締められているのは紫色のソウルジェム。

濁りはなく、彼女の意思に呼応するかのように浴びた月明かりで妖艶な輝きを放った。

 

 ーー……今の台詞、ちょっとアツい演出の時に流れそうね。

 

そんな中、彼女の頭の中は少しだけパチンコ・スロット脳だった。

 

 「……ホントに大丈夫か心配なのです」

 

街頭の明かりの中に消えていくほむら。

その背を見守り、今にもため息をつきそうな幼い女の子が闇の中にいた。

 

 「でも、賭けるしか無いのです。当選確率がゼロからニパーセントになった。今はそれだけで充分なのです。…もう確率には頼らないのです!」

 

握った左拳を胸に当て、祈るように俯いたその少女はもう一度だけほむらに想いの込められた視線を向けると闇夜に姿を消した。

 

 

 

 

 

to be next story.

 




 なんか凄い短い話になっちゃいました。
あと、終わったと思ってたら途中で文が消えてたみたいで何行かだけ書き直しましました。気付くのが遅くて何行か書き直ししたせいでバック機能を使えなかったしとても辛い辛いなのです。
スマフォで書くのはやっぱリスキー……。

ではまた次回。
さよーならー


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第十話 最後に残された道しるべ

 今回はメインタイトルに偽りありです。
パチンコ・スロットの話題はほぼ出ません。なのでここでその分を補填しておきます。

胎海の娼姫強すぎ。赤文字ですら負けたんだが?しかも二回。
後あの台、保留変信用できない!!!アツそうなの一回だけだっだぞ!!

ではどうぞ。


 ーー私の大好きなみんなを助けて欲しいんだ。

 

 それは、願いだった。

 

 ーーわかったのです。必ず、助けてみせるのです!

 

 ーーありがとう。

 

そこは遠い場所。

どこにも無くてどこかにはある不思議な場所で概念と呼ばれる存在へと成り果てた少女が胸に抱いた願い。

魔法少女が死ぬ瞬間からしか会えないその概念は、或いは女神とも見た。

導かれた魔法少女達は安らぎの世界で平穏に漂う。

黒々とした感情から解き放たれ、かつての心を保ったままで静かに漂う。

その中の一人に、彼女はいた。

ーー百江なぎさ。

一つを願い、代償を払い、命を賭した彼女は概念に導かれた中でも特に神と呼べる少女と親しく、その願いを承った。

幽霊とも、天使とも取れる存在として[その世界]へ降り立ったなぎさは承った願いを叶えるため行動に出る。 

……しかし、早々に彼女は感じた。

本当にこの世界は間違っているのか?と。

なぎさが承った願いを叶えればこの世界は崩壊し、全てが元に戻る。

元に戻ればまた全てが始まる。

だとしたら、たとえ歪な形であったとしても、不幸を背負い込むしか道がない今の彼女達を現実に引き戻す必要はあるのかと。

故に傍観した。

願いの主の考えが真に正しいのかを見定める為に。

その最中に無様にもなぎさは捕まってしまう。この世界の全てを知るインキュベーターに。

 

 『君は確かかなり前に魔女になったはずだよね。だとしたら、ここにいられるのは困るんだ』

 

淡々とした感情無き感想を身勝手に告げ、白い地球外生命体はなぎさをとある空間に閉じ込める。

 

 『でも、せっかくだ。もう一度僕達のために働いてくれないかな』

 

選択権など無い一方的な命令。

この世界では既に消失しているからか魔法少女の力を使用出来ないなぎさは言われるがまま仕事を始める。

ーー換金所の受付。

彼女が与えられたのはそんな仕事だった。

だが、なぎさにしてみれば悪い事ばかりではなかった。

真実を見定める為に彼女達を尾行して見守るのはあまり意味がない。そう感じていたなぎさは、願い主の最も懸念しているであろう存在・乙女の社交場に一番近く一番安全な場所から彼女達を観察するできる換金所の受付はむしろ好都合だった。

……そうして、過ごす事二年。なぎさは確信する。

 

 ーー言っていた通り、こんなのは間違っているのです。

 

歪とはいえ平穏な、そして何もなければ終わる事の無いこの世界。

けれど。そんな永遠は紛い物でしか無い。

本当の永遠は終わらない。こんな、手違いが起きれば全てが変わってしまう世界を永遠とは呼ばない。

本当の、安らぎに満ちた永遠を知っているなぎさは、いつかそれを得るはずの彼女達を助けなければならないと決意する。

 

 ーーそのためにまずは、なのです。

 

この世界に訪れた目的を果たす為なぎさは現在使役できるもう唯一の力で魔法少女達に記憶が戻るよう行動する。

ある時は因果の少女の耳に入れる為に。

ある時は運命の少女を動かす為に。

ある時は同輩の少女に気づかせる為に。

ある時は不運の少女に警戒される為に。

四度行われた打開の手段は違う事なく成功し、一つの結果を産んだ。

ーー魔女の復活の予感。

それは同時になぎさに魔女としての力を呼び起こす引き金となる。

 

 「(こんな仕事、二度としてやるかなのです!べーー!!)」

 

復活した魔女の力を隠密に使用し、誰にも悟られる事なく換金所から脱出したなぎさは早々に社交場から距離を置き、インキュベーターに捕まらないように行動を始める。

そうして、今日。

 

 「……それ、本当なの?べべ」

 

 「本当なのです。マミ」

 

なぎさは自身が最も信頼している少女と接触する。

偽りの名を告げ、真実を語ったなぎさ。

話を聞いた少女は……巴マミは暫くの間考え込むと、立ち上がった。

 

 「信じるわ。……うん。とても辛い事だけれど、貴女の話を信じる。これからみんなを集めるわ」

 

 「マミ!」

 

なぎさに背を向けてそう言い放つマミ。

 

 「でも、少しだけ待ってて。ちょっとだけ、時間をちょうだい?」

 

 「……もちろんなのです。マミにも、みんなにも。その権利はあるのです」

 

その声は僅かに上擦り、両頬には一対の軌跡が流れている。

 

 「最後にみんなを動かせるのはマミだけ……私にはマミだけが頼りなのです。だから、恨まないで欲しいのです」

 

 「勿論よ。それがべべのーーべべ達の望みなんだもんね。私を頼ってくれた子のお願いくらい、いくらだって叶えてみせるわ。だから安心して」

 

 「はいなのです!」

 

なぎさが返事をすると部屋には少しの間静寂が訪れた。

 

 ーー私達に最後に残された道しるべはきっとこのべべ。このままじゃほむらに負担をかけ続けるだけだもの、例え悲しい結末が待っているだけだとしても私は受け入れる。それはきっとみんなも同じはずだから。

 

己の決心を固める為の時間は終わった。

 

 「もしもし、ほむら?すぐ、私の家に来て。まどかや他の二人もそばにいるなら一緒に。……そう、いるのはまどかだけなのね。なら二人には私から連絡しておくから。とにかく、すぐに来て。とても大事な話があるの」

 

マミは目元を拭いながら四人を家に呼んだ。

なぎさに伝えられたこの世界の真実を伝える為に。

 

 

 

ーーなぎさの行動によって黄昏は終わり、マミの決断によって時は動き出した。陽の出はもう間近だ。

 

 

 

 

 

to be next story.

 

 




 やっと名前が出てきたなぎさちゃん。
私はとても好きです。べべの人形持ってます。(夜見るとちょっと怖い)。声の可愛さがヤバいヤバいなのです。
次の映画でなぎさの新規ボイス聴きたい。いい加減スロットのは飽きたなのです。マギレコ?あぁ、まぁ、バレなぎさの話はやめようね。


てはまた次回。
さよーならー


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第十一話 奇跡と、魔法だけじゃないのです。

 そろそろ前書きに書くことも無くなってきましたカピバラ番長です。



本当に何もないです。

どぞ。


 その夜。

六人の影が闇に降り立った。

 

 「みんな。始まるわよ」

 

中央に立つ檸檬色の髪をした少女・巴 マミは後ろに続く五人に確たる決心を口にした。

彼女の言葉に首を横に振る者は一人もいない。

皆、心は既に固まっている。

 

 「べべ。お願い」

 

 「任せるのです」

 

マミの指示に頷き、なぎさはどこからともなく黒色をした不可思議なラッパのような物を取り出す。

 

 「……最後に確認なのです。みんなは、本当にいいのですか?ここで私がアイツを呼べば、二度とこの世界にはいられなくなるのです」

 

全てを終わらせる前に探るように問うなぎさ。

決心を疑っているわけでは無い。ただ、自身の手によって何もかもを変えてしまうのだから、そうするべきだと考えての行動だった。

 

 「うん。ありがとね、べべ」

 

不安そうにも見える彼女に向け、桃色の髪の少女が他の四人を代表して答えた。

 

 「大丈夫だよ。べべから聞いた話を私達は信じてる。……これ以上、私達の都合で時間を止めてちゃいけないもん」

 

 「まどか……」

 

 「それに、元の世界に戻れればもっと良い世界が手に入るかもしれないんだよね?ならこんなところで止まってる場合じゃないよ」

 

耳を撫ぜる優しい声でなぎさに意思を告げ、まどかは彼女の頭を撫でながら笑みを浮かべる。

 

 「っへ、そういうこった。これ以上食われてやる必要もねーからな」

 

 「何より、あたし達は仲間なのに一人にだけ負担かけてるってのが気に食わないんだよね。ね、転校生?」

 

 「…懐かしい呼び名ね。貴女はそんな風に鈍感だから私が頑張る羽目になったんじゃないの?」

 

 「お、言ってくれるねぇ。ぜーんぶ終わったら勝負する?」

 

 「まさか。回復の祈りで契約した貴女に持久戦で勝てるとは思えないもの。……最も、殺しても良いって言うなら話は別だけど」

 

まどかの言葉を肯定するかのように次々と口を開き始める杏子、さやか、ほむら。

 

 「や、やめてよ二人とも。こんな時に」

 

 「いいじゃんか別に。勝った後の話をしてるんだ。結構な事だろ」

 

 「それは、そうかもだけど…」

 

しかし、どうにも物騒な話題に舵が取られ始め、まどかは困り顔で俯いてしまう。

 

 「安心しなさいまどか。ああいってホントにケンカした試しはないでしょ?二人なりのスキンシップだから、温かく見守ってあげなさい」

 

 「ま、まぁ、確かにそうだけど……」

 

 「……ふふっ」

 

闇夜に佇む六人。

周囲は暗く、街灯らしい街灯は無い中で始まったまるで普段通りかのような会話は、戦いに臨むと気を張っていたなぎさの頬を確かに緩ませる。

 

 「…わかったなのです。もう、迷わないのです」

 

 「うん!」

 

愛らしい顔をより愛らしく緩ませ、微笑んで頷いたなぎさ。

彼女はまどかの返事を受け、童顔に似合わない覚悟を浮かべて大きく息を吸い込んだ。

 

 「インキュベーター!!!」

 

小学校低学年とは思えない声量で叫ぶなぎさ。

声は破裂音を彷彿させる程広く遠く届き、名指しした生物を引き寄せる。

 

 「……いつかは来る。そう思ってはいたんだけどね。思ったより大所帯だ」

 

ぬるりと。

どこからともなく彼女達の目の前に現れ出る白い生命体。

犬とも猫ともうさぎとも見える不可解なその生物はかつて己の名を[キュゥべぇ]と名乗り、少女達の願いを叶えその代価を要求した。

マスコット的愛らしさとは真逆に少女に破滅の運命を約束して回った地球外生命体・インキュベーター。

 

 「当たり前なのです。この鬼畜上司。休みを寄越しやがれなのです!」

 

 「不死と変わらない肉体を持つ魔法少女に休息なんて必要ないんだから当然じゃないか。それに君はとっくに死んでるんだ。精神の摩耗なんて話も適用されないはずだよ」

 

 「ブラック企業顔負けの言い訳はやめるのです!もうお前の企みもこれまでなのです!さっさと黒幕を出せなのです!!」

 

現れるや否や換金所に換金された時の恨みの一端を叩きつけたなぎさはラッパを構えて臨戦態勢をとる。

 

 「そう言う事だから、大人しくしてて頂戴ねキュゥべぇ。……それとも、ここで一戦交えてみる?」

 

同時。

マミを含む三人は魔法少女に変身して武器を構え、契約を結べていないまどかは僅かに距離を取って肩から提げていたポーチに右手を入れる。

 

 「………どうも、状況を全部知ってるみたいだね。これじゃあ僕に勝ち目は無さそうだ。大人しく諦めるしか無いみたいだね」

 

見滝原に於ける最大戦力と呼んでいい四人の魔法少女と一人のイレギュラーを前にして犬を思わせる方法で首元を掻き始めるインキュベーター。

およそ絶望的な戦力差の前にそれでもこの生物の声色は一つとして揺るいではいない。

 

 「へぇ、あなたみたいな生き物にも『諦める』なんて選択肢があったなんて驚きね。そのまま地球からも出て行ってくれないかしら?」

 

 「暁美 ほむら。そもそも君もイレギュラーではあるんだ。君だけは知っていたんだろう?僕らインキュベーターの存在と、魔法少女の行く末の事を」

 

 「そうやって小賢しく口車に乗せようとしても無駄よ。ここにいる全員魔女の正体を知っている。今更お前の口八丁程度じゃ絶望なんてしない」

 

 「………なるほどね。ならいよいよお手上げだ」

 

 「わかったら諦めてこうまでした目的を話して自害するのね」

 

 「面白い事を言うね。自殺するのは君達のように感情を持つ不完全な生命体だけだよ。僕らインキュベーターにはそんな愚かな手段思いつきすらしないさ」

 

インキュベーターにしてみれば最後の手段だったのだろう。

魔女の正体をーー魔法少女の成れの果てがどうなるのかを語り、彼女達のソウルジェムを穢れ切らせて一息にこの場を収めようとしたものの、マミ達は既にほむらから事実を聞いていた。

なぎさの語る真実を補強する為の材料として。

 

 「そう。ならさっさと話しなさい。どうして私が時間逆行の魔法を自動発動するように設定したのか。どうしてこの世界には魔女がいないのか。お前にはその責任がある」

 

手にした銃をインキュベーターの眉間に照準を合わせるほむら。

彼女の表情に遊びは一切ない。冷酷に凍てついている。

 

 「……仕方がない。悪くない作戦だったんだけど、バレてしまったのなら種明かしはするべきだね。どうせ二度と出来ないだろうし」

 

くるりと尻尾を追いかけ回しながら口を開いたインキュベーターは座り直し、再び首を掻くと身を伏せ、背を身体を地面に擦り付け、また座り直した。

 

 「まずここは魔女の結界の中だ。イレギュラーを除いた君達五人がワルプルギスを倒す為にほむらの家へ集った時に包み込むようにして結界が張られた。その魔女の能力は幻覚を見せる事。知らず知らずのうちに人間を結界内へ巻き込み、その中で幻覚を見せて絶対に外へ出られないようにして徐々に生命力を奪い最後に捕食する。

魔法少女でも探知が困難なこの魔女はマミの目をも欺いて結界を展開した。けれど、その際、唯一魔法少女姿になっていたほむらだけが危険に気付き、万一の為を考えて魔法を使用した。……恐らく、君はこの魔女を知っていたんだろうね。下手をすれば永久に出られなくなる可能性がある魔女の特性を思い出し急造ろいで魔法が自動発動するシステムを作った。まぁ、それほど難しい仕掛けではないんだろうけど、お陰で君達は今日まで幻覚の中で生き残る事が出来た。と、言っても。魔法少女は死んでるも同然だからね。ソウルジェムさえ壊されず穢れ切らなければ一生生きていられる。でもまどかは違う。ほむらの機転が上手くいってなければ今頃骨になっていたのは明白だ」

 

あいも変わらず淡々と。その上で可愛らしい姿に見合った小動物のような動きをしながらインキュベーターは事の次第を話す。

その間、誰も口を挟まなかった。

五人がなぎさから聞いていたのはこの話のうちの一端。現在は結界の中で、ほむらの魔法がなければ既に死んでいるという事だけ。

幻覚の作用なのか自身が行った行動も忘れていたほむらも、だがインキュベーターの話を聞きその魔女の事を明確に思い出す。

 

 「……それで。どうして魔女は私達にこんな幻覚を見せているの?私の調べが正しければ本来見せる幻覚の本質は[幸せ]。五人揃って何年も生きている事自体は間違いなくその本質に当てはまるわ。でも、私達は一度だってパチンコやスロットを生活の根底にあるものとして認識したいと思った事はずよ」

 

ほむらが口にしたのはそこにいたなぎさを含む六人の魔法少女全員が感じていた疑問だった。

その中でも同じ魔法を持つ杏子は尚の事不思議に思っていた。

敵に見せる幻覚で効率的なのは最大の幸福か最悪の絶望を与えるという二択。それを調理する方法によって使い分けられれば、手籠にも戦闘不能にも出来る。ある意味では最強の魔法。

そんな幻覚を最強たらしめているのは無自覚に他ならない。気がつかなければ幻覚は真実と変わらず、永劫にその檻に閉じ込めて置く事ができる。

にも関わらず、この魔女は幻覚の方程式に不釣り合いなはずのパチンコ・スロットを埋め込んだ。

ともすれば『何故こんな事を?』と疑問が生まれてしまうだろうそれ。実際、さやかはーーなぎさがチーズで切っ掛けを与えたとは言えーー幻覚の現実に疑いを持った。

とすれば明らかに失敗だ。

魔法少女の捕食は出来ずとも、ほむらの機転によって生命エネルギーは永久に搾り取れる。考え方を変えれば二度と他の人間を襲わなくても良い状態になっているわけだ。なのに敢えて気がつく可能性を与えるのは他に何か意味があるとしか考えられない。

だがそれが誰にもわからなかった。

 

 「そんなのは簡単さ。もしかしたら未来永劫得られなくなってしまうかもしれない君達のエントロピーを回収できるように僕が設置した。それだけだ。……そういう意味では、イレギュラーの言った『上司』って言葉は間違いではないね」

 

 「……な」

 

皆が感じてい疑問。

それをインキュベーターは事も無げに言った。

 

 「パチンコ・スロットは良いシステムだ。得られる絶望の総数の方が絶対的に多いのにか細い希望を手繰って打ってしまう。見方を変えれば僕らの契約システムに近いね。違いとしては、少しずつ毎日得られるかまとめて一気に得られるかしかないしところだけど、実際は想定以上の結果を生み出してくれた」

 

 「ま、待ってよ。じゃあ何?あたし達はお前の掌の上で転がされてたっての?」

 

 「そうとも言えるね」

 

 「はぐらかすんじゃねぇ。今後のアタシらの人生に関わるかもしれない事なんだよ!」

 

 「……ならはっきり言う。僕は設置して一時誘導しただけだ。人間の手段に則りコマーシャル的な宣伝をね。そうしたら君達が来た。勿論巻き添えになった一般人も一緒だ。中には幻覚が生み出した存在もいたから全体的な数と実数はイコールにはならないけど、ハマってくれる人が多かったね」

 

 「そ、その、ハマった理由はなんなのかな…。やっぱり、キュゥべぇが何かした、とか?」

 

 「先に言っただろうまどか。僕は宣伝をしただけだって。君達がハマったのは僕のせいじゃない。君達の本質が」

 

そう、インキュベーターが口にした瞬間だった。

乾いた破裂音がその場にいた全員の耳をつん裂く。

誰もが耳を塞ぎ驚きの表情を浮かべている。だがその中でほむらだけは平然とした顔で立っていた。

右手に撃鉄の落ちた銃を握って。

 

 「ほ、ほむら。撃つのはまだ早かったんじゃ……」

 

 「いいえ。それは違うわ巴マミ。このままではアイツの話で多かれ少なかれ私達はソウルジェムを穢してしまう。そう判断したから撃った。……違う?」

 

 「ち、違わないとは思う……けど」

 

眉間に大穴を開けて横たわるインキュベーター。

如何に地球外生命体と言えど脳をかき混ぜられれば絶命する理は同じらしい。

らしいのだが。

 

 「う、撃ち過ぎじゃないかしら」

 

 「いいえ。まだまだ足りないくらいよ」

 

二度、三度、四度と数えるのが追いつかない速度でほむらはインキュベーターの亡き殻を穴だらけにしている。

 

 「ちょっとちょっと。マミさんの言う通りだよほむら。この銃貸せっての」

 

 「は、離しなさい!おもちゃじゃないのよ!」

 

 「知ってるって。だからこうして……っと」

 

 「あっ!」

 

死体に鞭打つよりも酷い仕打ちを続けるほむらから銃を奪い取ったさやか。

ほむらが銃を撃っていた間目を瞑りながらずっと耳を塞いでいたなぎさはようやく終わったのかと手を離す。

……と。

 

 「ふざけんな!」

 

さやかもインキュベーターに向かって銃を撃ち始めた。

 

 「さ、さやかちゃん!?」

 

 「止めないでまどか!こうでもしなきゃあたしの腹の虫が治んないの!恭介の時の怨みも持ってけってんだ!」

 

 「そ、それは私怨だよ!?」

 

 「お、じゃあアタシも刺しとくか。散々搾り取られた恨みとして」

 

 「杏子ちゃんまで!?」

 

 「……そういえば、実は負け越してるのよね。スロット」

 

 「マミさん!!??」

 

まどかの制止する声も届か無い事五分。

まどかとなぎさを除く四人の恨み辛みを一心に受けたインキュベーターはズタボロの肉塊と肉片に変わり果てていた。

幸いなのは血も内臓も散らばっていない事だろうか。お陰で凄惨さは幾分か薄れ、形取られた色付きスライムが無惨な姿になっただけのように見える。

 

 「自業自得とはいえ惨いのです……」

 

銃声によって一時的に遠くなってしまった耳にくるくると目を回しながらもインキュベーターの末の姿を見たなぎさは敵対する相手とはいえ手を合わせて死後の安らぎを願った。

 

 「さぁ、行くわよ!みんな!!」

 

 「えぇ!」

 

 「もっちろん!」

 

 「おう!」

 

 「お、おー……」

 

その隣でとてもスッキリとした表情で声を上げる四人と、止める事すら叶わなかった一人が乙女の社交場に臨んだ。

 

 「魔法少女にあるのは、奇跡と魔法だけじゃ無いのです……」

 

過酷な運命に身を置いた少女達の片鱗に触れたなぎさはそう漏らしながらも彼女達の後に続いて社交場に向き直った。

だが、そこには既に何もなく。

日常の光景には不釣り合いな悍ましい存在がいた。

 

 「今の私達の結束は硬いわよ。覚悟しなさい。魔女!」

 

或いは箱ともとれる姿をしたそれは。

マミの口にした言葉に違わない存在ーー魔女だ。

 

 

 

 

to be next story.

 




 今までの文を取り返すかの如く長くなりました。次回で最終回です。

ちなみに最後の方のチープな感じになってしまったギャグ(ギャグでいいのか?)シーンでは、ほむらの言った通り、あのままキュゥべぇの話を聞いていたら多かれ少なかれ皆ソウルジェムが穢れてました。
と言うのも、ハマってる時は受け入れていたにしても、いざ誰かのせいだと思った時に安堵してしまいました。本当の自分はこんなのじゃ無いんだ、と。しかしその瞬間に、それが本質ですと言われたら終わるというのを経験則から知っていたほむらは早々にキュゥべぇの口を塞ぎました。
その後の数発は完全に私怨です。可能ならミキサーに掛けたいとも考えてます。


ではまた次回。
さよーならー


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最終話 わたしの、最高の友達

 長らくお付き合いいただいたこのとんでもストーリーですが、今回で本編終了となります。
最後なもんでちょっと気合い入れました。

どぞ。


 静寂は得てして恐怖と呼べる。

静寂は無音を意味し、無音は生きとし生けるものの否定に他ならない。

だが、その中で縦横無尽に駆ける少女達がいる。

 

 「ほむら!後何秒!」

 

 「二十秒よ」

 

 「了解!」

 

 「だってさ杏子!さっさとやっちゃうよ!!」

 

 「おう!任せろ!」

 

 「まどかはこっちにくるのです!」

 

 「う、うん!!」

 

全てが止まった世界の中で時間を支配下に置く六人の少女。

彼らの脚には魔力で編まれた限りなく細い黄色のリボンが例外なく伸びている。

繋がる先は二人。

一人はマミ。リボンを編んだ張本人。

もう一人はほむら。時を支配する力を貸し与えている要。

 

 「アミコミ・ケッカイ!」

 

 「ゴメイサマ!!」

 

箱を彷彿とさせる魔女は動かない。否、動けない。

ほむらの魔法によって一時的に時が止められているこの瞬間、魔女は命の全てを彼女達に委ねるしか無い。

 

 「悪いわね、魔女さん。今回は遊んでる暇はないの。一瞬で決めさせてもらうわ」

 

鎖とも見える赤き魔力が魔女を覆っていく。

その魔女の背、僅か後方には五本の剣が屋根の上でさやかを囲むようにして突き立つ。

 

 「最大火力よ!」

 

さやかの正面ーー魔女の遥か前方にて身の丈を超える銃が現れる。

銃身は太く、およそ人間では扱えないだろう規格外のその兵器を、しかしマミは事も無げに構え、照準を定めた。

 

 「そろそろ動き出すわ、まどか!」

 

 「う、うん!!」

 

三角形の陣を思わせる位置に立つ三人とは別に行動しているほむらは前線から一度退き、かつては乙女の社交場を囲っていた塀の裏に隠れているまどかの傍に降り立つ。

 

 「大丈夫。スイッチを押しても爆発した瞬間に止まるわ。恐れないで」

 

 「うん!」

 

僅かに恐れているように見えるまどかの肩に手を置くほむら。

まどかが手にしているのはほむらが自作した爆弾、そのスイッチ。

纏めて十個までは遠隔で操作出来るそれをまどかは現在四つ手にしている。つまり爆弾の数は四十個。

それらは全て魔女の箱の中に放り込まれている。

 

 「今!」

 

 「えいっ!!」

 

瞬間。

 

 「リ!リ!アン!!」

 

さやかが五本の剣を射出し差異の無い位置で止まった刹那に時が動き出した。

無音だった世界に響く鎖の上がる音と空を裂く音。

 

 《&@?&@“¥;:”$^%!!??》

 

二つはほぼ同時に魔女にダメージを与え、動きを封じた。

と、同じタイミングで。

尋常ならざる爆発の反響音が響く。

 

 「さーてくるぞ!逃げろよ!!」

 

 「そっちこそ!」

 

さやかと杏子の役割は拘束及び撹乱。魔女をその場に釘付けにする最も重要な仕事。

そしてまどかは閉じられるであろう魔女の箱の蓋をこじ開ける役。彼女達が弱点だとみなしている部位を曝すための存在。

 

 「開いたのです!」

 

 「いいえまだ!無理矢理閉じようとしている!」

 

まどかの安全を確認したほむらとなぎさは距離を置いた位置で魔女の抵抗を目撃する。

箱の中から溢れ出てくるいくつもの腕。それらの中には破壊され肘から先が無いものもある。

身の毛もよだつ腕の群れは壊れた蝶番を抑え、塞がらない蓋を自身の腕力で閉めようと荒れ狂っている。

その姿は鎖の籠の中も相まってさながら獄中で悶え苦しむ人のようだ。

 

 「だったら!なのです!!」

 

インキュベーターを殺害し、出現した魔女。

幻覚を操る以上時間はかけていられない。故に彼女達がとったのは速攻。最速でほむらが時を止め、静寂の中を動けるようにマミが全員をリボンで繋ぎ、それぞれが役割を実行する。

だがなぎさだけは熟練され切った五人の動きを見てついて行く事が出来ていなかった。

しかし、荒れ狂い、曝された己の弱点を必死に隠蔽しようとしているこの瞬間に彼女は己の持つ中でも最も特異な力を行使する。

 

 「借りるのです!……いけ!」

 

黒いラッパもどきを吹くなぎさ。音は鳴っていない。

だが、どこからともなく不可思議な姿形をした生き物が現れる。

 

 「……いざ見るとゾッとしねーな。頭がおかしくなりそうだ」

 

 「ね。でも、数だけはいっちょまえだからね。役には立つんじゃ無い?刃向かってきたらその時は、だけどさ」

 

それこそ羽虫のようにわらわらと地上に現れ出でたのは魔女の使役する使い魔達。

役目を終え射線から少し離れた位置にある屋根上に立っているさやかと杏子は地面で蠢く使い魔達を見て僅かに顔を顰める。

中にはマミ達の見知った顔もあるがこの時ばかりは誰もが少なからず頼もしくも感じていた。

 

 「アイツの手を封じるのです!」

 

なぎさが指示を出すとそれまでうごうごと遊んでいた使い魔達が一斉に魔女に向かい突貫を行う。

道程で捕まれ、潰され、蹴散らされる使い魔達はしかし進軍を決してやめない。

やがて辿り着く数匹。それらは少しずつ数が増え、着実になぎさの指示を叶えていく。

 

 「今なのですマミ!纏めて吹き飛ばすのです!!」

 

 「了解よ!」

 

気がつけば死体に群がる蟻の様相を呈してきた使い魔達は魔女の動きを確実に鈍らせ、弱点であろう箱の中が塞がらないように蓋を開けている。

 

 「ティロ・フィナーレ!」

 

マミが叫ぶと同時、巨大な銃の撃鉄が落ちる。

着火する火薬。火を噴く銃口。射撃音は花火を思わせ、比類する物無き大きさの光弾は軌道を逸れずに箱の中へと撃ち込まれる。

恐ろしいまでの回転を伴っている光弾は箱の中に入ると刹那の静寂を産む。

だが直ぐに。

 

 「お終いよ」

 

膨大なエネルギーを爆発させ、魔女を内側から炸裂させた。

 

 「っと。流石マミだな。一撃たぁ驚いたぜ」

 

 「ホント、味方で良かった〜」

 

 「何言ってるの。二人がちゃんと拘束してくれたから出来たのよ?後詰めなんておこぼれなんだから大した事ないわ」

 

 「またまたぁ〜。頼りになるから後を任せられるんですよー」

 

 「ま、そういうこったな。アタシのもさやかのもこーは出来ねぇ」

 

 「……もう、何も出ないわよ?」

 

空を覆う程に散開している魔女の残骸が降り注ぐ中、いち早くマミの元へと駆け付けた二人は光景を眺めながら感嘆の息を漏らす。

そんな二人の裏の無い意見にマミは僅かに頬を赤らめ口元を緩ませた。

 

 「そうね。これで本当に終わりなら、もうこの世界から帰るのだから何も出しようがないわ」

 

少しして、彼女達のもとに更に三人が訪れる。

 

 「ほ、ほむらちゃん……。けど、もう大丈夫なのかな?前の時みたいに第二形態とか…」

 

 「魔女は完璧にやっつけたから安心するのです。お陰で私ももうそれほど長くは留まれそうに無いのです」

 

 「……そう」

 

まどかをお姫様抱っこの要領で抱えたほむらとラッパを手にしたままのなぎさはマミ達の傍に降りながら口にする。

若干遅れて来た三人は比較的安全だった位置から敵の最後を見届けてから来ている。

後詰めの後詰めをいつもほむらとまどかが行なっているため、また、攻撃の規模や魔女反応の感知が出来ない事、そしてなぎさの身体が若干透け始めている事から、三人は魔女討伐の確信を得る。

 

 「しっかし、ホントにお前別の世界から来てたんだな。べべ」

 

 「状況が状況だから信じるしかなかったけど、いざ見てみるとちゃんと実感するもんだね。痛く無い?」

 

 「全然平気なのです!なんというか、寝落ちる瞬間みたいなのです!」

 

魔女討伐が完了となれば必要以上に気を張る必要は無くなる。

戦闘による興奮がまだ若干抜けてはいないが、彼女達は今後の現象を受け入れる準備をしつつ透けていくなぎさの身体に驚きを示した。

 

 「どことなくボーッとしてるって事かしら?だとしたら早めにお礼を言わないとね」

 

 「ありがとね、べべ。べべのお陰で私達元の世界に戻れるよ!」

 

 「そうね。助かったわ、とても。貴女がいなければ私達は一生この偽りの世界にいたかもしれない。……感謝してもしたり無いくらいだわ」

 

 「そ、そんなに褒められると恥ずかしいのです……。照れちゃうのです」

 

まどかに頭を撫でられ、ほむらに微笑みかけられ、くねくねと身体をよじりながら顔を真っ赤にするなぎさ。

彼女のそんな年相応な態度に、マミはクスリと緩む口元に指を当て、さやかと杏子は顔を見合わせながら照れ笑いを見せる。

 

 「……さ、世界が歪み始めたわ。魔女の結界が解ければ元の世界。もうパチンコもスロットも打ってる暇は無いわよ」

 

 「そもそも打てねーっての。アタシら未成年だからな」

 

 「あ!言われてみればそっか!…あーあ。こんな事ならもうちょっとくらい打てば良かったかなぁ」

 

 「同感ね。まだ確認出来ていない示唆や演出が山程あるもの。……きっと、またみんなで打ちに行きましょう。誰も欠けずに、ね」

 

 「ええ。その時こそ私は大勝ちして……」

 

 「ほむらちゃんは少し控えた方がいいと思う…けど、でも、それも楽しいかもしれないね!えへへ」

 

幾つもの絵の具を溶かした水が波打つように、空が形を変え始める。

それに伴い歪み始める地面や建物。それらは結界の主の魔女の消滅を意味し、勝利の確約となる。

 

 「……べべも、元の世界に帰っても頑張ってね」

 

 「はいなのですマミ!……こことは別の世界、並行世界の住人の私はきっともうみんなと会える事は無いけど、でも!もしこっちの私に会ったら優しくしてほしいのです!」

 

 「当たりめーだ。もう仲間だかんな」

 

 「そーゆうこと。ガサツな杏子にしちゃいいこと言うじゃん」

 

 「よく言うぜ。家事なんかアタシの方が出来るってのにさ」

 

 「ちょっ!?それはあんたの飲み込みが速すぎるってだけでしょ!」

 

 「えへへ、二人はホントにとってもお似合いなのです!」

 

 「ちょ!恥ずかしい事言うなぁ!」

 

少女達がにわかに騒がしくなり始める。

彼女達が思い浮かべているのは微笑ましく懐かしい偽りの世界での優しい記憶。

元の世界に戻ればまた魔女との戦いが始まる。…いや、最も強大な敵との対峙が待っている。

彼女達が安らげるのは恐らく今だけ。戻ればワルプルギスの夜を倒すまで

寝れない日だって来るかもしれない。

故に、この時だけはほむらも口を挟まず、微笑ましく見える三人の会話を柔らかな表情で見守っている。

 

 「ほむらはいいの?混ざらなくて」

 

そんな彼女の直ぐ傍にマミが立った。

 

 「えぇ。私は……もう、無理だから」

 

 「何よ、私より年下のくせにそんな年寄り臭い事言って」

 

 「……ふふ。やっぱり、味方なら頼もしいわね、貴女」

 

 「そっちこそ。出来れば二度と敵に回したく無い相手だわ。時間操作なんて無茶苦茶だもの」

 

 「……そうね、本当にそう。……だから、力を貸して」

 

 「勿論よ。どんな協力も惜しまないわ。だから、また並び打ちでもしましょうね」

 

 「……………ええ。きっと」

 

励ますわけでは無い。

二人はただ、そう言葉を交わし叱咤し合う。

目前に迫る強敵を倒す為に。

 

 「……そろそろ、本当にさよならなのです。さやか、まどか、杏子、ほむら、そしてマミ。みんなの健闘を祈るのです!」

 

 「ん!別世界か何か知らないけど、見守っててよ。その女神様と一緒にさ」

 

 「だな。なーに、また会えるだろうよ。だから泣くなよ?ちびっ子」

 

 「べべも頑張ってね!あんまりブラックだったらちゃんと言わなきゃダメだよ?」

 

 「本当に世話になったわね。またいつか、どこかで借りは返すわ。必ず」

 

 「その時は大好きなチーズも沢山持っていくわ」

 

 「……みんななら、きっと勝てるのです!さようなら!!」

 

それぞれがそれぞれに。思いのまま別れのポーズを取り、見送る。

その数秒後になぎさの身体は透け切り、消え、魔女の結界が崩壊した。

 

 

               ーーーー

 

 

 「………あれ?ここは…」

 

 重だるい身体をどうにか起こし、寝ぼける頭に光景を流し込むまどか。

彼女の眼前に広がるのは、どこまでも広がっているようで実際はそれほどの広さではなさそうな白い空間。

天井では大小様々な幾つもの歯車が噛み合い、回り、壁には縁のない額に飾られた絵のような何かがある。

 

 「ん、やっと起きた?」

 

 「さやか、ちゃん?」

 

どこか立つのが難しそうなまどかの手を取り立ち上がらせるのはさやかだ。

だがどうやら彼女の目も寝起きのようにどこかはっきりしていない。

 

 「ここは転校生の部屋だよ。ちょーっとみんなで居眠りしてたみたいだけど間違いない」

 

 「……そっか。…確か、ほむらちゃんがワルプルギスの夜を倒す作戦を立てるからって……。でも、寝てた?」

 

 「そ。なんでか分かんないけど、みんなして寝てた。一番最初に起きたマミさんが転校生の仕業だと思って焦ったらしいんだけど、当のアイツも寝てたらしくて違うって分かったんだって」

 

 「な、なら魔女とか……」

 

 「可能性は一番高いけど、次の杏子が起きるまでずっと探知しててもなーんにもなかったらしい。だから原因が完全に不明なんだよね」

 

 「……そうなんだ」

 

 「うん。それも恐ろしい事に五分十分ってわけじゃないみたい。……まどかが起きるまでは憶測だったけど、筋肉の弱ってるところを見ると間違ってなさそう」

 

さやかの肩を借りてなんとか立ち上がるまどかを見て確信を口にするさやか。

しかし、いまいち状況の飲み込めていないまどかは困り顔で小首を傾げる。

 

 「起きたほむらが言ってたんだ。『幻覚を見せて命を奪う魔女がいる』って」

 

 「なのに生きてる……?」

 

 「そう。だから私達はその魔女を幻覚の世界でどうにか倒して、なんとか戻って来たんだろうね。でも、魔女の結界の中は時間の流れが違かった。現実と隔絶されてる結界の中で私達は何日も…下手したら何年も過ごしてたのかもしれない。……なんて、途中からは杏子の受け売りだけど」

 

問うてきたまどかに苦笑いを向け、部屋の中央にあるソファに一緒に腰を下ろしたさやか。

ここにはいない三人の話を総合する限り、彼女達の立てた憶測は正しいのだろう。

そう、まどかの筋力の低下や小距離の移動にも関わらず上がる呼吸を見て、さやかは納得した。

 

 「時間……?だけど、魔女は私達を食べるのが目的だったんだよね?ならなんで…」

 

しかし、まどかは少しだけ引っ掛かりを覚えさやかに聞き返す。

 

 「これも予想なんだけど、もしかしたらほむらが何かしてくれてたんじゃないのかなって」

 

 「ほむらちゃんが?」

 

そうして返ってきたのは、これまでどちらかといえば敵対寄りだった暁美 ほむらによる助けかも知れないという予想だった。

 

 「うん。あいつ、時間止めたりできるじゃん?でも、ホントは止めるだけじゃなくて巻き戻す事も出来るんだって。まぁ、好きなタイミングに好きなだけってわけじゃないらしいんだけど、その能力をどうにか使ってあたし達が結界に閉じ込められた時から起きる今日まで何度も時間を繰り返してくれてたんじゃないかなって。……実際、そのくらいしないと説明できないくらいあいつのソウルジェム濁ってたし」

 

 「じゃ、じゃあ早くグリーフシードを渡さないと…!」

 

 「その為に今、杏子とマミさんがほむらを連れて予備のグリーフシードを取りに杏子の住処に行ってる状態。ここから結構遠いらしいけど、多分もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

 

 「そ、そっか。なら、ひとまず安心だね」

 

 「うん。……取り敢えずわね」

 

さやかの言葉にほっと安堵の息を漏らすまどか。

しかし、隣に座っているさやかの頭の中にあるのは過ぎ去ってしまった謎より眼前に迫って強敵の事だけ。

迫る気象異常を起こしている一匹の魔女の存在ばかりだ。

 

 「ごめんなさい。待たせちゃったわね」

 

 「わり、思ってたとこに隠して無くて手間取っちまった」

 

 「マミさん!それに杏子!!」

 

薄ぼんやりと雰囲気が重くなっていた室内に息を切らせたマミと杏子の声が響く。

帰宅の知らせを聞いたさやかは咄嗟に立ち上がり、入口の方を向いた。

 

 「あ、あいつは…?」

 

不安げに入り口付近を見回し、しかし姿の見えないもう一人に心配を向けるさやか。

だが、その不安は直ぐに杞憂に変わる。

 

 「お陰様で無事よ。迷惑かけたわね」

 

 「!?」

 

 「時間停止による移動よ。……こうでもしないと信用しないでしょ?美樹さやかは」

 

さやかの背後に突如として現れたのは未だ具合の悪そうな顔をしたほむら。

恐らくは心配をさせまいとして魔法を使ったのだろうが、本調子ではないせいか冷や汗は隠せていない。

 

 「……それだけの元気があれば平気だね。ならさっさと始めようよ、会議」

 

 「さ、さやかちゃん!それはいきなり過ぎるよ……?」

 

 「いいえまどか。美樹さんの言う通りだわ。……時間がない。早くしましょう」

 

 「……そうね。命の恩人かも知れないんだもの。出来れば一晩くらい寝かせてあげたいけれど」

 

 「ま、そんな余裕はねぇわな。今回ばかりはさやかの負けず嫌いの方が正しいぜ」

 

 「みんなまで……」

 

 「いいのよまどか。……これは私の望んでいる事でもあるんだから」

 

 「ほむらちゃん…」

 

せめて一時間でもと言うまどかの言葉を無視し始まったワルプルギスの夜討伐会議。

かつて無い強大な敵を倒す為、様々な案が飛び交う中、ふと誰かが気が付き手を挙げる。

その内容は夢。

恐らくは幻覚を扱う魔女に眠らされている間に見たであろう夢のその断片は、しかし何故かその場にいた全員の夢の断片と悉くが一致し、妙な結束感と不思議な自信を湧き起こす。

 

 「……決して手は抜けない相手。私自身、これまで幾度となく戦い、負けるたびに万全と思える態勢を整えて挑んでいったわ。……でも、一度も勝てなかった」

 

 「けど、今回は違うんだろ?別に馴れ合うつもりはねーけどさ、仲間がどうのってやるんだったら協力は惜しまないぜ」

 

 「あたしも。…あんたに借りを作っておくのは嫌だからね」

 

 「頼もしいわね。佐倉さん、美樹さん。私もそのつもりだわ」

 

 「私も、見滝原が滅茶苦茶にされるのを許すつもりはないわ。可能な限り協力する。……今日の夢の話はその後に解決しましょう。ほむらにもちゃんとお礼を言いたいしね」

 

 「そうね。せっかく私の名前をちゃんと呼んでくれたんだもの。決して死なせないわ」

 

 「………何故かしらね。それほど違和感なく口から出ていたわ」

 

 「ええ。私もすんなり受け入れていた。まるでコインを飲み込むスロットのようにね」

 

 「な、なんでか分からないけど、よくわかっちゃうな……なんて」

 

 「…きっと一緒に行くわよ、まどかも」

 

 「え、え?う、うん……。そうだね。勝って、みんなで行ける年齢になるまで生きよう!」

 

それぞれがそれぞれの戦いへ臨む態度を示し、決意を固めた彼女達はほむらの部屋を後にする。

夜は更けた。

決戦は明日だ。

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

 「そんな世界、あるわけないのにね」

 

 独り、荒れ果てた街に佇む少女がいた。

銃を握るはずの右腕は上がらず。

仲間と繋いだと確信していたはずの左手には何もない。

 

 「今回も駄目だったよ。まどか」

 

あちらこちらに散らばる身体。破片。

ぽつ。

ぽつ。

ぽつ。

まだ温かくもあるだろうその肉片から熱を奪う雫が空から降ってくる。

ーー雨だ。

彼女が幾度となくこの瞬間に浴びてきた雨だ。

希望も、絶望も、何もかもを一緒くたに洗い流し混ぜてしまう雨だ。

同時に声が降り注ぐ。

耳障りな高笑いが降り注ぐ。

 

 「舐めないで。こんなところで諦めるくらいなら、初めから選んじゃいないのよ。この道を」

 

絶望を体現したかのような大きく、恐ろしく、悍ましい魔女が天空で笑い転げる。

だかほむらには既にそいつは眼中になかった。

ただ繰り返す。

破裂する程に力が込められてしまう手で円盾を回し、時を繰り返す。

もう何度目だと、数えるのすら嫌になる程回した盾に隠された砂時計から落ちる砂が示すのは過去への逆行。

それは失敗を無かった事にし、無知を否定する行為。

ーー或いは、世界への叛逆。

 

 ーーごめんね。ほむらちゃん。

 

 「ごめんね、まどか」

 

時と時の狭間にある道を征くほむら。

彼女の耳に届く声は己のモノだけ。

幾度となく口にした約束の言葉だけ。

いつか至る世界。こことは別に存在する並行世界を包み込む優しき女神の声は決して届かない。

 

 ーー私なんかのわがままのせいでこんな思いばかりさせちゃってごめんなさい。でも、私にはほむらちゃんしかいなかったの。

 

 「また、失敗しちゃった。今度こそは上手くいくと思ったのに駄目だった。…でも、次は大丈夫。次こそは大丈夫だから。だから、もう少しだけ貴女の優しさを、強さを、私に貸して」

 

 ーーこんな、自分勝手なお願いを出来る人、ほむらちゃんしかいなかったんだ。強くて、かっこよくて、大好きな……

 

 「えぇ、分かってる。貴女は自分勝手な人間なんかじゃない。誰よりも強過ぎて、誰よりも優し過ぎただけの人。……そんな貴女のお願いだもの。絶対に叶えてみせる」

 

 ーー「私の、最高の友達だから」

 

ガシャン。

無機質に鳴ったのは開幕の音か閉幕の音か。

誰もいない病室で、彼女は目覚める。

 

 「……忘れないよ。まどか。貴女と交わした約束だけは、絶対」

 

透き通る窓に一縷の涙を映して。

ゆっくりと瞳を閉じ、戦場へと続く病室の扉を開いた。

彼女が運命の世界に至るにはまだ黄昏が足りない。

黄昏が導く闇が例え彼女を悪魔に変えてしまうとしても。

 

 

 

end.




 アホほど長くなってしまって申し訳ない。気合入れすぎました。
こんな感じで終わりにしようと思います。
正直一から十までギャグ系にするか迷いましたが、こんな感じじゃないとまどマギじゃないと考えている過激派なもう一人の私がいるのでやっぱりこうしました。
そのうち幻覚についての詳しい説明をツイッタにでも載せようと思います。

それじゃあまた何か機会があればお会いしましょう。
さよーならー


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