金色のガッシュ!!称号『覇道の王』獲得原作ルート (シグアルト)
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番外編《ガッシュカフェ外伝》
①キリカの招待・コルル編(前編)


 感想欄にてIFルートに関する反響が大きかったので、本編中に思いついた『IFルート』を少しだけ紹介するおまけパートを作ってみました。
 完全に未読者お断りなシナリオになるかと想いますが、あくまで番外編ですのでご了承下さい。

 ちなみに《ガッシュカフェ》は「金色のガッシュ!!完全版」に収録されている書き下ろし巻末漫画です。魔物の皆の意外な一面が見れるのでみんな買おうぜ!(ダイマ)



 

 

 

《ここは ガッシュカフェ

 魔物達がお茶を楽しみ お喋りに花を咲かせる社交場です》

 

 

《ですが 今回お客様を招待するのは私ではなく────》

 

 

 

「私。キリカ・イル」

 

 

《そう 私はガッシュカフェという “空間”を提供するだけです》

 

 

「紹介も、して」

 

 

《わかりました 今日のお客様は コルルです》

 

 

「よろしくね。キリカ」

 

 

 草原の広がる一角にある、ガッシュの顔を模した佇まいの店。

 そこの木陰のテラス席に座るコルル、対面の席に座るのはいつものワンピース姿のキリカであった。

 

 

「はい、コルル。あなたのオーダーよ」

 

「ありがとう、しおりねーちゃん」

 

 

 コルルの前にバナナフレーバーホットミルクと、ホイップクリーム・メープルシロップがふんだんに盛り付けられたホットケーキが置かれる。

 テラス席からは店内が良く見渡せるようになっており、厨房にいるコック姿の元就がそんな二人を見守る。

 

 

「でも、キリカちゃんは紅茶だけでいいの? 欲しいなら元就君が何でも作ってくれるけど」

 

 

 メイド服に身を包んだしおりがキリカに問いかける。

 

 

「平気。私、招待者」

 

「うーん、でも私だけ食べるのは気がひけるわ。ならキリカ、半分こしない?」

 

「…………、貰う」

 

「フフッ、そうよ。一緒に食べましょ」

 

 

 ホットケーキを姉妹の様に仲睦まじく二人で分ける。その姿に両本の持ち主(パートナー)の頬もゆるむ。

 ふとコルルが食事の手を止めキリカを見つめる。

 

 

「……でもこんな風にキリカと仲良く出来るなんて、魔界にいた頃は思いもしなかったわ。今では私も、この戦いがあったお陰だって思えるの」

 

「うん。よかった」

 

「それもこれもキリカのお陰よ。覚えてる? 私が暴走して皆を傷つけちゃった時の事」

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 ────「お願い、ガッシュ。魔本を燃やして! そうすれば誰ももう傷つかないから」

 

 

『狂化』の呪文のせいで正気を失ったコルルはガッシュやキリカ、一般人にまで怪我を負わせてしまった。

 その自責の念により、自身の魔本を燃やす様に懇願する。

 

 

「ダ、ダメだ! お主はしおり殿と別れたくないのだろ? それを引き裂くなど……」

 

「ガッシュ……。でも……でも……、今度同じ事が起こったら……私……」

 

 

「……ガッシュ。その子の魔本、よく見てみろ。少し……おかしいぞ」

 

 

 今度同じ事態が起きたら、コルルの精神は潰されてしまう。

 そう判断した清麿はガッシュの目線を本に向けさせる。そして……

 

 

「《ザケ……」

 

「駄目!!!」

 

 

 その言葉は後ろにいた少女の声に阻まれた。そしてゆっくりとコルルへ近付いていく。

 

 

「キリカ。……私は……、!?」

 

 

 そのままコルルはキリカに抱きしめられた。

 

 

「諦めないで。コルルなら、出来るから」

 

「え……何を……?」

 

「傷つけないで、守る事、出来る筈。だって、コルルは────やさしい子だから」

 

 

 その言葉にコルルの目に溜まっていた涙が溢れ出す。

 自分の力は他者を傷つけるものでしかなかった、だからここにいてはいけない。こんな力は、皆に嫌われてしまうだけだから……

 そんな自分の考えをキリカは理解し、乗り越える事が出来ると言ってくれた。そんなキリカを傷つけたのは、他でもない自分なのに……。

 

 

 嬉しい、嬉しい、嬉しい!! こんな自分を認めてくれたキリカが。

 自分だって出来るならもっと皆といたい、自分の力を乗り越えて「やさしい子」と言ってくれた自分になりたい────!! 

 

 

 それに呼応するように、ピンクの魔本が……新たな光を放ち始めた。

 今までのような鋭く不気味でない、暖かな光。

 するとキリカがゆっくりと魔本を持つコルルの手を握り、やさしく手を離すようにして魔本を受け取ると、困惑するしおりへと渡す。

 

 

「キリカちゃん……何を?」

 

「新しい呪文。読んで」

 

「え……、何を言っているの?! そんな事したらコルルがまた……」

 

 

「信じて」

 

 

「…………!」

 

 

 キリカが笑みを浮かべしおりちゃんを見る。

 ガッシュも、本の持ち主(パートナー)のおにいちゃん達も、私もその笑顔に見蕩れてしまっていた。

 

 それ程に……『やさしい』笑みだった。

 

 気付けばしおりねーちゃんも本を受け取り、ページを開いていく。

 

 

「……ぅ。……ら、……ら……」

 

「大丈夫、信じて。コルルを」

 

 

「! …………《ラ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ライフォジオ》!」

 

 

 その言葉に反応して私の両手が光りだす。

 一瞬また今までのような鋭い爪に変わるのかと思ったが、それはやわらかな光を保ったまま段々大きくなり私達を包み込んだ。

 

 

「ウヌゥ……、これは……」

 

「あぁ……暖かい」

 

「これがキリィの言っていた、コルルの新しい力」

 

「何て……やさしい光」

 

 

 それに包まれた皆が癒されていく。光が消えた時、全員の怪我が完治していた。

 

 

「これが……、私の……呪文」

 

「そう、コルルのやさしい力」

 

 

 その言葉に堪えきれなくなったコルルは、大粒の涙を流しながら満面の笑みでキリカへと抱きついたのだった。

 

 

 

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 ────「そんな事も、あった」

 

「えぇ、キリカのお陰よ。あのお陰で諦めずに頑張ってみようって思えるようになったんだから」

 

「そんな事もあったわね。キリカちゃんのお陰よ、コルルとあの時お別れしないで済んだのは」

 

「それは、コルルのお陰」

 

「そんな事ないわ。キリカの言葉はいつだって私を励ましてくれたの、だから私も“あの時”に戦う決意が出来たんだから」

 

「あの時?」

 

「『千年前の魔物』との戦いの時ね。ガッシュ君やキリカちゃんと一緒にデモルトと戦った時よ」

 

「そう。それまで私は皆の怪我の治療とかでしか力になる事が出来なかった。でもあの時はね」

 

 

 

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 ────『《ギルガドム・バルスルク》!!』

 

 

 千年前の魔物達との最終決戦。人々を操る『月の石』を破壊したガッシュ達一行は、全長数十mに至る巨大な魔物・デモルトと戦っていた。

 

 元々呪文なしですら強靭な膂力を誇っていた魔物。それが《禁呪》により破壊の象徴とも言える程のパワーを持つ存在へと昇華されていた。

 

 

「《ザケルガ》!」

 

【そんな攻撃が効くか!! ルァアアアアア!】

 

「《マ・セシルド》!」

 

【フン! そんなものすぐ破壊できる。グルァアアアアアア】

 

「やらせんぞ、()()()()!」

 

「はいアル。《ラオウ・ディバウレン》!」

 

 

 ギリギリの攻防を続けるガッシュ達。そんな中しおりとコルルは部屋の隅、キャンチョメが作り出している安全圏でそれを見つめていた。傍にはレイラと気絶した本の持ち主(パートナー)アルベール、そしてナゾナゾ博士の3人と一緒にいた。

 

 

「しおりねーちゃん……」 「コルル……」

 

「君達、恐いならパティやビョンコ君の本の持ち主(パートナー)達と共に下の階にいってもよいのじゃぞ? 『月の石』を破壊した今、君達の《ライフォジオ》が回復の要となる」

 

「ナゾナゾ博士……、でも……」

 

「恐れや怯えは決して『臆病』ではない。むしろ、戦いの苦手な君達がよくぞここまで『勇敢』についてきてくれた」

 

「そうよ。それにあなたは私を救ってくれた。あなたが暗闇の中、抱きしめてくれた《やさしさ》のお陰で、私は石化の暗示と呪縛から解放されたのよ。だからそんな顔をしないで」

 

「レイラ…………」

 

 

 前線でガッシュやキリカ達が戦っている、レイラが本の持ち主(パートナー)を必死に起こそうとしている、ナゾナゾ博士が現状を打破する手段を模索している。

 その姿を見た二人に、自分達だけ安全な場所へ逃げるという選択肢は生まれなかった。

 

 

「ガッシュ……、キリカ……」

 

 

 震えながらもコルルは考える。自身の呪文が暴走した事件以来、《ゼルク》等の『狂化』の呪文は一切使わなかった。また誰かを傷つけるかもしれないというトラウマになっていたのだ。

 だが、あの力ならガッシュやキリカ達の力になれるかもしれない。あの呪文もコルルという魔物の素質の1つだとキリカが言っていた。

 恐い、どうしようもなく恐い……………………でも

 

 

 

 

 

 

『友達』を失う事の方が────ずっと恐い。

 

 

 

 

「……! ナゾナゾ博士。私の魔本が」

 

「ム、コルル君!?」

 

「……お願い、しおりねーちゃん。呪文を唱えて」

 

「で、でもコルル。この光の感じ、あの時とは違う。これって────」

 

「うん。でも私、どうしてもみんなを助けたいから」

 

 

 そう言うとコルルはしおり達から距離を取る。しおりはその覚悟を感じ、ためらいながらも呪文を唱える。

 

 

 

「《ディオウィガル……ギゼルク》!」

 

 

「う……! うううううぅう……ぅぅゥ……ギィいぃいィィ!

 

「コルル!!」

 

 

 コルルを中心に強い突風が吹き荒れる、コルルの体は“あの時”と同じく正気を失った目や鋭利な爪、成人女性ほどの身長へと膨れ上がっていく。

 

 

「ムゥ! これは……!!」

 

「すごい魔力。あの子、こんな力を秘めていたのね。でも……」

 

「ウム。あの子の心で、それを制御しきれるかじゃな」

 

 

 ナゾナゾ博士とレイラがコルルを真っ直ぐな瞳で見つめる。コルルがどんな事になろうと、その覚悟を見届ける為に。

 

 

(ガッシュ……、しおりねーちゃん……、キリカ……!)

 

ゥゥゥゥウウウゥ……ギィエエエエエエエ!!

 

 

 

 

 

 

《「信じてる」》

 

 

 意識を失いつつあったコルルの頭に、そんなキリカの声が聞こえた気がした。

 

 

「コルル!!!」

 

 

……! シオリ……ねーちゃん」

 

 

 コルルは呪文により変貌した体のまま、その目は意識を取り戻した。気付けば彼女の腰には抱きついているしおりの姿がある。

 呪文の力により発生した突風がカマイタチの様に彼女の体を切りつけ、深くはないが多数の傷を作っていた。

 

 

「……しおりねーちゃん」

 

「フフッ。その姿だとコルルの方がおねーちゃんみたいだね」

 

 

 微笑むしおり。体は傷だらけでも、その心の火は一切曇ってはいなかった。

 

 

「いってらっしゃい、コルル。その力でガッシュ君やキリカちゃんを守ってあげて」

 

「……うん!」

 

 

 その言葉を受けて、コルルはデモルトの下へ挑む。『友達』の力となる為に。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 

 ────「あの時のコルル。格好よかった」

 

 

「今思い返すと少し恥ずかしいけどね。あの後、すぐレイラとガッシュが協力してデモルトを倒しちゃったし」

 

「それは、結果」

 

「フフ、ありがとうキリカ。それに私、気付けたの。相手を傷つけない事だけが《やさしさ》じゃないんだって事を」

 

「うん。でもキャンチョメ、大変だった」

 

「そうだったわ、あの後キャンチョメが私に怯えちゃって‥それまでと態度がまるで違うんだもの。一緒に笑っちゃったわね」

 

 

 和気藹々と流れる人間界での昔話。

 

 するとそこに、厨房から元就がやってくる。

 

 

「キリィ」

 

「何、元就」

 

 

 

 

 

 

「一旦、CMだ」

 

 




【オリジナル呪文解説】

《ライフォジオ》

コルルの願った《やさしい力》を具現した補助呪文。対象の生命を守る事が出来る。
ゲーム的に表記すると
・一定時間、HP『継続回復(リジェネ)
・一定時間、バッドステータス無効
・バッドステータス解除


《ディオウィガル・ギゼルク》

『狂化』の性質を持つ強化呪文。
《ゼルク》が更に強力になり《竜巻》の性質が付与され身に突風を纏った姿へ変わる。パワーよりも圧倒的なスピードの強化がされた中級呪文。


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②キリカの招待・コルル編(後編)

 今回は意図的に回想において、キリカの存在を描写から消しています。
 本編と関係ないメタ時空のお話ですが、本編の話への配慮によりその様な仕様になっています。




 

 

 

「コルルは、やっぱりすごい」

 

「フフ、ありがとう。キリカにそう言われると嬉しいわ」

 

「……そういえば」

 

 

 それまでのんびりとした時間を謳歌していたコルルとキリカ、その本の持ち主(パートナー)達。

 だが、キリカの次の言葉によってその雰囲気は一変する。

 

 

「ゼオンとは、どう?」

 

「え?!」

 

「コルル、やっぱり!?」

 

 

 無表情のキリカ、一瞬で赤面するコルル、そして興味津々と目を輝かすしおり。…元就は【隠密】によりこっそりと厨房へ帰っていった。

 

 

「ゼオンは……その、時々会うだけよ。時々」

 

「…………、そう」

 

「な、何キリカその慈愛に満ちた目は!? あなた、そんな表情出来るんじゃない!!」

 

「コルル、顔真っ赤よ」

 

「しおりねーちゃんもからかわないでよ!」

 

「これが、青春」

 

「いいわねぇ、私も彼氏作ろうかな~」

 

「キリカこそガッシュとどうなのよ!? それとしおりねーちゃんは誰にも渡さないから!」

 

「ガッシュは、ない。多分」

 

 

 一瞬で大混乱となるガッシュカフェ。

 

 王族の専門教育を受け『雷帝』の名を得たゼオン、ガッシュと同じ一般学校に通うコルル。

 

 魔界で決して交わらなかった二人の出会いは、ファウードのコントロールルームだった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ────「ゼオン、ファウードを止めるのだ!」

 

「フン、ムカツク顔め。本の持ち主(パートナー)もいない役立たずが何故ここにいる」

 

「ファウードを止めろ。ゼオン!!」

 

「ゴミとこれ以上話す口はない。とっとと始末しろ」

 

 

 ファウードを止める為、辿りついたガッシュ達と対峙するゼオンと部下の魔物。

 だがガッシュの言葉に一切耳を貸さず、ゼオンは無情の命令を放った。

 

 

(あの子がゼオン……。ガッシュと同じ顔)

 

 

 コルルは初めてゼオンの顔を見た。確かに容姿はガッシュと同じ、だが何かが決定的に違っている。

 一見憎しみを秘めたようにしか見えない表情の奥に、何かひっかかるものを感じたコルルは他の仲間達の様にゼオンを明確な『敵』としてみる事に一瞬の躊躇を覚えた。

 

 

「コルル! 下がるのだ」

 

「そうよ、ここは私に任せて。恵!」

 

「ハイ! 《マ・セシルド》!」

 

 

 そんなコルルの逡巡など関係なしに場は進行する。仲間達がお互いにフォローし、強大な力を持つゼオンの部下達の攻撃に喰らいついていく。

 だが、そんな均衡もすぐに崩されていった。

 

 

「ロデュウ、ジェデュン。全員一気に倒そうとするからゴミ処理が遅れるんだ。1体づつ集中して消せ。まずは……」

 

 

 そう言ったゼオンの瞳は、キャンチョメ────の奥にいたコルルを捉えていた。

 

 

「その奥で震えている回復使いの女だ。ガッシュ以上にムカツク目をしていやがる」

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 コルルはゼオンの指示により集中攻撃を受け気絶させられた後、ファウードの柱に拘束された。

 次にコルルが目を覚まし見たのは、瀕死の重傷を負い離脱していた筈の清麿と、ゼオンと最強呪文の撃ちあいによりボロボロになったガッシュの姿だった。

 

 

「コルル、いきなりですまんが《ライフォジオ》を頼む。ティオの《サイフォジオ》でも起きられる程回復していないんだ!」

 

「う、うん。しおりねーちゃん、お願い」

 

「わかったわ、《ライフォジオ》!」

 

 

 回復呪文をガッシュにかけ、それを見届けたコルルはふとゼオンの方へ顔を向ける。

 本の持ち主(パートナー)の心の力が切れたらしく攻撃の気配はない。そしてゼオンの方へ視線を向けるコルルは、ある事に気が付いた。

 

 

「……ゴミが、何故オレを見ている」

 

「ゼオン。あなた…………、ガッシュとの戦いで何があったの?」

 

「!? ……、何?」

 

 

 コルルには確信があった。気絶する前に対峙したゼオンとは明らかに何かが違う。

 動揺、焦燥、迷い。冷徹な仮面の下の表情は、先程までの面影が微塵もない程に荒れ狂っていた。

 

 

「あなたは迷っている。ガッシュと、このまま戦っていいのか」

 

「何だと……? 下らん命乞いでもする気か、貴様のようなゴミを潰す呪文くらいは撃てるんだぞ」

 

 

 ゼオンは手をコルルへ向ける。だが、コルルの目は一切の揺らぎを見せなかった。

 

 

「待て、ゼオン」

 

「……デュフォー?」

 

「そいつの言う通りだ。ゼオン、お前は確実に『何か』が変わろうとしている」

 

「…………何?」

 

「だがそれが何なのか、そこへ行き着いた過程が何なのか。それが俺にはわからん。お前には、それが何かわかるのか?」

 

「うぅん、私も……きっと、ゼオン以外の誰にもわからないんだと思う。でもそれは、きっとガッシュが気付かせてくれるわ」

 

「そうか……」

 

 

 デュフォーが納得したような声でコルルから視線を外す。ゼオンは怒り心頭といった様子でコルルを睨みつける。

 

 

「くだらん、くだらん! だからガッシュが目覚めるまで待てというのか!! 俺に迷い等あるものか! ロデュウ、既に目覚めているだろう。さっさと全員始末しろ!!」

 

「…………フン」

 

「《ギガノ・ラギュウル》!」

 

「何!!?」

 

 

 ファウードの力により復活したロデュウ、だがその攻撃の矛先は────ゼオンへと向けられていた。

 

 

「ロデュウ……貴様……」

 

「ハッ、ザマァねぇなぁゼオン。まるで母親に駄々をこねるガキじゃねぇか」

 

「ロデュウ……さん」

 

「テメェは邪魔だ、下がってろ。……だがあの啖呵は悪くなかったぜ」

 

 

 そう言いゼオンへと叛逆を行うロデュウ。一切の勝ち目のない戦いであったが、その男は終始楽しそうであった。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 目が覚めたガッシュと、ロデュウを倒したゼオンが対峙する。

 ────その目には、先程までの迷いはどこにもなかった。

 

 

「《ジガディラス・ウル・ザケルガ》!」 「《バオウ・ザケルガ》!」

 

 

ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAA(ジガアアアアアアアアアアアアアアアアアア)!!】

 

【バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】

 

 

 ぶつかり合う2つの力。

 ゼオンの受けた虐待に近い日々で積み重なった憎しみ、己の積み上げた誇りを汚された怒り、そして本の持ち主(パートナー)の強い憎悪がガッシュの呪文を打ち砕こうとする。

 

 だがその力は────その憎悪と悲しみを受け止めた《バオウ》を砕く事は出来なかった。

 それを理解したゼオンは苦笑し、慈しみを浮かべた笑顔を本の持ち主(パートナー)へ向けた。

 

 

「そうだ、デュフォー。これが答えだ。俺達の力のな」

 

 

 最後の力で本の持ち主(パートナー)を守るゼオン。そしてゼオンはそのまま《バオウ》へと飲み込まれる────その直前に

 

 

 

「《ディシル・マ・ライフォドン》!」

 

 ──陽光のような光を、見た気がした。

 

 

 

 ……………………

 

 

(暖かい。

 

 とても愛おしい。

 

 一体、この感覚は……? 

 

 そうだ、覚えがある。オレが王族としての教育を受ける前、もっと幼い頃の記憶)

 

 

 

 その記憶が鮮明になっていくと共に、ゼオンの意識がゆっくりと浮上していった。

 

 

「……ここは」

 

「ゼオン。気が付いた?」

 

「・・・・・・ぁ」

 

 

《バオウ》の電撃を受け傷だらけのゼオン。だが魔本は燃えておらず、深い傷もなかった。

 ゼオンは穏やかな微笑みを浮かべるコルルに膝まくらをされ、傍にはガッシュが涙を浮かべこちらを見ている。

 

 

「ゼオン! ゼオン!!」

 

(ガッシュ……)

 

「……ゼオン」

 

(あぁ……、この感覚はまさに)

 

 

「…………母上」

 

 

 ガッシュの優しさに、コルルの慈しみによりゼオンの憎しみはゆっくりと溶けていった。

 その涙は、ようやく答えを得る事が出来た喜びの涙であった。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「でもゼオンってば、少し過保護なのよね。お兄ちゃんだからなのかしら?」

 

「この前も、すごかった」

 

「そうね、私にヘビのおもちゃを投げてきた子に向けて《ジガディラス》を唱え始めた時は驚いちゃったわ」

 

「でも、いつものこと」

 

「うーん、でもおしおき感覚で出す呪文にしては大袈裟すぎないかしら?」

 

 

 何でもない事の様に語る二人であるが《ジガディラス》の雷の力を目の当たりにしたしおりは、引きつった笑みを浮かべるので精一杯であった。

 

 

「でも、コルルのせい」

 

「え、私の?」

 

「そう。“クリア”の時」

 

「!!」

 

 

 その言葉にしおりも笑みを消し顔を伏せる。その時の記憶は、少し苦いものとして残っていた。

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ────「さて、少し名残惜しいが我がライバルともお別れだな。アシュロン」

 

 

 魔界の消滅を目論む魔物、クリア・ノート。その存在を知る竜族の神童アシュロンにより、アースの本の持ち主(パートナー)の見舞いに来ていたガッシュとコルルはブラゴの救援に駆けつけていた。

 

 だがクリアの力は凄まじく、すでに一番の戦力であるアシュロンは片腕を負傷し満身創痍、ブラゴも当初立ち上がれないほどの重傷を負っており《ライフォジオ》を用いても全快とはいえなかった。

 

 全ての魔物の滅びを宣言するクリア、それを必ず止めると言い切るガッシュ。互いの主張はハッキリと伝わり、そして相容れないものであると互いが認識した。

 

 ……だがその認識を、ただ一人だけが納得出来ないでいた。

 

 

「クリア、って言ったわよね。あなたはどうして魔物を滅ぼそうとするの?」

 

「どうして? 理由かい、そんなものはないさ。僕は魔物を滅ぼす為に生まれてきたからさ」

 

「それはガッシュが聞いたわ。そこにあなたの『心』はないの?」

 

「『心』? 不思議な言い回しをするね。破壊は僕の『本能』だよ。それが僕の『意思』であり『心』さ」

 

「それは違うわ。『心』は自分が誰かの為に何かをしたいと思えるもの。例え『本能』が破壊を求めていたとしても、それに従うか抗うかを決めるのはあなたの『心』であり、何か大切なものの為に『本能』に立ち向かえるのが『意思』なのよ」

 

 

 コルルはクリアの事をどこか他人事とは思えなかった。

『本能』により破壊を強制された存在。だがその『本能』を『意思』の力で乗り越えたコルルは本能に従っているだけのクリアを止めたいと願った。

 

 

「………………すごい」

 

「え?」

 

「凄いね、君! 確かにそれは1つの答えだ!」

 

 

 驚いた顔をしてコルルを見つめるクリア。すると彼は興奮を抑えきれない様子で饒舌に語りだす。

 

 

「僕だって情報としては知っている。人を愛する、物を大切にする、それらを慈しむ事で幸福を感じる。だけど逆に殺したり、壊したり、踏み躙ったりして喜びを感じる者達もいる。彼等に共通するのは『心』なんだ。

 僕は不思議だったんだ。僕は何かを慈しむ事にも、破壊する事にも何も感じない。欲望でも破壊衝動でもないこれは何なのかってね」

 

「そうだ、僕には────」

 

 

 そして、クリアが無造作に手を前に出し……

 

 

 

 

 

 

 

「『心』がなかったんだ」

 

 

「コルル!」  「コルル!!」 「《ディシル・・」

 

「《ラージア・ラディス》!」

 

 

 コルルの周囲を、巨大な《消滅波》が襲った。

 周囲の地形ごとコルルを呑み込んだ消滅波、するとしおりの持つ魔本から急に火の手があがり燃えてなくなった。

 

 

「……ぇ、どうして? 火なんてどこにもなかったのに」

 

「コルル、コルル!! どこにいるのだ!」

 

 

 呆然とするしおり、コルルを探そうとするガッシュ。事態を説明しようとアシュロンが口を開きかけた時────

 

 

「魔本は“魔物が死に瀕した怪我を負った時”や、“死んだ時”にも消滅する」

 

「……ゼオン」

 

 

 転移により現れ全てを察したゼオンが、静かに答えを示した。その言葉を聞き、崩れ落ちるしおり。

 

 

「死? ……そんな」

 

「彼女の本の持ち主(パートナー)、悲しむ事はないさ。これはお礼だよ、僕の長年の疑問の答えの1つを見せてくれた、ね」

 

「答え……だと?」

 

「あぁ、どの道全ての魔物は消滅するんだ。早く消してあげた方が苦しみや悲しみも少なく済むだろう?」

 

 

「黙れぇぇ!!!」

 

「《ソルド・ザケルガ》!」

 

 

 爆発した怒りのままクリアに突撃するゼオン。デュフォーは清麿達の下へ合流する。

 

 

「デュフォー、何故ここが? ……って聞くだけ野暮だな」

 

「その通りだ。『答えを出す者(アンサー・トーカー)』の力でクリアの居場所を探した。とはいえ、奴の存在に気付いたのは最近だがな」

 

 

場を乱す気はないのか、面識のないアシュロン達にもわかる様に話をするデュフォー。

彼のささやかな変化に、清麿だけは気付く。

 

 

「ゼオンか。ファウードの件でヤツは消滅したと思っていたが、まだ生き残っていたとはな」

 

「あれがダンナの言っていた雷帝ですかい。仲間になってくれるとは運が向いてきやしたね」

 

「あぁ、ガッシュ。ブラゴ。今がクリアを倒す絶好の好機だ」

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「ハハッ、さすがは《雷のベル》だ。完全体でない今の僕だと本気を出さないといけないな!」

 

「貴様だけは、絶対に許さん!!」

 

「憎しみ、悲しみ、怒り。そんなものに振り回されていては力が曇ったままだよ」

 

「クソッタレがああああああああああ!!」

 

 

「《ジガディラス・ウル・ザケルガ》!」

 

 

 クリアと距離を取り、ゼオンの持ちうる最大呪文を唱える。ファウードの一件の後、デュフォーの指導の下特訓を行った事により、更なる力を得た《ジガディラス》の雷がクリアを襲う。

 

 

「《バオウ》ではないが中々の力を感じるな。これは僕も奥の手が必要みたいだ」

 

「《シン・クリア・セウノウス》!」

 

 

 神々しささえ感じるクリアの最強呪文。神の彫刻を模したかのような消滅の力はジガディラスの雷を押し返していく。

 

 

(クッ、何てザマだ。俺の力は所詮、この程度なのか!!)

 

 

 自身への怒りを煮えたぎらせるゼオン、だがジガディラスはクリアの術に呑み込まれ消え去りゼオンへとその勢いのまま向かっていく。

 

 以前のファウードでの最終決戦と同じ様な状況、だがあの時とはまるで違う。あの暖かな光で守ってくれたコルルはもう……

 

 

《「ゼオン!」》

 

「……え?」

 

 

 

【バオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!】

 

 

《何か》に気付いたゼオンを庇うようにクリアの術に襲い掛かるガッシュの《バオウ・ザケルガ》。ジガディラスとの撃ち合いにより威力を減衰させたクリアの呪文ではあったが、バオウと対消滅するだけに終わり辺りに砂煙が舞い視界が遮られる。

 

 

「今のが《ベルのバオウ》か。でかく、凶悪な力だな。でもこれで……」

 

「《シン・フェイウルク》!!」

 

「何!?」

 

 

 砂煙の中を掻き分け、音速を超える速度で巨大な竜の姿で突進してくるアシュロンに、クリアは完全に不意を突かれた形になった。

 

 

「《ラージア・ラディス》!」

 

「《シン》の呪文はその程度では消えんわぁ!!!」

 

「……ガハッ!!?」

 

 

 多少速度が減衰したが、なおも高速でクリアへとぶつかったアシュロンの角によりクリアは貫かれ、体中が血に染まっていく。

 

 

「グッ……はな、れろ!」

 

「《ラディス》! 《リア・ウルク》!」

 

 

 牽制の呪文を放ち、その隙にアシュロンの角から抜け出し距離を取るクリア。

 あまりに体力を消費した、そう判断し一旦離脱を図ろうとする。だが……

 

 

「《ニューボルツ・マ・グラビレイ》!!」

 

「何!!? この呪文は……ブラゴか!」

 

「お前は逃がさん。ここで潰させてもらう」

 

 

 強力な重力で敵を押し潰す呪文ではあるが、クリア相手では少しの時間動きを封じる程度だ。だがこの場面においては、それが絶対的な効力を発揮する。

 

 

「よし、アシュロン! トドメだ!!」

 

 

 清麿が合図を出す。これでクリアを倒せる手筈となっていた、だが────

 

 

「ダメだ、清麿。それでは後一手が足りない」

 

 

 それをデュフォーの宣告が遮った。どういう事か清麿が聞き返そうとすると……

 

 

「グゥゥゥ……オオオォォォオオ」

 

 

 クリアの下へと行こうとしたアシュロンが倒れ付す。自分自身すら気付かない体力の限界であった。

 それに気付いたクリアが笑みを浮かべる。

 

 

「クッ、ハハッ。惜しかったね、アシュロン。最後の最後で僕の勝ちが決まったようだ」

 

「ダンナ、アシュロンのダンナ!!」

 

「くっ、くそおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ヌ、ヌアアアアアアアアァ!!」

 

 

 後一歩だったのに、そう各々が考える中。全員の耳に再び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「お前等全員、頭が悪いな」

 

 

 クリアの下へ歩み寄るデュフォー、その脇には俯いたままのゼオンがいた。

 ガッシュはゼオンを心配そうな目で見る、先程まであれ程狼狽していたのだ。大丈夫なのだろうかと。

 

 だがその心配は顔を上げた彼を見た瞬間、杞憂だった事を悟った。

 

 

 

「行くぞ。デュフォー…………コルル」

 

「あぁ」

 

《「うん」》

 

 

 デュフォーの本が光り輝いている。いつもの銀色だけではない、あのピンク色の光は────

 

 

「全く、魔界に帰った後もこうして心配されるとはな」

 

《「しょうがないじゃない。ゼオンったら、見てられなかったんだもの」》

 

「フン。だが………………無事ならそれでいい」

 

《「うん!」》

 

 

 穏やかな笑みを浮かべるゼオン。ガッシュ達には見えないが、きっと傍には彼女がいるのだろう。二人の絆が起こした魔本のちょっとした奇跡。

 それにより『力』だけでは手に入らなかった新たな領域へ、ゼオンの『心』が到達する。

 

 

「行くぞ、デュフォー。これで終わらせる」

 

「あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ジガディラス・シン・ザケルガ》!」

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ────「うぅ、あの時は心配させて悪かったわ。しおりねーちゃんもごめんなさい」

 

「いいのよ、コルルが生きていてくれたなら。それに信じてたから」

 

「それに、しおり。あの時、呪文唱えてた」

 

「そうなの。そのお陰で私死ぬ前に魔界に帰る事が出来たの。ありがとう、おねーちゃん!」

 

「ありがとう、しおり」

 

「ウフフ、どういたしまして。じゃあ、お礼に魔界での生活をもっと聞かせてくれないかしら? 特にゼオン君関係の辺りを」

 

「えっ?! しおりねーちゃん!?」

 

 

「悪い顔になってるぞ、しおり」

 

「あら、元就君。ガールズトークを盗み聞きはよくないんじゃないかしら?」

 

「そんな大声で騒げば嫌でも聞こえてくるさ」

 

「じゃあ、この前のガッシュが半裸で空を飛んだ話から」

 

「ちょっと待ってキリカ! 何の話を始めようとしているの!?」

 

 

 

《今日も平和な ガッシュカフェ

 コルルとしおりの意外な一面が明らかになりましたね》

 

 

《さて 次回のお客様がいらっしゃるかは

 招待者である キリカ・イル次第といったところでしょうか》

 

 




【オリジナル呪文】

《ディシル・マ・ライフォドン》


他者の命を守る補助呪文。
対象の周囲をバリアで包み込み内部の存在の受けるダメージを軽減する。
魔本に対しても効果があり、若干燃えにくくなる。


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③キリカの招待・原作ティオ編

 久々の執筆によるリハビリ回です。短め






 

 

 

 

《ここは ガッシュカフェ

 魔物達がお茶を楽しみ お喋りに花を咲かせる社交場です》

 

 

《ですが お客様を招待するのは私ではなく────》

 

 

 

「私。キリカ・イル」

 

 

 

《そう 私はガッシュカフェという “空間”を提供するだけです》

 

 

《そして今回のお客様は……》

 

 

 

「ねぇ。コルルに呼ばれてきたんだけど、恵がどうしているの?」

 

「さぁ、気づいたらここにいたわ。深く考えちゃダメみたいよ、ティオ」

 

「まってた」

 

「魔物? ()()()()()かしら?」

 

 

 

 

 

 

 

《今日のお客様は“原作”ティオです》

 

 

 

 草原の広がる一角にある、ガッシュの顔を模した佇まいの店。

 そこの木陰のテラス席でキリカの対面に座っているのは、桃色の長髪をした可愛らしい少女『ティオ』であった。

 そんな彼女の手元には、恵が運んできたティオの好物であるストロベリーシェイクにイチゴのショートケーキがあり舌鼓をうっていた。因みにこれは厨房にいる元就のお手製である。

 

 

「……つまりあなたは、私のいた世界と違う『並行世界』で私と友達になった魔物って事ね」

 

「よくわかったわね、ティオ。私は未だに実感できてないわ」

 

「たまたまそんな能力がある人間界の漫画を最近ワイズマンから借りたのよ。確かD4……」

 

「それ以上、いけない」

 

 

「まぁいいわ。それで、何であなたの世界の私じゃなくてこの私を連れてきたの? 初対面同士じゃ話もはずまないじゃない」

 

「今、見せる」

 

 

 キリカが手を上げ合図を送ると、厨房にて料理を作っていた筈の元就が傍に歩いてくる。執事が纏うような燕尾服に着替えているが、彼が引いているのはティーワゴンではなく“あるもの”をのせた普通のワゴンだった。

 

 

「これ……テレビ? よね」

 

「えぇ、私たちの世界に昔あったテレビね。私も見るのは初めてだわ」

 

 

 

 昭和の日本で使われていたブラウン管テレビ。西洋の優雅な雰囲気を醸し出している周囲の雰囲気に置かれるその存在は、明らかに浮いていた。

 

 とまどう一同をよそに、キリカは少し誇らしげに言った。

 

 

「これで、ティオを見る」

 

「私を? ……! もしかして“あなたの世界での”私を、って事かしら?!」

 

「つまり並行世界のティオって事なの? 本の持ち主(パートナー)は違う人?」

 

「それは、いっしょ」

 

「何よそれ、面白そうじゃない! 早速見ましょ」

 

 

 別の世界線での自分自身が見れる、そんな貴重な経験が出来ると知りテンションをあげ笑顔を浮かべるティオ。恵は興味深そうにブラウン管テレビを見つめていた。元就はテレビを円形テーブルで向かい合うキリカとティオの間に配置しスイッチを入れる。ブラウン管から光が放出され、テレビと共に用意していたスクリーンに映像が映し出されていく。

 

 

「すごいわ、映画みたい! 人間界って昔からこんなのがあったのね!!」

「……その見た目の意味はなんだったのかしら」

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────もうどのくらいの時間がたったのだろう

 

 私の耳に聞こえる音は、天井から落ちてくる水滴だけだった。

 

 魔界の王を決める戦い、期待に胸を膨らませていた私を待ち受けていたのは……非情な現実だった。

 

 ……ふと、暗闇の奥から何かが動く音がした。

 

 

「ッ!!?」

 

 

 私は(うずくま)っていた体勢から突然立ち上がろうとしたが空腹と疲労、そして同じ姿勢を取り続け固まった体をうまく動かせず尻もちをついてしまう。だが、今の私にそんな事を気にする余裕はない。怯えきった目をつぶらない様に意識し、音の正体を見定める。

 

 

「チチッ」

「……何よ、ネズミじゃない」

 

 

 現れたのは小さなネズミ、そもそも影の大きさからして“敵”の筈がない。緊張で止めたままだった息を吐き、今更ながらそんな簡単な事実に気づいた自分を嘲笑するように口の端があがる。

 

 

 

 

 もう限界だった。

 

 

 

 人間界に来て早々に出会った友達の魔物『マルス』に襲われて以来、私の生活は彼の手から逃げ出すものになった。

 

 既に本の持ち主(パートナー)を見つけ呪文が使える彼に、本の持ち主(パートナー)のいない私では勝ち目がない。それをわかっているのかマルスは執拗に私を追い続け、今ではこうやって地下水路に隠れて住んでいる。

 

 もし私にもう少し勇気や気概があれば、地上に出てマルスに追われながらもこの世界を巡り、今頃は私も本の持ち主(パートナー)に出会えていたのかもしれない。

 

 

 

 ─────でも私には、もうそんな気力は残っていなかった。自分でもいったい何がしたいのかわからない。

 

 

 

 こんな戦いもうどうでもいいと投げ出すのであれば、適当な魔物に本を差しだして燃やしてもらえば全てが終わる。それなのに、未だ人間界(このせかい)にしがみついている自分がいるのだ。

 

 もう本の持ち主(パートナー)に出会えるなんて奇跡は起こらない。いつかやってくるだろう敵の魔物に敗れ去り、みじめに魔界に還っていくだけだというのに……

 

 

 

 

 

 コツン……    「ひっ?!」

 

 

 

 

 ─────思考が真っ黒に覆われていた時、静寂を支配していた地下水路に先ほどのネズミとは違う、ハッキリとした人の足音が響いた。

 

 その足音は迷いのない足取りでこちらに向かっている。魔物の気配を探知できる能力でも持っているのかもしれない。

 

 いつか来ると覚悟していた心の壁は簡単に砕け散り、マルスに襲われた時の感情が蘇る。

 

 

 怖いよ……

 

 悲しいよ…………

 

 つらいよ…………

 

 

 だけど私にはどうする事もできない。相手の魔物に抗うだけの体力も気力もとうに尽きている。

 

 私は体を丸め目をつぶり、やってくるであろう衝撃を震えた体を抑えながら耐えようとした。

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 ………………………………

 

 

 ………………………………………………ふわっ

 

 

「!?」

 

 

 だが、諦観と共に覚悟していた衝撃はおきず、代わりに私の体は暖かなものに包まれた。

 

 思考が混乱を起こしショートする。何も考える事ができず、この後なにか痛い事をされるのではと怯えていたが一向に変化は訪れない。

 

 一体どれだけの時間が経ったかはわからないが、私の死体のように硬直していた体には熱が戻っていくのが感じられた。

 

 私を包んでいた“暖かいもの”に対して、久しく忘れていた心の中の何かが揺さぶられていくのと共に、固く閉じられていた瞼が開かれその姿があらわになっていく。

 

 

 

 

 

 ……私は抱きしめられていた。

 

 長い黒髪をしている、多分女の子。目線の先には私のと違う『桜色の魔本』が置いてある事から魔物の子だと判断する。

 

 

 

 状況は理解できた。でも理由がわからない。

 

 何故この子は私を攻撃しないのだろうか、何故この子は私を抱きしめているのだろうか、何故この子は…………こんなにも私に安らぎを与えてくれるのだろうか

 

 

 

「大丈夫。私、仲間」

 

 

「! ……ぁ」

 

 

 

 そんな私の心の疑問に答えるかのように、その少女は抱きしめたまま子供をあやす様な声色で話しかけてくる。

 

 

仲間

 

 

 そう言ってくれる彼女、その言葉が干からびた砂漠に染み込む洪水のように私の心に流れ込んでくる。

 

 

 

《「ティオ。この戦いはどれだけ他人を蹴落とせるかだ。そう、どんな手を使ってもな!!」》

 

 

 

 そう言って私に襲い掛かってきた友達()()()()()()()魔物、マルス。彼の言葉がどれだけ薄っぺらいものだったか今の私ならわかる。

 

 あんな奴、友達でも仲間でもなんでもなかった。

 

 本当の仲間っていうのは、私に安らぎを与えてくれる存在。私に活力を与えてくれる存在。私の存在を許してくれる存在だった。

 

 鉛のようだった私の体が、今は羽根のように軽くすぐにでも飛び立っていけそうな程だ。

 

 

 もう、何もこわくない

 

 

 探そう、私の本の持ち主(パートナー)を。もっと長く、この気持ちを感じていく為に。

 

 

 そして殺そう、敵を、全ての魔物を。他の誰にも、私の“しあわせ”を奪われないように 

 

 

 

 

 ティオの虚ろだった目に色が宿っていく……

 

 だがそこには一切の光はなく、ドロドロに淀んだブラックホールのような闇が灯りだして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「ストップ! ストォォォォォォォップ!!!」

 

 

 

 

 

「ど、どうしたのティオ?!」

 

「『どうしたのティオ』じゃないわよ、恵!! 誰なのよコイツは!!!?」

 

「別世界の、ティオ」

 

「嫌あああぁぁぁ! 絶対、絶対認めないんだからぁ!!」

 

 

 突如プロジェクターを止め、桃色の髪を振り回しながら狼狽するティオ

 

 映像途中から激情を我慢するように震えていたが、ついに許容量を越えたらしい。

 

 

「少し落ち着け、ティオ。キリィも困ってるじゃないか」

 

「うるさい、うるさい、うるさ──ーい!! こんなの私じゃないわ、ノーカンよノーカン!!」

 

「わかってるわティオ。だから一旦深呼吸しましょ。ね?」

 

「ムリ! キライ! シンドスギ!」

 

 

「一応、違う世界の映像も、ある」

 

 

「えっ、あるの?! み、見せなさいよ。それを早く!!」

 

「スイッチ、オン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「ァ……ハッ……! 馬……鹿な……」

 

「……ティオ」

 

 

 私はやっとの思いで見つけた本の持ち主(パートナー)と共に、あの『マルス』と対峙していた。

 

 アイツは本の持ち主(パートナー)のいなかった私を執拗に追いかけ、いたぶり、あざけり、嘲笑し、玩具の様に扱った。

 

 

 ……そんなマルスは今、私に首を絞められ苦しそうに呻いていた。

 

 

「もう止めて、ティオ! 相手の本の持ち主(パートナー)も気絶している。勝負はついた筈よ!」

 

 

 恵は何を言っているのだろう。まだ勝負はついていない。まだ()()()()()()()()。そんな思いと共に私は両手に更なる力を籠める。

 

 

「……!? ……ッ……ハッ」

 

 

 マルスはもう声も上げられないようだ。いつもいやらしい笑みをずっと貼り付けていた彼の顔は今、苦悶に満ちている。

 

 そんな顔を見ていると、私の中で今まで感じた事のない激情が産声を上げ始めた。

 

 

 

 

 

「………………アハッ♪」

 

「ティオ……、あなた……」

 

 

 

 楽しい! 

 

 

 愉しい!! 

 

 

 タノシイ!!! 

 

 

 

 彼の命、彼の生、彼の全てを私が支配したかのような全能感に包まれる。

 

 

「アハハハハ、アハハハハハハハハッ!!!」

 

 

 そして私は、その感情に身をゆだね─────両手をそのまま……

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「もうやめてぇえええええええええええええ!!!」

 

 

「落ち着いて、これ、食べる」

 

「いらないわよ! 何でこんな場で酢昆布が出てくるのよ!!」

 

「好物?」

 

「そんなの食べた事すらないわよ! ……ないわよね?」

 

 

 先程以上に狼狽したティオ、彼女はあらん限りの力でテレビに何度も殴り掛かっていた為、拳の跡がいくつもくっきりと残っていた。

 

 

「あはははは……、別世界のティオはワイルドなのね」

 

「ちょっと恵!? 露骨に距離を取らないでよ!!」

 

「ごめんなさい。冗談よ、冗談」

 

「全くもう。心臓に悪い冗談は止めてよね」

 

 

 恵がおどけつつもいつも通りの振る舞いを見せた事にティオは安堵した。映写機の映像を元就が止めた事により、混沌に包まれていた場も落ち着いていく。

 

 

「でもキリカちゃん、本当なの? ティオがあんな事するなんて」

 

「本当」

 

「だけど、最後の映像のティオ……あんな風になるなんて一体どうして」

 

「ガッシュと、会わない、世界」

 

「…………え?」

 

 

 キリカが恵の問いに淡々と答えていく。もはや触れたくない話題と無視を決め込むつもりのティオだったが、看過できない言葉を耳にし反応してしまう。

 

 

「ガッシュと会わなかっただけで……、あんな風に?」

 

「だけ、じゃない」

 

 

 キリカはティオを見つめ、真っ直ぐ言葉を言い放った。

 

 

 

 

「ガッシュが、全てのはじまり」

 

 

 

 

(「私のはじまりが……、ガッシュ?」)

 

 

 キリカの言葉を若干歪曲して反芻するティオ。確かに人間界での魔界の王を目指す戦い、そして『やさしい王様』を自分も目指すと決めたはじまりはガッシュとの出会いからだった。

 

 ティオの戦い、ティオの新たな人生はガッシュによって始まった。そして今、彼女はガッシュと共に人生を歩いているといっても言いかもしれない

 

 

 

 

 ……と、そこまで思い至り納得した所で、自分が多少意味深な言い回しをしてしまった事に気づき赤面する。

 

 それに気づいた恵は、微笑ましい彼女の様子に頬を緩めると共に、自身が共に歩く少女は真っ直ぐな心を持った少年に救われたのだと再確認し、心の底から安堵した。

 

 

 

 

 

 ─────因みにキリカは「ガッシュが主人公だから」と言っただけで、意味深な意図は全くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

《今日も平和な ガッシュカフェ

 

 ティオの心は、確かに救われていたようです》

 

 

 

 

 

《さて 次回のお客様がいらっしゃるかは

 

 招待者である キリカ・イル次第といったところでしょうか》

 

 




◇◆◇◆別室で映像を見た一行◇◆◇◆

フォルゴレ(ガタガタガタガタ)
キャンチョメ「な、何とかしろよガッシュ。お前がいないのが原因だったんだろ!」
ガッシュ「い、嫌なのだ! 怖いのだ~~~!!」


清磨(全く、実際にその場にいたら放っておかない癖に)


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④キリカの招待・ハイド編

 この話は本編の「5.vsレイコム」まで読了している前提での話となります。




 

 

 

 

 

 

《ここは ガッシュカフェ

 魔物達がお茶を楽しみ お喋りに花を咲かせる社交場です》

 

 

《ですが 今回お客様を招待するのは私ではなく────》

 

 

 

「私。キリカ・イル」

 

 

《そう 私はガッシュカフェという “空間”を提供するだけです》

 

 

 

 

「おいおいおい、一体全体何処だよこりゃ。いきなり気が付いたらこんな所にいてワケわかんねぇよ。なろう転生じゃねぇんだぞ」

 

「落ち着け『泳太』。店の形がガッシュになってる、恐らく俺の知ってる場所の筈だ」

 

「その通り」

 

「……お前、魔物か」

 

「魔物? って事は敵か『ハイド』!」

 

「だから落ち着け、泳太」

 

「その通り」

 

 

 

 

 

《今日のお客様は ハイドです》

 

 

 草原の広がる一角にある、ガッシュの顔を模した佇まいの店。

 

 そこに何かの意思で誘われやってきた栗色の短髪と鋭い目つきが特徴的な魔物ハイドと、その本の持ち主(パートナー)泳太。周囲の状況を読み取り落ち着き払っているハイドと引き換えに、泳太はしきりに周囲を見渡し、キリカが魔物とわかると戦闘態勢に移ろうとさえしていた。

 

 

「キリィの言う通り、少し落ち着け。相棒も困ってるだろうが」

 

「! お前、そいつの本の持ち主(パートナー)か。戦うってんならやってやるぜ」

 

「……話聞いてないなこいつ。まぁいい、ほらよハイド」

 

「悪いな。本当なら泳太が運んでくるものだったんだろ?」

 

「今回は特別だ。礼はいいがキリィの進行の手助けをしてやってくれ」

 

 

 

 執事の装いをした元就が運んできたのはハイドの好物の数々。

 

 この異空間に慣れてきたのか状況を理解したハイドが軽い謝罪を行うも、元就は気にしてないと首を振る。キリカは無表情のままその様子を見守っており、騒いでいるのは泳太一人だけであった。

 

 そしてハイドは運ばれてきた好物の一つ、クリームソーダを口にしながら、キリカへと問いかける。

 

 

「それで……、今回は何の用で俺達を呼んだんだ?」

 

「これ、一緒に見る」

 

 

 そう言ってキリカが取り出したのはノートパソコン。画面には既に電源が入っており、とある動画サイトが表示されていた。牧歌的な空間の中に突如現れた現代機器により、泳太の関心がそちらへと向く。

 

 

「……ん? これニヤニヤ動画じゃねぇか。恵ちゃんのライブ映像とかあるからよく見るぜ」

 

「これは映像を見るものなのか。タイトルは……『【実況プレイ】金色のガッシュ〈覇道の王〉原作ルート番外編』? 知ってるか、泳太」

 

「いや、聞いた事ねぇな」

 

 

「そうか。金色の意味がわからないが『ガッシュ』と書いてあるという事は、アイツに関しての動画という事か? いいだろう、付き合ってやるよ」

 

「ふーん、あいつのねぇ……つまんなそうだが、一応見てやるか」

 

「それじゃ、スイッチオン」

 

 

 本編においてガッシュに引き分けたハイドは興味を惹かれ二つ返事で了承する。泳太も横柄な態度を取りつつも、浅くない因縁の相手に関する事と知り演技臭く渋々頷いた。

 

 そしてキリカがスイッチを入れると、紫色の髪を想像させるスレンダーな女性の声で動画が再生され始める─────

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 はい、皆様おはようございます。

 番外編でも変わらず美少女な大人気魔物キリィちゃんです。

 

 今回はまさかの公式アップデートにより追加された“アニメ化パッチ”を適用して遊んでみたいと思います。

 これは言葉の通りアニメ版【金色のガッシュベル!】のみに登場した魔物や付随するイベントが発生するようになります。アニオリについては賛否両論ありますが、導入せず遊ぶ事も出来ますので単純に選択肢が増えたという点を喜びましょう。

 

 ですがこのパッチ、本編には一切導入致しません。(鋼の意思)

 というのもこのパッチを当てて何回か試走した結果、ほとんどが“ファウード編”で終了となる『俺たちの戦いはこれからだ』エンドを迎えてしまいます。

 覇道の王獲得はクリア・ノートとの邂逅が必須条件のようで、ファウード編で終わった場合この称号を取る事はできませんでした。魔界の王はまだ決まってないからね、シカタナイネ。

 

 

 しかし折角のアップデートなのでスルーするーのは勿体なさすぎるーので、番外編として遊んでいきたいと思いまするー。(隙あらば激ウマギャグを盛り込む勇気)

 このパッチは既にあるセーブデータにも適用する事が出来るようなので、使用キャラはキリィちゃんのままです。この辺はかなり良心的ですね、これはいいものだぁ。

 

 とはいえ最新版のデータを使うと、時間軸的に既に敗退しているアニオリ魔物はもう登場しないので過去のデータを掘り出して適用させたいと思います。(毎回セーブ場所を変えているゲーマーの鑑)

 

 

 今回はガッシュ君の初期イベントを発生させたいので最初の最初、レイコム戦終了時点でのデータを使っていきます。《第一の呪文》でレイコムの呪文を『複製(コピー)』しているので戦力は整っているのが素晴らしいですね。

 

 ではイクゾー、デッデッデデデン! (謎SE)

 

 

 

 

 カーン(暗転)

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 はい、レイコム戦が終わり自宅に戻った翌朝からゲームが開始しました。

 本編では清磨がガッシュを連れ、銀行強盗にガッシュの電撃(ゴッドハンドスマッシュ)を浴びせ成敗! するイベント発生まで数日待ちの状態でした。

 

 ですが、今回はすぐにモチノキ町へと向かいます。狙うはガッシュと清磨の出会いの当日ですからね。

 おら、早く準備するんだよ。ほも野郎! (容赦ない罵声)

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれキリィ。着ていくように言われた燕尾服がまだクリーニングから戻ってなくて……」

 

 

 いるか、そんなもん! (熱い掌返し(ウイガル)

 誰だ、そんなどうでもいい服着るようにいった馬鹿は!! (素早い責任転嫁(ラシルド)

 

 今回はオリチャー名【俺が細川だ!】はやらないので、ほもくんは普段着で問題ないです。さっさとモチノキ町へ向かいましょうねぇ

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 はい、到着しましたモチノキ町です。

 早速、清磨が通う学校の屋上へと向かいたい所ですがひとつ注意したい事があります。それは『《気配遮断》と《隠密》を切らさずに移動する事』です。

 

 原作モードだと問題ありませんでしたが、アニメモードですと『とある魔物』が空中を飛び回っている事があります。彼等に魔物感知能力はありませんが、目視で発見されると襲撃されてしまうんですね。

 勿論そのまま戦って倒す事も出来ますが、このシリーズは“原作ルート”を称していますので、こちらも『原作(アニメ)ルート』を狙っていきますよ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ─────「正義の味方作戦だぁ? 人を馬鹿にして覚悟はできてんだろうな、高嶺」

 

「やばい……金山のやつ、マジで怒ってんぞ」

 

「た、高嶺君……」

 

 

 

 はい、間に合いました。場面は学校屋上です。(気配遮断&隠密発動中)

 水野さんのカツアゲに勤しみ、清磨をディスっていた金山君に説教をかましていたガッシュ君。その真っ直ぐさに心を打たれた清磨が助けに入りますが

 

「俺をぶちのめすだと? その幻想をぶちころす!」

 

 と逆に金山君にそげぶされボロボロの状態です。通常であれば清磨の閃きが起こるまでガッシュ君が人柱となりますが、アニメモードはここから分岐が入ります。

 

 

 

 

「大丈夫だ、新たな作戦は考えてある。名付けて【てんにおいのり作戦】。さぁ天に向かって助けをお願いするのだ!!」

 

「んなもん来る訳ねーだろ!!」

 

 

「あっ、来たぁ」

 

「へっ? 水野、何言って─────」

 

 

 

 

「イヤッッホォォォオオォオウ!」

 

 

 

 

 イヤッッホォォォオオォオウ! (便乗)

 ほんとに空からローラーボードに乗って飛んで来ましたね。金山君の顔面に着地してそのまま3人の周りを滑っていきます。

 

 そしてここで非常に貴重。水野さんの純白の聖域が風にめくられ見えるというお色気シーンが入ります。彼女は子供っぽさを前面に押しだしたキャラですが、慌ててスカートを抑える愛い姿がヒロインらしさを出していい感じですね。まぁメインヒロイン枠はティオと恵さんで固定ですが。(無情な宣告)

 

 

「俺は強いんだぞ。欲しいものは必ず手に入れる、だからお前は俺の彼女になるんだ」

 

「い、嫌ぁ!」

 

「水野!」「スズメ!」「俺を無視するんじゃねぇ!」

 

 

「《ジキル》!」

 

「うわあぁぁぁぁ!」「ヌァァァァァ!」「ぐわあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 水野さんに対し押しかけ彼女にして世話をやかせようとする、変質者ムーブ全快の男。

 ガッシュ君達を呪文で起こした突風で吹き飛ばした事からわかるように、彼が今回紹介するアニオリ魔物の本の持ち主(パートナー)『泳太』くんです。チャラい若者、という言葉を体現したかのような少年です。長髪を後ろでまとめているのが、軟派な印象を濃くしてますね。

 

 そして彼の影に隠れるようにして佇んでいるのが魔物の『ハイド』です。彼は固有スキル《同化(風)》を 所持しており空中浮遊や瞬間移動、気配遮断が呪文なしで可能です。

 レイコム&細川ペアは細川くんが初戦らしからぬ強さでしたが、こちらは魔物のハイドの方が高レベルになってます。本の持ち主(パートナー)が快楽目的の小物なので、こちらのペアの方がやりやすいとは思いますが。

 

 

「負けるかぁ! ウワァアアアアアアアアア!!」「ガッシュ!!」

 

 

 おっと、ガッシュ君が再度突進していきますね。ここ、介入ポイントです。

 このまま放置していると、清磨が赤い魔本と呪文の関係性について「あっ(察し)」となってしまいます。この戦闘はチュートリアル扱いなので清磨が《ザケル》を放った瞬間、強制終了となるんですね。

 ハイドをここで逃がさないようにしましょう。このイベント以外だと、ハイドとはランダムエンカウントでしか戦えませんので。

 清磨がガッシュ君をかばう事によるヒントを与えない様にするため、キリィちゃんが突風で吹き飛ばされそうになるガッシュ君を受け止めますよ。

 

 

「ウヌ?! お主は?」

 

 

 ナイスキャッチ。ガッシュ君を受け止めることに成功しました。

 あ、ほもくんは隠密のままそこで待機ね。心配だからって出てきたら許さないから(本編の失敗をつつく屑)

 

 よしよし、ガッシュ君。大丈夫かね。まずは落ち着くんだ。

 

 

「お主、何故私の名を?」

 

 

 あっ、また名乗ってもいないのにガッシュの名前呼んじゃった。(ガバを繰り返す屑の鑑)

 まぁこの話は続かないし《ガッシュを知る謎の美少女》という事でスルーしとけばえやろ。(適当)

 

 

「何だお前。ガキが出てくるなよな」

 

 

 魔物の事を知らない泳太くんは裏路地に出てくる不良のような三下感を演出してくれます。まぁ、挨拶代わりにやっちゃいますか。

 

 

「《ジキル》!」「《ピルク・ギコル》」

 

 

「何?!」

 

 

 突風が巻き起こりますが、氷柱を地面から出現させて風圧を防ぎます。細川君がやっていた応用技ですね。

 わかりやすく狼狽する泳太。ホンマに小物やなアンタ(唐突な関西弁でディスるスタイル)

 

 まぁいいです。さっさと終わらせましょう。

 ハイドは風を操る魔物。不利と悟るとすぐに逃げます。倒すなら短期決着ですよ。ダッシュダーッシュ! 

 

 

「く、来るな! 《ジキル》!」

 

 

 来ました、過去最大の突風です。目を開ける事すら困難ですね。

 この風はティオの《セウシル》の様に、空間そのものを守らない限り防げません。《ラシルド》だと竜巻に吹き飛ばされる障子のように、盾ごと吹き飛ぶその姿は非常にシュールです。

 今回、キリィちゃんは盾の呪文を持ってないので別の手段で防ぎましょう。ほもくーん

 

 

「《ピルク・フリズド》」

 

 

 はい、地面に接している対象を氷漬けにする呪文を()()()()()()()()()かけます。これにより地面に密着するので、キリィちゃんは吹き飛びません。

《竜巻》の性質を持つ《ウイガル》だと地面ごと吹き飛びますが、《突風》の性質の《ジキル》には地面を直接狙わない限り破壊する力はありません。よってこの方法でやり過ごす事が可能です。

 

 そして、風が弱くなってきた所で氷漬け解除。泳太くんの奥にいるハイドに向かってぇ~~~~

 

 

 

 

 

 キリィちゃんパアアァァァァァァァァァァンチィ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 やりました。(事後報告)

 

 これにてアニオリ魔物『ハイド』の攻略完了です。彼はこのタイミングで倒しておかないと、モチノキ町に滞在している間は常に接敵の可能性があるので、アニメモードのRTAを目指す方はチュートリアル戦闘で排除しておくのがおススメです。

 

 ……ガッシュ達へのチュートリアルにならないって? 知らんな! 

 

 

 まぁそんなこんなで、今回は終了となります。

 また次回、お会いしましょう~~~

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「何だコレ」

 

 

 映像を見終わったハイドと泳太。だが二人は消えたディスプレイを見つめながら頬をひきつらせた表情で固まっていた。

 

 

 

「……おい、泳太」

 

「……なんだよ」

 

「何かオレに言う事はないのか?」

 

「ある訳ねーだろ! こんなのただの捏造だろ、じゃなきゃ俺がチュートリアル扱いで負ける訳ねー!!」

 

「いや、あの頃のオマエだったらこんな展開になってたんじゃないのか?」

 

「ぐっ…………」

 

 

 容赦ないハイドの言葉に詰まる泳太。

 そう、泳太は二度ガッシュと戦い「強くなりたい」という純粋な気持ちを思い出すまでは、呪文の力に溺れた愚者でしかなかった。

 今でこそハイドと正しい関係を築けているが、当時の自分だったら動画の様になっていたかもしれないという指摘を覆す事は出来なかった。

 

 

「わかったよ。あの時は悪かったと……思ってる」

 

「……フッ。あぁ」

 

「な、何だよ。変な笑みを浮かべやがって」

 

「なに。珍しいものを見れたなと気分が高揚しただけだ」

 

「う、うっせ」

 

 

 頬をほんのり赤くしながら、そっぽを向く泳太。それを微笑を浮かべ横目で見るハイド。

 自己中心的な本の持ち主(パートナー)と、それに愛想をつかした魔物。かつて破綻しかけていた関係は、今ハッキリと『絆』が感じ取れるまでになっていた。

 

 そんな二人を見つめているキリカ。

 

 

 能面である筈の彼女だが、その顔にはありありと他者を愛しむ表情が表れていた。

 

 

 

 

 

《今日も平和な ガッシュカフェ

 

 この戦いは魔物だけでなく、本の持ち主(パートナー)にも成長を促す事が出来たようですね》

 

 

 

 

 

《さて 次回のお客様がいらっしゃるかは

 

 招待者である キリカ・イル次第といったところでしょうか》

 

 



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魔物との邂逅編
1.キャラメイク


原作ファウード編、クリアノート編のOVAいつまでも待っています。



 

 

 

 はい、皆さんはじめましてー

 

 最近、色々な界隈で話題になっている実況プレイの波にのって私もやりたいと思います。

 とはいえRTAや実況プレイで度々とりあげられている例のゲームをやっても、2番煎じどころか20番煎じ位になってしまいそうなのでここは懐かしのゲーム『金色のガッシュ!!』をやりたいと思います。原作ストーリーだけでなくIFストーリーまでオリキャラで体感できる神ゲーですね。

 

 今回かかげた目標はクリア称号『覇道の王』取得を目指したいと思います。この条件は「一番多くの魔物を倒す」「クリアノートを倒す」となりますが、攻略スレ民からは「俺TUEEEEルート」「なろうルート」などとボロクソな評価を受けています。

 その理由として、この称号の為には一番魔物を倒しているガッシュから獲物を横取りする必要があるのです。皆ガッシュばっかり狙って返り討ちにあってるからね! 

 その結果、起こる事態が深刻な原作崩壊。ガッシュの成長が阻害されるので千年前の魔物どころかティオにすら出会うことなく敗退するパターンもあります。操作キャラである主人公が原作ガッシュ君位の成長が出来なかったら、そのまま全滅コースですね。(13敗)

 千年前の魔物達? ファウード? そんなん一瞬で消滅(シン・クリア)ですよ。一応ブラゴが覚醒しまくったり(蒼星の王ルート)ゾフィスが改心した(従順な王ルート)場合は善戦はしますが倒すこと叶わず。その場合「また千年後やってくっぞ!」と天下一武闘会に出るノリの悟空ばりに見逃される救済措置があります。スタッフも無理ゲーってわかってるんだね。

 まぁそんな訳で、この称号取得は原作ファンから敬遠されがちですが、私はあえて原作通りのルートで入手を目指したいと思います。

 称号だけなら人間界行って速攻でリオウからファウードの鍵奪ってゾフィスぼこって協力者集めさせたあと諸共蹂躙し、強化しまくったファウードを覚醒前のクリアにぶつければオーケーですからね、そんな実況誰が見たいってんだよ!! (謎のガチギレ)

 

 そんなわけでの原作ルートです。

 え? 出来るのかって? 

 出来るかどうかじゃない、やるんだよ!(鋼の意思)

 

 

 

 

 前置きが長くなってしまってすみませんでした、早速キャラクリに入りたいと思います。

 本ゲームでは原作キャラだけでなく本誌で行っていた魔物コンテストに応募されたキャラも選べるし、キャラクリも可能な自由度の広さが魅力です。

 

 という訳でキャラクリで作成したものがこちらになります。

 魔物の名前は『キリカ・イル』。そうです、女の子です。

 少年向けの雑誌の影響なのか女性人型の魔物って本当に少ないんですよね、解せぬ。

 なお愛称はキリィちゃん。伏字にしてキ○ィちゃんとか言ってはいけない。(戒め)

 

 ……ホモちゃん? 少年誌にはお呼びじゃないんだよなぁ! 

 

 

 という訳でキリカちゃんです、黒髪ロングの美少女です。

 まずパラメータを決めていきます。これは筋力と知力の二極振りにします。魔力や体力はガン無視です。呪文なんて捨ててかかってこい。(脳筋)

 本の持ち主(パートナー)選択画面や呪文の性質などは後々説明するので今は省略です。だが私が考えぬいた最強の性能だとは言っておきましょう(慢心)

 

 

 そしてスキル取得画面。選ぶスキルは3種類です。

 

『魔力感知Lv1→Lv2』

『一長一短』

『友情』

 

 それぞれの効果は「近くの魔物を察知できる」「良バフとデバフをスキル欄に追加」「原作キャラ1人との友好関係取得」となります。

 魔力感知も大切ですが『友情』の取得は絶対忘れずに。実はこれ、最重要スキルです。

 

 というのもゲーム開始地点はこのスキルがない場合完全ランダムになります。地球上のどこかくらいなもんですね。

 ですがこのスキルを取っている場合、友好関係を結んだキャラの近くが開始地点となります。(といっても同じ国内くらいの距離ですが)

 これは原作では語られませんでしたが、システム側の粋な配慮って奴ではないかと思われます。

 知り合いや血縁が近くにいる事で早々に出会い協力する事の大切さを知ってほしかったのではないかと思うんですよね、ガッシュ・ゼオンやティオ・マルスのように裏目になる事が多かったですが。

 

 そして『友情』の効果であの人と友達になり設定は全て完了。

 いざ、ゲームスタートです! 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 はい、やってきました人間界! 

 

 

 魔界でのあれこれのOPシーンは全カットです。きっとこの戦いにおいての様々な説明や他の魔物達との絡み合いがあった事でしょう

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない(慢心)

 

 

 とりあえず周囲を見回します。

 路地裏ですね。さっさと表通りに出て場所を確認しましょう。

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 大きな路地を通っていくと目の前に大聖堂広場が見えました。

 大当たりですね、イタリアの首都ミラノです。

 ミラノ以外だった場合、ここまで移動する予定でしたが大幅にカットできました。これはRTAルートに入ったのかもしれませんね。(ドヤ顔)

 

 

 ……しかし道行く人々がキリィちゃんを遠巻きに見てます。見た目小学生の幼女がぼっちでいるのは目立ちます。更にキリィちゃんは美少女だから仕方ないね。金取るぞオラ! 

 とりあえず悪意でも善意でも声掛けはノーセンキュー、お持ち帰りされる前にさっさと街を出ます。今はまだミラノに用はありません、()()()()()だけ確認したら街を出ます。

 本の持ち主(パートナー)もまだ探しませんよ。

 

 

 

 ちょっと(魔物的感覚)離れた場所に見つけた森の中、街道から離れ一般ピープルの邪魔にならない場所を確保します。

 では落ち着けたところでキリィちゃんのステータスを見てみましょう。

 

 

 キリカ・イル   本の持ち主(パートナー):未発見

 筋力:つよい(確信)

 体力:シッショー

 知力:さいきょう

 魔力:ぽんこつ

 

『能面』『高位の一族』

『魔力感知Lv2』『友情』『一長一短』

 

 

 おっ、メイキング時に追加されたキャラスキルが2つありますね、ヨイゾヨイゾ。

 それぞれを説明しますと、まず『能面』は感情が表情や行動に現れなくなります。焦りや怒りといった負の感情が敵に読み取られなくなるんですね。逆に仲間との意思疎通が悪くなる場合がありますがトークスキルでカバー出来ますので問題ありません。

 そして『高位の一族』は自身がそれなりの家柄の出自となりステータスにボーナスが付与されます。やはり権力は力、ハッキリわかんだね。

 

 そしてお楽しみはこれから。

 キャラ作成時取得した『一長一短』の効果によりプラス効果とマイナス効果のスキルが1つづつ追加されています、スキルを開封して実際に見てみましょう。ここで手に入るスキルはハズレ効果がない良ラインナップですのでRTA走者にも優しい仕様です。デメリットスキルもささやかなもので逆によいキャラ付けになります。

 さてさて、追加スキル開封、っと……

 

 

【以下スキルを取得しました】

『人外の力持つ相棒』

『口下手』

 

 

 

 キタアアアァァァァァァ!!!! (ガッツポーズ)

『人外の力持つ相棒』は自身の本の持ち主(パートナー)の身体能力に強化が入るスキルです。どこぞの聖杯戦争のようにパートナーが前線に突っ込むのは無理ですがパートナー同士の戦闘ではほぼ負け知らずです。

 デメリットスキルは『口下手』これは思った事を言葉で相手に伝える事が困難になります。まぁトークスキルが壊滅的になりますが行動や表情で意思を伝える事が出来るので問題は………………ん? 

 

 

 

 

『能面』→感情が表情と行動で表現出来なくなる

『口下手』→感情が言葉で表現しにくくなる

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………ファッ?! ナンデ?! キリカ=サンナンデ?! 

 

 よりによって何で「混ぜるな危険」の組み合わせが発生してるの?! これもうリセット案件じゃないの? うーんでもそれ以外は最高と言える結果だしスキル2つなんて結構レアなんだよなぁそもそも撃破王目指すんだったら少しでも戦闘力がほしいし若干コミュ症でも大天使ガッシュ君なら何とかなるんじゃいや何とかなるはずだ……うーんうーん

 

 よし、このまま行く事にしましょう! 

 ここまでやったのにやり直すの嫌なので(私ならこの条件でもやり遂げられます!)

 ……ん? 本音と建前逆になってたって? 気にするな! (魔王様感)

 

 

 とにかくここに来た目的に入りましょう。ズバリ修行です! 

 このゲームでは山篭りを行うことで様々な能力値UPやスキルを取得する事が出来ます。

 成功確率には【知力】が影響するので、作成時のポイントに多めに割り振った理由はこれですね。

 そしてこの修行で最優先で習得を目指すのは『気配遮断』。今チャートを進めるにおいて必須とも言えるスキルになります。

 

 勿論修行にもデメリットがありまして、修行中は基本無防備になります。パートナーを探してすらいないキリカちゃんは格好の標的です。

 ですがここで『魔力感知Lv2』が輝きます。他の魔物が近付いたら即座に察知して逃げ出しましょう。

 今のキリカちゃんの感知能力で察知できない魔物は()()()()()()()()()()()()()()()()()なもんです。こんな辺境(ミラノ)にいる訳ないやろJK! 

 

 

 

 

 ではめくるめく修行の日々へ、いってきま~す! 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 その地へ足を運んだのはただの戯れだった。オレ自身気付かない苛立ちを晴らす何かを探していたのかもしれない

 

 本の持ち主(パートナー)を探す事もせず、じっと森に篭っているだけの魔物。

 

『気配遮断』をかけた俺と本の持ち主(パートナー)はお互い無言でその魔物、キリカ・イルを見つめている。

 

「……あれは何をしている」

 

「何だ、オマエの"能力"でもアイツのしている事がわからないのか?」

 

「……求める"結果"は知っている。だがその"過程"にあのような方法を取ろうとした経緯が理解できない」

 

 その言葉にオレも軽口を閉ざす。オレ自身、アイツが何を考えてあんな意味不明な修行をしているのかわからない。

 

 

 ────ある日には正拳突きと感謝の祈りを数を数えられぬ程に行い続け

 

 ────ある日には十分間息を吸い続けて、その後十分間吐き続ける呼吸法を続け

 

 ────ある日には指一本で岩に穴をあけようと突き指を繰り返した。

 

 どれも魔界においては見た事も聞いた事もない鍛錬法だ。本の持ち主(パートナー)の反応を見るに人間界でも見ないものなのだろう。あんなモノで成果が出るのだろうか。

 しかし────

 

 

「……興味深いな。あの修行法は俺には思いつかなかった。だが"一定の確率で成果が見込める"のがわかる」

 

「ククククク、面白いじゃないか。姑息な術しか使えぬイルの一族など取るに足らぬと思っていたが。これは大分楽しめそうだ」

 

 

「……いいのか? 『ゼオン』」

 

「構わんさ。落ちこぼれ(ガッシュ)の様にコソコソと隠れているなら潰そうと思ったが、まだ手出しはしないでおく。行くぞ『デュフォー』」

 

 

 

 

 そういい残し銀の髪を持つ背丈の小さな少年はもう一人の男を肥大化したマントで包み姿を消す。

 本の持ち主(パートナー)の男が聞いた「いいのか?」という言葉の真の意味を理解しないままに…………




ゼオンの興味を引く修行内容じゃなかった場合、ガッシュに当り散らした勢いそのままに襲い掛かられ敗退してました。

知らない内にリセット案件を回避するスタイル


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2.取引

キャラの心理描写を書くのに数十回書き直しました。
他の小説で見事に書き上げてる方々を改めて感服してしまいます。




 はい、こんにちは! 絶賛森で修行中の大人気魔物キリィちゃんです。 

 

 前回はイタリア・ミラノ付近の森で修行の日々を過ごしていた所までですね。ぶっちゃけ「修行をした」という事実さえあればいいので修行内容は適当です。

 たまたまマルチタスクでみていたアニメでやってたのを参考にしました。そろそろスタンドに目覚めてしまうかな? (適当)

 

 キリカ・イル   本の持ち主(パートナー):未発見

 筋力:ゴリラ

 体力:はんぺん

 知力:やべぇ

 魔力:ふつう

『能面』『高位の一族』『魔力感知Lv2』『友情』

『人外の力持つ相棒』『口下手』『気配遮断Lv1』(new)

 

 

 修行生活を一週間程過ごし、ステータス上昇と『気配遮断』を無事取得できました。鋭い魔物には察知されますが千年前の魔物編終了までのガッシュ達なら清麿とサンビームさんにだけ気をつければ問題ありません。

 要注意が本の持ち主(パートナー)だけってアイツ等も大抵人間辞めてるよな。

 

 

 では満を持して行動を起こします。

 今頃はガッシュがオオワシ殿に乗って主人公邸に御用改めを行おうと移動している事でしょう。よくよく考えれば子供1人を鳥に運ばせて密入国させるとか清麿父の頭の構造を一回見てみたくなりますね。

 とにかく原作が始まれば魔物との戦いまでノンストップです、時間を無駄にしない様に速やかに脳内チャートを進めましょうね。

 

 

 まずミラノに戻り魔力感知で魔物を捜索。

 …………見つけました、ほぼ間違いなく目当ての子です。

 実は以前街で情報収集を行って調べた事は数日後行われる予定の映画試写会イベント。その主演である世界的大スターの来日がいつ行われるかの調査だったのです。

 既に彼が街に来ていることは街の女性達の様子を見ていれば簡単にわかります。そしてこのタイミングでミラノ入りする魔物は1人しかいません。

 早速反応の下へ向かいましょう。

 

 

 ────いました! では元気に挨拶を、おはよーございまーす! 

 

 

「……え? えぇ?! 君、キリカかい?」

 

 

 そうだよ、キリカ様だよ。頭が高いんだよ。

 あっ、冗談だから真に受けてそんな震えないで(ヘタレ)

 

 

 はい。という訳で原作屈指のチート魔物の一人『キャンチョメ』君です。

 ですが今はドブに詰まった汚泥のように醜いアヒルの子状態ですので、5階からスマホを落とした時の保護フィルム並に役に立ちません。(容赦ない罵倒)

 

 そして察しのいい読者の方は既にお気づきかと思いますが、『友情』のスキル効果で手に入れた友好関係の対象は彼になっています。

 その理由としては

 

 1.ガッシュに友好的な魔物である

 2.偶然を装って出会いやすい

 3.居場所を予測しやすい

 

 上記を見事にクリアする完全無欠な存在であるからです。世界的大スターにプライバシー等ない。(暴論)

 大海恵withティオもガッシュペアとの仲は良好ですがチャート攻略時の難易度は天と地ほどあります、ガッシュと出会う前のティオはSAN値がやべぇ事になってますので。

 恵を伝手に接触するとマルスと出会った時のトラウマで即座に襲い掛かってきますし(2敗)、運良く先んじて接触してもひたすら自分に依存し足手まといとなり仲良く敗退します。(5敗)仮にそれらをくぐりぬけたとしても「どちらか1人が王になるためいなくならないといけないならいっそ……」とヤンデレティオルートに突入します。(11敗)本当に少年誌のヒロインかよこいつ。

 

 

 まぁ今はキャンチョメです。彼は臆病なのでひとまず本を見せ戦う力がない事を教えます。(戦えないとは言っていない)

 

「あ……キリカ、君はまだ本の持ち主(パートナー)を見つけていないのかい?」

 

 その通りです。(探しているとは言っていない)

 ここで最初のターニングポイントです。キャンチョメの本の持ち主(パートナー)に話したい事があるので会わせてほしいとお願いします。

 友好関係を結んでいてもほとんどの魔物には断られますがキャンチョメ君は高確率でお願いを聞いてくれます。(天使かよこのアヒル)

 

 

「え、フォルゴレにかい?」

 

 

 解析班によりますとここの成功率は友好関係を結んでいる場合、ほぼ成功間違いなしですが掲示板で「逃げられて失敗した」とのコメントを先日発見しました。

 ガセネタの可能性もありますが万が一ここで説得に失敗しますと脳内チャートが完全に詰み再走確定案件です、ランダム判定での出会いに任せるしかなくなるので。

 そんな訳でコントローラーを置いてひたすら成功をお祈りします。お願いキャンチョメ様、何卒何卒何卒~~

 

 

「わかった、連れてって上げるよ」

 

 

 ま゛~~~~~~~!!! (ダルタニアン教授風の叫び)

 やりました、無事成功です。まぁ私の誘いを断れるわけないよなぁ! (精一杯のマウント)

 

 

「ボクの本の持ち主(パートナー)のフォルゴレは世界的大スターでね。今は映画館の方にいるけどもうすぐ帰ってくるからおいでよ。ホテルの最上階でフォルゴレと泊まってるんだぜ!」

 

 

 何か急に饒舌になりましたね、きっと自慢する相手がいなくてウズウズしてたんでしょうね。まぁ世界的有名人と知り合いなんだから気持ちはわかる。

 でもこの子本の持ち主(パートナー)の情報をポロポロ溢しちゃって今後大丈夫なの。お母さん悪い人に騙されないか心配だわぁ(謎の保護者ムーブ)

 

 

 そんなこんなでキャンチョメに連れられホテルでフォルゴレを待つ事になります。

 ですがここで素直にホテルに直行してはいけません、何故なら試写会イベントを終えたフォルゴレはそのまま街で女性達のチチをもぎまくって翌日まで帰ってこないからです。何でコイツ捕まらないの? 

 そんな訳でホテルへ向かう道すがらにフォルゴレと合流するようにさりげなーく誘導します。キャンチョメ、こっちの道から行きたくない? 遠回り? うるせえ、行くんだよ!! (力技)

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「日本に送ってほしい? 理由を聞いてもいいかい?」

 

 という訳でチチもげ魔(フォルゴレ)を無事回収。早速お願いを伝えます。普段はおどけているギャグキャラですがこちらが真剣な雰囲気を出せばきちんと向き合ってくれます。さすがですね。

 

 そして、フォルゴレさんに日本に連れて行ってほしいとお願い。

 実はキリィちゃんの本の持ち主(パートナー)は日本人なのです。何故わかるかは直感スキルとでもいっておきましょう。(未習得)

 なお魔本の引き合う力でいずれ出会う事にもなりますが、それがいつなのかはわかりません。明日かもしれないし一ヶ月後、もしくは一年後かもしれない。(トネガワ感)

 そんな訳でこっちから 今、会いに行きます。

 最初から日本スタートにする事も可能ですが、このチャートを通る事でキャンチョメ達と知り合える他にとても重要なメリットを得る事も出来るのですがそれは後々。

 とにかく今は、本の持ち主(パートナー)が日本にいる事、フォルゴレ達とは敵対しない事を伝えひたすらお願いタイムです。(土下座も辞さないスタイル)

 

 

「わかった、丁度次の海外公演もある。早めに出れば日本に立ち寄るくらいは問題ないさ」

 

 

 なんやこのペア、ぐう聖すぎひん? 

 バトルロイヤルルールの中、将来敵対するかもしれない相手を戦えるように送ってあげるってありえんやろ。私だったら速攻潰すね(無慈悲)

 

 そんな訳で無事了承も得られたのでフォルゴレwithキャンチョメペアに連れられ日本へ旅立つ事になりました。

 パスポート? そんなものないのでトランクケースにでも変化(ポルク)して貰って隠れさせてもらいますね。

 おうキャンチョメ、顔真っ赤やで? 超絶美少女と密着24時の刑を受けるんだからもう少し嬉しそうにしろよ。 

 あれ、赤かった顔が急に悟りを開いたような顔になった…………何故? 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────彼女の事は、人形のような子だと思っていた。

 

 ボクのクラスで一番の成績優秀者、女の子なのに力だってボクよりずっと強かった。

 

 キリカ・イル。先生達が言うにはすごい一族の子で、あのワイズマンに並ぶ逸材だって言われてた。

 

 ……だけどボクはあの子がただ怖かった。変わらない表情で何も喋らない彼女が何を考えてるかわからなかったから。

 

 

「ねぇ」

 

「な、なななななんだい?!」

 

 

 そんな彼女が誰もいない教室でボクに話しかけてくるなんて思わなかった。

 

 彼女はいつもと変わらない。無表情で無感情のままボクをじっと見つめてくる。

 

 その真っ直ぐな瞳を見ていると深い所へ引きずり込まれてしまいそうでとても怖い。

 

 

「友達、なろ?」

 

「ななななな……へ?」

 

 

 そんな彼女の口から出たのは普通のお願い。

 

 

「な、なんでボクなの? 友達ならボクなんかよりもっとすごい子が一杯いるじゃないか」

 

「ん、運命」

 

 

 さも当たり前であるかのように告げる彼女。普通の子なら面白い事を言ってくる子だって笑いながら友達になっていたと思う。

 

 でもボクは────

 

 

「わ、わかったよ……」

 

 

()()()で了承した。彼女の顔が、目が、姿が怖くてそれから解放されたくて。

 

 

「キリカ」

 

「……え?」

 

「名前、呼んで」

 

「う、うん。わかった。えっと……キリカ」

 

「ん」

 

 

 そしてボクとキリカは友達になった、と思う。

 

 それからのボクとキリカの関係は今までと何も変わらなかったから。

 

 まるでキリカは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の様に、何もしてこなかった。

 

 ボク自身もそんな彼女に歩み寄ることもなく、魔界での日々を過ごしていった。

 

 きっと他の魔物の子達もみんな同じ事をしていたと思う。彼女には誰も近付こうとしなかったから。

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 

「どうしたんだい、キャンチョメ。難しい顔をして」

 

「うん。魔界にいた頃のことを思い出してたんだ」

 

「あぁ、あのキリカって子かい? 可愛らしいラガッツァだな。いい友達がいるじゃないか」

 

「うん…………」

 

 

 そう、ボクは友達となってはじめてキリカと話をした。

 

 でもその時感じた印象は、魔界にいた時とはまるで違っていた。

 

 綺麗だけど全く変わらなかった顔を今は歪め、まるで()()()()()()()()()()()縋ってきている。

 

 その姿を見て初めてボクは気付いた、キリカだって心を持ったただの魔物なんだって。

 

 そんな当たり前の事に気付いたボクは、魔界で彼女に何もしなかった事に少なくない罪悪感を覚える。

 

 

《「わかった、連れてって上げるよ」》

 

 

 そんな事を考えていたボクの口は自然とそう答えていた。

 

 あわててごまかすようにフォルゴレの事を話したけど、きっとキリカは気付いていたんだと思う。

 

 

 

 あんな風に慈愛に満ちた瞳で微笑むキリカを、あんな可愛い顔をはじめて見たから。

 

 

 

 

 

「あの子と何かあったんだな。魔界で」

 

 

 やっぱりフォルゴレはすごい、ボクの考えている事なんてお見通しみたいだ。

 

 

「キャンチョメ、君はあの子を助けたいんだろう? なら迷う事は何もないさ、過去なんて関係ない」

 

「フォルゴレ……でもキリカはとても強くて。ボクは……」

 

 

 ボクは落ちこぼれの自分が嫌だった、強くなればきっと何でも出来るって思ってた。

 

 キリカはとても強くて、とても賢くて、でも……

 

 

「……強ければ何でも出来るなんて思っちゃいけない。どんな強い力を持ってたって誰も助けちゃくれない時がある。キャンチョメ、君にはあの子がどう見えたんだい?」

 

 

 キリカは……とても寂しそうだった。悲しそうだった。怖がってそうだった。

 

 力を持っている筈のキリカだってそうなんだ、だったらボクみたいな落ちこぼれだって……。

 

 そこまで考えた所でフォルゴレが笑い、いつも通りの雰囲気でボクを元気付けてくれる。

 

 

「さぁ、キャンチョメ。早くあの子を本の持ち主(パートナー)に会わせて笑顔にさせてあげようじゃないか。明日は早く起きて日本へ出発だ、すぐに寝るぞ!」

 

「……うん、わかったよ! フォルゴレ」

 

 

 最初は不安で一杯だった人間界でのバトル。

 

 強ければ、落ちこぼれじゃなければきっと何もこわくなくなると思っていた。

 

 でもキリカを見て思う、フォルゴレを見て思う。本当に必要なのはきっと違う"何か"なんだって。

 

 きっとボクもキリカも、少し変わったんだと思う。

 

 ふと彼女が泊まっている隣の部屋のドアを見つめる。

 

 

 さっきキリカが移動中カバンに擬態して隠れさせて欲しいと言ってきた。

 

 ボクの能力じゃ収納能力を持たせるのは難しいといったら「抱きしめて貰えば隠れて見えなくなる」って言って女の子に抱きつく想像をしたボクは赤くなった。キリカはそれを見て頬を緩めた気がした。

 

 魔界にいたボク達がこんな事を仲良く話し合えるなんて思ってみなかった。

 

 だからあの頃のボクじゃ絶対に考えなかった他愛もない事を考えてみる。

 

 

 

 キリカ、本の持ち主(パートナー)が見つかるまでの間かもしれないけどさ。

 

 キミの事はボクが守ってあげるよ。

 

 約束だぜ。




キャンチョメが原作よりちょっとだけ勇気を持つようになりました。
魔本への影響はいかほど?


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3.本の持ち主(パートナー)

ようやくやりたい部分に入り始めてきました。
ラウシンって背景設定を考えていくと面白そうですよね。




 ────生きるという事が日々を積み重ねるという事ならば

 

 ────俺はきっと死人なのだろう。

 

 

「ハッ……ハッ…………」

 

 

 日本のとある町の山奥にある一軒の家屋、野球場が丸々入る程に広いその土地に大きな武家屋敷が建っていた。

 年季を感じる佇まいではあるが人の気配は全くない。

 何故ならその屋敷には誰もおらず、唯一の住人である少年は屋敷から出てその周囲を回るようにランニングを行っていたからである。

 規則正しく行われるその呼吸は屋敷を何十周と回ろうとも乱れることはない。

 そして太陽の位置が大きく変わった頃にようやくその少年は走りを止め、屋敷内へと戻っていった。

 

 

 ────最後にこの家の外に出たのはいつだっただろう。

 

 ────最後に人と言葉を交わしたのはいつだっただろう。

 

 

 その少年はいわゆる『ひきこもり』であった。

 幼い頃に父を亡くし、親族の悪意に押し潰され、最後の拠り所であった母親を病気で失った瞬間少年は糸の切れた人形のようになった。

 両親が遺した莫大な遺産は親族に管理という名の搾取が行われ、少年は誰もいない屋敷に一人住む事となった。

 

 悪意に僅か残された慈悲か、はたまた復讐を恐れたのか、ひとまず少年は慎ましく暮らしていくだけなら不自由のない資金を親族から残されていた。

 先日高校も卒業したが大学に入る気も就職する気も起きず、少年は屋敷という殻の中に篭っていた。

 

 

 ────まだ体が動く、これでは足りない

 

 ────このまま意識を失えば“また”思い出してしまう

 

 

 

 少年は普通の引きこもりとは違った点がひとつあった。

 彼はひたすら己の体を鍛えた、身体に後遺症が残らない程度にまで体をいじめぬき毎夜気絶するかのように意識を手放した。

 そうしなければ思考の波に飲まれ嫌でも実感してしまうからだ。

 母の死を、果てしない孤独を、無為な時間だと思いつつ何も変わらない自分を。

 

 

 そうして逃避を続けて数ヶ月が経過した、冬の終わりと共に引き篭もり始めた少年であるが季節は夏を迎えようとしている。少年は体を鍛えるだけでなく、インターネットで知りえた技術を学んでいった。決してこの時間は停滞などしていない、そう言い聞かせるように。

 

 だがこんな事をしても母は帰ってこない、いい加減前を向いて生きなければならない。そんな"理屈"は頭の中ですでに巡り続けている。

 

 だがあと一歩、最後の一歩が踏み出せない。

 少年は諦めの中で、そんなきっかけを求め続けていた────

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー、世界的大スターでーす!」

 

 

 

 はい、こんにちはー(便乗)

 フォルゴレさんを味方につけた大人気魔物キリィちゃんです。

 今回は本の持ち主(パートナー)に出会う為、日本にやってきました。

 忙しいフォルゴレさんを長期引き止めるわけには行かないのでキャラメイク時の情報を頼りに本の持ち主(パートナー)さんのいる山奥の家へ一直線でやってきました。

 迷いなく進みすぎたので怪しまれるかと心配してましたが、キリィちゃんの直感スキル(ウ・ソ☆)によるものと勝手に納得してくれているのでスルーでOKでした。

 

 あ、出てきました出てきました。

 健康的な肉付きではありますがしっかりと絞られた細マッチョ体型、女性を魅了する甘いマスクは若干幼く身長もやや低めです。

 このお姉さん受けしそうな微ショタがキリィちゃんの本の持ち主(パートナー)である【本堂 元就(ほんどう もとなり)】君です。

 略称はほもくんです。お呼びじゃないと言ったな? あれは嘘だ。

 ごめんなさい一度やってみたかったんです。何でもしませんが許してください。

 

 

 

 という訳で気を取り直し、今はほもくんの家の中でフォルゴレさんとキャンチョメが口下手なキリィちゃんの代わりに魔界の王を決める戦いを説明してくれています。話は二人に任せて居間の脇にある仏壇に飾られた綺麗な女性が少年と笑顔で写っている写真を見つけます。この少年がほもくんですね、非常に可愛らしいです。今もですが(野獣の眼光)

 

 では、この合間の時間を利用して、ほもくんの能力を確認しましょう。

 ふむふむ、固有スキルは『正当なる血統』『無職』『一人立ち』ですね、これはキャラクリ時に私が指定したものなので間違いがないかの確認だけです。

 これらは詳細を省いてまとめると「この人は自由に動ける身で資産を持ってる人ですよー」という事を示す効果です。(身も蓋もない)

 

 今チャートは原作以上に世界を回ったりする回数が多くなるので学生や社会人だと毎回毎回休みを取るのが難しく、場合によっては出勤したまま気付けば敗退のパターンもあります。まぁ分断中に狙うのは当然だよね。

 また妻子持ちはNG、家族のいる土地から離れられないだけでなく「俺この戦闘が終わったら~」と意味不明なタイミングで死亡フラグを立ててきます。それに巻き込まれるキリィちゃんも堪ったもんじゃありません。(4敗)

 

 

 そんな訳で建前上は大学浪人中であるほもくんです、大きな家で資産もあるしヨイゾヨイゾ。

 またキリィちゃんが習得した『人外の力持つ相棒』の効果なのか筋力と体力のステータスも非常に高いですね。マスクデータである敏捷値もきっと高めに設定されている事でしょう。

 さて、次は後天的に追加されたスキルですがこれは『何もなし』の場合がほとんどです。まぁ一般人なんで全く期待はしていませんが────

 

 

 

 

 

『暗殺術』

 

 

 

 

 …………(  ゜Д゜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『暗殺術』

 

 

 

 …………( °Д° )

 

 

 

 

 暗殺術? ちょっと待ってこの子一般人だよね。何で裏の家業の人しか取れないようなスキル持ってるのおかしくない? 

 キリィちゃんだって驚愕のあまり目を見開いてびっくりしてるじゃないか。

 ほもくんって逸般人なの? 設定面には……あ、もしかしてこれか? 

【インターネットで様々な技術を覚え、いくつかは体得している】

 いやいやいやいや、ネットで暗殺術を覚えるとかどんな通信教育よ。え、君なら出来るって? 暗殺がユーキャン(君なら出来る)とか怖すぎるわ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆しばらくお待ち下さい◇◆◇◆

 

 

 

 

 お待たせしました。

 ひとまず落ち着いた私は、急いでザケル的攻略雑誌から情報を集めて来ました。

 この情報によると『暗殺術』の効果は『隠密』と『不意打ち』の習得、及びその対抗判定の成功率アップとの事です。

 とはいえ魔物相手にはまず成功しないし、殺したり重傷を負わせる程の不意打ちは出来ないとの事(暗殺とは一体)

 まぁヘイト値を下げる事が出来るので、デメリットなしの有用スキルとわかってホッとしました。

 ザルチムの本の持ち主(パートナー)ラウシンが持つ『犯罪者』のように普通に街に入れなくなったり味方に疑われやすくなるデメリットスキルもあるので本当に焦りました。

 

 

 ……さて、思わぬスキルの登場で画面から目を離してましたがほもくんとそろそろ仲良くなれたかな? ここは目ぼしいイベントがなかったのでオートプレイにしていたんですよね。

 

 

「フォルゴレ~~」

「仕方ないさ、キャンチョメ。また説得に来よう」

 

 

 アレ?! これほもくんに王を決める戦いの参加断られてない?! 

 おかしいですね、試走中何度か同じ本の持ち主(パートナー)データを用いた時は魔界の王を決める戦いの説明さえしっかりすれば二つ返事で付き合ってくれる筈だったんですが。

 

 

 

 

 ……(考え中)…………

 

 

 

 

 フォルゴレ! オマエちゃんと説明出来てなかったな! (責任転嫁)

 これはまずいですね、すぐ仲間になってくれると思ってたのでこのチャートには時間をほとんどかけられません。仕方ありません、多少強引ではありますが【奥の手】を発動させたいと思います。

 ではもう一度家の中に入れてもらうようお願いしましょう。

 

 

 ちょっと待ってくださ~~い(扉ガンガン)

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 ────俺は手に取る事はしなかった。地獄にたらされた蜘蛛の糸を

 

 愚鈍な日々を過ごしていた俺の下に現れたのは世界的大スター「パルコ・フォルゴレ」

 

 母がファンだとよく話題に出していた男だ。いつも張り詰めた雰囲気だった母が、彼の話の時だけは楽しそうに話をしていた。少しだけ子供っぽいなと苦笑しながらも俺はそんな母さんが嬉しかった。

 

 面識のない男が急に訪ねてきた事にやや不信感を覚えつつも、生前の母に笑顔を見せてくれた感謝にと隣にいた子供達と一緒に招き入れる。

 

 少年の方はアヒルのような口当てをし落ち着きのない動作を終始していた。フォルゴレに同行している所を見るに共演中の子役なのだろう、と判断した。

 

 問題はもう一人の少女。小学生くらいの年齢だろうが将来美人になる事が約束されているであろう容姿、その艶やかな長い黒髪は触れてみたいと身体の欲求が湧き上がるような気がした。

 

 だがそんな浮ついた気持ちは彼女を目を見て一瞬で霧散する。

 

 ブラックホールを想起させるような【無】を感じさせる黒の眼。眉ひとつ変化しない能面のように貼り付けられた顔でじっと見つめられると非常に落ち着かない気分にさせる。

 

 

 

「魔界の王を決める戦い、か……」

 

 

 

 そんな一行から説明された突拍子もない話。

 

 先程までの俺ならばこの停滞した時間を進めるにはいい戯れになる、と二つ返事で了承していたのかもしれない。

 

 だが今の俺はそんな気になる筈もなかった。

 

 

 原因は目の前の少女、彼女だけは男二人が説明を行う間何一つ言葉を発さなかった。

 

 自分をじっと見つめ続けたかと思うと、突如眼を見開いた。その顔は驚愕した様にも見えるが表情が変化していないので違うな、とその思考は切り捨てた。

 

 見開いた眼は瞳孔まで開き瞬きもせずじっと俺を見つめている。まるで俺の奥底に眠る感情やトラウマを全て抉り出そうとするかのように。

 正直に言うと……俺はびびっていた。

 

 男二人はそんな彼女に気付かず“魔物”だという少年を大砲のようなものに変化させ訴えていた。違う、そうじゃない。魔物だとか魔界だとかを信用していない訳じゃないんだ。

 

 彼女の眼を見た俺には、この誘いが「悪魔の契約」のようにしか思えなかったんだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ひとまず考えさせて欲しい、と話を切り上げた俺は三人を玄関まで送り扉を閉める。

 

 だが俺は、そこから一歩も動く事が出来なかった。

 

 

 ────本当にこれでよかったのか? 

 

 

 俺の胸の中に去来するのは鬱屈された疑問のみ。

 

 例え悪魔の誘いであろうと、今のまま死にながら生きていくよりはずっとマシではないのか? 

 

 どちらが正しいのか、どちらが間違っているのか。もう正常な判断を下すことが半ば出来なくなっていた。そんな俺はもう────

 

 

「教えてくれよ……母さん」

 

 そう溢さずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 ドンドンドンドン!! 

 

 扉がとんでもない力で叩かれる、ハッと我に返った俺はほぼ反射的に扉を開く。

 

 目の前にいたのはあの黒髪の少女であった。

 

 少女は背負っていたリュックのようなものを下ろすと中から“桜色の魔本”を取り出す。確かキャンチョメとかいう少年が言っていた呪文を使う為の道具だ。

 

 それを俺に無理やり持たせた少女はフォルゴレの下へ行き、彼の魔本を軽く叩きながら言う。

 

 

「読んで」

 

 

 呪文の力を見せて納得させてやろうとでも言うのだろうか。まぁそれで彼女の気が済むなら構わないだろう。

 

 確かに一節だけ色が変わって文字が読める場所があるな。

 

 

 

「第一の呪文、《ピルク》!」

 

 

 すると黄色い魔本を叩いていた手が止まり、()()()()()()()()()()()()()()桜色の淡い光を放つ。

 

 

「キ……キリカ?! これは大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

 フォルゴレがその様子に狼狽したが問題はないようだ、もし魔本が燃えてしまったら大事らしいからな。少女の言う通り桜色の光はすぐに収まった。

 特に何も変わらない。フォルゴレも自分の本を見てみるが特に異常はないようだ。

 

 一体何が起こったのか。その答えは俺の手元にあった。

 

 

「……読める文字が増えている?」

 

「何?! こんなすぐに第二の呪文まで?!」

 

「いや、どうやら違うようだが……」

 

 

「読んで」

 

 

 少女が簡潔に促す、どうやら先程の現象の答えがこの増えた文字なのだろう。

 

 いいさ、読んでやるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ピルク・ポルク》!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざぁっ…………

 

 

 その瞬間、白い煙と共に桜の花びらが舞い落ちた気がした。

 

 その時脳内に広がった記憶は昔、母さんと一緒に見た桜舞う光景。

 

 そして煙が開けた時、そこには────

 

 

 

 ────あの時と変わらぬ笑顔を浮かべる母さんがいた。

 

 




呪文の詳細情報は次回になります。


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4.第一の呪文

誤字報告ありがとうございます。ガバなのを自覚し修正を何回もしているのですが、足りなかった部分があったようで誠にありがたい限りです。


今回はほぼ呪文の説明回です。
後書きに簡単にまとめたので面倒な方はそこだけ見て頂ければと思います。



 

「母さん……、母さん…………」

 

 

 はい、おはようございまーす! 

 浪人大学生の母親になりました大人気魔物キリィちゃんです。

 前回を見ていない人は何を言っているのかわからないかと思いますが、とりあえずその手に持っている緊急通報画面のスマホを置いてください。

 

 さて、本の持ち主(パートナー)であるほもくんの名誉の為に言っておきますが、これは別に彼が小学生幼女にバブみを感じた訳ではありません。

 キリィちゃんの今の姿は黒髪美少女ではなく、ほもくんの面影を持った妙齢の女性になっています。ほもくんの家の仏壇に飾ってあった写真の女性そのままですね。ほもくんは縁側で膝まくらを彼女にされており非常に幸せそうです。

 ちなみにフォルゴレさんはほもくんの警戒心が爆薬を仕掛けた廃ビルの如く倒壊していく様を見て、微笑みながら「何かあったら頼ってくれ。キャンチョメの友達は私の友達だからな」と連絡先を書いた紙を置き、呪文については何も聞かず立ち去りました。

 空気が読めるイケメンとかやばすぎますね、世界中の女性が惹かれるのもわかります。

 キリィちゃんは何も感じませんが。

 

 

 さて、ではいい加減スルーしてるとコメントの弾幕がやばくなりそうなので疑問にお答えしていきます。

 まず結論から申しますと、今の姿はキリィちゃんの呪文《ポルク》の効果でキリィちゃんが化けた姿になっています。

 キャンチョメの変化とは違い、鼻が高くなっている事もなくまさに写真そのままの姿です。

 変化には【知力】の値が左右されるのですが、別にキャンチョメの【知力】が低いって意味ではありません。ぶっちゃけていえば彼の【知力】は他の魔物よりダントツに高いです。(実はキリィちゃんより上)

 その差が顕著に現れた事実として、キリィちゃんは生物にしか変化出来ません。一方でキャンチョメは円盤型やフック型、壁や床の偽装とあらゆるものに変身出来ます。その際の人体の感覚がどうなってるのかまるで理解できないキリィちゃんはそれが出来ないんですね。冷静に考えてやばくない?キャンチョメさんや

 まぁデュフォーに一目置かれるくらい頭いいし当然ですよね。

 ですがキリィちゃんは人間体への変化については瓜二つになれる位の精度を持っていますので負けていませんよね! そうですよね!(威圧)

 

 

 え、そこじゃない? えぇえぇわかっていますとも。

『何故、キリィちゃんがキャンチョメの呪文であるポルクが使えるのか』ですよね。

 たまたま同じ呪文の持ち主だったという場合もありますが、そんな理由でここまでもったいぶったり致しません。

 これこそがキリィちゃんの持つ呪文の性質────

 

 

 ────ズバリ『複製(コピー)』です。

 

 

 キリィちゃんの持つ《第一の呪文 ピルク》ですが、『他の魔物が持っている呪文を使用出来るようになる』という効果があります。これによりキャンチョメの呪文を複製(コピー)し、彼の呪文である筈の《ポルク》が使えているんですね。まぁ当然複製(コピー)なんていうチート臭い能力が簡単に使える筈もないという事で厳しい制約があります。

 

 まず第一に『複製した呪文は、複製に使用した心の力の分だけしか使えず回復もしない』100のMP(心の力)を使って手に入れた他人の呪文は100MP(心の力)分使い切ったらまた《ピルク》を使わないと使用できないという事です。

 

 第二に『複製した呪文は、複製元の魔物の呪文には必ず力負けし、その魔物本体には効果を与えられない』いわゆる「オリジナルにニセモノは勝てない」って事です。どこかの赤い弓兵が不服そうな顔をしそうですが無視しましょう。本体に効果がないっていうのは、元々その魔物が持っていた力だからって意味ですね。キャンチョメの《ミリアラル・ポルク》の逆バージョンって所でしょうか。

 

 

 そして最大の制約、第三ですね。『《ピルク》の呪文を、相手の魔本に触れている状態で唱えなければならない』普通に考えたらアホじゃない? って思う制約ですよね。魔本に触れてるならそのまま燃やせば勝ちなんですから。

 

 

 ですがこれらの制約を許容してまでも、私は複製(コピー)の呪文に賭ける事にしました。理由は『原作ルート沿いの為』です。

『覇道の王』称号を目指す為にガッシュの敵をキリィちゃんが潰すのは確定事項です、ではガッシュの成長をどうすればいいのか。

 私が導き出した答えは『キリィちゃんが敵役を全部引き受ければいい』です。天才かな? 

 手を変え品を変えガッシュを追い詰める事で、彼の成長を促そうという訳ですね。目指すはバリーとナゾナゾ博士を混ぜたようなムーブです。

 

 

 ご理解頂けた所で、呪文の性質を私なりにわかりやすくなるよう説明してみました、この先は興味がある方のみご覧下さい。

「なげーよ、ホセ」って方は5分後まで飛ばしてくださいね~~

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆キリィちゃんの呪文性質講座◇◆◇◆

 

 

 はい、興味ない方はいませんね。

 ではキリィちゃんの呪文《ピルク》の原理について説明したいと思います。

 ここはひとつ例え話として【料理】に例えてみたいと思います。

 

 魔物達は1人1人自分だけの料理(呪文)を持っています。(たまたま同じという場合もありますが)

 そしてその料理(呪文)は自分だけが食べる(唱える)事ができるのです。

 ですがキリィちゃんの料理(呪文)は具材だけで、そのままでは食べる事ができません(何の効果もありません)。その代わり料理の一部を取り分けて(心の力を消費して)、他の魔物の料理(呪文)と交換する事が出来ます。

 交換された魔物はそれが減っても具材が補充されているので(心の力を失っていないので)、それを元に減った分の料理を作る事ができ変化はありません。

 ですがキリィちゃんは貰った料理(呪文)を『自分の料理(呪文)』として扱い、そのまま食べる(唱える)事が出来るのです。

 当然食べた(唱えた)分だけ減っていきますが、その料理を作れるのは交換した魔物だけなので具材の補充は出来てもその料理はまた交換してもらわないと食べれません(ピルクを使わないと唱えられません)

 

 

 この様な原理になってます。わかりにくかったらごめんね! 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 何故、飛ばたし

 

 

 

 

 はい、という訳で呪文の説明でした。

 ご理解頂けなかった方は見ていればきっとわかると信じましょう。(匙投げ)

 

「母さん……」

 

 おっと、長い話を脳内でしていたらほもくんがキリィちゃんの膝まくらを堪能したままこちらを伺ってきましたね。

 かわいい、何かすごいかわいい(語彙力崩壊)

 

 さっきまでの不審者を見るような目つきは消え去り、丸一日ご主人の帰りを待っていたワンちゃんみたいになってますね。

 ほもくんは「好きな人:母さん」「好きなもの:母さんの膝まくら」とプロフィール設定にあるくらいマザコン母親思いなのですが、想像以上にクリティカルヒットしたみたいです。

 

 ではほもくんのデレデレ顔を見るのも楽しいのですが、そろそろ《ポルク》を解除しましょう。

 複製(コピー)によるデメリットなのか変化したキリィちゃんは言葉を喋る事が出来ないのです。

 これでは意思疎通が出来ないではないか! (元から)

 

 

「……」

 わかってたけどそんな泣きそうな顔しないで、罪悪感が沸いてくるから! 

 

 

 さて、では本題に入って魔界の王を決める戦いへの参加をお願いしましょう。

 キャンチョメ『友情』スタートのメリットがここで遂に活きて来ます。普通に説明するだけでも心優しいほもくんは戦いへの参加を了承してくれますが、あくまで主導権は本の持ち主(パートナー)であるほもくんになってしまいます。

 ですが今チャートではあえてガッシュの敵役になるために、時には不本意な行動をほもくんに了承して貰う必要があります。ですので今チャートでの主導権は絶対にキリィちゃんが欲しいんです。

 

 その為、変化の術を持つキャンチョメにここまで来て貰い《ピルク》で変化の術を複製(コピー)、大好きなお母さんの姿を見せてあげる事で好感度をあげていこうという作戦だったんですね。

 

 

「わかった、俺でよければ喜んで力を貸そう」

 

 

 ほらね、喜んでもらえましたよ! (ドヤ顔)

 これで無事、キリィちゃんも魔界の王を決める戦いに参戦です。後は時期を見計らって……おっと、ほもくん。ニュースの音量上げてもらえるかな? 

 

 

『……県A町にて突如大きな氷柱が落下し乗用車に直撃。運転中だった○○さんが重体の模様です。現場は当時雲ひとつない晴天で気象庁からも原因は不明、巨大な雹が発生する気象条件ではなかったとコメントが出ています』

 

 

 ……ギリギリ間に合ったみたいですね。

 ほもくん、行動は今夜からです。張り切っていきましょうか! 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「母さん……、母さん…………」

 

 俺は今、母さんに縁側で膝まくらをしてもらっている。鬱陶しいとしか思えなかった初夏の日差しが、今は何よりも愛おしい。

 

 思えば末期が近付いてきてからの母さんは、病気を移してはいけないと触れることさえ許してはくれなかった。俺はこんなにも母さんのぬくもりを求めていたというのに。

 

 母さんの肌のぬくもりを感じ、母さんの優しい眼差しを感じ、俺は今までわからなかった疑問が氷解していくのを感じていた。

 

 

 

 

 ……俺は母さんがいなくなった孤独を嘆いていたんじゃない。

 

 母さんのぬくもりを感じる事が出来ず嘆いていたのだ。せめて最後にもう一度と願った思いを、母さんが叶えてくれなかったから。

 

 なんて自己中心的な人間だろうか、と苦笑する。結局俺は成長していなかった、わがままを叶えてくれなくて拗ねていただけだったんだ。

 

 だけど同時に安堵もする。俺は母さんがいなくても生きて行く事が出来る人間だった。だって母さんが亡くなった事にショックを受けず、ただふてくされていただけなんだから。

 

 母さんが膝まくらを終える、やっぱり幸せな時が終わるのは悲しい。

 

 だけど目の前の女性は母さんじゃない、俺の女々しい最後の願いを叶えてくれた心優しい1人の少女だ。

 

 

「力、貸して」

 

 簡潔に、だが確固とした意思を持って俺に呼びかける少女。

 

 もう全てを暴き出すような黒い瞳は怖くない、暴かれて嫌なものはもう何もないのだから。

 

 力を貸してほしいと願う少女に向けて、俺は力強く頷いて言った。

 

 

 

「わかった、俺でよければ喜んで力を貸そう」

 

 

 

 俺の相棒、キリカ・イル

 

 彼女の望むことなら何でもやろう、それ程のモノを彼女はもたらしてくれたのだから。

 

 そう、何でもだ…………





《第一の呪文 ピルク》

効果:他の魔物の(呪文発動時)所持している呪文が使用可能になる

・使用できる呪文は下級クラスの呪文のみ(最大でもルガ系・一部のラージア系まで)
・ピルク発動時、対象の魔本に触れていなければいけない
・ピルク発動時に消費した心の力と同量だけ呪文が使用可能になり、その容量は自然回復しない
複製(コピー)した呪文の発動キーは《ピルク・○○》
・複数の魔物の呪文を複製(コピー)して使い分ける事は出来ない。
複製(コピー)した呪文は複製元の魔物には効果がない。
・使用可能になる呪文は随時変わる為、増えた呪文は番外扱いとなり『第二の呪文』ではない


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5.vsレイコム

自分の書いた小説を読み直すと「え、まだここまでしか書けてないの?!」とビックリします。

戦闘描写が難産過ぎる。わかりにくかったら「わかんないわよ、このクズ!」と言って頂けると励みになります。




 ────足りねぇ

 

 いつも怒鳴り声がうるさいと言ってくる大家の奴に復讐した。

 

 ────────足りねぇ

 

 俺をクビにした上司にも復讐した。

 

 ────────────足りねぇ

 

 そして俺は今、貧乏な生活に復讐をしようとしている。

 

 ────────────────力が足りねぇ! 

 

 

 

「『細川』、あの宝石店でいいんだな?」

 

 

『道具』が口を開く、俺は思考を中断し『道具』に指示を出す。

 

 

「あぁそうだ『レイコム』、呪文で入り口を吹き飛ばしたら根こそぎ宝石を奪い取って来い」

 

 

 俺は元職場のクソ上司を車ごと押し潰し、その帰りに見つけた宝石店にやってきていた。

 

 今は深夜2時、この辺りは人通りも少ないようでうってつけだ。

 

 早速、復讐を始めようとした俺に『道具』(レイコム)が待ったをかける。

 

 

「……! 待て、細川。誰かやってくる」

 

 

 俺に口ごたえをした『道具』(レイコム)だったが、通行人の横槍が入るのも面倒なのでその事については咎めない。

 

 

「チッ、面倒臭ぇ。こいつでぶっ潰してやる」

 

 

 脇に抱えていた見た事もない文字で書かれた青い本を手に持って広げる、どうやら通行人は2人のようだ。

 

 その2人の姿が街頭に照らされ露わになると、俺の『道具』(レイコム)が驚きの顔を浮かべる。

 

 男と女、2人ともガキだ。年は中学生と小学生くらいに見える、その男の手には俺が持っている本と同じ物があった。

 

 その2人は俺と目が合うと、踵を返し来た道を走って戻りだした。

 

 

「細川!!」

 

「レイコム、あのガキ共を逃がすんじゃねぇ!」

 

 

 そう言い放ち俺達はガキを追いかける。俺の顔は自分自身でもわかるくらいニヤついていた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 夜道を追っていた俺とレイコムは、広い空き地で女のガキを追い詰めていた。

 

 ガキ共は思っていた以上に素早く、男のガキは見失ってしまった。だがあの男には用はない、女のガキはレイコムと同じ位の背格好。つまりあっちが『化け物』だ。男の方は『道具』を使って本を奪い取ればそれでいい。

 

 

「よお、まさかそっちから近付いてきてくれるとは思わなかったぜ。お前もこいつみたいに拾われたクチだろ。俺の所にこいよ、上手く使()()()やるぜ」

 

 

 そうだ、こいつらは皆俺の『道具』だ。

 

 レイコムを使ってムカツク奴等に復讐をした、次は貧乏への復讐だ。その次は俺に見向きもしねぇ女共への復讐もいい。俺自身、次々と思いつく欲望が抑えきれない。

 

 

「俺にはまだ力が足りねぇ、俺の欲望全てを叶える力が。だからオマエを俺によこせ!」

 

 

 そう言い放つと、ガキは俺達に向かって走り出した。俺達とガキの距離は10mと少し、コイツ『道具』の癖に歯向かう気か。俺は本を開き、『道具』(レイコム)を前に出す。

 

 

「ハハハッ、これでゲットだぜ! 《フリズ……ド》?!」

 

 

 その瞬間、ガキが飛んだ────いや、跳躍した。

 

 だが人間の出せるジャンプ力じゃない! 3階の高さへと一歩で舞い上がったガキに俺は虚を突かれ、『道具』(レイコム)に指示を飛ばすことを忘れていた。

 

 思考を戻した瞬間はもう手遅れで、ガキの握りこんだ拳が俺の目の前へと迫っていた。『道具』(レイコム)は俺が前に出したせいで、戻ってくるが間に合わない。

 

 咄嗟に俺は本を持っていない左手を真上に掲げ、上空から落ちてくるガキの拳を受け止めようとした。

 

 

 

 

 !!!!!!!!!!!! 

 

「ぐ、があああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 

 まるで大砲の着弾だった。

 

 受け止めた衝撃は俺の腕から肩、膝、足元すらも貫通し、周囲の地面にひび割れを起こしていた。

 

 当然俺の左手はあらぬ方向を向き、肩だけではなく股関節まで脱臼を起こし、膝から下は何の感覚もなくなっていた。同じ化け物であるレイコムがそこらのガキより少し力が強い程度だったので完全に油断していた。

 

 

 だがそんな状態になっても、俺の右手は本から離さず胸元に手繰り寄せる。

 

「ぐ、ぎ……《ギコル》!」

 

 倒れこんだ俺の真上を通過する氷柱、それにより女のガキ……いや、あのゴリラ女は俺と距離を取った。

 

 

「この……バケモンがぁ、潰してやる。《ギコル》!」

 

 

 

 

 …………《ギコル》! …………《フ……

 

 ……《ギコル》………………《ギコル》…………

 

《フリズ……………………………………《ギコル》ゥ!! 

 

 

 おかしい、どうなっている。

 

《ギコル》を何度撃ってもあのゴリラ女はすべてかわしていく、かすりは何度かしたが直撃する事はなかった。

それだけじゃねえ。《フリズド》で動きを止めようと本を読もうとしても、俺が《フリズド》と読み始めた瞬間に合わせたジャンプにより空中に逃げられる。そのせいで一度も当たらない。

 

 どういう事だ、俺の考えが全て読めるとでもいうのか?! 

 

《フリズド》やジャンプ中の《ギコル》を警戒してあれから目の前まで近付かれる事はないが、このままじゃやばい。

 

 

 何故だ?! 何故俺の考えてることがわかるんだ?! 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 はーつっかえ、止めたら? 本の持ち主(パートナー)

 

 

 はい、という訳で皆さん今回はこんばんはー。絶賛戦闘中の大人気魔物キリィちゃんです。

 とうとう始まった魔界の王を決める戦い、その初戦は氷呪文の使い手レイコムです。欲望の権化である本の持ち主(パートナー)細川は《ギコル》で地面から氷柱を生やす変則的な使い方が出来たり、初戦で10回以上呪文を唱えてるのに心の力が切れないという、かなりのスペックをお持ちです。

 ですがハッキリ言いましょう。この人、色々な意味でチョロいです。チョロすぎて面白いので『細川くん』と呼んであげましょう。

 

 まず居場所を探すには、《ギコル》で細川くんの上司が襲撃を受けた街へ赴きます。ここで元職場への復讐を果たして一旦満足した細川くんですが、貧乏のままじゃ満足できねぇ、と手っ取り早く満足できる(お金を稼げる)場所を探します。

 近場で。

 

 本の力を手にして満足している(調子にのってる)細川くんは、証拠が残りにくいよう遠出するとかいう発想はありません、なので銀行や宝石店など、わかりやすく金目のものが置いてある場所を事件現場周囲で張り込みしてれば一瞬で見つかります。

 そのまま戦ってもいいのですが、万一通行人に被害が出ると嫌なので空き地に移動しましょうね~。

 

 あ、ほもくん。君は安全な所で待っててね。細川くんを釣る為に最初は同行していましたが、今回は戦闘には参加させませんからね。

 暗殺術は一度発見された状態では隠密の成功率が一気に下がりますし(無情)、複製(コピー)してるキャンチョメの呪文じゃ役に立ちません。(非情)

 

 

 そしていざ戦闘開始ですが、ここでも細川くんのチョロポイントが出てきます。

 呪文を唱えようとしてますね。あ、《フリズド》を唱えるんですね。地面から体凍らされないようジャンプしますね。ひょーいっと

 

 あ、ビックリしてる。何で呪文唱えようとしたのがわかったんだって顔ですね。そりゃわかりますよ、あなた呪文唱えるとき()()()()()()()()()()()

 他の本の持ち主(パートナー)を見た事のない細川くんは『本が触れている状態で呪文を唱えればいい』という常識をしらないので、生来の小心者気質もあわさり、きちんと本を見ながら呪文を唱えます。

 その姿は、さながら初めてSiriに話しかけるスマホ初心者のおじいちゃんです。当然、そんな動作は傍から見てモロバレルなので、タイミングを測るのは簡単なんですよね。

 

 そしてチョロポイントはもう1つあります。口の動きがあからさま過ぎます。

 レイコムの呪文は《イ》から始まるギコルと、《ウ》から始まるフリズドの2つなのですが、細川くん(スマホ初心者)は言葉をしっかり発声しようとします。口角を必要以上に動かすので口が横開きになったらギコル、口をすぼめようとしたらフリズドを唱えようとしてるんだな~というのがチラッと見ただけでわかっちゃうんですよね。

 

 ちなみに他の本の持ち主(パートナー)には、この手口は通用しません。戦闘を重ねる内に気付くのか、他の本の持ち主(パートナー)は呪文を発声する時、しっかり口の奥を開けて唱えるので口の動きを戦闘中に読み取る事は不可能です。

 本の持ち主(パートナー)に皆すばらしい声の声優さんを採用しているのは、これも理由なのかもしれませんね。

 

 

 まぁそんな訳で、不意を取った形でレイコムをジャンプでスルーし、そのまま細川くんにパンチをお見舞いします。呪文0のキリィちゃんの勝ち筋は本の持ち主(パートナー)を潰す事だからね、仕方ないね。

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 想像以上にキリィちゃんの筋力値が高かったせいで、細川くんが鳥山明作品のやられ役(ヤムチャ)みたいな惨状になってしまった件について。

 何、あのひび割れした大地。ゲーム的演出にしてもひどすぎない? キリィちゃんそこまで馬鹿力じゃないよ? 

 ちょっと何で満身創痍で死にそうな顔してるの?! 

 がんばれ! がんばれ細川くん二号!! いや一号でもいいけどさ、立ち上がってキリィちゃんのパンチはそれなり程度の威力しかないですよって言ってよ! 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 結局、立ち上がれなかった細川くんは土下座スタイルをとりながらも、こちらに敵意を向けしっかり呪文で攻撃してきます。

 なお、先程のパンチは【握力×スピード×重力=破壊力】という事で納得しておきましょう。余談ですが、キリィちゃんの握力はティオに勝てる程度しかありません。

 

 そんな現実逃避を続けるくらいに場は膠着しています。

 森での修行のおかげで、氷柱は距離が空いた状態でなら捌けていますが、近寄る事も出来ません。またフリズドの予兆が来たらジャンプしますが、ギコルで空中を狙い撃ちされないよう距離を更に離す事になってしまい一向に近づけません。

 しかも、もう20回に届きそうな呪文回数ですが、まだ細川くんの心の力は切れてくれません。その点においてはやっぱり規格外だわ、あの人。

 

 キリィちゃん、というか私の目押し回避の集中力も切れ、氷柱が少しづつかすりキリィちゃんに細かい傷が増えてきます。

 これは私の集中力と細川くんの心の力のチキンレースになりそうです。少々分が悪いかもしれません。

 

 

 

「キリィ!」

 

 

 …………え? 

 

 

「!? ……《フリズド》!!」

 

 

 …………え? え? 

 

 

「うわっ!」

 

 

 えええええええええええええええええええ!! 

 何で避難してた筈のほもくんが空き地の反対側から出てくるの? 

 しかも細川に速攻で足を凍らされてるじゃないですかー、やだー

 何で来ちゃったんだよ、待っててって言っただろ! 

 

 

「……ごめん、でもキリィが心配で様子を見てたら危なそうで、つい」

 

 

 ▽ ほもくんは いうことを きかない! 

 

 

「フフフ、俺の勝ちみたいだな」

 

 

 あ、さっきまで無口だったレイコムが急にニヤニヤしながら勝利宣言してる。ウゼェ

 しかし、冷静に考えて状況は詰みかけています。

 足を凍らされ動けなくなったほもくんに向けてギコルを唱えられてしまったら、選択肢はほもくんを見捨てるか身を挺してかばうしかありません。

 

 だが俺は第三の選択肢を選ぶぞJOJOォォォォォ!ほもくんの方向に意識が向いてる隙に細川へ向けてダッシュだ───! 

 

 

「ハ、馬鹿が!!ゴリラ女の考えくらい読めてるんだよ。《フリズド》!」

 

 誰がゴリラだ!!

 ジャンプ!! でも後方にはいきません、勢いそのままに突っ込みます! 

 

 

「これで終わりだ! 《ギコル》ゥゥ!!」

 

 

 あ、この野郎。思いっきり心の力こめて唱えやがったな。

 

 体を捻ってかわせないかな~とワンチャン期待していましたが、今までと氷柱の大きさがまるで違います。氷柱同士の隙間が狭く、とてもかわしきれないですね。

 

 

 

 キリィちゃんの今の体力じゃとても耐え切れませんね。

 あわれキリィちゃんの冒険はここで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ピルク・コポルク》!!」

 

 

 

 

 !! 

 これはほもくんが唱えたキャンチョメの呪文、体を小さくする呪文じゃないですか! 

 そういえばキャンチョメこんな呪文持ってましたね、何だよ最高じゃないですか! (手のひらウィガル)

 小さくなったキリィちゃんは大きな氷柱の隙間をくぐって回避します。

 

 ほもくん、すぐにコポルク解除して! 

 そう念じるとほもくんにも伝わり元の姿に戻ります。目の前には先程下卑た笑みを浮かべたレイコム。

 

 

「なっ、オマエどうやって?!」

 

 

 企業秘密です。くたばれやオラァァァァァァ!!! 

 

 

「!?!?!!?!!!!???!?」

 

 

 ふぅ、スッキリしました。

 しかしパンチ数発でダウンとか君、細川くんより体力ないんじゃない? それとも細川くんが物理受けH-B二極とかなのかな? 

 

 まぁいいや。関係ない話はこれくらいにして無力化した細川くんから本を奪い取りましょう。

 レイコムが白目をむいている今、彼に出来る事は何もないですからね。

 

 

「く……そんな、そんな馬鹿なああああああああああああああ!!」

 

 はいはい、そんな負け台詞いいからさっさと青色の魔本頂戴ね。(無慈悲)

 さて、ではライターを取り出して本を燃やす前にやりますか。

 

 ほもくーん、おねがーい

 

 

「あぁ。……第一の呪文《ピルク》!」

 

 あー、心の力を消費していく音ぉ──……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、ほもくん。後で勝手な行動したおしおきだからね。

 

「えっ?!」

 

 

 

 ──────────────────【レイコム 敗退(リタイア)】撃破者《キリカ・イル》

 




※ティオの握力は150kg(公式設定)

この段階でコポルクが使える事に何の疑問も抱かないガバ走者。

原作での細川は2回だけ清麿を向いて呪文を唱えていますが、それ以外は本を見ながら呪文を唱えています。
これは独自解釈です、細川ファンの方ごめんなさい。


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6.原作への介入

走者のガバムーブがここからどんどん浮き彫りになっていきます。




 

 

 

 

 はい、おはようございまーす! 

 

 遂に初戦闘を終え、白星スタートを飾りました大人気魔物キリィちゃんです。

 今はほもくんの家に戻りいつでもモチノキ町へ向かえるよう、前準備をしている所ですね。ここから遂に始まる原作ムーブ、実はすごいドキドキワクワクしております。キリィちゃんもどことなく楽しそうに微笑んでますね。美少女の微笑は絵になるなぁ(悦)

 

 

「キリィ、ご機嫌だね」

 

 

 ほもくん、おしおきの準備は出来たかい?

 レイコムとの戦いでの勝手な行動により危機に陥ったキリィちゃんですが、咄嗟の機転で呪文を唱えた事に免じて『次の戦いでは必ずキリィちゃんの指示に従う』という誓約のもとに許してあげました。

 もし、今もまだ《ポルク》が使えていたのなら、ほもくんのお母さんの姿になって絡み酒とかやってやろうかと思ったのは内緒です。(外道)レイコムの呪文が上書きされているので、もうお母さんムーブは出来ませんからね。

 

 ではほもくんを一瞥、おぉ見事な衣装ですね。

 一目見ただけで高級感を感じる見事な燕尾服、各所につけた装飾品も豪華で「いかにもお金持ち」という格好です。

 

 

「どうかな? 本家筋のパーティでも使ってる一番高級な服なんだけど。お詫びがこんなのでいいのかい?」

 

 

 イイゾイイゾー、成金臭漂うじゃないか。

 これは私がこれから執り行う「ガッシュ育成計画-レイコム編-」の下準備です。脱落したレイコム&細川ペアの代わりにキリィちゃん達がこれから細川達と同じムーブをガッシュに対してしてやるのです。

 細川は強奪した金で高級な服を身に纏いますがレイコムはボロの服のままで清麿の怒りに触れます、それにならい、ほもくんには豪華な服を着てもらったんですね。その服を着て一緒に歩きたいといえば赤い顔をしつつも一発OKでした。

 え?キリィちゃんがボロを着るのかって? ふざけんな!そんな事キリィちゃんにさせられる訳ないだろうが! (ガチギレ)

 着飾るのはほもくんだけでいいんです、キリィちゃんは普段着のままです。まぁ清麿達に会う前に砂場とかで遊んで汚していけばOKかなぁ。

 

 

 

 ◇◆◇そして数日後◇◆◇◆

 

 

 

【お手柄中学生!! 銀行強盗逮捕!】

 

 キタアアアアアアアアアアアア!! 

 毎朝、新聞を読みつつ日々を過ごしていましたがついに来ました。原作開始! 

 ほもくんや、例の豪華な服は用意してあるな。すぐにモチノキ町へ行くぞ!! 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、キリィ。ひとまず朝食を食べていかないか?」

 

 

 あ、ハイ。

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 

 はい、今度こそやってきましたモチノキ町!! ガッシュ好きにとっては聖地となります。

 もうテンションあがりつづけて少々危ない事になっているかもしれません、私! (元から)

 あ、今すれ違ったの金山くんでは?! 元いじめっ子だった彼も後々ただのツチノコマニアになるんだから学生生活ってわからないものですよね。

 

 まぁ町の様子を堪能しすぎて入れ違いで出会えなかったりしたら原作ブレイクまったなしなので、後ろ髪を引かれつつもモチノキ公園の砂場で少し服を乱し、戦場の場である河川敷へと移動しましょう。

 あ、その前にほもくん。わかってますよね! 

 

 

「あぁ、キリィ。約束は守るよ。“俺はこの戦いでは一切手出ししないし何も喋らない。呪文のタイミングもキリィに全て任せる”これでいいんだな?」

 

 

 Exactly(その通りです)

 張り切っていきましょう、この戦いは勝つためのものに在らず。ガッシュ君を成長させる為の戦なり! 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ────河川敷。向かい合うガッシュとその本の持ち主(パートナー)、高嶺清麿。

 うーん、非常に絵になります。いいですねぇ。

 

 さて、原作なら出会い頭にギコル一発。清麿が状況把握する前にもう一発を放つ所なのですが、そんな呪文の無駄遣いは細川くんにしか出来ません。ほもくんの心の力残量だと、原作の半分の6、7発が限界ですかね。

 という訳で普通に話しかけますよ。ほもくんに魔本を持たせて二人に見せるようにするのを忘れずに。

 いざ悪役ムーブ開始です。へい兄ちゃん、その赤い本とガッシュを渡して貰おうか。(小物臭)

 

 

「清麿……あの者、私の事を知っているのか?」

「あ、あぁ……その様だが」

 

 

 あっ、つい名乗ってもいないのにガッシュの名前呼んじゃった。(最速ガバ)

 とりあえずごまかす為に一発かましましょう、ほもくーん。

 

 

「《ピルク・ギコル》!」

 

 

 美少女の口から出てくる氷柱、ご褒美かな? (錯乱)

 

 

「き……清麿! あの者、氷が吐けるぞ。すごいぞ!」

「のん気な事言ってる場合か!? お前は下がって伏せてろ!」

 

 ふぉぉぉ、原作通りの台詞~! テンションがどんどん上がっていくぜぇぇぇ!! 

 なお本来ならギコルの応用でガッシュ君に追撃が入るのですが、ここは節約可能なので呪文は控えます。なるべく会話を進めていく形で成長を促しましょうね。

 

 

「お前、その子をいったい何処で……?」

 

 

 さて、ここからが大切です。

 原作では本の持ち主(パートナー)である細川がレイコムを『道具』だ『化け物』だと罵る場面ですが、さすがにほもくんにいきなり鬼畜演技をやれと言われても意味不明ですし、きっと出来ません。

 

 なので、ここでオリチャー発動! 名付けて『俺が細川だ!』

 細川の台詞を含めたムーブを、キリィちゃんが代わりにやるのです。

 

 あっ、今「『口下手』を持つキリィちゃんじゃ出来るわけないだろ。このガバ野郎。あとキリィちゃんかわいい」とか考えてましたね。ふっふっふ、今回の私は一味も二味も違いますよ! 

 確かに『口下手』のスキルのせいで苦労しましたが、この数日の空き時間で検証した所「自身の感情がのらなければ長めの台詞も話せる」事が判明しました。よって細川ムーブも完璧です。

 

 

 

 えーと……《魔物は拾った》って言えばいいんですよね。

 それでなんやかんやでガッシュと赤い魔本が必要になったのでよこせ、って言えば完璧です。なんやかんやって?なんやかんやはなんやかんやです!! (ごり押し)

 まぁ赤い魔本あったらキリィちゃんの呪文も活用できるし、嘘ではないからいいよね。

 

 

「そうか……、じゃあもう一つ聞かせてくれ。お前の本の持ち主(パートナー)はいい服を着て高そうな装飾品もつけてる。だが肝心の君が着てる服がそんな汚れているのはどういうことだ?」

 

 

 キタキタァ!個人的に原作で細川の一番好きな台詞がこれなんですよねぇ!! (テンション上昇中)

 言うぞー、名台詞いっちゃうぞー! 

 

 

 《“こいつは夢を叶えてくれる『道具』なんだぜ! 『道具』に新しい服を着せる必要があるのかよ!! ”》

 

 

 言ったあああああああああ、気持ちいい~~~~~~!!! (テンション振り切れ)

 漫画の名台詞を誰もいない空間で口にしてしまう人の気持ちがわかる気がしますよ!

 あ、皆様に誤解なきようご説明しますと、細川の原作台詞は()()()()()()()()調()()()自動変換されますので、口の汚いキリィちゃんはいません。ご安心下さい。

 

 さて、ゲーム画面に戻りまして。ここでガチギレ清麿の「いい加減にしやがれ!!」が聞けます。

 金色のガッシュが熱い漫画だ、と誇示するかのような熱い台詞。これも聞けたらテンション高くなりますよ! 

 さぁ、こいこいこい!! 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 ………………………………

 

 ………………………………………………アレ? 

 

 何、この「し~~~~ん」って擬音が流れてそうな静寂は? あれー、台詞間違えたかな? 

 清麿が青筋立てて叫ぶどころか、枯れかけのタンポポみたいに萎れちゃってるんですけど。

 うわガッシュ君も「何言ってんだコイツ」みたいな顔してこっち見てる。凹む。

 

 うーん、本来はなし崩し的に戦闘になるんですけどお互い様子見みたいになってしまいましたね。

 よし、ここは挑発しつつ攻撃して煽って見ましょう。

 

 

「《ピルク・ギコル》!」

「くっ……《ザケル》!」

 

 

 単調攻撃だけですねぇ、それじゃ『道具』も宝の持ち腐れですよ! 

 おっ、言い返しはしませんが顔が険しくなっていってる、効果はてきめんですね! 

 

 

 もう一丁《ピルク・ギコル》。おっ、清麿が転んだ。今だよ、ほもくん! 

 

 

「《ピルク・フリズド》!」

 

 

 よしよし、地面に触れてる清麿の腕が凍って見動きが取れなくなりましたね。さぁオリチャー『俺が細川だ!』の最後の山場を見せましょうね。

 ガッシュの事を『人間』でなく『化け物』だと言い放ちます。そして『人間』に便利に使われる『道具』であると言う事で、ガッシュに対するヘイトも稼ぎ闘争心を煽りましょう。

 

 

「黙れ!! どんな力を持っていようと関係ない。これ以上『道具』等と言ったら承知せんぞ!」

 

 

 おぉ、目に涙を浮かべながら向かってきますね。鬼気迫る勢いとはこの事か。

 腕力には自信のあるキリィちゃんですが、勢いに押されてしまってますね。一度、距離を空けましょうか。

 そして《ピルク・ギコル》で追撃。凍って動けない清麿は絶体絶命ですが、原作通りなら抜けられる筈です。まぁ致命傷は避けるように放ちはしますよ、一応。

 

 

「《ザケル》!」

 

 

 うぉ、砂煙の中から電撃が! ほもくんに指示を出す暇はありません。

 しょうがない、ほもくんの方に飛び胸板を蹴ります。そのまま三角飛びの要領で攻撃を受けますよ。

 うお、これは痛そう。もしキリィちゃんに表情がついてたらガチ泣きして転がりまわってるレベルです。

 

 

「クソが……、今度は……その子が盾になるのかよ」

 

 

 あー、清麿ボロボロですね。何かゴメン。

 でもしょうがないよね、これ戦いだもの。

 

 

「おい、そこの本を持ってるお前! 何故こんな戦いに付き合っている! もうやめるんだ」

 

 

 あれ、原作でレイコムに投げかけた台詞をほもくんに投げかけてる。

 まさか清麿まで私のオリチャーに付き合ってくれるとは思わなかったなぁ。

 

 

「…………」

 

 そしてキリィちゃんとの約束の通り、一切言葉を発さないほもくん。

 さすがにこれは不自然なんで答えてあげたほうがいいですね。事前にほもくんに教えていた原作でレイコムの喋った台詞を、言ってもらうようにこっそり合図を送ります。

 

 

「……何を勘違いしている」

「何!?」

「俺がこの子と共に戦いをすればするほど、この子は強くなっていく。そしてこの子が思うままに進んでいく事が、俺にとってこの上ない喜びになるんだ」

 

 

 …………ん? 

 何か微妙にほもくんがアレンジを加えている気がしますが、まぁ言いたい事は伝わっているかな。

 さて、オリチャーもこれで終了。後は決着をつけるだけです。ですがお互い呪文の無駄撃ちは避けたいのでヒントを溢す事にしましょう。

 

 “力の差は歴然だ。お前とはレベルが違うんだよ! ”

 

 こんな感じで言えばいいですかね、きっと気付いてくれるでしょう。

 ほもくん、呪文を唱えたら全力で後退してくださいね! 

 

 

「《ピルク・ギコル》!」

 

 

 これで終わりだ!!!

 

 

「これが吉と出るか凶と出るかはわからん。だが……!! この場を切り抜ける可能性は残ってたんだよ!! 第二の術、《ラシルド》!!!」

 

 

 出たああああああああああああ!! 生ラシルドだ、生ラシルド! やっぱり目の前で見ると格好いいなぁ。

 おぉ~~~。電撃を纏った盾に当たった氷柱がゴムみたいに曲がって、こっちに戻ってきて…………あっ

 

 

 

 あああああああああああああああああああああ!! 

 

 

 

 

 ▽ キリィちゃんは目の前が真っ暗になった(気絶)

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 ────戦いは終わった。

 

 キリィの指示で遥か後方に下がっていた俺は、跳ね返された氷柱も纏った電撃も受けず無傷だった。

 

 だがキリィの体は傷だらけだ、急いでキリィの下に駆け寄り抱きかかえる。

 

 ……キリィの体は本当に軽かった。

 

 

「なぁ、あんた……大丈夫か?」

 

 

 本の持ち主(パートナー)の男、高嶺清麿が駆け寄って来た。戦闘中も様子のおかしかったキリィを心配していた所を見るに、悪い奴ではないのだろう。

 

 キリィもこの戦いはガッシュという魔物を成長させるため、と言っていた。キリィを傷つけた相手ではあるが、恨むのは筋違いというものだろう。

 

 またキリィから『魔界の王を決める戦い』や『魔物』については絶対に言うな、と言われているのであまり彼らと話をする訳にはいかない。いつボロが出るかわからないからな。

 

 

「あぁ、問題ない。この子は俺が病院に連れて行く」

 

「そうか……」

 

 

 それ以上、言葉はなかった。こいつも色々な事があって混乱しているのだろう。振り向いて立ち去ろうとする。

 

 

「そ……そこのお主、それに清麿。ちょっと待ってくれ」

 

「……何だ?」

 

「あの者、口から氷を吐いた。私がいつも持っていた赤い本にそっくりな本も持っておる。……二人とも、正直に答えて欲しいのだ。私の口からは電撃が出るのだな、その者と同じ様に」

 

「………」

 

 俺は答えない、魔物に関する話であるし。何よりそれを答えるのは────

 

 

 

 

 

「……あぁ、その通りだ」

 

 

 ────本の持ち主(パートナー)の役目だからだ。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 翌日、目を覚ましたキリィは傷一つなく全快していた。

 

 魔物は元々治癒力が高く、大抵の傷は1日で治るのだという。

 

 それはよかった、これでキリィを連れて行く事が出来る。

 

 

「キリィ」

 

「何?」

 

「服を買いにいこう。可愛い服を一杯見繕ってもらおうな」

 

 

 あの本の持ち主(パートナー)清麿には感謝しよう、母さんにも『女性の身だしなみは命』と言われていたのに忘れていたとは迂闊だった。

 

 思いっきり着飾ってもらおう、キリィだって女の子なんだからな。

 




後日、第三者視点を入れる予定なので若干わかりづらいのは申し訳ありません。
同じ言葉でも誰が話したかによって意味合いは変わる。


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7.vsゴフレ

日間ランキングにランクインしてました。(驚愕)
皆様、お付き合いありがとうございます。これからもよろしくお願い致します。



 はーい……おはようございまーす……

 大人気魔物キリィちゃんでーす。(死んだ顔のドUP)

 

 え? 何でこんなテンション低いのかって? ひとまずキリィちゃんの様子をご覧下さい。はーい、カメラさん下がってくださいねー

 

 

 はい、これで見えますかね。

 キリィちゃんは普段の何の変哲もないワンピースではなくいわゆるゴス……いえ、クラロリ(クラシックロリータ)のファッションをしているんですね、とてもかわいい。

 そして何故こんな愛らしいファッションをしているにも関わらず死んだ魚の目(いつもと同じ)をしているかというと────

 

 

「可愛らしいですわぁ♥」

「やっぱり素材がいいと何でも似合いますわね♥」

「次はカジュロリの方面でも色々試して見ましょう♥」

「うん、可愛いよキリィ」

 

 

 ゴスロリ専門のお店で店員のお姉さま達(+ほもくん)に着せ替え人形にされているからです。かれこれ4時間程、既に疲労困憊です。

 まぁ原因としては、店員さんがどんなファッションが好みか聞いた時、キリィちゃんが

 

 

《「……? 全部、同じじゃ?」》

 

 

 と言ったものだから現場は大変な事になりました。

 おかげでゴスロリの種類についてかなり博識になりましたよ、滞在時間の半分が店員さんの講義になってたから当然だよね。あー、会話でボタン連打しすぎたから指痛い。

 

 

「反省した?」

 

 

 店員さん方が満足しようやく一息ついて店のベンチに座っていたキリィちゃんに、ほもくんが微笑みながら話しかけてきました。やっぱり楽しんでたな、こいつめ。

 

 

「これに懲りたら次からは俺にも相談して欲しいな。一人で勝手な事しないでさ」

 

 

 どうやらガッシュ君と戦った時の細川ムーブを言っているようです。

 あの時は約束があったから従ってくれましたが、内心は勝手な事をしたと不満に思っていたようですね。本の持ち主(パートナー)との不和はいけません、万が一愉悦に目覚めてしまった場合キリィちゃんが刺殺されてしまいかねませんので。

 

 

「ごめん。ガッシュ、友達……友達」

 

 

 ここは素直に謝っておきましょう。

 言い訳になるかもしれませんがガッシュを育てるのは必要な事だったんだよとしっかり伝えます。理由としては友達の、そう『友達』のキャンチョメ君の友達だからっていえば大義名分にはなるかな。

 

 

「……そんなにガッシュって子の事が気になるのか?」

 

 

 気になるというか今回の目的ですよね。原作ムーブやる場合、絶対外せない主人公なんですから。そもそも『金色のガッシュ』自体この子がいないと成立しませんし、常にひたむきな前向きさを見せてくれるあの子には多くの人達が勇気付けられたと思います。それに電撃の呪文って響きだけでも格好いいし子供の頃、何回教科書持って「バオウ・ザケルガ!」と叫んだか数え切れません。今回のチャートも無理だろと友人達に後ろ指さされながらも原作漫画開きながら試行錯誤を繰り返しやっと実現可能な所まで持ってったんですからね。

 

 

「うん、大事」

 

 

 という思いを4文字に凝縮します。伝われ、この思い。

 

 

「……そうか。わかった、協力するよ。お互い勝手な事したしこれでおあいこ。次からは一緒に頑張ろう」

 

 

 や り ま し た。

 やっぱり最初の出会いで稼いだ好感度が大事でしたね、バトルロイヤルの戦いなのにガッシュ君の育成とかいう意味不明なムーブに協力してくれるんですから。

 

 

 では早速ですが協力して貰いましょうほもくん。ガッシュ君の下へ向かいますよ。

 もう時刻はお昼過ぎ、今からモチノキ町へ向かう頃には学校の下校時刻くらいになるでしょう。

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 はい、再びやってきましたモチノキ町。

 別にほもくんの町から遠い、って訳ではないんですけど毎回電車に揺られてくるのは面倒ですね。モチノキ町の中に仮拠点をこさえる事を考えてもいいかもしれません。

 

 さてさて、目的の場所はモチノキ公園です。

 前回のキリィちゃんとの戦いで、自分が電撃を吐ける事を知ったガッシュ君は、自身を『化け物』だと思い悩みますが『電撃を吐けるすごい能力を持った子』と解釈し、前向きに受け止めようとします。そんな内心を知らない清麿とケンカをしてしまうのですが、雨の中でのガッシュ君の慟哭が心に来ますよね。

 

 今回はそんな感動場面の邪魔者、わんこのゴフレを屠るのが目的です。ぶっちゃけ(ゴフレ)との戦闘はガッシュ君の成長には貢献しません。ブラゴがいれば十分です。

 ですが(ゴフレ)には、雨中途方にくれるガッシュ君をそのもふもふの毛皮で癒すという大切なお仕事があります。もしもその前に(ゴフレ)を倒すとガッシュ君は立ち直る事無く、そのまま行方知れずとなってしまうんですね。(2敗)

 なのでそこまでは二人を見守り、ガッシュ君が清麿の家に向かうのを確認してから二人を分断し、ワンコを断罪しましょう。

 

 

 さて、やってきましたモチノキ公園。

 時計台の周囲に子供達が群がっていますね、さてさてその中からガッシュ君の姿を探します。

 

 

「……本当なんでしょうね、私達が子供だからって簡単には騙されないんだから」

「本当だ! 私の口からは電撃が出るのだ!」

 

 

 いました、ガッシュ君です。

 近所の子供達に話しかけていますね。その中に、ナオミちゃんもいます。彼女はこのゲームにおける隠しキャラで敏捷値がなんとゼオンと同じ位あります。むしろ僅かに上回っています。

 万が一、彼女がいる時に魔物同士の戦いが始まろうものなら「アンタ達落ち着きなさいよ」と為すすべなく魔本を奪われますので気をつけましょう。(47敗)

 敏捷値ってマスクデータなので、能力値を見てモブキャラと判断し油断したプレイヤーが何人屠られたか数える事も出来ません。何とか彼女の魔の手から逃れようと試行錯誤したプレイヤー達も、結局「無理!」という結論になりました。(体験談)

 

 

「そんなに言うなら目の前で電気を出してみなさいよ」

「わかったのだ、そこで見ているがよいぞ!」

 

 

 そんな彼女達の前で『化け物』のレッテルを何とか晴らそうと奮闘するガッシュ君、実は目の前の女の子の方がよっぽど化け物じみているんですけどね。

 時計台に登り始めたのでそろそろ清麿が来るはずです、見つからない様に公園の茂みにほもくんと二人で隠れましょう。かなり怪しい姿ですが『気配遮断』と『隠密(暗殺術)』の効果により通行人に見つかる事はないので安心です。

 

 

「何よ、結局何も出ないじゃないの。ウソつきね」

「うそつきー」「うそつきうそつきー!」

「うるさい! 本当に出るのだ! ならば今度はあのスベリ台を……」

 

「ガッシュ! 何をやっている、何を!」

 

 

 当然、呪文なしで電撃が出る筈もなく場が沸き立っていきます。

 あ、雨が降ってきた。さすがに隠れている最中は傘をさせませんが、こうなる事は予想してたので二人ともレインコート着用済みです。本当に怪しいなキリィちゃん達。

 

 

「こっちが真剣に心配してたのに、何やってるんだお前は!!」

「よ、よいではないか! 電撃が吐けるのだぞ。私達は人より優れているという事ではないか!! 自慢して何が悪い!」

「馬ッ……!!! クッ、勝手にしろ!!」

 

 

 よしよし、喧嘩別れしましたね。子供達も雨が降ってきたので皆帰っていきました。原作ムーブが続いているようで何よりです。

 ただ気になるのが最後の清麿の言葉。途中で止まっちゃいましたね。確か……

 

《「馬鹿野郎! あんなもの一歩間違えれば人殺しの道具なんだぞ!!」》

 

 だったでしょうか。あんな風に言いよどんで止めるパターンは初めてみましたね。まぁ細川ムーブによる些細な誤差でしょう、気にする事はありません。

 それよりも……おっ、来た来た。魔物の気配です。

 

 

「クゥ~~ン」

「お? お前、ご主人はどうしたのだ? 何処かへ行ってしまったのか?」

 

 

 よしよし、ちゃんと(ゴフレ)とガッシュが出会いました。清麿と喧嘩したガッシュは心の拠り所をもふもふ(ゴフレ)に求めます。それなのに家につくなり襲われるという踏んだり蹴ったりな展開ですね。超楽しい(愉悦)

 ではガッシュ君の慟哭をしっかり鼓膜に録音したら移動開始と……

 

 

「私はもう帰るのだ。お主もちゃんとご主人の所に帰るのだぞ!」

 

 

 …………ファッ?! 

 えっ?! 一人で帰っちゃうの? 連れてかないの?! (ゴフレ)だって困惑してるじゃないか! 

 え、ちょっとガッシュ君まって置いていかないでよ。(ゴフレ)が仲間になりたそうな目でガッシュ君見てるよ、ホラ! 

 

 

 

 

 

 

 

 ……行ってしまいました。

 え、大丈夫なのこのチャート。ガッシュ君の慟哭がないって事は『化け物』呼ばわりされた事、あんまり気にしてなかったりするの? でも能力の自慢はしてたしなぁ。

 今チャートのガッシュ君の心は鋼って事でしょうか? なお走者の心は硝子です。

 

 

 ……まぁ喧嘩別れはちゃんとしてるし誤差としましょうか。それに確定的に破綻が決まった訳でもないし、ここはガッシュ君達を信じてチャートを進めましょう。

 

 

 さて、とりあえずやる事は──────

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、ゴフレ。見送っちまっていいのかよ。本の持ち主(パートナー)の所へ案内させる予定じゃなかったのか?」

 

 “奴の匂いは……覚えた  後をついていけば……問題ない”

 

「そうかよ、ならいいんだ。じゃあ行こうぜ」

 

 

 見つけた……魔物の子  奴を倒すのは……本の持ち主(パートナー)の所へ……行った後……

 

 全く……面倒だ……  本の持ち主(パートナー)の連次は……戦いがしたいと……言う

 

 

「さーて、あいつはどんな呪文を持っているんだろうな。ワクワクするじゃねえか」

 

 “方向は……わかった……  ……行くぞ”

 

「あぁ、行こうぜ。俺達のバトルはこれからだってな。……あ?」

 

 

 茂みから現れた一人の……二人!?   何故……気付かなかった……

 

 

「おいおい、ガキ共。かくれんぼでもしてたのか? もうお家に帰んな」

 

 “連次……気をつけろ  魔物だ……隠れていた”

 

「!? 何だと。運がいいじゃねえか、こっちも戦えそうな相手だぜ」

 

「先、行かせない」

 

 “魔物……女の方……  男……本の持ち主(パートナー)……”

 

「そうか、じゃあお嬢ちゃん。俺を楽しませてくれよ! 《ドルク》!!」

 

 

 その呪文で…… 俺は犬の姿を捨て……全身を岩の鎧で纏った姿へと……変わる

 

 

 “グガアアアアアアアアア!! ”

 

「キリィ!」

 

「大丈夫。お願い、元就」

 

「わかった。疾ッ!!」

 

 

 

 速い…… だが……捕えられる  狙うのは……女

 

 

 “連次……”

 

「おうよ! 《ドルク》! オラもういっちょ《ドルク》ゥ!!」

 

 

 避けても…… すぐに……加速して追いかける  こいつは……敵では……ない

 

 

「よっしゃ、追い詰めたぜ。《ドルセン》!」

 

 

 連次は……生えていた木々の間に……石柱を放ち……逃げ道を塞ぐ これでもう……逃げられない

 

 

「もう終わりだな。まぁまぁ遊べたぜ。《ドルク》」

 

 

 俺は……女へ突っ込む これで……終わり……

 

 

「終わり、あなたが」

 

 

 ……?! いない…… 逃げ道は……ない筈

 

 

「体を鎧で覆っても急所が変わった訳じゃないよ」

 

 

 奴の本の持ち主(パートナー)が……話しかける  女は……そっちにいるのか……

 

 

 “急所…… だと……”

 

「後頭部を石の様なトサカで覆ってるみたいだけど、その形状じゃ前方向からしか防げないね。首の真後ろ辺りに僅かな隙間があったのを確認させてもらったよ」

 

 “何が…… 言いたい……”

 

「そうだなぁ、一言言わせて貰うならこうかな。《ピルク・フリズド》!」

 

 

 ……?! 足が……凍りつく…… これでは……動けない

 

 

「ハッ! ようやく呪文を唱えたなぁ。だがそんな氷、一瞬で外せるぜ。《ドル……」

 

「一瞬で十分だよ。狙いをつけるだけだからね」

 

 

 気配を感じる……女……   これは……真上! 

 

 

「少し、遅かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後に公園内に響き渡る轟音。砂煙が晴れた時、全身を石の鎧で覆った異形の生物はおらず、立ち上がる事も出来なくなった一匹の犬がそこにいた。

 

 

 

 

 ──────────────────【ゴフレ 敗退(リタイア)】撃破者《キリカ・イル》

 





金色のガッシュ完全版の書き下ろしにて、ゴフレは流暢に喋る事が出来るのが判明しています。ですが作者のイメージは片言なので、それはギャグ時空のお話として採用はしませんでした。ご了承下さい。

次の話はガッシュ&清麿視点の物語です。
キャラ視点パートは戦闘以上に難産になるので少し遅れると思います。


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8.キリカ・イルという少女(前編)

他パートの他者視点を多分に含みます。比べながら見るとわかりやすいと思います。

なお、読者の方からスキル名に対しツッコミを頂きましたので
『人外の相棒』→『人外の力持つ相棒』に修正しました。
変更前だとほもくんが人間ではない様にも読めるので、彼が石仮面を被る前に変更させて頂きました。ご指摘本当にありがとうございます。





 

 

 

 ────雨が私の体を叩く、清麿と怒鳴りあった時の怒りが嘘の様に収まっていく

 

 清麿の家へと帰る道すがら、私は昨日から考えていた思考を繰り返した

 

 昨日の戦いを、そこで出会った()()()()の事を

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

《「ガッシュと赤い本、渡して」》

 

 

 その者は、私と同じ位の年齢の少女だった。私の持っている本と同じ様な桜色の本を持つ少年もいたが、その時の私は気に留める事はなかった。

 

 何故ならその者は初対面の筈の私の名前を言った。もしかしたら記憶を失う前の私を知っているのかも知れぬ! 

 

 そう思い話しかけようと思った私を遮ったのは降り注ぐ氷柱、その少女は突然口から氷を吐いてきたのだ。何とすごい事が出来る者なのだ、と私ははしゃいだが清麿は顔を歪めその二人を睨みつけた。

 

 

《「お前、その子をいったい何処で……?」》

 

《「この人が拾った。ガッシュも必要。……頂戴》

 

 

 ? ……この者の喋り方には違和感があった、少女が言葉を続ける程にその違和感は大きくなる。

 

 その者の言葉には何の感情も感じないのだ。ただ冷たいだけの言葉。その者の雰囲気に私は圧倒され、話しかける事が出来なかった。

 

 そしてその者は、そんな私を更に驚かせるとんでもない事を言ってのけたのだ。

 

 

《「私は夢を叶える為のただの『道具』。『道具』が新しい服を着る必要なんてない」》

 

 

 ……この者、今……何と言ったのだ……? 

 

 私はあまりの驚きに言葉を失う。

 

 ……何故この者はそんな酷い言葉を平然と言えるのだ? 嘘や冗談でもなく、当たり前の事のように自分は『道具』だと告げているのだ。

 

 

 

 もしかしてこの者は機械か何か、心を持たぬモノなのではないか? 

 

 そう思って、いや私は『そう思いたくて』知らず俯いていた顔をあげ、再び少女を見る。

 

 ……そして愕然とした。

 

 その者の表情は先程と変わっていない、だがその者は私を見て悲しみを浮かべた。それを理解した私は余計にわからなくなる。

 

 何故あの者は冷たく感情を閉ざし、自分を『無価値』だと断じる事が出来るのだ? 

 

 

 ……………………

 

 

 そして氷を私達に飛ばし襲い掛かる者達と、それ迎え撃つ清麿。私は時折意識を失いながらもその者達の攻撃を避け続ける。

 

 だがその最中、私は気付いてしまう。あの少年の方が持っている本は私が持っていた赤い本と同じもの。そしてそれを使い氷を出しているかのような状況に。

 

 やがて清麿は氷付けにされ身動きできなくなる。清麿へと語る少女の言葉は、戦ってる最中に感じていた疑問の答えを見つけるように、私の頭を動かしてしまう。

 

 

 

 

 ──私は清麿と一緒にいる時、何度も電撃を清麿が何かの方法で起こし皆を救ってきた。

 

 

《「人間がこんな力を持っている筈がない、つまり『化け物』」》

 

 

 ──その時清麿は今と同じ様に“あの少年が持つ本と同じ赤い本”を手に持っていた。

 

 

《「でも人の言う事を聞ける『化け物』、だから『道具』らしく人の言う事を聞いていればいい」》

 

 

 ──もしかして、私もあの者と同じ様に口から電撃が出せるのか? 

 

 

《「『道具』は悔しいとか悲しいなんて感情も持たない」》

 

 

 

 そして私も────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《「ただの『化け物』だから」》───あの者と同じ『無価値』な者ではないのか? 

 

 

 

「黙れ!! どんな力を持っていようと関係ない。これ以上『道具』等と言ったら承知せんぞ!」

 

 

 真っ白になり必死に少女の言葉を否定する。認めてしまえば、『無価値』と切り捨てた自分が全て飲み込まれてしまいそうだったから。

 

 私は雄叫びをあげながら、氷付けになった清麿の傍に立つ少女に襲い掛かる。

 

 

 これ以上、その者の言葉を聞いていたくはなかった。これ以上……考えたくはなかった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「…………ハァ」

 

 

 考え事を続けていた私の足は止まっていた。

 

 あれから一日経ち私は落ち着いた、もう大丈夫なのだ。それに今は自分の体などより優先するべき事があった。

 

 

(あの「自分は道具だ」と言い捨て、全ての希望を失ったかのような虚ろな瞳をした少女。あの者をどうやったら救う事が出来るのだ!)

 

 

 ひとまず最初に考え付いた『口から色々出せるのはすごい事なのだ作戦』を実行しようとしたのだが失敗した。まず見せる事が出来なければ皆が信用してくれぬ。

 

 清麿に頼んで電撃を出す手伝いをして貰う事も考えたが、昨日から難しい顔をしておる。きっと清麿も清麿であの者達の事を気にしているのであろう。だからこれは、私一人でやらねばならぬ事なのだ。

 

 どうにか何とかして救えないのだろうか。そんな私が思い出すのは昨日感じた恐怖。

 

 自分は『無価値』かもしれない、『道具』としてしか価値がないのかもしれないと一瞬だけ考えてしまった時の事は思い出したくもない。それ程耐え難い恐怖だったのだ。だとしたら……

 

 

 

 

「自分を『道具』だと言い切っているあの者は、一体どれ程の恐怖を味わっているというのだ」

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 ────俺には大切に思っている女性が二人いる。

 

 一人は俺を産み、育ててくれた最高の母さん。そして、もう一人はその母さんを失いどうしようもなくなった俺を慈しみ、癒してくれた大切な少女。

 

 名前はキリカ・イル。今ではキリィと呼ぶ仲になった。

 

 彼女は人間ではない、魔界から来た魔物だと彼女の友達であるキャンチョメとフォルゴレが説明してくれた。

 

 彼女が人間でなくても関係ない。重要なのは魔界の王を決める戦いというものに俺の力が必要だという事だ。当然、俺は何を差し置いてでも彼女の力になると決めている。

 

 ……だけど彼女と過ごす数日の間に、“彼女自身の事を知りたい”と考え始めている自分がいた。

 

 キリィは素敵な少女だ。見た目は正直ものすごい美人だし肌や髪も芸術品の様に美しい。最初は恐く感じていた瞳も、今やミステリアスな魅力として惹かれている。

 

 一体、魔界ではどんな生活をしていたんだろう。キャンチョメ達の他にはどんな友達がいたんだろう。家族構成は人間と同じなのだろうか。そんな益体のない思考をしつつも、俺はキリィに直接聞く事はなかった。

 

 キリィは寡黙な少女だが、言いたい事はハッキリ言ってくる。今日だって……

 

 

「元就」  「あぁ、新聞なら居間にあるぞ」

 

「元就」  「おう、醤油だな。ほらよ」

 

「元就」  「あぁ、戸締りは大丈夫だ。行こう」

 

 

 意思疎通は完璧だ。

 

 だが彼女は自分の事については何も話そうとしない。『そんな事は重要じゃない』とでも言いたげな雰囲気を感じた俺は自分から聞く事が憚られた。

 

 ……だが本当は、少しでも聞くべきだったのかもしれない。一体彼女が、何を抱えていたのかを。

 

 

 

《「つまり俺は一切手出しせず喋らない。呪文のタイミングも任せて欲しいって事なのか?」》

 

《「そう。お願い」》

 

《「キリィの頼みなら聞くけどさ。理由を聞いてもいいか?」》

 

《「ガッシュと、戦う。でも、倒す訳じゃ、ない。育てる」》

 

《「育てる? 実戦経験を積ませたいって事か?」》

 

《「ん」》

 

 

 

 初めて言ってきたキリィの頼み、断る選択肢などなかった俺は二つ返事で受ける。

 

 俺の手出しを断るって事は、ガッシュって友達を襲うフリでもするのかな? でもキリィ、君に演技は無理だと思う。彼女は表情こそ乏しいが、行動は年相応の所もあるし一緒にいると落ち着くやさしさのようなものを感じる。

 

 

 でもキャンチョメからこの戦いの厳しさは教えてもらっている、ただの練習相手だとしても、いい経験にはなるのかもしれないな。

 

 

 

 ……そう楽観視していた自分を殴り飛ばしてやりたい。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 今、キリィは俺が連れてきたゴスロリショップの店員にもみくちゃにされて抗議の声をあげている。

 

 その表情には疲れと呆れ、若干の憂いが混じってはいるが微笑ましさを感じる。

 

 

《「私は夢を叶える為のただの『道具』。『道具』が新しい服を着る必要なんてない」》

 

 

 ……間違ってもあの戦いの時のような【無】を体言したかのような振舞いではない。

 

 あの戦いの直後はキリィの体が心配だったし、ガッシュ達に向けた言葉は直前に戦った『細川』とかいう最低な男の言葉尻を真似したものなのだろうと理解していたので気にならなかった。

 

 

 だが今になり、あの時の彼女の様子に不安を感じる。あの戦いの時の『全てを諦めた』虚ろな顔は何だったのだろうか。

 

 万が一にも、あの周囲の心を凍りつかせるような言葉が演技だったなんてあり得ない。つまりキリィには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、細川の言葉を真似ているうちにその時のトラウマを思い返してしまったんだろう。

 

 現にあの時のキリィの冷たい心の奥底には、きっと傍にいた俺しか気付かないような激しい心の機微を感じた。それが完璧なまでにキリィの振る舞いにより隠れていたのだ。

 

 

 俺は魔界にいた頃のキリィについて何も知らなかった事を後悔する。彼女の背負っているものに気付かず、ただ助けられていただけの自分に怒りを覚える。

 

 もっと相談して欲しい、もっと頼って欲しい。

 

 そんな思いをこめて、店員から解放され休んでいる彼女の負担にならないようイタズラ混じりに伝える。

 

 

「これに懲りたら次からは俺にも相談して欲しいな。一人で勝手な事しないでさ」

 

「ごめん。ガッシュ、友達……友達」

 

 

 どうやらわかってくれたみたいだ。でも繰返すほどにガッシュって奴の事が気になるのか。

 もしかして────

 

 

「……そんなにガッシュって子の事が気になるのか?」

 

「うん、大事」

 

 

 万感の思いを込めたかのように答えるキリィ。やっぱりそうなのか、君は……。

 

 だけど、それがわかった所で俺のやる事は変わらない。俺はキリィの力になるって決めているんだ。

 

 

「……そうか。わかった、協力するよ。お互い勝手な事したしこれでおあいこ。次からは一緒に頑張ろう」

 

 

 心がチクリと痛んだ。この痛みはきっとキリィと一緒にいる限り消え去る事はない。だけど構わない、今はこの痛みが何よりも愛おしい。 

 

 何故ならこの痛みこそが、君の力になるって決めた証に違いないんだから。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────俺は家に帰るとカバンと赤い本を机に放り投げ、ベッドに横たわった。

 

 考えるのは先程の喧嘩。その時にガッシュが放った一言。

 

 

《「よ、よいではないか! 電撃が吐けるのだぞ。『私達は』人より優れているという事ではないか!! 自慢して何が悪い!」》

 

 

 

「私達……か……」

 

 

 その言葉の真意に気付き、思わず言いかけていた言葉を止めた。あの力は人殺しの手段になり得る、それを諫めるつもりだったが今にして思えば言わなくてよかったのかもしれないと安堵する。

 

 自分が普通の人間ではないんだと知り傷ついているのは、ガッシュだって一緒の筈だから。

 

「俺の赤い本とあの男の桜色の本。ガッシュと似た女の子。口から電撃や氷が出せる子供」

 

 

 俺は思考を切り替え今ある情報を頭の中で整理する。様々な予想や憶測が頭の中で浮かんでは消える。現状ではあまりにも情報が、ピースが足りない。何か決定的な情報がわかっていないんじゃないか? そんな思いが心の奥で湧きあがる

 

 

「いや、それ以前に……ガッシュとあの子しかいないのか? あんな力を持つ子供は」

 

 

 その可能性は低い、ガッシュだけならまだしも、もう一人が現れた今それ以上いないなんて楽観視が出来る筈もない。

 

 そして、あの少女はガッシュを明確に『敵』だと判断し攻撃を仕掛けてきた。

 

 ならば他の子供もガッシュと出会ったら…………

 

 

「まずい!!」

 

 

 即座に飛び起きた俺は、赤い本を掴みガッシュの下へと急ぐ。クソッ、居心地が悪いからって置いていくべきじゃなかった。

 

 だが階段を駆け下り家を出ようとした俺を、インターフォンの間の抜けた音が邪魔をする。

 

 

「! 誰だ、こんな時に……。くだらんセールスか勧誘だったらどなってやる!」

 

 

 そんな悪態をついて扉を開けた俺を出迎えたのは────

 

 

「この本を見せれば大体の事情はわかるかしら? 話し合いに来たわ、応じてもらうわよ」

 

 

 ────俺の持つ本を同じ『黒い本』を持った女性と漆黒を纏った男だった。

 

 




細川「こいつ(魔物)は夢を叶えてくれる『道具』なんだぜ」

キリィ「私(魔物)は夢を叶える為のただの『道具』。」

セリフの意味を変えずに細川ムーブに変換するとこうなります。
そりゃドン引きされますよね。


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9.キリカ・イルという少女(後編)

後編はほぼ清麿視点です。
普通の小説で言うとここでようやく序章終了、といった所でしょうか。




 

「魔界の王を決める戦い……だと?」

 

「そうよ、魔界にも社会がありそれを統治する“王”がいる。それを決める為、千年に一度人間界で行われる戦いよ」

 

 

 俺の下に訪ねてきた黒い本の持ち主『シェリー』と、彼女が《魔物》と呼ぶ漆黒の男『ブラゴ』そして彼女から説明された魔界の王を決める戦い、その話はかなり衝撃的なものだった。

 

 だが必要な情報が出揃った公式の様に、先程まで考えていた様々な疑問が氷解していく。ガッシュ達は何故口から電撃や氷を出せるのか、何故共通する形の読めない本を持っているのか、一体何処からやってきたのか。

 

 荒唐無稽な話だとは思うが、正直俺も同じような事を考えなかった訳じゃない。それを他人から説明された事で、彼女の言っている事は間違いない事実なのだと納得してしまう。

 

 

 ────だが、そうなると……どうしても解けない謎が1つだけ残った。

 

 

「なぁ、ブラゴって言ったか? 1つ聞いていいか?」

 

「何だ」

 

「お前は……自分の事を『化け物』だと思っているのか?」

 

 

 その言葉に彼女、本の持ち主(パートナー)であるシェリーの顔が歪む。俺自身、失礼な問いかけだとはわかっている。だがこの事を聞かない訳にはいかなかった。

 

 俺の胸に去来するのは、昨日戦った氷の呪文を使う少女。

 

 

《「私は夢を叶える為のただの『道具』》 《「ただの『化け物』だから」》

 

 

 普通ならその言葉に何の疑問も抱かない。口から氷を出すなど人間の間では『異常』なのだから。

 

 だが魔界ではそれが『正常』なのだとしたら……何故あんな言葉が出てくる? 

 

 シェリー曰く魔物を利用し私腹を肥やす野郎もいるらしい。

 

 彼女も本の持ち主(パートナー)によって利用しやすいように、そう言われ『教育』されたのでは? との考えも浮かんだが否定する。

 

 確かに少女の本の持ち主(パートナー)の少年は華美な衣装に身を包んでいた。だがあの少年はそれが当然であるかのように完璧に着こなしていた。以前、暇つぶしで高級な衣服での振舞いや作法についての本を読んだ事があるが、少年の佇まいにはその内容がピッタリと一致している。実際話しかけた時も、そんな事をする奴には見えなかった。

 

 

 つまり本の持ち主(パートナー)の問題じゃない。あの子自身、魔界で何かあったからだと俺は結論づけた。

 

 

「愚問だな。何故そんな事を聞く?」

 

 

 俺の質問に簡潔に答えるブラゴ。その「当たり前だ」と言わんばかりの表情が全てを物語っている。

 

 少女の情報を少しでも知りたかった俺は、昨日あった戦いでの少女の様子と今考えた事をブラゴに伝えた。

 

 すると、ブラゴは腕を組み表情が険しくなっていく。そこには若干の怒りを感じた。

 

 

「……なるほどな」

 

「お前は何か知ってるのか?」

 

「さっき、そこの女(シェリー)が言っただろう。魔界にも社会がある、そしてそこには当然社会が抱える問題もある。自分自身を『道具』と呼ぶ者が人間界にいたらどういう状況なのか。それを考えればわかるだろう」

 

「なっ……!!」

 

 

 そのブラゴの言葉に俺は言葉を失った。

 

 魔界や魔物と説明されて、恥ずかしながら少し幻想的(ファンタジー)なものを想像していた俺は冷や水をかけられたような気分だった。

 

 人間界に置き換えれば状況は同じとブラゴは言った。

 

 

 自らを『化け物』と蔑む少女。自身の意思はなく『道具』として使われる事しか価値を見出せない人間─────

 

 

「クソ野郎がッ……!」

 

 

 あぁ、本当に吐き気がする。

 

 

「! ちょっとブラゴ。私はそんな話、聞いていないわよ。どういう事?」

 

「戦いとは関係のない話だ。それに俺が王となったらそんなものは消えてなくなる。弱者が強くなろうともせず、より弱い者を甚振るだけの仕組みなどいらん」

 

「……そう、ならいいわ」

 

 

 少女の事を考えていた俺の耳に入ってきたのはそんな会話。悪い奴ではないのかもしれない、俺は二人に抱いていた警戒心を少しだけ緩める。

 

 

「とにかく私からの説明は以上よ。わかったらあなたの“赤い魔本”を渡してもらえないかしら? あなたも自分が巻き込まれているだけだと理解したでしょう」

 

「あぁ、よくわかったよ。……だけど渡す訳にはいかねぇな」

 

 

 そうだ、渡す訳にはいかない。もしシェリーの言葉が全て本当なのだとしたら、この赤い魔本を燃やされればガッシュが…………

 

 

「……そう、あなたは悪事を重ねていい思いをしていた輩とは違うようだけれど。このままじゃ、あなた自身がもっとひどい目に遭う事になるわよ……こうやってね。《レイス》!」

 

 

「!! ガハァッ!」

 

 

 シェリーの呪文が引き金となりブラゴの手から何かが俺に飛ばされる。目に見えない力の塊みたいなものに、俺は部屋の端まで吹き飛ばされた。

 

 

「本を渡しなさい! この戦いでは本を燃やすだけでなく相手を平気で殺す子もいるのよ!!」

 

 

 俺の体に激痛が走る。シェリーのいっている事は事実だという事を如実に現していた。確かにこの戦いは非情極まりないものだ、安全の保証なんてどこにもない。

 

 

「このままじゃあなたも巻き添えをくうのよ! 普通の生活を失う事にもなるわ!!」

 

 

 その通りだろう。魔物同士の戦いが平穏無事な生活を送りながら出来る筈もない。今後の人生を左右する程の大怪我をにしてしまう事もあるかもしれない。

 

 

「半端な覚悟であの子供といても、あなたには災いしか降りかからないのよ!!!」

 

 

 

「やかましい!!!」

 

 

「!!?」

 

 

「そこまでわかってるアンタが何故その戦いに参加してるかは知らん、何を背負ってるかもわからん。だけどな、俺はガッシュに借りがあるんだよ」

 

 

「借り……ですって?」

 

 

「あぁ、アンタの背負ってるモノに比べたらちっちぇかもしれんが、オレにとってはとんでもなくでかい借りだ」

 

 

 そうだ、俺はガッシュに助けられた。変えてもらった! 救ってもらった!! なのに、俺はガッシュにまだ何も返せていない。

 

 

「だからこの本を燃やしたらガッシュが魔界に帰っちまうっていうなら、絶対に渡す訳にはいかねぇな!」

 

 

「……そう、残念ね。じゃあ渡してもらうまで攻撃させてもらうわよ。《レイス》!」

 

 

「清麿────────────────!!!」

 

 

「ガッシュ!? ……《ザケル》!」

 

 

 突然部屋の扉が開きガッシュが現れた。俺は咄嗟に呪文を唱える事でブラゴの手から出た力の塊を弾く。

 

 

「ガッシュ、お前いつから部屋の前に?!」

 

「ウヌ。実はあの者達が家に入った所から見ていたのだが、いつ部屋に入るべきか悩んでしまっての」

 

「……じゃあ話は全部聞いていた訳か」

 

「……ウヌ!」

 

 

 ガッシュは力強く答える、その瞳に迷いは無い。自分が『魔物』だという事実も受け止めているようだ。内心ガッシュを気にかけていた俺は心から安堵する。

 

 

「《レイス》!」「《ザケル》!」

 

 

 ぶつかり合う力と力、俺は咄嗟に部屋を出て廊下でシェリー達と対峙する。

 

 

「お前がガッシュ・ベルか。記憶を失ったらしいな」

 

「!? お主、私の事を知っているのか?」

 

「噂だけは聞いている、お前は魔界でも有名な“落ちこぼれ”だったからな」

 

「……ウヌ? そうなのか?」

 

「あぁ、この戦いに何故参加できたのか不思議な位だ。そんなお前が本気で王を目指すというのか?」

 

 

 ブラゴがガッシュに問いかける。そこには侮蔑の色は無い、自分に比類する覚悟は在るのかとその眼差しがガッシュを見極めようとしていた。

 

 

 

「知らぬ!」

 

 

「……何だと?」

 

 

「いきなり魔界の王などと言われても、難しい事はわからぬ。ただ一つだけわかる事は『自分は道具だ』等と言い苦しんでいるあの者は、私でなければ救えないという事だ! ならば私はあの者に会わねばならぬ、ここで魔界とやらに帰る訳にはいかぬのだ!!」

 

 

 そのガッシュの言葉に苦笑する。あぁ、やっぱりこいつはこういう奴なんだと。

 

 

「その通りだ、ガッシュ。戦うんだ。王を決める争いなんかの為じゃねー、お前の運命をお前自身で決める為に、お前の『友達』を助ける為にだ! 俺も一緒に戦う、お前と一緒に戦う! 俺もお前の『友達』だから!!」

 

「……ウヌ! 力を貸してくれ清麿!! 私はあの者に会って伝えねばならぬ。『例え今までが苦しかったとしても、これから光の道を歩いて行く事だって出来るのだ』と!」

 

「……!!」

 

 

 俺はガッシュと並び立ちブラゴとシェリーに対峙する。するとシェリーがどこか遠くを見てるように呆けていた。

 

 

「……おい、どうしたんだ。シェリー?」

 

「ウ、ウヌ? あの者、急にどうしたのだ?」

 

「わ、わからん」

 

「………………ココ

 

 

 数瞬の後、気が付いたように俺達に向きなおしたシェリーは黒い本のページを捲っていく。その顔は、何かの覚悟を持った表情だった。

 

 

「……わかったわ、もう容赦はしない。ブラゴ、一番大きいのをぶつけるわよ」

 

「シェリー。アレを使うのか?」

 

「えぇ、これに対応できないのなら、どの道他の奴等に殺されるだけだわ」

 

「戦うぞ」「おう」

 

 胸の内から力が溢れ出す、これが《心の力》なんだとわかる!

 

「戦うぞ!」「おう!」

 

 シェリーの黒い魔本が今まで以上に輝く、来る!! 

 

 

「戦うぞ!!」「おう!!」

 

 

 それに呼応するように俺達の本も輝く、その輝きはまさに……金色!!

 

 

 

 

「《ギガノレイス》!」  「《ザケル》!!!!」

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「────何故見逃した。あのまま戦えば俺達が勝っていた」

 

 

 ガッシュとその本の持ち主(パートナー)との戦いを終えた俺と本の持ち主(シェリー)は用意した車へと戻る。

 

 ……俺とガッシュとの戦い、結果は引き分け。

 

 だが《ギガノレイス》を相殺されたとはいえ、あのまま戦えば十分に勝てる戦いだった。

 

 

「私達が倒すまでの相手でもなかった……うぅん、あの結果じゃそんな言い訳も出来ないわね」

 

「…………………………」

 

「わ、悪かったわよ。何か言いたい事があるならそんなじーっと見てないで言いなさいよ」

 

「イヤ……、別に構わん…………」

 

 

 俺はそれ以上何も言わなかった。別に見逃した事に文句はない、奴はきっと強くなる。ならば、その時に俺達が勝てばいいだけの事だ。

 

 それにコイツの様子も妙に気になった。

 

 

《「………………ココ」》

 

 

 あの時聞こえた言葉、奴等の何かがコイツの琴線に触れたという事だろう。その証拠に戦いの後だというのに、いつもと違い嬉しそうに見える。

 

 

 

「! …………終わったか」

 

「さぁ、少し休んだら次の本を……ブラゴ?」

 

 

 少し離れた場所で終わった戦いの気配を俺は感じる。

 

 生き残った方は気配を消し移動をしたようだ、今から追っても徒労に終わるだけだろう。戦いに慣れた動きだ、手強い敵なのだろう。それが“ヤツ”であるとは思わなかったが。

 

 

「……何でもない。オレは休みなどいらん、お前達人間と一緒にするな」

 

 

 そう答えながら先程の反応を思い返す。

 

 魔物同士の戦い、決着までは何の変哲もない。問題はその後だ。

 

 戦い勝ち残った方の魔物の魔力が変質して感じられた。まるで別の魔物に力が変異したかのように。そしてそんな芸当が出来る魔物はオレの知る中で一人しかいなかった。

 

 

「……キリカ・イル」

 

 

 『複製』(コピー)の呪文を操る《イル》の一族の魔物。その呪文の異質さから疎まれ多くの者から避けられている。

 

 だがキリカ・イルの異質さはその中でも際立っていた。

 

《イル》の一族は『複製』(コピー)の術を身につけるために、他人の『色』(呪文)を取り込めるよう自身を【無】にするように調整をされる。

 

 だがキリカ・イルは特にそれが顕著で、表情や動作の機微はおろか()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 

 その影響かキリカ・イルは全ての物事において興味を持たず、彼女が動く時は『義務』が発生する時のみだった。

 

 友達も持たず、魔界において常に一人だった存在。そんな者が魔界の王を決める戦いでいきなり精力的に動き出すとは俄かには信じられなかった。

 

 

 だがそれも当然だとブラゴは思い直す。

 

 彼女の心の内は誰にも暴けない、外面・内面・その心にも彼女の『真意』は現れないのだから。

 

 

「フン、面白い」

 

 

 落ちこぼれ(ガッシュ・ベル)無気力女(キリカ・イル)、ことごとくイレギュラーが起こっている。だがその全てを打ち倒し、王となってみせる。

 

 ブラゴはそう再び決意し、悠然と歩き出す。

 

 その後ろ姿は、まさに王者の風格といえるものに変わりつつあった。

 

 

 

 

 

 なお、清麿が話した少女がそのキリカ・イルである事は、ブラゴはまだ知る由もない。





キリィちゃんの内面を多少でも読み取れるほもくんは最高の本の持ち主(パートナー)

勘違いは‥『加速』する!


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幕間 秋山勇太の憂鬱

皆様、毎回誤字報告ありがとうございます。

10話記念的なおまけパートになります。
1話でまとめようとしたらいつもの倍近くの文章量になりました・・・



 

 

 はい、おはようございまーす! 

 

 (ゴフレ)を鎧袖一触し、悠々と凱旋帰宅した大人気魔物キリィちゃんです。

 ん? チャートが一段落したから投稿がエタると思ったって? ノンノンノーン! まだまだ原作1巻を堪能した程度にすぎませんよ! むしろこれからが「金色のガッシュ!!」の本番とも言えるバトルとなる事でしょう! 

 だからガッシュの魔本が燃えない限りプレイ動画は投稿し続けるからよ……(視聴を)止めるんじゃねぇぞ……

 

 

 さてまずは前回のおさらい、ガッシュ達はきっとブラゴとの出会いを終えてズタボロ雑巾にされながらもこの戦いに参加する意思を固めた事だと思います。

 あやふやなのは実はそのシーン、直接は見れなかったんですよねぇ。

 ブラゴは最初から最後まで見せ場(チョコ)たっぷりな魔物だけあって『魔力感知Lv2』を初期から取得しています。その為、キリィちゃんが『気配遮断』を使っても傍まで近付けば速攻で見つかります。

 そして見つかったが最後、『魔物絶対倒すマン』である本の持ち主(パートナー)のシェリーが血眼になっておいかけてきます。その姿は落としたスマホから個人情報を全て暴き出すストーカーと同程度の狂気を感じますので、最低限ゾフィスの件が片付くまでは絶対に接点を持たないように気をつけましょう。(4敗)

 

 

 

 さて、おさらいも終えた事で今回の趣旨を説明したいと思います。

 最初に言っておきますと今パートはいわゆる蛇足回になります。「さっさと本編の続き見せろよ」って方は投稿者説明文にある次パートのリンクから進んでくださいね~。

 

 え? まだ次パートが投稿されてない? 

 今までのパート10周くらいしてれば、その間に投稿されてんちゃう? (適当)

 

 

 という訳でコチラ! 『モチノキ町立 総合病院』からお届けしたいと思います。 ちなみにほもくんは今回お休みで自宅待機です! 

 さて、皆さんは何故病院なのかと疑問に思った事でしょう。別にキリィちゃんが怪我や病気をしたとかではありません。

 

 今回の目的は2つあります。

 まず1つ目ですが【清麿の怪我の調査】これはチャート進行によってブラゴ戦での清麿の怪我の度合いが変化するので、退院の時期を知る為です。原作ルートだと4日目には退院出来るのですが、全治一ヶ月の場合や全治半年の場合もパターンによってはあり得るのです。なお全治半年までいったら原作展開なんて欠片も残りません。(2敗)

 ですが、退院遅延の一番の要因である(ゴフレ)は事前にキリィちゃんが排除しておいたので、原作チャートを見事に突き進んでいる事でしょう。ブラゴとの戦いが昨日なので、全治3日間の診断が下されている筈です。その確認を行いましょうね~。

 

 そして2つ目、今回最大の目的が【キャラの好感度稼ぎ】です。好感度を稼ぐメリットは、今は蛇足になるので説明はまたの機会に。

 ただ好感度には多大なメリットがありますが、()()()()()()()()()()()()キリィちゃんはガッシュ・清麿の好感度は最低値でしょうし稼げません。

 好感度はマスクデータなので見れませんが、あんなムーブやって好感度あがるドMなんている訳がないですからね! (自信満々)

 

 そんな訳で主人公組で稼げない好感度を、他キャラで補おうという魂胆です。(狡い)

 狙うのは清麿と同室にて骨折入院している少年『秋山 勇太』君。ほら、ショタっ子だぞ喜べよ。

 彼は傷の治りが遅い体質をもち、半年以上という当初の予定の倍近い入院生活を送る事で若干性格が捻くれてしまった子です。病院での食事も食べずお菓子でごまかす日々。不健康ですねぇ、ピザるぞ。(暴言)

 余談ですが好感度稼ぎは今回のような魔物同士の戦いの合間の空白期間に必ず行いましょう。時期をミスると魔物同士の戦いに巻き込んでしまい、某運命の物語の筋肉青達磨のごとくナオミちゃんが現れ、誰も得しない結果になります。(10敗)

 

 という訳でこのタイミングでの突撃になりました。ですが今回は同室に清麿、見舞いにガッシュが病院内をうろつくというかなりヘビーな閉鎖空間です。勇太君の好感度稼ぎはRTAの如く素早く、攻略動画の様に無駄なく進めなければなりません。

 

 

 そこで、み な さ ま の た め に ぃ ~ 。

 

 

 

 今回の攻略チャートを事前に公開したいと思います。我が慧眼に震えるがいいさ。(慢心)

 

 チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

 チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

 チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

 チャート4→勇太君を励ましてあげる

 チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる(完了)

 

 以上、5ステップで完了です。勝ったな、田んぼの様子見に行ってくる。(1敗)

 では皆様は、今言ったチャートを頭に残しつつ私の完璧なムーブをご覧下さい! 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 はい、やってきました。清麿と勇太君のいる病室です。

 今は午前の面会時間直後です。もう少しするとガッシュと清麿のお母様である華さんがやってきてしまうので確認だけさっさと終わらせましょう。

 ちなみにキリィちゃんは絶賛『気配遮断』発動中なので医師や看護師の人にも気付かれません。抜き足差し足忍び足~っとね。

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………アレ? 

 

 清麿がいる筈のベッドが空ですね。しかも誰も使って無いかのようにシーツが綺麗に折り畳まれて端に置いてありますね。あれれぇ~、おかしぃぞぉ?? (混乱)

 

 

「なぁ、アンタ……何やってるんだ?」

 

 

 え、誰? ……あっ、あまりの驚きに『気配遮断』を押していたボタンから手を離しちゃってました。

 つまり今キリィちゃんは誰もいないベッドを見つめ続けている状態です。

 やばい、絵になる! 違う、変に見られる! 咄嗟に病室を出て『気配遮断』を再び発動します。

 

 落ち着いたら病室の扉に貼ってある入院患者のパネルを見ます。(最初に見ろ)

 やっぱり高嶺清麿の名前がないですね、念のため他の病室を一通り見ましたが見つからず。謎は深まる限りです。

 

 一応、ブラゴ戦では清麿が入院しないチャートもありますが【清麿・ガッシュの好感度が最高値】【ガッシュが覚醒(戦う意思を強く持っている)状態】という医者がサジを投げる条件となっています。今は関係ない話ですね。

 もしかしたら入院時期がズレたか、翌日退院でもう病院を出る準備中なのでしょう。きっとそうに違いない。

 

 

 まぁ清麿の様子はついでついで、重要なのは勇太君の好感度です。

 チャートを円滑に進めるため屋上へスタンバイに行きましょう。もう昼過ぎですからガッシュとバッタリ出会わないように注意して看護師さんの脇を────

 

 

「そういえば、あなたの担当の秋山勇太君。よかったわねぇ、ちゃんと食事を摂るようになったんでしょう?」

「えぇ、今までは頑として拒否してたのにあっさりと。何だか拍子抜けしちゃったわ」

 

 

 

 チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

 チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

 チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

 チャート4→勇太君を励ましてあげる

 チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる

 

 

 

 

 Why(なぜ)? 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 気を取り直してチャートを続けましょう。ガバなんてなかった、いいね? (威圧)

 場所は屋上、ここで勇太君はよく考え事をします(ぼっちになります)。自分だけのパーソナルスペースに佇んでいる美少女、気にならない筈がないよなぁ! 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………暑い

 

 勇太君を待ってるのはいいですけど、地味に暑いですね。キリィちゃんの体力がジリジリ減ってる。季節は初夏を過ぎ本番が近付いています。そんな最中、排熱機うごめく屋上にいるってどんな拷問やねん! 

 という訳でここは気を紛らわす為に空を見上げて叫びましょう。

 

 

 私たちは元気で────す!! 

 

 

 おぉ、地上で動く人達がぞんぞんしてきた。(にわか)

 まぁ気分だけで、実際キリィちゃんは叫んでないし動いてないし顔を見上げてるだけなんですけどね。

 

 ムッ、後ろに気配。貴様、見ているなッ!! 

 やっと来ましたね。目的の秋山勇太くんです。車椅子に座ってますけど熱されないそれ? 

 

 

「暑い……」

 

 

 ────あー、やっぱそうだよね。わかるわかる。キリィちゃんもHPガンガン減らされてたからね。一緒、一緒。

 …………ん? 何、急に瞳潤ませてるの? 

 

 

「ごめん、何か嬉しくってさ。ありがとな、励ましてくれて」

 

 

 情緒不安定かな? (失礼)

 ────っていうか励ました? 

 

 

 

 チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

 チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

 チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

 チャート4→勇太君を励ましてあげる

 チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる

 

 

 

 When(いつ)? 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 はい、キリィちゃんです。

 あれから訳のわからないまま勇太君は立ち去ってしまったので、仕切り直しの為に翌日再トライしに来ました。まぁ今日もまず1階の病室から見て回りま────

 

 

「はぁ、何でわざわざ学校休んで病院に来ないといけないんだよ」

 

「何を言うか、清麿! そもそもお主が怪我を華殿に黙っていたのが悪いのではないか」

 

「腹の青痣だけだろ、内出血や打撲の処理もしてるし後は放っておけばいいんだよ」

 

 

 ま゛─────────────!!!!! 

 

 やばいやばい、清麿です。入院手続きにきてますよ! (会話の内容聞いてない)

 ここで見つかったら「テメェ何してんだ本燃やさせろ」と絡まれる事間違いありません。急いで病院の奥へ逃げましょう。入り口に彼等がいるので外に出る事は出来ません。

 

 原作での清麿の病室は一番上の6階の病室でした。もし入院ならばそこまで来るに違いありません! 

 彼等と絶対に出会わないようにするにはその更に上、屋上しかありません! ダッシュでそこに向かいます。キリィちゃんの体力ならなんてことない距離ですが、焦りでうまく呼吸が出来ず、息が上がってしまっています。

 

 ですが何とか屋上の扉まで見つからずに辿り付けました。屋上の更に見つかりにくい場所で息を潜めることにしましょう。

 では、扉をあけて屋上へ────

 

 

 [勇太]<ハァイ、ジョージィ……

 

 

 ────勇太君がいました。バッチリ目と目が会っています。

 別に好きだと気付いたりはしません。好感度タンクとしてしか見てないので(外道)

 ですがここはいいタイミングです。ガッシュ達が徘徊(ぞんぞん)している危険な病院内を動かず好感度稼ぎが出来ますからね。では早速チャート通り自己紹介から

 

 

「……なぁ、少し話を聞いてくれるか?」

 

 

 ───フフ、話を聞いてくれません。

 まぁしょうがないですね、「だが断る」って言ったら好感度フラグごと断たれてしまいそうなので聞いてあげましょう。

 

 

「オレの足、本当に治るかな? ……オレより後に入ってきた患者がどんどん退院してって、オレだけが……いつもいつもオレだけが残されるんだぞ!」

 

 

 あー、これはSAN値下がってますね。昨日ぞんぞんしたのが原因かな? 

 好感度を下げる訳にはいかないので、ここは当たり障りの無い受け答えをすればいいですね。

 

 

「……ありがとうな。オマエと出会えてよかったよ」

 

 

 よし、これで好感度は逆に上がったな。お互い打ち解けてきたようだし────

 

 

 

 チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

 チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

 チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

 チャート4→勇太君を励ましてあげる

 チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる

 

 

 

 Where(チャートどこ)? 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 勇太君の好感度上昇は順調です。(暗示)

 そろそろ清麿の入院手続きも終わってる筈なので、確認の為に病室へ行きましょう。

 ガッシュ君の位置は『魔力感知』で索敵中なので出会う事はありません。ただ『気配遮断』と同時使用は出来ないので清麿と曲がり角でごっつんこは気をつけましょう。購買に食パンも売ってましたのでフラグ管理もバッチリです。(ありがた迷惑)

 

 

「そこのあなた、少しいいかしら?」

 

 

 今策敵しながら移動してるから一杯一杯なんだよ(半ギレ)

 振り返ると見覚えの無い一人の女性がいました。こんなキャラいたかな? 

 

 

「私、秋山勇太の母親です。息子から聞いたの、可愛い女の子がいるって」

 

 

 なんだ、聖母か。(手のひらウィガル)

 補足しますと勇太君のお母さんは『勇太君の好感度が最高値になると確率で出現』するレアキャラです。勇太君の好感度を上げるとこの病院に来る事はほぼないですし、確率も低い為私も初めて見ました。綺麗なお母さんをお持ちなんですねぇ勇太君。

 ……って、アレ? 

 

 

「勇太と友達になってくれて本当にありがとう。お陰であの子、見違える位元気になって」

 

 

 チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

 チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

 チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

 チャート4→勇太君を励ましてあげる

 チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる

 

 

 

 What(何で)? 

 

 

 

「あ、お母さん!」

 

「あら、勇太。何処へ行ってたの? 病室にいないから心配したわよ」

 

「う……うん、ごめん」

 

「ところで勇太。この子でしょう? あなたが言ってた女の子って」

 

「! ありがとうお母さん」

 

 

 

「……じゃあ先に病室に戻ってるわね。フフフ」

 

 

「あのさ、色々ありがとう。オレ、“一生治らないかも”なんて思ったりもしたけどもう大丈夫だ。アンタのおかげだよ。……それでよかったら、名前を教えて欲しいんだ」

 

 

 

 Who(誰こいつ)? 

 

 

 こんな前向きな勇太君、知らない! もう本当に────

 

 

 

チャート1→自己紹介でお互いの事を知る

チャート2→友達になる事で、警戒心を解く

チャート3→勇太君が抱える悩みを聞いて、打ち解ける

チャート4→勇太君を励ましてあげる

チャート5→勇太君が食事をちゃんと摂るようになる

 

 

 

 

 How(どうしてこうなった)? 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────また一人、同じ部屋の子供が退院した。

 

 数ヶ月前に入った女の子だ、原因は骨折。オレと同じだ。

 

 それなのにあの子はオレより遅く入院して、オレより早く退院した。誰もいなくなったベッドを見つめながらこう考えるのは何度目だろうか。

 

 ────────何で、何でオレだけが。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 翌日、ふと隣に気配を感じて目を覚ました。今、隣のベッドには誰もいない筈なのに。

 

 そう思ったオレがそっちに視線を移すと、そこには一人の女の子がいた。年齢はオレより少し下だと思う。

 

 オレはその少女から目を離す事が出来なかった。

 

 この病院には美人看護婦が多い、そう入院中のオッサン達から言われた事がある。オレもあの人達は美人だし、少し近付いちゃいけない様な大人な雰囲気を持っているように感じた。おかげでオレは美人というものに耐性があると思っていた。

 

 だけど、あの女の子の前では無力だった。本当に綺麗だ。可愛いと思う。

 

 その子は昨日まで入院していた女子のベッドを見つめている。

 

 

(「もしかして、退院した子の友達で退院を知らされてなかったのか?」)

 

 

 なんて薄情な奴なんだろうと苛立つ。

 

 その子は困惑しているかのように呆然とベッドを見つめているので、たまらず声をかける。

 

 

「なぁ、アンタ……何やってるんだ?」

 

 

 ハッと気付いたかのように少女が覚醒し、目にも止まらぬ速度で病室を出て行く。あまりにも無駄の無い動きにオレはその子を見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 以前見たドラマで「人は人を好きになると何も手につかなくなる」と言っていた。

 

 

 ────それは嘘だった。

 

 オレは彼女の事を考えていた。あの時の事を何度も思い返していると、気付けば目の前には空になった昼食があった。

 

 どうやら考え事をしている内に自然と空腹で食べていたらしい。いつも食事を拒否していたが、今はそんな事に気をまわす事すら面倒だった。

 

 そして食事を摂って上機嫌になっていた看護師さんに、昨日退院した女の子の事を聞く。何かわかれば、それをきっかけに話が出来ると思ったからだ。ここまで精力的に動くなんていつぶりだろうか。

 

 

「あぁ、その子なら退院してすぐ遠くの実家に引っ越すんですって。学校も転校手続きは済んでいたって話よ」

 

 

 ────こんな事、話せる訳ない。

 

 友達を思って見舞いに来たら既に遠くにいなくなっていた、あまりにもひど過ぎる。

 

 苛立った気持ちを抑えながら、気分転換へと屋上に足を運んだ。自由に動ける範囲で唯一屋外が見える場所。オレ以外にはほとんど人がいない秘密の場所だ。

 

 

 そこに…………その子がいた。

 

 

 空を見上げ、遠くを見つめる女の子。退院した子の事を思っているのだろうか。その顔は苦々しげに見える。

 

 オレがその姿に見惚れていると、その子が気が付き振り返る。

 

 

「何?」

 

 

 その子の邪魔をしたように感じ焦る。色々と話したい事がある筈なのに言葉が出ない。

 

 

()()()……」

 

 

 謝罪とも言い訳とも取れない言葉が口から出た。オレは何を言っているんだ。

 

 だがその子は優しい目でオレに微笑みかけ言った。

 

 

「一緒。私も、同じ」

 

 

 その子の言葉にオレは驚き、その意味を理解すると視界が滲み始めた。

 

 その子は友達に置いていかれ一人ぼっちで屋上にいた。退院した友達を見送り空から無事を祈るしかできなかった。

 

()()()()()()

 

 抑えていた感情が溢れ出す。悔しい、妬ましい、羨ましい……! 

 

 他人にはわかってもらえない汚い感情を、目の前の子は理解し一緒だと言ってくれた。その嬉しさはとても言葉には表せない! 

 

 

「大丈夫?」

 

「ごめん、何か嬉しくってさ。ありがとな、励ましてくれて」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 翌日、オレはまた屋上にいた。

 

 目に浮かぶ涙を必死で堪えている。原因は今朝、また一人同室の子供が退院し祝福され病院を出て行ったからだ。

 

 一緒にその子供を見送ったが、居た堪れなくなったオレは途中で抜け屋上へと逃げた。

 

 自分の弱さが嫌になる。これじゃあ昨日励ましてくれた子も軽蔑して……

 

 

「!」屋上の扉が勢いよく開かれる。

 

 

 そこには息を切らせてこちらを見る、昨日の女の子の姿があった。

 

 お互い無言で見つめあう、呼吸を整えているその子はよっぽど急いで此処に来た様だ。

 

 何でこんな何もない所に? そこまで考えて思いついた。

 

 

(「! まさか、オレの様子を見て心配してここへ?!」)

 

 

 どこまで心優しい女の子なんだろう。彼女の優しさはオレの苛立った心をいつでも癒してくれる。

 

 昨日だってあれから見舞いに来たお母さんに女の子の事を話した。知らず知らず流暢になり、普段の3倍は喋っていたと思う。

 

 

「……なぁ、少し話を聞いてくれるか?」

 

 

 口を開く。オレは今まで、こんな話をした事が無かった。どうせ口だけの優しい言葉を言われるだろうと思ったからだ。でも、この子ならと思い。オレは言葉を続けた────

 

 

「オレの足、本当に治るかな? ……オレより後に入ってきた患者がどんどん退院してって、オレだけが……いつもいつもオレだけが残されるんだぞ!」

 

 

 今まで泥のように心の奥で眠っていた想いが出てくる、言った後で少し後悔した。嫌われたかもしれない、恐がられたかもしれない、離れていくかもしれない……

 

 

「大丈夫、治る」

 

 

 何の根拠も理屈もない簡単な言葉。

 

 だけどオレの心には何よりも欲しかった言葉に感じた。何故ならその言葉は『絶対に間違いない』と確信を持って言ってくれた言葉だとわかったから。

 

 

「……ありがとうな。オマエと出会えてよかったよ」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 屋上で気分を落ち着けた後、病室へ戻ろうとしたらお母さんがいた。

 

 見送りの最中、急に抜けたから心配をかけちゃったみたいだ。素直に謝る。

 

 

「ところで勇太。この子でしょう? あなたが言ってた女の子って」

 

 

 ! 屋上であったあの子がいた。気分が落ち着いたらまた話をしたいって思ってたから本当に嬉しい。オレはお母さんにお礼を言った。

 

 

(「勇太。あなた、この子の名前もちゃんと聞いてないでしょう? ダメよ、そこはちゃんとしないと」)

 

(「……あっ」)

 

 

 お母さんに言われて初めてその事に気が付いた。今までは、色々な事を気にしてたから気付かなかった。

 

 

「じゃあ先に病室に戻ってるわね。フフフ。(表情に乏しい子ほど、その心の中では色々考えちゃうものよ。頑張りなさいね♡)」

 

 

 お母さんはありがたいのかよくわからないアドバイスをこっそり教えてくれた後、いなくなった。

 

 まぁいいや。オレの言う事は変わらない。ここからが始まりだ。

 

 

「あのさ、色々ありがとう。オレ、“一生治らないかも”なんて思ったりもしたけどもう大丈夫だ。アンタのおかげだよ。……それでよかったら、名前を教えて欲しいんだ」

 

 





※この作品での5W1Hの使用法は適当(フィーリング)で文法的に正しいものではありません。誤った運用をしないようご注意下さい。


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激闘!魔物編
10.vsスギナ


皆様誤字報告ありがとうございます、この報告や感想が筆者のやる気の源になっています。


次話のタイトル的にどうしても前半・後半に分けたかったので若干短めです。ご了承下さい。




 

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 

 はい、おはようございまーす! 

 開幕レベルアップを果たした大人気魔物キリィちゃんです。

 

 え、レベルなんて今まで何の話もされてないから意味がわからないって?

 えぇ勿論承知しております、走者は本作未プレイの方々もウェルカムなスタイルの動画投稿主なので「どうやったら子供って出来るの?」と聞く幼子に諭すが如くご説明致しますとも! 

 

 まず本作にはレベルの概念があります。といっても別に能力値はレベルでは変化しません。能力値は修行や戦闘経験により変化します。

 では、レベルにより何が変わるかというと────

 

 

「キリィ、大変だ! 呪文の読めるページが増えてるんだ!!」

 

 

 はい、キリィちゃんの自室に突撃してきたほもくんが答えを言ってくれましたね。レベルは『使用可能な呪文数』に関係してます。なので1レベル上がるだけでもすごい事で、その重要度はダ○まち位の高さです。

 

 待望となるキリィちゃん第二の呪文ですが、今パートはレベルについての説明回なのでスルーです。

 この新呪文ですが、原作のように【魔物が自身に眠る“何か”への気付き】では増えたりしません。もしそうなら攻略wikiみてれば勝手に呪文が増えていく珍事が起こります。悲しいけれどこれ、ゲームなのよね。

 

 という訳で、それが視覚化されたものが【レベル】と【経験値】という訳ですね。

【経験値】を稼げば【レベル】が上がる。自明の理です。そして経験値の稼ぎ方は『魔物との戦闘』『修行』でもあがりますが微々たるものです。【戦闘獲得経験値5倍】の固有スキルを持つバリーや【修行獲得経験値10倍】のチート固有スキルを持つデュフォーが仲間にいない限り、当てに出来ません。

 

 一番の経験値稼ぎはそう……『好感度の上昇』です! 

『魔物』『本の持ち主(パートナー)』『原作登場の名前付キャラ』にはそれぞれ好感度が設定してあり、彼らの好感度上昇時に経験値が入ります。因みに最高値を更新した時だけですので、上げて下げてを繰返しても無意味です。

 実際に私自身も試してみました。目のハイライトがイベント毎についたり消えたりするのを見て最初は笑っていましたが、検証を試みたティオが────

 

 

「私のそばにいてね ずっと、ずーっと一緒だよ」

 

「どこにも行かないで……あなたがいないと生きていけないんだから」

 

「私が消えちゃえばいいのかな? それであなたが喜んでくれるなら……」

 

「何で逃げるの? こんなに愛しているのに……」

 

「死んでも、ずっと傍にいるからね……」

 

 

 と様々なタイプのヤンデレを披露していき「あ、これヤバいやつや」と思った時には既に手遅れ(Nice boat)でした。いい思い出です。(トラウマ)

 

 話が逸れてしまいましたが、前回のおまけパートで好感度を稼いだ恩恵でレベルが上がってくれたようです。試走では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったのですが、戦闘による経験値が想像以上に多かったようです。嬉しい誤算ですね。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、皆様へのご説明も一段落した事で、そろそろお店で例えると常連として扱われそうな回数やってきているモチノキ町から本日もお届けします。

 

 今日は日曜日、町民の人達も今日は穏やかに日々を過ごしています。

 

 キリィちゃんもほもくんに遊びに行こうと言われ軽いショッピングの後、とある喫茶店で休んでいます。お洒落な喫茶店、陽射しの当たらないテラス席で優雅にお茶をする美少女。うーん、実に絵になります。

 ちなみにキリィちゃんの今日のファッションはいわゆる『森ガール』、ワンピースとカーディガンを合わせベレー帽を被ったものになります。ちょっと古くない? と一瞬思いましたが発売当時は2008年。丁度流行の最先端だったのでしょう。時代を感じます。

 

 

「キリィ、飲み物は何がいい?」

 

「ミルク、もらう」

 

「フフッ、今日は機嫌がいいみたいだね。今日の服もすごく似合ってるよ」

 

「うん、ありがと」

 

 

 ミルクでも貰おうか。こっそり入れる名台詞に走者も満足です。

 ケーキにホットミルクをチョイスしたキリィちゃんは視線をほもくんの奥に向けます。その喫茶店向かいには『モチノキ町立 植物園』の入り口があります。

 

 

「清麿ー! 見えたのだ、あれが“しょくぶつえん”というモノなのか?!」

 

「天下の往来で大声で叫ぶな! もう入るんだから、中では静かにしてろよ」

 

 

 そう、本日は原作において植物を操る魔物『スギナ』とガッシュの戦いがあそこで行われます。それを見越してこの喫茶店を見つけ、さりげなーくほもくんを誘導したんですね。背を向けてメニューに夢中なほもくんはまだ気付いていないので、い~いタイミングになったら教えて植物園前待機出来る様にしましょう。

 

 ちなみにスギナは本の持ち主(パートナー)『春彦』と植物園へ深夜に忍び込み、日夜呪文の練習をしていました。その意気やよしですが攻撃のマトに他の樹木を傷つけたり、練習と称して一般人に対して呪文を使い痛めつけるという外道の手本のようなムーブを行います。

 

 

 

 

 ……え? 細川と同じくそのムーブをキリィちゃんがするのかって? 

 やろうと思えば可能です。毎晩植物園で心の力を使い果たすまで練習している奴等に襲い掛かれば楽勝で呪文を複製(コピー)出来るでしょう。

 ですが今回、それはしません。というか出来ません。

 

 ここで先程話した『好感度』に戻るのですが、春彦のムーブは『意図的に一般人を害する』事を『清麿達の目の前』でやります。これは原作でこいつ等しかせず、清麿激おこ要素のダブル役満です。

 他の魔物は『害そうとしたけど未遂』『攻撃に巻き込んでしまっただけ』『たまたま邪魔だった』という情状酌量の余地が、シャボン玉の膜程度ですがあります。

 

 なのでもし春彦ムーブをキリィちゃんが行った場合、ほもくんの『好感度』が修復不可能な所にまで落ち込みます。【混沌・悪】の本の持ち主(パートナー)でもない限りSAN値がやばい事になるので【中庸・善】のほもくんには耐えられません。というか絶えます。

 具体的にいうと、このタイトルが『がっしゅぐらし!』になり元就くんは『もとな・りーさん』へと暗黒進化を行う位の惨事です。(1敗)

 

 めぐねえの如く人畜無害なキリィちゃんにそのムーブはアウツ!です。(お前はゴリラ(くるみ)だろ)

【brave heart】の流れない進化なんて認めませんからね!(無印厨の鑑)

 よってまだ春彦には手を出していません。奴は外道の塊ですが、その戦闘はガッシュの成長に多大な影響を与えますので、原作チャートを進める為には事前排除は不可能です。今回のチャートは介入タイムの調節が非情にシビアですが、その分やり甲斐もあります。絶対に成功させてみましょう。(再走はしないスタイル)

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 ほもくんとのお茶を楽しみ、植物園のロビーで準備しつつ待機していると、事態が動き出しました。

 強い魔力を感じます。呪文を使い一般人へ襲い掛かったという事でしょう、すぐに中に入ると共に【気配遮断&隠密】をほもくんと発動します。

 スギナは『気配感知:植物』を持っており、魔物だけでなく一般人の位置も知覚出来ますが、精度は低く植物を通して探るので戦闘中は使えません。ほもくんの【隠密】でも戦闘を離れて伺う程度なら問題ないでしょう。

 

 

「元就。お願い」

 

「わかった。《ピルク・ドルク》!」

 

 

 複製(コピー)していた(ゴフレ)の強化呪文をキリィちゃんにかけます。

 全身を石の鎧が覆っていきます。四足歩行の(ゴフレ)が使った時は岩の恐竜を思わせるかのようなデザインでしたが、人型のキリィちゃんにかけるとゴーレムみたいな見た目になりました。

 ん~、これはアーマー進化かな? それともスピリットエヴォリューションというべきか(日曜朝9時脳)

 でもどちらかというと、特撮の雑魚敵っぽく見えてしまうんですよね。別に禁断の果実をもぎとったり、メダルが核になってたり、周囲がどんよりしたりはしませんが。

 

 

 この姿はある種の保険です。全身を石の鎧で覆ったこの状態でキリィちゃんだと判断する事は不可能です。ガッシュや清麿に見つかったとしても、これでごまかせる訳ですね。あったまいぃ♪ 

 

 

「……! 《ザケル》!」

 

 

 おっ。木の根っこに巻きつかれ上空に吊られていた一人が、電撃により根を焼かれ解放されましたね。あの方向から見える丘の辺りに……いました、スギナの本の持ち主(パートナー)春彦です。

 

 清麿は解放された知り合い『木山つくし』を背負い、作戦会議のため激しい怒りを抑え抗議するガッシュを掴みつつ一旦は退却する筈ですが……よし! 原作通り進んでいますね。

 

 

 さーて、戦闘開始といきますか! 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────「《ザケル》!!こい、ガッシュ!」

 

 

 ガッシュから放たれる電撃が、空中に捕えられたつくしを木の根っこから解放する。そのまま俺はつくしを背負い、ガッシュの首根っこを掴みながら相手から逃げ出す。

 

 

「清麿?!離せ。離すのだ、掴まれていなくともわかっておる!!」

 

 

 ガッシュから抗議の声があがるが離す余裕なんてない。俺は沸きあがる憤怒を抑えるのに必死だった。

 

 

 ……………………

 

 

 

 植物園の入り口のロビーにやってきた。ここは入り口に近いし植物もここまでは生えていない。

 

 奥にあった待合室に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、そこにつくしを寝かせた。他の救助者も助け次第、此処に運んでくれば安全だろう。

 

 そこまで確認した俺は、ガッシュに向き直る。

 

 

 「ガッシュ、よく聞け。今回の相手は一筋縄では行かない。戦闘力がわからない上に、植物を操る敵と植物園で戦うのは圧倒的に不利だ」

 

 「ウヌ!だが清麿、我々は決して負ける訳にはいかぬ。その為にこうして一度引いてつくしを安全な場所へ運び、奴等を倒しにいくのであろう?」

 

 

 ガッシュが決意を込めた顔でこちらの意図を読み取ってくる。てっきり俺の行動に抗議し何のつもりなのかと聞いてくると思っていたが、先日のブラゴとの戦いでガッシュもこの魔界の王を決める戦いにおける覚悟が決まっていたようだ。

 

 

 「その通りだ。俺達は絶対に負けてはいけない、絶対に奴等を許しちゃいけないんだ!」

 

 「ウヌ。なぜ魔界の王を決める等というバカな戦いに、なんの関係もない者達が傷つかねばならぬ!」

 

 「あぁ、だからこそガッシュ。お前が守るんだ。お前の友達である『あの女の子』と同じ様に、他人を傷つけても何とも思わないクソ野郎共から守り抜くんだ!」

 

 「ウヌ!!」

 

 

 ガッシュには『守る心』を求めるつもりだった。この戦いで巻き添えになった人達全員を助け出す為。

 

 だが、そんなものは俺が言うまでもない事だったらしい。

 

 

 「今からガッシュに求めたい事は1つだけだ。今から言う事をよく聞いてくれ」

 

 




筆者は進化するなら『Believer』をかけながら進化したいです。


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11.第二の呪文

スギナ戦後半です。
最近、UAやお気に入り数を見て一喜一憂している自分がいます。
評価・感想・誤字報告を頂いている皆様に改めて感謝を。




 

 ────植物に散々行った呪文トレーニング。

 

 今日は“動く標的”相手の練習だ。この植物園に来ている奴等は格好の練習台となる。

 

 まさかその中にスギナと同じ魔物が紛れてるとは思わなかった。だがこれまでの練習を活かすいい機会だ。既に魔物との戦闘を経験している俺に隙はない。

 

 一度は逃げ出したが、スギナが言うには機会を伺っているだけらしい。迎え撃ってくるなら好都合だ。

 

 植物園で木々を操るオレに負けは無い。どこからでもかかってきやがれ! 

 

 

「来たぞ、春彦」

 

 

「あぁ! 正面だな、《ジュロン》」

 

 

 植物の根を鞭の様に操り敵に襲い掛かる。地面から突如現れる攻撃を防ぐ事は至難の業だ。

 

 だがそいつには……その攻撃は通じなかった。

 

 

「な、何だアレは?!」

 

 

 正面から飛び出してきたのは石の怪物だった。全身が岩で覆われまるで鎧のようになっている。

 そいつは根の鞭を全て弾き、巻きついた根も無理矢理引きちぎり向かってくる。

 

 

「チッ、あいつ等『強化呪文まで使えた』のかよ!?」

 

 

 さっきと同じく電撃を口から出してくる攻撃だとばかり思っていた俺は、不意を突かれたと内心舌打ちする。

 

 

()()()()()()()んだがしょうがねえな、《ジュロン》!」

 

 

 先程までのような力を抑えたものではない、心の力をしっかりと込めた呪文だ。根っこが先程までとは段違いのスピードで奴の両手足を絡めとり動きを止めた。

 

 

「ヘッ、手間とらせやがって。だがこれでチェックだな」

 

「《ピルク・ドルセン》!」

 

「……! ぐほぁぅ!!」

 

 

 油断した。そう思ったのは、奴の肩から放たれた石の砲弾が俺の腹部を貫いた衝撃と共にであった。俺は激しく木に叩きつけられる。まだ体は動くが、胃液が逆流してくるような不快感が襲ってくる。

 

 

「春彦!」

 

「問題……ねぇ。そのまま呪文の発動を……止めるな」

 

「!!」

 

 

 スギナの動揺で拘束が弱まったのか、その石の化け物は力づくで抜け出そうとしていた。

 

 来る!! そう思い身構えた瞬間……化け物は踵を返して茂みの中へと戻っていった。

 

 

「……は?」

 

 

 一瞬何が起こったのか理解できず間の抜けた声が出る。こちらが押されているあの状況で引く意味がわからなかった。

 

 

「……! 春彦、後ろだ!!」

 

Set(セット)!! 《ザケル》!」

 

「何?!」

 

 

 正面の茂みへ消えたと思ったヤツが、いきなり本の持ち主(パートナー)と共に背後から現れ今度は電撃の呪文で攻撃してきた。

 

 咄嗟にスギナが俺を押し難を逃れるが、その間に奴等は再び姿を消す。

 

 

「クッ、これが奴等の戦術って訳かよ!」

 

「落ち着け、春彦。気が付かないのか」

 

「あぁ、何がだよ?!」

 

「“数と力”だ」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 はい、おはようございまーす! 

 

 漁夫の利狙いで戦闘に割り込み中の大人気魔物キリィちゃんです。悪質な横殴りもキリィちゃんなら許される、そう美少女ならね!(暴論)

 とりあえず植物園にいた善良な一般市民の皆様に対して、悪質な触手プレイを敢行していた春彦(ド変態)に一発かますことが出来て非常にスッキリしました。あの呪文は原作清麿の入院原因にもなったので、さぞかし痛かったでしょうねぇ。(ゲス顔)

 

 《ピルク・ドルク》で強化したことにより顔バレの危険はありませんが、ガッシュ君とバッティングしないよう彼等の攻撃に現れるタイミングは退避しながら春彦達の体力と心の力を削っていきますよ。

 出くわしたら絶対面倒な事になりますからね。私は面倒が嫌いなんだ(キリッ)

 

 ちなみに(ゴフレ)から拝借した《ドルク》ですが使ってみた所感を一言で申し上げますと……動きづれぇ。

 中の上くらいの敏捷値をキリィちゃんは持っていたらしく、通常戦闘では中々機敏に動けますが《ピルク・ドルク》で石の鎧を着るとその敏捷性はガタ落ちしてしまいます。素早く動けるのは四速歩行の特権やったんや……。

 あ、そういえば(ゴフレ)も《ドルク》を頻繁にかけなおして速度上げてたわ、強化呪文を何で連呼してたのか謎が一つ解けましたね。

 

 一応、パワーはあがっているので『魔力感知』でガッシュ君の居場所を気にしながら片手間感覚で戦闘を行う事は可能になりましたがそれだけです。全力を出したら多分、石の鎧の方が砕けます。

 これはキリィちゃんに強化呪文は相性悪そうですねぇ、ゼオンが身体強化呪文(ラウザルク)を一切原作で使わなかった理由が少しわかった気がします。

 

 

Set(セット)!! 《ザケル》!」

 

「チィッ! 《ジュロン》」

 

Set(セット)!! 《ザケル》!」

 

 

 よしよし、原作ムーブも順調みたいですね。

 今、清麿がやっているのは呪文の高速発動のためのコンビネーションです。急な攻撃にも対応出来るよう「Set(セット)」の掛け声と共に右手で指を差し、その方向にガッシュは即座に振り向く様にしたんですね。これを瞬時に考え付くとか天才中学生の肩書きは伊達じゃありませんよ。

 

 

Set(セット)!! 《ザケル》!」

 

「待ち……! グッ」

 

「春彦! うわっ」

 

「スギナ、大丈夫か!?」

 

「あぁ……大丈夫だ」

 

 

 原作ではガッシュは一般人を拘束する根へ向けて電撃を放ち、その直線軌道上に誘導されただけの春彦達には簡単に避けられダメージが一切入りません。

 ですが、今チャートでは最初のキリィちゃんの石柱攻撃(ドルセン)により春彦がダメージを受け、満足に避けられない状況です。スギナが時折、体を張って電撃を受け止めていますね。ヨイゾヨイゾ

 

 

 ……………………

 

 

「……俺が練習用に捕まえていた奴等が?!」

 

「既に全員解放した、お主は私が通さぬ!」

 

 

 無事、空中に捕えられた人全員が電撃(ザケル)により、解放されました。とはいえ野ざらしは危険なので、清麿が植物園の入り口まで運搬作業を行っています。

 原作ではこのまま清麿が戻るまで、ガッシュ君が彼等の足止め作業を行う筈なのですが走者の狙い目はここです! 

 

 

「テメェは邪魔だ。《ジュロン》!!」

 

「ヌ……ヌアア!?」

 

「ヘッ、『根の檻』だ。呪文の力なしじゃ出れねぇだろ。大人しくしてな!」

 

「待ッ、待つのだ! 清麿の所へは……」

 

「テメェとその本の持ち主(パートナー)は後で相手してやる。あばよっ!」

 

 

 よし、春彦が立ち去った。IFチャートに入りましたね! 

 これがこのゲームの特徴、条件により分岐する【IF展開】です。春彦は慢心が強く詰めが甘い性格ですが、非常に慎重な性格でもあります。

『この場にもう一人魔物がいる』と知った場合、同時に相手取ることはしません。

 つまり────

 

 

「オイ、石の魔物。出てきな。お前があの電撃野郎と持つ“力が違う”事は俺とスギナは気付いてるんだぜ」

 

 

 そう、ガッシュを拘束してのキリィちゃんとの一騎打ちです。

 清麿が戻ってくるまで、という時間制限はありますが『ガッシュペアの目に付かず』『ガッシュ達の成長を促し』『キリィちゃんがスギナを倒す』という条件を全て満たすのが、このもしも展開IFチャートになります。

 魔物2組相手にするとかアホなの? と思うかもしれませんが『逃げて植物園から出た後、襲われたら不利になるだけ』というある意味最もな理論を展開するので非難は出来ません。植物園という場所に縛られるのは相手も同じです。

 

 という訳でキリィちゃんが春彦達の前に姿を現します。ほもくんも合流して後ろに控えてもらいます。のこのこ姿を見せて《ジュロン》で捕われるとかいう展開はもうイヤです。(レイコム戦での戒め)

《ピルク・ドルク》は再度かけてもらってるので戦闘準備はバッチリです。

 

 

「さっきみたいな不意打ちはもう通用しねぇぞ。《バルジュロン》!」

 

「キリィ、あれは木の……魔物か?」

 

「木の、戦士」

 

 

 先程までの原作チャートでは使用しなかったゲームオリジナル呪文も、このIFチャートに入ると使い始めます。この新天地に足を踏み入れたような感覚、いいよね! 

 

《バルジュロン》は《木の戦士》と呼ばれる雑魚敵を生み出す呪文です。頭数が増えるのって地味に厄介なのよね。

 しかし所詮は取り巻き、ちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げを繰り返します。ほもくんも《木の戦士》相手だったら攻撃をいなす事が出来てますね。

 

 

「《ガンズ・ジュガロ》!」「《ピルク・ドルセン》!」

 

 

 地面から人間と同サイズの花が咲き種マシンガンを飛ばしてきますので、こちらも対抗します。戦闘をしてる、って感じがして楽しくなってきました。

 ですが時間制限があるのを忘れてはいけません。先程のガッシュ達とのやり取りで、ダメージを負っている二人に負荷をかけるように攻めますよ。

 

 

「《ガンズ……ぐっ!」

 

「! 今だキリィ。《ピルク・ドルク》!」

 

「これで、終わり」

 

「! ……ァハッ!!」

 

 

 腹のダメージで呪文発動が遅れた一瞬を狙い加速、スギナに正拳突きを叩き込みます。ガッシュの電撃を何度か受け、反射が鈍っていたスギナにかわす余裕はありませんでした。

 これで第三部、完ッ!! 

《ピルク・ドルク》を解除します。何と中から可憐な美少女が現れたではありませんか!(すっとぼけ)

 春彦の持つ緑色の魔本を手に取り、《ピルク》を唱えてもらいますよ~。ふぅ~、この時のために生きてるぜぇ~。

 

 さてさて、懐からライター(ほもくんの私物)を取り出して本を燃やし……

 

 

「! キリィ」

 

 

 え? ……って痛ったぁ!(迫真の小ダメージ演技)どうやらキリィちゃんが何かに殴られ吹き飛ばされた様です。

 振り返るとそこにいたのは全身ズタボロボンボンのスギナでした。(死語)

 その手には緑色の魔本が……って、アレ? キリィちゃんの手にあった敵の魔本は? あっ、魔本が春彦の手に戻って────

 

 

「ハハッ、油断大敵だぜ。《ジュロン》!」

 

 

 あっ、足に根が絡みついて……ってあ──────────!! 

 キリィちゃんがスカイハイ状態です。わかりやすく言うと空中に投げ飛ばされました。

 

 

「強化呪文を今から唱えても遅いぜ! 《ジュガロ》ォ!」

 

「キリィ!!」

 

 

 高所から落下するキリィちゃんに迫る一発の砲弾のような種子。すでにキリィちゃんの呪文はスギナと同じものに変わっており、彼の呪文は手を地面に触れていなければどれも発動出来ません。

 キリィちゃんは甘んじてこの攻撃を受け、戦闘不能になるしかないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────今までならばね。

 

 

 

 

 

「元就。【第二の呪文】」

 

「!? 第二の術《ピケル》!!」

 

 

 キリィちゃんは両手を合わせると何かを握りこむような動きをします。

 そしてバットの素振りをするように手を後ろに回し振りぬくと…………握りこんだ“手の中から現れた一本の木”により種子の砲弾は野球のように弾き飛ばされました。

 

 

「な……何ッ?!」

 

「ッ! ……破ッ!」

 

「ガハッ!」

 

 

 必殺の一撃が防がれ放心する春彦。その隙をつき、ほもくんの容赦ない一撃が春彦の意識を刈り取ります。

 地面に無事着地したキリィちゃんはスギナを取り押さえ、速攻で魔本を燃やしスギナを強制送還しました。

 今度こそ第三部完ですね。

 

 

 

 

 という訳で、これがキリィちゃんの習得した第二の呪文《ピケル》です。

 これは【複製(コピー)した魔物の呪文特性を、手から放てる呪文】です。電撃の魔物の呪文を複製(コピー)していれば手から電気が、氷の魔物の呪文を複製(コピー)していれば手から冷気を出す事が出来ます。

 今は木を操る呪文を使うスギナの呪文を複製(コピー)しているので、手から植物を出す事が出来たんですね。つまり複製(コピー)した呪文がなければこの呪文を唱えても何も出ませんし、複製(コピー)した心の力も僅かながら消費するのでいつかは撃てなくなります。うーん、使いやすいんだか使いづらいんだかわからないですね。

 

 

 ともあれこれでスギナ撃破完了です。

 後はほもくんに頼んで『最後の仕上げ』のムーブを手伝ってもらいましょう。

 

 

(かくかくしかじか)

 

 

「……ふぅん、それはいいねキリィ」

 

 

 ほもくんや、お主もワルよのぅ……

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ────「……ん、んぅ、痛っ!」

 

 俺は目を覚ます。いつの間にか気絶していたようだ。

 

 そうだ、俺は魔物と戦ってそれで…………負けたのか。

 

 俺の手に魔本はなく、相棒である筈のスギナもどこにもいなかった。あれだけ特訓したのに勝てなかった事への悔しさもあったが、俺はどこか晴れ晴れとした気持ちになった。

 

 俺は人生で「ひたむきに練習する」なんて事はそれまでした事がないし、する気もなかった。だがスギナと一緒ならそれが出来た。その上で負けた、不思議と悪い気がしなかった。

 

 そしてその練習を思い返し、それまで決して省みようとしなかった自身の行動の歪さに今更ながら思い至る。

 

 

「悪い事……しちまったかな」

 

 

 一生懸命という事をしなかった男の一生懸命は、自分以外の全てを無視したものだった。

 

 ひとまず植物園の人達に謝ろう、許されないかもしれないがそれが春彦の新しい第一歩と決めた行動だった。ところが────

 

 

「あ、ここにいたのだ。清麿!」

 

「よし、根の奇襲に注意しろガッシュ。覚悟しやがれ!」

 

 

 やってきたのは先程まで戦っていたもう一組の魔物だ。どうやらスギナが敗退した事に気付いていないらしい。

 

 

「おい、お前等。聞いてくれ、俺は……」

 

「何余裕かましてんだ。先手必勝だガッシュ! 《ザケル》!」

 

 

 プスッ

 

 

 そんな効果音が聞こえてきそうだった、ガキの口から出た電撃は火花といっていいレベルの小さいものだった。それを見て驚いている本の持ち主(パートナー)

 

 あぁそうか────

 

 

「お前は知らずに使っていたのか」

 

「な……何?!」

 

「この呪文を発動させる心の力は有限だ。何度も使えば当然空になるのさ」

 

 

 これぐらいは教えてやってもいいだろう。素人君へ向けた先輩のアドバイスってヤツさ。じゃあ俺はもうリタイヤしている事をこいつ等に告げて────

 

 

 

 不意に、俺の体に影が差す。何か大きなものが俺への日光を遮っている。これは…… 

 

 

「《ラージア・ジュガロ》?!」

 

 

 それは間違いなくスギナの持つ最強呪文《ラージア・ジュガロ》の花だった。5mに及ぶ巨体、その茎は樹木のように太く放たれる種子は必殺の威力を持つ。

 

 だが、何故だ?! スギナの魔本は燃え魔界に帰った筈────

 

 

「清麿、一緒にやるぞ! 一人で考えるな」

 

「そうよ、清麿。三人で力を合わせるのよ!」

 

「つくし……」

 

 

 ラージア・ジュガロの花を見上げていた俺は電撃の魔物の本の持ち主(パートナー)に視線を戻す。

 

 その傍には俺の練習台として捕えていた大学生の男女が本の持ち主(パートナー)に檄を飛ばしていた。それに伴い、アイツの魔本にも心の力の輝きが戻ってくる。

 

 オイ、ちょっと待て。もしかしてアイツ等────このラージア・ジュガロを『俺が呪文で出した』と思っているのか? 

 

 

「オ、オイ。ちょっと待っ────」

 

「よぉし、行くぞガッシュ!! この戦い、俺達が必ず勝つ!」

 

「おおおおおぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 

 ちょっと待て! だがラージア・ジュガロは俺の意思に反して止まらない。種子の弾丸をアイツ等に向けて乱射する。

 

 

「第二の術! 《ラシルド》ォオ!!!」

 

 

「ぐがああああああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 電撃を纏った状態で反射し返って来た種子の弾丸を受け、俺は再び気絶する。

 

 な、何故俺の呪文が勝手に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪は、滅びた」

 

「キリィを傷つけようとした罰だよ」

 

 

 そんな声が、聞こえたような気がした。

 

 

 

 ──────────────────【スギナ 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 




 春彦は敗退後も植物園に通ったりしている描写がありますので、キッチリ謝罪し改心した事でつくし達に許されてるのではないかと考えています。
 次回はガッシュの戦いの原点ともいえる、あの魔物の登場予定です。


《第二の呪文 ピケル》

効果:複製(コピー)した魔物の呪文性質を持つ放出呪文を手から出す

・呪文を複製(コピー)している状態でないと発動しない(この呪文自体に複製(コピー)する力はない)
複製(コピー)した呪文の心の力も消費するが、複製(コピー)呪文をそのまま唱えるよりも複製(コピー)した心の力の消費は少ない
・『キリカ・イルの呪文』として扱われる為、複製(コピー)元の魔物にも効果がある


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12.vsコルル(+α)

皆様、毎回誤字報告を頂き誠にありがとうございます。

先日、気付いたのですがブラゴの術「ギガノレイス」が完全版・千年前の魔物編以降では「ギガノ・レイス」になっていました。
他のギガノ級呪文にあわせたのかと思いますが、作者的にはゲームなどで慣れ親しんでいる「ギガノレイス」で今後も行こうと思います。




 

 

 ───私におねーちゃんが出来た。

 

()()()()にやってきた私を妹と言ってくれた、やさしいおねーちゃん。

 

 本当に嬉しかった。私には弟しかいなくて、ずっとこんなおねーちゃんが欲しかったから。

 

 おねーちゃんとこのまま一緒に過ごしたい、こんな生活を続けていたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────『魔界の王を決める戦い』なんて参加せずに。

 

 

 

「…………んぅ」

 

 私は目を覚ます、場所は町の外れに見つけた小さな原っぱ。少し寝ちゃったみたい。

 

 肌に感じるやわらかい草、心地よい風、微かに感じる花の匂いが私の心を癒す。

 

 

 

(いつ以来だろう……。こんな気持ちになれたのは)

 

 

 

 ついこの前までは、ずっと目の前が真っ暗でひとり泣いてばかりいた。

 

 そんな私を拾ってくれたおねーちゃん、それからは楽しい事ばかりで、もう悲しくも恐くもなかった。

 

 

(そうだ、お花で冠を作ったらおねーちゃん喜んでくれるかな?)

 

 

 そう思った私は立ち上がろうとして────

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 ────目の前に女の子がいた事に気が付いた。

 

 長い黒髪、私と同年齢くらいの女の子。そして何よりも、吸い込まれてしまいそうな真っ黒な瞳。

 …………私はこの子を知っている。

 

 

「キ……、キリカ」

 

 

 私と同じ学校に通っていた魔物の子、「キリカ・イル」だった。

 

 咄嗟に私は傍にあった自分の魔本をしまったバッグを手元に引き寄せ睨みあう。そしてお互いが何も喋らない静かな時間が続き、痺れを切らした私が問いかける。

 

 

「い、いつから……いたの?」

 

「寝ていた、時から」

 

 

 言葉のやり取りはそこで終わった。そういえばキリカは無口な子だったと思い出す。そして少し冷静になり、気になることに気付いた。

 

 

 

 ────何故、魔本を燃やされていないのか。

 

 バッグの中に入ってる事に気付いていない訳がない、もしも敵だったのなら私が寝ている間に事は終わっている。起きるまで待つ必要は無いし、嘘もついていないように思える。

 それに────

 

 

「コルル」

 

 

 愛おしさを隠し切れないような、あんなに優しい顔をしたキリカを……私は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 世 に コ ル ル の あ ら ん こ と を

 

 

 

 

 

 はーい、おっはよー♡

 みんなのアイドル! 大人気魔物、キリィちゃんだよー♡

 今回のゲストさんはこちら、皆様の大天使『コルル』ちゃんでーす。

 

 

 

 ……あかん、コルルのコメで画面が見えなくなる未来しか見えん。

 

 はい、コルルコールをしているだろう豚共(失礼)に困惑している初見さんの方に説明致しますと、コルルちゃんは争いを嫌い魔界の王を決める戦いにも参加しない心優しい子です。

 彼女はルート問わず常に聖人の如き振る舞いを見せ、その優しさで他の魔物や本の持ち主(パートナー)・ついでに走者達のSAN値を癒してくれる空気清浄機(プラズマクラスター)となってくれます。

 

 性能面的にも固有スキル『やさしい心』を持ち、その場にいる全員のSAN値と好感度を上げてくれます。彼女が生き残るIFストーリーは()()()()初心者さんにも優しい仕様となっておりますので周回引継ぎプレイをするならここからどうぞ。

 また彼女の優しさに触れたゼオンが「母上……」と泣きながらコルルに膝枕され、ガッシュと和解するシーンは何人ものプレイヤーが尊さにより昇天し、当時話題になりました。

 

 

 まぁ悲しいけどこれ、原作ルートなのよね(無慈悲)

 

 

 ですが原作通りの退場をするまではまだ時間があります。その間キリィちゃんとイチャイチャする事で好感度の大量獲得を狙います。好感度は大事、ハッキリわかんだね。

 

 

 ちなみに彼女は専用攻略wikiサイトが作られる程の人気っぷりで、『コルル教団』なる有志により作成されています。入団条件は「コルルを心の底から敬愛する事」で、彼女の絶望顔を見ようと奮闘した愉悦部さえもその尊さから教団に移籍する程、今やもの凄い人数になっているそうです。

 

 人海戦術で生み出されたこのサイトは本家wikiより細かく、コルルの行動チャートがルート別・ゲーム内時間で1時間ごとに事細かく書かれており、彼女が今何処にいるのか一瞬でわかるようになっています。

 マジで気持ち悪いなこいつら。(褒め言葉)

 

 

 そんな訳で彼女が本の持ち主(パートナー)と出会った数日後、狙い通りの時期にこんにちは出来ました。

 すぐに会いに行かなかった理由は、本の持ち主(パートナー)のしおりちゃんに出会い精神的に落ち着くのを待ったからです。コミュ障のキリィちゃんと落ち着いて話をするには必要なプロセスです、しょうがないね。

 

 警戒しながらも話に付き合ってくれるコルルに本の持ち主(パートナー)は外国に行っている事を伝えます。

 ほもくんは『所用』で今ドイツに行ってもらっているのでウソではありません。コルルはウソに対して敏感で、すぐ気付かれて逃げられますので注意しましょう。(1敗)

 

 自分が戦える状態ではないと知ったコルルは警戒を緩めます。更に戦う気はないとちゃんと口に出して言う事でより距離感を縮めましょう。(専用wiki知識)

 ……警戒心は解けたみたいです。後は雑談したり一緒に遊んだりして過ごします。

 二人の仲は時間が解決してくれるでしょう。これで対コルルチャートは終了したも同然です。

 

 

 

 勝ったな、風呂入ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────キリカと出会ってもうすぐ一週間が経とうとしている。

 

 彼女が最初に言った通り、私と戦う気はないみたいで内心ほっとした。

 

 それどころかキリカは公園で一人の私を気遣い、毎日のように一緒に遊んでくれた。昨日はおままごと、一昨日はお花摘み、その前は────

 

 いつしか私は、キリカにまた会うのがすごく楽しみになっていた。彼女は魔界の時とは違ってよく笑っている。微笑むような僅かな笑みだけど、そんなキリカを見ていると私も嬉しくなってくる。

 

 

 

「コルルー」

 

「! しおりおねーちゃん。どうしたの、学校は?」

 

「今日は午前で終わったの。あら、お友達?」

 

「う、うん」

 

「キリカ、イル」

 

「こんにちは。コルルのおねーちゃんのしおりだよ。コルルと遊んでくれてありがとうね」

 

「問題、ない」

 

 

 そうフルフルと顔を振るキリカを見て微笑むしおりおねーちゃん。そんな二人を見ていると私も嬉しくなってくる。

 

 そのままキリカと笑顔で別れ、私はおねーちゃんにおぶってもらい帰宅する。

 

 大切な家族と、大切な友達。何にも代え難いものが手に入った幸せ。こんな日がずっと続けばいいと思った。

 

 

 そう。こんな日が、ずっと…………。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 NDK(ねぇどんな気持ち)?NDK?

 

 

 前回「勝ったな。風呂入ってくる」と言った事に対して『フラグだな』『そう上手くいくかよ』『どうせまたガバるんだろ』『キリィちゃんかわいい』とかコメントで散々こき下ろしてくれた視聴者諸君よ。

 

 

 

 完璧かつ順調にチャート進行が進んでいってますけど、どんな気持ちぃ~? (煽り)

 

 

 もうコルル攻略チャートは、教団員達の事前調査のお陰で完全に勝利のレールに乗りました。原作ルートでのコルルは自身の呪文が人々を傷つけると知り、自分の魔本を燃やすようにガッシュにお願いします。(自身の魔本は燃やせないルール)

 この時にコルルの好感度を一定以上上げておくと、ガッシュ達ではなくキリィちゃんにその役目をお願いするようになるんですね。尊い

 

 なので、後はそのタイミングにあわせてコルルに会いに行くだけでフィニッシュ! となります。

ですが、その時が来るのはまだ数日先です。ガッシュとコルルがまだ出会ってもいませんからね。

 

 

 そこで────

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「やぁ、久しぶりキリィ。数日会えないだけでも寂しかったよ」

 

 

 はい、やってきました。ドイツです! 飛行機にゆられて12時間、既に現地入りしていたほもくんと合流です。

 今回の目的はもちろん観光ではありません。魔物の討伐ですよ。

 

 今回のターゲットはイエティの魔物、フリガロ。本来ならブラゴとの戦いでワイプで敗退していく魔物なのですが、コルル攻略チャートにタイムの余裕が出来たのでこっちも狙っていきます。

 とはいえ日本に戻る時間も加味すれば1,2日が限界です。しかもフリガロの生息域は【ライン川周辺】としか決まっていないので見つけられる訳がありませんね。そう、普通ならば。

 

 

「キリィ、もう大体の場所は把握してる。その地域では先日“ライン川が凍りついた”そうだよ」

 

 

 はい、ダウトー。フリガロくん、アウトです。

 レイコムよりも強力な冷気を操れるフリガロは呪文の余波を大きく残します。ほもくんにその地域を調べてもらいキリィちゃんの『魔力感知』をすれば簡単です。彼等は逃げ隠れする魔物でもないですからね。

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

「魔物の子か。戦いだぞ、フリガロ!」

 

「グゥゥゥゥゥゥ……」

 

 

 はい、という訳で戦闘です。本の持ち主(パートナー)のゲルハルトさんは冷静さを重んじる武人のような人ですが、イレギュラーというものに非常に弱いです。

 なので、先制で一発かましてしまえば、後はなし崩し的に何とかなります。攻略チャートもそういってます。

 

 ────という訳で、まず膝をついて手を目の前の地面に。もう片手をその手の上に乗せます。傍から見たら土下座しているかのような体勢ですね。

 

 

「……何だ? 何をしている」

 

「グゥゥゥ……ゥウ?」

 

 

 よしよし、DOGEZAを知らないゲルハルトさんとフリガロは興味を引かれてこっちを見ています。じゃあほもくん、いっくよー! 

 

 

「第二の呪文《ピケル》!」

 

「!? 私の足元から急に木が生え……グハァッ!」

 

「グルゥ?! グルッ、グルッ!」

 

 

《ゴミを木に変える能力(ちから)》ァ─────! 

 

 おっと、間違えました。これは第二の呪文《ピケル》です。

 

 前回、《ピケル》は『手から呪文を出す』と言いましたがこの様に地面をつたって相手の足元から奇襲をかける事も可能です。周囲に樹木がなくても、自分で出して使える点が優秀ですね。

 今の攻撃でゲルハルトさんの顎にクリーンヒット。魔物であるフリガロも狼狽しています。後は強力な呪文が唱えられる前にお話(物理)で対応すればOKです。

 

 

 という訳で、このまま押しきらせてもらいますねぇ。所詮はワイプ魔物よ。(無慈悲)

 

 

 

──────────────────【フリガロ 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 はい、帰ってきました。日本です。

 無事フリガロを撃破し、彼の持つ数々の氷呪文は美味しく『複製』(コピー)させて頂きました。現時点においてフリガロは中々強力な魔物ですので、次に来るエシュロス戦に備えての準備として最高のものです。

 私は見た事がありませんが、情報掲示板に「ありえない強さのエシュロスに敗退した」との書き込みが時々流れて来ることがあります。万が一そのエシュロスと会ってしまった時の為に、対応できるようにはしておきましょう。

 

 ……え? 次に来るのはフェインだって? 

 あいつ基本呪文の《ウィガル》しか使ってこないですし雑魚です、雑魚。

 声だけはラスボスより強い中ボスみたいな貫禄が出てますが、彼自体の脅威は(ないです)。

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 さーて、ほもくんを連れて公園にやってきましたよ。

 入り口のあたりでは警察の方々が、お仕事に精を出しています。何やら昨日、通り魔事件がここであったようですね。い、一体誰の仕業なんだ?! (すっとぼけ)

 

 

「……《ゼルク》!」

 

「キェエエエエエエエエエエエ!!」

 

 

 そんな事を考えながら公園を歩いていると、呪文と叫ぶような声が聞こえます。そこには横転するトラック、両手を鋭利なカギ爪のようなものに変えメカメカしいデザインへと変貌するコルルがトラックの運転手へと襲い掛かろうとしていました。

 

 

「《ピルク・フリズド》!」

 

 

 ほもくんが(懐かしの)凍結呪文を唱えてもらいコルル? を動けないように縛ります。フリガロもレイコムと同じ氷使いなので、同じ呪文を持ってたりするんですよね。

 因みに、これがコルルの持つ呪文《ゼルク》の効果である『狂暴化』です。やさしい心を持ったコルルとは違う、暴れる獣へと変貌する彼女の呪文です。

 

 

邪魔(ジャマ)ヲ……スルナァ!!」

 

「氷の拘束が?! キリィ!」

 

「動きが、単調」

 

「ウグゥ?! 馬鹿(バカ)ナ、(ワタシ)ノパワーヲ上回(ウワマワ)ルダト!?」

 

 

 コルルとは違う自我を持ち残虐な性格をしていますが、精神性の強化に振ってある影響か身体能力は大して上がっていません。腕力で押さえ込めるキリィちゃんの敵ではありませんね。

 

 

「コ……コルル」

 

「ハ……(ハヤ)ク、呪文(ジュモン)ヲ。呪文(ジュモン)ヲ」

 

「コルルを、苛めないで!! 第二の術《ゼルセン》!」

 

 

 おっと、本の持ち主(パートナー)のしおりちゃんがいましたね。

 押さえ込んでいたコルルの腕がロケットパンチのように飛び、キリィちゃんに向かってきます。コルルを想うしおりちゃんの心の力は凄まじく、まともに受けられる威力ではありません。

 

 

「《ピルク・スケイプ・ギシルド》!」

 

 

 氷をドーム状で覆う盾を出現させます。うお、少しだけど貫いてきた。威力、やばすぎひん? 

 これ以上、時間をかけるとガッシュ達がやってきて状況は更に混乱します。その前に収拾をつけましょうねぇ。

 

 

「しおり、私」

 

「コルル、コルル…………え?」

 

 

 よしよし、コルルがそれほど傷ついていないのでまだ周囲を見る余裕がありますね。原作においていきなり電撃(ザケル)を2発ぶつけた鬼畜主人公清麿とは違うのだよ、ピヨ麿とは! 

 

 

「私、止める。呪文、唱えないで」

 

「あ……。ごめんなさい、ごめんなさい! コルルを、その子を助けて!!」

 

「任せて」

 

 

 ここでしおりちゃんと一度しっかり面識を持った点が活きて来ます。たった一度の出会いでも、コルルがその場にいる事により『やさしい心』の効果で友人並の好感度が取得できています。

 なのでしっかりと「コルルを助ける」という意思表示をする事で、被害を出さずにコルルを沈静化させるチャートへ進められます。横転したトラック? 知らない子ですね。

 

 

 ……………………

 

 

 はい、鎮圧完了です。(無情のカット)

 本の持ち主(パートナー)の協力なしの魔物なんてこんなものです。悔しければ心を操ったり感情を奪ったりするんだな。そんな本の持ち主(パートナー)じゃ満足な力が出せないがなぁ。(ゲス顔)

 

 

「ガッシュ、こっちだ!」

 

「ウヌ、清麿。待つのだ」

 

 

 ここでようやくガッシュ君達が到着です。一般人に被害が出ていないとコルル達を見つけるのが遅れるので、コルル鎮圧の邪魔されず、場が落ち着いてから来てくれるんですね。

 

 

 やばいな、今回の私。ムーブ完璧すぎてRTAこのまま出せるんじゃないか?! (有頂天)

 

 

 後は好感度最低になってるだろうガッシュ君達の追及を「話は後」とかわしつつ、コルルが目を覚まし「本燃やして♪」と言ってくれば終了です。

 やっぱり最初にコルルの好感度ガンガンあげといたのが効きましたね。

 

 では時間が余ったので、これからゲームをプレイする方向けに少し解説します。今回のムーブは恐らくコルル攻略最速チャートですが、1つだけ注意点があります。

 最初にコルルのIFストーリーはどれもオススメと申し上げましたが、1つだけ『初見殺し』といえる難易度のチャートがあるのでそこだけは踏まないように注意しましょうね。

 条件としては『コルルの好感度が最高』『しおりの好感度が最高』『コルルの2度目の暴走で被害者を出さない』『コルルの暴走でしおりが傷つかない』等々の条件を満たすとそのチャートに進みます。

 

 走者も本来であればこのチャートだけは進まないよう注意する必要があったのですが、今回は完全無視で大丈夫です。しおりの好感度あげはほとんどしていませんし、最後の必須条件である『()()()()()()()()麿()()()()()()()()』の条件を満たしていないからです! 

 

 

 

 おっ、コルルが気が付きましたね。

 では、懐にライターを忍ばせて「燃やして♪」待機といきましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────コルルが元に戻った。

 

 また、誰かが傷つくと思った。コルルが誰かを傷つけてしまうと思った。

 

 でも違った。コルルの友達、キリカちゃんが助けてくれたから。彼女にはどれ程の恩が出来たかわからない。

 

 その後にやってきたガッシュ君と清麿君によって、コルルの事を教えてもらった。魔界の王を決める戦い、本の持ち主(パートナー)、魔本。正直実感が湧かない。

 

 でもコルルが私達と違う世界、魔界に住んでいる事だけはわかった。

 

 つまり私は、コルルといつか離れ離れになってしまうという事だ。

 

 

「────んぅ」

 

「コルル!?」

 

 

 目が覚めたコルルが青褪めていく。周囲の抉れた地面や倒れた木を見て、全てを悟ったらしい。

 

 

「コレ……私がやったの? 私が……やったのね」

 

「違うのよ、コルル。あなたのせいじゃないの、それに誰も傷ついていないわ!」

 

「しおりちゃん……。でも、私がやったんでしょ?」

 

 

 そしてコルルは、私の手からピンクの魔本を奪い取ろうとし……手を止めた。

 

 その葛藤を見れば、コルルが何をしようとしているのかはすぐにわかった。

 

 

 

 魔本を────燃やして貰おうとしている。

 

 

 

 それはつまりコルルとのお別れ。私に無関心な両親、常に一人ぼっちの家、言いようのない孤独への恐怖に震える。

 

 だがそれはコルルも一緒のようで、奪い取ろうとする手には力がまるで入っていない。

 

 そして本からコルルの気持ちが伝わってくる。

 

 

《「しおりねーちゃんと離れたくない……」》

 

《「このままずっと穏やかに暮らしていたい」》

 

《「キリカやガッシュ、友達ともっと遊びたい」》

 

《「また……、キリカと昔みたいな関係に戻りたくない」》

 

 

 

 

 

 

 ────そんな私とコルルに、ほんの僅かな心の隙が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ誰も傷ついていないのなら、自分の気持ちを殺してまで魔界へ帰る必要があるのかな? 

 

 それとも、全てを諦めてすぐにでも帰らないといけないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────いっその事、『狂ってしまえば』楽なのかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の胸の中にあったピンクの魔本が今までとは違う輝きを放つ。

 

 私は不思議な力に誘われるように本を開き、そして────その『呪文』を唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ギルゼドム・バルスルク》」

 





Q.原作ルートって?

A.あぁ!


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13.やさしい王様

皆様のお陰でUA50000を突破しました。
まさか、ここまで見て頂けるとは思っておらずただただ驚愕と感謝の気持ちです。

それに伴い、誤字報告して頂いた方を前書きで記載するのを今後控えたいと思います。
全員に許可を取った訳でもないのに多くの方が目にする前書きに載せるのは配慮に欠けると思った判断です。過去分に関しても該当部分は削除を行います。
「問題ないよ~」と想っていた方には申し訳ありませんが、ご了承をお願い致します。




 

 

 

【ギッ! ギッ!! ギギギギギギィィィィィィ!!!】

 

 

 

 戦闘が終わり、皆これで終わったと安堵していた。

 

 だが、突如唱えられる呪文。それにより大きく膨れ上がっていく魔物の体。

 

 

【ギィァァァアアアアアアアアアアアアア!】

 

 

 

 それは正に…………化け物だった。

 

 先程と同じく鋭利な爪とトゲのように尖ったトサカのような長髪、だがその体は20~30mに届こうかという巨体であった。

 

 だがそれ以上に俺の体を震わすものは…………本能による警告。

 

 “アレ”は危ない。今までの呪文とは違う危険な予感がする! 

 

 

「どうして……何で? どうして……?」

 

 

 キリィは放心し、同じ言葉を繰り返している。

 

 突然の事態にキリィも心の整理が追いついていないようだ、こんな狼狽しているキリィは見た事が無い。

 

 

「何……アレ……」

 

「……しおり殿!?」

 

「おい、アンタ。一体、どうして呪文を……!?」

 

 

 あの化け物へと変貌させた本の持ち主(パートナー)の声がした。思わずそちらへ振り向くと、顔面蒼白となり膝から崩れ落ちた本の持ち主(パートナー)の姿があった。

 

 明らかに様子がおかしい。それに気付いた清麿も詰問する言葉を止めた。

 

 

「わ、私……ただコルルと離れたくなくて、それで……何とかしなきゃ、何とかしなきゃって事だけ考えて! それで……!!」

 

「わ、わかった。ひとまず落ち着いてくれ。とにかく早く呪文を止めるんだ!」

 

 

 目の焦点すら定まらなくなっているしおり、かけよった清麿が両肩を掴み落ち着くように促す。

 

 そうだ、何よりも早く。あの化け物が動き出す前に止めなければ! 

 

 

「……きない」

 

「「「え(ヌ)?」」」

 

 

「……出来ない! ()()()()()()()()()()の!!」

 

 

「何だって?!」

 

 

 しおりは手から本を離そうと腕を振る。しかしその両手は本を固く握り締めており、清麿の力でも離れない。本が未だに輝いている事からも、呪文は発動し続けている。

 

 

「クッ、こうなれば今のうちに魔本を燃やすしかない。ガッシュ、こっちを向け!」

 

「ヌ?! しかし清麿、そんな事をしてはコルルが!!」

 

「わかってる!! だがアレが暴れだしたら途方も無い被害が出る、そんな事させる訳にはいかない!」

 

 清麿も苦悶の顔を浮かべガッシュへ指示を出す。少女(コルル)のやさしさを知ったからこそ、止めなければと苦渋の決断をしたのだろう。正直な所、俺もその意見に賛成だと思う。

 

 だが────

 

 

「駄目!!」

 

 

 その場にいた全員が目を開いて驚く。俺も信じられないとその声の主を見る。

 

 

「魔本、燃やすの。駄目」

 

 

 今まで見た事ない必死な顔で、キリィがそう叫んだ。

 

 その言葉でガッシュと清麿の動きも止まった。時が止まったかのように誰も動く事が出来ない。

 

 ……そしてついに“アレ”が動き出した。

 

 

 

【ジャアァァァアアアアアアアアア!】

 

 

「クッ、《ラシルド》!」

 

 

 鋭利な爪を振り下ろす。清麿が電撃を纏った輝きを持つ盾を出すが────

 

 

「なっ、《ラシルド》が一撃で?! 何てパワーだ!」

 

「清麿! もう一度攻撃が来るのだ!」

 

「ガッシュ、爪の側面を狙え!! 《ザケル》!」

 

 

 清麿が的確に振り下ろす爪を横から狙う。だがその電撃で爪はビクともせず僅かに軌道を逸らしたにすぎなかった。その隙にガッシュ達はその攻撃から離脱し距離を取る。

 

 

「キリィ、このままじゃヤバい。俺たちも……キリィ?」

 

 

 清麿達だけに戦わせる訳には行かない、そう考えた俺はキリィに呼びかける。

 

 しかしキリィは何の反応もしない。心ここにあらずといった感じで虚ろな目で地面を見つめていた。

 

 

【オオオオオオオオオァァァアアアアア!】

 

「キリィ! ……クッ」

 

 

 敵の攻撃が突然こちらへと変わる。放心状態のキリィを抱え後ろに跳躍するが、地面へと突き刺さった爪とは違うもう片方の手の爪が俺達を切り裂こうと振りかぶられる。

 

 

「危ない! 《ラシルド》!!」

 

【ギエエエエエエエエエエエエァァアアアアア!】

 

「すまない、助かった!」

 

「ウヌ! 『友達』を助けるのは当然なのだ」

 

「おい、こっちだ。こっちを見やがれ! 《ザケル》!」

 

 

 礼をいい俺はキリィと傍にいたしおりを抱え変貌した少女(コルル)と距離を取る。

 

 どうやら今の少女(コルル)本の持ち主(パートナー)であるしおりの事すらわかっていないらしい。先程の攻撃はしおりを巻き込む一撃にもかかわらず一切の躊躇がなかった。

 

 

【ィィィィァァアアアアア!】

 

「《ラシルド》!」

 

【ギイイイイイイイイイイイ!!】

 

SET(セット)! 《ザケル》!」

 

 

 

 爪を振り回す少女(コルル)がこれ以上暴れまわらないよう必死に抑えるガッシュと清麿、だが事態は一向に改善しない。ガッシュの電撃は強化された少女(コルル)の体に大してダメージを与える事が出来ていない。盾の呪文と身のこなしで耐えてはいるもののいずれ心の力も尽きてしまう。

 

 だが現状を突破する手段が何も思いつかない。その状況を歯噛みしながら見ていると……

 

 

 

「元就。お願い」

 

 

 

 いつも通りの声が足下から聞こえた。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────「《ザケル》! ガッシュ、こっちに来い!」

 

 

 清麿が私に向かって叫ぶ。その言葉の通り私はコルルに背を向けて走り出す。

 

 

【ギギギギギギギィィィィ!!】

 

 

 そんな私を追ってくるとても大きくなったコルル。そして私達は、さっきまでいた野原のすぐ傍にある「いべんと・すぺーす」とやらまでやって来た。場所は広く、人の姿はどこにもない。

 

 

「よし、ここなら周囲を気にする必要はない。何としてもここで喰い止めるぞ、ガッシュ! 公園の外に出られたらアウトだ」

 

「ウヌ、わかっておる!」

 

 

 魔界の王を決める(こんな)戦いで関係のない者を傷つける訳にはいかぬ。コルルもきっとその様な事は望んでおらぬ。覚悟を決めた私と清麿がコルルを見上げる。

 

 コルルはその大きな手に生えた爪で私達を切り裂こうと、こちらへ走る。

 

 私と清麿だけでコルルを正気に戻せるかわからぬ、だが絶対にやってみせる! 私はコルルの友達なのだから。

 

 

 

 ────そんな時、ふと頭の片隅に『もう一人の友達』の顔が浮かんだ気がした。

 

 

「《ピルク・ラージア・フリズド》!」

 

 

【オッ、オッ、ォォ!?】

 

 

 突然、コルルの前に出した方の膝から下が凍りつく。私達へ向かっていたコルルは急に動かなくなった膝に足を取られ、前のめりに倒れこもうとし咄嗟に手を前に出す。

 

 

「《ピルク・ラギコル・ファング》!」

 

 

 その手が地面につく瞬間、地面から《氷で出来た狼》が飛び出し真上から覆いかぶさろうとなっていた手の爪を食い破る。コルルの持つ鋭い爪が数本砕け、鋭利な爪はその長さを半分以上削っていた。

 

 

「すげぇ……、重力とテコの原理を応用したのか」

 

「威力が、足らないなら。他で、補うだけ」

 

「お主、手伝ってくれるのか!?」

 

「…………(コクリ)」

 

 

 私が嬉しそうな声を上げると、しっかりと頷いてくれた。

 

 少し怯えたように、その者は清麿の方を向く。清麿はしっかりと頷き私と同じく仲間であり『友達』である事を視線で伝える。するとそれまで感じていた怯えはなくなったが、距離を取り私達から引いた態度を取る。

 

 

 清麿が話してくれた彼女の境遇────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 やはりその経験からか、私達をすぐには信用できないようだ。だが、今はそれでもいい。

 

 そんな者が友達(コルル)の為に立ち上がってくれたのだ、それが何よりも嬉しい。

 

 私はその者を不安にさせぬよう、大きな笑顔を浮かべ問いかけた。

 

 

「ウヌ! 私の名はガッシュ・ベル! お主の名を教えてくれぬか?」

 

「……キリカ、イル」

 

 

 

 キリカはまだコルルを救う事を諦めていない、共にコルルを救おうぞ! 

 

 そんな決意を秘めた私の目は再び強い光が宿り、先程以上の勇気を与えてくれたのだった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 あー、再走したい(諦め)

 

 

 

 

 ご視聴されている崇高な皆々様方、おはようございます。(土下座)

 迂闊とガバで構成されている事が発覚した大人気魔物キリィちゃんです。

 

 今、私は《ギルゼドム・バルスルク》の呪文により光の巨人や戦隊ヒーローの合体ロボと戦えそうな姿へ変わったコルルと対峙しています。

 

 まさかこんな事態になるなんてこの走者の目を以ってしてもわかりませんでしたよ。(ガバ)

 皆様の「m9(^Д^) 」コメントも甘んじて受けましょうとも。

 正直な所、コルルが変貌した時は

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あ゛ああ゛ああ゛ああ゛ああ゛ああ゛゛ああ゛ああ゛ああ!! なんでえええどぼじでええ゛ええ゛゛ええ゛ええ゛ええええ゛まずいですよさるわたりさああああああああえあいえんだああああ゛ああ゛ああああああいやああああ゛ああ゛ああ゛ああ゛゛ああもうだめだあああああああああんぐるいむぐるうなふくとぅるうるるいえうがふなぐるふたぐん(略

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 とまぁ「必要以上のカット、本番での再走はしない」と信条を掲げていた私ですらカットせざるを得ない醜態をさらし、床を転げまわっていました。

 ですがそんな記憶は【0%】【0%】【0%】(ドン!)と頭の電源入れ直したら一発で消去されてましたので問題ありません。

 

 俺は正気に戻ったぁ……(戻ってない)

 

 

 ひとまず何故ルートが外れてしまったのかは置いといて、コルルを止める事が先決です。まだコルルの魔本は燃えていません。

 原作ルートはコルルがガッシュに「想い」を託すことが条件です。ここさえクリア出来れば原作ルートはまだ途絶えていません。オリチャー気味になっていますが、俺はまだ諦めないぜ! ドロー! 原作ルート!! 

 

 また『初見殺し』と名高い狂戦士化コルルですが、教団員達の努力(と変態性)の結晶であるwikiで対応可能です。

 ただこのゲームのバトルはRTB(リアルタイムバトルシステム)で一時停止というものがありません。まず戦闘開始前にwikiをこっそり裏で開きましょう。

 

 

 

 

 えーと……コルル狂戦士化のページは……

 

 

 

 あれー、こっちはコルルメイドさん計画ルートだし……

 

 

 

 うーん、こっちは殺意に目覚めたコルルルート……

 

 

 

 

 あ、ありました! 【禁断の呪文発動ルート】の攻略ページです。少々時間がかかってしまいましたがさっきチラッと見た時は、まだ戦闘前会話をしていたので大丈夫でしょう。

 

 ではコルルの下へいざ…………あっ、ガッシュおるやん

 

 

 どうしよどうしよ気まずいなー思いっきり敵ロールしてたんだもん下手したら「お前よくもやってくれたな」ってこっちに攻撃こないかなーでもガッシュ君達はぐう聖だし戦闘中にそんな事にはならないかなーでもワンチャンあるかもしれないから恐いしでもここで更に手をこまねいてたら原作ルートから絶対離れて言っちゃうしいくしかないのかなぁと言うかなんでコルルが狂戦士になってるのさおかしくね? だってあのルートはガッシュ達の好感度が最高じゃないといかないチャートだしwiki情報間違ってるって事でしょでも教団員はそんなミスしないよなぁ前誤情報載せたときは5分で修正されて他の団員からあらゆる方向でフルボッコくらった奴いたしさすがに二度目はないやろって事は後考えられる可能性は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えっ

 

 

 

 

 もしかして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、ガッシュと清麿の好感度最高になってるの? (驚愕)

 

 

 え? え? どういう事? 私、細川ムーブやってた筈だよね。あれだけボロボロにしてこき下ろして、それで好感度最高って何? ドMなの? 

 ガッシュ・ベルじゃなくてガッシュ・(エム)って事? (問題発言)

 

 だけどそういう事なら目の前に出ても攻撃される事はないのかな? 

 とりあえずwikiに載っていた『敵の攻撃手段を減らす方法』に書いてある手段でコルルの爪を砕きますねー、ボキッとな。

 

 はい、成功しました。これでコルルの攻撃手段である「きりさく」は片方「はたく」へと威力が下がりました。敵の攻撃手段が減る上にひるんだコルルが立て直すまで、少し時間を稼げます。非常にうま味ですね。

 

 

「お主、手伝ってくれるのか!?」

 

 

 ガッシュ君が負の感情の欠片もない目で、こちらを見つめてきます。念のため、清麿の方に視線を向けるとすごい爽やかな顔で頷いてきました。

 

これ好感度最高ですわ(諦め)

 

「いきなりザケル撃たれないかなー」とビクビクしながら接していましたが、大丈夫そうです。

 ただ走者の内心はガッシュと清麿の隠された性癖が明らかになり、一歩引いてしまいます。

 だってしょうがないよね、フルボッコにした相手がドMでニコニコ笑って友達になってとか言われても「あぁ……うん」としか反応できないよ。

 

 

 気分を変える為に、ここで「禁呪と呼ばれる“バルスルク系”がそんな弱い訳ねぇダルルォォ!!」と言う原作マニアの方々に説明致します。

 まずコルルは他の禁呪使いである魔物達と比べると基礎スペックで圧倒的に負けています。

 狂戦士といわれる程の暴れん坊、一族の悲願を叶える隠し玉、などの魔物と「一般学校に通うインドア少女」の身体能力が同じな筈がありませんよね。(ティオから目を逸らしつつ)

 もう一つの理由として、コルルは本質的には戦いが嫌いです。その為『狂化』が本人の意思と適合せず呪文の効力が精神性の変化に割り振られ、他の魔物の使う同系統呪文と比べ1ランクか2ランクは効果がダウンしているのです。

 

 とはいえ攻略wikiによると『倒すにはディオガ級、切り抜けるだけでもギガノ級の呪文が必須』とあります。腐っても暴走呪文のスペックという訳ですね。

 そしてここでおさらいしましょう! 

 

 

 第一の呪文ピルク →他魔物の【ギガノ級未満の】呪文が使える

 

 第二の呪文ピケル →他魔物の呪文の性質を持った放出呪文を出せる。【威力は下級】

 

 

 

 はい、詰ーんだ♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と言うとでも思っていたのかぁ? (ねっとり)

 

 ギュピッ、ギュピッと効果音を上げそうな足取りでガッシュ達のほうへ向かいます。攻略wikiデータとキリィちゃん・ガッシュ君の持つ呪文を総合した結果、この難所を切り抜ける手段は一つだけです。気合入れていきましょう! 

 

 

「ガッシュ、清麿」

 

「ウヌ?」

 

「何だ?」

 

「……赤い魔本に、触れさせて」

 

「「はぁ(ウヌ)?」」

 

 

 二人の頭に「?」が出ていますね、いきなり突拍子もない事を言い出してますのである意味当然です。それにキリィちゃんは先日までガッシュを狙っていた魔物。信用できる筈がありません。

 ですがこの案が通らなければ詰みです。今『複製(コピー)』しているフリガロの呪文では勝てませんので、好感度最高に祈りましょう。

 

 

「…………わかった」

 

 

 意外とあっさり了承してくれました。赤い魔本に右手を触れさせてもらいます。

 

 

「元就」

 

「あぁ、二人とも驚かないでくれよ? 《ピルク》」

 

「ウヌ!? ……ヌゥゥ」

 

「!? ……あ、あぁこりゃ驚くな」

 

 

 他の魔物が自分の魔本に触れている状態で呪文が唱えられる。そりゃ焦りますよね、でも説明はしません。面倒なので(無慈悲)

 これにより、ガッシュの呪文が使えるようになりましたが使いません。私が欲しかったのは『ガッシュの呪文性質』ですので。

 

 

 すぐさま、キリィちゃんはコルル(大)へと走り出します。既に足の氷の束縛はなくなり持ち直したので無事な方の爪を振り攻撃してきます。

 ですが残念! 今のキリィちゃんには『答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』が備わっています。振りかぶりの動作などから、どの角度に攻撃が来るのかは教団員により暴かれていますので見てから回避も何とか可能です。

 

 そして素早くコルルの顔の前にやってきたキリィちゃんは手をコルルの眉間に添えます。

 

 

「元就! お願い」

 

「あぁ。第二の呪文《ピケル》!」

 

【ギ!! ……ギイ? イイイイイイァァアア!!】

 

「……? な、何も起こっておらぬぞ」

 

「あぁ、てっきり急所に強力な呪文を入れるのかと思っていたが」

 

「ガッシュ、清麿。これから俺の合図があるまで呪文は唱えないでくれ。お膳立ては俺達がする」

 

「何だって?」

 

「ウヌゥ、よくわからぬが何かをしようというのだな。では私はキリカを手伝ってくるのだ!」

 

 

 おっ、ガッシュ君が援護に来てくれました。彼の身体能力は素の状態でも中々ですので危ない時に指示を出すだけで大丈夫でしょう。さすがに走者も『答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』を常時発動させるのは無理です。

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 それから数十分に渡りコルル(大)との攻防を行い、再び眉間に《ピケル》を数回叩き込みました。

 するとその変化が清麿達にもわかってきます。

 

 

「何だ? コルルの眉間から……静電気が?」

 

「そろそろだな。清麿、《ザケル》の準備を頼む。あの子(コルル)の眉間に叩き込むんだ」

 

 

 

 そう、これが私の考えた変則戦法。《なんちゃってザグルゼム》です。

 第二の呪文《ピケル》はガッシュの『呪文の性質を持った放出呪文』を放つことが出来ます。ガッシュの呪文性質は《電撃》が基本ですが、応用として《磁力》や《蓄電》といった性質も持っており《ジケルド》や《ザグルゼム》といった呪文に現れます。

 なので《ピケル》で『電撃』ではなく『蓄電』の性質をコルルの眉間に叩き込む事で次に放つ電撃の威力を高めようという作戦なんですね。

 

 とはいえ、無理矢理ねじまげた応用戦法みたいなものなので『《ピケル》の蓄電5回』<<『《ザグルゼム》の蓄電一回』と非効率極まりないです。せいぜいギガノ級に並ぶ位の上昇量でしかありません。

 

 

 だがこれで、条件はクリアされた。チェックだ! 

 

 

「キリカ!私をコルルの顔へ向けて投げるのだ!」

 

「わかっ、った!」

 

「ヌオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

「《ザケル》!!」

 

【ルオオオオオオオオオォォォォ!?】

 

 

 それまでのザケルより2回りほど強力な電撃がコルル(大)を襲います。ですがこれで倒しきる事は出来ません。あくまで敵の呪文効力を乱すだけです。つまり────

 

 

「元就。しおりを」

 

「あぁ、わかった! ……さぁ、しおり。ゆっくり落ち着いて魔本から手を離すんだ」

 

「う……、うん」

 

 

 よしよし、本の持ち主(パートナー)が魔本の束縛から逃れましたね。今の暴走状態のコルルを見ては、さすがに素直に従ってくれます。後は呪文効力が切れるまで粘れば勝利です。

 

 

 勝ったな(油断)、やはり私を以ってすればこんな難所など難所では────

 

 

「キリィ?!」

 

 

 

 

 

 えっ

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────「本当にごめんなさい。ガッシュ、清麿、しおりねーちゃん。キリカとその本の持ち主(パートナー)のおにいちゃん」

 

 

 キリカと名乗った少女とガッシュのはたらきにより、コルルは正気に戻った。

 

 ただ彼女は最後にコルルの攻撃を受けてしまった。咄嗟に俺が《ラシルド》で守ったが完全に防ぐ事は出来ず、怪我はないもののまだ気絶から目覚めない。

 

 

「ガッシュ、お願い。私の魔本を燃やして」

 

「コルル……そんな……」

 

「しおりねーちゃんもわかったでしょ? この本がある限りきっとまた同じ様な事が起こる。それを止める事なんて出来ないの」

 

「コルル…………」

 

 

 その言葉に、しおりが言葉をなくす。彼女も心の内では既にわかっている事だった。

 

 

「コルルちゃん、だったよね。キリィにお別れは言わないのかい? 友達、だったんだろ」

 

 

 キリカの本の持ち主(パートナー)、本堂元就がそう告げる。

 

 

「うん、そう。友達。でもそれはこの世界(人間界)でのお話で、魔界ではお互い話した事もなかったの。だからお別れはいいたくない。だって私はまたキリカに会えるから、これで終わりなんて考えたくない。他の皆と同じ“その他大勢”の存在には戻りたくないの」

 

 

「…………そうか」

 

 

 その言葉に俺とガッシュは顔をしかめる。それではまるで、魔界にいた頃のキリカには『その他大勢』の存在しかいないようではないか。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

《ザケル》によりコルルの魔本が少しづつ燃えていく。

 

 それに伴い、コルルの体も少しづつ透けていってしまう。

 

 

「コルル……コルル……!!!」

 

「泣かないでしおりおねーちゃん。私ずっと見てるから、ずっとずっとおねーちゃんの事見てるから」

 

 

 

「コルル……」

 

「………………ガッシュ……」

 

 

「もしも、もしもね…………魔界に『やさしい王様』がいてくれたら、こんな戦いはしなくてすんだのかな? ずっとキリカや、ガッシュや、しおりねーちゃん達みんなと楽しく過ごす事が出来たのかな?」

 

 

「やさしい……王様……」

 

 

 その言葉にガッシュの目に涙が溢れ、激しく頷く。

 

 

「ウヌ、ウヌ、そのとおりだ! コルル、そのとおりだぞ!!」

 

 

 コルルが優しく微笑む。その笑みは大切な『何か』を託す事が出来た満足の笑みだ。

 

 

 

「コルル!!」

 

 

 不意に背後から声がし、振り向く。

 

 そこには目に涙を浮かべ悲しみの表情をしたキリカがいた。コルルに駆け寄っていくが、その途中に燃える魔本を見つけ、周囲が止める声も聞かず火傷も構わずに抱きしめる。

 

 

「コルル!本が」

 

「うん、ごめんね。キリカ」

 

「そんな、そんな……」

 

 

 絶望にすら見える悲哀の表情を浮かべるキリカ。無表情の奥に隠れていたその姿を見て、俺は言葉に詰まる。

 

 

「《ピルク》!」

 

 

 不意にキリカの本の持ち主(パートナー)が呪文を唱え、コルルの燃えかけた魔本が桜色の光に包まれる。先程俺の赤い魔本でも起きた現象だが、今はそれが何かを聞く気にはなれなかった。

 

 

「元就」

 

「コルルの想いは受け継ぐ。やさしい王様になろう、キリィ」

 

「やさしいおにいちゃん……、ありがとう」

 

 

 コルルは何かを察したようで満足げな笑みを浮かべ、完全に消え去った。

 

 キリカは膝から崩れ落ちピクリとも動かない。元就がそれに寄り添う様に隣に座った。

 

 これ以上は、俺達が見るべきじゃないと思った。

 

 

「ガッシュ、帰ろう」

 

「……ウヌ」

 

 

 元就に連絡先を渡して立ち去る。恐らく彼女等とは今後争う事はもうないだろう。

 

 立ち去る間際、空を見上げるキリカを見た。

 

 彼女は消え去るコルルに対して、一体何を思ったのだろうか────

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コルルの撃破カウントがあ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁあ゛あ゛ああ゛ああ゛ああ゛ああ!! 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────【コルル 敗退(リタイヤ)】撃破者《ガッシュ・ベル》

 




《蓄電》の解釈については諸々とご意見があるかもしれませんが独自解釈という事でご理解下さい。「新たなる力が目覚めて!」もいいですが『今ある手札で切り抜ける』って展開も好きです。


またコルルについて色々と調べた所、原作にある
『戦う意思のない子には別の人格が与えられる』というのはコルルの勘違いで、『狂化』もまたコルルの呪文の本質の1つであると作者である雷句神様が明言されたそうなので描写を省きました。


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14.vsフェイン

 最近RTA作品が新規参入してきたり、先輩走者様の作品が更新されたりと賑わっているのが非常にうれしいですね。もっともっと流行らせ、流行らせ!





 

 ────「清麿、まだなのか?」

 

「よし、ここまでくれば大丈夫だろ。《ザケル》より強力な電撃が出ても周囲の被害は少ない」

 

 

 キリカと共にコルルを見送った翌日。俺はガッシュを連れて町外れの岩場まで来ていた。

 

 ここで行うのは、新しく出た呪文の効果を見る為だ。呪文は唱えてみなければ効果がわからない為、人のこない僻地を選んでやってきた。

 

 

「よし、ガッシュ……いくぞ!」

 

「ウヌ!」

 

「第三の術……、《ジケ……」

 

「よぉ、清麿。ガッシュ」

 

「ウヌ? 誰なのだ?」

 

「ルァアああああぁぁぁ!? 何でこっち向いてんだガッシュウウゥゥゥ!!」

 

 

 背後の岩陰から急に声がかけられ反射的に振り向くガッシュ、俺の心臓は飛び跳ねそうになった。文句の1つでも言ってやろうと思った俺が振り向くとそこにいたのは……、あの少女の本の持ち主(パートナー)である元就だった。

 

 

「あ、悪い。タイミングまずかったか?」

 

「あ……、あぁ。それは構わない。どうしてこんな所に?」

 

 

 元々キリカ達とは今朝方連絡を貰い会う予定だったが、それは昼過ぎだ。まだまだ時間の余裕はある。こんな場所で偶然会うことはありえないだろうと思った俺はそう尋ねた。

 

 

「キリィは()()()()()()の場所が感知出来るらしくてな。ガッシュが此処にいるって教えてくれたんだ」

 

「ウヌ? キリカは一緒ではないのか?」

 

「あぁ、キリィは町の知り合いに挨拶してから合流するって言ってた。昼過ぎになるそうだよ」

 

 

 それを聞いた俺はある事を思いついた。いい機会かもしれない。すぐにでも元就を誘って町に戻りたい気持ちもあるが、先に用事を済ませるためガッシュの方を向いた。

 

 

「じゃあ新呪文の効果だけ調べておくか。元就、少しだけ待っていてくれるか?」

 

「あぁ、それは構わないが……、いいのか? 俺が見ていても」

 

「大丈夫なのだ! 我々はもう戦わぬ。キリカと私は『友達』なのだからな!」

 

「そういう事だ、すぐ終わるから待っててくれ。話したい事もあるんだ」

 

「そうか、じゃあ先にコレを渡しておくよ」

 

「ん? ……何だその荷物?結構重そうだが」

 

「ガッシュ達が自己鍛錬をする時に役立つだろうって、キリィが勧めてくれたんだ。俺が使ってたお下がりで悪いんだが」

 

「パワーアンクルに……、パワーリストか? たくさんあるな」

 

「全部、中に()()が入っている。よかったら使ってくれ」

 

「ウヌ! 元就、ありがとうなのだ」

 

 

 トレーニンググッズを元就から受け取り俺の脇に置く。俺は気合を入れ直し目標に定めた大岩を向くよう指示する。

 

 

「行くぞ、ガッシュ……」

 

 

 

 

 

「第三の術、《ジケルド》!」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ────「まさかあんな呪文だったとは。元就がいなかったらわからなかったかも知れないな」

 

「ウヌ! 助かったのだ」

 

「礼ならキリィに言ってくれ。俺は中継ぎをしただけだ」

 

 

 新呪文の効果を確かめた俺達は、町の喫茶店に集まっていた。

 

 俺の家の方がよかったがそこまでは結構な距離がある。ガッシュの気配を感知すれば合流できると言っていたので奥の個室同然のスペースを確保した。ここならキリカが来ればすぐにわかるし、声が漏れる事もない。

 

 これからする話はキリカに聞かれる訳にはいかない。彼女と話し合うのは、俺達がもっと彼女の事を知ってからでないと意味がないと思ったからだ。

 

 

「元就。大事な話がある」

 

「……キリィの事か?」

 

 

 俺の空気を感じ取ったのか、元就も真剣な表情で返す。

 

 

「元就は彼女が魔界にいた頃の話を聞いた事があるか?」

 

「……いいや。キリィが話したがらないし聞く事はしてない。むしろ教えてくれないか、ガッシュ。魔界で友達だったんだろ?」

 

「ウヌゥ、すまぬ。私には魔界にいた頃の記憶がないからわからないのだ」

 

「ガッシュは人間界に来た直後に魔界での記憶を奪われたんだ。だからキリカと面識があったかどうか……」

 

「そうだったのか。友達なのは間違いないぞ、キリカも大j……いや、友達だと言っていた」

 

「ウヌ、そうなのか!魔界でも私達は友達だったのだな」

 

 

 話している内に確信した。俺の思ったとおり、元就は『彼女の事情』を知らない。

 

 俺は話すべきか迷ったが、これは必要な事だと自分を納得させ話し始めた。

 

 

 

 

「……これは俺達と戦ったブラゴという魔物から聞いた話なんだが、どうやらキリカは魔界で奴隷同然の生活を強いられていたらしい」

 

「何だって!?」

 

「コルルも『キリカの周囲には、その他同然の存在しかいない』と言っていた。恐らくは周囲の魔物達に虐げられる中、ガッシュだけが唯一といっていい『友達』だったんだと思う」

 

 

 その言葉に文字通り元就が絶句する。先日会ったキリカの精神状態は以前と違った。二人が良好な関係を築いているのは明白だ。

 

 だがやはり本の持ち主(パートナー)に全てを話す事は良しとしなかったらしい。それを自分が暴露してしまう事に一縷の罪悪感はあったが、彼女の力になってくれるだろう本の持ち主(パートナー)には絶対に話しておきたい事だった。

 

 

「! だからキリィは、ガッシュにあそこまで執着していたのか」

 

「……執着? どういう事だ?」

 

「キリィは物静かで滅多に感情を表に出さない。でもガッシュが関わる戦いにだけは『絶対に失敗出来ない』という必死さを常に感じるんだ。他の魔物との戦いは『作業』の様に淡々と片付けていくのにおかしいと思ったんだ」

 

 

 実は……。と植物園でのガッシュの戦いを裏から支えていた事実を知る。

 

 いくら友達の為だからといって『魔界の王を決める戦い』においてそこまでの手助けは異常に近い。キリカにとってガッシュが、いや『友達』が彼女にとってどれ程の存在なのか想像も出来ない。

 

 

「ヌゥ。ではその『友達』のコルルが魔界に帰ってしまった時のあの様子は……」

 

「……家に帰っても布団の上にうずくまったまま一睡もしなかったよ。今日普通に出歩けるのが不思議な位だ」

 

「…………ッ!」

 

 

 改めて彼女の心境を考えると歯噛みする。魔物も中身は俺達と変わらない。それがここまで他者に依存してしまうキリカの心は、今にも壊れてしまうのではないかという恐れすら抱いてしまう。

 

 

「……実は初めてじゃないんだ」

 

「え?」

 

「俺が本の持ち主(パートナー)となった後の数日で、たまにあったんだ。人形みたいに座ったまま目も動かさず部屋の隅でじっとしてる事が。キリィと会った直後だったからそういうものなのかと思ったけど、まるで……」

 

 

 元就はそこまで言って俯く、その先は言われずとも理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはまるで……呼ばれるまで《主人》の手を煩わせない様、調教された奴隷ではないか。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 皆様、おはようございまーす! 

 主人公の歪んだ性的嗜好にも挫けない大人気魔物キリィちゃんです! 

 

 前回発覚した『ガッシュ・清麿ドM事件』により大幅なチャート改変が余儀なくされました。二人の好感度が高い以上、今後は中途半端に敵ムーブをやっても「何してんだコイツ」という目を向けられるだけで相手にしてくれません。

 修正自体は余裕ですが、皆様を退屈させないよう私はきちんとタイムも意識してチャートを練り直します。しかしRTAと明言してないから心に余裕が生まれるなぁ(チキンハート)

 

 因みにあの後私は平常心を取り戻すべく、その後行動できる夜パートを()()()()()()()()()()ひたすら今回発覚した事実を様々な場所に拡散していました。

 なお攻略掲示板での反応は「そんな訳ないだろ」「少年誌原作を汚すな」「死ね」「キリィちゃんかわいい」と全く信じて貰えませんでしたがね。ちくせう!! 

 

 ……はい? ちゃんと行動しないとロスになるだろって?

 大丈夫です。原作ルートでは夜パートは基本的に出歩く必要はありませんので自由時間です。ですが万一ロスだった場合、他の走者の方は今やれば私より好タイムを出せちゃいますねぇ。(煽り)

 

 

だから皆、ガッシュRTAやろ? 

 

 

 それに既にチャート再確認の為()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので今更です。放置しても時間の流れは同じですからね。

 

 ではどうでもいい前置きも済んだ所で本題入りましょう、本題。

 今回出てくる魔物は『フェイン』さん。ピエロの見た目と無茶苦茶強そうなお声を持つ魔物です。

 

 

 概要:はっやーい! 

 

 

 以上! ふざけているように見えますが、大真面目に答えてコレです。

 

 そもそもこの世の理はすなわち速さ、物事を速くなしとげればそのぶん時間が有効に使えます、遅いことなら誰でも出来る、50年かければ遅筆でも日間一位が取れる!有能なのは月1更新より週1更新、週1よりも毎日更新です、つまり速さこそ有能なのが、文化の基本法則! (息継ぎなし16秒)

 

 と力説した通り、彼の脅威は『速さ』のみです。口から竜巻出せる? 魔物をちょっと感知出来る? そんなのオマケにすぎませんよ。

 

 とにかく四国からはるばるやって来たフェインと本の持ち主(パートナー)の清兵衛ですが彼等はちょっとヤンチャで、他の本の持ち主(パートナー)を見つけ次第襲ってきます。

 周囲の被害を考えずに。

 

 ほもくんは「こちらが意図しない一般人被害」については(好感度的に)目を瞑ってくれるので、前回までなら構わずフェインに突貫する所ですが清麿・ガッシュは一般人に被害が出てフォローしない場合、好感度がどんどん落ちる仕様となっております。

 俺のせいじゃない、フェインがやったんだ!俺は悪くねぇ!!(事実)

 

 好感度最高の状態だと経験値以外にもメリットがあるのでひとまず落とさないように立ち回りましょう。フォローが面倒になったら速攻で切り捨てますが。(非情)

 

 

 まずフェインがモチノキ町にやって来たのを感知したら、清麿達とは反対側の町外れで魔力を解放します。てりゃー(かけ声)

 フェインは【魔力感知Lv1】を取得していますので、ここまでお膳立てしてようやくキリィちゃんの存在に気付く事が出来ます。スキルレベル1か、ゴミめ。

 

 そしてフェイン達が近づいて来たら【気配遮断】を使用。見つからないように距離を取ります。

 これを繰り返して清麿達のいる岩場の方向へと少しづつ誘導していきます。本の持ち主(パートナー)が追ってこられる速度、かつフェインの高速移動でもギリ隠れられる程度の距離を離すのがポイントです。

 

 岩場からの距離が3km以内に入ったらそれ以上距離を詰めず円を描くように移動します。

 魔力を放つタイミングも、フェイン達が探索を諦めない程度の頻度で問題ありません。

 

 

「《ジケルド》!」

 

 

 来ました! ガッシュが呪文を発動させたので魔力が発せられます。

 

 

「……! 強い魔力を感じた!奴等呪文を使ったみたいよ。一気に距離を離されたわ」

 

「ハッ逃がすかよ。いけ、フェイン! 《ウルク》!」

 

 

 はい、ガッシュ君の魔力をキリィちゃんと勘違いしていっちゃいましたね。【魔力感知Lv1】だとこの程度の精度になってしまうのでキリィちゃんはキャラクリ時しっかりLv2まで取ったんですね。

 フェインはガッシュに襲い掛かる為、高速移動の呪文で行ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 本の持ち主(パートナー)を置いて、ね。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 いやー、いい仕事したなぁ! (愉悦顔)

 一仕事終えたキリィちゃんは意気揚々と町でお茶してるガッシュ君達の下へ向かいます。

 

 ん、フェイン? 彼ならガッシュ君の所へ行こうとして森に迷ったんじゃないかなぁ、どうやら会えなかったみたいだし心配だなぁ。清兵衛くんも慣れない山歩きで肋骨を何本か折ったみたいですよ、運動不足はいけないな〜(ゲス顔)

 因みにフェインの呪文は頂きませんでした、彼の呪文は応用性がなさすぎて当て逃げ戦法が通用しない相手には普通に負けます。時間もなかったので切り捨て安定ですよ。

 それに足が速くなってもタイムは速くなりませんからね!皆さん(誰うま)

 

 

「あ……、キリィ」

 

 

 おっすおっすほもくん、清麿達にプレゼントは渡せたようで何よりだよ。

《ジケルド》は相手に強力な磁力を与える力ですが周囲に金属類がなければ効果がありません。フェインはそれを教えてくれる役割だったのですが、そんなの鉄板1つ渡せばいいだけです。あなたの代わりなんていくらでもいるんだよ(無慈悲)

 

 さてさて、勝利の美酒……はさすがにまずいので()()()()()ホットココアかミルク、コーンスープでも頼みましょうか。キリィちゃんの好物は「温かい飲み物」で、好物を飲食する事で経験値が僅かに入ります。こういう細かい部分でも気を配るのが上級走者の嗜みですよ。(自画自賛)

 

 

「暖かい、……おいしいね」

 

 

 好きな飲み物に舌鼓をうち、ご満悦のキリィちゃん。あー美少女の微笑は絵になるんじゃあ。

 どうよ皆、この笑顔を見たら悩殺されんじゃないの? どうよ、どうよ? 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 …………何この反応? 

 

 

 

 

 ──────────────────【フェイン 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 




清麿「ブラゴが言っていた」
ほもくん「えっ?!」
ブラゴ「えっ?」

清麿「えっ?」


PS2の3D格闘ゲームで一番苦労したのがフェインでした(トラウマ)
なお、今作品でのフェインの出番は以上となります。
フェインファンの皆様ごめんなさい。


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幕間 清麿のカレー

 一週間近く投稿しないと、ずいぶん間が空いたように感じてしまいます。(気が早過ぎる)
今回はギャグ回になります。ギャグってなんぞや・・・(哲学)




 

 

 

 

カレーは愛のターメルィィック!! (巻き舌)

 

 

 

 はい、ハラペーニョな皆さんおはようございます、大人気魔物キリィちゃんです。

 何故急にカレーの妖精みたいな事をいい出したかといいますと、今回はおまけパート第二弾。好感度稼ぎの回だからです。本編以外なりふり構わない視聴RTAの兄貴達は容赦なく飛ばしてくださいね~。

 因みに今回のイベントは清麿とガッシュの好感度が高くないと発生しないものですが、問題ない事が先日発覚しましたからね。チャートを練り直した際、この手のイベントもガッツリ組み込みました。つまりこれで……パーフェクトな訳だ(きもちわるい)

 

 

 ではでは早速、チャート攻略を開始しましょう。

 フェインを倒した翌日の早朝、モチノキ第二中学校へと向かいます。『気配遮断』を発動しながら移動すれば、用務員に見つかる事もなく清麿のいるクラスまで辿り付く事が可能です。

 

 

「よし、今朝のHRでは週末に行われる林間学校の班決めを行う」

 

「林間学校!! 何やら楽しそうな響きではないか。のぅ、スズメ殿!」

 

「うん。楽しみね、ガッシュ君」

 

「何、自然に混ざってんだガッシュ!! ついてくるなって言っただろ!」

 

 

 よしよし、朝のHRは滞りなく進んでいますね。

 原作ではフェインとの戦いでの負傷により清麿が休み、彼は()()()()()により『カレー作り班』へと抜擢されます。その理由というのが────

 

 

「水野!? お前何を言って……」

 

「わかってるわ! 高嶺くんはカレー作りの天才だって!」

 

「ならカレー作り班はお前しかいないよな! よっ、鉄の料理人!!」

「上手いもん作ってくれよー! 今から楽しみだぜ」

「やっぱり高嶺君ってすごいのねー。楽しみー」

「美味しくなかったら殺すぞ高嶺!!」

 

「満場一致だな、高嶺清麿カレー作り班……と。いやぁ楽しみだ、存分に腕を振るってくれ」

 

「先生まで!? 水野ちょっと待て、いつそんな事話した!」

 

「えっ? この間、カレーの生まれた国とか色々教えてくれたじゃない」

 

(「()について語った覚えはないんだが……!!」)

 

 

 おぉどんどん場が荒れてきましたね。カオスカオス(高みの見物)

 ですがこのまま放置しておくと清麿がクラスメイト達の誤解を解き、カレー作り班から外れてしまいます。このタイミングで教室に入りましょう。

 キリカ・イル、目標を補足。高嶺清麿をチャート妨害幇助と断定し、武力介入を開始する! トランザム(ガラッとな)

 

 

「キ、キリカ?! 何でこんな所に」

 

「……お? おぉキリカではないか! お主も遊びに来たのか?」

 

「お前が原因か、ガッシュ!! 学校は遊び場じゃないって何度言えばわかるんだ!」

 

「わぁ~、かわいい子。ガッシュ君のお友達?」

 

「ウヌ、キリカは私の友達なのだ!」

 

 

「高嶺」

 

「あ、中田先生。これは……」

 

「授業にさしつかえるようならダメだと言った筈だ。その子達は保健室で預かってもらいなさい。HRが終わるまでには戻るように」

 

「……ハイ」

 

 

 はい、目標を(教室から)駆逐する事に成功しました。

 清麿がいなくなったHRでは、その後も彼の料理の評判が天井知らずに上がり続け、清麿が教室に戻った時には既に手遅れです。これで清麿は『世界でも指折りの料理人』として絶品のカレーを作らなくてはいけなくなりました。

 頭はいいかもしれないが、コミュ能力がないから想定外の事態を抱え込む事になるんだよなぁ。(特大ブーメラン)

 そんな訳で、清麿を混沌(カレー)に巻き込んだ後はガッシュ君と共に放課後まで保険医さんのお世話になります。

 

 

「のぅ、キリカ。お主も“林間学校”とやらにいかぬか?」

 

 

 ここでガッシュ君からお誘いがかかり【はい】【いいえ】の選択肢が出てきます。

 ですがここで【はい】を選んではいけません、実はコレひっかけです。もし【はい】を選んだ場合「では私に全て任せるのだ!」と当日の行動をガッシュ君に一任する事になります。

 その結果、起こるのが『バスにロープで台車を繋ぎ無理矢理ついてくる』という力技です。現実でやったら大惨事確実ですので気をつけましょう。うちの子がマネしたらどうするんですか!! (モンペ)

 因みに道徳的問題以外に、メタ的にもこの手法は論外です。『乗り物酔い(重)』のバステがついてしまい、林間学校中まともに行動できず時間を無駄にするだけで終わります。(3敗)

 

 ですのでここは一旦【いいえ】を選んでおき「考えておく」と伝えておけばガッシュ君も素直に引き下がってくれます。台車ロープは君だけで堪能してくれ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 はい、放課後です。

 やる事もありませんので保健室のベッドの上で瞑想に励んでました。

 残念ながら保険医さんには好感度が存在しません。ならば時間まで修行を行うだけです。ガッシュ君が興味深くキリィちゃんの様子を見ていますが、君の好感度を今更稼ぐ意味はないので無視です。無視。

 

 

「……ガッシュ、帰るぞ」

 

「おぉ、清ま……ろ?」

 

 

 おっ、ようやく清麿が来ました。二人についていきましょう。

 ですがガッシュ君が引くほどの死んだ目をしてますね清麿。キリィちゃんが後ろからついていっても全く気付く様子がありません。

 きょうしつでなにがあったんだろう、まったくそうぞうがつかないなぁ! (愉悦)

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

「頼む、おふくろ! 俺にうまいカレーの作り方を教えてくれ!!」

 

 

 家に帰った途端、清麿のDO☆GE☆ZAが炸裂しました。もうわらをも掴む勢いです。清麿のお母さんの華さんも面食らった様子ですね。しかし美人だなぁ、空手が強そう。(中の人感)

 そんな事を考えつつ清麿が学校での出来事を伝えるのを眺めています。華さんは呆れたような、でもすごく嬉しそうな顔をしつつ了承してくれました。

 ガッシュ君が来るまでは周囲に馴染めない天才児となっていた清麿を一番傍で見ていた華さん的には、クラスの馬鹿騒ぎの件は感慨深いんだろうなぁと思ってしまいます。もっと親孝行しろよな。(上から目線)

 

 

「じゃあ清麿と……、あなたも一緒に作ってみない?」

 

「私?」

 

「……あ、キリカ。ついて来てたのか。悪い、気が付かなかった」

 

「ウヌゥ、清麿は学校からずっとぼーっとしておったからのう」

 

 

 華さんから料理のお誘いがありました。乗るしかない、この(好感度の)ビックウェーブに!! 

 さて、ではまず最初に清麿の料理の腕を見る事になりました。とはいえ、包丁などは他の人がやってくれるので、問題は味付けです。

 

 

《カレールゥ》……ポチャポチャ

 

 

 

《スパイス【適当】》……パッパッパッ

 

 

 

《清麿オリジナル味の食材【煮干・椎茸・昆布・鰹節】》……ボチャボチャボチャ

 

 

 

 

 クイッ(味見)

 

 

 

 

 

 

「ゴブッ……! ゲブフゥ!!」

 

「ヌ!? 清麿、大丈夫か?!」

 

 

 うわぁ……(ドン引き)

 さすがは包丁も握った事のない清麿君です、味見の時点で大破しちゃってますよ。食材の知識はあるようですが、カレーにアレはないわ。ダシ出る食材突っ込めばいいって訳じゃないんですよ。さすがの惨状に華さんも手を額に当てています。

 

 

「もういいわ清麿、後で基本からしっかり教えてあげる。次キリカちゃん、やってみる?」

 

 

 おっ、ええで。

 キリィちゃんの隠された女子力(物理)を見せ付けてやんよ!! 

 

 

《カレールゥ》……ポチャポチャ

 

 

 

《スパイス【適量】》……パッパッ

 

 

 

《キリカオリジナル味の食材【ゼロピー・カタシムリの皮・べとべとする液体】》……ドッポン

 

 

 

 

 はい、清麿(味見)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブフッ……ブルァアアアアアア!!」

 

「清麿ォ────────!!!」

 

 

 あぁ、やっぱり駄目だったよ。(外道)

 いやぁ、ノリで渡した味見用の皿を躊躇なく受け取ったり食べた時の反応だったり、これは完全に芸人の動きですね。コメディアンでも喰ってけるんちゃう? 

 さて、一見ふざけただけに見えますが、ここは失敗するのが正解です。最初から出来のいい子より、駄目な子が成長した方が華さんの好感度の上昇値が高くなりやすいですからね。なのでその辺で見つけた古く青い箱に入っていた、適当な素材をぶっこんで見ました。結果は轟沈した清麿を見ればおわかりかと思います。

 

 

 ピロリン♪ (謎SE)

 

 

 ……ん? 今ステータス更新の音が鳴りましたね

 久々にステータス画面を開いてみましょうか。

 

 

 

 キリカ・イル   本の持ち主(パートナー):本堂元就(ほもくん)

 

 筋力:ゴリラ(確信)

 体力:はんぺん

 知力:やべぇ

 魔力:いいんじゃね? 

『能面』『高位の一族』『魔力感知Lv2』『友情』

『人外の力持つ相棒』『口下手』『気配遮断Lv1』

『料理下手』(new)

 

 

 

 ま゛──────────────!!! (悲鳴)

 属性過多のキリィちゃんに更なる属性が追加されてしまいました。こいつはいけねぇ!! 

 因みに『料理下手』は『食事を振舞った時心の力・体力が回復せず、逆にダメージになる』効果のデメリットスキルです。まぁ他の人に料理して貰えばいいので、フレーバー程度のスキルです。安心してください、チャートに問題はありませんよ。

 とまぁこのように普段の行動によってスキルが追加される事もあります。がその確率は1%以下、ソシャゲでURが出る確率より低いので狙って取るのは無理です。修行の力に頼りましょう。

 

 

「キリカちゃんも前途多難ね。いいわ、一緒に見てあげる」

 

「頼む、おふくろ」

 

「おねがい、します」

 

 

 散々な現状を見せ付けられても諦めない華さん。メンタル高いなぁ、心の力強そう。

 そんなこんなで林間学校までの数日は、華さんの料理教室で過ごす事になります。彼女の好感度を稼げるタイミングは少ないので非常にうま味でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピロリン♪ (謎SE)

 

 あっ

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────「さて、各班自分のバンガローに荷物を置いたな。協力して夕食の準備に取り掛かれ」

 

「岩島守」  「ふぁい」

「高嶺清麿」 「はい」

「山中浩」  「はい!!」

「水野スズメ」「はーい」

 

「ではカレー作り班、クラス全員分のカレーは任せたからな。高嶺、楽しみにしているぞ」

 

 

 中田先生が期待の篭った声をかけ他の班の様子を見に行った。

 ついに林間学校の日がやって来た、正直この日まで生きた心地がしなかった。林間学校の話題が学校で挙がるたびに俺の方へ期待をこめた眼差しを向けてくる。来るまでのバスの中だって、盛り上がりが半端じゃなかった。

 

 だが大丈夫だ。この数日、おふくろに散々鍛えてもらい俺の料理の腕はかなり上達した。

 一緒に習っていたキリカは全く上達せず、彼女の作るカレー(のような名状しがたきもの)の味見という死線を何度かくぐりぬける事となったが。

 後、気になる事といえば────

 

 

「清麿、頼む! 私にも、私にもカレーを食べさせてくれ!! 酔い止めの梅干はもうたくさんだ!!」

 

「……何でガッシュがついて来てるんだ」

 

「私も、来た」

 

「俺はキリィに呼ばれたんだ、電車で来れる場所でよかったよ。キャンプ場の空きもあったしな」

 

「キリカ、元就……」

 

 

 ────随分な大所帯になったなと思う事だけだ。

 

 

「いいじゃないか、高嶺。数人増えたってどうという事ないだろ」

 

「山中」

 

「キリカちゃんよね、私水野スズメ。スズメって呼んでね」

 

「わかった、スズメ」

 

「高嶺くん、ここは三本の矢だよ。協力すればきっと上手くいくさ」

 

「岩島」

 

「ウヌゥ、皆でカレーを作るのだ!」

 

 

 

 そうだ、皆で協力すればいい。そうすればきっと上手くいくはずだ。

 

 

「山中!」 「薪割りなら任せな!」 「薪は全部割られてるからいらん! 竈作りを手伝ってくれ」

 

「岩島!」 「火おこしなら任してよ!」 「マッチと新聞紙で十分だ! 食材を運んでくれ」

 

「水野!」 「包丁さばきは任せて!」 「よし、食材を切ってくれ! ぶつ切りでいい」

 

「キリカ!」 「うん」  「皆の仕事を手伝ってくれ! 柔軟に動いてくれればいい」

 

「ガッシュ!」 「ウヌ、何でもやるぞ!」 「お前は邪魔するな!」 「ウヌゥ?!」

 

「元就!」 「俺は何をすればいい?」 「ガッシュを見張ってくれ! 余計な物を鍋に入れないようにな」

 

 

 俺は矢継ぎ早に指示を出すと、カレー作りを開始した。

 玉ねぎはみじん切りにして2つに分ける、半分はあめ色を越え濃茶になるまで炒め続け甘みを出し、残る半分は食感を残すために他の食材と入れる。

 スパイスは全体のバランスを崩さず扱いやすいクミンとガラムマサラを中心に、カレールゥと併せて入れる。事前に少し炒め香りを強めるのがポイントだ。

 辛いのが苦手な人も食べやすくする為にヨーグルトとハチミツ、カカオ分の強いチョコレートを加え味のカドが取れるようにする。

 

 おふくろの直伝と、あらゆる方面から調べ選び出したカレーの製法だ。何度も試しておふくろからも合格を貰っている。皆が協力してくれるから俺は味付けのみに集中できた。

 皆で協力して何かをするなんてどれくらいぶりだろうか……。協力し合う事で皆の知らなかった最高の部分が見える。これなら失敗なんてする筈がない。最高のカレーが出来るはずだ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理……」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

カレーが無事完成し、クラス全員に振る舞われる。失敗もなかった、これなら皆にも喜んで貰えるはずだ。

 

 

「さて、全員にカレーが行き渡ったな。それじゃあ皆、手と手をあわせて」

 

「「「「「いただきまーす!!」」」」」

 

 

 パクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ブハッ」」」」」

 

 

 

 

 

「ギャァァァアアアアア!!」

「ヌグォオオオオオオオオオオ!」

「マ゛ズ゛イイ゛────────!!」

 

 

 !???!!!!? 

 

 

「ヌオオオオオオオオオオオオ!」

「ヒィィイイイイイイイイ!!」

「グノォォォォォォオオオオオオ!」

 

 

 こ、これは……!! この味は!?!! 

 

 

「ブホッブホホォォ!」

「ブルァアアアアァァアアアア!!」

「ブッシャアアアアァァ!!」

 

 

 間違いない……!? この()()()()()味は!! 

 

 

「高嶺、高嶺ェェェエエエエエエエエ!!」

「ワァァァアアアアアァァ!!!」

「イヤッヤメ……ヌハァ! アアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理って、楽しいね」

 

 

 

 

 キリカ・イル   本の持ち主(パートナー):本堂元就(ほもくん)

 

 筋力:ゴリラ(確信)

 体力:こんにゃく

 知力:やべぇ

 魔力:いいんじゃね? 

『能面』『高位の一族』『魔力感知Lv2』『友情』

『人外の力持つ相棒』『口下手』『気配遮断Lv1』

『料理下手』『料理好き』(new)

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 はい、夕食を惨事に変貌させてしまったキリィちゃんです。

 原因は華さんとの料理修行中に習得してしまったスキル『料理好き』です。このスキルは『料理を行うと追加経験値が入る』効果なのです。

 今回、林間学校で知り合った岩島・山中・水野さんには当然好感度が設定されています。彼らの好感度を加えると、後すこしでレベルアップになる所だったんですね。

 つまり彼等は犠牲になったんだ、経験値の尊い犠牲にな……。

 

 

 ですが、まぁここまでやらかすとキリィちゃんも無事にはすみません。

 般若の顔をした清麿に正座で説教されています。女の子のキリィちゃんに配慮したか《ザケル》での拷問などはないようですが、林間学校の夜はこのまま終わってしまいそうです。

 

 しかし、ゼオンやデュフォーすら恐れた般若顔清麿こわすぎんよぉ。

 キリィちゃん怯えてるしトラウマになってるよ、これ絶対。

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 だが得るものはあった……ぜ……ガクッ。

 

 

 




原作のこの回でガッシュが入れていた「バルカン300オリジナル味の食材」が一体何なのか未だに気になっています。
余談ですが、当日に清麿が作っているカレーの製法は学生時代に筆者が好んでいた味付けです。機会があればお試し下さい。


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15.vsエシュロス

皆様、毎回誤字報告ありがとうございます。
戦闘描写が上手くなりたい今日この頃・・・。





 

 

 

 はい、皆さんおはようございまーす! 

 

 

 

 前回、(清麿の)尊い犠牲により新たなる呪文を獲得した美少女魔物キリィちゃんです。

 あれは、嫌な事件だったね……クラスの皆は、まだ立ち直れていないんだろう? (←元凶)

 まぁ彼等には気の毒な事をしましたが、般若顔での清麿による説教という罰をキリィちゃんも受けたのでおあいこですよね。

 

 え、自業自得? 黙れ! 私の辞書に自業自得なんて言葉はないんだ!! (自分勝手)

 自分勝手なんて言葉もない!喰らいやがれ、第三の新呪文────!! 

 

 

 ……とまぁおふざけは程ほどにして、ゲーム画面に戻りましょう。

 林間学校から数日が経ち、新呪文の効果も試しいざ鎌倉へ! とはいかず、キリィちゃん達は以前清麿達とお茶した喫茶店で待ち合わせをしています。

 

 

「元就、キリカ。待たせたな、俺達に話があるって聞いたんだが」

 

「ウヌ、私達に出来る事なら何でも協力するぞ」

 

 

 当然、お相手はガッシュ君達ですね。

 彼と敵対関係を維持するって初期チャート案が、今でも心の片隅で燻っていますが「そんなチャート、ウチにはないよ」と心のトニオさんが切って捨ててくれるので、何とか走者の平静は保たれています。

 

 今回、二人を呼んだ理由はキリィちゃんの新呪文についてですね。

 林間学校を終えたほもくんは、早速庭に案山子(かかし)を設置し、新呪文の効果を確かめようとしました。

 ですが結果は不発。神の目線である走者(プレイヤー)には呪文の効果も不発の理由もわかっていますが、ほもくんは頭を捻るばかりです。何か条件があるのでは、と時間を変え場所を変え試しましたが結果は変わりませんでした。

 そこで今回、清麿とガッシュ君に話を聞こうという事になったんですね。

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 やってきました、郊外の岩場。

 話を聞いた清麿は、実際にその呪文を見てみたいという事で一緒にここまで来ました。

 そしてほもくんが大岩に向けて唱えるも不発。まぁ当然だよなぁ。(知っている者の煽り)

 

 

「うーん、ガッシュの《ジケルド》みたいに何か条件があるのかもしれないな」

 

「俺もそう思ってキリィと一緒に色々環境を変えてみたけど駄目だったんだ」

 

「とりあえず状況別にまとめてみよう。何か見落としがあるのかもしれない」

 

 

 本の持ち主(パートナー)組は考察を始めました。させねぇよ? (チャート短縮主義者の鑑)

 

 

「……なるほど、かなり状況を変えて試したんだな」

 

「あぁ、案山子の材質や大きさ、距離も変えてみたんだが何も起こらなかった」

 

「案山子、だからかも」

 

「キリィ? 何か気付いたのか?」

 

「“物”には、効果がない。のかも」

 

 

 はい、キリィちゃんの女の勘(仮)が冴え渡り答えへと誘導していきます。

「なら最初から言えよ、ロスじゃねぇか」と思われるかもしれませんがこれは必要経費です。もしも清麿達と会う前にネタバラシをすると「じゃあ実戦で試すしかないな」とほもくんは納得してしまいます。

 

 ですが、このゲームでは効果が判明していない呪文を実戦で使おうとすると一定確率で【失敗】となり大きな隙が生まれてしまいます。数日以内にやってくる次なる魔物はかなりの強敵なので、その失敗を引いてしまうとどうなるかわかりません。ガバを防ぐ為にも、ここで呪文の効果は知っておきたいです。

 ですが、この呪文は魔物相手にしか効果を発揮できません。そこで────

 

 

「ウヌ! では私に向かって呪文を使ってみるのだ」

 

 

 はい、実験台をつれてくる必要がありました。(屑ムーブ)

 なお私も呪文効果は知っていますが、ガッシュ君に使うのは初めてです。まぁ()()()()()()()()()ひどい事にはならんやろ、と安心出来るのもポイントですね。

 余談ですがこの呪文、ティオに使うのは絶対にNGです。「わけが分からないよ」と思われてる皆様も、これだけは絶対に約束シテクダサイネ。(トラウマ)

 

 

「大丈夫なのか、ガッシュ?」

 

「ウヌ、友達が困っておるのだ。私でよければ協力するぞ!」

 

「……わかった。正直、申し出はありがたい。心の力は可能な限り抑えよう」

 

「ウヌ! 元就の事も信じているのだ」

 

「ありがと、ガッシュ」

 

 

 そういいながらガッシュ君の頭を撫でるキリィちゃん。尊い。

 すると、それまでガッシュ君の頭を撫でていた手が淡い光を持ち始めます。今までにはなかった反応ですね。

 

 

「キリカの手が光って……?」

 

「じゃあガッシュ、何かあったらすぐ言ってくれ」

 

「ウヌ!」

 

「元就。お願い」

 

「よし、行くぞ。キリィ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三の術《ミリアボル・ピルク》!!」

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────久しぶりにやってきたこの町は、随分と変わっていた。

 

 でも歩いていると思い出す。子供の頃、僕が味わっていた苦しみと怒りを……

 

 だから僕は壊すんだ。僕にはその為の力がある、間違っているものを壊す力が。

 

 

「一晩経って落ち着いたか? 『進一』」

 

「うん、もう大丈夫だよ。『エシュロス』」

 

「そうか、じゃあ片っ端に壊すとしよう。おまえを苦しめていた全てをな」

 

 

 そう、僕は弱虫だった過去を清算する為にモチノキ町に再びやってきた。久々に寄った公園には子供が()()()()()()()()けど、小学校にはまだ子供がたくさんいた。それを見ていた僕につらい思い出がどんどん蘇ってくる。

 

 

 

《「おい、進一。早くジュース買ってこいよ!」》

 

《「進一、掃除やっとけよな。俺、サッカーの約束あるからよ」》

 

《「こいつが何か決められる訳ないだろ。適当に余ったのやらせればいいんだよ」》

 

 

 

 本当は嫌だった。でもその言葉を言う事が出来なかった。

 

 だけどエシュロスと、この魔本の力で僕は変わる事が出来る。天国にいるママも心配しない大人になれるんだ。

 

 そして翌日、僕はエシュロスと共にこの町を壊す為に動き始めた。

 

 

「よし、じゃあまずは小学校からだ。あそこはいじめを許していた悪い場所だからな。徹底的に壊さないと駄目だ」

 

「うん、そうだね。僕は、僕の意思で学校を壊すんだ」

 

「そうだ、進一。物事を自分で決められるようになったじゃないか。“ママも喜んでいるぞ”」

 

「……! うん」

 

 

 見ていてね、ママ。

 

 ママに喜んでもらう為に僕、がんばるよ! 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

「こいつは驚いたな。はるばる北海道から来た甲斐があったな」

 

「キリィから話は聞いている。お前達、この学校を壊そうとしてるんだってな」

 

 

 小学校の校庭には、女の子と男の子がいた。今日は休日だから()()()()()()()と思ったのに、そう考えていると女の子の方はエシュロスと同じ魔物だと言った。エシュロスから聞いてはいたけど、見るのは初めてだ。

 

 

「エシュロス、本当にあの子と戦うの!? まだ小さな女の子だよ?」

 

「そんなの関係ねぇ! お前が戦わないとオレがいなくなるぞ! オレの力なくしてママの願いが叶えられるのか!?」

 

「マ……ママ……」

 

 

 僕は相手の魔物の子を見る。エシュロスよりも少し小さい女の子だ、本当にあんな子が────?! 

 

 

 僕の視線はその子に釘付けになった。いや、釘付けにされてしまった。

 

 黒くて長い髪、その奥に見える黒い瞳……いや『深淵』を除く様な暗い瞳。

 

 体が震える。まるで、僕の心を引き摺り出される様な感覚。

 

 

恐い……! 怖い……!! コワイ!!! 

 

 

 

「……《グランダム》!!」

 

 

 そうして僕は、不意打ちのようにその子を攻撃した。

 

 その子の両脇から巨大な石壁が出現して挟み潰す。その子の姿が見えなくなった事で、僕はようやく止めていた呼吸を再び始めることが出来た。

 

 

「何だ、進一。やれば出来るじゃないか。そうだ、おまえさえやる気になればオレに負けはない。オレはエリートだからな」

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

【壁のなかにいる】

 

 

 

 はい、テレポートもしていないのに壁に埋められたキリィちゃんです。

 今、キリィちゃんは『土』を操る呪文を使う魔物エシュロスと戦っています。どうしてこうなった。

 

 本来このチャートは原作通りガッシュvsエシュロスを観戦し、進一君が覚醒進一君になったら颯爽と現れガッシュを助け出す(漁夫の利を狙う)という予定だったのです。エシュロス君こわいもん。

 ですがなんと、ここで完璧に思えたチャートに狂いが生じてしまいました。まさかこの走者の目を以ってしても……(基本節穴)

 

 原因はアレです。キリィちゃんの新呪文です。

 誰だよ、ガッシュ君なら大丈夫とか根拠のない事いってた奴は。そうだよ、私だよ。(逆ギレ)

 ですが想像できませんよ。ガッシュ君があんな事になるなんてさぁ‥(ガバ)

 

 その結果進一君とガッシュ君が出会わず、彼が行おうとしている破壊活動に気づけないと言う原作乖離が始まりました。やばいよ、やばいよ~(例のあの方)

 苦肉の策としてキリィちゃんの『気配遮断』で彼等の会話を盗み聞きし、ほもくんと共に駆けつけたと言う訳ですが……勝てんの、コレ? 

 

 正直に言うと勝つのはかなり厳しいです。エシュロスはエリートを自称するだけあって、現時点で使用可能な呪文が8つです。格差ひどすぎない? 

 まぁほとんど下級呪文なので火力は低めですが、『応用力』というキリィちゃんの持ち味を完全に上回っています。相性悪すぎィ! でも呪文はヨコセェ! (切実)

 

 

「キリィ、大丈夫か!?」

 

「平気」

 

 

 壁の中にいるのに平然と会話を続ける二人。ほもくんのメンタルやべぇな。

 まぁ正確には壁に埋まっている訳ではありません、挟み込んできている石壁を両手でせき止めて潰されないようにしている状況です。原作でガッシュ君に出来たならキリィちゃんに出来ない道理はないんだよなぁ! (ゴリラ系ヒロイン)

 

 おっと、ここでほもくん清麿にメールしてますよ。

 ただの魔界の王を決める戦いならまだしも、相手は一般人を巻き込もうとしていますからね。連絡にも迷いがありません。

 これでキリィちゃんの目標が『エシュロスの撃破』から『ガッシュ君達の到着』に下方修正されました。やったぜ。

 

 ではではひとまず、この状況から抜け出しましょう。挟まれてないのに気付かれ追撃されたら一巻の終わりです。

 

 まず、ほもくんを石壁の隙間から抜けさせます。

 そしてキリィちゃんは呪文で抜け出します。といっても今覚えているのはコルルの呪文。《ゼルク》や《ゼルセン》を唱えようものなら「幻滅しました、キリィちゃんのファンやめます」と皆様が言い出しかねません。

 そ・こ・で・ぇ~……

 

 

「《ピケル》!」

 

 

 第二の呪文発動です。キリィちゃんの手がコルル狂化モードのような鋭い爪になりました。

 コルルの呪文性質《狂化》が両手に反映された為、このような姿になったんですね。全身が狂化された訳ではないので身体能力はあまり上がりませんが、自由に使える鋭利な武器が手に入っただけで御の字です。

 

 これで石壁をスパッと切ります。まるでバターのように! 

 

 

「何!? あの攻撃を耐えただと!?」

 

 

 その台詞、すっごい負け役臭いな。(余裕)

 おっと慢心はいけません相手は格上、相手は格上。よし、気合入った。

 

 今のキリィちゃんの勝ち筋は接近戦だけです。ひたすら突っ込みますよ。

 

 

「く、来るなぁ!! 《グランガルゴ》!」

 

 

 地面からたくさんの石の槍が襲い掛かってきます。手の爪でなぎ払うも全てを防ぐのは無理です、何本か刺さりキリィちゃんが血濡れになります。

 

 でもそんなの関係ねぇ!! 突撃します! 

 

 

「こ……来ないで! 《クレイド》!」

 

 

 おぉっとぉ、地面が粘土状になりキリィちゃんが絡め取られてしまいました。これでは動けませんね。

 だがキリィちゃんが動けないのなら……もう片方が動けばいい! 

 

 

「キリィにばかり気を取られすぎだよ、わかるけど……ねっ!!」

 

「ガッハァ!!」

 

「な!? (エシュロスを……素手で?!)」

 

 

 ほもくんの右フックが炸裂します。ダメージはありませんが、キリィちゃんの拘束が緩みました。脱出成功です。その本、貰ったぁ!! 

 

 

「進一、呪文を唱えろ! 早く!!」

 

「う……、うわぁああああ!!! 《グランバオ》!」

 

 

 エシュロスの周囲の地面が爆発しキリィちゃんとほもくんが吹き飛ばされてしまいます。また距離を詰める所からやり直しですね……おっと、キリィちゃんがふらついています。ダメージを受けすぎてしまったようです。

 

 ですが問題ありません。先日ほもくんと魔本を確認し、最後の最後で出現していた『あの呪文』があるんです。《ピケル》を解除して、ほもくんお願ーい。

 

 

「全く、キリィは無茶しすぎだ」

 

 

 

 

 

「《ピルク・ライフォジオ》!」

 

 

 はい、コルルの持つ回復呪文《ライフォジオ》です。コルル本人が望んだこの《やさしい呪文》は体力の継続回復の効果があります。あ、ありがてぇ…!(効果が)うますぎるッ犯罪的だ!!

 

 なお本来はIFストーリーでないと使用できないこの呪文ですが、原作ルートでも『最後にガッシュに想いを託し消える間際に習得する』という裏設定のような仕様になっています。

 コルルが消える直前なので本来意味のない仕様ですが、『複製(コピー)』を持つキリィちゃんには有効活用が可能です。その為に、ほもくんに最後《ピルク》を唱えて貰うように誘導したんですね。

 

 感動の場面かと思ったかい? な~んちゃってぇ、楽しかったぜぇお前との友情ごっこ!(真ゲス顔)

 

 とにかくこれでまだまだ戦えます。どんどん攻めますよぉ~。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 飽きた。(本音)

 

 一進一退といえば聞こえがいいですが、状況が全く変わってないんですね。

 

 キリィちゃん攻める→近付く→ダメージ受ける→下がる→回復→無限ループ

 

 相手の行動に規則性があればすぐに対応可能だったのですが、進一君が何故か非常にビビっており行動が全く読めません。格ゲーも初心者の方が動き読みにくいのと同じ現象よね。

 どうしよう、この状況。今はにらみ合いに戻ってますがこのまま続けても状況が好転するかどうか────

 

 

「キリカ!!」

 

 

 おぉ、清麿です! ガッシュもついてきてますし見た感じもう大丈夫そうです。 

 勝ったな(フラグ)、では後は交代してもらえば原作ムーブへと……

 

 

 

「《グランガルゴ》!!」

 

「な、何だこれは!?」

 

 

 !? 清麿達が地面から出てきた石の槍に閉じ込められましたが……何かデカくない? 先程キリィちゃんが受けた石の槍の数倍の大きさはありますし密集しています。

 あれではガッシュ君の電撃で壊そうとしても、出てくるには時間がかかることでしょう。

 

 

「……邪魔は、させない!」

 

 

 ちょっと待って進一君。

 君、何でそんな覚悟決めたような顔をしているんだい?? 

 

 




 エシュロスの呪文の中で一番強いのは《グランダム》によるパートナーへの不意打ちじゃないかと考えています。
新呪文の詳細は次回の予定です。


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16.第三の呪文

Q.この小説、他者視点パートが多すぎないですか?(不安)

A.気にするな!(自己暗示)




 

 ──どうして

 

 

「《グランセン》!」 地面から土の大砲が出現し、発射された岩石が彼女を吹き飛ばす。

 

 

 ────どうして

 

 

「《グランクラッグ》!」 地面が隆起崩壊し彼女が地割れに飲みこまれる。

 

 

 ──────どうして

 

 

「《グランガルゴ》!」 地面から複数の石槍が飛び出し、彼女の体を貫く。

 

 

 ──どうして何度倒れても立ち上がってこれるの!? 

 

 

 

 エシュロスとその女の子の戦いは一方的だった。

 

 彼女の呪文は手に鉤爪を生やすだけの肉弾戦。僕は、彼女を近づけないようにひたすら呪文を唱えた。いつか諦めてくれるだろうと思って。

 

 でも、その子は何度呪文を受けても立ち向かってくる。彼女の瞳は、その間も僕を真っ直ぐ見つめている。その目が僕を見ていると僕の体からは震えは止まらなくなる。理由はわからないが、今すぐにでもその目線から逃げ出したかった。その一心でまた呪文を唱える。

 

 

「《グランセン》!」

 

「キリィ!?……疾ッ!」

 

「うあああああああああああ!」

 

「チッ……、クソッ!」

 

 

 彼女と二手にわかれこちらに向かってくる本の持ち主(パートナー)がいる。恐怖にかられた僕は、向かってくる彼に対して雄叫びをあげ拳をふるい牽制する。それを見て本の持ち主(パートナー)も一度後退し彼女の所へ向かう。

 

 

「ハァッ……ハッ……ハァッ……」

 

「お、おい……進一。大丈夫なのか?」

 

「……え?」

 

 

 “敵”が離れ一息ついた僕にエシュロスが困惑した様子で問いかけてくる。まるで僕を気遣ってくれているような言葉、だがエシュロスは今まで厳しく僕を律してくれるだけで、こんな優しい言葉をかけてくれる事は今までなかった。

 

 

「どうしたんだい? エシュロス」

 

「い、いや……お前がここまで積極的に戦いに参加するとは思ってなくてな。少し驚いていた」

 

「…………えっ」

 

 

 その言葉に僕は『自分が戦いを行っている』という事実に驚く。僕はただ恐さから逃げたかっただけだ。でもその為に僕は今、呪文を唱えてエシュロスと共に彼女と戦っている。思わず僕は視線を女の子と本の持ち主(パートナー)の方へと戻した。

 

 

「…………えっ?」

 

「どうした、進一。何か気が付いたのか?」

 

 

 エシュロスが僕に問いかけてくるが、それに答える余裕はない。

 

 少女の顔が呆れを浮かべたような表情になり、僕を見据える瞳からは先程まで感じていた『恐怖』の色が減ったような気がしたからだ。

 

 戦いに飽きたとか、変わらない状況に呆れていたとかいう理由の訳が無い。今まであんな危険な特攻を繰り返していた彼女が、そんな状況を見ているだけの第三者が抱くような事を思う筈がないから。

 

 つまりあれは別の意図がある筈だ、と僕は彼女を初めてと言っていい程にその子を真正面から見据えた。

 

 

「……!! あっ」

 

 

 僕とその子との距離は数十mは離れている。僕の視力なら決して見える筈がない、でもそんな彼女の瞳の中には『怯える僕自身の姿』が見えた気がした。

 

 

 ──その子の瞳の黒は深淵の闇へと続いているような気がしていた。

 

 ──その子が何度も立ち上がるのは僕をその闇へと引きずり込もうとしているからだと思った。

 

 

 でも違った。

 

 

 あの子は────、ただ僕自身を真っ直ぐ見てくれていただけだった。それをあの子は『まだ気付いていないのか』と呆れているのだ! 

 

 

 僕はママ以外の人物と真正面から向き合う事をしなかった。優しい人や明るい人が僕と向き合おうとしてくれたが、僕自身はその人達の事を心の中で拒絶した事で彼等は諦めて僕から離れていった。子供時代の嫌な思い出は、心の中の自分自身を他者から拒む殻のようなものになっていた事に気付いた。

 

 

「あ……、あぁ……!」

 

 

 その女の子の瞳は僕のそんな心の底を見抜き、鏡写しの様に僕に見せていたんだ。僕は彼女に抱いていた恐怖の理由を知り驚愕と……申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 

《「進一、お前が気に入らないものはブチ壊していけばいいんだ」》

 

 

 エシュロスが僕に言っていた言葉が蘇る。僕はその言葉に従い色々なものを壊して、立派な大人に近付いている気がした。でもまるで見当違いだった。……僕は『最も壊さないといけないもの』から逃げ続けていただけなんだ。

 

 

「! 進一、奴等また来るぞ。まだ心の力は残ってる、強力な呪文を唱えれば今度こそ押し切れる筈だ」

 

「…………」

 

 

 先程まで恐怖でしかなかった女の子との戦い。本音を言えばこのままエシュロスに任せたい、彼に全てを委ねてしまいたい。彼の呪文があれば彼女は近づけないし、エシュロスが相手をしてくれる筈だから。

 

 でも────

 

 

 

《「進一、あなたの意思で物事を決めなさい。勇気を出してそれさえ出来れば立派な大人になれるわ」》

 

「ママ…………」

 

「……? どうしたんだ、進一」

 

 

「キリカ!!」

 

 

「何!? 仲間の魔物がいたのか! 進……」

 

「《グランガルゴ》」!! 

 

 

 僕は新たにやってきた子供達を石の槍で囲い、身動きを取れなくした。

 

 僕はこれから、多分人生で最も恐い思いをする。でも逃げる事はしない、これは僕自身が決めた事だから。絶対に────

 

 

「……邪魔は、させない!」

 

 

 そう言い、僕は自ら女の子と距離を詰める。あの子の呪文は肉弾戦、本の持ち主(パートナー)の男の子も一緒だ。

 

 このままエシュロスに頼っていたら何も変わらない。だから僕は!!! 

 

 

「呪文なしで、勝負しよう」

 

「え?」

 

「は!?」

 

「何だと!?」

 

 

 彼女の本の持ち主(パートナー)へ向け、その言葉を放つ。

 

 

「おい、何を考えている!? 呪文の相性はこちらが有利、心の力もまだまだ残ってる。このまま戦えば俺達の勝ちなんだぞ!!」

 

「うん。でもそれは……“僕”の勝ちじゃない」

 

「お前、何を言って……」

 

 

「魔物の方は不服のようだが、いいのか? 此方としてはその方がありがたい。……このまま戦ってキリィが更に傷つくのは見たくないからな」

 

「構わない。だけど、一つ頼みがあるんだ」

 

「頼み? 条件じゃないのか、一体何だ?」

 

「…………その子に、見届けて欲しいんだ」

 

「私?」

 

 

 僕は彼女に教えてもらった。僕が何をすべきなのか、何をしたらいけないのかを。彼女達はとても強い。僕に『学校を壊させない』と強い意志を持って、勇気と共にエシュロスに立ち向かい何度倒れても起き上がってきた。

 

 だからこそ僕は自分だけの力と意思で君達と向き合う。その勇気が『弱虫の自分を守っていた殻』を壊す唯一の方法なんだ!! 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「疾ッ!!」

 

「ぐうぅっ!」

 

 本の持ち主(パートナー)の彼、元就君と名乗ってくれた少年が素早い動きで翻弄する。目で追うことは出来ないけど、さっきまで何度も見て来た動きだ。攻撃を受け止める事は出来る。だけどその小さな体からは考えられない衝撃が僕に襲い掛かる。

 

 すごく恐い、今の僕の隣にはエシュロスもいないし魔本もない。守ってくれるものは何もない。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

 だけど僕は逃げない、涙でにじむ視界の中で動く元就君を捉え真っ直ぐパンチを繰り出す。

 

 

「チッ、何てパワーだよ。まともに喰らったら終わりだな」

 

「元就」

 

「大丈夫だ、キリィ。俺は負けない」

 

「え!?」

 

「あの動きは、何だ?!」

 

「……暗歩?」

 

 

 急に元就君の動きが不規則になる、まるで陽炎のようにゆらゆらと移動を行い僕を翻弄する。興味をなくしたように魔本を持ち座っていたエシュロスも驚いていた。

 

 それまで読めていた動きが全く読めなくなってしまった僕は攻撃を受け続ける。まともに受けないよう身を固めるだけで精一杯だった。

 

 やっぱり僕なんかじゃ無理だった、勇気を出しても何も出来ない。何も変わらない。弱虫のままなん……

 

 

《「勇気を出しなさい、進一」》

 

「!! うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

 ────母さんの声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 はい、状況を見守るしかない大人気魔物キリィちゃんです。

 

 

 一体いつからこのゲームはスト○ートファ○トになったんでしょうか。魔物も魔本も呪文も関係ない肉弾戦バトルが目の前で繰り広げられています。おい、デュエルしろよ。

 

 ですが正直ホッとしています。

 エシュロスの本の持ち主(パートナー)である進一君はとても心優しい子なので、自分の意思で立ち上がった『覚醒進一君』になれば、勝敗関係なく本を渡してくれます。エシュロスに従い破壊活動をしていた事実に気付きますからね。ようは覚醒させたらそこで試合終了です。安西先生、本を……燃やしたいです。(過激派)

 

 あっ、早々に決着つきましたね。勝者は────当然、ほもくんです。

『人外の力持つ相棒』のスキル効果は伊達ではありません。正面から本の持ち主(パートナー)同士で戦えば、ほもくんに負けはありえません。玄宗? 無茶言うな。

 

 ですが進一君も頑張ったらしく、最後の一撃は防御を捨て受けた攻撃を耐えた上で反撃を行ったようで、ほもくんもフラフラです。

 何はともあれこれで無事勝利ですね。一時はどうなる事かと思いましたが、ガッシュ君達も、もうすぐ包囲された岩山から脱出出来ますし問題ありませんね。

 じゃあ本を渡してもら────

 

 

「ふざけるな!! オレはまだ戦えるんだ。進一、呪文を唱えろ!」

 

 

 何、こいつ。空気読めてないの? 勝負に勝ったら終わりの流れだったやん(ジト目)

 

 

「エシュロス、僕は負けたんだ。僕は本を捨てる、これは僕の意思だ」

 

「負けたのはお前だけだ! まだオレは負けていない、本を捨てるなんて許さんぞ!!」

 

 

 本の持ち主(パートナー)も認めているのに何コイツ? 空気読めよ(軽蔑の眼差し)

 折角まとまりかけたこの空気を壊したくありません、素直に負けを認めてもらいましょうか。

 

 つかつかとキリィちゃんがエシュロスに近付きベアクローをかまします、キリィちゃんの握力は180kg(最近成長)。肉弾戦をお前としたならこっちの楽勝なんだよ。ギリギリギリ

 

 

「ぐあああああああああああ!! は、離せぇええ!」

 

 

 エシュロスが暴れだしたので手を離しました。ベアクローだけでは駄目のようですね。

 それなら仕方ないナァ……、負けを認めないそっちが悪いんだもんネェ(謎の微笑み)

 

 

「な、何だお前。手が光りだして……」

 

「元就」

 

「あ、あぁ。わかった」

 

 

「第三の術《ミリアボル・ピルク》!」

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 ────進一の敗北宣言に納得のいかなかった俺は戦いを続けるようにいった。だが進一は頷こうとしない。

 

 それもコレも全てこいつ等のせいだ。力でオレに勝てないからって進一を丸め込みやがった。当然、オレは納得しない。こうなったらコイツを倒してまた進一を洗脳してやればいい。

 

 そう思っていた俺は急に相手の魔物に頭を掴まれる。痛ッ、痛痛痛痛痛痛痛痛!!! 何だこの馬鹿力は?! その異常な力に焦った俺は女を振りほどき後ろへ下がる。

 

 それがいけなかった、女は本の持ち主(パートナー)へ指示し今まで使わなかった呪文を唱えた。

 

 

「第三の術《ミリアボル・ピルク》!」

 

 

 女の手から閃光が迸る。だが不思議と眩しくはない。周囲を確認するも何も変化がなかった。

 

 

「ハ……ハハッ。何だ、不発か。驚かせやがって。新呪文だから警戒したがただの見掛け倒しか!」

 

「エシュロス……」

 

「進一、このままじゃオレが消えてママの願いを果たせなくなるぞ。戦うんだ!!」

 

「わかったよ」

 

 

 進一が先程の拒否が嘘の様にオレの言葉に従う。やはり『ママの為』と言ってやればこいつは何でも信用する、まだやり直せる。

 

 

「《グランバイソン》!」

 

 

 地面から巨大な土蛇を生み出して攻撃する。今まで唱えていた呪文より遥かに強力な威力だ、発動後の隙が大きく進一は使用を躊躇っていたようだが関係ない。この攻撃でアイツを潰せるはずだ。

 

 俺はそう確信していた。だが────

 

 

「邪魔」

 

 

 何と巨大な土蛇は、女の拳ひとつで叩き伏せられ地面へと沈んでいった。

 

 

「……は?」

 

 

 いくら奴が馬鹿力でも《ギガノ》級に迫るあの術を素手で倒せる筈がない。そもそも今までの戦いでは、そんな事を出来るそぶりすらみせなかった筈だ。俺は呆気にとられ放心する。

 

 

「遊びは、終わり」

 

 

 そう言って女は手をこちらへ向ける。その隣にいる本の持ち主(パートナー)が持つ魔本からは、天に昇る程の勢いで光が放たれている。明らかに何かが違う! 

 

 

「《……オ・シン・ピケルガ》!」

 

 

 

 

 

 …………オイ、今あの本の持ち主(パートナー)は何と呪文を唱えた? 

 

 最初の方は聞き取れなかったが間違いなくヤツは唱えた────《シン》級の呪文を

 

 

「あ……、あ……あぁ…………」

 

 

 女の手から巨大な力の塊が放たれる。あれが《シン》の呪文の力。エリートであるオレでさえ古い文献でしか見た事が無い、最強の呪文。その攻撃は世界の法則を変えるとまで言われる絶対的な力。

 

 幼い頃に見たあの文献の内容と、その時感じた恐怖が記憶が蘇る。……勝てる訳がない、オレは尻もちをつきその一撃を正面からその身で受けるしかなかった。

 

 

 …………身体が焼けていく。

 

 ………地面が溶けていく。

 

 ……周囲の建物が消えていく。

 

 …本の持ち主(パートナー)の進一すらも容赦なく消えていく。

 

 

 俺は消え去っていく自身を、おぼろげな精神で見ていく事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────その瞬間、世界の全てがガラスのように割れた気がした

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「いい夢、見れた?」

 

「魔本を渡してもらえるな」

 

「……エシュロス」

 

 

 

 気付けば場所は先程と同じ場所。だが校舎は壊れていない、地面は消えていない、進一も心配そうな顔で俺の傍に立っていた。

 

 その瞬間、今見たものはただの幻覚にすぎなかったと理解した。

 

 

 

 

 

 ……だがオレには、奴等の言葉に抗うだけの精神力は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 ───────────────【エシュロス 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 




※その後、エシュロスの呪文はキリィちゃんがおいしく頂きました。


《第三の呪文 ミリアボル・ピルク》

効果:対象の『トラウマ』となる記憶を『複写(コピー)』し、幻覚として見せる

・呪文は『魔物』にしか効果が発揮されない
・呪文を唱える前に、対象の魔物の頭に触れていなければいけない
・精神攻撃である為、相手の精神力が上回っていると不発に終わる
・相手が動揺/狼狽/憔悴などの状態だと成功率が上がる
・幻覚は数分程度の内容で見せる事が可能、ただし現実時間の経過は一瞬
・幻覚内容は「対象のトラウマ」に準じたもので固定される


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17.キリカ・イルという少女2

 仕事が忙しくグラブルヴァーサスに逃げてます(おい)
今後、投稿速度が多少遅くなりますがご了承下さい。それでも一週間に一本は書き上げたい所です。


 

 

 

 

 

 ────朝が来た。もうあの嫌な夢を見る事はなかった。

 

 キリカから新呪文を受けた私は、それから毎晩その時の事を夢に見る様になっていたのだ。

 

 そのせいで清麿や元就殿が話しかけても上の空、まともに話をする事が出来なかった。

 

 公園で落ち込んでいた私が珍しかったのか、いじわるなナオミちゃんも私が悪夢にうなされている話をしっかりと聞いてくれた……「元気出さないからそんな夢見るのよ」とその後追い掛け回される事になったが

 

 しかし数日が経ち『エシュロス』と呼ばれる魔物がキリカと戦っているという話を聞いて私は立ち直った。落ち込んでいる場合ではない、キリカを守らねばという気持ちが清麿と以前かわした『約束』を思い出したのだ。

 

 

「ガッシュ、俺は今日学校を休む。話を聞かせてくれないか?」

 

 

 起きた私の様子を見た清麿が問いかけてくる。

 

 私は清麿に全て話そうと思う。

 

『友達』を救う為に、あの時私が見た光景を……

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 皆さん、おはようございまーす! 大人気魔物キリィちゃんです。

 前回は下級呪文を7つも持つ強力(当社基準)な魔物、エシュロスを撃退しました。そしてその呪文もバッチリ『複製(コピー)』し今や合計呪文10個を扱える強力キリィちゃんの爆誕です!

私に抜かりはない。ドヤァ! (ウザい顔)

 

 

 ちなみに今回は箸休め回です。次にやってくる魔物はおなじみのアヒル君、彼の魔本を燃やす訳にはいかないので原作ルートに進むガッシュ君の邪魔をしないように今後有利になる立ち回りを心がけましょう。

 

 

「キリカちゃん、そっちのダンボール持ってきてくれる?」

 

「うん、わかった」

 

「ありがとね、スズメが助っ人っていうから警戒しちゃったけど大助かりよ」

 

「あっ、マリ子ちゃんひどーい」

 

 

 そんな訳で暇を持て余したキリィちゃんは学校にやってきています。以前の林間学校で上げきる事が出来なかったスズメ達の好感度稼ぎですね。

 所属する合唱部のお手伝いを行う事で、彼女の幼馴染である「仲村 マリ子」ちゃんとも知りあいになり好感度が2倍稼げます。非常にうま味ですね。

 

 

「そういえばスズメ、今日高嶺君休みだからプリント持ってくよう言われてたんじゃないの?」

 

「うん、でもキリカちゃんが届けてくれるから私は最後まで手伝えるよ」

 

「キリカちゃんが? ……いいの~? 高嶺君に会いにいかなくて」

 

 

 そうです、今日は清麿がお休みなのです。ついでにガッシュもいません、当然ですが。

 清麿は軽い風邪を引いたため学校を休み、そこを敵の魔物に襲われるんですね。思い通り原作準拠で進んでいてニヤニヤが止まりませんなぁ。エシュロスの戦いの時点でこじれたかと思ってましたが心配しすぎのようだったZE☆

 

 

「私は毎日学校で高嶺君と会えるから。ここはキリカちゃんに譲ってあげないとね、フフ♡」

 

「ん? 何々スズメ、キリカちゃんがさっきから嬉しそうだけど……もしかして」

 

「マリ子ちゃんも気付いちゃった? そう、ガッシュ君の()()()なんだって」

 

「へぇ~、スズメがキューピッド役とはね。人って成長するものねぇ」

 

「だからマリ子ちゃんひどーい!」

 

 

 ん? 何でキリィちゃんから離れて話をしてるんだろうあの二人。まぁ合唱部の内密な話でしょう、気にせんとこ。

 

 余談ですが、この清麿へのお見舞いはとある魔物のフラグになります。これをスルーすると次のイベント開始がスズメの風邪発症後になるので、チャート短縮の為にボキッと折っておきましょうね~。

 ついでにさっきからキリィちゃんの『魔力感知』にビンビン引っかかってる魔物がいますが、今は気付かないフリをしましょう。無視です無視。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 合唱部のお手伝いも一段落し『清麿へのお見舞い』の為にマリ子ちゃん達とお別れします。

 何かすごいいい笑顔で見送ってくれましたが好感度稼ぎが上手くいったんでしょう、多分。

 このままお見舞いに行っても良いのですが、チャート短縮作業はもう一工程あります。鼻の長いイケメンロールをする清麿を見たい衝動をグッと堪え、少し待ってから『魔力感知』を行いましょう。 

 

 ……さっき見逃した魔物が別の魔物と戦っていますね。魔力反応が弱いですし、相手はきっと原作に出ないモブ魔物ですね。

 モブ魔物は撃破ポイントに入りませんが、今のキリィちゃんなら素手で倒せるレベル。せめて経験値のダシにでもさせてもらいましょう! イクゾーデッデッデデデン(謎SE)

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 モチノキ埠頭に到着です。

 動きがないので戦闘は決着したようです、魔本を燃やされる前に割り込みましょう! 

 待て待て待て~~~ぃ! 

 

 

「も、もう止めようよ。ヤキュルトあげるから許してよ」

 

「私のCDと写真集もオマケするぞ! だから見逃してよ~」

 

 

 …………は? 

 何やってんの、あの子達!? なんで清麿の所へ行かないで、こんな所で土下座してるの!? 

 

 

「プププププ……『リュック』見てよアイツ等。歯をガタガタ震わせて怯えてるよ」

 

「そう言うな『ロブノス』。我々の半分の力に手も足も出ないんだ。弱すぎて同情すらしてしまうよ」

 

 

 相手は先程キリィちゃんを見張っていたアンドロイドのような魔物『ロブノス』。この段階で戦う相手としてはスペックが高く知略にも長けた強敵ですね。キャンチョメ君にはあまりにも荷が勝ちすぎています。

 伝説の超サイヤ人の力を目の当たりにした野菜王子みたいな事になっても仕方ありません。とにかく助けましょうかね~

 2組の間に立ち、両手を広げてキャンチョメをかばいます。ここは無計画(ノープラン)で問題ありません。

 

 

「ん、新手かな? ……何だ、さっきの奴か。リュック、()()引こう」

 

「いいのか、ロブノス。今なら黄色い魔本を燃やす事も出来るが」

 

「構わないよ。大した相手じゃなかったし……十分楽しませて貰ったからさ、ププププ」

 

 

 知ってたよ、この天然ドSロイドが。

 ロブノスは魔界の王を決める戦いよりも自身の加虐趣味を満たす事に重点を置く魔物です。キャンチョメとフォルゴレの無様な命乞いを見て満足したのか、上機嫌に去っていきました。

 ですがここで気を抜いてはいけません。(2敗)去っていったロブノスはキリィちゃんより小さかったので。

 感知(カメラ)を止めるな! 

 

 

「キ……キリカ……」

 

「キリカ、ありがとう。まぁ“鉄のフォルゴレ”様にかかればあんな奴等どうって事ないが、助かったのは事実だ」

 

 

 フォルゴレは先程の土下座スタイルから一点、いつもの調子に1秒で立ち直りました。服がボロボロでほぼ上半身裸の格好なのに、この変わり身の早さだからね。尊敬するわ、ホント。

 逆にキャンチョメは少し引きずってるっぽいですね。気にすんな、そのうち強くなるから(事実)

 

 

「キリカ……、でも僕は弱虫で、勇気を出してみたけど結局キリカに助けられて」

 

 

 どうやらキリィちゃんとの『友情』の効果で、キャンチョメが少し積極的になった故の行動ですね。

 だからと言って、ゲーセンで初心者狩り相手に連コインするような真似をしても強くはなれないんだよなぁ。

 ひとまずキャンチョメには無理に背伸びしない事、身の丈にあった戦いをする事を教えます。だからモチノキ町にいる同じ落ちこぼれの所に早くいくんだよ。(力技)

 

 

「う、うん。わかったよ。これからガッシュの所に行くけど、その後にキリカの家へ遊びに行ってもいいかい?」

 

 

 おい止めろ、何か変なフラグが立ちそうになるだろ。まぁガッシュ相手じゃそんなもの立ちませんけどね。

 キリィちゃんの家、っていうかほもくんの家ですが気にせず了承。ほもくんには事後承諾を得れば問題ありません。ついでに清麿へ届けるプリントをフォルゴレに渡し、清麿への配達をお願いします。

 これで約束を守った事になりスズメやマリ子ちゃんの好感度減少も防げるんですね。

 

 

 という訳で少し元気を取り戻したキャンチョメと別れ、キリィちゃんは一人残ります。

 オラはよしろよ。獲物が絶好の隙を見せてるんだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ププププ、我がいなくなったと安心したね。一人残ってくれるとは好都合だよ」

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────暗い、部屋が見える。

 

 誰もいない部屋。天窓から差し込む月の光がその部屋の貧しさを現していた。

 

 その部屋の片隅で膝を抱えうずくまる人物。あれは……私? それとも……

 

 

■■■■、何をやってんだ!! グズグズしてないで起きて用意しな!」

 

 

 突然、身体に衝撃が伝わる。どうやら殴られたようだ。自分を怒鳴る人物の声が聞こえる。

 

 男なのか、女なのか。それすらもわからない真っ黒に塗り潰された人物から罵声を受け、【私】は掃除・洗濯・炊事をこなしていった。

 

 

「ごめんなさい……」

 

「フン! いつもみじめな顔しやがって」

 

 

 いつもの日常が始まり学校へと向かう

 

 

 ……そうか、これが【私】の“日常”だというのか

 

 

「本当の家族? 何を言い出すんだ一体」

 

 

 ある日、辛い日々に耐えかね家族について聞き出す【私】

 

 目の前にいる人は家族なんかじゃない、間違いなくそう確信していた【私】は襲ってくる身体の痛みにも負けずに聞き続ける

 

 

「お前に家族なんか誰もいやしないよ」

 

 

 そして痺れを切らし溢された言葉、その言葉に【私】は絶望した。

 

 それからは全てに色がなくなった。

 

 学校にいても、公園にいても、家で奴隷の様にこきつかわれていても……

 

 

 ……【私】から感情は抜け落ち【無】となっていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「……それが私が、キリカの新呪文を受けて見た光景だったのだ」

 

 

 清麿に全て伝え終え息を吐く。口の中が渇ききっており、まるで何日も喋り続けたような気になってしまう。

 

 清麿は「そうか……」と言った後、腕を顎の前で組み俯いたまま考え事をしている。頭の中で整理しているのだろう、私も今の光景を整理するのに数日を要してしまった。

 

 

「ガッシュ。お前は覚えてないかもしれないが、キリカは新呪文《ミリアボル・ピルク》をかけた後呪文の効果をこう言っていた。【相手にトラウマの記憶を見せる事が出来る】と」

 

「記憶……だが私は」

 

「そうだ、ガッシュ。お前には記憶がない。だから可能性は2つある。1つはガッシュ自身覚えていない心に残っていたトラウマが表れたもの。そしてもう1つは……」

 

 

()()()()()()()()が表れた場合、だな。清麿」

 

「……その通りだ」

 

 

 そこで会話は止まり無言の時間が続く。清麿もわかっているのだ、どちらが正解なのかを。あの救いのない時間を経験したのは一体誰なのかを……。

 

 

「私は……」

 

「ガッシュ」

 

「私は……“やさしい王様”になるのだ」

 

 

 今一度、コルルとかわした約束を口に出す。あのような思いを二度と味わわせてはならぬ、私はキリカの『友達』なのだから。

 

 ────だけど足りない

 

「家族なんていない」と幻覚で言われた時、私が感じた絶望。あれがキリカの感じた絶望なのだとしたら、まだ私に出来る事はないだろうかと思ってしまう。キリカに家族がいない等と二度と言わせないように。

 

 

「清麿、1つ考えたのだが」

 

「ん? 何だ」

 

「キリカに家族がいないというのならば、私が『家族』になる事は出来ぬのかのぅ?」

 

「なっ!?」

 

「清麿、キリカと家族になるにはどうしたらよいか作戦はないかのう?」

 

 

 ウヌゥ、清麿が真っ赤になって固まってしまった。やはり難しい事なのであろうか……いや、諦めてはならぬ。他の者にも機会があったら聞いてみる事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「で、何しに来たんだ?」

 

「ガッシュと戦いに来たんだよ。ミラノから」

 

「そうか、フォルゴレと言ったな。お前も同じ理由だと思って構わないんだな」

 

「ハイ、ソノトオリデス……」

 

 

 私と清麿に用があるといい部屋にあがった2人。フォルゴレ殿と魔物のキャンチョメ。

 

 部屋に入るとすぐに踊りと歌をはじめ、清麿に黒コゲにされたフォルゴレ殿は正座し素直に答えている。

 

 

「しかし何で俺達なんだ? 魔物の子なら他にもいるのに日本までわざわざ……」

 

「『自分の身の丈にあった範囲で出来る事を探すべきだ』ってキリカがアドバイスをくれたんだ。だから同じ落ちこぼれのガッシュなら……!」

 

「ちょっと待て。キリカだって!? キャンチョメ、お前キリカの知り合いなのか?」

 

「ハッハッハ。あの可愛いらしい少女(ラガッツァ)ならキャンチョメと、このイタリアの絶世の美男子パルコ・フォルゴレ様の友達さ。我々の高貴なる魂とあの子の無垢な心が引かれ合ったのさ」

 

 

「《ザケル》!」

 

 

「ギャァアアアアアアアア!! な、なんで……」

 

「悪い、勝ち誇った顔が無性にイラッとしたんだ」

 

「何やってんだよ清麿。無敵の戦士フォルゴレじゃなかったら大惨事だぜ? 鉄のフォルゴ~レ~♪」

 

「「無敵~フォルゴ~~レェ~♪」」

 

 

 キャンチョメの歌うリズムに合わせ、倒れていたフォルゴレ殿がすぐさま立ち上がる。先程から何度も見た光景だが、やはり『むてき』というのはすごいのぅ。

 

 

「わかった。戦う前に少し話をしないか? 俺とガッシュもキリカの友達で、彼女の事を気にかけているんだ」

 

「えっ、ガッシュが? 魔界じゃキリカと話をしてる所を見た事ないけど」

 

「ウヌ、私とキリカは人間界に来てから友達になったのだ」

 

 

 お互いキリカの友達だとわかった途端、皆の緊張がほどけたようだった。私も今は王を決める戦い以上にキリカの事が気になってしまうのでありがたい事なのだ。

 

 まずキャンチョメからキリカの話を聞いた。

 

 残念ながらキャンチョメは魔界にいた頃は話をしていなかったようで、ほとんどが王を決める戦いが始まってからの事だった。しかしキャンチョメは、その話をとても嬉しそうに話す。キャンチョメもキリカの事が大好きのようで嬉しい。キリカには、他にもこんな良い友達がいたのだな。

 

 

「……とまぁこんな所さ、キリカはとってもいいヤツなんだぜ」

 

「そうか、わかった。ありがとう、キャンチョメ」

 

「……清麿、何か彼女にあったのか? 表情が良くないぞ」

 

「……あぁ、悪い。()()キリカの事は別に問題じゃないんだ」

 

「今の?」

 

 

 清麿の雰囲気が変わったのを察したのかフォルゴレ殿が先程までの楽しげな顔を止め、真剣な顔で清麿を見る。

 

 

「あぁ、キャンチョメ。もう一度確認させてくれ、魔界にいた頃のキリカがどんな生活をしていたか知らないのか?」

 

「う、うん。親元を離れて暮らしているらしい事は聞いた事があるけど」

 

「そうか……」

 

 

 そして清麿は話し出した。

 

 キリカの出会いの戦闘の件、ブラゴとの話し合いの件、そして私の受けた呪文で何があったのかを。話を進めるほどにキャンチョメの顔がどんどん青ざめていく。

 

 

「……つまりキリカは自分から親元を離れたんじゃない。家族から捨てられ暴力を受けながら奴隷のような生活をしていたんだ」

 

「そんな……そんな事、あるわけ」

 

「残念ながら事実だ。ブラゴから言われわかっていた気だったが、正直かなりキツい」

 

「……そうか。清麿、その話は彼女にはしたのか?」

 

「い、いや……していないが」

 

「なら今後もしない方がいい。一度刷り込まれた記憶や感情は消える事はない。今は持ち直してるとはいえ、今後何かがきっかけで爆発しかねないからな」

 

 

 全て聴き終えたキャンチョメの顔は真っ白になっていた。

 

 フォルゴレ殿もそれまでの態度が嘘の様に刺々しく鋭い雰囲気へと変わっている。

 

 

「キャンチョメ、お主も私と一緒にキリカの力になってくれぬか?」

 

 

 がっくりと項垂れているキャンチョメに向け、私が言えるのはそれだけだった。

 

 コルルと約束した“やさしい王様”────それはきっと、キリカの様なものを救う事が出来る人物の事なのだ。

 

 そしてキャンチョメなら、キリカの事を思って落ち込む事の出来るこの者なら私と一緒の“やさしい王様”になれる筈だ。

 

 

「ガッシュ……わ、わかってるよ。僕は約束したんだ。いつかキリカを僕が守ってあげるんだ!」

 

 

 その言葉に私は嬉しくなり、キャンチョメと握手をする。

 

 清麿もフォルゴレ殿も、私達を微笑みながらその様子を見ていた。

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

「ん、またか? もしかしてキリカが来たのかな」

 

「ウヌ、ならば私が見てくるのだ」

 

 

 先程と同じく1階におりて玄関の扉を開ける。

 

 だがそこには誰もおらず、目の前には私より一回りほど大きい氷柱が置いてあるだけだった。

 

 しかしこの氷柱、あの者に似ている気がするが……

 

 

「どうしたんだよ、ガッシュ……ん?この氷柱、キリカだよね?」

 

「ウヌゥ、キャンチョメもそう思うかのう。しかし何故……ん?」

 

 

 その氷柱には木のプレートが紐で繋いで首からさげるようにかけられてあった。

 

 私とキャンチョメはそのプレートに書いてある文字を読む。

 

 

 

氷柱(ひょうちゅう)(おんな)(あず)かった

 

 ガッシュと(ほん)()(ぬし)

 

 午後(ごご)()までに

 

 モチノキ(こう)番倉庫(ばんそうこ)()

 

 ()なければ(おんな)(いのち)()いと(おも)え”

 

 

 

 




キリィちゃんの過去は悲惨だなぁ(すっとぼけ)
氷柱のオブジェはとある本の持ち主(パートナー)が数時間で作ってくれました。


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18.不死身の魔物

初回から一週間目標を過ぎてしまった悲しみ。私は悲しい(ポロロン)
想像以上に字数が多くなったので急遽戦闘シーンを分けてみました




 

 

 

 

 はい、おはようございまーす! 

 

 前回はキャンチョメと別れ一人でいた所、ロブノスと「あーぁ、出会っちまったか」してしまった大人気魔物キリィちゃんです。(ただし故意)

 現在、キリィちゃんは彼に連れられてモチノキ港から離れた倉庫街に彼の本の持ち主(パートナー)と共にいます。

 

 

 そしてキリィちゃんは椅子に腰掛け、な、何と紐で縛られています! このままではキリィちゃんの色々が危険です。ならば言うしかあるまい……! 

 

 

 

 

 

 くっ、殺せ! (様式美)

 

 

 

「……そろそろそのロープを解いていいかい? 君がすすんでやった事とはいえ児童誘拐をしているみたいで気分がよくないんだが」

 

「安心していいよキリカ。君は表情の起伏が乏しいから無抵抗を行動で示したんだろうけど、我に君を害する意図はないよ」

 

 

 はい、わかりました。(腕力でブチッ)

 皆様ご安心ください、キリィちゃんは誘拐や監禁などはされておりません。話がしたいと芸術家である本の持ち主(パートナー)リュックのアトリエ(仮)にお誘いされただけです。

 

 ただ会話の展開次第ではO☆HA☆NA☆SHIになるので、自分をロープで縛り無抵抗を表現する事でシリアス展開を封じたわけですね。二人からの呆れの混ざった視線は気にしません、それよりスムーズなチャート進行です。

 

 

「それでキリカ、頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

「あぁ、我の本の持ち主(パートナー)リュックの芸術のモデルになってもらおうとね」

 

 

 ほーん、このキリィちゃんに目をつけるとはやるやん。だけど軽々しく極上の美少女魔物であるキリィちゃんをモデルに出来るとでも? (見下しすぎて見上げるポーズ)

 ちなみに彼等の意図は、ガッシュをおびき出す“エサ”を用意するためです。学校でガッシュの本の持ち主(パートナー)へのプリントをキリィちゃんに渡し届けようとする場面をロブノスには見られているので「知り合いならこいつを誘拐したって言えばガッシュ呼べるんじゃね?」という安直な発想です。

 

 とはいえSM判定フォーラムで「はいお前ドS!!」と杉田ボイスで即答されるロブノスや本の持ち主(パートナー)リュックも犯罪に手を染める気はないので、キリィちゃんを模した創作物と狂言誘拐の手紙だけ用意し、ガッシュを呼ぼうという魂胆な訳ですね。

 この名探偵キリィちゃんにかかればこんなもんですよ。謎は解けた、真実はいつもいびつ! (冤罪)

 

 

「それでどうだい? 我等に協力してくれるかな?」

 

「わかった」

 

 

 ここは即答です。その為にスズメのお見舞いを妨害してきましたので。

 本来ならば清麿のお見舞いに行くのはスズメだったので、原作で彼等はスズメを盗撮しモデルにします。

 そして風邪で出歩かない日に狂言誘拐を行いますが、このチャートだと発生日時がランダムです。気付いたら水面下でイベント終わってたという展開もあるので逆に狙いをこっちに向ければ見逃さないぜ、というチャート進行だった訳ですね。

 

 え? 盗撮は犯罪じゃないのかって? バレなきゃ犯罪じゃないんですよ(萌え邪神感)

 

 

 そんな訳で彼等は手早くキリィちゃんをモデルに彫像の作成にかかります。

 木などは調達や加工に時間がかかるのか、近くの冷凍倉庫にあった氷柱で作業を行うようですね。チャート短縮をそっちからもやってくれるとか非常にうま味です。ロブノス君と今、心が通った気がします。(愉悦部の心)

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 リュックが数時間でやってくれました。

 なんやこの女神!? 一体誰がモデルなんだ……キリィちゃんだったわ! (テンプレ)

 

 

「協力に感謝するよ、キリカ。謝礼を用意するからここで待っていてくれるかい?」

 

 

 倉庫街の一角にしては快適な空間を用意してると思ったけど引き止める為ですね、わかります。

 狂言誘拐を行う以上、被害者役に歩き回られると面倒ですもんね。ここでチャート妨害しても互いに益はないのでキリィちゃんも頷きます。

 

 

「わかった。待ってる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ただしいつまで待つのかは言っていない。

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 はい、現在ロブノス君達がキリィちゃんを置いてモチノキ港でガッシュ達を待っています。そしてキリィちゃんは【魔力感知】で遠くから様子を伺っています。これでガッシュ君が来て戦いが始まればすぐわかります。

 なお、ほもくんには既に召集をかけているので、戦闘中に丁度介入出来そうですね。

 

 

 そして今回の戦闘チャートですが、ガッシュと清麿に任せようと思います。久々とか言うな! 

 

 今までキリィちゃんが単独撃破した魔物はガッシュ君の成長にはさほど貢献しませんでしたが、ロブノスは清麿の戦闘経験においてかなり重要ですからね。

 それにロブノスはプレイヤーが介入して過剰戦力になると、某金ピカ王のように遊びを捨て難易度激ムズのロブノスIFルートに入ります。なのでロブノス完全体になるまでは原作キャラだけで相手をさせるようにしましょう。今のガッシュ・清麿ならほぼ原作通りの強さなので問題ありません。ガバもありませんね。

 

 

 

 

 …………来ました、ガッシュの反応です。もう一人いますね、状況から考えてキャンチョメでしょうか。

 ロブノスのチャートを早めたせいでダブルブッキングしてしまいましたね。キャンチョメ戦はキャンチョメの成長という部分で必修科目ですが、キリィちゃん効果で戦う意思は生まれてきているので省いても問題ありません。カットカットカットォォォオオオ!! 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「すまない、キリィ。遅くなった」

 

 

 戦闘が始まって5分程経ちほもくんがやってきました。

 少し待つ事になりましたが清麿待ちだったので……ママ、エアロ。

 

 では早速出陣しましょう。表口はしっかり閉まっており、冷凍倉庫は忍法で現すと『頑健』『頑健』『頑健』『頑健』の四重構造くらいになっているのでキリィちゃんの呪文では壊せません、裏口から入るしかなさそうですね。では早速裏に回って……

 

 

 

 

 

 

「《ギガノ・ビレイド》!」

 

 

 ゴン太ビームにより表口の扉が吹き飛びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なして? (滝汗)

※IFルートでは原作で使用しなかったゲームオリジナル呪文が解禁される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 ────「キリカ! 無事か」

 

 

 俺はガッシュと共に、指定されたモチノキ港の倉庫へやってきた。指定時刻は移動時間を加味するとギリギリで作戦を立てながらの移動になってしまった。そのせいで今日話せると思っていた《アレ》については話題に出す事が出来なかった。出来るなら必要な場面が来ない事を願いたい。

 

 

 氷像に提げたプレートに書かれた場所は冷凍倉庫、相手に有利な戦場へ呼び出す為の挑戦状だと俺は理解した。ただ……

 

 

「キリカ! いるのかい?!」

 

「おーい、キリカー! イタリアの大スター、パルコ・フォルゴレがやってきたぞ。照れてないで出てくるんだ~」

 

 

 ……こいつらまでついてくるとは思わなかったが。

 

 

「お前等、いいのか? 呼び出したのは恐らく敵の魔物だ、激しい戦闘になるかもしれないぞ」

 

 

 正直、俺の家での空回りを見ていると心配になる。だが俺は、彼等の同行に対して文句は言わなかった。

 

 

「大丈夫さ、キリカのピンチは僕が救うんだ」

 

「その通りだ、キャンチョメ。さっきキリカに手助けしてもらった恩を、こっちが返す番だ」

 

 

 …キャンチョメ達の『キリカを救いたい』という思いは本気だと思ったから。

 

 

「やぁ、よく来たね。我はロブノス、彫刻が趣味の不死身の魔物さ。弱いモノ苛めが大好きなんだよ」

 

「てめぇか、俺達を呼び出した魔物は……」

 

「焦ってるね、氷像のプレゼントが上手くいってとてもいい気分だよ。オマケもついてきてるけどそいつ等なら別にいいや」

 

「フン、絶世の美男子を含めた4人を相手に随分余裕じゃないか。彼女は何処にいるんだ?」

 

 

「安心していいよ。彼女には何もしていないし『攻撃してきたら人質の命は無い』とかいうセコい事を言うつもりも無いから。我はガッシュをコケにする為だけに日本に来たんだ。キリカはそのエサにすぎないよ」

 

「ガッシュを……? キリカの事も知っているのか?」

 

「魔界での面識は二人共ないよ、でも噂は嫌でも入ってくるものさ。ガッシュは弱い癖にいばってる、生意気だ。キリカは優秀らしいけど自分の意思を持たない、利用するにはうってつけさ」

 

「……利用だと?」

 

「噂以上の魔物でびっくりしたよ。彼女は人を疑う事を知らない、あれじゃ利用し放題だよ。プププ」

 

 

「てめぇ!! いい加減にしやがれ!!」

 

 

 キリカをいいように利用した魔物に《ザケル》を放つ。だがロブノスとその本の持ち主(パートナー)は軽快な動きでそれをかわす。

 

 

「頼むよ、リュック!」

 

「ああ。《ビライツ》!!」

 

「くっ!」

 

 

 ロブノスの右目からレーザーが照射された。俺は咄嗟にかわしたが……

 

 

「ギャァァァアアアア!」 「フォ、フォルゴレ~~~!」

 

 

 どうやら後ろにいたフォルゴレに直撃したようだ。俺は慌てて駆け寄る。

 出血はほとんどないし皮膚の欠損もなし、当たった部分に火傷もないのでビームというより衝撃波に近いと判断する。見た目ほど攻撃力はなさそうだ。

 

 

「「無敵~フォルゴ~~レェ~♪」」

 

「ウヌゥ、さすがフォルゴレ殿なのだ」

 

「当然さ、フォルゴレは“無敵”だからね!」

 

「清麿、気をつけるんだ。あのビームはハンマーで殴られた位の衝撃が入る。何度も喰らえば“無敵”の私以外では致命傷になるだろう」

 

「あぁ、わかった」

 

 

 

「なるほど無敵か。だが我は“不死身のロブノス”、いつまで耐えられるかな?」

 

「《ビライツ》!」

 

 

 再度ロブノスの目からビームが放たれるが、目線を見れば軌道は読みやすい。俺とフォルゴレは横に飛び回避し、すぐに攻撃に移る。

 

 

「《ポルク》! 小型ロケットになって突っ込むんだ、キャンチョメ!」

 

「チイィッ」

 

「体勢が崩れた、これで決めさせてもらう! 《ザケル》!!」

 

「グガァアアアア!!」

 

 

《ザケル》が直撃し、ロブノスが倉庫の棚に激突した。荷物が崩れたので姿は見えないがこれで戦いは終わりの筈だ。

 

 

「おい、降参して本を渡せ。キリカも返すんだ!」

 

「そうだそうだ、キリカを返せーーー!」

 

「……? 何を言ってんだ、なんの勝負がついたって?」

 

「おいおい、状況が見えないのかい? このイタリアの英雄の活躍により君の魔物は……」

 

 

 

 

「……我がどうした? 言った筈だよ、我は“不死身のロブノス”。その程度の攻撃効かないよ」

 

「「ギャーーーーーー!!出たーーー!!」」

 

 

「馬鹿な!? 無傷だと?」

 

 

 先程の《ザケル》の手ごたえはあった。かなりのダメージが入った筈。しかし目の前の魔物は()()()()()()無傷の状態で立っていた。

 

 

「フフフ、焦ってるね。そんなボーッとしてたら攻撃しちゃうよ!」

 

「クッ、《ラシ……いや!!」

 

「《ビライツ》!」

 

 

 俺は咄嗟に《ラシルド》を唱えるのを止める。ラシルドは強力な盾になるが相手の姿を隠してしまう、何が起こったかわからない以上、敵を見据える必要があると考えた俺は奴の目線の軌道上からよける────その行動が全ての謎を解き明かす鍵となっていた。

 

 

「ぐぁあああ!」 「清麿!!」 「……くっ、大丈夫だ。それ程のダメージじゃない」

 

「あれ? 今、ロブノスからビームが出なかったよ?」

 

「あ……あぁ、全く違う方向からビームが飛んできて清麿に当たったな」

 

 

 離れて俺達の状況を見ていたフォルゴレ達の言葉が俺の中で反芻される。

 

 

(電撃があたったのに全くの無傷の魔物、目の前にいたのに違う方向から来る攻撃、だが発射の瞬間が見えない……いや、()()()()()()()()()?)

 

 これまでの要素をまとめ、ある結論に思い至る。

 

 何を馬鹿な、と考えかけた心を振り払う。相手は魔物、人間(俺たち)の常識で考えてはいけないんだ。

 

 

「いつまでよけられるかな!? 《ビライツ》!」

 

「うおおおおお!! 壁を反射して来たぞ清麿」

 

「そっか、さっき違う方向からビームが来たのは反射してたからなんだね!!」

 

「なるほど、そうだったのか。謎は解けた訳だ、偉いぞキャンチョメ!!」

 

(いや、違う。アイツ等は《本当の答え》に気付きかけた俺達を、誤った考えに誘導させようとしている。反射を使えば確かに回避は困難だが、急にそれを使い始めたのが証拠だ)

 

 

「《ガンズ・ビライツ》!」

 

「《ラシルド》!」 「《コポルク》!」

 

 

 自分の考えにほぼ確信を得た俺は、乱反射される複数のビームをかいくぐりフォルゴレの傍に寄り俺の予想を伝える。

 

 

「アイツの不死身の謎はコレで間違いない。後はどうやって奴を誘い出すかだが」

 

「そこは任せてくれ。キャンチョメ、あの呪文でいくぞ! この場面ならきっと役に立つ筈だ」

 

「そっか、さっすがフォルゴレ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ、第四の術《ディマ・ブルク》!!」

 

 

 その呪文が発動した瞬間、キャンチョメが5,6人に分身し……

 

 

「「「「「ワアァ──────────!!」」」」」

 

 

 一斉に逃げ出した。

 

 

「ウヌゥ、皆キャンチョメと同じような事をするのだ」

 

「あぁ、まさに“キャンチョメの分身”だ」

 

 

 

 

「敵だぁ、逃げなきゃ!」

「でもこの入り口開かないよ!」

「じゃあ隠れなきゃ!」

「そうだそうだ、隠れよう!!」

「でも、どこに隠れたら?!」

「とにかく倉庫内で隠れられる所を探そうよ!」

 

 

 

 分身したキャンチョメ達は各々勝手な行動をし倉庫内を駆け回る。突然の事態に呆気に取られるロブノスとその本の持ち主(パートナー)、だが突如倉庫の隅から分身したキャンチョメの叫び声がする。

 

 

「う、うわぁ────! 何でこんな所に!?」

 

「ハッ、しまった!」

 

「そこにいたか! SET(セット)、《ジケルド》!!」  「ぐああああっ!!」

 

 

 ロブノスとは反対方向、入り口脇に潜んでいた対象へ向け《ジケルド》を放つ。それにより磁石となった《もう一人のロブノス》が鉄の扉に張り付き拘束される。

 

 

「クソッまさかもう我のトリックを見破るとは」

 

「そう、《ロブノスは二人いた》。呪文が反射する性質で隠そうとしたようだが、最初の呪文で違和感を感じた時点で綻びが出ていたんだ。タネに気付けば後は倉庫内に潜むもう一人を探し出すだけだ!」

 

「想像以上に早かったね。思ったほど動揺もなかったようだし、これは甘く見ていたかな」

 

「もうお前等のトリックは見破ったぞ。形勢逆転だな」

 

「そうだぞ。僕とガッシュがいればお前等なんてイチコロなんだ!」

 

「《ザケル》!」

 

 

「我には当たらないよ!」

 

「フン、それに笑わせるな。我々はまだ力の半分も出していないぞ! 《レリ・ブルク》!」

 

 

 その呪文により《ジケルド》で拘束していたはずのもう一人のロブノスが引き寄せられ二人のロブノスが溶け合い融合していく。

 

 

「クソッ、させるか! 《ザケル》!」

 

「今更その程度の攻撃効かん!」

 

 

 完全に溶け合い大人と変わらぬ体格へとなったロブノスが電撃を片手ではじく、どうやら奴等がいっていた事は本当だったらしい。

 

 

「お前達の力は見せてもらった。もはやフルパワーとなった我の敵ではない!」

 

「本当は時間を稼いでもっと凍えさせておきたかったんだけど、想像以上に早くバレたから仕方ないね。その分、本気で行かせて貰うよ。《ギガノ・ビレイド》!」

 

 

 呪文によりロブノスから、今までとは比べ物にならない程の太さのビームが飛んでくる。ガッシュが丸ごと飲み込まれかねない大きさだ。その分スピードが若干落ちたため全員かわす事が出来たが、分厚い冷凍倉庫の扉が吹き飛ばされた事からその威力の高さが伺える。

 

 

「「「「扉が開いたぞー、逃げろ────」」」」

 

 

 キャンチョメの分身達が我先にと空いた扉から外に出る、俺たちもそれに続く事にした。ロブノスの本の持ち主(パートナー)の狙い通り、これ以上ここにいたら寒さで身体の機能が落ちてしまう。

 

 俺達全員が冷凍倉庫を出ると、そこで待っていたのは…………

 

 

「ガッシュ、キャンチョメ」

 

「ウヌ!? キリカ」

 

「キ、キリカ! 無事なのかい?!」

 

「大丈夫、平気」

 

 

 俺達が取り返そうとしていたキリカと本の持ち主(パートナー)の元就だった。彼女の無事に全員が胸を撫で下ろす。

 

 

「言っただろう? 彼女はエサだって。彫刻作りに協力して貰っただけさ。マヌケめ」

 

 

 俺達全員が振り向くと、冷凍倉庫からロブノスが出てきていた。どうやらまだ戦いを止める気はないらしい。

 

 

「キリカは返してもらった。これで3対1だ、俺達に戦う理由はもうない。それでもやるのか?」

 

「赤い魔本の本の持ち主(パートナー)、それはあまりにも甘い考えだ。君と黄色の魔本の彼は満身創痍。心の力ももうないだろう。我々が引く事を期待したのだろうが無駄だよ」

 

「クッ……」

 

 

 ロブノスの本の持ち主(パートナー)はかなり冷静な性格で、こちらの状況を的確に読んでくる。身体が冷えて集中できず後1回呪文をつかえるかどうかの状態だ。これでは大した戦力にはならない。フォルゴレも同じ状態だ。悔しいが相手の本の持ち主(パートナー)の言う通りだった。

 

 

「《ピルク・グランダム》!」

 

 

 突如、ロブノスを挟み込むように土の壁が盛り上がり左右に押し潰す。少し遅れてそれがキリカの放った呪文だと理解した。

 

 

「清麿、フォルゴレ。アイツは俺とキリィがやる。迷惑かけた侘び代わりだ」

 

「……大丈夫なのか?」

 

「さぁな。俺はキリィが満足するまで付き合うだけさ」

 

 

 そう言うと、元就はキリカの隣に立ち敵を見据える。

 

 土壁を素手で破壊し、砂煙から現れたロブノスとキリカの戦いが今始まろうとしていた。

 

 




 
キャンチョメの闘う意志はまだ成長していないので、原作ほどヤバくはないです。(まだ)


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19.vsロブノス

はじめて日間ランキングに載りました、皆様に見ていただく事がモチベなので感謝しかないです。
日間総合9位まで入っている所を2828ながら見つめてました。我ながらキモいと思います。

そんなモチベと共に、勢いで書き上げたお話です。




 

 

 

 

「《ガンズ・ビライツ》!」 「《ピルク・クレイシル》!」

 

 

 複数のビームが襲い掛かるぅ! 

 キリィちゃんがぁ!! 

 地面からドーム状に現れた土壁を出して防ぎきったぁ! 

 

 

「《ギガノ・「《ピルク・クレイド》!」ビレイド》!」

 

 

 キリィちゃんがぁ! 

 巨大ビーム読んでぇぇ! 

 地面端ぃ! 

 粘土状の泥がロブノスの足場を崩してぇ! 

 ビームの発射方向を曲げたぁ!! 

 

 

「《ピルク・グランガルゴ》!」 「チィィッ」

 

 

 まだ入るぅ! 

 キリィちゃんがぁ!! 

 

 画面端ぃ! (そんなものはない)

 

 

 決まったぁぁぁ!!! (決めてない)

 

 

 

 

 

 

 

 はい、おはようございまーす。

 

 Normalモードでラクチン勝利をするつもりが、Nightmareモードになってる事に気付いた大人気魔物キリィちゃんです。

 

 こうなった原因は大体キャンチョメのせいです。

 ロブノスは【戦闘開始時、味方の戦闘能力値の合計が原作の倍以上】がIFルートへ進む条件です。複数人で挑んだ場合その値は合算されるので、キリィちゃんは戦闘チャートが始まるまでちゃぁんと見守っていたんですね。(激うまギャグ)

 

 また本来、この時点でのキャンチョメは戦闘能力値は皆無です。知力以外ほとんど最低値となっていますので参戦しても問題ない、と特に参戦の妨害行動はしませんでした。ですが先程《ディマ・ブルク》で逃げ出したキャンチョメがいましたね。あの呪文はかなりのチート性能で、覚えているだけでキャンチョメの能力値が数倍に跳ね上がります。

 その為、合計の戦闘値も大幅に上昇しIFルートに突入したんですね。何で覚えてんねん、まだファウード編ちゃうやろ!! ……原作チャート大丈夫かなぁ(今更)

 

 

「《ピルク・グランセン》!」 「《ビレオルード》!」

 

 

 とにかく今はキャンチョメの処遇よりも、目の前にいるロブノスの撃破です。土の大砲による弾丸が、リング状のビームを操り弾かれました。

 

 原作ロブノスは攻撃呪文が《ビライツ》のみで単純だった為、ガッシュ達は勝利できました。なのにIFルートでは多数の呪文が追加されており、こちらの攻撃が全然通りません。

 しかも悲しい事に、追加呪文は《ピルク》で『複製(コピー)』出来ない強力な呪文ばかり。せいぜいさっきの《ビレオルード》くらいです。私は悲しい。(ポロロン)

 

 

「優秀だと魔界で言われていただけの事はある。我の攻撃をここまで凌ぐとは、一体いくつの呪文を持っているんだい?」

 

 

 10個だよ、平伏しろ。(ただし半分以上借り物)

 しかしこのままだと非常にまずいです。既にエシュロスから奪った呪文の残量は半分を切り、もうすぐ使えなくなってしまいます。

《ピケル》では小石を飛ばす(ストーンザッパー)しか出来ないので、完全体へと進化したロブノスには無意味です。

 ですがまだ詰んではいません。逃げたり諦めたりする事は誰も、一瞬で出来るから歩き続けますよ(brave heart感)

 

 

 

「キリカ、私も共に戦うのだ。どうすればよいか教えてくれぬか?」

 

「キ、キキキキキキリカ!! ぼ、ぼぼ僕だって一緒に戦う……よ」

 

 

 君にしか出来ない事がある。(事実)

 やっとガッシュとキャンチョメも参戦してくれるそうですね、本当にこのままキリィちゃん任せにするのかと思ってました。薄情野郎の称号は見送ってあげましょう。

 しかし随分参戦するのに時間がかかりましたね……、清麿が作戦を練っていたのかな? 

 

 

「それでキリカ、何かよい作戦はないかの?」

 

 

 

 

 ノープランかよ! (鋭いツッコミ)

 今までの時間、何だったんだよ!! (追撃のツッコミ)

 

 

 

 まぁいいです、勝手な行動して事態が悪化するよりはね。(ほもくんを見つつ)←根に持ってる

 因みにIFルートロブノスは、原作のように頭に鉄杭を刺してチャージ中に電撃を打って暴発させる戦法は使えないように《ビライツ》を使用してこなくなります。

 なので、正攻法で勝たないといけないんですね。はーつっかえ。

 

 

 では、そんな絶望的状況にも負けません。まずはガッシュ達から現状の確認です。

 

 

 ……ほむほむ、この状況なら何とかなりそうです。

 再走? その必要は無いわ。(リセット神の名言)

 

 

 

 それじゃあ、いっちょやあぁぁってやるぜ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────倉庫の外にいたキリカは、入れ替わる様にしてロブノスと戦っている。

 

 俺達はその様子を見ていた。

 

 本来ならばすぐにキリカの加勢に向かうか、奴を倒す作戦を立てなくてはいけない。だが俺はそれが出来なかった。

 

 

 ……理由は、困惑。

 

 

「清麿。は、早くキリカを助けないと」

 

「ウヌ、清麿……!」

 

「落ち着くんだガッシュ、キャンチョメ。闇雲に向かっても足手まといになるだけだ。大丈夫、いざとなったらこの“鉄のフォルゴレ”が体を張って彼女を守るさ」

 

「フォルゴレ……」

 

 

 キャンチョメの言葉は正しい。俺がこうやって手をこまねいてる時間すら、彼女が苦労して稼いでいる時間だ。無駄に浪費するのはあまりにも愚かしい。だが作戦立案の観点からも、俺個人としても無視できない疑問が1つあった。

 

 

「キャンチョメ」

 

「な、何?」

 

「ひとつだけ確認させてくれ。キリカの使う呪文は『氷』じゃないのか?」

 

「え? 何を言ってるのさ。今キリカが使ってるのは『大地』の呪文じゃないか」

 

「ウヌ? だがキリカは以前口から氷を出していたのだ」

 

「でも呪文の性質は1人の魔物につき1種類だぜ? 『大地』と『氷』じゃ違いすぎるじゃないか。魔界でキリカが呪文を使った所は覚えてないけど、今使ってるのは間違いなく『大地』の呪文だよ」

 

 

 そう、今キリカは『大地』の呪文を駆使してロブノスと戦っている。ではガッシュやコルルと戦った時に使用していた『氷』の呪文は何だったのか。

 

 これまで他の魔物達は『植物』を操る魔物、『重力』を操る魔物、『電撃』を操る魔物と、ある1つに特化した魔物だった。ならキリカが『氷』と『大地』という全く違う呪文を使えるのは何故なのか? キャンチョメの口ぶりからすると、それは本来ありえない事らしい。

 

 コルルを倒した時のキリカの行動の真意を知るため、『呪文』の内容について聞いた時キリカは

 

「……秘密」

 

 としか言わなかった。呪文の内容を他の魔物に話す事に抵抗があったのだろうとその時は思ったが、彼女のその言葉には、どこか()()()()()()()を感じた。

 

 

 それらの事実から、俺は以前ブラゴから聞かされた言葉を思い出し『とある考え』に至った。その事実が俺から行動を起こす為の力を奪う。それ程驚愕の事実。

 

 

《「人間界に同じ状況の人間がいたらどういう状況なのか。それを考えればわかるだろう」》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人体……実験」

 

 

 最悪の結論だった。「何を馬鹿な事を」と頭の冷静な部分が叫ぶが、それを否定する事が出来ない、ガッシュから聞いたキリカの境遇はそれほど俺の当たり前とはかけ離れていたからだ。

 

 更に魔界での呪文に関する研究がどこまで進んでいるのかわからないが、キャンチョメが言う『ありえない事』を出来る魔物が偶然産まれたならば、あの境遇はありえない。むしろキリカの受けた人を人と扱わぬ境遇は、その考えの正しさを後押しするものでしかなかった。

 

 

「人体実験って……どういう事だよ清麿」

 

 

 キャンチョメが俺の言葉に反応し詰め寄ってくる。

 

 それまでの怯えが消え真っ直ぐに俺を見つめてくる。俺は自分の至った予想が外れる事を願い、キャンチョメに説明した。

 

 

「そ、そんな……、でも確かにキリカは有名な一族の子供で、呪文の内容やどうやって伝えていくのかは詳しくわからないんだけど……」

 

 

 あり得ないとは言い切れない、そんな言葉が頭の中に続いた。

 

 

 

 

 

「清麿、今はまずこの状況を切り抜ける事を考えるんだ。彼女に関してはこれから皆で何とかするしかない」

 

「フォルゴレ……、わかった」

 

 

 フォルゴレの言葉に俺は何とか頭を切り替えガッシュをキリカの下へ向かわせる。作戦は無い。キリカの力を、よくわかっていないからだ。

 

 それにキリカは戦闘センスも高いし頭も良く回る。彼女が作戦を考え、俺が補佐する形にして共闘するほうがいい。そうガッシュを通して伝えた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「これが、作戦。おねがい」

 

「わかった。行くぞ、ガッシュ!」

 

 

 あれからキリカの呪文や、逃げ出した分身のキャンチョメを囮に使う事で作戦を練る時間を作り出した。そしてその指示に従いガッシュがロブノスヘ向け走り出す。

 

 

「ヌオォォオオオオオオオオオ!!」

 

「正面突破が狙いかい? させないよ」 「《ガンズ・ビライツ》!」

 

 

「そうはいくか。《ピルク・クレイシル》!」

 

 

 ガッシュに向けて放たれた光線をドーム状となった土壁が阻む。そこに向けキリカが走り出す。

 

 

「せー、のっ!!」

 

「なるほど。土壁を土台にして一っ跳びにこちらへ詰め寄る気だね。でも空中じゃ攻撃を避けられないよ」

 

「それに空中にいたら先程のように地面を泥にする事も出来ないだろう? 君の呪文は地面に手をつけている事が条件なのはわかっているからね。《ギガノ……」

 

 

「それを読まれてる事くらいキリィにはわかっているさ。頼む、フォルゴレ」

 

「あぁ、お前達がそこから動かなかった時点でキャンチョメはずっと狙っていたのさ! 『倉庫を背にした』その場所からな」

 

 

「ワァ──────────!!」

 

 

 その言葉を合図にキャンチョメの分身の1人がロブノスの頭に掴みかかる。冷凍倉庫には“逃げ遅れたキャンチョメの分身”が残っていた。

 

 

「何!?」

 

「奴の目線が逸れた、今だキリカ!!」

 

「掴まえ、た!」

 

 

 

「《ミリアボル・ピルク》!」

 

 

 

 そしてキリカの手がロブノスを捉え第三の呪文が発動した。次の瞬間、トラウマによる精神攻撃を受けたロブノスの動きが止まる。これで決まった筈だ。

 

 

「いい夢、見れた?」

 

「…………ゥ」

 

「ロブノス!? どうした、ロブノス!!?」

 

「終わった……のか?」

 

「お疲れ様。ガッシュ、キャンチョメ」

 

 

 ロブノスは戦意喪失した様に見える。ガッシュもあの呪文を喰らい数日間は影響を受けていた。もう大丈夫な筈。後は本を奪い燃やすだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そう思っていた。いや、油断していた。

 

 

「リュックゥゥウウウウウウウウウウ!!」

 

「! 《ダイバラ・ビランガ》!!」

 

「何ッ!?」

 

 

 顔を上げ血走った目で雄たけびのような叫び声を上げるロブノス、それに触発され本の持ち主(パートナー)が今まで聞いた事のない呪文を唱えた。

 

 

「な、何だあれは?!」

 

「これが我の最強呪文! 全員まとめて消えろォォオオオオ!!」

 

 

 敵が巨大な妖精風のエネルギー体を産み出す。巨大化したコルルに負けない程の数十mの異様な姿。その巨体の顔部分にエネルギーが溜まるのを表す様に発光を始める。間違いない、攻撃が来る!! 

 

 

「《ダイバラ・ビランガ》……名前的に《ビライツ》の強化版なのか?」

 

「恐らくそうだ! 元就、早く防御呪文を……」

 

「無駄無駄無駄ァ!! 全て、全て消えろォォォオオオオオオオオ!!!」

 

「元就。心の力、込めて。盾の呪文で、少しでも防ぐ」

 

 

 血走った目で高笑いを上げるロブノス。トラウマを見て激昂しており先程までの冷静さは感じない。キリカが盾の呪文を準備するが、《ラシルド》と重ねてかけても《ギガノ・ビレイド》すら防ぎきれない状態では生き残りの目はかなり低い。

 

 どうすればいい、一体どうすれば……。元就が言ったように()()()()()()()()()()であろうアレに対抗するには……

 

 

 

 

 

()()()()》? 

 

 

「ガッシュ!! お前に話しそびれた事が1つある」

 

「ウ、ウヌ?! なんなのだ清麿、こんな時に」

 

「強く思うんだ! この危機を乗り切って見せると」

 

「……清麿?」 「キリィ?」

 

 

「ぶっつけ本番で正直どうなるかわからん! だが呪文がパートナーの心の力で強まるならガッシュ、お前も心の中で強く信じるんだ!それが活路を開く道になる筈だ!!」

 

「ウ、ウヌ!! よくわからぬが私は清麿を信じるぞ。思いっきりやるのだ!」

 

「いくぞぉ、ガッシュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第四の術《バオウ・ザケルガ》ァァアア!!!」

 

 

 

 俺は『ガッシュがキリカの第三の術を喰らった時に出現した』呪文を唱える。本当ならばキリカの話の後、この呪文をガッシュに伝え試し打ちをする予定だった。

どれほどの呪文かはわからないが、術の名前から考えれば明らかに《ザケル》の強化版。他に手がない今、コレに賭けるしかなかった。

 

 

 

 だが……、俺は賭けに勝ったようだ。

 

 

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 出現したのは相手の呪文にも劣らぬ巨大な電撃を纏った龍。大きな口を開き敵の放つビームごと全てを噛み砕き……

 

 

「ぐぁあああああああああ!!!」

 

 

 そのままの勢いでロブノスを呑み込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「まさか不死身の我が負けるとはね、冷静さを失ったのが失敗だったかな」

 

 

《バオウ・ザケルガ》がロブノスにぶつかった際、余波の電撃で奴のターコイズブルーの魔本が燃え少しづつ奴の体が透けていく。キリカと元就は本の持ち主(パートナー)が暴れないよう魔本の傍にいるようだ。

 

 ロブノスの傍にいる俺達から距離がある今がチャンスかもしれない。

 

 

「そうだ、帰る前に面白い事を教えて……」

 

「それよりこっちの質問に答えてくれ。魔界では魔物に人体実験を行う、という話を聞いた事はあるか?」

 

「……随分唐突だね。まぁ残り時間が少ないから仕方ないか。答えはNoだがYesとも言えるかな。魔界では大きな争いが起こる事も多い、戦力確保の為に色々な事を色々な場所でやっていてもおかしくはないさ」

 

「……そうか」

 

「じゃあ最後にひとつ、実は数日前『ガッシュに似た奴』をヨーロッパで見かけたんだ」

 

「……ガッシュに似た奴?」

 

「何だ、あんまり驚かないね。まぁ実際に会って驚くといいよ、ヒヒヒヒヒ」

 

 

 そういい残しロブノスは魔界へと帰った。

 

 今回の戦いも無事切り抜けた。だが戦いを重ねる度に明らかになっていくキリカの抱えるもの、それを考えると勝利の余韻に浸ることは出来はしなかった。

 

 

「清麿…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────【ロブノス 敗退(リタイヤ)】撃破者《ガッシュ・ベル》

 

 

 




 
【現在の撃破ポイント状況】
・キリカ 6ポイント
内訳:レイコム/ゴフレ/スギナ/フリガロ/フェイン/エシュロス


・ガッシュ 2ポイント
内訳:コルル/ロブノス



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20.アイドルの瞳

前回のアンケートで予想はしてましたがコルル人気すぎでワラタw
ですが、筆者的にあまり自信のなかったエシュロス・ロブノス戦もある程度の支持を得ていて安心しました。


 


 

 

 

 

 ……み……皆様、おあ……おはようござ……います。

 

 

 

 萎びた大根のような声を出していますがご安心下さい。キリィちゃんは変わりありませんよ。

 そしてこの様な無様を皆様にお見せしている理由ですが、まずこちらをご覧下さい。

 

 

 

 キリカ・イル   本の持ち主パートナー:本堂元就(ほもくん)

 

 筋力:森の守護神(ゴリラ・ゴリラ)

 体力:こんにゃく

 知力:ふつくしい……

 魔力:綺礼、この戦い我々の勝利だ! 

 

『能面』『高位の一族』『魔力感知Lv2』『友情』

『人外の力持つ相棒』『口下手』『気配遮断Lv2』(new)

『料理下手』『料理好き』『魔力効率化』(new)

 

 

 

 Foo!! どうよ、この成果! (徹夜明け特有のハイテンション)

 ロブノスを撃破した後キリィちゃんはキャンチョメへの挨拶もそこそこに、ほもくんの家で修行に明け暮れていました。

 本来オートプレイで進行する修行パートですが、実は手動操作で行う事により修行効率が僅かばかり上昇します。ただし誤差レベルな上、音ゲーのような複雑操作をクリアしないとむしろ効率が下がります。安定性を取るならばオート一択ですし、仮に上手くいった場合の見入りも少ないです。

 

 ですがそんな修行をゲーム内時間で一週間もの間、ぶっ続けで行う事によりかなりの成果を得る事が出来ました。しかしあまりの苦行で親指が酷使され、今の自分の体も親指のようになってます。(意味不明)

 

 

 そしてここまでの超強化を行った理由としては、前回のロブノス戦が原因です。

 本来ガッシュは後にイギリスに向かい、そこで奪われた()()()()()()()()()()()でようやく《第四の術》は解禁されます。この条件はかなりキッチリ決められていて例外はない筈なのですが……、まぁ例外なんて主人公補正の前にはフリでしかなかったって事でしょうか。

 

 なんにせよ破壊力の変わらないただ一つの最強呪文解禁により、これまで使えていた『横槍で本燃やしてやろう作戦』が完全に頓挫しました。(上手くいっていたとは言っていない)

 あの超火力の前では【決着=相手の本燃える】でしょうし、下手に介入したらキリィちゃんもろともバオウに飲み込まれます。

 

 なので不測の事態にも素早く対応する出来る走者である私は、ここですぐさまチャート修正を行いましょう。 

【最初から漁夫の利】作戦は諦めて【最後は漁夫の利】作戦に切り替えます。

 ……え? 一緒じゃないかって? 馬ッ鹿野郎、全然違うんだよ!! (唐突なマジギレ)

 

 ようはガッシュに《バオウ・ザケルガ》を使わせなければ、キリィちゃんにも本を燃やすチャンスがあるんです。つまり、キリィちゃんが《最大呪文》を覚えてガッシュがやる前にトドメを指せば解決という訳ですね。完璧だな。

 名付けて【ラストアタック強奪(ディアベルはん)作戦】です。気持ち的にはナイトなので、謙虚な姿勢を心がけましょう。ジュースを奢ってやろう。

 

 

 

 そんな訳で最大呪文習得の為、その下地作りにずっと奔走していた訳ですね。一朝一夕で覚えられるものではありませんが、敵の魔物はそんな事情お構いなく襲い掛かりガッシュの養分となります。早急に覚えられるよう修行を『ガンガンいこうぜ』!

 しかし本来はイギリス旅行を終える頃に習得しようと狙ってたのですが、システム側からチャート短縮を求められる事になりました。RTAに愛されすぎて辛いわー、まじ辛いわー(必死の煽り)

 

 

 戯言は置いといて成果の報告です。

 まず修行をして更なる能力値の上昇とスキル取得を行いました。【魔力】が一定値以上ないと最大呪文取得のフラグは立ちませんので。

『気配遮断』は最早説明不要。隠密能力が更に上がったので『直感』や『感知』関係のスキルを持っていない相手には、こちらが戦闘姿勢に入らない限り見つける事は出来なくなりました。

 そして、今回の目的であった『魔力効率化』。これは【呪文発動時に消費する心の力を3割減する】という汎用性の塊のようなスキルです。後半生き残りの魔物はほぼ全員持ってます。

 前回のロブノス戦で心の力の上限に不安が残った故の措置ですね。《最大呪文》は消費する心の力も段違いに多いので、あらかじめ取っておけば更に磐石となります。

 

 そして、呪文取得の為には好感度の獲得が必要です。

 修行の合間に原作キャラ達の下へいき、某牧場的な物語の様にバッグ一杯に贈り物を積め、プレゼント爆撃を繰り返し好感度を稼ぎました。これにより以前スルーしていた植物園在住のつくしと、マリ子ちゃん、スズメ、あとついでに金山くんの好感度を最大値まで上げる事が出来ました。

 なお、野球部の山中と、不思議ミステリー研究部の岩島はそこそこ稼ぐだけでストップです。あの二人は好感度最大にすると【新しい魔球の訓練】【徹夜でUFOの呼び寄せ】イベントがランダム発生します。戦闘介入しようというタイミングで発生したらアウツ! なので脳筋と電波(あのふたり)はスルーが安定です。

 

 なおこの間完全に無視してるガッシュ達の動向ですが、清麿は意地悪な先生によるテスト問題に奔走、ガッシュは魔物と見間違える程の巨体のオババから家族の絆を知ったり、《残りの魔物が70体になったよ》と魔本でお知らせがあったりとどうでもいい事ばかりなので無視です。(無慈悲)

 ここぞとばかりに自由行動にいそしみました。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「すごい賑わいだな、この全員がコンサートの客なのか」

 

「うん、そうなの。高嶺くんありがとう、無事に会場まで辿り着けたわ」

 

「人、いっぱい」

 

 

 そんな修行の日々を切り上げ、本日キリィちゃんは大人気アイドル『大海 恵(おおうみ めぐみ)』のコンサートにやって来ています。

 

 このコンサートは原作キャラの好感度が最大の場合、チケットを譲ってくれるイベントがランダムで発生します。キリィちゃんは植物園の仕事で行けなくなったつくしが「よかったら行っておいでよ」とコンサートチケットをくれたので、これ幸いと向かった訳ですね。

 

 そして現地近くでスズメと、風邪でダウンしたマリ子ちゃんの代わりで来た清麿に出会いました。なんだ、デートかよ。清麿、そんな格好じゃ地味すぎるぜ、もっと腕にシルバーまくとかさ。

 

 尚そんな二人に対し空気を読まず同行してる理由は、この付近をうろうろしてる敵の魔物と確定でエンカウントしなくなるからです。ガッシュの戦いはプレイヤー介入やIFチャートに行かない限り原作に忠実なので、敵の魔物と出会うタイミングなどが原作ファンに把握しやすいのは良い仕様ですね。

 

 因みにほもくんですが、実は周囲のファン達の中にこっそり紛れています。

 キリィちゃんがコンサートに行くのがわかってからチケットをあの手この手を使って手に入れたみたいです。

 本人的にはこっそりついて来たのでしょうが自分の本の持ち主(パートナー)なら魔力で簡単に感知出来るんだよなぁ! 

 最近ほもくんが心配性すぎてやばい。修行中もず~~~っとこっち見てましたし、トレーニング厨としては修行内容に興味があるんでしょうかね。ただ大きな岩に対して1発目の打撃で物体の抵抗力を殺し、瞬時に2発目のパンチを打ち込む練習してただけなんですけどね。

 

 

 

 さて、ではそろそろ中に入るとしましょうか。

 今回出会う魔物は、トップ・オブ・要注意魔物『ティオ』です。以前(2話参照)お話しましたが、ティオはこのゲームにおいてキャラ崩壊が非常に発生しやすいデリケートな魔物です。

 原作ではガッシュのひたむきな想いに感化され立ち直りましたが、本の持ち主(パートナー)の見つからない頃から友達の魔物に裏切られ、痕が残るほどの傷を負い、昼夜問わず執拗に追い掛け回され続けるというこの戦いにおける負の側面バーゲンセールをあます所なく堪能した結果、初期SAN値が風前の灯です。

 

 今は本の持ち主(パートナー)と出会い時間も経過しているので大分立ち直っていますが、そのぶん繊細な時期なので油断は禁物です。『彼女を敵に回す=原作ルートが敵に回る』という図式は確定的に明らかなので、原作ルートを守る為にも彼女のガラスハートを守りきりましょう。

 今チャートでガッシュは《バオウ》を既に覚えているので若干原作から逸れています。彼に頼りきりにするのは禁物なので、キリィちゃんもサポートに回りたいと思います。

 

 

 

 まずは外堀を埋める意味合いでも本の持ち主(パートナー)である、アイドル『大海 恵』に接触する事にします。

 初対面の時に本の持ち主(パートナー)に好印象を持たれていればティオの心象も良くなりますからね、最初が大事!

 まずは「ちょっとトイレ」と変身モノ魔法少女アニメ定番の言い訳をして二人と分かれ『気配遮断』を使用します。

 そのまま関係者以外立ち入り禁止となっている廊下より堂々と侵入、恵とティオのいる控え室前まですんなりと辿り着きました。

 

 

 では……、ノックしてもしもーし! そして素早く隠れます! 

 

 

「はーい! ……あら? 誰もいないわね」

 

 

 恵さんが顔を出しましたね。こっそり覗きますがさすがアイドル、美人です。

 常人なら気のせいだとスルーするーでしょうが(激ウマギャグ)内心釣り上げたカツオのようにガクブルしているティオは、音の原因を突き止めようとお得意の強がりで飛び出す筈です。

 これで部屋に残された本の持ち主(パートナー)の恵と1対1で話す時間が……

 

 

「ちょっと見てくるわね。大丈夫よティオ、ここにいて」

 

 

 

 あれ? 恵の方が出てきましたね。これは予想外です。

 う~ん、どうしましょうか。恵にこのまま接触するのも手ですが、原作ルートを基にした予想と違う反応をされると、今ティオがどういう状況なのか気になります。

 ここは『気配遮断』を切らずに隠れたまま、一度控え室にいるティオの様子をチラ見して考える事に────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして、あなたがティオの言っていた『キリカ』ちゃん?」

 

 

 ふぁっ!!?? (気配遮断発動中)

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────私は『大海 恵』。アイドルをやっている。

 

 自惚れでなければ私はそれなりに人気があると思う。「元気を貰った」と多くの人からファンレターを貰い、それを見る度私も元気になれる。

 

 

 でも、私の傍にいる女の子を元気付ける事は……出来なかった。

 

 

 

 

「恵……そろそろコンサート、始まるんだよね?」

 

「えぇ、そうよ。ティオもステージ脇でいいから見ててくれないかしら?」

 

「私は……、いいわ。“敵”がやってくるかもしれないし。裏口を見張ってる」

 

「そう……」

 

 

 私がプロモーションビデオの撮影中に見つけた傷だらけの子、ティオ。

 

 彼女は『魔物』で『周り全てが敵』の戦いを行っているらしい。実際、私が彼女を見つけ匿うようになってから何度か他の魔物に襲われた事もある。

 

 

 

 ────でも私は、彼女の言葉に疑問を持っている。

 

 ティオが『魔物』かどうかなんて事じゃない。『周り全てが敵』……本当にそうなのだろうか? 

 

 自慢ではないが私は()()()()()()()()()()()()。友好的な人、懐疑的な人、悪辣な人、善良な人、人間にだって本当にいろんな人達がいた────じゃあ魔物は? 

 

 私が会った魔物はティオと『マルス』と名乗る金髪の少年だけ。確かに彼は悪感情を抱いているように見えるが、その本質は人間のそれと変わらない。

 

 だから私は信じた、きっとティオを救ってくれるような『やさしい魔物』が現れる事を。

 

 

「今、私達を追って来てる魔物。ティオが以前話したガッシュくんならよかったのにね」

 

「……そうね、ガッシュだったら逃げ回る事もないわね」

 

「フフ、そうね。ティオは強い子だものね」

 

「! ええそうよ。片手で捻ってあげるんだから」

 

 

 ティオがガッツポーズをしながら息巻く。本当はそんな意味ではないのだが、ティオの気が紛れるならと指摘はしなかった。

 

 正直言って、今のティオの状態はよくない。端的に言えば、私に依存してしまっている。

 

 仕事も学校も、何処に行くときだって一時も離れず毎夜一緒に寝ている。それでも尚、拭えない不安に耐えるような顔を常に浮かべている状態だ。今日のコンサートだって僅かな時間離れてしまう事を必死に耐えている程に。

 

 

 本来ならコンサートは中止にしてティオの傍にいるべきなのかもしれないが、私はあえてそうしなかった。そんな事をしても何も変わらない、それにもしかしたらコンサートを通じてティオを元気付ける事が出来ないかと思っていたが……、空振りに終わってしまった。

 

 そんな風に心の中で落胆の色を浮かべていると、控え室のドアがノックされた。まだ出番には大分時間がある筈だが、段取りの変更でもあったのだろうかと疑問を浮かべつつドアを開ける。

 

 

「……あら? 誰もいないわね」

 

 

 そう思いドアを閉めようとして────私は気付いた、通路の先の曲がり角、誰かがいる!

 

 私は、ティオに一声かけ気配の方に向かう。

 

 

 そこにいたのは、黒髪の可愛い女の子だった。

 

 ファンの子が間違って入ってきてしまったのかと思いかけたが、彼女を観察して直感した。

 

 

(「魔物の……子?」)

 

 

 長い黒髪、虚ろな雰囲気を感じさせる黒い瞳、考え事をしているのかこちらにはまだ気付いていない。

 

 そんな彼女を様子を観察した私は、ティオが以前話していたガッシュくん以外のもう一人の魔物の子を思い出す。

 

 

「もしかして、あなたがティオの言っていた『キリカ』ちゃん?」

 

 

 その言葉に驚いたようにこちらを向く女の子、やっぱりキリカちゃんで間違いないようだ。

 

 ティオから聞いた彼女の評価は「何を考えてるかわからない子」今の精神状態も影響しているだろうが、キリカちゃんの事をティオはひどく恐れているように感じた。

 

 でも私は……

 

 

「私、ティオの本の持ち主(パートナー)の大海恵よ。よかったら一緒にお話しない? コンサートが始まるまでの時間だけど」

 

「……わかった」

 

 

 彼女は恐れる必要なんてない。きっとティオを救ってくれる。

 

 そう、私の『目』が確信していた。

 

 




 


恵に関しても原作からやや変化しております。
ティオとあわせて詳細は次回を予定しております。


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21.vsマルス

コロナにより仕事やイベントの予定が大幅に変わり、一気に休めるようになると、激務の反動が一気にやって来ました。







 

 

 

 

 皆様、おはようございまーす! 

 

 

 美人アイドルとのツーショットにより、皆様の目が保養になるのを通り越しダメージへと変えつつある大人気魔物キリィちゃんです。

 

 いやー、どうしてこうなってしまったんでしょうね。これまでキリィちゃんは原作ルートまっしぐらで進んでいたのに、コンサート前の恵と休憩室でお茶しているという謎展開を進んでおります。……勇太君の時に反省して《気配遮断》は切らずにいたのになにゆえ? 今も時々《気配遮断》を使ってますが変化無し、全く効いてないですね。

 

 

「まずは自己紹介ね。私『大海 恵』。入り口を見て貰えば判ると思うけどアイドルをやっているの」

「私はティオの本の持ち主(パートナー)だけど、襲い掛かってくる魔物を対処しているだけであなたと戦う気はないわ」

「あなたの事は以前、ティオが話してくれたの。不思議な雰囲気を持った子だって」

「だからあなたを見た時に、キリカちゃんだってわかって声をかけてみたの」

 

 

 

 ちょっと待って! ステイステーイ!! 

 こっちは考察の最中なんだからどんどん話進めないで頂きたい! 

 一旦ポーズをかけてじっくり考えたい所ですが、折角目の前に本の持ち主(パートナー)がいるので、直接ティオの様子を聞いた方が確実ですね。

 とはいえ、いくら美人二人の会合といってもただ日常会話をやりとりするだけ、という変わり映えがない状況を見せ続ける訳にはいきません。よろず屋の入り口を30分映し続けても間を持たせる事が出来るベテラン声優さん達のコミュ力&話術をキリィちゃんに求めるのは酷というものです。

 

 

 というわけで……み な さ ま の 為 に ぃ ~ 発想を逆転させましょう! 

 

 

 恵さんへの聞き取りを淡々と行うキリィちゃんですが二人に盛り上げてもらうのではなく、その内容に走者が演出を加え、わかりやすくお伝えしたいと思います。

 と言う訳で、恵さんや。今の会話もう一回最初からお願いします。

 

 

「ごめんなさい、話が早すぎたわね。もう一度言うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~尋問開始~~  ガキィン(重厚なSE)

 

 

 

 [まずは自己紹介ね。私『大海 恵』。入り口を見て貰えば判ると思うけどアイドルをやっているの]ポポポポ

 

【待った!】

 入り口というと「ライブコンサート」ですね、確か出演するのはアイドルの……『大海 恵』。

 

 

「えぇ。この会場に入るにはライブチケットが必要だから、あなたも持ってる筈よ」

 

 

 ライブのチケットですか。

 ここはメニューを開いて[所持品記録]を見てみましょう。ポチッとな。

 

 

【桜色の魔本】

 これがないと、誰もわたしを魔物だとみとめてくれない。今は元就が所持。

 

【コンサートのチケット】

 本日行われるライブのチケット。出演者は現役学生アイドルである『大海 恵』。

 

 

 成歩堂(なるほどぉ)、確かに間違いないですね。そもそも知ってて来たんですから。(じゃあ言うなや)

 まぁ再確認は大事です、大事。さっさと次行きましょ

 

 

 [私はティオの本の持ち主(パートナー)だけど、襲い掛かってくる魔物を対処しているだけであなたと戦う気はないわ]ポポポポポポ

 

 

【待った!】

 本当に? 本当に戦わないの? 急に襲ってきたりしない? (疑心暗鬼)

 

 

「えぇ、実は私ティオの他には襲ってくる魔物しか会わなくて。こうして話をしたいと思っていたの。ティオは他の魔物は全て敵だって怯えてしまってるけど、私にはそうは思えなくて」

 

 

 ふむ、一見おかしな所はないように思えます。

 でもちょっと気になりますね、もうちょっと揺さぶって見ましょうか。

 

 怯えてるってどういう事でおま? (ジャージ服の聖徳太子風)

 

 

「えぇ、私と会う前から他の魔物に追われてて……身体の方はもう大丈夫なんだけど、心の方がね」

 

 

 むむっ、これは原作との相違点を見つけたかもしれませんよ。

 原作でも友達のマルスに一方的に襲われ傷ついたティオですが、ガッシュと出会う頃には表面的には元気になります。あくまで強がりですが、恵にここまで心配される事はありませんでした。

 コレは重要な証言です。一応、心に留めて置く事にしましょう。

 

 

《[恵の証言]のデータを所持品記録にファイルした》

【恵の証言】

 ティオは今、心に傷を負っており他の魔物すべてに対して怯えている

 

 

 よしよし、情報収集は順調ですね。どんどんいきましょう。

 

 

 [あなたの事は以前、ティオが話してくれたの。不思議な雰囲気を持った子だって]ポポポポポ

 

 

【待った!】

 ティオがキリィちゃんの事を? 面識があったんですかね。魔界での交友関係はキャンチョメを『友情』のスキルで取得しましたが、他にはありません。

『友達以下知り合い以上』という関係の可能性もありますが、キリィちゃんは()()()()()()()()()()()()()()()なので、噂になる事はまずありません。キリィちゃんを知る魔物はそんなにいない筈です。

 あー、でもコルルがキリィちゃんと面識あったみたいなので、その友達のティオも知ったのかもしれませんね。

 

 もう少し詳しく聞きたい所です。特にティオがキリィちゃんの事をどう思ってるのか私、気になります。

 [所持品記録]から【恵の証言】を選び、つきつけたいと思います。

 

 

【喰らえ!】

 

 バーン! (机を両手で叩く音) ←脳内演出

 

 先程あなたはこう言いました! 「ティオは怯えている」と。そんな彼女が話したというなら、キリィちゃんに対しティオは何かしら思う所があった筈です。それを話して頂きたい!! 

 

 

「わかったわ。その時の事を詳しく話せばいいのね」

 

 

 おっ、()()()()()されました。これで他の情報が出ればより詳しく聞けますね。

 

 

 [ティオが話したのは雰囲気と、考えが読めない理解の難しい子という事だけ。暗い顔で考え事をしてた時の事だから、つい口から出ただけだと思うの]ポポポポポポポポ

 

 

【待った!】

 ティオが語ったのは『雰囲気と内面についてだけ』。間違いありませんね!! 

 

 

「えぇ、そうよ。ティオが話したのはガッシュ君とあなたの事くらいだから間違いないわ」

 

 

《[恵の証言2]のデータを所持品記録にファイルした》

【恵の証言2】

 ティオが話したキリカの情報は、『雰囲気とその内面が読めない』ということのみ

 

 

 

 

 [だからあなたを見た時に、キリカちゃんだってわかって声をかけてみたの]ポポポポポ

 

 

ピローン! (おなじみのSE)

 

 

 ……見つけましたよ。決定的な《ムジュン》を!! 

 この事実が何を指すのかはわかりませんが、原作チャートから離れてしまった原因は恐らくここにあるのでしょう。

 では、皆さんもコメントの準備がよろしいですね? いきますよ~

 

 せーの────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異議あり!

 

 

 

 今、話した内容はこの記録品と明かにムジュンしています! 

 そう、この[恵の証言2]の内容とね! 

 

(人差し指を恵につきつけつつ) ←脳内演出

 

 あなたはティオから【雰囲気と内面】に関してしか話を聞いていない。何故【外見】を知らないあなたが、キリィちゃんを見つけられたというんですか!! 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 ────「どういう、事?」

 

 

 私、大海 恵は今……、小学生の女の子に詰め寄られています。

 

 ティオから聞いた魔物の子、キリカちゃん。塞ぎこんでいるティオの力になれないかと、彼女と偶然出会った私はステージ脇の休憩室で話をする事にした。

 

 いや、偶然なんかじゃない。この子はティオの事を知り、会いに来てくれた。ティオの事が気になって仕方がないという《内面》を感じ取った私は、可能な限りの情報を彼女に話した。

 

 口数が少なく言葉自体は素朴で質素。でもその実態は、まるで警察や裁判所の尋問のように苛烈なものだった。

 

 ティオを心配するキリカちゃんの事を嬉しく思いつつも、話をして数分で私の《秘密》に辿り着いた彼女の聡明さには感心するしかない。

 

 

(やっぱり話さないと、ダメよね……)

 

 

 話題はなぜ私がキリカちゃんをキリカちゃんだ、と判別できたのかという話題に移っている。

 

 それを答える為には、私の《秘密》を話さなければいけないがどうしても逡巡してしまう。

 

 

《「恵、悪いんだけどさ。少し私と距離を置いてくれない?」》

 

《「見ないでよ、恵!! アンタに私の事を見られたくない!」》

 

《「ねーねー恵。ちょっと位いいでしょ? アンタいつも見てるんだし」》

 

 

 アイドルになる前、他人との距離を図るのが上手でなかった頃の過ちをどうしても思い出してしまう。

 

 ……でも、私まで閉じ篭っていたらいけない。それじゃあティオも私も、何も変わらないから

 

 

「キリカちゃん。……実はね」

 

 

 

「ハハッ、やっと見つけたよ! ティオの本の持ち主(パートナー)

 

 

 突然、廊下の奥から聞こえてきた声。今まで何度も聞いてきた『敵』の声だ。

 

 

「……『マルス』」

 

「光栄だね、日本で有名なアイドルに名前を覚えて貰えるなんてさ」

 

 

 カールさせた金髪の魔物、マルスは心にも思ってない言葉を飄々と吐く。その《内面》は苛立ちと煩わしさ、そしてこれから弱者を甚振れるという歪んだ喜びだった。

 

 

「ティオは裏口を見張ってるみたいだけどさ。“招待”を受けたんだから正面から入るのが礼儀って奴だよね」

 

 

 そう言うと、彼の本の持ち主(パートナー)である『レンブラント』が私のコンサートチケットを2枚手でひらひらと振っている。

 

 ティオと出会ってからずっと追い掛け回していた彼等が律儀にチケットを取った筈がない。会場に向かっていた『私のファン』から奪い取った事は明白だった。普段は温厚だと自覚している私も、少なくない怒りを持つ。

 

 

「あんた達……、本当に最低な奴ね!!」

 

「何とでも言うがいいさ、こっちも散々逃げ回られてイライラしてるんだよ!」

 

「《ガロン》!!!」

 

 

 敵が呪文を唱えると、マルスの手から何重にも連なるヌンチャク状の棘がついた角型の棍棒が飛び出し私へと襲い掛かってくる。

 

 それを私は()()()()()()体を逸らして避ける。

 

 

「相変らず見事な身のこなしだ。ステージ衣装のドレスを身に纏っていても変わらないな」

 

「それはどうも。生憎もうすぐ本番なの、汚す訳にはいかないわ」

 

「ならとっておきの飾り付けをしてやるよ、お前の血化粧でな!!」

 

「《ガンズ・ガロン》!!!」

 

 

 マルスの両手から鉄球が多数発射され、私に襲い掛かってくる。

 

 だけど私の目は決してマルスから離さない。彼をしっかりと見据え、その攻撃の軌道()()()()()()()

 

 

「……うっ!」

 

 

 だけど私の身体能力では読みきっても全てをかわす事は出来ない、鉄球の1つが私の足にあたり溜まらず膝をつく。

 

 

「長かった鬼ごっこももう終わりだなぁ!! お前さえいなきゃ、ここまで手間取らずに済んだんだぜ!」

 

「《ガロン》!」

 

 

 棍棒が私に向かって伸びてくる。足を負傷し動けない私には避ける術がない。

 

 ごめんね、ティオ。私はここで────

 

 

 

 

「《ピルク・ビレオルード》!」

 

「……邪魔」

 

 

 澄んだ声が響き、棍棒は彼女が生み出した光のリングに弾かれる。

 

 

 ────そうだ。彼女がいた。何故、私もマルスも気付かなかったんだろう。

 

 いや、マルスは最初から気付いていないようだった。そして私も、彼女に向けた意識を逸らした途端存在が希薄になり気に留める事が出来なくなった。

 

 ……もしかして、彼女も私と同じように

 

 

「ティオも、恵も。守る」

 

「あぁ、キリィの願いを邪魔する奴にはご退場願おうか」

 

 

「キリカちゃん。(マルス)の行動を読んで伝えるわ。耳を傾けておいて貰えるかしら?」

 

「……それが、答え?」

 

 

「えぇ、私は《相手の内面を感知出来る眼》を持っているの」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────「ちょっと見てくるわね。大丈夫よティオ、ここにいて」

 

 

 そう言って恵はいなくなった。

 

 いや、違う。恵はいなくなってなんかいない。これからコンサートがあるんだ、私がその邪魔をしちゃいけない。そう心を奮い立たせた私は、部外者がコンサート会場へ行く事の出来る唯一のルート、関係者専用の裏口を見張っていた。

 

 恵にはこれまで散々迷惑をかけてきた。普段の生活でもずっと離れず、魔物との戦いでも恵の指示に従ってるだけだった。

 

 恵の指示はすごい、まるでマルスの心が読めるかのようにひっかけや不意打ちの攻撃も的確に対処し、無事に逃げ果せている。

 

 他の本の持ち主(パートナー)だったらこうはいかない、きっと「誰にも頼れない」と折れそうな心で強がりを言う事しか出来ない自分がいただろうと思う。いや、強がりすら言えない今の状況も大して変わらないか。

 

 

 そう、他の本の持ち主(パートナー)だったら……、他の魔物だったら…………

 

 

《「今、私達を追って来てる魔物。ティオが以前話したガッシュくんならよかったのにね」》

 

「ガッシュ、か」

 

 

 以前「他の魔物の事が知りたい」と恵に言われ、真っ先に頭に浮かんだ魔物。魔法を出すと気を失う程ダメな奴だ。それにちょっと苛めるとすぐ泣き出す。ダメダメだ。

 

 

《「君もすぐに知る事になるさ、『仲間』や『友達』なんて愚かなモノは何の役にも立たない事が」》

 

 

 そんな魔界での生活に思いを馳せているといつも思い出す。『魔界の王を決める戦い』に選ばれた後、偶然出会ったワイズマンから言われた一言が。

 

 あの時は「そんな筈ない」と軽く考えていた。コルルやマルス、友達と一緒ならもう何もこわくないって……。でも、それは真実だった。

 

 

「ワイズマン。そして……、キリカ」

 

 

 あの時、出会ったワイズマンは()()()()()()()()()だった。

 

 キリカとは親しいどころか話した事もない関係だったから、あの時は特に気にならなかったし、選ばれた魔界の王候補同士の接触は魔本により禁止されていた。

 

 でも……、キリカは魔界の王を決める戦いの前にワイズマンと何を話したんだろう。何を思ってこの戦いに挑んでいるんだろう。今はそんな事を考えている自分がいる。

 

 

《「この戦いはどれだけ他人を蹴落とせるかだ。僕を信じた時点でお前の負けなんだよ、ティオ!」》

 

 

 マルスの言葉が胸に刺さる。そうだ、今はそんなどうでもいい事を考えている場合じゃない。『敵』が来るかも知れないのだから気を張ってないと! 

 

 その気合に呼応するかのように裏口のドアノブが音をたてる。もう本番直前だ、コンサート関係者が今の時間に来る事はない。

 

 

「き、来たの……? マルスが」

 

 

 胸の鼓動がうるさい位騒ぎ立てる、呼吸も自然と荒くなる。

 

 だけど後ろに逃げない。恵に頼らない。恵はアイドル、彼女がコンサートをどれだけ大事に思っているかは私も女の子としてわかってるつもりだ。

 

 だから逃げるなら外へ逃げる。そう僅かな勇気を持って対峙した相手は……

 

 

「ウヌ! ここからなら中に入れそうだぞ!!」

 

「ガ、ガガガ……ガッシュ!!?」

 

 

 私の振り絞った勇気を脱力させてしまう相手だった。




 

魔界での描写は独自設定や独自解釈がふんだんに入る予定です。
また《101番目の魔本》編は《千年前の魔物》編終了後にやろうと思っています、ワイズマンファンの方ご安心下さい。(筆者はかかる重圧で安心できませんが)


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22.信じられる仲間

 久々に心理描写を書いては消しを繰り返すパターンに入ってました。







 ────「ガ、ガガガ……ガッシュ!!?」

 

「あ! ……わ、私は決してあやしい者ではないぞ。お客さんなのだぞ」

 

 

 私達を執拗に追い回していた()()()()友達、マルス。

 

 彼の襲撃に備えてコンサート会場の裏口を見張っていた私の前に現れたのはガッシュ・ベル。何度か恵にも話した事のある魔物の中でも有名な落ちこぼれだ。

 

 私とコルルはガッシュと同じ学校で、コイツは一緒に遊んでいる私達に(勝手に)混ざって遊んだ。

 

 

 ────砂場で遊んでいたら、ティオの砂の城を崩しかけたので謝るまで首を絞め続け

 

 ────おままごとをしていたら、失業中の夫の役を押しつけ夫婦喧嘩では本気で首を絞め

 

 ────鬼ごっこ中にいつの間にか混ざっていたのを見つけ、鬼のふりをして追い掛け回し捕まえて首を絞めた。

 

 

「ガッシュ!!」 「ウヌゥ!?」

 

 

 たまらず私はガッシュに抱きつき腕を彼の首の後ろに回す。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先手必勝よ!! あんたなんかにやられたりしないから!」

 

「ウヌ……ォォオオオオオオオオ!!」

 

 

 思いっきり力を込めて首を絞めにかかる。まさかガッシュが襲ってくるとは思わなかったけど、うろたえたりしない。周りは全て敵、それはガッシュだって同じ筈なんだから。

 

 

「わ、悪かったのだ! わ、私も……コンサートが見たかったのだ~~~」

 

「は……? コンサート?」

 

「清麿のカバンに隠れていたのだが“にもつけんさじょう”という場所で見つかり置いていかれたのだ。悪いのは全て清麿なのだ!」

 

 

 ガッシュは恵のコンサートを観に? 私の本を燃やしにここに来たんじゃないの? 

 

 もしかして偶然会っただけで、ガッシュは戦いをする気なんて……

 

 

《「ティオ。この戦いはどれだけ他人を蹴落とせるかだ。そう、どんな手を使ってもな!!」》

 

 

 

 

 

 

 

「嘘よ!!」

 

「ヌ……! ヌアアアアアアァァアア!!」

 

 

 先程以上の力を込めてガッシュの首を絞める。そうだ、ガッシュは私と同じ魔物。つまり私の《敵》。

 

《敵》を蹴落とす為なら何だってするのがこの戦い、『コンサートを見に来た』なんてみえみえの嘘を使って私を騙す気なんだ!! 

 

 信じない、信じない! 信じない!! 

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当なのだ! 本当にコンサートが見たかっただけなのだ!!」

 

「まだ言うの! 正直に話しなさい、ガッシュ!!」

 

「ヌォオオオ! と、ところでお主……なぜ、私の名を知って……ヌォオオオ!!」

 

「今度はとぼけたフリ!? 魔界であんたを何回苛めていたと思ってるのよ、もっとマシな嘘をつきなさい!!」

 

「お、お主魔物だったのか……ス、スマヌ。記憶喪失というやつなのだ。昔の事を覚えていないのだ~~!!」

 

「えっ……? 記憶喪失?」

 

 

 思いがけない言葉に、私は首を絞めたまま持ち上げていたガッシュから思わず手を離した。ガッシュはそのまま地面に落下し、尻餅をつく。

 

 しまった、これがガッシュの仕掛けた罠かもしれない! そう思った私は、急いでガッシュと距離を取る。信じないと決めたばかりなのにガッシュの言葉につい隙を見せてしまった、と苦々しく思いながらガッシュを睨みつける。

 

 しかしガッシュは、苦しそうに呼吸をするだけで何もしてこない。どういう事なの? 

 

 

「ゼェゼェ……。た、助かったのだ……」

 

「ガ、ガッシュ。じゃあ私が誰か本当にわからないの?」

 

「ウ、ウヌ……。スマヌがまったくわからぬ」

 

「……その割には魔界にいた頃とあまり変わらないわね」

 

「ウヌ? そうなのか。まぁ私は私なのだ!」

 

 

 彼と話をする内に魔界の頃の記憶が蘇ってくる、そして頭が冷静になってくると次第にガッシュへの警戒心が薄れていった。

 

 そうだ、コイツはこういう奴だった。《策》とか《罠》とかコイツには程遠い。言ってしまえば単純な奴なのだ。

 

 

「ふぅ、驚かせないでよ。私を追いかけてきた魔物だと思ったじゃない」

 

「ウヌゥ、スマヌのだ。ではコンサートを観に行ってよいかの?」

 

「良い訳ないでしょ、私の本の持ち主(パートナー)の大事なコンサートなのよ。見たいならチケットを買って、正面から会場に入りなさ……」

 

 

 そこまで言った所で“ある盲点”に気付く。

 

 私が見張っている裏口は『部外者が侵入出来る唯一の入り口』だ。だけど、もしも《敵》がコンサートの観客として侵入したら……? 

 

 恵の控え室に続く道は立ち入り禁止の看板が置いてあるだけだ、簡単に侵入できてしまう。

 

 

 

 

「《ガロン》!」

 

「!!?」

 

 

 

 私がその考えに至った時、恵の控え室奥……関係者専用の休憩室から呪文を唱える声が聞こえた。

 

 

「まさか……そんな……、恵!?」

 

「お主、どうしたのだ?」

 

「ア、アンタに構っている暇はないわ!さっさとどっかいきなさいよ!」

 

 

 そうガッシュに吐き捨て恵の下へと走り出す。

 

 

「そんな、これじゃ……コンサートが台無しになっちゃう!」

 

 

 急いで恵のもとへ走る。

 自分の為に頑張ってくれたせいで、恵の一番大事なものを台無しにされてしまう! 敵への怒りと恵への申し訳なさで涙が止まらない。視界がぼやけて周囲が見えにくいがそれでも足は止めなかった。

 

 数分もかからない移動時間、今はそれが永遠に思える程に長く苦痛な時間だった。

 

 恵は洞察力、先読みなどに関しては天才的な力を持っている。それでも身体能力は普通の人間、魔物と一人で相対してしまったらどのような結果になるかは目に見えている。

 

 

「恵!!!」

 

 

 最悪の場面を想像してしまう思考を必死にふりきり、現場に向かった私が見たものは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ガンズ・ガロン》!」

 

「3,4,8発目を弾いて! 右に2歩移動!」

 

「うん。これで、当たらない」

 

「《ピルク・ガンズ・ビライツ》!」

 

「ぐがぁあああ! こ……このクソ女がぁああ!!」

 

 

 足から血を流し立つ事の出来ない恵。だが、それを行った筈のマルスは全身ボロボロで膝をつき……

 

 

「恵、大丈夫?」

 

「えぇ、キリカちゃんのおかげで問題ないわ。まだマルスは不意打ちを狙っているわ、油断しないでね」

 

「了解だ、不意打ちは俺が警戒する。キリィは恵を気にかけてくれ」

 

「ん」

 

 

 私の本の持ち主(パートナー)が、他の魔物と共闘している姿だった。

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 ハイ、皆さんおーはー! 

 

 

 戦闘中なので挨拶も略式にしてみた大人気魔物キリィちゃんです。おっはー、ではなくおーはーの所に拘りを感じてください。(無駄な指摘)

 

 

 今、キリィちゃんはティオと魔界時代の友達であった魔物『マルス』と戦っています。手から色々痛そうな金属を出してSッ気を感じさせる呪文を使う金髪パーマ野郎です。

 え? ロブノスに続いてまたS属性じゃないかって? 申し訳ないですがマルスはロブノス君と比べるのも失礼なレベルです────ロブノス君に対してね。

 

 ガッシュにいる数多くの悪党魔物の中でも三下臭が半端ないんですよねコイツ。

 というのも……

 

 ①本の持ち主(パートナー)と会ってない時代からティオを追い回してるのに、未だ倒せてない

 ②魔界の王を目指してるのに、ティオ一人にいつまでも固執して追い回す

 ③格下、弱い相手に執拗にマウントを取りたがる

 

 

 との惨状。『実力はあると鳴り物入りで異動して来たのに成績が奮わない口だけ営業』みたいな状態のマルス君です。

 その上、結果の出ない焦りからか恐喝や脅迫などの外道ムーブに手をつけはじめ『本が燃やされた時ざまぁと言いたい魔物ランキング』(走者調べ)では、度々上位をキープしていますね。慈悲はない。

 更には、その肝心な実力も微妙です。《ザケル》の直撃を何度受けても倒れないタフネスには目を見張るものはありますが、呪文は棍棒(釘バット)鉄球(モヤっとボール)の力技のみです。貴族みたいな服をまとってはいますがガチムチ枠だったんだね、わかります。

 

 

 さて、マルスSAGEはこのくらいにして戦闘に目を向けましょう。

 ティオの事が心配ですが彼を放置する訳にはいきません。それにマルスはどういうチャートを辿ろうが本を燃やす事は確定です。慈悲はない(2度目)

 

 

「《エイジャス・ガロン》!」

 

「キリカちゃん! 3歩後退、足元よ!!」

 

「わかっ、た」

 

「何ッ!? 初めて見る呪文の地下からの攻撃を何故予見出来る!?」

 

「不意打ちをしたいなら足元に注意を向けない事ね。狙いが見え見えよ」

 

 

 あっ、そうだ。(唐突)

 その前に皆さんにご説明しなければいけませんね。そう、この恵さんの謎能力についてです。

 原作を知らない皆様に説明しますと、本来『大海 恵』はアイドルという肩書きがあるだけのガチガチの一般人です。戦闘も術のタイミングをティオや清麿に任せ、自身は基本的に流されるままのスタイルでした。

 ですが本チャートの恵さんはブイブイ前に出て来てますね、しかも攻撃予測が正確すぎてヤバい。

 

 

 これは『ランダムキャラスキル』というシステムによるものです。

 プレイヤーが操る魔物はゲーム開始時に、《キャラ固有のスキル》と《ランダムのスキル》が手に入ります。キリィちゃんの場合は『高位の一族』が固有スキル、『能面』がランダムスキルですね。

《固有スキル》は何度再走しても必ず付与されますが、《ランダムスキル》はゲーム開始する度に抽選され毎回変わります。

 そして《ランダムスキル》はゲーム開始時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 と言ってもプレイヤー以外のスキル追加確率はガチャSSR排出以上の狭き門で、仮に当たっても以前キリィちゃんが覚えた『料理下手』『料理好き』の様にフレーバースキルが9割以上を占めているので、ムーブに影響を与えるパターンは皆無です。

 

 

 まぁ何が言いたいかというと……、走者の激運が発動してしまったようです。

 恵がランダム決定で覚えたスキルは超希少な感知スキル《鑑識眼》です。『キャラの内面を読み解き、思考から行動を予測出来る』という戦闘において非常に有用性の高いスキルとなっております。

 

 まぁこれで全て謎が解けましたね。

 恵が原作以上の強さを手に入れた事によりティオの恵への依存度が増加、恵がマルスにヘイトを稼ぐ事になり今回襲撃されたんですね。マルスは最もヘイト値が高い相手をストーキングするので、ティオ達を守りたければマルスを煽り続けるといいです。(豆知識)

 

 しかしDo(どう)するよ、これ。

 原作キャラがスキル獲得する事すら10周に1回あるかないかなのに、原作ムーブを改変するほどの強スキルを取得するなんて予想☆GUYですよ。

 

 

「恵……、キリカ……」

 

 

 おっ、ティオが到着しましたね、今回のメインディッシュ(ラスボス)です。

 ぶっちゃけて言うとマルスを倒すだけならRTA(瞬殺)可能です。恵の《鑑識眼》で攻撃をかわしながら近付き《ミリアボル・ピルク(精神攻撃)》をかければ決着ですので。精神攻撃の耐性が低いので、ロブノスのような事にもなりません。筋肉には精神攻撃が基本。

 ですがティオのSAN値を回復させる為には『ティオと協力してマルスを倒す』というフラグを立てなければいけません。

 その為、ガッシュ君の乱入による撃破ポイント強奪のリスクを負ってでも、マルスを甚振る程度に止めておいたんですね。

 

 

「くっそぉおお! 何故だ、何故お前がそこまで邪魔をする!? お前には関係ねぇだろ!!」

 

 

(関係なく)ないです。原作ルートを通る為にはティオ、ガッシュ、キャンチョメの3人(いわゆるガッシュPT)がクリア編まで生き残る事は最低条件ですので。

 ここで敗退する事が確定している君とは違ってね。慈悲はない(3度目)

 

 

「そうよ、それにキリカちゃんとティオは友達なんだから!」

 

「何が友達だ!! どうせお前等もいつか敵同士になるんだ!!」

 

 

 ……なったっけ? (原作読み返しつつ)

 ティオやキャンチョメは『仲間』としてずっと一緒に戦うので今ひとつピンと来ないわ。むしろ仲間達のおりなす名シーンの数々が頭に浮かんで顔がニヤけてしまいますよね。

 やはり『金色のガッシュ!!』はサンデーにおいて最強(異論は認める)

 

 

おっ、ティオが目を見開いて仲間になりたそうにこちらを見ている。

元々明るくて強がり(ツンデレ)な女の子です、トラウマをちょちょっと否定してやればこの通り即堕ちとなります。

 

チョロいな(確信)

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ────マルスとキリカの勝負は圧倒的だった。

 

 マルスの使う呪文はどれも直線的な物理攻撃、対して初めて見るキリカの呪文は光線。しかも壁に反射し多方面からマルスに襲い掛かる。その上、恵の援護で不意打ちも撹乱も防がれていた。

 

 あまりの力の差を認められず声をあげ当たり散らすマルス、キリカはそれを普段と変わらない冷たい瞳で見つめていた。

 

 

「くっそぉおお! 何故だ、何故お前がそこまで邪魔をする!? お前には関係ねぇだろ!!」

 

「関係、ある」

 

「そうよ、それにキリカちゃんとティオは友達なんだから!」

 

 

 恵が聞き捨てならない事を言う。ちょっと待って、私は別にキリカと友達じゃないから! 噂をよく耳にしていただけで……

 

 

「何が友達だ!! どうせお前等もいつか敵同士になるんだ!!」

 

「ッ!!」

 

 

 その言葉に少しだけ浮ついていた心が、一気に現実に戻された気分になる。

 

 そうだ、この戦いはマルスが言ったように友達同士の蹴落としあい……『友達』なんて何の意味も……

 

 

 

「友達じゃない、『仲間』」

 

「!?」

 

 

 そう言ったキリカは────ほんの僅かな笑みを浮かべていた。

 

 それは、魔界にいた頃の彼女からは想像もつかない程に優しい笑みだった。

 

 

「仲間…………」

 

 

 友達に裏切られ、友達に怯え、友達を信じられなくなっていた自分。

 

 恵は事実をごまかすような人じゃない、きっと私の状況も聞いた筈だ。なのに────

 

 

「……そんな私を『仲間』と言ってくれるの?」

 

 

「ウヌ、その通りだぞ。お主も、私達の『仲間』なのだ」

 

「コンサートを守りたいんだってな。奴はオレ達に任せて君は本の持ち主(パートナー)を安全な所へ」

 

 

 知らず呟いていた言葉に背後から声をかけられる。

 

 そこにいたのはガッシュ、それと黒髪の男の人。きっとこの人がガッシュの本の持ち主(パートナー)

 

 

「お前は……ガッシュか! お前も邪魔をするのか、この落ちこぼれがぁ!!」

 

「《エイジャス・ガロ「SET(セット)《ザケル》!」」

 

「何ッ!? ぐがぁあああああ!」

 

 

 マルスが鎖つきの鉄球を手から出して操り背後から奇襲しようとするも、その前にガッシュの電撃によりマルスごと吹き飛ばされる。。

 

 アイツ、あんな事が出来る位強くなってたんだ……。

 

 

「お主があの子の言っていたコンサートを台無しにしようとする者だな。そうはさせぬぞ!」

 

「ウルせぇ! 俺があいつの本の持ち主(パートナー)のコンサートを滅茶苦茶にしようが関係ねぇだろ!!」

 

「あの子は『コンサートが台無しになるかもしれない』と泣いておったぞ! 大事なコンサートだといっていたぞ!! それを壊そうとするお主は絶対に許せぬのだ!!!」

 

 

 私の心の中で泥の様に沈んでいた何かが涙と共に洗い流されるように感じる。

 

 

(何よ、ガッシュ。記憶を失っても本当に何も変わってないじゃない。

 

 弱いクセに何かを守ろうと必死になって、許せない事には体全体で反発して……)

 

 

「……ティオ」

 

 

 いつの間にか恵が傍にいた。片足に負荷をかけないよう歩きながらも、穏やかな笑みを浮かべ私を見ている。

 

 そして私は恵と見つめあい・・・、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

「どいつもこいつもクソ生意気な奴等め、これでくたばりやがれ!!」

 

「《ギガノ・ガランズ》!」

 

 

 廊下全体を埋め尽くす程の質量を持った棘付きの巨大なドリルがガッシュ達全員に襲い掛かってくる。

 

 

(「クッ、《バオウ・ザケルガ》は屋内で使ったらコンサート会場に影響が出る、ここは《ラシルド》を……」)

 

「《マ・セシルド》!」

 

 

 私が出した円形の巨大な盾によりマルスの最強呪文を完璧に防ぐ。私は守りの術に特化した魔物、これ位は造作もない。

 

 

「な……な……、こッ……このクソ女がぁああ!!」

 

 

 目の前に出た私を睨みつけ拳を振り上げるマルス。こんなの恐くない、だって私には……

 

 

「そうはさせぬぞ」

 

「これで、終わり」

 

 

 仲間がいるのだから! 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ガッシュの電撃を受けた上、キリカの精神攻撃(キリカ談)を受け身動きをしなくなったマルスはキリカがそのまま本を燃やし魔界に還した。レンなんとかとかいう本の持ち主(パートナー)は隙をついて逃げ出したけど、私達に追いかける気はない。

 

 落ち着いた私は恵の傍に立ち、二人とその本の持ち主(パートナー)達に向き合う。

 

 

「……ありがとう、助かったわ。おかげで恵のコンサートを守る事が出来た」

 

「(フルフル)問題、ない」

 

「あぁ、それよりもうすぐ時間だ。足の怪我は大丈夫なのか?」

 

「え、えぇ。少し休んだら動かせるようになったわ。コンサートも問題なく出来ると思う」

 

「それはよかったのだ。私もコンサートが観たいのだ!」

 

「そうだな、急がないとファンが待ってるぞ」

 

 

 先程まで感じた気迫が薄れ、弛緩した態度で私達に接するガッシュとキリカ達。やっぱり……

 

 

「戦う気は、ないのね?」

 

「ウヌ」 「うん」

 

「でもどうして? 生き残るのは1人だけなのよ?」

 

 

「ティオが、ティオだから」

 

「は?」

 

 

 キリカの言葉に「?」が浮かぶ。私が私だからって……私達、面識ない筈よね? 

 

 

「キリィは、君なら俺達の目指す“やさしい王様”になれるからって言ってるんだよ」

 

「ウヌ、お主はいい奴だ。私達が負ける事があっても代わりにやさしい王様になってくれるかも知れぬではないか」

 

「それにもし本当に戦う時があるのなら、ガッシュやキリカみんなが最後まで生き残った時だな」

 

 

 やさしい王様……こんな戦いをしなくてすむ様にコルルに誓ったガッシュ達全員が語った願い、それを聞いていると次第に涙が溢れてくる。

 

 だけどガッシュ達にこの涙は見せたくない。私は精一杯の()()()で言葉を返す。

 

 

「な、何よ! 二人だけでそんなすごい王様を目指せる訳ないじゃない! だから・・・、しょうがないから私も目指してあげるわ。“やさしい王様”を」

 

「ウヌ!」

 

「・・うん」

 

 

 そう言いガッシュとキリカ、3人で手を取り合う。

 

 こんな戦いの中でも信じられる仲間が恵以外にいる、それを実感し自然と笑みがこぼれてしまう。

 

 私はようやく、この《魔界の王を決める戦い》において目指すべきものを見つけられたたんだと、頬を伝う暖かな涙を感じながら思ったのだった。

 

 

 

 

 

──────────────────【マルス 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 




 本チャートではティオは普通に立ち直ったチャートで進んでいます。
 キリカに依存する微ヤンデレ状態で進める案もあったのですが、原作が粉砕!玉砕!大喝采!されると困るので自重しました。
 機会があればまた外伝ネタにするかもしれません。


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23.元就の想い

次の話に繋げるための前置き回です。
何度も書き直すうちに、次話以降が書きたくなってきたので「まま、えやろ」と走者のような気持ちで投稿しました。これがガバでない事を祈ります。





 

 

 

 ────《「それじゃあ、キリカの様子は変わってないんだな?」》

 

「あぁ、ティオって子と会った後も、キリィの様子は前伝えた状態のままだ」

 

 

 ティオと名乗る女の子の魔物と仲間になった翌日、自宅でキリィの様子を見ていると電話が鳴った。

 

 相手はキャンチョメの本の持ち主(パートナー)、フォルゴレ。世界的大スターなのだが嫌味のない爽やかさを持っており、キリィの事も常々気にかけてくれている。彼の女性を考えたアドバイスは非常にありがたいもので、母さんの尊敬する人に間違いがなかった事に内心喜びを感じている。

 

 

《「……そうか、キャンチョメもいつも通り振舞っているが内心ではまだ動揺している。彼女の事情を考えれば仕方がないが」》

 

「そうだな、だからといっていつまでもこの状況を続けている訳にはいかない」

 

 

 そう言って俺はチラリと家の敷地内の庭に作ったトレーニングスペースに目を向ける。そこではキリィが自身の何倍もある大岩に向けて拳を突き出し粉々に粉砕する訓練を行っていた。

 

 ────ロブノスとの戦いを終えてから、時間の許す限り延々と。

 

 魔物の身体能力でも休みなしは堪えているらしく息は荒くなり、白磁の飴細工のようだったキリィの手からは血が滲み痛々しさを感じる。

 

 

 時々モチノキ町へ人と会う約束の為に出歩く事はあっても、寝る時間すら削り鍛錬をする姿は異常だ。キリィに理由を尋ねると「修行」と端的に答え、また鍛錬を続けた。少し前の自分を見ているような危うさすら感じるが、それは俺にはキリィに口出しする資格がないとも言える。

 

 

《「元就は理由を知らないか? 戦いの後、私達が君の家に招かれてからなんだろう?」》

 

「ロブノスとの戦いで何かキリィに思う所があったんだと思うが……」

 

 

 俺はキリィにそれ以降何も聞かず、見守る事にしていた。

 

 清麿から『キリィの事情』を知った俺は、事情を聞き負担をかけるより、まずは無条件に頼れる存在が必要だと考えた。決して負担を与えず縛り付けないように、いつでも頼ってもよいと、彼女の力になると言葉と行動で示した。

 

 

「今日は清麿の家で、仲間になったティオって子と話をする予定なんだ。その子にキリィの事を聞いて見ようと思う」

 

《「キリカは一緒に行かないのか?」》

 

「……あの修行をもう少し続けたいそうだ。事情を理解してくれたうちの使用人がいるから、そこは安心してくれ」

 

《「わかった。また時間が空いたら連絡する。そうそう、私のコンサートに興味があったらいつでも言ってくれ、最高の席を空けておくぜ!」》

 

「あぁ、ありがとう。機会があったら是非、キリィも喜ぶだろう」

 

《「ハッハッハ、気にするな。私は女の子たち(ラガッツァやバンビーナ)の味方だからね」》

 

 

 

 フォルゴレに感謝を告げ電話を切る。

 

 やっぱり『仲間』っていいものだな。と先日のティオとの戦いの件で元就自身も再認識した、彼女が与えてくれたかけがえのないものに思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ────「ごめんね、今日恵は撮影があってこれなくて」

 

「いや、ティオだけでも来てくれて助かった」

 

「あぁ、魔界の事はティオじゃないとわからないからな」

 

 

「? それが電話で言ってた『聞きたい事』なの?」

 

 

 その後、俺は清麿の家に赴き、ほどなくしてティオがやってきた。今日は本の持ち主(パートナー)の恵は不在のようだが、それを不安に感じてる様子はなく内心安堵しているのは清麿も同様のようだ。

 

 

「魔界にいた頃、ガッシュやキリカがどうしていたのかを聞きたいんだ」

 

「ガッシュは記憶がないからわかるけど、どうしてキリカまで? 本人から聞けばいいじゃない」

 

「キリィは魔界の事を話したがらないんだ。無理に聞くよりティオが何か知ってないかと思ってさ」

 

 

 俺はひとまずキリィの事情を伏せた。

 

 彼女(ティオ)には話しても問題ないと思うが無闇に話していい内容でもないし、立ち直ったばかりのティオに負担をかける訳にもいかない。そう判断した俺と清麿はお互いに目配せをする。

 

 

「フンフンフ~~ン♪ いけ~バルカ~~ン!」

 

「……(じ~~~~っ)」

 

「ティオ?」

 

「え、あぁごめんなさい。いいわ、なんでも聞いて」

 

 

 ティオからの返答がない事を不穏に思ったが、彼女は俺達の横で一人遊んでいるガッシュを見ていただけだったようだ。

 

 ガッシュは清麿が作った玩具───お菓子の箱に顔を書き、割り箸を手足に見立てて突き刺した《バルカン300》と書かれた手作りロボで遊んでいる。それに興味を惹かれるとは魔物でも子供らしいと苦笑する。

 

 ……キリィもああいうものを作れば、ガッシュのように遊んでくれるだろうか。大人びた雰囲気を持つ彼女からは想像出来ないが

 

 

「えーっと、まずガッシュね。家族の事はよく知らないけど一人っ子のハズよ。魔界での様子は……あんな感じだったわね」

 

「そうか」

 

 

《バルカン300》を両手で前に出し、ビームの擬音を口で出して遊ぶガッシュを指差す。

 

 

「後は……うーん、魔界で遊んでいる時によく混ざってた位かしら。何か忘れている気がするんだけど」

 

 

 腕を組みながら何かを思い出そうとしているティオ。有用な情報は少なかったが、落ちこぼれと言われてもガッシュは平穏な生活を送っている事がわかり清麿も胸を撫で下ろしていた。

 

 

「次にキリカだけど……正直彼女は噂を知ってただけで、学校では一切関わり合いがなかったからわかる事はほとんどないわね」

 

「……そうか。キリカに関してはガッシュ以上に情報が少ない。気づいた事があったら何でもいいから言ってくれ」

 

「そうね……、成績優秀なんだけど魔法も見た事なかったし誰とも関わろうとしてなかったわ、先生と『ワイズマン』位しか話をする所を見た事がないもの」

 

「ワイズマン?」

 

「私達の学校で最優と言われていた魔物の子よ。《気》を操る魔物でこの戦いの優勝候補だったのだけど今回選ばれなかったの」

 

「そうか、参加してないんじゃ話を聞く事は出来ないな。……どうしたんだ清麿?」

 

「いや……、この戦いの候補の魔物がどうやって決められてるのか気になってな。落ちこぼれと言われているガッシュが選ばれて、そのワイズマンが選ばれなかった理由はわかるか?」

 

「選出基準は私達もよく知らないわ。私達の学校の校長先生が決めているって噂もあるけど本当かわからないし」

 

「なるほどな」

 

「ただワイズマンは選ばれなかった事がすごい騒ぎになっていたし、候補同士の接触禁止の後も私はワイズマンに会ったから間違いないと思うわ」

 

「わかった、ティオ。ありがとう」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 ティオから聞いた情報を清麿と話し合うが、特に進展は生まれなかった。

 

 話を終えたティオは《バルカン300》に興味をひかれたようで、ガッシュからバルカンを奪い取ろうとしていた。

 

 話が落ち着いた頃そういえば、と思い出した様に清麿が口を開く。

 

 

「元就、俺の学校は来週から夏休みに入る。そこでイギリスに行こうと思ってるんだ。向こうにいる親父が遊びに来いってうるさくてさ」

 

「イギリスか、それにはガッシュも?」

 

「あぁ、連れて行くつもりだ。イギリスにはガッシュの記憶の手がかりがありそうな気がするんだ」

 

 

 そう言ってガッシュがイギリスの森で倒れていた所を清麿の父親が保護した事、ロブノスが去り際「ガッシュに似た奴をヨーロッパで見た」と語っていた事を話した。因みにティオはガッシュからバルカン300を奪うのに必死で聞いていない様子だった。

 

 

 ガッシュが日本を離れる。

 

 

 俺はその事に対し一抹の不安を覚える。脳裏に浮かぶのは一心に大岩に拳を叩きつけるキリィ。彼女が行動を起こす裏にはいつもガッシュの影があった、今の状態でそのガッシュと長期間離れても大丈夫なのだろうか。

 

 キリィには知っている魔物の居場所を感知する力があるらしい。ガッシュがイギリスにいけば、キリィはすぐに気付いてしまう。

 

 

 様々なメリットとデメリットを秤にかけた結果、俺は携帯を取りだし『ある人物』に連絡を取るのだった……

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フ○エノ○ワミ、ア────ッ! 

 

 

 

 

 

 フタ○ノキ○ミ、ア────ッ!!! 

 

 

 

 

 

 ○タエ○キワミ、ア────ッ!!! 

 

 

 

 叫びながらおはようございまーす! 大人気魔物キリィちゃんです。

 前回、ガチムチ貴族ことマルスの魔本を燃やし順調に撃破ポイントを溜める事ができました。非常にうま味でしたね。

 ではここで二人の撃破ポイントを見てみたいと思います。

 

 

 ・キリカ 7ポイント

 内訳:レイコム/ゴフレ/スギナ/フリガロ/フェイン/エシュロス/マルス

 

 ・ガッシュ 2ポイント

 内訳:コルル/ロブノス

 

 

 はい、ここで「フハハハハ、圧倒的じゃないか我がキリィは!!」とか「俺のキリィは最強なんだ!」とか「キリィの撃破ポイントは世界一ィィィィィ!!」とか言い出した諸君は焼き土下座です。

 

 確かに現時点では5ポイントもの大差をつけていますが、全然安全ではありません。理由はガッシュ原作において第一の刺客ともいえる《千年前の魔物編》です。あの話では合計30前後の魔物達がDLCのように追加され、ガッシュパーティが次々と撃破していってしまいます。ガッシュがどの位撃破するのかはルートやランダム要素によりまちまちですが、5ポイント差など一瞬で覆る事でしょう。今は慢心をする時でなく、もっともっと差を広げる努力をするターンです。

 

 

 

 という訳で今回も変らぬ修行の日々を開始し────

 

 

 

 キリカ・イル   本の持ち主パートナー:本堂元就(ほもくん)

 

 

 筋力:森林の導き手(ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)

 体力:がんもどき

 知力:ベリーメロン! 

 魔力:元より飛行機の予約などしておりませんので 

 

 

『能面』『高位の一族』『魔力感知Lv2』『友情』

『人外の力持つ相棒』『口下手』『気配遮断Lv2』

『料理下手』『料理好き』『魔力効率化』『身体操術』(new)

 

 

 

 

 

 ────ました。(唐突な「ました」技法)

 

 

 はい、修行による突貫ドーピングにより最大呪文習得に必要な魔力値は確保完了です。

 ついでに新たなスキルとして『身体操術』を習得しました。これは自身の『筋力/体力』の値に応じて呪文なしの格闘技能に補正を与えるというものです。原作ではレインやゼオン、ウォンレイやダニーなど殴り合い上等なキャラは総じて持っているスキルです。強い(確信)

 

 とにかくこれで目標の能力値に届きました。次に呪文を取得した時には、それがキリィちゃんの《最大呪文》となる事でしょう。

 何とか間に合う事が出来ましたね。というのも明日から清麿の学校は夏休みとなります。清麿はルート問わずこのタイミングでイギリスにいる父親の下に向かう事になります。

 

 ガッシュがこの時点で脱落していない場合、とある魔物がガッシュにちょっかいをかけてきます。原作そのままの展開であれば問題ありませんが、その魔物は圧倒的格上。ボタンひとつ掛け違えただけでガッシュの生き残りが危うくなります。キリィちゃんがついていかない訳にはいきません。

 

 ついでにイギリスにはまだ出会っていないキャラも多く、好感度もガッポガッポ稼げる事でしょう。

 という訳で、そのイベント発生前に条件を満たしておく必要があったんですね。

 

 

 さて、後はイギリスに行く為の理由付けをほもくんにどう説明するかですが……

 

 

「キリィ、ただいま。唐突だけどイギリスにいかないか? フォルゴレがコンサートの席を用意してくれたんだ」

 

 

 Oh、愛してるぜほもくん。(ノンケの鑑)

 

 

 




 


キリカの前では紳士然としているフォルゴレ。

※ただし使用人や町の人相手にはチチもげ魔状態


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幕間 金山剛の評判

 今回は親密度イベントを描いた番外編となります。カットするか相当悩みましたが、個人的に大好きなキャラなので幕間として入れました。

 


 

 

 

 

 ────気にいらねぇ

 

 

「高嶺! 夏休みに入ったらオレの野球の練習に付き合ってくれ!」

 

《「頭の悪い俺達を見下して、そんなに優越感にひたりてーのかよ」》

 

 

 

 ────気にいらねぇ

 

「高嶺君! 夏休みになったら一緒にUFOを呼んだりしようよ!」

 

《「頭いいのはわかったから、早く他の学校にでも行ってほしいよ」》

 

 

 

 ────気にいらねぇ! 

 

「高嶺くーん! マリ子ちゃん達が夏休みに入ったらプール一緒にいこうって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──お前等は高嶺の事が邪魔で仕方なかったんじゃないのかよ! 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 俺の名前は金山(かねやま)(たけし)、いわゆる不良だ。

 

 ムカついた奴を呼び出し金を巻き上げ、イラついた時には適当な奴に暴力を振るう。学校でも有数の問題児となり先公達からも煙たがられている。そんな俺を、周囲の人間は避けるようになり一定の距離を取っている。だがそれでいい……

 

 

 所詮、周囲の人間なんてのは“異端”を理解する事なんて出来やしないのだから。

 

 

 

 

 

「チッ、イライラするぜ……」

 

 

 俺は教室から抜け出し、屋上へと足を進めていた。今、教室ではもうすぐ始まる夏休みに胸を躍らせ高嶺を予定に誘おうかとクラスの面々が話し合っていた。

 

 この数ヶ月でアイツを取り巻く環境は激変といっていい程変わった。それが本当に腹立たしかった。そんな苛立ちを表すかのように乱暴に屋上への扉を蹴り開ける。

 

 

 

「やっぱこの時間は誰もいねーな、これでゆっくり……あ?」

 

「わたし、いる」

 

「……チッ、テメェは高嶺のとこの」

 

「キリカ、イル」

 

「聞いてねぇ、さっさと失せろ」

 

 

 どうやら先客がいたようだ。長い黒髪を風になびかせ壁際にあるフェンスの傍の段差に座りつつ、こちらを見つめるガキがいた。

 

 多少の居心地の悪さを感じ、ガキに言葉を吐き捨てると貯水槽のある一段高い所へ登り横になる。ガキの事なんざ無視だ無視。

 

 

 

 

「ねぇ」

 

「うぉ?!」

 

 

 仰向けになり風の心地よさで気分が落ち着いて来た頃、俺の顔の前に突然キリカ(ガキ)の顔が現れる。

 

 

「まだいたのかテメェ、驚かせんじゃねぇ!!」

 

「授業、は?」

 

「知るか、不良の俺には関係ねぇ事だ」

 

「不良?」

 

「そうだ、いい加減にしねぇとガキだからって遠慮しねぇでぶっとばすぞ!」

 

 

 いい加減このガキが鬱陶しくなってきた俺はスゴ味をきかせて脅しつける。こうすればコイツも()()()他の奴等と同じく俺を怖がり逃げ出す筈だ。

 

 だが、そのガキは俺の威圧等何処吹く風というように……、穏やかに笑った

 

 

「気に、しない」

 

「…………あ?」

 

「私は、大丈夫。だから」

 

 

 何だコイツは。言葉の意味が理解出来ない程の馬鹿なのか、それとも俺がそんな事をする訳ないとタカをくくっているのか……自分は敵ではないと安心させるようなその瞳。

 

 それは俺が…………、最も“嫌悪”するものだった。

 

 

 

 俺は渾身の力でガキを殴り飛ばす、軽いその体は数m以上空を飛び屋上の床に叩きつけられる。

 

 

「バカが、友達探しがしたいんだったらマシな奴を選びやがれ」

 

 

 そう言って倒れているガキを無視して校内に入る。今日はもう早退だ、気分が悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そういえば、暴力を振るって気分が晴れなかったのはいつ振りだったか

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「また、来た」

 

「……何考えてやがる、テメェ」

 

 

 放課後、俺が屋上でやる事もなく時間を潰しているとこの前殴り飛ばしたガキがやって来た。

 

 

「この前ブン殴った復讐か? あの金髪のガキにでも泣きついたか」

 

 

 高嶺と一緒にいる金髪のガキは物を爆発させるよくわからない力がある。以前、水野から金を奪おうとした際に高嶺の指示で起こった爆発に俺は巻き込まれた。それ以来、俺は高嶺にもガキにも近寄らない事にしていた。

 

 やってくるのは金髪のガキか、それとも高嶺か先公か……しかし待てども屋上に誰かがやってくる事はなかった。

 

 

「気にしない、言った」

 

「……だからってブッ飛ばされたヤツにわざわざ会いに来る奴があるかよ」

 

「殴られても、平気。慣れてる」(←魔界の王を決める戦い的な意味で)

 

(俺みてぇな奴に殴られ慣れてるだと……? 何だ、このガキは)

 

 

 抑揚もなく何でもない事の様にそう呟き俺の近くに腰掛ける。

 

 ガキの言葉に疑問を持ちつつも、興味を持たぬよう俺はキリカ(ガキ)を無視し、貯水槽の脇で横になった。

 

 もうすぐ夏に入る日の夕暮れ、その空気はいつしか俺を夢の世界に運んでいった。

 

 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

《「金山くん、どうしてお金を盗ったの? あなたがやったって皆言ってたわよ」》

 

《「どうせ金山だろ、アイツならやりかねないからな」》

 

《「金山くん恐い、あの顔は絶対悪い事を考えてる顔よ」》

 

 

 

 夢の中で思い出すのは小学校の嫌な記憶。

 

 俺はガキの頃から体がでかく顔つきも悪かった、それが原因でイジメにあい少しでも反抗したら先公にチクられ、あたかも俺がイジメっ子のように扱われた。

 

 

 何度も何度も、何度も何度も

 

 俺は《外面》だけを見て邪魔者扱いされた。いつしか俺自身、それに抗うのを止め自主的に暴力・略奪を繰り返すようになった。ヤツ等の()()通りに。

 

 そうだ、周りの人間なんて《外面》でしか判断しない。どんなに抗ったって、それを払拭する事なんて出来やしない筈だ。

 

 

 

 

 ……なら、どうして。どうして“アイツは”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 意識がゆっくりと覚醒していく、日が落ちる寸前の黄昏時の終わり。肌寒さを感じ始めた風と、後頭部にかかる暖かな感触で俺は目を覚ました。

 

 

 

「目、覚めた?」

 

 

 視界にまず映ったのはさっきも見たキリカ(ガキ)の顔。そして意識がハッキリとするにつれて自分の状況も理解する。

 

 

「テ、テメェ……! 何、勝手な事してやがる!!」

 

 

 飛び起きた俺はガキの首根っこを掴み宙に浮かせる。あろう事かこのガキは、俺に膝枕をしていたのだ。放課後で誰にも見られていないのが幸いだった。

 

 

「寝てた、から」

 

「寝てるヤツに勝手に膝枕する馬鹿が何処にいやがる!」

 

「……ここ」

 

「ふざけてんじゃねぇぞ!」

 

 

 そういい捨てるとガキを放り投げ足早に帰宅する。本来であれば2,3発はブン殴っておくべき所だろうがそんな気は起きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだガキにも拘らず、子供をあやすように膝枕をして頭を撫でる感覚が非常に心地良かったから等では決してない筈だ

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

「ガキ、テメェか」

 

「私、キリカ」

 

 

 昼休みになると俺は屋上で一人昼食を摂る。当然、俺を恐れて他に屋上に来る奴はいない。例外を一人除いて。

 

 頻繁に俺の恫喝を無視し居座り続けるコイツを俺は諦める事にした。言っても聞かねぇ、殴っても効かねぇ(一度だけだが)、面倒臭い事この上ないヤツだった。

 

 

「ガキ、何食ってやがる」

 

「弁当。元就の特製……いる?」

 

「いるか、馬鹿。黙って食ってろ」

 

 

 半ば慣れた光景だ。馴れ合いなんてない、親しい筈もない。俺が口を開けば罵倒か罵声。

 

 だが俺は、コイツを無理矢理引き離す事はしなかった。

 

 それがどういう事になるか、十分に知っていた筈なのに────

 

 

 

「か、金山くん!!」

 

「……あ?」

 

「スズメ?」

 

 

 昼食も終わり食休みしていると、屋上の扉が勢いよく開かれ水野が入ってきた。珍しく眉を吊り上げ険しい顔を浮かべている。

 

 そういえば、以前コイツからカツアゲをした事があった。部の集金作業中の水野を強引に屋上に呼び出し、暴力を振るい金を奪おうとした。あの二人(高嶺と金髪のガキ)に邪魔されたが。

 

 思えばそれ以降、俺はカツアゲや積極的な暴力を振るわなくなったんだっけか。高嶺の変化が気に食わず、気乗りしなくなっただけだが。

 

 

「キ、キリカちゃんを屋上に呼び出して何してるの!? その子に何かしたら許さないんだから!」

 

「あ?」

 

 

 どうやら頻繁に俺の下に来るガキを見て勘違いしたようだ。

 

 分かっていた筈だ。俺の下に擦り寄ってくる奴なんて、俺のおこぼれを狙うコソ泥か恐怖で縛り付けた奴隷。それが《金山剛の周りにいる人間》の認識だ。

 

 ここで俺が選べる選択肢なんてない。《金山剛は他人に暴力を振るう存在》と周囲の認識が決まっている以上、それを覆す事なんて不可能だ。

 

 

 また面倒な事になりやがる……、そう思っているとガキが水野の所へ寄っていった。

 

 

「スズメ」

 

「キリカちゃん、大丈夫?! 金山くんに何かされなかった?」

 

「大丈夫。友達、だから」

 

「……え? 金山くん、が?」

 

「遊びに、来てた」

 

 

 その言葉に、しばしその場に沈黙が流れる。

 

 水野はガキと俺の顔を何度か見ると、やがていつも高嶺に見せるような人畜無害そうな笑顔を向ける。

 

 

 

「なーんだ、よかったぁ! ごめんね、金山くん。勘違いしちゃった」

 

「金山、いい人」

 

「そうなんだぁ、いい人なんだねー」

 

 

 

 

「おい、どう考えてもおかしいだろうが!」

 

 

 思わず声を張り上げる、まるでツッコミ不在のままボケが続けられている漫才だ。いつもコイツと付き合っている高嶺の心労を思わず心配してしまう。

 

 

「水野! 俺は前、暴力を奮ってお前をカツアゲしようとしたんだぞ。何でそんな簡単に信じ込むんだよ!」

 

「え? だってキリカちゃんが言ってたじゃない。いい人だって」

 

「は?」

 

「私、金山くんの事よく知らないから誤解して怒らせちゃったのね。本当にごめんなさい」

 

 

 そう言って素直に頭を下げる水野。俺は訳が分からなかった。

 

 誤解も何もない。俺が以前、コイツに暴力を振るおうとした事は事実だ。なのに何故、こんなにあっさりと態度を改める事が出来るんだ?! 

 

 

「金山」

 

「なんだ、ガキ」

 

「皆、見る目。変わる……変えられる」

 

「!?」

 

 

 ガキはまるで俺の考えを完璧に読み取ったかのような言葉を放つ。

 

 人の見る目は変えることが出来る、《外面》だけで判断された他人の評価も変えられると言っている。

 

 

 

 

「……チッ!」

 

「あっ、金山くん! ……キリカちゃん、私やっぱり怒らせちゃったのかなぁ」

 

「スズメ、ぐっじょぶ」

 

 

 俺はたまらず屋上を飛び出す。

 

 他人の見る目から押し付けられた評価は決して変えられない。その筈だろう! 

 

 だから俺は他人の評価通り《手のつけられない不良》になって、高嶺は他人の評価通り《他人を見下した天才》に…………なる筈だった。

 

 

 自然と脚が自分のクラスに向かっていた俺は、教室の扉の前で脚を止める。中では休憩時間中のクラスの声が聞こえる。どうやら高嶺はいないようで、アイツとの夏休みの話題で盛り上がっていた。

 

 

「高嶺との野球の練習、どの魔球にするか悩むな!」

「僕も高嶺君とどのUFOを呼ぶか迷っちゃうよ!」

「高嶺は頭いいからな、一緒に宿題こなせば早く終わるんじゃねぇか?」

「高嶺君とプール、本当に楽しみだね」

「僕は隣のクラスの野口だけど、一緒にアサガオの研究を……」

 

 

「いい加減にしやがれテメェ等!!」

 

 

 

 先程の水野とガキとのやり取りでイライラが最高潮に達していた俺は、扉を開けて怒鳴り込んだ。

 

 

「テメェ等、少し前まで高嶺の奴にどんな態度を取っていたのか忘れたのか!? アイツは自分以外の人間が全てクズだと思ってたんじゃねぇのかよ? 先公でさえも見下して馬鹿にしてたんじゃねぇのかよ? 誰一人この学校に来てほしいと思ってた奴はいなかったんじゃなかったのかよ!!」

 

 

 そうだ、周囲の人間は《外面》で全て判断して決め付ける。高嶺に擦り寄ってるこいつ等だって、以前は他の奴等と同じだった筈だ。

 

 今は高嶺と親しく振舞ってるように見せてるが、その本心を暴けばどうせ以前と同じ……

 

 

 

「……そうだな、お前の言う通りだ。金山」

「そう、だよね。金山くん」

「そうだ、そうだよ。有耶無耶にしてたけどこういう事はハッキリ言葉にしないといけないんだよね、金山くん」

「金山くん、僕は隣のクラスの野口だけど一緒にアサガオの研究を……」

 

 

「……な、何言ってやがるテメェ等!?」

 

 

 一気にクラスの連中の雰囲気が変わる。だがそれは、俺の予想していたものとはまるで違っていた。

 

 

「それにしても金山君、そんなに高嶺君の事を心配してたんだね」

「いつも苛立ってたのも、高嶺君に急に掌を返した私達に怒ってたんだね。気付かなくてごめんね」

「金山……、お前そんなにも高嶺の事を!! お前、そんな熱い奴だったのか!」

 

 

「なっ……!? 違ッ……!!」

 

 

「金山……」

 

 

「先公……ッ!! 何で大泣きしてるんだよ!」

 

 

「金山、先生は嬉しいぞ。お前がそんなにも他人を思いやれる人間だったなんてな」

 

 

 

 もう教室は収拾が付かなくなっていた。

 

 用事を終えた高嶺が戻り、先公含めた全員が今までの態度を謝罪し、高嶺も自身の行いが原因だと皆を落ち着けるまで騒ぎが収まる事はなかった。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 それから俺の生活は変わった。

 

 授業をサボる事はなくなり暴力やカツアゲもぱったりとなくなった。

 

 まぁあれはイライラを収める為で、今やその原因がなくなった事でやる必要がなくなっただけだ。

 

 

「金山、この問題を解いてみろ」

 

「チッ、面倒臭ぇな」

 

「金山君、ファイトだよ」

 

「水野、お前に応援されると逆に間違えそうだ」

 

「金山くん、ひどーい!」

 

「じゃあ金山君、僕が答えを当ててあげるよ」

 

「いらねぇ、岩島(おまえ)の答えはいつも『UMA』じゃねぇか」

 

 

「コラコラ、仲が良いのは結構な事だが早く答えるように」

 

 

 

「清麿、遊びに来たのだ!」

 

「ガッシュ、授業中に入ってくるなって言ってるだろ!」

 

「私も、来た」

 

「キリカまで……、こういう所はガッシュを見習わないでくれ」

 

 

「高嶺、子供達を保健室まで送り届けてくるように」

 

 

「……わかりました」

 

 

「あー、先公。俺も行っていいか?」

 

「どうしたんだ、金山? 腹痛か?」

 

「はーい、中田先生。金山君とキリカちゃんは友達なんですよ!」

 

「……あぁ、そういう事か。わかった、授業が終わるまでに戻ってくるようにな」

 

「さっさと行くぞ。高嶺」

 

「あ、あぁ。わかった。ほら行くぞ、ガッシュ」

 

「ウヌ、わかったのだ」

 

「テメェもさっさと行くぞ、()()()

 

「うん」

 

 

 

 

 金山と高嶺は保健室へ向かい二人を預け、再び教室に戻る。

 

 その途中、金山は夏休みの遊びに高嶺を誘い快諾した二人は山で騒動を起こすが……それはまた別のお話。

 

 




 
 原作一巻での金山が暴力を奮いつつ清麿の事を語るシーンですが、あまりにも清麿の事を理解した言い回しから「もしかして同族嫌悪だったのかな?」と思い独自設定として描写してみました。

 次回からはイギリス編に入る予定です。


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24.教授(プロフェッサー)

 最近検索で『覇道の王』といれるだけでこの作品が出てくるようになりました。
ここまで続いたのも感想・評価・誤字脱字報告をいただける皆さんのお陰だと本気で思います。
 ひとまず当面のライバルはヴァイ○・シュ○ルツの征○王という事でモチベにしていきたいと思います。




 

 

 

 

 

「ついにやってきたのだ! イギリスなのだ!」

 

「やっと着いたか、飛行機に半日近くはさすがに辛かったな」

 

「貨物室より、まし」

 

「キリカ、何か言ったか?」

 

「(フルフル)」

 

 

 

 はろー! えぶりもーにんぐ!! (精一杯の外国感)

 

 

 

 大人気魔物キリィちゃんです! 今回から日本を離れイギリス編がスタートしました! 

 新たなる敵、新たなる仲間、新たに入る好感度、新たに入る撃破ポイント、新たに覚える呪文……おっと、どんどん思考がゲスい方向に行ってしまいました。とにかくオラ胸がワクワクすっぞ☆

 

 という訳で現在地はイギリスの空港です。ガッシュペアと共にやってきました。

 ほもくんがフォルゴレに誘われ、イギリスのコンサートに向かう事を決めた翌日、()()()()イギリスにいる父親を訪ねる予定のあった清麿と日程を合わせてやって来る事になりました。

 清麿は外国旅行が初めてだから不安で、と言ってましたがどう考えてもこじつけですよね。原作ルートでは一人で堂々と町巡ってましたし。

 

 キリィちゃんには話してはくれませんでしたが、恐らくこれは()()()()()()()()配慮でしょうね。

 ガッシュのルーツを調べる事が目的であるイギリス旅行。そこでガッシュ君の抱えるであろう数々のストレスを解消する為に、親しい人物と一緒に行動しようと考えたのでしょう。ティオは本の持ち主(パートナー)が現役アイドルという気軽に予定を空けられない立場ゆえの配慮でしょうが、住所確定無職のほもくんなら安心です。

 

 

「おかしいな、空港で親父が迎えに来る約束だったんだが……また寝坊だな」

 

「ウヌゥ、どうするのだ清麿。ここでずっと待っているのは退屈だぞ」

 

「そうだな……親父が教鞭を執っている大学はわかってるんだ。こっちから行こう。キリカ達も一緒に来ないか?」

 

「どうするキリィ?」

 

 

 ここで清麿が同行を求めて来ましたね。慣れない外国の地では当然の事だと思います。

 

 

 

 

だが断る。(キリッ)

 この私が最も好きな事のひとつは、テンプレの安全策を推奨するやつに「NO」と断ってやる事だ……! 

 

 

 もちろん、これはただのネタ行動ではありませんよ。

 清麿とガッシュは市街地に移動した後、荷物が盗難にあうトラブルに見舞われます。そこで両親が失踪し、浮浪者同然の生活を強いられている少年『セッコロ』と追いかけっこを行い、交流を深めるイベントがあるんですね。

 

 ただこのイベント、一定値以上の【体力】がないと好感度があがりません。体力がガンモのキリィちゃんでは『故障確率:10%』位の分が悪すぎる賭けです。もし怪我でもしたら、えらいこっちゃやばいこっちゃでは済まされませんよ。(なんのこっちゃ)

 それに追いかけっこは時間をかなり浪費する上、セッコロはその後起こるイベントをこなしていけばある程度の好感度は稼げるので(ここでやる意味は)ないです。

 

 ここで時間を使うよりも、別のキャラの好感度を優先しましょう。最大呪文習得の為の最速チャートを突き進みますよ。

 という訳で清麿の誘いを断ります。理由は『先に行きたい場所がある』とでも言っておきましょう。

 

 

「そうか、わかった。じゃあ時間が出来たら親父の研究室に顔を出してくれ。暫くは俺もそこにいるし、何かあったら連絡してくれ」

 

「ウヌ。ではキリカ、また後でなのだ!」

 

 

 そう言って二人と別れ、ほもくんと二人になった後は市街地へ向かう電車に乗ります。空港から移動しないと始まらないからね。

 ちなみにこの電車、別車両にガッシュ君と清麿がバッチリ乗っています。乗る電車をずらしたらその分が時間ロスとなるだけですからね。MOTTAINAI(日本の精神)

 

 ここで『一緒の電車に乗って駅で別れれば?』と思った方は練乳ハチミツがけチョコレートパフェより甘々さんです。銀髪の天然パーマになってから出直してきてください。

 

(それサンデーじゃなくてジャンプだろうが!)←非常にキレのあるツッコミ

 

 その場合、駅に着いた瞬間セッコロの追いかけっこイベントが始まる場合があります。そうなったらもう別行動を取る事は許されませんからね。罠です。

 

 

 

 だって、一緒の電車に乗って友達に噂とかされると恥ずかしいし……

 

 

 とメモリアルな(ときめく)ヒロインのような奥ゆかしさで、別車両にいるガッシュ君達を何食わぬ顔でかわしていきましょう。

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 はい、清麿達の目的地に着きました。

 向こうはここで降りますが、キリィちゃん達はそこからさらに電車に揺られて移動します。

 イギリスの町並みがどんどん牧歌的になり、海岸線も遠くに見えてきました。目的地は近いですよ。

 

 

「キリィ、もうすぐ行ってみたいと言っていた所だけど何か用意はいいのか?」

 

「いい。海、見たいだけ」

 

 

 到着です。

 場所はのどかなビーチ、世界的に有名なビーチからは少し離れているので人も少なめで落ち着いています。

 さてさて、ほもくんには「一度海を近くで見たい」と言って連れて来て貰いましたが、当然理由は別にございます。

 

 

 

 

 

 

 

「ま~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 

「キ……、キリィ」

 

 

 イギリス編では多数の好感度を稼げるキャラがいますが、この海岸にも対象となるキャラがいるんですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 

「キリィ。なぁ、キリィ」

 

 

 彼の行動フローチャートはまさに神出鬼没、特定のタイミングを狙って積極的に会いに行くしかありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

「キリィ、キリィってば!!」

 

 

 あー、もううるさいよほもくん。わかってますわかってますって。目の前の海で奇声をあげながら泳いでる『巨大ブリ』の事ですよね。

 

 

「あれはマグロ……? いや、ブリなのか?」

 

 

 いいえ、変態です。

 その『ブリのようなもの』は周囲の海を旋回していたかと思うとこちらに近付き、()()()で上陸して来ました。

 

 その正体はオッサンです。彼は巨大なブリのキグルミを着ていますが、両手足は肌を露出させ動きやすい様になっています。だが胸には貝殻のブラジャーを付け、それが余計に不審者感を増しているように思えますね。

 

 

「君達、先程から私を見ていたが何か用かね?」

 

 

 やたらと渋い声でこちらに声をかけるオッサン。いや誰だって奇声あげてキグルミ被って泳ぐオッサンいたら見て……あ、町の住人達は顔をうつむかせて皆避けてますね。関わらない方が正解だと思われてるようです。

 

 

「あ、あの……あなたは?」

 

「私の名前はダルタニアン! プロフェッサー・ダルタニアンだ!!」

 

「あのどうしてそんな格……ムガッ! キ、キリィ?」

 

 

 おっと、ほもくん。それ以上いけない。

 教授(プロフェッサー)ダルタニアンはこの様に魚や珍奇な妖精のコスプレをする変人ですが、清麿のお父さんと同じ大学の教授です。その格好にだけ目を瞑れば貴重な常識人枠ですよ。(ただし目を瞑る範囲がでかすぎる)

 彼はファッションにさえケチをつけなければ、好感度がオークションの競りのように勝手に上がっていってくれます。なので、ほもくんの迂闊な発言にだけストップをかけるだけの簡単なお仕事で終わりですね。

 

 まぁ何をしてたかだけちゃんと聞きましょう。話のとっかかりは大事。

 

 

「うむ。実は最近、この海岸に“未知の鉱物”で出来たものが流れ着いてな。ここの地質調査を兼ねて、他にも関連したものが流れ着いてないか海中を調べていたのだ」

 

「未知の鉱物?」

 

「……ほぅ。君達、興味があるのかね。私の働く大学内にあるのだが、よかったら見に来るかね? 私の車で行けば1時間もかからないだろう」

 

 

 行きます。(即答)

 ここにいた理由は至極まっとうなものでした。海中調査にブリのキグルミって、ボンベでも積んであんのかそれ。

 

 普通の人種なら出会って2秒でツッコミを入れるだろう、彼の格好について何も言わなかった事に気を良くしたのか、教授(プロフェッサー)ダルタニアンはキリィちゃんをご招待してくれるようですね。これでゲーム的にいう《パッと行く》が使用可能になりました。ランダムイベントが起こる事もなく、一瞬で移動が出来るのでタァイム短縮にはこの《パッと行く》コマンドを上手に発生させる事が大切ですよ。(後発者に向けた優しいアドバイス)

 

 

 

 …………(少女パッと移動中)

 

 

 

 到着です。

 清麿のお父さんが教授をしている大学に着きました。ほもくんも大学を見て「あれ? ここって清麿のお父さんの?」という顔をしていました。

 いや~、偶然(必然)だね。

 

 そして教授(プロフェッサー)ダルタニアンの研究室に招待されたキリィちゃんとほもくんは来賓様の椅子に座り、教授は葉巻を吸っていました。ブリのキグルミを着たまま。

 格好はおかしいのに、葉巻をくわえる様が非常に渋くて格好いいのが腹立たしいですね。ほもくんもツッコミを諦めたようです。ソレデヨイ

 

 

 

 

 

「親父、来たぞ!! 迎えに来ないで何してたんだ! 親……」

 

「……………………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 突然、扉が開かれ怒鳴り込んでくる男。清麿でした。

 

 固まる清麿、平然と見つめる教授(プロフェッサー)ダルタニアン、驚愕の顔で清麿を見るほもくん、いつも通りのキリィちゃん。

 清麿の後ろにはガッシュとセッコロがいます。彼との出会いはガッシュ生存チャート共通なので、ちゃんと同行していますね。ヨイゾヨイゾ

 

 

「……私は君のお父さんになった覚えはないが」

 

「ハイ、違います! その通りでした! 失礼します!」

 

 

 清麿が速攻で踵を返して退室しましたね。キリィちゃん達にも気付かなかったようです。まぁ教授を初見で見たらこうなるよね。

 

 

「……さて、一服も終えた事だし約束のものを見せるとしようか」

 

「待って」

 

「どうかしたのかね?」

 

「さっきの、友達。見てくる」

 

「そうか。では用事を済ませてくるといい。いつでも訪ねてきたまえ」

 

「……ダルタニアン教授、失礼します。行こうか、キリィ」

 

 

 という訳で教授(プロフェッサー)ダルタニアンの研究室を出て清麿の後を追います。これでオリチャーは終了し原作通りのチャートへと移行します。

 教授(プロフェッサー)はこのタイミングで顔見知りになっていないと、好感度かタイムのどちらかが後々のイギリスの森にて起こるイベントで犠牲になります。

 だからここで、しっかり出会いイベントを発生させておく必要があったんですね。

 

 

 そしてやって来ました。清麿のお父さん、高嶺清太郎(たかみね せいたろう)氏の研究室です。わー、すっげぇ散らかってるなぁ。掃除しろよ

 

 書物は床中に散乱してるし、本棚は倒れて机に立てかかってるし、壁紙は鋭利な刃物のようなもので引き裂かれてるし、床には地球上の生物とは到底思えない足跡があるし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この床の足跡……、親父が、魔物に攫われた?!」

 

 

 ですよねー(知ってた)

 まぁここまでは走者の予想通りに事が進んでいます。最近、想定外が多すぎて順調なチャートをお見せできませんでしたからね。

 今回のイギリス編では使用キャラとチャートによってはシャレにならない事態に陥る事もあるので、絶対にガバが起きないように少しでも想定外の事が起きたら即座に対応しましょう。

 いつも以上に目を光らせているので、このイギリス編では安心してご視聴くださいね。

 

()()()()()()()()()()()、決してガバは起きませんよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────「ようやくイギリスについたわね」

 

「うん。でも本当によかったの? こんな急に休みをもらっちゃって」

 

「フフ、安心して。休みをいつか取る予定はあったし、多少交渉するだけで大丈夫よ。それに……」

 

「それに?」

 

 

「心配なんでしょ。少し前にイギリスで会った《ガッシュに似た魔物》が」

 

「う、うん。清麿達に教えるのをすっかり忘れちゃってて。あの魔物は……危険だわ」

 

「そうね。話を聞く限り、私もガッシュ君やキリカちゃんの事が心配だわ」

 

 

 

 

 

「うん。でも『恵』。どうやってガッシュ達の居場所を探すの?」

 

「問題ないわ『ティオ』。町の人達に()()()()()だけでわかるから」

 

 




 

ダルタニアン教授は原作で何の教授かハッキリ描写がありませんでした。
筆者的には清麿父と協力して、未知の石版の研究をしていたので

清麿父→考古学 ダルタニアン→地質学

ではないかと考えています。(根拠はない)


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25.古城の悪魔

 最近掘り出し物の小説を見つけてしまい読みふけると数日が一気に過ぎる不思議。
読む作業と書く作業は両立できないものでしょうか。




 

 

 

 

 

 

 ────親父が、魔物に攫われた。

 

 イギリスにやってきた俺を待っていたのは、あまりにも予想外の事件だった。

 

 

 

「落ち着け、清麿。焦って考え込む前に一旦深呼吸するんだ」

 

「……元就」

 

「大丈夫、清麿の親父さんはきっと無事だ」

 

 

「もがも! もがももも! もががががががが!!!」

 

「ガッシュ、黙って」

 

 

 荒らされた俺の親父の研究室で放心していた俺を立ち直らせてくれたのは、空港で別れた筈の元就とキリカ。どうやらガッシュとセッコロが俺の荷物の置き引きから始まったかけっこ対決で時間を使っていた間に到着していたらしい。

 

 ……そうか、ガッシュが随分大人しいと思ったがキリカが気を利かせてくれていたようだ。恐らくガッシュは放っておいたらこの状況に騒ぎ立て、異常に気付いた大学関係者や警察がやってきてこの部屋を調べる事が出来なくなってしまう。二人の気遣いに俺は心の中で感謝を述べた。

 

 

 

 ガッシュを拘束したままキリカは退室し、俺たちは捜査を始めた。現場の検証、大学内の聞き込み、やらなければいけない事は沢山あった。

 

 

 結果わかった事は、俺の親父が攫われたのは今日の朝から昼にかけてという事。早朝、警備員が研究室が荒らされていない事を確認したそうだ。昼には俺の迎えに来るつもりだっただろうし、その間の犯行となる。

 

 あまりにもタイミングのよすぎる誘拐事件、狙いはどう考えてもガッシュだ。大切な肉親を戦いに巻き込んでしまった罪悪感、家族を狙った卑劣な犯人への怒りが俺の心をかき乱していく。だが元就に言われた通り冷静に、落ち着いて状況を考察するように努めた。

 

 ……そして一番難儀すると思われた犯人の居場所は、意外な程にあっさりと判明したのだった。

 

 

 

 

 

 

「俺の町にいる皆が恐れてる……《悪魔》。そいつが犯人だよ」

 

 

 セッコロは犯人を知っていた。

 

 

 俺と元就が注目したのは、親父の研究室に不自然に置かれた『花』。この部屋には花瓶はなく、容器が割れた形跡もない。攫った魔物に関係したものだという事は明らかだった。

 

 

 セッコロはその花を見て明らかに狼狽した。最初は白を切っていたが元就と二人で時間をかけて説得を行い、ようやくその全容を教えてくれる事となった。

 

 セッコロの住む町に突如現れた騎士の集団……町から金品や食料を要求し、抵抗すれば町の住人ごと連れ去る。警察が拠点へ突入しても誰一人戻ってこない“悪魔の住処”と呼ばれる場所。残された『花』はその悪魔の犯行を指し示すメッセージなのだという。セッコロは最初から浮浪者であった訳ではなかった、その集団に対して直訴しようと拠点に向かった両親がそのまま失踪してしまった為、盗みやひったくりで日々の糧を得なければいけなくなってしまったのだそうだ。

 

 

「わかっただろ! アイツには警察も軍も適わない、日本に帰れよ!!」

 

「いいや、俺は親父を助けに行く! セッコロ、その拠点の場所を教えてくれ!」

 

「相手の正体は検討が付いてる。キリィ……いや俺達なら対処法がわかるんだ」

 

「グ……」

 

「大丈夫。勝てる」

 

「ウヌ、その通りだ。私達ならばそやつを倒す事が出来る。皆を救い出せるのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スマネェ」

 

 

 

 

 悪魔の拠点はバスで行ける村にそびえる古城『ホーバーク・キャッスル』。そこに住まう為“古城の悪魔”と周囲の村々で恐れられているらしい。バスで麓の村まで向かった俺達はその足で古城の入り口へとやってきていた。

 

 

(待ってろよ、親父。必ず他の人達と一緒に助け出してやる!)

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

ポチポチポチ……

 

 

 

 皆さんおはようございまーす。大人気魔物キリィちゃんです。

 

ポチポチポチ……

 

 やってきましたイギリス編。今回登場する魔物は《バルトロ》、名前だけでも強そうな感じがする獣型の魔物です。

 

ポチポチポチ……

 

 今回は誘拐された清麿父を追って、彼の拠点である古城へと向かう事になりました。

 

 

 

……という流れを説明するだけなのにテキスト量が多すぎんだよコラァ! (唐突な逆ギレ)

 

 もう会話を進める為のボタン連打作業により親指を曲げると痛みが出るレベルです。

 清麿の探索、セッコロの説得、セッコロによるバルトロの住処に関する説明、どれも長いわぁ

 特にセッコロの説得が大変でした。彼が敵の魔物についての情報をくれるには好感度が重要です。原作通りのルートを通っている清麿に対してはデフォで好感度100なので彼一人だとベラベラ喋ってくれますが、初見のほもくんが混ざると平均値である50になってしまいます。

 その為『説得する』コマンドを押した場合50%の確率で次の会話に進まず堂々巡りとなります。

 確率によっては某ドラゴンをクエストするゲームで「いいえ」を繰り返し続けるような苦行となり、かなりのイライラと(親指が)イタイタタイムになります。

 

 

 そんな訳でキリィちゃんがガッシュが暴れないよう抑えてからは、背景と同化しシーンの進行を無心で願いながら決定ボタンを連打していました。無口キャラってこういう時オトクよね。

 なおこのゲームのスキップは既読スキップしかないので多種多様にルートが枝分かれするこのゲームでは役立たずです。

 

 そしてオホーツクと軽井沢、ポートピアの事件を全て乗り越えた程の気分で、現在敵の古城『ホーバークキャッスル』の前にいます。もちろん清麿とガッシュ、ほもくんも一緒です。

 

 

 

「元就、本当にいいのか? この城に入れば後戻りは出来ないかも知れないんだぞ」

 

「構わないさ。ガッシュと清麿は行くつもりなんだろ?」

 

「ウヌ! 勿論だ」

 

「そうだ。何としても親父達を助け出してみせる! 何があってもだ!!」

 

 

 ん? 今なんでもするって(幻聴)

 というテンプレの冗談はさておいて、ここは同行一択です。この古城を教えてくれたセッコロ君ですが、古城突入時のメンバーがガッシュ・清麿のみの場合バルトロ戦で助けに来てくれます。

 持ち前の俊足で魔本を一時的に奪ったり、奪われた魔本を取り返したりしてくれるお助けキャラです。

 ただフレンドリィファイアの設定から外れているので、こちらの呪文に巻き込まれます。そうなった場合、周囲の原作キャラも含めて好感度が激おちくんになります。説得シーンといい公式は彼を嫌われ者キャラにしたいのかい? 

 

 

 上記理由から彼はバルトロ戦に慣れていない初見プレイ時以外は呼ばないほうがいいです。邪魔なので(無慈悲な宣告)

 彼を呼ばないようにするには『古城侵入する際、魔物二人以上で入る』という条件を満たしていればOKです。なのでガッシュ君と一緒に入れば問題ありません。

 一応補足として、この判定は古城に入る度に判定され()()()()()()()()()()()()()なのでガッシュ君が古城を一度出て入り直した場合、もれなくセッコロがついてきます。原作ルートにおいて他の魔物はこの古城に入ってこないので関係ありませんが、独自ルートに入ってガッシュ君が勝手に離脱して再突入、というチャートもワンチャンあるので目を離さない様にしましょう。

 

 

 

 そして古城に侵入しましたがロビーのような場所に入った瞬間機械音が鳴り響きます。

 入り口は鉄格子が落ち、周囲の天井から甲冑に身を包み剣を持った騎士達が降りてきました。首に鎖を巻きつけて吊るしてあったみたいですね。数は2,30といった所でしょうか。

 

 

「行くぞ、ガッシュ!! 鉄の騎士だかなんだか知らねぇが全部蹴散らしてやる!!」

 

「こっちも行こう、キリィ!!」

 

 

「《ザケル》!!」 「《ピケル》!!」

 

 

 

「やったか!?」

 

 

 清麿や、フラグって知ってる? (蔑みの目)

 当然のように騎士達は立ち上がってきました。甲冑は電撃の直撃により焦げて煤けてはいますが、緩慢なその動きは衰えませんね。因みに今回の《ピケル》ですが『複製(コピー)』しているのはロブノスの呪文なので手が光り十数cm程のレーザーブレードが出ています。手刀が強化されてるような感じですかね。

 マルスの呪文? あんなガチムチ呪文に用はないです。バルトロとの相性も最悪なので。

 

 そんな訳でガッシュ君は《ザケル》で鎧の騎士の群れを吹き飛ばし、キリィちゃんは《ピケル》のブレードを振るって鎧の騎士を吹き飛ばしていきます。

 とはいえこの鎧の騎士達はHPが無限。真正面からやりあっていても不毛なだけです。さっさとフラグだけ立てて先に進みましょうね~~。

 

 まずはブレードを騎士の一人の頭へ向けて振るいます。

 どれ、貴様のアホな頭蓋骨を切開して規律というものを叩きこんでやろう。

 

 

「え!?」

 

「ウヌ?! 鎧の中が空っぽではないか?」

 

 

 そうですな教官殿。彼の頭脳が存在するかが疑われたため、頭脳の存在を確認すべく頭部を切開し確認しました。

 しかし中身は比喩ではなく本当に空っぽでした。鎧の裏側に錬金術師の血で書いた錬成陣のようなマークも見当たりません。

 

 続けて鎧の上半分もブレードを振るって吹き飛ばします。やはり空洞、下半身だけガシャガシャ動かしています。キモい(直球)

 

 

「いや、空じゃない……あれは、花?」

 

 

 おっ、清麿。いい所に目をつけたね。清麿の言う通り鎧の騎士の中には清麿父の研究室で見つけたのと同じ花が入っていました。これを見つける事により、この部屋でのフラグ回収は完了です。

 じゃーほもくん。さっさと次の部屋行きましょうか。

 

 

「わかった、キリィ。────《ピルク・ガンズ・ビライツ》!!」

 

「……この呪文は?!」

 

 

 清麿が何か主人公っぽい事いってますが無視です、無視。

 多数のビームが壁を乱反射して鎧の騎士達に襲い掛かります。騎士達は全員武器を落とし倒れますが、すぐに立ち上がってくるので急ぎましょう。入り口と同じく次の部屋へ向かう扉も鉄格子が下りて進めなくなっています。

 

 でも、そんなの関係ねぇ!! 握力180kgパーンチ!! 

 

 鉄格子は壊せるかどうか不明ですが、中世からそのままとなっている古城の壁はキリィちゃんにかかればウエハースのようなものです。キリィちゃんパンチで簡単に砕けるので先に進みましょうね。

 

 

「なぁ、キリカ。お前の呪文って……」

 

「ウヌ……」

 

 

 走りながらも清麿とガッシュ君はキリィちゃんに問い詰めてきます。

 まぁそうですよね。今、キリィちゃんが使ってる呪文は以前戦った《ロブノス》が使っていた呪文です。男をとっかえひっかえするならまだしも、呪文をとっかえひっかえする魔性の美少女キリィちゃんに対して興味津々なようです。

 ここは簡単にキリィちゃんの呪文性質は『複製(コピー)』だよって伝えておきましょう。今後ガッシュ君と共闘する事も増えますし毎回詰問されるのはテンポ悪いですからね。

 

 

「そうか……」

 

 

 納得したような事をいいつつも顔の晴れない清麿。さてはテメェ、信じていないな。

 ですがひとまず詰問シーンは終わったのでよしとしておきましょう。どんどん先に進みましょう! 

 

 

 2番目の部屋、数百本の武器が()()()()()()()襲い掛かってきます

 

 

「《ラシルド》!!」

 

 

 3番目の部屋、床に何箇所か隠されたスイッチを押すと落とし穴が起動し()()()()()()()()()()()落とし穴となります。

 

 

「《ピルク・ビライツ》!!」

 

 

 4番目の部屋、天井が下がり部屋の全員を()()()()押し潰そうとしてきます。

 

 

「ヌオオオオオオオオオ!!」

「この程度、平気……!」

 

 

「よし。ガッシュ、キリカ。そのまま天井を押さえててくれ。呪文で破壊する!! 《ザケル》!」

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────俺とコイツの出会いは偶然だった。

 

 ボクサーである俺の試合中に乱入してきた謎の獣野郎。コイツに出会った俺は今の生活に嫌気がさしてきていた事もあり、ボクサーを引退して小さな村にある古城に移り住んだ。

 

 ここでは誰も俺に逆らえない。町の有力者も、抗議しにきた町人も、鎮圧に来た警察も、全員コイツの力に敗れ奥の部屋に幽閉されている。

 

 だが悪人である事を自覚している俺も、最後の一線を越えない様にと自省する心はある。打算的な理由もあるが死人が出たら後々面倒な事になるし、俺自身も楽しめないからだ。

 

 今日も俺の住み処(リング)にやってきた挑戦者がいる。コイツの話ではガキ2人を連れた勇者様ご一行だそうだ。久しく来なかった挑戦者ではあるが、これでは楽しめないだろうと思っていた──────その予想を見事に裏切りやがった。

 

 奴等は鎧の騎士達のうごめく第一の部屋だけでなく第二、第三と突破しとうとう此処へと向かってきている。初めての状況に給仕をさせていた村人達が喜びの声をあげている。

 

 

「助かる! 今度こそ助かるわ!!」

「早く牢屋の皆にも伝えなくっちゃ」

「誰なのかしら、此処まで来てくれた人は?!」

「フフフフ、フフフフフフフフ」

 

 

 約一名変な笑い方をしているコックがいるがどうでもいい、どうせ奴等の希望はすぐに打ち砕かれる。

 

 コイツに勝てる奴は誰もいやしねぇ。待っているのは絶望だけなんだ……

 

 

 

「準備はいいな、『バルトロ』! 迎え撃つぞ!!」

 

《勿論だよ、『ステング』》

 

 

 

 

 バルトロと呼ばれる魔物。その本の持ち主(パートナー)が呼びかける。それに呼応するように部屋の遥か上から響くような声がし、大地を震わせるほどの足音が部屋に響き渡るのだった。

 

 

 




 

 リアタイで見ていた子供時代『バルトロ』という名前に厨二心をくすぐられ無茶苦茶格好いい名前だなぁと感激していました。すると当時の友人が

「バルトロって名前、ネギトロみたいだよな」

と言ってきたのが切欠にその名前にあまり魅力を感じなくなりました。
 因みにその友人は後日一発殴っておきました。


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26.vsバルトロ

 今回はいつもの倍近くの文章量になっております。ご注意ください。




 

 

 

 

 ────俺は悪夢でも見ているのか? 

 

 彼は目の前に広がる光景にそう思わずにはいられなくなっていた。

 

 

 古城に棲む悪魔と呼ばれる存在、その魔物の名はバルトロ。数々の罠を突破し清麿達の目の前に現れたその姿は、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい物だった。

 

 数十mに及ぶ巨体、巨人がいるその部屋は古城の中でも屈指の広さを持つ大部屋だが、その天井にまで届きそうな巨体。二本足で立つ獣を形どってはいるが、鉄球を発射する事の出来る胸部パーツ付きの鎧に覆われたその姿は、まさに子供が思い描くスーパーロボットのようであった。

 

 

 ────全く歯が立たない……ありえない!! 

 

 

 その爪の一撃は城の壁をたやすく砕き、足を踏みしめるだけで地面をえぐる。一撃でもくらえば致命傷に繋がりかねない事は容易に想像が出来る。反対に強固な鎧と外皮であるその装甲を貫き、巨人にダメージを与える事は容易な事ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ゆえに魔物の本の持ち主(パートナー)である()()()()()狼狽していた。

 

 

(「何故……! 何故バルトロがここまでおされているんだ!?」)

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘中よりおはこんばんちは! (略式の挨拶)

 

『クールでニヒル』な性格の大人気魔物キリィちゃんです! (なお走者は『ちょっと変な性格』)

 現在キリィちゃん達は見た目にもスーパー系な魔物バルトロと戦っております。いや、胸のバルカンには弾数ありそうだしリアル系かな? でも心の力をENと考えれば間違ってないのかな。

 と、こんなアホな事を考えるくらいには余裕があります。何故ならば……

 

 

「《ゼベルオン》!」

 

「ガッシュ、右だ!!」 「ウヌ、()()()()()ずっと動きが遅いのだ!」

 

 

 巨人が手の爪で切りかかろうとしても、余裕でガッシュ君はかわしてますし

 

 

 

「《ゼベルセン》!」

 

「ガッシュ、SET(セット)!! 《ラシルド》!」

 

「何ッ、俺の方に反射を!? バルトロ、俺を守れ!!」

 

 

 巨人が胸から砲弾を射出してもラシルドで反射します。しかも、反射角を調整する余裕までありますよ。

 

 

「隙が出来た! SET(セット)、《ザケル》!!」

 

「しまった!? バルトロの右腕が!」

 

 

 そして既に、弱点まで見切っています。もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 

 

 

 改めて皆さんにここまで経緯を改めてご説明しますと、バルトロは《特定の花をつけた物を操る》呪文を使う魔物です。鎧の騎士や目の前にいる巨人も、花をくっつけ呪文で操作している訳ですね。なお巨人さんは大きすぎるのかパーツ毎に花をくっつけて分割操作しています。さっき右腕につけた花を電撃で燃やされたので、片腕が破壊された状況です。メ○ロットかな? 

 

 原作清麿であれば、この事実に気付くのに結構苦労した筈なのですが、巨人さんを見た時に「あぁやっぱりな」って顔をしてました。キリィちゃんが鎧の騎士と戦った時にヒントを出したとはいえ早すぎませんかね? 

 恐らくこれは過去に同じ様な巨大魔物と戦った事があるので精神的な耐性がついて、冷静に頭で分析した結果の超速理解だと思われます。

 そう、原因は以前戦った暴走コルルです。何と一見ガバに見えたアレはここでの戦闘時間短縮のための布石だったんですよ!! (壮大な後出しジャンケン)

 

 

 

 

 とはいえ、此処まで圧倒的だと懸念事項があります。

 このバルトロ戦ではIFルート戦闘はありません。バルトロ君の強さは全ルート共通なのでプレイキャラ等によっては最大呪文で開幕3秒K.O.もありえます。

 その代わり戦闘結果によってルート分岐が行われるのですが、その内の1つはロシアンルーレットのような難易度激辛コースになってます。このルートはキャラや状況によっては破滅しかねない危険なルートです。

 

 今実況では原作ルートに沿えればよいので、そのルートは回避していきたいと思います。なんでわざわざ危険地帯通らないとあかんねん。

 

 

 撮れ高? 知らんな(ガバ回避に全力を注ぐ気構え)

 

 

 

 

 

 なお、細かい条件は画面脇に出しておきますね。

 その破滅フラグのあるルートは、格ゲーのアーケードモードノーコンティニュークリアで進めるエクストラステージの様な扱いみたいなので条件は結構シビアです。

 

 

 ●破滅する可能性のあるルートへ進むフラグ条件

 1.ガッシュと清麿の好感度が最大

 2.セッコロが古城にやってきている

 3.バルトロ戦終了時、パーティ全体の消耗度が50%を下回っている

 4.ガッシュの《ザケル》でバルトロの魔本を燃やす

 

 

 この条件を満たさないよう立ち回って行く事にしましょう。私は絶対に破滅フラグを回避してみせるわ!! 

 

 とはいえ1の条件であるガッシュ達の好感度はどうしようもないのでスルー、他を見ていきましょう。

 2の条件が前パートでセッコロ君を追い出した理由ですね。破滅フラグを叩き折る為にも必要な作業でした。決して彼にチョロチョロされると邪魔だった訳ではありません。(申し訳程度の擁護)

 そして、破滅フラグのルートへは全ての条件を満たさなければいけないので、この時点で既に安全地帯ですが、念のため1以外は全てフラグを折る様に心がけましょう。

 万が一何かガバが発生し条件がクリアされてしまっても、他のフラグも折っておけば安全地帯は継続されますので。今以上それ以上(視聴者様に)愛される為に、透き通った瞳のままでクリアを目指しましょう。

 

 

 続けて3の条件の消耗度というのは本の持ち主(パートナー)の体力の消耗割合を表しています。メニュー画面を開けばパーティ情報は出て来ます。操作キャラであるキリィちゃんと、その本の持ち主(パートナー)であるほもくんはなんとなく(フィーリング)でわかるので、今までは全く使わなかった機能です。共闘時や今回の様に消耗度が大切な時には助かる機能ですね。

 

 清麿     :80/100

 ガッシュ   :80/100

 ほもくん   :90/100

 キリィちゃん :70/100

 

 合計     :320/400(消耗度20%

 

※各キャラの体力は実数値ではなく割合で表示(%)

 

 

 まだまだ体力の減りが弱いですね。このままの勢いで倒してしまうと消耗度が50%を越えないかもしれません。

 一応巨人を倒すと、バルトロの本体が出て来て清麿をボコボコにする強制イベントがあります。バルトロ本体はガッシュよりも小さな可愛らしい小動物風の獣なので原作清麿は慢心し不意打ちされます。愚かなりピヨ麿。

 このイベントにより強制的に清麿の体力が10まで落ちるので、消耗度を減らしたくない場合目押しで《かばう》などの行動を取るようにしましょう。(豆知識)

 ですが破滅フラグを折りたい場合は是非とも活用したいイベントです。これを加味すれば、あと少しの体力減少で消耗度は50%を越えますからね。

 

 

 

 ではまずは、パーティ全体の消耗度を上げる作業をしましょう。

 

 バルトロ(巨人形態)は主に各関節部分に物を操る為の花をくっつけています。パッと見わからないようになっているので、ガッシュ君が攻撃をかわしている間に探して清麿に伝えましょう。

 キリィちゃんの《ビライツ》で花を消滅させる事も可能ですが、ここではしません。ビバ指示待ち人間。

 おーい、清麿ここに花があるよ──! と相手の本の持ち主(パートナー)、ステングが()麿()()()()()()()()()()()()()()()声をかけます。

 

 

「わかった! 行くぞ、ガッシュ! キリカの所だ」

 

 

「甘いんだよ、そこだ!!」

 

「何ッ、しまった!?」

 

 

 ステングが手に持っている鞭を器用に使い、清麿の持つ赤い魔本を奪い取りました。この戦闘では本の持ち主(パートナー)の持つ魔本をステングが奪い取るイベントが発生します。

《人外の力持つ相棒》のスキルを持つほもくんには通用しませんが、清麿はタイミング良く注意を逸らしてやればステング君の華麗な鞭捌きで奪い取ってくれるでしょう。

 

 

「ハッハッハ。これで反射する盾は使えねぇだろ! 《ゼベルセン》!!」

 

 

 高笑いをあげながら呪文を唱えるステング、迫り来る鉄球がガッシュへと襲い掛かりますね。

 ここだ! ここならダメージを喰らっても不自然じゃありませんよ!! 

 

 

「ウヌ、キリカ!? 何をするのだ」

 

「ヤバい!? 避けるんだ、キリカ!」

 

 

 ごく自然にガッシュ君を庇って前に出ます。体力の値はキリィちゃんの方が低いので受けるダメージが増え、消耗度的にオトクです。

 

 

「《ピルク・ビレオルード》!」

 

 

 ほもくんにある指示を出した後、呪文を発動してもらいます。

 手から出現した光りのリングで放たれた鉄球を弾いていきます。重量と速度でもの凄い威力になっておりますが、もの凄い握力を持つキリィちゃんなら弾く事も可能です。

 

 そしてここで、()()()一発だけ喰らいます。故意にダメージを受けると変な疑いがかけられるかもしれないので自然な形でダメージを受けましょう。

 おぉ、体力がどんどん減っ……って減りすぎ減りすぎ! とまれとまれとまれって!!! 

 

 

 清麿     :80/100

 ガッシュ   :80/100

 ほもくん   :90/100

 キリィちゃん :10/100

 

 合計     :260/400(消耗度35%

 

 

 おぉヤベぇ、気絶するかと思いましたよ……体力は0で気絶、-100で魔本が自動的に燃える仕様です。

 ガッシュ君がいるので戦闘においては気絶してても問題ありませんが、気絶している間にバルトロの魔本を燃やされてたりするパターンは勘弁です。(コルル戦のトラウマ)

 

 

「チッ、メスガキの方は耐えたか。だが焦る事はねぇ、赤い本がある以上金髪のガキは何もできやしねぇんだ!!」

 

 

 それはどうかな! (カン☆コーン)

 

 

「……キリィを傷つけた。覚悟は出来てるな」

 

「何ッ!? いつの間に後ろに……」

 

「破ッ!!」

 

「ぐあぁぁはああああああああぁ!!」

 

 

 キリィちゃん達に気を取られていたステングへと《隠密》で接近していたほもくんですが《暗殺》スキルで思いっきり腹パンしましたね。一般人なら内臓に深刻なダメージが入るレベルです。ステングが元プロボクサーでよかったね。

 

 

「ぐ……カハッ 何だ、コイツ等は……」

 

「元就! 今のうちに赤い魔本を奪ってくれ!!」

 

「あっ……、あぁ!!」

 

 

 ステングはほもくんの一撃により十数mほど吹っ飛ばされましたが赤い魔本を抱えたままです。本の奪還忘れてたなコイツ……今「あっ」っていったぞ「あっ」って。

 

 

「そう……は、い……くか。《ゼベルオン》!」

 

 

 呪文でバルトロ(巨人)を操作し、ほもくんを近づけないように腕を振るったり踏みつけようとしたりします。動きが早い訳ではないですが、一発一発の余波の振動がひどいので上手く近づけませんね。耐震珠とかないですか? (ゲームが違う)

 

 

「クソッ、これじゃ近づけない!」

 

「清麿! 私と元就が一緒に本を狙うのだ!」

 

「ダメだ、ガッシュ! 君が大きく離れたら一人になった清麿が狙われる。俺に任せてくれ」

 

「ヌウゥ」

 

 

「悪いがテメェだけは絶対に近寄らせねぇぞ。そこのメスガキだけなら呪文も大した事はねぇ! 終わりだ!! 《ゼベ……」

 

 

 

 

 

 

「うぁあああああああああ!!!」

 

 

「なっ!? ガキの本が!!」

 

 

 

えっ? 

 

 

「セッ……セッコロ!!」

 

「ガガガガッシュ、清麿……すぐにこの本届けてやるぜ!!」

 

 

ええええええええええぇぇぇぇ!?? 

 

 

 セッコロ=サン!? セッコロ=サン、ナンデ?! 

 君は『魔物一人で古城に侵入(本の持ち主(パートナー)除く)』の条件満たさないと助けに来ないんじゃないの?! バグ? え、これバグ?! 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉっぉおお!!」

 

「速い!?」

 

「ウヌ、さすが私とかけっこで引き分けたセッコロなのだ!」

 

「よくやったセッコロ」

 

「ヘ……お安いごようだ……。あの変な巨人とアホな顔したオッサンは任せたぜ」

 

「あぁ」

 

 

 ……と、とりあえず戦闘に戻りましょうか。セッコロの不具合は後で考えましょう。

 セッコロは無事大部屋を横切り清麿の下へ赤い魔本を届けたようです。原作で合流を邪魔していたステングですが、ほもくんを注意していた為二兎を追う兎状態になっていたみたいですね。

 

 キリィちゃんのロブノスから『複製(コピー)』した心の力は使い切りました。余計な事はせずに清麿の解体作業を眺めてましょうかね。

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「馬鹿……な……」

 

 

 両手両足がもがれ倒れ付したバルトロ(巨人)を前に、ステングが放心しています。

 

 

 清麿     :70/100

 ガッシュ   :70/100

 ほもくん   :40/100

 キリィちゃん :10/100

 

 合計     :190/400(消耗度53%)

 

 

 消耗度はギリギリで50%を上回っていますね、清麿フルボッコイベントをしなくても大丈夫なレベルですが、ギリギリだと少し恐いのでイベント発生を待ちましょう。セッコロが来た事により破滅フラグの条件が1つクリアしてしまいましたし万全を期すべきです。

 ではでは、倒れ去ったバルトロ(巨人)に近寄る清麿達をよそにキリィちゃんはステングへと歩み寄り真っ白に燃え尽きた彼からモスグリーンの魔本を奪い取ります。

 

 そして、若干恒例じゃなくなっていた恒例行事のお時間ですよ。ほもくん

 

 

「わかった。第一の呪文《ピルク》!」

 

 

 皆様の前でやるのは久々ですね。癒される光~~っとな。

 

 清麿の方も、バルトロが出て来てその小ささにびっくりしてます。脳内では(こいつは弱いから巨人に身を隠してたんだ!)とか思っているでしょうが、バルトロはガッシュより小さなその体でプロボクサーと互角の勝負が出来る魔物です。

 

 さぁバルトロさん、ぼっこぼこにやっておしまいなさい。

 

 

「ケケ──────────!!!」

 

「なっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《セウシル》!!」

 

 

「ケッ……ケケッ!!?」

 

「この呪文は……、ティオ!?」

 

 

 ぶるああああああああああぁぁぁ……ってアイエエエエ!? ティオ?! ティオ=サンナンデ!!? 

 

 

「危なかったわね、ガッシュ」

「大丈夫、清麿君」

 

「ウヌ、ティオ!? 何故イギリスにいるのだ?」

 

「べ、別に何だっていいでしょ!! たまたま恵の予定が空いてたから遊びに来たのよ!」

 

「清麿君、ガッシュ君。久しぶり。ここにいるって聞いたからセッコロ君に案内してもらったの」

 

「あぁ! 恵が後押ししてくれたからガッシュと清麿を助けに行く勇気がもてたんだぜ!!」

 

 

 

 そっかー……そういうことかー……

 何でセッコロ君が勝手に乱入してきたのかと思ったらそういう事でしたかー……

 

『古城に魔物一組だけで侵入』……魔物はティオ一人で侵入した訳ですねー

 こういう事もあるのかー、プレイヤーの視覚外で予想外の事態が動いてるとは思いませんでしたよ。破滅フラグ全部叩き折るようにしておいてよかったなぁ

 

 

「ケケ────────────ッ!!!」

 

「ティオ、相手の魔物が逃げるわ! 《セウシル》を解除して!」

 

「えっ……わ、わかったわ!」

 

 

 あっ、バルトロが逃げましたね。清麿とガッシュが円形バリアである《セウシル》に守られ動けない隙をついたわけですね。……って、こっち来とるやんけ! 

 

 

「ケケ────────────ーッ!!!」

 

 

 華麗なる回避!! 体力10じゃ戦える訳がありません! 

 しかし相手の目的はキリィちゃん自身ではなかったようです。持っているバルトロの魔本が奪い返されてしまいました! 

 

 

「ハッ! テメェ等全員タダじゃおかねぇぜ!!」

 

「フンッ、随分余裕じゃない! 言っておくけど私もガッシュの仲間よ。1対3で勝てるのかしら?」

 

 

 ティオが自身満々にステングに言い放ちます。すっかり原作で見慣れたツンデレ元気キャラを取り戻しましたね。

 

 

「馬鹿が、まともに戦うだけが戦法じゃねぇ。この城を支える柱の石を動かせば、まとめて全員ガレキに潰れてあの世行きよ! 《ゼベルオン》!!」

 

 

 ステングの呪文発動にあわせて城中が震動します。恐らく大黒柱が崩壊しようとしているのでしょう。死なば諸共という事でしょうかね、悪役としての潔さには好感が持てます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな事はさせませんけどね。

 

 

「元就」

 

「あぁ、《ピルク・ゼベルオン》!」

 

 

複製(コピー)』したバルトロの呪文、《特定の花をつけた物体を操作する呪文》の“特定の花”はバルトロと一緒です。なのでキリィちゃんも同じ物体を操作する事が可能となるんですね。

 その力を使い崩壊させようとした大黒柱を元通りの位置に修復させます。これで崩壊は防げました。震動も止まっています。

 

 

「な……!? 何、が……?!」

 

 

 何が起こったのかわからず混乱するステング。まぁ同じ呪文で止められたとは思いませんよね。

 では今度こそその本を燃やさせてもらいましょう。ライターは確か……(ごそごそ)

 

 

「クッ……ちくしょうが! まだ、まだやり直せるんだ!!」

 

 

 あっ!! ステングの野郎逃げ出しやがった。悪役としての潔さは何処にいった!!! 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、チェックメイトだ」

 

「グ……ッ!」

 

 

 

 

 

「《ザケル》!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 あぁ、やっぱり駄目だったよ。

 

 逃げだしたバルトロはガッシュの《ザケル》に焼かれ魔界へと還りました。あとちょっとだったのに、後ちょっとだったのにぃぃぃぃぃ!!! (血涙)

 

 

 ……え? 《ピケル》なんてしないでさっさと燃やすべきだったって? 

 あれは仕方ない状況でした。清麿フルボッコイベント待ちでしたからね。それに古城の崩落を防いだ事によりセッコロの好感度が上昇、ついにレベルアップと相成りました。やったNE☆

 

 

 ●破滅する可能性のあるルートへ進むフラグ条件

 1.ガッシュと清麿の好感度が最大

 2.セッコロが古城にやってきている

 3.バルトロ戦終了時、パーティ全体の消耗度が50%を下回っている

 4.ガッシュの《ザケル》でバルトロの魔本を燃やす

 

 

 しかしキリィちゃんの体力を減らしておいて本当によかったですね。

 結局この条件の内、クリアしていないのは3だけになってしまいました。これで後は囚われた清麿父やセッコロの両親達を助ければ解決です。

 

 一応メニュー画面で消耗度を再確認して────

 

 

 

 

 

 

 

 

 清麿     :70/100

 ガッシュ   :70/100

 ほもくん   :40/100

 キリィちゃん :10/100

 恵      :100/100

 ティオ    :100/100

 

 合計     :390/600(消耗度35%

 

 

 

 

 

 

 

 ま゛──────────────!!! 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────「お前が今朝攫った人間に大学教授がいる。何故狙ったんだ」

 

「金を積まれて頼まれたからだよ。散歩してた所を騎士に襲わせてあっさりとだったぜ」

 

「何? バルトロが直接研究室を襲撃して攫ったんじゃないのか?」

「罠かもしれないのにそんな事するかよ。警察や軍隊(ヤツラ)を動けなくする為に人質も殺していないしな」

 

 

 

 何故バルトロがわざわざ親父を攫ったのか。それを柱にロープで縛り付けたステングに対して聞いた。

 

 答えは予想外のもの。屋外で攫ったというなら、あの研究室の荒れ様は、バルトロのものだと思っていた足跡や花が何故そこにあった……いや、『用意』されていたのか。

 

 

(ガッシュをコイツ等と戦わせる為に仕組んだ罠……? だとしたら目的はガッシュの……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失望したぞ、ステング……。まさかガッシュ(落ちこぼれ)相手の道具にすらならんとは」

 

俺たちが入ってきた大部屋の入り口には、いつの間にか2人の男がいた。片方は白髪を逆立てた冷たい眼をした俺と同じ位の歳の男。そしてもう一人は、銀色の髪ともう一人の男以上に鋭い眼をした少年。

 

 

「て、てめえ! オレ達に日本人をさらわせた「《ザケル》」」

 

 

 男が呪文を唱えた瞬間、俺達の目が激しい閃光により眩む。ガッシュよりも遥かに強い電撃の力……! 

 

 

「……ぁ……が」

 

魔物(バルトロ)を失ったお前は殺す価値もない。口を閉じていろ」

 

「ウヌ……お主、一体何者だ」

 

「お前如きがそれを知る必要があるのか?」

 

 

 ガッシュと向かい合う少年。

 

 髪の色や雰囲気は全く違う。

 

 しかし目の前にいるのはまさしく……ガッシュと同じ顔をした魔物だった

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────【バルトロ 敗退(リタイヤ)】撃破者《ガッシュ・ベル》

 

 

 




 
 簡単に条件を満たせそうな破滅フラグルートですが、ザケルでバルトロの本を燃やして貰うには『古城の崩壊を防ぐ』という裏条件がある設定となっている為、簡単にこのルートには進めない様になっています。(走者も知っていましたが好感度の為にスルーしました)


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27.紫電の雷帝

 今回は三人称視点というものに挑戦してみましたが、想像以上に大変で難産でした。次回からは実況パートに戻ります。
また今パートは色々ツッコみ所が多いかと思われますので、後書きに少し追記しておきました。




 

 

 

 

 

 ────「セッコロ、お前は先に行って親父や囚われた人達を解放するんだ」

 

「え、清麿達はどうするんだよ」

 

「俺達も後で行く。とにかく囚われた人達を解放して先に城を出るんだ」

 

 

 バルトロを倒したガッシュ達一行、そんな彼等の前に現れたのはガッシュと瓜二つの容姿をした魔物だった。

 

 ガッシュと違うのは彼の金色とは違う白銀の髪、暖かみを感じさせるガッシュとは違う射殺すような鋭さを持つ紫電の眼光、そして他者を寄せ付けない冷たさを感じる少年だった。

 

 どう考えても友好的とは思えない彼等の雰囲気を察した清麿はセッコロに先に行くよう指示を出す。少し逡巡するセッコロだったが、すぐに了承の意を示し白銀の少年に背を向け走り出す。

 

 白銀の少年はその行動を無視し、本の持ち主(パートナー)の白髪の少年はそもそも全てに興味がないと言わんばかりに後方で佇むだけだった。

 

 

「お主、一体何者なのだ」

 

「お前如きがそれを知る必要があるのか?」

 

 

 ガッシュの言葉に返答した瞬間、圧倒的な威圧感が白銀の少年から溢れ出す。恵やティオは思わず後ずさり、清麿とガッシュは頬に嫌な汗が流れつつも少年を変わらず睨みつけていた。

 

 因みにキリカはバルトロとの戦いでの消耗が激しく部屋の隅で座り込んでおり、傍に元就が控える形になっている。

 

 

「お前が他の魔物が言っていた“ガッシュに似た魔物”か」

 

「……オレは『ゼオン』。わざわざ名乗るのも業腹だが、“ガッシュに似た魔物”等とふざけた呼び名をかける事は二度と許さん」

 

「ぐ……!」

 

 

 ゼオンから放たれる威圧感が更に増す。ガッシュと清麿を睨みつける瞳、そこに篭められた感情は異常とも思える程の『憎悪』であった。

 

 

「お……お前がバルトロに指示を出して親父を攫わせたんだな……。目的はガッシュの魔本か?」

 

「ホゥ、オレの威圧を直接受けてまだそんな口が叩けるか……」

 

 

 清麿は全身から冷や汗が流れ足元から震え上がる感覚を必死に抑え込み問い質す、ゼオンはそんな清麿を見下すような笑みを浮かべながら答える。

 

 

バルトロ(アレ)はただの戯れだ。ガッシュを苦しめるのに丁度良さそうなコマだったからな。せいぜい利用させてもらった」

 

「ウヌゥ、お主一体何が目的だ!! 何故親父殿まで巻き込んで、私を他の魔物に襲わせるのだ?」

 

「オレの目的はただ一つ。ガッシュ……、お前に地獄と絶望を味わわせるだけだ!!」

 

 

 そう言い放つとゼオンは一瞬でガッシュへと距離を詰め右手を前に出す。本の持ち主(パートナー)の魔本が光り出した事から清麿は呪文の発動を予見しその手から逃れようとするが機敏なその動きから避ける事が出来ない。

 

 

「クッ……!? 《ラシ……」

 

「違うわ! こっちよティオ!!」 「わかったわ!」

 

 

 敵の攻撃を防ぐべく防御呪文を唱えようとする清麿だが、恵の制止の声により思わず呪文を止め振り返る。彼等の少し後ろにいた恵は、傍に控えていたティオに真横を向くように指示を出す。すると、そこにはたった今まで()()()()()()()ゼオンがいた。

 

(「分身、いや残像?!」)「ティオ! 恵さん!」

 

 

 

「……《ザケル》」

「《マ・セシルド》!」

 

 

 ガッシュの黄色い電撃とは違う、青い稲妻がゼオンの手から放たれる。

 

 ティオが出現させたのは中級上位の威力を持つ《ギガノ》級呪文すら完全に防ぎきる強力な防御呪文。だが《下級呪文》である筈の《ザケル》は、その盾を揺るがす程の威力を持っていた。明らかにガッシュの放つ《ザケル》とは桁違いの威力である。

 ティオの防御呪文には、全方位を守れる防御呪文《セウシル》もあるが防御力は数段落ちてしまう。もしも恵がゼオンの動きを追えずそちらの呪文を選択していた場合、その電撃を防ぐ事は出来なかっただろう。

 

 

「よくオレの動きに喰らいついたな。盾の防御力といい悪くない力を持っている」

 

「……それはどうも」

 

「何よ。見直したからどうだって言うのよ、素直に引いてくれるワケ?」

 

 

 ゼオンの不意打ちを防いだ恵だったがその顔に余裕はない。持ち前の《鑑識眼》でゼオンの心理を読み攻撃先を予測したにすぎず、次の攻撃を防げる保証はないからだ。ティオもそれはわかっており、一縷の望みをかけて問いかけてみる。

 

 

「そうはいかない。『ガッシュの仲間』にはここで全員消えてもらう」

 

「そう……、それは残念ね」

 

 

 ティオは震えあがる体を必死に抑え込み、ゼオンを睨み続ける。

 

 

「お主、どうしてティオを狙うのだ! 私が憎いというなら何故私を狙わぬ!」

 

「その通りだ、オレは決してオマエを許しはしない。だが簡単に魔界に還させもしない。ここでオマエは仲間を失い再び孤独になり、この戦いの地獄の中で苦しむんだ」

 

「……ッ!」

 

雑魚(バルトロ)相手に圧倒した程度で『自分は強い』等と勘違いしているオマエに今一度思い知らせてやるよ。所詮オマエはただの落ちこぼれだ」

 

「そうはさせぬのだ! 清麿!!」

 

「あぁ!! 突っ込め、ガッシュ!」

 

「ヌオオオオオオオオオオオ!」

 

 

 ゼオンに突撃するガッシュ。当然ながらゼオンは軽々とその攻撃をかわし距離を取る。部屋の中央にガッシュやティオ達、手前側入り口にゼオンの本の持ち主(パートナー)、奥の出口にキリカと元就がおりゼオンはガッシュ達とキリカに挟まれた形になる。

 

 

「恵さん、今だ! ガッシュ、SET(セット)。《ザケル》!!」

 

「《セウシル》!」

 

 

「……ホゥ」

 

 

 清麿は恵に指示を出し円形状のバリアを張る呪文《セウシル》を()()()()()()()発動する。バリアによりゼオンへの攻撃は届かなくなるが、逆にゼオンの移動が阻害される。その隙に清麿はゼオンの本の持ち主(パートナー)へ向けて電撃の呪文を放つ。

 

 ゼオンはガッシュ達を圧倒するほどの脅威的な力を持つ。それを肌で感じた清麿は狙いを本の持ち主(パートナー)へと変える。ゼオンの移動速度は《ザケル》の電撃よりも速いと考えた上での奇襲だった。

 

 

「『デュフォー』、問題ないな」

 

「…………」

 

 

 古城の壁に背を預けていた体勢の『デュフォー』と呼ばれた男は、ゼオンの言葉に応えずゆっくりと姿勢をただし()()()進む。多少距離があったとはいえ、彼に襲い掛かる電撃は目の前まで迫っていた。だがそこでガッシュ達は信じられない光景を目撃する。

 

 ゼオンの本の持ち主(パートナー)、デュフォーは体を横にし姿勢を落とす。それだけで電撃は彼の体を縫うようにすり抜け後ろの壁に当たった。デュフォーと呼ばれる少年は、それが何でもない事の様に平然とその場に立っている。

 

 

「なっ……?!」

「ヌ!?」

「嘘でしょ!? ガッシュの電撃が外れるなんて……」

 

 

 

 

 

 

 

「オレが離れてチャンスだとでも思ったのか?」

 

 本の持ち主(パートナー)の少年の行動に呆気に取られ隙を見せた一瞬。

 ティオの呪文のバリアを破壊し一瞬でガッシュの正面に移動したゼオンは、背後から声をかけられ思わず振り向いてしまったガッシュの胸倉を掴む。二人の身長差はほとんどないが、ゼオンの圧倒的な膂力で持ち上げられたガッシュはもがきつつも抜け出せない。

 

 

「オマエはそこで見ていろ。大切な仲間達が魔界に還っていく姿をな」

 

「……《ギルド・ザケル》」

 

「ヌアアアアアアアアアアアアアア!!!!?」

 

 

 ガッシュを掴んでいる手から青い電撃が迸りガッシュの体全体を駆け回っていく。通常であれば地面や空中へと霧散していく筈の電撃は、ガッシュの体に纏わり付くように威力が衰える事はなかった。

 

 

「この(いかづち)はオマエの体にダメージを与え続ける、痛みで気絶する事も許さんぞ」

 

「ヌ……ヌアアァァ……アアアアアアアア!!!!」

 

「ガッシュ!? ガ──ッシュ!!」

 

 

 ゼオンに持ち上げられた状態のガッシュ、電撃の苦しみ故に清麿の声も届かず苦悶の声をあげるのみだった。

 

 

「恵!!」 「《サイス》!」

 

 

 ティオはその光景にたまらず唯一の攻撃呪文である小さな聖なる刃をゼオンに向け飛ばす。だが本の持ち主(パートナー)をひるませる程度の威力しかないその呪文が通用する筈もなく簡単に弾かれてしまう。

 

 

「……! 今だ、《ザケル》!」

 

 

 だがティオへ意識が削がれガッシュへ向ける電撃の威力が弱まったのか、はたまたガッシュが力を振り絞った抵抗か、その顔をゼオンへと向けていた。それを察知した清麿は即座に呪文を唱える。

 

 ガッシュから放たれた電撃はゼオンに直撃し、呪文を至近距離で放ったガッシュは反動で後方に吹き飛ぶ。清麿はそれを空中でキャッチしながら砂煙のはれた先の人物を睨みつけていた。

 

 

(「クソッ、ここまで力の差があるなんて……!」)

 

「……落ちこぼれの力なぞこの程度か」

 

 

 呪文が直撃したにも関わらず何のダメージも受けていない様子に歯噛みする清麿。ゼオンは心底軽蔑したといった視線をボロボロになったガッシュへ向ける。

 

 

「終わりにしてやるよ。デュフォー」

 

「《ジャウロ・ザケルガ》」

 

 

 ゼオンの前方に電撃の輪が出現する。激しく帯電するその輪からビームの様に一本の直線状に走る電撃が飛び出し、ティオ達に襲い掛かった。

 

 

「《マ・セシルド》!!」

「う……くぅぅぅぅぅ!」

 

 

 先程の《ザケル》より遥かに強力な電撃、《ギガノ》級に並ぶ程の一撃をティオは必死に防ぎきる。

 

 だが次にゼオンから嘲笑と共に放たれた言葉に、ティオと恵は絶望を顔に浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククッ、防いだか。さて、《ジャウロ・ザケルガ》が放つ電撃は()()()()()()。オマエは何本まで耐えられるかな?」

 

 

 その言葉を証明するかのように、電撃の輪から先程と同じ直線状の電撃が次々と放たれる。

 

 

 二本目……、盾が軋みティオが苦悶の表情を露わにする。

 

 

 

 三本目……、盾に亀裂が入りティオは膝を付いてしまう。

 

 

 

 四本目……、恵が心の力を注ぎ込み今にも砕かれそうな盾が修復されていく、だがその顔には一切の余裕がない。

 

 

 

 

 

 五本目……六本目…………恵は必死に襲い掛かる電撃の猛威を耐えようとするが既に限界だった。

 

 そんな恵とティオの下にガッシュを小脇に抱えた清麿と、体力がある程度回復し動ける様になったキリカと元就が合流する。

 

 キリカは恵の下へ行くと、素早く彼女の朱色の魔本に触れる。

 

 

「第一の術《ピルク》!」

 

 

 恵の持つティオの魔本が桜色の光に包まれる。その光景を遠目に見たゼオンは何が起きているか理解する。そして彼が命じると、残っていた五本のビーム状の電撃が一斉に襲い掛かった。

 

 

「《ピルク・マ・セシルド》!」

 

 

 元就の唱える呪文によりティオの盾と同じ物が出現しガッシュ達を守る。二重の盾となったそれは五本の電撃を受け崩れ去り砂煙が立ち込め視界が塞がれる。

 

 だが奥にいるガッシュ達にはその電撃が届かなかったであろう事をゼオンに予感させた。

 

 

(「今のが《イル》の呪文か。実際に見るのは初めてだが……、何だこの違和感は?」)

 

 

 キリカの呪文に何かを感じたのか思案するゼオン。しかしすぐにその思考を切り捨てた。 

 

 少し遊びすぎたか、そう自省するゼオンはガッシュ達のいる場所を見つめている。……そして彼の“憎悪”の元凶とも言える《あの呪文》を唱える声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第四の術、《バオウ・ザケルガ》ァァァ!!」

 

 

 

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 砂煙の中から現れる電撃の龍。清麿が起死回生に放ったガッシュの最強呪文だった。

 

 電撃の龍は意思を持つかのようにゼオンへと襲い掛かる。敵の大技を相殺し、次の一手をお互い模索している状況。そこに打ち込む最大の切り札だった。

 

 ゼオンは避ける事は許されない。彼の後ろには本の持ち主(パートナー)のデュフォーが立っており、そのまま襲い掛かる事も可能な位置、すべて清麿が狙った配置だった。

 

 

「これが《バオウ》……、最強たる《ベル》の雷」

 

 

 襲い掛かる電撃の龍を感慨深げに見上げるゼオン。咆哮をあげながら大きく口を広げゼオンを飲み込もうとする。

 

 その威容を目の当たりにし彼は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()が《バオウ》だと……?」

 

 

 心からの侮蔑と落胆の表情で見据えるだけだった。

 

 

 

「《テオザケル》」

 

 

 ゼオンが放ったのは中級の放出呪文。だがその巨大な電撃はガッシュの最強呪文を飲み込み、そのままの勢いで襲い掛かる。

 

 幸いゼオンは上空から襲い掛かる《バオウ・ザケルガ》に向け呪文を放った為、ガッシュ達に直撃はせず天井の壁を突き抜けた。しかしその風圧で全員は部屋の隅まで吹き飛ばされてしまう。

 

 ゼオンはゆっくりと彼等へと向かう。《バオウ》を破った以上、ガッシュ達に打つ手はもうないだろう。後はガッシュ以外の魔本を燃やせばいい。

 

 ガッシュは仲間を失い、今回の戦いがトラウマになりもっと深い絶望を味わうかもしれない。その思考に多少溜飲を下げつつも歩みを進めていた。

 

 

 

 

 

 そんなゼオンへと襲い掛かる一筋の電撃。彼は一歩素早く後退するだけでその電撃を回避したが、顔には苛立ちがありありと出ていた。

 

 

「ガッシュめ、まだ動けたか。往生側の悪い奴だ」

 

 

 電撃が放ったガッシュの方へと顔を向け────、初めてゼオンは驚きの表情をその顔に出していた。

 

 

 

 

 

「ティオ達、やらせない」

 

 

 ゼオンを睨むのは黒髪の少女。傍に倒れふす清麿の持っていた『赤い魔本』に手を触れながら、彼女は堂々と紫電の眼光を放つ雷帝へ闘志を放っていた。

 

 

 




 

【オリジナル呪文】
《ギルド・ザケル》
原作にもある呪文《バルギルド・ザケルガ》の強化前バージョン。
電撃を相手の体に帯電させ続ける事で継続ダメージを与える。ゼオン自身も発動中動けなくなる為、戦闘中にはあまり用いず拷問などに適した呪文。




Q.ゼオンならもっと強い筈じゃない?
 「ガッシュ相手に本気など出さぬ」と金ピカ恒例慢心状態となっております。
 具体的には物理攻撃禁止・瞬間移動の連続使用禁止・マント使用禁止などです。

Q.《ジャウロ・ザケルガ》ってこんな使い方できたっけ?
 wikiには『任意で数本ずつ当てる事も可能。』と書いてあるので、なら一本づつ撃てるんじゃね?という考えの演出です。

Q.《ジャウロ・ザケルガ》はもっと威力があるのでは?
 筆者解釈では《ジャウロ・ザケルガ》の強みは集束攻撃による威力で、一発だけの威力は《ザケルガ》より劣るものと考えています。
 なので原作でギガノ級を簡単に打ち破った《ザケルガ》よりは威力が落ちるという解釈です。


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28.第四の呪文

普通の小説ばかり読むと、RTAパートの書き方に悩んでくる悩み。





 

 

 

 

 負けイベントに叛逆する実況プレイの時間だオラァァ!! (変なテンション)

 

 

 

 

 

 という事で皆さんこんばんは、大人気魔物キリィちゃんです。

 前回はキリィちゃんがゼオンに単身挑むという絶望的状況からのスタートでした。今パートが最終回にならへんよな……? 

 

 

 状況を再確認しますと、清麿が起死回生を狙った渾身の《バオウ・ザケルガ》が打ち負けてしまい、全員が部屋の隅へと吹き飛ばされてしまいました。 

 直前までリョナプレイにあっていたガッシュ君はもとより、《ジャウロ・ザケルガ》を防ぐ為、HPを心の力に還元する勢いで頑張っていたティオと恵も部屋の隅で気絶ですね。お疲れ様でした。それと便座カバー(ステング)

 

 という事で今健在なのはキリィちゃんとほもくんのみ。非常に厳しい状況ですが、ボスとのタイマンイベとか主人公にのみ許されるある意味オイシイ状況ですね。

 幸いゼオンが近付いてくるまでの時間でガッシュ君の魔本を手に取り、心の力を全てガッシュの呪文『複製(コピー)』に当てる事が出来ました。

 え? その後持ち主の清麿はどうしたって? 知ったこっちゃないわ(外道)

 

 このイベントバトルの終了条件は『ゼオンに認められる』『ゼオンに一定量のダメージを与える』『ゼオンの上級呪文を正面から打ち破る』のどれか1つフラグを満たせばOKです。「この程度か、次に会うまで腕を磨いておけ」と負けイベントの最後に吐き捨てそうなセリフをきっと言ってくれる事でしょう。

 またキャラクリエイトで『龍族』を選択し敵のエンカウントをお祈りで回避しつつ修行をし続ければここでゼオンを倒せるらしいです。ただ運ゲーすぎて誰もまだやっていないそうですよ? ちらっちらっ(期待をこめた眼差し)

 

 

 さてお待ちかねの攻略チャートですが、ゼオンの上級呪文を正面から打ち破るには先程言った龍族みたいな桁違いのステータスボーナスを持つキャラか、そのレベルの呪文がないと無理です。素直に諦めましょう。

 また『ゼオンに認められる』の条件もランダム性が非常に高く、24時間以上耐久戦闘を行った上で「この程度しかもたんのか……」とぬかしてくる事もあります。一日耐久(この程度)ってどの程度だよ。どっかの必中しない槍持った番犬だって頑張ったんだぞ! 

 

 そんな訳で今回狙うのはゼオンにダメージを与えての勝利です。やはり、キモとなるのは最大呪文ですね。というかそれ以外じゃダメージ入らな(ゲフンゲフン

 バルトロ戦終了後に呪文を習得したキリィちゃんですが、直後にゼオンがやってきた為に詳細が確認できませんでした。以前お伝えした通り、このゲームは時間停止がなくポーズやステータス確認の間も状況は進んでいきます。

 瞬間移動が出来るゼオンの前で無防備な姿を晒す訳にもいかず今の時点でも確認が出来ません……今はどうして話をしているかって? ゲーム起動しないでくっちゃべってるだけです。(ゲーム実況でゲームを起動していない屑)

 

 

 ……と、ここで原作を知らない皆様のためにぃ~。最大呪文について説明させて頂きますね。

 このゲームで原作以外の魔物が習得する最大呪文は《ディオガ》系、《オウ》系、《マ》系、《特殊》系の4種のいずれかに属したものを覚えます。特徴としては────

 

 ディオガ系……(消費MP:中 火力:中 扱いやすさ:高)おっきく強くなった呪文。呪文名は《ディオガ・○○》

 オウ系…………(消費MP:高 火力:中~高 扱いやすさ:中)魔物の特性に準じた「放出呪文の強化版」。呪文名は《○○オウ・○○》

 マ系…………(消費MP:低 火力:低~中 扱いやすさ:中)呪文毎に違う特性が追加された強化呪文。呪文名は《○○・マ・○○》

 特殊系…………(消費MP:可変 火力:可変 扱いやすさ:最低)上記三種に属さない呪文。発動条件があったりデメリットがあったりする事も

 

 と区分されます。原作と差異があるかもしれませんが、これがゲーム仕様です。

 

 とはいえどの系統も決まれば一発逆転の強力な切り札となり得ますので気にしなくても大丈夫ですね。いわゆるクリティカルアーツ、ディストーションドライブ、ゲージ消費必殺技です。

 このどれかの属性の最大呪文をキリィちゃんは覚えた訳です。習得確率は説明が早い順番で確率が高いのでディオガ系かオウ系の呪文になっていると思われますが詳細を見ないとわかりません。

 何とか隙を作ってステータスをチラ見する時間を捻り出しましょう。一応「ほもくん、最大呪文だ!」と指示して出して貰う事も可能ですが、“詳細不明の呪文”として一定確率で失敗するリスクが発生してしまうのでやめておきましょう。

 

 

 よし、じゃあ現状確認もすんだしゲームを起動しますね。

 走者課長、オ──ン! パチッ(電源を入れる音)

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「ティオ達、やらせない」

 

 

 

 いざ再開です。電撃を見てガッシュ君と勘違いして振り向いたゼオンに対して格好よく「NDK? NDK?」と話しかけているキリィちゃんのシーンですね。

 明らかに「イラッ☆」とした顔をしてゼオン君はこちらを睨みつけています。まぁ元から使えるガッシュ君はともかく、自分と同じ呪文をパクって攻撃されたらイライラするよね。

 

 

「ゴミ虫が。オレと同じ電撃の呪文を使えるようになったからといって調子に乗るなよ?」

 

「《ザケル》」

 

 

 容赦のない電撃がキリィちゃんを襲います。確かにガッシュ君の呪文を覚えただけではこの難局を乗り切る事は難しいでしょう。

 だが、走者には絶対無敵のもう一つの力が備わっています。そう────

 

 

答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』起動!! 

 

 

「《ピルク・ラシルド》!」

「バカが! 盾の呪文を出している暇があるのか!」

 

 

 ゼオンの《ザケル》がキリィちゃんの出した電撃の盾により破壊されます。どうせ跳ね返すどころか防ぎきる事も無理なのはわかっています。役割は遮蔽物としてですね。電撃を放った後に突っ込んできたゼオンですが、前方を盾で塞がれたので()()()()キリィちゃんに襲い掛かります。

 そう、ゼオンは正面の道が塞がれ左右に分かれる選択肢が出た場合左右の状況が同じなら必ず右を選ぶ性質があります。さてはク○ピカ論者だなオメー。

 という訳で曲がり角の出会い頭にグーパンを叩き込みますよ。オラッ、トーストでもかじってろ! 

 

 

「!? この重さ、オレに訓練を施していた中将に匹敵するか」

 

 

 残念、止められました。ですがここまで近づけるチャンスは貴重。続けてラッシュを叩き込みますよ。

 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!! アリーヴェ……、って全部避けられとるやないかい! 

 

 

「近接格闘術に関しては素人レベルか……、だが何だ、貴様の拳の速さと重さは?」

 

 

 真面目な顔して人の事をゴリラみたいに言うんじゃない。

 視聴者に「ゴリィちゃん」とかコメされたらショックで一週間は寝込むぞ、次パートの投稿遅れたらどうすんだオラッ! (盛大なやつ当たり)

 おっ、防御に隙が出来た。ほもくん、GO! 

 

 

「《ピルク・ザケル》!」

 

「チッ、落ちこぼれの呪文の分際で!!」

 

「《ピルク・ザケル》!」

 

「しつこいんだよ、ゴミ虫が!!」

 

「《ザケル》」

 

「……当たらない」

 

 

 キリィちゃんが放った電撃では、ゼオン君の防御力を貫けずダメージにはなりません。痛いのは嫌なのでちゃんと防御力に振っているんですね、わかります。

 ただし無意味かというと違います。舐めプにより『本来の防御手段』をとらないゼオン君は防御に穴が発生し、そこを攻撃すればダメージがなくとも『被弾扱い』となり彼のヘイト値を稼ぐ事が可能です。

 それによりゼオン君が激おこになり攻撃がやや単調になります。そうなってしまえば例え瞬間移動でも『答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』とキリィちゃん持ち前のすばやさでギリッギリ回避が可能になります。

 攻略のカギはヘイト値です、ガンガン挑発行為をしましょう。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「ここまでオレを苛立たせるとはな、下級呪文だけで始末してやろうかと思ったが貴様には過ぎた慈悲だったようだ」

 

 

 こ、……ここまで走者を疲弊させるとはな、下級呪文だけは死ぬかと思ったがゼオン君的には慈悲だったようだ。(満身創痍)

 ヘイト値を一定数以上稼ぐ事により、ようやく《ザケル》以外の呪文が解禁されるようになりました。《ザケル》は発生が早く、直撃すればキリィちゃんの耐久では即戦闘不能(リタイア)、正直他の呪文より遥かにキツイです。ちゃんとテストプレイやったんですかスタッフゥ~↑ 

 

 

 ……愚痴はここまでにしましょう。

 ゼオン君が本気になった(弱体化した)事により、ようやく次のステップに進みますね。ゼオン君がここで選択する呪文は決まっています。それは────

 

 

「《レード・ディラス・ザケルガ》」

 

 

 そう、歯車や丸ノコのような物体(雷の巨大ヨーヨー)を出現させる呪文ですね。

 キリィちゃんを圧倒したいゼオン君は、『答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』で動きを読まれる接近戦を避けます。そして《テオザケル》等の放出呪文は大広間とはいっても、天井以外に撃つとゼオン君の本の持ち主(パートナー)にも影響を与える可能性があります。

 冷静にそこまで思考して選んだのが、このヨーヨーという訳なんですね。先程天井が壊れたので、とても大きいですが操作出来るヨーヨーなら取り回しが容易です。

 そして、ゼオン君が唱えたこの呪文ですが……

 

 

 

 

 

 

 

それを、待っていた!! (テンション天元突破)

 

 巨大ヨーヨーが迫ってきます。大きさも規模も桁違いですね。

答えを出す者(アンサー・トーカー)(wiki)』でも呪文の力なしで、この呪文を完全に回避する方法は『諦メロン☆』と載っていました。

 ですが()()()()()()()()()回避可能。ゼオン君の呪文発動時の手の動きで軌道予測が出来るのでほもくんにも指示してかわしてもらいます。高すばやさを持つ本の持ち主(パートナー)だからこその芸当ですね。キャラ作成時にこだわっただけありますわ、今度スカーフ巻いてもらおうかしら。

 

 

「捕まえ、た」

 

 

 そして巨大ヨーヨーにタッチ ゼォォォォォン、受け取れぇぇぇぇい!! 

 

 

「《ピケル》!!」

 

 

 原作で清麿が発言していたように『呪文に対して呪文は有効です』。なので《ピケル》を用いて《ガッシュ君の呪文性質》をヨーヨーに付加させます。

 

 

「何をしようと無駄だ! この攻撃を避け続ける事など出来んのだからな!!」

 

 

 ゼオン君がヨーヨーを戻して再び攻撃を出そうと振りかぶります。仰るとおり2発目からは通常回避が不可能になります。走者のひらめきが効きません。

 ですが、こっちが回避する必要はないんだよぉ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ピルク・ジケルド》!!」

 

 

 

 

 

 

 

「? オレの体を磁石にしても、ここには磁力に引き寄せられる金属など……、何ッ!?」

 

 

 ゼオン君の操作に従いキリィちゃん達に襲い掛かる筈だった巨大ヨーヨーですが、()()()()()()()()()()()()ゼオン君へと襲い掛かります。

 そう、先程《ピケル》で巨大ヨーヨーに打ち込んだのは《電撃》でも《帯電》でもなく、《磁力》の性質です。

 付与できたのは僅かな磁力でしたが、《ジケルド》自体はボスクラスの魔物の動きすら封じる超強力な磁力です。間一髪で気付いたようなので、直撃はしていないでしょう。砂煙で確認が出来ません。

 

 

 よし! 何だっていい! 今がステータス画面を開くチャンスだ! 

 

 

 ここまでお膳立てしてやる事は新呪文の確認です。ようやくだよ……。

 ただ新呪文が《ディオガ》系や《マ》系だった場合は、レード・ディラス・ザケルガ(巨大ヨーヨー)と打ちあっても余裕で負けてしまうので、ティオを叩き起こして何とかワンチャン狙うルートしかありません。ゼオン君が動き出す前にさっさと確認して対策練りましょうね。

 

 

 

 

 

 第四の呪文、第四の呪文っと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲフッ!? 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

「……随分とふざけた真似をしてくれたな」

 

 

 砂煙が晴れ姿を現したゼオン、その額には青筋が浮かび先程以上の怒気を孕んでいる。本の持ち主(パートナー)を含め二人には傷一つない。だが彼の纏う白いマントだけがダメージを受けたようにボロボロになっていた。

 

 ゼオンは格下相手には決して使うまいと伏していた力がいくつかあったが、最たるものがそのマントだ。伸縮自在、強度はギガノ級の呪文を完全に防ぐ程、強力な岩盤を突き刺す事も可能な攻防一体の装備。あまりにも強力ゆえに使用を控えていた装備を使()()()()()。その事実に彼の苛立ちは留まる事を知らない。

 

 

「既に磁力は無効化した。貴様は魔界に還る必要すらない。ここで死ね」

 

 

 正面に佇むキリカ・イルに向け非情な宣告をするゼオン。周囲には彼女を守る仲間はいない、本の持ち主(パートナー)と共に先程から変わらぬ表情のままこちらを見ているだけだ。

 

 

「《ジャウロ・ザケルガ》」

 

 

 11本の電撃を放つリングを召喚する呪文を唱える。盾の女(ティオ)の時の様に小出し等しない。多方向による同時攻撃ならば磁力付与による反転も通用しない。防ぐ手段等ある筈がなかった。

 

 

「一片の塵すら残さず消滅するがいい!」

 

 

 その言葉と共にキリカに向かう11本の直線状の電撃。絶対に逃げられない包囲網。それを────

 

 

 

「第四の術────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》!!」

 

code(コード)、《バオウ・ザケルガ》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 見るだけで人々を震え上がらせるような、禍々しい黒い電撃を纏う龍が噛み砕いていった。

 

 




 


 本編にあった《ピケル(磁力)》+《ジケルド》戦法ですが《レード・ディラス・ザケルガ》は手動操作が容易な呪文である為、また振り下ろす直前で《ジケルド》を受けた為、磁力による影響を大きく受けてしまったという裏設定があります。
 なので、大抵の呪文は軌道を少し逸らす程度にしか影響を受けません。かなり限定的な戦法となります。


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29.憎悪の根源

 前回は多くの感想を頂きありがとうございました。
これでいいのかと悩む自分と、これでいいのだと言う脳内バカボンパパのせめぎあいが最近激しいです。





 

 

 

 

 ────「ハァッ……、ハァッ…………!」

 

 

 ガッシュ達とゼオンが戦っていた古城「ホーバークキャッスル」から数十km程離れた周囲に人一人いない草原。

 

 そこに普段の冷静さをなくしたゼオンと、本の持ち主(パートナー)のデュフォーが立っていた。

 

 

「一体何だったんだ、アイツのあの力は……!」

 

 

 ゼオンの心をかき乱すのは先程まで相対していた魔物、キリカ・イル。

 

 確実に仕留めたと思った。だが彼女が唱えた上級呪文により、ゼオンの呪文は打ち砕かれた。こちらが放った《ジャウロ・ザケルガ》は、逃げ場を完全になくす為に火力を分散させていた。相手の火力を侮ったという事もあるが、ガッシュの《バオウ・ザケルガ》を超える威力の上級呪文であれば破られる可能性は確かにあった。

 

 事実キリカの最大呪文によって現れた黒龍は《ジャウロ・ザケルガ》を全て喰い破ったが、続けて放たれた《テオザケル》によって相殺され消滅した。《テオザケル》だけで打ち負けたガッシュの《バオウ》より数段威力が上だが、ゼオンを揺るがすほどの脅威にはなり得ない。

 

 故にゼオンが狼狽している原因はそんな事ではなかった。

 

 

「何だったんだあの呪文から感じる“異様な感覚”は?」

 

 

 キリカの出した黒龍。その瞳に宿る異様としかいえない感覚。

 それは『雷帝』とまで呼ばれるゼオンすら、久しく忘れた恐怖という感情を揺さぶられるものだった。故にゼオンは、キリカの呪文を破るやいなや、デュフォーを抱え城から瞬間移動を行い離脱した。一刻も早く彼女から離れる為に。

 

 

「デュフォー、オマエはわかったのか? アレが一体なんなのか」

 

 

 あれは一体何なのか。その疑問を放置しておくわけにはいかない。そう考えたゼオンは本の持ち主(パートナー)であるデュフォーに問い質す。

 

 

「……あれは怒り、憎悪だ」

 

「憎悪だと?」

 

「全てを憎み、全てに怒り、全てを破壊しようとする意思。それをあの呪文から感じた」

 

 

 全てを破壊し尽くさんとする危険な意思。そう返答されゼオンは()()納得をした。自身が感じた僅かな恐れ。それは敵であるゼオン自身を害そうとした意思ではなく、ありとあらゆるものに向けられた悪意。数々の修練を積み重ねたゼオンの経験した事のない『心の闇』を宿した攻撃であったからだ。

 

 だが、それならばゼオンには新たな疑問、いや根本の疑問が残る。

 

 

「……何故そんなモノをキリカ・イルは使えるんだ。《イル》の血族の能力は『複製(コピー)』の筈だ。あんなおぞましい呪文、ガッシュの《バオウ》とは似ても似つかん」

 

 

 そう、何故キリカ・イルはガッシュとは違う強力な呪文を使えたのか? それに尽きるのだ。

 

 デュフォーは考えなしの質問を嫌う。普段であればゼオンは自身で答えを出し、そのすり合わせや足りない部分を伺う程度にしていた。故にゼオン自身いくつか答えの候補のようなものは出ていた。ガッシュの呪文を『複製(コピー)』した際の不具合、別の魔物の呪文を『複製(コピー)』した、そもそもあの破壊の龍が《バオウ》の真の力である等。

 

 だがゼオンの冷静な頭脳はその全てを否定した。呪文の不具合等ありえないし、キリカのいた日本にはあんな呪文を扱う魔物はいない、そしてあんなモノが《バオウ》の真の力である筈がない……

 

 思考に若干の歪み(願望)がある事にゼオンは気付かず、キリカ自身に原因があると結論付け本の持ち主(パートナー)に質問した。

 

 

 

「デュフォー。『キリカは一体何を隠している?』」

 

 

 

 ……あるいは、その色眼鏡を捨て《バオウ・ザケルガ》自身にも疑いの目を捨てずにいれば、本の持ち主(パートナー)からの回答も、ゼオン自身の結論も違うものになっていた事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

「…………何?」

 

 

 ゼオンは一瞬、自身の耳を疑った。彼の放った言葉の意味自体は無論理解している。だがその言葉をデュフォーが言う事はある筈がないと思っていたからだ。

 

 

「ふざけているのか? オマエが“わからない”なんて事、ありえる筈がないだろう!」

 

 

 デュフォーは特殊な素質と境遇から『答えを出す者(アンサー・トーカー)』という能力を持っていた。

 

『あらゆる問題に対して、的確な“答え”を即座に示す事が可能』な能力。故に彼が答えを導き出せない、などという事態はありえない事だった。

 

 

「本当だ。あの少女の思考は俺には答えが出せない」

 

「そんな事がありえる筈がないだろう!! オマエは()()()()()()()()()()の答えを得る事が出来る。魔界も同様の筈だ!」

 

「俺自身初めての経験だ。あの魔物は何かが違う」

 

 

(「! デュフォーの能力も万能ではないという事か。だが何故その例外があの女なんだ。アイツには一体、何がある?」)

 

 

 知らず体に熱を帯びていたゼオンとデュフォーの間に一陣の風が通り抜ける。会話の合間に起きた若干の沈黙であったが、ゼオンが冷静さを取り戻すには十分な時間だった。

 

 

(《イル》の一族、そしてキリカ・イルについて調べる必要があるな。ガッシュ達は捨て置いて構わんか。どうせ生き残ったとしても、もうひとつの地獄に苦しむ事になるんだ)

 

 

 ゼオンは心を操る能力も使える。精神操作呪文を持つ魔物には及ばないが、記憶を覗いたりする程度は造作もない。ゼオン自身の抱いている不安要素を排する為にも、一度調査を行う必要があると判断した。

 

 

「デュフォー。オレは暫く留守にする、何かあったら呼べ」

 

「……わかった」

 

 

 本の持ち主(パートナー)の言葉に軽い相槌だけ行い、その場から瞬間移動で消える。

 

 

 ────前提が間違っていると気付かぬ謎の答えを見つける為に

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「恵さん、大丈夫か?」

 

「えぇ、清麿くんも無事のようね。ティオも呪文の使いすぎで気絶しているだけよ」

 

「そうか、よかった。ガッシュも思ったより軽傷だ」

 

 

 ゼオンが去って間も経っていないホーバークキャッスル、そこの()・大広間に二人の本の持ち主(パートナー)が立っていた。

 

 お互い魔物が気絶していた為にキリカとゼオンの戦いに加勢する事は出来なかったが、ゼオンの攻撃に巻き込まれる事もなく二人とも無傷だった。

 

 だが無事なのはそこにいる人物だけで周囲は惨憺(さんたん)たる様相であった。建造物としての外観を保っている石壁は残っておらず、すべてが瓦礫へと変貌していた。また、ゼオンとキリカの呪文の影響を一番大きく受けた天井部は文字通り塵となって消滅しており、清麿達が瓦礫の下敷きになる事はなかった。また幸いな事に、先行していたセッコロにより攫われた人々の避難は完了していたらしく、遠くから清麿の名前を叫びながら走ってくる姿が見えた。

 

 文字通り一件落着といった所である。……今回の戦いの過程と結果に目を瞑れば、だが。

 

 

 

「キリィ! キリィ、大丈夫なのか?!」

 

 

 ゼオンを退(しりぞ)けた仲間、キリカ・イル。仰向けに倒れ元就に頭を抱えられている彼女の右手と左足は、炭の様に()()()()変色してしまっていた。

 

 清麿はすぐにキリカの下に寄り、自身の学んだ医学の知識を活用しキリカの体を診断する。肌は色以外の異常はなく、壊死を起こしている訳でもないと判断し安堵する。

 

 

「大丈夫。その内、治る」

 

「キリィ。本当なのか?」

 

「うん。治るまで、歩けない。けど」

 

「……ッ」

 

 

 キリカは原因がわかっているらしく、自然治癒で治ると言い切った。だが歩く事すら出来ない状態を“大丈夫”と言えるのだろうか? そう思ったが、魔物であるキリカを治療する方法はない。清麿はそれ以上何も言えなかった。

 

 

「ねぇ……、聞いてもいいかしら? さっきあなたが出した呪文について」

 

 

 清麿も元就も気になっていたが、あえて触れない様にしていた疑問。その核心に恵が触れた。

 

『鑑識眼』を持つ恵は、キリカが出した黒龍の危険性を二人以上に認識していた。あれは人が、例え魔物だとしても易々と触れていい領域ではない。

 

 実際に、呪文を唱えた側であるキリカが歩けない程のダメージを受けてしまっている。今度はその牙がティオやガッシュ君に向くかもしれないし、キリカ自身も今回以上のダメージを負うかもしれない。そんな事態を防ぐ為にも、恵は無遠慮を自覚しつつも回答を求めた。

 

 キリカはいつもと違う、いつも以上に空虚な瞳を恵へ向け言葉を選ぶように話し始めた。

 

 

「あれは、私の、せい」

 

「ガッシュの呪文。私が使うと、変わってしまう」

 

「こんな事は、ガッシュでしか起きない。だから大丈「もういいんだ、キリィ」」

 

 

 

 たまらず元就がキリカの言葉を止める。

 

 キリカが魔界にいた頃に多大な虐待を受けていた事を知っていた清麿と元就は、何よりも大切な友達のガッシュの呪文を『複製(コピー)』して使用する事で、彼女の精神に何らかの影響を及ぼしたという可能性を既に考えていた。だが、心のどこかで外れていて欲しいとも願っていた。

 

 ……何故なら、あの黒龍はあまりにも強い怒りや憎しみを宿していた。それがあの少女の中に眠る闇だとは思いたくなかったのだ。

 

 

 だが元就はそんな逃避をやめた。

 

 呪文があのように禍々しいものに変わったのは、キリカが原因。つまり『キリカ・イルの持つ負の思念』がガッシュの呪文を変質させてしまった。

 

 そんな語りたくもない真実を必死に言葉を選びながら話すキリカの話を遮ると、元就は彼女を抱き起こし全身で優しく抱きしめた。

 

 もう十分だと、もう教会の懺悔のような言葉を吐かなくていいんだと諭すように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

畜生ォ……持っていかれたァ……ッッ!! 

 

 

 はい、激闘を終えて片手片足に矢を受けた大人気魔物キリィちゃんです。

 最大呪文のおかげでvsゼオンという破滅フラグを何とか乗り切る事が出来ました。

 でもね、でもねぇ……

 

 

【第四の呪文 クラリオ・イズ・マール・ピケルガ】

 

 

 ここに来て《特殊系》の最大呪文が来るとか予想外すぎるじゃないですか、やだー!! (天から愛されるガバ)

《ディオガ》や《オウ》系の最大呪文を覚えていれば、うちっぱなしジャーマンで適当にドーン、バーン、ボボーンでヒューンだったじゃないですか! (語彙力消滅)

 

 

 ……はい、とりあえず状況不明の皆様に今回覚えた呪文のご説明を行いたいと思います。

《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》は、アースの呪文《ヴァルセレ・オズ・マール・ソルドン》と同じく《蓄積と放出》の性質を持つ最大呪文です。アースの場合は、所持する魔剣に敵の魔力が蓄積され『それまで保持していた剣の魔力』を全解放する呪文です。

 対してキリィちゃんの呪文は『今保持している、他魔物の呪文を使う為複製した心の力』を全解放する呪文です。当然『複製(コピー)』していた魔物の力は使いきってしまいますし、『複製(コピー)』した魔物によって特性も変化します。

 簡単に言えば残りのMPを全て使う奥義で、残りMPにより威力が変動する。と考えればOKですね。

 

 

 さて、ここまでの説明ならばそこまで忌避する呪文ではないように思えます。

 ですが、最大の問題点は『全解放した力をどうするか』という点です。アースの呪文は全解放した魔力を『数多の巨大な剣へと具現化し』攻撃します。対してキリィちゃんですが、全解放した魔力を用いて『複製(コピー)元の魔物の最大呪文を複製(コピー)し』攻撃する呪文となります。素直にそのまま攻撃するって発想はないんですか?

 

 

 実際、もしもキリィちゃんが覚えた最大呪文が《ディオガ・ピケルドン》だったり《クオウ・ピケルガ》等だったら、普通の《ピケル》と同じく『複製(コピー)』した魔物の特性を持ったキリィちゃんなりの放出呪文が出ていた筈です。

 

 

 はい、そして原作既読者の皆さんであればここで「あっ(察し)」となるでしょう。《バオウ・ザケルガ》の秘密についてです。

 ガッシュ君の持つ《バオウ・ザケルガ》は封印された仮の姿です。《バオウ・ザケルガ》は先代の《バオウ》の使い手が倒してきた敵の怒りや憎悪などの思念が取り込まれており、封印が解けた《バオウ(真)》は使用者すら喰らってしまう破壊の象徴へと変貌してしまっているのです。

 

 そしてキリィちゃんの最大呪文の『複製(コピー)』は、封印を見事にスルーし真の《バオウ》を『複製(コピー)』してしまうんですね。多分差分作るのが面倒だったからではないかと思います。(失礼)

 なので、キリィちゃんは自分で出した『複製(コピー)』は《バオウ(真)》なので、代償に片手足を食われてしまい真っ黒くろすけになってしまったという訳ですね。かなしみ

 

 

 

 ……という理由なのですが、不審な目でこちらを見ている恵さんにその説明をする訳にはいきません。

《バオウ》の封印とか言い出した時点で「何でお前知ってんねん」からの仲間内不和ムーブが始まります。一時期SAN値が落ち込んでいたティオがいる以上、惨事の予感しかしないので却下です。

 

 ですが、全くの嘘や適当を言う訳にもいきません。恵さんの持つ《鑑識眼》により見破られてしまいます。

 ここは『嘘は言っていないけど核心は喋らない』という姑息な手で切り抜けましょう。

 見本はカソックを着た愉悦の笑みを浮かべる元代行者的な人です。彼の表情を何とかして『複製(コピー)』するんだキリィちゃん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 揚げ足取られない様、慎重に喋ってたら何か途中でもういいとか言われました。ラッキー! ナイスほもくん!!

 

 




 

《第四の呪文 クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》
効果:複製(コピー)元の魔物の持つ最大呪文を複製(コピー)し放つ呪文

複製(コピー)している心の力を全て消費する。威力・効果時間は消費した心の力の量に比例する。
・放つ呪文の特性や効果は複製(コピー)元の魔物が弱体化・封印・強化されていても無視される
・『キリカ・イルの呪文』として扱われる為、複製(コピー)元の魔物にも効果がある


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30.ふしぎなおどり

 他の方の作品を読んでいると、色々アイデアが沸いて来ますが相応の時間が取られてしまうのが最近の悩みです。




 

 

 

 ────「……コーンにオニオンスープ、ミネストローネにクラムチャウダー。こんな所かしら」

 

「恵、お味噌汁も買いましょ! 清太郎さんから日本食を扱うお店も聞いてあるの」

 

「えぇ、そうね。ティオ」

 

 

 ガッシュ君に似た魔物、ゼオンとの戦いから数日。ティオとその本の持ち主(パートナー)である私は、イギリスで買出しに来ています。

 

 ゼオンの攻撃を受け、傷だらけだったガッシュ君の傷も翌日には癒え、また疲労の欠片も感じさせないティオを見て魔物の回復力というものに本当に驚かされるばかり。

 

 

「……もっと栄養のあるもの、食べてほしいんだけれど」

 

「仕方ないわ、ティオ。キリカちゃんの怪我は治っていないんだから」

 

 

 そう。キリカちゃんの手足の傷だけは、未だ治ってはいません。

 

 清麿君の話によると、現代医学では治療はおろか原因すらわからないだろうとの事。キリカちゃんの「その内治る」という言葉を信じ、今は元就君と共にホテルで休んでもらっています。

 

 私達はキリカちゃん達の身の回りのお世話に立候補しました。まだ子供とはいえ女性のキリカちゃんの身の回りの世話は元就君には任せられないし、『仲間』として何かしたいというティオの熱の篭った眼差しに後押しされたから。

 

 一応他の魔物に襲われた際の護衛も兼ねているけれど、キリカちゃんには魔物を感知する力があるらしいのであまり過敏になる必要はないらしい。

 

 それよりも、戦いから数日経ったというのに『温かい飲み物』以外を口にしようとしない彼女の体調が心配になる。包帯だらけの体で、質素なスープばかりを口にするキリカちゃんの姿に痛々しさを感じるのは、先日()麿()()()()()()()キリカちゃんの生い立ちにも関係していると思う。

 

 

 そんな話ありえないと思った。あまりにも救いのない一人の女の子。それがキリカちゃんの事だなんて信じられる筈がない。私はそう思っていた事だろう。

 

 キリカちゃんが出した黒い龍を見るまでは。

 

 あの龍に篭められたあまりにも強すぎる怒りと憎しみ。彼女の内面の表層を見ただけで「何処にでもいる普通の子」と判断していた。他人の感情を全て見通せるなんてあまりに愚かな勘違いをしていた自分を衝動的に殴り倒したくなる。

 

 

 

《「恵、今までごめんなさい。私、あなたに甘えてた」》

 

 

 清麿君の話を聞き自己嫌悪に陥っていたその日の晩、ティオは私に謝罪してきた。

 

 

 友達だった子に裏切られた。それが何だというのか、彼女(キリカ)は親に裏切られ見捨てられたというのに。

 友達だった子に傷つけられた。それが何だというのか、彼女(キリカ)は守られるべき周囲の人々から傷つき続けていたというのに。

 友達なんて信じられないと喚き自分の中に閉じこもった。彼女(キリカ)はガッシュ以外、誰一人信じられる存在がいなかっただろうというのに。

 

 それらの後悔と、彼女を救いたいというティオの慈愛あふれる想いを私はその言葉から感じた。

 

 それからのティオは出会った時と比べて、今まで以上に変わった。恐らく、今のティオが本当の彼女なんだと思う。

 

 世話焼きで、おせっかいで、素直じゃなくて、自分の意志をまっすぐに主張する強い心を持った優しい魔物。

 

 

「早くキリカの所に戻りましょう、恵。今のあの子は私が傍にいなきゃダメなんだから!」

 

「わかってるわ。そんなに焦らなくても大丈夫よ」

 

「でもずっと傍にいられるのは恵の休暇中の今だけなんだから! 一秒でも長く傍にいないといけないわ!!」

 

 

 ……だからティオの目が時々、キリカちゃんみたいな虚ろな目をしているのは私の気のせいだ。きっと

 

 今晩も「一晩中添い寝してあげる!」とキリカちゃんに迫るティオを引き剥がす事になるのかしら。

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。生きてるんだぜ。それで……

 

 

 

 皆様おはようございます。膝に矢がタッチして療養中の大人気魔物キリィちゃんです。

 

 

 特大の破滅フラグであるゼオン襲来を乗り越え、現在《真・バオウ》に食われた手足を回復している所ですね。こんな戦い二度とゴメンですが、破滅フラグは二期が来るものと決まってますからね。皆、油断せずに行こう。

 

 

「ついたよ、キリィ。イギリスの海を見るのはこの旅行が初めてだけど本当に綺麗なんだな」

 

 

 はい、今キリィちゃんは松葉杖を持ちほもくんと一緒に海を見に来ています。療養中は敵の襲撃もなく、気分転換(とティオの手厚すぎる介護から逃げる為)にキリィちゃんが所望したのでホイホイほもくんが了承し連れて来てくれました。以前、教授(プロフェッサー)ダルタニアンと出会った浜辺とは違う場所で、切り立った崖が特徴的な場所ですね。

 

 その教授(プロフェッサー)ダルタニアンですが、今は清麿・ガッシュペアと共に郊外の森へ出かけています。

 清麿父である高嶺清太郎から、ガッシュが魔界から来たばかりの頃住んでいた森の場所を聞き向かおうとしていたのですが、偶々キリィちゃんの見舞いに来ていた教授(プロフェッサー)は自身がフィールドワーク兼見回り(兼ヤバい服での徘徊行為)をしている森である事に気付きガッシュ君達を案内してくれます。

 

 これが教授(プロフェッサー)ダルタニアンと事前に知り合えた要因でのチャート短縮ですね。教授(プロフェッサー)しかゼオンがガッシュを襲い記憶を奪った地点の情報を知らないので、ランダム判定に失敗し続けると最長森の中を数ヶ月徘徊するパターンがあります。そこまでいかずとも時間をかけすぎた場合、一頭の羊兼ロバ兼馬の魔物が人知れず退場してしまうので、原作ルートを目指す場合は教授(プロフェッサー)を上手に誘導しましょう。

 出来る上司は使えない部下でも活用する。出来る走者は関わりたくない変態でも活用しましょうね~。

 

 

 

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

 ……と、そんな益体のない事を考えていたら楽しげな歌声が聞こえてきます。

 まるでキリィちゃんを誘ってくるような歌声、誘われるままにフラフラと進んでいきます。

 

 

「キリィ、どうしたんだ? ……歌声だって?」

 

 

 この歌声は魔物が敏感に反応するので、ほもくんにはもう少し近付かないと聞こえないようです。危険はないので、松葉杖を使いながら向かいますよ。

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

「あの子は……魔物か?」

 

 

 やがてほもくんにも軽快な歌と踊りを木の下で踊っている一人の魔物に気付きます。

 彼の名は「ヨポポ」。羽の付いた緑色の帽子と、腹部に音符が描かれた緑色の服が特徴的な魔物です。

 人間換算でまだ4歳という事もあり、意味のある言葉を喋る事は苦手です。ただ素直な性格と人懐っこい動作により、世のお姉さま方から根強い人気を博しています。

 

 

 はい、もう皆さんお分かりでしょう。今回のターゲットはこの『ヨポポ』……、ではなく彼が追っている一つ目巨人の魔物『キクロプ』です。

 

 キクロプはヨポポの本の持ち主(パートナー)の自宅を襲撃、家族全員に重傷を負わせています。

 大好きな本の持ち主(パートナー)が傷つく家族に涙するのを見て、復讐の為傷ついた自身を厭わずに魔物をおびき寄せる舞を踊り続けているんですね。なんやこの子、いい子すぎるやろ。

 

 まぁそんな理由がありますが、キクロプでなくキリィちゃんが釣れてしまったヨポポきゅんは彼女を無視して踊り続けています。同じ『キ』はじまりですが、妥協するつもりはないそうです。(当たり前)

 

 さてさて、ではヨポポの踊りを見つつ()()()()まで移動しましょうかね。

 

 

 

「つかまえた──────ーっ!!!」

 

 

 すると、木に上っていた少女が覆いかぶさってきます。手に持っているフライパンでキリィちゃんを叩いてきますが、ここは無抵抗でいきましょう。

 

 

「こいつめ! こいつめ!!」

 

「キリィ!? 離れろ!」

 

「ぎゃっ!?」

 

「ヨポポイ?!」

 

 

 ほもくんの容赦のない回し蹴りが炸裂します。幼女といってもいい子に対してそれは強烈すぎないかね? 

 

 

「邪魔するんじゃないわよ、この魔物は私が倒……女の子?」

 

 

 ほもくんに蹴り飛ばされた少女が軽快に起き上がってこちらを睨みつけます。ヨポポきゅんが心配そうに寄り添おうとしてますが、手で振り払ってますね。

 そして自分が襲っていた人物が、目当ての人物でない事に気付きます。それどころか女の子、しかも包帯を手足に巻き松葉杖をもっている事に気付きどんどん顔が青褪めていってますね。

 

 

「ご、ごめんなさい! てっきり私達が探している魔物だと思って。怪我してる子を襲うつもりじゃ……」

 

 

 慌ててこちらに頭を下げる女の子、彼女がヨポポの本の持ち主(パートナー)『ジェム』ですね。謝罪を受け入れると、お詫びにお昼とお茶をご馳走になります。

 そこで彼女が襲い掛かった理由。探している魔物『キクロプ』の情報を聞き出せます。一つ目巨人と美少女を間違えるとか、あんたの目は節穴が後頭部まで貫通してんのか。

 

 

 とまぁ、ここまで全てチャートの計画通りとなります。

 ヨポポは非常に友好的な魔物なので魔本を燃やすと味方内で不和が起こり、原作ルートが崩壊する危険があるため狙う事が出来ません。そこでキクロプに狙いを絞りたいのですが、彼は非常に固い殻を身に纏っており《ギガノ》級を上回る呪文を直撃させ鎧を壊さない限りダメージが入りません。

 原作通り、ガッシュ君の《バオウ》で破壊してもらってもよいのですが、その場合フリーになったヨポポが高確率でトドメをさします。復讐の為にひたすら頑張ったヨポポを無視して漁夫の利を狙うのは、よほどのKY(空気の読めない)本の持ち主(パートナー)が相棒でない限り不可能です。

 

 

 という事で次善の策として『ヨポポにはトドメ直前まで全部頑張ってもらって、トドメだけ頂く』攻略法を採用します。(外道ムーブ)

 このチャートはヨポポ・ジェム共に好感度を上げないといけません。その為、まずはわざとジェムに誤解で攻撃をさせて後ろめたさを彼女に与え、キクロプ関連の話を聞き出す事に成功しました。怪我をしているにも拘らず、理不尽な暴力を言葉一つで許してあげる事で好感度も獲得です。

 

 そして、キクロプに関して何か情報を得たら教えるように約束し一旦別れます。これ以上の会話はフヨウラ! 

 

 

「じゃあ帰ろうか、キリィ。きっと恵達がキリィの好きな物一杯買ってきてくれている筈だよ」

 

 

 そういって帰路につこうとするほもくんですが、チャート攻略のため布石をもう一つ打っておく必要があります。

 ゼオンとの戦いが終わって以降はキリィちゃんの好物である『温かい飲み物』以外一切口にしない様にしてました。これには好物を食べる事による経験値の微増の他に、チャートを確実に進める為の布石でもありました。

 

 

「外で、食べよ」

 

 

 はい、外食のおねだりです。

 それまでスープ類しか口にしなかったキリィちゃんが、外出した効果なのかちゃんとした食事を所望しました。

 

 

「! あぁ、キリィ。折角だから食べて帰ろうか」

 

 

 勿論ほもくんに断れるはずがねぇよなぁ!! 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「ルォォォォォォオオオオ」

 

「もっとゆっくり食べるのよ、キクロプ。スープは音を立ててはいけないわ」

 

「ガルゥ」

 

 

 イギリス市内の高級料理店。ここの味はまぁまぁね、『イギリス紳士』たる私の舌をある程度は満足させてくれるわ。

 

 魔物である『キクロプ』も頬が緩んでいる。一つ目の顔は周囲の人間に気味悪がられるから、両目を書いた紙を顔に貼りつけているけれど彼の表情を読む事は造作もない。なにせ私は、彼の本の持ち主(パートナー)なのだから。

 

 

「ルゥゥゥゥ。ルォォ」

 

「あら? またなのキクロプ。本当にあの場所が好きなのね」

 

 

 最近キクロプは海岸沿いの方向に行きたがる。以前行った時は、魔本を失くしたガキの魔物一体しかいなかったが、キクロプは余程そこを気に入ったらしく連れて行って欲しいと最近よくせがむ。

 

 

「わかったわ。明日にはこの町での用事も終わるから、明後日はキクロプの行きたい所に連れてってあげるわよ」

 

「ウルォォォ!」

 

「フフフ、本当にかわいい子だわ」

 

 

 そんな事を話しながらキクロプと食事をしていると、急に彼が店の入り口を気にしだす。

 

 獲物だ。キクロプは近づけば魔物を判別する事が出来る能力を持っている。

 

 私は、相手に気取られないようにゆっくりと振り向きその姿を確認する。

 

 

「綺麗な内装のお店だね。キリィ」

 

「うん。調べた、から」

 

 

 そこにいたのは女のガキと、少年。内心またかと溜息をつく。

 

 魔界の王を決める選ばれた者による戦い。イギリス紳士たる私が挑む価値のある崇高な聖戦、にも拘らず戦う相手は戦いにかける誇りを持たないような一般人だった。

 

 

「まぁいいわ。誇りも魂も持たない下賎な相手なら、戦いというものをじっくり教えてあげるだけよ」

 

「ルォォ?」

 

「キクロプ、まだ襲ってはダメ。まずは尾行して奴等の拠点を見つけるわよ」

 

 

 




 

〜その頃のガッシュ達〜
ガ「私はこの森で暮らしていた時、ゼオンに襲われ記憶を奪われたのだ」
清「そうか。他に何か思い出さないか?」

ガ「いや、特にないのだ」



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31.vsキクロプ

 今話は7600字と少々長めになっております。
雰囲気重視にした結果ですが、読みづらかったらご報告頂けると今後の参考になりますので幸いです。




 

 

────「ジェムー、明日も学校があるんだからもう寝なさいー!」

 

「はーい」

 

 

 お母さんの言葉に従い、準備を終えた私はベッドへ向かう。明日も学校だ、早く寝ないと。

 

 電気を消し横になり、ふと今日出会った二人の事を思い出す。「キリカ」と「モトナリ」、日本から来たらしく兄妹には見えないがとても仲が良かった。

 

 

 そんな彼女等の様子を考えていると、つい横にあるヨポポのベッドをチラリと見てしまう。そして、そこに本来寝ている筈の魔物(じんぶつ)がいない事に顔をしかめてしまう。

 

 

(ヨポポ……)

 

 

 ヨポポはまだ外で魔物を誘き寄せる踊りを踊っている。『あの日』から休まずにずっと……。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「お母さん……!!? おじいちゃん!!!」

 

 

 いつものように学校から帰ってきた私を待っていたのは、我が物顔で椅子に座る黒ずくめの男。それに家の天井に届く程の大きさをした鎧の巨人だった。

 

 巨人が大暴れをしたらしく家具は散乱し、お母さんとおじいちゃんは血だらけで意識を失っていた。

 

 

「全く、余計な手間をとらせてくれるわね。本を持った奴は何処にいるのかしら?」

 

「なんでよ?! なんでこんな事するのよ!!」

 

「恨むならこの子を恨むのね。本の在り処を教えないからこうなるの、全部この子のせいなのよ」

 

「ヨポポまで……?! 本って何よ?! なんのことよ!!」

 

「……フン、どうやらこの魔物。何も自分のことを喋ってないようね。面倒だわ」

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「魔物の王を決める戦い……」

 

 

 黒ずくめの男から聞かされた内容、それには納得するしかなかった。以前、偶然にもヨポポの本に書いてある呪文を読んだ事があるからだ。あの時は私の中に眠る力かも、なんて柄にもない事を考えていただけだったけど、あれが“呪文”だったんだと納得してしまった。

 

 つまりヨポポは……、ヨポポのせいでお母さんとおじいちゃんは傷ついた。そんな悪い考えも一瞬よぎったけれどすぐに否定する。ヨポポは悪くない!

 

 幸い見た目ほどひどい怪我じゃなかった様ですぐに2人とも元気になった。大きな町で仕事をしていたお父さんも慌てて駆けつけてくれていた。

 

 

 でもヨポポは今までの様に私と一緒に遊ぶ事もなくなり、ひたすら外で『他の魔物を誘き寄せる為の踊り』を踊るようになった。

 

 お母さんやおじいちゃんが宥めても聞かず、私がどんなに叫んでもヨポポが踊りをやめる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

 ふと気になってヨポポの様子を見に来てしまった。私より早く起きて私より遅く眠る、そして食事の時以外は全部ああやって踊っている。

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

「ヨポポ、もう夜も遅いわ。寝なさい」

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

「……もう寝なさいよ、そんな踊りなんて止めて」

 

 

ヨポポイ♪ トポポイ♪ スポポポーイ♪ 

 

 

 

 

「止めろっていってるでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………ヨポポイ、……トポポイ」

 

 

 

スポポポーイ♪ 

 

 

 やっぱりヨポポは決して踊る事を止めようとしない。

 

 こんなやりとりが続いて一ヶ月……ヨポポはきっと私達の家族をひどい目に合わせたしかえしをしようとしている、そう()()()()()

 

 

 ヨポポはちゃんとした言葉を喋ることが出来ない。でも私はヨポポと一緒に暮らして、友達になって、あの子の事を誰よりも理解できていると思っていた。でもアイツ等に襲われたあの日から、それはただ私の思いあがりだったんじゃないかと考える時がある。だって私には、ヨポポの隠していた事に何一つ気づかなかったんだから。

 

 

 ヨポポが今踊り続ける理由……それも私が思っている様な理由じゃなくて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ヨポポ、あなたは……、ただ()()()()()()()()()踊り続けているの?)

 

 

 今の私はヨポポを、いいえ……『ヨポポを理解する私』を信じる事が出来なくなっていた。

 

 きっかけは今日の昼に出会った二人。私とヨポポは彼等の様にお互いを完全に理解していただろうか、彼等のように相手を思いやっていただろうか、私は以前ヨポポにどう接していたのかわからなくなっていた。

 

 

 奴等に襲われたあの日から、少しづつヨポポとの間に積もってきた淀み。今はそれを完全に理解できてしまった気がする。

 

 

「あたし達……、もうダメなのかしら」

 

 

 私を無視して踊り続けるヨポポから目を逸らす。私は俯いたまま自分の寝床へと帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……トポポイ?」

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 今回のテーマは『コラテラル・ダメージ』! キクロプ攻略実況は~じま~るよ~~! 

 

 

 

 という訳で皆様こんにちは。傷ついたあなたも素敵な大人気魔物キリィちゃんです。

 

 前回下地作りを行ったキクロプ攻略チャート、今回で最☆終☆回です! 

 今まで攻略に時間をかけすぎてしまってますからね、走者を含め全員が心待ちにしている《千年前の魔物》編に行く為にチャッチャとチャートをちゃあんと進めていきますよ。(怒涛の激ウマギャグ)

 

 

 まず前回、ジェムと出会った事により今頃ジェムに不信感が発生しています。

 これは『自身の魔物と本の持ち主(パートナー)が異性』の時に発生する隠れイベントで、自身の本の持ち主(パートナー)との好感度が最高の時、ジェムがヨポポに対して不信感を抱きます。そりゃ目の前でカップルがイチャイチャしてるのに、肝心の彼氏(ヨポポ)が放置プレイしてひたすら不運(ハードラック)と踊っちまってたらイラつきますよね。

 

 そんな乙女な幼女のジェムちゃんですが、これは必要経費です。雨降って地固まる、レイプ目なって婚約迫る、というありふれた諺に習います。

 ヨポポ君に不純な思いはないので安心です。誤解を解いてあげればお互いの好感度は一度下がった分、反動で一気に上がります。彼女の目が曇るのもコラテラルです、コラテラル。

 

 

 そんなジェムを無視して帰宅した翌日。

 いつもならばティオが来襲(お見舞い)します。彼女がいると、キクロプ撃破チャートの邪魔になるのでほもくん共々排除しましょう。今日の外出の予定を伝え、ほもくんに先に迎えに行くようにお願いします。

 

 

「わかった。すぐ戻るからキリィはそのまま待っててくれ。勝手に着替えたら駄目だからな」

 

 

 大分動くようになってきた手足ですが、心配性なほもくんは恵達が着てから着替えを手伝ってもらうつもりのようです。キリィちゃんに釘をさしてから外出しました。

 

 でもそんなの関係ねぇ! パパッとシンプルな白いワンピースに着替えます。黒髪と無感情な瞳をしたキリィちゃんが着ると、ミステリアスな魅力がかもし出されますね。KA☆WA☆I☆I

 

 

 ……と、着替え終わったタイミングでキリィちゃんの部屋のインターフォンが鳴りました。時刻は11(いい)44(しんし)、時間通りですね。おっそーい! (理不尽な罵倒)

 このまま居留守を決め込んだ場合、入り口の扉が破壊されるので普通にあけますよ。ガチャッとな

 

 

「邪魔するわよ。あなたが魔物で間違いないかしら」

 

 

 扉を開けるとそこには、紳士(オカマ)がいました。彼がキクロプの本の持ち主(パートナー)、『イギリス紳士』(本名不明)です。

 後ろには2つのおめめを書いた紙を貼り付けた一ツ目巨人(サイクロプス)の魔物『キクロプ』もいますね。よしよし、順調にチャートは進んでいますよ。

 

 

「回りくどい事は嫌いなの。私のキクロプと戦う気がないなら、魔本を燃やさせなさい」

 

 

 キクロプはキリィちゃんの体を掴みあげ、イギリス紳士が交渉(恐喝)をはじめました。彼の巨体で掴まれれば、キリィちゃんは頭以外がすっぽりと手の中です。

 魔本は出かける時、ほもくんに持っていってもらったので安全です。遠慮なく首を横に振りましょう。だが断る! 

 

 

「そう。ならこれは誅罰(おしおき)よ。イギリス紳士の私が淑女のマナーというものを教えてあげるわ、とっくりと堪能なさい」

 

 

 その言葉を皮切りにキクロプから攻撃を受けます。狭い室内、手足が完治していないキリィちゃんに避ける術はないので蹂躙されるだけですね。はいはい、コラテラルコラテラル。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 

 

「……面白くないわね。全く抵抗しない上に、その反抗的な目付きは変わらないなんて」

 

 

 時間にして僅か数分間ですが、キクロプにフルコンボだドン! され窓際で倒れ伏すキリィちゃんはボロボロです。ですが相手が呪文を使ってない上、魔物の頑丈な体のおかげで骨折などの行動に致命的なダメージは一切負っていません。全年齢ゲームなので、薄いワンピースにえっちぃ切れ込みが入ったりもしていません。何も問題はない。

 

 

「これ以上は余計な奴がやってくるかもしれないわね。本の場所を言わないならもういいわ、死になさい」

 

 

 イギリス紳士の持つ濃い青紫の魔本が輝きます。容赦なくトドメさそうとする限り、コイツ何気に原作の中での悪役度高いですよね。紳士とは何だったのか。

 では、ここからがキリィちゃんのターンです。今まで無抵抗だったお陰で油断しまくってる今がチャンス! 窓をぶち破り裏路地に転がり出ます。そのままダッシュダッシュ~~! ダンダンダダン!!

 

 

「何?! キクロプ、追うのよ!」

「ウルアアアアアアァァァァ!!」

 

 

 そしてここからは裏路地の細かい分かれ道を決まったルートで進みます。おっと、途中で積んである荷物やゴミを倒して進行ルートを塞ぎましょう。走る速度は圧倒的にキクロプの方が速いです。

 おっ、三方向に分かれる曲がり角に来たな。ここで特定の順番で曲がり角を曲がります。右、左、右、左、右、右、B、A!! 

 

 

「キャッ?! ……キリカ? ど、どうしたのその怪我?!」

 

 

 この効果により、登校中のジェムちゃんに鉢合わせするぅ! 君遅刻だぜ! 彼女の手を取って一緒に逃げます(まきこみます)

 

 

「ルオォォォォォォォォォォォ!!」

「あ、あいつは……!?」

 

 

 ハイ、追いかけてくるキクロプに気付きます。そしてジェムと一緒に『他のキャラに見つからない様に』キクロプ達から逃げましょう。

「すぐ戻る」の言葉の通り、ほもくんとティオ達はもう部屋に戻っています。そして部屋の惨状を見てキリィちゃんを必死に探している事でしょう。仲間達(おじゃまキャラ)をかわしつつ街から脱出する事がミッションとなります。

 

 ですがこれはキリィちゃんの持つ『魔力感知Lv2』のお陰でラクチンです。感知が出来ないジェムと会えるかどうかだけが気がかりでしたが、もう安心ですね。

 

 

 ……はい、街の外の草原に来ました。お互い人目を気にしないでよくなったのでおいかけっこも堂々としたものに変わります。障害物もないのでその内追いつかれてしまうでしょう。なに、問題はない。

 

 

 

 

「ヨポポイ~~~~!!」

 

 

 はい、ヨポポきゅんが応援に来てくれました。

 ジェムが持っている魔本が、ジェムの危機を感知しヨポポに知らせてくれました。この機能、かなりガバなので発動しない事も多々あるのですがヨポポきゅんに関しては全く問題ありませんでした。運営に愛されてやがるぜ。

 

 

「ヨポポ?!」

 

「アラ、いつかおしおきした事のあるクソガキじゃない。まだくたばってなかったのね」

 

「ヨポポーイ!!」

 

「いっちょ前に吼えちゃって。どうやらそのメスガキの様に、またボロ雑巾になりたいようね」

 

「ま……、待ってヨポポ!?」

 

「ヨポポ──イ!!」

 

 

 不信感を持ったままのジェムは戦うべきかどうか迷ってますね。ですがヨポポは既に覚悟完了といった様子でキクロプに突撃します。

 覚悟とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開く事だッ! 

 

 

「《アムルク》!」

 

 

 が……駄目……!! 

 巨大化してギア3rdになったキクロプのパンチに吹き飛ばされるヨポポきゅん。しょうがないね、呪文なしだもん。

 

 

「ヨ……ポイ……」

「ヨポポ!?」

 

「あなた、呪文なしで私達と戦うつもり? それは誇りある決闘を汚す行為よ、イギリス紳士として誅を下さないといけないわね」

 

 

 盛り上がるジェムとヨポポきゅん、キリィちゃんはこのまま待ち(ステイ)です。ほもくんが来るまで待ちましょうねぇ~

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────「ヨポポ、逃げて!!」

 

「ノポポイ!」

 

 

 私は震える足を必死に抑えながらヨポポに呼びかける。けれどヨポポは、今まで見た事のない程に私の言葉を拒む。そして決死の顔で襲い来る巨人に立ち向かうヨポポを見て、私はそれ以上言葉を発する事が出来なかった。

 

 

「ルアアァァァァァァァァァ!!」

 

「! ……ぁ、ぁ」

 

 

 巨人の叫びに私の体がすくみ上がる。そして私は理解した。私は恐かった、家族を傷つけるアイツ等を見て恐怖を感じていた。

 

 誰にも守られる事なくアイツ等と対峙した時の私は、どうしようもなくちっぽけな存在だった。

 

 

「ヨポポーイ!!」

 

「ヨポポ……」

 

「チッ、ガキが……! いつまでも舐めてんじゃねえよ!! 《エムルロン》!」

 

「!!」

 

 

 いきなり口調をあらげた黒ずくめの男が呪文を唱えると、巨人の右手がゴムのように伸びこちらに襲い掛かってきた。その拳には炎を纏っており、触れるだけでただではすまないのがわかる。

 

 

「ヨポポイ!!」

「させ、ない」

 

 

 ヨポポが伸びる腕に捕まり、私の傍にいたキリカが傷だらけの体で私を庇う。巨人の腕はキリカの背中をかすめ、その勢いでキリカに押し倒された私は手に持っていた通学用カバンを手放し中身をその場にぶちまける。()()()()()()と共に。

 

 

「見つけたわ! キクロプ、そのまま燃やしてしまいなさい!」

 

 

 巨人の燃える拳が反転し私の傍の魔本へと向かう。私はすぐに起き上がろうとするが先程の転倒で足を痛めたらしい。キリカも一緒に倒れていてすぐには動けない。もうダメ……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨポポ────イ!!!!」

 

 

 

 私の体に“何か”が覆いかぶさる。その“何か”に衝撃が走り私へと伝わっていく。

 

 固く閉じた瞳を開く、私の目の前にいた顔は…………

 

 

 

 

「……ヨポポ?」

 

「ヨポポイ!」

 

 

 傷だらけになりながらも、満面の笑顔を見せるヨポポの姿だった。だがその姿は、僅かに()()()()()()()

 

 

「そんな……、ヨポポ?」

 

 

 ふと魔本があった場所を見ると、先程の巨人の攻撃により本の表紙に火がついている。それが意味する事はつまり……

 

 

 

 

「そんな……、ヨポポ」

 

「ノポポイ」

 

 

 ヨポポは愕然とした私を立ち上がらせ、抱きしめる。

 

 

 

「ヨポポ……ごめんなさい。私……、私……」

 

「……ジェ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェ……ム……」

 

「ヨポポ……、私の名前」

 

 

 それはヨポポと出会った頃、ヨポポイとノポポイしか喋れなかった彼に向けた言葉。

 

 

 

 

《「あなたは今日から私達の家族、私の友達よ。あなたの名前はヨポポ。私はジェムよ、言ってみて」》

 

《「ヨポポイ……? ヨポポイ!!」》

 

《「アハハ、さすがに無理ね。でも、いつか私の名前を呼んでくれたら嬉しいわ」》

 

《「ヨポポイ!!」》

 

 

 

 

「ヨポポ……大好きよ」

 

「ヨポポイ」

 

 

 お互い泣きながら抱きしめあう私達。そしてヨポポは私を離すと、巨人と黒ずくめの男に振り向く。

 

 ヨポポは私を守ろうとしてくれている、今その気持ちに一切の迷いは生まれない、ヨポポの覚悟を私は『言葉』ではなく『心』で理解できた。私は自身の火傷も気にせずヨポポの魔本を手にする。

 

 

「!? 勝負はついたのにまだやるのか?! 舐めやがって」

 

「ヨポポ!!」

 

「ヨポポイ!!」

 

 

「《アムルク》!」 「《ドレミケル》!」

 

 

 巨大化した巨人の手。だけど私のヨポポは絶対に負けない。口から出した強力な音波で巨人の手を体ごと後退させる。

 

 

「この死にぞこないが。どんな攻撃だろうとキクロプの纏う鎧は壊せねぇんだよ!! 《ギガノ・アムルク》!」

 

 

 巨人の手が先程以上に肥大化し、私達の前に壁となって襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

「ヨポポ」

 

「ヨポポイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()よ」 「ヨポポイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ソラジオ・ファ・ドレミケル》!」

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 尊い。(確信)

 

 無事、ヨポポとジェムは仲直りしたみたいですねぇ。えがったえがった。そんな2人の愛情ぱうわぁにより新呪文《ソラジオ・ファ・ドレミケル》が解禁されました。

 

 これはキッドの呪文《ミコルオ・マ・ゼガルガ》に似た系統の呪文で、巨大な機械女神の姿をしたエネルギー体を出現させ敵に襲いかかります。

 違いとして、こちらには3対の腕がありそれぞれに違う弦楽器を持っており、背中には数多くの管楽器が生えています。そしてそれらを奏でる心地よい音色が周囲に響いている状況ですね。

 

 

「綺麗……。あれ、足の怪我が……痛くない?」

 

 

 ジェムが気付いた呪文第二の効果、それは任意の対象への治癒効果です。ティオの《サイフォジオ》には一段劣りますが、複数同時・攻撃の兼用と考えるとかなり強力な呪文です。もののついでといった感じでキリィちゃんの手足の影響やキクロプからの怪我も治っていきます。これを見越してダメージには頓着しなかったんですね。コラテラルコラテラル。

 

 

「ガルアアアァァァァァァ!!!」

 

「そ、そそそ、そんなキ、キキキキキクロプの鎧が」

 

 

 あわれキクロプの鎧は砕け散りました。彼自身の肉体の強度は全然なので、やわらかキクロプにさっさとトドメさしましょう。

 ヨポポきゅんの追撃の呪文も、燃える本を持ち続けるのが辛くなったジェムの集中が乱れ発動が遅れます。そのまま打たせたら本ごと巻き込むので、キリィちゃんが突っ込みましょう。

 

 

 久々の登場ですね。今、必殺のぉ~~~~

 

 

「ヒィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 

 キリィちゃんパアアァァァァァァァァァァンチィ!! 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「キリィ!!」 「キリカちゃん!」 「キリカ、キリカ、キリカぁ、うあぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 無事、イギリス紳士の持つ本を燃やす事に成功しました。

 丁度いいタイミングでほもくん達がやってきてますね。では最後の仕上げをしましょうねぇ。

 

 

「ヨポポ……」

「ヨポポイ」

 

 

 もうほとんど消えかけのヨポポきゅん。ジェムの傍に近寄って半分以上燃えている本を受け取ります、そのまま持ってるのは辛いでしょう? (満面の笑み)

 

 ジェムはヨポポきゅんから目を離さずに本を渡してきます。そして再びヨポポきゅんとの熱い抱擁。あ~、尊いぜぇ。

 

 

 

 

「キリィ……」

 

 

 まぁそれはお・い・と・い・て。本が燃えきる前にいつものお願いだよほもくん!! 

 

 

「わ、わかった。後で色々聞かせてもらうからな。第一の呪文《ピルク》」

 

 

 

 

 強力な呪文ゲットだぜぇ、やっふぅぅぅぅっぅううう!! 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────【キクロプ 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

─────────────────【ヨポポ 敗退(リタイヤ)】撃破者《キクロプ》

 

 

 




 


【オリジナル呪文】

《ソラジオ・ファ・ドレミケル》


 3対の腕を持つ機械の聖母風の巨大な女神を召還する。
 腕にはそれぞれ異なる弦楽器を持ち、背中に生えた複数種類の管楽器と合わせ心地よい旋律を奏でながら敵に襲い掛かる。
 音色を聞いた任意の対象に対して、治癒の効果を与える力も持つ。



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幕間 フォルゴレの用事

 久々の本編投稿。だが話は進まない



 

 

 

 

 はい、皆さんおはようございまーす。

 白磁のような美しさを持つぷにぷにお手てが特徴の大人気魔物キリィちゃんです。

 

 前回、ヨポポの呪文の治癒効果により真バオウにぱくぱくされた手足が無事に復活しました。体にダメージが残っている場合、専用のチャートを組み直さなければいけなくなりますが、その必要はフヨウラ! と無事相成りました。

 

 

 ただこの復調は、良い事ばかりでもありません。

 そもそもキリィちゃんがイギリスにやってきたのは『フォルゴレのコンサートを見る為』でした。なので、怪我も完治したからいっちょいってみっか! とほもくんに連れて行かれる事になります。

 

 一応魔物の性別を『女性』に選択しフォルゴレの評判を聞いている場合、本の持ち主(パートナー)は逆にこちらから進言しない限り、連れて行こうとしなくなります。

 しかし、ほもくんは『大好きな母親の恩人』というフィルターがかかっているせいでフォルゴレの評判が耳に入ってきていません。コンサートに積極的に行かせようとして来る事でしょう。

 

 

 コンサート位さっさと行けばええやん? と思われるでしょうが、このイベントは極力回避したいと思います。

 

 何故ならこのコンサート、一部スタッフのすさまじい熱気を感じる努力の結晶により、30分間にも及ぶ超美麗イベントムービーでフォルゴレのコンサートを見る事になります。

 初めて映像を見た時は【驚愕→狼狽→感心→驚喜→狂気】と段々洗脳されたプレイヤー達が『もげ! もげ!!』と叫び出し、あちこちで通報されたという噂もある程。その真偽はともかく、コンサートはほとんどの実況プレイにおいてイベント回避を推奨されています。今実況においても、その例に倣いましょう。

 

 もう、近所の人に奇異の目で見られたくないんや……! (経験談) 

 なのでもし、今回のプレイでコンサート参加ルートに入ったらノンカットの上、タスクバー消去(早送り禁止)して投稿する腹積もりです。死なばもろともよ、フハハハハ(多大な迷惑行為)

 では早速フォルゴレのコンサートを回避するべく、イギリス編後半の攻略に入りましょう。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「キリィ、本当にもう怪我は大丈夫なのか?」

 

 

 はい、ヨポポとの戦闘が終わりその翌朝。現在、キリィちゃんはロンドン某所のホテルにいます。

 

 あの戦闘の後ジェムを彼女の自宅に送り届け、恵&ティオによる体調チェックが入りました。ヨポポの回復攻撃呪文《ソラジオ・ファ・ドレミケル》により完全回復した事は聞いていますが、あくまでも確認ですね。

 

 そして問題ない事を確認した後に、キクロプと何故戦う事になったのかほもくんによる事情聴取。しかしこれはあちら側が勝手にやってきたので、キリィちゃんに非はありません。(何もしていないとは言っていない)

 

 キリィちゃんには魔物を感知する力がありますが、何故気づけなかったのかという鋭い質問も飛び出しましたが『相手の魔物の隠密性が高かったかもしれない』と言った所、あっさり納得してくれました。(高いとは言っていない)

 

 

「そっか、とにかくキリィが無事でよかったよ。今日、フォルゴレのコンサートがあるんだけど行けそうか?」

 

 

 ここで「はい いいえ」選択肢が現れました。しかしこれは罠です。

 いいえを選んだ場合、今日の夕方のコンサート開始まで何かアクションを起こす度に「やっぱりコンサート行ってみない?」とお誘い選択肢が現れるんですね。お前行くの全然諦めてないやないか! 

 

 遅延イベントを避けたいのに、選択肢による遅延を繰り返されてはたまったものではありません。ここは素直に「はい」を選ぶのが正解です。イケマス(行くとは言っていない)

 

 

「じゃあコンサートは夕方からだから、それまで市街を少し回ろうか」

 

 

 という事で時間までロンドン市街の散策に入ります。

 コンサート回避チャートはここからが大切です、まずは現場の下見という名目でコンサート会場へと最初に向かいましょう。ここで『とある魔物』の好感度が最高だった場合、偶然出会うイベントが発生します。キリィちゃんは『友情』を取得しているので、特に意識する必要がない点が素晴らしいですね。

 

 

「あ、やっぱりキリカじゃないか」

 

「あぁ、キャンチョメ。久しぶりだな、フォルゴレは会場の中か?」

 

「あ、あぁ……うん」

 

 

 はい、ご存じキャンチョメです。

 

 このイベントはキャンチョメの好感度が高くないと彼に発見してもらえず、コンサート回避チャートに進む事が出来ません。例え『魔力感知』を最大レベルで取得していても、こちらからキャンチョメを見つける事が出来ない仕様になっております。いつからキャンチョメが、ここにいると勘違いしていた……?

 

 そんな鏡花(キャンチョ)メイ(ゲツ)による完全催眠を破ることは不可能なので、千年前の魔物編に進む前にイギリスにいく場合は彼との好感度は上げておきましょう。その為にも『友情』のスキルをキャンチョメ対象に取っておくと万全です。(豆知識)

 

 

 

「うああぁぁ────、清磨。待ってくれよ────!!」

 

「やかましい! 折角の休日を邪魔されてたまるか!」

 

「おねがいだ──!! 待ってよ、話がしたいんだ。キリカもいるんだよ────」

 

「キリカが? ……全く、話だけだからな」

 

 

 視点を戻しましょう。

 

 キリィちゃんとほもくんを見つけた直後、キャンチョメは清磨・ガッシュペアも見つけすぐに声をかけます。ここで清磨達と出会うのはこちらが邪魔しない限り確定イベントです。そして清磨はガッシュを掴み逃走。しかし(騒ぎを聞きつけた民衆に)回り込まれてしまったようです。

 話を聞くだけで黒髪美少女がついてくると聞き、素直にキャンチョメに付き合う清磨。誰だってそうする、私だってそうします。

 

 

「……数日ぶりだな、元就。キリカ。体の調子はどうだ?」

 

「ウヌゥ。ティオから聞いておるが、本当にもう大丈夫なのか?」

 

 

 二人ともキリィちゃんの事が心配みたいですね。あらあら、罪作りな女性ですこと(唐突なマダムムーブ)

 大丈夫だ、問題ない。とコクコク頷けば安心したように二人とも笑みを浮かべますね。好感度も下がってないようで、何よりです。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

《『まさか本当に一人で来るとはな00F(ゼロゼロエフ)……いや、伝説のスパイ【鉄のフォルゴレ】よ。今日こそ始末させてもらうぞ』》

《『フォルゴレ、私に構わず逃げて!!』》

《『フッ、君達にできるかな?』》

 

 

 はい、キャンチョメに呼ばれコンサート会場の控室にお呼ばれしました。

 

 キャンチョメがフォルゴレ主演の最新映画を見せ始めたので、謎の背景BGMが流れています。あの映像は直視してはいけないものですよ。

 プレイヤーのSAN値を守る為にも、唯一場の空気に飲まれてない清磨の顔を凝視しておきましょう

 

 

「……キリカは映画、見ないのか?」

 

 

 清磨の言葉にコクリと頷いて意思表示。あれは見てはいけないものです。

 この場に誘ったキャンチョメが映画に熱中しているので、清磨と無言のにらめっこしながら待ちましょうねぇ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「どうだ、皆。フォルゴレは無敵さ! すごいんだぜ!」

 

「ウヌ、素晴らしいのだ!」

 

「あぁ、中々見応えがあったな」

 

 

 映画観賞会が終わりようやくキャンチョメが会話に戻ってきます。画面に向かって拍手するガッシュとほもくん、そしてそれを死んだ魚のような目で見る清磨とキリィちゃん。本の持ち主(パートナー)交代した方がいいかな? 

 そして映画一本分の壮大な前フリからの用件が、フォルゴレの行方不明。といっても私用から戻ってきてないだけのようで緊急性は0です。

 

 

「一緒にフォルゴレを探しておくれよ。もうすぐコンサートがはじまっちゃうんだ」

 

「断る」

 

「うぇええええぇぇん。そんな事いうなよ清磨─────!!」

 

「ウヌゥ、清磨。別によいのではないか? この前、一緒に戦った仲ではないか」

 

「そ、そうだぜ。僕たち友達だろ?」

 

「…………」

 

「う…………………………わ、わかった」

 

 

 美少女の熱いまなざし(無言の圧力)に負け、清磨とガッシュはフォルゴレ探しに付き合う事になりました。

 ……え? ほもくん? 言われるまでもなくやる気満々マンでしたよ。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 という訳でフォルゴレの捜索パートに入ります。ここで出る選択肢は2つです。

 

 

 > ガッシュに頼む

 自力で探す

 

 

 この選択肢は、自身の魔物が《感知系》スキルを取得している際に発生します。もしも持っていなければ上の選択肢になり、ガッシュの鼻を頼りにフォルゴレの痕跡を辿ることになります。

 

 ですがガッシュ頼りにした場合、【お菓子屋→花屋→おもちゃ屋】と回り道をした末に、目的地であるロンドン市内の病院に向かうルートとなります。

 お見舞いの品々をフォルゴレが購入して回ったので間違いではないですが、時間的にこれはロスです。キリィちゃんの感知能力に任せましょう。

 

 

「病院……? そこにフォルゴレがいるのか、キリィ」

 

「えっ?! じゃあ、フォルゴレは怪我を?!」

 

「いや、ガッシュの電撃を浴びてもピンピンしてるアイツが怪我をしているとは思えんが」

 

「ウヌ、とにかく行ってみるのだ」

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 はい、病院にやってきました。

 原作ではロンドンの町巡りをしてから向かっていたので、それよりも早い到着になりました。なのでまだフォルゴレは病院の中にはいません。入り口で彼が来るのを待ちたい所ですが、ここで注意点があります。

 

 そもそもフォルゴレはここに入院中の少女に手紙をもらい、その少女と同年代の子供たちの為に、小さなコンサートを開くためにやってきました。ホンマ聖人やで

 

 そしてコンサートに行くのを回避する方法ですが、この小さなコンサートを観覧することが条件となります。「もうコンサートは堪能したよ」といい笑顔をすれば、軽やかに本番をスルー出来るんですね、

 

 そういう理由から、病院内のコンサートは開いてもらわないと行けないので清磨達の手で無理矢理連れ戻されるのだけは勘弁です。ガッシュ頼りのルートだと、病院内のイベントに間に合わない場合もあるのでショートカットしましたが、彼を連れ帰るのはストップさせましょう。

 

 ……と言ってたらフォルゴレが来ましたね。台車に街中で買った大量の物資を載せて上機嫌でやって来てます。

 

 

「いたぞ、フォルゴレ!」

 

「うわ──────ーん、何処行ってたんだよフォルゴレ────!!」

 

「おお! 清磨じゃないか。キリカに元就まで! キャンチョメが連れてきたのか?」

 

「もうすぐコンサートなのに戻って来ないからキリィと探してたんだ。どうしてこんな所に?」

 

「あぁ、この病院に用事があってね。大丈夫、コンサートなら多少遅れても私のファンは待ってくれるさ」

 

「用事? その運んでいる大量の荷物の事か?」

 

「これは女の子(ラガッツァ)達への贈り物さ。それに……」

 

「それに?」

 

「遅れたのは店の女性(バンビーナ)達のチチをもんでいたからさ!!」

 

 

「《ザケル》!!」

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!」「フォ、フォルゴレ~~~!」

 

「さっさと連れて帰るぞ! こんな事に時間を取っていた自分に腹が立つ!!」

 

「ま、待つんだ清磨。私は……行かねば」

 

「やかましい! 仕事ほっぽり出してロンドンの店でチチもんでた奴が何を言う!」

 

「フッ、だとしても……私にはやらねばならぬ事があるのさ。キャンチョメ!」

 

「わ、わかったよフォルゴレ」

 

「!! 魔本を取り出した。やる気か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三の術《ディカポルク》!!」

 

「な、何──────!?」

 

 

 事の成り行き(漫才)を見守っていたキリィちゃんでしたが、唐突なフォルゴレの呪文発動。こんな街中で発動させていいのかと小一時間。

 病院前の広場に巨大なキャンチョメの幻影が現れました。周囲の人々は呆気に取られてますね、現実を頭が認識したら大混乱になるのではないでしょうか。

 

 あっ、《ディカポルク》をすぐに解除しましたね。巨大なキャンチョメが白煙と共に消失しました。そして皆が見上げていた隙をついてフォルゴレはキャンチョメを連れ逃走。実に見事な手口でした、この戦法戦いでも有効じゃない? 

 

 

「クソッ、逃がしたか! ガッシュ、奴の匂いを追え!!」

 

「ウ、ウヌ。わかったのだ」

 

「キリィ、俺達はどうする? フォルゴレのあの様子ならもう大丈夫だと思うが」

 

 

 ここで帰る訳にはいきません。帰るついでにコンサートに連れてかれてしまいます。

 ガッシュ君と一緒に、彼等を追いかけることにしましょう。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「清磨、あそこの部屋なのだ」

 

「フフフ、逃げられると思ったら大間違いだぞ。フォルゴレ」

 

「清磨、キャラが変わってるぞ」

 

 

 一行は病院に入りフォルゴレの臭いをガッシュが追います。

 ガッシュ君が指刺したのは7~8人が入る病室ですね。そこにフォルゴレがいるようです。彼をひっ捕らえようと、清磨がドアに指をかけた瞬間子供たちとフォルゴレの楽し気な会話が聞こえてきます。

 

 

「さぁ、私のラジコンだ。お菓子や花もちゃんとみんなの分あるからな、焦らなくていいぞー」

 

「わぁぁ、ありがと──!」

「ありがとー!」

「お花きれーい!」」

「あ、これおいしー」

「アヒルさんもありがとー」

 

「フォルゴレ。お菓子も花も全員に配れたよ」

「サンキュー、キャンチョメ。それじゃあ手紙をくれたお姫様の為の独占コンサートを始めよう。私の歌を聞けば病気なんてふっとぶさ! みんなで歌おーぜ!」

 

 

「「「鉄のフォルゴ~レ~~~♪」」」」

 

 

 病室から聞こえてくる子供たちとフォルゴレの合唱。

 清磨を始めとした皆はドアの前で立ち尽くしていますがその頬は緩み、笑みを浮かべているだろう事がわかります。

 

 

 そして、子供たちの為のコンサートは終わり。

 普段は静寂が場を満たす病室は今、笑顔と拍手と笑い声が満たされた空間となっています。うーん、これは尊い。

 

 では、この場に無粋なキリィちゃん達はクールに去るぜぇ……

 

 

「皆、ロンドンコンサートは見に来ないのかい? 清磨達の分も席を用意するぜ」

 

 

 フォルゴレに引き留められました。背中を見せたまま問いかけるその姿……やだ、恰好いい

 

 ですが、その回答はすでに決まっています。もうフラグは十分に立ってるぜ! 

 

 

「イヤ、コンサートなら俺はもう十分に見せてもらった」

 

「そうか。キリカはどうだい? 豪華なステージを約束するぜ」

 

 

「私には、これで十分」

 

「………そうか」

 

 

 はい、清磨の言葉に便乗し断ります。日本人特有の謙虚なこころぉ~

 

 席まで取ってもらったのに行きません宣言したのが不服なのか、ほもくんが悲しげにこちらを見てきます。ですが主催者に許可はもらったので関係ありません。キャンチョメも縋るような眼を向けてきますが、それでも私は行きませんからね!! 

 

 

 じゃ、サヨナラ! 

 

 病院を後にし帰宅したキリィちゃんは自室へとカムバックしていきます。

 コンサートをさぼって貪る惰眠は最高だよなぁ!! (最低発言)

 

 という訳で本日はこれにて終了! 次回、イギリス編最終回です。ごうご期待!! 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ─────「やれやれ、フラれてしまったな」

 

 

 女の子(ラガッツァ)たちのコンサートを終え、もう一つのコンサートを行うために会場に戻る道すがら。私はそんな言葉を零してしまった

 

 

「フォルゴレ、本当にキリカは見に来てくれないのかな?」

 

「恐らくな。だがコンサートはちゃんと見て貰えたじゃないか。彼女を連れてきてくれて感謝するぜ、キャンチョメ」

 

 

 元就に頼まれ、前々から誘っていたイギリスのコンサートに招待した。

 

 だが彼女の心の静養のためにと企画したこの旅行は、彼女にとって更なる苦難となってしまったと聞き歯痒い思いをした。清磨達に聞いていた怪我の後遺症が治ったのは喜ばしい事だが、彼女の精神面が心配だった。

 

 

《「()()()、これで十分」》

 

 

 彼女がそう口にした言葉。当たり前の様に自身を下に扱っている言動。私は彼女にかける言葉が見つからなかった。

 

 かけがえのない友が大切にする、あの子を救いたい。そんな事を考えるのは私には過ぎた願いなのかもしれない。

 

 だが、私は決して諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故なら私は、無敵の男なのだから─────。

 

 

 




 

〜一方その頃〜

「嫌よ嫌よ! 私はキリカと日本に帰るんだから!」

「ごめんね、ティオ。もう仕事が始まるから。明日はもう帰るけど今夜はコンサートを観にいきましょ」

「恵、何よそれ。」

「元就君からチケットを貰ったの。自分達は行かないからって。彼のお母さんの好きなエンターテイナーらしいわよ。キリカちゃんもよければ、って」

「ふーん、いいわ。なら観に行ってやろうじゃない!」






その翌日、空港にてげっそりとした様子の二人がいたそうな。



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32.千年前の遺産

「ここすき」機能。
 個人的に大好きです。





 

 

 

 

 ─────「よく来たな、清磨。」

 

「何だよ、親父? 俺に見せたいものって……うっ」

 

「君が教授(プロフェッサー)セイタロウの嫡子、キヨマロか。また会ったな」

 

 

 もうすぐ日本へ帰ろうと準備していた俺を大学に呼び出した親父。

 

 だがその隣にはイギリスの森で出会った変態(ダルタニアン)がいた。今日は親父と一緒だからなのか、医師が着るような白衣に身を包んでいた。

 

 そういえばコイツは大学の構内でも一度会った事があるし、自身を教授(プロフェッサー)と名乗っていたからここにいるのは当然なんだが……、初対面の時のブリの着ぐるみ姿が強烈で苦手意識が消えることはない。

 

 

「ダルタニアン、久しぶり」

 

教授(プロフェッサー)ダルタニアン。ご無沙汰してます」

 

「ウム。君達二人も息災で何よりだ」

 

 

 俺の隣には元就とキリカ。親父に一緒に連れてくるように言われたが、変態(ダルタニアン)の知り合いだったらしい。それに随分と仲が良さそうだ。

 

 因みにガッシュはこういう場で騒がしくされては困るので適当に近くの屋外で遊ばせている。

 

 

「見て欲しいものは管理室にある。担当である教授(プロフェッサー)ダルタニアンの助力もあったから、予想より早く管理室の鍵を借りる事が出来たよ」

 

「珍しい物なのか?」

 

「それは間違いない。以前キリカ君達には、私の研究を見せる約束をしていた。君達が友人同士と教授(プロフェッサー)セイタロウより聞いたのでね、こういう物は共に見て語り合うのが何よりの楽しみだろう」

 

 

 意外とまともな回答に、それまで向けていた胡乱気(うろんげ)な表情を崩す。思ったよりいい奴なのかもしれない。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「こ……、これは!?」

 

「アフリカで見つかった石板だ。表面に異形の生き物を形どっている」

 

「キリィ、これは魔物……だよな?」

 

「うん」

 

 

 親父達が見せてくれたのは俺が何とか抱えられるか、といった大きさの石板。

 

 そこには、頭の両脇に山羊の様な角を生やした獣が描かれている。まるで中世に伝えられていた悪魔のようだ。

 

 そして何よりも、その生き物が彫られた絵の下に書いてある文字。俺たちの持つ魔本に書かれていた文字と非常に似ていた。この描かれたものはキリカの言うように間違いなく魔物だろう。

 

 驚愕の顔を浮かべていた俺達(といっても一人は表面上はいつも通りだが)に向け、ダルタニアンが言葉をかけてくる。

 

 

「面白い事は他にもある。この石板、使われている材質が全く分からない。未知の鉱物、といって差し支えないだろう」

 

「未知の鉱物?」

 

「そう。そして、この石板が発見されたのは千年前の遺跡。当然、当時の技術力で我々の知らない新たな物質を作り出す事など不可能だ」

 

「千年前だって?!」

 

 

 ()()()()()行われる魔界の王を決める戦い。

 

 人間界に存在しない鉱物で出来た石板。つまりこの石板は千年前の戦いで生まれた可能性が高い。

 

 親父に目線を向けると、俺と同じ結論に至っているのか深く頷く。

 

 

「私と教授(プロフェッサー)ダルタニアンは引き続き研究を続ける。清磨、後でこの写真を渡すから私の研究室に来てくれ」

 

「わかった」

 

「君達も触って確かめてみるといい。表面の硬度はダイヤモンド以上で、酸化も腐食もしない事がわかっている。安心したまえ」

 

「じゃあ、さっそく」

 

 

 ダルタニアンの言葉にすぐさま反応し、石板に近寄るキリカ。

 

 彼女がここまで俊敏に行動するのは非常に珍しい。表情はいつもと変わらないが、興味津々だったのだろう。石板の表面や脇、裏側などを確かめる様に触っている。

 

 玩具に興味を惹かれた年相応の子供の様な行動に、俺は微笑を浮かべそれを見ていた。

 

 

 俺も確かめてみようと石板に近づこうとした瞬間。何かに気づいた元就が慌てて背中のリュックから何かを取り出す。

 

 取り出したのはキリカの桜色の魔本。その魔本は今、淡いピンク色の光を放っていた。

 

 

「キ、キリィ! これは一体!?」

 

「ん、大丈夫」

 

「……フム、やはり魔界の王を決める戦いに関係するもので間違いないようだな」

 

 

 元就は焦っていて気付いていないようだが、魔物の本の持ち主(パートナー)である俺にはわかる。あれは危険な光ではない。

 

 そう、あれは《呪文が発動出来る準備が整った時に》発する光だ。

 

 親父も俺が焦ってないのに気付いてか、冷静に分析を行っている。ダルタニアンは俺達の会話に疑問を挟まず、場を静観していた。ヤツに構っている暇はないので、正直ありがたい。

 

 

 キリカが本から手を離すと、桜色の魔本が放っていた光も収まる。

 

 

「元就。本に何か変わった所はあるか? 呪文が増えたりとか」

 

「いや、特にないみたいだ。キリィ、体調は悪くなってないか?」

 

無問題(もーまんたい)

 

 

 

 ─────それから俺達が色々試してみたが、他には何も収穫はなかった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ─────「それで親父、何の話だ?」

 

 

 キリカと別れ、俺は親父に言葉を促す。

 

 石板の写真を渡す為というのは口実だ。本当は俺を呼びつけた時点で用意してある筈、そうでなければ日本にいるおふくろの所に郵送してくればいい。「話がある」と言わなかったのは、キリカや元就に気を使っての事だろう。

 

 という事はその話題は─────

 

 

「あぁ、清磨が話していた彼女の事だ。あの様子だと、少なくとも表面上は問題ないようだな」

 

 

 そう、俺は親父にキリカの事を手紙で伝えてあった。

 

 キリカが抱える問題は、いわば社会の闇そのものだ。いくら天才と呼ばれていようが、いち中学生の俺には手が余ってしまう。

 

 社会の問題であるならば、頼れるのは大人の存在だ。そう思い、俺は親父に彼女の事を相談することにしていた。

 

 

「実は清磨。お前が今日、ここに来る前に本の持ち主(パートナー)である元就君と話をさせて貰った。とはいっても世間話程度だがな。彼は誠実で真面目な一般人だ、彼女の事を大切に思ってもいる。お前の言う通り、状況は良い方向に進んでいる事は間違いないだろう」

 

「……そうか」

 

 

 親父の言う通り、キリカは最初に会った時と比べて見違えるようになった。

 

 元就と心配していた【ガッシュに対しての依存】だが、最近ではほとんど見られない。

 

 日本にいた頃は、頻繁に俺達の住むモチノキ町へ向かっていたようだが先日イギリスの森へガッシュ達といった時は、手足の怪我を差し引いても特にガッシュが離れている事を気にする様子は見られなかったらしい。

 

 今日もガッシュが離れている事を気にした様子もなく石板に興味を惹かれていた。

 

 

「先日、話してもらったホーバークキャッスルで出現した黒龍。魔物、呪文については門外漢である為、確証は持てないが……恵くん達が感じた激しい憎悪といった事から、私は彼女の精神が正常に戻ろうとした為に起きた反動ではないかと考えている」

 

「反動、か」

 

 

 キリカは自分の事を道具だと思いこまされて育ってきた。

 

 ガッシュや元就の尽力で今、その呪縛が解けつつある。その事自体はとても喜ばしい事だ。

 

 だが、その為に『自分は道具であると思い込まされてきた』怒り、悲しみ、そういった負の感情を制御しきれず呪文に悪影響を与えたのではないか。というのが親父の建てた仮説だ。

 

 キリカ自身がいってた言葉が心の内に反芻される……

 

 

《「あれは、私の、せい」》

 

 

《「ガッシュの呪文。私が使うと、変わってしまう」》

 

 

 

 事実を淡々と告げるキリカ。俺にはそんな彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿に見えた。

 

 

 昨日も、偶然キャンチョメと一緒にいるキリカと合った。

 

 その時キャンチョメは、フォルゴレの映画を見せたりCDを聞かせようとしたり、とアイツなりにキリカを楽しませようとしていた。

 

 

 

 ─────だが、キリカは一切無反応。

 

 ガッシュと元就がキャンチョメの策に載り(ガッシュは普通に楽しんでいただけかもしれないが)映画を鑑賞していたが、キリカの瞳はまっすぐ俺を見ていただけ。

 

 

 

 

 まるで自分はあの世界に入ってはいけないのだと戒める様に…………

 

 

 

 

 

「……親父。俺は一体、どうすれば()()の力になれるんだ?」

 

「考えすぎるな、清磨。お前は十分、彼女の助けになっている。今はただ、彼女の味方でいればいいんだ」

 

「味方、か」

 

「あぁ。勿論だが魔界の王を決める戦いで、という意味ではないぞ。そっちは元就君に任せて、お前はガッシュと向き合っていくんだ」

 

「わかった。ありがとう、親父」

 

「フフ、ようやく父親らしい事が出来たな。何かあったらすぐに連絡して来い」

 

「あぁ!」

 

 

 

 昨日、病院にいる子供たちの為にコンサートを行ったフォルゴレの姿を見た時の様な元気が再び湧いて来る気がした。

 

 

 

 ─────そういえば、あのコンサートを見ていた時のキリカも僅かに笑っていた気がする。

 

 そうだ、キリカの問題は俺一人でどうこう出来る訳じゃない、でも決して無駄ではないんだ。

 

 魔界の王を決める戦いにおいては俺達はライバル同士、だけどキリカの問題に関しては俺たち全員が仲間なんだ。

 

 

 

 

 

「おい、ガッシュ! いつまで《犬》と遊んでいるんだ。もう帰るぞ!!」

 

「……ウヌ? おぉ、やっと終わったのか。待ちくたびれたぞ、清磨」

 

「メル?!」

 

「ではさらばなのだ。お主も自分の家に帰るとよいのだぞ」

 

「メ、メルメルメ~~~~!!?」

 

 

 

 俺達は明日日本に帰る。

 

 元就達はキリカの希望で、近々()()()()()向かうらしい。

 

 俺達の向かう先は違う、だけど俺達の心は同じ筈だ。

 

 より良い王、より良い魔界、そして…………、皆のより良い未来の為に

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 はい、皆さまおはようございまーす。

 もうすぐイギリスの地をオサラバする事になる大人気魔物キリィちゃんです。

 

 

 というのも、本日行われるイベントを終えればこのイギリスで起こる原作イベントは全て終了。ここに残る意味はありません。

 そして、日本へ戻ろうか。とも考えたのですが、いい感じにチャート短縮が進んでいるので(撮れ高の為に)いっちょ冒険してみたいと思います。

 

 次に現れる魔物はロップス。彼は直接攻撃ではなく搦め手の呪文を得意とする傾向にあります。ヨポポの呪文は破壊力ばつぐんですが、どれも直接攻撃呪文。まともにかち合えば完封されかねない強敵です。

 

 その為に、多少危険は伴いますが《強力な呪文》を探しアマゾンへ『ほもくん、探検隊』が向かいます。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「こ……、これは!?」

 

「アフリカで見つかった石板だ。表面に異形の生き物を形どっている」

 

 

 では、イギリス最後のイベントをちゃっちゃと終わらせましょう。(投げやり)

 ここで見つかるのは《千年前の魔物》の石板。とある理由から、魔本と一緒に魔物が石化したものです。世界各地にはこれが40個くらいあるらしいですね。

 

 では早速、フラグを立てるために石板にとっとこキリ太郎が向かいます。

 へけっ(タッチ音)

 

 

「キ、キリィ! これは一体!?」

 

 

 はい、魔本が光って意外と小心者なほもくんが騒ぎ出します。(唐突なSAGE)

 

 この石板は魔本が魔物と一緒に石となっています。《魔本に触れたら発動可能》な呪文を持つキリィちゃんが触ったら、こうなるのは当然ですよね? 

 

 因みにこの状態で《ピルク》を唱えた場合、何とキリィちゃんは千年前の魔物の呪文を使う事が可能です。

 ただし! この石板はいわゆる【封印状態】とされていますので、複製(コピー)しても使えるのは最低限である第一の呪文だけです。この魔物だと使えるのは《ゼモルク》かな? 

 当然ヨポポの呪文には遠く及びませんのでノーセンキュー。ほもくんにも声掛けして呪文を唱えないようにします。

 

 

 

 その後、何も進展がない石板解析が終わり「君達、もう帰っていいよ」と職質を受けた気分で帰宅します。

 清磨はパッパとお話があるようなのでパッパと置いていきます。(久々の激ウマギャグ)

 

 そして帰る際は()()()()帰りましょうね。

 表門から帰ろうとすると、そこでワンコロバ(ウマ)と遊んでいるガッシュ君と鉢合わせします。

 まだ我等は(まみ)える時ではない、と世紀末覇者の様な口ぶりで逃げ帰りましょう。

 

 

「キリィ、次の行先はアマゾンでいいんだな」

 

「うん。敵、いる」

 

 

 よーし、準備は整った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ってろよ、ブラゴ──────────!!!!! 

 

 

 

 




 

 本来、1シーンで簡単に終わらせる筈でしたが前回ノリで張った伏線を回収したら一話丸々使う事になりました。
 その場のノリって怖いね!


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33.シェリーの親友

 祝20万UA!! 皆様本当にありがとうございます

「どうしたらもっと上手く書けるのか」と悩みぬいた結果、一つの結論へ
→「悩んでたら筆が進まんわ」


 

 

 

 

 ─────私にはかけがえのない親友がいる。

 

 

《「シェリー。私は平気よ、“お前が盗んだだろ”って言いがかりを受けて突き飛ばされただけだから」》

 

 

 10年もの時を励ましあいながら、支えあいながら生きてきた。

 

 

《「“貧乏な奴は信用できない”って追い出されちゃった。また仕事探さなきゃ」》

 

 

 だけどあの子を取り巻く環境は、決してやさしくはなかった。

 

 

《「確かに私の家は貧乏だけど、生活できない程おちぶれてないのにね……」》

 

 

 でもあの子は強かった。くじけず、ヤケにならず、ひたすら努力に努力を重ねた。

 

 

《「シェリー。絶対に二人一緒に幸せになろうね」》

 

 

 あの子のおかげで今の私がいる。あの子と一緒に私は幸せになる。それが目前だったのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《「悪いね、ミス・シェリー。これも魔界の王になる為に必要な事なんだ」》

 

 

 

「シェリー、何を呆けている。お前の言う通り食糧を捕って来たぞ」

 

「……ッ。ブラゴ」

 

 

 私を呼ぶ声で正気を取り戻す。

 

 いけない、少し意識を失っていたみたい。これから敵との闘いがあるのだから、気を引き締めないと

 

 

「あぁ、ごめんなさい。少し考えて事を……って何よコレ!?」

 

「どうした、お前が適当な獲物を狩ってこいと言ったんだろう」

 

「私は魚を捕ってきてって頼んだのよ! 何でワニなのよ!!?」

 

「オレに牙を向けたコイツが悪い。それに小魚共では腹は膨れん。コイツは雑魚だが喰い応えだけはあるからな」

 

「はぁ……わかったわ、我慢してあげる。これ以上休みを延ばしたら敵に逃げられるわ。火を起こさないといけないわね……」

 

「生の方が力がつくと言ってるだろ、馬鹿が」

 

 

 

 私と魔物のブラゴは、敵の魔物を追いかけブラジルのアマゾン川へとやってきていた。

 

 これまで順調に魔物の数を減らす事が出来たが、今回の敵は逃げ足が早いらしい。もう3日も寝ずに追い続けているのに、未だその姿を捉える事が出来ない。ブラゴの感知能力で追っているが、このままでは逃げられてしまう危険もあった。

 

 だけど決して逃がさない。私は一刻も早く、この戦いを終わらせる。そして…………、親友を救ってみせる。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

ア──マ───ゾ─────ン!! 

 

 

 はい、大空に名前を聞かれた美少女魔物キリィちゃんです。

 

 やってきましたブラジル、ここはアマゾン川周辺の密林ですね。日本へ帰る清磨達と別れ、久々のほもくんとの二人旅。恵さんは仕事があるのでいつの間にかいなくなったようです。

 

 ここで狙うのは樹木の魔物『ポッケリオ』……ですが、コイツはついでです。本命はそれを3日3晩追いかけまわしているブラゴ達ですね。

 しかし彼の魔本を燃やす訳ではありません。彼も原作ルートにおいて重要な魔物。今回は彼の呪文を《ピルク》で借りパクするのが目的です。ダメダメ、ここで脱落するなんてお父さん認めませんよ。

 

 ですが原作ルートを進んでいった場合、ブラゴとは最後の最後であるクリアとの戦いまで会う機会がなくその出会いもランダム要素があります。それまでのチャート進行によってはその前に、クリアによって倒されてしまいシナリオ間一度も会えないパティーンもあります。

 ですが、彼は【金色のガッシュ!!】を代表する魔物の一人。一度は必ず会っておきたいんですよね。(欲張り思考)

 

 まぁ本来であればブラゴ達は一度でもエンカウントし、本の持ち主(パートナー)であるシェリーに顔を覚えられたが最後、青い鬼さんも真っ青になるストーキング能力を持って追い続けてきます。ポッケリオ君を今も追いかけまわしているのがその証拠ですね。

 ですので以前お話ししたかと思いますが、ブラゴ達とのエンカウントは基本禁じ手です。しかし、今の彼女は不眠不休で歩き続けたせいで意識朦朧としており、よほど目立たない限り目をつけられる事はありません。おねむの今だけがチャンスという事です。狙っていきましょう。

 なお、このアマゾンでの戦いを最後にシェリーがへばる事は無くなります。自分の限界を知ったのかもしれませんが、今後の戦いにおいての彼女の身体能力は今と比べ物にならない程上昇するので、逆境を乗り越えスーパーシェリー人に進化したとする説が有力です。

 

 

 では捜索パートに移ります。肝心のブラゴの居場所ですが、アマゾン川は広大です。『魔力感知Lv2』を使おうとしても大まかな範囲がわからなければ追えませんし、逆にブラゴに捕捉されかねません……が、その心配は無用です。

 実はブラゴはガッシュ君にも負けない大食いです。自身の背丈の二倍もするワニ一頭を一食で軽く食べつくしてしまう程。

 ガッシュ君はブリ以外、そこまで大食いしませんがブラゴはそんなの知ったこっちゃねぇ! と(ひと)りでエンゲル係数を高め続けます。《孤高の魔物》ってそういう意味なの? 

 

 そんな訳で魔物を追いながらの彼等は食料を持ってきていないので、現地で食料を漁り続けます。

 アマゾン川付近を調査すると大量の動物の骨が残っている場所がすぐに見つかります。ブラゴは獣肉好きなので食事をした場所には、高確率で骨が残ったままになっているんですね。

 

 

「キリィ、これを追っていくんだな」

 

 

 いえす、ほもくん! 

 手当たり次第に狩猟され、アマゾン川の動物たちの叫びが聞こえてくる気がしますよ。さっさと行くよ、ほもくん! 

 

 

「……! あぁ、わかった」

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

「大人しく本を渡しなさい! 渡さないなら力づくで奪い取ります!!」

 

「い、嫌だ。僕はこの力でお金持ちになったんだ。もっともっとお金を稼ぐんだ──!!!」

 

 

 はい、発見しました。これから戦闘が始まる所ですね。

 シェリーの追い立て方がうまかったのか、隠れる場所の少ない開けた場所にいますね。ブラゴの感知から逃れる為、数十m離れてみています。因みに今のセリフですが、お互い目の前にいるのに周囲にモロ聞こえする声量で喋っていたので余裕で聞き取れました。まぁ解放感ある場所だからね、仕方ないね。

 

 さて、シェリーに向きあい涙を流しながらガタガタと震えている現地人の少年が、ポッケリオの本の持ち主(パートナー)『ベリコ』です。3日間も追いかけられてるのに、まだ震えてるのはすごいですね。恐怖という物には鮮度があるんですよ? 

 それはともかく戦闘が始まりますが、今回キリィちゃんの介入タイミングがかなりシビアです。下手すると、キリィちゃんの危険が危ない! 

 

 その理由として、まずこちらをご覧ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

【シェリー】▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯

 

 

 どこかスピリッツを感じる見た目かもしれませんが、これはシェリー攻略の為、有志が作り出した外部ツールです。あくまでマスクデータを可視化するだけのものなので、公式も暗黙の了解を示してくれているみたいです。今チャートではギリギリグレーゾーンですが、ツールなしだと難易度も桁違いですし、皆様への説明もやりにくいので入れる事にしました。今回だけだから許して(はぁと)

 

 

「《ジュロン》!」「《グラビレイ》!」

 

 

 おぉ懐かしい、スギナが使っていた根っこを操る呪文です。でもブラゴの重力波で根っこが押しつぶされて無効化されてるわ。悲しみ

 

 

「《レイス》!」

 

「うわぁぁあああああ!!」

 

「……力の差は歴然ね。早く本を渡しなさい」

 

 

 

 

 

 

【シェリー】▮▮▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯ピッ

 

 

 無駄な抵抗にイラッ☆彡、としたのかゲージが少し上がりました。

 はい、これがシェリーの【怒りゲージ】です。ダメージを受けたり等の条件で上昇していき、ゲージがマックスになると《怒り頂点》の状態となり、数十秒ほど彼女の放つ呪文が強力になります。

 そしてこの《怒り頂点》状態の呪文は《防御呪文貫通》《防御無視》《回避不可》の追加効果が付与されているので、広範囲殲滅呪文に巻き込まれたらキリィちゃんは敗退してしまいます。ほんま迷惑なやっちゃで

 

 

「《バルジュロン》!」

 

「木々が兵士の様に……こんな呪文を?!」

 

「頼んだぞ、木の戦士。《ジュルク》!」

 

「チッ、茂みを作り出してまた隠れるつもりか!!」

 

 

 

 

 

 

 

【シェリー】▮▮▮▮▮▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯ピピピッ

 

 

 まだゲージが上昇しました、逃げ戦法は鬱陶しいからシカタナイネ。

 なおキリィちゃん達がいつ乱入するかというと、ゲージが溜まりきった直後です。《怒り頂点》状態の呪文は辺り一帯が か い め つ となりますので、何としても妨害しましょう

 あっ、シェリーが不眠不休の反動で倒れましたね。木の戦士達によりボッコボコになってますが、ブラゴが素手で応戦している為たいしたダメージは与えていません。

 

 

「ア……? …………ハハッ、ハハハハ。元気がないな、女の方。慣れない密林でヘバったのか?」

 

「チッ、肝心な時に……。《ギガノレイス》さえ使えればこんな雑魚諸共吹き飛ばせるものを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【シェリー】▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▯▯▯ピピピピピッ

 

 

 木の戦士に四方八方から囲まれブラゴでは防ぎきれません。ですが彼女には大したダメージにはならず、ゲージだけが上昇し続けています。今頃彼女の脳内ではアドレナリンが出まくっており「ヤローテメーぶっころす!」といった殺意を高めるイメージが組み立てられている事でしょう。

 

 ここで余談となりますが、シェリーは幼少期、労働基準法も真っ青の虐待同然の教育を受け続けていた過去があります。

 そんな苦境を乗り越え、立派な豪傑(ドM)へと成長した彼女にはこんな痛みなんのその。将来的には魔物相手にこん棒(フレイル)片手に殴りかかるアマゾネスへと順調に進化していきます。

 シェリー母は一体、彼女を何に育てる気だったんですかねぇ? 

 

 また精神面においても隙はありません。彼女を幼少期の自殺から救った親友、ココが魔物に操られ強制的に戦いに参加させられた事で「絶対にこの戦い許さねえ! ドン・サウザンドオオオオオオ!!」と強靭な心を持ち、親友を救い出すまで決して折られる事はありません。何、この完璧超人。

 

 

「チッ、せめて奴等の隠れている場所が見つかれば」

 

「いいわ……敵が……見えなくても……、全て潰しましょう」

 

「何!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【シェリー】▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮▮ピピー(警告音)

 

 おっ、倒れ伏したシェリーが立ち上がると共に《怒り頂点》状態へと変わりました。狩り(ハント)モードの始まりです。何か虚空に向かって叫びながら本を構える姿には狂気を感じます。このままキリィちゃんごと重力波に圧し潰されるわけにはいきません。

 いいや! 限界だ(呪文を)唱えるね! 

 

 

「元就」

 

「あぁ、わかった! 行くよ、キリィ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────10年前、私はいつも考えていた。

 

 

《本気でやりなさい! 何を今まで学んでいたの!》

 

 ─────私が生まれてきたのは間違いだった

 

 

《もう十分です! まるで才能がないのね》

 

 ─────私が生まれたから家族や教師が怒っている

 

 

《言われた通りにさえ出来ないのか? この能無しが!!》

 

 ─────私には家の期待に応える事なんて出来ない

 

 

《なんであなたみたいな子、生まれてきたのよ!!》

 

 ─────こんなに苦しいのは、生きていてはいけないからだ。もう死ぬしかなかった

 

 

 

 

 

 

《シェリー。苦しいのは私も、皆も一緒よ。あなた一人だけじゃない》

 

 

 ─────たった一人の親友がそれを否定してくれなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

「……魔界の王を決める戦い? それに参加させる為だけにココの心を支配したというの!?」

 

 

 ─────始まりは数か月前。ココの幸せの第一歩、希望大学への推薦が決まり祝福に訪れた私が見た悲惨な光景。

 

 気絶し倒れ伏す人々、炎に包まれた町。そして……それを笑顔で見上げる親友。

 

 ココの記憶を読み取ったのか、彼女と共に私の前に現れた魔物『ゾフィス』によって、全ての事態は引き起こされていた。

 

 

 

「その通りさ。僕は王にならなければいけないが、本の持ち主(パートナー)であるココは戦いを望まなくてね。心を()()()()開放する必要があったのさ」

 

「少しだけ、ですって?」

 

 

「そうよ、シェリー……私、この力があれば何でもできる。町の皆に罰を与える事も出来るし、奴等の財産を奪えばもう貧乏にだってならないわ」

 

「ココ……、あなた」

 

「私、この力を失いたくないの。だから邪魔するなら……シェリー、あなたも倒すわ」

 

 

 魔物(ゾフィス)の手に火球が生まれる。私は溢れ出る涙を止める事が出来ない。どうして、どうしてこんな事に……

 

 

「さようなら……、シェリー。《ラドム》!」

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 ……ココ、あなたが私に生きる意味を教えてくれた。

 

 苦しい時も、悲しい時も、目の前が真っ暗なトンネルのような時もある。

 

 でも生きていれば、きっといつか出口にたどり着く。幸せを掴む事が出来る。

 

 それも全部ココ、あなたが教えてくれた事。

 

 

 

 だから、私は負けない、折れない、諦めない。

 

 魔物なんかに、戦いなんかに私達の幸せは奪わせはしない。

 

 

「そうでしょ、ココ!! あなたを置いて私一人幸せにはならない。あなたがいないと私は幸せにはなれないのよっ!!!」

 

 

 体の痛みも、疲れによる苦しみも、あの時の悲しみもすべてを踏み越えるように、私は両足を支え立ち上がる。

 

 私の黒い魔本は今までとは比べ物にならない程の輝きを放っている。この一撃で全て終わらせて見せる……!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《アイアン・グラビ……!!》」

 

「《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》!」

code(コード)、《ソラジオ・ファ・ドレミケル》」

 

 

 私が呪文を発動しようとした瞬間。予想だにしていない方向から呪文を唱える声が聞こえた。

 

 反射的に私は声を止め、その方向へと振り返る。そこには……

 

 

 

「…………綺麗」

 

 

 神々しさすら感じられそうな清廉な女神が、穏やかな音色を奏でていた。その女神は私たちの遥か頭上を通過し、木の魔物が潜伏しているであろう付近へと突進していく。

 

 

 

「何!? なんだあれ……ハギャッ!!」「ギギッ!!?」

 

 

 敵の魔物が女神に飲み込まれていくが、ある事に気付いた私にはそれを気にする余裕はない。頬を伝う滂沱の涙が、視界全てを塞いでいた。

 

 

「この……メロディは……」

 

 

 女神が奏でていた曲……、それはココと出会ってから迎えた誕生日パーティで、彼女がこっそり練習して演奏してくれた曲だった。

 

 

《「誕生日おめでとう、シェリー。ごめんね、こんなものしか贈れなくて」》

 

《「何をいってるの、ココ。最高のプレゼントよ、本当にありがとう!」》

 

《「フフ、どういたしまして。こんなものでよかったら、毎年弾いてあげるわね」》

 

 

 それから毎年、決まって同じ曲を誕生日には私の家で弾いてくれた。はっきり言って演奏技術は拙い、でもそんな事が気にならない程に、あのメロディには彼女のやさしさが詰まっていた。

 

 魔物に操られたココが町を去ってから、一度として感じていなかった幸福感。

 

 彼女のやさしさに包まれたかのような心地は、限界をとうに超えていた私の体に深く染み込み、意識を安らかな世界へと簡単に連れて行った……。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 うわぁぁぁぁん、危なかったもぉぉぉぉん! 

 

 ブラゴの呪文が発動する直前に割り込んで発動させたのは、複製(コピー)したヨポポの最強呪文《ソラジオ・ファ・ドレミケル》です。

 この呪文、実は奏でるメロディをある程度自由にできる機能があり、設定した曲によってはキャラの好感度を若干上げる事が出来ます。シェリーには「ココとの思い出の曲」が該当するので、戦闘中にも関わらず好感度を上げられるのはうま味ですね。

 

 そしてシェリーは音楽に癒され気絶しました。体力の限界をとうに迎えているので当然ですね。

 彼女はダメージをいくら与えてもゾンビのように立ち上がる上、《怒り頂点》状態へと変化するヤバいキャラです。ですが、その反面【優しさ・癒し】関係の呪文を受けると今回の様に( ˘ω˘)スヤァ、となります。癒し関係に弱いとか不死属性でもついてるんでしょうか? 

 

 

 さて、そんな北風と太陽ばりの変わり身を見せたシェリーの意識を失った体は《暗殺術》スキルをフル活用したほもくんが、瞬歩でキャッチです。キリィちゃんもすぐ近づきましょう。ほもくん、ハリーハリー!! 

 

 

「わ、わかった。《ピルク》」

 

 

 よし、呪文を唱えた事で『複製(コピー)』が始まります。USBメモリにデータ移行するようなものなので、若干時間がかかりますね。チャージ開始! 

 

 

 

「ジェァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 おィィィ!! ブラゴが殴り掛かってきました。

「チャージなどさせるものか」と言わんばかりの殴打です。仕方ないので、本から手を放して迎撃キリィちゃんパンチで応戦しましょう。拳でぶつかる度に衝撃波が起き、周囲の木々が揺らぎます。ド〇ゴン〇ールかな? 

 

 この戦闘は耐久戦です。一定値以上の《筋力》があれば、呪文なしでもいけるので楽勝ですね。

 ほもくんにその間シェリーを介抱して貰い、一向に本を燃やさないブラゴが気づき、見逃(しょうがないにゃあ)してくれます。ただしブラゴは【強者】でないと見逃してくれないので、その前に倒されてしまうとGame Over(ガメオベラ)となるので注意しましょう。

 

 

 ─────はい。ブラゴが攻撃を止め「次は俺が勝つ」宣言し、シェリーを背負い立ち去りました。

 いやー、ブラゴの筋力値やばいっすね。キリィちゃんは終始押されっぱなしでした。でも、何とか目標達成です。撮れ高も入ったので日本に帰る事にしましょう。

 

 

 

 俺達の戦いはこれからだ!! 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ─────「……ブラゴ」

 

「気付いたか。黙ってろ、もうすぐ町に着く。……これしきの事で倒れやがって」

 

 

 意識を取り戻した私は、ブラゴに背負われていた事に気づく。彼は毒を吐きつつも、上着を私にかけ私に負担をかけない速度で歩く。

 

 最初から彼はそうだった。横暴で、横柄で、我儘で……いつも私を守ってくれる。

 

 ココと最後に出会い呪文を向けられたあの時、火球から私を守ってくれたのがブラゴとのはじめての出会いだった。

 

 魔物によってココの幸せは阻まれた。でも魔物によって私は守られた。

 

 

 

 私が倒れたあの後、少しだけ意識を取り戻した時─────僅かではあるが乱入してきた魔物の本の持ち主(パートナー)と話が出来た。

 

 

《「何で……、ここに」》

 

《「キリィが気付いたんだ。 言ってたよ、「君の叫びが聞こえる気がする」ってね」》

 

 

 

 私はココの幸せを奪った魔物を絶対に許さない。

 

 アイツ(ゾフィス)を必ず見つけ出す、そして大切なものを取り戻すと渇望している自分がいる。でも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(また……会えるかしら)

 

 

 私が興味を惹かれたその子に会いたいと願う気持ちは、それとは少し違う気がした。

 

 

 

 

 ────────────────【ポッケリオ 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 

 

 




 

先日余談で話した《ここ好き》機能。
書いた後、多くの方が活用して戴きました。誠にありがとうございます、モチベがぐーんと上昇しました。


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34.彼女の胸中

(視聴者が)待ちに待った時が来たのだ! 
 多くの書き直しが無駄でなかったことの証の為に……
 再び走者の理想を掲げる為に! 
 完走成就のために! 



 

 

 

 

モチノキ町よ! 私は帰ってきた!! 

 

 

 

 

 

 はい、皆さんおはようございまーす。

 ブラゴに「えいっえいっ、怒った?」とやったら、痛烈な腹パンが返ってきた美少女魔物キリィちゃんです。

 

 女の(まもの)に腹パンとか外道ですね。まぁキリィちゃんは腰を深く落とし、真っ直ぐに相手を突いたのでパンチを迎撃出来ましたが。周囲の木々が風圧でなぎ倒されたのはご愛敬。

 

 ですが奮闘の甲斐もあり、ブラゴの呪文は無事複製(コピー)完了です。これで次なる刺客に対する備えは万全となりました、早速チャートを進めていきましょう。

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 はい、到着! 久々の清磨の自宅です。

 キリィちゃん達がアマゾン.comへ行っている間に夏休みも終わりました。新学期が始まっていますが、今日は休日なので清磨達もいる事でしょう。

 いそのー、野球しようぜー! 

 

 

「あぁ、キリカ。元就もか。よく来たな」

 

 

 清磨の家に侵入しようとした所、玄関前で日曜大工に勤しんでいる清磨と遭遇しました。

 ノコギリで角材を切っている姿が似合っていますね。どうやら水面下でのイベントは順調に進んでいたようです。

 

 

「何やってるんだ、清磨?」

 

「あぁ、家で犬を飼う事になってな。犬小屋を作ってたんだ」

 

「犬? でも、そこの立て札に書いてある名前にはウマって……」

 

「犬だ。もうすぐガッシュが散歩から帰ってくると思うんだが……」

 

 

 

 

 

「ヌオォォォォォ─────! 止まるのだ─────!!」

「メルメルメルメルメルメルメルメェ─────!!」

 

 

 

 

 二人が門の前で話をしていると、遠くからガッシュ君の声が聞こえてきましたね。ナイスタイミング、非常にツイています。

 これは清磨が犬(?)を飼い始めてから、一定期間後に発生する【門破壊イベント】です。

 犬(不明)に跨りこちらに突っ込んでくるガッシュ君を止めなかった場合、家の門を破壊してしまいます。これを止める事により、清磨に発生するイベントフラグを叩き折ると共に、好感度を上げる事ができるんですね。

 清磨・ガッシュの好感度は既に最高値なので後者の効果は意味がありませんが、後のイベントに乱入されないよう受け止めましょうね~。

 

 

 これが普通のヒロインならば両手を広げガッシュ君達を受け止め、ToLoveるな事になるのかもしれませんが、そこは森林の導き手(ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)であるキリィちゃんです。

 迫りくる暴走(ウマゴン)を片手で止めました。『身体操術』の効果もあり余裕ですね。これが、『(ケン)』を極めし者よ! 

 

 ただし騎手であるガッシュ君は、そのまま放り投げだされ清磨と脳天同士の熱いキッスをかましました。お熱い事です。(摩擦熱的な意味で)

 

 

「ウ、ウヌゥ……。キリカ、助かったのだ」

 

「大丈夫か、ガッシュ? 後、あんまり助かってないと思うぞ」

 

「ウヌ? どうしたのだ、元就。私の後ろを指さし……て」

 

 

 

 

 

 

 

「ガ~~~~~~~ッシュ~~~」

 

 

 

 

 清磨が般若の顔になり、ガッシュに襲い掛かっています。おぉカオスカオス(元凶)

 とまぁ、そんなコントはおいておきまして……今回の訪問の目的である犬、もとい仔馬の魔物である『ウマゴン(命名:清磨)』に話しかける事にします。

 

 

「メル?」

 

 

 羊の様な鳴き声をし、コーギーより一回り大きいかどうかという小さなお馬さんですが、その膂力や脚力はすさまじくガッシュパーティを終盤まで支える重要な遊撃要員です。

 原作ルートを通るにあたって、是非とも仲良くなっておきたい魔物。満面の笑みで話しかけます。(キリィちゃん基準)

 

 

「……メ?! メ、メル……」

 

 

 おっと、こちらを見て少し怯えていますね。

 キリィちゃんは『能面』による無表情ですが、心の中は満面の笑みです。諦めずに、目線を合わせ手を差し出しましょう。

 ほら、こわくないよ~

 

 

 

「メ、メル……メル…………メルゥ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガブゥ!!」

 

 

「ヌ? ヌアアアアアアアアアア!! キリカが、手首ごとウマゴンに嚙まれているのだ!!」

 

「おい、何してんだウマゴン! 離せって!」

 

「大丈夫かキリィ!!」

 

 

 はい、見事に噛まれました。

 手をまるごと飲み込むように嚙みついたウマゴンを無表情で見つめるキリィちゃんと、周囲の喧騒の寒暖差が激しいですね。

 ウマゴンはガッシュの本の持ち主(パートナー)である清磨にのみ塩対応ですが、それ以外の人物には非常に温厚で優しい魔物です。故に、ウマゴンが拒絶した事に驚いているんでしょうね。

 

 

 実はこの結果は、予想通りです。

 キリィちゃんの持つスキルに『高位の一族』がありますが、このスキルを習得している魔物は一部、動物系魔物の好感度がマイナススタートになるという隠れ補正があるそうです。

 けものはいても、のけものはいない。ただしけんりょく、テメーはダメだ。

 

 

 という事で好感度マイナスによるウマゴンの塩対応です。

 まぁ嫌われるとわかってはいても、重要ポジションである彼との邂逅は原作ルート的に絶対必要ですからね。 他のイベントが始まる前に、ささっとイベントをこなしました。

 

 幸い、一緒にいる清磨&ガッシュ君の好感度が高いので、出会いイベントさえこなせば、今後ウマゴンの好感度は二人に引っ張られて上がっていきます。

 放置する事で彼の好感度を育てていきましょう、ふたりはとってもなかよしみたい。

 

 

 好感度マイナスの相手に対しては、こちらが何かアクションすると逆効果で、悪く取られ好感度が下がる場合がほとんどです。

 ウマゴンの「かみつく」から逃れたキリィちゃんですが、何も語らずに帰りましょう。これを状況の丸投げと言います。

 

 キリィちゃんのお手てに噛み跡がついてしまいましたが、これはコラテラルダメージです。キリカワゴンはクールに去るぜぇ……

 

 

 

「ま、待ってくれ! キリィ!!」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「キリィ、どうしたんだ。急にこんな所まで」

 

 

 はい、清磨達の家から離れ商店街近くへとやってきました。

 ほもくんも何故ここに来たのかわからないという顔をしています。自宅からも駅からも離れてるからね。

 

 

 ここは一言「魔物の反応を見つけた」と言っておけば、イエスマンのほもくんは一瞬で納得します。チョロすぎぃ! 

 おっ、見つけました。マントを羽織ったいかにも旅人、という出で立ちの金髪イケメンです。

 

 

 

「キリィ、あっちに何か……!! 危なぃっ!」

 

 

 おっと、子供が赤信号にも関わらず道路に飛び出しました。そして運悪く乗用車が来ています。

 助かるのはメタ的にわかっていますが、危機に何もしないと《善》の本の持ち主(パートナー)であるほもくんの好感度が下がってしまいます。ここは形だけでも助けるスタイルをとるのがベストです。

 

 

「元就」「《ピルク・グラビ……」

「《リグロン》!」

 

 

 はい、助かりました。

 車に複数のフック付ロープが引っ掛かり持ち上げる事で、子供の上空を飛び越え着地しました。

 精密な呪文精度、これだけで使い手の練度の高さが伺えます。

 

 

「あれは……魔物の呪文?」

 

 

 ほもくんが呆気に取られています。

 原作でこの場に本来いた清磨ならば、本の持ち主(パートナー)の姿を即座に探し見失わない様にロックオンしてましたが事故現場にいきなり直面して、そこまで注視するのは難しいですよね。むしろ、ほもくんの反応が普通です。

 

 

「あ……キリィ、大丈夫か?」

 

 

 ▽ ほもくんは正気に戻った。

 

 ほもくんが呆けている間に、子供を助けた本の持ち主(パートナー)の少年は立ち去ってしました。

 ですが、問題はありません。彼はモチノキ町内をランダムに歩き回りますが、目的地は決まっています。先回りしましょう。

 

 

 

 

 

 

 …………(少女移動中)

 

 

 

 

 

「おや。僕に何の用だい? どうやら問答無用という訳でもないようだね」

「かう~~」

 

 

 モチノキ公園入口で待ち伏せした結果。少年とその魔物が仲睦まじい様子でやってきました。

 彼が『アポロ』、世界を旅する自由人です。てんとう虫の見た目をした小動物が魔物の『ロップス』ですね。

 

 

「せっかくだから、少し話をしないか? こんな風に落ち着いて話が出来る機会なんて、滅多にないんだ」

 

 

 ほもくんが視線をキリィちゃんに向け、どうするのか目で聞いてますね。

 ここはアポロの提案に従いましょう。もし、無視して攻撃をしかけた場合「じゃあもうええわ」と逃げ出します。ゼオン並のステータスがなければ、捕まえる事は不可能です。

 

 

 

 

 公園の芝生の上で4人(3人と1匹?)が腰を下ろし向かい合っています。

 アポロのあまりに自然体な様子に戸惑うほもくん。この子は本当にも~、堂々としなさいって。(三者面談のお母さん感)

 

 

「まずは自己紹介だ。僕は『アポロ』、この子は魔物の『ロップス』。君たちは?」

 

「本堂元就、この子はキリィ……キリカ・イルだ」

 

「わかった。まず言っておこう、僕に戦う気はない。正直魔界の争いなんてどうでもいいのさ」

「かうかう~~~~~~~」

「この事を言うとロップスは怒るけどね。でも仕方ないさ、僕は世界を自由に旅したいだけで戦いには興味がないんだ」

 

 

 う~ん、癒されますねぇ。この二人。

 彼等は原作において、ガッシュ達と戦い絆を育んだ仲間の一人です。ロップスは《千年前の魔物》との戦いに入る前に敗れ、魔界に還ってしまいましたが、アポロはその後大富豪の御曹司として様々なバックアップを行ってくれます。

 最初に妨害した《門の破壊》イベントは彼等と出会う事が出来るフラグだったんですね。清磨の代わりにやって来た訳ですが、ここで出会わなくてもナゾナゾ博士経由で力は貸してくれますので問題はありません。

 

 

「君達は戦っているのかい? 何のために?」

 

 

 来ました。重要な質問です。

 ここで彼に魔界の王になってやるぜ! という信念を見せると、彼は興味を惹かれ一度戦ってみない? と言ってきます。今回のチャート進行の為には、彼から戦いを切り出して貰う必要があるので、ここは外せません。

 

 

 

 熱意や新年……もとい、信念といえば走者の得意分野です。

 

 今作を完結させて見せるという熱意をぶつけますよ。既に本作投稿数は30を超え数多くの方々から応援を頂いています。もう走者一人のものではありません。

 皆々様の期待を熱意に変えて、伝われこの思い! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ─────モチノキ町。ここはいい風が吹く町だ。

 

 

 空は青く、雲は白く流れている。

 

 何故、人には翼が生えていないのだろう? そうすればあの広い空に飛び立ち、気持ちの良い風をもっと受ける事が出来るというのに。

 

 

「かう~~~~~~~~」

 

「ハハハハハ、そっちに行ってみたいのかい?」

 

 

 肩に載っていたロップスが地面に降り、気ままに走り出す。

 

 視線をその先へ向けると、海や山、自然と共存するかのような趣のある街並みが見えてくる。

 

 

「本当に気持ちいい風だ、何かいい事が起こりそうだ」

 

 

 軽快なステップを見せながら走るロップスを眺めながら、僕も歩を進めることした。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 いつもの様に気ままに街を回る。目の前で車に轢かれそうになる子供を見つけ、呪文で助ける。これも日常茶飯事だ。

 

 ロップスの力は便利で、こういう時には役に立つ。ただ他の魔物にその姿を見られた場合、戦いを挑んでくる奴が多い。面倒は御免だ、僕は早々にその場を後にする。

 

 

 

 

 どうやら感覚の鋭い魔物の様だ。僕の行く先で待ち伏せをしていた。

 

 だけど、その姿に戦意は感じない。それならばと話をする事を提案する。快諾して貰えたようで何よりだ。

 

 

 本の持ち主(パートナー)は元就。目立った所はないが、嫌味のない誠実な雰囲気を感じる。

 

 魔物の方はキリカ。端正な顔立ちに表情を全く変えない黒髪の少女、だが僕はその内面に興味を惹かれた。

 

 彼女の内面からは何の感情も感じなかった。まるで知識と情報だけが詰め込まれているかのよう。清廉な大図書館を覗いているかのような、冷たさを感じられた。

 

 

 だからこそ気になって聞いてみた。氷の様な少女が、一体何を思いこの戦いに挑んでいるのか。

 

 

 

 

 

 

 ─────瞬間。

 

 場の空気が変わった気がした。

 

 目の前の少女から伝わる気迫、執着と言ってもいい程の熱意。様々な思いが彼女の内面を駆け巡っているように感じる。

 

 彼女の雰囲気に押され、無意識に後ずさってしまった僕に、彼女は一言。

 

 思いの全てを籠め言い放った。

 

 

 

「ガッシュの、そして皆の、為に」

 

 

 

 僕の頬に汗が一筋流れる。知らず僕は、彼女の迫力に圧倒されていた、

 

 そして、涼やかな風が吹いていた僕の胸中に、かつてない程の熱さがこみあげてくる。

 

 

 彼女の言葉は自分一人だけのものじゃない。多くの、大勢の人々の思いに応えたいという気持ちで溢れている。

 

 本の持ち主(パートナー)である元就も、彼女の言葉を当然と受け入れ、全幅の信頼をおいている。

 

 

 

 

 

 ─────戦ってみたい。

 

 

 湧き上がってきた思いは、初めてといってもいい闘争本能。

 

 胸の鼓動が抑えられない。ワクワクが止まらなくなる。

 

 

「キリカ、元就。僕と戦ってみないか?」

 

 

 僕は胸中を悟られぬよう、努めて落ち着いた声で─────彼女たちに戦いの申し込みを口にした。

 

 

 

 




 


大変お待たせ致しました。
アポロの扱いをどうするかで、本当に悩みました。

ひとまずプロットがまとまったので、新年よりちまちま書き進めます。
皆様、よいお年を!!


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35.vsロップス

皆様、あけましておめでとうございます。
本年も本作品をよろしくお願いいたします。




 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「どうしたのだ、ウマゴン。キリカは私の友達なのだぞ」

 

「メルゥ……」

 

 

 ウマゴンに手を噛まれ、何も言わずに立ち去ったキリカ。元就が後を追って走り去り、俺とガッシュだけになった家の門の前で、ガッシュがウマゴンに問い詰めている。

 

 

 正直言って意外だった。ウマゴンは決して俺に懐かず噛みつきまくってくるが、それ以外の人物に対しては過剰とも言える懐き具合を示す。だからこそ俺もガッシュも、あの場の状況に呆気に取られ適切な行動を取る事が出来なかった。

 

 折角、人並みの感性が戻ってきたキリカが受けた明確な拒絶。魔界の王を決める戦いの最中である以上、魔物と敵対的になる事は珍しい事ではないが……やはり、キリカの事が心配だ。

 

 

 彼女の事は本の持ち主(パートナー)である元就に今は任せるしかない。俺達がしなければならないのは、こちら側の対処だ。

 

 

「ウマゴン、どうしてキリカを噛んだんだ。あの子は、お前に襲い掛かった訳じゃないんだぞ」

 

「メル……メルメル…………メルゥ……」

 

 

 先程から目線が定まらない。二足歩行を行い両手を擦り合わせ、気まずそうな表情を浮かべている。

 

 どうやらウマゴンはキリカに敵意を持って噛んだ訳ではなさそうだ。今の様子から読み取れるのは─────困惑、だろうか。

 

 

 キリカは表情を変える事がほとんどなく、その目は見ていると吸い込まれてしまいそうに感じてしまう。その端正な顔立ちが合わさって人形の様な美しさを感じるが、無機質な冷たさを感じる事も多い。

 

 彼女を知らない人物からしたら、得体の知れなさを感じてしまう事だろう。ウマゴンは、そこに恐怖を抱いたのだろうか?

 

 

「清磨! ウマゴンを、ウマゴンを追い出さないで欲しいのだ~~~!!」

 

「メ!? メ、メルメルメェ~~~~~」

 

 

 黙って考えを巡らせていた俺を、尋常でない程に怒っていると感じたガッシュの懇願で意識を戻す。ウマゴンも場の空気を察したのか、器用に土下座をしている。今は落ち着いて反省しているみたいだし、俺からは何もするつもりはない。

 

 

「わかってる。ウマゴンはキリカの雰囲気に呑まれて怖がっただけみたいだな」

 

「ヌゥ、ウマゴンよ。怖がることはないのだぞ。キリカはさっきも私達を助けてくれた、とても優しき心のものなのだ。」

 

「メ……メルゥ」

 

 

 ウマゴンが困惑しながらも頷く。この調子なら大丈夫だろう、と安堵の息を漏らす。

 

 

 

 俺は携帯を取り出した。

 

 折角来てくれたのを追い返す様な形になったんだ、その件の謝罪とウマゴンとの今後の付き合い方について元就と話をする必要もある。

 

 

 流れてきたのは、留守番電話用に録音された声。だがその内容は通常のそれとは違っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今は魔物との戦いで電話に出る事が出来ない。用があったらメッセージを入れてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「……ここならだれにも迷惑をかける事はないだろう。そろそろ始めようか」

 

 

 

 はい、皆様おはようございまーす! 

 誘われるまま、岩山地帯にホイホイついてきた美少女魔物キリィちゃんです。

 

 

「本当に戦うのか? 魔界の王を目指している訳じゃないんだろ?」

 

「あぁ、今のところはね。理由が欲しいなら『戦いたくなった』と言うべきかな」

 

「……そうか」

 

「話が早くて助かる。まぁ、嫌なら魔本を燃やされるだけさ。それは困るだろう?」

 

「当然」

 

 

 

 原作では戦う理由がふわっとしていた為に、理系の清磨は理解できず説得にかかっていましたが、ほもくんは「そんなの関係ねぇ!」とばかりに臨戦態勢です。

 アポロとの戦いもガッシュ達の経験値になりますが、原作になかったゼオンとの戦い等が追加されているお陰で、経験値的にこの戦闘はスルーさせても大丈夫です。遠慮なくキリィちゃんが経験値泥棒になりましょう。

 

 

「さぁ、君達から感じる力を僕に見せてくれ!! 《リグロン》!」

 

 

 デーレーデーレーデッデデデッ♪ 

 

 さぁ、一部視聴者のトラウマBGMを流しながら戦いの始まりです。

 釣り糸の様なフック付きロープを手から出し、器用に巨岩を持ち上げて投げつけてきましたね。投げる物が多い採石場は相手の有利なフィールド、しっかり地の利も考えて誘導しているだけあり抜け目がありませんね。

 

 

「元就」

「《ピルク・グラビレイ》!」

 

「かう!?」

「なるほど、重力か。投擲物は全て落とされてしまう訳だね」

 

 

「《ピルク・レイス》!」

「! ロップス、こっちだ」

 

 

「何、呪文を出した瞬間に読み切った?!」

 

「……成程、不可視のエネルギーによる攻撃呪文か。ロップス、彼女の手元には注意が必要だ」

「かう!!」

 

 

《レイス》を発射した瞬間に効果を見切り、軌道上からロップスを抱え逃げ出すアポロ。これが厄介なんですよねぇ、ホント。

 

 これがアポロの持つ特殊能力《観察眼》です。

 偶然、今周回で恵さんが入手した《鑑識眼》に近いもので、《鑑識眼》が「相手の内面から状況を読み取る能力」ならば、《観察眼》は「状況から物事の本質を読み取る能力」です。《鑑識眼》が対人特化、《観察眼》が人以外全般という感じですね。

 余談ですが類似スキルの《千里眼》、これと《鑑識眼》《観察眼》を最大レベルまで上げる事で、クリエイトキャラでも《答えを出す者(アンサー・トーカー)》を習得する事が出来ます。スキルツリーの一番最後になるので、ネタにしかならないとは思いますが。

 

 

 話を戻しましょう。

 アポロは《観察眼》の効果により、奇襲・奇策は最高難易度のじゃんけんゲームばりに確定看破されます。なので、素の能力で上回らない限りは勝つのが非常に難しい相手となっております。

 

 

「《リグロン》!」

 

 

 物を投げても無意味と悟ったアポロは、2本のロープの片方を岩投げに用い、もう片方で直接側面から襲うよう操作しています。ロープ一本分の力なので、投げる岩は先程より小さいですが対処は必須です。《グラビレイ》を唱え、岩を防いだ隙を襲い掛かろうという魂胆ですね。

 

 だが……、甘いぞ遊戯(アポロ)!! 

 

 

 

 

 新年一発目のぉぉ───────────キリィちゃんパアァァァァンチィ!! 

 

 

「岩を素手で……。! ロープを戻すんだ、ロップス!!」

 

 

 呪文でなく腕力で岩を対処したので、飛び込んでくるロープにも素早い対処が可能です。岩を砕いた事で一瞬狼狽(ろうばい)したロップスが操るロープの動きは、非常に単調なものなので掴み取る事が可能です。

 そしてパワーキャラあるある。ロープを手繰り寄せる様に引っ張ります。

 

 ロップス、お前がこっち来るんだよォォォ!! 

 

 

 

「くっ、呪文解除。そして《リグロン》! ロップス、こっちだ!!」

 

 

 呪文を解除しましたが、ロップスは既に引っ張られキリィちゃん達の方にダイブしています。

 ガッツポーズを取りながら、再びロープの呪文を出すアポロ。ロープをアポロが出した腕に巻き付け、引き寄せようとします。

 

 

 チッ、このまま陰湿な精神攻撃(ミリアボル・ピルク)で〆かと思いましたがダメでした。

 ですが、無理にロップスを引き戻した事で相手の体勢が崩れています。チャンスタイムですね。

 

 申し訳ないがボス戦は迅速に、がモットーの走者なので早々に決めさせて貰います。この為にアマゾンまで行ったんだから、ショーガナイヨネ。相性というものは、無情なのです。

 

 

 

 

 

 ……おっと、ほもくんが呪文を躊躇っていますね。ロップスはアポロの手元。当然、呪文に巻き込む形になります。

 

 

 でぇじょうぶだ。傷ついたみんなや破壊された地形は、戦いが終われば元に戻るんだ。気にすんな

 

 

 そんなジャンプ主人公とは思えないが、とてつもなく説得力のある事をいえば大丈夫です。

 真面目に言うと、本の持ち主(パートナー)には被害が及ばない様、呪文を調整するので問題ありません。

 

 

 そんじゃ、いっちょいってみっか!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかった。《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》!!」

code(コード)、《アイアン・グラビレイ》」

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ─────戦いは終わった。

 

 キリィに促され放った最強呪文。『複製(コピー)』元であるオリジナルを見た事がなかったので、どういう効果は知らなかったが…………、圧巻という他なかった。

 

 大小様々な岩場に囲まれ、採掘機などが置いてあった採石場は─────ただの更地へと変貌していた。

 

《アイアン・グラビレイ》。戦いの当初はなっていた重力発生の呪文《グラビレイ》の強化版。その名の通り、強力な重力波だった。

 

 

 

「……困ったな。これは負けを認めるしかなさそうだ」

 

「アポロ。生きてたんだな」

 

「アハハ、ひどいな。僕ごと巻き込むつもりだったのかい?」

 

「いや、キリィが大丈夫だって言ってたんだ。わかってたさ」

 

「か、かう~~~……」

 

 

 

 アポロはロップス共々潰れた岩の隙間に挟まっていた。動けはしないようだが、二人共怪我はなさそうだ。

 

 俺は緊張を解き、アポロの下へ近づいていく。

 

 

「……これで満足したか?」

 

「あぁ、よくわかった」

 

 

 アポロは仰向けに倒れながらも、晴れ晴れとした顔で空を見ていた。

 

 

「戦いを通じて伝わったよ。表面上は冷静でいながらも、絶対に負けられないという執念。その覚悟。それこそが僕の足りなかったものであり、敗因だ」

 

「か、かう……」

 

「でも、戦う内にわかってきたんだ。君達の、そしてロップスの懸命な姿を見て」

 

「かう?!」

 

 

 

 アポロは何かを掴んだようだった。この戦いにおいて、何か大切なものを

 

 

 

「ロップス、王になろう」

 

 

 そう呟いたアポロの顔は、とても輝いているように見えた。

 

 大空を羽ばたく鳥の様だった自由な男は、その大空すべてを照らす太陽の如き強い意志を持っていた。

 

 俺とアポロは目線が合い、お互いに微笑んだ。

 

 

 

「これからも僕と付き合ってくれるだろう? ロッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────だからこそ、俺達は目に映った光景を信じる事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かう~~~~~~~~~~~~~」

 

「ロッ…………プス?」

 

 

 アポロが横を向いた時、そこにいたロップスの体は()()()()()。それが意味する事は……!! 

 

 

 

「ロ、ロ────ップス!!」

 

 

 

 アポロは痛みなど気にせず、無理矢理上半身を起こす。少しづつ薄くなっていくロップスを抱き抱え、俺と共に周囲を見回す。

 

 そこには…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空色(アポロ)の魔本を持っていたライターで燃やし、無造作にそれを放り投げるキリィの姿があった。

 

 

 

 

 




 
執筆中の元旦に、友人がお年玉にゲームを贈ってくれました。




Civilization (シヴィライゼーション)VI】

無事、正月がシン・クリア・セウノウスされました。


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36.戦いの覚悟

 

 

 

 

 

 はい、皆さまおはようございます! 

 戦闘(しごと)終わりの一杯が上手い! 美少女魔物キリィちゃんです。

 

 先読み感知スキルを持つ技巧派の強敵『アポロ&ロップス』ペアを無事退ける事が出来ました。

 呪文の相性差というものは無慈悲なものです。最強呪文持ちに対し、防御呪文や同格の攻撃呪文がない魔物に勝つのは力の差が相当ない限り無理なので。

 

 一応、ロップスには船の錨のような巨大アンカーを多数出し、巨大な物も操作できる《ディノ・リグノオン》がありますが、不意に打たれた呪文を迎え撃つような速効性はありません。

 更に原作では清磨の決死の覚悟を目の当たりにし、自分の魔物を王にさせる覚悟を決めて使う呪文なのですが、敵の強化イベントをわざわざ起こす必要もありませんのでそれもスルー。故にアポロに対抗する術はありませんでした。証明終了。 

 

 

 不意打ち気味にキリィちゃんが放ったブラゴの呪文《アイアン・グラビレイ》は逃げ場のない広範囲重力波です。アポロもロップスも怪我がないよう調整しましたが、もう戦う事は出来ない筈です。早速、目標を探す事にしましょう。

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ……見つけました。

 アポロとロップスは少し離れた地面に埋まっていますね。ほもくんと話をしていて、こちらに気づいていません。

 

 探していたのは彼等じゃないのかって? いえいえ、違います。

 探していたのは彼の『魔本』です。ロップス君の出番はここで終わりとなります。

 

 

 はい、ここで全国の昆虫マニアを虜にするロップス君の魔本を燃やす事に対し「この外道! それでも決闘者(デュエリスト)か!?」と言ったロップスファンの声は無視しましょう。俺はリアリストだ。(キリッ

 

 真面目なお話をしますと、円滑なチャート進行として、ここは燃やさないといけません。

 ロップス君はここで見逃しても、少し時間が経過すると強敵のかませとして強制的に敗退(リタイヤ)します。原作では相手がゼオンでしたが、ルートによってはロデュウなど別の魔物に代わり、最悪のパターンとして謎の影(クリア・ノート)にエンカウントし、アポロ君ごと敗退(リタイヤ)します。

 

 

 ロップスはどうでもいいのですが(外道)

 アポロがワイプで敗退(リタイヤ)してしまうと《千年前の魔物編》において、とんでもない原作乖離が発生してしまいます。アポロは敗退後、実家の大会社を継ぎ資金面でたびたび清磨達をサポートしてくれるようになるので。

 

 

 やっぱ金か、金だよな〜、金。

 

 

 因みに今チャートでは、清磨達はアポロにあってないけど大丈夫なの? というお言葉があるかもしれませんが、後に出てくるナゾナゾ博士という本の持ち主(パートナー)が、彼らの橋渡しとなってくれるので、今回のイベントは必須ではありません。ご安心ください。

 

 

 後々の憂いをなくすためにも、今チャートでのロップス敗北イベントはキリィちゃんの目の前でやって貰うことにしましょう。

 

 介錯は任せとけ! (漁夫の利)

 

 ではポケットからライターを取り出して魔本を燃やします。複製(コピー)の力を使い切ったので補充したい所ですが、声をかけるのは本を燃やしてからです。

 燃やす場面を見られると長い説得が必要になるので、そこは事後承諾で切り抜けます。なーに、ほもくん(あのイエスマン)なら問題ない。

 シュボッとな。そして、キリィちゃんの珠玉のお手てが火傷するといけないので、地面にポイっとします。

 

 

「キリィ……」

 

 

 おぉ、さすがにロップスが消え始めたので気付かれましたね。

 だがもう安心! 一度燃え始めた魔本は、絶対に鎮火する事はありません。ロップス敗退(リタイヤ)は確定、ゆっくり振り返ります。

 

 消えゆくロップスにお別れの言葉を紡ぎながら滂沱の涙を流すアポロは無視し、ほもくんの反応を見ましょう。

 ヨシ、どこぞのバナナの髪したプ〇キュアみたいな絶望顔にはなっていないな。戸惑っているだけみたいです。

 

 ……これなら複製(コピー)するのが間に合いそうですね。放心状態とかになると、しばらく反応してくれなくなるので。

 燃えている本に手をのせて、ほもくんに呼びかけます。オラ、早く呪文唱えるんだよ。

 

 

「だ、第一の呪文……《ピルク》」

 

 

 ふわぁ~、いいかんじぃ~~! ……これなら活躍できそう! 

 チャージも出来たので、この魔本はもう用済みです。おててが火傷する前に、手を離しましょう。

 魔本諸君、任務ご苦労、さようなら……(ニチャア)

 

 

 

 

「ロップス──────────!!」

 

 

 無事、魔本が燃え尽きロップスが魔界に還ったようです。お別れが言えてよかったね! (はぁと

 原作でのロップスは別れの時間すらなく、本を即座に消し炭にされたのでマシと言えるでしょう。さては幸運Eだなオメー。

 

 

 これでロップス攻略チャートは完了です。彼がナレ死するのを無事防ぐ事が出来ました。

 しかし、清磨の家に先に行っておいてよかったです。偶然発生していた【ウマゴンの門破壊イベント】のフラグを叩き折った事で、清磨達がここに来る事なく戦闘を終える事が出来ました。

 

 

「……キリィ、今日はもう帰ろう」

 

 

【中庸・善】のほもくんは、今回の様に《敵対はしたけど本燃やす程じゃない》ランクの相手に対して本を燃やしても《敵対した》時点でほもくん的にセーフです。好感度は下がらず、今のようにキリィちゃんを労わってくれています。

 ですが【秩序・善】であるガッシュや清磨の好感度は、《戦闘以外で、故意に本を燃やす行為》をすると好感度が下がってしまいます。相手が悪人だったり《千年前の魔物編》の最中など、例外はありますが今回のようなパティーンは認めてくれません。

 

 一応アポロから仕掛けてきた正当防衛なので、下がる好感度は微々たる量ですが、次に控える魔物は【二人の好感度最大を前提】とした原作ルートを通る予定です。好感度を戻す時間的余裕もないので、()()()()ガッシュ君達に本を燃やす所を見られるわけにはいきませんでした。

 

 

 アポロ戦でガッシュ以外が戦闘を行うチャートでは、【家の門破壊イベント】のような()()()()()()()が立っていると一定時間経過で彼等が駆けつけてきますからね。その場合、ロップス撃破RTAを行わなければならない所だったのですが、ほもくんとアポロの会話イベントを堪能する余裕が出来ました。本の持ち主(パートナー)同士の会話イベントは、こちらの本の持ち主(パートナー)の性格により、かなりパティーンが違うので何度見ても新鮮なのがいいですね。じっくりみたくなります。

 

 

 

 

 ゆっくりしていってね!!! 

 

 

 

 

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「…………キリカ」

 

 

 キリカとロップスと呼ばれる魔物が戦いが行われた採石場、その削られた崖の上から俺とガッシュは一部始終を見ていた。少し距離があるが、周囲の障害物は()()なくなった為キリカ達の様子が、今はハッキリと見えた。彼女が情け容赦なく相手の魔本に火をつけた様子が。

 

 ガッシュは悲しそうな表情を浮かべ『ロップス』と魔物の名前を叫ぶ本の持ち主(パートナー)の青年を見ていた。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

《「長い黒髪の女の子? 何よ、ガッシュちゃん。その子の事が気になるの? ……じゃあ今度ガッシュちゃんが私とデートしてくれるなら教えてあげる」》

 

 

 元就のメッセージを聞いた俺達は、すぐにキリカの下に向かった。俺達と別れてから、そんなに時間が経ってない。まだ近くにいる筈だ。

 

 たまたま公園にいたガッシュの友達、『ナオミちゃん』にキリカの居場所を聞いた俺達は、戦いの場であろう採石場に走っている。何かその子と約束をしたガッシュの顔が青くなっていたが、気のせいだろう。そうだろう。

 

 

「……キリカは、大丈夫であろうか」

 

「電話を留守電に変える余裕はあるんだ。悪い魔物なら助けを呼ぶ筈だしきっと大丈夫だ」

 

「ウ、ウヌ。そうだな」

 

 

 俺は自分自身に言い聞かせるようにガッシュに言った。ガッシュも不安な顔が消えていない。

 

 そう。本来ならば、それほど気にかける事じゃない。友達だから、仲間だからとすぐに助けに行く事は出過ぎた行為だ。悪人や、卑怯な相手ならともかく、正々堂々と戦っているのならば、俺達が行っても出来る事はない。

 

 

 

 だが、俺の脳裏に浮かぶのは別れ際のキリカの姿。

 

 あの時のキリカは、ウマゴンに急に噛まれたのにも関わらず微動だにしていなかった。

 

 本来、急に襲われれば反応がある筈だ。例え表情が乏しいキリカだろうと【反射】は必ず起こってしまう。噛まれたならば手を引っ込めたり、急な痛みに体を振るわせたり強張ったりさせるのが必然だ。

 

 だがキリカは『拒絶される事が最初からわかっていた』様に、何の反応も示さなかった。ただ諦観のこもった目でウマゴンを見つめていた。《やっぱりこうなったか》と。

 

 俺達が声をかけても無視して立ち去るキリカ。

 

 

 

 その姿に一抹の不安と胸騒ぎを覚えた俺はキリカの姿を見つけ、その戦いの様子を見守る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

「あの者達は、悪い者には見えなかった。友達にはなれなかったのだろうか」

 

 

 ガッシュがやり切れないといった表情を浮かべ困惑を口にする。

 

 相手の魔物は本の持ち主(パートナー)の指示に信頼をおき、また本の持ち主(パートナー)の方も魔物を常に気遣う様子を見せ、お互いがお互いを大切に思っているように映った。対峙した元就の様子から見ても、恐らく正々堂々と戦いを申し込まれたのだろう。決着がついた後も、本の持ち主(パートナー)同士で朗らかに話し合っている様子が見て取れた。

 

 

 

 ─────だがその状況を全て無視し、キリカは即座に相手の魔本を燃やした。

 

 

 明らかにやりすぎ。口には出さないが、俺もガッシュも共に思ってしまった。それは甘いのだろう、手ぬるいのだろう。足元をすくわれてしまう事もあるだろう。だが、俺達が目指す『王』として絶対に譲れないラインだった。

 

 キリカの戦法は正しい。魔本を燃やされなければ敗退(リタイヤ)ではない。だが、向かってくる相手全てを滅ぼす。それはガッシュの目指す『やさしい王様』ではない。

 

 

「…キリカはどんな王様を目指しているんだろうな」

 

「清磨? 私達は皆『やさしい王様』を目指して……」

 

「俺もそう思っていた。でもこの事は、一度しっかりと聞かないとダメだ」

 

「ウ、ウヌゥ」

 

 

 今回の事は、ウマゴンの件で情緒不安定になり八つ当たりのような事をしてしまったというなら手助けをする。他人に拒絶された事で、目指す王の在り方が揺らいだというなら全力でフォローをする。ただの杞憂、勘違いならどれだけ良いだろう。

 

 だがあのキリカの戦いから感じたのは、惰性や流されてのものとは違う『戦いの覚悟』。何か目指すものがあるように感じ取れた。

 

 

 

 もしも仮に……キリカが目指す『王』の道が、ガッシュの目指す『やさしい王様』の姿と、決定的に違うものだというのなら。

 

 最悪の場合──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────俺達は、もうキリカと一緒に戦っていく事が、出来なくなるかもしれない。

 

 そんな不安感が俺達の胸中を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 ──────────────────【ロップス 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 

 

 




 


Q1.超絶美少女のキリィちゃんは、『魔力感知』でガッシュ達が見ていた事に気付けなかったんですか?

A1.このゲームは少年誌原作なので『戦闘中の不意打ち』が一部イベントを除きありません。その為、アポロ戦に集中する為に任意発動(アクティブ)スキルである『魔力感知』を使っていませんでした。



Q2.戦闘中は集中していたというのなら、戦闘後に『魔力感知』を発動させればガッシュ達に気付いたんじゃないんですか?

A2.ガバ


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37. 若造(ボーイ)

 前回の投稿で、この作品話数が44話になった!
 
「44話」の作品を投稿せずにいるのは縁起が悪いんだ!

「45話」になった作品の続きをじっくり考えるのはいい!

「43話」になった作品の続きをゆっくり執筆するのもいい!

だが「44話」の作品の執筆が遅れるのは、よくない事が起こるんだ!!


※筆者の偏見と個人的解釈です。




 

 

 

 ─────「のぅ清磨。キリカとはいつ話をするのだ?」

 

 

 キリカの戦いを見てから数日後。ガッシュは毎日の様に、俺に聞いてきた。

 

 その問いに関して、俺はいつもと同じ言葉を返す。

 

 

「キリカの方が落ち着いてからだ」

 

「ウ、ウヌゥ」

 

 

 そう言葉を返せばガッシュも引かざるを得ない。

 

 だが元就の話によれば、ウマゴンの件のせいかモチノキ町へ来る頻度を減らしてはいるが、キリカの様子はおおむねいつも通りらしい。

 

 

 ごまかしてはいるが、俺が落ち着くのを待っているのは()()()()()()だ。

 

 ガッシュが目指す『やさしい王様』。キリカが目指す王が自身と大きく違うものではないか、という疑念を知ったガッシュが取った行動は…………勧誘だったらしい。

 

 

 チラリと自室の隅に目をやれば、ガッシュが紙やダンボールで作った鉢巻きや看板、のぼりが準備されている。どれも『やさしい王様』と書いてある。

 

 こういうのは他人に勧めたりするようなものではないとは思うが…………ロップスと呼ばれる魔物を惜しむ本の持ち主(パートナー)の悲痛な叫びを、何とも思わない今のキリカの王道は……可能であれば説得したいのも本音だった。

 

 

 

 だが彼女の真意が読めない以上、余計な事はしてほしくないというのが本音だ。

 

 だからガッシュが落ち着くのを待っていたのだが……、一向にその様子を見せない。

 

 

(「何か別の事に注意を逸らさないとダメか……」)

 

 

 そう考えながら、俺は日課である今朝の朝刊に目を通していた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

【18世紀の巨匠 幻の最高傑作 シェミラ像日本初公開!!】

 

 

 はい、ハーメルン様が生んだ最高傑作の美少女魔物キリィちゃんです。(自惚れ)

 

 前回、アポロをサクッと撃破して撃破ポイントを稼いだキリィちゃんです。原作ルートといいつつ原作とは違うチャートを進行させる勇気! 勇気といえば全てまとまったように聞こえるのが不思議です。

 という事で前回に引き続き、微妙に原作展開をズラした原作ルートを通っていく事にします。ズヅヅ、ヅラちゃうわ!! 

 

 

 今回のターゲットは、某ポルナレフのような銀髪電柱剣山ヘアーの魔物『ダニー』です。

 彼はガッシュの友達になりますが、不幸な事故で魔本を巻き込んでしまい敗退してしまう可哀そうな魔物になります。かわいそかわいそなのです。(申し訳程度のあざといアピール)

 

 彼は兄貴肌でサッパリとした性格なので、男女問わず人気の魔物ですね。走者も大好きです。そんな彼の魔本を燃やしにいきたいと思います。大好きだからね。(ヤンデレ思考)

 

 

 さて、そんな彼は今朝の朝刊で一面を飾っている美術品『シェミラ像』の護衛として、モチノキ町の美術館へ来ている事でしょう。確かに魔物は強力ですが、彼一人に時価数百億の美術品の護衛を任せるとか、そんな警備で大丈夫か? 大丈夫じゃない、問題(原作展開)だ。 

 当然というべきか警備一人体制の弱点、彼が離れた隙を狙い『謎の組織』がシェミラ像を奪い去ってしまいます。彼の体は縮まないのでご安心ください。(中の人ネタ)

 

 

「キリィ、今日の予定はどうするんだ?」

 

 

 今日は、そんなイベントが起こるモチノキ美術館近くに足を運びます。

 シェミラ像の一般公開は明後日ですが、清磨から『生で見る美術品は、極上ブリより100倍おいしくて10倍でかい魚を見るような感動を味わう事が出来る』と聞いたガッシュ君は、いても経ってもいられず美術館に向かいダニーと偶然出会う展開となっています。

 今回、キリィちゃんはその二人にそのまま便乗し展開に流されるチャートとなっています。()()()()()()()()()()()()()()()()美術館に向かう事で、ガッシュ君とバトってる所で強制エンカウントとなるので安心ですね。

 

 そしてすべてが解決したら、一緒に事故に巻き込まれドサクサでダニーの魔本を焼却。完璧すぎませんかね、天才か? 私。

 

 

「わかった。モチノキ美術館の近くだな。何かあったら連絡してくれ」

 

 

 ほもくんからもお許しが出ました。

 

 前回の戦いの後、キリィちゃん専用の携帯を買い与えて貰ったので公衆電話を探す必要もなくなりました。社会人本の持ち主(パートナー)との好感度が高いと、こういうサポートも受けられるのがいいですね。

 

 

 

 では早速、ガッシュ君と乳繰り合っているダニーの様子を見に行きますかね!! 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ─────「ダニーボーイ。もうすぐモチノキ美術館じゃ。わかっておるな?」

 

 

「ボーイは余計だ、じじい!! 俺は『ダニー』だ!」

 

「ふん、若造を若造(ボーイ)と呼んで何が悪い? そんな反抗的なら、この本。捨ててもいいんじゃぞ?」

 

「うわぁああぁぁ! 待て、待て、待て!! わかったよ、Mr.(ミスター)『ゴルドー』!」

 

「全く……、日本の警備に『シェミラ像』を渡すまで気を抜くではないわ」

 

 

 移動を始めてから、何十時間かかったのか覚えていない。俺と本の持ち主(クソジジイ)は二人きりでシェミラ像を運ぶ仕事を行っていた。

 

 魔物(オレ)にかかれば、弱い人間達などいくら襲ってこようが屁でもない。

 

 そんなくだらない仕事に嫌気がさし、俺はストレスが限界を迎えていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

Mr.(ミスター)ゴルドー、お疲れさまでした。オーナーとの打ち合わせがございますので、此方へ」

 

「ウム。ワシが話をしとる間に買ってくるんじゃぞ、ダニーボーイ」

 

 

 目的の美術家に着き、Mr.ゴルドー(クソジジイ)と美術館の奴が入口で話をしているのを横目に見つつ、俺はジジイに頼まれた『タイ焼き』という菓子を買いに行った。

 

 仕事が終わったにも関わらず休みも遊びも自由もよこさない扱いには腹が立ったが、『タイ焼き』という食いモンは気になる。俺は渋々ながら金を受け取り出店へ向かった。

 

 そして買い物も終わり、先に喰ってから戻るかと考えた俺だったが─────

 

 

「……………………魔物か」

 

 

 俺を見ている視線を何処からか感じる。

 

 別に俺は感知能力なんてもんは持っちゃいない、これは俺の勘だ。だが何よりも信頼できる感覚でもあった。

 

 

「丁度いいぜ。ずっと移動ばっかでイライラしてたんだ!! 相手してやる!」

 

 

 俺は勘を頼りに美術館の周囲にある公園中を走り回る。

 

 そして、少し離れた木の上からこちらの様子をうかがっていた、黒髪の()()ガキを見つけた。

 

 魔物を見つけた俺は笑みを浮かべる。魔物である以上、人間と魔物を間違える筈がない。

 

 木の上で様子を見ていたんなら、不意打ちする気マンマンだったんだろう。なら、先にぶん殴っても文句はねぇな!! 

 

 俺は思いっきり腕を振りかぶり、そのガキの顔面に打ち付ける様に殴り掛かった。

 

 

 

「ッ!! 何?!」

 

 

 

 俺は驚愕する。

 

 相手の行動はある程度予測していた。体を捻ってかわすのか、ジャンプして後退するのか、それとも本の持ち主(パートナー)に指示して呪文で対抗するのか。

 

 

 

 

 だが…………、()()()()()俺の拳に殴り返してくるとは思わなかった。

 

 

「舐めンじゃ……ねぇ! オレは腕っぷしには自信があるんだ!!」

 

 

 叫びながら乱打を繰り出す。

 

 だがその女は、顔色一つ変えずに全て迎え撃った。その腕力は、オレ以上のものを感じた。

 

 

 

「チビ女がぁ……。いいぜ、とことんやってやら────────!!!」

 

 

 

 

 

 そして俺の意地をかけた、長い戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 何故、今キリィちゃんはダニー君と戦っているのでしょうか? (滝汗)

 

 チャート通りに進めば、タイ焼きを購入したダニーが最初に出会うのはガッシュの筈でした。しかしその場にガッシュは現れず、長距離移動でむしゃくしゃしていたダニー君はキリィちゃんの方に飛んで来ちゃいました。距離はあったはずなのにねぇ。

 

 

 とにかくここはガッシュが来るのを待つしかありません。

 ガッシュとダニー君が戦いを通じて仲良くなった所に現れる筈でしたが、ここはキリィちゃんとダニー君が戦いを通じてる所にガッシュ君が現れて行動を共にするようにすれば、チャート進行は問題ない筈です。名付けて『卵が先か、ヒヨコが先か作戦』!! 

 

 

「何ボーッとしてんだテメ──────!!」

 

 

 では方針も決まった所で、ダニー君との戦いに戻りましょう。

 彼の本の持ち主(パートナー)は美術館にて関係者と打ち合わせをしていますが、関係者は全て強盗団に成り代わっています。きっと護衛であるダニー君の帰りを今か今かと待っている所でしょう。

 

 ですが、ここでさっさとダニー君を返す訳にはいきません。

 ここですぐに帰してしまうと、ダニー君は強盗団をその場で蹴散らしてしまい山無しオチ無し意味無し展開のまま、イベントが終わってしまいます。ダニー君も脱落しなくなる為、原作ルート通り彼の頭が冷えるまで戦いに付き合ってあげましょう。

 

 

 正面から右ストレート! 無駄ァ! (フックで逸らし)

 

 

 左からフック! 無駄ァ! (手刀で叩き落とし)

 

 

 潜り込んでアッパー! 無駄ァ! (両手でキャッチ)

 

 

 背後に回って乱打! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!! (乱打返し)

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「ハァ、ハァ……、や、やるじゃねぇかお前。そのナリで俺と互角とはよ」

 

 

 あれから粘り続けましたが、一向にガッシュ君がやってくる様子はなく時間切れとなりました。

 あれほどシェミラ像を見たがっていた原作ガッシュ君は何処に……? 

 

 

本の持ち主(パートナー)もいないようだし、俺と戦いに来たって訳じゃないみたいだな。こんな所で何してたんだ?」

 

 

 スタミナ切れとストレス解消により、冷静さを取り戻したダニー君。

 ガッシュ君とここで合流できないのはチャート的に痛いですが、ひとまず原作ルートに沿って進む事にしましょう。

 

 シェミラ像見に来たんだよ、悪いかオラ(精一杯のチンピラムーブ)

 

 

「あ? シェミラ像は一般人(おまえら)は明後日からしか見れねぇぞ。そんな見たかったのか?」

 

 

 別にそんな事はないけど、頷いておきます。

 

 

「ハハッ、面白いヤツだなお前。俺はダニーボ……いや、『ダニー』だ。いいぜ、ついてきな。見せてやるよ、シェミラ像」

 

 

 殴り合いで友情が芽生えたのか、細かい事を気にしないダニー君はフレンドリーに招いてくれます。

 まぁ、既に奪われているんですけどネー。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

Mr.ゴルドー(じじい)! 間違えた、じじい(Mr.ゴルドー)! 何があった!」

 

「遅いわ、ダニーボーイ。シェミラ像が奪われた! 探せ、探すのじゃ!」

 

 

 そこに全てを置いてきた! (ジャンプ感)

 

 とまぁ悪ふざけは置いておくとして、シェミラ像奪還パートへと移ります。

 像を奪った強盗団の潜伏場所は候補が複数あり、ランダムでその内の1つが選ばれます。それぞれ距離が離れ時間制限もあります。当てずっぽうで全部探すのは無理って事ですね。

 

 原作では、たま~に活躍していたガッシュ君のスキル『感知(鼻)』により、シェミラ像の臭いから探索していましたが、肝心のガッシュ君がここにいません。キリィちゃんが持つ感知スキルも、魔力を持たないシェミラ像や強盗団相手には意味がありませんね。

 

 ですがガッシュ君は携帯なんて最先端機器持ってませんし、普及率が今一つのこの時代では清磨も自宅の留守電頼りです。ガッシュペアに助力を乞うのは不可能になっています。だから、ガッシュ君サイドから会いに来てほしかったんだけどな~!!(精一杯の煽り)

 

 ではどうするのか。

 ここは連絡を取りましょう。間違いなく()()()携帯を持っており、一般人を『感知』する事に秀でたスキルを持つあの人にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────《はい、大海恵です》

 

 

 

 

 




 



◇◆◇◆その頃のガッシュ◇◆◇◆


「清磨に教えて貰ったシェミラ像だが、私は見に行くべきだろうか。ウマゴン」

「メル?」

「100倍で10倍の極上ブリを見る感動というのは気になるが、私が一番気になっているのはキリカの事なのだ。」

「メ、メルゥ」

「キリカは家族がおらず、一人で苦しんでいるのだ。私はその苦しみを、何とかしてあげたいのだ」

「メ!? メルメルメェ~」

「ウヌ、お主もわかってくれたか。ウマゴン。そうなのだ、キリカは怖がる事なんて何もないのだ」

「メル!」

「よし、ではいつもの公園で作戦会議だ! どうすればキリカの助けになるのか、一緒に考えようぞ!」

「メルメルメ~~!!」


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38.仕事の誇り

 
書き上げて読み直したら、原作展開とあんまり変わらなくなってしまった。
まっいっか!



 

 

 

 

 

 

 

 ─────「見つけたわ、シェミラ像はあの船の中よ」

 

「ウム、美術館にいた奴らの仲間も見えた。船で外国に逃げる気のようじゃな」

 

「ゴルドーさん、銃で武装しているのが見えます。真っ当な連中じゃないのは明らかだ」

 

「ホゥ、あそこまで隠す気がないとはな。元就君の言う通り、どこかの国のマフィアの仕業じゃろう」

 

 

 緊迫感漂う雰囲気の中、おはようございまーす。美少女魔物キリィちゃんです。(小声)

 

 前回、美術館にてシェミラ像が奪われたという所で終わりましたが現在キリィちゃん達は、彼らが潜伏しているモチノキ港に停船中のフェリーを、コンテナの影から眺めています。

 本の持ち主(パートナー)達が双眼鏡越しに話し合いをしている、この決戦前の雰囲気。嫌いじゃないわ! 

 

 さて、アジトを捜索するシーンをまるごとカットした理由ですが……見どころさんがなかったんです!! 

 ガッシュが合流してこないので、恵さんの《鑑識眼》に頼ったのですが、ひたすら聞き込み聞き込み聞き込みエトセトラエトセラトラトラトラ……ワレ、敵艦ヲ発見セリ。

 

 

「ジジイ、警察に連絡は?」

 

「奴らは明らかにプロじゃ。警察に勘付けば船で逃げられる上に、出港まで時間がない」

 

「じゃあ決まりだな」

 

「ウム、像はワシらで取り戻す」

 

 

 恵さんは一般人どころか芸能人。スキャンダルはご法度なのでここで帰ってもらいます。オタッシャデー

 突入するメンバーはキリィちゃんとほもくん(ついでに呼んだ)、そしてダニーボーイ君と本の持ち主(パートナー)の『ゴルドー』です。

 

 ゴルドーおじいちゃんは資産家の老人で、ギャグ漫画ばりの背の低さです。わー、ガッシュ君よりちっちゃい。

 そんな八〇菜みたいな見た目ですが、性格は八宝〇とは全く違い(同じだったら困る)本の持ち主(パートナー)の中でも貴重なOTONA枠です。拳銃を突き付けられても己を通す姿は、年季の差を思い知らされます。

 

 またメタな話をすると、おじいちゃん(ゴルドー)はスキル《老練なかけひき》を持っており【自身の好感度の高さに応じて、知力成長度にボーナス】という非常に魅力的な能力を持っています。今回は有効活用する事はないでしょうが、RTAプレイを目指すなら抑えておきたいポイントの一つかもしれませんね。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 さて、船内に侵入が出来ました。

 ここでキリィちゃん達が取れる方法は3つあります。

 

 

 1.強盗団の潜む貨物室へ正面突破

 2.敵の包囲を潜り抜け、像を盗み出す

 3.船の出航を妨害し、強盗団が出てくる所を一網打尽

 

 

 個人的なオススメは「3」です。

 出航の妨害には船の燃料タンクを破壊すればよく、そこには大して敵がいないので簡単に足止めが可能となります。安定を求める方には一番です。

「2」もスニーキングミッション好きにはたまりませんね。

 敵の視界内に入らない様、障害物や何ボール等を駆使し進むのは慎重派な方には一番です。

 

 さて、そんな走者が今回選ぶ方法は─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらぁあああああああああ!!」

 

「がぁああああああ!!」

「ぐわぁああぁあああああ!!」

 

 

「さぁ、泥棒退治といくぜ!」

 

「何者だ、このガキ共!」

「誰だろうといい、見られた以上生きて返すな!!!」

「この人数に勝てるかよ!!」

 

 

 はい、1番です。だって、これが早いもん!! 

 

 このルートは敵の数が多く、無双ゲーの如くモブをなぎ倒す快感が味わえます。

 一応、他ルートの倍近くの敵がいるのですが魔物が一般人に負ける訳がありません。

 (オレ)を倒したければ、その3倍は持ってこい! それでもダメだけどな!! フハハハハハハハハハハハハハハ(悪役笑い)

 

 

「よし、お前等は下がってな。さっきぶち壊した鉄の扉を盾にしてれば平気だ!」

 

「後は頼んだぞ、ダニーボーイ」

 

「えっ? ゴルドーさん、本を手放していたら呪文が……!」

 

 

 コンテナの後ろの安全地帯を確保し、ダニーが前線へ出ていきます。

 ほもくんは、呪文でのサポートをしようともせず、魔本を床に置き優雅に葉巻を吸ってるおじいちゃんにびっくりしています。

 

 

「へっ、ボーイは余計なんだよ。いくぜ!」

 

 

「速ッ!? 弾が、当たらな……」

「嘘だろ!? コイツ、化け物か?!」

 

「は、早く……早く始末しろ「オラァ!」ガハッ!」

 

「なっ!? いつの間に、こんな近くまで」

「倒せ……何でもいいから早くこいつを倒せ─────!!」

 

 

 うわ、ダニー、つよい(小学生並みの感想)

 

 いくら一般人(クソエイム)相手とは言え、囲まれてピストルやマシンガン、ライフルの雨を体さばきで避けて打撃を打ち込むさまは圧巻としか言えません。

 ダニー君はキリィちゃんも取得している《身体操術》に加え、《練達の肉体》というスキルを取得しています。これは『放出系呪文を一切覚えられなくなる代わりに、肉体技能・能力にボーナス』というクソみそ……いいえ、クソデカデメリットのスキルです。

 肉体言語系魔物には力強いスキルですが戦法の幅が狭まってしまう上、取得条件も厳しいのでキャラ作成時に狙うかはよく考えましょうね。後悔する事になります(3敗)

 

 

「そこにもいたか! 喰らえぇえ!!」

 

 

 と、ここでコンテナの上に昇っていた敵から見つかり銃を向けられるイベントが入ります。

 いいのかい、《練達の肉体》なんてスキルを取っちまって……俺は放出系呪文を持っていなくても本の持ち主(パートナー)に奇襲をかけちまう強盗団なんだぜ? と言わんばかりに起こる回避不可能イベントです。まぁダニー君一人で全員を止められるわけないしシカタナイネ! 

 

 この時、感知スキルを持っていないと攻撃を避ける為に一定時間無防備になり、ダニー君の救助が間に合わなければゲームオーバーです。因みに操作キャラが『竜種』や『魔族』だったら人間の姿の擬態を解く事でこのイベントを回避しつつ、強盗団さん達が素晴らしい反応を見せてくれます。あんたら俳優(アクター) のが向いてるだろ。

 

 

「元就」

 

「《ピルク・リグロン》!」

 

「なっ!? なんだこのロープはぁうああああああああああ!!」

 

「ホゥ、面白い呪文じゃな」

 

 

 なおキリィちゃんは《魔力感知Lv2》があるので関係ありません。両手からロープを出して放り投げます。そぉい! (掛け声)

 魔力感知自体にはモブを感知する力はありませんが、感知スキルを持っていると危機察知能力が上がっている、みたいな解釈で条件を満たし気付けるみたいです。

 では奇襲も防ぎましたし戦闘中のイベントは終わり。ダニー君に加勢してさっさと終わらせましょうねぇ~

 

 

「こ、こいつだけじゃないぞ! あっちのガキの力もヤベぇ!」

「うわぁああ! 俺の、俺の腕が折れたぁああああ!」

「な、何とか……早く何とかしろぉおおおおおおおお!」

「悪夢だ……こんなの悪夢だぁ!」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 あくは滅びた。(チーン)

 

 恐慌状態に陥った強盗団達に、勝ち目はありません……と、思うじゃろ? 普通

 勝ち目(PP)が切れてもわるあがきをやってくる往生際の悪さです。反動で大体自滅するんですけどね。かなしみ

 

 

「ハァ、ハァ……な、舐めやがって……! くたばれ、ジジイ!!」

 

「!! ゴルドーさん!」

 

「クソジジイ!!」

 

 

 倒れた強盗団の一人が匍匐前進で本の持ち主(パートナー)達の脇に回り込んでいました。

 いやー、キリィちゃんが感知できるのは魔物と本の持ち主(パートナー)だけだから気付かなかったなぁ(棒読み)

 ほもくんはキリィちゃんの傍に連れてきていたから、おじいちゃん一人だけにしたのがまずかったなぁ(すっとぼけ)

 

 

「死ねえぇえええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっく……しょぉがぁああああああああああ!」

 

 

 哀れ、ダニー君がおじいちゃんを庇い撃たれてしまい、他の強盗団も便乗してハチの巣状態です。遊星、ハチの踊りを知っているか? (唐突な話題転換)

 近くにいたダニー君だからこそ間に合ったカバーリング、キリィちゃんじゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

 

「ダニ──────────!!!」

 

「全く、世話のやけるジジイだ…………ぜ」

 

「おい、ダニー! ダニ─────!!」

 

「元就。黙って」

 

 

 耳元で怒鳴るな! 

 さすがの口下手キリィちゃんも、これには物申したくなります。ほもくんがダニー君にかけよるので、キリィちゃんもそれに続きましょう。

 まぁ全身から血を流し倒れ伏すダニー君は、どう見てもアレな状態なのでわかりますけどね。(初見プレイヤーを見る周回プレイヤーのような生暖かい目)

 

 

 

 

「や、やった……! 厄介な奴が消えた!! 勝てる、これで勝てるぞ!!」

 

「そうだ。残りの奴等もくたばれ!」

 

「やぁってやるぜぇええ!!」

 

 

 野性に目覚めた強盗団もいるようですね。人数は残り僅かですが、士気が上がった一行は嬉々とした表情で一斉射撃を加えてきます。

 

 ですが……無駄☆です(カンコーン)←格好いいSE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ジオルク》!」

 

 

 はい。やっとゴルドーおじいちゃんが呪文を唱えてくれました。

 ダニー君が落下中の夢から覚めたかのようにガバッと起き上がり、再び皆を庇う様に両手を広げました。

 

 しかし、先程と違い銃弾はダニー君の体を貫通せず足元に散らばるのみです。

 

 

 

「ふぅー……ッ痛ってーな、この野郎」

 

 

 

「た……弾は、当たった筈なのに」

「う、嘘だろ……?」

「なん……だと……」

 

 

「オラァアアア!」

 

「がぁあああああああああ!」

「う、うわぁあああああ! ば、化け物だ─────!」

「た、助けてくれぇええええええ!」

 

 

「驚いたか? これがあいつの力、“超回復能力”じゃ」

 

「超……回復能力」

 

「ウム。強い攻撃力がある訳ではないが、奴にはどんな力をも恐れぬ根性(ガッツ)がある。弱い人間が武器を使った所で、倒すのはまず無理じゃ」

 

 

 

 回復するってレベルじゃねーぞ!! 

 

 そんな愚痴をこぼしたくもなりますが、これがダニー君の呪文ですね。自身しか対象に出来ませんが、その代わり回復能力は非常に高いです。しかも、さっきは普通に効いた銃弾を完璧に皮膚で止めています。

 呪文説明にはありませんが、若干防御力もあがる作用もあるみたいですね。十二回まで同じ死因は効かないとかいう理由ではない筈です、めいびー。

 

 

 そして今回の戦闘の目的『ダニー君の呪文の顔見せ』も完了となりました。やったぜ! 

 

 以前お伝えしたかと思いますが、新取得した呪文は効果がわからないまま使うと【一定確率で失敗】となります。これは《ピルク》で複製(コピー)した呪文も同様です。

 回復呪文というのは事前のお試しが難しく、ぶっつけ本番で使って失敗したら目も当てられません。

 だから今回、強盗団の方達に協力してもらってダニー君が呪文必要になる所までボロボロになって貰いました。(鬼畜の所業)

 ぶっちゃけると、この強盗団戦闘は真面目にやったらティッシュに銃弾を発射するが如く簡単に突破できてしまうので。

 

 

 因みに原作だと強盗団のわるあがきが続き、更に一悶着ありますがそこはカット可能です。

 格好いいゴルドーおじいちゃんの姿が見たい方は、ゲームか原作買おうな! (唐突なダイマ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で強盗団も案内役を一人残して全滅させ─────シェミラ像、奪還成功です! やったぜ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ─────「ったく、ダルい奴等だったぜ」

 

 

 貨物室に隠れていた犯人を一網打尽にし、シェミラ像の在処を聞いた俺達は一つの船室に向かった。

 

 そこでアタッシュケースに保管されていたシェミラ像を取り返し、今は船を出る為に悠々と廊下を歩いていた。奴等は擬態の為に、一般客も乗るフェリーで逃げようとしていたので、人の通りのあるルートを通れば奴等も手出しができなくなっていた。

 

 あまりにもあっけない幕切れに、オレはただただ徒労に終わったと愚痴をこぼしていた。

 

 

「馬鹿者が。まだ気を抜くでないわ」

 

「ジジイもわかってんだろ。奴等はここまで来れねぇし、来る力も残ってねーよ」

 

「プロなら仕事を成し遂げるまで毛一本程の油断もせん。だからお前は若造(ボーイ)なんじゃ」

 

「んだと、ジジイ!!」

 

 

 いつもの様にオレを罵倒するジジイの胸倉を掴んで持ち上げるが、全く動じない。それどころかオレの方を見もしない始末だった。

 

 

「……見ろ、あの女子(おなご)を」

 

 

 そう言ってジジイに釣られ横を向いた先にいるのはキリカ。表情は変わらず、まっすぐ前を見据えて堂々と歩いている。まるでこの後にこそ、一番の()()()()()()()()のではないかと思わせる程の気迫が感じられた。

 

 

「キ、キリカ……」

 

「目的の物を取り返す帰路、そここそが最も警戒が緩みやすく狙われる時。あの子は、それがよくわかっておる。お主とは大違いじゃ」

 

「ぐっ……」

 

 

 何も言い返せなかった。

 

 ジジイの言葉はムカつくが言っている事が正しいと理解できてしまう。だからこそ、余計に悔しさが込み上げてくる。

 

 

「お主は全くわかっておらん。何の為にワシ等は仕事をやっておるのじゃ」

 

「……ぁ? 何の為にだと?」

 

 

 そう言うとジジイは首でオレを促す。見ている先は船の娯楽室、廊下の仕切りがなく開放されているフロアでテレビを見ている家族がいた。

 

 

「いよいよ明後日だな。楽しみだ」

 

「フフ、あなたは美術品に目がないものね」

 

「パパ! “しぇみらぞう”ってすごいの?」

 

「あぁ、物凄く綺麗なんだぞ! きっとびっくりする筈さ」

 

「わぁーい! すっごくたのしみ!」

 

 

 テレビで流れる美術館でシェミラ像が公開されるニュースを見て心待ちにする家族。その温かな姿は、荒んだオレの心に染み入るようだった。

 

 子供(ガキ)のお守り程度にしか考えていなかった自身を振り返り、シェミラ像が入っているアタッシュケースに自然と目がいく。

 

 

 

 

「お主の適当な仕事のせいで、あの家族の幸せが失われる所じゃった。例え子供(ガキ)のお守りだろうと、仕事ならばやり遂げる。でなければ、お主は永遠に半人前じゃ」

 

 

 ジジイは言いたい放題言った後、オレをおいてさっさと進んでいった。

 

 言い返したい気持ちはある。憤りを叫びたい気持ちもある。でもオレは……

 

 

 

 

「……くそぉ……」

 

 

 その言葉をこぼす事しか、出来なかった。

 

 

 

 




 

◇◆◇◆その頃のガッシュ◇◆◇◆


「ヌァアアアアアアアアアアアアア!!」
「メルメルメルメルメルメルメ~~~~~!」

「ガフガフガフガフガフガフガファ─────!!」



「ガッシュ~、清磨がすぐ戻るようにって……何やってんの?」

「おぉ、ティオではないか! た、助けて欲しいのだ~~!」
「メルメルメ~~~~!」

「ま、また新しい女なの!? ガフガフガファ─────!!
「ヌアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「メルメルメルメルメルメルメ~~~~!!」


「どうしたのよ、一体? その子と何かあったの?」

「何もしてないのだ────! 公園でウマゴンと作戦会議をしていたら、急にナオミちゃんが襲い掛かって来たのだ!」


「何もですって?! ワタシ聞いたんだから! キリカとかいう女と、か、かかか」

「か? 何か震えながら止まっちゃったんだけど」

「ハァハァ。た、助かったのだ! ……おぉ、そうだ。ティオは知っておるかの?」
「メル!?」

「知ってるって何が? キリカの事?」

「ウヌ。キリカともっと仲良くなる為の作戦としてウマゴンと相談してたのだが」













「キリカと()()()()()にはどうすればよいのだ?」


「は?」


※17話参照



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39.息子(ボーイ)

 11ヶ月ぶりの投稿。
 沢山の小説を読んだ成果が出たら嬉しい、腕が鈍ってたらしょうがない(鋼メンタル)




 

 

 

 

 はい、皆さまおはようございます! 

 

 久しぶりな気がするけど、全く気にしない《マ・セシルド》メンタルの超美少女魔物キリィちゃんです。(これを読んでいる皆様の寛容さは《チャージル・シン・セシルドン》級)

 

 まずは前回の振り返りですが、電信柱ヘアーのダニーボーイ君とゴルドーおじいちゃんに協力し、無事野性の強盗団からシェミラ像を奪い返す事に成功しました。どんどんぱふぱふー! 

 まぁ原作ルートでは非常に珍しい《対一般人のみ》の戦いなので、呪文ありルールで負ける方がおかしいんですけどね。

 

 

「無事に像が戻って何よりじゃな、不甲斐ないダニーボーイに代わり礼を言うぞ」

「チッ」

 

「い、いえ。キリィに呼ばれて事情を聞いた時は驚きましたけど、解決したなら何よりです」

 

「ウムウム、二人のおかげじゃな。不甲斐ないダニーボーイだけじゃシェミラ像を取り戻せたかどうかすら怪しいわい」

「……チッ」

 

「そ、そんな事は……。キリィはともかく自分はゴルドーさんと一緒に隠れていただけなので」

 

「ハハハッ、謙遜する事はない。君の動きはワシの目ではおいつけなんだ。あれが日本の“ニンジャ”という奴かの。()()()()()ダニーボーイとは大違いじゃ」

「…………チッ」

 

 

 

 何この重苦しい空気。

 

 現在、シェミラ像を取り戻した帰りの車中です。

 後部座席で本の持ち主(パートナー)二人がキリィちゃんを挟み、和気あいあい(?)とした会話をしています。ダニーボーイ君が時折それに舌打ちで返しつつ運転している状況ですね。ボーイ君(悪意のある略称)の見た目はいいとこ中学生程度、人間年齢に換算しても15歳なんです。その事を全く気にしない本の持ち主(パートナー)は大丈夫なんでしょうか? 

 

 

 

 

 大丈夫でした。

 

 現在高速道路を走行中です。すれ違ったパトカーも何のその、高速入口の料金所スタッフも華麗にダニー君のビジュアルをスルーして手続きしてました。ちょっとそれでいいんですかスタッフゥゥゥゥ!! 

 

 

「キリカと言ったか、お主は何故ダニーボーイと一緒にいたんじゃ?」

 

 

 おっと、ほもくんに対応を押し付けていたおじいちゃんの興味がこちらに向きました。こっち見んな(塩対応)

 

 

「シェミラ像を見に来たんだよ、じじい」

「実は一般公開がまだだって俺もキリィも知らなくて……」

 

 

 ボーイ君とほもくんが説明してくれます。キリィちゃんの口下手をボーイ君も理解している故のフォローですね。こういう所が頼れる兄貴分っぽいんだよなぁ。

 

 

「ほぅ、芸術に興味があるのか。よいぞ、少し見せてやろう」

 

 

 そう言いながら助手席に置いてあるアタッシュケースからシェミラ像を取り出すゴルドーおじいちゃん。

 運転中の車中で彫刻取り出すとか危機管理能力どうなってるんでしょうね。こういう迂闊な所がボーイ君と似ているのかもしれません。

 

 

「これは……すごいな」

 

 

 ……すごい彫刻だ。

 このたわけめ! (一人ノリツッコミ)

 

 このシェミラ像、データ的には何の効果もありません。ただの記念品ですね。クエストクリア時EXP+50くらいの存在価値だと思います。(適当)

 とはいえ、アイテム画像を見るとただの石の彫刻なのに後光がさしていたり『コオオオォォォォォ』とかいう謎の効果音が出ているので、『某うまのふん』の様に活用法はないのかと色々試した結果……やっぱり何もありませんでした。残念! 

 

 

「どうだ、気に入ったか? キリカ」

「…………ふつう」

 

 

 当然、《能面》《口下手》標準搭載のキリィちゃんにはボーイ君の言葉に精一杯の忖度をかけた返答でこのレベルです。ショウガナイネ。

 

 

「ムゥ、キリカのような小さい子には早かったか」

 

「す、すみません。ゴルドーさん。何かすごそうな事は俺にもわかるんですけど」

 

「気にすんなよ、元就。こんなもんの良さがわかるのは、じじいみたいに枯れ切ってからだって」

 

「やかましい! 芸術は感性と経験次第じゃ。お前こそ至高の芸術の数々に触れておきながら、それを理解しようともせんとは嘆かわしい」

 

「へッ、俺にも好みってもんがあんだよ。キリカ、今度お前にもわかるような簡単な美術品を見せてやるよ」

 

「フン、若造(ボーイ)がいっぱしの兄貴分気取りか」

 

 

 打てば響くボーイ君とゴルドーさんの軽口の応酬が行われる車内。

 言葉だけ聞けば険悪なやりとりに思える内容も、ゴルドーさんは非常に楽しんでいるのが緩んだ頬からもわかります。わかるわかる、お気に入りの人ほど茶々をいれたくなるよね。

 

 ですが、和やかな雰囲気はここで終わりです。さっさと進めろって声も聞こえるからね。

 

 

 

 

「ったく、じじい。いい加減に……ッ!!」

 

「なっ!? 前のトレーラーがパンクを起こしてスピンを!!」

 

「全員何かに掴まれ!! うぉおおおおおおおおお!」

 

 

 横向きになり進路を塞ぐトレーラー。

 ブレーキをかけつつ側面から当たる事で正面衝突を避けるドラテクはさすが兄貴分といった所ですね。騎乗スキル持ってそう。

 

 

「な、何とか止まったようじゃな」

 

「!? いやまだだ! トレーラーの荷の石柱が倒れこんでくる!」

 

「キリィ、ダニー。早く車外へ! ゴルドーさんは俺が」

 

「あぁ、キリカ早くしろ! 外に出るぞ!」

 

 

 ここで外に出る事を促されますが、チャンスタイムのお時間です。

 

 ゴルドーおじいちゃんは衝突の衝撃でふらついている為、魔本を手放している状態です。おじいちゃんはほもくんに抱えられ脱出できるので問題ありませんが魔本とシェミラ像を車内に残したまま脱出してしまいます。

 シェミラ像にかける思いを知るボーイ君は、像を残して脱出する事を良しとせず一人で石柱を支え時間を稼ごうとするんですね。これぞ本場の「俺に任せて先に行け」スタイル。

 

 なので、逆に考えるとここが魔本を決して手放さないおじいちゃんから魔本をパk……お借りする絶好の機会という訳ですね。まぁ返さず燃やすんですけど。(鬼畜の所業)

 という訳でここで魔本を回収します。今ならこっそり燃やしても事故が原因だと思われるのでオトクです。

 回収するにはQTEに成功する必要があります。難易度はキリィちゃんの知力と乱数、まぁ数多の修行で知力も上がったキリィちゃんなら余裕ですね。

 

 パイナップルサラダ食べながら田んぼ入ってくる(フラグ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………失敗しました。(最速フラグ回収)

 

 

 オィイイイイイイイイイイイ!!!? 

 なんだあの超絶難易度は! 乱数仕事しすぎやろ!! 

 

 ここのQTEは何度か試走した時には問題なく成功していたので油断していました。乱数の幅がかなりでかいみたいですね。

 恐らくやり直してもう一回挑戦すれば簡単にクリアできるでしょうが、これも一興。突き詰めたRTAではない以上、詰んだ時以外のやり直しはしないという信条なのでこのまま進めたいと思います。

 

 それに魔本を持っていく判定に失敗したとしても、シェミラ像を持っていけばボーイ君がここに居座る理由もなくなるので、本がペチャッ(優しい表現)となり戦い継続不可能と魔本側に判断され自動焼却が入ります。撃破と判定されるか微妙ですが、ポイントは多分入るのでそっちを狙いましょう。

 

 では早速、今度はシェミラ像に対してQTEを……

 

 

「キリィ! 早く車外へ!!!」

 

 

 あ──────────、ほもくんいけません。あぁあ────────────。

 

 ゴルドーおじいちゃんを持ち前のジツ(すばやさ)で安全地帯まで避難させた後、速攻で戻って来たほもくんに抱えられ強制脱出装置されました。手札に戻されます。

 シェミラ像だけ救出するとダニーボーイ君の「シェミラ像は無事だぜ! (ドヤァ」→体がスーッ(魔界へ送還)というコントのような脱落が見れたのですが、非常に残念です。是非見て欲しいので、持ってない方は買って下さい。(唐突なダイマ)

 

 

 

「が……! がぁ……ぐ……!」

 

「ダニー! 大丈夫か?!」

 

「ぁ……もんだ…………いね……ぇ」

 

 

 倒れこんできた石柱を車の屋根を突き破って支えるボーイ君。ここに来てやっと他の皆もシェミラ像の事を思い出します。おっそーい! 

 

 

「おいキリカ。俺ごと……()()、吹っ飛ば……せるか?」

 

 

 石柱の破壊をお願いするボーイ君。

 原作ではガッシュと二人がかりでも持ち上げられない超重量なのでキリィちゃんでも厳しい、ゆえのぶち壊しを懇願してきます。ただの石柱なので二次被害もありませんからね。

 本当は魔本回収するかペチャッ(優しい表現)がよかったんですけど、仕方ありませんね。QTE運を恨みつつ対応しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ────────────────「早く……早くしろ! このままじゃ像が下敷きになっちまうぞ!!」

 

 

 ヘッ、俺もヤキが回ったもんだ。

 

 俺にのしかかってくる石柱。両腕の感覚がなくなってきやがったし、膝はいまにも崩れ落ちそうだ。そんな状況にも関わらず、俺の頭は妙に静かで凪いでいた。自身の行動に内心で苦笑すら浮かべている。

 

 俺の足元にはシェミラ像がある。事故の衝撃でシートに挟まったせいで、力づくで持っていこうにも時間がなかった状況だ。像を守る為には、こうするしかなかった。

 

 

《「わぁーい! すっごくたのしみ!」》

 

 

 脳内に思い起こされるのは船で見かけた親子連れ。シェミラ像を見るのを楽しみにしていた。

 

 

《「例え子供のお守りだろうと、仕事ならばやり遂げる。でなければ、お主は永遠に半人前じゃ」》

 

 

 別にじじいの言葉に感じ入ったわけじゃない。

 

 

《「これは……すごいな」》

 

《「…………ふつう」》

 

 

 バックミラー越しに見た、あの二人の顔を思い出し自然と頬が緩む。

 

 そう、俺は─────あの家族にもあいつらみたいな思い思いの顔をしてもらいたいと思った。

 

 仕事の誇り? 奉仕精神? そんなモン、クソくらえだ。

 

 ただ、俺は…………

 

 

 

 

「この像を守る仕事をしてるんだよぉおおおおおおおらあぁああああ!!!」

 

 

 渾身の力を込めて石柱を持ち上げる。両腕を伸ばしきる事で、車と石柱に隙間が空く。これでキリカの奴は狙いが付けやすくなるはずだ。

 

 どんな呪文が来るかは知らないが、衝撃が来る可能性を考えて俺はそれに備えようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは?!」

 

 

 突如、車と石柱の隙間から大きな鎖が何本も生えてくる。

 

 慌てて左右を見るとその鎖は石柱をぐるぐると巻き付けていく。これが……キリカの呪文か!? 

 

 

「《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》」

code(コード)、《ディノ・リグノオン》」

 

 

 どうやら正解だったみたいだ。

 

 キリカの両手から先端に錨のついた巨大な鎖が何本も出ているのが見える。高速道路の端や比較的近くにあるビルに錨をさして石柱を持ち上げようとしているようだ。

 

 だんだんと俺の腕にのしかかっている重量が減っていく。どうやら、うまくいったみたいだな。

 

 

 

 

「キリカに借りが出来ちまったな」

 

 重量が完全に俺の腕から離れたのを確認し、ホッと安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 やりました。(ドヤ顔)

 

 

 はい、土木作業適正SSのロップスの呪文により石柱を車の脇へレッカー移動させました。ホンマコイツ便利やでぇ(ただしもう使えない)

 無事ダニー君も車から降りてこっちにやってきましたね。原作では至近距離で《ザケル》の余波を受け、バラバラになった石柱の破片が降り注いだせいでボロボロでしたが、今回は支えただけなので見た目はかなりマシです。

 

 

「フン、年寄りをひやひやさせおって。寿命が縮んだらどうするんじゃ」

 

「ンだと、じじい! 苦労してシェミラ像を守り切った奴に対してかける言葉がそれかよ!!」

 

 

 ゴルドーおじいちゃんも原作とは違う塩対応。ほんま苦労人やでぇ

 ただダニーボーイ君は気が付いていませんが、ゴルドーおじいちゃんは今までで一番うれしそうな笑顔を浮かべています。さぁ、弾幕の準備しなきゃ

 

 

「フン……『守り切った』か」

 

「何だよ。文句でもあるのかよ」

 

「そんなもんある筈なかろう。美術館へ行くぞ()()()、警察が来る前にシェミラ像を安全な場所に置いておかねばな」

 

「!! じじい、今!」

 

「どうしたダニー。さっさと準備せんか」

 

「……若造(ボーイ)はどうしたんだよ」

 

「今の貴様に若造(ボーイ)などと呼べるか。─────成長したな、我が息子(マイボーイ)

 

「!!」

 

 

 

 

 

 282828282828!

 ツンデレ乙!! 

 すれ違い親子の解消シーンを見るかのような感動がそこに繰り広げられています。

 

 

 さて、それはそれとして魔本魔本。早くボーイ君もといダニー君の魔本を燃やさないといけませんね(まさに外道)

 事故のショックで魔本を失念している二人ですが、じきに思い出してしまいます。それまでに燃やしておけば「事故が原因で燃えてしまった」と勘違いし、親密度に影響を及ぼす事はないんですね。

 善良ロールをする時にはトラブルのどさくさに紛れるのが基本です。どんどん活用しましょう。(善良とはいったい)

 

 

 おっ、あったあった。

 後部座席の開いたドアから見える座席シートの上に紫色の魔本が置いてあります。ほもくんもダニー君の方に気を取られている今がチャンスです。(魔本)を燃やせ! 

 

 ライターを取り出して点火。魔本に近づけて──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ。キリカ」

 

 

 …………あの。何でここに清磨(ピヨ麿)がいるの? 

 

 




 

◇◆◇◆その頃のガッシュ◇◆◇◆


「ヌァアアアアアアアアアアアアア!!」
「メルメルメルメルメルメルメ~~~~~!」

「ガフガフガフガフガフガフガファ─────!!」

「待ちなさいガッシュ─────!! キリカと何があったのか全部話してもらうんだから─────!」


「ヌァアアアアアアアア。ティオは、ティオは何か用事があったのではないのか──
?!」
「メルメルメルメル!」


「そんな事よりキリカの事よ!!キリカ!キリカ!キリカ!キリカァぁぁあああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!キリカキリカキリカぁううぁわぁああああ!!! 」
「ガフガフガフガフガフガフガファ─────!!」


「ヌァアアアアアアア──────────!!」
「メルメルメルメルメルメルメルメルメ~~~~~~~~!」




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40.亀裂

 前回おまけパートのルイズコピペ
 書いている最中、余裕で釘宮さんボイスで脳内再生しながら書いてました。せいゆうさんはすごいなぁ。




 

 

 

 

 ─────「そこまでだ。キリカ」

 

 

 

 

 手にライターを持ちながら、彼女がそれまで乗っていた車内へ近づこうとしたキリカに声をかける。ガッシュが傍にいない為『戦力』という点では役に立つ事はないが、俺の持つ赤い魔本は彼女の目をまっすぐ見据える勇気をくれる気がした。

 

 キリカの呪文と思われる鎖で石柱は固定されているが、事故を起こした車にはどんな危険があるかわからない。発火物を近づけるなんてもってのほかだ。そんな思いを込め、やや強い口調で彼女の静止を促した。

 

 

「…………ッ」

 

 

 彼女はゆっくりと振り返り、光を映さない……いや、むしろどんな光でも包み隠すような深淵の闇を想起させる双眸が俺を見つめる。キリカとの距離は数m程離れているにもかかわらず、思わず息を止めてしまいそうな威圧を前に、俺は体中に意識的に感覚を巡らせ緊張を解いていく。

 

 

 

 つくづく俺は『対人関係』のスキルの経験値が低いと思い知らされる。ガッシュと出会うまでに不要と判断し切り捨てた能力が、いまでは喉から手が出る程欲しくなる。そんな人生の意外性と、その能力の高さを認め信頼している()()が傍にいない事を恨めしく思いながら、俺はキリカと相対していた。

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 恵さんからの電話を受け、俺はキリカが『ダニー』という魔物の手助けを行い埠頭に行く事を知った。

 

 それまでの俺やガッシュだったなら、その行動に何の疑いも持たず彼女の優しさに喜び、不要だと知りながらも無事を願うばかりだっただろう。しかし─────

 

 

 

《「ロップス──────────!!」》

 

 

 つい先日キリカに魔本を燃やされた相手の本の持ち主(パートナー)の姿を思い出し、嫌な胸騒ぎを感じる。

 

 あの時とは状況が違う事は理解している。最後はともかく、あれは正々堂々とした勝負の結果だ。今回はただの手助け、手伝いの筈だ。問題はない。

 

 

 

 でも俺は─────キリカの下へ向かう事へ決めた。

 

 公園にウマゴンと遊びに行っているガッシュにすぐ戻るよう、偶然訪ねて来たティオに伝言を伝え出かける準備をするが一向に現れず立ち寄った公園にもいないガッシュに見切りをつけ、俺は自転車を飛ばし一人で向かった。

 

 埠頭についた時には、頼まれた仕事を終えたのだろうキリカと白、いや銀髪の長髪を逆立てた少年、『ダニー』の二人が本の持ち主(パートナー)らしき人物と車に乗り込む姿が見えた。

 

 

 俺はしばし考えた末、自転車を近くに止めタクシーで彼女等の車の後を追う事にした。

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 ─────「その魔本、ダニーって子のだろ。何で燃やそうとするんだ」

 

 

 高速道路に乗ったので距離を取り追跡を行っている最中、前方で起こった交通事故。

 

 遠くからキリカと戦った魔物の系統と思われる呪文の発動が見え、最悪の可能性をいくつか考えつつもタクシ―から降り大渋滞を起こす車の間を抜けその場へ向かった俺が見たものは……ダニーのものと思われる魔本を燃やそうと事故車に近づいていくキリカの姿だった。

 

 

「……清磨」

 

「キリカ、答えてくれ。ダニーはお前と戦う気はないんだろ?」

 

 

 視線をキリカから外して少し遠くにいる相手の魔物と本の持ち主(パートナー)を見る。

 

 詳しい経緯はわからないが、ひとつだけわかる。あの二人の間には絆がある。友情か、親子の情か、師弟の絆か、それともまた違う者かはわからない。だけど俺には、あの二人の姿の正しい信頼関係が簡単に見て取れた。

 

 そんな彼等を考慮せず、淡々と魔本を燃やそうと行動するキリカの冷徹さ、無情さに俺は憤りよりも悲しみを感じた。

 

 

 

 キリカは、あの二人に結ばれている絆を見ても何も感じないのだろうか。

 

 

「キリカ……」

「…………」

 

 

 俺とキリカの間に沈黙が訪れる。事故の騒ぎを聞きつけた緊急車両のサイレンの音が遠くに感じる。

 

 そんな異様な雰囲気に気付いたのか、元就と相手の魔物、その本の持ち主(パートナー)がこちらへやってくる。

 

 

「キリカ、どうしたんだよ? まだ車に近づいたら危ねーぞ?」

 

「そうじゃな、何か気になる事でも…………ッ! そうか、迂闊じゃった」

 

「! ……キリィ」

 

 

 状況を呑み込めない魔物。即座に理解する本の持ち主(パートナー)。元就は前回の戦いの事があるのか、また同じ状況を作り出してしまった自身を悔いているかのような表情だ。

 

 

「ダニー、すぐに本を取ってくるのじゃ」

 

「あ? ってジジイ、車の中に本を置いてったのかよ!」

 

「やかましい。今はそんな事言っている時ではないわ!」

 

「心配すんなよ。あの車はそんなすぐに爆発しねーよ」

 

「そんな心配はしとらんわ! いいからすぐに取って来るんじゃ!」

 

 

 本の持ち主(パートナー)はキリカの動きに警戒しつつ指示を出す。キリカと本の持ち主(パートナー)を何度か見て、魔物もようやく何に警戒しているのか理解したようだ。

 

 元就も魔物が急に襲い掛かって来る可能性を考え体勢を整える。場には、一触即発の空気が流れていた。その空気を感じ取った相手の魔物は言われた通り本を取ってくる。

 

 

 そして本の持ち主(パートナー)へ渡してすぐに臨戦態勢に─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらよ、キリカ」

 

 

「なっ!?」

「えぇっ?!」

「なんじゃと!!?」

 

 

 

 ─────ならなかった。

 

 あろう事か、相手の魔物は魔本をキリカに向けて差し出した。少し腕をのばせば簡単に奪い取れる距離。そんな状況に、相手の魔物はまるでイタズラが成功した子供の様にほくそ笑んだ。

 

 

「どうした。キリカ? 俺の本を燃やすんじゃなかったのかよ?」

 

「な、なんでだダニー! キリィがその魔本を燃やしたら魔界に還るんだぞ!」

 

「わかってるよ。キリカ、シェミラ像を一緒に奪い返してくれた礼。まだしてなかっただろ。コレが欲しいってんならやるよ」

 

 

 ありえない状況にうろたえる元就。相手の本の持ち主(パートナー)は、最初は驚いたようだが真剣な目で自身の相棒を見守っており、そして口を開いた。

 

 

「……魔界の王の座はいいのか?」

 

「別にたまたま選ばれただけだからな。それに……()()()()()どうでもよくなっちまった」

 

 

 満面の笑みを浮かべ本の持ち主(パートナー)へと振り返る魔物。それを見て満足そうに本の持ち主(パートナー)も頷いた。

 

 

「……いっぱしの男の顔をしおって。それが仕事を本当の意味でやり遂げ大きくなった証じゃ。好きにするがいい、我が息子(マイボーイ)

 

「あぁ、息子らしく好き勝手にさせてもらうぜ」

 

「フン。放蕩息子の相手は疲れるわ」

 

 

 わざとらしくため息をついた本の持ち主(パートナー)は、ダニーと呼ばれる魔物から離れ状況を見守る事に決めたようだ。

 

 ダニー、元就、そして俺がキリカの反応を待った。

 

 

 

 

 

 キリカは時間をかけダニーの差し出す魔本と、何故か俺の方を何度か見比べた。表情は全く変わらないが、もし表情がついているとしたら何かに迷っているように感じる。

 

 今の状況で俺自身に気を配る理由はない。相棒の魔物がいない俺の戦闘力は0。歯牙にもかけない存在である筈。

 

 俺はキリカの事を大切な友達だと思っているが、積極的に関わろうとしてこない日々の行動から彼女は俺の事は苦手に思っているとわかる。そんな俺の事を気にするとしたら十中八九、ガッシュが原因だろう。

 

 

 

「……もういい」

 

 そしてキリカは何度か迷ったように手元のオイルライターをいじった後、おもむろにポケットにしまい振り向いてダニーから離れる。どうやら本を燃やすのは留まってくれたようだ。俺達の間にホッと弛緩した空気が少し流れる。

 

 キリカは何らかの理由で本を燃やそうとする理由があり、それが今回ダニーとの絆が上回った。彼の本を燃やすのに躊躇ったという事は、そういう事なのだろう。

 

 

 

「待ってくれ、キリカ」

 

 

 だからこれだけは聞いておきたい。

 

 立ち去ろうとするキリカの背中。俺はその背に問いかけた。

 

 

「他の魔物の本を積極的に燃やすのは、魔界の王の為か? 何かやりたい事が……なりたいものがあるのか?」

 

 

 

 キリカが何を望んで行動したのかを聞きたい。《道具》とまで自身を蔑んでいた彼女が『やさしい王様』でなく望んだものは何なのか、それを教えて欲しい。仮にそれがガッシュ達と相対するものだとしても、彼女が考えだした結果ならば俺達はそれに向き合っていくだけだ。

 

 

「ヒントだけでもいい。なんでもいいから、教えてくれないか?」

 

 

 

 聞き出すまでは引くつもりはない。そんな意思表示を彼女への眼差しに込める。

 

 

 

 だんだんと周囲の音が、姿が消え、俺の感覚はキリカに関わるもの以外の一切を無視した。

 

 今までの人生で感じた事がない程の集中力に身を委ねる。今なら彼女のささいな動きからも、その心境を完全に把握する事が出来るかもしれない程の。それ程の感覚に俺は身を委ねていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故に、彼女がこぼしたかすかな呟きすらも聞き取る事が可能だった。

 

 

 

 

「……ポイント、稼ぎ」

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───キリカが立ち去るまで、激昂し声を荒げなかった自分をほめてやりたい。

 

 

 なんだそれ。

 

 

 なんだよそれは。

 

 

 

 

 

 なんなんだよ、その理由は!! 

 

 

 

「ただ()()()()()()評価(ポイント)を稼ぎたいから……、こんな事してるってのかよ!」

 

 

 言葉として吐き捨てても、一向に冷静さは戻って来てくれない。

 

 

 

 彼女の見つけた《王としての道》がガッシュと違えた訳ではなかった。

 

 そもそも、《そんなもの》が存在しなかった。ただ彼女はガッシュとの距離が離れない様、ガッシュに嫌われない様に役立つ事をしようとしただけだった。

 

『道具』として育てられた悲しい少女が初めて願った望みがただの『奉仕』。それでは『道具』が『道具』としての意識を持っただけにすぎない。彼女の心は、ほとんど変わってはいなかったのだ。

 

 

 

 親父にキリカの精神は快方に向かっていると聞きもう大丈夫なのだと、安心なのだと油断していたのかもしれない。自身のマヌケさにうんざりする。こういう時には、自分はたかだか十数年しか生きていない中学生なんだと痛い程理解してしまう。

 

 

《「考えすぎるな、清磨。今はただ、彼女の味方でいればいいんだ」》

《「そっちは元就君に任せて、お前はガッシュと向き合っていくんだ」》

 

 

 脳裏に浮かぶのは、親父の言葉。

 

 俺に出来る事はないのか。ティオやガッシュ達にも当然協力してもらう、その上で俺が……《ガッシュの本の持ち主(パートナー)である》俺しかできない事はないのかと思案する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────「もっと示すんだ。ガッシュの目指す王の道を、ガッシュの願う『やさしい王様』がなんなのかを。キリカにも伝わる様に」

 

 

 痛む心に涙は流れない。ただ、俺の体の中で静かに燃え上がる血の猛りに俺は新たに決心をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに俺はその後、その場に残されたダニーとその本の持ち主(パートナー)ゴルドー氏と連絡先交換を済ませ、何かあれば情報交換を行う約束をした。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピヨ麿やほもくん、ゴルドーおじいちゃんに見守られながらダニー君の魔本を焼却~~~……って

 

 

 

出来るかっこんなもん! 

 

 

 

 はい、皆さまこんにちは。

 感情の解放のさせ方の下手っぴさに定評のある美少女魔物キリィちゃんです。

 誰にもバレないように魔本を燃やすスニーキングミッションをこなしている最中に、まさかのピヨ磨バレしました。まだダンボールに隠れればバレなかった事に出来ないかな? (現実逃避)

 

 

 いや~、清磨さんの追求めっさ怖いっすね。

 般若清磨は根源(ラブクラフト)的恐怖を感じましたが、真面目な顔して正面から詰問されるのも堪えるのよコレ。

 

 しかもあの人、目がだんだん据わって来てグルグルお目目になってきてました。具体的に言うとアンサーなトーカーの力の片鱗が出てきてました。そのせいで追及をごまかす事も出来へんやないか! (逆ギレ)

 

 

 しょうがないので「(撃破)ポイント稼ぎ」と正直に暴露。せめてもの抵抗に小声で聞こえない様言ってやりました。ざまぁみろ。

 魔本焼却事件については、ダニー君のおかげでうやむやに出来た感がありますね。やったぜダニー!! 

 

 

「…………」

「…………キリィ」

 

 

 うん、全然ごまかせてないねこれ。ほもくんは不審な目でこちらを見ているし、清磨に至っては「示すんだ……可能性を……! バオウ・ザケルガ(ビームマグナム)で……!」とか言ってきそうな勢いを感じます。

 これはいけませんねぇ、確実に親密度が減少してます。どこかでテコ入れを行う必要がありますね。幸い、次のイベントにアテがあります。速攻で入るフォローにも余念がない走者の鑑!! さぁもっと褒めたたえるがいいさ(←ガバの鑑)

 

 

「次は、大丈夫」

 

 という訳で積極的魔本焼却推奨期間はひとまずここで終了です。これ以上やったらマジでガッシュ君敵対コースだわ。ほもくんにも次から真面目にやりますって言っておきましょう。

 次回からは、減少させた親密度の回復に努めたいと思います。なつき度あげるには叱った後ちゃんと褒めて甘え度上げないとね。(モンスターファーム脳)

 

 

 次のイベントは今までとは少しだけ趣向を凝らした戦闘が出来ると思います。

 刮目して待つがいいさー!! いいさー!  いいさー(エコー)

 

 

 

──────────────────【ダニー 残留(アライブ)

 




 
何とかダニーボーイ編、年内終了。
次の話は半年以上書きたい気持ちをためてたので早めに書き上げられればと思います。

みなさま、よいお年を


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41.VS?パピプリオ

 

 

 

 

 

 

 

 ─────場所はヒマラヤ山脈、

 

 そこで()()の魔物が、修行に明け暮れていた。

 

 

 彼等は己の呪文と武術に限界を感じ、悩みぬいた結果……たどり着いた結果は協力であった

 

 自分自身を選んでくれた魔界への限りなく大きな恩。魔界の王候補として、それを自分なりに返そうと思いたったのが

 

 一日一万回 感謝のコンビネーション特訓!! 

 

 

 気を整え 拝み 祈り 本を構えて 呪文を唱える

 

 一連の動作を一回こなすのに当初は30秒

 

 一万回をやり終えるまでに腹が減り 飽きて中断した

 

 食事を終えれば忘れたフリして眠り 起きてやる気をふり絞り特訓を繰り返す日々

 

 

 

 2カ月が過ぎたころ異変に気付く

 

 初期の頃に覚えた2つ目の呪文以降、二組とも全く呪文が増えていない

 

 かわりに 筋肉量が増えた

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 ─────「ギャ~~~ング・オブ・ニュ~ヨ~~~ック」

 

 

「何、意味不明なこと言ってるの『パピプリオ』? それにその言葉はまだ早い気がするわ? 具体的には完全版コミックス5巻分くらい」

 

「無性に言いたくなったんだよ。それにお前こそ何いってるんだ『ルーパー』?」

 

「あらイヤだ。きっと何か不思議な力が働いたのね。私達の意思とは無関係に口から言葉が出ていたのよ」

 

「そうなのか、それじゃあ仕方ないな」

 

「えぇ、しょうがないわ」

 

 

「ルーパー、パピプリオ! 何、特訓中に話しこんでやがる! オレ様と『ゾボロン』とのコンビネーションが失敗したらどうする!」

 

「うるさい、ヒゲ」

「うるさいわよ、ヒゲ」

 

「誰が『ヒゲ』だ! ワシの名前はそんなじゃねぇ。いいか、ワシの名前は……」

 

 

 ヒマラヤの奥地で2カ月間、特訓に明け暮れる人型の魔物パピプリオとイグアナ型の魔物ゾボロン。彼等は自身の呪文の弱点を補える特性を相手が持っている事を知ると協力を互いに申し出た。

 

 だが言葉を発しないゾボロンはともかく、彼等はお世辞にも仲がいいとは言えない。この戦いを勝ち抜くためには仕方がないと、妥協が大部分を占めた信頼関係を築いていた。

 

 

「ヒゲで十分だろ。実際顔が半分ヒゲになってるじゃないか」

 

「そうね、パピプリオの言う通りよ。あなたはヒゲが本体なのよ。諦めてヒゲから発声出来るように練習なさい」

 

「ルーパー。それかフルネームで呼べばいいんじゃないか? 『ヒゲ・モンジャ』とかどうだ?」

 

「ナイスなネーミングセンスね、パピプリオ。きっと体中モジャモジャなのよ、胸毛を自由に操って攻撃してくるわ」

 

「おぉ、なんかそれ格好いいな。俺も出来ないかな」

 

「大人になればきっと出来るようになるわよ」

 

「いい加減にしろマネキンババア共! それ以上言うならこっちにも考えがあるぞ!」

「何ですって──────!! アンタその呼び方は禁句って言った筈よ!」

 

 

「《ダレイド》!」「《ドグラケル》!」

 

 

 

 雪崩を誘発しかねないほどの爆発。性格的な相性は絶望的に合わない二組の言い合いは毎回この展開になり、呪文で頭を冷やすまでがいつもの流れであった。

 

 

 

「……まぁいい。ようやくオレ達のコンビネーションも仕上がった。もう街に降りて他の魔物を倒しに行ってもいい時だ」

 

「そうね。なんだかんだで私達、戦いでの連携は取れるようになってきたものね」

 

「あぁ。街へ下りたら、お前達が行きたがっていた“日本”へ行こうじゃないか」

 

「マジか、ヒゲ!! ついに伝説の料理“SUSHI”が食えるのか?!」

 

「そうよ、パピプリオ。あなたもゾボロンもお魚が大好きだものね。きっと美味しい筈よ」

 

「あぁ、楽しみだ。いい事いうじゃないか。ヒゲ! モジャモジャしてるだけじゃないんだな!」

 

「そうね、ヒゲ。見直したわ。無駄にヒゲを伸ばしているだけあるわ」

 

 

「お前等はいちいちワシをけなさないと話を進められねぇのか!! それにワシの名前は……」

 

 

「そんな事よりパピプリオ。お魚もそうだけど、あなたの探しているもう一つの方も見つかるといいわね」

 

「ん、なんだよルーパー。何か言ってたか?」

 

「この前言っていたじゃない。お嫁さん候補を探したいって」

 

「あぁ、アレか。王になったら必要になるかもと言っただけだぜ」

 

「この機会に見つけるべきよ、私も協力するから。パピプリオの好みはどんな女の子なの?」

 

「うーん……そうだなぁ」

 

 

 

「ルーパー、パピプリオ!! そろそろ飯にするぞ! 喰ったら山を下りるからな!」

 

「チッ、空気の読めないヒゲね。パピプリオ、何でもいいのよ。望んだままを教えて頂戴」

 

「そうだな、それじゃあ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優しくて、大人しくて、髪が長くて、ミステリアスな雰囲気のする、口数の少ないかわいい子がいいな」

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほらキリィ! モチノキ遊園地についたぞ。今日は目一杯楽しもうな!」

 

 

 

 ハハッ。ボク、キリィ! ハハッ(高音) ……やめとこ、本気で危ないわ

 

 皆さま、おはようございます。美少女魔物キリィちゃんです。

 本日はモチノキ町から少し離れた場所にあるモチノキ遊園地に遊びに来ました。勿論ほもくんも一緒です。

 

 

「ティオと恵さんは急な撮影でこれなくて残念だったね。結構混んでけど、清磨との待ち合わせまで1時間以上ある。どうやって時間を潰そうか」

 

 

 そう。今回は原作ファンの方もおなじみ、ガッシュペアとティオペアによるWデート回でした。休日なので人もイパーイです! 

 

 過去形なのは、ティオペアの代わりにキリィちゃん達がここにいる事です。このイベントはガッシュとの親密度が最高状態だとお誘いがかかり、ピヨ麿やティオの親密度によって行くメンツが変わります。

 関係者全員の親密度が最高状態だと魔物3ペアによる仲睦まじい状況を楽しむ事が可能です。途中、襲い掛かってくる魔物もいますが数の暴力で一蹴できます。

 

 ですが誰か一人でも親密度が下がっている状態だと、逆にこのイベントは仲直りイベントへと変化するんですね。ご褒美から一転反省会へとチェンジです。

 今回はピヨ麿の下がった親密度を回復する為、ティオと恵さんが一回お休みとなってしまいした。

 ティオとガッシュのイチャコラ(死語)を見せられないのは残念ですが、今後の原作ルートにガバを起こさない為にもそれ以外は原作通り、淡々と進めていきたいと思います。

 

 それにこの遊園地イベントは走者が何もしなくても見どころさんが十分に活躍してくれる事でしょう。なぜならば─────

 

 

「ここが遊園地か! やっとついたな、ルーパー」

「すごい人の量ね。はぐれない様に手をつなぎましょうか、パピプリオ」

「見ろ。人がゴミのようだぜ。あっテメェ! 今ゾボロンの脚ふみやがったな!!」

 

 

 はい、やってきましたね。

 人混みの向こうに見えるはゾボロンとパピプリオ。初期からタッグを組んでいる非常に珍しい魔物ペアです。本の持ち主(パートナー)はそれぞれ古代ギリシャ人みたいな恰好をしている『ヒゲ』(ただしイタリア人)と、アフロヘアーが特徴的な黒人女性『ルーパー』です。

 

 ゾボロンペアについてはいう事はありません。ヒゲの本名が不明の時点でお察しです。

 注目すべきはパピプリオ&ルーパーさん。パピプリオは王子様のような恰好をしており自信家で努力家、セコくて幼稚でワガママ。それでも姑息ですが卑怯ではない憎めないヤツです。そしてルーパーさんはその性格たるや地母神の如く。パピプリオのわがままな要望に流されやすいですが、それもパピプリオを息子代わりに想う母親の愛であり、自分自身を一切顧みず息子(パピプリオ)を優先する様は非常に尊いです。ちゃんと『さん』をつけるんだよデコ助野郎。

 

 執筆の神様すら予想外の活躍を見せる彼等には根強いファンがおり、走者も大好きです。

 今回起こる彼等とのタッグマッチ戦はコミカルですが見応えもあり、原作はじめての複数の魔物との戦いという点においても見どころさんが盛りだくさんです。(誰うま)

 

 

 今回は彼等の活躍をガッシュ君の隣でたっぷり観賞していく事にしましょう。

 初のタッグマッチ戦なので、そこも見どころさんポイント追加です。因みにここでのタッグマッチはチュートリアルの意味合いを含んでいるのか、対戦相手やペアはルートにより変化してもガッシュ君のタッグマッチ戦は必ず起こるので、清磨達の戦闘経験値は入ります。

 という事で、このまま原作通りの流れで【パピプリオ&ゾボロン VS ガッシュ&キリィちゃん】戦をお届けしたいと思います。

 

 まぁ、唯一の懸念はダニーボーイ君の救出時に使い切った『複製(コピー)』の力を更新していない事でしょうか。

 ピヨ麿の親密度が下がった今の状態では赤い魔本を貸してくれる可能性は低めですし、同じ魔物の力ばかり使いまわしても新鮮さがありません。

 何より折角のタッグマッチなのにペアが同じ呪文使いでは面白くもありません。『次はダブルスでいくよ』は最初シングルスだったから面白いんです。(鋼の意思)

 

 

 

 

 

 

 

「しかし本当に人が多いな。一体いつになったら入れるんだ?」

「既に遊園地には入れる時間の筈よ。この人混みをかき分けて行かないといけないのかしら」

「そうか。よし、やっちまえヒゲ」

「やかましい。自分でやれ」

「こういう時こそゾボロンの呪文の出番だろ。ここまで来るのだってルーパーに頼りきりだったじゃないか」

「フン。なら“お願いします”というんだな。それなら言ってやらんでもない」

「何、本を掲げて誇らしげに言ってるんだよ。それに実際やるのはゾボロンだろ」

「ちょっとヒゲ。そんな本を高く掲げてたら落とすわよ」

「フン。ワシがそんな初歩的なミスをする訳がないだろう」

「おいヒゲ。後ろから人が雪崩の様に押し寄せてきてるぞ」

 

「何だ、ひっかけか? その手には乗らんぞ。それにワシの名前は……ブルァアアアアアアアアアア!!?」

 

 

 そんな事を考えながらキリィちゃんが無表情でぼーっとガッシュ君達が来るのを待っていると─────山なりに何かが飛んで来ました。

 足元に落ちた魔界文字が書かれたブラウングレーの四角い物体、これはこれは…………

 

「……魔本?」

 

 いえすほもくん、どう見ても魔本です。本当にありがとうございました。

 どうやらゾボロンの本の持ち主(パートナー)が慣れない人混みのせいで魔本を落としてしまったようですね。うーん、ヒゲ迂闊すぎる。裏設定としてゾボロンは本の持ち主(パートナー)がヒゲである事を知った時点で勝ち抜きを諦めたそうなのですが、こういう部分で見切りをつけたんでしょうね。

 

 このままゾボロンの魔本を燃やしてしまってもよいのですが、先程も言った通りタッグマッチは強制発生。敵が原作から変わると対応が難しくなるので、拾って返してあげましょう。優しいキリィちゃんはしっかり拾ってあげます。

 

 

 

「ったく、あのヒゲ。どこまで足を引っ張るんだよ。後であのヒゲひきちぎる勢いで引っ張ってやる」

 

 すると、人と人の隙間からパピプリオが出てきました。両親お手製の王子様ルックに身を包んだ姿は、どう見ても生粋のエンターテイナーです。

 ではさっさと魔本を返してあげましょう。彼に近づいて()()()()()()()()()魔本を差し出します。

 

 

 

 

「ん? お前が拾ってくれたのか、サン…………キュッッ!!?」

 

 あれ、パピプリオが硬直した。

 ここ何かイベントありましたっけ、キリィちゃんも首をかしげています。ほもくんも一緒に頭に「?」マークを浮かべていますよ。

 

 

「ミ……ミステリアス、ア……アンド……マ~~ベラス」

 

 

 何言ってるんだ、こいつ? 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

「ワハハハハ! すごいすごい、目が回るぞ!」

 

「元就ちゃん。その写真、焼き増しお願いね。パピプリオが一番格好良く映ってる写真を頂戴、言い値で買うわ!」

 

「わかりました。じゃあコーヒーカップの後はまたキリィも一緒にメリーゴーラウンドで……」

 

 

 なんだこの状況は。

 ガバ? いやいや、ガバなんかじゃありませんとも。不可抗力です。

 

 ここまでの経緯を皆様にご説明しますと、まずパピプリオの硬直が解けた途端キリィちゃんに「ここさぁ、遊園地あるんだけど。行かない?」と誘ってきました。まずこの時点で意味不明です。

 この時期のパピプリオは非常に好戦的で、魔物を見かけると戦闘をしかけたくてウズウズしている筈です。なのにパピプリオに警戒し、本を構えたほもくんを見ても

 

 

《「待、待ってくれ! 私は君達とは戦う気はない!」》

 

 

 と宣言。こう言われては善良なほもくんは本を収めるしかありません。

 それならとパピプリオの本の持ち主(パートナー)、ルーパーさんがやって来た時に期待します。

 

 

「ルーパー!! 友達が出来たぞ! (ともだち)のキリカだ!!」

「アラ? アラアラ……アラアラアラアラアラアラ!! 素晴らしいわパピプリオ!」

 

 

 ダメでした。イントネーションが若干違って聞こえた気がしますが、この状況の異質さに比べたら誤差です誤差。

 そしてそのままパピプリオ達と遊園地へ。清磨達との待ち合わせまで時間があるのでほもくんも口を挟みません。むしろ、積極的に仲を取り持とうとしています。

 

 今ルートのパピプリオは何か追加スキル(不純物)でも手に入れたのでしょうか? 原作でのワガママな振る舞いが全く見えません。

 パピプリオが一番乗りたがっていた海賊船が、身長制限により乗れないと判明した時も

 

 

《「何ッ、小さいからダメだと!? ふざ……! く……ぅぅぅぅぅ……し、仕方ない。キリカ、別のものに乗ろうぜ」》

 

 

 と我慢を見せていました。

「乗せてくれないならこんなものぶっ壊す!」と憤っていた原作のイキプリオは一体どこへ? 

 

 もう「訳が分からないよ。このゲームはいつもそうさ」とQB的思考放棄。キリィちゃんの可愛さに悩殺されたんだと流してピヨ麿達の到着までスキップします。

 キリィちゃんとは相性が悪かったかもしれませんが、ガッシュ君を見ればカモを見つけたと襲い掛かる事でしょう。そうしたら後から参戦してタッグマッチに持っていきましょう。よし、ガバはない。

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………「ヌォオオオオオオオオオ!!」

 

 

 おっ、来た来た。この独特の叫び声はガッシュ君ですね。

 ……ん? 叫び声? 

 

 

「一体なんなんだ、このこのヒゲ男は─────!!!」

「ヌァアアアアアアアアア!!」

 

「本は、ワシの本はどこだァアアアアアアアアアア!!」

 

 

 ▽あっ、野性のヒゲがあらわれた。

 

 経緯はわかりませんがピヨ麿達が追いかけられてるみたいですね。

 そういえばヒゲの魔本はキリィちゃんが拾いパピプリオに渡しましたが、すぐにやってきたルーパーと一緒に今まで遊んでいましたね。つまり……

 

 

「あっ、おいルーパー。ヒゲの本って渡してないよな?」

 

「えぇ、ここにあるわ。夢中ですっかり忘れてたわね」

 

 

 なるほど、そういう事か。

 自分の魔本が長時間紛失。それはそれはストレスになる事でしょう。ピヨ麿の赤い魔本を見て被害妄想が膨らみ襲い掛かったという所でしょうか

 

 あっ、ガッシュ達がこっち来た。

 

 

「ヌォオオ、オオ?! キリカと元就ではないか! 逃げるのだ────!!」

「すまん、二人共。魔物と変なヒゲ男に絡まれた!!」

 

 キリィちゃん達の目の前を通り過ぎる二人。そして、それを追いかける怪人ヒゲ男は……

 

 

「パピプリオ、ルーパー! ワシの本はどうした─────!! ジェァアアアアア!!」

 

 

「ワ~~~~!! 何かヒゲの怒りが有頂天になってる~~~!!」

 

「何か暴走してるわよ! は、早く本を返さないと……」

 

「おい、やめろ馬鹿! あんな状況のままじゃ返せるものも返せねーよ!」

 

「じゃ、じゃあどうするの?! パピプリオ」

 

「決まってる!! 逃げるんだよ、ルーパー!」

 

 

「逃がすかテメェ等─────!! ジュルァアアアアア!!」

 

 

「キ、キリィ逃げよう!」

「「「「「ワァ────────────────────!!!!」」」」」

 

 

 

 

 もう、わけがわからないよ。

 ただのチュートリアルがどうしてこんな事に

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「ハァ……ハァ…………」

「ゼェ……ゼェ……」

 

 

 熾烈な追いかけっこの結果、季節外れのプールエリアにやってきました。人のいない所へ逃げ続けた結果ですね。

 ヒゲも疲れたのか狂戦士化が解けてきてますね。今なら怒髪天レベルに収まってる筈です。

 

 

「ほらヒゲ、本よ。これで落ち着くでしょう」

「ワ……ワシの……本を…………ハッ! ワシは何を」

 

 やれやれ、ようやくヒゲが正気に戻りましたね。

 ヒゲの手元に魔本も戻りましたし、ピヨ麿達も無事到着。では、これで戦闘開始という訳ですね。ほもくんに目線を送り、ヒゲを警戒します。

 

 

「そうだルーパー、パピプリオ! 敵だ、敵が現れたぞ! 俺達の力を見せつける時だ」

 

「敵? あの向こうにいる金髪の事か?」

 

「そっちもそうだが、そこにいる黒髪のメスガキもだ。生意気そうな目つきをしてやがる、俺の力でガタガタ震わせてやるぜ!」

 

「……あ″?」

 

 

「ルーパー、本を構えるんだ。どっちもウ〇コみてぇな顔したクソガキだが2組を相手するには俺達のコンビネーションが重要だ」

 

「……な″んですって?」

 

 

「さぁ、いくぜテメェ等!! 《ドグラ「「ウ〇コ顔はテメェだろう(アンタでしょう)が──────!!!」」ブルァアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 うわぁ痛そう。パピプリオとルーパーさんが回し蹴りでヒゲを吹っ飛ばします。

 ゾボロンの腹にまかれた紐を手で持っていた為、ゾボロンごと飛んでいきましたね。あわれゾボロン。

 

 

 

「急に何しやがるマネキンババア共!!」

 

「黙れ、ヒゲ! キリカは俺の大事な友達なんだぞ!」

 

「そうよそうよ!! 彼女はパピプリオの大事な子よ、アンタみたいな不衛生な不摂生なヒゲデブが近づくんじゃないわよ!!」

 

「てめえ、ぶっ殺してやる!!」

 

「あ~~~~ら、アナタなんかに出来るのかしらヒゲデブボボ~~~~ン♪」

 

 

 ……何かこのペア、既に破綻してない? 

 戦闘が始まる前からコンビネーションが崩壊しているんですけど……こんなのでガッシュ達の戦闘経験になるんでしょうかね。チュートリアルとはいえ不安になります。

 

 

 

「もうテメェ等の手なんか借りるか!! そこのクソガキ共! 名前は?!」

 

 

「へ?! た、高嶺清磨です!」「わ、吾輩はガッシュ・ベルなのだ!!」

 

 

「よし、テメェ等俺に手を貸せ!! あのバカ王子にマネキンババア、一泡吹かせてやる!!」

 

 

「はぁ?!」「ウヌゥ?!」

 

 

 

 …………え? 

 

 

「何だと、このヒゲ!! キリカ。だったら俺達もコンビネーションだ!!」

 

「そうね。元就ちゃん、手伝って頂戴。あなたもキリカちゃんが大事なら心は一緒の筈よ!」

 

「え、はい。そ、そうですね!」

 

 

 おいこら、ほもくん。何言いくるめられてるんだよ。

 今の言いくるめ《判定値:90》くらいのちょろさで成功しちゃってたぞ。

 

 どうなるんでしょうかこの展開。清磨はヒゲなんかに協力する訳ないし、ティオペアでもやってきて2:3の状況になってヒゲが渋々向こうに戻るのかなぁ。だったら別の攻略法になるから調べなおさないと……

 

 

「……よし、わかった。ガッシュ、やるぞ!」

 

「き、清磨?! でもそ、それでは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訳は後で説明する。今は…………キリカに勝つぞ!!」

 

 

 

 

 




 皆様、あけましておめでとうございます。
 今年の正月はずっと小説と向き合っていましたが、書いては消しての繰り返し。想像以上に書き上げる力が鈍ってました(特に実況パート)

 他者のRTA小説読み直して勉強し直すことにします。
 書き溜めも出来ないので本年もゆったり更新になりますが、よろしくお願いします。


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42.原作崩壊タッグマッチ

※あとがきにお知らせがあります。

 ガッシュの登場人物をwikiで毎回調べますが、パピプリオは別項目になっていました。
 ガッシュメンバー以外での別項目扱いは

バリー
ゾフィス
ゼオン
クリア
パピプリオ

 このメンツに喰い込むパピプリオの人気ってやばない?




 

 

 

 

 

 

 ──────────「《ドグラケル》!!」

 

 

 

 なし崩し的に始まったガッシュ・ゾボロンペアとキリカ・パピプリオペアのタッグバトル。その開幕の狼煙はヒゲの唱えたゾボロンの呪文によりあげられた。ゾボロンの口から吐き出される直径2~3mはあろうかという破壊球。その大きさに元就は一瞬怯むが……

 

 

「ん? ……お、遅い?」

 

 

 その速度は、人間の一般的な歩行速度にも劣る程のゆっくりとしたものだった。あまりの遅さに虚を突かれ、元就はどう対処するべきか悩み足を止めていた。

 

 

「おい、元就! 何、突っ立ってんだよ。早く離れろ!!」

 

「パピプリオの言う通りよ、元就ちゃん! 距離を大きく取るの!」

 

 

 ゾボロンの呪文をよく知るペアの言葉に気付き、破壊球から距離を取る元就。(因みにキリカは即座に退避、自分の言う事をノータイムで信じてくれたとパピプリオの機嫌が更に上昇。彼の戦意は更に高まっていた)

 

 そして、破壊球はプールサイドの床に着弾し──────────上級呪文と間違えそうな程の大爆発が巻き起こされた。

 

 

 

「! うわぁああああああああああ!!」

 

「くぅぅぅっ! 相変わらず威力だけはヤバすぎるぜ、ゾボロンの呪文」

 

「元就ちゃん、大丈夫!? 直撃は勿論、爆風もすごいから爆発する場所から大きく離れるのよ!」

 

「は、はい……わかりました。キリィは大丈夫?」

 

「平気」

 

 

 回避が遅れた上、キリカに爆風の影響が及ばない様に自身の体を盾にしたので、爆風の衝撃のほとんどを受け止めた元就だったが、ケガはない。ヒゲやルーパーがヒマラヤ山脈で修行をしたのと同じく、独学ではあるが鍛錬を重ねた元就もまた一般人以上の体力と胆力を備えていた。

 

 対してガッシュ・ゾボロン陣営では、そんな自身(の魔物)の力に衝撃を受けた様子の相手を見て悦に浸るヒゲがいた。

 

 

「ヒハハハハハハハッ! 見たか、ワシの呪文のパワーを!!」

 

「……す、すげぇパワーだ」

 

「ウヌゥ、でも遅いのだ」

 

「あぁ、遅いな」

 

 

 ゾボロンの呪文の破壊力は下級呪文としては規格外。その一点において驚愕をうけるも、致命的な速度のなさに今一つ脅威を覚える事の出来ない清磨とガッシュだった。

 

 そのもう一つの大きな要因として、本の持ち主(パートナー)も関係しているだろう。現にヒゲは《ドグラケル》の爆発で生まれた敵の隙を活かさず大笑いし、逆に砂埃に隠れて彼に忍び寄る存在を見落としていた。

 

 

「今だ。やれ、ルーパー!」

 

「《ダレイド》!!」

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

「!! 避けろ、ガッシュ!」

 

「ヌ!? ヌァアア!!」

 

「チィィ!! SET(セット)、《ザケル》!」

 

「へっ、当たるかよ!」

 

 

 パピプリオの口から粘度の高い液体が飛び出す。ヒゲはその液体をモロにかぶり、延長線上にいたガッシュの膝下にも液体がかかってしまった。

 

 清磨は素早く本を構えパピプリオを迎撃するが、即座に退却しキリカ達の下へ戻っていく。

 

 

「なんだ、この液体は。ガッシュ、大丈夫か?」

 

「ウ、ウヌ。痛くもかゆくもないぞ」

 

 

 特に何のダメージも受けない液体に清磨が不思議がるが、その答えは同陣営だったヒゲから暴露される。

 

 

「クソォオオ! お前達、その液体はすぐに固まるぞ! 身動きが取れなくなる前に何とかしろ!」

 

「何!? ガッシュ、靴についた液体はすぐには拭けん。すぐ脱ぐんだ!!」

 

「わ、わかったのだ!!」

 

 

 

 

 

「全部脱ぐんじゃねぇええええ!! 靴だけでいいんだよ!!」

「ヌゥ?!!」

 

 予想外の呪文効果に慌てるガッシュ達。

 

 その姿の滑稽さに自身の呪文に対する優位を感じたパピプリオは、先程のヒゲと同様相手の状況を見て愉しんでいた。

 

 

「フハハハハハ!! どうだ、驚いたか。お前達は素直に本をさしだせば許してやってもいいぞ?」

 

「素晴らしいわ、パピプリオ。きっとこれであの子もメロメロよ」

 

「そうか! それはいいな!! よし、後はあのヒゲをボコボコに「《ドグラケル》!!」……え?」

 

 

 再び起こる大爆発。

 

 だがその爆心地はヒゲのすぐ近くだった。パピプリオ達は自爆かと思ったが、その砂煙の中から仁王立ちで現れるヒゲには先程あびせた粘着液は残っていなかった。

 

 

「そうか。破壊球の爆風で液体を吹き飛ばしたのか。……すごい体力だ」

 

「マ、マジかよ元就……。あのヒゲ、ゾボロンの呪文をすぐ近くで受けたのかよ」

 

「自分の呪文だから本は燃えないとはいえ、とんでもない方法を考え付いたわね。」

 

「ヒ、ヒハハ、ハハハッ!! ワシは修行で力をつけたのだ。お前の呪文に怯えていた昔のワシでは……ゴブフゥ?!」

 

 

 やはり隠し切れないダメージがあったのか、仰向けに倒れ息絶え絶えといった様子のヒゲ。ガッシュと清磨は、彼の下に駆け寄っていく。

 

 

「ヒゲ殿! 大丈夫か?」

 

「あ……ぁあ、ワシはもうダメかもしれん。だが最後に……奴等にだけは一泡……吹かせて」

 

「ウヌ、ウヌ!! わかったのだ。私が前に出て戦うから、お主は休んでいるのだ!」

 

「すまねぇな。ガキ……」

 

 

 

「なんだ、これ」

 

 突如はじまったガッシュとヒゲの寸劇。確かにダメージはあるが、どう考えても軽症である。

 

『もうコイツに敬語を使う事をやめよう』と心の中でヒゲの評価を数段落とした清磨は、二人を捨て置き視線を相手に戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 ……そこには、いつの間にか数m先にまで近づいていたキリカの姿があった。

 

 

「《ピルク・ドグラケル》」

 

「うぉおおおおおおおおお!!」

「ヌアアアアアアアアアァ!!」

「ぐぁあああああああああ!!!」

 

 

 三者三様の叫びをあげ、キリカの口から出て来た先程と同じ破壊球から全力で後退する3人と1匹。

 

 先程に勝るとも劣らない大爆発が、今度はガッシュ陣営で引き起こされる。

 

 爆風で吹き飛ばされ親子亀のように四段重ねになった清磨達だが、幸いダメージはなかった。

 

 

 

「クソッ、あのメスガキ。ゾボロンと同じ呪文を使うのか。厄介な」

 

「き、清磨。キリカと一緒にいるあの者も強いのだ。本当に戦うのか?」

 

 

 キリカとの戦いの意味も意義もまるでわからないガッシュは清磨に問いかける。

 

 だが清磨の闘志は欠片も揺らいではいなかった。今起こっているキリカとガッシュ、いや自分との確執。それを解消するための“答え”。それを彼女にを示す為には、この戦いの『勝利』は何よりも必要だと考えていた。

 

 

「……あぁ、俺達は戦う。そしてキリカに勝たなきゃダメなんだ」

 

「清磨」

「小僧」

 

 

 その真っ直ぐな決意を間近で見た二人は、多少の打算や迷いを抱きつつも清磨の指示に従い力を合わせる事を改めて誓う。

 

 

 

 

 

「これから、本番」

 

「ととと当然だな! さっきのは様子見みたいなもんだ。いくぞ、ルーパー!」

 

「わかったわ、パピプリオ。作戦はお任せでいいかしら、元就ちゃん? 私達、もう万策尽きてるのよ」

 

「バラすなよ、ルーパー!!」

 

「大丈夫。キリィの指示は世界一ですから。協力していけば大丈夫です」

 

 

 そして有象無象のタッグが協力の姿勢を見せた事で、その対戦相手も呼応する。

 

 本当のタッグマッチが、ここから始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みにガッシュは服を着た。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 ──────────「《ドグラケル》!!」

 

 

 

 戦いの開始は先程と同じ。ゾボロンの破壊球がキリカ達の下へと、非常にゆっくりと進んでいく。

 

 だが今度はキリカ達も動き出す。全員高い俊敏性をもっているこのペアは、スプリンターもかくやという速度で二手に分かれて走り出す。

 

 

「ハハハハ! 今更そんなもの怖くはない! 我々に当たる筈がないだろう!」

 

 

 パピプリオ達はまっすぐにガッシュ達を目指す。

 

 破壊球の呪文は彼等にとってすでに何度も見ている呪文。その軌道から着弾地点を割り出す事も容易である。

 

 爆発するのは自分たちの遥か後方になるだろうと判断した二人は、破壊球の脇を通り最短距離でかけぬけようとしていた。

 

 

 清磨の思惑通りに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《ラシルド》!」

 

 破壊球の進行方向を遮る様に出現した、ガッシュの反射盾の呪文。

 

 パピプリオ達は破壊球を通り過ぎた直後だった為、盾の出現に気付かない。その状況を少し離れた場所で見ていた元就は、一瞬遅れてその狙いに気付く。

 

《ラシルド》で反射した物体は同じ速度で跳ね返る。元々遅い破壊球の進行方向を変えても当たる筈がない。つまりその狙いは……

 

 

「相殺による着弾地点の操作!?」

 

 

 

「ぐふぁああああああああああ!」

「な、なんですって───────!!」

 

 

《ラシルド》の盾が破壊球の威力を防ぎきれず、その場で大爆発を起こす。背後で予想外の衝撃を受け、爆風で転がりまわるパピプリオ達。

 

 

「よし、相手の体勢が崩れた! SET(セット)《ザケル》!」

 

「させない」

 

「《ピルク・ドグラケル》!」

 

 

 キリカの出す破壊球が電撃を呑み込み無効化する。オリジナルと同じく、ゆっくりと移動する破壊球の進行方向から脱した清磨達は、急に走り出した勢いでつまづきながらも呪文を唱える。

 

 

「チィィ、《ジケルド》!」

 

 

 強力な磁力を発生させる呪文をキリカへと唱える。季節外れのプールサイドエリアには今は使われないイベント看板や鉄材が隅に放置されており、それが一斉に磁場の源であるキリカへと襲い掛かっていく。

 

 

「《ピケル》!!」

 

 

 元就が第二の呪文を唱えると、キリカの手から野球の球くらいの大きさの破壊球が発射される。

 

 硬球のように速くはないが、それなりの速度を持った破壊球は鉄材と衝突し《ドグラケル》程ではないものの小さくない爆発を起こす。

 

 キリカはグミ撃ちのように破壊球を何発も飛ばす事で、迫りくる鉄材を撃ち落としていく。そして全ての鉄材を退けたキリカの手は、そのままガッシュと清磨の方向に向けられる。

 

 

「《ピケル》!」「《ザケル》!」

 

 

 再び連射される小破壊球と電撃が衝突した。《ピケル》でスケールダウンしてもゾボロンの強力な呪文性質を受け継いだお陰なのか、小破壊球はガッシュ達の近くまで電撃を押し返していき爆発。彼等を覆い隠す程の砂煙を巻き起こす。

 

 

「小僧! ガキ!! ……クソ、ワシも援護するぞ。《オル・ドグラケル》!」

 

 

 ガッシュ達から少し離れた場所にいたヒゲ。ゾボロンの口から十字のエネルギー帯が追加された姿の破壊球がキリカに向けて放つ。

 

 キリカはまだパピプリオの傍から離れてはいない。追尾能力が追加されたこの呪文はキリカをターゲットにして放ったが、先程のグミ撃ちの衝撃で体勢を整え切れていないパピプリオもまとめて倒そうという狙いもあった。

 

 

「元就」

 

「あぁ! ……ルーパーさん、準備はいいですね」

 

「いつでも大丈夫よ。タイミングだけ教えて頂戴」

 

 

 本の持ち主(パートナー)同士で連携を確認すると、キリカがおもむろにパピプリオを担ぐ。正確に言うならば“振りかぶる”。

 

 

「行くよ」

 

「あ、ああ、あぁ!! 問題ない。あのヒゲにジャイアントスイングされるよりずっとマシさ」

 

 

「せー、っの!」

 

「うあぁああああああああ!」

 

 

 そしてキリカが斜め上空へと投げ飛ばした。叫び声をあげながらも「気を付け」の姿勢で綺麗に飛んでいくパピプリオ。

 

 

「チッ。バカガキには逃げられたか。だがワシの呪文は止まらんぞ。死ねィ、メスガキ!!」

 

 

 物騒な言葉で追尾型破壊球の直撃を確信するヒゲ。

 

 だが彼は失念していた。追尾能力が付与され速度も僅かに向上したとはいえ、『根本の弱点は変わっていない』という事を。

 

 

「キリィ、ダッシュだ!!」

「うん」

 

 

 パピプリオを投げたキリカは、勢いそのままに砂煙に隠れているガッシュの下へ向かう。多少速くなったとはいえ、致命的な足の遅さを持っていた呪文。走る速さに追いつける筈もなかった。

 

 

「何!? おい小僧、ガキ! ワシの呪文に気をつけろ!」

 

 

 そして追尾能力の弱点、誘導による同士討ちを狙っている事に気付いたヒゲは、まだ砂煙で見えないガッシュ達へと注意を放つ。

 

 だがその砂煙は、()()()()降り注ぐ紫色の液体によりかき消されていった。

 

 

「《ポレイド》───!!」

 

「な、何ィ────────!!? 麻痺毒を撒き散らすだと?!」

 

 

 キリカがパピプリオを投げたのは退避ではなく、死角をなくし砂煙全体に麻痺毒を散布する為。

 

 速効性はないが、効果が出れば圧倒的優位にたてるパピプリオの《第二の呪文》。《ダレイド》と違い直撃しなければ効果がほぼない為、麻痺毒をばらまいた地面をキリカが疾走する事には何の問題もなかった。

 

 そして砂煙の晴れた先から姿を現す清磨達。彼等は麻痺毒の範囲にいたが、ガッシュのローブや清磨の上着を頭から被っていた為に直撃はしていなかった。迫るキリカに気付いたガッシュが、それを迎え撃つ。

 

 

「ヌォオオ! キリカ──────!!」

 

「……ガッシュ」

 

 

 お互いの拳がぶつかり押し合いになる。だがローブで防いだとはいえ麻痺毒の影響を受けてしまっているガッシュ。ヒゲの叫びを信じるなら、このままでは毒が回り事態は悪化するだけだと清磨は感じていた。

 

 キリカの戦法を先読みし上着を被っていたのはいいが、粘着液ではなく麻痺毒が来るとまでは予想できなかった。自身も多少麻痺毒を受けている以上、先延ばしにはもう出来ない。迫りくる破壊球を見据え、清磨は短期決着のための作戦を実行する事にした。

 

 

「ガッシュ、前を向け! 《ラシルド》!!」

 

 

 キリカと拳を突き出したまま押し合いをしている状態のうつむいていたガッシュに前を向かせ、盾で破壊球を防ぐ。このままでは諸共爆発に巻き込まれてしまう事を防ぐ為の盾、ヒゲのアシストが無駄になった瞬間である。

 

 なお呪文発動により一瞬気絶しているガッシュだったが、キリカは追い打ちする事はなく後退していった。

 

 爆発に吹き飛ばされながらも、ガッシュの首ねっこを掴んでヒゲの下に駆け寄った清磨は急ごしらえの発案を口にする。

 

 

「オッサン。“アレ”をやるぞ!」

 

「アレ?」

 

「さっき話しただろ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《合体》だ! 《バオウ・ザケルガ》──────!!」

 

「なるほど、アレか。《ドグラケル》───────!! 

 

 

「バオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 ガッシュの口から現れる電撃の龍。

 

 その龍はゾボロンの口から出された破壊球を口にくわえて飛び上がると、そのまま急降下してパピプリオ達の陣営へと突っ込んでいく。

 

 

 

「ルルルるぅううルルとぅるるっるるるるルーパー!! どどどうすんだよ、アレ!!?」

 

「あわわわわわわわわ」

 

 

 攻撃呪文を一切持たないパピプリオ達には、対抗する術がなかった。粘着液も麻痺毒も効かない強大な合わせ技による呪文。逃げる時間も余裕もない二人はただ慌てるのみだった。

 

 

 

「《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》!」

code(コード)……《オル・ドグラケル》」

 

 

 キリカが放つ最大呪文。

 

 だが彼女が持つ呪文は『複製(コピー)』した魔物が()()使える最大呪文。下級の中では強力でも、上級呪文を覚えていないゾボロンの呪文の『複製(コピー)』ではキリカも対抗する術がなく、破壊球は《バオウ・ザケルガ》に吞み込まれていった。

 

 

「負けた」

 

 

 その状況をいつもと変わらない無表情で眺めるキリカ。横目でそれを見たパピプリオは、狼狽していた心を立て直し本の持ち主(パートナー)へとすがる。

 

 

「ルーパー、何とかならないのかよ。ルーパー!!!」

 

「パ、パ……パピー」

 

「あんなの喰らったら終わりだぞ! キリカと離れ離れになるんだぞ!! そんなの嫌だよ、ルーパー!!」

 

 

 

 万事休す。元就はそう考える。

 

 キリカが何故ガッシュと戦う事になったのかわからなかったが「キリィが望む事なら」と考える事をやめ勝つ為に力を賭した。しかしどうしても勝てなかった。清磨の事だから威力は抑えているだろうが、電撃の性質上魔本が燃える事は避けられないだろう。

 

 何とかしてキリカとの繋がりを残す為、元就は込み上げてくる恐怖を無理矢理抑え込み電撃竜を睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、彼だけは気付いた。

「バオオオオオォォオオ!」「えっ?」

 

「第三の呪文《モケルド》──────────!!」

 

 

 パピプリオの叫びにより生まれた新たな呪文。

 

 周囲を視界を塞ぐ程の濃密な煙幕がパピプリオの口から放たれる。それによりパピプリオやキリカ達の姿が隠れ、清磨は彼等を狙う事が出来なくなった。

 

 

 

 ……そして砂煙が晴れた頃、息絶え絶えといった様子だが『誰一人欠けず』戦いは終了を告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ──────────戦いは終わった。俺とガッシュの勝利だ。

 

 

 改めて思ったが、キリカは強かった。

 

 出来れば《バオウ・ザケルガ》は使わずに勝ちたかったが、戦術面に優れたキリカを相手に出し惜しみする余裕はなかった。《バオウ・ザケルガ》の軌道を最後僅かに変えたお陰で直撃しないですんだが、あの煙幕がイレギュラーにならなくて本当によかった。

 

 まぁ逆に考えれば結果オーライだったのかもしれない。

 

 直前で元就が気付いてくれた上に、負けを確信してうつむいていたキリカにはバレなかっただろう。()()()呪文を外した事にはな。

 

 

「まだ戦うか? キリカはともかく、お前たちはこれ以上やるなら本を燃やさせてもらうぞ?」

 

み、見逃してくれるのか?  フ、フハハ、フハハハハ!! また会おうぜキリカ──!」

 

「じゃ──ね───キリカちゃん、元就ちゃん! 今後ともパピーをよろしく───!!」

 

「小僧ども、いい働きだったぞ! だがこれ以上ここにいられるか、ワシは帰らせてもらう!!」

 

 

 脱兎のごとく、の言葉が似合う程の逃げっぷり。

 

 だがあいつ等にはもう用はない。俺の言葉をキリカに伝える為の『見本』を見せてくれたお礼に、今回は見逃す事にする。

 

 

 

「キリカ」

 

 

 うつむいたままだが、俺の言葉に一瞬肩をふるわせるキリカ。

 

 後ろめたく思っているのだろうか、恐ろしく思っているのだろうか、激怒されると思っているのだろうか。だがそれはどれも正しくない。

 

 俺は何も言わずキリカを見つめ、彼女が沈黙に堪えかねて顔を上げるのをじっと待っていた。

 

 

 

 ────────そしていつかの『やさしい魔物』を止める為に戦った時と同じく、微笑みながら頷く。彼女を肯定するように。

 

 

「キリカ。お前がガッシュの為に他の魔物と戦い、本を燃やしている事はわかってる。でもこれは戦争じゃない、魔界の王を決める『戦い』なんだ。相手をただ倒せばいいんじゃない。倒した相手の『思い』を背負い、自身の目指す『王道』の糧とする。それが大切なんだ」

 

 

 いつもと変わらない無表情のキリカ。

 

 だが、彼女のその目は少し見開いているように感じる。まるで驚愕している様に。

 

 

「だから俺達は戦うが、絶対に本を燃やす訳じゃない。相手が悪い奴や許せない奴なら別だが、何よりも大切なのは自分たちの目指す『王様』が魔界の王になる事なんだ」

 

「ウヌ、だから私は『やさしい王様』を一緒に目指してくれるティオやキャンチョメ。ウマゴン達とは戦わないのだ」

 

「あぁ、だからキリカ。もしお前が目指す『王様』っていうものがまだないのなら……ガッシュと一緒に目指して見ないか? 『やさしい王様』を」

 

 

 俺とキリカの視線が交差する。

 

 キリカは何も言わない。再びうつむいてしまい、そしてゆっくりと振り返り元就の下へ向かう。

 

 元就は心配そうにキリカを見るが、口を挟む事はない。元就はひたすらにキリカを肯定する。それが彼なりのキリカの傷を癒す方法なのだと決めたのなら、矯正(意見)をするのは俺の役目だ。

 

 

 そして元就を連れ俺達の下から去ろうとしたキリカだったが、数m程離れた所で足を止め。一言だけ、告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「考えておく」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 キリカに俺達の想いは伝わったのか。

 

 再び俺達と『やさしい王様』を目指してくれる気になったのか。あの日はそのまま解散し、ガッシュと共に悶々とした日々を過ごした。(そのせいで国語教師のモンモン先生にイジられまくったが、あれは彼女なりの気の紛らわし方なのだと思う事にした)

 

 だが何日か経ち、元就からひとつの知らせを受けた俺達はガッシュと共に笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリカが、心優しい魔物『ウォンレイ』を救い出したのだと。

 

 

──────────────────【パピプリオ 残留(アライブ)

 

──────────────────【ゾボロン 残留(アライブ)

 

 

 




 

【お知らせ】

 お読み頂いた通りゾボロン残留です。
 ダニーに続き、本来脱落する筈の魔物を残留させた事で『脱落キャラ生存』タグをつけようか悩みました。
 ですが『魔界の王を決める戦い』の性質上、タイミングが違うだけで最終的には脱落させる事は確定です。
 なので、タグ詐欺になりかねないので生存タグは今作品では付けない方針でいきたいと思います。(完結させますよ、という願掛けを兼ねて)


 余談ですが、前話で反響くるまでゾボロンは脱落させる気マンマンでした。
 予想外のゾボロン人気に「何かできないかな」と考え始めた結果、今後のアイディアが沸々と湧き、結局残留させる事に決定しました。
 今作品は2割のプロットと8割の思い付きで出来ているという事がよくわかる結果ですね。ご了承ください。



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43.大切な人

 

 

 

 

 うつべしうつべし! 皆さまおはようございます。大人気美少女魔物キリィちゃんです。

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 無事ゾボロン・パピプリオペアを蹴散らしたキリィちゃんは、今日も自宅にて岩に拳を叩きこむ修行を行っております。

 時間が空いたら即修行パート、時間ロスのない完璧な行動。誇らしくないの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L E V E L  U P ! 

 

 

 

 ……え? 今、レベルアップが2回起こらなかったかって? ハハハ、ご冗談を

 

 

「キリィ! 今、呪文が2つも増えたんだ!」

 

 

 ところがどっこい、これが現実!! 

 ここに来てキリィちゃん超強化完了です。誇らしくないの? (2回目)

 

 ちなみにこれはバグでもチートでもなく、たまによくある仕様です。(矛盾)

 ゾボロン・パピプリオ戦後は無条件にキャラのレベルアップが行われます。初のタッグマッチを乗り越え成長したからという理由付けだと思います。その為、それまで呪文1個で戦っていた魔物(キャラ)も、特殊ル-トにでも進んでいなければここで第二の呪文が手に入るんですね。

 今回そのタイミングと修行の成果のレベルアップが重なり、ダブルブッキングにより2レベルアップしたんですね。大丈夫だ、問題ない。

 

 

 

「やったじゃないか、元就。キリカも修行の成果が出たみたいだな」

 

「ウヌ、キリカと元就殿の頑張りのおかげなのだ!」

 

「ありがとな。清磨、ガッシュ」

 

 

 そして、なぜかナチュラルにほもくんホームに居るガッシュペア。

 前回のタッグマッチでわだかまりがなくなったのか、あれから毎日学校帰りに遊びに来てます。そう、無事タッグマッチイベントで下がってしまった二人の好感度をリカバリーする事が出来たのです。交換条件は「試合で本を意図的には燃やさない事」ですが、もうすぐ『千年前の魔物編』がはじまり試合形式のバトルは暫く行われません。『前向きに検討する』という政治家風な回答でお茶を濁していれば、じきに時効です。問題ない。

 このまま『千年前の魔物編』を迎える事にしましょう。それでキリィちゃも晴れてガッシュパーティの一員、放っておいても原作ルートへ進むようになります。まぁラクチンですこと。

 

 

「第五の呪文は多分、《第二の呪文(ピケル)》の強化版だと思う」

 

「おい、元就。俺達に言ってもいいのか?」

 

「あぁ、新呪文をいきなり実戦で試すのはリスクがあるから特訓が必要だから。でも今は使える『複製(コピー)』の力がないから……」

 

「なるほど。『赤い本』の力を使わせてほしいって事か。やれやれ、聞いた以上は協力するしかないよな」

 

「悪いな、清磨」

 

「どちらにしろ断る気はないさ。ガッシュも乗り気みたいだしな」

 

「ウヌ。また私が練習相手になってもよいぞ!」

 

「ありがとう、ガッシュ。もう一つの呪文はもしかしたら頼む事になるかもしれないな。見た事ない呪文だからな……えーと、《オル・デ……」

 

 

 そう。

 前回《バオウ・ザケルガ》と《ドグラケル》の合わせ技に一応最大呪文で対抗してみたんですが一蹴されてしまい、『複製(コピー)』した魔力が現在スッカラカンになっているんですね。

 折角の新呪文ですが、それでは使う事が出来ず、確率で失敗する実戦での本番になる所でした。それらの課題を一気に解決させる策はよいぞほもくん。

 本の持ち主(パートナー)の脳内CPUには学習機能があるので、自分の呪文特性に適した行動を段々と取ってくれるようになります。何も言わずともフォローしてくれる本の持ち主(パートナー)、誇らしくないの? (3回目)

 

 

 

「それじゃあ今度、郊外の山で練習だな元就。ガッシュ()練習したいし、試したい事もある」

 

「わかった。ただ練習は明日でもいいか? 何なら今からでもいいんだが」

 

「問題はないが随分急だな。週末まで待てないのか?」

 

「3日後にキリィとまた外国に行く予定があるんだ。練習はそれまでに行いたい」

 

「……戦いに行くのか?」

 

「あぁ、キリィが魔物を感知したんだ。ならその働きに全力で応えるだけさ」

 

「ウヌゥ、キリカ達は大変だのう。週末なら私と清磨も行けたのだが」

 

「俺達はガッシュみたいに人気者じゃないからな。しょうがないさ」

 

 

 

 早々に次なる戦いです。撃破ポイントはあればあるほど良い。

 最近はガッシュ君達の不和を解消するために、泣く泣くポイント獲得を見逃しがちなので挽回したい所です。

 

 では恒例の紹介タイム。

 次に出会う魔物は『ウォンレイ』。ガッシュパーティ唯一の成人男性体系を持つ、格闘呪文と拳法を巧みに使う実力派の魔物です。

 原作ではガッシュ達が彼と出会い『ガッシュ《第五の呪文》習得イベント』がありますが、戦闘経験値は全く入らないのでガッシュ君に譲る必要はありません。ガッシュパーティ加入も、ナゾナゾ博士がいれば勝手にやってくれます。(博士万能説)

 

 という訳で今回はガッシュ君の出番はなし。

 いざ、香港(ホンコン)島へ!! 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ──────香港島。

 

 科学の発展を形にしたような、高層ビル立ち並ぶ現代的な街並み。

 

 そのビルの合間を縫うように、一人の少女が目的地目指して一心不乱に駆けていた。

 

 

「どうして……? どうしてある、『ウォンレイ』!!」

 

 

 少女が心の声を思わず口にする程に考えているのは、本の持ち主(パートナー)たる彼女の魔物の名であった。

 

 魔界の王を決める戦いにおける大事な相棒、だがその少女の様子を見れば二人の関係はそれ以上のものであると予想するのは容易だった。

 

 そんな伴侶(パートナー)の事を考えながら向かうのは彼女の父親……いや、二人の仲を引き裂こうとする“障害”のいる場所であった。

 

 

 少女の名は『リィエン』。

 

 彼女の父親は、この香港島を裏から操る影の権力者の一人。決して表沙汰に出来ない荒事を扱う大人物だった。

 

 だがそんな父親と違い、普通の恋多き少女だったリィエンだが……恋路において父親の影はあまりにも大きかった。

 

 父親の存在を知った途端離れていく過去の恋人たち。だが、さすがにそれを薄情という事は出来ない。そうリィエンは割り切っていたが、幾度となく裏切られる哀しみを癒す理由にはなり得なかった。

 

 だがそんな自分の父親を知りつつも、寄り添ってくれた人がいた。いや、正確には“人”ではないのかもしれない。しかし、父親の事を知りつつも納得し付き合ってくれる、そんなやさしき魔物に少女が惹かれるのはある意味当然でもあった。なお、彼女の相棒はガッシュ達他の魔物と違い、リィエンとほぼ変わらぬ背格好と見た目をした青少年だった為、彼女の嗜好が特殊ではない事を明言しておく。

 

 それと打算的な話でもあるが、裏世界の有力者である父親も『魔物』に害をなす事は出来はしない。そんな考えもあり、リィエンは今度こそと新たに生まれた絆を育んでいこうと考えていた。

 

 

 だが…………突然、彼はリィエンの用意した住処から突然いなくなってしまった。

 

 その事実を理解した途端、再び噴き上げてくるような哀しみを必死に抑えつつ調べると、状況はリィエンの想像していたものとは違っていた。

 

 ウォンレイは父親の手の者に連れ去られていたのだ。治まっていく哀しみの感情に反比例して、湧き上がる父親への怒り。

 

 幾たびにも恋人を間接的に引き離され、今回とうとう実力行使までしてきた“障害”に彼の居場所を聞き出すべく彼女は香港島の町を疾走していたのだった。

 

 

 

「わっ」

「キリィ?!」

 

「……あっ?! ご、ごめんある!」

 

 

 だが、その焦りからか…………曲がり角で一人の少女にぶつかってしまう。

 

 まだ修行中とはいえ、武術を修めている身として迂闊すぎる。曲がり角の向こうにいる人の気に気付かない程に意識を疎かにしてしまったのか。そんな後悔を抱きつつも、リィエンはぶつかってしまった少女に謝罪しようと視線と意識を向ける。

 

 

「本当に申し訳ないある。怪我は無いあるか……ッ!?」

 

 

 彼女が気付いたのは、少女の後ろにいる少年。

 

 視線は少女に向けていたが、常に周囲に気を配る様訓練されている彼女は後ろの少年が小脇に持ち手を添えている『本』の存在に気が付いた。

 

 自身と彼の繋がり、今は彼が持っている筈の物と同じ、魔界の王を決める戦いの参加資格でもある魔本だ。

 

 つい先日まで、ウォンレイと共に傷だらけになるまで戦いに身を投じていたリィエンは思わず体を強張らせてしまった。

 

 

「大丈夫。問題ない」

 

「……そうか、よかった。こちらこそすみません、お互い気を付けましょう」

 

「あ、あぁ。そうあるね。悪かったある」

 

 

 だが少年と少女は特に気にした風もなく、お互い軽い謝罪を済ませ立ち去って行った。

 

 リィエンの硬直を、少女に怪我をさせてしまったと身構えたものだと思ってくれたのかもしれない。魔本も魔物もいない今のリィエンでは、勝負にもならないので当然かもしれないが。

 

 

「そっ、そうある! 急がないといけないある!!」

 

 

 そこまで思考し、目的を思い出したリィエンは再び駆け出す。

 

 今度は先程まで使っていたと()()()()()『気配感知』を意識しながら……

 

 

 

 

 そして、話は原作と同じ道筋を辿っていく──────────

 

 リィエンはウォンレイの居場所を彼女の父親が管理する小島。『妖岩島』で幽閉されていると聞き出し。

 

 力づくで反抗するも、練達の武道家である父親にねじ伏せられ。

 

 祖母のいる日本にて謹慎するよう言い渡された。

 

 

 

(ウォンレイを助けるには強力な力がいるある。魔物の呪文の様な力が!!)

 

 

 ただしそこまで。本来、謹慎先の日本で本の持ち主(パートナー)である清磨を偶然発見し、協力を仰ぐ筈の未来は些細な接触から外れていく。

 

 

(でも、今まで出会った魔物は全員戦って倒しているある。私の知る魔物は……そうある!!)

 

 

 

 

「……お父さん。わかったある、私日本へ行くある」

 

「ほぅ、いつになく聞き分けがいいな」

 

「でも、一つだけお願いがあるある」

 

 

「いいだろう。(ウォンレイ)の自由に関係する事でなければ聞き入れよう」

 

「ありがとうある。私のお願いは……」

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ──────妖岩島最奥の独房にて。

 

 ウォンレイは自然に出来た浅い洞穴に鉄格子をはめた牢屋の中にいた。

 長い銀髪にカンフー服。あぐらをかいたその姿は、仙人の瞑想を思わせる老練さを感じさせた。

 

 だがその両手足は錠により拘束され、罪人にしか見えない扱い。だがウォンレイは文句一つ言わずそれを受け入れていた。そんな彼に、世話役であるスーツ姿の男が明らかに違法と思える長銃を肩にかけ話しかける。

 

 

「ウォンレイ。お前、青紫色の本を持っているな?」

 

「……あぁ。お前達もこの本の持ち込みだけは許していた筈だが?」

 

「それだったんだがな。事情が変わったそうだ、()()()その本を持ってこいと言われた。抵抗するなよ?」

 

「……リィエンの父親が?」

 

「リィエン()()()だ。お前とお嬢様は身分が違うんだよ!」

 

 

 銃のグリップ部分でウォンレイを殴りつける男を無視し、ウォンレイは思案する。

 

 

(私は魔界の王を決める戦いをこれ以上するつもりはない。魔界に還すというのならそれも受け入れよう。私と魔本の関係はリィエンから聞き出したのかもしれんな)

 

 

 とある理由により、魔界の王を決める戦いへの意欲を失ったウォンレイは男の指示に従い魔本を渡した。

 まさかリィエンが自身を助ける為に魔本を求め父親がそれに応じた筈もなし、それ以外の理由なら拒む理由などないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その『まさか』が今まさにウォンレイの知らぬ所で起こっているとは露知らず。

 

 

 

 




 

若干短い上、原作シーンの説明描写がほとんどで申し訳ない。
新呪文の名前にものすごく悩みました。


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44.vsザバス

 祝!!【金色のガッシュ!!2】連載開始!!!

 初めて知った時は「マ?!」と心の中で叫びました。
 これでハーメルンにも「金色のガッシュ!!2」を原作とした二次小説が増えるんですねヤッター(願望)




 

 

 

 

 

 にーはお! (精一杯の中国語)

 

 はい、皆さんこんにちは。大人気美少女魔物キリィちゃんです。最近、ガッシュ君に振り回されがちで、中々腰を据えて行えなかった撃破ポイント稼ぎを再開したいと思います。

 今回、ポイント稼ぎにはオトモがついきます。それが─────

 

 

「あそこがお父さんの言っていたウォンレイが閉じ込められている島、妖岩島(ようがんとう)ある」

 

 

 はい。皆さんご存じガッシュパーティの一人、ウォンレイの本の持ち主(パートナー)であるリィエンです。今、彼女とほもくんを連れ香港の無人島(人がいないとは言っていない)にボートでこっそり上陸しようとしています。

 ここで時間を飛ば(スプリフォ)された皆様にご説明しますと、香港島を観光していた美少女のキリィちゃんはばったり会ったリィエンに「彼が危ないの、助けて!」とB級ハリウッド映画の様な導入でやってきました。ウッソやろお前、と思うかもしれませんが本当です。

 

 リィエンは原作では日本に謹慎中、魔本を所持している清磨を偶然見かけ助力を請いますが、日本に彼女がやってくる時間ロスを見過ごす走者ではありません。

 彼女はウォンレイの救出に魔物の助力が必要と考える為、“魔本を所持している場面”を見せればその時点でフラグが立ちます。これはウォンレイ失踪前でも構いませんが、ウォンレイがまだ彼女の傍にいる場合某アマゾネス(シェリー)のように問答無用で襲い掛かって来るので、失踪直後がベストです。

 ウォンレイの失踪時期は決まっているので、それに合わせてほもくんに魔本を持たせたまま香港島を観光していたという訳なんですね。おかげで、ウォンレイの監禁場所を知り得た直後に、キリィちゃんを探してうろつく(不審な)彼女と合流できました。原作よりはやーい! 

 

 

「うまく上陸できたはいいあるが……、警備がいっぱいあるね」

 

「全員黒スーツにライフル所持。いかにもな場所だな」

 

「こんな危険に巻き込んですまないある。でもここで引き返しても構わないあるよ?」

 

無問題(もーまんたい)

 

 

 上陸して見えたのが一面の黒服。クソッ、通れるかこんなもん!! 

 仁義(仮)にあふれてそうなマルボウ的な方達ですが、彼等はポイントの足しにもならないのでスルーします。

 ほもくんに目配せすると、キリィちゃんの魔本を持ったまま不敵な笑みをリィエンに向けました。ショタ顔でやっても可愛いだけだよ。

 

 

「“コレ”まで預けてくれたんだ。応えない訳にもいかないさ。第一の呪文《ピルク》!」

 

 

 そう、キリィちゃんが事前に渡されたのは()()()()()()魔本です。なんとリィエンは大事な魔本をこちらに預けてまで、協力を求めて来たんですね。

 ほもくんが「預かった後、燃やそうとしたらどうするの?」と伝えましたが

 

「話を聞くなり協力を約束してくれた。そんなあなた達を信じないでウォンレイを助ける事なんて出来ないあるよ!」

 

 と力説。義に厚い職業のボスの娘だからか、思い切りのよさはあるのかもしれません。

 なおその後に「もしも燃やそうとしたら、こ〇してから奪い返す」とハイライトの消えた瞳で補足された記憶はなかった。イイネ? 

 

 

「黒服に見つかると面倒だ。慎重に行こうか……キリィ」

 

「わかってる」

 

「よし、行くぞ。《ピルク・レドルク》」

 

「え? ……あ、アイヤぁー!」

 

「口閉じて」

 

 

 ウォンレイの呪文は『格闘術よりの肉体強化』が揃っています。

 身体強化の呪文も完備しているので、脚力を強化すればリィエンを抱えて道なき道をジャンプで渡る事も可能です。

 高い崖も原作でもわき腹を痛めたリィエンがロッククライミングできる程度なので、呪文の力を使ったキリィちゃんは勿論ほもくんだって場所を選べばついてこれます。気分は軽業師、ぴょんぴょんと昇っていきましょう。

 

 

 あ~、キリィちゃんがぴょんぴょんするんじゃぁ~~

 

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 ────同時刻。

 

 ヘルメット状の仮面を被った少年が妖岩島上空を飛翔していた。彼には背中に翼が生えていた。

 

 だがその翼は鋼のように鋭く、服装もキッチリとした軍服のような奮起を感じさせるものである為神秘性は皆無だった。

 

 そんな少年にぶら下がる男の手には、ブルーグレー色の魔本。グライダーのように見えるが確かに“飛行”をしている少年は、眼下に見える妖岩島を見て不敵に笑い男に話しかけた。

 

 

「……うん、うん。感じる。やはりあの島だ。魔物がいる」

 

「なるほど、富豪が所有する離れ島か。いい場所を感知したみたいだな『ザバス』。思い切り暴れても大丈夫そうだ」

 

「そうだね『ガリオント』。面白い戦いになりそうだ」

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────はい、映像終わりましたね。

 今、皆さまがご覧いただいたものは、妖岩島に入った時に流れるイベントシーン、名付けて『ザバスムービー』です。ウォンレイイベントは、このように妖岩島各所でザバスムービーが流れます。RTAの大敵ですね。

 しかしウォンレイイベント自体は確率でガッシュ君とリィエンが出会わずウォンレイなしで『千年前の魔物編』がスタートする危険性があるので、千年前の魔物編安定攻略には回避不可のイベントです。やはりRTAの大敵ですね。

 

 そして原作未読派の方もこの時点でご理解いただけたでしょうが、今回のターゲットはウォンレイではなく彼を襲いに来る『ザバス』君です。仮面の中はイケメンか否かで議論が出来そうな子ですね。

 3倍の速さで不可能を可能にライトニングカウントできそうな彼ですが、その呪文も速さを重視した風系統呪文使い。スピード&テクニックのこの時点においてやや強敵となります。

 難易度的に難しくないのはウォンレイの存在ゆえ。彼が立ち直った時点でラスボス登場時に粛清される敵幹部のように演出でボッコボコになります。

 シナリオを進めるだけならばラクチンなのですが、場合によってはザバスがそのまま魔界送還されてしまいます。経験値返せ!! (デーレーデーレーデッデデデッ)←あのBGM

 なので今回はちょっとだけハードモードで進めたいと思います。撃破ポイント欲しいからね、しょうがないね。

 

 

 

 視点をキリィちゃんに戻しましょう。

 ほもくんと共に、黒服に見つからない様に進んでいましたが目の前には崖沿いに出来たエレベーターが頂上に続いています。

 頂上が目視できない程のエレベーターですが、当然入口付近には黒服の方々がいますし、こっそり使用しても音で気付かれます。

 ここに来るまでは回り道を駆使しましたが、頂上へ行くルートはここだけです。まぁボス部屋の入口を複数は作らないよね。

 

 

「二人共、ありがとうある。ここまで来れれば十分あるよ」

 

 

 リィエンは覚悟を決めた顔をしていますが、彼女を自由にさせてはいけません。

 エレベーター近くの黒服ですが、瀕死になると「ここだけは通さねぇ!」と謎の忠誠心を発揮してエレベーターを破壊しようとします。

 これに成功した場合、リィエンは一人で崖を登る事になり(間を持たせるための)長いモノローグが流れます。バカップルの馴れ初めなんて興味ありませんよ。(無情の一撃)

 では阻止すればと思いますが、阻止した場合先程見たザバス視点のイベント、名付けて【ザバスムービー】が流れて時間のロスになります。

 

 なので、ここは初志貫徹が一番です。はい、【気配遮断】! リィエンを小脇に抱えます。

 

 

 

「アイヤァァァァァ~~~~~~!!!」

 

 

「ん……? し、侵入者だと!! いつの間に」

「何だアイツ等、壁をジグザグに蹴って……いや、跳んでやがる?!」

「お、応援だ! 応援を呼べ!!」

「と、とにかくすぐにエレベーターで後を追うぞ!!」

 

 

 させねぇよ? 

 某レプリロイドばりの壁蹴りを繰り返すキリィちゃんですが、蹴り上げる力を強め壁を崩します。

 はい。発生した落石にエレベーターが直撃しましたね。これで暫く使い物になりません。ざまぁ! (外道)

 

 

「む、無茶苦茶あるね……」

 

 

 ドン引きした顔で抱えられながら地上の状況を眺めるリィエンですが、元凶のお前が言うなってツッコミたくなります。

 

 

「でも、これでもうすぐ……もうすぐウォンレイに会えるある」

 

 

 

 何はともあれこれでゴールです。

 エレベーターを使用しない場合、多少難所ができてしまいますが今のキリィちゃんなら問題ありません。

 サクッと救出しちゃいましょうねぇ~~

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 妖岩島頂上。

 

 奥にくぼみを利用した鉄の牢がある以外は何もない広場、そんな場所に降り立ったザバスは横に着地した本の持ち主(パートナー)に目線で目標を示す。

 

 

「あの牢にいるな。だが残念、中は魔物だけで本も本の持ち主(パートナー)もいないようだ」

 

「ホゥ、他の魔物に捕まったのか? まさか人間にじゃないよな?」

 

「ヒヒ……面白くない冗談だ。あんなチャチな牢や錠で魔物が抑えられるものか。理由はわからないけど、やる気がないみたいだ」

 

「フン。せめて本の持ち主(パートナー)がいれば、まとめてボコボコにして気を晴らせるんだがな」

 

「そうだね……、ん?」

 

「どうしたザバス、昇降機の方を見て。特に動いてないみたいだぞ?」

 

「いや……上がって来てる、間違いない。エレベーターを使わずに別の魔物が来たみたいだ」

 

「……! ハッ、面白いな。2組目の魔物か」

 

 

 

 ザバスの言葉を肯定するかのように下層から聞こえてくる足音。何かを蹴る様な音が規則的に響き、それが近づいて来ている事に本の持ち主(パートナー)のガリオントも気付いた。

 

 上空から見た限りではあのエレベーターはかなりの高さを上昇する筈。それを自力で昇って来るだけで実力者だとわかる。彼等の心の内から知らず知らず油断や慢心といった心が消えていく。

 

 だが牢に入れられたウォンレイと昇降機から昇ってくる魔物。2組の魔物に挟み撃ちをかけられるような状態の2人はそれでも動かない。むしろ心待ちにするかのように笑みを浮かべ、余裕を持って優雅に待っていた。

 

 彼等の心には強敵との戦いを望む矜持も、正々堂々の戦いを望む高潔さもない。ただ「2組を相手取る事になっても、自分たちが勝つ」という、傲慢にも思える程の自信だった。

 

 そして姿を現す男女と少女。戦闘経験豊富な二人は少女が魔物であると即座に判断する。

 

 ガリオントはわざとらしい程の優雅な所作で登って来た面々に向け、歓迎の言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ……、ここが君達のてんご「第五の呪文《ピケルガ》!」くぅぅぅ?!」

 

 

 そんな彼等の優雅さは、少女から放たれたジャイロ回転しつつ向かってくる拳圧に吹き飛ばされてしまったのだった。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 はい。

 

 先制攻撃により『ザバスムービー』もカットです。前置き長い奴には交渉(物理)が有効です。アァァァクション! (完全交渉)

 不意打ち気味に公開となった新呪文《ピケルガ》により着弾地点が爆発しましたね。拳圧ってレベルじゃねーぞ! 

 

 

 第五の呪文「《ピケルガ》」。名前の通り第二の呪文(ピケル)の強化版です。

 放出系呪文は語尾に「〇〇〇ガ」となると強化版として扱われます。ガッシュ君なら《ザケルガ》といった具合ですね。

 最大呪文には遠く及びませんが、強化前は人間でも耐えられる程度の威力になっており、防御に優れた魔物や防御力に定評のある《千年前の魔物》編の魔物にはほとんど効きません。

 中級呪文は範囲・威力ともに高い分使いどころが難しいので、程よい強度でお手軽に使えるこの呪文は終盤近くまで安定して使える強い味方なんですね。

 

 そして、原作ではガッシュ君の《ザケルガ》によりワンパンされたザバス君ですが─────

 

 

 

「フフフ、少々驚いたが。我々を倒すには攻撃力が足らないようだ」

 

 

 ミュージカル俳優のように優雅な礼をするガリオントと、鋼の翼を目の前で畳み攻撃を防いだザバス君。やっぱりねーと納得です。

 では理解できなかった皆様にもう一度、今度はスロー映像でご覧いただこう。なおスローは各自動画の設定からやってね! (他力本願)

 

 

 

 

「! もう一度だ、キリィ。第五の呪文《ピケルガ》!」

 

「その呪文は通用しない。《ウイシルク》!」

 

「くっっ、舐めるなぁ!」

 

 

「新呪文が……弾かれた?!」

 

 

 

 ザバス君の翼が光り輝きキリィちゃんの拳圧(強)を翼を交差して受け止めました。

 あの呪文は彼の翼を強化して防御力を上げているんですね、貫通力に優れた《ピケルガ》でもあれは貫けません。

 

 

 

「不意打ちをした程度で調子に乗るなよ! 《フェイウルク》!」

 

「と、飛んだ?! あの魔物、飛行能力があるあるか!」

 

「しかも動きが早すぎる。俺の目じゃ捉え切れない……!!」

 

「ヒヒヒ。そうだ、俺の速さからは逃げられねぇ。どうやら後ろの女が牢にいる奴の本の持ち主(パートナー)みたいだな。先にそっちから倒しとくのもいいな」

 

「!!」

 

 

 空を飛びキリィちゃんの物理が届かない距離から狙ってくるザバス君。君、こんなに強かったんやなぁ……

 

 さて、これが最近出番のなかったIFルートです。ザバス君の条件は『リィエンがノーダメージ』『エレベーターを使用せずに戦闘に入る』となります。

 正直言ってIFルートザバス君はかなり強いです。呪文構成によっては詰む事もあります。制空権を取られる戦闘っていうのは相当キツいってばっちゃが言ってた。アウトレンジで決めたいわね。

 

 しかしIFルートは利点として、原作ルートで起こる『ウォンレイの参戦』が起こりません。ポイントを狙う場合はうま味ですね。

 当然、自分だけでザバス君を倒さなければいけないのですが、今のキリィちゃんならば勝利可能です。我に策あり! 

 

 

 

 

「《ピケル》!」

「離れて地上にいる私を狙ってくるのは当然。だが、遅い。《オル・ウイガル》!」

 

 

 竜巻(ウイガル)を自分の本の持ち主(パートナー)に放ちますが《オル・ウイガル》は発射後の自由操作を付与した呪文です。本の持ち主(パートナー)の目の前で方向転換し、キリィちゃんが放った拳圧を相殺しました。

 因みに唱えた呪文が《ピケル》なのは仕様です。本の持ち主(パートナー)相手には《悪》属性以外の本の持ち主(パートナー)は初級呪文しか打てない様になっているんですね。《中庸》のほもくんでは出来ません。

 まぁ人間に向けて中級以上の呪文を撃つのは絵的にまずいですからね。アニメ化が許されなくなってしまう、原作ファウード編のように! (未練)

 

 

 そして今の相殺合戦で意識がそれた隙にリィエンがGO。非常に邪魔なので、ウォンレイ救出(厄介払い)を頼みます。

 ザバス君達は無抵抗の魔物や人間もボッコボコに出来るやべー奴ですが、勝利を第一に考えるので向かってくる魔物がいる場合はそちらを優先します。キリィちゃんが諦めない限り、ウォンレイとリィエンは試合終了にはならない訳ですね。人質なども取らないので存分に放置しましょう。

 

 さぁどんこい超常現象(ザバス)! 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 ─────(ウォンレイ。今、今助けるある!)

 

 

 私は走る。

 

 もうすぐ。もうすぐウォンレイに会える! 私は彼のいる牢まで、全速力で向かっていたある。

 

 後ろでは呪文同士がぶつかり合う爆音。その耳の奥を揺さぶられるような衝撃、それを感じる度に私はウォンレイとの再会の嬉しさと一緒に罪悪感が湧き上がってきたある。

 

 

 

 本当は私一人で助けるべきだった。でも、お父さんにすら勝てない私ではとても無理だと思った私が思い出したのは直前に出会った女の子の魔物。名前はキリカ。

 

 

《「リィエン。突然魔物との戦闘になる事はあるが、それは皆“王”を目指して真摯にあるだけだ。話し合う事でわかりあえる事もある」》

 

《「それって、私とウォンレイみたいなものあるか?」》

 

《「私とリィエンは魔物とその本の持ち主(パートナー)だからだが……いや、そうなのかもしれないな」》

 

 

 以前ウォンレイが言っていた言葉を思い出し、すぐに香港島を観光していた彼女に助けを求めたある。

 

 快く引き受けてくれた彼等だったあるが、その時の私は皆で力を合わせてウォンレイを助け出すつもりだったある。でも結果は……私は何の役にも立たなかった。

 

 ここまで私は彼等に背負って貰っただけ。なにもかも全部彼等に押し付ける形で来てしまったある。彼等だけが危険で大変な目にあってしまったある。

 

 

 

 だから私は走る。

 

 彼等は今、ウォンレイを狙ってやってきた魔物と戦っている。

 

 今まで何の力にもなれなかった私あるが、ウォンレイはとても強い。きっと彼等を助けてあげられる筈あるよ! 

 

 

 牢の前に辿り着く。

 

 中にいるウォンレイは俯いているあるが、目をつむっているだけで私達にはちゃんと気付いているある。

 

 私は今までため込んだ様々な思いを、その一言に込める。

 

 

「ウォンレイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしにきたんだ? リィエン」

 

 

 私の目の前の世界が、真っ暗になったある。

 

 





【オリジナル呪文】

《ウイシルク》
 ウイガル(風)+ シル(防御)+ ルク(強化)
上記の3要素を組み合わせた呪文。風の力を纏う事で防御力を上昇させる呪文。



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45.恋する人、愛する人

 お久しぶりです。
 釈明は活動報告に載せました。本年も本作をよろしくお願いいたします




 

 

 

 

美少女魔物キリィちゃんです。ザバスチャート攻略はじめるよ! 

 

 

 

 はい。唐突のクソデカ挨拶すみません。

 ですが、ここはささっと始めていきたいと思います。原因は後ろの人達ですね。

 

 

「ウ、ウォンレイ。どうしてあるか?! 私、助けに来た。一緒にここを出るあるよ!」

「私は自ら望んでここにいる。君には関係ない。早く帰るんだ」

「そ、そんなの嫌ある! 私は本の持ち主(パートナー)ある! 一緒に帰るあるよ!!」

「既に解消した本の持ち主(パートナー)だ。言う事を聞くんだ、リィエン」

 

 

 おぉ、修羅場修羅場。

 ざまぁ系スレを楽しめる方々なら2828しながら見ていられるでしょうが、全く進展のない言い合いを眺めてもしょうがありません。ざまぁスレ住民であろうニヤケ顔のザバス君達に振り返り、戦闘態勢に入りましょう。

 

 

「いいのかい? あちらはまだ結論が出ていないようだが?」

「ヒヒッ。クズ同士の言い合いとは、中々面白い余興だ。少しくらいは待ってやってもいいぜ?」

 

 

 時間の無駄です。(バッサリ) こいつらわかって言ってますね。

 このIFルートではウォンレイの参戦がありません。つまりザバス戦の最中にウォンレイとリィエンの和解が出来なくなっています。

 

 その理由はルート条件でもある『リィエンノーダメージ(お荷物状態)』ですね。

 ここに来るまで何のダメージも受けず順調に来たせいで、原作程の苦労をしなかったリィエンは自分の抱く思いを省みる時間(モノローグ)が足りていません。勢いのまま突っ走っていた為、ただ「ウォンレイと離れたくない」と思うだけで、「何故離れたくないのか?」という彼を大切に思う自分の気持ちに気付かず、駄々っ子状態になっている為に説得がうまくいかないんですね。

 

 ウォンレイもウォンレイで、原作で清磨に指摘された「傷つきボロボロになってまで来た、ウォンレイを大切に思うリィエンの気持ち」に気付く事が出来ません。傷一つなくここまでやってきたリィエンを見て「父親に無理言って来たんだろう」と勘違いし、軽く考えてしまいます。

 そんな二人のすれ違いは原作以上の渾身のフォロー等がない限りすぐには解決せず、その前にザバス戦は終わります。

 う~ん、余興と言われても仕方ないわコレ。

 

 

「《ピケル》!」

「《フェイウルク》! ……もうその呪文は効かない、届きすらしないとわからないのかい?」

 

 

 そんな訳で戦闘開始。

 余興を見る為に降りてきていたザバス君にまっすぐ攻撃。当然、空中に逃げて簡単にかわされます。

 

「《ガルウルク》!」

「! 回転して突っ込んで来た。キリィ、どうする?!」

 

 

 鋼の翼と甲冑の体を活かしての空中からの高速回転突撃。ザバス君のメイン技ですね。

 地面をえぐる程の威力なので、ほもくん達の素早さでも風圧でダメージを負ってしまいます。実はコレ連発するだけで中盤までは大抵の敵は倒せます。彼をプレイアブルにした時の攻略法が「レベルを上げて物理(ガルウルク)で殴る」で解決するのだから草。

 ですが、この技の対処法は原作を読んでいる方なら必見。絶好の見せ場ポイントです。

 

 

「……迎え撃つ」

「わかった! 《ピルク・ゴウ・バウレン》!」

 

 こちらも呪文の威力をあげて物理で殴る。やり返されてて草生えるわ。

 因みに《バウレン》系統の技はビームの様な攻撃が出続ける呪文ではなく、一瞬の打撃技です。攻撃呪文を跳ね返す様な発動タイミングが重要な場面では、シェン〇ー等でおなじみQTE判定が出てきます。

 カウンターを行うタイミングを合わせてボタンを押すだけの簡単な作業ですね。当然、一発成功で─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピッピッピッピッピッ…………ポスン! (失敗SE)

 

「キリィ─────!!?」

「カハッ……!」

「なっ、相打ちだと?!」

 

 

 ま″───────────────!!! (叫び声

 いけません。いけませんよ、こいつぁ!! (狼狽)

 QTE判定に失敗した為、地面をえぐる程の強力な攻撃をまともに喰らってしまいました。幸いこちらの攻撃も当たり、お互い吹き飛ばされたので追撃はありません。

 

 ふらつきながらも起き上がるキリィちゃん。

 あーこれは……右手が動かなくなっています。魔物の頑丈な体でも限界という事ですね。このゲームの原作が『ガッシュ2』だったら容赦のない骨折がキリィちゃんを襲っている所です。

 そうこう確認している間にザバス君も復帰。兜や軍服のような鎧も半壊しダメージは残っていますが、戦闘続行は普通に可能です。うわ、すごい睨みつけてきてる。

 

 

「テメェ……たまたま不意打ちが入ったからってイイ気になるなよ!」

「《オル・ウイガル》!」

 

 

 やはり起き上がりの運動はきついのか、竜巻を放ってくるザバス君。

 ほもくんに指示を出し素早くお姫様抱っこ(ここ重要)。キリィちゃんを抱え、ザバス君達の方へ突っ込みます。華麗な回避! 

 

 

「逃げても無駄だ! この呪文は操作可能だという事を忘れたか!!」

 

 

 ガリオントがそう言いながら竜巻を方向転換させ、ほもくんを後ろから追ってきます。それを背中で感じつつガリオントの所へ突っ込むほもくん。

 そう、よくある追尾型呪文の攻略法ですね。追って来るなら術者にぶち当てればいいじゃない戦法。

 

 

「……フッ。舐められたものだな」

「ヒヒッ。かかったな、バカめ」

 

 当然、有名な攻略法なら相手も知っている上に対策済みでしょう。

「相手が盾の呪文を出したのを見てから、着弾地点を盾の足元に操作する」という離れ技を可能にする操作技術を持つザバスくん。まぁほとんどの魔物は「盾を貫通する威力の呪文を撃てばいい」という脳筋思考がまかり通っているので報われませんが。

 ですがそんなザバスくんだからこそ自分に当たる直前に弾道を変え狙いうつ芸当も可能です。このチキンレースは圧倒的にほもくん絶望的に不利という訳ですね。そんな訳でキリィちゃんの横入り入りまーす。

 

 

「元就」

 

「! 《ピケルガ》!!」

「チッ、まだ呪文を唱えられるか!」

 

 

 ほもくんに抱えられながら左手で拳圧を飛ばします。

 ですが、さすがは戦闘経験豊富なザバス君。《ピケルガ》を身のこなしでギリギリかわしました。ガリオントも無事です。

 

 

「く……そぉぉぉおおおお!!」

 

 

 その間にほもくんはキリィちゃんを抱えたままガリオントの上を飛び越え、反対側の地面に着地。《オル・ウイガル》はキリィちゃんの攻撃を避ける時に操作が乱れ、少し離れた地面で爆発。ですがザバス君たちは余裕の笑みを隠し切れない表情です。苦し紛れの奇襲も避けて、これからずっと俺のターンだと思ってるんだろうなぁ。

 

 だが、甘いぞ遊戯!! (唐突な他人の登場)

 

 

 

「《クラリオ・イズ・マール・ピケルガ》!」

code(コード)、《ラオウ・ディバウレン》」

 

 

 ここでキリィちゃんinウォンレイの最大術を繰り出します。

 3本の尻尾を持つ巨大な白虎型のエネルギー体がザバス君達に襲い掛かりますよ。ザバスIFモードでウォンレイが参戦する事はありませんが、最強技である《ラオウ・ディバウレン》をこの時点で習得済みとなっています。コルルの時と同じ豆知識ですね。

 

 

「チッ、まだあがくか! ガリオント、こっちも最大呪文だ!!」

 

「あぁ! 《ガオウ・ウイガルガ》!!」

 

 

 対してザバス君も当然のように最大呪文完備。余裕と慢心さえなければトップ勢魔物にも匹敵しそうなポテンシャルですね。

 こちらが三又の白虎に対し、ザバス君は2本の尻尾を持ち両手が鎌状になっている獣─────つまり鎌鼬(かまいたち)のエネルギー体を放ってきました。身体に竜巻まで纏って非常に強そうです。

 

 

 

「ガルォオオオオオオオオオオオ!!」

「シャァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 何やこの怪獣大決戦。

 虎さんが相手を嚙み千切ろうと取り押さえにかかりますが、鎌で突撃をいなされています。そして背中に振り下ろされた鎌を爪で弾き、今度は胴体に噛みつく虎さん。身体に纏っている竜巻を受けながらも相手を噛み砕こうとしますが、とびかかった事でフリーになった背中にもう一方の鎌が振り下ろされます。

 そして、お互いにぶつかり合ったエネルギー体は、双方痛み分けという形で対消滅していきました。がんばった。感動した! 

 

 

「まさか上級呪文まで持っていたとは。素直に賛辞を送ろうじゃないか」

「ヒヒヒッ、だがこれでお前達も打つ手なし。チェックメイトだ」

 

 

 相手の最後のあがきと思える攻撃を耐えきり満面の笑みを浮かべる二人。

 まぁ奥の手ともいえる最大呪文を放ったのに、結果は二人を数mほど後退させただけ。キリィちゃんがザバスに《ピケルガ》を放った場所まで少し押し戻した形です。

 

 

 

 だが、違うな。間違っているぞ、ザバス。

 君達は私を倒しうる最後のチャンス。それを無駄にしたのだ!! 

 

 さぁ、本当のチェックメイトだ!! 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ─────「ヒヒッ、これで終わりだな」

 

 

 黒髪の女魔物と男の足掻きは中々面白い戦いだった。

 

 まさか澄ました顔の少女が俺の自慢の鎧を半壊させる程の武術の使い手だとは考えず、少なくないダメージを受けてしまったが、結果は俺達の勝ち。常に嘲笑の笑みを浮かべつつ、相手の裏を読む事に長けたガリオントも、いまや油断なく二人を見つめている。もう万に一つの逆転の目もない。念を入れガリオントの傍を離れない様意識しつつ、相手にトドメを刺す為の呪文を準備する。

 

 この場にはもう一組のペアもいる。トドメを刺す場面で乱入を仕掛けてくるのは常套手段。そちらにも注意を怠らない。

 

 

「なんで出てきてくれないあるか?! 私の事、嫌いになったあるか!」

 

「そうではない。私はもう王になる気はない。だからあなたと一緒にいる意味はもうないんだ」

 

「なんであるか!? 急にそんな事言われても、私納得できないある!!」

 

「私ともう一緒にいる必要はない。早く家族のもとに帰るんだ、リィエン!」

 

「そ、そんな……」

 

 

 どうやら大丈夫そうだと意識を戻す。

 おそらく協力関係を結んだだろうペアの窮地を前に、あまりにも初歩的な議論をしている。論外だ。

 正面のこの少女の魔物には対戦者としての敬意を持てるが、あのペアはクズだ。クズの魔物にクズの人間。せいぜい後でボコボコにしてやろうと、体勢を整える。

 

 すると、対面していた黒髪の女が左手を広げこちらに向けてきた。

 

 

「……まだやる気かい? 素直に諦めたらどうかな?」

 

 

 ガリオントが諭すように声をかける。

 当然だ。奴等は奥の手(最大呪文)も使い満身創痍。後ろに隠した右手は腫れ上がり、満足に動かす事ももう出来ないだろう。体術を使う魔物にとっては致命傷といえる。

 

「そうだな。中々楽しめたんだ、素直に魔本を差し出せば勘弁してやるぜ?」

 

 俺がそんな言葉をかけるも、魔物も人間も真剣にこちらを見つめて来るだけ。呪文のタイミングを計っているのか? 

 そうはさせない。俺は最高速度の《ガルウルク》で相手をこっぱみじんにする為に翼を広げて前傾姿勢を取る。

 ガリオントも先程のカウンターを考えて、時間をかけて心の力を込めている。例え先程と同じ事をしても、相手の拳ごと風圧が二人を吹き飛ばせる威力だ。

 

 難点と言えば、常に翼を広げている為防御に翼を使えなくなる事だが()()体に呪文を叩きこまれでもしない限り、回転と風圧がバリアとなってくれる。どんな呪文が来ても弾き返す事が可能だ。

 

「さぁ、覚悟しやがれ! やれ、ガリオント!!」

「あぁ、今度は受け止められると思うなよ! 《ガルウルク》ゥ──────!!」

 

 

 そして、俺は奴等を吹き飛ばそうと突進をはじめようとして─────

 

 

 

 

 

 

 

 

「第六の呪文─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《オル・デーム・ピケルガ》!」

 

 

 ─────俺の意識は彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「……ウォンレイ。どうしてわかってくれないあるか?」

 

 私は膝から崩れ落ちた。うつむいた顔からは涙があふれて止まらない。二人の時間はそのまま止まってしまったようだったある。

 

 ウォンレイは何を言ってもかたくなで、ピクリとも動かない。まるでただのお守りの銅像ある。

 お守り……そんな現実逃避のような脇道に考えに移りかけた私が思い出したのは、ウォンレイが語ってくれた魔界の王についてだったある。

 

 

 

《「私が王になったら? ……そうだな。皆を守りたい」》

 

《「守りたい、あるか?》

 

《「魔界は格差や貧富。様々な事が原因で争いが起きている。私は、それらの争いから皆を守りたいと思う」》

 

《「争いをなくしたいって事あるか?」》

 

《「少し違う。争いは避ける事の出来ない本能だ。それに魔物も人も、競い争う事でよりよき結果を作りだす。だが、それにより不幸になる者を私は見たくないんだ」》

 

《「むむむ、難しいあるね」》

 

《「あぁ、とても難しいだろう。だが私は大切な人達、そんな人達がまた大切に思う人達。そんな皆を『守る王』にこそなりたいと願っている」》

 

 

 ……そうだ。

 私はそんな、夢を楽しそうに語る男の子のような顔をするウォンレイの力になりたいと思ったある。 

 

 でも、今目の前にいるウォンレイの顔は──

 

 

 

「もういいだろう。早く帰るんだ、父親も待って……」

 

「ウォンレイ。私、あなたの事が好きある」

「! ッ………………」

 

 ウォンレイの変わらない表情がここに来てから初めて崩れ、俯いた。

 

「あなたと並んで歩く時の穏やかな顔が好き。鳥が頭で寝てしまった時の戸惑った顔が好き。一緒に夕陽を見てる時の優し気な顔が好き。……でも、そんな無理矢理我慢をしているような顔、好きじゃないある」

 

「リィエン。……私は」

「ウォンレイ」

 

 続きは言わせない。今なら彼の気持ちがわかる、彼もきっと同じ気持ちを持ってくれている。だからこそ、それを否定する言葉を口にさせたくなかった。

 

 

「あなた。私や家族を戦いに巻き込まない様に、これ以上私を戦いで傷つけないようにと離れたあるね?」

 

「………………」

 

「わかってるある。ウォンレイが私を大切に思ってくれている事。……でも、おかしいあるよ」

 

「……何がおかしい? これがリィエンを守る方法なんだ!!」

 

 ごまかすのは無理だと、ようやく気持ちを教えてくれたウォンレイ。大切に思ってくれる事は本当に嬉しい。でも─────

 

 

 

 

 

「ウォンレイ、『私を守って』。私はあなたがいなくても魔物に戦いを挑むあるよ? あなたが傍にいなかったら、私を守れないあるよ?」

 

「リィエン?!」

 

「私は、あなたの『守る王』を信じてるある。たとえ誰が相手でも、どんな障害でもウォンレイが守ってくれるって信じてるある」

 

「…………!!?」

 

 

 私はそれだけを言い放つと、立ち上がって振り向きキリカ達とそれと戦っているだろう魔物達のもとへ走り出したある。

 勝負はもう終わりかけで、お互い最後の一撃を放とうとしている場面。少しでも相手の集中を乱せればと、叫びながら相手の魔物へ走り出したある。

 

「ハイィ──────!!」

 

 

 

「《ガルウルク》!」「《オル・デーム・ピケルガ》!」

 

 しかし、少し判断が遅かったようある。

 私の事など意に介さず、お互いの呪文が放たれてしまった。私は心配からキリカの方につい顔を向けてしまったが……

 

 

「……呪文が、出てないある?」

 

 

 キリカが前に出した手からは、何も出た形跡がなかったある。近くの地面に目を向けるも、地面から何か出て来た様子もなし。

 私が頭に疑問を浮かべ視線を動かしていると、相手の魔物にその答えがあったある。

 

 

「ば、馬鹿な……一体、何が……?」

「…………カハッ」

 

「相手の魔物が、倒れているある?」

 

 何か強力な攻撃で吹き飛ばされたかのように倒れている魔物と、状況が理解できない様子の本の持ち主(パートナー)

 私は何が起こったのか理解できず、恐ろしいものの片鱗を味わったように立ち尽くしていたある。

 

 

 

 

 ─────そんな私を、後ろから誰かが抱きしめてくれた。

 肩から回した手、優しい体温、体全体を守られてるかのような安心感。それが誰かなんて、確認する必要もなかったある。

 

 

 

 

 

「……すまなかった。リィエン」

 

 強く、そして優しく抱きしめてくれたウォンレイ。

 両手を封じていた牢は粉々に砕け、それがウォンレイの立ち直った意思を表しているようで嬉しかった。

 

 

 

「いいあるよ。ウォンレイ」

 

 そのまま振り返り正面から抱きしめ合う。

 私が抱き続けていた思いが、お互いを思い合える何かになれた気がして。私達はそのまま抱きしめ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────【ザバス 敗退(リタイヤ)】撃破者《キリカ・イル》

 





※最後のシーンでは、魔本の謎の光で二人の共感性が高まっていました。


【オリジナル呪文】

《ガオウ・ウイガルガ》

 竜巻の属性である《ウイガル》の最大呪文。
 全身に竜巻を纏った、鎌鼬状のエネルギー体を放ち攻撃する。


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46.〇〇〇の風邪

 日常という名の説明回




 

 

 

 

「─────37度2分か。大丈夫、軽い風邪だよ」

 

「ウヌゥ。大丈夫なのか?」

 

「疲れが出ただけだよ。寝てれば治るさ」

 

「寝ておればいいのか?」

 

「下手に薬を使う方が長引く事があるんだ。安静にしていれば元気になるさ」

 

「そうなのか。わかったのだ」

 

 

 はい。皆様こんにちはー! 香港帰りの美少女魔物キリィちゃんです。

 ザバス君も撃破し無事に日本に帰ってくることが出来ました。いわずもがな、彼の呪文ぱぅわぁ~は美味しく頂きましたよ。体が軽い、もう何もこわくない(フラグ)

 

 次なるイベントは『アポロ来襲』です。

 香港から帰って来たガッシュ君が風邪を引いている間に、清磨の下にアポロがやってきて自身の敗退とゼオンの情報を落とすイベントですね。

 

 ですが、このイベントはもう起こす意味がありません。

 アポロから手に入る情報は、ゼオンという名前と電撃の呪文性質を持っている事。うん、知ってる。

 それにアポロはすでに敗退しています。うん、知ってる(当事者)

 

 その為、ここで手に入る情報は「アポロが御曹司になりました」という、自慢話だけになってしまうんですね。うん、いらない情報だ。スキップ安定です。その回避方法として─────

 

 

 

「ケホッ」

 

「キリカ、大丈夫か?! 私が傍にいるのだぞ!」

 

「キリィ、何か食べたいものはないか?」

 

「メ、メルメルメ~~~」

 

 

 ここでキリィちゃんが風邪にかかってしまう必要があったんですね。(にわか構文)

 第6の呪文まで手に入れたので、修行パートは余裕がありお休み。呪文を無駄に使いたくないので、チャート進行を倍速で進めるのみです。

 今日は平日。清磨は学校にいっていますので、ガッシュ君とウマゴンがほもくん宅へ看病に来てくれています。キリィちゃんはガッシュ君のように学校に潜入したりしないので、このまま体力回復に努めます。前回、ザバスとの戦いで右手も負傷している事もありほもくんも目を光らせています。

 この世界での治療はよく食べ、よく眠る事です。次のチャートへ影響を与えない様、キリィちゃんは夢の世界に旅立つことにします。

 

 

 

 では、おやすみなさい~~~(スヤァ

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 

 ─────キリィが熱を出して寝込んだ。

 魔物とは言っても、頑丈なだけで人間とそこまで変わる訳じゃない。怪我だってするし。風邪にもなる。戦い続きの疲れが旅行を切っ掛けに出たのだろうと思う。

 

 

「そうか。キリカは怪我をしていたな。配慮が足りず、すまなかった」

 

「申し訳ないある」 

 

 そんな事を、自宅に訪問しに来たウォンレイとリィエンに伝える。キリィは眠っているが、構わないと奥の和室に迎え入れた。

 ザバスと名乗る魔物との戦いの後は父親の部下の黒服たちが押し寄せ、重量の問題でキリィの飛行呪文《ピルク・フェイウルク》で逃げだせたのは俺達だけだったからだ。

 

 彼女達はあの後、島にやって来ていた確執のあった父親を説得し、現在は祖母のいる日本にやって来たらしい。なんでも……

 

 

「それでお父さんが《娘を狙う敵がワシでも守りきれるのか!》と青龍刀を振りかぶった瞬間、ウォンレイが拳で刀を砕いて言ったあるよ!! 《守るとは彼女から離れぬ事ではない、彼女を狙う悪意を打ち砕く事だ!》って。格好よかったある~~」

 

「リ、リィエン。その話はもう三回目だ、その位に……」

 

 最初見た二人はどこかすれ違っているような雰囲気だったが、今はお互い信頼し合っている様子が伺える。困難を乗り越え絆を深めたという事なのだろう。

 

 

「それにしても、キリカと元就もすごかったある。最後の攻撃も何が起きたかわからなかったあるよ」

 

「あぁ、《第6の呪文》の事かな?」

 

「呪文を唱えたと思ったら相手が吹き飛んだから驚いたある。どうなってるあるか?」

 

「リィエン!」

 

「……あ、ごめんなさいある」

 

 

 呪文の内容まで聞くのはマナー違反と感じたウォンレイが諫め、それに気づいたリィエンが頭を下げる。

 確かに将来、2人と戦う可能性がある以上秘匿できる情報はそのままにしておくべきだろう。だけど…………

 

 

「いや、構わないよ」

 

「……良いのか? 私達への義理立ては不要。むしろこちらが礼を尽くさねばならない立場だ」

 

「そうある。無理に聞かせてくれなくても、全然かまわないあるよ」

 

「別にそういう訳じゃない。……何て言うか、自分でもわかってるか自信がないから、説明できるか試してみたいんだ」

 

 

 俺の言葉に、頭の上に「?」を浮かべ首をかしげる2人。

 今言った言葉は本心だし、キリィにも特に情報を隠すようには言われていない。そもそもガッシュに理解してもらえるまで何度も自分の呪文を話していたし、清磨と呪文の応用方法について話し合う事もあった。今更な問題である。

 

 

「2人は“デジャブ”って聞いた事あるか?」

 

「デジャブ? 魔界にいた頃には聞いた事のない言葉だ」

 

「私テレビで見た事あるあるよ。初めての事なのに一度経験した事がある、って感じるものあるね」

 

「そうそう。《第6の呪文》はそれに近いものと考えればわかりやすいかな」

 

 

 

 

 

《過去に放った呪文を同じ位置、同じ方向、同じ威力で『複製(コピー)』して放出する呪文》。それが第6の呪文の効果。

 デジャブに似た一撃を放てるという訳だ。トリッキーな呪文にも程があると思う。清磨と何度も話し合い、検証した成果だ。

 

 リィエンは呪文の効果を聞いて目を輝かせているが、ウォンレイは困惑した顔を浮かべている。呪文の厄介さに気付いたらしい。

 

 

「すごいある! じゃあこの前の戦いは、彼等のすぐ近くで呪文が出たから防ぐ事が出来なかったあるね。無敵の呪文ある!」

 

「いやリィエン。これはかなり扱いの難しい呪文だ」

 

「そうあるか? 思いもしない所からの攻撃は厄介あるよ」

 

 首をかしげながら同意を求めるリィエン。だがウォンレイは首を横に振った。

 

 

「以前と同じ方向、同じ位置……つまり戦いの中で立ち位置が変わる中、攻撃した方向を考え、相手の立ち位置を誘導しなければまともに当てる事すら不可能な呪文だ」

 

「うっ、それは……」

 

「それに《過去の攻撃》といっても数分前が限界。事前準備もなく、戦いの最中にそれを考えないといけないんだ」

 

「……大変という話じゃないあるね」

 

「あぁ、おまけに魔本を直接狙おうとすると本の持ち主(パートナー)()()()()()()()みたいなんだ。上級呪文は『複製(コピー)』出来ないから最悪、相手は身を挺して魔本を守れる」

 

 

 説明を重ねるごとにリィエンがしぼんでいく様に見えた。正直俺も条件や制限が多すぎると思う。つくづく検証に付き合ってくれた清磨達に感謝だ。

 

 

「君達の呪文についてはわかった。代わりにという訳ではないが私達も知っている呪文や、戦い方について教えたいと思う」

 

「それは助かる。中国拳法というのに少し興味があったんだ」

 

「そうあるか! それなら実戦で教えてもいいあるよ」

 

「リ、リィエン。少し落ち着くんだ」

 

「あ、あぁ。それはまたの機会に頼むよ」

 

 そうあるか、と少し空回りしたように感じたのか頬を少し染めながら座布団に座りなおすリィエンを俺とウォンレイはお互いに目を合わせ苦笑を浮かべるのだった……

 

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 戦いについての話もひと段落し、他愛のない雑談で時間が流れる。お互い格闘技の経験者という事で、話にも花が咲いた。

 昼前に来た二人だったが、時間も流れ夕方に差し掛かる頃……インターフォンが俺達の会話の流れを止めた。

 

 あれからガッシュはキリカのボディガードと言って帰らず、ずっと庭でウマゴンと遊んでいる。

 学校の終わった清磨が迎えに来たのだろうか……そう思っていた俺の予想は、()()当たっていた。

 

 

「よっ、元就。キリカの様子はどうだ? 後、ガッシュが迷惑かけてないか?」

 

「あぁ清磨。今は眠っているけど問題はないさ」

 

「そうか、よかった。……あー、それでな。もう一人来ているんだが……」

 

 

 歯切れの悪い言葉。物怖じしない性格だと思っていた清磨にしては珍しいと思っていると、門の外にいて見えなかった人影がこちらに歩いてきた。

 

 

「いや、清磨。僕が直接話そう。今回は戦いに来てる訳じゃないんだ」

 

「……! アンタは」

 

「久しぶりだ、元就。元気そうで何よりだ」

 

 

 あの時のようなラフなローブ姿でなく、一目見ただけで最高級品と分かる朱色のスーツに身を包んだ()旅人。

 

 

 

 

「……アポロ」

 

「清磨からキリカの様子を聞いて見舞いに来たんだ。あがってもいいかい?」

 

 

 俺は何も言えず、ただ頷くのみだった─────

 

 




 
 ちょっと短めですが、展開的に前後編で分けます。次話も短め予定です。


《第六の呪文 オル・デーム・ピケルガ》
効果:過去に放った呪文と同じ位置、同じ方向、同じ威力の放出呪文を『複製(コピー)』して放つ

・『複製(コピー)』出来るのは中級以下の呪文
・ほもくんの心の力さえ残っていれば『複製(コピー)』元の呪文の“心の力”が失っても使用可能
・『複製(コピー)』出来るのは「5分以内に自身が放った呪文」のみ
・射線上に魔本があった場合、その本の持ち主(パートナー)は攻撃の発動に必ず気付ける
・一度に『複製(コピー)』で出現させられる攻撃は1つのみ


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47.アポロの邂逅

 
短くなると思ってました。(8700文字)




 

 

 

 ─────先程までウォンレイ達と過ごしていた和室の和やかさは、張りつめる緊張によってかき消されていた。

 

 

「粗茶ですまないが」

 

「いや、急に押しかけたのはこっちだ。気にしないで欲しい」

 

 

 清磨が連れてきた、かつて本の持ち主(パートナー)だった男。アポロ

 

 だが、彼の肩にのり愛くるしい仕草を見せていた魔物『ロップス』はもういない……キリィによって。

 

 

「そんな警戒しないで欲しい。彼女(キリカ)に何かしようとする気はないさ」

 

 

 裏のない朗らかな顔で、肩をすくめながら言ってくる。清磨もアポロの事よりも、こちらの動向を気にかけている。警戒というより心配で、だろうけど。

 

 正直俺自身はアポロの事は信用している。真っ向から戦い合った仲だ、単純に思えるが戦いによって芽生えた仲間意識のようなものを感じている。ただキリィの事をどう思ってるか、その心配が他全ての意識を消し去ってしまっているのだ。

 

 そんな俺の葛藤を読んでいるのか。茶を一口すすった後、俺の動作一つ見逃さないというような真っ直ぐな目でこちらを見据える。

 

 

「確かにキリカのお見舞いが建前という事は否定しない。本当は君達に会っておきたかったんだ、自分と……魔界の為に」

 

「魔界の為?」

 

 

 想像もしていなかった方向の話題を出され、思わずその言葉を繰り返す。その言葉に清磨が無言で頷いた事から、これが本題なのだと気付いた。

 

 

「魔界の……ってどういうことあるか?」

 

「リィエン……」

 

 

 お互いの自己紹介の時以外、言葉を発さなかったウォンレイとリィエン。アポロの事情を伝えた所、俺とキリィの事を心配し傍に控えていてくれた。

 

 俺達の事ならと口を挟まずにいてくれたが、魔界の話題なら興味を惹かれるのも仕方ない。ウォンレイもリィエンを諫めてはいるが、こちらに目線を向け反応を伺っている。俺は軽く頷き、そのまま一緒に話を聞いても構わないとの意思表示を行った。

 

 

「それを語るには、まずあれからの事をを話さなければならないだろう……。君達と戦いの後、僕は()()()旅に出ていた」

 

「最後……」

 

 

 その言葉に深く頷くアポロ。その瞳には戦いの時とは違うが、強い意志を感じた。

 

 

「あぁ、僕は大企業の跡継ぎでね。あの放浪は、最後の我儘みたいなものだったんだ。ロップスと出会って長く続いてしまったが、終えるいい機会だったのさ」

 

 

 わざとおどけたような仕草で苦笑を浮かべる。心の内はわからないが、例え思う所があったとしても、それを表に出す事はないと示すアポロの優しさを感じた。

 

 

 

「旅を終えた僕は、オランダである人との約束のために空港に向かっていた。そこで出会ったんだ……清磨のパートナー、ガッシュに似た魔物を」

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ─────「その気配。お前、本の持ち主(パートナー)だな」

 

 

 街中を歩いていた僕は、突然後ろからそう声をかけられ驚いた。

 僕に感知させず近づけるのは魔物位のものだが、脱落した今になって声をかけてくる魔物がいるなんて思わなかったからだ。

 

 

「……僕に何か用かな? あいにくだけど僕は」

「既に魔本を焼かれ脱落している、だろ? そんな事はわかっている」

 

 彼は僕の言葉を遮るように言うと、鋭い歯を見せつけるように笑みを浮かべてきた。まるで捕食する獲物を見つけた獣のように。

 

 

「話がある。邪魔の入らない所に行くぞ」

 

 

 反論は許さないと態度で示すように振り返り、街の郊外へと歩みを進める銀髪の少年。

 ついて来なければわかっているな。そう言外に言うような威圧を受けた僕は、彼についていく以外の選択肢を持ち得なかったんだ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「それで、僕に何を聞きたいのかな?」

 

 

 町から離れた平原。周囲に人気がない事を確認した僕は、先手を取って質問をかけてみた。

 

 

「お前、キリカ=イルを知っているな?」

「……!?」

 

 正直、何で彼女を事を? としか思わなかった。僕は前に日本で来た時はガッシュと会っていなかった。だからその時は、キリカとゼオンとの繋がりがわからなかったよ。

 

 

「……仮想敵の情報収集って事かな? 彼女の事を随分警戒しているんだね。確かに彼女は強かった」

 

「ハッ。ふざけた事を言うな。それは単にお前とお前の魔物が弱すぎただけだ」

 

「…………ッ!」

 

 

 それまで一切感情が読み取れなかった彼から、明確に噴き出した“苛立ち”が周囲を威圧した。

 

 

「それで話す気はあるのか? 生憎、オレには記憶を無理矢理読み取る程の力はない。断るのなら力づくで話してもらうぞ」

 

「……断るよ」

 

 

 ん? どうしたんだい二人共、意外そうな顔をして。

 僕が君達に悪感情を抱いているとでも思っていたのかい? 

 

 

「お生憎、戦友(とも)を売る程、僕は薄情な人間ではないつもりだよ」

 

「そうか。手間を取らせやがる」

 

 

 そう言って拳を握り、明確な敵意をぶつけてくるゼオン。

 魔物のいない僕には、彼の攻撃を甘んじて受ける事しか許されない状況だった。

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

「─────それで。大丈夫だったのか?」

 

「あぁ。詳細はこの後話すが、結果として僕は怪我一つ負わなかったさ」

 

 

 その言葉を聞いて、元就はようやく安心したのか大きなため息を吐く。

 

 アポロの語るオランダで起きたゼオンとの邂逅。イギリスで彼の驚異的な力を見た元就は、驚愕とアポロへの心配が混ぜこぜになっていた。

 そして彼が口を閉ざした大事な相棒(キリカ=イル)の情報。その事実に、戦いの後の事を思い苦い顔を元就は浮かべた。

 

 

「元就。そんな顔をする事はない。僕たちは正々堂々と戦った、反省も後悔も何一つ必要ない」

 

「でも……」

 

「むしろ省みるべきは僕自身だ。あの時の僕は、全てが終わってしまうあの瞬間まで『魔界の王を決める戦い』に向き合っていなかった。それがあの結果を招き、結果を受け止めきれなかったんだ」

 

「アポロ……」

 

 

 それまで常に口に微笑を浮かべ、人当たりの良い笑顔をしていたアポロの表情が重く陰を差す。元就は何も声をかける事が出来なかった。普段は明るく場を和ませるリィエンもその雰囲気に呑まれ、自然と隣にいるウォンレイへと自分の手が伸びていた。

 清磨は口を真一文字に結んだまま、話を静かに聞いている。しかし、膝の上に乗せた手は固く握られていた。

 

 

 

「話を戻そうか」

 

 

 先程までの空気がまるでなかったものかのように、表情を戻したアポロが口を開く。

 金縛りが解けたかのような周りの面々の様子を確認したかと思うと、彼の話は再開された。

 

 

 

「ゼオン。彼によって、魔物もいない僕は襲われた。そんな時、突然彼等はやってきたんだ……」

 

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 ─────「《アム・ジオナグル》!!」

 

「何? 呪文をかけていないとはいえ、オレの拳を受け止めるだと?」

 

 

 ゼオンの拳の動きを、僕の目では追う事が出来なかった。

 僕は状況を観察し対応できる特別な『勘』を持っているが、相手を観察する事ができなければ意味がない。本当なら、先程の攻撃で僕は満足に立つ事も出来なくなっていただろう。

 

 そんな僕を救ってくれた『魔物』がいた。強化呪文と思われる光を纏った両腕で、ゼオンの拳をしっかりと受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

「ヘッ。拳が軽すぎんだよ。そんな力じゃ今のオレには勝てねぇぜ?」

 

 

 特徴的な逆立つ長い銀髪。荒々しい言葉遣いとは逆に、僕の方に視線を映し気遣う表情。そして圧倒的な自信。それが僕には、とても輝いて見えたんだ。

 彼が何者なのか? その答えは『勘』に頼るまでもなく理解しているが、僕をかばう今の状況がわからない。

 

 守ってくれたのか? 戦いに混ざりたかっただけなのか? 今のうちに逃げるべきなのか? 

 

 いろいろな考えが頭の中を巡っていたが、その思案を止めてくれたのは背後からかけられた落ち着いた声色だった。

 

 

「放浪を終え、ようやく腰を落ち着けると聞いていたが……ヤンチャは治らんようじゃの?」

 

 

 呆けていた僕に話しかけて来たのは、空港で僕と待ち合わせをしていた人物。父の代から親交のあった貿易商。

 

 

 

 

 

 

「Mr.ゴルドー!?」

 

「無事で何よりじゃ。ジェネシスのところの息子(ボーイ)よ」

 

 

 

 ──────あぁ、元就たちとも面識があったらしいね。そこまで驚いてくれると気持ちがいいね。

 僕も清磨から、君達がゴルドー氏の知り合いだと聞いた時には驚いたよ。

 

 ゴルドー氏の魔物(パートナー)。ダニーのおかげで、僕は窮地を脱したって訳さ

 

 

「《ジオレドルク》」

 

「おらおらぁぁあああああああああああああ」

「…………チッ、面倒だな」

 

 呪文で強化された蹴りを、呪文なしでいなし続けるゼオン。

 ダニーの攻撃に対し、防戦一方の彼は一見なすすべのないように見えた。

 

 

 

 

「まずい……!」

 

 だが僕は、彼が避ける瞬間に小さなカウンターを織り交ぜ、ダメージを蓄積させる狙いに気が付いていた

 このまま膠着状態が続けば、ダニーが不利になってしまう。そう思い、ゴルドー氏に助言をかけようとしたんだ。

 

 

 

「Mr.ゴル……」

「安心せい、わかっておる」

 

 ゴルドー氏は僕の言葉を遮り、イタズラめいた笑みを浮かべながらダニーを見守っていた。

 その意味までは僕の『勘』でも読み取る事は出来なかったけど、危惧している事は既にわかっていたみたいだったから、僕もダニーを見守る事にしたんだ。

 

 ゴルドー氏の考えがわかったのは、それから少し後。

 ダニーとゼオンが後方へ飛び、休む事ない格闘戦がはじめて止まった時だった。

 

 

「……お前のその呪文、ただの強化呪文じゃないな。つくづく面倒な奴だ」

 

「ヘッ、どっちが先に倒れるかのガチンコ勝負は好きじゃねぇか?」

 

「あえて乗ってやる必要がないだけだ」

 

 

 そう吐き捨てるように言ったゼオンが、手を横にかざした。

 すると身に纏っていたローブが彼の意思に呼応したように動きだし、彼の背後で繭の様に丸まり始めた。

 

 

「あれは……!」

「……ウム」

 

「やっとやる気になりやがったか」

 

 

 僕もゴルドー氏も、彼が何をしようとしているのか気付き警戒する。

 ダニーも気付いてはいるが、ファイティングポーズを取るだけで迂闊に飛び込む真似はしない。それは正解だろうと思った。

 

 

「……珍しいな、ゼオン。お前から呼び出すとは」

 

「オレも軽く遊ぶだけのつもりだったんだがな。久々に本気で叩きのめしたくなる相手だ」

 

 空中に巻きついたローブがカーテンのように解けると、その中から銀色の魔本を持った男。彼の本の持ち主(パートナー)が現れたんだ。

 彼は周囲の状況を確認するかのように見渡すと、次にダニーの様子を観察し納得したよう「なるほど」とつぶやいた。

 

 

「どうだ、デュフォー。アイツの呪文は」

 

「“強化呪文”ではないな。言うなら“制限解除呪文”だ」

 

「……やはりか。強化呪文は魔物への負担が大きい。身体の頑丈な動物型魔物でもなければ、ここまで持たん筈だ。」

 

「魔物も人体と同じく、身体に負担がかからない様使える“力”が数%程度となっている。その反動を呪文で負担できる程度に枷を解除させるのが、あの呪文だ」

 

 

 

「なっ……?!」

 

 僕は言葉が出せなかった。

 一目見ただけで相手の呪文を看破したデュフォーと呼ばれた少年。彼はもしかしたら、僕の持つ『勘』よりも優れた力を持っているのだと感じた。

 

 

「そろそろいいか? 勝負の続きといこうじゃねぇか」

 

「フン。理解できないか? ならば教えてやろう、絶対的な力の差をな」

 

 

 それからダニーとゼオンの勝負が再び始まったんだ。

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

 

 ─────「終わりだな」

 

「ク、クソッ……!」

 

 

 ゼオンの強力な電撃の呪文の前に倒れ伏すダニー。

 パートナーの魔物が既にいない僕は、その光景を歯を食いしばって見ているしかなかった。

 

 

「……さて、折角だ。利用させてもらうとしよう」

 

「ダニー!? お主、何をする気じゃ!」

 

 

 ゴルドー氏の声も無視し、既に倒れているダニーへ手を向けるゼオン。そして─────

 

 

 

 

 

 

 

「《バルギルド・ザケルガ》」

 

「ぐああああぁぁぁあああああああああ!!!」

「「ダニ──────────!!!」」

 

 

 彼の身体全てを包み込む強力な電撃が、彼に絶え間なく降り注ぎ続けた。

 電撃の塊の中から聞こえるダニーの悲鳴に、僕とゴルドー氏の声が重なった。

 

 

「キリカの事について、全て教えろ」

 

「ぐっ……」

 

 

 僕の方に振り向き、口の端に笑みを浮かべながら命令してくるゼオン。

 ダニーへの心配、打開策の模索、そして話してしまう事への言い訳が僕の頭の中で巡っていたさ。

 

 

 そして、僕がゼオンに対し口を開こうとした時……

 

「ジジィ──────────!!!」

 

 ダニーのふり絞る様な叫びが、僕とゴルドー氏の俯きかけた頭を上げさせたんだ。

 

 

 

 

 

「……ッ! 《ディゴウ・ジオグルク》!!」

 

「なめんじゃ……ねェ──────────!!!」

 

 

 呪文の光に身体全体が包まれたダニーが、拳を振り上げゼオンに殴り掛かった。

 ゼオンは後ろにジャンプし距離を離す事で空振りになったけど、それで降り注ぐ電撃を止める事が出来たんだ。

 

 

「呪文ありとはいえ《バルギルド・ザケルガ》の中でも動けるとはな。龍族のようなタフネスを持つ奴だ」

 

 珍獣を見るような目でダニーを見るゼオン。

 だがダニーは大きく肩で息をしており、誰から見ても限界に近い事がわかる状態だったんだ。

 

 もう、これ以上彼は戦えない。

 彼の魔本が燃やされるかどうかはわからないが、僕は逃がしてはくれないだろうと心の中で覚悟を決めていた。

 

 ……すると、そんな心中などお構いなしに、世間話でもするような軽さのダニーが僕の耳に響いた。

 

 

 

 

「よぉ、ゼオンっつったか?」

 

「……どうした、命乞いか?」

 

「バーカ、んな訳あるか。……お前、キリカの事が知りたかったのかよ」

 

「だったらどうした」

 

「俺の次の呪文を受け止められたら、…………キリカの事を教えてやるよ」

 

「……何?」

 

 

「ダニー?!」

 

アイツ(アポロ)はほとんどキリカと話してねぇ、アイツの事なら俺の方が良く知ってるぜ」

 

 

 僕は思わず声を上げた。

 ダニーがキリカと面識がある事は知らなかったけど、今その話題を出すのはマズい! 

 その言葉を聞いた瞬間、ダニーは『首を突っ込んだ部外者』から『情報を持つ獲物』へと変わってしまったのだから。

 僕から狙いを逸らす為とはいえ、危険すぎる言葉だった。

 

 

「いいだろう、出してみると言い。お前の『最後の呪文』をな」

 

「ヘッ、喰らって後悔すんなよ」

 

 

 身体の傷など知らない様に、笑みを浮かべるダニー。

 彼はゴルドー氏に近づくとその笑みを更に濃いものにしていたんだ。

 

 

「……ダニー」

 

「まぁそういう訳だ。いっちょ頼むぜ、ジジイ」

 

「フン。()()()()自分勝手な奴め」

 

「まぁそういうなって。中々面白れぇ戦いだったぜ?」

 

 

 そう言って満面の笑みを浮かべるダニー。ゴルドー氏はゆっくりとダニーの傍まで近寄り、彼の胸を叩きながら

 

 

 

「……負けるなよ、我が息子(マイ サン)よ」

 

 と、かけた声が風に乗りこちらへと届いたんだ。

 

 

 

 

 そして、向かい合う二人の魔物。

 それぞれの本の持ち主(パートナー)が持つ魔本が、今までとは比べ物にならない輝きを放っていたんだ。

 

 

「《ジャウロ・ザケルガ》」

 

 ゼオンが放った稲妻の円環(リング)。そこから飛び出してくる複数の電撃が、ダニーに襲い掛かって来た。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!! まだだジジイ、もっと心の力を込めろ!」

 

「くっ……、ぬうぅぅぅぅ!」

 

「ああああぁぁぁぁああああ!!! もっとだぁぁぁあ!」

 

「ぐぐぐぐっ、いくぞぉぉぉおおダニー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「《グルガノン・ジオナグル》!!」

 

「てぇぇぇぇりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 

 次々と襲い掛かってくる電撃を、まっすぐに突き出した拳で弾き返しながらゼオンへ突撃するダニー。

 電撃を弾き返す毎にダニーの身体から骨の砕けるような異音が響き、一歩前へ進むごとに彼の足元から流れ出す血の量は増えていく。身体の限界を超えて力を出し続けているのは明らかだった。

 

「ダニ────!!」

 

 僕に出来る事は、彼の名を呼び続ける事だけだったんだ。

 

 

 ……………………

 ………………………………

 ………………………………………………

 

 

「よくぞ俺の前まで辿り着いたな。体の原型を留めているだけで、上出来だ」

 

「殺す気マンマンだったじゃねぇか……クソ野郎」

 

 

 ゼオンの前で倒れ伏すダニー。

 彼の身体は無事な部分が見つからない程にひどい状態で、魔本が燃え魔界に還ろうとしている事が助けにすら思えた。

 

 

「魔界へ還る前に教えて貰うぞ。キリカの事をな」

 

「あぁ、そうだったな」

 

 

 うつ伏せだった身体をひっくり返し、仰向けになった状態でゼオンを見上げながらダニーは言った。

 

 

「諦めな」

 

「……それは言わないという事か? 残る僅かな時間でトドメを刺してやってもいいんだぞ?」

 

「ちげーよ。そういう意味じゃねぇ。『アイツを理解しようとするのは諦めろ』って事だ」

 

「どういう意味だ」

 

「アイツの行動の意味や理由なんてわかんねーよ。あの顔じゃ何考えてるかもわかんねー。考えるだけムダってもんだ」

 

 

 まるで宿題を忘れた子供の開き直りのように、あっけらかんと笑いながら話すダニー。

 怪訝な顔を浮かべるゼオンへ向き直り、真剣な眼差しでこう言うと完全に魔界へと還っていったんだ。

 

 

 

『そんなモンわからなくたって、『友達』にはなれるんだぜ』

 

 

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 

 ──────────「そうか」

 

 

 キリィへと異常な興味を示すゼオン。そしてダニーの敗退。

 その経緯を聞き、俺はかろうじてその言葉を出す事が精いっぱいだった。そんな様子を見てか、ウォンレイとリィエンがここで初めてアポロに話しかけた。

 

 

「そ、それでゼオンって魔物はその後どうしたんあるか?」

 

「ダニーの本の持ち主(パートナー)もその場にいたのだろう? 彼も大丈夫だったのか?」

 

 

 アポロはその質問が来るとわかっていたのか、それまでの語りの最中ずっとしていた真剣な表情を崩し微笑を浮かべ説明した。

 

 

「ゼオンはダニーの魔本が燃え尽きた後、“瞬間移動”で本の持ち主(パートナー)と共に消えたよ。僕たちに何もしなかった所を見るに、用事は済んだのだろう」

 

「ダニーって子の言う通り、諦めたあるか?」

 

「その可能性は少ないと思う。ただ、彼の言葉で何かしら考えを変えたのは間違いないのだろう」

 

「リィエンとウォンレイが言う通りだと僕も思うよ。だけど彼がキリカを諦めたとは、僕は到底思えない。十分注意して欲しいんだ」

 

「あぁ、ありがとう。アポロ」

 

 

 俺は改めてアポロに向き直り、頭を下げる。

 顔を上げお互い笑みを浮かべていると、視界の端でなりゆきを見守ってくれていた清磨の安心した顔が見えた。俺は頭を下げ、そちらにも感謝を伝える。

 すると部屋の外から足音が近づき、一人の老人が障子を開け口を開く。

 

 

「話は終わったかの? ジェネシス財閥の御曹司よ」

 

「はい。出迎えありがとうございます。Mr.ゴルドー」

 

「よいよい。ワシも家主と顔を合わせておきたかったからの」

 

 

 そう言ったゴルドーさんは俺の方を向き、好々爺のように話しかけてきた。

 

 

「久しぶりじゃな。嬢ちゃんの調子はどうじゃ?」

 

「軽い熱なので、じきに治ると思います」

 

「そうか。くれぐれも体調は気をつけるよう伝えてくれ。()()()()

 

「ッ! ……はい」

 

 

 ゴルドーさんが最後に言った言葉に込めた想いを察した俺は、しっかりとそれに頷きを返した。

 そして彼に連れられ部屋を出る直前。アポロは俺達に振り向いた。

 

 

 

「元就。清磨。それにリィエン。ゼオンの目的はわからないけど、奴には良くない気配を感じる。出来る事なら君達の誰かに勝ち抜いて欲しい…………ロップスの住む、魔界の為に」

 

 アポロからの言葉以上にそこに込められた想い。それはとてつもなく重く感じる。けれど、その重さに屈しないと言わんばかりの強さで俺たち全員は頷いたのだった。

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────

 

 

 

 ─────「今日は元就と会えてよかった。出来ればキリカとも仲直りしたかったけどね」

 

 

 元就の家の外で、そう呟くアポロ。

 

 彼が心の内に感じるのは後悔だった。

 

 キリカと戦い、真剣に戦いに向き合う覚悟を決めた矢先の敗退。だが彼女に対しては覚悟に気付かせてくれた恩はあっても、恨みはない。むしろ彼女と戦うまで、戦いに対して真剣に向き合っていなかった自分自身をアポロは責めていた。

 

 

(もしも、僕の隣にまだロップスがいたら……)

 

 

 あれから何度も考えてしまう仮定。

 

 あの冷酷な笑みを浮かべる少年が王になったら、大切な相棒の住む魔界はどうなってしまうのか。それに抗う力が、今の自分にない事が何よりも歯痒かった。どうしてあの頃の自分はロップスの事しか気にかけず、彼の住まう魔界の将来を考えようとしなかったのか。そんな後悔と悔しさが、時折アポロを思い詰めさせていた。

 

 そして彼は、せめてロップスが住む魔界を良いものにするため何かできないかと、財閥の御曹司という地位と力を活かし、非常事態が起きた際のサポートを行う準備にいそしんだ。だがそれ以外にも、何か力になれる事がないかと、常に考え続けていた。

 

 

 

(僕が持つ状況を観察する事ではたらく『勘』の力。この力が戦いの役に立てば…………)

 

 

 そんな事を考えながら、元就の家の前に止まるリムジンに彼が乗り込もうとした時─────。

 

 

 

 

 

「ほら、恵。早く早く─────!!」

 

「待ってよ、ティオ───。そんなに急がなくても、大丈夫よ」

 

「キリカが病気なのよ! 早く言って看病してあげないと、大変かもしれないじゃない!!」

 

「元就君の声の様子なら全然大丈夫よ。私の『勘』は当たるんだから」

 

 

 大きな声を上げながら元就の家へ向かう、二人の少女。

 

 

「─────彼女達は?」

 

 

 その様子を興味深い様子で伺う、アポロ。

 

 

 

 

 

 

 

 今、二人の超感覚を持つ(元)本の持ち主(パートナー)同士が出会おうとしていた。

 

 

 

 

──────────────────【ダニー 敗退(リタイヤ)】撃破者《ゼオン》

 

 




 
 今回のゼオンの目的はキリカなので、憎悪でなく『興味』で調べています。その為ダニーは彼の悪意は感じ取れず、あまり反応しませんでした。
 ゲーム視点で言うと『アポロ達が千年前の魔物編で、協力関係を既に築いていた背景設定』的なシーンです。


【オリジナル呪文】

《アム・ジオナグル》
 パンチ力を強化する呪文。一般的な強化呪文と違い《呪文の力を付加》ではなく《本来持ってる力を解放、負担は肩代わり》という形なので、扱い奴さと燃費が優秀な呪文。

《ジオレドルク》
 脚力を強化する呪文。負担軽減効果も同様。

《ディゴウ・ジオグルク》
 身体機能全体を大きく強化する呪文。更に継続回復(リジェネ)効果も付与される。

《グルガノン・ジオナグル》
 身体能力を限界以上に引き出し、強力な一撃を与える呪文。いわゆるNARUTOの《裏蓮華》
 あまりに力を出しすぎると瀕死以上の状態になる為、魔本が自動的に燃え出してしまう危険な呪文。



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