身体が闘争を求めるので最期まで戦います。 (粗製のss好き)
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1話

 ジオン公国軍所属、バザラ・ヤマウチ伍長。19歳。

 

 大戦末期にて徴兵され、僅かばかりの正規訓練を経て導入された促成兵。

 

 初出撃は宇宙世紀0079年、12月24日のソロモン防衛戦。搭乗機はMS-06F、通称ザクⅡF型。撃破記録はジム1機、ボール1機。所属していた部隊はヤマウチ伍長を除き全滅。ソロモン陥落後、撤退する艦隊と合流しア・バオア・クー防衛部隊に編入される。

 

 ア・バオア・クー防衛戦。同年12月31日にて、二度目の出撃を果たす。搭乗機は同じくザクⅡF型。撃破記録はジム型4機、ボール3機、サラミス級1隻。その後推進剤が切れて補給に戻ろうとするも、撤退するデラーズ艦隊と合流しそのまま戦線を離脱。

 

 その後はデラーズフリートとして活動し、一年戦争時の功績から2階級特進して曹長となる。また宇宙世紀0081年から0083年の二年間、資源奪取のため連邦軍の哨戒艦隊を襲う海賊行為を幾度となく敢行する。7度目の出撃で、搭乗機のザクⅡF型は中破。

 

 宇宙世紀0083年、星の屑作戦最終局面にて。コロニー落とし成就のため出撃。搭乗機はリック・ドムⅡ。撃破記録はジム型10機、マゼラン級1隻。その後撤退する残党デラーズフリート艦隊と合流し、アクシズ先遣艦隊に回収されそのまま吸収される。アクシズでは少尉に昇進する。

 

 

 

 ★

 

 

 

 この世界に転生してから既に23年。

 

 四年前、前世よりモビルスーツに強い憧れを抱いていた俺は滑り込むようにしてジオン公国軍に志願し、見事ザクに乗ることが出来た。初出撃がソロモン防衛戦だった事を除き、俺は非常に恵まれていたと言えよう。

 

 そうして我武者羅に戦場を駆け回った結果、俺は一年戦争をそこそこ大きな功績を片手に生き残った。無論、ただの一兵卒に過ぎない俺の力では『正史』を変える事は出来なかった訳だが。

 

 もっとも、個人的にジオン・ズム・ダイクンの思想やザビ家による選民思想にもあまり興味はないわけで。ジオン公国の敗北は周囲の人間ほど堪えるモノではなかった。こんな事ゲロったら、今は亡きガトーさんに怒られそうで少し気後れする。

 

 俺にとって最も重要なのはMSに搭乗して、戦場を駆ける事である。

 

 体は闘争を求めるとはまた別の作品だったか。何にせよ、今の俺の状態を正しく表現した言葉は正しく()()だった。戦いは良い、俺にはそれが必要なんだってヤツだ。

 

 閑話休題。

 

 デラーズ・フリート解体後、俺は小惑星アクシズで雌伏の時を過ごすジオン残党の連中と共にいる。ぶっちゃけこいつら凄まじくて、先週地球でダカールの連邦評議会を制圧してサイド3の支配権割譲を認めさせている。もうジオン公国再興まで秒読みとすら言えるだろう。しかもその主導者が20代の女性なのだと言うのだから、これまで散って逝った同胞も浮かばれるというものだろう。

 

 だというのに―――

 

 「……これはどういう意味だ? グレミー・トト様よ」

 

 「見ての通りです、ヤマウチ中尉」

 

 眼前には近年稀にみるほどの出世頭、グレミー・トトがいる。彼はどこか含みのある笑みを浮びながら、俺を見つめていた。そしてその背後には数人のアサルトライフルを携えた男を備えている。ここは俺の自室なのだが、見事に制圧されてしまったという様相である。

 

 「随分偉くなったみたいだな? ついこの間まではマザコン丸出しだった坊主がよ。元教官としちゃあ誇らしいよ、全く」

 

 士官する前、俺はMS操作の教官としてこいつの世話をした事がある。尤も現在は俺の階級なんぞとっくの昔に追い越し、戦艦の艦長に就任するまでに昇進している。普通であれば、相当な手柄を立てたのだろうと推察できるが。

 

 「強がるのはそこまでにして頂こう」

 

 煽りにすぐ反応してしまうあたり、まだまだ青いと言える。これでは器が知れるというものだが、どうしてハマーンの小娘はこいつを重用しているのか。残念ながら『機動戦士ガンダム』の知識は既に色褪せている。大まかな事しか覚えていない今の俺にはこいつがこれから何を成すのか、その程度の事しか分からない。

 

 「なら早く要件を言え。こっちは銃をチラつかせられて気が立ってるんだ」

 

 あくまでも冷静に。今までの経てきた戦場に比べれば、どうということは無い。

 

 「……やはり大物だ。流石は一年戦争を乗り越えたベテランと言ったところですか。ええ、だからこそ私についてきてほしい」

 

 感心した様子のグレミー・トト。元より冴えた顔してるからすっげぇ腹立つ。しかもどうやらこいつは俺を従事させたいらしい。

 

 「なんだ、武装蜂起でもするのか」

 

 「その通りですが、貴方に理屈を説いてもあまり意味はない。()()()()人でないことを私は知っている」

 

 「良く分かってるじゃないか。ならいくら説得しても意味がないことは―――」

 

 「ですが教官は前々から戦場で暴れたいと、そうおっしゃっていましたよね。今の私ならば、貴方を相応しい戦場に導くことが出来る」

 

 なるほど。それはとても上手な文句である。ぶっちゃけ今のでクッソ心が傾いた。というか、普通ならこの状況では選択の余地もないだろう。

 

 「まぁこれでも俺には軍人としての誇りが———」

 

 「そういうガラではないでしょう、貴方は」

 

 「まぁな」

 

 「ならば共に行こう、私には貴方の力が必要だ」

 

 グレミーは手を差し出しながら、そう言った。

 

 確かに俺には元よりジオンに対する忠誠はない。それが今は幼きザビ家の遺児、その摂政相手なら猶更である。

 

 「だが丁重にお断りしよう」

 

 しかし、友人を裏切ることに対しての抵抗感ならある。生死観も倫理観も全てこの世界で欠落してしまったが、その気持ちすらも失くしたら俺は本当にただの外道になる。それは嫌だなと、不思議なことにそう思う。

 

 グレミーは俺の返答に僅かばかり驚いた様子を見せるも、すぐに落ち着きを持ち直した。

 

 「……なるほど。その考えは例えここで殺されるとしても?」

 

 「変わることは無いな。つーか、()られるくらいなら()るよ、俺は」

 

 俺の発言がグレミーの側近を刺激したのだろう。彼らは即座に銃をこちらに向けたが、それを制するようにグレミーは手を上げた。

 

 「いいでしょう。では少しアプローチを変えてみましょう」

 

 「あん?」

 

 彼の言葉に呼応するように、部屋の扉が開いた。そして入室してきたのは小柄な少女。金髪に近い赤毛、と言えばいいだろうか。目を黒い帯で隠されているが、どこか見たことがある。確かこの子は———

 

 「その子は?」

 

 「ただの少女です」

 

 そういってグレミーの背後で従事する男の一人が、その少女に銃口を向けた。

 

 「おい」

 

 「無駄に動かない方がいい。そこの無辜な少女の頭が吹き飛びますよ?」

 

 彼の目を見ればそれが脅しでないことが分かった。もしも俺が指の一本でも動かせば、きっとこの少女は射殺されるのだろう。

 

 「……好きにしろよ」

 

 「言いましたよね、強がりはよしましょう。確かに狂犬だが、それは戦場においてのみ。平時では至って普通の人ですよ、貴方は」

 

 だからこそ御しやすい。暗にそう言われているように聞こえた。

 

 「お前、ロクな死に方しねぇよ」

 

 「いいえ。私は死にません」

 

 いいや、お前は死ぬ。惜しむらくはその立会人になれないという事だ。

 

 

 

 ★

 

 

 

 こうして、晴れて俺はグレミー反乱軍の一員となった。

 

 人員は圧倒的に不足しているようで、どこから集めたのかどいつもこいつも新兵に毛が生えたような奴らばかりだ。中にはラカン大尉のようなベテランもいるが、基本的には()()ばかりである。恐らくハマーンに反乱を気取られないようにした結果なのだろうが、幾らなんでもお粗末に過ぎる。

 

 なぜグレミーがあそこまで形振り変わらず俺を欲したのか、それが分かる。要するに少しでも雑兵を使えるようにしろという事なのだろう。

 

 「……全く、そんな事出来る訳ないだろうが」

 

 グレミーは反乱を企てている。そしてソレはそう遠くない内に起こるのだろう。ならば今はシュミレーターと実機訓練を時間の限り行う他ない。それでようやく戦場の最小単位に片足を突っ込むことが出来るか否か、といった具合である。

 

 つまり、時間が圧倒的に足りない。

 

 「マスターからバザラ中尉は教官として、何より戦士として優れていると聞いております。マスターは出来ないことを課しません」

 

 背後から声をかけてくるのは先ほど銃を突き付けられていた少女。名前を『プル・ナイン』という。振り向けば、彼女の首に物々しい輪がかけられていた。

 

 この首輪は爆弾である。ほかならぬこの少女の口から聞いた。つまるところ、俺がグレミーを裏切ったら爆発する仕組みになっている訳だ。しかも驚くべきことに、俺の担当する部隊の全員にこれと同じ首輪がかけられている。とんだ外道だよ、あの小僧は。

 

 「さて、それはどうかな。アイツは平気でお前に死ねと言うんだ、俺からすれば無理難題を押し付ける無能にしか見えないが」

 

 「マスターの侮辱は許しませんよ」

 

 「おお、おっかない」

 

 己の生死よりも創造主を立てる。そういう風に作られているとはいえ、この哀れな生き物には同情する。あの餓鬼、マジで早く死なねぇかな。

 

 プル・ナインはとある少女のクローンだ。だから生まれてくる際に、グレミー至上主義的な考えを植え付けたのだろう。それこそ己が身を挺してでもグレミーを守るようプログラミングされててもおかしくはない。

 

 「まぁいい。やれるだけやるさ」

 

 俺は戦えればそれでいい。人でなしには相応しい役回りだろうさ。

 




・主人公
 MSパイロットとしてはかなり強い程度(具体的にはガトーとタイマン張れる程度)。極度のバトルジャンキーだが、平時はそこまで基地外でもない。たぶん。

・プル・ナイン
 プルシリーズ一人。何故ナインなのかはタイトルを見れば分かるかもしれない。
 パイロットとしての適性値がギリギリで、そのせいか一人だけ主人公の部隊に配属される。しかし人格はかなり安定しており、また主人公を繋ぎとめる楔としてこれ以上ない働きをする(主人公は戦闘以外は甘ちゃん)。


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