ありふれている一般人 (凧の糸)
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   随時、更新。


 

 

 

 

 

 

 北山登 17歳 男 天職 魔法使い

 今作主人公。実は小学生の頃転校していて、高校一年の時、戻ってきた。

 あまりコミュ力は高くなく、友人は少なめ。小学生からの友人は野村と1話に登場した友人A。永山、遠藤は野村経由で友人になる。

 異世界トータスに来て、ステータスがとんでもないことになっているが、基本的に流されやすい所があり、モブ気質なため活躍を期待しづらいが……

 彼の魔力20万は物語後半のハジメ達のステータスの約20倍以上。(ハジメ達の魔力値が大体1万前後の為)このステータスは後半出てくる神の使徒よりも圧倒的に高い。

 3話最後で奈落に落下するが檜山大介によって南雲ハジメと白崎香織の逢瀬を確認したことをバレたと思い、口止めの為脅すが、この事をみんなにバラされ居場所をなくす事を恐れたため、口封じのために落下させられた。

 

 

 南雲ハジメ 17歳 男 天職 錬成師

 

 原作、ありふれた職業で世界最強の主人公。北山登とはたまに話すくらいで親しいというわけではない。時間差で奈落へと落ちていくが…

 ゲーム好きで色々と細かい所に気づいたりする。勇気の持ち主。

 

 

 ユエ 323歳 女 吸血鬼

 

 原作でのヒロインの一人、主人公のバグステータスに警戒しているが、ある程度の信頼くらいは持っている。

 

 

 メルド・ロギンス 男 騎士団長 レベル62

 

 騎士団長。経験豊富であり強い。今作主人公の勇者の中にも追随する者のいない魔力の高さに驚く以上にその他のステータスの異常なまでの低さを疑問に思っている。

 

 

 

 

 白崎香織 17歳 女 天職 治癒師

 

 原作ヒロイン。学校では非常に人気が高く、女神と呼ばれる。南雲ハジメへと好意を向けるが本人は気づいていない。天然。

 

 

 

 天之河光輝 17歳 男 天職 勇者

 

 王子様のような容姿の持ち主。女子に非常に高い人気。主人公、北城登はリーダー的な彼に比較的好印象を抱いている。

 

 

 

 野村健太郎 17歳 男 天職 土術師

 

 主人公とは小学生時代からの親友。再び町に戻ってきた事を嬉しく思っていた。永山、遠藤とは親友で紹介した。後述の友人Aとも親しい。

 

 

 

 

 友人A 17歳 男

 

 一般人。名前は赤坂浩太。主人公、野村とは小学生からの友人。弁当が置いてあるのにこない事を不思議に思っていたが、主人公のクラスが丸ごと行方不明になっている事を知り、驚くがいずれまた会えると確信している。実は転生者で、つい最近階段から落ちて怪我をした時に記憶を取り戻し、ありふれ世界と知った。友人たちの転移を防ごうとしたが中々起きない為、少し気を抜いてトイレに行っている時に発生した。平穏が好きなのでたとえずっと前から前世の記憶を持っていても異世界転移から逃れようとする。好物はうどん。基本的に本編に登場しない予定。

 

 

 

 

 

 

 



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オルクス大迷宮編
日常の一コマ


とりあえず思い付いたのを書いた。
今回は短め。次から異世界書いていきます。ゆっくり更新です。


  

 

 

 

 

 

 

 

 今日もいつもと変わらぬ毎日。変わらずに当たり前のように学校で授業をして、帰って、大学へ行って、就職して、結婚して、家庭を持って、いずれは死ぬ。どこにでもいる埋没したありふれた一般人として僕は一生を終えるとずっとずっと根拠もなく信じていた。あの時まではーーー

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日。あらゆる人間を憂鬱にさせるこの曜日。だが、僕はさほど嫌いでもない。毎日を同じ様にぼんやりと過ごすのだからたいして気になることでもないし、自分にとってはどうでも良いことなのだ。

 家から20分くらいで学校に着き、教室へ入る。まだ8時前のため人もまばらだ。いつもなら席について居眠りをするが、今日は昨日買った本、「秘境メシ!」を読み始める。

 暫くしてざわざわとし始めた。そんな中、一人の男子生徒がドアをそっと開けた。彼の名前は南雲ハジメ。所謂オタクと一般的には言われる少年。このクラスでは弱者として檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の4人に虐めを受けている。ほら、ちょうど彼らに絡まれている。

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

 正直やかましくて敵わない。思わず眉を潜めるがすぐに何もなかったかの様に装う。俺だってゲームくらいはする。ドラクエやメガテンなんかのRPGはとても好きだ。檜山達だって何かしらゲームくらいはしているだろう。エロゲを南雲が実際にしているかなんて関係ない。ただ、ちょうどいいサンドバッグなのだ。彼らが気分良くサンドバッグを殴っているところを俺も皆も邪魔なんてしない。気分がいいところに水を刺されるなんて最悪だって俺も思う。要は気分、彼らのお気に召すまま。誰だって巻き込まれたくなんてないから関わるなんで持っての他だ。

 

 だが、こんなスクールカースト最低辺ともいえる南雲ハジメにも仏、いや女神が一本の糸を垂らしている。

 

 「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 彼女の名前は白崎香織。学校のマドンナ。二大女神と呼ばれるほど美しく、その長い黒髪は艶やかで、形の良い桜色の唇に触れようとして撃墜した男達は数えられないほどいるなんて言われている。最近、やたらと南雲に話しかけていて、彼女のせいでよりクラスが騒がしくなるから彼女のことは周りの男子生徒ほど好きではない。

 ここからが朝の難所、ほら天之川光輝たちだ。一人の男は絵本から出てきた王子様みたいな奴、それが天之川光輝だ。ここまでオールマイティ、パーフェクトという言葉がこれほど似合う者もいない。だがちょっと頑固者のようなところがある。まあ、こんな欠点もあるから皆に好かれているのだろうか?

 隣の大柄な男は坂上龍太郎。一言で言えば熊。無鉄砲な行動が目立つ単細胞な奴。運動神経がいいというイメージが強い。さっぱりしていて好きなやつは好きだろう。

 最後に入ってきた女は八重樫雫。剣道を嗜んでいるらしく、「俺」も一度テレビか雑誌の特集で見た。女子にも凄まじい人気。だが、今の彼女にはテレビで見た凛々しさより苦労さを感じる。前の二人のストッパーだろう。我の強い二人の手綱を握っている彼女はやはり一角の人物なのだと思い知らされる。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

 そう聞こえた時、こっちにもわかるほど嫉妬の感情が南雲ハジメを襲った。

 見向きもされない男子生徒たちは自分たちより下であるはずの南雲が女神が声をかけられているにも関わらず、素っ気なく適当に返事をしているのが許せないのだ。醜い嫉妬。ドロドロだ。こんなことがあるから彼女は好きになれない。彼女は自分の持つ影響というものを分かっているのか、いや分かってやっているのだろうか?そうだとしたらとんでもない女だ。

 友人からも

 

「あんな女神が好きじゃないなんて変わってんな〜」 

 

と言われるが、何故だろう。何かモヤモヤするのだ。心の内から言葉にならないなにかがつっかえる。彼女の声が妙に心をざわりざわりと波立たせる。やはり何だろうか、彼女は好きになれない。

 

 そんなこんなで担任が入ってきて今日も始まるのだ。

 

 

_______________

 

 

 

 4限目が終わり、昼休憩。僕はこの時間が好きだ。何故ってお弁当を食べてゆっくりできるから。いつも一緒に食べる友人のクラスへ足を運ぶ。

 

 「あっ」  

 

 ふと思い出した。この間弁当を忘れた時、昼食代を借りたんだった。もう近くまで来ていたが、引き返す。後で返そうとするとつい面倒くさくなるからだ。

 急いで教室へ戻るとまた例の彼らが騒がしかった。聞こえる内容から察するに朝と同じような痴話喧嘩だった。相変わらず暇な奴らだなと思う。そろりそろりと横を通り、財布から借りた分の700円を取る。

 隣の緊張感に当てられたのか、うっかり500円玉を落としてしまう。ころころころと綺麗に転がり、南雲の足で止まった。

 すっと一瞬静かになり、物凄く気まずい空気が流れる。これを好機と思ったのか南雲は500円を拾い、見た事がないくらい俊敏な動きでこちらに来て

 

「ほら、北城君。 これ。」

 

と言い、俺をだしに使って痴話喧嘩から逃げようとしていた。そんな南雲に呆れつつ、同情していると

 

 

 

 ピカリと足元が光った。

 

 

 

 

 

 何だろうと皆が足元を注視すると幾何学模様は教室内へ輝きと共にあっという間に広がり、教室内を満たそうとする。明らかな異常だ。だが、あまりの異常さに足が動かない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。皆も同じ感じなのだろう。逃げられないことに皆も悲鳴を上げている。もう、声にならない叫びとなっている。

 たまたまいた畑山先生が

 

「皆!教室から出て!」

 

と必死の形相で叫ぶと同時に教室は光に満たされた。

 

 

 

 

 

 

 

  暫くして光が収まった。 

 

 

 

 

 そこにはいたはずの人間達は居らず、只々500円玉が太陽光を反射し、ピカピカと光っているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 書いてみたけど本当に他の作者さん方や原作を作った方々はすごいなと改めて思った。尊敬する。


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トータスという名の異世界

 前回よりはかなり多めです。最近期末テスト近いのにゲームをしまくってしまう馬鹿者です。


 

 

 

 

 

 光が満ちて暫くして、ようやく眩しくなくなったと思ったらそこは学校ではなかった。

 

 

 周りも何が起こっているのか分からないが、目の前にはとても大きな壁画。流れる金髪は黄金で出来た糸の様で、アルカイックスマイルを浮かべた美しい中性的な人物が描かれている。後光が刺していて神様なのだろうか。

 

 思わず美しさに目を奪われるがそんなことを気にしている場合ではない。周りを見渡すと自分たちはおそらく広間にいるらしかった。大理石だろう建材が使われており、細やかな彫刻が細部に施されている。 

 ギリシア彫刻の様な感じだが、少し違う印象を受けた。ここはドーム状の大聖堂だろうか。

 

 何処かの宗教施設なら何故俺たちを連れてきたのだろう?そして何故台座の上に俺たちはいるのだろう?訳が判らず混乱しているが、何より台座の周りに金の刺繍がされた法衣を纏った人物達が錫杖を傍らに置き、こちらに対して祈りを捧げているように両手を胸を組んだまま跪いていた。

 

 ーー神へのいけにえとして捧げられてしまうんじゃあないかと恐ろしい考えがよぎる。 

 

 

 

 法皇のような他の神官だろう人物より豪華な身なりをした老人がこちらへ向かって進んできた。

 ジャラジャラという音は自分たちを破滅へ導く音なのだ。あまりに色々なことが起こりすぎてキャパオーバーになっていると老人は落ち着いた声で話し始めたじゅうこ。彼の言葉で俺の中にあった恐ろしい考えを収めたが、同時に皆にとてつもない衝撃を与えた。

 

 「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 

 皆が騒然としていた。突然教室が光ったと思ったら学校ではない場所にいて目の前の何処ぞの国みたいな名前の老人が自分たちを勇者だとか言っているのだ。

 俺は頭がついにおかしくなってしまったのか、授業中に居眠りをしていて夢でも見ているんじゃないかと思い、隣にいた

永山重吾(ながやまじゅうご)、柔道部の主将を務める寡黙な巨漢に

 

「頬を引っ張ってくれないか?」

 夢なら覚めて欲しい。

 

 「……いいのか?」 「ああ、思いっきり頼む。」彼は戸惑いつつも「俺」の頬をぐいっと引っ張った。

 

「いででででて!! 痛えよ!」 

「いや、思いっきりって言ったのはお前だぞ……」永山が呆れつつ言った。「なあ、本当に夢なんかじゃないよな」 「信じられないがな。」

 頭が痛い。こんなファンタジーなんてアニメみたいだ。けどこれは現実。アニメじゃない。不思議な気持ちだ。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 あれから暫くー

 

 

 

 

 

 俺たちは大きなテーブルのある大広間に通された。あの老人、イシュタルによると歓迎の晩餐をするそうだ。皆はあまりの状況に疲れているのと、天之川が落ち着くよう言ったことで静かだった。

 全員が着席すると、メイドがカートを押して食事を持ってきた。お昼を食べ損ねた俺は異世界料理に心を馳せていたが、メイドは全員美少女・美人で思わず目が釘付けだ。見たことがない丁寧な所作にも流石だなあと思いつつもやはり美人は目で追ってしまう。

 女子からの恐ろしく冷たい目線から目を逸らし、晩餐会はイシュタル・ランゴバルドの話から始まった。

 

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 

 

 話は典型的なRPGの様だった。人間と敵対する数は少ないけれどめちゃくちゃ強い魔人族と長年戦っていて、ギリギリの戦いが続いていたけど魔人族が魔物を配下として使役し出したから人間滅亡しそう、助けて勇者様〜という感じだ。

 そして俺たちを召喚したのはエヒト神という神で素晴らしく、美しいとか、うんたらかんたらとそのエヒト神をイシュタル教皇はひたすら熱っぽく、少し狂気めいた目をしつつ賛美しまくっていた。

 迷惑すぎるだろと非常にツッコミたい。けどそんなこと言ってみろ、こんな宗教まっしぐらの国じゃあ生きていけないどころか、殺されてしまう。不安に駆られていると、俺たちと共に召喚された畑山先生が

 

 「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

と堂々と言った。生徒思いの良い先生じゃないか。そう茶化すと周りで少し笑いが起きた。 

 

 次のイシュタル教皇の言葉はそんな笑いを消し飛ばすくらい最悪な事実だった。 

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場が凍りついた。

 

 

 しばらくの沈黙の後、畑山先生が「呼び出したなら送還できるはずだ。」と食ってかかるもイシュタル教皇の言葉は残酷だった。

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

 畑山先生は事実の前にしなしなと脱力してしまった。他の生徒も冗談じゃないと騒ぎだす。

 「なんでこんなことしなくちゃいけないんだ!」「帰らせてよ……帰りたい……」 「あ、あ、嘘だ。嘘だ。嘘だ。」

 皆狼狽し始めた。それもそうだ。いきなり殺し合いに参加してくれなんて平和にどっぷり浸かってきた人間には到底理解出来ない、了承なんて不可能に決まっている。

 皆気付いていないがイシュタル教皇が隠しているけれど侮蔑の気持ちを込めているのがたまらなく恐ろしかった。気を狂わせたいこの状況で2、3、5、7、9……と友人から教わった気持ちを落ち着ける方法を使って何とか必死に冷静さを保つ。

 もうどうしようもない、軽く絶望しかける人物も現れそうな時、一筋の光が刺した。

 

 「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

 テーブルを勢いよく叩き、視線を向けさせることで彼は力強く語りかけた。

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」 

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 そう言うと皆の目に光が戻り始めた。彼のカリスマは勇気と希望をもたらした。まさに救世主。王子様は伊達ではないということだ。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

 クラスの中心というべきメンバーが彼に賛同し、皆も口々に「やるしかねえ。」「天之川君を信じよう。」と流れが出来ていく。「俺」は正直面倒くさい。だから無責任に賛同する。

 使命を果たそうとする様にクラスが決意を固めた。

 

 神様なんて気まぐれなのに使命を果たせば無条件で地球へ帰れるなんて無邪気に思っているのかと幻想に縋り付く彼らに冷めた視線を向ける自分がいる。

 もう一人の自分が言う。「無責任に流れていこう。皆の意見を尊重しよう。和を乱さず。それがクラスのためだ。」

 

 心の中でどう思おうが、もう、戦争参加は大衆によって決まってしまった。ああ、いたいいたい。

   

   頭がずきずきする。 

 

 

 

_______________

 

 

 戦争参加が決まったのだから、次の日から訓練をするとのこと。流石にいくら強い力を持っているとはいえ、いきなり「戦え」と放り出す様なことはしない様だ。その点、まだ良心的とは言える。

 

 ということで召喚された場所である、神山の麓、ハイリヒ王国にて訓練の日々が始まる。が、その前に王宮へ一行は向かった。

 

国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナというそうだ。だらっとせず、気を引き締めて式典はつつがなく行われた。

 

 式典後の晩餐会は華やかだった。見たことない料理に舌鼓を打ち、今後へ想いを馳せた。武器を取って生物を殺す。これからその準備期間なのだと思うだけで気が重い。逃げることの出来ない鳥籠の中で動かず、ただ運命に流される。

 それはともかくこれからお世話になる人と親睦を深めつつ、考え事をしているとあっと言う間に終わってしまった。

 

 

 

 寝る時、ベットはふかふかであったことをここに記す。

 

 

_______________

 

 

 

 

 翌日。集められて12×7センチの銀色のプレートが配られた。全員に行き届くと

騎士団長、メルド・ロギンスが話し始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 自分のステータスを数字で見れるなんてまるでRPGだ。ここは異世界で地球の常識を超えた物が出てくると思ったが少し拍子抜けだ。密かにがっかりしていても話は続く。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

 

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に天之川が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のぼるのことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 

 皆がふーんとかなるほどと納得し、指先に針をプツリと刺す。どろりとした血をステータスプレートの魔法陣へ擦り付けると文字がブワッと現れた。

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北城登(きたしろのぼる) 17歳 男 レベル1

 

 転職 魔法使い

 

 筋力:1

 体力:1

 耐性:1

 敏捷:1

 魔力:200000

 魔耐:1

 

技能 言語理解 深化 魔力操作 

 

 

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 ゲームみたいだなあと思う前にステータスがバグっていた。軒並み1という数値に関わらず、魔力が20万だ。バグじゃないか……。

 

 メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。妙にRPGっぽい所があるのに現実感がある。そう簡単にはいかないのか。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」 おお、太っ腹だ。勇者に人間族の命運を掛けているのが判る。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」 

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 俺は魔力以外トータス一般人より貧弱じゃねえかと思いながら、バグみたいに高い魔力に少し安心する。他の人はどうなんだろう。好奇心に駆られて、俺は近くにいた南雲に話しかけた。

 

「なあ、南雲。お前ステータスってどんな感じ?よかったら見せてくれんか?」 「……まあ、いいけど、北城君のも少し見せて欲しい。」

 互いのステータスを交換して見る。

 

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南雲ハジメ 17歳 男

 

筋力:10

体力:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

 

===================

 

 

互いのステータスを見てなんとも言えない雰囲気が流れた。

 

 「何というか、魔力、高いね。強そうだよ。(典型的な俺TUEEEみたいじゃないか……)」 この空気感を破ったのは南雲だった。俺はどう返答すべきか困りつつ、無難に返事を返すことにした。

 

 「オール10だけど多分伸び代があるよ、きっと、きっとさ。」

 

何とか捻り出すし、プレートを返し、少し離れた。

 やっぱり俺貧弱すぎるわ。運動はそこまで得意ではないが、運動音痴ではなかったのにこの数値には泣くしかない。

 落ち込んでいるとメルドさんの辺が騒がしい。天之川のステータスはどうやらマジで勇者みたいだ。平均が100でメルドさんがレベル62で300前後のステータスであることからその高さが窺える。

 流れで南雲にも話が振られたがあっ、と察してしまった。低さが露呈して檜山たちに「肉壁にしかならねえ」と弄られている。それをやめさせようと畑山先生が「自分のステータスは低い」と言っていたがどうやら南雲の精神にトドメを刺してしまったようだ。

 

 

 

 哀れ、南雲ハジメ。今度困った事があったら助けようと思った。

 

 

 

 

  

 

 

 

 




 今日はさくっと出来た。

 次回  やめて! バカ高い魔力に調子づく主人公が精密な魔力操作をミスったら身体が爆散しちゃう! お願い、死なないで主人公!
あなたが爆散したらみんなの精神はどうなっちゃうの?魔力はまだ残ってる。ここを耐えれば何とかなるんだから!
 次回、「北山死す」。デュ○ルスタンバイ!



 やってしまった……


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運命

 
 じゃじゃじゃじゃーん

 長めです。


 

  南雲ハジメへの精神攻撃(先生のステータス開示の一件)が終わるとそれぞれメルドさんや報告担当の人にステータスを伝えた。

 自分の番が回ってきて、この魔力クソ高ステータスをメルドさんに見せると「なんじゃこりゃ!!伝説級のステータスじゃないか。魔力が高いのに他のステータスが低いなんて珍しいな、でも魔力の高さはさすが勇者って事だな。なかなか他のステータスが低いからこれから訓練頑張れよ。」と励まされた。メルドさんは本当にいい人だと再認識する。

 

 

 話は変わって訓練初日、あまりにもステータスが他のクラスメイト(勇者達)より低い事を危惧されつつ、訓練を行うこととなった。

 

 「みんな剣は持ったか?」

 まずは剣の振り方を教えるみたいだ。この世界では何が起こるかわからないからまずは基本的な武器である剣の扱い方は皆が覚えなければならない。王様も一般市民も誰もが通る道なのだそう。

 

「剣の持ち方はこう持つ。両手でしっかりと、力を入れすぎずに持つのが基本だ。初心者だから片手で持つなんて考えるなよ、慣れてないと怪我するし、いざという時に仲間を危険に晒すからな。絶対だぞ。」

 

 他の騎士の人たちが一人一人の持ち方を修正する。かなり念を押しているので皆が素直に聞き、メルドさんの振り方に合わせて一斉に振り始めた。『1、2!」  ある程度振り、剣の扱い方を覚えさせる。しばらくしたらそのまま続いて戦い方を教わる者、終えて別の訓練へ行く者など別れた。俺はというともうヘトヘトだ。大体のクラスメイトはそこまで疲れてはいないようだ。

 この世界に来てから体力が上がっているのだろうか?あまり運動がとくいではなかった奴も物凄く疲れているというわけでは無さそうだ。俺はというと肩で息をしていた。物凄く疲れた。身体中が疲れたと叫んでいる。ここまで体力が無いとは思わなかった。むしろ、体力が落ちているとは、、「はあ」と一呼吸置いてとりあえず落ち着いた。気がつくと継続して訓練するもの以外は別の場所に行っているようで人は減っていた。

 俺もこの魔力を生かすために広い魔法訓練部屋で魔法の使い方がある「基本魔法訓練」を開いた。これは王国で作られた基本魔法用の訓練書で戦争の為に魔法を使用する者には配られているのだそう、それでも閲覧には特定の部屋のみみたいだが。

 「ここに焼撃を望む」か、

 魔法の使い方は色々あるそう。基本的な方法は魔力を身体に込めて呪文を唱える。そうして魔法を補助する魔法陣が展開され、魔力を注入し、魔法陣の輝きと共に魔法が行使される。

 

 「よし、やってみるか。」

 試しに魔法、「火球」を試してみることにした。的の前からある程度距離を取って立ち、魔力を身体中へと循環させる、高揚する。ワクワクを抑えられない。

 唱える。「ここに焼撃を望む」

 

展開された魔法陣に慎重に魔力を注ぐと淡く輝く。そうして火球が的へ向かって放たれるとボワッと音を立てて的を焼く。

 「やった、魔法だ!!成功したぞ!」

 興奮する。思わず顔がにやけ、笑いが止まらない。この前までファンタジーの世界の代物だと思っていた魔法が使えるなんて誰が思うだろうか。いや、ない。

 

 

 

_______________

 

 

 

 異世界召喚から二週間。思いの外皆トータスへ適応してきた。人間の適応能力はおそろしいものである。

 俺はといえば謎のスキル深化を行使しようとしてもうんともすんとも言わず困っていた。

 

 

 様々なアーティファクトは勇者が自由に使って良いことになっている。新たな魔法の研鑽に使おうととりに行こうとすると、何やら物音が聞こえる。暇だったこともあり、そっと音の方向へ行ってみた。

近づくと人の声。檜山達が南雲に対して鬱憤を晴らしている。今までは無視していたが魔法という武力を使えるようになったのだ。

 止めなければ。

 ちょっとした使命感じみたものを抱き、何気ない感じで檜山達の前に現れた。「何してんの?」彼らは突然俺が現れたことに驚くが、怖気ずく事なんてない。「何だ?文句でもあんのか。今までコイツの事無視してきたくせによお、なあ、ちょっと魔力が高いからってイキってんじゃないの北城よぉ。」「ぐ、」と少しだけ図星を突かれ動揺する。「自覚あんじゃんか、調子乗ってるとぶっ飛ばすぞ。」

 不味いぞと思っていると思わぬ助けがやってきた。

 

「何やってるの!?」怒っている声だ。

 

「げ」と声が漏れてしまった。

 恐る恐る振り向くと白崎だ。俺の横を通り抜け、ずいずいと前へ出る。檜山達も「やべっ」といった顔をしている。他には天之河、坂上、八重樫が一緒にいた。

 

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 悲しいことに檜山の弁解は無視された。そして三人にも追及される。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 檜山達は誤魔化してそそくさとこの場を去っていった。南雲たちの方では色々と繰り広げられているので俺もこっそり抜けようとすると、「おい、何で逃げようとしてんだ?」坂上だ。

 

「えっと、なんというか、南雲を助けようとしたんですがね、その……、白崎さんが入ってきたもんで。」

 話していた三人からも疑いの目を向けられる。「待って、北城君は本当に助けようとしてくれたんだ。」南雲から助け舟だ。「まあ、本人がそういうなら仕方ないな、紛らわしいことすんなよ。」となあなあで済ませてくれたので逃げるようにしてここを去る。

 

 こうしてようやく宝物庫へ向かおうとするがなかなか複雑で迷う。途中、騎士の人に「宝物庫は何処か知っていますか?」と尋ねると、快く案内をしてくれた。

 

 宝物庫は非常に大きかった。ある程度階層に分かれており、魔法系統のアーティファクトは地下2階にあるみたいだ。入口で渡された専用の鍵を携えて降りていく。地下は以外にも明るかった。魔法によって入る際は常にある程度の明るさを確保しているそうだ。

 色々と開けてみる。杖やよくわからない文字がびっしりと書かれている剣、いかにも魔法使いらしいローブなんかもあった。どれもこれもなんだかしっかりこない。何となくパズルのピースの様に綺麗にはまらない感覚なのだ。

 それなりに時間が経つ。

 疲れてきたのでもう終わろう、明日にしようと最後に一つだけ開けようとする。ガチャリと何度も聞いた音を立てて開けるとつるりとした美しく白い球体が入っていた。今まで見てきたアーティファクトとは違う、気になって触ってみるとピシリと電流のようなものが俺を駆け巡る。ピースがはまった感覚。これだ。これなのだ。運命的に出会ったアーティファクトを持ち、入口へ戻った。

「登録のため、ステータスとの照合と登録をさせて頂きます。」いくら俺たちが勇者といえどハイリヒ王国にとってはアーティファクトは国宝なのだ。受付の人にステータスとあの白い球体を渡し、登録してもらう。「はい、これで大丈夫です。お手数をおかけしました。」

 ステータスプレートと球体を渡してもらい、気分良く宝物庫を出た。

 

 

 

_______________

 

 

 夕暮れが迫っていた。いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 

 って事があったんだ。」夕食の時間に隣に掛けている野村健太郎、俺の小学校からの友人が教えてくれた。「登はさ、どう思う、遠征。」「どうって、生き残るに徹するしかないでしょ、俺の貧弱ステータスだと。」「そういうもんかなあ?」たわいない会話をしながら夕食を食べる。茶化して言ったが本当に低すぎるステータス。今はこんな具合になっている。

 

 

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 北城登(きたしろのぼる)17歳 男 レベル2

 

 天職 魔法使い

 

 筋力:2

 体力:2

 耐性:2

 敏捷:2

 魔力:200002

 魔耐:3

 

技能 言語理解 深化 魔力操作 [+魔力放出]

 

 

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 本当にちょっとだけステータスが上がった。と言っても他の勇者達(クラスメイト)と比べてみると一番低い南雲にさえ5倍近くの差があるのだ。

 敵の攻撃なんかくらって仕舞えば一撃でお陀仏だろう。しかし他にも成長はあった。派生技能とよばれるスキルの延長のようなものらしい。

 魔力放出は訓練中、うっかり集中を切らしてしまい、魔力をドバっと放ってしまい、周りを壊してしまった時に得た苦い思い出のあるスキル。

 そんなことより明日の迷宮遠征は何か嫌な予感がする。予感で終われば良いんだが。

 

 

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    [オルクス大迷宮]

 

 メルドさんの説明によると、全百階層からなると言われている大迷宮で、七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現するそう。

 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

 馬車に乗り、大迷宮最寄りの町、ホルアドの王国直営宿屋に泊まる。ついてしばらくすると自由時間になったので眠気が急激に襲ってきた俺はベットへ向かい、寝た。

 

 ふと、夜中に目が覚めた。もう一度寝ようにも眠れず、夜風に当たろうと部屋を出る。廊下を歩いていると檜山がいた。

 バレた。「どうしよ」とまごついていると恐ろしい形相で此方へ来ると「お前は何も見てなかった。いいな。」と念押しさせられた。突然来た檜山にビビり、「わ、わかったよ、俺は何も見てない。」と了承すると、檜山は自分の部屋へ戻っていった。なんだか気分も最悪で結局、部屋へ戻ってそのまま寝てしまった。

 

 

 翌日、目覚めも悪いが、ともかく俺たち勇者は[オルクス大迷宮]へ出発した。

 ゲームの様な迷宮というよりは入口は露店などもあり、繁盛している様子。メルドさんにはぐれないよう、しっかりとついていき、受付でステータスプレートを見せてチェックしてもらった。

 

 

 入っていくとぼんやりとした緑がかった光があちこちの石から出ている。地球じゃあ見られない光景だった。しばらく進むと広間へ出る。

 

 隙間から灰色の毛玉。魔物だ。皆に緊張が走る。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネの中村恵里と幼い印象の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はない。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

 思っていたよりあっさり倒したことにメルドさんは苦笑いを浮かべつつ、注意もする。

 「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 俺たちはこの後も順調に第20階層まで着いた。一流冒険者の分水嶺に皆気持ちを引き締めるようメルドさんに言われる。

 魔物をちょっとずつ倒し、自分の体力にも気をつける。20階層で今日の訓練は終了なので必死に耐えるしかない。

 

 進む。「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」先頭の方から忠告が飛ぶ。

 「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 ゴリラのような魔物だ。

 天之河達は足場が悪く苦戦している。

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」という咆哮で前衛が怯む。 隙を突き、ロックマウントは岩を投げる。岩はむくりと動いた。

 ロックマウントだ。ロックマウントは別個体を投げたのだ。突然来た魔物に動揺する女子三人、メルドさんは冷静にロックマウントを切り捨てる。

 

  天之河光輝は彼女を守れなかった。メルド団長がいたもののいなかったらどうなっていたか分からない。不甲斐なさと共に怒りが湧いてくる。

 「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 彼の怒りとともアーティファクト、聖剣が輝き

 「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」光の斬撃を放った。

「あっ、こら、馬鹿者!」メルド団長の言葉さえかき消し、ロックマウントは一刀の元に倒れる。白崎達へ微笑みを浮かべる王子。

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 怒られた。バツが悪そうにする天之河に白崎達も苦笑いで慰める。

 

 白崎はふと壁へ目を向け、

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 青白く、透き通る美しさを持ち、光る鉱物。女子たちはあまりの美しさにため息が漏れる。

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 何やら珍しい鉱物なのだろうか。

「だったら俺らで回収しようぜ!」檜山が崩れた壁を軽々と登っていく。

 「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 焦る騎士たち。だが、遅い。騎士の一人がフェアスコープ、罠を見つけられる器具で辺の鉱物を確認し、罠と分かり、「団長、トラップです!!」と青ざめた表情で報告したと同時に触れてしまった。美しいバラにはトゲがある。愚か者は釣られてしまった。

 

 現れた魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 部屋の中に光が満ち、真っ白。

 

 俺たちは空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

 痛みに呻き、周囲を見渡す。大きな石造りの橋の上に転移した。メルド団長や騎士団員達、天之川達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

絶望 がやってきた。

 

「ベヒモスなのか……?」メルド団長の驚愕に満ちた呟きは誰にも聞かれることはなかった。

 

 

 ベヒモス。かつて最強の冒険者さえ歯が立たなかった怪物。それだけで無く、トラウムソルジャーという骸骨が数百。

 急いで指示を出す。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「死にたいのか!あれは文字通りのバケモノ、ベヒモスだ!過去最強の冒険者が叶わないような奴だ、早く逃げろ!」必死の形相でも「見捨てられない」と天之河。全員が我武者羅に逃げる、絶望の中勇気を持つ少年が一人、天之河の前に立ち、

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

 

「そんなこと言っている場合かっ!」「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

 天之河の胸ぐらを掴みながら指を差す南雲。

必死の説得に納得し、離脱しようとすると、張っていた障壁は破れる。 

 身動きが取れない団長達のため時間を稼ぐ。天之河は自身の今使える最も強力な技〝神威〟を放つ。聖剣が輝き、ベヒモスはーー無傷。

 

 ベヒモスの攻撃。衝撃で避けたはずの天之河は吹き飛ばされる。どうしようもない状況。 

 

 南雲ハジメは覚悟を決める。

 

 ひたすらに全力を尽くしてベヒモスを止めるハジメ。錬成を駆使する。

 

 ようやく復活した天之河の指示の元ぐちゃぐちゃの状態の俺たちはなんとかこの地獄から抜け出せそうだった。

 冷静になった俺たちはベヒモスへ攻撃魔法を打ち込む。一つの火球魔法がハジメに当たり、最後の気力は失われた。倒れるハジメ。

 怒り狂うベヒモスの攻撃は無慈悲に橋をひび割れさせ、崩壊する。

 情けない声を上げ死にたくないと足掻くが奈落へと落下するベヒモス。ハジメは朦朧とする意識の中、落下していった。

 

 

__________

 

 逃げ惑う俺たち、皆が我先にと階段へ駆け込む。南雲のおかげでベヒモスは食い止められていて、無能と何処か見下していた彼への印象は変わっていった。

 皆が食い止める様子を見て、俺も私もと南雲を支援する。俺も支援しようとすると、ブワリ と浮遊感。背中に熱を感じると石橋からあっという間に落下する。

 呆然とするがそんな暇なんて無い。慌てて魔力放出を使う。物凄い勢いで手から噴射された魔力により、身体が右へ流れていき、上手い具合に手の向きを下にして、空を飛ぶ。が、止まらない。間抜けなことに石橋の高さを超えて、天井に激突した俺は意識を一瞬にして消し、再び落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
いよいよ始まる迷宮編。南雲ハジメと北山登は強き者こそが正義、弱肉強食の世界へと迷い込んでしまう。瀕死の彼らに迫る影。
 
 次回、「深化」




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深化

 いよいよ動きだす。


 

 

 

 気がつくとそこは、何処なんだろう?薄暗く、ぼんやりとしている地面の上で俺は目覚めた。記憶が混濁している。動こうとすると身体が悲鳴を上げる。「痛え……。」あちこちの骨が折れているのだろうか、ずきりずきりと響く痛みだ。

 痛みにより少しずつはっきりとする意識。「そうだ、俺はあの時ぶつかって、、落ちたんだろうか。」どうやら俺は奈落の底に落ちてもなんとか助かったらしい。上の階にあった緑光石があちこちから出ている事を踏まえるとここがオルクス大迷宮の何処かである事は確かである。

 ともかくこの部屋からどうにか動いて地上へと脱出しなければならない。もぞもぞと半ば転がるようにして芋虫のように隣の部屋へ移動する。「ぐっ……あ"あ"あ"い"て"え"」身体を動かす度にあちこちが痛い。肩の骨が痛い痛いと発している。背中が動かさないでくれと嘆いている。足がもう動かなくていいよと諦める。けど俺は死にたくないしにたくない。しにたくない。魔物がうじゃうじゃいるこの迷宮から一刻も早く出たい。何処か安全地帯へ逃げ込みたい。ただそれらだけを支柱として無様にべったりべったりと進んでゆく。 

 

 ある程度、といっても2部屋ほど進むと小川がせせらいでいた。猛烈に喉の渇きを催す。痛みなんて気にせずごろごろと転がって川にぼちゃり。30センチほどの深さの川に嵌った。まずい。「グェッ、ゴボッ、たすけ、ゴボボボボボボ。」溺れる。パニックになりジタバタと痛みのある腕と足を動かす。こうしている間も水はどんどん口へ入っていく。

 

 無我夢中の俺は死ぬかと思う寸前で魔力放出を行う。「ゲホッ、ゴボッゴボッゴボッ」なんとか出られた。

 

「あ〜死ぬかと思った。」

 

 未だに生きている事に感謝しつつ、今度は慎重に慎重に川へ近づき、水をズズズとすする。

   うまい。

 今まで飲んできた水道水やどんなミネラルウォーターよりうまい。夢中でぐびぐびと飲む。

 

 ひとまず落ち着いた。

「ふう、これからどうしよう。」奈落へと落ちたのはベヒモスとの戦闘中。まあ、助けが来るなんて万が一にも有り得ないだろう。

 第一、奈落に落ちて生きている事自体奇跡に等しいのだ。これから生きて迷宮からの脱出を行うには怪我を治すことは勿論、敵を倒さなければならないし、水はなんとかなってもお腹が空いてしまう。食糧が必要なのだ。

「とりあえず前途多難だなあ」とぼやいていると

 

 

 魔物。

 

 まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。

 

 

 

 今までの状況で出くわさないのは幸運だったがそれももう尽きたみたいだ。ゆっくり動いて物影に隠れる。ひたすら

 

「どこか別のところにいつてくれ」そう願うしか無い。あの魔物の生物として圧倒的にある差。

 どうあがいてもひっくり返す事が出来ない威圧感。ふとこちらと目があった気がした。

 

 

 

  頼む来ないで。

 

 

 クンクンと鼻を動かして、こちらににじり寄って来る犬の魔物は突然横から出てきた猫の魔物に

 

 ガブリと喰われた。

 一口で頭をかじられた魔物はバタリと一瞬でたおれた。猫は好みのネコ缶を食べるかのごとくむしゃり、むしゃりとかぶりつく。しばらく食べていると魔石が露出した。

 猫はそれを見ると嬉しそうな顔をしてバキリと噛んで飲み込んでしまった。あんなにも威圧を放っていたのが喰われる。これが弱肉強食。頭ではなく、魂て理解をせざるを得なかった。見つからなくて良かった。 そうほっとしていると、

 

 

 

 

 どろりと血液が流れる。

 

 

 気づかれないわけがなかった。ケモノが餌を見つける嗅覚は圧倒的。俺というエサに気付かないわけがない。

引っ掻かれた俺の胸は肉が抉れていた。ばっくりと切れていて正直言って激痛。傷口は熱い。

魔法、火球を使用する。ぽふん。当たってもそう擬音が聴こえてきそうな余裕な猫。「あっ」  バチュンと聞いたことのない音が鳴る。 俺はぼんやり。

 気づくと俺のどうたいはなきわかれ。痛い、痛い、いたい、イタイ。 猫の口の中は濡れていて、暖かいなあと思う。最後に「最悪だ。」

 

 意識が飛んだ。

 

 

 

 

_______________

 

 吾輩は猫。名前はいぬ。オルクス大迷宮に生まれ、もう三年。

 

 

 猫は犬を食べているとに美味しそうなみたことのないエサのニオイにに無邪気に喜んでいた。「めずらしいエサだ。美味しそうなニオイがする!!」と。

 犬を食べ切った後、安心したニオイをだすエサで遊んでみた。ざっくりと爪で引っ掻くとぶちゃりとおいしい血液が飛び散る。豊潤なニオイに猫は少し酔っ払った気分。「思ったより弱くてあっさり食べれそう。」

 猫は爪でエサのおなかを薙ぐとブツリと千切れた。「やったあ、今日はついてるなあ。最高!!!」猫は気分が良かった。うきうきで寝ぐらへと帰る。ちょっぴり眠たい猫。「なんだか眠たいなあ。たくさん食べたからなあ。」

  猫は気まぐれ。眠たいならすぐに寝る。

 

 お腹がいたい。腹でもこわしたのかな。猫はそう思った。一瞬びりりとすると猫は生まれて初めて気絶した。そしてもう起きることは無い。

 

 猫の身体がグチュグチュに溶けていく。しばらくすると猫だったドロドロはだんだんナニカの形を成した。さっき喰われた"人間"みたいに。

 

 裸の人間?が倒れていた。

 

_________________________

 

 

 俺は目が覚める。酷い悪夢だ。猫の魔物に喰われる夢。けど、それが冗談なんか、と笑い飛ばせなかった。というより、

 

 「裸じゃねえか!」

 

 どうしたか服が無い。とりあえず火球で火を起こす。魔力で身体の寒さは凌げるが何かを身につけたかった。諦めるしかなさそうだが。

 とにかくリアルな夢で感じた、身体の痛みがなくなっている事に気づいた俺はふとステータスプレートを見た。

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 北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル35

 

 筋力:250

 体力:250

 耐性:200

 敏捷:400

 魔力:200400

 魔耐:1000

 

技能 言語理解 深化 [+第一段階] 魔力操作 [+魔力放出]

 嗅覚 風爪 [+三爪]

 

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 なんか強くなってた。あの貧弱ステータスが天職:勇者の天之河並に上がっている。魔耐なんて1000になっている。

 技能面も謎スキル深化が[+第一段階]と変わっている。あと、嗅覚と風爪なるよくわからないスキルが追加され、レベルが33も上がった。

 やっぱり、あの夢が原因なんだろうか?考えられるのはそれしか無いが、分からないことが多すぎる。とりあえず、出ることを目標にしよう。何故か何処かの寝ぐらのようなところに居るし。

 食糧確保の為、魔物を食べればいいじゃない。俺はそう閃いた。

早速、そっと魔物に近づいて、「風爪」 ズバリ、と目の前に居た牛に似た魔物は身体が分かれた。美味しそうだ。持って帰って調理をしよう。その矢先、ハイエナのような魔物。強くなった俺はでも勝てるか怪しい。死肉を求めてやってきたのだろう。ちょうど3つに分かれていたからもったいないが一つ置いてさっさと逃げる。後ろを向くとむしゃむしゃ食べていた。寝ぐらに戻る。火球を応用して火を保たせる。バーナーみたいだ。この小さい火柱を使って肉を焼く。美味しそうなニオイだ。しっかり焼いて、かぶりつく。美味い!牛の魔物はそのまま牛に近い味をしていた。脂が載っていて美味しい。地球のテレビで見た、高級牛肉はこんな味なのだろうか?そんなことを考え、食い切ってしまった。ふー、満腹、満腹。満足している。

 ゴロンと横になると安心した。全体に地上へ戻って見せる。そう決意し、俺は眠った。

 

 

 

________________

 

 

 一方、南雲ハジメは、発見した神結晶と呼ばれる鉱石により、命を繋ぎ、極限状況で生まれ変わった。心は鬼になり、あらゆる障害を排除する。真っ暗な中で真っ黒な意思を持つ。

 

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 第六十五階層、ベヒモスの地獄。クラスメイトが二人死んで、諦めそうだった。それもそうだ。人の死にこれからゆっくりとでも慣れるはずだった彼らはその時が急に訪れたからだ。死の恐怖を感じてしまい、座り込んでしまって「もう駄目だ……」と呻く生徒もいる。

 友人が死に、どうすれば良いか分からなくなる野村健太郎。

 

 「あいつはまだ生きたかったよな。」

 

「あいつの分まで生きてかないと申しわけが立たないな。」

 

  膝の震えを抑え、力をひねり出す。諦めそうな奴は叩いて喝を入れる。

 

 「諦めんなよ。死んだら終わりだぞ!」

 

 

 南雲ハジメが奈落に落ちていった事を受け入れられない白崎香織は自分から奈落の底へ落ちようとする。「ダメっ、危ないっ」周りの女子が止めようとするが火事場の馬鹿力とでもいうのだろうか。

 止められてはいたが、振り払って必死にハジメを助けようと手を振り払おうとする。「邪魔ッ!南雲君は私が助けるって約束したのに! 離してよ!」駆けつけた雫と光輝は二人がかりで香織を羽交い締めにする。「邪魔しないで!」暴れる香織。しかし、二人がかりではジタバタと足を動かすしかない。焦ったい状況が続く。

 

「香織っ、ダメよ! 香織!」

 

 雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

 それは、光輝なりの精一杯、香織を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきではなかった。

 

「無理って何!? 南雲くんは死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

 とても南雲ハジメが助からないという事実を受け止められない香織は今にも崖から飛び出してしまいそう。周りの生徒も見たことが無いくらいの香織の様子におろおろとするしかなかった。

 

 メルド団長がツカツカとやってきて、「すまないな」スッと手刀を首筋へ落とすと「うっ」と呻いてグラリと気絶した。光輝は突然気絶させたことに睨み、文句を言おうとするが、雫が遮って礼を言う。

 

 「すみません。ありがとうございます。」

 

「礼など……止めてくれ。もう二人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む」

「言われるまでもなく」

 

 離れていく団長を見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の光輝から香織を受け取った雫は、光輝に告げる。

 

「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」

 

 雫の言葉に、光輝は頷いた。

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

皆のそのそと動きだす。トラウムソルジャーを生む魔法陣は今だに稼働している。だが、相手にする必要はない。

 

 今の目標は逃げるのみ。

 

 互いを励まし合い、メルド団長は騎士達の鼓舞を受け、二十階層までやっとこさ戻ってこれた。安堵から腰が抜けて、へたり込むクラスメイトもちらほら。

 光輝たちでさえ壁にもたれかかっていたのだから疲労感はピークをとっくに越している。

 だが、「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」 メルド団長が動け動けとせっつく。安堵している時こそ一番危険だということを彼は経験上、よく知っている。気を少し抜いてしまった為に死んでしまったり、大怪我を負ってしまった仲間たちを何人も見てきた。

 彼が今、団長の地位にいるのは決して気を抜こうとしない姿勢を持っているのも一つの要因だろう。

 少しくらい休ませてくれたって良いじゃないか、という視線を受け止めながらも無視して進ませる。戦闘慣れしている騎士団員を中心に出来るだけ戦闘を抑えて上へ上へと進む。

 

 一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと気のせいではない。

 

 

 どすんと地面へ寝転がる者もいる。みんなが脱出出来たことに和気藹々としている中、一部の生徒――未だ目を覚まさない香織を背負った雫や光輝、その様子を見る龍太郎、恵里、鈴、実は途中、ハジメが助けていた女子生徒などは暗い表情だ。

 

 

 メルド団長は二人の死亡報告と二十階層の危険すぎるトラップの報告をしなければならない事に

「どう報告すればいいのやら……」

 

 憂鬱な気持ちを抱え、困り果てていた。

 

 

_________________________

 

 

 男、檜山大介はぶつぶつと独りで俺の所為ではない。あいつが悪いとぶつぶつ呟いていた。気に食わないオタクだった南雲ハジメは自分が好きな女である白崎香織からやたらと声をかけられていた。自分には一度もそんな事はなかったのにアイツには優しく微笑みかける。俺には一度もなかったのに。妬ましい。そんな矢先の異世界転移でアイツはゴミステータス。対する俺はチートステータス。

 彼女は振り向いてくれる。そう信じていたがホルアドのあの逢瀬。悪夢だった。彼女は俺に振り向いてくれることなどあり得ないのだと嫌でも分かる。そんな時にふと魔が刺す。

 「ここで殺って仕舞えば誰か分からないぞ。」

 まさしく悪魔の甘言だった。適正属性が風の俺には火球を使ったと絶対バレない。確信めいたものを持ち自分の行為を正当化する。

 

 その時、不意に背後から声を掛けられた。

 

「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」

「ッ!? だ、誰だ!」

 

 慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

「お、お前、なんでここに……」

「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」

 

 その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

「……それが、お前の本性なのか?」

 

 呆然と呟く檜山。

 

 それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。

 

「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」

「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」

「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

じっくりと蛇のように追い詰められる。まさか、こんな悪魔みたいな、いや、悪魔だと思わなかった。嗜虐的な笑みを浮かべ見下された檜山は恐ろしさのあまりにガタガタと震え、声も出ない。

 

「ど、どうしろってんだ!?」

「うん? 心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない? ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」

「そ、そんなの……」

 

あんまりの言い草についどもってしまう檜山。けれど、断れば確実にバラされる。葛藤する檜山は、「いっそコイツも」と暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。

「白崎香織、欲しくない?」悪魔的提案だった。驚きのあまり呼吸すら忘れそうになる。

 

 

「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」

「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

 あまりに訳が分からない。

 

「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで? 返答は?」

 

 あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山であるが、どちらにしろ自分は既に詰んでいる。

 

「……従う」

「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」

 

 楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟いた。

 

 檜山の脳裏には忘れたくても、否定したくても絶対に消えてくれない光景がこびり付いている。ハジメが奈落へと転落した時の香織の姿。どんな言葉より雄弁に彼女の気持ちを物語っていた。

 

 

 

 「ヒ、ひ、大丈夫。きっと俺は何とかなる何とかなるんだ。」

 

 ひたすら自分へと強く、強く言い聞かせ、枕へ顔を埋めた。

 

 

 

 

   




 

 突然のステータス上昇、魔力、謎のスキル深化により、新しく得たスキル。脱出を求めひたすらに歩く彼が見たものはーー

  次回、アリアドネの糸


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アリアドネの糸


 とりあえずやってみる。


 

 

 

 

 目が覚めて、数日経ったのだろうか。なにぶん地下なので時間というものが無い。薄暗い緑光石の光の中、目覚めたら朝、眠くなったら夜。そうやって決める事で心の平穏を保つ。

 ある程度この階層に存在する魔物たちに慣れて、食糧を得られるようになってきた。"嗅覚により、一度嗅いだ匂いは決して忘れず、相手をどこまで追っていける。これで似たような匂いを探して、後ろから一撃。

 こうして仕留めるのだが、まだまだ練度が足りない上、昨日ヘドロの魔物と戦った時、その臭すぎる匂いを嗅いでしまい、ショックで死にかけてしてしまったことがあった。魔石を取り出そうとしてもへドロがそこらじゅうに飛び散っていて汚い。暴力的なニオイが鼻を犯す。絶対に近づきたくも触りたくもない。魔法で業火を放ち、汚物を消毒した。今だに頭がずきずき痛む。任意かつ、慎重に使わなければならない。

 

 

 もう一つのスキル"風爪"は切り刻むのにとても使い勝手が良い。相手をバッサバッサと倒していける。風の刃が皮膚を切り裂き、血を吹き上げさせる。次の部屋は広間だった。中央に池があり、濁った水を湛えている。

 水中からのっそりと堅く、厚い皮膚を持つ巨大なワニの魔物が現れた。ブルブルっと震えて水を払う。こちらに気づいた。「ゲーワワワワッ」と身の毛をよだたせる咆哮。構えていたが驚いて、俺に一瞬の隙が生まれる。

 ワニは"それ"を決して逃しはしない。その巨体から考えられないくらいのスピード、魔力の香りと感覚で理解できる。相手はおそらく、何かの固有魔法を使ったのだろう。弾丸のように突っ込んで来たワニを足に魔力を込めて横へ思いっきりジャンプする。受け身を取るが、壁に激突してしまい、転がる。ワニも勢いよく行ったものの避けられ、どすんと突き刺さる。

 

 

 

 俺は軽い脳震盪から回復するとワニもちょうど頭を引っこ抜いてこちらをギラリと睨んでいた。交錯する視線。お互いの実力を計りかねる。此方から仕掛ける。腕を相手へ突き出し"風爪"を使う。風の刃はワニの体表を切り、、裂けない。その使い古された厚く、堅い皮膚。何度も色々な攻撃を受けているようで見た目はボロボロといった感じだが、大きな傷は少ない。ワニも負けじと尻尾をブン!と振るがバックジャンプでギリギリ避けることに成功する。

 ある程度の距離。硬直する両者。精神力の勝負だ。相手が見せた刹那の隙にいち速く相手を狩る。

 

 俺は今まで現れた敵を両断してきた風爪がちっとも効かないことに少し焦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ時間がが経っているだろうか?水場がある上、そもそも暑くはない大迷宮の一室でだらだらと汗が垂れる。

 

 

 

 先に隙が生まれたのは俺だった。長年戦い続けているだろうワニと比べ、経験値の圧倒的不足。ワニは現れた時よりも速く、より速く此方を捉える。

 段々と思考がゆっくりとしていく。肉体が動かず、思考だけが動く中、「また喰われたくない。」カチリと音を立て、自分の身体の何かのスイッチが入る。無我夢中で魔力を放出した。濁流のような魔力は身体中から堰を切ったように溢れだす。

 ワニは魔力により身体を焼かれながら奔流に吹き飛ばされ壁へと激突する。放出され続け、部屋を削り続ける。ザリザリザリィと削る音が聞こえる。止まれ、止まれと必死に念じる事でようやく止まる。止まると強い倦怠感に襲われる。周りは破壊され、池は干上がってしまい、ワニは焦げた肉塊に変わり果てていた。

 破壊の跡から逃げるように歩いて寝ぐらへ向かおうとするが力が出ず、座り込んでしまう。

 

 「ハア、ハア、はあ、何なんだ異常な疲れとこれは。」

 

 削れ、少し焦げた地面に手をついて休み、ふと上を眺める。球形に抉れた天井は痛々しいが露出する鉱石。オルクス大迷宮で見たことのない色をしている。スキル"嗅覚"によって今まで嗅いだことあるニオイかどうか判別してみる。くんくん。空気の匂いとこの迷宮が混じっている不思議なニオイ。脱出の手がかりになるかもしれないと重い身体を起こし、風爪を弱めて少しずつ周りの岩を削る。

 

 ガタッと外れたような音がして鉱石が落下する。大きな音がするが特に問題ない。ワニを倒した事でレベルが上がったのだろう。力があるのが分かる。ここら辺の魔物なら相手にならないだろう。落ちてきた鉱石は少しだけで抱えて持って帰れるくらいだった。さっさと寝ぐらへ戻ってしまう。

ちなみにステータスはこうなった。

===================

 

 北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル95

 

 筋力:500

 体力:1500

 耐性:4000

 敏捷:400

 魔力:205000

 魔耐:10000

 

技能 言語理解 深化 [+第一段階] ・全属性適性・魔力操作 [+魔力放出] [+魔力圧縮] [+身体強化] [+緊急自動防御] ・想像構成 [+イメージ補強力上昇]・魔力変換 [+身体強化] [+体力変換] ・嗅覚 [+緊急臭気遮断][+悪臭耐性][+気配察知][+魔力探知]

・風爪 [+三爪][+炎爪] ・自爆[+防御貫通]

 

===================

 

 

 

寝ぐらの中でーー「うーん、どうしようこれ。」困っていた。暇なのでぺたぺた触ってみる。

 ゴツゴツしていて、堅そうだ。舐めると塩の味。触ったところが少し変だ。よく見ると魔力が少しこの鉱石に吸われている。魔力を当ててみると中がゆらゆら煌めいて、「おお! 炎みたいだ。すげ〜!」魔力をもっと入れると面白く、いろんな揺れ方をする。

 ゆらゆらゆらゆら、娯楽ないこの地下で唯一の癒しだ。ある程度遊ぶと満足して、部屋の隅に安置する。

 

 「そろそろ他の階層も行ってみるか。」

 

 レベルも上がって、経験も得てきたのでそろそろ動き出したかった。けれど、疲れがどっと出てくる。明日、行くことにしよう。そう決め、さっさと寝てしまった。

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

 

 朝、気持ちの良い目覚め。学校が始まると疎ましく思っていた、あの朝が今ではどれだけ素晴らしいものかが判る。腹ごしらえをして、隅に置いていた鉱石を見る。「あ、割れてる……」少しだけ、割れてしまっていた。ともかく、準備を済ませて進む。

 階段までに行く途中、ある部屋になんだかデジャブを感じる。気にせず、進もうとすると足元に何かあった。「あ、これ、俺のアーティファクトじゃん。」完全に忘れていた。いろんなことがありすぎていたのだから仕方ない。何故ここに落ちているんだろう?考えても全然答えは浮かばない。なんであれ、強い武器になる。ちょっとした朗報だった。「球よ!」そう言って魔力を流し込む。うねうね動き出した球体は身体に薄く纏わりついた。「おおっ、こいつはすごい、まさか服がわりになるなんて。」綺麗にフィットしたアーティファクトはまるでボディースーツみたい。

 ずっと裸で逆に慣れてきていた分、違和感を感じてしまう。しかし、それでも着心地が良いだろうことはよく分かっていた。

 

 

 上の階層へ行くための階段ところまで向かう。 「え……?」思わず声が漏れるのも無理はない。

 階段部分やその周りが崩れて天井の一部が崩落していた。これについては自業自得だろう。ワニとの戦闘であちこちを壊してしまったのだから。でもまさかここまで影響があると思ってはいなかった。どうやっても登れそうにない。下に行けば何かあるのだろうか?行先をいきなり変えざるを得ず、不機嫌になる。

 「あーあ、まだ先になりそうじゃないか……」諦めるしかない。気持ちを強引に切り替えて下へと向かうことにした。途中、寝ぐらに寄って、鉱石をアーティファクトにねじ込んでみた。グニャリと一部が歪むと鉱石を飲み込んで白いスーツが少し赤みを帯びていた。とりあえずやってみるもんである。

 

 何十層も降りていくがかなり強くなったステータスのため、意外と楽に進むことができる。勿論警戒を怠ることはない。危険には気をつけているからね。徐々に強くなる魔物。警戒しても攻撃を受け、足を掬われたりと忙しい。倒しては進んで戻ってを繰り返して少しずつ進む。休憩しても魔物に襲われる。

 以前いた階層とは大違いであり、魔物の凶暴さが窺える。

 

 

 

 大部屋へ入った。久々で警戒していると、足元でカチッと音が鳴る。「くぞがあああああ!!」おきまりの魔法陣がわんさか出てきてサソリもどきやオオカミもどきたちをじゃんじゃん出してくる。何度目か分からない身体強化を使い、全力で逃げる。

「また、モンスターハウスを引いちまったのかよおおおお」嘆く。

 彼はついてないみたいだ。無我夢中で走って走って、走りまくると、何処だろう?とても深くまできたのかどうかわからない。

 

 

 嗅覚で辺を探るとなんだか不自然な匂いがふわりと香る。

 

「ピストルとかのニオイがするなあ、どういうことだ?」

 

 読者諸君はわかっているだろうが北城登がそのことを知る由も無い。足元には魔物の足跡ではなく、明らかな人間の轍がある。どんどんと近づくにつれて火薬と鉄の匂いと甘い甘い、嗅いだことのない匂いがする。

 

 物凄く興味をそそる。

 

 

 追いかけられ続けてフラストレーションが溜まっていた俺は欲望のままに"それ"がある方向へとズイズイ進む。ズイズイズイズイ。ズイズイズイズイ。

 

 「げ、魔物だ。」

 

 気分が良かったのにそれを削がれた。「邪魔。」風爪であっという間に倒す。

「たわいないなあー」と思ったらいたら、バゴンと背中を強打。何か起きたのだ。「ッ!」油断していた。死んだふりに気づかなかったのだ。以前の階層にも少しだけ出てきて攻撃を受けてしまったのにうっかり忘れていた。アーティファクトが無ければうっかりでは済まなかった状況に背筋が凍る。「風爪」 今度こそ倒す。確実に魔石を破壊し、慎重に進む。

 

 

 

 

 

 

 決して油断せず、必ず仕留める。魂に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 





 硝煙と花のアンバランスな香り、出会ったのは意外な人物。妖しく可憐に微笑む吸血鬼と白い魔王の登場。怪しげな彼らは一体?
 

 次回、「旧知」


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旧知


 できたよ


 

 

 

 

 

  ひたすらにニオイを追い続け、どんどんと下へ行く。樹海のような階層へと出る。例の火薬と甘い香り以外にむせ返るほどの血の匂い。ゆっくりと近づくと恐竜、確か小学生の頃見た図鑑では"ラプトル"だったか?

 それが此方へ向かって群単位で物凄い勢いをしてやって来る。何かから逃げるように走っていて俺の方を気にする余裕は無さそうだった。彼らが完全に通り過ぎたことを確認し、血の方向へ進む。ラプトルに似た魔物の死骸が転がっていた。頭に花がついたマヌケな格好のまま死んでいる。何処かから植物の焦げた匂いもする。謎すぎる階層。あちこち混沌としていてこちらが困惑してしまう。

どんどん草は深くなっていく。誰か倒れている。

 

 「多分、やっと人間に会えるわー」

 ワクワクして行くと、女性のような身体をした魔物だった。

 

「ええ……違うんかい……」

 

 期待が高かった分、露骨にガッカリする。女性型魔物、後で知ったがニセアルラウネというらしい。爆散していてぐちゃぐちゃの身体をじっくりと眺めていると気になるニオイがする。注意して嗅ぐ、くんくん。火薬のニオイだ。確信する。この魔物を倒した奴は上のニオイの奴と同じだと。希望が生まれる。誰だか知らないが下へ向かおうとする奴がいるのだ。

 どうにかしてそいつと会って、外へ出る手掛かりにしたい。草むらから俺は意気揚々に歩き出した。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

  あれから数日。未だニオイへ追いつくことが出来なかった。理由としては主に二つ。魔物が強力になっていく事だ。当たり前のことだが、下へ行くにつれて魔物はより強くなっていく。

 新たな魔物も登場するだけに攻撃の対応に困るのだ。毒を使って来るものや、回転して突っ込んで来る貝の魔物、沢山の強力な魔物たちと戦い続けた。ライバルとでもいう奴とも出会った。炎を纏った魔物、火男とでもいうべき相手、何度も何度も奴とは命の削り合いを果たしてきた。炎を魔法を使う魔法使いとしてお互いの全力をぶつけ合った。

 

 

 

 「ここで会ったが百年目。今日こそお前との決着を着けさせてもらう。」「ウゴオオオオオォォォォォォ」お互いに構える。人間と魔物、違う種族で言葉も通じない。

 否、言葉を交わす必要などない。お互いの闘いの中で心を通わす。自らの魂をもって会話をするのだ。漢と漢の闘い。

 

 先に仕掛けたのは俺。挨拶がわりの火球をぶつける。何のことなく弾く奴に接近して氷塊を魔法で生成し、ぶつける。シュュュュウと奴の身体から煙が上がる。何度も戦って奴に氷を打ち込むのは有効とわかっていた。だが、その程度ではくたばらない。

 負けじと身体から火炎放射を行い、焼き焦がそうとする。あまりの熱気に数度上昇し、戦いの気配を感じて漁夫の利を狙おうと、近くに寄っていた魔物を炭に変えた。

火炎を出しながら近づいて殴ろうとする。ただのパンチではなく、あらゆる物を焼く炎を纏った攻防一体の型に避けることしかできない。「チッ! 熱っ!」少し炎の揺らめきが当たってしまった。アーティファクトが焦げてしまっている。こちらも魔力放出による攻撃をしつつ、炎に触れないように魔力による鎧を形成する。透明な厚い膜で多少熱が伝わって暑いものの相手に触れることを可能にする。

 突然の鎧に警戒する火男だが「面白い。」というような表情をすると接近して殴り始めた。俺も拳で応戦する。バキッ、ドゴッとひたすらに殴り合う。お互いに何をするかが大体わかるために純粋な喧嘩が続く。  

 「オラッ」

 相手の頬を捉えて殴り飛ばす。追撃しようとするとカウンターを食らってこける。思いっきり蹴られてゴロゴロと転がる。俺はもう、魔力の鎧を保つのが難しくなってきたし、火男も最初の火と比べるとチロチロとして弱々しく感じる。

 お互いに後一発が限界と分かっている。

「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」魂からの唸りを上げ拳を互いに振りかぶる。

 

 拳は互いの頬に流れるように入っていった。正に相討ちだった。

 

 バタリと二人して倒れる。「ふはは」と笑いがこみ上げてきた。「ウォハハ」と相手も笑う。闘いの末に奇妙な友情さえ生まれていた。

火男はこちらに「こっちを向け」と仕草をすると身体が徐々に小さくなり、火が弱まってきている。「何事だ」と思った俺を察し、細い魔力の糸を伸ばしてきた。「腕でいいから繋げろ」と急かすのでスッと付ける。想いがながれこんできた。「私のライバル。こんなにも楽しい時を過ごしたのは今までになかった。本当に楽しかった。だが、楽しいことには終わりがつきもの。俺はもう、消滅寸前だ。こんなにもいい時間を過ごせたのはお前のお陰だ。友情、というやつなのだろうかこの感情は。俺の力、くれてやる。大事に使えよ。」一気に伝えられた。魔力の糸を通じて熱い意思が入ってくる。だんだんと俺の中へ力が入って行き、火男はフッと陽炎のように消えてしまった。

 

 

ステータスを確認してみる。

 

==================

 

 北城登 男 17歳 天職 魔法使い レベル97

 

 筋力:700

 体力:1000

 耐性:4000

 敏捷:500

 魔力:206000

 魔耐:10030

 

技能 言語理解 深化 [+第一段階] ・全属性適性・炎熱耐性・魔力操作 [+魔力放出][+魔力圧縮] [+身体強化] [+緊急自動防御][+炎化]

・想像構成 [+イメージ補強力上昇]・魔力変換 [+身体強化] [+体力変換] ・嗅覚 [+緊急臭気遮断][+悪臭耐性][+気配察知][+魔力探知]

・風爪 [+三爪][+炎爪] ・自爆[+防御貫通]・気配感知

 

 

===================

 

 

 レベルが2上がり、炎熱耐性や炎化というスキルに気配感知が追加されていた。奴のスキルだろう。ありがたく使わせてもらう。感謝するとどこからか声が聞こえた気がした。

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 進む。因縁のライバルとの決着を着け、力を受け継いで下へ降りて行く。また、大部屋だ。大体ここにくるとロクな事が無い。足元に気を付けながら歩いていると何かを踏んだ。「やば。」今度は何だと思いながら魔物の出現を警戒する。その瞬間だった。パカっと床が開き俺は落下した。「嘘だろ!嘘だああああああぁぁぁぁ……」俺の叫び声は延々と響き、部屋は何事も無かったかのようにその穴の蓋を閉じた。

 

 落下する俺。落下死なんてシャレにならないと魔力を張ってクッション兼身体保護を行おうとするものの魔力を使えない。焦る。 

 この落とし穴は魔力が使えなくなるいやらしい仕掛けがされていたのだ。先が空いているらしい。ニオイがする。火薬のだ!俺がそう思ってまもなく、地面とぶつかって気を失った。

 

 

 

 南雲ハジメとユエは困惑していた。目の前のいかにもラスボスといった扉。美しい装飾に目を奪われていると天井がパカリと開く。未だこの迷宮で見たことが無いギミックに警戒する二人。

 気配感知が何故か不能の中、しばらくすると穴からスポンとナニカが飛び出して地面に叩きつけられた。それは変態だった。ピッタリとした不思議なボディースーツを着た怪しい人物。魔力反応をしてみるととんでもないことになっていた。

 圧倒的な魔力。ユエも感じ取っていたのか恐怖を通り越して本当に自分の感覚が正しいのかどうか怪しんでいた。

 

「ねえ、ハジメ。」

「何だ?」

「これ……何だろう?」

「何か見たことあるんだよなあ、これ。何だったか」

 

 南雲ハジメは奈落に落ちる前に見た、とあるバグステータスを思い出す。あの異常な魔力値。心当たりがないわけではないが、その人物がここにいるはずが無い。ありえない。だが、ハジメの心中を裏切るようにその落ちてきた人はこの世界では珍しい黒髪に、見たことある顔立ちをしていた。「ユエ、聞いてくれ。」「何、ハジメ?」「こいつ、俺のクラスメイトだった奴だ。」「殺すの?」「邪魔するなら殺す

。まあ、ちょっとした借りがあるからな、叩き起こす。」

 

 「ん、うぅ……」痛みを感じながら、ぼんやりとした頭で目が覚める。前に白い髪の黒いコートを着た人間の男と美しい人間みたいな女がいた。男は俺に銃のようなものを向けている。「あんた達、誰?」とりあえず確認する。男の方が「南雲ハジメ。知ってるだろ、北城。」

 

「嘘だろ……、やっぱ嘘だろ。南雲はお前ほどデカくは無いし、そもそも髪が白くねえだろ。」

 

 胡散臭いことを喋り始めた自称、南雲ハジメだが、

 

「冷静になれよ、そもそも見ず知らずのやつが何で名前を知ってるんだよ、お前、寝ぼけてるんじゃねえの?」言われてみればそうだ。

 

「じゃあ、何でこんなとこ居るんだよ、つか、隣の人?誰だよ、明らかに何かヤバそうだろ。」隣の女がむすっとした表情をこちらへ向ける。

 

「言って無かったな、こっちはユエ、吸血鬼で色々あってこの迷宮内であった、俺のパートナーだ。」南雲がそう言うと一転、嬉しそうな顔をしている彼女が喋る。

「ユエ。よろしく。」簡潔にそういうと南雲は説明を続ける。

 

「俺はベヒモスがあの石橋を破壊して落ちたんだが、逆に何でお前こそここに居るんだ?」「なんかよく分からんが落ちた。」適当な俺の説明に頭を抱える南雲。

 

 お互いに情報交換をすると

 

 

 ・お互いに奈落に落ちた。

 

 ・この先はかつて、反逆者と呼ばれた者の部屋だと言うこと。

 

 ・これからそれにハジメ達は挑むこと。

 

 ・出るにはおそらくこの部屋をクリアする必要があること。

 

「なるほどねえ、クリアしないと出れないと。」「ゲームなんかでもラスボスクリアで脱出できるからな、おそらくそうだろう。」

 

「北城は挑むのか?」今までの雰囲気とは変わり、邪魔するなら殺すという視線。

 

「まあ、面倒だし、今更南雲パーティに入っても無理そうだし、任せた!」あっさりそう言うと予想外の答えに驚く南雲。

 

「なら、邪魔だけはするなよ。」さっさと二人は扉へ向かっていった。

 

 暇だなあーと思っていると、扉へ近づいた南雲の前に魔法陣が現れる。「部屋じゃなくてそこから出るのかー」さっさと逃げる。

魔法陣はベヒモスのものより巨大で描かれている式も複雑かつ精密な感じだ。強大なんて言葉で片付けられない、禍々しいナニカ。

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 

  現れたのは厄災だった。

 

 

 

 

 

 

 





 神話の大蛇。魔法使いと伝説級の力に立ち向かう者達。恐怖を乗り越え、明日を掴むことはできるのか?そして待ち受ける反逆者の部屋とは?

 次回、「秘密」


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秘密 その①


 

 投稿です。


 

 

 

 

 

 「デカイなー」頭が何個もある強そうな蛇。そんな小学生並みの感想を抱いていると、

 

 現れたヒュドラは目をギョロギョロして獲物を探す。自分の召喚された役目、即ち侵入者を撃退するためだ。近くのハジメ達を一瞥した後、遠くにいた俺の方も見る。

 

「正直関係ないから南雲達と戦っておいてほしいなあ。」虫のいいことを考えるが、相手方はこちらも侵入者と見做したようだった。鼓膜を破らんとばかりに吠えるヒュドラ。

 

「邪魔するなって言われてるしここから出てようかな。」

 

 そう思い、扉を開けようとするが……動かない。扉はうんともすんとも言わない。「マズいなあ、これは」あのヒュドラの大きさからして、俺の方に攻撃が飛んできてもおかしくない。しかし、ヒュドラはハジメ達に釘付けだ。

 早速、ヒュドラは火炎放射を近くにいるハジメ達へ放つ。赤い紋様が刻まれた頭が敵対者を焼き尽くさんとするその炎はハジメとユエが左右に避けることで回避された。回避と共にハジメが黒光りする銃、ドンナーによる一撃。赤頭は吹き飛ばされた。

 

 「ドンナーとか言う銃強いなあ。俺も欲しいけど使うの無理そうなのがなあ……」

 

 離れたところで残念がっていると、行動を起こしたのは白頭。

 

 「クルゥアン!」

 

 と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。白い光はあっという間に吹き飛ばされた赤頭を再生する。回復魔法を使えるみたいだ。

 ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

 青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメとユエが白頭を狙う。

 

 ドパンッ!

 

「〝緋槍〟!」

 

 閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメのドンナーもユエの〝緋槍〟も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「ちっ! 盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

 

 悔しがっているハジメ、けれど戦意はこれっぽっちも失われていない。

 ハジメが焼夷手榴弾を投げる。俺は慌てて魔力でバリアーを作って万が一に備える。 ハジメはドンナーの最大出力で白頭をを狙い、連射を開始した。ユエも先ほど使った〝緋槍〟を連続して放つ。

 

 黄頭がやらせまいとして攻撃を防ぐが、流石に幾分が傷がついていた。

 

「クルゥアン!」

 

 また回復した。その直後焼夷手榴弾が白頭に炸裂する。溢れ出した熱により悲鳴を上げている白頭。明らかな隙を逃すはずもないハジメにより、ユエとの連携攻撃が行われると思ったが、

 

 「いやぁああああ!!!」

 

 突然の悲鳴。錯乱するユエに近寄ろうとハジメ。だが、それをさせまいと必死に赤頭と緑頭が炎弾と風刃を放つ。

 

「あの黒頭だな、原因は。」冷静に高みの見物ができる俺はそう判断した。ハジメは赤と緑頭の攻撃を避け、ドンナーで打つ。ユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。同時に、ユエがくたりと倒れ込んだ。

 青頭が倒れたユエに大口を開ける。愛するパートナーの危機に突撃するハジメ。食われる寸前でユエの前に入り込むがパクッと食われる。

 

「おいおい、食われたぞ。こっち狙われるかな。嫌だなあ。」あまりの瞬間に目を覆ってしまう。あれ?よく見ると口を閉じさせないよう耐えている。

「頑張れ、頑張るんだ南雲!」ヒーローのピンチに応援しているとハジメは脱出し、頭を蹴り飛ばした。

 

 「あ、邪魔!」

 

 ヒュドラの巨体はハジメ達の方を見たい俺の視界を邪魔する。見ようと横へ移動する俺。再びハジメ達を確認すると、キスしている。「え、どういうこと?」状況がさっぱり飲み込めない、なんだこれ。駄々甘の雰囲気に砂糖を吐く俺。「ゴボッ、口の中がなんでだろう、甘い……」

 

 勿論、ヒュドラはそんなこと知ったことかと襲い掛かる。やる気になったように見えるユエ、「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」と以前よりキレのある魔法を有り得ない速さで放つ。

 

 攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメが狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

 すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。だが止まらない。壁を容易く破壊し、

 

 「「「グルゥウウウウ!!!」」」頭に直撃した。

 

 黒頭が何かしようとすると「……もう効かない!」精神力で何か弾いたようだ。愛の力の強さを見せつけられた気がする。黒頭は焦らず、ハジメへ魔法を使う。「それがどうした!」またもや弾かれた。精神力の強さに俺は驚嘆。続け様にドンナーで黒頭を吹き飛ばす。

 

 懲りずに白頭は回復させようとするが、背中に背負っているシュラーケン(名前がクラーケンみたいと俺は思った)と言う対物ライフルなんて代物をなんと空中で構えて照準する。

 

 

 スパークが走り、轟音が鳴る。弾丸は一筋の光となり、白頭と守っている黄頭ごと貫いた。貫いた弾は止まることなく後ろの壁を粉砕し、この階層を、空気そのものをゴゴゴゴと震わせる。

「やったぜ!すげえ、かっけえなあ。」俺はヒーローの如き南雲の活躍に興奮している。残っていたのはポッカリとあったはずのその部分が消滅している首と壁に穿たれた深い、深い穴だった。

 あまりの光景に残り三つの頭はハジメを見て、口をあんぐりとさせている。

俺も口をあんぐりしていると

 

 「〝天灼〟」

 

 ユエの唱えた一言は6つの雷球を発生させ、放電した電気がつながると中央により巨大な雷球を生み出す。中央の雷球か弾けるとユエの怒りを表すような荒々しい破壊力を持った電撃がヒュドラを焼く。

 しばらくの間この世のものと思えないほどの絶叫が続くがそれもじきに消えてしまった。残ったのは消し炭のみだった。

 

 いつもの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。俺には目さえ向けてこない。まあ、そりゃそうだが。シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

 その直後、

 

「ハジメ!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨へいげいしていた。思わず硬直するハジメ。

 

「まあ、ここまで来たら俺の出番だな。」

 

 カッコつけた俺は魔力噴射により一瞬で銀頭の前に飛び出す。勢いにおっとっと、とよろける俺。「お前……」とこれまで何もしてこなかった俺の突然の行動に驚く南雲。

 

 変なのが出てきたなという顔を多分している銀頭がは俺達に向かって攻撃すると思ったら、視線をユエへと向ける銀頭。

 

 「へ?」

 

 攻撃されると思い、防御体勢を取っていた俺は動けない。予備動作なく銀頭は極光を放つ。ハジメは銀頭がユエへ視線を向けた時点で、悪寒を感じて飛び出していた。

 

 青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。だが、その結果は全く違ったものだった。極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。

 

 極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。

 

 ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。

 

「ハ、ハジメ?」

「……」

 

 ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。

 

「ハジメ!」

 

 ユエが焦燥に駆られるまま痛む体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメの下へ今度こそ駆け寄った。

 

 うつ伏せに倒れこむハジメの下からジワッと血が流れ出した。(やばーどうしよ。カッコつけた割に何もしてないやん……俺。)かなり焦っている俺。南雲の方を見る。

 仰向けにした南雲の容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼き爛ただれ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

 

 ヒュドラはお構いなしに光弾をガトリング弾のように乱射する。「おい、柱の陰に逃げろ!」ハジメ達を守りつつ、そう言うとさっさとユエは陰へ瀕死の南雲を連れて行った。

 

「あ〜くそ、うざってえなあ!」

 

 かなりの速度で乱射される光弾に逃げる。柱の陰から現れたユエがハジメのドンナーで銀頭を打つ。

「あ、おい、なんでおい!」突然攻撃するユエに叫ぶ。魔力不足で魔法は使えず、ドンナーで光弾を打ち落とす技量もないので当然打ち落とせず、肩に受けてしまった。

 自動再生も気のせいかゆっくりな気がする。殺らせはせんとユエを守る。

「おい、なんでボロボロのくせに出てきたんだ?やられてちまうぞ!」

 

「うるさい!お前は……」叫ぶ力もないようだ。

 

 状況打開のため、ユエはドンナーで銀頭に引き金を引く。残り少ない魔力で電磁加速された弾丸。

 

「どうだ?」それなりに威力が出ていたはずの弾は体表をほんの少し傷つけただけだった。

 

 とにかく回避に徹する。

 

「ぐわっ」俺は威力のある攻撃をくらって吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……マズいってこれ……」

 

 起き上がると腹に光弾をもらったユエを見た。絶望的状況。勝った、負けろこのクソが!と言わんばかりに

 

「クルゥアアン!」と叫ぶと光弾を放った。

 

 

 

 一陣の風が吹く。ハジメだ。南雲ハジメがユエを抱き上げて回避したのだ。ゆらりゆらりと緩慢な動きだが避ける、避けるのだ。

 

 ハジメとユエの距離が近くなるとユエはハジメの首へかぷりと噛み付いた。吸血を終えたユエを柱の陰へ降ろし、再び駆け出す。軽やかに駆け、光弾を躱していく。全然ハジメに当たらないことに業を煮やした銀頭は闇雲に撃ち出す。

 ニヤリと笑みを浮かべたハジメはドンナーを撃ち尽くすと空中を駆け出し、ある箇所へ6連射。天井は耐えられず、崩落し、下にいる銀頭を押しつぶす。

 ハジメは攻撃の手を緩めない。ただの質量で倒せたら苦労しないのだ。押しつぶされ身動きが取れない銀頭に接近し、錬成で崩落した岩盤の上を駆け回りそのまま拘束具に変える。同時に、銀頭の周囲を囲み即席の溶鉱炉を作り出した。その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。

 

「ユエ!」

「んっ! 〝蒼天〟!」

 

 即席溶鉱炉の中で青白い太陽はあらゆる物を溶かし尽くす。銀頭の頭は融解していく。中に同時に放り込まれた爆薬もダメージを与えていた。

 

「グゥルアアアア!!!」

 

 死にたくない、銀頭の悲鳴が響く。尚も暴れる銀頭は光弾をでたらめに撃つ。打ち崩される壁だがハジメの錬成によって修復されて行く。

 

なす術なく銀頭はドロドロと溶けていった。

 

 ほっとしたハジメはバタンと倒れた。

 

「ハジメ!」

 

 ユエが慌ててハジメのもとへ行こうと力の入らない体に鞭打って這いずる。

 

「流石に……もうムリ……」

 

 何とかハジメのもとへたどり着いたユエが抱きついてくる感触を感じながら、ハジメはゆっくり意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

「俺要らなくね?なあ、そう思わないか?」

 俺は寂しく一人ぼやいた。

 

 

 

 

 




 今回は長くなったので二つに分けます。


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秘密 その②

ヒロインって……何だろう(哲学)?



 

 

 

 長かったように感じたヒュドラとの戦いもこうして南雲ハジメとユエによって勝利した。

 

 

 

 傷だらけの勝利者を癒すため、扉を開けて反逆者の物と思しき部屋へ入っていく。扉の先は地上のようだった。草木が生えていて、小川はせせらぎ、太陽代わりであろう球体は薄く光っている。ここが地上でないことは十分理解しているけれどあり得ない光景に度肝を抜かれる。

 

 だが、俺は取り敢えず南雲を何処か寝かせれそうな場所に運ばなければならない。探して周るとベットを見つけた。

互いに無言。黙々と運んでそこにあったベットにゆっくり、そしてそっと南雲を寝かせる。「後は私がやる。」「頼むわ。」ほんの少し言葉を交わす。

 彼女曰く、神水なる不思議アイテムで南雲がどうにかなるらしい。俺は静かにベットの部屋を出た。

 

 

 

 情けない。

 

 

 格好つけて飛び出してやったことはただの盾。俺はなんなのだろうか。

 

 異世界に来て膨大な魔力を手に入れて、漫画やゲームの主人公みたいなヒーローに成れると浮かれていたのだ、今の今まで。あのクソでかい蛇にびびって逃げ回って隠れることしかできなかった。

 南雲は凄い奴だ。髪が白くなるようなストレスに晒されて、片腕を失いながらも進み続けてあの化け物も倒してしまった。格上に逃げ回るだけの俺と違って、明確な意思がある。そんな南雲に憧れ、俺は自分自身がイヤになる。

 

「もう、どうすりゃいいのさ……」

 

 この世界さえ、何かの大きなゲームですぐに出れるだろうみたいな馬鹿馬鹿しい考えがあった。頭なんてイカれてしまった。早く新しい自分にならないといつか死んでしまうだろう。それだけは嫌だ。死ぬようなことは嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事をひとりボソボソと呟いていると、もう、日は暮れていた。

寒い。思ったより寒い。アーティファクトを身に纏っていても、やはり寒いものは寒いのである。

 寒さで今まで考えた事が吹っ飛んでしまった。急いであの大きな石造りの家へ入る。

 中は外と同じように豪華な洋館と言った感じ。玄関は吹き抜けになっていて、三階までありそうだった。暖かみのある昔の電球に似た色の光球が俺には眩しかった。

 リビングやソファつきのリビング。台所やトイレ、果てには暖炉なんてものまである。「一応、探索しておこうかな。」探索をしていると誰も使っていないだろうこの洋館があまりに綺麗すぎることに気がつく。

 

「どうせ、魔法かなんかだろう。」

 外の様子などからして何かの魔法を使っていることくらいは推測できた。

奥へ、奥へと進むと外。大きな円形の穴があり、淵にライオンの頭に似た彫刻があった。近づいて見てみると、魔法陣。魔力を注ぐとライオンの口からドボボボッと勢いよくお湯が流れ始めた。

 

「おおっ、異世界でもこんなバブルみたいな風呂あるのかあ。」

 しばらく待つと湯船は満たされた。湯気が立って、暖かい。

 

 そっと手をつけると熱いがちょうどいいだろう。さっとお湯を体に掛けてゆっくり浸かる。

 

 「ふうううー気持ちいいな〜」久々の風呂はとてもいい。これまでの疲れも吹っ飛んでいくみたいだ。

 

 のぼせてきたので上がる。

 

「牛乳の一杯でもあったら最高なんだがな。」

 アーティファクトを再び纏って風呂から出た。探索を続けようと思ったが、なんだか眠くなってきた。別に起きてからやればいい。そう思い。ふらふらとソファの元へ行き、もたれると俺は眠りへと誘われていった。

 

 

 目が覚めた。少し身体が痛い。ソファで寝たからだ。お腹が空いたので何かを作ろうとする。畑があったから何かしらあるだろう。数々のぶっ飛んだ魔法技術に驚かされてきたので食物の一つや二つ作れる……はず。

 

 

 あった。おそらく何かの卵。日本でよく見かける鶏のそれより少しばかり大きく、ザラザラとしていて、表面は薄緑ががっていた。

パカリと綺麗に割った卵は新鮮で、綺麗な目玉焼きができた。

 

 恐る恐る食べる。

 

 

 美味しい。見た目は普通の目玉焼きだが、こんなにも美味しいとは。

 

 

 

 

___________

 

 

 

 食べ終えた後、とにかく暇だった。なので居眠りしようとすると誰かがこの家へ入ってきた。

 

 二人くらいの足音、おそらく南雲達と予想する。

 

 

 やっぱり。

 

 

 

「よお、南雲。元気?」この部屋に入る前に驚かせてやろうと突然話しかける。驚いた南雲とユエは一瞬身構えるがすぐにそれを解く。

 

 どことなくイラついた顔をしている二人。ドッキリ成功である。そう思ったが二人が怖い。

 

「……なんだ、北城か、何というか、色々と言いたいことがあるが、あの戦いでユエを助けてくれたことにとりあえず感謝する。ありがとう。」何だか申し訳ない。「驚かしたのはすまんかった。」

 

 思わぬ一言が南雲から出る。

 

「あと……、服を着てくれ。」

 

「服あるのか、なら、貰おう。」

 

 聞いたところ、反逆者のものと思しき男物の服で何着もあるそうだ。

 

「俺達は先に行ってる。」そういうと奥へと進んでいった。

 

 

 服がおいてある場所を教えてもらったので、そこでシャツへ着替える。とても綺麗なシワひとつないシャツ。着替えるときにアーティファクトを体から剥がすが、思えばずっと身につけていた。なんだかんだとても便利なアーティファクトに「球に戻れ」と念じるとギュルギュルと音を立てて元の白い球体へ戻った。

 

 着替え終わると特にすることもないのでリビングへ戻り、ソファでゴロゴロしていた。

 

 

 

 3時間くらい経っただろうか、南雲たちがリビングへやってきた。

 

 南雲たちによると反逆者のホログラム映像のようなものを見たらしく、親切にも内容も教えてくれる。

 実は反逆者は解放者という神々から人間を解放しようとした存在であったこと、迷宮を作ったのはオスカー・オルクスなる人物ということと要点をざっと話してくれた。

 

 「お前はこれからどうするんだ?北城。」

 

 そう問われるも返答に詰まる。おそらく地上では死んだものとされているだろうし、今更勇者しようなんて思わない。かと言ってしたいこともないからとりあえず聞いてみた。「南雲はどうすんの?」

 

「うん? 別にどうもしないぞ?この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、地球に帰る。それだけだ。」

 

 あっさりそう答えてしまって一瞬ポカンとなる。なるほどなーと思いながら

 

「とりあえず、今はここを出ることにするよ。」

 

「そうか。」

こんな感じで俺の方向性が決まった。

 

 

 あれから二ヶ月ほど経った。俺の寝床はソファからレベルアップしてベットに進化したりとあったがなんだかんだ過ごしている。解放者オスカーが残したアーティファクトを発見したりして、俺たちの戦力強化にも繋がっている。南雲の方はカッコいい4WDなどを作っていた。

 

 少しばかり羨ましく思った。義眼や義手も作り上げていて南雲のトンデモ技術力に何度も驚かされたが、他にもどんどん地球の現代兵器をポコシャカ生み出していく姿にもう驚くのも億劫になってきてしまった。

 

 南雲とユエはこの地下の楽園生活を見る限りとんでもない仲の良さが窺える。基本的に俺と南雲たちは別々の部屋で寝ているが二人の仲の良さは朝方の様子から察することができたし、二人の醸し出す雰囲気に凄まじく気まずくなってしまったことも多々あった。

リア充爆発しろ。そう思うのも仕方がないことだ。

 

 

 

 いよいよここから出る日がやってきた。前日はしっかり寝た英気を養っているから元気百倍である。俺がまだ行っていなかった3階の部屋へ移動する。

 

「ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん……」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん……」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更……」

 

もう魔法陣を起動していた……しかも結構気まずい。

 

「あの…よろしいでしょうか……?」

おずおずとお二人に声を掛けると「「あっ」」という顔をしていた。

 

 南雲は赤い顔を誤魔化すように咳払いをすると

 

 「俺がユエを、ユエが俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう。」

 

 

 俺だけ蚊帳の外みたいだが脱出開始だ。

 

 

 魔法陣は唸りを上げてその役割を果たそうとする。

 

 一瞬の浮遊感と共に俺たち三人はその部屋から姿を消した。

 

 

 

 

 

 





ウサギヒロインがいいのだろうか……


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ライセン大峡谷編
新たなる出会い


ようやく地下から出れそう。






  

 

 光が収まるとそこは洞窟だった。

 

「なんでやねん」と南雲は思わず口に出してしまった様だった。

確かになんでやねんと言いたくなるのも分かる。地上にようやく出れると思ったら洞窟の中だったのだ、だが、魔法陣のミスとも考え難い。

 

「どういう事なんだろう?」

するとユエが「……秘密の通路……隠すのが普通」と推測を話した。

 

 確かに言われてみれば納得である。あの迷宮を作ったのは地上では反逆者と呼ばれた者の一人、オスカー・オルクスであったのだ。反逆する様な人間がバレにくい洞窟内に造るのは当然と言えば当然である。

 

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

 とにかく外に出る。それを目的に歩くが幾つかトラップや封印された扉もあった。南雲が持っていたオルクスの指輪はそれらに逐一反応して解除していった。俺たちは思ったよりも楽に進む事が出来た。特に戦闘なんかも起きず進む。

 

 

「光だ……」

 つい口から溢れた言葉。洞窟内に差し込む光は暗闇の中の俺たちにとってとても眩しく、懐かしい暖かさがあった。

 

 

 

 光を見つけた瞬間、思わず立ち止まり三人がお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 

 

 

 地下の鬱屈とした空気と違い、新鮮で生きている空気が肺を満たす。

 

 

「よっしゃ、地上だ!」三人は遂に地上へ帰還を果たす。

 

 

 

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の[グリューエン大砂漠]から東の[ハルツィナ樹海]まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 [ライセン大峡谷]と。

 

 彼らはこの大峡谷の谷底にある洞窟の入り口に立っていた。ここは地の底であるが、地上である事には間違いない。真上の太陽が祝福する様にさんさんと輝く。

 

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっーー!!」

 

 小柄なユエを抱きしめたまま、南雲はくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

 楽しそうな彼らについつられてハハハと笑みが溢れる。

 

 

 

 

 勿論、凶悪な魔物の溜まり場に少しでもいればヤツラは嗅ぎつけるわけで……

 

「おい、そこまでにしとけよ。(羨ましいなあ)」

 

「本音が隠しきれてないぞ、北山」意地悪そうにそう言うが、魔物を確認しつつ、ドンナー・シュラークを抜く。

 

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

ハジメは座学に励んでいた為、この大峡谷の持つ厄介な特性、即ち魔法を使用する事が出来ない事を知っていた。

 

「……分解される。でも力づくでいく」

 

魔法が使えない理由として、込めた魔力が分解されてしまうのであるが、

ユエ曰く、分解される前に大威力をもって殲滅すればよいらしい。

勿論それはユエの内包魔力がかなり多い事と、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している事から為せる技である。

 魔力値だけなら無駄に高いノボルも同じ様にごり押しで立ち向かうしか今の所方法は無い。

 

 

「力づくって……効率は?」

「……十倍くらい」

 

「あ~、じゃあ俺がやるからユエは身を守る程度にしとけ」

「うっ……でも」

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」

「ん……わかった」

 

「北山のフォローは最低限しか出来ないからな、その馬鹿魔力で雑魚を蹴散らしてくれ」

 

「了解でーす」

 

ユエが此方をジトッと見て、渋々といった感じで引き下がる。

 

 同じ魔法タイプであるが南雲と共に戦う事に少しばかり納得がいかない様だ。

 

 南雲はそんな様子に苦笑いを浮かべつつ、ドンナーから鉛玉を撃ち込む。

 

 あまりにも自然な流れから鮮やかに決まった攻撃に魔物達は凍りついた。

 

「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

 

 不適な笑みを浮かべた南雲をきっかけに殲滅が始まった。

 

 

 圧倒的な火力の前に死屍累々の山を築くのに五分と掛からない。

 

「はぁ、はぁ、南雲、お前の火力頭おかしいって……」

 

「これくらいどうって事ない」事も無げに言う南雲。

 

 その傍に、トコトコとユエが寄って来た。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

「……ハジメが化物」

 

「それ、同感」俺も相槌を打つ。

 

「ひでぇ言い様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

 話題は転換し、

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「「……なぜ、樹海側?」」

 

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

 

「……確かに」 「そうだな」

 

 ここから動くためにハジメは中指の"宝物庫"に魔力を注ぎ込み、

"二つ"の魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

 

「ありがと、南雲」 「じゃあ、借り一つ」人差し指を立て、そう言う南雲、ユエはと言えば既に南雲の腰にしがみついていた。

 

 静かに音を立て、タイヤは駆動し出した。

 

 二人乗りに軽快に付いて行くと、南雲が現れる敵をジャカジャカ倒してくれるので快適に進められた。

 

 魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

 だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

 俺たちは魔力駆動二輪を止めてうろんな眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

 

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「……」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「……聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

「……ウサミミ」

 

 

 ハジメとユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想はないらしい。別に、ライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることからウサミミ少女が犯罪者であることを考慮したわけではない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。

 

だが、そうは問屋が卸しても俺は卸さない。一応、南雲には言っておく、「南雲、ケモミミは日本の誇るべき文化と俺は思うんだ」

 

「「は?」」

二人の何を言ってるんだコイツという視線を受ける前にずっと持っていたアーティファクトに無理やり大量の魔力を捻じ込んで双頭ティラノの口に思いっきり投げる。

 

 綺麗な放物線を描き、口にするりと入ったアーティファクトをゴクンとティラノモドキは飲み込んでしまった。

 

 一瞬止まったティラノモドキにウサミミ少女は驚くが、南雲とユエも突然の奇行に同じくらい驚いていた。

 

 

 

 

 ずっと考えていた。俺は魔力だけで特にそれ以外が凄いわけでもない。高くてもユエの様な魔法の扱い方は出来ない。南雲の様に何か作ったり、銃を上手く扱えるわけでもない。俺にあるのはアーティファクト。なら、この球のまだ隠されている性能を引き出そう。

 迷宮での日常はそれに費やされた。研究により生まれた新たな攻撃手段。

 

 

 「膨張しろ」

 

 俺がそう命令すると、アーティファクトは膨張を開始する。

 

 研究結果の一つとして、形を変化させられるこのアーティファクトは魔力を吸わせる事で体積を増やせる事が分かった。この場では分解されるとは言え、文字通り膨大な魔力を詰め込んでいたアーティファクトに無理やり魔力を捻じ込んでやる事により、双頭ティラノを破裂させれるくらいには膨張出来る。

 

 最初は何か詰まった様な表情をしていたティラノモドキ。だんだんと苦しくなっていくが内部からの圧迫に耐える事は出来ない。

 

ベチッ、ミチッと鳴る。ウゴゴ、ギャオオオオオと悲鳴を上げるがもう遅い。

 

 膨張したアーティファクトによってブクブクと膨れていた双頭ティラノはパン!と弾けた。

 

 咄嗟にユエに掛かりそうな血から南雲が庇う。

 

 

「よーし、成功したか!」

 

 うきうきと近づいてアーティファクトを拾うと共に、近くにいる血塗れになったウサミミ少女に話しかける。

 

「おーい、大丈夫?ごめんね、血塗れにしちゃってさ、悪いと思ってるんだけど……あれ?」よく見るとウサミミ少女は白目を向いている。気絶してしまったらしい。担いで南雲達の所に戻る。

 

「これ、持ってくけどいいか?」

 

「自分でなんとかしろよ、俺は知らん」

 

「……女の子の扱い方雑」

 

 未定だが、俺たちのパーティにウサミミ少女?が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 




 かんたん神話キャラ紹介

 オルクス

 古代エトルリア人に信仰されていたローマ神話に登場する死の神。
墳墓や壁画に巨大な姿でよく描かれている。




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君の名前


久々に書きました。



 

「う、うーん……ここは……どこ?」

 どうやら少女は起きたらしい。

 

「こんにちは、君が気絶していたからここら辺まで連れてきたんだ」

「きゃぁああああー!」

 

 彼女は叫ぶと一気に後ろに下がった。気が動転しているのだろう。

 

 

 「あっ、あ、あの、ダイヘドアは、どうなったんですか?」

 おそらくあの恐竜モドキのことだろう。

 

 「倒しておいたよ。何かまずかった?」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 「あのさ、君の名前教えてくれない?君呼びだけじゃ不便だし」

 彼女は落ち着いて自分の名前を語った。

 

 「し、シア・ハウリアです」

 「シシア?」 「シアです!!」頭はどうやら大丈夫そう。

 

 

 初めて見るウサギの亜人に緊張していたが、意外にも話は通じるらしかった。

 

 

 

 

 南雲たちがやって来た。

 

 「お前もやらかしてくれたな」

 

 「きゃっ、だ、誰?」

 「おい、南雲驚かすんじゃねえ」

 「……ハジメ?」

 

 軽く自己紹介した後、

 

 「南雲、ユエ、シアからのお願いがあるらしいんだが」

 

 「何?」「……?」

 

「私の家族を助けて下さい!」

 

 静まり、緊張感の漂う空気。南雲の答えはー

 

 「イヤだ」

 

 それでもと必死に懇願をする。相当強くユエに蹴りを食らっていて、正直痛々しい。頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

「なんで面倒事を持ってくるんだ……?」

 

 頭をかきながらそう言う南雲。俺は彼女が邪魔な事を十分に理解はしているのだが、それでも目の前の彼女を放っておくのは気が進まない。

 

 あまりにもしつこい様子に、南雲はバチバチバチと〝纏雷〟を浴びせ る。

 

 

 「アババババババババババアバババ!?」

 

 電撃で体がガタガタ震え、ビクビクと痙攣している。

 

 「北山、お前どうする?」

 

 「……助けたからには責任を持つべきだよなって言ってもなあ」

 

 「ほっとけばいいさ、一度助けたからってその後の面倒を見る筋合いなんて無い」

 

 「まあ、この世界的に考えるしかないな」

 

 「ユエ、行くぞ?」

 「ん……」

 「……」

 

 少しの心の引っ掛かりを残しつつ、その場を後にしようとすると……

 

 「に、にがじませんよ~」

 

 思わず南雲は足元を見る。するとウサミミ女が幽鬼のごとく足に強くしがみ付く。

 

 「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」

 「……不気味」

 「……」

 「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! あと、そこのあなた!仲間を説得してくださいよ! さっきのは説得する流れでしょうが!! お詫びに全員私の家族を助けて下さい!」

 

 

 あまりのしぶとさに三人は「「「マジでこいつどうしよう」」」

と考えが一致していた。

 

 俺に恨みがましい視線を向けた後、執念深さに根負けした南雲は

「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」

 

 

 話を聞いてやると言われ、花のような笑顔を浮かべたシアは、これまたさり気なく南雲の外套で汚れた顔を綺麗に拭った。

 

 

 何気にちゃっかりしている。イラッと来た南雲が再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

 

 非常にぐだぐだとした会話が続く。胸部の話でユエの静かなる怒りがシアに降り注いだりと、何気にとんでもない事が起きているが、ぐだぐだにひと段落着くと、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛ける俺達の前で座り込む。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 真面目な表情で話したのはわりと深刻な内容。

 

 ハルツィナ樹海でハウリア族は暮らしてた

    ↓

 シアは亜人族にない魔力持ち

    ↓

 バレたらまずいから隠そう!

    ↓

 バレたから逃げよ

    ↓

 帝国に見つかっちゃったよ……

    ↓

 この大峡谷まで命からがら逃げてきたよ

 

 という感じだ。そもそもシアを見捨てれば良い話なのだが、ハウリア族は情が深く、そんな事を考えもしなかったそう。

 

 人間に捕まればまずシアの命なんて無い。亜人族はそもそも人間族や魔人族から差別を受けており、奴隷にされたり酷い扱いを受ける事もざらではないという。シアは魔力を操る事が出来る。そんな魔物そのものでしか無い能力なんて魔物を忌み嫌っている人間からすれば不倶戴天の敵であるとしか言いようがない。

 

 勿論それは帝国も例外では無い。帝国に見つかってからは男達が女子供を逃がそうとする。温厚であるハウリア族はそもそもの攻撃力が高くなく、帝国兵とは比べる事が出来ないほど弱い。数を減らしながらなんとか大峡谷に逃げてきた彼ら。魔力が霧散するこの場では流石に追ってこず、すぐに帝国兵も帰るだろう。

 

 そう考えたのが甘かった。

 

 帝国兵はいつまでも入り口に居座った。峡谷から出ることが叶わないが、泣きっ面に蜂と言わんばかりに魔物は襲い来る。こればかりはどうしようも無い。死ぬのは御免だと帝国に投降しようとするも、魔物は獲物が逃げる事を決して許さない。結果としてより奥へ奥へとハウリア族は逃げなければならなかったという訳。

 

 

 「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。

助けてあげたくなる心からの懇願。でもまあ助ける意味もないし、何もなしに助けてやるほど聖人ではない。帝国とやらに喧嘩を売ったとしても良いことなんて一つもないし、本当にどうしようも無い。

 

 

 案の定、南雲の答えは……

 

 

 「断る」

 

 

 静粛な空間にはやけに響いた。

 

 

 

 

 

 

 「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

 

 南雲が魔力駆動二輪に跨ろうとすると物凄い勢いで抗議の声を上げる。

 

「あーめんどくせぇな、おい、北山なんとかしろ」

 とんでもない無茶ぶりだ。

「別ルートに分かれるか?」

 そう提案すると

「いいぜ、俺は構わん、ユエもそれで良いか?」

 

「……私はハジメと一緒」

 

「決まりだな」

 

「って、ちょっと待った!この人なんか頼りなさそうだし、人数多い方が問題解決しやすくなるでしょうがぁ!!」

 

 さりげなく俺をディスり、わんわん喚くシア。

 

 南雲はため息をつき、ジロリと睨む。

 

「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」

「メ、メリット?」

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

「うっ、そ、それは……で、でも!」

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

 さっきから一部に意味不明な言動があった彼女。南雲は諸々の疑問に対して尋ねた。

 

「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 何故か今回だけそちらの方に助けられたのですけど、まあ、気にすることではないですしね!」

 

 

 未来視は便利ではあるが自らの危機などで自動的に発動することもあり、任意で発動する程では無いにしろ、多量の魔力を消費するそうだ。

 

 

「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」

 

 当然の指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。

 

「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」

 

「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」

 

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」

 

「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」

 

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

 

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」

 

 呆れたようにそっぽを向く南雲にシアが泣きながら縋り付く。

 

「……ハジメ、ノボル、連れて行こう」

「ユエ?」 「自分で言うのもなんだが正気か?」

「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

 ユエの言葉に南雲は訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。

 

「……樹海の案内に丁度いい」

「「あ~」」

 

ハジメも納得したようであるがしばらく思案していると、

 

「……大丈夫、私達は最強」

 

南雲の決心も固まったようで、

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の底で悪魔の囁きに無垢な少女は染められる。

 

 

 

 

 

 





推理小説系をありふれでやるみたいなネタ思いついたんですけど、完全にドラマにハマった影響だこれ。


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耳のいい仲間


とーこーです。


 

 

 (ええええぇー何かとんでもなく物騒なこと言ってるよこの人……)

 

 想像を越えていた、まさか命を要求するなんて思いもしなかった。地球にいた時の南雲ハジメからは到底考えられないだろう。

 

 

 

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

 俺の心中とはうって変わってシアは安堵の表情を浮かべ、嬉し泣きをしている。

 

「ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」

 

「あの……後ろってどっちに……?」

 

「んータンデムシートも無いし、北山の後ろにでも乗れ」

 

 くいっとこっちに視線を向けられる。人を後ろに乗せるのは不安があるが、なにより一応ウサミミ美少女であるシアを後ろに乗せるなんて心臓が何個あっても足りない。

 

「うぇ! ヤダよ〜」

 抗議の声を上げる。

 

「面倒だからさっさと後ろに乗せろ」

 ヒエッ、南雲のこれ以上面倒を増やすなと、刺すような視線が俺に刺さる。

 

「……はあ、はいはい、わかりましたよー、乗せりゃいいんでしょ、乗せりゃ」

 

「私の扱い酷くないですかぁ〜」

 無論、黙殺。

 

「ほら、乗れ」

 

 シアは目の前の魔力二輪に困惑しているようであるが、恐る恐る後ろに乗る。

 

「振り落とされんようにしっかり掴まれよ」

 そう言うとシアは俺にグッとしがみつく。同時にムギュッと柔らかい物が背中に押しつけられる。

 

 

「ふっ!」

 思わず声が出てしまう。

 

「どうしたんですか?」

 何も知らない彼女に「貴方の胸が押し付けられて興奮しました。」なんてバカ正直に言えない。ああ、最低だ、俺。

 

 何も知らない彼女と違い、南雲とユエはナニかを察したらしく、ははーんと少しニヤけた面になっている。

 

 

 

 あーあー何も聞こえないし見えてなーい

 

 

「おい、南雲さっさと行け、行かんかい!!」

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう? それに、ノボルさん魔法を使ってましたよね? ここでは使えないは」

 

 グオングオンと唸りを上げたエンジン、魔力二輪は悪路を爆走し始めた。

 

「きゃぁああ~!」と悲鳴が流れるように響いたのは言うまでもない。

悲鳴が上がる度に背中に生まれる心地良い触感は罪悪感と高揚感を生み出した。

 

 

 

_______________

 

 

 谷底では有り得ない速度に目を瞑ってギュッと俺ににしがみついていたシアも、しばらくして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。俺がカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にきゃっきゃっと騒いでいる。正直鬱陶しい。

 

 「そういや、質問に答えてなかったな」

 ふと思い出したが、シアも「あ〜そういえばそうでしたね、教えていただけないでしょうか?」

 

 俺は、道中、魔力二輪の事や魔法を俺以外のハジメやユエも使えると言う事とその理由、おまけに南雲の武器はアーティファクトみたいでその形はカッコいいものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、お三方は魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

 

「まあ、そうなる」

 あっけらかんと言うとシアは口をポカンと空けている。

 

「口乾くぞ」

 そう言ってもしばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に俺の肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「げ、何かやっちゃった?どうしよ、えっと、大丈夫か?頭」

 

「……!! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

 俺の思い過ごしだったみたいだ。後、みっともない所を見せてしまって恥ずかしい……

 

 

 

 暫くの無言が続いた後、

 

「なんていうか、慰めではないけど、良かったな」

 

 彼女はこれまで同じような仲間が居なくて孤独だったのだ。いくら同じハウリア族といえど、真に彼女を理解する者が居たのかと言われると居なかったのだ。姿形は全く同じでも全く違う。家族はなんとも思っていなくても、精神的孤独を抱えることも無理はない。愛情深いハウリア族であるからこそ感じるものもあろう。彼女がやたらと明るい性格なのも心の内の疎外感を覆い隠してしまうためだと考えれば不思議なことではない。

 

「へぇ〜 私の事ぞんざいに扱ってたのに少し意外ですね! もしかして、私に惚れちゃいましたかぁ? まあ、美少女だから仕方ないですけどねえ!!」

 

 ふん!とドヤ顔が後ろにあるのがよく分かる。

 

「はいはい、美少女、美少女でござんすよ」

 

「なっ! 適当すぎます! もっと心、心を込めてくださいよ!!」

 

 やいやいと騒がしいがとても賑やかな事は間違いない、向かい風でさえ心地よく感じた。

 

 

「! ノボルさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

 

「あ~、耳元で怒鳴るな!」目的地に近いそうなので

 

 

「おい! 南雲! もうそろそろ着くから速度上げてくぞ!」

 

「ああ! 分かったよ!」

 更にエンジンは回転数を加速的に増加させる。

 

 そうして走ること二分。少しぶつかりそうになって偶然であるがドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

 

 ハウリア族が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰から特徴的な長い耳だけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

 

 そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、迷宮でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言う「ドラゴンか?」「いや、ワイバーンのほうが姿形から言って近い」

 

 体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、先端は刺々しいボールの様な物がついている尻尾を持っている。尻尾に当たればただでは済まないだろう。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

 どうやらあの竜はそんな名前らしい。ハイべリアは六匹がハウリア族の頭上をグルグルと旋回している、まるで獲物の品定めをするようにだ。

 

 ハイベリアは突然動いた。岩の間で怯えている獲物に向かって急降下し、グルンと回転して岩に先端を叩きつける。

 

 岩は木っ端微塵となり、わらわらと逃げる獲物。

 

 ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

 もうダメだ。

 

 

 周りの兎人族も、その二人も絶望した。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは決して有り得ない。

 

 なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物がいるのだから……

 

 ドパンッ!! ドパンッ!!

 

 似つかわしくない銃声が二発。

 

 正確な射撃はハイベリアの眉間に一発命中して頭部を爆散させ、その巨体は崩れ落ちる。

 

 何が何なのか理解が叶わないハウリア族とハイベリア。

 

 それと同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。

 

 どうなっているんだと、家族が一先ず助かったことよりも別の何かへの恐怖が押し寄せる。

 

 発砲音が何回が鳴った後、そこに動いているハイベリアは一匹も居なかった。

 

 上空のハイベリア達が仲間の死に激怒したのか一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。なんなんだ、もう勘弁してくれと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる四人の人影。

 

 見覚えある人影、行方不明になって朝方からずっと危険を顧みずに探していた家族。私達の大切な、大切な家族。ハウリア族にわかに希望が湧いてきた。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

 まさしくこれを奇跡と呼ぶのだろう。

 

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

 俺はというと魔力二輪を高速で走らせながらなんとも言えない表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重を俺に預け、小刻みに飛び跳ねる度に重量級の凶器が背中をかき乱すのだ。

 

「おい、じっとしてろって!」

 そう呼びかけるも嬉しさで完全に此方を忘れている。

 

 なんだかんだ南雲のおかげで全てのハイベリアを退治することができたが、ハウリア族は畏れのこもった表情を絶賛此方に向けている。

 

 この世界の一般基準的にハイベリアはかなり強い魔物みたいでそれをあっさりと鏖殺してしまったのだからそれも仕方のない事と言えばそれだけなのだが。

 

 とにかく、ハウリア族はまた別の緊張の真っ只中である。

 

 しかし、恐れながらもわらわらと近づいてきた。

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

 感動の再開だ。涙をお互いがボロボロと流し、ぐっと抱き合っている。周りのハウリア族も皆が涙している。

 

 一旦区切りをつけて話をするシアとその父。

 

 

 暫くして

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

 被差別種族である亜人族であるが、何故か人間への嫌悪感がないのが不自然だ。そう南雲や俺は疑問を抱くが、

 

 カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

 情に深いと言えどこんなにもか!と驚かせられる。南雲もどうやら同じ印象を受けているみたいだ。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

 

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

 (いやいや、照れ屋にならんでしょうがそこは!)

 本当はハウリア族は優しいのもあるが、図太いのでは?北山登は訝しんだ。

 

 シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。

 

 やっぱり変わり者なのだ、ハウリア族は。そう結論付けている一方、南雲は額に青筋を浮かべドンナーを抜きかける。

 

 だが、意外なところから追撃がかかる。

 

「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」

「ユエ!?」

 

 あっ、と何かを察せられた。あの時の仕返しでニヤニヤと見ていると

強めにガッと蹴られた。

 

「痛え!」

 

「うるさい、さっさと魔物が来る前に行くぞ!」

 

 

 

 ハウリア族+南雲パーティは峡谷出口へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 





ウサギってあんまり見た事ないですけど、一回だけ牧場みたいな所でケージ越しだけど茶色いウサギがいまして、こんなもんかって、そこまで可愛さみたいなものを感じはしなかった思い出。
 よくイメージにある白いウサギはオランダとかのウサギで日本の野ウサギは茶色毛なんだそう。


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うぇるかむ


筆がのったので投稿。


 

 

 ぞろぞろと一行はひたすらに歩き続ける。途中で魔物が出たとしても彼らが驚きはすれ、怯えるなんて事はかけらも無かった。

 

 魔物は近づいた瞬間に一瞬、閃光が走ったかと思うと例外なく頭部を完全に破壊され、また別の魔物は串刺しにされて苦悶の表情のままに絶命している。

 

 

 大人たちは余りの力の大きさに唖然とし、特に見たことのない武器で魔物を尽く倒す南雲に畏敬の念を抱いているように見えた。

 

 小さな子供達はそのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。

 

 一方、俺はと言えば地味でグロテスクな上に珍しさを感じることのない武器であるためにこそこそと「あの人は大丈夫なのか?」「シアの恩人の仲間といえ、信用して良いのか?」と耳に入ってくる。

 

 

 

「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

 シアがちょっかいをかけながらそう言うと、子供達の眼差しに居心地が悪くなっている南雲はドンナーの射撃で返答した。

 

 

 ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

「あわわわわわわっ!!」と不格好なタップダンスを披露すると父のカムは

「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」

 

 周りのハウリア族たちも同じ様な生暖かい視線を向けている。

 

「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」

「……ズレてる」

 

 

 しばらく進むとようやく脱出可能な地点までやってきた。南雲はなにやらスキルを使っている様で、俺も何か見えないかとぐっと目を凝らすとぼんやりとだが見える。崖に沿って階段が作られているようだ。

 

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」不安げにシアが言うと、

 

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさん……どうするのですか?」

「? どうするって何が?」

 

南雲とシアの間で少し食い違いがあるようだ。

 

首を傾げている南雲にシアは意を決して、

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。ハジメさんと同じ。……敵対できますか?」

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

 周りのハウリア族も耳を立てて、事の成り行きを見守っている。彼らにとって種族とは俺たちが思っているよりも大きく、大切なモノなのだろうと容易にわかる。

 

「それがどうかしたのか?」

「えっ?」

 

 やっぱり。

 

 奈落の底から出てきた怪物はその程度で判断を鈍らせはしない。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

「そ、それは、だって同族じゃないですか……」

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

「それは、まぁ、そうなんですが……」

「大体、根本が間違っている」

「根本?」

 

 さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

「な、なるほど……」

 

 一応の納得はしながらも、自分たちは出会った事のない考えに少し引いているが、どのみち彼らも南雲の考えに染まっていくのだろう。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

 カムが快活そうに笑う。流石長なだけあり、そこら辺はよく心得ているのだろう。

 

兎人族特有の身体能力の高さでサクサクと階段を登ると……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 あれが帝国兵か。カーキ色の軍服らしき服を着ていて、内容から察するに、念のためにと残っていたようだが、隊長は居ないようだ。

 

 彼らは突然の集団におっ!と驚くもそこそこな数の兎人族にニタニタと悪い笑みが浮かんでいる。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますます幸運だな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

 帝国兵は正に棚からぼた餅と、駐屯させられていた不満が吹っ飛ぶかのようにやる気に満ちている。

 

 完全に食い物としか見られていない兎人族はぶるぶると震えている。

ガヤガヤとした帝国兵の中で"小隊長"と呼ばれた人物は先頭にいる異物、南雲ハジメに気が付いたみたいだ。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「まあ、もし兎人族だったら全然可愛げがねーけどな」と思いつつ、様子を伺う。

 

「ああ、人間だ」

 交渉を試みた南雲。

 

 しかし、「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 どうやら奴隷商と勘違いしているらしい。身なりの違いを見ればそう思われても仕方ないが、むしろ、奴隷商だった方が彼らにとってまだ幸運だっただろう。

 

 怪物にさも当たり前のように命令するが、言うことを聞く訳がない。

 

「断る」

「……今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額にピキリと浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

 相手側はかなりカンカンのようだ。帝国兵たちはすっと意識を切り替える。

 

 だが、南雲の後ろのユエに気がついたようで、「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

 あーあ、やってしまった。恐らく今その言葉は南雲ハジメと言う人間を一番怒らせる事の出来る言葉だ。言わなければ、運が良くて瀕死くらい?いや、彼が一人も見逃すはずが無い。

 

 そんな哀れみの想いを抱いていると

「つまり敵ってことでいいよな?」

 最後通告が飛んだ。

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

 一発の銃声。

 

 小隊長は死んだ。

 

 見たこともない武器を構えた青年と小隊長が突然死んだ事に当然理解が及ぶはずがない。

 

 その後はただの作業に近かった。引き金を引いて撃つ。

 

 訓練された兵士であるので、訳のわからないままに剣や杖を構えるが次々と頭部は爆散している。

 

 手榴弾をも使い、効率よく人間を挽肉に変えていく。

 

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら〝纏雷〟はいらないな。通常弾と炸薬だけで十分だ。燃焼石ってホント便利だわ」

 

 地獄のような光景に飄々とした顔でえげつない発言が聞こえ、顔を青くした兵士は次の瞬間に死体になった。

 

「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」

 命乞いをする兵士はもうどうにかなっていた。恐怖のあまり涙がボロボロと流れ、涎を散らかし、失禁もしている。

 

 ドパンッと銃声。

「ひぃ!」

 

 兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。ハジメが撃ったのは、手榴弾で重傷を負っていた背後の兵士達だからだ。それに気が付いたのか、生き残りの兵士が恐る恐る背後を振り返り、今度こそ隊が全滅したことを眼前の惨状を持って悟った。

 

 振り返ったまま硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てられる。再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

 

「……は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか? 別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 南雲はチラッと兎人族の表情を見ると、悲痛な顔。

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

 

 彼の殺意に気がついたようだが、銃声の後にはもう二度と言葉を発さなかった。

 

 

 

 

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 ハウリア族の目には恐怖。そこまでしなくても、とシアが言うが南雲の視線に「うっ」と言葉を詰まらせる。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは……」

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い」

「……」

「まあまあ、見慣れない光景に戸惑ってるだけだから許してやりなよ」

 フォローを入れるが、ユエからはキッと視線が飛んだ。

 

 南雲に向ける負の感情を許さないといった感じだが、輪にかけて温厚な種族なのだから仕方がない。これから慣れればいいのだから問題はないのだ、誰だって初めては恐ろしいものだろう?

 

 

「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「ハジメさん、すみません」

 

 シアとカムが代表して謝罪するが、ハジメは気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった。

 

 

 南雲はそのまま、〝宝物庫〟から出した魔力二輪と残された馬車とを連結させ、樹海へと行く準備を黙々とする。

 

 ユエが死体を風で吹き飛ばし、谷底へとあっという間に落ちていった。

 

 

 

 

 真っ赤な跡だけが、ただそれだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 





最近、久々にミルクココアを飲んだんです。中々にそれが美味しくて、確か森永のだったか粉を目分量で入れて、お湯と牛乳とを入れて飲むんですよ。その時は豆乳があったもんで牛乳の代わりにとくとく入れて飲んだんですよ。それがまろやかで牛乳とは違った味わいになってて美味しかった。飲み終わったら、底に少しだけココアがダマになってたんですけどね。


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ハルツィナ樹海編
樹海の中で


とうこうとうこうとうこうとうこうとうこうとうこうとうこう
こうすると"こうとう"に見えませんか?

追記 10000UAありがとうございます。
   皆さんに閲覧していただいたおかげです。本当にありがとうございます。


 

 兎人族の故郷で、七大迷宮の一つのハルツィナ樹海へと一行はかなりのスピードで進んでいた。

 

 これも戦利品の馬車があった事と南雲の持つ魔力二輪のおかげであることは言うまでも無い。

 

 俺の魔力二輪から一人減った。理由としてシアは色々と話を聞きたがっていたので、俺の魔力二輪ではなく、南雲の方のに乗ろうとさせたのだが、「馬車に乗れ」と冷たくあしらわれ、何度も叩き落とされるも、中々しぶとく南雲が根負けする形で乗ることになった、という経緯がある。

 

「乗り心地がいいですね!! あ、でもノボルさんは後ろから抱きつかれなくて寂しいですかぁ?」

 

 軽く煽ってくるシア。勿論のことながらスルー。

 

「あー無視はいけないと思うんですけど!!」

 ごちゃごちゃと騒いでいるので南雲のチョップが炸裂。直ぐに静かになった。

 

 あちらでは何か話に花が咲いているようである。楽しそうな雰囲気で何よりだ。

 

 

________________

 

 一方、ハジメ達の魔力駆動二輪

 

 

「そういえば、ノボルさんはどうしてお二人と行動しているんでしょうか?」

 シアはふと気づいたようでハジメに尋ねた。

 

「アイツが言うには『何もする事が無いし、お前らについていくわ』だとさ」

 

 なるほどなと、納得しているシア。だが、何か気になっているようで首を傾げ、「うーん、うーん?」と唸っている。

 

「さっきからうんうんうるさい」とユエから叱られるとすみませんと謝ったが、まだ何か考えているらしかった。

 

「さっきから、何を考えてるんだ?」

「えっと、お三方に出会う前の未来視だとハジメさんとユエさんしか映っていなくて、出会った後にまた映るとそこにはノボルさんも居て、どうして見えなかったんだろうなって」

「未来視の的中率は?」

「今まで外れた事がないんです。だからなんだかよく分からなくて」

 

 どういう事なのだろう。彼は唯のクラスメイトではないのだろうか?

まだ、分からない。一つ言えることとして、敵対すれば容赦はしないということだけだ。

 

 

____________________

 

 

 数時間後、無事に一人の欠けもなくハルツィナ樹海に到着した。

 

 樹海を見るのは初めてだが、森よりも鬱蒼としていて霧がもやもやと常に辺りを漂っている。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、ノボル殿。中に入ったら"決して"我らから離れないで下さい。お三方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

 カムの言う大樹とはここの最深部に存在する"ウーア・アルト"という亜人からは神聖なものとして崇められている木だ。滅多に近づく者はいないらしい。

 

 カムは、南雲の言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をして俺達の周りを固めた。

 

「ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「ああ、承知している。俺達も、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 おっと、言っておかねば。

 

「俺は使えんぞ、気配遮断」

 

 カムは「ノボル殿は大丈夫だ」と言ってので心配はなさそうだが、一応忍んでおこう。

 

 南雲の気配みたいなものが急激に希薄になった。

「ッ!? これは、また……ハジメ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「ん? ……こんなもんか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

 

 南雲の気配遮断はこの世界ではトップレベルだそうだ。後で聞いた話なのだが、ハウリア族、というより兎人族自体が力が弱い代わりに聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、そのレベルの高さは窺える。そんな兎人族でさえ見失う南雲を一応体感的には米粒のようであるが捉える事が出来ているので、俺自体の気配察知能力もあの奈落で鍛えられていたと実感した。

 

 

「それでは、行きましょうか」

 カムの一言でカム、シア親子を先頭に皆が大樹へと歩き始めた。

 

 霧が深く自分が何処を歩いているのか検討もつかない。ハウリア族は迷いなく自分の家の庭のように歩いていて、すごいなぁと感心した。

 

 順調に進んでいると、突然カム達が立ち止まり、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。

 

 三人であっという間に倒した。南雲はどうやら暗器を作ったらしく、猿型魔物には無数の針が刺さっていた。

 

「あ、ありがとうございます、ハジメさん」

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

 助けられたシアと男の子が礼を言う。男の子の目がすげえーとなっているのと対照的にシアはがっくりと肩を落としていた。

 

 ちょいちょい襲われるも、軽く対応していく。問題なく順調に進んでいる。

 

 だが突然魔物より方向性のある殺意をぶつけられた。

 

 カム達は何か分かったらしいが、かなり苦々しい表情。

 シアや子供達も蒼ざめている。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人にバレてしまった。

 

 

 

 

 ふと、脳裏に何パターンかの選択肢を思いついた。

 

① 逃げる。全力で逃げる。けれど俺達は逃げ出せても迷うのは必死、ハウリア族は確実に酷い目に遭う。

 

② 倒す。今の戦力なら間違いなく倒せるが何処かで亀裂を生む。

後、戦闘でハウリア族が少し犠牲になる確率が高い。

 

③ 平謝り。ありえない。俺がしたとしても南雲たちはしないし、虎亜人は多分許してくれない。したところで俺は白い目で見られる。

 

 おれは強そうな亜人に心の中でビビっている。

 

「あ、あの私達は……」なんとかカムが誤魔化そうとするが、ギロリとその目を横のシアへと向けた。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

 南雲が撃った。

 

 虎亜人たちは硬直している。さっきの雰囲気から変わって、得体の知れないナニカを見る目になっている。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」

「な、なっ……詠唱がっ……」

 ロスタイムなしで放たれる暴力。どれだけ恐ろしいのかが南雲の説明で理解したようで、虎の心音が離れていてもドクドク聞こえるようにさえ思える空気。

 

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな……ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 

 ゴクリと固唾を呑む。

 

 (なんなんだ……この人間)

 

 その感情が彼らを支配する。

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

 恐怖に屈さまいと自らや仲間を鼓舞する様に吠えるが無視して言葉を続ける。

 

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「……その前に、一つ聞きたい」

一人の虎亜人が声を振り絞った。

 

「……何が目的だ?」

 

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

 まさか大樹の下へ行きたいと言うと思わず、惚ける彼。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「いや、それはおかしい」

「なんだと?」

虎亜人は疑問を持ったが、構わず南雲は続ける。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

「弱い?」

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくともオルクス大迷宮の奈落はそうだった。それに……」

「なんだ?」

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

「……」

 黙る虎亜人。しばらくしてようやく口を開いた。

 

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

 人間を見逃すという異例の判断に動揺が広がる。

 

 

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

 

 いそいそと動き出す彼ら。

 

 何人かの虎亜人が警戒を解いた今を狙おうとするも「お前等が攻撃するより、俺の抜き撃ちの方が早い……試してみるか?」

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

「わかってるさ」

 

 カム達も緊張状態が終わり、一安心といった感じだが、向けられる視線は依然として厳しい。

 

 しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたのか、ユエがハジメに構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をするハジメに、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めたハジメに呆れの視線が突き刺さる。

 

 全く羨ましい限りだこと。

 

 だいぶマシになった空気だが、急速に近づいてくる気配。

 

 現れたのは数人。

 

 中央の見た目老人から威厳を感じる。恐らく長老の使者だろうか。その尖った耳と整った容姿は地球基準で言えばエルフという種族だろう。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

 南雲の敬意のない言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を! と憤りを見せる。というか長老が来ているのか。

 

 どうということはないと、片手で制すると、エルフの男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

「うん? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

 純粋に興味で尋ねているように見えるアルフレリック長老。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

どうやって証明しようか?と南雲は頭を捻る。

するとユエが一つ提案をした。

 

「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」

「ああ! そうだな、それなら……」

 

 納得して、宝物庫から純度の高い魔石を取り出した。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

 アルフレリックも驚いていてたが、隣の虎の亜人は驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

 

 スッと指輪を見せるとどうやら得心がいったようだ。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 

 

 大きく事が動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 




!マークってエクスクラメーションマークというそうです。
世界で一番短い手紙は?と!だそうで、「レ・ミゼラブル」の売れ行きが気になったヴィクトル・ユーゴーが編集者に?と出したら、売れてますよと!が帰ってきたそう。
よく意思疎通できたなって思いました。


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