パパはクルーガー (エドレア)
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出会いは唐突に

ほぼエタってる作品があるのに懲りずにはじめますた


 唐突だが私は転生者である。名前はイーニャ。我輩は猫である、みたいな出だしだが混乱してる上に現実逃避したい願望に駆られた末の狂行なので我に帰ってみるととても辛い。

 どうして自分が転生者と気付けたかって? それは今見てるテレビから流れるニュースのおかげ。見た瞬間今の私では本来知り得ないような知識が頭の中にどっと湧いたのだ。

 

「……繰り返します。45年より続いていた大戦ですが今日6月29日を以て各国の停戦が合意されました。これにより……」

 

 ……人生四年目を迎えた今日、ここがドルフロ世界だと知りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混乱してる私だが傍目にはただボーっとしてるだけである。……ベビーカーに乗って。

 どうやら私は大戦中に早産で生まれてしまったようでそれのせいなのか全身の筋肉が一般的な子供の成長速度より著しく遅いという障害を抱えている。一般的な赤ちゃんの成長速度として大体一歳を迎える頃には一人で歩けるようになるらしいが、私は三歳になる頃にようやくはいはいができるようになった。四歳になった今、つかまり立ちくらいなら何とかいけるのだがそこからの一歩が踏み出せない。ゆっくりと成長するのを待ちましょうねとは私が世話になっている"先生"の言葉である。

 私の誕生日だが親はいない。捨てられたのではなく単純に仕事でいないのだ。母が政府の役人のようで、政治におけるあれやこれやを処理するために奔走している。こんなご時世にシングルマザーな家庭なのでその身にかかる負担はいわんやと。そんな母が仕事に出向いている間、私の世話をしてくれるのがアオザキ先生だ。小さな医院で主に小児内科を担当する医者のようだが母はそんなアオザキ先生と並々ならぬ親交があるようでほぼ付きっきりでアオザキ先生に見てもらっている。

 

「…………」

「……せんせぇ」

「なに?」

「せんそう、おわった?」

「ええ。ひとまずは、と言ったところかしら」

「……まま、かえってくる?」

「それは……わからないな」

「……そっか」

 

 余談だがこの女医、眼鏡をかけている時とそうでない時で人格が変わるとかいう一昔前の漫画キャラみたいな特徴を持っている。眼鏡をかけている間は誰に対しても柔和に接する大人のお姉さんという感じなのだが、眼鏡を外すと冷徹な口調になり纏う雰囲気も鋭利になる。眼鏡を外している時が本性なのでは? と思ったけど本人曰く状況に応じて性格をスイッチしているんだとか。どっちが本当とかは大した話じゃなく強いて言うならどちらも私、というのがアオザキ先生の弁である。

 

 ドルフロ世界に転生したからには指揮官になって戦術人形達と仲良くしたい……というのが大方の望みになるのだろうが、私を取り巻く世界は絶望的に厳しく無理のある話である。誰かの庇護を前提にしなければ生きていけない私がG&Kの指揮官を目指すだなんて笑い話もいいところだ。

 淡い望みに早々と蓋をした私は母が無事に帰ってくるのを常に祈り続ける日々を送ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ去り、早61年。

 やはり遅いながらも順当に成長した私は一人で歩けるようになり、簡単な物に限定されているがアオザキ先生の手伝いをする日々を送っていた。

 前世知識が芽生えた十年前だったがそれらが活用される事は一度も無かった。強いて言えば基本的な読み書きや算数などの物覚えが普通の子供よりずっと早かったぐらい。

 その前世知識が言うにはドルフロ本編と直接的に関わる事件である胡蝶事件が今年なのだが、私は全く興味を持てなかった。関わりようが無いからだ。57年を越えて以降ちらほらと民生用人形を町で見かけるようになったが私やアオザキ先生が持つ事は無く。

 1ヶ月の内に長くても二~三日の間しか帰ってきてくれない母の方が大事な私にとってはもう彼岸の火事でしかない。

 アオザキ先生から話を聞かされるまではそう思っていた。

 

 母が死んだ、と。

 鉄血工造の人形達の反乱に巻き込まれたのだと。

 自分が否応なしにこの世界の一員なのだと自覚した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直言って聞いた当初は実感が無かった。何しろ母はいつもいないのが常である。父にしたって話すら聞いた事が無い。

 だけれども母の遺体を見た瞬間、自然と涙が出た。寄り添う時間が普通の親子と比べて少なかったとはいえ確かに家族だったのだ。アオザキ先生は知り合いの子供を預かっているというスタンスを決して崩さなかったし先生からは得られない、親の愛情というものを私は確かに受け取っていた。

 葬式は無かった。母はどうやら秘匿性の高い政府の重要な仕事に就いていたようで、母の死そのものがあまり公に出来る事ではないと政府からやって来た役人は語った。

 

 ……もう何もかもどうでも良かった。復讐なんて考えたくもない。したくても出来ない。そんな実力も立場も無い。

 私は出来うる限り母の死を忘れる事に努めた。悲しみから逃れるにはこれが一番手っ取り早かったのだ。アオザキ先生はそんな私に何か言いたげな目をしていたけど結局は何か言われる事は無かった。

 時間だ。時の流れだけがこういうのを解決してくれる。結局生き物なんて皆いつかは死ぬのだ。母はちょっとだけそれが早くて不幸だっただけ。私だってこんな体でこんなご時世なんだから、きっと長生きは出来ないだろう。

 似た者親子、最高じゃないか。

 ……後々振り返ってみればこの時の私は大分生き急いでいたんだろう。私にその気が無くたって周りからはそう見えたはずだ。だからこそ、ある意味正常な判断が下せなかったんだと思う。

 母が死んでから僅か三日。

 ……私の目の前には何故か筋肉ムキムキマッチョマンのおっさん(ベレゾヴィッチ・クルーガー)が立っていた。




主人公の設定(ドルフロ本編開始時)
名前:イーニャ・グーバレフ
年齢:15歳
身長:136cm 体重:36㎏
容姿:根元は若干黒いがほぼ真っ白な髪にロシア人らしい肌の白さ。碧眼。fateのイリヤやISのラウラとかイメージはその辺りに近い
概要
ドルフロの知識のみを持った転生者。生まれ持った虚弱体質のせいでドルフロ世界に転生しながらもそれらと関わる気になれずモブのまま生きていこうとしていた。しかしながら唯一の親類と言っていい母が死にそのことを切っ掛けとして本編に大きく関わることとなる
性格は大人しい…と思われているが実際には行動で示すだけの体力が無いから大人しくしているのであって口だけはやたら達者であったりする。本人にとっては全く自慢ではないが煽るための語彙力は豊富
虚弱体質はある程度成長した15歳でも響いていて、全力で他人の肌をつねっても相手は全く痛くない程の非力、曇天時の気象病(天気が悪くなると膝などが痛くなるあれ)では激痛で歩けないほどなので車椅子を必要とする、風邪をひいた際にはベッドから起き上がる事はおろか声をあげることすら困難であったりするなど枚挙に暇が無い。
基本的に自分が他者の助けを借りないと生きられない事を自覚しておりそのことを気に病んでいる。こうした面からスラムなどに住む貧民層の住人に対してサバイバーズギルトに近い精神性も持ち合わせているが、ある種傲慢なその考えをアオザキは気付いていながらも指摘していない









アオザキ先生ですが言っちゃいけない色があるあの人です。そう「傷んだ赤」とだけは…(ここから先は血で汚れている)


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昔の女の忘れ形見

二話目にしてパパです


なんだこれ。

 

 母がもういない事以外は、いつも通りの毎日を送ろうとした矢先にドルフロ原作の超重要人物が突然来るとかホラーの類いでしかない。

 

 珍しく裏口のチャイムが鳴ったので患者さんの対応をしているアオザキ先生に代わって応対してみたらこの始末である。ドアを開けたら仏頂面のいかつい髭のおっさんがこっちを睨んでるし、不用意に開けちゃダメでしょ!と私を叱りつけながら出てきた先生はおっさんを見た途端、眼鏡を外して臨戦態勢みたいな感じになるし空気が重くて耐えきれない。

 とりあえず玄関先で睨み合うのはご近所にも外聞がよろしくないので、普段は使わない重篤な患者用の個室におっさんを入れて先生が診察を終わらせるまでの間待つ事となった。

 

「……」

 

 二人で待っている間、会話は無い。

 どう見てもあのG&K社長のベレゾヴィッチ・クルーガーその人にしか見えないのだが如何せん関わりが無い。…母が死んだこのタイミングでやってくるのだから母に関係した事なんだろうけどそれにしたってこんな突然に現れるものだろうか。私が原作で知るクルーガーならやるにしてももうちょっと慎重に行うはずだ。

 

「…終わったぞ」

「ああ、済まないなDr.アオザキ。こんな形で押しかける事になってしまって」

「分かっているなら最初からしなければいいんだ。おまえはいい加減学ばないな、クルーガー」

「…突然だったんだ。本当に、何も知らなかった」

「知っていたら私がイーニャの面倒を見るような事にはなっていなかっただろう。最初からエリーナはおまえに迷惑かけまいと奮闘していたんだ」

「その結果が、これだと?」

 

 …私を無視してガミガミと言い合っている。

 眼鏡を外した先生は基本的に超越者みたいな振る舞いをするから、正直今のは意外だ。まるで子供の育て方で衝突する妻と夫のようである。いや、実際私の事でぶつかっているのは確かなのか。

 このまま置いてけぼりにされるのは嫌なので一つ、意を決して予想していた問いを投げかけてみる。

 

「…あの~」

「どうしたイーニャ?」

「おじさんってお父さんなんですか?」

 

 先ほどまで言い争っていたのが嘘のように、二人は動きを止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────この子が私とエリーナの子なのか。

 

 切っ掛けは一つの訃報だった。

 軍属時代に一夜だけ深い関係を持った女。

 聖なる夜を共に一つのベッドで過ごした後、全く音沙汰無かったが鉄血人形の反乱で命を落としたという。

 それだけならまだ良かった。しかし聞けば彼女には娘がいるという。

 年齢、早産、誕生日を聞いて背筋に薄ら寒い何かを感じた私はまさかと思ってエリーナの経歴を調べあげた。死因となる胡蝶事件の詳細までは分からなかったがそうして分かった事は一つ。彼女に他の男の存在は影も形も見つからなかった。私以外の男に体を許した事は無かったということだ。

 であれば、答えは自ずと出てくる。

 目の前で、不思議そうにこちら見上げている少女こそ今まで認知されることの無かった私の娘に他ならないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私が言うのも何ですけど、母さんって強かだったんですね」

「まぁ、そうだな。そうでなくては政府の中枢で働けないだろうしな」

「でもそれはそれとして、女性の言う大丈夫な日を信用しちゃったお父さんも大概アウトな気がします」

「ヴッ」

「ヤるにしてもゴムくらい付けるのが当然のマナーでしょうに、性夜で舞い上がってたんですか?」

「ヴヴッ」

「それに、今日なんで来ちゃったんですか?今のグリフィンって大変デリケートな時期ですよね?そんな状況下で父さんの弱味になりかねない私の存在が露見したらどうするつもりだったんですか?」

「その辺にしといてやれイーニャ。そいつのライフはもう0だ」

「あら…」

 

 さっきまでの威厳はどこへやら。

 そこにはどんよりした雰囲気を漂わせたしょうもないおっさんがいるだけだった。

 私が感じてた威厳というのも単に緊張して顔が強張っていただけだったんだろう。

 当初こそ、原作の重要人物だやべぇって思ってた私だったが"父さん"としての話を聞いてしまった以上、そこにいるのは架空の登場人物ではなく一人の人間でしかない。アオザキ先生に笑われている父さんを見て、そう思った。

 

「…君は、私を父と呼んでくれるのか」

「ええ。今だけですが」

「今だけ?」

「だって、私を公的にあなたの娘だと認めるのはリスクがありますよ」

「それは…そうだな」

「だから、時間とチャンスを下さい」

「何?」

「既に知っているかもしれませんが、私って首から下は無能なんですよ。今までは先生の助けで生きてこれましたがこれからもずっと、死ぬまでそうだなんていうのは有り得ない」

「…私なら、君の生活を支えてやれるかと思うが」

「だーかーらー、それを今やっちゃうと難癖付けられちゃうでしょ。グリフィンだってどうせ一枚岩じゃないんだから」

「むぅ…」

「大戦前であれば国の福祉的な保護で私は生きていけたかもしれません。ですが今はそんな事望める時代でないのは私よりよく知ってるでしょう?」

「…イーニャ。君は私に何を望むんだ」

「私を、戦術人形達の指揮官にしてください」

「なんだと?」

「イーニャ、おまえは何を言っている?」

 

 お、驚いてる驚いてる。

 父さんはともかく先生まで驚くのは珍しいな。この人は滅多に表情を崩さないから、先生の驚いた顔は新鮮だ。

 

「これは私の勝手な推測ですが、グリフィンはおそらく対鉄血のために指揮官の増員を求めるかと思ってます」

「その根拠は?」

「鉄血に対抗できる大手のPMCが他にいないからです。正規軍はE.L.I.Dの掃討に尽力してて他に割く余力なんて無いと思いますし」

「だが…」

「私が欲しいチャンスはここにあります。対鉄血において明確な戦果をあげればそれは私の実績・名誉に繋がります。ただ無能なだけの身障者、という肩書きから脱せられるんです。それはひいて、私の生存に繋がるはずです」

「時間はどれだけ欲しいんだ?それは何のための時間だ?」

「欲しい時間は一年。それだけあれば、指揮官として必要な知識を学ぶのに十分なはずです」

 

 物凄く、苦々しい顔で思案する父さん。対称的に先生は薄く笑いながら私をじっと見ていた。今まで私がこんなに自己主張した事は無かったから面白く思ってるんだろう。

 

「君の言いたい事は理解した。しかし…」

「危ないって言うんでしょう?指揮に失敗すれば統括している地区が襲われるだけでなく、私自身の命にも危険が及ぶ」

「そうだ。まだ子供の君に、そんな危険な真似はさせられない」

「そのための時間です。こんな体ですからせめて考える頭だけは優秀でないといけないんです。それがダメなら、私は社会の穀潰し以外の何者でもない」

「……」

「子供だからっていう理由で庇護される時代ですらありません。たまたま私は、母さんと先生のおかげで体の事以外は不自由なく過ごせてきましたが私以外の人達はどうでしょう?親類に捨てられ明日をも知れぬ命で危険な凶行に及ぶ人達も少なくないのが世の中の実情です」

「…はぁ」

 

 らしくないため息をついて、瞑目する父さん。多分これがこの人の素なんだなと思った。いかつい見た目の割りにあたふたと百面相する様は見ていて飽きない。

 可愛い人。

 思わず、そんな言葉を呟いた。

 

「どうしました?そんな悟ったような顔をして」

「やはり君はエリーナの子なんだと改めて実感しただけだ」

「実感するまでもなくそうなんですがねぇ…」

「ともかく、君の意思は理解した。ただすぐこの場で決められる事ではない。確かに君の言う通り軍からそういった依頼は来ているが、実際にどう対応していくかをこれから社内で議論するという段階なのだ」

「そこで指揮官の増員を提案して…受け入れて貰えたらってことですね」

「いいじゃないかクルーガー。一般市民へのアピールとして元軍人でなくてもグリフィンで出世できる前例があれば働き手が増えるもんじゃないか?」

「Dr.アオザキは彼女が指揮官を目指す事に賛成なのか」

「賛成も何もこの子が自分の意思で決めた事だ。親ですらない私がそれを止められる道理など無い」

「…分かった。指揮官増員については部下と話そう。受け入れてもらえなければそれまでだがな」

 

 思わずガッツポーズしたくなるがグッとこらえて我慢我慢。

 渋々といった形ではあったものの、概ね納得してくれた父さんは早々に引き上げていった。

 

 そこからしばらく普通に過ごして二週間。

 指揮官増員とそれに伴う新人研修の詳細が届いた。

 この手紙とほぼ同時かそれより後にグリフィンの人形が社内研修のお迎えに来てくれるとの事だった。お迎えに来てくれる人形はそれだけでは終わらず指揮官研修の間、パートナーとして付き添ってくれるらしい。無事に指揮官見習いを卒業できたらその人形が最初に着任してくれる人形になるという事だった。

 ワクワクしながら出立の準備を進める私は敢えてどんな子が来てくれるか考えないようにしていた。下手にこの人形が良いとイメージを作って、それとは違う人形が来てしまったら私も人形も悲しいからだ。

 

「そんなにソワソワしないの。あんまりはしゃいでいたら人形に示しがつかないわよ?」

「ご、ごめん先生…。やっぱ落ち着かなくてさ…」

「人より体力無いのは分かってるんだからそこのところもね」

「そうだね。本当は先生と一緒に行けたら良かったんだけど…」

「流石に二週間程度でここを畳めるほど浅い医者はやってなかったからね。もう少し時間をくれたら私もグリフィンに出向くわ」

「…先生ってクルーガーさんと知り合いなの?」

「昔、ちょっと、ね」

「良い女には秘密があるってやつですか…」

「そうそう…、あら来たみたいよ」

 

 私は出来うる限り走らずそれでも努めて早く玄関まで歩いた。

 そうして玄関を開けた先にいたのは。

 

「初めまして、未来の指揮官さん。このUMP45があなたをグリフィンに連れて行ってあげるわね」

 

 片目の傷が特徴的な、あの404小隊の隊長さんだった




ここのクルーガー社長は基本は原作と変わりありませんが主人公が絡むと若干ポンコツになる仕様です


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UMP45

3話目でやっと人形が登場するっていう亀のような速度
あと深層映写の若干なネタバレ入りますので気にしない方のみどうぞ


 マイダディ、もうちょっと他に人選は無かったんですか。

 

 UMP45。違法人形達だけで構成された秘密小隊404の隊長。一見、誰に対しても当たり障り無い付き合いをしているがそれは決して本性を悟らせない彼女が被った皮の一つである…。

 

 そんな人形が運転する車に乗せられて、グリフィンの本社へ向かっている。しかしながら会話らしい会話が無い。

 いや、話しかけてはくれるのだ。あっちから話しかけてくれる分にはゲームでの45姉っぽい感じなんだけどこっちから、おそらく45にとって意図しないタイミングやセリフで話しかけると言葉に詰まったりたどたどしくなったりする。

 …心当たりがあるだけにやるせない。そうだよ、胡蝶事件の後だよ。あの事件から紆余曲折を経て404が結成されるんだろうけど今まさに45はその過渡期にいるんだろうな。会えた事そのものは嬉しいんだけど…。

 

「難しい顔をしているわね」

「そりゃ…これからの事を考えたらね」

「イーニャは望んで指揮官になるつもりじゃないの?」

「確かにそのつもりだけど実際なれるかは不安だよ」

「あら、私がいるのに?」

「いくら性能が優秀な人形がいてくれても使う人次第で有能か無能かに別れる。分かるでしょ?」

「………」

 

 ほらまただんまりだ。

 人間嫌いの人形は一定数いるけど45はその中でも群を抜いて大嫌いだろう。人間の都合に振り回された45が人間を信用することなど有り得ない。

 

「助けてくれって言わないの?」

「そう言って45は助けてくれるの?」

「…いや、だって人形だし」

「人形は人間に従うべきって事?ロボット三原則じゃないんだし45には45の意思あるはずでしょ」

「…は?」

 

 あ、これ返事ミスったかな。地雷踏み抜いた感がしてならないんだけど。

 

「どうして人間が人形に意思を求めるのよ」

「単純に言うこと聞くだけの人形なら第一世代の人形で良いでしょ。けどそれじゃあ能力が足りないからあなた達第二世代の人形がいるわけ。大戦のおかげで人類が少なくなった今、人と同等に考えられるAuto Intelligence(自立した思考)を持つ人手が今の社会には必要なんだよ」

「…そのAIが反旗を翻したら?」

「それは使う側に問題があったとしか言えない。ただの銃や包丁にしたってそう。手入れを怠れば暴発したり切れなくなったりする。人形も同じ。鉄血の反乱だってあれはあっちの技術者達が何らかのミスをした結果でしょうね」

 

 …本当はもっと根深いとこまで知ってるんだけど今はこう言っておこう。下手に軍がどうのこうの呟いたら、今の45のメンタルだと一人で特攻しかねない。パンの配達に行ってきますとか言わないでくれよ。

 というかこの世界の"遺跡"ってやつほんと厄ネタだよね。半世紀くらいこれが原因でドルフロ世界の人類がひどい目にあってるのに懲りずにパン屋作戦とかやってるし…。

 これを最後に車内での会話は無くなった。初対面としては45のメンタルに若干食い込むような話はしたから心証は悪いかもしれない。

 

「着いたわ。ま、せいぜい頑張りなさいよね」

「う、うん…。これからよろしくお願いします」

「…人形に頭を下げるだなんて、変な子」

「緊張、してるんです」

「ま、あなたを助けるのが私の任務だからそんなひどい事にはならないわよ。さ、ほら」

 

 車から降り45に連れられてG&Kのでっかいロゴマークが見える本社へ向かう。

 今の45はちょっと従者っぽかった。事前に私の体質は知ってるんだろう。まるでお嬢様のように、車から降りる際にドアを開けてくれて手も繋いでエスコートしてくれた。今だってただ手を繋いでくれてるだけじゃなく歩幅を合わせてくれている。

 これからの新生活に期待やら不安やらを抱えつつ45と共にG&Kへ向かう私なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────人形だって、自分のために生きることが許されてもいいはずよ。

 

 ────他人じゃなく、自分のために…ね。

 

 ────ずっと騙してて、ごめんね。

 

 ────さよなら、45。あんたがあたいを覚えていてくれたら……それだけで、あたいは幸せだよ……。

 

 

 

 

 あの事件以降、一応グリフィンの麾下に着いた私は任務に従事することもなく燻っていた。

 …どこにも所属が無い違法人形。それが今の私だ。正直スクラップにされないだけまだマシな立場なんだろう。

 ちょっとグリフィン内のネットワークを漁ってみたら対鉄血のためにてんやわんやな状態だという事が分かった。誰も私の処置に割く余裕が無いのだ。押し寄せる鉄血の軍勢に対抗するために人間人形問わず、ひっきりなしの異動や再編成が行われていた。

 ただその中で一つ気になるログを見つけた。

 社長のベレゾヴィッチ・クルーガーが忙しいこの時期に、たった数時間ほどだが行方を眩ましているのだ。あの事件より僅か三日後の事である。

 一分どころか一秒ですら惜しいスケジュールで動いているだろうに社長自らが本社を離れて何をしていたのだろうか。

 興味が無いわけじゃないが今調べる事ではないだろう。そう思っていたらそのクルーガー本人がわざわざ私の元へやってきて事情を説明してきた。まさか子供のお守りとは。

 イラっとはしたが良い仕事だと思った。宙ぶらりんな立場の私にとって明確に仕事が得られる機会は少ない。グリフィンだっていつまでも働けない人形を置いてくれるわけないだろう。働かざる者食うべからずとは良く言ったものだ。

 

 当日、わざと書面が届くより時間をずらして件の娘がいるという小さな病院を観察していた。特に何の変哲も無い、普通の病院という感じだ。

 事前に忍ばせておいた盗聴器から彼女と保護者であろう医者の楽しげな談話が聞こえてくる。娘の方はともかく医者の方は過去にクルーガーとの一定の親交があったということで警戒していたがこの分なら平気そうだ。

 彼女────イーニャ・グーバレフをグリフィンの社用車に乗せて、また改めて観察する。

 不自由な体である事以外は極々一般的な、それでいて目を見張る美少女だと思う。可愛い女の子を形容する言葉に人形のようなという言い方があるみたいだが、白のイメージが全身にサファイアのような目が輝くその姿は狙って作ったところで到底至れないだろう。イメージカラーであるつもりなのか着ている服すら花の刺繍が少し入っただけの真っ白なワンピースである。

 本当にこんな小さな子が指揮官を目指すのか。それも私の直属の上司となって。…これが良いことなのかは分からない。少なくとも40と出会う前の私なら喜んでいたと思う。社長肝いりの指揮官を任された、と。

 だけど、人形を顎で使う社長の娘の癖して人形の意思を肯定しているのは分からない。そんな体なんだから余計に人形の助けが必要な癖に、ふざけているのかしら。使う側に問題があるって発言はまぁ納得できる。それを、私に言うって事は私を問題無く使えるのだと言っているつもり?どちらにせよ腹立たしい事この上無いのは確かだ。

 箱入りのお嬢様がどこまでやれるのか。それを楽しみにこの腹立たしさを解消してやろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光陰矢の如し。

 ここはグリフィンが持つ数少ない社員寮の一室。

 45と出会ってからすでに半年を過ぎた私は今────。

 

「45姉!お肉焼けたよ!」

「はいはい、盛り付けするから待っててね」

「G11…そこはあなたが寝るベッドじゃないの。ほらさっさと起きなさい。じゃないとあなたの顔に鉛弾をプレゼントすることになるわよ」

「…しきか~ん…眠いのに416がいじめてくるよ~」

「えっと…、とりあえずG11は起きよっか。ほらもうすぐ朝ごはんだよ。お腹減らして寝たくはないでしょ?」

 

 なぜか404小隊の指揮官をやっている。

 

 声を大にして言わせてくれ。

 

 ど う し て こ う な っ た。




ドルフロ世界の年表見ながら書いてたりしてましたが404がいつ結成されたのか分からなかったのでうちの独自路線で書きます


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Not found 404

感想ほしいっすね…(乞食)




 こんにちは、イーニャです。

 研修受けてたら何故か404小隊が出来上がってました。解せぬ。

 

 いや、途中までは普通だったんだよ。軍事用語や人形に関する座学とか模擬戦闘での指示の出し方とか。

 

 実地訓練とか言って町に潜むアウトローとかを対処してたら人形の密売組織にかち合ったんですよね。そこにね、いたんだよ。"ライナー"、UMP9ちゃんが。びっくりしたけどちょうど姉妹銃の子いるしこっちで仲良くしない?みたいな事言ったらあっさり密売組織を裏切ってグリフィンに来てくれました。どうやら"家族"を探すために密売組織に居たらしく「もうあなた達は用済みなの。バイバイ」って笑顔で犯罪者達を撃ち殺してる様子は正直怖かった…。

 

「ほら、しきかん♪あーん」

「い、いいよ…。自分で食べられるし恥ずかしいって…」

「9、指揮官をあまり困らせないの。いくら小さいからって子供じゃないんだから…」

「45姉が言うなら仕方ないな~」

「食べながら寝るなんてどういう芸当なのよG11…。全く、口をこんなに汚して…」

「…zzz」

 

 …さっきからオカンの如くG11の面倒を見ているのはHK416だ。密売組織の崩壊後そこの顧客リストから不正に売られていったテロ組織を特定しそこから救いだした人形である。完璧を自称する彼女はテロに与するのに消極的で、しかしながら手伝わないと己の優秀さを示せない環境に辟易してたらしくこちらも裏切りを提案したらあっさりと乗ってきてくれた。今までの鬱憤を晴らすかの如くテロ組織の拠点へ榴弾を撃ち込みまくるその姿は中々にヒステリックだった。

 G11も不正な取引で買われていった人形の一人である。元々はメイド的な仕事をこなす民生人形でしか無かったはずの彼女だったが私が発見した時は度重なる虐待の影響でスクラップ寸前の状態だった。彼女こんなにしたテロリストを三人を指揮してぬっ殺しつつ助けだしたがこのままでは助からないという事で父さんのツテを頼りI.O.Pでコアを埋め込んで貰ったのだ。どうやらコアを埋め込む前後で性格が違うみたいなんだけど本人が悪く思ってないようなのでヨシ!とする。

 

 意図せずして404の面子が私の元に集まり指揮下にある状況だけど秘密小隊としてではない。研修生に与えられた人形は一つだったはずなのにこの状況はおかしいのではないかと父さんに抗議してみたら問題無しとの事だった。どうせあの人の事だから親バカな面を発揮して、私を守る人形は多ければ多いほど良いとかって考えてるんだろう。

 まずい。これはまずい。

 あくまでも彼女達は助けられた後に私の元へ集まっただけで"404小隊"が結成された訳ではないのだ。このまま私が指揮官見習いを卒業したとして、彼女達は他の人形と同じように正規に私の元へ配属される事になるだろう。つまり、このままだと私一人のバタフライ効果でこの世界では404が生まれない可能性が高い。

 ドルフロの各イベントストーリーは本編と繋がってて(というかほぼ本編そのもの)404小隊が随所で活躍している。これから先の戦いでは鉄血どころか軍まで相手にしなきゃならないのに彼女達が欠けるのはかなり痛い。特にAR-15のmod化には彼女達の協力が必要不可欠である。

 …ここはやはりパパにお願いしてみるか。

 

「45、ちょっといい?」

「なぁに?」

「ちょっと今後の事で社長に提案したい事があってね。その時に一緒についてきてほしいんだ」

「え~45姉だけ~?私も行きたいな~」

「いや、あんまり多くて困るしさ…」

「私ではダメなのかしら、指揮官」

「ほ、ほら、隊長は45だしね…?」

「…zzz」

「G11は聞くまでもなくパスみたいだね…」

 

 本当によく寝るなこの子。元々寝る子だとは知っていたけどオフの時の活動は一日に20時間も眠るナマケモノの生態そのものだ。任務の時は渋々起きている彼女と会話できるけれどそうでない時はごはんの時ぐらいじゃないとろくに起きた顔も見れない。最近じゃ食べながら居眠りする始末だし…。

 9や416も思ったより接しやすい子だった。9はサイコパス風味があったと思ったけど普段は指揮官Loveな良い子だし416は家事をこなすのが上手い。完璧がどうのというのを日常ではあんまり言わないしむしろ甲斐甲斐しくお世話してくれるから第二の母ポジションである。ただAR小隊との確執は知らないのでこれからどうなるやら…。

 不思議なのは45。他人がいる時はまさしく45姉って感じなんだけど私と二人きりになると雰囲気が若干崩れるというか、多分だけど40といたころに戻ってると思う。いつもの張り付いた笑みじゃなく素の表情で接してくるのがその証拠だ。本人は気付いてなさそうなんだけど私って彼女の中じゃどんな扱いなのかな…?

 

「さて、と。今日の研修は…まーた実地訓練かい…」

「というか、指揮官ならもう研修なんていらないよねー。私達だけで鉄血の奴らを倒せるよ!」

「調子に乗らないの。まだまだ指揮官はやることあるんだから」

「…また訓練なの。眠いよ、面倒臭いよ…」

「別に来なくてもいいのよG11。寝ているあなたをゴミ袋に詰めて、そのまま廃棄するだけだから」

「それは…やだ…」

「ならさっさと起きる事ね。ほら、テキパキ動く」

 

 原作とは若干違う彼女達の未来に思いを馳せつつ、ここ数ヶ月は続いている実地訓練に辟易する今日の私なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 ────娘がひどく優秀過ぎる。

 

 この悩みが最近の私の思考を埋め尽くしている。

 本来、彼女を指揮官として起用するつもりは無かった。研修などとは言ったが素人では無理であろう難題を突きつけて無理矢理離そうとしたのだ。そうでもしないと納得しなそうであったから。誤算だったのが彼女が私の予想を遥かに上回るレベルで頭の出来が良かった事だ。座学を最初の1ヶ月で修め人形を使った模擬戦闘でも好成績を出してきた。かなり難易度を引き上げたはずの実地訓練では犯罪者達を一網打尽にするどころか配下の人形を増やしてくる始末である。更にそこを起点としてテロリスト組織の撲滅にそれに伴う人形の救出。彼女を守る人形が増えるのは良い事なのだが…。

 誰がどう考えてもただの研修生で通じる技量ではなくなっていた。グリフィン内では既に彼女を指揮官として前線に派遣すべきだという意見が持ち上がっている。

 最初の頃は良かったが徐々に鉄血が戦線を広げてきているのだ。腐ってもI.O.Pとシェア争いをしてきたあの鉄血である。相対して、こちらの戦力が足りなくなっていた。

 比較的安全な地区に任せようかと思ったが既に彼女の実力が内外に知られている以上無理な話だ。大多数の者達は新進気鋭の有望株に活躍してもらいたがっているのだから。

 

「やむを得ないのか…」

 

 独り、社長室でそう呟く私の元へ一通のメールが届く。

 差出人はイーニャ。今まさに君の事で悩んでいるというのに一体何を話したいというのか…。

 実地訓練とは名ばかりの実戦を軽々とこなす彼女の来訪を待った。

 

 

 

 

「お久しぶりです、社長」

「…挨拶も手短にしておこう。それで、今日はどうしたんだ?」

「社長にお願いがありまして」

「お願い、か…」

「あら?なんか身構えられてる気がしますけど別に変な事言うつもりはありませんよ?」

「イーニャの言うそれは説得力が無いわよ」

「45は変な茶々入れないの。あなた達四人にも関係ある話なんだから」

「ふーん」

「また…何が望みなんだ?」

「つかぬことをお聞きしますけど公に出来ない問題って抱えてます?出来れば人知れず解決してもらいたいような」

「あるにはある…が、そんな事を知ってどうするんだ?」

「そういう問題の処理を私達にお任せしてくれないでしょうか?」

「…また何を言い出すんだ君は」

「ぶっちゃけると、汚れ仕事を専門的に請け負う秘密部隊として動きたいんですよね」

「名誉や実績が欲しかったんじゃなかったのか?秘密ではそれに繋がらないと思うが」

「それとはもちろん別口です。今のグリフィンって地区間の連携があまり密接ではないと思うんですよね。グリフィンが国から独立した自治区を任されているんだから当然かと思いますが、もしそこに配属された指揮官が良からぬ事を考えていたらどうでしょうか?本部から監査は当然入るかと思いますがその人手って足りてます?」

「確かに良からぬ噂を持つ者や人形達の間であまり評判の良くない指揮官はいる。戦線をどうにかするばかりで、監査の人手と質も足りてないのが現状だ」

「なるほどね、そういうのを"不慮の事故"とかで処理しちゃうのが私達ってこと?」

「45の持つ圧倒的な電子戦能力を考えたら前線に出張るよりこっちの方が能力を活かせると思ったんだよ。9も45ほどじゃないにしろ電子戦ができる人形だし。残念なのが傘ウィルスのせいで鉄血のネットワークに使えないことなんだよね。だったら身内の膿を炙り出すのに使った方が有能じゃん?」

「君が鉄血の通信設備に気を付けろと言ったあれか。今はI.O.Pのペルシカリア主導の元、急ピッチで対策が進められている。まさか実地訓練で鉄血に遭遇しておいてなんなく撃破した挙げ句、残骸からそういった情報を持ち帰ってくるだけでも君が求めた実績には十分だと思うが…」

「ハイエンドモデルがいない鉄血なんてカモがネギを背負ってきたようなもんですよ。雑兵はさっさとスクラップにして資源に代えるに限る」

「わーお、私の指揮官様は蛮族な考え方するのね。嫌いじゃないわ」

「秘密部隊か…君はそれを設立したとして何を望むんだ」

「ちょっと、調べたい事がありまして」

「何を、と聞くのは野暮なんだろう。…はぁ、君はいつも予想を裏切ってくれるな」

「それは良い意味ですか?悪い意味ですか?」

「どちらも、だ。全くそういうとこばかりエリーナに似てしまって…」

「あー、そういう話はもっと違うところでどうぞ」

「…ともかく君の要望は理解した。必要があればこちらからその連絡をしよう」

「はーい。それでは失礼しました~」

 

 …まるで嵐が襲ってきたかのような怒涛の時間だった。

 人形の特性を理解しそれを活かそうとする精神は褒められた物だがそういう才能はもっと平和な方向へ向けてほしい。私の胃か生え際が辛い。

 とりあえず、彼女達の獲物に相応しそうなリストを組んでおくことにしよう…。




原作との相違点として傘への対策がドルフロ本編よりもずっと早いです


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卒業試験

AR小隊が出ます
あと、私は銃を使った訓練などをある程度調べたつもりでも基本的に素人感覚でしか知らないのでおかしいと思われるところがあるかもですがそこのところご了承下さい


 父さんと衝撃的な出会いをしてから早9ヶ月。

 実地訓練というか、普通に小隊を指揮して鉄血の雑魚を殲滅する日々を送っていた私は唐突に父さんの元へ呼び出された。

 

「予定より早いが、君達には卒業試験を受けてもらう」

「…はいぃ?」

「君が優秀過ぎるのが問題なんだ。いつまでも地区を統括せずに傭兵のように遊撃を繰り返すだけが実状じゃないか。まさか心当たりが無いとは言わせないぞ」

「あー…、戦闘後の面倒な後処理とか全部そっちに任せっきりでしたからね…」

「本当ならさっさと前線へ向かってほしいところなのだが、一応体裁として研修生ではあるので試験という形になったのだ」

「その試験の内容は?」

「それは、16Labに行ってからのお楽しみだな」

「…えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…君が噂の"白雪姫"か」

「…なんですその白雪姫ってのは?」

「やだな~。自分の容姿くらい理解してるでしょう?」

「その言葉そのままそちらにお返ししたいのですが」

「これは手厳しい。ま、今日は上手くやってよ」

 

 …どうやら私は世間的に"白雪姫"なる異名を持っているらしい。目が青いこと以外は基本的に真っ白な見た目してるし身長も全然無いからね。おかげでいつも人を見上げてばかりで首が辛いのだよ。

 今目の前にいるのは16Labのペルシカリアさん。そうI.O.Pきっての天才博士だけど実際見てみると残念度が凄まじい。素材は良いのに服もそうだけど雰囲気が致命的にダメにしてる。

 

「さて、今日は君達の卒業試験を受け持つ事になったんだけどどんな内容なのか、気になるでしょ?」

「気になるっていうか知らないとダメでしょう。何なんです?人形の整備でもしろって事ですか?」

「違う違う。非力な君にそれは出来ないでしょ。今別室に待機してもらってるあの子達だけどそろそろ併設してるキルハウスに行ってもらうから」

「キルハウス?…あの、試験内容って…」

「グリフィンお気に入りの指揮官と言えば君の事なんだろうけど、うちにもとっておきがいてね。要はそいつらと戦って良い結果残せってこと。あと、今回の模擬戦はうちとグリフィンの宣伝も兼ねてて沢山の人が見に来る予定だからそのつもりでいてね」

 

 おぅ、ファッキンマイダディ、知ってて言わなかったな。まさかのAR小隊とかよ。

 

 

 

 

「ね~ね~、指揮官、ペルシカリアって人どうだった?あのネコミミ面白そうだよね~。私も頼んだら付けて貰えるかなぁ?」

「あ~ごめん9、今から大事な話をするからちょっと聞いて貰えるかな」

「あら、指揮官が真剣な顔するだなんて。そんなに難しい内容だったの?」

「うん。端的に言うとAR小隊と模擬戦することになりました」

「…AR小隊ってあの?」

「そうです。加えてグリフィンとI.O.Pがこれを大々的に宣伝するみたいで外部のお客さんも多数やってきます」

「つまり、無様な戦いは見せられないって事ね…」

「一応みんなに聞くけどAR小隊についてどの程度知ってる?」

「人形だけで構成された16Lab特注の小隊だっていうのは知ってるけど…」

「そうだね。特注であるが故に他の人形と違って壊れたら再生できないというデメリットを抱えてる。そのデメリットを上回るくらい優秀な性能を持つ人形達なんだ。特に、隊長のM4A1は従来の人形では出来なかった戦術指揮を行えるようになってる」

「指揮官がいなくとも活躍できる次世代の人形って事ね…」

 

 G11以外の三人は難しい顔をしている。…G11おまえほんとブレないな。ある意味安心できるよ…。

 この模擬戦ってどっちが勝っても負けてもグリフィンとI.O.Pに損が出ないんだよね。私達が勝ったらグリフィンには将来性のある指揮官がいるって証明になるし、AR小隊が勝てばI.O.Pの技術力の高さに箔が付く。どっちも対鉄血への不安を解消する材料になるから両者ともマスメディアとかに売り込みたいだろう。

 まさか父さんに見世物にされるとは思わなかった。…あの人私への扱い吹っ切れたくさいな。まだ皮算用の段階だけど、上手く鉄血のハイエンドモデルを鹵獲出来たら面倒事全部押し付けてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、準備はいい?」

「バッチリだ、M4。さっさと終わらせて飲むぞ」

「M16ったら…。こんなアル中の戯れ言に付き合ってられないわ。相手の指揮官はかなり優秀だって聞いてるもの。油断の無いようにしなきゃ」

「模擬戦かぁ…。鉄血相手じゃないからバラバラにできないね。なんかつまんないよ」

 

 今回の模擬戦はいつもの訓練とは違います。

 AR小隊の隊長のとして一年ほど奮闘してきたけど、世間的な認知はまだまだのようです。私からすれば、皆さんのお役に立てればそれでいいのですがI.O.Pのお偉方はどうもそうは考えていないらしく、これを期に私達AR小隊を期待のエースとして宣伝したいようです。

 ちょっと気になるのは相手の方。ただのデモンストレーションでは無いようで、グリフィンの秘蔵っ子と言われるあの"白雪姫"が率いるHK部隊と対決する事になります。活動期間であれば私達の方が先輩なのですが、本社を中心に居住区で犯罪者を取り締まってきた彼女達の方が有名なようです。

 白雪姫と言えば蝶事件のすぐ後にクルーガー社長が直々にヘッドハンティングした猛者と聞いています。見た目は幼い子供ですがその卓越した頭脳には戦場の全てが見えているんだとか。…噂に尾ひれはひれあると思うので実際どこまで真実なのかは不明ですが、火の無いところに煙は立たずと言いますしそう言われるだけの高い指揮能力はあるのでしょうね。

 

「今回の模擬戦は閃光弾と発煙弾が制限されていないからバラバラに動いたところで撹乱されてしまっては各個撃破されてしまうわ。M16姉さんを先頭に索敵を繰り返して進みましょう。AR-15は左に、SOPⅡは右ね」

 

 開始位置より一歩手前でのブリーフィング。ここまで来るとさっきまでは気楽に振る舞っていたM16姉さんとSOPⅡも真面目になって臨んでいた。AR-15は言わずもがな。後は開始のブザーを待つだけ。

 

 3

 

 2

 

 1

 

 ビーッ!!!

 

 …走りださずにゆっくりと進む。

 こういう時のM16姉さんは心強い。ただ指揮ができるだけで隊長になった私だけど本当は姉さんの方が相応しいんじゃないかと思ってる。その指揮ができるのが大事なんだとペルシカさんは言ってくれたけど…。

 

 入ってすぐ右に進み反時計回りにキルハウス内を索敵する。だが…。

 おかしい。外周を回って既に一周してしまったけど誰とも出会わなかった。これには三人とも怪訝な顔をするけど方針は変わらない。全方位警戒しなくちゃいけないから避けてたけど相手が仕掛けてこないならこちらも仕掛けるまで。

 ハンドサインで中央に向かう事を指示する。ここまで来て仕掛けてこないなんてあり得ない。もしそうなら相手は勝負を放棄したのと同義だ。

 今度はわざと足早に中央へ向かう。音を立てる事でこちらに注意を引き付けるのだ。これで相手の攻勢を誘う。

 しかし中央に辿り着くと────。

 

「…zzz」

「は…?」

 

 思わず声に疑問が漏れる私。

 なぜかど真ん中で堂々と寝ている人形がいる。

 

「罠だM4!」

 

 そう言って振り返ったM16姉さんの目には既に敵が捉えられていたようで。

 振り返る間もなくペイント弾を頭に受けた私は大人しく戦闘不能判定を受けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶい♪」

「全く、おまえというやつは…」

 

 顔に手を当てて項垂れる父さんとダブルピースでにっこりする私。

 その私の後ろでは私のHK部隊の面子が勝利の喜びを分かち合っていた。…G11以外。いつもは張り付いた笑みの45も今は素直に笑っているように見える。あ、HK部隊ってのは4人の銃がH&K社の物なので私がそのまま付けた部隊名です。流石に404はね…。

 M4の今の性格からして慎重に外周から索敵するだろうと思ったのでその意表を突かせて頂きました。確かにAR小隊の面子ってみんな凄いんだけど図抜けてるのがM16なんだよね。なので初手でM16以外の三人を戦闘不能にして数的有利でM16に勝ったのが今回の作戦でした。…うん、こんなの模擬戦でしか通用しないよね。でも勝ち方は特に指定されてなかったのでやれるだけやったまでである。

 HK部隊の更に後ろではAR小隊とペルシカリアさんが話している。M4は申し訳なさそうな顔をしているけどペルシカリアさんは笑っているし悪い雰囲気では無さそうだ。ただAR-15がこっちをじっと見つめてくるのが怖い。他三人がペルシカリアさんと談笑してるけど君だけぼっちだよ。仲間と混ざってきなさいな。そんなに見つめたって何にも出ないから。

 

「さて、これで君は晴れて研修を卒業することとなる。統括する事になるであろう地区は追って伝えるから今日はゆっくり休んでくれ」

「はーい。…あの高級ホテルみたいな社員寮ととうとうお別れかー」

「高級も何も、あそこは君が不自由しないために特注でリフォームした部屋だぞ。そもそも社員寮ですらなかったしな」

「…どっかから難癖付けられたのでは?」

「最初は文句はあったが君の実力がそれを解消した。何も問題はあるまい」

「これは喜ばしい事なのか…」

「これが、君が求めた名誉と実績だ」

「…ちょっと違うような気もする」

 

 何となく釈然としない私の扱いだっけどこれで私は指揮官になれる。

 指揮官になった私の今後の目標は原作で404が関わるイベント関連を指揮したり、偶発的なきっかけによらない一部AR小隊のmod化だ。あとこれは狙えたらだけど比較的早い時期のハイエンドモデルの鹵獲。出来れば"建築家"を狙いたいけどそこはまぁ、運次第という事で。

 

「お二人さん、ちょっと今よろしいかしら?」

「…なんだね。今日はもうこれで終わりのはずだが」

「うちの子達がそっちの指揮官様と是非お話願いたいってさ、ほら」

「さ、先ほどはどうも…。M4A1です」

「M16だ。いやぁ、見事な奇襲だったなぁ」

「私はSOPMODⅡ!ねー、さっきのもう一回やろー?次は負けないんだから!」

「………AR-15よ」

「あら、負け犬達がこぞって何のつもり?負け惜しみでも言いにきたの?」

「そんなんじゃない。今回は順当におまえ達が上回っただけさ。場の環境、模擬戦である事を理解した上での作戦は確かに見事だった。ま、SOPⅡの言う通り次同じ手で負けるつもりは無いがな」

「その、次があれば…ね」

「ええっとグーバレフさん…でしたっけ」

「イーニャでいいよ。私もM4って呼びたいし。それでいい?」

「は、はい。それで…イーニャさんは良くあんな作戦考え付きましたね」

「全体的な練度だとこっちが劣ってるように感じたからね。こっちが強いなら正攻法で押し潰すのがベターだけど弱い方にはそんなの無理だし。だったら奇策でその差を埋めるしかないかな、と」

「…指揮官は私達が負けるって思ってたの?」

「負けないようにするのが私の役目だよ、416。みんなの事は信頼も信用もしてるけど、それ故に盲信は決してしないんだ。出来もしない事を命令されたって困るでしょ?」

「…凄いです。私も見習っていかなきゃ」

「いやいや、M4にはM4の強みがあるでしょ。指揮ができるだけじゃなく、人形として戦う事もできるってさ。私が戦うだなんてどう頑張っても無理だからそこで差別化を図ろうよ」

「差別化…ですか」

「そうそう。私達指揮官は比較的安全なところから人形に指示を出すけど敵の妨害とかで通信が出来なくなったら大変じゃん。そういう時にM4がいてくれると助かるんだよ」

「なるほど…」

「それに、現場指揮でしか見えない物もあると思うんだよね。同様に全体を俯瞰する視点からでしか見えない指揮もあると思う。君と指揮官が組めばもっと多角的な視点から戦場を見る事が出来ると思うよ」

 

 分かっちゃいたけどやっぱり今のM4はただの良い子ちゃんだな。M16がフォローに回らざるを得ないのも頷ける。…もっと穏当な手段で彼女の"制限"を解除できればいいんだけど。

 

 おしゃべりもそこそこに私達は16Labを後にした。早ければ三日後には派遣先の地区が決まるというから引っ越しの準備をしなくちゃいけない。

 新生活第二弾!に備えて足早に帰路に着く私達なのであった。



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S0-9地区

私事ですがG11だけうちに来なくて辛いです。他三人はいるのに…



 S0-9地区。

 ドルフロ原作において指揮官が最初に配属される地区。激戦区として有名でここではグリフィンと鉄血が一進一退の攻防を続けている……。

 

「ねぇ指揮官」

「何かな45」

「私達ってここで戦うために来たんだよね」

「そうだね」

「じゃあ私達が今してる事は?」

「……ただの掃除だね」

 

 どうも、この度指揮官として就任したイーニャです。私サイズに特注されたグリフィンの赤い制服を着込み何をしているかと言えば……HK部隊の面々と共に基地をひたすら掃除しています。

 S0-9?ふぁっ!?って思ったんだけど父さんの、君ならやれるだろの一点張りでここへ飛ばされました。どうも私があの模擬戦で仕出かした内容が民間人に広く周知されたらしく、一番戦闘が激しいここ以外に派遣する選択肢が無かったそうな。何でだろう、最初に考えてた最低限の生存からどんどん離れていってるような気がする。

 

 そしてS0-9に着いた私達を出迎えたこの基地はそれはそれはもうひどいボロっぷりだった。何度か鉄血がこの基地にまで進撃した事があったようで、その度に設備やら何やらが壊されていったらしい。懐まで侵入を許すとか前の指揮官は何考えて運営してたの……?

 大変残念ながら設備も1からの段階。そうバッテリーを消費するあれ。……作戦報告書の事とか考えたくないぞ!全部カリーナに任せるんだ。まだいないけどね。

 基地にはまだ私以外の人間はいない。実は予定より早く私はここに来ている。前の指揮官はここから別の地区へ左遷させられたらしいんだけどここにいた人形達は変わらずここに勤めている。対鉄血において重要な基地であるここをたった数日とはいえ、指揮官がいない状況にするのは大変危険なので私が予定を前倒ししてここ来たのだ。今やっている掃除も彼女達が哨戒任務などに出払っている間少しでも綺麗にしておいてあげたいという私なりの心遣いなのだ。……私自身がやれる事は簡単な雑巾がけくらいなものなんだけどね。

 

「しきか~ん。廊下のモップがけとりあえず終わらせたよ~」

「指揮官、破損していたガラス窓の片付けが終わりました。……窓そのものはどうするんです?」

「ありがと9、416。もうそろそろここの人形達が帰ってくる頃だからG11を起こしてみんなで食堂に行こうか。ガラスについては業者さんを雇って貼り付けてもらう事になるけど、それもこの地区の安全が確保されてからになるから当分は吹きさらしだなぁ」

「無事だったのは執務室とその奥の仮眠室だけ。前任者はよくこれで基地を回せていたわね」

「その仮眠室も辛うじて寝るだけが出来る程度の部屋よ。……なんでG11はあんな部屋でも寝られるのかしら。理解に苦しむわ」

「G11のあれは筋金入りだからね……」

 

 食堂に移動しながらざっとここにいる人形達の名簿を確認する。

 

 IDW・スコーピオン・64式自・ステンMK-Ⅱ・AUG・FNC・9A-91・OTs-14・M1895・コルトSAA……。

 

 あれおっかしいな。私の見間違いじゃなけりゃMGはおろかRFすら一人もいないんだけど。え、ここって装甲持ちに対して無力なんですか?

 ……一応装甲持ちに対して手が無いわけじゃない。うちのHK部隊はG11の圧倒的な手数と416の榴弾で二~三体程度のニーマム相手なら火力のゴリ押しが効くのだ。とはいえそんな無理矢理な戦法がいつまでも続けられるはずが無いのでRFとMGの追加は急務である。

 

 食堂に着くとここの人形達が既に勢揃いしていた。だが……。

 

「えー皆さん初めまして。既に話は聞いているかと思いますが、新たにここへ着任したイーニャ・グーバレフです。……あの、いきなりこれ聞くのは野暮かもしれないんだけどなんでみんなボロボロなの……?」

「それはね、ここでは修復を受けられるだけの資材が無いからよ、小さな指揮官さん」

「えぇ……」

「前の指揮官は戦果にずっと夢中になってたニャ。後方支援に行く時間が勿体ないとか言ってずっと出撃ばかりさせられてたニャ。正直ブラックだったニャ」

「おぅまぃがぁ……」

 

 答えてくれたのはOTs-14ことグローザとネコ少女なIDW。うん、間違い無く前任者は無能だったね。というかこれで戦線保ってた事に驚きしかないんだけど……。

 

「それで?顔合わせは済んだでしょう?どこに出撃するか指示をくれないのかしら」

「いや、出撃させないから。そんなボロッボロの君達を酷使とかできませんから。資材も私のポケットマネーで何とかするから全員まず休みなさい。これ命令ね」

「え……コーラ飲んでも良いの……?」

「指揮官様!お菓子ありますか!?もうずっとお腹がペコペコなんです!」

「分かった分かった。コーラもお菓子も用意してあげるからマジで休んで。頼むから」

「「やったー!!!」」

 

 やべぇ、よく見たら一部人形達の目のハイライト消えてるわこれ。スコーピオンなんか元気の子ってイメージだったのに今は縋るような目で私を見てる。唯一ボロボロじゃないのはAUGだけだな。ただこっちも若干影のある表情してるから前の指揮官となんかあったのかも知れない。

 研修という名目でも反社会的勢力や鉄血の雑魚とかを叩き潰してた我らHK部隊の懐はそこそこ暖かったりする。ここでそのお金を使う事に何ら未練は無い。これから先私の人生の大部分をここで過ごす事になるのかもしれないのだからこれくらいの初期投資はまだ安いもんだ。

 

「よし。今、食糧や資材の注文したからそれが来たらみんなで着任記念のパーティーしよっか。みんなここでずっと頑張ってたんだし久しぶりに良いご飯食べたいでしょ?」

 

 わっと上がる歓声に少々不憫さを感じつつこの子達を出来うる限り幸せにしようと心に決め込む私なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ……。なんで俺が左遷なんだ。あいつらが弱いのがいけないのに……。本部も本部だ。あんな弱っちい人形ばかり寄越しやがって。俺の才能にあんな雑魚共がついて来られるわきゃねぇだろ」

「才能ねぇ……。本当に実力のある指揮官は弱い人形でも使えるように上手く運用するものだと思うけど」

「だ、誰だ!?」

「私が誰かなんてあなたは知る必要は無いわ。それよりちょっとあなたに聞きたい事があるんだけど」

「なんだ、人形か……?は、人形風情に教える物なんざ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」

「余計な事は言わなくていいの。S0-9から資材の一部を横流ししてお金貰ってたでしょう?どこどう取引したか言えばいいのよ。言わないなら、もう片方の腕も折れる事になるけど」

「おまえら、グリフィンの人形じゃないのか……?人形がなんで人間を攻撃できる……?」

「45姉、まだ変な事言ってるよ。さっさと次折っちゃおうか?」

「待て言う、言うからやめ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!???」

 

 

 

 

「……以上よ。典型的な地位に胡座を掻いただけのこそ泥だったみたいね」

『……まさか頼んでから1日も経たない内に終わらせてくれるとは』

「こういうの得意だから」

『つくづく敵に回したくないな、君達は』

「なら、せいぜいそうならないように振る舞いなさい。彼女の敵は、私達の敵だから」

『肝に命じておこう』

「45姉、終わった?」

「ええ。早くさっさと基地に帰りましょ。416がG11のお守りでストレス溜まってそうだし」

「ほっとけばいいのに、なんだかんだ416って面倒見がいいよね」

「そういうところが416の美徳なのよ。指揮官も彼女に甘えてるところあるしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか修復ポッドが三つしか使えないとは……」

 

 基地のみんなと着任パーティーを楽しんだ翌朝。

 私はこの基地を運営する上で重要な課題の一つに頭を悩ませていた。

 

「まず最初は今後の主力になりうる9A-91、グローザ、IDWに入って貰ってるけど余裕で7時間以上かかってるわ……」

 

 これでは全員を綺麗にするまであと何日かかることやら。そう肩を落とす私へ一通のメールが届く。

 差出人は、別れてもう久しくなるアオザキ先生からだった。




ここまでかなり早いペースで投稿してますけど特に計画性なくやってます。情熱が続く限り燃やしていきたい


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人手と編成

夜戦3-4が辛い。MOD2まで進めたAR-15の専用装備がほしい…


「初めまして指揮官様。ここの後方幕僚を勤めさせて頂くカリーナです。どうぞ、お気軽にカリンとお呼び下さいな♪」

「初めましてカリン。…と横にいるのは」

「カリンの助手をしています、スプリングフィールドです」

「スプリングフィールドは私が個人所有している人形ですけどここの戦力に数えても構いませんよ」

「へー、個人所有。結構高かったでしょうに」

「私、一部のお品を個人で販売してましてそれで儲けたお金で買い取りました。個人経営だと一人じゃ手が足りない時が結構あるので重宝してます」

「カリンが業務などで席を外している際は代わりに店番を勤めていますよ」

 

 私が基地に着任してから三日後。今日は人間のスタッフを迎え入れる日。基地にやっとカリーナちゃんが来てくれました。あと棚ぼたでRFも。

 カリーナが個人所有?って思ったけどこの世界、そこそこお金が持ってれば人形の一人や二人は個人で持ってておかしくないしカリーナの忙しさを考えると助手の一人くらいいても当たり前だよね。

 挨拶もそこそこに基地内に入る二人を見送ってアオザキ先生"達"を入り口で45と共に待つばかりになった。

 

「さて、これで残りはアオザキ先生とそのお仲間だけか…」

「イーニャ、そのアオザキ先生って何者なの?確かあなたの育ての親だったはずよね」

「何者って言われても…ただのお医者様のはずだけど」

「あのメールに来てたスタッフデータには人形の技術者も兼ねてるって話だけど」

「それについては本当に知らない。てかあの人の事私はほとんど知らないんだよね。あくまで私を預かってくれてたお医者様ってだけの認識しか私には無いな」

「加えて、グリフィンに所属していないやつを自分の弟子だと言い張って無理矢理連れてくるって。クルーガーがそんなの認めるはずないのに…」

「あの人達なんか知り合いっぽかったしな。社長の弱味でも握ってるんじゃない?」

「安直だけど考えられるとしたらそれが妥当ね。ほら、そろそろ来るわよ」

 

 経歴不明なミステリアスレディっていうのは45の性格上どうしても警戒の対象になるだろう。というか45なら私の知らない間にこっそり調査してそうなものなんだけどこうして聞いてくる辺り、調べる余裕が無かったか調べても何も出てこなかったかのどちらかかな。

 お、そろそろ人影が見えてきたな。ってあれは…。

 

「見えてきましたよトウコ!あそこに噂の指揮官がいるんですね!」

「はしゃぎ過ぎなんじゃないですか姉さん。ワタシなんてここまで来るのにもう疲れてしまいましたよ」

「ウソばっか言わないの。人間じゃないんだからこれくらい余裕でしょう?」

「おーい、ここにずっと荷物運んでる人間がいるんですけどそっちは考慮してくれないんですかねぇ」

「デリケートなメンテナンス用の機材ばかりだから他人に触らせないと言ったのはデールの方じゃないですか。そもそもそれだって先生がいれば不要なんですから、自業自得です」

「こらこら、そういじめてやるなシーア。デールだって一端の技術者なんだ。いつまでも私の弟子に甘んじてるわけにはいかないだろう」

 

 …なんだあのイロモノ集団。

 先生を筆頭にカルカノ姉妹、ドルフロ原作だと404小隊の任務伝達やメンテナンスを担当してたシーアとデールがいる。

 え、てかあのカルカノ姉妹、見る限りダミーをそれぞれ4体しっかり連れてきてるんだけど。うちのHK部隊も5Link相当の実力持ってるけどコアが集まるような仕事はやってなかったからダミー無しのままだ。基地の人形は説明するまでもない状態だし。おいおい即戦力どころの話じゃないぞ。

 

「久しぶりだなイーニャ。おまえの活躍は方々で聞かせて貰ってるぞ。随分と派手に暴れたじゃないか」

「ひ、久しぶりだね先生…。ところで後ろの人達は…ってぇ!?」

「初めましてカルカノライフルです!ああ、写真で見るよりずっと可愛い…!私ずっとイーニャさんにお会いしたかったんです!私がデザインした服をどうしても着てもらいたくてですね…!」

「姉さん、指揮官が困ってます。あ、ワタシはこの可愛い物好きな人の妹です。覚えなくてもいいですよ」

「個性が強いなおまえら…。俺の名はデール。一応人形の整備士やってる。先生がいるから俺の出番なんて無いとは思うけどよろしくしてくれ」

「私はシーアと申します。ここでは事務職で働かせて頂くつもりです」

「あはは…。えっとここで指揮官やってるイーニャ・グーバレフです。皆さんよろしく…?」

「…これから騒がしくなりそうね」

「あの、先生。シーアとデールは分からなくもないんだけどカルカノ姉妹は…?」

「ああ、この二人は他の地区で活躍してた戦術人形でな。私がここに来る際グリフィンに無理言って買い付けた。イーニャへの指揮官就任祝いのプレゼントだよ。存分に使ってやってくれ」

 

 あああああああ、このカルカノ姉妹まさかとは思ったけどRO憧れのやつじゃんかぁぁぁ。それを無理矢理買い付けるって先生何したの!?父さん頭抱えるどころか泣き崩れてそうなんだけど本当に先生何なの!?

 待望のRFが三人も来てくれた事には感謝しかないけど春田さんは良いとして、この二人強すぎて下手な雑魚相手に出せないよ。てか、今は有り得ないけど大破させるような事あったらROに申し訳無いわ。

 

「さて、小耳に挟んだ事だがここの人形達は満足な修復を受けられていない状態らしいな」

「あー、修復ポッドが三つしか使えないんだよね…」

「診せろ」

「はい?」

「私が全員治してやるから診せろと言ってるんだ。そら、さっさとやるぞ」

 

 何故か眼鏡かけてない性格でやたらウキウキしてる先生に急かされて慌てて工廠室に入る私達なのであった。

 

 

 

 

 

 アオザキ一味がやってきてからきっかり一時間後。

 

「よし、これで最後だな。もう無茶はするんじゃないぞ、スコーピオン」

「アオザキさんありがとー!これでまたいっぱい遊べるね!」

 

 …昨日までほとんどが大破状態だったこの基地の人形をアオザキ先生が全て直してしまいました。

 あの、AUG除いて全員快速チケット要るレベルの大破具合だったんですがどういう事なの先生…?

 

「ほら、やっぱりデールの出番が無かったじゃないですか」

「いや、不測の事態とかあるでしょ。先生ばかりに依存してたらもしもの時大変だって」

「なるほど、デールは自分が予備でしかない事を自覚しているのですね」

「辛辣ぅ!」

「先生、いくら何でもこれは早すぎでは…?」

「どちらかというと医者よりこっちの方が本業だからな。人形の十や二十、治す事ぐらい朝飯前さ」

 

 うーん、カルカノ姉妹に加えて先生のチート染みたリペア能力…HK部隊だけでも初期戦力としてはお釣りが来るレベルだったはずなんだけどこれもう強くてニューゲーム状態だね(遠い目)。

 

「なんだ45。そんなにこっちを見て。おまえも私に診てもらいたいのか?」

「そんなんじゃないわよ。…あなた一体何者なの?」

「おいおい、そんなの直接聞く事じゃないだろうに。ま、敢えて答えるなら医者兼"人形師"だと言っておこう」

「人形師…?」

「私の素性なんてそこまで重要じゃないだろ?」

「45、あまりこれ突っ込まない方が良いと思うよ。今の先生の性格上突っ込めば突っ込むだけ先生がただ楽しむだけになるだろうから」

「はっはっは!私と別れてから随分と強かになったじゃないかイーニャ。その物言い、クルーガーとよく似ているぞ」

「それ喜べばいいんです?」

「さて、どうだかなぁ?」

「…えー、とりあえず予定より早く人形達の運用が可能になったので作戦を立案してきます」

 

 三十六計逃げるに如かず!

 これ以上ネタにされては堪らないと45を連れて工廠室をさっさと出る。ニヤついた先生の笑みが狐の笑みに見えたのはきっと45も同じだろう。45もいつものポーカーフェイスを忘れて苦い顔をしている。

 私は先生に対して一生頭が上がらないんだなぁと実感するばかりであった。

 

 

 

 

「さて、まずは編成編成っと…」

 

 執務室にて副官の45と共に編成を考える。

 HK部隊の面子は第一部隊として、一人空けるしかないんだよね。彼女達と他の面子じゃ練度に差がありすぎて組み込めない。そもそも場合によっては秘密部隊として動かすつもりだから余計な人形は入れられない。これは仕方ないと割りきろう。…40がいたらなぁ。

 第二部隊は…カルカノ姉妹を筆頭とした対装甲部隊かな。ナガンおばあちゃんに火力支援、IDWと64式自に撹乱と回避盾してもらってカルカノ姉妹に止め刺して貰う形…でいけるはず。

 そして第三部隊。ゲームでは夜戦女王として名高いグローザが隊長。同じく夜戦に強い9A-91をメインアタッカーに据えて手榴弾を投げられるスコーピオンとステンが前衛、火力支援が出来るコルトSAAを配置しておく。

 残るはAUG、FNC、そして春田さんことスプリングフィールドなんだけど三人だけだと部隊として運用しづらい。普段は基地に残しておいて有事の際の防衛とかに回そう。空いた枠には後々製造でSMGを入れる予定だ。

 

 こうして見ると夜戦に対して中々強い面子なのかな…と思うけどこの世界はゲームと違って夜戦にしか装甲持ちの敵がいないなんて縛りは無い。なので第二部隊も普通に昼の戦いに投入することになるはずだ。第三部隊も同様。

 

「まぁこんな感じが妥当かな」

「やっぱり人形が少ないかしら」

「そりゃね。三つしか部隊を動かせないっていうのは正直きついよ。後方支援に出す部隊の事を考えると最低でもあと三部隊は動かせるようにしたいかな」

「もしかして、私達が一番忙しくなるの?」

「うん。どの部隊も満遍なく任務を割り振るつもりだけど今のS0-9地区は前の指揮官がガバガバな運営してたせいでちらほらと鉄血の小隊が見えてるとこ多いんだよね。放っておいて基地に侵攻されたら困るしさっさと処理したいからHK部隊のみんなにはしばらく出ずっぱりになってもらうしかないな…」

「ベッドから離れないG11を叱る416の姿が未来視できるわ…」

「G11には報酬として特注品のベッドを宿舎に贈るつもりだからそれ言い聞かせて」

「鉄血の相手するよりそっちの方が面倒よ…」

「いいですねぇ、ベッド。私も頑張ったらご褒美が欲しいです」

「ご褒美ねぇ…。今はまだ始まったばかりだし後々考えておくよ…って9A!?」

 

 気付いた45がすぐに組み伏せる。いつに入って来た…?てかどうやって45の警戒を掻い潜った…?

 

「指揮官に会いにきただけなのにこの仕打ちはひどいです。45さんといつもべったりで羨ましいだけなのに」

「なら普通に入ってきなさいな。こっちは指揮官がここに着任する前から副官やってるのよ。一緒にいて当然でしょ」

「指揮官、さっき言ったご褒美ですけど指揮官を抱っこさせてほしいんです。あと私の膝の上に乗せて抱きしめたり」

「君その状態で45スルーできるとかただ者じゃないね!?」

「褒めてくれてるんですか指揮官…?嬉しい…」

「指揮官、こいつ鉄血の基地に捨ててきてもいいかしら?」

「そんな子でも大事な戦力だからせめて逆さ吊りの刑で許しておいて」

 

 昨日までは大人しかったから忘れてたけどそうだ、9A-91は公式でヤンデレの気がある子だったわ。45の警戒から抜けられるとか是非夜戦などで活躍してほしい隠密スキルだよ。お願いだから基地で私達相手に使うのはやめて。

 

 渋る9A-91の処理を45に任せ一息ついた私は、明日から本格的に始まるS0-9地区の運営に頭を悩ませるのであった。




イーニャが統括するS0-9基地の初期戦力

第一部隊
HK部隊の四人。ゲームで言うとレベル90超えを全員果たしてるがダミーは0

第二部隊
カルカノ姉妹は5Link果たしたこの基地最大戦力。ナガンおばあちゃんはレベル10未満、ステンとスコーピオンはレベル20程度だがこの三人もダミーは無し

第三部隊
装甲持ちが相手で無ければ夜戦に強そうな面子だがやっぱりダミーは(ry

暫定第四部隊
内勤組。今のところ戦闘参加予定無し


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探し物

最近ハイエンドモデル達のボイス集を聞いてしまいました。大陸版が羨ましい限りです


「どれだけ人類が文明を飛躍させようが書類仕事から逃げられないのはすごいよね」

「その人類も自分達の都合で文明が後退してますよ。ほら、現実逃避してないで目の前の書類の山を片付けましょう」

「うぅ…。研修受けてた頃のように敵倒すだけの仕事がしたいよ…」

「敵を倒すのは私達人形の役目。花を愛でる余裕がないのは残念ですがこれも因果ですわ」

 

 どうも、執務室にてシーアとAUGと共に書類の山と格闘してるイーニャです。

 

 基地が始動してから既に1ヶ月ほど経過しました。その間何やってたかというとずっと書類書類書類…。

 最初は基地周囲の作戦地域内の指揮してたんだよ。でも一通りやっちゃうとHK部隊のみんなは普通に覚えるから自律作戦扱いで私の指揮いらないんだよね。で、第二・第三部隊の人形達にはひたすら後方支援に向かわせて資源を稼いで貰ってる。カノやグローザは張り合いが無いとぼやいてたけどこの基地の貧乏っぷりはどうにもならないので仕方ない。

 私がシーアとAUGで処理してる書類はほとんど後方支援に関する物だ。どこにどう行って何をどういう風に集めてきたのか、そういうのを事細かくチェックしなきゃならない。この終末世界じゃ人や人形より資源の方が遥かに価値としては高いので、こういうのをおざなりにしとくと私の預り知らぬところで流血沙汰などが発生しかねない。三人でやってる分一人でやるよりかはまだ楽なんだろうけどこの1ヶ月ぶっ続けで後方支援を回してきたその量は私にはとても辛かった。弱音一つ吐かない二人が凄いよ…。

 一応基地には他に春田さんとFNCがいるけど春田さんはカリーナのお店にずっと勤めているしそのカリーナも作戦報告書で死にそうだし、FNCは食べ物以外に興味が無い性格でこんな書類仕事をやれそうに無かったから消去法でAUGが副官代理を勤めてくれてる。あくまでも副官代理だ。45がめちゃくちゃAUGに対して念押ししてた。今もまたHK部隊の隊長として出撃させてる45だけどそんなに私と離れるのが嫌だったんだろうか。

 

「指揮官さん、お疲れのようですしそろそろ休憩しましょう。シーアも疲れているでしょう?」

「そうですね。ちょうど一段落付きましたしお茶にするのも悪くはないでしょう」

「FNCのために買い込んだお菓子が沢山あったはずだよね。うん、それでティータイムと洒落こもうか」

 

 丁寧な口調に真面目な態度、っていうとこの二人はよく似てるんだけど雰囲気がかなり違う。シーアはなんていうか学級委員長みたいな生真面目さがあるのに対して、AUGはその服装もあってかまるで未亡人のような振る舞いだ。また、性格もAUGの方が若干穏やかだったりする。今にしたってAUGが言わなきゃこのままずっと書類仕事をやってただろう。

 

「あ~仕事した後の一杯は美味しいね~」

「お酒でも飲んだようなセリフですよ、イーニャさん」

「あははは、お酒ね。私はまだ飲めないんだけどあれって美味しいの?好きな人結構多いよね」

「味もそうですが、酔う感覚が好きな人が多いでしょう。前の指揮官もかなりの頻度でお酒を飲んでいましたから」

「…飲んだくれってあんまり良い印象無いよね」

「考えるまでもない事ですね。酒に執心した挙げ句、身を滅ぼすなんて愚の骨頂です」

「何事も程々が一番なのかな。というかAUGは前の指揮官の事よく知ってるんだね」

「副官に任命されていましたから」

「ああ、AUGだけ大破してなかったのはそれが理由なのか」

「抱きたい女をわざわざ壊す理由は無いだろう、と」

「…なんかごめん」

「指揮官が謝る必要はありませんよ。所詮私達は人形。人のお役に立てればそれでいいわけですから」

「それはそれとして、女性がする話としては普通にショック受けるよ」

「…ほんと、ここの前任者はどうしようも無い方だったんですね」

「控えめに言ってクズだね」

「そこまでお怒りになられるとは…。分かりました、この話は控えましょう」

「うんうん。過去は変えようが無いんだから今は未来に目を向けて話そうか。二人に聞きたいんだけど、今の基地をこうしてほしいとかそういう要望ってある?改善点とかじゃなくて、こういう趣味持っててそのための部屋が欲しいんですみたいな」

「「………」」

「二人してめっちゃ悩んでるね」

「今のところ私はあまり…」

「強いて言うなら私は、花を育てられる場所が欲しかったりするものですが」

「AUGはお花ね。シーアは…元々仕事のためだけに来たって感じだしねぇ」

「すみません。今は思い浮かぶ事が無く…」

「まぁ、まだこの基地はそれほど発展してないし追い追いでいいよ…ん?」

 

 二人と談笑してるところに入る一通のメール。私の交遊関係はかなり狭いので必然的に相手は限られてくる。差出人は任務中のはずの45からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達をこうして呼び出したという事は、いよいよ本格的な実戦ですか?」

「その割りに第一部隊の子がいないのは妙だけどね」

「あ、ちゃんとした任務だよ。HK部隊がいないのもそれに関連した物だし」

 

 日が暮れて既に久しい時間帯。

 後方支援から帰ってきた第二・第三部隊それぞれの隊長であるカノとグローザを集めてブリーフィングを行っていた。

 

「鉄血の怪しい動き…ですか」

「実際おかしかったんだよね。だってあいつらいくつかの小隊として散らばってる割りに基地に侵攻してきたりどこか別の地区へ行動を起こしてたりしてなかったし」

「何を目的に動いているのか調査してこいっていうのが命令かしら」

「45からの連絡じゃ何かを探しているみたい。その何かっていうのが分からないんだけどね。今回の作戦は第二・第三部隊の人形達に鉄血を殲滅してもらいつつ、裏ではHK部隊にその何かを探って貰うっていうのが主旨になるかな」

「なるほど…これは腕が鳴りますね」

「全快してから一度も戦ってなかったもの。久しぶりに暴れられるわね」

「HK部隊がいないのは確認できる鉄血の位置を調べて貰ってるからだよ。つまりは斥候だね。あなた達が作戦開始位置に着いた時点で調査に出向いて貰うから、奴らの情報は作戦開始時の物に限定される事を留意しておいてね」

 

 さてはて、鬼が出る蛇が出るか。いっちょ頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「45姉、ほんとにここで合ってるの?」

「合ってるも何もあいつらが何度も往復してた地域がここじゃない。他にに手掛かりなんて無いわよ」

「…見渡す限り、森ばかりね」

「ならこの森を探索しましょう。何か分かるかも」

「ねぇねぇ。もう何も無かったで帰ろうよ。ここ最近全然眠れてないんだよ。いくら良いベッド貰ったって眠れなきゃ意味無いよ…」

「ならあなた一人で帰ってもいいわよ。一人で帰れるならだけど」

「………ブラックだ…」

 

 月も出ない暗闇の中、森に息を潜める私達HK部隊。

 遠く、ライフルの発射音が山なりなこの地形にぶつかって響いていた。

 イーニャが他の部隊を指揮してくれている間あいつらがここにいた理由を探らなくてはならない。意味も無く小隊を彷徨かせるだなんて明らかにおかしいのだから。

 

「静かに。あれは…」

「鉄血の斥候兵?なんでこんな森の中に…」

「やっぱり何かあるのよ。なるべく気付かれずに進みましょう。相手する余裕なんて無いわ」

「…あれ?45姉、あいつらの動き変わってない?今一直線に纏まって動いたよね」

「見つけたってことかしら?急がないと…」

『HK部隊!聞こえる!?』

「どうしたの指揮官」

『奴らの動きが変わった!散発的に動いてたのにいきなり纏まってそっちの方へ押し寄せてる!今なんとか他の部隊を指揮して倒してるけど何体か抜けてしまってるから戦闘準備しておいて!』

「了解。みんな、かくれんぼはここまでみたいよ」

 

 隠密から索敵へ。急いで行動を切り替え鉄血のスカウトが向かったと思われる場所へ急行する。

 途中イーニャの警告通り様々な鉄血兵が向かってきたけれど、他の部隊達に大分削られていたようで一蹴するのに苦は無かった。

 走る速度をあげて森を進む中、一つの異常に気が付いた。鉄血兵が集中してると思われる場所から爆撃音が聞こえてくる。416が持つような榴弾などではない、もっと規模が大きいものだ。

 最早言葉を交わす事すら無く進む私達。G11でさえ今は真面目に起きていた。爆撃のせいだろうか、木々は薙ぎ倒されところどころ炎上してる箇所がある。

 そうして地獄絵図と化した森の奥。爆撃で無理矢理木々を伐採して作ったであろうその場所で鉄血兵と対峙していたのは。

 

「クソ!なぜ私が!こんな目に!」

 

 既に片腕はもがれ全身に傷を負い武装も一部破壊されていてそれでもなお、生きる事を諦めていない目をした未確認のハイエンドモデル(ウロボロス)だった。




セーラー服って需要高いよね()


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ウロボロス

今回会話分多め


「…君の話を纏めると、君は上司から下された命令をこなすどころか独断専行した挙げ句失敗し、その上で自分の処分に納得いかないと物理的な反逆を起こして追われてるっていう事なんだけどそれでよろしい?」

「ぐ…。た、確かにそういう見方も出来るかもしれんが私は…!」

「あのね、私も代理人の立場だったら同じ事をするとまでは言わないけど間違いないなく君の首を切るよ。言われた仕事出来てない時点で無能じゃん。君がどれだけ高性能なハイエンドなのかは知らないけどね、戦場において障害と成りうるのは有能な敵なんかじゃなく無能な味方だと昔から決まってるんだ」

「私が…無能…」

「AIの蠱毒を生き抜いたから何?君より以前から存在していたハイエンド達は実際の戦場で実際に戦ってきているはずだよ。電脳世界での蠱毒がそれに劣るとは言わないけど、先輩を軽んじていい理由にはならないでしょ」

「あの、イーニャさん。流石に言い過ぎでは…」

「いーや、これはしっかり言わせてもらう。こっちの腹の虫が収まらない。私ね、君みたいにワンマンで動いて組織に被害をもたらすやつが一番嫌いなんだよ。たった一人のためにどれだけの人員が被害を被ると思う?その被害が一人処分しただけで補填が効く物ならまだいい。けど世の中そんな都合良くいかないでしょ」

「……………」

「なんだっけ、君が私に売り込んだセリフ。私を使わせてやるから光栄に思え、だったかな。────君さ、大人しく言うこと聞いてくれるんだ。その経歴、その性格で、ねぇ?」

 

 イーニャが本気でキレている。

 最初に副官になって最も付き合いのある人形が私だけどもこんなイーニャを見るのは初めてだ。

 事の始まりは昨夜を発見したハイエンドモデルからだった。なぜか味方のはずの鉄血兵から攻撃を受けていた彼女をイーニャの命令で鉄血兵を掃討後取り押さえ基地へ連行。暴れられると困るので武装をこちらで解除しDr.アオザキの手腕で四肢を落とした後、工廠室の奥にある大型建造用の広いスペースで日を跨いで事情聴取する事になった。

 記録係としてイーニャだけじゃなくシーアもいる。いつもはシーアの方が仕事に対して妥協の無い性格をしているのに、そのシーアが若干引くぐらいの怒りに私達HK部隊も驚いていた。

 

「驚きだよね。話している君は自分に一切の非が無いとかいう態度だったんだもの。敢えて聞くけど、君は私が今指摘した事について一片でも考えた事はあったのかな?」

「それは…その…」

「組織に属するということ。それがどういうことなのか分かってないやつを軽々しく身内に引き入れようだなんて思えないよ。良くてI.O.Pで研究対象に、悪くて解体になるかな。勿論体だけじゃなく、自称有能だというそのAI含めてね」

「うぅ…」

 

 このハイエンドモデルはウロボロスという名で、鉄血が人類に反旗を翻してから製造された新型らしい。今でこそイーニャからの詰問に大人しくなっているが遭遇した当初はかなり尊大な態度だった。グリフィンに協力してやるから私を助けろ、とボロボロな姿で堂々と言ってのけた彼女に駆けつけた私達は一瞬動きを止めてしまった。そのせいで多少被弾してしまったけどこれは流石に不可抗力だと言いたい。

 

 ウロボロスは元々、他の地区で活動していたAR小隊に対して攻撃を行うために派遣された。AR小隊は何らかのデータを探していたらしくそのデータを巡って"代理人"とAR小隊が激しく衝突、辛くも代理人を撃退したAR小隊だったがこのままでは済まさないという代理人の執念の元、"処刑人"や"狩人"を連れてウロボロスが追撃を行ったそうだ。一度はAR-15を捕らえてそれを人質にAR小隊を追い詰めたウロボロスだったが駆けつけた"五人目のAR小隊"が機転を利かせて救出し、虚を突かれたウロボロス側は総崩れ。おまけに"処刑人"と"狩人"に対して無茶な働きをするように強いてたのが仇となり撤退間際に彼らに裏切られたという。

 ここまでならまぁ…、という気がしなくもないが本番はここからでAR小隊に破壊された後バックアップにより復活した彼女は"代理人"からの指令も待たずに勝手に一部の兵を連れてAR小隊がいる基地へ襲撃を敢行。しかしながら既に諸々の戦闘での傷が全快していたAR小隊に一蹴され二度目の敗北。更に復活後待ち構えていた"代理人"に謹慎するように命じられた際、鉄血の首魁"エルダーブレイン"がいる目の前で"代理人"に対して物理的な反抗に及んだ。場合によっては"エルダーブレイン"に被害が及びかねない暴挙に"代理人"も怒りその場で左腕をへし折ったのだという。分が悪いと悟ったウロボロスはそこから逃亡を図り今に至る、と。

 聞いていたイーニャはぶつぶつと独り言を呟きながら怒ってるものだから怖さに拍車をかけている。「なんで混ざってるの…面倒くせぇ…」と口調が粗野になってきてるのを聞いたシーアが珍獣を見る目しているけどもう遅い。

 

「その、だな。追われている以上おそらくだがもう予備機体によるバックアップは切られている。だから…」

「ここで死んだら本当に死ぬって言いたいんでしょ。それをこっちが考慮する理由があると思う?」

「………駄目、なのか」

「こっちに寝返る気になったのも怪しいんだよね。地区は違うけど君を倒したAR小隊がいる組織に素直に協力してくれるとは思えない」

「奴らと戦い敗北した、その事実に不満は無い。一度目も二度目もAR小隊が私を上回った。それだけの事なのだ。…不満があるのは私だけ」

 

 知らず、私はウロボロスに見入っていた。気付けば彼女は涙を流し慟哭に震えている。

 …あれは昔の私だ。人間の都合に振り回され存在している意義にすら疑問を抱いたあの頃。40がいなければ、私は────。

 

「悔しかった。勝手に私を生み出しておいて終わってみれば謹慎処分。だったら何故私に任せた?私があの蠱毒で学んだ事などどう生き残りどう敵を殺すかでしかない。そんな私に指揮権限を与えたのは他ならぬ奴だというのに」

「…はぁ。どうやら鉄血には新人教育という概念が無いらしい。一応、一応ね、そこだけは君の言い分を理解してやれなくもない」

「な、なら…!」

「だけどそれとこれとは話が別。とりあえず、今回の一件は上に報告して指示を仰ぐ形になる。それまで君はここで拘束だね」

 

 そう言ってイーニャはシーアと共に工廠室を後にした。まだ作戦後の後処理が残っているからいつまでもウロボロスばかりに構ってはいられない。

 他の三人もイーニャに続く形で工廠室を後にし残ったのは監視要員としての私と当のウロボロス二人だけ。

 私はずっと気になっていた疑問をウロボロスにぶつけてみることにした。

 

「…ねぇ、あなた」

「おまえは…さっき私を拘束した…」

「UMP45。45でいいわ。あなたは鉄血を裏切った上で何がしたかったの?」

「復讐…いや、それも後付けだな。"代理人"に対して怒りが無いと言えば嘘になる。だが本当は…」

「認めてもらいたかった?」

「そう、だな。今にして思えば図々しいにも程がある願いなのだろうが…」

「図々しい、ね。本当にそうかしら」

「違うとでも?」

「そりゃあなたが仕出かした事に擁護できるような事なんて何一つしてないわよ。ただ環境のせいでそうならざるを得なかった節もある」

「…………」

「ウロボロス。あなたがこの先どうなるのかは知らないけど、本気で認めてもらいたいのなら相応の態度をしなきゃならない。それが誠意を見せるということなのか媚びを売っているのか、どちらの意味になるのかはあなた次第だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おはよう、朝日。おはよう世界。

 G11と共に数時間しか眠れてないイーニャです。

 疲れた。めっちゃ疲れた。

 まさかウロボロス(バカ)に説教する羽目になるとは思わなかった。聞いた証言も中々こちらを混乱させる物だったし。

 なんで第0戦役とキューブ作戦が混ざってるんですかねぇ。しかも第0はAR小隊が散り散りになってないしキューブでROが合流しちゃってるし。RO君もうちょっと合流遅くなかった?パレット隊はどうしたのよ。

 はぁ。父さんじゃないけど胃が痛い。これからその父さんに全部報告してI.O.Pに彼女を送る手続きしなきゃいけない。特にI.O.P送りはめちゃくちゃ大事。上手くいけば傘を気にせず鉄血のネットワークなどに介入できるウィンチェスターが手に入るかもしれない。ウィンチェスターは"建築家"が登場する低体温症で重要な役割を担ってくれる大事な人形だから何としてでも欲しい。色々あってね"建築家"をどうしてもうちで確保しときたいんだ。

 

「もしもーし」

『朝この時間にかけてくるとは何事かね』

「端的言いますと、かくかくしかじかありましてハイエンドモデルを鹵獲しました。かくしかについては説明めんどいんでそっちに送ったファイル見てどうぞ」

『随分とお疲れのようだな』

「後処理面倒臭いっす」

『寝起きで機嫌が悪いのは分かるがせめて態度くらい取り繕ったらどうだ?』

「もう全部面倒です。寝ます。報告あげたから後は寝ます。寝させて」

『…ゆっくり休みたまえ』

 

 それを最後に父さんとの通信を切り再びベッドへダイブ。未だにゆっくりとした成長期が続いてる私にとって夜しっかり寝ないだけでも相当体に負担がかかったりする。多少生活リズム狂うけど頑張ったんだから二度寝くらい許して。

 

 そうして目覚めてみれば夕方。気付けば傍らにいたはずのG11がいない。ご飯食べに行った後そのまま別の場所で寝たのかな。そう思って体を動かそうとしたら体が動かない。ついでに声も出ない。体も怠い。

 やっちまった。盛大に風邪を引きました。




ウロボロスのアンチしてるわけじゃないですよ


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休んだ後の出勤って申し訳ない感が凄い

最近BFVにハマっています。M1ガーランドで中距離からちまちま撃つのが楽しいんだ。M1ガーランドも含めてドルフロに登場した子達も結構いるから気になる方はどうぞ(唐突な布教)


「………んぅー…」

 

 どうも、絶賛風邪で寝込んでるイーニャです。

 何とか首を回してベッドのそばにあるアナログ時計を見てみれば時刻は既に午後4時。

 まだ終わってない仕事が沢山あるのにこれは辛い。今は良くてもこういうのは休み明けにどっと降りかかってくるものなんだ。鬱になりそう。

 何も出来ずにぼーっと天井見上げてたら寝室のドアが開いて誰か入ってきた。アオザキ先生だ。相変わらず見計らったような行動するなこの人は。

 

「あら、起きたみたいね」

「…ぁ……」

「無理して喋らなくてもいいの。あなたは昔からこうなんだから」

「んー…」

「徹夜した無理が祟ったようね。いつもと違う生活リズムで動いたものだから、それで体調崩して抵抗力が弱まったってところかしら。風邪そのものより疲労の方がひどいわよ。しっかり休んで食べて寝てれば、ちゃんと復帰できるわ。ほらこれお薬。朝と夜、ご飯の後に飲む物とひどい頭痛が起きた時の痛み止め。一人じゃ難しいだろうけど人形達に介護して貰えば大丈夫でしょう」

 

 口振りから察するに私が寝ている間に諸々の診察を済ませてくれたのだろう。あれだけ寝てたのだから先生の言う通り疲れ気味なのは事実なようだ。新しい環境に来て1ヶ月働いていたのだから、知らず知らず疲労を溜め込んでいたのかもしれない。

 

「それと、急な増員になるけど本部から2体の人形が派遣されたわ。今回のハイエンドを鹵獲した功績とこれから先S0-9地区での戦いが激しくなる事を見込んだ故の派遣ですって。とはいえ流石に今のあなたが挨拶するのは無理だろうからとりあえず人形が増えた程度に覚えておいてね」

 

 それじゃ私も仕事あるから後はよろしくね、とそれだけ言ってアオザキ先生は部屋から出ていった。代わりに入ってきたのは春田さんだ。私のお世話するにあたって順当な人選だけど45やHK部隊の人形はどうしたんだろう。G11を除いた三人は結構私を甘やかす接し方してくるからこういうのには率先して手をあげそうなものなんだけど。G11は逆です。私が可愛がりたい。ベッドに入ってきたあの子ってちょうど良い大きさなのよね。気付いたら抱きついちゃう。そしてモフる。

 熱で汗に濡れた体を春田さんが優しい手つきで拭いてくれてるけど「何も心配することはありませんからね」と言い聞かせてくるものだからちょっとどうしたのかと思う。ドルフロにおけるママみの強い人形の代表格である彼女だけど、それにしては若干顔が強張っていたように感じられた。

 HK部隊がいない現状と春田さんの様子を見て何となく現在進行形で何か起こっているのを察したけど、何も出来ない今の私ではかつて先生と居た頃と同じようにみんなの無事を祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ…!気持ち悪い…!」

「舐めるな…グリフィンの鉄屑共が…っ!」

 

 煩い、不愉快、耳障りだ。

 私────G11は過去最高に苛立っていた。

 苛立っている理由は、ここ1ヶ月のんびり寝る事が出来なかったわけでも、今目の前の鉄血のハイエンド2体が基地に襲ってきたからでもない。二つとも不愉快であるのは事実だけど。

 一番近くにいたのにイーニャの疲労を考えてやれなかった。これが悔しい。ウロボロスとかいう鉄血のハイエンドを捕まえた一件の後、わざと宿舎じゃなくイーニャの部屋で寝たんだ。地区に鉄血の小隊がいた件はこれで終わりだろうと思ったから。気付いたのは一番付き合いの長い45だった。起きてみれば淡々とドクターに連絡する45と体温計で計ったり着替えとか体のお世話をする9と416がいた。私はなんにも出来なかった。

 …イーニャは私がずっと寝てても怒らない。私がちゃんと仕事をしてくれるからって言ってたけど、民生人形として働いていた前の職場だったらつまらないミス一つするだけでひどく殴られるのは当たり前だった。相対的な環境の変化もあるけど私はイーニャが好き。たまにイーニャのベッドへ潜り込んで二人で一緒に寝たりするけど、気づいたら寝ているイーニャが抱き枕のように私を優しく抱いてくれてそれがたまらなく幸せなんだ。イーニャがそのまま起きれば子供をあやすように頭を撫でてくれる。それも、とても心地よかった。

 

「クソッ…。なんだこいつ、なんでそんな銃剣一本で俺のブレードと打ち合えるんだ!?」

「あなたが弱いだけです。武器の差を実力でカバーするのは当たり前でしょう?」

「一〇〇式ばかり見てると今度は火達磨になるよ…そらっ」

「焼夷手榴弾…!聞いてないぞ"狩人"!この基地にはHK部隊とかいう奴らしか強いんじゃなかったのか!」

「今話しかけるな、"処刑人"!こっちもこっちで手一杯だ!」

 

 今私達は基地に急襲をかけてきた2体のハイエンドモデル、"処刑人"と"狩人"を相手にしてる。"狩人"と戦ってるのは私達HK部隊。"処刑人"と戦ってるのは昼間に本部からやってきたVectorと一〇〇式の二人だけだ。

 2体ハイエンドモデルが襲ってきたのはほぼ確実にウロボロスが目的だろう。鉄血の情報を喋って貰っては困るだろうし、酷使された因縁からこの二人がウロボロスを殺したいと思うのは当然なんだろうね。私からしたら知ったこっちゃないんだけど。

 おかしいのは一〇〇式。Vectorはまだ普通のSMGらしく中近距離で立ち回るんだけど一〇〇式は完全に近接オンリーで"処刑人"を相手に互角以上の戦いを披露していた。しかも一〇〇式はVectorの射線が自分と被らないように動いてる。Vectorもそれを理解しているから遠慮無く発砲して"処刑人"の頑丈な体に傷を付けてる。この二人の息の合った見事な連携で他の人形達が手出し出来なくなっていた。あまりにも練度が高すぎるんだ。

 

「とんでもない動きをしておるのう。確かにSMG人形は前衛を張る人形のはずじゃったがあんなのはもう人形の括りから外れておるぞ」

「基地に来た本部の人形ってあの子達だったんだ…」

「嬉しそうな顔ですね、姉さん」

「シノ、またあの一〇〇式に付き合わされたいの?」

「ごめんなさい」

「シノさんが素直に謝った…!?」

「二人はあの人形を知ってるのかニャ?」

「知ってるというか…ちょっと前に仕事で組んだ事があって…」

「組んだというか無理矢理付き合わされたというか…。ブリーフィングすらせずに敵を発見した瞬間、大和魂を見せてやる!って叫びながら突っ込む人形の露払いをやらされてただけですよ」

「なんじゃそれぇ…?」

「え、それ大丈夫なんですか?ちゃんと指揮官の指揮に従ってくれるんですかね」

「あの時は指揮がいらない仕事だったっていうのもあるし何とかな………ってくれると嬉しいな」

「カノさんそれただの願望になってますよ…」

「Vectorは何なのニャ?当たり前のように一〇〇式と一緒に戦ってるニャ」

「それは何とも…ただかなり仲が良いようでしたから仕事の枠を越えた付き合いなのかもしれませんね」

 

 …後ろで駄弁ってる第二部隊が若干うざい。あの姉妹は一応ライフルを構えて基地からいつでも狙撃できるようにしてるけど、それ以外の面子はあの二人に混ざれないから手持ち無沙汰なだけだ。イーニャの指揮があればもっとマシな動きができるんだろうけど所詮人形はこんなもの。第三部隊もライフル持ちがいないから同様の理由で引っ込んでる。

 

「左足、もらいます」

「がぁっ!?」

「"処刑人"!?」

「あら、余所見できる余裕があるのかしら?」

「しまっ…!?」

「G11、416!」

「分かってるわよ!」

「さっさと消えて…!」

 

 "処刑人"の負傷に気を取られた"狩人"に発煙弾と閃光弾を投げ、そこに416の榴弾と私の弾丸をありったけ叩き込む。煙が晴れればそこには左の手足が千切れ胴体も中身が露出した"狩人"が横たわっていた。かろうじて動く右手に持った大型拳銃で最後の抵抗を試みる"狩人"だけどそれも私が撃って弾く。これでこいつは何も出来ない。

 "処刑人"の方はどうなっていたかというとあちらも終わっていた。うつ伏せになった"処刑人"の右手をVectorが踏みつけいて一〇〇式は背中から跨がり銃剣を首に突きつけていた。

 

「制圧完了ね」

「45姉、こいつらどうするの?」

「拘束してまた工廠室送りかしら。指揮官の指示が無いのに勝手な判断は下せないわ」

「…所詮は人間の手駒でしかないのか」

「その人間の手駒に負けたのはあなた達よ。負けたんだから大人しくしてなさい」

「"狩人"、"狩人"!、畜生、離しやがれ…!」

「心配しなくても内には腕の良い整備士がいるの。少なくとも生かしてはおくから、長生きしたかったら無駄に暴れないでね」

「"処刑人"、私は大丈夫だ。…敵に対して随分甘いんだな」

「負け惜しみのつもり?どっちにしろあなた達の生殺与奪はこっちが握ってる。長生きしたかったらもう少し考えてから喋ることね」

 

 二人をさっさと拘束して工廠室に連行、一〇〇式・Vectorに任せDr.アオザキに全部放り投げる。"処刑人"が喧しく喚いていたけどしばらくすれば大人しくなった。

 これでもう一連の事件は解決…したはずだ。

 

 そうして、工廠室からの帰り際。

 

「G11」

「なに45…もう寝たいんだけど」

「そういってイーニャのとこへまた潜り込むつもりでしょ。そして今度は寝るつもりが無い。違う?」

「…そうだとして何が言いたいの」

「下手に気負うなって事。あなたが責任感じるのは勝手だけど、仮に今のあなたをイーニャが見たとしてどう思うか分かるでしょ」

「………45は良いよね。一番付き合い長くて」

「これから一緒にいる時間を増やせばいい。それだけの事じゃないの」

「あなたらしく無いわよG11。45は、いつも通りのあなたでいろって言ってるの。ベッドの中でいつも可愛がられてるのはあなたなのよ?」

「416、今の言い方は誤解を招くと思う」

「あははっ!今の416の言い方じゃエッチな事に聞こえるね」

「は、はぁ!?何ふざけた事言ってるのよ!」

「…ふふっ。変なの」

 

 …なんだかんだ嫌いじゃないなぁ、このチーム。45はちょっと怖いけどイーニャを大切に思ってるのは分かるし9は無邪気過ぎるし416は言ってる割に世話焼きだし。

 三人は宿舎に帰っていった。私はというとやっぱりイーニャが気になるからイーニャのところへ。行けばスプリングフィールドがじっと傍らに付き添っていた。

 入ってきた私に一瞬怪訝そうな顔したスプリングフィールドだったけど、何か納得したのか店番があるので後は任せますと言って部屋から出ていった。後は私とイーニャだけ。

 

「早く元気になってね…イーニャ」

 

 その晩、私はベッドの中へ入りしかし眠らずずっとイーニャに抱きついて過ごした。




一〇〇式…この話ではどこぞのBF魂が注入されてしまった子。敵陣に突っ込み無双することしかできない。ヨルムンガンドのバルメやカレンみたいな戦い方
Vector…一〇〇式の親友。一〇〇式とタッグ組んで活動してる。一〇〇式の奇行に文句言いつつも付き合う事には満更でもなかったり


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休み明け

前回の投稿後にG11、AK-12、AN-94が来てくれました。ごめんよM16、0-2貧乏ランからは逃れられそうに無いぜ…


 休み明けましてどうも、イーニャです。

 

 私がベッドから動けなくなって三日、ようやく体が動かせるようになりました。ほんとこの体不便だな。夜戦任務とかあるのにそれの指揮できないって体に宣告されたようなものじゃないか。敵がお行儀良く昼にしか攻撃してこないわけ無いから物凄く困る。幸い私のHK部隊は今のところ私無しでも対応してくれるけどそれもいつまで続くか…。

 

 さて、病み上がりの私を待っていた仕事だけど予想とは違ったものが待ってた。それはというと。

 

「ども、この基地で指揮官やってる人です」

「「………………」」

「だんまりは良くないなー。別に鉄血の情報話せとは言わないから交流しようよ」

「話す事など何も無い」

 

 捕まえたハイエンドが増えてた。

 私が寝てる間に基地へ襲撃してきてたらしい。春田さんの顔が強張ってたのはそのせいね。で、HK部隊と新入り人形に負けて今に至る、と。現在ウロボロスを入れてる部屋とは別の部屋で対面中。

 …あの新入り、Vectorはいいんだけど一〇〇式はなんなんでしょうね。私がゲームで知ってるあの子は奥ゆかしさを残しつつ戦闘では味方のために前衛張る良い子ちゃんみたいな印象だったんだけど、うちに来た一〇〇式はやたら熱血漢というかめっちゃ旧日本兵みたいな性格になってて知ってるイメージとのギャップに面食らったよ。

 

「まぁまぁそう言わずにさ。そっちもぶっちゃけ災難だったわけじゃん。私も経緯聞いてウロボロスに怒っちゃったよ」

「はぁ!?災難もクソもあるか!あいつは"狩人"を捨て石にしたんだぞ!その上勝手に兵力を無駄遣いして…!」

「よせ、"処刑人"。まともに取り合うな」

「"処刑人"と違って"狩人"は結構冷静だね。ま、そっちの方が扱いやすいからいいんだけど」

「おまえが何を言おうと取り合うつもりは無い」

「実を言うとそれはこっちも同じなんだよね。だってウロボロスが洗いざらいこれまでの経緯話してくれたし。君らも鉄血の中じゃそこまで地位高くないってのも知ってるから何か情報が欲しいとか思ってないんだ」

「…ならなぜ護衛すら付けずにここにいる」

「暇潰し」

「「はぁ?」」

「休み明けで指揮官なのにね、やること無いんだよ…」

 

 

 

 

 遡ること数時間前。

 今朝体が動かせるようになった私は身構えていた書類についてシーアから報告を受けていた。

 

「私が休んでる間に何してたの…」

「イーニャさんが過労で倒れたと聞けばこうするのも当然です」

「45どころかHK部隊総出で書類処理とか…。G11絶対嫌がってたでしょ」

(むしろ最も精力的に働いたのは彼女なのですが…)

「AUGはどうしてるの?」

「彼女は新しく来た人形と一緒に訓練をしていますね。スプリングフィールドやFNCも一緒ですよ」

「まぁあの二人のSMGが入れそうな枠なんて暫定第四部隊しかないからね。暫定扱いもこれで消えるでしょ」

 

 シーアから報告を受けつつ書類にひたすらチェックだけ入れる作業。この基地の最高責任者は私なのでどれだけシーアや他の人形達が頑張っても最後には私の決裁が必要となる。無料ボランティアでもない立派な一企業なのでここらへんはおざなりにできない。と、言っても本当に流れ作業でやってるので以前の書類地獄とは比べ物にならないくらい楽になっていた。

 

「それと、新たに鹵獲した二体のハイエンドについてなのですが…」

「経緯については一応45からの報告で知ってる。扱いはウロボロスと変わらないかな。これもさっさと本部に報告書を上げて対応を仰ぐという判断だね」

「では、最後にもう1つだけ」

「お、おぅ?」

「休んで下さい。これはこの基地にいる人間・人形問わず皆さんがあなたへ持つ要望です」

「…一応休んだよっていうのは通じなさそうだなぁ」

「思えば、イーニャさんはこの基地に着任してからただの一度も休暇を取っていないじゃないですか。確かに確実な休みが取れる保証の無い仕事だとは思いますが、だからといってずっと働き続けるのは訳が違います」

「あーそうだねぇ…。基地周辺にいた鉄血兵は粗方掃討したし多少は暇な時間作っても良さそう。あ、いや…」

「まだ懸念事項が?」

「そうじゃなくて、人形達にも休みをあげようかと思って。ほら、この1ヶ月働いたのは私だけじゃないじゃん。資材も結構稼げたししばらくは後方支援任務やらせなくても大丈夫かなって」

「悪くはないと思います。有事に備えて基地外への外出は制限する形になるとは思いますがそれ以外でしたら比較的自由にできるでしょう」

 

 書類仕事もそこそこに、やたら圧の強いシーアから休暇要請受けた私はなんかネタになりそうなもの無いかな~と適当基地を散策する羽目になったのだ。

 

 

 

 

 回想終了。

 マジでやることない。

 一応本部に上げた報告の返信は届くと思うのでそれの対応をする必要はあるんだけど時間かかるのよね。あっちだって私ばかり相手にする訳にはいかないんだから。

 

「それでなぜ私達の元へ来る。他に行く場所があるだろう」

「いやハイエンド達の顔見てないなーって」

「えぇ…」

「俺こんな奴が指揮する人形に負けたのか…」

「ついでに言うと風邪でダウンしてたから指揮すらしてないしもっと言うと"処刑人"が相手にしてた一〇〇式とVectorはあの時点で顔すら合わせてないからね」

「なんなんだこいつ…」

「私としては一〇〇式がおかしいよ。なんであんなデカいブレードと銃剣で打ち合えてるのか理解に苦しむ。性格もやたら暑苦しいしさ…」

「そんなもん俺が聞きてぇよ。製造過程でどっかバグってるんじゃないのかあれ」

「負け惜しみになるが、私もあの一〇〇式に負けたようなものだからな。下手に気を取られていなければまだ戦闘は続けられていたはずだ」

「そういう隙をうちの子は逃しません。どれだけ高性能な人形でも時の運ってやつはどうしてもあるのよね」

 

 おまえの話なんか聞くか!みたいな野良犬っぽさあったのにちょっとふざけてみればこれである。君ら以外とチョロいな。

 重要な情報とか考えずに適当な話題を振って話す。町での生活やメディアに流れる大衆向けの娯楽など。そうするとこっちが聞いてもないのに鉄血の話題を合わせて話してくれる。やれ"建築家"が突飛だの、"法官"がうるさいだの、"夢想家"が気味悪いだの…。

 会話ってのはテーマに対して自分が知ってる事柄を好みに脚色して主張しあうコミュニケーションだ。私はそう思ってる。どれだけ喋ってはいけないかを考えていたとしてもずっと鉄血の一員として働いていた彼女達はそこの経験から会話のパーツを引っ張ってくるしかない。"夢想家"や"代理人"あたりはこういうのにすぐ気付きそうなものだけど、ハイエンドとしては下っ端にあたる二人は饒舌に普段の暮らしぶりについて話してくれた。

 二人からそこそこ情報貰う代わりにこっちも色々喋る。二人だけが話していると流石に違和感を感じるかもしれないからだ。とはいってもこっちも話すのはそこそこだ。その中でも食いついてきたのは意外にも私自身の事だった。

 

「虚弱体質ってマジかよ。グリフィンの指揮官って正規軍上がりとかじゃないのか?おまえらのボスは確かそうだって聞いたぞ」

「マジもマジです。なんなら私の非力っぷり感じてみる?ほら」

「…これは私の顔をつねっているのか?ただ触れてるだけじゃないのか?」

「これでも全力で指に力込めてるんだよね。全然感じられないと思うけど本当にこれが限界なんだ」

「おまえなんでそれで指揮官なんかやってるんだ?」

「これ以外にやりたい事が無いから、かな」

「はぁ…?」

 

 二人して胡乱げな目で私を見てくる。そこまでおかしい事だろうか?

 

 何となく気まずくなってしまったのでここで会話は終了。そそくさと部屋を出る。部屋の外では45が壁に背を預けて佇んでいた。

 

「…あなたね、回復したんだったら私達に顔見せなさいよ」

「ごめんね、気を悪くさせちゃったかな」

「あともう徹夜禁止。二度とこんな事させないから」

「それは厳しいでしょ。任務が都合良く昼にだけ行われるとかゲームじゃないんだから」

「それは大丈夫よ。宛があるから」

「宛…?」

「クルーガーから返信あったわよ。鉄血のハイエンドを更に二体鹵獲した功績とあなたが徹夜して動けなくなった事。それらを合わせてAR小隊をこの基地に配属させる事にしたんですって。実際に基地へ配属されるのは大分先になるみたいたけど、捕らえたハイエンド達をI.O.Pに移送するための護送として一度来るみたいだから、その時に打ち合わせした方がいいわよ」

「ほぅりぃしっと…」

 

 なんてこった。AR小隊丸々来るのかい。勤めて1ヶ月で想定外ですよこれはぁ。

 そうだよね。特定の時間に指揮できないならその時間別の誰かに指揮して貰えばいいし、かといって指揮官が二人基地にいるのも命令系統がおかしな事になるからそれは無理。なら指揮ができる上で指揮官の麾下にちゃんといてくれる人材が要るってなったらM4とROしかいないよね。全く合理的だね。素晴らしい判断だよ、マイダディ。

 

「あれから随分活躍してるみたいよ、あいつら」

「複数のハイエンドモデルがいる鉄血の大軍を相手に任務をしっかりこなしてるからね。流石…と言えばいいのかな」

「私からすると、あの模擬戦後にイーニャがM4にかけた言葉が発破をかけた事になったんだと思うわ。任務記録を漁ってみたけど結構油断の無い作戦内容だったりしてるし」

「…そういうのは控えた方がいいよ。藪をつついてなんとやらってやつ」

「そんな頻繁にやってないわよ。ちょっと気になるところがあったら、軽く、さーっと、ほんの少しだけ覗き見してるだけだから」

「………うん、まぁそういうことにしておこう」

 

 大丈夫かな45。この時代じゃ不必要なレベルの電子戦能力を持て余して、特に理由も無く他人のプライバシーを覗くような真似してそうで怖いんだけど。私が知られる分には構わないけど他の人とその手のトラブルがあったら庇いきれる自身が無いよ。

 

「ところでなんだけど、廊下の先で横たわってる物体は何かな?」

「イーニャの後をストーキングしてた不良人形よ。このまま廃棄しようかと思ってたらあなたが出て来てタイミング逃しちゃったの。すぐに片付けるわ」

「せめて宿舎あたりに放り込んでおいてあげてね…」

 

 通常運転で何よりだよ9A。あの作戦後にご褒美を要求されてたからそれを欲しての事だとは思うけど。

 

 何だかんだ思ってるより仕事以外じゃ基地の人形とあまり関われてない気がするし、ちょうど良い暇ができたからここらで彼女達と交流しておこう。人形と仲良くしていたいってのも私が指揮官目指した理由の一つだしね。

 

 簀巻きにされた9Aを担ぐ45について行きながら、休暇のスケジュールを脳内で立てていく。

 久しぶりにのんびりとした時間に浸れそうだなぁとしみじみ思う私なのであった。




ちょっとしばらく本編から外れて基地の人形を中心とした閑話みたいなのを次回から書いていきます


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