オーバーロード in Infinite Dendrogram ((◕(エ)◕)クマネーサン)
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プロローグ
1話


―――ナザリック地下大墳墓 第十階層<玉座の間> 【死の支配者(オーバーロード)】モモンガ―――

 

 

 西暦2138年某月某日、今日この日一つの世界が終ろうとしている。DMMO-RPG<YUGDRASIL(ユグドラシル)>という、『無限の可能性を追求できる』という謳い文句を掲げていたこのゲームも次々と台頭してくる新しいDMMO-RPGの人気に付いていけず、サービス開始から12年目でサービス終了となった。

 玉座の間の最奥に置かれた黒曜の玉座に座するは<死>そのもの。魔導を極めんと不死の存在へと至った強大な異形<死の支配者(オーバーロード)>が黄金に輝く宝杖を手に持ち純白の悪魔を侍らせ玉座の間の虚空を眺めていた。

 

 玉座に座るオーバーロード『モモンガ』がギルド長を務めるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は、全盛期にはユグドラシル内のギルドランキングで九位にランクインする程の強豪であったが、時の流れと共に四十一人いたギルドメンバーはモモンガを含めて四人にまで減ってしまった。

 ある者は家庭を持ち、ある者は夢を叶え、ある者は転職を機にゲームをする暇が無くなり、ある者は新しいゲームに嵌り…全員が何かしらの理由でユグドラシルから離れていってしまった。それでもモモンガは自分の半生を費やしたユグドラシルから離れる気にはならず、最後の最後までユグドラシルに固執し続けた。

 

「楽しかったんだ…本当に、楽しかったんだ…」

 

 視界の隅に映る時計が刻一刻とサービス終了の0:00までの時間を刻んでいく。脳裏に思い浮かぶのはかつての栄光の日々。伝説と謳われるまでに至った1500人のプレイヤー撃退戦、手に持つギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を作り上げるための素材集めの日々、現実での出来事を忘れて過ごす何気ない一時…。

 

「あぁ…楽しかったなぁ…」

 

 間もなく0:00になる寸前、モモンガはそう呟くと全てを受け入れ(諦め)て目を瞑った。

 

 


 

 

―――??? 鈴木悟―――

 

 

「あれー、君は一体何なのかなー?」

 

「…えっ?」

 

 そこは見覚えのない空間だった。本来ならサービス終了と共に強制的にログアウトさせられ、目の前に映るのはVRマシン越しに見える自分の部屋のはずなのだが、木造の洋館を思わせる造りの書斎が広がっていた。ティーセットが揃ったテーブルに、座り心地のよさそうな安楽椅子、温かな光が漏れる暖炉。しかしそれは部屋の一部であり、声のした方を向くとそこには無数のディスプレイが投影された電脳空間が広がっていた。その中心に『ソレ』はいた。

 

「君、どうやって入ってきたのかなー?まだサービス開始から一ヶ月も経ってないのに、バグでも起きたのかなー?」

 

「…猫?」

 

 『ソレ』は無数のディスプレイの中でも特に大きな物の前に座って投影されたキーボードを打っていた『猫』だった。勿論只の猫ではなく、いきなりこの空間に混ざり込んだ異物―悟の姿を確認すると『歩いて』近付いてきたのだ。歩くどころか、流暢に言葉を発し話も出来ている。

 

「何だこれ…サービス終了が延期になったのか?それともユグドラシル2のチュートリアルでも始まったのか?クソ運営め…最後の最後までやらかしてくるなんて…」

 

「僕の話を聞いてるー?ちょっと落ち着きなよー」

 

 二足歩行するしゃべる猫『チェシャ』にそう言われ、悟は少し落ち着き自分が今置かれた状況を確認出来るようになった。現実世界ではありえない歩く猫に見たことも無い豪奢な書斎、何よりも無数のディスプレイが浮かぶ電脳空間をまざまざと見せつけられ、ここがリアルでないことはすぐに分かった。そして、今の自分がどの様な姿になっているのかも…。

 今の悟はほんの少し前まで、ユグドラシルにログインしていた時の姿とはうって変わっていた。強大な異形種オーバーロードの時は全身白磁の如き白骨であったが、今は栄養不良で痩せ細った一人の男に成り下がっていた。その頼り無さげな手を見詰めると、本当に全てが終わってしまったのだと実感してしまった。

 

「はは…本当にユグドラシルは終わっちゃったんだな…今まで俺が費やしてきた時間も無駄になっちゃったんだな…」

 

「うーん…よくわからないけど、お茶でも飲むかい?丁度休憩しようと思ってたんだ」

 

「お茶…少し貰おうかな…」

 

 チェシャはそう言うと、今まで広がっていた電脳空間が閉ざされて書斎のみの空間となった。そこに既に準備されていたティーセットをカチャカチャと弄り、何処からともなくお茶菓子を取り出した。その様子を眺めていた悟は「あぁ…やっぱりゲームのチュートリアルか何かなのだろう」と思い、特に突込みを入れる事無くお茶の準備が整うまで椅子に座って茫然としていた。

 紅茶の準備が整い、カップを悟に差し出すチェシャ。ほぼ条件反射で受け取ったがどうしようか悩んでいると、チェシャがお手本の様に飲み始めたのを確認してから自分も真似するように紅茶を飲もうとした時、違和感を覚えた。

 西暦2138年現在、発展していくVR技術だが幾つかの禁止行為がある。その一つが『五感の再現の禁止』である。仮想世界で現実世界同様と同様に五感を感じるようになると、脳が錯覚を起こし重篤な障害を起こす可能性があるためだ。にも拘らず、チェシャが差し出した紅茶からは香りを感じるのだ。慌てて飲んでみると舌は味を感じ、喉を通り胃袋まで到達する熱を感じるのだ。

 

「何だこれ…!?どうなってるんだ!?まさか、電脳誘拐されて変な実験をさせられてるのか!?」

 

「ちょっとちょっと、急にどうしたのさー?」

 

「だって、五感を感じるなんて電脳法に反している!これで落ち着けるわけ無いだろう!!」

 

「電脳法?一体何のこと…いや、ちょっと待ってー」

 

 慌てふためく悟を尻目に、チェシャはタブレットサイズのディスプレイを展開させると何かを確認するかのように流し見る。そして鋭い目を悟へ向けると、値踏みするかのような視線へと変わった。まるで目の前にいる悟が己を害する異物か否か確認するかのような視線である。急に態度を変えたチェシャに悟は、現在自分が置かれている状況が把握できずに混乱するだけだった。

 

「君、本当にどうやってここに来たんだい?正規の手順を踏んでないからバグかと思ってたけど、そもそもログもアドレスも()()()()()()()()()()()()()になっていて、追跡が全くできないんだけど?一体全体、どういう訳でここにいるんだい」

 

「何の事だよ…俺にはさっぱり…」

 

 狼狽える悟の様子を観察するように見て、悪意が無いと判断したのか少しだけ警戒心を解いたチェシャは恐慌状態の悟を気遣ってか穏やかな声色で話しかける。

 

「お互い今この状況を理解できていないなら、自己紹介から始めようか。僕は『Infinite Dendrogram』の管理AI13号チェシャ、よろしくねー」

 

「…俺は…鈴木悟、ただの人間だ…」

 

「うんうん、なら悟君と呼ばせてもらうよー。さて、お互いの名前を知ったことだし状況確認と行こうか。ここでの記録はログには残さないから、プライベートな話をしても大丈夫だよー。その代わり、包み隠さず話してもらうけどねー」

 

「…俺は…」

 

 ポツリポツリと、悟は身の上と自身に起きた現象を話した。自分の生きていた世界・時代のあらまし。この状況に陥る寸前までログインしていたユグドラシルのこと。気付いたらいつの間にかこの空間にいた事…。

 聞き役に徹していたチェシャは、悟の話を聞くにつれて表情を硬くしていく。凡その事を話し終えた悟は乾いた口を潤すために紅茶を飲むが、既に冷え切っておりお世辞にも美味しいとは言えなかった。

 一分、二分と悟の話を反芻するように目を瞑りながら熟考するチェシャ。悟が飲み終わるころ、深い溜息を吐いて瞑っていた目を開く。難しい表情を浮かべるチェシャは慌てず、諭すように悟に話しかける。

 

「悟君…驚かず、そして慌てずに聞いてくれ。僕は最初、何かしらの原因でユグドラシルというゲームとデンドロのサーバーが混線したのかと思っていたのだけど、それは違うみたいだ。そもそも今は西暦2138年じゃ無いんだ、地球時間単位では2045年なんだよ」

 

「えっ…どういう事…?」

 

「…端的に言おう。先程まで僕達管理AIが緊急に思考内で会議をしていたのだけど、君は…いわゆる異世界転移をした可能性が高い…という結論に至った」

 

「異世界転移…?そんな…」

 

「それ以外考えられないんだよねー。デンドロ開始から混線とかは稀にあるけどそういうのはすぐに分かるんだが、君の場合本当に何も分からなくてねー。僕の同僚も原因追求しようとしてるけど一向に進展しないんだー」

 

「待ってくれよ…ここは現実世界じゃないんだろう?じゃあ、俺の身体はどうなってるんだよ?」

 

「言っただろう?自慢じゃないけど、僕達は既存のAIとは一線を画す存在なんだ。そんな僕達が下した結論は異世界転移…僕達でも分からないことだらけなのさ。一つ確実なのは、君は正規の方法…ゲーム機なんかの端末からでここまでやってきた訳じゃない。つまり君の意志だけが飛ばされてきたんだと思う」

 

「そんな…ことって…」

 

 チェシャの言葉に、悟は絶望した。訳の分からないまま異世界転移をしたと思ったら、ここは電脳世界。チェシャの言う通り現実での肉体が存在せず、どの様な状態になっているのかも分からないのに、今いるこの空間のサーバーが何らかの原因で止まってしまえば、己という存在が完全に無くなってしまうかもしれないのだ。

 呆然自失とする悟を労わるかのように、チェシャは努めて軽く声をかける。

 

「そんなに悲観的になることは無いよー。いざとなったら僕達が総出で事に当たれば元居た世界に送り返せるかもしれないしねー。君が望むなら総力を挙げて頑張らせてもらうよー」

 

「元の世界…か…」

 

 そう言われ、悟は元居た世界について思い返す。毒の大気に覆われ、マスクなしでは外出することもままならない荒廃した世界。生まれた時から覆すことの出来ない絶望的な格差社会。友人はおろか、家族もいない身の上。唯一の拠り所であったユグドラシルも終わってしまったそんな世界に、自分の居場所はあるのだろうか。

 呆けた様子の悟の身の上を聞いていたチェシャは、ある提案をする。

 

「君の事は僕達にとっても最大級のイレギュラーだからね、今すぐどうにかするのは流石に無理だよー。何か手掛かりが見付かるまでの間、よかったらインフィニット・デンドログラムをやってみないかい?」

 

「…お前が管理AIしてるっていうゲームの事か…?それってどんなゲームなんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれました!それではご覧いただこう、インフィニット・デンドログラムの世界を!!」

 

 どこか懐かしさ(黒歴史)を感じる、舞台役者の様な仰々しいポーズで腕を広げるチェシャ。それと同時に先程の電脳空間とディスプレイが視界一杯に広げられる。ディスプレイには中世の街並みのような映像が映し出されたかと思うと、次には違う映像が映し出される。

 

白亜の城とそれを囲う堅牢な城壁の中世を彷彿させる騎士の国

はるか昔の時代に自分の国で見ることの出来た桃色の花が咲き誇る刃の国

幽玄な山々とその麓を粛々と流れる大河がある武仙の国

黒々とした煙がもうもうと噴き出る煙突の連なる鋼鉄と機械の国

雄大な広さの砂漠の中にあるオアシスに寄り添う商人の国

大海原を滑るように航海する大艦隊で構成された海上の国

かつての世界に似た巨大樹の麓に広がる花園と妖精の国

 

「これがインフィニット・デンドログラムの世界…。これって何を目的に進めていくゲームなんだ?」

 

「何でもだよー」

 

「何でも?」

 

「そう、英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何もしないのも、『Infinite Dendrogram』に居ても、『Infinite Dendrogram』を去っても、何でも自由だよー。出来るなら何をしたっていい」

 

「自由…」

 

「君は特別措置としてプレイヤーでありながら僕たちと同じ管理AIと同じサーバーに居てもらうことになるけどねー。君の半生を費やしたユグドラシルと比べたらいいか分からないけど、それに引けを取らないとゲームだと断言はできるよー。どうする悟君?」

 

「…俺は……」

 

 向かい合うようにして立つ悟とチェシャ。チェシャは助けを差し伸べるように、短い手を悟へと差し出す。差し出された手を見ながら、悟は逡巡する。

 一世を風靡し、無限の楽しさを追求できると謳っていたユグドラシルも結局はサービス終了してしまった。このゲームだって、いつかは廃れてしまうかもしれない。それでも、ユグドラシルの全盛期を過ごした時の楽しさを思い出してしまう。その楽しさを、また実感してみたい。

 今まで維持してきたナザリックを捨ててしまうのは不義理かもしれない。しかしここはギルドメンバーも自分を知る者が一人もいない世界。それならばいっそ…。

 

 悟は、差し出されたチェシャの手を握り返した。

 

 


 

 

―友たちよ、今の俺を見てどう思っているだろうか

 

―最後までユグドラシルに、ナザリックに固執していたこの俺が、不本意な形とはいえ結局投げ出してしまったんだから

 

―でも安心してくれ

 

―俺達が築き上げてきたナザリック地下大墳墓を、アインズ・ウール・ゴウンを

 

―この異世界であろうと並び立つものはいないものにしてみせる

 

―アインズ・ウール・ゴウンを、不変の伝説へとしてみせる

 

 

 




(◕(エ)◕)<新しい仕事と生活が漸く安定してきたので、再構成してみたクマー

(◕(エ)◕)<また楽しんでいってくださいクマー


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原作開始前
2話


―――チュートリアル 鈴木悟―――

 

 

 新たな世界で生きていく事を決めた悟はチェシャ達管理AIが運営するゲームの世界へ旅経つことになった。その為にまずやらなければならないことがあった。

 

「さて、早速アバター作成といこうか。デンドロでは大まかなアバター変更は後々出来ないからここでしっかり決めるんだよー。ベースにはリアルの自分の背格好や創作の登場人物なんかも使うことが出来るから。必要だったら言ってねー」

 

 そう言ってチェシャは手元のタブレットを捜査してポリゴン状のマネキンを悟の前に投影した。のっぺりとした起伏に乏しい顔に中肉中背の身体、そんなマネキンが腕を水平に広げ脚を肩幅に開いた格好は滑稽に見える。

 

「その辺は普通のオンラインゲームと変わらないんだな」

 

「自分の姿を少しだけ変えるプレイヤーも居れば、全く変えない強者プレイヤー。地球時間単位で一ヶ月かけた猛者もいたねー。動物の特徴を入れた獣人型アバターも可能だし、少ないけど僕みたいな動物型にしたプレイヤーもいたよー」

 

「自由度はユグドラシル以上に高いみたいだな…。リアルの自分をアバターにする事もできるって言ったけど、どうやって再現するんだ?」

 

「ちょっと原理は教えれないけど、プレイヤーの記憶を読み取ってそのマネキンに投影するんだー。企業秘密だからあんまり突っ込まないでねー」

 

「記憶を読み取る…なら俺がユグドラシルで使ってたアバターって読み取ることが出来るか?」

 

「ちょっと待ってねー。…って、これ本気ー?流石にこんなアバターを作ったプレイヤーは今までいなかったよー?」

 

「構わない、やってくれ」

 

「…ま、君がいいならいいけどさー」

 

 戸惑いつつもマネキンに悟の記憶から読み取ったアバターを投影するチェシャ。マネキンに投影されたアバターは全身骨格、人間として本来あるべき筋肉や内臓、皮膚に至るまで一切身につけていない、正真正銘骨だけの姿だった。

 かつて悟がユグドラシルで選択したアバターは【死の超越者】(オーバーロード)という、死してなお魔導の神髄を極めんとする≪異業種≫(モンスター)である。この姿でかつては魔王ロールを行い、所属ギルドの悪名と相まって『非公式魔王』の異名を頂いていた。

 

「これだとモンスターと間違えられてPK(プレイヤーキル)されちゃうんじゃないのー?」

 

「構わないよ。何も持っていない俺にとって、せめて思い出の中の姿だけでも形にしておきたかったんだ。…元の世界とゲームには決別したつもりだったんだが、女々しいかな?」

 

「…そんなことないと思うよー。君にとって大切な思い出なんだから、少しくらい残しておいてもバチは当たらないんじゃないかなー。PKもそうだけど、差別や偏見を受ける覚悟があるなら僕は何も言わないよー」

 

「それはユグドラシルで慣れてしまってるから大丈夫だ」

 

「プレイヤーネームはどうするー?」

 

「うーん…じゃあ『モモンガ』で頼む」

 

 それからアバター作成はサクサクと進んでいった。ユグドラシルのアバターと同じだから変更点は殆どなく、身長を少し変更して初期装備を肌が見えないものにするくらいで終わった。

 全身を覆い隠すゆったりとしたローブに、魔法使いが使う様な木製の杖を装備したアバターは、その白磁の骨格と合わさってモンスターの【死者の大魔法使い】(エルダーリッチ)にしか見えなくなった。その出来栄えに満足そうに見つめる悟に、何を思ったのかチェシャがとんでもない装備を付け加えた。

 

「骨の姿だけだと街に入れないからコレをおまけにつけてあげるねー」

 

「おまけ?ってこれは!?」

 

「君にとって思い入れの深いアイテムでしょー?ちょうど顔を隠せる装備だし、これなら普通に街に入れると思うよーきっと多分」

 

「だからってこれは無いだろ…嫌がらせか?」

 

 チェシャがおまけとして付けた装備、その名は『嫉妬する者たちのマスク』通称『嫉妬マスク』である。ユグドラシルで一年の内、聖夜と呼ばれる日に一定時間ログインしていると強制的に手に入ってしまう恐ろしい呪いのアイテムである。ユグドラシルが12年間だったが、悟は勿論12個持っていた。

 ギルドメンバーで持っていない者に対して、無理矢理持たされた者たちがこれを装備にてギルド拠点の中で追い掛け回したのはいい思い出である。

 

「思い入れ深いって…こんな呪いじみたアイテムを選ぶとかお前も性根が悪いな…」

 

「何の事かなー?これで【死者の大魔法使い】から【怪しい大魔法使い】にジョブチェンジ出来たねー。褒めて褒めてー」

 

「褒めるかっ!!記憶を読み取ることが出来るならこれがどんなアイテムか分かってるんだろ!!」

 

 チェシャの半ば嫌がらせに疲れ果てる悟。そんな悟を尻目にアバターに意識を移し替える作業に入るチェシャ。人間の時よりも少し高くなった目線に違和感を覚えつつも、アバターの慣らしをするモモンガ。ユグドラシルの時には無かった服が肌をなぞる感覚に驚く。

 

「本当に五感を完全に再現してるんだな。俺のいた世界だと五感の完全再現は脳が錯覚を起こしてしまう可能性があるという事で電脳法で違法となってるんだが」

 

「僕達が管理するデンドロではそんな事は一切起こらないよ、その辺は安心してねー。それじゃ、<エンブリオ>の移植を始めようか」

 

「<エンブリオ>?」

 

「<Infinite Dendrogram>最大の特徴、プレイヤーによって千差万別の進化をするオンリーワンの力。どんな進化をするかは僕らにも分からない。大まかなカテゴリーはあるんだけどねー」

 

プレイヤーが装備する武器や防具、道具型のTYPE:アームズ

プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー

プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ

プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル

プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー

 

「これら以外にもレアなタイプがいくつかあるんだけどねー。進化によって<エンブリオ>は複数のタイプを持つこともあるよー」

 

「へぇ、面白いな」

 

「それじゃ<エンブリオ>の移植を始めようかー。…はい完了ー」

 

「何か随分あっさりしてるな。もっと神聖で厳かな物かと思ったんだが」

 

「あはは、これはまだ卵の状態だからねー。『ち、力が溢れてくるっ!』みたいになるのは孵化するまで感じないよー」

 

 モモンガは白骨化した左手の甲に埋まった淡く輝く卵状の宝石をまじまじと見つめた。一見すると手の甲の骨と一体化しているような状態だが、がたつくことなく収まっている。

 

「説明を続けるよー。今は左手に移植して何の変哲もない第0形態と呼ばれる状態だけど、これが孵って第1形態になって初めてオンリーワンの<エンブリオ>となるんだ。<エンブリオ>が孵るまでは職業(ジョブ)に就いてレベル上げしていけばいいよー。職業は『下級職』『上級職』『超級職』に区分されていて、その国でしか就けない職業や条件をクリアしなければならない職業もあるよー。1人につき下級職は6つ、レベル上限は50。上級職は2つ、レベル上限は100。合計8つ500レベルまで就けるよー」

 

「複数の職業に就くことが出来るのか…。超級職っていうのは?」

 

「超級職に就くには厳しい条件のクリアと運の巡り合わせが無ければ困難なんだー。しかも各職に就けるのは先着1人だけ。その代わり強大なスキルが手に入って、レベル上限も撤廃されるんだー」

 

「成程…大体の流れは理解した。あとは所属する国だけなんだが…どこにしようかな」

 

 先程チェシャが投影した国の様子をじっくりと見なおすモモンガ。気になっているのはユグドラシルの原型となった世界樹の世界に酷似している国だが、機械国家で男の浪漫、ロボットが無いか探してみたい気もする。大海原を駆ける船で世界一周してみるというのも楽しそうだ。

 

「チェシャのオススメってどこだ?」

 

「そうだねー…『アルター王国』かなー。中世の騎士国家がモチーフになってる国だよー」

 

「これか…理由を言いてもいいか?」

 

「それはやってみてからのお楽しみってやつさー。まっ、損な事にはならないとだけ言っておこうかー」

 

 意味不明なチェシャの物言いに若干の不信感を抱きつつ、後々所属国家を変えることも可能だと知ったモモンガはアルター王国を選ぶことにした。

 アバター作成、<エンブリオ>の移植、所属国家が決まりいよいよ始めようとした瞬間、チェシャの雰囲気がガラッと変わった。

 

「さてモモンガ君、これから始まるのは君の手にある<エンブリオ>と同じく無限の可能性が広がっている。<Infinite Dendrogram>へようこそ。『僕ら』は君の来訪を歓迎する」

 

 


 

 

―――??? チェシャ―――

 

 

 モモンガ()を無事インフィニット・デンドログラムの世界へと送り出したチェシャ。彼が去った後の場所を暫く眺めていたが、手元のタブレットサイズのディスプレイ画面を操作して今いる場所とは違う電脳世界へと移動した。そこはチェシャ達管理AIのみが存在することを許される場所で、どんな手を使ったとしても他人がそこに侵入することは叶わない特別な場所である。

 普段は重大な事件でも起きなければ管理AIが集うことは無いのだが、今日は特別なことが起こり管理AIの1人が徴集を行ったのだ。現実世界ではない遠い先の未来、それもこの世界軸からは異なる世界からの来訪者があったのだから、当然といえば当然だろう。

 

(あの子からは危険な思想や悪意は感じられなかった。暫くは様子見をするべきかなー)

 

 そんなことを考えてると、続々と管理AI達が集まってきた。いつの間にか現れた円卓の席に座ると、チェシャ達を徴集した管理AI1号『アリス』が口を開いた。

 

「忙しい中集まってくれてありがとう。今日は急に徴集して悪かったわね」

 

「いや、今回ばかりは仕方ないんじゃないかなー?なんたって異世界転移してきたプレイヤーについてだからねー」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ。早速だけどその彼について話をしましょうか。管理AI1号アリスはプレイヤー名『鈴木悟』アバター名『モモンガ』を即時抹殺処分することを提案するわ」

 

「なっ!?」

 

「だってそうでしょう?自由度の高いアバター作成が可能とはいえ、あんなモンスターの様な姿になるなんて…モンスターと間違われて誤射したら攻撃したマスターが可哀想だわ」

 

「あれは彼が望んで取った姿だ!僕達がそれを否定する理由にはならない!!」

 

「そもそも、異世界からの転生者とは我々の手に負える代物ではない。今は限定的に我々と同じ位置付けだが、何かの拍子で真の目的を悟られるわけにはいかない」

 

「なら彼がログアウトしている最中は僕の単一サーバーに隔離すればいい!その時は僕が四六時中監視する!」

 

「そぉれは難しぃいのではぁ?あなぁたの仕事は雑用担当、今後ワァタクシ達の中でももぉっとも多忙になるでしょぉ」

 

「でもっ…!しかし…!」

 

 いきなり悟の事を抹消しようとする事に同意する他の管理AI達をどうにか説得しようとするが、管理用AIの真の目的を果たす為、鈴木悟という異物を排除するべきだという事が最善の方法だというのは理解している。

 それでも、チェシャは鈴木悟というマスターに過去に囚われず今という時間を楽しんでもらいたいと願わずにはいられないのだ。悟と面と向かって話し、過去を知ってしまったチェシャに彼を抹消することは出来なかった。

 

「フフ、そんなに彼の事を守りたいの?彼に入れ込む理由が分からないわぁ、何がそんなに気に入ったのかしら?ならこうしない?」

 

「なに…?」

 

「彼には次代の■■として、世界に混乱を齎してもらいましょう。彼の見た目と、かつての世界で培った経験を駆使すれば■■になることは容易でしょう?その為に、彼には相応しい力を身につけてもらわなきゃね」

 

「なっ…!?そんなことをしていいと思っているのか!?職業はまだしも、エンブリオに対して過剰な干渉をするつもりなのか!!エンブリオはその人物の深層意識から生まれる偶然の産物、僕達が無理に干渉して捻じ曲げていい物じゃない!!」

 

「いや…むしろその方がいいかもしれん。■■になったとなれば、それに対抗する為に他のマスターが成長するための起爆剤になりえるからな」

 

「ジャバウォック!?」

 

 チェシャはそんな事は絶対にさせられないと必死にその提案を否定する。しかし他の管理用AIはアリスの出した提案に賛成する動きを見せる。結果的に、チェシャを除く全員がアリスの提案に賛成した。

 

「では、プレイヤー名『鈴木悟』アバター名『モモンガ』を次代の■■へ成長させるため、我々管理用AIの庇護下へ入れる、という事でよろしいかしら?」

 

「「「「「異議なし」」」」」

 

「じゃあ今日はもう解散ね。あぁ、安心して。それ以外に関しては不干渉を貫くと誓うわ。折角の異世界ですもの、四六時中監視対象になるなんて窮屈ですものね」

 

「…すまない、悟君っ…!」

 

 チェシャ以外いなくなった部屋の中、呟いた慟哭は誰に聞かれることもなく消えていった。

 

 

 




(●..●)<漸くゲームが始まる…長かった…

(◕(エ)◕)<私事とは言え申し訳なかったクマー

(◕(エ)◕)<今後も不定期掲載になるけど、よろしくクマー


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3話

―――王都アルテア郊外<上空> モモンガ―――

 

 

「やりやがったなあのクソ猫がぁー!!!」

 

 モモンガは王都アルテア郊外にある草原の上空1万メートルから、現在進行形で落下中であった。チェシャから何の説明もなくこのような仕打ちを受ければ誰だって言葉が汚くなるだろう

 

「くっそ、<飛行(フライ)>!<飛行>!ってまだ魔法使えないのか!?これ本当に大丈夫なんだよな!?」

 

 落下する際の皮膚(無いが)を切り裂く空気の流れを感じ、恐怖から咄嗟にユグドラシル時代の魔法を唱えるが、当然効果は発揮されない。ぐんぐんと近づいてくる地面に成すすべなく、物言わぬ死体になるまで秒読みを切った(そもそも既に死体)。

 地上まで残り10mを切り漸く減速し、ふんわりと着地することが出来た。しかし恐怖心から脚が震えてしまいその場で尻餅をついて仰向けに倒れてしまった。

 

「あのクソ猫…次に会ったらただじゃおかねぇ…皮を剥いで三味線の材料にしてやる…。今からログアウトすればすぐに会えるか?そもそも俺はログアウトしたらどこに行くんだ…?」

 

 ブツブツとチェシャに対して文句を呟くモモンガだが、仰向けになっていることにより青空を望むことが出来た。嘗ての世界ではもう見ることの出来ない、美しい青空だった。

 青空だけではない、その身に感じる風、鼻孔を擽る新緑と土の匂い、さんさんと降り注ぐ日光の温かさ…全てが初めての経験であった。この時代の現実世界の人々は日常的にこの感覚を味わえているのだと思うと羨ましく思った。

 

「これが自然の中にいるってことなのか…ブルー・プラネットさんがこの場に居たら狂気狂乱してたろうなぁ…」

 

 暫くその身に降りかかる自然の恵みを楽しみ、数分してから立ち上がり服に着いた汚れを払い行動を開始した。見渡してみると、城壁に囲まれた街を見つけた。恐らくあそこがモモンガが選んだアルター王国の街なのだろう。今いる位置が街までの一本道から少し外れた所だったので、早速街に向かって歩き出した。

 城門までもうすぐというところで、モモンガは『熊』と遭遇した。しかしそれは昔ギルメンから見せてもらった図鑑に載っていた熊とは似つかない、ヨレヨレの皮膚をした熊であった。よく見ると、ナマモノの熊ではなくガワだけ模倣した熊の着ぐるみであることに気が付いた。

 着ぐるみという事は、中に人が入っているという事だ。熊の着ぐるみを着込んだそいつと対峙し、そして思う。

 

((な、何だこの不審者…!?))

 

 モモンガと着ぐるみの中の人の思考がシンクロした。今のモモンガの姿は魔法使いロールのマスターの姿だが、それにしてもつけている泣いている様な、起こっている様な表情を浮かべる仮面は誰から見ても悪趣味すぎる。それに加えてローブで身体を一切隠しているのだから不審者にしか見えない。現実世界なら通報待ったなしである。

 

「…一応聞くが、マスターでいいんだよな?」

 

『…そう言うお前も、マスターだよな?』

 

「『…マスターなら大丈夫か』」

 

 何が大丈夫か分からないが、モモンガも着ぐるみの中の人も出身は日本、世界に誇るHENTAIの国出身である。それは時代が移り変わろうと、世界線が異なっていようと変わらない事実であった。

 そういった意味で二人の感性は似通っている物があるのだろう、すぐに警戒を解き道端によって話に花を咲かせていた。

 

『へー、今日始めたばかりなのか。俺は『シュウ・スターリング』、俺もついこの間始めたんだ。よろしくクマー』

 

「何だその語尾…?俺はモモンガだ。初めて見た時から気になってたんだが、その着ぐるみは何だ?」

 

『その身なりでモモンガとか名前負けしすぎクマー。キャラメイクでミスっちまってな、リアルの姿のまま始めちまったんだクマ…。この着ぐるみ買うのに最初にもらった所持金殆ど注ぎ込んじまって、今まで素手で戦ってたんだクマ』

 

「名前については突っ込まないでくれ。だからといって着ぐるみは無いだろ…。俺の仮面みたいに顔を隠す装備を買えばよかったんじゃないか?」

 

『仮面とか覆面とかそんな怪しい恰好したくないクマー』

 

「鏡見てみろ、目の前に怪しい恰好した熊がいるぞ」

 

 シュウはモモンガとは別の理由で姿を晒せなくなったようだ。リアルで何をしているのか知らないが、シュウの口振りから何かしら有名人らしい。そうでなくてもデンドロは世界中でサービスを提供しているので、素顔プレイは危険すぎるだろう。

 全身覆い隠す同盟(シュウ命名、モモンガは参加表明しておらず)を結成した二人は、取り敢えずモモンガが職業について本格的にゲームを始めるために街に入ろうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「なっ、何だお前達!?怪しい奴め!!」 

 

「『…やっぱそうなるよなぁ…』」

 

 シュウは先に始めていたおかげである程度デンドロ世界の住人『ティアン』達に認知されているが、始めたばかりのモモンガの格好は最先端を行き過ぎるどころか、訪れることはまず無い流行の恰好をしているのだ。初見では城門の警備をする衛兵から職務質問を受けるレベルで怪しいのだ。

 

「俺の恰好って怪しいのか?一応初期装備だから俺より先に始めたプレイヤーで見慣れてると思うんだが?」

 

『その仮面のせいだと思うクマー。どっからどう見ても不審者クマー」

 

「お前にだけは言われたくない!!」

 

「そっちの熊?はマスターなのは知ってるが、お前もマスターなんだよな?【魔術師(メイジ)】か?にしても邪悪そうな仮面だな」

 

 何とかマスターであるという事を信じて貰え王都へと入る二人。そこでも二人に向けられる視線は不審者に向けられる物と遜色無い。既に慣れ切っているシュウは兎も角、初心者のモモンガも意外と気にしている様子はない。

 他にオンラインゲームの経験でもあると先程の会話で聞いていたシュウだが、それもそのはずだろう。モモンガは別世界とはいえ一つのオンラインゲームに12年間も続けていたのだから、ベテランを通り越して廃人だったのだから。しかもそこでは魔王ロールをしており、しかも悪を掲げるギルドの長を務めていたのだから、衆人観衆の前に姿を出すと今と似たような視線を向けられていたのだ。慣れていて当然だろう。

 

『それじゃあ早速職業に就いてレベルを上げるクマ。モモンガは何の職業に就きたいんだ?』

 

「おいおい、この恰好を見れば分かるだろ?」

 

『う~ん…分かった!!悪逆非道な魔王クマね?』

 

「違うわ!!魔法職だ!!確かに昔やってたゲームでは魔王ロールしてたけどさ!!」

 

『えぇ~、魔王ロールをしてたとかドン引きクマー』

 

 デンドロのサービス開始と同時に始めた先行組と呼ばれるシュウの先導で、魔術師ギルドで手続きを果たし漸く【魔術師】に就いたモモンガ。これで名実ともに魔法使いになったが、レベルは依然として1だしスキルもまだ戦闘向けの物は修得していない。

 ユグドラシルのサービス末期ではソロプレイしていたが、それはスキルや職業構成が完成されていたからこそできたことだ。まだ初心者と言っても過言ではないこの状況では自殺しに行くようなものだ。

 

『それなら暫く俺とパーティ組むか?俺のエンブリオはもう孵化してるんだが、スキルが金喰い虫だからソロでやってるとなかなか装備買う資金が溜まらないんだクマ。前衛は俺がやるから、後衛を頼めるか?』

 

「それは構わないが、言っちゃなんだが始めたばかりの俺を信用して大丈夫か?パーティ組んでても後ろからPKするかもしれないんだぞ?」

 

『ほんの少しの付き合いだけど、モモンガがそんな奴じゃないって分かったからな。仮に俺の事をPKしようとしてもレベル差で余裕で返り討ちにできるクマ』

 

「…なら、お言葉に甘えようかな」

 

 若干物騒なことを言うシュウだが、デンドロのサービス開始と同時に始めたシュウと今日始めたモモンガではレベル差もそうだがシステムの理解度、スキル構成などで先を行く。モモンガの事など圧倒出来て当然だろう。

 もっともモモンガは自分と一緒にパーティを組んでくれると言ってくれたシュウに感謝こそすれ敵意を抱くことなどない。チョロいとか言われるかもしれないが、今まで孤独だったモモンガにとってシュウの言葉はとてもありがたく、温かいものだったのだ。

 

『じゃあ初っ端だけど中級者向けの狩場に行こうか?』

 

「いいのか?まだプレイヤースキルはからっきしだから、完全に寄生プレイになっちまうかもだが?」

 

『初めてのオンラインゲームじゃないんだろ?自分の動き方とかは何となく分かってるならそれで充分クマ。それなら中級者向けの狩場なら自分の仕事を早く覚えられるクマ。俺が前衛でしっかり守ってやるから安心するクマー』

 

「じゃあその狩場に行こうか。暫くは使い物にならんかもしれんが、そこは許してくれ」

 

『よ~し、出発クマー』

 

 中級者向けの狩場に行くことになった二人は、早速シュウの案内で狩場に向かった。余談だが、二人が去った後その場にいたティアンやマスター達は怪しい二人組に対して様々な憶測をしていた。犯罪者、貴い身分、実はマスターの振りをするティアン、等々。

 全て的外れなのだが、実際にはリアルの有名人がそのままの姿をしているのと異形の姿をしているためなのだが、今は誰もそのことを知らない。

 

 


 

 

―――王都アルテア郊外 【魔術師】モモンガ―――

 

 

『今だクマ!』

 

「任せろ!『穿て必中の矢』!<魔法の矢(マジックアロー)>!!」

 

『PUGOOOO!!!』

 

 王都から少し離れた狩場では怪しい熊と怪しい仮面がパーティを組んでレベル上げに勤しんでいた。ゴリゴリの前衛職のシュウと経験豊富の後衛職のモモンガの組み合わせは上手く嵌り、効率よくモンスター狩りが出来た。

 狩りをして二時間ほどだが、シュウの手伝いもありモモンガはレベルを着実に上げていた。ドロップアイテムもなかなか豊富で、流石は中級者向けといったところだろう。

 

『ふいー、少し休憩しようぜ。流石に武器無しの狩りは辛いクマー』

 

「なら早く装備買えるだけの資金を貯めなきゃな。チュートリアルで選んだ武器はどうしたんだ?」

 

『んなもんとっくの昔にぶっ壊れたクマ。エンブリオのスキルのせいでなかなか金が溜まらんから仕方なく素手で戦ってるクマ』

 

 二人は見晴らしの良い場所で休憩しながら戦利品の整理をしていた。モモンガはメニュー画面を開いてレベルやステータスを確認し、着実に上がったレベルや入手したスキルを見て喜んでいた。

 暫く二人でのんびりしていると、シュウはリアルで少し用事が出来たと言ってログアウトしてしまった。

 

「普通だと『尿意』や『着信』みたいにリアルで起こった事が通知されるのか、なかなか便利だな。俺の場合はそういう事が無いから、時々わざとログアウトする必要があるな。ログアウト先がどこか分からんが…」

 

 シュウから貸してもらったデンドロ先行組の有志が作った攻略本を読みながら、今後の職業やスキル構成を考えていると、後ろから気配を感じた。シュウが返ってきたのかと思いそちらを見ると、そこにいたのは武器を振り上げる敵の姿があった。

 

「んなっ!?」

 

 咄嗟に飛び出すように逃げるが、今の職業は魔術師でMP補正のステータスなのでAGIはそれほど高くないし、リアルを追求したこのゲームでは現実世界と同様の運動神経がベースとなるので、運動不足のモモンガは無様な動きしか出来ないのだ。

 それでもギリギリ躱すことは出来たが、咄嗟の事で追撃してくるマスターに対して成す術も無くゴロゴロと無様に転がって避ける事しかできなかった。

 

「クハハ、何だその無様な姿は!?やっぱ始めたてのマスターはいい的だな!!しかしお前、初心者のくせに中級者向けの狩場に来るとは生意気だな」

 

「クソッ、PKか…」

 

「その通り!!さっきまで見てたがお前魔術師だろ?前衛もいない状況じゃ恰好のエサだな。大人しくPKされてくれやぁ!!」

 

「チィッ!!」

 

 敵マスターは<剣士(ソードマン)>等の前衛職に就いているのか、その鋭い攻撃を躱す事は容易ではなかった。しかしモモンガは辛うじて躱している。それを何度か繰り返しているうちに気付いたが、この敵マスターはモモンガの様に初めて間もないマスターをいたぶって楽しんでいる。わざとギリギリ躱せる範囲に攻撃して、逃げ惑う姿を見て優越感に浸り、そして最後にトドメを刺すのだろう。

 モモンガはその姿を、かつてユグドラシルを始めたばかりの頃に遭ったPKプレイヤーと重ねる。そして感じるのは焦燥でも恐怖でもない、ただ純粋な怒りだけが身の内でフツフツと湧き上がるのだ。

 

「何でこんな事するんだよ…こんな事して楽しいのかよ!?」

 

「楽しいねぇ!!こんなリアルと遜色無い感覚がある世界で、殺人を合法的に犯せるんだからな!!それだけじゃなくて経験値やアイテムなんかも貰えるっていうんだから、こんなボロイ商売無いだろうな!!」

 

 徐々にモモンガの身体を捉える攻撃が増えてきてHPも削れていく。しかし敵マスターはあることに気が付いた。致命傷は与えていないとはいえ、モモンガにはそれなりに攻撃を加えており、実際着ているローブはボロボロになっている。それなのに一向に出血する気配がないのだ。

 

「何だてめぇ、ローブの下に鎧でも着込んでるのか?初心者のくせにそんな物も買えたのか?余計に生意気な奴だな」

 

「やめろぉっ!!」

 

 敵マスターが一向に血を流さないモモンガを訝しがり無理矢理ローブを剥いだ。そして晒されるのは骨格の身体、一見するとモンスターのスケルトンのモモンガを見た敵マスターは、思わず後ずさりしてモモンガから距離を取った。

 

「キモッ!!何だお前、マスターだろ!?モンスターみたいな姿しやがって!!モンスターロールとか意味わかんねぇ、何かしでかす前に俺が駆除してやるよ!」

 

「がッ…!!!」

 

「ちっ、しぶといな。さっさと死ねよ、異形種が」

 

 モモンガの姿を嘲笑い、敵マスターは武器を大きく振りかぶり懇親の一撃をモモンガにお見舞いした。大振りであったがために何とか杖で防ぐことが出来たが、あまりの威力に杖は真っ二つに折れモモンガは勢いを殺し切れずに吹き飛んだ。

 これで完全にモモンガは丸腰になり、吹き飛ばされた結果HPも1割を切った。絶望的なこの状況で思い出すのは、過去にPKに遭った時の出来事だ。

 

あの時は白銀の聖騎士が助けてくれ仲間に誘ってくれた

闘い方に憧れて悪魔と契約し彼を師事した

鳥人と話をするといつも下らない漫談で盛り上がった

女性に免疫がないことをピンクの肉棒がいつも弄ってきた

智将が立てた計画のおかげでギルドの規模が大きくなった

 

 これらは全て過去、今モモンガを助けてくれる者は誰もいない。

 

(ふざけるな…!!力さえあれば…!!今ここで、かつて得た力があれば!!こんな奴になんか!!!)

 

 刻一刻と死が近づいてくる最中、左手の<エンブリオ>が目につく。これには『無限の可能性が広がっている』とチェシャは言っていた。それならば…。

 

「無限の可能性なら…今ここで発揮しろ…!!今も、過去も未来をも覆せられる力を…今ここで!!!!」

 

 瞬間、左手の<エンブリオ>が輝き出す。目も眩むようなその光の激流に敵マスターは思わず仰け反ってしまう。光の中心点では卵型だった<エンブリオ>が無くなり、モモンガの手に残ったのは怪しく揺らめく黒い紋章が刻まれる。

 モモンガは光の激流の中に、自身が望んだ力を感じ取った。その正体が何なのかは分からない。それでも今は、その力の可能性に縋るしかない。光の激流が収まりかけた頃、モモンガはそれを掴み取った。

 

 




(●..●)<やっぱり引き伸ばすんだな…俺の活躍ー!!

(◕(エ)◕)<演出は大事…と言いたいけど、切りいい所がちょうどこの辺りなのよねクマー

(◕(エ)◕)<次回、モモンガのエンブリオが明らかに!?そして新たなる力が!?


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4話

―――??? アリス―――

 

 

「うふふ、こんなに上手く事が進むなんて、幸先がいいわね」

 

 管理AI1号アリスは自身のサーバーからモモンガの動向を観察していた。そこでモモンガに最近巷で問題になっているPKマスターが近付いていることに気付いた。

 ちょうどいいタイミングでモモンガが覚醒する機会を得て、急遽ハンプティダンプティに連絡を取りエンブリオに干渉するよう依頼した。それだけでも十分と思ったが、早く自分達が望む■■になってもらうべく、管理AI総出でもう一つ追加でプレゼントを贈った。

 

「彼、喜んでくれるかしら?過去を振り返らないみたいなことを言ってたけど、一番過去に囚われている歪で可哀想な子…。これからどんな物語を紡いでいくのか楽しみだわ…」

 

 アリスの視線の先では、今まさに殺されそうなところでモモンガが逆転の力をその身に宿すところだった。モモンガの手には、彼が心の奥から望んでいた力が具現化されていた。

 

「うふふ…干渉したとはいえ、やっぱりエンブリオはその人の深層意識から読み取られるものなのね…。さぁ鈴木悟君、存分にこの世界に混沌を齎しなさい」

 

 


 

 

―――アルター王国郊外 【魔術師】モモンガ―――

 

 

「なんだ…それ?エンブリオなのか…?」

 

「これは…ククッ、俺にとってこれ以上の皮肉は無いな…」

 

 モモンガが敵マスターに殺される寸前、左手のエンブリオが孵化を果たした。それは黄金に輝く魔杖、宝玉を喰らう七匹の蛇が絡み合うようにして構成されたそれは、恐怖を感じるほどに美しく、そして荘厳であった。

 

<エンブリオ>TYPE:アームズ【魔導杖 アインズ・ウール・ゴウン】

 

 これは嘗て、ユグドラシルで仲間と共に心血を注いで作り上げた結晶、ギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』と遜色ない姿をしていた。これがモモンガに発現したエンブリオ。過去と断ち切るべくこの世界に飛び込んだにも関わらず、己の深層意識は過去に囚われている証明なのだろう。

 

「テメェ、まだエンブリオが覚醒してなかったのか。だが俺のエンブリオは第二形態、職業だって一つだがカンストさせてる!覚醒したばかりのエンブリオには負けねぇ!!」

 

 敵マスターのエンブリオ【積土成山 サイガワラ】のスキル<石積刑>は『攻撃回数分任意のステータスを0.25%上乗せ』という効果である。つまり攻撃を延々としているだけでステータス、今回はSTRを上げることが出来るのだ。ただし相手からの攻撃を受けたり一定時間内に攻撃しない場合、スキルは解除されステータスも元に戻ってしまう。

 そのスキルを用いてわざと弱い攻撃を繰り返し、最後に会心の一撃を繰り出すというのが敵マスターの必勝PK方法だ。予測のつかない攻撃を繰り出すモンスターや自分より上位のマスター相手では発揮しづらいが、格下のティアンやマスター相手には絶大な威力を誇る。

 しかし、攻撃することが出来ればの話である。先程エンブリオの孵化に伴う光の発生に驚いた敵マスターはモモンガから距離を取ってしまった。魔術師であるモモンガにとってそれは得意な距離であり、何より嘗て得た力の一端を取り戻したモモンガには通用しない。本来なら使えない魔法、しかし何故か使えるという確信があった。

 

「<心臓掌握(グラスプ・ハート)>」

 

「ゴっ…!?グェアァ…!?」

 

 モモンガが手の平で何かを握り潰す動作をした瞬間、敵マスターは胸を押さえ崩れるようにその場に倒れ込んでしまった。暫く痙攣していたが、すぐに動かなくなりその場から光の粒子となり消えていく。デスペナルティになったのだ。

 モモンガのエンブリオ【魔導杖 アインズ・ウール・ゴウン】の特性は『即死・死霊系魔法特化』。発現したスキルに<死を統べる者(ノーライフ・ロード)>の効果『即死魔法消費MP量を1/100に減量』がある。

 モモンガが今放った<心臓掌握>の本来の消費MP量は約5,000、現在ついている【魔術師】はMP補正が高い職業とはいえ、始めたばかりのモモンガでは到底賄えない。しかしスキルの恩恵で消費MP量は50にまで減らすことが出来るのだ。

 

「ユグドラシルと同じ魔法が使える…。チェシャが俺の記憶から読み取って実装させたのか?若しくは他にもいる管理AIの仕業か…」

 

 手に収まるエンブリオを見つめながら考えるモモンガ。このゲームの運営側にとって自分は特殊な存在なのは間違いないだろう。だからと言って過去にやっていたゲームシステムの再現など、自分に有利になるような贔屓を受ける理由が思いつかない。

 

『おーいモモンガ、ただいまクマー。リアルで家族から連絡来てて、なかなか抜け出せ…お前…モモンガだよな?』

 

「…シュウか…っと、この姿だと警戒されても仕方ないか…。あぁ、確かに俺はモモンガだ」

 

『お前その姿…まさか本当に…』

 

「…気味が悪いよな、やっぱり…。すまないな、色々教えてもらったのにろくな礼も出来ずに。俺はもう一人で…」

 

『魔王ロールやってたって本当なんだな!その時のアバターと同じ奴か?それなら確かに悪逆非道の魔王にしか見えないクマー』

 

「違うわ!!いや、昔やってたゲームのアバターを転用してるけど、魔王ではない!!って、この姿を見て何とも思わないのか…?」

 

『確かにビックリはしたが、お前がこの世界で求めた姿がそれなんだろ?なら俺にどうこう言う資格は無いな。楽しみ方は人それぞれだし、そのアバターにも意味があっての事なんだろ?』

 

「…フフフ、そんな事言ってくれるなんて、昔の友人みたいだ…」

 

 モモンガはかつてユグドラシル時代で出会った友人の事を思い出していた。彼らも自分と同じ異業種の姿をしていたからこそ通じ合う何かがあった。しかしこの世界ではすぐに理解してくれる友に出会うことが出来た。もっとも、その当人もある意味では人非ざる姿をしているのだが…。

 少し落ち着いてきたので、モモンガはシュウがログアウトしてから今までの出来事を話した。その時に発現したエンブリオと、使った魔法の話になった。

 

『即死魔法?そんなの実装されてるのか?当たれば確実に殺せるとかチート過ぎクマー』

 

「いや、前やっていたゲームだと100%成功することは稀だった。レベル差や自分の魔法攻撃力と相手の耐久値に差があると効かなかったり、効いても抵抗(レジスト)されて朦朧状態になる程度だったんだが…。さっきの奴ともレベル差があったから本当は効かない筈なんだが…デンドロではクリティカルヒットとかあるのか?」

 

『そんな話聞いたことないクマ。そもそも職業に就いたばかりで即死魔法みたいな強力な魔法使えるとかどういう事クマ?エンブリオの性能か?』

 

「そういえばまだちゃんと確認してなかったな。…うーん、見た感じMP消費量を減らす程度のスキルしか発現してないな。それ以外だとステータスに何かしらのタネが…ああぁぁぁ!!?」

 

『どっ、どうした!?』

 

「…になってる…」

 

『はぁ?』

 

「だから、いつの間にかメインジョブが超級職になってるんだよ!!!」

 

『な、何だってぇー!!?』

 

 慌てて二人でモモンガのステータス画面を確認する。

 

 

□□□

超越者(オーバーロード)】(死霊系統派生超級職)

あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)》:【超越者】奥義スキル

即死魔法に『対象に必ず死を与える』という効果を付与する

対象が人間でも、大地でも、気体でも、世界までにも死を与える

ただし、百時間に一度しか使用不可

不死者ノ王(チョーセン・オブ・アンデッド)》:アクティブスキル

□□□

 

 

『…何このぶっ壊れ性能…即死魔法が必ず決まるとか、チートにも程があるだろう…』

 

「始めたばっかりなのに即死魔法使えるのはこいつのせいか…」

 

 超級職の性能に唖然としているシュウだが、モモンガはスキル名がユグドラシル時代で自分と所縁のある名称であることに気が付いた。

 

(これはもう運営側で何かしらの干渉があったのは確実だな。これはいくらなんでも作為的過ぎだ。思惑が何なのか分からんが、俺に何を求めているんだ?)

 

「すまんなシュウ、俺も一度落ちさせて貰ってもいいか?ちょっと確認したいことが出来たんでな」

 

『おー、それなら俺も今日は落ちるクマ。また明日、噴水前で落ち合おうぜ』

 

 また明日会おう。その何気ない言葉をモモンガはかつて渇望していた。一人、また一人とギルメンがユグドラシルから去っていき、最後には誰も戻ってこなくなった。もう独りは嫌だ、誰か戻ってきてくれ、思い出の詰まったこの場所を残しておくから。

 結果的にはモモンガもユグドラシルには戻れなくなったが、独りぼっちだったあの頃の記憶は鮮明に残っている。だからこそ、シュウの何気ないこの一言がとてつもなく嬉しく感じるのだ。

 一足先にログアウトしたシュウを見送ったモモンガは、ログアウト先がどうなっているのか分からず不安になってきた。自分は通常のマスター達とは違う扱いになるのだから、最悪何もない真っ暗な空間になることもあり得るのだ。

 

「フーッ!さて、腹を括るか!」

 

 深い溜息を吐き、覚悟を決めステータス画面のログアウトボタンをタッチする。瞬間、視界が暗転した。

 

 


 

 

―――??? 鈴木悟―――

 

 

「ログアウトしたん…だよな?ここはもしかして…」

 

 悟がログアウトした先、そこはかつてリアルで居住していた部屋の次に見慣れた自分だけの部屋だった。

 ここはユグドラシル時代にギルド拠点としていた『ナザリック地下大墳墓』の第九階層、そこにあったギルメン各人に自室と遜色無い造りをしていたのだ。隣接するドレスルームには散乱する武器やアイテム、魔法詠唱者には使い道の無い全身鎧やガチャの外れ景品、果ては女性専用の装備品まで溢れている。

 

「何でこんなに再現することが出来るんだ?また俺の頭の中を覗かれたのか?ここまでくるとあまり気分は良くないな…」

 

 まさかとは思うが、誰にも知られたくない恥ずかしい記憶なども読まれているのかもしれない。魔法使い予備軍であったことなんかが知られたら、生きて行ける自信がない。

 

「まぁ仮に俺の正体を晒されても現実には存在しない人間だから構わないんだが…いや、骸骨で魔王ロールしてる奴が本当の魔法使いだったとか知られたら…」

 

 ふと、部屋の片隅にある無駄に豪奢な一度も使った事の無い書斎机を見てみると、そこには羊皮紙の様な質感の紙で書かれた手紙が置かれていた。手に取って見てみると、丁寧な文字で読む方を労わる気持ちで溢れていた。署名の欄にはチェシャの名前が書かれており、何かしらの連絡事項なのだろうと思った悟は手紙を読み進めていく。

 

 

――――――――――

 

やぁモモンガ君、いやこれを読んでいるなら悟君と呼ぶべきだね。

 

インフィニット・デンドログラムの世界はどうだったかな?ユグドラシルとは違う、それ以上の自由度を誇る世界は君を満足させることが出来ただろうか?

 

君が今いるこの空間は僕達管理用AIと同じサーバー上にあるけれど、双方の合意が無ければどちらからも干渉することの出来ない特別性の部屋だ。何か会った時は一度メールでやり取りをすることになるから少し面倒だけど覚えておいてくれ。

 

さて、君のこれからの処遇についての話をしようか。僕以外の管理用AIは満場一致で『ある一点にのみ干渉し、この世界の更なる発展を目指す。それ以外に関しては不干渉を貫く』という意見になった。無論、僕は最後まで君に対して完全な不干渉をするよう訴えたけど、このような形になってしまい申し訳ない。君に発現したエンブリオも、本来のステップを無視して超級職に就けたことも、それに関する干渉だと思ってくれ。

 

何故君に干渉するのか、不思議に思っているかもしてない。だけど僕の一存では君に説明することが出来ない。その時が来て初めて説明することが出来ると思う。それまでは申し訳ないけど追及してこないで欲しい。もし何かあった時、最悪君という存在を無かったことにするという手段を取るかもしれないからね。

 

それ以外の事柄に関しては不干渉を貫くと誓おう。その時が来るまで、インフィニット・デンドログラムの世界を謳歌してくれたまえ。勿論、僕はその時が来ない事を祈っているけどね。

 

それではまた会おう。   チェシャ

 

――――――――――

 

 

「…どの世界でも糞運営ってあるんだな…。チェシャみたいに知能の高いAIが苦労する運営とか、ブラック疑惑があるぞ。あいつ大丈夫か?」

 

 運営側の目的はよく分からないが、異世界人の自分を使って何かをしようとしていることは確実となった。しかし今は情報が少ないので深く考えることを諦め、その時が来るまで情報収集に徹することにした。

 とりあえず、ここにいて何もする事は無いのだが何かないかと部屋の中に時間をつぶせるものが無いかと探す。本棚には格好つけるために集めた無駄に小難しい本ばかりだったが、運よくユグドラシルの百科事典(エンサイクロペディア)が置かれているのを見つけた。

 この様子だと恐らく自分が発現するエンブリオのスキルなどもユグドラシル産のものになると思われるので、今のうちに確認しておくべきだと百科事典を開く。今までは繰り返しの作業だけだったが、明日からはまた未知と向き合う冒険をするのだ。そう思うだけで、悟の気分は盛り上がっていった。




(●..●)<俺のエンブリオ『アインズ・ウール・ゴウン』の特性等は機会があれば別の話で纏めるぞ

(◕(エ)◕)<今回はもう出ないと思う心臓潰された敵マスターについてちょこっと説明するクマー



マスター名:チョージュ・ハーフィル
モモンガを含めた新人マスターをカモに、チクチクと弱い攻撃で相手をいたぶり苦しむ様を楽しみながら、エンブリオのスキルでステータスを上げる方法でPKを繰り返していたマスター
リアルでは銀行員、趣味は積立貯金と以外と堅実な性格

エンブリオ:TYPE:ルール【積土成山 サイガワラ】
特性はステータス積上げで、ステータス画面で確認出来る数値や戦闘中の攻撃回数等でカウントされた数値を用いてステータスを底上げするスキルを使える


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