ビビッド&ウィッチーズ! (ばんぶー)
しおりを挟む

第1章 ―世界は示現力で回る―
第1話 あかね「私の生活!」


ストライクウィッチーズが元ネタとなっていますが、序盤の話のメインはビビッドレッドオペレーション

騙して悪いが、遊びなんでな。付き合ってもらうぞ





〈シュィィィィィィィィ……〉

 

 

「あーめがふってもきにしないーきにしないー♪やーりがふってもきにしないー♪なーにがふってもきにしないーっと♪」

 

 

風が通り抜ける。タイヤいらずの空飛ぶバイクは人のいない道路の上を一人の女の子を乗せて今日も行く。お天道様もまだ水平線から顔を出したばかりの時刻だというのに、颯爽と宙を滑る少女は最高にご機嫌だった

 

 

「ンッンー♪」

 

 

高らかに歌いながらおもむろに片方の手をハンドルから放し、前かごにたくさん入っている新聞紙を二つ三つ掴み取った。そのままフリスビーを投げる時のように内側に腕を曲げると目線だけをチラリと横に向け

 

 

「イヤーッ!!!」

 

 

一息の発声と共に腕を水平方向へ一直線に伸ばし、伸びきる寸前に握り込んだ指を伸ばす。少女から放たれた新聞紙はバイクから5mは離れているであろう民家の郵便受け口へ一つ、また一つと当然のように突き刺さる。

 

 

〈パチパチパチパチパチパチ〉

 

 

「ブラボー!おぉブラボー! 今朝も絶好調だね、あかねちゃん。」

 

 

道に佇んでいた老婆は自分の目の前を横切り、寸分たがわず郵便受けに収まった新聞紙が力を失いしんなりと垂れる様を確認し、バイクに乗る少女に惜しみない賞賛を送る

 

 

あかね「あぁ鈴木のおばーさん!おはよぉございまぁぁぁぁぁぁぁッッッッす!!!!!!!!」

 

 

おばーさん「おはよう。今日もばかみたいに元気だねー」キィーーン

 

 

常識外れの声量による耳鳴りも慣れたものだ。あかねの挨拶は島の目覚まし。本気を出せば声でスイカを割れるという伝説を持つ彼女のおかげで島に住む人々は目覚ましをセットしなくてすむし仕事に遅刻する必要もない。

 

 

あかね「ははっ、まあねー!最近じゃこれも簡単すぎて、今投げてるのは左手。利き腕じゃあないんだよ!」

 

 

おばーさん「知っとるよ。もうながーい間見とる。あかねちゃんが新聞配達を始めた時…そう、あのエンジンさんが出来た5年前じゃったの。」

 

 

 

あかね「うん。」

 

 

2人の視線の先。穏やかな自然の雰囲気をもつこの離島は狭く、ここからなら簡単に海が見える。その潮風の向こう、朝日を一身に受けながら輝く巨大な異物 それこそが人類至高の発明、示現エンジン。

 

 

 

 

 

___これは、夢のような未来。誰もが渇望した、科学によってあらゆる問題が解決された素晴らしい新世界。

 

資源。人類がかつて古来より奪い合ってきた限りあるもの。それは時に人命より優先されるもので、それを得るための開発で大勢の生き物が命を落とした。 平和が姿を潜めた、争いの時代。人が快適に生きるため求められたものが、これほど多くの人を殺す今が異常だと分かりながらも人は武器を捨てられずにいた

 

 

5年前。その争いを終わらせた男がいた。男、一色健次郎。新聞配達員一色あかねの祖父にして、世界を救った天才科学者

 

 

 

今、あらゆるものを動かすためのエネルギーは空から降ってくるようになった。それはこれまで人類が奪い合ってきたどれよりも効率的で、安全で、安価で、そしてなにより無限であった

 

 

人類は、資源を奪い合うことをやめた。

 

 

車や工場は排気ガスを出さなくなり、危険とされた代わりに見返りの大きかったエネルギー達は軒並み価値を失った。 元発電所であった場所は子供たちの笑い声で溢れる公園施設となり、使われなくなった武器は家を持たない人々の住むところを作るために使われた。あらゆる物資のコストが下がり、景気回復は人々の心に余裕を与えた。お金を持て余した戦争屋は虐げられていた貧民層にまともな生活を送らせる事を次の生きがいとし、汚染された大地の除染が世界規模で急がれた。

 

 

 

たった5年で世界は変わった。平和を得るために必要なものは、たった一つ。無限のエネルギーだけだったことが証明されたのだ。

 

 

あかねはおばーさんに次の配達に向かう事を告げると、示現力エネルギーを活かした発明の代表作とも呼べるこの浮遊バイク、あかねは気軽にワンコと呼んでいるのだが、とにかく急がないと学校に間に合わないためアクセルを強くふかし、人の飛び出しに十分気をつけながら新聞をパーフェクトに投擲する

 

 

____________________________

 

 

 

あかね「…6時ぴったり!また世界を縮めちゃったー!」

 

全てを配り終えるまでかかる時間は少しずつではあるが短縮されていく。あかねはそういうところに自分の成長を感じていたし、あかねという少女はこういう小さなこと一つで幸せな気分になれる自分が好きだった。お前は欲のない子だと、父は笑ってよくそう言ったものだ。

 

 

あかね「んんんー…っと!」

 

 

ぐーっと伸びをしているあかねのポケットで携帯が音を立てた。この時間にかけてくる者は1人。愛する家族の一員、あかねの妹、一色桃

 

 

もも『お姉ちゃん?そろそろ朝ごはん作り始めるけど、あとどれくらいで配達終わりそう?』

 

 

あかね「ふっふーん。聞いて驚け妹よ!なんと今日の配達は終了しましたー!!!!」

 

 

もも『ふあッ!?ちょっと早すぎだよお姉ちゃん!ちゃんと全部配れてる?』

 

 

あかね「大丈夫だよー。それじゃもう戻るから朝ごはんの準備しといてね!」

 

 

画面をタッチして通話を終了すると、精密機械の扱いとはおもえないくらい力強くポケットに突っ込んで、地面にちょこんと座り込んでいるワンコに向かって歩き出し___

 

 

おっと危ない。あかねは自分の足が捨てられた空き缶を踏みつけそうになったのを瞬間的に察して体重をかける前にスッと足をどけた。生半可な運動神経ならこれを踏んづけてすっ転んでいただろうが、一色あかねは身体を動かす事に関しては島一番である(彼女にそんな自覚はないが

 

 

あかね「誰だろ?こんなところに危ないなー。」

 

缶を拾ってあたりを見渡すと、丁度18.4m離れた辺りに空き缶用のゴミ箱がこちらに穴を向けている。ニカっと笑って甲子園のマウンドに立つ有名投手を彷彿とさせる豪快なフォームで振りかぶり、全身を使って放り投げた

 

 

あかね「今日も一日、がんばろー!!」

 

 

缶が綺麗にゴミ箱に吸い込まれたことでまた一ついい気分になった一色あかねは、今日という日が昨日よりずっといいものになることを祈ってワンコに飛び乗りエンジン全開で安全運転を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

___この日、彼女の祈りが叶ったか否か 彼女の人生を昨日までとは比べものにならない躍動した波乱万丈なものに変えてしまう一つ目の物が次元の向こうからやってくる

 

 

 




どうも、ばんぶーです。どうでしたかね。ストライクウィッチーズの要素が全くないわけではないことが最初の方を見ればわかりますね。


とりあえず書いてみましたが、なにぶんこのサイトに慣れてないもので。応援批判指示指摘、愛の告白でもなんでも、なにか思うことあれば感想をかくなり私のTwitterへ(宣伝


ではこの章のあとがきを。


見てわかるように、少しキャラの口調が変わっていますね。これは仕様です。私がビビオペを見てないわけではありません。今は 原作をなぞりながら書いていますが、ほんの少しずつストーリーは改変されていきます。第一話ではほとんど同じですね。 次の話はあまり間隔あけずにかこうと思ってますからすこーし待っててください。その間、せっかくですからビビオペを見直しましょう!BD、お安いですよ。あと ストライクウィッチーズもご一緒に!実際面白いですよ! ではまた次の話で会いましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 あかね「日常・急転直下」

少し間が空いたようだが問題はありません。

更新です。


前回の感想ありがとうございます。お気に入り登録も。これからだんだん面白くなるのでゆっくりお待ちください。




家へと急ぐあかねではあるが、このまま真っ直ぐ帰る訳には行かない。 配達の仕事が終わったことを新聞の書き手に伝え、今日の分の給料を受け取るまでが今朝のノルマ。本来給料は月一単位で支払われるものだが、そこを融通効かせて毎日ちょっとずつくれるのがこの小さな新聞屋を一人で営む敏腕女性記者、文(あや)

 

文「はーい、今日の分のお給料!と、これはお小遣いです!また新しい方が購読して下さることになりましたので。」

 

あかね「ありがとうございますっ!」

 

文「いえいえ。あかねさんが配達してくれるようになってからというもの、新聞をとってくれる人も増えて我が文々丸新聞の売り上げはググっと上昇!ですからね!」

 

あかね「えへへ…」

 

 

 

…… 一色家は貧乏である。これはいつだったか、入院する事になった母の代わりに一家の財布を握る役目を負った一色桃により告げられた衝撃の言葉だ。

 

何故金が無いのか?それは収入源が無いからだ。世界を救った男一色健二郎、彼が作った示現エンジンを中心とする発明品のパテント(特許だと思って下さいwikiにはそう書いてありました)はかつて莫大な資産を一色家にもたらし、それを元にまた研究を続けたりしていた訳だが…とある事情がありその大半が現在家に入ってこない。理由を知るのは当人の健次郎だけ

 

 

父は?何故母は入院しているのか?当然の疑問であろうがそれを話す時間は無い。何故なら朝食が冷めてしまうからだ。冷めたものを温めなおすのにも金がかかってしまうことを皆さんご存知だろう。貧乏脱却のためアルバイトを始めて随分立ち、お金に対して同年代の友人達より厳しい感覚を備えているあかねは少しでも無駄を省くことの大切さを知る女の子。ここは読者の方に一つ大人になってもらい一色家の家計の助けと思ってしばしお待ち頂きたい

 

 

それで結局何が言いたいかと言うと、そんな厳しい環境に置かれた一色家を少しでも支えてあげたい そう思った島民達がそれと気づかれないよう様々な理由をこじつけて文々丸新聞を購読することにしたのだ。だから文の言っていることはお世辞でもよいしょでもない紛れもない真実。

 

 

文「あやや、こんな時間。あかねさんは今日も学校ですよね。引き止めて申し訳ない。」

 

 

あかね「それじゃ文さん!!また夕方に!」

 

 

文「お気をつけてー!」

 

 

パタパタと振られた手に送られてワンコを我が家に向けて一直線。

 

________________________

 

 

 

トマト畑に突っ込まないよう華麗にハンドルをさはき家の前でワンコのエンジンを切り、しっかり後方を確認してから降りる。この乗り物、免許はいらないらしいがあかねは自動二輪の免許の試験に今すぐ合格できるくらいに交通ルールをマスターしているのだ

 

 

あかね「へぇーいただいまー!!」

 

 

もも「おかえりお姉ちゃん。今日も朝早くからご苦労様。」

 

 

あかねの家は昔ながらの趣を残した和風建築の一戸建て。ももはお盆に乗せた朝食を机の上に配膳しながら姉を迎えた

 

 

あかね「うはー、今日も美味しそうだね。おじいちゃんは?」

 

 

もも「まだー。起こしてきてくれる?それと今日はオクラあるよ。」

 

 

あかね「オクラ!?グッジョブもも!おじいちゃんは起こしてくるねー!」

 

 

畳の上ですべらないよう力を加減しながらステップを刻み、縁側を通ってトイレの前にある白塗りの古臭い壁に突き当たる。祖父を起こす前にお花を摘むのか?そうではない。あかねの用事はこの壁にあった。

 

 

あかね「スゥー…おじいちゃぁぁぁぁん!朝だよぉー!ご飯だよー!」

 

 

台所で朝食の支度中のももがわかっていてもちょっとびっくりするくらい大きな声が響き渡る。

 

 

〈ウィィィーーン〉

 

 

壁がバッと横に引っ込み、その裏にあった金属製のドアが一瞬あらわになる。それもすぐさま上下左右に開き、向こうから白髪無精髭の痩せた男がゆっくりと縁側の上に歩み出る

 

 

その身体は老人のもの、しかし放つオーラは一般人のそれを遥か上回る。これが世界を救った英雄の持つ気迫

 

この男こそ!一色健次郎ッ!!

 

 

健次郎「わしの…!わしの研究を邪魔するのは…ッ!!誰じゃァァァー!!」

 

 

怒号。細い細い身体のどこから出たのか?あかねの祖父であることを証明するような大声で怒りをぶちまけた。

 

 

あかね「あなたの孫ッ!一色あかねですッ!!!」

 

 

しかしその孫一色あかね、半歩も引かず!!笑顔でそれを受け止めて、一切劣らない迫力で言い返してみせた

 

 

健次郎「なんと!確かにお前は我が孫あかね!8時間と14分9秒ぶりじゃの!会えて嬉しいぞぉぉぉ!!」

 

 

あかね「私もだよおじいちゃん!!」

 

 

「「がしーっ!!ギャハハハハハ!!」」

 

 

抱き合ってでかい声で笑い合う2人のところにいつの間にやら接近してきていたももは呆れ返ったように言った

 

 

もも「それ、毎日やらないとだめ?」

 

 

あかね「あははー!」

 

 

健次郎「んおお、おはようもも。8時間と…」

 

 

もも「いいからいいから、早くご飯食べよ。」

 

 

ドタドタと歩いて部屋に戻り机の周りに座る。美味しそうな朝食が並んでいる。家計のやりくりもだが、家事全般はももが一手に引き受けているのだ。あかねも手伝ってはいるが難しいことは妹任せの現状だ

 

 

あかね「しゃす!いただきまーす!」ピロロロロ

 

 

あかね「メール?なんだろ、5億円でも当選したのかな。」

 

もも「いたずらメールの内容って嘘だと解っててもロマン溢れる内容だよね……」

 

あかね「ッアー!!あおいちゃんだ!」

 

桃「え?なになに?」

 

あかね「ヒョウ!!あおいちゃん退院だって!今日島に帰ってくるって!」

 

桃「へぇー、もう良くなったんだ。よかったねお姉ちゃん!」

 

 

二葉 あおい

 

4年前、療養のためにあかね達が住む島へ越してきた少女。あかねの同級生。身体が弱く、島に来た後も体調は安定せず本土の病院へ入院。休学をよぎなくされていて、あかねは一緒に進級出来るかを非常に心配している

 

あかね「ちなみにわたしは中学2年です。」

 

もも「私は小学5年生です。」

 

あかね「あおいちゃん進級できるかなー。」

 

もも「先生に聞けば教えてくれるんじゃないかな?」

 

あかね「そうだね!それじゃ早めに出るよ。ごちそうさま!」

 

もも「はやっ!? 」

 

 

もうあおいちゃんの事で頭がいっぱいになったあかねは食器を片付けると健次郎が呼び止めたのにも気付かずワンコに飛び乗って飛び出した

 

 

健次郎「行ってしまったようじゃの。やれやれ…」

 

もも「伝言しようか?」

 

健次郎「いや、またにする。完成してからでいいじゃろ。」

 

 

もも「…今度はなにを作っ」

 

健次郎「ほれほれ!はよせんと遅刻するぞ!!」

 

もも「はぁ、まあいいけど。危ないものお姉ちゃんに使わせたりしないでよ?あのバイクも最初はアクセルちょっとひねっただけで…」

 

健次郎「大丈夫じゃ!!それに今度のはそういうもんじゃないわ。」

 

 

ももは、ふーんと呟くとそれ以上は追求せずさっさか机の上を片付けると既に用意してあった教科書が入ってるかばんと姉が置き忘れていった体操服を手に持つと、玄関で靴を履いてこれまた姉が履き忘れた靴を手に持つと

 

 

もも「いやお姉ちゃん裸足はまずいよ!!!急ぎすぎ!」

 

 

大急ぎで走り出したが、バイクに追いつけるわけないのでもう歩いて行くことにした

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あかね「ふんふんふふーん♪」

 

 

朝一番、裸足のまま上履きも履かず職員室に突撃して教師にあおいちゃん復帰の報せを伝えると、先生は既にそのことを知っていたようで(まさか裸足のあかねが職員室に来ることは予測していなかった)前持ってあおいちゃんが進級できるかを計算しておいたらしい。日数は少し厳しかったものの、入院中もこまめに課題をクリアしていたようで来年もまた一緒の学年として勉強できる

 

 

まあそもそも

 

あかね「あ、れんちょーん!おはよー!」

 

れんげ「あかねん。にゃんぱすぅー。」

 

 

リコーダーを拭きながら廊下を歩いている小さな女の子に後ろから声をかけると、れんげは演奏をとめて挨拶を返した

 

あかね「うん。にゃんぱすにゃんぱす!」

 

れんげ「朝早いのんな。今日はウチが一等だと思ってたのに。」

 

あかね「うん!今日はちょっと用事があってね!あおいちゃんね、進級できるんだって!」

 

れんげ「おお!それはなによりなんな。でもまあもしできなくても教室は変わらないのん。」

 

あかね「ハハー、んーまあそうだね。」

 

 

この学校に通う生徒の教室はみんな一緒なのだ。この島に住む子供はあまり多くないので、一つの教室で勉強している。中学生はあかね、あおいを含めて5人。上に1人、下に1人。小学生は桃、れんげ含めて二桁には届かない。

 

 

少ないけれど、みんな仲良く楽しい毎日が送れていてあかねはこの学校が好きだ。勉強はあまり好きではないのだが

 

れんげ「あおっちゃんはいつ帰ってくるん?」ピョー

 

あかね「学校終わるくらいにはこっちに着くんだって。授業終わったら迎えに行くんだー。」

 

れんげ「おおー!明日からは久々に全員揃っての学校!テンション上がってきましたん!」ピョー

 

 

他の生徒が来るまでの間れんげと適当な話をして過ごした。

 




長くなったので次からは後編として書きます。面白いですよね?私が一番書きたいのはもう少し後の展開なので多少早いペースで進めていますが手抜きではないのできっと面白いと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 後編

ええっと、前回の話を投稿したのが・・・ワオ!2月だって!

申し訳ございません、このようなペースで


「ようし、次の授業は小中合同ドッヂボールだ!!みんな動きやすい服に着替えて5分後校庭に集合ッ!!」

 

 

もも「え、先生次は国語じゃ――」

 

 

あかね「ダメだよもも。先生の言うことに口応えしちゃ。先生が体育だと言ったなら体育なんだよ。」

 

 

もも「ええー・・・まあ、いいや。」

 

 

先生は颯爽と出て行ってしまった。わざわざ追いかけて抗議するほど体育は嫌いでないももは一応持ってきておいた体操服を袋から取り出す。

 

「体育めんどくさ・・・今日スカートだし。ジャージあったかなぁ」

 

 

「いいんじゃない?着替えなくても。どうせねーちゃん序盤でアウトになるからボール投げる事はないでしょ」

 

 

「ふん。たとえそうなってもあんたに当ててすぐ内野に戻ることになるからねー。」

 

 

「は?無理無理。」

 

 

貴重な数少ない中学生姉妹、姉のこまりと妹なつみは軽口を飛ばしながら教室後ろのロッカーを開ける

 

   

れんげ「むー・・・」

 

 

なつみ「どったのれんちょん。乗り気じゃない感じじゃん」

 

 

れんげ「今のウチの体育心は投げるより蹴るほうにゾッコンなのん。派手にネットをゆらしたい気分なんな。」

 

 

あかね「他に反対する人いなかったら、先生に言ってみようか。」

 

 

れんげ「ほんとですか!みんなに聞いてくるん!!」

 

 

れんげは机の間を小走りに教室前のほうへ向かった。着替えながら他愛ない話をしながらなつみがそういえば、とあかねに切り出した

 

 

なつみ「明日あおいちゃん帰ってくるんだって?」

 

 

こまり「え!?そうなの?」

 

 

あかね「うん!というかもうこっち向かってるんだって!学校終わったら迎えに行くんだー。」

 

 

うれしそうににかーっと笑う彼女につられてなつみとこまりも一段うれしくなった。今でこそ元気いっぱいのあかねではあるが、親友が治療のため本土へ帰ったばかりのころは周りも随分気を配ったものである。

 

 

あかねはあかねで、あおいはきっと元気になるだろうし自分が心配しすぎることはなんの意味もないということがしっかり解っていたのでわりといつも通りに振舞うことを決めていた。しかし、子供達はそれでも彼女がやっぱりさみしがっているのをなんとなく感じ取ってたのでなんとか元気づけようと陰ながら必死に奮闘した。青いものをみせないようにしたりなにかと理由をつけては盛大に盛り上がれそうな企画を実行した(大抵はなつみが立案した)

 

 

実際あかねは友人達にずいぶんと助けられた。そして明日になれば彼女の笑顔は一層明るくなるだろう。

 

 

こまり「明日っからは久しぶりに全員そろうのか・・・。うーん、いっちょ気合いれてドッヂりますかね。」

 

 

なつみ「サッカーになりそうだけど」

 

 

こまり「そうだったね。あ、お兄ちゃん今日日直だからボールとりにいくでしょ?ついでに先生にサッカーに変えてもらえるよう頼んでおいてよ。」

 

 

卓「・・・」

 

 

小さくうなずくと静かに教室から出て行く中学生唯一の男子であり最高学年の3年生でありなつみ、こまりの兄である卓。彼を知る大半の人間が彼を「兄ちゃん」と呼ぶのはその年代に他に男子がいないことやいろんなことを知っていて非常に頼りになる存在だからだ。頼りになるがあまり尊敬されているわけではなく便利な小間使いのような扱いを受けても文句を言わないあたり、やっぱり心の広い兄ちゃんである

 

 

---------------

 

 

あかね「うぉぉぉぉぉおおおおおおッ!ぶっ壊れるほど、シュート!!」

 

 

ディフェンス2人を置き去りにし、自分とゴールの間にキーパー1人だけであることを確認した瞬間。体制は整っていない。少なくとも周りからはそう見えていた。キーパーの反応はぐっと遅れた。100%のシュートでないにしてもタイミングを外された上になんともとり辛い右上隅のコースへ放たれたシュートはさわやかにネットをゆらした

 

 

「うおおおお!決まった2点目!ハットトリックだ!」

 

 

「バカ、ハットトリックは3点だ!でもすごいぜあかねちゃん!」

 

 

お散歩中のおばあさんにむかってあかねとチームメイトはパフォーマンスを決め、その間になつみがこっそりあかね陣のゴールに攻めあがるがキーパー卓がボールをパンチングで弾いた。弾かれたボールはそばの木の上にボスっと乗ったきり落ちてこない

 

先生は自分が戻ってくるまで待っているよう生徒達に言い聞かせたあと校舎内に走っていた。脚立か長い棒を探しにいったのだが、選手達ははやく再開したくて仕方がない。

 

 

「この中で木登り得意な人は?」

 

 

あかね「私得意だよ!!」

 

 

もも「おねえちゃん登るのは得意でも降りれないでしょ?高いトコ苦手なの忘れた?」

 

 

あかね「・・・」

 

 

身体能力なら男子にも引けをとらない一色あかねではあるが高いところは少々苦手。都会から離れた島に住んでいるここの子供達は高所にあがることも少ないので免疫がないというのもあるが、あかねは昔色々あったせいで完全に高所恐怖症となっている

 

 

卓「・・・」

 

 

卓も試みるが体の大きなせいであまり細い枝を足場にすることができずボールには届かない。その場は結局どうしようもなく、先生が戻ってくるまで各チーム作戦会議に徹することにした。  

 

 

その後脚立と物干し竿を担いで帰ってきた先生によりボールが解放され、両チームそれぞれの作戦をもとに再び戦いを始める。あかねのシュートを少しでも弱体化させるためなつみは姉妹の情を利用しようとももをキーパーにすえるが、サッカーに夢中で相手の顔なんて見ていないあかね選手による無慈悲な一撃であえなく治療のためコート外に下がっていくあたりで先生が笛を吹いた

 

その試合で全てを使い果たした生徒達は全員勉強にまるで手がつかないままぐだぐだと給食の時間になってしまった

 

 

 

 

 

―――――同時刻――――――――

 

 

『こちらアルファ1.現在高度2万3千。相変わらず海が青いだけだ。』

 

 

「アルファ1、こちら司令部。そのまま直進だ。もうじき接触するだろう。」

 

 

オペレーターの男性が機械的な声でそう返す

 

 

『ラジャ』

 

 

 

ブルーアイランド東200キロの海上を三機の戦闘機が飛行していた。目的は偵察。レーダーに写ったものの正体を突き止めるのが今回の任務だ

 

 

「まだか。」

 

 

「長官、まもなくです。」

 

 

ここはあかねの住む海に面した島から示現エンジンを挟むようにして内陸側に立てられた高い建物の地下に位置するブルーアイランド防衛軍司令部。長机を囲む数名の男達のうち、一人専用の椅子に座っていた初老の男性が低い声で問いかけると右に控えていた男性がすぐさま答えた。机の表面はモニターになっており、正面にある大きなモニターとおなじものが表示されている。三つの青い点がモニター中央の赤い丸にじわじわ近づいている様子を司令室の全員が息をのんで見つめ・・・

 

 

 

〈ピーーーーー〉

 

 

 

オペ「全機ロストしました。さらに目標も消失。」

 

 

オペレーターの男性がまたも機械的にそう告げると司令室をどよめきが漂う 

 

 

部下1「ワオ。ブルーアイランド空軍の最新鋭機が・・・なんの成果もなしに?」

 

 

部下2「それも3機もだ。補充にいくらかかるのか・・・ちょっと考えたくもないな。」

 

 

部下3「何を。損害はこれから増えるんだよ。さっきまであれだけビンビンに反応してたやつがこちらが仕掛けたとたん消えたんだぞ。きっと怒ったんだ・・・あれは絶対ここにくる。」

 

 

部下1「ワオ」

 

 

長官「警戒レベルを3つ引き上げろ。海軍に連絡だ。演習名目に出てる船を全てこちらにまわせ。あれの目標は示現エンジンだ。」

 

 

補佐「了解いたしました。」

 

 

一気に騒がしくなった司令室を後ろに、長官は席を立ち廊下を歩きながら携帯を取り出しおもむろにどこかへ繋いだ

 

 

繋ぎ先はブルーアイランド管理局長、紫条悠里。ブルーアイランドの管理を任されているが、彼女の一番大事な役割は示現エンジンの防衛の全権を任されていることにある。この世界の95%を占めるエネルギー元となっている示現エンジンの管理を任されているということは・・・相当な権力をもっていることになる。そしてそれに見合った実力も備えている

 

 

長官「・・・私だ」 

 

  

紫条『・・・なんの御用でしょうか?わざわざ特別回線で。』

 

 

長官「詳しくはこれからそちらにデータが届くだろう。だが、私は今度こそ判断を誤ることはできない」

 

 

紫条『・・・』

 

 

長官「7年前の間違いを、彼に謝罪する必要がある。君にも力を貸して欲しい」

 

 

紫条『私はブルーアイランド管理局長。敵の目的が示現エンジンであることがはっきりした以上、私も作戦に参加させていただきます。博士のところへはこちらから使いを出します』

 

 

返事も待たず電話は切られた。だがどうにせよ話し込んでいる場合ではないのだ。司令室へとってかえすとすでにモニターには様々な情報があふれ部下達は自分の仕事をこなしながらトップの指示を待っている。

 

 

長官「・・・」

 

 

長官「では、状況をはじめよう」

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

あかね「もも!あおいちゃんそろそろ着くって!帰るよ!」

 

 

静かな教室、机に上半身を投げ出しぼけーっと携帯を見ていた姉が突然立ち上がりそう叫んだのでももは驚き思わず止めのところではらってしまうところだった

 

 

もも「いやいや、いくら自習中だからってだめだよおねーちゃん。しかもまだ6時間目あるし・・・あと先生いないからって携帯いじるのも」

 

 

あかね「自習って言われて書道始めるあたりももだってなんかおかしい。別にいいじゃん、行こうよももー」

 

 

もも「ダメだって!ダメ!ダメだよ!」

 

 

あかね「なつみちゃん。私、体調不良になったから。」

 

 

なつみ「オッケー。」

 

 

こまり「体調不良なんだったら仕方ないよねー」

 

 

あかね「ほらもも。もももお腹痛いよね?頭痛いよね?大丈夫、あおいちゃんに会ったら治るから。」

 

 

もも「いやいや、せめてこまりさんは止めて下さいよ!ちょ、お姉ちゃん!?ほんとに行くのー!?」

 

 

こまりの席から姉の席に目をやると既に姿はなく、どこへ行ったのか教室を見渡すとあかねはかばんを持って教室から出て行くところだった。片付けはやっといてあげるから早く行け、と言われももは頭をさげあわてて教室を出て廊下を駆け抜けた。授業をさぼっちゃった、と少し悪いことをしてしまったことで生まれる軽い罪悪感と決まりを破る開放感と冒険でもしてるようなドキドキを感じながら玄関まで走ったところで、靴を履き替えて待っていたあかねに笑顔で迎えられる

 

 

もも「もー・・・お姉ちゃんが悪いんだからね。」

 

 

あかね「ふっふっふ。」

 

 

学校から少し離れたところまで歩き、そこでわんこに二人乗りする。エンジンを起動させ少し宙に浮くと、まず荷物を置きにいくため進路を家にとる。

 

_________________________________

 

〈ガラッ!〉

 

先生「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

 

なつみ「あ、先生お疲れさまでーす。」

 

 

こまり「どうしたんですか?偉いお疲れみたいですけど。」

 

 

れんげ「廊下を走るのは感心しませんな。」

 

 

先生「ああ、すまん・・・。いやそうじゃない!全員今すぐ帰る準備をするんだ!急いでな!おい一色シスターズはどこだ!?」

 

 

なつみ「帰りましたよ。」

 

 

先生「なにー!おい、だれか連絡して呼び戻せ!」

 

 

こまり「ええー。でも先生、私達も今から帰れるんでしょ?だったらいいんじゃないですか?」

 

 

先生「違う!ああ、荷物を持てとは言ったが帰るんじゃない。これから学校裏の避難所に避難するんだ!」

 

 

こまり「ええっ!」

 

 

学校裏の避難所とは  いわゆる地下シェルターだ。エレベーターと長い階段で地下に繋がっており、大災害の時には島の全員がそこに避難する。昔台風直撃で津波の危険性があった時一度避難した記憶がこまりにはあったが今日はみごとな快晴だし西の空にも雲ひとつない。

 

 

れんげ「これは訓練ではありませんな。事件のにおいがするのん。」

 

 

先生「先生も詳しくはわからんが、本土の管理局から直接連絡があったんだ。あかねとももも家にまっすぐ帰ったのならどうせ避難しにくるだろう。とにかく急いでくれ!」

 

 

危機感、というより授業がつぶれて助かったというような気持ちしか正直ないのだが先生があまりに慌てているのでとにかく生徒達は急いで荷物を持って教室を出て行く

 

なつみ「大丈夫かね・・・」

 

 

こまり「さあ、大丈夫でしょ。お母さんにも一応連絡しとくね。」

 

 

携帯をいじってるこまりを横目に、なつみはももの習字セットをまだ片付けてないことを思い出したがこれはいくらなんでも仕方ない、と諦めることにして、それについて謝罪のメールをももに送っておくことにした。ついでに避難のことも伝えるために

 

 

____________________________

 

 

 

〈フぃーーーん〉

 

 

あかね「あははははは!そーれ近道!」

 

 

もも「あはははは!お姉ちゃん危ない!危ないってー!」

 

 

 

今の二人は、最高にハイな気分になっていた。普段なら机に向かっている時間に颯爽と風を切る。悪くない、と考える自分に戸惑いもあったがあかねの運転テクでそれすら忘れたももは姉の腰にしっかり手を回しなおし、こんな時間が永遠に続けばいいとすら

 

 

(カッ)

 

 

あかね「あはっ」

 

 

赤い赤い光が頭上を走った気がしたあかねはデカ口あけたまま真上に顔を向ける。何もない。運転主が余所見してどうすんのさ!っとももに叱責されカクンを顔を正面に戻すと、右斜め前二時の方角の田んぼが爆発した。衝撃シーンを前にして開いた口が塞がらないあかねに舞いがった砂と土パラパラとふりかかる

 

 

あかね「ぺっぺっ!なに!?」

 

 

もも「ひょー!後ろの席で助かったけど、なに!?」

 

 

近づいて様子を見る・・・のは危ないのでちょい離れ気味にワンコをとめて息を潜めて二人は田んぼを見つめるが、なにかが空から降ってきたわけでゃないようだ。

 

 

あかね「爆弾とかだったら破片とか残るよね?知らないけど」

 

 

もも「私目の前に爆弾落ちてきたことないからちょっと・・・」

 

 

〈カッ〉

 

 

太陽光線を焼き切って赤い光の線が1つ向こうの田んぼに突き刺さる。轟く爆音で舞い上がった土砂が震えた。あかねとももはそろってしりもちをついて、抱き合って悲鳴をあげるとワンコに飛び乗りアクセル全開で逃げ出した。

 

 

あかね「うおおおおおおおお!なんなのぉ!?」

 

 

もも「前言撤回!授業サボったのが全部悪いんだ!もう私一生まじめに学生やる!」

 

 

家までの道をひた走る間にも頭上を何度も赤い光が走った。遠くの方に着弾することもあれば島に当たったであろう距離で爆発音がすることもある。だがすぐ近場で爆発することはないので別に自分が狙われているわけではないことが解りあかねは一安心した。だが、背中に必死にしがみついてくる妹に万一のことがあればと思うと、まるで心は落ち着かない。護らなきゃいけないのに、今の体勢では壁になることもできやしない。

 

あかね「・・・家までの道こんなに遠かったっけー!!!」

 

 

あかねの叫びはひときわ大きな爆発音でかき消された。

 

 

あかね「いまのはまずい!」

 

 

今の光がどこを狙ったものか解った。爆発音の距離だとか方角とかそんなもので判断したのではない。もっと不確かで信頼性のない、単なる悪い予感でしかない。だが本能で察した。今のはあかねの家に、健二郎のいる我が家に当たったのだ。

 

 

もも「なにがまずいの?・・・あっち、お家だよね?・・・そうなの?」

 

 

あかね「しっかりつかまって!曲がるから!」

 

 

厳しい口調に思わず口をつぐんだももだが、あかねの反応で解ってしまった。姉の直感は大人をもうならせる精度があることを幼いころから思い知っているももには解る。いい予感であろうと悪い予感であろうと、姉の心にビビっと来たものは必ず当たる。今日はいいことが多い日だと思っていたが、この瞬間にその全てが曇ってしまい、それはもう最悪の気分にまで落ち込んでしまった。不安のあまり気持ち悪くなるお腹に手を当てるかわりに姉の背中により強く抱きつき、目を閉じて今回ばかりはあかねの直感が外れてくれることを祈った

 




これにて完結第2話でした。ここまでに半年かかったことになりますね。流石にこれからはもっと早いペースでかけますので大丈夫。多少先の展開も考えてありますのでね。

見やすさ重点で結構スペース使ってますが字数稼ぎがしたいわけではないです

原作ご存知の方はわかっているでしょうが、原作とだんだん話を変えていってます。クラスメイト達の元ネタはのんのんびよりから。この先も出てくるかは不明でありますが。これからもモブとして色んなキャラ出す予定ですが、キャラの出演希望がございましたらなんらかの形でお伝えください。私が把握してるキャラでしたら問題ありません。 

第3話ではいよいよコラボに入れるかもと思ってますが気合入って話が膨らむとウィッチ参戦が遅れる可能性が。でもいい感じに話考えているので期待してお待ちくださいな。それではまた次の話で


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 あかね「親友と怪物が降ってくる日」

今回は書き足しはありません。これで1話です。

キャラの性格が元ネタとまるで同じというわけではないです。そこんとこ許してください。




見えてきた家は無残なものだ。それでも跡形もなく消し飛んでいなかっただけ随分ましだとあかねは思った。少なくとも家の手前の被害は玄関が広くなったのとあちこちこげたり少し崩れたりしている程度だ。だがなんだろうこの黒い煙は。どこからあがっている?答えは裏手の方だ。家の裏手の健二郎がいつもこもっている秘密の研究室だ。

 

 

あかね「おじいちゃんッッ!!!」ダッ

 

 

妹の手を引いて駆け出した。玄関で靴は脱がないほうがいいだろう。家の中はガラスの破片がチラチラ見えるし怪我をしては大変だ。あとで掃除するから、と小さな声で誰ともなしに謝りながらドタドタ廊下を走って縁側へ

 

 

 

トイレの前の壁は崩れ落ちていた。だが問題はその奥だ。祖父が誰にも侵入されないよう作った研究室の自動扉はそう簡単には開けられない。石膏の壁くらいならあかねでも破れるがその扉は祖父しか開けられない。しかし扉はあかねを待っていたようにスッと開いた。

 

 

 

あかね「おじいちゃんが開けたんだ!きっとそうだよ!」

 

 

散らばる機械のなるべくとがってないところを選んで中に踏みいる。ここは昔はとても暗かった気がする。液晶の光ぐらいしかまともな光源はなかった。今は天井がぶっとんでいるので見はらしこそいいが黒い煙とガレキで祖父は見当たらない

 

 

健次郎「ここじゃあかね!ここにおる!」

 

 

煙を手で払い体をひきずるように健次郎が姿を見せたが白衣はボロボロ。コゲと血でぐちゃぐちゃに汚れている。

 

 

もも「おじいじゃん!どこか怪我したの!?」

 

   

あかね「大丈夫おじゃいじゃゃん!?」

 

 

健次郎「大丈夫・・・じゃ!それはもういい、今はワシの話をしっかり・・・聞くんじゃ。いいな?」

 

 

 

思わずかんでしまうほど慌てていたももとあかねは心配する言葉を飲み込んで、口を閉ざす。健次郎は頭からながれる血をぬぐってあかねに手招きすると、なにかを握らせた

 

 

あかね「え、これ鍵?カッコイー!なんの鍵?」

 

 

健次郎「しっかり・・・持っておけ。これは示現の扉の鍵じゃ・・・」

 

 

あかね「????」

 

 

家の鍵より一回り大きな鍵だ。持ち手には赤い基盤にパソコンの起動スイッチのようなマークがついている。それに少し厚みがあって先っちょもあんましギザっていない。鍵を模したなにかの発明であることはすぐ合点がいったがなんに使うかは理解できない。

 

 

健次郎「お前の心の鍵じゃ・・・。いいか、よく聞くn」ゴボ

 

 

もも「うわー!おじいちゃんが!!!」

 

 

健次郎「こりゃもう・・・・だめじゃな・・・ちと待っておれ。あー・・・もも、そこの落ちてるぬいぐるみをとってくれんか。あかねはこの取っ手をつかんで・・・そうじゃ、時計回しにまわして引っ張りあげてくれ。違うそっちは反時計じゃ。そうそう」

 

 

ももは自分の足元に落ちている妙に小奇麗なかわうそをモチーフにした二足歩行のぬいぐるみを拾うと、祖父に手渡した。あかねは祖父がはがした10センチ四方の床板の下に隠されていたもの、駐車場にある地面に埋め込めるタイプのポールのようなものがあったのだが、その取っ手をつかみ90度ひねり一気に引き上げた。1mほど持ち上がり、祖父はその円柱のカバーを外して二本のチューブをひきずりだし一本を人形の口、もう一本を自分の口でくわえた

 

 

健次郎「離れておれ!スイッチオン!」

 

 

バリバリバリッ!っとマンガのような青い電撃が走り祖父の体が一瞬透けて見えた。思わず目をつぶりそうになる二人の前で3秒程シビレたあと、機械が白い煙をたてたと同時に停止した。健二郎は白目をむいてうつぶせにバタンと倒れたのであかねとももは慌てて駆け寄り、静電気を警戒するような慎重さでちょんちょんとその身体をつっつき意識があるのか確かめたがどうやらだめだ。死んでいる。

 

 

あかね「そ、そんな・・・自ら命を絶つなんて・・・ダメだよおじいちゃあああああああん!!!!」ユサユサ

 

 

???「おいおいあかね!!!!その身体、大事にしとくれよ!あとでまた戻るんじゃからな!!!!」ドドン

 

 

もも「こ、この声は!!!」

 

 

あかね達が顔を上げもう一本のチューブの先を見ると、それは口にくわえたコードをペっと吐き出し元気に立ち上がった。健次郎がももに拾わせた、二足歩行のかわうそ人形はキリリとした顔であかねとももにぐっと親指を立ててみせた

 

 

健次郎「示現エネルギーは<魂>を制する!大成功じゃな。かーっ!こりゃ天才じゃわ。」

 

 

跳ねる。腕を回す。前屈をする。見事に動いているではないか。歳とともに少しずつ身体を動かすこともしんどくなってきた健二郎だったがこのぬいぐるみは新品に近いものだったので若返ったようなすがすがしさだ。この研究成果を記録に残したいが、今はあかねに話さなくてはならないことがあるのだ。

 

 

健次郎「その鍵についてじゃがな、あかね。説明は―――いや、ここも危ない。すぐに行動を開始せねばな。」

 

 

もも「そ、そうだよ。急いで避難所に」

 

 

健次郎「今からあそこにむかうのは危険じゃ。もも、前説明したと思うがこの家の地下にシェルターがある。お前はそこに入っていなさい。」

 

 

もも「解った!でもおねえちゃんは?一緒に逃げないと」

 

 

あかね「まあまあもも。いいから。大丈夫。ね?」

 

 

あかねはなーんとなく察した。健次郎が妹にだけ避難しろと言ったのは自分にはこれからやる事があるのだと。それがなんなのかは知る由は無いが、このタイミングでこんな不思議なものを受けとったのはきっと不思議な訳があるのだ。祖父が自分の身体を捨ててまで、しなければならないきっと大事な話があるのだろう。

 

 

あかね「もも。地下でゆっくり休んどいて。晩御飯は・・・今日は洋風がいいな。トマトソース系。その献立考えながらゆっくりしといて。ね?」

 

 

もも「解った。信じてまってる。すぐ帰ってきてね。門限は日が落ちる前だから」ギュッ

 

 

あかね「すぐだよ。ちょちょいのちょい。」ナデナデ

 

 

家の裏手の井戸に模した秘密の入り口からももは地下のシェルターへ降りていった。あそこはとても快適な場所だし絶対安全だ。ももの心配はしなくていいだろう。次にすべきは自分の心配ともう1つ。示現エンジンのすぐそばにある空港を目指してやってくるあかねの友人のことだ

 

 

あかね「あおいちゃんだッ!行こうおじいちゃん!」

 

 

健次郎「話が早いな!行くぞ孫よ!」

 

 

小さく可愛くなった祖父を前かごに入れてあかねはワンコを起動させる。行き先は示現エンジンそばの飛行場。そこにあおいは自家用機で飛んで帰ってくるのだ。

 

 

あかね「うわ!なにあの黒いの!」

 

 

島を飛び出し海の上を滑るあかねは海のかなたに変なものを見つけギョっとした。それは4本の脚で中心にある大きな黒い球体を支えるようにしながら時折赤い光を撒き散らしている。その周囲には小さな黒い点と小さな爆発。あかねにはわからなかったがただいま交戦中のブルーアイランド連合軍の戦闘機がその正体。

 

 

健次郎「あれはアローン。この世界の敵じゃ。示現エンジンを狙っておる。やはり防衛軍では歯がたたんらしいの。」

 

 

あかね「???????」

 

 

敵。聞きなれない単語だ。マンガとかでしか目にしない文字だし、リアルで感じたのははじめてたが、海のむこうの黒いものを見ていると肌がチクチクする。胃が握られたような不快感。

 

 

健次郎「あかね!」

 

 

あかね「なにー?」

 

 

健次郎「すまん。これからお前が巻き込まれるのは、一色家の呪いじゃ。宿命じゃ。ワシらがやらねばならんことで、ワシらにしかできんことじゃ。ワシにはワシの、お前にはお前にしかできんことがある。」

 

 

あかね「えーっと・・・ああーうん。」

 

 

健次郎「お前は、今の生活が好きか?」

 

 

あかね「大好き!」

 

 

健次郎「ワシもじゃ。・・・今の平和は示現エンジンがもたらしたものじゃ。いくつものものを犠牲にしたが、それでもワシはこの世界を護りたいと思っている。命をかけてな。ワシはその覚悟をお前にも強制しようとしている。

 

 

その鍵は、あのアローンを撃破する可能性のあるためのものじゃ、それを使えるのはあかね。お前だけなんじゃよ。だからこそ、お前には謝罪と、その上で頼む!」

 

 

健次郎「ワシとともに!戦ってくれ!あかねよ!」

 

 

あかね「任せて!」

 

 

健次郎「うーむノータイムで了承とはさすが我が孫!ほんとにワシの言っていることの意味が解ったうえでの発言かどうかはわからんが、どうにせよお前が戦わなければ示現エンジンを吹き飛ばされてこの世はお終いじゃからな。まあ戦うしかない。」

 

 

あかねがわかったことは、あの黒いのはアローンというものであること。狙いは示現エンジンであること。あれを倒せるのは私だけであること。これだけ解ればまったくもって命をかけるのに十分である。

 

あかね「今の生活だーいすき!これからあおいちゃんも帰ってくる!ももだって待ってる!お母さんもそのうち帰ってくる!ぜっったいにッ!やらせない!!やらせなあああああああああああい!!!」

 

 

あかねは海の向こうに向かって力いっぱい叫ぶ。潮風でだいぶ抑えられたが、あかねの本気の叫び声で健次郎の身体が震えた。

 

____________________________

 

 

 

あかねと健次郎が示現エンジンへ向けて猛進していた時、同じく示現エンジンそばの飛行場へむけて、一機のヘリコプターが海上を飛行していた。ヘリ、といっても人の移動用に作られているものでその内部はゆったりできる空間になっている。そこに備え付けられた横長のソファーに一人の少女が寝そべっていた。長い青い髪は大切に手入れされていることが一目で解った。安いシャンプーなど一度も使ったことはないのだろう

 

 

 

紫外線など知らない白い肌は病的なほど真っ白だが、実際彼女は病弱であった。気品高く資産家の令嬢である彼女は先日ようやく退院となり、少しでも早くブルーアイランドへ帰りたかった彼女のために手配されたこの輸送機で飛び立ちいくらか時間がたった。今、令嬢はひどくゆれる機内でソファーにしがみつき、片方の手にはもしもの備えのエチケット袋を握り締めている

 

 

あおい「まだ着かないんですか!?うっ・・・気持ち悪い・・・」

 

 

パイロット1「お嬢さんもう少し!もう少しですから!」

 

 

パイロット2「えーいなんなんだあの黒いのは!直撃したら一発だぞ!」

 

 

パイロット達はもはや安全なフライトを諦めて逃げる事に全速力だ。先ほどブルーアイランド管理局から連絡があったので異常事態が発生したことは知っていた。だがそれは航路から数百キロ離れた場所での出来事であり、自分達には関係のないこと。パイロット達はそれゆえたかをくくっていた訳であったが、連絡を受けて10分程たった後もう一度連絡が入った。今度はブルーアイランド連合軍からだ。この会話はそのときのものだ。

 

 

ブラボー1『こちらブラボー1。輸送機、聞こえるか?こちらの誘導に従い、示現エンジン方面のブルーアイランド防衛軍基地のヘリポートへ緊急着陸してくれ。』

 

 

パイロット1「了解。」

 

 

パイロット2「緊急事態?なんだ?連合軍のお偉いさんがお嬢さんをパーティーにご招待かな?」

 

 

パイロット1「HAHAHA!だと俺達もおいしい料理が食べられるな!」

 

 

「「HAHAHA!」」

 

 

〈カッ!!〉

 

 

〈ザバアアアアアアン!!!〉

 

 

 

真っ赤な光が二人の視界を塗りつぶす。するとヘリの真下の海から空高く水柱がヘリの真横まで立ち上ったのだ。二人は顔を見合わせると、連合軍機から転送されたデータをもとに最高速度での飛行を開始。そして現在にいたる。

 

 

パイロット1「お嬢様!ほーら示現エンジンが見えて参りました!もうじきです!」

 

 

ブラボー2『危ない!回避しろ輸送機!』

 

 

パイロット2「?」

 

 

赤い光がまた視界を遮る。ヘリの機動力ではとても回避できない危険な直撃コースであると判断した戦闘機隊の一番近くにいた戦闘機がその間に割って入った。緊急脱出装置を作動させながら機体をビームの先端に叩きつける身を張った護衛によりヘリへの直撃は避けられたが、その爆風と衝撃波は飛行に甚大な被害をもたらした。

 

パイロット1「うぉぉぉぉーーッ!ダメだ!操作不能!操作不能!」

 

 

パイロット2「お嬢様!つかまってください!もうだめです!」

 

 

あおい「これはもう窓から身投げしたほうが安全では きゃああああああ!」

 

 

 

________________________________

 

 

 

「とっとととと・・・あっぶない。」トッ

 

 

盾になった戦闘機のパイロットはパラシュートを開き海上に着水するつもりだったが爆風を受けて少し遠いところまで流され幸運にもそばの埋立地に降りることができた。パラシュートを取り外しヒビが入ったヘルメットを地面に放り投げてその場にドサッと身を投げ出した。

 

 

「流石に疲れたー・・・基地まで歩いて帰って来いって流石にアホでしょ。英雄よ?私。」

 

 

その兵士は女性だった。ショートカットの髪は汗でほほにへばりついている。疲労もあって立ち上がれないので、彼女はそこから海の向こうを見やった。黒い巨体は赤い光を放ちながらこちらへの侵攻を辞めない。足止めに向かった軍艦達のことが目に入らないようにゆっくり確実に脚を進め、ただ進行方向の邪魔をするものを的確に破壊するその姿は恐怖だ。ここはいくらなんでも射程外だと思うが女性はゴクリとつばを飲んで少し後ろに下がるためよろよろ立ち上がった

 

 

____________________

 

 

 

あかね「まさかとは思うけれど、まさかとは思うけれどあの煙吐いてる飛行機。あおいちゃんのじゃないよね?」

 

 

あかねはワンコにまたがり、手で帽子のツバのような形をとって遠くを身ながら軽い調子で祖父に尋ねた。祖父は小さな身体で通信機のようなものをなんとかいじりながら軽く応答した。

 

 

健次郎「あれはBI―334輸送機じゃな。ブルーアイランド管理局が保有してるこの国に数十機しかない結構貴重なやつでの。快適な人員輸送能力ゆえ金持ちやらVIPやらを運ぶ時のみ空を飛ぶ。高確率であおいちゃんが乗っとるじゃろうな」

 

 

あかね「何冷静に言っっちゃってんのぉおおおおおおおお!!!」

 

 

あかねは頭を抱えた。煙を吹いているその輸送機はゆっくり高度を下げながらこちらへ向かってくる。かなり遠目からの判断ではあるがあかねはあれが示現エンジンに激突するであろう、と結論を出した

 

 

健次郎「助けに行きたいのはワシも同じじゃが、耐えるのじゃあかね。今示現エンジンとシステム間のエネルギーを調整しておる。これが終わるまでここからは離れられんのじゃ。」

 

 

あかね達はもう示現エンジンの真下に到着していた。あかねはてっきりアローンのほうへ行くのかと思っていたが健次郎の頼みで示現エンジンへとやってきていた。エンジンといってもその主要機能は周りを幾重もの建物で覆われており、周囲の管理施設もあわせて示現エンジン、とまわりから呼称される。のためあかねは一階部分の売店で買ったアイスの棒をガジガジしながら頭を巡らせた

 

 

あかね「どうしよう・・・ワンコを高高度まで飛ばしてぶつかる前に中の人達を拾って・・・でもワンコをあそこまであげるのには相当時間かかるし・・・そうだ!おじいちゃん、示現エンジンの屋上にいけないかな!」

 

 

健次郎「・・・ふむ!確かにワンコは高度をあげるのは苦手じゃが一定の高度を走るのは得意。高いところから飛び出すということじゃな!流石ワシの孫じゃ!その作戦に操縦者が高所恐怖症であるということの対策は含まれとらんのじゃろうが、任せておけ!ここの施設の管理システムはワシがつくったからのふふふ」

 

 

さきほどまでいじっていたのとはまた別の通信機をどこからか取り出しピピピっといじる

 

 

健次郎「あかね!そこのゲートがあと7秒で開く!急ぐぞ!」

 

 

あかね「うんッ!」

 

 

ワンコを走らせるとぴったり7秒でゲートがあかねを迎えられた。中は車が二台入るレベルの広さで、あかねが中央で停車させるとゲートがとじてちょっとした浮遊感と機械の起動音が部屋の中に充満する。少しほこりくさい

 

 

あかねは緊張で汗ばむ手を服でぬぐうとハンドルを握りなおしワンコの方向転換を行いながら気合を入れて前をにらみつける。ゲートがせりあがり下から外の光が入った瞬間アクセルをひねる。頭をさげてギリギリのところくぐって最速で屋上へ飛び出した。

 

 

あかね「颯爽登場一色あかねッ!」

 

 

健次郎「まさに白騎士じゃな!」

 

 

広い屋上に飛び出し、いざ大空の旅へと意気込み高らかに叫んだあかね達めがけて空の向こうから炎を纏った輸送機がこちらへ突っ込んできた。

 

 

あかね「うわああああああああああああああああ」

 

健次郎「うおおおおおおおおおおおおおおお」                                    

 

ブレーキをぶっ壊すほどの勢いで踏みしめる。こちらから迎えに行くつもりが向こうからやってきてくれるとはさすがはあおいちゃん、気の利くお嬢様だ

 

 

あかね「なんて考えてる場合じゃない・・・あわわわ・・・」

 

 

健次郎「あわをくっとる場合かァー!そんなことより泡をかけるぞ!あかね、ワンコには消化機能がついておることは説明してあったはずじゃ!え、知らん?ああそうか。ならそこのパネルの・・・そう、右下の青いやつ長押し。よし行け!」

 

 

〈ブシャァーーーーーーー!!!〉

 

 

健次郎特製のなにかがワンコの前面から噴出す。液体かなにかかとあかねは思っていたが、それは健二郎の言うとおり泡。それはどんどん大きく膨らんでいって1つの大きなシャボン玉となって輸送機を包み込んでいく

 

 

その泡は数秒すると急激にしぼんでいき、泡の面に触れた炎は暴れることもできずやがて沈火した。泡がパチンと弾けたのを合図にあかねはワンコとともに輸送機めがけ突っ込んだ。機体の壁はすでに半分崩れ落ちておりあかねはワンコの頑丈さをいかしてぶち破った。 中に人がいるのになんとも荒々しい白騎士である

 

あかね「あおいちゃああああああああん!!!!!」

 

 

あおい「うわびっくりした!あ、あかねちゃん!どうしてここに!」

 

 

あかね「うわーあおいちゃん久しぶり!元気そうでよか・・・ってわけでもないか。大変だったね。助けにきたよ。」

 

 

あおい「これはまた入院かもと思ったけどあかねちゃんが来てくてなんとかなったよ。ありがとうね。」ケホケホ

 

 

あかね「いやぁ、礼には及びませんとも!はっはっは!」

 

 

力なく倒れるあおいの膝裏と背中に手を回して軽々と抱き上げ、彼女のやさしい笑顔を見てあおいは心から安堵の息を吐いた。

 

 

〈ガガガッ〉

 

 

あかね「うんん?なんの音だろ?」

 

 

あおい「さっきの怪獣かな?こ、こわ・・・」

 

 

あかね「ううん、あおいちゃん、あれはアローンっていうんだよ!」

 

 

あおい「へええ!あかねちゃんは物知りだね!さっすが!」

 

 

あかね「この一色あかねに知らないものはない・・・と、思っていただこう」ドヤァ

 

 

〈メキメキッ グラッ〉

 

 

あおい「か、かたむいてる!?なに!?」

 

 

あかね「わかんない。おじいちゃんわかる?」

 

 

健次郎「機体の先端部は乗り上げていたが後部は宙に浮く形になっとったのか。こりゃ参ったわい。」

 

 

あおい(な、なんて余裕!さすがはあかねちゃんとそのおじいさん・・・!)

 

 

あかね「ワンコに乗って脱出すればいいね。余裕だよ。あおいちゃん立てる?後ろ乗ってね。」

 

 

あおいを地面に立たせるとあかねはワンコにまたがり後部座席をあおいの方に向ける

 

 

あおい「あっ―――」

 

 

あかね「ん?どうしたの?」

 

 

くるりと首だけ後ろを向いたあかねの目にこちらへ必死に手を差し出すあおいが向こう側へ倒れていく姿が一瞬だけ映った。あかねはその手をつかむことなどできない。息を呑む暇もなく親友は残骸の一部とともに重力にひかれ視界から消え去った

 

 

あかね「あおいちゃんッッ!!!」

 

 

祖父がなにか叫んでいるが知ったことか。今のあかねの耳には遠ざかっていくあおいの悲鳴以外なんにも聞こえやしないのだ。ワンコを力いっぱい反転させると大空へ飛び出した。ワンコの水平飛行モードをオフにし、身体がすさまじい浮遊感に襲われ体中に鳥肌が立つ。ごうごうと耳元で空気の音がなり、内蔵がギュッと締め上げられて息ができなくなる 怖さがこみ上げ次は音が聞こえなくなった。手足先端の感覚がなくなり、ワンコが操れているのかもあおいとどれだけの距離があるのかもわからなくなり視界がぐるぐると回転し始め――

 

 

 

 

_______________________________

 

 

 

あかねは高所恐怖症である。ももが言っていたように高いところに登ることは出来るのだが、そこから『降りる』ことがだめなパターンだ。それは、あかねに『落ちる』ことを連想させ恐怖で身体がこわばってしまう

 

 

それは昔は昔、7年前の出来事だ。当時示現エンジンの研究開発に当たっていた一色健次郎は、同じく研究者である自分の娘といつものように調整に当たっていた。あと一歩のところで研究に行き詰まりを感じていた健二郎は異常なまでに焦っていた。成功すれば資源問題は見事解決!となるその研究は世間には秘密裏ながらも政府の支援と期待を受けていた

 

 

 

背負っているものの大きさと健次郎の研究者としての意地がその事故を起こした、と健二郎自身はいつもそう思っている。真の原因は未だはっきりしていない。ただ、未完成ながらも膨大なエネルギーを有していた示現エンジンの暴走が奪っていったものは多かった。異変に気づいた健次郎からすぐさま避難が命じられたが当時研究に関わっていた数人の研究者が大怪我を負い、そして最深部にいた健次郎と、あかねの母ましろ。そしてこの日に限って見学のためその場に居合わせたあかねは爆発寸前の示現エンジン真上にいた。

 

 

 

あかねはこの時のことをほとんど覚えていない。だがいまだ脳裏に焼きついている1シーン。足場が崩れ襲い来る浮遊感。真下に広がる炎と、火花と、目がくらむような閃光。そんな落ちていく自分を母は空中で見事に抱きかかえ、片方の手で鉄骨につかまり、耳元で苦しげなうめき声をあげていた。頭から血を流しながらも大丈夫、大丈夫、お母さん腕相撲島で一番強いから大丈夫、と頼もしいセリフをずっと耳元でささやいてくれていた。でも明らかに体力の削られている母の身体は少しづつずり落ちていく。一緒にあかねも落ちていく。健次郎の絶叫を聞きながら、あかねは閃光の中に落ちていった。

 

 

______________________________

 

 

 

あかね(あの時は、落ちていく側だった。)

 

 

だんだん狭くなっていく視界の中心にはあおいの顔。助けを求める大事な人の顔。死の恐怖にひきつりながら、でも諦めていない、信じて待ってる人の顔だ。母も自分のあんな顔を見て危険を省みず飛び出したのだろう。あの手を掴めれば死んでもいい、掴まなきゃ死んじまうような気持ちで、掴んだあとの自分のことなんて考えの外だ

 

 

あかね(今度は、助ける番なんだっ!!!)

 

 

あかね「ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!うなれワンコッ!!ど根性!」

 

 

自分の恐怖を克服したのではない。ただ、助けたいという気持ちの強さが恐怖を押さえつけあかねの意識を正常に戻したのだ。

 

 

健次郎「おう、びっくりしたわい!だが急げあかね!お前はあおいちゃんを拾う事に集中するんじゃ、水平モードへの移行はワシがやる。いいな。」

 

 

あかね「うん!」

 

 

あかねは無意識にブレーキにかかりそうになっていた指を戻してアクエルを握る。落下ではなく飛行状態となったワンコはあおいに楽々おいつき、あかねはあおいの手をしっかり握り締めた

 

 

健次郎はそれを見てワンコの姿勢を地面と水平にし徐々に速度を落としながら地面にやさしく着陸できるようあっという間に調整してみせた。フワリ、と地面の真上数センチで停止した後地面にドカッと落っこちた。あかねの手元のパネルは今にも消えるぞとばかりに点滅しながら危険の二文字を浮かばせたあと真っ暗になった。

 

 

健次郎「無茶させすぎたのう。ここまでの激しい運転は想定してつくっとらんからな。まあすぐ治るがの。それより二人とも怪我はないのか?」

 

 

あおい「・・・」

 

 

あかね「あおいちゃん大丈夫!?なんだか奇妙なものを目の前にした人みたいな顔してるけど、怪我したの?」

 

 

あおい「あかねちゃん、人形がしゃべってるよ!怪我は無いけど、びっくりだね!」

 

 

あかね「ああ、うん。ケガないのよかったけどこれだけの事態でまっさきに関心が向くのが喋る人形ってとこに驚きだね。あおいちゃん身体もハートも頑丈になったんだね。」

 

 

あかねの中のあおいちゃんはおしとやかで内気な性格であった気がしたが、少し興奮しているのか動転しすぎているのかプラスの方向に感情が振り切れているようで随分元気だ。興奮しきっているのはあかねもおんなじだが。手足の先の感覚は戻ってきはしたがまだじんじんする

 

 

いくつもの山を乗り越えて動悸息切れが激しく正直地面に寝転がって休みたいが地上に降りたからと安全地帯ではない。ここは示現エンジン真正面、人口の海岸とテトラポッドの向こうには青い海と黒い敵。今はこちらにビームを飛ばす余裕はないのか先に邪魔者を全部片付けたいだけなのかアローンは沖で空からミサイルを撃ってくる戦闘機と弾幕をはりながら迫り来る艦隊を相手に暴れているが、いつまたこっちに攻撃が飛んでくるかと思うと立ち止まっている暇はない

 

 

あおい「でもワンコは壊れちゃったし・・・どうしよう。まだパイロットさん達も屋上に残ってるのに。」

 

 

健次郎「大丈夫じゃ。管理局の連中に回収を頼んでおいた。すぐ駆けつけるじゃろうて。しかし、たとえここから逃げだせたとしてもアローンを止められなければこの世はお終いじゃ。」

 

 

あかねが休めない理由がもう1つ。仕事はまだ残っている。

 

 

あかね「アローンを!」健次郎「ぶったおすぞ!」

 

 

あかねはポケットにしまっておいた鍵を取り出すと空にかざす。あれだけ激しく動いたにも関わらずちゃんと入っていた。まああかねはその存在をずっとポケットのあたりに感じていたので落とした気はしなかったが。最初はただの不思議な鍵だったがそれは時間が経つにつれて鍵の存在は自分の身体の一部のように敏感に感じられるようになってきた。ずっと大切にしていたぬいぐるみのような、昔からのなじみの一品であるようなしっくりくる感じが手の中でこそばゆい。

 

 

あおい「あかねちゃん!?え、戦うの!?ダメだよそんなの、ここは軍隊の人に任せて」

 

 

あかね「あおいちゃん。」

 

 

――こちらを振り返って。赤い目が静かに燃えながら私の名前を呼ぶ。それだけでもう身体は動かないし言葉は引っ込んでしまう。あかねちゃんが私を何かに誘うとき、私が辞めとこうよ、というと必ずこれだ。彼女に裏はない。ただ、自分がいかに真剣なのかをおふざけ抜きで伝えたいだけなのだが、それで私はすっかり参ってしまう

 

 

 

逆らえたことは一度だってない。大人にだって説得できないだろう。もう仕方ないのだ。ビビッときてしまったのだ。こういう時のあかねちゃんが間違ったことは一度もないというのはももちゃんとの共通の見解。それにしたって今度はとめないといけない。行って欲しくない。一緒にこのまま逃げ出せば、きっと誰かがなんとかしてくれる。子供の私達がしなくちゃいけないことじゃないはずなんだ。あかねちゃんが戦わなきゃいけない理由なんて、ないはずなんだ。

 

 

あかね「待っててね。」

 

 

あおい「うぅん・・・。」

 

 

うなずいてしまった。だめだ、笑顔で言わないで。その笑顔を否定できる人間はこの世にいないだろうってくらいの笑顔だったし、もう事情を知らない私が止められる話じゃないんだから仕方ない。うん、ここで待ってよう。あかねちゃんが待っててって言ってるんだし、救助の人が来たって動かないくらいの覚悟で待ってよう。そしたらあかねちゃんがなんとかしてくれる――

 

 

 

二葉あおいは故障したワンコの座席にまた座りなおした。ここは危ないが、どうせ逃げても示現エンジンが吹き飛べばここら一体は灰になるだろうしあおいはあかねの見える位置にいようと考えた。

 

 

健次郎「よし、あかね。最終調整が終わるまでしっかりと・・・いや、軽くでいいから気を楽にして聞くんじゃ。防衛軍がとめられないところを見て解るようにアローンに普通の攻撃は効かん。大火力を当てれば足止めにはなるじゃろうが、あれに傷をつけることはできん。絶対にじゃ。」

 

 

あかねはじっと待ってるのもあれなのでストレッチをしながら祖父の話に耳を傾けていた。防衛軍は今もアローンと戦っているが今焦ることはなにも意味が無い。時がくるまでしっかり落ち着いていかないといけないことをあかねは解っていた。

 

 

健次郎「アローンは示現エンジンを、正確には示現力を狙ってくる。あれは示現力に深く関係した生物なのじゃ。あれは意思をもっとるから、生物じゃろうな。アローンは示現力で出来ていると言うとわかるか?わからんか。アローンは示現力以外のエネルギーを受け付けない。しかし、示現エネルギーを持ったものならそこまでの大出力がなくとも傷をつけることができる。アローンの身体のどこかにある心臓、アローンの核を破壊すればあの身体はこの世界から消滅する!という研究結果がでとる。」

 

 

健次郎はなにも知らないあかねが解るように説明していたためあおいにもなんとなく伝わっていた。敵の名前と、そのヤバさは伝わった。

 

 

健次郎「核を破壊するのには大した出力はいらん。もしかしたら通常兵器でも破壊できるかもしれんくらい、もろい。問題は、弱点は丸出しではないということじゃな。あの装甲をえぐってえぐって核を見つけ、一撃を叩き込むことがどれだけの難易度になるか・・・」

 

 

あかね「オッケー、やることはわかったから大丈夫だよ。どうするべきかも、なんとなくわかる。」

 

 

手で握り締めていると、どんどん熱い力が身体に流れ込んでくる。すでに鍵は身体の一部であるかのように、あかねはそれを理解できていた。

 

 

 

健次郎(これは・・・あかねの心に・・・)

 

 

 

健次郎「・・・いいや好都合じゃ!調整終了、いけるぞあかね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健次郎「変身じゃ!!!!!!!!」

 

 

 

 




次回、戦闘開始。がんばれあかね!

すぐ書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 あかね「ヒーロー参上」

みんなから大事にされていた。私はお姫様だったから。


1人で出歩くことは許されなかった。どこで倒れるか解らないから。


遊びに行く事はできなかった。友達に迷惑をかけるわけにはいかないから。


「なら、一緒に新聞読もうよ」


読めない字は2人で調べた。早起きして朝刊を受け取り、夕日を浴びながら彼女を待った。


外に出るのを諦めていた私はいつしか、彼女と同じ世界が見たいと思った。


彼女と一緒に。





健次郎「ゆくぞ!オペレーション開始!」

 

 

あかね「イグニッション!!」サッ

 

 

 

〈ピキュィィィーン!!〉

 

 

 

言葉は勝手に口をつく。あかねの前に赤く光輝くゲートが出現した。その大きさは二階立ての家ほどある。あかねは手の中で熱を放っていた鍵をその中央にぶっさし、左側にぐりんとまわした。

 

 

あかね「テクスチャーオン!オペレーション、ビビッドレッド!」

 

 

ゲートのロックが順々に外れ示現の力の奔流があかねを包みこんだ。大きな力に身を任せたあかねの身体を軸に形となったエネルギーが鎧となって体現する。それでもその見た目がマーチングバンドをもとにしたような可愛らしいフリフリが少しついた服装に見えるのは祖父の小粋な遊び心。だがそれはあくまで見た目の話。その本質は敵を討ち、破壊の光を跳ね返す勇者の鎧。有り余るエネルギーを軽く放出しあかねは赤い光の軌跡をうっすら残しながら大空へ飛び出した。

 

 

あおい「速い!飛行機よりずっと速い!」

 

 

あおいはその速さに驚愕した。一瞬で目の前から消えて、瞬きの間にもう赤い光は水平線に飲まれて見えなくなってしまっていた

 

 

健次郎「示現エネルギーを自在にあやつるパレットスーツはこの世界最強の防御力と出力をそなえておる。それだけの力を出し続けるには示現エンジンの生産するエネルギーの7割をもっていくがな!」

 

 

あおい「・・・それって停電とかになるんじゃないですか?」

 

 

健次郎「はっはっは!なにをいうとる。世界中で使われとるエネルギーを送り出すのに使っとるのは示現エンジンの3割にすぎん。余裕じゃよ。」

 

 

あおい「さ、3割で世界中の・・・!」

 

 

たった3割の力で地球ほぼ全てのエネルギーをまかなえるというのに、今のあかねはその倍以上のものを1人で使っているらしい。

 

 

健次郎(しかし・・・これは長くは・・・)

 

 

宙に展開したいくつもの画面を見比べていた健二郎はすでにいくつも改善点を見つけそれを手元の機械に器用に入力している。あおいは一瞬で小さくなって見失ってしまったあかねの姿を海の向こうに探すので必死だった

 

 

 

__________________________________

 

 

 

あかね「アハハ・・・これ、すごい!」

 

 

飛べる。自由自在だ。歩くように簡単に、なにも意識しなくてもあかねは自分が思ったように空を移動できた。少しジャンプするような感覚で水面スレスレから雲と同じくらいの高さまで飛び上がり、遠くの方にアローンを見つけた。天に届き島を踏み潰すほど大きく見えていたそれも今ではあかねより低いところを這いつくばってのろのろ進んでいるだけだ。あかねは手袋がはめられている右手をなんどか握ったり開いたりした後強く拳を固めると、アローンめがけ稲妻のように突っ込んだ。

 

 

<ゴォォォォォォォォォ・・・>

 

 

耳元で少し空気を押しのける音がするが、それもスーツの保護でほとんど影響はない。身体にくる空気抵抗などもまったく感じない。時間にして一秒にも満たない超高速での飛行だがあかねにはいつもワンコで走りまわっている程度にしか感じなかったし迫る敵がどんな動きをしているか容易く見えた。戦闘機隊に衝撃波が当たらないようコースを考え、アローンの黒光りする身体がどんどん近づいてくるのにあわせて拳を大きくふりかぶり

 

 

あかね「ビビッド・・・パァァァァァァンチ!」

 

 

 

腹の底から叫び声をあげ、示現力の結晶と化した拳を叩き付けた。

 

 

 

 

それは、一方的な侵略者に対抗できる人間がここにいることを伝える宣戦布告の意味合いも強くこめられていた。示現の力を有した戦士の登場により、アローンと人間の戦いのゴングは今ようやく鳴らされたのだ。

 

 

 

__________________________________

 

 

その少し前

 

 

 

チャーリー1「こちらチャーリー1!作戦本部!敵にこちらの攻撃はダメージを与えられているのか!」

 

 

オペレーター『チャーリー1。攻撃を続行せよ。ダメージは確実に蓄積されている。攻撃を続行せよ。』

 

 

チャーリー2「蓄積だってか。それであと何時間かければあの装甲を破壊できる?」

 

 

 

チャーリー3「クソッ、被弾した!エンジンが・・・だめだ!うわあああああああ!燃える!!」

 

 

 

偵察にむかったアルファチーム3機と輸送機護衛にあたっていたブラボーチーム3機をのぞき、アローンとの戦闘だけで十機近くが犠牲になっていた。この犠牲をもってしてもアローンの侵攻がすこし遅くなったかどうかくらいの戦果があがっただけだ。敵の損害は0。部下達からあがってくるデータの中から1つでも有効なものを見つけだそうと作戦司令室の幹部達は懸命だったが、はやくも追い詰められていた

 

 

部下1「陸上部隊が避難誘導の進行度が80%を達成したとの報告。終了次第エンジン周辺に展開し一斉砲撃を行えるよう準備を要請してあります。」

 

 

部下2「航空機隊のB2ミサイル、依然として効果ありません。敵、アローンの装甲に損傷は見られません」

 

 

長官「攻撃は継続させろ。敵の侵攻ペースが落ちていることは確かだ。」

 

 

部下3「第3ライン突破まであと30秒です。艦隊に砲撃要請を出します。」

 

 

飛行幹部「長官。戦闘機の攻撃ペースを維持するには補給も必要です。これ以上前線を維持するのは・・・」

 

 

長官「手がないわけではない。あと少しでいいはずだ。順番に補給を行わせろ。攻撃は最低限でいい。足を狙え。」

 

 

飛行幹部「はっ。各隊、順に補給の支持をだす。回避を優先し、艦隊の射程ギリギリで敵の攻撃をひきつけろ!」

 

 

長官(もう少しのはずなのだ・・・)

 

 

部下1「示現エンジン付近に高エネルギー反応!これは大質量の示現エネルギーです!」

 

 

部下2「エネルギー体、高速でアローンに接近!さらに高度上昇・・・高度下降!アローンにむかって・・・ああ、速すぎる!」

 

 

レーダーに光の玉が表示されたかと思うと、それは航空機の反応の何倍も早く画面中を駆け巡る。警告を出す間もなくそれはそのまま速度を落とす事なくアローンの反応と接触した

 

 

______________________________

 

 

 

助手1「局長。長らく凍結されていた示現エンジンの4区から10区までが外部からのアクセスにより稼動しています。」

 

 

紫条「問題ないわ。解っているから。こちらからアクセスを妨害しないようにだけ注意して。」

 

 

助手1「了解いたしました。」

 

 

助手2「局長。お電話です。」

 

 

紫条「ありがとう。はいもしもし?」

 

 

健次郎『ワ シ じ ゃ よ。』

 

 

紫条「知ってました。先生、お久しぶりです。」

 

 

健次郎『驚いたじゃろう?』

 

 

紫条「示現エンジンの4区以降の稼動キーをしっているのは先生だけですから。示現エンジンの70%の出力を使うべき日が来た、ということですよね?」

 

 

健次郎『そういうことじゃ。防衛軍の指揮官に、間違っても我が孫を攻撃するようなことのないよう伝えておいてくれ。あのアローンを撃退した後詳しい話はするからのう。』

 

 

紫条「先生が直接お伝えになればよろしいのでは?」

 

 

助手2「通信、切断されました。発信地逆探知不可です。」

 

 

紫条「やれやれ。防衛軍司令室につないで。」

 

 

________________________________

 

 

 

 

あかね「パァァァァァァァンチ!」

 

 

拳に集中させたエネルギーが爆発する。アローンの身体は大きく傾き、倒れないようバランスをとるため4つの足をドスンドスンと後退させた。対してあかねはその勢いで後ろに吹き飛ばされぐるぐる回転しながら海の中に落ち派手な水柱をあげた。

 

 

 

 

チャーリー1「本部!今のは新型ミサイルかなにかか?」

 

 

オペレーター『・・・いや、こちらからはなにもしていない。反応水中!浮上するぞ。』

 

 

<ザパン!>

 

 

あかね「海水もバリアではじける仕様なんだねおじいちゃん。今度これで魚とってくるよ。」

 

 

海水を押しやりながらあかねが直立の姿勢で浮き上がってきた。両腕は肘を曲げ両拳は肩の位置。ロボットのようなポージングだったので、戦闘機パイロット達は遠目にあかねをロボットだと認識するところだった。

 

 

アローン〈・・・・・〉

 

 

後退して少し沈黙していたアローンは体勢を整え再び侵攻を開始した。ダメージはあるのだろうか?すさまじい衝撃を受けた箇所がほんの少しへこんでるように見える程度であったのであかねは少し焦った。自分の全力パンチがまるで通じていない。常時繋がっている通信回線で祖父に話しかけた

 

 

あかね「全然ダメージ通ってないよ!やっぱり必殺技はキックなのかな?赤いマフラーと宙返りからの伝統的なライダー技でないと敵が倒せない仕様なの?」

 

 

健次郎『大丈夫じゃあかね。ガイド画面を出しておく。』

 

 

あかねの前に半透明の電子画面がいくつか展開された。ビームが飛んでこないか警戒しながらそれの端から橋までざっと目を通し、武器について標記してあるらしい画面を見つけそれに手をかざしながら

 

 

あかね「武器・・・!オペレーション!ビビッドラング!」

 

 

叫ぶと展開されていた画面が全て消え、かわりにあかねの手元にキラリと赤く輝くメタリックなつくりのブーメランが具現化した。少し重いが1m程の大きさがあり、反り返った外側部分は赤く輝いていてそこに高質量の示現エネルギーが濃縮され刃となっている

 

 

健次郎『問題なさそうか?』

 

 

あかね「うん。凄い力。」

 

 

 

アローン〈オォォーー〉

 

 

 

正面を向いたまま水上を横スライドするあかねめがけ何度もビームが飛ぶが、速さの感覚が何倍にも鋭くなっているあかねには回避するのは簡単だった。赤い死の光線に感じる恐怖は変わらないが、しっかり向き合っていれば渡り合える。あかねは身体をゆっくりと回転させる。速度を少しずつ増しながらブーメランを右手だけで持ち遠心力を乗せ、さらに肩、肘、手首を連動させ力いっぱいネイキッドラングを放った。

 

 

あかね「イヤーッ!!」

 

 

<ガギィン!!>

 

 

命中だ。ネイキッドラングは大きく弧を描きながら高度を上げ、上から斜めに降下しながらアローンの4つの足のうち一本を斜めに切り裂いた。不気味な漆黒の装甲がえぐれて内部が露出する。鈍く灰色と赤の混ざったような、肉のようにも見える。それがあわさりなんとも傷口めいて見える。あかねは高速で戻ってくるネイキッドラングを受け取る。勢いを殺すために身体を一回転させる必要があったが、あかねはなんとかブーメランを抱えてアローンに向き直った

 

 

ブーメランとは、古来につくられた投擲武器である。ブーメランというと投げれば手元に返ってくるものという認識が強いが、狩猟用の大きなものは普通標的にぶつけた後戻ってくる構造はしていない。敵にダメージを与えるほどの質量のあるものが高速で戻ってくれば使用者にも被害を及ぼすからだ。手元に返ってこないタイプのものは別の名前で呼ばれる。が、あかねの武器は〈ブーメラン〉である。敵に対しては無慈悲に命を奪いにかかるが、持ち主のもとに戻ってくる時は武器としての牙は隠したあとだ。それでもパレットスーツの恩恵を受けている状態でないと到底さばけるものではない。

 

 

あかね「へっへー。これが新聞配達歴5年、一色あかねのコントロールよ!そーれ同じところにもう一発・・・」

 

 

グルンと身体を回転させ再び投擲。迂闊だ!あかねは攻撃を中断して真上に飛び上がった。さきほどまであかねのいたところにアローンのビームが着弾し海水が派手に飛び散る。アローンは自分を破壊することが出来る存在に攻撃目標を集中させることにしたのだ。当然の戦法である。

 

 

チャーリー1「本部!見たか!女の子が敵にダメージを与えたぞ!女の子が飛んでるぞ!なにがどうなんだ!」

 

 

オペレーター『チャーリーチーム。少女に協力して戦闘を続行せよ。』

 

 

チャーリー2「不思議な指示だな。だが協力と言っても攻撃は通じないぞ。おとりにでもなれっていうのか?」

 

 

オペレーター『チャーリーチーム。少女が装甲を破壊した部分を攻撃するんだ。そこならダメージが通る。他のチームは引き続き補給を行ってくれ。』

 

 

チャーリー1「よし。チャーリー1、アタック!」

 

 

チャーリー2「チャーリー2、アタック!」

 

 

二機は縦に編隊を組んでアローンへ接近をかける。アローンは空中を自在に駆ける少女を倒すのに躍起になっている、今ならミサイルが迎撃されることもないはずだ。二機の戦闘機からまとめて4発のミサイルがうなりをあげて発射された。アローンの傷ついた箇所へ寸分たがわず狙い撃たれたミサイルが爆音をあげて直撃する。先ほどまでのように敵の表面でむなしく広がるだけだった煙と違って今度のには確かな手ごたえを感じた。アローンの足が細かく振動している。煙が晴れたあと、やはり被害を与えることができたようだ。傷が広がり、内側から漏れ出す光も多くなった。アローンの体内に蓄積された示現力が漏れ出しているのだ。

 

 

あかね「おお!ありがとうございます!」

 

 

チャーリー1「いいってことだ!もう一度しかける!」

 

 

チャーリー2「了解。うっ!」

 

 

突如アローンの攻撃が戦闘機へ向く。先ほどより太くなっている光線は戦闘機の片翼を飲み込んだ。

 

 

あかね「攻撃が強くなった!?危ない!」

 

 

落ちていく戦闘機とは別のほうにアローンが攻撃したのを見るやいなやあかねはネイキッドラングを力いっぱい投擲した。示現エネルギーの刃とビームが衝突して衝撃波を巻き起こす。ビームの軌道をそらしたブーメランを受け止め、あかねは今度は落ちていく戦闘機を助けるため全力で飛ぶ。コクピットのガラスを根元からひっぺがして気絶しているパイロットを抱き上げて離脱した。機体は海へ沈んでいく。

 

 

チャーリー1「助かった!そいつはまだ生きてるか!?」

 

 

あかね「意識はないけど、血は出てないよ!おじいちゃん!この人連れていったん戻るね!」

 

 

オペレーター『チャーリー1、一度帰還してくれ。アローンの攻撃が激化している。こちらの機動力ではこれ以上の戦闘は無謀だ。あとは彼女達に任せ、こちらは遠距離からの支援に徹する。』

 

 

チャーリー1「女の子に任せて撤退か。情けないな。」

 

 

艦隊からの超遠距離砲撃による支援を受けながら二人は撤退を開始した。怒り狂っておいかけてくるとふんでいたが、アローンはこちらが距離をとると攻撃をやめ、足をとめて動かなくなったのだ。見るとダメージを与えた足の周りの空気がゆがみはじめた。すさまじい示現エネルギーの奔流で空間がゆがんでいるのだ。アローンは体内から漏れ出す示現エネルギーを装甲の修復にまわしている。艦隊の攻撃は出力を抑えたビームで的確に迎撃しながら、じっと完治を待っている。

 

 

だが今は一度退くしかない。あかねは背負ったパイロットが落ちないよう気をつけながらも速度をあげて祖父のいる人工海岸に着陸した。

 

 

あかね「この人を!」

 

 

いつのまにか祖父のもとに来ていた数名の軍人がすばやくストレッチャーを展開して負傷したパイロットを寝かせ走って行った。

 

 

あかね「おじいちゃん、もうちょっと強い武器ないの?これじゃ倒すなんてとてもじゃないけど無理だよ・・・。しかも・・・凄い疲れる・・・」

 

 

あおい「あかねちゃん!あつっ・・・!凄い熱・・・」

 

 

ネイキッドラングを杖のようにし肩で息をしているあかねに駆け寄ったあおいは夏場のクーラーの外の機械の前に立った時のようなすさまじい熱気にあてられ思わず手をひいてしまった。感情が昂っていた間は気にならなかったがどんどん体温が上がってきているのだ。感情の問題だと思っていたが、実際に上昇してきている。

 

 

健次郎「示現力を完全に支配下におくのにパワーを消費しすぎるのじゃ。今のあかねは示現エンジンそのものといっていい。いや、示現力をさまざまな形に変えて放出することのできるこのシステムは示現エンジンより複雑。それと一体化しているあかねの負担は想定以上のものじゃ。」

 

 

淡々と説明するが健次郎も必死である。彼の前に展開された電子モニタは先ほどから増える一方。孫が命をかけ戦っているのなら自分は研究者として最高のサポートをする以外のことは考えない。心配なのは当然だ。だが、焦りは効率を悪くする。健二郎は冷静に計算し、答えを照らし合わせ、そして推測する。

 

 

あおい「――おじいさん。あの鍵は1つしかないんですか。」

 

 

凜とした声が健次郎の脳内に響く。

 

 

あかね「あ、あおいちゃん。それは」

 

 

あおい「あかねちゃんは休んでて。」

 

 

あかね「あ・・・うん」

 

 

ビシっと言われて思わずうんと言ってしまった以上口を閉ざすしかない。今はアローンの方に動きは無いようだ。ともかく祖父が手を考えるまで少しでも体力消費をおさえなければ

 

 

健次郎「あかねに渡した鍵は示現エンジンに特殊空間を通じてアクセスし、その力を鎧として人間に装着。心と直結させ、示現力を意のままに操る。これがVシステム。Vは、あかねの能力とも言える第六感、そのすさまじい直観力にあやかりビビっと・・・〈ビビッドシステム〉とワシは名づけた。あかねに渡したVキーはあかねのために調整して作ったものじゃ。他の人間が使うことはできん。もしあおいちゃんのためにVキーと同じようなものをワシがつくったとしても、それは示現力を支配下におくことまでは不可能じゃろうな。」

 

 

あおい「まったく解りません!」

 

 

健次郎「じゃろうな。説明は難しいんじゃ。まだワシも完全に理解できとるわけではないし。」

 

 

あかね「あおいちゃん、私じゃ頼りないのは解るけど戦うのは任せとい」

 

 

あおい「あかねちゃんが頼りない!??そうじゃないよ!」クワッ

 

 

あかね「えっあっ」

 

 

あおい「私はあかねちゃんに助けてもらった。さっきだってそうだし、初めてあった時もそう。療養のためにこの島にお父さんとお母さんと離れて引っ越してきて半ニート化してた私が外に出たいと思ったのは、あの時新聞配達にきてくれたあかねちゃんともっと話したいと思ったから。・・・あかねちゃんにはずっと助けてもらってきたの。頼りないなんて思ってない!」

 

 

あかね「えへへ・・・照れるなぁ」

 

 

あおい「さっきも、今度もあかねちゃんに助けてもらえるって。ここで待ってればあかねちゃんがなんとかしてくれるって。でも、私おかしいよね。私と同い年の女の子が危険な目にあってるのに、私はここで待ってるだけなんて。 恩返ししたいってずっと思ってた。でも私、いつのまにか助けてもらうことが当たり前になってた。」

 

 

あおいの決意を決めた顔。いつも優しい雰囲気を漂わせ、強い言葉を使ったことなどなかったか弱いお嬢様。悪さをした子供をしかる時だってこんな表情をしたあおいを見た事はなかった。あかねは戸惑いながら、だがあおいの伝えたいことを決して聞き逃さないよう真剣に受け止めようとしていた。

 

 

あおい「私も戦いたい。示現エンジンのためじゃない。この世界のためじゃない。私の人生をこんなに楽しいものに変えてくれたあかねちゃんを護るために、戦いたい。誰かを助けられたことなんて一度もなくて、だれかに迷惑をかけながらじゃないと普通の生活を送ることもできないような弱い私だけれど、私は今、あかねちゃんのためになにかしたいってすごく強く思ってるの。あかねちゃんが頼りないとかそんなことじゃない!」

 

 

あかね「あおいちゃん・・・」

 

 

あおい「私はあかねちゃんを護るために戦いたい。」

 

 

あかねは、あおいは大事に扱わなければ壊れてしまうもののように考えている節があった。学校のみんなもそうだし、彼女が病弱なことを知っている人間はみんなそうあおいに接している。今のあおいを見て、あかねは自分の考えを改める必要があることを思い知った。彼女の強い目は、自分の命をかけて大切なものを護る決意を固めた人間の目だ。実際あおいは本気であかねのためだけに自分の命を捧げる覚悟があった。そのための力を求めていた。それがあかねのハートに届いたのだ。理由はそれだけだ。

 

 

あかね「――うん。ビビっときたよ。あおいちゃんの心。」

 

 

あかねの胸の部分が光る。身体の中で暴れていたエネルギーがその一点に集まってくる。あかねは両手をその部分で重ね合わせ、熱い塊を手のひらでつつみこみ、あおいに向かって差し出した。

 

 

あおいはあかねの手を自分の手でつつみこんだ。とっても熱い。でも火傷するようなトゲトゲしいものではなくお風呂のような優しいあったかさ。それがあかねに触れている手の平から心臓のほうに伝ってきて、なんともこそばゆい気がしてちょっと身体をくねらせる。あかねはちょっと笑顔になりながら手を開いて、その中のものをあおいに手渡した。

 

 

あおい「これが・・・私の・・・心・・・」

 

 

強く優しく青い光を放つ〈鍵〉をうっとりした視線で見つめ自分の胸におしあてる。胸の鼓動が早くなり、鼓動の音が頭の中まで響いてくる。鍵から放たれる青い波動が手に、足に、体中に力を与える。肌がピリピリと痛い。今すぐ走り出したくなるような衝動に、今のこの身体なら応えらるだろう。自分の身体が変化を見せたことに戸惑いすら覚えたが、優しい声が耳元で、大丈夫だよと囁いてくれた。しびれるような快感で朦朧とした意識が呼び戻される。

 

 

あかね「一緒に行こう。」

 

 

あおい「うん!」

 

 

 

 

―――ああ、やっと。後ろじゃなく、あなたの隣に。

 

 

 

 

 

 

 

海の方に向き直ったあかねの隣に立つ。キッと空の向こうのアローンをにらみつけ、あかねから受けとった青い鍵を右手にもって前に突き出した。これは、あかねのために戦う力。あかねと一緒に戦う力。あかねを助ける力。

 

 

 

 

 

 

あおい「イグニッション!オペレーション、ビビッドブルー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あおいちゃん変身。あかねは世界を救うヒーロー。あおいはあかねのためだけのヒーロー。そういうことです。

次回は、2人はビビッド!というタイトルにしようかとおもってます。プリキュアはみたことないですが、熱血要素もあるようで気になってます。



よし!いまのところ話に矛盾はないな!

たぶん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 あおい「おしとやかにインパクト!」

第2の戦士、ビビッドブルー。戦う目的はあかねへの恩返しと友情の証明。







 

 

<シュイイイイン・・・>

 

 

青白い光を放つパレットスーツに身を包まれた二葉あおいは、自分の身体に革新的な変化が起きていることに驚愕していた。元から常人離れの身体を持っているあかねは気づかなかったがもやしのような身体と言うべきほど弱い肉付きであったあおいには解った。自分の身体に訪れた変化に。

 

 

あおい(・・・元気って、こういうことなのかな)

 

 

信じられないように両方の手のひらをみつめ、何度か手を開いたり閉じたりしてみる。それだけで、自分の腕の筋肉が力で溢れていることが感じ取れた。どんな薬を飲んでどれだけ休息をとっても得られなかった、夢にまで見た〈強い身体〉がそこにあった。元気な親友を護るためにあおいが欲したのは、自分にもっともたりないあかねの暴走に付き合える(持久力〉と

 

 

 

あおい「オペレーション・・・ネイキッド・・・」

 

 

 

あかねの邪魔をするものをぶっこわす〈腕力)

 

 

 

あおい「インパクト。」

 

 

 

 

前方に差し出した手の平から青い光が発せられ、長い棒を形成する。下は足のつま先より少し下、上はあおいの頭の上のさらに30cmほどまでだ。あおいは棒の先端の方を怪訝そうに目をやった後、眼前に展開された電子画面の中央を空いた手でタッチした。すると一度は完全に物質となった棒の先端部分が光の粒へと逆戻りしてしまう。それを見たあおいは棒を強く握りしめ、軽く足元のコンクリートにどんと突き立てた。すさまじい衝撃が足元のコンクリにひびを走らせ、その反動で棒の先端部分はバラバラに飛び散って巨大な光の玉の玉へと姿を変えた。最終的に、あおいの手には大きなハンマーが握られていた。両方が平らな面となっている両口のハンマーで、スレッジハンマーと呼ばれるものを対大型兵器用に特別サイズに拡張されている。

 

 

あおいが放った衝撃波でしりもちをついたあかねは、自分の頭上を傘のように覆うハンマーを見上げながら立ち上がった。

 

 

あかね「あおいちゃん、すっごい・・・。これ重くないの?」

 

 

あおい「えっ?う、うーん、結構重いんだけど・・・なんというかね、ピッタリって感じ・・・なの。わかるかな・・・?」

 

 

あかね「すっごいわかる。」

 

 

あおい「だよね。すごいしっくりくるよね。」

 

 

示現力は心の力だ、と健二郎が言っていたのをあかねは思い出した。であるならばパレットスーツは心に着せる服、身体に合うようにではなく心に合うように設計されているのだ。武器は対アローン用に作られており使用者の事を考える余裕はない。だから身体を強化する必要がある。急激に変化した環境に2人がなんなく対応できたのはそれらが2人の心と調和がとれているからなのだ。とあかねは直感で理解する。

 

 

あかね「よっし、行こうか!あおいちゃん!」

 

 

あおい「うん!!あかねちゃん!!」

 

 

考えたいことはたくさんある。だが、そんな難しい思考は寝る前にタオルケットにくるまり月でも見ながらすればいい。今の一色あかねに求められる思考は、戦士の思考だ。自分達にしか倒せない敵、アローン。

 

 

アローン〈・・・・・・〉

 

 

アローンは海の向こうで未だ不動だ。傷の修復は直に終わるだろうとあかねは判断した。急がなければならない。アローンをこれ以上示現エンジンに近づけることは危険だ。優先目標はやはりアローンの破壊ではなく示現エンジンの防衛。アローンが撤退してくれたならそれでいいのだ。あかねは隣を飛ぶあおいに話しかけた。

 

 

 

あかね「あおいちゃん。どれくらい速く飛べる?」

 

 

あおい「ううんと、今飛んでる速さがたぶん全力の8割くらいかな・・・?たぶん全力でもさっきのあかねちゃんよりかは遅いと思う。ハンマー持ってるからっていうのもあるけど、あんまり細かく飛ぶのも厳しいな。ごめんね・・・」

 

 

あかね「ううん、、でもこれで8割って感じなら・・・よし、いける!あおいちゃん、私にいい考えある。」

 

 

あおい「うん!あかねちゃんの命令に従うよ!なんでもいってね!!!!」

 

 

あかね「う、うん。まるで奴隷がご主人様を見つめるような目で言わなくでも大丈夫だからね。対等な仲間でいようね私達。」

 

 

あかねはあおいに耳打ち・・・しようと思ったが相手は人語を理解しないであろうから堂々とあおいに伝えた。作戦はいたってシンプルだ。あかねは速さを生かして敵をかく乱しネイキッドラングによる波状攻撃で装甲に傷をつける。あおいは敵の装甲の弱ったところに一撃を加える。ネイキッドインパクトの威力がどれほどのものかは未知数だが、あかねとあおいはその可能性に賭ける。あおいの覚悟の塊であるハンマーの一撃はきっと侵略者に一矢も二矢も報いるはずだ

 

 

あかね「はずだ、とかきっと、とか、作戦っていうにはふわふわしたところが多すぎる。それでも必ずやれるって、私の本能がビビっと叫ぶ!オペレーション、ビビッドコンボ!」

 

 

あかねはあおいに一度目配せをすると、爆発的に速度を上げてアローンに接近する。同時に行動を開始したアローンは、自分に迫り来る存在めがけビームを発射した。強烈なエネルギーがあかねを掠めるようにして空へ消えていく。あかねは軽くそれをかわし、急激に高度を上げて雲の中へと入る。アローンはあかねが入ったあたりの雲にビームを数発放ちそれを散らしたが、そこにあかねの姿は既にない。

 

 

あかね「こっちだ!ネイキッドラング!!」ブォム

 

 

別の雲の中から高速でネイキッドラングが飛び出した。迎撃するビームも軌道のあとをなぞるだけで勢いを殺す事もままならない。ネイキッドラングは見事アローンの装甲を縦に鋭く切り裂いた。

 

 

あかね「あおいちゃん!傷の箇所の反対側にもう一発打つ!それに合わせて二面同時攻撃だよ!」

 

 

あおい「あうんの呼吸、成し遂げてみせます!ふんっ・・・!」

 

 

あおいは敵の攻撃を避けるため、水中にて息を潜めながらアローンに近づいていた。説明書を見て解ったことだが、どうやらパレットスーツは水中でも速度をほとんど落とすことなく移動できるようだ。特殊な波動を出して水中生物を追い払っているのでなにかに当たる危険もない。あおいはネイキッドインパクトに気を集中させる。ハンマー部分の内部でゴウン、と何かが作動した音がする。ネイキッドラングはあおいの腕力のみで振るうことも可能だが、エネルギーをチャージし補助ブースターを作動させればその威力はさらにあがる。

 

 

あおい「そう説明書に書いてあった・・・!私はゲームをする前説明書は隅から隅まで全部読み、パッケージの裏から攻略情報のヒントを見出した経験すらあるの。自分が今手に入れられる情報を短時間で全て完璧に脳に入れるということ。これの重要性はこの一撃で証明できるはず!」

 

 

<ゴゴゴゴゴゴ・・・・>

 

 

水面に伝わる波紋。それが巻き起こした円の中央を突き破りビビッドブルーは急速浮上した。アローンはあかねの方に攻撃を集中させていたが、この瞬間あおいもああかねと同じ距離に侵入したことになり攻撃の対象となる。赤い一閃が海面を真っ二つに切り裂く。あおいはすんでのところで海面と運命を共にするところだったが、タイミングが合わなかったため回避する形になった。ほっと一息つく間に気づいた。ネイキッドインパクトの特殊機能を使うと機動力が大幅に鈍る。前へ移動することに問題はないが横への移動がかなり制限される。身をよじるように再度飛来した攻撃をかわすことに成功するが、これではすぐに追い込まれてしまう。

 

 

あかね「大丈夫!そのまま、まっすぐ!」

 

 

あおい「・・・!」

 

 

そうだ。回避に気を使えばその分攻撃の威力は落ちる。臆するな!あおいは自分を奮い立たせた。あかねが大丈夫だと言ったのだ、何を疑うことがある。あおいはまっすぐアローンの傷ついた足へと飛ぶ。あかねの鋭い攻撃があおいの目標の別の足に一撃を与え、赤と白の火花が散っている。アローンは再三あかねへ攻撃を仕掛けるが、あかねの機動力はあおいの比では無いのだ。業をにやしたアローンは当てやすいあおいへと照準を定めた。だがあおいもちんたらしていた訳ではなく既にアローンの間近へと接近を果たしていた

 

 

<バシュン!!>

 

 

あかね「行ってあおいちゃん!」

 

 

 

アローンの攻撃をあかねのネイキッドラングが真上から両断した。戻る刃でアローンのビーム発射台でもある頭頂部の軽く牽制で一撃を入れ、あおいが完全にフリーになる状態が出来上がった

 

 

あおい「ネイキッドインパクトッ!フル!!バーストォ!!」ガゴォ!

 

 

ハンマーの接触面に凝縮された示現エネルギーが破裂し、物理力と混ざって重い衝撃波をアローンの装甲表面に叩きこんだ。ハンマー本体は装甲を砕く過程で停止し振りぬくことは出来なかったもののその破壊のエネルギーは傷の内部にえぐりこみ貫通、足の一本を中ほどから完全にへし折った。アローンは悲鳴のようにも聞こえる金属音を響かせながらその身体を大きく崩した。好機だ。あかねは雲から飛び出し、ネイキッドラングを空中で受け取ってアローンの中央部分めがけ高速で落下を開始する。

 

 

あかね「あおいちゃん!どこかにアローンの〈核〉がある!それを壊さないと倒せない!」

 

 

あおい「どこかって、どこ!?」

 

 

あかね「どっか!」

 

 

あかねは思考をめぐらす。4本の足は中央の身体を外部から隠すように見えなくもない。であればやはり中央の塔のような縦長円柱の身体の内部に核が仕込まれているのが道理であると推測した。足にある可能性はこの際捨てる。もし残った3本足のどれかの中央だとしてそれら全てを破壊する時間的余裕はない。折れた跡からすぐさま再生が始まっているし、同じコンボが何度も通じるのか?二人の体力はどれくらいもつのか?

 

 

あかね「あおいちゃん、下から見える範囲で弱点っぽい箇所はない?」

 

 

あおい「あるよ!身体の真下、赤く光ってるガラスみたいな箇所があって・・・そこはなんというか、お腹みたいな感じになってる!下から攻撃するね!」

 

 

大きくネイキッドインパクトを振りかぶり突進する。補助ブースターは煙を吹いていて連続使用は無理そうだったが、あの箇所は黒い装甲部より随分やわらかそうだ。破壊は可能と踏んだあおいは一刻も早くとどめを刺すため飛ぶが、その時結晶部分がキラリと赤く輝いたのを見てとっさにハンマーを盾のように前へ振り下ろす

 

 

近づく脅威へ対抗するためもがくアローンは、弱点と思われた部分から高速で光線を放ったのだ。発射台は頭の1つだけだとすっかり思い込んでいたが、これはまさに奥の手なのだろう。

 

 

しかし、あおいには効かなかった。輝くネイキッドインパクトで煙を払い、あおいは安堵のため息をつきながら回避行動へ移る。攻撃は連続してあおいへ牙を剝いて襲いかかるため、一撃に予備動作を必要とするあおいは武器を一時的にしまってアローンを中心に円を描きながら攻撃を避ける。

 

 

あおい「陽動はあかねちゃん、本命は私。あなたはそう思ったんだろうけど―――」

 

 

もう武器を使う必要はない。

 

 

 

あおい「視野が狭いですね。」

 

 

あかね「とぉー!!」

 

 

 

陽動は、お終いだ。

 

 

 

赤いエネルギーのオーラを纏ったあかねはネイキッドラングを折りたたみ、ブーメランの両端をあわせ中央部分に両手を沿え、さながら一本の剣を構えるようにアローンの赤い結晶部分へその先端を突き刺した。勢いを一点に集めたネイキッドラングと一緒にあかねは結晶対を貫き粉々に粉砕した。決着である。足の再生がとまり、逆に崩れていくではないか。あおいはそのまま勢いを殺しながら海へ高度を落としていくあかねを後ろから抱きかかえてその場から離脱する。次元を歪ませまばゆい閃光を放ち、アローンはその身体を崩壊させながら轟沈していった。

 

 

あかね「あぁー・・・やった・・・?」

 

 

 

あおい「うん。」

 

 

 

あかね「そっか・・・わたし、寝てていい?」

 

 

 

あおい「うん。」

 

 

 

あかね「そっか・・・」

 

 

 

あかね「・・・」

 

 

 

 

意識を失い飛行が解除されたことで少し重くなったあかねの身体を痛くないよう優しく抱き、あおいは海上を飛行した。視線の先にあるのは、いつもどおり太陽をあびて鈍く輝く示現エンジン。

 

 

 

あおい「・・・私も、一緒にがんばるから。」

 

 

 

あかね「・・・ん。」

 

 

 

あおい「・・・お、起きてたんだね・・・」

 

 

 

 

 

 

人類の希望、示現エンジン。それが失われるようなことがあれば、人々は数少ない資源を再び奪い合うようになるだろう。そんなことがあってはならない。世界を背負うのは女の子。過酷な運命に、それでも文句を言わず、笑顔で背負うと決めた少女に苦難は再び訪れるだろう。

 

 

だが、負けるな。苦難もあれば幸福もある。いいことばっかりの世の中ではないが、悪いことだけなものでもない。

 

 

戦えビビッドチーム!世界のためでもあるけれど、やっぱり自分の幸せのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章 「世界は示現力で回る」

 

 

                           終




第一章堂々完結。おめでとうございます。ありがとうございます。

描写力の甘さで解り難い箇所が多々あったかと思いますが、先に私自身の気持ちを1つまとめさせていただきます。


楽しかったです。2話前編を書き上げたところで失踪しましたが、ここ一ヶ月少々でだいぶ楽しくやれました。一回できあがったのをみなおして、あやっぱりここ変えようかな、こんな文章いれようかな、と、こうして少しでもベストな形を考える時間は大変ですが幸せです。読んだ人に私の感じた楽しさがいっぺんでも伝わったならうれしいです。伝わらなかったですか?次章からもっと気合いれることにします。では下に少し本編捕捉を


二葉あおいちゃん。青いロングヘアーのお嬢様。あかねと小6の時に出会った。歩きまわれなかったとしても自分の住む島の事を少しでも知りたいと新聞を購読。配達にきたあかねを二階の窓から見て、彼女の姿に自分にはない溢れる元気を感じ気になるようになる。ある日も二階から見ていたあおいに気づいたあかねがワンコで窓まで寄ってきて直接手渡してくれたのをきっかけに話すようになった。

あかねと同世代の子が島にいることが非常に珍しかったためあかねも気になったからだが、高いところ苦手な一色あかねさんは怖くておりられなくなり、あおいの部屋に靴を脱いでいれてもらい玄関から出て、ワンコを音声誘導でおろして配達を再開した・・・という話だ。


学校帰りに寄る約束をした彼女を部屋に招きいれ色々話をした際に「じゃあ夕刊配達の時、最後にここに配達にくるから、一緒に新聞読もう!」このときのあかねの笑顔にやられた、と二葉さんは語る。


このへんの話、掘り下げてまたあとでやりますがこういうかんじです。あおいちゃんからすればあかねちゃんは楽しく生きることの象徴のようなものです。


さて、次章ではついにコラボ始まります。そろそろ始めないとタイトル詐欺だといわれそうですね。コラボしてくるスト魔女チームも相当改変入ってます。まあパラレルワールドのビビオペ世界に混ざるということはスト魔女世界も原作準拠ではありません。


それでは次章で。お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 ―波打際で会いましょう―
第6話 もも「おかえりお姉ちゃんズ」


新章突入記念。パンパカパ^ン




 

 

あおい「ただいま戻りました。おじいさん、あかねちゃんを・・・」

 

 

あおいはあかねをそっと地面に寝かせる。その時気づいたが、あかねの身体は先ほど放っていた高熱のほとんどを失っていた。変身したので熱が気にならなかったのかと思っていたのだがそうではなく何かをきっかけに収まったのだ。

 

 

健次郎「ふむ。ビビッドブルーに力を経由することで余分なエネルギーが抑えられておるようじゃな。ワシの調整無しに二番機としての力も十分、補助装置としても作動するとは・・・あかねは示現力を思った以上に支配しとるようじゃな。」

 

 

あかね「支配っていうより・・・」

 

 

健次郎「あかね、無理をするでない。」

 

 

大丈夫、とあかねは手で制しながら上半身を起き上がらせ目をパチクリさせつつ顔をゆっくり左右に振った。あおいはあかねの背中を支え、彼女が楽に話せるようにする

 

 

あかね「頼んだら力を貸してくれただけだよ。なんでも出来るってわけじゃないと思うけど。変身する時、エンジンの中心を通してなにか見えたんだけど・・・それがなにかはわかんなかった。でも、たぶん示現エンジンは生きてる。」

 

 

あおい「生きてるの?エンジンが??」

 

 

健次郎「生きている・・・どういうことじゃ?」

 

 

 

「そこの2人、武装を解除してその場に伏せろ。こちらはブルーアイランド防衛軍地上部隊だ」

 

 

示現エンジンのほうの道からこちらへ声をかけてきたのは、十人の武装した防衛軍兵士達だ。黒い服に軍事用のベストとヘルメットを装備し、両手で銃を構えている。あおいがここに着地したのを見ていたのだろう。

 

 

健次郎「防衛軍の下っ端どもが・・・。そっちの司令官には話がいっtムググ」

 

 

あおい(お、おじいさん喋っちゃだめですよ!ぬいぐるみさんなんですから!というかなんでそんな姿なのか今さら気になってきましたよ!)

 

 

隊長「誰だ・・通信機か?誰かはしらんが関係者であるなら今の声の主も連行する必要がある。」

 

 

あおい「連行って・・・ちょ、ちょっと待ってください!今あかねちゃんは疲れてて・・・」

 

 

兵士1「こちらで輸送するから関係ない。来てもらおう。」

 

 

あおい「私たちは・・・」

 

 

隊長「アローンの撃破に協力してくれたことは感謝する。だが、君達の存在を防衛軍の上層部は警戒している。先ほどの戦闘はこちらからも全てモニタしていたが、既存の兵器を圧倒するその出力は一般人が保有していていいようなものではない。我々軍が有効的に活用する。」

 

 

あおい「いや、だから・・・」

 

 

兵士2「軍の管轄外にあれだけの兵器を保有する組織があることがどれだけこの世界の治安を揺るがすか、理解できないわけではないだろう?その力の出所がどこなのか、君達の正体。聞くべきことが山ほどある。これは命令なんだ。抵抗するというのなら、少し悪いとは思うが力ずくで」

 

 

 

 

<ズズン>

 

 

 

 

突然の地響きと共に兵士達の足元がひび割れ10センチほど陥没した。訓練されている彼らですらその衝撃でバランスをとる事は難しく、地面に倒れた。十人の兵士が何事かと顔をあげた先には、大鎚の柄を地面につきたて倒れた自分達を上から睨み付ける青い女の子。その目の奥にあるものは、新兵であった時ミスをした自分達に刑罰を下す教官がする冷たく燃え上がる激昂の感情。思わず身がすくみあがる。彼女が手に持っているハンマーがアローンの装甲をどのように砕いたかはまだ記憶に新しい。その恐怖を気取られないよう少し高圧的な態度になっていたが、やはり下手に出るべきだったと兵士の1人は思っていた。だがもう遅かった。

 

 

あおい「・・・あかねちゃんは疲れてるって言ってるんです。すぐ家に帰って、待ってるももちゃんに会わせてあげないといけないんです。誰にもどこにも連れて行かせません。当然私もあかねちゃん以外から命令なんて受けません。力ずく?とかいう単語が聞こえた気がしましたけど、気のせいですよね?・・・それとも、その鉄砲はアローンのビームより強いんですか?」

 

 

混乱のあまりあおいに銃を向けた1人の兵士を睨み付けると、兵士達はそろって武器を地面に置いた。立ち上がろうにも、すさまじい圧が身体にかかり動くこともほとんど出来ない。あおいの怒りに示現力が反応をしめしているのだ。あおいの敵は『あかねに害を与える』存在であり、相手が人間であろうと敵だと認識する。本来の彼女はここまで感情が激しいタイプではないが、命賭けの戦いで興奮しているのと示現力の力に後押しされて気持ちが表に出やすくなっている。例えそのネイキッドインパクトを振り下ろさなくとも、示現力の装甲のない生物はその示現の波動に耐えることはできない。

 

 

 

健二郎「よすんじゃあおいちゃん。彼らは命令で動いておるだけの兵士。怒ったって無駄じゃよ」

 

 

あおい「でも・・・」

 

 

「彼女達の身柄は誰にも拘束されるべきではありません。それは防衛軍と、我々管理局も同様です。すぐにあなた達に出された命令は撤回されるでしょう。」

 

 

兵士達の後ろから1人の女性が声を発した。眼鏡をかけ少し歳をとっていそうなその女性は2人の若い女性を従者にし、次にあおいを見つめた。

 

 

「ですから、落ち着いてください。その力は怒りのままに人間に向けるのは危険すぎるものです。」

 

 

健二郎「おお、紫条くんか。」

 

 

紫条、と呼ばれた女性はあたりを見渡し声の主を探したがどうみても女の子2人以外は兵士しかいない。ふと目があったかわうそ人形が手を振っていることに気づいた時はめったに取り乱さない彼女もずっこけるところであった。

 

 

紫条「せ、先生、その姿は・・・?まああとで詳しく聞かせてもらうとして・・・。連合軍に連絡が遅れたのは申し訳ありませんでした。ですがあと幾ばくかで軍全体に話がいくでしょう。後始末は我々管理局と防衛軍でいたしますので、今日のところはお2人を休ませてあげてください。」

 

 

健二郎「助かる。あかね、飛べるか?」

 

 

あかね「もうへいき。」

 

 

あおい「あ、あかねちゃん、私がおぶろうか?」

 

 

あかね「大丈夫大丈夫。早くいこう。」

 

 

あかねは立ち上がり、紫条に小さく頭を下げ地面に力なく伏した兵士達を一瞬見やると祖父とワンコを手にもって飛び立った。あおいは険しい顔でもう一回兵士達をにらむとハンマーをしまいあかねを追った。

 

____________________________________

 

 

 

 

あかね「・・・」

 

 

あおい「・・・」

 

 

あかね「なんであんなに怒ってたの?」

 

 

あおい「あ、あの・・・その・・・」

 

 

あかねは正面を向いたままそうあおいに問いかけた。そのため顔を見ることはできないが、なんだかあおいは怒られているように感じて言葉につまった。

 

 

あおい「わ、私は・・・」

 

 

あおいは怒りで我を忘れ、ネイキッドインパクトの柄を地面に叩きつけ兵士達の足元を砕いた時のことを思い出した。命を張ってエンジンを護ったというのに、まるで自分達を危険物のように言う彼らに怒った。自分だけが言われたならまだしも、あかねに対してその発言は容認できない。そのことを語った。

 

 

あおい「私は・・・やっぱり、おかしいって思ったの。だってあかねちゃんは」

 

 

あかね「優しいね。あおいちゃん。そんなに私のこと思ってくれてさ。」

 

 

あおい「え、ええっ!?そりゃ私はいつもあかねちゃんのことを思ってるけど、優しくなんか・・・さっきだって、自分でも信じられないくらい怒っちゃって・・・あんなことする気なかったのに・・・」

 

 

あかね「確かにあの時のあおいちゃんマジで怖かったよ?びっくりした。怒ったもももあれくらい怖いんだー。」ケラケラ

 

 

あおい「うっ・・・あとであの人達にやりすぎたこと謝らないと・・・(でも許さないけど)」

 

 

あかねはあおいのほうをみてケラケラ笑うと、また正面へ向き直った。

 

 

しかし、あれほど温厚なあおいが激昂して兵士達を脅したことがあかねには少し信じられなかった。だが示現力がそれに関わっていることにすぐ結論が至った。示現力には意思がある。はっきりしたものでないがあかねは今もスーツを通してそれを感じることができる。エンジンの中・・・変身する時現れるゲートの奥にある示現力の本質がなんなのかは知らないがあかねはそれを生きていると健二郎に説明した。

 

 

自分達の意思に示現力は応えてくれたが示現力から自分達へも影響があるのも確かである。さっきのあかねは示現力を利用し力に変え、示現力はあおいにも応えた。そう思っていたが

 

 

あかね「逆だったら・・・怖いな。」

 

 

風で邪魔され誰にも届かない小さな呟きはあかねの中の不安の大きさと間逆だった。

 

 

 

_____________________________________

 

 

 

あかねとあおいはあっというまに島の近くにたどり着いた。今はみんな避難しているのでそこいらに人はいないはずだが一応の混乱を避けるため2人は高度を落としながら接近し、わりと海沿いにあるあかねの家の庭に着陸した。手に持ったワンコをどかっと地面に置く。ちょっとした買い物をした帰りの袋程度の重さに感じていたがこれ自体相当の重さだったことをあかねは思い出した。あおいほどではないがあかねの腕力も向上している。

 

 

もも「お姉ちゃん!?お姉ちゃんなの!?おかえr・・・なにその格好?」

 

 

あかね「おかえりもも!あおいちゃんも一緒だよ!かわいいでしょ。」

 

 

その物音を聞きつけてかももが半壊した玄関から飛び出してきた。姉にお帰りの抱擁をするつもりであったのだが見慣れない格好をしていたので訝しんで手を引いた。かわりにあかねがももに抱きついた。羽のように軽い妹の身体を軽々持ち上げると赤ん坊にするように笑顔で高い高いを決める。ももは突然自分の姉が怪力になったことと壊れたワンコと短いスカートでもじもじしているあおいちゃんのどれから聞けばいいのか混乱の中にあったがとりあえず降ろしてくれと叫んだ

 

 

 

あかね「もも、地下に隠れていたんじゃなかったの?」

 

 

もも「び、びっくりした・・・。地下にいたんだけど、どうにも落ち着かなくて。家の片付けしてたの。」

 

 

あかね「危ないよもも、なにかあったらどうすんの?」

 

 

もも「一番危ない目にあいに行った人に言われてもねー。それにがんばって帰ってきたのに家が汚くて休めないなんて、留守番のプロとしてのプライドが許さないんだもん」

 

 

きっと自分だけ隠れていることが許せなかった、可愛い顔して強情なもものことだからきっとそうなのだろう。気を利かせてくれてありがとう、というべきなのかちゃんと隠れてなかったことを怒るべきなのか。あかねは口をとがらせて反論する妹の苦労をねぎらう意味でやさしく頭を撫でてやった。ももは安心しきった笑顔を見せる。家を失いかけ、事情もわからない事態の鎮圧に向かったあかねと健二郎も帰ってくる保障もないまま1人待つということは、11歳の誕生日も迎えていない女の子にはとても辛いことであった。せめて家の片付けでもして体を動かし気を紛らたかったももの気持ちがあかねは十分理解できた。怒るなんて酷なことはしない

 

 

あおい(ももちゃんデレデレだなぁ・・・私が見てるの気づいてないのかな・・・)

 

 

あかね「そうそうもも、あおいちゃん帰ってきたよ!」

 

 

もも「え?あっ」

 

 

あおい「ど、どうも、ももちゃん。久しぶりだね」

 

 

もも「あ。あおいさん!?おおおおひさしぶりです!」バッ

 

 

あかね「ああん、逃げられちゃった・・・」

 

 

もも「人前で頭撫でるのはやめてって前言ったでしょ!?」

 

 

あかね「だって嫌がらなかったし。それより疲れたー・・・変身解除!」

 

 

変身する時のような仰々しいものはいらないようで、あかねの意思に応えてスーツは光になると霧を手で払ったように辺りへ散った。あおいも従って変身を解除して元のワンピースの格好に戻った

 

 

あおい(あかねちゃんの変身が解けたら勝手に解けると思ったけど、そうじゃないんだ。独立してるのかな?)

 

 

もも「おお・・・これがおじいちゃんの新しい発明なんだ。なにがあったか説明して欲しいけど、まずは夕飯にしよう。もう5時だし、お腹空いて動けなくなる前に準備しておかないと。あおいさん、今日は食べていきますよね?」

 

 

あおい「えっ、いいの?でも迷惑じゃ」

 

 

あかね「もも、今日はあおいちゃん泊まりだから。」

 

 

あおい「えっ」

 

 

もも「布団は汚れてなかったから大丈夫ですよ。お家連絡しときますね。」

 

 

 

ももちゃんなら止めれくれると思ったが甘かった。泊めてくれる方に乗り気なももはあおいの肩にポンと手を置き意味深な笑顔を浮かべてから家へ入っていった。あおいはあかねの家に泊まる事が、というより友達の家で一夜をすごす事は始めての体験である。身体のこともあったし、単独行動すら避けていたあおいには夢の中で思い描くだけで我慢していた憧れの1つ。

 

 

健次郎「先の戦闘中にとれたデータで解ったことじゃが、君の身体はもうすっかり健康じゃよ。細胞が活性化した影響でデフォルト状態での身体能力も向上しとる。普通の14歳として行動することになんの障害もないはずじゃ。ワシからもお家のほうには話は通しておくから今日はゆっくりしていきなさい。」

 

 

あおい「・・・お世話になります!」

 

 

感謝の旨をお辞儀で伝える。あおいにとってはまさに神への祈りが通じた時のような幸福感があった。玄関で待っていたあかねのもとへ駆けて行き、ちょっとだけ不安そうだった彼女にも軽く頭を下げた。心底うれしそうにあかねはあおいを歓迎した。廊下はすっかり綺麗になっていたので2人は玄関で靴を脱ぎ、居間へと歩いていった。

 

 

 

健次郎「さて・・・」

 

 

健次郎はこれから自分がやるべきことを整理しようとしてみた。まずは壊れたワンコを直してやらないといけない。あかねが大事にしているものだし、明日の朝までには動くようにしておいてやらないときっと悲しむだろう。ビビッドシステム関連のことはもちろんだ。壊れた研究施設は所詮一部、本体は地下の研究室にあるのでこちらもなんとかなるだろう。

 

 

だが、問題は身体だ。健次郎はすっかりふわふわになった自分のお腹の皮を軽く引っ張りながらうなった。可愛い姿になって気分はいいが、なにぶんこれからの研究にこれではなにもかも不便だ。本当はもう少しちゃんとした義体を作成する予定だったのだがビビッドシステムの完成が押したため間に合わなかったのだ。しかし今現在生きてここに立てていることに感謝して、後悔はこのへんでやめておかなければなるまい。自分のことに使える時間は本当に足りないのだ。

 

 

健次郎は通信機を使って何通かメールを送信し、自分の研究所へ行くため玄関で足を拭き始めた

 

 

 

________________________________

 

 

 

 

あかね「ここが客間だよ!このちゃぶ台のここにおじいちゃんが座って、わたしはここ!ももはそっち!」

 

 

あおい「床に座ってご飯食べるの初めてかも・・・。あっ、畳だね。いい匂い」

 

 

もも「おねえちゃーん、お夕飯作るの手伝って!簡単なやつでいいから。あおいさん、畳で寝ると顔に跡つきますよ。眠いならお布団敷くのでご飯まで休みますか?」

 

 

あおい「ううん、いいの。ちょっと和を満喫してただけで・・・私もお夕飯の支度手伝うよ。」

 

 

もも「でしたら、おコメといでもらっていいですか?あー、やり方はお姉ちゃんに教えてもらってください。それ終わったら2人でゆでたまごの殻むいてもらってもらいますから。」

 

 

あかね「いい?まずは水をジャーっといれて」

 

 

あおい「うんうん。」

 

 

あかね「そしたら、手のひらを使ってこうグイっと・・・」

 

 

あおい「わわわ、なんかくすぐったい!」

 

 

あかねはあおいの手を後ろから持って熱心に指導した。水を跳ね飛ばしながら楽しくやっている間、ももは1人でメインのおかずとサラダを作っていた。今日はお客さんが1人多いので気合が入っている。よく学校の友人達が食事にくるが、今日は今まで呼びたくても呼べなかったあおいちゃんが食べるものを作るとなればももも気合が入る。あおいと同じくらいはしゃいでいる姉を見ればももだって張り切らざるをえない。

 

 

あおい「ザルってこれでいいのかな?いよっ。」ザー

 

 

あかね「私が水の量あわせてスイッチいれておくからあおいちゃんはももから役割もらってきて!」

 

 

あおい「うん解った。ももちゃん、ご飯終わったよ。」

 

 

もも「お姉ちゃん、スイッチ入れ忘れとかないよね?うん、ならいいけど。じゃあ2人はそこの入ってるゆでたまごの殻を剝いて、この野菜と一緒にマヨネーズで混ぜてポテトサラダにしてくれるかな?お姉ちゃん!マヨネーズの量は抑えてよね!」

 

 

あかね「何本つかっていいの?」

 

 

もも「何本っていうか、一本の半分ね・・・」

 

 

あかね「少なすぎるでしょ!!!」

 

 

もも「ほんっと太るよ?普通マヨネーズそんなにかけないでしょ・・・」

 

 

あかねはマヨネーズジャンキーである。あかねはあくまで普通だと主張するが友人達含めその中毒性だけは容認できない。ももが出かけて食事を用意できないときは白いご飯とマヨネーズだけで3食すませようとするし、一度に使う量は貧乏な家計にダメージを与え続けてきた。おかずが豪華に出来なくてもマヨネーズがあれば笑顔になるあかねについももも甘くしてしまうが流石に見ていて心配になる量を食すのだ。こないだ給食にこっそりかけようとしていたのをこまりに没収されて泣いていた。

 

 

あかね「命かけて戦ったのになー・・・世界救ったのになー・・・マヨネーズも好きに飲めないこんな世の中辛すぎる・・・」

 

 

もも「そんな凄いことしてきたんだ・・・。それは後で聞くけど・・・んー、仕方ないなぁ。自分のぶんになら好きなだけかけていいよ。今日だけだよ!今日だけ!」

 

 

あおい「ヒョホォ!あおいちゃんにもあかね丼の作り方教えてあげるからね。」

 

 

もも「いや布教しないでよ絶対!あおいさんがまた体調崩すでしょ。」

 

 

あおい(あかね丼ってなんか・・・やらs・・・ハッ!なにを考えているんだ私は!)

 

 

____________________________________

 

 

あかね「フンフンフーン」ブリュブリォ

 

 

もも「おコメが見えない・・・絶対辛いでしょそれ・・・」

 

 

あかね「辛いけど?いっただっきまーーす!!」

 

 

あおい「い、いただきます。」

 

 

もも「正座辛くないですか?」

 

 

あおい「ありがとう。でもみんなと同じようにして食べたいから。あ、美味しい」

 

 

食べながら、あかねとあおいはももに今の世界がどういう状況にあり自分達がなにをしてきたかを語り聞かせた。ももはなんども驚き、ツッコミをいれ、2人がどれほど危険だったかを想像して顔を青くさせたりした。だが2人がどういう心構えで武器を手に取ったかを聞いて、止めさせることなど出来ないことを理解しそして2人が無事に帰って来たことを本当に喜んだ。ガツガツご飯を食べながら元気に喋り捲る姉と、見たこと無いほどハイテンションなお嬢様の話は決して飽きる事はなかった。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

もも「お風呂わいたよー」

 

 

あかね「3人!3人で入ろう!」グイグイ

 

 

あおい「うん!いこうももちゃん!」グイグイ

 

 

もも「解ったら引っ張らないで!もー!」

 

 

_____________________________

 

 

 

 

あかね「あおいちゃん髪きれー・・・背中すべっすべ。」

 

 

もも「マヨネーズ食べてないからきれいなのかな?」

 

 

あおい「あ、あんまり触らないで・・・恥ずかしいから・・・」

 

 

______________________________

 

 

 

あかね「お母さんの服しかなくてごめんね?でも寝るだけだからいいか。」

 

 

あおい「うん。」

 

 

もも「お姉ちゃんのだとちょっときつくて寝苦しいかもしれませんし、よかったです。」

 

 

縁側に面した部屋で3人は布団を並べていた。ももは2人だけで寝たらいいと提案したのだが、あおいはせっかくだからみんなでと反論してももを連れ込んだ。布団をくっつけてあかねを真ん中に。電気は消したが、縁側からの月明かりで互いの顔がうっすら見える。障子は閉めなくていいだろう。祖父の発明した無臭の防虫剤で蚊が入ることも絶対ないし、あかねが真っ暗にすることを嫌がったのだ。

 

 

あかね「ごめんねもも。でも寝れなかったらふすましめていいからね。」

 

 

もも「・・・ううん、いいよ。」

 

 

どうしたの?もう子供じゃないんだよ?と普段なら軽く冗談でも飛ばすが、この声でわかる。おねえちゃんがなにかを恐れてることにすぐ合点がいく。なんて聞けばいいのか言葉が出ずに逡巡しているとあかねが震える声で小さく話し出した

 

 

あかね「・・・まだちょっと怖いんだ。戦ってた時は夢中だったし、興奮してたから感じなかった。でも、思い出すんだよね」

 

 

もも「お姉ちゃん」

 

 

あかね「あの戦いで死んだ人もいた。私の真横をビームが通りぬけてく。当たれば死んでたんだなって。あおいちゃんが落ちてくのに間に合わなかったらとか、そういうのも。」

 

 

もも「お姉ちゃん・・・」

 

 

身体をゴロンと回転させて、あかねの使っている敷布団の上に移動する。

 

こんなあかねは見てられなかった。母が入院することになり、祖父が研究所にこもるようになってからももとあかねはずっと同じ部屋で寝ていた。喧嘩したって同じ部屋で寝てた。雷の夜や怖いテレビを見たときは手をつないで同じ布団にもぐりこみ朝を待った。それでもあかねはももの前では虚勢を張って姉らしくあろうとしていてくれた。いつでも暖かくももの手を握ってくれたあかねの手が今は冷たく震えている

 

 

あかね「だからね。こうしてあおいちゃんとももが・・・元気な2人が見えるようにしてないと、怖いんだ。とっても怖いんだよ。」

 

 

あおいも反対側からあかねに寄り添い、その手に自分の手を絡めた。あおいもあかねが言わなければ明るいままにしてくださいと頼んでいたであろう。今のあかねと同じ気持ちなのだ。

 

 

もも「大丈夫だよ。私、ここにいるからさ。ね?」

 

 

あかね「・・・」

 

 

もも「お姉ちゃんならなんだってできるよ。なにからだってみんなを護れる。さいきょーすーぱーおねえちゃん、一色あかねでしょ?」

 

 

あかね「・・・うん。それいいね。明日からそれ名乗っていくよ。」

 

 

蒼白い光に照らされた顔が優しく崩れた。ももはあかねの腕にギュッとしがみつくようにして顔をあかねの肩にすりつけながら目をつむった。寝ている間にあかねがどこかへ行かないよう、そしてこれからも出来ればあかねが戦いに行くなんてことのないよう、そうお願いしながらあかねの腕を枕にして眠りについた。

 

 

あかね「も、ももさん。腕重いよ・・・」

 

 

あおい「zzz・・・」

 

 

あかね「こっちもか!ちょっと2人とも、すっごくうれしいけど、わたしの腕枕にしないで欲しいかな。結構きつい・・・」

 

 

起こそう、と右に頭を倒すと、とっても幸せそうなあおいの顔。左側のももは身体を丸めていてつむじしかみえないが、やすらかな寝息を立てていた。起こせるはずなんてない、とあかねは天井を見上げ、限界だったまぶたをおろした。どっと押し寄せた疲れに意識を預け、そのまま布団に吸い込まれるように深く息を吐いた

 

 

 

 

 

 




さあ、次の話からはついに。という感じです。お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 あかね「海沿い散歩の拾いもの」

新キャラ投入。そろそろ物語が大きく動きます





 

 

どんよりとした目覚めだ。どろりとした水に全身が浸かっているような、すさまじい疲れが全身にまとわりついて気分が悪い。起き上がろうにも両腕は痺れて感覚が無かった。首を横に動かそうとしたとたん走った痛みに思わず顔を歪めて唸る。どうにも困ったことによくないのは気分だけではない様子だ。自分の身体とは思えないほど重たく、あらゆる感覚が鈍っている。

 

 

新聞配達が毎日の始まりである健康児一色あかねはこのような気だるい寝起きは経験した事がなかったため筋肉痛という言葉が出てくるまでしばし時間を要した。両腕が動かないのは親友と妹に完全ホールドをくらっているからだろうな、と考え昨日の出来事を目を瞑って思い出す。ホント夢だったんじゃないのか、こうなってしまうと疑わしい。

 

 

あかね(ももより早く起きるなんていつぶりだろ・・・。わたしも相当な早起きガールだけど、ももはわたしを見送るという使命感でわたしが起きるのを察知して起きてくるからね・・・。タッチの差で負けるんだよねー・・・)

 

 

固まった首をゆっっくりと動かし、目をしばたいて時計を探す。確かこの位置だと右側の壁に

 

 

<09:14>

 

 

 

あかね「ほぁ」

 

 

冗談ではない。早起きシスターズの面目丸つぶれだ。配達どころか学校も始まっている。当然今日は土曜でも日曜でもない。遅刻だ。(ちなみに昨日の夕刊配達のことも忘れている。あおいが泊まりにくるということでテンションがあがりすぎていたからだ)

 

 

あかね「おき・・・おきて・・・ゲッホ」

 

 

のどがカラッカラで声が出ない。寝起きで大声を出そうとしたから咳が出たのだが、その衝撃が背筋にビビっと響く

 

 

あかね「いっーーー」

 

 

全身筋肉痛であるあかねは悶えた。とりあえず2人を起こす必要がある。早急に。堅い股関節に気合をいれ、足であおいの足を軽くつつく。

 

 

あおい「・・・うぉぁぁ・・・いったぁい・・・」

 

 

軽く、であったがあおいも筋肉痛らしく身体をもぞもぞ動かしてふとももに手を伸ばそうとして、そこで腕が痛いのに気づいて1人悶え始めた。反対に身体を倒して開放された腕をその勢いでもものほっぺにベシっと乗っけた。

 

 

もも「・・・んあ。」

 

 

あかね「ももやばいよ。9時だって。」

 

 

もも「・・・?」

 

 

あかね「午前9時。」

 

 

ももはバネでも仕込んであったかのような身のこなしでガバっと身体を起こした。時計を凝視するその頬に一筋の汗が垂れる。あいた口が塞がらない、ももはまぬけな顔でそのまま固まってしまった

 

 

あおい「あかねちゃん・・・?なんで・・・ああ・・・お泊りだったね・・・。ごきげんよう・・・」

 

 

あかね「ごきげんようあおいちゃん。」

 

 

もも「いやご機嫌よくないよ!早く起きて早く!学校!」グイグイ

 

 

あかね「いだいいだいいだい!!!だめだめ引っ張らないでちぎれるちぎれる筋肉断裂するって!!!!」

 

 

もも「えっ。」

 

 

パっと手を離すと、あかねは亀のようなのろのろした動きで身体を起こそうと布団の上でごろごろ転がるが、はたから見るとおきるのをぐずっているだけに見える。しかし寝起きも寝つきも抜群なあかねらしくない行動にももは少し驚いた。

 

 

もも「どうしたの?まさかどこかケガしたの!?」

 

 

あかね「全身がすっごい筋肉痛・・・。たぶんあおいちゃんも。」

 

 

あおいは枕に顔をうずめた姿勢で小さく唸った。肯定の意思表示なのだが、身体を動かすことが出来ないようだ。相当参っている。昨日なにがあったか少しだが知っているももは下手に手をつけられないと、いもむしになった2人を放って居間へ向かう。そこには新聞の上で小さな身体を動かす祖父の姿があった。

 

 

健二郎「んおおももか。まだ寝とってもかまわんぞ。」

 

 

もも「おじいちゃんおはよ。ってかなんで起こしてくれなかったの!?でも新聞があるってことは配達はなんとかなったんだ・・・。でも学校!」

 

 

健二郎「やれやれ少し落ち着かんか。焦っても時間は巻き戻らんぞ。」

 

 

もも「・・・」

 

 

祖父の向かい側におとなしく座った。おじいちゃんを見下ろすことが出来るのはもっと未来の話だと思っていたが、自分の成長でなく相手の縮小でそれが叶うなど考えた事はもちろんない。可愛らしい人形はその外見にまるで合わない渋声でももへと話かけてきた

 

 

健二郎「昨日はあんなことがあったんじゃ。島中に被害もでとる、学校は休みじゃよ。連絡網を回してきたなつみちゃんは随分ハイテンションじゃったわい。避難が早かったからか怪我人は確認されとらん。ああ、あかねが頑張ったのももちろんある。配達のほうも文さんに連絡してあるわい。昨日の夕刊はあかねの奴忘れとったんじゃろうが、お前達が随分楽しそうにしとったもんで言うのも気がひけてのう。家が壊れたからその片付けでしばらく休ませて欲しいと昨日の夕方連絡したら文さんは『むしろ大丈夫かどうかこっちから電話しようとしてましたから!お怪我はなかったので?そりゃよかった!お家の片付けがあるでしょうからしばらくは私が配達しますとも!一週間ほどゆっくりなさってください!っではではー!』とのことじゃ。なーんの心配もいらん。」

 

 

しっかり手がまわしてあったようでももは健二郎の言葉を聞き終わったころには焦りが全て消え去って胸をなでおろした。しかし、あかねとあおいの様子が変だったことを健二郎に聞いてみなくては

 

 

健二郎「なに2人がいもむし?仕方あるまい。示現エネルギーが全身の細胞を駆け巡ったのじゃ。反動はあって当然。まあ初回だけじゃとおもうがな。寝ておればすぐ治る。それより、もう寝ないなら新聞めくるのを手伝ってくれんか?この身体ではちと苦労での」

 

 

もも「うーん・・・悪いけどもう少しだけ眠い・・・」

 

 

健二郎「そうか。ならゆっくり休むといい。もも。昨日が大変だったのはあかねだけではないからの。留守番、ありがとう。」

 

 

もも「・・・ん。」

 

 

小さな人形に手を振って見送られながらももは縁側を通って布団を敷いてある部屋に戻った

 

 

あかね「そりゃっ、わき腹ミサイル!」

 

 

あおい「うっひゃっ!だめだっってウヒヒヒヒ!!!」

 

 

2人は団子のようになりながら互いの筋肉痛をいかした遊びに興じている。昨日の闇におびえていたあかねとあおいはどこへいったか、半分寝ぼけたまま互いの腕や足やらをつつきあっていた

 

 

 

もも「おとなしくしないんならもう電気つけちゃうよ!私も眠いし2人も疲れてるんだから・・・」

 

 

あかね「んぇー、学校はー?」

 

 

もも「おやすみだって。新聞配達もしばらく休んで家の片付けしなさいって文さんが。」モゾモゾ

 

 

しれっとあかねと同じ布団に潜り込みながらももは応えた。

 

 

あかね「ふぁー・・・んじゃあもう一眠りしようかぁー・・・」

 

 

あおい(よーし、あかねちゃんが目つぶったらその隙だらけのわき腹めがけて)

 

 

もも「おとなしく寝なかったら健康体な私がその機動力を活かしてこちょこちょの刑くらわしますからね。つっつきですよつっつき。あおいさんも。」

 

 

あおい「・・・ぐーぐー」

 

 

もも「はいおやすみなさい。」

 

 

そういえば、しばらくしたら起こしてくれるようおじいちゃんに頼むの忘れてたな・・・というどうでもいいことを考えながらももはあかねの腕を握りしめゆっくりと目を閉じた

 

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

同時刻。ブルーアイランド防衛軍司令室。正面のモニターには大きく2つのウィンドウが展開されていた。片方には管理局長 紫条悠里。もう片方には示現力の権威一色健二郎の名が電子体で表示されていた。

 

 

補佐「通信、繋がります。ご準備はよろしいでしょうか?」

 

 

長官「はじめよう。管理局長の方はまだしも博士の方は待たせたら次どこで話せるかわからん。」

 

 

補佐「では接続開始します。・・・完了。通話チャンネル開放いたしました。」

 

 

長官「これより示現エンジン防衛作戦の会議を行う。一同挨拶の前に。一色博士の情報提供により以下、未確認敵兵器をアローンと呼称する。それにともないここにアローン対策本部の結成を宣言しよう。」

 

 

凜、とした声が司令室の空気を締め上げた。いつも軽口を叩き続ける3人の部下も今回ばかりは口を閉じて緊張した面持ちでモニターを見上げている

 

 

紫条『はい。一同拍手。』パチパチ

 

 

健二郎『わー。緊張してきたわい。少しトイレ行ってきていいかの。』

 

 

長官「お二方。今回お2人をお呼びしたのは、示現エンジン防衛作戦において公式に力を貸していただきたいとのことです。」

 

 

紫条『おや先生、お手洗いが近いような歳ではないはずですが?』

 

 

健二郎『その通り。ワシは若返ったんじゃよ紫条くん。健二郎お兄さん、昔のようにそう呼んでもよいのじゃぞ。高野くん!君もじゃよ。』

 

 

部下1(高野くんって?)ヒソヒソ

 

 

部下2(長官の名前だよバッカお前。)ヒソヒソ

 

 

長官「お二方。我々がデータのやり取りで済むようなことを、こういう形で話し合おうとしている私の考え。察していただけないのでしょうか?」

 

 

紫条『そんなに怒っていては話し合いになりませんよ。軍人はこれだから困ります。』

 

 

健二郎『我々科学者はいつだって君らにそんな態度をとられてきたからのう。』

 

 

長官「それは煽りで仰っているのか解りませんがもし7年前の事を言われてるのでしたら、それはこの場で謝罪しましょう。そのことも、今回の話の目的ですからね。当時の政府組織の対応がこういう事態を引き起こしたといっても過言ではありませんからな。」

 

 

健二郎『君が謝ったところでしょうがあるまい。それにワシは過去の事にはこだわらん。自分の失態は別じゃがな。このアローン対策本部ができるのが5,6年ほど遅かったこと、これからはもう言及しないでおこう。じゃが、まあ、結果からいうと、アローンに対抗できるのは先の戦いで見せたビビッドシステム以外発見できてないからの。実際問題なかったわけじゃが』

 

 

長官「その発言、この対策本部の存在意義を奪いかねないものですが」

 

 

紫条『確かに。現状対抗できるのが博士の仰るそのシステム以外無いということでしたら軍に出来る事は少ないかもしれません。ですが、逆に考えましょう。我々は、既にアローンに対して確実な手が1つある。全くの0から考えるよりずっと有理。悠里だけにですね』

 

 

健二郎『うまいぞ紫条くん!1ビビッドポイント!いや失礼。しかしワシは5年前示現エンジンの一部の管理を紫条くんとこの組織に任せてから自分の研究に没頭しとったからな。現状、どうなっとる?』

 

 

補佐「こちらの組織のデータにあわせて、いくつかまとめておきましたので今すぐ転送させていただきます。話を合わせやすいよう管理局長の方にも送らせていただきます。」

 

 

 

〈ブルーアイランド〉

 

示現エンジンを中心に建てられたいくつかの人工島と、その周りにある島々のこと。あかねの住む島は天然の物である。

 

 

 

〈ブルーアイランド管理局〉

 

示現エンジンの生成したエネルギーを世界中に送るための施設〈整流プラント〉と示現エンジンの管理を行う組織。その傘下に様々な組織を抱え込み、示現エネルギーを応用する研究も行っている。その他にも様々な業務を行っている。今回の事件の情報操作に奔走したのも管理局である。対アローンの研究のため健二郎が表向き身を引いた現在、管理局のもつ権力は大きい。

 

 

 

〈ブルーアイランド防衛軍〉

 

示現エンジンの防衛を名目に、5年前に結成された。示現エネルギーを狙う存在への対抗手段として最先端の装備を常に配備しているが、アローンには示現力を介さない攻撃は効かないため多くの損害を出した。

 

 

補佐「詳細は後に、まとめておくらせていただきます」

 

 

 

長官「では、一度ここいらで会議は終了とさせていただきます。こちらに開示できる分だけデータを送っていただき、次回からの避難と戦闘補助の連携についてこちらからいくつかご提案させていただきます。」

 

 

紫条『先生、先ほど申請がありました物資の補給ですがもうすぐそちらへ着くと思われます。』

 

 

健二郎『助かる。それじゃの!またすぐ連絡する』プッ

 

 

紫条『ではまた』プツッ

 

 

長官「・・・」

 

 

補佐「通信、切断されました。」

 

 

長官「次回から3人そろっての会議はなるべく避けたいものだな。緊張感がなくなるだけだ。」

 

 

補佐「了承いたしました。そのように予定を組んでいきます。」

 

 

第一回、アローン対策本部会議 10分にて終了

 

 

 

________________________________________

 

 

 

あかね「痛いなぁー。」

 

 

あかねは、島の海岸線をゆっくり歩いていた。手には何ももたず、手を突っ込んだポケットにもなにも入っていない。行き先もない。なにも目当てじゃない散歩。あえてあげるなら、ただ午後の太陽に当たりたいとそう思ってふとんを蹴飛ばした。ももの拘束を優しく外し、あおいを起こさないようにゆっくりと堅い筋肉を伸ばして起き上がった。時計は既に昼を回っていた。祖父の姿は居間に無く、おそらく研究室でなにかしているだろうしそれを邪魔するのは悪いので、時間をつぶしにサンダルをつっかけて外へ出た

 

 

あかね「寝て起きたら筋肉痛もだいぶ楽になったし、明日になったらもう全快だね。でも毎回変身するたびこれじゃ困るし、特訓がいるなぁ。」

 

 

朝ごはんを食べずに昼が回ってしまったのでなかなかの空腹感がある。島から見える海はやはり綺麗だが、美しさでお腹は膨れない悲しさ。あかねはあと少しだけ歩いたら戻ろうと決めてまた歩き出した。

 

 

あかね「今日はずいぶん海岸に鳥が多いな・・・」

 

 

海鳥は珍しくない。しかし、ずいぶんと多い。誰かが朝早く餌でもまいたのだろうか。とくに鳥達が群れているところをひょいと覗き込み、衝撃の光景にあかねは硬直した。

 

 

 

 

あかね「あ、あれは!こないだテレビでみた・・・まさか・・・」

 

 

 

鳥葬。どこかの国のどこかの地域、おだやかな雰囲気の土地の特集番組だった。その中で触れられたのが、死んだ人の身体を野原に置き野鳥に食べさせるという内容の一種の葬儀の方法であるらしいが、そのグロさを無警戒に想像してしまったあかねとももはその夜手をつないで眠った。今後絶対にかかわりたくない現象トップ3に入るそれがこの平和な島で行われている。まさに目の前で。サーっと身体から血の気が引いていくのを感じる。思わず目をそらした彼女だったが、怖いもの見たさの気持ちからチラリと視線を向けてしまった。いくら鳥が多いと言ってもぎっちり詰めて並んでいるわけではないのだから自然と群がられている物体は視線に晒されてしまう訳だが・・・とにかく見てしまった。

 

 

あかね「?」

 

 

グロいシーンを覚悟の上だったがまるで血肉の雰囲気はない。なんともおかしい、と様子を伺うあかねはそろりそろりと砂を踏みしめて鳥の群れに迫っていった。人間の接近に敏感に気付いた海鳥達の大半はしめしあわせたように一斉に飛び立った。飛び散る羽を手で払いながらあかねはあらわになった2つの何かを凝視した。

それはうつぶせに並んで倒れる2人の少女。1人は背中半ばまである長い黒髪。服装は短いパンツと上にどこかの学校の制服のようなものを着ている。もう夏を前にしているのに首に巻いた長い黒マフラーの上では鳥がのんきに座り込んでいる。 もう1人は反対に少し茶色の混ざった髪が首元までしかないしマフラーも巻いていない。絵に描いたような船乗りが着るような水夫服に、下は水着でも着ているのかふとももは丸出しだ。(あかねも人のことはいえない)

 

 

死体でないと判断し慌ててかけよる。背中しか見えないが鳥についばまれたような外傷は見受けられない。2人をゆっくり仰向けになおし肩を叩いて意識が戻るか確認するがまるで反応はない。顔に耳をうんと近づけて二人とも呼吸があることは解ったがやはりお医者さんに見せる必要があるのだろうか

 

 

あかね「困ったなぁ・・・1人なら背負って帰れるんだけど。」

 

 

瞬間、あかねはポケットに違和感を感じて手を伸ばした。その指先が堅いものに触れ、そこにあるものが鍵であることを直感で理解した。家の鍵ではなく、示現の力を引き出すあの鍵だ。なぜか勝手にポケットに入っていたが、これで変身すれば2人を島の病院に運べる

 

 

「  ゲホッゲホッ、ぼはっ!」

 

 

あかね「はっ!大丈夫!?」

 

 

迷い無く変身することを決めポケットに手を突っ込んだあかねだったが髪の短いほうの女の子が咳き込みながら突然起き上がったのを受けて取りやめた。背中に手をそえて身体を支えてあげると、少女は目をぱちぱちさせながら息を整えあかねにまっすぐ目を向け話出した

 

 

「ああ、ありがとうございます。あなたが助けてくれたんですか?」

 

 

あかね「わたしは何にもしてないよ!立てそう?ケガはないみたいだけどだいぶ疲れてるみたいだし、とりあえずわたしの家においでよ!」

 

 

「え、でも迷惑じゃ・・・。ってうわ!この人は?」

 

 

あかね「あなたの隣で倒れてたんだけど、知り合いじゃないの?こっちの子は起きないから島の診療所に連れて行こうと思ってるんだけど、倒れてる人ってへたに動かしたらだめなんだっけ?」

 

 

「ちょっと待ってくださいね・・・うーん、外傷はないし、頭を打った様子もない。たぶん気を失ってるだけみたい。おんぶで運んでも大丈夫だと思います。医者見習いの私の診察ですが、おそらく信じてもらって大丈夫かと。」

 

 

その少女は緊張した面持ちで倒れてる少女の身体をあちこち見たあとで、あかねのほうを振り返って安心したように言った。ならば家で寝かせて、お医者さんを家に呼ぼうと決めてあかねは倒れた少女をひょいと担いだ。たとえ変身していなくとも一色あかねにとって人間1人背負って歩くくらい造作もない。

 

 

あかね「えっと、歩けます?無理そうならここで待っててもらえればすぐ迎えに来ますけど・・・大丈夫そうですね。」

 

 

「はい、歩けます。私は宮藤芳佳っていいます。お名前聞いてもいいですか?」

 

 

あかね「わたし、一色あかねっていいます!14歳です!気軽にため口でいいよ!」

 

 

芳佳「ありがとうあかねちゃん。私と同じ歳なんだね。どっこいしょ・・・」フラフラ

 

 

相当疲れているのか足のなかなか進まない芳佳だったが人を背負っているあかねからすれば話しながら歩くのに丁度いい速度だ。並んで海辺を歩く芳佳という少女は冷静さの中に焦りと戸惑いを浮かべている。きゅっと結ばれた唇は何かを言いたげだがなかなか切り出せずにいるようにうかがえる。あかねは言いやすい環境を作ろうと軽い話題を選んだ

 

 

あかね「お腹空いてない?わたし今日は朝ごはんも食べずに寝ててすごく腹ペコなんだよー。」

 

 

芳佳「私も・・・。最後に食事してから何時間経ったのかわかんないんだけどね。ははは・・・」

 

 

あかね「そ、そうなんだ。大変だったね・・・」

 

 

平日の昼間に波打際で倒れている理由はとっても気になる。しかしそれは彼女が落ち着いた状況で慎重に聞き出すべき話だろうし、雰囲気によっては聞くべき事案では無いのかもしれない。

 

 

あかね「裸足みたいだけど痛くない?サンダル片方かそうか?」

 

 

芳佳「うれしいね。でも大丈夫、裸足でコンクリくらい平気だよ。」

 

 

あかね「ならよかったよ。もう着くからね。そこの道入って左の植え込みのところを・・・はい!ここがわたしの家です!ささ入って入って」

 

 

芳佳「待って、足の裏ふかなきゃ。」

 

 

あかね「そこの雑巾使っていいよ!この子どこに寝かせようかな・・・芳佳ちゃんも休まないとだよね。布団引くからちょっと待っててね」

 

 

芳佳「」

 

 

あかね「・・・足拭きながら玄関で寝てる。」

 

 

あおいとももが寝てる部屋の障子を挟んで隣の部屋に新しい布団を敷くとそこに黒髪の少女を寝かせ玄関に取って返し再び気絶した芳佳をかついで黒髪の少女の隣の布団に寝かせた。

 

 

あかね「あーあ・・・だれも起きてこないし、なんだか疲れたしわたしももう一回寝ようかなぁ。今日はとことんだらだらしたい気分」

 

 

あおいとももが寝ていた部屋の障子を身体が入るぶんだけあけて太陽の光が入らないようすぐ閉める。

 

 

あかね(どこらへんだっけ・・・2人を踏まないように・・・)

 

 

<ギュッ>

 

 

あかね(あ、どっちか踏んだ)

 

 

もも「・・・私だよ・・・!」

 

 

あかね「ご、ごめんごめん。目が慣れてないから仕方が」

 

 

もも「・・・」

 

 

あかね「ちょ!ふくらはぎつかまないで!痛いって!」

 

 

あわてて四つんばいに姿勢を落としてあまってる布団を抱き寄せそれでももとの間に防壁を建設した。

 

 

もも「・・・どこいってたのー・・・?」

 

 

あかね「散歩。」

 

 

もも「ふー・・・ん・・・」

 

 

あかね(わたしも寝よ・・・あ、ももに芳佳ちゃん達のこと言うの忘れてた)

 

 

__________________________________

 

 

 

 

障子を通りぬけた暖かい光で部屋は薄ら明るい。畳の匂いと他所の家の匂いを放つやわらかい布団の中で少女は目覚めた。酷い頭痛に眠気が遠のいていく。自分がなぜ昼間から眠っていたのか、そもそもここが誰の家かもまるで思い出せない。まだ寝ぼけているようだ

 

 

「顔を・・・洗わないと・・・いけないわね・・・」

 

 

のそのそと布団を押しのけ立ち上がってとりあえず部屋から出ようと足を踏み出したが、混乱していた彼女はこの部屋に自分以外の人間がいる可能性を考える余裕はなかった。彼女は布団からだらしなくはみだしていた白いふとももを踏みつけてしまった。

 

 

「えっ」

 

 

芳佳「おおっ!?」ガバッ

 

 

「あ、ご、ごめんなさい!」

 

 

芳佳「なになになんなの!?敵!?」ジタバタ

 

 

<ガラッ>

 

 

 

もも「もー・・・うるさいよ・・・。というか、だれです?」

 

 

「えっ?あ、あのっそのっ・・・」

 

 

芳佳「ええっとですね、あかねさんの知り合いと言いますかなんというか」

 

 

もも「・・・やれやれ、お姉ちゃん起きて。事態の説明を要求するよ。」

 

 

あかね「おはようもも。ああ、芳佳ちゃん達も起きたんだね。」

 

 

にっこり笑って芳佳ともう1人の少女にあかねは手を振ったが腰に手を当てて不満顔のももの視線に気付いて手を引っ込めて海岸散歩の際起きた出来事を丁寧に説明した。それはももと、状況を把握していない芳佳ともう1人の少女に向けての説明でもあった。

 

 

「ありがとう。あなたが私を助けてくれたのね。お礼を言うわ。」

 

 

芳佳「私からも改めて!ありがとう。」

 

 

2人はそろって頭を下げる。布団に座り込んだままではなんとも失礼なのであかねも慌てて立ち上がっていえいえとお辞儀を返した。ももも反射的に頭を下げた。あおいはいまだすやすや眠っている。事情を聞くためと食事を用意するため居間へと移動することにした4人はももを先導に静かに部屋から出た

 

 

「・・・海が近いし、いいところね。」

 

 

芳佳「ほんと。海岸の砂も寝心地よかったよね。」

 

 

「ええほんとにね」

 

 

あかね「起こしちゃ悪かったかな?」

 

 

「「「はっはっはっはっは!!!」」」

 

 

もも(なんだんだこの人たちは・・・)

 

 

芳佳「そうだ、あなたの名前まだ聞いてませんでしたね。」

 

 

「黒騎れい。れいでいいわ。敬語なんて使わなくていいわよ。」

 

 

芳佳「OKれいちゃん、同じ難破人同士仲良くしようね」

 

 

もも「お2人さん、どこから来たんですか?波打際ってことは、それこそ船が難破でもしたんですか?」

 

 

芳佳「どこから・・・?」

 

 

れい「来たのか・・・?」

 

 

2人はそろって腕をくんで首をかしげる。

 

 

芳佳「なんとなくは思い出せるんだけど、ううーん・・・???」

 

 

れい「私はまったく思い出せないわ。そもそもホントに黒騎れいって名前だったかも」

 

 

あかね「記憶喪失コンビでもあったんだね。ほんと大変だね。」

 

 

芳佳「うーん、私は覚えてはいるんだけどなんかはっきりしない感じで・・・たぶんこれは時間が経てば治るよ。れいちゃんはなにも覚えてないんだよね?」

 

 

れい「そうなの。でもポケットのハンカチにやっぱり黒騎れいって書いてあったし大丈夫。名前は間違ってないわ。」

 

 

ちゃぶ台で互いに顔を向き合わせてももが料理を作っている間少し話をした。れいはやはり何も覚えていないようだ。年齢はおそらくあかねと芳佳と同じなのだろうが、自分のことについて考えると頭がぼーっとしてしまうらしい。顔立ちや立ち居振る舞いからクールな印象を受けるれいはそう語ると落ち込み気味に顔を伏せた。芳佳は芳佳で自分のことが思い出せそうでいまいち思い出せないという状況に少々苛立ちを見せる。

 

 

あかね「この島でのんびりしていったらいいよ。」

 

 

様子を伺いながらはらはらしていたももだが、あかねはそれに反して落ち着いた表情で2人にそう声をかけた。頭を抱える芳佳とれいはあかねにまっすぐと見つめられていることに気付いて顔をあげた。目があったことを確認してからあかねは言葉を続ける

 

 

あかね「わたしは記憶喪失になったことがないから、2人の気持ちをわかってあげることはできない。でもまあ、自分の家への帰り道を思い出すまではここを帰る場所にしたらいいよ。今いる場所がどこか解らないのって不安だろうけど、わたしが島を案内してあげる。だから、旅行に来たような気分でかるーく遊んでればすぐ思い出せるよ。大丈夫大丈夫!そんなに自分を追い詰めなくたって、そのうちなんとでもなる。」

 

 

場の空気が暗いのに耐えられないあかねのがんばりは少しだが悩める二人の心を救った。明日からの寝る場所ができたことはなにも持たない芳佳とれいにとっては非常に心強いことだ。こころよく提案を受けてもらいあかねも笑顔だが、明日から2人分の生活意をやりくりするのはももである。せめて相談くらいしてほしい、とももは台所でため息だったがあかねが言い出さなくとも帰る場所の無い女の子2人家から無情に追い出したりはしない。結局はももとあかねどっちが先に引き止めるかの問題だったわけだ

 

 

れい「・・・迷惑だとは思うけれど、ほんの少しだけお世話になります。」

 

 

芳佳「ありがとうあかねちゃん。私家事もバリバリ手伝うよ!あ、親御さんにご挨拶したいんだけど・・・」

 

 

あかね「うーん、今ウチにはおじいちゃんしかいないんだけどどこ行ったのかな。ももー!おじいちゃんは!」

 

 

もも「私もお姉ちゃんと一緒に寝てたんだから知らないよー。たぶん研究所のほうじゃない?」

 

 

あかね「聞いてくるよ。ああ大丈夫、おじいちゃんにダメなんて言わせないから。言わないと思うけどね。それじゃあちょいと失礼」バタバタ

 

 

芳佳「一緒に行ったほうがよかったんじゃないかなぁ。れいちゃん、菓子折りとか持ってないの?」

 

 

れい「いや、なんにもないわよ・・・」

 

 

芳佳「ももちゃーん。私たちも手伝うよ。ただでお世話してもらうなんて気がひけるからね。」

 

 

もも「芳佳さんお料理できるんですか?」

 

 

芳佳「余裕だよ。なんとなくだけど前はどこかで料理係を担っていた記憶がうっすらあるんだよね。」

 

 

もも「お料理することで記憶戻るきっかけになったりするんでしょか?とりあえず手伝ってもらえると嬉しいです。人が急に増えたからなかなか厳しいんですよね・・・あっ、いやみとかではないですよ!」

 

 

芳佳「大丈夫だからそんなわたわたしないで。れいちゃんは料理は?」

 

 

れい「料理をした記憶は全くないけれど、なにか簡単なことなら手伝えると思うわ」キリッ

 

 

~数分後~

 

 

れい「あら」ツルッ

 

 

芳佳「あぶなーい!」ガシッ

 

 

もも「ナイスキャッチです!」

 

 

れい「ごめんなさい。ジャガイモって案外すべるのね」

 

 

芳佳「れいちゃん猫の手だよ猫の手。指切るよ。」

 

 

れい「猫ね、猫。」

 

 

 

「スイマセーン お届けものでーす」

 

 

もも「はいはいはーい!おねえちゃ んはいないし、芳佳さんとれいさんは家の人じゃないし。芳佳さん!おなべ任せます!」パタパタ

 

 

芳佳「よーし任された!」

 

 

猫の手で野菜を抑えるのに集中するれいとやる気まんまんの芳佳に台所を任せてももは玄関へ走る。ついでにテレビの上に置いておいたハンコも持っていくのを忘れない。しかし宅配とは珍しいとももは思った。健二郎宛に研究に使う機材が届くことはあるがそれなら大抵待ちわびた祖父が玄関で待ち構えているのでももが受け取りに行く事は少ない。ご近所さんが作りすぎた料理を持ってくるだとかはたまにあるが、それなら裏口から声をかけてくれる。なじみの友人達はそれを持って勝手にあがってきたりするし、こうして玄関に来る配達は珍しかった。

 

 

もも「はい、一色ですけど」

 

 

「一色健二郎さんのご家族宛てにいくつかお荷物です。ああ、それとお手紙と。結構重いですし、こちらでお家の中に運びましょうか?」

 

 

もも「え?うーん」

 

 

見慣れない人だ。島の配達は新聞も込みで文が行うことが多い。都会から届く荷物に関しては別の配達屋が行うがそれでも大体顔は覚えている。今回来た人は見慣ぬ制服姿だ

 

 

「ああ、知らない人間がいきなり家にあがるのはまずいですよね。ええと、どうしようか。名刺いります?」

 

 

もも「ああいえ、別に大丈夫なんでありがたくお願いします」

 

 

「そりゃどうも、ちょいと下がっててください。」

 

 

そういうと男はももに手紙を渡すと軽トラックの荷台から4つのダンボールを1人で土間に運び込んだ。

 

 

もも「中身はなんなんです?」

 

 

「手紙の中身は知りません。箱の中身は調味料と米、管理局の紫条さんからだとおじいさんに言えば解ると思います。お手紙はできるだけ早めに渡してくれとも。そえでは!」

 

 

荷物を運び入れた男は頭を下げると軽トラックに乗ってゆっくり元来た道を戻っていく。ダンボールの1つを開けてみるといつも家で使っているお米だった。誰かは知らないがワンコが壊れている現状無くなりかけているお米の補充をしてくれたのはありがたい。その他の箱にも色々入っていたがマヨネーズが異常に多いところをみるに家庭事情を解っている人物からか

 

 

もも(管理局のしじょうさん?手紙を渡しにいかなくっちゃ)

 

 

<ももーー!!!あかねーー!!!!>

 

 

もも「縁側!」ダッ

 

 

玄関とは違う方向から自分を呼ぶ声に反応してももは廊下を疾走した。この声はおそらくなつみのものだが遊びに誘いに来たにしてはずいぶん慌てた様子にももも何事かと不安を募らせた。研究所のドアを蹴飛ばすように向かいからあかねが姿を見せ二人同時になつみの前に立った。

 

 

なつみ「緊急事態だ!すぐに来てすぐに!」

 

 

あかね「オッケー!もも、行こう!」

 

 

もも「あー、ちょっとまって。芳佳さーん!ここにおじいちゃん宛のお手紙おいておくんで、おじいちゃんに渡しといてもらえますか!私とお姉ちゃんは少しでかけてきます!」

 

 

なつみ「よっしゃ行こう!で、芳佳さんって誰よ?」ダッ

 

 

あかね「新しい友達!」ダッ

 

 

もも「ちょ、2人とも速すぎますよ!小学5年生をいたわってください!待ってってば!待って!」ダッ

 

 

家の裏から飛び出していく2人と少し遅れて1人。静かになった縁側に手をエプロンで拭きながら芳佳が出てきた。誰もいない庭を見て、次におきっぱなしの手紙を見た。手をさらに念入りにぬぐうとその手紙をもって

 

 

芳佳「・・・おじいさんって、どこにいるんだろ?」

 

 

研究所の秘密の入り口を芳佳が知る由もない。その時右手にあったお手洗いの横の行き当たりのはずの壁が音をたてて左右にスライドしたのだ。驚きのあまり固まる芳佳の視線の先には鉄製の頑丈そうな扉。それも左右に開いた。あかねは何者かの登場を予感し神妙に待ったが誰も出てこなかった。いや、正確には出てきていたのだが小さくて見えなかった。まさか人形サイズとは思わなかったからだ。とてとて歩いてくるかわうそ人形と目が合った芳佳は眉をひそめる。

 

 

芳佳「あー・・・どうも。失礼かもしれませんけど、もしかしてあかねさんのおじいさんだったりしますでしょうか?」

 

 

健二郎「まさかまさかのおじいさん登場じゃ。驚いたかね?よしかちゃん、だったか」

 

 

芳佳「わー驚いた・・・宮藤芳佳、記憶喪失です。あかねさんに先ほど海岸で拾われました。あとお手紙をももさんから預かってます」

 

 

健二郎「ご丁寧にありがとう。ワシは天才科学者一色健二郎じゃ。現在ぬいぐるみじゃがあかねとももの祖父。よければ手紙の封を切って中身を見えるように床においてくれんか?なにぶん人形の手は不便ってもんじゃなくてのう。おお、ありがとう。もう1人の子はどこかな?」

 

 

床にそっとおいた手紙の上に覆いかぶさって内容を読みながら問いかけてくる健二郎の身体をあまり上から見下ろすのも悪い気がする芳佳はしゃがみこんで出来るだけ低い体勢でれいにおなべを任せていることを伝えた。

 

健二郎「ふむ・・読み終わったから封の中にしまっとくれ。もう中身は覚えたからのう。それは居間の隣の部屋の机の上にでも置いといてくれんか。夜までにはもう一度居間に戻るからそれまで研究に集中させとくれ、とあかね達に言っておいとくれ。」

 

 

それだけ言うとかわうそ人形はくるりと回って扉のほうへ戻っていく。その背中に向かって芳佳は慌てて質問した。

 

 

芳佳「あの、私・・・とれいちゃんなんですけど、本当に」

 

 

健二郎「ああゆっくりしていくといい。前までは家計は火の車だったんじゃが、つい今日から我が家には女の子の3人や4人増えても十分なくらいの収入源が出来たんじゃ。なんの遠慮もいらんよ。」

 

 

芳佳「ありがとうございます!」

 

 

ペコリと頭を下げる芳佳に軽く手をあげると健二郎はゆったりした足取りで暗い壁のむこうへ消えていった。鉄の扉と壁が今度は音も無くすばやく閉まった。不思議体験をしたわりにあまり驚いてない自分の感覚に驚いた芳佳であったのだが、台所のほうかられいの救援要請が発せられたのを受けて自分のことについて考えるのを切り上げて急いで戻った。ももがいない間になにかあってはならない。ここはお料理ウィッチ芳佳さんの腕の見せ所なのだから

 

 

芳佳「ん?お料理ウィッチ芳佳さんってなんだっけ・・・?ん?」

 

 

れい「宮藤さん!ちょっと早く!これ火を止めたほうがいいんじゃないの!?ふきこぼれそうよ!」

 

 

芳佳「大丈夫大丈夫、料理ってのはおっかなびっくりやらなくても案外焦げたりしないから!それに芳佳って呼ばないと助けてあげないからね!」ダッ

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

先導するなつみが通った道は学校への道だ。いつも通ってる、見慣れたものだ。道中すれ違う顔なじみの島民達とケガはなかったかと軽く言葉を交わしながら急かすなつみの後を着いていく。実際あかねは筋肉痛であってももう少し早く走れたがももが限界に近いのでそれなりにあわせたペースで走った。何があったのか聞いてもなつみはあまり言いたく無さそうだ。実際見てのお楽しみ、というやつなのだろうかとあかねは考えたがいいことではないようなので楽しみではないなと訂正をいれた。なつみは前情報なしに見てくる絶望を味わえというのだろうか

 

 

なつみ「ああ、もうここから見えるだろうけど・・・ほら。」

 

 

あかね「わお」

 

 

もも「ぜー・・・ぜー・・・うっわぁ・・・」

 

 

なつみ「昨日は避難所から家に直帰して今日は休みだったからさっきまで知らなかったんだ。あ、ねえちゃーん!」

 

 

こまり「ああなつみ。あかねとももも来たんだね。」

 

 

あかね「これ・・・昨日の?」

 

 

学校は見るも無残に吹き飛んでいた。一番大きな光線が当たったのだろうか、木製の古びた校舎は台風ですらまともに耐えられないくらいなのにアローンの攻撃などもらえば一発で倒壊するのもさも当然のことだ。屋根は大穴、壁は燃え落ち、消し飛んでいる。

 

 

なつみ「火は先生達が消したんだって。昨日で解ってたんなら、今朝の連絡網で学校が吹っ飛んだことも教えれくれたら・・・いやそりゃーなんかまずいか。」

 

 

こまり「こりゃなつみが悪いね。前、学校がつぶれないかなーとか言ってたじゃん。あれよあれ。マジ不謹慎

中学生だねなつみは」

 

 

なつみ「冗談キツイよ。ウチは火事にならないかとか台風でぺしゃんこにならないかとかは願ったけど爆発でふっとべなんて思ったことないしノーカンよノーカン。」

 

 

もも「おねえちゃん・・・学校が・・・」

 

 

あかね「なーに、形あるものいつか壊れる。だれもケガした子はいなかったんでしょ?それでよかったんだよ。それにほら、これで綺麗な校舎建てられるんじゃない?ね?」

 

 

結構なショックを受けたももは顔をあかねのお腹にうずめるように抱きついた。あかねはその背中をよしよしと撫でながら無残な学びやを悲しげに見やった。授業を受けるのは6歳からだが生まれた時からこの島の子供達の集まるいつもの場所だった学校がこうもやられてしまったのは誰だってショックだ。誰だってキツイ。しかし年長者の中学生軍団が悲しめば周りの小学生達はもっと悲しくなるだろう。

 

 

れんげ「・・・ボールも燃えちゃったんなー。それにウチ、まだちょっとしか通えてないのん。」

 

 

なつみ「あーあ、家が片付いたと思ったら、明日からは学校を造らなきゃね。兄ちゃん建築とかできる?ああ流石に無理なんだ。そりゃ仕方ないか」

 

 

卓「・・・」

 

 

物言わぬ卓だがその眼鏡の奥の瞳は悲しみを帯びていた。彼がもっともこの建物に長く触れていたのだ。思い入れも一番強い。

 

 

あかね「・・・許せない。あおいちゃん、楽しみにしてたのに」

 

 

あかねの中で昨日一度は引いた燃える闘志が怒りとともにふつふつと込み上げてきた。ポケットの鍵が燃えるように熱い存在感を放っている。だがあかねはすぐに怒りを抑えた。これでは密着しているももにまでそれが伝わってしまう気がしたからだ。戦いの場ではないところでぶちまけていいような気持ちではなかった。

 

 

あかね「先生は?」

 

 

なつみ「本島のほうに行ってるらしい。お土産に期待しとこうかな」

 

 

本島、とは数あるブルーアイランド諸島の中で示現エンジンがある大きな人工島のことを言う。結構高いビルなどもあってあかね達のような田舎風味漂う島の住民からすればなかなかの都会だ。海をワンコで渡れるあかねはわりとすぐ行けるのだが、それ以外だと数少ない定期便の船かモノレールしかない。お金をあんまりもたない子供達は気軽に使えるものではないのでたまにあかねはなつみやこまりとワンコに2人または3人乗りでこっそり海を渡って遊んでいる。

 

 

あかね「しばらくは休みだね。落ち着いたらみんなで遊ぼうか。新しい友達もできたしあおいちゃんも帰って来たし」

 

 

こまり「新しい子?ふーん、楽しみだね。さーてそろそろ帰って片付けの続きしようかなつみ。」

 

 

なつみ「あいあいねえちゃん。じゃあねあかね、また連絡するよ。」

 

 

あかね「うんまたね。・・・もも、かえろ?手、つないであげるから。それともおんぶ?」

 

 

もも「・・・おんぶ」

 

 

小学生達は卓が送っていってくれると申し出てくれたので、あかねはももをおんぶして家まで帰った。帰る途中のたまに黒く大きな穴が空いているなどを見つけるたび友人達が誰もケガをしなくてよかったと心のそこから思いながらゆっくりと元来た道を歩いた。

 

 

 

 

 




今回はいつもより長く書いてしまいました。終わりどころを見つけられないでずっと書いてました。大抵書いてる時は何回かに分けてちょこちょこ書いたあと一気に徹夜して日の出くらいに完成させてます。なのでこれからも朝方更新が多いとおもいます。朝の読書に最適ですね。

宮藤芳佳ちゃん、黒騎れいちゃん登場です。この2人がこれからどう話に関わってくるか、色々推測しながら楽しみに待っていてください。すぐに次がくると思いますので。では


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 あかね「わたしであるべき理由」

真実を知ることは全ての場合において大切であるが、その全ての場合において真実を知ることが当事者達に「いいこと」に繋がるかどうかは別である


ちなみに今回のことはいいことに繋がる一例である。


健次郎「おお、来たかあかねよ。ほれ座りなさい。」

 

 

あかね「座れる場所なんて無いけどね。これどかしていい?どかすからね。」

 

 

ももを連れ帰った後。あかねは健二郎に呼ばれ家の裏の研究所で椅子に座っていた。ここに入るのは昨日のアローンの襲来以来だが、壊れた屋根と壁はすっかり新しくなっていた。それでもたくさんの紙が散らばっていて前より一層ごちゃごちゃしている。そも健二郎の今の姿では整理整頓は厳しいだろう。自分に見やすいように床に並べるのは仕方の無いことだが、立ったままでは話に集中できないのも確かなのだ。いくつかをまとめて重ねて床に置いた

 

 

健次郎「ああ、壁はお前達が寝ている間に管理局の連中を呼んで直させたんたんじゃ。風通しがよすぎると書類が飛んで仕方ない・・・。昨夜少しだけシステムのデータをとっていたんじゃがな。まず、あおいちゃんの鍵はあかねの持つ鍵と同じものではないことが解った。」

 

 

 

健次郎「あのキーはあかねのように示現エンジンにアクセスしとるわけではない。じゃがその鍵がもたらす効果は同じ。オペレーションキーはビビッドシステムを発動させ示現力を鎧として体現させる。違うのはアクセスする対象じゃ。

 

・・・そもそもビビッドシステムを利用しなければアローンを倒せないことを知っておきながらなぜワシがオペレーションキーをたった一本だけ、それもあかねしか使えないように作ったのか。疑問じゃろう?もっとたくさん造ればよかったのにと。そも、なぜ女の子であるあかねが戦わなければならなかったか。造らなかったわけではなく造れなかったというのもあるが、他の人でダメな理由は、7年前にある!思い出したくないだろうが、思い出すのじゃあかね。」

 

 

あかね「・・・」

 

 

 

腕を組んで目を閉じれば思い出すまでもなく瞼の裏にゆらゆらと浮かび上がってくる悲劇の記憶。あかねの高所恐怖症の原因にもなった事故。あの日、小学校に入学したばかりのころ。示現エンジン内で作業をしていた母に会いに行った。学校でもらったプリントを見せたかったんだったか確かそんな理由だった気がするがもう忘れた。大事なのは、偶然その時開発中だった示現エンジンが暴走し、あかねと母がその中に落っこちてしまったことの方だろう。

 

 

 

 

健次郎「我が娘ましろ、そして我が孫あかね。2人は、あふれ出した示現エネルギーの渦の中に落ちていった。ワシはそのあとを追って飛び込もうとする自分を制し、どうやれば2人を助け出せるのか考え始めた。その時じゃった。

 

 

・・・あれはその渦から現れた。次元の向こうからやってきたものだ。物理的な肉体はもっていなかったが、思考、概念としてワシに語りかけてきたのじゃ。それは、示現力の存在に手を伸ばした世界へ忠告に来たと言った。ましろとあかねのことで正直頭がいっぱいだったんじゃが、その存在はワシの頭の中に強烈な印象を与え続け話を聞くしかなかった。続けて語りかけてきた。」

 

 

 

 

彼は言った。示現力を手にした新たな世界に試練を与えると。示現力の本質を見極め、それを制御し、時に武器としては敵を討ち盾としては味方を護る。技術力と心を持った生命体だと解れば示現力の使用権を渡すと。ワシは失敗したのではなかった。開発は成功したのじゃ。示現エンジンからあふれ出した示現力が強すぎて制御できなかっただけで、7年前のことは示現エネルギーがこの世に溢れ出した反動で起きたこと

 

 

 

健次郎「その後、彼はワシにアローンのことを教えた。示現エネルギーのおおまかな使い方もな。」

 

 

あかね「わたしとお母さんはいつ助けてもらえるの?」

 

 

健次郎「この後じゃ。話終えた彼はそのまま渦の中へと消えていった。渦も少しずつ弱まっていき、漏れ出した示現エネルギーは試作エンジンの中におとなしく収まっておった。その横にお前とましろが倒れていた。」

 

 

あかね(お母さん・・・)

 

 

あかねは目を閉じて母の姿を思い描いた。思い出されるのは病院の白いベッドの上で病人らしくない笑顔でお見舞いにきた自分達を迎えてくれる優しく頼もしい姿だ。あの人が健康そうに歩きまわっているところなど、もう久しく見れていない。

 

 

健次郎「あかねよ。この世界で示現力を直接制御できる権利を持った人間は3人だけじゃ。示現力の仕組みを直接授けられたワシ。そして示現の渦に飲まれその力の本質に触れたあかねとましろ。ビビッドシステムにアクセスし、示現力をその意識の支配下におけるのはこの世界でこの3人。しかしワシはこの歳じゃし示現エネルギーの力には耐えられん。ましろは・・・もしましろがパレットスーツを着とったら・・・ぶふふっ!いや、やめよう。」

 

 

あかね「ぶっ飛ばされるよ。」

 

 

健次郎「ましろのやつならワシが愛くるしいぬいぐるみの姿であっても容赦なく蹴っ飛ばすじゃろうな。ましろが入院しとる理由、これは言い方が悪いがずばり言うぞ。ましろは今まさに試練をこなす為の人柱となっておる。」

 

 

 

この世界に現れた示現力は体験版のようなもので、それには2つの性質があった。それは試練に失敗したり示現力を扱いきれなかった場合この世界を破滅に導く衰退と侵略の負の性質。試練に打ち勝ったものに与えられる繁栄と創造の正の性質。示現力を我々に与えた存在はその2つをこの世界においていった。その1つをましろに、もう1つをあかねに。アローンに勝利し世界を救う英雄の力と、それを使うにふさわしくない世界をいつでも破滅させることが出来る爆弾。

 

 

 

健次郎「渦に巻き込まれた後、ましろは少しずつ身体の調子が悪くなっていることに気付いた。自分で自分の面倒が見れる限界まであかねともものそばにいることを決め、示現エンジンの研究から手を引いた。

 

 

エンジンが完成し示現エネルギーが世界中に降り注ぐようになってからましろの身体は急激に弱まっていった。5年という歳月を経て第一のアローンが現れ、試練が開始した瞬間からさらにそれは顕著になった。逆に力を授かったあかねは見事示現力を操りアローンを打ち倒してみせた。試練は始まったのじゃ、あかねよ。お前が負ければましろは死に、世界は示現力に飲み込まれるじゃろう。もしお前が母を、妹を、友を救おうというのなら逃げることはできない。誰もお前の代わりにはなれん。しかしそれでも。お前がもし・・・・・・」

 

 

あかね「いいよ。わたしがやる。」

 

 

健次郎「そうか・・・この理不尽きわまりない事態にな怒るか泣くかくらいすると思ったんじゃが」

 

 

あかね「変身する時、エンジンの中心部をのぞいた時おじいちゃんが言ったようなことを教えられたからね。わたしじゃなきゃダメな理由と、わたしが出来ること。あおいちゃんに鍵を造ってあげた時もだけど。」

 

 

健次郎「あれはワシにも解らん。ビビッドシステムはあかねにしか使えないもののはずじゃが、あおいちゃんの発する示現の波動はビビッドシステムによるものと酷似しておる。あかねには解るのか?」

 

 

あかね「うん。あおいちゃんの鍵はわたしが自分の力の一部で造ったんだ。あおいちゃんはエンジンから力を引き出してるんじゃなくて、わたしを経由することでビビッドシステムにアクセスしてるんだよ。あおいちゃんの鍵はわたしが出したブーメランと同じ扱いだね。エンジンから示現力を引っ張り出すことはわたしにしか出来ないし、示現力を制御できるのもわたしだけ。でも他の人が使えるようにわたしが示現力を変換してこの世界に放出すれば・・・その人も示現力を扱えるってかんじ」

 

 

健二郎「特定の人・・・お前と心が通じ合った人、といったところか。」

 

 

あかね「うん。なんだろ、わたしの魂と共鳴した・・・って感覚なのかな。ああこの人なら一緒に戦える、戦ってほしいって直感でわかるんだよね。ビビッっときたら鍵が出てくるみたい。それは仲のいいあおいちゃんだけなのか他の人でもできるのかわからないけどね。

 

ああ、ももが呼んでる。ご飯できたみたい。」

 

 

健二郎「行ってくるといい。昨日の夜からなにも食べとらんのに悪かったのう。」

 

 

あかね「わたしも一回ちゃんと話しておきたかったからいいよ!お母さんがなんで入院してるのか・・・ほんとうに私でいいのか・・・。もう解った。」

 

 

あかね「アローンをぶっ倒して、示現力を手に入れる。そしたらお母さんも帰ってきて万事解決。うん!」

 

 

 

ギリギリと拳を握り締める。自分にしか出来ない、自分にしか倒せない。別にいい。誰かがやらなければならないことがたまたま自分に回ってきただけだ。命をかけて、戦ってやる。わたしがやらなきゃ誰もやらない。負ける気なんて毛頭無い。戦争の時代を終わらせた祖父のように母のように、この世界を救ってみせる

 

 

あかね「うん・・・燃えるね。」

 

 

 

 

 

張り切って研究室から出て行こうとしたあかねはなにかに呼び止められたように動きをとめ天井を見上げた。突如として現れた強烈な敵意は、間違いなく示現エンジンの方角だ。自分に向けられているような鋭い悪意に対しても臆さず真正面から睨みつけると、ちょうどこの燃えたぎる闘志をぶつけあえるサンドバックがわりが現れたことに1つ大きく笑ってみせてから研究所のドアを蹴っ飛ばして飛び出した。戦いの時が再び来たのだ

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

学校から帰った後、あかねは研究室に入っていってしまった。ももは縁側でおろされてしばらく三角座りでぼーっと空を眺めていた。

 

 

 

示現エンジンを狙う侵略者、アローン。へんちくりんな研究で家計を圧迫させていたおじいちゃんと自由奔放やりたい放題なナヨネーズジャンキーお姉ちゃんは、一日で世界を救った英雄となって帰って来た。こないだまで病弱だったとは思えないほど元気になったあおいちゃんを連れて。それに今日は記憶喪失のお友達を2人も拾ってくる始末。

 

 

もも「私はこの家のお母さんにはなれないなぁ・・・」

 

 

さみしそうにつぶやいて、顔をひざにすりつけてそこにためいきをつく。その時後ろになにかの気配を感じてふり返ってみると心配そうにこちらを見ていた芳佳があわてて目をそらしながら話し出した

 

 

宮藤「いや、ご飯できたよーって・・・言おうと思ったんだけど。」

 

 

もも「別に泣いてないですよ。大丈夫です。おねえちゃーん!ご飯できたよー!」

 

 

元気さをアピールするため研究所のほうに大きく叫ぶと、どうだというように芳佳のほうに笑顔を向ける。そこでやっと芳佳は心配そうな顔を止めると、ももの横に座った。

 

 

宮藤「ここに来る途中ですっごい大きな穴を見たけど、この島は隕石でも降るの?」

 

 

もも「隕石じゃないですよ。昨日は晴れのちビームでした。すくなくとも私はビームが降ってくるのは生まれて初めて見ましたんであまりよくある天気ってわけはないみたいですけど。」

 

 

宮藤「ビーム?もしかして赤くてふっといの?」

 

 

もも「はい。赤くて、ふといのです。ビームって光の速度で飛んでくるんだと思ってましたけど、そうじゃないんですね。芳佳さんってビーム専門家なんですか?」

 

 

宮藤「専門家じゃないよ。なんとなくビームって言われるとそんなイメージがあるだけで。そうそう、ビームっていうのは光ほど速くないぶんだけ破壊力があるんだよ。速いだけのビームは恐るるにたらず!だよ。」

 

 

もも「芳佳さん、やっぱりビーム専門家なんですね。」

 

 

宮藤「おかしいな・・・なんだろ、ビームを結構身近に見るような生活をしてたような記憶がうっすらと」

 

 

もも「これもう冗談なのかどうなのかわかりませんね。」

 

 

<バァン!!>

 

 

あかね「ちょっと後ろ通るよー!動かないでね!」ドタバタ

 

 

もも「走らないで!どうしたの!?」

 

 

あかね「ちょっと出かけてくる!ももは2人を連れて地下にいっといて!あおいちゃんはまだ寝てんの!?」

 

 

もも「地下?ということは・・・待っておねえちゃん!」

 

 

寝室に飛び込んでいったあかねを追ったももを芳佳は追いかけた。中では布団で巣を形成しつつあったあおいをあかねが掘り起こしている最中だった。

 

 

あかね「このわたしにグータラだねって言われるという不名誉な目にあいたくなかったらいい加減起きてあおいちゃん!」

 

 

あおい「あかねちゃんに怒られるのはそんなに不名誉って訳じゃないんだけどね・・・。それにしたってあかねちゃん元気すぎるよ・・・私まだすっごく疲れてて・・・」

 

 

あかね「変身したら治るよあおいちゃん。」

 

 

あおい「それは、アローンが空気よめなかったってこと?うそでしょあかねちゃん、昨日の今日だよ!」

 

 

あかねが頭をのっけていた枕を眠そうに抱きしめていたあおいは痛む身体を奮い立たせた。身体はギチギチと軋むがあかねを1人で戦場に行かせる訳にはいかないのだ。腕があがらなければ体当たりでアローンに隙をつくるぐらいはできるだろう。あかねに借りた寝巻きがわりの体操服姿であかねに続いて庭に裸足で飛び出した。

 

 

あかね「ご飯は残しといてね!もも!すぐ戻るとは思うけど!」

 

 

もも「お姉ちゃん!待ってるからね!あおいさんも!」

 

 

行かないで、そんなことはいえない。ただ無事を祈ることしかできないももは力いっぱい手を振る。そろってグッと親指を立てたあかねとあおいはすぐそばの海岸まで走って移動し空の彼方を見つめた。雲がなにかの力に吸い寄せられるようにうずの形をとっている。

 

 

その部分の空はまだ午後だというのに真っ暗な闇に染まっている。闇の穴はとても小さいが、問題はそれがスパークを散らしながらだんだん広がっていくのが目に見えて明らかであることだ。あれこそがアローンが出てくる前兆なのだな、とあおいはぼーっと考えていたが、そもそも敵襲を直感で察知できるあかねがいてくれるのだから自分はついていくだけでいいしこの情報は無駄になるだろうと思った。

 

 

あかね「よしいこう!イグニッション!」サッ

 

 

あかねが戦う意志をもってポケットに手を伸ばせば鍵は必ずそこにある。実際とても便利だ。どうやらあおいもそうらしくあかねに続いて鍵を目の前に掲げる。

 

 

あかね「テクスチャー、オン!オペレーション・ビビッドレッド!!」

 

 

あおい「オペレーション・ビビッドブルー!」

 

 

開かれた示現の扉から漏れ出した示現の力が砂浜にあふれ出し、赤と青のパレットスーツを着た2人の戦士をそこに造り出した。2人は自分の身体に満ち満ちる力を軽く爆発させ宙に飛び上がった。ぐんぐんと高度を上げてあっというまに黒い穴のそばまでやってきた。

 

 

あおい「どうしよう?あんまり近づきたくはないけど・・・」

 

 

あかね「連合軍の人にど派手にミサイルでも撃ち込んでもらう?このまま敵が来るのをじっと待ってるっていうのもしゃくだしさ。」

 

 

健次郎『ダメージは通らんからやめたほうがいい。ミサイル一発といえどそこそこの費用がかかるんじゃぞ。』

 

 

あかね「大人の事情により打つ手なし、か!これは参ったね。ならプランBでいこう。」

 

 

あおい「プランB?」

 

 

あかね「プランBのBはブルーのB。」

 

 

あおい「私が考えろってことだね・・・。」

 

 

最後はやっぱり2人で話し合って大体の作戦が決まった。この穴がどういうものかが解らない以上ネイキッドラングを放り込むのは返ってこなくなる可能性も込みで無し。だがここからアローンが現れようとしているのは半ば間違いないだろう。というよりそれ以外思い当たらない。ならばこちらは敵を万全の姿勢で迎える策をとる事にした。あおいは示現エネルギーを集中させネイキッドインパクトを造り出すと穴の近くで空中仁王立ちの構えをとった。

 

 

あおい「あかねちゃん!アローンが出てきそうになったら教えてね!私が思いっきりひっぱたくから!」

 

 

あかね「ひっぱたくなんて可愛いもんじゃすまないと思うけどね・・・。敵はたぶん海に落ちる方向で出てくるだろうからあおいちゃんは鼻っ柱に一発いれたらそのまま上に避難して!わたしがブーメランで攻撃しながら敵をひきつけるから、隙をみてどんどん攻撃いれて!」

 

 

あおい「わかった!」

 

 

健次郎『うむ、現場の判断に任せる。』

 

 

紫条『なげやりなようにも聞こえますね先生。 ブルーアイランド全島に避難指示が出されました。アローンがビビッドチームを振り切って周囲の島に攻撃をかけようとした場合に備えて連合軍戦闘機隊も発進準備をすすめています。』

 

 

健次郎『よろしい。あかね!エネルギー反応は徐々に大きくなっとるが姿を見せるタイミングは正確には測れん!1体目のアローンが発していたエネルギー反応に近くなってきたら一応警告するが、それも頼りにするでないぞ!あおいちゃん、十分気をつけるのじゃ!』

 

 

あおい「はいっ!」

 

 

 

あおい「ネイキッドインパクト、セイフティ解除。」

 

 

 

<ジャキン>

 

 

 

あおいが柄を強く握るとハンマー表面の噛み合った装甲がスライドし内部の機関が露出される。内部で小型エンジンが回転を始め増幅された示現エネルギーが粒子となってあふれ出す。前回のように敵が常にこちらを警戒している場合と、迎撃される可能性の低い今回では攻撃する際の立ち回りがまるで違う。回避・防御前提の攻撃と突撃全フリの攻撃の差は大きい。特にこの武器は使用者のあおいの攻撃時の体勢によってダメージが上下に激しくぶれるものだ。パレットスーツの力があれば空中であろうと踏ん張りがきく。足の先から力をためて上半身に、腰をしっかりいれて叩きつければ威力はどこまでも上がるはずだ

 

 

あおい「ふー・・・」

 

 

あかね「あおいちゃん、来るよ。先っちょが出たら思いっきりね。」

 

 

あおい「OK。」

 

 

足を大きく開き、肩の稼動範囲ギリギリまで振りかぶる。次元の穴が強い閃光を吐き出しながらその穴を急激に開く。作戦は一撃をいれたら離脱。だがあおいに離脱する気はなかった。逃げる気持ちを捨てて構えている。

 

 

あおい「一撃で!終わり!ネイキッドォォォォ!!!!」

 

 

 

<ギギギギギギ>

 

 

金属が引き裂かれているとでも思えるような不愉快な音を立てながら真っ黒に輝く装甲がぬっと空間に現れた。円錐形の身体の先端はとがっておりそこから海に飛び込ませるような姿勢で出てきた敵はあおいの存在に気付いても止まることなどできない。

 

 

あおい「インパクトッ!!!!!」

 

 

内部に凝縮された示現エネルギーが推進力の役目を果たすため爆発しあおいの腕力に乗る。野球のスイングをイメージしたフォームで繰り出された下からすくい上げる一撃がアローンを派手に出迎えた。打撃面の中央がアローンの装甲に触れるがあおいはそれを無視してネイキッドインパクトを振りぬいた。たたきつけた衝撃エネルギーはそのままアローンの先端を粉々に砕くとまだ出現していない身体の大部分へと侵食していった。極限まで高めた示現エネルギーを内部で爆発させたことで冷却のため使用不可になったネイキッドインパクトを放り投げるように手放して粒子化させたあおいはその勢いで一回点してもう一度アローンへと向き直る。

 

 

あかね「・・・!」

 

 

 

ネイキッドラングを展開したあかねは驚きのあまり少し呆けていた。大きく開いた示現の穴。出現したアローンは鼻先を2mほど出した段階で射程範囲内に入ったあおいの一撃により粉砕された。たった一発の攻撃が放った示現エネルギーは衝撃の波となりアローンの装甲を破砕しながら上へ伝わっていき、穴から出るのはすでに活動不能となりバラバラになった灰色の装甲破片の屑のみ。そしてその中から支えを失い落下してきたのは赤い怪しげな光を撒き散らすおそらくはアローンの核だ。

 

 

あかね「核!あおいちゃん、攻撃してくるよ!!!」

 

 

海へと落下しながらもその輝きの純度が増した意味を理解したあかねは叫びながら核を追った。あおいは自分へと飛んでくる光線を警戒し距離を開けるため高度を上げたが狙いは武器を失ったあおいではなく自分を追ってくるあかね。高速で距離を詰めるあかねに向かって放たれた光線はただ立っているだけの時の数倍の速度で迫りくるのだが、あかねはそれをひょいひょいと容易にかわす。手に持ったネイキッドラングを投げることはしない。投げるためのモーションに入ればそこを狙い撃ちされる危険もあるし光線で迎撃される可能性もある。あかねはその速さを保ったままアローンへと肉薄し接近戦を挑むことにしたのだ。

 

 

アローンの核はその表面に装甲部分を徐々に再生させながら身軽になった恩恵を存分に利用しあかねから必死に逃げる。しかしあかねは攻撃を紙一重でかわしながらその距離を確実につめていた。それが0になるまでに距離はかかったが時間はほとんどかからなかった。あかねはネイキッドラングを以前もやってみせたように中心部分を軸に折りたたみ剣のような形態に変化させると、アローンの手前で大きくひねりを加えた飛行で最後の攻撃を避けたあと加速を乗せた刃で装甲ごと核を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

あかね「撃破!」

 

 

散らばるアローンの残骸を避けるためその場を離脱しながらふと前を見ると、どこかの島の近くまで追ってきていたようで斜め前の結構近いところに砂浜が見えた。急に全力での飛行と攻撃を行いすこし息が切れたのでそれを整えるためにそのまま空を飛んで砂浜にどすんと着陸しあおいがいるであろう上空を見上げるがそこからでは見つけられなかった。空のどこかにいるはずの青い光を探していると連絡が入った。あおいからだ

 

 

 

あかね「どうしたのあおいちゃん?アローンは倒したよ?え、今?今どっかの島の砂浜に着地したよ。え?なに?どーしたの?2人?なにが?ちょ、落ち着いて落ち着いて。今からすぐ行くから。・・・筋肉痛が限界に来たのかな。」

 

 

よいしょ、と掛け声を小さく掛け声を出し身体をフワリと浮かせた瞬間だった。なにか強烈な感情をはらんだ視線を背中に感じ、あかねは思わずラングを構えながら後ろを振り返った

 

 

「・・・」

 

 

 

凜、とした少女と目が合った。クールなれいとはまた違い和な空気の中に冷静さと激しさが合わさったものを漂わせている。深い緑色の髪を後ろでたばね、同じく緑の目であかねをまっすぐと見つめてくる。その服装が上下剣道着なのもあいまって、侍という単語がぴったしだとあかねは思った。

 

 

「見ていました。」

 

 

あかね「え?なにを?」

 

 

「それは・・・剣、ではないのですか。でも見事な一撃、私、心底感激しました。」

 

 

彼女は興奮を抑えるような落ち着いた声であかねに語りかけてきた。なにが言いたいのかよくわからなかったかねだったが、ほめられていることを察してありがとうと返す。

 

 

「是非、名をお聞かせ願えませんか?」

 

 

 

あかね「名乗るほどのものじゃあございません。私は、通りすがりのビビッドレッド。それ以外の何者でもありません。」

 

 

 

くるりと振り返るとあかねは背中でそう語った。アローン関連の出来事は実は国家機密レベルに秘匿事項として今後扱われることになったのが決まっていたことをあかねは知らなかったし、自分が示現力を扱いアローンと戦える数少ない人間であることを隠さなくてはならないのだということも彼女はまだ誰にも教えられていなかった。ただ今回名乗らなかったのは、ヒーローは正体を隠すものだし、こういう風に名前を聞かれる機会もなかったのでただちょっと格好をつけただけだった。しかしその姿に、彼女は心底心を奪われたのだ。

 

 

彼女は避難命令が出ていることを知らなかった。砂浜近くの秘密の修行場での特訓を終え、砂浜で1人海を見つめながらかねてよりの悩みについて思いをめぐらせていた。そんな彼女がふと空を見上げると、赤い光を放つ二つの飛行物体。なにかに追われている方は黒い金属を身体に纏いながら赤い光線を空にむかって撃っていた。もう1つの光は人間だった。目で追うのもやっとな光線を完璧に見切り不自然な体勢から手に持った得物で一閃。

空中でアクロバティックに前転を決めながら自分の目の前に降りてきた段階で、彼女は完全に目を奪われていたことに気付いたのだ。

 

 

(私が他人の剣を美しいと思うのは、初めてだ。)

 

 

空へ飛び立とうとしている彼女に追いすがるすべを持たない自分の力の無さを恨みながら、彼女は手に持った竹刀を強く握りしめ小さくうなった

 

 

「弟子にして欲しい・・・」

 

 

 

大武辺者剣道少女、三枝わかば。若干14歳にして同い年の女の子に侍という第一印象を持たれるほどの空気を纏った彼女は、緑の髪を潮風になびかせてその鋭い瞳を大空へ向けた。無力に地をはいずることしか出来ない自分と相反する、翼をもった赤い瞳の少女に魂を惹かれた2人目の女の子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




少々お待たせしました。前半部分はすぐかけていたのですが、後半と仕上げをやるまでに間があきました。特に忙しくはないです。


英雄が自分でなければならない理由。示現力を扱える人間が一色家だけ、という今回のお話でした。変身して戦う英雄は本人は強くなくても、変身できれば誰でも戦えるのでは?というのは結構あると思います。そこのところの設定のお話でした。


わかばちゃんをやっと出せましたね。どういう風なキャラとして扱うかはもう決まっているのですぐかけると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 あおい「次元の穴から来るもの」

作中の季節ですが、春先ということにします。あおいの進級は、前年度から休んでいたあおいがこの春に帰ってくる際2年として扱われるのかまだ決まってなかった、という事にしてください 


時間を少し戻し、あおいとあかねが上空で待機していた時。もも達はやっぱり地下でおとなしくしていなかった。

 

 

もも「ここから見えるかな・・・」

 

 

れい「ねえ芳佳。いいのかしら。私たちこんなところにいて。あかねは地下の避難所に行くように言っていたけれど。」

 

 

芳佳「心配じゃないの?心配でしょ?それにももちゃんを1人にしておくなんて年上である私たちの責任能力を疑われるよ。」

 

 

そもそも年上としてももを無理やりにでも避難させるべきなのでは、と思ったが自分はもう気持ちで負けているので芳佳を言い負かすことは不可能だとれいは悟り、諦めて空を見上げた。そこは数分前にあかねとあおいが変身を行った砂浜だった。

 

 

もも「妹としては、なにが起こっているのか見ておく必要がありますからね。・・・あれはあおいさん、かな?」

 

 

芳佳とれいはももが貸してくれた双眼鏡で遠くに輝く赤と青の光の方を観た。これは管理局系列の開発部門が発明した最新のもので、遠くのものを鮮明に映し出してくれるカメラが内臓されている優れもの。祖父の部屋にあったものをももが勝手に持ち出したのだ

 

 

芳佳「2人とも飛んでるね。あおいちゃんって子は力持ちなの?」

 

 

もも「いえ、身体が弱くてなんども入退院を繰り返すお嬢様でこないだやっと体調が落ち着いたので一時的に退院した人のはずなんですが、昨日からお姉ちゃんに負けないくらいの元気っ子になってました。」

 

 

れい「・・ ・この島の空気にはすさまじい治癒の成分があるのかしら。」

 

 

芳佳「こりゃ記憶喪失もすぐなおるね。まったくあかねちゃんの言うとおり。」

 

 

もも「あの穴、なんですかね?双眼鏡にゴミがついているなんてことないはずですけど」

 

 

芳佳「穴?・・・穴、だね。穴だ。」

 

 

れい「なにかしら・・・。天井に書いてある空の絵に穴が開いたような、そんな風に見えてしまうわね。」

 

 

芳佳(次元の穴だ。あれ。)

 

 

ふとそんな名称が連鎖的に頭に浮かんだことに驚いた瞬間、芳佳の背筋を強烈な悪寒が走り抜け鳥肌がたつ。こめかみに強烈な痛みが走りそこを片手で押さえながら地面に落ちそうになる膝を支え彼女は無意識に叫んでいた

 

 

芳佳「くるッ!あかねちゃん、来るよ!!!!」

 

 

 

耳元で突然でかい声を出されてれいとももは思わず空から目を離してしまったが空からさす太陽の光が少しだけ何かに遮られたかのように弱まってしまったのに気付きまた空へ視線を戻した。

 

 

空にぽっかりあいた黒い穴が大きな力に引き裂かれるようにぐんぐんと広がっていく。その中からはこれまた黒く、しかし薄く光を放つ何か金属体のようなものが不快な音を出しながら海にむかって落ちてきていた。

 

 

芳佳「とめないと・・・!あれを出したらダメ・・・!」

 

 

れい「芳佳!?芳佳、どうしたの!?頭が痛いの!?しっかりして!」

 

 

<ドッッゴォォォォン!!!>

 

 

これまたれいは視線をあっちにいったりこっちにいったりさせるハメになった。空を睨みながらも頭を抑え苦しがる芳佳、そして頭上で雷が一度に何発も落ちたような轟音が鳴り砂浜の砂が一瞬飛び跳ねるほどの衝撃が空気を揺らした。

 

 

もも「く、砕けてく・・・!あおいさんがやったよ!あ、なに!?赤いのが・・・!」

 

 

ももはぐるぐると目まぐるしく変わる突飛な出来事に思考が追いつかず言葉足らずな実況を行うので精一杯だった。穴から溢れだす灰色の金属片の中から飛び出した赤い核を丁度あかねが追いかける場面だ。

 

 

れい「なにあれ?うっ・・・!」

 

 

赤い光を空に向かって吐き出しながら落ちていく赤い光源を見ていたれいはすさまじい頭痛に襲われ思わず双眼鏡を取り落とし、砂浜に膝をついてめまいを抑えようと目を閉じて下を向く。突然隣の2人がダウンしたのでももは大慌てだ。

 

 

もも「れいさん!?ど、どうしよ・・・。れいさん!?芳佳さーん!?」

 

 

芳佳「ああ、うん。大丈夫、もう落ち着いてきたから。それよりコアはどうなったの!?」

 

 

もも「こ、コア?なんですそれ?」

 

 

芳佳「あの穴から落ちてきたあの赤いのだよ!どこいったの!?」ユサユサ

 

 

もも「あわわわ落ち着いてください!お姉ちゃんが追いかけてたぶん壊したと思います!海のそばで爆発してましたから!」

 

 

芳佳「そ、そう。うん、ならいいんだ。」

 

 

芳佳はこめかみを手で押さえながら顔をしかめて砂浜の上にお尻をついて足を投げ出して座り込んでしまった。どうしたのか聞こうにも突然何か複雑そうな表情を浮かばせ考え込むような雰囲気を出されてしまいももはれいの背中をさするくらいしかやることが無かった。

 

 

れい「うー・・・ありがとうももちゃん。なぜだがあの赤いのを見てるとすっごく頭が痛くなって・・・。」

 

 

芳佳「れいちゃん。なにか思い出した?」

 

 

れい「それは・・・あなたは思い出したのね?」

 

 

芳佳「軽くだけどね。あれが何か解ったし・・・ちょっと混乱してるけど、もう少ししたら整理がつきそう。れいちゃんは?」

 

 

れい「ううーん・・・残念ながら・・・。こう、なにかがこみ上げてくるような感覚がふっとあったんだけどすぐ消えてしまったわ。」

 

 

れいは隠し切れない悔しさを息に混ぜて砂にむかって吐き出した。自分がなにか思い出せるヒントはあの赤い光に関連するものに潜んでいることは解った。これは大きな前進だろう。頭痛は酷いがとにかく記憶の手がかりを見つけたことはれいにとって喜ばしことだった。

 

 

芳佳「・・・」

 

 

しかし、記憶を取り戻したらしい芳佳の顔はすっきりとしたものではなかった。色々と混乱している、というのはうそではなかったが芳佳は自分の記憶をたぶんすっかり思い出していた。それでも整理がつかないと言ったのは、肝心のことが解らなかったからだ

 

 

芳佳(なんで私、ここにいるの??)

 

 

________________________________________

 

 

 

あおい「ふうう・・・やったぁ。」

 

 

あかねがアローンの核を破壊した事を遠目ながらに確認すると、あおいはやれやれと頭を振ると両手で腰に手を当てた。変身したことであまり気にならないが、消耗していた身体で全力の攻撃を行った反動は確実に感じる。たぶん変身を解除すると今度こそ倒れるだろうと今から冷や汗が出るが、それよりあかねが上がってこないことが気になった

 

 

あおい「海に落ちたりはしてないはずだけどなぁ。どうしたんだろ?」

 

 

<ゴゴゴゴゴ・・・>

 

 

あおい「あっ!穴がまた・・・!」

 

 

 

アローンを吐き出したあと急速に狭まっていったはずの穴がまた徐々に広がってきていた。あおいは下の方にあかねの姿が見えないことをもう一度確認すると、その手にハンマーを出現させ迎撃の体勢を整えた。不安からくる冷や汗と、消耗からくる疲労感の波が押し寄せてきている

 

 

ネイキッドインパクトのセイフティを解除し放つ技は、まさに必殺技。直撃させればアローンの装甲など容易く粉砕する。しかし、それを放つ時は敵を倒し戦闘を終了させる時だ。連戦を意識していない大技は当然もう一発打つ余力などあおいに残さないし変身も長時間保てない可能性すらある。

 

 

 

あおい「あかねちゃんはこっちが見えてるはずなのに・・・!あ、そうか通信ができたんだ!どうやるんだっけ」

 

 

 

しかし、もう遅かった。次元の穴はまだ先ほどアローンが出現した際の半分ほどしか開いていないにも関わらずその中心から光に包まれた人間大の球体を二つこの空間に吐き出した

 

 

 

あおい「うーっ、先制攻撃あるのみ!」

 

 

 

腕を引いてハンマーを後ろにやるとあおいは球体の片方をめがけて突っ込んだ。

 

 

 

あおい「えええええいっ!!」

 

 

 

声を張り上げながら全力をもって横振りで殴りつけた。垂直に球体に当たったハンマーはその衝撃を余すことなく伝導させた。ガラス球のようにあっさりと砕け散るさまを見てあおいは拍子抜けしたが、その破片を吹き飛ばす旋風が自分へめがけ突っ込んでくるのを見るとすぐに振りぬいたハンマーを身体を軸にぐるんと回転させると今度は頭上からまっすぐに振り下ろした。しかし、今度は手ごたえがない。視界の端に、なにかが左の方へ移動するのをとらえると距離を開けるため反対方向へ短く跳躍した。

 

 

 

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!わたくしは怪しいものではありませんわ!!」

 

 

 

あおい「怪しい人はみんなそういうんです!甘んじて正義の鉄槌を受けてください!」

 

 

 

「そんな理不尽な正義たまりませんわ!とりあえずこちらも攻撃しませんから落ち着いて・・・」

 

 

落ち着け、といわれてあおいは素直に落ち着いてみた。相手はアローンには見えない。アローンと同じ方法で現れたが、あおいの目の前にいるのはたぶん人間だ。しかしその下半身は人間の足ではなく機械でできているようだ。足があるべきところにはロケットのようなものが二つついていて、その先から薄い青色の気体が放出されておりそれを推進力にして浮いているように見える。しかしその手に持っているものにあおいの目は釘付けになった。それは大きな大きな、マシンガン

 

 

 

あおい「お、女の子が飛んでるぅ!しかもめちゃくちゃ物騒なもの持ってるよぉ!!」

 

 

あかね『どうしたのあおいちゃん?アローンは倒したよ?』

 

 

 

この瞬間通信が繋がったようだ。どこからかあかねの心配そうな声が聞こえる。状況を伝えようとしたあおいだが目の前の状況はなお動いていた。もう1つの球体を内側から壊しもう1人同じような格好の人間が出てきたからだ。

 

 

あおい「ふ、2人になった!しかももっと大きい銃もってる!あかねちゃん速くきて速く!!」

 

 

もうあかねの言葉は耳に入らない。よく解らないがアローンと同じ場所から武器をもってやってきた謎の2人相手に落ち着いて友好的な態度をとれるほどあおいは大物ではなかった。ネイキッドインパクトを油断せず構えるとじりじりと間合いをつめながら声をかけた

 

 

あおい「な、なにものなんですか!?テロリストですか!?」

 

 

「いくらなんでもテロリスト呼ばわりとは酷くありませんこと!?ああ、確かにわたくし達の持っている武器は少々大きめですが・・・それでもあなたの持ってるものの方が怖いのですけれど」

 

 

「飛んでるのはおたがい様ですし。あの、とにかく落ち着いていただけませんか?攻撃する意志はありませんし。」

 

 

相手が大きな銃を背中に背負ってこちらになにも持っていないことをアピールするためひらひら手を振ってきたのを見たあおいはネイキッドインパクトを再び粒子に戻した。相手が武器をもたず話し合いの場を要求してきているのにそれでもなお敵意をむき出しにするのは無礼すぎる。それに

 

 

あかね「あおいちゃーん!」

 

 

あかねが到着したからだ。あおいが落ち着くのに必要なものはこれ以外なにも必要ない

 

 

あおい「この2人はアローンが出てきた穴から出てきたの。お名前は・・・聞いてなかった!」

 

 

「名乗らせていただきますわ。わたくしはペリーヌ・クロステルマン。ほらリーネさんも」

 

 

「リネット・ビショップです。リーネと皆さん呼んでくださいね。」

 

 

「私は一色あかね!こっちは二葉あおいちゃん!それで、2人は一体なんなの?」

 

 

ペリーヌ「直球ですのね。私達は501特殊戦闘部隊所属、ストライクウィチーズの隊員ですわ。作戦を実行中にネウロイが逃走するため発生させた次元の穴を通ってこちらの世界へ来たんですの。」

 

 

あかね「?」

 

 

あおい「軍人さん・・・ですか?あかねちゃん、おじいさんに聞いてみて?」

 

 

健次郎『悪いが聞いておった。スピーカーモードにさせてもらうぞ。わしはこの一色あかねの祖父、健次郎じゃ。諸君はアローンと同じく別次元から来たということか?』

 

 

リーネ「わあ信じてもらえた!普通こんなこと言うと頭おかしいと思われちゃったりすると思ったんですけど案外いけましたねペリーヌさん!」

 

 

ペリーヌ「わたくしもですわ。すんなり話しが通るとは運がよかったですわね。 ええそうです。わたくし達は限定的な手段ではありますが異世界へ跳躍する方法を有していまして、敵を追ってこちらへ来ましたの。そのアローンというのはわたくし達が現れた次元の穴から現れたものですわよね?」

 

 

あかね「うん。」

 

 

ペリーヌ「そう・・・。わたくし達の世界ではそれを『ネウロイ』と呼称しておりますの。赤いビームを撃ってきて、コアを破壊すれば倒せるという特徴も一致しますの?」

 

 

あかね「うんいっしょ。」

 

 

リーネ「なら、ネウロイはこの世界に逃げ込んでたってことでしょうか?ならやっぱりここに・・・。すいません!私達と同じようにここにやってきた人を知りませんか!?宮藤芳佳って言う女の子なんですけど!」

 

 

あかね「芳佳ちゃんなら今日のお昼ごろ海岸で拾ったけど、なんか記憶喪失みたいだったからお家で休んでもらってるよ。そっか、芳佳ちゃんは異世界からきたのか・・・」

 

 

あおい(え?私が寝てる間にそんなことあったの・・・?そういえばあかねちゃんの後を追ってた時にだれかいたような)

 

 

話の腰を折るのもあれなのであおいはそのことについてあかねに問うようなことはしなかった。一方あかねが芳佳をしっていると聞いた瞬間のリーネは顔を輝かせたが記憶喪失であると聞くと今度は顔を真っ青にかえた。

 

 

ペリーヌ「海岸で拾った、ですって?それに今日のお昼?太陽の位置的に・・・今は夕方くらいですわよね。おかしい、宮藤さんが消えてからもう三日はたつはずですが・・・ちょっとリーネさん落ち着いてくださいませんこと?」

 

 

リーネ「ペリーヌさん気にならないんですか!!?ああ芳佳ちゃん・・・せっかく見つけたのに記憶喪失だなんて・・・」

 

 

ペリーヌ「心配してないわけないでしょう?そもそも!ネウロイの次元の穴を見つけた瞬間周りの制止もガン無視して考え無しに飛び込んでいくとは危険すぎますわ!今回宮藤さんがいる空間にこれたのはたまたまだったんですわよ!?」

 

 

 

リーネ「そういえばなんでペリーヌさんついてきたんですか!?」

 

 

ペリーヌ「わたくしが!あなたと!小隊を組んでいたから!おいかけるしかなかったんですの!!」

 

 

リーネ「お、怒らないでください・・・わたしだってほら、つい身体がというか。」

 

 

ペリーヌ「それでわたくし達まで行方不明ということになっては部隊のみなさんの心配を増やすだけではないですこと!?まったく・・・ああ、あかねさんと仰りましたわね?宮藤さんと会わせていただきたいのですがよろしいかしら?」

 

 

あかね「一色家はだれでもウェルカム!友達の友達ともなれば豪華対応だよ!あおいちゃんもかなりキツそうだし、家に帰ろうか。ついてきて!」

 

 

______________________________________________

 

 

 

あかね「ここがわたしの家ね。おーい芳佳ちゃーん!お友達だよ!ってああ、地下にいるんだっけ。」

 

 

もも「あ。」

 

 

あかね「もも。なんで海岸のほうから来るのかな?おかしいよね。地下に避難しておいてって言ったのに。」

 

 

もも「あー、ちょっと待ってちょっと待って!避難はしてたよ?ただ終わったっぽいからほら!出てきてお出迎えしようって思ったんだけどお姉ちゃん達飛べるもんだから追い越されちゃったんだよ!」

 

 

庭に着地したあかねは疑わしい視線をももに向け続けていた。ももはもう1つなにか信憑性のある言い訳を考えようとしていたが、空から見知らぬ人間が2人降りてくるのに視線と注意をひきつけられた。両足が機械の女の子達はヘリコプターが着陸する時のような風圧を少しまわりに与えながら地面に4つの棒を射出しそれを支えにして地上に身体を固定した。

 

 

ペリーヌ「それっ!」

 

 

機械に押し出されるように金髪の少女は宙に飛び上がり、くるんと後ろ向きに回転してやわらかい地面に見事な着陸を決めた。もう1人の女の子も同様の動きで機械から脚を引き抜き地上に降り立った。

 

 

ペリーン「地上着陸は疲れますわね・・・。発進台のかわりになにか探さないとですわ。」

 

 

リーネ「そんなことより芳佳ちゃんです!」

 

 

あたりに芳佳の姿を探すリーネだったが、その時家の正面の道に向かって開いている庭の入り口から頭を抑えたままの芳佳が現れた。後ろにはれいもいる。顔を上げた芳佳がリーネを認識するより早く、リーネは芳佳をその腕でしっかりと抱きしめていた

 

 

リーネ「芳佳ちゃん!ああ芳佳ちゃん!よかった無事で!」

 

 

芳佳「ちょ、前が見えないって!・・・ん?この顔に当たる胸の感触これはリーネちゃんだね!!!!」

 

 

リーネ「記憶喪失だって聞いてたけど私がわかるんだね!よかった!この際その認識方法には突っ込まないでおくね。」

 

 

芳佳「うん、さっきネウロイが出てくるのを海岸で見てた時に記憶戻ったんだ。でもまさか記憶が戻ると同時に会えるなんて・・・これは運命だね・・・」

 

 

しっかりと抱き合う2人を感激しながら見つめる一同。親友である芳佳とリーネは次元を超えた再開を果たしたのだ。

 

 

あかね「今芳佳ちゃんああ言ってたけど?もも。」

 

 

もも「え?あっ」

 

 

あかね「ねえもも。一回空、飛んでみたいよね?わたしすっごく速く飛べるんだー。」

 

 

もも「ひぇぇ・・・」

 

 

あかね「それより。2人とも脚が機械製ってわけじゃなくて、あれ空飛ぶ長靴だったんだね。びっくりしたよ。」

 

 

ペリーヌ「よかったですわねリーネさん・・・。 え?ああ、ごめんなさい。ストライカーのことですわね?それについてもお話いたしますけど、先ほど私達と話したがっていたご老人の方はどちらにいらっしゃいますの?できるなら一度ですませたいので。」

 

 

健二郎「ワシじゃ。」

 

 

ペリーヌ「あら。喋るお人形さんとはなんとも驚きですわ。あかねさん。こちらの世界では一般的ですの?」

 

 

あかね「リアクションうっすいよー。ううん、たぶんこの世界でたった一人だと思うよ。こちらわたしのおじいちゃんで、このペレットスーツとかを開発してくれた偉い科学者だから色々話してあげて。わたし難しいことわかんないからさ。あ、どうぞあがってあがって。」

 

 

ペリーヌ「よろしくお願いいたします。そうですわね、色々お話することもございますし。リーネさん宮藤さん!再開の感動はその辺で一度切り上げてはどうですの?」

 

 

リーネ「ううん・・・そうですね。芳佳ちゃん、行こう?」

 

 

芳佳「OK。あ、ペリーヌさんも来てくれたんですね!ありがとうございます!」

 

 

ペリーヌ「大きなケガもないようで何よりですわ。まあ、あなたならそんなものすぐ治してしまうと思っていましたけれど。」

 

 

芳佳「えへへ、まあそうなんですけどね。」

 

 

 

ペリーヌ「・・・でもまあ、本当に生きていてよかったですわ。」

 

 

玄関に先に入っていったあかね達が裸足で外に出たため汚れた脚をふいたりしているのを外で待つ芳佳の横で、目をあわさず小さな声でペリーヌはそう言った。

 

 

芳佳「えっ!心配してくれてたんですか!」

 

 

ペリーヌ「あなたねぇ・・・。あんな風に消えておいて心配しないようなほどわたくしが冷たい人間に見えるとでもいいますの?」

 

 

芳佳「冗談ですよ。・・・記憶が戻ってももし1人のままだったらどうしようもなかったです。来てくれてありがとうございます。」

 

 

ペリーヌ「でも、わたくしとリーネさんだけが来たってどうしようもありませんわよ。わたくし達ストライカーと武器以外ほぼ手ぶらですし」

 

 

芳佳「だとしてもです。私、ペリーヌさんが思ってる以上にさびしがりなんですよ?この世界でたった一人のウィッチだなんてさみしくて死んじゃいます。」

 

 

ペリーヌ「あなたの使い魔はうさぎじゃないでしょう?大丈夫ですわきっと。」

 

 

芳佳「成程、それはなによりです」

 

 

2人で顔を見合わせてくすくす笑うと、やっとスペースのあいた玄関へと入っていった。

 

 

もも「あーっとペリーヌさんも裸足ですね!タオルもってきますからそこで待っててください!まったく、空飛べる人はなんで外を裸足で歩くのかなー・・・」ドタドタ

 

 

ペリーヌ「あー・・・そうでしたわね。外でストライカーを外すことなんて無かったものですから失念していましたわ。」

 

 

リーネ「うっかりでしたね。基地から出る時は発進台のとこに靴置いてましたけど異世界にくると解っていたら靴を履いてから装着するべきでした。それより外でなに話してたんです?」

 

 

同じく靴を履いてなかったので脚についた砂をはらっていたリーネは興味ありげに聞いたが、芳佳とペリーヌはそろってさぁ?と首をかしげるだけでなにも言わない。追求してもだめだろうと諦めてリーネは一足先に居間へと案内されることにした。

 

 

あおい「わたし二葉あおいといいます」

 

 

れい「黒騎れいです」

 

 

居間では初対面となるあおいとれいが互いに名を名乗っているところだった。寝ていたあおいは芳佳とれいのことを知らず、先にリーネとペリーヌのことを知った。なんとも変な順序である。芳佳とペリーヌ、健二郎を含め全員が顔をそろえ、ももがお茶をみんなに1つずつ配り終えたところで健二郎が切り出した

 

 

 

健次郎「よし、始めよう。君達が来た世界のこと、君達のこと。我々の世界のこと、我々のこと。うむ、先にこっち側の世界のことを話しておこうかの。ホームグラウンドじゃし。」

 

 

健次郎「君達が追ってきたもの。あの黒くてビームをぶっ放すもの。あれのことを我々はアローンと呼んでおる。あれは我々の世界にある最先端エネルギー、示現エネルギーを狙っており、この島の近くにある示現エンジンを狙い侵略行為を繰り返しておる。といっても出始めたのは昨日からで、さっきのは二体目じゃがな。

 

 

ああ、次元ではなく示現、じゃ。漢字はこうで・・・。うむ。あかねとあおいちゃんはその示現エネルギーを利用しアローンと戦える現時点でたった2人だけの人間じゃ。おそらく君達が興味があるのは、我々とあのアローン・・・もしくは君達のいうネウロイとどういう関係性なのかじゃろう?」

 

 

ペリーヌ「感謝いたします。あなた方がネウロイ、もしくはアローンと敵対関係であることがはっきりとわかりましたわ。」

 

 

 

あかね「もしかしてわたし達がアローンの味方だとか思っちゃったの!?そりゃ酷いよ!誓っていうけど、わたしはアローンの敵だしアローンとネウロイが同じ意味だっていうならネウロイの敵だからね!大丈夫だよ!」

 

 

考えたくはないことだが、ペリーヌとリーネはこの世界がネウロイの発生源ではないかと疑っていた。敵が逃走するワープホールに飛び込むということが何を意味するのかを考えれば当然のことであった。あおいに対して敵意を向けないことを見せたのは、ただここがアウェイであったから。多勢に無勢、芳佳を助けることもできず死ぬようなことだけは避けなければならなかった。

 

 

しかし、おいかけてきたネウロイはおらず、あおいとあかねは・・・まああおいはこちらに思いっきり攻撃してきたのだが、それでもこちらが素直に降参すれば武器を収めそれっきり特に敵意は向けてこないしなにより一色あかねの目を見た瞬間ペリーヌはなんとなくこの世界は大丈夫だと解ってしまった。

 

 

 

ペリーヌ「大丈夫ですわ、信じます。だってあなた・・・」

 

 

ペリーヌ(宮藤さんと同じ目ですもの。なにかを護ってる人の目。)

 

 

あかね「え?なぁに?」

 

 

ペリーン「宮藤さんを介抱してくれたんでしょう?悪い人だなんて思いたくありませんわ。さて、あなた方がネウロイもしくはアローンの敵だということがはっきり解った以上、わたくし達は共通の敵をもったことになります。であるならばお話しますわ。こちらの事を。」

 

 

 

ペリーヌ「ネウロイはわたくし達の世界でも侵略者として扱われております。まあその真の目的は侵略とされていますけれどはっきりとしていませんわ。出現の記録は数十年前からありましたけれど、その被害が頻繁になってきたのはここ数年の間。敵がどこから現れるのか、それを調査しつつネウロイを撃破するために設立されたのがわたくしとリーネさん、宮藤さんも所属するストライクウィッチーズ。あかねさん達もこの世界でアローンと戦えるたった2人の人間とおっしゃられましたように、こちらの世界でもネウロイに対抗できる手段は非常に限られています。その一つが、魔法の力。」

 

 

 

ビリッ、っと部屋の空気に静電気が走ったような刺激が走る。あかね達は突然肌に走った感覚に思わず戸惑ったが、ペリーヌを見て合点がいった。これは彼女の力なのだと。ペリーヌの身体は青白い光を放っており、その強さは身体の輪郭線が青い光で縁取られているように見える程度

 

 

しかしそこから感じ取れるエネルギーの大きさはあかね達が変身したときに辺りに溢れるものに似たなにかを持ち、ペローヌの身体から放たれる小さな青いスパークが空気を痺れさせている原因だ

 

 

 

そして、その耳。人間は横に耳がついているもので、当然ペリーヌもそれに類する。だがその頭の上には、猫耳。あかね達からはよく見えないが後ろのお尻の部分からは動物の尻尾がぴょこんと飛び出している

 

 

ペリーヌ「《ウィッチ》。魔女、という意味ですわ。1人一体動物を模した使い魔を体内に持ち、耳と尻尾はその影響です。わたくし達が使う力は魔法力と呼ばれるもので、この力を有しているものはネウロイに有効な攻撃を与えることができますの。リーネさん、芳佳さんもウィッチですわ。」

 

 

あおい「だからウィッチーズ、なんですね。」

 

 

ペリーヌは頷いた後目を閉じて力を自分の身体の中に戻し、耳と尻尾を引っ込めた。

 

 

ペリーヌ「ご存知でしょうが、アローンに通常兵器の効果がないようネウロイもそれと同様です。対ネウロイ用の人員として集められたわたくし達は対ネウロイ用に造られた兵器を用いて空を飛び、戦います。それが魔法飛行脚、ストライカーユニット。今庭に置いてありますあれですわね。あれは飛行能力だけでなくわたくし達の魔法力を何倍にも増幅する効果を持ちますの。」

 

 

あかね「へえー!魔法だって。本当にあるもんなんだね」

 

 

もも「お姉ちゃん達もはたから見たら魔法少女だよ。」

 

 

あかね「かっこいいでしょ?」

 

 

もも「うん。」

 

 

あおい「なら。れいちゃんは芳佳ちゃん達と同じ世界から来たんじゃないですか?おんなじ場所に倒れてたってことは」

 

 

おずおずとあおいが切り出した。これはれいも気になっていたことだ。もしかしたら芳佳達と同じ世界から自分も来たのかもしれない。たとえ自分がウィッチでないとしても。

 

 

ペリーヌ「おそらく違いますわ。こちらの世界で次元の穴を通ったことがあるのは宮藤さんが第1号らしいので。わたくし達が図らずも第2号ということになってしまいましたけれど。もしかしたら宮藤さんの前にも次元の穴の被害にあったのかもしれませんが、その可能性は低いですわね。普通あの穴に吸い込まれるなんてことはありませんもの。相当上空に出現するものですし、たった一人で倒れていたというのならなおさらですわ。」

 

 

リーネ「れいさんはまたべつの世界から、ということですか?」

 

 

健次郎「それかこの世界でただ偶然あそこに流されただけかじゃが、そちらの可能性は薄い。このブルーアイランドの海はかなり厳しい監視網がしかれておる。それとなく調べさせたがこの島に流れ着く可能性のある海流で難破した船の記録は一切ない。」

 

 

れい「なら私はあかねの世界でも、芳佳の世界でもない第三の世界から来たということかしら?やれやれね・・・」

 

 

自分の出生を知ろうとするとどんどん状況が悪くなっていくような気がしてきた。どうやら自分が取り戻す記憶は穏やかなものではないだろうという嫌な予感が頭に浮かぶのを抑えることができない。失くしたものを取り返したいと願うのは当然のことだと思っていたが、これではこのまま何も知らないままこの島で普通に過ごしていたほうが幸せなのかもしれない

 

 

あかね「いいんじゃないかな。それでも。」

 

 

あかねはさらっと肯定してくれた。

 

 

あかね「そりゃわたしもれいちゃんは記憶を取り戻したいだろうと思ってたけど、れいちゃんがそう考えるのももっともだよね。楽しい記憶なら当然取り戻したほうがいいだろうし協力するよ。でも思い出さないという選択肢をとっても、わたしは全然ありだと思うな。」

 

 

ようは自分次第なのだ。長い人生、嫌なことを忘れることは難しい。記憶を失ったのはある意味好都合なのかも。れいはだんだんとそういう思考に向かっていく。

 

 

ペリーヌ「時間が経てばわたくし達のように黒騎さんのことを知っている人間が現れるやもしれませんわ。それこそ次元の穴を通って。」

 

 

れい「そうね・・・。時間に解決してもらおうかしら。私が考えてもどうにもならないことだし、気がめいるだけだもの。」

 

 

れいの正体を考える話は終わりペリーヌとリーネの今後のことについての話をすることになった。まず、ペリーヌ、リーネに元の世界に帰る手段はないということ。

 

 

芳佳「帰る手段を考えてないだなんて、やれやれだよペリーヌさん。後先考えない行動はダメっていつも私が怒られてるの聞いてるでしょ?」

 

 

ペリーヌ「ええ、後先考えない行動はあなたの専売特許ですものね。なんでドヤ顔でそれを言うのか解りませんけれど。」

 

 

リーネ「でも大丈夫だよ。たぶん待ってたらそのうち助けに来てくれるはずですから。501は頼りになる人ばかりですからね」

 

 

ペリーヌ「どうしてその考えを次元の穴に飛び込む前にはもてなかったんですのリーネさん・・・。」

 

 

芳佳「私達も時間がなんとかしてくれるのを待つしかありませんね。もう一度次元の穴に飛び込んだとして今度はどこに流されるかわかりませんし」

 

 

ペリーヌ「となると、今後のわたくし達の動きですが・・・健二郎博士。その、少し不躾なお願いではありますのけれど―」

 

 

健次郎「む?ああ、なるほど。諸君はここを拠点とするといい。記憶が戻ったとはいえ帰る場所が無いのは同じなんじゃ。それに君達の力と技術を放っておくのは非常に危険。ワシが責任を持って君達がこの世界で安全に行動できるよう取り計らう。」

 

 

ペリーヌ「ありがとうございますわ。」

 

 

あかね「放っておくと危険って、どういうことなのさおじいちゃん。」

 

 

健次郎「んん?まあ・・・あんな大きな銃を振り回しながら飛び回る女の子は世間一般的にかなり危ないものに映る可能性があるじゃろ?お前達も同じじゃ。むやみに人前で見せびらかしていい力ではないぞ。」

 

 

あかね「と、当然でしょ!解ってる解ってる。」

 

 

健次郎「うむ。武器の類は使っていない地下格納庫を1つ貸そう。音声認識で地上にせりあがってくる素敵仕様じゃ。あとで使えるようにしておく。」

 

 

ペリーヌ「ただで住まわせていただこうとは思っておりません。次回以降のアローンとの戦闘、わたくし達も微力ながら協力させてください。」

 

 

健次郎「我々の敵は同じなようじゃからの。感謝する。しかし無理はしないでほしい。この世界に君達の兵器の整備を行える環境がない以上、緊急事態以外はあかね達に基本任せる形でかまわない。」

 

 

ペリーヌ「了解いたしましたわ。」

 

 

協力体制を取ってくれると申し出たペリーヌとリーネに健二郎はこの世界のこと、示現エンジンに関するいくつかのことを簡単にまとめて話した。管理局のこと、連合軍のこと。そしてあかね達のことを。ペリーヌとリーネはしっかりそれを聞き自分達の今後の立ち回り方の参考にする判断材料として記憶した

 

 

ペリーヌ「ではリーネさん、ストライカーを収納しに参りましょう。」

 

 

リーネ「わかりました。それはそうと芳佳ちゃんの武器とストライカーはどこいったの?」

 

 

芳佳「私の?ねえあかねちゃん。私が倒れてた周りに落ちてなかった?」

 

 

あかね「なんにも無かったよ。」

 

 

芳佳「ああ、これは行方不明だね。」

 

 

ペリーヌ「なにをのん気な。専用機が1ついくらするのか知らないわけではないでしょう?」

 

 

芳佳「まあ大丈夫大丈夫!とりあえず行っておいでよ。」

 

 

ペリーヌ「なにも大丈夫ではないと思うのですけれど・・・」

 

 

ペリーヌとリーネが使っているストライカーユニット。使用者の魔法力を何倍にも増幅させ空を飛ばせるための魔法飛行脚はウィッチ1人1人に合わせた完全専用機である。それは1人1人魔法力の特性が違うウィッチの最大限の力を引き出すためのものだ。

 

 

ウィッチ自体まだ数が少なく貴重なネウロイへの対抗策を失うことが多大な損失を生む以上彼女達には常に専用の兵器が提供されている。芳佳にも彼女のためだけに作られたストライカーがあるのだが現在彼女の手元には無い。呆れるペリーヌだが、今はリーネと共に庭に来ていた

 

 

健次郎「格納庫、オープン!」

 

 

健次郎の声を庭に隠されたマイクが拾い、庭の隅の雑草が生えているだけの場所が小さな地響きと共に自動車のガレージがペリーヌ達の前に競りあがってきた

 

 

リーネ「わあ、凄いですね!」

 

 

ペリーヌ「・・・これ地下に設置する必要性は?」

 

 

健次郎「セキュリティじゃよセキュリティ。もともと貴重な機材をしまうために造ったものなんじゃがな。君達のストライカーユニットに目をつける輩がおらんとも限らん。」

 

 

ペリーヌ「ストライカーはウィッチ以外には起動すら出来ない兵器ですが、その内部はわたくし達の世界の技術の結晶。悪用されてはなにが起こるか・・・」

 

 

リーネ「この世界にもそういうことをする人達はいるんですか?健次郎博士。」

 

 

ペリーヌ「当然でしょう。先ほどこの世界のことは大体聞いたでしょう?世界中のエネルギーをまかなえる示現エンジンだなんてどんなに平和な世界であろうと必ず狙われますわ。そうですわね?博士。」

 

 

健次郎「うむ・・・君達2人は一応軍人であったな。そういう事情はなんとなく察せるということか。」

 

 

ペリーヌの言葉に答える前に健次郎は少し後ろの縁側の方を振り返り、誰も聞いていないことを確認する必要があった。これは孫のあかね達の知らない部分の会話になるからである

 

 

健次郎「示現エンジンを狙う勢力というのは確かに存在する。アローンの到来以前に、示現エンジンは幾度となく人間の争いの中心となっておる。じゃがその戦いはあかね達を含めこの世界の人間のほとんどが与り知らんことじゃ。」

 

 

ペリーヌ「というと?」

 

 

健次郎「示現エンジンの完成によって戦争のほとんどが終了したといっていい。それは各国の平和を願う同志諸君の協力あってのものじゃ。急激な世界情勢の変化で救われた命の数は計り知れないが、それで損をする連中というのもおった。」

 

 

ペリーヌ「戦争を生業とする方達ですわね。」

 

 

健次郎「その彼らも、大半はうまく丸め込むことが出来た。あの時代、消耗していない勢力など無かったからのう。それでもなお、戦いを求める者達が消えることなどない。ワシらはアローンへの対抗策を練る前に人間同士の間に残った課題を片付ける必要が出来た。

 

 

政府はワシに協力するようにと言ってきたが、人間同士の争いなんぞワシの専門外じゃしすぐにビビッドシステムの研究に入りたかったワシは相当揉めたが、結局ワシは新たに結成された示現エンジン防衛局に加わった。そこで最低限の示現エンジン防衛セキュリティを組み上げてすぐに抜けたがの。示現エンジン防衛局はその後今の示現エンジン管理局として残り、ブルーアイランド連合軍の上層部のほとんども防衛局に所属していた連中が配置されておる。大体ワシの部下として働いておった者達じゃ。」

 

 

ペリーヌ「でした博士は相当なお力があるはずですわよね?その割には・・・」

 

 

健次郎「はっはっは、家がボロいのはアローンのせいでもあるが、この家はワシの実家でもある。改築しないのは愛着じゃよ愛着。防衛局から抜けた後も国からの支援は打ち切られなかったがワシとしては防衛局に回して欲しかったし研究は金がかかるからの。貧乏なのは仕方が無いわい。ああ大丈夫じゃ、こないだから新たな場所からの支援が開始されての、結構金が回ってきておる。大所帯になってももう心配はいらん。」

 

 

リーネ「でしたら、遠慮なくしばらくお世話になれますね」

 

 

ペリーヌ「ですわね。それにやっと楽しいお食事が出来そうですわ。あれだけ重苦しい雰囲気の食堂では味も解りませんもの。」

 

 

リーネ「芳佳ちゃんいなくなってから部隊全体に喋りにくい雰囲気漂ってましたもんね。でも味が解らないっていうのはたぶん心配しすぎで・・・」

 

 

ペリーヌ「さーて、そろそろ戻りますわよリーネさん。宮藤さんに色々聞かなくてはいけませんものね。」

 

 

リーネ「ふふふ、はいはい。」

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 




ネクスト、わかば再登場。説明文多くてすいませんね。次はアクションアクションしていく予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 「新・学園生活の始まり」

更新が遅れましたね。夏が終わることが少し悲しかったので、それで憂いていたら時間がたっていました(つまりぼーっとしていた


 

 

『次はーブルーアイランド学園島ー。学園島でーございます。左側の扉が開きます』

 

 

<ガヤガヤガヤ・・・>

 

 

 

あかね「あっっっれー。切符どこいったかな?」

 

 

もも「お姉ちゃんが私に預かっておいてって言ったでしょ?はい。」

 

 

あかね「ありがともも!いやぁ、モノレールって初めて乗ったけど静かでいいもんだね。」

 

 

なつみ「いつもよその島に行くときはあかねのバイクだからね。風がすごくて・・・」

 

 

こまり「なつみ。」

 

 

なつみ「え?ああ、今のナシで」

 

 

もも「やっぱりお姉ちゃん達バイクで海渡って遊びに行ってたんでしょ!あれだけ危ないからだめだっておばさん達に怒られたのにまだ辞めてないの!?」

 

 

あかね「いやいや、もう辞めたよ?なつみちゃんが言ってるのって随分前の話だし。ね?」

 

 

なつみ「そうそう。それよりあおいちゃんは?」

 

 

もも「・・・ああ、あそこのごった返してるところで人波に飲まれてるね。ちょっと行ってくる!」

 

 

あかね「いやーしかし・・・人多いねー」

 

 

 

以前の戦闘より、丸三日が経過していた。その間アローンの襲撃はなく、あかねとあおいの両名はその間でようやくコンディションを整えることができた。そして今日、彼女達は訳あってブルーアイランド諸島間を走るモノレールを使いはるばるこの島へやってきていた

 

 

この島は、あかね達が住む島『大島』から海を挟んで少し離れたところにある『学園島』。学園島は元の小さな島を人工的にどんどん大きく拡張し、その上にブルーアイランド学園をおっ建てた島。この学園は幼稚園から大人になるまでの教育施設が備わる一貫校であり、その豪華な設備と自由で先進的な校風が今時の子供の人気を集め創立5年目にしてとある雑誌の人気のある学校ランキングで堂々の4位にランクインしているとあおいが先日あかねに熱弁を奮ってくれた。

 

 

 

あかねは普段モノレールには乗らない。このモノレールは島と島の間を行き来する最も一般的な手段であり本土で走っている電車くらい気軽に使われるものだが子供にはお金の問題が立ちはだかる。示現エンジンがある本島のショッピングモールに遊びに行く時も、わずかなお小遣いを交通費に回さないためもっぱらあかねのワンコの出番であった

 

 

 

駅から出たところで往来の邪魔にならないよう少し離れたところの噴水そばであかねはちょっと都会の様子を伺う。駅前ですらのんびりした空気の大島とは違う。あかね達は喧騒というものに包まれる珍しい事態に少し身を任せることにした。行きかうのは揃いの制服を着た小さな子、あかね達より年上の男子高校生のような人達、垢抜けた私服の大学生らしい人の姿もある。学園島という名を疑わせない学生の多さである。他の面子を待つ間、あかねはこうなるいきさつを少し思い返すことにした

 

 

 

学校をアローンによって物理的に破壊されたあかね達に、唐突だがこのブルーアイランド学園に全員編入するという知らせが来たのはつい一昨日の朝のこと。先生からの電話で島の公民館に集い、大島分校に通うあかね達小中学生はその説明を受け、モノレール定期と教科書を受け取ると制服の採寸を行った。制服は即日で名前の刺繡いりで届く好待遇。学費は全部示現管理局から出ていると健次郎が夕飯の時語ってくれた。

 

 

れい「え?私も・・・ですか?」

 

 

制服が届いた日の夕食の席のこと。れいは驚いた表情でコロッケに伸ばした箸を空中で止めた。これだけの人数が囲んでいる食卓で箸を止めるという愚行を犯したれいが狙っていたコロッケは芳佳の口の中に入ることになった。

 

 

健次郎「うむ。君の戸籍はちょこちょこっとなんとかなるし、君がよければブルーアイランド学園にあかね達と一緒に入るといい。もちろん芳佳ちゃん達もな。」

 

 

宮藤「ふもほままほほ!?」

 

 

ペリーヌ「口にものが入ったまま喋るのははしたないですわよ。それで博士、どういうお話ですの?」

 

 

健次郎「いくら世界を救うためといえどアローンとの戦いまでこの家でじっと待つというすごし方は中学生としてあまりよいとは思えん。ワシはできるだけあかねとあおいちゃんには中学生としての生活を送って欲しい。

 

 

れいちゃんは、この家で1人悩むより学校という場で多くの刺激に触れるのは記憶を取り戻す大きなキッカケになりえるはずじゃ。芳佳ちゃん達3人も、この世界でただ助けを待つのも暇じゃろうしと思って手を回してある。軍人としての生活に慣れた君達が学校生活を送ることに抵抗を感じたりするなら断ってもらってもいい。どうかの?」

 

 

これには、健次郎なりにそれなりの思惑を潜めての提案だ。偽造でも身元を証明し学生の身分を持てば異世界組みの安全性は上がる。さらにブルーアイランド学園は示現管理局の管理下にあり、外部からの接触に対して安全性も高い。

 

 

ペリーヌ「べつにかまいませんわよ。わたくし達は軍属ではありますけれど、学生でもありましたから。」

 

 

宮藤「でも世界が変わったら中学2年生の習う範囲も違ったりするんじゃないかな?リーネちゃんとペリーヌさんは最悪の場合『ニホンゴワッカリマセーン』で押し通せるんだろうけど・・・」

 

 

リーネ「それなに芳佳ちゃん?」

 

 

ペリーヌ「あかねさん、使ってる教科書見せていただいてよろしいかしら?」

 

 

あかね「ごめん、私置き勉派だったから全部消し飛んじゃった。」

 

 

あおい「私のは家に帰ったらあると思うけど」

 

 

れい「新しい教科書は明日の朝届くのでしょう?それを見て決めたらいいんじゃない?」

 

 

宮藤「まあ大丈夫でしょ。健次郎さん、お願いします!私達も潜り込ませてください!」

 

 

リーネ「言い方!芳佳ちゃん言い方!」

 

 

ペリーヌ「不正しかありませんものね。わたくし達、生い立ちの設定をある程度考えておかなくてはなりませんわね。」

 

 

 

芳佳達もあかね達に混ざってブルーアイランドに編入することになった。ブルーアイランドの管理を行っている示現管理局のトップから先生と呼ばれ慕われる健二郎にしてみれば、ブルーアイランド内の複雑な権利関係のことは大体どうにでもなる。今まであまりそれに手を出さなかっただけだ。ここいらであかねは現実に意識を戻し過去の回想をやめた

 

 

あおい「あかねちゃーん!置いてかないでよぉ!」ヨロヨロ

 

 

こまり「この人ごみはあおいちゃんにはキツイんじゃない?」

 

 

なつみ「そうそう、あんまり無理しちゃダメだよ。小学生軍団の誘導なんて兄ちゃんに任せときゃいいんだからさ!」

 

 

卓「・・・」

 

 

実際卓は役割を放棄した中学生女子達を他所に1人手際よく小学生達をまとめあげ、さながら遠足慣れした教員のような働きを見せていた。

 

 

 

あおい「うん、お兄さんが、中学生達は先に行っておいでって。自分は小学生を連れて後から行くからって」

 

 

なつみ「ヒュー!頼りになる!さすがなつみちゃんのおにいさん!じゃあ行こうか!」

 

 

真新しい制服に身を包んだなつみを筆頭に学校へ向かう学生達の流れに乗って歩き出した。田舎から出てきたあかね達は気分が高揚しっぱなしだが、もとより都会暮らしだったあおいと記憶はないが特に思うことのないれい、集団行動にはなれっこの異世界組は涼しい顔だ。

 

 

あかね「ううん、楽しみだなぁ!こんなに新鮮な気分で学校に行くなんて、高校にあがって島から出るまでないと思ってたよ!」

 

 

こまり「だねー。ただなつみは1年だから1人別のクラス確定だから昨日はめちゃくちゃ不安がってたよ」

 

 

なつみ「ほんと、私1人とかいじめじゃんか・・・ねえちゃん達は誰か1人くらいは同じクラスになるっしょ流石に。芳佳とかリーネも2年なんでしょ?」

 

 

リーネ「う、うん。」

 

 

あかね(結局、芳佳ちゃん達ってどういう扱いなの?)ヒソヒソ

 

 

芳佳(わたしはあかねちゃんの遠縁の親戚。リーネちゃんとペリーヌさんはあかねちゃんのおじいちゃんの研究者つながりで預かった海外からの留学生なんだって。れいちゃんは・・・れいちゃんは?)ヒソヒソ

 

 

れい(わたしも健二郎博士の知り合いの研究者の孫ってことらしいわ。孤児設定よ)ヒソヒソ

 

 

あかね「これメモっとかないと忘れるね。帰ったらまとめとかないと。」

 

 

 

 

ペリーヌ「・・・」

 

 

あかね「ペリーヌちゃん、どうしたの?なんか口数少ないけど。」

 

 

ペリーヌ「ああいえ。なんというか、そうですわね・・・。緊張している、というのが一番近いのかしら。あとちゃんはやめていただけませんかしら。」

 

 

芳佳「えーーっ!ペリーヌさんが!緊張!」

 

 

ペリーヌ「普通の方々と接する方法を忘れてそうで怖いんですのよ。」

 

 

リーネ「あー・・・それは・・・確かに・・・」

 

 

芳佳「?」

 

 

ペリーヌ「宮藤さんはどっちかというとあっち側ですから解りませんわよね。」

 

 

れい「どんな学校だったの・・・?」

 

 

芳佳「えー、みんな普通の人だよ。」

 

 

ペリーヌ「その感覚を捨てないといけませんわよ宮藤さん。お願いですからお行儀よく、ですわよ?」

 

 

芳佳「心外です・・・」

 

 

雑談する余裕もここまでだった。事前にもらった地図を見て歩いていたのだ思った以上にこの学園は広かった。普段地図なんぞみないなつみは責任と一緒に地図をこまりに押し付け、こまりは姉の威厳を見せようと張り切ったものの同じところを一周してしまい、ここで今まで前についていくだけだったあかね達は迷っていることに気付いたのだった。あーだこーだもめにもめたが結局考えることに面倒くささを感じたあかねが直感に任せて走り出し不思議なことに目的の理事長室のある中央棟にたどり着くことに成功した。

 

 

芳佳「うわ、ほんとに中央棟って書いてある。」

 

 

あかね「ビビッときたからね。」

 

 

あおい「校舎も変身しちゃうのかな?」

 

 

あかね「それ最高。大型ロボットだね。昔学校の校舎が変形してロボットになるアニメを見たことある気がする」

 

 

れい「急いで理事長室に行きましょう。確か8時丁度にはついてないといけないはずよ。」

 

 

ペリーヌ「だいぶ迷った気もしますけれどまだ間に合いますわね。急ぎましょう」

 

 

 

 

_________________________________________________________

 

 

 

校長「私がブルーアイランド学園中等部校長だ」

 

 

なつみ「理事長さんではなく」

 

 

校長「この学園の理事長は示現管理局長と兼任で紫条さんだ。今回の話はあの方から降りてきた事案であり、形式として私と顔を合わせるだけで十分だろう。学園のルールに関しては生活の中で教員および学園生から聞いてくれ。時間をかけて慣れるといい。クラスは2年生は全員同じ。あとの2人はそれぞれ1人だががんばってくれ。2年担任!先に新2年生達を教室に誘導しろ。人数が多い。」

 

 

校長の役職の割りには若い、と子供達は思った。一切にこやかな雰囲気の感じられない厳しそうな男性だが話口調は不快な印象は受けられない。ひたすらに真面目なのだろう。彼は部屋の入り口から丁度入ってきた教師に間髪いれず指示を出しこれで言う事は無くなったとばかりに机の上に積まれた書類の一枚を鋭い動きで手元に寄せてペンを走らせ始めた。

 

 

 

担任「私が担任となります!とくにキャラはありません!モブですので!」

 

 

こまり「何の事かさっぱりですけど、これ朝のホームルームに間に合うんですかね?」

 

 

担任「ギリギリですね!走りましょう!お荷物は持ちましたか?さぁ行きますよ!私についてきてください!」

 

 

非常に若い男の教員だった。笑顔は仕事疲れを知らない若者特有の輝きをいまだ失っていない。彼は理事長室の扉を開け放ち小走りとはいえぬ速さで走りだした。置いていかれないようあわてて走るが、その時あおいはチラと壁に貼ってある「廊下は走るな」「実際危ない」「角っこの出会いは憎しみしか生まない」などと書かれたポスターを目にした気がした。その後前を走る担任の背中を見て、何も考えないことを選んだ。

 

 

たった五分とかからなかったが惜しくも教室のドアの前に着く直前にチャイムが鳴ってしまう。

 

 

担任「間に合わなかったか!これなら歩いてくればよかったですね!!みなさん挨拶のセリフは考えましたか!?とりあえず私が先に入るので、合図したらどうぞ!!やぁみんなおはよう!!今日はーーー」

 

 

彼は一息つくことすらせずして教室内に元気に入っていき朝のホームルームを開始した。もしかしたら廊下を走ることに慣れているのかもしれない。遅刻常習犯が担任では困る。

 

 

あかね「このドアたてつけよかったね・・・しかも凄く軽そう。」

 

 

あおい「前の私じゃ学校の教室の扉開けられないこともあったからね。堅すぎて」

 

 

リーネ「それってネウ・・・アローンに壊されなくてもそのうち倒壊したんじゃ」

 

 

こまり「少なくとも私が入学した頃からそんなだったからね。変なとこで丈夫だから改修されなかったんだろうけど」

 

 

あおい「・・・あ、もしかして今呼ばれた?」

 

 

あかね「わかんない。中の声全然聞こえないんだもん」

 

 

教室内でにぎやかな授業をしても隣の迷惑にならないよう、この学園は壁も厚く防音機能に著しく優れている。それを計算にいれていない担任は今教室内で1人戸惑っていた。呼んでも誰も入ってこないからだ。生徒達も戸惑っていた。教室内から外に呼びかけてもほとんど聞こえないのを彼らは知っているからだ。気まずい教室内の空気だったが、中の様子を伺うためそろりと扉を開けたあおいと担任の目があったことで状況は好転した。実際これはファインプレーであった。もしあおいが遠慮してドアを開けなければ教室内の空気に耐え切れない生徒も出てきていたかもしれない可能性がほんの少し存在したからだ。嬉しそうな担任の手招きであおい、続いてあかねとこまり、最後に異世界3人組とこれまでほとんど口を開かなかったれいが入室し教室正面に並んだ。

 

 

新学期早々、2年B組に現れた7人の転校生。この数の人数が1つのクラスに押し込まれる事態は異常だ。驚き、戸惑いから少しざわついてしまった生徒達はそれでも新たな友人達の自己紹介を一言一句聞き逃さないよう口を閉ざし姿勢を正した

 

 

緊迫した空気、さらにすさまじいアウェー感が重く肩にのしかかるであろう状況下の中でまっさきに前に一歩を踏み出し声をあげたのは大島一笑顔の似合う一色あかね

 

 

あかね「大島分校から転校してきました一色あかねです!!運動が得意で大好きです!よろしくね!!!」

 

 

一息で元気に言い切るとすぐに下がって自分の横に立つあおいに目配せする。この勢いに乗り遅れないようにとあおいが続き、こまりも覚悟を決めた

 

 

あおい「お、同じく、大島分校よりきました二葉あおいです!ええっと、よろしくお願いします!」

 

 

こまり「右に同じ、越谷こまりですー。ハイテクと縁のない学校生活だったので色々教えてください、っと。ほい」

 

 

宮藤「はい!宮藤芳佳です!私も右に並んで大島分校から来た・・・かと思いましたか?残念違います!横須賀の方から来ました。どっちかというと理系です。」

 

 

リーネ「リネット・ビショップです。日本語話せますのでお気軽に話しかけてくださいね。」

 

 

ペリーヌ「ペリーヌ・クロステルマンですわ。日本語は一切話せませんので、お気軽に話しかけないでもらえるかしら」

 

 

芳佳(ペリーヌさんまずいですよ!転校早々ケンカを売るのは!)

 

 

ペリーヌ(初っ端から煽り気味のあなたに言えたことではありませんわよ。それにわたくし達はあまり色々聞かれると困るでしょう?事情が事情なのですから)

 

 

芳佳(いやぁ、緊張して思わず分校から来たって言いそうになっちゃいまして・・・)

 

 

リーネ(でも心広いですね。みなさん笑顔で拍手してくれてます。)

 

 

金髪美少女はツンツンしているもの、いわゆる「解っている」紳士力の高いB組男子は怒ったりなどしなかったし、女子達はペリーヌを絶対質問攻めにしてやろうと決意を固め休み時間がくるのを舌なめずりして待った

 

 

 

担任「OK!OK!後ろの方にまとめて席を空けてあるからそこに好きなように座ってください!」

 

 

窓際の列はすでに人がいるが、そこの隣の列の後ろ3・2・2の配分で席が空いている。窓際から二列目、前からペリーヌ、宮藤、リーネ。その隣前からあかね、あおい。横はこまり、れい。担任は教室が多少狭くなることを覚悟の上で何人かの席を違う列にずらすことで7人分の席を空けたがそれでも7つの席を運びいれても丁度よい空間が残った。

 

 

担任「どうです?椅子の高さは下のレバーで多少変えられます。机の高さを変えたい時はあとで言ってください。特殊な器具かいるのでね!では朝の連絡事項ですがーー」

 

 

スっと静かに前の扉が開いた。まさかまた転校生?そういう訳ではない。なら遅刻した生徒か?担任は口を閉じてそちらへ目をやったが遅刻をとがめるような雰囲気ではない。むしろ暖かく彼女を迎え入れた

 

 

「遅くなりました、先生。三枝わかば、ただいま戻りました」

 

 

担任「いえいえ!こちらが頼んだことですから!ホームルームは丁度これからですので!それでは転校生のみなさんに端末を配っていただけますか?ああ、これからお渡ししますのはこの学園の生徒専用の端末機械です。学食での会計や学園の施設利用、学校からの連絡にも使われますので大切に!」

 

 

後ろでしばった緑の髪の根元が見えるほど深々と頭を下げるのを見て担任は気にしないようそう言った。姿勢を戻したわかばは早足で教室後ろの方へと歩く

 

 

 

わかば「それでは1人ずつ名前を呼ぶので手をあげてください。」

 

 

1人1人の顔と名前を覚えるようにわかばは丁寧に端末を渡していく。そして最後の1つの端末を受け取るのは

 

 

あかね「・・・」

 

 

わかば「・・・一色あかねさん・・・ね。どうぞ」

 

 

あかね「あ、ありがと。」

 

 

ぎこちない笑顔で受け取る。深い緑色の眼に覗き込まれるような未知の感覚に背筋がぞくっとしたがわかばは視線を外して自分の席に戻っていった。

 

 

あかね(あの子絶対あれだ!あの時の人だ!気付かれてないと思うけど・・・)

 

 

さっきの視線も、ただ転校生というものに興味があっただけだろうしむしろ自分が意識した方が変な方向に行ってしまうだろう。新しい友達として他のクラスメイトと同様に接するのが最も自然だし安全だろう 正体バレは避けるように、といわれて初日で同級生にばれましたなんてなったらちょっと頭が痛くなる事態だ

 

 

こまり「どったのあかね。なんか見つめあってたけど」

 

 

あおい「!!??」ガタッ

 

 

れい「!?」ビクッ

 

 

あかね「え?そんなことないよー。髪の毛赤いのが珍しかったんじゃない?」

 

 

こまり「あー、なるほど。私は緑の方が見慣れないけどねー。」

 

 

あおい「・・・」スッ

 

 

れい(な・・・なんなの)ドキドキ

 

 

チャイムでホームルームの時間が終わった。担任は転校生と仲良くしましょうとだけ言うと小走りで教室から出て行き、担任がドアを閉めるより早くあかね達の席をクラスメイト達が囲んでいた。その円に加わっていないクラスメイトもいる。自分の席から立ちあがらない生徒達も興味ありげにこちらを見たり、仲良しグループ数人で固まりながら転校生達の様子を遠巻きに見たりとさまざまだった

 

 

「ペリーヌさんさー!」「ねえペリーヌさん!」「ねえねえ!!!」

 

 

ペリーヌ「ちょっと・・・ちょっと!どうしてわたくしがこんなに絡まれてるんですの!?」

 

 

芳佳「そりゃあんなフリされたら絡みにいきますよ」

 

 

ペリーヌ「宮藤さんが何人もいるみたいですわ・・・」

 

 

芳佳「んんん、ちょっとどういうことですかねそれは!」

 

 

「ねえねえ宮藤さん。」

 

 

芳佳「はいなんでしょう?」

 

 

質問攻めの時間はたったの五分ほどだった。すぐに授業が始まったからだが、その五分を質問する方は一瞬の物足りない時間に感じたし、されてる方は永遠の長さに感じるほど忙しかった。向こうはあかね達の名前を知っているがこちらは知らないというまたしても圧倒的アウェイな立場にまたしても苦戦を強いられる場面であった

 

 

しかしその一時間目、気のいいおじいさん先生の受け持つ現代国語の時間は2年B組の生徒達の要望で自己紹介タイムとなった。先生はそれを快く了承し、あいうえお順に転校生達に向けて前の教壇に立ってそれぞれ個性を押し出した名乗りを行った。あかね達も一回でできるだけ全員の顔を覚えようとそれを真剣に聞く。当然その途中で三枝わかばの自己紹介もあったが彼女は笑いを取りにいくタイプではなく、いたって真面目な少女。名前を名乗り、剣道をやっていることだけを告げまた頭を下げて自分の席へと戻っていく。あかねがそうだったように、それ以外の面子もわかばから武士っぽい雰囲気をやんわり感じていた。

 

 

二時間目、三時間目は理科、数学と理系の授業が続いた。普段ならドリルを先生に質問しながら学年ごとに進めるという授業形式しか経験しない大島校の面々は先生の話を聞き、時に手を上げて発言し、板書をして・・・いわゆる大半の中学生が毎日受けている普通の授業がいたく新鮮なものであった。勉強は嫌いでも新しい事が好きなあかねも目を輝かせている一方でまた宮藤達異世界組みも火薬の匂いがしない学校生活を小さな平和として満喫していた

 

 

<チャーイム>

 

 

数学担当「むむむ、今日はこの辺りですね。今解いている問題は次回までの宿題、としておきます。終わってない人は終わらせておくように。ではではまた次回」スタスタ

 

 

あかね「うーんあとちょっとだけど・・・まあいいや、帰ってからやろ。あおいちゃん終わった?」

 

 

あおい「私もあと少しかな。」

 

 

こまり「いいなぁ、あかね達一緒の家でしょ?宿題協力できんじゃん。れいも一緒だよね?」

 

 

れい「ええ、そうね。」

 

 

宮藤「次は・・・体育でしたっけ?初日から色々ありますね。」

 

 

リーネ「体育・・・」

 

 

ペリーヌ「そんなに絶望的な表情をされなくてもよいでしょう?ここは普通の学校ですのよ?」

 

 

リーネ「そ、そうでしたよね。よかった訓練じゃなくて・・・」

 

 

こまり「海外の体育ってキツイの?」

 

 

ペリーヌ「そう・・・ですわね。字の通りとことんまで体を育むための内容でしたから。」

 

 

宮藤「ねえ、今日の体育ってなにするのかわかる?」

 

 

窓際の席の女子「宮藤さん達は始めてだったね。私達も体育は今日で新学期入って2回目だけど前の続きで野球だと思うよ。」

 

 

あかね「野球!この人数ならフルメンバーでやれるんだよね!うわあ楽しみ!!はやく着替えよ!」ヌギ

 

 

あかねの前の席の女子「ちょちょい!!一色さんなにここで着替えようとして・・・おい男子こっち向くなよ男子ィ!」

 

 

面倒見のいい女子「一色ちゃん更衣室あるから!案内するから!」

 

 

あかね「? あー、ごめんごめん。前の学校だとあんまり関係なかったから。男の子廊下で着替えてくれてたし。ごめんねー」アハハ

 

 

こまり「あぶなー、私も全然意識してなかったや。」

 

 

宮藤「でもあかねちゃん今朝下に体操服着てたよね?別にそのまま脱いでよかったんじゃない?」

 

 

あかね「あ」

 

 

面倒見のいい女子「一色ちゃん体育好き?」

 

 

あかね「うん大好き!」

 

 

前の席の女子「でも更衣室の場所は知っておいたほうがいいでしょ。案内するわ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

A組の野球男児「ふぅ・・・」

 

 

<ワーワーワーワー>

 

 

A組選抜対B組選抜の紅白戦。50分という時間制限のある授業では練習の時間を抜いて試合形式はたったの3回で最終回だ。そして今はその最終回3回の裏。俺は練習試合ならいつもそこにあるロージンに手を伸ばそうとして、これがただの体育の授業の遊びだと思い出して自分ながら少し恥ずかしいと自嘲気味に小さく笑った

 

 

 

野球部の次期エースとして周りから注目の的であった俺の実力を見たいクラスの連中がやいのやいのとピッチングの要求をしたので、俺もちょっとおだてられてマウンドに立っただけだ。9人連続三振でズバっと抑えて授業終了。キャッチャーに簡単なサインを送ってミットを打者の膝元に構えさせ、そこに収まるバツグンのコントロールで

 

 

<キィーン>

 

 

 

A組の野球男児「ふぁっ」

 

 

金髪好きのB組女子「きゃーペリーヌさーん!」

 

 

B組一同「きゃーペリーヌさーん!!」

 

 

ペリーヌ「以外といい運動になりますわね。」

 

 

宮藤「ペリーヌさん、ナイバッチー。」

 

 

リーネ「ナイバッチでーす」

 

 

 

一塁上から応援してくれているクラスメイトに対して少し恥ずかしげに手を振る金色の髪の転校生。三塁と二塁にいる彼女と同じ転校生の2人がパチパチと手を叩いて賛辞を送っているのを背中に、俺は自分の〈プライド〉の崩壊を抑える言い訳を考えるのに必死だった。

 

 

A組一塁手「初心者相手には変化球使わないよ、とか言ってる場合かこれ。7番の代打で出た女の子のセーフティバントから3連弾で一失点、これアカンやろ。せっかくB組の三枝は今日は出てないってのに」

 

 

A組三塁手「まあこっちは3点とってるからな。あと1点やってもいいくらいで気軽にいけ。」

 

 

A組の野球男児「ああ解っている。もう絶対に打たせやしないさ。」

 

 

 

審判「B組、2番橋口に代わって、代打一色あかね!」

 

 

応援スペースにいるA組の生徒達がざわつく。それと反してB組の生徒達はわぁわぁと大騒ぎで期待の転校生を送り出す。バッターボックスに元気に入場してきた赤い髪の女の子に俺はこれを好機ととらえた。謎の転校生女子4人にいいように打たれ、9奪三振どころか一失点。今後の自分の精神に多大な傷を残しそうなこの事態にこの手で決着をつけるチャンス。勝ち負けなどどうでもいい。後ろのエラーで1人返ろうが2人返ろうが俺が投手としてこの転校生部隊を打ち取れたなら___三振にできたのなら、それでいい。

 

 

 

俺は同じく野球部に所属しているキャッチャーの田中に軽いサインを出すと大きく振りかぶって

 

 

審判「ットラーイク!!」

 

 

あかね「・・・」

 

 

インコース低めの全力ストレート。舐めて投げてバントを決められた最初の球でもなく、動揺してセットポジションから投げた球でもない。本気のランナーを気にしない全力投球だ。先輩達でも簡単には打てないストレートだ。そして二球目は外角低め

 

 

<カキーン!>

 

 

A組野球男児「!!!!!!」

 

 

 

あかね「っと、ちょっとはやかったかな。ファールですよね?」

 

 

審判「そうだね、ファール。」

 

 

キャッチャー田中(だ、だめだ!ストレートを簡単に当てられたあげくあのファール!次はタイミング合わせてセンター頭上行くぞ!)

 

 

慌てた様子の田中に俺は1つ、考え方をまた改めた。この転校生部隊は強い。男子も女子も関係ない。この勝負は投手としての全力をもって、打者に勝負を挑む。 俺は田中に今まで一度も出していないサインを出した。軽く一息ついてグローブの中でしっかりボールを握る。この球しかなかった。俺の指先から離れたボールが鋭く回転しながら進む。インローのもっとも打ちにくい場所に、打者からすれば少し逃げる形になる高速スライダーだ。俺はこの球で

 

 

あかね「そりゃー!」

 

 

<グワラギィーン!!>

 

 

A組野球男児「この球で・・・野球部の・・・エースに・・・」

 

 

面倒見のいい女子「わああああああ!!」

 

 

前の席の女子「満塁弾だぁー!!逆転!逆転だー!!」

 

 

リーネ、芳佳、ペリーヌが待つホームベースを踏むあかねはそのまま3人とクラスメイトに胴上げされる。高所恐怖症を治しておいてよかった、とあかねは小さく思っていた。そんな満面の笑顔のあかねを、今日は練習だけに抑えていた三枝わかばは円陣の外から何も伺えない表情でじっと見つめていた。

 

 

 




三枝わかばちゃんのキャラの使い方が難しいと私の中で話題に


もう武士キャラでいいだろうか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 あかね「三枝わかばという人」

時間かかりすぎちった・・・(小声


あかね「これが学食!」

 

 

こまり「島のレストランもかたなしだね。」

 

 

体育のあと同級生が案内してくれたのは学校内の食堂。こまりの言葉通りの大きさだ。少なくとも百人単位で利用客をさばける程度のゆとりはある。流石に小中学生は弁当もちが多いようで同級生より年上の方が多い。学食を見渡して見当たる小学生は弁当を用意できなかったももやこまり

 

 

こまり「私中二だから」

 

 

失礼 ももとその友人数名くらいだ

 

 

 

なつみ「ねえちゃんお金貸して」

 

 

こまり「数時間ぶりにあった姉へそれが第一声か。お母さんからお金もらったでしょ?」

 

 

なつみ「だからねえちゃんがまとめて持っていったでしょ・・・」

 

 

もも「お姉ちゃん。はいお金。千円でたりるよね?」

 

 

あかね「ありがと!全然余裕!で、もものほうは大丈夫?」

 

 

もも「うん!友達たくさんできたよ!」

 

 

あかね「さすがわたしの妹!じゃあお昼はそれぞれの友達と食べよ。せっかくだしさ」

 

 

もも「うん解ったよ。ちょっとさみしいけど・・・じゃあおつりは帰ってからね!」タタタ

 

 

わかば「一色さん、妹いるのね。」

 

 

あかね「うん。似てた?」

 

 

わかば「そうね。元気さが溢れてるところと、眼は同じね。きっといい子だと思うわ」

 

 

あかね「うん。出来た妹なんだよ。わたしそっくりでね」

 

 

 

あの後、三枝わかばは興奮さめやらぬ教室の中であかねを軽い調子に学食に誘いあかねは笑顔でそれを快く受けた。こまりとなつみは先に列にならび、購買を見に行きたいれいとあおいは面倒見のいい女子と窓際の席の女子と共に財布を持って別行動。

 

 

ペリーヌ「食堂派は少ないようですわね。」

 

 

リーネ「クラス替えの直後だから、お弁当を一緒に食べるメンツを今の時期に集めておかないと今後の昼休みが少し辛くなるから・・・とかですかね?」

 

 

芳佳「みんないい人そうだしその心配はなさそう。三枝さんは学食派なの?」

 

 

わかば「ええ。去年ここの学食の年間割引券をもらったの。それでね。」

 

 

あかね「へー、そういうのあるの?なになに、テストで一番だったからとか?三枝さん勉強できそうだし。」

 

 

わかば「ははは、そうね。大体そんな感じよ。」

 

 

とりあえずは様子見、安易にカレー、しょうゆラーメン、きつねうどん、親子丼を攻めた転校生勢の横でわかばはしょうが焼き定食ご飯大盛り。明らかに学食を使い慣れている。昼休みはそこそこ長いので他愛ない話を少し混ぜながら落ち着いた昼食をとった。

 

 

宮藤「へー、わかばちゃんは剣道やってるんだ。」

 

 

この短時間で呼び方が三枝さんがわかばちゃんに変わるくらいには打ち解けたのだろう。あかねももうほとんど警戒せず元気に受け答えるしわかばのほうも外見の厳しい雰囲気に合わない穏やかなトークで転校生と積極的に親睦を深める

 

 

宮藤「解った。割引券はそれ関連だね。」

 

 

わかば「何故?」

 

 

芳佳「素人じゃないもん。手のひらもそうだけど、足運びとかさ。私の上官 じゃない先輩にも剣道すごい人いるけど、その人を思い出すよ。わかばちゃん、スポーツ特待生なんじゃない?」

 

 

あかね「わかるわかる!なんていうかわかばちゃん、〈強そう〉ってかんじ!」モグモグ

 

 

わかば「ええ、そうね。私は剣道で特待生としてここの中等部に入ったわ。食堂割引券は校長の計らいよ。・・・芳佳も、剣道は得意?」

 

 

宮藤「ううん。私はケンカは苦手だから。おっとり系の癒し系だし」

 

 

ペリーヌ「えっ?」

 

 

宮藤「はい?」

 

 

リーネ「ふ、ふたりとも落ち着いて・・・。それにペリーヌさんほら、芳佳ちゃんが癒し系っていうのはその可愛さだけじゃなくて」

 

 

ペリーヌ「まあ宮藤さんのウィッチとしての能力は・・・でもおっとりk」

 

 

芳佳「ペリーヌさん。それ以上はやめましょう。私ケンカは苦手ですから」

 

 

ペリーヌ「今まさにおっとりしてませんわよ。めちゃくちゃムキになってますけど」

 

 

芳佳「ふん、しりません。おあげもらいますからね」

 

 

ペリーヌ「ちょっとおおおおおおお!!きつねうどんが素うどんになってしまうじゃありませんの!」

 

 

あかね「もぐもぐ・・・ごちそうさま!わたしちょっと探検いってくるね!」

 

 

リーネ「あかねちゃん早いね。私は芳佳ちゃんとペリーヌさんをおさめたら教室に戻ってるよ」

 

 

あかね「うん。じゃあまた後で」

 

 

わかば「待ってあかね。私もごちそうさまなの、一緒に行っても?」

 

 

あかね「うん。というか、だれか道のわかる人いないと迷っちゃうよね」アハハ

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

ここは私がおごるわ、と申し出たわかばの好意に逆らわず食堂を出たところの自販機でバナナオレを受け取るあかね。わかばはスポーツドリンクを買い、そのまま綺麗に整えられた広い中庭をゆっくり歩いた。人はあまりいない。中庭で食事するには少し今日は日差しが強いだろうな、とあかねはバナナオレの最後の残りを吸い上げ少し離れたところのゴミ箱に片手でスローイング ど真ん中に回転しながら完璧に入った直後、わかばも同じようにペットボトルをど真ん中に放りこむ

 

 

あかね「すっとらーいく!」

 

 

わかば「ピッチャーも得意そうね、あかね。」

 

 

あかね「うん。でもやっぱりバッティングかな!あんな変化球初めてですごい面白かったし。今度の体育もあの人出てこないなぁ。」

 

 

わかば「あのスイング、実に見事だったわ。空であれだけの斬撃が出来るのだから当然なのかもしれないけど。」

 

 

あかね「ははは!はっ」

 

 

わかばの言葉尻が耳から入って頭でその意味を再三考えるが、どうにもまずい状況だという結論が三回出た。中庭の静けさが異常に感じる。この静かな中庭なら邪魔が入らないということで誘導されたのだろうか。それにジュースをおごったのはもしや話を聞かせやすくするため貸しを作ったのだろうか

 

 

わかば「会うのは二回目、ということでいいのかしら。あの時と姿は違ったし感じる凄みもまるで違ったけれど・・・顔は隠れてなかったから。」

 

 

あかね「ええーと」

 

 

落ち着いた深い緑の瞳の奥からあの時の激情が表に出てきつつあることを察するあかねは反射的に半身を引いてわかばに対して一足間合いを開けた。もし詰められたらすぐ離れることが出来る距離。

 

 

わかば「事情の程はわからないしあなたも話せないことだろうと思う。だから私もそこのところは聞かない。ただ1つ。」

 

 

あかね「え、あー」

 

 

わかばが姿勢を正したのを見て反射的に腕を胸の前で構えたわけだが、わかばがとったのは攻撃の姿勢ではない。懇願の姿勢。朝見せた謝罪ではなく、誠意をこめた切実な願いを伝えるため深々とお辞儀をした

 

 

わかば「私をーー弟子にして欲しい」

 

 

あかね「???????」

 

 

わかば「・・・」

 

 

あかね「え、弟子っていうのは・・・なんなの?」

 

 

わかば「私が剣道をやっている、というのはつい先刻言ったばかり。あなたの昼休みを少しだけもらって話しをしてもよろしいでしょうか」

 

 

あかね「う、うん。でも敬語はあの」

 

 

わかばに促されるようにそこにあったベンチに腰掛けた。わかばはふとももに両手を丁寧に置いてまるでくつろぐ様子もなく語り始めたわけだが、その口調の苦しそうなものを感じるあかねとしては真剣に聞かざるをえなかった。

 

 

 

昨年、三枝わかばは一年生としてブルーアイランド学園の代表として全国大会に出場した。男女混合ではなく女子の部として出た彼女は予選では一本も取らせないどころかまるで苦戦する様子もなく圧倒。各県を代表する三年生や二年生をも軽く制する彼女の姿は会場の好機の目を一身に集めていた。天才剣道少女はもうじき日本一に手が届く、という場面に置いて、しかし気持ちに波1つたっていなかった。3回戦の相手を叩きのめし、一年生に負け自分の三年間が終わったことを嘆く相手を見るのに気まずさを感じ足早にそこを去った。準決勝であってもその剣の鋭さは鈍ることなく瞬く間に勝負を決めると付き添いのコーチから水を受け取り反対側のコートを見た。

 

 

すでに勝負はついているようなものだった。片方の選手が取られた一本を取り戻すため必死になっているのをゆるゆるとかわし、二本目。赤い旗が三本バッと上がりわかばの相手が決まった。

 

 

少し変則的で、真っ向から力で伏せるわかばとは違いうまさのある闘い方だ。とらえどころがないように見えて、それでも脅威ではない。わかばはいつもと変わらぬ平常心でその少女と相対した。

 

 

結果として三枝わかばは敗れた

 

 

天才少女、一年生にして彼女が全国の決勝に立ったのが確かな実力による必然のものであることを剣道を多少なりとも解る観客は理解していたが、その彼女が負けたのは時の運などでなく確かな差によるものであることを見抜けた者は少ない

 

 

わかば「相手は強かったけれど、立ち会う前に観察していた限りで私は負ける相手でないと思っていた。でも・・・」

 

 

何度打ち込んでも竹刀が届かない。入れ替わり切り込まれる刃は鋭く、見切れるはずだった動きに翻弄された。鍔迫り合いでこちらを見据える目の奥に、得体の知れぬ大きな力が潜んでいた。

 

 

 

わかば「私は一年経ってあの負けから一歩も進めていない。ただ身体を鍛えるだけでは得れないものを得ようとした私は、まるで答えを見出せずにいた。そんな時あなたの戦いを見て、確信したの。あなたは私の求める力を持っている。」

 

 

あかね「・・・」

 

 

 

わかばの言っているものは示現力のことだろうか?あかねは今日友達になったばかりのわかばの悩みに全力で立ち向かっていた。そういうことを見返り義理もないのに実行できるところもわかばがあかねに感じたものの1つなのだが、あかねはそこまで自分の人間性を高く評価していない。

 

 

 

あかね「・・・」ムムム

 

 

わかば「・・・新たな環境に身を置いたばかりで忙しいあなたには迷惑であるというのは百も承知、本当に申し訳なく思うわ。でも、動かずにはいられない。空に消えもう会えるとは思っていなかったあなたが目の前に現れてくれた機会を逃したくは無い。・・・そうね、授業が終わったあとにもう一度話をしましょう。私も熱くなってしまっているし、少し考えを巡らす時間がいるわ。」

 

 

あかね「うん。難しいことだけど、放課後までにはしっかり答えを出すよ。」

 

 

わかば「ありがとう。」

 

 

あかね「ふいー、でもびっくりしたなぁ。なにを聞かれるか、ドキドキだったよ!」

 

 

わかば「あなたの抱える事情について?そうね、それもとても興味があるわ。」

 

 

あかね「やー、できれば見なかったことにしてほしいんだけどね。」

 

 

わかば「あなたが私の頼みを今ここで了承してくれたなら今後一切詮索しないことを誓うわよ?」

 

 

 

冗談めかしてそう言うわかばに笑顔を返すあかねだが、遠くで鳴ったチャイムが最初なんの音かわからない二人はまだ昼休みであることと五時間目の存在を思い出して慌てて教室まで走った

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

あおい(あかねちゃん、ぼーっとしてるなぁ・・・)

 

 

あかねの後ろの席を獲得したあおいは授業中の暇つぶしにあかねの様子をちょくちょく朝から観察していた。というより黒板を見ようとすると視界の端にチラチラその赤いツインテールがうつるのだからどうしてもその様子の変化は気になった。午前中は授業そのものを楽しんでいたあかねが今はなにか別のことが気になるよう。板書だけはしているようだがその頭の中にはもっと大事なことが容量をしめている

 

 

あおい「お昼休みなにかあったの?本鈴が鳴るギリギリに帰ってきてたけど・・・」

 

 

あかね「ううーん。や、悪いことは起こってないんだけどね。」

 

 

休み時間に聞いてもこれだけ言ってまた目を閉じて眉間にしわをよせてしまった。この悩みはどうやらあかね自身で解決する必要のある案件であることを察しあおいはおとなしく身を引くことにした。

 

 

 

六時間目が終わった。今日はこれまでだ。持って帰る必要のないものを後ろのロッカーにしまう。ここでもあかねはちょっと上の空で宿題が出ていることを忘れて数学の教科書をロッカーに突っ込んでいるところをペリーヌにとがめられていた。ごまかすように笑いながら教科書をかばんに入れなおしていたあかねだったがふと顔を上げた際に教室の扉のほうでなにかを見つけたようで

 

 

あかね「ちょっと先帰っといて!わたしよるところあるから!」

 

 

転校初日の生徒がなにをそんなに急いでどこかに行く用事を作れるのか 当然の疑問である。流れるように片付けをすませた一行は廊下を全力疾走する赤い髪の女の子の目撃情報を道すがら聞き込みとうとう綺麗な中庭へといたる人通りの少ない通路でいなくなったあかねの声を聞いた。盗み聞きするためだけに植えられたと思わせるような丁度よい植え込みに姿を潜ませ・・・

 

 

 

あおい「えっ?盗み聞きしちゃうの?」

 

 

こまり「いまさら何を言ってるのさ。」

 

 

リーネ「というか、誰が最初に盗み聞きしようっていったんでしたっけ・・・?」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

言わずとも考えることはみな同じ。自然とそういう行動を取っていた。だって気になるし。バレなければいいのだから。罪悪感を他人に押し付けあいながら彼女達は耳に全ての意識を傾け一時だけ完全に自然と一体化した

 

 

 「ーーーでーーーだけどーーー」

 

 

 「しかーーーれはーーー」

 

 

  

れい「よく聞こえないわね」

 

 

こまり「ぐっと集中力を高めるのだ・・・焦るでない・・・」

 

 

宮藤「相手は誰でしょう?聞き覚えあるようなないような」

 

 

 

 

  「ーーーだからわたしは、わかばちゃんとはそういう関係にはなれない」

 

 

 

あおい「えっ、なんなのそれは」ガタッ

 

 

ペリーヌ「おちつきなさいあおいさん!」

 

 

こまり「キマシ?」

 

 

宮藤「キマシタワー」

 

 

 

 

   「ーーーそれがあなたの応えであるなら、私は受け止めるしかない。あなたが出した答えが軽いものではないことは承知している・・・とすっぱり諦めたいところだけれど、私もそれなりの覚悟を持って頭を下げた。どうしても嫌だというのならば私の魂ごと切り捨ててもらおう!一色あかね!あなたに決闘を申し込むッ!!」

 

 

 

 

 

 




こう・・・地の文の参考になるような小説が読みたいんですけど、近場に図書館がないんですよね・・・。立ち読みするためだけに自転車で30分かける覚悟を決めないといけませんね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 わかば「潮風満ちる砂浜で」

女の子同士傷つけあうなんて悲しい・・・(のりのりで書いてました。)





あかね「けっとぅ!?」

 

 

あかねわかばの頼みを断った。力になりたくても、解決できない悩みを気軽に引き受けるなどと無責任なことは出来ない。5,6時間目の授業の間先生に怒られないよう気をつけながらも導き出した最善の答えを彼女に言ったつもりだった。納得してもらえないだろうけれど、その時は力になれないことをしっかり謝り断った理由を説明して・・・

 

 

そう考えていたわけだが、わかばは切り札を用意していた。弟子入りを断ったあかねにその理由の説明をさせず、決闘をするよう迫ってきたのだ。あかねは弟子入りを受けるか決闘を受けるかのどちらを選ばなくてはならないだろう。両方を断ることはおそらく不可能だ。前もって考えておいた弟子入りを断る理由を通そうとすると、それならば決闘を受けてくれればいい、という話になる。もしも両方を断ろうとしたらわかばはこの場で襲いかかってくる。こちらを睨み付けるわかばの眼の奥に燃え上がる激情の炎は獣ですらすくみあがろうものだ

 

 

あかね(どうするのどうするの!?)

 

 

わかば(自分の言っていることに筋など通っていない。私は自分の願いを叶えるために他人を傷つける、そんな人間であったということだ。だがそれでも私は彼女と闘いたい。)

 

 

わかばはうろたえるあかねを見かねて一度眼を閉じて深呼吸をして決意を固めようと心を静めた。そのわずかな隙があかねを行動に走らせた。

 

 

あかね「いっしきあかねは にげだした!!」ズダダダダ

 

 

わかば「なんですってェー!!」

 

 

 

冷静な判断力を欠いていたあかねは脳内で行動の選択肢を選んでいる途中だった。しかしそんな中わかばに生まれた完全なる隙。あかねの生存本能がビビっと光り反射的に逃走へ足を動かした。わかばの視界を切るためすぐそばの植え込みを飛び越え、なぜかそこにしゃがみこんでいた芳佳の頭の上におしりを着地させた

 

 

 

宮藤「どぶぶっ」

 

 

あかね「おっとごめんよだれかわからないけどあとで謝るからー!!」バビューン

 

 

宮藤「く、くびが・・・訓練で鍛えてなかったら頚椎痛めて即死だった・・・」

 

 

ペリーヌ「い、いまのはあかねさん?いったいなにが」

 

 

そのペリーヌの後頭部に植え込みをジャンプしてきたわかばの蹴りが炸裂!

 

 

わかば「申し訳ないが急いでいるのであとにして!」ズダダダダ

 

 

宮藤「ペリーヌさんwww今の避けられないとか軍人としてどうなんですかwww」

 

 

ペリーヌ「ぐふっ・・・先にくらったのはあなたでしょう・・・」

 

 

宮藤「そうでした・・・すいません・・・。ペリーヌさん、治療は後でしますので今はあかねちゃんとわかばちゃんを追いましょう!痴情のもつれから悲しい事故が起こったりしたら」

 

 

こまり「ヤンデレズ、実在したんだね」

 

 

あおい「なんてこと・・・なんてこと・・・」

 

 

リーネ「多分私達の勘違いだと思うんですけど・・・」

 

 

れい「はやく追いかけましょう。事情はどうあれあの2人が決闘をおっぱじめることは確実みたいなんだし」

 

 

こまり「転校初日でケンカして停学とかまずいまずい。とめなきゃ」

 

 

ペリーヌ「ケンカして停学?この学校そんなに厳しいんですの?」

 

 

リーネ「ペリーヌさん、ここ普通の学校ですよ。」

 

 

あおい(ペリーヌちゃん達、いったいどんな学校生活を?)

 

 

宮藤「急ごう!また聞き込みしながら追跡することになりそうだし、間に合わなくなるよ!」

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

わかば「くっ!」

 

 

待て、といって待つ訳はない。余計なことに体力を使うとそれこそ彼女を見失うであろう。あかねの逃げ足は獣のようであった。逃げ足の速さを決める大事なステータスの1つに逃走経路の把握がある。どこをどう逃げれば追手の視界を切りやすいのか、安全なところに逃げ込めるのか、その要素は自分より足の速い追撃手を煙に巻くことを可能とする。しかしあかねは今日転校したばかりで学園島のことなどほとんど知らない。今のあかねがわかばから逃げおおせているのはその脅威の足腰と心肺能力だ。逃走を始めて数分、いまだにあかねはわかばを5m以内に近づけない逃げを見せている。

 

 

わかば(おかしい。なぜ彼女の逃走に一切の迷いがない?この学園のことを知らない転校生が、一体どこを目指しているというのか・・・)

 

 

 

モノレール駅でもなく、食堂でもない。あかねが選んだ逃走先 それは!

 

 

 

わかば「・・・この海岸は」ザッ

 

 

私が始めて、あなたに出会った場所か。

 

 

 

 

 

 

やわらかい砂を足のかかとでぐっと踏みしめてあかねはわかばと向き合う。2人ともが少し息を整えた後、あかねから喋りだした

 

 

あかね「なんとなくで走ったんだけど、ちゃんとこれてよかった。誰もいないところ、ここくらいしか知らないからね」

 

 

わかば「あなたはここに私を連れてきたかったの?」

 

 

あかね「わかばちゃん、あそこで襲いかかってきそうだったし・・・」アハハ

 

 

逃げたのは反射的行動だが、これも嘘ではない。わかばが襲いかかってきそうな雰囲気を察したからこそあかねは逃げ出したのだから

 

 

 

わかば「流石にあんなところで斬りかかったりなどしないわ」

 

 

あかね「ほんとに?」

 

 

わかば「・・・」

 

 

あかね「・・・」

 

 

わかば「ついてきて。この近くに竹刀を置いてあるの。」

 

 

あかね「え?ああうん。この近くって・・・」

 

 

わかば「この海岸の近くに特訓道具を置いてあるのよ。あなたが空から降りてきた時、あの時は避難指示が出ていたのだけれど私はここで特訓中だったものだから知らずにここで呆けていたわけ。」

 

 

 

確かに。アローンの襲撃だというのに一般人のわかばがここにいたのはおかしかった。おかしいことだと気付いたのはたった今な訳だが

 

 

 

海岸そばにあった部室棟・・・いくつかの部室が横にいくつか繋がっているうちの1つの部屋に入っていったわかばが竹刀を二本持って出てきた。その部室はどこも使っていなかったのを剣道部が物置として使わせてもらうことになったのをさらにわかば専用の特訓施設となっている らしい。

 

 

わかば「どうぞ。どちらも同じつくりよ。」

 

 

左手に掴んだ竹刀をあかねへと差し出す。それを受け取ったあかねは初めて触る竹刀の材質を手の直肌で感じ取りながら再び海岸へと歩く。決闘をするならちゃんとした足場の、それこそ剣道場なり体育館なりでやるべきなのだろうが、2人は互いに何も口に出さずしてここで向き合う。2人の体重を完全には支えきれないやわらかい砂。足がわずかにめりこみ、すり足移動を基本とする剣道にとって圧倒的不利な足場 

 

これから行われるのは決闘だ。防具もつけていない。必要ない。もっているものこそ竹でつくられた竹刀ではあるが、だが2人ともそれを真剣と同じようなものとして認識しこの戦いに臨んでいる。

 

 

わかば「剣道のルールなど考えなくていい。反則なし禁じ手は・・・まあ目をえぐるのは流石に私は控える。あなたは好きにしてくれていい。斬るか、斬られるかの決闘を、お願いするわ。」

 

 

ずっと興奮を殺しきれない目をしていたわかばが今いざ念願の戦いを前にして素っ気ないほどの淡白な口調だ。その眼の奥に燃え盛っている炎を身体へ巡る力へと変えて、自分の精神をコントロールできるのは大舞台を何度も踏んできた経験のたまものであろう。一方のあかねは初めてのことに対する緊張と興奮で鼓動が早くなっていくのを感じていた。剣を模してつくられた竹刀。相手のわかばはこれの扱いに慣れたものだろう。軽く、手首とひじを使い片手で振ってみる。この程度では風切音は鳴らない。ちょっと力を入れて意識して降ると今度はビュンっと鈍い音が鳴る。あとは実践でやってみるだけだ。この竹刀が邪魔な棒となるかわかばの迷いを断つ刀となるのか・・・あかねは身体の内側がこそばゆくなるような高揚感を抑えようとせず、その時をただ待つ。

 

 

 

 

すぐにでも始まるかと思われた戦いは不思議な空気を漂わせつつもまだ開戦の機を発せずにあった。剣道の心得のあるわかばは竹刀の切っ先を真っ直ぐ相手に向ける中断の構えのまま動かない。あかねは片手で持った竹刀をだらりと身体のよこにたらしその場で足を軽く開き立っている。構えらしい構えはとっていない。  夢の中でも求め続けた自らの迷いを断つための戦いを前にしてわかばはこの一戦が始まってしまうのを惜しむ。空腹で午前の授業を終えた後待ちに待った昼食を前にその最初の一口を口に入れるまでの時間を楽しむように、向かいあう少女の燃えるような紅い瞳を真っ直ぐに見すえた。 2人の視線が直線で重なりあってほんのわずかな間を置いたあと、校舎と砂浜とを繋ぐ道の横の林の中で草木を掻き分ける音が鳴った。その喧騒が海岸の2人の間をつないでいた一本の糸を揺らがせた。

 

 

わかば「―――――」

 

 

わかばが仕掛けた。砂の上とは思えない軽やかな足運びで滑るように前に出る。素早い動きに反して上半身は全く動かず奇妙なまで真っ直ぐの構えを崩さない。対してあかねはその場で左足を半歩引き身体を開いて竹刀を両手でもって胸の前で横に構えた。一足一刀の間合い 即ち一歩踏み込んで相手に竹刀の先端が届く距離まで詰めたわかばはそこで初めて上半身を動かした。両肩を稼動させ竹刀を真っ直ぐ頭上へ。あかねは頭上から来るであろう攻撃を受け止めるため竹刀を構える腕を慌てて頭より高い位置へ持っていく

 

 

わかば「――面ッ!」

 

 

あかね「~~~っ!?」

 

 

重圧。圧倒的一撃。肺に溜め込んだ空気を一気に放出する気合を乗せた一撃。あかねは自分の竹刀が折れたと勘違いしてしまうほどの速く重いわかばの攻撃だった。わかばの腕が上に上がったところまでは見えたが、それが振り下ろされる過程の動きはまるで目で追えない。痺れる腕をかばうように素早く後ろへジャンプして距離をとるあかねの鼻先を横一閃、わかばの竹刀が空気を切り裂いた。

 

 

 

 

 

あかね「っくぁ!」ズサッ

 

 

わかば「―――」

 

 

それ以上の追撃はなかった。わかばは二段攻撃を終えると、横に振り切った腕をゆっくりと縮めてまた中段の構えに戻し息を整えてあかねを真っ直ぐに見据え最初と同じ形に落ち着いた。あかねは痺れる右の肘と手首の間の筋肉を左手で軽く揉みながら加速する鼓動の音で塞がりそうになる頭の中を落ち着けるため一度深呼吸する

 

 

 

____________________________________

 

 

 

あおい「はわわわわ・・・」

 

 

宮藤「落ち着いてあおいちゃん。はい吸ってーはいてー」

 

 

れい「・・・とめた方がいいんじゃない?さっきの三枝さんの攻撃、どっちも当たったら骨折ものでしょ。」

 

 

またも草むらに隠れて伺う大島勢。彼女達が砂浜に割り込むタイミングは既になかった。あかねとわかばを発見した時既にわかばが動き出した後だったからだ。

 

 

こまり「止めるって、じゃあれいちゃんどうぞ。下手打ったら三枝さんにぶった斬られるかもしんないけどさ。」

 

 

「「「・・・」」」

 

 

リーネ「ペリーヌさん、どうぞ。」

 

 

ペリーヌ「なんでわたくしなんですの!?ちょ、押さない押さない!」

 

 

リーネ「坂本さんから教わってる剣術をいまこそ・・・」

 

 

ペリーヌ「それでしたらあなたと宮藤さんも同じ訓練を受けているでしょう!?それに、そもそも止める必要なんてありませんわ。あれは決闘。カッとなって勢いで始まった子供の殴り合いとは話が違いますわ。」

 

 

宮藤「わかばちゃんは話し合いが出来ない人じゃないよ。さっきも話してたけど、思ったことを割と素直に話す子だし。お昼休みに2人でなにか話しててその後あかねちゃんは午後ずっと悩んでたみたいだから・・・うん、もう話し合いじゃ駄目なんだろうね。」

 

 

あおい「そ・・・そんなこと」

 

 

ぐっと言葉を飲み込んで、あおいはまた砂浜に目を向けた。そんな言葉でくくられたって納得できない。あかねがケガをするようなことがあったらと思うとあおいは今すぐこの人たちの制止を振り切って自分が飛び出して割ってはいるべきと思考をめぐらせる。だがあおいは結局のところ行動を起こさず宮藤達と同じ傍観者となるしかなかった。納得できずとも充分理解できたから。わかばがあかねに本気でぶつかっていっていることが、見ていて解る。それは怒りでも、憎しみでもない。わかばがあかねになにを相談したかこの時点であおいは知る由もないが、わかばが自分をここまで追い込んでまであかねに頼っていることは知れた。あかねもそれにこういう形で応えている。これが解ってしまった以上、あかねが救おうとしているのを邪魔立てすることも出来るはずがない。

 

 

 

__________________________________________________________________

 

 

 

わかば「はっ!」ビュッ!

 

 

あかねは左上から迫るわかばの竹刀を横にステップしてかわす。先ほどまでは回避に全力を使うあまり必要以上に距離を取ってしまいわかばに近づけないでいたあかねだが、だんだんと竹刀をかわす身体の動きが小さくなってきていた。そしてわかばの7太刀目をかわすと同時に、あかねはついに反撃の機を見出した

 

 

あかね「・・・!せぇやっ!!」

 

 

わかば「!!」

 

 

右足で踏み込み放った力強い縦一線の攻撃を右半身を後ろに下げるようにしてかわすとそのまま左手を前に突き出した。

 

 

あかね(まともな打ち込みはわかばちゃんほどなら全部見切る!早く竹刀を振る方法を知らないわたしがまともに当てるとしたら、体勢が整っていないところをまっすぐ突く!)

 

 

竹刀を素早く振るのに必要なのは腕力ではなく、技術。肩、肘、手首を正しく連動させることができなければ竹刀はただの棒となり相手を斬ることはかなわない。一人前の剣士であるわかばにハンパはつうじない。ならば点を利用する。ただ腕を真っ直ぐのばすだけの突きならば素人のものといえどその速さは充分なはずだ。さながらフェンシングめいた突き攻撃。打突直後で硬直しているわかばのがら空きの腹部めがけあかねの竹刀の先が高速でせまった

 

 

わかば「ーーーはっ!」

 

 

これに対してのわかばの対処は素早かった。竹刀の柄を地面に垂直になるよう下げてあかねの剣先を叩き落とすと、あかねは竹刀の重さに重心を奪われて前のめりになる。わかばは竹刀を振り上げずそのまま自分の顔前にある竹刀を押し付けるようあかねの額を狙い鋭く打ち込んだ。竹刀の防御が間に合わないことを悟ったあかねは後ろや横に逃げることを捨てて崩れた重心を竹刀に預けたままわかばの懐に飛び込むように即座に前転。わかばの攻撃が防御から派生した勢いの無いものであったことも幸いし辛くもかわすことに成功する。

 

 

この打ち合いの中で工夫の末始めて放たれたあかねの攻撃はあっさりと弾かれ、返された。ダメージはわかばに入っていない。技術と経験の差は圧倒的である。わかばは戦いの中で身に着けた己の存在価値を全力で示す。

 

 

幾たびも自分の肌をわかばの闘志の牙が掠めていくことで感じる恐怖。一切の遠慮をする余裕がない強者と闘っているという現実がいつもの能天気さや人の良さやらを心の隅に押しやり、心の中に恐れと緊張感が満ちていった。わかばの本気の眼から伝わる殺気、それはわかばが手にしているものが刃引きのされていない真剣であるかのような錯覚をあかねに見せる。

 

 

だがこれが逆に、世界を護るためどんな困難とも闘うと誓ったあかねの心を反応させてしまった。わかばの全力にあてられることでこれを真剣勝負と認識したあかねの心は主を生かすため力を生む。それはとても人間に向けられていい闘志の量ではない。心の中に宿った恐怖は勝利するための意志へと裏返り、砂の上に力強く立ち上がったあかねの手に握られているものが先ほどとは違う必殺の覚悟で固められた真剣であることをわかばは見抜いた。

 

 

 

あかね「勘違いしてた・・・。どうやって攻撃をかわすか。どうやって隙を突くか。そんな余計な考えが自分を弱くするんだ。」

 

 

 

舞い上がる砂が混じった唾液を吐き出し、身体全体が焼け付くような力を内側でもてあましたあかねがギラついた眼をわかばへ向けるとゆっくりとそうつぶやく。わかばへの言葉ではなく、自分への語り

 

 

 

あかね「闘いに勝つには?考えるのはそれだっ!そして答え!力いっぱい殴りつける!」

 

 

 

わかばは自分へ叩きつけられるすさまじい気迫を剣先で感じ取る。今のあかねの眼からは、ただ目の前にいる敵を打ち倒す以外の意志は見られない。それほど本気になったということだ。わかばの悩みをなんとかするための気高い決闘なんかじゃなく、ただ力をぶつけあいどっちが強いか決めるだけ――これは喧嘩なのだ

 

 

 

わかば「そうだ、全力で来てくれ!途中に思考を挟む余地を残さない戦いを、私は望んでいるんだ!」

 

 

 

あかね「らあああ!!」

 

 

 

攻勢へと転じる。敵を倒すという目的のみを心に残し、もてる全ての思考力を真っ赤に染め上げる。先ほどまでの技術差を計算に入れ考え抜かれた立ち回りとは間逆、腕力と勢いに任せ手に持った棒でわかばの左の横っ面を吹き飛ばさんと振るわれる単純な攻撃。

 

 

わかば「ーーーーー」

 

 

だからこそ速い。そして、重い。返されないための技ではなく、倒すための攻撃。まっすぐ受け止めきれない勢いに身体が倒されないようにわかばは剣を斜めに倒しあかねの力を頭上へそらし受け流した。

 

 

あかね「ぁぁぁあああ!!」

 

 

そらされた力を下半身にため勢いよく反時計に一回転する。そして同じ方向から、先ほどより強い横薙ぎの剣の狙いは胴体。そらすことのかなわない一撃を受け止めるためわかばは剣を担ぐように腕を頭の横、剣先をまっすぐ下へむけ地面へ突き刺し地面と腕の力の二点であかねの攻撃を受け止める構えをとった。それを見たあかねは攻撃先を変えるそぶりなどまるっきり見せずわかばの防御へ真っ直ぐ突撃した。

 

 

<ガシィッ!!!!>

 

 

わかば「くうっ・・・~~!!」

 

 

竹刀に乗せた体重ごともっていかれる一撃。ぶつかりあう音で左耳が痺れるほどだ。実際わかばの身体は右側に倒れ込む。しかし全力で竹刀をたたきつけたあかねの左手側が完全に空いている隙を突かないわかばではない。わかばはそのまま剣を砂から引き抜くと剣先を勢いよく持ち上げ自らの身体が右側に倒れ込むのもかまわず頭上を通る弧を描く軌跡で剣を振り上げると流れるように斜めに振り下ろしながら右足を強く踏み込み全身の力を乗せ袈裟斬りを放った

 

 

あかね「!」

 

 

あかねは竹刀を持った左手を即座に放すと残った右手首を返し竹刀を自分の顔の前に水平にもってくる。余した左手で剣先を握り締め、その両手の間でわかばの一撃を食い止めた。 竹刀は刀である、を前提に置くわかば達剣道家はその試合において柄以外の部分を手で触ることはしない。そんなことをすれば自分の手を自分の刀で傷つけることになるからだ。そのため今あかねがやっている棒術のように両手で竹刀の柄と刃の先端を持つことで可能になる安定した防御を行うことはできない。だがあかねにそんなことは知ったこっちゃない。あかねの持っているのは敵だけを斬り自らは護る便利な武器。使い方に制限はない。

 

 

あかねはわかばの攻撃を受け止めた部分を起点に剣先を持った左手を引き、柄を持った右手を前に突き出す。わかばの剣を押しのけあかねの竹刀の柄がわかばの横っ面へ三度迫り、そして今度こそそれを捉えた。これがこの勝負で初の命中した攻撃である。例え腕の力だけしかのっていない柄で殴るだけの、剣道でもなんでもな貧弱な一撃であろうと、これをもらったわかばの心中は穏やかではなかった。

 

 

わかば「せいっ!」

 

 

激情に任せ剣を下から引き上げてあかねが竹刀の剣先にそえた左手ごと上へと切り上げる。手の甲が割れたかと思うほどの痛みが走ったあかねは思わず手を離してしまう。防御が崩れたことにより空いたあかねの左側のスペース。迷いこなくわかばは狙いを定め掲げた剣を振り下ろす

 

 

わかば「首だッ!」

 

 

あかね「!」

 

 

どこまでも荒々しいあかねと違う研ぎ澄まされたわかばの剣がうなりをあげて首へと迫る。とても竹刀の防御も回避も間に合わない。苦肉の策として、あかねは跳ね飛ばされて痺れる左腕を急いで曲げて肘と手首の間で竹刀を受け止める覚悟を決める。首にもらうよりマシだ。

 

 

 

あかね「うっがっ・・・!!」

 

 

痺れていて拳を握れなかったこともあり筋肉を硬直させることも叶わずまともに骨で受け止めることとなった痛みは覚悟など容易に越えていく。自らの持つものをあくまで竹ではなく鉄であると信じて鍛え上げてきたわかばの一閃があかねの肉を絶ち、骨を砕いた。相手の身体を袈裟斬りに振りぬいたような残心をとるわかばの中では、既にあかねの腕を切り落として身体は真っ二つになっている。そう、これが真剣を用いた決闘であったならこれで決着とまでいえる一撃だった

 

 

<ゴッ>

 

 

わかば「ーーーー」

 

 

ガクン、と崩れ落ちた自分の膝が砂の上に落ちた感覚が遠くから伝わる。事態の把握の前にわかばの頭を絶大な痛みが走りぬけた。

 

 

わかば「あっ・・・!!!」

 

 

暖炉から取り出した火ごてを押し付けられたかのように熱い左のこめかみを手で押さえるが、流血しているわけではないようだ

 

 

あかね「ぐっ・・・」

 

 

揺れる視界の中で、あかねが足をふらつかせ数歩後退しているのが見えた。痛むはずの左手を押さえるわけでもなくその右手にはしっかりと竹刀が握られていた。 あかねはわかばからの攻撃をくらうとほぼ同時に、右手に握りしめた竹刀の柄の先でわかばのこめかみを強くなぐりつけたのだ。そのダメージはあかねがくらったものからすれば安いものだが、頭に血が上っていて周りの把握を怠っていたわかばの意識の外をついた攻撃は思った以上の効果を生む。骨を断たせたのに肉も斬れないような攻撃であったが、次へ繋がる攻撃をしたのはあかねだ。

 

 

隙だらけのわかばめがけあかねは歯を食いしばりながら猛攻をかける。片腕を犠牲にして作ったチャンスを活かすためなら痛みなど噛み殺す。ほとんど開いていない距離を詰めるのにかかった時間はほんの刹那ではあるがわかばはそこで意識を最低限だけ取り戻していた。とっさに立ち上がろうとしていた右膝の片足立ちのまま攻撃に備えるたこめかみを抑えていた左手で反射的に頭をカバーする。

 

 

あかね「ーーやああっ!!!」

 

 

ガラ空きのわき腹を横からぶったたく。竹刀の重さに任せた力任せの攻撃は片手といえどわかばのガードを一時下げさせる程度のダメージは与える事ができた。ならば続けて狙うは隙のできた頭。竹刀を引き、今度はまっすぐ脳天に打ち込む。わかばの後ろで縛った髪が跳ね上がり、その身体が沈む。あかねはもう一度振りかぶろうと竹刀を引くがそれはわかばによって阻まれる。わかばが右手であかねの竹刀を掴んだからだ。

 

 

あかね(竹刀を戻そうと引っ張ってて余計な時間をつくればわかばちゃんは立ち上がる!攻撃だ!竹刀が使えなくても手はある!)

 

 

あかね「手はあるってか、足だけどねっ!」

 

 

竹刀を即座に放棄してあかねはわかばの顔面にとび蹴りをかました。慣れない武器を持った人間は無意識にそれに頼りきった戦法をとりがちになるため武器を押さえられると瞬間どう動けばいいかを見失う。しかし竹刀同士の打ち合いに勝機はないことを最初から解っていたあかねにとっては剣を捨てることで最大のチャンスが生まれる時をずっと狙っていたのだ。それが今。立ち上がろうとする姿勢から振るわれる剣の威力などたかが知れたもの。受けながらでもこの蹴りを命中させればわかばは完全にダウンする、というあかねの算段だ

 

 

 

わかば「ーーーふっ!」

 

 

 

あかね「え?」フワリ

 

 

 

武器を捨てることで勝ちを狙うという考えを持っていたあかねだが、しかし相手もそれを考えていたらという可能性に気付けなかったのは先入観が邪魔をした。剣士であるわかばは例えケンカに持ち込んでも剣にこだわるだろう、という予測。挑戦者であるあかねほど手段を選ばずというわけではないだろうという思い込み。しかし、この戦いにおいて挑戦者の姿勢をもっていたのはむしろわかばであったことをあかねは理解できていなかった。

 

 

わかばは竹刀を持っていた右手をいつの間にか自由にし、その手のひらであかねの蹴りを受け流した。そのまま膝立ちであかねの足を軸に身体を反転させると蹴り足であるあかねの右足を自分の右肩で担ぎ、背負い投げの要領で投げ飛ばした。あかねは受け身をとろうにも左腕は使えないので右手一本で衝撃を和らげようとするも1mほどの高さから叩きつけられる衝撃を片手でどうにかできるものではない。地面が砂浜であるにも関わらず強く胸を打ったことで肺から全ての空気が押し出され痛みのあまりの叫び声すらあげられない。

 

 

わかば「はー・・・はー・・・」

 

 

わかばの生まれは武術流派の家元だ。天元理心流、それが彼女の家系が持つ流派の名。剣術は当然のこと、素手での戦闘においても剣を持たずして戦闘を行う技術は兵には必須として長い歴史を持つ。その両方の技術ーー戦うための技術をこの若さで極限まで手にしつつあるわかばは他の教えを受けた生徒の中でズバ抜けており一部の門下生からは既に師範として教えを乞われることもある。だがわかばは自分が剣士であることが誇りであったし、剣道以外の競技で公式の試合には出場していない。

 

 

わかば「まさか私に剣を捨てさせるとは・・・!」

 

 

落ちた竹刀を拾おうと左手を伸ばすが、わき腹に走る痛みに顔をしかめてしまう。さっきの一撃で筋を痛めてしまったのだろう。おそらく左手を肩より上に上げようとするともっと痛むのだろう。かまうものか。わかばは竹刀を拾い上げ、両手で構えた。しかしすでに剣道の基本の中段の構えではない。右手を脇に引き込み剣先を斜め後ろに、刃を斜め上に向ける脇構えだ。一度深呼吸をして意識を統一すると片手をついて起き上がろうとするあかねの背中むけて走り出した。

 

 

わかば「はっ!」

 

 

頭の上まで振り上げることは出来ないので肩と同じところまでで止め、そこから両手の肘を伸ばす力を主とした攻撃で仕掛ける。背中を向けているあかねにこちらの動きは見えていないはずだが、あかねは前に跳ねることでわかばの攻撃を空振りさせる。 それも計算にいれていたわかばは追撃で腕を返し今度は左から右に竹刀を払った。あかねはそのままもう一度ジャンプで距離をとるーーーふりをするとその場で驚くほど警戒なフットワークでわかばの方へターンし、なんとそのまま攻撃へと突っ込む。驚くわかばだが攻撃の手は緩めず。あかねは時計周りに身体を回転させ右の拳を硬く固める。そのまま回りながらわかばの方へ足を一歩踏み出して距離を詰めた。あかねの狙いが解ったわかばだが既に動きは止められない。 わかばの攻撃はあかねの背中を強く打つ。そして歯を食いしばってその痛みをなんとかやりすごしたあかねの右拳による裏券が回転の勢いを乗せてわかばのアゴをえぐった

 

 

 

<ドガッ!!>

 

 

 

わかば「ぐっ!」ドサッ

 

 

あかね「かはっ・・・!」

 

 

 

竹刀で打ち込んだわかばが後ろ向きに倒れ、あかねは前に膝をついた姿勢で息を荒げながらも顔を上げたまま。  距離を詰めることで力の比較的のっていない竹刀の根元、それを背中という硬い場所で受け止めた。さらに身体を回転させた勢いを乗せた裏拳をぶん回して弱点であるアゴを狙ったあかねに対して、全力攻撃を空振りし距離を詰めながら放った追撃であり一撃目より勢いを乗せられなかったわかば。どちらがダメージを多く受けたかは明白だった。

 

 

あかね「げほっ!げほっげほっ・・・!!」

 

 

それでも。叩きつけられたダメージが消える間もなく背中に攻撃を続けられたあかねの方が全体の消耗は激しい。それにわかばは武道の修行の中で少なからず打たれ強さは身につけている。これは根性どうこうより、慣れの差だ。

 

 

ゆらりと立ち上がったわかばはまだ立ち上がれないあかねに一歩ずつ迫る。わき腹の痛みで悲鳴を上げる身体に渇を入れ両腕で竹刀を頭上へ振り上げた。その切っ先は、天を向く。

 

 

わかば「最後に・・・勝つのはっ!私だっ!」

 

 

あかね「~~っ!!」

 

 

 

 

 

咳き込んで動けなかった間にすでにわかばは目の前。あかねは再び左右どちらかへ転がり避けようと考えるが、それは許されない。目をそらせば、それこそかわすことなど出来はしない。太陽の光をギラリと反射した鋼鉄の意志を纏う竹の刀が稲妻のようにあかねの眉間目掛け打ち下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

<バシィッッッ!!!>

 

 

 

 

わかば「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかね「勝負に・・・勝つのは・・・!」

 

 

 

 

わかば「!!!」

 

 

 

 

あかね「相手を打ち倒すまで、最後なんて言葉を使わないほうだッ!!」

 

 

 

 

わかば「ばかなっ!!真剣白刃取り・・・うっ!?」ガクン

 

 

 

 

あかねは両の手のひらでわかばの竹刀を完全に挟み込んでいた。無理やり動かした左腕は限界をこえてダラリと垂れ下がるが、あかねの心が宿す炎はその痛みを得て膨れ上がっていた。必殺の気合をこめた一撃を受け止められたわかばは先ほどまでできていたことが判断できなくなっていた。つまるところ、竹刀を右手で掴んだあかねがそれを力いっぱい引っ張ったのに反射的に抵抗してしまい手を離すことが出来なかった。それによりあかねに立ち上がる力を与えてしまい自らの姿勢を前のめりに崩すというミスを犯す。

 

 

 

あかね「やああああぁっ!!」

 

 

立ち上がるのではなく、あかねが取った行動は跳躍。竹刀を支えにし立ち上がった膝のバネで身体に勢いをつける。全身を硬直させ跳躍が生んだ力をてっぺんへ。目は真っ直ぐわかばをみつめたまま、アゴをくいっと引いて歯を食いしばると前髪の生え際当たりの頭蓋をわかばの額に叩き込んだ  

 

 

    <<<ゴガッ!!!!!!>>>

 

 

 

わかば「うぁっ」

 

 

 

 

 

 

前に倒れ込みそうだった上半身は跳ね上がった頭に引っ張られ反り返ろうとするが、膝がくずれおちた勢いで結局あかねのほうへと倒れ込む。一瞬攻撃を警戒したあかねだったが、わかばの手から力なく竹刀が転がったのを見て安心してわかばを受け止めると自分もその場に座りこんだ。

 

 

 

 

《ビビッドレッド(変身せず)・一色あかね》 対 《天元理心流・三枝わかば》

 

 

 

 

 

 

 

あかね「やっぱケンカはど根性!っだね。」

 

 

 

 

 

 

 

勝者     一色あかね

 




本気のド突き合いを書いてみました。書いてる私は楽しい。読んでる皆さんにも伝われこの思い。  まあわかばちゃんが望んだのが試合ではなく決闘である以上、勝敗が決しない流れにはしたくなかったです。アローン戦ぐらい気合入って書いてしまった・・・。決闘描写わかりにくかったですか?勢いだけでも伝わればいいのですが・・・。



せっかくのクロスオーバーなので、わかば対宮藤とかも考えましたが話をつなげられなかったので今回は断念しました。今回は。

次回も書きだめ初めているので今月中にはお見せできるかと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 わかば「最低の敗北と最高の敗北」

『望み通りに今この場で再挑戦を受けるのは構わない。だが、あなたが勝ちたいのは今ここにいる私ではないだろう?あの全国大会決勝での勝負に勝ちたいのだろう?だが、無理だ。もしあなたが今の記憶を引き継いで私とのあの勝負をやり直したとしても、再度私が勝利するだろう。絶対にだ。何故だと思う?』

 

 

『強さとは心技体の統一だ。三つ揃わずしてなるものではない。湧き上がる思いが体を突き動かし、鍛え上げられた肉体から繰り出される技は強さへと私を導いてくれる。』

 

 

『私が言うのは、あの決戦の場であなたに無くて私にあったものがなんなのかという話だ。短い青春を剣道に捧げた者達が目指す栄光の頂点。そこを目の前にして、あなたは何を感じていた?』

 

 

 

『あなたに足りないものは、心だ。どうしても勝ちたいって必死さがまるでなかった。勝利に対する渇望などまるで無い。勝つことに慣れきっている<次>があると思ってるやつの剣だ。』

 

 

 

『あなたは何を求めてここに来た?勝負に二度は無い。今の私に勝ったとして、あの敗北が消えるわけでは無いのに、今の私に勝ってどうする?・・・やっぱり帰りなさい。敗北に囚われたままの人と闘っても、誰のためもにならないから』

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

わかば「・・・」

 

 

失われた意識の中で見た夢は、昨年夏の出来事。三枝わかばを一年近く悩ませ続ける結果となった会話。今まで何度も見た夢を、また見ていた。その回想からわかばを引き戻したものは、鈍い頭痛と海の匂い。太陽の光を受けて一層鮮やかな赤い髪が潮風で煽られてパタパタ揺れているのをしばし呆けながら見つめていたわかばは、痛む頭ながらも自分の置かれている状況というのを考え始めた。

 

 

あかね「起きた?」

 

 

わかば「あかね・・・」

 

 

覗き込んでくるあかねの顔はさかさまだ。今わかばは砂浜に正座しているあかねの両ふとももの間に頭を乗せる形で砂浜に身体を横たえていた。なんとも恥ずかしい体勢だが、頭を浮かそうとすると頭全体に痺れるような痛みと眩暈が起きてしまい慌ててあかね枕に頭をのっけた

 

 

あかね「ゆっくりしてていいよ。腕は痛いけど足は元気だし。」

 

 

わかば「ごめんなさい。」

 

 

あかね「えっ。なにをいきなり」

 

 

わかば「・・・やっぱり、いきなり行動に走ったのは浅慮だったわ。」

 

 

あかね「そんなこと、受けて立ったわたしだって同じじゃん。まあでも、なんで決闘って話になったの?」

 

 

わかば「勢いに任せて口から出してしまったのよ。」

 

 

あかね「へえー。わかばちゃんって冷静な人って第一印象だったけど、かなりぶっとんでるね!」

 

 

わかば「少なくともあなたと始めて会うまでの私は冷静だった。」

 

 

あかね「はじめて会った時っていうのは、海岸でのことだよね?」

 

 

わかば「そう。」

 

 

 

三枝わかばが歩んできた剣の道は長く、険しいものだ。彼女のこれまでの生き様を振り返ったなら、そこに一切の甘えがないことは誰しもが認めるところだ。しかし、それは別にわかばが望んで踏み入った道ではない。ただわかばの前に道は一本しか無かったのだ。

 

 

わかば「剣術道場の娘として産まれたから剣道を始めた。というか気付いたら剣道をやってたわ。他にやることもないんでとにかくずっと竹刀を振って過ごしてた。お腹が空くからご飯を食べる。眠いから寝る。それと同じくらい当たり前に無意識で剣道に打ち込んでいた。そのおかげか、私は圧倒的に強かったから負けたことなんて一度もない。だから勝つことにも特別なものを感じたことは一度だってなかったわ。」

 

 

 

 

 

わかば「だが、負けた。これまで私は、他の人間が他のことをしている時に竹刀を振り続けることで差をつけてきた。可能な限り積み重ねた努力、それが私の強さの土台。それでも届かない場所があるとしても、私には見上げることしか出来ない。」

 

 

 

わかば「それからの私は、剣を振りながらも<道>を失い、ただ彷徨うだけとなった。私が竹刀を置かずにいれたのは夏の敗北があったからだ。皮肉にも、夏の敗北だけが私の前へ進む心の原動力となった。秋と、冬を越え、2年になったけれど、私は何も変わらずただ竹刀を振り続けていた。いい加減、どうにかならないものかと虚しい悩み事をしながら海を見つめるのが日課になりつつあったのだけれど・・・」

 

 

 

 

わかば「―――その時、空を見た。」

 

 

 

青空に赤い光の帯が2つ。そこで起きていることが闘いであることをわかばは肌で感じ取るも戦場は自分が立っている場所の遥か上だ。空を舞い、宙を裂く刃の輝きはおおよそわかばの精神の常識を司る壁で耐えられるものではない

 

 

わかば「自分の手の届かない領域。その闘いは、私がこれまで何百何千とこなしてきたものとは違うものだ。」

 

 

竹刀を持つ手が震えた。むしろ震えているのは全身。それは今まで感じたことのない胸の高鳴りが起こすものだ。赤い光が衝撃波と共に砕け散り、風を制しながら砂浜に降り立った少女に向けて発した言葉は賞賛だ。わかばの心の底からの言葉によるものである

 

 

わかば「あの力は人の域を飛び越えたものだった。それでも、私はその力の中にあの全国の場で感じたのと同じような力があるのを感じたわ。意志の力、心の力。」

 

 

わかば「胸の鼓動は収まっても、熱は冷めることなく、身体がむしょうに暴れたがっていた。夢にまで出てきて、あの一瞬の出来事は既に頭に焼きつき私を休ませない。これがなにかっていうと・・・私は、あなたに憧れてしまったのよ。」

 

 

胸の底で眠っていた純粋な好奇心を刺激し、目標を知らないままがむしゃらに走り続けていた少女に夢を見せた。非常識な発想であっても、ただ自らの欲の果てにある漠然としたもの。あんな風になってみたいという憧憬。それはわかばの中に今まで無かった目標になりうるものだ。

 

 

わかば「もう二度とあなたと会えないだろうと覚悟もしていた。あの時出会った彼女がなにを背負っていて、どんな事情や思惑を抱えていたかなんて解るはずもなかった。それでも!ああなりたいと、ああなってみたいと思った!どうすればいいかなんて解らなかったけど、それでもよ。」

 

 

もう一度あの力に触れてみたいという願いは三枝わかばの平常心を乱すほどの情熱となっていた。運命的とも言える再開を果たした瞬間にそれを爆発させることこそ抑えたが、今こそ自分を変える時だと悟っていたわかばがすぐさま行動に出たのだ。

 

 

あかね「あなたが憧れた力っていうのはーーー」

 

 

わかば「空を飛んでいた時程大きなものではなくても、全く同じものが今の闘いにはあったわ。あなた自身が持つ力よ。」

 

 

返すわかばの言葉にあかねはすぐ口を閉じた。

 

 

あかね(示現力じゃない・・・わたしの、力。)

 

 

それがどういうものか、あかねには解らない。おそらくわかばにも解らない。だが、わかばの言うことをあかねは心で理解した。わかばが心の底から自分の望みを語ることが、どれだけあかねを信頼しているかの証明だと悟ったあかねはそれに対してこちらも応えたいと思ったのだ。

 

 

だがあかねの胸の高鳴りを遮る不協和音のような薄暗い不安が影をさした。釣られたように顔を上げるが既に目で捉えるまでもない。身体を押しつぶさんとする威圧感を胸中で膨らませた闘志を爆発させ吹き飛ばすようにあかねは力強く立ち上がった。

 

 

当然のように支えを失ったわかばの後頭部が砂を巻き上げたわかばの頭痛をさらに加速させてしまったが、あかねは既に空だけを見ている

 

 

 

わかば「な・・・なんなの、あれは!」

 

 

 

 

あかね「アローン!わたし達の、敵だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の更新から・・・半年!?半年間何度も書き直しては気に入らないで消してしばらく間あけて書き直してを繰り返していたということか!遅くなったなんてもんじゃねえぞ!申し訳ないです!続きはこんどこそすぐ書くので許してくださいお願いします!!何でもしま


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 あおい「果たすべき役目」

時空の歪みが起こした衝撃が圧となって海をざわめかせた。何か危険が迫ってきたことを察したわかばはその身を無理やりに起こす。少し離れた学園から耳を覆いたくなるような警報が鳴り響き、それは聞く者によっては戦いの始まりを暗示するもののようであった。草むらに身を忍ばせていたあおい達も、こうなってしまっては観客に徹しているわけにはいかず役を果たすため場に踊り出るしかなかった。実際、出て行く間をはかっていたところもあったわけでもあるが

 

 

 

あおい「あかねちゃーん!!!!」

 

 

あかね「あおいちゃん!?どうしてここに!ここでなにしてるの!?」

 

 

あおい「あかねちゃん達がなにしてるか見に来たの!二人ともなにしてるの!?」

 

 

宮藤「怪我のほうも気になるところだけど、後回しだね。どうします?」

 

 

ペリーヌ「一先ず・・・ええ、ここを離れる必要がありますわね。この音は学園の地下シェルターへの避難を指示するサイレンだったはず、話はそこでいたしましょう。こまりさん黒騎さん、お二人はあかねさんと三枝さんのかばんを回収しつつお先にシェルターのほうへ向かってください。」

 

 

れい「わかったわ」

 

 

こまり「みんな残るの?怒られるよ?」

 

 

ペリーヌ「馬鹿なことおっしゃいな、わたくしが誰かに怒られるような行動をとる無責任な人間にみえまして?怪我人二人を連れてすぐ追いかけますわよ」

 

 

 

こまり「そういうことなら、お先に!」

 

 

あかね「れいちゃん、わたし達すぐ行くから!」

 

 

れい「ええ、彼女と一緒にいるわ。あなた達が戻ってくるまで」

 

 

来た方向へ取って返した二人を見送るのもそこそこに、あかねは右手の中に既にオペレーションキーを握り締めていた。いつもより心臓の鼓動が早いのは、気が昂ぶっているだけではないだろう。その身に蓄積されたダメージは残っており、彼女の体調は万全と呼べるものではない。

 

 

だがそれがあかねの戦いへの意志をとめるものにはならない。危険というものは不条理に降りかかって来るものであって、ただ立ち向かうことだけがそれを好転させるのだ

 

 

だがしかし、そんなあかねにあおいが待ったをかけて前に進み出た。あかねの右手を両手でやさしく包み込み、戸惑うあかねの瞳を真っ直ぐと見つめるだけであかねを地に留めた

 

 

 

あおい「私が1人で行く。あかねちゃんは待ってて」

 

 

 

あかね「怪我なんてどうってことないから。私なら大丈夫だよ」

 

 

 

あおい「私だってあかねちゃんのために無茶してもいいでしょ?」

 

 

  

あかね「わたしのかわりに無茶させるために、力をあげたわけじゃないよ!」

 

 

 

 

自分が招いた失態があおいの負担となってしまうことはあかねにとって我慢ならないことだ。アローンと戦う使命は一色あかねが請け負ったもの。これはあかねがやらねばならないことなのだ。その使命を押し付けるためにあおいを救ったわけではない。あおいが恩返しで戦うというのなら、あかねの差し伸べた手をとったことであおいにこの戦いの責任が移ったというなら、それをあかねは罪と認めなくてはならないだろう

 

 

 

あおい「誰もあかねちゃんの代わりになんてなれっこないよ」

 

 

 

あかね「え?」

 

 

 

おあい「弱い私でもなにかあかねちゃんの役にたてればって、願った私を変えてくれた。一緒にいてもいいって笑ってくれた。頼りない私なのはあかねちゃんがよく知ってると思うけど、それでも私はがんばってあかねちゃんの横に立つから。私はただあかねちゃんと一緒にいたいだけ」

 

 

 

あおいが一歩、前に踏み出した。その一歩であかねの前に立ち、空を見上げる。握り締められたあおいの手の指の間からあふれ出す青白い光が段々と明度を増し細い光の帯を空中に照らし出す。

 

 

 

あおい「そんな私の願いの邪魔をする!アローンは『私の』敵なんだっ!イグニッション!」

 

 

 

おあいは手を高く突き上げ示現力の光を解き放った。瞬間、その身を覆った光が鎧の概念を表した青い服へと変化する。

 

ビビッドブルーへと変身を完了させたあおいが放つ示現エネルギーの余波をこれほどまで間近に素肌で浴びるのはあかねを含めその場全員が始めてのことだった。その力のもとにあるのが燃え滾る闘志であると感じながら、優しさすら思わせる暖かいものであることにわかばは無言で驚いていた。

 

 

 

あおい「それでは、ペリーヌさん達はあかねちゃんを」

 

 

ペリーヌ「お待ちなさい二葉さん。確かに、今のあかねさんを戦闘に出さないというあなたの判断にはわたくしも概ね同意いたしますが、なにも本当に1人で戦いに向かわれることもないでしょう?」

 

 

あおい「えっ・・・」

 

 

宮藤「あれ、ペリーヌさんは先生に怒られるようなことはしないんじゃなかったんですか?」

 

 

ペリーヌ「人それぞれに役目というものがあり、わたくしも自分のそれは十分理解していますわ。戦士でありながら仲間1人残しのうのうと逃げるなど、先生方がお許しになってもこのペリーヌ・クロステルマンが許しません。」

 

 

リーネ「あ、あおいさん。アローンの出現までの時間がどれだけのものか解りますか?」

 

 

あおい「はい。おじいさんによると長くても30分もあればあの場所から出現するらしいです。」

 

 

ペリーヌ「ここから大島までモノレールで駅を挟んで15分でしたから、あおいさんの力をかりて真っ直ぐ飛べばもっと早くつけますわね。あおいさん、わたくしとリーネさんをあかねさんの家まで運んでいただけませんこと?わたくし達、ああいう黒くて光ってビームを撃って来る大きな敵との戦闘はそこそこ経験しておりますのでお力になれると思いますわ。あまりあかねさんを心配させたくはないでしょう?」

 

 

 

あおい「・・・解りました。ええっと、お二人だけならあまり速度を落とさずに運べると思いますけど、3人となるとちょっと時間がかかってしまうので・・・」

 

 

 

宮藤「私はここに残ってあかねちゃんの怪我を治します。」

 

 

ペリーヌ「ええお願いしますわ。あおいさん、お願いいたします」ガシッ

 

 

リーネ「おもいきり飛ばしてもらって大丈夫ですよ。魔法発動中は大したことじゃびくともしませんから。」ガシッ

 

 

あおい「えっと、はい、じゃあ行きます!」

 

 

 

リーネを左にペリーヌを右に抱えてあおいは初速は慎重に、そして徐々に速度を増して大島の方向へ飛んでいった。3人の動向を見送るのもそこそこに、あかねは芳佳にうながされてその場に座り込んだ

 

 

あかね「ねえ、なにするの?」

 

 

宮藤「怪我を治すよ。大きな怪我は左腕だけだね?うん、かなり腫れてるから骨折かもしれないけど大丈夫!」

 

 

わかば「大丈夫ではないでしょう。まあ私が言うのもなんだかな・・・」

 

 

あかね「治すって言ってもお薬塗っただけで治ったりするものなの?」

 

 

宮藤「私達ウィッチは共通した魔法力以外にも個別に特殊な力をもっています。ペリーヌさんが『雷』ならば私は『治癒』!」

 

 

宮藤芳佳の頭に犬めいた耳が生えた。続いて同じく犬を思わせる柔らかな尻尾が腰の辺りから飛び出す。芳佳は深く息を吸い、ゆっくりと肺の中の空気を吐き出した。芳佳の身体の中で抑えられていた魔法力が高まっていくのを感じる。あかねはこれから起こる何かに対し胸をときめかせていた。魔法を実際目にできる機会、さながら贈り物の箱を開けるときのように期待を躍らせた

 

 

 

宮藤「一つだけ!絶対に大丈夫ですから、なにがあっても逃げないでくださいね・・・!」ポォオ

 

 

 

しかして箱の中身は爆弾である、と無慈悲に告げられたあかねは絶望に腕を掴まれながらもそれを振り払って逃げ出すことはかなわなかった。ただただ混乱と動揺を瞳で訴えるも、わかばは力なく倒れ伏すだけだ。芳佳の目はすでにどこを見ているのかがわからない

 

 

 

芳佳の両手の平から放出される光は液体めいた質感を持ち、芳佳の手からあかねの腕へと宙を漂いゆっくりと患部を包み込んだ。光の強さに比例する熱にあかねは思わず身体を強張らせたが『動くな』という言葉を思い出し、眉をひそめて我慢した。皮膚を焦がすそれが肉を伝いついに骨へ触れたことは鋭い痛みが報せてくれた。それと同じタイミングで芳佳が少しうろたえた表情を浮かべた。あかねが心配そうな目で見ていることに気付くと、芳佳はあわててニッコリ微笑んで「大丈夫です」とだけ言ってあかねの腕の治療に集中しだした

 

 

 

_____________________________________

 

 

 

 

 

一方で、既にあおいはあかねの家の庭に足をつけていた。正しくは少し地面から浮いた状態だったが、二人を降ろすとすぐさま高度を上げて雲を突き抜けるほど飛び上がった。人を抱えているといっても武器を展開していなければビビッドブルーの移動速度はそれほど遅いものではない。そのため移動の時間はほとんどかからなかったが、飛行中あおいはずっと頭のてっぺんを抑えるような強烈な威圧を感じ続けていた。

 

 

あおい「・・・」

 

 

 

というよりあおいからは既に時間の感覚は失われていた。戦いへの緊張があおいの感覚を極度に尖らせ、心臓のオーバーワークが血流を遥かに加速させ、理性が普段押さえつけてるもの全てが頭の中でぐるぐると暴れまわっていた。全てを叫び声に乗せて吐き出せれば楽になる、そう思いながらも残った理性がそれを許さなかった。今自分の中にあるもの全てを力に変えて戦うべき時なのだということを理解している

 

 

ペリーヌ『聞こえますか二葉さん。わたくしとリーネさんも健二郎博士から通信機をいただきましたので、今後これを使って連携を取ります。よろしいですか?』

 

 

あおい「はいっ。」

 

 

ペリーヌ『少し、悪い報せがあります。私とリーネさんのストライカーの燃料が残り少ないのです。ストライカーは特殊な技術が使われているものでそれに従い燃料も専用のものが必要なのですが、いまのところ代用品が見つかっておりません。協力する、と言った以上心苦しいところではありますが、少しでも長く戦闘に参加するためわたくし達はアローン出現以降にストライカーの起動に入ることになります』

 

 

あおい「ということは・・・」

 

 

ペリーヌ『少しの間だけ、あなたに援護のない状態での戦闘を強いることになりますわ。・・・本当に申し訳ありません』

 

 

あおい「いえ、そんな!協力してもらえるだけでもありがたいんです!」

 

 

健二郎『遠洋に防衛軍の艦隊が待機しておる。アローンの足を止めれば、援護も可能じゃろう。』

 

 

あおい「でもアローンを倒せるのは示現力だけなんじゃ・・・?」

 

 

健二郎『解析の結果、ある程度の質量のエネルギーであればコアの破壊は可能じゃ。外部装甲にダメージを与えることはその再生力も相まってほぼ絶望的じゃが、衝撃で攻撃を抑制させることぐらいはできる!はず!』

 

 

 

アローンの装甲は黒く輝く物質で出来ているが、一色健次郎はそれを金属の定義に当てはめることができるものかどうかの結論を出せずにいた。示現エネルギーであればそれを破壊することが可能であるが、アローンの行動を司る核に関してはその限りではないことも確かだ。それは示現エネルギーを管理する高次元生命体により伝えられた情報の一つである。

 

 

 

 

 

健次郎『示現エネルギーの反応が高まっておる!既に以前アローン出現時に計測したエネルギー値を上回っておるのじゃが、出現には到っておらんようじゃな?』

 

 

あおい「それってやっぱり、前より強い敵だってことになるんですか?」

 

 

健次郎『警戒すべきじゃのう。アローンは今のところ出現するたび姿形を変えておる。攻撃方法や行動パターンもそれに準じてもおかしくはない』

 

 

機動力のおとるビビッドブルーにとって攻撃の機会を多く確保することは難しい。敵の出鼻を挫く意味合いは戦術的価値もあいまってとても大事だ。しかし、目に見えた変化が空に起こっていない現状出現地点を予測することは難しく、素早い対応が求められる今ネイキッドインパクトをあらかじめ発動させておくことが出来ずに空を漂っていた

 

 

 

アローン出現を待つ一同だったが、ペリーヌは他のことを待っていた。他ならぬ、一色あかねの戦線復帰である。宮藤芳佳本人への評価は厳しいペリーヌではあるが彼女の治癒魔法の効力が確かなものであることは理解している。ゆえに、苛立っていた。あかねの怪我など所詮は喧嘩の末にある打撲かそれより少し痛い程度のものであろうにまだ完治の連絡がない

 

 

ペリーヌ(時間がかかりすぎてますわね。まさか何かあったわけでは・・・?)

 

 

リーネ「どうかされましたか?」

 

 

ペリーヌ「宮藤さんはこちらの世界に来たばかりのころ記憶を失っていたと聞きましたが」

 

 

リーネ「そうみたいですけど」

 

 

ペリーヌ「魔法の使い方を忘れてしまったのではと心配しているのですわ。」

 

 

リーネ「ええ!?まさかそんなことないでしょう!だってもう記憶は取り戻してるって芳佳ちゃん・・・」

 

 

ペリーヌ「こちらの世界にくるきっかえの出来事、こちらに来る過程、色々と思い出せていないことはあるみたいですが?」

 

 

 

成程、と納得したような顔のリーネが、まさか、と一気に噴出した不安を顔に出す。その不安に追い討ちをかけるような叫び声がイヤホンを通して二人の耳に突き刺さった

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夏の暑さと戦いながら延々書いて消しての繰り返しは、書き手としては楽しいものもあるだろう。しかしこれが数少ない読者に伝わらない以上、誰も読まなくなってしまったとしても文句は言えないわけだ。4ヶ月かけたわりに進んでなくない?みたいな? すいません!次こそ、次こそすぐあげますのでね!ね!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 わかば「魂の形」

あおい達3人が学園を離れた後の話から始めよう。芳佳の治癒魔法を受けて数分、既にあかねの腕の怪我は八割方治ったといえる状態にまでなっていた。まさに魔法とよぶべき超現象が自らの身に起こっていることに驚いていたあかねも段々と落ち着きを取り戻し、暖かな力に身を任せた

 

 

意識を半ば手放すほどの心地よさだったが、その時は唐突に終わりを迎えた。あかねの視界を占領していた青白い光が突如掻き消え、エネルギーが流れ込んできていた感覚が無くなった。細かく瞬きを繰り返しぼーっとしていた頭を回転させようとするあかねは、目の前の芳佳が姿勢を崩し砂浜に倒れ伏したことで一気に覚醒した

 

 

 

あかね「芳佳ちゃん!?」

 

 

宮藤「うん。ちょっと疲れちゃっただけだから大丈夫。それより、腕は問題ない?」

 

 

あかね「もうがんがん動かせるよ、ありがと!」

 

 

 

 

空が黒ずんで見えるのは気のせいなのだろうか。既にアローンが出ているのかもしれない。もう一度視線を向けると横たわる芳佳は物言わず手をひらひらとさせたので、その意を汲んであかねは戦うために立ち上がった

 

 

わかば「・・・」

 

 

 

そのあかねの前に立ちはだかったのはわかば。まだダメージが回復しきっていないだろう身体を立たせたのはわかばの中で生まれつつある強い意志の後押しだ。わかばの眼を見つめながら、あかねは手の中の鍵の熱が高まっていくのを感じていた

 

 

 

あかね「わかばちゃん・・・」

 

 

わかば「二葉さんが1人で立ち向かおうとした時、彼女も戦うために一番必要なものをもっていることを知った。それは『価値ある生』のために戦える勇気だ。自らの生のために自らの命を差し出す。私ーーー」

 

 

 

その先の言葉を言うことは出来なかった。今まで黙ってわかばの言葉を聞いていたあかねが突如わかばに抱きつくように覆いかぶさってきたのだ。赤い髪のふさふさに視界を塞がれすっかり気が動転したわかばはあかねが何を叫んでいるのかを全く把握できなかったが、とにかく自分の後ろになにか大きな存在感のあるものが迫っていることだけは理解できた。

 

 

 

わかば「!??」ギュッ

 

 

 

受け止めたあかねに押し倒されるように体勢を崩したわかばは砂浜につく足に慌てて力をいれる。だが両足は体を支えるどころか虚しく宙を蹴った。気がつけばわかばは重力を感じない不思議な空間に取り込まれているではないか。そこは砂浜でないのは確かで、わかばの体験したことのない不思議な気配が渦巻く空間だった。どこまでも広がっているようで、妙に狭く息苦しい空間は彼女を歓迎しているようには感じられない

 

 

 

そこにある何かから逃れようとするが身体が思い通りにならない。体に纏わりつく熱い流体がわかばを溶かしていく。そのまま溶けてしまえば楽だろうに、わかばの中にある意思だけが抗うことをやめない。それに応えるように僅かに感覚の残っていた腕が虚空へと伸ばされた。何にすがろうとした訳でもなく、ただこのまま終われないという思いが最後にそういう形で現れただけだった

 

 

 

 

あかね『わかばちゃん!』

 

 

 

しかし、その思いを救い上げるものがあった。纏わりつく熱流から引き上げられ、わかばは心地よい暖かみの中で意識をはっきりと取り戻す。少しおぼろげな像ではあったが、あかねは確かにそこにいる

 

 

 

わかば『ここは・・・』

 

 

あかね『示現エンジンの中、示現エネルギーの中心だよ。ごめんね、わたしが手を放しちゃったからもう少しで飲み込まれるところだった。』

 

 

わかば『わからないわ』

 

 

あかね『わたしもわからないけどね!でもまあ、わかばちゃんもビビっときたでしょ?』

 

 

わかば『これこそが、示現エンジンの作り出すエネルギーということなのね』

 

 

あかね『この空間は示現力が強すぎるんだ。どんなものもここでは示現力の一部になっちゃうけど、一番大事なものだけ失わなければわかばちゃんはわかばちゃんでいられる。』

 

 

 

あかねは漂っていた示現エネルギーを意識的にかき集め、赤いパレットスーツでその身を包んだ。あかねの意志の力を眼前とした時わかばの心の底にある意識を再び覚醒させる衝撃を与えた

 

 

 

わかば『あかねのように気高い意志を持って闘える人間になりたいという憧れはこの示現力の中で私を保った本物の意志。今の私は、その本物の意志で満ちている。純粋な、ただ1つの思いに力を集め、私は剣となる。あなたの敵を斬り、あなたと最期を共にする。あなたと同じものを背負い、私も飛びましょう』

 

 

あかね『そんな難しく考えなくていいじゃん。重くなると飛べないよ』

 

 

わかば『なら私達の背にあるべきは・・・翼ね』

 

 

 

わかばはあかねの左手を優しく掴むと目の高さまで持ち上げ、宮廷騎士が主君に忠誠の誓いを立てる行いを真似るように手の甲にキスをしてみせた。西洋の騎士より極東の侍という肩書きが似合うわかばらしくない立ち回りではあるが、わかばの信頼をあかねに伝える分には適した行動だ

 

 

 

わかばの身体が一際強い光を放ちながら弾けた。いくつもの光の粒があかねの身体に飛び込んでいき、あかねはくすぐったそうに力いっぱい自分を抱きしめた。あかねの魂でいっぱいだった身体にわかばの魂が飛び込んだものだから、パレットスーツは二人分の魂を受け入れるだけの容量を増設するためより多くの示現エネルギーを手当たり次第に巻き込んだ。

 

 

異なる魂が一つの身体の中でぶつかったり混ざったり絡み合ったりする度に示現エネルギーが極度に凝縮されて物理的な形をとる。無数の力の欠片がビビッドシステムの管理下で規則正しい流れを生み出し新たなパレットスーツを創り出した。準備を整えたあかねは、空間の小さな穴に向かって力強く跳躍した

 

 

________________________________________

 

 

 

 

 

芳佳からすれば一瞬の出来事であった。わかばとあかねの話を遮り海面を突き破って水飛沫を散らしながら目の前に現れたアローンは、その龍のような長い身体で甲高い軋むような音を立てながら空へぐんぐんと伸び上がっていった。疲れきって伏していた芳佳はあんぐり口を開けて仰天し、海水のしぶきが無防備な目に飛来し悶絶の声をあげる

 

 

視界が回復すると同時に凄まじい光が飛び込んできた。アローンの攻撃と錯覚し頭を抱えてお腹を守る体勢をとったが、その光が温かみを放つものであることに気付き恐る恐るながらも顔をあげた。

 

 

宮藤「なんの光ぃ!?」

 

 

???「芳佳ちゃん大丈夫?」

 

 

宮藤「いや、なにがなんだか。それよりあかねちゃん達のほうこそ、それ一体何があったの?」

 

 

???「私たちは互いの心を受け入れた。心が溶け合うことで生まれる絆を力として、ここに示現した」

 

 

宮藤「キメ顔でごり押されてもなにがなんだかだよ!!」

 

 

???「とにかくちょっと行ってくるから!」

 

 

鮮やかなエメラルドを思わせるような光の中心で、凛々しい背中が芳佳をアローンから護るように凜と立つ様が見える。その上背は二人のどちらよりも高く、柔らかくなびく緑の長い髪はキラキラと光を放ち透き通っていた。腰の部分に巻かれた注連縄が腰周りの武者鎧を模したパーツを繋げており、最も目立つのは腰から左右斜めに延びた二本の剣の鞘のようなサイドスカートだ。

 

 

 

 

健次郎『こんなエネルギー量・・・あかねは一体なにをやったんじゃ?』

 

 

 

研究室でモニターを前にしていた健次郎にはその力の異常性が一瞬で理解できた。あかねと思われる存在が放つエネルギー量は、健次郎が想定していた100%を容易に越え、数値化を図ろうとする間にも莫大な増加を続ける。人間が捉え切るのは不可能な域にまで達していた

 

 

 

 

健次郎『あかね!聞こえるかは解らんが、今お前の身体に流れとる示現エネルギーは非常に不安定なんじゃ!長時間の戦闘は暴走を招くやもしれん!長引かせるんじゃないぞ!』

 

 

 

しかし健次郎は示現エネルギーの権威とまで言われた男だ。想定外の事態であっても、状況を見抜く力はある。その忠告の通信が聞こえたはずだが、緑の戦士はただ鋭い目つきでアローンを値踏みするように見据える

 

 

 

 

???「扱いが難しい量の力・・・でも御してみせる!」

 

 

 

右手を横に伸ばすと、彼女の周りの緑の光がその動きに従って収束して剣のような何かが顕現した。柄と鍔こそ立派だが、肝心の刀身は刃のない四角い長方形の緑色の分厚い板。斬るというより殴りつけるための武器にしか見えない。しかしそれは確かに<剣>だった。その証拠に、緑の戦士はそれにチラリと目をやると誇らしげに笑って見せた。

 

 

 

???「刀身解放!」

 

 

強く唱えると、四角い刀身に緑のジグザグの模様が浮き上がり、片方の刀身を軸にコンパスのようにもう片方が開いていく。180度の角度まで開くと最後に外を覆っていた装甲部分が互いに噛み合いつなぎ目をふさぐ。中に隠されていた高密度のエネルギー体が空気を焼く音を発し攻撃的な刃が展開される。彼女は自らの背丈の倍はあろうかという大太刀を前に突き出し切っ先をアローンへ向けた

 

 

 

???「暗雲切り裂く緑の翼、刃となってここに推参!我らの前にはだかる壁は、問答無用の一刀両断!活殺自在の大立ち回り、示現の力ここにあり!オペレーションは、ビビッドグリーン!!とわあっ!」

 

 

ビビッドグリーンは天高く叫んだ。剣を脇に構え、腰を落として足に力をこめる。二本のサイドスカートの先が一瞬強く光った次の瞬間にその場からかき消えた。まさに風そのものとなったビビッドグリーンはアローンのもとへ飛翔。アローンが海面から飛び出し渦巻きのように身体をぐねらせ体勢を整えようとする隙に、緑の閃光でその身体を一線に切り裂いた。

 

 

 

ビビッドグリーン「どう?わたしは頼もしいでしょう?」

 

 

 

そのまま向こうの方で武器を抱えてとまっていた(止まっているように見えて全速移動中だった)あおいの目の前で停止すると、胸を張ってビビッドグリーンは誇らしげにそう言ってのけた

 

 

あおい「」ポケー

 

 

少し唖然としていた。パーっと光ってバーっと斬ったこの緑の戦士からはあかねの雰囲気を感じれるが、外見が明らかに違和感だしこの戦士が持つ示現エネルギーの異常な出力には正直少し威圧されていた。

 

 

 

ビビッドグリーン「どうかした?」

 

 

あおい「あ、あの。はじめましてこんにちは・・・」

 

 

ビビッドグリーン「まあ突然のことで混乱してるとは思うけど、私はあかねでもわかばでもあるから安心してね」

 

 

健次郎『おしゃべりをしている場合ではない!アローンのコアは破壊できとらんぞ!!』

 

 

ビビッドグリーン「コア?流し切りが完全に入ったのだからきっと大丈夫だと思うけれど」

 

 

あおい「それは・・・アローンはまだ再生してる!倒せてないみたい!」

 

 

 

龍型アローン「―――――」

 

 

胴体の側面を深くえぐられたアローンは声にならない悲鳴のような音を発しながらもその身体は崩壊には到っていなかった。ビビッドグリーンが破壊した部分にはコアは含まれていなかったようである

 

 

 

ビビッドグリーン「再生するだけの敵なんでどうということはない!再び攻撃すればいいだけの話でしょ。あなたはそこで見ていて!!!」

 

 

 

あおい「みてるだけなんて・・・うわあ!!?」

 

 

 

返事も聞かず再びビビッドグリーンはブーストを吹かして飛翔した。光が尾を引いてその軌道が残像を描く。龍型アローンも身を震わせて攻撃を開始した。龍型アローンの身体は複数の大きな装甲が何枚も繋がったようにして出来ており、繋ぎ目を間接として身体を曲げる。ビビッドグリーンが飛び出したのを見るや間接部分の隙間から細かいレーザーをあおいのいる方向へむけて発射した。あおいは飛び上がってそれをかわす

 

 

ビビッドブルーに気を取られているアローンの頭上を容易く取ったビビッドグリーンは次の攻撃が発射される前にアローンの頭部へ勢い任せに剣を突き立てた

 

 

 

ビビッドグリーン「脳天に弱点があると相場は決まっているわ!」

 

 

龍型アローン「――」

 

 

 

ビビッドグリーン「まあ外れだったかな今回は」

 

 

アローンの装甲が少し赤色を帯びたような色になったかと思うと、全ての間接から一斉に攻撃が放たれた。ビビッドグリーンは慌てて身を翻してそれを回避して距離をとる。アローンは飛び回る敵を打ち落とさんと手当たり次第に怒涛の攻撃を開始した。だがビビッドグリーンは相手に攻撃の流れをむざむざ渡す程気の長い性分ではない

 

 

健次郎『あかね!アローンのエネルギー反応が弱まっておる!欠損を補えないまま無茶な攻撃を繰り返すことで体内のエネルギー生成が間に合っておらんのじゃ!しばし様子を見て機を待てい!』

 

 

 

ビビッドグリーン「長く戦うなっていったり待てって言ったりちょっと求めすぎじゃない?ビビッドエンジン、臨界稼動開始!ファイナルオペレーション!!」

 

 

ビビッドグリーンの装甲の繋ぎ目から推進力を補助するためのエネルギーの炎が噴出し、大太刀の刀身に溜まったエネルギーが噴水のように飛び出し緑の竜巻を天高く巻き起こした。圧倒的力が空間を支配し、アローンが全身からビームを照射しながら暴走列車のように体当たりを仕掛けたその瞬間がビビッドグリーンにとって最大の攻撃の機となった。彼女はその力を制御する柄をアローンに向かって真っ直ぐ振り下ろした

 

 

 

ビビッドグリーン「ビビッドブレェエエエエエッド!!!!」

 

 

 

襲い来るアローンに覆いかぶさるように竜巻が叩き付けられ、示現力の乱気流に飲み込まれたアローンは欠片一つ逃さず引き裂かれコアを粉微塵に破壊されて消滅した。アローンを食らい尽くした後ひとしきり辺りに風を撒き散らすと、緑の竜巻は勢いを失ったように霧散した。刀身のエネルギーを全て使い果たしたビビッドブレードは自動的に折りたたまれ待機状態に戻ったあと、光の粒子へと変換されビビッドグリーンの体に吸収された

 

 

 

ビビッドグリーン「これがわたしの、私たちが持つ力。ふふっはははは・・・うぷっ」

 

 

 

<バシュン!>

 

 

 

 

あかね「ん、ん!?なに!?元に戻っちゃった!」

 

 

 

緑の光が突然弾けたかと思うと、赤いスーツのビビッドレッドの姿のあかねがその中から現れた。高揚感に酔いしれていた彼女は突然の自分の変化に驚愕していた。そのせいで、先ほどまで自分と共にあったわかばの事を考える余裕を無くしていた。あかねと違いパレットスーツを着ていないわかばは浮遊を維持する力を失い海へ向かって真っ直ぐ落ちていった

 

 

あおい「あかねちゃん!わかばちゃんが!」

 

 

 

あかね「うわ、まずいっ!・・・うっ!」

 

 

慌ててわかばの跡を追うように飛び出そうとしたあかねは自分の身体が急激に重くなっていくような感覚に襲われる。普段は示現エネルギーを使い制御している重力が、あかねを空から引き釣り降ろそうとしているのだ。飛行どころか、自分も落ちていかないよう力を一定に保つのに集中せざるを得なくなった

 

 

 

健次郎『ビビッドレッドが生成する示現エネルギーが急激にさがっとる!パレットスーツを維持できる最低出力をきるぞ!』

 

 

あおい「わかばちゃんもあかねちゃんも!?そんなぁ!」

 

 

 

ペリーヌ『あおいさん!三枝さんはこちらで対応します!あなたはあかねさんを!』

 

 

あおい「は、はい!わかりました!」

 

 

 

ビビッドグリーンの出現という予想外の事態にすっかり意識の外だったが、ペリーヌとリーネはアローンの出現と共に戦闘空域に既に突入を開始していた。落下開始点と海との中間でわかばに追いついたペリーヌはそのまま緩やかに高度を下げながらわかばを抱きかかえ、出来るだけ負担がかからないように速度を抑えて水平飛行に戻った

 

 

 

あおいは空中でふらついているあかねに追いつくと心配そうにその手を取る。あかねは安心したのかにへらっとだらしない笑顔を浮かべた途端あおいに身を預けるように抱きつくとそのまま変身を解除して動かなくなってしまった

 

 

あおい「うえええ!?あかねちゃ・・・し、死んじゃったの!?」

 

 

健次郎『なに?なんじゃと?どうなったんじゃ息しとらんのか?』

 

 

 

あおい「人工呼吸ですか!?してもいいんですよね緊急事態だから!」

 

 

あかね「意識はあるよ・・・だいじょうぶ・・・いや近いって、あおいちゃ」

 

 

あおい「あ、大丈夫だそうです。」

 

 

ペリーヌ『大丈夫なはずないでしょう全く。こちらの三枝さんも完全に気を失っておられますし、あかねさんにも何かしら影響があるのではなくて?』

 

 

 

あおい「ならすぐに病院に運ばないと!」

 

 

健次郎『いや、二人とも家に、ワシの研究所に運んでくれ。』

 

 

あおい「え?」

 

 

健次郎『おそらく無茶な示現エネルギーの使い方が身体の負担になったのじゃろう。原因を解析せねばならん。どこの病院に運んでもわからんことじゃ。』

 

 

 

あおい「はい!わかりました!あかねちゃんをゆっくり急いで運びます!」

 

 

 

 

通信を終えてあかねの顔色を伺おうとしたが、あかねはあおいの胸元に顔をうずめるようにして意識を保つのもやっとの様子。焦る自分を抑え、負担が彼女にかからないよう最大限配慮をまわしながらあおいは空へ背を向けた。

 

 

 

あおい(・・・)

 

 

 

視線の先、遠くに海の色に混ざるようにうっすらと緑の髪の少女がペリーヌとリーネに抱えられているのを確認したあおいはその身を案じつつも、正体不明の刺々しい感情が心の隅で言葉にならない不快感を産み出していることを表情に出してしまいそうでうつむいた

 

 

 

________________________________________________

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

 

 

 

彼女は見ていた。全てが観えた訳ではないが、何が起きたのかを理解するには充分だった。酷く衝撃を受けたようで呼吸が乱れている。近くの木にもたれかかると潰されそうに痛みだした頭を抱えてその場にうずくまった。頭の中ではチカチカと強い光が点滅するイメージが展開され、ただ苦しみだけが増していく。

 

 

 

「あの力は・・・ダメだ・・・大きすぎる・・・!」

 

 

 

光が彼女の意志を一つ一つ潰していく。無意識に空へ向かって手を伸ばした。だが、それを掴んでくれる友はいない。支配に逆らうことは出来ず、彼女の心は真っ暗な闇の中へ1人沈んでいく

 

 

 

 

 

 

 

 




前回から4ヶ月空きました。そろそろ投稿ペースを上げます(毎回宣言してます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 れい「目覚め」

あかね「ーーーーー起きた」

 

 

 

もも「ん…お姉ちゃん?起きたの?」

 

 

 

あかね「うん。おはよう!わわっ」

 

 

 

起き上がったあかねは押し倒されるようにもう一度布団に押し付けられた

 

 

 

もも「よかった・・・今度こそほんとに起きてくれて・・・」

 

 

あかね「え?」

 

 

もも「お姉ちゃん寝言で何回もおはようって言うから・・・その度にぬか喜びしたから・・・」

 

 

あかね「ええ!?それはごめん!でも、もうだいじょうぶ。泣かないでもも」

 

 

 

鼻水を服に擦り付けられていようがなんだろうが、ここまで心配してくれた妹にあかねはただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。あかねは今何時で、自分があれからどうなったのかを問うのを少しの間だけ待ち、ただただ黙ってももの頭を撫でくりまわした

 

 

ペリーヌ「あら、お目覚めでしたか?それともまだ起きてらっしゃらないのかしら。いつも以上に呆けた顔ですわね」

 

 

宮藤「そんな事言っちゃだめですよペリーヌさん。あかねちゃんは丸一日寝ていたんですから感覚が狂うのも無理ないです。」

 

 

あかね「もう夕方なの!?学校は?」

 

 

ペリーヌ「驚いてばっかりですのねあなたは」

 

 

宮藤「今日は臨時休校だよ。昨日の・・・」

 

 

あおい「あかねちゃん!!!!気がついたって・・・!あかねちゃん!!?」

 

 

宮藤「」キーン

 

 

ペリーヌ「」キーン

 

 

あおい「あ、ごっごめんなさい!」

 

 

転がるように部屋に飛び込んできたあおいは彼女らしからぬ大声で入り口の傍にいた芳佳とペリーヌを驚かせた。あまり眠れなかったようで、髪は少しハネていて目元もうっすら隈が見える。

 

 

 

あかね「あおいちゃん!だいじょうぶだった?」

 

 

あおい「あかねちゃんは心配される方だよ!?でもよかった、すごい熱だったんだよ?もうなんともないの?」

 

 

あかね「うんだいじょうぶ!ちょっともも重いよぉ。動けないからちょっとだけ放して?」

 

 

もも「ぐすっ・・・私どこも抑えてないよ?」

 

あかね「左腕あがらないんだけど・・・あれっ!?」

 

 

宮藤「ちょっ、診せてください!」

 

 

あかねは素っ頓狂な声を上げた。芳佳がその左腕を持ち上げても、あかねは自分の腕が触られている感覚をほとんど感じることが出来ない。魔法力を発動させてあかねの腕の状態を診ていた芳佳は少しの間眉をひそめ、あかねの顔を一瞬見てから口を開いた

 

 

 

 

宮藤「安心して、神経が切れてたりするわけじゃないよ。今動かないのは・・・まぁ、疲れてるからだと思うよ。」

 

 

あかね「ええっと、だいじょうぶってことかな?」

 

 

宮藤「…うん。ご飯食べて早めに寝てればすぐ治んじゃないかな。とりあえず今はしっかり休んだほうがいいよ。軽くでもなにか食べたほうがいいんだけど食欲はある?」

 

 

あかね「お腹ぺっこぺこだよ!1日の3食分いっぺんに食べたい気分だね!」

 

 

宮藤「あはは!胃がびっくりしても大変だしあっさりしたものをなにか用意してくるね。」

 

 

あかねは安心したように笑って見せたが、声のトーンや表情など端々に疲れが出ているようでいつものような明るさがない。とにかくあかねを休ませねばならないので名残惜しくも全員揃って部屋を出た

 

 

 

れい「おかえりなさい。あかねは起きたの?」

 

 

わかば「お邪魔してます」

 

 

茶の間ではれいとわかばが隣り合ってテレビを見ながらくつろいでいるところだった。わかばは朝になるとみんなと同じようにして目を覚ましたが、少し様子を見たいということで健次郎に引き止められたついでにあかねが起きるのを待っていたのだ。あおい達が座るとリーネも台所の方からお盆を持って出てきて机を囲うように向き合う

 

 

リーネ「それじゃああかねちゃんには私が食事を持っていきますね。」

 

 

ペリーヌ「ええお願いいたしますわ。宮藤さんには話していただかなくてはいけませんから。…あかねさんの前で言うべきことではなかったのでしょうけれど、話していただけますわね?」

 

 

宮藤「はい。これは、あかねちゃんの腕を治していた時に感じたことなんですけど、あかねちゃんには何か・・・私の魔法を通しにくくする力が働いてるみたいなんです。」

 

 

あおい「宮藤さんの魔法を通しにくくする力ですか?それってなんなんです?」

 

 

宮藤「示現エネルギーじゃないかな。あかねちゃんは、変身してない状態でも身体の中に常に示現エネルギーが存在してるんだと思う。それがあかねちゃんの身体になんらかの異変を起こしてるみたいで私の魔法がうまく通らないんだ」

 

 

ペリーヌ「修行がたりませんわね宮藤さん」

 

 

宮藤「むっ・・・まあそれはこの際おいておいて。今、あかねちゃんの身体の中にある示現エネルギーの密度はこの間の比ではありません。左腕が動かないのは、そのエネルギーの密度が一番濃い部位だからだと思われます。」

 

 

わかば「でも、示現エネルギーがあかねの身体に残留しているからといってそれほど影響をきたすものなの?あかねはアレを自由自在に扱えると思っていたのだけれど。」

 

 

れい「・・・そういえば博士はいないの?」

 

 

健次郎「おるよここに」

 

 

れい「あ、小さすぎて気がつきませんでした。それで、どうなんですか?」

 

 

健次郎「我々は現在、示現エンジンを通し高次元の特殊空間から取り出したものをこの世界に適した形に変換して示現エネルギーとして使用しておる。パレットスーツという防護服を用い、示現エンジンで変換されたエネルギーだけを使って行動することでは本来こういった問題は起きん」

 

 

ここで健次郎は1つお茶を飲んで喉を潤そうとしたが、ぬいぐるみであることを思い出しそれを諦め再び話し出す

 

 

健次郎「しかしあかねが昨日やってみせたのは、自らを《エンジン》として特殊空間に無限に溢れるエネルギーを直接引き出して使用したのじゃ。そうじゃな、ビビッドエンジン・システムとでも呼んでおこうかの。これによって引き出されるのは示現エンジンから放出される変換済みの劣化物ではない純正のエネルギー。あんなものを使ってしまっては我々の存在自体に悪影響が出て当然じゃ」

 

 

わかば「しかし博士、それではあの時あかねと一体化していた私にも少なからず影響がおきるはずです」

 

 

健次郎「ふむ・・・わかばちゃんは先の戦闘においての負担はさほどないといってもいいじゃろう。あかねがビビッドエンジンを展開するなんらかのファクターとして君の力は不可欠ではあったが、あの時君の身体と精神は完全にあかねの一部として取り込まれておりビビッドエンジン・システム終了と同時に君の身体は戦闘前の状態に再構築されたのじゃ。問題があったかどうかを今日一日かけて調べておったが、特に異常は見つからなかった。なによりじゃ」

 

 

 

あかねが発動した新しい能力は健次郎の想定していたビビッドシステムの仕様から完全に逸脱したイレギュラーな出来事であった。健次郎にとって自らの管理下にある発明物が誰かを傷つけてしまうといった事態はとても辛いものだ

 

 

口を閉ざしてしまった健次郎に対しみなが口を開きにくくなってしまった空気を察知してか、ペリーヌが小さく咳払いをして落ち着いた声で新たな話を切り出した

 

 

ペリーヌ「では、あかねさんのことは専門家である博士にお任せするとして。当面の間の対ネウロイあるいはアローンでの戦闘についてですが、わたくし達も積極的に力をお貸しいたしますわ。健次郎博士のおかげでわたくしとリーネさん、宮藤さんは示現エネルギーに関するプロジェクトに組み込まれる形で正式にこの度の戦いに参加することができるようになりましたので」

 

 

あおい「正式ですか?」

 

 

健次郎「おお、そうじゃ。今回アローンとの戦闘を行っていくにあたり、ブルーアイランド管理局およびブルーアイランド防衛軍の下においてアローン対策本部が設置された。その対策本部に所属する形でつくられた対アローンをメインで行っていく《ビビッドチーム》が結成されたのじゃ!!!」

 

 

あおい「わあ!なにそれ聞いてません!」

 

 

健次郎「すまん。まあこのビビッドチームというのは、ようするに今後アローンとの戦闘を行っていく際他の機関から口出しされたりしないためと、国からきちんとしたバックアップを受けるためにつくった諸君らのチーム名じゃな。あかね達はもちろんそこにウィッチである3人も入り、今後はビビッドチームとして防衛軍や管理局と協力して事に当たることになる」

 

 

わかば「お待ちください博士」

 

 

健次郎「なんじゃねわかばくん」

 

 

わかば「そこに私も入れていただきたい」

 

 

あおい「えっ!?」

 

 

もも「ええっ!」

 

 

ペリーヌ「お待ちなさい、そもそも三枝さんあなた個人は変身できますの?」

 

 

リーネ「そ、そうですね。あれは健次郎博士が言うにはあかねちゃんに取り込まれて起きた現象のようなので、あおいちゃんとはまた違うんじゃ?」

 

 

わかば「・・・」

 

 

 

わかばは言葉ではなく、行動で示した。わかばが差し出した手のひらの中でうっすらと輝きをもつ緑色のオペレーションキーは彼女の戦いへの強い決意を表していた

 

 

健次郎「ふむ・・・。ワシが忠告することなど今更ありはせん。君はあかねとあおいちゃんと共に戦い、共にアローンを討ち果たした。その過程で心は決まり、すでにビビッドチームの一員なのじゃろう。じゃが一言だけ聞いおこう」

 

 

健次郎「この戦いがどれだけ激化したとしても、君はあかねと共に闘ってくれるな?」

 

 

わかば「無論です。三枝わかば、一色あかねの剣としてあらゆるものと戦い討ち果たすことを誓いましょう。二葉あおいさん。あなたにも約束します。私と一緒に闘ってください」

 

 

あおい「はい。よろしくお願いします」

 

 

わかばから向けられた視線にあおいは真っ直ぐ返した。わかばがあおいの覚悟に凄まじい敬意を抱いたように、あおいもまたこのわかばからあかねに対する思いのその本気度を感じ取っていたのだ。二人は共にあかねに心を動かされた者として、またアローンという強大な敵から自分達の生活を守るための心強い仲間としての絆が結ばれたことを感じながら硬く握手を行った。リーダーあかねは就寝中とはいえど、今ここにビビッドチームが結成されたのだ

 

 

 

 

 

れい「・・・私、お邪魔?」

 

 

宮藤「そんなことないよぉ!れいちゃんは私と一緒で記憶喪失仲間だし!」

 

 

れい「いやあなたはもう戻ったじゃない」

 

 

宮藤「まだ若干記憶がない部分もあるし・・・じゃなくて。私達、もうふつーに友達じゃない。あかねちゃんも、ペリーヌさん達も」

 

 

れい「ふふ、そうね。私もできる範囲で手伝っていけばいいものね」

 

 

チーム結成の件を知り、軽い打ち上げ気分の他のメンバーと少し間を空けて芳佳とれいは喋っていた。れいは特別な力などもたず、むしろ普通の少女として本来あるべき記憶すら失っている無力な少女であったが、だからと言って居心地の悪さを感じずにいられるのはひとえにあかねや宮藤達が良くしてくれるからだ

 

 

気を遣ってくれてはいるが、基本的には仲の良い友人として接してくれるあかね達の存在はれいの孤独や喪失感を癒していた。例え短い間だとしても、一色家は黒騎れいの居場所になっていた

 

 

 




更新に一年もかかっちゃってすいませぇんゆるして。でもそういう時もあるよね人生だし


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章 ―天岩戸はオール電化―
第17話 あおい「熱血高気圧、襲来」


わかば「失礼します」

 

 

校長「入りたまえ」

 

 

 

わかばに続いてあかね、あおいが校長室に入る。そろそろ1時間目が始まってしまう時間だが、3人には学生としての本分より少しだけ大事な役割が待っていた

 

 

 

 

あかね「おはようございます!!」

 

 

校長「おはよう。ケガの方はどうかね。一色博士から無理はさせないよう言われている。休み休み授業を受けるように。・・・それはそれとして、管理局としての話がある。」

 

 

山のような書類を片付ける手を止め、校長は椅子から立ち上がると脇に立つ女性を手で示した

 

 

校長「こちらは天城中尉だ。ブルーアイランド防衛軍航空隊に所属されている。君達3人はビビッドチームとして防衛軍と管理局の下で運用されることになったのは知っていると思うが、その監督役として防衛軍から彼女が派遣された」

 

 

あかね「監督?なんのですか?」

 

 

天城「天城よ。よろしく。貴方達がどういう状況にあるのかは一通り説明は受けている。示現エネルギーを戦闘に使う以上、貴方達には大きな責任が伴う。そんなものを子供に好き勝手に振り回されないよう監督するのが私の役目です」

 

 

女性はキビキビとした動きで一歩踏み出すと少し冷ややかな態度を思わせるような喋り方であかね達に自分の役割を語った。彼女は防衛軍に勤める若きエリートだったが、子供に対する正しい接し方を知っていた訳ではない。彼女が今のポストになってから接してきた年下の人間のほとんどは部下だったし、あかね達への対応がそれに近い威圧的なものになるのは至極当然のことだった。しかし、まああかね達のような年頃の学生はそういう大人が普通に好きではなかった

 

 

 

あかね(なんか怒ってるのかなぁ)

 

 

あおい(なんかいじわるそうな人)

 

 

わかば(あー、体育会系の人だ)

 

 

 

天城「戦闘だけでなく日常生活の過ごし方についてもある程度管理するよう言われていますので。防衛軍の一員としての自覚をしっかり持っていただきます。わかりましたか?・・・次からは私が何か言ったら返事をするように。わかりましたか?」

 

 

 

 

 

あかね「うわかった。かたいよこの先生」

 

 

あおい「あかねちゃん!だめだよそんなこと言ったら!軍人の人はこういう高圧的な接し方もお仕事の一つなんだから!」

 

 

わかば「いやあおい、それは失礼でしょ。・・・天城さん、監督と言われましても、実質なにをされるのですか?」

 

 

天城「少なくとも、学生としての生活は完璧を目指してもらいます。精神、肉体共にみっちり鍛え、貴方達には・・・」

 

 

あかね「ごくり・・・」

 

 

 

天城「この世界を守る防衛軍の一員としてふさわしい軍人になってもらいます!!!!!」

 

 

天城中尉は腕をぐっと曲げ、力強い真っ直ぐな眼でそう宣言したあかね達は顔を見合わせると天城中尉に愛想笑いを送ると180度振り返り校長室から逃げ出した。

 

 

 

あおい「いいのかなぁ」

 

 

あかね「学生の本分がどうのこうのなんだから、朝のHRに遅刻するわけにはいかないでしょー」

 

 

ギリギリHRに間に合い、クラスのみんなと挨拶もそこそこに今日も勉強の一日が始まった。アローンの襲撃に関しては校舎の補修中に事故がおきたということで学生達に通達された。そんなことを信じない学生諸君により様々な噂が立ったが、いつまでも同じ話題を引っ張らない若者達は昼休みにはもうほとんど以前と変わりない空気に戻っていた。

 

 

 

宮藤「厳しそうな人かぁ。坂本さんを思いだすね」

 

 

 

朝の出来事をビビットチームで共有しつつ、学食の机を囲んでいた。こまりとなつみは今日は弁当をもたせてもらったらしく教室で友達と一緒だ

 

 

 

 

リーネ「そ、そうだね・・・。あ、坂本さんっていうのはですね」

 

 

ペリーヌ「坂本少佐の説明ならわたくしがいたしますわ!!!!!!!!!!!!!」ガタッ

 

 

わかば「!?」

 

 

 

 

あおい「ペリーヌさんらしからぬ凄いテンションだね・・・あはは」

 

 

ペリーヌ「あの方は・・・とても一言では表せませんけれど、あえて一言でいうのであれば・・・ああっ!!」

 

 

宮藤「いや流石に興奮しすぎですよペリーヌさん。坂本さんというのは私達の仲間なんですけど立場上はあかねちゃん達にとっての天城さんみたいな人で、厳しいけど優しくて、頼りになる人なんです。」

 

 

 

ペリーヌ「失礼、取り乱しましたわ・・・。ええ、宮藤さんの紹介では全く足りませんが、坂本少佐は素晴らしい人です。厳格で、しかし大らかですわ。人の上に立つ人間というのがどうあるべきなのかを体現するような人です。その天城中尉という方も、きっとあなたがたのことを思うからこその厳しさなのですわ。あまり反抗的な考えを持つべきではありませんわよ」

 

 

あかね「うーん、まあそうなんだけど・・・」

 

 

わかば「確かに、私達が背負う責任はとても大きいものだわ。ブルーアイランドを守るために長い間戦ってきた防衛軍の人に教えを請うのも悪い話ではないと思う。」

 

 

あかね「わかばちゃんが言うならそうなのかなぁ。でもなにを教えてもらうの?」

 

 

あおい「・・・」

 

 

わかば「・・・」

 

 

あかね「せめて目をあわせてよ」

 

 

 

 

 

天城中尉との付き合い方に関して考えるのはとりあえず後回しにしようと決めたあかね達だったが、それは許されなかった。5時間目の体育の時間、体操服のあかね達をジャージを着た天城中尉が迎えたのだった

 

 

 

天城「というわけで、今日から体育の時間は私が受け持つことになりました。以前の先生とやり方は違うと思いますが、皆さんの身体能力向上を目指し全力で指導させてもらうので、皆さんもそれに全力で応えてください。・・・今後は私が何か言ったら大きな声で返事をするように!わかりましたね!」

 

 

面倒見のいい女子「は、はい!」

 

 

真面目男子「はい!!」

 

 

窓際女子「ッツ」

 

 

前の席の女子「うぃ~~」

 

 

天城「・・・とりあえずやる気を出してもらうところからってことですかね。グラウンドを全力で一周しましょうか。私が全力だと思えない走りをしてる生徒がいる限り何周でもやらせます。」

 

 

 

窓際女子「マジ????」

 

 

こまり「ちょ、ヤバイ人きたじゃん・・・都会怖いね」ヒソヒソ

 

 

れい「都会関係ないんじゃないかしら・・・」

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________________

 

 

 

 

担任「それでは帰りのホームルームを始めようと・・・思うんですけど、みなさん大丈夫ですか?」

 

 

 

窓際女子「・・・」

 

 

前の席の女子「ウス」

 

 

面倒見のいい女子「先生。天城先生の授業はちょっとしんどすぎますよ・・・。」

 

 

 

体力に特別自信のある数人を除きクラスメイト達は完全に溶けていた。天城中尉はそもそもあかね達ビビットチームの近くにいれるようにと形だけの役職を用意されたのだが、馬鹿正直に職務を全うした結果生徒達全員に体力の限界を突破することを要求したのだ。

 

 

あかね「これってわたし達のせいなのかな」

 

 

あおい「そ、そうじゃないんじゃないかな?」

 

 

わかば「だとしても私達の補佐以上のことは控えていただかないといけないわね。」

 

 

 

あかね「とにかく、帰りに天城さん・・・先生のところに行ってお話しないと!クラス全員を無茶なトレーニングに付き合わせちゃうわけにはいかないよ!」

 

 

 

3人はホームルームが終わると揃って職員室に向かい、たまたま廊下に立っていた天城を見つけると人が通りにくい隅っこでひそひそ話を始めた

 

 

 

天城「人に聞かれたくない話をしたいなどと後ろめたい姿勢は感心しないわ」

 

 

あかね「先生!授業がしんどすぎますよ!」

 

 

 

わかば「私達を鍛えるというのが目的なのであればクラスの皆を巻き込まれては困ります。あなたの感覚ではあれが普通なのかもしれませんが、一般的な学生が受ける健全な体育の範疇を越えていると考えます。それを言いにきたのです」

 

 

天城「え、そうなのかしら。・・・それは、私の落ち度ね。明日生徒の方々には謝っておくわ。」

 

 

あっさりと非を認めた彼女の態度にいろいろと身構えていた3人はきょとんとしてしまった。そんな3人を見て天城もしばし表情を失い口を閉じてしまうが、早々に合点がいったようで苦笑いを浮かべた

 

 

天城「先ほどあなた達の担任にも同じことを言われたわ。これから他の体育の教員の方々と今後の授業について話し合いをしにいくところなの。・・・私はあなた達からどういう風にみられているのかは全く見当もつかないけれど、別に自分の非が認められない人間というわけではありません」

 

 

あおい「そ、そんな悪いイメージはもってませんけど・・・いやほんと」

 

 

天城「正直にいいなさい」

 

 

あおい「周りの人間を全部格下扱いして絶対頭を下げたりしない人だと思ってました」

 

 

天城「・・・」

 

 

 

あおい「す、すいません・・・」

 

 

 

天城「まああなた達のトレーニングについては学校のカリキュラムとは別に組んでいくわ。私も任務として命じられた以上本気でやらせてもらう。思うところはあるだろうけど、頑張ってついてきて。・・・教師としてではなく、ブルーアイランド防衛軍に所属する軍人としての思いはこういうこと。改めて、よろしくお願いします」

 

 

 

天城は慣れた動きで敬礼し、あかね達もあわててお辞儀で返した。去っていく天城を見て、あかね達は彼女を悪く見すぎていたのかもしれないという罪悪感と気まずさの混ざった表情を浮かべた。天城中尉の言う通り、自分達にのしかかる責任というものを考えるのであればもっともっと強くならなかればならないのだろう。わかばは誰に言われずともそのつもりだし、あおいも不安こそあれどあかねについていく為まだまだ成長しなければならないという思いはあった。あかねも自分が戦う相手を考えれば今まで通りの生活とはなにかを変えないといけないような気は漠然ながらも持っていた

 

 

 

 

 

 

まあともかく抱えていた問題は解決したので家に帰ることにした。なにかするにしても、まずはももの晩御飯を食べてよく寝て明日からである。モノレールの駅で芳佳達と合流し帰路についた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回の更新から・・・いやもう数えるのはやめよう。ほったらかしてたわけじゃないんですけど、どう話をもっていったらいいかを悩みすぎて全然ペース保てなくて・・・すいません次回はすぐ更新しますから!!!!こんどこそ本当だよ!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 あかね「遊びたい盛り」

今年はがんがん更新します!!!ほんとです!!!!嘘だったらキルミーベイベー原作全部揃えます


天城が先生としてあかね達の学校に来てから数日。初日こそ鬼教官のような印象を生徒に持たれはしたものの、その後の彼女はそれなりに上手く立ち回った。教師として不慣れで皆に無茶を要求したこと、高圧的な態度をとりすぎたことを謝罪した。まあ極端に甘くなった訳ではないのだが、とにかく彼女は学生達に極端に厳しい要求をもつことは無くなった。

 

 

ただ放課後になるとビビッドチームを追い回すのが彼女の仕事になっていた。

 

 

 

天城「訓練です!!!!!!!!!!」

 

 

あかね「今日はバイトがあるんで・・・」

 

 

あおい「ごほっごほっ。私病弱で・・・」

 

 

天城「中学生がバイトするんじゃない!あと二葉さんの体は今は何ともないのは検査でもわかったでしょう!三枝さんからもなんとか言ってあげて」

 

 

わかば「なんとかと言われても。嫌だというものに無理を強いても結果は出ません。・・・でも、あかねもあおいも少し頑張ってみましょう?そもそもなにがそんなに嫌なのよ」

 

 

あかね「わたし宿題は家ではやらないタイプだし」

 

 

あおい「元気にはなりましたけど体を動かすことに対しての抵抗感がすごくて」

 

 

天城「二葉さんのは百歩譲るにしても一色さんにはげんこつしかないわ」

 

 

リーネ「お、落ち着いてください天城さん!」

 

 

ペリーヌ「ちゃんと訓練しないと宮藤さんのようなふわふわした軍人になってしまいますわよ?」

 

 

宮藤「おっとペリーヌさん私を引き合いに出すのはやめてください。そもそも私はウィッチであって軍人になりたい訳じゃありません!」

 

 

ペリーヌ「ウィッチでありたいのならそれ相応身に付けるべきことがあると言っているのです!」

 

 

わかば(その喧嘩はせめて自分の世界に帰ってからやってくれないかしら)

 

 

天城「とにかく!示現エンジン防衛は防衛軍の最重要項目です。あなた達がその要であるというのなら私達はそれを全力で支援する責務があります。こっちが命をかける以上、あなた達が遊び半分でやっていると思う人が出てくると本当に面倒なことになるのよ?」

 

 

あおい「頑張ってますアピールなんてしなくても、結果を残していれば文句も言われないんじゃないでしょうか。実際あかねちゃんはもう3回もアローンを撃破していますし、これまで通りでも・・・」

 

 

天城「私がこんな役割を背負わされてこんな所に立っているのが貴方達が思う以上にこの件に注目している人がいるという証明になっているわね。私も命令されて来ている以上、やれと言われたらやらないといけない立場なの。何を言われても私には変えられないことよ」

 

 

 

苦々しい表情でそう言った天城は小さくため息をついた。どうにも不満気なビビッドチームの横で、黙って見ていたペリーヌがここで小さく手を挙げて口を挟んだ

 

 

 

ペリーヌ「でしたら、わたくし達もお力添えさせていただきたく思います。あくまで天城中尉監督下で、協力させていただく形ですが。」

 

 

天城「協力?」

 

 

ペリーヌ「軍人としての心構え、基礎知識、防衛軍との連携を踏まえた戦術・・・そういったものはお任せ致します。しかし一色さん達に必要な訓練はそれだけではありませんでしょう?わたくし達は示現エネルギーの使い方に特別詳しいわけではございませんが、所謂特殊な力を使った戦い方においては少し覚えがありますので。」

 

 

天城「・・・そうですね。貴方達がどういう方々なのかは一色博士からある程度はお聞きしています。実際の戦闘においては貴方達が組むことが多いでしょうし、その方面に関しては任せます。クロステルマン中尉」

 

 

ペリーヌ「およしになってくださいまし。わたくし達もこの世界では学生の身分で生活している身。防衛軍の方々に軍人として口出しなど致しませんわ。」

 

 

天城「そういうことなら、よろしくお願いしますクロステルマンさん。」

 

 

 

話し合いに一段落ついたところで天城は今後のやり方を考えるといって帰っていった。ずっと黙っていた宮藤とリーネがそろって息を吐くと、驚いたようにペリーヌを見た。

 

 

宮藤「どういう風の吹き回しですか?」

 

 

ペリーヌ「開口一番失礼ですわね」

 

 

リーネ「ペリーヌさんがわざわざ人に教える役を買って出るだなんて・・・ペリーヌさんが」

 

 

ペリーヌ「本気であかねさん達のことを思ってならともかく、組織の面子を立てたいがために寄こされた方に預けたりしたらあかねさん達を潰されかねないでしょう。邪推で済めばいいことですが」

 

 

わかば「確かに天城先生のあの態度はやる気満々で参りましたという感じではなかったわね」

 

 

ペリーヌ「この学園の理事長は管理局長が兼任しているのでしょう?つまりここに所属する生徒であるあかねさんや私はその庇護下にある訳ですわね。防衛軍がどれほど素晴らしい理念で設立されていようと、軍事組織の枠組みからは思考も行動も外れませんわ。示現エンジンから直接動力を得て動く兵器とそれを扱える数少ない人間であるあかねさん達を完全に軍に組み込みたくて仕方がないに決まってます。でもそれはもうできませんの」

 

 

宮藤「私達はもうビビッドチームとして組織立って行動することが決まっているからですね。」

 

 

ペリーヌ「あら、宮藤さんはこういう話には無頓着だと思ってばかりいましたけれど・・・。そうですわ。これに関しては健次郎博士の手回しが速かったことに感謝するべきです。」

 

 

あかね「つまりはどういうことなの?」

 

 

ペリーヌは一度言葉を切ると辺りに人目がいないことを確認し、みなを輪に集めて声のトーンを少し落として話を続ける

 

 

ペリーヌ「わたくし達はアローン対策本部に所属するビビッドチームとして行動することになった、とこの間博士がおっしゃっていたでしょう?対策本部は管理局長、防衛軍長官、一色健次郎博士のスリートップで運営される組織で、ビビッドチームは健次郎博士直属のプロジェクトチームとして存在しているのです。つまり、管理局と防衛軍のある程度の補佐や干渉は受けたとしても、行動に関しては健次郎博士が決定権をもっているのです。」

 

 

 

あかね「じゃあ別に訓練教官なんて就いてもらわなくても、これまで通り好き勝手にやってもいいんじゃない?」

 

 

ペリーヌ「わたくし達の行動が学生としてのものを主としている限り、この学園が中心になります。そこに防衛軍だけが立ち入れないとなるのも角が立つでしょう。訓練官という形で天城中尉をビビッドチームのすぐ傍に置いておくことが監視と威圧の役目を果たすのかもしれませんわ。・・・あの方が妙な態度を見せていたのは、こういった事情に巻き込まれることに抵抗があるのだと思います。どうせやるなら邪な動機のないわたくし達が担当したほうが安全だとそう考えたのですわ。」

 

 

リーネ「そうですね。魔法力の使い方の訓練ならいくつか教えてあげられるし、それがあかねちゃん達の役に立つかもしれませんし。」

 

 

 

宮藤「そうと決まれば明日からはみんなで特訓ですね!それならあかねちゃん達もいいでしょ?」

 

 

あかね「そうだね!リーネちゃんの魔法も見てみたいし、友達とならそういうのも嫌いじゃないよ!」

 

 

 

盛り上がっている時、体育館のドアが開いてれいとこまりとももがそろって顔を出した

 

 

もも「お姉ちゃん、お話終わった?まだ帰れそうにない?」

 

 

こまり「待ちくたびれちゃってなつみはその辺走り回ってるよ」

 

 

れい「先生が帰っていったけれど・・・怒られちゃってる感じかしら」

 

 

あかね「いやいや!ぜんぜん怒られたりはしてないし今日はもう帰れるよ。」

 

 

あかね達はかばんをひっつかんで体育館から出た。まだ日は長く春の午後はまだまだこれからだ。彼女達は駅前で寄り道する店を話し合いながら学校の正門を目指して歩き出す。

 

 

 

もも「絶対に・・・買い食いはだめです!!!だめですよね!?ペリーヌさん!!!」

 

 

ペリーヌ「えぇ・・・わたくしに同意を求められても・・・」

 

 

もも「ペリーヌさんはこっち側でしょ?委員長タイプでしょ!??」

 

 

ペリーヌ「それって偏見ですわね」

 

 

宮藤「大丈夫だよももちゃん。学校帰りにおいしいものを食べるっていうのは一度経験するまでとても危ないものに感じてしまうんだよ。ペリーヌさんも初めはそうだったんだから」

 

 

あかね「そうだよもも!アイスだよ!!!この島にはコンビニがあるんだよ!!」

 

 

こまり「お小遣いの使いどころだよ」

 

 

 

ももを全力で説得する中学生達を見てくすくすと笑うれいを見て、芳佳はふと気づいたことを口にした

 

 

 

宮藤「そういえばれいちゃん、なんか首のとこアザができてない?」

 

 

れい「え、そうかしら。・・・特にかゆかったり痛かったりはしないけれど。」

 

 

宮藤「ほんと?虫刺されかもしれないし、違和感あったら触らずに相談してね。」

 

 

れい「ええ。ありがとう。」

 

 

れいは不思議そうに首元をさすり、芳佳に柔らかく微笑んだ。いつのまにか少し先に行っていたからあかね達が大声でこちらを呼ぶ声がする。どうやらももは根負けしてアイスを食べて帰ることになったようだ。れいと芳佳は視線を交わすと前の集団に追いつくため走り出した

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 れい「静かで紅い放課後」

時刻は午後15時を過ぎ、担任からの伝達事項を聞き終えた生徒達は放課後という無限の可能性を持つ野に放たれたのだ

 

 

 

あかね「我々は自由だ!!!」

 

 

あおい「お、おー!」

 

 

わかば「今日も訓練よ。私達に遊んでいる時間はないんだから」

 

 

あおい「まあ・・・そうなるよね」

 

 

れい「忙しいとこ悪いのだけれど。あかねは私と体育委員の仕事があるでしょ」

 

 

あかね「あ、職員室いかないといけないんだっけ。」

 

 

宮藤「私も保健室でちょっと用事が・・・」

 

 

ペリーヌ「あら。サボリ癖は記憶をなくしても失われない宮藤さんの欠点なのでしょうか」

 

 

宮藤「用事です!!!この学校の養護教諭さんは管理局から派遣されている方のようで、異世界の医学知識について話が聞きたいとか・・・とにかく今日の訓練はちょっと参加できないんです。」

 

 

宮藤はペリーヌのジョークに強く突っ込むと鞄を手に一足早く教室を出て行った。続いてあかねとれいが職員室へ向かい、あかねがおらずモチベーションの低下を隠さないあおいを引きずるようにわかばは浜辺の訓練場へと向かった。リーネとペリーヌもそれに続く。

 

 

訓練組がストレッチを終えて本格的なトレーニングに入る頃、あかねとれいは用を終えて揃って職員室を出ていた。次回の体育で行われるバレーボールのルールを書き記したプリントを翌朝のHRで配布し、簡単に説明する役目を与えられたのだ

 

 

 

あかね「楽しみだねー。野球も楽しかったけど、みんなの出番が多くなって盛り上がりやすいからねバレーは!」

 

 

れい「あかねは、体育が好きね。」

 

 

あかね「好きだね。れいちゃんは体育だと何が好き?」

 

 

れい「マラソンが好きね。盛り上がるのもいいけど、1人で黙々と・・・ゴールを目指すのって、好きなの」

 

 

あかね「なるほどねぇ・・・れいちゃんはしぶいね。イケてるよ」

 

 

れい「ふふ。ありがと」

 

 

2人揃って廊下を歩く。まだ日は落ちてはいないが、殆どの生徒達は帰宅するか部活へ行くかで校舎内にあまり人の気配はない。換気のため開けられた窓から入り込む風がれいの髪を流し、午後の日差しがあかねの髪をより赤く輝かせる。みんなで動くことが多いので2人きりで話す機会は珍しく、あかねとれいの話はゆったりとしたものながらもよく弾んだ。その姿を見れば、誰が見ても彼女達が世界の平和を脅かす敵と戦う者たちだと気付くことはないだろう。ただの女子中学生達が放課後という自由を楽しんいるだけだ

 

 

 

れい「・・・あかね」

 

 

あかね「ん、なになに?」

 

 

れい「私、そろそろあなたの家を出て暮らそうと思うの。」

 

 

あかね「えっ」

 

 

あかねがぴたりと足を止めてしまったのを見て、少し先にいったれいは振り返ると手をぶんぶんと振って慌てて言葉を続ける

 

 

れい「勘違いしてほしくないのだけれど、なにかが不満だったりするわけではないのよ。・・・ただ、私のことを知ってる人とこの前出会ったの。」

 

 

あかね「ほんとに!?やったねれいちゃん!」

 

 

れいが出て行ってしまう、ということにショックを受けてしまったが良い報せを聞いたことで今度は飛び上がるほとの喜びを見せた。そんなあかねの姿を見てれいは困ったように笑う。さっきまで落ち込んで陰りを見せていたのに今度は陽が差したように笑う、それも他人の事情でそこまで心を動かせるあかねをれいは本当に好きだった。しかし、別れを告げなければならなかった。れいはもう自分の行動を決めていたのだ

 

 

れい「もう何日かはお世話にになるけれど、住むところの準備が終わればそっちに移らせてもらうことにしようと思うの。まだ健次郎さんにも言ってないけれど、あかねには最初に言っておきたくて。」

 

 

あかね「えー、さみしいけどなんかうれしいね。いやぁ、ほんとによかったよかった!でも記憶はまだ戻らないんだよね?」

 

 

れい「そっちはおいおいね。でも昔の私の話を聞かせてもらえばきっとなにかのきっかけになると思う。」

 

 

 

この辺りで2人は下駄箱のところまで来ていることに気付いた。あかねは訓練に行くが、れいは一足先に戻って健次郎にこの事を伝えにいくようだ。

 

 

あかね「またあとでね。れいちゃん」

 

 

れい「うん。またね、あかね」

 

 

 

靴を履き替え、れいが校門を通り過ぎるところをあかねは見送った。振り返ったれいがこちらに小さく手を振ると身を翻し道の向こうへ消えていくのをみたあかねは、突然鳥肌が立つ程の寒気を感じて思わず自分の身体を抱きしめるようにして身を縮めた

 

 

れいは家へ帰れば居る。例え引っ越しても毎日学校で会える。だがあかねの心は不安と恐怖の混ざりあった痛いほどの喪失感が渦巻いている。目をギュっとつむって、荒くなった呼吸が落ち着かせようと玄関の広い階段に腰掛けて空を見上げた。既に陽は傾き、空は赤く赤く染まっている

 

 

 

 

 

 

 

しかしあかねが大きな別れの運命の流れに足を踏み入れようとしている裏では、新たな縁が紡がれようとしていた。宮藤芳佳が導かれた小さな出会いは、世界の命運と名付けられた大きな天秤の釣り合いを図るためのものである。長い黄土色のふわふわした髪をもつ少女がいかなる役割を持つ存在であるのか、というのを語るには少し長い時間が必要になるだろう。ただ1つ言えることがあるとすれば、あかねにまた新たな友人ができるのもそう遠くないということである




どんどん更新したいんすけどね!!!!話をつくるのってむずかしい!!1


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 宮藤「クラスの皆にはないしょです」

宮藤「失礼します。・・・あれ、誰もいない」

 

 

 

放課後。宮藤芳佳は1人保健室を訪れていた。しかし待ち合わせの時刻の筈なのに室内には誰もいなかった。薄いアルコールと石鹸の香りがする。とても懐かしい気分が沸き上がり芳佳は整えられたベッドに腰掛けて小さく息を吐いた

 

 

彼女の家は昔から小さな診療所を営んでいる。母と祖母が常に忙しく動き回っているのを見て彼女は育った。紆余曲折ありウィッチとしての戦いの道を歩むことになった今も、最後はそこに帰り働くであろうと考えていた。芳佳は人を傷つけるより癒すことが本当に好きな女の子なのである

 

 

 

若干のホームシックに駆られていた芳佳を現実に引き戻したのは唐突に開かれたドアの音だ。不意を突かれ驚きつつ顔を向けた芳佳と目が合ったのは白とも銀ともとれる長い髪を後ろに縛った長身の女性。白衣を肩に引っ掛けているところから、その女性が保健室の主であることは一目でわかるだろう。

 

 

「ああ、あなたが例の魔法使いちゃんね」

 

 

宮藤「ま、魔法使いっていう分類にされるとちょっと違うと思いますけど。私が宮藤芳佳です」

 

 

「楽しみにしていたのよ。私は養護教諭でありブルーアイランド管理局から派遣されているヤゴロ・エイ・リーン。エーリン先生と呼ばれるのが一番気に入っているの。よろしくね宮藤さん」

 

 

エーリンはとてもまだ若く見えるのだが声やしぐさはそれに似つかず威厳すら感じさせるのでどうにも妙な雰囲気を醸し出す女性だった。芳佳に椅子をすすめ、冷蔵庫から缶ジュースを取り出し芳佳に手渡すと椅子を引き寄せて深く腰掛け目を細めて観察するような視線を芳佳に向けた

 

 

 

宮藤「あのー私なんの話をしたらいいんでしょうか?」

 

 

エーリン「話っていうか見せてもらえればそれが一番なのよね」

 

 

 

彼女はおもむろに白衣を脱ぐと左足をまくり上げる。エーリンの脛は痛々しい紫と赤の混ざった色に変色しておりぽっこりと晴れている。グロテスクですらあるそれを見て驚いた芳佳は飲みかけのジュースを放り出し腕まくりをするとエーリンの足元に転がるように座り込んで魔法力を発現させる。その頭から獣耳のようなものが生えたのを見たエーリンは驚いたように「すごいわね」とつぶやき興味深げに手を伸ばして耳をちょんとつついた

 

 

宮藤「一体どうしたっていうんですか!?」

 

 

エーリン「昨日ちょっと飲みすぎてね」

 

 

宮藤「なに飲んだらこんなことになるんです!」

 

 

エーリン「酔っぱらったら人はボウリング球を蹴ってストライクを狙うことに恐れを感じなくなるのよ」

 

 

本来なら全治数週間といったレベルの強烈な打撲が瞬く間に完治していく。1分程で芳佳は耳をしまって立ち上がり、再び椅子に座ろうとして自分が放り投げたジュースが地面に転がっているのを目にしてあわてて傍にあったトイレットペーパーをぐるぐると手に巻いて片付けに入った。エーリンも裾を下ろして掃除を手伝いながら話を続ける

 

 

エーリン「人体の損傷ならなんだって治せるって訳?すごいわね。どういった理屈なの?その魔法はあなたの世界ならみんな使えるの?」

 

 

宮藤「外傷は治せます。程度にはよりますけど。それにみんなが使えるわけではありません。人によって使える魔法が違うので。理屈は・・・魔法だから、と言うしかありませんね」

 

 

エーリン「科学も医学も理屈を重ねないと結果にたどり着けない。そこんところ魔法っていうのはシンプルで素晴らしいものね」

 

 

宮藤「魔法はなんでもできるわけじゃありません。私の治癒魔法はケガを治すだけです。病気は治せないし、できないことはできません。だから私は医学を勉強してるんです先生。」

 

 

 

エーリン「とても気高い志をもっているのね。・・・その力がなくても、あなたは私のケガを治すために奔走してくれる人なんでしょう。そんなあなたにならなんでもお話させてもらえると思うわ。私の個人的な話でいいのなら」

 

 

宮藤「ぜひ聞かせてください!」

 

 

エーリンは新しいジュースを芳佳に渡し、椅子に浅く腰掛けた。先ほどまでとは違い少し身を乗り出すように、まるで友人と話すように顔を突き合わせて人懐っこい笑顔を浮かべて質問を受ける側にまわった。教師と生徒という垣根を越え、違う世界で生きる二人が交わした会話はそれほどとくべつなものではなかった。ただ同じ道を志す者達には尽きぬ話があった。強い日差しが西に沈んでほのかな温かさが芳佳の頬を温めたことで初めて長い時間が経ったことに気付けるほどに夢中だった

 

 

 

名残惜しそうに席を立った芳佳が廊下の向こうへ消えていくのを手を振って見送るエーリンはとても満足気だ。管理局中を走り回ってこぎつけた時間だったが、その労力も忘れてしまえるほど有意義な時間だったからだ。ただこの恩恵は当然エーリン1人が独占したものではない。芳佳もそうだ。ただ、もう一人いた

 

 

 

 

エーリンは軽やかな足取りで保健室の隅にあるベッドによると、仕切りの役割を果たしていた厚手の白いカーテンを舞台の幕でも開くかのようにかしこまってそれを引っ張った

 

 

 

エーリン「興味深い話はきけたでしょう?」

 

 

「・・・まあまあ」

 

 

エーリン「まあまあ?頭抱えて目を白黒させてるような子が言っていいセリフじゃないわね。はいはい深呼吸して?保健室で過呼吸でぶっ倒れられたりしたら私の名誉に傷がつくんだから」

 

 

壁にもたれかかるようにベッドの上で座っている少女はゆっくりと2、3度呼吸を繰り返して半開きの目でエーリンの青い瞳を見つめ返した

 

 

「傷、見せて」

 

 

エーリンは笑いながら治った足をベッドの上に投げ出した。少女はそれを未知の物質の分析を始めんとする科学者のような好奇の視線でなめるように見た。そしてそれが完璧に健康な状態になっていることを確信すると、体をぶるっと震わせて再び頭を抱えた

 

 

エーリン「あったわね、魔法。」

 

 

「まぁ・・・医学が知らない間にあそこまで発展したのかもしれないし」

 

 

エーリン「歴史をみれば解明できない科学は魔法として扱われたのよ。諦めてさっさと出席の心構えをしておくのね。」

 

 

「死ぬほど嫌なんだけど・・・確かにいろいろ自分の目で確かめたいことはあるんだけれど」

 

 

エーリン「その意気よ。あなたがブルーアイランド中の監視カメラやらデータベースを探ることをやめてくれないと色んな人の首が飛ぶし」

 

 

「だからそんなに必死なんだ」

 

 

エーリン「捻くれてるわね、あなたも。・・・結局、大人は子供におせっかいを焼きたい生物なのよ。学校に行かなくてもあなたは立派な人間になれることぐらい解ったとしても、ちゃんと毎朝起きて学校に行って、授業を聞き流しながら友達と下らないおしゃべりをして欲しいの。それがどれだけ意味がないとしてもね。」

 

 

 

エーリンは黙ってうつむく少女の頭をぽんぽんと叩いて、保健室の電気を消して廊下を歩いていく。教育というものはいつだってイレギュラーでしかない。世界に全く同じ人間などいないように、常に同じ方法で解決できる思春期などないことをよく理解している。だから今回もずるい方法で天才的な頭脳を持つ幼い彼女を騙すようにして事態を前に進めるしかなかった。

 

 

 

 

 

保健室のベッドの上で頭を抱えてぶつぶつと不満と期待を口にしている少女は、四宮ひまわり。今世界になにが起きているかを知り、そしてこれからそれに両足を突っ込まんとしている不幸で幸運な少女だ

 

 

 

 

 




今年中に完結させます(消え入るような声


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 れい「友よさらばまた会う時まで」

黒騎れいは疲れていた。テレビの上に置かれたデジタル時計を見ればそれも仕方がないのが解るだろう。健全な中学二年生が起きていていい時間とは言えない。だがこの状況を自分から抜けることはできないでいた

 

 

あかね「だからさぁ!れいちゃんが・・・れいっちゃんが・・・」

 

 

宮藤「あの海岸で2人揃って鳥にたかられていた時のことを覚えてますか!?ねえれいちゃん!!!!」

 

 

 

左右から肩をつかまれてぐわんぐわんと揺らされながら畳みかけるように喋る2人のせいでろくに話すこともできずにいた。今夜は急遽黒騎れいお別れパーティーが開かれることになり、ももと芳佳とリーネの3人が腕によりをかけて作った夕飯をいただきながらの食事会は大いに盛り上がった。健次郎博士が改造してくれたおかげで大きくなったお風呂に全員で入ったり、乱入してきたこまりとなつみの用意してくれた人生ゲームがまた熱い時間をもたらしてくれた

 

 

ペリーヌ「貴方達酔っておられます?」

 

 

リーネ「芳佳ちゃん?その瓶ってオレンジジュースだよね?そうだよね??」

 

 

宮藤「だからなんなの!??」

 

 

リーネ「そのセリフはなんかこういう時に使っていいものじゃないと思うんだけれど」

 

 

 

芳佳が力なく放り投げた空の瓶は畳の上に薄い水滴の軌跡をぽつぽつと残しながら転がっていった。夜は更けて日付が変わるまで1時間を切り、こまりとなつみが家に帰っていってから随分と時間が経っても話は尽きることが無い。幼いももは体力の限界を迎え部屋の隅で座布団を枕に安らかな寝息を立てている。こちらも既に寝落ち寸前の芳佳は寝ぼけまなこでおかわりを探すが、既に机の上の飲み物は全て空いてしまっている

 

 

宮藤「ペリーヌさんもういっぱい!!」

 

 

ペリーヌ「だめです。もうおよしなさいな、身体に毒ですわよ。・・・ってなんでわたくしがお医者様志望のあなたに健康を説いているんですの?」

 

 

宮藤「ぶー、ケチなんだから!明日はお休みなんだからなにをためらう必要があるんですか!!もういいです自分で取りに行きますから」

 

 

 

ペリーヌ「普段から命令無視の常習犯の宮藤さんがこうなっては手が付けられませんわね・・・。」

 

 

 

 

わかば「あおい、ちょっとあかねを引き離して。黒騎さんが目を回すわ」

 

 

あおい「う、うん。あかねちゃー・・・」

 

 

あかね「あおいちゃああああああああん!あおいちゃんはずっとここにいてくれるよね?」

 

 

あおい「え?ええ???そそそ、それはもちろんだよ!あかねちゃんがそう言ってくれるなら・・・!」

 

 

あかね「あおいちゃん!」

 

 

あおい「あかねちゃん!」

 

 

 

固く抱き合いそのままごろごろと部屋の隅まで転がっていく2人をあきれたように見やるわかばの横で、リーネはじたばた暴れる芳佳を膝の上に寝かしつけつつそれとなく瓶を取り上げる

 

 

ペリーヌ「大丈夫ですの?黒騎さんも少し横になられては」

 

 

れい「え、ええ。そうさせてほしいわ」

 

 

ペリーヌ「とりあえずお水でもお飲みになられてはいかがかしら」

 

 

頷いてれいは台所に向かい、冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を一口飲んだ。上気した身体に冷たい水が下りていく感覚が心地いい。だがこの興奮が冷めてしまうのを惜しむ気持ちもあった。れいは部屋の隅でごろごろしているあかねと、うとうとしている芳佳に目をやると誰に告げるともなく話し始めた

 

 

れい「その・・・2人がここまで私のことを思ってくれていたのを知れて、本当に嬉しい。あかねは誰に対しても全力だし、芳佳は記憶がなくたっていい子だったし、だから多分誰にでもそうしていたのだろうけど何も持たない私がここで生活していくことを楽しめていたのは2人とみんなが良くしてくれたおかげだもの。・・・ありがとう」

 

 

それに応えるようにあかねと芳佳は無言で手をヒラヒラとふった。両方とも頬を赤くしているのを見てれいは笑おうとしたが、自分の耳も熱くなっていることに気付いてあわてて冷たい水を一気にあおった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。黒騎れいはいつものように台所から漂ってくる美味しそうな匂いと包丁がリズム良くまな板を叩く音で目覚めた。起き上がって大きく伸びをしてから自分の布団を折りたたんで部屋の隅に寄せてから朝食作りの手伝いに向かう。テレビからは今週末のお天気がお出かけ日和であるということを力説するアナウンサーの声が流れ、それをバックに朝食を頂く。ここにきてから毎日繰り返されてきた賑やかな朝の時間が流れていく中で、れいは心の底から溢れてくる暖かい感情が涙として零れそうになるのを必死に耐えていた

 

 

 

リュックサック1つに収まる程度の私物を背負って、彼女はここから去ろうとしていた。居心地がいい場所であっても、黒騎れいは行動を起こすことを選んだのだ。確かに一色家で暮らすことが楽しいのだが、れいはいまだに自らの記憶がほとんど浮かび上がってこないことに日々焦りを感じていた。れいはこの行動が前に進むための最善の選択だという決意を今一度固め胸に残る未練を断ち切るように玄関の引き戸を力いっぱい引いた

 

 

 

れい「じゃあ、いってきます」

 

 

 

振り返ることはしなかったが、さようならとは言えないれいは凛とした声で確かにそう言った。もうここに住むことを終えると決意してたのに、無意識であろうとなかろうと彼女が選んだのはその言葉だった。あかね達がその背中に飛びつかなかったのを褒めるべきだろう。ただただ手を振るあかね達に照れ臭そうに小さく手を振って、黒騎れいは小走りにあぜ道を駆けていく。自らが進む道に希望が満ちていると信じて

 

 




お話全然すすまないじゃん!!!!仕事してる場合じゃないのに・・・だめっ働いちゃうっ!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 わかば「ひきこもり特待生」

ストライクウィッチーズ3期おめでとうござんす!!!!!


健次郎「おぬしらを呼びつけたのはほかでもない!!!!」

 

 

あかね「見当もつかないよおじいちゃん。」

 

 

 

れいが家を出た日の夕方。一色家の裏にあった健次郎の研究所に集められたビビッドチームを代表してあかねが口を尖らせた。かつてアローンの襲撃によって破壊された研究所は管理局の資金援助もありすっかり元通りになっている。健次郎はぬいぐるみの体で器用にタブレットやキーボードを叩き、モニターになんらかのデータを表示させるとあかね達にそれを注視するよう促した

 

 

 

なにやら事は重大のようだが、揃いも揃ってちんぷんかんぷんである。とにかく黙って博士の次の言葉を待つ

 

 

 

健次郎「以前の戦闘時の観測データじゃ。あかねとわかばくんが行った未曾有のオペレーションが弾き出したエネルギー数値はわしが事前に想定しておったものを遥かに凌駕しておった。パレットスーツの防御力では到底カバーできんレベルじゃ」

 

 

宮藤「ああ。あかねちゃんの左腕が動かなかった問題の話ですね。」

 

 

 

健次郎「そうじゃ。あの時点での2人の・・・あるいは”1人”の発する示現エネルギーの強さを部位によって測定すると、左腕を中心に強烈な波動を発していたのじゃ。本来パレットスーツは発生するエネルギーの中心部を体の中心辺りになるように想定し、それを全体にうまく波及させるように流れを作ることで体への負担を抑えていたのじゃが・・・。あかね、あの合体技を発動した時の状況を再現してみてくれんか?ああ、鍵はしまっておいてくれ。フリでええからの」

 

 

 

促されて2人は皆が見守るなかおずおずと立ち上がり向かい合った

 

 

 

あかね「ええ?どうだったっけ」

 

 

わかば「え。うーん、特別なにかしたというわけではなかった・・・ような」

 

 

 

あの時2人は夢の中のようなふわふわした空気の中にいたのではっきりと思い出せるわけではなかった。無理に思い出そうとすると妙にこそばゆいような、場の空気に流されて結構恥ずかしいことを口走ってしまったような気もしてきた

 

 

あかね「左腕・・・あー!そういえばわかばちゃん、わたしの左手にちゅーしたじゃん!!」

 

 

わかば「あ、ああ!ああああああ!!!待てあかね待ってくれ!ちょっ、ちょっと」

 

 

あおい「!!!!!??????」

 

 

リーネ「二葉さん!?」

 

 

あおい「一体どうい・・・もういっぺんいってください三枝わかばさん!!!」

 

 

わかば「ちょっと落ち着いてあおい!変なことはしてないのよ!!」

 

 

宮藤「なるほど合体ってそういうことだったんですか!」

 

 

ペリーヌ「おだまりなさい。」

 

 

宮藤「すいません」

 

 

 

あらぶるあおいを宥めてとりあえずみな床に座り直した。健次郎は咳払いをしてから考えを整理しつつ話を続ける

 

 

 

健次郎「あの瞬間、あかねが発生させたエネルギーフィールドの中はこの世の物理法則など適応されん可能性の空間じゃ。まあそういった行動がキーになるのかもしれん。こちらでも迅速に解析は行うが、安全性が確保されておらん現状、ファイナルオペレーションは禁止じゃ!」

 

 

あかね「えー!大丈夫だよ次は!多分!」

 

 

健次郎「あかねよ。ワシはお前達に命を賭けることを強いておるが、アローンとの戦闘と関係のない所で危険な行いをさせたい訳ではない。技術者として完成しておらん機能に命を預けさせることもせん。それに、お前1人が無茶をするだけの問題ではすまんのじゃ。心を通じ合わせた仲間をも巻き込む危険な技なんじゃぞ」

 

 

あかね「う、うん。そうだね・・・ごめんなさい」

 

 

ピシャリとたしなめられてあかねは頭を冷やす。大抵直感の通り動いて事をうまく運ぶ自信のある一色あかねではあったが、祖父の言うことを聞けば二の足を踏んでしまうのもやむなしだろう

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

宮藤「れいちゃんお休みなんですか?」

 

 

 

休みも終わり、揃って登校してきたあかね達は辺りを見渡すがれいの姿は無い

 

 

 

面倒見のいい女子「うん。先生によると、新しい生活の準備で少し忙しいんだって。」

 

 

あかね「なんだぁ。学校に来たら会えると思ったのにー」

 

 

 

あおい「れいちゃんの親族の方、どんな人なんだろう?」

 

 

 

わかば「何時かは会いたいものね」

 

 

 

朝のホームルームが始まる前の雑談で騒がしい教室のドアを開けて、エーリン先生が入ってきた。生徒達の元気良い挨拶に少し気圧されるようにぎこちない笑顔で応えると彼女は誰かを探すように教室を見渡し、宮藤達の姿を見つけると廊下を指差してそちらに来るよう合図を送ってきた

 

 

宮藤「おはようございますエーリンさん」

 

 

 

エーリン「おはよう。ねえ宮藤さん、あなた今日の放課後は時間あるかしら。少し頼まれて欲しいのだけれど・・・一色さん達も一緒にね」

 

 

 

宮藤「え?ええ、まあ外せない用事とかは特にありませんのでお力になれると思いますけど」

 

 

 

エーリン「助かるわ。それじゃあ、お昼休みにまた保健室に来て。そこで話すことにするわ」

 

 

エーリンは満足そうに頷くと軽やかに去って行ってしまった。せめてどういった用事なのかさわりだけでも聞いておきたかった宮藤だが、とにかく呼び出しがあることだけをあかね達に伝えて午前の授業に集中することにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼休み。ご飯を食べるのもそこそこに彼女達は揃って保健室へと出向いた

 

 

 

エーリン「申し訳ないわね、貴重な休み時間に。」

 

 

あかね「いえ、大丈夫です!それよりお話ってなんですか?」

 

 

 

エーリン「貴方達のクラス、一番後ろにずっと空いている席があるの知ってるかしら?」

 

 

 

リーネ「そういえば私達が来た時から誰も座っているの見たことないような」

 

 

わかば「ああ・・・四宮さん。彼女絡みの案件でしょうか。」

 

 

エーリン「そ。三枝さんは知っているのね?」

 

 

わかば「といっても名前以外にはほとんど。尾ひれのついた噂話なら多少は耳に入ってきますが・・・」

 

 

あかね「四宮さんって?」

 

 

わかば「去年も多分ほとんど学校には出席してない伝説の引きこもりさんよ」

 

 

あおい「その人もなにか身体を悪くしていたりするんでしょうか?」

 

 

わかば「さあ、存じないわ。噂じゃ私と同じような特待生でそもそも出席することを求められていないとか、学校のお偉いさんのお子さんでやりたい放題してるとか、そんな噂も数週間もすればなりを潜めていまじゃいないのが当たり前のような空気になっている子よ」

 

 

わかばは肩をすくめてそう語った。ブルーアイランド学園中等部現2年生であれば大抵の人が知っている伝説の無出席ガールの存在について未だに強い関心をもっている子は少ない。友達がいないどころか、そもそも彼女の顔を見たことがある人間は1人もいないのだ。既に風化しつつある都市伝説を引っ張り出されてわかばは少し好奇心を強めていた

 

 

 

 

エーリン「その子にちょっと会いに行って欲しいのよ」

 

 

宮藤「それはぜんぜんかまいませんけど、会ってどうすればいいんですか?」

 

 

ペリーヌ「わたくし達に不登校問題を解決させようと仰るのですか?失礼ですが全く適任だとは思えませんが」

 

 

エーリン「貴方達に会いにいってもらわないといけないのよ。これは保健室の先生としてでなく管理局職員としての依頼だと思って欲しいわね。つまりはそっち系のお話なの」

 

 

ペリーヌ「とおっしゃいますと・・・」

 

 

エーリン「カノジョ、あなた達がどういう人か知っちゃったのよ」

 

 

リーネ「ええ!?」

 

 

ペリーヌ「また面倒な事態になりましたわね・・・。ではわたくし達はその四宮さんとやらにお会いしてこの事を忘れていただけるように誠心誠意お話でもすればよろしいのでしょうか?」

 

 

エーリン「あなた達にお願いしたいことは3つ。彼女がこの情報をどうやって手に入れたのかを聞く。知ったことを口外しないよう説得する。そしてもう1つは・・・」

 

 

 

言葉を切って、エーリンは笑顔をふっと曇らせて少し間をとった。口にしようかしまいが悩んでいるようだが、小さく息を吸って暖かな声で言葉を発した

 

 

 

エーリン「四宮ひまわりちゃんと、友達になってあげてほしいの」

 

 

 

 

 

 





2019年が半分終わってしまったんですが、完結まであと何話ですか・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 わかば「しなびた太陽」





宮藤「ここだね!あの子のハウスは!!」

 

 

ペリーヌ「そのようですわね」

 

 

 

6人は揃ってその建物を見上げる。学園島からモノレールに乗り示現エンジンのあるブルーアイランド本島へ向かい、少し歩いた所にある開発地。その中にある高級マンションの敷地の入り口で少女達は突っ立っていた

 

 

 

あかね「うわあー、おっきいマンションだね!!」

 

 

わかば「高い所が好きな子なのかしら」

 

 

あおい「じゃ、行きましょう」

 

 

 

目的地はマンションの最上階である6階の端っこ。誰がピンポンを押すかは既に決めてある。そう、困った時の一色あかねだ

 

 

 

あかね「ピンオン押してもしもーし!!!!」ピンポーンガチャガチャドンドンドン

 

 

「うるさい・・・!!まじで・・・!」

 

 

勢いよく開いたドアはあかねの顔面をぶっ飛ばす勢いであったが、彼女はひょいと飛びのいてすんでのところで回避した。部屋から出てきた少女の瞳はぼさぼさの髪で隠されているにも関わらず解るくらい怒りに燃えていたが、そんなものどこ吹く風であかねはその手を取った

 

 

 

 

あかね「初めまして四宮さん!!!一色あかねです!!!!」

 

 

「ちょっ・・・廊下でそんな大きい声出さないで・・・!あああもう中入って」

 

 

あおい「ごめんなさいお邪魔します」

 

 

 

招かれるまま(そうせざるをえない)部屋の中に入りドアを閉め、薄暗い廊下を進んで奥の部屋へ進む

 

 

 

宮藤「なんか寒くないですか?」

 

 

「冷房マックスだから・・・寒かったらこたつ入ってもいいよ」

 

 

そういいつつ少女もこたつにもぞもぞと潜り込む。机の上には乱雑に缶ジュースが並べてある。あかね達をもてなそうとしてくれたのだろう。その気持ちには涙を流すほど嬉しくおもったわかばだったが、そのラインナップがどれも毒々しい緑と黒のカラーリングでデザインされたエナジードリンクであることには少し疑問を抱いてしまった

 

 

 

 

ひまわり「私、四宮ひまわり。知ってるだろうけど。ちなみに私もあなた達のことは知ってるから自己紹介はいいよ」

 

 

わかば「私は三枝わかばだ!!!!」

 

 

ひまわり「うわ声でっか・・・!なんなの!」

 

 

わかば「これは失礼。名乗りを欠かすということに抵抗があるもので」

 

 

 

宮藤「私達のことは誰から聞いたんですか?」

 

 

ひまわり「そういう話をしようよ。自己紹介なんかで和気あいあいと尺を使うのは時間の無駄だし」

 

 

そっけなくそう言い放つひまわりが床に転がしたキーボードをがちゃがちゃ叩くと、壁のプロジェクターに突然映像が映し出される。手の込んだ演出で文字と画面が激しく明滅し、バックには重苦しい電子音が腹底に響く。インドアな趣味に若干の理解があるあおいはこれがとても手の込んだ編集であることが理解できたし、横眼で見やったひまわりの微妙なドヤ顔からこれが彼女のお手製であることも推測できた

 

 

 

ひまわり「誰から聞いたって?あなた達のことは示現管理局の最重要機密。聞き出すコミュ力あるわけないじゃん。じゃあどうしてわたしがビビッドチームのことを知っているのか・・・アローンというものの存在を知っているのか。その答えはただ一つ」

 

 

壁に映し出されるのは、荒い画質ではあるがあかね達が変身する場面やストライカーが飛翔しているのを撮影したであろうもの

 

 

ひまわり「アハァー・・・全部見てたんだよ。管理局のセキュリティにちょろっと侵入して」

 

 

あかね「すごーい!あんまりよくわかんないけど!」

 

 

ひまわり「馬鹿にしてんの?」

 

 

あかね「いやそんなことないよ。ひまわりちゃんパソコン使えるんだね」

 

 

ひまわり「・・・あなた、あの一色健次郎博士の孫なんでしょ?逆にこれくらいのことできないの?」

 

 

あかね「あー。わたしは機械とかそんなに得意じゃないかな」

 

 

ひまわり「ええ、まじ?ちょっとガッカリ」

 

 

あかね「え、なんかごめん」

 

 

ひまわり「べつに・・・」

 

 

 

見るからにテンションが下がっていた。わかばは先ほどからひまわりを少し冷めた目で観察していたが、いくつかわかったことがある。四宮ひまわりという少女は口調こそそっけないが感情の起伏がそれなりに表に出るタイプだった。学校に長い間来ていないにも関わらず受け答えもしっかりしている。知らない人間(例え前情報を持っていたとしても)を6人も部屋に招き入れることを了承する辺り対人恐怖症というわけでもなさそうだった

 

 

 

わかば「なぜあなたは学校に来ないの?」

 

 

あおい「!?」

 

 

リーネ「え、その質問いきなりぶっこんじゃうんですか!?」

 

 

わかば「え?なにかまずかったかしら?」

 

 

リーネ「もっと外堀を埋めてからですね・・・」

 

 

ひまわり「別に気を使ってもらわなくていいし。行く必要ないから行ってないだけ。特待生だから出席しなくても実績と提出物あれば進級させてくれるし」

 

 

あおい「四宮さんはなにで特待生になったんですか?」

 

 

ひまわり「プログラミングとか得意だから、それで。自分で開発したアプリとかで小銭ぐらいなら稼いでるし。あと学校で使ってる端末の中にも私がつくったアプリ入ってるし。超便利なやつ」

 

 

あかね「ええ!?すごーい!!どれどれ!!」

 

 

ひまわり「登校日として設定されている日に学校の敷地内にいないと超うるさいアラームが鳴るやつ。ちゃんと病欠申請とかやってれば学校側から解除してくれるけど。アプリ名は【ひまわりアラート】」

 

 

あかね「うわ」

 

 

ひまわり「すごーいって言って」

 

 

リーネ「自分のことは棚にあげてサボリ防止アプリを・・・?」

 

 

ペリーヌ「およしなさいなリーネさん」

 

 

ひまわり「ほんっとだるい・・・!ちょっとは引きこもりに気をつかったりとかしないの?」

 

 

宮藤「四宮さん顔真っ赤w」

 

 

ひまわり「ううううネットならこの程度の煽りなんてことないのに面と向かわれると我慢できない!もう出て!私の城から出て!」

 

 

ペリーヌ「まぁまぁ。宮藤さんにはあとで軽くトネールしておきますから」

 

 

宮藤「それ軽くても人に向けていい魔法じゃありませんからねペリーヌさん。あの、ごめんなさい四宮さん。場を和ませようとしたんだけど」

 

 

 

話題を変えようと部屋をぐるっと見渡した宮藤は壁に飾られたいくつかの写真やタペストリーに目を止めた。それらはどこかの大きい建物が描かれたもので、そのうちのいくつかは宮藤にも覚えがあった

 

 

宮藤「示現エンジンの写真?あとは工場、かな?好きなの?」

 

 

ひまわり「うん!!!あと工場じゃなくて整流プラントね。示現エンジンから産みだされたエネルギーを世界中に送り込むための施設!!」

 

 

宮藤(うわびっくりした)

 

 

あかね「かっこいいね!!!」

 

 

ひまわり「わかるの!?」

 

 

あかね「おじいちゃんが作ったものだもん。好きだよ」

 

 

ひまわり「一色さ・・・あかね・・・!」

 

 

 

ペリーヌ「この子チョロイですわね」

 

 

リーネ「あはは・・・」

 

 

わかば「なんで工場が好きなの?」

 

 

ひまわり「三枝さんが竹刀振り回して殴り合うのが好きなのと一緒なんだけど」

 

 

わかば「成程。そういうことなのね」

 

 

ひまわり「・・・そんなあっさり理解する?ふつー」

 

 

わかば「なにかを本気で好きになるのに理由は後からついてくるものでしょう。それに、あなたの目を見てればわかるわ。とても綺麗な目をしているもの」

 

 

ひまわり「は!?なに勝手に見てんの・・・!意味わからんし」

 

 

髪をぐしゃっと撫でつけて顔を隠すようにしてそっぽを向くひまわり。失礼なことを言っちゃったかな、と少し困ったような顔をするわかばだが他の人から見ればそれが照れている気持ちからくる行動なのは明らかだった

 

 

あかね「ね、それなら見に行かない?もうすぐ夕方だし、多分すっごくキレイだよ!」

 

 

ひまわり「いや外出るのはちょっとムリっていうか」

 

 

あかね「だいじょうぶだよ!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」

 

 

ひまわり「一歩でも出たらそれは外出ってことになるの!」

 

 

あおい「えぇ・・・」

 

 

 

ひまわり「暑いし虫いるし知らない人もいるしヤバイし」

 

 

あかね「えー、でも見たくないの?」

 

 

ひまわり「くっ・・・みたい・・!夕陽に照らされて燃えるように赤くなりながらも力強く稼働する整流プラントがみたいよ・・・!」

 

 

ペリーヌ「なんなんですのこの方は」

 

 

リーネ「そういう世界もあるということなんですよきっと」

 

 

 

重い腰を上げたひまわりは腰に手を当ててゆっくりと伸びをすると、羽織っていたはんてんを乱雑に床に投げ捨ててのそのそと部屋を出ようとする。学校指定のジャージで

 

 

ペリーヌ「ちょっとお待ちなさい四宮さん!あなたそのような恰好で外を歩こうというんですの!?淑女としてあってはならないことですわ!!!」

 

 

ひまわり「うるさいなぁ。淑女とかじゃないし学生が学校のジャージを着てて文句を言われる筋合ないし」

 

 

ペリーヌ「そのような屁理屈はわたくしには通用しませんわよ!!!せめて制服に着替えなさいな」

 

 

ひまわり「一年ぐらい着てないからどっかで朽ち果ててるだろうしムリ」

 

 

ペリーヌ「その体たらくでよく学生を名乗れましたわね」

 

 

ひまわり「もういいじゃんジャージで。時間無くなっちゃうし」

 

 

わかば「いいや、駄目よ」

 

 

話に割って入ったわかばの腕がぬっと伸び、ひまわりの細い両腕を問答無用で握りしめて自分と向き合わせて、顔を覗き込むようにして言い聞かせるようにゆっくりと言葉を続ける

 

 

わかば「世間のルールに乗っ取った説教をする気はさらさらないんだけど、私個人として自分を雑に扱うあなたを見て放っておくのは気分が悪いの」

 

 

ひまわり「あの、つまり、なんなの?」

 

 

わかば「あなたは可愛いってことよ」

 

 

目を丸くして固まる彼女の返事を待たずわかばはずんずんと部屋の奥へ入っていった

 

 

リーネ「今の口説いてました?」

 

 

ペリーヌ「サムライ系のお方ってみんなああなのかしら」

 

 

あおい「キマシタワー建設!!!」

 

 

あかね「え、あおいちゃんなに?」

 

 

あおい「スルーして・・・ごめん・・・」

 

 

あかね「???」

 

 





大丈夫!!今年中に完結できる!!!できるぞ!!!!と毎日自分に言い聞かせながら少しずつお話を作っています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 ひまわり「ゆうやけこやけ」

わかば「待たせたわね」

 

 

ひまわり「・・・」

 

 

名前に合わせたような明るい黄色のフリルスカートを着せられたひまわりはそわそわと髪をいじっている。顔を隠すように垂れていた前髪は黄色のヘアピンで両サイドが止められているので諦めたような嬉しいような複雑な表情を浮かべているのが容易に見て取れた

 

 

わかば「ちゃんとした服もあるじゃない。」

 

 

あかね「わー!ひまわりちゃん可愛い!!」

 

 

宮藤「かわいい!かわいい!」

 

 

ひまわり「そ、そういうのいいから・・・はやくいこ」

 

 

 

 

外はちょうど陽が傾きつつあり、歩いているうちに理想的な夕焼けに街が染められるだろう。最初は周囲に忙しなく目をやっていたひまわりだが、人通りがあまり多くはないせいか次第と落ち着いてあかね達の会話にも少しずつ混ざり始めた

 

 

 

あかね「もうすぐだね!」

 

 

ひまわり「ねえ、こっちから行きたいんだけどいい?」

 

 

あかね「え?整流プラントってここで曲がるんだっけ?」

 

 

 

ひまわりが指差した方は坂道だ。どちらかというとモノレール駅がある方向である

 

 

 

ひまわり「ううん。裏の海の方からならフェンスに邪魔されずに見えるから。ちょっと遠いけど・・・」

 

 

わかば「成程ね!そのほうが絶対いいわ。行きましょう」

 

 

先頭に立つのは遠慮しているが、ひまわりの案内によってあかね達は海沿いの整備された歩道にやってきた。こちらから入ることはできないが、フェンスに阻まれることなく工場施設全景を遠目に収めることが可能だ

 

 

 

世界の全てがオレンジに変わりつつある中で吹く温かな風があかねの頬を撫でる。鉄塔や走り回るトラックが時たま反射する光の眩しさも気にせず7人はしばらく無言でその風景を楽しんでいた

 

 

 

 

あかね「いい場所知ってるねぇ」

 

 

1人、少し離れたところで柵にもたれかかりながら熱い視線を注いでいたひまわりは不意にかけられた声に少し驚いた。隣に立ったあかねはそれっきり何も言わないので、会話がしたいのか判断のつかないひまわりは独り言のようにぼそりと言葉を返した

 

 

 

ひまわり「たまに、1人で見にくるから。」

 

 

あかね「教えてくれてありがとね。」

 

 

ひまわり「ううん。私も・・・1人だと、陽が沈んでからじゃないと外出れなかったから」

 

 

 

あかね「ねえ、ひまわりちゃん。なんで学校に来なくなっちゃったの?行かなくてもいいから行かないんじゃなくて、行きたくない理由があるんでしょ?」

 

 

ひまわり「べつに。」

 

 

あかね「そうなの?」

 

 

ひまわり「教えないといけない理由もないし」

 

 

あかね「わたしが力になれることなら協力するから、一緒に学校いかない?ひまわりちゃんと学校でも遊びたいな」

 

 

ひまわり「・・・なにそれ。なれなれしい。」

 

 

あかね「えー、厳しい」

 

 

視線を強めるひまわりを受け流すようにおどけたように笑ったが、冗談というわけでもなさそうな雰囲気を察して口を閉じて真面目な表情を作り直した

 

 

 

ひまわり「勘違いしないで。私は私が来たかったからここに来ただけで、あなた達がこうして私に付き合ってるのはそうしないと自分達に不利な状況になるから。今日のことはそれだけのことなの」

 

 

 

わかば「あかねも私達も、あなたに口外して欲しくないからご機嫌とりをしようなどと考えてはいないわ。」

 

 

 

 

凛とした声がひまわりを真正面からとらえる。負けじと不満そうな顔でわかばの方に向き直り言い返す

 

 

ひまわり「だったらなんなの」

 

 

わかば「あなたと友達になりたいだけなのよ。」

 

 

ひまわり「・・・友達なんて、いらない。」

 

 

わかば「フラれたわよあかね」

 

 

あかね「なんでそんなツンツンなの?ひまわりちゃん。」

 

 

ひまわり「ひきこもりの私に同情でもしてるんだろうけど大きなお世話だし。・・・どうせ私のこと変なヤツだって思ってるでしょ」

 

 

 

あかね「そんなことないよ。わたしも示現エンジン好きだし」

 

 

ひまわり「私の好きとは違うものでしょ。人智の結晶であるエンジン、その恩恵を世界中に送るため休むことなく稼働する整流プラント。世界中の科学者が兵器の開発に夢中になっていた時に、世界を平和にする事に全てを注いだ一色博士の存在も含めて、その全てが私にとってどれ程尊いものか・・・あなたにわかる?」

 

 

 

あかね「うん。わかるよ。」

 

 

 

突き放すようなひまわりに対してしかしあかねは一切言いよどむことなく断言した。あかねはここまで理論立てて自分の≪好き≫を説明できるかは自分でもわからないでいたが、ただひまわりが心に秘める熱い想いがどういうものか理解できていることには確かな自信があった

 

 

そんなあかねと目で通じ合ったのか、ひまわりもふっと息を吐くと肩の力を抜いて小さく笑った

 

 

 

ひまわり「ごめん。よりによって博士の孫のあなたにこんなこと聞くなんて」

 

 

あかね「わたし、機械のことは詳しくないけどさ。いつもおじいちゃんとか、お母さんとかが言ってたからわかるんだ。発明は人を幸せにするものだって。だから誇りをもってやれるんだって。ひまわりちゃんが夢中になるのもきっとそういうものなんだね」

 

 

 

ひまわり「私は・・・そんなキレイなものじゃないと思う。」

 

 

あかね「え?」

 

 

ひまわり「私___」

 

 

 

その言葉をかき消したのは爆発音。美しい夕焼けを汚す紅と黒が空に広がり、大地を震わせる甲高い音がひまわりを不快感で震え上がらせた。驚きのあまり力が抜けて転びそうになる彼女をわかばが素早く受け止める

 

 

わかば「大丈夫!?」

 

 

あかね「なに!?」

 

 

宮藤「アローンだよ!!」

 

 

 

 

東の空、落ちる陽の反対側から夜を引き連れてきた怪物が物々しい雰囲気を放ちながらゆっくりと次元の穴から出現してきていた

 

 

 

 

 

 

 

 




今年の夏は涼しいってほんとぉ!!???これでも暑くない!!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 あかね「整流プラントS.O.S」

ー同時刻・ブルーアイランド管理局ー

 

 

局員1「報告!ブルーアイランド本島付近海上にアローンの出現反応!攻撃により整流プラント一部区画から火災発生!」

 

 

柴条「ビビッドチームと防衛軍に出動要請!プラント付近の避難誘導ならびに救助活動を!」

 

 

局員2「局長。整流プラントのシステムに障害が発生しています。制御装置の誤作動により一部エネルギータンクに過剰な量の示現エネルギーが供給されている状態です」

 

 

柴条「こちらからのアクセスは?」

   

 

局員2「受け付けません。第三区画にある制御システムを直接触る必要がありますね」

 

 

柴条「わかったわ。現場の局員を至急むかわせて頂戴。」

 

 

局員1「それが・・・第三区画は既に火の手が回っており消化活動が終わるまで接近することすら不可能のようです!」

 

 

柴条「なんですって!?」

 

 

_________________________________________

 

 

 

健次郎『パレットスーツを装着しているあかね達かストライカー装着状態のペリーヌくん達であれば上空からコントロールルームに突入し、中に取り残された人間の救出及びシステムの修復が可能じゃ。危険じゃがやらなければならんな』

 

 

あかね「アローンはどうするのさ!?」

 

 

携帯電話に向かってあかねは叫ぶ。とにかく飛び出したい彼女を抑え、適格な指示を出すことが健次郎の責務でもある

 

 

 

健次郎『並行して戦闘を行い最低でも足止め、最終的には撃破が必要じゃ。それには7人全員の協力が不可欠。ストライカーがない芳佳くんにも力を貸してもらわねばならん』

 

 

宮藤「任せてください!となると私はプラントでの救出組に入ることになりますね」

 

 

わかば「私はアローンの撃破に向かうわ。そちらの方が役に立てると思う」

 

 

ペリーヌ「救出も戦闘もそれなりにこなせる自負はありますが、コンピューターを触るのはいくら博士と連絡をとりながらとはいえわたくし達には荷が重いですわね。どなたか局員の方に同行していただくのは可能ですか?」

 

 

健次郎『厳しいのう。現場は混乱しておるし、今からワシの作ったシステムを触れるレベルの技術者を引っ張ってくるほどの時間はない』

 

 

ひまわり「なら、私がやります!」

 

 

 

みなが飛び上がるほどの大きな声が海辺に響いた。聞き覚えのないそれはひまわりのそれだった。震える手を固く握りしめ、普段出さないであろう大声を出すほど感情が高まっている。へっぴり腰ではあるが、その眼は強い決意を抱いている者特有のものであった

 

 

あおい「え、えぇ!?」

 

 

ひまわり「私なら整流プラントのシステムくらいなら修正できます!一色博士のサポートを受けられるなら絶対できます!!」

 

 

あおい「そういう自分を危険にさらす無茶は言っちゃだめだよ四宮さん!」

 

 

わかば「一時の感情の昂ぶりに身を任せた行動は危険よ。冷静になりなさい!」

 

 

あかね「2人が言っていいことなのかな???」

 

 

宮藤「珍しい!あかねちゃんがツッコミを!」

 

 

ペリーヌ「茶々を入れるんじゃありません!ですが、実際どうなのですか一色博士。」

 

 

健次郎『ふむ。四宮ひまわりくんといったかな。四宮、四宮・・・。つかぬことを聞くが、君の両親は管理局の職員かの?』

 

 

ひまわり「はい。」

 

 

健次郎『ほほう。君の両親とはちょっとした知り合いでの、君の話も耳にはしとる。管理局のサーバーに不正アクセスして映像データを抜いたことは本来見逃せんが、その腕前があればこの作戦のキーになることも間違いない。』

 

 

 

ひまわりは瞬間ばつの悪そうな表情を浮かべたが最後の言葉を聞いてぱぁっと顔を明るくさせた

 

 

 

あかね「おじいちゃん?」

 

 

健次郎『彼女の腕が必要じゃ。整流プラントの息の根を止められた時の被害は世界中に及ぶ』

 

 

 

ペリーヌ「では決まりですわね。宮藤さんと四宮さんにはそれぞれリーネさんとあかねさんがついてもらいますわ。残った3名でアローンにあたりましょう」

 

 

リーネ「了解です。でもペリーヌさん、わたし達のストライカーを取りにいかないと・・・」

 

 

わかば「以前のように私達が運びましょう。あおい、変身を」

 

 

健次郎『その必要はない。ストライカーユニットならもうすぐ届くはずじゃ』

 

 

リーネ「えっ?」

 

 

戸惑うリーネだったが、その時空から甲高い飛翔音が唸りをあげて近づいてきたのに気付いた。それは彼女達からきっかり10m離れたコンクリートに轟音を立てて突き刺さった。

 

 

リーネ「えっ!!!?」

 

 

 

銀の光沢が眩しいボディを誇る一色博士ご自慢の輸送ロケットが喧しい駆動音を立てながらその体をぱっくりと開く。中にはウィッチ2人のストライカーユニットが入っていた

 

 

ペリーヌ「健次郎博士!ストライカーは繊細なのですが!!!」

 

 

健次郎『大丈夫じゃって。衝突の衝撃は全て地面に流れるよう特殊な細工を施してある。ストライカー自身には優しくそっと地面に寝かせた程度の衝撃しか走っておらんはずじゃ』

 

 

あかね「さすがだねおじいちゃん!じゃあみんな揃ったところで・・・」

 

 

「「「イグニッション!」」」

 

 

赤、青、緑の光の粒子が3人を包み込み、黒ずんだ空へ待ったをかけるように強烈な光を放ちながらパレットスーツを纏ったビビッドチームが現れた

 

 

ひまわり「・・・!」

 

 

示現エネルギーのテクノロジーの結晶であるその現象を己の眼で見ることができたひまわりは言葉もなく、一時緊急事態であることも忘れ完全に魅入っていた。そのひまわりの前に立ったあかねが自分に向かって伸ばした手を迷いなく握りしめ、身体が空へ浮かび上がるまで半ば夢見心地であった彼女はそこでやっと正気に戻って小さく悲鳴をあげてあかねの体にしっかりとつかまった。

 

 

 

リーネが芳佳を拾い、一足先を行くあかね達を追って整流プラントの方へ飛び去って行くのを見送って、ペリーヌ、わかば、あおいはこちらへゆっくりと迫ってくる

 

 

 

ペリーヌ「ではお二方、よろしくお願いいたしますわ。」

 

 

あおい「は、はい!やりましょう!」

 

 

わかば「ペリーヌ、指示はあなたにお願いしてかまわないかしら?」

 

 

ペリーヌ「そうですわね。といっても放課後の訓練でやったにわか仕込みの連携でアローン撃破を無理に狙うことはいたしません。今回の作戦は侵攻勢力の示現エンジンならびに整流プラントへの攻撃の妨害を主軸に据えたものとします。救出作戦が終わるまであそこに留めておくことに集中してくださいまし。では、行動開始!」

 

 

___________________________

 

 

 

ひまわり「あっつい!めちゃくちゃ熱い!!!」

 

 

あかね「おじいちゃん!ひまわりちゃんの髪に火が回っちゃうよ!!火回りちゃんだよ!!」

 

 

ひまわり「あなた私と仲良くする気ないの?」

 

 

あかね「ごめん」

 

 

健次郎『こちらからパレットスーツの拡張機能をオンにする!あかね、ひまわりくんにこれを渡すんじゃ!』

 

 

あかねのパレットスーツがキラリと輝き、目の前に光の塊が浮かび上がる。あかねが片手でひまわりを抱きかかえて空いた手でそれを握りしめると、手の中で小さな粒となって具現化した

 

 

ひまわり「イヤホン?」

 

 

健次郎『パレットスーツの機能を利用して示現エネルギーで作り上げた小型通信機じゃ。装着者に簡易的な防御フィールドを展開する程度のこともできる。』

 

 

ひまわり「そんなことまでできるんですか?!」

 

 

あかね「芳佳ちゃんのぶんもつくらなきゃ!」

 

 

宮藤「私は大丈夫だよ!魔法力があるからね!」

 

 

あかね「魔法ってすごーい!」

 

 

燃え上がる整流プラントの一角、本来なら近づくことすら困難な炎の渦をものともせず指示に従い背の高い建物の壁をぶちやぶった

 

 

 

あかね「入ったよ!」

 

 

健次郎『一番下まで降りてくれ。制御パネルを直接操作してもらうぞい』

 

 

宮藤「わたし達は取り残された人の応急処置と救出を始めます!そっちは任せます!」

 

 

怪我の軽い者はリーネが外へ連れ出し、重傷を負ったものは芳佳が動かせる状態まで治す。獣耳を生やした少女達が奮闘しているのを背に、こちらも重大な任務を背負った2人の少女がプラントの中を降りて行った

 

 

健次郎『外部アクセスの復旧さえできればこちらからシステムを正常に戻せるんじゃが、まずは暴発寸前のエネルギーを外部へ流してしまわんとな』

 

 

ひまわり「わかりました。では、アシストをお願いします」

 

 

あかね「わたしは?なにする?」

 

 

ひまわり「黙ってそこに立っててくれればいいんだけど」

 

 

健次郎『プラント内部の温度が上昇しておる。あかね、ひまわりくんから離れすぎると防御フィールドが維持できん。外部アクセス復旧まではそこで待機しておってくれ』

 

 

あかね「うん、わかった」

 

 

この緊急事態にただ待っているだけ、というのは一色あかねにとって本来我慢ならないことではあったが、ひまわりを危険に晒すことがあってはならない。迷うことなく頷いた

 

 

 

そしてここからが四宮ひまわりの本領である。高熱を帯びているであろう制御盤の蓋をあかねに頼んでひっぺがしてもらうと、中身にざっと目を走らせる。そこから近くのコントロールパネルとの間をぐるぐると往復しながら、淀みなく手を動かし始めた

 

 

 

健次郎『わかるかね?』

 

 

ひまわり「まぁまぁ。基本的なことだけですけど」

 

 

健次郎『基本に自信がもてているなら応用の教えがいもあるというものじゃ。あかね、この上の階に非常用の工具が備えてある。取りに行ってくれ』

 

 

あかね「おまかせあれ!」

 

 

待っていましたとばかりに文字通り飛び上がった。彼女が飛んでいくのを横目で見送りながら、ひまわりは額の汗を手で拭った。耐熱バリアがあるとはいえ、既にプラント内部の温度は数百度に達し、通常人間が自由に動き回れるものを遥かに上回っているのだ

 

 

 

ひまわり(こんな状況だっていうのに・・・まあ、不謹慎ではあるけど。)

 

 

この汗はただ外気に当てられて、というだけではないのは彼女にはわかっていた。どうしようもなく心臓が早鐘を打っている。吐く息が熱い。今ひまわりはどうしようもなく気分が高揚していた。楽しんでいる、とあっさり片付けられる単純なものではない。気持ち良いようで苦しくなるようで、中々どうしてうまく受け止めれずにある厄介なものなのだ

 

 

 

ブルーアイランドを騒がせている現象を突き止めようと管理局の記録映像を盗み見した時彼女の中に芽吹いてしまったこの感情は、どうしようもなくひまわりを狂わせてしまっている

 

 

 

かつて掲げた生涯引きこもり宣言をあっさり破り昼間の学校に足を運んでしまい、情報に釣られて教師の出す条件を呑んでしまった。彼女達を拒絶しきれず、かといって受け入れることもせず、半端な態度をとってしまっている。感情に流されてこんな危ないことに足を突っ込んでいる自分を見てみれば滑稽ですらあるだろう

 

 

ひまわり(ずっと引きこもっていれば、今だって涼しい部屋でジュース飲んで動画でも見ながら途中で投げてるゲームでもすすめて・・・)

 

 

しかしひまわりは行動することを選んだ。自分の行動を自分で決め、自分で一歩を踏み出したのだ。整流プラントが世界の和を維持するのにどれだけ大切なのか等今更彼女にとって考える必要などないほどのもので、それを守るためなら命を投げ出すのだって惜しくはない

 

 

 

そこまで考えて、なんとも壮大な考えに思わず吹き出してしまった。

 

 

 

ひまわり(世界を守ってる自分に酔ってるって感じなのかな。まるで、あの子達みたいに)

 

 

健次郎『ひまわりくん!!聞こえとらんのか!上じゃ!!』

 

 

ひまわり「え」

 

 

 

大きな声を耳の中で出されて驚いて、反射的に顔を上にあげた。視界いっぱいに炎の塊が広がっている。それが轟音を立てて大きくなっている。これは落ちてきているのだ。突っ立っている自分に向かって

 

 

 

 

 

 

 




多分折り返しは過ぎてるんだと思うんです。今年中の完成余裕ですやん!!たのしんでね!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 ひまわり「友達のつくりかた」

あかね「どりぁー!!」

 

 

気合の入った声と共に放たれた一撃が炎の塊を一閃、真っ二つに切り裂いた。火の粉を散らしながら唸りをあげるネイキッドラングはぐるりと弧を描き2分された塊をさらに両断、そしてまた唸りをあげて両断、両断。あっという間にそれらを細かく切り分けて、最後にひまわりの前に立ちはだかったあかねから発生したエネルギー衝撃波が細かい破片を跳ねのける

 

 

 

あかね「ひまわりちゃん!大丈夫だった!?ごめん遅くなって!」

 

 

ぽけっと口を開けたまま返事をしないひまわりの肩を掴んで前後に激しくゆさぶる。衝撃で正気に戻ったひまわりは両手をぶんぶん振って意識の回復をアピールした

 

 

ひまわり「死んだかと思ったよ」

 

 

あかね「まだ生きてるよ!」

 

 

ひまわり「おかげさまで。」

 

 

 

受け取った工具を地面に展開し、ひまわりは死にかけたことなどなかったかのように制御パネルを触り始めた

 

 

あかね「もうひまわりちゃんから目を放さないよ!なにがあっても絶対守ってみせるから。」

 

 

ひまわり「・・・」

 

 

そんなあかねのセリフを聞いて淀みなく動いていたひまわりの動きがピタリと止まってしまった。なにか言いたげに開いた口は出力すべき言葉を決めかねているようでゆるりと閉じてしまう。逆にあかねがその揺れる瞳から言うべき言葉を瞬時に理解しもう一度胸をはった

 

 

 

あかね「ぜったい!!」

 

 

ひまわり「絶対、かぁ」

 

 

色々言いたいことを忘れさせてくれるような自信あふれる一声でひまわりは笑った。最初は声にならないほど小さく、徐々に抑えきれなくなって手を口に当てて体を震わせながら笑い声をあげて笑った

 

 

あかね「え、なんでツボっちゃってるの?」

 

 

ひまわり「ご、ごめん。ふふふ。色々あって。」

 

 

あかね「気になるなぁ」

 

 

 

笑いながら制御パネルの真ん中をとん、と指でつつくとシステムが回復したことを告げる電子音声が鳴った。不快な音を響かせていた制御炉がリズムよく鼓動を打ち始め、壁や天井から消火剤を含んだミストが勢いよく噴出する

 

 

あかね「あれ!?これって・・・」

 

 

ひまわり「余裕だね」

 

 

健次郎『やったぞい!あとは外部からの操作に任せるんじゃ。ご苦労じゃったぞ4人とも!』

 

 

リーネ『こちらも施設内の救助活動を終了しました。芳佳ちゃんを連れて離脱した後、アローン攻撃班に合流します』

 

 

あかね「じゃあこっちもひまわりちゃんを安全なところに運んだらアローンを倒しに行くね!」

 

 

 

さぁ行こう、と伸ばされた手をひまわりはじっと見つめた。その手をとろうとはせず、両耳にはめたイヤホンを外しそれを手の中で転がしながら

 

 

 

ひまわり「私いじめられたから学校行くのやめたの。」

 

 

 

いきなりぶっこんできた。

 

 

あかね「えっ。なん」

 

 

ひまわり「その時も言われた。守ってくれるって。嘘だったんだけど」

 

 

目を閉じて手の中のイヤホンの感触に集中すると、それはほのかに暖かく、コンパクトなサイズ感からはあり得ない程の強い存在感のようなものが発せられてるような気がしてくる

 

 

ひまわり「友達、だったんだけど。まああの状況なら私側に付くと損しちゃうって判断も分かるんだけど、そんなの呑み込めかったから」

 

 

戸惑いつつもあかねは出した手を決して引っ込めない。危機は未だ去っておらず、しかしひまわりの独白を全て受け止める事が今は大切だと直感していた。顔をあげてあかねと見つめ合ったひまわりは真剣なあかねとは対照に憑き物が落ちたようなやわらかい笑顔を浮かべていた

 

 

ひまわり「ねえ。あかね、もう一回だけ信じちゃっていい?」

 

 

あかね「絶対ったら絶対。アローンからだって、そうじゃなくたって、私が守るから。ビビッドレッドとしても、一色あかねとしてもね!」

 

 

ひまわり「そうなんだ。じゃあ、友達が欲しいな。」

 

 

あかね「うん。友達になろ。」

 

 

ひまわり「・・・ああぁ、なんか言ってから緊張してきちゃった。これあと何回もやらないといけない感じ?」

 

 

髪をもじゃもじゃとかきむしり耳をちょっと赤くするひまわりを見て今度はあかねが吹き出した。釣られたのか照れ隠しなのかひまわりも楽しそうに笑う

 

 

ペリーヌ『あったかそうな雰囲気をぶち壊すつもりはありませんのよ?でも戦闘中のわたくし達のことも大切に思っていただけると心底ありがたいのですが?』

 

 

あかね「あっとそうだよね。ごめんなさいペリーヌちゃん!今行くね!」

 

 

ペリーヌ『ちゃん付けはおよしなs』

 

 

 

通信を切って、あかねは今一度手を差し出した。今度は両手を。ひまわりの手の中でイヤホンはキラリと輝いたかと思うと、途端に光の粒となって示現エネルギーに戻っていく

 

 

ひまわり「でもさぁ。私だけじゃなくて、みんなを守るんでしょ?」

 

 

あかね「んん、まぁ、その。そうなんだけどもっと頑張るから大丈夫なんだよ!」

 

 

ひまわり「ふーん。まぁ私も手伝うからさ。手が空く分しっかり守ってね、あかね」

 

 

あかね「ひまわりちゃん!」

 

 

ひまわり「あなたは私が守ってあげる。友達・・・だし」

 

 

手の中の示現エネルギーはあかねへと回収されず、そのままひまわりの手の中で再び形を創り上げていく。熱を持ち、巨大な力が詰め込まれた鍵だ。黄色いラインの入ったオペレーションキーに熱い視線を向ける

 

 

 

ひまわりの体が光る。その輝きは太陽の光を受けてもう一度花開いた向日葵の輝き。その太陽が沈まぬ限り、四宮ひまわりの輝きが枯れることもなく、まっすぐ光を受け止め続けるだろう。

 

 

 

人を信じることに迷いのないあかねに自分の希望を押し付けたとして、この子なら自分の不安ごと軽々背負ってくれる。自分の信じたい一色あかねがこのまま真っすぐ進めるように、ならば私が彼女の純粋を守ってみよう。自分にできることはたくさんある。まずは手近なことからだ

 

 

 

 

ひまわり「---イグニッション!」

 

 

 

 




今年の夏はまだ向日葵見れてないので晴れてる日にそのためだけの遠出をしたいですね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 ひまわり「そして花が開く時」

わかば「はぁっ!」

 

 

あおい「とおー!」

 

 

わかばは鋭い一撃を切り込まんとアローンに接近をしかける。同時に思いっきり振り回されたあおいのネイキッドインパクトが遠慮なくその軌道上に重なる

 

 

わかば「うぉおー!!!?」

 

 

視界外から迫る強い風圧を察知しとっさに身を翻していなければあわや場外ホームランとなるところだった。実際アローンに直撃したあおいの攻撃は轟音を響かせて強固な装甲に痛々しい大きなクレーターを形成した。悲鳴のような金属音を出しながらでかい図体を押し返されて後方へと飛ばされていく敵を見送る立場にいられることにわかばは心底安堵した

 

 

 

あおい「あ、えっと、ごめんなさーい・・・」

 

 

わかば「あおい!?私になんの恨みがあるというの!」

 

 

あおい「ええっ!そそそ、そういうわけじゃあないんです!ただハンマーは急には止まらないというか、なにがあろうと振りぬく覚悟こそパワーの真骨頂というか、私だってあかねちゃんと合体してみたいっていうか・・・」

 

 

わかば「え、ほんとに私恨まれてるの?」

 

 

 

ペリーヌ「いろいろとあぶなっかしいですわね・・・」

 

 

 

遠距離攻撃を唯一行えるペリーヌが中距離でアローンを牽制し、強力な近距離攻撃手段を持つ2人に隙をついてもらうシンプルな戦闘方なのだがどうにもうまく噛み合わない。そもそも三枝わかばにとってはビビッドグリーンとしてのデビュー戦でもある。臆さず剣一つで敵に向かっていける精神力は流石なのだが、戦闘スタイルが被っている2人はまるで遠慮というのを知らないものだからチャンスとみれば全力で突っ込んでいってはお見合いしてしまう、というのを既に3度繰り返していた

 

 

 

ペリーヌ「お二人とも!何度も言うように、敵の動きだけ見てればいいというものではありませんわ。味方の位置を常に把握し、時には相手のフォローに回ることも大切・・・といってもあっさり実践できるものでもありませんわね」

 

 

あおい「諦められた・・・」

 

 

ペリーヌ「これは次回までの宿題とさせていただきますわ。今回どう凌ぐかは・・・あかねさんに決めてもらいましょうか」

 

 

 

整流プラントの炎を突き抜けて赤い光がこちらへ飛んでくるのが見える。その跡をなぞるようについてくる黄色い光を見てあおいとわかばはその正体への疑問から一瞬首を傾げたが、すぐに合点がいったようで喜ばしいような戸惑うような複雑な表情で顔を見合わせた

 

 

あかね「みんな、おまたせ!」

 

 

わかば「あかね!四宮さん!」

 

 

ひまわり「うん、まあ、そういうこと。よろしく」

 

 

わかば「成程。あなたもあかねにほだされた訳ね。」

 

 

あおい「ツンデレが篭絡されると一気にデレに傾く・・・脅威です!」

 

 

ひまわり「ほだされてない・・・!ツンデレではない・・・!」

 

 

青と緑に肩をとんとんと叩かれて歓迎されるのを振り払うに振り払えず意味のない口だけの反抗をするひまわりだが周りから向けられる生暖かい目はただ顔を赤らめて受け入れるしかない

 

 

 

あかね「くるよ!」

 

 

しかしあかねの言葉一つで5人は一斉に散らばった。さっきまで皆が浮いていたところをアローンの巨大なビームが殺意をまき散らしながら通過する。あおいに吹き飛ばされた傷もなんのその、大きな身体をいからせながらこちらへと再び侵攻を開始したアローンを睨みながらあかねもネイキッドラングを手元に呼び出して戦闘態勢をとる。

 

 

 

改めてアローンの形状を同じ高さから観察するくらいの余裕はあるだろう。相変わらず黒光りする装甲を全身に纏っているのは同じだが姿はまたみたことのないものになっていた。巨大な傘のような胴体を中心に複数の触腕が垂れ下がっているのを見てあかねはクラゲを連想する

 

 

 

あかね「どんな敵なの?」

 

 

ペリーヌ「移動速度は鈍重。明確な回避行動をとることはありませんわね。そのかわりあおいさんの一撃が入っても少し押し戻される程度ですむ頑丈さを備えています。触腕から細かいビームを連発。そして先ほどのような高火力のビームを一定のスパンで発射してきますわ。いつもの移動要塞ですわね」

 

 

あかね「よーし!がんばっていこう!!!」

 

 

ペリーヌ「わたくしに喋らせた意味ありますの?」

 

 

ひまわり「普段はどうやって戦ってんの?」

 

 

あかね「勢いかな!」

 

 

あおい「あかねちゃんについていくのが私の信条だから」キリッ

 

 

わかば「私はあかねの剣だから」キリッ

 

 

ひまわり「キメ顔でなにいっちゃってんの???」

 

 

ペリーヌ「小難しいことが得意な方々でないのはあなたも承知のことでしょう?上手にサポートしてさしあげなさいな。わたくしもお力添えはいたしますので」

 

 

肩の荷が下りたとばかりにひらひらと手をふるペリーヌとは真逆にひまわりは顔をしかめるが、すぐに割り切って自分の周りに複数のディスプレイを展開しそれに素早く目と指を走らせる。直感で戦いたいというあかねの分まで頭を使えといわれるならそれに応えてやろうという意志を強く心に固めた

 

 

ひまわりの周囲に4つの黄色い光の塊が出現しそれぞれが四角いプレートのようなものへ変形していく。魂を得てひまわりの周りをぐるぐる飛び回るのはビビッドイエローの固有兵器である無線誘導兵器である。彼女の手が右へ行けば右へ、視線が左へ向けば左へ。あらゆる敵を撃ち、どんな危機からも友達を守る。1人の少女の小さな手には余る欲張りを叶えるため、ビットの手もかりたいだろうひまわりのために彼らは輝く牙をアローンへ向ける

 

 

ひまわり「ネイキッドコライダー!反撃!」

 

 

4つのビットは隊列を組んで矢のごとくアローンの元へ飛翔する。新たな敵を確認したアローンの触腕から赤い光がビットへ向かって発射されたのを見てひまわりは意識を集中させた。

 

 

ネイキッドコライダーに複数取り付けられたカメラでとらえた映像はひまわりの視界とリンクされており、示現エネルギーの力によって身体能力が向上している今のひまわりであればその情報量を容易く処理する。降り注ぐ雨の隙間をそれぞれが機敏な動きでかいくぐり速度を落とさずアローンの喉元へ喰らいついた

 

 

銃口から発射されたビームが触腕の関節部や反撃しようと向けられた発射口を的確に打ち抜く。さっきのお返しとばかりに繰り出される怒涛の連続射撃でまたたくまに腕を一本破壊してみせた

 

 

 

アローン『-------』

 

 

ビットの迎撃が簡単にいかないことに気付いたアローンは標的を再びあかね達に定めた。傷だらけの腕から周囲に向けてビームをばらまいて小うるさいビットを追い払い身体前方部にエネルギーを収束させ全てを薙ぎ払う準備を始めた

 

 

ペリーヌ「高出力がきますわ!」

 

 

ひまわり「任せて。チャンス。みんな私の後ろにきて」

 

 

後退させたネイキッドコライダーをアローンと自分の直線状に移動させながらひまわりはみんなの前に出る

 

 

あおい「何する気なの?」

 

 

わかば「なんか見せたいんでしょ」

 

 

あおい「必殺技かな」

 

 

わかば「ふっふふ楽しみね!」

 

 

ひまわり(うるさい)

 

 

野次を無視してひまわりは新たなモニターを表示させる。新しい機械やシステムを触ることに青春をかけているこの少女は短時間でパレットスーツというものの機能をよく理解していた。どれだけの機能があるのか、どこまでのことができるのか。色がそれぞれ違うように装備している人によって力の発現の仕方が違う。ひまわりの力の象徴であるこの武器にはもう一ついい使い方があるのだ

 

 

 

アローン「---!」

 

 

ひまわり「エネルギーフィールド、展開!」

 

 

チャージを終えたアローンのビームは寸分違わず先頭に立つひまわりへ向け発射される。すぐさま軌道上に割り込んだ4つのビットが十字型にフォーメーションを取り中心部にビームのサイズに合わせた黄色く輝くシールドを発生させ、激しい火花を散らせながら包み込むように受け止めた。数秒間照射され続けたビームを全て受け止め切ったシールドは赤い火花を散らせながらも破られることなく存在し続けていた

 

 

 

 

わかば「盾!?」

 

 

 

ひまわり「反射だよ!」

 

 

 

 

先ほどまでバリアとして機能していたエネルギーフィールドがお返しとばかり呑み込んだエネルギーをアローンへ向けて吐き出した。回避することなどできるはずもなくアローンは自らの攻撃をもろに受ける。防衛軍最新鋭の戦艦を容易く溶かす高出力のエネルギーの奔流がアローンの身体を呑み込む

 

 

 

わかば「勝った!第3章完!」

 

 

あおい「やったね!来週からは私とあかねちゃんのラブラブデート回だよ!!」

 

 

ひまわり「そんな簡単にいかないのが現実なんだよね・・・」

 

 

 

触腕のほとんどを失ったもののアローンは未だ落ちず光沢を失った表層から煙を吹き出しながら戦いの意志を絶やさずにいた。どれだけのダメージを受けても臆せず向かってくるというのがやはりアローンというものの恐ろしさなのだと再認識させられる

 

 

あかね「でもすごいよひまわりちゃん!助かっちゃった!」

 

 

ひまわり「でもここまで。あとは任せていい?私ちょっと・・・はしゃぎすぎた」

 

 

力を使い果たしたのかネイキッドコライダーは光の粒へ戻ってしまった。忙しく動かしていた手をモニターからはなしてだらんとぶら下げて、疲れ切った表情であとは任せたとみんなの後ろに下がる

 

 

 

わかば「で、あれば。あかね、あとは私達でやりましょう。」

 

 

あかね「うん!じゃあ・・・」

 

 

 

突撃の合図をするため右手を振り上げた状態であかねは固まってしまった。意気揚々と飛び出そうとしていたわかば達はつんのめってしまう。なんの焦らしだと戸惑うわかば達だったが、あかねのその困惑した表情を見て軽口を叩くのを辞めてかわりに武器を固く握りしめた

 

 

 

あかね「え、なに、これ」

 

 

あおい「あかねちゃ・・・え!?」

 

 

あかね「それはダメー!!」

 

 

焦り全開の大きな声で叫ぶと身体を弓のように大きく反らし、力いっぱいブーメランを放つ。赤い刃はビームにも負けない速度でアローンへ飛んでいくが、それがトドメの一撃になることはなかった

 

 

あかねの攻撃が命中するよりも僅か早く、謎の光が横からアローンの身体を貫いていた。あかね達にとっての援護攻撃ではないのは明白だ。なぜならアローンの身体は崩れるどころかより一層黒を増し、遅れてやってきたビビットレッドの攻撃を跳ね返すほどの硬さの装甲へと変貌を遂げていたからだ。なにが起きているのかを誰もが理解できない間にさらに変化は激しさを増す

 

 

金属が互いを削り合うような不快な音が辺りに大きく鳴り響く。折り砕かれたはずの足が何倍もの太さとなりながら生え変わり、身体の内側から吹き出す灰色の液が装甲の表面を覆っていく。同時に体表に現れた赤い石があちらこちらで怪しく光を放ち始めた

 

 

 

あかね「うわ。やばいかんじだ」

 

 

思わず口をついたその言葉があかね達の感情の全てだった。わかばとあおいが立てたフラグが強烈に回収されようとしているのを見ていることしかできないでいる。アローンの体表に散らばる石達がぎょろりと不気味に動き一斉にこちらを向いたように思えた。次の瞬間、先ほどの高出力ビームと違わぬ程の強烈な攻撃が雨あられとあかね達へ襲い掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スト魔女成分が薄くなってしまうんですよね・・・こっからはマシマシです!!!もう後半なんですけど!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 ひまわり「力いっぱい輝いて」

____________________________

 

 

そこには空があった

 

 

 

それを見上げている私は手に一張りの弓を握っていたが、なぜそんなものを携えてここに立っているのかは定かでは無い

 

 

遠くに見える炎も、焦燥感を煽る甲高いサイレンの音も、感知できる全てのものが自分と関係のないもののようで、酷く寂しかった

 

 

 

 

「正しく世界があるためには・・・イレギュラー。不要なものは排除されなくては。わかりますね?」

 

 

 

 

何もかも不明瞭な世界から囁かれた言葉は、私を導こうとしているものであることは明白だった。呼応して己の中から静かに立ち昇る強い力は妙に鮮明で、不思議な懐かしさを与えてくれる

 

 

 

それを抑える道理も持たないので、動きを覚えている身体に従い弓を構える。つがえるのは力そのもの。内にある異物を無理やり締め出すイメージを弦にこめ、深く息を吐きながら引き絞る。手元がまばゆい光を放ち、そこに確かに矢が装填されていることを嫌という程思い知らされる

 

 

 

「さあ。贖罪を見せなさい」

 

 

一息に、力を解き放った

 

 

 

 

ただ空だけがそこにあった

 

 

____________________________

 

 

 

 

想定外の事態にいち早く行動を見せたのはペリーヌであった。攻撃か防御かの意志が統一されていない雰囲気を察知し、チームワークの乱れを正すため素早く指示を飛ばす

 

 

 

ペリーヌ「一度距離をとって体勢を立て直しますわよ!リーネさん!あかねさん!」

 

 

リーネ「はい!」

 

 

あかね「うん!」

 

 

 

ペリーヌのシールドの後ろでリーネがライフルの狙いを定め引き金を絞った。轟音と共に打ち出された一撃がアローンの足の1つに直撃。あかねも戻ってきたブーメランをキャッチし器用に身体を回転させ再度投擲する

 

 

 

リーネ「・・・ダメージありません!敵攻撃来ます!」

 

 

あかね「わたしのも効いてないよこれ!」

 

 

 

しかしその攻撃で少し隙を作る程度のことは出来た。あおいとわかばが接近戦の間合いから一気に距離をとることには成功していたのだから完全に無駄というわけでもない

 

 

 

わかば「博士!どうなっているんですか!?」

 

 

健次郎『突然エネルギーのパターンが急激に変化した!最早この世界の法則から外れた存在じゃ。あれが放つエネルギー量を数値で表すことは無理じゃ』

 

 

あおい「どうすればいいんですか!?ぶちかましますか!?」

 

 

健次郎『アローンの周囲は時空が歪んでおる。あかねのブーメラン、リネットくんの狙撃が共に効果が薄いのを見るに、近接戦闘の間合いまで侵入するのは全くもってオススメできん。最悪エネルギーの奔流を処理しきれず装着者に大きなダメージを及ぼす危険がある』

 

 

 

ペリーヌ「さて、そうなるとわたくし達にとれる戦法は限られますわね」

 

 

 

わかば「あかね。以前のアレをやりましょう。」

 

 

あかね「え、どれ?休み時間に考えたキメポーズ10連発のこと?」

 

 

わかば「違う!合体技よ。博士、どうなのでしょう?」

 

 

健次郎『確かに・・・以前2人がやってのけたオペレーションであれば生み出される示現エネルギーをもってしてやつに対抗することは十分可能であろう』

 

 

 

 

しかし、それは禁じ手である

 

 

 

ドッキングオペレーションと命名された戦闘方法。2人の装着者が示現エネルギーを用いて完全に一体となり、己をビビッドエンジンという特殊な動力装置と化すことで一時的に無制限にエネルギーの生成を行うことが可能となるシステムだ。健次郎のかけたセーフティが全て外された状態であり、発揮できるパフォーマンスは想定の200%を優に越えことができる

 

 

健次郎『それがどれだけ危険かというのも、十分解っているはずじゃ』

 

 

あかねの左腕にダメージを残した後、再三に渡る検査で異常は検知されなかった。しかし想定してあった初変身時の反動とは違い、完全に解明されていないドッキングに対して健次郎が慎重にならざるを得ないのは責任者である以上当然であろう

 

 

 

あかね「無茶は最初っから承知だよ!わたし達がやらなきゃ!」

 

 

ひまわり「待って。一色博士、以前の戦闘時のデータを見せてください。私がサポートに回れば負担を減らす方法があるかもしれません。」

 

 

健次郎『了解じゃ。』

 

 

 

ひまわり「・・・このあかねと三枝さ、いやわかばが入った亜空間でのデータ・・・あっふーんなるほど」

 

 

あかね「ひまわりちゃん?」

 

 

ひまわり「ねえあかね。その・・・まあ。ね?」

 

 

あかね「えっなになに!?なんで近づいて・・・なにか解ったの?なに!?」

 

 

ひまわり「ドッキングオペレーションは2人のパレットスーツ装着者が心の底から一つになる必要があるってことみたいだから。ーーーあかね、確かにドッキングはあなたに大きな負荷をかける危険なシステムかもしれない。でも私はそれからも守ってみせるから」

 

 

ひまわり「だから、信じて」

 

 

 

あかね「うん。」

 

 

 

信じてくれ、と友達に言われたら即答するのが一色あかねだ。緊張した面持ちで手を握るひまわりをまっすぐ見返し、安心させるように握り返した

 

 

 

ひまわりはそれによって覚悟を決めたのか、全てを受け入れる気で動かないあかねよりほんの少し高く浮いて

 

 

 

ひまわり「---んっ」

 

 

あかねの額に、口づけをした

 

 

____________________

 

 

 

2人の身体の中心でビッグバンが起きたようであった。少なくともひまわりはその現象をそう解釈したのだが、新たな次元が誕生しているという点では正しいものであるだろう。この無限大な可能性の空間の中では己の存在がいかにちっぽけなものなのだろうか、そんな弱気な恐怖がどこからか漂ってくるようだ

 

 

 

あかね「び、びっくりした・・・」

 

 

しかし、目をパチクリさせて紅潮した頬をぽりぽりとかく彼女を見ていれば、なんだか変な感情が溢れてしまってそんなものは吹き飛んでしまう。こうもいいリアクションを返してくれれば人生最大の度胸を使い果たした価値があるな、とこちらも顔を赤くしているひまわりは照れ隠しのように小さく笑った

 

 

 

2人の重なり合った手が光る。ひまわりはデータで、あかねは実体験で。この身勝手な空間のことは既に知っている。この空間に満ちる力は決して優しいものではないが、正しい事をやろうとする彼女達の邪魔はしない。求める者にはただ力を与えるのが示現力なのだ。あかねとひまわりがそれをどう使うのかを見届けたいのか、チカチカと時折輝く小さなものが視線のように2人を取り巻く

 

 

 

 

ひまわり「まあ単純、力が変なところに偏っちゃったからだね。無理した分が腕に集中したんだ。わかばの気持ち、重すぎ」

 

 

あかね「まあ激アツだったからねえ」

 

 

ケラケラと笑うあかねが大きく腕を広げて大きく息を吸う。その胸へ倒れこむように飛び込んできたひまわりの輝く身体をぎゅっと抱きしめて、その思いを心へ受け入れていく

 

 

かつて受けた彼女の悲しみと孤独が。そしてそれを受け入れてしまっていた諦めが。ひまわりは自らを縛っていた鎖を完全に断ち切ろうとしていた。その行動は己を安全圏から追い出す行為でもある。再び誰かを信じればまた裏切りに合う。リスクを嫌う彼女に自らの城から出る決意を抱かせたのはあかねだ

 

 

ひまわり「私を信じて欲しい。信じて。だから___ごめん、あかねを信じさせて!」

 

 

あかね「うんっ!」

 

 

その思いを受け止めることに、なんの躊躇いがあろうというのか

 

 

あかねの身体にひまわりの身体が重なる。二つのハートを受け止められる強い身体が必要だ。強い身体にふさわしい頭脳は既にある。知識を正しいことに使う精神は備わっている。思いに応えて加速する最強未知数エネルギーは、金に煌めくドレスを纏った彼女にこそ相応しい

 

 

 

 

「「ドッキングオペレーション!!!!」」

 

 

 

____________________

 

 

 

現実世界で経過した時間はほんの数秒。発生した巨大な光の球体が泡のように弾けて、中から出てきた少女は___いや、少女というには若干大人びている彼女は頭から大きく伸びる金髪縦ロールに纏めた髪を仰々しくふわさっと手で払い、ふんぞり返って高らかに叫び始めた

 

 

 

???「祝いなさい!我こそは進化の到達点、示現の力によって立つ英知の結晶!!ドッキングオペレーション・ビビッドイエロー!!!ピンチとあれば、駆けつけ一発ですわ!!!!」

 

 

 

アローンをびしっと指差し不敵な笑みを浮かべ、戸惑う仲間達にウインクをして言葉を続ける。彼女から放たれる金の光が湿気た灰色の雲を押しのけ、空と海を黄色い輝きで照らし出す。夕焼けの赤色と黄色の二つの輝きが空で混ざり合い、アローンの放つ邪悪な空気をも押しつぶすような圧を放つ

 

 

 

ビビッドイエロー「さあ、私が守るべきものはどこかしら!!」

 

 

 

 

挑発するようなその言葉に応えるようにアローンは己こそが脅威であると知らしめんと強烈な攻撃を繰り出した。再生した8本脚が乱れ打つ攻撃は、一発一発が既に変化前に見せた高出力ビームよりも明らかに凶悪なものに進化している

 

 

 

ビビッドイエロー「あら、半端な攻撃なら痛い目をみてもらいますわよ!」

 

 

それを見ても彼女は笑っていた。目に映るもの全てが想定内であって、その全てが自分にとって障害になりえないものだと容易に理解できるのだから余裕も当然だ

 

 

 

手を広げると、ビビッドイエローの周りに大型の黄色い金属の塊が8つ出現する。それらは煙を吐き出しながら高速で形を変え、重厚でありながら先鋭的な、盾と砲台を兼ね揃えた芸術的なまでに洗練された姿に変わり高速で飛翔する。絶対貫通の矛であり完全無敵の盾である。これこそが彼女の武器、ビビッドコライダーだ

 

 

 

戦場という場だというのに彼女は恐れに足を取られることはない。命を天秤に乗せる気などさらさらない気取った笑顔で指揮者のように指を運ぶ。大型ビットはあおい達へ向かっていたビームを受け止め、それを威力そのままに跳ね返した

 

 

ペリーヌ「これほどとは、驚きましたわね」

 

 

ビビッドイエロー「さあもう独壇場でしてよ!」

 

 

ペリーヌ「わたくしの喋り方真似するのやめてくださらない?」

 

 

ビビッドイエロー「その芯の強さにあやからせて欲しくってね!」

 

 

 

生半可な攻撃が意味をなさない事はここまでの応酬で互いに理解できた。飛び回る大型ビットに邪魔され続けるのに辟易してアローンは攻撃の手を止めていた。対してビビッドイエロー側が跳ね返したビームもアローンの体表を少し焦がす程度のダメージしか与えられていない

 

 

侵略者であるアローンにとって次にとる手は一つだけだった。全ての触腕を前方に向け、エネルギーを集中させる。先ほど放った高出力とやり方は同じだが、チャージを始めた時点で既に先ほどと比べ物にならない破壊力を備えていることは明らかだ

 

 

 

 

ビビッドイエロー「ビビッドコライダー、ブレイクフォーメーション!」

 

 

 

 

迎え撃つはビビッドイエロー。チームの前方に8つのビビッドコライダーを集結させると、開いた花のような陣形に配置し中央からアローンを見据える。それぞれのビットが装甲をスライドさせ、内部の構造を露出させた。溢れだした光の粒子が互いを結ぶラインとなり、大きな光の輪を形成する

 

 

 

 

ビビッドイエロー「ビビッドエンジン、臨界稼働開始!!ファイナルオペレーション!カウントダウンスタート!」

 

 

 

 

 

ビビッドイエローのとる手も一つだけだ。防御ではなく、攻撃である。彼女はビビッドイエローから生成されるエネルギーを加速器の役割をもったコライダーの光の輪が増幅し、圧縮し洗練された示現力が中央に火力となって集約し解き放たれる時を今か今かと待ち望んでいる

 

 

 

 

互いが互いに、解放の一瞬のために力を溜め続けた。臨界点が近づき、アローンの触腕が熱で溶解を始めコライダーの装甲が耐久性能の限界により崩壊し始めた頃、機は訪れた

 

 

 

 

アローン「____________」

 

 

 

 

空間を軋ませる甲高い音を響かせてアローンは自身の持てる力の全てを解放した。赤い光の濁流は破壊のみを目的とした荒ぶる牙となって立ちはだかる人間達を呑み込まんと迫る

 

 

 

 

ビビッドイエロー「カウントゼロ!ビビッドコライダー、フルバースト!!」

 

 

 

 

雷のように鋭く振り下ろされた手を合図に、満を持して放たれたるは黄金の光。真っ向から衝突した二つの光がぶつかり合えたのはほんの刹那。ビビッドイエローの放ったビームがその勢いを強め、アローンの赤い光をじわじわと呑み込んでいく。少しずつ、牛歩のような速度であろうと確実にフルバーストの光が前へ進む

 

 

 

 

ビビッドイエロー「出力200%。ターゲット・・・ブレイク」

 

 

 

 

競り合っているかように見える局面だが、ビビッドイエローは既に勝敗の計算を終えている。これは既に決しているものであった

 

 

 

 

 

ビビッドイエロー「私の熱い思い、確かに受け取っていただけだようね」

 

 

 

 

紅い光を完全に呑み込んだ黄金の光は徐々に収束し、アローンがいた痕跡ごと消え去った。これまで強い光を放っていたビビッドイエローが変身を解いてあかねとひまわりに別れると、いつしかすっかり陽が落ちて暗くなっていた夜空が顔を出した

 

 

 

 

ひまわり「うっ・・・」

 

 

 

わかば「おっと!」

 

 

 

 

パレットスーツが解除され落下しそうになったひまわりを備えていたわかばが優しく受け止める。気を失うまでもないが不安定な飛行状態のあかねの補助にはあおいが素早くついていた。前回の反省を活かしての行動である

 

 

 

 

健次郎『無茶をさせたな、あかね。ひまわりくん。ビビッドチームご苦労じゃった!任務完了じゃ。すぐにでも帰投してくれ。受け入れ準備はできておる』

 

 

ペリーヌ「リーネさん。わたくし達は宮藤さんを拾いにいきますか。」

 

 

リーネ「そうですね。行きましょう」

 

 

 

 

 

あおい「あかねちゃん、大丈夫?ひまわりちゃんも・・・」

 

 

あかね「うん、まあ・・・かなりしんどいかな。気を抜くと寝ちゃいそうだけど、なんとかなってる感じだね」

 

 

わかば「ひまわりも呼吸はしているわ。すぐに休ませてあげれば大丈夫だと思う。私も以前ドッキングをした際は翌日に少し疲労を残す程度ですんだから」

 

 

あおい「ああ、うん。そうなんだ・・・」

 

 

あかね「?」

 

 

 

 

わかばに言葉を返すあおいの言葉に少しの陰りを感じたあかねはその表情を確認しようとしたが、あおいに負ぶわれる形で運ばれているので後ろから彼女の青い髪が風で柔らかく揺れるのを見つめる。あおいの前に回した腕の力を少し強めて抱きしめても、パレットスーツの防御機能の上からでは親友の温かさを感じるのは難しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

閃光が空を行き来した後、どうも全てが終わったようで、空はようやく夜を取り戻した。陽が落ちても気温はさほど下がる様子もないので首に巻いたマフラーがどうにも煩わしかった。しかしどうにもそれを外す気にはなれないでいる自分を不思議に思うものだが、生来そういう性分だったのかもしれない。理性より、本能に従う方が良さそうだと判断してそのまま弓を手放した。

 

 

黒い弓は地に落ちず潮風の中に溶け込むように姿を消した。小さな喪失感がちくりと胸をつつき、私の正気を揺さぶる

 

 

 

 

 

「___あの力。過ぎたものです。はしゃぐのも無理はありません。この次元帯の生き物はみなそうなのですから」

 

 

 

再び、声がする。空気を通さず、脳に直接届くような不安定で不可思議な音。到底人の話し方とは思えないが、それもその筈。私の目の前の柵に黒いカラスが足を置いているのだが、それが自分に意志を伝えているのだ。ありえない現象ではあるが、《それ》はそういう存在なのだと無意識で理解している

 

 

 

「チャンスは無限ではありません。しかし1度という訳でもない。あなたの有意性を実践する機会はすぐに訪れるでしょう。《彼ら》の望みに応え、あなたの罪を償ってみせなさい」

 

 

 

要領を得ない言葉を並べ立て、私に深く釘を刺して黒いカラスは飛び去った。この頃になると私の意識も少しずつ明瞭になりつつあり、帰るべき場所があることがうっすらとだが思い出されてきた。壁をつたって地面に降り立ち、閑散とした大通りに歩み出る。人々はサイレンを聞いて避難しているのだろう

 

 

しかし、どこからか視線が向けられているような気配がする。辺りを見渡したが、人影は無く、気のせいだろうとかぶりを振る

 

 

 

私は靄のかかった記憶から必要なものを取り出す作業に没頭しながら朧げな記憶を辿り歩き出す。どこかに、私の帰るべき場所がある。温かく迎え入れてくれる、そんな場所を探そう

 

 

 

 

 

「なんで・・・あんなところに?」

 

 

 

「芳佳ちゃーん!迎えに来たよ!戻ろう!」

 

 

 

「___っと。リーネちゃんこっちこっちー!!」

 

 

 

 

 




今年もあと2ヶ月きってるの!!!!!!大丈夫間に合う!!!!!!完結いける!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章 ―ケモミミ魔女とのお茶会―
第29話 宮藤「おいでませウィッチーズ」


健次郎「ふぅ。」

 

 

 

息を吐き出してモニターから目を離す。ぬいぐるみの身体は疲弊しない。少量ながらも示現エネルギーを利用して動いている偽の肉体は、地下で保存されている本体が損なわれない限り朽ちることはない便利なものだ

 

 

しかし、精神に負担は来る。苦いコーヒーを飲んで気晴らしができなくなってしまったことは彼に小さなストレスを与えてくるものだが、自らの家族の境遇を思えば気にするほどのことではない

 

 

 

もも「おじいちゃんもう終わったの?お姉ちゃん達、大丈夫そう?」

 

 

 

研究室の扉を開けてももの不安げな声が飛び込んでくる。戦いに赴く孫も心配ではあるが、こうして家に1人残されたより幼い孫のことも十分に気にかけてやらねばならなかった。しっかりした彼女であるが、まだ小学生である。心配いらないと頭を撫でてやることもできない身である故、精々胸をはって自信満々に答える

 

 

健次郎「おお、もも。心配せずともよい。じきに皆帰ってくるじゃろう。受け入れの準備をしてやっておくれ。」

 

 

もも「うん!お風呂沸かしておくね!」

 

 

 

とたたた、と軽い足音が駆けてゆく。迎えにいってやりたい気持ちは健次郎も山々だが、今は研究者としてやるべき責務が山積みだ。改めて壁一面に配置されたモニターと向かい合いつぶらな瞳を走らせる

 

 

健次郎「示現エネルギー。イレギュラーであったとしても、ワシの研究の産物である以上必ず御してみせようぞ!」

 

 

今一度気合をいれるため力強く叫び、ぬいぐるみの短い腕を目にもとまらぬ速さで走らせ始めた。

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

 

あかね「とうちゃーく!」

 

 

 

一色家の庭に揃って着陸したビビッドチームは各々の武装を解除する。それまで我慢していた疲れがどっと身体に押し寄せてきてその場に身体を投げ出してしまいそうになる衝動をやっとの思いで抑えた

 

 

 

 

もも「なんでおねえちゃんが連れてくる初めてのお友達はいつも気絶した状態なの!?」

 

 

あかね「言われてみると確かに・・・。でもわたしが悪い訳じゃないからね!?いや原因はわたしにあるのかもしれないけど!」

 

 

 

 

家から飛び出してきたももがみんなに冷たいおしぼりとスポーツドリンクを配り歩く。さながら運動部のマネージャーのようである

 

 

 

 

ペリーヌ「やれやれ、どうにも骨が折れましたわね」

 

 

宮藤「骨折ですか!!!治癒魔法使いますね!!!」

 

 

ペリーヌ「はいはい結構ですわ。あなたも早くお休みになられたほうがよろしいのではなくて?」

 

 

宮藤「なにいってるんですか。私は戦ってないんですから、その分まだまだ働かないと」

 

 

ペリーヌ「リーネさん。やっておしまいなさい」

 

 

リーネ「ごめんね芳佳ちゃん。えいっ」

 

 

 

今にもどこかへ駆け出さんとするほどいきり立っている芳佳の肩を掴んで無理やり自分の方を向かせると、その豊満な胸に優しく抱き寄せた

 

 

 

宮藤「ほほぉ・・・」

 

 

リーネの胸に沈み込むかのようにそのまま身体の力が抜けていき、やがて小さな寝息を立て芳佳は眠ってしまった

 

 

ペリーヌ「整流プラントの職員の方々に片っ端から治癒魔法を使っていたのですからあなただって十二分に疲れているでしょうに。」

 

 

やれやれ、と肩をすくめてリーネに運ばれていく芳佳を見送り、ペリーヌはあかね達の様子を見ようと振り向いた

 

 

 

突如、空に火花が走る。眩い閃光が幾重にも束なり、空中に規則性のある陣のようなものを描き始めた。反射的にオペレーションキーを手に取りだすあかね達だが戦闘を行えるようなコンディションではない。ペリーヌは魔法力を発現させるとストライカーの元へ駆け出し、機関銃を手に構え雷の魔力をその身に帯電させながらみなの前に立ちはだかった

 

 

 

ペリーヌ「宮藤さんを休ませるべきではなかったようですわね」

 

 

 

軽口を叩き冷静さを保とうとするペリーヌだったが心中穏やかとはいかなかった。次元の穴から来る脅威が拠点に乗り込んでくる、という最悪の事態を前にこちらは戦闘態勢を整える猶予もない。しかし一歩も引くわけにはいかなかった。”持てるものの義務(ノブレスオブリージュ)”、ウィッチとしての力を持つ自分は常に脅威に対し一番前に立つべきだという信念を彼女はいだいていた

 

 

 

光の中から吐き出されるようにして、青白い小さな光の球が3つ吐き出された。小さいといってもアローンに比べてというものであって、あおいにとってはどこかで見た覚えのあるサイズ感であった。それはかつてあおいがハンマーでぶん殴ったもの。ペリーヌとリーネがこの世界に来た時に包まれていたものに酷似している

 

 

 

「「「どりゃー!!」」」

 

 

 

気合の入った掛け声と共に弾けて中から3人の女性が勢いよく姿を現し、その手にもった機関銃を辺りに振り回しながら敵を探すような動きを見せる

 

 

ペリーヌ「・・・」

 

 

 

「ペリーヌ!リーネー!助けにきたぞ!!宮藤もいるんだな!!?」

 

 

「うにゃー!!!ネウロイかかってこーい!!!」

 

 

「お、ペリーヌ達いたんだな。ホーラやっぱり無事だったろ。」

 

 

 

ペリーヌ「・・・はぁ」

 

 

長い溜息を1つ。魔法力が身体から抜けていき、そのまま銃の重さに負けるようにぺたんと地面に座り込んでしまった。後方のあかね達からその表情を見ることはできないが、リーネには彼女が心底呆れているのと心から安心しているのが十分見て取れた

 

 

リーネ「みなさん!来てくださったんですね!」

 

 

あかね「みんなお知り合いなの?」

 

 

リーネ「私達と同じウィッチの皆さんだよ。頼りにな・・・なる人達だよ。」

 

 

「リーネ、今私達のメンツみて一瞬言い淀んだよな」

 

 

「失礼しちゃうね。」

 

 

「ハッ。まあお前ら2人は人間性に問題あるかんな。その点よかったなリーネ。私がいて」

 

 

「お前なんだそれは言ってはならんことだぞ!!」

 

 

 

あかね「?」

 

 

リーネ「頼りになる人なの・・・ほんとに」

 

 

ペリーヌ「もう!!早く降りてきてくださいまし!!!」

 

 

 

空中で取っ組み合いを始めた新たなウィッチ達はペリーヌの怒号に首をすくめて庭へと降り立った。それぞれが手に大型の機関銃を手にしており獣耳と尻尾を備えているのは芳佳達と同じだ

 

 

 

ペリーヌ「お三方、おひさしぶっ!?」

 

 

「うおおおおおペリーヌ!!リーネ!!よく無事だったなぁ!」

 

 

「2人とも生きてたー!やりー!!」

 

 

自己紹介も疎かに茶髪のスタイルのいい女性とあかねより少し小さい女の子の2人がペリーヌを左右から抱きしめる。流石のクールビューティなペリーヌも顔を赤らめて必死に抵抗するが、心配させてしまった手前どうにも振り払うことも失礼だと思い至ったのかされるがままもみくちゃにされている

 

 

それをみて困ったように笑うリーネのそばにはもう一人のウィッチが着陸した。雪のような白い長髪を風になびかせた彼女は、いたずらっ子のようににやりと笑うとリーネの頭を軽く小突いた

 

 

リーネ「いたっ。痛いですよエイラさん」

 

 

エイラ「ムチャクチャだなホント。ミヤフジの真似したっていいことないんだぞ。みんなすっごく心配してたんだからな。まあ私は占いでお前らが安全なことぐらい解ってたから心配してなかったけど」

 

 

リーネ「でもどうやってここに?」

 

 

エイラと呼ばれた彼女は懐から取り出した一枚のタロットカードを指でくるくると回してみせた。それが全ての答えである、とばかりのキメ顔でリーネを見たが肝心のリーネは首を傾げたままなのでつまらなそうにため息を吐く

 

 

 

エイラ「ミヤフジとお前達2人の時空転移のデータを基に博士達が色々試してるみたいでさ。ペリーヌとリーネのストライカーの魔力の痕跡を追ってこれたんだ。まあかなり博打だったけどな」

 

 

リーネ「よかった・・・じゃあみんな助けに来てくれるんですね!」

 

 

エイラ「来るには来れる。でもダメダナ。帰れないんじゃ意味ないだろ」

 

 

リーネ「えっ」

 

 

エイラ「ネウロイの使ったゲートをくぐっただけだ。それも色々と法則性がある。部隊のバックアップがないととてもじゃないけど狙った場所に出るなんてムリだ。」

 

 

リーネ「あの、つまりみなさんは・・・」

 

 

エイラ「まあなんだ。私達も帰れないな!」

 

 

 

 

リーネは全くもって原因不明の頭痛により意識を失った。決してなにかショックなことがあったとかではなく、ただ単に疲れただけだろう。倒れこんできたリーネの胸に押しつぶされてふとももと挟まれる形になった芳佳が息苦しさと幸せの両方で暴れるのを見ていたエイラだったが、こちらを傍観しながらどうしたものかと戸惑うあかね達と目が合った

 

 

 

エイラ「まあ・・・」

 

 

エイラ「よろしくなんだな」

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 宮藤「魔女の晩餐会」

 

 

 

もも「ごめんなさい宮藤さんリーネさん。お疲れなのにごはんつくるの手伝わせてしまって」

 

 

宮藤「いいんだよももちゃん。訓練で疲れてる時も家事は全力!それが宮藤流だから!ね、リーネちゃん」

 

 

リーネ「そうだね芳佳ちゃん。宮藤流かどうかはわからないけど、これだけの人数がいるんだからももちゃん1人だと大変だろうし。どんどん頼ってくれていいんだよ」

 

 

もも「ありがとうございます!」

 

 

 

ウィッチ達が現れてからしばらく後、とっぷりと日が暮れた頃あかね達はみんなで遅めの食卓を囲んでいた。久々の再開を果たし、積る話もあるだろうがとりあえず今日は身体を休めるべきだという健次郎の判断もあり小難しい話は無しにして戦士たちは美味しい食事を心から噛みしめていた

 

 

 

意識を失っていた芳佳もすぐに目を覚まし、少し遅れてひまわりも意識を取り戻していた。データを活かし負担を抑えた分わかばよりドッキングの負荷が軽いのかもしれない。とは言え別に回復し切った訳ではないが眠るよりも空腹を満たしたい欲求が勝ったようで無言で食事を口に運び続けている

 

 

 

 

「おいしー!!!!!!」

 

 

 

 

料理を口一杯に頬張って小柄な身体を揺らしながら歓喜の声をあげたのはフランチェスカ・ルッキーニ。陽に焼けたかのように見える生来の褐色肌に黒いツインテール、開いた口からちらりと見える八重歯が特徴的な元気な少女だ。年はももの1つ上の12歳

 

 

 

「いやぁ、悪いねーももちゃん。急に来たのに晩飯までご馳走になっちゃってさ」

 

 

もも「い、いえ!どんどん食べてください!張り切って作ったので!」

 

 

 

ルッキーニとは反対に、白い肌と長身長の彼女はシャーロット・イェーガ。シャーリーと呼んでくれよ、と気さくに自己紹介をしてくれた彼女はももが憧れの視線を向けるのも無理はない程のナイスなスタイルを持つ大人な女性であった。年齢こそあかね達の数個上なだけだが、隠しきれない圧倒的な包容力はこの若き少女達の集団の中では凄まじい存在感を放っていた

 

 

 

シャーリー「うーん、美味い!ももちゃんの腕もさることながら、やっぱり宮藤とリーネの作るメシが食えるってだけでも危ない橋を渡ったかいがあったってもんだよな」

 

 

ルッキーニ「ほんとそうだよねー。」

 

 

ペリーヌ「あの、基地の方はどういった感じで・・・?」

 

 

エイラ「宮藤が作戦行動中に行方不明になったことで空気が完全に死んでたのに、そこから追加で2人姿をくらましたわけだからな。一周回って火が付いたみたいな大騒ぎだよ。オマエラ帰った後が大変だろうな」

 

 

 

シャーリー「ま、とにかく今はこの再会を祝って食うぞ!固い話は後々!」

 

 

宮藤「そうですね!その後はみんなでお風呂に入りましょうねシャーリーさん!リーネちゃん!ね!?」

 

 

エイラ「んでお前はそればっかりじゃねーか!感謝が足りないんじゃないのかミヤフジオラオラァ!」

 

 

宮藤「エイラさんやめてくださイデデデデ!!ギブですよギブ!!」

 

 

 

後ろから組技を仕掛けてくるエイラの腕を悲鳴をあげつつタップする芳佳。それをみて笑いながらはやし立てるシャーリーとルッキーニ

 

 

 

あかね「わたしも混ざりたいなー」

 

 

もも「お姉ちゃん。久しぶりの再会なんだから温かく見守るべきだよ・・・!」

 

 

あかね「もも、なんでカメラ構えてるの?」

 

 

もも「え?いやべつに!?ただお客さんが多いから、全部記録に残しておきたいなーって!」

 

 

 

わかば「ひまわり、眠いだろうけどしっかり食べなければだめよ。」

 

 

ひまわり「眠い・・・しぬ・・・」

 

 

 

あおい「あははは・・・」

 

 

あかね「あおいちゃん、どうしたの?なんだかしんどそうだけど。」

 

 

あおい「え!?ううん、大丈夫だよ!ちょっと疲れてるだけだよ!」

 

 

あかね「そうなんだ。・・・うん、ご飯食べて早く寝よっか!」

 

 

 

 

二葉あおいの様子が少しおかしいことが、一色あかねの中で先ほどからずっと引っかかっていた。しかし、あおいが踏み込まれるのを拒絶する以上ここから先へ入っていくことはできない。少しぎこちない空気が残ってしまっているのを両者が感じていたが、周りの騒がしさですぐ気分が紛れたようでしばらくすると何事もなかったかのように仲良く話始めていた

 

 

 

 

その後意気揚々とお風呂へ駆け出した芳佳だったが、疲れからか湯舟に浸かった瞬間鼻血が止まらなくなりあえなく退場処分となり、浴場から響いてくる楽しそうな喧噪に涙を流しながら一足早く布団に入る運びとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと2ヶ月で完結させるつもりでがんばっています。気持ちだけは負けてません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 ひまわり「うんざりしちゃう温かさ」

もも「みなさん朝です!起きてくださいー!」

 

 

シャーリー「ふぁっ・・・もうそんな時間かぁ」

 

 

 

 

鈴を鳴らすような可愛らしい声でシャーリーは気分よく目を覚ました。障子の向こうから差し込む朝日の色合いから今日もいい天気なのが見て取れる。畳特有の香りに混じってほのかに漂う木の匂いが心地よく、身体の方も昨日の疲れがすっかりとれたようでコンディションは最高の状態だった

 

 

やかましいラッパやら口うるさい同僚に叩き起こされていたのが遠い昔のように思えた。そんなシケたイメージを振り払うよう大きく伸びをすると、昨夜枕元に放り出したシャツを羽織ろうと手を伸ばして違和感に気付いた

 

 

 

 

 

シャーリー「洗濯されている・・・だと!」

 

 

もも「先日我が家にやって来た最新式の洗濯機なら一晩でばっちり洗えちゃうんです!さらにおじいちゃんの粋な改良によってアイロンをかけなくてもしわ1つないキレイな仕上がりに!」

 

 

 

さらに食卓ではご機嫌な朝食が準備されている。本日はトーストにベーコンエッグ等といった洋食をベースとした献立で、席に座るとタイミングよくリーネが目の前に湯気の立ち昇るコーヒーをそっと置いてくれる。普段基地で飲んでいるインスタントの無機質なものとは違い恐らく手間をかけて淹れてくれたであろうそれを一口堪能すると、シャーリーはふーっと長く息を吐いた

 

 

 

 

シャーリー「もう帰らなくていいよな。」

 

 

エイラ「おい」

 

 

シャーリー「ジョークだよ。いくらか本気でそう思ったけどさ」

 

 

もも「そう言ってもらえると嬉しいです。」

 

 

シャーリー「いっただっきまーす!といきたいところだけど、あかね達は?」

 

 

もも「お姉ちゃんはさっきまでわかばさんと一緒にランニングに行ってて、今はシャワー浴びてるはずです。昨日の今日なんだし、朝くらいゆっくりしてて欲しいのに・・・」

 

 

 

言い終わらないうちに風呂場の方からどやどやと2人分の足音が聞こえてきたかと思えば、ガラリと引き戸を開けてタオルを手にしたあかねとわかばが姿を現した

 

 

あかね「シャーリーさんエイラさん!おはようございまーす!」

 

 

エイラ「おはよ。ほんと元気だな」

 

 

シャーリー「朝から精が出るね。明日からはアタシも混ぜてもらおっかなぁ」

 

 

ペリーヌ「あら、わたくしったらまだ夢の中なのでしょうか。シャーリーさんが真面目なことを仰っているとは」

 

 

シャーリー「やらされる訓練は好きじゃないってだけさ。おはようペリーヌ」

 

 

ペリーヌ「おはようございます皆様。ルッキーニさんも、朝に見かけるのは珍しいですわね」

 

 

ルッキーニ「初日くらい一緒に行動しろってシャーリーがうるさいんだもん」

 

 

シャーリー「迷子になったらどうすんだよ。しばらくは大人しく部屋で寝ような」

 

 

 

少々慌ただしくも和やかな朝の時間が流れていく。しかしそれに乗り遅れ、布団の中でぐずっている者が一名だけ存在していた

 

 

 

 

わかば「そろそろ起きなきゃだめよひまわり。学校に行くといったんだから!」

 

 

ひまわり「明日から・・・!まじ!明日からなら行けると思うんだよね!でも今日はマジで無理なの!」

 

 

わかば「抵抗など無駄よ!天元理心流・日ノ出の型!晴天布団ふっ飛ばし!」

 

 

ひまわり「ぐわー!!」

 

 

 

朝の運動ですっかり温まったわかばの身体が躍動する。ひまわりがしがみついていた布団が空を舞い、投げ出された彼女は哀れにも畳の上をごろごろと転がっていった

 

 

 

______________________________________________

 

 

 

整流プラントでの騒動があったが、本日の授業はつつがなく行われる。学園が攻撃対象になっていないので当然といえば当然だが、世界の危機が訪れているのを否応なく感じさせられるあかね達にはこの当たり前の日常を過ごすことが何より心を安らげてくれる。平和に感謝しつつ、それはそうと昨日出ていた宿題をやってこれなかったことは見逃して欲しいと切に願うあかねであった

 

 

 

ひまわりは一度職員室に顔を出さなくてはならないらしく、付き添いを買って出たわかばとも別れあかねとあおいは2人でのんびり登校していた。ウィッチの面々は少し遅れて来るとのことで別行動で、ももはクラスの友達と合流して先に走って教室へ行ってしまった

 

 

 

 

れい「おはようあかね、あおい。ちょっと久しぶりな気分ね」

 

 

あかね「あーれいちゃんだ!どうどう調子は!」

 

 

あおい「れいちゃん!今日からまた来れるんだね」

 

 

れい「おかげ様で。これからも改めてよろしく」

 

 

 

 

そんなわけで、下駄箱の前で久しぶりにれいと再会を果たせたのはあかねとあおいだけだった。新生活の準備ということで少し学校を休んでいた彼女だが、これまで生活を共にしていたあかねからすれば数日会えなかっただけでも随分と懐かしさを覚えてしまう。教室までの道を並んで歩きながらの雑談に花が咲くのは道理であった

 

 

 

れい「そう、また新しい人が加わったのね。また転校生になるのかしら?」

 

 

あかね「あーどうなんだろう。ひまわりちゃんは普通にクラスに来るんだろうけど、シャーリーさん達はまだわからないや。」

 

 

あおい「シャーリーさんは高校生の年齢だし、エイラさんは一個上だしルッキーニちゃんは小学生だし、このクラスに入れないもんね」

 

 

窓際女子「・・・あ、黒騎さんじゃん」

 

 

前の席の女子「やっほー!なんか久しぶりな感じじゃない?」

 

 

れい「皆、おはよう」

 

 

既に教室に居たクラスメイト達の視線が一斉に向いてれいは少し気恥しそうに手を振りながらさっさと自分の席に座ってしまった。数日学校を休んだだけで話題の中心になってしまうのは思春期の子供の好奇心の強さを考えれば当然だ。であれば

 

 

わかば「みんなおはよう。」

 

 

ひまわり「ちょっ静かにしてって・・・」

 

 

 

教室の後ろのドアを開け、わかばの影からこっそりと入ろうとしていたひまわりに一斉に視線が向くのは必然であった

 

 

情報系男子「あれはまさか・・・四宮ひまわりちゃん!?」

 

 

何も知らない男子「知っているのか情報系男子!?」

 

 

イイヤツ男子「ずっと学校来れてなかったコじゃん。元気になったんだ。よかったじゃん」

 

 

 

窓際女子「へぇ、三枝さんのツレだったんだ。」

 

 

 

転校生としてやってきたあかね達には遠慮なく質問攻めを行った彼女達も事情が判らない今回は少し距離を測りかねている。行っていいべきか、そっとしておくべきなのか。固まっていたクラスメイトを見てかどうかは知らないが、あかねは同級生達をすり抜けひまわりの前へすいと進み出て机にお尻を乗っけてまるで毎朝そうしているかのように気軽に雑談を始めた

 

 

 

 

あかね「やっほーひまわりちゃん。職員室でなんか言われたの?」

 

 

ひまわり「えっ。んーまぁまぁ・・・。急に来たから担任の先生びびってた」

 

 

わかば「喜んでもいたけれどね。ああそうそう、エーリン先生から放課後保健室に来るよう言付けを頼まれたわ。ご褒美にお菓子でもくれるのかしら。」

 

 

あおい「ああ、そういえばそんな話だったっけ」

 

 

ひまわり「ほんとあの先生面倒なことを・・・」

 

 

 

少し気まずそうにしていたひまわりだったが、顔見知りのメンバーが傍によってきてくれたことで明らかに肩の力が抜けた。年相応の表情を見せて話す彼女の様子を見て安心したようにクラスメイト達が寄ってくる。長く噂となっていた引きこもり少女への好奇心だけでなく、ただクラスの子供たちは新たな友人と仲良くなりたくて仕方がないのだ

 

 

 

朝のホームルームが始まるまでのほんの僅かな時間。担任教師がドアを開けたその頃には、ひまわりはここ数年避けていた対人会話を一気に体験させられ、半泣きになっていた。別にいじめられた訳ではないのだが、とにかく圧倒的質問攻めを浴び疲れをみせればどこに隠していたか甘いお菓子を食べさせられ、ひまわりは恥ずかしいのか嬉しいのかよく解らない表情を浮かべながら椅子の上で小さくなっている

 

 

 

 

窓際女子「みんな構いすぎじゃない?彼女顔死んでないかな」

 

 

わかば「照れてるのよ。ひまわり、友達が欲しすぎて家を出てきたみたいなものだから」

 

 

ひまわり「わかば・・・!余計なこと言わないで。しばらくほんとそっとしてて・・・!」

 

 

面倒見のいい女子「ひまわりちゃん大丈夫?お腹痛くない?ストレス感じてるなら言ってね?あなたにかまいすぎる子全員張り倒すからね?」

 

 

前の席の女子「なんか庇護欲が暴走してないか・・・?」

 

 

あかね「まぁまぁ。ひまわりちゃんそんなにやわじゃないから。」

 

 

宮藤「そうだよ。ちょっとMなくらいだもんね?ひまわりちゃん!」

 

 

ひまわり「あぁキレそう。明日から絶対ひきこもる」

 

 

あかね「ええ!駄目だよ!?」

 

 

 

担任「みなさん!そろそろ静かにしていただけるとありがたいです!四宮さんの紹介をしたいのですが、彼女のメンタルが限界なのでちょっとやめておきますね!てかもうみなさんの方で自己紹介終わってるんですかね!?まあこれから仲良くしましょう!2年B組全員揃いましたのでこれから改めてよろしくお願いします!!」

 

 

 

クラスの騒がしさを遮って担任の先生の声が教室へ響くが生徒達のひそひそ声でのおしゃべりが消える事はない。示現エンジンの危機だとか、異世界からきた魔女だとか、そんなものの関与しない人々で満たされた平凡な空間。ひまわりはこれまで距離を置いていたこんな日常ともう一度触れ合える今がどうしようもなく楽しめていることを認めざるを得なかった

 

 

 

___________________________________________________

 

 

 

エーリン「どう?学校は。」

 

 

ひまわり「まぁまぁ」

 

 

 

放課後、保健室にはビビッドチームが集結していた。シャーリー達の姿は見えないが、2時間目が始まる頃に遅れて登校してきたウィッチ3人は一緒である

 

 

今日の様子をあかね達とひまわり本人に聞きたかったようで、温かいココアと色とりどりのお菓子をつまみながら緩やかな雰囲気の中でエーリンがいくつか質問をし、それに誰かが答えるといった形でちょっとしたお茶会が開かれていた

 

 

エーリン「うん。特に体調に悪影響があるわけでもないみたいだし、クラスでもうまく馴染めているようで何よりだわ。勉強に関しては全く心配していないし、これなら問題なく学園に通えそうね」

 

 

ひまわり「余裕」

 

 

リーネ「先生はひまわりちゃんと仲が良いんですね。」

 

 

ひまわり「べつに」

 

 

エーリン「仲良しよ。彼女は定期的な課題の提出で出席こそ免除されてるけど、健康管理とカウンセリングの名目で週に2回私とのビデオ通話を義務付けられていたから。ご両親を除けばここ1年で1番ひまわりちゃんと喋ってる人間は多分私ね」

 

 

ひまわり「ふん、それももうおしまいだから。これからはふつーに学校来るし」

 

 

にやにやと語っていたエーリンの表情がその言葉を聞いてすっと曇る

 

 

エーリン「そう・・・。私との会話はあなたにとって随分負担になっていたのね。ごめんなさい。私はあの時間を楽しんでくれていると思っていたのだけれど、自分勝手な思い上がりだったのかしら」

 

 

ひまわり「えっ」

 

 

エーリン「ええ、そうね。もう私がなにかしてあげられることなんてないか・・・。これからはただ1人の教師としてあなたの学園生活をそっと見守ることにするわ。それくらいは許してね?」

 

 

寂しそうに笑顔を浮かべたが、すぐ下を向いて顔を隠してしまう。泣いているのだろうか、手で目のあたりをぬぐうようにしながら口をつぐんでしまったエーリンを前にわたわたと手を動かしながら動揺したひまわりは慌てて口を開く

 

 

ひまわり「いやっ、センセーとお喋りするのが別に嫌だったとかじゃ・・・ないし。ただこれからはちゃんと学校来るからやらなくてよくなるって意味で言っただけだから!あの・・・こ、これからもたまには・・・・その、私と」

 

 

 

エーリン「まあこのように可愛い子なのよひまわりちゃんは・・・ふふっ。みんなも仲良くしてあげてね。」

 

 

ひまわり「私もう帰るからッ!!!!!!」

 

 

 

エーリン「はーいお気をつけて。もし体調が悪くなったりしたらすぐ保健室に来てね。あ、宮藤さん達もまた魔法とか別の世界の話とか聞かせて頂戴ね」

 

 

 

宮藤「はい!またお邪魔します!」

 

 

顔を真っ赤にさせて保健室から飛び出していったひまわりとそれを追いかけるように退室したあかね達を見送ったエーリンは、笑いすぎて溢れた涙をぬぐいながら机の上に置かれたカップを手に取って、かなりぬるくなったコーヒーを飲み干して席を立つ。ポッドに残ったお湯を注いでコーヒーのおかわりを用意しながら、エーリンは少し目を閉じて先ほどのお茶会の記憶を思い返す

 

 

 

エーリン「・・・うん、よかったわね。ひまわりちゃん」

 

 

 

噛みしめるようにぽつりと呟いた言葉は誰かに聞かせるためのものではない。もう一度目に浮かんできた涙は先ほどとは違った意味があるのだろう。湯気の立ち昇るカップを手にし椅子に深く腰掛けて、彼女は自身の中から込みあがってくる温かい感情に少しの間身を任せることにした

 

 

 

 

 

 

 

 




寒くなってきましたね・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 あかね「黒くて光るあいつの話」

シャーリ-「ゴキブリとネウロイの違いなんてビームを撃つかどうかくらいしかないさ」


ルッキーニ「カブトムシとネウロイの違いは?」


シャーリー「そりゃもう・・・へへへへ」


ルッキーヌ「うっへへへ」


エイラ(一緒にくるメンツ間違えたな)




天城「それでは。第3回、ビビッドチーム放課後ミーティングを始めます。よろしくお願いします」

 

 

 

「「「お願いしまーす」」」

 

 

 

 

放課後、不定期で行われる話し合いの場で新規ビビッドチームと、そのサポートメンバーである管理局の柴条、防衛軍の天城らが顔合わせを果たしていた。天城はアローン襲来時は学園での避難活動に当たっていたため戦闘の経過を後から知った口で、こうして面と向かうまで正直実感を得られないでいた。未知の技術である示現エネルギ-に新たに選ばれた少女、異世界から現れた軍属の魔女達。やはり何度体験しても安易には受け入れがたいイレギュラーな出来事である

 

 

 

 

柴条「ほう。貴方が四宮さんのところのご息女のひまわりさんですか。」

 

 

ひまわり「はい。どうもです」

 

 

柴条「今後は管理局のシステムに不正アクセスをせずとも正式に申請していただければ情報は提供いたしますので、そのようにお願いしますね。危うくエンジニアチームの何人かの首が飛ぶところでした。」

 

 

ひまわり「反省してまーす・・・ほんとに」

 

 

健次郎「まあまあ既に終わったことじゃ。それに昔ワシの作ったファイアウォールを流用し続けとったんじゃから突破されるのもやむなしじゃろ」

 

 

柴条「まあそうですね。ああ、進行を遮って申し訳ございません天城二尉。続けてください」

 

 

天城「いえ大丈夫です局長。それに進行といいましても、私はあくまで聞き手ですから。防衛軍としての報告だけすませてあとは黙ってますよ」

 

 

 

一色家の居間に置いたホワイトボードの前に天城が進み出て、咳払いを1つ挟んで話し始めた

 

 

 

 

天城「アローンの襲来は今回で4回。初回の戦闘でこそ防衛軍は大きな被害を受けましたが、その後ビビッドチームに戦闘での負担を請け負ってもらうことで大きな損害を出すことなく勝利を収めています。あなた方の働きを防衛軍長官は高く評価されています。・・・現在防衛軍は戦闘において有効な手を備えておりません。避難誘導、救助活動、そして管理局が行っている情報統制に手を貸す以上の事は出来ないのが現状です。現状を維持することがアローンを撃退を完遂する上で最善策であると防衛軍は判断していますので、我々は出来る限りのバックアップを行うことを約束します。以上です」

 

 

 

柴条「管理局からです。現時点で示現エンジンへの直接的なダメージは0。損害を受けた整流プラントも本日の正午には稼働率100%まで復旧しております。死者も出ておりません。宮藤さんとリーネさんの救助活動のおかげです。ありがとうございます。・・・そして、四宮ひまわりさん。整流プラントが最後の一線を保てたのは、あなたの類まれな能力があってこそなのも間違いありません。ありがとうございます。あなたのお陰でこの世界の平和は維持できました」

 

 

 

 

ブルーアイランド管理局長に深々と頭が下げられた。先ほどのようにいたずらを咎められるほうがまだ気が楽だ。ひまわりは気まずそうに顔を下に向け、何も言わずのその賛辞を黙って受け入れる。一方の柴条と天城は各々言いたいことは言ったので、これからは聞く側だとばかりにすっきりした態度で座布団に座った

 

 

 

健次郎「では今度はこちらから。新たな仲間が加わってくれた。四宮ひまわりくんが新たにパレットスーツ装着者として。異世界からの来訪者、ウィッチーズの3人。特にウィッチの諸君からの話は実に興味深いものがあった。情報共有も兼ねて、改めてこの面子に話してくれんかの?」

 

 

 

シャーリーとエイラはめんどくさそうな視線を互いに送りあった。今日の昼間、健次郎相手に長いこと喋らされたのはシャーリである。理由は単純、じゃんけんに負けたのだ。生粋の科学者としての好奇心による根ほり葉ほりの対話で喉がからっからなシャーリーが肩をすくめたのを見て観念したエイラが座布団から立ち上がる

 

 

 

エイラ「私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。第501特殊戦闘団、第1飛行小隊<ストライクウィッチーズ>所属の・・・兵士だナ。うん。エイラ"さん"と気軽に、しかし敬意をもって呼んでくれると嬉しいんだな!・・・冗談だヨ。そんな目でミンナ」

 

 

 

宮藤芳佳の行方不明、そしてペリーヌ・リーネの2名がネウロイの作り出した次元の穴を通過して姿を消した。最早一刻の猶予もなく、これ以上受け身でいることはできないと第501特殊戦闘団の司令部は部隊全員に通達。科学チームが総力を挙げて解析を行った結果、3人とも同じ波長を放つ次元の穴に取り込まれたことが判明した

 

 

すぐさま大がかりな救出作戦が立案される。各部隊に様々な役割が与えられ、エイラ達ストライクウィッチーズが背負った任務はネウロイが発生させる次元の穴・・・<ディメンションゲート>に突入し、宮藤達と合流。合流に成功した場合その場所でビーコンを起動し、続く救助部隊の道しるべとなることであった

 

 

 

 

エイラ「ゲートが発生するタイミングと位置は私の未来予知で割り出して、この3人で突入したって訳。私達のストライカーに仕込まれてるビーコンから発信されている信号はもう501が・・・いやサーニャが受信してくれている!!大船だな!!」

 

 

 

シャーリー「はじまったよ」

 

 

ルッキーニ「お約束だねぇ」

 

 

エイラ「なんだよ!!」

 

 

わかば「あの・・・お約束を解説してくれる?ペリーヌ」

 

 

ペリーヌ「サーニャさんという方がいらっしゃるのです。探知魔法が得意な方ですわ。エイラさんとの関係については・・・そうですわね。みなさま風に言うなら、クッソヘタレてる感じですわ」

 

 

あおい「難しい関係なんですね。」

 

 

エイラ「おぉいペリーヌ余計なこと言うなよナ!まあとにかく、501の部隊がいずれ助けに来てくれる。ウィッチーズとしてはこれで問題解決だ」

 

 

宮藤「ちょ、ちょっと待ってくださいエイラさん!」

 

 

エイラ「わかってるよミヤフジ。私達が帰ってはいおしまいじゃすまない。この世界の抱えてる問題を、私達が見ないフリしていいのかってことサ。」

 

 

 

エイラは気取ったように肩をすくめてみせた。提示した時点で結論の出た議題であった。ルッキーニはにこにこしているし、シャーリーは先ほどからブルーアイランド防衛軍の部隊構成についての資料に目を通しながら決まりきった話し合いを聞く気すらないようだ

 

 

 

エイラ「おい宮藤。私らはこの世界に来てすぐだ。オマエが決めてくれ」

 

 

宮藤「この世界を侵略しているのはアローンですが、ネウロイです。それを倒すのは、ウィッチの使命です!」

 

 

エイラ「OKだミヤフジ。ならやっちまうか」

 

 

 

怒気すら孕んでいそうな芳佳の声にエイラはあっけらかんと応えた。それが当たり前だと思っていたし、それを面倒だとすら思っていない。人を救うため異形と戦う、それは彼女達ウィッチの行動の根底に根差す絶対の信念である。エイラ達に与えられた使命は宮藤達3人の救出ではあるが、べつにそれ以外やるななどといった命令は受けていない

 

 

 

シャーリー「この世界に黒光りするビーム発射モンスターがいるなら、私らの出番ってわけさ。疑うこともない」

 

 

ルッキーニ「少佐達がお迎えにくるまで昼寝だけじゃ飽きちゃうもんね」

 

 

エイラ「ストライクウィッチーズ所属のウィッチ3名、改めてビビッドチームの一員としてこの戦いに参加させていただくんだな。あかね、よろしく」

 

 

あかね「はいエイラさん!」

 

 

 

 

固い握手を交わし、正式に1つのチームとなったところで議題を移すことにした。がむしゃらに戦闘を行ってきた今、彼女達人類は一つの壁にぶつかっている。戦いには必ず勝利する必要はない。敗北しなければ、多くのものを守ることができる。今回はそういった戦いであることは間違いないだろう。しかし終わりのない戦いは文明を崩壊させうるものだ

 

 

 

 

シャーリー「そのアローンの試練、っていうのはいつまで続くものなんだ?わざわざ一色博士に語り掛けてきた手前、ちゃんとクリアできるようになってるはずでしょう?」

 

 

健次郎「そのはずじゃ。彼らがワシに語り掛けて来た内容は抽象的じゃが、彼らの目的があくまで侵略ではないということは確かに提示された」

 

 

ひまわり「本気でエンジンを壊したいだけなら、一体ずつ間隔を開けてアローンを送り込んだりしないでしょ。しかも少しずつアローンが強くなってるし、試練っていうのはその通りなのかも」

 

 

シャーリー「じゃあアローンを倒す度にポイントカードのスタンプが溜まっていったとして、最後には何と交換してくれるんです?」

 

 

 

健次郎「示現エネルギーを自在に扱う権利、とやらを得られるのじゃろうな。それがどういった形でもたらされるのかは解らん」

 

 

あかね「ポイントカードかぁ・・・ポイントカード・・・」

 

 

シャーリー「ジョークだよもちろん!軽く流してくれ!恥ずかしい!」

 

 

あかね「いやそうじゃなくって、ただアローンを倒すだけでそのうちクリアできるものなのかなぁって」

 

 

 

その発言に全員が一斉に口をつぐんだ。それを問われても答えられる人間はここには1人としていない

 

 

 

健次郎「ふむ。考えるべきことじゃの。示現力を使うにふさわしい生き物である、とは何を意味するのか。その真意を理解しなければならない時は近づいてきておる。これまでで我々に可能だったのは異世界からやってきた者が友人か敵かを見極め、お茶を出すかパレットスーツに着替えるかだけじゃったからの。これについては、やはり長くネウロイと戦闘を行ってきたウィッチ諸君に意見を伺うべきかの?」

 

 

 

ペリーヌ「これに関しては以前から博士に聞かれていたことですが、アローンとネウロイは同じではない。というのがやはり鍵になるのではないでしょうか」

 

 

リーネ「別物なんですか?」

 

 

ペリーヌ「わたくしもネウロイについての研究資料を端から端まで記憶しているわけではございません。しかし大きな特徴としていくつかあげられるものだけでも相違点がありますわ。1つ、そもそもわたくし達の世界に出現するネウロイと呼ばれるものは常に同じ場所を狙って現れる訳ではありません。何者かの意図で動かされているにしても、アローンのように明確に攻撃対象が設定されているとは思われていませんの。精々人が多く住む場所を破壊しようとする、といった程度のものしか持たないようですわ。

 

 

2つ目として挙げるのであれば・・・ネウロイが侵略兵器としてもつ大きな武器である<瘴気>の存在がアローンからは確認できない点ですわ」

 

 

 

健次郎「瘴気とな?」

 

 

シャーリー「ネウロイはビーム攻撃の他に、その体から有毒なガスのようなものを放出し続けているんです。個体によって強弱は様々ですけど、酷いものだと近寄った航空機の外装が瞬時に腐食してしまうほどのレベルだったりします。ウィッチは魔法力でネウロイの装甲を破壊しやすいですが、それと合わせて魔力で身体をガードすることで瘴気に耐性をもてる。私らが対ネウロイ部隊として運用されてる理由の一つでもあるんですよ」

 

 

 

柴条「今のところアローン出現後にブルーアイランド周辺で異常な毒物反応等は検出されてない筈ですが・・・すぐに調査チームを立ち上げ周辺の環境調査を始めましょう。その瘴気について後程詳しく話していただきたいですね」

 

 

シャーリー「ま、こっちの世界でもまだ解明されてない領域だから力になれるかはわかりませんけどね。瘴気についてはおいておくとして、私個人としてはペリーヌが言った1つ目の方が気になるよ。私達の世界でネウロイと戦闘以外の方法で接触できたのは宮藤だけだしな」

 

 

エイラ「そうだよな、ミヤフジのコンタクトはどうなったんだ?」

 

 

宮藤「なんのことです?」

 

 

エイラ「覚えてないのか?人型をおっかけていっただろ。オマエ、それでこの世界に飛ばされてきたんじゃないのか?」

 

 

宮藤「人型・・・私が・・・?」

 

 

ペリーヌ「エイラさん、宮藤さんは記憶の一部が失われているようですの。この世界に来た経緯についてもまだ・・・宮藤さん?」

 

 

宮藤「私・・・わた、私・・・!」

 

 

あかね「芳佳ちゃん、どしたの!?」

 

 

リーネ「芳佳ちゃん!」

 

 

 

それは宮藤芳佳の欠けていた記憶のひとかけらを埋める言葉だった。彼女は強烈な頭痛と眩暈を覚えてぐらつく身体をリーネに支えられながら急激な記憶の復元を感じていた。人の形をしたネウロイ。言葉を発しないソレと確かに意志の疎通の可能性を感じたこと。周りの静止を振り切りそれについていったこと。その結果ここにきてしまったことを

 

 

 

 

同時に。あかねの背筋を悪寒が走る。冷酷で邪悪な気配が現れる前兆だ。それと同時に健次郎のそばに置いてあったタブレットからも警報が鳴り響く。示現エネルギーの急激な上昇反応。異世界からの来訪者を知らせるそれだが、今回はどうも悪しきものがやってくる様子だ

 

 

 




2019年おわっちゃうううううううううううううう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 シャーリー「最速のウィッチ」

今年中に完結するとか言ったやつだれだよ!!!!


健次郎「敵じゃ!」

 

 

 

その叫びに応えてビビッドチームが一斉に席を立ちあがる。纏う空気は一変、戦いに備えた緊張感が漂っている

 

 

 

 

天城「出撃準備を!柴条局長とももちゃんは地下シェルターに避難してください!一色博士、戦闘指揮の補助に入らせていただきます!」

 

 

健次郎「うむ、頼む。」

 

 

あかね「みんな行こう!」

 

 

あおい「うん!」

 

 

わかば「ええ!」

 

 

ひまわり「おっけー!」

 

 

 

あかねを先頭にビビッド戦士達は縁側を蹴って庭へ飛び出す。手に握ったオペレーションキーが戦意に応えて光を放ち、彼女達は地面に足をつけることなく色とりどりの戦闘スーツをはためかせて空へ飛びあがった

 

 

エイラ「よし、こっちも出るか」

 

 

シャーリー「エイラと私を編隊長として3・3のケッテ編隊に分けよう。宮藤リーネはエイラの下についてくれ。ペリーヌ、私とルッキーニと一緒だ。後からきた私達3人はあかね達の戦い方を実際に見てない。リーネとペリーヌは編隊長のサポートを頼む。見慣れてるだろうからな。」

 

 

宮藤「あのぉ・・・シャーリーさん。水を差すようで悪いんですが・・・あのですね」

 

 

シャーリー「お、どうした宮藤。いつも元気よくハイって言ってくれるのに」

 

 

宮藤「私ストライカーがですね。無くってですね」

 

 

シャーリー「マジで!?どうすっかなぁ。それなら私とルッキーニの2人、残った3人で組むしかないか」

 

 

エイラ「ミヤフジはまぁゆっくりしとけ。今回だけだぞ」

 

 

健次郎「おっとまずいことになったぞ。エネルギー反応がもう一体!今回の襲撃は2体じゃ!」

 

 

普段はテレビとして使用している居間に設置されている大型のモニターは、健次郎の手元のタブレットの操作一つで様々な情報を映し出すことができる。それを指差し興奮気味にマイクに向かって喋る健次郎の通信を受けたビビッド戦士達は、既に最初に出現していた1体目のアローンを視界に捉えていた

 

 

 

あかね『えぇ!?もう一体来ちゃったの!?どうしよ!』

 

 

ひまわり『前みたいに突然進化する可能性もあるし私達4人はこのまま1体に集中した方がいいと思う。』

 

 

シャーリー「もう1体は任せてもらうよ。それぐらいはやんないとタダメシ食わせてもらう訳にはいかないしな」

 

 

健次郎「シャーリーくん!この通信機を使ってくれ。操作感は君らが使っていたものと大体同じにしてある。あかね達との通信はもちろん、携帯電話としての使用も可能じゃ。」

 

 

シャーリー「ありがたく頂戴します。ではナビゲートは頼みます!」

 

 

 

博士から通信機を受け取ると、異次元の戦士達は庭にせり上がってきた健次郎特製格納庫へと入っていく。彼女達のストライカーは元の世界で使っていたのと限りなく近いカタパルトで固定されている。これはウィッチ達の要望を受けて健次郎と防衛軍技術班が知恵を絞って再現することに成功したものだ

 

 

 

ストライカーユニットは、内部に仕込まれた特殊装置<魔導エンジン>により魔法力を増幅、変換、調節を行うことで空中飛行を可能とする為の装備である。ペリーヌが危惧していたように魔法力だけでなく外部燃料を用いなければ完全な稼働は不可能だが、これに関しても防衛軍が使っている航空燃料に少し改良を加えたもので代用できることが判明し問題ではなくなった

 

 

 

シャーリー「出撃!」

 

 

 

ストライカーの先端に発生した光のプロペラが高速で風を切る音が格納庫に鳴り響く。出力された魔力にエーテルが反応し疑似的にレシプロのような羽が出現するのだ。魔法力による強化された身体であれば本来歩兵が携行するには大きすぎる程の機銃を装備することが可能となり、それにウィッチ各々が持つ固有の能力による上乗せをしたものがこのストライカーユニットを装備した時の彼女達の戦闘力となるのだ

 

 

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

シャーリー「こちらは異常なしだ。本部聞こえるか?誘導を開始してくれ」

 

 

 

健次郎『こちら本部。2体目のアローン・・・いや、1体目に出現したアローンをその特徴から<タートル>と、2体目を<ラビット>とそれぞれ呼称することにしよう。現在タートルは東側洋上5キロの地点に出現、そこから非常に遅い速度で示現エンジンへと侵攻中じゃ。こちらにはビビッドチームが対応する。ラビットは北側洋上にて出現。こちらは示現エンジンがあるブルーアイランド本島ではなく学園島へ向けて移動を開始しておる。ウィッチーズにはこれを撃破して欲しい』

 

 

 

ペリーヌ「学園島へ?なぜでしょうか」

 

 

 

健次郎『ラビットの出現位置からは学園島が一番近い陸地になる。ラビットの破壊目標は示現エンジンではなく近くにいる人間の集団なのかもしれん。サイズも今までで出現したものの中で最も小型でじゃ。しかし移動速度の速さが問題じゃ』

 

 

 

健次郎はモニターの前で努めて冷静であったが、この事態の異常性には少し眉をひそめずにいられなかった。これまでにない複数体の同時出撃、示現エンジン以外を狙っての行動。この世界が大きな転機を___もちろん悪い方向に__迎えているのではないか、とい予感が脳裏をよぎる

 

 

 

健次郎『むっ!ラビットの移動速度が上昇しておる!急いでくれ、このままでは振り切られる!』

 

 

ルッキーニ「シャーリー!やっちゃえ!」

 

 

シャーリー「OK。こちらシャーリー!ちょっと飛ばすぜ!」

 

 

 

シャーリーは目を細めて遥か彼方にいるであろうアローンを見据える。彼女がウィッチである証、うさぎの使い魔の力の象徴の白く長い獣耳が風の抵抗を受け流すように彼女の頭の後ろに少し傾いた。彼女の身体を青白い光が覆い、ストライカーが細かく振動する。魔導エンジンに膨大な魔法力が流れ込んでいる証拠だ

 

 

 

 

さて、ストライカーユニットはただ空を飛ぶために存在するオシャレなブーツではない。当然戦闘面においてウィッチを様々な面からフォローする役割を持つ。大切なのは装着者の魔力の調節機能だ。使用者が攻撃に夢中になるあまり失速して飛行を維持できなくなったり、スピードの出しすぎでストライカーの耐久力が限界を越えたりしないようセーブする大切な機能だ

 

 

 

装着者であるウィッチは飛行時に受ける強い空気抵抗や撃破したネウロイの破片との衝突等様々なダメージが想定されるが、それを防ぐ為の防御膜をウィッチの魔力を利用して自動で出力するのもストライカーの機能の1つだ

 

 

 

装着者の魔力操作技術でこの辺りのバランスを上手く配分し、その時々で適切な魔力出力を切り替えていくことで高度な空中戦を行うことができる。しかし、それには限界がある。現時点でのストライカーユニットは単独での音速飛行には成功していないし、戦艦の主砲を装備して飛び回ることはできない。

 

 

だがそれはウィッチが普通に魔法力を発動させた時に限る

 

 

 

シャーリー「いくぜぇええええええ!!!」

 

 

 

彼女の固有魔法、超加速。その魔法の影響下ではあらゆる物質が限界を越えたスピードを得られる。なにより速く飛ぶことを夢見るシャーリーを常に世界の先頭に立たせてくれる素敵な魔法だ

 

 

 

衝撃波をまき散らして一気にトップスピードまで加速したシャーリーはぐんぐんアローンとの距離を詰め、一息つく間に前を行くアローンの隣に並んでみせると仲の良い友人に挨拶でもするかのようなのんきな調子でその黒い身体に向かって声をかけた

 

 

 

シャーリー「よう!そんなに急ぐと危ないぜ!」

 

 

そこでようやく自分が追い立てられていることに気付いたアローンは金切り声を発して迎撃の構えをとる。背中の赤い装甲部分から細いビーム光線をばらまくがシャーリーは更に速度を上げて前に移動してかわすと、上半身を捻って手にした機関銃で正面から銃撃を浴びせる

 

 

鼻先を削られて気分を害したのか、やっきになってシャーリーを追い始めた。ゆらゆらと左右に揺れ、アローンがついてこれる速度を維持しつつ攻撃をしっかり避け、仕留める気の無さそうな散発的な攻撃でアローンの注意を惹き続けた

 

 

シャーリー「さぁ、これもついてこれるよな?」

 

 

水平飛行から身体を起こし、上方へ跳ね上がる。背面飛行で大きく反り返り進行方向を180度後ろへ変えるシンプルなループ飛行だ。既にシャーリーのケツを追いかけることしか頭にないアローンも軌道をなぞるように飛行する。追いかけられる立場から追いかける側へとなったアローンは身体中にある赤い装甲にエネルギーをチャージし、速度を落としてこちらに背を向けるシャーリーにトドメを刺そうと狙いを定めた

 

 

 

シャーリー「単純なやつだよお前さんは」

 

 

エイラ「それ撃て狙え!」

 

 

ルッキーニ「うにゃー!!」

 

 

 

 

自らの進む方向に待っていたのは武器をもたない弱い人間達がいる島だったはずだ。しかし今、アローンの前には安全装置を解除した怒れる魔女達が待ち構えていた。シャーリーがエイラ達とそのまますれ違い射線上からいなくなったのを確認したウィッチーズが放った弾丸の壁がアローンを迎え撃った

 

 

 

<ドガガガガガガ!!>

 

 

 

真正面から複数の火線を浴び、コアもろとも全身を打ち砕かれたアローンはそのまま爆散しキラキラした金属片を跡に残しながら海へ墜落した。水面に広がった小さな白い泡も波に飲まれて消え、<ラビット>と呼ばれたアローンはキレイさっぱり片付けられた

 

 

 

シャーリー「うさぎを追いかけたのがお前さんの敗因さ」

 

 

 

 

エイラ「うわなんかかっこつけてるやついるぞ」

 

 

ルッキーニ「ねえ芳佳、芳佳。なんていうんだっけ。中学何年生!みたいなやつ」

 

 

宮藤『中二病のことかな?』

 

 

 

シャーリー「ああもうロマンのないやつらだな!おーいあかね!こちらシャーリーだ!こっちは片付いたぞ!」

 

 

 

 

 

__________________________________

 

 

 

 

一方視点を変えて、ビビッドサイドもアローン撃破まであと一歩まで詰めていた

 

 

彼女達が対面しているアローンは<タートル>と名付けられた大型の浮遊アローン。動きは遅く、亀の甲羅のような大きな箱状の装甲から砲台の役割を持つ手足を出し入れする高火力要塞タイプだ。以前相手どったタイプ程の火力はなく、精々少し装甲が厚いのが面倒なだけの敵であった。もう一体のアローンをシャーリー達が担当してくれている以上、焦ることなく相手の攻撃手段を1つずつ削り比較的容易に撃破できるはずだった

 

 

 

しかし、またもや横やりが入る。どこからか飛来した光がアローンに突き刺さり状況は一気に緊張感を増した。明らかに装甲の厚みが増したことであおいの一撃でもほとんどダメージが通らなくなり、破壊した腕が再生して激しい攻撃によりこちらが攻撃する隙を生み出すのが難しい

 

 

 

ひまわり「こうなると・・・」

 

 

わかば「ドッキングか。どうする?遠距離ならひまわり?」

 

 

ひまわり「昨日の今日はちょっときつい。正直疲れが残ってるし、それにあの装甲わたしのビットのビームの通りが悪い。動きも遅いし・・・そうだ!あおいちゃんのドッキングならいいんじゃない?」

 

 

あおい「・・・!」

 

 

ひまわり「これまでのドッキングの仕様からすれば、私達の固有兵器をあかねの力で大きく強化できる。あおいちゃんとのドッキングなら一撃パワー特化。当てさえすれば多分どんな敵でも一撃で倒せるんじゃない?」

 

 

 

あかね「なるほど!よっし、あおいちゃ___」

 

 

 

ドッキングを提案しようとしていたあかねはその口をつぐんだ。戦闘中だというのに、その身が敵の射程圏内にあるというのに完全に固まってしまっていた

 

 

 

あおい「う、うん!」

 

 

 

振り向いたあかねを見てあおいは慌てて笑顔を取り繕った。ただそれだけのことが、一色あかねの心を締め付けるには充分なことだったのだ

 

 

 

 

 

わかば「あかね!?ど、どうしたの!?」

 

 

あかね「え、いや・・・」

 

 

 

 

あかねの直感は彼女の意志に関係なく作動する。さらにビビッドレッドに変身している状態のあかねは影響下にある他のパレットスーツ装着者とうっすらとだが精神が繋がっている状態なのだ。例えドッキングをしていなくても。その状態である今、あおいと一瞬目と目を合わせただけで彼女の思いが伝わってきた。彼女は___ドッキングを、心底嫌がっていた

 

 

 

 

 

 

 




張り切って書いてます。無理やり完結にもっていく気はありませんが、一つのモチベーションとして目標を今年中に完結を掲げています。でも・・・書いちゃう・・・!どんどん書きたいこと増えちゃう・・・!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 あおい「私を焦がす真っ赤な太陽」

アローンの放つビームがあかねとあおいの視線の間を横切る。わかばの警告に我に返った2人は距離をとるように飛びのいてそれをかわした。

 

 

どちらもその開いた距離を詰めようとはしない。互いが自分のもつ今の感情を言葉にすることを恐れているようで、しかしそれがどういうものなのかをわからないでいる

 

 

ひまわり「ちょっ、どうしたの!?アローンの攻撃がヤバイ感じなんだけど!」

 

 

 

ネイキッドコライダーを飛ばして動きを止めてしまったあかねとあおいの前にシールドを張りながらひまわりが叫ぶ

 

 

 

わかば「・・・っ、あかね!なにをしてるの!」

 

 

あかね「!」

 

 

あかね程の少女が戦闘中に迷いを見せるなんてことが信じられなかった。一体どういつつもりなのか、怒りを隠そうともせず荒々しくその肩を掴んで無理やりこちらを向かせた

 

 

 

あかね「わ、わかばちゃん・・・」

 

 

 

いつも彼女の赤い目は活力で満ち満ちており、わかばはその奥で炎のように燃え上がっている力強さが心底好きだ。しかし、それが今明らかに揺らいでいる。ともすれば浮かんでくる涙を必死にこらえているようにも見えてしまう。ようするに今、あかねは傷ついていたのだ

 

 

 

わかばは己の行動を後悔した。あかねがこんな大事な場面で集中を切らす程の出来事を心配するのではなく怒りをぶつけてしまうのは明らかに愚かな行いであった。今あかねに必要なのはどう考えても手を差し伸べることだというのに

 

 

 

わかば「・・・落ち着いて。今は敵を倒さなくては。あおいは___そう、ドッキングをいきなり実戦で試すのは危険だもの。彼女が怯えるのも無理はない。私とやりましょう。あおいもそれでいいかしら?」

 

 

 

あおい「あ、うん!ご、ごめんねあかねちゃん!ちょっと私その・・・怖くて」

 

 

 

あかね「・・・うん、わたしもごめん!今は集中しないとだね!じゃあわかばちゃん、行こうか!」

 

 

 

うつむいて深呼吸をし、再び顔を上げた時にはあかねの表情には迷いなどないように見えた。わかばは一度は力強く引っ張った肩に今度は優しく手を添え、あかねの額に顔をぐっと近づける

 

 

あおい「・・・っ」

 

 

 

あおいはそんな2人から目を逸らした。唇を強く噛みしめ、ひまわりの負担を少しでも減らすため前へ飛び出してネイキッドインパクトを振り回してアローンのビームを力任せに撃ち返した

 

 

 

わかば「いくわよ・・・!」

 

 

 

あかねの前髪を指先でそっとかき上げる。くすぐったそうに落ち着かない様子のあかねの後頭部をもう片方の手で柔らかく固定して逃げられないようにすると、戦闘の興奮でうっすらと汗がにじむ小さな額にそっと口づけを添えた。

 

 

健次郎『ドッキングシークエンス開始!示現エンジンからのアクセスの遮断を確認。ビビッドエンジンの形成を確認。システムオールグリーン。正常値。』

 

 

 

パレットスーツに変身する時とは比べ物にならないほどの巨大なエネルギー球体が2人を中心に辺りに広がる。それを突き破り飛び出してきたのは、ビビッドグリーンその人である。ふてぶてしい顔つきは絶対たる勝利の自信の表れ。風になびく長い緑のポニーテールは陽の光を反射しキラキラと輝いている

 

 

 

 

ビビッドグリーン「溶け合う力が1つとなって、打ちあがるのは無敵の一振り。一刀両断お手の物、正義の一太刀浴びせます!お呼びとあらば即参上!」

 

 

宮藤『ヒュー!!見てよあの武器を!山だって斬っちゃう勢いだよ!』

 

 

ビビッドグリーン「こうなってしまっては手加減はできないわよ!!とわぁ!!」

 

 

 

力強い咆哮だけを残し彼女の姿は忽然と消える。いや、消えたようにしか見えない速度でアローンの目の前に飛翔したのだ。ビビッドブレードの刀身は既に解放されており、高められた示現エネルギーが高密度の光の刃をギラつかせ天高く掲げられている。迎撃のため発射されたビームは、ひまわりがビビッドコライダーを滑り込ませて防御した。

 

 

きっとひまわりが守ってくれる、と確信していたビビッドグリーンは攻撃のみに意識を集中させ、大上段に構えたその大太刀をただ真っすぐに振り下ろした

 

 

 

ビビッドグリーン「ビビッド流剣術奥義!!天空両断撃ッ!!!」

 

 

 

スパァン!と気持ちの良い音がブルーアイランド中に木霊した。真っ二つに割られた亀形アローンの身体がゆっくりと海へと落ちていく。最後の抵抗を試みるアローンはわずかに残った力を集約させビームを放とうと身体を赤く光らせたが、相手にとどめをさすまでが奥義である

 

 

 

ビビッドグリーン「ちょっと、コアは真ん中じゃないって訳!?一撃で決めさせてもらえないかしら!」

 

 

 

暴風雨のようにビビッドブレードが振るわれる。半分に割られた巨体がさらに半分に、そして更に半分にぶった斬られる。ほんの数秒で全身を数百に切り分けられたアローンは流石にコアを破壊されたようで、全身余すことなく白い欠片へと爆散して海に散った

 

 

 

 

ビビッドグリーン「見逸れたかアローン。私が空にある限り、貴様らに好き勝手はさせない!そう、この私こそ!ビビッ___」

 

 

 

 

シャーリー『ああもうロマンのないやつらだな!おーいあかね!こちらシャーリーだ!こっちは片付いたぞ!』

 

 

 

ビビッドグリーン「___うん。はい。こっちも片付きました。はい。余裕です。」

 

 

シャーリー『?よし、帰投しよう!』

 

 

 

ビビッドグリーン「・・・」

 

 

 

ひまわり「うん。かっこよかったよ2人とも。決めゼリフは今度ばちっと決めればいいじゃん。ね?」

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

季節柄かなり長い時間陽は沈まない。しかし戦いを終えて帰還した彼女らがストライカーを抜いで畳の上に腰を降ろした頃には、太陽の替わりに月が海を照らしていた。戦いを終えたビビッドチームはあかねの家に帰還し、各自が思い思いに戦いの疲れを癒していた

 

 

 

 

 

ルッキーニ「うじゅー、つかれたぁ!お腹すいたぁ!」

 

 

もも「ルッキーニちゃん、もうすぐ晩ごはんできるからね。」

 

 

ルッキーニ「ありがとーもも!今日なにー?」

 

 

もも「ふふ、カレーだよ!」

 

 

ルッキーニ「うきゃーやったー!」

 

 

 

年の近い2人はすっかり打ち解けたようで、ルッキーニとももは両手をつなぎ合って楽しそうに身体を揺らす

 

 

 

 

シャーリー「なんだもう仲良くなったのか?」

 

 

ルッキーニ「うん!さっきまで島で遊んでたんだ!それにお菓子いっぱいくれるし!」

 

 

エイラ「太るぞ」

 

 

ルッキーニ「まだ若いもん」

 

 

シャーリー「あやかりたいね」

 

 

健次郎「ワシからみりゃみんな若いよ。もも、ワシにもお茶くれんか?」

 

 

もも「はーい」

 

 

シャーリー「博士、飲み食いできるんですか?」

 

 

健次郎「香りを楽しむだけじゃよ。心がやすらぐ。」

 

 

 

今の健次郎はとても健康的だ。食事も睡眠もいらない。示現エネルギーで魂をつなぎとめているイレギュラーな存在である。しかし、食事や睡眠といったこれまで当然のように行ってきた快楽を取り上げられてしまうと、本来人間の精神力など簡単に削られてしまうものだ。特に彼のように重大な責任を負わされている立場のものにかかる負担は尋常ではない

 

 

 

それを彼は胆力と度胸で跳ねのけ、陽気な祖父としての立場を保っていた。それが培われるほどの長い人生経験を積んできたからできる芸当である

 

 

 

 

 

あかね「・・・」

 

 

 

しかし、少年少女とは悩むことが宿命の生き物である。波の打ち寄せる音も、心地よい潮風も、やわらかで神秘的な月明かりも。今の一色あかねの心を軽くすることはできないでいた。彼女は砂浜に膝を抱えて座りこみ、物言わず海の彼方を見つめている。その両隣に同じような恰好で座り込んでいるのは、ひまわりと芳佳。こちらの2人は死ぬほどきまずそうな顔でそわそわと落ち着かない様子である

 

 

 

明らかに落ち込んでいる彼女を励ましにきたはいいが、ひまわりはこういうシチュエーションをあまり体験してこなかった対人コミュニケーションにブランクのある引きこもりだし、芳佳は芳佳で現場の状況をよくわかっていないのでぶっちゃけ事態を全く呑み込めないまま、ただあかねが心配だからという理由だけでここにいた

 

_________________________________________

 

 

あおい「・・・」

 

 

 

二葉あおいは島のあぜ道を亀のような鈍足ペースで歩いてた。歩いている、というよりふらつく身体が地面に倒れないよう足を前に出しているだけだ。目的地の見えないその歩みは見ている側が思わず駆け寄って肩を支えてやりたくなるような不安定さがあり、そして彼女の両隣を歩くわかばとペリーヌも何度も倒れそうになるあおいに肩を貸していた

 

 

 

わかば「ねえあおい、とにかく一度座って・・・」

 

 

ペリーヌ「あおいさん、わたくしが言うことではないかもしれませんがこういう時こそご友人を頼られるべきですわよ?」

 

 

あおい「いいんです。ほっといてください」

 

 

 

突き放すようなあおいの言葉に、これではキリがないと判断したわかばは無理やりにでも彼女と話すため強引に切り出した

 

 

 

わかば「あかねの心に入ってわかったわ。あなたの様子がおかしいことに彼女は動揺して・・・」

 

 

あおい「当てつけですか!?」

 

 

わかば「あなたが一番あかねの心に寄り添えるのよ。」

 

 

あおい「実際はそうじゃないじゃないですか!わかばちゃんにもひまわりちゃんにも、励まされたくないんです!」

 

 

わかば「慰めではないわ。なんでそんなに自分に自信がないのか不思議よ」

 

 

あおい「どうやって自信をもてばいいんですか・・・。私はわかばちゃんにも、ひまわりちゃんにもなれないのに・・・」

 

 

わかば「それが強みだっていってるの!ええい、いい加減いじけるのやめなさい!」

 

 

あおい「放してください!」

 

 

わかば「暴れるんじゃない!鍵をとりだすんじゃない!そんなことするなら私だって」

 

 

 

ペリーヌ「はぁ・・・お2人とも落ち着いてください」バリバリバリ

 

 

 

もみ合う2人がオペレーションキーを取り出すのを見て致し方ないと判断したペリーヌが雷を落とす。比喩ではなく、実際に

 

 

「「あばばばっば!?」」

 

 

適度に加減された魔法の稲妻が2人の身体に強烈な刺激を与え、不意を突かれた2人はもみ合ったままの形で揃って田んぼにひっくり返った

 

 

 

 




いいよ!今月の投稿ペースいいよ!キレてるよ!週刊連載いけるよ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 あかね「私を惑わす青い海」

 

 

ひまわり「・・・なんで落ち込んでんの」

 

 

あかね「なんでって・・・わかんない。」

 

 

 

一向に何も話さないあかねを見て、どうにもこのままでは夕飯を食べ損ねるのでは?とそう危惧したひまわりは気を遣うことをやめ、聞きたいことを聞くことにした。

 

 

 

ひまわり「あかねに何か落ち度があるの?あおいが拒否ったんだしあおいの問題でしょ」

 

 

あかね「あおいちゃんはこんな危ないことが好きな子じゃないから」

 

 

ひまわり「最初から嫌々やってるワケじゃない。あかねのためとなればあおいは自分の願いと同じように行動できる。あかねだってそれくらい解ってるでしょ」

 

 

あかね「そんな都合のいいこと考えらんないよ・・・」

 

 

ひまわり「自信もってよ。あかねは私達の為ならなんだってしてくれたでしょ?それに負けないくらいの気持ちは私達にもある。少なくとも私とわかばとはドッキングしてるんだしそれくらい解ってくれない?」

 

 

あかね「うん」

 

 

 

ドッキングは2人の人間の魂が完全に1つに混ざり合う。相手と自分の境界線がなくなり、あらゆる隠し事も思い出もまるで自分にもののように心のスペースに残り続けるのだ。わかばもひまわりも、そしてあかねもそれを臆さず受け入れた

 

 

あおいは初めてのことにほんの少し怖がっただけだ。なにも思い悩む程のことはないじゃないか、と続けようとしてひまわりははたと気付いた。ドッキングを拒否するという行為は確かにあおいの心の問題だとひまわりは思っていた

 

 

少し冷酷な考えかもしれないが、あかねが気にすることではないと励まそうとする彼女なりの気遣いがもたらした結論ではある。しかし、これは誰が悪いとかそういう話ではない

 

 

 

あかねが何を悲しんでいるのかを、その悲しみを癒すのはここで自分がなにかを論じることではないことにひまわりは気付いた

 

 

 

 

 

あかね「誰にだって知られたくないことくらいあると思う。どれだけ仲が良くたって、自分の中身を全部知られたくないって思うことはなにもおかしくないって・・・解ってるつもりなのに」

 

 

 

あかねの頬を大粒の涙が転がっていった。それを皮切りにどんどん溢れてくる感情をあかねは抑えようともしなかった

 

 

 

あかね「でも・・・あおいちゃんならって・・・あおいちゃんにあんな顔、されたくなかった・・・!」

 

 

 

芳佳とひまわりはしばらくの間何も言わなかった。いつも笑っているあかねが悲しみの声を上げるのを聴いて2人も得も言われぬ感情が高ぶるのを感じていた。あかねにもたれかかるように身体を密着させて、背中と頭をぽんぽんと優しくさすって彼女が落ち着けるように静かに寄り添う

 

 

 

宮藤「・・・あおいちゃんの気持ち、あかねちゃんは全部ちゃんと聞いたわけじゃないんでしょ?」

 

 

あかね「うん。」

 

 

宮藤「ちゃんと話し合わなきゃダメだよ。こういうのって、悪い方に考えすぎちゃうものだから。」

 

 

あかね「うん・・・そうだよね。うん、そうしなきゃだよね!」

 

 

ぐしぐしと涙をぬぐって、あかねはへにゃっと笑った

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

 

あおい「誰だってあかねちゃんを好きになるのは当然なのに。私がそれを独占したいなんて思うのはおかしいし、そんな醜い私を見て欲しくない・・・!知られたくないんだもん!私、あかねちゃんが好きで・・・憧れてて・・・!あかねちゃんの横に立てるだけで十分だってホントにそう思ってたのに!」

 

 

 

わかば「わかってるわよ。だいじょうぶ。」

 

 

 

わんわんと泣きじゃくるあおいを田んぼから助け起こして、髪に絡まった泥と草を手で払ってやりながらわかばは優しい口調でなだめるように微笑んだ。嫉妬の感情は誰にだってある。わかばだって、憧れと好意の感情だけであかねと付き合えている訳ではない。喧嘩に負けたことは結構根に持っているし、彼女の戦闘センスや明るい人柄を羨む心もある。あと食事の度にマヨネーズをトッピングしようとするのもやめて欲しかった

 

 

 

 

わかば「人付き合いって、まあ、そんなものなのよ。ペリーヌを見なさいなあおい。あんなツンな態度を隠そうともしないけれど、芳佳やリーネと仲良くやってる。」

 

 

ペリーヌ「悪い例として紹介するのはやめてくださらない?」

 

 

わかば「照れてる照れてる。・・・おっと、電撃はやめてちょうだい。要するにあおい、あなたは自分の中の醜い感情を許せないのでしょう。でも、私だってあかねは受け入れてくれたわ。あなたも気にすることじゃない」

 

 

あおい「わかばちゃん達みたいにきっと好きにはなってもらえないんだ!」

 

 

わかば「そんなことを怖がってる暇があるなら、さっさとあかねとぎゅっとしてちゅっとして解決しなさい!私なんていきなり喧嘩ふっかけた上、友達面してるのにそれでも仲良くしてくれるんだから!!」

 

 

あおい「自覚あったんですね・・・」

 

 

わかば「そこは『そんなことないですよ』ってフォローしてくれる流れではないの?なんでそんな目で見てくるの?やっぱりあれよね。私が先にドッキングやったこと、かなり根にもってたのよね?」

 

 

ペリーヌ「あおいさん。お友達だからって、なにもかもをにこにこ笑顔で肯定するのが正しいお付き合いという訳ではありません。他人の全てを受け入れるというのは決して楽しいばかりのことではありません。だからこそ深い絆がなければ成立しないことなのですわ」

 

 

あおい「ペリーヌさん・・・」

 

 

ペリーヌ「宮藤さんだって、ああ見えてわたくしや先輩方相手でも噛みつく時は噛みついてきますもの」

 

 

あおい「仲良しさんなんですね。いっつも喧嘩してるふうに見えるのに」

 

 

ペリーヌ「・・・まぁ。気にくわないところはありますけれど、ご友人ではありますわね。少なくともこうして異世界まで助けに来るぐらいには」

 

 

 

 

指先でくるくるっと髪の毛をいじりながら、彼女らしからぬ柔らかい表情ではにかみながらそう言った。ここに他のウィッチがいないからこそ零した言葉ではあるだろうが、まごうことなき彼女の本心だった

 

 

ペリーヌにとって宮藤芳佳がどういう存在なのか、あおいにはいまいちよくわからなかった。いつも喧嘩腰だし、小馬鹿にしたような態度を常にとって芳佳を怒らせている。それでも2人はいつも楽しそうに見えた。そういう形の友情が成立していることが今のペリーヌを見てようやく理解できた

 

 

 

ペリーヌ「あかねさんは本当にいい子ですわ。宮藤さんもですけど、誰かのためなら小さいことでも本気になれる人です。あおいさん、あなたが傷ついているのと同じくらい、きっとあの子も傷ついていますわ」

 

 

あおい「はい・・・!知ってるのに・・・わたし・・・!あかねちゃんと話さなきゃ!」

 

 

涙を流しながらもあおいは立ち上がった。もう病弱な彼女はいない。例え心が折れて地に倒れても、再び自分の足だけで立つことができる

 

 

わかばとあおいは泥だらけの田んぼからあぜ道に上がろうとして気付いてしまった。道の上でなんか満足気に微笑んでいる金髪美少女は全く泥にまみれていない

 

 

わかば「ねえあおい。一つ提案があるのだけれど」

 

 

あおい「うん、わかばちゃん。私もちょっと思った。」

 

 

ペリーヌ「なんですのお二人共、そんな目で・・・私を見て・・・ちょっと!!」

 

 

もう逃げることはできない。ペリーヌの両腕はいたずら心を目に宿した二人にがっちりと掴まれていた

 

 

 

わかば「さっきは私達の暴走を止めてくれてありがありがとう。そこでペリーヌ。私達と友情を深めるために__」

 

 

あおい「一緒に泥んこになりましょう!電撃痛かったです!!」

 

 

ペリーヌ「おやめなさい!!!ほんとにだめですわ!!!!!あああああああ!!!」

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

家の前で、あかねとあおいはばったりと出会った。どちらも泣きはらして目元は晴れ上がっていたし、あおいに至っては泥だらけだった。しかし一度目が合った二人はそれを逸らすこともなにかを聞くこともなく互いに歩み寄り真っすぐ向かい合った

 

 

 

「ごめんなさい!!」」

 

 

思いっきり同じタイミングで頭を下げ、思いっきり頭をぶつけた。

 

 

 

あおい「あの、私その・・・あかねちゃんに知られたくなかったの。あかねちゃんのことはほんとに大好きなんだけど・・・その、わかばちゃんとかひまわりちゃんより私のことを友達だと思って欲しいみたいなのがあって・・・。私嫉妬深いみたいだし!」

 

 

あかね「うん。わたしもごめん。あおいちゃんはずっと私のために戦ってくれてたのに。不安にさせちゃった。」

 

 

あおい「隠してることがあるの。トマトのこととか、色々・・・」

 

 

あかね「トマト?なに?」

 

 

おあい「あかねちゃん、私が寝たきりだった時にお家で採れたお野菜を差し入れしてくれることあったでしょ?私、トマトが苦手だったからほんとは持ってきてほしくなかった。でもあかねちゃんが持ってきてくれたからって無理やり食べてたの。」

 

 

あかね「えー!言ってくれたらよかったじゃん。」

 

 

あおい「うん。そうしたらよかった。でも言えなくて・・・。あかねちゃんの嬉しそうな顔を裏切るのは嫌だったし、あかねちゃんが来てくれなくなったらまたひとりぼっちになっちゃうから。あ!でも今は食べられるんだよ!」

 

 

あかね「ええっと、なら、よかったってことなのかな?」

 

 

あおい「うん。そういうことも言うべきだったのかなって。隠し事をしたせいであかねちゃんを傷つけちゃったもん」

 

 

あかね「あー。実はさ、私も隠してることあって」

 

 

あおい「うん!なんでも言って!」

 

 

あかね「その、あおいちゃんの髪って、キレイでしょ?わたしも、そんな風になりたいなって」

 

 

彼女らしからぬもじもじとした様子で、しかし目を逸らさず乙女な悩みを暴露してくるあかねがあまりにも可愛らしくてあおいは自分の心を抑えきれず力いっぱい抱き着いた

 

 

あかね「へんじゃない?」

 

 

あおい「へんじゃないけど・・・じゃあまず、マヨネーズの食べ過ぎをやめないとだね。」

 

 

あかね「えーそれ以外で!」

 

 

あおいの温かさが伝わってきて心底安心したあかねの顔から、やっと固さが抜けた。今2人の頬を濡らしている涙は悲しみによるものではない。それは2人の底抜けに明るい笑顔を見れば容易に解ることだ

 

 

両者の後方からそれぞれ見守っていたわかば達は、どうやらうまく仲直りが果たされたのを見てほっと胸を撫でおろすと、抱き合っている2人を横目に集まった

 

 

わかば「上手くやったみたいね。ひまわりはこういうのに鈍いと思っていたけど」

 

 

ひまわり「そっちの2人こそ、人の心が解らなそうなキャラしてくるせに」

 

 

ペリーヌ「なんですって?」

 

 

わかば「あなたも田んぼに投げ込んじゃうわよ!」

 

 

宮藤「そっちで何があったんですか・・・?」

 

 

ひまわり「じょうだんじょうだん。うわっ!?」

 

 

感極まったあかねとあおいがこちらに抱き着いてくる。しばらく輪になって大声で騒いでいた6人だったが、あかねとあおいの問題を解決できた喜びで頭がいっぱいであり当然今が何時なのかなどすっかり忘れていた。

 

 

いつまでも帰ってこない6人を心配していたももがバカ騒ぎを聞きつけて家から飛び出してきたのを見てあかねの表情が固まる。それを見て何事かと顔をそちらへ向けた他の面子も思わず口をつぐむ

 

 

 

もも「なにやってるの?」

 

 

あかね「やー、あの。みんなで盛り上がってたっていうか」

 

 

もも「なにを、やってたの!?」

 

 

宮藤「も、ももちゃん落ち着いて!これには深く切ない涙なしには語れない事情があってね!そうですよねペリーヌさん!」

 

 

ペリーヌ「え!?そ、そうですわ。ですから怒らないで聞いて・・・」

 

 

 

 

もも「なんでみなさん泥んこなんですか!?もうっ!!!お姉ちゃんもあおいちゃんも変な感じだったから心配してたのに!ああもうっ!!ペリーヌさんやわかばさんがいてなんでこうなるんですか!?ご飯の前にさっさとお風呂はいってきてくださーい!!」

 

 

 

「「「ごめんなさーい!!!」」」

 

 

 

すっかりお母さん的な立ち位置が板についたももに追い回され、6人は泥を落とすために揃って縁側へと走る

 

 

あおい「ねえねえ。あかねちゃん」

 

 

最後尾を走るあおいは、前のみんなが誰もこちらを向いていないことを確認すると声を潜めて隣を走るあかねの名を呼んだ

 

 

あかね「ん?どし___」

 

 

あおい「んっ___」

 

 

 

振り向いたあかねの視界を青く長い髪が覆い隠してしまう。戸惑うあかねの右の頬に柔らかく湿ったものが当たる感触がした。熱を帯びた息が耳を撫で、ゾクゾクっと痺れるような快感をあかねに残していく。少し離されたあおいの顔は耳まで真っ赤に染まっている。一瞬何がなんだかわからず呆けてしまったが、事態が呑み込めたあかねは自分の顔もどんどん熱くなっていくのを感じた

 

 

あかね「あお、あおいちゃ!?」

 

 

 

あおい「ふふっ。ちゃんと言っとかないとだめだってわかばちゃんに言われたから!」

 

 

 

 

 

「___大好きっ!」

 

 

 

 

ずっと憧れていた誰かさんのような見る者の心を明るく照らしてくれる笑顔を浮かべて、二葉あおいは初めて会った時から抱き続けていた思いを告げた

 

 

 

 

 




なんで唇にちゅーじゃないのかって?ぼくにもわかりません。あおいちゃんに聞いてください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 あおい「秘密のお茶会」

あおい「というわけで。秘密の暴露会を始めます!」

 

ルッキーニ「わーい!!」

 

宮藤「あのぉ、私達もいないとだめかな?」

 

あおい「苦しみは群れで分け合えって有名なアニメで聞いたことあるんです。」

 

リーネ「苦しいと解ってることならやめにしたほうが・・・」

 

 

わかば「あおい変な方向に吹っ切れちゃったわね。恐ろしいわ」

 

 

ペリーヌ「あら、随分嬉しそうに見えますが?」

 

 

わかば「また1人強大なライバルが誕生したことに喜びを禁じ得ないのよ」

 

 

 

お風呂から上がったビビッドチームの面々は寝室に並べられた布団の上で輪になって集まっていた。あおいの提案で、チームの親睦を深めるためのお楽しみ会を開こうという流れになったのだ。お楽しみといっても、みんなが普段言いにくい隠し事をなにか一つ話してみようという少しスリリングな議題を設定されているのだが

 

 

シャーリー「私達もここに居ていいのかい?」

 

わかば「あなた方も既に仲間だと思っているのですが、違いましたか?」

 

シャーリー「OK。とっておきの話を考えるよ」

 

 

 

もも「皆さんお菓子食べるなら新聞紙の上で食べてくださいね。食べカスが畳に落ちると掃除が大変ですから」

 

 

 

本来こんな時間のお菓子などももが許すことはないのだが(たまに彼女も誘惑に勝てない時があるが)、お客さんをもてなすのが趣味になりつつあるももはとっておきのイチオシお菓子とジュースを棚から引っ張りだして部屋の中央に並べていた。

 

 

 

あかねがその中の一つを手に掴み、そして当たり前のようにジャージのポケットからマヨネーズのビンを取り出して真剣な表情で厳かに語り始めた

 

 

 

 

あかね「じゃあ私から暴露するね。実は・・・寝る前に食べるお菓子が最高に好きなんだ!見ててね、ポテトチップスのコンソメパンチにマヨネーズをごってごてにかけて食べるとコクが___」

 

もも「没収!!誰か没収してください!!!」

 

宮藤「流石にこの時間帯にその量のマヨネーズはだめだよ!」

 

リーネ「あかねちゃんごめんなさいっ!」

 

 

周囲から一斉に掴みかかられてしまっては一色あかねといえど抵抗のしようがない。彼女は哀れにも両手にもった至高の一品を口にすることはできなかった

 

 

 

あかね「勇気をもって暴露したのにこんなの酷いよぉ!」

 

わかば「それ暴露にならないでしょ・・・。もうあかねはいいんじゃない?どうせこんなのしか出てこないでしょうし」

 

あかね「ひどいよぉ・・・」

 

 

心を折られたあかねはぐでーんとあおいの足の上に身体を投げ出してめそめそと泣き始めた。あおいは突然の事態にどぎまぎしつつも、あかねの髪を撫でながら深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着かせ再び話の輪に混ざった

 

 

ルッキーニ「あおい鼻血出てる。」

 

あおい「気にしないでください。持病です」

 

ひまわり「じゃあ次私がやる。先にやらないとスベるかもだし」

 

 

枕を胸に抱きかかえていたひまわりが軽い感じで手を挙げてみんなの視線を集めた

 

 

 

エイラ「一番ウケたやつが勝ちとかそういう話じゃなかっただろ?」

 

ひまわり「せっかくだしみんなの印象に残るような話をしようと思って。私がいじめられた時の話なんだけど」

 

 

 

場の空気が完全に凍った。確かに言いにくいことを言おうとはいったが、あおいはみんなに「自分を傷つけてしまうようなことは言わないでおこう」と再三言ってこの会を開いていた。ひまわりはそんな空気に変わってしまったのを見ても全く気にしない様子でにやっと笑って平気で話を再開した

 

 

 

ひまわり「最初にいっとくけど、これは私が自分を楽にするために話すんだ。笑いながら聞いてくれると嬉しいんだけど」

 

エイラ「ムチャ言うな・・・」

 

 

ひまわり「まあそうだよね。みんな優しいし。・・・まあ、色々あったんだ。別に囲んでぼっこぼこにされたりはしてないよ?精々無視されたり、物を隠されたりみたいな程度だったし。その時の担任の先生がすぐ気づいて対処してくれたから長くはやられなかったし」

 

 

 

しかし、そのほんの短い期間はひまわりから人への信頼を根こそぎ奪っていくには十分すぎる程の絶望を与えたのだ

 

 

 

四宮ひまわりは幼くして頭が冴えた。特にインターネットやプログラムにまつわることは興味津々で、小学校の勉強よりよっぽどのめり込んでいた。そんな彼女の腕を学校の友人たちは尊敬していたし、だからこそひまわりの友人達は彼女にとあるお願いをしたのだ

 

 

 

ひまわり「当時流行ってたSNSでうちの学校の生徒が集まるグループがあったんだけど、そこで匿名投稿機能を使っての名指しの悪口が絶えなくて。私の友達も被害にあってたんだ。で、誰がやってるのかを特定して欲しいって言われた私は正義感に燃えて・・・〈それ〉を達成したんだ。」

 

 

 

 

匿名機能にハッキングをかけ、そのSNS上のどのアカウントが書き込んだのかを全員に見えるようにしたのだ。その結果、犯人を特定することができた

 

 

 

ひまわり「一部じゃない。学校のほとんど全員だよ。今になれば当たり前だと思えるんだけど、匿名となれば周りの悪意に簡単に飲まれちゃう。リアルだと人に優しく接してくれる子も、あそこじゃ他人を罵る天才になってたよ」

 

 

 

翌日の教室は悲惨だった。自業自得の仲違いがあちらこちらで勃発していた。醜いクラスメイト達のケンカにうんざりしていたひまわりに最後にトドメを刺したのは、彼女に依頼してきた女の子達の態度だった

 

 

自分達まで悪者側であると暴かれた彼女達は、あろうことかひまわりが全員の匿名機能をオフにした事をクラスの全員に告発したのだ。罪悪感の行き場を求めていた幼いクラスメイト達はそのどす黒い感情を何もかもひまわりに押し付けた

 

 

 

ひまわりの心を真っ黒な失望に染めたその事件からもう何年も経っていた。〈友達〉というものに一度は見切りをつけたひまわりは、今自分の顔を見つめてくれている人達をゆっくりと見渡した

 

 

 

ひまわり「人には裏がある。だから信じるなんてことはするべきじゃないなんて捻くれたこともあるけど・・・。友達のことなら、それでも受け入れてあげたいって思うんだ。今はね」

 

 

 

ひまわりは暴露会をいい機会だと思っている。一色あかねは裏のない子だった。裏なんてものを隠せるほど器用な子ではないことはドッキングをしなくてもなんとなく理解できたことだ。しかしもしわかばやあおい、芳佳達に何か裏があったとしても、ひまわりはそれを受け入れた上で仲良くしたいと考えていたのだ

 

 

 

全てを話し終えたひまわりの手が少し震えていたのに気づいたわかばは、自分の手を伸ばしてひまわりの片方の手をぎゅっと握りしめた。そして恥ずかしがったひまわりがわめいているのを無視して自分の小さな秘密を語りだした

 

 

 

わかば「私の暴露をするわ。大したことじゃない。最近、初めて自分のお小遣いでファッション雑誌を買ってみた。自分じゃトレーニングウェアと制服と剣道着くらいしか着ないけど、どうにも他人に可愛い服を着せたりするのが好きみたいなの。最近気づいたことだけど」

 

 

そっけなく淡々と話す彼女だが珍しく頬を赤くしていた。三枝わかばはずっとそういうものに無頓着な女の子だったのだが、あかねと出会うことである意味ふっきれたわかばは自分がこれまで見てこなかった世界に目を向け、新たな境地に至ろうとしていたのだがその結果小さいながらも趣味のようなものを見つけてた

 

 

 

ひまわり「この前私に無理やりワンピースを着せたのもそれなの?」

 

わかば「磨けば光るのにそうしない人を見ていると私の心がざわめいてしょうがないわ。次はあかねとももちゃんがターゲットね」

 

あかね「次!次の人おねがいしまーす!」

 

わかば「絶対にあなたにスカートを履かせてみせるわ。あかね」

 

 

あおい「私いいですか!?実はあかねちゃんのことが好きなんです!!!!!!!」

 

ひまわり「知ってるけど」

 

リーネ「それ知らない人いるんですか?」

 

シャーリー「半日も見てればわかるよ」

 

エイラ「相性占いしてほしかったら金払ってくれよナ」

 

あおい「軽く流さないでください!?」

 

あかね「///」

 

ペリーヌ「あかねさんを羞恥心でノックアウトなさるおつもりですか?そういうのは2人きりの時にしてくださいまし。はいはい次次。」

 

 

 

 

きゃいきゃいと黄色い声が飛び交う夜のお茶会は熱を増し、初夏の夜は更けていく。各自が悩みだったり趣味だったりを語っていく。それはどれもこれも話し手自身にとっては重大なものであっても聞き手にとっては笑い話で終わってしまうようなものがほとんどだったが、話終わったものは皆すっきりした面持ちであった

 

 

 

ペリーヌが最近紅茶だけでなくコーヒーにも興味を持っている、という正直リアクションに困る内容を暴露し(シャーリーは新たなコーヒー党の仲間が見つかったことを小躍りする程喜んでいた)、ようやく最後の1人である宮藤芳佳の番になった

 

 

 

宮藤「暴露、といいますか・・・。この前の事で思い出したんです。私がこの世界に来てしまうことになった記憶の話です」

 

エイラ「この流れでそんな重い話するのか?よせよ、もっと軽い話にしたほうがいいって。501のおっぱいランキングをノートにしたためてることとか話せよ」

 

宮藤「なんで知っ・・・!!げふん、私はそんなことしてません!撤回してくださいエイラさん!!」

 

エイラ「オマエの部屋の机の引き出し。一番下の段の奥に入ってる鍵つきの箱。」

 

宮藤「エイラさん。後でなにか食べたいものなんでもお作りしますからとりあえず黙っててもらえませんか?」

 

リーネ「・・・」

 

宮藤「リーネちゃん違うの!ほんとなんでもないの!!」

 

ペリーヌ「ああもういいからさっさと話しなさいな!結構大事なことなんですのよ!」

 

宮藤「すいません。ええっと、ランキングの選考基準についてでしたっけ?私は決して大きさだけが全てだと思っている訳ではありません。サイズでランキングを作るなら、誰がやったって同じ結果になるでしょう。だからとっても難しく、やりがいのある___」

 

ペリーヌ「トネール」バチバチッ

 

宮藤「冗談です!!はい!!ちゃんと私の話をしますから!!」

 

 

 

姿勢を正して、芳佳はゆっくりと記憶を辿り始めた。それは自分がここに来ることになったきっかけの話。

 

 

 

宮藤「私の世界に現れた人型ネウロイ。あの子と意志の疎通ができると確信した私は邪魔をする501の警備の人を片っ端から大人しくさせてストライカーで勝手に出撃したんですけど・・・」

 

 

わかば「ちょっと待って。もしかしてかなりヤバイことじゃないのこれ?」

 

 

ペリーヌ「1から10まで命令違反ですわ。ぶっちゃけ元の世界に戻ってからも本当に大変だと思いますわ」

 

 

 

 

 

人型ネウロイ、と呼称されるのは宮藤の世界で出現したイレギュラーな存在である。その時々で様々な形態をとるネウロイだったが、歴史上初めて人間と同サイズ同形態のネウロイが観測された

 

 

それは攻撃的な姿勢をとることもなく、迎撃にやってきたウィッチ達をあっさり翻弄するとそのままどこかへ飛び去った

 

 

 

宮藤「そうです。私はあの子にただならぬ気配を感じたんです。夜、あのネウロイに呼ばれたかのような気配を感じた私はストライカーを起動して基地を飛び出しました」

 

 

 

宮藤芳佳の奥底にあるお人よしと正義感を刺激する直感。それにスイッチが入った彼女を止められるものはいない。あらゆる鍵付きの扉を蹴り飛ばし、止めようとする整備兵に強烈な一撃を加えて勝手に出撃した彼女は確かに黒い身体を持つ彼女と対面を果たしていた

 

 

黒い能面のような人型ネウロイの表情から情報を読み取ることはどんなメンタリストだって難しいだろう。しかし、芳佳を待っていたネウロイに連れられ飛び込んだ雲の中で向かい合った時、なにかを自分に伝えたようとしていることが芳佳にはわかった

 

 

しかしそれがどういうものかを理解できる一歩手前で何かに首根っこを掴まれて異次元へのワープホールへ放り込まれたのだ

 

 

宮藤「つまりあの時、あの子以外にもう1人・・・。何かがいたんです。私の邪魔をする何かが」

 

 

 

その時の事を思い出したのか首をさすりながら芳佳は話終えた。その後はまあよく解っていない。気が付いたら海辺でれいと揃って寝転がって砂にまみれていた。ストライカーユニットはどこかでおっことしてきたのだろう

 

 

エイラ「なんだ、結局何もわからないままか?」

 

シャーリー「そうでもないさ。そのれいって子に話を聞こう。芳佳と同じように別次元から来た可能性があるだろ?」

 

ペリーヌ「彼女も記憶喪失ですわ。それに今は自分のご親族の方が見つかったようですし、こちらの世界の住人なのではないでしょうか。それはそれとして記憶が戻ったら事情を聞こうとは思っていますが。」

 

シャーリー「ああ、手詰まりだな」

 

エイラ「あとは私の占い頼りか?」

 

ルッキーニ「それはないでしょw」

 

エイラ「試しに占ってやろうかルッキーニ。今からお前は私に布団でぐるぐる巻きにされて廊下に放り出されるんだ!」

 

ルッキーニ「うぇーい怒ったー!!」

 

 

 

 

それからもしばらく話し込んでいたが、そろそろ日付が変わる時間になりそうな事に気付いたシャーリーが手を叩いて宴の終わりを宣言した

 

 

 

 

 

 




どんどんペースが上がってきた気がしないか?このままだと1日に何話も投稿できちゃいそうだ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 「月下の機械塔」

「ふんふん・・・ふふーん・・・」

 

 

 

心地よい夜風が頬を撫でる。気分を良くした少女は腰に付けたガジェットの調子を点検しながら思わず鼻歌を口ずさんだ

 

 

 

「なぜ歌っているのです?」

 

 

風流の欠片も無い、合成音声のような不快な音。鼻歌を止めると目の前の柵に止まったカラスをじろりと睨んだ

 

 

「・・・気分よ。人間にはそうしたくなる時がある。いちいち聞かないとわからない程のことかしら?」

 

 

 

邪魔をされた少女は不機嫌な態度を隠そうともせずトゲトゲした口調で返事をするが、質問者である黒き鳥は淡々とした喋り方に変化なく言葉を続ける

 

 

 

「人間はこういう時、緊張や恐怖の感情が強くなる傾向にあります。そのような楽観的にも見て取れるような所作はデータから見れば違和感があります」

 

 

「じゃああなたのデータが出来損ないか私が人間じゃないか、どちらかということね。あるいは__」

 

 

 

口をつぐんで肩をすくめると、少し楽しそうな声で続けた

 

 

 

「あるいはその両方かも」

 

 

 

自虐的に微笑むが、すぐに冷たい氷のような無表情へと戻る。眼下に広がっているのは夜でも明るい光を絶やさず稼働を続ける示現エンジンの周辺施設の数々だ

 

 

その少女は相も変わらず高い建物の屋上に立ち、暑苦しいマフラーを首に巻いて全身に風を浴びながら凛と立っていた。以前と違い、その身には黒いハイネックのボディースーツを纏って闇に溶け込み動くための恰好をしている

 

 

 

 

「手を貸してくれる訳でもないならさっさと消えてくれない?」

 

 

「観測者としての立場があります。ここで見せてもらいますよ」

 

 

「鳥なのに夜目が効くのね。なら最後まで口を挟まないようにだけ気を付けて。集中が乱れるから」

 

 

 

 

ためらうことなく彼女はその場から宙へ身を投げた。自由落下の速度が徐々に上がるのに身を任せ一気に地面との距離を詰める。ある程度速度が付くと身を翻して腰に付けた射出装置から前方にワイヤーを発射し、張り出した階段の手すりに引っ掛け振り子のように空中を移動し別の建物へ飛び移る

 

 

 

眼下には銃を持った重装備の兵士達の姿もちらほら見えるが、身を小さく丸めながら移動する彼女は大きな風切り音を出すこともなく違和感を与えることなく移動することに成功していた

 

 

 

 

そんな移動を何度か繰り返して彼女は進んでいく。月明かりを遮り空にそびえる示現エンジン。それこそが彼女の今夜の散歩の目的地であった

 

 

 

 

 

「そうです、イレギュラー。破壊するのです。あなた達はそれしかできないのですから。せめてその僅かな存在価値をここで見せてみるのです。さすれば___きっと家にも帰れるでしょう」

 

 

 

 

誰に聞かせるでもなく放たれた声が闇に溶けていった。既に建物の陰に隠れてしまいここからでは見えないはずの少女の姿も、ガラスめいて鈍く光る眼にはありありと映し出されていた。観測者としての役割を果たすため、カラスは物言わぬ像のように不動の姿勢でただそこに在り続けた

 

 




次回からは新章です。次の章かその次の章くらいで完結するんじゃないかな?くらいの気持ちで書いてます。まあ全然わかんないですね・・・(見切り発車マン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章 ―黒い剣・赤い翼―
第38話 あかね「波打ち際の落としもの」


あかね「ふわぁ・・・あ~あ」

 

 

宮藤「眠そうなあかねちゃんってなんか珍しいね」

 

 

あかね「そりゃ今日は眠いよ。早起きっていうより寝不足だもん」

 

 

 

太陽が水平線から顔を出して間もない早朝、あかねと芳佳は海辺の散歩道をのんびりと歩いていた。

 

 

 

一色あかねは朝に強い。昼も強いし、夜も強い。基本的にいつも元気な女の子だ。ビビッドレッドとして無茶をやらかした時は別であるが

 

 

 

あかねが毎日やっていた日課の新聞配達も今では週に3回に減っていた。本当は毎日やりたいのだが、環境が変わったのだから無理はしないようにという文の言い分に押し負けてしまったからだ。そんな早起き必須のアルバイトが有ろうと無かろうと、根っからの早起き気質である一色あかねにとって日の出と同時に目を覚ますのは本来苦ではない事だ。

 

 

宮藤芳佳も早起きは得意だ。朝食の支度は彼女が部隊に居た頃の日課だったし、新入りである彼女は朝早くの訓練に駆り出されることも多々あったし慣れっこではあった

 

 

 

しかしその二人が眠そうな顔付でふらふらしているのは昨夜の騒動が原因であった

 

 

 

______________________

 

 

 

健次郎「起きろあかね!おきんか!」

 

 

あかね「ふえへぇ!なになに!?サンタさん!?」

 

 

健次郎「まだ夏にもなっとらんわ!いいから起きんか!みなを起こすのを手伝ってくれ!」

 

 

 

ぬいぐるみのやわらかい手でほっぺを叩かれた小さい衝撃で飛び起きた。辺りはまだ真っ暗で、壁にかかった時計はよく見えないがどう考えても深夜だ

 

 

 

あかね「今日も学校なのにぃ・・・。どしたってのおじいちゃん。」

 

 

タオルケットを体に巻き付けて寝ぼけ眼をこすりながら布団から這い出した。傍で寝ていたわかばの足を軽く蹴っ飛ばし、芳佳の脇腹を突っついた

 

 

わかば「敵ね!!!?斬るわよ!!!!」

 

 

宮藤「治療ですか!?」

 

 

あかね「ほんと寝起きがいいよね2人とも。助かるよ」

 

 

宮藤「いつだって人助けに全力だよ。夢の中だろうとね」

 

 

わかば「あかねのお呼びとあらば死んでたって飛び起きるわよ。それで何?」

 

 

あかね「わかんない。」

 

 

わかば「そりゃないわよ。とりあえず皆起こせばいいのね?」

 

 

あかね「うん。なんかあったみたい」

 

 

 

手分けして皆を起こす。健次郎は神妙な面持ちで居間に展開されたモニターを指差し話し出した

 

 

健次郎「つい先程ブルーアイランド防衛軍から連絡があった。示現エンジン周辺に侵入者ありとの報告じゃ」

 

 

シャーリー「私達が起こされるってことは、ヤバイ案件ですか?」

 

 

健次郎「今後の展開次第では出撃してもらう必要もあるじゃろうな。現時点では敵の規模も目的も把握できとらんので待機命令のみで収まってはいるがの。」

 

 

わかば「とりあえず討って出るのは?」

 

 

ペリーヌ「わたくし達は対アローンの秘密兵器です。もしこれが他国とのいざこざなのであれば顔を出すのは不味いですわ。」

 

 

 

ビビッドチームの存在は、ブルーアイランド管理局と政府が全力で隠蔽している。この世界では示現エネルギーの軍事転用は自粛されているのだ。侵略者であるアローン相手ならまだしも、もしこれが他国の勢力の攻撃であった場合あかね達がその力を振るうのは非常に不味い

 

 

 

ルッキーニ「じゃ、あたし達は寝ててもよかったんじゃないのー?」

 

 

健次郎「そうとも言えないルッキーニくん。示現エンジンに侵入するのは深夜の牛丼屋に強盗に入るのと訳が違うのじゃ」

 

 

 

健次郎は不謹慎なジョークを言ってしまうくらいには焦っていた。ここ数年、示現エンジンの周辺に侵入を許したことはない。それは偶然の産物ではなく、防衛軍と管理局、そしてこの国の政府各局の努力あってこそ守られてきた平和だ

 

 

 

世界各地には示現エンジンを狙う勢力は僅かながらも存在している。世界情勢を左右するエンジンの制御権を狙って武装組織がブルーアイランドを狙って攻撃を仕掛けてきた事案は過去に何度も起きたが、防衛軍はそれらを全て撃退してきた。

 

 

その防衛ラインを破ることが出来る存在がいかほどの脅威であるかなど言うまでもなく、実際パニックになったであろう管理局長と防衛軍長官から怒涛の勢いでメッセージが送られてきたのだが健次郎はそのあまりの分量に途中で返信を諦めた

 

 

 

健次郎「今はアローンの件もある。常に厳戒態勢の警備が敷かれており、ブルーアイランドに外から近づくことは容易ではない」

 

 

ひまわり「もとから島にいた人達の中にテロった人がいるってことですか?博士。」

 

 

健次郎「もしくは、アローンのように別次元から突然侵入してきたか、じゃ。侵入者と言っても人間かどうかは限らんからの」

 

 

その場合は出撃することになるだろうということでウィッチ達は格納庫で、ビビット戦士達とストライカーのない芳佳は縁側に座っていつでも飛び出せるようそれぞれ事態が収束するまで待機を行った

 

 

 

そして明け方頃、ずっと神経を張り詰めていた彼女達は防衛軍から状況終了の連絡が来たことでやっと待機を辞めて布団に戻ることができたのだ

 

 

もも「おはよー。なんか夜中騒いでた?よく眠れなかったよー。」

 

 

朝の準備をしに起きて来たももと鉢合わせてやっとみんな思い出した。今日は学校がある日だった。再び布団に戻ると絶対に起きれないだろうし、そのまま起きておこうという流れになった。ちなみに学校に行くわけでもないので寝ようとしていたシャーリー、エイラ、ルッキーニの3人も学生達に道連れにされ二度寝は叶わなかった

 

 

 

そんなこんなで昨日の戦いの疲れも癒えぬまま朝ごはんができるまでの時間潰しに散歩に出たあかねと芳佳は寝落ちしないようにくだらない雑談をしながら海辺の道を歩いていた

 

 

 

あかね「なんか懐かしいなぁ。芳佳ちゃんとれいちゃんを見つけたのもこんな感じだったよ」

 

 

宮藤「そうなんだ?」

 

 

あかね「そだよ。あの時もこんな風にすっごく疲れてて、海を見てすっきりしよーって思いながら散歩してたんだ」

 

 

 

その時の光景を懐かしむようにそう言って、朝日を受けてキラキラと輝く海を見やる。丁度東の空から1羽の海鳥が甲高い鳴き声を上げながらこちらへ飛んできており、それが砂浜へゆっくりと降りていく様子を目で追いながらそういえばあの時もやけに鳥が多かったな、などとデジャヴな感覚を味わっていた

 

 

 

なんだか嫌な胸騒ぎがして、遊歩道から砂浜へ降りるための階段の方へ歩き出す。身を乗り出して目を凝らすと、波打ち際に海鳥たちが群れを成して何かを囲んでいた。

 

 

宮藤「私達もあんな感じだった・・・?」

 

 

あかね「う、うん。でもまさかね。ゴミか何かに群がってるだけだよきっと」

 

 

恐る恐るといった感じで2人はその群れに寄っていく。警戒心の強い海鳥達はこちらへ接近してくる二足歩行の存在を疎んじたのか喧しい鳴き声をわめき散らしながら空へ散っていく。後に残されたのは警戒心の鈍い何羽かの海鳥と、それに足蹴にされている1人の少女。服装こそダイバーのような黒いぴっちりスーツだったが、長い黒髪と首に巻かれたマフラーは馴染のものだ

 

 

あかね「れいちゃんじゃん!」

 

 

宮藤「ちょっ、大変!?」

 

 

疲れもなんのその、2人は脱兎の如く地を蹴り砂浜を駆け抜けて倒れ伏した黒騎れいの下へ走り寄った

 

 

 

あかね「れいちゃんれいちゃん!まだ海開きじゃないのに!」

 

 

うつ伏せの彼女をひっくり返して青白いほっぺたをぺちぺちと何度もたたくと、小さくうめき声をあげて反応を示す

 

 

宮藤「大きいケガはしてないみたい。息は・・・ある。けどかなり弱ってるね。」

 

 

あかね「家まで運ぶ!?」

 

 

宮藤「ううん、ここで治しちゃうよ!あかねちゃん少し離れて!」

 

 

 

芳佳の身体から魔力から溢れ出す。癒しの力を備えた青き光は使い手の意志に従って傷ついた少女の身体を優しく覆った。体のあちこちにあった小さな傷は瞬く間に塞がり、頬に赤みが戻ってきた。心配そうなあかねは芳佳の邪魔をしないようじっと静かに待つ。芳佳の額に浮かんだ汗が彼女のくせっ毛を伝いぽたりとれいの額に落ちると、それが目覚めの合図となったようにれいの眼がゆっくりと開いた

 

 

 

ほっと一息ついて汗を拭う芳佳と涙目でこちらの顔を間近で覗き込んでくるあかねを交互に見つめるれいは、いつものおっとりとした調子で呑気に話しかけてきた

 

 

れい「どうしたの2人とも。こんなところで」

 

 

 

「「こっちのセリフだよ!?」」

 

 

れい「うわ、びっくりするわね。」

 

 

「「それもこっちのセリフだよ!?」」

 

 

宮藤「ああもうとにかく目が覚めてよかったよ。れいちゃん何してたの?」

 

 

れい「何って・・・何でしょうね?私もよく解らないのだけれど。ここって大島?」

 

 

あかね「え、また記憶喪失なの!?れいちゃんもう海に入らない方がいいんじゃない?」

 

 

れい「悲しいこと言うわね。でもほら、二度あることは三度あるとも言うし仕方ないと思ってくれないかしら。」

 

 

あかね「嘘でしょもう一回記憶喪失する気だよこの子。」

 

 

宮藤「まあ少し休めば記憶も戻るかもしれないし。それはそうと、れいちゃんは前の記憶は戻ってきた?今は知り合いの人と一緒に住んでるんでしょ?何か解った?」

 

 

れい「___ええ。そうね。少し。」

 

 

 

にっこり微笑んでそう答えたれいだが、芳佳が問いかけた時一瞬氷のような冷たい表情を浮かべたのを2人は見逃さなかった。しかしそれについて質問するか逡巡している間にれいは立ち上がって身体に付着した砂を振り払って歩き出していた

 

 

れい「助けてくれてありがとう」

 

 

あかね「気にしないでいいよ!助けたのは芳佳ちゃんだけど!」

 

 

宮藤「あかねちゃんが気付いてくれなかったら見つけられなかったんだから私だけじゃないよ。れいちゃん、いつでも頼ってね。お友達なんだから」

 

 

れい「ええ。二度あることは何とやら、もう一回助けてもらうことになるかも」

 

 

 

そう言って立ち去ろうとしていたれいはしかして歩みを止め、こちらを振り向いた

 

 

 

れい「ねえあかね。芳佳。友達の頼みなら、どんなことでも助けてくれる?」

 

 

 

口元は柔らかく微笑んでおり、話口調こそ穏やかなものであったが彼女の眼からは鋭く突きさすような強い意志を感じた。なんの気無しの質問ではなく、本気の問いかけであった。それを察してかせずか、あかねと芳佳は間髪いれず強い口調で断言した

 

 

どんなことでも、助けに行く。

 

 

 

それを聞いてれいはふっと笑った。呆れたような、小馬鹿にしたような笑いではない。あかねと芳佳ならきっとそう言ってくれるだろうという安心と信頼が垣間見えるような朗らかな笑顔だった。先ほどの冷たさなど影も形もない、純粋な喜びの感情が見せる笑顔だ

 

 

彼女が何かに悩んでいるのは解っていた。話を聞きたかったし、追いかけたかった。だが立ち上がって強く歩き出した彼女の背中はそれを拒んでいたし、解ってしまう以上無理強いはできない。

 

 

 

れい「___ああ、あかね。足元に何か落ちてない?私、落としものをしたみたいで」

 

 

あかね「ん?えーっと・・・あ!鍵落ちてるよ!れいちゃんのお家のかな?」

 

 

 

金属製特有のきらめきを持つそれは砂浜に目を凝らせば容易に見つけることが出来た。大きさは手のひらで握ると少しはみ出すくらいのやや大きな物だ

 

 

 

れい「ああ、それそれ。ちょうだい?」

 

 

あかね「オッケー!投げるね!」

 

 

手を伸ばしてひっつかんだ瞬間、あかねの身体に弱い電流のようなものが走り思わず身震いした。すぐに治まったのでただの静電気か何かだろうと気にせずに鍵を握り直してれい目掛けて軽く放り投げた

 

 

 

 

目標を違う事無く美しい弧を描いて飛んだ鍵はれいが差し出した右手の中に納まった。れいは自らの手中に収まったそれをしばらく無表情で見つめた後、あかねとれいに手を振って今度こそ去っていった

 

 

 

 

 

 

 




あかね「クリスマス会したくない?」


わかば「今シリアスタイミングだから大人しくして。」


れい「ケーキもってきたわ。」


わかば「シリアス維持して!!!!!!」



クリスマスとかお正月の番外編ネタ書きたいんですけどね。完結優先します。あとすいません2019年中の完結無理そうです(しってた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 宮藤「平和に這いよる黒いモノ」

2020年もよろしくお願いいたします。今年中には完結いたします(今度こそ本当です。ウソじゃないです


わかば「流石に今日はくたびれたわね」

 

 

 

一色家の居間。眉に皺を寄せ、手で首を揉むわかばの声にも隠しきれない疲れがあった。早朝の騒動から学校へ行き、ようやく家に帰ってきて一息つくことができたのだから仕方がない。三枝わかばは優等生で通っていたし、武道家としての教えもあり学業に手を抜かないのも彼女の信条だったものだから当然授業中に寝るようなことはできない

 

 

同じくあおいやペリーヌ達も疲れた体に鞭打って真面目な態度を貫いていた反動で少し疲れ気味だ。ちなみに授業中爆睡していたひまわりは平気な顔をしている

 

 

 

 

シャーリー「ご苦労さん。夕飯まで少し寝てたらどうだ?」

 

 

わかば「いえ、それより朝の件について少しでも情報は出ましたか?気になって休んでなどいられません」

 

 

シャーリー「それならちょっと話そうか。昼間、私達3人は博士の付き添いで襲撃現場に行ってきたんだけど・・・」

 

 

_____________________________

 

 

柴条「警備員4名が軽傷。何れも麻酔銃のようなもので眠らされた際に転倒し少し擦りむいた程度です。人的損害はこれだけで済みましたが、警備ドローン15台、監視カメラ8基、追跡用の車両のタイヤに穴を空けられていたのも含めもろもろの備品に大きな損害が出ています。」

 

 

現場検証を行っている作業員達を遠巻きに見つめながら管理局局長柴条の現状報告を聞いているのは健次郎と居残り組であるウィッチ3人組。ルッキーニはつまらなそうだが、周りの慌ただしさと堅苦しさに気を使って精一杯行儀よく見えるようにしている。つまり黙っている

 

 

 

柴条「襲撃者は1人です。わずかにカメラが捉えた映像と、警備チームの目撃証言を合わせると間違いありません」

 

 

健次郎「どこぞのエージェントか。目的は破壊工作かの?」

 

 

柴条「何とも言えません。侵入を発見した時には既に逃走ルートに入っていましたので、目的は果たされた後だと考えられます。現時点では調査待ちです」

 

 

健次郎「おっと聞き捨てならんぞ。どういうことじゃ?示現エンジン周辺にはワシが作った虎の子の防衛システムである生体感知フィールドが展開されておる。敷地内に入られた時点で発見に至るじゃろう。」

 

 

健次郎の言う通り、示現エンジン周辺数キロに渡り発されている特殊な電波によりあらゆる生体反応を検知することができるのだ。常駐する職員は体内に認証チップが埋め込まれており、それの発するコードを読み取ってどこに誰がいるのかを把握している。また来客用の許可証も同様のチップが入っており、それを所有していない生体反応があれば即座に警備隊がかけつける手はずになっているのだ

 

 

 

柴条「こちらをご覧ください。昨日の2000時から今朝の0600時までのフィールド全域の反応グラフです。この時間帯は決められた警備巡回ルート、もしくは宿舎とゲートをつなぐルート以外に立ち入ることは基本的に許可されていません。管理局が承認すれば話は別ですが。このグラフを見るに、昨夜は全てにおいて異常無しです。侵入者発見の報告を受けて警備隊が出動するまで、立ち入り禁止区域に一切の生体反応はありません」

 

 

エイラ「それってつまり誰も侵入してないってコトにならないか?」

 

 

柴条「それが問題なのです。巡回していた警備チームの目撃証言も数人、見間違えとは思えません。こちらの発砲に対し閃光手榴弾のようなもので反撃を行い、警備のヘルメットに取り付けられた小型カメラにも、確かに何かが映っている。間違いなく敵はいたのですが・・・どうしたものかと」

 

 

エイラ「ユウレイでも出たのか?占いはできるけど除霊は専門外だかんな」

 

 

ルッキーニ「えーなになにユーレイ!?」

 

 

シャーリー「ロボットのようなものの可能性はありませんか?もしくは、人型ネウロイやアローンのような特殊な存在なら生体感知に引っかからないかも。ああでも、それならそもそも普通に他のレーダーで示現エネルギーを検出できてるし・・・」

 

 

健次郎「映像の身のこなしを見るに、機械という説は薄いじゃろう。この世界でここまで俊敏に動ける人型ロボットを作る技術レベルはない。シャーリーくんの言うように、そっち側の存在である可能性もある。レーダーに関しては、示現エネルギーの出力を抑えられてしまっては微弱すぎるとエンジンの反応に隠れて感知されない事もある。」

 

 

ルッキーニ「ユーレイ!?」

 

 

健次郎「まあ生体感知にひっかからないということは存外その認識もおかしくはないがのう。」

 

 

シャーリー「ルッキーニお前、そんなにオカルトネタ好きだったか?」

 

 

ルッキーニ「昨日ももとあかねとホラー番組見てたから気になっちゃう。」

 

 

シャーリー「ま、なんとかなるだろ。」

 

 

エイラ「ユウレイ倒したことあるのか?」

 

 

シャーリー「帰ったら銃口に塩でもすり込んどくさ」

 

 

 

____________________________________

 

 

 

 

シャーリー「てなワケで。みんなユウレイには気を付けようってハナシさ。」

 

 

ペリーヌ「本当にそういうお話でしたか・・・?」

 

 

あおい「どうしよう、島の神社に言ってお祓いとお塩をもらってこないと」

 

 

ペリーヌ「健次郎博士、わたくし達にも映像を見せてもらえませんこと?」

 

 

健次郎「うむ。解析用にもらってきた映像がタブレットに保存してあるぞ。自由に見てくれ。・・・間違ってもそのタブレットをネットに繋いだりせんでくれよ?全て機密情報なんじゃからな」

 

 

 

A4サイズのタブレットをみんなが一斉に覗き込む。映し出された映像はほとんど真っ暗な闇で、時たま入り込むライトの明かりが標的を探そうと激しく左右に揺れるがはっきりとした形のものは何も見えない。音声は入っていないようで、客間には誰かが小さく息をする音だけが残された

 

 

 

しばらくして、画面の端を黒い塊が一瞬だけ通り過ぎた

 

 

あかね「とめて!」

 

 

ひまわり「ん。巻き戻して・・・ここ。なにか映ってる。」

 

 

 

コマ送りで動画を戻していたひまわりが画面をタップして静止させた。それが人に近い物であるという前提をもって観察すれば、その侵入者が驚異的な身体能力で黒ヒョウのように飛び跳ねて警備兵を振り切ろうとしているイメージが浮かぶ

 

 

 

 

刹那あかねの脳裏に直感のビジョンが映り込んだ。しかし、それを具体的な思考につなげることは心が拒否してしまう。ただ、黒い尾を引き跳躍する影があの子のロングヘアーのイメージと被ってしまっただけだ。そう思って思考を切り替えないと、お腹にずしんと響いた不快感から逃げられない

 

 

 

宮藤「・・・」

 

 

 

芳佳とあかねは朝の浜辺での再会をまだ誰にも言っていなかった。特に理由があった訳ではなかったが、どうにも嫌な予感がしたからだ。芳佳はあかねの青白い顔を見つめ、それからあの時の黒騎れいの顔を思い出し、小さくため息をついた

 

 

受け入れ難い直感を彼女も感じていた。しかしそれについてどう口に出すべきなのかを決め兼ね、ただ揺れ動く感情を心の奥底に呑み込んで2人は他のみんなが口々に感想を言い合うのを黙って聞いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みなさんお正月はゆっくりできましたか?

ビビオペウィッチーズの番外編としてクリスマス&お正月を描こうかなと思ったんですけど完結に向けて本編を進めることを優先することにしまいた。完結後に色々やりたいと思います。

劇中では春から夏の真っ盛りくらいしか季節が進まない予定なので冬編を想像するのは結構楽しいんですけどね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 あかね「あの子の影」

〈ホームルームの終わりを告げる力強い鐘の音!!!!!〉

 

 

 

 

 

担任「それではみなさんまた明日!お気をつけてお帰りください!!」

 

 

誰よりも早く颯爽と去っていく担任の教師を追うように、放課後を待ちわびていた者達がかばんをもって教室から走り出た。おしゃべりを優先する者は好きな席に移動し無駄話をおっぱじめる

 

 

 

こまり「うーつかれた。あかねー、今日は部活だっけ?」

 

 

あかね「うん。ごめんねー。」

 

 

こまり「おっけ。じゃあ私はどうしよっかなぁ」

 

 

前の席の女子「こまりちゃん。暇ならお茶しばかない?」

 

 

こまり「行く行く。じゃねあかね-。また明日」

 

 

あかね「ばいばーい!」

 

 

 

手を振って去っていく同級生を見送り、あかねも鞄を持って席を立った

 

 

毎日、という訳でもないがビビッドチームの面々は放課後になると学園の広い敷地の一部を借りて訓練に勤しんでいる。訓練と言っても基礎的な運動能力を養うちょっとした運動のようなもので、クラスメイトには部活動ということにしている

 

 

わかば「ビビッど根性部ね。」

 

 

ペリーヌ「わたくしも所属している事になっているので、そのような名称は控えていただけませんこと?」

 

 

リーネ「オリー部?」

 

 

宮藤「ペリー部。」

 

 

ペリーヌ「ここじゃなかったら電撃を使ってましたわよ。・・・最近、わたくしの魔法ネウロイ相手よりあなた方に使ってる頻度の方が多いような気がしてきたのですけれど」

 

 

ひまわり「平和ってことだね」

 

 

ペリーヌ「誰一人わたくしと一緒にツッコミはやってくださらないのですね。はぁ・・・さっさと行きますわよ!」

 

 

学校にいる間は彼女達も年相応、くだらない会話を交わし、賑やかな教室に実に馴染んでいる。しかし、教室に1つだけ空いている席がある。既に帰宅したのではなく、朝からずっと___いや、数日前からしばらく誰も座っていない席だ

 

 

あおい「れいちゃん、来ないね。」

 

 

あかね「ん。・・・そうだね」

 

 

 

この会話を続ける事が怖いのか、あかねは気のない相槌だけを返すとれいの机をそっと指先で撫でる。指に伝わるプラスチックの異様な冷たさは、教室の熱気と隔絶された空間にあるかのように感じられた。ここのところ募るばかりの寂しさがまたあかねの心をキュッと締め付ける

 

 

あおい「・・・もう三日だね。」

 

 

 

黒騎れいの姿が見えなくなってからもう三日になる。そして三日前は示現エンジンへの侵入事件があった日でもあった

 

 

れいの休校が一日増える度、あかねと宮藤が暗い顔で思い悩む時間が増えるのはチーム全員が気付いてた。かつて共に過ごした仲間が学校を休んでいるというのにはチームの全員が寂しく思っていたし、クラスメイト達も心配している。だがあおい達はこの二人の表情に陰を作っているのはそういう事情とは少し違っているのではないかと疑問に思い始めていた

 

 

 

 

その後の訓練中にもあかねと芳佳の暗い感情は尾を引いていた。今日の訓練はバレーボール。チームワークと素早い状況判断を養うのを目的として行われるそれだが、明らかに集中してない2人に業を煮やしたペリーヌが手を叩いてゲームを打ち切る

 

 

ペリーヌ「で、どうしたいんですの?」

 

 

宮藤「どうって言われても・・・」

 

 

ペリーヌ「なにか隠しておられるんでしょう?あなた方、顔に出ますわよ」

 

 

あかね「え!?そ、そうかな?」

 

 

あおい「うん。かなり。」

 

 

あかね「ほんと!?」

 

 

ひまわり「うん。」

 

 

宮藤「・・・ごめんなさい。」

 

 

ペリーヌ「謝るくらいなら相談なさいな。時間が経てば解決されるような問題ではないのでしょう?」

 

 

芳佳はチラリとあかねに視線を送る。問いかけるようなその目にあかねは複雑な表情をあれこれと浮かべたが、最終的にはこくりと頷いて全てを芳佳に任せた

 

 

 

宮藤「実はこの前の示現エンジン襲撃事件があった日の翌朝に・・・砂浜で倒れてたれいちゃんを見つけたんです。かなり消耗した様子で、とりあえず治療してあげたんですけど。」

 

 

ペリーヌ「・・・」

 

 

宮藤「様子がおかしかったんです。れいちゃんもなんでこんな所にいるのか解らないって顔でしたし、結局思い過ごしなんだと信じたいんですけど・・・」

 

 

ペリーヌ「まったくもうっ__」

 

 

 

何故すぐそれを話さなかったのか、と問い詰めようとしたがやめた。宮藤とあかねのお人よしな性格を考えれば、友人の立場が悪くなるようなことに口が重くなるのは当然であるのがすぐ理解できたからだ

 

 

ペリーヌ「・・・しかし、あなた方が思っている通りかもしれません。黒騎さんの動向について、詳しく知る必要があるでしょう。早急にです」

 

 

わかば「何を懸念しているのかしら?」

 

 

ペリーヌ「この事態に関与しているかもしれないということです。」

 

 

ひまわり「エーリン先生に連絡して黒騎さんの現住所がどうなってるか、学園の生徒情報を調べてもらうね。あと博士に連絡して管理局に島の監視カメラから黒騎さんの最近の動きを探ってもらおう。」

 

 

ペリーヌ「お願い致しますわ。・・・あかねさん。宮藤さん。様子を見に行きましょう。彼女はわたくし達の親しい友人であり、仲間であり___これからもそうあっていただくため、疑いは晴らすべきです。ですから少し深呼吸して落ち着きなさい」

 

 

 

2人は自分達が強く拳を握りしめていたことに気付く。大きく息を吸って、吐く。それを何度か繰り返し、心臓の強い鼓動が平常なものに落ち着くのを待つ。しかし身体の熱が引いていくと今度は背中に伝う嫌な汗が妙に冷たく感じられた

 

 

 

あかね「れいちゃんは・・・」

 

 

ペリーヌ「あなたが宮藤さんを助けて下さった時、同じようなシチュエーションで現れた黒騎れいさんを怪しいと思わなかった訳ではありません。健次郎博士も少なからず思うところはあったはずです」

 

 

宮藤「・・・」

 

 

ペリーヌ「博士は共に過ごす中で黒騎さんが〈善き人〉であると・・・そう判断されたのです。ですから彼女が外へ出ることを温かく見守り、あかねさん達に何も言わなかった。わたくしも同じ思いでいたいと願っています」

 

 

 

淡々と話しているように見えるペリーヌだが、彼女も感情を抑えてふるまっている事は2人には分かっていた。しかし彼女は、自分の思いよりも求められる役割を果たすために行動している

 

 

 

ひまわりがどこかと連絡を取っているのを横に聞きながら、あかねはふらふらと歩いて行って背の高い木に身体をもたれかけた。そうしてしばらくの間なにも言わず空を見上げ、太陽が西へ傾いてく様をただじっと見つめながらついこの前まで家族の一員として傍らに居てくれた黒騎れいの笑顔を思い出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 れい「いらっしゃいませ」

<ドガァン!>

 

 

 

わかば「ごようだごようだ!!神妙になさい!!」

 

 

あかね「この赤い髪が目に入らぬかー!!」

 

 

あおい「メンタルの切り替えが死ぬほど早い!さすがあかねちゃん!」

 

 

 

ビビッドチームは黒騎れいの住むアパートの部屋番号を割り出した。そうなればあとは突撃あるのみである。一色あかねと三枝わかばを筆頭にその一室へ乗り込んだ

 

 

ペリーヌ「・・・お留守のようですわね」

 

 

ひまわり「不在通知おいて出直そうか。」

 

 

ペリーヌ「それは良い考えですわね。きっとすぐにでも連絡をいれてくださると思いますわ」

 

 

 

ペリーヌが手を合わせて大げさにそう言うが、目が全く笑っていない。ひまわりは首をすくめて部屋を観察した。もっとも、たいして見るものもない

 

 

 

 

部屋には全く人の気配がない。それだけでなく、生活の温かみがまるで存在しなかった

 

 

 

ひまわりの住むアパートと違いワンルームの質素な部屋。家具は何一つ存在せず、フローリングの床の中央にやけくそ気味に投げ出された一枚の毛布の周りに、数本の空のペットボトルと菓子パンの空き袋が力なく転がっていた。それだけが、ここに誰かが住んでいたただ一つの証明である

 

 

ペリーヌ「・・・一時的な隠れ家、と形容するのが正しいのでしょうか?」

 

 

リーネ「れいちゃんの事を知ってる親族の方が見つかったというのも嘘だということでしょうか?」

 

 

あかね「うーん。あの時のれいちゃん、嘘は言ってなさそうだったんだけどね」

 

 

ペリーヌ「あかねさんの直感はある意味能力として昇華しているものではありますから、あなたがそう思うのでしたらそうなのかもしれませんね。しかし・・・」

 

 

 

打てる手は打った。しかし対話を行うことができない以上、状況が示すものが全てである。黒騎れいは意図的にその身を隠し、彼女の立場が悪くなる一方である現状を覆す手段は一切無くなってしまった

 

 

 

ひまわり「管理局と防衛軍の人達が島中を捜索してくれてる。今は待つしかないのかも」

 

 

あかね「そう・・・だね」

 

 

 

 

 

 

そのアパートを遠くから見つめるものが2人、居た。2人という表現はいささか微妙である。少なくとも1人は人の形をしていなかったし、もう片方も既に人間のカテゴリからも逸脱しつつある者であった

 

 

 

 

「どう動くのですか?」

 

 

「いつも答えの決まりきった質問ばかりね。あなたと話すのホントにつまらないわ」

 

 

 

風になびいてはためくマフラーを手で捕まえて、首に強く巻き付けた。彼女は長いマフラーがたなびく様が好きだったが、弓を引くのには少々邪魔であることは承知していた

 

 

 

「彼女達は敵の存在に気付き、領域に踏み込んだ。こそこそと立ち回れる時間が終わった以上、こっからは闇討ちではなく___戦争をするのよ」

 

 

 

 

これをもって壁は立たれた。黒騎れいは深い闇を孕んだ眼でこの世を見下ろしている。かつてあかね達と共に過ごしていた時にあった、14歳らしい温かな感情は一切感じ取れない。彼女が高い所に立つのを望むのは、獲物より高い所に陣取りたいという狩人としての好みだ

 

 

 

黒騎れいが取り出したるは黒き弓。空へ向けて躊躇いなく一矢を放った

 

 

 

 

輝きを纏う一撃が雲を散らし、天に穴を空ける。その穴からは、呼び寄せられた異界の者達が歓喜の金切り声を上げながらはい出してくる。

 

 

 

 

 

れい「一心不乱の大侵略を。」

 

 

 

低く呟くその言葉は、この世界全てに対しての宣戦布告。太陽は退き、暗黒の雲と雷鳴が戦いの舞台を相応しいものに染め上げる。れいは目を細めて視線を空から地上へ向け、あかね達がアパートのドアから転がるように飛び出してくるのを見つめた

 

 

 

 

あかね「・・・!」

 

 

宮藤「!」

 

 

 

そう、一色あかねの直感であれば。宮藤芳佳の心の敏感さであれば。空中のアローンがどれだけの脅威を放っていようと気付ける筈だ。自分達に向けられる矢のような視線に。

 

 

 

二人は再会の笑顔も失意の涙も見せず。自らの心に従って行動を起こす時に決まってするような、自身に満ちた凛々しい顔でまっすぐにこちらを見つめ返してきていた。

 

 

 

れい「・・・」

 

 

心の中を無理やりにも浄化してきそうな眼が今は不愉快だった。れいは踵を返し、ビルから飛び降りてその姿を隠した

 

 

 

 

わかば「あかね、見つけたのね!?」

 

 

ペリーヌ「シャーリーさん!」

 

 

シャーリー『追ってるよ!』

 

 

 

頭上を一機のストライカーが甲高い音を立てて飛び越えて行く。待機していたエイラとルッキーニもそれに少し遅れて続いた

 

 

要請するまでもなく健次郎が射出した輸送ロケットが2機近くの地面に突き刺さり、リーネとペリーヌは空へ舞い上がるべくそちらへ駆けていった。そしてあかね達も戦う意志を固め、オペレーションキーを強く握りしめる

 

 

宮藤「・・・」

 

 

しかし宮藤芳佳だけは、この場にあって空を飛ぶ手段を持たずにあった。いかに一色健次郎がこの世界きっての科学者であったとしてもストライカーユニットを新たに作り出すことだけは果たせずにいる現状、彼女がウィッチとしてネウロイやアローンと戦うことは不可能だった

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

シャーリー「確かに宮藤が参戦してくれれば前線はぐっと楽だ。お前の強力なシールドは心強い。それに未熟なお前だからこそ、実戦経験を積むほどに強くなってる。できるだけ場数を踏んで欲しいってのは先輩として思うことでもあるさ。でも、宮藤は飛ばなくても役割を持てる固有魔法をもってるからな。私達の誰かとストライカーを交換してまで前線に出すより今の体制を維持した方が戦力に無駄がない」

 

 

 

エイラ「そうダナ。そうしろ。それに私の占いによれば、嫌でも立ち上がらないといけない時が迫ってる。ずっと傍観者ではいられない。時が来れば、躊躇わず行けよ。またフォローしてやる。」

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

芳佳は走った。行く先はあてずっぽう、しかし自分が行くべきだという確信があるのだから走らざるを得なかった

 

 

 

あかね「芳佳ちゃん!」

 

 

宮藤「任せてっ!」

 

 

 

姿を消したれいのことも、芳佳になれば任せる事が出来る。となれば迷いなく、ビビッドチームの意識は空へと向けることができるのだ

 

 

 

わかば「まずは目の前の敵を!」

 

 

あおい「そういうことだね!」

 

 

ひまわり「んじゃ、音頭をよろしくー」

 

 

あかね「みんな、行こう!」

 

 

 

「「「「イグニッション!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 




投稿ペース落ちてきてんじゃないのー!?がんばってがんばって!!できるできるできる!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 あおい「インベーター・ゲーム」

 

わかば「今回はあからさまに多いわね。遂に団体戦といったところかしら!」

 

 

ひまわり「現時点で9体!小型サイズが7!でっかいのが2!」

 

 

あかね「丁度1人1体だね!」

 

 

 

ひまわりが素早く敵の数を報告する。現時点で、というのは空に空いた穴が未だ塞がらない事から追加の敵を予測してのことであった。案の定、ひまわりが状況報告を終えた時点で追加の一体が時空の穴から顔を出して来ていた

 

 

ひまわり「追加でもう一体出現!!」

 

 

あかね「おかわりは今のを全部食べてからでいいんだけど!?」

 

 

 

一発の銃声があかねの悲鳴を遮るように響いた。穴から這い出そうとしていた黒い侵略者の身体が弾け飛ぶ

 

 

 

リーネ「これで1人1体ですね?」

 

 

 

リーネは対戦車ライフルのボルトを引いて次弾を装弾しつつ事もなげに言い放った。出現する場所を派手にアピールしながら顔を出してくる敵など、彼女にとっては程度の低いエサでしかない

 

 

あおい「か・・・かっこいい!今のはかっこいいよリーネちゃん!」

 

 

わかば「絵にかいたようなスナイパー感を醸し出してくるわね!」

 

 

リーネ「いや、あの、別にかっこつけたわけじゃなくって!」

 

 

ペリーヌ「そこは胸を張っていればいいんですのよ。シャーリーさん、黒騎さんは?」

 

 

シャーリー「すまん見失った!前線に復帰するよ!」

 

 

 

かなり遠くまで追跡を行っていたシャーリーは名残惜しそうに建物の上空を旋回していたが、これ以上は無意味だと判断しとんぼ返りでペリーヌ達の方へ飛ぶ

 

 

 

ペリーヌ「かしこまりました。ちょこまかした敵はわたくし達ウィッチがお相手いたします!あかねさん、大物は任せてよろしいですわね!?」

 

 

あかね「オッケー!ぶっとばしちゃうよ!!」

 

 

空ですれ違いながら拳を軽くぶつけ合い心に滾る戦意を確かめ合うと、ビビッドチームとウィッチ達はそれぞれ散らばり標的に向かう。

 

 

 

柴条『小型のタイプから強い毒性を持つ特有の瘴気が発生していることが観測されています。存在するだけで人間の生活環境にとてつもない危害が発生します!地上に近づけないようにしつつ、早急に処理して下さい!』

 

 

 

 

健次郎『小型の形状は防衛軍が保有するジェット戦闘機に酷似しておる。シャーリーくん達の情報通りであればネロイは人間の兵器等を模倣する傾向がある。毒性を備える事も鑑みるに、小型タイプはネウロイに分類されるものである可能性が高い!アローンとは違い、示現エンジン以外の物も狙ってくるぞ!』

 

 

 

 

シャーリー「OK!エイラ、リーネとペリーヌを指揮して避難を行っている住民の防衛に当たってくれ!」

 

 

エイラ「おいおい、そっちはサボりか?」

 

 

シャーリー「冗談よせ、私とルッキーニがオフェンスをやってやるってことさ!」

 

 

ルッキーニ「おっしゃー!!」

 

 

 

シャーリーの加速魔法を受けたルッキーニが超高速飛行でネウロイの一体目掛けて飛翔する。ルッキーニは自らの固有魔法を発動させる。溢れる魔法力が高熱を帯びたエネルギーシールドを発現させ、その小さき身体に装甲のように纏い弾丸めいた勢いでネウロイに真っすぐ突っ込む。そして勢いのままぶ厚い装甲を貫いた。

 

 

そのまま飛び去ってしまわないようにブレーキをかけて減速するルッキーニを狙おうとしていたネウロイの射線を塞ぐようにシャーリーが割って入る。シールドを張ってビームを受け止めている間にルッキーニが体勢を立て直し離脱し、それを確認したシャーリーは身を翻して距離を詰めながら射撃を行う。銃弾がネウロイの装甲に鋭く突き刺さり、耐えきれなくなったネウロイの身体が爆散する

 

 

シャーリー「撃破2だ!」

 

 

ルッキーニ「どんどんやっちゃうよー!!」

 

 

2人のウィッチはぐるぐると8の字を描くように飛行しながらネウロイ達を引き付け、ビビッドチームから引き離す。彼女達が大型に集中できるようにという配慮だ

 

 

 

 

あかね「よーしそれじゃこっちも・・・!」

 

 

あおい「あかねちゃん!!!!チューしてください!!!!!!!」

 

 

あかね「え!?いきなり!?チューって言葉にされると照れちゃうなぁ・・・。別にイヤってことじゃないからね!?大丈夫だよ!?」

 

 

あおいが纏う空気が黒いモノに変化していくのを察したあかねが慌ててフォローした。それを聞いて再び目に輝きを取り戻したあおいが信じられない程の速度であかねの傍に飛び寄った

 

 

あおい「開幕ぶっぱは正義!そういう文化なんだよあかねちゃん!」

 

 

あかね「でもドッキングは敵の強化の後でやるべきなんじゃないのかな?」

 

 

あおい「そんなお約束は日アサ以外では無視して大丈夫なんだよ!」

 

 

ひまわり「お約束を無視するのは私的にNGだけど、こういう状況なら一気にキメに行くのもいいかもしれないかも。敵が強くなる前に倒しちゃうのはぶっちゃけ合理的だし。」

 

 

あかね「確かに今回は2体だし、一気に攻めちゃったほうがいいかもだね。」

 

 

 

あおいの手を取って少し下がる。わかばが剣を構え、ひまわりは攻撃機を展開して2人を護るように配置する

 

 

あかね「あおいちゃん、いつもありがとうね。」

 

 

あおい「うん。私も、いつもそう思ってるよ。」

 

 

あかね「・・・あおいちゃんの気持ちに、やっと向き合える。ごめんね、遅くなっちゃった。」

 

 

あおい「ううん。私、自分の思いを伝えてるつもりで、あかねちゃんの答えを聞くのがずっと怖かった。私にとってあかねちゃんは1番大切な友達だけど、きっとあかねちゃんにとってそうじゃないかもって思ってたから。でも・・・」

 

 

一色あかねは友情に点数をつけたりしない。そんな器用な人付き合いはしない子なのだ。自分「も」あかねにとって1番の友達であった

 

 

 

 

あおいの唇があかねの額にそっと触れる。

 

 

 

満を持して、であろう。わかばがあかねの剣でありたいと願い、ひまわりは盾でありたいと願った。あおいは、あかねの隣に立つ強い人間でありたいと願っていた。あかねが笑顔でいられるために、邪魔をするものを全てなぎ倒さんとする盲目な程の熱い意志。一方通行な押し付けのようなその思いは、あかねに求められることで対等な想いへと昇華する

 

 

 

あかねは伸ばした手を握ったあおいを力強く引き寄せる。あおいは目を閉じて身を任せそのままあかねの中へ吸い込まれていった。発生したエネルギーフィールドが爆発的に広がり、いちゃいちゃしてないでさっさとドッキングしろよと心で思っていたわかばとひまわりを勢いよく押しのけた。

 

 

 

 

2人の心は1つとなって、強く激しく燃え上がる。情熱を燃料に稼働するエンジンが力強い鼓動を響かせ、大気を震わせ、飛び回るアローンを一瞬押さえつけるような凄まじい威圧感を発する

 

 

 

光のフィールドが晴れると、そこには気品漂う美しい女性が1人、自然体で佇んでいた。一見華奢に見える細見の身体ではあるものの、まさしく威圧感の発生源であるのは間違いない強烈な存在感と頼もしさを備えている

 

 

 

 

海の青さも空の蒼も、彼女の色には一段劣る。そんな鮮かブルーの髪を自由奔放に風になびかせ、彼女は天を指差し高らかに名乗りを上げる

 

 

 

 

ビビッドブルー「青空背負ったコバルトブルー!嫉妬も不安も乗り越えて、お待たせしました真骨頂!この身が備える剛力こそは、海より深い無限の愛!ビビッドブルーが、ぶちのめします!!」

 

 

びしっと効果音が聞こえる程のキメポーズをとると、その身体から強烈な衝撃波が飛び出し背後に接近してきていたネウロイを一体粉々に打ち砕いた。飛び散る破片が彼女の立ち姿を演出するかのように青い光をキラキラと反射する

 

 

 

 

 

 

わかば「変身しただけで1体倒したわよ!あおいはえげつないわね!」

 

 

ひまわり「うん・・・まあなんというか、えげつないね。」

 

 

ビビッドブルー「えげつないのはここからなんだから!見てなさいな!」

 

 

 

不敵に笑い、その両の手を大きく広げた。好き勝手飛び回る侵略者達を、今からその手で握りつぶす算段がついているような恍惚とした表情にも見える

 

 

主役の登場により、遂にこれまでと一線を画す規模の戦いの幕が切って落とされた

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 あおい「らぶらぶハンマー流星群」

 

 

戦いが始まってから時間が経つにつれ風はどんどん強くなり、赤黒い色に染まった雲が凄まじい速さで空を流れている。しかし先ほどまでと違うことは、今その風はビビッドブルーを中心に渦のように吹いていることだ

 

 

 

彼女が一歩(空中であるにもかかわらず彼女は地に足を着けているかのように動いていた)足を前に出すと、彼女に引っ張られるように雲が動き空が形を変える

 

 

 

ビビッドブルー「どうにも戦場というものは美しさが足りないわね。私の晴れ舞台だというのに演出が足りないわ。盛り上がりに欠けるし、陰気で堅苦しいし、つまらない」

 

 

 

ぶつくさと愚痴を垂れながら髪をかき上げるその姿は、あかねの純粋さやあおいの奥ゆかしさのどちらも似つかない傲慢で高飛車な我儘お嬢様そのものといった風合いだ。ドッキング後は性格が不安定になるのを見越していた健次郎が咄嗟に彼女だけ通話回線から外したおかげで、その不謹慎極まりない発現は他のメンバーに聞かれずに済んでいた

 

 

 

アローン「___!」

 

 

 

今回出現したアローンは2体。全長はおよそ40m。形状は整った立方体。外界に面した6枚の面の中央に赤い結晶を備えており、時折火花を放ちながら攻撃を行うタイミングを計っているように見える

 

 

立法体アローンの一体が放ったビームがよそ見をしていたビビッドブルーに直撃した。ぎょっとした表情で固まるわかばとひまわりを他所に、ビビッドブルーは涼しい顔でそのまま赤い光の中から何事もないように歩いて出て来た。毛ほどのダメージも感じさせない堂々とした姿勢だ。実際彼女の美しい髪に焦げの一つもついていない。

 

 

 

 

ビビッドブルー「ビームってのもワンパターンだしね。ここは1つ、私が華を咲かせてやりましょうか!」

 

 

にこりと微笑むと、彼女は両手を軽く叩き合わせて小気味良い音を響かせたた。手の平にエネルギーの火花が散り、大がかりな攻撃の予兆を見せる

 

 

 

 

ビビッドブルー「ダブルビビッド・インパクト!」

 

 

 

両の手に普段あおいが戦闘で使用しているものより一回り大きいハンマーを2本、両手に出現させた。

 

 

少し作りも変わっており、いつも使うものは1つの塊に持ち手がついているタイプのハンマーなのだが、こちらは支柱の両側に大きなボックスのような塊2つをそれぞれ固定するような形をしている。どうみても身体のサイズと見合っていない大きな獲物を、彼女は新体操の選手がバトンを操るかのように片手でくるくると回転させる。

 

 

 

その視線は空に浮かぶ2体のアローンに向いている。あおいの攻撃を邪魔しようと動いたネウロイは、ビームを発射する前に横から飛来したルッキーニの銃弾を浴びて砕け散った

 

 

 

 

ビビッドブルー「振りかぶっての第一投ォー!ビビッドインパクトッ!ブーメラン!!!」

 

 

 

身体の半身を捻り下半身から伝わる動的エネルギーを上半身へ伝達。指先の先端まで神経を集中させ、右手に握った一本を全力で投擲。衝撃波をまき散らしながら超高速で射出されたビビッドインパクトが、野球ドームを更地にする程の凶悪な物理エネルギーを備えてアローンの装甲にぶち刺さる。

 

 

ビビッドブルー「スットライクゥー!」

 

 

楽しそうな彼女とは違い、なすすべなくその一撃を受けたアローンは金切り声のような音を響かせながら数百メートル程吹き飛ばされ、陸から追い出され海上まで追いやられた。美しい立方体だった身体の一部は欠け落ち、遠目から見ても分かる大きな亀裂が走って全面に走りそこから赤い光が漏れ出している

 

 

 

わかば「荒々しい・・・」

 

 

ビビッドブルー「わかばちゃんにだけは言われたくはないんだから!」

 

 

 

味方の小さな呟きも聞き逃さずムキになって言い返す。ビビッドブルーはお年頃なのだ。左手に残ったハンマーを指と手首を使ってくるくる回転させながら照準をもう一体のアローンに絞って投擲の構えをとっていたが、少し思案した後止めた

 

 

同じ技を二度使うのはつまらない。

 

 

そう考えた彼女はハンマーを腰だめに構えて、もう一体のアローンの方へ飛び掛かった

 

 

アローン「___!」

 

 

 

相方の敵討ち、などと考えるような存在ではないだろうが、アローンは自分へ向かってくる青い荒くれ者へ全力の迎撃を行った

 

 

 

ビビッドブルー「そんなんじゃヒリつかないわ!ビビッドエンジン臨界稼働開始!」

 

 

 

防御の姿勢など取らずとも、ビビッドブルーの纏うエネルギーフィールドはアローンのビームなど取るに足らないものだ。ドッキング形態であるビビッドブルーの飛行速度はグリーンには劣るものの従来のあおい単体とは比べ物にならない程速い。彼我の距離はまたたく間に詰まり彼女の間合いに入った

 

 

 

 

ビビッドブルー「インパクト、セーフティ解除!ファイナルオペレーション・スタンバイ!」

 

 

高らかに叫ぶ声に合わせてシステムが反応する。手にしたビビッドインパクトが青い光を放つ。両側にそなわったボックス部分の片方が展開。羽のように開いて、内部の機構が露出する。青白い霧のような蒸気が噴出し、空気が歪む。強烈なブースターがハンマーそのものを加速させているのだ

 

 

 

ハンマーにとりつけられた装置による加速。ビビッドブルーの腕力による加速。相まって、降り注ぐ隕石を撃ち返す程の一撃

 

 

ビビッドブルー「ファイナルオペレーション!!ビビッド・アルマゲドンホームラン!!!」

 

 

 

破壊のための一撃ではなく、吹き飛ばすための一撃。インパクトした瞬間、ハンマーの接地面が開いて広く展開しパワーが分散される。装甲に入ったヒビは薄いが、先ほど吹き飛ばされたアローンとは比べ物にならないほどの勢いですっ飛んで行った。向かう先は、遠くでボロボロの身体の修復を図るもう一体のアローン

 

 

ビビッドブルー「ごっつんこ☆」

 

 

 

<ズガァァァァン!!>

 

 

アローンをアローンが打ち抜くと同時に、まるで街中の大型ビルが軒並みバク転に挑戦するも失敗し地面に叩きつけられた時のような凄まじい轟音が街を襲った。海面が荒れ狂い、勢い余った波が島の海岸沿いを襲って砂浜を削る

 

 

 

 

2つのアローンは共に粉々に砕け散り、光の粒となって空気中に飛散した

 

 

 

ビビッドブルー「まっこと、他愛なしね!出直しなさいな黒いヤツ!」

 

 

 

ビシッと音が聞こえる程のキメポーズをとる彼女の背後で、最後のネウロイがシャーリーの銃撃で爆発し戦いの終わりを見事な演出で飾りたてた

 

 

 

 

 

 

 




寒いですね。伝染病にも気を付けましょう。ぼくも仕事なんていかずに小説書いていたいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話 あおい「太陽の沈む刻」

「恐ろしいものです。相応しくないものが示現力を手にすると、ああも醜くなれるものだとは」

 

 

れい「・・・」

 

 

黒騎れいは何も言わない。無視しているというのではなく、口をヘの字に結んでいる辺りから口を利くのも嫌だといった気持ちが読み取れる

 

 

その時遠くの空では最後のアローンとネウロイがほぼ同時に撃破され、事態が収束しつつあった

 

 

 

全ての侵略者が居なくなると同時にドッキングは解除される。反動で倒れこみそうになるあおいをあかねが支え、2人が何かを話し合っているのが遠目でも解った

 

 

 

 

「まさか忘れているとは思いたくありませんので・・・問いますが。これだけの数を揃えたのです。何故動かないのですか?私が与えた〈矢〉はまだ数本残っているはずです。あなたがキチンと保管していればですが」

 

 

れい「3本よ。試練の矢はあと3本残っている」

 

 

「効果的に使用できる場を用意したと自負しています」

 

 

れい「あなたご自慢のおもちゃに使っても、本丸を落とすには至らない。それはもう明らかになっているわ。例え2、3体同時に変化させたとしてもね。アローンに取り付けられた首輪を外すのがあなたイチオシの使い方らしいけど、やり方を変えるしかないわ」

 

 

「では拝見いたしましょう」

 

 

れい「貴方も協力して。私が合図を出したら、ゲートをいくつか上空に開いて」

 

 

「手元にある駒はあなたを除いて現時点で全て投入済みなのですが?」

 

 

れい「ゲートを開いて。それ以上の事は注文していないでしょう?」

 

 

 

れいは首元に手を添える。そこに刻まれたアザこそ、彼女に与えられた〈矢〉が隠された場所。いつもはすんなりと引き出せるそれを具現させようとしているのだがどうにも様子がおかしい

 

 

普段は澄ましている切れ長の目を今は強く見開き、歯を力いっぱい食いしばっている。額から汗が吹き出し、身体は小刻みに震えだす。歯の間から漏れ出す息が苦しげな甲高い音を立てながら、彼女はどうにか矢を出現させた

 

 

「!」

 

 

3つ全てを。1つだけでも存在しているだけで周囲の時空を歪める存在感を放つ危険物が、3つ彼女の手に握られている今辺りに与える影響はすさまじいものになっていた。当然、監視の目にも止まる

 

 

 

健次郎『気をつけろ!大きなエネルギー反応!これまで見たことのない波長じゃ!』

 

 

あかね「なんなの!?」

 

 

咄嗟の事態。みんなが自分の身を守ろうとした。

 

 

れい「今!」

 

 

鋭く飛んだ合図に合わせてカラスは黒い羽を広げた。その動きと同時に上空にいくつかのディメンションゲートが発生する。ビビッドチームは新たな敵の襲来に備え身構える

 

 

 

それを確認したれいの動きは素早い。あらかじめ手にしておいた弓に器用に3本をつがえる。それらは1つの巨大な矢へと合わさった。圧力に耐えきれずれいの足元のコンクリートに亀裂が走る。彼女の表情も苦しそうだが、狙いはブレることなく一点に据えられる

 

 

 

れい「自分の命より大切なものを傍にはべらせすぎなのよ」

 

 

 

吐き捨てるようにそう言うと、限界まで引き絞られた弓が躍動し、ついに矢は放たれた。それはとても目で追うことなど叶わぬ程の速度で___二葉あおいへと飛翔する

 

 

 

ドッキング直後、負担が大きいのはあかねにその身を委ねた者。この攻撃を自力では回避することはできない

 

 

れい「不意打ちであろうと一色あかねに攻撃を当てるのは難しい。であれば、自分から当たってもらえばいい。あなたはきっと・・・その身を捧げてくれるでしょうから」

 

 

 

 

れいの放った矢に気付けたのはあかねだけだった。彼女の直感がそれを知らせた。そしてその規格外なる一撃がどれ程危険なモノかということと、向かう先が自らではないことも瞬時に判断できた

 

 

声を上げる暇もなく、重たい身体が悲鳴を上げるのも無視して全速力で飛び出す。そのまま勢い任せにあおいを押しのけた。とてもではないが、盾となって受けられるようなソレでないことは承知した上での判断だった

 

 

 

 

あおい「うあっ」

 

 

あかね「___!」

 

 

 

 

身代わりとなったあかねの胸を、一筋の光が撃ち抜いた。矢は赤く染まり、轟音と共に西の空へ飛び去る

 

 

 

 

突然突き飛ばされたあおいが何事かと振り向いた頃には、全ては終わっていた

 

 

 

彼女の赤い瞳からは光が失われていたが、そこに映し出されたあおいの驚愕の表情とは逆に彼女自身は痛みなど無いような安らかな顔だ

 

 

事態が全く呑み込めないあおばいが伸ばした手があかねの手を握りしめる。だがいつまでたっても握り返されることはなく、あかねの身体に纏われていたパレットスーツは鈍い灰色の粒となって風に吹かれるまま消えていく

 

 

 

 

 

浮遊する力が失われたあかねが地へ落ちないよう抱きかかえたあおいは瞬きをするのも息をするのも忘れて、じっとあかねを見つめていた

 

 

 

いつしかオレンジ色に変わっていた太陽の光があかねの顔を淡く照らす。夕陽が沈むのに合わせるようにゆっくりと閉じていく瞼を見届けた後

 

 

 

 

あおい「___っあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

絶叫した

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話 わかば「撃ち抜かれた希望」

ひまわり「え、なに!?あおい!!?」

 

 

わかば「一体なにが・・・あかね!どうなってるの!?」

 

 

あおい「あ・・・あ・・・」

 

 

ガクガクと震える身体は今にも崩れ落ちそうに見える。肺の中の空気を全て吐き切って尚慟哭を止めようとしない彼女がそれでも意識を失わずいるのは、あかねを支えなければならないという使命感があおいの行動理念の根底に根差しているからこそだ

 

 

 

わかば「落ち着いて!呼吸を意識するのよ!あおい!・・・博士、あかねはどうなっているんですか!?」

 

 

健次郎『パレットスーツが消失した時点でこちらからあかねの状態を解析することはできん!速やかに撤退しするんじゃ!!』

 

 

柴条『医療チームの受け入れ準備ができています!ビビッドチーム、あかねさんを管理局本部へ!』

 

 

ひまわり「あかね・・・あかね・・・!」

 

 

 

頭を抱えるようにしてうろたえるひまわりの肩を掴んでわかばは無理やりこちらを向かせた

 

 

 

わかば「ひまわり落ち着いて!お願い!・・・冷静になりましょう。空にはまだ穴が開いている!敵はまだ来るかもしれない!あかねもあおいも戦えないのよ!」

 

 

ひまわり「・・・ん。ごめん。わかった」

 

 

一度深呼吸をして、ひまわりの眼から動揺が消えたのを確認するとわかばは空へ向き直り頼れるお姉さんに通信を送る

 

 

わかば「シャーリーさん聞こえますか!」

 

 

シャーリー「もう来たよ!あかねとあおいを連れて行く!エイラ!!あとは頼めるな!」

 

 

すっ飛んできたシャーリーがあかねとあおいを両脇に抱え込みすぐさま全速力で管理局へ飛ぶ。遅れて来たルッキーニが心配そうに横目で仲間達の様子を見ながらその銃口を上空に向け警戒態勢をとる

 

 

 

 

エイラ『おう任せろ。わかば、ひまわり。辛いかもしんないけどしばらく耐えてくれ。今敵が現れたら迎撃できるのは私達だけなんだからナ。ハカセ、状況はどんなだ?』

 

 

 

エイラに呼びかけられ、あかねのことで動揺していた健次郎はハッと自分を取り戻した。あかねの下へ走っていくことばかりを考えていたが、少なくとも今はアローンに対応しなくてはならないことを思い出し、無理やり頭を切り替えてモニターに目を走らせ状況を整理する

 

 

 

健次郎『う、うむ。ゲート自体は消滅に向かっておる。今のゲートが発しているものはこれまでのアローンの出現時に観測された数値の半分にも満たんエネルギー反応じゃ。それより問題は・・・今の矢が飛んで行った方角じゃ』

 

 

エイラ『どの方角に飛んで行っても縁起が悪いと思うけどな』

 

 

健次郎『あちらには東京があるんじゃ!柴条くん、矢はどうなった!?』

 

 

柴条『防衛軍の関東支部に問い合わせています。』

 

 

防衛オペレーター『こちらは防衛軍BI本部です。現在、関東全域にある防衛軍支部全てと連絡がつきません。他の地域の支部とは問題なく連絡がつくのですが、そのどの地域からも関東とは連絡不能な状態です』

 

 

通信に割り込んできたのは少し落ち着かない様子の防衛軍オペレーターの声だった。彼女の後ろが随分騒がしいことから、防衛軍の指令室が随分と慌ただしいのが伝わってくる

 

 

健次郎と柴条は顔をしかめて少し通信のボリュームを下げた

 

 

 

健次郎『広域での通信妨害じゃと?まさか』

 

 

防衛オペレーター『武装集団によるテロ行為の可能性も鑑みて既に関東周辺の防衛軍は行動に出ています』

 

 

柴条『ですが、このタイミングであれば矢による影響である可能性の方が高いでしょうか?』

 

 

健次郎『かもしれんのう』

 

 

そんな話をしている間にもディメンションゲートはゆるやかに収束し、大した時間を要さずして開いていたゲートが完全に消滅した。空を覆っていたどす黒い雲が散っていくが既に陽は沈んだ後。辺りを欠けた月光が弱々しく照らしていた

 

 

エイラ『ヨシ、博士。私はまだ余裕があるからルッキーニを連れて東京の様子を見に行くよ。他の4人は撤収してくれ』

 

 

ペリーヌ「エイラさん!わたくしもまだ飛べますわよ」

 

 

エイラ『いいから任せとけって。ミヤフジを回収してあかねのところに連れて行ってやってくれ。ミヤフジ!今どこにいるんだ!?管理局へ行ってあかねを___ミヤフジ?出ないな。トイレにでも行ったのか?』

 

 

 

 

ペリーヌ「仕方がありませんわね。そういうことならあかねさんの下へ行かせてもらいましょう」

 

 

リーネ「・・・わかばちゃん、ひまわりちゃん。どうかしたの?」

 

 

わかば「いえ、なんだか・・・身体の力が・・・」

 

 

そう答えるわかばの顔は土気色で、普段の覇気がまるでない。ふらふらと飛行も安定していない様子で、隣に立つひまわりの表情も険しい。彼女は手元に出現させた小さいモニターを力なく操作しながら苦しそうな顔で話し出した

 

 

ひまわり「私達のエネルギーがさっきから下がり続けてて・・・このままだと変身を維持できな___」

 

 

 

小さな声で力なく呟くやいなや、突然ひまわりのパレットスーツが粒子に変わってしまう。それを見て慌てて手を伸ばしたわかばのスーツも一瞬発光した後消失してしまう

 

 

翼をもがれた2人は当然のように重力に引かれタールのように黒く淀んだ海へ真っ逆さまに自由落下を始める

 

 

ペリーヌ「お二人共!!」

 

 

しかしすぐに2人の魔女に救出され身体を海水に浸さずに済んだ。しかし、2人の身体は既に冷や汗でぐっしょりと濡れていた

 

 

わかば「ありがとう、助かったわ。・・・私も高所恐怖症になりそうだわ」

 

 

ひまわり「なんで変身が・・・まさか・・・!お願い、急いで管理局に連れてって!!」

 

 

ペリーヌ「ええ、言われずとも全速力ですわ!お二人共、しっかり捕まって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話 あおい「面会謝絶」

防衛オペレーター『提出できる資料はこちらが全てになります。〈塔〉の周囲では電磁波が強すぎる為機械類の一切が機能しません。超望遠で映した画像も像が歪んでしまうため・・・』

 

 

健次郎『スケッチが数枚か。しかしこれを描いたものの苦労を考えると文句は言えんな』

 

 

スピーカー越しに伝わってくる健次郎の声にいつもの快活さは無い。ぬいぐるみの身体である彼は睡眠をとらずとも動き続けることは可能であるのだが、精神は通常の人間のまま。疲労を感じないという訳ではないのだ

 

 

 

柴条「先生、一度お休みになられては?まだリミットまで15時間はあります。情報収集は管理局と防衛軍に任せていただければ・・・」

 

 

 

昨夜の戦闘終了から数時間が経過し、日の出前の時刻に差し掛かっているにも関わらず健次郎からの通信は一度も切られていない。責任ある立場である柴条といえど、流石に昨日の朝から働き詰めてあったため軽く仮眠をとってきたところであった

 

 

 

健次郎『かまわん。生きているとはいえんこの身、せめて使命の為に尽くさねば家族に立てる顔もない。とはいえ、現状我々に打てる手などないか・・・』

 

 

長官『失礼、お二方。遅くなりましたが、ただいま戻りました』

 

 

健次郎『おお、進捗の程は?』

 

 

長官『<塔>周辺の避難は完了しました。手が空いたものに足で現地調査をさせた結果少しですが報告できることはあります。

 

アレは都内最大の電波塔であるアキバツリーと一体化しているようです。現時点で瘴気の類は発生させていないようですが、代わりに強力な電磁波を広範囲に発生させているようです。半径およそ5キロに影響し、全ての電子機器は機能しない。事案発生直後にユーティライネン少尉、ルッキーニ少尉の両名が持ち帰った以上の情報を得るのは現在の条件下では厳しいかと』

 

 

健次郎『どうにもならんか』

 

 

長官『なりません。東京湾からであれば艦隊による長距離攻撃が可能ですが、撃破できる可能性は1%に満たないというのが作戦部の見解です。ビビッドチームが行動できない現状、アレを刺激せず起こさないよう努めるのが我々にできる精一杯のことでしょう』

 

 

ぶっきらぼうにそう言い放つ防衛軍長官の言葉の裏に自らの不甲斐なさから来る失意と落胆が潜んでいることは長い付き合いである柴条と健次郎には分かっていた。そしてそれは両名も同じである

 

 

 

話し合いが長びく程に増す手詰まり感がじわじわと管理局指令室の空気を圧迫していく。今日の天気は生憎の曇り空で、春の終わりとは思えない程室内は冷え切っていた。柴条は横に控えていた秘書官に熱いコーヒーを淹れるよう頼むと、机の上に散らばった報告書にもう一度目を通し始めた

 

 

 

____________________________________

 

 

 

 

時は少し戻り、昨夜。アローンを撃退し、あかねが管理局に運ばれた後

 

 

 

ウィッチ2人は管理局に設置されたストライカー専用の格納庫に着陸し、抱えていたわかばとひまわりを降ろす。2人は少しふらついていたが、変身が解除された時に比べて随分顔色は良くなっていた

 

 

女性職員1「みなさんこちらです!」

 

 

わかば「あかねの容体は!?」

 

 

女性職員1「今は集中治療室に!外傷はないとのことですが、意識が戻らない状態です!」

 

 

誘導してくれる女性職員を追い越さんばかりの勢いで走り、管理局の一角へたどり着いた

 

 

 

あおい「」

 

 

わかば「あおいー!!!!!」

 

 

〈治療中〉と赤いランプがついた固く閉ざされた扉の前、壁際に並べられた長椅子の上で白目をむいているあおいを抱き上げた

 

 

 

あおい「ボソボソ・・・」

 

 

わかば「なんかぼそぼそ言ってる!聞き取れないけど!?」

 

 

ペリーヌ「医務室へ運びますわよ。」

 

 

あおい「だめ・・・です・・・。あかねちゃ・・・」

 

 

ペリーヌ「あかねさんが出て来た時、わたくし達がここでぶっ倒れていてはきっと喜ばれないと思いますけれど?わたくし達も戦闘直後です。少し休みましょう」

 

 

リーネ「はい。職員さん、どこか休ませていただける場所をお借りできませんか?」

 

 

女性職員1「もちろんです。局長からみなさんが待機できるよう部屋を用意するよう指示を受けております。ご案内いたします!」

 

 

わかば「・・・そうね、少し休みながら待ちましょう」

 

 

 

管理局の一角、外部からの客人用に作られた和式の一室。あおいを医務室へ運び終わったわかば達は畳の上に腰を降ろした。ひまわりが気晴らしと情報収集を兼ねてテレビの電源を入れる。東京全土に避難勧告が出ている様がありありと映し出されていた。原因はあくまで広域でのガス漏れということになっていたが、きっとそうではないだろうということは誰の目にも明らかだった

 

 

ひまわり「ネット見たけど、なんか東京で電波障害が出てるんだって」

 

 

わかば「そう」

 

 

リーネ「お茶いれますね」

 

 

ペリーヌ「ありがとうございますわ」

 

 

 

どうも上の空で、会話にも身が入らない。みな一言二言と言葉を交わした後、力なく畳に寝そべったり壁に身体をもたれかけたりして黙り込む。こういう時、真っ先に行動しようとするあかねも芳佳もここにはいなかった

 

 

ペリーヌ「そういえば、宮藤さんは?」

 

 

リーネ「さっき職員の方に聞いたんですが、まだ連絡がついてないみたいです。ストライカーで出動できるなら捜しに行きたいんですけど・・・」

 

 

ペリーヌ「警戒が解かれて街に人が戻り始めていますし、今空を飛ぶのは控えた方がいいですわね。・・・ま、あの子なら大丈夫でしょう。多少の攻撃ではビクともしないでしょうし」

 

 

リーネ「なにか面倒事に巻き込まれてたりしないといいんですけど」

 

 

ペリーヌ「それに関してはわたくしも心配ですわ。ですがわたくし達も戦闘直後です。防衛軍の方々に任せて、少し身体を休めるべきですわ。もし戦闘になれば___」

 

 

 

今、ビビッドチームの3人は戦えないかもしれない。そう言おうとしたペリーヌは言葉を切って、なんでもないという風にかぶりを振った。憔悴しているわかばとひまわりにこれ以上負担をかけるような話題になりそうだったことを遠慮したからだが、続く言葉を読んだひまわりが自らその話題に踏み込んできた

 

 

ひまわり「ううん。多分その通りだと思うよ」

 

 

リーネ「なにがですか?」

 

 

ひまわり「たぶん今のわたしとわかば、あおいもだけど。ちゃんと戦えないと思う」

 

 

ペリーヌ「では遠慮なく質問させていただきますが。先ほど変身が解除された様子を見るに、あかねさんの意識がないとあなた方に供給される示現エネルギーが減ってしまう、ということでしょうか?」

 

 

ひまわり「そうかもしんない。あかねと私達じゃ示現エンジンへのアクセスの仕方が少し違うし。あかねの力を経由している以上、あかねの意識が弱まると私達の力が弱まること自体は理にかなってる」

 

 

わかば「あおいが妙に弱ってたのも、彼女の身体が示現力を得る前に戻ろうとしているからということなのかしら?」

 

 

ひまわり「博士と話してみないとわかんない。でもそれで合ってると思う」

 

 

 

淡々と話しているようで、ひまわりの顔は暗い。自分の身体から力が抜けていく感覚が、あかねが死に近づいているものだと考えている以上気が気でないのは当然の事だった

 

 

寄り添ったわかばもかける言葉は見つからない。彼女も他人を励ましている余裕はなかった。黙ってひまわりの手を握ったのも、自分以外の人間の温かさに触れて安心したかったというのが大きな理由だった。それでもひまわりはその手を握り返して表情が少し柔らかくなったのも事実であった

 

 

 

部屋に置かれた安っぽい壁かけ時計の音がチクタクと時を刻むのを聞きながら、いつしかみな眠気に誘われて軽くまどろんでいた。戦闘時から休むことなくごたごたが続き、肉体と精神の疲れがピークを迎えつつあった

 

 

 

.

<バァン!!!>

 

 

わかば「はっ!?何事!!」

 

 

そんな一時の平穏も、蹴飛ばされるほどの勢いで扉が開け放たれた音によって打ち砕かれた。先ほどここへ案内してくれた女性職員が汗だくで息もたえだえに戸惑うわかば達に話しかける

 

 

女性職員1「た、大変ですみなさん!!すぐに来てください!」

 

 

ペリーヌ「あかねさんの眼が覚めたんですの?」

 

 

女性職員1「いえ、違います!」

 

 

 

女性職員1「管理局正面に黒騎れいが!みなさんとの面会を求めています!」

 

 

 

誰かが息を飲む音がした。一瞬の沈黙の後、全員が弾かれたように駆け出した

 

 




2020年も3分の1が経過しそうですね。更新がんばっていきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話 ひまわり「BADorDEADな選択肢」

―――ブルーアイランド管理局・正面玄関―――

 

 

 

わかば「来ました!」

 

 

シャーリー「よぉ。お待ちかねだぜ」

 

 

 

シャーリーがくいっと親指で指すのはガラス扉の向こう側。正面広場に設置された噴水に腰掛け、黒騎れいは友達との待ち合わせでもするかのように何気なくそこに居た

 

 

柴条「警備は下げてあります。彼女がアローン側の戦力をバックに備えているとしたら、戦車でバリケードを作ったとしても大した意味をなさないでしょう。話し合いのチャンスを壊すことになる危険もあります」

 

 

ひまわり「なんの用があるっていうの・・・?カチコミ?」

 

 

柴条「その用件も聞きだして欲しいのです。話し合いの結果次第では現状を覆す一手になりえます。苦労を掛けますが・・・」

 

 

リーネ「私達はストライカーを装備して待機している、というのは・・・?」

 

 

柴条「彼女はビビッドチーム全員との対面を希望しています」

 

 

ペリーヌ「こちらに無遠慮にリスクを強いてきますわね・・・」

 

 

 

意を決し、わかば達はドアを開けて外へ進み出た。空はアローン出現時を思わせるようなどす黒い雲が渦巻いており、目の前にいる少女がどういう存在なのかを嫌でも知らしめてくれる

 

 

こちらに気付いた黒騎れいがゆるりと立ち上がると、彼女が首に巻いたマフラーがゆらりと宙を舞う。その彼女の肩には一羽の黒いカラスが静かに止まっていた

 

 

 

れい「久しぶり。あかねがいないのは当然として、芳佳とあおいは?」

 

 

わかば「当然という言葉は無性に腹がたつわね。芳佳は混乱のせいで行方不明。あおいは体調不良。今いるのが全員よ」

 

 

れい「まあ、いないのならば仕方ないわ。これまで影で立ち回ってきた私がこうして姿を見せたのは、あなた達に選択肢があることを伝えるため」

 

 

ペリーヌ「その前にはっきりさせておくべきですわね。黒騎さんあなた、敵なんですの?」

 

 

れい「あなた達が間違った選択肢を選べば、そうなるわ」

 

 

シャーリー「しばらく会わないうちに随分悪ぶった話し方になったなあの子」ヒソヒソ

 

 

ルッキーニ「可愛げがなくなったよねー」ヒソヒソ

 

 

 

ひまわり「んで、なに?」

 

 

れい「選択肢は2つ。まず1つは、あの塔のアローンになにかしらちょっかいをかけること。こちらを選んだ場合、あなた達の世界は〈終了〉する」

 

 

れいはVサインの要領で立てた指の一つを折り曲げながら淡々と述べる。しかし終了という単語を口に出した時に彼女が発した凄味はただならぬ圧力を孕んでいた

 

 

 

シャーリー「終了ってのは?」

 

 

れい「今、あなた達の世界は示現力に相応しいかどうかを〈管理者〉である者達にテストされている状態だというのは解っているわよね。終了というのは、その試練に失敗したと判定された時に下されるもの。示現力を扱うにふさわしくないものから力を奪い、その世界を終わらせるのよ」

 

 

 

終わらせる、というのがどういうものか詳しく聞きたい者は1人としていなかった

 

 

いや実際ひまわりは知識欲を満たすため詳しく質問しようとしたが察したエイラに後ろから口を抑えられた結果誰一人質問することはせず、黒騎れいはもう一本の指を折り曲げながら言葉を続ける

 

 

れい「もう一つは、何もしないこと」

 

 

リーネ「・・・」

 

 

ルッキーニ「・・・?」

 

 

ペリーヌ「・・・何もしない、とはどういうことですか?」

 

 

れい「そのまま。抵抗せず、思考せず、行動をしない。ようはあのアローンを放っておいてくれればいい。これはあなた達が立ち向かうべき最後の試練。・・・いつまでもとは言わないわ。明日の20時。この時間まで手を出さずにいてくれれば、全て元に戻ってあなた達はこれまで通りの生活が送れるようになる」

 

 

指を折り切ったれいは拳をパっと開いて、どう?とでもいいたげな顔で返事を促すように首を軽くかしげた

 

 

わかば「・・・こういった話はリーダーであるあかねが目を覚ましてからにして欲しいものだけれど」

 

 

れい「彼女はこの試練が終わるまで目を覚ますことはない。あなた達だけで決めることも、最後の試練の内容の一部よ。最後くらいあの子に頼らずこの世界を守ってみせなさいということね」

 

 

ひまわり「デカイ口叩くけど、急に出て来てそれっぽいことをつらつらと並べられても信憑性がないんだけど?いくら情報が欲しい状況だとしてもなんでも鵜呑みにする訳じゃないんだけど」

 

 

 

れいは肩をすくめるような動きをした。しかしそれはひまわりの反論に困った訳ではなく、その肩にのったものに合図を送る意図が込められたものだった

 

 

「___彼女は、私の代わりに話を進めているにすぎません。そういう意味では、彼女の言葉は〈我々〉の言葉でもあります」

 

 

 

カラスのくちばしが細かく動き、機械的な女性の声がそこから発されたことに死ぬほど驚いたビビッドチームはかろうじてひっくり返ることはしなかった

 

 

ひまわり「つまり、あなたは・・・」

 

 

「あなた方に試練を与えている側に属する者です。呼び方は好きにすればよろしいでしょう」

 

 

シャーリー「なんか私のとこの部隊にいる筋トレ大好き脳筋野郎に声が似てる気がするから、カラスとゴリラをまぜて・・・怪鳥ゴリラス!そう呼ぼうぜ!」

 

 

「敬意を感じられる呼び方にしないと今すぐこの世界を終了させることもやむをえませんが」

 

 

シャーリー「大変失礼いたしました」

 

 

 

シャーリーが茶化して時間を稼ごうとするが、余りの事態にわかば達の精神は追い込まれつつあった。黒騎れいが面と向かって敵対していること、あかね抜きでこの世界の行く末に関わる2択を迫られていること、そして突如現れた未知の存在

 

 

疲労した今の状態で対処するにはあまりにも難度の高い問題である

 

 

わかば(どうしたらいい・・・!いや、どうしようもないという状況ができあがりつつある・・・!)

 

 

戦え、と言われれば三枝わかばはこの状況でも恐れることなく行動できただろう。パレットスーツが使えなかったとしても彼女はあらゆる手を尽くすために心を燃やすことが出来た。だが今彼女は自らの意志で剣を手放さなければならない状況になったことで、今までにないほど混乱していた

 

 

ひまわり(そもそも、アローンを放っておくことが平和になるはずがない・・・!でも、倒す手段がないうえに倒した時点でバッドエンドだと言われたら、どうしようもない!)

 

 

チームの頭脳であるひまわりも決断することはできない。何故ならこれが実質1つしか選べない理不尽な問題であることだと理解していたからだ

 

 

ペリーヌ(であれば、率直に白旗をあげるよう銃をつきつけられた方がマシですわね。わたくし達に選ばせるというスタンスを貫かれるのがこうも抵抗する心を削られるとは)

 

 

 

シャーリーがエイラにチラりと目配せをした。ルッキーニはシャーリーが動けばすぐについていけるよう少し腰を落として珍しく無駄口を叩かずにいる。しかしそんな様子を見たエイラは胸の前で人差し指を×に交差させて澄まし顔を横に振った

 

 

それを見てシャーリーは魔法力を発動させるのを止め、眉間に皺を寄せてエイラと目で会話する

 

 

シャーリー(じゃあどうすりゃいいんだ?501と連絡がとれれば何かしら打てる手があるかもしれないが・・・)

 

 

一方のエイラは無表情だ。危機感をまるで感じないと言ってもいい。業を煮やしたシャーリーの咳払いでリアクションを促されてようやくエイラはため息と共に口を開いた

 

 

エイラ「真剣に悩んだって仕方ない問題だろ。こういう時はバカ・・・もとい直感タイプのに任せよう」

 

 

シャーリー「なに言ってんだよ?」

 

 

エイラ「遅刻だぞミヤフジ」

 

 

 

 

エイラは空を仰いだ。わかば達も驚いて釣られたように顔を上げる

 

 

そこには、怒れるけもみみ魔女がいた

 

 

ただ彼女は1人ではない。いくら怒っていたとしても、ストライカー無しでは空は飛べない

 

 

 

宮藤芳佳を抱えて飛んでいたのは、光沢のある漆黒の身体を持つモノ

 

 

 

ペリーヌ「人型ネウロイ・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話 宮藤「お待たせしましたすごいヤツ」

空から落下してきたのかと見紛う程の勢いで急降下してきた芳佳と人型ネウロイはほとんど減速せず勢いそのまま黒騎れいとビビッドチームの間に割って入った。すさまじい衝撃があるはずだが、魔法力を発動させている芳佳にダメージはない。しかし管理局正面広場の地面にひびを入れてしまったことはかなり気になる様子だった

 

 

 

宮藤「なんで減速してくれないのかな!?」

 

 

人型ネウロイ「___」

 

 

人型ネウロイは言葉の代わりに両の手の平を上に向け肩をすくめるようなモーションを取った。謝罪しているようで、自分は悪くないとでもいいたげな性格の悪い態度からはしかし敵意のようなものは感じられない

 

 

宮藤「確かに私ができるだけ急いでとは言ったけど・・・もういい、とにかく今は!」

 

 

れい「そんなものを連れて乱入とは、とんでもないわねあなたも」

 

 

「イレギュラー。度が過ぎますね」

 

 

これまで偉そうな態度を崩さなかったれいの表情が変わる。険しく、敵意に満ちていた。無機質な筈のカラスの声もどこか苛立ちを含んでいるように感じられた

 

 

 

宮藤「お待たせ」

 

 

れい「すっかり事情通って顔ね」

 

 

宮藤「事情は解らないけどれいちゃんがやろうとしてることは見過ごせないってだけだよ」

 

 

れい「事情を話せば手伝ってくれたりしないかしら?」

 

 

宮藤「どんな理由が裏にあろうと、他所の戦いをこの世界に持ち込むことは絶対に許されることじゃない!本当に話し合いをするためにここに来たっていうんなら、あかねちゃんを人質にとるようなことはやめないとだめだよ!」

 

 

れい「正義の味方、結構な事ね。でもそれをこの世界で実践されては困るのよ」

 

 

 

れいの目配せを受けて、黒いカラスが羽を広げる。それは一羽の鳥が本来持つべき翼のサイズを優に超えた広がりを見せ、そびえ立つ壁のようにれいの左右に展開された。漆黒の壁は生物の温かさを有しておらず、全ての光を吸い込むような深さを感じる。見る者の恐怖を掻き立てる無限なる闇そのものであった

 

 

辺りの気温が急激に下がっていく。重力が何倍にもなったかのようにわかば達が錯覚してしまう程、抑えつけられるような高圧的な気配を目の前の存在から感じていた

 

 

 

シャーリー「なにか仕掛けてくるぞ!」

 

 

わかば「くっ、ひまわり!私の後ろに」

 

 

エイラ「オマエも私達の後ろに下がるんだよ!」

 

 

黒い壁の中に赤い光がキラリと瞬いた。間違いなく希望の光などではないそれは1つ、また1つと数を増やしていき、10を越えた辺りでペリーヌは数えるのを止めた

 

 

 

「あなた達の進化を求める本能の強さは危険です。示現力とは、精神性の成長をおざなりにしたまま手にしていいものではないのですよ。あなた方にはここで果てていただきます」

 

 

ルッキーニ「なに言ってっか解んない!」

 

 

シャーリー「そりゃそうだろ、カラスなんだから!」

 

 

わかば「目が据わってる。狂気すら感じるわ。今のあなたを黒騎れいだと思いたくないわね!」

 

 

れい「黒騎れい、などという存在が最初から虚構なのよ。まあ敢えて言うなら・・・こちらが本物よ」

 

 

エイラ「おい宮藤、任せていいんだよナ!?」

 

 

宮藤「はいっ!ストライカー、お願い!」

 

 

魔法力を発動させた芳佳が強化された身体能力をもってして跳躍する

 

 

れいとの話し合いに一縷の望みを賭けていた宮藤芳佳は、リスクはあれど素手の状態で登場した。だが戦いになった場合の対策を考えていなかった訳では無い

 

 

芳佳の頼みを聞き届けた人型ネウロイが右腕を前に突き出すと芳佳の足元に次元の穴が発生し、そこから緑に塗装されたストライカーユニットが1人分飛び出した。それは吸い込まれるように芳佳の両足に装着される

 

 

 

その瞬間、青白い光が一面に広がった。あまりに巨大な為地上にいるビビッドチーム達には解らなかったが、それは宮藤芳佳が発生させた魔法陣だ。黒いカラスの翼が放っていた悪意を払いのけるような強い力が一帯に満ち溢れ、わかばとひまわりは自らの身体に熱い力が湧いてくるのを感じた

 

 

 

ひまわり「すごい・・・!」

 

 

ペリーヌ「相変わらずめちゃくちゃな魔法力ですわね」

 

 

黒い壁の中から数え切れない程の大小入り乱れるビームが一斉に放たれた。それらは全てストライカーを装備した宮藤芳佳と、その横に立つ人型ネウロイを焼き払わんとするため狙い澄まされたものだ

 

 

宮藤「防ぎますっ!」

 

 

治癒の魔法を個性としてその身に宿し、傷をつけるより癒すことを好む彼女。しかし背後に守るべき人々を背負った宮藤芳佳は、眼前の敵に全力をもって立ち向かう覚悟があった

 

 

ウィッチであれば誰もが使用可能な基礎的な魔法。降りかかる災厄を祓う神聖な魔法陣。シールド

 

 

宮藤芳佳が保有する魔法力はストライクウィッチーズ所属のどのウィッチよりも多い。それらが全て防御に回された時、展開されるシールドのサイズと堅牢さはもはやオリジナルの魔法として成立してしまう程強力である

 

 

展開された直径10m以上に及ぶ青い魔法陣が、一斉に発射されたビームの全てを包み込むように受け止める。宮藤芳佳は一歩も下がらず、背後のビビッドチームの面々と管理局の建物を守り切ってみせた

 

 

 

衝撃で削られた地面から舞い上がった砂ぼこりと、赤と青の光がぶつかりあって生まれた閃光が収まる頃には既に黒騎れいと黒いカラスは跡形もなく姿を消していた。力の主を失った黒い壁も存在を留めることができず崩れ落ちながら宙に消えていった

 

 

 

宮藤「ふー、なんとかなったね」

 

 

シャーリー「なーにがなんとかなったねだよ!説明しろ宮藤!1から10までな!」

 

 

宮藤「色々あったんですよシャーリーさん色々!ですがハッキリしてることは2つあります。私達が仲良くしてた黒騎れいちゃんはもういないってことと、私達が選ぶ選択肢はさっき提示された2つのうちのどちらでもないということです」

 

 

ペリーヌ「素敵な第三の選択肢をお持ちなので?」

 

 

宮藤「アローンにもネウロイにもこの世界からご退場願います。どちらもここに必要無いものですから」

 

 

 

彼女は力強く断言した。シャーリーに対してなんの説明にもなっていないが、先ほどまで絶望しか無かったこの場に確かな希望が産まれたことは確かな事だった

 

 

人型ネウロイが拍手で芳佳の決起を盛り上げようとしているのをリーネは信じられないといった顔つきで見ていたが、ネウロイに促されて戸惑いながら小さく拍手を始めた

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話 わかば「夜更けの来訪者」

あおい「あのぉ・・・なにがあったの?」

 

 

わかば「あおい!元気になったの?」

 

 

芳佳の魔法陣の影響で体力を回復させたあおいは何事かと駆けつけてはみたのだが、既に状況は終わっていたようでおどおどと歩み寄る

 

 

あおい「うん。それより・・・」

 

 

視線が集中するのは一点。地面から微妙に浮いてふらふらとしている人型ネウロイだ

 

 

 

形はまさに人間の少女を模したもの。顔はのっぺりとした装甲がマスクのように覆っており、読み取ることはできないが腰部の形状がスカートのように見えることであったり、所作やところどころの丸み(胸部等)が女の子らしさを醸し出していた

 

 

 

 

 

当の本人は自らに視線が集中していることに気付いてか首を傾げている

 

 

 

ペリーヌ「ソレ、なんですの?瘴気を発していないということは、アローン・・・なのかしら?」

 

 

それとなくウィッチ達は魔法力を発動させ、ストライカーこそ履いていなくとも戦闘態勢に移行している。それを見た芳佳は慌てて間に割って入り、弁明を始める

 

 

宮藤「そうです!この子はネウロイじゃなくてアローンです!私をこの世界に運んできた子で・・・まあなんといいますか・・・。あの、自分で話してくれたら助かるんだけど」

 

 

「そうだろうと思ったわよ」

 

 

 

手を添えて、顔面を覆っていた黒い装甲が解除する。その下から出た顔は

 

 

わかば「ええ!?」

 

 

リーネ「えっ・・・」

 

 

ひまわり「れい!?」

 

 

 

「もったいぶって悪いけど、黒騎れいではないのよねこれが。あなた達からはそう見えるかもしれないけれど」

 

 

 

凛とした声も、冷めたように見えて情熱的な瞳も。それはまさしく黒騎れいのものであった

 

 

 

「恥ずかしながら名乗らせてもらうなら・・・そうね!黒き魂輝かせ、世界を惑わす悪を撃つ。怨念背負った悲しき戦士!月夜に奏でる鎮魂の歌、ブラックムーン・レクイエm」

 

 

宮藤「なんというか、酔っぱらったれいちゃんて感じな子だよ。あろん子ちゃん」

 

 

あろん子「宮藤芳佳。人の名乗りを邪魔した挙句あろん子ちゃん呼ばわりとはご無礼極まれりね」

 

 

 

名乗りを邪魔され若干キレ気味なソレは、腰に手を当ててしかめっ面だ。まるで人間のような振る舞いを見せる。実質、見ようによっては身体に黒いボディースーツを着込んでいるようなものなので存外違和感はないのかもしれない

 

 

 

エイラ「どうする?」

 

 

シャーリー「ぶっちゃけヤバイ話だな。ネウロイとお友達になりました!なんて中佐やバルクホルンがいたらどんな顔をするか想像するのは難しくないよ」

 

 

ルッキーニ「でもエイラはあのネウロイ・・・じゃないや、アローンと芳佳が助けに来るのを待ってたんでしょ?味方ってことじゃないの?」

 

 

エイラ「占いは占いだからな」

 

 

シャーリー「まあそうだけどよ。他に手札が無いんじゃ、分が悪くてもこれに賭けてみるとしようぜ」

 

 

シャーリーはそういうといきり立つペリーヌの肩にポンと手を置いて、彼女を落ち着かせた

 

 

 

あろん子「あなた達がするべきことは単純よ。アローンをぶっこわして、中にある一色あかねの魂を解放する。そうしないと示現の戦士の生命力を吸い上げてバカみたいに強くなったネウロイがこの世界の何もかもをめちゃくちゃにしてしまう」

 

 

ペリーヌ「では、すぐにでも?」

 

 

あろ子「せっかちは長生きしないわよ。さっきあの偉そうな二人組が言ってた通り、今回の試練のリミットは塔のアローンが出現してから24時間で設定されている。つまり明日・・・もう今日になってるけど、早くても今日の19時までは向こうも早々動けない。今のような派手な干渉もこれ以上は行えないだろうから、とにかく朝までは休みなさい。私も、もう少しこの世界の情報を集めたい」

 

 

宮藤「私も付き合った方がいい?」

 

 

あろん子「あなたも寝てなさい。明日の8時に合流するわ。歯磨きを忘れないでね」

 

 

彼女の顔を再び黒い膜が覆う。重力を感じさせない軽やかな動きで空へ飛びあがり、月の光を浴びながら高速で東の空へ飛び去って行った

 

 

 

_________________________________________

 

 

 

 

そして時は進み、朝7時50分。防衛軍、管理局はアローン発生地域の避難誘導を完了させ、できる限りの情報を集め〈人型アローン〉が再び姿を現すのを待っている状況だった

 

 

 

<ウィーン>

 

 

シャーリー「入ります。シャーロット・イェーガー以下9名。起床いたしました」

 

 

柴条「おはようございます。みなさん、体調の方はいかがですか?」

 

 

シャーリー「ウィッチーズはバッチリですよ」

 

 

あおい「私達もかなり元気になりました」

 

 

再び指令室のドアが開き、向こうから天城とその手に乗せられる形で一色健次郎が姿を現した

 

 

健次郎「みな揃っておるな」

 

 

ひまわり「博士。あかねは・・・」

 

 

健次郎「何とも言えん。今はももが___来たな」

 

 

 

呑気な声が突如凄味を増し、低く鋭い声に変わった。彼の視線が指令室内の一部を捉えていた。人1人分のサイズの空間が陽炎のように揺らいでいる。その中心に黒い亀裂が走ったかと思うと、瞬く間に人間の形にまで膨らんだ

 

 

あろん子「おはよう。よく眠れた?」

 

 

ふわり、と髪をなびかせて参上した人型アローンは自らを囲む人間の視線を気にすることなく堂々としている。むしろそれを囲う人間の方が及び腰である

 

 

シャーリー「おかげさんでね。集合時間をもうあと1時間遅らせてくれたら寝ぐせも直せたんだけど」

 

 

あろん子「そしたらあなたの睡眠時間が1時間伸びるだけでしょう?」

 

 

健次郎「くだらんトークは結構じゃ。とっとと始めてくれ」

 

 

 

冷たくあしらわれて肩をすくめたあろん子は辺りを見渡して空いている椅子を探したが、どうにも自分が立つべきは部屋の奥の大型スクリーン前の一段高くなっている場所だということに気付いて大人しくそちらへ歩いて行き、部屋中の視線を浴びながらそこへ立った

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話 リーネ「よくわかるアローン講座」

あろん子「あなた達にはアローンというものがどういったものかを理解してもらう必要があるみたいね。お茶菓子の一つも出ないのはアローンが事あるごとにビームを吐く危険物の俗称かなにかだと思っているからでしょうし」

 

 

 

彼女が流暢に喋るのを見て柴条以下管理局職員達は息を呑んだ。アローンの脅威を知っている人間であれば私を怖いと思うのも無理はない、とあろん子は気にしないでいたが管理局の職員達は彼女がお茶を飲めるのかという事実に驚いていただけだった

 

 

 

あろん子「アローンを語る上でカギになるのは、これを管理している存在を認識する事ね。一色健次郎博士は直接触れたことがあるでしょうけど、アローンを操っているのは私達が住む物質世界より高次元に存在する精神生命体。私達は〈管理者〉と呼んだり、〈上位者〉と敬称されることもある。彼らは、私達が今存在している物質世界のあらゆる法則や制限から解放され、神羅万象を自在に操る力を備えている」

 

 

 

ひまわり「さっきのカラスもわりと好き勝手やってたけど、そんな神様みたいな存在だったとはね」

 

 

 

あろん子「アレも高次の存在ではあるけれど、1個体として物質世界に存在している時点で振るえる力には制限がかかっているわ。それに、管理者達も干渉できる範囲に制限があるわ。条件が揃った空間内であればあらゆる事象を操ることが可能だけれどね」

 

 

ひまわり「1個体で存在している時点でって・・・じゃあ高次の存在っていうのはどうなってんの?個体としての概念がないってこと?」

 

 

あろん子「複数ではあるけれど、存在としては1つ。示現力の真髄の一端に触れたあなたなら察しがつかない?」

 

 

ひまわり「___ドッキング?」

 

 

あろん子「そう。2人の人間の魂が重なりあい、高次元にアクセスして示現力を出力する。あの瞬間、あなた達も人間の域を越えた存在になっているのよ。そして<彼ら>が辿り着いた進化の到達点も、個の壁を取り払い、示現力を扱うに適した一つの超常の存在へと成ることだった」

 

 

 

健次郎「確かに、ドッキング時に発せられるエネルギーは我々の世界にある示現エンジンで生成できる出力を優に超える。しかしそれはあくまでビビッドエンジン・システムにより高次元からエネルギーを取り込み、より強い攻撃へと転換しておるだけじゃ。真の示現力とやらを手に入れたとして、我々が神のような生命体に変化してしまうというのは解らん理屈じゃ」

 

 

あろん子「示現力というのは文字の通り神を顕現させるための力。この場合の〈神〉とは人の世を救う存在として考えられた都合のいいイメージのようなものであって、ストーリー性のあるな神様を指すものではない。要は___」

 

 

 

あおい「困ったことをなんでも解決してくれる便利な存在ってことですか?」

 

 

 

あろん子「そうね。示現エネルギーとはそういうもの。命の意志に応え、あらゆる問題を打ち破り進化を手助けする力。今はただ非常に効率よいエネルギー源でしかないけれど、真の示現力がこの世界に溢れるようになれば意志がそのまま現実へと直結する空間になる」

 

 

あおい「思った以上にすごいことになるんだね・・・」

 

 

あろん子「だからこそ、管理者達はこの力を使うに相応しい生命体かを見定めたくなってしまうのよ。下手をすれば自分達の存在も脅かされてしまうからね

 

 

そしてアローンというのは、何らかの役割を与えられて彼らから切り離された存在に対してつけられた呼び名よ。孤独な、ただ1つそこにあるもの。己の使命のため、行動する存在」

 

 

 

高次の存在である管理者は絶大な力を持つ。しかし、低次元の物質世界から解き放たれた彼らは個としての肉体を捨て去った精神体である以上物質世界に直接干渉することは不得意だ

 

 

ひまわり「そこまで進化した生命体なのに、わざわざそんなことする必要ある?」

 

 

あろん子「示現力の集合体でもある彼等の本体が直接触れると、理解しようという意志が示現力を動かしてしまう。低次元の物質世界は一瞬で呑み込まれて彼らの一部になってしまうわ」

 

 

 

管理者は高次元に満ちるエネルギーにより一体化した集合生命体である。自らが存在する空間から出ることはできず、無理に移動しようとすれば自らの空間事移動してしまい2つの次元が衝突してメチャクチャな事になってしまう、というあろん子の話に非常に関心を覚えた健次郎とひまわりだったが、今はそれについて掘り下げる時間がないためぐっと思い留まった

 

 

 

その為作り出されるのがアローンという存在だ。物理干渉に対して強い抵抗力を持つ黒い装甲の中に示現力を凝縮させたコアを詰め込まれ、様々な世界に送り込まれる

 

 

わかば「そのアローンを倒すことが試練という訳?随分脳筋な内容なのね」

 

 

あろん子「敵がなければ惰弱な進化になる。鉄は打たれてこそ強くなるわ。アローンに勝つには示現力を使いこなすしかないし、世界の命運を賭けた戦いと向き合う中でその世界の生物の本質が見えてくる。あなた達はこの試練の最後の段階までたどり着いたのよ。誇るべきことだわ」

 

 

あおい「でも、それはあかねちゃんがいたからできたことで・・・」

 

 

あろん子「その世界で最初に示現力に選ばれた戦士抜きで敵と戦う事。これは最後の試練において必ず立ち向かわなければならない最大の障害として設定される状況よ」

 

 

暗い顔つきになったあおいを見て、どこか鼓舞するようにあろん子は話しを続ける

 

 

あろん子「試練とは、それを乗り越えられないものには与えられない。あなた達はこの最後の試練に勝利できる強さがあると認められたのよ。自分が今まで歩んできた道のりを信じて立ち向かえば、必ず結果は手に入る。彼女が信じた仲間である貴方自身を、信じなさい」

 

 

あおい「・・・うん、頑張る」

 

 

意を決して顔を上げたあおいを見つめるその顔は黒騎れいそのものであった。アローンであるその少女は柔らかく微笑みさえ浮かべて見せて、あおいの心を温かくさせた

 

 

あおい「あなたとれいちゃんは・・・どういう存在なの?」

 

 

 

あろん子「彼女と私は1つのアローンだった。随分前に2つに分かれてしまい、知識や力のほとんどは相方が持っていった。だから芳佳の世界に現れた時の私は自我も薄く、大した力もない存在だったのよ。半分になったというより、黒騎れいから切り離されたモノ。みそっかすね」

 

 

宮藤「そんな風に言わなくても・・・」

 

 

あろん子「まあ実際あなた達の世界に訪れたのも、ふらふらしてたらネウロイが開けた次元の穴に吸い込まれちゃっただけだし。なんで芳佳に惹かれたのかは私も解らないから」

 

 

宮藤「私も解らないよ!」

 

 

ペリーヌ「直感だけで生きてる方々のお話は後回しにしましょう。時間がいくらあっても足りませんわ」

 

 

あろん子「ごめんなさいね。でもこれ結構大切なことなの。私は芳佳と接触しようとしたのに、芳佳は突然私の目の前から消えた。私は芳佳の気配を追ってこの世界に辿り着いたの。そしてこの世界に入った途端、何故か黒騎れいの記憶や思い出の一部が私に流れ込んできて、今の人格が覚醒した。で、目の前には芳佳が居たって訳」

 

 

 

2人は目と目で通じ合った。共に戦うべき仲間なのだと。芳佳が語らずとも黒騎れいの記憶を共有したあろん子は芳佳を抱えて管理局前に飛び込んだのだ

 

 

 

健次郎「れいくんの肉体の構造は我々と変わらん筈じゃ。記憶喪失の原因を探る為、管理局の施設で全身の精密検査を受けておる。そこでは何の問題も見つからんかった。我々の元から姿を消してから一体なにがあったというんじゃ?」

 

 

 

 

あろん子「彼女は人間としてこの世界に潜入するため、記憶や力を一時的に手放し、人間と同じように構成された身体1つに魂を込めてこの世界へ来た。あの肩にのっけてたカラス、いたでしょう?あれから記憶と力を戻されたのでしょう。現時点で黒騎れいは以前とは全く別物になっている可能性があるわ」

 

 

 

ひまわり「あのカラスやあなたもアローンなの?私達が戦ってたのとは別物にしか見えないけど」

 

 

 

あろん子「大きな力を持ち、自分の意志で行動できるアローンが産まれることがある。そういったモノはなにか大事な役割を担うことになる。あのカラスは〈観測者〉の役割が与えられ、それを遂行する為に必要な力を与えられているわ。アレは試練が与えられた世界を見守り、導く」

 

 

リーネ「見守り・・・?」

 

 

エイラ「アレに導かれてたらこの世界は崩壊なんだが?」

 

 

あろん子「現状、正しく役割を果たせているとは私も思えない。黒騎れいという手駒を動かして、何か企んでいる。そもそも観測者がちゃんと仕事をしないせいで、この世界にはウィッチとネウロイが乱入してきている。どちらも、この世界にはあってはならないものなのに」

 

 

ペリーヌ「わたくし達の世界にいるネウロイも、あなたがいう管理者が送り込んでいるものなのですの?」

 

 

あろん子「違うわ。戦闘型アローンはあくまで試練の為示現の戦士と戦うのを目的に作られるもの。ネウロイは生命体の文明を滅ぼす為に産まれてくる悪意ある命。明らかに別物の筈なのに形状も仕組みも似すぎている。これはどうにもおかしな話ね。この裏側を確かめる為にも、あの塔をへし折って観測者の鼻を明かしてやりたい。その為なら手を貸すわ」

 

 

エイラ「それがお前のアローンとして与えられた役割ってやつなのか?」

 

 

あろん子「自分が元々どういった存在だったかは解ってないわ。そういったものについての記憶は相方の黒騎れいが持っているのだろうし。まあ、観測者が正しく仕事をせずあなた達を貶めようとしているのはどうにも気に入らないって訳。私が管理者側としてあなた達の味方をするのは義務感ってやつね」

 

 

あおい「ほんとに、それだけ?」

 

 

 

ここに来てあろん子はこれまで淀みなく言葉を発し続けていた口をつぐんだ。あおいの真っすぐとした視線が先ほどまでと違い、仲の良い友人に向けられるそれに変わっていることに気付いて、思わず動揺してしまったのだ

 

 

 

れい「・・・私も彼女の片割れよ。考え方や感じ方なんてのは、黒騎れいとほぼ同じな筈。そして私に流れ込んできた記憶や思い出は、一切記憶を失った状態の彼女がこの世界に来てから得たモノ全てであって・・・まぁなんていったらいいのかしら・・・」

 

 

ひまわり「なにしぶってんの?」

 

 

淀みなく小難しい話を続けていたあろん子がしどろもどろな様子を見ておもわずひまわりが先を急かした。まるで心中を語るかどうかを悩む年頃の女の子のような煮え切らない態度を少し見せた後、彼女はそっぽを向いて口を開いた

 

 

あろん子「つまりまぁ、私はあなた達の知っている黒騎れいじゃないけれど・・・あなた達に優しくしてもらった思い出がある。私がこの世界に来て人格というのを形成できたのは、彼女の温かな記憶と心を疑似的にも受け継いだからよ。そんな私がこの状況を見て、あなた達の味方になりたいと思うのは・・・小難しい理屈があるわけじゃないってこと」

 

 

 

少し彼女の頬が赤く染まっている。それは別にビームを撃とうとしている訳ではないことは誰の眼にも明らかだった

 

 

 

あおい「じゃあ、あろん子ちゃんは私達の仲間なんだね」

 

 

 

あかねがいればきっと言うであろう言葉をあおいがはっきりと口にしたことにより、あろん子の立場は決まった。例え彼女がアローンであろうと、彼女はビビッドチームの一員に相応しい存在だった

 

 

 

あろん子「私が産み出された時の役割がなんだったかは知らないけど、やるべきことは私自身が決める。偉そうに悪の親玉気取りのあんちくしょうの羽をむしって焼き鳥にしてやることと、グレちゃってる相方に一発かまして目を覚ましてやることね」

 

 

 

彼女はいたずらっ子のように強気に口角を釣り上げた笑顔を浮かべて、ウインクをしてみせた

 

 

 

 

 

 

 




シャーリー「よくわかる、だって?見ろよルッキーニを。立ったまま寝てる。話が長すぎるんだ」


エイラ「3行で纏めろよオイ」


あろん子「わたしいいやつ あいつらてき わたしあかねたすける」


ルッキーニ「おっけーわかった!!!!!!」


ペリーヌ「まあ・・・その程度の認識でもいいのではなくて?ルッキーニさんは」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話 宮藤「病室にて」

 

話し合いに一段落が付いたので少し休憩することになり、ビビッドチーム達は何よりもまずはあかねの顔を見に行こうという話になった。柴条にあかねの居場所を聞き一行は速足気味にその場所へと向かった

 

 

 

ブルーアイランド管理局の建物内には様々な施設が組み込まれている。医療区画もその内の一つであるが、決して形だけのものではなく一流の設備が揃えられた本格的なものだ。その一角にある特別豪華な個室に一色あかねは運び込まれていた

 

 

 

あおい「し、失礼しますー・・・」

 

 

 

「あらあおいちゃん。久しぶり!」

 

 

 

あおい「ま、ましろさん!?」

 

 

 

そんな彼女達を迎えたのは、ベッド脇の椅子に腰かける1人の女性。赤い長髪を肩に乗せるようにして一つに結び、少しやつれているにも関わらず生命力の強さを感じさせる赤い瞳はあかねのそれを思わせた

 

 

彼女こそ一色あかねとももの母親、ましろである。年齢と体重は___まあ___伏せる

 

 

ましろ「二児の母と言えどレディよ!まあこの数か月はマジで意識無くて寝たきりだったもんだからメチャクチャ痩せたけどね。限界ギリギリダイエットだね。マネしないように!あははは」

 

 

あっけらかんと笑いながらしゃべり倒す彼女は病人とは思えないものだった

 

 

 

シャーリー(笑えないジョークだな・・・)

 

 

 

ましろ「ほとんどの子は初めて会うわよね?自己紹介するわ。私はこの一色あかねとももの母親、一色ましろです。私も色々厄介な事情があるんだけど、お父さんから聞いてるのかな?」

 

 

ひまわり「あ、はい。少しですけど」

 

 

 

ビビッドチームの面々は簡単に自己紹介を行い、ベッドの傍に近寄った

 

 

 

 

ましろ「まあそう固くなんないでよ。私は寝てるだけなんだし、実際戦ってるみんなの方が大変なんだから」

 

 

 

彼女が愛おしそうに撫でるのは、ベッドですやすやと眠るあかねと、お見舞いに来たが体力の限界を迎え一緒にベッドで寝てしまっているもも

 

 

 

一色ましろがどういう運命を背負っているのかは、健次郎から簡単な説明は受けていた。彼女はあかね達が示現力により強くなるのとは逆に自らの命が弱まる呪いにかかっており、アローンにエンジンが破壊された際には自らが起点となり世界を崩壊させる示現力を発生させてしまう仕組みになっているという、正直気持ちのいいものではない情報だけは全員が持っていた

 

 

 

 

示現エンジンに関わる非常に重要な立場にあるましろは、情報秘匿の意味もあり厳重な警備によって保護された管理局の医療施設にて肉体を維持するための処置を受けていたのだが、深夜に突然意識が戻った

 

 

重たい身体を車椅子に乗せ疾走し、自らの娘の元へと駆けつけた。それ以降、今世界がどういう状況なのかの簡単な説明を受ける以外一切のメディカルチェック等を断りあかねに寄り添っている

 

 

 

ましろ「あかねを産んで14年。その半分以上を示現エンジンの開発やらなんやらに充てていた。本当に寂しい思いをさせたってのに、今度はあなた達の戦いを起きて見守ることもできやしないなんて・・・情けないなぁ。ほんと」

 

 

 

あかねの顔色はましろと比べると随分元気そうな色合いで、呼吸も規則的で傍目にはただ眠っているようにしか見えない。今にも起き上がっていつものように陽気に喋り出しそうだ。だが、何があろうと彼女が目を覚ますことはないのが現実であった。あろん子曰く、彼女の魂は今ここには無いのだから

 

 

 

宮藤「ましろさん、あの・・・ごめんなさい。私の魔法では、あなたを治すことも今のあかねちゃんを起こす事も・・・」

 

 

 

ましろ「ちょっとやめてよ芳佳ちゃん。私に関しては受け入れていることなんだから。あかねはあなた達がこれから起こしてくれるんでしょ?なにも手伝ってあげられないわたしからすれば、むしろあなた達には感謝しかないよ。これまであかねを助けてくれて、本当にありがとう」

 

 

 

向かい合うものの心まであったかくさせてくれるような人懐っこい笑顔と情熱的な瞳はまさしくあかねの母といったところだろうか。大きな戦いを前にして少し余裕を失っていたビビッドチーム達はいつの間にか穏やかな気持ちを取り戻していた

 

 

 

 

 

ましろ「前にあかねに言ったことがあるの。自分の笑顔を大切に、そしてそれと同じくらい周りの人の笑顔を大切にしなさい。って・・・。なのにこの子もあなた達も、自分以外の人の為に頑張りすぎだわ。ほんと心配」

 

 

シャーリー「安心して下さいよ。私がしっかり面倒みますんで。年長ですから」

 

 

ましろ「あれ、わたしからすればあなたも子供なんだけど?頭撫でちゃうよ」

 

 

シャーリー「ぜひともお願いしたいですけどね、あかねとももの団欒に水を差しちゃ悪いですから」

 

 

 

窓から差し込む暑いくらいの日差しが一色家の髪を明るく輝かせる。とても穏やかな一家団欒の様子は、一時の幻に過ぎなかった。あかねが目を覚ませばましろは再び意識を失うだろうし、このままアローンを討てなければあかねが目を覚ますことなく世界は滅びるのだ

 

 

 

 

そんなことを許すわけにはいかない

 

 

 

 

わかば「ここに居る全員で、必ず奴を討つ」

 

 

ルッキーニ「れいをふんじばって捕まえる!」

 

 

ひまわり「そのあと迎えに来るからね」

 

 

シャーリー「そしたらまたみんなでうまいメシでも食おう」

 

 

エイラ「いいな、ソレ」

 

 

あおい「じゃあ。あかねちゃん、私達行ってくるね」

 

 

 

あかねの頬を優しく撫でるようにして、あおいは小さく、しかし力強く囁いた。それに応えるようにあかねの口がもにょもにょと動いた気がした。あおいはくすくすと笑うと、名残惜しくもあかねの顔から手を離した

 

 

 

笑顔で手を振るましろに見送られながらビビッドチームは静かに部屋から出た

 

 

 

あろん子「・・・」

 

 

わかば「一緒に来ればよかったのに」

 

 

あろん子「だめよ。気まずいもの」

 

 

その癖会話が聞こえるようにとドアの横の壁にもたれかかって待機していたあろん子は、演技くさく顔をしかめながら言った

 

 

 

エイラ「そんなの気にするタマか?」

 

 

あろん子「全部終わったら相方と一緒に土下座にくるから、その時でいいでしょ。・・・さ、そろそろ戻りましょう。あまり時間はないけれど、意義のある作戦会議になるといいわね」

 

 

シャーリー「お前さんはなんかいいプランはあるのか?」

 

 

あろん子「最高のがあるわよ。派手だし、スピーディーだし、やりごたえがあって何より運任せ」

 

 

シャーリー「ほー、いいね。いつだって勢いが大切だ」

 

 

あろん子「聞かせてあげましょうか?」

 

 

ひまわり「ほかに何もいい案がなかったらね。それまでは静かにしてて」

 

 

リーネ「あはは・・・」

 

 

 

時刻は10時15分。あろん子が示した〈リミット〉まで残り9時間を切っていた

 

 




予定では夏を迎えるまでに完結でした。予定ではね!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章 ―くろがねの城 夏の陣―
第52話 ひまわり「至高で華麗なる作戦」


 

 

 

健次郎「作戦は簡単じゃ。アローンは動くことなくこちらを待ち構えておる。そこに突っ込んで、ぶちかます。これにて解決じゃ」

 

 

ひまわり「博士……冗談、ですよね?」

 

 

健次郎「ガチじゃよひまわりくん。ガチガチじゃ」

 

 

ひまわり「」

 

 

ひまわりは数秒間天を仰いだ後、言葉にならないうめき声をあげてわかばの二の腕に顔をうずめた。敬愛する健次郎博士であればスマートで画期的なお利巧な作戦を考えてくれるだろうという彼女の根拠のない妄想は打ち砕かれたのだ

 

 

 

ひまわりの肩にそれとなく手を回し抱きかかえるようにしながらわかばが会話を引き継いだ

 

 

 

わかば「やることがシンプルなのは助かります。しかし、何も考えず突っ込めという訳ではないのですよね?」

 

 

健次郎「当然じゃ。実際戦闘行動を行うに当たっての詳細はこちらで詰めておる。作戦開始前には諸君らにどう動いて欲しいかのブリーフィングも行う。しかし、本質的に君たちに求めるのはこれだけじゃ。アローンの装甲を突破できる火力を出してもらう、唯一無二の諸君らだけの仕事じゃ」

 

 

わかば「違いありませんね。アローンとの戦闘とは結局のところ、こちらのエネルギーが奴の防御力を上回るかどうかが全てですから」

 

 

 

エイラ「一発に限るなら私らの火力よりそっちに頼ることになるしな」

 

 

 

健次郎「うむ。だからこれから作戦を立てるに辺り一番大切なのは、わかばくんひまわりくん、あおいくん。君達が……戦えるかどうかじゃ。もし君たちが無理だと言うなら___」

 

 

 

健次郎の言葉を遮るように3人は鍵を握った手をぐいと突き出した。それぞれが色鮮やかに輝き、戦いへの強い闘志を感じさせる

 

 

 

わかば「私達は示現力に選ばれたのではなく、あかねに選ばれたようなもの。そのあかねがいない今、私達の力はいつもより弱くなっているかもしれません。ですが私達が弱くなった訳ではない。それに、私達は自らが望んだからこそ、あかねと戦場に並び立つことになったのですから」

 

 

ひまわり「示現力は人の意志に応えてくれる。私達が心を強く持てば、きっとそれに応えれくれるはずです。どんな状況だろうと私達次第で可能性は生まれます」

 

 

あおい「私達は戦います。できるできない以前に、そうしなければならないという強い覚悟があります。私達には守りたいものがありますから」

 

 

健次郎「___うむ。浅慮であったな。君達の覚悟を疑うような発言をしたことを謝ろう。存分に頼らせてもらうぞ」

 

 

 

彼女達も、あかねと同じく気高い志を持ち戦場に立つ戦士達であった。分かっていたつもりであった健次郎は、しかしどこかで彼女達を過小評価していたのかもしれなかった。あかねがいないと立ち上がることが出来ない弱さがあると思っていたのだ

 

 

確かにあおい達も折れかけたのだろう。しかし仲間に励まされて、あるいは自ら奮い立って今ここに立っている。その強さは世界の運命を背負って立つに相応しい、選ばれた戦士のそれであった

 

 

 

ルッキーニ「ひまわりも結局気合とどこんじょーじゃん!」

 

 

ひまわり「……うるさい。大事じゃないなんて一回も言ってない。脳筋プランは最後の手段ってだけ」

 

 

あろん子「ま、そうね。じゃあ具体的にヤツの撃破プランを考えていきましょうか」

 

 

 

 

防衛軍司令部とも通信が繋がり、アローン対処に関わる組織の上層部全てが一同に会した場となった管理局作戦指令室の明かりが薄暗いものへ切り替わる。部屋の壁が全面モニターへと早変わりし、そこに様々なデータが映し出される。メインは中央に出された黒くそびえる塔を描いたデッサン

 

 

 

 

管理局職員「我々はこのアローンを〈塔のアローン〉と呼称しております。周辺5キロ圏内ではありとあらゆるレーダーや観測装置が無効化され、遠方からも肉眼以外ではまともに補足することができず、完全に解析不能です。車やバイクといったものも全て動作しません。

 

しかし唯一、ストライカーユニットは問題なく稼働することはウィッチの二名が確認しています。これによりパレットスーツを装備したビビッドチームも問題なく戦闘ができると判断しております」

 

 

 

防衛軍兵士1『徒歩で現地の偵察を行った防衛軍兵士のデータによると瘴気のようなものは発せず、〈ただそこにあるだけ〉といった報告がなされているだけです。本日0600時の偵察の際にも、依然として変化なしとの報告です。やつにはなんの動きもなく、上空にもアローン及びネウロイ出現時に見られる次元の穴の出現も見られません』

 

 

防衛軍側からも最新の情報が入るが、事態は一向に変化なしだった。これによりあろん子に視線が集中する。彼女だけが突破の鍵となる情報を持っている可能性があるからだ

 

 

あろん子「いや別にないわよ。悪いけど」

 

 

防衛軍長官『は?』

 

 

あろん子「知るわけないでしょ。私がつくったアローンってわけでもないんだから。どういう役割をもっているかだけよ。一定時間が経つとこの世界の示現の戦士の魂を吸い上げて超強力なアローンを生み出すのが役割なの。アレは繭か、大げさにいうなら城ね。中には囚われの身のお姫様と、それから力を吸い上げる悪い怪物が待ち構えている」

 

 

エイラ「弱点はなんだ?」

 

 

あろん子「そりゃどこかにあるコアでしょ」

 

 

シャーリー「そりゃそうなんだろうけど……」

 

 

あろん子「よく思い出してちょうだい。これまでのアローンだって弱点を探し出して倒してきたって訳じゃないでしょう?ゴリ押しでぶん殴って、制圧してきた。そうでしょ?」

 

 

わかば「そういう言い方もできなくはないけれど、一言で片づけて欲しくない熱いドラマがあったのよ」

 

 

リーネ「竹刀で殴りかかったりですよね?」

 

 

ペリーヌ「対話の方法もゴリ押しですわね」

 

 

わかば「……」

 

 

あろん子「実際に戦ってみるまで解らない。だから一色健次郎博士の言う通り力一杯ぶちかまして、やれるか、やられるか。覚悟を決めなさい。そのための24時間なの」

 

 

あおい「覚悟なら決まってます。行きましょう今すぐ!!!!!」

 

 

鍵をもつ手を振り上げ椅子から勢いよく立ち上がったあおいの肩をリーネとペリーヌが掴み無理やり椅子に座らせた

 

 

あおい「なんですか!?!?」

 

 

ペリーヌ「落ち着きなさいな・・・この子、ほんとあかねさんの事となれば止まれませんわね」

 

 

リーネ「あおいちゃん、気持ちは解るけど落ち着いて!」

 

 

あおい「ご、ごめんなさい。ちょっと興奮しちゃって・・・」

 

 

健次郎「作戦開始は16時ちょうど。今からおよそ5時間と少し後じゃ。」

 

 

わかば「なぜそんなに時間をとるのです?」

 

 

健次郎「最後の作戦じゃ。防衛軍、管理局共持てるもの全てを投入したい。そして君たちにも、猶予をな」

 

 

 

少し言いにくそうに話す彼が話すのを見て、わかばも察した。思い残すことのないよう過ごせと、そう言われているのだ

 

 

 

わかば「では、15時……いえ、14時半にはここに戻ってきます。それまで少し家に帰ってもいいですか?」

 

 

健次郎「うむ。柴条くん、ヘリを出してやってくれ。彼女達を……」

 

 

シャーリー「博士、そいつは私達がやりますよ。万が一に備えての護衛も兼ねてね。私とルッキーニがわかばにつきます。リーネとペリーヌ、ひまわりに。エイラと宮藤はあおいと一緒に行ってくれ」

 

 

 

シャーリーが直感で割当を決めてウィッチ達が了解の意を示す

 

 

 

柴条「その間、こちらもアローン攻略に向けて部隊を編成します。皆さん、短い時間ですが身体を休めてください」

 

 

健次郎「それでは一時解散じゃ。ここで諸君を待っておるぞ」

 

 

健次郎の一声で一気に動き出した管理局職員達の波に追い出されるようにして退室したビビッドチームはストライカーユニットが格納された格納庫へと足を向けた

 

 

あろん子「じゃあ、私は少し1人で動かせてもらうわね。時間には戻るから」

 

 

宮藤「あれ、どこ行くの?」

 

 

あろん子「どこって……人目につかないところ。この恰好じゃ街中を歩く訳にもいかないし、管理局を1人でうろうろしてたら会った人みんなを驚かせちゃうから」

 

 

 

首から上は普通の人間の少女に見えるが、その身体は不思議な光沢を持つアローンの装甲で覆われているのだ。この世の物ではない物質が発する気配は独特で、何も知らない人間が見たとしても彼女が異質な存在であることは本能的に察知するだろう

 

 

 

あおい「それはそうだけど……せめて私と一緒に行こうよ、あろん子ちゃん。上から何か着れば誤魔化せるだろうし」

 

 

あろん子「嬉しいお誘いだけれど、博士の配慮を無駄にしたくないし。あなた達、ちゃんと水入らずで家族と話してきなさい。心残りが無い方が戦いにも集中できるのだから」

 

 

 

尚も引き留めようとするあおいに背を向けてあろん子は再び小さな時空の歪みを発生させ姿を消してしまった

 

 

あてもなく探し回る時間もない。仕方がないので素直に彼女の言葉に従いあおい達はそれぞれウィッチに連れられそれぞれの家へと向かうことにした

 

 

 

 

 

 

 




やべーな夏が見えて来たってのに……ペースが上がらないじゃないか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話 「三枝わかばの剣道場」

 

 

数えるのが億劫になるほどの石段を上がれば、山の頂には大きな木造りの門が構えている。見上げれば〈天元理心流・三枝武真館〉と達筆な字体が刻まれた看板が目に入るだろう

 

 

しかし今回の来訪者であるシャーリーとルッキーニは下からでなく上からこの場所へたどり着いた

 

 

 

年代を感じさせる門の右下には人が出入りする為に小さな勝手口が用意されていた。三枝わかばは躊躇いなくそれを押し開け中に入っていき、ストライカーを脱いだシャーリーとルッキーニがおそるおそるそれに続く

 

 

ルッキーニ「直接お家の中に着陸すればよかったじゃん。広いし」

 

 

シャーリー「おいおいルッキーニ。そりゃノックせず窓から部屋に入るくらい失礼なことなんだよ」

 

 

ルッキーニ「なるほどぉ!」

 

 

 

整然とした石作りの道に沿って進めば待ち構えるのは大きな木造の建物の数々。鳥の声と木々の葉の擦れ合う音以外が排除された神聖な静けさは神社か寺の境内を連想させるが、ここはわかばの生まれ育った家だ

 

 

 

敷地の真ん中に堂々と建てられた武道場に辿り着く。ここで待ってるよ、と小さく手を振るシャーリーとルッキーニに1つ頷いてからわかばは入口の引き戸に手をかけ、力いっぱい引いた。古くなって建付けの悪いこの入口を修理しないのは、これも腕力を鍛える修行の一環であると父が言い張っているからだ。ただ修理費をケチっているだけではないのか、と訝しむ門下生もいるがわかばは毛ほども疑ったことはない

 

 

 

 

わかば「ただいま戻りました」

 

 

 

三枝わかばは道場の扉を開き、凛とした声でそう言った。道場の真ん中でストレッチをしていた壮年の男性がこちらを振り返る。彼の顔には年齢を感じさせる皺がうっすらと刻まれている。わかばと同じ緑の瞳が声を出したわかばの方に向けられ、固く横一文字に結ばれていた唇が柔らかく微笑みの形をとる

 

 

 

 

「わかばか。よく帰ったな」

 

 

わかば「はい。ごめんなさい、急に」

 

 

「おいおい、自分の家に帰るのになんの遠慮がいるというんだ?帰って来てくれただけで嬉しいものだよ」

 

 

 

そういいながら微笑む父の前に正座すると、わかばは尚も申し訳なさそうに頭を下げた

 

 

 

わかば「友人の家に住まわせてもらうなんて我儘を聞いてもらって……ちゃんと事情も話してなかったのに」

 

 

 

「わかばは物心ついた時から、子供らしい我儘など言ったことがなかったな。お前が私を困らせたとすれば、強くなるのに必要だと思ったら無茶な鍛錬に挑もうとすることだった。お前のオーバーワークを抑えるのに、私も門下生の諸君らも散々手を焼いた。そんなお前が、友達の家に居候したいと言ってきた時は心底驚いたよ」

 

 

 

普段から口数が多いとは言えない父の声が随分弾んでいる。自分が会いに来たのがただ時間が空いたから、というだけのものではないことに気付いているのだろうかとわかばは思った

 

 

 

「お前がとてもよい子に育ったというのもあるだろうが、子供らしさを我慢させてしまっていた私に問題があったのかもしれない。天元理心流の師と弟子というより親子として、もっと正しい接し方があったのかもしれないと……お前がいない道場にいると、そんなことばかり考えてしまうな」

 

 

わかば「おとうさん……」

 

 

「いや、いいんだ。ゆっくりしていけるのか?」

 

 

わかば「ううん、昼過ぎには出ないと駄目なので」

 

 

「なら昼ご飯を食べていきなさい。お母さんも喜ぶ」

 

 

 

わかばは小さく頭を下げると、膝を立てて立ち上がった。道場から去ろうとするわかばの背中を父の声が追いかけた

 

 

 

「わかば。見違えたよ。この家を出る前と比べると、お前は随分と強い人間になった。何がお前を変えたのか、ぜひとも知りたい。だからお前を変えてくれた友達と一緒に、必ずここへ帰って来なさい。私はずっと待っているよ」

 

 

わかば「……はい」

 

 

振り返ることはせず、わかばは道場の外へ出た。初夏の日差しの眩しさに思わず目を覆ってしまう。ついでに何故か目から溢れる涙をごしごしと拭いながらシャーリーとルッキーニを追い越して懐かしの家へと歩き出した

 

 

 

ルッキーニ「なんか完全においていかれてない?」

 

 

シャーリー「戦士には泣きたい時もあるさ」

 

 

わかば「泣いてませんが?」

 

 

シャーリー「心配しなくても忘れてやるよ。お昼ご飯を食べさせてくれればな」

 

 

わかば「今日はカレーだと思います。匂いがしますから」

 

 

 

家の玄関で待ち構えていた母親に熱烈な抱擁を受け嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を真っ赤にさせたわかばはウィッチ2人にひとしきりからかわれ、その後3人はわかばの母渾身の手作りカレーを心行くまで味わった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話 「四宮ひまわりのホットライン」

 

 

 

 

四宮ひまわりの両親は管理局傘下の研究員である。ひまわりがビビッドチームの一員として活動している事は把握していたし、現時点で彼女が非常に緊迫した状況にあることも解っていた。管理局の敷地内に建てられている研究施設で仕事に当たっているとはいえ、ひまわり本人が出向けばその特殊な立ち位置に配慮され直接会うことは容易だっただろう

 

 

 

しかし彼女はそうせず、自らの城であるアパートに戻り、キンキンに冷房の効いた部屋の中をスマートフォンをもってうろうろしていた

 

 

 

ペリーヌ「ひまわりさん。お悩みになるのも解りますが、今回に関しては考えても無駄です。行動あるのみですわ」

 

 

ひまわり「解ってるよ……うるさいなぁ」

 

 

 

もう何度目になるか解らないやりとりを交わしたひまわりはそれでも液晶画面を点けたり消したりを繰り返し、手の中で転がしながら部屋をのそのそとうろつくのを止めない

 

 

 

しびれを切らしたペリーヌの頭から獣耳が生えるが、ペリーヌを宥めるのが日課となったリーネが手慣れた様にフォローに入る。彼女が居合わせたおかげでひまわりの部屋の電子機器は落雷の被害に遭うことは避けられた

 

 

 

リーネ「まぁまぁ、ひまわりちゃんにも色々あるんでしょうから……」

 

 

ペリーヌ「ええそうでしょうとも。ですがマンションの廊下で1時間待ちぼうけを喰らって様子を見に来てみればゲームで現実逃避しているのを見れば、ちょっとだけ雷を落としても許されるのではなくて?」

 

 

リーネ「落ち着いてくださいペリーヌさん。ひまわりちゃん、私達はドッキングで繋がったあかねちゃんと違ってひまわりちゃんの事情をわかってあげられない。だからもし、何もするべきことがないのならこのまま作戦開始までこの部屋でだらだらしててもいいと思うの」

 

 

ひまわり「それは……」

 

 

リーネ「でももし、なにかやらなきゃならないことがあるのなら___がんばって。応援してあげることしか私にはできないけど」

 

 

ひまわりの少し冷えた両手を優しく包み込むように握り、正面からそう語り掛けた。ひまわりは目を逸らさずその言葉を受け止め、少しうつむいたあと、小さく頷いた

 

 

 

 

リーネとペリーヌが部屋から出るのを見送った後、意を決したひまわりは液晶画面を素早くタップして耳に当てた。コールが鳴った瞬間に音が切れ、相手が即座に通話に出たことが解った

 

 

 

『ひまわり!?元気!?電話くれてありが___ちょっとパパうるさい!!私が先に話してるんだけど!?』

 

 

『おーいおいおいちょっと待てよひまわりの着信を受けたのは僕のデスクにある電話だぞ?これが何を意味するか解るか?』

 

 

『ダーリン。あなたが何を言いたいかさっぱりわかんないわね。ひまわりが言いたいことなら解るわ。私と話したいのよそうよね?』

 

 

『本人に聞いちゃっていいのか?待ってるのは残酷な真実だぞハニー』

 

 

 

ひまわり「いや仕事場の電話番号ってこれしか知らないし。てかうるさ……一回切っていい?」

 

 

『待て待てひまわり今決着がついた。じゃんけんで勝った僕が話すよ。いや、ママも聞いてるしお前がアレなら変わっても___』

 

 

ひまわり「もーいいからそのままで」

 

 

『……』

 

 

ひまわり「……」

 

 

ひまわりは自分がそもそも口下手だったことを思い出した。あかねやチームの皆のようにガンガン来られるタイプに返していくのは出来なくもないが、少なくとも数年間距離を空けてきた両親にどう接すればいいのかはまるで思いつかなかった

 

 

 

 

ひまわり「……今まで色々あったんだけど、何にも話してこなかったから。それを謝りたくて」

 

 

 

結局彼女は思いの丈をそのまま口にすることにした

 

 

 

『うん。だけど僕たちも、ひまわりとちゃんと話し合おうとしなかった。距離を置く選択肢をお互いにとったんだ。謝るべきだと言うなら、僕らの方こそ』

 

 

 

ひまわり「私の引きこもりに気をつかわせちゃっただけだよ」

 

 

『君の提案を拒否する事も出来た。でも研究を理由に管理局内の施設に住むことにしたのも、君を1人の空間に取り残す事を良しとしたのも僕たちの判断だ。ぼくもママもそれ人一倍に学は積んできた自負があるけど、親としてどうあるべきかに関してはまるで自信がない。ただ、人と接するのを怖がった君を傷つけないようそっとしておくのがベストだと考えたんだ』

 

 

ひまわり「うん」

 

 

『寂しい思いをさせてごめんな。でも、君は1人でいる内にその素敵な才能を開花させた。そして友達を作り、アローンと戦って世界を守っている。引きこもりの君は自分で再び立ち上がり、立派に成長した。誇らしいよ』

 

 

ひまわり「うん」

 

 

 

『ちょっと替わってパパ……ねえひまわり。あなたは1人が好きかもしれないけど、今の騒動が落ち着いたらご飯でも食べに行きましょ。私もパパも研究所に缶詰めなんだけど、アローン騒動に片が付いたら休みもとれそうだし』

 

 

ひまわり「うん、ママ」

 

 

『だから、頑張ってひまわり。愛してる』

 

 

ひまわり「ぅ、うん……私も……まぁ好きだよ」

 

 

『パパ、聞いた?』

 

 

『録音したよ』

 

 

『オッケー!!!!今の通話をmixして作業用BGMにしま』

 

 

 

画面をタップして通話を切断する。ひまわりは限界だった。鏡を見なくても耳まで赤くなっているのが自分でもよく解る。通話を切って大きく深呼吸をする彼女の耳に、背後のドアがカチャリと閉まる音が聞こえた。スマートフォンをポケットに突っ込み何度か大きく深呼吸した後、盗み聞きをした二人を問い詰めるため大股でドアへ向かって歩き出した

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話 「二葉あおいのセカンドハウス」

 

 

 

 

「お嬢さま、お帰りなさいませ」

 

 

あおい「うん、ただいま」

 

 

 

メイド服に身を包んだ女性が深々と頭を下げ、あおいを出迎えた。今日も夏の接近を感じさせる決して涼しいと言えない気温だというのに、彼女は玄関の前で立っていた。額にうっすと汗が浮かんでいるのが見えるので、少し前からここにいたのだろう

 

 

 

あおい「ありがとう。今日はお友達も連れて来てるから、お二人の席も___」

 

 

 

「ご用意しております。応接間で奥様がお待ちですので、そちらへ」

 

 

 

あおい「解りました。芳佳ちゃん、エイラさん。こっちです」

 

 

 

エイラ「おう。しかし、デカイ家だな」

 

 

 

あかねの住む大島は基本的には田舎に分類される。すぐ近くに示現エンジンが建設されているブルーアイランド本島があるとはいえ、この島自体は昔からの風土が色濃く残る土地である。瓦屋根の平屋が目立つ中で二葉家は圧倒的個性を放っていた

 

 

 

あおい「普段は都内の家に住んでるんですけど、私の療養のために両親がこっちにも家を建ててくれたんです」

 

 

 

堂々とした洋風作りの豪邸はそれでも島の景観を壊さないよう質素な色使いを意識されており、あおいがゆったりと過ごせるようにという配慮が伺える

 

 

 

あおいに案内され、ふかふかの絨毯が敷かれた邸内を進み広々とした応接間に通されたエイラと宮藤はそのテーブルに腰掛けた妙齢の女性と目が合い、それがあおいの母親であると直感的に理解した

 

 

 

「おかえりなさい、あおい。それからお初にお目にかかりますわね。わたくし、二葉あおいの母でございます。娘がお世話になっております」

 

 

宮藤「いえ、こちらこそお世話に……私は」

 

 

「宮藤さんとエイラさん、かしら?娘からお話は伺っております」

 

 

エイラ「どーもです。……あおい、どういう風に紹介してくれたんだ?」

 

 

あおい「どうって、芳佳ちゃんは料理が上手くて元気で、エイラさんは澄ましてるけど意外と情に厚い人だって」

 

 

エイラ「おうおう解ってんじゃないかオイ。じゃ、私とミヤフジは挨拶も済ませたから部屋の外で待ってるから」

 

 

あおい「え?」

 

 

エイラ「親子水入らずの配慮だよ」

 

 

そう言うとエイラは宮藤を連れ立ってさっさと部屋から出て行ってしまった。あおいは大きな円テーブルを挟み母の反対側に座る。すぐさま控えていた給仕があおいの前に紅茶の入ったカップを置き、一礼をして部屋から出る

 

 

あおい「直接会うのって久しぶりだね!」

 

 

「そうね。仕事が片付かないからこちらに中々来ることが出来なかったけれど……色々と、あったみたいですね?あおい」

 

 

 

あおいはこの家に住んでいない。あおいの両親も仕事で島外を飛び回っておりこの家には羽休めにたまに寄る程度。本来療養するべきだったあおいがあかねの家に居ついてしまった現状、この家は使用人達が清掃の練度を上げ続ける修練場と化していた

 

 

 

あおい「うん。本当に色々あったよ」

 

 

 

「貴女が退院して、またこの家に行くことになったあの日。あなたが乗ったヘリが墜落したというニュースと、あなたの身体が原因不明の超健康体になったというニュース。これを同時に知らされた私とお父さんの感情のジェットコースターをあなたにも味合わせてあげたいものです」

 

 

 

あおい「あはは……」

 

 

 

困ったように苦笑いをしつつ、紅茶を口に運ぶ娘を見る母親の視線は優しいものだった。彼女はあおいが何に巻き込まれたのかは知らされなかった。あおいが関わっている事情は国家機密であることと、しかし彼女の安全を確保するために管理局と防衛軍が全力を尽くすという内容の連絡が管理局の代表から届いただけであった

 

 

 

当初は不安もあったものの、定期的に電話口で話す娘の声はいつも楽しげで、後ろからは賑やかな友人達の声が響いていた。連絡する度に楽しさと賑やかさは増していき、あおいの母の心を幸福感で満たしていった

 

 

 

「あなたが背負った事情というものが何なのか、それが解らない事は保護者である私はとても不安でした。ただ、あなたが産まれて14年。私の……私とお父さんの願いは、ただあなたが元気になって幸せな人生を送ってくれること。ただこれだけだったのですから。それを思えば、私は今までの人生で一番幸せなのですよ」

 

 

 

あおい「お母さん……」

 

 

 

「あおいが立ち向かっているものがどれだけ危険でも今更私は止められません。あなたを元気にしてあげられなかった私達が口を挟める余地などないのですから。……ただ、願わくば。今あなたが抱えている問題が解決したのなら。またあかねさんと、新しいお友達の皆さんと会わせて下さい。たくさんお話を聞きたいです」

 

 

 

あおい「うん。絶対みんなを連れてくる。私、やっと元気になれたの。今までお父さんとお母さんに、それと周りの人に助けてもらってばっかりだったから、今度はお家のお手伝いをやったり一緒に遊びに行ったりしたいの。もうちょっとだけ待ってて。皆を連れて、帰ってくるから」

 

 

「ええ。いってらっしゃい、あおい。幸運を祈っています」

 

 

 

 

 

 




クライマックス突入ですって半年くらい前からずっと言ってる気がしてます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話 あおい「作戦開始」

健次郎は壁の全面モニター下部に表記されたデジタル時刻に目をやる。現在時刻は1400時丁度。管理局指令室には神妙な面持ちの柴条悠里以下職員達、そしてあかねを除くビビッドチーム全員が揃っていた

 

 

指令室の全員と、通信が繋がっている防衛軍作戦司令本部の面々が、一色健次郎の動きに注目している。彼が号令を出せば、最大級規模の対アローン作戦が動き出すのだ。誰もが固唾を呑む中、健次郎は注目を浴びるのも悪くないとばかりにニヤリと笑うと高らかに声を上げた

 

 

 

健次郎「うむ、これより我々は〈塔〉のアローンの撃破作戦に取り掛かる!」

 

 

 

「「「了解!!!!」」」

 

 

 

指令室に怒号とも思える返答が響いた

 

 

 

ひまわり「こういう熱いノリ苦手なんだけど」

 

 

わかば「あなたねぇ……。こういう時は乗っておくべきなのよ」

 

 

ひまわり「あんまりノリ過ぎると玉砕フラグみたいになるじゃん」

 

 

ペリーヌ「同感ですわね。入れ込まずに軽くこなしてしまいましょう」

 

 

健次郎「ま、それでかまわんがの。ベストパフォーマンスを出す為の精神状況は人それぞれじゃ」

 

 

宮藤「私はガンガン入れ込んでいくタイプです!」

 

 

リーネ「芳佳ちゃんはちょっと落ち着いて欲しいかなって……」

 

 

シャーリー「それで博士、作戦は」

 

 

健次郎「うむ。詳細はこれからモニターに出し順を追って説明する。今回は防衛軍と管理局の持てる力全てを合わせ、事に当たる。じゃが何よりも作戦名じゃの」

 

 

 

何よりも。そう、健次郎が一番時間をかけたのは作戦名を考えることだった。彼はこれを切り出す最高のタイミングであることを確認する為一度言葉を切って『溜め』を作り、防衛軍側との通信がきちんと繋がっているかを確認すると満を持して語りだした

 

 

 

健次郎「___作戦名は、オペレーション・トリプルアロー。ウィッチ、パレット、防衛軍の3本の矢により最後のアローンを撃ち抜くのじゃ」

 

 

 

黒騎れいが放った3本の矢に対しての意趣返しであり、3名となったパレットスーツ装着者に希望を託したものでもある

 

 

健次郎「三矢の教えにある通り。あかねを欠いたビビッドチーム、異世界の技術からなる力故我々ではサポートしきれないウィッチーズ。単独ではアローンという壁を打ち破る充分な術を持たない防衛軍。これらを束ね、超常の存在を語る奴らを穿つ矢となろうぞ!」

 

 

 

健次郎が小さなぬいぐるみの拳を振り上げた。管理局指令室を歓声が満たす。モニターの向こうの防衛軍基地から鬨の声がスピーカーの音割れを通して伝わってくる

 

 

 

健次郎「行動開始!」

 

 

 

 

世界の命運を賭けた戦いの火ぶたが切られた

 

 

 

時刻14時。管理局指令室に一色あかねを除くビビッドチーム全メンバーが集合完了

 

 

一色博士、柴条管理局長、高野防衛軍長官の3名により作戦内容及び作戦名が決定され、参加する全員に内容が下達された

 

 

時刻14時30分。塔のアローン周囲20キロにおいて全住民の避難完了

 

 

並びに防衛軍基地戦闘機発着場及び示現管理局航空機発着場にて作戦参加機離陸準備完了

 

 

 

 

 

 

 

 

管制オペレーター『ストライカー各機、発進準備願います』

 

 

整備員「ストライカーユニットの調子はいかがですかねイェーガー殿!」

 

 

シャーリー「100点中90点てとこだ!ちょっと調整が大人しすぎるな!」

 

 

整備員「そいつは反省させてもらいます!ですから元の世界に戻る前にもう一回触らせて下さい!」

 

 

シャーリー「請け合うよ!」

 

 

 

整備員が自分の仕事の完成度をパイロットに尋ねる為には、格納庫に響き渡るストライカーの機動音でかき消されないよう大声を張り上げる必要があった。

 

 

 

 

 

正面の大きなゲートが横に開いていき、滑走路への道が開く

 

 

 

管制オペレーター『進路よし。どうぞ』

 

 

エイラ「一番手は譲ってやるよ!」

 

 

シャーリー「ありがたいね!シャーロット・イェーガー!出るぞ!」

 

 

 

魔法力を流し込み魔導エンジンの出力を一気に引き上げる。風を纏ったストライカーが滑走路を駆け抜け、午後の青空へ舞い上がる。その後に5人の魔女が続いた

 

 

 

エイラ『通信テストだ。全員いるな?遅刻してるやつは?』

 

 

宮藤『宮藤います!』

 

 

リーネ『リネット、います』

 

 

ペリーヌ『こちらペリーヌ。問題ありません』

 

 

ルッキーニ『全然オッケー!』

 

 

シャーリー『よし、手筈通り先行するぞ。あおい!わかば!ひまわり!先に行って待ってるからな!』

 

 

 

あおい「はい!」

 

 

 

滑走路の端であおいは東の空へ消えていく6本の飛行機雲を見送ると、横に並び立つ2人の仲間に交互に視線を送る

 

 

 

あおい「私達も行こう!」

 

 

わかば「よし!で、ひまわりはいい加減やる気出たの?」

 

 

ひまわり「まぁまぁ」

 

 

 

3人は揃って手を突き出す。合図は無くともその動きは一矢乱れず、握られたオペレーションキーはいつもに劣らぬ輝きを見せた。青、緑、黄の光がそれぞれ特殊な力場を形成し示現エンジンと彼女達をラインで結ぶ

 

 

 

一度は翼を失った彼女達だった。しかし示現力は今の彼女達の思いに応え、より強い力となってあおい達を空へ導く

 

 

 

パレットスーツを纏った彼女達は、滑走路からゆっくりと飛び上がった。彼女達は自分の身体に再びエネルギーが満ち溢れていることを感じ取った。手を軽く払ってみればエネルギーの粒子が残像のように尾を引く。以前より強くなっているのではと錯覚してしまう程である

 

 

 

ひまわり「……いや、確かに前より出力が上がってる」

 

 

あおい「なんで!?」

 

 

ひまわり「示現エンジンからあかねに回されていたエネルギーが浮いてるからじゃない?もしくは……」

 

 

健次郎「精神的にも戦力的にも大黒柱とも呼べるあかねを欠いたこの絶望的な状況に、しかし尚立ち向かおうとする君達の覚悟に応えたのじゃ。ワシの発明したシステムとはそういうものなんじゃよ」

 

 

 

わかば「粋ですね」

 

 

健次郎「まっこと。高次元の存在が管理したくなるのも解るじゃろ?」

 

 

管制オペレーター『ビビッドチーム。アルファチームがまもなく到着します。合流してください』

 

 

あおい「は、はい!」

 

 

 

話込んでいる暇はない。既に作戦は始まっているのだ

 

 

防衛軍基地から飛んできた3機のジェット戦闘機を視界に捉える。あおい達はそれに向かって全力で飛行する。こちらの接近に合わせ速度を少し落とした戦闘機の尾翼を手で捕まえ、握力で身体を固定させる

 

 

 

アルファ1『こちらアルファ1。パレットと合流した。これよりポイントまで移動する』

 

 

管制オペレーター『了解。続行してください』

 

 

アルファ2『お嬢さん方、振り落とされるなよ!』

 

 

わかば「ええ、思いっきりやって下さい!」

 

 

 

戦闘機のアフターバーナーのスイッチが入り、爆発的に加速する。あおい達のエネルギーを抑え、なおかつこちらが動き出したのを察知される前に一気に距離を詰める為の作戦だ

 

 

 

あおいやひまわりの飛行速度は高速戦闘に特化した戦闘機の最高速には劣る。あかねは勿論、わかばも全力であれば防衛軍に配備された戦闘機に速度で張り合えるが、それには相応のエネルギーを消費する。この状態での移動であればあおい達は捕まっているだけでいい。体にかかる衝撃はパレットスーツのデフォルトの防御力で無効化が可能だ

 

 

 

ウィッチーズの面々も同じ方法で東京へ先行していた

 

 

 

 

健次郎『諸君。ワシは戦争が嫌いじゃ。奪い、奪われ。若い時からそればかりを見て来た。科学者として求められたのは、他者からより多くの物を奪う為の発明じゃった。下らないこの競争を終わらようと示現エンジンを作ったのじゃ。しかしこれもまた奪われようとしておる。

 

 

諸君。断言しよう。これは奪う為の戦いではない。守るための、誇り高き戦いなのじゃ。一切の負い目無く、胸を張っていい。我々は今この世界に生きる全ての命の為に持てる力の全てを結集させておる。諸君!!奮起してくれ!!!』

 

 

 

 

健次郎『さあ、戦いじゃ!!!』

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話 シャーリー「会敵」

ブラボー1『こちらブラボー1。切り離しポイントまで10キロを切った』

 

 

防衛軍オペレーター『こちら本部。進路上に敵の反応無し。そのまま作戦を継続してください』

 

 

ブラボー1『了解だ』

 

 

 

ウィッチーズを輸送する命を受けた戦闘機隊長、ブラボー1は通信を終了すると意識を前方に集中させた。ブラボーチームは3機で構成された部隊であり、それぞれが2機のストライカーを牽引する形で目標の東京まで全速力で飛行を行っていた

 

 

 

ブラボー2『ブルーアイランド防衛軍最新鋭機での空の旅はご満足いただけてますかな?魔法使いの皆さん』

 

 

エイラ「最悪だよ。燃料の燃えカスは臭いし手が疲れて来た」

 

 

 

その音速に近い飛行の衝撃をなんなく受け流しながら平気で会話をこなせる彼女達にブラボー2の名を与えられた兵士は深い敬意と憧れを抱いていた。必ず彼女達を目的地へ到達させることに使命感を燃やしながらも、彼は生来である軽口に付き合ってくれるエイラとの会話を楽しんでいた

 

 

 

ブラボー2『そりゃ申し訳ない。今度から尾翼にふかふかのシートとパラソルを設置するよう軍に掛け合ってみるよ』

 

 

防衛軍オペレーター『示現エネルギ-反応!12時の方角!距離4000!』

 

 

ブラボー1『各機警戒態勢!』

 

 

ブラボー2『そーらおいでなすったぞ!』

 

 

 

回線から少し遅れて赤い熱線が前方より数本飛来する。ブラボーチーム各機は機体を左に傾け進路を維持しつつ回避した。前方を見れば、遥か彼方に空いた示現の穴から弾丸のように飛び出した黒光りする物体がこちらに先端を向けていた

 

 

 

リーネ「敵機3!何れも小型!」

 

 

ブラボー1「このまま突っ込むぞ!ミサイルスタンバイ!」

 

 

ブラボー2「了解!」

 

 

ブラボー3「了解」

 

 

ブラボー1「発射!」

 

 

白い煙を吐きながら放たれた6発のミサイルが寸分違わずネウロイに命中。物理兵器に対しある程度の耐性を持つネウロイだが、それが纏う装甲は大型アローンには劣る。しかも高速戦闘タイプの小型ともなれば、防衛軍の空対空ミサイルが直撃すれば打ち砕くことが可能なのだ

 

 

 

 

 

シャーリー「ヒュー!爽快だ!」

 

 

ブラボー2「アローンじゃなきゃどうとでもなるのさ!」

 

 

 

 

砕かれたネウロイの残骸を避ける為追い越すように高度を上げ移動を継続するブラボーチームだったが、防衛軍作戦指令室は続けざまに新たなエネルギー反応を探知していた

 

 

 

防衛軍オペレーター『前方に高エネルギー反応!ディメンションゲート発生の予兆です!』

 

 

リーネ「まだ塔のアローンの勢力圏外なのに、相手はここで迎え撃つつもりなのでしょうか?」

 

 

健次郎『解らん。折角邪魔が入らぬよう広域でジャミングをしておるというのにわざわざその範囲外でというのは確かに無駄な気はするがのう』

 

 

宮藤「なにはどうあれ片っ端から落としましょう!!!」

 

 

ペリーヌ「落ち着きなさい。こんなものをいくら落としても本丸は健在です。切り抜けることを第一にしなくては」

 

 

エイラ「全く散々だナ。サーニャ達からは何のコンタクトも無いし敵は切れ目なしだ」

 

 

 

「おっと、私のような可憐なアローンに銃を向けるのはやめていただきましょうか」

 

 

宮藤「あろん子ちゃん!」

 

 

あろん子「少しはいいニュースをお届けしようと颯爽駆けつけた訳ね」

 

 

 

どこからともなく澄まし声が飛んできた。小さなディメンションゲートが開き、黒い装甲で全身を覆ったあろん子の姿が出現する。ブラボーチームの横に付けたあろん子の手を芳佳が握り、彼女を隊列に加える。ストライカーや戦闘機とは違ったシステムで飛行するあろん子は重さの無い風船のようで引っ張るのはとても簡単だった

 

 

 

宮藤「というと?」

 

 

あろん子「この次元の外に出てみたんだけど、今この世界には外から介入されないよう協力な防御壁が張られているわ。恐らく観測者の仕業だろうけど」

 

 

エイラ「お散歩感覚で次元の壁を破ってんじゃねーよ最強か?」

 

 

あろん子「アローンだもの。でも防御壁を破って他の次元に行くことは不可能だった。監視者が許可したネウロイやアローンは通過できるのでしょうけどね」

 

 

シャーリー「おいおい、じゃああれか?敵は増えるが味方は増えないってことか?」

 

 

あろん子「この作戦は今この世界にいる戦力だけで成功させる必要があるわね」

 

 

宮藤「もしかして聞き間違えたのかな。いいニュースが聞けそうな流れだったと思うんだけど」

 

 

あろん子「塔のアローンを壊してしまえば監視者もその役割を終える。ならばこの次元を覆う壁も無くなるでしょう。そうしたらあなた達が帰る目途が立つんじゃない?私が自由に移動できるようになれば、あなた達を元居た世界に連れていくことも可能になるでしょうし」

 

 

 

ペリーヌ「後々の事よりも目先の危機を脱しなければなりませんわね」

 

 

ため息をついたペリーヌの言葉に誰も言葉を続けない。希望の手前には常に大きな破滅をもたらし得る危険が待ち構えているのは明らかな事だったからだ

 

 

ルッキーニ「ま、あたし達がいればヨユーヨユー!」

 

 

それを吹っ飛ばすのは不謹慎な程楽観的な明るい声だ。ルッキーニはにっと歯を見せながらにこやかに笑っている。そんな彼女の言葉に小さく笑ってシャーリーが雰囲気を明るくする為言葉を繋いだ

 

 

シャーリー「その意気だルッキーニ。他のヤツがいないうちに撃墜スコアを荒稼ぎして、あっちに戻ったらバカンスと洒落こもう!」

 

 

 

普段から幼さ故のおちゃらけた発言の多い彼女だが、戦闘に関して意識が低い訳ではない。敵を撃つ為になにが必要かを本能と経験で嗅ぎつけるセンスを持ち、また命のやり取りの場においても自らを失わない冷静さも備えている。この発言も慢心故の物ではなく、自らが背負った使命を必ず果たさんとするウィッチとしての強い意志の表れが前向きな発言としてノータイムで出てくるのだ

 

 

ひたむきで真剣に前を向き突き進んでいく宮藤とはまた違った方法でルッキーニは部隊の士気を上げてくれる。不真面目おちゃらけが嫌いなペリーヌも今だけはバカのように前向きなチームメイトの存在をありがたく感じたのだった

 

 

 

ブラボー3『切り離しポイントまで距離4000!』

 

 

 

塔のアローンの勢力圏内も眼前に迫ったという時、オペレーターから悲鳴のような警告が耳を突く

 

 

 

防衛軍オペレーター『前方に高エネルギー反応!多数の次元の歪みが検知されました!!』

 

 

ブラボー2『おいおい、多数ってのはよ!』

 

 

正確な数を数えるのを面倒くさがったのではない。計測が意味を成さないのだ。前方の視野いっぱいに大小様々なディメンションゲートが開いていく。その数は視線を走らせて一つ一つを目で追っているうちにも増え続けている

 

 

 

圧倒的な物量による攻勢。ネウロイ側がとった戦法はシンプル故に対抗する手段は限られる

 

 

 

『目標確認。一斉射』

 

 

 

故に、こちらも物量を

 

 

 

 

真っ先にゲートから顔を出したネウロイの横っ面を飛来したミサイルがぶっ叩いた。凄まじい轟音と爆炎がネウロイの受けたダメージの大きさを表した。さらに雨のような機銃とミサイルがシャーリー達の左右からディメンションゲートへ目掛け放たれる

 

 

 

チャーリー1『こちらチャーリー1。戦闘に合流する』

 

 

デルタ1『デルタ1だ。想定以上だが、目的地まで援護しよう』

 

 

この作戦には防衛軍の全戦力が投入されているのだ。塔のアローンの勢力圏外にて待機していた空母から、満を持して発進してきた防衛軍戦闘機隊が意気揚々と戦線に合流した

 

 

 

さらに海上を行く護衛艦隊も超遠距離から攻撃を開始。青い空に無数の白い煙が尾を引いてネウロイ達へ襲い掛かった

 

 

 

チャーリー2『ヘイウィッチーズ!弾はとっときな!ここは俺達が出し惜しみなしでやらせてもらう!』

 

 

シャーリー「頼れるぜお兄さん方ぁ!」

 

 

ブラボー1『こちらはこのまま一直線に進む!』

 

 

 

妨害を企てた不埒ものへ、これまで指をくわえているだけだった防衛軍兵士の怒りがこもった火力が遠慮なく集中する。無数に湧き出るネウロイと言えど、出鼻を挫かれる形になったことでウィッチーズの前方にスペースが開く。ブラボーチームは一気に前へ出ると目標地点へ急行した

 

 




夏、はじまりましたね・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話 宮藤「正念場こそウィッチの華です!」

ブラボー1『切り離しポイント到達30秒前だ!各機準備を!』

 

 

宮藤「ありがとうございます!あとは私達に任せて下さい!」

 

 

ブラボー3『ああ。ここから先は君達とパレット達に任せる』

 

 

ブラボー2『幸運を!』

 

 

エイラ「ああ。運だけはいつも良いんだ。そっちにも分けてやるよ」

 

 

 

ブラボー1『到達10秒前!……5!4!3!2!1!ゴー!』

 

 

 

合図と同時にウィッチーズは一斉に手を放し戦闘機に置いて行かれるような形で距離を開ける。ブラボーチームは行動不能の妨害エリアに接触しないよう鋭く上方へ機首を向けとんぼ返りで元来た方角へ進路を変え、ウィッチーズは高度を下げて勢いよく加速して自力飛行を開始した。ブラボーチームは戦闘を継続できる程の燃料を持ち合わせていないので、ネウロイとの接触を避けつつ付近に待機している空母へと帰還し、補給を行った後再びネウロイとの戦闘に参加する運びとなっている

 

 

防衛軍の戦闘機はどれも高性能で、それを操るパイロット達の練度も高い。しかしネウロイを相手にするにはそれだけでは不十分なのだ。彼らが持つ瘴気という特性、物理的な慣性を無視した空中機動、ビームと特殊な装甲を備えたネウロイはその数を少しずつ増していた

 

 

 

そんな敵にも決して怯まず戦闘を継続しているのが通信越しに伝わってくる。宮藤は一度だけ後方へ顔を向けて手だけで小さな敬礼の形を取ってから、正面へ向き直る

 

 

 

エイラ「よし、フォーメーションだ。こっからはアドリブだぞ」

 

 

 

事前に打ち合わせてあった通り、ウィッチーズは2人1組のロッテ編隊により迎撃フォーメーションへ移行する。ロッテ編隊とは攻撃を担当する長機を僚機が後方から援護することで、長機が攻撃に集中する事が可能になる最小編成のフォーメーションでだ。今回はシャーリーの下にルッキーニ、エイラの下に宮藤、ペリーヌがリーネを率いる3隊で戦闘にあたる

 

 

健次郎『問題なく聞こえるようじゃなウィッチ諸君!』

 

 

リーネ「はい博士。こちらの状況も見えてますか?」

 

 

健次郎『画像、音声共問題なしじゃ』

 

 

 

健次郎はウィッチ達に特殊な通信機を手渡していた。示現エネルギーを用いてデータをやり取りする機能を備えた特別性であり、ウィッチの魔法力を流し込むことで内部構造を保護し塔のアローンの影響下であっても問題なく機能するように急遽健次郎が用意したものだ

 

 

 

健次郎『ううむ、しかし仕込んでおいた計測機器の類は一切機能せんのう。通信を繋げるだけで精一杯か』

 

 

ペリーヌ「盤外から冷静な視線で判断を下してもらえるだけでもこちらとしてはとても心強いのです。頼らせていただきますわよ、博士」

 

 

健次郎『期待に応えられるよう全力を尽くそう。して、現場の状況は?』

 

 

シャーリー「バカに静かですよ」

 

 

海上から市街地に差し掛かる。眼下に広がる大都会の街並みは既に避難が完了してから半日以上経過しており、人の気配は微塵も感じられない。本来であれば煌びやかに輝いているであろう電灯や大型液晶モニターも全て息の根を止められており、コンクリートの灰色の街並みは墓場のように冷え切っているようにも感じられた

 

 

 

リーネ「塔のアローン、視界に捉えました」

 

 

 

スナイパーの眼がいの一番にターゲットの存在を感知した。エイラとルッキーニ以外のメンバーは初めて目にする

 

 

 

塔のアローン『______』

 

 

これまでアローンというものは機械的でありながらも少なからず敵意や悪意といった感情を見せることもあったし、命あるもの特有の雰囲気を持ち合わせていた。しかし、今街のど真ん中にある黒く輝く塔から感じられるのはただ一つ

 

 

吐き気を催す程の悪寒が彼女達を襲う。圧倒的異物であることを本能で理解できる。存在そのものがたまらなく不快な物質だった。塔のアローンを認識しただけで、ウィッチ達は心臓に氷の弾丸が撃ち込まれたかのような鋭い痛みと未知の恐怖を覚える

 

 

 

あろん子「気をしっかり持って!アレが放つ脅威に打ち勝つのよ!」

 

 

 

警戒の声を上げてあろん子は顔を装甲で覆い両の手の先端に赤い光を灯す。彼女が戦闘態勢に入るのと同時に、塔のアローン周囲に複数のディメンションゲートが開く。高次元の存在が放つ脅威に戦意を削られたウィッチーズも瞬時に戦意を昂らせて心から闇を追い払う

 

 

あろん子「塔のアローンは示現エネルギーによる攻撃に対抗するため、あかね達とは真逆の性質の負の感情から生まれる示現エネルギーを放っている!魔法力で身体を護ればある程度は防げるけど、長引くとメンタル削られるわよ!」

 

 

宮藤「それ、突入する前に教えてくれればよかったのに!」

 

 

あろん子「まあ・・・そうね!とにかく行くわよ!」

 

 

ただ単に言い忘れてただけだ。

 

 

 

塔を護るために現れたネウロイは3体。5m程の円柱のボディに、羽を数枚取り付けたロケットのような形状をしている。ミサイルを模した形状だ。彼らが放つ瘴気は地上の建物を腐食させ、空気を淀ませる

 

 

塔へと迫る魔女へ向けて、3体のミサイルが一斉に放たれた

 

 

シャーリー「私は一番左のをやる!」

 

 

ペリーヌ「わたくしは右手のを」

 

 

エイラ「んじゃこっちは残りものだ。外すなよ宮藤」

 

 

宮藤「了解です!」

 

 

あろん子「あれっ!?私は!?」

 

 

エイラ「お前との合わせ方解んないんだもん。しばらくは全体のフォローに回ってくれ!」

 

 

フォーメーションで迎え撃つウィッチに対しネウロイ達の動きは荒々しく勢い任せだ。直線移動で距離を詰めながらビームを連射する。その攻撃の威力と速度は決して侮れないものだが、単純な攻撃は訓練を重ねた彼女達に刺さる事は決して無い。3隊に別れたウィッチは互いに入れ替わるような軌道を描きながらそれを躱し、敵に狙いを定めさせないよう距離を詰める

 

 

 

 

相手の勢いに合わせ真っすぐと突っ込みながら先陣を切る3人が弾丸を放つ。高速で弾丸の壁に突っ込むことになったネウロイの身体はあっさりと砕け散った。後方に控えていた僚機の3人がすぐさま前に出てシールドを張りネウロイの破片を防いだ

 

 

 

エイラ「こんなもんか?」

 

 

健次郎『いいや続けて前方広範囲に高エネルギー反応!・・・来るぞ!』

 

 

 

ウィッチ達と塔の間に壁を作るように示現の穴が次々と開いていく。数10体のミサイル型ネウロイの先端がこちらを狙っている

 

 

 

リーネ「すごい数……!」

 

 

健次郎『ビビットチーム到着まで15分じゃ!』

 

 

ペリーヌ「それまでに全て片付けるのは少し骨が折れるかもしれませんわね」

 

 

シャーリー「折れたら宮藤に治してもらうさ」

 

 

宮藤「はい!!任せてください!!!!」

 

 

シャーリー「……冗談で言ったんだよ?」

 

 

宮藤「私もです」

 

 

あろん子「集中して???」

 

 

ネウロイが一斉に飛び立つ。迎え撃つウィッチ達も小隊事にバラバラに散り攻撃を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




七夕です。短冊に文字を書く暇があったら続きを書くんだよ!!!!!!という気持ちで執筆に臨んでおります。今年もあと半分を切りました!ヤバイですね!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話 宮藤「ストライカー飛翔」

景気よくバラ撒かれた弾丸がネウロイの装甲に食い込む。魔法力が伝播し、耐久力の限界を越えたネウロイは白い破片をまき散らしながら爆散した。エイラは未来予知で安全なルートを瞬時に導き出し隙間を掻い潜って回避し、後ろから追ってきていたネウロイはそのまま破片の雨に突っ込んだ

 

 

ネウロイ「___!」

 

 

 

高速で移動しているネウロイの全身に同族の死体の破片が突き刺さり、ネウロイは悲鳴のような金属音をかき鳴らした後爆散した

 

 

 

高速飛行での飛び回りの戦闘を行うに辺り、ウィッチ含む航空戦力が最も気を付けなければならないのは撃破後のネウロイの残骸に突っ込まないことである。ネウロイの死体の破片は撃破された瞬間その場で弾け、高硬度の金属を周囲に飛び散らせる。数秒でそれは塵と化し無害なものとなるが、撃破直後のソレはまさしくネウロイの最後っ屁ともいえる脅威である

 

 

シャーリー「エイラ!パターンM!」

 

 

エイラ「よしきた!宮藤前出ろ!……今だ!壁張れ!」

 

 

宮藤「はいっ!」

 

 

 

エイラの合図で僚機として後方に張り付いていた芳佳が前に飛び出した。前方からこちらへ向かって突っ込んできたシャーリーとルッキーニが高速で芳佳とすれ違う。間を開けず、芳佳は全力のシールドを展開した。シャーリー達を追っかけて来ていたネウロイがそれに衝突し身体をひしゃげて爆散する。一方シールドはネウロイ数体分の質量が高速でぶつかったというのにビクともせず、煌々と輝いていた

 

 

 

引き連れて来たネウロイを処理したシャーリーは次の目標へ視線を向けるとそちらへ加速。一気に距離を詰め、包囲網を縮めようとしていたネウロイの裏へ回り込みかく乱を継続する。ルッキーニはシャーリーの魔法の恩恵を受けてやりたい放題だ。彼女の射撃センスは狙いをつけるのに時間を必要としない。速く飛べばその分彼女が敵を打ち抜くペースも上がっていく。肉薄されれば高熱シールドでネウロイを溶かし大穴を開けながら突き抜ける

 

 

 

 

ペリーヌの固有魔法は対多数戦闘において非常に強力だった。燃費が良いとは言えないが、一度その雷を解放すれば回避不能の全方位攻撃が定められた目標を消し炭へ変える。普段ジョークのように発動しているものと違い、敵を討つ為に振るわれる雷は数で劣るウィッチーズの確かな切り札と言えた

 

 

 

リーネの狙撃はそんなペリーヌや宮藤を狙おうとするネウロイを瞬時に見極め、距離を問わず素早く撃ち抜いていることで彼女達が攻撃に集中できる環境を維持する役割を担っていた。全体を俯瞰する眼と冷静さを持つ彼女はエイラの予知から得られる情報を上手く活かし3小隊全体の立ち回りを補佐していた

 

 

 

あろん子「___」

 

 

 

あろん子は単独で戦闘を行っていた。両手先から放たれる真紅のビームは断罪のギロチンのようにネウロイの身体を両断していく。ネウロイを遥かに凌駕する機動力で戦場を駆け巡り、ウィッチから支援を求める声がかかればそちらへ急行して援護射撃を行う

 

 

 

無駄口を叩かずマシーンのように息継ぐ間もなく飛び回る彼女は明らかに人間離れしていた

 

 

 

 

彼女達は数において圧倒的な劣勢にあったが、戦況は五分五分と言える。これはネウロイ側が出してくるネウロイが1種類だけであり行動が単純で対策を取るのが難しくないことが原因した

 

 

 

しかしこの状況を続けるにはあまりに大きな障害があった。弾薬の枯渇である。ウィッチが携行できる弾薬はそれほど多くは無い。主兵装に大型機関銃もしくは狙撃銃を持ち、副兵装として取り回しの楽な小型銃を腰に備え多少の弾帯を体に固定すればそれで積載限界だ。弾を撃ち尽くした段階で塔のアローン以外の敵の大多数を撃滅できれば問題にはならないが、生憎敵の数はまだまだ多い

 

 

 

 

シャーリー「弾切れ!」

 

 

ルッキーニ「私も!」

 

 

リーネ「援護します!補給を!」

 

 

 

この問題の対策は防衛軍の協力によって成されている。単純、弾が切れたら取りに行けばいい。シャーリーとルッキーニは最後の弾を撃ち切って追ってきていたネウロイを撃墜すると身体を横に倒して一気に高度を下げる。追撃しようとしたネウロイはリーネが撃ち抜き、宮藤とエイラがカバーに入って追手の視線を引き受ける

 

 

 

シャーリー「目印は……緑と白の看板のコンビニ!あったぞ!」

 

 

 

戦闘区域にいくつか点在する大手チェーンのコンビニエンスストア。防衛軍がそこのオーナーと話を付け補給地点として急遽借り受けたのだ。作戦開始前に弾薬類を徒歩で運び込んでおき、必要とあれば手渡すため防衛軍兵士達があちこちで身を隠して待機している手筈になっている

 

 

 

シャーリー達が一番近くの補給地点に接近すると建物の中から兵士達が弾薬を手に飛び出してくる

 

 

 

 

補給兵1「イェーガー中尉!こちらを!」

 

 

シャーリー「ありがとう!助かるよ!」

 

 

補給兵2「ルッキーニ少尉!がんばって!」

 

 

ルッキーニ「ありがと!ビーム当たらないように気を付けてね!」

 

 

 

すれ違うようにして受け取った弾薬を装填し、地上にいる人間に攻撃を加えようとしていたネウロイに攻撃を加えながら加速して再び空へ舞い上がった

 

 

 

交代で補給を済ませた後、しばらく戦闘は続いた。しかしウィッチーズの猛攻に耐え兼ねたか、向こうにも限界があったのか。ミサイル型ネウロイが新たに出現することは無く堕としただけその数は目に見えて減っていく

 

 

 

シャーリー「いい加減ネタ切れか!?」

 

 

ペリーヌ「だといいのですけれど」

 

 

健次郎『諸君よくやってくれた!まもなくビビッドチームが戦闘空域に突入する!』

 

 

 

 

あおい達が来る前に残ったネウロイを片付ける必要がある。最後のひと踏ん張りだと自らを鼓舞するとウィッチーズとあろん子は殲滅を再開した

 

 

 

 

護り手を失おうとしている塔は依然、不気味にそこに在り続けている

 

 

 

その塔の表面が先ほどから小さくドクン、ドクンと波打っている事に気付けるものは誰一人いない

 

 

 

希望の光を撃ち払わんとする強大な悪意が動き出そうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 




ほんとに今年で完結できる??大丈夫???気合いれてこ!!!!!???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話 あおい「回り回りてインパクト」

わかば「待たせたわね!到着よ!」

 

 

シャーリー「よう!片付けといたぜ」

 

 

 

戦闘空域にパレットスーツ装着者3人が到着する。作戦立案時ではパレット到着時点で塔以外の全てのネウロイの撃墜が果たされているのが理想だったのだが、わかば達の合流したタイミングは丁度最後の一体が倒されたところであった

 

 

 

ひまわり「無限沸きだと思ったのに、全部倒しちゃったの?」

 

 

ルッキーニ「なんか思ったより大したことなかったかも」

 

 

ペリーヌ「れいさんも例のカラスも顔を出さないとは何かきな臭いものを感じますわね」

 

 

健次郎『うむ。しかし、叩けばホコリも出ると言うじゃろう。警戒を解かずに攻撃を開始してくれ。』

 

 

 

使い方が正しいのかどうかは微妙だが、見つめていれば解決するという問題ではないのは確かだった。それに言われずともビビッドチームは高めに高めた戦意を解き放つのをずっと我慢して戦闘機の尾翼に捕まっていたのだから様子を見る気などさらさらなかった

 

 

あおい「もうやっちゃっていいんですか!?」

 

 

血走った目でネイキッドインパクトを生成しあおいは先陣を切る。塔のアローンが放つ底知れぬ威圧感などあおいには毛ほども影響しなかった。むしろ、塔のアローンが放つ気配が強ければ強い程あおいはそれに負けまいと胸の炎を滾らせる

 

 

その後を慌ててシャーリー、ルッキーニ、エイラとわかばが追いかけた。少し遅れてあろん子と宮藤が続く。狙撃手であるリーネとビットを攻撃の主軸に据えているひまわりはその場で待機し、ペリーヌは後衛2人の護衛として残った

 

 

 

 

シャーリー「おいおいおい待てあおい!」

 

 

わかば「そうよ!先陣を切るなら小回りの利く私かルッキーニ達に___」

 

 

シャーリー「おらよ!加速してやるからブッ飛んでいきな!」

 

 

わかば「シャーリーさん!!!!」

 

 

あろん子「いいわ、思いっきりやってしまいなさい!」

 

 

悠々と追いついたシャーリーがあおいの肩にポンと手を置き、自らの固有魔法を発動させた。あおいのパレットスーツの放つ青い輝きが強さを増し、彼女の飛行速度が格段に向上した

 

 

 

あおい「ありがとうございまぁぁぁあぁああああああ!!!!」

 

 

 

質量×速度=破壊力。想いの重さを魔法で加速。あおいは一筋の流星となって塔へ目掛け突っ込んでいく

 

 

 

目標の遥か先であるにもかかわらず、あおいは両の手で握りしめたハンマーを前に振り下ろす。それは宙を叩き、あおいの股下を通過する。あおいはその勢いを殺さず、お腹に力を込めてハンマーをさらに振り回し再び頭上まで持ち上げ、さらに勢いを乗せてもう一度縦に振り下ろした

 

 

ネイキッドインパクト後部の補助ブースターから青い炎が噴き出し、あおいの回転速度は一周毎にぐんぐん上がっていく。あおいが目標まで真っすぐ進めるようひまわりが遠隔でサポートしているので彼女は自分のハンマーの推力を上げることだけに集中できた

 

 

 

巨大な物体が高速で空気を押しのけるために発生する轟音が眼下に立ち並ぶ建物の窓にミシミシと悲鳴を上げさせる。ハンマーがなぞる軌道に青い光が残像となって円状のサークルを形成した。周囲から見れば青い車輪が爆音と衝撃波を放ちながら空中を走り回っているようだった

 

 

 

ひまわり「今ッ!」

 

 

あおい「ネイキッドォォォ!!!!フェリスホイール・インパクト!!!!!!!」

 

 

 

回転のタイミングはひまわりが調節し、ジャスト振り下ろすタイミングを合わせてくれる。そう信じているから、あおいは迷いなくひまわりの合図と共に全ての力を解き放った。遠心力とあおいの膂力が破壊の方程式の最適地を導き出す。強烈な一撃がアローンと真っすぐに衝突した

 

 

 

<<<ドゴォォォォォン!>>>

 

 

 

塔のアローンの装甲がクレーターめいてベコリとへこみ、アローンの全身に地割れめいた痛々しい亀裂が走る。あおいは叩きつけたハンマーを引き、大きく深呼吸した

 

 

 

塔のアローンの身体が1回り膨らむ。反撃に備えてウィッチ達は銃を構え、わかばも剣も取り出すがアローンの装甲の亀裂からは青白い光が溢れ出す。離れていてもミシミシと固いものが裂けていく音が聞こえて来たかと思うと、次の瞬間アローンの身体が光をぶちまけながら弾け飛んだ 

 

 

 

 

あまりに強すぎる速度で衝突すれば、目標物を貫通してしまうのが普通である。しかしネイキッドインパクトはあおいの意志によって顕現する武器。その破壊力の伝わり方を自在に操ることがあおいには可能だ。だからこそ、インパクトの位置や目標の形状を問わずハンマーに宿る全てのパワーを全体に伝播させた後、目標の体内から外へ爆ぜるように作用させることで敵を粉々に打ち砕くことが出来るのだ!

 

 

 

 

ルッキーニ「うにゃぁぁぁあああああ!!」

 

 

わかば「うおおおおああああ!!」

 

 

高さ300mにも及ぶ塔を破壊してなお有り余るエネルギーがアローン内部から爆音と共に吹き出す。わかば達は吹っ飛ばされてペリーヌのいる場所まで押し戻された

 

 

 

舞い上がった砂塵が塔のアローンのあった場所を覆い隠した。シャーリーは油断なく目を離さないようにしながらひまわりの傍によって彼女の肩に手を置いて妙な胸騒ぎを振り払う為に話しかけた

 

 

 

 

シャーリー「やったか!?やったよな!」

 

 

ひまわり「アローンの反応が薄れてく。やったっちゃ、やったね」

 

 

シャーリー「なんだ渋ってるな。確かにちょっとスムーズに進みすぎな気はするけどさ」

 

 

ひまわり「れいもカラスも邪魔してこない。あおいの攻撃は確かに高威力だけど、最後のアローンの名を背負っておきながらワンパンで沈むなんて……」

 

 

リーネ「あおいさん。状況はどうなっていますか?こちらからでは砂ぼこりに邪魔されて視認できません」

 

 

リーネの通信が終わると同時に、あおいがネイキッドインパクトを手にしたまま煙を払いのけてこちらへ向けて離脱してきた。彼女は達成感のある表情を浮かべているが、しかしその声にはまだ緊張が含まれていた。彼女もまだ何かを感じているのだ

 

 

 

あおい「確かな手応えを感じました!やったはずです!」

 

 

リーネ「アローンの身体は崩壊していくのは見えました。……つまり、倒したということでいいのでは?」

 

 

ひまわり「いや、数値はまだ完全に消失してない。みんな気を付けて」

 

 

 

土煙の中から黒い巨大な〈腕〉が天へ向かって高く高く伸びあがった。立ち並ぶビルの屋上を追い抜いてなお伸びていくそれは太陽を握りつぶさんとばかりに拳を固く握り込み、背を向けているあおいに向かって全力で振り下ろされた

 

 

リーネ「あおいちゃん後ろ!!」

 

 

 

警告と同時にリーネは引き金を引く。寸分違わず拳に直撃し振り下ろしの勢いを少し弱めあおいが反応するまでの隙を作る。あおいも自らの背後に迫る脅威を本能的に感じ取り、振り向きざまに展開したままのネイキッドインパクトを叩きつけた

 

 

 

凄まじい衝突音が鳴り、腕とあおいは両者ともに弾き飛ばされる。あおいはそのまま武器を光の粒子へと戻し勢いを利用してその場から全力で離脱する。カバーの為に動いていたルッキーニが腕へ向けて弾丸を撃ちこむと、腕は再び土煙の中へ戻っていく

 

 

ルッキーニ「なんなのぉ!?」

 

 

あろん子「どういうこと……!塔は破壊された!だというのにアレは!!」

 

 

ルッキーニ「だからなんなのって!」

 

 

あろん子「塔から産まれる破壊の死者……世界を終了させるもの!巨人の、アローン!」

 

 

 

地響きが鳴る。大地が悲鳴を上げ、空が悲しみの黒に染まる。舞い上がった粉塵を押しのけるようにして、黒く巨大な身体をもつそれがゆっくりと二本の足で立ち上がった

 

 

 

 

踏み出す一歩は示現エンジンのある方へ。ソレは、この世界を終わらせる力を持つものであった

 

 





あかね「フェリスホイールって?」

あおい「アメリカにあった史上初の観覧車だよあかねちゃん」

あかね「あおいちゃんは何でも知ってるんだね」

あおい「wikiに書いてあったの。」

あかね「へー」


わかば「シリアス維持していこ!あかね!もうちょっとだけ寝てて!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話 エイラ「這い寄る巨大な侵略者」

塔の残骸から立ち上がったのは、全長100m程の巨人。遠目から見ればそのシルエットはやせ細った長身の男性

を思わせた。肩と背骨から数本のまがまがしい突起が生えており、顔にあたる部分は1枚の板で覆われた能面のようになっている。全身を覆うのは勿論漆黒の装甲であり、そのアローンは底知れぬ不気味な雰囲気を放っていた

 

 

 

<オオオオォォォォォ__________ン>

 

 

 

 

突如鳴り響いた轟音にわかばは思わず耳を塞いで顔をしかめた。尋常ならざる音はアローンから放たれたものであることは明白だった

 

 

 

ルッキーニ「うにゃ……やばそう」

 

 

あおい「う、うん。なんかラスボスって感じだね……」

 

 

塔が放っていたのとは比べものにならない威圧感がわかば達に襲い掛かっていた。両手をだらりと下げたまま、ゆっくりとアローンが歩き出した。空にいるビビッドチームの事など気にも介さず、ソレはただ示現エンジンを真っすぐと狙っているのだ

 

 

 

エイラ「コイツ、私らは相手にならないって顔だな?いや顔ねーけど」

 

 

シャーリー「いい度胸してやがるな!流石でかいだけはあるってもんだ。お前ら、気合いれろよ!ビビったら負けだからな!」

 

 

わかば「はいッ!」

 

 

気圧された後輩達を見てエイラが軽口を、シャーリーが明るい声で激励を飛ばす。それを聞いてあおい達は武器を握る手に力を込め、再び気合を入れた。どれだけ強大な敵であっても必ず倒さなくてはならないのだ

 

 

ひまわり「あろん子。あれがどんなのか知ってるなら教えて。どんなことでもいいし」

 

 

あろん子「〈巨人〉のアローン。塔のアローンから産まれる、世界を滅ぼす役割を持った強力なアローンよ。捉えた示現の戦士の魂を吸い上げて顕現する巨人のアローンの持つ力には誰も太刀打ちできない。高次元の存在でありながらその時空の法則を捻じ曲げて無理矢理実体化した挙句、周囲のあらゆる物質の命を吸い上げながら無限に成長する怪物よ。本来なら誕生させた時点で負け確定のエグゾディアみたいなヤツね」

 

 

わかば「エグ……なに?」

 

 

あおい「は?なんですかそのサービス終了直前のインフレしきったエンドコンテンツ的なぶっ壊れボスは。ふざけてるんですか?」

 

 

あろん子「まあ落ち着いて。ハンマーを振り回されたら落ち着いて解説もできないじゃない。本来なら、と言ったでしょ?砕かれたから仕方なく出て来た早産の巨人、フルスペックではない筈よ。充分撃破の可能性があるはず」

 

 

宮藤「ということは、あとは頑張るだけですね」

 

 

 

宮藤の一言で作戦は決まった。死力を尽くし、戦う。敵が倒れるまで、立ち上がり武器を振り下ろすのだ。そうして世界を救う。彼女達は敵へ向き直った

 

 

 

巨人のアローンの咆哮が鳴り響く。空を覆っていた雲は全て消え去った。しかし青空は見えず、天は赤黒く染まっていた。終焉を迎える予兆だとでもいうのだろうか

 

 

そうはさせずとビビッドチームは攻撃を開始する

 

 

 

エイラ「あおい、わかば。こっちで隙を作るからタイミング見て大技を仕掛けてくれ。ひまわりとリーネは後衛だな。あろん子と宮藤は私と来い」

 

 

シャーリー「いくぞルッキーニ、ペリーヌ!ファイヤー稲妻フォーメーションだ!」

 

 

ルッキーニ「おっしゃあああああああああああ!!」

 

 

ペリーヌ「はぁ。」

 

 

シャーリー「ノリ悪すぎて冷静になったわ。普通に仕掛けるか」

 

 

ルッキーニ「うぃ」

 

 

 

2チームに分かれて、左右から挟み込むように巨人の背後から接近する。射程の長いリーネがいの一番に仕掛けた。相手の装甲の硬さを確かめる為放たれた狙撃ライフルの銃弾が3発、後頭部、首、背中の中央に命中する。しかしその弾丸は装甲に直撃するかと思われた瞬間まるで吸い込まれるように消失してしまい、アローンにダメージを与えることは叶わなかった

 

 

リーネ「!これは……」

 

 

 

シャーリー達が右から、エイラ達が左からそれぞれ銃弾の雨を浴びせる。頭のてっぺんから足首までまんべんなく攻撃をばらまき、弱点を探るように攻撃を行うがそのどれもが例に漏れず甲高い衝突音をたてる事無く黒い装甲に呑み込まれて消え去ってしまう

 

 

 

シャーリー「おいおい、こりゃまずいな!」

 

 

ペリーヌ「っ、銃撃がだめならば接近して固有魔法を使いますわ!援護を___」

 

 

エイラ「待て下がれペリーヌ!攻撃が来る!」

 

 

 

エイラが声を張り上げて警告した直後、巨人のアローンが頭をぐるりと回転させて右側にいるペリーヌ達の方へ顔を向けた。表情のない能面のような顔は底知れぬ狂気を秘めているような正体不明な感覚をウィッチ達に与える。巨人はゆっくりと右腕を持ち上げると、人差し指を一本立てて指差すような手の形を作り指先をウィッチ達の方へ突き出した

 

 

 

ペリーヌ「!」

 

 

エイラの警告に従い弾かれるようにその場から飛びのき軌道を変更する。ウィッチ達が先ほどまで飛んでいた場所を赤い閃光が走り抜けた。一瞬遅れてビームの軌道上の空気が焼けて破裂した音が鳴り響き、ビームの先にあった空の遥か先に赤い光の名残が尾を引いてどこまでも続いていた。放たれた攻撃が圧倒的な威力を誇っていることを証明した

 

 

 

 

宮藤「うわ……なんですかあれ!」

 

 

ひまわり「半端ないってあれ。今まで出現した強化アローンの大技並みの出力があるよ!基本的に防御はしないで!」

 

 

ルッキーニ「こっちの攻撃が通らないのはなんなのぉ!?」

 

 

健次郎『以前現れた強化アローンも似たような現象を起こしておる。強力すぎる示現エネルギーが周囲の時空を歪め、それによってこの次元に存在する物質が自らに干渉することを拒否できるのじゃ!』

 

 

ひまわり「前よりずっと強力。魔法力を通した銃弾がなんの影響も与えられてないから、私達が作り出す武器の直接攻撃も出力が足りないとまるで効果がない可能性がある」

 

 

あおい「じゃあどうするんです!?」

 

 

ひまわり「……とにかく、攻撃を続けるっきゃない。ヤツのデータを集めてくれたら、絶対打開策を見つけるから!」

 

 

 

エイラ「んじゃまあ、やれることは全部やりますか」

 

 

 

巨人のアローンが無機質な咆哮を上げ、大気が揺れる。ソレは自分の歩行を妨げる者達がいることに気が付いたようだ。肩に生えた大きなトゲを紅く輝かせ、戦闘体勢に移行したことが見て取れる。ビビッドチームの面々も圧倒的な脅威を持つ存在に気圧される事無く、勝機を信じて攻撃を開始した

 

 

 

 

 

 

 




2020年が・・・おわっていく!?うそだァー!!完結が・・・間に合わないッ!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話 あおい「我らでこぼこ三銃士」

ペリーヌ「電撃(トネール)!」

 

 

 

ひまわり「ネイキッドコライダー、一斉攻撃!」

 

 

あろん子「あろん子レーザー!」

 

 

ペリーヌの放つ青白い電撃が。あろん子とひまわりの示現エネルギーを転換したビーム攻撃が、巨人のアローンへ直撃する。しかし外装に多少の傷をつけることも出来ず、透明な膜に呑み込まれるようにして攻撃は掻き消える

 

 

巨人のアローンは大質量の身体が災いして回避行動など殆どとる事ができない。こちらの攻撃を当てることの難易度は低いのだが、そもそもこのアローンは回避する必要が最初から無い存在なのだ

 

 

リーネ「……ダメージ確認できません!次!」

 

 

シャーリー「ぶっ飛べわかば!あおいっ!」

 

 

わかば「ええ、行くわ!」

 

 

あおい「思いっきりやりますよぉ!!」

 

 

 

先程塔のアローンを破壊して見せたあおいの一撃をお膳立てする為、わかばはブレードを構えて疾走する。迎撃に放たれた赤いビームを紙一重で回避し、がら空きのアローンの腹を右上段から思いっきり袈裟懸けに斬り下ろす。残心を取りながらわかばは下方へ離脱し、連続してわかばが攻撃したのと同じ箇所をあおいのハンマーがぶっ叩いた

 

 

 

ひまわり「あおいが離脱したら集中砲火を!!」

 

 

 

ハンマーを投げっぱなしにして海に落ちるようして離脱するあおいの姿を確認するや否や、全員の持てる限りの遠距離攻撃が一点集中で投入された

 

 

 

宮藤「……」

 

 

 

やったか!と口に出したいのはやまやまなのだが、芳佳はぐっとそのフラグに成りうる言葉を呑み込んで銃のスライドを引いた。正直、これでトドメを刺せたとは思えなかったからだ。案の定アローンからの返答は苦痛に呻く悲鳴ではなく機械的な反撃のビームであった

 

 

 

 

シャーリー「だめなのかよ!」

 

 

ペリーヌ「一点集中の連続攻撃による防御フィールドの許容量突破、悪くない案だとは思いましたけれど。どうやら想像以上の難敵のようですわね」

 

 

ひまわり「これがダメなら、ひたすら継続で攻撃を続けてアローンと我慢比べをするくらいしかなくない?」

 

 

あろん子「ヤツにスタミナ切れの概念があるとでも?」

 

 

ひまわり「そう思わなきゃ、やってらんないでしょ実際!」

 

 

 

半ギレで声を上げるひまわりに言い返すことを止め、わかばはネイキッドブレードを握り直した。彼女の言う通り、戦いに没頭していなければ心の奥からじわじわと浮かんでくる絶望感を振り払うことができないように思えたからだ

 

 

 

巨人のアローンが群がる蚊柱を散らすように右腕を大きく横に薙ぎ払った。その動きに応じて、扇状に拡散した赤いビーム弾幕が街を吹き飛ばす。エイラの未来予知による誘導があれば大味な攻撃であれば回避する事は容易だ。しかし燃え盛る街を踏み潰しながら再び歩き出した巨人に対し、彼女達は諦めずに立ち向かい続けられる時間はあまり長くはなさそうだった

 

 

 

健次郎『手はある』

 

 

 

そんな中耳に届いた一色健次郎のその言葉には確かな説得力が備わっていた

 

 

 

健次郎『むしろ他の選択肢が全て潰されたと言ってもよかろう。やはりドッキングにより生成される高純度の示現エネルギーを利用した攻撃しかヤツと同じ土台に立つことはできん』

 

 

ひまわり「博士、それは解ってます!」

 

 

それが出来ないから苦労をしているのだ。若干のイラつきを隠さないひまわりを制するように健次郎は落ち着き払った調子で言葉を続ける

 

 

健次郎『ならば実践すればよかろう。君達にはその力がある』

 

 

ひまわり「あかねがいないとドッキングは……」

 

 

健次郎「君達にはその力がある。ワシはそう考えるのじゃよ、ひまわりくん。本来諸君らはあかねの力を通して示現エンジンにアクセスし、パレットスーツを身に纏っていた。示現力に選ばれた戦士ではなく、あかねに選ばれた仲間だった。だが今諸君らは間違いなく、示現力を扱うに相応しい戦士になっているのじゃ」

 

 

 

あおい「そうです!あかねちゃんがいないから出来ないんだと言ってしまうんじゃ、私達の覚悟が足りてないってことなんです!」

 

 

わかば「あかねの代わりを果たすのではなく、私達は私達にしかない強さを見せましょう!」

 

 

健次郎『そもそもドッキングというもの自体ワシの想定外の事象。示現力がもたらした奇跡の一片なのじゃ。それは少なからずあかねが起こした奇跡じゃが、君達が起こしたものでもある。君達に宿る可能性を見せてくれ』

 

 

おあい「任せてください。やってみせます」

 

 

 

 

ドッキング。示現力を得た高次元生命体が個を捨て全となり超常の力を得たように、異なる2つの命が1つに溶け合うことで高次元に揺蕩う示現力を自在に操れる上位存在へと至る秘奥義。それであれば、恐らく巨人のアローンが展開している遮断フィールドをぶち破る事が可能だ

 

 

ドッキングの要である選ばれた戦士を封じた状態で出現するのがドッキングでなければ攻撃を与えることが不可能な巨人のアローン。理不尽を押し付け絶望を産む。それこそが最後を演出する巨人のアローンの強さの真髄なのだ

 

 

 

ならばそれを打ち破るのは?追い込まれた状況で尚進化できる強さを持った者だ

 

 

 

わかば「さて、じゃあどうしましょうか。ねえあおい、取り合えず私とちゅーしてみる?」

 

 

あおい「ええ……うん、まあ、そうなるのかな」

 

 

わかば「とんだ塩対応で心を折られそうになったわ。あなたまだ私に対してなにか怨恨を?」

 

 

あおい「心外だよぉ!なんていうか、ちょっと緊張しちゃって変なリアクションしちゃっただけだから!気にしないで、私わかばちゃんの事もちゃんと好きだよ!」

 

 

わかば「あかねと同じくらい?」

 

 

あおい「いやあかねちゃんの方が上だけど」

 

 

なにふざけたこと言ってんだよ、とでも言いたげなハイライトの消えた無感情の瞳がわかばを真っすぐと見据えていた。それを見ても気圧されず、あおいが自分の本心を安心して曝け出してくれるようになったと喜べるのが三枝わかばの強さでもあった

 

 

わかば「気を遣わず喋ってくれるのは信頼の証、そう捉えていいのでしょう?」

 

 

あおい「うん。わかばちゃんもひまわりちゃんも、私のことを受け入れてくれるだろうから。私もみんなを受け入れるよ」

 

 

 

わかばの差し出した手をあおいが優しく握り返した

 

 

わかば「で、ひまわり!あなたの考えを聞きたいのだけど」

 

 

ひまわり「ドッキングを成立させるのに必要なのは他者を受け入れて器となるべき人間が必須!あかねは示現力の適正が高いからそれが可能だった。あの子がいない今、どうにかするとなれば!」

 

 

あおい「なれば!?」

 

 

わかば「根性ね!!!!!!!!!!」

 

 

ひまわり「わかばうるさい」

 

 

わかば「ごめん」

 

 

ひまわり「3人で助け合うの。例えば私がわかばを見て、わかばがあおいを掴んで、あおいが私を受け入れることに集中する。均等に互いを強化しあって、空いている手ではみ出しそうになる仲間の手を握る。そうすれば私達でも示現力に飲まれることなくその力を引き出せる!」

 

 

わかば「信じるわよ!?」

 

 

ひまわり「太鼓判!!」

 

 

ドッキングを行う際、彼女達は特殊空間で粒子に分解されあかねに取り込まれるような形であかねと混ざっていた。そうしてあかねは超次元空間の中でフレームとなるボディを形成し、その中にビビッドエンジンを搭載して現実世界に顕現している。これを真似ればドッキングに似た形態へ至る事ができる筈なのだ

 

 

 

健次郎『まあ受け入れる器の形成に失敗してしまうと粒子となった君達は再構成されず示現力の海に流されていくじゃろうな』

 

 

シャーリー「口を挟まないようにしてたけどヤバイ単語が___おっと!」

 

 

ペリーヌ「シャーリーさん!戦闘に集中してくださらないと!あおいさん達が打開策を見つける前に堕とされてしまいますわ!」

 

 

あおい達が話し合いを行っている間巨人のアローンの注意を一手に引き受けているのはウィッチーズだ。あおい達を狙う攻撃は芳佳が強力なシールドで弾き飛ばしている

 

 

 

 

ひまわり「2人共、自分の中の一番強い思いをイメージの前面に押し出して!それを思いっきり示現エネルギーとして放出するの!私がそれをコライダーを介して1個の形に無理やり成形する!」

 

 

 

 

わかばとあおいの空いている手をひまわりが握り、3人は輪になる。互いを見つめ合えば、互いの意志が伝わってくる。繋いだ手から仲間の力が伝わってくる。自分の中に熱いエネルギーが流れ込んでくる感覚はドッキングの際に感じるものと似ていた。彼女達は目を閉じ、自分の中にある示現力を高めることに集中する。ひまわりはそれと同時に周囲に展開したネイキッドコライダーで力場を形成し、3人の示現エネルギーの流れを加速させる

 

 

 

 

健次郎はデバイスを操作し示現エンジンにアクセスする。パレットスーツへの変身プロセスを行う際に出現する巨大なゲートを応用したものを形成し、それを3人の輪の中心に転送した。それは3方向に入り口を持つ3角の柱となって顕現する

 

 

「「「イグニッション!!!」」」

 

 

 

3人の叫びが共鳴し、ゲートが各々の色に対応した輝きを放ってその扉を開く。中にある空間は能での理解を越えた超常の空間。3人は恐れることなく力の奔流に身を任せ、ゲートをくぐった

 

 

 

ゲートの先は、ドッキングの際に通過する示現力が揺蕩う高次元空間だ。あおい、わかば、ひまわりは互いの手を取ったままその空間に浮かんでいた。少し輪郭がぼやけてはしまっているが、握り合う手の感覚は確かな温かさがある。握る手の強さを強めれば、自分達に集まる示現力も多くなっていく

 

 

 

わかば「私は剣を!」

 

 

ひまわり「私は盾を!」

 

 

あおい「私が力で受け止めます!わかばちゃん!ひまわりちゃん!熱い気持ち、預かります!!」

 

 

「「「オペレーション・トリニティコンボ!!!」」」

 

 

輝けるトライアングルが放つ黄金の力の波動が新たな力を産み出す。3人が入っていったゲートがあった空間に凄まじい光が集中し、歪な光の球が出来上がる。内側からそれを破ろうとする何かが押したり引いたりするもので、球体はぐにゃぐにゃと形を変える。固唾を呑んで見守るウィッチーズ。苦戦すること数十秒、勢いよく光の殻が弾け飛んだ

 




おらおら今年中に完結させるぞ!!!8月で10話投稿してやるぜガハハ!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話 「ロマンティックな三角関係」

夏の暑さに負けないぜぇ!!!!!!


 

 

勢いよく光のゲートから飛び出してきた少女の身体は青、黄、緑と様々な色に変わりながらピカピカと発光していて、身体の輪郭は誰からもはっきりと視認できなかった。彼女の発する力が溢れ出しているのだが、その光は彼女自身を苦しめているものであった

 

 

 

「あばばばばばっ!!!か、身体が崩壊する!!!誰か助けてぇ!!!」

 

 

 

足がつった人がマジでパニくった時に出すような情けない悲鳴が上がった。救いのヒーローとして参上した筈の人間が放つ第一声としては最悪なものであった。だが助けを求めるものあらば即刻駆けつけるのが宮藤芳佳だ。状況は呑み込めないが、銃を背中にマウントして手を空け治癒魔法を使う準備をする

 

 

 

宮藤「とにかく思いっきりやっちゃっていいんですよね!?」

 

 

健次郎「うむ!全力で治癒を頼む!」

 

 

宮藤「合点です!」

 

 

 

健次郎の認可を受けると、芳佳は発光している少女を背中から抱きしめ治癒魔法を発動させる。ストライカーを装着している状態の芳佳が発揮できる魔法力は身体1つの場合の何十倍にもなる。かつて示現力の干渉に阻まれあかねの腕を治すのに手こずっていたが、今は相手がどんな状況だろうと関係なしに癒していく。少女の身体の光に上から覆いかぶさるように青い光で描かれた魔法陣が展開され、対象の身体に力を注ぎ込んでいく

 

 

 

不安定な光の粒が青い光の魔力に吸い寄せられ、中心にいる光の少女の元へ集められていく。青い光が強くなる程、姿が安定していなかった光の少女の形が徐々に定まっていく。満を持して芳佳が身体を放す頃には、先ほどまで苦しんでいた不安定な存在は影も形も無かった。そこに立つのは、敵を討たんとする激しい怒りと、友を守りたいという穏やかな優しさの両方を併せ持った戦士

 

 

 

あろん子「示現力による生命の一体化。コアであるあかね抜きに成し得るとは驚きね」

 

 

 

「流れ流れて因果に惹かれ、出会った我ら三銃士!

 

目指したものは違えども、心に立てた誓いは1つ!あの子のハートを射止めてみせる!

 

オペレーションは、トリニティコンボ!力いっぱい戦います!」

 

 

 

強気につり上がった青い瞳をくわっと開き、声高々に名乗りを上げ、足を踏み下ろせば大気が揺れた

 

 

 

体格や顔立は二葉あおいをベースとしているが、後ろでポニーテールにくくられた長い髪の先端はグラデーションで緑色に染まっている。髪留め代わりの黄色いヘッドギアが頭部を保護し、腰に備えた二本の鞘を模した緑のサイドスカートが光を反射し誇らしげに輝く。全身には関節部分の可動域を損なわないようにしつつ鎧のような青い装甲が装着されていて、足は巨大なブーツが、腕は大きなグローブが装着され手足が一回り大きく拡張されているように見える

 

 

 

3人のドッキング形態の特徴を同時に組み合わせた姿は、ちぐはぐなようで絶妙なバランスを保っていた

 

 

 

トリニティ「さっきのは忘れて!もう大丈夫!名乗りも決まったし、大船に乗ったつもりでいてね!」

 

 

あろん子「ほんとに大丈夫なの?全然安定しているようには見えないのだけれど」

 

 

トリニティ「いやいい感じだって。いい感じなんだけど、なんだろう。なんか吐きそう」

 

 

宮藤「大丈夫じゃないじゃないですか!?」

 

 

トリニティ「なんだろなぁ。調子乗ってご飯をお腹いっぱい食べすぎたって感じ。テンションが上がりすぎてて頭がぐるぐるするし、妙に熱っぽいし……あああああ!なんか爆発しちゃいそう!!」

 

 

 

しちゃいそうと言いながら実際爆発していた。彼女の周囲を惑星のようにぐるぐると周回する光球が明滅を繰り返し、直視するのが難しい程輝きが強まったものが時たまパチンパチンと破裂音をたてて弾けている。芳佳の治癒魔法の補助で一時的に安定できているが、世界の法則を捻じ曲げて存在している彼女はこの次元を構成する物理法則そのものから猛烈な拒絶反応を受けながら尚実像を保っているのだ

 

 

 

ペリーヌ「身も蓋もない言い方ではありますが、爆発する前にアローンを倒していってもらえますこと!?」

 

 

トリニティ「それについちゃあお任せあれです!」

 

 

 

両の手の指を嚙合わせるように前でがっちりと組み合わせ、1つの巨大な拳と成す。足を開いて腰を息を大きく吸い、目標に対して集中力を高める

 

 

 

トリニティ「全部のエネルギーを一発に集める!」

 

 

シャーリー「一発だけか!?」

 

 

トリニティ「それもまともに機能するかは保証しないよ!こちとら勢いだけでやってるんですからね!」

 

 

 

彼女がエネルギーを集中させると拳を眩い光が纏い、一撃で敵を葬れる無双の武器へと進化していく

 

 

 

拳から鮮やかな銀色の棒が飛び出し、まっすぐと長さを増しながら50m程に伸びる。それを見た芳佳は長い剣か槍を想像した。しかしその予想は一瞬で覆される。トリニティの拳から飛び出した光の帯が棒に巻き付いてどんどんと太さを増していく。ただ太くなるだけでなく、先端部分は細く根本は太く、超巨大な円推の形へ変貌を遂げた

 

 

 

トリニティ「ブレードの切れ味!ハンマーの破壊力!コライダーの加速力!全部合わせて敵を穿つ!」

 

 

 

 

創り上げられたのは鈍く輝く銀色のドリルだ。構成する金属はこの世界に存在する物質ではなく、超高密度の示現エネルギーを練り上げてつくった未曾有の超合金。巨人のアローンに負けず劣らずのサイズのドリルを構えてもトリニティの重心はビクとも揺らがず、矛先を敵に真っすぐ向けている

 

 

 

ペリーヌ「あれって効率いいんですの?」

 

 

宮藤「よく解りませんけどメチャクチャかっこいいんですから多分正解なんですよ!!」

 

 

シャーリー「ロマンは全てを解決するからな」

 

 

エイラ「守ってやらないと撃ち落されるかもしれねーぞ。ヤツが本気になったみたいだ」

 

 

 

エイラが親指でくいっと指す方を見れば、巨人のアローンの様相が変わっていた。先程まではこちらの攻撃など意に介さずといった様子で、反撃のようなものを行うにしてもその身体と顔は真っすぐと次元エンジンの方角を見ていた

 

 

それが今、ようやくこちらを敵と見定めたようだ

 

 

両肩に生えた突起が赤い稲妻を走らせ、攻撃を放つための予備動作が完了している。能面のような顔の下側がぱっくりと横に割れてまるで口のように大きく開いた

 

 

エイラ「攻撃来るぞ!おいドリル準備まだか!?」

 

 

トリニティ「ちょちょっ!ほんのちょっとだけ時間ちょうだいっ!」

 

 

 

ドリルはゆっくりと回転を始めていた。トリニティの背後に翼のように展開された6個のネイキッドコライダーが青白い炎を噴出し、前進の為のパワーを用意する。手足と胴体に装着された装甲の表面に光のラインが走り、トリニティの全身を駆け巡るパワーの出力が上がっていく

 

 

 

宮藤「私が防ぐから、思う存分チャージして!」

 

 

リーネ「私も手伝うよ!」

 

 

ペリーヌ「あなた1人で頑張らずとも、わたくし達がいるでしょうに!」

 

 

 

 

巨人のアローンの射線を防ぐため飛び出した芳佳の周りにウィッチーズが並び、全員で両手を前方に突き出す。展開された6枚の防御シールドが芳佳のシールドに取り込まれるようにして巨大な1枚のシールドへと変化する

 

 

 

巨人のアローン「___________」

 

 

巨人のアローンの口から血を思わせる赤黒い光を放つビームが放たれた。今までのどのアローンが放ったものよりも凶悪な力を秘めており、触れる周囲の空気を腐らせながらウィッチーズの張るシールドへと襲い掛かった

 

 

 

<バチチチッ!!!!>

 

 

通過しようとするビームと阻まんとするシールドのせめぎ合いは僅か十数秒の出来事であったが、その僅かな時間を乗り切るためにウィッチーズは殆どの魔力をつぎ込む必要があった。完全体ではないとはいえ、世界を崩壊させる力を持つ巨人のアローンが繰り出した全力の一撃を防ぎ切った彼女達の実力は称えられるべきものであろう

 

 

 

所々ヒビの入った魔法陣がボロボロと崩れて消えた。そして巨人のアローンは目にする。ウィッチーズの後ろで悠々と回転する巨大なドリルを

 

 

 

 

トリニティ「パレットドリル、スタンバイ!」

 

 

 

 

充分エネルギーを溜めたドリルは既に標的を貫通する準備を整えていた。高速で回転する狂気の金属塊に切り裂かれる空気が悲鳴を上げる。酷く耳障りな高音が衝撃波を放ちドリルの放つ異常なエネルギー力場は周囲の空間すら歪めていた

 

 

ウィッチーズの何人かは自分の背後で聞こえるその音から、歯医者さんで自分の歯が無慈悲に削られた時の情景を思い出し若干の冷や汗を流していたのだがそれはそれとして

 

 

 

背中に装着したコライダーの推力を高めトリニティが前進を開始する。最初はゆっくりと、そして徐々に加速する

 

 

シャーリー「離脱だ離脱!!突っ込め三銃士!!!」

 

 

ルッキーニ「ブチ飛ばしたれー!!!」

 

 

 

 

「「「ブレードコライダー・インパクトォォォ!!」」」

 

 

ビームを最後まで受け切ったウィッチーズが道を譲るようにバラバラに散開し、その間を巨大なドリルが突き進む。巨人のアローンはもう一度ビームを発射するが、パワーを完全に開放したドリルの前ではただの眩しい光としての役割しかもてない。赤い閃光をかき分けるように驀進し、そのままビームの発射口でもある巨人のアローンの顔面へ思いっきりドリルを突き立てた

 

 

 

 

 

<ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!>

 

 

トリニティ「どらぁあああああ!!」

 

 

アローンの防御膜が機能していないことはドリルが固いものを削る音からもはっきりと解った。巨人のアローンは強固な装甲を有しており、例え防御膜を突破できるエネルギーを備えた武器があったとしても撃破は至難の業である。ただ、ドリルなのだ。美しい丸みを帯びている円錐の先端が一度さされば、後は回転する度に傷穴を広げながら前進する

 

 

トリニティ「このまま食い尽くしてやる!」

 

 

口から後頭部へ抜けるのではなくそのまま進路を下へ。食べ物が腹へ落ちていく順路を辿るようにドリルを回す

 

 

されるがままのアローンは少しの間周囲にビームを乱射するなどと無駄な抵抗をはかっていたがすぐに両手をダランと下に降ろし動かなくなった。トリニティはそのまま巨人のアローンの上半身を半分ほど掘り進んだが、その辺りでアローンの身体が形を保てなくなり粉々に砕け散った。トリニティはそのまま地面に突き刺さり、数m程地面を掘った辺りでドリルの回転を止めた。摩擦で真っ赤な光を帯びたドリルから白い煙が立ち昇る

 

 

 

トリニティ「これにて一件落着ね!」

 

 

穴から這い出した彼女は満足そうに微笑み、アローンの残骸から放出される色鮮やかな光の粒が西の空へ飛んでいくのを見て満足そうにそう言った

 

 

 

 




あれですね。ガオガイガーのヘルアンドヘブンみたいなことをやりたかったんですよね。途中でグレンラガンみたいなこともしたくなったんですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話 あおい「決別を告げる羽音」

〈防衛軍・作戦指令室〉

 

 

オペレーター1「東京全域に張られていた遮断フィールドの消滅を確認しました!」

 

 

オペレーター2「航空部隊から伝達!展開していたネウロイが消滅していきます!」

 

 

長官「ビビッドチームがやった!一色博士!やったんですね!?」

 

 

健次郎「ああやった!やってくれおったぞい!」

 

 

作戦指令室を歓声が満たした。戦闘に参加していた部隊にも作戦の成功は伝えられ、喜びの連絡が続々と送られてくる。犠牲も多くあった。空に散った戦士達がいて、そうして得られた勝利なのだ。それを理解しながら、生き残った戦士達は悲しみよりも喜びをもって彼等に敬意を示した

 

 

柴条『先生。示現エンジンから妙な反応があると部下から連絡が入っています』

 

 

健次郎「なに?」

 

 

 

__________________________________

 

 

 

 

宮藤「空が光ってる!」

 

 

リーネ「光ってるね……」

 

 

 

空が光っているのだ。時刻は既に17時を過ぎ、太陽は西に大分傾いているというのに、空は黄金ともいえる輝きを放ち真夏のようにギラギラとした光が大地を照らしていた

 

 

あろん子「これは示現力が放つ光よ。エンジンで変換されて人工的に出力されるものとは違う、純粋な高次元のエネルギー」

 

 

ペリーヌ「それが空から降ってくるのは、罰ゲームなのかしら?それともご褒美?」

 

 

あろん子「おめでとう。あなた達は勝利した」

 

 

クールにそう言ってのけようとしているのは解るが、あろん子はぐずぐずと鼻水を啜り歓喜の涙を手の甲で拭いながら震える声を抑えきれない

 

 

ルッキーニ「え、めっちゃ泣いてない?」

 

 

あろん子「よかったわねぇ……!ほんと良かった……!」

 

 

ルッキーニ「おおぅ、なんかからかってごめん。どしたの?」

 

 

あろん子「ぶっちゃけ全く役に立てた自信なくて……!」

 

 

シャーリー「いやそんなことないだろ!?」

 

 

あろん子「そうかしら?なら安心するわ」

 

 

シャーリー「コロコロ感情が変わるヤツだな。ま、みんな頑張ったよ!お疲れさん!」

 

 

 

シャーリーが明るい声をあげて戦いの終わりを宣言する。しばらく周囲の様子をうかがっていたウィッチーズの面々もここでようやく一息つくことが出来た。先行して突入、露払いから壁役までをこなし流石の彼女達もヘトヘトであった

 

 

健次郎『うむ、見事な戦いじゃった!あろん子くん、今の我々の状況について教えてもらえんか?』

 

 

あろん子「巨人のアローンが〈試練〉として設定される最後のアローンであることに間違いはないと思うわ。証拠にあなた達の世界は示現力に認められた」

 

 

健次郎『認められた、という事象について具体的に説明してくれんかの?』

 

 

あろん子「示現エンジンという変換器を使わなければ、あなた達は示現エネルギーを使うことができなかったでしょう?ドッキングによるビビッドエンジンもパレットスーツを装着した状態で起こせる一時的なイレギュラーでしかない。それは〈管理者〉達による制限がかかっていた故の不便さ。しかし、あなた達は塔を破壊し、巨人を討った。そして〈管理者〉が戦士として選んだ最初の1人を救い出した。〈管理者〉が与えた試練の全てを乗り越えたあなた達は、この力を自分達で自由に使う権利を得たのよ。」

 

 

 

トリニティ「私のコンディションが先程から改善されていってるのはそれが影響されているのね」

 

 

ふわり、と宙に浮きあがってきたトリニティが非常に穏やかな口調であろん子の会話に混ざった。先程全ての力を使い果たすつもりで一撃を放った合体状態の3人だったが、今の状態は彼女自身が言うように非常に高い調子で安定している。身に纏った光のオーラも穏やかな流れを見せながら乱れなく流動しており、彼女から放出されるエネルギーも明らかに増加していた

 

 

 

健次郎『こちらでも示現エンジンの反応に異常を検知しておる。今までビビッドチームの戦闘の際に使用しておった4番から10番までの炉とパレットスーツの接続が切断されていたのじゃ。今のあおいくん達は示現エンジンの力を借りず、独立して示現エネルギーを生成しておるようじゃな』

 

 

トリニティ・コンボは3人の力を相乗させ、示現エンジンから得られる力を限界まで取り込み、それをさらに体内で増幅させることでドッキングの出力に迫るための戦法だった。しかし今、あおい達自信がエンジンからのエネルギー供給を必要としなくなったことで、トリニティはドッキングと同じ自らで特殊次元から自由に力を引き出せる段階に到達している

 

 

 

 

「成程、こうなりますか。管理者達も随分甘いようで」

 

 

 

瞬間、空気が重みを増す

 

 

空間を歪ませて、トリニティの前に瞬間的に現れたカラスの形をしたモノは夕陽を背に、空に浮いていた。まるでそこに宿り木でもあるかのように羽を閉じた状態で感情の読めないガラスめいた瞳をビビッドチームの1人1人を順繰りに向けて、最後にトリニティの顔をじっと見つめて話続ける

 

 

「確かにあれが〈試練〉として送り込まれる最後のアローンです。ですがあなた方が倒すべき敵が最後である、という訳ではありません」

 

 

シャーリー「ああ確かにそうだな。まだお前さんを丸焼きにして皿に盛りつけるって作業が残ってたよな?」

 

 

あろん子「ぶっ殺すわ」

 

 

プレッシャーを跳ね除けるシャーリーの啖呵が終わる前に各々は武器を構え終えている。6つの銃口と、赤く光る両手、そして示現エネルギーの火花が迸るのを見てもカラスの口調に変化はない。ただ淡々と言葉を繋ぐ

 

 

「今後、〈管理者〉である彼らがこの次元にアローンを送り込んでくることは無いでしょう。ですがあなた方が抱える問題はもう一つ有る筈」

 

 

宮藤「ネウロイ?」

 

 

「そうです。あれは彼らの支配下にあるものではありません。アレにもいくつか種類はありますが、アレの大半はアローンの成り損ない。理から外れた生命の残骸が示現力の影響を受け受肉した生体兵器のようなものです」

 

 

あろん子「それを操ってるのもあなたでしょうがよ。」

 

 

「ええ、少なからずは。しかし全てではない。私の支配下に無いネウロイなどいくらでもいる。今のままでは、私が手を引いてもこの世界に惹かれたネウロイの侵略は止まないでしょう」

 

 

トリニティ「それは、あなた以外に何か原因があるという話?」

 

 

カラスは小さく頭を縦に振り肯定の意味を示した

 

 

「あなた方は、この世界にある異物を全て取り除かなければならない。〈魔女〉を名乗るその者達のみならず___」

 

 

れい「もしかして私の話をしてる?なら混ざったほうがよさそうね」

 

 

再び時空が歪み、カラスの横に黒騎れいが出現した。黒いマフラーをなびかせ、鋭い切れ長の瞳でビビッドチームを見渡した後カラスと向き合った

 

 

「黒騎れい。あなたは失敗したのですよ。〈試練の矢〉を全て使っても尚、あなたは示現エンジンを破壊することができなかった。失望しましたよ。あなたの手腕を買い被っていたようです」

 

 

れい「毎度貴女のたいそうな高説に付き合うのは飽き飽きだわ。私が何に失敗したって?もう一度言ってみなさい」

 

 

「あなたの望みを叶える対価として私が求めたのは、アローンを誘導し示現エンジンを破壊する、それ1つ。リスクを冒しあなたをこの世界に送り込んだ私の労力が水の泡です」

 

 

れい「確かに私は示現エンジンの破壊には失敗してしまったわ。正直これに関しては想定外。彼女達の強さを見誤っていた。でも、あなたはやっぱり勘違いしている。そもそも私が本当に望んでいたのは示現エンジンを破壊する事そのものではないのよ?この結果はあなたにとって歯がゆい結末かもしれないけれど、この展開は私にとって僥倖の極み」

 

 

「何を___」

 

 

 

れい「あなたは退場してもらって結構だと言ったのよ」

 

 

 

ヒュン と鋭い風切り音を立てて走った刀の一閃が、カラスの素っ首を叩き落す。息つく間も無く返す刃が胴体を断ち切り、先ほどまで喋っていたカラスは黒い塵となって散った

 

 

 

れい「割り込み失敬、あの鳥の話を引き継ぎかせてもらうわ。そもそも〈黒騎れい〉には、試練を課す為のアローンの跳躍を手助けするビーコンの役目があった。ネウロイもその波長を感知して迷い込んでいる。だから私かそこの人型アローンがこの世界に居る限り、侵略者の来訪が止むことはない」

 

 

漆黒の小刀を肘関節で挟み返り血を拭うようにゆっくりと引き抜きながら彼女の冷酷な語りは続く

 

 

れい「この世界を救いたいなら黒騎れいを殺してみなさい___とでも言いたかったんでしょうよ。あのカラスは」

 

 

可笑しくて仕方ない、とばかりにくすくすと笑いながられいは話続ける。巨人のアローンとの闘いを放置していた彼女がこのタイミングで出張って来たのは今更仲直りをしたいからという訳ではないのは解る。彼女が纏う気配はあまりにも危険な香りを匂わせ過ぎていた

 

 

トリニティ「れい。あなたは何を求めているの?なにを思って私達と敵対しているの?」

 

 

そう問いかけながらもトリニティは拳を握る力を少し強める。れいが戦闘体勢に入っている事を察知し、トリニティの一角を担うわかばの闘争心が反応しているのだ。今にも開戦の火ぶたを切りたがる拳を宥めながらトリニティは話を続けた

 

 

れい「私は、かつてあった私の世界を取り戻したいの。身の丈に合わない力を求め、天に手を伸ばしたばかりに焼かれ尽くした、私の愛すべき愚かな世界を、もう一度再現する。その為にあのカラスに力を貸していたの」

 

 

不敵な微笑みは消え、釣り目は垂れ下がる。さみしそうで切なそうな、哀愁を感じる表情を浮かべる。だが彼女が纏う底知れぬ悪意は刻刻と強まり、アローンなど比べ物にならない程の存在感が満ちていく。一度は晴れた夕空が再び暗雲に覆われ、周囲に闇の帳が降りる。闇を近づけさせない強い光を放つトリニティと張り合うように、れいも鈍い銀色の輝きを放つ

 

 

 

トリニティ「それじゃあ、あなたは私達と同じ……!」

 

 

れい「示現力によって滅びた世界は、示現力によって再生させる。世界を再構築する程のエネルギーは、世界を滅ぼしてしまうエネルギーを利用しなければならないのよ。他所の世界の住人であるウィッチの皆さんは別として___あおい、わかば、ひまわり。健次郎博士、管理局と防衛軍のみなさん。それからあかね」

 

 

 

れい「私の為に、滅んで下さい」

 

 

 

悲壮感を背負いながらも、迷うことなく彼女は右手を前に突き出した

 

その手に銀に輝く〈鍵〉を握りしめて

 

 




暑さを乗り切りましたね……。まあまだしばらく暑いんでしょうけどね!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章 ―ハッピーエンドの条件は―
第65話 「果てない戦いの果てに」


 

「ハッピーエンドへの挑戦権はまだ残ってると思う?」

 

「なにが?」

 

 

日課になりつつある瓦礫撤去作業に飽きてのジュース休憩中の事だった

 

 

「私達、こんな状況からでもハッピーエンドに辿り着けるのかなぁってさ」

 

 

青いボブヘアーの毛先を指でくるくると巻きあげながら、青影はポツリとそう言った。手に持ったジュース缶は蓋すら空いていない。彼女らしくないアンニュイな雰囲気に私はフンと鼻を鳴らして応えると、手にした缶ジュースをぐいっと呷る。今日の空は青く澄み渡り、地上のあり様に目を向けなければ心地よいピクニック気分にすら浸れた

 

 

「ちょっとぉ、ガチの相談なんだけど」

 

「迷いは心と技を鈍らせる、いつもそう言ってるのはあなたでしょ」

 

「そうなんだけどねぇ。だって昨日ので何体目?」

 

「100から先は数えてない」

 

「この世界、案外洒落にならない世紀末だよねぇ……」

 

 

実際、毎日のように奴らは空に穴を空けてやってくる。示現エネルギーに適正を得たと言っても疲労を感じない訳ではないし、侵略の規模によっては手が足りず被害が出ることもある。もっともここ最近に関して言えば、小型が1、2体出る程度なので残党軍の攻撃だけでも撃破できる程度だから復興作業に時間を割く余裕もあるくらいだ

 

 

「戦いに終わりなど無い、ということなんじゃないかな。生きることは戦うことだという名言があるだろう?」

 

 

空から降りて来て会話に混ざって来た緑は、自分の緑色の髪に合わせたようにメロンソーダのペットボトルを握りしめていた。ジュースを買いに行くためだけに変身して空を飛ぶのは少し前までなら軍事機密的に許されない行為だったが、今となっては私達の行動に文句をつけて来る人は殆どいなくなった

 

 

物理的に人の数が減ったというのもあるし、光り輝く女の子が飛んでいてもそれがアローンでないのであれば大した問題は無いと考える人が増えたからというのもあるし___そもそも私達にへそを曲げられたら世界が終わってしまうという恐怖が世論を抑えているんだとか、まあそんな感じらしい。私達はそんなに短気で身勝手な訳でもないんだけど

 

 

 

 

 

「みどりんさぁ。もっともらしい言葉で煙に巻こうとしてない?」

 

「青影、悩んだって仕方ないことじゃないか。僕達が頑張ればこの世界の平和は維持できる。ならば尽くせばいい。そうすることが君の言うハッピーエンドへの唯一の道なんじゃないのかい?」

 

「私もそう信じて戦ってるけどさぁ……」

 

 

彼女は煮え切らない様子でぐずっている。本当にらしくない。口調こそだるーんとした青影だが、性格は竹を割ったようにあっさりすっぱりと直感で物事を判断する子だ。だがごくごく稀に思考が迷宮に迷い込んでしまったかのように面倒くさい絡みをしてくることがある

 

 

「今面倒な感じになってるって思ったでしょぉ?」

 

「思ったわね」

 

「隠して欲しいなぁせめて!」

 

「私、隠し事しないの。知ってるでしょう」

 

「隠し事をしないのと人に気を遣えないのは別物なんだよねぇ……」

 

 

青影は直感で物事を判断する。考える、という事を嫌う。そんな彼女が悩んでいる時は大抵大きな災いを直感が予知している時。初めてアローンが世界にやって来た時も彼女は自らの人生について朝からうんうん悩んでいたし、私が塔のアローンとやらに囚われる時もその日の朝から彼女からの哲学めいた問答がメッセージアプリの通知欄を埋め尽くしていたな、と少しの間昔を思い出していた

 

 

まあ、つまり。幼いころからの付き合いであるこの青髪の親友が柄にもなく大層なテーマの悩み事を抱えていることをアピールしてくる時は、どでかく面倒な事が起きるのだ

 

 

「オォーイ!!!!しょくーん!!!!大変ですぞー!!!!!」

 

 

倒壊した建物の上を器用にぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらに駆け寄ってくる彼女に3人の視線が集中する

 

 

「このバカみたいにでかい声は……おおバカちゃん!」

 

「黄山ですよぶっとばしまずぞ青影氏!それより、示現エンジン周辺にこれまで検知したことのない量の示現エネルギー反応が大量です!でっかいのがたっくさん来るやもしれませんぞ!」

 

「全く、青影のせいだねこれは」

 

「私が悪い訳ないでしょぉ!アローンでしょ悪いのは」

 

「はいはい!みんな、落ち着いて」

 

 

私が手をパンと叩くとみんなが一瞬で静かになった。3つの色鮮やかな瞳がこちらをじっと見つめて来る。口は閉じても、みんなの中の闘志が高まっていくのは手に取るように解る。私達は既に一つなのだから

 

 

 

「青影、あなたの悩みの原因がまた空から来るわ。ぶっ倒すわよ。集中して、力を合わせましょう」

 

「おっけー。わかってるよ」

 

「緑。数が多い場合は守るより私と青影で打って出る。私達の援護よりエンジンに近づくヤツを優先して射抜いて」

 

「解ったよ。飛び回るのは君達に任せる」

 

「黄山。あなたもエンジンで待機。緑を援護しながら敵の動き見てて。ヤバイ時はあなたも前に」

 

「了解ですぞ!」

 

 

 

 

私達の首にふわり、とマフラーが巻かれる。それぞれの名前にあやかった色だ。私の首には真紅のマフラー

 

「ねえ青影。いや、皆も」

 

「何?」

 

「何だい?」

 

「何でしょう?」

 

「私達はこれまで信じた道を進み、全力を尽くして戦ってきた。これからも自分の信念に殉ずれば、きっと青影の言うハッピーエンドに辿り着ける。___いいえ、この私がそこにあなた達を導くわ。約束する」

 

「……うん!信じるよ!」

 

「うん。キミがそういうなら、安心だな」

 

「ですが我々も力を貸しましょう!これまでのように!」

 

「ええ。行きましょう。何度だって世界を護って、また明日を迎えるのよ!」

 

 

私がそう言うと同時に世界が一気に真っ黒くなる。夜の暗さとはまた違う、一切詫び寂びを感じさせない不愉快な黒。この世界の全てを塗りつぶそうとする悪意に立ち向かう為、私達は勢いよく空へ飛び上がった

 

 

 

 

 

 




最終章です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話 「漆黒の意志に繋がれた奴隷」

 

 

れいの手に握られた鍵が光をキラリと反射する。遠目であれば米粒程のサイズでしか認識できないものだが、トリニティの強化された視力はしっかりとその存在を捉えていた

 

 

トリニティ「私達と同じように、鍵を!?」

 

健次郎「ビビッドシステムを疑似的に再現して示現エンジンにアクセスするパスを繋げようというのか!」

 

れい「あかねが触れると強制的にアクセス権を得られるよう仕込みをしておいたのよ。示現エンジンに忍び込んだのはこの為」

 

宮藤「海岸で倒れてた時の……!あの時の私達を澄ました顔で利用したの!?」

 

れい「あの時と言わず、これまでずっと利用させてもらっていたのよ。『イグニッション』」

 

 

黒騎れいが示現エンジンとの接続コードを唱えると、あかね達のもつイグニッションキーより一回り大ぶりのゴテゴテした鍵が火花を散らしながらゲートを開いた。間に合わせに作られた鍵はショートして内部の基盤が焼き付いてしまうが、求められた役割を果たした

 

 

 

黒騎れいは〈観測者〉であるカラスによって力の大半にリミッターをかけられていた。しかしこの世界の示現エンジンと繋がり一時的にでも示現の戦士としての力を発動できれば、黒騎れいは自らの身体にかかったリミッターを強制的に解除しかつて自分が振るった力のほぼ全てを取り戻すことが出来る

 

 

「カラーコード・プロトコルスタート。パターン〈ブラック〉」

 

 

発動ワードに応えて彼女の首に巻かれた黒いマフラーが反応する。ふわり、と風に乗せられて大きくはためくと巨大化してれいの全身を覆い毛糸玉めいた球状を形成した

 

 

 

宮藤「……!」

 

 

芳佳は引き金に掛けた指に力を込められずにいた。彼女は状況を理解していた。黒騎れいはこれから自分達を倒すため戦闘形態に移行しようとしているのだ、ということくらい察しはついていた

 

だがそんな簡単に割り切って友達に、人間の姿をしているものに銃を向けられないのが宮藤芳佳なのだ。それはリーネもペリーヌも、ルッキーニも同じだった

 

 

エイラ「シャーリー!あろん子」

 

シャーリー「ああ!」

 

あろん子「ええ」

 

 

エイラもシャーリーもそれを解っていたし、そもそも撃たせる気などなかった。こういう汚れ仕事は先輩の役目だとばかりに2人の機関銃が火を噴き、あろん子の手先から赤い閃光が迸る。魔法力を込めた弾丸とビームが漆黒の毛糸玉に突き刺さる

 

 

だが既に彼女達の攻撃は意味を成さない。少しのほつれも見せずにしゅるしゅると収束していく布はただの布ではない。かつて世界を救うため奔走したヒーローの誇りを象徴するマフラーなのだから

 

 

「藻掻いて足掻いて這い蹲って、それでも描いた明日のため。使命の奴隷となろうとも、私が全部救ってみせる。カラード・ブラック、戦闘準備完了」

 

 

トレードマークであるマフラーが首に巻かれたまま、不気味に風に揺れている。彼女の身体を覆うのは、パレットスーツとはまた違う思想で設計された示現の鎧。黒いインナースーツを全身にピッチリと纏い、その上から金属製の黒いアーマーが各部に装着され半透明の黒いリングが拘束具のように手足に巻かれた。ビビッドチームのパレットスーツより攻撃的な兵器を思わせる風体である

 

 

頭部を保護するように装着されたヘッドギアからバイザーがカシャンと音を立ててスライドし、目の部分を隠して不気味に赤く発光することで彼女の変身が完了した

 

 

トリニティ「___!」

 

 

カラードブラックと名乗る彼女が只者ではないことは肌を通じて感じとれた。彼女が放つ圧倒的な存在感、身体を通して発せられる示現エネルギーの強さ、バイザーの奥からこちらへ投げられるネウロイのビームよりも鋭い敵意を孕んだ視線

 

 

空から降り注ぐ光は全てに平等に降り注ぎ、黒騎れいにも力を与えていた。健次郎は示現エンジンに不正アクセスを行っていたれいをシステムから即座に弾き出したのだが、既にれいは___カラードブラックはトリニティと同じく外部補助を必要としない完全に独立した存在へと成っていた

 

 

ブラック「あなた達の頑張りを称えて、私が直々に幕を引かせてもらう。全力で」

 

トリニティ「おっと、私達の世界はこれからなのよ。その為にこれまで戦ってきたのだから水を差すのは勘弁して欲しいわ!」

 

 

トリニティが立ちはだかった。いや、れいの目的もトリニティだった。この世界の示現の戦士を制圧し、全ての力を自分の物にするのが彼女の目的なのだ

 

 

トリニティ「こそこそ逃げ回っていた貴女が堂々としてるところ悪いけど、あなたの相手はこの世界全てよ!恐れ入ったか!」

 

ルッキーニ「なんかそーいう言い方だと卑怯な感じにならない?」

 

シャーリー「勝ちゃいいんだよ。勝ちゃな」

 

 

ブラック「確かにそうね。あなた達全員と堂々ボス戦に突入するのはリスクしかない。私はそんな選択肢は取らないわ」

 

 

 

空が真っ二つに割れた。首を左右に振らないと見渡せない程の割れ目から出て来るのはネウロイ、ネウロイ、またネウロイ。個体として認識するのが難しい数だ。真っ暗な背景だと思っていたものが全てネウロイで構成されていることに気付いた時、流石のシャーリーも空いた口が塞がらなかった

 

 

トリニティ「なんてこと!?無制限にネウロイを呼びつけるなんて……なんと卑怯な!騎士道の欠片もない!恥を知れ恥を!」

 

ルッキーニ「3人が一緒になったのになんかバカになってない?」

 

トリニティ「私は天才よ!!!!!何体来ようがやることは変わらない!みんな行くよ!」

 

リーネ「攻撃、来ます!」

 

 

悲鳴のようなリーネの報告が上がると同時に、天から雨あられと赤いレーザーが射出され大地を焼き尽くした

 

 

 

ブラック「さぁさぁ!示現エンジンもこの世界の住民も!早く私を倒さないと、ほんとに全部無くなっちゃうわよ!」

 

 

 

心底楽しそうに両手を広げる彼女だけが、ネウロイの攻撃の対象から外されていた

 

 

 

 

 

長官『全戦力を投入しろ!本島全域の防衛軍にも出動要請!』

 

健次郎『3人とも!黒騎れいが放つエネルギー量は君達のドッキング時に計測されたものを遥かに超えておる!しかし君達の力も、先程までとは比べ物にならん程強化されておる!ここが正念場じゃ!』

 

トリニティ「言われずとも、踏ん張りますよ!ウィッチの皆はネウロイを!!」

 

宮藤「任せて!」

 

シャーリー「すぐ片付けてそっちに手を貸してやるよ!」

 

エイラ「ま、片付くならな」

 

ペリーヌ「エイラさん!そんなこと……」

 

エイラ「数が多い、なんて話じゃないぞ。空に開いてるのはゲートなんてレベルじゃない。裂け目だ。ネウロイはどれだけだって沸いてこれるんだぞ」

 

 

淡々と告げるエイラはポケットにしまってあるタロットカードに手を伸ばしたが、少し迷った後手を引っ込めて銃を握り直した。自分と仲間達に襲い掛かろうとしている無数の攻撃を捌く飛行ルートを読むのに忙しくて、遥か先の未来なんて見てる余裕はないと思ったからだ。あるいは、カードを引いてしまうと全ての希望が潰えてしまうような気がしたからなのかもしれない

 

 

 

空に大きく開いた次元の穴から送り込まれたネウロイは全方向へと散っていく。アローンとは違い、示現エンジンの破壊が目的ではなく命あるもの全てが彼らの標的なのだ

 

 

だがウィッチーズとトリニティ達目掛けて突っ込んでくるものの数も圧倒的に多い。彼女達は飛び去って行くネウロイを追走する余裕などとても無かった

 

 

長官『防衛軍の全ての力を使って防衛線を張る!ビビッドチームは大本を絶ってくれ!』

 

 

余裕のない懇願するような叫びを受けてトリニティは両手に武器を構える。右手に緑の大太刀を、左手に巨大な青いハンマーを。そして周囲を無線砲台が円を描くように飛び回りながら銃口を前方に向ける

 

 

 

トリニティとブラックの視線がぶつかる

 

 

トリニティ「あなたを討てば、ほんとにこれは止まるのかしら!」

 

ブラック「確かめてみれば?」

 

 

澄ました顔で言葉を返すと、カラード・ブラックはトリニティへ襲い掛かった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話 「3人vs4人」

 

 

数の差こそが力の差だった。結論から言えば、トリニティとブラックの決闘はそこが勝敗を分けた

 

 

先んじて仕掛けたのはトリニティだ。彼女達はあかねの復活を待つという考えはなかった。むしろあかねのあずかり知らぬところでれいとの決着をつけてしまいたかった。彼女が目を覚ました時に、全ての問題を解決しておいてあげたいと思っていたのだ

 

 

ネイキッドコライダーを8個展開し一斉にブラックへ向けて突撃させる。不規則な軌道をとらせながらレーザーを放ち注意を引きつけつつ、トリニティは二の手としてブレードを展開させると宙を蹴り超高速で接近する

 

 

受けるブラックは余裕の表情を崩さない。ふわりと舞うように飛び上がると身を捻りながらビームの間をすり抜けると腕を前に突き出す。両手足に巻かれたリングが緑色の光を放ったかと思うと、次の瞬間彼女の手に黒い弓が握られていた

 

 

目にも止まらぬ速さで弓弦が引かれ、放たれた8の矢が正確にコライダーの中央を撃ち抜いた。爆散するコライダーの爆風すら追い風にトリニティは距離を詰めた。ブラックがトリニティに弓を向けたその時には既に剣の間合いに入っていた。トリニティは鋭い雄叫びと共に大上段に振りかぶった剣を振り下ろす

 

 

ブラック「___」

 

 

彼女が何事かを小さく呟けば、刹那ブラックの手に持つ武器は槍へと変わり、腕輪の色は赤へと変わっていた。穂先は禍々しくも美しく尖った刃が取り付けられ、柄は黒真珠のように光沢を放った豪胆な一振りだ

 

 

身を翻しながら繰り出された突きがトリニティの剣と真っ向からぶつかり合い太刀筋を弾き飛ばした。体勢の崩れたトリニティの喉をえぐるように躊躇いなく突き出された一撃を横に滑るように飛行して躱すと下から切り上げるように剣を振るう

 

 

その剣を足裏で踏み台にして飛び上がったブラックはトリニティの背後に回り込みつつ飛び降りざまに槍を背中に突き立てた

 

 

トリニティ「くっ!」

 

 

下へ高度を下げることでそれを回避したトリニティは一度そのまま大きく距離を取る。ブラックの持つ武器が弓以外にもある事に意表を突かれ、一度仕切り直したかった

 

 

ブラック「三次元での斬り合いは中々楽しいでしょう?」

 

トリニティ「私ばかり楽しませてもらうのは申し訳ないんでね!」

 

 

腰の鞘に納刀するような動作をとり、トリニティは武器を切り替えた。勢いよく抜刀する動作で具現化させたのは巨大な青いハンマー。それを右手で持つと、左手にももう一本ハンマーを召喚する。気合を入れるため両のハンマーをガツンと叩き合わせブラックへ再び襲い掛かる

 

 

槍の間合いの遥か先から叩き潰すように振り下ろされた一撃をブラックは難無く躱す。隙を狙おうと槍を構えるが、直ぐに身を引いて回避の体勢に入る。トリニティは空振りの反動を使ってもう片方のハンマーを続けざまに振り下ろしていたのだ。槍で受けようものなら破壊こそされずとも勢いを殺しきれずダメージを負う可能性がある。ブラックは間合いを取るため後方へ飛ぶ

 

 

その瞬間を狙っていたトリニティは回転の勢いのまま右手に握っていたハンマーをパッと手放した

 

 

 

〈ゴウッ!!〉

 

 

轟音と共に射出された青いハンマーがブラックへ向けて飛翔した。面食らったブラックは勢いよく高度を上げてハンマーの射線上から退避するが、空振ったハンマーは大きく弧を描いて逃げたブラックを追走する

 

 

ブラック「姑息な大技を!」

 

トリニティ「頭使って戦ってんのよ!」

 

 

投げたハンマーとトリニティが持つハンマーが挟み撃ちの形になる。間に挟まれたブラックから回避の選択肢を奪う策だ。脳筋ゴリ押し以外の戦い方もできることを身をもって証明したトリニティは渾身の一撃を振り下ろす

 

 

 

ブラック「___」

 

 

ブラックが何かを小さく呟いて槍を手放した。そして彼女はこの状況を打破するべき武器に切り替えた。腕輪の色が青い光を放つ

 

 

 

<ドガン!!!>

 

 

トリニティ「なんっ……と!」

 

ブラック「ぶっ飛ばしてあげる!」

 

 

暴れ回るハンマーを受け止めたのは、直径5m程の2つの黒い塊。黒いエネルギー粒子を纏い浮遊する物の正体は、トリニティのハンマーに負けず劣らずの重量感を備えた巨大な拳だ

 

ブラックの手にも黒い篭手が装備されている。宙に浮いた2つの拳は篭手の動きに連動して動くようになっており、ブラックが手を開いて拳を握り直せば巨大な拳も同じように動く。おもむろにブラックが腕を振り回せばそれに合わせて振り回される拳がハンマーを弾き飛ばした

 

 

吹き飛ばされたトリニティはハンマーを右手に持ち直すと空いた左手を突き出し、投擲したハンマーを手元に呼び戻した。両方のハンマーを引きずるように力強く跳躍すると、両手のハンマーを上から下へ振り下ろす軌道で力いっぱいブラックへ叩きつけた

 

 

ボクサーのように腕を構え不敵に笑うトリニティが迎え撃つ。左フックで右のハンマーを横殴りにして軌道を無理矢理にずらし左のハンマーに衝突させ、2つのハンマーが擦り合うような形でブラックの横に逸れる

 

 

攻撃をやり過ごしたブラックは右の拳をトリニティの脳天を勝ち割らんと振り下ろす。トリニティは右手のハンマーを救い上げるようにして拳を相殺すると、左のハンマーを横なぎにしてブラックの横っ腹を狙う。ブラックは弾かれた右の拳をすぐに体の横に移動させてハンマーを受け止めるが、衝撃を受け止め切れず吹っ飛ばされる

 

 

トリニティ「隙ね!」

 

ブラック「そうね」

 

 

畳みかけようと攻撃の構えを取ったトリニティだったが、次の瞬間背中から強烈な衝撃に襲われた。眼から星が飛び出すようなダメージに足が止まる

 

 

トリニティ「姑息な小技を……!」

 

ブラック「ま、少し手癖が悪くてね」

 

 

確かにブラック自身の手は動いていなかった。そこに意識を集中していたトリニティは、自動で動いた拳に反応できなかったのだ。浮遊している巨大ナックルは確かにブラックの動きをトレースして動くのだが、それ以外の方法で動かせないとは言っていない。思い込みをまんまと利用された訳だ

 

 

隙を突いて追い打ちに放たれたストレートパンチが正面か襲い掛かる。ハンマーで受け止めるが、衝撃を打ち消すことは叶わずトリニティはそのままぶっ飛ばされた

 

 

宮藤「あお___わか、ひまわ……三人合体ちゃん!」

 

エイラ「その呼び方はないな。おーい大丈夫か!」

 

 

ネウロイをある程度蹴散らした2人が間に割って入る。芳佳が空中で頭を抑えてふらふらしているトリニティに手を添えて治癒魔法を発動させ、エイラが鋭い視線をブラックへ向ける。ブラックも自分のダメージを確認する為一度足を止めていたが、大したことがないのを確認すると不敵な笑みを浮かべ再び拳を構える

 

 

エイラ「どうなんだよ、勝てそうか?」

 

トリニティ「どんと来いって感じよ。楽な相手じゃないけど___」

 

ブラック「あかねは来ないわよ」

 

 

バッサリ、という表現がしっくり来るだろうか。ブラックは一言でビビッドチームの希望を断ち切らんとした

 

 

ブラック「塔から解放された魂が戻ってはいるのでしょうけど意識が戻るまで少し時間がいるでしょうね。私達の時は半日くらいかかったかしら」

 

 

空から降り注ぐ敵の大群は途切れなく。示現力を自在に扱い飛翔するかつての友人の成れ果ての戦力はトリニティを上回っていることは打ち合えばすぐに解った。ただ、一色あかねさえここに来さえすればなんとかなるという根拠のありそうでないような確信がビビッドチームの心を支えていた

 

 

ブラック「彼女に頼らず戦いたいというのは立派。でも現実、画竜点睛を欠いているようなものよ。あなた達ではどう足掻いても私には勝てない」

 

トリニティ「……それなら半日付き合ってもらうまでのことよ!」

 

 

ハンマーを放り投げて粒子化し、宙からブレードを引き抜くとトリニテイは再び戦いを挑んだ。最早言葉では止まらぬ覚悟がトリニティにはあった。だからブラックは力でそれを黙らせることにした

 

 

ブラック「殺しはしないけど___ぶっ壊れてもらうわよ」

 

 

言い放つと彼女が纏う威圧感が急激に増していく。既に全力に近いものを投入しているトリニティと違い、様子見半分だった彼女がギアを一段上げた。

 

 

ブラック「あなた達は3人と他。こっちは4人と他。決して埋められぬ差があると知りなさい」

 

 

両の手を開いて、前に突き出して構えた。それに連動し巨大な拳が巨大な手の平へと変形する。彼女が放つどす黒い気配に怯えてかネウロイ達が心なしか遠巻きになっている

 

それを追撃するウィッチーズ達を除き、トリニティと芳佳、エイラの3人は底知れぬ実力の片鱗を見せ始めたカラードブラックを迎撃する構えを取った

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話 「目覚めよ炎の乙女心」

トリニティへ襲い掛かろうとしたブラックは、何かの気配を察知し動きを止めて苛立ちを隠そうともしない態度で吐き捨てた

 

 

 

ブラック「___そう、あなたが出張ろうとも結果は同じ事!」

 

あろん子「奢りが過ぎるわよ!痛い目みせてあげるんだから!」

 

 

ブラックの真後ろに小さな時空の歪みが発生したかと思うと、そこから激しい赤い閃光が飛び出してブラックへ襲い掛かった。隙を伺っていたあろん子の不意打ちである。もっともブラックの第六感が反応していたし、あろん子も不意を突けたとは思っていない

 

 

至近距離から放たれた攻撃をブラックは優雅に飛び上がって躱す。ワープゲートから飛び出したあろん子は矢継ぎ早にビームを放ち、ブラックに反撃の体勢を取らせないよう追撃をかける。変身前のブラックに仕掛けた攻撃より明らかに火力も速度も増しているが、ブラックは悠々と躱しながら拳を振り回した

 

巨大な拳が機敏な動きで宙を飛び回りあろん子に迫る。小刻みに左右のフックのコンビネーションをあろん子は素早い動きで回避した。うっとおしいコバエを払うかのようにあろん子が右手を薙ぎ払うと、液体がぶちまけられたように放射状に赤い光が広がりエネルギーの壁が形成される

 

 

固定化された壁はぶち破らんと放たれた拳を2度、3度と受け止めるが4度目で音を立てて砕け散った。しかしそこにあろん子はいない。視線を切った後、再びワープゲートを開いてブラックの真下から攻撃を仕掛けていたのだ

 

 

ブラック「全く誰もかれも、姑息ね!」

 

 

あろん子は両手を合わせて渾身の一撃を放った。彼女が放つ巨大なビームは、これまでのアローン達が繰り出したどんな一撃にも勝る程強烈なパワーを孕んでいた。しかしブラックは黒いビームを真っ向からぶつけてそれを受け止めた。いつの間にか巨大な拳は消失し、ブラックの腕輪は黄色に変わっている。武器らしい武器は所持していないが、ブラックの背後に大きな黒い輪が浮かんでいる。神々しさすら感じさせる黒い光を放つ輪が彼女の放つ力を後押ししていた

 

 

ブラック「大人しく……なさいっ!」

 

あろん子「!」

 

 

 

黒い輪が時計回りに回転を始めるとブラックの攻撃の出力がグンと高まる。黒い光の奔流があろん子の赤い光を呑み込み、勢いのまま吹き飛ばした

 

 

落下していくあろん子の黒い外装はところどころ溶けている。体勢を立て直そうとするあろん子にブラックは一瞬で距離を詰め、抵抗を許さず首を右手で乱暴に捕まえた

 

 

宮藤「あろん子ちゃん!」

 

エイラ「宮藤、ネウロイ来てるぞ!下がれ!」

 

宮藤「!」

 

 

援護に飛び出そうとした芳佳達の前に壁を作るようにネウロイが群れを成し立ち塞がった。トリニティには最早ネウロイなど物の数ではないが、芳佳とエイラに全方位から襲い掛かろうとするネウロイを殲滅するのに少し時間が必要であった。その間、ブラックは誰にも邪魔されず自らの片割れと最後の相対を果たしていた

 

 

あろん子「ぐっ……暴力的ね……」

 

ブラック「アナタを見ていると気分が悪くなるわ。消してしまいたいけど、破壊してしまうとせっかく私から取り除いたものごとこちらへ戻ってきてしまう。さてどうしたものかしらね」

 

あろん子「ふん。あなた、下手に人間性を削ったせいで下らないヤツになったわね」

 

ブラック「は?」

 

あろん子「自分の中の感情を切り分けて取り除かないと悪役に徹せない、哀れな甘ちゃんよ。

ダッサ」

 

 

あろん子はケラケラと笑った。自らの命の危機に欠片も恐怖などしていないかのように。そして圧倒的優位に立っているブラックの表情が険しく歪んだ

 

 

ブラック「ほざくんじゃないわよ。張りぼてが!」

 

 

怒号と共にブラックの左手が降りぬかれた。指先を鋭く伸ばした手は剣のような切れ味を見せ、あろん子の身体を斜めに切り裂いた

 

 

 

あろん子「___」

 

ブラック「殺しはしない。しないけど、退場してもらうわよ。口うるさくて叶わない」

 

宮藤「あろん子ちゃん!」

 

 

ネウロイの壁を切り抜けて来た芳佳がその現場を目にし、悲痛な叫びを上げる。トリニティも寄って来たネウロイ達消し飛ばしてブラックの元に辿り着いた。それを見てブラックはあろん子の上半身を放り捨ててトリニティへ向き直る

 

 

トリニティ「れいッ!!!!!」

 

ブラック「私を黒騎れいと呼ぶな!」

 

 

トリニティが怒り任せに剣を振るう。研ぎ澄まされたトリニティの剣を受けようとブラックは再び腕輪を青に光らせ巨大な拳を繰り出したが、凄まじい切れ味を誇る剣はその拳を見事に真っ二つに叩き切った

 

 

ブラック「くっ!」

 

 

すぐさま武器を槍に切り替え、迫るトリニティの剣を払った。二度、三度と続けて振るわれる剣を槍の穂先で叩き落とし、距離を取る

 

 

宮藤「あろん子ちゃん!あろん子ちゃん!ああ……そんな!」

 

 

トリニティがブラックを相手取っている間に、芳佳はあろん子の半分を優しく抱きかかえた。エイラは切り離された下半身を確保して芳佳の下へやって来ていたが、どうすればいいのか解らず黙って芳佳の傍に寄り添った

 

 

あろん子「芳佳……少しだけ、治癒魔法を、かけてくれない?少しでいい……」

 

宮藤「うん!大丈夫、絶対治してあげるから!」

 

あろん子「無理……よ。コアを半分削られた。もうすぐ意識を保てなくなる」

 

宮藤「だったら!」

 

 

あろん子の言葉を制するように手を伸ばす。彼女の胸の間に鈍く光る赤い塊に魔法力を向けるが、それを修復するのはとても不可能だという事を芳佳はすぐに理解した。かつてあかねの腕を治すのに途方もなく難儀した事など比較にならない。あろん子のコアは命という概念が示現力により結晶となったものであり、芳佳の魔法といえど干渉することは叶わない

 

 

あろん子「少し……あなたの力を分けてくれるだけで、いいの」

 

宮藤「あろん子ちゃん……」

 

 

治癒魔法を発動させる芳佳の手を握り、あろん子は目を閉じて囁くように呟いた。エイラに抱かれていたあろん子のもう半身は形を保てずサラサラと黒い粒に砕けながら溶けるように宙へ消えていく。それを見ても、芳佳は懸命に魔法を発動させ続けていた

 

 

あろん子「うん、ありがとう。もう十分」

 

宮藤「そんな訳ないでしょ!?まだ……」

 

あろん子「いいえ。あなたの力、確かに受け取った」

 

 

安らかに微笑み、あろん子は芳佳の手をやんわりと抑えて芳佳から離れた

 

 

あろん子「大丈夫、最後まで足掻かせてもらうから」

 

宮藤「待って!あろ___」

 

あろん子「ありがとう。私を友達のように扱ってくれて。あなた達の___為に___必ず」

 

 

 

次元の穴が開いた。あろん子は意を決した表情でそこへ吸い込まれていく。芳佳の伸ばした手は空を切り、戦場から頼れる仲間が1人姿を消した

 

 

トリニティ「ぐあぁっ!」

 

ブラック「感情任せの力なんて長持ちしないわよ!」

 

 

吹き飛ばされたトリニティに突の嵐が遅いかかる。そのことごとくを剣でしのぎトリニティは反撃の機を伺うが、鋭い槍の一閃が遂にトリニティの右肩を穿った

 

 

トリニティ「あぐっ!」

 

 

しかし傷は槍が引き抜かれた傍から塞がり、次の瞬間にはトリニティは穿たれたはずの右腕で剣を振るいブラックへ斬りかかったのだ。エイラと芳佳が息を継がせぬ連携で援護を行うも、悉くをブラックは捌いて不敵に笑った

 

 

 

一見戦況は拮抗しているように見える。だが、ブラックの技はトリニティを捉え始めていたし、ネウロイはじわじわと包囲網を縮めウィッチ達の逃げ場を奪っていた

 

 

決着の時はさほど遠くは無かった

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

病室であかねの傍についていた一色ましろはただならぬ気配の来訪を感じ思わず身構えた。病室にはいまだ意識を戻さないあかねと、姉が目を覚ますのを待ち続けるももが居た。2人を護るため、彼女は腕についていた点滴の管を引き抜いた

 

もも「ちょ、お母さん!?どうしたのいきなり!」

 

ましろ「嫌な予感がするの!ありゃ、わたしったら結構元気に___わわっ!?」

 

 

驚きの出来事は続く。病室の真ん中の空間が黒く歪みを見せたかと思うと、真っ黒い塊が転がり落ちて来た。ももとましろは何事かと目を凝らし、それが身体の半分ほどを欠損した人型の何かだという事に気付き思わず一瞬凍り付いた

 

 

だが2人はすぐ我に返り、駆け寄った。ましろは本能的にその存在から敵意を感じなかったし、ももは何より床に伏した少女の顔に見覚えがあった

 

 

もも「れいさん!なにがあって……こんな!?」

 

あろん子「一色、もも。私は___いえ、ごめんなさい。説明している時間がないの。あかねの傍に……お願い」

 

 

ももは取り乱しながらも首をカクカクと縦に振り、おっかなびっくりながらもあろん子に肩を貸した。ましろは状況が飲み込めないも手を貸して、ベッドで眠るあかねの横にそっと横たわらせた

 

 

あろん子「あかね……。あかね、起きて。」

 

 

優しい、柔らかい声が囁いた。軋む腕の先を包む黒い欠片がパラパラと崩れて肌色が露出する。人肌の温かさを持った手があかねの丸みを帯びたほっぺたをつんつんと突いた。指先が触れる度、あろん子から溢れた光の粒があかねへ流れる。光はあかねの身体に吸い込まれるように消えていき、いくらかの光を吸い込んだあかねの瞼がゆっくりと開いた

 

 

大きく伸びをして何度か瞬きをして病室を見渡すあかねは、困惑し泣きそうな顔をしているももを見て、真剣な表情で事の行方を見守らんとする母を見て、痛々しく身体を欠損しながら自分の横に寝転がる友を二度見した

 

 

あかね「えっ!!!??はっ!!!???」

 

あろん子「おはよう。悪いけど起こさせてもらったわ」

 

あかね「え、いや寝てる場合じゃなさそうだからありがとうだけど!れいちゃ___れいちゃんじゃないけどれいちゃん!?どうしたの大丈夫!?」

 

あろん子「世界の危機よ。ごめんなさい、あなたがいないとどうにもならないの」

 

 

話ながらあろん子の身体は端から崩れていく。しかし、黒い光の粒子へ変わった彼女の身体はあかねへ吸い込まれていく。それが寝起きのあかねをどんどんと元気に、強くしていく

 

 

あかね「よくわかんないけど、わかった!」

 

 

力強く頷くあかねを見て、あろん子は心の底から安心して小さく頷いた。あろん子が〈自我〉を認識したのは芳佳とこの世界で接触する少し前だ。黒騎れいが自らの心の一部を削りあろん子に押し付けた際に得た偽りの人間性。あろん子は自らが生き物としては歪な存在だと思っていたが、しかしあかね達の幸福を純粋に心から願う優しい存在であった

 

 

あろん子「私の・・・命を・・・。張りぼてのこの魂を・・・うけとって・・・」

 

 

あろん子は残った腕をあかねの首に回し、その唇に優しくキスをした。最後の力を振り絞ったように行われたそれはあろん子の消失を加速させた。ただ、あろん子は自分の命を正しく使い切れたという満足感をもって消えていったのだ。次元の狭間で産まれ、確かな意識も持たず、ふらふらと何かに引かれて世界を漂い。そうして辿り着いたこの世界で自我をもったあろん子は、記憶の中のれいが最も親愛を寄せていた少女に看取られ最後を迎えた

 

 

 

あかね「___」

 

 

 

口づけをかわした少女が消えていくのをじっと見届けたあかねは、大きく深呼吸をしてベッドから軽やかに飛び降りた。数日寝込んでいたとは思えぬ程身体には力がみなぎっていたが、彼女の心には痛い程の悲しみと喪失感、そしてふつふつと湧き上がる熱い怒りが入り乱れている

 

 

あかね「おかあさん、もも」

 

もも「おねえちゃん……」

 

ましろ「あかね」

 

 

3人は抱き合い、言葉をかわすことなく少しの間そのまま互いの身体の温かさを感じ合った

 

 

あかね「行ってくるね」

 

ましろ「ご飯作って、待ってるね。友達を全員連れて帰っておいで」

 

あかね「ん」

 

ももは何も言えなかった。空は暗く、あおい達の戦いが激化していることは知っていた。起きてくれた姉に甘えつきたいけれど、そんな状況ではない。れいも消えてしまった。どういう感情を表に出していいのか解らず下を向いてぐっと唇を噛みしめて、ただ泣かないよう耐えるので精いっぱいだった

 

 

そんなももの頭をがしがしと撫でて、あかねはもう一度「いってくるね」と明るく言った。ももが小さく頷くのを見ると、意を決して窓を開けてそこから躊躇うことなく飛び出した

 

 

目指すは、遠く西の空。黒く暗雲渦巻く戦場に待つ仲間の下へ

 

 




ちょいと冷えてきましたね!みなさん上着を一枚羽織りましょう!体調にお気をつけて!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話 「煌めけ希望の炎」

〈BI防衛軍・作戦指令室〉

 

 

「北面防衛隊、前線の消耗率が20%を越えました。南西航空団も15%。」

 

長官「踏ん張らせろ。ビビッドチームがケリをつけるまで奴らをこの国の防衛圏内に押しとどめるんだ」

 

「しかしこの消耗ペースでは戦線の維持は半日と持ちません」

 

長官「泣き言を言う部隊があるなら、言って聞かせろ。今一番の前線に立っているのは年端もいかん少女達だ。我々が先に尽きる訳にはいかんだろうが」

 

「了解です」

 

長官「さあ、正念場だ」

 

 

唸るように呟き彼は椅子から立ち上がった。自分に言い聞かせるようなその言葉だったが、戦いに身を投じる全ての人間達は皆同じ思いを抱いていた

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「___!」

 

 

一方その頃。あかね達が住む場所とは少し違う次元、広い海に浮かぶ巨大な船。あまりにも巨大すぎる船は街1つを甲板に乗せてゆったりと航行を行っていた

 

 

その街に備えられた軍事基地の一室で、ぼんやりとコーヒーを呑もうとしていた彼女はモニターが発するけたたましい警告音を聞いて飛び上がった。足元に散らばるコードを器用によけながら転がるように機械に駆け寄り、何度かキーボードを叩き現状を把握すると部屋の隅にあった赤いボタンを殴りつけた

 

 

<ジリリリリリ!!!>

 

 

基地中に警報が鳴り響く。数十秒もせず、部屋のドアを蹴飛ばして数人の女性が飛び込んでくる

 

 

「見つけたのか!!」

 

「はい!突然反応が明瞭になりました!エイラ大尉以下3名のストライカーを追えます!」

 

「よし。ミーナ!」

 

「解ってるわ」

 

 

言われるまでもなく彼女はポケットにある通信機を取り出し、基地に張り巡らされたスピーカーへ繋ぐと凛とした声で指示を飛ばす

 

 

 

「全隊員に告ぐ!現時刻をもって我々は〈ディメンション・アタック〉作戦に突入する!作戦に参加する全隊員は至急〈晴風〉に搭乗せよ!繰り返す___」

 

「留守を頼むぞ」

 

「お任せ下さい坂本少佐。こちらからも全力でサポートを行います」

 

「うむ。よし、行くぞミーナ!ストライクウィッチーズ、出動だ!」

 

 

______________________________

 

 

 

 

 

ブラック「___!これはあの子の……でも、早すぎる!?」

 

 

トリニティに強烈なキックをぶちかまして吹き飛ばしたブラックの表情が驚愕に染まる。東の小島から一色あかねが飛び立った気配を感じ取ったのだ

 

何かアクションを取る間も無く、光をも凌駕せんとする程のスピードで接近してきた赤い閃光がネウロイで構成された黒い壁を引き裂きながら戦場へ飛び込んできた

 

 

「れいちゃああああああああああ!!!」

 

 

挨拶代わりの右ストレート。赤い流星が黒い戦士に衝突し、辺りを爆風の余波で押しのけた

 

 

ブラック「くっ!」

 

 

 

槍の柄の中央であかねの拳を受け、押し戻す勢いを利用し宙返りで間合いを空けた。真紅の戦士も思う所があり追撃はせず、漆黒の戦士の顔を精悍な顔つきで見つめた

 

 

トリニティ「あかね!」

 

 

思わず声を上げたトリニティは、直ぐにビビッドレッドの様子がいつもと違う事に気付いた。パレットスーツに若干の変化が起こっている。いつもはショートでフリフリのスカートの後ろ半分が少し長めになっており、裾の先が明るい炎のようにゆらゆらと燃えている。彼女の可愛らしい短めのツインテールも肩の少し下まで伸びて、纏うスーツには赤と白に加えて黒の太いラインが数本走っている。そして背中には翼を模した赤いパーツが二つ堂々と輝いていた

 

 

ブラック「……アレが身を捧げた、ということね。心を持たないアローンがあなたに力を与えられるとは。予想していなかったわ」

 

「あの子に心がない?そんなことない。あの子が秘めた思いも願いも、すっごく熱く燃えていた。それをあなたにも教えてあげる」

 

 

右手を握りしめ顔の横に上げると、彼女の拳が黒を秘めた赤い炎を纏った

 

 

「意志を受け継ぎ、希望を灯す。この身が背負った願いをくべて、今こそわたしは炎となる。オペレーションは、ビビッドレッド」

 

 

示現力を完全に自分の物にしたあかねがドッキングを行うことで得られるパワーは、これまでの比ではない。それこそ、3人で合体しているトリニティを上回っているのは確実だ。だがしかし、カラード・ブラックをも凌駕するほどなのかというとその限りではなかった

 

 

つまりこの増援を受けてもブラックの優位が損なわれた訳ではない。だというのに、ブラックは戦いの手を止め、鋭い視線を紅い戦士に向け言葉を綴る

 

 

ブラック「あの時、言ったわね?私が困ってたら、助けてくれるって」

 

レッド「___うん。助けてあげる」

 

 

本心だ。ブラックには解る。彼女の紅い瞳はどこまでも澄んでいて、怒りや憎しみに囚われた濁りは見られない。ただ真っすぐに希望の炎を心に灯し、赤い拳を握っている

 

 

ブラック「だったら、物騒な拳を降ろしてくれない?まさかそれを私にぶつけたい訳じゃないんでしょう?」

 

レッド「ううん。ぶん殴ってあげる」

 

ブラック「なんでよ」

 

 

素で突っ込んでしまった

 

 

ブラック「あなただってきっと同じことをするでしょう?あおいを、わかばを、ひまわりを。おじいさんを、お母さんを。こまりやなつみや同級生達を救うためなら、見ず知らずの世界の1つくらい滅ぼしたっていいと思うでしょう」

 

レッド「悪いことは悪いことだよ。わたしはそう言うしかない。認められない」

 

ブラック「ええ。私はこの行いが罪であると、認識している。でもそれが帳消しになるほど崇高な使命を背負っているのよ」

 

レッド「崇高だろうがなんだろうが!わたし達に相談もしないで、喋るカラスにもっともらしいことを吹き込まれたからメチャクチャするなんてちゃんちゃらおかしいね!」

 

ブラック「うるさいっ!」

 

 

ブラックは巨大な拳を発動し怒り任せにビビッドレッドを叩き潰した。レッドは己の拳をアッパー気味に放ち、赤い閃光をぶっ放して迎え撃つ。両者は空中で激突し暴風を巻き起こしながら拮抗した

 

 

ブラック「所詮貴女も、自分の世界を守りたいだけ!その為に戦いに挑んでいる!私と同じでしょう!?だというのに、何故そんな……澄んだ瞳で私を見るの!?」

 

レッド「わたしは。私達の世界を守るのも、れいちゃんを笑顔にするのも。どっちも同じくらい……やんなくちゃいけないことだと思ってる。だからあなたを倒して、あなたを救いたい。これが私の思い」

 

ブラック「そんな都合のいいことをッ!」

 

レッド「それができる程の力だって、わかってるはずだよ!忘れたっていうんならもう一回思い出させてあげる。示現エネルギーは、都合のいいハッピーエンドを見せてくれるってね!」

 

 

 

天に向けて拳を突き上げれば、彼女を中心に赤い光の輪が空いっぱいに広がる。周囲のネウロイが片っ端から爆発し、ネウロイの残骸がビビッドレッドの紅い輝きをキラキラと反射して戦いの舞台に舞い散った

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70話 「悪夢を運ぶ黒い風」

巨大な拳を弾き飛ばしてレッドが宙を駆けた。あまりの速度にブラックはもう片方の拳を振り下ろす暇も無く自らの手に装備した篭手でビビッドレッドの強力なパンチを受けざるをえなかった。インファイトの間合いに入ったレッドは一瞬で10発の突を放ち、アローンの装甲を容易く貫くパンチを連続で受け止めたブラックの篭手には小さなヒビが入った

 

 

レッド「お仕置きだよ!」

 

ブラック「でかい口を!」

 

レッド「理不尽に奪うようなやり方じゃ、喧嘩になるに決まってるでしょ!」

 

ブラック「道徳を語る余裕がそっちにはあるんでしょうが、こちらはそうもいかないのよ!」

 

 

紅い拳と黒い拳が交差する。衝撃波が海を割り、宙を裂く

 

 

レッド「数ある選択肢の中で一番悪手を取ったんだよ!誰かの幸せを横取りして、自分の友達に配ろうなんて!」

 

ブラック「選べる立場ではないと、何度もそう言ったでしょう!」

 

 

ブラック自身の左右の拳、それと別に襲い掛かる巨大な拳。全てが余すことなく凶器である4つを丁寧に捌きビビッドレッドは肉薄して攻撃を叩きこむ

 

 

レッド「あんなカラスにもっともらしいことを吹き込まれて、それに縋っただけだ!」

 

ブラック「どこまでも……!崖っぷちに追い込まれた人間を突き放すようなことしか言えないの!?」

 

レッド「わたし達は手を差し出してる!れいちゃんが歩み寄る番なんだよ!」

 

 

篭手のダメージが反映されヒビの入った巨大な拳を間に割り込ませ、手を開いて壁を作る。ビビッドレッドが思い切り拳を振り抜けばついに砕け散るが、その間を縫って赤い槍が飛び出してビビッドレッドの額を狙う。上半身を思い切り反らして突きを躱し、勢いを乗せて右足を跳ね上げ槍を持つ片方の手を蹴り上げる

 

 

ブラック「ふんっ」

 

 

その足を手でガシッと掴む。腕輪は黄色に変わっていた

 

 

レッド「やばっ」

 

ブラック「口を回しすぎね。痛い目、見てもらうわよ!」

 

 

ブラックの背後で黄金の輪が回転を始めたかと思うと、彼女の身体が黄色い火花を散らす。ビビッドレッドがもう片方の足で蹴りかかるより早く、ブラックは体内で増幅させた力を思い切り放出した

 

 

レッド「あばばばばばば!!!!」

 

 

握られた部分から衝撃波を流し込まれ、雷に打たれたような衝撃がビビッドレッドを襲う。すぐさまビビッドレッドも全身にエネルギーで防御フィールドを発生させて攻撃を遮断し、掴まれている部分にエネルギーを集中させ爆発を起こしブラックの拘束を無理やり解除した

 

 

ここまでの打ち合いを経て尚、両者とも身体に纏う防御フィールドが厚いため外傷は無い

 

 

ブラック「だからチャンスがある、と思っているのでしょう?確かにあかね、あなた達は私の到達したステージに手をかけているし、実際私も〈一部〉を切り捨てたから最大出力が多少落ちている。それでも___」

 

 

ふう、と息を吐いたブラックは両手にエネルギーを溜める。バチバチと音を立ててエネルギーの球を創り上げ、直径1m程のサイズまで大きくしたそれを力強く投擲した。ビビッドレッドへまっすぐ向けて進む攻撃を横から飛び出した青い暴風が轟音を纏ったハンマーの一撃が打ち落とした

 

 

トリニティ「おいて行かれちゃ困るわよ!」

 

宮藤「蚊帳の外は勘弁です!」

 

 

ブラック「これは頭数の戦いではないのよ?そろそろ解ってもらわないと」

 

 

ブラックが両の手を広げ、目つきをより鋭く尖らせる。背後に展開されていた輪が人間大からブラックの背丈の半分ほどまで縮み、彼女の背中にマウントされるようにくっつく。しかしそれから発せられるパワーはより増大している。彼女の腕輪は黒一色に染まり、ブラックは両手に篭手をつけ、槍と弓を携えた

 

 

彼女が放つ示現力が周囲の空間を歪ませる。近づくことすら困難な程の影響力を辺りにまき散らせながら、真っ黒な瞳をすっと滑らせた

 

 

だが、そんなブラックを見てトリニティは合体を解除した。その場に3人のパレットスーツ装着者が現れ、まっすぐとブラックに向き合った

 

 

ブラック「正気?」

 

わかば「あなたに一言いってあげたくてね。私達の言葉で」

 

ブラック「無駄よ。あなた達がするべきは私を倒す事。そして倒したければ、全員で1つになって向かってくるしかない」

 

レッド「でも、それじゃ結局あなたの思うつぼでしょ?」

 

あおい「あかねちゃん?なにを……」

 

ブラック「ふふ、勘づいたようね。みんなが混ざり合ってぐちゃぐちゃになれば、そこに個性など残りはしない。どんな色も呑み込まれて、真っ黒な塊になるの」

 

 

ブラックは手を広げ、その上に4色に別れた4つの球を作り出す。それらを1つに混ぜ合わせれば、様々な色に変化しながら最後は真っ黒な巨大な球に変わる

 

 

ブラック「どんどん混ざり合って大きくなって。そうすればいつか〈観測者〉を名乗る超常の存在のように、完全に個が消失した概念のような生き物へなっていくのよ。そうすれば今のままの心躍る幸せな生活の続きなど、夢見ることもできなくなるわ。あなた達が目指す勝利の先には、夢も希望も待ってない」

 

レッド「……じゃあ、あなたは何を夢見ているの?」

 

ブラック「この世界の命を使って、私の世界を再現する。私自身が壁として世界を覆い、示現エネルギーの影響を受けないようにすればかつてのような最期を迎えず、新たな可能性を掴んで未来を描いてくれる。私達はもう一度やり直せるの」

 

ひまわり「うわ、ヤバすぎじゃん。魔王だって世界の半分は譲ってくれたりするのに、全部もってく気?」

 

ブラック「こんな力に関わるべきではなかったのよ。あなた達も……」

 

 

ブラックを中心に渦巻く示現エネルギーの流れが宙を引き裂き、次元の法則を書き換える。既に彼女を中心に、所謂世界の改変が始まっているのだ

 

 

ブラックはこの期に及んで、仕掛けず、待った。今ブラックの支配下にあるネウロイ達は、この世界の人間達の魂を壊さないように回収している。このままあかね達がアクションを取らなければ、奪った魂を変換しかつての世界を再現し、少しずつでもあかね達の世界を侵食する事が可能だからだ

 

 

その空き時間でビビッドチーム達と言葉を交わしたのは、ただの時間潰しなのだ。ブラックは自分にそう言い着かせ、こちらを見つめる彼女達の瞳を見据える

 

 

 

あおい「あかねちゃんをどれだけ好きでも。私は私でありたい。そうしなきゃ、あかねちゃんの友達でい続ける事ができなくなっちゃうから」

 

わかば「この身を剣と捧げたけれど。三枝わかばとして立っていてこそ果たされる誓い。私の信じた強さで、私達は勝利する」

 

ひまわり「みんな違う存在だから、手を取り合って強くなれる。みんな一緒になっちゃったら意味ないじゃん。そんな孤独、二度とごめんだね」

 

 

 

レッド「___例え1つになるとしても。わたし達は、わたし達として強くなる。1人1人にある思いは、これからどうなっても決して消えたりしない。誰にも乱されることのない、原点。それを握りしめていれば、例え魂を裂かれるような示現力の流れの中でも、自分を見失ったりしないから」

 

 

初めてのドッキングの際にあかねがわかばに言った言葉だ。この言葉はあかねが自身の支えにしている言葉でもある。れいの為にれいと戦うという矛盾を孕んだこの場面でも彼女がブレないのは、自らが初めの戦いに際し志した原点を芯に据えているからだ

 

 

レッド「今の生活が大好き。今っていうのは……常に変わっていくものだけど。わたしはその変わっていく〈今〉がより素敵なものになっていくよう頑張ってる。わたしはわたしの〈大好き〉を護る為に戦う」

 

 

レッド「あなたも、そうだったんじゃないの?」

 

ブラック「黙りなさい」

 

 

小さく呟くように、感情のこもっていない独り言が零れる。何ともないような問いかけが、ブラックの心に刹那の空白を産んだ。頭が真っ白になったかと思えば、一拍遅れて憤怒が思考を支配する。知った風な口を利くこの少女を叩きのめしたい、という感情が心を埋め尽くし、余計なものを洗い流した

 

 

ブラック「この私が愚かだと言いたいのね、ビビッドレッド。正しさを見失って醜く足掻いてるように見える?でもこれがあなた達の未来に待っている姿なのよ」

 

レッド「カラード・ブラック。生憎だけど、わたしの未来はハッピーエンドで予約済みなの!___あなたが諦めた可能性だっていうなら、見せてあげる!」

 

 

 

 

 




お話はライブ感重点で作っています。それでもあまりブレすぎないよう定期的にこの先の展開を箇条書きにして見つめなおしたりしているのですが、先日やってみるとほんと一瞬で終わってしまって、ああ終わり見えて来たな・・・とさみしくなってしまいました。よければもう少し付き合ってくださいね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話 「繋いだ心が描く虹」

ブラックは黒い弓を空へ放り投げた。上空で巨大な黒い塊へと変化したかと思うと、次の瞬間殻を破るようにして中から翼を広げた蝶のようなモノが飛び出してくる。ソレが翼をはためかせれば嵐が巻き起こり、風に乗って黒い矢の雨がビビッドチームへ降り注いだ。それは少し離れた場所でネウロイを手あたり次第に叩いていたシャーリー達も攻撃範囲に含めている

 

 

 

シャーリー「なんだこりゃ!?」

 

ルッキーニ「避けてもついて来るんだけどぉ!」

 

宮藤「こっちへ!受け止めます!」

 

 

芳佳はシールドを張りながら軌道に割り込んで追尾してくる矢を受け止める。しかし矢は途切れることなく彼女の盾を襲い続け物量で圧し潰そうとする。旋回してきたシャーリーとルッキーニが矢の雨に向けて銃弾を放ち、攻撃の勢いが弱まったのを見て芳佳はシールドを解除すると飛び上がって攻撃の軌道から逃れた

 

 

シャーリー「助かった!」

 

宮藤「いえ、でもずっと追いかけてきますよ!」

 

エイラ「大本を叩かないと駄目だな。カラフル軍団、れいを止めといてくれよ」

 

レッド「任された!」

 

 

ビビッドレッドを筆頭に各々武器を構えたビビッドチームがブラックへ迫る。彼女は身の丈を越す槍を腕に絡ませるように構え、鋭い目つきで迎え撃つ

 

 

長官『ネウロイはできるだけこちらで対処する!君達は頭を落としてくれ!』

 

 

示現力の衝突の影響を受けない遠くの空では、ネウロイの残骸である灰色の金属片が輝きのオーロラめいたものを形成する程激しい戦闘が行われていた。湧き出るネウロイが本土を蹂躙するのを水際で食い止めているのは、全国に展開された防衛軍の余力を考えない全力の攻撃があってこそだった

 

 

シャーリー「よーし、それならお言葉に甘えて大物に集中させてもらいますよ!例の連携技で行くぞペリーヌ、ルッキーニ!」

 

ペリーヌ「ええ、よろしくてよ!」

 

ルッキーニ「うにゃ!」

 

 

シャーリーは銃を背にマウントすると両脇にペリーヌとルッキーニを抱えて一気に加速し、矢の攻撃をすり抜けながら黒い蝶へ突撃する

 

 

ブラック「彼女達で私の〈弓〉をどうにかできるとは思えないけど」

 

宮藤「いいえ、シャーリーさん達なら絶対になんとかしてくれます。ウィッチに不可能はない。これは私達の上官がいつも言っている言葉です」

 

ブラック「ふーん、見物ね」

 

シャーリー達の邪魔になるであろうネウロイをエイラが予測し、指示を受けたリーネの狙撃が立て続けに破壊した。ディフェンスを掻い潜ったシャーリーが本命の一撃を繰り出さんと疾走する

 

 

 

シャーリー「いくぞぉ!ペルッキーヌストライクだ!」

 

ルッキーニ「ヒィィィィホォォォォ!!!」

 

ペリーヌ「だっさい名前だけはあとで考え直していただきますこと?」

 

 

シャーリーが全力で発動させた魔法の加護を受け、3人はネウロイも矢も置き去りに目標目掛け飛翔する。ルッキーニが高熱魔法を乗せたシールドを前方に展開し、それに向かってペリーヌが電撃の魔法を発動する。シールドを維持しようとする力と破壊しようとする電撃の力が釣り合い、両者は一瞬の共存を果たしエネルギーの相乗効果を生む。その一瞬のタイミングでターゲットを通過するよう調整をかけつつコースを決めるのがシャーリーの役割だ

 

 

シャーリー「いやっほぉぉぉー!!!」

 

 

矢の雨に真っ向から突っ込む。触れたもの全てを蒸発させる高熱と、増幅していく電撃を纏ったシールドはほんの数秒しか持続しない代わりに脅威の破壊力を持つ光の魔法陣となっていた。対抗するように放たれた黒い矢を消し炭に変え、そのまま黒い影を貫いた

 

 

身体の中央に大穴が空いた蝶は羽ばたきを止める。傷跡はじわじわと塞がり始めており、再生を目論見ていることが明らかだった。しかし攻撃が止んだのを好機に前に出たエイラとリーネの集中攻撃が傷を抉るように放たれ再生を阻止する。Uターンで戻ってきたシャーリー達も攻撃に参加し、そのまま弾幕で押し潰す事に成功した

 

 

シャーリー「どんなもんだ!」

 

 

シャーリーの〈加速〉を起点に行われる突撃技は非常にリスクの大きい技だ。魔法力で強化した銃撃で遠距離からネウロイを破壊するのがウィッチの基本戦法であり、わざわざ敵に接近しぶつかるような攻撃方法はよほどの事態でなければ認可されない。実質元居た世界では厳しい上司の目もあって実践することの少ない攻撃技であった

 

 

まあつまり、この決戦の大舞台で大技を完璧に成功させた彼女は最高にいい気分であった。そういうことだ

 

 

ブラック「まったく、魔法使いっていうのはもっとオシャレで大人しいイメージがあったのだけれど」

 

呆れたように、しかしどこか感心するような言葉と共にブラックはあっさり黒い弓を再生成して、先程と同じようにまた空へ放り投げた。先程と同じようなモノが空に展開され、ゆっくりとその翼を広げた

 

 

シャーリー「おいおいそりゃないだろ!」

 

ルッキーニ「ずるーい!」

 

ブラック「正々堂々、全力よ」

 

 

不満を爆発させるウィッチ達に平然と言い返しながらもブラックはビビッド4戦士を捌き続けていた。剣もハンマーも放たれる光線も槍で全て切り払う

 

 

レッド「ふんっ!」

 

 

素早い左右のコンビネーションパンチを躱し、間合いをとろうと下がるブラックに斬りかかるわかばの一太刀。上段から振り下ろされる刀を槍で横に打ち払い反撃を行おうとする体勢のブラックを咎めるようにひまわりのネイキッドコライダーがビームを放つ。ブラックの背後からはハンマーを振り回しながらあおいが突っ込んできていた

 

 

ブラック「___はぁっ!」

 

 

ブラックから放たれる全方位への衝撃波が健気な連携技を無遠慮に踏みにじった

 

 

あおい「きゃああああ!?」

 

わかば「ぐううっ!」

 

 

アローンのビームをも真っ向から跳ね返すあおいですら踏ん張ることが出来ず、強風に巻かれたビニール袋のように吹き飛ばされ強制的に追い払われた。ダメージは殆ど感じないものの、透明な壁に押しやられるこの攻撃を連打されればもう近づいて攻撃することは不可能だ

 

 

ひまわり「これってもしかして負けバトルじゃない?」

 

レッド「ちょっ、諦めないでよ!?」

 

ブラック「諦めなさい!生物としての〈核〉が違うのよ!くらえっ!」

 

宮藤「みんな私の後ろにっ!」

 

 

両手を広げたブラックを爆心地に全方位攻撃が放たれる。今度はただの衝撃波ではなく、触れたものを崩壊させる凶悪な重力波。芳佳が全力でシールドを張らなければパレットスーツでは排除しきれない量のダメージを浴びていただろう。現に巻き込まれた下方の街並みは更地になっていた

 

 

攻撃後の僅かな硬直を隙と捉えたビビッドレッドは一瞬でブラックに肉薄し渾身の右ストレートを当てに行くが、カラードブラックはあっさりと片手で受け止めた

 

  

レッド「……!」

 

ブラック「そろそろ打ち止め?拍子抜けね、私はここからなのだけれど!」

 

 

握った拳をぐいっと引き寄せてレッドのバランスを崩し側頭部に強烈な回し蹴りを食らわせる。コマのように回転しながら吹き飛んだレッドを、飛び出したあおいが優しく受け止めた。ビビッドレッドはずきずきと痛む頭を振りながら少しの間あおいの腕の中に身を委ね、あおいはレッドの頭の痛みを癒そうと優しく撫でた

 

 

レッド「やっぱり強いね」

 

あおい「うん……!」

 

 

4人の力を1つに合わせる。これまでもそうしてきたつもりだった。だが今やるべきなのは、そのさらに先へ行く事だ

 

 

ブラックの___れいの言う通り、全員での合体は彼女と同じ結末を辿るものなのかもしれなかった。力を求めた彼女が迎えた終着点。終わらない戦いを終わらせようと求めた大いなる力による完全なる一体化。その先にあったのは、自らの世界の破滅。どういった経緯でカラード・ブラックを名乗る彼女の世界が終焉を迎えたかはあかね達には解らない

 

 

 

ひまわり「___ま、大丈夫なんじゃない?」

 

 

だが、自分達はそうはならないだろう。あビビッドチームの数少ない頭脳派、四宮ひまわりはあまりに楽観的な言葉を口にした。そして彼女とは違う思考回路をもつ他の2人も同じ事を思っていたからこそ、トリニティを解除しそれぞれがそれぞれに戻ったのだ。新たなドッキングを果たすために

 

 

わかば「ひまわり。あなたの考えは?」

 

ひまわり「いや、まあいけるでしょ。私達なら」

 

わかば「同感。手を取り合い、乗り越えていきましょう」

 

 

ただ、仲間と共に明日を描く。光のように、輝く未来を。それを心に抱いていれば、示現力はそれを成す為の力へ変わる。彼女達はこの力をある意味で都合よく理解していた

 

 

ブラック「___可能性があると謳うなら、見せてみなさい」

 

 

ブラック自身は挑発するように言ったのだろうが___どこか本気で見てみたいと望んでいるようにも聞こえた。少なくとも、ビビッドレッドは彼女が救いを求めているように思えていた

 

 

ビビッドレッドが手のひらを下にして手を突き出す。円陣を組んだあおい、わかば、ひまわりが、それぞれ片手を重ねていく。最後にビビッドレッドがもう片方の手を上から乗せ、みんなの手を挟み込むようにして示現力を発動させた

 

 

これまでドッキングを行う為に入り込んでいた特殊空間に4人同時に入り込んだ。常に感じていた圧迫感は存在せず、周囲の景観もいつもはぼやけた光が入り乱れはっきりと認識することができない不安定な空間だったが、今は澄んだ透明な空が遠くまで広がっており、爽やかな印象すら受ける

 

 

辺りに満ちる示現エネルギーをこれまで以上にはっきりと感じることができた。あかね達は、今であれば自分達の思うがままにこの力を使いこなすことができる確信を得た

 

 

わかばがあかねの左手を取り、優しく手の甲にキスをした。慣れない初めてのドッキングと違い、もう元の身体に負荷のかかるようなデメリットを負うことは無いだろう。ひまわりがあかねの右腕を掴んでぐいっと身を寄せて、あかねの額に優しく口づけをする。2人の友情が結ばれてからまだ日は浅いが、紡いだ絆の太さは他の2人と比べても見劣りするものではなかった

 

 

あおい『あかねちゃん?』

 

あかね『ん、なに?』

 

 

この場所で言葉をかわすことはあまり意味をもたなかった。彼女達は魂を共有した存在になりつつあり、今行っているのはイメージを確固たるものにする儀式に近い形式だけのものであったからだ。だが、あかねの肩に両手を添えたあおいはこれだけははっきり聞いておきたかった質問を1つ

 

 

あおい『あろん子ちゃんとはどういうちゅーを!?』

 

あかね『えぇ……どうって』

 

あおい『気になるんだもん!』

 

 

既に合体を済ませたわかばとひまわりがじと目でこちらを見ているような気がしたが、二葉あおいにとってこれは合体後に記憶を共有して知るのではなくあかねの口から聞きたいことであったし、自分を隠さないという意味でも大事な確認事項なのであった

 

 

どう答えるか、ほっぺをぽりぽりかきながら一瞬考えたあかねは、いいことを思いついたとばかりにニヤっと口角を上げると、あおいをぐいっと抱き寄せ彼女の唇を塞いだ

 

 

あかね『解った?』

 

あおい『……はぃ』

 

 

顔をあかねの髪の色より真っ赤にしたあおいの身体も、光となってあかねに重なる

 

 

 

これまでのように一つの容れ物にねじ込むやり方ではない。彼女達は身体を光と変えて重なった。上書きして、練り上げて、光の原色を織り込んだ身体は白い光へと変わる。白無垢、純白、花嫁衣裳を身に纏い、空のステージに降り立った

 

 

 

 

 

 

 




自分より先にくちびるちゅっちゅしたあろん子ちゃんに嫉妬する余裕がないくらい舞い上がっちゃったんですよね、あおいちゃん


あと2ヶ月切ったんですが完結間に合いそうですか?間に合いそうです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話 「大集合」

ブラック「……」

 

 

言葉は無かった。カラード・ブラックは眼前の光の塊にただ目を奪われていた

 

 

白き衣に包まれた少女が放つ力は〈管理者〉と呼ばれる超常の存在に並ばんとしている。それは今の自分を超えつつあるのだということをブラックは直感的に感じ取っていた

 

 

「___」

 

 

 

身の丈より長い白いツインテールは翼のように風を孕んで広がり、風に揺れる度雪のような白い光の粒を散らす。纏う衣装はいつものパレットスーツを少し飾り立て、丈の短いドレスチックに仕上げたものだ。ウェデイングドレスとしても成立しそうな完成された気風を放ち、少女は深い慈愛と美しさに満ちていた

 

 

色は混ざれば黒へと至るが、光は重なれば明るい白になる。可愛らしく着飾った少女はニカっと朗らかに笑い、左手を腰に当てて人差し指を立てた右手を天へ伸ばし元気いっぱいに声を上げる

 

 

 

「七色注ぐスポットライト、交差し描いたシルエット!

 

混ざり混ざりて輝いて、光の戦士の道しるべ!

 

ここが幸せ一丁目、笑顔のゴールへご招待!

 

オペレーションは、ビビッドフォース・オーバーレイ!」

 

 

堂々と恰好付けたビビッドフォースを虹色に輝く後光が照らし、割れんばかりのファンファーレがどこからともなく鳴り響く。平和の象徴である白いハトが彼女の背後から無数に現れ周囲へ賑やかに飛び去っていくのを見たウィッチ達は度肝を抜かれた

 

 

宮藤「え、なに今の!?ハト!?」

 

フォース「ふふふ。演出だよ。示現力のちょっとした応用でね」

 

ペリーヌ「真面目に」

 

フォース「はい」

 

 

キリっと神妙な顔を作りブラックへ対面する。漆黒を纏うカラードブラックと相反する純白のビビッドフォース。晴れやかな表情のフォースと、感情を押し殺したようなブラック

 

 

唐突にブラックが仕掛けた。槍を真っすぐに構えての突進。凄まじい速度で繰り出される神速の一撃は音を置き去りにし、未来予知で攻撃が行われることを反射的に予測したエイラですらその動きを目で追う事はできなかった。

 

だがビビッドフォースは迫り来る槍が自らの胸にあわや突き刺さらんとした刹那、両手を素早く前に突き出しがっしりと掴んで受け止めてみせた。止められた突進の衝撃が辺りに拡散しすさまじい突風が吹き荒れる

 

 

ブラック「___成程。伊達ではないらしいわね」

 

フォース「全部、受け止めてあげる。気の済むまでね」

 

ブラック「そんな悠長な事してる余裕はないわよ?ネウロイの群体がこの世界の魂を食べ尽くすわ」

 

フォース「あなた以外の危ないヤツの相手は、みんなに任せるよ。芳佳ちゃん達と___あの人達に」

 

 

示現力の真髄に至り、超次元の存在へと進化したビビッドフォースは自らのいる次元の〈外〉のことも感知できる。空に開いた大きな裂け目へ手を向けると、光の衝撃波を放った。放たれた攻撃は天をも割る一撃。射線上のネウロイの群れを余す事なく消し飛ばし、裂けめの一部に一瞬ではあるが隙を作る。するとそこから巨大な光の球が飛び出してきた

 

 

かつてリーネやシャーリー達がこの世界へやってきた際に覆われていたものに似ているが、そのサイズは直径が数百mにも及ぶ巨大なものだった。ネウロイ達のビームが突然の不審物に集中する。攻撃により破られた光の殻の中から爆風を突き破りながら飛び出してくるソレは青白い光のシールドに包まれネウロイの弾幕を跳ね返し無事を確保していた

 

 

リーネ「え、あれは……!」

 

シャーリー「おおー!?」

 

宮藤「は……晴風!?」

 

 

全長120m、幅11m。空にあってはならない異物、海を行く筈の軍艦が大空を舞っていた

 

 

ペリーヌ「いや落下してきてますわよ!?」

 

 

……落下してきていた

 

_____________________________________

 

 

「ジャンプ完了!船体各部異常無し!」

 

「だがどうみてもここは空中だぞ!?艦長、どうなってるんだ!」

 

「みたいだねぇ、シロちゃん。驚きだよ」

 

「他人事か!!!周囲の状況は!?」

 

「ネウロイ、ネウロイ、ネウロイだ!ここやっぱりあいつらの巣なんじゃない!?」

 

 

艦橋は桶をひっくり返したような大騒ぎだ。いの一番に落ち着きを取り戻したのは〈晴風〉艦長、岬。彼女は衝撃で少しずれていた帽子を深くかぶり直すと艦内通信機のマイクをオンにした

 

 

「各員対空戦闘!航空隊は発進を!」

 

『もう準備は出来ている!』

 

 

格納庫のハッチが開いた事を知らせるサイレンが室内に鳴り響く

 

 

「艦長!反重力フィールドの出力が下がってます!浮いていられるのはもって___」

 

「もって?」

 

「すいません、もう駄目です。降下します」

 

「ええー!」

 

 

素っ頓狂な叫び声に一拍遅れてガクンと船体が落ちる。体勢を崩しそうになった岬を隣に控えていた長身の女性が抱きかかえるようにして支えた。お礼もそこそこに岬は指示を飛ばす

 

 

「船体のシールドは!?」

 

「まだ持ちます!」

 

「なら各員に通達を!船体を地上に降ろしてネウロイを迎撃します!皆さんに地上戦の準備をお願いします!」

 

__________________________

 

 

 

宮藤「晴風が飛んでるー!?」

 

ペリーヌ「……最後の最後くらい、まともな助けが来てくれると信じていたのですけれど」

 

リーネ「あはは……」

 

『おいおいペリーヌ!随分辛辣だな!』

 

ペリーヌ「こ、この御声!聞いているだけで心が沸き立つ勇猛果敢なサムライボイス!まさしくそれは……」

 

『坂本美緒以下5名!ストライクウィッチーズ全員参戦だ!』

 

 

ネウロイの集団の一角を一陣の風が切り裂いた。キラリと輝く一振りの刀、魔法力を込めて放たれた一撃が山をも両断する斬撃の風となった

 

 

その後を4人の魔女達が続く。周囲に厳しい視線を巡らせる赤い髪の女性はストライクウィッチーズの隊長を務めるミーナ。彼女は自身が持つ超感覚により周囲の状況を見切り飛行ルートを指示しつつ、自らも正確な射撃で敵を討つ

 

「あの3人だけじゃなく、ちゃんと全員いるのか!?くっ、敵が多すぎるな!」

 

 

全身に弾帯を巻き、重たい大型機関銃を両手に1丁ずつ持ちながらもその重さを感じさせない正確な戦闘軌道によりネウロイを弾幕で押し潰しているのはゲルトルート・バルクホルンだ

 

 

「いる!いるよ!全員無事だ!」

 

ネウロイを矢継ぎ早に落としながら周囲に目を凝らし、そして仲間達の無事を確認して明るい笑顔を見せるのはエーリカ・ハルトマン

 

 

「エイラ……!」

 

エイラ「随分待ったぞサーニャ」

 

サーニャ「……寂しかった」

 

エイラ「イヤ、絶対私の方が寂しかった。やっと一緒だ」

 

 

特別仲の良い2人は敵を後目に2人だけの世界を形成しようとしていた。エイラと優しく手を繋いでいる少女はもう片方の手に大振りのロケットランチャーを装備している。サーニャ・V・リトヴャク

 

 

坂本「うむ。全員無事でなによりだな!」

 

合流を果たした11人は敵陣のど真ん中で背中を預けながら感極まるものがあった。日にしておよそ数ヶ月、離れ離れになった仲間達は遂に一同に会すこととなった

 

ミーナ「ええ。宮藤さん、解っていますか?今回我々は相当のリスクを伴ってこの作戦を実行しています。これは、あなたの無茶が招いたことです」

 

宮藤「はい……ごめんなさい」

 

丁寧な口調にも関わらず芳佳の返答は縮こまって、押しつぶされそうな声だ。上官であるミーナに怒られるのはいくら無鉄砲が過ぎる芳佳と言えど問答無用で怯えてしまう

 

 

坂本「おいミーナ。気持ちは解るが説教は戦いの後でよかろう」

 

ミーナ「そうね。でも、これだけは言っておかないといけません。……どんなリスクがあったとしても、あなたを助ける為の投資は無駄ではないと言い切った各部隊長の皆さん。敵地に乗り込む危険な作戦に参加したいと言ってくれた隊員は全員です」

 

宮藤「ミーナ中佐……」

 

ミーナ「あなたが無事でよかった。一緒に元の世界へ帰りましょう」

 

 

優しく頭を撫でて、優しい笑顔を見せた。そして手を離した瞬間にはストライクウィッチーズの指揮官としての顔付に戻っていた。彼女は指先までピンと伸ばした手を伸ばし、声高々に叫んだ

 

ミーナ「ネウロイを殲滅します!フォーメーション、ダイヤモンド!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

11人の魔女達がキレイな菱形を形成し空を行く

 

 

『シャーリーさん、こちら晴風、納沙幸子です!状況の共有をお願いします!』

 

シャーリー「ココか!よし、健次郎博士!通信をリンクしてください!」

 

健次郎『ぶっとんだ状況だが、シャーリーくん達の仲間なんじゃな?よし、こちらの世界の状況を伝える!』

 

 

凄まじい速度で情報のやり取りが行われる。幸運と言うべきか、敵がネウロイであるという解りやすい状況である以上戦闘部隊は突然の事態でも動きやすかった

 

 

ゆっくりと地上に降下していく晴風は体勢を維持しつつ船体下部から尖ったアンカーを射出して地面に固定し、取り付けられた砲を上へ向け対空攻撃を開始した

 

 

そして着地と同時に船体から飛び出していく戦士達も各々の武器を振り回しネウロイへ攻撃を開始した

 

 




あと二ヶ月で完結させるからね!!!できなかったら木の下に埋めてもらってもいいよ!!!!!




やっぱり駄目だよ!!!!!!!でも頑張るね!!!!!!!!!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話 「鋼鉄の翼」

坂本「宮藤!この世界も随分物騒なことになってるな!どうなってるんだ!」

 

宮藤「友達が2人、喧嘩してます!黒い子が勝ったらこの世界が無くなります!」

 

バルクホルン「なんだと?」

 

エーリカ「メチャクチャじゃん!」

 

 

銃弾がネウロイを砕き、シールドがビームを受け止める。攻撃と防御を行う人間を適時ミーナが指示し、陣形を維持したまま最適な手順を組み上げる。囲まれないようぐねぐねと軌道を変えながらも一塊の陣形を崩さずネウロイの山を崩壊させていくその様は完璧に統制された隊であり、一つの兵器でもあった

 

 

その連携の起点を担っているのは広範囲の物体を感知できる固魔法を持つミーナと魔法で作られた羅針盤により周囲から発せられる様々な電波を探知できるサーニャ、更に物体を透視しネウロイの弱点を瞬時に見抜く坂本。3名の強力な補助魔法あってこそだが、一方で数の差を覆す火力を発揮できる魔女達の存在も肝だ

 

 

 

バルクホルン「全く、貴様らは帰ったら便所掃除だからな!」

 

シャーリー「ま、ちゃんと帰れたらやってやるよ!」

 

 

バルクホルンの固有魔法は〈怪力〉。強化された彼女の肉体は他のウィッチの数十倍とも言えるパワーを誇り___故に本来なら積載不可能な程の火器を片手で振り回す事が可能だ

 

 

リーネ「前方にネウロイが集中!」

 

ミーナ「バルクホルン大尉、道を作ってもらえるかしら?」

 

バルクホルン「了解した。派手にやらせてもらうぞ」

 

 

彼女は背にマウントしていた巨大な砲を前方に向ける

 

 

バルクホルン「ゴリアスD3、全弾発射!」

 

 

凡そ歩兵1人が立ち姿勢で運用する兵器ではないのだが、彼女はそれを片手で構え、装填された弾を全弾発射した。反動は全て腕力で抑え込む。飛び出した砲弾は煙の尾を引きながら飛翔し、隙間の無い壁のように展開していたネウロイの一体に直撃し爆発、瞬間的に広がる紅蓮の炎を纏った爆風がネウロイをまとめて吹き飛ばした

 

 

バルクホルン「いい火力だ。技術班を褒めてやらないとな」

 

 

弾丸を撃ち尽くしただの重りと化したロケットランチャーを放り捨てようとして___技術班達の『マジで本体はもって帰ってきて欲しいっす』という嘆願を思い出し、まあ体力に余裕がある限りは背負っておいてやろうかと思い直して再び背に固定し武器を機関銃に持ち換えた

 

 

エーリカ「あんな反動凄いのトゥルーデしか取り回せないでしょ」

 

バルクホルン「お前達は筋トレが足りんのだ。そんなことよりミーナ!こんなものはずっと続けてられないぞ!」

 

 

周囲を見渡せば、晴風や作戦に参加してくれている仲間達の攻撃もありネウロイは順調に撃破できている。この世界の状況も晴風乗員が整理して部隊全体に報告してくれたお陰で最低限の事は理解できている。その上で、ミーナは隊長として判断を迫られていた。いかに練度の高い彼女達ウィッチーズが揃ったと言っても無限にネウロイを相手取れる訳ではないのだ

 

 

 

ミーナ「ええ、解っています。坂本少佐、そっちはどう?」

 

坂本「大元締めになりそうなネウロイは見当たらん。恐らくは……」

 

 

チラっと目線を遥か上空に向ける。そこでは白と黒の光の塊が絶賛激しいぶつかり合いを繰り広げていた。勇猛果敢を芯に据えたような軍人である坂本だが、その修羅場に飛び込んでいくのは少々骨が折れそうだと言わざるを得ない。仲間の救援のみを最優先と考えた場合、すぐにでも離脱できるのであればそうすべきだと判断した。それは部隊長であるミーナも同意見である

 

 

宮藤「……」

 

ミーナ「岬艦長、もう一度ジャンプするのにはどれくらいかかるの!?」

 

岬『ココちゃん、どうなの?___うん、うん。ミーナ中佐、最低でも3時間はかかります』

 

ミーナ「解りました。ではそれまで何とかするしかないわね」

 

宮藤「……」

 

 

宮藤芳佳は複雑な感情を抱えていた。離脱が行えず仲間達が危険な戦場に身を置かなければならない事を危惧していながら、あかね達の事に決着がつくまでここに居られる理由ができて喜んでいる自分もいることに罪悪感を感じていた

 

 

シャーリー「宮藤、変に考えるなよ。私達だっておんなじさ。この世界の抱えてる問題にケリがついてないのにって考えるのは当然だ。あいつら、友達なんだからさ」

 

宮藤「!……ありがとうございます。でも……」

 

ペリーヌ「今更、巻き込んだことを後悔するようなことはやめなさい!ミーナ隊長も仰っていたでしょう!みなアナタを助けたくてここに来ていると」

 

坂本「その通りだ。それにだな、宮藤。お前がこの世界に来た事、ただの不幸な出来事というだけではないと私達は考えている」

 

宮藤「どういうことですか?」

 

坂本「人型ネウロイの特殊性については我々の方でも何度も議題にあがっていた。この世界の置かれた状況、アローンという新たな存在。我々の世界を襲うネウロイとの関連性が考えられる以上、この世界で起きている事を無視する訳にはいかん」

 

 

坂本は朗々と語り、その後をミーナが継ぐ

 

 

ミーナ「あくまで安全を最優先。少しでも危険だと判断した場合は即座に我々の次元へ帰還することが前提ではありますが___この世界での情報収集も作戦の内です」

 

シャーリー「OK!じゃあさっさとネウロイを片してあかねの家でお茶会だな!」

 

坂本「そう!この作戦は我々の世界を覆う災厄を撃ち払うのに大きな意味を持つものだ!だから宮藤!気負うな!お前は正しい事をした!」

 

宮藤「……はいっ!」

 

 

彼女は無茶をした。理屈のない感情に従い基地を飛び出し、後先考えず次元の穴に飛び込んだ。それを助け出す為に多大なコストがかかったのは確かだが、それでも坂本は断じた。宮藤芳佳が自分を信じて行動したこの結果は、決して悪いものではないと

 

 

ミーナ「いや反省はしてね!?宮藤さん解ってる!?」

 

宮藤「私もう迷いません!正しいと思ったことだけを___全力でやりますっ!!!」

 

ミーナ「ちょっと……もうっ、美緒!」

 

坂本「はっはっは!怒るな怒るな。まあ、これでこそ宮藤!それでこそウィッチだ!」

 

バルクホルン「またミーナの胃薬の量が増えるな……」

 

ルッキーニ「でもでも、結局どうするの?防衛戦続けてていいのー?」

 

 

その時、彼女達は上空から煌びやかな銀色の光が降り注いでくることに気付いた。見れば、ネウロイが湧き続けていた空の裂け目に変化が起きていた

 

 

どこからか出現した超巨大な銀色の布めいたものが、裂け目をすっぽりと覆っていた。やわらかな質感で織られたビロードを思わせる光の布は裂け目をふわりと包み込みながら少しづつ圧縮されていき、最後はパチンと小さな音を響かせながら消失してしまった

 

 

健次郎『次元の裂け目が完全に消失した!あかね達がやったのか!』

 

リーネ「これでネウロイの増援は止められたってことですか!?」

 

健次郎『完全には止まった訳ではないかもしれんが、大幅な出現は止められるじゃろう!今の撃破ペースを維持してくれたならば殲滅が可能な筈じゃ!』

 

ミーナ「よし、各員攻撃に集中!一気にネウロイを殲滅します!」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

 

 

 

 




今月の更新ペースはヤバイわよ!!!!!覚悟しておいてくだしあ!!!!!(慢心


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話 「白黒つけましょう」

拳が流星となって降り注ぐ。比喩ではなく、ビビッドフォースの〈殴ろう〉という意志に反応した示現力が具現化し巨大な光の拳が無数にカラードブラックへ襲い掛かった

 

 

ブラックはその攻撃を受ける為に巨大な拳を展開し高速ラッシュを繰り出した。物理法則の限界を越えた速度で繰り出される乱打は破壊力の残像を残しながら降り注ぐ光の拳を全て打ち消す事に成功する

 

 

余裕の表情のブラックを見て少しむっとしたビビッドフォースは握りしめた手を開いて、ふわりと横に滑らせた。どこからともなく黄金の風が戦場に吹き荒れて、それに触れられたネウロイは身体に赤い火花を散らせたかと思うと次の瞬間には光の粒へと分解され風の一部へと取り込まれた

 

 

ブラックは槍を取り出し黒く光る穂先を足元に向け、水を巻き上げるように勢いよく下から上へ切り上げた。切り裂かれた空間から黒い霧が吹き出し黄金の風に真っ向から食い掛る

 

風上に座す主に仇名さんとする物を浄化し光へ返す黄金の風に対し、物質も事象も全てを呑み込み漆黒へと変質させる亜空間の瘴気が拮抗し両者の狭間で大きな爆発が生じる

 

 

自らに迫る風を受け切ったブラックが攻撃に回る。槍を弓に持ち換え、4本の矢を一息に放った。しかしビビッドフォースは避けようともせず涼しい顔で待ち受けた

 

矢の一本一本がネウロイのビームなど比較にならない威力であることは容易に見て取れたが、それでも自らが纏った黄金の風を貫通することは不可能だろうということも同時に解っていた。実際4本の矢はビビッドフォースに命中することなく光に飲まれ消失する。弓を放った姿勢で様子を伺っていたカラードブラックは呆れたように溜息をついた

 

 

ブラック「インチキくさい能力ね。それなに?」

 

フォース「スーパービビッドオーラだよ!弓なんて捨ててかかっておいでよ。オーラ消して殴り合ったげるから」

 

ブラック「嫌よ。私の目的はあなたを倒す事より、あなたを釘付けにすることにあるんだから」

 

 

ブラックが操るネウロイの攻撃に見舞われたものは死にはしない。死なずに、その身体は特殊な光に包まれ眠るように地に伏すのだ。彼らの魂は別次元の存在に上書きされる準備に入り、身体は素材として大切に保管される。撃墜された戦闘機や破壊された戦艦の残骸の中で、搭乗員達はその未知の現象に見舞われている。戦線が広がれば、避難した民間人達もその牙にかかるだろう

 

 

現時点で一対一の戦いに関して言うならばビビッドフォースに明らかな分がある。だが一発で決着をつけられる程両者にある力の差が大きい程ではない。先にネウロイをどうにかしてしまうという手もある。ビビッドフォースがその力を振るえば、数十キロ離れた戦場であろうとネウロイを薙ぎ払う事が可能であろう。だが他に手を回しながらカラードブラックを抑え込む、というのは力に目覚めたばかりのビビッドフォースには少しばかり難題であった

 

 

ではどうするか。悩みがてら天を仰いだビビッドフォースにいいアイデアがビビっと来た。空の穴を塞いでしまえばいいじゃないか

 

 

 

ビビッドフォースはイメージを練り上げながら穴へ手をかざす。自分の意識を空へ向かって薄く広げて感知領域を広げ、空の裂け目の周囲の状況を瞬時に把握する。どういった力で異空間に繋がっているのかが解れば、それを閉じる方法も感覚で理解できる。感覚さえ掴めればビビッドフォースは己の望むような結果へ事象を結びつけることが可能だ

 

 

手の中に溜めたエネルギーを大風呂敷のように勢いよく広げる。ぐんぐんと大きくなり、やがては空を全て呑み込めそうな巨大な光の幕が黒々と光る次元の裂け目に覆いかぶさった

 

 

ブラック「は!?」

 

 

ビビッドフォースを止める為に飛び出そうとしたブラックを強烈な一撃が出迎える。ビビッドフォースの身体から飛び出した緑の稲妻がカラードブラックに直撃したのだ。眩い閃光を放つエネルギー体はビビッドグリーンを形どり、彼女を思わせる鋭い斬撃を数発見舞う。不意を突かれたブラックだがすぐさま槍を構えて攻撃をいなし、反撃の一撃を頭部に叩きつけた

 

 

残像はゆらりと立ち消えるが、しかし最後の瞬間に破裂して電撃のドームを発生させる。それに囚われたブラックは全身に凄まじい熱量の電撃を喰らうが、彼女の防御力をもってすれば精々肌が静電気でちくちくする程度のダメージしか感じない。身体から衝撃波を発生させて打ち払う頃には既に事は済んでいた

 

 

空にあった筈の割目は影も形もなく、やけに白ばんだ空が広がっていた

 

 

ブラック「ちっ、なんてこと!」

 

 

もう一度巨大な侵入口を作るにはそれ相応の時間と力がいる。カラードブラックが先程と同じ大きさの裂け目を発生させている間にビビッドフォースは隙を見せた自分を無力化し、この世界に残った全ネウロイを完全に消滅させる事ができるだろう

 

 

故にビビッドフォースを倒さない限り次の手を打つことは叶わない。カラードブラックは覚悟を決める必要があった

 

 

ブラック「わかった、わかったわ。なんとしてもあなたと殴り合わないといけないってコトね」

 

フォース「そいうコト」

 

 

しかし追い込まれた訳ではない。むしろ選択肢を一対一の戦いのみに絞られた今、カラードブラックという戦士の真髄が発揮されようとしていた

 

 

ミシリ、と空間に亀裂が走る音を聞きビビッドフォースは瞬時に身構えた。ゲートが開かれるのとは少し違う音。眼前に立つ彼女が放つパワーに次元を構成する壁が耐えられないのだと気付いた

 

 

爆発的な力の上昇を察知した次の瞬間には、既にビビッドフォースの目前にカラードブラックの槍が迫っていた。素手で受けるのは得策ではない。反射的にビビッドフォースは自らの胸から光の球を取り出し、瞬時に武器へと変化させる

 

 

<ガキィン!>

 

 

ビビッドフォースが攻撃を受け止めるのに選んだのは剣だ。白く輝く両刃の長剣は、緑の柄と金の鍔を備える豪華ながらも質素で武骨な仕上がりとなっている。押し返そうと力を込めるも、完全に拮抗した槍と剣は両方とも動かない

 

フォース「……!」

 

ブラック「次元の裂け目を維持し、出現させたネウロイを制御し私の為に動かすのに使っていた力。それが今全て私の下にある!」

 

 

ブラックは上半身を引き、槍にかけていた力を一気に脱力する。必然押し込もうとしていたフォースの体勢が僅かに崩れた。引いた槍の柄を下から上へ突き上げる。狙いは顎だ

 

 

フォース「ふんっ!」

 

 

身体を回転させながら距離を放し槍の間合いから外れ、力任せに剣を横殴りに振り抜く

 

 

黄金の斬撃が光線となって放たれる。無秩序に放たれたように見えて、無限に近い射程を持つ光線は味方を避けネウロイだけを切り裂いていく。ブラックは次元の隙間を通ってフォースの真後ろへ転移し隙だらけの背中に槍を真っすぐ突き立てた

 

 

死角から迫るノータイムの攻撃だが、未来予知に近い直感で察知していたフォースは即座に背面にシールドを発生させた。法陣を模した強力な盾はウィッチをリスペクトした絶対防御。しかし槍は盾に一撃で突き砕き、フォースは傷こそ負わないものの衝撃を受け流しきれず後退した

 

 

ブラック「さぁ……思う存分、やりあいましょうか!」

 

フォース「上等だよっ!」

 

 

ぺっと唾を吐き捨て、ビビッドフォースは剣を持つ手に力を込めた

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話 「愛しのカノジョにぐーぱんち」

※DVではありません。友情です


 

フォース「ビビッド一刀流、轟羅天球割り!」

 

 

天まで伸びた刃が地の底目掛け振り下ろされた。殺意は込めていない筈だが、惑星をも両断する威力の一撃はとてもではないが友達相手に放っていいレベルではない。ただ、ブラックなら対処できるだろうというある意味での信頼をもっているビビッドフォースは遠慮なく全力を振るっているのだ

 

 

ブラック「剛槍大回天!」

 

手首と肘で槍をきれいな円に回転させ、頭上から振り下ろされる剣が自らに命中する直前に横っ腹を叩いて身体の横に剣を受け流す

 

 

カラードブラックがもっとも得意とするのは槍だ。拳も、弓も、エネルギーを操る輪っかも、彼女の身体の一部と言い切れる程自在に操ることができるが、ここ一番の大舞台で剣を持つ相手に立ち回るとなればブラックは槍を選んだ

 

 

回転中に穂先にエネルギーがチャージされ魅惑的な銀色の輝きを放ち出した。逸らされた剣をもう一度ブラックへ向けようとしていたビビッドフォースはそのパワーの危険性を瞬時に理解し間合いを取ろうとする。しかし既にブラックは攻撃の体勢を整えていた

 

 

フォース「やばっ」

 

ブラック「千突神風嵐!」

 

 

突いて、引き、そして突く。それらの動作が刹那に千度繰り返される。槍の先端は時空を捻じ曲げ出現先だけを変更し対象を全方向から穿つ。ビビッドフォースも驚異的なスピードで剣を閃かせ防御していく。一手でも攻撃を通せばダメージで動きが鈍りそのまま蓮のように穴だらけにされていた事間違いなしだ

 

 

先端恐怖症を発症しそうになりながら刺突の嵐を切り抜けたビビッドフォースはたまらず距離を取って大きく深呼吸をする。一方で大技による消耗を回復したいカラードブラックも追撃はせず静かに呼吸を整えていた

 

 

両者共人間の域を越えた存在であり、息切れや疲れなどとは無縁の生命体だ。もし相手が無機物や怪物であれば彼女達はそういう存在として好き勝手暴れていたであろう

 

 

この領域に達した2人の戦いに真の意味で決着がつくことなど無かった。例え2人のうちどちらかが優位に立ち、相手の胸に槍を突き立て、あるいは首を剣で跳ね飛ばしたとしても、示現力の真髄を得た彼女達に〈死〉という概念が関与することは不可能だ

 

 

 

だがこの瞬間、2人はお互いを『人間』として相手取り、その枠の中で決着をつけることを真に望んでいた。その思いに応え、2人が有する示現力は外部からの横やりを防ぎ周囲に影響を与えない特殊な結界空間を形成することに大半がつぎ込まれ、今振るっている力は非常に加減されたものである。だが、2人は手加減をして戦っているつもりは毛頭なかった。それもまた事実である

 

 

フォース「やあっ!」

 

 

れいを止めたかった。苦しんでいるのなら、弓を引かずに相談して欲しかった。そうしてくれなかったのが悲しくて、腹立たしかった。あかねは、あおいは、わかばは、ひまわりは。友達を倒すためでなく助けるために全力を尽くせたのに

 

 

フォース「せいっ!」

 

 

友達を救いたかった。破滅を迎えた運命を塗り替え、消え去った世界を再現するという神そのものの事象を成す為に、自分をそぎ落として力だけを残した存在に作り直した。そこまでしたというのに、あかね達は全部をもったまま幸せになろうとしている。自分は決してたどり着けない未来へ、行こうと言うのだ。そしてその中には自分も入れてくれると。

 

 

そんな都合のいい結末の存在は今更受け入れられなかった。受け入れて手を取り合う心はもう片方の自分の中に置いてきたから

 

 

フォース「れいちゃん!」

 

だから止まらない。剣を袈裟懸けに振り下ろし、切り上げる。突き出された槍は躱さず、全て剣を使って叩き落とす

 

ブラック「私は……私は!」

 

だから止まれない。何度でも前へ、槍を突き出す。得物の長さを活かして剣の届かぬ間合いから一方的に攻撃する。時たま横殴りに振り抜いて打撃を狙う

 

 

ブラック「私は黒騎れいではないっ!!!!」

 

 

黒騎れいはこの世界に入り込む為に用意した偽りの器、トロイの木馬だ。

 

今ここにある自分こそが___

 

 

フォース「あなたは!私の友達なの!だから助けたいの!」

 

ブラック「___!」

 

 

違う。自分は違う。この白き少女とはなんの関わりもない。自分は、使命を成すために創り上げた……

 

 

ブラック(私も……所詮、作り物。今更そんなことを何故……!)

 

 

槍の動きが鈍ったのは疲れか、気の迷いが伝わったのか。何れにせよビビッドフォースが見逃す筈もない。打ち合いの中で一際鋭い一閃が走る。これまで数多のアローンを葬りさってきた槍が半ばから両断された。しかし折れた槍を両手に一本ずつ持って剣を両側から挟み込むようにして叩きつければ限界を迎えていた輝く剣も粉々に砕けた

 

 

フォース「歯を___」

 

ブラック「!」

 

フォース「食いしばってね!!!」

 

 

 

拳が赤い光を灯す。渾身の右ストレートが疾走し、ブラックの顎を派手にぶっ飛ばした。視界を揺らしながら夢中で突き出された折れた槍は当たらない。回避しつつも前に踏み出し、空いた左手を折りたたんでブラックの腹部を突きあげるように繰り出す

 

 

しかしブラックも殴られてばかりで黙っていられる程大人しい性格ではない。前のめりになったブラックは倒れまいと踏ん張り、トドメを刺そうと振りかぶっているビビッドフォースに対し拳を突き出した

 

 

 

〈ガツン!〉

 

 

「「ぐべっ!!」」

 

 

 

右フックが同じタイミングで互いの顔面に突き刺さった

 

 

拳を振り抜いた姿勢でしばらく固まっていた2人だったが、やがてカラードブラックの拳がビビッドフォースの鼻っ柱からゆっくりと引き抜かれた

 

 

「私は……諦めない」

 

「諦めるなんていったら今度は左ストレートだったよ。あろん子ちゃんにも頼まれたんだから」

 

「……」

 

「いや真っ向から心をへし折りにいったわたしが言えることじゃないかもだけど。……大丈夫。わたしが一緒にいてあげる。だから、ちゃんとお話ししよ。拳だけじゃわかり合えないこともあるんだから」

 

 

解っていた。示現エネルギーを用いて創り上げられた結界は、ドッキングの際に入り込む特殊空間に近い性質を備える。そこに2人きりでいれば、ドッキングとまではいかずとも心が混ざり合ってしまうのを止めるのは難しかった。ビビッドフォースの中にある、切り捨てたあろん子の心に触れたことが、カラードブラックが捨てた筈の迷いを再び芽生えさせたのだ

 

 

示現力は思いに応える。だから自分の心を削り取った。ほんの少しでもあろん子に押し付けた部分が戻って来た時点で、カラードブラックはもう侵略者に徹することなどできなかった

 

 

「私を許してはだめよ……私は、あなたの世界を奪おうとしたんだから……」

 

「ずっと、頑張ってきたんだね。もう大丈夫だから。ずっと一緒にいる」

 

 

だいじょうぶ。あなたがそういうのなら、そうなのだろう。考える事が面倒になってきたブラックは最後に握った拳をビビッドフォースの胸に軽く押しあてた

 

 

「あなたは、私に勝ったんだから……」

 

 

「うん」

 

 

「最後まで……折れないでよ……」

 

 

上半身を預けるようにずるずると倒れ込んだカラードブラックの身体を抱きとめた。示現力の結界は煌びやかな光の粒子へと戻りながら崩壊していく。あらわになった元の世界をぐるりと見渡せば、遠く彼方まで存在していたネウロイ達が消失していく様子が確認できた

 

 

安心したように大きく息を吐いて、ビビッドフォースはすやすやと眠る黒髪の少女の頭を優しく撫でながら通信回線に声を繋いだ

 

 

 

 

 

 

 




カラードブラックの〈カラード〉という名称は〈首輪〉という意味があります。ひいては、首輪に繋がれた人→奴隷、という意味もあるみたいです


自分達が戦わないと世界が滅びる、というシチュエーションを受け、「自分達は運命の奴隷だ」と皮肉めいたものに色の要素を足したものをチーム名にしていた、という設定です


アーマードコアシリーズの主人公が作中でカラードという組織に属し、傭兵として戦う彼が「首輪付き」と呼ばれているのが有名ですよね。有名なんですよね!!!!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話 「実家に帰らせていただきます」

 

 

あかねが目を覚ましたのは暖かな布団の中だった。嗅ぎ慣れた匂いも見慣れた天井も、間違いなくここが我が家であるいとを証明してくれる。これまでの全てが夢だったのかとぼけっとした頭で考えながらあかねは寝返りをうった

 

 

 

あろん子「おはようあかね。よく眠れたかしら?」

 

あかね「うわわわわー!?」

 

 

寝返った先であろん子とばっちり目が合い、寝起きとは思えない声量で絶叫を上げて飛び上がってしまった。彼女の驚きに反応してすわ戦いかと示現力がふわふわ寄ってきたが、あかねが手でおい払えばすごすごと辺りへ消えていった

 

 

あかね「あれっ?なにがどうなったんだっけ!?」

 

あろん子「なにはともあれ、万事OKってな感じよ。私もなんか復活したし」

 

あかね「なんかって……いや、よかったけど」

 

 

布団の上で漫画を読みながらごろごろしていたらしいあろん子は再び読書に戻った。そんな彼女から目を逸らして、一色あかねは今の状況を整理するため目を閉じてむむむっと考え込んだ

 

 

カラードブラックを名乗る彼女と激しい戦いを繰り広げた後、ネウロイ達が消滅した報告を聞きながら合体を解除して元に戻った事まではなんとなく覚えている

 

 

あかね「わたしあの後気絶したの?」

 

あろん子「気絶ぐらいするでしょ。ふつう完全合体で超次元の生命体に進化したりすれば元に戻ったりできないのだから。私の相方が真っ黒な形態から分離できないのと同じようにね」

 

あかね「あろん子ちゃん待って、どんどん解説進めるのやめて。とにかく……お腹すいた!ご飯食べたい!」

 

 

腹が減ったら何にもできない。教科書にもそう書いてある

 

 

 

あかねは一度現状について考えることを止めて台所へ向かうことにした。少々ふらついてしまい、白目を向いて寝転がっていたあおいを思い切り踏んづけてしまった気がしたが、まあそれについてもとりあえずは考えないようにした。とにかくお腹が空いていた

 

 

あかね「ももーいるー?なんか食べたいんだけどー」

 

ましろ「あかね起きたの?カレーあるけど食べる?軽めのおうどんとかにしとく?」

 

あかね「___」

 

 

台所にいたのはピンクのツインテールではなく、赤い髪を短く切りそろえた女性___一色ましろだ。湯気を上げるお鍋の前で元気に動き回る彼女がつけているエプロンにあかねは見覚えがあった。家事をする際母が必ずつけていたピンク地に赤いハートのアップリケが縫い付けられたそれは、研究者としての白衣を脱いで母親として頑張る為に愛用していたものだ。そのエプロンはもう何年も箪笥に仕舞われていた筈だった

 

 

ましろ「マヨネーズはちょっとだけだよ?んーでも頑張ったからねーあかねは。今日は好きなだけ___わわっ!?」

 

あかね「お母さぁああああん!おかぁ……おがっ……ぐじゅっ」

 

ましろ「おっきな甘えんぼさんだなー?……よしよし。頑張ったもんね、あかね。えらいえらい」

 

 

せきを切ったようにあかねは母に泣きついた。これまで張り詰めていたものが緩み、複雑な感情をただストレートに吐き出したかった。あかねだってまだまだ甘えたい盛り。そしてましろも甘やかし盛りだったのだ。包み込むようにあかねを抱きしめて撫でまわすましろの瞳にも薄い涙が浮かんでいた

 

 

もも「ねえおかあさー……おっとっと」

 

 

調味料を取りに別部屋へ行っていたももだったが、慌てて陰に隠れて2人の様子を微笑ましく見守ることにした。大きな試練を乗り越えた姉が、思う存分甘える為には妹の自分がいては恥ずかしいだろうと考えたのだ。あとお姉ちゃんが大泣きして甘える様子を盗み見したいとも思っていた

 

 

あかね「おか、おかさああああああんうえええええええろろろろ!!!!」

 

ましろ「わああああ!?あかねが吐いちゃったぁぁぁああああ!!!!???」

 

もも「ちょちょ、だいじょうぶ!?」

 

ましろ「ももー!!!タオルもってきてタオル!!!!!」

 

 

見守っている場合ではなかった。ももはすぐさま脱衣所に飛んでタオルを数枚ひっ掴み台所にとんぼ返りする。あかねの嘔吐は疲労によるものというより、泣きゲロだった。少し感極まり過ぎたのだった。感情を爆発させて冷静になったあかねは鼻水とその他もろもろをももとましろに拭われている間に少し冷静さを取り戻した

 

 

あかね「お腹すいた……うげっ」

 

ましろ「わかったから一回お水飲みなさいあかね。おうどん茹でたげるから」

 

あかね「かれーうどんにして……」

 

ましろ「はいはい」

 

 

ぼーっとしながらちゃぶ台の前に座り、あかねにしては珍しくなんにも考える気にならず、気だるげに天井を見上げていた。アローンとの戦いが始まってからこの家には多くの友人が住み着いていて、どこにいても誰かと一緒だった筈なのに今あかねはたった1人居間で座布団の上に座っていた。妙な寂しさを紛らわせるために、辺りにあった座布団を引き寄せて抱きしめた

 

 

ましろ「はい、ゆっくり食べないとだめだからね」

 

 

こと、と机の上に器がおかれる。湯気の上がるカレーうどんをゆっくり食べ始めた

 

 

ましろは机に頬杖をついてその様子を眺める。言葉が交わされない、うどんをゆっくりすする音だけが聞こえる静かな時間がしばらく続いた。次に言葉を発したのは、お腹がそこそこ満たされたあかねだ

 

 

あかね「ごちそうさま!」

 

ましろ「お粗末さまです。いやぁ、久々に台所に立ったけどちゃんと身体が覚えてるもんだね。これからもちゃんとお母さんできそうだよ」

 

 

ケラケラと笑いながら器を下げるましろの顔をあかねはじっと見つめた

 

 

あかね「お母さん、もう元気なんだよね」

 

ましろ「うん。あかね達のお陰かな。示現力の呪いは完全に消滅したみたい」

 

 

一色ましろが抱えていた呪い。希望を背負ったあかねとは真逆に、この世界を一瞬で崩壊させる危険な呪いの示現チ力を内包した爆弾はましろの中から完全に消滅していた。超次元に存在する〈管理者〉達が与えた試練が完全に終了した証だ

 

 

あかね「そう、なんだね。よかった」

 

 

確かに示現力を与えた〈管理者〉達の試練は終わったのだろう。しかし、一色あかねの直感が告げていた。まだ自分がやるべきことは残っているのだと

 

 

居間に繋がるふすまがガラリと開けられた。漫画本を片手に握ったままのあろん子がそこに立っていた。彼女の真っすぐな瞳を見れば、なにか大切なことを言おうとしている事は誰だって解るだろう。あかねもましろも、息を呑んで彼女の発言を待った

 

 

 

あろん子「___あかね」

 

 

あかね「うん」

 

 

あろん子「この漫画、5巻だけがどこを探してもないんだけど___」

 

 

あかね「うん……うん?え、マンガの話……?」

 

 

あろん子「え、なんでそんな悲しそうな顔を……?私なにか悪いことしたかしら?」

 

 

あかね「あ、いや、ごめん。勝手に勘違いしただけだから。マンガ、あとで探すからちょっと待っててね」

 

 

あろん子が悪い訳ではないが、完全にやる気を削がれてしまった。あかねは状況を知ってそうな健次郎に会う為空になった食器を台所に下げる為に立ち上がった

 




あかね「いやシリアス展開じゃないんかーい!!」(座布団をあろん子の顔に叩きつける

という展開にするか迷ったんですが、あかねはあんまり激しいツッコミをするタイプじゃないかもしれんな・・・と迷った結果こんな感じになりました(ケンカになった時は容赦なくグーでいくけど




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話 「世界平和への誘惑」

 

 

 

___黒騎れいを殺しなさい

 

 

防衛軍総司令官は物騒な囁きを感じ取った。全てのアローンが倒されたという報告を指令室にて聞いている時であった

 

彼が辺りを見渡せば。自分だけでなく、指令室にいる全ての防衛軍隊員達がその声を聴いたようでみな戸惑っていた

 

この囁きの正体は虚空より舞い降りた一羽のカラスが放った言葉だった

 

 

突然の事態であっても兵士達は瞬時に反応した。士官も将校も関わらず部屋にいた全員が各々の銃を抜き侵入者へ向けたのは、この場にいる者達の練度の高さを示している。だが、銃が抑止力になる相手でないことを皆すぐに理解できた

 

本土の奥地、防衛軍本部地下に作られた厳重な作りの作戦指令室に鳥が迷い込む余地はない。黒い光沢を秘めた翼を緩やかに広げた異質な存在に対し、臓腑を鷲掴みにされたような悪寒を感じた総司令官は全員に銃を下げるよう即座に命じた

 

 

「話を聞こう」

 

「総司令!しかしアレは___」

 

「彼が___あるいは彼女が、我々と話し合いの場を持とうとしてくれている事に感謝するべきだ。そうだろう?」

 

 

防衛軍総司令の肩書をもつ男はそう言った。彼は危機管理能力が低い訳ではない。この場で最も得策なのは余計な事はせず、相手の出方を見るべきだと判断した

 

 

___黒騎れいを殺せば、この世界への侵略をやめてあげると言っているのですよ。正しい選択を行いなさい。この世界を守るか、守らないのか。その2拓です。

 

 

「それで我々に選択肢を与えているつもりなのか?せめて事情を深くお聞かせ願いたいものだが」

 

 

___私が情報を与えたとして、あなた達が己の罪悪感を和らげるための言い訳程度にしか使われないのは目に見えています。人間。醜く足掻きなさい。自分の巣を守りたいのでしょう?

 

 

嘲笑。言うだけ言って、すぐに虚空へ消え去った。

 

 

 

「総司令!申し訳ございません、すぐに基地を警戒態勢に」

 

 

「必要ない。用があるのは我々の命などではないだろうからな。……副指令は今日は非番だったか?」

 

「ええ。久しぶりの休暇なので絶対に連絡をしないでくれと___」

 

「すぐに連絡してブルーアイランドに飛んでもらってくれ。ごねたら君の休暇は今日が最後になるとでも言っておいてくれ」

 

「えぇ……怒られるのは私なのですが……了解です。すぐに連絡を付けます」

 

 

慌ただしく動く部下達から目を離し、総司令官は窓1つにない特殊会議室の中で考えを纏めるためゆっくりと目を閉じ、深く椅子に腰かけた

 

 

 

 

_______________________

 

 

 

 

 

 

「___これまで蚊帳の外に近い状態だった我々防衛軍本部も、現状についての理解は追いついたつもりだよ」

 

柴条「……」

 

長官「……」

 

 

管理局。最上階の指令室では防衛軍BI支部長官高野、管理局長柴条、そして本土防衛軍本部から遥々やってきた防衛軍総合副司令官、袴田が集っていた

 

 

袴田「ふむ……さて、どうするべきなのかな」

 

 

袴田が椅子の背もたれにその精悍な身体を投げ出すようにすれば、椅子はぎしりと音を立てる

 

 

長官「防衛軍上層部はどうされたいのですか?現場は皆知りたがっていますが」

 

袴田「とても揉めている。この世界は高度な緊張感を保っていた。示現エンジンという平和の象徴が崩れかねないこの事態に、これまで大人しくしていた者達が水面下から顔を出しつつある」

 

柴条「面倒な圧力が?」

 

袴田「民衆からも、政治家からもだよ。真実が全て公開できない以上、対応しなくてはならないお偉い方々は先日から不眠不休で頭を捻っておられる。私も今日は休暇だったが、ご覧のように引っ張り出されたんだ」

 

 

まるで他人事のように言いながら楽しそうに接待用のお菓子に手を伸ばす彼の様子を柴条と長官は真顔で見つめる。少々気まずそうに咳払いをし、袴田は話を続けた

 

 

袴田「防衛軍本部としては、自分達で犯人を裁きたいんだ。既に事態に収拾がついている事は最早どうでもいいのだろうけど……。つまり、解るね?」

 

 

彼が何を言いたいかは解っていた。柴条と長官は無言で視線を交わす

 

 

現在、管理局地下に作られた特殊牢に囚われている彼女の処遇について話し合いをする名目で袴田がここに来ている事は解っていた。これまでブルーアイランドにおいて管理局と防衛軍の行動に本部や国が大きな口を出してくることはなかった

 

 

それはかつて示現エンジンが完成した際に作られた協定の影響がある。示現エンジン、という世界規模に影響を与える存在を管理し防衛する役割が与えられた2つの組織はあくまで国の管理下にあるが、示現エンジン防衛という名目に関してはあらゆる組織からの干渉を拒否できるというものだ

 

 

他国に圧力を与える為に示現エンジンをするような事は無く、あくまで管理に徹するという恰好を付ける為の形だけの文言であったが、世界平和の足並みを乱したくない防衛軍本部、あるいは国家所属の組織は一連のアローン・ビビッド案件に表立って介入することなくBI管理局と防衛軍BI支部は邪魔をされずに行動することが可能であった

 

 

袴田「しかし情報が世に出すぎた。こうなれば、我々防衛軍も世界の危機に際し『動いた』という実績を得たい。要求はこうだよ」

 

長官「失礼かもしれませんが。くだらないですな」

 

袴田「皆そう思っているよ。個人としてはね。だが今世界は1つになって動こうとしている。君達が纏めてくれたレポートにあったように我々の世界の在り方がこれから大きく変わりうるのであれば、リーダーシップを取りたがる者達が再び世界中に台頭してくるんだ。まずは先手を打たなければならない」

 

 

柴条「あなた方の掲げる平和とは、少女を断頭台に上げて公開処刑を行うことで完成されるものなのですか?」

 

袴田「彼らの……いや、今更私だけ責任を逃れようというのは女々しいかな。そうだね、我々の求める平和を得るためにそれが必要だという事だよ」

 

 

長官は、ここにいるのが自分達3人と口の堅い複数の記録員だけでよかったと心底安堵していた。だがどうにせよ近い内にこの事はビビッドチームの面々に伝わるのだろうが___この世界は示現力そのものを怒らせるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 




完結見えて来たはずなのに、近づくほど遠ざかります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話 「一色家、満室につき」

___〈一色家〉___

 

 

 

あかね「お客さんがたくさんなのは嬉しいけど、お家に入りきらないよぉ!」

 

もも「抜かりなくもてなしてみせます!!お茶が配られてない人はいませんか!!?」

 

「あ、いやお構いなく……」

 

岬「あのあの、ごめんなさい!みんなで押しかけて……」

 

健次郎「かまわんよ」

 

 

かまわん、と言いながら健次郎も踏みつぶされないよう居間の箪笥の上に腰掛けている。今一色家には11人のウィッチと10数名の船乗り、そして謎のケモミミ少女が6人。パレット戦士4人、ましろ、もも、あろん子。全員が名乗り合うと日が暮れてしまうので、代表者が数名名乗り合い後は両勢力とも自部隊の簡単なプロフィール資料を提供しそれを代わりとした

 

 

島の傍には異世界からの来訪艦晴風が停泊しており、その中にも数十名の隊員が待機している状態だ。待機中のメンバーも岬が持ち込んだカメラ付き通信機でこの話し合いの様子を見ている

 

 

 

坂本「さてミーナ。場を取り仕切るのは任せていいな?」

 

ミーナ「ええ。こちら側の代表を僭越ながら務めさせていただきます」

 

 

現状把握の時間である。ビビッドチームの4人はあかねに遅れて順繰りに目を覚まし、とりあえず皆で一色ましろが作ったご飯を食べていたのだが、そこで玄関から501の面々がやってきたのだ

 

 

彼女達は完全なイレギュラーであり、しかも軍艦一隻と非常に目立つ。行く場も無かった彼女達は一時的にビビッドチーム所属となり、健次郎の指揮下にあることになっている。とはいえ大島の近くに堂々と戦艦(カテゴリとしては巡洋艦になる)が停泊しているのは目立って仕方がないのだが、事後処理でてんてこ舞いな防衛軍が彼女達異世界組の対処をしている余裕がないので押し付けられた健次郎には情報統制など知った事ではない

 

 

とりあえず家に招待して好き勝手喋ってもらおうという結論に至ったのだ

 

 

ミーナ「さて、取り合えず今回の戦い。お疲れさまでした」

 

 

「「「お疲れさまでした」」」

 

 

ミーナ「はい。では現状を。我々501は晴風の整備とこの世界での情報収集がある程度終了次第、元の次元への帰還を行います。その際、あかねさん達にディメンションゲートを開いてもらい〈ジャンプ〉の補助を行っていただきます」

 

あかね「はい!」

 

 

ミーナ「ありがとうございます。続いて、我々の世界の置かれている状況を。昨今、我々の世界では多数の〈ディメンション・ゲート〉の存在が確認されており、それに伴って他の次元からの来訪者を迎え入れています。それは時に敵であり、あるいは平和の為に我々に力を貸してくれる事もあります。第501特殊戦闘団は、そういった異世界由来の未知の技術や、我々ウィッチのように特殊な力を持つ者を中心に編成された部隊です」

 

 

ミーナが手で指し示した先で頭にネコミミを乗っけた少女達が小さく頭を下げた。彼女達はウィッチとはまた違い、どこか人間離れした雰囲気を放っている。わかばは手元のタブレットを操作し送信された501メンバーのプロフィールを閲覧する

 

 

彼女達について小難しい事が書かれておりわかばは少し理解に難儀した。

 

彼女達は〈KAN-SEN〉というカテゴリを与えられた自立兵器であるということであった。かつて世界大戦を経験した〈戦艦〉の魂をふーん、とあっさり受け入れたわかばの横ではひまわりが失神しそうになりながら未知の技術の塊である彼女達を凝視していた

 

ミーナ「我々の世界は今技術形態の変革期を迎え、同時に世界規模で大きな問題を抱えています。ネウロイだけでなく、様々な敵性生物の出現による混乱。それにより分断された各国が派遣を争い合う世界情勢の中で我々は日夜活動しています」

 

 

健次郎「ふむ。諸君らが示現エネルギーの情報を欲しいというのはそのためかの?」

 

ミーナ「はい。新たな技術形態の解明による戦力増強並びにネウロイという存在を解き明かしていく上で我々が避けては通れない知識だと考えています」

 

健次郎「これまで我々が培ってきたデータなら好きにもっていくがいい」

 

ミーナ「___よろしいのですか?」

 

健次郎「なんじゃその顔。『ならぬ!これは危険な力、どこの馬の骨ともわからぬ小娘にデータは渡せぬわ!』とでも言うとおもっとったのか」

 

ミーナ「失礼ながら、まさしくそう思っていました」

 

 

完全に肩透かしを食らった、という顔を隠さないミーナに対しぬいぐるみの腕を組み箪笥の上で健次郎は笑った

 

 

健次郎「芳佳くん達には随分助けてもらった。彼女達はあかねの友達であり、この家で生活を共にしたワシにとっての家族でもあり、そしてその芳佳くん達を助ける為遥々やってきた諸君らに敬意を持っておる。ワシができうることはしたい」

 

 

だが、と言葉を切った

 

 

健次郎「解決せねば問題がある。〈監視者〉を名乗るヤツの大元である上位存在との決着じゃ。試練が終わったというのならば、ワシらに対して何かしらのコンタクトがある筈。これが無いという事はまだワシらがすべきことがあるということじゃ」

 

 

かつて健次郎が最初に示現エネルギーの存在を解明した時、彼に語り掛けた〈管理者〉を名乗る特別な生命体。健次郎は彼らがもう一度姿を現す筈だと確信があった。そしてその時まで真の意味で試練が終わる事は無いだろうと考えていた

 

 

ミーナ「解りました。では我々も数日程滞在し、しばらく様子を見させてください」

 

健次郎「うむ。君達は功労者じゃからな、管理局に言って滞在に必要な物資を確保させよう」

 

 

あかね「あのぉ……れいちゃんどうなったの?」

 

 

そろそろ話題の切り替わるタイミングだと悟ったあかねが手を挙げて発言した。こればかりは健次郎以外の誰に聞いても解らないことで、この会議の準備に忙しく動き回っていた健次郎に今まで聞けずにいた事だった

 

 

健次郎「___わからん」

 

あかね「いや解らないんかーい!って思わずツッコミそうになっちゃったよ!」

 

健次郎「つっこんどるぞ。いや、あの戦いの後カラードブラック……黒騎れいくんは姿を消した。発見次第ワシの所に連絡を寄こすよう言ってあるが、まだその報告はないのう」

 

あかね「そうなんだ……。芳佳ちゃん達は見てないの?」

 

宮藤「あの後、私も少し探したんだけど結局れいちゃんは見つけられなかったんだ。坂本さんの〈魔眼〉とか、ミーナ中佐とサーニャちゃんにも手伝ってもらったんだけど……」

 

あおい「完璧な右フックキメちゃったから謝らないといけないのに。」

 

わかば「あろん子。あなた、もう一人の自分の存在ぐらいなんか察知できないの?」

 

 

座るところが無く天井に張り付くようにふわふわ浮いていたあろん子が意識を集中させるように目を閉じしばらく黙り込んでいたが、ふーっと息を吐いて首を振った

 

 

あろん子「うっすらとしか解らない。多分この世界にはいると思う」

 

ペリーヌ「もっとしっかりと居場所が解らないものですの?」

 

あろん子「無理ね。この前半殺しにされた時にただでさえ薄かった繋がりが一層薄まった感じなの」

 

シャーリー「しゃーない。あっちから出向いてくれるだろ」

 

 

「いえ、それはないでしょう」

 

あかね「天城さん!」

 

 

久方ぶりの顔出しである。防衛軍所属、ビビッドチーム戦術顧問の肩書を持つ天城二尉がいつの間にか一色家に姿を現していた。少し髪が乱れ額にうっすら汗が滲んでいる様子からも少しばかり急いできた事が伺える

 

 

わかば「それはないって、なんです?」

 

天城「タレコミです。黒綺れいと思われる少女が、管理局地下に囚われているとの情報です」

 

健次郎「___確かか?」

 

天城「確かです。私の同期が管理局の情報管理チームに勤めてるんですが……」

 

 

管理局の情報管理チームは世界でも最高峰の機密情報である示現エンジンに関する情報を扱う部署であり、当然自らが知りえた情報を他所へ流すなどあってはならないことだ。しかし、彼は天城に情報を流した。ほんの短いメッセージ文を天城のプライベート端末へ送信したのだ

 

『黒騎れいは管理局地下牢』

 

 

健次郎「その情報がワシのとこに来ないのにはどういった理由があるのかの?うっかり伝達の不備?はてさて___」

 

 

その時、部屋のテレビのスピーカーを通して鋭い警告音が鳴った。この音の意味は一色家で生活を送った者は知っていた。大島に接近する航空機、船。定期便として登録されていない乗り物が島の周囲の一定のラインを越えた場合作動する警報。健次郎が自衛の為設置したセンサーが反応を示した

 

 

健次郎「___成程、また馬鹿な選択肢を選びおったか」

 

 

老人は淡々と吐き出した。部屋の窓から、複数の武装ヘリと数隻の軍艦がこちらへ近づいてくるのが見えた

 

 

 




この作品が完結するより早くスト魔女3期きちゃいましたね。どんだけ長期連載なんだよって話ですけどもうちょいですから!つきあって!!!!!!!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話 「一色健次郎は世界平和の夢を見る」


突然登場人物が大量に増えました!!!全員に見せ場を作るのは難しそうですねこれは!!!


『みみみミーナ中佐!岬さああああん!!!!どうしましょううう!!』

 

 

通信機から悲鳴のような声が上がる。岬はすぐさま指示を飛ばした

 

 

岬「落ち着いて!防御フィールド展開!艦内に誰も侵入させないようにして様子見を!攻撃は控えて!」

 

ミーナ「ウィッチーズも全員待機!」

 

バルクホルン「ミーナ。しかし___」

 

ミーナ「落ち着きなさい。下手な態度を見せれば一気に立場が悪くなるわ」

 

 

血気盛んなウィッチは一度立ち上がったもののミーナに諭されて不満気に座布団に座り直した

 

 

健次郎「諸君らは何もせんでええ。ワシが話を付ける。まあ、もし話にならなければ___好きにせいあかね」

 

あかね「うん。……え、いいの?わたしほんとに好き勝手やっちゃうけど」

 

健次郎「皆まで言うな。ワシはお前にこの世界の運命を背負わせ、戦わせた。であればお前がやりたいようにやる事の責任もワシが全て背負うのが義理じゃろうが。いけ、あかね。お前のやりたいように、やりなさい」

 

あかね「わかった!取り合えず全員ぶっ飛ばしてれいちゃんのところに行くね!」

 

健次郎「ああいやちょっとだけ待つんじゃ。一応話だけでも聞いてやらんとな。ミーナくんと岬くん、君たちも一緒に来てもらえんか?」

 

ミーナ「わかりました」

 

「艦長、私も……」

 

岬「大丈夫。シロちゃ___副長はみんなと晴風で待ってて。何かあれば晴風への指示は任せるから」

 

 

家の中に招き入れるのも尺なのであかね達は家の裏の海岸へ飛び出した。それを視認してヘリが傍の砂浜へ着陸する。中から兵士達が飛び出し、あかね達を包囲するように展開した。お構いなしに仁王立ちするあかねの前にヘリから早歩きで降りて来た男が向かい合った

 

 

「一色健次郎博士。防衛軍本部より参りました、朝倉と申します。この度は突然の来訪___」

 

健次郎「申し訳ないと思う気持ちが欠片でもあると言うならさっさと本題を話してもらえんかの?ワシの貴重な時間が浪費されておるのじゃよ」

 

朝倉「___失礼。では本題を。示現エンジンの制御権は防衛軍本部が接収する事になりました。つきましては、あなたに知識顧問として防衛軍研究部に来ていただきます。ビビッドチームの全指揮権も防衛軍本部管理下に置かれることになりました」

 

 

健次郎「ほー。___どうした、続けてよいぞ?」

 

朝倉「……示現エネルギーの兵器転用は国の条例でも禁じられています。それは博士もご存じでしょう?今回それが見逃されていたのはあくまで特殊な状況下にあったからです。アローン問題が解決した今となってはあってはならないものです。違いますか?」

 

健次郎「おいおい、ワシと議論をしに来た訳じゃないんじゃろうが。さっさと言い分を全て言った方がいいぞ」

 

 

妙に敵意も怒りもなく朗らかに返答する健次郎の態度に肩透かしされた朝倉は一瞬言葉に詰まった後再び淡々と話し出した

 

 

朝倉「この平和は我々が管理します。あなた方には過ぎた力だ」

 

健次郎「時代の変換機に及んで君たちの生き方はまるでロマンが無い。汚らわしいな、軍人」

 

朝倉「感情だけで人は生きていけません。あなたは夢を追うことしか考えておられない。世界の手綱を握る器ではありません」

 

健次郎「馬鹿しか言わんな。君達は世界平和の夢すら捨てて何を追い求めておるというのじゃ?この世界は示現エネルギーにより誰もが幸せになれる平等な環境となりつつある。どこかの誰かが無駄な欲を出さん限りはな……。呆れたぞ、君達のトップにはワシ直々に一撃喰らわせてやらんといけんらしい」

 

朝倉「博士、あまり調子に乗った発言は控えたほうが良いと思いますよ?」

 

健次郎「それは君達が銃を持っているからか?数万人規模の軍事組織と、お金持ちの政治家くんがスポンサーだからか?君達はいつも間違えるな。誰かを従えることしか考えておらんからそんな道しか見えんのじゃ。」

 

 

 

あおい「___言いましたよね。あなた達の鉄砲は、アローンのビームより強いんですか?」

 

 

二葉あおいはとっくにブチギレていた。ビビッドチーム4人の中ではストッパー役に見える彼女も、あかねに銃口を向けた彼らに敵意以外の何物も持ち合わせてはいなかった

 

 

「抵抗するな!君達の態度いかんでは発砲が許可されている!」

 

 

あおい「それが脅しにならないって言ってるんですが!」

 

 

あおいは思い切り地面を踏みつけた。彼女の足元から発生した衝撃波が砂浜を中から吹き飛ばした

 

 

「「どわあああああ!?」」

 

 

展開した兵士達の戦列が崩壊する。吹き上がる砂があかね達に降りかかることはない

 

 

 

鍵による変身をせずとも、彼女達は目の前に立つ武器をもった人間を容易に制圧することができる。砂ぼこりの中から闇雲に放たれた弾丸もあおいが発生させた重力波が全て地面に叩き落とした

 

 

あかね「あ、あおいちゃんちょっと落ち着い___」

 

あおい「なんなんですかあの人達は!?あかねちゃんに銃を向けるなんて!!」

 

わかば(怖い)

 

ミーナ「凄まじい力ね……」

 

岬(おしっこ漏れちゃうかと思った)

 

 

 

倒れ伏した兵士達は動かない。凄まじい重圧で抑え込まれているからだ

 

 

わかば「博士。彼等は何を考えているのでしょう?このような言い方は謙虚さが足りないかもしれませんが、最早私達を力で抑え込む事は不可能だと容易に判断できる筈です。だというのにこのような無茶な態度は……」

 

健次郎「確かにのう。一体何が奴らに火をつけたのか___いや、あれか!諸君、空じゃ!」

 

 

あかね達は空を見た。遠くの空には複数の黒い飛翔体。赤黒い光線を発射する予兆を発している

 

 

ミーナ「___全体に通達!ネウロイに類する敵性体を確認!戦闘体勢に移行!」

 

 

発射されたビームは飛び出した芳佳が展開した巨大シールドで防ぐ。耳障りな金属音が空を埋め尽くし、複数のネウロイが空を舞っていた

 

 

ひまわり「あの形状は戦闘機だね。防衛軍が主戦力で運用してるのに似てるかも」

 

ミーナ「ネウロイは既存の兵器や物質に己の形状を似せる傾向がありますが……」

 

健次郎「ミーナくん!朝倉とかいうのをひっ捉えてくれ!尋問にかける!君達も自衛の範囲で戦闘行為を行ってくれてかまわん!この世界で自由に行動することをワシが認可する!」

 

ミーナ「解りました。全員晴風に搭乗!出撃準備を!岬艦長、ウィッチーズ以外の指揮は任せます!」

 

岬「わかりました!」

 

 

わかば「じゃ、私達は一足先に行きましょうかあかね」

 

あかね「うん。れいちゃんに会いに行こう」

 

 

あかねは握りしめた鍵を空にかざした。彼女を赤い閃光が包む。彼女達は空へ舞い上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






あおいちゃんが吹き飛ばした砂浜はあとで防衛軍の皆さんが謝罪の意を込めて埋め直しました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80話 「待てと言われたら走り出す女」

坂本「宮藤芳佳とはそういう女よ」

ミーナ「あなたに似てるわね……」

坂本「はっはっは!!!!!!!!」

ミーナ「笑い事じゃないのよ」

坂本「まあ、すまん」


天城「博士!」

 

健次郎「天城くんか!ワシを肩に乗せとくれんか!」

 

天城「ええ!」

 

 

砂浜へ駆けよって来た天城はぬいぐるみを抱きかかえると自らの肩に乗せ、ウィッチ達に続いて砂浜を駆けた

 

 

健次郎「頼んでおいてなんじゃが、ワシと一緒に来ると言うことは___」

 

天城「皆まで言わないで下さい。私はビビッドチームの戦術顧問です!あなた方に付きますよ!」

 

健次郎「頼もしい限りじゃ!」

 

 

ひっ捕らえた朝倉は担いだミーナに続いて、健次郎は晴風に乗り込んだ

 

 

朝倉「私を拷問にかける気か!?無駄な事を___」

 

ミーナ「明石さん。任せていいわね?」

 

明石「ん、任せるにゃ。さくっとしめやかに全部話してもらうにゃ」

 

朝倉「なんだこの猫耳!?」

 

ネコミミ少女は多くは語らない。喚いて抵抗する朝倉の鳩尾に腹パンして黙らせると、明石と呼ばれた緑髪のネコミミ少女は動かない朝倉を引きずって歩き去って行った

 

 

取り調べは任せて、健次郎と天城はミーナに導かれるまま艦橋に入った。モニターの光が点滅する艦橋では少女達が慌ただしく動き回っている。艦長の岬が健次郎と天城に気付いて軽く頭を下げた

 

 

岬「健次郎博士、取り合えず進路は管理局に向ければいいんですよね?」

 

健次郎「うむ、そのように計らってくれ。誰か通信を管理局へ繋いでくれんか?」

 

「はい、繋がってます!」

 

すぐさま傍にいた少女が通信機を手渡してくれる。行動の速さに感服しつつそれを受け取り喋り出した

 

 

健次郎「こちら一色健次郎じゃ。柴条くんはおるか?」

 

『一色博士?何か御用でしょうか。局長は先程からずっと会議室で防衛軍副指令とお話されてますので、御用があれば後程折り返しさせますが……』

 

健次郎「何の会議か知らんが伝えておいてくれ。今から殴り込みをかけるとな」

 

『えっ。博士!?なんですか!?今なんかヤバイ事を___』

 

 

健次郎「通信終わりじゃ。岬くん、ご機嫌な航行を頼むよ」

 

岬「解りました。進路調整!ブルーアイランド管理局へ!」

 

 

 

________________

 

 

 

あかね『まだちゃんと話し合ってないから。会ってきます』

 

通信越しにあかねの声を聞いた芳佳は格納庫に並ぶストライカーを見渡し、そして後ろに立つ坂本美緒の方を振り返った

 

 

宮藤「私も行きます」

 

坂本「宮藤。まだ待機だ」

 

シャーリー「理由が欲しいならありますよ。あの子はネウロイを操った事があります。あれらについて私達より詳しい筈だ。でしょう?」

 

バルクホルン「リベリアン、よせ」

 

シャーリー「どうしたバルクホルン。なんかおかしいか?」

 

バルクホルン「これ以上無茶を重ねるとミーナの堪忍袋が耐えられん。私とハルトマンがお前達がいなくなった後どれ程気を揉んだか解らんのか?」

 

シャーリー「あー……」

 

バルクホルン「宮藤。お前の気持ちも解る。彼女は友達だったんだろ?だが、お前が無茶に飛び出して行ってはお前の身も危険だ」

 

 

バルクホルンは少し目線を落として宮藤と向き合った。そして出来るだけ優しい声でそう問いかけた

 

シャーリー「フフッ」

 

堅物で通っている彼女がらしくない宥めるような声を出していることがあまりにも面白すぎたので小さく吹き出したシャーリーに対し、バルクホルンは光の速さでローキックを決める。声も無く崩れ落ちたシャーリーをガン無視して再び芳佳に向き直った

 

バルクホルン「解るな?」

 

宮藤「ヒェッ……」

 

エーリカ「トゥルーデ。めっちゃ怖いよ。それじゃ脅しだよ」

 

バルクホルン「何がだ!?おほん。とにかくだ。気持ちは解る。だが、我慢しろ」

 

宮藤「……はい」

 

バルクホルン「こっちを見ろ宮藤。ストライカーの方を見るな」

 

エイラ「止めたってしょうがないだろ。いいじゃん、行っちゃおう。どうせネウロイ出てんだから、出撃は時間の問題だろ」

 

サーニャ「……エイラ」

 

エイラ「ン?」

 

 

サーニャはぐっと親指を立てた。エイラも微笑んで親指を立ててバルクホルンの方を向く。バルクホルンは優しくサーニャのおでこを拳で小突き、エイラの頭に拳骨を落とした

 

エイラ「ンアナアアアアアッ!?差別ッ!」

 

バルクホルン「全く……」

 

宮藤「バルクホルンさんの言う事も解ります。でも、それでも……私は止まれません。呼ばれてるんです、れいちゃんに。あの子は助けを求めてる」

 

 

完全に敵対しても尚、宮藤芳佳は助けを求める者に手を伸ばす。芳佳の心は、あの日人型ネウロイの気配を感じ取った時と同じようにれいの思いを感じ取っていた

 

真っすぐ見つめて来る芳佳から目を逸らさずにバルクホルンは呆れたように溜息をついた。というより彼女は立場上出撃命令を待っているだけで、芳佳の考えに反対したい訳ではない

 

それでもバルクホルンは、自らが兵士の立場である限り感情が命令より優先される事はあってはならないという信念を持っている。可能な限りその信念に忠実でありたいと考えていた。この状況に判断を下せるのは、現時点でストライクウィッチーズの指揮権を持つミーナだけだ

 

 

 

あかね『芳佳ちゃん、先行ってるからねー!』

 

宮藤「命令違反、任せて!私の反省文をしまう為の引き出しがミーナ中佐の部屋に作られたくらいだから!」

 

ミーナ「ちょっと宮藤さん?その反省文の山の成果は出てないようだけど?私に逆らう事を楽しんでないかしら?」

 

宮藤「___今のは冗談です!」

 

 

いつの間にか格納庫へやって来ていたミーナは凄まじい頭痛と胃痛に同時に襲われたが、溜息1つでそれらを打ち消した。彼女程苦労人の経験を積むと、部下の問題行動により蓄積したストレスを一瞬で忘却の彼方へ押し流すことなど朝飯前なのだ

 

 

ミーナ「取り調べた結果、彼らの下に喋るカラスが現れたようです。そこで色々吹き込まれたようね。……彼らはネウロイを利用してでも、我々を足止めするようです」

 

バルクホルン「なんだと?そこまでして……」

 

ミーナ「取引をしたそうよ。言う通りにすれば侵略を止めると」

 

バルクホルン「馬鹿げてるな。ネウロイに交渉が通じるものか」

 

リーネ「バルクホルンさん、どちらかというとアローンですから……」

 

バルクホルン「どちらも変わらん。そうだろう、少佐?」

 

坂本「ああ、変わらんさ。弱い者を踏みにじり、不幸を振りまく。我らウィッチが戦うべき相手だ。___さあ行くぞ皆!ネウロイがいるならば、そこが我らの戦場だ!」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81話 「突撃となりの管理局」

____<管理局最上階・指令室>_____

 

 

指令室にて行われていた秘匿会議。何人たりとも入室を禁じられていた部屋の扉が突如開かれた。入って来たのは柴条局長の側近を務めている男と、防衛軍副指令袴田の補助として付き添ってきた若い軍人の2人だった。それぞれが自らの上司に耳打ちをしている間、唯一独りぼっちになったBI防衛軍支部長官は静かに顔をしかめた

 

 

袴田「来るのかい?例のビビッドチームが、ここへ?情報が漏れたとでも言うのか?」

 

びっくらこいた、という表情を隠さずに呟いた副指令のお陰で長官も今何が起きているのかを知ることができた

 

 

長官「彼らは正しい行いだと考えたのでしょう。副指令」

 

袴田「いや、僕としては情報が漏れた事に対して憤っているのだけど」

 

柴条「非常に言いにくいことなのですが、防衛軍副指令殿。この部屋は少々壁が薄いもので。たまたま指令室の前を通った者が小耳に挟んだのかもしれません」

 

袴田「君達は……正気かい?黒騎れいの処遇については我々防衛軍だけではなく、情報を持っている各国の首脳陣も賛同しているんだ。彼女を助け出せたとして、その行いに加担した者は世界を敵に回したと思われても仕方がない」

 

柴条「私達が何を考えているのか解らないのであれば、まぁ……直接話されてはいかがですか?」

 

 

柴条は懐から取り出したタブレット通信機を数回タップし、副指令の前に置いた

 

 

『失礼。一色健次郎じゃ』

 

 

直接話したことはないが、この世界で〈権力者〉を名乗る者であればその名を知らないものは無い。

 

 

袴田「___防衛軍副指令、袴田です。ご高名はかねがね……」

 

健次郎『あの無礼な兵士たちは君達が送り込んだのか?』

 

袴田「彼らが無礼だと感じさせる態度を取ったのであれば、我々の指導不足です。申し訳ない。しかし接触したという事は、朝倉君達の話は聞かれたのですね?」

 

健次郎『クソみたいな暴言混じりにヤツが吐いた情報によれば、君達は黒騎くんによくない事をしようとしているらしい』

 

袴田「処刑を、考えています」

 

健次郎『諸君らのそれは、テロリストの要求に屈するということじゃ。相手のスケールにごまかされ、冷静な判断力を欠いておる。あんないかにもな悪者に踊らされて恥ずかしくないのか?』

 

袴田「どうであれ、それが世界の意志ですよ博士。黒騎れいは処分するべきです。例えそれで事態が好転しなかったとしても、少なくとも試す価値は十分すぎるでしょう」

 

健次郎『今更女の子1人生贄にして収まる問題な訳なかろう』

 

 

喧嘩腰に割って入ったのは天城であった

 

 

天城『お言葉ですが。あなた方の判断の最大の問題は倫理観どうこうより、ビビッドチームを敵に回すことにあるます』

 

袴田「君は?」

 

天城『BI防衛軍航空隊所属、天城二尉です』

 

袴田「君のそれは……脅しのつもりなのかね?」

 

 

天城『お言葉ですが。これまでアローンとネウロイという未曽有の大災害を撃退してきたのは彼女達です。彼女達には、この世界の行く末に口を出す権利があるでしょう。それを力づくでどうにかできるだけの力も備えています』

 

 

袴田「ふむ。驚異の脅威だね。なら彼女達がこの部屋に来て私の目の前に立ったなら、私の副指令の椅子に賭けてでも総司令を説得してみせよう。世界を担うに相応しいだけの力を世界に見せてくれ」

 

 

 

_________________________

 

 

 

岬『あかねちゃん!露払いはこっちでやるから、どんどん突っ込んでいって!ミーナさん、ウィッチの皆さんも船の守りは結構ですからあかねちゃん達の方へ!』

 

あかね「うん!わかった!」

 

 

 

返事をしながらブーメランを投擲し、前方2キロ先にいた戦闘機型ネウロイを真っ二つにする。あかね達はその気になればあらゆる障害を無視して管理局の中へ直接瞬間移動する事も出来た。しかし、現時点でそれに意味は無い

 

 

れいを助け出すという事だけに焦点を絞るのであれば最適解なのかもしれない。しかしあかねはそれと違う方法を選んだ。正面から殴り込み、力で圧倒するという方法だ

 

 

管理局へ飛行するあかね達に向けて放たれる弾丸もミサイルも、全て彼女達の足止めにもならない事を証明しなくてはならない。健次郎との通信を聞いていたあかね達は己の立ち居振る舞いをどうするか決めていた

 

 

ひまわり「スキャン完了。こっから管理局までの間にいるのは全部ネウロイ。中に人いないし、ぶっ壊してオッケーだね」

 

わかば「ならお構いなし!天元理心流・桜花落雷斬!」

 

 

全力で振るわれた一刀が極大の斬撃波を放った。遥か彼方まで届く斬撃から逃れることは出来ずネウロイが撃墜されていく

 

 

あおい「しかし、本気で私達の足止めをしたいならあのカラスが出て来ないのはなんでだろう?そもそも、カラスってれいちゃんが倒してなかった?」

 

 

喋りながら片手間にあおいが振るうハンマーは嵐を起こす。暴風に巻き込まれたネウロイは枯れ葉のように制御を失って海面に叩きつけられ爆散する

 

 

あろん子「あのカラスは〈観測者〉の分身の一体に過ぎない。本体はこの次元から離れた場所にある。示現力の塊みたいな本体が直接この世界に入ってくることはできないから……」

 

あかね「なんでできないんだっけ?」

 

あろん子「示現力の塊だから、この世界に触れただけで呑み込んで一体化してしまうのよ。我々を偉そうに試してる立場にある以上、私達を自分の一部にするなんて嫌がるでしょうね。それに、もう試練が終わったというのにこの世界に居座る理由が解らないわ」

 

わかば「きっとれいの所にいるわ。私達が来るのを待っているでしょう」

 

 

彼女達は真っすぐ管理局へ向けて飛んだ。道中何度もネウロイが襲い掛かってきたが、その悉くが一撃で瞬殺されあかね達に傷の一つも付けることはできなかった

 

 

家を飛び出してから数十分足らず。あかね達は管理局を空から見下ろしていた。いつもの周波数で飛んでくる通信は警告と注意と罵声だったが、その中に僅かながらいつものオペレーターさんの声も混じっていた。れいが地下にいる事と、それを教えるのを邪魔しようとする男の人が怒鳴り声を上げるのが聞こえる。聞き間違えでなければ数発の弾丸が発せられた銃声がおっかけて耳に飛び込んできた

 

 

ひまわり「指令室周りでも揉めてる!そっちも助けないと!」

 

バルクホルン『そっちのゴタゴタは我々が介入する!君達は宮藤達と地下へ行け!』

 

 

後方から迫っていたウィッチ達がそのまま管理局最上階の指令室の窓をぶち破って中へ突撃していく。通信機越しに聞こえる悲鳴は、人間を遥かに凌駕する身体能力による圧倒的仲裁が少々痛みを伴うものだからだろう

 

 

宮藤「追いついた!行こう、あかねちゃん!」

 

ペリーヌ「わたくしも同行しますわよ」

 

リーネ「お邪魔でなければ……」

 

わかば「助かるわ。手を貸して」

 

ひまわり「あの中二病ちゃんに説教かましに行こっか」

 

あかね「よーし行くよ!」

 

 

あかね達は正面ゲートの扉を蹴り破って内部へ突入した

 

 




更新は夜中に限るなぁ!!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82話 「真っ赤なハートは止まらない」

あおいちゃんが制御できなくなってきました。原作の大人しめのあおいちゃんとは別人だと思ってください。まあ最終章で書くべき注意でもないとは思いますが!!!すいません1!!!!!


「おい!ここの防壁の強度は十分なのか!?」

 

「ええ。管理局地下は示現エンジンに関する最重要機密の保全も担当しているエリアですから。大戦時のあらゆる敵対組織の攻撃に対応できるよう建造されていますので!」

 

「ビビッド、来ます!」

 

 

管理局地下の一室で武装した部隊が待ち構えていた。部屋のドアは分厚い隔壁が降ろされており、それを突破するのは一筋縄ではいかない。地下であることを考えれば滑落の危険性を鑑みて爆薬で吹き飛ばすということも現実的ではなく、狭い入り組んだ通路が続く管理局地下に大がかりな重機を持ち込むことも不可能。ただ時間を稼ぐ、という点では非常に優れた壁であった

 

 

〈ドカーン!〉

 

 

「破られたァー!!!」

 

 

あおい「失礼します」

 

 

もっとも今のあおいにとっては薄いベニヤ板と同じだった。両手の拳を青白く発光させたあおいが粉々に砕け散った隔壁の欠片を蹴飛ばしながら地に降り立つ。首に手を当てて顔をコキンと斜めに傾け、並んだ武装集団を無表情で見渡した後心底面倒くさそうに淡白に言い放った

 

 

あおい「自分達の足で脇に退いて下さい。できなければ吹き飛ばします」

 

「撃てッ!」

 

「しょ、正気ですか!?相手は___」

 

「相手は怪物だ!」

 

ペリーヌ「ま、お口が悪いこと。魔女の雷を喰らいなさいな」バリバリッ

 

あかね「どいてどいてー!!」

 

わかば「どかないなら1,2週間は入院してもらいますよ!」

 

 

銃弾は芳佳のシールドが全て受け止める。ペリーヌの電撃を防ぐ手段は存在せず、暴走機関車と化したあかねとわかばに吹き飛ばされ全員壁にめり込む。容赦なくハンマーを振り下ろそうとするあおいはひまわりが必死に説得し、不承不承ながら手加減を了承したあおいはあかねに向かって罵声を上げようとしていた指揮官らしき男を腹パンで黙らせた

 

 

あかね「この先……れいちゃんがいる」

 

確かな気配を察知したあかねが静かにそう呟いた。固唾を呑んで緊張するメンバーを見たあろん子が何気なく呟いた

 

あろん子「ゲームならあれね、選択肢が出て『ここから先はセーブができないぞ』って言われるところね」

 

ひまわり「あーめっちゃ解る!!!!」

 

あおい「2人とも」

 

あろん子「はい」

 

あおい「真面目に」

 

ひまわり「うん」

 

冗談で場を和ませようとしたのに……と言い訳しようとしたあろん子とひまわりはあおいのハイライトが消えた眼を見て瞬時に姿勢を正した

 

仕切り直して。あかねは最後の通路を滑るように滑空して突き進む。前方にあるドアはけ破るまでもなくあかね達を受け入れるように静かに開き、ビビッドチームは遂にBI管理局最深部に侵入した

 

 

あかね「___」

 

 

最期の部屋には兵隊達の姿は見えない。警戒しながらも芳佳達は周囲をぐるりと見渡した。天井も横幅も広々とした大きな空間になっている。目を凝らせば様々な機械が並べられており、元は何かを実験するために用意されたスペースだったのかもしれない。だがこの部屋が今どういった役割を果たしているのかは中央にあるものを見ればすぐ理解できるだろう

 

 

半透明のエネルギーフィールドが筒状に天井へ向けて伸び、その中に一人の人間が閉じ込められている。トレードマークでもあるマフラーこそ巻いていないが、入室してきたあかね達を目を丸くして見つめて来るのは間違いなく黒騎れいだった

 

 

れい「!!???」

 

あかね「びっくりしたって顔してるから先に言わせてもらうけど___助けに来たよ!」

 

れい「たっ……はぁ!?」

 

 

_________________

 

 

 

隔離実験室の扉が開かれた音を聞き、れいはゆっくりとそちらへ顔を向けた。また七面倒な尋問か、意味のない悪口でも浴びせられるのだろうかと考えながらうんざりしていた

 

 

ビビッドフォースに敗れた後、れいは崩壊した街並みに倒れていた。彼女のギラついた戦意はへし折れ、次の行動を取る気概はすっかり失われていた。やがて捜索に来たであろう防衛軍の軍人は抵抗しない彼女をおっかなびっくりながら捕らえ、取り合えず管理局へと運び込んだ

 

 

乱暴な扱いは受けなかった。というよりそんなことをする勇気が普通の人間にある筈もない。抵抗をしないといえど、いつ爆発するか解らない超大型爆弾と同じような危険物。ただ、黒騎れいを捕らえたという報告が局長である柴条に送られるのにはかなりのラグが発生した

 

 

防衛軍の息のかかった者が管理局内に紛れ込んでいた事が事態をややこしくした。彼らは指揮系統の間に割り込み、柴条が事態に気付く頃には黒騎れいは地下の特殊牢に入れられていた。さらに防衛軍本部指揮下の兵士達による少々乱暴な情報統制が敷かれてしまい、即座に健次郎へ連絡することも出来なくなってしまったのだ

 

 

……とまあ、その辺りの事情はれいには知る由もない。彼女はぼーっとされるがままに運ばれ、何を閉じ込める為に用意されたのか解らない全面エネルギーバリアが張られた仰々しい牢に閉じ込められ、その後何度か尋問めいた事をされた。しかし最早喋る言葉もないれいは完全に無視を決め込み、ここ数時間は完全に放置されている状況にあった

 

 

だから色とりどりの少女達とごっつい銃を抱えた魔女達が扉からぞろぞろと入って来たのを見て思わずずっこけそうになった

 

 

「助けに来たよ!」

 

 

その言葉を聞いて完全にずっこけた

 

 

れい(いや、助けに来た-じゃないでしょ!!!!???私敵だって解ってないの!!!???)

 

 

そう口にしたくて、でも言葉にならなかった。色んな感情が吹き出して、もごもごと口の中で形にならない思いを拳に握って壁に叩きつけた

 

 

ジュッと音がして光の壁に接触している手に猛烈な熱さが伝わってくる。普通の人間なら瞬時に肉が焦げ付く筈だが、変身はしておらずともれいにとってはちょっと火傷するかしないか程度の痛みしか伝わらない。ただその程度の刺激でもれいの気を紛らわせる効果はあった

 

 

れい「……私を殺せるのはあなただけ。そう、成程。私を処分しようという事になったわけね。だから送り込まれたと、そうよね?」

 

あかね「え、なに言ってんのれいちゃん?」

 

ひまわり「なんかめっちゃ拗らせてるじゃん。自分をラスボスだと思い込んでるメンヘラみたいな事言い出したよ」

 

ペリーヌ「はいはい、煽るのはおやめなさいな」

 

宮藤「さっさとこのバリアぶっ壊しましょうよ」

 

れい「待って。待ちなさい。私と話しなさいって」

 

あかね「散々喋ったじゃん。殴り合いもしたし、もうケンカは終わりでいいでしょ?」

 

 

芳佳とリーネが飛び上がり天井を這う太いケーブルを引きちぎった。火花が迸りれいを囲っていたバリアが重苦しい電子音を立てつつ消滅していく。れいはあかねと距離を取ろうと数歩後ずさったが、かまわずあかねは一歩踏み出す

 

 

れい「あなたおかしいわよあかね。私が何をしたか___」

 

あかね「いいから。もう大丈夫だから」

 

れい「なんで……」

 

あかね「助けてって、言って」

 

 

 

指し伸ばされた手を握りたい。そう思ってしまう自分の心を抑えきれず、遂には涙が頬を伝う。こんな思いをするのは、かつて切り捨ててあろん子に押し付けた感情が、先の戦いを通して自分の中に少しずつ戻ってきているからだろう

 

 

れい「____たすけて」

 

あかね「うんっ」

 

 

れいの手を掴んで、ぐいっと抱き寄せた。複雑な問題が山積みである中で少々都合の良すぎる話かもしれないが、面倒なごたごたは一旦横に置いておこう。要はあかねは、ただ泣いている友達を抱きしめたかっただけで

 

 

れい「___ただいま」

 

あかね「うん。おかえり」

 

 

れいはずっと、家に帰りたかっただけなのだ

 





※防衛軍側に死人は1人も出てません。セーフです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83話 「それは最後に闇から現れる」


いつもより長くなった!!!と思ってたらおんなじこと二回書いてた!!!!そりゃ多い!!!!!!!!


シャーリー「博士!柴条局長の安全を確保しました!」

 

 

抵抗していた防衛軍兵士が一人残らず縛り上げられた後、シャーリーは通信機に向けて誇らしげに声を上げた。彼女達は管理局内部に突入し、半ば軟禁扱いされていた柴条と管理局職員達を救出する事に成功した

 

 

健次郎『流石の手際じゃシャーリーくん。助かるぞ』

 

柴条「皆さんありがとうございます。先生、防衛軍本部にアローンの手が……」

 

健次郎『まさかここまで大胆に踏み込んでくるとはのう。追い込まれているとはいえ、ワシらを軽んじれば痛い目を見るのは解ったじゃろう。で、防衛軍副指令殿は重い腰を上げてくれるのかの?』

 

袴田「ええ、思い知りましたよ博士。私の持ちるう限りの権限を使って防衛軍を大人しくしましょう』

 

健次郎『なんじゃ、随分とあっさりじゃのう。何か企んどるのか?企んどるんじゃろ?』

 

袴田「いえいえ。本物の〈魔女〉に囲まれてしまってはそんな事できませんとも。……まあ、ぼくは君達の力を見て、その力が正しき事に使われるだろうと確信できました。であれば、防衛軍のやり方も変えなくてはならないと判断したのですよ」

 

 

健次郎『未来を創るのは若者達じゃ。だが、諸君らがこの国を守る為に命を賭けてくれた事を軽視しておるわけではない。それは解って欲しい』

 

袴田「解ってますよ。僕もロマンチックな世界平和を求めているんです。夢を実現してくれるなら出来る事をすべてやらせてもらいますよ」

 

 

 

____________________

 

 

あろん子「全く……私の相方は随分手間をかけさせるわね」

 

ペリーヌ「全くですわよ。で?どうしますの?」

 

あかね「考えてなかった……」

 

わかば「考えてなかったわね……」

 

ひまわり「だと思った。どうもこうも、れいを死刑にするのは悪手だって言い分を通せばいい。あろん子と一体化して記憶を取り戻してもらって情報をもらえば私達にとって至高の情報源になり得る訳だし、そもそも自分の精神を半分に切り分けての行動なんて正常な精神状態じゃない。情状酌量の余地もあるって言い張れる」

 

わかば「流石考えが深い!」

 

ひまわり「あなた達はもうちょっと考えてね」

 

 

れいは服の袖で涙を拭ってあろん子と向き合った。まるっきり同じ顔の存在が2人。なんとも奇妙だが、2人には決定的な違いと致命的な共有点があった。内包する感情と、所有する力の大きさだ。れいは力と記憶の殆どを、あろん子はれいが持っていた温かな心を持っていた

 

 

れい「……」

 

あろん子「なに見てるの?」

 

れい「いや、あなたよく元気でいられるのね。一応しばらく動けないよう半分ほど削ったはずなのだけれど」

 

あろん子「あかねに取り込まれて再構築されたから」

 

れい「そう……」

 

あろん子「……」

 

 

それっきり完全に黙り込んだ2人の様子を見守っていた周囲だったが、なんかこのままだと事態が先に進まないような気がしたのであかねがおずおずと切り出した

 

あかね「なんかその、合体とかしないの?」

 

れい「嫌よ」

 

ひまわり「は?」

 

れい「ほんの少し心が戻って来ただけで自分の中の気持ちが整理できなくて気持ち悪い。吐きそう。いらない」

 

わかば「あおい、抑え込んで。無理やりあろん子をぶちこんでやるわ」

 

あおい「OK」

 

 

有無を言わさずあおいがれいの後ろから肩を掴んで逃げられないよう抑え込む。ぎょっとして反論しようとしたれいに対し、わかばは棒立ちのあろん子の背をれい目掛けて押し込んだ

 

 

れい「やめなさい!やめなぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

あろん子「!!!?????」

 

あろん子の身体はれいに吸い込まれるようにすぽんと入っていった。二つの影が一つに重なり合っていく。しかし完全に重なり合ったかと思われた瞬間、何かが弾けたような大きな音と共にあろん子とれいはそれぞれの反対方向に吹っ飛ばされた

 

宮藤「わわっ!大丈夫!?」

 

あろん子「頭を派手にぶつけたわ」

 

 

慌てて近寄った芳佳は目を白黒させるあろん子を抱き起こした

 

 

れい「そう簡単に元に戻れる訳ないでしょ!?」

 

わかば「そういえばドッキングって結構繊細だったわね。忘れてたわ」

 

 

「そうです。本来、片手間でなせる業ではないのですよ。異なる魂を1つになどと」

 

 

声がした。悪寒が走る。感情の無い金属音を孕んだ声は直接鼓膜を揺らしてくる。部屋の中央に出現した黒い塊がカラスを形作り、あかね達を見下ろした

 

 

あかね「最初からわたし達のとこに来ればいいのに。回りくどいんだね」

 

「試練を終えていない世界に私が直接手を出すのはリスクが大きいのです」

 

あかね「……終わってないの?」

 

 

一色あかねの心情は、片付けたと思った宿題が鞄の奥底にまだ残っていたのに気付いた時のようなうんざり感と絶望感を綯い交ぜにしたものになっていた

 

 

ペリーヌ「どういうことですの?最後のアローンとやらは倒された筈。もしやあなたもお相手してくださるのかしら?」

 

「あなた方が試練をクリアできなければ手を下すのは私の役目となるでしょう」

 

 

身構えるウィッチ達を見てもカラスは淡々と話を続ける。しかしその視線がれいとあろん子を射抜いている事は容易に解った

 

 

「あなた方は全てのアローンを倒したつもりなのでしょうが、そうではないでしょう?最後に1人……あるいは2人。残っている筈です」

 

 

誰かが息を呑んだ音が小さく部屋に響く。ウィッチーズとあかね達は済んでの所でれいとあろん子の方に顔を向ける事を我慢した

 

 

あかね「そんなの絶対お断りだよ!」

 

「彼等には伝えました。黒騎れいを殺せば試練は終わりです。そうでなければこの世界に終焉がもたらされます。あなた1人の感情で決めていい問題ではないでしょう?」

 

 

健次郎『そう、その通りじゃ。少女一人が決めていいものではなく___』

 

袴田『背負っていい問題でもない』

 

 

天井のスピーカーから響く、健次郎の声。少し間を空けて響くのは副司令官でもある袴田の声だが、あかね達はその声を知らない。首を傾げて様子を伺うあかね達を置いて会話はカラスとスピーカー越しの大人達の物へ移行する

 

 

「子供の躾がなっていないようですね。幼い者に力を持たせるからこのような面倒な事態に陥ってしまう。〈管理者〉達も残酷なことをなさるものです」

 

袴田『いいや、彼女達はこの世界で示現エネルギーを持つに最も相応しい人物であったことを身をもって証明した。命を賭けて戦い、勝利し続けた』

 

「……ほだされたというのですか?」

 

袴田『彼女達は若い。希望に溢れている。僕達のように残酷で冷酷な物だけがリアルだとねじくれた考えしか持たない老いた者とは違う』

 

「理想と心中するというのですね。あなた方は恐怖に呑まれ正気を失っているだけです」

 

袴田『いいや。僕たちは恐怖に呑まれ、少女を犠牲にしようとした。過ちだったんだよ。今度こそ勇気をもって希望を信じる、それが僕達の選択だ。防衛軍総司令とも話は付けた。

 

……一色あかねくん、そしてビビッドチームの皆さん。本当に申し訳なかった。自分の弱さに一度屈した僕達を許して欲しい。そして、改めて宣言しよう。我々防衛軍はこの世界を平和にする為に___君達に全てを託し、君達の為に戦う。この世界の行く末を決めてくれ!その権利が君達にはある!』

 

 

あかね「オッケー!___て言っても、やることは1つ!この世界の友達も、異世界の友達もみーんな救ってハッピーエンド!」

 

あかねがれいを守るように自分の背中に隠す。芳佳があろん子をぎゅっと抱きしめ、ペリーヌとリーネがカバーするように前に出る。ビビッド戦士達が力を立ち昇らせ、目の前の敵に戦意を見せつけた

 

「二兎を追うものは一兎をも得ず。そのような言葉がこの世界にはある筈ですが、まさかご存じではないのですか?」

 

あかね「示現力を使えばどっちのウサギさんとも仲良くなるのは簡単なんだよね」

 

「……示現力は選ばれた者が使うべき力。あなた達は相応しくない」

 

あおい「あなたが決めないで下さいよ。偉そうですね」

 

あろん子「散々引っ掻き回してくれちゃって。覚悟できてるんでしょうね」

 

 

「……そうですか。そういう選択肢を取るというのですか」

 

 

この瞬間、初めてカラスは苛立ちを隠そうともしない態度を取った。これまでも不快感をアピールしてきた事はあったが、どこか芝居がかったものであり本音とは程遠いもの。それが今間違いなく心の底からの感情を露呈した

 

 

「面倒な事になりました。本当に___面倒な事になった」

 

 

溜息と共にカラスは羽を広げた。瞬間、爆発的に黒い霧があかね達の周囲を覆っていく

 

 

「あなた方のような無想家に何が成せるというのか。___沈め、低次元の生物共め」

 

 

吐き捨てるような言葉と共に底知れぬ悪意が解き放たれた

 





お察しの通り、最終決戦です。各々好きなBGMを流してください。ぼくはACシリーズからThinkerを聞きながら執筆するつもりです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84話 「黒い翼の天使」

あと2週間で2020年が終わります。今年中に達成したかった目標が終わってない方は自分を追い込んでいきましょう。ぼくも自分を追い込んでいます


黒く淀んだ空気があっという間に部屋を満たしたかと思うと、それは瞬時にドロリと液体のような物に変化してあかね達を呑み込まんとする

 

 

あかね「みんな近くの人と手繋いで!離さないで!!」

 

 

あかねはれいを、あおいはリーネと手を繋ぐ。わかばはペリーヌとひまわりを両手に掴んで抱き寄せた。芳佳とあろん子は背中を預けるように身体をくっつける

 

 

わかば「なんなのこれは!?出口はどっち!?」

 

ひまわり「まっすぐ上!天井ぶち破って退避!!」

 

あおい「上ってどっち!?」

 

ひまわり「___!」

 

リーネ「声が聞こえない!通信が……!」

 

 

 

あおいの疑問は最もだった。闇に呑まれた瞬間彼女達の方向感覚は完全に失われてしまった。というより、密着している友達を以外の仲間達の気配を感じ取れなくなった。行動に移るより早くどこからか凄まじい風が吹いたかと思うと、辺りを覆っていた闇が薄まっていく

 

 

ひまわり「わお。マジ?」

 

ペリーヌ「驚きですわね……」

 

 

周囲をぐるりと見渡せばここが既に室内でない事は容易に解った。どこまでも灰色の空が広がっている。さらに困った事に、上も下も空だったのだ

 

わかば「また面倒な事になったわね……」

 

 

呆れたように呟いて周囲を見渡す。別の空間で、あかね達も同じような景色に囲まれていた

 

 

 

_______________________

 

 

 

ミーナ「何が起きたの!?」

 

「ビビットチームの反応が全て消失!宮藤さん達とも連絡付きません!」

 

健次郎「直前のエネルギー反応を見るにディメンションゲートに似たような現象が一瞬発生しておる!彼女達は違う次元に飛ばされたのじゃろう」

 

ミーナ「不味い事態ですね」

 

健次郎「相当マズイじゃろうな。あかね達の今の力があれば次元の跳躍は可能じゃろうが、そう簡単に事が運ぶかは怪しい。仕掛けてきたのは高次元生命体じゃ」

 

 

健次郎が唸った直後、晴風を衝撃が襲う。正体は管理局上空から放たれたエネルギー反応だ

 

 

岬「警戒!」

 

「なんだあれは……!」

 

 

艦橋に取り付けられた巨大モニターが映し出したのは、途方も無く大きい黒い靄の塊だ。曖昧ながらも徐々に明確な形を取り始める。一枚の布をドレスのように纏った人間に見えるが、頭の部分が存在せず天使の輪のようなものが3つ重なって浮いていて不気味に明滅している

 

背後にはボロボロの翼が左右不ぞろいに広がり、胴体の脇から生える腕は骨だけでできているような不格好で細長いものだ。その指先から白い熱線が放たれ、近くに待機していた防衛軍艦隊の一部が消し飛んだ

 

 

「やばくない!?」

 

岬「各員対空戦闘準備を!ミーナさんも出撃をお願いします!」

 

ミーナ「解ったわ!」

 

 

ミーナが走りだし艦橋のドアを蹴飛ばすように開く。勢いよく飛び出そうとするが、視界の下に桃色の何かが映り込み反射的に足を止めた

 

 

「わわっ!」

 

ミーナ「え、ももちゃん!?なんでここに!」

 

ひっくり返って尻もちをつきそうだったももの腕を掴んで引き起こし抱きかかえる。罰が悪そうにももは指をこねこねとしながら視線を左右に走らせた

 

 

もも「あのー、あのーえっと!ついてきちゃいました!」

 

健次郎「もも!ええい、家で待っておれと……いや、ここに居た方が安全か!?岬くん、この大バカ者をここに置かせてくれい!」

 

岬「は、はい!ももちゃん、こっちにいい椅子あるから!」

 

もも「い、いえ!おじいちゃんを抱っこして立ってますから!」

 

健次郎「何故来たもも。いや、大体察しは付くが」

 

もも「お家になんていられないよ!何にも手伝えないけど、最後くらい一緒にいたい。だめ?」

 

健次郎「いや、かまわん。……ましろは?」

 

もも「お母さんなら途中で調理場の人達がてんてこ舞いなのを見かねて炊き出し手伝ってるよ」

 

健次郎「ああんもう、家におれっちゅうのに!」

 

岬「晴風浮上!」

 

「艦長、作戦は!?」

 

岬「全火力を叩きつけて!相手の攻撃をこっちに引き付けて、防衛軍の人達を守らないと!」

 

「いいねぇ派手だねぇ!!じゃあなんちゃって波動砲いってみようかー!!」

 

「全く……私達の晴風を好き勝手改造してくれたものだ!元の世界に帰った時どうするんだ!?」

 

岬「あはは……。まま、とにかく今を乗り切らなきゃね?」

 

__________________

 

 

 

バルクホルン「宮藤達はどうなったんだ!?」

 

エイラ「わかんね!でもよそ見してられないぞ大尉!」

 

 

大空を闇が覆っている。その全てから敵意が伝わってくるのだ。歴戦のウィッチ達もたまったものではない

 

 

ミーナ「こちらミーナ、ただいま現場に合流するわ!」

 

坂本「来てくれたか!どうする、ミーナ!」

 

 

指揮官の合流により部隊は落ち着きを取り戻した。しかし、あっさりと解決に辿り着ける訳ではない。未知の現象、想定外の敵。次元を超越する存在を相手取るのに気負わないというのは無理があるだろう。しかしミーナも坂本も、部下を率いる立場である彼女達はどこまでも冷静であろうとしていた

 

 

ミーナ「どういう攻撃をしてくるかは解りません。距離を取って様子を見ます!」

 

ルッキーニ「芳佳達を助けにいかないのー!?」

 

ミーナ「まずは相手の情報を集める事に専念しましょう!あかねさん達も一緒にいるはずですから、自力で脱出してくる可能性も高い。私達は自分達の身を護る事に集中しなければなりません!」

 

 

『最早あなた方に用はありませんが……今まで邪魔をしてくれた罰を与えなければなりませんね』

 

 

次元に裂け目が産まれ、そこからネウロイが現れる。最早見飽きた光景だが、出現したネウロイは5体。薄く丸い円盤を模したネウロイだ。サイズは精々4m程だが、これまで相手にしてきたネウロイとは一線を画すものであることは一目で解った。ミーナは鳥肌が立つ感覚を覚えながらも瞬時に指示を出す

 

 

ミーナ「これまでとは格が違う敵であると思われます!各自警戒を!」

 

坂本「相手にとって不足はない!いくぞ!」

 

 

 

円盤から放たれる破壊光線をひらりとかわし魔女達は空を駆ける。飛び出してきた円盤の一体にすかさず銃弾を集中させ、動きが鈍くなった円盤を坂本の刀の一閃が襲い真っ二つに両断してみせた

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第85話 「次元の向こうにいる私」


もうじきクリスマスですが、みなさんサンタさんに何を要求しましたか?ぼくは有給を要求しました(韻を踏む


『分断してしまえば恐れるに値しません』

 

 

周囲から声が聞こえる。耳障りな音をかき消そうとあおいは思い切りハンマーを振るうが破壊する対象が無い空間では衝撃波がどこまでも飛んでいくだけだった。溜息をついてあおいは姿の見えない者に毒舌を吐く

 

 

あおい「あれだけ大きな口叩いといて私達が怖かったんですね。待っててください、今からぶっ飛ばしに行ってあげますから」

 

 

『御幣がありましたね。恐れている訳ではありません』

 

リーネ「いちいち言い返すようなことではないのでは……」

 

小声で疑問を呈しながらリーネは周囲の様子を伺う。本当に何もない。あおいと一緒にしばらく飛び回ったが景色が一切変わらない

 

 

わかば「私達を閉じ込めている間に世界を滅ぼす気!?観測者とか気取ってたくせに姑息な真似を!私達をさっさと戻して堂々と戦いなさい!!」

 

 

わかばは悪態をつきながらブレードを振り回したが、危ないからおやめなさい、とペリーヌに一喝され大人しく刀を下げた。とはいえペリーヌも気持ちは解る。この空間は何もない。あまりにも何もなさすぎる。朧気で焦点の合わない風景に上下の概念すら薄れ始め、長くいれば気が狂いそうだ

 

 

 

別の空間に居る仲間達の声は聞こえないが、それに応対するカラスの声は全員が漏れなく聞こえていた。だから問いかける内容は聞こえずとも答えから大体どんな質問かは想像する事が出来る

 

 

 

『あなた方に戻る場所などありません。あなた達は真髄に至ったと言えど、まだ肉の身体に魂が縛られている低次元の存在。産まれの世界が消滅すれば、あなた達の在り方も大きく弱体化します』

 

ひまわり「その後私達も消滅させておしまいって訳?」

 

『試練に失敗していれば、真髄に至れなかったあなた方を消滅させて私の力として取り込む事が出来ました。しかし今となっては私の力をもってしてもあなた方4人を完全に消滅させるのは非常に骨が折れます。それよりも都合の良い手駒として残した方が賢いでしょう?』

 

れい「___」

 

『気付きましたか?ですが思い出せはしないでしょう。あなたの心の揺らぎを利用して2つに引き裂いたのは私です。まさか合流して合体しようとするとは……』

 

あろん子「あなたが……!」

 

『怒るようなことではないでしょう。どうであれ、黒騎れいは己の存在を受け入れて振る舞っていました。望みを叶えてあげたと言っても過言ではないでしょう?』

 

あかね「そんなのおかしいよ!どうせ記憶とかいじったりしたんでしょ!」

 

『多少は。余計なものを排除してあげれば、黒騎れいは非常に素直にあなた方の世界を破壊する為に奔走してくれました。その冷酷さまでは私が用意した物ではありません』

 

ひまわり「これまでは大人しくしてた癖に、急にこんな大胆な……。もしかして、れいをどうこうしろって選択肢が本当の最後の試練だったってこと?」

 

『その通り。憎らしい事に、あなた達は想定された試練を全て乗り越えました。アローンを撃退し、そのアローンを呼び込む原因として送り込まれた者と絆を育み、最後にそれを受け入れた。彼等は大変満足しています。

 

___そして、もう彼等はあなた方から手を引いた。試練を乗り越えたあなた達の世界に私がどう介入しようと、〈管理者〉達は介入しません。独り立ちしたあなた方が対処すべき問題だからですよ』

 

ひまわり「小物臭い!陰湿!根暗!」

 

ペリーヌ「お口が悪いですわよひまわりさん」

 

『私の持つ力は本物です。あなた方からしても遥か上の存在。管理者達の介入が完全に消滅した以上、こちらも手加減をする必要がなくなりました』

 

宮藤「あなたは何のためにこんなことを……!人を不幸にしてるだけです!」

 

『いらないのですよ、我々以外に示現力を所有する存在など。我々は絶対の存在。その地位を揺るがされてはならないのです。イレギュラーが発生しない為の監視と管理だというのに、彼らは新たな可能性を求めている。危険な兆候です。最早管理者達のやり方は正しいとは判断できません』

 

ひまわり「だからあなたが取って代わる為にあっちこっちを滅ぼして取り込んでるって訳?精が出るねほんと」

 

『これまで様々な世界が私の力の一部となってくれました。れいの世界も同様。そしてこの世界も、間もなく』

 

 

れい「……」

 

 

激しい怒りと虚しさがふつふつと沸き立つ。れいの記憶は以前の世界に関しての物は薄い。最低限しか覚えていない。だがしかし、今の友達を手にかけてでも取り返したい尊いものであった事は確かで、その為にカラスの話に乗ったのだ

 

 

あかね達の試練を邪魔する事と引き換えに滅びた世界の再生を。友を殺す代わりに、死んだ友を生き返らせてくれると。あまりに邪悪な甘さを孕んだ取引を受ける為、自らの心から善の部分を切り離したのだと思っていた。しかしそれは間違っていた

 

 

悪に手を染めるという覚悟すら己が生んだ物ではなく。試練を妨害する為の都合の良い手駒として作られた自分という存在。あろん子を通して少し取り戻したかつての『自分』が持っていた正義の心が、〈黒騎れい〉という悪に呑まれた存在を許せず、じわじわと不快感が全身を蝕む。感情を処理できないれいの震える手は、しかしあかねにぎゅっと握られた途端に静かになる。彼女の温かな心が肌を通して伝わってくる

 

 

あかね「れいちゃん」

 

れい「私は……愚かね」

 

あかね「そんなこと___」

 

れい「いいえ、愚かよ。どういう理由があったとしても、私は自分を愚かだと断じる。でももう一度、もし叶うのなら……今度こそ、正しい事をしたい。皆を笑顔にできるように……。力を貸して欲しい」

 

あかね「うん!一緒にやろうよ!」

 

 

あろん子は迷っていた。彼女はれいよりも人間性が希薄なアローン存在であり、自らの数少ない人間的感性の大半を占める善性が揺らぐことを本能的に恐れている。れいが持つ悪の心を受け入れるのが怖かった

 

 

あろん子「私、あの子を受け入れられないかもしれない」

 

宮藤「なんで?」

 

自分一人では解決できる問題ではないが、傍に寄り添ってくれる友人がいれば話は別だ

 

あろん子「あの子、悪いヤツだもの」

 

宮藤「だから認めたくないって?れいちゃんも、あなただってこと」

 

あろん子「……」

 

芳佳から目を逸らした。咎めるような彼女の言い方が少し怖く感じた。宮藤芳佳はどんな人間の事だって受けいれてくれる人間だったが、正しいと思った事は絶対に口にする性格でもある

 

宮藤「れいちゃんは、元のあなた達の悪い心の部分だけで構成されてるって言ってたよね。私とかリーネちゃん、あかねちゃんだって……誰だって自分の中に悪い部分くらい持ってるものだよ。あろん子ちゃんだって解るでしょ?あかねちゃん達は、それも受け入れて友達になって、今も一緒に戦ってる」

 

あろん子「追い込まれたからって、やっちゃいけないことをしちゃう人間だったのよ、元の私は。そんな私に……戻りたくない」

 

宮藤「元のあなたは、世界を護る為に命を賭けて戦ってた。そんなあなたのことを悪く言っちゃ駄目だよ」

 

あろん子「……」

 

宮藤「悪い心を持ってたように、あろん子ちゃんの優しさだって元のあなた達が持ってたものだよ。あろん子ちゃんが一緒にいてあげないと、れいちゃんまた色々やらかしちゃうかもだよ?」

 

あろん子「ま、そうね。自分のミスは、自分で取り返さないとね」

 

宮藤「そうそう!その意気だよ!」

 

 

『愉快な話し合いに水を差して申し訳ありませんが、あなた方はもう二度と同じ空間に存在する事はできませんよ。今あなた方がいるのは私が特別に創り上げた次元の狭間に作った牢獄。出口などありません。』

 

 

あおい「はい?次元を隔ててもあかねちゃんがどこにいるかなんて余裕で解りますんで。勝手に行かせてもらいますからね」

 

 

二度と会えない訳がない。二葉あおいは一色あかねに___あと他の代え難い友人達にも___会う為なら次元の壁など何枚でも破壊できる自信があった。自分1人なら少し時間がかかるかもしれないが、今ここには頼れる仲間が1人いる。リーネも一瞬不安が胸をよぎったが、直ぐに己を奮い立たせあおいと目を合わせ、2人は同時に頷いた

 

 

ひまわり「ビビっちゃ負けだよ。わたし達もあのカラスも、もう変わらない。気持ちで負けなきゃ私達は負けない」

 

わかば「立ちはだかる壁がどれだけ高かろうと、乗り越えてみせましょう。私達は飛べるのだから!」

 

ペリーヌ「お高く止まっている所申し訳ないのですけど、さっさと戻らせてもらいますわよ。坂本少佐が待っておられますから」

 

 

 

 

れい「こんなシラけた場所で___」

 

あろん子「時間潰してる暇はないのよね!」

 

 

 

遠く、ここではない場所から聞こえる自分と同じ声色。2人の心は次元を越えて繋がった

 

 

あろん子は彼女へ向けて手を伸ばした。目の前の次元が揺らぎ、ぬっと飛び出してきた手があろん子の手を掴んで思い切り引っ張った。勢いに身を任せて黒く渦巻くゲートをくぐる

 

 

れいはゲートから引っ張り出したあろん子を少々荒っぽく抱きしめた。あろん子もれいに手を回して強く身体を引っ付ける。2人が言葉を交わす事は無かった

 

 

後を追いかけてひょっこりゲートから現れた芳佳は何も言わずいそいそとあかねの横に移動して2人の様子を温かく見守った

 

 

抱き合った2人の姿が黒い光へと変わっていく。鈍い輝きを放つ2つの黒い塊がカラフルな光の線へと分離し、螺旋に絡まりながら深く美しい黒の輝きを誇る純真な少女の姿を構築していく。かつて分かれて相反する2人に分かれた彼女達は自らの醜さも輝きも受け入れ合って元の一つへ戻っていった

 

あかね「じゃ、わたし達も行こう!」

 

宮藤「うん、あかねちゃん!」

 

 

 

わかば「3人の力を集めて次元の壁を破るわよ!さあチューするわよ!!」

 

ひまわり「わかばほんとデリカシーが無いね。びっくりするくらいないね」

 

ペリーヌ「わたくしは遠慮しますので、お二人でなんとかしていただけます?」

 

ひまわり「混ざんないんなら、この空間に置いてけぼりになるけど?」

 

ペリーヌ「仕方がないですわね……」

 

示現力の真髄に至ったわかば達であれば相手の意志などある程度無視して一体化するのは可能といえど、心の底からの信頼が無ければ力が増すことはない。まあ、結果的に彼女達3人の合体は非常にうまくいった。ペリーヌのツンツンの裏にどんな感情があるのかなんて、わかばもひまわりも付き合いを続ける中で大体解っていたのだ

 

 

 

あおい「早く助けに行かないとあかねちゃんがムチャクチャしちゃうし……!」

 

リーネ「芳佳ちゃんにこれ以上無茶させたくない……!」

 

 

2人は手を取り合った。こんな所で止まっている訳にはいかない。親友に振り回されるもの同士、通じ合うのは簡単だった

 

 





あと11日以内に完結させるつもりはあります。本気です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第86話 「黒騎士と純白のヒーロー」

クリスマスだクリスマス!!ケーキだケーキ!!!!


あかねちゃんは昔クリスマスケーキ(ホール)にマヨネーズをかけ、ももにガチギレされたことがあります。というどうでもいい話を今思いつきました








エイラ「3秒後4時の方向!」

 

 

未来予知で敵の軌道を読み切ったエイラが叫ぶように指示を出せば、後方に続いて飛行している2人が瞬時に反応して武器を構える

 

 

サーニャ「……今!発射!」

 

ルッキーニ「ぶっこめー!」

 

 

サーニャの放つロケット弾が煙の尾を引きながら飛翔し、追従するようにルッキーニの正確無比の射撃が続く。吸い込まれるように円盤型ネウロイが弾道上に飛び込み、直撃を受けて爆散した。悲鳴のような金属音を上げながら墜落していくネウロイの身体が崩壊していくのを横目に見てミーナは小さく安堵の溜息を吐いた

 

 

ミーナ「随分手こずったけど、全て落としたわね」

 

シャーリー「ま、本命が残ってますけどね」

 

 

ウィッチ達の視線の先には、防衛軍の総力を挙げた攻撃を受けながら物ともしないような羽の生えた巨大な怪物の姿があった。ただ、先程から殆ど攻撃を仕掛けて来ないのが不思議だった。実際、監視者は隔離したビビッドチームに意識の殆どを裂いており、実力差がありすぎる低次元生命体の攻撃など毛ほども気になってはいなかったのだが

 

 

 

一応時間稼ぎとして出現させた円盤ネウロイが全て撃墜されたと同時に、健次郎はディメンションゲートの反応が4つ発生した事に気付いた

 

ウィッチ達は新たな敵かと一瞬身構えるが、温かな気配を察知し安堵の笑顔を浮かべた

 

 

健次郎「早いお帰りじゃな」

 

 

『ヒーローは遅れすぎないものだからね』

 

 

 

異空間から飛び出してきた4つの影。その内の3つは、元の次元に戻れたことを確認すると分裂して元の1人ずつに戻った。だが、そのうちのたった1人。黒いマフラーを風にはためかせる彼女だけは、もう別れることは無かった。元の姿よりほんの少し背が伸びて大人びたように見える彼女は、強い決意と覚悟を秘めた眼をしながらも不敵に笑った

 

 

 

 

「四人四色の心を重ねて、魅せるは素敵なブラックナイト

 

夜空に託した夢物語、今こそ叶えてみせましょう!

 

我はカラード・ブラックパレード!邪悪な者よ、恐れ入れ!私はここに帰って来たぞ!」

 

 

自信に満ち溢れた黒い騎士。勇気と悲しみを背負って立ち上がる彼女の力は、欠けた記憶と心を取り戻したことでかつての最盛期を取り戻したと言えるだろう。ビビッドフォースと戦っていた時とは比べ物にならない力の波動が彼女から放たれていた

 

 

 

ブラック「ふー……すっきりした。全部戻って来たわ」

 

 

『力を取り戻しましたか……。しかし、ならば思い出したでしょう?元のあなた達も、我々に抗う事はできなかった』

 

 

ブラック「リベンジの機会が得られるとは思わなかったわ」

 

 

二コリと笑うとブラックは思い切り右手を振り下ろした。虚空から出現した巨大な黒い拳が唸りを上げて監視者を殴りつけた。それは先の戦いでビビッドチームに対して使った物と比較にならない程大きいもので、流石の監視者も少しダメージを受けたようでグラリと身体を傾けた

 

 

ブラック「世界崩壊の最中、背中から刺されたあの時とは違う。今度は正面からやらせてもらう」

 

 

『成程、伊達ではない……。ならば総力戦と行きましょう!』

 

 

空が割れて、大量のネウロイが噴出する。それは先の戦いでブラックが呼び寄せたネウロイとは数も質も桁が違った

 

 

シャーリー「今更数で攻める気か?愚策だな」

 

バルクホルン「同意だな。いくらでも相手してやるぞ!」

 

 

ここにはウィッチがいる。ビビッドチームが揃っている。晴風の主砲が空を向き、防衛軍の兵士達も味方に銃を向けてしまった自分達に贖罪のチャンスが来た事にやる気を燃え上がらせていた。これまでで最大規模の侵略に対して、誰も彼も決して怯えは無かった

 

 

長官『防衛軍本部から来た援軍を全部投入する!数で攻めて来るならば、我々全員で相手になろう!』

 

 

 

長距離から飛来した砲弾とミサイルの雨が、出現したネウロイを爆風と運動エネルギーの暴力でぶん殴る。特殊な装甲で身を守られていると言えど、圧倒的質量を無視できる程頑強な装甲を持つネウロイは少数だ。

 

 

魔法も示現力も持たない人間達ができる事をやり、侵略者の出足を挫いていた。その間にウィッチ達とビビッドチームは合流した

 

 

 

宮藤「皆さん!戻りました!」

 

坂本「お前達よく戻った!一色、奴の相手は真正面からでは少々荷が重い。策はあるのか?」

 

あかね「作戦!?ええっと、あの……取り合えず、みんなでカラスさんをぶん殴りに行きましょう!」

 

坂本「___はっはっは!成程!ああ、いい作戦だ!それで行こう!」

 

ミーナ「ちょ、美緒!?」

 

坂本「既に我々の常識では測れんレベルの話だ。それに、これまでこの世界を引っ張ってきた者が言うのなら任せても間違いはあるまい」

 

シャーリー「敵来ますよ!話はとりあえず戦いながらで!」

 

坂本「うむ。通常兵器の効きが悪い大型ネウロイを優先して撃破するぞ!」

 

 

ストライクウィッチーズは4つのチームに分かれてネウロイの撃破に当たる。あかね達4人は手を取り合ってビビッドフォースへと変身し、れいの___カラードブラックの横に並んだ

 

 

ブラック「来たわね」

 

フォース「うん、やろっか」

 

 

 

 

ビビッドフォースが両拳を軽く握りしめて構える。ブラックパレードが首元のマフラーをひらりとはためかせた

 

 

眼前に立つのはあまりにも巨大な敵。生命の到達点、進化の最終形態を自称する高次元生命体。ビビッドフォースの後ろにはたくさんの友達と、絶対に守りたい世界がある。そして横には心強い仲間がいてくれる。負ける気はしなかった

 

 

 

フォース「問答無用でぶっ倒すしかない感じ?」

 

ブラック「そうね。あれは自分の中の答えを決して変えない。いや、変えられない。支配欲を芯に据えて生まれた怪物だから。対話で答えを得ようなどと考えてもいないわ。力でへし折るしかない!」

 

フォース「んじゃ、思いっきりやろう!」

 

ブラック「お先にどうぞ。カバーするわ」

 

 

ビビッドフォースが両手にハンマーを握って飛び出した。サイズこそネイキッドインパクトより小ぶりなそれだが、内包するエネルギ-量は桁違いに大きい。一振りで地殻変動を引き起こすポテンシャルを秘めているハンマーを力強く目の前の空間に叩きつけた

 

 

 

凄まじい轟音が辺りに響き空間にヒビが入る。本来空振りに終わる筈の攻撃エネルギーが空間にヒビ割れを起こしながらジグザクに進み黒い巨体目掛けて伸びていく。触れればあらゆる防御を無視して対象を粉々に砕いて亜空間へ吹っ飛ばす攻撃なのだが、おめおめと喰らう監視者ではない。不格好な翼が動き、黒い風が吹き荒れてヒビ割れはかき消されてしまう

 

 

監視者の6本の腕がビビッドフォースに向けられ、それぞれの指先から赤い光線が発射される。カラードブラックが割って入り、マフラーを手で持って前に向けて振り回した。勢いに乗って瞬時に巨大化した黒いマフラーがビームとぶつかる。受け止めるのではなく、受け流す。ビームの束をそっくりそのままお返しした

 

 

『小癪な!』

 

 

巨人のアローンと同様、物理的干渉の大半を無視する特殊な身体を持つ監視者だが自分が放った攻撃を当てられれば当然痛い。見た目に大きな損傷はないが、一発喰らわせてやったとブラックは満足気に笑った

 

 

ブラック「あなたも神様気取ってるけど、この次元に生命体として具現化した以上死の概念からは逃れられない。痛い目見てもらうわよ」

 

 

 

『できるものならやってみればいい!』

 

 

不格好な翼が広げられ、尖った黒い羽が矢のように放たれ2人をハチの巣にせんと襲い掛かる。2人は武器を振り回して風圧で羽を叩き落し、監視者目掛けて真っすぐ飛んだ

 

 

 

 




お話の中に登場させることはできませんでしたが、閉じ込められた空間から脱出させる為のドッキング形態も名前と簡単な設定だけは用意していました。



ビビッド・マジカルストライカー


あかねと芳佳のドッキング形態。ビビッドレッド足部分がストライカーユニットを模したロケットに変化している。自分を中心に周囲の味方を回復する特殊空間を展開し、場所と距離を問わず狙った場所に強力無比なエネルギーシールドを作り出すことができる。決して破れないシールドをブーメランの要領で投擲したり、殴りつけたりなど遠近両方で十分な戦闘が可能。肉体的損傷以外にも彼女自身が『傷ついている』と認識したものなら目に見えない精神的な物や生物無機物すら問わず全てを癒す効果があり、破壊を目的とする侵略者に対しては強力なカウンターとして機能する



ビビッド・ロイヤルハリケーン


ひまわりを起点に、わかばが風を、ペリーヌが雷を全力で発動させながら合体した嵐を呼ぶ高貴なる合体形態。次元を歪める程の暴風で相手の自由を奪い、空間を消滅させうる力を秘めた雷で対象を攻撃する。生半可な存在では彼女の前に立つことすら叶わない



ビビッドブレイク・ペネトレート


リーネとあおいが手を取り合った姿。規格外の巨大なキャノン砲を装備した重装甲戦士。無限に近い射程距離を誇る精密射撃と、視界全ての敵を巻き込める広範囲爆破の射撃を高レートで連射しつつ、必要とあらばそのキャノン砲がハンマーへと姿を変える。見た目こそ人が携行できるギリギリのサイズだが、その実惑星1つ内包する質量を秘めており鈍器として振るった時の破壊力は筆舌に尽くしがたい




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第87話 「翼がもがれる時」

 

 

ビビッドフォースは金色の光線を発射して視界を塞ぐネウロイの大群を薙ぎ払うと、監視者に急接近してハンマーを振り回し刀を一閃させる。懐に入られた監視者は反撃しようと腕を振り上げるが、そこに飛来した矢に動きを釘付けにされる。鈍った腕に巨大な拳が叩きつけられ、おまけとばかりに強力な重力波が全身を締め上げて来る

 

 

やられっぱなしとはいかず、監視者は自身の上空に大きな黒い雲を発生させそこから紅い雷を落とした。超高密度のエネルギーを孕んだそれは文字通り光の速さで対象を狙い撃つが、2人は空間を飛び越えて攻撃の範囲外へ瞬時に離脱。追撃を企む黒い雲をビームで吹っ飛ばし、次の攻撃の準備へ入る

 

 

 

大いなる力のぶつかり合いは苛烈を極めた。ビビッドフォースは全力を込めた攻撃を1つ繰り出す度に自分の力の上限にまだ先がある事に驚き、カラードブラックはこれまでの鬱憤を晴らさんが為あらゆる技を駆使して監視者を叩き潰そうとした

 

 

真っ向から力で抑え込んで張り合っている監視者の力は流石の物で、その存在が放つ常軌を逸した攻撃により幾度となくあかね達の世界は滅びる寸前まで追い込まれ、その度に何とかかんとか踏みとどまっていた

 

 

『何故この世界を崩壊させる事ができない!私が力を解放するだけで宇宙の法則を乱し全ての物理的存在を消滅に至らせることすら可能な筈だと言うのに!』

 

 

発狂したかのようにキンキンとした声をまき散らしながら監視者はその巨大な羽を広げる。高次元生命体の翼は破壊の象徴だ。ただ在るだけで周囲の空間を蝕み、次元に歪みを発生させる

 

 

羽ばたくだけで全ての空間が翼の生んだ歪に引きずられ、世界中の物体が強制的に引っ張られる。大地は割れ、インフラは崩壊し、大量の人間が瞬時に壁や大地に叩きつけられ死亡する___筈だったが

 

 

ブラック「通らないわよ、そんなマップ兵器は!」

 

フォース「関係ない人巻き込むのはやめてよね!」

 

 

2人は戦いながらも監視者の攻撃が世界に影響を与えないようエネルギーの防波堤を作り攻撃を中和していた。凄まじい集中力と体力を使う行動だが、決着をつける前に世界を壊される訳にはいかない。むしろ勝利よりも敗北しない事の方が大切だった

 

 

健次郎『とはいえネウロイ出現の勢いはこちらの撃破ペースを上回りつつある!世界が飲み込まれるぞ!』

 

坂本『一色達!もう一度次元の穴を塞げないか!?』

 

フォース「ごめんなさい、そっちまで手が回らない!」

 

ブラック「守るものが無いヤツが好き勝手できる分、こちらが少しだけ押されるわね!」

 

 

 

カラードブラックは唇を噛んだ。ここがもし何もない無で構築されたフィールドで、ビビッドフォースと2人でただ相手を倒すことにのみ集中できるというのならば勝機を得る自信はある

 

2対1という環境にもちこめるからだ。ただ現状は、周囲への影響を抑える事に力の半分を割かないといけない。どうにも余裕の勝利とはいかない流れだ

 

 

そう、このままでは

 

 

フォース「思いついた」

 

ブラック「私も」

 

「「皆で戦えばいい」」

 

 

2人はうっかりしていた。ここには山ほど仲間がいる。彼等彼女等に手を貸してもらえばいい。簡単な話だった

 

 

 

ビビッドフォースとカラード・ブラックパレードは手を繋いで目を閉じ、深く息を吸った。2人は8人であり、1つである。捉え方次第で〈自分〉という概念は変わり、それによって力の大きさも変わる。彼女達は意識を大きく広げた

 

 

示現力が跳ね上がる。監視者は脅威を察知し攻撃を行うが、2人を覆う大きな力の壁に阻まれその行為を邪魔することはできなかった

 

かつてあかねは友達と二人でビビッドエンジンを形成し、無限の力を出力した。今回もそれと同じことをする。ビビッドフォースとカラード・プラックパレードは互いの力を混ぜ合い増幅させ、周囲に一気に解き放った

 

 

爆発的に広がるエネルギーの波動が戦う戦士達を呑み込んでいく。心のパスが繋がり、戦場にいる全員が自分の中に未知の力が湧き上がる感覚を覚えていた

 

 

 

 

ミーナ「私達の身体に流れ込んでくる……!魔法力とはまた違う、温かな物……!」

 

シャーリー「こりゃ熱いな!燃えて来たぞ!」

 

「艦長!なんか超いい感じです!」

 

岬「うん!」

 

「いや艦長。我々が強くなっても晴風は強くならないのでは?ウィッチの方々とは事情が……」

 

「いえ、副長!火力が上がってます!明らかに対空砲や艦砲の威力、シールドパワー等全ての数値が上昇しています!」

 

「何故だ!?」

 

「まあ___解りません!」

 

「!!????」

 

 

示現エネルギーだからそういうこともある。晴風副長は笑うしかなかった。そうして進化の力が行き渡り、今この戦場に立つ全ての者が高次元生命体に抗う力を得た

 

 

 

晴風だけでなく、防衛軍の兵器による攻撃もこれまでよりネウロイの装甲を貫通しやすくなっていた。さらに彼等1人1人の存在が監視者の影響に対する壁となり、ビビッドフォースとカラードブラックはこれまでより攻撃に集中できるようになった

 

 

さらに、ビビッドフォースは力を受け取った人間の数が増える度に自身の力も増していくのを感じ取っていた。何故だろう、と少し考えればすぐに理解できた。ここに居るものは皆同じ思いだからだ。同じ敵に対抗し、それぞれが幸せを得ようと頑張っている。戦場に満ちた示現力を通して、戦うみんなの心が伝わってくる。それがビビッドフォースにとっては追い風だった

 

 

『小癪な。しかしこの次元1つ全ての生命体を取り込んだとしても、数多の次元を呑み込んできた私には届きません』

 

ブラック「取り込むだの呑み込むだの……。手を取り合い、輝きを重ね合わせる。彼女達の力の高め方はあなたとは違う。彼女達が辿り着く場所は、あなたが今いる場所とは違う所よ」

 

『でしょうね。あなた方は破滅の道を進んでいるのです』

 

ブラック「滅びるのがどちらか、教えてあげるわ!」

 

 

ブラックの放つ一本の矢が堕天使の身体を貫きどデカイ穴を空けた。瞬時に風穴を再生させようとする監視者は異変に気付いた。矢に抉り取られた部分が再生を拒否しているかのように動きが鈍い。追撃の矢が放たれる。叩き落す事は難しいと判断し、矢の軌道上に次元の穴を空けようと力を込めるがゲートが思うように開かず、防げなかった矢がまた1つ監視者の身体に穴を空ける

 

 

ここで初めて、監視者はこの次元における自らの支配権が少なくなっている事を悟った

 

 

『何故だ!』

 

 

驚愕していた。恐怖していた。全知全能を名乗るだけに相応しい力を持つ存在だった筈の自分に起きている事態が理解できなかった

 

 

ブラック「可能性を否定し、新しきを受け入れず!どんなものも自分の色で塗りつぶして腹に溜め込んで、そうして得た力で何を誇る!」

 

 

フォース「あなたが圧し潰してきた可能性が、あなたの中でくすぶってる!わたし達がそれを引っ張り出して火をつけてあげる!」

 

 

 

巨大な赤いブーメランを2つ翼のように広げ、全力で投擲した。対抗しようと伸ばされた黒い翼をあっさり切り裂くだけでは飽き足らず根こそぎ刈り取り、返す刃で胴体を左右から両断した

 

 

『このような……ばかな!やめろ!滅びた筈!何故このような熱を……!』

 

 

自らの中から湧き上がる力が、自らの身体を崩壊させていく。監視者は何も理解できないまま、無我夢中で指先から光線を手あたり次第に撃ちまくった。しかしそれは誰も破壊することはできない。青い魔法陣に防がれ、或いは軽々とかわされる

 

 

フォース「あなたは滅ぼした訳じゃなくて、自分の中に取り込んだんでしょ?あなたの中でずっと生きてたんだ。そんな皆が、あなたに力を貸してくれると思う?」

 

ブラック「あなたを滅ぼすのは、今まであなたが踏みにじって来た全ての魂の可能性の輝きよ!」

 

 

最期の足掻きだった。監視者を気取っていたアローンが最後に選んだのは、周囲の生命を巻き取って自分の命を繋ぎとめることだった。自らを中心に大きな力の渦を発生させ、召喚したネウロイを片っ端から取り込んでいく。ネウロイは監視者にとってアローンの発生過程で産まれた不良品のような物で、そんなものに頼るなど本来ならあり得ないことだった

 

 

しかし最早監視者に身の振り方を選ぶ余裕はない。心などもたないネウロイでも内包するコアには示現エネルギーに似た力を秘めている。大量に取り込めば多少の力にはなるだろう

 

 

だがネウロイの数が無限に増える現象は既に止まっている。監視者が自分の保身に走っている間に、ビビッドフォース達は協力して戦場全体を特殊なフィールドで覆い、外界とこの戦場を完全に遮断した。新たな敵が召喚されるのを防ぐ為と___この戦いが終わるまで、誰も外に出さない役割を果たす物だ

 

 

 

ブラック「ここで倒すッ!完全に!」

 

フォース「みんなの力を!1つに!!」

 

 





2020年で終われそうです。たぶん。ギリ。いけます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第88話 「最期の一撃は」


お話タイトルを 希望の未来へレディーGo!!!!!!!!にするかどうか迷いました


空を埋め尽くす程のネウロイが消失した変わりに、それらを吸収した監視者は山のような大きさになっていた。かつて出現した高さ300mの電波塔が変質して産まれた塔のアローンが霞む程の高さと、それを支えるだけの横幅を持っていた

 

 

監視者は人型を捨て、無理やり肉を積み上げた不格好な形へと変わっていく。全身から不規則に突き出した禍々しい腕と翼からは宙を切り裂くビームが絶え間なく発射され、米粒程の大きさの人間を叩き落さんとする。だが、最早この戦場に監視者が片手間で殺せるような弱い存在はただの1人もいなかった

 

 

岬「みなさん、晴風の射線上から退避してください!」

 

 

肥大化した監視者に一撃を加える為晴風は前に進み出る。艦長の指揮の下、各員が攻撃の準備に入る。機関室は攻撃に使わないエネルギーを全てカット、限界を越えた出力が艦全体を微弱な振動と共に走り抜け、船体が軋む音を聞いた副長は嫌な予感に身を強張らせた

 

 

岬「対ショック!対閃光防御!」

 

「充填120%!安全装置解除!」

 

晴風前方の艦首を塞いでいた装甲が左右にスライドし、仰々しい大穴が顔を出した。既にその穴の内部では高密度のエネルギーが圧縮を完了していた。艦橋にいる全員が眼球を保護するゴーグルを装着し、その瞬間に備える

 

岬「タマちゃん!なんちゃって波動砲、発射!」

 

岬の指示の下、タマと呼ばれた晴風砲術長が拳銃のグリップを模したトリガーのカバーを外し両手に握りしめ、静かな気合を込めて呟いた

 

「うぃ」

 

 

タマはトリガーをめいっぱい引いた。凝縮されたエネルギーが勢いよく押し出され、晴風最大の攻撃が火を噴いた。次元を越え、船を空に浮かばせ、ネウロイのビームを弾く。それらを行うエネルギー全てを攻撃に転用し放たれる強力無比な一撃が監視者の胴体ド真ん中に直撃した

 

 

監視者は体表に張ったシールドで攻撃の無効化を試みるが、それがただの高エネルギー攻撃ではない事に気付く。特殊な粒子を秘めた光線は法外な熱量と質量を兼ね備え、なんといっても厄介なのはその光線はどんな防御も無視して必ず一定距離を直進するという特性を備えている。威力を和らげる事は出来ても別次元へのゲートを開けない以上監視者と言えど完全に防御することは出来なかった

 

 

「目標損傷!有効打です!!」

 

「いよっしゃあ!」

 

 

岬は上手くいった事に安堵し大きく息を吐いた。突貫工事で取り付けられたこのロマン砲は501科学班のトップからも『マジでヤバイ時以外は使わないで欲しいけど、データ欲しいから一発は撃ってきて欲しい』と無茶な注文を受けていたものだ。晴風に搭載されたエネルギー炉に大きな負担をかける為使用には大きなリスクを伴うものだが、示現エネルギーの補助がある今こそ使い時だと判断したのだ

 

 

一時的に防御フィールドを解除する為丸裸になるという欠点があるのだが、宮藤が直衛に入り晴風に迫るビームを全て防いでいた。その為晴風はノーリスクで攻撃に全てを賭ける事が出来、監視者の力を大きく削ぐ事に成功した

 

 

岬「ダメージは与えました!一気に圧し潰してください!」

 

 

坂本「よくやった!総員突撃ッ!」

 

魔女の鉄の箒が唸る。防衛に当たる宮藤を除く10の飛行機雲が美しい軌跡を描きながら巨大な黒いアローン目掛け飛翔した

 

 

バルクホルン「デカイな!」

 

シャーリー「なんだビビったのかバルクホルン!」

 

バルクホルン「馬鹿を言うな!奮い立ってるのさ!」

 

シャーリー「結構な事だ!じゃあ行くぞ!」

 

 

シャーリーは編隊の先に飛び出した。シャーリーの加速魔法は最早単なる速さを越えた領域に達している。彼女が飛んだ後には光の帯が残り、それに触れたウィッチーズ全員がこれまで体験した事の無い飛行速度に達する

 

 

監視者の全身から赤い光線が放たれる。線というより面に近い密度の攻撃だが、ウィッチ達はまるで空間を飛び越えるような軽やかな動きでその攻撃をなんなく回避した

 

ルッキーニ「んにゃー!すごーい!」

 

シャーリー「速さの真骨頂だ!デカさだけじゃなにも出来んぜ!」

 

 

監視者の攻撃は強い。宮藤芳佳のシールドでも無ければ、一発防御するだけで魔法力を使い切る恐れすらある。それは強化された今の状態であってもだ。だが、当たらなければどうということはないのだ

 

ペリーヌの電撃、ルッキーニの高熱シールド、ハルトマンの暴風が大災害のような規模で監視者の身体を破壊していく。エイラ、ミーナ、サーニャ、坂本の感知魔法が最大限に活かされ、監視者がいつどこへ誰に攻撃するのかは完全に読み切られた。防衛軍の戦闘機達は完璧な軌道で全ての攻撃を掻い潜り、ミサイルをぶち込む。それでも戦闘機に命中しそうなビームは、リーネが全て銃撃で相殺していた

 

 

監視者は腕を伸ばし、思い切り振り抜いた。無造作な動きだが、その腕はターゲットである晴風に直撃する寸前まで完全に透明になっていたものだった。晴風からしてみれば突然空中から黒い腕が目の前に現れたようなものであった

 

 

岬「!」

 

バルクホルン「任せろ!」

 

 

だがその攻撃はバルクホルンが許さない。エイラの未来予知により察知されていたその攻撃を圧倒的怪力で受け止め、逆に思い切り拳を叩きつけ黒い腕を粉々に打ち砕いてみせた

 

 

 

フォース「芳佳ちゃん!ウィッチの皆もこっち来て!」

 

宮藤「うん!」

 

坂本「了解した!」

 

晴風の防御フィールドが再展開されたのを確認し、攻撃に転じようとしていた芳佳はビビッドフォースに呼ばれて側に寄り添った。監視者を攻撃していたウィッチーズも取りやめて2人の下に集まる。ビビッドフォースとカラードブラックは監視者の攻撃の大半を引き受けつつ、傷一つなく健在だった

 

 

ブラック「トドメを刺す。私達と、あなた達で」

 

 

 

ポツリと呟くようにそう言い放った。慢心でもなく、確信があった。次の攻撃で全てが終わるのだとカラードブラックには解っていた

 

 

 

監視者が何か言っているような気がしたが、既にブラックにそれを聞き届ける余裕など無かった

 

 

彼女は、ただ真っすぐ白い衣装を纏う友人と。そして共に記憶喪失仲間としてこの世界にやって来た友人と見つめ合った

 

 

ブラック「あなたをこの世界に招いたのは、私。私はこの世界に〈黒騎れい〉として侵入する際、カラードブラックとしての力も記憶も全て監視者に預けていた。空っぽになった私の魂は無意識に片割れのあろん子を求め、その瞬間傍に居たあなたを巻き込んじゃったの」

 

 

宮藤「巻き込んだって……でも、あの時あろん子ちゃんは一緒にいなかったよ?」

 

ブラック「ごめん、間違ってあなたを引っ張っちゃったの」

 

宮藤「え、ええー……」

 

ブラック「本当にごめんなさい。人型ネウロイとして行動していた時の私には殆ど自我が無かった。ただ、薄い意識の中で自分を助けてくれる誰かを探していたの。きっとあなたの優しさや思いの強さに惹かれたんだと思う。だから、最後の瞬間には___あなたの力も貸して欲しい。芳佳。そしてみんなも」

 

 

芳佳は考えるまでもなくブラックの差し出した手をとった

 

 

宮藤「私、怒ってないよ。あの時、ネウロイのあなたに惹かれて飛び出した事、後悔なんてしてない。そのお陰でれいちゃんやあかねちゃんと会えたんだから!だから、一緒にやろう!」

 

ペリーヌ「宮藤さんとリーネさんの無茶に付き合って、まさかこんな所まで来てしまうとは。こうなったからには最後までお付き合い致しますわ」

 

リーネ「うん!」

 

 

11人の魔女と、2人の示現力の戦士を中心に大きな光の輪が生まれる。思いを力へ変える示現力が極限まで彼女達を強くし、最後の一撃へ相応しい攻撃への予兆に世界が震える。監視者の攻撃は最早届くことは無く、かつて高位の存在として振る舞っていたソレは、自分が今断頭台で座らされた罪人であることを受け入れるしかない現実に直面していた

 

 

 

フォース「ビビッド」

 

ブラック「アンド!」

 

宮藤「ウィッチーズ!!!」

 

 

「「「「ファイナルオペレーション!!!」」」」

 

 

一度空高く飛び上がり、彼女達は1つの大きな光の矢へとなった。そのまま監視者のてっぺん目掛けて真っすぐと降下する。共に戦っていた仲間達は天で輝く星に自分の力を託した。虹色の光を纏った流星は戦場に渦巻くエネルギーを救い上げてどんどんと大きくなる

 

 

監視者は自害を選択した。究極的に高めたエネルギーを使って自らの身体を崩壊させ、示現エンジンと逆位相の力場を発生させる。自らを示現エンジンと真逆の存在へと変質させ、この次元に溢れる示現エネルギーにぶつけて対消滅を引き起こす。宇宙丸ごと吹っ飛ばせる算段だった

 

 

『私1人では終わりません。この世界は終了させる。あなた方も道連れです』

 

ブラック「最後の最後まであなたと言うヤツは!」

 

フォース「わたし達は終わらない!これからも続いていく!それを邪魔するあなたは……絶対に許さない!!」

 

 

巨大な光の矢が監視者の身体を貫く。貫いた先でぐるりとターンしてもう一度監視者の身体を貫く。暴れまわる光の奔流は意志を持った龍のように力強い火花を散らしながら下から上へとぐろを巻くように昇っていき、監視者の身体に強く巻き付いた

 

 

光の龍に巻き付かれた監視者は完全に動けなくなる。自身を中心に引き起こそうとしていた爆発も急激に衰えていき、遂にビーム1つ撃つ事すらできなくなった

 

 

その光から飛び出した2人。ビビッドフォースとカラードブラックが監視者の前に並び立った

 

『___』

 

監視者は最後の最後に口を閉じ、己の本来の役割に殉じた。〈管理者〉を超えうる可能性を持つ存在を監視する。自らを縛る光の束も、目の前の2人の人間が拳に込める力も。その正体は、最後まで監視者には理解出来なかった

 

 

カラードブラックはビビッドフォースの白い左手に自分の黒い右手を重ねた。一瞬だけ視線を合わせ、すぐに顔を前に向ける

 

 

ブラック「ファイナル……ビビッド……」

 

握り合った2人の手が眩い光を放つ。全ての思いを束ねて放つは、絶対勝利の一撃必殺。恨みも妬みも、悲しみも。全てを吹っ飛ばし、明日を希望で満たすための

 

 

フォース「パーンチ!!」

 

 

全力の、パンチだった

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第90話 「そして夏空は晴れやかに青く」

 

全てが終わって、丸一日が過ぎた

 

 

 

あかね「ほげー……」

 

 

あおい「ねむー……」

 

 

2人は縁側で互いの身体を支えに100%ダラけていた

 

 

もも「おねーちゃん、おひる何食べたい?」

 

あかね「そうめん以外……」

 

もも「りょうかーい。ねえお母さーん!」

 

とててて、と駆けて行く音を背後に聞きながら、あかねは青空を見上げた。この所空は示現力の影響で変な色に光っていたのだが、今日になってようやく落ち着いてきた

 

 

今のあかねには示現力は殆どない。思った通りに事象が変換されたりすることは無いし、お腹は空くし、眠くもなる

 

といっても、別に力を失った訳ではない。必要とあらば鍵は手の中に現れるし、変身だってできる

 

戦いの後、あかね達4人は自分達の力の大半を使ってこの次元を特殊なバリアで覆ったのだ。監視者は倒されたが、別の変な存在があかね達にちょっかいをかけてきたりネウロイがふらっと侵入したりしないよう蓋をする為だ。

 

示現力との繋がりは常に感じるが、あかね達自身はちょっと元気な普通の女の子として生活していける身体になっていた。少なくとも、力をこの世界の防衛に中てている限りは

 

 

バリアの維持も示現力にお願いしてやってもらっているのであかね達が普段何か気を取られたりすることはない。なにか問題があれば知らせてくれるだろう

 

 

『即ち、万事解決した』

 

 

戦いが終わり家に帰って健次郎を通してその言葉を聞いた時、あかねはちょっとだけ泣いて、思いきり笑って仲間達と抱き合って、そのまま疲れが限界を迎えて布団にダイブしてつい先程まで泥のように眠っていた次第だった

 

 

 

わかば「ふわー……おはよ。2人とも」

 

少し遅れて起きて来たわかばがあおいと反対側のあかね横に座り、肩に頭を乗せた。2人きりの空間を邪魔されて少しむーっとした視線を投げて来るあおいを無視してあかねに体重をかける

 

 

あかね「重い……」

 

わかば「頑張ったのだから、褒めて欲しいのよ」

 

あかね「頑張ったねー……よしよし」

 

あおい「私は!?私は!!!!??」

 

あかね「んああ、揺らさないで……」

 

 

気だるそうに両腕を上げて2人の頭を撫でていると、背中に何かが触れたのを感じた

 

 

ひまわり「おはよ、あかね」

 

あかね「おはようひまわりちゃん。身体だいじょうぶ?」

 

ひまわり「ん、まあまあかな」

 

背中合わせに座り込んだひまわりと言葉をかわした後、4人はしばらく黙り込んだ。この所ずっと慌ただしかったものだから、なんにもしなくていいこの時間を存分に満喫したかったのだ

 

 

 

その静寂を破るのは、誰かが庭の土を踏みしめる音。あかねがふと顔を向けると、見知らぬ女性が立っていた。いや、恐らく女性だと思えた。肩までかかる黒い髪、垂れてもなく釣り目でもない瞳。やわらかな微笑み以外、なんだか全く印象を持てない人があかねに向かって小さく頭を下げた

 

「どうも。管理者です」

 

あかね「???」

 

「ああ、待って。敵ではないですよ。そのまま座っていてだいじょうぶです」

 

 

そうは言われても警戒しない訳にはいかないのだが、なんだかあかねはまるっきり気合が入らなかった。その女性はあまりにも敵意が無く、危険性が感じ取れないのだ。それは横にいる仲間達も同じだった

 

 

わかば「管理者……。あのカラスの上司?」

 

「ええ。とはいえ、暴走を許してしまいました。管理者という名は、返納する必要があるというのが私達の考えですが」

 

微笑みが消え、申し訳なさそうにしょぼくれた顔であかね達に頭を下げて来るこの女性が本当に示現力の神様なのかと思ってしまう

 

「私は所詮分身ですから、大した力はありませんよ。所詮はメッセンジャーです。それより、我々の不手際であなた方には大変なご迷惑をおかえしまったことを我々は大変申し訳なく思っています。そのお詫びに来たのです」

 

あおい「はぁ。なにかくれるんですか?」

 

「なにか欲しいものがあれば、それを差し上げます」

 

あかね「マヨネーズ」

 

間髪言わず答える。管理者は上着のポケットからいつもあかねが食べているのと同じメーカーのマヨネーズの瓶を一本取り出し、差し出した。あかねはそれをうやうやしく受け取り、大切そうに膝の上に置いた

 

あおい「そ、そういうことならあかねちゃんの___」

 

「公序良俗に反するモノはちょっと。そういうものなら後でこっそり差し入れますよ」

 

あおい「ちちち違いますぅー!!!!そんなヤバイことじゃなくて……あかねちゃん違うから!違うの!あれ、あれだよ!あかねちゃんの……ごめんなさいちょっと考えます」

 

あかね「えー、教えてよ。何もらおうとしたの?」

 

あおい(あかねちゃんの抱き枕カバーが欲しいとは言えない……!両面で、裏はちょっと半脱ぎのヤツ……!)

 

わかば「ドッキングしたら解るわよ」

 

あおい「なんでもないからー!それよりほら、それだけですか!?管理者さん!他に何かお話とかあるんじゃないですか!?」

 

 

これ以上つっこまれたら叶わない。あおいは声を荒げた

 

 

「そうですね。もう一つだけ。あなた方が黒騎れいと呼ぶ友人の事です」

 

 

_____________________________

 

 

 

戦いの直後。ビビッドフォースとカラードブラックの合体パンチは、監視者と呼ばれた存在を粉々に打ち砕いた。残骸はカラードブラックが次元の狭間に放り込み、最後にその空間ごと焼失させ完全に消滅させたことで決着がついた

 

 

ブラック「___」

 

フォース「終わったね」

 

ブラック「ええ」

 

 

手を繋いだまま、2人は結界を解除し晴れ晴れとした空を見上げた。だがブラックの心は快晴とはいかない。敵こそ倒したものの、これからの当ては無い。やるべきことが終わってしまった今、彼女の心には徐々に喪失感が生まれ始めていた。それが解ってか、ビビッドフォースは少しだけ手を強く握り直した

 

 

ブラック「……?」

 

その時、ブラックの側にふわりと小さな光が近づいてきた。それは監視者の身体を砕いた際溢れ出した示現力の一部で、監視者が取り込んでいた力___かつて黒騎れいが居た世界の欠片だった

 

 

 

ブラック「ああ……」

 

 

感情が次々と涙となって溢れ出して、言葉にならない。まだまだ先は長く、この欠片も所詮はきっかけに過ぎない。だがしかし、彼女は何もかもを無くした訳ではないということに気付けたのだ

 

 

フォース「やったね!」

 

ブラック「ん……。色々と回り道をして、皆に迷惑をかけたけど……。うん、本当に良かった」

 

 

首輪に繋がれ、運命に振り回され、全てを失ったかと思われた彼女。長い時間と多くの戦いの果てに、ようやく心の底から笑うことができたのだった

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

その後、直ぐにれいはこの世界を去って行った。彼女はその力の全てを使ってでも、自分が元居た世界を再現するつもりだった。あかねは最後まで力を貸したかったが、どれだけ頼んでもれいが提案を受け入れる事は無かった

 

 

れい『あまりにも長い時間がかかる作業よ。その間、ずっとあなた達を縛り付けておくことはできない』

 

 

だから彼女は1人で行ってしまった。さよならを言う時間も殆ど無いままに。あかねはおいて行かれた事とれいが過ごす孤独な時間を考えて、今日の朝からずっと憂鬱な気分だったのだ

 

 

あかね「で、れいちゃんがどうしたの」

 

「あかねさんが求めるのは、ハッピーエンドでしたね」

 

あかね「そりゃそうだよ。ハッピーエンド嫌いな人とかいないと思うよ」

 

ひまわり「それは違うよあかね。世の中にはバッドエンドにこそ喜びを見出す人もいて___」

 

あおい「ひまわりちゃん、今オタク談義は一旦横に置いとこうよ。後で付き合うから……。ごめんなさい、続けて」

 

 

「言いましたよね。あなたが求めるものを差し上げると。マヨネーズは簡単ですし、まあもう1つくらいなら差し上げてもいいかなと思いましてね」

 

 

管理者が気取ったようにパチンと指を鳴らす。なにがもらえるんだろう、とぼけっとしていたあかねの頭上にふっと影がさしかかり、顔を上げる間もなく彼女の上から誰かが膝の上に落っこちて来た

 

 

「どうぞ。ハッピーエンドです」

 

 

あかね「?……!!!???」

 

 

視界が塞がっているので空いた両手で前にあるものをまさぐった。ふにふにとしていて、あったかい

 

 

「ちょぁ、やっ!どこ触ってるの!あかね、ちょっと!」

 

あかね「れいちゃんだ!!」

 

れい「もうっ!ただいま!」

 

 

耳を真っ赤にして頬を膨らませているが、見紛う事なき黒騎れいだ

 

 

「元はと言えば、彼女の世界が滅んだのは監視者の暴走によるもの。試練自体は乗り越えていた訳ですから。我々の罪滅ぼしも兼ねて、少しお手伝いをさせてもらいました」

 

あかね「れいちゃんだ……れいちゃん!」

 

わかば「おかえりなさい!全く、大げさにいなくなって!」

 

ひまわり「昨日の今日とかなんか拍子抜けだけど。……ま、よかったんじゃない?待ってたよ」

 

あおい「れいちゃんおかえりなさい!また会えて本当によかった!でもその場所は変わって下さい!ずるいです!」

 

 

れい「みんなありがとう。あおい、ブレないわね」

 

れいはあかねの上からどいて、わかばが場所を空けてくれたのであかねの横に座り直した。あおいはあかねの膝の上に座る。あかねはあおいを撫でながら、視界があおいの背中で塞がってしまったのでちょっと身体を傾けて管理者を見る

 

 

あかね「あの、ありがとうございます!」

 

 

監視者はニコリと笑った。先程までのうっすらとしたものでなく、本当に嬉しそうに

 

 

「確かに手助けはしました。ですが、この結末はあなた方が頑張り、そして手にしたものです。誇って下さい。我々とは違う道を行くあなた方の事、これからも見守らせて下さい。今度は、対等な立場の友人として」

 

 

 

管理者を名乗った女性は深く頭を下げ、去っていく。数歩歩いた辺りでその姿は風に流されたかのように消え去った

 

 

れい「まあそんなんこんなで……。ただいま、あかね」

 

 

あかね「___うんっ!おかえりなさい!れいちゃん!」

 

 

 

 

 

 

黒騎れいは一色家に帰って来た。一番初めにここへ来た時と違って、その手に何もかもを取り戻してから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わかば「あ、私は新しいトレーニング用の服と靴がほしい」

 

ひまわり「最新のグラボとモニタ」

 

「はい。あとで郵送で送っておきますね」

 

あかね(管理者さんまだ帰ってなかったんだ)

 

 

 





ちなみに後日あおいちゃんの所に一色あかね抱き枕カバー(普段着、制服、パレットスーツの3バージョン・観賞用使用用の2セット)が届きました







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第91話 「おかえりなさい」

実家に帰ったりするので、ただいまという言葉を言う事はあれど、おかえりなさいは中々言う機会が無くなってしまいました。1人って侘しいですね


宮藤「パーティです!!!!」

 

 

宮藤芳佳の怒号のような叫びが晴風の艦橋を揺らした。岬はびっくりして落っことした帽子を拾ってかぶり直し、おずおずと尋ねた

 

 

岬「えっと、打ち上げってことかな?」

 

宮藤「そうですよ明乃さん!」

 

 

大島の海岸で待機していた晴風の下に一色家から黒騎れい帰還の連絡があった。色々と事態が落ち着いたということでミーナ、坂本、バルクホルンの前に座らされ説教タイム寸前の状態だった宮藤芳佳は、その知らせを聞いて我慢できず説教部屋を抜け出して艦橋に突撃してきた、という訳だった

 

 

「いいねぇ、やろうよ艦長!慌てて帰らなきゃって訳でもないんだし!」

 

岬「うん、いいね!シロちゃん、艦内放送で呼びかけてくれる?今日の夜ご飯はみんなでお疲れ様会をやろうって!」

 

「全く……。いや、流石に今回はいいです。私も賛成ですよ艦長」

 

 

堅物で通っている晴風副長も今ばかりは肩の荷を下ろしたい気分だった。通信機で呼びかければ、船のあちこちから歓声が上がる

 

「ただし!それぞれ与えられた仕事を終えるのが条件だからな!夕方になるまでには修理も情報整理も終わらせるように!わかったな!」

 

 

各部署から大きな声で返事が返ってくる。晴風副長、宗谷ましろはやれやれと言いながらも楽しそうに通信機を置いた

 

宗谷「艦長、伝えました。みな張り切ってますよ」

 

岬「ふふ、よかった。それじゃあ何人かあかねちゃん達の所にいって簡単な打ち合わせをしてきてほしいかな。芳佳ちゃん、メンバーの選出任せていい?」

 

宮藤「お任せ下さい!」

 

ミーナ「その前に___宮藤さん?上官のお説教から逃げてはいけない、なんて初歩的な事をもう一度教えてあげる必要があるみたいね?」

 

 

しまった、と身を強張らせるも首根っこを掴まれてからではもう遅い。振り返らずとも、般若の心を優しい笑顔で覆うミーナの姿が想像できてしまう

 

 

宮藤「お、お慈悲を……」

 

ミーナ「だいじょうぶ。時間は一瞬よ。___あなたにとってはそうじゃないかもしれないけれど」

 

宮藤「ごめんなさあぁぁぁぁい!」

 

岬「あはは……」

 

 

 

______________________________________

 

 

 

 

健次郎「うむ。よく戻ってくれた!おかえりじゃ、れいくん」

 

れい「本当にご迷惑をおかけしました」

 

健次郎「いいんじゃ。終わってみれば、最高の結果と言える。君の行動も必要なものだったということじゃよ」

 

 

深々と土下座をするれいに駆け寄り、優しくその頭をぽんぽんと叩いた

 

あかね「おじいちゃん、そういやなんで元の身体に戻らないの?」

 

健次郎「今ワシの身体改造しとるから。それ終わったら戻る予定じゃ」

 

あかね「へー」

 

 

 

ましろ「初めまして、黒騎れいちゃん。お話はももからもあかねからも」

 

れい「あの、私___」

 

尚も謝罪を続けようとするれいを強引に抱きしめた。ぎゅっと抱え込んで、目を白黒させるれいの頭をゆっくりと撫でる

 

ましろ「本当に、がんばったんだね。えらいよ」

 

れい「……」

 

ましろ「あかねとももと、友達のみんなを助けてくれてありがとう」

 

れい「うぅっ……はいっ……」

 

 

母の腕の中で泣きじゃくるれいをそっとしておこうと、あかねは立ち上がって玄関から外に出た。陽はまだ高く、お昼ご飯までもちょっと時間がある。大きく伸びをして散歩でもしようかという所にプロペラ音が聞こえて来る。見上げればウィッチ達が空からやってきていた

 

 

エイラ「おーい、アカネー」

 

あかね「エイラさんにペリーヌちゃん!リーネちゃんも!」

 

 

3人は一色家の庭に備え付けられたストライカー用のスペースに降下し、下から飛び出してきた機材にストライカーを固定した後に足を引き抜いて地面に降り立った。これは健次郎がウィッチ達が生活しやすいよう前に作った物だった

 

 

ペリーヌ「これも、もう使わなくなるのでしょうかね」

 

あかね「……そだね」

 

リーネ「あっ。ちょっとペリーヌさん、そういう話は……」

 

ペリーヌ「仕方がありませんでしょう。わたくし達は元の世界での戦いが残っているのですから。……別に、わたくしも寂しさを感じない訳ありませんわよ?あかねさんの家には随分と思い出ができてしまいましたもの」

 

 

数ヶ月。春から夏にかけて、短いようで長い。ペリーヌは縁側の柱をそっと撫で、あかねの方を振り向いた

 

 

ペリーヌ「あかねさん。顔を上げてくださいな。あなたにそんな顔をされては、今夜も盛り上がりませんわよ?」

 

あかね「え、夜?なにかあるの?」

 

エイラ「ミヤフジのやつがさ、みんなでパーティやろうって。そんでその打ち合わせに私達が来たんだよ」

 

リーネ「肝心の芳佳ちゃんは今お説教中だから、しばらくしたら来ると思うけど……」

 

あかね「パーティ!?うわーっ!楽しそう!!ちょういいねぇ!!!どこでやる!?ウチでやろうよ!お庭全部使えばかなり広いし!」

 

ペリーヌ「それも合わせて打ち合わせをしましょう。中に入らせてもらってもよろしいですか?」

 

あかね「もちろん入ってよ!ここはペリーヌちゃん達のお家でもあるんだからさ!これからもずっと!」

 

 

別れは避けられない。だが、友であり仲間であり、家族である。その事実が消えて無くなるわけではないだろう。あかねに明るい笑顔でそう言われたペリーヌは照れたように小さく笑い、リーネとエイラも温かい気持ちになった。悲しさを消すためでなく、楽しい思い出を増やすための打ち合わせをするために彼女達は家の中へ戻った

 

 

そしてれいがめっちゃ泣きながらましろに甘えている様子を見たエイラ達は気まずそうに苦笑いをし、れいは顔を真っ赤にしながら部屋から飛び出していった

 

 

 

ましろ「あら、逃げられちゃった。撫で足りないのに」

 

もも「もーお母さんったら。ペリーヌさん達もお昼ご一緒されますか?まだ作り始めなので今ならご用意できますけど」

 

ペリーヌ「せっかくですからいただきますわ。お昼のメニューはなんですか?」

 

もも「おうどんと唐揚げです!」

 

エイラ「おー。宮藤のヤツ、昼飯までに間に合うかな」

 

 

 

その後ギリギリで間に合った芳佳はれいと抱き合って2人共わんわん泣きまくり、その後鼻を赤くしながら一緒にご飯を食べながらの打ち合わせは大層盛り上がった

 

 

そして夕陽が一色家の庭をオレンジ色に照らす頃、打ち上げに参加する全員が一色家に揃った

 

 

 

 

 





あかね「そうめんは食べ飽きたけどおうどんならセーフ!」

あおい「ましろさんの唐揚げめちゃくちゃ美味しいです……!」

ましろ「マヨネーズに合いそうな料理はかなり練習したからね!まああかねはなんにでもかけちゃうけど!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第92話 「勝利の打ち上げ」






 

 

健次郎「えー。では、このワシ一色健次郎が軽くご挨拶を」

 

 

あかねの頭の上から健次郎が声を張り上げた。先ほどまでがやがやと騒がしかった庭はすっかり静まり返っている。参加しているメンバーの殆どは成人もしていない子供達なのだが、501の一員として教育を受けている彼女達は式典での作法も心得ていた

 

 

ルッキーニ「……」

 

シャーリー「もうちょっと大人しくしとこうな」

 

 

ルッキーニは逃げ出さないようシャーリーに抱っこされていた。まあちょっとした例外もいる、ということだ。ちなみに静かにしているメンバーだが、大半はお腹が空きすぎて声を出す余裕が無いだけだという事を補足しておく

 

 

健次郎「うむ。長々と話すと、とって食われるかもしれんな。この度は我々の世界の平和の為奔走してくれて、本当にありがとう。諸君らの労をねぎらう為、色々と用意させてもらった!存分に呑んで食って、騒いでくれ!あかね、乾杯を!」

 

 

大島は閑散としたのどかな島だ。家と家の間隔も広い。存分に騒いだとしても問題は無かった

 

 

あかね「おっけー!みんなコップ持ってー!……んじゃ、お疲れさまでしたー!かんぱーい!!」

 

 

「「「「かんぱーい!!!!!」」」」

 

 

ガチャンガチャンとコップがぶつかり合う景気の良い音があっちこっちで鳴り渡る。特にあかねとぜひ乾杯しようと大勢の人間がひしめき合った

 

 

バルクホルン「宮藤達が世話になった。礼を言わせて欲しい」

 

あかね「い、いやいや!わたしこそ本当に助けてもらったんですから!」

 

バルクホルン「……宮藤やリーネ達に何かあったらと思うと気が気じゃなかったんだ。救われたのは私でもある。本当にありがとう」

 

 

バルクホルンだけでなく、ウィッチ達もみなあかねに礼を言って頭を下げた。あかねは慌てて皆に頭を上げてもらい、その後笑顔で乾杯に応じた。晴風に乗る人間とも乾杯を終える頃にはあかねのお腹はぺっこぺこだった

 

 

 

あおい「あはは、大人気だねあかねちゃん」

 

リーネ「ね」

 

 

2人もこつんとコップを合わせて、ジュースをくいっと飲み干した。庭に並べられたテーブルの上には一色ましろ、もも、芳佳を筆頭に晴風調理室を担当する少女達による立食パーティ用の料理がこれでもかと盛り付けられていた

 

 

坂本「うむ、うまい!うまい!」ガツガツ

 

バルクホルン「やっと宮藤達のメシが食えるな」

 

岬「」モグモグ

 

宗谷「岬さん、口にいっぱい詰めすぎ」

 

岬「美味しいんだもん」モグモグ

 

 

れい「うん、久々にちゃんとしたもの食べたわね」

 

宮藤「家出て行ってからどうしてたの?」

 

れい「適当にパンとか食べてたわ。あんまりお腹空かなかったし。でもこの世界に帰ってからはメチャクチャお腹すくようになったから、ご飯がとっても美味しいわ」

 

ひまわり「元の世界に帰んなくてよかったの?いや、私達は嬉しいけど。待ってる人とか……」

 

れい「……復元された世界は、崩壊するよりもかなり前、示現力の試練が終わった直後の時間軸で再生されたの。無論、そこにはもう〈私達〉がいた。完全な1つになる前のね」

 

ひまわり「……」

 

れい「そんな顔しなくていいわよ。寂しいけど、それよりも嬉しいの。私は私の選んだ選択肢に後悔はない。あの世界の私達が新しい幸せの形を見つけてくれるなら、それでいい。私は私で幸せになるから」

 

 

そう言って、ちょっとも寂しさを感じさせない満足しきった顔で笑うと、れいは卵焼きを口に放り込んだ。横で聞いていたあかねが最も気になっていた疑問をぶつける

 

 

あかね「じゃあ、ずっとこの世界に居てくれるの?」

 

れい「うん。迷ったけどね」

 

あおい「迷ったって、なにを?」

 

れい「最初は芳佳達の世界に行って、戦いに参加しようと思ってたの」

 

 

 

宮藤達の世界は混沌極まる大きな戦いが続いている。それは前からも話には聞いていたし、芳佳とドッキングして記憶を見たあかねは当然その状況が楽観視できるものでないことも知っていた

 

だが、501の代表でもあるミーナや坂本、岬や他の晴風乗員からも言われた。あかね達はこの世界に残ってほしいと

 

岬『私達の世界は今色んな次元が無理やり重なってるらしいから、これ以上他所の次元の人が来ちゃったりしたら大変な事になるかもしれないの。それに強い力を持ってる人は特にバランスを乱しちゃうから……』

 

ミーナ『それに、あなた達はこの世界で幸せに暮らしていて欲しいの。気持ちはありがたいけど、あくまで私達の世界の問題です。本来、あなた達は戦いなんて知らずに生きていていい人間なのだから』

 

 

感情と理屈と、両面で攻められればあかねも引き下がるしかなかった。れいも同じ事を言われ、結果あかねと同じ選択をした

 

 

れい「それより。家探さないと。隠れてたアパートはカラスが書類をちょろまかして居座ってただけのものだし」

 

あかね「え?」

 

れい「え。なに?」

 

あかね「ウチに住むって選択肢一択だと思うけど」

 

それは悪いわよ、と言おうとしたれいは後ろからましろに抱きしめられた。れいは驚いたが、振り払うことなく前に回って来たましろの手を軽く握った

 

ましろ「面白い話してるみたいねー?」

 

れい「いや、あの」

 

ましろ「れいちゃん、戸籍もなんもないんじゃない?ああ、お父さんが学園入学用に用意してくれたんだっけ。じゃあその勢いでウチの養子ってことにしましょうか。それともイヤ?」

 

れい「あのあの、嬉しいです。嫌な訳ないんですけど___」

 

ましろ「私達が迷惑に思うかも、なんて言ったら怒るからね」

 

れい「ぁぅ……」

 

ましろの真っすぐとした瞳に心の奥底まで見通されたような感覚を覚え、れいは思わず口をつぐんだ。〈お母さん〉に怒られる、というのはどれだけ強い力を持つ存在であっても身が縮こまる怖さがあった

 

 

ましろ「ま、そういいたくなるのは解るけどね。でも、本当にだいじょうぶだから。むしろ、あなたみたいな子を1人ほっぽりだせなんて言われたら絶対お断りだもん。ね?」

 

れい「………………じゃあ、お願いします。私を、お家においてください」

 

ましろ「うん。今かられいちゃんはウチの子ね!」

 

あかね「やったー!」

 

もも「お姉ちゃんもう一人増えた!やった!」

 

後ろからましろ、前からももとあかねに抱き着かれてれいはもみくちゃにされながらも、くすぐったそうに笑っていたがそこにあおい達も混ざってくる

 

 

あおい「そんな!?私もお家においてください!」

 

ましろ「いや、あおいちゃんのお母さんに怒られちゃうから」

 

あおい「お願いしますお義母さん!」

 

ましろ「あ、ああー……そういう感じなんだ。あおいちゃん、そういうのならせめて高校出てからちゃんとお話ししようね?」

 

あおい「ぃよっし!!!」

 

あかね「何の話?」

 

あおい「うぇっ!?あああ、その、また今度ちゃんと話すね!」

 

 

わかば「れいの方がお姉さん?」

 

ひまわり「以外とあかねの方がお姉ちゃん力あるかもだけどね」

 

 

シャーリー「おーい何の話だ!?」

 

あかね「あ、シャーリーさん!あのですねー___」

 

 

 

楽しい時間は陽が落ちても続いた。料理が無くなればデザートのスイカをみんなで食べて、日付が変わる頃になっても話は尽きなかった。だが、いつかは必ず終わりが来るものだ

 

 

 

 

片付けは大人組がやるからと子供たちはさっさと帰された。ウィッチ達もみな晴風に戻っていったが、一色家に住んでいたウィッチ達だけは家に残った

 

 

前までと同じようにみんなでお風呂に入り、わいわい騒ぎながら寝る準備をする

 

 

 

 

あかね達はその晩、みんなで同じ部屋で眠った。一番広い部屋に冷房を効かせてるものの、少々狭くて暑くて寝苦しい。それでも、みんなそうしたかったのだ

 

 

 

あかねは暗闇で芳佳の手を握る。静かに握り返される感触に安心を覚えながら、あかねはゆっくりと目を閉じた

 

 

 

今夜は綺麗な満月だった

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第93話 「波打ち際でさようなら!」

 

数日後。あかねは海岸線に立っていた。芳佳とれいと初めて会った海岸線であり、あかねはその事を思い出しながら手の中で鍵をいじくり回していた

 

 

 

視線の先では、海に浮かぶ一隻の船。超技術の寄せ集め、空飛ぶ巡洋艦晴風は出向の準備を整えつつあった。耳に入れた通信機からは晴風内部で交わされる通信が聞こえて来る。作戦を円滑に進められるよう、情報を共有する為だ

 

 

坂本『皆、そろそろだ』

 

 

通信が聞こえる。それを聞いて、あかねは小さく息を呑んで隣に立つ彼女達を見た

 

 

エイラ「ああ、そうだな。帰る時間か」

 

シャーリー「名残惜しいもんだな」

 

 

ルッキーニ「もも!ありがと!また来るね!」

 

もも「うん!いつでも遊びに来てね!シャーリーさんも、エイラさんも!」

 

シャーリー「ああ。またももちゃんのご飯を食べに来るよ。本当にありがとう」

 

エイラ「じゃーな。世話んなった。元気でやれよ」

 

わかば「はい。そちらもお元気で」

 

 

3人は手を振りながら空に舞い上がり、晴風へ飛んで行った

 

 

ペリーヌ「さ、わたくし達も行きますわよリーネさん」

 

リーネ「は、はい」

 

ひまわり「ばいばい。怪我しないでね。ペリーヌはツッコミに雷使うのやめなよ」

 

ペリーヌ「ええ。あちらの世界ではわたくし以外にもたくさんツッコミ担当をなさってくれる方がいらっしゃいますから少しは楽ができますわ」

 

ひまわり「そりゃなによりで」

 

リーネ「あかねちゃんあおいちゃん。わかばちゃん、ひまわりちゃん。本当にお世話になりました」

 

あおい「初めて会った時、ハンマーで殴りかかっちゃってごめんなさい」

 

ペリーヌ「本当に驚きましたわよ。ふふっ、あの時のあおいさんの顔、今でも思い出せますわね」

 

あかね「ペリーヌちゃん、リーネちゃん!楽しかったよ!」

 

リーネ「はい!」

 

ペリーヌ「ええ、本当に楽しかったですわ。大変でしたけど」

 

 

ペリーヌとリーネも空へ舞い上がった。何度も振り返るリーネをペリーヌが引きずるようにして晴風へと戻っていく。最後は、芳佳だった。彼女だけはストライカーを履いていない

 

宮藤「わかばちゃん、ひまわりちゃん」

 

わかば「もう少し一緒にいたかったわ。正直そう思ってしまう」

 

ひまわり「学校行くのが少しだけ楽しくなくなっちゃうかも」

 

宮藤「うん、私も。もうちょっと……ほんとに、そう思う。ありがと」

 

 

固い握手を交わして別れる。最後にあかねとれい、芳佳は3人でがしっと円陣を組むようにして互いの顔を見つめた

 

宮藤「絶対また来るから。2人共、もうケンカしないでよ?」

 

あかね「しないしない!芳佳ちゃんこそ、次来るときは砂浜に墜落したりしないでよね?」

 

れい「記憶喪失にもならないようにね、芳佳。ヤバそうな敵が出たら呼びなさい、みんなで殴り込みに行ってあげる」

 

 

3人は最後に顔を突き合わせてげらげら笑うと、ぱっと手を放した。間を空けず、あかねはさっと鍵を構えた。別れの挨拶は全て済ませた。あとは彼女達を送り届けるだけだ

 

 

あかね「みんないくよ!」

 

 

「「「「イグニッション!」」」」

 

 

4人が揃って光に包まれ、そのまま1人の白い光へと重なり合う。彼女達の求めに応じてバリアを展開していた示現力が集まり、ビビッドフォースが顕現した

 

 

れい「芳佳、これを」

 

宮藤「れいちゃん?これって……れいちゃんのマフラー?いいの?」

 

 

ふわふわとしたマフラーを首に巻かれる。夏の日差しを浴びているというのに不快な暑さを感じず、じつに肌に馴染んだ。マフラーからは微弱ながら不思議な力を感じる

 

れい「大丈夫よ。私の分はあるから。じゃあ、行ってらっしゃい」

 

 

ビビッドフォースが芳佳を抱き上げて、砂浜から飛び立つ。芳佳はだっこされながらも、こちらに手を振るももや健次郎に手を振り返した

 

 

 

晴風の甲板に芳佳を降ろすと、ビビッドフォースは空へ飛び上がる。それを見て晴風のエンジンの出力が上がっていく

 

 

海面に波を荒立たせながら空に浮かぶ晴風。次元跳躍用の装置が起動し、船全体を巨大な光の粒子が覆う

 

 

岬「さて、無事に帰れるかなぁ」

 

坂本「はっはっは!何も心配あるまい、無事に来れた訳だしな。なにより帰りは、頼れる仲間に見送りもしてもらえる」

 

 

ビビッドフォースが手をかざすと、晴風の前に次元の穴が発生する。ネウロイが利用する黒く淀んで歪なゲートではなく、安定した黄金の光を放つ綺麗な丸い円のゲートだ。岬の号令で晴風はゲートを潜った

 

 

凄まじいエネルギー反応が起こり空の雲と海面に大きな渦を描く。強烈な閃光が二度三度と激しく明滅し、ゲートと晴風がこの世界から完全に消滅した

 

 

れい「___さようなら。ウィッチーズ」

 

 

れいの呟きは潮風に流され、誰の耳にも入らず消えていく。しばらくじっと空を見ていたれいは、ふぅっと息を吐いてくるりと振り返り歩き出した。あかね達が戻ってくるまで、家の掃除でも手伝おうかと考えながら

 

 

____________________________

 

 

 

 

宮藤「はぁ……」

 

ペリーヌ「溜息つくんじゃありませんの。こっちにまで辛気臭いのがうつるでしょうに」

 

リーネ「芳佳ちゃん、元気だして」

 

芳佳、リーネ、ペリーヌの3人は晴風艦内の船室で暇を潰していた。次元跳躍が終わるまではまだもう少しばかり時間がかかるみたいだった

 

 

宮藤「会いたい……あかねちゃんとれいちゃんに……」

 

ペリーヌ「まだ窓の外に居ますわよ」

 

 

船室から外を見れば、次元の狭間のキラキラした空間を飛ぶビビッドフォースがこちらに手を振っていた。それに手を振り返し、宮藤は船室のベッドに腰を降ろした

 

宮藤「今度いつ会えるのかなぁ」

 

リーネ「私達の次元が安定する方法を博士達が探っているみたいだから、そっちが落ち着いたらなんとかなるんじゃないかな」

 

ペリーヌ「頑張らないといけませんわね」

 

「そうね。張り切っていきましょう」

 

凛とした声が相槌を打つ。芳佳とリーネとペリーヌは完全に思考が固まった。そして声の方を向けば、そこには___真面目そうな顔で船室に置いてあったスナック菓子を頬張るあろん子がいた

 

 

「「「はぁ!!!????」」」

 

 

あろん子「うるさいわねえ。いいでしょ、私がいたって」

 

リーネ「よくないですよ!?え、なんで!」

 

あろん子「れいがマフラーに自分の力の一部を託したのよ。あ、安心して。別にまた善悪に分かれたりなんかしてないから。単純に、日常生活に必要ない戦闘力の部分に意志を持たせたのが私だから。それに、あなた達の次元のバランスを壊したりするような凄い力とかはもってないから。ちょっとしたサポート役程度のものよ」

 

 

しれっと喋るだけ喋り、ぽかんとしているウィッチ3人にずびっと親指を立てて見せる

 

 

あろん子「またあかね達に会えるように、頑張って芳佳達の世界も平和にしましょうね!」

 

リーネ「あ、あはは……」

 

ペリーヌ「もうなんというか……はぁ……」

 

宮藤「……はは、あはははははっ!」

 

 

 

宮藤達の大声を聞きつけて隣室のシャーリー達が部屋を訪れ、あろん子の姿を見たウィッチ達を中心に艦内が大騒ぎになる

 

 

その様子を外から見て爆笑していたビビッドフォースは、目的の次元が近付いてきた事を察知して岬に航海の無事を願う最後の通信を送って晴風から離れた

 

 

『またね』

 

 

遠ざかっていく晴風から返って来た短いメッセージ。きっとまた会えるだろう、という確信はある。あとはそれが近いうちであることを切に願う

 

 

 

いつかの再会を想像しながら、ビビッドフォースは光の向こうへ消えていく船を見送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第94話 「わたし達は元気です」

 

 

それからの話は、まあなんてことは無いふつうの生活が繰り広げられた。異世界からの侵略者もなく、世界の命運を賭けた戦いも無い

 

 

 

学校は少ししてから再開された。世界中を騒がせた謎の侵略者問題は、上手に情報を制御されて発表された。防衛軍の働きで世界平和が守られたという事になった。空を飛ぶ女の子や空飛ぶ戦艦の噂がしばらく出回ったが、しばらくすれば都市伝説レベルとして世間の話題からは消えていった

 

 

 

学校が再開したと同時にあかねのクラスから3人の友達がいなくなった事は、クラスメイト達を深く悲しませた。ちなみにこまりとなつみは芳佳が帰る前に一度顔合わせをして、彼女が異世界から来た魔女であるというネタバレを喰らわせた。びっくりしながらも2人は最後まで聞き届け、もっと早く教えて欲しかったと文句を言いながらもこの常識外れの話を受け入れ、前までと同じようにあかねとれいと友達を続けてくれている

 

 

 

 

 

天城はそのまま教師として学園に残ることにしたようだ。前のようにあかね達を訓練の為に追い回すことはしなくなり、あかね達が政治的いざこざに巻き込まれず平和に学園生活を送れるように目を光らせてくれているようだ

 

 

健次郎は人間の姿に戻った。見た目は老人のままだが、身体の不調は完全に治ったようでバリバリ研究活動に精を出している

 

 

ひまわりはアパートに戻り元の引きこもり生活に戻ったが、学校にはキチンと来るしあかねの家にはちょくちょく泊りに来る

 

 

わかばも家に戻った。とは言っても気付けばあかねの家でくつろいでいるし、週末はほとんどあかねの家で身体を休めたりあかねと組み手をしたりしている

 

 

あおいはずっとあかねの家にいる。たまに家に帰るが、そもそも実家にあおいの家族はいないのもあってもう殆ど一色家の一員となっていた。あかねの横をれいとももと取り合いながら楽しそうに健康な日々を過ごしている

 

 

 

 

そうして二学期を迎え、気温が下がって冬の兆しを見せる頃になった

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は冬。クリスマスと大晦日の間くらい。わたしは白い息を吐きながら海岸線をゆらゆらと散歩していた

 

 

1人で歩くのは本当に久しぶりだった。あおいちゃんは24時間……本当に24時間わたしから離れなかった

 

 

いや、嬉しいんだけどさ。ちょっと恥ずかしいし。このところ、なんだか一緒にいると妙にドキドキしちゃって仕方がない

 

 

あの日、海岸線で出会った友達のことは忘れる事は無い。いつか会えると信じている

 

 

それでも時折どうしようもなく寂しい思いをしてしまうのはしょうがないと思う。そんな時、明け方にぱっと目が覚めた時は、隣で眠るあおいちゃんとれいちゃんを起こさないようそっと家を抜け出してこうして海岸線を散歩するんだ

 

 

海岸線に腰掛けて海を見る。冬の潮風はとても冷たくて、思わず涙がこぼれてしまった

 

 

 

「なんだか元気ないね」

 

 

明るい声がわたしを呼び止めた。振り向いた私の首にふわりと温かななものが巻かれる。手に取って見てみれば、赤いふわふわとしたマフラーだった

 

 

「私の手編みだよ。最初はれいちゃんへのお返しのつもりだったんだけど、編み物楽しくてハマっちゃった。あとあおいちゃんとわかばちゃん、ひまわりちゃんとももちゃんの分もあるよ。ましろさんとかなつみちゃん達のはちょっと間に合わなくって……それは今度でいいかな?怒られるかもだけど」

 

 

隣に腰掛けてわたしの涙を指で拭ってくれる

 

 

「芳佳ちゃん……!」

 

「ちょっと遅くなっちゃった。クリスマスには間に合わなかったみたいだね」

 

 

サプライズが決まった事に満足そうに笑う芳佳ちゃんに思いっきり抱き着いた。背中に回された芳佳ちゃんの手がわたしの背中をやさしく撫でる

 

 

 

 

「芳佳ちゃーん!!!!おかえりー!!!でもあかねちゃんと近すぎだよ!!!」

 

「あはは。あおいちゃんブレないね……」

 

「そんなところが可愛いんだけど」

 

 

 

遠くからあおいちゃん達が声を上げながら走ってくる。みんなもなんとなく気付いたんだろうかな、と考えながら芳佳ちゃんと手を繋いで立ち上がった

 

 

 

「あかねちゃんに話したい事たくさんあるんだ」

 

「聞きたい。わたしも話したい事いっぱいだよ!」

 

 

 

戦いの無い世界で、わたしは歩いて行く。友達と遊んで、勉強して、ちょっと不幸なことがあって、それ以上の幸せを楽しんだりして

 

 

そうして世界は回っていき、みんなは進んでいくんだろう

 

 

 

 

「おかえり、芳佳ちゃん」

 

「うん。ただいま」

 

 

 

 

こうしてわたし達のちょっとした物語は、ハッピーエンドで終わったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、わたくし達もいるんですけど」

 

「え、ペリーヌちゃん!?リーネちゃんも……てか海に浮かんでるの晴風じゃん!?」

 

「ごめんなさいあかねちゃん。ちょっとこっちの世界が大変な感じで……手伝ってくれないかな?大晦日までにはかえってこれる筈なんだけど」

 

「もー先に言ってよ芳佳ちゃん!……よし、いっちょお助けにいきますか!!」

 

 

 

 

ビビッド&ウィッチーズ

 

 

 

 





年開けちゃった!!!!やべー!!!!!でも完結です!!!!!!!ありがとうございました!!!!!!!!!



番外編とかあとがきとかは、また改めて書かせていただきますが、ビビッド&ウィッチーズ!の物語はこれでおしまいとなります。本当に長い間、ありがとうございました。


ここまで観ていただいた方は何人いらっしゃるのでしょうか?わたしの拙い文章力を受け入れて最後まで見ていただいた1人1人の読者様に感謝の気持ちを伝えたいのですが、とりあえずここで締めさせていただきたく思います


本当に、ありがとう。また新しいお話で会いましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「あとがきです」


※まさか本編読まずこれだけ読みに来たりしてませんか!?大丈夫ですか!?


 

 

 

 

本編全部読んでいただいた方はどうぞ下へ。読んでいない方も___まあ、下に行ってもらっても構いません。ネタバレしか存在しませんが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがきです。ビビッド&ウィッチーズを書いていた間にどういう事があったかという話と、設定のちょっとした裏話なんかを書きます

 

 

 

第一話の投稿が2014年2月5日です。7年ほど前になります。ヤバイですね。7年の間ずっとこの作品が未完であることが私の脳裏にはありました。ハーメルン以外でも何度か小説を書いたことはあるのですが、打ち切り気味に無理やり終わらせたものを除きちゃんと完結した小説ってのは一度もなかったんです。オリジナル・二次創作しかり。

 

 

創作者としてなにより大切なものは、まず終わらせる事。最高の作品を書きたい!というモチベーションは大切ですが、その結果だけを求めてしまっては中々最後まで歩き続けることは難しいのです。ビビッド(ここからは略します)を書いている上で一番詰まったのは

 

 

 

 第14話 あおい「果たすべき役目」 2015年10月28日(水) 00:25(改)

  第15話 わかば「魂の形」 2016年02月15日(月) 22:16(改)

  第16話 れい「目覚め」 2017年11月04日(土) 22:30(改)

  第17話 あおい「熱血高気圧、襲来」 2018年12月30日(日) 23:55

 

 

この辺りですね。4話書くのに3年かかってます。たまにちょっと書いては気に入らず、頭の隅に追いやって別の事をする。そんな生活が続き、その間は創作活動から完全に離れてしまいました。わかば、ひまわりの参入に当ってはできるだけの描写を心掛けたつもりなのです。最後には満足いくお話が作れましたが、少しこの辺りで時間をかけすぎました

 

 

ビビッドを書こう、と思い至った動機の根底には原作のアニメを自分の好きなように設定をいじって自分の好みに作り替えてしまおうという驕ったモノがあります。原作リスペクトも、当然あったのですが

 

 

絶対にやりたかったことは

 

れいの立ち位置を「闇落ちした主人公」というものに変える。

 

あかね達4人を合体させる。その際、色を混ぜれば黒に、光を混ぜれば白に。という設定で2人の違いを強調する

 

なにはともあれハッピーエンドにする

 

 

という3つです。そこにウィッチーズに頑張ってもらい話を広げたいというのを最後に思い付いて、こういうクロスオーバーの作品になりました。ちなみにタイトルの「&」は、ガールズ&パンツァーの&をもらってきました。初期段階ではガルパンのキャラにも参戦してもらおうと思っていたのですが、どうにもお話にうまく組み込める自信がなく断念しました

 

 

 

 

ウィッチーズをどう話に絡めていくのかは最後まで悩みました。いきなり11人全員を参戦させるというのは最初から選択肢に入っていなかったのですが、全員が揃うタイミングを何時にするかという問題は最終決戦で全員を揃える、というちょっとばかしクロスオーバーとしては物足りないタイミングになってしまいました

 

 

芳佳を追っかけてくるのはリーネ、そのリーネに巻き込まれるのならペリーヌ。お調子者のシャーリーとルッキーニにはこちらに来てもらい……エイラとサーニャを組ませない、というのは自分でもちょっと大胆だったと思います。ですが個人的にはカッコイイエイラさんを書きたかったので性格もかなりクールで、シャーリーと合わせて洋画っぽいかっこつけた言動にキャラを寄せました

 

 

 

ハイスクールフリートのキャラクター達を参戦させたのは、完全にアドリブに近いです。ウィッチーズ達の設定は最初の方から「そもそも原作の世界とは違ったパラレル的存在」として扱っていました(501統合航空団、ではなく特殊戦闘団という設定)。これは昔書いていた「さまざまなアニメのキャラ達を混ぜた世界」でのギャグ二次創作の設定をちょっと引っ張ってました。書いていたのはもう10年ほど前になるのですが

 

 

 

彼女達の世界は俗に言うスパロボシリーズのように様々なキャラや世界観が混ざった混沌とした世界観を匂わせていました。これは、最終的にインフレ気味に強くなるビビッドレッド達に張り合わせるのと、ウィッチーズ側の設定を好きに変えることで話を書きやすくしたいという考えがあったからです

 

 

 

 

 

とまあ、思ったことを勢いで書き出してみました。ちょっと読み辛い文章になってしまいましたが、「ふーんこんなこと考えてたんだ」ぐらいで流し読みしてみてください

 

 

 

二次創作は楽しいのですが、完結までもっていくことが本当に難しい。ですが、人生で初めてこの長さのお話を書き切れたことが本当に嬉しいです。そしてそのお話を誰かに読んでもらい、1人でも「楽しい」と思ってもらえたのなら。創作活動の喜びは、やはりそこにあるのだと思います。少なくとも私が楽しめているので勝ちです。でもできれば皆さんにも楽しんで欲しいです

 

 

今後も、先の話になると思いますがビビッドの番外編を書こうとは思っています。秋編とかクリスマス編とか、どたばた日常みたいなものを。

 

 

それ以外にも完全新作なんかも書こうと思っています。今度は1年2年で完結できるように上手くやりたいですが……

 

 

またお話を書きます。お時間があれば、また見に来てください。これからも創作活動を楽しんでいこうと思います。皆さんにも、楽しい時間が多くありますように

 

 

 

 

 

以上です。本当に長い間、ありがとうございました

 

 

ばんぶーでした

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。