素晴らしき世界と鬼島津 (吉田松陰)
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一話

二期と七巻まだかな


___豊久、豊久!!

___初陣で侍首か

___良か!!良かにせじゃ!!

___すごかな武者振り、ただ上帯んきびり方はこうすっとじゃ

___よう聞け。もし軍に勝って討死せんな、こん上帯は我が解こう。だが今日ん軍で屍を戦場に晒す時は、切った上帯を見て、島津が家に生まれた者ん思い切ったっ所作と敵も知り、我もそん死を喜ぼう

 

 

 

 

 

___ょひさっ!とよひさっ!

 

「豊久っ!」

 

「退くのじゃッ!豊久ぁッ」

 

 征野に猛将の声が響き渡る。

 慶長5年、関ヶ原鳥頭坂。

 天下分け目の戦いは西軍の敗北という結果に終わり、最後まで残り続けた島津軍も敗走。

 そこで島津軍は東軍へ突撃を敢行、徳川本隊の横をすり抜け伊勢路方面へ撤退していた。

 自身の伯父でもあり、島津軍の大将でもある島津義弘にかけられた声に、【島津中務少輔豊久】は振り向かずに返す。

 

 「天運は既に窮まっ!戦うちゅうも負けは明らわっぜ!我もこけ戦死しよう。義弘公は兵を率いて薩摩に帰られじゃ。国家ん存亡は公ん一身にかかれり」

 

 「おいも兵子もここで皆死んでも、こん戦島津(おいたち)の勝ちなんでごわす」

 

 「お退きあれ!!ここは、お豊におまかせあれ!!」

 

 「さあ兵子ども!!射ち方構えぃ!!」

 

 「敵は徳川最強赤備え、相手にとって不足なし」

 

____命捨てがまるは、今ぞ!!

 

 号 ッ ! ! 

 

 太刀を抜き放ちながら上げた豊久の声に、薩摩隼人が応える。

 そこに、徳川最強と名高い『井伊の赤備え』、【井伊侍従直政】が追撃にかかる。

 

 「奴らを生かして薩州に帰さば、井伊徳川の恥ぞ!!」

 

 迫りくる追撃を前に、島津軍は座禅陣、「捨て(がまり)」にて挑む。

 その中、義弘はたまらず叫んだ。

 

 「待っておるぞ豊久!!」

 

 「待っておるぞ薩摩で!!」

 

 「死んだら許さぬぞ!!豊久ぁ!!」

 

 その声に、思わず豊久は破顔する。

 

___良か御養父(おやじ)どのじゃあ

___豊久は幸せもんだわ

___よぅし!ここは一番武者働きせねば

 

 そして、両軍が激突した。

 

 

 

 

 

 「放てぇ!!」

 

 豊久の号令とともに、鳥頭坂に轟音が鳴り響く。

 その一瞬後に、豊久は土煙をあげながら走り出した。

 火縄銃に倒れる徳川軍の間を駆け抜け、その勢いで騎兵を馬ごと両断する。

 

 「島津中務少輔豊久、推参!!」

 

 堪らぬ口上に、直政は漏らした。

 

 「おお、美事也」

 

 そのまま、豊久は馬上の兵の首を切り捨てた。

 そして直政の目の前までたどり着くと、直政が馬上から吐き捨てる。

 

 「死兵め、貴様らはもう負けたのだぞ」

 

 「その首、俺の手柄となれい」

 

 豊久が中段に構えながら返す。

 

 「何言いやがるクソボケが」

 

 「首になるのは(おい)じゃない、貴様よ!!」

 

 須臾にも満たぬ時間ののち、両者は激突した。

 

 「阿呆が!!」

 

 一合、二合三合。

 

 直政の槍と、豊久の太刀がぶつかる。

 

 「直政様!!」

 

 「殿を!!守れ!!」

 

 「応!!」

 

 ___応!!

 

 大将の危険を感じた徳川軍が直政の前に槍衾を敷く。

 それを前に、豊久は頬を伝ってきた自分の血をぺろりと舐め、笑みを浮かべる。

 

 「応、良か兵子じゃ」

 

 そして、槍衾へ自ら飛び込んだ。

 

 「こ……こやつ……ッ!」

 

 当然のように豊久は槍で貫かれ、あやされる赤子のように突き上げられた。

 

 「……阿呆が!」

 

 何本も槍が突き刺さり、三度宙を舞う豊久を前に直政が吐き捨てる。

 しかし、豊久の動きは止まらず。

 

 「阿呆はお前(うぬ)じゃ、井伊侍従直政ぁッ!!」

 

 そう叫び、腰に差していた火縄銃を抜き放った。

 

 「!?……おぉオ!!」

 

 「はッはァー!!やったど!!」

 

 弾は直政の左肩に中り、思わず直政は落馬する。

 それにより槍衾の手もゆるみ、豊久も地面に落ちた。

 大将の負傷、徳川軍に動揺が走る。

 

 「直政様!!」

 

 「殿!」

 

 「殿ぉ!!」

 

 徳川軍の兵たちが直政に駆け寄る。

 

 「退け!!退くのだ!!」

 

 直政を担いだ兵らは、来た道を引き返し徳川本軍の元へ引き返していった。

 

 「待てぇ!!直政!!」

 

 「ふざけるな、ふざけるなよ手前!!」

 

 

 

 

 

 「首おいてけ直政ぁ!!」

 

 

 

 

 

 日が落ち、雨が降り出す

 豊久は一人歩いていた。

 周りにいた薩摩隼人は皆倒れ、ただ一人薩摩を目指し歩いていた。

 

___ここは…ここはどこだ……

___おいは帰るのだ……ッ!!薩州へ!!

 

 しかし、その思いは敵わず。

 島津中務少輔豊久は、関ヶ原、島津の退き口にて討ち死となった。

 

 

 

 

 

 「死後の世界へようこそ島津豊久さん」

 

 「不幸にもあなたは亡くなりました」

 

 「な、なんじゃあ……ッここは……ッ」

 

 そして、駄女神と対面する。

 

 




誰か代わりに書いて


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二話

薩摩弁はだいぶてけとーです。


 「ちゅうことは、おいは死んだちゆうことか」

 

 「そういうことになるわね」

 

 「なっほどなあ」

 

 

 青色の美しい髪を揺らしながら女神【アクア】から放たれた言葉に、豊久は考え込む。

 己が死んだというのは納得できる。

 槍衾に飛び込んだのだ、死ぬのが道理だろう。

 しかし、目の前にいる珍妙な存在を見つめていると……

 

 「どーにも、物狂い(いかれ)か獄卒が化けた姿にしかみえんなあ……」

 

 そりゃそうだ。

 南蛮にもいなさそうな青い髪に、日ノ本では見ることはない短くてひらひらとした着物。

 しまいには自分は異世界の神だといい始めたら、よほどの物狂い(いかれ)かと思うのも無理はない

 むしろ、物の怪や豊久を騙す地獄の獄卒とかの方が豊久にとっては信憑性のある話だ。

 

 「それなら、あなたが亡くなった後の島津のことでも教えてあげましょうか」

 

 「そげなこといわんでもよか」

 

 豊久はきっぱりと言い放った。

 

 「あの段でん、すでに公は()()()が時ばかせいで脱しておられたはずじゃ」

 

 「公さえ薩州に帰られたなら決まりきっちょる」

 

 

 

 「島津は徳川(とくせん)家ば滅ぼした」

 

 

 

 「何十年、何百年かかったかは知らん。じゃっどん必ず島津兵子が滅ぼした」

 

 「エェ……」

 

 きっぱりと言い放つ豊久に、アクアは思わず漏らした。

 

___あんな絶望的な状況でよく何の疑いもなく言えるわね……

 

 こういう子なんですという言葉は、どこぞの大六天魔王のものである。

 とりあえずは話を進めなくてはならない。

 そう思い、目の前のわけの分からない人間に取り繕うのも面倒くさいと早々に投げ出したアクアは、手早く説明を始めた。

 

 「あなたには、とある世界に赴いてほしいのです」

 

 「ほう、なんじゃ」

 

 初めから変わらぬ声色で返す豊久に、アクアは本題を切り出す。

 

 「そこは、ゴブリンやオークと呼ばれるモンスターが跋扈する世界。そこであなたには、魔王と呼ばれるものを倒してほしいのです」

 

 「ごぶりん?おぉく?」

 

 ここにきて豊久の声色が変わる。

 

 「あなたには、(あやかし)とか、物の怪とかって言ったほうが分かりやすいかしら」

 

 「なっほど、頼光(ライコウ)んまねをせえちゆうこっか」

 

 アクアの言葉に豊久は合点がいったようだ。

 頼光……源頼光(みなもとのよりみつ)といえば、大江山の酒呑童子をはじめとする数々の怪異を討伐したことで知られる生粋の妖怪キラー。

 豊久にも何か感じるものがあったのだろうか、それっきり黙り込んでいた。

 

 「そうか、その手があったか……」

 

 「なんけいったか」

 

 「いえ、なにも」

 

 やけに早口で答えるアクアに、怪訝な表情を浮かべる豊久。

 それに気づいてかどうか、アクアは目をそらし下手な口笛を吹いていた。

 

 「まあよか、そけおくれ」

 

 「えっ」

 

 「そんいせかい(・・・・)ちゅうとこに行って、頼光越えをすっともよかじゃろう」

 

 そう言った豊久に、アクアは満面の笑みでまくしたてる。

 

 「そう!?いやー助かるわーじゃあ早速チート選びましょうかあなた日本の武士だしやっぱ日本刀がいいでしょこれなんか」

 

 「必要なか」

 

 そう軽く言い放つ豊久。

 

 「え?いやあったほうが絶対便利だし」

 

 「そんげなものいらんちゆうとる。そのちぃとちいうものが何かはしらんが」

 

  そういった豊久は、自分の太刀と小手、そして___

 

 「こん太刀と脇差、そいに丸に十文字があれば十分や」

 

___島津の家紋、丸に十文字を指さしにんまりと笑った。

 

 その姿に、アクアはあきれながらも言葉を続ける。

 

 「チートあったほうが楽なのに……まああなたがいいならいいけど、少しだけサービスしとくわね」

 

 そう言い、気を引き締めるアクア。

 その瞬間、豊久の足元に魔法陣が浮かび上がる。

 

 「さあ勇者……いえ、日本の武士(もののふ)よ。あまたの勇者候補から、願わくばあなたが魔王を打ち倒すことを祈っています」

 

 アクアの言葉とともに、魔法時の光は一際強くなり、豊久の身体が浮かび上がる。

 

 「さすれば神々からの贈り物として、どんな願いでも叶えて差し上げましょう」

 

 「すげ大層な謳い文句じゃな」

 

 豊久が興味なさげに呟く。

 

 「さあ___

 

 

 

___旅立ちなさい。その太刀と、島津の家紋にふさわしい戦いを見せてくれることを期待してます」

 

 

 

さらに強くなる光にも気にせず、豊久は笑みを深める。

 

 「応、まかせちょれ」

 

 まるで散歩にでも行ってくるような声色で放たれた言葉。

 しかし、その眼は消して笑わず___

 

 

 

 ___まさに、戦場に向かう薩摩隼人にふさわしい、決意の炎の揺らめきがあった。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「……行ったわね。にしても怖かったなぁ」

 

 一人残されたアクアがつぶやく。

 戦国の世を駆け抜けた武士を目の当たりにして、さすがの駄女神もある程度の緊張感は持っていたらしい。

 

 「しかし、源頼光かぁ。それもありだったけどなぁ」

 

 豊久が呼び出されたのには理由があった。

 わざわざ平成の世から戦国時代まで遡り、著名な武士を呼び寄せた理由。

 それは、単純に魔王が未だ倒されないからであった。

 今まで送り出してきた者達は、いくら強力な武具を持たせたとはいえ元は平和な国の出身。

 それなら、戦乱の世から引っ張ってくればいいと考えたのであった。

 しかし、それこそほかに著名な人物はたくさんいた。

 その中で豊久が選ばれた理由とは。

 

 「でも、あまり有名すぎるのも駄目なのよねぇ」

 

 詰まるとこ、その知名度にあった。

 それこそ、源頼光は神格化され、神社に祭られているため、呼び出したらどんな影響があるかわからない

 その点豊久は著名とはいえそこそこマイナーでもある。

 そんな微妙な理由で選ばれた豊久の胸中は知れず。しかし、駄女神にそんな考えは及ばず。

 

 「まあもう暫くは会うことはないでしょ。さて、次の人はっと……ぷくく。なにこの死因」

 

 つまるところ、駄女神は面倒なことは後回しにしたのである。

 

 しかし、女神であれど天命には踊らされるのか。

 

 豊久との再開は、割とすぐ果たされることになる。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 駆け出し冒険者の街、アクセル。

 その街角に、豊久は送り出された。

 

 「異世界ち言うてどげんもんかて思うたが、意外と日ノ本と変わらんな」

 

 そう言いながらあたりを見渡す豊久。

 さて、戦場にたどり着いたと思ったものの……

 

___特に戦火が伸びちょっ様子もなし

 

___そこまで困窮しちょっわけでもなかとな

 

 街の様子を一瞥し、そう考えた。

 ともすれば、準備の時間はそれなりにある。

 ひとまずは、これからどうするかを決めるために通りがかる初老の人に声をかけた。

 

 「そこん老人、魔王ち呼ばるっ者を斬りに来たんじゃが、なんかそんげな組織はあっとじゃろうか」

 

 薩摩弁のきつい豊久に、初老の男は狼狽する。

 

 「ひでぇ()()()だな……どっからきたんで」

 

 一瞬豊久の顔に怒気がはらむが、こちらには何の情報もないため素直に答えることにした。

 

 「日ノ本、薩州」

 

 その言葉を聞き、やはりかとうなずく初老の男。

 

 「聞いたとこもない場所だな……まあいい。要するに冒険者になりに来たってことなら、この通りをまっすぐ行ったところにギルドがあるからそこの受付に詳しいことを聞きな」

 

 「助かる、ご老人」

 

 田舎者といわれた豊久の仕返しにうめき声をあげる初老の男だが、歩き去る豊久を引き留める。

 

 「まあ待て……この袋に冒険者の登録料が入ってる。どうせ金は持ってないんだろう」

 

 そう言い、お金の入った袋を豊久に渡した。

 

 「こいは……ありがとうごわぁた。大切に使わせてもらう」

 

 そう言い、深々と頭を下げる豊久に初老の男は笑う。

 

 「いいってことよ。……あんたみたいのは何にも見たことあるが、どれもつんえいやつばっかだったからな。先行投資ってことよ」

 

 さらに続ける。

 

 「代わりに、この街にモンスターが攻めてきたら守ってくれよな」

 

 そう言った初老の男に、豊久は顔を上げる。

 

 「そいじゃ、おいはぎるどちいうとこに行ってくる。あいがとじじどん」

 

 「じいさんじゃねえっての……がんばれよ」

 

  そういう初老の男に、豊久は笑顔を返し歩き出した。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 所代わり、そこは冒険者ギルド。

 受付の前に立った豊久は、適当な女性に話しかける。

 

 「ここがぎるどちうところか。ぼうけんしゃちいうのになりにきたんじゃが」

 

 そう言う豊久に、受付嬢は営業スマイルを携えながら答えた。

 

 「冒険者の登録ですね。おひとり様千エリスになります」

 

 「これでよかか」

 

 そう言い、豊久はお金の入った袋を渡した。

 

 「確認します……大丈夫ですね。それでは登録について説明させていただきます」

 

 受付嬢は続ける。

 

 「冒険者とは、要するに何でも屋みたいなものです。モンスターの討伐や土木工事の手伝い、街の掃除などを行う者の総称で技術・技能を生かした各職業についてもらいます」

 

 「なるほど」

 

 豊久はあまりわかってない。

 それに気づいてか、受付嬢はさっさとステータスを見ることにした。

 

 「それでは、まずはこの冒険者カードに触れてください。あなたのステータスやレベルが表示され、適した職業に就くことができます。また、モンスターを倒すことで経験値が得られ、レベルアップすることによってスキルを覚えるポイントを得ることができます」

 

 「そん、れべるとかすきるとかようわからんが触れればよかか」

 

 八割方理解してない豊久にうなだれかけるが、何とか豊久に冒険者カードに触れてもらう。

 

 「……ありがとうございます。それでは……って、すごいじゃないですか!?」

 

 受け取った冒険者カードを見て思わず叫ぶ受付嬢。

 

 「ま、魔力はからっきしですが、ほぼすべてのステータスが平均値を超えています!なぜか知力も!これならソードマスターにもなれますが……って、あれ」

 

 「何かようわからんが、馬鹿にしちょるんなわかった」

 

 あちらこちらで田舎者だアホの子だと馬鹿にされいい加減にしてほしいと思う豊久だが、受付嬢の動きがとまったことに気づく。

 

 「職業の欄が、すでに埋まっている……?」

 

 「ほう、なんちかいちょる」

 

  受付嬢の言葉に、聞き返す豊久。

 

 「何でしょうこれ……武士(もののふ)?」

 

 そう言う受付嬢に、豊久は自分のことをここに送り出した女神のことを思い出す。

 

___少しだけサービスしとくわね

 

 「あん女神、粋なことをする……」

 

 豊久はつぶやいた。

 

 「そいでよか。じゃあ早速だが仕事をくれ」

 

 そう言う豊久に、受付嬢は返した。

 

 「そ、そうですか……それじゃあ、まず小手調べにジャイアントトードの討伐なんてどうですか」

 

 「じゃいあんととぉど?」

 

 首をかしげる豊久に受付嬢は続ける。

 

 「簡単に言えば大きなカエルです。その巨体で押しつぶしてきたりしますが、動きも鈍重なのでちょうどいいと思いますよ」

 

 「おおきな(かわず)か、ならそいで行こう」

 

 そう言い、豊久は受付嬢から冒険者カードを受け取った。

 そのまま踵を返し外へ出ようとする豊久に、受付嬢が声をかける。

 

 「それでは、冒険者ギルドへようこそトヨヒサ様。スタッフ一同、今後の活躍に期待しています!まずは、ジャイアントトードの討伐、がんばってくださいね」

 

 その言葉に、にやりと笑いながら豊久は返す。

 

 「応、まかせい」

 

 そして、建物の外へ出て行った。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 外をでて、街中を走りだしりながら、豊久は思う

 

___この世界のことも魔王のことも何も知らん

 

___こいが夢か(うつつ)かなんも分からん

 

___じゃっどん俺は、突っ走ることしか知らん

 

___なら、走るまで!!薩摩隼人らしく!!

 

___親父殿(おやっど)の子として、恥じぬよう突っ走るまでよ!!

 

 島津家久が子、島津内務少輔豊久。

 二度目の生を駆けるは、何がために。

 今、丸の十文字が、異世界に掲げられようとしていた。

 

 




まだ文章少ないかね……
追記:吸収住まいの友人がいろいろ教えてくれたので直しました。
   ありがとうございます。


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三話

自己解釈、ネタバレあります。
あと雑な文章注意。
感想評価圧倒的感謝。
ここ違うよってとこは教えてくだされば作者がない頭ひねって言い訳考えるか素直に直します。


 

 「赤い服と十字に丸……赤い服と十字に丸……」

 

 最近この世界に送り出されたらしい男を探すため、女神【エリス】はアクセルに来ていた。

 古い時代の人間を送り出したことによる影響と、その人間のサポートが理由だ。

 今の日本ならまだ知れず、戦国時代の日本から来た人間がこの世界になじめるかどうか心配になった神々と、面倒事になるのを怖がった先輩であるアクアに頼まれエリスは装いを変え【クリス】としてギルドへ向かっていた。

 

___先輩の話だと分かりやすい恰好をしているみたいですけど……

 

 アクア曰く、「赤いジャケットのような服に、いろんなところに十字をまるで囲ったようなマークがあるからすぐ見つかるわよ」とのことらしい。

 それなら聞き込みを行う必要もなし、ギルドに張り込んでいようとエリスは考えた。

 そうしてギルドのドアの横で張り込むこと数十分。ようやくそれらしき男が見えてきた。

 

___赤い服と十字に丸。あれが戦国からき、た……?

 

 確かに、男は聞いていた通りの装いだった。

 赤い服と丸に十字、そして腰には日本の戦国の武士らしく太刀を下げている。

 しかし、彼が引いているリアカーの中身が問題で___

 

 「おお、やっとついた」

 

___その中には、ジャイアントトードの頭がいくつも積み重なっていたのである。

 思わずクリスが唖然としていると、ギルドの中から受付嬢の【ルナ】が血相を変えて飛び出してきた。

 

 「うわあぁぁぁ!!モンスターの頭はギルドには持ってこなくていいって言ったじゃないですかトヨヒサさん!!」

 

 「獲物ん首をもってこんで、どげんして確認する」

 

 真顔で言い張る豊久に、ルナは怒鳴り飛ばす。

 

 「だから、冒険者カードに討伐数は記載されるって言ったじゃないですか!大体血だらけで街の中歩き回らないでとも言ったはずで……」

 

 

 「じゃからぼうけんしゃかぁどちいうのもようわからん。実物で確認したほうがよか」

 

 「だ!か!ら!街やギルドが汚れるので今後はカードで確認します!次持ってきたら町中の掃除をしてもらいますからね!!」

 

 ルナの言葉にうなる豊久。そうなってしまえば首を獲る時間も減るだろうと考える。

 

 「わかった。次からは首は持ってこん」

 

 「わかったら早く戻してきてください!!ああああ待って待ってまず血を落としてからで……」

 

 そのまま引き返そうとする豊久に慌てて止めるルナ。

 その様子を眺め、これは骨の折れそうだとクリスは嘆息した。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「貴方が最近冒険者になったって人?私はクリス。職業は盗賊だよ」

 

冒険者ギルドの酒場のカウンター席で一人酒を飲んでいる豊久の隣に、クリスは話しかけながら座った。

 

「なんじゃおまえ」

 

「いや、最近話題の男を一目見てみたくてね」

 

そう言い、自らも酒を呷るクリス。

 

「なんでも細くて片刃の剣を巧みに操り、首を切り落とすことにこだわる姿からついたあだ名は【首狩りモンスター】」

 

そう言い笑うクリスに豊久は口を開く。

 

「島津中務少輔豊久、島津家久が子じゃ」

 

そう言った豊久に、クリスはにっこりと笑った。

 

「トヨヒサだね!ところでなんだけど、明日ってなんのクエストにいくの?せっかくだから実力もこの目で見てみたいな」

 

 にやにやとしながら聞くクリスに、豊久はさらりと返す。

 

「初心者殺しちいわれとる、大きな猫じゃ」

 

「初心者殺しね……初心者殺しぃ!?」

 

大きな声で騒ぐクリスを横に、豊久は「ふん」と鼻を鳴らし酒を呷った。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「ね、ねぇ……ほんとに初心者殺しを討伐するの?せめてパーティ組んだほうがいいって」

 

 翌日、二人はアクセル近くの森に入ってた。

制止するクリスの言葉を全く聞かずに街を出た豊久に、たまらずクリスがついてきたのである。

 

「じゃから、何回も行っちょるじゃろう。ひとりでよか」

 

「まずいって……もう」

 

道中ですら何度も止めてくるクリスに、さすがの豊久も疲れてきている。

 しかしクリスの≪敵感知≫のスキルに反応があると、その会話も中断される。

 

 「やばい……来ちゃった」

 

 「んん……おぉ、(ふて)ぇ猫じゃな」

 

 クリスの言葉の直後、白い毛と大きな牙もつ大柄の動物が茂みから飛び出してきた。

 

 「太ぇ牙じゃな……じゃが、所詮は畜生」

 

 そう言い、太刀を抜く豊久。

 

 「その首、置いて行ってもらうど」

 

 慌てるクリスをよそに、豊久は一気に駆けだした。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「オォオォオォオオォ!!!!」

 

 猿叫ともとれる声をあげながら走る豊久。それと同じタイミングで初心者殺しも飛び出した。

お互いに途轍もない速さだが、やはり豊久は人であり四足で駆ける初心者殺しに軍配が上がる。

 しかし、これは速さを競うものにあらず。生き物の生存競争である。

 寸分違いなく相手との間合いをつかんだ豊久は、太刀を振りかぶる。

正面から向かってくる豊久に対し、初心者殺しの選択はさらにスピードを上げることであった。

 是非もなし。真っ向からかみ砕いてやろうと進む初心者殺しと、豊久の目が合う。

 そして気付く。

 豊久の目に宿る、揺らぎなき闘志に。

 

 豊久が扱う刀法は、【タイ(しゃ)流】とよばれ、カタカナのタイの部分には様々な言葉が入るという。

 待ちを捨てるという意味での「待捨」、体を捨てるという意味での「体捨」。

 その一刀は、相手を斬ることのみ考え、自分の死を考慮しない。

 猿叫を上げながら太刀を振り下ろす豊久に、初心者殺しは恐怖する。 

その狡猾な脳をもって狩ってきた数多の獲物らは、どれも恐怖をもっていた。

しかし、目の前にいる人間からは微塵も感じられず。

わけのわからない存在に対する恐怖は、初心者殺しの身体に一瞬の硬直を与える。

命のやり取りにおける刹那の隙は、それだけで致命的なものとなり___

 

 「イエアアァアァ!!!!」

 

___初心者殺しの首を、寸分違わず斬り落とす結果となった。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「はン、他愛なか」

 

 そう言って、残心をとき太刀に付いた血を振り払い納刀する豊久。

 その横で、人知れずクリスは戦慄する。

 

___この人、すごい

 

 恐るべきは力や速さ、剣術ではなく。

 戦いにおいての勝負勘、価値をつかみ取る嗅覚である。

 おそらく、初めて相対するであろう敵。

 その相手の容姿、一挙手一投足におけるすべてを観察、読み取り。

 勝利する上での絶好の機会をつかみ取る。

 まさに戦乱を戦い抜いた武士である。

 ともすれば、その刃は誰が先へ向かうのか。

 それが、人間でないとは限らないのである。

 

___誰かが、この人の手綱を握らなければ

 

 クリスは決意する。

 

 「さ、かえって飯食うど、坊主」

 

 女神である自分が、この人を導かなければと。

 

 

 

 

 

 「って、あれ?今聞き間違えじゃなければ、坊主って言った?」

 

 「おう。そんな細い腕で、ようやるもんじゃ」

 

 「ちょっとぉ!?私女なんだけど!おんな!」

 

 「わははよう言う」

 

 「ねえきいてる!?女の子なんですよ!?あまりにも失礼だと思いませんか!?」

 

 いつか一発殴ろうとも、クリス(エリス)は誓ったのであった。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 

 「おう、また会ったな坊主」

 

 次の日、ギルドの依頼掲示板前に豊久はいた。

 何か依頼はないかと探しに来たところ、待ち構えていたようなクリスと会ったのである。

 

 「あのねぇ……私は女だって何回言えば……」

 

 「まあそんなもんはどうでもよか」

 

 「どうでもよくない!」

 

 騒ぎ立てるクリスを横に、豊久は掲示板をみる。

 

 「うむむ……今日はやめた」

 

 「やめたって……今日は依頼受けないの?」

 

 渋い顔でつぶやく豊久に、クリスが尋ねる。

 

 「刀の手入れをせにゃならん。種子島用のたまも欲しい」

 

 そう言ってクリスに向き直る。

 

 「クリス、店に案内して欲しか」

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「なんだ?たまぐすりって」

 

 ところ変わってここは武器商店。

 クリスの案内で来たはいいが、目当てのものを見つけることができずにいた。

 

 「刀剣用の油ならあるが、そのたまぐすりってやつは置いてないな」

 

 「ほうか……」

 

 店主の言葉に豊久は悩みこむ。

 すると、クリスが豊久に向かって訪ねる。

 

 「ねえねえ。その種子島ってやつちょっと見せてよ」

 

 「こいがか」

 

 クリスの言葉に、豊久は腰にさす火縄銃を抜き取った。

 

 「この筒で黒色火薬(たまぐすり)ば爆ぜさせて、鉛の弾を打ち出す」

 

 「これって……マッチロック式の銃!?どうしてこんなものを……」

 

 「こっち来るときに一緒に持ってきただけぞ」

 

 豊久の言葉に、クリスは思わず頭を抱える。

 

___先輩ぃぃ!?なにやってるの!?

 

 本来、この世界にやってくる日本人は各々が選んだ武器を持っている。

 それには理由があった。

 それは、この世界に技術を持ってこさせないためである。

 この世界では魔法が発達しているため、科学はあまり発達していない。

 想像してみてほしい。

 もし、この世界に古式の銃を持ってきた者がいたら。

 その銃がこの世界で量産されたら。

 確かに魔王を打ち倒す確率は上がるだろう。

 しかし、その先にあるのは人間同士が銃を向けあう修羅の世界である。

 そのため、異世界の来訪者の持ち物を制限し、技術と文化の持ち込みの制限を行ったのである。

 そんな思いを抱え、一人うなだれるクリスをよそに、店主は言った。

 

 「そのたまぐすりってやつは爆発するものなのか?だとしたら一つ心当たりがあるが」

 

 「どこじゃ、店主」

 

 店主の言葉に、豊久は喜色混じりの声を上げる。

 

 「ウィズっつー嬢ちゃんがやってるマジックアイテム屋なら、何かあると思うぞ」

 

 

 

 




ちょっと説明。
自分は原作は三巻までしか読んでないんですけど、このすばって結構能天気な人が多いじゃないですか。
その理由は神が制御してたからって感じで行こうと思ってます。
ただ、悪魔とか所謂【魔族】とかってやつがかかわってくると問題になって、そういう意味でも魔族やアンデットって神々に嫌われやすいって感じで進めていきます。









あともじすうもうすこしがんばる
追記:九州出身の友人が参戦
   これで先に進める。


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四話

 お待たせしました。

 本当に。


 

 「いらっしゃいませ」

 

 店の中に入ると、店主と思われる女性から声をかけられる。

 

「お(まん)が店主か」

 

 豊久は、開口一番で言った。

 

 「はい、この魔法道具屋を営むウィズと申します。どのようなものが入りようですか?」

 

 そう答える抜群のスタイルを備えた店主に、豊久は単刀直入に言う。

 

 「たまぐすり…………こくしょく、かやくちうもんが欲しか」

 

 「ちょっと調べたいことがぁ」と言い路地裏に姿を消したクリスを置いて、豊久は魔道具屋に来ていた。

 種子島とは、瞬発式火縄銃である。

 引き金を引くことによってばねのロック機構が解除され、火がついた縄が火皿にたたきつけられることによって火薬に点火、爆発の威力にて鉛球を打ち出す。

 という旨をウィズに種子島を見せながら伝えると、今度は彼女が質問する。

 

 「その、コクショクカヤクと言うものは知りませんが、火につけて爆発するものはいろいろ揃えてありますよ。もしかしたらそれ(・・)に近いものがあるかもしれませんので、実物を見せていただけませんか?」

 

 そう言うウィズに、豊久は黙って袋をテーブルに置くことで答えた。

 

 「拝見させていただきます。…………これは、粉末でしょうか。それならば、爆発するポーションを粉末化させることができるので、そちらで代用してみてはいかがでしょうか」

 

 そう言うウィズに、豊久は答える。

 

 「それじゃあ、一袋もらおうか。外で試し撃ちすっとしよう」

 

 そう言って、豊久は金子(きんす)をウィズに渡した。

 

 「あの、できれば実物を見せてはくれませんか?」

 

 「実物?さきにみせたが」

 

 「改めて見せてほしいんです」

 

 そう言うウィズに、豊久は腰から種子島を抜いて渡す。

 

 「これが、タネガシマですか。機構自体はクロスボウとほぼ同じですね。この筒の中にその粉末を入れるのですか?」

 

 その言葉に無言で首を縦に振る豊久。

 

 「この強度でしたら、ポーションの爆発にも耐えますね。ついでにこの鉛の弾も私の伝手を使って試作してみますか?」

 

 「頼むど」

 

 「わかりました。しかし、どうしてここま回りくどいことをしてまでこれ(・・)で攻撃をするんですか?別に弓とかでいいのでは」

 

 「種子島ん銃火はときのこえぞ(・・・・・)

 

 ウィズの問いに静かに答える豊久。

 

 「お(まあ)を狙うちょるいう口上じゃ。そいに種子島は訓練が早か、昨日までん農民が一日(ひとにち)で戦に出てくっど」

 

 そう言う豊久に、ウィズは「はえぇー」と、呑気な声を漏らす。

 それを、豊久は冷めた目(・・・・)で見ていた。

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「あの、すいません。アクア先ぱ……えっ!いないんですか!?」

 

 「下界!?じゃあ今は貴女が……」

 

 「あの、ところでこの前送り込んだ日本人の武士についてなのですが……」

 

 「ですよね、やっぱり」

 

 「えっ!?私が!?」

 

 「いやいや無理ですよぉ……あんなの、制御できっこない……」

 

 「………‥切れちゃった」

 

 「うそでしょ……?ホントに私がやるんですか…………?」

 

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 引き金が引かれ、ばね式で火皿に火縄が落ちる。

 ドーン、という間延びした破裂音。

 爆発によって押し出された鉛球が、銃口内にて何度も銃身にあたりながら銃口から飛び出す。

 その鉛球は、ライフリングとそれに合う弾のない古式銃故の仕方のないズレを生みながらも目標へ命中した。

 

 「ま、ままままさか、できちゃった(・・・・・・)?」

 

悲痛な声が、草原に届いた。

 

 種子島の試し撃ちに同行したクリスの様子を見て、豊久は嘆息する。

 

あたりまえじゃ(・・・・・・・)

 

 何て事の無い様に、豊久が答えた。

 

「こんた道理で動いちょっ(うごいてる)。道理を違えんな動っど(うごくぞ)

 

 簡単に答える豊久に、クリスは思わず膝をついた。

 

___早い、早すぎる!

 

___確かに概念さえあれば、誰かが至れば(・・・)出来上がる下地はあった!

 

___だけど、そこにたどり着くまでがまだ早すぎる!

 

 がっくりとうなだれながら、クリスは心の中で吐露する。

 この試し撃ちの前にあったらしい、臨時の神々による会議。

 そして出た結論は下界に既に降りているエリス神に臨機応変に対応させる(エリスちゃんに全部ぶんなげるわ)というものだった。

 この世界へ日本人を派遣することが決定する前、その日本人のいる世界の歴史について調べたことがあった。

 そして、すべての神々が恐怖した。唯の人間に、神々が。

 死をまく煙(毒ガス)生物の理(DNA)に介入する技術に日輪に近い理(核分裂)で都市ごと滅ぼす爆弾。

 何よりも、人同士の戦いで起きたおびただしいほどの犠牲者に神々は恐れを抱いた。

 その中でも特に温和かつ、我々の文化に適応しやすいタイプの日本人を選別して送っていた。

 しかし、ここに差異が生まれてしまった。変質が生まれてしまった。

 これは革命である。

 どれほど時間がかかるかわからないが、いつか起こるであろう変異に、クリス(エリス)は今から背筋が凍るような思いをした。

 そして、クリスはすでに火薬の類似品の有用性が立証(・・・・・・)されてしまったことに愕然とする。

 

 「そ、そのさぁ……それ、どうするの?」

 

 「そんなの決まっちょる」

 

 震える声で尋ねるクリスに、豊久は答える。

 

 「(おい)戦馬鹿(いくさばか)ぞ。種子島ば戦ん使うものぞ。戦で使うにきまっちょる」

 

 「ですよねぇ」

 

___あっ、終わった。これダメな奴だ。

 

 ふらり、と倒れるクリス。

 脳裏に浮かぶは神々の怒号、狂乱。

 すでに制御不能寸前まで差し迫ったある意味での脅威に、思わず頭痛がする。

 

 「おう、坊主。ぎるどに戻っど」

 

 「えっ」

 

 悲壮な思考の渦に吞まれていたクリスに、豊久がそう言った。

 

 「ぎるどちゅうところは、徒党を集めらるっとじゃろう」

 

 「そ、それってまさか」

 

 そう言う豊久に、ふらふらと立ち上がりながら聞くクリス。

 さらに面倒な展開を予想するクリスに、その予想通りの言葉を豊久は言う。

 

 「徒党を組む。兵子者(へごもん)がおっと良かとだが」

 

 そう言いながら歩いていく豊久。

 その姿にクリスは再び崩れ落ちそうになるが、ふと思い立つ。

 

___そうだ、これはチャンスだ!

 

___あたしがその徒党(パーティー)に加われば、まだ芽はある!

 

 そう考え、豊久の前に笑顔を作り回るクリス。

 

 「ねえねえ!あたしもそのパーティーにいれてよ」

 

 そういうクリスに、足を止め唯見つめる豊久。

 その瞬間、笑顔が引きつる。

 

 「……良か、ちてけ(ついてこい)

 

 そう言った豊久の瞳は、冷徹にクリスを見つめていたのだ。

 ただただ、冷徹に。

 

 

 

 

 

 

⊕⊕⊕⊕⊕

 

 

 

 

 

 「ね、ねえ、ギルドはこっちじゃないと思うんだけど」

 

 アクセルの街、路地裏。

 誰もいないことを確認し、太刀の鯉口を切った。

 

 一閃。

 

 とまではいかず、クリスの目の前で刃の切っ先は止まる。

 

 「こん粉末はウィズち言う商人から買った」

 

 そう言う豊久に、クリスは冷や汗が止まらない。

 

 「種子島ん動きを教えた、使う意味も教えた。じゃっどん、本質を理解せんやった」

 

 太刀の切っ先がこちらにゆっくりと近づく。

 

 「お(まん)は気づいた。いや、知っちょった。どいつもこいつも腑抜けちょっ中でお(まん)だけが知っちょった(・・・・・・)

 

 太刀が下げられる。しかし、その殺気は止まず。

 むしろ引き絞られた弓のように強まっていた。

 

 「騙りは許さん」

 

 

 

 「ぬしゃあ(・・・・)なんぞ(・・・)

 

 

 

 本物の武士(・・・・・)から向けられる、本物の殺気(・・・・・)

 いくら神といえど、それに耐えられるはずもなく。

 

 「う」

 

 「う?」

 

 オウムのように声を返す豊久の耳に、チョロ、という音が入る。

 

 「うわあぁぁぁぁん!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 それがクリスが失禁したものだと気づく前に、豊久の意識はクリスの絶叫とも取れそうな涙声に塗りつぶされた。

 

 「お、お(まん)、なにしちょるんじゃ」

 

 「うわあぁぁん!無理に決まってるんですよ!私に戦国時代の武士の制御なんて!なんでこの人呼び出しちゃったんですかアクア先輩!」

 

 そう言いながらへたりと座りこむクリス(エリス)

 その様子に、豊久は思わず構えを解いた。

 

 「まるで、(おい)がいじめちょっごたっらせんか」

 

 「うわあぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 一向に泣き止む気配を見せないクリス(エリス)に、堪らず太刀を鞘に戻す豊久。

 そのままへたりこむクリス(エリス)に近寄り、しゃがみこんであやし始める。

 

 「なんだ、これ」

 

 思わずつぶやいた豊久の言葉は、空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 





 「何故、今更になって投稿した?」

 「この小説の、店じまいのお知らせをしたくて」

 「本日で、「素晴らしき世界と鬼島津」実験二次創作はおしまいになりました」

 「閉店、店仕舞いとなりました」

 「これからは、新たな二次創作「素晴らしき世界へ鬼島津」で心機一転頑張っていこうと思います」

 「皆様、長らくご愛好ご利用ありがとう」

 「さようなら」




 と、言うわけです。

 とりあえずこれは残しますが、なんかほかの漂流者を呼びたくなった時に題名が変わって更新されるかもしれないです。

 マジでお待たせしました。
 今度こそ終わらせるので、もしよろしければこちらを読んでいただければと思います。


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