別ゲーの推しキャラを再現する為に器用度に極振りしたいと思います。 (風邪引きピエロ)
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器用度極振りのその前に

出来たらよろしくお願いします。


都内某所に立つアパート・・・その一室。

 

厚手のカーテンが閉められ、照明の類も一切つけられていない薄暗い部屋の中、唯一の光源たるテレビの光が薄ぼんやりと周囲を照らし出している。

 

そんなテレビの前には大きめの座椅子に座り、画面を凝視しながら一心不乱に手元のコントローラーを操作する一人の女性がいた。

 

 

柏崎飛鳥(かしわざき あすか)

 

 

この部屋の主の女性である。

 

部屋着である赤いジャージに身を包み、長く伸びた黒髪を使い古したゴムで無造作に1つにまとめ、度の強そうな縁黒の眼鏡のレンズの奥に寝不足と疲労とストレスによって最早何人か殺った後の殺人鬼みたいな眼光を爛々と光らせたりしているが、あくまでも女性である。

 

 

最近ボタン周りがユルユルになってきたコントローラーがガチャガチャと悲鳴にも似た音をたてる度に画面の中のキャラクターが敵モンスターを切り刻んでいく。

画面上にある敵の体力を示すHP バーが見る間に削られていき、消滅する。

 

テレビがクエストクリア時のファンファーレを響かせると同時に、傍らに置いておいた携帯からアニソンが流れ始めた。

 

どうやら着信らしく、ぼんやりと光る画面文字が『白峯 理沙』と表示されている。

 

 

飛鳥は寝不足でぼんやりする頭を傾げなから携帯に手を伸ばし、通話に出る。

 

 

 

「・・・・・・・・なに?」

 

 

 

『うわ、すっごい声・・・この前やったゲームのデーモンの呻き声みたい』

 

 

 

即座に通話をぶっち切った飛鳥は携帯を元の場所に放り出すと再びコントローラーを手に取った。

が、またも流れ出したアニソンに思い切りしかめっ面をしながら渋々通話ボタンを押す。

 

 

 

「・・・喧嘩売るために電話してきたんなら高値で買ってやるから近所のゲーセンに来いや・・・」

 

 

『それはそれで魅力的ですけども、今日の所は御遠慮させて頂きます』

 

 

 

電話の向こうからは、デーモン飛鳥とは対照的な元気のよい溌剌とした声が聞こえてくる。

 

通話の相手は『白峰理沙』。

 

数年前、とあるゲームを通じて出会って以来リアルでも親しくなった年下の少女だ。

 

 

 

『飛鳥さん、また徹夜でゲームしてたでしょ。廃人プレイもいい加減にしないとホントに電脳世界の住人になっちゃいますよ』

 

 

 

「ぬかせ。その廃人に普通に勝ち越しやがる変態プレイヤーに言われたかないわ」

 

 

 

言い返しながら、ニヤリと口の端がつり上がる。知り合ってからこっち数多の戦場(ゲーム)でやり合ってきた記憶が甦り、徹夜も相まってなにやらテンションが上がってきた。

 

いっそ本当にゲーセン・・・は無理でも、オンライン対戦でもおっ始めようかと思い始めた時、理沙が本題に移った。

 

 

 

『ところで飛鳥さんってやってますよね。『New  world online 』』

 

 

 

「当然のように断言してくるねぇ、お前さんは・・・まぁ、やってるんだが」

 

 

 

『やっぱり』

 

 

 

電話ごしの理沙が我が意を得たりといったような声を出した。

 

 

 

 

『New  world online 』

 

 

 

 

仮想現実の世界に入り込んで遊べるというVRMMO。

その中でも昨今飛ぶ鳥を落とす勢いで売り上げを伸ばしているゲームだ。

 

人気の秘訣はその自由度の高さにある。

スキルや武器は多種多様な中から選べ、プレイヤー自身の行動によっても変化するため千差万別のビルドが可能である。

 

発売前から注目を集めていたゲームでもあり、自称ゲーマーたる飛鳥自身も既にアカウントを作成し、プレイしている。

 

そんなゲームについて、飛鳥に勝るとも劣らずのゲーム好きの理沙がわざわざ話題にしてきたということは、だ。

 

 

 

「・・・・私に誰かのサポートでもさせようってか?それも、おそらくあんまりこの手のゲームをやったことのない初心者の」

 

 

 

『さっすが飛鳥さん!話が早い!』

 

 

 

「わからいでか」

 

 

 

そういって飛鳥はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

普通に考えるならば、新しく始める理沙自身のサポートを、先に始めている自分に頼みたいと考えるところだ。

 

が、理沙はどっちかというと自分自身の手で道を切り開いていきたいと考えるタイプだと飛鳥は思っている。

ならば、理沙以外の人間・・・それもわざわざサポートをつけなければ不安と考える程にはゲーム慣れしていない者のことを頼みに来たんだと考えるほうが妥当だ。

 

 

 

『それで、どうでしょうか飛鳥さん。お願いできます?』

 

 

 

「ンー・・・・」

 

 

 

理沙の言葉を聞きながら、そろそろ本格的に限界が近くなってきて動きの悪い頭を働かせること数秒。

 

 

 

「まぁ、いいよ。それじゃあ明日の夜にでもゲーム内で落ち合いますか」

 

 

 

『ありがとうございます!それじゃあ明日また連絡しますから。おやすみなさ~い!』

 

 

 

「ほいほ~いっと・・・」

 

 

 

通話の終了ボタンを押したと同時に、視界がボヤけてきた。

どうやら本当に限界が来たようだ。

最早動くのもかったるいので、そのまま座椅子の背もたれに体重を預けて深く息をすう。

 

 

 

『『New  world online 』で初心者のサポートねぇ・・・・』

 

 

 

薄れゆく意識の中、先程までの話題を脳内で反芻する。

 

 

 

 

『あれ・・・でも、私の作ったアカウントって確か・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『別ゲーの推しキャラを再現しようとして、【DEX 】極振りの超キワモノキャラにしたような気がする・・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで考えた所で飛鳥の意識はぷっつりと途絶えたのであった。

 



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器用度極振りの出落ちコスプレお姉さん

基本的には原作沿いの予定ですが、多少時系列など変更する場合があります。あらかじめご了承ください。


周囲を森や草原などに囲まれたいかにもなファンタジー風の城下町。

 

『NWO』を始めたプレイヤーが最初に送られる場所であり、広大なマップを探索するための一大拠点でもある巨大な都市だ。

 

その街の中に噴水のある広場がある。

 

街のランドマークの1つでもあるこの場所は、各種アイテムを売る店なども一通り揃っており、必然プレイヤー達が冒険前に集まる集合場所としても重宝されている場所だ。

 

 

そんな場所に今日もまた一人、プレイヤーがやって来た。

 

 

少女の名は『本条楓』。キャラクター名は『メイプル』。

 

後に『移動要塞』やら『ラスボス』やら言われるようになる少女であるが、それはまだ先の話。

 

現在の彼女は先日アカウント作成を終えたばかりの正真正銘の初心者プレイヤーだ。

 

まだ初々しい初期装備に身を包んだメイプルは防御力極振り故の周囲との【AGL】の差に(プレイ二日目とはいえ)未だ慣れず目を回しながらも、噴水の縁に腰かけている。

 

 

 

「えーと、理沙の言っていた待ち合わせ場所ってここでいいんだよね?」

 

 

 

少々自信なさげに呟きながら、先程の理沙との電話の内容を思い出す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『ごめんね楓。私から誘っておいて』

 

 

 

「大丈夫。気にしないでいいよー」

 

 

 

理沙に(半ば押し切られる形で)誘われ、このゲームを始めたが、肝心の理沙が勉強に集中するように言われたためにしばらく一緒にプレイ出来ないという事態になってしまったのだ。

 

 

 

『それでね、その埋め合わせってわけじゃないんだけど私の知り合いの人もプレイしてるみたいなの。で、楓のサポートを頼んだらやってくれる言ってくれたの。明日ゲーム内で会う約束したから、会えば色々なこと教えてくれると思うよ』

 

 

 

「そうなんだ。うん、わかった会ってみるよ。ところでその人ってどんな人なの?」

 

 

 

『・・・・・イイヒトダヨ?』

 

 

 

「・・・理沙、なんか口調が変だよ?」

 

 

 

『いや、本当に良い人ではあるんだよ?面倒見はいいし、根は優しいし・・・ただちょっぴり・・・そう、ほんのちょっぴり変わってる人なだけで』

 

 

 

「そ、そうなんだ」

 

 

 

『まぁ、ゲームに関しては本当に頼りになる人なのは確かだから、とりあえず会ってみて。明日、ゲーム内の噴水広場ってとこ。キャラクターの特徴とかは聞いてないけどその人曰く、『来れば分かる』らしいから』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

脳内で友人とのそんな会話を思い出しながら、楓ことメイプルは広場を見回してみる。

 

プレイヤーだけでなく街の住人として配置されたNPCもが行き交い、広場は活気に溢れ賑わっている。

多くの人が物凄いスピードで(メイプル視点)行き交う様は渋谷のスクランブル交差点を思い出させる。

 

この中から人一人、しかも初対面の人と出会わなければならないというのはかなり難しいのでは・・・・

 

 

今更ながらそんな不安にかられたメイプル。

 

が、そんな不安など消し飛ばすかのように突然『それ』は始まった。

 

 

 

 

 

ギャギャギャギャイーーーーーーーーーン!!!!!!

 

 

 

 

 

仮に文字に表すならばそんな感じの、轟音が広場に響き渡ったのだ。

 

何事かと立ち止まる人々(メイプル含め)の視線は広場の一画、隅っこの方にひっそりと設置されている花壇の方に向けられた。

 

 

 

そこには異様としか言い様のない人物がいた。

 

 

身長は理沙と同じか少し低い位。細身でスラリとした体型。

腰ほど迄ある長い黒髪に赤色の瞳と可愛くも凛々しくも見える容貌が特徴的な少女だ。

 

 

 

 

そこまではいい。

 

 

 

 

 

 

 

洋風ファンタジー色溢れる街中で、何故か赤色のTシャツ。胸には燦然と輝く『ばすたぁ(原文まま)』の文字。

 

頭にはこれまた世界観をまるまる無視したかのような戦国武将の兜さながらに過剰装飾がなされた軍帽チックなナニモノか。

 

傍らには小柄な身長には不釣合な程に巨大な大斧・・・・が、ギターのようになった珍妙な武器っぽい何か。

少女がその弦を掻き鳴らすたびに騒音が広場に響き渡る。

 

横に掲げられたのぼりには大きく『初心者プレイヤー歓迎!NWO説明会の受付は此方』という文字。

 

 

見た者の正気度的な某かを削ってきそうな光景に唖然とする周囲の方々。

メイプルも同じように唖然としていたが、ふと友人の言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

『キャラクターの特徴とかは聞いてないけどその人曰く、『来れば分かる』らしいから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふえぇぇぇぇぇっ!?もしかして理沙の言ってたのってあの人!?』

 

 

 

確証はない。が、タイミングといい友人の人物評といい、間違いないっぽい。

正直見なかったことにしてこのままログアウトしたい気分になってきたが、背に腹は代えられぬ。

 

メイプルは意を決して、珍妙な人物に近づいていくと恐る恐る話かけてみた。

 

 

 

「あ、あの~すいません。もしかして理沙のお知り合いの方・・・だったりしますか?」

 

 

 

「む?理沙の名前を知っとるということは」

 

 

 

「あ、はい。私が本条楓、です・・・」

 

 

 

「おーそうかそうか!無事に出会たようで何よりじゃ!ウハハハ!」

 

 

 

どうやら本当にお目当ての人物であったらしい。

正直、違っていてくれたほうが良かったかも・・・・と思わなくもない複雑な心境のメイプルであったが、持ち前の切り替えの早さで早々に立ち直る。

 

 

 

「えーと、はじめまして。こっちではメイプルって名前です。今日はよろしくお願いします」

 

 

 

「これはこれは御丁寧に。儂は柏崎飛鳥。ここではノブナという名前でやっとる。此方こそよろしく頼む。さて、自己紹介もすんだしひとまず・・・・むお」

 

 

 

ノブナが立ち上がりかけた時、アラート共に目の前にメッセージウィンドウが現れる。

通常の青い白いそれと違い、明らかにヤバそうな真っ赤なそれに表示された文章をノブナは無言で読み進めていく。

 

 

 

「あの、なんて書いてあるんでしょうか?」

 

 

 

「フムフム・・・要約すると、『公共の場所で騒音垂れ流しやがってふざけんな。話があるからちょっと運営事務所まで来いや』ということらしいぞ」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・とりあえず儂行ってくるから2時間後位にまた此処で会おうか」

 

 

 

「あはい」

 

 

 

 

その後、騒動に使われた装備一式没収されたノブナが解放されたのは5時間も後のことであった。




問 なんで水着の方?

答え 出したかったから

冗談はともかく、次回からは水着でなく弓の方になります。


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器用度極振りと忍び寄る気配

ノブナが運営事務所でコッテリしぼられた日の翌日。

メイプルとノブナの二人は再び噴水広場に集合していた。

目的は昨日、時間が足りなくて(自業自得だが)出来なかったツアーを改めて行う為であった。

そうして性懲りもなくクソダサばすたぁTシャツ(2代目)を身につけ現れたノブナ。

 

 

の、だが・・・・

 

 

 

 

「・・・・なんか儂の知ってるメイプルと違う・・・」

 

 

 

「あ、あはは・・・」

 

 

 

昨日会った時は初々しい初期装備を身に付けていたメイプルがあら不思議。

一夜にして黒と赤を基調とした一目で特別仕様と分かる装備一式に新調されていたのだ。

実はメイプル、ノブナと別れた後1人でダンジョン攻略を成し遂げてしまっており、この装備はその報酬である『ユニークシリーズ』であった。

 

そんな話をメイプルから聞いたノブナは納得したように数度頷く。

 

 

 

「なるほどのぉ・・・儂が運営とぐだぐだしとる間にそんな事が・・・あれ?ダンジョン1人で攻略出来ちゃったんなら、儂イラナクね?もしかしなくてもリストラの危機じゃね?解説役を買って出といてこの始末、最早切腹も辞さぬほどの赤っ恥本能寺大炎上的な何かじゃね?」

 

 

 

「そ、そんなことないですよ。私も昨日ちょっぴり遊んだくらいで、まだこの装備の事とかよくわかってないし、できたら色々教えてくれると助かるんですけどぉ・・・」

 

 

 

予想外の事態に焦ったのか良くわからないことを捲し立てるノブナだったが、メイプルの何処か申し訳なさそうな、それでいて期待するような目でみられると気まずそうに押し黙る。

 

 

 

「ううむ・・・とは言うものの正直な話今のお主、儂より強いと思うぞ。詳細なステータス何ぞは分からんが、話を聞く限りまともにダメージ入れられる気がせぬし・・・そんなお主に教えてやれることなんて・・・」

 

 

 

言葉の途中で唐突に押し黙る。不思議そうに首を傾げるメイプルを尻目にしばらくの間何か考えるようにしたあと、口を開く。

 

 

 

「・・・フム。とりあえずフィールドにでも出ようかの。付いてこいメイプル」

 

 

 

「?・・・はい、わかりました」

 

 

 

ノブナはそう言うと唐突に移動を始める。

何事かと思いながらも、言われた通りに付いていく素直なメイプル。

 

広場を出て、フィールドを目指して歩き出す。

が、どうにも奇妙だ。

広場からフィールドに行くまでの道中は利便性も兼ねてか基本的には一本道である。

 

 

が、

 

 

 

「あれ?ノブナさん、フィールドはあっちですよ?」

 

 

 

「ああ、分かっておるよ。ただこっちの道に上手い屋台があってのぉ。そこに寄ってから行くことにしようと思っての」

 

 

 

「そうですか、わかりました」

 

 

 

このようにノブナが糸の切れた凧のようにアチラコチラに寄り道するので、かなりの遠回りをする事になったのだ。

 

メイプルも不思議に思いはしたものの、昨日のノブナの突拍子もない所業を思いだし、『良く分からないけどそういう人なんだろう』と思う事にしてとりあえず付いていくことにした。

 

 

しばらくそうして歩く二人。

すると、メイプルはあることに気が付いた。

 

他のプレイヤーと歩く場合、その【AGI】の低さから置いてけぼりをくらいそうになるのが常であるメイプルだが、ノブナにはそこまで苦労することなく付いて行くことができた。

その事について指摘すると、ノブナは何でもないように答える。

 

 

 

「ああ、そう言えば言ってなかったか。儂もステータス極振りじゃからの。お主と違い、防御力でなく器用度の方じゃが。だからまぁ、不思議でもなんでもないわ」

 

 

 

「えぇ!?そうなんですか!?わぁ、自分以外に極振りしたプレイヤーさん、初めて会いましたぁ」

 

 

 

「そらそうじゃろ。このゲーム極振りして得られるメリット殆どないからのぉ。例えやったとしても辛すぎてアカウント作り直しするのが普通じゃし」

 

 

 

「そうなんですか?でも、ノブナさんは続けてるじゃないですか」

 

 

 

「儂はキャラ再現をする上で必要に迫られてやっとるだけじゃからのう。特殊事例じゃから参考にはならんよ・・・・と、この辺りで良いか」

 

 

話し込んでいる内にいつの間にやらフィールドに移動していたようだ。

 

ノブナが立ち止まったのは北の森のフィールドの奥まった場所。

所謂狩場やダンジョンからは遠く、あまりプレイヤーの立ち寄りにくい場所である。

 

キョロキョロと周りを見回すメイプルに対し、一定の距離を置いて対面するノブナ。

 

 

 

「さて、フィールドに出たことじゃし、儂もお色直しといくかの」

 

 

 

そういうとウインドウを開いてアレコレと操作する。

メイプルの前で見る見る内に装備が別のものに変更されていく。

 

 

頭は変わらず、兜の前立てのような装飾を施された黒の軍帽。

 

胴体はそれまでのTシャツから、軍帽に合わせた黒い軍服風の衣装に変わり、鎖や家紋をあしらった飾り、飾り紐などの装飾がつけられていく。

 

足元は黄金色の具足が装備され、ガチャンと金属質な音を響かせる。

 

最後に足元まで届きそうな大きな赤いマントが現れ、バサリと風に靡いて音を立てた。

 

 

 

「フッフッフ・・・どうじゃ?これぞ我が渾身のコスプレ装備よ。見事な再現度であろう」

 

 

 

そう言ってどや顔を見せるノブナ。

 

 

見る人が見れば、思い切り吹き出すかそのあまりの再現度の高さに驚くかしただろうが、生憎とメイプルは元のキャラクターを知らなかった。

 

なので、素直に思ったことを口に出すことにした。

 

 

 

「格好良い!!それ、最高に格好良いですよノブナさん!!!」

 

 

 

「お、おぅ。そうか?そりゃどうも・・・」

 

 

 

思っていた反応と違い、素直に称賛されてちょっと恥ずかしくなってしまう。

少し赤くなった頬を誤魔化すようにノブナは一つ咳払いをすると、話し始める。

 

 

 

「さて、ここまでやって来たのは他でもない・・・実はこの辺りの森には特別なスキルが眠っておるという噂があってのう」

 

 

 

「特別なスキル、ですか?」

 

 

 

「うむ、なんでも手に入れれば他のプレイヤーとは一線を画す程の力を手にする事が出来ると言う」

 

 

 

「一線を画す力・・・・」

 

 

 

ノブナの言葉に徐々に前のめりになってゆくメイプル。本人なりに真剣な顔でお耳だんぼといった感じだ。

 

 

 

「まぁ、あくまでもネット上の噂じゃし、真偽の程は確かではないのじゃが・・・お主のように斬新な発想の持ち主ならば或いは・・・」

 

 

 

そこで勿体つけるように言葉を濁し、メイプルにチラリと視線を送る。

彼女が興味津々という風にキラキラとした期待の目で見てくるのを確認すると密かにニヤリと笑ったあと、微笑みながら手を広げる。

 

 

 

「メイプルよ・・・・・力が欲しいか?」

 

 

 

「はい!!私、もっともっと強くなりたいです!!」

 

 

 

「ならば行けぃ!!この森にて思い付く限りの事を試し力を得てくるが良い!!!」

 

 

 

「はい!いってきます!」

 

 

 

ノブナに向かって敬礼をすると、メイプルはやる気満々といった様子で一人森を進んでいく。

 

その後ろ姿が見えなくなるのを確認した後、ノブナは一つため息をついた。

 

 

 

「なんというか・・・素直過ぎるだろう。こんな口からでまかせを信じるなんて・・・まぁ、美徳ではあるけれども、ああまで無警戒過ぎるのも考えものよねぇ・・・っといかんいかん。思わず素が出てしまったわ」

 

 

 

そんな事を呟きながら、ゴソゴソとマントの中に手を伸ばし・・・

 

 

 

 

ガチャリと、

 

 

 

 

重々しい金属音を響かせながら取り出した武器を右手で構える。

 

取り出したのは銃。

 

長さは130センチ程。独自の装飾が施されているものの木製の持ち手と鉄製の銃身が特徴的な武器・・・俗に火縄銃と呼ばれるものに良く似たものだ。

 

鉄製の銃身を事も無げに片手で構えながら、銃口の先に目を凝らす。

見える範囲には木々と茂みくらいで人影はないが、一切油断せずいつでも撃てるように引き金にかける指先に力を込める。

 

 

 

「・・・街中からずっとつけてきていたのは知っておる。PK の類ならば悪いことは言わん。他を当たれ。そうでないならば、疾く顔を見せよ」

 

 

 

メイプルに対してのそれよりも数段低い、剣呑な声が響く。

赤い瞳が徐々に殺気を増していく。

 

それでも反応はない。

 

 

 

「顔を見せぬ、と・・・それならそれで良し。こちらもそれ相応の対応をさせてもらうまでよ」

 

 

 

そう言って引き金を引く・・・

 

 

 

「待った待った!!俺が悪かったから撃つな!」

 

 

 

直前、ガサガサと音を立てながら茂みから人影が現れた。ノブナの雰囲気から本気で撃たれると悟ったのか両手を上げて戦闘の意思は無いことをアピールしている。

 

人影は大柄の男性で、戦士風の装備に身を包み背にはメイプルと同じく大盾を背負っていた。

 

予想外に見知った顔の登場に面食らいつつ、銃口は下ろさず話しかける。

 

 

 

「なんじゃ誰かと思えば『クロム』ではないか。トッププレイヤーからPKに鞍替えか?」

 

 

 

「そんな訳あるか!?」

 

 

 

「ならば何故隠れて付いてくるような真似をした。街中でわざと遠回りをした時もずっと付け回すなぞ尋常ではない。納得のいく説明をしてもらおうか?」

 

 

 

 

「・・・・それは・・・・」

 

 

 

クロムは冷や汗を流しながら何か煩悶として、銃口とノブナの顔とを交互に見る事を繰り返す。

が、ノブナの赤い瞳がいよいよ殺気だって来たのを見てようやく観念したのか重い口を開いた。

 

 

 

「・・・・・・実は」

 

 

 

 

 

 

 



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器用度極振りと見守り隊

「なるほどなるほど・・・『メイプルちゃんを見守り隊』なぁ・・・なるほどなるほど」

 

 

 

「止めろ通報ボタンを押そうとするなすいません止めてください」

 

 

 

ノブナが通報しようとするのを必死に止めるクロム。そんな彼を冷たい目で見ながらも、とりあえず通報ボタンは閉じる。

 

 

 

「・・・まぁ、過去スレをざっと眺める限りでは健全・・・とまでは言えないがそこまで邪なものではないとは思うが。良くわからん他人に自分の行動逐一観察されてるなんてメイプル本人からしたら良い気はしないだろ。まして相手は年頃の女の子なんだし。まったく・・・本人が気づいてないから良いようなものの」

 

 

 

「それは・・・はいその通りだと思いますはい・・・」

 

 

 

何時ものキャラのロールプレイを封印してのガチ説教に、思わず正座して聞いてしまうクロム。

森の中で、自分よりも頭一つ分より更に低い位の身長の小柄な女性に説教されて正座する巨漢という端から見たら中々にシュールな光景が出来上がった。

恐縮しきりの彼をジト目で見ながら、ため息混じりにノブナは続ける。

 

 

 

「というか、いくら『見守り隊』って言っても付け回すのは流石にやり過ぎだと思うが、そこはどうなんだ」

 

 

 

「イヤ、俺も最初は付け回すつもりなんてなかったんだ!!たまたまメイプルちゃんが目にはいったんで挨拶でもしようかなと思って近づいたら・・・・」

 

 

 

「たら?」

 

 

 

 

「・・・・よりにもよってお前と一緒にいたから・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

押し黙る二人。

その間を寒々しい空気が流れる。

 

 

 

「やっぱり一発逝っとくか?」

 

 

 

「止めろ止めろ!!銃口を人の眉間にゴリゴリ押し付けるな!?というかこれはお前の方にも問題があるんだぞ!?」

 

 

 

「なんじゃい、問題って?」

 

 

 

「自分の普段の言動を思い返して見ろって!普段からキャラのロールプレイし続けながら突飛な言動を繰り返し、騒ぎを起こして運営の厳重注意を受ける事多数。遂には『運営特攻』なんて渾名がつくような奴が、ゲーム始めたばかりの初心者で、絵にかいたような純真無垢な素直っ子(美少女)と連れだって歩いてたら心配になるだろ!?しかも、見てたらなんかどんどん人気のない場所に連れてかれてるし!!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

「・・・・ぜ、是非も無いよネ!」

 

 

 

 

「おう、目をそらすな。わざとらしい口笛を吹くな。誤魔化せてないぞ」

 

 

 

先程とはうって変わって、今度はクロムがノブナを批難を込めたジト目で見る。

だらだらと冷や汗を流しながら、明後日の方を見ていたノブナだが、やがて逆ギレ気味に言い返す。

 

 

 

「う、うるさいうるさい!!儂の普段の言動がちょっちアレなのは百歩譲って確かじゃが、それとこれとは関係なかろうが!?」

 

 

 

「あの奇行の数々を『ちょっちアレ』で済ますのはどうかと思うんだが!?お前は自分が周りからどう思われてるのかもう少し正確に自覚しとくべきだろ!」

 

 

 

「うっさいバーカ!てか、なんじゃい見守り隊て。『ちょっと気になるあの人。でも声なんてとてもかけられない!私は遠くからあの人を見守ります・・・』って乙女か!もっと男らしくガツガツ行って砕け散ってこんかい!まったくもって面倒臭いヲタクどもじゃのう!?」

 

 

 

「お 前 に だ け は 言 わ れ た く な い 」

 

 

 

銃撃戦もかくやの言葉の応酬を終え、息切れした二人の荒い息遣いだけが静かな森に空しく響いていた。

やがて呼吸が安定してきた二人は無言で数秒見つめあった後・・・

 

 

 

「・・・このまま言い争ってもなんかお互いに損しかしなさそうじゃし、どうじゃろここは一つ休戦ということで」

 

 

 

「・・・俺もそれがいいと思う」

 

 

 

押し寄せる疲労感に、お互いに矛を納めるということで決着することにしたのだった。

とりあえず、落ち着くために地面に胡座をかいて座る二人。

いい感じで冷静になってきた所で、ポツポツと会話を始める。話題は勿論メイプルについてのことだ。

 

 

 

「あー、話を蒸し返す訳ではないが気を使ってやってくれんか。本人が今このゲームを楽しんどるようじゃし、アレの友人から色々助けてやってくれと頼まれとる手前悲しませたり嫌な思いをさせとうはないからのぅ。止めろとは言わんが気づかれないようにだけはしといてくれ」

 

 

 

「ああ、俺たちにしてもそれは本意じゃない。今後は気を付けておくとするよ」

 

 

 

「そうしてくれると助かる。まぁ、実際あの子の警戒心の薄さというか素直すぎる所は見てて危なっかしい所もあるのは確かじゃし。変なトラブルに巻き込まれんように見守る役は多いほうが良いかもしれんなぁ・・・いっそ儂も見守り隊スレにお邪魔してみるか!?」

 

 

 

「お願いだから止めて・・・・そう言えば、そのメイプルちゃんだが随分時間経つけど戻って来ないな?」

 

 

ウィンドウを開いて時間を確認してみれば成る程確かに、何時の間にやら結構な時間が経っていた。

 

 

 

「あー、忘れとったわ。そうじゃの、そろそろ探しに行ってみるとするか」

 

 

 

「なら俺も同行しよう。一人より二人の方が探しやすいだろう?たまたま通りすがったんで手伝ったて感じでいこう」

 

 

 

「好きにせい」

 

 

 

二人は立ち上がると、森の中をメイプルが行ったであろう方にむけて歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・おい、クロム。一緒に歩くの【AGI】的にしんどいから背負うてくれ」

 

 

 

「・・・極振りって大変だな・・・」

 

 

 

 

・・・・すぐに一人が歩くのを放棄したが

 



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器用度極振りの戦闘スタイル

今回、虫とか苦手な方は一応閲覧注意です。

※若干修正しました。押しの宝具台詞間違えるとかちょっと吊ってくる・・・


北の森を移動する二人(正確に言えば、ノブナはクロムに背負われた状態であるが)。

 

 

 

「う~む、居らんのぅ。あの子のステータス的にそこまで遠くには行っとらん筈なんじゃが」

 

 

 

「メイプルちゃんはスキルを探しに行ったんだろ?ならそれが取れそうな場所や敵を目指したんじゃないか?」

 

 

背負われるからと余分な装備を外し、最早お馴染みとなってきたばすたぁTシャツ姿で周りをキョロキョロ見回すノブナ on クロムの背中。

子供の世話をする休日のパパのような絵面で地味ながら的確なアドバイスを送るクロム。

 

 

 

「んー・・・此処等で特殊なイベントが発生しそうな場所なんぞないし、出てくる敵と言えば『ゴブリン』やら『フォレストクインビー』やらと・・・あとはそう『爆発テントウ』くらいか。数倒した所で然程有用なスキルを入手できるとも思えんがなぁ」

 

 

 

「そうだな・・・というか、攻略サイトも見ずに言うってことはこのマップの敵配置やら何やらの情報全部暗記してるのか」

 

 

 

「当然じゃろ?」

 

 

 

「さも常識みたいに言うが、狩場でもなんでもないマップの敵情報まで暗記している奴なんてそうそういないって」

 

 

 

ぐだぐだと雑談しながら探す二人。

が、しばらく経っても一向にメイプルは見付からない。

もう少し探して見付からないようなら直接メッセージを飛ばしてみるかと考え始めた時

 

 

 

『キャアアアっ!?気持ち悪いぃ!?』

 

 

 

「・・・この言葉とは裏腹にあまり緊張感を感じさせない声は」

 

 

 

「いや、そんな悠長なこと言ってる場合か!?この悲鳴、間違いなくメイプルちゃんだろ!?」

 

 

 

「フム、あっちの茂みの方から聞こえるの。よし、クロムよ。吶喊せい!!」

 

 

 

「葉が繁ってて視界が悪いが・・・ええい、南無三!!」

 

 

 

ガサガサと茂みに分け入っていく二人。

枝や草が密集し、視界全てが緑に染まる。まるでこの先へ行くものを阻むかのような道なき道をそれでも辛抱強く進んでいくと、突然視界が開けた。

 

それまで下草や茂みの生い茂った所とは違い、比較的視界のきく背の高い巨木の多い場所だ。

そびえる木々が空を覆い隠し、薄暗い森を葉のちょっとした隙間から入り込む日の光が照らし出す。

時間が許す限りゆっくりと眺めていたくなるような、まるで絵画のごとき荘厳な光景がそこには広がっていた。

 

 

 

・・・のだが、二人はそんな美しい光景に目を奪われるようなこともなく、ただ一点を見つめて絶句していた。

 

 

 

 

「うわ、なんじゃアレ気持ち悪」

 

 

 

「なんというか凄まじいの一言だな・・・」

 

 

 

 

二人の見つめる先。

 

 

そこにはこの世の地獄が広がっていた。

 

 

 

 

辺り一面の緑の中に、まるで絵画に出来た染みのように所々に違う色が混じる。

 

赤と黒

 

良く良く目を凝らして見てみればそれがウゴウゴと蠢いていることがわかるだろう。

 

染みの正体は『爆発テントウ』

 

このゲームにおける雑魚モンスターの一匹であり、人の掌サイズ程もある巨大なてんとう虫である。

 

それがある一点に何百何千と集まり、固まり、蠢き、這いずりまわりながらヴィヴィットな配色の趣味の悪い『人型』オブジェを形成していた。

 

 

 

野生動物の生態を紹介するテレビで虫の集団大移動を見せられた時と同じような微妙な顔をする二人。

 

 

 

「もしかしなくてもアレじゃよなぁ・・・何をどうしたらあんなんになるんじゃ」

 

 

 

「わからない。というかあれは本当に大丈夫なのか?」

 

 

 

「まぁ、ダメージはないようじゃな。あったら即死じゃろうし・・・おーい、メイプル。大丈夫か?」

 

 

 

ノブナの言葉に反応したのかオブジェが少し身動ぎしたように見えた。

どうやら元気ではあるようだが、爆発テントウにまとわりつかれ過ぎて移動することすら出来なくなってしまったらしい。

 

 

 

「とりあえずは大丈夫そうだが・・・さて、どうする?」

 

 

 

「どうするもこうするも・・・殺るしかないじゃろアレ全部」

 

 

 

「だよなぁ・・・これは骨がおれそうだ」

 

 

 

ため息をつきつつノブナを下ろし、大盾を構えるクロム。

ノブナのほうも、戦闘に備え装備をチェンジし火縄銃を手の中でクルクルと弄ぶ。

 

敵の動きを観察しながら、先ずはお互いの動きを確認する。

 

 

「銃を使う奴とは初めて組むから勝手がわからないが、ここはセオリー通り俺が前衛で注意を引きつつチマチマ攻撃。お前が後ろから狙撃で数を減らすって感じでいいか?」

 

 

 

「異存はない」

 

 

 

「よし、じゃあ始めるか!【挑発】!」

 

 

 

気合いの入った声でクロムがスキルを発動し、敵の注意を惹き付ける。

 

 

 

 

「・・・・【単独行動】、【隠密】」

 

 

 

背後でノブナの呟きが聞こえた後、気配がスッと消え去り、敵の注意が完全にクロムに集中する。

釣られた何匹かの爆発テントウが飛び上がり、彼を目指して突っ込んでくる。

 

その動きを良く観察し、大盾でしっかりと攻撃を受け止め体勢の崩れた所を短刀で切りつける。トッププレイヤーの名に恥じないスキルの高さを感じさせる年期の入った堅実な動きだ。

 

更に迫ってくる敵の攻撃をいなしながら思考する。考えるのは現在の相方であるノブナの武器についてだ。

 

 

 

『専門外なんであんまり詳しくはないが、ノブナの使う武器である【銃】はたしか・・・・』

 

 

 

 

【銃】

 

 

数種類ある遠距離武器の1つ。

 

弓、魔法よりも遠距離から攻撃できる。

魔法と違い、MPを消費しないでそこそこの威力で攻撃できる。

 

というメリットはあるが、

 

一発打つごとにリロード(自動装填。クールタイムは銃ごとに異なる)が入るため、殲滅力に欠け、敵の接近を許してしまうという遠距離武器には致命的過ぎる弱点がある。

 

武器の整備や強化、製造にやたら金がかかる。

 

実装されている種類が圧倒的に少なく、汎用性に欠け、そのどれもが高レア扱いの貴重品に属するため入手が困難。

 

 

などのデメリットのため使い手の少ない不遇扱いをされている武器である。

 

 

 

 

『なんというか、絶妙に不安になるような情報しかないな・・・・性能については大盾もとやかく言えた義理じゃあないが』

 

 

そんな事を考えていると、目の前に迫っていた敵の一匹がダメージエフェクトと共に爆散した。

 

 

 

 

 

・・・・ダァン!!!

 

 

 

 

思わず顔を庇ったクロムの耳に遅れて轟音が聞こえてきた。

どうやら、今のはノブナの狙撃らしい。

 

 

 

 

『ビックリした・・・まったく荒っぽいな。今はパーティーを組んでるから仮に誤射されてもダメージがないのが救いだが。さて、向こうはこれからリロードに入るだろうから敵を近付かせないように注意しないと・・・』

 

 

 

敵の動きに注意しながら再び【挑発】を発動しようと準備した、その時。

 

 

 

 

 

 

 

ダァン!!!

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

再びの轟音が空気を切り裂いた。

それだけではない。

 

 

 

 

ダァン、ダァン、ダン、ダン、ダンダンダンダダダダダダダダダっ!!!!

 

 

 

 

轟音はどんどんと間隔を狭めていき、やがて機関銃のごとき乱射音へと変化していった。

 

驚き固まるクロムの眼前で敵が爆散しながらその数をみるみる減らしていく。

 

 

 

「な、なんだ!?何が起こってる!?」

 

 

 

戦闘中だというのに、敵から目をはなし後ろを振り返った彼を誰が責められよう。

それほどまでにあり得ないことが、起こっているのだ。

が、振り返った先で彼はまたも驚愕のあまり固まる事となる。

 

 

 

 

 

「ウハハハ!!皆殺しじゃあ!!」

 

 

 

 

 

視線の先。

 

燃え盛る焔の如く爛々と光る赤い双眸を煌めかせ、物騒な言葉を吐き散らしながら地獄の悪鬼も裸足で逃げ出す凶悪な表情で嗤うノブナが、

 

 

 

『両手』に構えた火縄銃を交互にぶっ放していた。

 

 

 

 

『なんだあれ!?2丁拳銃でもあるまいに・・・・いやいや仮に2丁あったとしたってあんな機関銃みたいに連射は出来ない筈なんじゃ!?何かのスキルか?・・・・いや、違う』

 

 

 

 

つぶさに彼女の動きを観察したクロムは気付いた。

銃撃の後、一瞬だが青白い光が手元を照らすのを。

 

 

 

『あの青白い光、いつも装備の出し入れなんかに使うシステムウィンドウの光だよな?・・・・おいおいまさか嘘だろ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ、撃ったはしから装備交換して新しい銃を取り出してるのか!?」

 

 

 

 

 

 

クロムが驚きの声をあげる。

 

彼が気付いた通り、カラクリそのものは単純だ。

 

 

1、銃を構えて撃つ。銃のリロードタイム開始。

 

2、銃から手を離し、空いた手でシステムウィンドウを操作。インベントリから新しい銃(装填済)とリロード中の銃を交換。

 

3、新しい銃を構えて撃つ。

 

 

この循環を繰り返しているだけである。

銃のリロード自体はインベントリの中でも問題なく行われる為、理論上は無限に撃ち放題な銃の完成だ。

 

とはいえ言葉で言うほど簡単な事ではない。

 

ステータスウィンドウのボタン配置を完璧に覚え、インベントリ中に混在する装填済の銃とリロード中の銃を瞬時に判断し、過たず目的の場所に装備する。

 

それを特別なスキルを使わず一瞬の内に、しかも両手で交互に別々の動きをしながら、である。

 

とても人間技とは思えない集中力と器用さが求められる異形の技だ。

 

 

 

 

『・・・・メイプルちゃんも大概だけど、アイツも別の意味で化物染みてるな・・・』

 

 

 

 

「おい、クロム!何を呆けておるのじゃ。敵が此方に向かい始めとるぞ!さっさとスキルで注意を引かんか!」

 

 

 

「あ、ああ悪い。【挑発】!!」

 

 

思わず棒立ちしていたクロムだが、ノブナの激に我に返り戦闘行動に戻った。

再び彼の元に集まり始める爆発テントウだが、飛来する端から弾幕の餌食となり辺りに体液をぶちまけることとなった。

 

 

 

『・・・あんなめちゃくちゃな撃ち方でこの命中率。手数で補ってるのを差し引いても異常だな。これが極振り・・・いや、ノブナの戦い方か。普段はどうしようもない奴だが、今は何とも心強い』

 

 

 

周りを見回せば、かなり敵の数が減ってきている。

人型オブジェと化していたメイプルも、最早顔が見えてくるくらいだ。

難しい顔で目を閉じ集中している。スキル【瞑想】を使用することであの状況に耐えているらしい。

とは言え、精神的な限界は近いらしくプルプルと小刻みに震えている。

 

 

 

「よし、もう少しで助けられそうだぞ!」

 

 

 

クロムが声を上げたその時、突如敵の動きが変化した。

 

一匹が突然攻撃を中断したかと思えば、キイキイと金属の擦れるような耳障りな鳴き声をあげ始めたのだ。

それに呼応するかのように残った他の爆発テントウ達も次々に鳴き声をあげ、やがて耳を塞がないといられない位の大音量となった。

 

 

 

「なんだこれ!?コイツらがこんな行動するなんて聞いてないぞ!?」

 

 

自分の声すらまともに聞こえない位の騒音に顔をしかめるクロム。トッププレイヤーとして名前を挙げられる位にはこのゲームをやって来た彼だが、こんな事態は初めてだった。未知の状況に嫌な予感がしてくる。

 

 

 

果たして、その予感は現実となってしまった。

 

 

 

 

「おい、嘘だろ・・・・」

 

 

 

 

虫達の奏でる不快な大合唱の中、周囲を警戒していたクロムが絶望の声を洩らす。

 

 

森の奥から先程の倍以上の爆発テントウが押し寄せてきたのだ。

その数は最早数えきれるものでは到底なく、地面を木々を枝枝をウゾウゾと這い回る様は赤黒い波のようにすら見える。

 

 

 

あれは無理だ。

 

 

 

そう確信し、ただその光景を眺めることしかできない彼の横を人影が通り過ぎ、前に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや・・・地獄の朱誅処もかくやのおぞましい光景よの。何か厄介なイベントフラグでも踏んだか?まったく、ここの運営は時々悪意の塊でしかないデストラップ仕掛けてくるのが珠に傷じゃのぅ」

 

 

 

 

 

 

ノブナだ。

何時ものように傲岸不遜に嗤いながら、虫の洪水を睥睨し、腕を組んで威風堂々仁王立ちしている。

 

 

 

 

「とは言え、このまま運営共の思惑にのってやるのも寝覚めが悪い。さて、クロムよ」

 

 

「これから見せるは今の儂のとっておき。言わば奥の手というヤツよ。努々口外したり例のスレに書き込んだりしてくれるなよ?運営に目をつけられ過ぎるのも面倒じゃからのう」

 

 

そう言って不敵に微笑みながら、口元に人差し指を当てる。

クロムが訳も判らずとりあえず頷いたのを確認した後、迫り来る赤黒の波に向き合い・・・・静かにその言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『三千世界に屍を晒すがよい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたぁ!もう気持ち悪くって、でも動けなくって!新月に入れた【毒竜】も使い切っちゃってぇ!」

 

 

 

「おーおー、難儀したのぉ。しかし怪我なぞなくて良かったわ。ま、今回のことは犬にでも噛まれたと思って忘れ『そう簡単に忘れられません!夢に出ちゃいます!』お、おうそうか・・・」

 

 

 

 

涙目で言い返してくるメイプルの勢いに気圧されながら話すノブナ。

その何とも言えぬ緩い空気を漂わせる空間を横目に見ながら、クロムは一人難しい顔で黙り混む。

 

 

 

 

『・・・・もしかしたら俺はとんでもないヤツと知り合ってしまったのかもしれない・・・・』

 

 

 

 

 

腕を組み、ただ悶々と唸り続けるクロムの後ろには

 

 

 

 

まるで空襲にでもあったかのように薙ぎ倒された木々と抉れ、隆起し、先刻までとは違った地形に成り果てた地面とが広がるばかりであった。

 

 

 

 

 




誰得スキル解説

【単独行動】
・自身の最も高いステータスの10%分の数値を【AGI 】に加算する。効果時間30秒。
・パーティーを組んだ状態でも、使用条件に【ソロ状態である事】を持つスキルを使用出来るようになる。
・味方からの支援スキル(【カバー】、【ヒール】など)、アイテムの対象にならなくなる。

【隠密】
・このスキルは使用者がソロ状態の時のみ使用可能。
・自身に【隠密】状態を付与。使用回数は十数回。効果時間30秒。連続使用不可。


【隠密】
・敵にターゲティングされなくなる。
・次の一回目の攻撃にダメージボーナスを付与。
・攻撃をした場合、【隠密】状態は解除される。


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器用度極振りの対外評価

考えたは良いが書ききれなかった設定をぶちまけようの回。


 

 

【NWO】ノブナがやばい

 

 

 

1名前:名無しの大盾使い

 

 

やばい

 

 

 

 

2名前:名無しの大剣使い

 

 

知ってた

 

 

 

 

3名前:名無しの魔法使い

 

 

知ってた

 

 

 

 

4名前:名無しの槍使い

 

 

知ってた

 

 

 

 

5名前:名無しの弓使い

 

 

知ってた

 

満場一致の見解が得られたことだしこのスレは早くも終了ですね。

 

 

6名前:名無しの大盾使い

 

 

おいばか止めろ

 

とりあえず話だけでも聞いてくれ

 

 

 

 

7名前:名無しの槍使い

 

 

冗談はともかく。

 

ノブナってあのノブナでいいんだよな?

 

 

 

 

8名前:名無しの大剣使い

 

 

『運営特攻』

 

『世界(感)の破壊者』

 

『FG◯非公式キャラクター』

 

『神(運営)を撃ち落とす者』

 

 

 

9名前:名無しの大盾使い

 

 

そうそれ。

 

まぁ、詳細は省くが今日一緒にパーティー組んで戦ったんだがやばかった。

 

 

 

 

10名前:名無しの弓使い

 

 

kwsk

 

 

 

 

11名前:名無しの大盾使い

 

 

メイン武器の火縄銃っぽいヤツを両手撃ちでマシンガンみたいに乱射してた

 

 

 

 

12名前:名無しの魔法使い

 

 

 

なにそれこわい

 

てか、銃って連発出来たっけ。

 

 

 

 

13名前:名無しの大剣使い

 

 

何か特別なスキルを使ってた訳でなく?

 

 

 

 

14名前:名無しの大盾使い

 

 

>>12普通は出来ない。

 

>>13高速でインベントリから銃出し入れして撃ってた。おそらく純粋なPS

 

 

 

 

15名前:名無しの槍使い

 

 

ヤバすぎるだろ!?

 

というかリロードはどうしてるんだそれ。

 

 

 

 

16名前:名無しの弓使い

 

 

>>15インベントリ内でもリロードは可能。

 

確かβ時代から発見されてた謎仕様。

 

当時からそういうやり方が出来ると指摘はされてたけど、難易度の高さと銃自体のスペックが解明されてくにつれ話題に上がらなくなっていったはず。

 

 

17名前:名無しの大剣使い

 

 

遠距離武器使ったことないからイメージ出来ん。

 

難しさを俺にも分かりやすいように簡潔に説明してくれ。

 

 

 

18名前:名無しの弓使い

 

 

太◯の達人の鬼を片手ずつ別の曲でクリアする

 

 

 

19名前:名無しの槍使い

 

 

無理

 

 

 

20名前:名無しの大剣使い

 

 

無理

 

 

 

21名前:名無しの魔法使い

 

 

無理

 

 

 

22名前:名無しの大盾使い

 

 

無理。

 

その喩えでやばさを再認識したわ・・・

 

ほんと何なんアイツ

 

 

 

23名前:名無しの魔法使い

 

 

というか読み返してたらもっとやばいことに気付いた。

 

火縄銃っぽい武器ってそれもしかして【タネガシマ】?

 

 

 

24名前:名無しの弓使い

 

 

>>23ホントだ。

 

だとしたらやばさのレベルが跳ね上がってくるな。

 

 

 

25名前:名無しの槍使い

 

 

なにそれ。そんなにヤバい武器なのか。ぶっ壊れ性能とか?

 

 

 

 

26名前:名無しの魔法使い

 

 

>>25逆。

 

銃という武器のデメリットを煮詰めたようなヤツ。

 

ネタを通り越して最早産廃扱いされてる。

 

 

 

 

27名前:名無しの弓使い

 

 

・β時代からの最古参組。

 

・リロードタイムは最長の60秒。

 

・とあるダンジョンに数%の確率で登場する敵が低確率でドロップする素材をもとに造られる超高レア武器。

 

・銃の中でも最高峰の威力を誇るが、命中性能は劣悪。

 

 

ついたあだ名が

 

『ドアノッカー』

 

『ゲーム史に残して欲しくなかった産廃』

 

『あの弾』

 

 

 

28名前:名無しの大盾使い

 

 

他2つはなんとなく分かるが、最後のがわからん。

 

 

 

 

29名前:名無しの弓使い

 

 

 

>>28『あの弾の行方を僕はまだ知らない』

 

 

 

 

30名前:名無しの槍使い

 

 

さすがに草w

 

というか、そんなクソ武器あったのか。初めて知ったわ

 

 

 

31名前:名無しの魔法使い

 

 

銃自体が不遇扱いで、その中でもとびきりの産廃なので使う奴皆無だし仕方ない。

 

確か【DEX】特化でも命中率3割いかなかったんじゃなかったか。

 

 

 

32名前:名無しの大剣使い

 

 

>>31そんなに

 

それを使って、数打ちゃ当たるとは言え、しっかり敵倒せてたんならヤバすぎるな。

 

しかも交換してたってことは、

 

 

 

い っ ぱ い 持 っ て る。

 

 

 

33名前:名無しの槍使い

 

 

無限に打ち続けるならリロード時間60秒だから、1サイクル1秒としたって60丁・・・

 

高レア武器を60丁・・・

 

あたま痛くなってきた。

 

 

 

34名前:名無しの弓使い

 

 

なんという手間のかかることを

 

 

 

35名前:名無しの大盾使い

 

 

一番やばいのはそれだけのことをやる理由がおそらく

 

 

『推しキャラを再現するため』

 

 

というだけって点。

 

 

 

36名前:名無しの魔法使い

 

 

あ た ま が お か し い

 

 

 

37名前:名無しの大剣使い

 

 

今までにないヤバみを感じる。

 

 

 

 

38名前:名無しの槍使い

 

 

不定の狂気『キャラ再現』

 

 

 

 

39名前:名無しの弓使い

 

 

>>38精神分析精神分析

 

 

とりあえず言ってた意味がわかったわ。そりゃヤバいって言いたくもなる。

 

 

 

40名前:名無しの大盾使い

 

 

わかってもらえたようで何より。

 

実は他にもヤバい要素があるんだが、それは口止めされてるから言えない。

 

今スレに書いてる位はいいって了承得たからOKだけど。

 

 

とりあえず言えるのはもし機会があっても俺は戦いたくないってことだけ。

 

 

 

41名前:名無しの槍使い

 

 

この上まだ隠し持ってるスキルやらがあるの!?。

 

 

 

42名前:名無しの大剣使い

 

 

そこまで言われるくらいなのか・・・

 

こりゃもうすぐあるイベントで何かやらかすかもだな。

 

 

 

43名前:名無しの弓使い

 

 

イベントってPVP形式のバトルロイヤルだっけ?

 

もし会っても俺もごめんこうむるわ。

 

マシンガン連射してくる銃使いとか弓にとっちゃ悪夢ですわ。

 

 

 

44名前:名無しの魔法使い

 

 

上に同じく

 

 

 

45名前:名無しの大盾使い

 

 

とりあえず話せることは今のところこれだけだな。

 

フレンド登録もしたし、また何か判明したら書き込むわ。

 

 

 

46名前:名無しの槍使い

 

 

乙。

 

 

新情報期待してる。

 

 

 

 



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器用度極振りと第一回イベント 1

某月某日。

 

 

記念すべき【NWO】初の大規模イベントの開催日であるこの日、多くのプレイヤー達が逸る気持ちを抑え、スタート地点である広場に集まっていた。

 

観覧席でもあるそこには、空中に投影された大規模ビジョンがあり、直接参加しないプレイヤーもイベントの様子を見ることが出来るようになっている。

現在そこには今回のイベントの概要説明が表示されており、待ち時間にすることもなくなり手持ちぶさたになったプレイヤーが、何とはなしにそれを読み込んでいる光景や緊張の為か若干血走った目で画面を凝視するプレイヤー等がそこかしこで見られた。

 

 

 

 

「く、あぁ・・・はふ・・・」

 

 

 

 

そんな周囲のソワソワした空気などガン無視するかの如く大あくびをかます不届きものが1人。

 

 

ノブナである。

 

 

 

戦闘用コスプレ装備に身を包み、如何にも寝不足ですという雰囲気で気だるそうに立っている。

 

 

 

「ノブナさん寝不足ですか?」

 

 

 

 

「ん?んん・・・・ん」

 

 

 

 

「ノブナさん?ノブナさ~ん?も~、しょーがないなぁ」

 

 

 

隣に立つメイプルが話しかけても返事が曖昧。見かねた彼女がいい感じの布・・・はあいにく持ってなかったのでノブナのマントを使って顔を拭う。

 

 

 

「む?むぐぅ・・・、ぷは。おお、ちょっと目が覚めた」

 

 

 

「もう、しっかりしてください!もうすぐイベント始まっちゃいますよ!」

 

 

 

「おお、すまんのぅメイプル。・・・て、これ儂のマントかい!なにしよるんじゃ、オーダーメイドで高かったんじゃぞコレ!?」

 

 

 

「ノブナさんが寝てるのが悪いんじゃないですか~」

 

 

 

などと、何時ものように緩い空気でじゃれ合う。

周囲プレイヤー達の「何だコイツら」という感じの微妙な表情なぞどこ吹く風。通常営業の二人だったが、突然響いたファンファーレと共に中央のスクリーンに映る映像が切り替わった時点で表情を引き締めた。

 

 

スクリーンには背景のない画面にデカデカと「運営」の二文字が写し出され、機会音声のような声でアナウンスが始まった。

 

 

『いよいよ記念すべき第一回イベントの開幕になりまーす!それではもう一度改めてルールを説明します!』

 

 

『制限時間は三時間。ステージは専用マップ!倒したプレイヤーの数と倒された回数、それに被ダメージと与ダメージ。これ等4つの項目からポイントを算出し順位を出します』

 

 

『さらに上位十名には記念品が贈られます。注目プレイヤーは空中のスクリーンに実況中継されるので不参加の方々もお楽しみ下さい!』

 

 

『説明は以上です。参加者の方々は頑張ってください!それでは第一回イベント!バトルロイヤルを開始致します!』

 

 

 

その宣言と同時に拍手が巻き起こりプレイヤー達の歓声や気合いの雄叫びがアチラコチラで上がる。

スクリーンは再び切り替わり、カウントダウンが始まった。

 

 

初めての対人戦を前に、もしかしたらダメージを受けてしまいやしないか等と少し不安げな表情を浮かべたメイプル(実際は杞憂なのだが)。

 

そんな彼女の眼前に握り拳が掲げられる。

 

 

 

「ホレ、戦の前の景気づけじゃ」

 

 

 

「え?・・・あ、はい!」

 

 

 

言われてメイプルも同じように手を前に出し、拳同士を軽くぶつけ合わせた。

 

 

 

「こういうイベントは楽しんだ者勝ちじゃて。お主も後悔せんよう精一杯楽しんでこい」

 

 

 

「はい!ノブナさんも!一緒に10位以内、入れ

るよう頑張りましょう!約束ですよ!」

 

 

 

 

片や好戦的な笑顔を。

片や溌剌とした笑顔を。

 

 

違いはあれどお互いに笑いあった瞬間、カウントが0を示し、周囲の景色が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・フム。どうやら着いたようじゃの」

 

 

 

呟き、閉じていた目をそっと開ける。

 

まず目に飛び込んできたのは四方を囲む白い壁。

薄暗く、埃とちりが舞うそこはどこかの建物の中であるようだ。

大分昔に建てられたらしく、所々に穴やひび割れが出来、そこから光が差し込んで来ている。

 

 

 

「やれやれ。出現場所はランダムとはいえ、これまたひどい所に飛ばされたもんじゃのう」

 

 

 

顔をしかめマントで口元を塞ぎつつ、出口を探す。

ドアらしき場所が板で打ち付けられ、ふさがれた所を見つけ、二、三発弾を撃ち込み、脆くなった板を蹴破り外に出る。

 

 

周囲をぐるりと見渡せば、同じような建物が何件も建ち並び、レンガで舗装されたと思しき道路や遠くには背の高い塔のようなものも見えた。

どうやら一つの街のようになっているらしい。

どれも経年劣化激しく、壊れたり崩れかけたりしてはいるものの在りし日の栄光を感じさせるような、廃墟郡である。

 

 

 

「廃墟の街・・・と言ったとこか。こういう所って隠れて奇襲したり休憩したり出来るから、なにかとプレイヤーが集まりやすいんじゃよなぁ。ま、とりあえず移動するかの。【単独行動】!」

 

 

 

スキルを発動した瞬間、身体が羽のように軽くなったように感じる。

今ならばどんな高い壁でも飛び越えられる。

そんな確信にも似た衝動に突き動かされるように、脚に力を込め跳躍する。

 

 

タ、タ、タン!

 

 

地を蹴り、壁を蹴り、瞬く間に屋根の上に上がる。

 

 

 

「っと!やっぱ便利じゃのうコレ。【AGI】数値0でもこんな事出来るんじゃから」

 

 

 

【単独行動】

 

・自身の最も高いステータスの10%分の数値を【AGI】に加算する。効果時間30秒。

・パーティーを組んだ状態でも、使用条件に【ソロ状態である事】を持つスキルを使用出来るようになる。

・味方からの支援スキル(【カバー】、【ヒール】など)、アイテムの対象にならなくなる。

 

 

 

「さて、と・・・おうおう、やっとるやっとる。其処ら中で切った張ったの大立ち回り」

 

 

 

建物の屋根から眺めて見れば、街中の至るところで怒号や剣戟の音が響き、少し離れた所では爆炎が上がっている。

すでに戦端は開かれているようだ。

 

その街の様子を見て、予想通りと内心ほくそえむ。

 

やはり、多くのプレイヤーがこの街に集まってきている。

 

 

 

「よしよし。向こうから勝手によってきてくれるのだからこれ程楽なことはないわ」

 

 

 

等と1人悪い顔をしていると、足下が騒がしい。

見ればちょうど真下の路地で二組による戦いが始まったようだ。

 

片や8人ほどのグループ、片や1人という明らかに不利な戦力差であり、案の定1人の側があっという間に追い詰められていく。

 

 

 

「む。アレはいかんな」

 

 

 

言うと、屋根から一歩足を踏み出す。

 

当然の如く重力にとらわれたノブナの身体は頭から下に落ちていった。

 

見る間に近づいてくる地面。

 

それから目を反らさず、冷静に呟く。

 

 

 

「【単独行動】」

 

 

 

 

例の感覚が全身に広がるのを感じながら、空中で前転するようにくるりと体勢を入れ換える。

 

 

 

「はっはぁ!これで終わりぐへぇ!?」

 

 

 

ちょうど着地点にいた戦士風の男を踏み潰し着地。

即座にインベントリを操作して愛用の銃を引っ張り出すと、突然の事に呆然としている残り7人に向けて斉射する。

 

 

【タネガシマ】の銃声が路地を満たし、無数の弾丸の雨が全てを呑み込み、穿ち、削り取っていった。

 

悲鳴を上げる間も無く、7人は愉快なオブジェと化しやがて光を放ちながら消えていった。

 

 

 

「な、なにが・・・」

 

 

 

「なんじゃまだ生きとったんか。意外とタフじゃのう」

 

 

 

そう言いながら銃口を足下で倒れる男の後頭部に押し当てると躊躇なく引き金を引く。

銃口から射出された弾丸が過たず致命的な損傷を負わせ、男の身体もまた光となって砕け散った。

 

 

 

「あ、ありがとう助かったよ!」

 

 

 

未だに腰を抜かして地面に座り込んでいる1人側だった魔法使い風の男性が礼を言ってきたのをノブナは訝しげに眺めながら【タネガシマ】を手許でくるりと回転させ玩ぶ。

 

 

 

 

「?・・・何か勘違いをしとるようじゃが」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

「貴様を助けたつもりはない」

 

 

 

 

意味が分からないという様に聞き返してきた男性の眉間に弾丸を撃ち込み、光に変える。

 

光が完全に消え去るのを確認してからステータスウィンドウを開き、獲得ポイントを確認する。

 

 

 

「なんじゃ意外としけとるのぉ。この分じゃと、結構な人数相手にせんといかんか。こりゃ骨が折れそうじゃ」

 

 

 

 

言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべながらウィンドウを閉じ、【タネガシマ】を肩に担ぐ。

 

 

 

「しかし対人戦はいいのぅ・・・このえも云われぬ緊張感・・ピリピリとした空気・・心が躍る。メイプルと馬鹿をやるのもそれはそれで愉快じゃが、やはりゲームとはこうでなくては」

 

 

 

上機嫌に笑うノブナ。移動する足取りも軽く、スキップでもしそうな程だ。

 

 

 

「理沙がおらん内はこういう楽しみも出来んと思っとったがまさかバトルロイヤルとは!運営めもやってくれる。年甲斐もなくはしゃいでしもうて昨夜も殆んど寝られん始末。我ながら度しがたいのぅ!ウハハハ!」

 

 

 

 

「いたぞ!てきギャあ!?」

 

 

 

曲がり角から顔を出した警戒感の薄い間抜けを即座に撃ち抜く。

道奥には仲間がいるらしいが流石に出ては来ないらしい。

 

 

 

「流石に1人目と違って無警戒に飛び出してくる阿呆ではないらしい・・・ま、かといってそこが安全という訳でもないんじゃが、の!」

 

 

 

新たな銃を装備すると、曲がり角に向けて撃ちまくる。

弾幕が劣化した建物の壁を瞬く間に削り取り、隠れていた標的ごと粉砕していった。

 

その衝撃によるものか、はたまた銃撃が重要な柱でも砕いたのか建物が音を立てて崩壊する。

 

 

 

視界全てを砂煙が覆い隠す中、ノブナの狂ったような嗤い声が響く。

 

 

 

 

「ハハハハハハハ!!!よい、よいぞ興が乗ってきた!せっかくの宴じゃ!!メイプルとの約束もあることじゃし、手始めに此処等一帯蹂躙させて貰うとしようか!」

 

 

 

 

燃え盛る焔の如く赤く煌めく双眸を見開いて、獣のように嗤いながら右手を掲げ、高らかに謳い上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「【マックスウェルの悪魔】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、砂煙が吹き飛ばされ視界が開ける。

 

ノブナの周囲を赤黒いオーラが轟々と渦を巻き、まるで竜巻のような暴風を発生させていた。

 

暴風の中で再びノブナが謳う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【秘密兵器《トイ・ボックス》】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暴風がピタリとやみ、かわりに空間が円形に歪む。蒼白い光と共に歪みから現れたのはノブナの愛銃である【タネガシマ】だ。

【タネガシマ】が徐々に数を増やし、ノブナを中心に螺旋を描いて宙に舞う。

 

 

 

 

 

「全力には程遠いが戦の号砲としては十分であろうさ・・・『三千世界に屍を晒すがよい』」

 

 

 

 

 

キーワードと共に無数の銃口が一斉に発射態勢に移る。

 

 

 

狙うは周囲一帯、視界に映る全て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、とくと我が業御覧じろ!『これが魔王の三千世界(さんだんうち)じゃ』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掲げた腕を振り下ろした時、

 

数多の弾丸がその全てを吹き飛ばした・・・・




主人公も作者も寝不足でハイになってやがる・・・


誰得スキル解説

【秘密兵器(トイボックス)】
・【トイ・キング】の力を自在にあやつる事ができる。
MPを消費することで、自身の半径30m以内の任意の場所に、今現在所持しているアイテムを出現、即時使用出来る。
・アイテムの限界所持数を増やす。

【マックスウェルの悪魔】
・10秒毎に最大MPを20増やす。上限あり。
・5秒毎にMPを10回復する。
・このスキルを取得した時点から自身のMPを0とし、ステータスポイントの割振りも出来なくなる。このスキルを取得している間この効果は続く。
・このスキルを取得し続ける限り、得られる経験値は通常時の3分の1となる。



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器用度極振りと第一回イベント 2

ステータスの数値とかこれで合ってるのかよくわからない・・・


ノブナが寝不足から来る謎のハイテンションに任せて開幕ぶっぱを決めた、その少し後の時間帯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームを運営する者達が不具合が出ないようにそれぞれイベントを管理している所謂『運営部屋』で複数人による絶叫が上がっていた。

 

 

 

『報告。監視対象は先程の無差別攻撃に加え、尚もオブジェクトを巻き込んでの攻撃を実行中。これにより廃墟ステージ全体の三割の機能を喪失。近くにいたプレイヤーで巻き込まれた者多数。被害甚大です。』

 

 

 

 

「や、野郎・・・・なんてことを、なんてことをしやがる!?」

 

 

 

 

「俺達がこの日の為に必死こいて作成したThe.ファンタジー世界の廃墟って感じのステージが一瞬にしてけしずみ、けし、け、けけけけけけけけケケケケケケ毛ケケ毛!?」

 

 

 

「グラフィック担当!?おい、しっかりしろ!?」

 

 

 

 

「これが人間のすることかよぉおおおお!?」

 

 

 

 

スーツに覆面というかなりアレな見た目のアバターをした者達が、あるものは頭を抱え、あるものはショックで気がふれた同僚に気付けのビンタをかまし、またあるものは床に四つん這いになりながら天に向かって慟哭する。

 

 

控えめにいって地獄絵図である。

 

その様子をみて、他のステージ担当の者たちもなんだなんだと集まってきた。

 

 

 

「どうした・・・ってうわなんじゃこれ。街が空襲にあったみたいに抉られてやがる」

 

 

 

「犯人は・・・・ああ、ノブナか。俺らの担当したとこでもちょっと前にそれやられたわ」

 

 

 

「北の森だっけか・・・あれは嫌な、事件だったね・・・まだ(吹き飛ばされたデータのコピー)一部見つかってないんだろう?」

 

 

 

「そうそう、仕方ないから一から作り直し、し、ししししししシシシシシシ!?」   

 

 

 

 

「精神分析(物理)!!」

 

 

 

 

「ぐはっ!?は、俺は何を・・・」

 

 

 

「ふう。しかし今回こうして戦ってる映像まじまじ見てみるとスゴイなこれ。まんまノッ◯じゃん。スキル構成とかどうなってんだ?」

 

 

 

「映像出します」

 

 

 

1人がカチカチと機械を操作すると、中央の大スクリーンにノブナのステータス画面が映し出される。

 

 

 

 

 

ノブナ

 

 

Lv30

 

 

 

HP 32/32

 

MP 0/0

 

 

 

【STR 0<+120>】

 

【VIT 0】

 

【AGI 0】

 

【DEX 175<+100>】

 

【INT 0】

 

 

 

装備

 

頭【皇国の軍帽】【DEX+25】

 

体【皇国の将校服】【DEX+30】

 

右手【タネガシマ】

 

左手【タネガシマ】

 

足【皇国の黄金具足】【DEX+25】

 

装飾品

 

【火鼠の紅外套】【DEX+20】

 

 

 

 

スキル一覧 

 

【銃の心得 Ⅴ】

【二挺拳銃(トゥーハンド)】

【ピンポイントスナイプ】

【単独行動】

【隠密】

【専科百般】

【秘密兵器(トイボックス)】

【マックスウェルの悪魔】

【屍山血河】

【血濡れの栄光】

【一騎当千】

【征服者(コンキスタドール)】

 

 

【銃の心得 Ⅴ】

 

・銃による攻撃のダメージを5%アップ

 

【二挺拳銃】

 

・両手持ちの銃を片手で装備出来るようになる。

 

【ピンポイントスナイプ】

 

・攻撃スキル。消費MPなし

 

・このスキルでの攻撃時【DEX】の値の10%のダメージボーナスを得る。

 

 

【単独行動】

 

・自身の最も高いステータスの10%分の数値を【AGI】に加算する。効果時間30秒。

 

・パーティーを組んだ状態でも、使用条件に【ソロ状態である事】を持つスキルを使用出来るようになる。

 

・味方からの支援スキル(【カバー】、【ヒール】など)、アイテムの対象にならなくなる。

 

 

【隠密】

 

・このスキルは使用者がソロ状態の時のみ使用可能。

 

・自身に【隠密】状態を付与。使用回数は十数回。効果時間30秒。連続使用不可。

 

 

【専科百般】

 

・自身の【DEX】の値を2倍にする。他のステータスを上昇する時消費するポイントを3倍にする。

 

 

【秘密兵器(トイボックス)】

 

・【トイ・キング】の力を自在にあやつる事ができる。

MPを消費することで、自身の半径30m以内の任意の場所に、今現在所持しているアイテムを出現、即時使用出来る。

 

・アイテムの限界所持数を増やす。

 

 

【マックスウェルの悪魔】

 

・10秒毎に最大MPを20増やす。上限あり。

 

・5秒毎にMPを10回復する。

 

・このスキルを取得した時点から自身のMPを0とし、ステータスポイントの割振りも出来なくなる。このスキルを取得し続ける限りこの効果は続く。

 

・このスキルを取得し続ける限り、得られる経験値は通常時の3分の1となる。

 

 

【屍山血河】

 

・敵を倒す毎に攻撃にダメージボーナスを得る。上限あり。戦闘終了時リセット。

 

 

【血濡れの栄光】

 

・敵にダメージを与える度にダメージボーナスを得る。上限あり。一定時間ダメージを与えなかった場合、リセットされる。

 

 

【一騎当千】

 

・敵の数が自分含めた味方よりも多い場合、自身のステータスを2倍にする。

 

・撃破数に応じて攻撃にダメージボーナスを得る。

 

 

【征服者(コンキスタドール)】

 

・敵を蹂躙し、奪い尽くす力。敵を倒した時、その敵のもっとも高いステータスの値の10%分を自身のもっとも高いステータスに加算する。

戦闘終了時リセット。

 

・敵を倒した数が一定数を越えた場合、自身のスキルの効果範囲を広げる事が出来る。

 

 

 

 

 

 

『うわぁ・・・』 

 

 

 

見ていた人間から若干引き気味の声が上がる。

 

 

 

「コスプレ楽しんでるキ◯ガイエンジョイ勢と思いきやこれは・・・・・」

 

 

 

「構成としてはガチガチですね。対多数戦闘の鬼、みたいな?」

 

 

 

「そんな生易しいもんじゃねぇだろこれ。高【DEX】で攻撃当たりやすくしつつ、当たったらダメージ上昇して敵を倒しやすくなる。倒したら更にダメージ上昇しつつ、【DEX】が補強されるから更に当たりやすくなる・・・【ピンポイントスナイプ】の攻撃力アップもあるな」

 

 

 

「ついでに、【DEX】上がると、【単独行動】発動時の【AGI】も上がってきますよ」

 

 

 

「で、それでも危なくなったら【隠密】で逃げるなり隠れるなりすると・・・うげぇウゼぇ」

 

 

 

「ゲームで時々いる雑魚敵喰ってパワーアップしてくるタイプのボスみたいだなぁ・・・」

 

 

 

「今回のイベントこいつ独壇場みたいなもんじゃんこれ。どうしよ・・・・」

 

 

 

 

 

画面を見ていた者達が一斉に頭を抱える中、少し離れた位置で見ていた1人が落ち着いた声で、周囲をさとす。

 

 

 

 

「まあまあ、たしかに強力だが弱点が無いわけではない。極振り故の吹けば飛ぶようなHPであることに変わりはないんだ。殺りようはいくらでもあるさ。例えば避けようのない範囲攻撃で焼き尽くすとか、自力のある強力なプレイヤー数人で囲んで叩くとかな」

 

 

 

「そ、そうか流石課長だ・・・」

 

 

 

「ああ、俺達なんぞとはレベルの違う殺意だぜ。今まで何人ものプレイヤーを即死トラップに誘い、屠ってきただけはある」

 

 

 

「俺達の頭を張ってるだけあるよな」

 

 

 

「ハッハッハ、そう誉めるな誉めるな」

 

 

 

 

課長の一声で再び活気つく運営部屋。

喜びの課長コールが響く中、イベントの状況を伝える自動アナウンスから機械音声が流れる。

 

 

 

 

 

 

『報告。監視対象が移動を開始。周辺のプレイヤーを撃破しながら進行中。目標地点は森林エリアと推測』

 

 

 

 

 

「あれ?森林エリアって確か課長の担当地区じゃあ」

 

 

 

「かふっ!?」

 

 

 

「か、課長ォォォ!?」

 

 

 

 

 

運営部屋に再びの絶叫が響き渡る。

 

イベントは中盤戦に入ろうかという時間帯に差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

所変わって森林地帯。

 

多くの木々が立ち並んで青々とした葉が緑色の天井となって空を覆う為に薄暗く、鬱蒼と繁った植物が視界を遮るそこはプレイヤー同士の不意の遭遇戦が多発するエリアでもある。

 

 

 

「【一ノ太刀 陽炎】!」

 

 

 

「ッ!?あっぶねぇ!」

 

 

 

 

今もまさに二人のプレイヤーが戦闘の真っ最中であった。

 

その内の一人。

 

黒髪黒目で長髪。着物風の装備で身を固め刀を手に鋭く斬りかかった女性・・・【カスミ】は自身の技が寸での所でかわされたのを内心歯噛みしつつも、油断なく距離を取り刀を構え直す。

 

 

 

 

「惜しかったなぁ美人の姉さん。今の俺じゃなかったら殺られてただろうさ」

 

 

 

相手は軽鎧を装備した槍使いの男性プレイヤー。

軽薄な口調とは裏腹に此方も油断なく槍を構えている。

 

 

 

 

『今の一撃を避ける技量・・・そしてあの力を込めすぎない自然な構え・・・間違いなく上級のプレイヤーだな』

 

 

 

相手の実力を計りながらチラリと相手の武器を見る。

 

 

全長2m以上はある槍。ランスでなくスピアと呼ぶに相応しい細身の物。過剰な装飾のないシンプルな外見で遣い手の地味ながら堅実な戦い方を象徴するようだ。

 

対して此方の得物は刀。

リーチの差は歴然だ。

 

 

 

 

『長引けば此方の不利か・・・なら!』

 

 

 

グッと全身に力を込め、神経を集中する。

 

カスミが勝負に出るのを雰囲気の変化で察したのか相手も腰だめに構えた槍を握る手に集中する。

 

 

ピリピリと肌を刺す緊張感が場を満たし、そのボルテージを徐々に高めていく。

 

 

 

 

それが最高潮に高まったその瞬間!

 

 

 

 

『今!』

 

「【超かそ」

 

 

 

 

 

 

 

必殺のスキルを放とうとしたカスミの眼前で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────世界が、削り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?─こ、これは一体!?」

 

 

 

濛々と上がる土煙の中、カスミは状況を把握しようと目を凝らす。

 

目の前には惨憺たる光景が広がっていた。

 

 

薙ぎ倒された木々。抉られ変わり果てた地面。

そして、先程まで対峙していた男が持っていた筈の槍の穂先。

それが、キラキラと光を放ちながら消えていった。

 

 

まるで、昔見た怪獣映画のワンシーンのような光景にしばし絶句するカスミ。

 

だが、瞬間感じた悪寒に反応し咄嗟に後ろに跳び退いた。

 

 

 

 

 

ズダン!!

 

 

 

 

数瞬前までカスミのいた場所に穴があく。

 

 

 

 

『遠距離からの狙撃!?敵は銃遣いか!』

 

 

 

素早い状況判断のもと移動し生き残った樹木の影に身を隠す。

 

慎重に木の影から銃弾の飛んできた先を覗きこむ。

 

 

 

 

「ほう。今のを避けるとは。運だけでなく腕も確かと見える」

 

 

 

 

舞い上がる土煙の中を突っ切って、はたしてソレは現れた。

 

 

 

 

──全てを呑み込む暗い影の如き漆黒の軍服に華美な装飾のついた軍帽。

 

──流れ出る血潮を思わせる深紅の外套。

 

──黒い長髪を風にのせ、赤い瞳に凶悪な光をたたえて

 

 

 

 

『魔王』がそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──問おう。貴様は己が爪牙で以て抗う獅子か。それとも無様に焼かれる豚か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチリと

 

 

 

 

 

闇より黒い銃口がカスミを捉えた。




主人公の天敵はメイプルです。
逆にクロムなんかには有利取れるでしょう。
サリーみたいな回避盾には一応対処法は考えてあります。構成似たカスミさんに今回出張ってもらったので次回でその辺り描写出来たらなぁと思ってます。


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器用度極振りと第一回イベント 3

今回視点がコロコロ変わるのでそういうのが苦手な方注意です。


──────走る。

 

 

──────走る。

 

 

 

ただただ走る。

 

 

立ち並ぶ木々の間を縫うように走り抜ける度、枝葉が身体を打つ。

 

天を覆う葉の隙間から僅かに差し込む明かりを頼りに走る。

 

電脳の仮想空間であるにも関わらず、緊張と焦りで喉がひりつくように痛む気すらする。

 

 

しかし、足を止める事は出来ない。

 

何故ならば

 

 

 

 

バキャッ!!

 

 

 

 

「くっ!?」

 

 

 

今まさに通り過ぎたばかりの木の幹に大穴が開き吹き飛んだ樹皮や木片が宙を舞う。

それを確認するや否やカスミは土や泥にまみれるのも構わず横っ飛びに転がった。

 

 

 

ダダダダ!!

 

 

 

その頭の上を幾筋もの光が通りすぎ、周囲にあった樹木を削り取っていく。

 

そのまま姿勢を低く保ちながら木の根本に身を隠し、カスミは呼吸を整え内心歯噛みする。

 

 

 

『厄介な!?近付こうにもこうも隙が少なくては迂闊に飛び出せん!』

 

 

 

木々の隙間から僅かに見える敵をじっと観察する。

 

彼我の距離はざっと50m程か。

 

全身を包み込むような赤黒いオーラを身に纏い、

二挺の火縄銃を手元でくるくると回しながら気負わずリラックスした姿勢で立っている。

一見隙だらけのようでいてその実、眼は獲物を仕止めるチャンスを伺う肉食獣のように爛々と光っている。

 

なにもなく飛び出せば容赦なく蜂の巣にされるだろう。

 

 

 

『PVPのイベントでよりにもよってあんなのに遭遇とは私も運がない・・・とは言うものの勝算が無いわけでもないか』

 

 

 

周囲をぐるりと囲んでいる木々のおかげで射線を切り、身を隠せる。

徐々にではあるが近づくことは出来る。

そして、此方の射程距離に入りさえすれば・・・

 

 

 

 

『【超加速】で一気に距離を詰めて、斬る!』

 

 

 

 

カスミの奥の手の一つ。目にも止まらぬ速さでの移動が可能になるスキル。

それであれば、あの程度の距離などあってないようなもの。

一瞬で刀の間合いにまで行けるだろう。

 

 

・・・だが

 

 

 

 

『相手も私が何としても近付こうとする事など百も承知。当然、なにか隠し球があると警戒しているだろう・・・加えて』

 

 

 

考えながら、カスミは傍らにあった石ころを拾い上げると明後日の方角に放り投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダダダッ!!

 

 

 

 

 

 

投げた石が空中で銃撃を受け、破片を撒き散らしながら四散した。

 

 

 

 

 

『この反応の良さ・・・【超加速】による不意打ちだけでは対処される可能性が高い・・・』

 

 

 

 

 

すぐにその場を離れ、別の木陰まで移動しながらも思考は止めない。

 

 

 

 

『・・・あと一つ・・・奴を崩せるだけの『何か』が必要だ・・・』

 

 

 

 

そう考えるカスミの耳に、突然『ピンポンパンポーン』というなんとも気の抜ける音が飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

『参加プレイヤーの皆様、お疲れ様です!ここで途中経過を発表致します。上位3名はこちら!』

 

 

 

1位  ペイン

 

2位  ドレッド

 

3位  ノブナ

 

 

 

『倒した際にはなんと得点の3割が譲渡されます!3人の位置はマップに表示されていますので最後まで諦めず頑張ってくださいね!』

 

 

 

 

 

 

「・・・まさかトップ3の内の1人とはな・・・道理で動きが玄人じみているはずだ」

 

 

 

 

 

そんなものを相手にせねばならない自分の不運を改めて呪いながら、ふと気づく。

 

 

 

 

『・・・もしかすると、これは使えるかもしれない』

 

 

 

 

そう考えたカスミは早速行動を開始した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

運営からの途中経過発表は勿論、ノブナの耳にも届いていた。

 

 

 

『現状3位とは・・・もう少し上かとも思うたがその程度か。最初の『三千世界』ぶっぱに思った程プレイヤーを巻き込めておらなんだか・・・或いは上位2名がそれ以上に狩っておるのか』

 

 

 

 

頭の隅っこでそんな事を考えつつ、ノブナは油断なく周囲を観察し続ける。

 

 

 

 

『・・・なんとも慎重な奴じゃ。餌にもとんと食いつかぬ』

 

 

 

 

先程から、わざと気を抜く素振りをみせたりと『つり』を試しているが、乗ってくる気配がまるでない。

 

 

 

 

『とは言え、時間は有限。そろそろ焦れて手出ししてくる頃合。なにかしらの隠し球を持っておるのは間違いないが・・・はてさて何をしてくる?』

 

 

 

 

とノブナが相手の出方を推測しようと思考を巡らせていた、その時

 

 

 

 

「いたぞアイツだ!!一斉にかかれ!!」

 

 

 

 

「む?」

 

 

 

 

4人のプレイヤーのグループがそれぞれ別方向の森の繁みから飛び出し、ノブナに突っ込んできた。

 

どうやら第3位である彼女を倒し、ポイント奪取を狙う連中らしい。

 

その身に刃が迫るのを見ながらしかし、ノブナは慌てる事なく小さく呟く。

 

 

 

 

「【単独行動】」

 

 

 

 

身体が軽くなる感覚を覚えながら、迫る刃をしゃがんでかわす。

 

相手からすれば突然標的が目の前で消えたように見えた事だろう。

 

無防備に晒された顎に銃口を押し当て射撃。

 

次いで後ろから迫って来ていた敵に振り向き様一発。その胴体に風穴を開ける。

 

即座に両手の銃を交換。

 

挟み撃ちの形で左右から迫る二人に同時に発砲。スキルによって威力精度共に上がった銃弾が過たずその肩から上を削り取っていった。

 

 

瞬く間に新手を処理しつつ、意識の大半は最初に相手していた着物姿のプレイヤーへの警戒に向けられていた。

と、その警戒心に反応があった。

 

 

仕掛けてくる。

 

 

長年様々なゲームで培ったゲーマーとしての勘でそう確信したと、同時にガサリと近くの繁みが音をたてた。

 

 

 

 

『そこ!』

 

 

 

 

即座に反応し、其方に銃口を向け撃つ。

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

『あれは・・・刀の鞘か!』

 

 

 

 

 

撃ち抜いたのは黒の鞘。

一瞬遅れて着物姿が飛び出してきた。

 

もう一方の手に握った銃を其方に向けて発砲。

 

 

 

 

「【超加速】!!」

 

 

 

 

着物姿のプレイヤーがその身体がぶれて見える程のスピードで一気に距離を詰め、飛来した銃弾を紙一重で潜り抜けた。

 

 

 

 

『疾い!?銃の補充・・間に合わん!?』

 

 

 

 

「とった!【一の太刀 陽炎】!」

 

 

 

 

迫る白刃

 

 

 

自信の姿がその刀身に映りこんでいるのが見える程に近づくそれを見て

 

 

 

 

 

 

 

 

ノブナが笑った。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

ガチリ

 

 

 

 

「え・・・」

 

 

 

 

 

自身の眉間に押し当てられた冷たく硬い感触にカスミの口から思わず間の抜けた声が洩れた。

 

が、次の瞬間にはその感触の正体に気がつき、

咄嗟に技をキャンセルして身をよじる。

 

 

 

 

ガァンッ!!

 

 

 

 

「くぁ!?」

 

 

 

 

顔のすぐ横で発せられた轟音と衝撃に脳が左右に揺さぶられるような感覚がし、視界がぶれる。

無理矢理避けたせいで体勢を維持出来ず、そのまま地面に倒れこんでしまう。

 

歪む視界のまま、見上げればそこには空中に静止した状態で銃口から白煙を昇らせている火縄銃があった。

 

 

 

 

「な、なんだこれは・・・」

 

 

 

 

「───【秘密兵器】」

 

 

 

 

「は!?」

 

 

 

 

非現実的な光景を見て絶句しながらも、なんとか反応して横に転がる。

それを追いかけるように次々と現れた銃によって弾痕が形成されてゆく。

 

 

 

『駄目だ、逃げ切れない!?』

 

 

「く、【三ノ太刀・弧月】!」

 

 

 

 

咄嗟にスキルを使用し、モーションを利用して空中に飛び上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく避けた。が、終わりよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

上から。

下から。

左右から。

 

 

 

 

空中に飛んだカスミを包囲するように数多の銃がその暗い銃口を彼女に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上下左右360℃、しめて1500挺の一斉射撃・・・避けれるものなら避けてみよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノブナが広げた掌を握り込むと同時

 

 

 

 

銃弾の雨がカスミの身体を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「───だぁー、しんど~」

 

 

 

 

 

着物姿のプレイヤーが光となって完全に消滅するのを確認してからノブナはガックリと肩を落とす。

 

全身を疲労感が包み、ズキンズキンと頭が痛む。

 

原因は明白、【秘密兵器】だ。

 

 

ただ並べての射撃ならばそこまでではないのだが、今のように相手を囲い込むような挙動・・・それも数多くの銃を用いてであれば話は違う。

 

相手の動きを読む洞察力。状況に合わせて瞬時に銃を配置、運用する判断力と空間把握能力。

一挙手一投足に目を光らせる集中力。

 

それら全てをフルに用いての技だ。

当然肉体的精神的な負担は比べるべくもない。

 

 

 

「回避主体のプレイヤー狩りのために用意した方法だが・・・まさかさっそく使わされるとは」

 

 

 

「ああ、まったくさっきの姉さんには感謝しねぇとな」

 

 

 

 

「な、ガッ!?」

 

 

 

 

ズブリと、

 

 

ノブナの胸から二対の白刃が生えた。

 

 

 

視界の隅に映るHPバーが消え去り、身体が光に包まれ消失していく。

 

身体をよじり後ろを見れば黒髪黒目、褐色肌の短髪の男性がノブナの胸から引き抜かれた飾り気のない二本の短剣を仕舞い込むところだった。

 

 

 

 

「・・・貴様、『ドレッド』か」

 

 

 

「アンタを放っておくと後がめんどくさそうなんで不意討ちさせてもらった。さっきの姉さんが集中力削いでくれて助かったぜ。ま、悪く思わないでくれ」

 

 

 

「・・・いや、戦場に卑怯もくそもない。気を抜いた儂が間抜けだったというだけのことよ。だが・・・」

 

 

 

 

最早殆んど消えかけながらも、ドレッドをその赤い双眸で見据えながらノブナが言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

「儂は借りは返す主義故、次に会う事があれば覚悟するがよい」

 

 

 

 

そこまで言った所でノブナの身体が完全に消え去った。

その場に残されたドレッドは一つ舌打ちをしたのち面倒くさそうに頭をかく。

 

 

 

 

「・・・普通なら負け惜しみと流すんだがなぁ。ありゃ本気だな。面倒くさそうな奴に手を出しちまったかなぁ」

 

 

 

 

そうしてしばらく考えたあと

 

 

 

「・・・ペインの奴に押し付けられたり・・・しないよなぁ」

 

 

 

ため息をつきながら、その場を後にするのだった。



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器用度極振りと第一回イベント終了

『終了!!』

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・ようやく終わりか」

 

 

 

ファンファーレと共に運営による終了の宣言がされたのを聞き、クロムは大きなため息をつきながら大盾を下ろす。

 

それと同時視界が暗くなる感覚がした。

運営によるステージからの強制退去が開始されたのだろう。

 

一度目を閉じ、開いた時には見慣れた広場の光景であった。

 

 

 

 

『それでは、気になる順位の発表を行いたいと思います!結果はこちら!』

 

 

 

クロムを含め、その場にいた全員の視線が中央に設置された特大ビジョンに集中した。

 

 

 

 

第1位 ペイン

 

 

第2位 ドレッド

 

 

第3位 メイプル

 

 

 

 

 

『以上3名の方が今回のイベントトップ3となりました!おめでとうございます!』

 

 

 

 

「うぉ!?メイプルちゃん3位かよ!?途中経過じゃあノブナだったのに・・・」

 

 

 

「・・・まったくじゃあ」

 

 

 

「どぉわ!?ノブナ、お前いたのかよ!真横でいきなりそんなデーモンのうなり声みたいな酷い声出さないでくれびっくりするだろ」

 

 

 

「あ~、もう、ツッコむ気力もないわ」

 

 

 

心底気だるそうに言ったノブナは最早立ってるのもしんどいとばかりにその場に座り込み、あぐらをかく。

それを見て流石に心配になったのか、クロムも姿勢を低くしノブナの顔を覗き込む。

 

 

 

 

「おいおい、ずいぶんしんどそうだな?上位勢ってことで他のプレイヤー達大勢に追いかけ回されたでもしたのか」

 

 

 

 

「・・・だったら良かったんじゃがのう」

 

 

 

ノブナが顔をしかめながら大きなため息をついて話し出す。

 

 

 

 

「クロムお前、儂がドレッドに倒されたのは知っとるか?」

 

 

 

 

「ああ、掲示板の速報で見た。とは言えあの時点じゃまだ3位だっただろ」

 

 

 

 

「問題はその後じゃ後・・・」

 

 

 

 

ノブナは一度言葉をきり、一呼吸おいてから吐き出す。

 

 

 

 

 

「儂がリスポンしてから会う奴会う奴みんな全力で逃げまくりおってな・・・全然ポイント取れんかったわ」

 

 

 

「あぁ・・・・」

 

 

 

 

その言葉で全て納得したクロムはなんともいえない笑顔を浮かべながら宙を仰いだ。

 

イベントの最中、情報収集も兼ねてちょくちょく掲示板を覗いていた為開戦当初から前半戦にかけてのノブナの暴れっぷりは知っていた。

 

 

曰く

 

 

『歩く大量破壊兵器』

 

『設定をミスったステージギミック』

 

『○ンダムサバーニャ』

 

 

等、散々な言われようであった。

そんな話題のプレイヤーとわざわざ戦いたがる人間は殆んどいないだろう。

 

 

 

 

『そりゃ誰だって逃げる。俺だってそうする』

 

 

 

「しかも逃げた先でよりによってメイプルの奴に突撃しよったのが大量に出たらしくてのぉ。全員もれなく美味しく頂かれ、途中でポイント逆転されて終了じゃ」

 

 

 

「あぁそれで・・・まぁ、見た目可愛いもんなメイプルちゃん。そりゃ狙われるわ」

 

 

 

 

実際はノブナを越える化物プレイヤーなのだが、あの見た目と言動から初見でそれを推し量れというのはあまりにも酷というものだろう。

 

 

 

「まぁ、3位以内は逃したとは言っても4位にはなったんだろ?10位以内なんだから戦果としては十分だろう」

 

 

 

 

「そりゃあそうなんじゃが・・・ぬう、なんとも不完全燃焼じゃのう!!」

 

 

 

「あれだけ暴れまわっておいてまだ足りないってかお前・・・」

 

 

 

「まったくだ・・・それでは全力を出して負けた私の立つ瀬がないというもの」

 

 

 

「ぬぁ?」

 

 

 

口を尖らせ不満を洩らすノブナに呆れるクロム。

そんな二人の頭上から新しい人物の声がかけられた。

 

声につられて視線を上に向ければ、見覚えのある着物姿の女性が腕を組ながら立っていた。

 

 

 

 

「おお、お主は着物女!さっきぶりじゃのう」

 

 

 

「カスミだ・・・戦闘中とは雰囲気が大分違うな」

 

 

 

「そりゃそうじゃろ。さっきまではThe.シリアスの化身たる儂。云わば『第六天魔王モード』。今の儂は『ゆるふわ戦国美少女モード』であるからして雰囲気が違っても是非もないよネ!」

 

 

 

「『魔王』?『ゆるふわ戦国』?」

 

 

 

「あー、カスミさんだったか?こいつの言うことはテキトーに流して貰っていいから」

 

 

 

「そ、そうなのか?」

 

 

 

ノブナのいつものぐだぐだペースに巻き込まれ困惑するカスミを落ち着かせるクロム。

とりあえず、三人ともに自己紹介を交わしてから話し始める。

 

話題は勿論先程までのイベントの話だ。

 

 

 

「ふむふむ儂が4位で、カスミが6位。ついでにクロムが9位と」

 

 

 

「『ついで』ってなんだ『ついで』って。しかし、カスミさんも、『さんはいらない』お?そうか。じゃあ・・・カスミも6位とは。こいつに倒されて時間的に大分厳しかっただろうにやるなぁ」

 

 

 

「まぁ、ノブナと違って私は負けた側だしな。【AGI】的にも移動は其方よりも遥かに楽だし」

 

 

 

「かー、そこは極振りの弱味がもろに出たのう。儂スキル使わんとマトモにおいかけっこも出来んしな」

 

 

 

「おっと、そういえば二人の戦いの映像が出回ってたぞ。ランク上位勢同士の戦いってことで注目されてたらしい。掲示板にもスレが立ってたし」

 

 

 

「何、真か!見せてみい」

 

 

 

「はいはい」

 

 

 

クロムがウインドウを操作して二人にも画面が見えるようにする。

画面内では二人の戦闘の様子が様々なアングルから撮影された動画が再生されており、ノブナは面白げにカスミは興味深そうに眺めている。

 

 

 

「・・ふむ、こうして自分以外の視点で改めて見てみると中々に参考になるな。特に最後のあの一撃。あれは私のような者用に開発した動きだろう?」

 

 

 

「まぁ、の。お主みたいなちょこまか動き回る手合は動きを止めるか避ける隙間を与えん範囲攻撃で仕留めるかじゃからのう。あの一撃を止めにしようとは考えていた。あとはどうやってあの攻撃範囲内にお主を誘い込むかの勝負じゃ。今回はああいう形になったが別のパターンもいくつか用意してはあったんじゃぞ?」

 

 

 

「なるほどな・・・」

 

 

 

「・・・・良ければ教えるが?」

 

 

 

「本当か!?」

 

 

 

真剣に画面を見つめるカスミの横顔を見つつ、しばらく考えた後でノブナが言う。

カスミが予想外に凄いスピードで食いついてきたのに若干引きつつもノブナは頷く。

 

 

 

「あ、ああ。儂としてもあの動きはまだまだ精度が甘いと思っとるから、練習相手がいるのは有難いんじゃが」

 

 

 

「是非とも、よろしく、頼む!」

 

 

 

「圧が、圧が凄い・・・」

 

 

 

「ハハハ仲が良いようで何より何より」

 

 

 

女性二人組のそんなやり取りを公園で仲良く遊ぶ自分の子供達を眺めるお父さんのような生暖かい目で見ているクロム。

だったが、次のノブナの発言でその表情が一気に強張った。

 

 

 

「と、そういえばスレが立っとるとか言うとったな。どんな感じなんじゃ?」

 

 

 

「え、あいやそれは別に見なくても」

 

 

 

「なんじゃい、もったいぶりおってからに。いいからさっさと見せてみい」

 

 

 

「ぬぬぬ・・・わかったよ、ホレこれだ」

 

 

 

どうにも歯切れの悪いクロムだったがノブナの言外のプレッシャーに負けてしぶしぶ掲示板の画面を呼び出し見せる。

 

 

 

「なになに・・『ノブナ緊急対策本部』・・・ってなんじゃいコレ」

 

 

 

「お前の前半戦の暴れっぷりから急遽設立されたものだ。主な内容としてはお前による被害規模の集計、現在の進撃状況とルート予測、遭遇時の対策マニュアルの作成なんかだな」

 

 

 

「儂ゃゴ○ラか何かか!?」

 

 

 

「街半壊させてるんだから似たようなもんだ。で、このスレの中で二人のバトルが実況されててな。ホレこんな感じ」

 

 

 

「『カスミさんマジ勇者』『魔王○ね』『俺達の希望』『ノブナ○ね』『マジ天使』『○ね』『美少女剣士の脇チラ良いよね』・・・なんか儂へのヘイトめっちゃ高くない?殺意高すぎて最早呪詛の域に達しそうな感じしてない?」

 

 

 

 

「ま、是非もないよな」

 

 

 

 

「お前が言うんかい!なんじゃいなんじゃい儂だって頑張ったんじゃから一人くらい『ノブナ様マジ第六天魔王』くらい言うてくれる者がおっても罰は当たらんじゃろ!やはりアレか?脇か?脇がええのんか?常時脇チラでファンゲットとか汚い!流石剣士汚い!」

 

 

 

「それはまったく関係ないだろう!?おいやめろ抱きつくな脇を擦るな!?おい、クロム見てないで助けてくれ!?」

 

 

 

「そこで俺にふりますぅ!?」

 

 

 

等と3人がぐだぐだな会話をしている間に第1回イベントの幕は降りていくのだった。

 

 

 

 

 

・・・・ちなみに

 

 

 

 

 

『え、えっと・・・一杯耐えれて良かったでしゅ・・・・』

 

 

 

 

表彰式において一言を求められたメイプルも別の意味でぐだぐだしていたのは言うまでもない。



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幕間の物語1 見守り隊の雑談

考えてたが本編で入れられなかった話の供養のつもりで。かなりの短い&ほぼ雑談ですので注意。


【NWO】メイプルちゃん見守り隊兼ノブナ対策室5

 

 

 

1名前:名無しの大剣使い

 

 

さて、という訳でメイプルちゃん見守り隊兼ノブナ対策室の本日の議題だが

 

 

 

 

 

2名前:名無しの槍使い

 

 

アィエエエエエエエエ!?ノブナ!?ノブナナンデ!?

 

 

 

 

 

3名前:名無しの魔法使い

 

 

ヤバい!NRSだ!

 

 

 

 

 

 

4名前:名無しの大盾使い

 

 

なんだそれ。

 

 

 

 

 

5名前:名無しの弓使い

 

 

>>4『ノブナ・リアリティー・ショック』

 

 

症状は様々だが、分かりやすくまとめるとノブナの名前を見たり聞いたりすると発狂する。

 

 

 

 

6名前:名無しの大盾使い

 

 

なんだそれ!?てか、何があったんだ!?

 

 

 

 

 

 

7名前:名無しの魔法使い

 

 

今回のイベントで第6位の娘とノブナが戦っただろ?

 

 

 

・・・その直前までその娘と戦ってた槍のプレイヤーな・・・コイツなんだよ。

 

 

 

 

 

8名前:名無しの大盾使い

 

 

あ(察し)

 

 

 

 

 

9名前:名無しの大剣使い

 

 

嫌な、事件だったね・・・

 

 

 

 

 

10名前:名無しの弓使い

 

 

知覚外からのマップ兵器とかマジ鬼畜。

 

しかしまぁ、本当に凄かったなノブナ。

 

前にスレで聞いてはいたけど実際見ると想像を遥かに越えるぶっ飛び具合だった。

 

 

 

 

11名前:名無しの大剣使い

 

 

開幕から無差別範囲攻撃だもんな・・・

 

というかあれが前にスレで言ってた隠し球ってやつか。

 

 

 

12名前:名無しの大盾使い

 

 

>>11そう。

 

あの時は襲いかかってきた爆発テントウの群れを薙ぎ払え!してたが

 

 

 

13名前:名無しの魔法使い

 

 

ほうほう。

 

ちな、群の規模は?

 

 

 

 

14名前:名無しの大盾使い

 

 

>>13数えきれん。

 

見た目虫の群ってより赤黒い津波みたいな感じだった。

 

 

 

 

15名前:名無しの弓使い

 

 

>>14そ ん な に

 

 

 

ホントに同じ遠距離武器使いなのか信じられなくなってきた・・・

 

 

 

16名前:名無しの大剣使い

 

 

まったくだ。

 

件の対戦だって遠距離武器使ってる奴がして良い動きじゃなかったろアレ。

ガン○タしてたじゃんガン○タ。

 

 

 

17名前:名無しの大盾使い

 

 

>>16それについてだが、本人にははぐらかされたが対戦相手の娘から有力な情報が聞けたぞ。

 

スキル効果なのか乱入してきた連中を倒してから更にスピードが速くなったように感じたらしい。

 

 

 

18名前:名無しの魔法使い

 

 

それが確かなら敵を倒す度に強化されるってことか・・・考えたくないな、厄介すぎる。

 

 

 

 

19名前:名無しの弓使い

 

 

>>17マジでか。

それであのマップ兵器もあるってか。

 

頭おかしいとしか・・・

 

そう考えるとあの程度の被害で抑えられたのって奇跡だったんだな。

 

 

 

20名前:名無しの大剣使い

 

 

直接倒したドレッドもそうだが、6位の娘が大分頑張ったのも大きいだろ。

 

実際、人気出てるみたいだしな。メイプルちゃん程じゃないがかなりの数スレ立ってるし。顔可愛いし。

 

 

あとスレンダー美女って良いよね。

 

 

 

 

21名前:名無しの魔法使い

 

 

>>20ほう、其処に気が付くとは・・・

 

 

 

 

 

22名前:名無しの弓使い

 

 

>>20やはり天才・・・

 

 

 

 

 

23名前:名無しの大盾使い

 

 

あ、俺その娘ともフレンド登録したわw

 

ノブナとするっていうからついでに。

 

 

 

 

 

24名前:名無しの大剣使い

 

 

・・・・諸君。本当に、本当に残念な事だがこのスレから薄汚い裏切り者が出てきてしまったようだ。

 

私としては即刻処刑すべきだと考えるがどうか?

 

 

 

 

25名前:名無しの魔法使い

 

 

>>24異議なし

 

 

 

 

 

26名前:名無しの弓使い

 

 

>>24異議なし

 

 

 

 

 

27名前:名無しの大盾使い

 

 

>>24異議あり

 

 

 

 

 

 

28名前:名無しの大剣使い

 

 

>>27却下。判決、死刑。

 

 

 

 

 

29名前:名無しの魔法使い

 

 

>>28妥当性しかない。

 

リア充は○ぬべき。

 

 

 

 

 

30名前:名無しの弓使い

 

>>28我々の(非モテ)勝利だ。

 

メイプルちゃんだけにあきたらずスレンダー剣士にまで手を出すなどと万死に値する。

 

 

 

 

31名前:名無しの大盾使い

 

 

お前ら、嫉妬が生々し過ぎて引くわ・・・

 

 

 

 

 

32名前:名無しの大剣使い

 

 

>>31黙らっしゃい。

 

 

さて、刑の執行前に何か言い残すことはあるか。

 

 

 

33名前:名無しの大盾使い

 

 

・・・・俺がいないとメイプルちゃんの情報もその娘の情報も入らなくなるけど良いか?

 

 

 

 

 

34名前:名無しの大剣使い

 

 

 

判決、無罪。

 

 

 

 

 

35名前:名無しの魔法使い

 

 

>>34素晴らしい判断だ。

 

やはり我々はお互いに助け合っていくべきなのだ。

 

 

 

 

36名前:名無しの弓使い

 

 

>>34この勇気ある判断に敬意を評する。

 

魂の同士たる我々の間に諍いなどあるはずがないのだ。

 

 

 

37名前:名無しの大盾使い

 

 

>>34、35、36・・・ダメだコイツら早くなんとかしないと・・・

 

 

 

 

38名前:名無しの槍使い

 

 

・・・ジュウコワイノブナコワイ・・・

 

 

 

 

39名前:名無しの大盾使い

 

 

>>38お前はスレやってないで寝てろ

 

 

 

 

 

 




ランサ・・・槍使いが死んだ!をやりたかっただけ。


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器用度極振りと素材集め

「うーん・・・どうしようかな~」

 

 

 

とある日、メイプルは一人広場の噴水の縁に座りながら悩んでいた。

 

悩みの理由は友人の理沙から聞いた大規模アップデートについてだ。

 

発売3ヶ月に合わせて行われるそれにより新たなスキルやアイテムが追加される他、新たなステージである第2層が追加される事となるのだが・・・

 

 

 

「うーん、第2層かぁ。もっとスキルを集めたら行きたいけどなぁ。今の大盾だと『悪食』で全部飲み込んじゃうからスキル取れないしなぁ」

 

 

 

等となんともメイプルらしい理由で悩んでいるのだった。

他のプレイヤーからしたらある意味贅沢な悩みだが本人は至って真面目である。

 

そのまま、しばらくうんうんと唸っていたが何か閃いたらしく立ち上る。

 

 

 

「そうだ!いっそのこと新しい装備一式作ってもらったら良いんだ!」

 

 

 

そうと決まれば話は早い。

メイプルは早速とある場所に向けて歩き出す。

 

目的地はとある店・・・先日クロムの紹介で知り合った生産職プレイヤーの1人である『イズ』の元である。

 

 

そうしてメイプルが極振り故のゆっくり移動をする事5分程。落ち着いた色合いの趣のある店舗の外装が見えてきた。

 

メイプルはワクワクとした感じで良く磨かれたドアノブに手をかけ、ゆっくり開く。

来訪を告げるドアベルがカランカランと小気味良い音を奏で、メイプルもそれに負けじと爽やか笑顔で挨拶をする。

 

 

 

「こんにちはー!」

 

 

 

 

「・・・・うん、良く聞こえなかったからもう一度言ってみて・・・?」

 

 

 

 

「いやあのちょっとテンション上がって広場で引き鳴らしたら運営に呼び出し食らいまして装備一式没収されちゃいましてああ!?やめて!?ハンマーを振り上げないで!おかしいな顔は笑顔なのにめっちゃ怖い!?」

 

 

 

 

ドアを開けると背後に般若を背負った笑顔のイズとその目の前で床に正座させられているノブナの姿があった。

 

 

爽やか笑顔のまま、ピタリと止まるメイプル。

 

 

そのまましばし考えた後

 

 

 

 

「・・・・お邪魔しましたー」

 

 

 

何も見なかったことにしてドアをそっと閉じたのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「へぇ~、ノブナさんの装備一式全部イズさんが作ってたんですか!」

 

 

 

 

「ええ、一応ね。お店を開いた当初からのお得意様ではあるのだけど、特殊な注文も多いから大変なのよね」

 

 

 

 

「は、毎度毎度お世話になっております」

 

 

 

 

それから少し後の店内。二人が談笑するなかノブナは相変わらず床に正座の状態だ。

メイプルの登場で少しばかり機嫌の直ったイズを刺激しないよういつものぐだぐだノリは封印しつつ神妙にするノブナであった。

 

 

 

「それで?今日はなんの御用かしら?」

 

 

 

 

「はい、無理ならいいんですけど・・・」

 

 

 

そう前置きしてからメイプルが話し出す。

 

内容としては純白の見た目にこだわった装備一式が欲しいので、それを揃えるのには一体幾らくらいかかるのかを知りたいということらしい。

イズはしばらく考えた後、答える。

 

 

 

「うーん、前にも言ったけど一式で100万Gってところかしら。素材によって性能は変わるけど」

 

 

 

「性能よりも見た目を優先したいんです!オシャレに見えるようになりたいんです!」

 

 

 

「あら、女の子ね~」

 

 

 

 

基本的に性能が重視されることの方が多いゲーム内では珍しいメイプルの年頃の女の子的な発想を微笑ましそうに聞くイズ。

 

 

 

「白い装備ね。だったら素材としてはこんなところかしら」

 

 

 

「わぁ!色々あるんですね」

 

 

 

「オススメとしてはこの水晶とか良いと思うんだけど」

 

 

 

「あ、でも【DEX】必要だから私には取れないや・・・」

 

 

 

しょんぼりと項垂れるメイプル。

そんな彼女を見ながらどうしたものかと考えていたイズ。ふと、その視線が正座のし過ぎで継続ダメージとか入らないかなどと考えソワソワしているノブナに止まった。

 

 

 

「あら、ちょうどいいところに【DEX】極振りプレイヤーが。メイプルちゃん、彼女に手伝ってもらうとか良いんじゃない?」

 

 

 

「え!ノブナさん手伝ってくれるんですか!?」

 

 

 

「んあ?え、儂採掘系スキルなんて持っとらんのじゃが・・・」

 

 

 

 

「いいじゃない。あなた、これからほとんどの装備私に預けてメンテナンスするんだから冒険とか出来ないし暇でしょ?ほら、可愛い後輩を助けると思って!」

 

 

 

 

「まぁ、そりゃそうなんじゃが儂にも予定というものが」

 

 

 

 

 

「・・・没収されたあの装備。あなたがどうしてもって言うから頑張って作ったんだけどなぁ。苦労はしたけどその分だけ思い入れもあるお気に入りだったんだけどなぁ」

 

 

 

 

 

「・・・私めはあなた様の犬で御座います」

 

 

 

 

わざとらしくハンカチで目元を拭う仕草をするイズにノブナが恭しく頭を垂れる。

 

彼女に選択の余地はない。

無いとは思うが万が一にもイズの機嫌を損ねて出禁にでもなったら堪らない。

それに比べればメイプルの素材集めの手伝いなど安いものだろう。

 

 

 

「それじゃ決定ね。素材集めに必要な道具があったら言って頂戴、すぐ用意するから。もちろん、お代はいただきますけどね」

 

 

 

 

「金はとるのか。意外とちゃっかりしとるの」

 

 

 

 

「そりゃあ、これでも商売人ですもの」

 

 

 

そう言ってイズはニッコリと笑った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そんなやり取りを経、暫くしてノブナとメイプルの二人は素材が集まるという洞窟にやって来ていた。

 

 

 

 

「採掘王に儂はなる!」

 

 

 

 

「じゃあ私は釣りの王様になります!」

 

 

 

 

 

どん!という感じのオノマトペが背後に描かれそうな声をあげながら腕を組んで気合い十分な二人が並ぶ。

 

 

ノブナは装備一式を預けた為、お馴染みのばすたぁTシャツ姿にヘルメット、手にはピッケルというなんちゃって土方スタイル。

 

その横のメイプルも手に釣竿を持ち、ノブナから渡された釣りバカTシャツを装備しての参戦である。

 

 

 

 

「では手筈通り、儂は洞窟内で採掘。メイプルは地底湖で釣りということで。解散!」

 

 

 

「ラジャー!」

 

 

 

 

勢い良く洞窟内に突撃する二人。

途中の分かれ道でメイプルと別れたノブナは、しばらく歩くと予定していた場所に到着した。

 

そこは洞窟内の床や壁、天井に至るまでところ狭しと水晶に覆われた空間だった。戦闘の不得意な生産職プレイヤーが訪れる事を配慮してか採取ポイントとして設定されているらしくモンスターの索敵範囲にも入っていない比較的穏やかな空間である。

とはいえ、敵が全く出ないという訳でもなく別の通路から入り込んできたりして戦闘となる場合もあるので過度の油断は禁物だ。

 

ノブナもインベントリ内にある幾つかの【タネガシマ】をいつでも取り出せるように準備だけはしながら作業に移る。

 

 

 

「ほい!ほい!ほい!」

 

 

 

カンカンカンとピッケルを振るう度、硬質な音が洞窟内に響く。

スキルが無いため、水晶の表面を砕くだけでアイテムの取得にまでは至らない。

それでも作業の手を止めずにピッケルをふるい続けるとやがてピロリンという音声が響く。

 

 

 

『スキル【採掘 Ⅰ】を取得しました』

 

 

 

「お、ようやくか」

 

 

 

スキル取得を確認すると、ノブナは作業の手を止め使っていたピッケルをインベントリ内に仕舞いこんだ。

そうして部屋の真ん中に仁王立ちすると、ニヤニヤと笑いながら腕を組む。

 

 

 

「スキルを手に入れたならこっちのものよ。【マックスウェルの悪魔】!か~ら~の、【秘密兵器】!」

 

 

 

宣言と共にノブナを中心として無数の歪みが現れる。

 

そこから出現したのはいつもの火縄銃・・・ではなく無数のピッケルやスコップといった道具である。

 

 

 

「フフフ・・・【秘密兵器】にはこんな使い方もある。いちいちピッケル振るって採掘なんぞまだるっこしくてやっとれんわ。では行くぞ!これが魔王の【採掘】じゃあ!!」

 

 

 

 

ノブナが笑いながら手を振り下ろせば一斉に道具が振るわれる。

あちこちで採掘する音が響き、洞窟内はさながら工事現場のような喧騒に包まれた。採取ポイントからはゴロゴロと水晶その他の鉱石が採取され、床に散乱していく。

それを拾い上げながら次々にインベントリに突っ込んでいくノブナ。

 

1人で普通に採掘するよりも効率的なのは言うまでもなく、当然スキルレベルもガンガン上がる。

 

 

 

ピロリン『【採掘 Ⅱ】を取得しました』

 

ピロリン『【採掘 Ⅲ】を取得しました』

 

ピロリン『【採掘 Ⅳ】を取得しました』

 

 

 

 

「ウハハハ!ウッハウハじゃのう。最初は乗り気でもなかったがこうしてみると役得役得!メイプルが必要とする個数分よりも多く採って売りさばくか、ウハハハ!」

 

 

 

スキルのレベルも上がり、更に効率良く採掘出来るようになったノブナが手当たり次第に道具を振るっていく。

 

と、その時。

 

 

 

 

「むお?」

 

 

 

 

突然ノブナの目の前に青いプレートが現れた。

それは見慣れたクエスト発生の合図である。

どうやら、採掘のレベルか何かがクエスト発生のキーになっていたらしい。

 

 

クエスト名は【強欲の対価】。

 

 

クエスト名が表示され終わった瞬間、グラグラと地震のような揺れがノブナを襲う。

 

 

 

「うおぉ!?」

 

 

 

やがて足下にぽっかりと穴が空き、ノブナの身体が暗闇に飲み込まれた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「なんじゃあ!?」

 

 

 

身体が落ちていく感覚だけが知覚出来る暗闇の中、ノブナの声が流れて消える。

落下のスピードはどんどん増し、風切り音だけが響く。

周りを見回しても、落下する先を見ても何も見えはしないが、このまま何もせずにいれば必然地面と正面衝突する羽目になることは想像に難くない。

 

 

 

 

「ぐ、【単独行動】!【秘密兵器】!」

 

 

 

 

身体が軽くなる感覚と共に空中でくるりと回転し体制を整えると、足下に出現させたピッケルに着地する。

 

 

 

「とと!・・・ふぅ、ものは試しとやってみたが上手くいったか。【秘密兵器】で出現させた物品はオブジェクト扱いになるんじゃな、初めて知ったわ。まぁ、おかげで足場が出来て助かったが」

 

 

 

空中で静止したピッケルの上で改めて周りを見回すが、やはり何も見えはしない。

 

ならばと、新たにピッケルをインベントリから取り出すと下に向かって放り投げる。

 

 

落下していくピッケル。

 

 

然程の時間もなくカランという音が下から聞こえてきた。

どうやら、地面まではそう離れてもいないらしい。

 

 

 

「飛び降りれんこともなさそうじゃが・・・下がどんな状況か見えんしここは慎重にいくかの。【秘密兵器】!」

 

 

 

今の足場から地面まで螺旋状にピッケルを出現させ、柄の部分を足場にゆっくりと降りていく。

いわば即席の螺旋階段だ。

 

両手を広げてバランスを取りながら降りていき、やがてたどり着いた地面に降り立つ。

 

地面はレンガか何かのようなものが敷き詰められているらしく、存外に硬くしっかりとした感触がした。

 

そうしてノブナが地面を踏みしめていると、ボボボという音とともにいくつも設置されていた燭台に次々と明かりが灯る。

 

突然の明かりに眩む視界。

落ちついた頃に目を開ければ、燭台に照らされ周りの様子が見えるようになっていた。

 

 

大きさはちょっとした体育館程だろうか。円形で周囲を壁に囲まれた様子は古代ローマのコロッセオを思わせる。

壁には幾つも並んだ燭台が配置され、揺らめく炎で辺りを照らしている。

 

そんな場所の中心には玉座のようなものがありそこには1つの人影があった。

 

 

 

 

・・・否、果たしてこれを人影と言って良いものか、

 

 

 

 

玉座に座っていたのは腐乱し、半ば白骨化した死体だ。その胸には槍が突き刺さり玉座に張り付けにしている。明らかな致命傷。

 

 

 

『・・・オ、オオオオ・・・』

 

 

 

にも関わらず、死体の口が動き声を発する。まるで冥府の底から響くような聞くものの心胆を震わせる禍々しい声で死体は喋る。

 

 

 

 

『・・・オオオオ・・・クチオシヤ・・・アナクチオシヤ・・・ウスギタナイトウクツシャドモ・・・ワガザイニフレルコトアタワズ』

 

 

 

「・・・あー、これは・・・」

 

 

 

それを見て何となく現状を悟り始めるノブナ。

インベントリ内から二挺だけある【タネガシマ】を引っ張り出した。

 

と、ぐりんと死体の首が動き、目玉の無い暗い眼窩が此方を見据える。

 

 

 

『・・・ソコナモノヨ・・・ナンジハワガザイヲエントホッスルトウクツシャナリヤ・・?』

 

 

 

「チガウチガウ。儂、悪いノブナじゃないよ」

 

 

 

現れたウィンドウの【No】の選択肢を表情の抜け落ちた顔で連打するノブナ。

 

死体はしばらく無言でいたが、やがてブルブルと身体を震わせ始める。

 

 

 

 

『オオオオ!!ニオウニオウゾ!ナンジカラワガザイノニオイガ!ウスギタナイトウクツシャメガ!ソノツミヲナンジガシヲモッテツグナウガヨイ!!』

 

 

 

「デスヨネー」

 

 

 

死体が憤怒の叫びを上げたのと同時、その頭上にHPを示すバーが表示された。

 

示されたモンスター名は【栄華にしがみつく者】。

 

 

 

ノブナはあきらめの表情を浮かべながら愛銃の銃口をその眉間に向けるのだった。

 

 

 



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器用度極振りと新スキル

『オオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 

 

「さて、とりあえずは相手の出方を見るとするかの」

 

 

 

【栄華にしがみつく者】が雄叫びをあげる中、ノブナは相手の動きを観察しながら牽制の意味も込めてその眉間目掛けて銃弾を放つ。

 

過たず命中したものの、HPバーはほんの数ミリ短くなった程度だ。

 

 

 

「まぁた、えらく固いのぉ。こりゃ骨が折れそうじゃ」

 

 

 

ノブナがその結果に舌打ちをしたその時、敵の周辺に変化が起きた。

 

【栄華にしがみつく者】の座る玉座の周囲の床に5つの魔法陣のようなものが発生したのだ。

 

 

 

『ツドエワガケンゾクタチヨ!』

 

 

 

その叫びに呼応するように魔法陣が光を放ち、その中から新たなモンスターが現れた。

見た目は冒険者風の装備品を身に付けた損傷の激しい死体だ。

5体の死体は呻き声をあげながらたどたどしい歩みでノブナに迫ってくる。

 

 

 

『雑魚敵を増やしていくタイプか。雑魚の動きは遅いが増えたらめんどくさいの・・・』

 

 

 

囲まれないよう後ろに下がりながらもう一挺の銃で今度は雑魚敵を撃つ。

 

弾は胴体に命中。

風穴を開け、HPの半分を消し飛ばす。

 

 

 

『雑魚はそこまでのかたさは無し、と。普段ならばなんの事はないのじゃがこのなんちゃって土方スタイルではのぉ』

 

 

 

ノブナのいつもの無数の弾をばらまく戦闘スタイルはインベントリに入れられた大量の【タネガシマ】があればこそ出来るものだ。

現在その大半はイズの元でメンテナンス中。あるのはたった二挺だけだ。

 

 

 

『代わりにあるのは大量のピッケルやらスコップやら・・・・・フム』

 

 

 

インベントリを眺めながらしばらく考えていたノブナは何を思ったか【タネガシマ】をインベントリに戻すとスコップを取り出した。

 

柄の下側を持ち、まるでバッターボックスに立つ野球選手の如く構えるとHPの減った一体に向けてフルスイングする。

 

 

 

「ふん!!」

 

 

 

スコップの金属部分が敵の頭を捉える。 

HPバーが数センチ程減った。

それを見届けてから敵から距離を取る。

 

 

 

「減るには減るの。ダメージは微々たるものだが。とはいえ、ダメージがはいったならば」

 

 

 

そう呟くと、スコップを持ち直し近づいてきた同じ敵を殴る。

 

先ほどよりもぐっと与えるダメージが増えていた。

 

 

 

「やはりスキルは問題なく発動しとるの。こんなんでも対象になるとか懐が深いというべきかガバガバというべきか・・・ま、今は有りがたい、な!!」

 

 

 

目の前の敵がノブナに噛みつこうと頭を下げたのを見計らってまたもフルスイング。

スコップが敵の側頭部を捉え、バランスを崩して倒れる敵。

倒れ伏した相手に容赦なくノブナのスコップが振り下ろされた。

HPバーがごっそり減って0になり、敵の身体が光となって消えていった。

 

 

 

『グオオオオオオオオオオオオオ!?』

 

 

 

それと共に中央に陣取っていた【栄華にしがみつく者】が苦痛の叫びを上げた。

見れば、HPバーが数センチ単位で削られていた。

 

 

 

「雑魚敵を倒すごとにダメージが入る仕様か。これは好都合。ではどんどん行くか!【単独行動】!」

 

 

 

スキルを発動し、跳躍。

近づいてきていた新たな敵の脳天に向けてスコップを振り下ろす。

落下のスピードに加え、スキル込みで攻撃力の上がったノブナのスコップが直撃した敵が倒れるのを背に、更に他の敵にも殴りかかる。

 

敵の間を縦横無尽に移動しながら叩き、穿ち、切りつける。ダメージエフェクトが何度も発生し、ノブナのスコップがその鋭さを上げていく。

見る間に削り落とされていく敵。

その度に中央の玉座からは耳障りな絶叫が響く。

 

 

 

 

『ガ、ガアアアアアアアアアア!?ガアアアアアアアアアア!?』

 

 

 

「ええい、うっさいわ!」

 

 

 

 

最後の雑魚敵の首を撥ね飛ばして苛立ち紛れにそう叫んだノブナが、勢いに任せてスコップを玉座の【栄華にしがみつく者】に向けて投擲する。

 

スコップがその刃先を深々と敵の胴体に沈め、串刺しにしたところでパン!と音を立てて光となり砕け散った。

 

 

 

 

「おっと、流石に耐久限界じゃったか。しかしまぁ、イズ謹製だけあって存外に丈夫じゃのう」

 

 

 

『スキル【狂乱】を取得しました。』

『スキル【職人泣かせ】を取得しました。』

 

 

 

「おう?」

 

 

 

システム音声が響き、スキル入手のメッセージが出る。

いつの間にか条件を達成していたらしい。

 

 

 

 

「ほうほう、知らないスキルじゃな。未発見スキルという奴か・・・まてよ?」

 

 

 

 

その時、ノブナに電流走る。

 

 

────中央の玉座から動かないボス

 

────無数に沸く雑魚敵

 

────いつもと違う特殊な状況

 

 

 

 

「これは未発見のスキルを取得するチャンスなのでは?」

 

 

 

 

チラリとボスのHPを見ればまだまだ十分な量がある。

ノブナの赤い瞳がギラリと光った。

 

 

 

 

 

 

「そうと決まれば色々試させてもらおうか・・・・イロイロと、な」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

それから3時間後・・・

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『アアアアアアア』』』』』』

 

 

 

 

「うむ。率直に言ってキモい」

 

 

 

 

ステージの床が見えなくなるほどに雑魚敵がひしめきあっている。その手のパニックホラー系の映画或いは通勤時間帯の電車のラッシュを思わせる光景だ。

 

ノブナは【秘密兵器】で空中に出したピッケルを足場にしてその様子を眺めている。

 

 

中央のボスに攻撃を加えると雑魚敵を召喚するという性質を発見したのが2時間前。

空中に足場を用意したノブナは【タネガシマ】で狙撃したりピッケルで殴ってみたりと地道に攻撃を繰り返し、この状況を作り出すことに成功したのだった。

更にその作業の過程で、また新たなスキルを発見した。

 

 

 

 

「【加虐体質】か。また物騒な名前のスキルじゃの」

 

 

 

 

とりあえずスキルの詳細確認は後にして、中央にいる(はずの)ボスを見る。

残り3分の1程になったHPバーが雑踏の中でチラチラ見え隠れしているので生きているのは確実だ。

それを見届けてからノブナは足場の上で立ち上がる。

 

 

 

 

「さてさて、では早速やらせてもらおうか」

 

 

 

 

揉み手をしながらノブナは新たな足場を作り移動する。

やって来たのは部屋の至る所に存在する燭台の1つ。

その目の前でピッケルを構えると勢い良く振り下ろした。

 

ピッケルの刃先が燭台を粉々に破壊し、その拍子に火のついた蝋燭が蠢く死体の海に落下していった。

 

 

 

 

『『『『『『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!?』』』』』』

 

 

 

 

「うおう!?存外派手に燃え上がったな・・・あんな見た目で意外と乾燥しとったのか?」

 

 

 

 

 

火種から一気に広がり、雑魚モンスター群の一画が炎に包まれた。

HPバーが一気に削れていく。

効果は抜群といったところだろう。

 

 

 

「アンデッド系には聖なる力か炎。古来からのお約束じゃの」

 

 

 

言いながら移動して次々と燭台を破壊し、ステージを火の海にしていく。

部屋中が炎に包まれるのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

轟々と燃え盛る炎。次々倒れていく敵達。それを上空から満足げに眺めるノブナ。

端から見ればどちらがモンスターかわかったものではない。

 

 

 

『スキル【灰は灰に】を取得しました。』

『スキル【不死殺し】を取得しました。』

『スキル【パブリックエネミー】を取得しました。』

 

 

 

「ウハハハ!大漁大漁!さて、と」

 

 

 

周りを見回せば雑魚敵はほとんどが光となって消えていっており、ボス自身のHPも最早数ミリという程度だ。

足場の上で器用に体勢を整えるとピッケルを一本取り出し、大きく振りかぶる。

 

 

 

 

「協力心から感謝する。というわけで・・・お疲れ!!」

 

 

 

渾身の力を込めてピッケルをぶん投げる。

回転しながら飛んでいったピッケルがボスモンスターの残り少ないHPを削りきった。

 

 

 

『オオオオ!!オノレオノレオノレオノレ!ウスギタナイトウクツシャガアアアアアアアアアア!!』

 

 

 

【栄華にしがみつく者】の身体が紅蓮の炎に包まれる。

怨嗟の籠った絶叫をあげながら、瞳のない眼窩がノブナを見上げる。

 

 

 

 

『ユルサヌユルサヌゾ!ケッシテキサマヲユルサヌ!ワガメイスウココデツイエヨウトモワガエンサノホノオガイツカキサマヲヤキホロボスデアロウ!』

 

 

 

 

 

叫んだ瞬間、紅蓮の炎が一際大きく燃え上がり【栄華にしがみつく者】を完全に包み込んだ。

 

 

 

 

『クエストクリア!』

 

 

『スキル【怨讐の炎】を取得しました。』

 

 

 

システム音声がし、青白いウインドウにそう表示されたのを見てノブナはようやく肩の力を抜いた。

 

 

 

 

「終わったか。やれやれ結果的に収穫のほうが多かったとはいえ暫く素材集めはしたくないのぅ」

 

 

 

 

ため息をつきながら、この場所からの脱出を図るノブナだった。

 

 

 

 

 

ちなみに・・・・

 

 

 

「・・・貴女それ、必要以上に素材を一人占めにしようとしたプレイヤーへのペナルティ用クエストじゃない・・・」

 

 

 

「マジでか」

 

 

 

後日その時の様子をイズに話した時意外な事実を知ると共に必要以上に素材の乱獲をしたのがバレて、こっぴどく叱られることになることを今のノブナは知らない・・・

 



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器用度極振りと友人参戦

メイプルの素材集めに端を発した一騒動から数日後、二人の姿はお馴染みの噴水広場にあった。

 

広場のシンボルである噴水の縁に腰かけながら話すのは共通の友人である理沙のことについてだった。

 

 

 

「ほう、理沙の奴ようやくゲーム解禁になりそうなのか!そりゃ重畳」

 

 

 

「はい!まぁ、あと一週間位後になりそうですけどね」

 

 

 

メイプルが嬉しそうに目をキラキラとさせながら言う。その様子は飼い主に遊んでもらえると分かりしっぽを振って喜びを表す小型犬を思わせ、見るものの心を和ませる。

 

そんな彼女を微笑ましそうに見ながらノブナが口を開く。

 

 

 

「そうかそうか。ならこの前イズに頼んどった新装備でも見せて驚かせてやるがよかろう」

 

 

 

「あ~、それが~・・・まだ出来てないんです・・・」

 

 

 

それまで嬉しそうにしていたメイプルがそう言ってガックリと肩を落とし、項垂れた。

それを聞いて、ノブナが訝しげに首を捻る。

 

 

 

 

「なんじゃ?この前儂が集めた素材渡した後、意気揚々とイズのとこに乗り込んでいったものだからてっきりもう装備作ってるとばかり・・・はて、素材の量からして作れそうな気がしたが足りんかったか?」

 

 

 

「いえ量は十分なんです。お金も頂いた素材の余りを売った分でなんとか足りそうなんですが」

 

 

 

そこで深々とため息をつきながらメイプルが言う。

 

 

 

 

「装備のデザインが決まらないんです・・・」

 

 

 

 

「なんじゃそら・・・そんなものテキトーに良さげなの見て決めれば良いじゃろ」

 

 

 

 

深刻な顔で話すメイプルに呆れた様子でノブナが言う。

つれないノブナの反応に「そんなテキトーになんて出来ませんよ!」と頬を膨らませながらメイプルが反論する。

 

 

 

 

「理沙には新しい装備を着てる私を見せて『ゲーム苦手な私でもこんなの作れる位になったんだよ!』って驚かせたいんですけど・・・イズさんに色々見せてもらっても、どれも良く見えてどうしても決めきれないんですよ~。盾のデザインまでは何とか決まったんですけど装備の方はまだなんです・・・」

 

 

 

 

「お主も儂とは違う方面でこだわりが強い方じゃのう。面倒くさい」

 

 

 

 

「そんな事言わないでノブナさんも良い感じのデザイン考えてくださいよ~。こう白くてふわふわで綺麗でインタビューが上手になりそうな感じのやつ~」

 

 

 

 

「えぇ・・・てかインタビューのことまだ気にし取ったんかい」

 

 

 

 

「ノ~ブ~ナ~さ~ん~!」

 

 

 

 

「ええい!わかったから引っ張るな!」

 

 

 

 

ガクガクと揺らしてくるメイプルを引き剥がしながらノブナは仕方なしに頭を捻る。

とはいえ、リアルでは部屋着はジャージで通しており、その手の話題にはとんと疎い彼女にそんな案がすんなり出てくる訳もなく、すっかり考え込んでしまう。

 

 

 

 

 

「うーん、白くてふわふわで綺麗・・・となるとドレス的なやつか?ドレスのぉ、そんなもんある訳が・・・あ・・・」

 

 

 

 

その時、ノブナの脳裏にとある天啓が降りてきた。

『あの』衣装であれば白くてふわふわで綺麗でなおかつインタビュー上手になりそうという条件にも合致する。

 

が、ノブナは躊躇う。

 

本当にそれで良いのか?

流石にまずいんじゃないか?

色々と問題があるんではないか?

 

 

内心そんな葛藤を抱えながら、チラリとメイプルを見る。

 

 

 

「わくわく」

 

 

 

「うぐ・・・」

 

 

 

期待混じりに此方を見る彼女と目が合う。

その視線に耐えられなくなったノブナは躊躇いがちに話し出した。

 

 

 

 

「いや、まぁ、嫌なら止めても全然いいんじゃが・・・・」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

一週間後

 

 

 

「おー!街はこんな感じなんだ」  

 

 

 

白峯 理沙こと、『サリー』が念願のNWOの世界に上陸を果たしていた。

ログイン当初の初心者装備に身を包み、物珍しげに周囲の建物をキョロキョロと見回している。

 

 

 

「と、こんな事してる場合じゃなかった。早く楓・・・じゃなかった、メイプルと合流しなきゃ」

 

 

 

そう呟き、サリーは歩き始める。

目的地はすぐ側。噴水広場の噴水が集合場所だ。

メイプル達極降り組とは違い、しっかり色々なステータスにポイントを振っているサリーはさくさくと移動を済ませ、特に迷うこともなく目的地の噴水にまでやって来た。

 

 

 

「さてさて、メイプルはどこかな『あ、サリー!こっちだよ~!』この声は間違いなくメイプルね」

 

 

 

声の方に視線を向ければ、見慣れた顔が人混みの向こうから手を振りながらちょこちょこと歩いて来ているのが見えた。

大勢の人の中からすぐに友人と出会えた事を幸運に思いながら笑顔で右手を振りかえそうとした所でその動きが固まった。

 

 

 

「良かった~、すぐに会えて・・・サリー、どうしたの固まって?」

 

 

 

 

「・・・・・メイプルさん?その格好はナニゴトデショウカ?」

 

 

 

 

「なんでさん付け?その格好って・・・ああ、この装備のこと?」

 

 

 

 

メイプルはそこでさも自慢気な、どや顔を浮かべながら胸を張る。

 

 

 

 

「これはね。今さっき受け取ってきたばっかりの私の新装備!ちゃんと自分で素材集めもしたんだよ?まぁ、ノブナさんにもかなり手伝ってもらっちゃったんだけどね」

 

 

 

「へー・・・ソーナンダー・・・」

 

 

 

 

嬉しそうに話すメイプルとは対称的にサリーの表情は固まったまま、声からはどんどん感情の起伏が薄れ希薄なものになってゆく。

 

 

それもこれもメイプルの新装備が原因である。

 

 

 

 

 

普段のメイプルの装備とは対称的にその装備は白を基調としたものだ。

清潔感と清楚さを感じさせる純白の布地は鎧と言うよりはドレスだ。

頭には腰まで届くかのような長さの白のベール。

傍目には花嫁衣装の如く見えるそれだが、何故か布地の所々にチャックがあり、白のベルトのようなものや首もとには南京錠チックなアクセサリーまで付けられている不思議なデザインである。

 

 

 

 

サリーにとって今日初めて見せられたはずの装備である。

 

 

 

が、何故か物凄く見覚えがある。

 

 

 

メイプルではなく別の・・・具体的にはローマ的な某かに関わる誰かが着ていた装備にクリソツである。

 

 

 

「どう?すごい可愛いでしょこの装備!ノブナさんが教えてくれたデザインなんだけど一発で気に入っちゃって作ってもらっちゃった」

 

 

 

「・・・そう・・・ノブナさんが、ネェ・・ところでそのノブナさんと色々『オハナシ』しなきゃいけないことがあるんだけど今何処にいるのかな?」

 

 

 

「えっと、なんか急に二層に用事が出来たって言って出て行っちゃったけど?」

 

 

 

 

「・・・・チッ。まだレベル的に二層まで追いかけるには厳しいか・・・・こうなったらちゃっちゃとレベル上げて追いかけるしかないわね・・・まったく私の幼なじみに何をさせてるんだかあの人は・・・」

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

一人ブツブツと呟き始めた友人を見ながら不思議に思い、首を傾げるメイプルであった。

 

 

 




前回出した新スキルの説明やらする予定でしたが、書いてたらいつの間にかメイプルにコスプレさせる話になっていた。何故だ?


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器用度極振りのメンテナンス前後

今回色々ぶちこみ過ぎてとっちらかった感じです。ノッブ成分薄めの色々許せる人向け。


───逃げる。

 

 

 

───逃げる。

 

 

 

 

「くそ!」

 

 

 

 

走りながらノブナは毒づく。

背後から迫ってくる圧倒的な殺気に肌が粟立つのを感じる。

 

スキルを使用してまで全力で逃げ出しているがまったく引き離せている気がしない。

実際、ガサガサと茂みを掻き分ける音がすぐそこまで迫って来ている。

 

 

 

───逃げ切れない。

 

 

 

ノブナがそう確信するのと同時、追いかけてきていた者が茂みから飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ・う・や・く、捕まえたー!!」

 

 

 

 

「うおぉ!?かすった、今かすったぞ!?」

 

 

 

 

飛び出してきたサリーが手にした二刀の短剣を振り回す。ノブナが咄嗟にしゃがんだ、すぐ後を光輝く刃が通り過ぎ長い黒髪を数本切り落とした。

 

すぐに後ろに跳びのき、サリーから距離を取る。

一定の距離を空けた二人が睨み合う。

 

 

 

 

「いきなり何すんじゃ、理沙!?今の当たってたら本気で死んどったぞ!」

 

 

 

 

「ここではサリー!私を見るなりノブナさんが全力で逃げ出し始めたからでしょ!呼び止めても全然止まらないし!」

 

 

 

 

「だからと言って刃物取り出して追いかけ回すなや!まぁ、とりあえず今はいいわ。はよ刃物を仕舞わんか!構えたまんまじりじり近づいてくるでない!」

 

 

 

 

「だったら止まってくださいって!私はただちょっと『OHANASI』したいだけだから!」

 

 

 

 

「イントネーションがすこぶる不穏なんじゃが!?」

 

 

 

 

じりじりと付かず離れずの距離を保ちながら二人のお互いにお互いの要求を突っぱね、話は平行線を辿る。

このままでは話が進まない、そう感じたノブナはとりあえず話題を替える。

 

 

 

「というかここ二層なんじゃがお前どうやって・・・て、よく見たら装備もかなり変わっとるし」

 

 

 

 

見ればサリーの装備は初心者のそれにはとても見えない。

 

海の様な鮮やかな青を基調として端には泡を思わせる白があしらわれたマフラー。

 

首元に白いファーのついたそれよりも少しだけ暗い色合いの厚手のコートとそれに合わせた上下の衣服。

 

そして光の届かない深海の様に暗い青のダガーが二本とそれをしまうことが出来そうな暗い青のベルト。

 

それに色を合わせた黒いブーツ。

 

 

明らかに特別製であるのが見てとれる、そんな装備一式だ。

 

 

 

「メイプルとさっき二層に来たばかりですよ。この装備はちょっと1人で隠しダンジョンクリアして手入れたヤツ」

 

 

 

 

「・・・なにサラッと言っとんのじゃ。お前まだ始めて二週間くらいじゃろ」

 

 

 

 

「えー、でもメイプルも初めてすぐユニーク装備を入手してるし普通ですよ普通」

 

 

 

 

「お主らの普通=世間じゃ異常事態ってこと、知っとる?なんとも非常識な連中よ」

 

 

 

 

「『運営特攻』とか呼ばれてる人にだけは言われたくないです!まったく、何かしらはやらかしてるだろうなとは思ってましたけどまさかそこまでとは・・・メイプルにも変なこと吹き込んで」

 

 

 

そこまで言ってからサリーがパッと顔をあげ、ノブナを睨み付ける。

 

 

 

 

「ノブナさんがメイプルに変なことさせるから今大変な事になってるんですよ!」

 

 

 

 

「変なこと?」

 

 

 

 

「メイプルが嫁ネロのコスプレしてたの!あれ、ノブナさんが吹き込んだことでしょ!」

 

 

 

 

「ああ、あれな。あれはメイプル自身も了承してのこと。嫌なら止めろとちゃんと言っとるし強制なんぞしとらんぞ。合意の上じゃから問題ないじゃろ」

 

 

 

 

「問題はそんな事じゃあないんです!あれ以来メイプルが、メイプルが・・・」

 

 

 

 

サリーが悲痛な声をあげながら、膝から崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

「FGO にすっかりハマってしまったんです!」

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 

 

 

まったく意味がわからないと首を傾げるノブナ。間抜けな声を出す彼女をサリーはキッと睨み付ける。

 

 

 

「『はぁ?』じゃありません!そのせいで今あの子大変なんですから!」

 

 

 

 

「いや、意味がわからん。ハマった所で何か問題があるのか?」

 

 

 

 

「大有りなんです!・・・・ノブナさん、FGO のキャラで『マシュ』って知ってますよね」

 

 

 

「当たり前じゃろ。あのゲームやっとる奴ならみんな知っとる」

 

 

 

 

『マシュ』

 

本名『マシュ・キリエライト』。

FGOにおいて主人公であるプレイヤーにとっての最初のサーヴァントであり、ヒロインであり、相棒である最重要キャラクターである。

 

ノブナが語る通り、ゲームをやったことのあるなら知らない者はいないほどのキャラクターである。

 

が、それがメイプルと何の関係があるのかさっぱりわからない。

 

そんなノブナの疑問に答えるようにサリーが静かに語り出す。

 

 

 

 

「メイン武器が盾ってことで親近感が沸いたみたいで・・・最近はこの『NWO』内で【シールドバッシュ】を積極的に使ってみたり、盾を【投擲】してみたり、色々真似して遊んでるんですけど」

 

 

 

 

「なんじゃ。そんなもんくらい可愛いもんじゃろ」

 

 

 

 

「ええまあ、見た目はそうなんですけど」

 

 

 

 

サリーは少し言いにくそうに少し口ごもった後、躊躇いがちに口を開く。

 

 

 

 

 

 

「メイプル、盾に【悪食】がついてるので」

 

 

 

 

 

「あ(察し)」

 

 

 

 

 

「今までは基本的に相手の攻撃待ちだったんですけど今は自分から積極的に殴りにいくので・・・出会う敵出会う敵皆次の瞬間には一撃死させる近接攻撃を連発してくる凶悪キャラクターに・・・おかげで掲示板とかでのメイプルの評判が大変なことになっちゃって・・・」

 

 

 

 

「・・・・なんか、スマンな」

 

 

 

 

よよよと目元を拭うサリー。

ノブナも何となくいたたまれない気持ちになって素直に謝罪した。

 

 

 

 

「いえ、結局の所メイプル自身が決めてやってることですから。そこは良いんです」

 

 

 

 

「おう、なら何でそのダガーを構え直す?」

 

 

 

 

「ただまあ、このままじゃ掲示板の火消しやらメイプルのスキルバレのないように情報隠蔽やら何でか回ってきたノブナさん関連の騒動の後始末やらをやらなきゃいけなくなった私の気持ちの整理がつかないなぁ・・・って思いまして・・・・・・・・・私が誘った時はあんまり乗り気そうじゃなかった楓が飛鳥さんの影響で始めたFGOをあんなに楽しそうにやってるの見てるとなんかモヤモヤするし(ボソッ)」

 

 

 

 

「おい、聞こえとるぞ。結局最後の理由が大半じゃろがい!女の嫉妬は醜いぞ!?」

 

 

 

 

「うっさい!とりあえずノブナさんが全部悪いってことで一回成敗されてください!」

 

 

 

 

「理不尽!?」

 

 

 

 

再び襲いかかってきたサリーの一撃を紙一重でかわし、逃げ出すノブナ。

 

それから始まった二人のおいかけっこはメンテナンスが始まる直前まで続いたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

メンテナンスが終わった翌日・・・

 

 

 

 

「はあぁ・・・・」

 

 

 

 

「まぁ、そう落ち込まないで楓」

 

 

 

 

そう言って理沙は隣に座る楓を慰める。

しかし、楓はぐんにゃりと机に突っ伏したまま深いため息を繰り返している。

 

 

二人がいるのはとある喫茶店だ。

 

学校から近く、値段もリーズナブル。その上出てくる料理は随所に店長のこだわりが感じられる一品ばかりだ。

学生にも人気があり、実際二人以外にも店内に制服姿の学生のグループがいくつかいる。

 

カウンター席に座って落ち込む楓は唸りながらぐりんと隣に座る理沙に顔を向ける。

 

 

 

 

「これが落ち込まない訳がないよ~」

 

 

 

 

「うーん。まぁ、私もまさかイベントの二週間前にこんなメンテが来るとは思わなかったけどね」

 

 

 

「うう・・・こんなに落ち込んだのはプレミアムロールケーキが売り切れていた時とネロ・ブライドちゃんが限定だって知った時以来だよぉ」

 

 

 

「それどっちも割と最近じゃない・・・」

 

 

 

「うううう」

 

 

 

楓は肩を落として項垂れる。

 

 

 

「とりあえず何か注文しようか。楓は何が良い?」

 

 

 

「・・・ショートケーキ・・・」

 

 

 

「了解。すいません、注文お願いします!」

 

 

 

「はーい、ただいま!」

 

 

 

理沙が店員を呼ぶとすぐに1人の店員が近づいてくる。

 

 

 

「はいご注文は・・・てお前は」

 

 

 

「あれ?・・・飛鳥さん!」

 

 

 

「んえっ!?」

 

 

 

理沙の声に反応して突っ伏していた楓がぴょんと飛び起きる。

 

其方に目を向ければゲーム内で見慣れた顔が立っていた。

 

 

ウェイトレスの制服に身を包んだ、理沙より少し低い小柄な身長。腰まで届く黒髪。目は紅くはないが凛々しくも可愛いらしくも見える顔付きはゲーム内そのままだ。

 

 

 

 

「わぁ!本当に飛鳥さんですか!?私です、楓です!」

 

 

 

 

「おお、リアルでははじめましてだな。二人は学校帰りか?」

 

 

 

 

「はい!飛鳥さんは・・・」

 

 

 

 

「見ての通りバイト中だ」

 

 

 

 

「え?・・・・飛鳥さんが・・・バイト?」

 

 

 

 

「・・・おい理沙よ。なんでそんな驚愕の表情を浮かべてんだ。私がバイトするのがそんなにおかしいか?」

 

 

 

「・・・いつもゲーセンか電脳空間にいるからてっきり自宅を警備してる方なのかなと・・」

 

 

 

 

「違うわ!こちとら普段は真っ当に大学生やっとるわ!」

 

 

 

 

「冗談ですよ冗談」

 

 

 

「お前なぁ・・・昨日あんだけ追いかけまわしといてまだ気がすまんのか」

 

 

 

「いえいえ、お陰様でモヤモヤもスッキリ」

 

 

 

「私はお前さんのストレス解消グッズかなんかか?」

 

 

 

理沙が笑いながら言うのを見て飛鳥はため息をつく。

 

 

 

「ま、それはそれとして、楓はなんでこんなテンション下がってるんだ?」

 

 

 

「それは・・・」

 

 

 

楓が口を開く。

 

楓が落ち込んでいた理由。

それは昨日実施された『NWO』のメンテナンスによるものだ。

 

 

メンテナンス内容は一部スキルの弱体化とフィールドモンスターのAI強化だ。

 

その内の一つ、スキルの弱体化が問題だった。

 

弱体化されたのは主に上位プレイヤーの強力なスキルだ。

メイプルが持つ【悪食】もその一つだ。

 

 

 

「メイプルの【悪食】が1日十回の回数制限に変更。ただし吸収できるMPは二倍・・・魔力タンクなのは同じだけど、まぁ、弱体化だよねぇ」

 

 

 

「確かメイプルは大盾にスキル付与してるから勝手に発動するんだろ?てことは十回攻撃受けたら・・・ただの大盾になるな」

 

 

 

「ただの大盾!?」

 

 

 

楓が悲鳴をあげる。

肩を落とす楓の背中をドンマイドンマイと叩く理沙。

飛鳥もうんうんと頷いている。

 

 

 

 

「まぁ、注目を集めたプレイヤーには良くあるこった」

 

 

 

 

「そう言えば飛鳥さんのキャラもスキル修正されたりしたんですか?」

 

 

 

 

「ああ、いくつかやられたな。まず【単独行動】が1日十回の回数制限に変更されただろ。あと【マックスウェルの悪魔】のMPの最大量増加と回復にかかる時間がそれぞれ長くなった」

 

 

 

 

「てことは前回のイベントみたいに開幕即ブッパみたいなことは出来なくなったんですか」

 

 

 

 

「まあ、小規模ならまだしもあれだけの規模の一撃を放つには時間がかかるようになったな」

 

 

 

 

「あうぅ・・・やっぱり、私以外にも色々修正されてるんですね・・・」

 

 

 

淡々と現状を語る飛鳥。

それを聞いて楓は諦めのため息をつく。

 

 

 

 

「まあ、【悪食】すっごい強かったもん。修正はしょうがないよ。でも、もう一つの修正の『防御力貫通攻撃スキルの実装とそれに伴う痛みの軽減』っていうのがなぁ・・」

 

 

 

「ああ、そんなんもあったなぁ・・・まあ、そこまで気にすることもないだろ」

 

 

 

「何でですか?これじゃ私ノーダメージじゃなくなっちゃう・・・せっかく理沙に回避盾になってもらったのに二人で無敵パーティー組めなくなっちゃう」

 

 

 

「お前らそんな恐ろしいこと考えてやがったんかい・・・ただ、まぁやっぱり問題ないだろ」 

 

 

 

二人の野望を聞いて弱冠引きつつ、飛鳥はそう断言する。

 

 

 

 

「ノーダメージじゃなくなったってだけで、攻撃受ける=即死じゃないなら問題はねぇ。要は死ななきゃいいんだ。回復アイテム持ち歩くなり、HP上げるなり、PS磨くなりやりようはいくらでもあるだろ」

 

 

 

「そうだね。メイプルの場合生き残り続ける限り大規模魔法で一網打尽出来ちゃうから。ダメージ与えられても生き残って疲労した敵を魔法で倒す・・・むしろより無敵感上がってるかも」

 

 

 

 

「理沙・・・飛鳥さん・・・」

 

 

 

 

「ふむ、となると現状メイプルに必要なのは回復系と、HP増加、MP消費軽減系のスキルか装備か?」

 

 

 

「HP回復の魔法は私が覚えるとして、装備としてはメイプルのユニーク装備を考慮した指輪なんかのアクセサリー系が良いですね」

 

 

 

 

「アクセサリー系なぁ。次のイベントも近いし比較的取得しやすいめぼしいのピックアップしとくか。・・・なにこっち見て笑ってんだ楓?」

 

 

 

 

「・・・いえ、なんでもないです♪」

 

 

 

本人そっちのけで早速議論を始めた二人を見ながら嬉しそうに微笑む楓。

その顔は先程までの落ち込みようが嘘であったかのように晴れやかなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「友人と仲良さげなのは結構でちが、勤務中なのを忘れて話し込むのは流石に行き過ぎでち!!とっとと業務に戻れでち!!」

 

 

 

 

 

「げぇ!?店長!?」

 

 

 

 

数分後、思い切り仕事を忘れてサボっていた飛鳥が店長に思い切り怒られたのはまた別の話。

 

 

 

 



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器用度極振りと第二回イベント 1

その日、第二層にある広場には多くのプレイヤーが集っていた。

皆が皆、熱に浮かされたようになりソワソワと時間が過ぎ行くのを待っている。

 

それも当然、この日は『NWO』の第二回イベントが開催される日なのだった。

 

あるものは入念に装備の確認をし、あるものは既知の人間との会話をする。

そんな喧騒のに包まれる広場の中で、メイプル、サリー、ノブナの三人が集まって話をしている。

 

 

 

 

「いよいよイベントだねーっ」

 

 

 

 

「ふふ、緊張してない?メイプル」

 

 

 

 

「わ、私は二回目だから大丈夫だよ!ちゃんと準備もしてきたし。それよりノブナさんは大丈夫なんですか?また前回みたいに寝不足になってたりしてません?」

 

 

 

 

「昨日さんざん『早く寝ろ』とメール送ってきおってからに・・・お前は儂のオカンか・・・ま、お陰様で八時間睡眠のベストコンディションじゃよ」

 

 

 

「というかそう言ってるノブナさんこそイベント前日に楽しみ過ぎて寝不足って遠足前の小学生みたい」

 

 

 

 

「うっさいわサリー!」

 

 

 

 

周りの熱狂的な空気とは裏腹に、いつも通りの和気藹々とした雰囲気で会話する三人。

前回のイベント時にも同じような感じではあったが、今回は周囲の対応が違っていた。

 

 

 

「・・・何か私達注目されてる?」

 

 

 

 

「そりゃそうじゃろ。仮にも前回イベントの三位と四位じゃぞ儂ら」

 

 

 

 

「それを差し引いてもメイプルとノブナさんは目立つから」

 

 

 

 

チラチラと視線をよこすもの。

露骨に観察するもの。

 

違いはあれども周囲の視線が三人の方へ向けられている。

 

既に勝負は始まっているのだ。

 

 

そう思って少し気を取り直したメイプルの耳にファンファーレが聞こえてきた。

 

音の発生源は中央に設置された大型モニター。

 

そこにはデカデカと写し出された『運営』の二文字があった。

 

 

 

『はいはーい!第二層広場にお集まりの皆様準備はよろしいですか!?只今より第二回イベントの説明を開始したいと思います!』

 

 

 

プレイヤー達の視線が中央に集中する。

一拍置いてから、機械音声による放送が説明を始めた。

 

 

 

『今回のイベントは探索型です!目玉は転移先のフィールドに散らばっている三百枚の銀メダル。これを十枚集めることで金メダルに交換出来ます。イベント終了後、そのメダルとスキルや装備品を交換可能です!』

 

 

 

画面に金色のメダルが写し出される。

それを見たメイプルとノブナが反応した。

 

 

 

「あれ?あのメダル何か見覚えが・・・」

 

 

 

「前回のイベントで10位以内の奴らに配られたメダルじゃの・・・装備品でもなく然りとてどこかで使える訳でもなく、とりあえず放置しておったが成る程、ここで使うのか」

 

 

 

『また前回イベント10位以内の方は金メダルを最初から所持しています!倒して奪うもよし。我関せずと探索に励むもよしです!』

 

 

 

またも周囲の視線が二人に集中する。

それにメイプルはアワアワと慌て、ノブナはニヤリと笑う。

二人なりのリアクションをとっていると運営の説明が再開される。

 

 

 

『なお救済措置として第一回イベントにてメダルを得た方々が終了時に金メダルを奪われていた場合、銀メダルが五枚渡されます。また、仮に死亡しても落とすのはメダルだけ!装備品は落としませんのでご安心ください。死亡後はそれぞれの転移初期地点に戻されます!』

 

 

『今回はゲーム内期間で一週間です。時間加速を行うので現実世界での時間経過はたったの二時間!フィールド内にはモンスターの来ないポイントが幾つもあるので休憩や拠点とするなどご活用ください!なお、時間加速の関係上途中ログアウトされますと再参加は出来ませんのでご注意ください!』

 

 

 

サリーが放送を聞きながら、運営からの通知画面を開き内容を確認する。

 

 

 

 

「・・・うん。内容は大体放送の通りだね。パーティーを組めば同じ場所からスタートするけど・・・」

 

 

 

「同じパーティーに金メダル持ちが二人居ると集中的に狙われて探索所じゃなくなりそうじゃの。なら儂は別行動にするか。スキル的に儂のが個人行動するには良さそうじゃし」

 

 

 

「ええ~、ノブナさん、一緒に行けないんですか?せっかく一緒にイベント参加出来ると思ったのに・・・」

 

 

 

「ま、運が良ければあっちで会えるじゃろ。そんなに落ち込むでないわ」

 

 

 

残念がるメイプルの頭をポンポンと叩き、ノブナが笑う。

 

そうこうする内に説明が終わり、いよいよイベント開始のカウントダウンが始まった。

 

 

 

「それではの二人とも」

 

 

 

「はい!メダル集め頑張ってください。私達も頑張りますから!」

 

 

 

「やたらめったら街壊したりダンジョン破壊したり他プレイヤーのパーティーに喧嘩売って消滅させたりしないでくださいね~」

 

 

 

「お主の中の儂、基本何か壊してない!?」

 

 

 

そこまで言った所で画面上のカウントが0を示し、視界が光に包まれた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「・・・・ここは」

 

 

 

ゆっくりと目を開ければ目の前に広がるのは一面の荒野。

 

赤茶けた地面が地平線の彼方まで広がり、所々に生えた枯れかけて痩せ細った木や乾き白くなった草。青い空から燦々と降り注ぐ太陽の光。

 

周囲一帯まで自分以外に動くものはおろか生物のいた痕跡すら見当たらない。

 

 

そんな不毛の大地の真ん中にポツンと一人取り残されたノブナはとりあえず周囲を観察して危険がないことを確認した後ため息をついて腕を組む。

 

 

 

「・・・まーた何やら酷い場所に飛ばされたのぅ。前回といい、今回といい儂開始地点の引き悪くない?運営の嫌がらせかなんかか?」

 

 

 

仕方ない事とはいえ、愚痴りたくもなる。

 

ステータスを器用度に極振りしているノブナにとってこのように広い割に周りに何もなく、移動をするのにも探索するのにも時間がかかるような地形は地味に辛かったりするのだ。

 

 

 

「【単独行動】も1日十回の回数制限かけられたからおいそれと使えんし・・・地道に歩くしかないんか?めんどくさいのぅ」

 

 

 

再びため息を吐きながら、自身の引きの悪さに思わず天を仰ぐノブナ。

 

すると

 

 

 

 

「・・・・・・うん?」

 

 

 

 

見上げた青空。

一見何も無いように見えるが、視界の隅にチラっと何か見えたように感じた。

 

よくよく観察してみれば遥か上空に小さく点のように建物らしき影が見える。

 

 

 

「なんじゃあれ?随分高い所にあるが何かの建造物っぽいな・・・ラ○ュタ的なアレか、フム?」

 

 

 

 

その場で暫く考えた後、ノブナは上空にある影を見据えるとスキルを発動する。

 

 

 

「とりあえずは行ってみんことには分からんか。【マックスウェルの悪魔】!」

 

 

 

ごうっと赤黒いオーラがノブナを包み込む。暫くそうしてMPを貯めこんだ後、再び口を開く。

 

 

 

 

「最早お馴染み、【秘密兵器】!」

 

 

 

 

空間の歪みから出現する数多くの火縄銃が螺旋上に並んで上空へ伸び、即席の階段を形成する。

早速出来た即席螺旋階段を一歩ずつ登っていく。

 

 

 

 

「・・・なんか昔見たどっかのゲームでこんなシーンみたような気がするのぉ。あれはなんじゃったっけ?」

 

 

 

そんなどうでもいい独り言を呟きながら遥か上空の影に向けて歩き続けるノブナであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ノブナが一人徒歩で上空を目指していたのと同時刻・・・

所変わって運営ルーム。

 

 

第二回イベントの進行状況をモニターしていた人員の一人が悲鳴を上げた。

 

 

 

 

「た、大変です!イベント開始早々『天空の門』にプレイヤーが向かってます!」

 

 

 

「何ぃ!?あそこはイベント後半に出現する専用ゲート通って来ないと到達出来ん筈だろ!どうなってんだ!?」

 

 

 

「映像出します!」

 

 

 

カチカチと機械を操作すると、メインモニターの映像が切り替わり、上空を火縄銃を足場にして歩くノブナの映像が写し出される。

 

 

 

 

「コフッ!?」

 

 

 

「ああ!?グラフィック担当があまりのストレスに血を吐いた!?」

 

 

 

「ま た あ い つ か」

 

 

 

「おいどうするよ。あそこ確か【海皇】やら【銀翼】やらみたいなの出現させる予定じゃなかったか?」

 

 

 

「ああ、確かそうだ。ただあそこは課長が一人で担当してたからあんまり詳しい事は分からん。聞こうにも今課長出払ってるしなぁ。もう少しすれば戻ってくるだろうけど」

 

 

 

「流石に【銀翼】レベルを一人でクリアは無理だろうけどなぁ・・・如何せんノブナだからなぁ・・・」

 

 

 

運営スタッフが戦々恐々と見守る中、そんな事は露程も知らないノブナは淡々と『天空の門』への階段を上がっていくのだった・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ふぅむ・・・ようやく着いたが、中々に妙な場所よの」

 

 

 

火縄銃を足場に上昇すること約30分。

最早地上は遥か彼方、白い雲が眼下を流れ、強風が頬を叩く。

電脳空間でなければ人が生存することの出来ぬ高空。

 

 

そんな空間に『それ』は存在した。

 

 

周囲を囲む堅牢な壁、その中に広がる幾つもの建物、整備された道路。

まるで城塞都市の一画を地面ごと抉り取り、宙に浮かべたかのような場所。

しかし、その中で一つだけ異質なものが混じっていた。

 

 

天を突く巨大な黒塗りの門。

 

 

街の真ん中に据えられた異様な建造物。

くぐって入る筈の建物は存在せず、ただ門だけが其処に鎮座している。

色は燦々と降り注ぐ日の光すら呑み込む漆黒。

一つ一つが大人一人分程の大きさがあるであろう鎖がまるで封印でもあるかの如く何十にも巻き付き、門の開閉を妨げている。

 

 

 

 

 

「これまたえらく禍々しい。天空に浮かぶ建造物なんてシロモノならばも少しファンシーさがあっても良かろうに」

 

 

 

 

言いながら、足場をその建物郡に向けて伸ばす。

 

器用に足場の上を移動しながら暫く進めば件の門の近くにまでやってきた。

下を見下ろせば、門のある辺りはかなりの大きさがある広場のようであるらしく降りる分には支障はなさそうだった。

 

とりあえずは降りてみないことには何もわからない

 

そう考えたノブナは階段状に配置し直した火縄銃を一歩ずつ下り、遂に広場へと足を踏み入れた。

 

 

足の下からはしっかりとした硬い感触。古びて所々が苔むしているとはいえ石造りできっちりと整備された広場だ。

ざっと見積もってもサッカー場3つ以上は余裕であるだろう広大な土地の真ん中には漆黒の門が聳え立つ。

下から見上げると更に大きく見え、妙な重圧を見るもの全てに与える。

 

 

 

 

「見れば見るほど異様な建造物じゃ。妙なプレッシャーも感じるし間違っても良いものではなかろうな・・・いっそ破壊してみるか?」

 

 

 

 

そんな物騒な独り言を呟きながらインベントリから銃を取り出そうとした・・・その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ほう。この地に人の子が迷い混むのは久方ぶりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな、しかし良く通る声が広場に響く。

 

即座にその声のした方へ銃口を向けるノブナ。

 

が、そこで彼女は目を見開き、完全に動きを止めた。

 

浮かぶ表情は驚き、困惑、忘我。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そこに、ありえないものを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫がかった腰ほどまである長髪。

 

女性的でありながら研ぎ澄まされた刃を思わせる鍛え抜かれ、洗練された無駄の無い身体。

 

動きを必要以上に制限しないように身体に密着するように造られたであろう服。

 

端正な顔と白い肌。

 

開いた瞳は彼岸花の如き深紅。

 

 

その手に握られしは朱色の槍。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて勇士。貴様は私を殺せるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───影の国の女王がそこにいた。

 

 

 

 




アーケードでジャックが出ない悲しみを二次創作にぶつけた結果、師匠が出た。何を言って(以下略)


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器用度極振りと第二回イベント 2

流石に運営の倫理観ガバガバ過ぎたので許可取ってたってことにしました。そりゃそうだ


漆黒の門・・・その袂にて

 

 

二人きりの戦いは激化の一途を辿っていた。

 

片や朱槍による神速の一刺。

 

片や火縄銃による多重の弾幕。

 

互いが互いを殺すための必殺の一撃を繰り出し合う技の応酬。

 

 

一見互角のようにも見える戦い。

 

だが、その実形勢は徐々にノブナ側の不利となってきていた。

 

 

 

 

「──フッ!!」

 

 

 

一息で三突き。

その何れもが人体の急所を穿たんと放たれる必殺の一撃だ。

 

其を或いは避け、或いは捌く。

 

それでも避けきれず、【秘密兵器】で取り出した銃で受け止める。

 

 

槍撃を止めた瞬間、金具が弾け鉄がひしゃげ木片が飛び散る。

殺しきれなかった衝撃で身体が浮き、後ろに吹っ飛んだ。

 

数メートルは飛ばされ、地面に背中を強かに打ち付ける。

衝撃に意識が刈り取られそうになるのを堪え、後転。

 

数瞬前まで身体があった所を朱槍の横薙ぎが削り取った。

反応が遅れていれば胴体が真っ二つにされていた所だ。

 

しかし、まだだ。

 

 

ゾクリと、背筋に悪寒が走る。

 

 

嫌な予感に突き動かせるように、咄嗟に横に跳びすさる。

瞬間、何もなかった空間に文字のようなものが浮かび上り、そこから発生した何発もの炎弾が破裂し地面を黒く焼き焦がす。

 

必死に避け、十分に距離を取り、体勢を立て直しながら相手を見る。

 

 

 

 

「・・・中々器用に避けるものだ。我が槍だけでなく【原初のルーン】もかわすとは」

 

 

 

 

そう言って影の国の女王にして至高の戦士、『スカサハ』が朱槍を振るい、構え直す。

 

あれだけの連激を繰り出しておきながら息一つ乱すことなく、己の身長よりも長い朱槍を手足の如くに操り、すらりと立つ姿勢に一切のブレがない。

 

 

 

 

「しかし防戦だけでは意味がない。貴様が私に傷すらつけられぬというならば、その命を貰うまで」

 

 

 

 

「──減らず口を!【秘密兵器】!!」

 

 

 

 

 

ノブナの叫びと共にスカサハの背後に空間の歪みが発生する。

中から出現するのは無数の銃口。

それらが、現れるなり一斉に火を吹こうとして──

 

 

 

 

「甘いッ!」

 

 

 

 

朱槍が一閃。

全ての銃が両断され、空中で爆発四散した。

 

その光景を目の当たりにしながらノブナは内心歯噛みする。

 

 

 

 

『死角からの奇襲にすらいとも簡単に対応するか!?最早勘が良い等という次元の話ではないな!』

 

 

 

 

先程から何度も何度も繰り返し攻撃を行っているが未だにかすり傷すら与えられていない。

まるで未来が見えているかのように、全ての攻撃が出足から潰されている。

 

 

 

 

『否・・・ようにではない。実際に未来が見えておるのだ』

 

 

 

 

ノブナはそう確信する。

先程の視角からの一撃の際に一瞬だが確かに見たのだ。

スカサハの、その深紅の瞳が朱く輝くのを──

 

 

 

 

 

「──ほう。気付いたか」

 

 

 

 

 

ノブナの視線が自身の瞳を見据えているのを眺めながらスカサハが薄く笑う。

 

 

 

 

「貴様の想像通りだ勇士。我が【魔境の知慧】はあらゆる業の行使を可能とする。──【千里眼】による予知もその一つだ」

 

 

 

 

 

 

【魔境の知慧】

 

・このスキルを発動時、ユニーク装備固有のスキル以外の現存するあらゆるスキルを、その取得条件を無視して使用可能とすることができる。取得するスキル及びその行使は任意で切り替え可能。

・このスキルで得たスキルの習熟度は『Ⅸ』或いは『Ⅹ』となる。

 

 

 

 

 

 

 

「はッ!厄介な事この上ないのう・・・貴様、死にたいというならばそんなスキルの使用を控えてくれても此方としては一向に構わんのだが?」

 

 

 

 

「生憎とこの程度の逆境すら越えられぬ弱輩に殺されてやる気はないな」

 

 

 

 

「デスヨネー・・・じゃったら!」

 

 

 

 

燃え盛る焔のように紅い双眸を煌めかせ、犬歯を剥き出しにして獣の如くノブナが嗤う。

 

その背後に幾千幾万もの火縄銃が出現し、ほの暗い銃口を目前の敵に集中させた。

 

 

 

 

 

 

 

「MPは十二分に集まった!予知をしようが避けられぬ程の弾幕で削り殺す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身に向けられた無数の銃口を前にしても、スカサハは動じない。

寧ろその口元には愉しげな笑みすら浮かべている。

 

 

 

 

「──良い。彼我の力量差を理解しながら、尚燃え盛るその闘志。それでこその勇士というもの」

 

 

 

静かに、それでいて確かな熱量を秘めた朱い瞳がスゥと細められる。

瞬間、朱槍を天高く投擲し自身もそれを追うように跳躍する。

槍が重力に捕らわれ落下する、その直前ぐるりと空中で体勢を入れ替える。

 

瞬時に此方を捕捉し直す銃口の群れを視界の端で捉えながら愉しげに笑う。

 

 

 

 

 

「ならばこそ、全力を持って真正面から叩き潰す!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三千世界《さんだんうち》!!」

 

 

 

 

「蹴り穿つ死翔の槍《ゲイ・ボルク・オルタナティブ》!!」

 

 

 

 

 

 

 

数多の弾丸と数多の朱槍が空中でぶつかり合い削り合い、轟音を響かせた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

──同時刻

 

 

運営ルームにて

 

 

 

 

二人のスタッフが中央スクリーンに映る二人の戦いを眺めている。

 

 

 

「・・・・どっからどう見ても師匠だよなぁ」

 

 

 

「・・・・師匠ですねぇ」

 

 

 

二人の視線は戦っている二人の内の一人、朱槍を振るい縦横無尽に暴れまわる方に集中している。

 

 

 

「・・・・どうしたって他社キャラだよなぁ」

 

 

 

「・・・・他社キャラですねぇ」

 

 

 

当たり前の事を口に出しながら改めて状況の把握に努める二人。

色々把握して出した結論は、

 

 

 

 

 

「・・・・ヤバいよなぁ!?」

 

 

 

「・・・・ヤバいですねぇ!?」

 

 

 

 

勿論、アウト。

 

 

 

 

「ちくしょう!?何だってこんな事に!このステージ担当したの何処のどいつだボケェ!?」

 

 

 

「課長です!」

 

 

 

「何してくれとんじゃあのハゲぇ!?良い年こいて倫理観ガバガバか!?一人でしこしこ何か作ってると思ったら何してんじゃ!?」

 

 

 

「最近ノブナ対策の為とかで始めたとか言ってたんで、恐らく予想外にハマったのかと思われます!」

 

 

 

「知るかぁ!俺だって前からハマっとったわぁ!」

 

 

 

「理不尽な暴力が俺を襲う!?」

 

 

 

特に理由は無いが片方が殴り飛ばされた、ちょうどその時。

件の課長が部屋の入り口から入室してきた。

 

 

 

「いやいや申し訳ない遅れてしま『そぉいっ!!』フライングニーッ!?」

 

 

 

部下の華麗な飛び膝蹴りをもろに食らい吹き飛ぶ課長。

 

 

 

「おうおう。ようもやってくれたのぅ。この落とし前どう着ける言うんじゃアァン!?」

 

 

 

「ご、ごふぅ・・・な、何の事だ?」

 

 

 

「しらばっくれようったってそうはいかねぇぞ!あれだあれぇ!!」

 

 

 

怒れる部下が中央スクリーンを指し示す。

そこにはノブナと師匠の戦いがデカデカと写し出されていた。

 

それを見て全てを悟ったらしく、一つため息をついて課長が言う。

 

 

 

「なるほど、そういうことか。だが、安心したまえ。既に正式に許可は得ている」

 

 

 

そう言うと課長はスーツの内ポケットから取り出した書類を見せた。

 

 

 

「これは・・・いつの間に」

 

 

 

 

「・・・近々、コチラとアチラとのコラボイベントが予定されている。まだ詳細は未定だが、アチラさんのキャラクターをお借りしての、大規模なものとなるだろう。今回のこれもそのイベントの告知を兼ねた試験運用のようなものだ」

 

 

 

「そうだったんですか・・・すいません、知らなかったとはいえついカッなって飛び膝蹴りなどしてしまって」

 

 

 

「良いんだ。こちらこそ説明出来ずに悪かったと思っている。何せ極秘の計画だったからね」

 

 

 

「課長!」

 

 

 

部下と課長がガッシリと握手した時、殴り飛ばされた方の部下が頬を擦りながら戻ってきた。

 

 

 

「いてて。あ、課長話聞いててちょっと疑問だったんですけど」

 

 

 

「なんだね?」

 

 

 

「なんで師匠なんです?まぁ、大人気キャラではありますがコラボイベント告知って言うんならそれこそアチラさんの看板キャラのアルトリアさんやジャンヌさんが良い気がするんですけど」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

暫しの沈黙が流れた後、課長が一つ息をつき言う。

 

 

 

 

 

 

「うっせぇな!師匠を出したかったんだよ、悪いかゴラァ!?」

 

 

 

 

「やっぱり私欲じゃねぇかこのハゲ!」

 

 

 

「おう、コイツ囲んでタコ殴りにすんぞ!」

 

 

 

そうして世にも醜い争いが運営ルームにて勃発したのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

弾丸と朱槍の激突が終わり、周囲に舞い上がった土煙が視界を塞ぐ。

 

敵の姿は視認出来ない。

 

が、『あの』敵がこの程度で倒されてくれるなどとは到底思えない。

 

 

周囲への警戒を強めながら、迎撃の態勢を整えていると徐々に視界が良くなっていく。

 

 

 

 

「まずは見事。よくぞあの攻撃を凌ぎきった」

 

 

 

 

晴れた視界の中には先程迄と変わらず泰然と立つ女王の姿。

そこまでは予想通り・・・しかし

 

 

 

 

「・・・あの一斉射をもってして、傷一つとは・・・化物め」

 

 

 

 

スカサハの頬に一筋の線が入り、そこから僅かに出血している。

初めて攻撃が当たった──が、それだけだ。

HPバーもほんの数ミリ削れているだけ。

 

致命傷には程遠い。

 

悔しげに歯を噛み締めるノブナに対し、スカサハは自身の頬に手をやると血を拭う。

 

 

 

 

「──自分の血を見たのは随分と久しぶりだ」

 

 

 

 

 

言って朱槍の切先をノブナに向ける。

 

 

 

 

「しかし、まだ足りぬ。人を越え、神を殺し、半ば神へと至った我が肉体・・・そう簡単に屠れはせぬぞ」

 

 

 

 

見る間に頬の傷が塞がっていき、数秒後には痕すら残さず消滅し、僅かに削れていたHPバーも全快している。

 

 

 

 

 

【不死の肉体】

 

・不死である事を示す力。1秒につき10ポイントHPを回復する。

・このスキルの所有者のHPが0となった時1日に5回まで、最大HPの50%分のHPを回復し即座に復活する。

 

 

 

 

 

 

「ぐ・・・ちまちまと体力を削ることすら出来んか・・・」

 

 

 

 

ノブナの頬を汗が伝う。

緊張と焦りで混乱しそうになる頭を回転させ、打開策を考える。

しかし、そうそう案など浮かばない。

 

そうこうする内に再び、スカサハの猛攻が始まった。

 

 

ついと伸ばした人差し指で空中に紋様を描く。

 

完成した文字が輝き、その意味を解放する。

 

描かれた紋様は「アンサズ」。

 

火を示すルーンはその効果を十全に発揮し、炎弾を高速で射出する。

 

 

 

 

「【単独行動】!」

 

 

 

 

迫り来る炎の弾丸をスキルを使用することで回避する。

 

 

 

 

「──【千里眼】【超加速】」

 

 

 

 

が、次の瞬間には眼前に朱槍を構えたスカサハが現れる。跳ぶ方向に完璧に合わせられた槍の切先がノブナを串刺しにせんと迫る。

 

咄嗟にスキルを使用。出現させた銃でガードしようとする。

 

 

 

 

「それも『見た』」

 

 

 

「んな!?─ぐッ!?」

 

 

 

 

が、先に振るわれた『二振り目』の朱槍がそれを弾く。

バランスを崩しながらも身を捩る。

右肩の肉を突き出された朱槍が抉り取った。

 

ダメージエフェクトが発生し、ノブナのHPがガクンと減っていく。

 

ダメージこそ負ったが串刺しよりは遥かにマシだ。

 

後ろに飛び退きながら銃弾をばらまく。

迫る弾幕はしかし、二振りの朱槍を回転させることで全て弾き落とされた。

 

 

 

 

『何をやっても対応される!どうすればいい!?どうすれば奴を殺せる!?』

 

 

 

 

一瞬の判断ミスが即ち死へと繋がる戦い。

 

焦りが思考を惑わせる。

吹き出る汗が視界を狭める。

限界まで酷使された身体が悲鳴をあげる。

 

 

 

───だからだろうか

 

 

 

 

飛び退いた先にあるモノに気付けなかった。

 

ガツンと背中に硬い感触。

振り向けば其処には例の黒塗りの門があった。

 

 

 

 

『抜かった!追い込まれていたか!』

 

 

 

 

逃げ道を塞がれていたことに気付いた時にはもう遅い。

 

下から上へと、かちあげられた朱槍がノブナの小柄な身体を打ち上げる。

 

 

 

 

『──逃げ──身体、動かな──スタン!?』

 

 

 

 

 

 

「──刺し穿ち」

 

 

 

 

 

 

視線の下、朱槍に赤黒いオーラを纏わせながらスカサハがその鋭い切先を空中のノブナに向ける。

 

 

 

 

 

 

「突き穿つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

渾身の力を込めて投擲された槍が過たずノブナの身体を刺し貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──貫き穿つ死翔の槍《ゲイ・ボルク・オルタナティブ》!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

朱槍に込められたエネルギーが解放され、轟音とともに全てを爆散させた。

 

 

 

煙の晴れた後には何の痕跡すらも残されてはいない。

 

 

 

 

 

それを確認したスカサハは朱槍を一度振るうと、戦場に背を向け歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───やはり私を殺せる者などいるはずもないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・人知れず吐き出された言葉は誰にも聞かれることなく、無人の広場に響いて消えた。

 

 

 

 

 




感想でFGO やってない方もいたので、そういう方向けに一応のキャラ解説(作者の主観バリバリ)。

『スカサハ』
・かの大英雄、皆大好き槍ニキこと『クーフーリン』の師匠でゲイボルグあげた人。通称『師匠』
ブッ飛んでる世界観のケルト世界の中でも特に強い人。めっさつおくて格好いい女性だけど槍ニキ関連の事となると若干めんどくさくなる気がしないでもない。

関係ないけどアーケードでノッブ使ってる時に遭遇したら死を覚悟する。



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器用度極振りと第二回イベント 3

先に謝っときます。色々、ごめんなさい・・・




第二回イベント二日目、深夜・・・

 

 

もうそろそろ日付が変わろうかという時間帯。

メイプルとサリーの二人は大木の枝上で深夜の探索の前の小休憩をしていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

「どうしたのメイプル?」

 

 

 

 

幹に背中を預けて座り、頭上に輝く満点の月を眺めていたメイプルに、所持スキルの確認を終えたサリーが話しかける。

 

 

 

「ん?なんでもないよ?」

 

 

 

 

「そう?なんか少し寂しそうだったから」

 

 

 

 

「そんなことないよ、大丈夫!──ただ・・」

 

 

 

 

サリーに微笑み返してからメイプルは再び満月を見上げる。

月明かりに照らされたその横顔はやはり何処か物悲しげであるように見えた。

 

 

 

 

「ノブナさん、今頃何してるのかなって思っただけ」

 

 

 

「・・・メイプル」

 

 

 

 

サリーはメイプルの横顔を見て、少し考えた後ニヤリと笑って殊更におどけた口調で話し始める。

 

 

 

 

「おおっと?これはこれは・・・メイプル殿はノブナさんにご執心という訳ですな。なるほどなるほど二人がそんなに仲良しになってたなんて・・・これはわたくしお邪魔虫でしたかしら?」

 

 

 

「ニャッ!?にゃに言ってるの!?」

 

 

 

 

「あ、赤くなった。これはもしかするともしかするかもな~?よく考えたらメイプルがこのゲーム始めた時から二人って一緒に行動してる事多かったもんね~」

 

 

 

 

「違うったら!もう!」

 

 

 

 

「アハハ!冗談だって、冗談。そんなに怒らないで」

 

 

 

 

メイプルの赤くなった頬を突っつきながらサリーが笑う。不満げに頬を膨らませながらされるがままになるメイプル。

二、三回つついた後、サリーは優しく微笑みながらメイプルに言う。

 

 

 

「大丈夫。その内きっと会えるから」

 

 

 

「そうかな?・・・でも心配だよ。ノブナさん一人きりだし、金メダルも持ってるから他のプレイヤーにも狙われてるだろうし」

 

 

 

「う~ん。それもまぁ、大丈夫じゃないかな」

 

 

 

憂うメイプルとは対照的にサリーは楽観的に答える。

なぜそこまで言い切れるのかとメイプルが首を傾げている。

考えていることが顔に出まくっている彼女に苦笑しながらサリーが話し始める。

 

 

 

「私とノブナさんがこのゲームを始める前からの知り合いって言うのは話したっけ?」

 

 

 

「うん。よく色んなゲームで対戦してたんだっけ」

 

 

 

「そうそう。で、どんなゲームで対戦しても大抵私が連勝するんだよね」

 

 

 

「そうなの?」

 

 

 

「うん。だけど暫く経つと途端に勝てなくなってくるんだよねぇ~。何でか分かる?」

 

 

 

サリーの質問にメイプルがふるふると首を横に振る。

それを見てサリーがニヤリと笑って言う。

 

 

 

「研究してたの。何度も何度も負ける中で私の動きのクセや私がここでどう動くかとかこの状況ならどう考えるかとか、地形や武器やスキルなんかの条件の違いによって起こる誤差も含めてじっくりゆっくり丁寧に徹底的に、ね」

 

 

 

 

「そ、そうなんだ。よくわからないけど、凄いね」

 

 

 

 

「うん。あの執念深さは敵にまわすと恐ろしいよ~?絶、対!諦めないからあの人。だから、まぁ仮にだけど」

 

 

 

 

そこまで言ってサリーもまた頭上の月を見上げる。

この世界の何処かにいるだろう友人の顔を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

「金メダルを奪われるような事があったら、その相手に徹底的に粘着して戦い続けるんじゃないかな。それこそ相手を倒すまで」

 

 

 

 

 

 

 

サリーは笑ってそう言った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

同時刻・・・

 

【天空の門】にて

 

 

 

 

地上よりも近く、大きい満月の光が広場を照らし出す中、一人スカサハが佇んでいる。

目を閉じ腕を組み、門に背を預け立っている姿は一枚の絵画のようにも見える。

 

 

 

 

 

「───来たか」

 

 

 

 

 

呟き、ゆっくりと目を開く。

彼岸花に似た色の瞳が頭上を向く。

 

 

巨大な月を背にして一人の人間がいた。

 

 

ノブナだ。

 

 

所々がほつれ、破れた軍服と特徴的な前立てが一部欠けた軍帽。ボロボロになった赤い外套を夜風に翻しながら火縄銃を足場にして空中に立っている。

 

それを確認して門から背を離し、手に朱槍を出現させながらノブナの方へ歩きだす。

それに合わせるように彼女も地上へと降りてくる。

 

10メートル程の距離を置いてお互いに向き合った。

朱槍の切先を前方のノブナへと向けながらスカサハが語る。

 

 

 

 

「・・・さて何か私を殺せるような方法は思い付いたか?」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 

ノブナは無言。うつむき加減の為顔色も伺えない。

しかし、軍帽の影から僅かに覗く紅い瞳がギラギラと妖しく煌めいている。

まるで餓えた肉食獣の如き、攻撃的な光。

それ見たスカサハが薄く微笑む。

 

 

 

 

「──良い眼だ。未だ戦意は衰えず、か」

 

 

 

 

言って朱槍を持つ手に力を込める。

全身に気力が満ち、何時でも飛び出せるように準備を整える。

応えるようにノブナも両手に火縄銃を装備する。

 

 

二人が無言で対峙する中、刻一刻と時間が進んでいき───

 

 

 

 

日付が変わる。

 

 

 

 

瞬間、二人が同時に動く。

 

間隔が一気に詰り、金属同士がぶつかり合う音が広場に響き渡る。

 

至近距離で二対の紅い視線が交わり合う。

表情はどちらも笑顔──親愛でなく、殺意に溢れたそれを浮かべながら。

 

 

 

 

深夜の決闘が幕を開けた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『───何度も戦ってわかった事は3つ』

 

 

 

 

朱槍による三連突き。

頭、胸、腰を貫こうと迫る切先を【秘密兵器】で出現させた銃で反らす。

直接受け止めるのでなく、表面を滑らせるように角度をつけて──

金属同士が擦りあい、火花が散った。

 

 

 

 

『一つ、奴の防御力、HPはそこまで高くない。かすり弾でもHPを削れたということは、まともに命中すれば普通にダメージを与えられるはず』

 

 

 

 

横薙ぎをしゃがんでかわし、一発射撃。

空いた手で描こうとしていたルーンを妨害し、発動を阻止。

それを確認した後すぐさま距離を取る。

頭上から振り下ろされた槍の石突が広場の石造りの地面を砕き破片を飛び散らせた。

 

 

 

 

『二つ、奴の【魔境の智慧】は同時に二つのスキルを使う事は出来ない。使えるのは常に一つだけ』

 

 

 

 

二振りの朱槍を用いての連激。

 

前進しながら縦横無尽に振るわれる槍から後退して距離を取りつつ連続射撃。

 

足を止めさせ、近づかせない。

 

 

 

 

 

『三つ、【千里眼】による予知は常に発動している訳じゃない。発動する時には眼が紅く光る。効果時間は30秒。次の発動が可能になるまでのインターバルは1分・・・そして推測だがこのスキルはおそらく』

 

 

 

 

「良く避ける。ならば──」

 

 

 

 

スカサハはそう言うと、大きく後ろに下がる。

この戦いの間に何度も見た動き。

 

すなわち、【千里眼】を発動してからの連続攻撃。避けることすら許されぬ必殺の業だ。

 

 

 

 

『──落ち着け──早すぎず、遅すぎず、的確に──』

 

 

 

 

極限にまで研ぎ澄まされた集中力がスカサハの動きをいやにゆっくりに見せる。

両手に朱槍を構え、前傾姿勢で身体中に力を溜め、眼を閉じて・・・

 

 

 

 

「『今!』【隠密】!」

 

 

 

 

「【千里眼】!」

 

 

 

 

スカサハの瞳が紅く輝く、その一瞬前にノブナの姿がかき消える。

スキル【隠密】の効果によって姿を隠したのだ。

 

すぐにその場を移動しながら慎重にスカサハの動きを観察する。

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

スカサハはその場を動かず、二槍を構えて周囲を警戒している。

明らかに此方を見失っている動きだ。

【千里眼】で未来を予知しているのならば姿が見えなかろうと攻撃してくるはず。

 

つまり──

 

 

 

 

『【千里眼】の発動に失敗した!やはりこのスキル、発動時に対象を『視認』している必要がある!』

 

 

 

 

スカサハの強さの根幹はその強力なスキル群。

 

中でも【魔境の智慧】によって身につけた【千里眼】は特筆して強力な能力だ。

 

しかし、この世界が『ゲーム』であるならばどんなに強力無比なスキルであろうとそこには必ず『ルール』があり、『仕様』がある。

 

そうでなければそもそもゲームなぞ成立しないからだ。

 

 

 

 

『【千里眼】の仕様を把握するのにえらく時間がかかってしもうたが──ようやく見えたぞ、突破口が!』

 

 

 

 

ノブナの瞳の剣呑な輝きが増し、凄絶に嗤う。

 

 

 

 

『次に【千里眼】が使用可能になるまでの1分間──この間に攻撃を叩き込む!【単独行動】!!』

 

 

 

 

内に燃え上がる衝動のまま、スキルを発動し敵に向けて突っ込んでいく。

スカサハの無防備な背中をすぐ目の前に見る程の距離のまで接近し、銃を出現させる。

外すことのあり得ない必中の距離。

 

銃口をその背中に向ける。

 

 

 

『・・・・・』

 

 

 

ボソリと何かを口走った後引き金に指をかけ、躊躇わずに引く。

 

銃口が火を吹き、弾丸は過たずスカサハの身体

を撃ち貫いた。

 

 

 

 

「よし!」

 

 

 

思わず渾身の笑みが溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?──それが何だと言うのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心胆から凍りつくような冷たい声が響く。

 

次の瞬間、眼前に槍の石突が迫っていた。

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

銃を盾に、咄嗟に後ろに跳んで衝撃を逃がす。

金属同士の衝突音が月夜の広場に響き渡り、ノブナの小柄な身体が数メートル吹き飛ばされる。

 

空中で何とか体勢を立て直し、着地。

心臓が早鐘を打ち、全身から汗が吹き出す。

荒くなった息を整えながら手元を見れば持っていた銃が半ばからひしゃげていた。

──これは最早使い物にならない。

壊れた銃を放り捨て、敵を見る。

 

 

 

 

 

 

「コソコソと身を隠し、何をするかと思えば───何だこれは?」

 

 

 

 

 

 

聞こえる声にははっきりとした怒気が混じる。

 

スカサハがゆっくりと此方を振り向く。

その腹部には確かな弾痕。

しかし、それも直ぐに塞がっていく。

片膝立ちのノブナを鋭い視線が指し貫く。

ただ見られただけなのに、周囲の温度が二、三度下がったように錯覚する。

それほどまでに視線に籠められた殺意の濃度が濃い。

 

 

 

 

 

 

「──この程度が貴様の全力か?数多の屍を積み上げ、死闘の果てに漸く手にした好機に放った一撃がこの程度だと?ふざけるな!!」

 

 

 

 

 

 

激昂と共に息苦しくなる程の重圧が否応なしに増した。

叩きつけられた朱槍の石突が広場の地面を砕く。

不快げに細められる深紅の瞳。

 

 

 

 

 

「立て!立って戦え!その爪を、その牙を!私の身体に突き立てて見せよ!!」

 

 

 

 

 

空気を伝ってビリビリとした衝撃が肌を打つ。

 

それでもノブナは片膝をついたまま動かない。

軍帽の奥から覗く紅い瞳にただスカサハの姿を映すのみ。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・もう良い」

 

 

 

 

 

 

スカサハのうってかわって静かな声が響く。

籠る感情は失望。

朱槍が赤黒いオーラを纏いながら構えられる。

 

 

 

 

 

 

「死ね。勇士に値せぬ凡俗の徒よ」

 

 

 

 

 

 

 

神すら殺す槍が放たれる───その間際。

 

 

 

 

 

 

 

ドクンっ!!

 

 

 

 

 

 

「っ!?──く、ぅあ!?」

 

 

 

 

スカサハが眼を見開き、苦悶の声をあげた。

視界が揺れ、立っていられずその場に膝をつく。

朱槍を手放さなかったのは幸運か、はたまた戦士としての意地か。

 

己の核──その深奥から、自身という存在を無理矢理別の『ナニか』に塗り替えられるような名状し難い不快感。

全身の細胞が一斉に沸騰したかのような激しい苦痛。

指の一本を動かすのすら絶叫しそうになる苦しみに必死に堪える。

 

 

 

 

 

「──ふぅ、どうやら何とか効果を発揮してくれたようじゃの。重畳重畳」

 

 

 

 

 

呻くスカサハの耳にそんな声かま聞こえる。

 

声の主はもちろんノブナだ。

 

立ち上がり、二挺の火縄銃を装備しながら不敵に笑っている。

 

 

 

 

 

「き、サマぁ!私ノからダに・・・何をしタァ!?」

 

 

 

 

 

「何、ちょっとした小細工をしたまでよ。儂のスキル【パブリックエネミー】と【狂乱】で、な」

 

 

 

 

「な、ニィ・・・?」

 

 

 

 

 

「【パブリックエネミー】は発動すると儂から半径1メートル以内に存在する全ての対象を状態異常にしやすくするスキル。わざわざ危険をおかしてまで貴様に近付いたはこの為よ」

 

 

 

語りながらノブナは銃口を動けずにいるスカサハに向ける。更にその背後には無数の火縄銃が出現し始めた。

 

 

 

「そして【狂乱】。このスキルは攻撃の命中時低確率で相手に『狂化』状態を付与するというものじゃ──さて、影の国の女王よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狂った貴様に果たして【魔境の智慧】なんぞ使えるものか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────────────っ!!!」

 

 

 

 

スカサハの口から叫びが放たれる。

 

それは最早言葉の判別すら出来ぬ獣の遠吠えに近い。

 

手にした槍をめったやたらに振りまわす。

それだけで空気が震え、大地が裂けた。

まるで局地的な暴風の如き暴力の嵐。

 

 

その様を眺めながらノブナが悠然と右手を上げる。

 

 

 

 

「儂がやったこととは言え、誇り高き貴様のその様は見るに堪えん。我が渾身を持って疾く引導を渡してくれようぞ!」

 

 

 

 

大量のMPを喰らい、更に数を増した火縄銃の全銃口が嵐の中心──かつてスカサハであったものに照準を合わせる。

 

 

 

「【マックスウェルの悪魔】!【秘密兵器(トイボックス)】!【ピンポイントスナイプ】!【血濡れの栄光】!【加虐体質】!【灰は灰に】!そして【不死殺し】!!」

 

 

 

 

【加虐体質】

・スキル発動時、与ダメージ量をアップ。

・スキル発動時、披ダメージ量をアップ。

・状態異常(毒、マヒなど)の相手に対する特攻状態を付与。

 

 

【灰は灰に】

・炎熱系の攻撃のダメージを上昇させる。

・やけどの継続ダメージを上昇させる。

・【HP0からの復活】系の効果を持つスキルを無効化する

 

 

【不死殺し】

・自身に【不死】或いは【不滅】の属性を持つものに対する特攻状態を付与。

 

 

 

 

 

新旧、パッシブアクティブの区別なく持てるスキルの中で組み合わせられるリソース全てを突っ込んだまさに渾身の攻撃だ。

 

 

 

 

『【狂化】の効果時間は30秒!その間に削りきらねば此方が負ける・・・』

 

 

 

 

心の片隅で不安が頭をもたげる。

それはまるで流行り病のように心を侵食していく。ともすれば弱音を吐いて挫けてしまいそうになる

 

 

 

 

「是非もなし!!我ながら女々しいことこの上ないな、反吐が出る!」

 

 

 

 

 

そんな自分を笑いながらノブナが高らかに口上を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「『三千世界に屍を晒すがよい──天魔轟臨!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上高くに掲げた右手を勢いよく振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『これが魔王の三千世界《さんだんうち》じゃあ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾丸がまるで瀑布の如く降り注ぎ、世界を削り取る。

 

 

 

 

 

 

 

「─────────────っ!!!」

 

 

 

 

 

その中心で一匹の獣が天に向けて叫ぶ。

身体を余すところなく弾丸に貫かれながら、まだ動く───動けてしまう。

 

本人の意志──狂化の中で何れ程残っているかは定かではないが──とは関係なく肉体の再生は続いていく。

 

死滅と再生のサイクルの拮抗はしかし、時間と共に片方に偏り始めた。

 

スキルの影響で上がり続けるダメージに、遂に回復量が間に合わなくなってきたのだ。

 

 

見る間にHPバーが削られていく。

 

明確な『死』が近付いていく。

 

 

 

 

 

「────────くっ!」

 

 

 

 

 

HPが最後の数ミリを残す程になったとき、朱槍の切先がピクリと動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、あああああああっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは追い詰められた獣の最期の足掻きだったのか、或いは誇り高い戦士の死を賭した一撃だったのか。

 

 

 

轟音と共に朱槍が放たれた。

 

 

 

 

放たれた矢のように高速でノブナに迫る朱槍。

当たれば人体なぞ木っ端微塵となるであろう力を秘めた槍撃が過たずその華奢な胸を捉え、

 

 

 

 

 

「──悪いのう」

 

 

 

 

 

 

その切先から光となって消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・【職人泣かせ】。攻撃が命中した時、低確率で武器を破壊するスキルよ」

 

 

 

 

 

 

【職人泣かせ】

・武器以外のアイテムを使って攻撃した時のダメージ量を上げる。

・敵を攻撃した時、低確率で武器を破壊する。

 

 

 

 

 

 

 

ノブナが静かにそう語ったと同時、遂にHPバーが消滅した。

影の国の女王の身体が崩れ、光に変換されていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──セ───タ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最期に何事かを口にしてその姿が完全に消滅する。

 

 

 

 

『レベルが38に上がりました』

 

 

 

『【不死殺し】が【神殺し】に進化しました』

 

 

『失っていた金メダルを取り戻しました』

 

 

『新たに銀メダル5枚を入手しました』

 

 

『アイテム【モンスターの卵】、【神殺しの朱槍】、【影の国の女王の肩当】、【天空門の鍵】、【英雄の証】を入手しました』

 

 

 

「──は、はぁ、はぁ・・・・」

 

 

 

 

 

敵の完全消滅を確認して一気に気が抜けた。

ファンファーレが響いて何事かメッセージが表示されるが内容を確認する余裕がない。

 

手が震え視線は定まらずとても立っていられない。肺が酸素を欲しがり、息苦しい。

冷たく硬い地面の感触を背中に感じながら意識が遠退くのを感じる。

 

イベント開始直後から不眠不休でスカサハとの戦いを繰り返してきたのだ。身体が休息を欲していても当然だった。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、は、ははハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

それでも笑う。

腹の底から、高らかに、内なる衝動に身を任せて。

『ノブナ』としてでなく『飛鳥』として

 

 

 

 

 

 

「勝った!勝ったぞあのスカサハに!ハハは、ザマァ見ろ運営!」

 

 

 

 

 

 

満月輝く夜空に向けて、この世全てに響けと言わんばかりの大声で

 

 

 

 

 

 

「廃人ゲーマーナメんなコラァ!」

 

 

 

 

 

 

 

大の字に寝転がり、全身ボロボロのみすぼらしい姿ではあるが、誇らしげに夜空に向けてそう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───あ、ヤバい死ぬマジ死ぬ」

 

 

 

 

 

 

その後すぐにぶっ倒れたのは言うまでもない。

 

 

 




人気キャラになんて事を(震え声)
こうするくらいしか勝ち筋見えなかったんですすいません。
あと、色々新スキル出しましたけど『ノッブぽくない!タイトル詐欺じゃねぇか!』という方もいるかもしれません。ただ、このスキル群のおかげで後々より魔王ムーブが捗ると思うのでご了承頂けたら幸いです。

次からは本文中に入りきらなかったスキル説明です。

【パブリックエネミー】
・自身から半径1メートル以内の対象全てを状態異常になりやすくする。
・スキルを発動している間、自身にターゲット集中状態を付与。
・スキルを発動している間、他プレイヤーから受けるダメージが2倍になる。


【狂乱】
・攻撃の命中時、低確率で『狂化』状態を付与。
・『狂化』状態
状態異常扱い。この状態になった者はすべてのステータスを2倍。攻撃の威力を1.5倍、被ダメージ量を2倍になる。
・一部スキル(魔法系、予知系など)が使用出来なくなる。理性的な行動がとれなくなる(敵味方の判別、他人を庇う、逃げるなど)
効果時間30秒


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器用度極振りと第二回イベント 4

第二回イベント 三日目──

 

運営ルームにて

 

大画面に写し出された大の字に寝転がるノブナの映像を運営スタッフ達がざわつきながら眺めていた。

 

 

 

 

「おいおいおいホントに師匠に勝っちまったぞアイツ」

 

 

 

 

「予知系スキルにあんな攻略法があるなんてな・・・・というか、アイツいつの間にあんなスキル覚えてたんだよ!?」

 

 

 

 

「確かこの前ペナルティクエストに引っ掛かったらしいんでおそらくその時かと・・・」

 

 

 

 

「・・・ペナルティでまで新スキル開放されるとかもうマジムリ」

 

 

 

 

運営スタッフ達が各々項垂れる中、映像を眺めていた一人のスタッフがボソリと言う。

 

 

 

 

「・・・これ、ヤバくね?」

 

 

 

 

「確かにヤバいが、そんなにか?」

 

 

 

 

「思い出せ。ノブナには例の一斉射撃があるんだぞ?」

 

 

 

スタッフの面々の頭には前回のイベントで見た映像が思い出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────つまり今後はアレに【武器破壊】と【狂化状態付与】が足される訳だ」

 

 

 

 

 

 

『あ(察し)』

 

 

 

 

 

「──想像してみろ。集団相手に突然飛んでくる無差別範囲攻撃。それを何とかして生き残った数少ない生存者達。しかし、そこには武器を破壊された奴や、見境なく暴れまわるバーサーカー達が大量発生している光景が・・・・」

 

 

 

 

 

『───ギャアアアアっ!!』

 

 

 

 

運営ルームにスタッフ達の悲鳴が響く。

説明している本人も顔を青ざめさせ震えている。

 

 

 

 

「ヤベェよ・・・ヤベェよ・・・俺達の預かり知らぬ所でとんだ魔王が産み出されちまったよ」

 

 

 

 

 

「地獄だ・・・この世の地獄だ・・・」

 

 

 

 

 

「おい!手の空いてる奴はすぐにメダルスキルのチェック入れ直しだ!変な使い方出来そうなスキルがないか再確認するんだ!」

 

 

 

 

「了解です!!」

 

 

 

 

スクリーン前に集まっていたスタッフ達がバタバタと方々に散って仕事を再開する。そんな中、最初からいた二人のスタッフの内一人がふと思い出したように言う。

 

 

 

 

「そういや、課長どうした?初戦で師匠がノブナに勝った時小躍りしてたけど」

 

 

 

 

 

「ああ、課長ならあそこで灰になってます」

 

 

 

 

 

 

「─────────キョウオシガシンダ」

 

 

 

 

 

「か、課長ーーーーーーーーーーっ!?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

運営ルームに絶叫が響き渡ってからしばらく時間がたったイベント三日目の夕方。

 

 

【天空の門】の広場にてノブナは一人唸っていた。

 

 

 

 

「ぬぬぬぬ・・・・なかなかどうして産まれんものじゃのう。というか、温めるったってホントにこれでいいんじゃろか?」

 

 

 

 

ボロボロになった戦闘用衣装から赤Tシャツに装備を変更したノブナ。

門に背を預け、あぐらをかいて座るその懐にはラグビーボール程はありそうな巨大な卵があった。

色は無色透明で表面はラメでも塗ったかのように太陽の光を受けて微かにキラキラと光っている。

 

卵というよりは形の歪な水晶玉のようにも見える。

 

 

 

「先の戦闘の疲れもまだ回復仕切っておらんから休むついでにと温めとるがホントに産まれるんかコレ?もう数時間はやっとるんじゃが?いい加減飽き飽きしてきたんじゃが?」

 

 

 

ぶつくさ言いながらも懐で卵を温め続けるノブナ。実際何が産まれるか、産まれたモンスターは仲間になるのか否かなど興味は尽きない。

 

とは言うものの、プレイヤーはおろかモンスター一匹すらもいないこのステージ。

体を休める為という事を差し引いても、代わり映えしない景色眺めるばかりで数時間じっと座っているというのはなかなかに辛い作業だ。

 

 

 

 

「あー・・・こういう時、FGOの周回とか出来ればいいんじゃがのう。最近また骨がなくなってきとるからスケルトン狩りしときたいし・・」

 

 

 

 

特にノブナ・・・というか飛鳥は時間があったら何かしらのゲームをやっていなければ落ち着かないというワーカーホックならぬゲーマーホリック。

ゲーム内での事とはいえ、なにもせずじっとしているというのはどうにも性に合わないのだ。

 

いい加減我慢仕切れなくなってきたノブナは懐の卵をしばらくじっと見つめて

 

 

 

 

 

 

「───もういっそのこと食うか」

 

 

 

 

 

 

ボソリとそう言った。

 

途端、卵の表面にビシリと音をたてヒビが入った。

 

突然の事に驚きつつ懐から卵を取り出し、地面にそっと置くノブナ。

 

ヒビは見る間に卵全体に広がっていき、やがてパリンと割れて中から何かが姿を現した。

 

 

 

「──スライム?」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

現れたのは卵の色と同じく無色透明で不定形の生物らしきモノ。

デフォルメされた目らしきものが2つついていおり、それが此方を見てまばたきしているので生きているのはたしかななのだろう。

 

 

 

「・・・見た目は完全に色違いのはぐ◯メタルなんじゃが・・・これ大丈夫なんじゃろうか?権利的に」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

要らぬ心配をするノブナを2対の視線が見つめる。その瞳からは彼或いは彼女が何を考えているのか全く推し測れない。

これは意思疎通に苦労しそうだと思い始めた矢先、卵の殻が光輝き始めた。

 

光が収束すると、其処には指輪が転がっていた。

 

 

 

「なになに?『絆の架け橋』?・・・・なるほどこの指輪を装備する事でこのモンスターと共闘出来るようになるわけじゃな」

 

 

 

ならばと早速指輪を装備するノブナ。幸い装飾品の欄には空きがあったので直ぐに指輪を装備する。

 

すると、スライムがモコモコと蠢き始めた。

 

 

 

「うぉ!?なんじゃ気色悪!?」

 

 

突然の活発な動きに思わず後退りするノブナ。

 

スライム擬きはしばらくクネクネと形を変化させていたが、やがてゆっくりと一つの形へと落ち着いていく。

 

 

 

 

「──こ、これは───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───大きな目に大きな口

 

───黒の軍帽に戦国武将のごとき前立て

 

───黒い軍服に赤い外套、足元には黄金具足

 

───傍らには火縄銃

 

 

 

 

 

 

 

膝くらいまでの大きさの、全体的にデフォルメされたような見た目のノブナが其処にはいた。

 

 

 

 

 

戦慄し固まるノブナをちっちゃいノブナがその大きな目でじっと見た後、

 

 

 

 

 

「ノッブ!!」

 

 

 

 

 

「オッス!」とでも言うように右手?を上げた。

 

 




やっと出せたー(歓喜)
共闘モンスターの設定見たときから出すならこれしかないとずっと考えてたのでようやく出せてホントに良かった。


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器用度極振りと第二回イベント 5

イベント4日目深夜──

 

とある森林地帯にて

 

 

 

 

「行けちびノブ、【食いちぎり】!」

 

 

 

 

「ノブノッブ!!」

 

 

 

 

ノブナの指示に応え、小さいノブナ・・・『ちびノブ』は目の前の蜘蛛型モンスターに向けて何処からか取り出した刀で斬りつける。

 

振り下ろされた刀は狙い違わずモンスターの胴体に命中し、グチャリと気味の悪い音をたてて削り取る。

 

 

明らかに刀の立てる音ではない。

敵モンスターにつけた傷跡も何かに噛み千切られたようなズタズタなものだ。

 

ちびノブは刀を振り回し、執拗に攻撃を加える。

 

蓄積されたダメージに警戒したのか蜘蛛がノブナ達に背を向けてカサカサと逃げ出し始めた。

 

 

 

 

「逃がすな、【溶解液】!」

 

 

 

 

「ノッブ!」

 

 

 

 

ちびノブが取り出した火縄銃を蜘蛛に向けて引き金を引く。

銃口からは弾丸の代わりに粘性の高い液体が水弾となって飛び出した。

 

水弾が逃げる蜘蛛の背中に命中し、ジュウジュウと音をたて溶かす。

 

ピクピクと身体を蠢かす蜘蛛のHPが0になり、光となって消えていった。

 

 

 

 

『共闘モンスターのレベルが上がりました』

 

 

 

 

 

 

ちびノブ

 

 

レベル3  

 

HP 80/80

 

MP 40/40

 

 

【STR】80

 

【VIT】15

 

【AGI】15

 

【DEX】280

 

【INT】20

 

 

スキル

 

【溶解液】

【食いちぎり】

【流体操作】

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ・・・なるほど。見た目はこんなだが正体はあくまでスライム状のモンスターなんじゃのお主」

 

 

 

 

「ノ!」

 

 

 

ステータスを見ながら呟くノブナに「その通り!」という感じでビシッと指差す。

それを横目に見ながらステータスに目を戻す。

 

 

 

 

「しっかし・・・ステータスまで儂に合わせて【DEX】高めに設定せんでも良かろうに。攻撃の威力低すぎて敵倒すのにえらい時間がかかるのぅ。【AGI】もHPも低いから死にやすいし・・・アレもしかしなくてもお主、弱い?」

 

 

 

 

「ノッブァ!?」

 

 

 

 

ガーン!という効果音が付きそうな顔でショックを受けるちびノブ。

しばらく固まった後、ノブナの頭まで器用によじ登ると抗議するようにペシペシと叩く。

 

 

 

 

「ノブノッブ!ノブブ!」

 

 

 

 

「なんじゃ?その内強くなると言いたいのか?」

 

 

 

 

「ノブ!」

 

 

 

 

「とは言えのぅ・・・レベル上げばかりに時間かけすぎるのも考えものじゃし。いっそボス級モンスターにでも突っ込んでみるか?」

 

 

 

 

「ノ!?ノノノ!?」

 

 

 

 

「絶対死ぬ?そうじゃのう──生き残れなければ意味はないし。せめてお主が儂並みに動ければ良かったんじゃが」

 

 

 

 

唸りながら考え込むノブナ。

その頭の上でちびノブも腕を組み首を捻っている。

 

とは言えそんなアイデアがそうそう浮かぶ訳もなく、ノブナは何かヒントがないかとアイテム欄やステータスウインドウを開いて上から下まで眺める。

 

すると、ちびノブのステータスのとあるスキルに目が止まる。

 

 

 

 

「フム?【流体操作】・・・新しく覚えたスキルか。効果は・・・」

 

 

 

 

 

【流体操作】

・1日に一度だけ物理攻撃を無効化する事が出来る。

・自身の姿形を変化させる事が出来る。

 

 

 

 

 

何気なくスキル効果を眺めていたノブナだったがふと何か閃いたのかちびノブを見てニヤリと笑う。

 

 

 

 

「ノブ?」

 

 

 

 

その笑顔を見て、何となく嫌な予感がした気がしたちびノブであった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

森林地帯の奥──

 

 

身体能力が高い獣型モンスターと数種類の状態異常を操る昆虫型モンスターとが跋扈し、至る所から奇襲を仕掛けてくる森を抜けたその先・・・

 

 

 

何本もの大木が重なるようにして倒れ、ちょっとした広場のようになった場所の真ん中にそのモンスターはいた。

 

 

 

ライオンの頭と山羊の頭が胴体から生え、尻尾は毒蛇となっている。巨体を容易に支える強靭な肉体を持ち、吐息に混じって火炎がチロチロと漏れだしている。

 

キメラと名付けられたモンスターが此方を確認して咆哮をあげるのを見てノブナが己の頭上で大汗をかいているちびノブを見て笑う。

 

 

 

 

「フッフッフ・・・さて準備は良いか?まぁ、出来てなくとも向こうは待ってはくれんだろうがな」

 

 

 

 

「ノブ!ノブブーッ!!」

 

 

 

 

『鬼!悪魔!』という感じに涙目でビシビシとノブナの頭を叩く。

それを笑いながら受け流すノブナに向かってキメラが襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

「【単独行動】!」

 

 

 

 

突っ込んできたキメラの振り下ろされる爪を避けながらノブナが右手を横に伸ばす。

 

 

 

 

「来い、ちびノブ!【流体操作】!」

 

 

 

 

「ノブブーッ!!」

 

 

 

 

ヤケクソ気味に叫んでちびノブが掲げられた右手に向けて飛び出す。

その身体がみるみる内に形を変化させる。

 

 

細く──

 

長く──

 

光を反射して紅く輝く片刃──

 

 

ガチャンと金属質な音をたてて掌の上に収まった柄を握る。

 

 

 

 

 

一瞬の後、ちびノブの姿はすでに其処にはなく、1振の打刀がノブナの手に握られていた。

 

 

 

 

 

 

爪が避けられたのを悟ったキメラが牙をむき、ノブナの華奢な体に食らいつこうとする。

 

僅かに横に身体をずらしその攻撃を避け、擦れ違い様に手に持った刀を振り抜く。

 

 

 

 

 

「『食いちぎり』!」

 

 

 

 

『ノブ!』

 

 

 

 

刀身に触れた場所からぐじゃぐじゃとキメラの分厚い肉が食い破られていく。

 

キメラの3つの首から耳障りな悲鳴があがり、

HPバーが削れる。

 

 

 

それを確認し、思い通りの結果にノブナが笑う。

 

 

 

 

「ウハハ!どうじゃちびノブ。これならお主も安全にボス級モンスターと戦闘出来るじゃろう?」

 

 

 

 

『ノッブ~・・・』

 

 

 

 

「うん?そんなに振り回すな、目が回る?大丈夫大丈夫振ってもあとほんの数万回位じゃろ。ちびノブ強い子怖くない!」

 

 

 

 

『ノブブーっ!?』

 

 

 

 

 

深夜の森の中にキメラとちびノブの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

───数時間後

 

 

 

 

 

 

『共闘モンスターのレベルが5に上がりました』

 

 

『銀メダルを2枚獲得しました』

 

 

 

 

 

「・・・・ノ~ブ~・・・・」

 

 

 

 

「・・・・儂が悪かったからそんなに涙目で睨むでないわ・・・ホレ、キメラの焼き肉やるから」

 

 

 

 

焚き火を囲みながら小さな相棒の機嫌を直そうと四苦八苦するノブナの姿が其処にはあった。

 

 

 




ノブナ「ディス、イズ、スパールター!!」


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器用度極振りと第二回イベント 6

レイド戦でジャックとカルナをアタランテオルタで吹き飛ばす仕事が忙しかったので遅れました。


イベント五日目、昼頃──

 

キメラを倒したノブナ達は森の中でも一際巨大な樹木の枝上で夜を明かした。

暗い森とは違い、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びながらノブナがインベントリ画面を見つめながら唸っている。

 

 

 

 

 

「う~む・・・さてさてどうしたものか」

 

 

 

 

「モブァ?」

 

 

 

 

モゴモゴと口を動かしながらちびノブが首を傾げる。その手に握られているのは黄金色に輝く鎧の一部だ。ガジガジとそれにかじりつきながらご満悦である。

 

 

 

 

「・・・美味いかそれ?」

 

 

 

 

「モブ!」

 

 

 

 

「そうかそうか。レアアイテムらしいからさもありなん、と言ったところか。確か【影の国の女王の肩当】とか言ったか?儂が苦労して手に入れたんじゃから感謝して食うがよい」

 

 

 

 

「モブモブ!モブブァ!」

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず、それ全部食べてしまえ」

 

 

 

 

「モブァ!」

 

 

 

ちびノブはノブナの指示に従い、食事に戻った。

数分後には全て平らげて満足そうにお腹を擦っている。

その小さな身体がポワンと光った。

ちびノブのステータス欄を確認すれば、一部ステータスが大幅に上昇しているのが分かる。

 

 

 

 

【形質獲得】

 

・【食いちぎり】を使用して敵にダメージを与えた時、自身の【STR】を1%上昇させる。最大100%。一定時間【食いちぎり】による追加攻撃をしなかった場合、ステータスは元に戻る。

・装備アイテムを餌として与えることでその装備のスキルを一個獲得する事が出来る。餌とした装備は【破棄】扱いとなる。5レベル毎に一つスキル枠が解放される。

 

 

 

 

「得られたスキルは【無窮の武練】と・・・」

 

 

 

 

 

【無窮の武練】

・自身の最大HPを500上昇させる。

・自身の【STR】【AGI】【DEX】をそれぞれ150上昇させる。

 

 

 

 

 

「・・・めっさ強いの。てか儂、普通にお主にステータス的に抜かれとるんじゃが?」

 

 

 

 

「ノブ!」

 

 

 

 

どうだとばかりにどや顔で胸を張るちびノブ。

恨みがましげにそちらを見ていたノブナだったが1つため息をつく。

 

 

 

 

「まぁ、お主が強くなれば儂の強化にも繋がるから構わんか」

 

 

 

 

「ノッブ!」

 

 

 

 

「おう、頼りにしとるぞ。と、それよりもじゃ・・・」

 

 

 

 

ノブナは再びインベントリ画面に視線を戻す。

ちびノブもノブナの頭によじ登って画面を覗きこむ。

 

 

 

 

「儂が現在所持しとる銀メダルは計7枚。今日を含めれば残り3日であと3枚メダルを集めなくてはならん」

 

 

 

 

「ノブブ」

 

 

 

 

「地道に探索しろと言うてものう。儂のステータス的に探索するにしてもプレイヤーを襲撃するにしても時間が足りん・・・さて、どうしたものか」

 

 

 

 

「ノッブノブ!」

 

 

 

 

頭を抱えるノブナの対し、ちびノブが自信ありげに胸を張る。

まるで自分に任せろとばかりの動きだ。

 

 

 

 

「ノブノブブ!」

 

 

 

 

「なに?昨日覚えたもう1つのスキルを使わせろじゃと?」

 

 

 

 

「ノブ!」

 

 

 

 

「フム・・・まぁ、良いか。ええと確かスキル名は───【生命ある鎧】!」

 

 

 

 

ノブナがスキル名を唱えた瞬間、ちびノブの姿が崩れ元の粘液状のスライムの姿に戻る。

見る見る内にスライムがその体積を増していく。

あっという間に人一人を包み込める程の大きさになった粘液の塊がグワリとその場で1m程に伸びあがると目の前のノブナに向けてまるで押し潰そうとでもするようにその身体を倒れこませる。

 

 

 

 

 

 

「う、うおぉっ!?」

 

 

 

 

 

 

粘液の塊がノブナの小柄な身体を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

「は、は、は!」

 

 

 

 

もつれそうになる足を動かし走る。

後ろをチラリと振り替えれば巨大な大斧を振り回しながらこちらを追い掛けてくる大柄なモンスターがいた。

人の肉体に牛の頭のモンスターは口からだらしなく涎を垂れ流し、奇声をあげている。

明らかに正気ではない。

 

 

 

 

 

「あー、もうサイアクだよー!よりによってパーティーとはぐれた時にこんなのに出くわすなんてー!」

 

 

 

 

 

思わずと言ったように愚痴が漏れる。

それがいけなかったのか、足もとにあった障害物につまづいてしまった。

バランスを崩し、ゴロゴロと地面に転がる。

魔法使いらしいローブとブーツが土に汚れる。自慢の金髪もボサボサになってしまう。

 

 

倒れた身体を起こそうとしようとした時、巨大な影がさす。

 

見上げれば荒い息遣いの牛頭と目が合う。

狂気に淀んだ瞳を覗きこんだ瞬間、本能的な恐怖に体が動かなくなる。

 

意味不明な咆哮をあげてモンスターが大斧を振り上げる。

迫り来る死の予感に思わず目を閉じる。

 

 

 

 

 

1秒が過ぎ、5秒が過ぎる。

 

10秒を過ぎた辺りで恐る恐る目を開ける。

 

 

 

 

目の前には先程まで斧を振り回していた筈のモンスターが首筋を食いちぎられて死んでいた。

狂気で淀んでいた瞳は光を失い、もう二度と何を映すこともないだろう。

 

 

 

 

 

「え?なにが・・・アレ?」

 

 

 

 

 

訳がわからず戸惑う事しか出来ない。

そうこうしていると、モンスターの姿が光となって消えていく。

残ったのは一枚の銀メダル。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──はっ!探し初めてすぐにメダル一枚とは。幸先が良いとはこの事だな!」

 

 

 

 

 

 

何処からともなく声が響いたかと思えば、光の向こうから現れた人影がメダルを拾い上げた。

突然現れた人影をまじまじと観察する。

 

 

全体的に野性味に溢れる中性的な顔立ちの男だ。

ツンツンと尖った髪を頭の後ろで雑に一纏めにしている。

戦国大名のような前立てのついた軍帽の下から覗く深紅の瞳は野生の獣のような光をたたえている。

良く鍛えられ引き締まった身体を包むのは着物のようでもあり、洋服のようでもある不思議な衣装。

 

 

 

 

「───なんだ?俺に何か用か」

 

 

 

 

「あ、いや~・・・」

 

 

 

 

あまりにまじまじと見すぎたのだろう。

男が訝しげに話しかけてくる。

慌てて立ち上がると取り繕うように話し始める。

 

 

 

 

「だ、誰かは知らないけど助かったよー。流石にもう駄目かと思ってたからさー」

 

 

 

 

 

「・・・お前を助けるつもりはなかったんだがな。たまたま通りすがりに邪魔なモンスターを狩っただけなんだが」

 

 

 

 

「は、はは。そうなんだ」

 

 

 

 

男の歯に衣着せぬ物言いに口もとを若干ひきつらせながら苦笑いを浮かべる。

それはそれとして、助けられたのは事実なので素直に礼を言う。

 

 

 

 

 

「まー、とりあえず助かったよ。私、フレデリカっていうんだ。貴方の名前は?」

 

 

 

 

 

言いながら手を差し出すフレデリカ。

男はしばらく何かしらを考えている様子であったがニヤリと笑って答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は『吉法師』──『織田吉法師』だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って男はフレデリカと握手した。

 



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器用度極振りと第二回イベント 7

偶然知り合った二人は森の中を歩いている。

 

 

 

 

「つまりアレか?ダンジョンクリアしたはいいがうっかり転移トラップに引っ掛かって一人だけ別の場所に吹っ飛ばされたと・・・なんとも間の抜けた奴だ」

 

 

 

 

「間抜けー!?今、私の事間抜けって言ったー!?初対面の女性に向かって失礼過ぎない!?」

 

 

 

 

「あーはいはいすいませんでしたー」

 

 

 

 

「謝罪が雑ー!!織田君は女の子の扱いがなってなさ過ぎ!」

 

 

 

 

「・・・織田君て・・・」

 

 

 

 

フレデリカが憤慨したように言う度に金髪のポニーテールと腰に着けたポーチがポンポンと元気に弾む。

終始テンション高めな彼女に若干辟易しつつ、織田吉法師は考えを巡らせる。

 

 

 

 

 

『さて、なし崩しで一緒に行動することになったが・・・いやはやメイプルともサリーとも違う、なんというかギャル?っぽいというのか?この感じ。なんとも慣れんのう・・・苦手なタイプじゃ』

 

 

 

 

『ノブノブ!ノッブッブw』

 

 

 

 

『何言うとんのか具体的にはわからぬがとりあえず馬鹿にしとるのはわかるぞちびノブ。後で刀モードで素振り1000回じゃな』

 

 

 

 

『ノッブァ!?』

 

 

 

 

織田吉法師───ちびノブのスキル【生命ある鎧】により合体したノブナは頭の中に響く悲哀のこもった悲鳴を意に介さず、それとなくフレデリカを観察する。

 

 

金髪のポニーテールに赤い瞳。

魔法使いらしいローブ姿に腰のポーチ。

持っている杖は装飾されたきらびやかな物だ。

見た目にもかなりこだわっているだろうことがわかる出で立ちだ。

 

普段装備は見た目よりも機能面ばかりに目を向けるノブナ(別の意味で見た目に拘ってはいるが)とは相性が良いとは言い難い。

ノブナ自身もこの手の手合いには何となく苦手意識がある。

 

 

 

 

『さっさと用事を済ませて別れるとするか』

 

 

 

 

そう考えて前を行くフレデリカに声をかける。

 

 

 

 

「それはそうと、本当にこっちで良いんだろうな?そろそろ森を抜けるぞ」

 

 

 

 

「大丈夫だよー。パーティーメンバーの位置はちゃんとマップに出てるから。えっと、反応はこの先の・・・あの山の辺りだねー」

 

 

 

 

そう言ってフレデリカが指をさす。

其方を見れば、森を抜けた先には高く聳え立つ山があった。

フレデリカ曰く、あの山の辺りに彼女のパーティーメンバーがいるらしい。

 

 

 

 

「よしよし、近づいてきたね。あともうちょっとの間、私の護衛宜しく織田君」

 

 

 

 

「というか、そもそもお前なら護衛なんぞなくても1人でも行けるんじゃないのか?実力には随分と自信ありげだしな」

 

 

 

 

 

「私だけでも行けなくもないとは思うけど念には念をって奴だよー。さっきのトラップみたいな事もあるかもだしねー」

 

 

 

 

 

 

「──ま、一度引き受けた以上仕事はきっちりこなすがな。しかし、約束通り報酬は弾んで貰うぞ」

 

 

 

 

「その点は安心してもらって良いと思う。うちのパーティーメンバー、トッププレイヤーの中でもかなり強い人達ばっかりだし。お礼の1つ位は普通に用意できると思うよー」

 

 

 

 

 

「そいつは重畳。では先を急ごうか」

 

 

 

 

 

そう言って吉法師がフレデリカの背後にスッと近づくとその肩に手をおいた。

 

 

 

 

「え、え?なに?」

 

 

 

 

戸惑うフレデリカを無視してぐっと後ろに引き倒す。と同時に足を払う。

空中に浮いた身体を危なげなく抱える。

所謂1つのお姫様抱っこというやつだ。

 

フレデリカの戸惑いに揺れる赤い瞳が間近に見える。

 

 

 

 

「にゃにゃにお!?」 

 

 

 

 

「こっちの方が早い──喋るなよ舌を噛むぞ」

 

 

 

 

「ふぇ、キャア!?」

 

 

 

 

 

フレデリカを抱えたまま脚に力を込めて跳躍する。一気に加速し、トップスピードになる。周囲の風景が後ろに流れていく。

目の前に迫る木々を足場に空中へと飛び出す。

風を切り、枝を跳び移りつつ目的地を目指す。

 

普段ならば不可能な動き。

 

それを可能にしたのはやはり【生命ある鎧】の能力だった。

 

 

 

 

【生命ある鎧】

 

・1日に1回まで指輪装着者と合体する事が出来る。合体時は共闘モンスターは装備扱いとなる。合体時、装着者のステータスにこの共闘モンスターのステータス分を加算する。

 

・装着者は合体した共闘モンスターのスキルを使用する事ができる。

 

・合体時にダメージを受けた場合、そのダメージは共闘モンスターが受ける。共闘モンスターのHPが0になった時、合体状態を解除する。

 

 

 

 

このスキルにより、【DEX】のステータスも急上昇しているためこのような芸当も可能となっている。

見る間に森を抜け、ゴツゴツとした岩肌がむき出しとなった山へと風景が変わっていく。

 

一際大きな岩の上に着地した時、視界の片隅に違和感を覚えて立ち止まる。

 

 

 

「む・・・おい、あれ見てみろ」

 

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

 

 

「おい、何をぼぅっとしとる」

 

 

 

 

 

「な、なに!?」

 

 

 

 

「あれだあれ。何だと思う?」

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 

フレデリカが吉法師の指差す方向に目を向ける。山の中腹辺りの場所に豆粒程のモノがひしめき合っている。

 

 

 

「ありゃあ・・・人集りか?こんな所に?」

 

 

 

 

「確かにおかしいね・・・って、ちょっと待って!?私のパーティーの反応、あそこから出てるんだけど!?」

 

 

 

 

「──急ぐぞ。しっかり掴まっとけ!」

 

 

 

 

フレデリカの返事を待たず、跳躍する。

地面を蹴りながら移動し、スピードに乗る。

周りの景色が後ろに流れていく。

しばらく進んで目的地までもう少しというところに近づいた時、人集りの真ん中で異変が起きた。

 

 

 

「わきゃ!?何なにー!?」

 

 

 

 

人集りの真ん中で炎が上がったかと思うとそこから巨大な影が立ち上がった。

 

影の正体は人形だ。

 

木やつるで形作られた巨大な人形。

それが炎を纏いながらその巨大な腕を振り回し、周囲の人集りをなぎはらっている。

 

 

 

 

 

「──おいおいまさかそういうアレか?」

 

 

 

 

 

あまりに見覚えがあるそれに苦笑いを浮かべた後、進路を修正。巨大な人形へと向かう。

 

 

 

 

「ちょっとちょっとー!?まさかアレに近づく気ー!?」

 

 

 

 

腕の中でフレデリカが悲鳴を上げているが無視して人形へと近づく。

 

此方の動きに反応したのか人形がその大木のような腕を下から上へと振り上げる。

このまま行けば空中にいる二人を直撃するコースだ。当たれば即死は免れないだろう。

迫り来る腕が豪と空気を切り裂く音がする。

フレデリカが恐怖に目を瞑る。

 

 

 

 

 

「──【秘密兵器】」

 

 

 

 

 

それを横目に確認してボソリとスキルを発動。

現れた火縄銃を足場に更に跳躍。

巨大な腕の一撃を掻い潜り、その肩へと着地する。

 

 

 

 

「──ほう、やるじゃねえか兄ちゃん」

 

 

 

 

 

一息ついた所へ声がかけられる。

声のした方に目を向ければ魔法使い風の青いローブに身を包み、特徴的な杖を肩に背負った男が現れた。顔はフードで隠されている為、確認することが出来なかったが吉法師はため息をつく。

 

 

 

 

 

「やはり貴様か。クーフーリン」

 

 

 

 

 

「うん?俺を知ってんのかい」

 

 

 

 

「まぁな・・・この辺りにこいつの仲間がいるはずなんだが何か知らんか?」

 

 

 

 

 

腕の中で魂が抜けたようにぐったりしているフレデリカを示して聞く。

 

 

 

 

「ああ、もしかしてコイツらの事か?」

 

 

 

 

言ってクーフーリンが後ろを指差す。

後ろには三人の男性プレイヤーがぐったりしていた。

 

一人は金髪青目。細身だが筋肉質な体。

装備は白で統一された武具。物語に出てくる聖騎士のようだ。

 

 

一人は茶色の短髪、黄土色の目。

先程の男に比べかなりゴツい。

装備は性能重視の大斧と控えめな装飾が施された銅色の鎧。いかにもな重戦士という感じだ。

 

そしてもう一人は・・・

 

 

 

 

「──ドレッド」

 

 

 

 

「何だ、ソイツと何か因縁でもあったか?だがまぁ、今はひとまず矛は納めときな。この状況を打破する方が先だと思うぜ」

 

 

 

 

「───それもそうさな。とっ!?」

 

 

 

 

「ちょっとー!グレイグ、ドレッドはともかくペインまでー!何があったのー!?」

 

 

 

腕の中から飛び出したフレデリカが三人に近づいてガクガクとその身体を揺さぶる。

しかし、三人とも反応が薄い。

目の焦点が定まっておらず、虚空を見つめている。明らかに正気ではない。

 

 

 

 

「フム。三人とも前回イベントの10位以内のプレイヤー・・・ペインに至ってはこのゲームの頂点ではないか。これほどの実力者が揃いも揃ってこの様とは何があった?」

 

 

 

 

「アイツに魅いられちまってんのさ。対策を取らないでマトモに食らえば男である限りこうなる事は避けられねぇ。ま、相性の問題だな」

 

 

 

 

「アイツ?」

 

 

 

 

「おうよ」

 

 

 

 

言ってクーフーリンがその赤い瞳を下に向ける。

その視線を追って、人の波の向こうへと目を向ける。

 

 

 

 

数多の人の向こう・・・小高い岩の上にその人物は悠然と立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「其はただひたすらに清楚に淫蕩を好み、無垢に悪辣を成す」

 

 

 

 

 

 

 

 

白を基調とした衣装をまとう少女だ。

桃色の腰まである髪を風に靡かせ、鞭を手に傲岸に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大地を駆るは人を統べる王権、人を虐げる鋼鉄、人を震わす恐怖を示す二頭立てのチャリオット」

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の横には華奢なその身に見合わぬ武骨な戦車。

二頭の鎧を纏った大型の牛が荒い息を吐き、地をかく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生前、数多くの王や勇士と結んだ全ての男の恋人にして生まれついての支配者」

 

 

 

 

 

 

 

少女が笑ってすいと人差し指を伸ばす。

その白魚の如き指先から流れ落ちた血が地面を濡らす。

途端に地面が盛り上がり、瞬く間に人の形を取る。

現れたのは名も無き兵士。

槍と鎧を携えた其は1つ頭を垂れた後、群衆へと加わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その真名、『女王メイヴ』。アルスター伝説にその名を刻むコノートの女王だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピロリン!

 

 

 

 

『クエストが発生しました』

 

 

 

 

『クエスト名【女王の軍勢】』

 

 

 

 

 

発生したシステム音が寒々しくその場に響いた。

 



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器用度極振りと第二回イベント 8

遂にお気に入り登録が1000を超えました。誠にありがとうございます。
最近、仕事だったりオリュンポスだったりで更新が遅くなってしまってますが出来たら今後もよろしくお願いいたします。


「ムリムリムリムリ絶対無理!!」

 

 

 

 

クエスト名がウインドウで表示されたのを確認したフレデリカが頭をブンブンと横に振りながら断言する。

 

 

 

 

「つまりあの下の奴全部敵って事でしょ!?あんな数の雑魚敵に囲まれながらボス戦なんて勝てる訳ないじゃーん!!」

 

 

 

 

「ま、一理ある。その辺りどうなんだ?」

 

 

 

 

「あー、言葉が足りなかったな。厳密に言えばメイヴの奴を倒す必要はねぇよ。ただちょいと奪われた物を取り戻す手伝いをしてくれりゃあ良い」

 

 

 

 

言ってクーフーリンが杖でメイヴのいる方向を指し示す。

その先には1人佇むメイヴ──その横の地面に突き立っている一本の朱槍があった。

禍々しい赤黒いオーラを纏う明らかに普通ではない雰囲気を放っている。

 

吉法師ことノブナは一目で気づく。

アレはスカサハ戦で見た朱槍と同質の物だと─

 

 

───すなわち魔槍『ゲイ・ボルグ』

 

クーフーリンの代名詞であり、彼がスカサハから受け取った呪いの朱槍である。

 

 

 

 

 

「何としてもアレを取り戻さなきゃならんのだが・・・情けねぇ話だが、今の俺1人じゃアレを取り戻せない。悪いがちょいと手伝ってくれねぇか?無論、成功した暁にはそれなりの礼はするぜ」

 

 

 

 

「フム・・・」

 

 

 

 

「ちょっとまさかこのミッションやるつもり?」

 

 

 

 

「お前はやらないのか?」

 

 

 

 

「あったり前でしょー!こんなの逃げるが勝ちでしょ」

 

 

 

 

「逃げる、なぁ・・・この軍勢の真ん中から?行動不能な男三人を担いで?」

 

 

 

 

「うぐぐ・・・」

 

 

 

悔しげに唸るフレデリカ。

しばらくそうした後、諦めたように項垂れている。

 

 

 

 

「・・・わかった。手伝う、手伝えばいいんでしょー!」

 

 

 

 

「よっしゃ!ならまずは雑魚の数を減らすとしようか!」

 

 

 

クーフーリンが掲げた杖を振るうと足元が揺れ始める。

足場にしていた植物の枝葉で構成された巨人が動き始めたのだ。

突然の事にバランスを崩しかけたフレデリカを吉法師が後ろから支える。奇しくも抱き締められるような形になりフレデリカが顔を真っ赤にしたが吉法師は全く気にしていない。

 

 

 

巨人が一歩大地を踏み締める。

 

 

それだけで周囲にいた名も無き兵士達がダメージエフェクトと共に弾け飛ぶ。

 

象が蟻を踏み潰すかのような一方的な蹂躙劇だ。

 

巨人の肩の上でその様子を観戦していたフレデリカが感心したように呟く。

 

 

 

 

「ヤバ・・・これ、思ったより簡単に倒せちゃうかも?」

 

 

 

「───いや、そう甘くもなさそうだぞ?」

 

 

 

 

 

吉法師の視線の先──

 

 

 

 

 

「流石はアルスターの大英雄クーフーリン!魔術師になっても容赦ないのは変わらないのね!そういうところも好きよ?──だ・け・ど・・・そのまま暴れ続けるのはちょっといただけないかな」

 

 

 

 

 

部下が蹂躙されていくのを眺めながら尚も変わらず余裕の笑顔を浮かべ続けるメイヴがその右手を天に掲げる。

 

 

その右手に虹色の閃光が迸る。

やがて光が収束した時、その手には長大な両手剣が握られていた。

 

 

 

 

 

──否

 

 

 

 

はたして「ソレ」を剣と呼んで良いのか。

 

 

 

 

本来刃が存在する部分には巨大な掘削用工具───有り体に言えば「ドリル」が付いていた。

 

メイヴがその柄を愛しそうに撫でると、ドリルが回転を始めた。

見る間に回転はその速さを増し、周囲の空気を巻き込みながら虹色の閃光を纏わせる。

 

 

 

 

 

「・・・やっべ。おい、アンタら死にたくなけりゃ今すぐ飛び降りな!」

 

 

 

 

「ナニアレナニアレナニアレー!?」

 

 

 

 

「わからん!・・・わからんがとりあえず、ロクなもんじゃなさそうだ!」

 

 

 

 

 

 

「【愛しき人の虹霓剣《フェルグス・マイ・ラブ》】───えいっ!」

 

 

 

 

 

 

可愛らしい掛け声と共に振り下ろされる剣(ドリル)。

 

刀身から放たれた虹色の剣光が戦場を鮮やかに照らし出す。

光の奔流が荒れ狂う竜巻の如く渦を巻きながら射線上に存在するモノ悉くを呑み込み、破砕しながら進撃する。

 

一行(フレデリカは吉法師に抱えられて、意識不明の男三人はクーフーリンが引きずっていった)が飛び降りた直後、巨人の肩から上が光に呑まれ消滅した。

 

 

 

消滅の危機を間一髪回避し、全員が無事地面に着地した。

が、その周りを何百何千という数の兵士達が取り囲んだ。

 

周囲から一斉に集まる視線。

殺意に溢れたソレが突き刺さる。

現実では勿論、ゲーム内でもそうはない経験に肌が粟立つ感覚がする。

 

 

 

 

「さて、どうするお二人さん?今の攻防でそれなりに数は減ったが時間が経てばすぐに補充されちまうだろうぜ」

 

 

 

 

「厄介極まりないな。だがまぁ、是非も無し!こうなればやり合いつつ、隙を見つけて槍を奪取するしかあるまい!俺は前衛で暴れるから後方支援は任せた!」

 

 

 

「わ、わかった!サポートは得意だよー!」

 

 

 

 

意識不明の男達を中心に、三人がそれぞれ武器を構えたのを合図に兵士達が一斉に襲いかかってきた。

 

 

無尽蔵の敵にたった三人で挑む闘いの戦端が今開かれた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「【多重炎弾】!」

 

 

 

フレデリカの周囲に発生した魔法陣から発射された多数の炎の弾丸が迫り来る敵を焼き滅ぼす。

自身のMP残量を気にしつつ、囲むようにせまって来ようとした敵陣から距離を取り再び魔法を放つ。

 

 

 

「【多重水弾】!」

 

 

 

今度は水の弾丸が放たれ、敵を弾き飛ばした。

敵陣に出来た穴を利用し、更に距離を取る。

 

 

多彩な魔法と優秀なMP回復能力、そして【多重詠唱】のスキルを駆使して攻防支援をこなす戦闘スタイルがフレデリカの持ち味だ。

突発的に巻き込まれた戦闘であるとはいえ、その技の冴えは衰えていない。

 

 

次々繰り出される多彩な魔法に攻めあぐねる兵士達。

其処に追い討ちをかけるように扇状に放たれた炎の弾幕が広範囲の兵士達を灰へと還す。

 

 

 

「我が師スカサハより学んだルーン魔術、その真髄って奴を・・・」

 

 

 

 

言いながらクーフーリンが指で空中に文字を描く。即座に効果を発揮したルーンが炎の柱となって敵陣を焼く。

 

 

 

 

「そこっ、【多重石弾】!」

 

 

 

 

敵陣にわずかに空いた穴にフレデリカが放った石の弾幕が突き刺さり、更にその穴を広げる。

 

人1人が入り込める隙間が開かれたそこに、人影が入り込む。

 

 

 

 

 

「──【食いちぎり】」

 

 

 

 

人影──吉法師が敵陣の真ん中で縦横無尽に刀を振るう。

兵士の頭が、腕が、胴体が、巨大な獣の顎にやられたかのように千切られる。

仲間の死に怯まず襲い掛かってくる兵士の頭を突然現れた火縄銃が撃ち抜く。

兵士の頭が爆散し、その中身を周囲に撒き散らす。

 

 

 

 

「ふぅむ・・・身長差やらリーチやら、やはりまだ馴れんの・・・も少し動いとればどうにかなるか?」

 

 

 

 

ボソリと呟いた吉法師に向けて更に押し寄せてくる敵。即座に空中に出現させた火縄銃で敵を撃ち抜きつつ、近づいてきたものには刀による一撃で削り殺す。

 

 

変化してから初めての本格的な戦闘に、自身の立ち回りをチェックしながら槍に向けての進撃ルートを開拓していく。

 

 

 

 

「──なにあれおかしい」

 

 

 

 

「ハッ!なかなかやるじゃねぇか!」

 

 

 

 

吉法師の戦闘を見ながら、ドン引きするフレデリカと面白いものを見たと笑うクーフーリン。

 

敵陣の只中を意識不明の三人を引きずりながら、ゆっくりとだが、着実に突き進んでいく一行の元にギャリギャリと地面を削る騒音が聞こえてきた。

騒音の方に視線を向ければ、無数の雑魚の中を行く土煙が見えた。

 

 

 

 

 

「ボスの攻撃来たよー!1時の方向!」

 

 

 

 

「兄ちゃん!アンタは奴のスキルと戦車での攻撃には絶対当たるなよ!あの三人組の二の舞になんぞ!」

 

 

 

 

「そいつはゾッとしないな」

 

 

 

 

 

 

軽口を叩きつつそれぞれ油断なく身構える。

グラグラと地面が揺れ、土煙が目の前にまで迫ってきた。

やがて、名も無き兵士達の陣形を弾き飛ばしながら屈強な牛の牽く二頭立ての戦車が吶喊してきた。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、大人しく私にひれ伏しなさい!!──【愛しき私の鉄戦車《チャリオット・マイ・ラブ》】!」

 

 

 

 

 

 

「俺狙いか──ふっ!!」

 

 

 

 

 

横っ跳びに回避し戦車の突進を回避する。

回避直後に刀による攻撃を加えようとするも戦車はあっという間に横を通過していく。火縄銃による射撃も凄まじいスピードで移動し続ける戦車にはなかなか命中しない。

 

 

 

 

 

「──チッ!あれだけ動き回られたら当たらんぞ」

 

 

 

 

「大回りしてる!また突っ込んでくるよー!」

 

 

 

 

ギャリギャリと地面を削る音が一旦遠ざかり、近づいてくる。

再び突進してきた戦車を避ける。

しかし、戦車はまたもや突進の軌道を描いて走っている。

いずれまた突っ込んでくるつもりなのだろう。

 

 

 

 

「まだ来るのー!?もう、いつまで続くのこの攻撃!」

 

 

 

 

「あー・・・こりゃあれだな。ダメージ与えるまで走り続けるみたいなヤツ」

 

 

 

 

「時々あるボス戦用ステージギミックみたいなアレ?めんどくさいなーもう!」

 

 

 

 

「ともあれお前とクーフーリンの魔法なら当たりそうだな、範囲広いし。幸い俺を狙って攻撃を繰り返してくるから近づいてきた時を狙って撃ち込んでくれ!」

 

 

 

「了解ー!」

 

 

 

「任せな!」

 

 

 

話している間に三度近づいてきた戦車。

狙いはやはり吉法師だ。

土煙を上げて突っ込んでくる戦車をギリギリまで引き付け、衝突寸前で横っ跳びに避ける。

 

 

 

「【多重炎弾】!」

 

 

 

「アンサズ!」

 

 

 

直後二人の放った魔法による範囲攻撃が戦車の横腹を直撃する。

戦車を牽引する二頭の牛が悲鳴を上げて怯み、動きを止めた。

戦車の赤いカーテンが開かれ、中から不満そうな表情を浮かべたメイヴが姿を現す。

 

 

 

 

「動きが止まれば此方のものよ!」

 

 

 

 

メイヴに向けて刀を振りかざし斬りかかる。

 

 

 

「駄目だ!近付くな!」

 

 

 

クーフーリンの鋭い声が響く。

其方に反応する間も無くメイヴが妖艶な微笑みを浮かべた。それこそがスキル発動の合図。

 

 

 

 

 

「──【愛しき私の蜂蜜酒《マイ・レッド・ミード》】」

 

 

 

 

 

瞬間、むせかえる程に甘ったるい匂いが漏れだす。メイヴが何処からか取り出した杯に黄金色の液体が注がれる。

満たされた杯をメイヴが微笑みながら差し出す。

 

 

 

 

「さぁ、どうぞ」

 

 

 

 

差し出された杯に満たされたのは黄金色の蜂蜜酒。アルスター伝説にて数々の勇士を魅了したという伝説を有する神話時代の代物だ。

 

 

 

 

 

【愛しき私の蜂蜜酒《マイ・レッド・ミード》】

 

・自身から半径1m以内に存在する対象を選択して発動する。

・このスキルの対象になった者が男性であった場合、【VIT】値の半分での判定を行いその数値が一定値以下であれば【魅了】状態を付与する。

・一定時間、対象の【VIT】の値を20%低下させる。

 

 

 

【魅了】

 

・状態異常

・効果時間30秒。

・一定時間行動不能となる。

 

 

 

 

男であるならば一度食らえば抜け出せぬ、強力なスキルである。

 

 

 

 

 

 

───「男」であるならば、だが。

 

 

 

 

 

 

 

「───ふっ!」

 

 

 

 

 

「キャアっ!?」

 

 

 

 

 

吉法師の刀がメイヴの杯を切り裂く。

斜めの切り落とされた杯から蜂蜜酒が溢れ落ち、消滅していった。

 

更に一歩踏込み帰す刀で下から上へと袈裟斬りに斬りかかったが、途中で取り出された鞭で受け止められた。

 

ギリギリと至近距離でにらみ合う。

 

 

 

 

「貴方──なんで私のスキルが効かないのよ!?」

 

 

 

「教えると思うか?」

 

 

 

「──っ!!」

 

 

 

 

メイヴの表情が不快げに歪められる。

鞭で刀を振り払うと、見た目とは裏腹に鋭い回し蹴りを放つ。

吉法師は落ち着いて後ろに跳躍することで距離を取り、放たれた回し蹴りを避ける。

 

 

 

 

「おっと!──ずいぶんと足癖が悪い女王様だな」

 

 

 

 

「───面白い・・・貴方、面白いわ」

 

 

 

 

戦車上で鞭をギリギリと音が出るまで折り曲げながらメイヴの顔に暗い笑顔が浮かぶ。

 

己の中の嗜虐心を隠しもせず表した攻撃的な、獲物を前にした肉食獣の如き笑顔だ。

 

振るった鞭が牛を打ち、再び戦車が疾走を始める。

 

 

 

「私に落ちない男なんて久しぶり!いいわ、そういうのも好きよ!そういう男を征服し屈服させ組敷くのは至上の悦び!」

 

 

 

 

搭乗者の意思をくんだように戦車のスピードが更に上がる。

前に立ち塞がるモノ全てを蹂躙しながら突き進む。

 

 

 

 

「さぁ、存分にいたぶりなぶり支配してあげる!──【愛しき私の鉄戦車《チャリオット・マイ・ラブ》】!!」

 

 

 

 



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器用度極振りと第二回イベント 9

お久しぶりでございます(土下座)

待ってる方いらっしゃるかはわかりませんがリアルと相談してやれるだけやっていきたいと思います。どうなるかは正直わかりませんが。



──思えば初めて会った時から妙な男だった。

 

 

 

 

 

初めて会ったのは森の中。

敵に襲われあわやという場面で突然現れ助けてくれた。

不敵に笑って此方を見下ろす姿は物語に出てくるヒーローのようで・・・・

 

仲間との合流目指して移動していた時。

口を開けば飛び出る歯に衣着せぬ発言に、デリカシーのない言葉、粗野な態度で散々に貶してきた。

隣を歩いて此方を馬鹿にしてくる姿は意地の悪い男子高校生のようで・・・・

 

仲間との再開も早々に突然発生したクエストに巻き込まれた時。

巨人の動きについていけずバランスを崩した所を支えてくれた。

近くで見た敵陣を見つめる真剣な横顔は歴戦の戦士のようで・・・・

 

敵に囲まれ仲間を庇いながら戦っていた時。

兵士の波の中に飛び込んで刀と銃で縦横無尽に暴れていた。

名も知らぬ兵士を切り刻みながら嗤っていた顔は獲物を狩る獣のようで・・・・

 

 

──その時々で受ける印象が様変わりする。

 

 

分かりやすいようで複雑怪奇。

曖昧模糊にして明々白々。

 

 

今までこんな妙な男に会ったことがない。

 

 

知り合ってから此方、振り回されてばかりだ。

 

 

 

 

──ただ

 

 

 

 

 

 

 

不思議と不快ではない。

 

 

 

 

──いや、むしろその自由さ、奔放さに振り回されるのはどこか心地よくすら感じて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「おい!大丈夫か嬢ちゃん!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

顔を軽く叩かれる感触で意識が覚醒する。

目の前には横になった地面に、頬には冷たく硬い土の感触。

ガバッと音を立てて起き上がると此方を覗きこんでいたクーフーリンと目があった。

彼は此方が起き上がったのを見て安堵したように微笑んだ。

 

 

 

「おう、意識が戻って何よりだ。身体の方は大事ないか?」

 

 

 

「ああ、うん。大丈夫・・・あれ?私、なんで・・・」

 

 

 

「嬢ちゃんはあいつの戦車の余波に当てられて──っと、悪いが説明は後だ!チッ・・・また来やがった!」

 

 

 

 

舌打ちをしてクーフーリンが立ち上がる。

それと共に地面が揺れ辺りに響く地響きが強くなってゆく。

何かが近づいてくる。

 

咄嗟に傍らに落ちていた杖を掴んで走り出せたのはトップランクプレイヤーの一人たる所以か。

 

走り出して数秒後、背後を凄まじいスピードの何かが走り抜けていった。

押し出された空気と蹴りあげられた石ころが猛烈な勢いの風と礫となってフレデリカの身体を襲う。風圧に飛ばされ礫が当たり転げながらも起き上がり通り過ぎていったものを見る。

 

 

女王の駆る二頭立ての戦車だ。

自分たちが幾たびの攻撃を浴びせた為か戦車の所々が焼け焦げ、傷つき、牽引する二頭の牛も鎧の隙間から荒い呼吸が漏れ、激しく出血してはいる。

しかし、それでも尚戦車は走るスピードを緩めない。

むしろ先程までの疾走が児戯であったと感じる程に速度が上昇している。

戦車に引かれた赤いカーテンがはためく、その向こうから声が響く。

 

 

 

「私のグッドルッキングスレイブ達!猛りなさい、貪りなさい!」

 

 

 

『うおおっ!!メイヴちゃん最高ーっ!!』

 

 

 

 

メイヴの声が届く範囲内にいた取り巻き達が雄叫びを上げる。

一斉にエフェクトが発生し、攻撃力が上昇するバフが付与され、更に目の前の敵が見る間に数を増やしていく。

メイヴのスキルの効果だ。

 

 

 

 

【女王のカリスマ】

女王としての絶対的なカリスマ性を表すスキル。

 

・効果範囲半径30m

 

・範囲内の味方の【STR】【DEX】を10%アップし【VIT】【INT】を10%ダウンさせる。

 

・このスキルの対象が男性だった場合更に【STR】【DEX】が10%アップし【VIT】【INT】を10%ダウンさせる。

 

・このスキルの効果を受けた対象を自身の半径20m以内の任意の場所に【AGI】の数値を無視して瞬時に移動させることができる。

 

 

 

 

獣の如くギラギラと目を光らせながら、取り巻き達がじりじりと包囲を狭めてくる。

 

そうだった。先ほど不意を突かれたのもこのスキルで突然取り囲まれたのに焦り、戦車の突進を完全には回避しきることが出来なかったためだった。

 

 

 

「く・・・・回復・・・からの、【範囲炎弾】!」

 

 

 

にじり寄ってくる軍団に向けて魔法を放つ。

複数に分かたれた火の弾丸が着弾し、爆発に巻き込まれた敵を幾人も吹き飛ばす。

 

が、隣で爆発が起きようが味方が吹き飛ばされようが目もくれず歩みを止めない。

もとから統制された動きであったが、今やロボットのような正確な動きだ。

 

 

 

 

「──ホントの軍隊みたいな動き。『連携』や『統率』系のスキルと味方へのバフが合わさった複合スキルってとこかな?」

 

 

 

 

厄介極まりない。

スキルの効果か敵の耐久力が紙なので攻撃一発で不幸中の幸いだが、数が数だ。MPの最大量に自信はあるが無限にある訳ではない。このままではジリ貧だ。

 

歯噛みしながら続けて魔法を放つ。しかし結果は先ほどまでと同じ。暖簾に腕押しとはこのことだ。

 

と、顔をしかめるフレデリカの隣にすっと人影が立つ。──クーフーリンだ。

ドサドサと音を立てながら背負っていた未だ意識が戻らない三人組を地面に落とした。

こんな状況だが戦闘不能の仲間を守ってくれていたようだ。顔に似合わず意外と律儀な男なのだなと少々失礼なことを思ってしまう。

 

 

 

「・・・ありがと。仲間守ってくれて」

 

 

 

「ん?気にすんな。元々こっちの事情に巻き込んじちまったんだからな。これくらいはするさ・・・しっかしまぁ」

 

 

 

言う間に自分たちの周囲を包囲した敵の壁を見回しながら、クーフーリンは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「・・・いやはやどうやらメイヴの奴、本気で俺達を磨り潰すつもりのようだぜ?・・・まったく相も変わらずおっかない女だ」

 

 

 

「笑ってる場合じゃないでしょうがー!!どうすんのさこの状況ー!」

 

 

 

「今はとりあえず耐えるんだな!俺達が雑魚を惹き付けてりゃその分アイツがちったぁ動きやすくなるだろ!」

 

 

 

 

クーフーリンが杖で指し示した先に視線を向ければ雲霞の如き大群の所々で爆発と共に人が吹き飛んでいる。

爆発は徐々にではあるが目標である朱槍へと近づきつつあった───

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

近づく者全てを殲滅しながら只前へと突き進む。

 

眼前へ迫る肉の壁に向けて扇状に射撃。スキルで攻撃力の上がった赤黒いオーラを纏った弾丸が射出されダメージエフェクトが発生し、直撃した敵だけでなくかすった程度の敵ですらも文字通りに爆散させる。

 

しかし数が数。周囲には未だ数え切れないほどの人の波。

中にはこちらの攻撃を掻い潜り、或いは味方の身体を盾にして襲いかかってくる者もいる。

 

 

 

「【食いちぎり】!」

 

 

 

近づいてきた者へと刀を振るう。赤黒いオーラを放ち、横薙ぎに振るった刀身が敵の上半分を削り取る。残った下半身もビシビシとひび割れ、破砕音共に砕け散った。

 

敵を屠ったことで更に一段階、赤黒いオーラが強まる。端から見れば彼の身体全体が赤黒いオーラと雷撃を纏っているように見えていることだろう。

スキル効果が発動した証だ。

数多の敵を屠り続けた今、吉法師の攻撃力は今までにないほどに上昇していた。

その威力は周囲に群れる雑魚程度ならば一撃で葬れる程だ。

 

圧倒的な迄の力を縦横無尽に振るい続け、前進する。

 

やがて無限に思えた敵の壁が突然途切れる。

顔を上げれば三メートル程前方の地面に突き刺さる朱槍が見えた。

ようやく敵の包囲網を抜けたのだ。

 

そう理解したと同時、走り出し朱槍に向けて手を伸ばす。

 

 

 

──後2メートル・・・

 

 

 

──後1メートル・・・

 

 

 

──後50センチ・・・!

 

 

 

吉法師の指が今まさに槍へと届こうとした、その瞬間。

 

視界の隅で虹色の閃光が煌めいた。

 

咄嗟に伸ばした腕を引っ込める。

虹色の光が斬撃となって飛来し、今まさに腕のあった場所を通り過ぎていった。

気付かずに槍に手を伸ばし続けていれば腕以外も無事では済まされなかったであろう威力の一撃だ。

 

 

 

 

「私を無視してまでそんな槍にご執心だなんて良い度胸してるじゃない!手癖の悪い子にはお仕置きが必要よ、ね!!」

 

 

 

戦車の上からメイヴが手にもったドリル状の刃が特徴的な大剣を振るう。

その度虹色の閃光が飛ぶ斬撃となって飛来する。

 

 

 

「──ちっ!」

 

 

 

舌打ちをして後ろに下がる。距離を取りつつ射撃を試みるも戦車は既に走り出し、数発が掠める程度で射程距離外へと去ってしまう。

更に戦車へと意識を持っていかれた数秒の内に目的の朱槍との間に幾重にも重なる肉の壁が形成されてしまっている。

尋常ではない連携。まるで一個の巨大な生き物を相手取っているかのような錯覚すら覚えてしまう。

先程のようなメイヴからの妨害があることも鑑みれば、これを突破して朱槍の元に行こうとするのは流石に無謀というものだろう。

 

 

 

「・・・・一気に槍を奪っちまえばと思ったが、そう簡単にはいかんわな・・・あ~面倒くさい事この上ないのう!」

 

 

 

『ノブブ・・・・ノッブノッブ!!』

 

 

 

「ぬ?何じゃちびノブ?フム・・・いつも通り『三千世界』で吹き飛ばせば良いのでは・・・と?」

 

 

 

『ノブ!』

 

 

 

声だけだが容易にちびノブのドヤ顔が脳内にイメージできる。

確かにいつもならば対多数戦闘は吉法師にとっては独壇場である。

しかし、だ。

 

 

 

「・・・・無理じゃな。今回の戦闘で『三千世界』は切れぬ」

 

 

 

『ノブブぁ!?』

 

 

 

『なんで!?』とばかりの抗議の声が脳内に響く。

それに思わず顔を顰めながら吉法師が言葉を紡ぐ。

 

 

 

「儂もそうしたいのは山々なんじゃがのう・・・先日の影の国の女王との闘いで念のための予備用も含めて結構な数の『タネガシマ』を酷使したじゃろ?これ以上『三千世界』みたいな派手な技に使って耐久限界超えてぶっ壊れました~というのは避けたいんじゃよな」

 

 

 

『ノブブ!ノブ!』

 

 

 

「『物はいつかは壊れるものだ』と?・・・・一応言っとくが『タネガシマ』が全部使い物にならんくなるような事態が起きた時は修理が終わるまでの間、お主を武器として四六時中ぶん回すということになるんだが?」

 

 

 

『ノノノノノブァ!』

 

 

 

「自分に被害が及ぶとなると途端に手のひら返しとは現金な奴じゃのう・・・とはいえこの状況を打開できるようなスキルなんて他にあったかのう」

 

 

 

油断なく周囲に目を光らせながら、自身のステータス画面を開きザッと目を通していく。

 

ずらずらと並んだ文字を流し読みしていた視線が一点で止まった。

 

 

 

「ム・・・ムムムム?・・・・・あれ?・・・・あれれ~?おっかしいぞぉ?」

 

 

 

『・・・・・ノッブぁ?』

 

 

 

表情をなくして明らかな棒読みで言葉を吐く主人に疑問の声を上げるちびノブ。

その声を無視してしばし難しい顔で黙考する吉法師。

 

しばらくそうしていたかと思えば突然目的であるはずの朱槍へと背を向けて跳躍する。

 

 

 

「あら?私をその気にさせておいて今更逃げる気?させないわ!囲みなさい!」

 

 

 

『うおぉぉぉぉ!メイヴちゃん最高ぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

 

メイヴの号令一声で目を血走らせ、獣のような咆哮を上げた男たちが殺到する。

しかし、器用に敵の間を潜り抜けて行き、向かうのはフレデリカたちのいる場所だ。

 

 

 

「仲間に助けを求めようという訳?それくらいでどうにか出来るとは思えないけど・・・まぁいいわ。仲間ごと一気にひき潰してあげる!」

 

 

 

遠ざかる吉法師の背を追い、二頭立ての戦車が途上にいる自らのしもべを弾き飛ばし、或いは蹂躙しながら突き進む。

 

後ろから迫る車輪の轟音を無視して二人の元へとひた走り、遂に囲いの中心部へ跳躍。砂煙を上げて降り立った。

完全に包囲されていた二人は突然近くに着地した吉法師を驚愕の表情で迎えた。

 

 

 

「な、何してんの!?アンタがここに戻ってきたら私たちがここで頑張ってる意味ないじゃん!なんか敵のボスまで引き連れてきてるsムガガガ!?」

 

 

 

顔を真っ赤にして詰め寄ってくるフレデリカの口を手でふさいで黙らせ、吉法師はクーフーリンへと視線を向ける。

 

 

 

 

「・・・あ~クーフーリンさんよ。一つ確認なんだが・・・アンタが取り戻したがってるのはゲイボルク・・・・【神殺しの朱槍】でいいんだよな?」

 

 

 

「あ、ああ・・・そうだが?」

 

 

 

「・・・・・あ~、うん、ソウデスヨネ~」

 

 

 

なんとも気まずそうな吉法師にさらに困惑しつつも肯定するクーフーリン。

それでもなお煮え切らないようにもじもじしている吉法師に少し苛立ったように言葉を返す。

 

 

 

「さっきから何なんだ一体?言いたいことがあるんならハッキリ言いな」

 

 

 

「・・・・・ちょい手ぇ出してみ」

 

 

 

「ん?・・・こうか?」

 

 

 

疑問符を浮かべながら差し出された右手の上に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン・・・と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金属質な音をたてて1m程の長さの物体・・・遠く離れた場所に今も刺さっているはずの朱槍が乗せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間の抜けた顔をしたクーフーリンとフレデリカの視線が手元の槍に注がれ、次いで先ほどまで目指していた朱槍が刺さっている場所へ目を移す。

 

そこに今も日の光を反射して光る槍が刺さったままなのを確認した後、視線を一度手元の槍に戻し、最後にとても気まずそうに明後日の方角へ顔をそらした吉法師へと向ける。

 

 

 

「・・・・・・・さっきステータス画面開いたら、なんかそれっぽいのあって・・・・そういやちょっと前にそんなの手に入れてたなって思い出して・・・・いや、その時ちょっと色々あって死にかけてたからなんも考えず放り込んでて忘れてたっていうか・・・・・・」

 

 

 

などと吉法師が言い訳がましく何事かをぶつぶつと宣っている間に変化が起きた。

槍を握っていたクーフーリンの全身が光に包まれたのだ。

強烈な閃光はしかしすぐに納まり、再び視線を向ければその様相は一変していた。

 

 

身を包んでいた魔術師然としたローブは消え去り、代わりに全身を包むのは身体に密着するように作られた青のボディスーツ。

 

持っていた杖も消滅し、握られているのは一振りの朱色の槍。

 

スーツと同じ青色に染まり逆立つ髪と野性味あふれた深紅の瞳が特徴的な男

 

 

 

 

大英雄クーフーリンの姿がそこにはあった――――――――――なんとも不本意そうに顔を顰めていはしたが・・・

 

 

 

「・・・・・正直、言いたいことは山ほどあるが・・・・とりあえず今はこの場を何とかするとすっか」

 

 

 

深い深いため息を一つ吐いた後、手にした槍をくるりと回し、低い姿勢で構える。

その様は獲物に飛び掛かる直前の肉食獣を思わせる。

その紅い瞳が見据えるは今まさにこちらへと迫りくる二頭立ての戦車。

 

長く細く息を吐き、自らの四肢に力が行き渡ったその瞬間、

 

 

 

 

 

 

ダンっ!!!と、

 

 

 

 

 

 

跳躍。

 

 

 

一瞬で空中へと身を躍らせた後、身をよじり槍の投擲体制へ移る。

 

 

 

「あれは・・・クーちゃん!・・・・・・・・え!?ちょとなんで槍を!?」

 

 

 

眼下で彼に向って喜色満面の笑顔を向けたメイヴのその顔が驚愕と焦りに染まっていくのを見下ろしながら独り言ちる。

 

 

 

「あ~、うん。流石に今回はお前に同情するわ」

 

 

 

言いながらも手元の朱槍を全力で解き放つ。

 

 

――――放たれるは必滅の槍。その意は必中。

 

 

全ての因果を捻じ曲げて、敵の心臓を貫くという神をも殺す呪いの朱槍。

 

 

自動照準されたミサイルのごとく飛来するそれを避けようともせず―――無論避けられるものではないのだが―――眺めながらメイヴは震える唇で言葉を紡ぐ。

 

 

たった一言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な・・・・納得いかなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声が戦場一帯に響き渡ると同時、その胸を呪いの朱槍が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ナニガオキタノコレ・・・・・・・・・・・?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・なんかその・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラキラと光を放ち始めた戦車と軍勢を見ながら、フレデリカはただただ空虚な目で天を仰ぎ、吉法師は消えていく光に向かってただただ合掌するしかなかった。

 

 

 

 



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器用度極振りと第二回イベント 10

 

 

イベント5日目――――とある廃墟にて。

 

 

 

メイプルとサリーは見つけた廃墟の探索をしていた。

と、突然サリーが探索の手を止めてむつかしい顔をして声を漏らす。

 

 

 

「・・・・・む・・・・・・」

 

 

 

「? どうしたのサリー、何か見つかった?」

 

 

 

「・・・ん、いや違うの・・・ただ何となくだけど・・・今ノブナさんがなんかやらかしたような気がする・・・」

 

 

 

「何それ?変なサリー」

 

 

 

「・・・何か嫌な予感するんだよね。・・・具体的に言えば運営の人がひっくり返りそうなことやらかしてる気がする」

 

 

 

「う~ん・・・でもよく考えたらそれっていつも通りってことなんじゃない?」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

「言われてみればそれもそうだね」

 

 

 

「そうだよ~」

 

 

 

『あはははははははははは!』

 

 

 

 

 

廃墟の薄暗い空間に似つかわしくない二人の少女の朗らかな笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

―――――同時刻、所変わって運営部屋にて。

 

 

奇しくもこちらでも笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あははははっはっはははっははっはっはははhっはっはhhhhhhhhhh!?」

 

 

 

「か、課長!?お気を確かに!」

 

 

 

「おい!誰か課長を抑えるの手伝え!完全に錯乱してやがる!」

 

 

 

 

 

・・・・・・まぁ、随分と毛色は違うようではあったが

 

 

 

狂ったような笑い声を上げる男を数人で抑え込んでいるのを横目に見ながら少し離れて場所で別の運営スタッフ同士が雑談に興じている。

 

 

 

「どうしたんアレ?」

 

 

 

「あ~、さっきノブナがクリアしたクエストあったべ」

 

 

 

「ああ例のFGOコラボ告知用クエストの一つとかいうアレ?師匠戦と違っていやにあっさり戦闘終わっちまったけど」

 

 

 

「そうそうソレ。あれそもそも順番が逆なんだとよ」

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

「当初の予定だとメイヴ討伐戦→重要アイテムである槍を取り戻したことで本来の力を取り戻したクーフーリンと一緒に師匠と決戦。最終的に師匠に打ち勝ったクーフーリンが手伝ってくれたPCに『神殺しの朱槍』を手渡してEND・・・てな順番なんだよ。本来ならメイヴを倒してないと師匠のいる『天空の門』へ行くことすら出来ないし、『神殺しの朱槍』も師匠を倒してないと入手出来ないって予定だったんだが、な。・・・・・・結果はまぁ、ご覧の有様だよ!って感じな訳だ」

 

 

 

「あ~時々狂ったRTA走者とかがやるようなヤツをかまされた訳か・・・見てる分には面白いがそれ作り手としちゃ地獄なんだよなぁ・・・てか朱槍が増えちゃダメやろ。バグ?」

 

 

 

「知らん。てか本来行けないはずの場所に行って先にラスボス倒してくるとか想定してねぇからな。なんかしら不具合出ててもまぁ、おかしくないかもな」

 

 

 

「・・・・それ、何かしら修正しないとアカン案件と違うの?」

 

 

 

「・・・・お前はこのクソ忙しい時に私欲に塗れた課長の尻拭いなんて業務を増やしたい、なんてこと言い出すドM精神の持ち主なのか?」

 

 

 

「・・・とりあえずこの件は課長に任せようか。俺らの手には余る・・・・ご冥福をお祈りだけしとこうかな」

 

 

 

「それがいい。下手に化けて出られても仕事の邪魔になるからな」

 

 

 

 

「はっはははっははっはっはははhっはっ!?」

 

 

 

 

 

 

遂には椅子に縛り付けられ始めた課長の笑い声をBGMに二人はしばし黙祷を捧げた後でそれぞれの業務へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

そして運営・・・正確に言えばとある課長を発狂させた元凶はといえば

 

 

 

 

「本当にいいのか?銀コイン全部貰っても」

 

 

 

「いいよ。元々お願いしてた護衛のお礼渡せてないし、パーティーは今こんな有様だしで他にいい物渡せそうにないしね」

 

 

 

「フム・・・じゃあドロップしたアイテムはそちらに譲るとしよう。下手に借りを作るのも気色が悪い」

 

 

 

「OK、了解。じゃあこの・・・『神殺しの朱槍』と『女王の馬上鞭』はこっちに、と。うん、とりあえずアイテム関連の分配はこんなものかな~」

 

 

 

「・・・・・なんでか知らんがもう一本が手元にあるとはいえ、自分の愛用の槍が目の前で交渉の材料にされてんのを眺めるってのも微妙な気分だなぁおい」

 

 

 

絶賛戦闘後の戦利品分配交渉中である。

 

吉法師とフレデリカは向かい合って座りそれぞれの手元にドロップしたアイテムを置いて話し合い、二人の間で何とも言えない顔しゃがみ込んで事態の趨勢を眺めているクーフーリン。

 

 

 

結果として、吉法師の元へ銀コイン2枚が、フレデリカの元へ『神殺しの朱槍(余剰分)』と『女王の馬上鞭』が渡ることとなった。

 

 

 

それぞれがストレージへとアイテムを収納したのを見届けた後、吉法師が一つ伸びをしながら立ち上がった。

 

 

 

「さて、と。それじゃあ俺はもう行くわ」

 

 

 

「え、もう行っちゃうの?せっかくだからパーティーの皆にも顔合わせしていけばいいのに。今はこんなになっちゃってるから説得力ないけどこのゲーム内でもトップクラスなのばっかりだから知り合っておけば色々便利だと思うけど」

 

 

 

「興味ないな」

 

 

 

「あ、ああそうなんだ」

 

 

 

相も変わらずの対応にがっくりと肩を落とすフレデリカ。

仮にフレンド申請を打診したとしても無駄だろうということは試さずとも理解できた。

既にこちらへ背を向けて歩き出そうとしている吉法師へともの悲しげな視線を送ることしかできない。

 

と、吉法師が立ち止まってこちらへ振り返る。

その顔はいつだか浮かべていた少年のような笑顔で

 

 

 

「まぁ、お前との珍道中もなかなかどうして悪くなかった。また会うことあったらよろしく頼む」

 

 

 

「あ、う・・・よ、よろしく・・・・」

 

 

 

なぜかわからないが急に顔が熱くなって思わず顔を伏せた。返事も知らずしどろもどろなものとなってしまう。激しい戦闘後だからだろうか鼓動が激しい。

 

ようやく落ち着いて顔を上げれば既に吉法師の姿は遥か彼方へと去っていく所だった。

その背中が見えなくなるまで見送った後、一つため息をついて立ち上がる。

 

そこでこちらをニヤニヤと見ているクーフーリンと目が合った。

 

 

 

「・・・・・・なによ。なんか言いたいことでもあるの?」

 

 

 

「いんやぁ別にぃ?」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

「いってイテぇって」

 

 

 

なぜだか無性に腹が立ってその背中をバシバシと叩いた。

口では痛がりながらも全然堪えてなさそうなクーフーリン。

 

二人のじゃれあいはその後数分間に渡って続いたのであった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・因みに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ところでアンタいつまでいるの?」

 

 

 

「いや、俺が聞きたい」

 

 

 

「・・・・とりあえず・・・うち来る?」

 

 

 

「・・・他にあてもなさそうだしそうさせてもらうか」

 

 

 

 

 

 

 

イベントフラグがブチ折られた為消滅しようにも出来なかったNPCが一騎、とあるパーティーに引き取られたのはまた別のお話・・・・

 

 

 

 

 

 



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器用度極振りと第二回イベント 11

イベント6日目 夕暮れ時・・・

 

 

 

フレデリカ一行と別れた後、一人と一匹は所々で休憩を挟みつつエリアを移動し続けていた。

 

目的であるメダルも先の戦闘で既に規定数所持している為、がっつく必要もないので合体を解除してスキルも使わずのゆったりとした珍道中である。

 

とは言え、敵NPCは勿論コインを狙っての他プレイヤーからの襲撃をその都度叩き潰しながらの移動だったので完全に平和な道のりという訳ではなかったのだが。

 

 

 

「結構な数相手しとったと思ったがコインは落ちず、か。ま、儂らのレベルアップに貢献してくれたのだと思っとくかの」

 

 

 

「ノブノブ」

 

 

 

「ぬ?おお、そういえばさっき新たなスキルを覚えたとか表示出とったな。後で確認するか」

 

 

 

頭の上に誇らしそうに胸を張るちびノブを乗せつつ歩くノブナ。

 

そんな緊張感もへったくれもない一人と一匹が不意に足を止める。

 

目の前にまるで侵入者を拒むかのように鬱蒼とした葉を茂らせた木々が立ち並ぶ森林地帯が広がっていたからだ。

どうやら新たなエリアへと到着したらしい。

 

そんな目の前の光景に目をやりながらノブナは腕を組み、唸る。

 

 

 

「ふーむ、森かぁ。こういうところは隠れ潜むには良いかもしれんが同時に突然の襲撃に備えんといかんのよな・・・もうそろそろ日も暮れるし休むならも少し開けた場所の方がいいかもしれん」

 

 

 

「ノノノ!」

 

 

 

「なんじゃそうペシペシ叩かんでも伝わるわ」

 

 

 

「ノッブ!」

 

 

 

「ん?・・・・あれは山か?」

 

 

 

ちびノブが示す先に目を向ければ森林地帯の向こうに高くそびえる山岳地帯が見える。

確かにあそこならばここよりは視界が開けているし、なんなら洞窟など見つければ休憩できるかもしれない。とはいえ、である。

 

 

 

「ああいう目立つ場所はプレイヤーが集まりやすいんじゃよなぁ。無論出会ったからとて負けるつもりは毛頭ないが、さりとてむやみやたらと突っ込んでいって追いかけっこというのも面倒じゃし・・・いっそのことあのあたりにいるプレイヤーが根こそぎ逃げ出せるような何事かでもあればよいんじゃがのう。まぁ、そんな都合のいいこと早々起こらんだろうが・・・」

 

 

 

そう言いながら所持スキルを眺めることしばし・・・

 

はたと、画面をスクロールをする手が止まった。

 

マジマジと画面を注視したノブナは一転、己が頭上で疑問符を浮かべているちびノブを見上げてニヤリと嗤った。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ほぼ同時刻・・・・森林地帯の一画にて・・・

 

 

 

メイプルを山の中腹にある洞窟へと残し、一人森林地帯までメダル狩りへと赴いていたサリーは首尾よく目的を果たして―――具体的には100人以上ものプレイヤーをしばき倒して――――帰還の途中であった。

 

油断なく周囲の気配や音に注意を払いながら、メイプルの待つ洞窟へと走る。

 

 

と、突然

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズガンっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

という轟音とともに地面が激しく振動した。

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

まるで近くに雷でも落ちたのかというような音と衝撃に体勢を崩しそうになるのをなんとかこらえ、二振りの短刀へと手を伸ばす。

 

 

 

『----ここに来て何かしらのイベントフラグでも踏んじゃった?それかパーティー同士のぶつかり合い?どっちにしろ今は遠慮したいなぁ・・・』

 

 

 

突発的な事態にも動じず冷静に思考し、注意深く周囲を観察する。

 

しかし見えるのは鬱蒼と茂る植物と立ち並び視界を遮る木々のみ・・・・・否・・・

 

木々の枝葉の向こうに巨大な『ナニカ』が今まさに立ち上がろうとしているのがわずかに見えた。

 

しかし結構な距離がある上に茂った枝葉が邪魔でよく見えない。

 

 

 

「だったら・・・ッふ!!」

 

 

 

一息の気合の声とともに跳躍。

木の幹を蹴って更に高く飛び、枝葉を突っ切って上へ。

やがて木の最上へとたどり着き体重を支えられそうな太めの枝へとジャンプ。

見事枝の上へと飛び乗った。回避盾を標榜し鍛えたステータスとサリー自身のPSがなせる業であった。

 

 

 

 

「っと、ここなら周りも良く見え、る・・・・・・・・・・・」

 

 

 

サリーの言葉が知りつぼみとなり、やがて消えた。

 

 

 

 

その顔に浮かぶのは驚愕、忘我、困惑、混乱・・・

 

 

 

 

 

そこは確かに周りの木々よりも頭一つ大きな木であったらしく登った枝からは森林地帯の全景がよくよく見て取れた。

 

 

 

 

 

 

・・・・見えてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サリーのいる場所から300mは離れた森林地帯と別のエリアとの区切り辺りに『ソレ』はいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――兜の前立てのような装飾を施された黒の軍帽。

 

 

 

―――黒い軍服風の衣装に鎖や家紋をあしらった飾り、飾り紐などの装飾。

 

 

 

―――足元には黄金色の具足。

 

 

 

―――トレードマークの赤いマント。

 

 

 

―――見ているだけで気の抜けそうなぐだっとしたディフォルメ顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サリーの良く知る友人に似た、巨大なナマモノがそこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帽子の前立ての高さを含めれば高さ10mに迫るほどだろうか。

 

夕日を遮り森林地帯に影を落とす様は怪獣映画の様で・・・しかし、その間抜けな風貌の為にどうしても漂うシュールさがいっそのこと不気味にすら思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・ワタシハナニモミテイナイホント二アンナナマモノシラナイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予算の足りないB級パニック映画を無理やり見せられているかのような光景にサリーは思わず頭を抱えたくなった。

 

一瞬何も見なかったことにしてしれっと帰ろうかと真剣に悩みすらしたものの、シュールな巨人が動き出す方が早かった。

 

 

身体を屈め、短い両手を地面につき、片足の膝を立てる。

 

 

俗にいうクラウチングスタートに似た体勢を取り、ひと時の間の後、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音とともに地形が抉り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

木にしがみついて何とか吹き飛ばされるのを防ぐサリー。

 

その眼前でシュールな巨人が森林地帯を蹂躙しながら疾駆する。

 

一歩目で完全にスピードに乗り、巨体が進むごとに地面がえぐられ空気がかき回され木々が吹き飛ぶ。

 

ダイナミックに過ぎる環境破壊を繰り広げながら巨人が向かうのは・・・・

 

 

 

「・・・・・アレ、メイプルのいる山に向かってる?」

 

 

 

サリーの視線の先、巨人は明確に山へと進行している。

一瞬、メイプルの身を案じるも件の巨人の見た目がどう見ても知り合いなのを見て考えを改める。

 

 

 

「・・・・とりあえず、アレの上でふんぞり返ってるだろう元凶を捕まえて詳しく事情を聞き出すかぁ・・・」

 

 

 

深い深いため息を一つ吐き、サリーの体が枝の上からかき消えた。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

一方その頃

 

 

 

件の巨人の頭の上でふんぞり返って高笑い上げる人影が一つ・・・無論ノブナである。

 

 

 

「フハハハハハハ!良いぞちび・・・いやさでかノブ!これならばすぐにでも山まで辿り着けるであろうさ!レベルアップで覚えたお主の新スキル、【巨大化】と【ギガンティックモード】様様じゃのう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【巨大化】

 

・自身を巨大化させる。

 

・HPを2倍にする。

 

 

 

【ギガンティックモード】

 

・【巨大化】の力を限界を超えて使用するための力。

 

・【巨大化】中のみ使用可能。

 

・更に自身を巨大化させる。

 

・【HP】【STR】【VIT】【AGI】の数値をを2倍にする。

 

・このスキルを発動させている間、発動者は継続ダメージを受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イベント終盤で疲弊しきったこのタイミングでこんな明らかに規格外のモンスター・・・しかもご丁寧に明らかに儂の姿を模しているときた!この姿を見れば儂関係のナニモノかだと容易に予想もつくじゃろ!ただでさえ厄介そうなモンスターに前イベント上位勢足るこの儂が一挙に敵にまわるような事態を前にして、真正面からやり合おうとする愚か者が何人残るか見モノじゃのう!」

 

 

 

 

 

 

その言葉通りでかノブの進行方向から数多の悲鳴が聞こえ、哀れなプレイヤー達がわらわらと逃げ惑っている光景が見て取れる。

 

中には運悪く逃げ遅れた者、或いは極々限られてはいたがヤケクソ気味に吶喊しようと立ちふさがる者もいた。

 

そういった者達はすべからく圧倒的なまでの質量という名の暴力によって潰され或いは何mもの上空へと弾き飛ばされて鮮血のような赤い光の粒子となって爆散していった。

 

 

その凄惨な光景が更にパニックを引き起こし、地上はさながら阿鼻叫喚の地獄絵図の様相を呈し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハっ人がゴミの様とはまさにこの事じゃな!!・・・・・・・・・てかあれ思ったよりも・・・ちょ、速い、速過ぎぃ!?儂もポロリと落ちそうなんじゃがぁ!?も少し主に配慮とか遠慮とか出来んのか具体的にはちょっとスピード緩めるとかぁ!?」

 

 

 

 

 

『ノ~~~~~~~~ブ~~~~~~~~~~~?(風の音で聞こえてない)』

 

 

 

 

 

「声うるさ!?てかあれ?むしろスピード上がってない?なんで?儂減速って言ったよね!?謀反!?もしかして今、謀反されてる儂!?」

 

 

 

 

 

何ともぐだぐだとしたやり取りを繰り広げながらも巨人の進撃は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――後に偶然その場に居合わせたプレイヤー達が口々に語ることになる惨劇・・・その一端。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つは青い人型モンスター(一説にはプレイヤーとする話もある)による100を超えるプレイヤーの大量虐殺事件・・・・

 

 

 

 

曰く、【幻のように消える】、【剣が避けていく】、【まさに幻影】。

 

 

 

 

 

そしてもう一つは件の虐殺から何とか生き残ったプレイヤー達を襲った巨人の進撃・・・

 

 

 

 

 

曰く、【移動する災害】、【10m級奇行種】、【ダイナミック環境破壊】。

 

 

 

 

 

 

【6日目の悪夢】と呼ばれプレイヤー達の間で長く語り継がれることとなる伝説の惨劇はそうして引き起こされたのだった・・・・

 

 



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器用度極振りと第二回イベント 12

 

 

『6日目の悪夢』と呼ばれる惨劇から十数分後・・・

 

 

本格的に夜の帳のおり始めた山道を二人の人影が歩いている。

 

 

 

 

 

「だ~か~ら~!なんだってお主は現れるたんびにむやみやたらと斬りかかってくるんじゃ!しかも思いきり首ねらっとったし!出会ってすぐ首切りとか【GENNJI】出身者かなんかか!」

 

 

 

「斬りかかられるようなことばっかりするノブナさんが悪いんでしょ!いちいちツッコミ入れるこっちの身にもなってくださいよ!」

 

 

 

「ツッコミに刀剣使うなや!お主どんな野蛮人!?平安武者もも少し理性あるぞ!?」

 

 

 

ギャーギャーと騒がしく言い合っているのはノブナとサリーの二人組だ。

静かな山に二人の声が木霊していてどうにも目立つことこの上ないのだが、周囲を見回しても二人以外の影はひとっこ一人見当たらない。

 

ノブナの思惑通り、近辺に集まっていた一般プレイヤーはどこぞへと逃げて行ったようだ。

 

残っているのはメイプルやサリーくらいだろう。

 

 

なので二人とも周囲警戒もそこそこにゆるゆるとした足取りでメイプルが籠っているという洞窟へと歩を進めていた。

 

 

 

「・・・ところで・・・サリーよ」

 

 

 

「何ですか?」

 

 

 

「いい加減放さんかソレ?歩くのに邪魔じゃろ」

 

 

 

「ノ・・・・・」

 

 

 

呆れ顔したノブナが視線を向けたのは隣を歩くサリー。・・・正確にはその腕の中。

 

『・・・なんでこんなことに?』と困惑顔したちびノブがぬいぐるみの如く抱きかかえられていた。

 

 

 

 

「ダメです。あんな大災害引き起こせるナマモノ、これ以上自由にさせておく訳にはいきません」

 

 

 

「そう言いながら撫でるな餌やるな弛んだ表情で抱きしめるな。欲望が駄々洩れなんじゃ少しは隠せ」

 

 

 

「し、失敬な!私はただ自分たちの身の安全を考えてですね」

 

 

 

「あーわかったわかった好きにせい。と、ここか?」

 

 

 

ノブナが足を止めた先、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。

 

中は結構な深さがあるらしく、暗がりになっていて奥まではとても見通せそうにない。

 

なるほどここなら籠城して休憩するには最適そうな場所だ。

 

 

2人は一応周囲を確認してから中に入る。

 

 

 

中はダンジョンになっているようでかなり入り組んだ構造となっていたがサリーが道順を覚えていたので道中すんなりと進めることが出来た。

 

メイプルの待つであろう場所までもう少しという所で、二人の足がピタリと止まる。

 

 

 

「うわ・・・」

 

 

 

「・・・サリーよ。さっき儂にツッコんでたがお主らも大概じゃぞ?」

 

 

 

メイプルのいる場所に繋がる通路にいかにも体に悪そうな色をした毒の壁が形成されていたのだ。

 

毒に耐性がない者が通れば一瞬でHPバーが消し飛ばされるだろう。これではまともに進めない。

 

 

 

「ちょっと待ってください。メイプルにメッセージ送りますから・・・」

 

 

 

サリーがメイプルにメッセージを送り、しばらくしてメイプルが毒壁を通り抜けて出てくる。

 

 

顔を上げたメイプルの視線がサリーの隣にいるノブナへと及んだ瞬間、まるで花が咲いたかのような喜色満面の笑顔で駆け寄ってきた。

 

 

 

 

「ノブナさんだーーー!やっと会えたーーー!」

 

 

 

「っとと・・・フ、お主も壮健で何よりじゃ」

 

 

 

 

抱きついてきたメイプルの頭をポンポンと叩きながら穏やかに微笑むノブナ。

ゲーム内時間で約6日ぶりの再会だ。感慨もひとしおである。

 

 

 

 

「頑張ってメダル集めてきた私より真っ先にノブナさんに飛びつくとはねぇ・・・嫉妬しちゃうなぁ」

 

 

 

「にゃ!?そんなこと・・・」

 

 

 

言葉とは裏腹にニヤニヤと事態を見守るサリー。

真っ赤な顔で慌ててノブナから離れ、反論しようとしたメイプルの視線が一点で止まる。

まるで石化したかのように動きを止めて一心に視線を注ぐ。

 

 

 

「・・・サリー・・・その腕の中にいるのは・・・何?」

 

 

 

メイプルの口から漏れた声は普段の柔和な雰囲気とはかけ離れた低く抑揚のない機械のような声

 

 

 

「・・・これはねメイプル・・・とっても危ないナマモノなんだ。だから私がこうして捕まえているんだよ・・・」

 

 

 

対するサリーの声色もまた普段の快活そうな雰囲気はなりを潜め、静かな感情の起伏を感じさせないものだ。

サリーの抱く腕にキュッと力が籠められ、ちびノブが「ノ!?」と小さく声を上げた。

 

 

 

「ふーん・・・そんなに危ないなら私が替わるよ。私なら暴れられても【VIT】で耐えられるから・・・」

 

 

 

言いながらメイプルが両手を広げてじりじりと一歩づつサリーへと近づいていく。

その眼にはハイライトが消えている。

 

 

 

「いやいや・・・メイプルだともし逃げられたときに追いかけられないでしょ?私には【超加速】もあるしね」

 

 

 

にこやかに答えるサリー。しかし、その眼にもやはりハイライトはなく、その手には万力の如く力が籠められ、腕の中でジタバタと暴れているちびノブを抑え込んでいる。

 

そうこうするうちに二人の間にある距離は0になり、にこやかな、しかし冷たい笑顔を浮かべた二人が対峙する。

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

二人の視線がバチバチとぶつかり合い、それぞれの背後に龍と虎・・・・ではなくポメラニアンとマンチカンが威嚇しあうイメージが幻視される。

 

 

 

 

と、

 

 

 

 

「やめんかい阿保らしい」

 

 

 

 

「わ!?」「あいた!?」

 

 

 

 

間に割って入ったノブナが二人の頭をぺしっと叩く。

 

 

 

「なーにーをくだらんことで喧嘩しとんのじゃ。ええ加減にせい」

 

 

 

『・・・・だって・・・』

 

 

 

「二人してそんな捨てられた子犬みたいな顔でこっちを見るでない――――だぁ~、仕方ないのう・・・ちびノブ」

 

 

 

ノブナがパチンと指を鳴らした途端、サリーの腕の中にいたちびノブの姿がぐにゃりと崩れ、本来のスライム状のモンスターへと変わる。

地面に落ちた後、液状になった体が『二つ』に分かれ、ビデオの巻き戻しのように形を形成していった。

 

 

 

 

『こ、これは・・・・!?』

 

 

 

 

 

「ノブ!」

 

 

 

 

 

「ノブノブ!」

 

 

 

 

 

数秒後、二人の目の前に『2体』のちびノブが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「-----とまぁ、このようにして儂はかのコノートの女王を打ち倒した訳じゃが・・・その時レベルアップで入手したのがこの【奇妙な隣人(ストレンジネイバー)】という訳で・・・・聞いとるのか貴様ら」

 

 

 

「「はぁ―――――――――----------///////////////////////」」

 

 

 

「あ、ダメじゃなコレ。完全にトリップしとる――――――お主、メイヴ戦で他に変なスキルでも獲得しでもしたか?魅了とかその辺」

 

 

 

「ノブノブ(首を横にフルフル)」

 

 

 

「じゃよなぁ・・・・」

 

 

 

 

 

 

恍惚な表情でちびノブを抱きしめている二人を呆れ顔で眺めながら一人と一匹は疑問符を頭に浮かべてただただ首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 




【奇妙な隣人】(ストレンジネイバー)

・自身のHPを削って分身を形作る。

・作られた分身のHPは削られた分のHPと同じ量になる。(HP1削ったら分身のHPは1)

・作られた分身のステータスはスキル発動者と同ステータス、同スキルを保持した状態になる。

・作られた分身はこのスキルを使用することは出来ない。


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器用度極振りと第二回イベント 13

 

 

夜闇を照らし出す月が空に昇り切った夜・・・

 

第二回イベント6日目ももうすぐ終わり、いよいよ最終日を迎えようかという時間帯。

 

なんやかんや無事に合流を果たしたノブナ達が今現在何をしているかというと――――

 

 

 

 

 

「行け―シロップ、【喰らいつき】!

 

 

 

「頑張れ、朧!【狐火】!」

 

 

 

 

サリーとメイプルの指示に従い、亀・・・シロップが小さな口で目の前のモンスターに噛り付き、狐・・・朧が吐いた火で敵を黒焦げにする。

 

 

眼前のモンスターが光の粒子になって消えていったのを確認し、傍らの石の上で腕を組み仁王立ちしているノブナの号令が飛ぶ。

 

 

 

「戦闘終了!これより5分の休憩とする!メイプルとサリーは二匹のねぎらいと回復!その間に2~5までは次の戦闘の準備、適度に弱らせるのを忘れるな!6~9までは薬草などの残量の確認と補充じゃ、数え間違いには十分に留意せよ!10~20までは21~30までと交代して引き続き洞窟周辺の警備と二匹のレベルアップ用の小型モンスターの捕獲に従事せよ!何か問題が発生した場合、疾く1へと情報を集めよ!良いな!」

 

 

 

「わかりました~!」「了解です!」

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「ノブ!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

各所で上がる威勢の良い声とともに2人と2匹とその他大量のちびノブ達がわらわらと動き始めた。

 

 

 

 

――――総力を挙げてのシロップ、朧のレベル上げ中であった。

 

 

 

元々メイプルが洞窟の奥で見つけた小さな蟻型モンスターが定期的に発生する場所でレベルを上げていた二匹だが『もっと効率的にいこう』というノブナの発案の元、このような形でのレベルアップ作戦が実行に移されたのだった。

 

ノブナによる巨人進撃事件の影響かこのエリアに好き好んで近づこうとする者は皆無に近く、必然襲撃もなく只々暇を持て余したが故の作戦でもあったのだが、理由はともかくとして実際に効率は以前の比ではない。

二匹のレベルも短時間でぐんぐんと上がっていた。

 

 

・・・ちなみにちびノブだが、色々と魔改造された結果としてそこらのプレイヤーより強いんじゃないか疑惑が持ち上がった為に今回は二匹のサポートに回る形となっている。

 

 

――――閑話休題

 

 

そんなこんなで作業を続けてるうちに時間はもはや深夜近くとなっていた。

時刻は11時半。

 

そろそろ今日はお開きにしようかという雰囲気が流れ始めた時、ノブナの隣で待機していたちびノブ(1)がビクンと反応した。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「ノブノブノッブ!」

 

 

 

「なぬ?『洞窟の警備にあたっとった13~17の反応が途絶えた』とな?----侵入者か・・・よかろう、緊急事態として残った2~30までのちびノブを動員することを許す。疾く鎮圧し捕獲してここへ連れてまいれ」

 

 

 

「ノブブ?」

 

 

 

「そうじゃ捕獲じゃ。わざわざこの辺りを徘徊する馬鹿者の顔を暇つぶしがてら拝んでやるとしよう――――上手くいけば身柄の開放を条件に何かしらのアイテムなんぞ手に入れられるかもしれんしな」

 

 

 

「・・・・ノブナさん、とっても悪い顔になってますよ~」

 

 

 

「余計なお世話じゃメイプル・・・よし、では出撃せよ!」

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「ノブブ~!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

手に手に刀やら火縄銃やらを持ち、わらわらと洞窟の入り口の方向へと消えていくちびノブ軍団

 

 

 

 

しばらくして

 

 

 

 

 

『え!?ちょ、な、なんだコレは!?こ、こっちに来るな!?来ないで!?い、いや~~~~~~~~~~~~~~っ!?』

 

 

 

 

闇の奥から響き渡る事件性のある叫び声。

声音からしてどうやら犠牲者は女性であるようだ。

 

 

 

「お、かかったかかった・・・・はて?この声・・・何やら聞き覚えがあるような無いような」

 

 

 

「言われてみれば私たちも聞いたことある気がする・・・どこでだっけサリー?」

 

 

 

「わかんない・・・でも極々最近な気がする。なんとなくだけど」

 

 

 

顔を見合わせ首を捻る三人の元にちびノブ達の群れがわらわらと戻ってきた。

行った時より若干数が少なくなっているが、簀巻きにした何者かを神輿の如く運んできた。

 

 

そうして三人の近くまでやってくると簀巻きにした人物を地面へと放り出し、ビシっと敬礼をした。

 

 

 

「うむご苦労!下がってよいぞ・・・・さて、では無謀にも我らが拠点へと侵入した者の顔でも拝んで・・・・・・・・ってアレ?」

 

 

 

ニヤニヤと嫌らしい笑顔を浮かべたノブナが地面でうごめく人物の顔を見て固まった。

その後ろで同じように覗き込んだメイプルとサリーの二人も驚きの声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・とりあえず説明してもらおうか・・・イロイロと・・・・」

 

 

 

 

 

 

頬を紅潮させ目じりに涙を溜めてこちらを睨みつけてくるカスミの姿がそこにあった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

とりあえずカスミを開放し決死の土下座を敢行。

何とか許してもらった所で雑談がてらお互いの状況を話し合うことになったのだった。

 

 

 

 

 

かくかくしかじか・・・・

 

 

 

 

 

「・・・・・なるほど・・・いや、なるほどとは言ったものの全く持って理解できないというか脳が理解することを拒否するというか・・・あまり深くは考えないようにしよう、その方がわたしの精神衛生上いい気がしてきたよ」

 

 

 

「言われとるぞメイプル」

 

 

 

「え~、私は普通だよ~サリーのことでしょ?」

 

 

 

「いやいやいや私は二人に比べたら全然普通だから」

 

 

 

「君、たち、全、員、だ!」

 

 

 

 

そうしてとりあえずのお互いの現状の確認を済ませた後、お互いに戦闘意思がないことを確認し、最終日はお互いに今現在所持しているコインを死守する為にこの洞窟へ引きこもることを決めた。

そして洞窟の入口をメイプルの『ヴェノムカプセル』で塞いだうえで、一応警備用に数体のちびノブを配置してから休む事にしたのだった。

 

 

 

 

 

そして遂に訪れたイベント最終日・・・・

 

 

 

迫るタイムリミットに向けて所持コインを守るため、或いはコインを集めようとイベント参加者たちが必死になって最後の足掻きをしている時間帯

 

 

 

「―――――た、確かに・・・このちびノブ?とかいうナマモノ・・・何というか妙に癖になる抱き心地だな・・・」

 

 

 

「だよね~!なんかモチ・・・というかプニ・・・というか。良く分からないけど抱いてると嫌な事が消えてくような感じがするんだよ~」

 

 

 

「この間の抜けた顔も愛嬌あってずっと見てると可愛く感じてくるしね」

 

 

 

「――――カスミ、お前もか。てかお主らいつの間に知り合いになっとったんじゃい」

 

 

 

「イベント中に一緒にダンジョン探索して仲良くなったんですよ~。他にも『カナデ』ってオセロ強い子とも知り合ったり」

 

 

 

「―――なんでお前さんはイベントの最中にオセロなんてしとるんじゃ?」

 

 

 

 

 

 

「ノブブ~♪(シロップと朧と一緒になって遊んでいる)」

 

 

 

 

が、ノブナ達の籠る洞窟内にはなんとも緩い空気が漂っていた。

 

 

 

実際の所入口にはメイプルの毒のカプセルがあり耐性のない者の侵入を拒み続けており、仮に何とかして侵入を果たせたとてその瞬間に警備担当のちびノブが何体も襲い掛かって来るのだ。

 

ほぼほぼ侵入は不可能と言って過言ではないだろう。

 

なのでこうしてぐだぐだとした雰囲気で雑談することが可能なのだ。

 

 

外で足搔き続けるプレイヤー達が見たら血涙ものの光景を繰り広げながら時間は刻々と過ぎていき・・・

 

 

 

 

―――そして遂にその時はやって来た。

 

 

 

 

 

 

ピンポ~ンと気の抜けるような音が響く。

同時にエリア全体にアナウンスが響き渡る。

 

 

 

『イベント参加者の皆さまお疲れさまでした!これにて第二回イベントを終了とさせて頂きます!』

 

 

『五分後元のフィールドへ転移しますのでご準備下さい』

 

 

 

 

宣言後きっかり五分後、ノブナ達の身体がうっすらと光りはじめた。

転送が始まる前兆だ。

 

 

 

「お、来たか」

 

 

 

「終わった~!」

 

 

 

「何とか無事に終わったね・・・カスミも戻ったらまた会おうね」

 

 

 

「ああ、またな」

 

 

 

 

それぞれが短く挨拶を交わした後、視界が完全に光へ包まれた・・・

 

 

 

 

 



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器用度極振りとイベント後

 

 

ふわっと身体が浮かび上がるような感覚が治まり、視界を覆う強烈な光が治まればイベントが始まる前に集まっていた広場だ。

画面を開いて表示される日付と時間を確認すれば本当に2時間しか経ってはいなかった。

 

 

 

「わ~!本当に2時間しか経ってない」

 

 

 

「ホントだ。なんか変な感じ」

 

 

 

「じゃのう。浦島太郎もこんな感じの気持ちじゃったんかの?あれは逆に時間が進んでしまっている話じゃが」

 

 

 

などと三人が雑談に興じていると、再び広場の中央のスクリーンに『運営』の二文字が表示されアナウンスが入る。

 

 

 

『改めて皆さま第二回イベントお疲れさまでした!今から30分後スキルとメダルの交換所に該当の方を転送致します』

 

 

 

『仲間の方とメダルの受け渡しがある場合は今のうちにお済ませください』

 

 

 

『尚、専用の部屋に個別のご案内となります。取得の相談は不可なのでご注意下さい』

 

 

 

「お、来たか」

 

 

 

「う~んどんなスキルがあるかな?」

 

 

 

「見てみないとなんとも・・・かな」

 

 

 

「ま、こんだけ苦労させられたんじゃ。精々後悔の無きようしっかり悩んで決めるがよかろう」

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

スキルの予想、取得済のスキルを確認しながらのどんなスキルをとればいいかなどの相談をしている内に、30分は瞬く間に過ぎていった。

ここからは一人の時間だ。

 

 

 

「終わったらベンチで待ち合わせねサリー。ノブナさんも」

 

 

 

「おっけー!」

 

 

 

「わかったわかった」

 

 

 

30分きっかりに再び三人の身体が光り輝き、一瞬の浮遊感に襲われる。

 

次に目を開ければそこは別世界。

 

暗闇の中にいかにも電脳世界とでもいうような数字や文字と思われるものが空中を漂っている。

 

と、周囲を観察していたノブナの眼前にデイスプレイが出現した。

そこにはズラズラとスキルの名前とその効果が羅列されている。その数百個。

ざっと眺めてみても攻撃系から防御系、ステータスの上昇系から生産系に至るまでまさに選り取り見取りだ。

 

 

 

「お~流石に苦労させられただけあって強力なスキルばかりじゃのう。どうにも目移りして仕方がないが・・・・そうじゃのう・・・」

 

 

 

そうしてスキル一覧とにらめっこすること十数分・・・

 

 

 

「とりあえず一つはこれで決まりじゃな」

 

 

 

そう言って一つのスキルを選択、取得の最終確認画面を経て一つ目のスキルを取得する。

 

 

 

 

 

【鷹の瞳】

 

・このスキルを発動後、自身の攻撃に【必中】及び【防御力貫通】状態を付与する。

 

・自身の攻撃のクリティカル率を20%上昇させる。

 

・効果時間1分間。

 

 

 

 

 

「流石にメイプル程ではないにしても堅い敵が出てこないとも限らんから【防御力貫通】持ってて損はないじゃろ。幸い他の効果も含んどる複合スキルじゃから腐らんし。で、あとひとつな~ん~じゃ~が~」

 

 

 

難しい顔で唸りながら、画面を穴の開く程に見つめるノブナ。

 

 

 

「おっと?・・・・ほほう・・・これはこれは・・・」

 

 

 

とあるスキルの説明を読みながら、ノブナの口の端が三日月の如くに吊り上がりその紅い瞳がギラリと剣呑な光を帯びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・お、二人とも揃っとるか。スマンな待たせたか」

 

 

 

「私も今来たところなので大丈夫ですよ~」

 

 

 

「二人は私と違って二つ選択ですし時間がかかっちゃうのは仕方ないですよ」

 

 

 

わいわいといつもの三人が集まり、始まる会話。話題は当然今まさに取得してきたばかりのスキルのことである。

 

 

 

「百個もあるから悩んじゃったよ~。サリーはどんなスキルを選んだの?」

 

 

 

「私も結構迷ったけど【追刃】にしたよ」

 

 

 

「・・・ほう、なるほど?流石サリー中々に面白そうなスキルを選びよる」

 

 

 

「お褒めに預かり恐悦至極・・・なんちゃって♪」

 

 

 

「?」

 

 

 

ノブナとサリーが訳知り顔でニヤニヤしている横で頭に疑問符を浮かべているメイプル。

 

 

 

 

「えっとね。【追刃】っていうのは武器での攻撃が成功した時にその攻撃の三分の一の威力の追撃が発動するスキルだよ」

 

 

 

「つまりは単純に手数が2倍になる。具体的に言えばサリーの【ダブルスラッシュ】などは通常4ヒットの所が8ヒットになる」

 

 

 

「すごっ!!」

 

 

 

「とはいえ【器用貧乏】もあるし二刀流は一撃ごとのダメージ減少もあるから。ま、本格運用はまだ先になるかな」

 

 

 

「今後火力が出せるようになれば優秀なダメージソースになるし、何なら火力だす必要もない。状態異常系のスキルなどをかませれば単純に確立2倍の状態異常攻撃の出来上がりじゃ。やりようによって多方面に応用のきく良きスキルぞ?まさに可能性は無限大じゃて」

 

 

 

「おおお~!!」

 

 

 

スキルの強さを理解し、目を輝かせてメイプルが拍手する。

照れたように頬をかくサリーはそれをごまかす様に話を今度は二人に振る。

 

 

 

「メイプルは?なにとったの?」

 

 

 

「一つは【フォートレス】!【VIT】を1.5倍にスキルだよ」

 

 

 

「また硬くなったんかお主・・・」

 

 

 

「えへへへ・・・」

 

 

 

「・・・誉めとらんぞ引いとんのじゃ。もう一つは?」

 

 

 

「う~ん・・・正直ちゃんと使えるかは分からないスキルなんですよね~」

 

 

 

「なんじゃソレ?」

 

 

 

「そういうノブナさんは何をとったんですか?」

 

 

 

「儂か?・・・一つは【鷹の瞳】にした。効果としては攻撃に【必中】と【防御力貫通】を付与し、ついでにクリティカルさせやすくする複合自バフスキルじゃな」

 

 

 

「お!【防御力貫通】スキルですか。ノブナさんも遂にメイプル対策に乗り出しましたか~?」

 

 

 

「えぇ!?そんなぁ・・・」

 

 

 

「安心せい、好き好んでお主に銃を向ける程、儂は人生捨てとらん。ま、出来る対策はしとこうと思うてな。お主らの話じゃとイベントの最中に偽者の自分達同士で戦わせるトラップとかもあったんじゃろ?今後もそういうことあるかもしれんしな」

 

 

 

「あ~・・・・・なるほど・・・正直私は二度とやりたくありませんねアレ」

 

 

 

「私も~・・・あ、あともう一つは何なんです?」

 

 

 

メイプルが質問すると、ノブナが途端にニヤリと悪い顔になった。

 

『あ、これは碌なモノとってないな』と、瞬時に確信する二人。

 

 

 

「おう、それなんじゃが・・・これは実際に見せた方が良いかもしれんな。どこか人目につかん所ないか?」

 

 

 

「あ、私ももう一つのスキル試してみたいです!砂漠とかいいんじゃないですか?」

 

 

 

「お、いいのう。そこにしよう」

 

 

 

「人目に?・・・・なんか嫌な予感するなぁ・・・」

 

 

 

わいわいと移動を始めた二人の背中を眺めながら、サリーは何とはなしに感じる予感に顔を顰めるのだった・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

数十分後、とある砂漠にて

 

 

 

 

「うわぁ・・・」

 

 

 

「う~む・・・そうくるとは・・・・」

 

 

 

「わぁ~い。雨よ降れ~」

 

 

 

二人の見上げる先には巨大化したシロップの上から毒の雨を散布しながら湧きだしたモンスターを悉く殲滅していくメイプルの姿があった。

 

メイプルの取得した新スキル【念力】により生み出された地獄絵図である。

 

 

 

「さて、あれでメイプルの明確な弱みである『移動が遅い&行動範囲が狭い』という弱点がほぼほぼ解消された上に近接攻撃手段しか持たない敵をほぼほぼ封殺できるようになった訳じゃが・・・どう思う?」

 

 

 

「どうもなにも・・・流石としか・・・」

 

 

 

「じゃよなぁ・・・儂も流石に空飛ばすなどという発想には至らんかったわ。しかもあれでMP消費せんのじゃろ?ヤバくない?」

 

 

 

「本人に悪意は全然ないんですけどねぇ・・・」

 

 

 

二人が感心3割呆れ6割諦め1割といった感じの複雑な心境で眺めている内に雑魚敵の集団を殲滅し終えたメイプルが戻って来る。

 

 

 

「ふぅ。私のスキルはこんな感じかな~じゃ、次はノブナさんの番ですね!」

 

 

 

「こんなトンデモ見せられた後に発表しろとかお主は鬼か」

 

 

 

「え~私も見せたんだから見せてくださいよぉ。き~に~な~る~」

 

 

 

「あ~わかったわかった。そうじゃのう・・・ならメイプルさっき言ってた新しく手に入れた大盾のスキルあるじゃろ。アレ使ってくれ。的にする」

 

 

 

「わかりました!え~と・・・・えい!」

 

 

 

メイプルは新しく手に入れた盾・・・【紫晶塊】に装備を変更すると、盾に付与されたスキル【水晶壁】を発動させた。

 

途端、一枚の壁が出現し砂に突き立つ。

 

 

 

それを確認したノブナは壁の前まで歩き、立つ。

 

 

 

「今はパーティー組んどるからダメージは喰らわんだろうが一応離れておくがいい」

 

 

 

「は~い。ワクワクワクワク」

 

 

 

「・・・あれ?ノブナさん武器、装備しなくていいんですか?」

 

 

 

ノブナの忠告に従い、目を輝かせながら下がるメイプル。その隣に並びながらサリーが疑問を口にする。

彼女の指摘の通り、ノブナはいつもの愛銃【タネガシマ】を取り出す様子もなく、手ぶらのままである。

 

 

 

「ま、とりあえずそこで見ておれ・・・さて新スキルのお披露目前にちぃと準備せねばな・・・覚醒せよ、ちびノブ!」

 

 

 

「ノッブ~!」

 

 

 

ノブナの指にはめられた【絆の架け橋】が光を放ち、ちびノブが出現する。

それを確認したノブナから直ちに指示が飛ぶ。

 

 

 

「ちびノブ!【生命ある鎧】!」

 

 

 

ノブナの声と共に、ちびノブがスライム状になりノブナへと覆いかぶさる。

 

 

 

「の、ノブナさん!?何を」

 

 

 

『落ち着けサリー。すぐ終わる』

 

 

 

サリーの驚きの声を制すノブナの声がスライムの向こうから響く。

その言葉の通り、すぐにノブナの姿が現れる。

その姿は何の変りもなく・・・・・否、一つ大きな変化があった。

 

 

 

「・・・何でTシャツ?」

 

 

 

「あ!初めてノブナさんと会った時に来てたヤツだ!わ~懐かしいなぁ」

 

 

 

再び姿を現したノブナは何故か胸に燦然と輝く「ばすたぁ」の文字が刻まれた赤Tシャツ姿になっていた。

 

 

 

「ふっふっふ・・・運営めに没収されたこの装備・・・しかしちびノブの力を持ってすれば再現することも可能なのじゃ。やはりこの技を使うにはこの格好でないと気分が出んからのう。では行くぞ!」

 

 

 

ノブナが天に向けて右手を掲げ、声高らかに宣言する。

 

 

 

 

 

「【奇妙な隣人】からの【巨大化】!そして【流体操作】!」

 

 

 

 

ノブナの背後に高さ3m程のスライムが伸びあがったかと思えばその形が変化する。

 

 

 

 

 

―――『其れ』に肉は無く、只々中身のないがらんどうの身体を晒す。

 

 

 

 

 

 

―――動く度に不気味なほどに黒い骨が軋み、擦れガチャガチャと耳障りな音が耳朶を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――本来暗い闇に染まるはずの眼窩には地獄の業火を思わせる紅く朱い光。

 

 

 

 

 

 

ぬらりと『其れ』がその巨体を立ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な上半身だけの骸骨が全身に赤黒いオーラを纏い出現した。

 

 

 

 

 

 

「な、なななななにアレ・・・!?」

 

 

 

「うわぁ・・・でっかい」

 

 

 

幽霊等の類が苦手なサリーが顔を青ざめさせてメイプルの後ろに隠れ、メイプルは只々能天気な感想を漏らす。

 

 

それを尻目にノブナは掲げた右手を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

「【鷹の瞳】!そして・・・・・・【百裂拳】!!」

 

 

 

 

 

 

【百裂拳】

 

・このスキルは【素手】または【拳系】の武器を装備している場合のみ発動できる。【MP】消費無し。

 

・自身の【STR】を一時的に1.5倍にし、拳による連続攻撃を放つ。連続攻撃終了後【STR】の値は元に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『GgggoOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!』

 

 

 

 

 

声帯の存在しないはずの口から咆哮を上げた骸骨がその巨大な骨の拳を振りかぶり、目標である壁に向けて全力で叩きつける。

 

 

 

 

 

 

――――ゴシャぁっ!!という轟音と空気を震わす程の衝撃

 

 

 

 

明かに必殺の威力を感じさせる一撃。

 

 

 

 

しかし、攻撃は一度では終わらない。

 

 

 

 

何度も何度も何度も何度も

 

 

 

 

凄まじいスピードで巨大な拳が壁に叩きつけられる。

 

どころか一撃当たるたびに骸骨を包む赤黒いオーラが増幅し、一発一発の拳の威力が上がっていっている。

 

 

 

 

 

「さもありなん・・・ダメージが入れば【血濡れの栄光】の効果で威力が上がっていくからのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガッガガッガガガッガガガッガガガガガガガガガガガガガガガガガガガっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで機関銃の如き轟音が砂漠の静寂を切り裂く。

そしてオーラが最高潮に達したその時、骸骨が右手をひと際大きく振りかぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これぞ!儂の!『第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)』ゥ!!!」

 

 

 

 

 

 

『GgggoOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 

 

 

 

 

 

貯めこまれた力を込めた拳に膨大な質量と遠心力を加え放たれるは下から抉り込むようなアッパーカット

 

 

 

既に満身創痍の体だった所に文字通りの致命の一撃を喰らった壁がひしゃげ曲がりながら吹き飛び、空中でバラバラに分解、キラキラと光の粒子となって消えていった。

 

威力としては申し分なし。

 

 

その様子を見ながらしかしどこか不満そうなノブナ。

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ・・・・やはりこの技を使うならギターが無くてはしまらんのう・・・今後の課題じゃなぁ」

 

 

 

 

「問題点そこ?・・・・分かってたけどやっぱりこの人、おかしい」

 

 

 

「・・・・あ、あははは・・・」

 

 

 

 

 

 

メイプルの後ろに隠れたままサリーがボソッと呟きメイプルは只々苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃運営部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「う、うわあぁぁああああああああああああああああああああああっ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面に映し出された巨大な骸骨による連続パンチなどという奇怪な映像に部屋の各所から悲鳴が上がった。

 

 

 

「な・・・なんじゃありゃあ」

 

 

 

「空飛ぶ巨大亀に連続パンチする巨大骨格標本・・・いつからNWOは妖〇大戦争になったんだ?」

 

 

 

「だからメダルスキルのチェックを忘れるなとあれほど・・・」

 

 

 

「いやいやノブナのステータス的にあんなスキルとる訳ないから手を付けなくてもいいって・・・」

 

 

 

「それもう聞いたぁ!メイプルの時にもぉ!」

 

 

 

「もぉ嫌だこいつらぁ・・・・・・」

 

 

 

今日も今日とて運営部屋は地獄絵図なのであった。

 




ちびノブの第2イベント終了時のステータス

レベル 1 → 9
 
HP 80/80(+500)

MP 30/30 → 150
 
【STR】30 →65(+150)

【VIT】15

【AGI】15(+150)

【DEX】150 → 450(+150)

【INT】20


矢印がレベルアップで上昇した数値。括弧内はスキル【無窮の武錬】で上がってる分です。

シンプルに頭がおかしい。

共闘モンスターの能力の上がり幅とかよくわからなかったので割と適当に数字ぶち込んでるのでおそらく色々間違ってる可能性高し。

指摘等あったら多分変えるかもですので参考程度にしていただけると幸いです。


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幕間の物語2 NWO運営の緊急対策会議記録

タイトルの番号間違えてたので変更。


 

 

 

―――〇月✕日 Web会議室にて―――

 

 

 

 

――――会議開始――――

 

 

 

 

【議長】

 

テスト

 

 

 

 

【議長】

 

OK

 

 

 

【議長】

 

 

皆様お揃いでしょうか?

 

 

【運営1】

 

 

はい

 

 

【運営2】

 

 

います

 

 

 

【運営3】

 

 

OKです

 

 

 

【運営4】

 

 

大丈夫です

 

 

【運営5】

 

 

いつでも

 

 

 

【議長】

 

 

・・・ではこれより今回の第2イベントにて発生した事象を踏まえた上で今後のNWO運営方針についてWEB会議を開始致したいと思います。皆様ぜひとも忌憚のない意見をお願いいたします。

 

 

 

【運営1】

 

 

あの、一ついいですかね?

 

 

 

【議長】

 

 

何でしょうか?

 

 

 

【運営1】

 

 

第2回イベントで発生した事象云々の会議ってことはメイプルとかノブナとかのアレやコレやってことですか?

だったら毎日運営部屋で顔つき合わせて相談してますが

 

 

【議長】

 

 

いえ、それとはまた別件です

 

 

 

 

 

―――――ざわつく一同―――――

 

 

 

【議長】

 

 

静粛に

まずはそうですね・・・皆様この映像をご覧ください。

 

 

 

 

――――――映像開始―――――――

 

 

 

 

とある荒野エリア

 

 

一人の少女が戦闘中だ。

 

 

 

 

 

「【多重炎弾】!」

 

 

 

炎の弾が飛び、鋼鉄の鎧を着こんだ巨大な鷹のようなモンスターに迫る。

モンスターは重装備を付けているとは思えぬ俊敏な動きでこれを回避する。

 

 

 

 

 

 

瞬間、その胸を『朱槍』の一撃が貫いた。

 

 

 

 

 

 

「悪いが終わりだ」

 

 

 

消えていくモンスターの背後で薄く笑う青タイツの男。

完全にモンスターが消滅したのを確認し、少女が男に近づきこぶしを突き出す。

それに応じて男が軽くこぶしをぶつけて微笑んだ。

 

 

 

「ナ~イス。なかなかやるじゃん」

 

 

 

「お褒めに預かり恐悦至極・・・と言いたいとこだがこんな雑魚相手じゃ流石に張り合いがなさすぎるってもんだ」

 

 

 

「言いますねぇ。・・・ならもっと奥の方探索してみる?」

 

 

 

「おうよ」

 

 

 

少女と青タイツの男が荒野の更に奥地へと進んでいく。

 

 

 

 

 

――――――映像終了―――――――

 

 

 

【議長】

 

 

と、このようになっております。

因みにこの映像はリアルタイムのもの・・・・つまりは『第2イベント終了後』のものであるということを追記しておきます。

 

 

 

 

【運営1】

 

 

やばい

 

 

【運営2】

 

 

やばい

 

 

【運営3】

 

 

やばい

 

 

【運営4】

 

 

やばい

 

 

【運営5】

 

 

やばい

 

 

【議長】

 

 

・・・・皆様の間に共通認識が生まれたようで何よりです

 

 

【議長】

 

 

プレイヤー名は『フレデリカ』。メイジ系職業の一般プレイヤーの一人です。

非常に優秀なプレイヤーではありますがメイプル、ノブナを代表するような常軌を逸脱するようなプレイングをする訳ではない私たち運営側にとっては頭を悩ませる必要のない優良プレイヤーです・・・・・いえ、『でした』

 

 

 

【議長】

 

 

第2イベント中にて本来は消滅するはずのお助けNPC『クーフーリン』がイベント上の重要アイテムの増殖・・・・おそらくバグでしょう・・・にてフラグが完成されずに消滅せず、その後今現在に至るまでの間該当プレイヤーのパーティーの一員として参加し続けているという事象が発生いたしました。

 

 

 

【議長】

 

 

原因は諸々あるのですが・・・・まぁ、大概ノブナとハゲ課長のせいです。

 

 

 

【運営5】

 

 

おい

 

 

 

【議長】

 

 

なんですハゲ・・・もとい5番さん。会議の進行に支障をきたしますので勝手な発言はご遠慮ください。

 

 

【運営1】

 

 

そうだぞハゲ

 

 

【運営2】

 

 

黙っとけハゲ

 

 

【運営3】

 

 

これもそれもアンタの無駄な秘密主義と見通しの甘さが招いた結果だということを忘れるな

 

 

【運営4】

 

 

まぁ、無能ハゲへの罵倒はさておくとしても・・・どうします?

元々の要因はバグなんですし運営権限で強制的に消滅ってこともできますけど・・・

 

 

 

【運営1】

 

 

まぁ、普通に考えたらそれが最善でしょうな。

 

 

 

【運営3】

 

 

 

・・いや、私は反対です。

 

 

 

【運営4】

 

 

ふむ、なぜです?

 

 

【運営3】

 

 

我々運営間でも度々指摘されているプレイヤー間の格差問題です。

 

無論、ゲームの性質上ある程度の差が生じるのは致し方ありませんが、現状メイプルやノブナといった一部の人外・・・失礼・・・特殊なプレイヤーに強力なスキルやアイテムが集中し、それ以外のプレイヤーとの間に大きすぎる実力差が発生しています。

 

これではいつか一般プレイヤーからの不満が噴出しますし、ゲームに対するモチベーションの低下にもつながりかねません。

 

 

ここはクーフーリンを【共闘モンスター】扱いとし、彼女の元に残しておくというのはどうでしょう。

 

 

フレデリカはトッププレイヤーの内の一人ではありますが、まぁ一般的なレベルの範疇内です。

 

そんな彼女がメイプルやノブナ達の逸脱したプレイヤー達とも互角以上に立ち回れるようになるとなれば多少なりとも格差の穴埋めになるのではないでしょうか。

 

 

 

 

【運営1】

 

 

なるほど一理はありますな。

 

しかし、それはフレデリカ自身がその『一部の逸脱したプレイヤー』の中に組み込まれるだけでは?

 

それではなんの意味もありません。

 

 

【運営3】

 

 

そこについて私に一つ考えがあります・・・・課長

 

 

【運営5】

 

 

あ、なんかもう普通に呼ぶのね・・・・何だ?

 

 

【運営3】

 

 

確か、FGOとの大規模コラボイベントの話、ありましたよね。

 

 

 

【運営5】

 

 

ああ、まだ詳細については決まってはいないが・・・

 

 

 

【運営3】

 

 

そのイベントをクーフーリンのような【共闘モンスター】―――いえ、あえて言い換えましょう。【サーヴァント】を獲得できるイベントにすればよいのです。

 

かのゲームに登場するキャラクターを提示されたクエストをクリアすることで自分の【サーヴァント】とすることが出来る・・・そんなイベントです。

 

これならば大多数のプレイヤーに【逸脱したプレイヤー達との実力差を埋める】チャンスが発生します。

 

 

―――ついでに今回のバグ騒動も『次回イベントへの布石』として誤魔化せます。

 

 

 

【運営1】

 

 

なるほど・・・クエストの難易度や【サーヴァント】事態の能力の調節を行えば新たな逸脱したプレイヤーが大量に生まれるとかいう地獄も防げる。

 

 

 

【運営2】

 

 

ついでに【サーヴァント】目当ての新規プレイヤーも期待できます。

一石二鳥どころか三鳥、四鳥ですよ。

 

これはイケるのでは?

 

 

 

【議長】

 

 

・・・・結論は出たようですね。

 

では今回の事案は次回イベントにて調節するということで異議はありませんでしょうか。

 

 

【運営1】

 

 

異議なし

 

 

【運営2】

 

異議なし

 

 

【運営3】

 

 

異議なし

 

 

【運営4】

 

 

異議なし

 

 

【運営5】

 

 

異議なし

 

 

【議長】

 

 

ではこれにて今回の緊急対策会議を終えたいと思います。

次回イベントの詳細な調整につきましては課長が主導して行うということでお願いいたします。以上、解散。

 

 

【運営1】

 

 

お疲れさまでした

 

 

【運営2】

 

 

お疲れさまでした

 

 

【運営3】

 

 

お疲れさまでした

 

 

【運営4】

 

 

お疲れさまでした

 

 

【運営5】

 

 

 

 

 

―――――会議終了―――――



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器用度極振りとギルドホーム

※アイテムの売値がどうのこうのは独自設定です。ご了承ください。


 

 

第2イベント終了から早2日が経過し、NWO内には祭り終わりのどこか寂しさを含んだ気だるげな空気が漂っていた・・・・などという事は一切なく拠点の街には多数のプレイヤーが集まりフレンド、野良の区別なくパーティーを組んではフィールドに出撃を繰り返しており、イベント開催中に負けず劣らずの活気を見せていた。

 

原因はイベント後のこのタイミングで運営から投下されたいくつかの情報である。

 

 

一つは大盾に貫通攻撃に対抗するスキルが追加されたこと。

 

 

 

 

そしてもう一つ・・・これが主にこの騒ぎの原因なのだが・・・が

 

 

 

 

【ギルド】と、それに伴い実装される【ギルドホーム】である。

 

 

 

 

NWOにも遂にギルドシステムが導入されることになり、それに伴って各ギルドごとに自分達だけの【ギルドホーム】を購入することが出来るようになったのである。

 

要は自分達だけの夢の秘密基地だ。心動かされるのも無理はない。ステータスアップ等の実利的な恩恵もある。

 

 

しかも今現在はプレイヤー人数に対して建物の戸数が圧倒的に足りていないが故に先着順ときた。

 

これから順々に増えていく予定とはいえ、ゲーマーの群れの前に『早い者勝ち(+実利もあり)』などという餌をぶら下げれば食いつくに決まっている。

 

なのでガチ勢を中心として多くのプレイヤー達が我先にと必要アイテムである【光虫の証】の収集と資金集めに奔走している訳である。

 

 

 

そしてここにも・・・

 

 

 

 

「―――――サリー・・・生きとるかぁ」

 

 

 

「な、なんとか~」

 

 

 

 

幾人ものプレイヤー達が行き交う広場、その一角。

隅の方にちょこんと設置されているベンチにぐったりとした様子のノブナとサリーが座っていた。

 

 

情報が公開されてからこっち、二人でギルドホーム購入に必要なアイテム集めに東奔西走していたのである。

 

 

そのおかげでドロップアイテムである【光虫の証】は用意は出来ていた。

 

 

しかし

 

 

 

 

「二人合わせて400万と少しといったところか・・・最低ラインがどれくらいじゃったっけ?」

 

 

 

「・・・500万です~」

 

 

 

「・・・足りんのう」

 

 

 

 

金が足りない。

 

ドロップアイテム収集の過程で手に入れた大量の素材を売却してもまだ足りない。

 

想定では足りるはずだったのだが、みな考えることは一緒だったらしく同じような素材が一度に、しかも大量に市場へと投入され、その影響で素材の価値が暴落。生産職プレイヤーの経営する店の中には買い取り拒否を宣言する店も多く現れた。

 

無論、NPCの店ならば買い取ってはくれるがプレイヤーの店に比べれば雀の涙程度の金額でしかない。

 

二人も泣く泣く全てを売却したものの予定していた資金額にまで到達出来なかったのだ。

 

もはや座っているというより寝転んでいるような体勢のサリーが不満を漏らす。

 

 

 

「ノブナさんあれだけ『銃』持ってるんだからお金いっぱい持ってると思ったのに~」

 

 

 

「逆じゃ逆・・・あんだけ持っとるからこそ維持費も相応にかかるんじゃ。考えたらわかるじゃろ・・・」

 

 

 

やり取りする声にも覇気がない。

 

資金集めに奔走し、かつ目的が達成できなかった今、二人の疲労感はMAXだった。

なのでこうして二人してベンチで溶けているのである。

 

 

 

「・・・うう・・・こんなことしてる間にもどんどん候補地が埋まっちゃう・・・【ギルドホーム】なんてメイプル絶対に欲しがるから頑張らないと・・・」

 

 

 

「とはいうものの、実際問題どうする・・・そんじょそこらのアイテムなんぞ安く買いたたかれるのがオチじゃぞ。これから商人どもの財布のヒモはどんどん固くなる一方じゃろうし」

 

 

 

「う~ん私ももうすっからかんだし・・・・【タネガシマ】あんなにいります?」

 

 

 

「・・・それ以上はいくらお主とてライン越えじゃぞ・・・?」

 

 

 

「冗談ですよぉ・・・じゃあ他に何かレアアイテムっぽいものとかストレージの奥に眠ってたりしません?」

 

 

 

「そんなうまい話ある訳なかろうて」

 

 

 

言いながらノブナが画面をサリーにも見えるようにスクロールさせる。

じと目でそれを見送っていたサリーだったが、とある一つのアイテムに目が留まる。

 

 

 

「『天空門のカギ』?聞いたことないアイテムですね」

 

 

 

「ああ、第2イベントの時に手に入れてたアイテムじゃな。ホレ」

 

 

 

言いながらノブナは画面をタッチして件のアイテムを実体化させる。

 

 

 

現れたものは名前の通りに鍵だった。

 

現代的なものではなく、アニメなどで見かけるような錠前を開けるのに用いるような、広げた手のひらほどもある大きなものである。

 

ガラスのように透き通ったなにがしかの物質で作られているらしく、太陽の光を反射してキラキラと光っている。所々に付けられた装飾も相まって高級感漂う造形だ。

横から覗き込んだサリーが小さく息をのむ。

 

 

 

「キレー・・・でもコレ結構高級そうじゃありません?明らかにレアアイテムっぽいし高く売れるかも!」

 

 

 

「ところがどっこい、試しに持って行ってみたが評価額なんとまさかの0!一文の価値もないと言われた!」

 

 

 

「ええぇ!?」

 

 

 

「まぁ、実際使い方も何も書いておらぬ上に装備も出来ぬ、何かの素材に出来る訳でもないとくれば是非もないよネ!」

 

 

 

「むむむ・・・・でもそんな意味のないアイテムわざわざ導入するのかなぁ?」

 

 

 

サリーは唸りながらノブナからカギを貸してもらい、手のひらの上で転がしてみたり太陽の光に透かして見たりと色々弄りまわしてみるも特に変化はない。

 

 

 

「う~ん・・・駄目ですねぇ分からない・・・」

 

 

 

「じゃろ?まぁ、何がしかのイベントのフラグ専用アイテムかもしれんな。とりあえずはストレージ内で寝かしとくしかないのう」

 

 

 

「ですね~残念」

 

 

 

肩を落としたサリーがカギをノブナに返却しようとして・・・

 

 

 

 

「あ」

 

 

 

「む」

 

 

 

 

 

受け取り損ねたノブナの手からカギが滑り落ちた。

 

 

二人の見つめる中、カギは重力に従って鍵穴に刺す方を下にして地面へと落ちていき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――そのまま『突き刺さった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は?』

 

 

 

 

 

 

二人の眼が点になる。

ここは街中にある広場だ。当然だが地面は煉瓦が敷かれて舗装されている。

とてもではないがカギが刺さるようなことはあり得ない。

 

では目の前のこの光景をどう説明すればよいのか?

 

ぐるぐると思考が巡るも疑問と混乱が噴出するばかり。

 

 

 

 

「ど・・・どうしましょう?」

 

 

 

「・・・どうするもなにも・・・とりあえず・・・抜く?」

 

 

 

しゃがみ込んで地面に突き刺さったままの鍵を見つめる二人。とりあえずこのままにするわけにもいかないので抜けるか確認してみることにした。

 

ノブナが恐る恐る手を伸ばし、鍵に手をかけ引っ張る。

 

しかし結構な力を込めても抜ける気配はない。試しにサリーが変わってみるも結果は同じであった。

 

 

 

 

「んっ・・・抜けませんねぇ・・・」

 

 

 

「引いてダメなら押す・・・も駄目そうじゃな。ならいっそ回してみるとか」

 

 

 

「なるほど?・・・・えい」

 

 

 

サリーがノブナの思い付きに従って鍵を回そうと力を込める。

 

 

 

 

 

果たして

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガチャリ、と

 

 

 

 

 

確かにナニカが解錠するような音が響き、鍵が抵抗なく回った。

 

 

 

瞬間、二人の視界を青白い光が包む。

 

 

 

 

「ぬう!?」

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

 

『―――アイテムの使用を検知―――アップデート開始―――完了。【ギルドホーム】及び【サーヴァント】システム・・・実装を確認。オールクリア。ロック解除。転送を開始します』

 

 

 

 

頭の中に声が響き、青白い光がひときわ強くなった。

思わず目を閉じた二人の身体を覚えのある浮遊感が襲う。

 

 

どこか別のエリアに転送される時のあの感覚だ。

 

 

一瞬のその感覚が身体を走り抜けていき、次に感じたのは猛烈な風。

 

 

冷たい風が肌を叩き、ごうごうという音が耳を襲う。

 

 

風の中どうにか目を開ければ広がるのはどこまでも広がる青・・・・

 

 

 

 

 

「そ、空ぁ!?」

 

 

 

「なんじゃあぁ!?」

 

 

 

 

二人が出現したのは空の上・・・・雲海ひしめく上空の世界であった。

 

二人の身体を支える地面は遥か下。当然のように重力へ導かれるままに自由落下を始める。

 

グングンと近づいて来る地面。

 

このまま地面に衝突すれば極振り故の吹けば飛ぶようなHPのノブナは勿論、サリーもデスは確実だろう。

 

 

 

『【秘密兵器】で足場を・・・いや間に合わん・・・チっ、ならば』

 

 

 

舌打ち一つ、ノブナが叫ぶ

 

 

 

 

「ちびノブ覚醒!」

 

 

 

 

「ノブ!・・・・・ノッブぁああああああ!?」

 

 

 

 

光と共に出現したちびノブが現状を理解して悲鳴を上げるのを無視して隣で同じように落下しているサリーに手を伸ばす。

サリーもこちらに一つ頷いてみせると伸ばした手をしっかりと握ってきた。

 

 

それを確認した後、肺一杯に冷たい空気を吸い込み風切り音に負けじと叫ぶ。

 

 

 

 

 

「【生命ある鎧】【奇妙な隣人】【巨大化】そして【ギガンティックモード】!!」

 

 

 

 

 

ちびノブの身体が即座に崩れ、スライム状となりノブナの身体を包み込む。

と、その背後から依然見せた時よりもはるかに巨大な骸骨が出現した。

 

突如として目の前に現れたソレを見て卒倒しかけたサリーを引っ掴み、ノブナは迫る地面を睨む。

 

 

 

「勢いを殺せ!【百裂拳】――特大、『第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)』!」

 

 

 

放たれた巨大に過ぎるこぶしが地面を乱打。

穿たれた地面が悲鳴にも似た轟音をたて振動し、ひび割れ、陥没する。

 

 

舞い上げられた煙が視界を覆い隠す。

 

 

吹きすさぶ風が粉塵を拭い去れば、出来上がったクレーターの中心で起き上がろうとする二人の姿が。

どちらもぐったりとした顔をしてはいるが大きなダメージはない。

 

 

 

「ふぅ~・・・まさか地面相手に使わされるとは思わなんだぞ」

 

 

 

「質の悪いデストラップでしたねぇ・・・とりあえずありがとうございますノブナさん。ちびノブも、ね」

 

 

 

「ノ~ブ」

 

 

何時ものデフォルメ姿に戻ったちびノブが右手を上げて応える。

労いの意味も込めてその頭を撫でてやった後、二人と一匹でクレーターから脱出する。

 

 

昇り切れば一気に視界が広がり、周囲の様子が良く見えるようになった。

 

 

 

視界を埋めるのはどこまでも広がる白い世界。

 

雪と氷がありとあらゆるものを覆い、支配している大地だ。

 

まるで北極にでも飛ばされたかと錯覚するような場所。

 

 

しかし、そんな中で一際目立つものが一つ。

 

 

 

「城?」

 

 

 

「しかも上下反対の、じゃ」

 

 

 

二人が見上げるその先には空に浮かぶ雲海の向こうに見える、光り輝く魔法陣から生えているかのように上下さかさまで存在している中世風の巨大な城があった。

 

 

 

 

「・・・・サリー・・・儂、いや~な予感がするわ」

 

 

 

「・・・奇遇ですね。私もです」

 

 

 

 

 

 

いっそ珍妙にも見えるそれを見ながら、しかし二人はむしろ警戒レベルを一段階引き上げた。

それぞれの得物を取り出し、背中合わせとなって周りを注意深く見回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は確かにこの城を見たことがあったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界(NWO)ではなく現実世界(リアル)で―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――正確には其処に存在する、別のゲームの中で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――侵入者を発見しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の頭の上で声がする。

 

即座に反応しそちらへ武器を構え、戦闘態勢をとる二人。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――対象2名の戦闘の意思を確認。装備を確認・・・完了。警戒レベルを引き上げた方が良いと思う」

 

 

 

 

 

 

 

 

上空には3つの影・・・

 

 

 

影の正体は3人の少女。

 

 

一見はただの少女達・・・・しかし彼女等が人ではありえないことはすぐに理解できた。

 

 

 

 

その背から光輝く羽のようなものが生えているからだ。

 

 

 

 

古代の神官の如き、穢れ一つない白き衣装に身を包み、

 

 

華奢なその身に見合わぬ黄金の盾と、光をそのまま変換したかのような輝く一振りの槍を携えて、

 

 

 

端正な顔に仮面のような無表情を張り付け、

 

 

 

 

機械のような感情のない紅い瞳が3対、こちらを見降ろしてくる。

 

 

 

 

一人は金 一人は桃 一人は黒

 

 

 

風で捲れたフード下から覗く3色の髪色。

 

 

 

 

 

 

「―――承認。個体名『オルトリンデ』『ヒルド』『スルーズ』以上3騎、直ちに戦闘態勢に移行。侵入者を粉砕します」

 

 

 

 

 

 

 

 

遥か昔―――未だ神と人とが分かたれていなかった神代の時代

 

 

 

 

 

かの北欧の大神オーディンに製造され、数多の戦場を駆り、死した勇者の魂をヴァルハラへと導くと伝えられる戦乙女―――『ワルキューレ』

 

 

 

 

 

それが今、ノブナとサリーに輝く光槍の切っ先を向けて猛スピードで突っ込んできた。

 

 

 

 




個人的にはスルーズが好きです。

なんでイベント前にサーヴァントが出てるのか?大体ハゲのせい。


話変わって多分原作の第3イベントがまるまるFGOコラボイベに成り代わる感じになると思いますが、ノブナ、メイプル、サリー辺りはアイデアありますが他はどうしようか。

なお、以下のキャラはメタ的な理由で出せないです。出せてもセリフもないちょい役。あしからず。

・作者が持ってないサーヴァント
・モルガンとか妖精国以降の登場の鯖(作者が未だにクリアできてないため)
・シェイクスピアとか最近だと馬琴みたいな作家鯖(リアル知識不足)
・以蔵さん(方言再現無理)
・タマモキャット(あの独特過ぎる言葉選びは無理)


思いつくところだと今のとここんな感じ。随時更新中。


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器用度極振りと共闘

 

3騎の攻撃はいたってシンプル。

 

 

接近しての槍で刺突。それだけだ。

 

 

しかし、それが高速で、かつ有機的な連携を交えながらとなれば話は別だ。

 

 

或いは前方からの突進

 

 

或いは背後からの不意打ち

 

 

或いは頭上からの串刺し

 

 

1騎に斬りかかれば他2騎がそれぞれ別方向から挟撃。

 

銃口を向ければ射線を切るように3騎入り乱れての高速機動。

 

 

前、後、上、下、左、右・・・ありとあらゆる方向から光槍の一撃が飛んでくる。

 

 

並みのプレイヤーならば既に数十回は串刺しにされていそうな嵐の如き攻撃をサリーがスルスルと避けていく。

まるで流れる水のように捉えどころのない動きから敵の攻撃の合間に滑り込ませるように短刀を振るう。

 

ギャリと金属同士がぶつかる音がして、黄金の盾の表面を短刀の一撃が削る。

 

が、それだけだ。有効打には程遠い。

 

すかさず飛んでくる返しの1・・・否、『3撃』

 

胸、足、首と当たれば致命傷になるだろう場所へ正確に突きこまれる槍先。

 

サリーの身体を槍が貫くその寸前、戦乙女の内の1騎――スルーズと呼ばれた個体の冷静な声が響く。

 

 

 

「―――警告。3時及び9時方向に敵影確認。回避行動を推奨」

 

 

 

「了解。攻撃を中断します」

 

 

 

「分かったよ~」

 

 

 

黒髪の個体――オルトリンデがびたりと止めた槍をそのまま指定された方に向けて薙ぎ払う。

 

鋭い金属音と共に、軌道を変えられた弾丸があらぬ方向へと飛んでいく。

 

その背中に迫るどろどろとした粘液の塊は場にそぐわぬ明るい声で返事をしながら間に割り込んだ桃色髪の個体――ヒルドによって盾で防がれた。

 

 

2騎の動きが止まったその隙にサリーが大きく跳躍。3騎の槍の届く範囲から離脱する。

ワルキューレ達も深追いすることはなく、空中で待機。

 

仕切り直しだ。

 

 

 

「っと、危な。もうちょっとで串刺しになるところだったね」

 

 

 

「そういう割には妙にうれしそうじゃのう」

 

 

 

「ノブブ」

 

 

 

短刀を構えなおしながら呟くサリーの近くに、ストレージから新しい【タネガシマ】を取り出しながらノブナが合流する。別方向から離脱してきたちびノブも一緒だ。

 

 

 

「いや~今までこんな感じの戦闘は出来なかったから新鮮なんですよね。手強かったモンスターは大体巨大な奴とのガチンコだったし対人戦は大体不意打ちばっかりでしたし。あんな感じで高速かつ高レベルでの連携をしてくる敵と戦ってると楽しくてつい」

 

 

 

「なんやかやでお主も戦狂いよなぁ。ここんとこ大人しぅしとったから丸くなったと思えば何も変わっとらんな」

 

 

 

「戦闘狂とかノブナさんにだけは言われたくないな~自分だって結構楽しそうにしてるのに」

 

 

 

「ま、否定はせんわな」

 

 

 

軽口を飛ばしあいながら、二対の視線は上空で静止しているワルキューレ達へと注がれ続けている。

 

 

どこをどう攻略すれば相手の喉笛に己が爪牙を届かせられるか。

知識で、経験で、或いは勘で。

持ちうるすべてでもって相手の急所を見定める。

思考がその目的の為に最適化されていく。

 

 

 

 

 

「さっきの動きからして近接戦闘主体の思考ルーチンなのかな」

 

 

 

「わからん。原作基準なら槍投げも使ってくる可能性が高いしな。ある程度体力を削ったら宝具の解禁もあり得るから遠距離範囲攻撃の備えもしておいた方がよい」

 

 

 

「それもありましたね。原作準拠にするならステータスは3騎とも一緒とか?」

 

 

 

 

 

強敵を前にしても二人の戦意は衰えていない。むしろ瞳に宿る闘志は増すばかりである。

 

 

当たり前だ。

 

 

強い敵と戦い、それを打ち負かした時に得られる達成感、充実感。

 

これ等こそ彼女達のような勝利の快楽に脳を焼かれた人間(ゲーマー)にとっては至上の喜びなのだから。

 

 

 

 

「当該対象の戦闘力、当初の予想値を上回りました。戦闘方法の変更を提言します」

 

 

 

「了承。オルトリンデは遠距離からの援護を。ヒルド」

 

 

 

「うん。行くよスルーズ!」

 

 

 

「おう。言うとる間に早速じゃのう。せいぜい当たらんように避けろよサリー。ちびノブも隙あらば奇襲できるようにしておけ」

 

 

 

「そっちこそ流れ弾に当たらないでくださいよ」

 

 

 

「ノッブ!」

 

 

 

ノブナとサリーがお互いに笑って言い、散開。ちびノブもスライム状に変化してスルスルと別の場所へと姿を隠す。

瞬間、オルトリンデが手にした光槍を投擲する。

 

迅雷の如く飛来した槍が今の今までノブナ達がいたその地面を穿ち、爆散させた。

 

パラパラと巻き上げられた白煙。

 

それを吹き飛ばす様に無数の弾丸が放たれる。

迫る無数の銃弾をオルトリンデは縦横に飛行して回避していく。

 

槍の投擲が止まったのを機として中から飛び出してくる影が一つ。

 

 

サリーだ。

 

凄まじいスピードで未だ空中を飛び回り弾丸の雨の回避に集中するオルトリンデに迫る。

 

 

その間を塞ぐように向けて金色と桃色の風とが走るサリーへと飛んでいく。

金色の長髪を靡かせてスルーズが連続突きを放つ。

その隙を潰す様にヒルドが槍を薙ぐ。

 

 

スピードに乗っていたサリーは止まり切れない。

 

目を見開き驚愕の表情を浮かべた彼女の身体を無慈悲な槍の連撃が貫いた。

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

 

 

 

が、次に目を見開いたのは2騎のワルキューレ達の方だった。

 

槍で貫いたサリーの身体がゆらりと揺らいだかと思えば、次の瞬間にはかき消えたのだ。

 

 

 

 

―――【蜃気楼】

 

 

 

サリーのとっておきのスキル。自分の幻像を出現させるスキルだ。

 

白煙の中から飛び出した時点でニセモノだった訳だ。

自分達が釣り出されたと理解した2騎がすぐさま離脱しようと羽を広げ空へと浮遊しようとして

 

 

 

「くっ!?」

 

 

 

「なに、このドロドロ!?」

 

 

 

 

地面から伸びあがってきた2体のスライムによってガッチリと拘束された。

 

 

見た目はスライムと言えど【STR】150超のモンスターによる拘束だ。暴れたところで早々に解放されるものでもない。

 

 

 

 

 

 

 

「時間稼ぎ御苦労」

 

 

 

 

 

 

 

 

蠢きまとわりつくスライム相手に抵抗する2騎を朱い双眸が射貫く。

轟々と吹きすさぶ風に外套をはためかせ、赤黒いオーラを全身に纏わせながらノブナが朗々と謳い上げる。

 

 

 

 

 

「『三千世界に屍を晒すが良い・・・天魔轟臨!!』」

 

 

 

 

 

 

 

掲げた右手に従い、幾千のほの暗い銃口が哀れな犠牲者を求めるように戦乙女達へと一斉に向けられる。

 

 

 

 

「―――させませんっ」

 

 

 

ノブナの射撃を阻止しようとオルトリンデがその手の光槍を投擲しようと振り被る。

 

 

 

 

「―――それは私の台詞かな」

 

 

 

「く・・・っ」

 

 

 

【跳躍】してきたサリーの斬撃を辛くも引き戻した光槍で受け止めた。

 

幸いサリーからのそれ以上の追撃は飛んでは来ず、重力に引かれて落下していく彼女を横目に再び槍を投擲しようとして

 

 

 

 

 

 

・・・・そこで時間切れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが魔王の『三千世界(さんだんうち)』じゃあ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆音と共に放たれた数多の弾丸が地形ごと2騎の影を削り取った。

 

 

 

 

 

巻き上げられた白煙が吹きすさぶ風に吹き流された後には抉られた地形が無残な姿を晒すのみ。

巻き込まれた2騎は影も形もない。

 

それを確認したノブナが口の端を吊り上げ、上空に一人残されたオルトリンデへと愛銃の銃口を突き付ける。

 

 

 

「・・・・さて残るは1騎・・・貴様だけじゃ」

 

 

 

「わぁーわっるい顔。これじゃあどっちがモンスターか分かりませんよ」

 

 

 

「いちいち混ぜッ返すなサリー!」

 

 

 

隣に戻って来たサリーに向けて怒鳴り返すノブナ。

 

 

 

青い空を背景に一人浮かぶ黒髪の戦乙女。

俯いたその表情はノブナ達の所からではうかがい知れない。

仲間の死に悲しんでいるのか、一人残されたことに絶望しているのか

 

空中に静止したまま動かない。

 

・・・・・ともあれ動かないのならば苦労はない。

ノブナが指を引き金に賭けたところで

 

 

 

 

 

「―――警告」

 

 

 

 

 

感情の起伏のない声が辺りに響く。

それが残る黒髪の戦乙女の口から発せられたものだと気づくのに少しの時間を要した。

 

それほどまでにその声は別人のようだ。

 

 

 

――――否、別人『のように』ではない。

 

 

 

 

 

 

『完全に』別人のものだ。

 

 

 

 

 

 

「個体名『スルーズ』及び『ヒルド』の破損を確認」

 

 

 

 

 

 

「直ちに2騎の『修復』を開始―――完了」

 

 

 

 

喋るたびにその声音が別人のそれへと変化していく。

 

まるで幾人もの人間が代わる代わるに話しているのを聞かされているような妙な感覚。

 

 

 

 

「現況の戦力では対象の攻略は不可能と判断。戦力の増強を具申」

 

 

 

 

「―――了承。新たに個体名『リンド』『エルルーン』『ゲイルスケグル』を投入」

 

 

 

「並びに宝具の使用を解き」

 

 

 

 

言葉が終わる前にノブナの【タネガシマ】が火を噴いた。

 

飛んでいく弾丸は過たずオルトリンデの頭部へめがけて飛んでいき

 

 

直前に黄金色の盾によって弾かれた。

 

 

 

 

 

「―――マジ?」

 

 

 

 

 

サリーの引き攣ったような声が聞こえる。

 

それもそのはず

 

 

槍を振り下ろしたのは跡形もなく消滅したはずの桃色髪の戦乙女『ヒルド』。

 

その後ろでオルトリンデの姿が二重にブレる。

ブレは見る間に更に増していきやがて光と共に金色の髪を風に靡かせながら『スルーズ』が姿を現した。

 

再び戦乙女が3騎揃った訳である。

 

しかし、変化はそれで終わらない。

3騎の姿が更にブレ、新たに『3騎』の影が出現した。

 

 

 

一騎は金色の巻髪

 

一騎は緑色のツインテール

 

一騎は橙色の長髪

 

 

 

 

「―――【同位体顕現】」

 

 

 

 

ゆっくりと全員の瞳が開かれていき、計12の紅い瞳がサリーとノブナを写した。

 

 

 

 

 

 

 

【同位体顕現】

 

・【同位体】のスキルを取得している場合のみ取得出来る。

 

・【同位体】のスキルを取得したモンスターを最大6体まで【AGL】の数値に関係なく自身の近くに呼び出すことが出来る。

 

 

 

【同位体】

 

・個でなく全。同一の存在であることを表すスキル。

 

・このスキルはモンスターにしか取得出来ず、取得したモンスターにしか作用しない。

 

・このスキルを所有するモンスターは全て同一のステータスとなる。

 

・このスキルを取得したモンスターが戦闘中のフィールドに複数存在した場合、その全てのモンスターのHPを0にしない限りこのモンスターは戦闘不能とならない

 

 

 

 

 

 

 




とある鬼滅ぼす漫画の兄妹がイメージ元。



運営1 課長、なんでノブナ達がワルキューレ達と戦ってんです?

課長 せっかく作ったモデルがいくつかあったから使いたかったけど前回のイベントに入れられなかった→なら今回のイベントにかこつけて使ったろ。コラボイベント告知にもなりそうやしええやろってことでいろいろなとこにコッソリ追加イベント配置しといたで(ニッコリ)

運営1 やっぱりこのハゲ〇すべきでは?




こんなやりとりがあったとかなかったとか


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器用度極振りと力の代償

今回、キャラ崩壊とか色々注意


 

 

 

―――それはかの北欧神話の中で語られる神々の最終決戦(ラグナロク)、その再現。

 

 

 

 

 

「同位体、顕現開始―――」

 

 

 

 

 

 

穢れ無き白鳥の衣に身を包み黄金色の武具を煌めかせ、それよりなお輝く光の羽を背負い、空を舞う6騎の戦乙女達。

 

 

 

 

 

 

「同期開始―――」

 

 

 

 

 

静かな声が紡がれ、微塵の乱れもなく掲げられるは天空を切り裂く雷にも似た輝きを放つ光の槍。

 

 

 

 

 

 

 

 

「真名解放―――『終末幻想・少女降臨(ラグナロク・リーヴスラシル)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

放たれた光槍が別れ、分割し、幾筋もの光の流星となり地上へと降り注ぐ。

 

隙間なく空を埋め尽くし、さながら煌めく黄金の豪雨となった其れは逃れること能わず。

地上を這いずる者を誅する神の怒りの具現の如くであった。

 

 

 

 

 

 

「下がっとれサリー!出来るだけ撃ち落とす!残ったのは・・・自分でどうにかせい!」

 

 

 

「無茶苦茶言いますね!?」

 

 

 

「出来ねば死するだけぞ。是非もなし・・・というヤツじゃ!」

 

 

 

「あ~も~!」

 

 

 

 

サリーを背にかばい仁王立ちするノブナは眼前に迫る光の奔流をその紅い双眸で睨み付け、赤黒いオーラを渦巻かせながら再び叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「行くぞ!『三千世界(さんだんうち)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

再び現れた無数の銃が轟音と共に火を噴き、弾丸が光槍と激突する。

 

 

 

金属同士がぶつかり、削り、弾けあう不快な音がそれ以外のすべての音を掻き消す。

両者の合間に散る火花の群れは数秒の間拮抗する。両陣営の方に逸れた槍と弾丸が飛んでいく。

しかしそんな状態はすぐに片方の側へと徐々に迫っていった。

つまりはノブナ達側へと。

 

 

 

 

「ちぃ・・・やはり手数が足らんか!」

 

 

 

 

舌打ちをするノブナに迎撃を搔い潜った幾本かの槍が迫る。

射撃に集中せざるを得ず動くことすらままならないノブナに回避は絶望的だ。

が、ギリギリに迫ったそれを横から割り込んだ短剣の乱舞が弾く。

 

サリーだ。

 

その常人離れした動体視力と集中力でもって猛スピードで動く槍に短剣をぶつけ、僅かにルートを逸らす。

スキルでなく己がPSのみでそれをなす化け物じみた動きだ。

 

 

 

「――――っ!!」

 

 

 

「ああ!?何も聞こえんぞ!」

 

 

 

 

サリーが何事かを叫んでいるも周囲一帯に響く轟音が掻き消してしまいノブナの耳には届かない。

その間にも討ち漏らす槍の数は加速度的に増えていく。

 

 

 

迎撃するノブナ。

討ち漏らしを捌くサリー。

 

 

二人の連携で必死に抗う。

しかし、彼我の物量の差は如何ともし難く・・・

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 

ノブナの思わず漏らした声を最後に遂に拮抗が破れ、光の奔流が二人の姿を吞み込んだ。

 

響く轟音、爆散する地面、舞い上がる白煙。

 

 

 

 

「着弾。攻撃を停止」

 

 

 

スルーズの号令の下、攻撃がピタリと止まる。

 

濛々と立ち込める粉塵、その向こうにを見透かすように見つめる12の紅眼。

 

普通に考えるならば、かの攻撃をもって消し飛ばない人間はいないはずだ。

 

 

そう、『普通ならば』だが。

 

 

 

風が煙を拭い去ったそこには太陽の光を反射してぬらぬらと光る球体上の物体。

やがてそれの表面がぶるぶると震えだし、ずるりと形を崩せばその中から二人の人影がはい出してきた。

 

 

 

 

「――【流体操作】でダメージは0じゃ」

 

 

 

「・・・なに格好つけてるんですか。ちびノブがいなかったら二人一緒にデスペナでしたよ」

 

 

 

「ノブブ」

 

 

 

にやりと嗤うノブナとその後ろで胸をなでおろしているサリー。その足元でスライム状のまま待機するちびノブ。

 

そんな二人と一匹を見下ろすワルキューレ達は空中で編隊を組みなおす。

あれだけの攻撃の後にもかかわらず一糸乱れぬ動きだ。

本来必滅の一撃を無傷でしのがれたはずであるのに、その顔に動揺の色はない。

先ほどまで僅かに感じられた感情の起伏すら失われ、より機械的になった印象を受ける。

 

 

 

「なんじゃ、少しは悔しがらんかい。可愛げのない奴らじゃのう」

 

 

 

「それはそれとして・・・どうします?まださっきのアレ撃てます?」

 

 

 

「いや、MP回復にもリロードにも時間を要す。今すぐにというのは無理じゃな」

 

 

 

「ですよね・・・うーんさっきの復活してきたのが厄介だなぁ・・・一体でも残すとダメみたいなヤツかな」

 

 

 

「原作からのメタ推理もするなら継続HP&MP回復とか被ダメージ軽減とかも持っとると思うぞ」

 

 

 

「うわぁ・・・本格的にマズいなぁ。ノブナさんはしばらく大火力は出せないし私じゃ火力が足りなさそう・・・」

 

 

 

「・・・いや?そうとも限らんぞ?」

 

 

 

 

そう言ってノブナは指を一本立てる。

 

 

 

「わしに一つ、考えがある・・・あるのじゃが・・・」

 

 

 

言葉を区切り、苦虫を嚙み潰したような渋い表情を浮かべる。

そこに見えるのは明確な『迷い』の感情。

普段の彼女を見慣れているサリーからすればなんとも珍しい表情に多少驚くが、黙って先を促す。

何ともいえない微妙な表情を浮かべたノブナが言葉を続ける。

 

 

 

「・・・一応、儂のとあるスキルを使えば広範囲を一度に攻撃出来る。とは言え瞬間火力は『三千世界』には及ばんゆえに討ち漏らしが発生する可能性が高い。そこでサリー。お主にその討ち漏らしを狩ってもらいたい」

 

 

 

「それは構いませんけど・・・さっきも言いましたけど私じゃ火力が足りるかわかりませんよ?」

 

 

 

「それも恐らく心配ない。瞬間的にお主の火力を上げる方法がある」

 

 

 

「? そんな支援系スキル持ってましたっけ?」

 

 

 

「いやない。が、同じようなことが出来んこともない・・・しかし、だ」

 

 

 

ノブナの紅い双眸がサリーを映す。

 

ノブナの顔が過去に何度か見たことがある、真剣な表情・・・『本気』の顔だ。

 

思わずごくりと生唾を呑み込む。

この表情を浮かべた時のノブナは大抵とても危うい賭けをする。

一寸先も見通せぬ暗闇の中落ちれば死ぬ断崖絶壁の道を、一本の細い細い糸を頼りに進むような危険な賭け。

しかし同時にそういう時の彼女は普段以上に頼りになるということをサリーは知っている。

 

 

 

「そうするにはそれ相応の『代償』を払う必要がある・・・儂も、お主も、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――その覚悟があるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勿論。任せてくださいよ!」

 

 

 

だからサリーは迷いなく頷いた。

 

その顔を見つめるノブナ。まるで本当に覚悟を持っているのか推し量ろうとしているように。

しばらくそうしていた後、深い深いため息をついた。

 

 

 

「・・・・わかった。ならちょいと耳を貸せ」

 

 

 

そう言ってノブナは作戦の概要をサリーに耳打ちしたのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

二人がこそこそと密談を交わしている内に、上空の6騎のワルキューレ達の次の攻撃準備も整いつつあった。

 

 

 

 

「【白鳥礼装(スヴァンフヴィート)】を継続」

 

 

 

 

「・・・完了」

 

 

 

 

「【運命の機織り】による回復を確認」

 

 

 

 

「・・・完了」

 

 

 

 

「パッシブスキル【神性】の発動を確認」

 

 

 

 

「・・・完了。いつでも行けます」

 

 

 

 

 

【白鳥礼装(スヴァンフヴィート)】

 

・大神オーディンの加護を表すスキル。

 

・モンスター限定。このスキルはモンスターしか取得できない。

 

・このスキルを使用すると飛行出来る。使用している間、5秒ごとにMPを10消費する。

 

・このスキルを使用している間、精神系の状態異常(【狂化】【魅了】等)を無効にする。

 

・このスキルを使用している間、被ダメージを70%軽減する。

 

 

 

【運命の機織り】

 

・戦闘中、MPの継続回復効果を得る。

 

・戦闘中、HPの継続回復効果を得る。

 

 

 

【神性】

 

・自身の攻撃のあらゆる攻撃にダメージボーナスを得る。

 

 

 

 

 

12対の瞳が一斉に2名の愚かな侵入者の姿をとらえる。

終焉を告げる角笛(ギャラルホルン)は既に奏でられた。眼前の敵に破滅を、永劫の死を。

 

今度こそ対象の処理を遂行しようと光槍の投擲態勢に移行しようとしたその寸前

 

 

 

 

ノブナが動いた。

 

 

 

 

軽快なステップで前へ出て、即座に叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「【パブリックエネミー】!」

 

 

 

 

 

 

 

―――6騎の戦乙女の編隊、その視線(ターゲティング)がノブナに集中する。

 

 

 

 

タンク役職でもないものが自身にターゲットを集中させる。

 

明かな自殺行為。良識あるプレイヤーが見れば首をひねるプレイング。

 

だが、ワルキューレ達は困惑を浮かべるよりも早く身体が迎撃態勢をとる。

 

12の槍の切っ先を対象へと向け、投擲する。

 

ノブナには今、槍を弾く手段がない。必然、串刺しになるだけだ。

 

しかし、その顔には凶暴な、肉食獣を思わせる笑みが浮かんでいる。

 

 

 

 

 

「北欧の大神が制作したという娘――いやさ、自動人形ども。魔王の劫火でその身を焼き滅ぼすがよい」

 

 

 

 

 

まるで迫る槍を迎え入れるがごとく、両腕を広げる。

 

 

 

迫りくる死を自覚しながら、それでも笑う。哂う。嗤う。

 

 

 

犬歯を覗かせ、天まで響けとばかりの大音声を響かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、『遠きものは音に聞け!!近きものは寄って見よ!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『我こそは第六天魔王波旬―――――織田信長!!!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口にしたと同時にノブナの全身を炎が包む。

真っ赤な炎が服を焼き、その下から覗いた肌さえも容赦なく焼いていく。

 

一個の炎の塊になったノブナ。

やがて、その身に纏った炎が次の犠牲者を求めるように蠢くと、轟音と共に爆発。周囲一帯を真っ赤に染めた。

 

 

 

 

 

「―――――っ!?」

 

 

 

 

 

響いたのは誰の悲鳴だったのか。

 

 

 

敵の胸を貫くはずの槍はその全てが先から赤熱、瞬く間に形を崩し融解、攻撃に組み合わされていたのだろう【職人泣かせ】の効果を十全に発揮した。

 

 

貪欲な獣の如き炎はそのまま突き進んでワルキューレ達にも迫り、その全てを吞み込んだ。

 

 

まず感じたのは圧倒的なまでの熱。発汗すらも許さぬ獄炎が足、胴体、腕、頭、それらすべてを舐めていく。焼けた肌がしゅうしゅうと音と煙を立て、肉の焼ける不快な臭いが鼻を付く。

 

が、それだけではない。

 

肉体を焼かれる痛み以外にも何か―――

 

 

自身の内側、奥の奥の方、命の根源のような部分が巨大な鑢で削り取られていくような、名状しがたい不快感がぬぐい切れぬ苦しみとなって戦乙女達の肉体を更に苛んでいく。

 

 

制御を失った背中の羽が力を失い、身体が地に墜ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

「―――【怨讐の炎】。自身ごと周囲一帯を燃やし尽くし呪いを振りまく狂気の技よ」

 

 

 

 

 

 

【怨讐の炎】

 

・自身すらも焼き滅ぼす復讐の炎。

 

・このスキルはMPを消費しない。その代わりスキル発動時に装備していた装備品全てを【破壊】する。

 

・発動者に【やけど】状態を付与。

 

・自身の足元から半径50m以内の対象全員に炎による炎熱系ダメージを与える。

 

・このスキルの攻撃によってダメージを受けた対象全てに【やけど】及び【呪殺】の状態異常を付与する。

 

 

【やけど】

 

・状態異常

・この状態になっている間、HPに継続ダメージ。効果時間5分。

・戦闘終了時この状態異常は自動的に回復する。

 

 

【呪殺】

 

・状態異常

・この状態になっている間、HPの最大値が減少していく。

・戦闘終了時この状態異常で失ったHPの最大値は自動的に回復する。

 

 

 

 

 

 

言葉を紡ぐノブナ。すでに全ての装備が焼け落ち、肌を外気に晒している。それでもその肌を焦がす炎は止まらず、むしろノブナという存在を薪とするように轟々とその勢いを増し続けている。

 

 

 

 

「く、あああああ・・・!!」

 

 

 

 

苦悶の声を上げるワルキューレ。しかし、倒れない。

例え倒れても、再び起き上がり、リジェネで回復、また獄炎に焼かれる。

スキルにより最後の1騎が斃れるその時まで動き続ける無間地獄。

それでも、その瞳はノブナを、滅ぼすべき対象を見据えたままじりじりと彼我の距離を詰めていく。

これでは先に力尽きるのはノブナの方である。

 

 

 

 

「・・・やはりあと一歩火力が足らんか。が、それはすでに対策済よ―――サリー!!」

 

 

 

「出番ですね・・・行くよ、ちびノブ!」

 

 

 

「ノッブ!!」

 

 

 

勢いよく前に出てきたのはちびノブとサリー・・・その手にはノブナより借り受けた【絆の架け橋】が握られていた。

 

 

 

サリーがそれを指に装備した瞬間、足元にいたちびノブの姿がグニョリと変化する。

 

 

 

 

鮮やかな青と白色があしらわれたマフラー。

 

 

首元に白いファーのついた厚手のコートとそれに合わせた上下の衣服。

 

 

暗い青のダガーと暗い青のベルトと黒いブーツ。

 

 

 

そして間の抜けたなんとも形容しがたい顔。

 

 

 

「・・・・・サリ?」

 

 

 

 

 

 

デフォルメしたサリー・・・・ちびノブならぬちびサリーが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナニコレ聞いてないんですけど!?ノブナさん!?」

 

 

 

「・・・儂も知らんかったから是非もないよネっ!」

 

 

 

 

「ああもう。と、とにかく―――【生命ある鎧】!!」

 

 

 

 

サリーが力強く唱えた言葉に反応してちびサリーがスライム状に変化、一瞬で伸びあがったかと思えばその身体全体を包み込んだ。

 

 

やがてサリーの身体に合わせるようにしてその形状を変化させていく。

 

 

 

 

「―――合体完了!じゃあ行くよ~」

 

 

 

 

閉じていた目を開き、気合を入れるサリー。

 

 

が、どうにも奇妙な感覚を感じて首を捻る。

首から下がこう・・・妙にスースーするような・・・・

感じた疑問のままに視線を自分の身体へと向ける。

 

 

 

装備が一新していた。

それはいい。ノブナからも見た目が変化するかもしれないことは説明を受けてはいた。

 

問題はその装備のデザインだ。

 

 

 

色は基本的に黒で統一され、所々に白と紫が混じる程度のシンプルなもの。

 

まるで長手袋の如く両腕に巻かれた白い包帯。左手にはその上から更に指だしのグローブ。

 

足には太もも辺りまである黒のストッキング。靴は紫で低めのヒールがある。

 

 

 

そこまではいい。

 

 

まず胴体だが・・・全体的に布地が少ない。

ノースリーブどころではないざっくり具合。

肩は当然ながら脇まで丸見え、肋骨の辺りまで露出してしまっている。背中側もばっくり開いている。

あと何故か知らないが胸の谷間を見せるような穴も開いている。

所々に巻いてあるベルトは肌を隠す役には全く立たず、むしろ背徳感を増している。

丈も短い。完全へそ出し状態だった。

 

 

極め付きは下だ。

 

ズボンすらなくただ一枚の紐パンのみ。いっそ清々しい位の露出度だ。現実世界なら一発でお縄になるだろう、そんな恰好・・・

 

 

 

かつて霧の都を震撼せしめた伝説的連続殺人鬼の名を冠す、とある幼女の衣装だった。

 

 

 

 

自身の状況を確認し、フリーズすることしばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

周りを彩る炎と比べても遜色ない程に顔を真っ赤に染めてその場でしゃがみ込んだ。

少しでも身体を小さくして隠そうというせめてもの抵抗なのだろう・・・ほぼほぼ意味を成してはいないが

 

 

 

 

「おおい!?何しとんじゃあ、早う攻撃せんかい!儂が燃え尽きちゃうじゃろうが!?」

 

 

 

「こここここっここんなの聞いてませんよぉ!?」

 

 

 

 

「だから作戦説明の時に聞いたじゃろ『代償を払う覚悟はあるのか』って」

 

 

 

 

「『代償』ってコレぇ!?そ、想像してたのと違うぅううう!」

 

 

 

 

「うっさいわ!こちとら今現在全裸じゃぞ!元よりこの場には儂とお主以外はそこの自動人形どもしかおらんわい!気にせずいつも通りガンガンいかんか!早うせんとマジで燃え尽きちゃうからぁああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 

 

 

 

 

 

ノブナの悲痛な叫びに真っ赤な顔で目じりに涙すら浮かべたサリーは口を真っすぐ引き結び意を決して立ち上がり、短刀を引き抜き構える。

 

 

短刀もいつもの暗い蒼のダガーではなく紫色を基調としたより攻撃的なものに変化していた。

それを左右の手に握りしめ、一歩足を踏み出す。

 

 

 

「一瞬で終わらせる一瞬で終わらせる一瞬で終わらせるアトデアイツナグル・・・」

 

 

ぶつぶつと小さく呟きながら踏み出した足に力を籠め、ダッシュ。

力強く大地を踏みしめた脚は一歩で身体を一気にトップスピードまで引き上げる。

 

【生命ある鎧】のステータス増加の効果の恩恵は確かに生きている。

 

それを実感しながら弾丸のように燃え盛る大地を駆け抜け、標的に迫る。

 

 

 

 

「――――【ダブルスラッシュ】!!」

 

 

 

二対の刃が2体の標的の首筋を同時に捕らえ、鮮血にも似たエフェクトを発生させる。

しかし、それだけでは終わらない。

 

 

 

「【追刃】」

 

 

 

更に発生した都合8回の刃による閃きが残った者達の首をも刈り取っていった。

 

 

 

 

 

 

「――ぜんこたい――の―――はかいを―――かく―――に―――ん―――あらた―な―あ―――――」

 

 

 

 

 

呟きにも似た言葉を最後にガラスの砕け散る様な音をさせながら、戦乙女達の身体が光のエフェクトと共に氷の大地へと溶け込むようにして消えていった。

 

 

 

 








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器用度極振りとギルド結成

 

 

 

「現実での失敗一つもなし!・・・ということでーふっかーつ!!」

 

 

 

そう言いながら拠点の街に姿を現したメイプル。

 

実に3日ぶりのログインである。

 

第2イベントでゲーム内にて7日もの時間を過ごした結果として、NWO内での習慣が抜けきらず、現実世界で失敗・・・咄嗟にスキル名を叫んでしまうといったような事を繰り返してしまったのだった。

 

五感の全てをゲーム内にリンクさせるフルダイブ型のゲームならではのちょっとした後遺症のようなものだが、初日以外にはそのような失敗もなく、普通に日常生活を送れるようになった。

 

ので、本日めでたく復帰と相成った訳である。

 

 

たった3日だけだがゲームの情報を完全にシャットアウトしていたため、見慣れた拠点の街も何処か新鮮に見えるような気がする。

 

・・・・否、気がするだけではない。

 

前より明らかにプレイヤーの人数・・・・特に、パーティーを組んで行動しているのであろう者達が増えているのである。

 

 

 

「ん?なんか人が妙に固まってるような・・・」

 

 

 

「メイプル!ごめん待った?」

 

 

 

「あ、サリー!」

 

 

 

聞きなれた友人の声に振り向けば、少し慌てた様に走り寄って来るサリーの姿。

 

無事に合流を果たした二人。

 

早速サリーによってこの3日間に追加された新要素についての説明がなされた。

 

つまりは【ギルド】と【ギルドホーム】の実装である。

 

 

 

「ギルドホーム!スゴイ!それは絶対手に入れたいね――――あれでも私なんの準備も出来てないよ!?」

 

 

 

「大丈夫・・・実はメイプルが欲しがると思ってノブナさんと一緒に色々と準備してはいたんだ。で、その過程で色々と・・・・ホントイロイロトアッテ・・・」

 

 

 

「さ、サリー・・・どうしたの、若干目が死んでるけど?」

 

 

 

「ナンデモナイヨ・・・実はギルドホーム手に入れられたんだよね」

 

 

 

「おお!」

 

 

 

サリーの言葉にメイプルが感嘆の声を上げながら目をキラキラとさせる。

見てすぐわかる喜びと期待の表情。

予想通り過ぎる友人の反応に苦笑しながら言葉を続ける。

 

 

 

「で、一応メイプルにも見てもらって良さそうなら其処に決めちゃおうかなと思うんだけどそれでいいかな?」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

「OK。じゃあ早速案内するよ」

 

 

 

微笑んでサリーは歩きはじめる。

その後ろに笑顔を浮かべながらついていくメイプル。

が、その笑顔は徐々に困惑のそれに変わっていくことになる。

 

サリーがどんどんと人通りの少ない裏通りへと向かって行ったからだ。

 

疑問には思いつつもとりあえずついていく。

 

 

やがて完全に人通りの無くなった辺りでサリーの足が止まった。

 

 

 

「うん、この辺りでいいかな」

 

 

 

「? ねぇサリー。私達【ギルドホーム】に向かうんだよね」

 

 

 

「そうだよ」

 

 

 

「ならなんでこんな行き止まりの道に来たの?それらしい扉みたいなのもないけど」

 

 

 

首を捻りながら周りを見回してみる。

今いるのは裏通りの一画。建物と建物の間にある道のどん詰まり。

店はおろかイベント用NPCすらも配置されていないデッドスペース・・・つまりは何もないただの行き止まりだ。あるのは四方を囲むただの白い壁だけ。

 

わざわざそんなところに足を運ぶ酔狂なプレイヤーもいないのでもちろん周りには二人しかいない。

 

 

しかし、サリーは気にした風もなく微笑む。

 

 

 

「別にここでなくてもいいんだけど、一応他のプレイヤーに見られないように用心しとこうかな、と」

 

 

 

言いながらインベントリからあるものを取り出した。

 

 

 

ガラスのように透き通った、キラキラと光る高級感漂う造形の鍵だ。

 

 

彼女は取り出したそれを扉の鍵穴に差し込む時にそうするように、目の前の白い壁にその先端を押し付ける。

 

無論、目の前にあるのは扉でなくただの壁である。

 

鍵など刺さろうはずもない。

 

 

 

 

 

―――――そのはずであった。

 

 

 

 

ずぶりと

 

 

 

まるで壁が瞬時に粘土に変化でもしたのかの如く、鍵の先端がなんの抵抗もなく埋まった。

 

メイプルの目が驚きで見開かれる。

 

ついで手首を捻ればなんの抵抗もなく、ガチャリと音をたてて回った。

途端鍵から猛烈な光があふれ出す。

 

メイプルが声を上げようとする間も無く、光は更にその強さを増していき、次の瞬間には二人の姿は路地裏からかき消えていた。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

僅かに感じる浮遊感。

それもすぐに消え去り、足の下にしっかりとした地面の感触を感じたメイプルは閉じていた目を開けた。

 

 

 

 

「――――わぁあ・・・!!」

 

 

 

思わず口から感嘆の声が漏れた。

 

 

つい今しがたまでいたはずの路地裏は既になく、眼前に現れたのは巨大な門。

巨人でも悠々入れるのではないのかと思うくらいに大きなそれはすべて氷で出来ているらしく、光を反射してキラキラと光っている。

 

・・・門だけではない。

 

視線を周りに向ければ映画にでも出てきそうな巨大な城が建っていた。

サイズ感を除けば西洋の城をイメージしたときに想像するようなステレオタイプな外観。随所に細やかな装飾が施されており、豪華ではあれど下品には見えないような絶妙なバランス。その全てが門と同じく氷で出来ている。

 

 

 

 

「どう、中々すごいでしょ。気に入った?」

 

 

 

したり顔でいうサリーに言葉もなく、さりとて言葉以上に雄弁なキラキラとした瞳で、ぶんぶんと頷く。

そんなメイプルの様子に満足げな笑みを浮かべ、サリーが城を指さす。

 

 

 

「じゃ、さっそく中に入ろっか」

 

 

 

「うん!・・・あれ、でもどうやって入るの?あんなおっきな門開けられないよね」

 

 

 

「大丈夫。そろそろ・・・あ、来た来た」

 

 

 

サリーの指さす先、城の上方から何かがこちらに迫ってきた。

最初小さな点にしか見えなかったが、徐々にそれが大きくなっていくにつれそれが人の形をしているのがわかった。

すわ投身自殺かとぎょっとしたが、その背中に光り輝く羽があることを見て考えを改める。

猛スピードで迫ってきたそれは地面の直前で減速、次いで器用に回転。ふわりと音もなく地に降り立った。

 

 

 

「お帰りなさいませサリー様。こちらの方がメイプル様でしょうか」

 

 

 

「わぁ、ホントに可愛い女の子だ。聞いてた通りだね」

 

 

 

 

降り立ったのは二人―――否さ2騎。

 

1騎は黒髪でフードを被った真面目でどこかおとなしそうな口調。

 

もう1騎は桃色の髪で元気で陽気そうな口調で手を振っている。

 

 

ワルキューレ・・・『オルトリンデ』と『ヒルド』が現れた。

 

 

 

『そだよ~』とにこやかに2騎に返すサリーの横で固まるメイプル。

錆びついて動きの悪くなったロボットのような動きで横にいるサリーを見る。

 

 

 

「な、な、な」

 

 

 

「・・・わかるよ、気持ちは。詳細はあとで詳しく話すからとりあえず行こ」

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

「わわ!?」

 

 

 

いつの間にやら背後に回っていたオルトリンデに抱えられる。

所謂お姫様抱っこのような体勢だ。

鎧などを身に着けたままのメイプルを持ち上げるその顔は涼しげだ。

見ればサリーの方もヒルドに同じように抱えられている。

 

 

 

「ではご案内します。しっかりと掴まっていてください」

 

 

 

「おおお!?」

 

 

 

オルトリンデの背中の羽が輝き、来た時と同じくふわりと音もなく空中に舞い上がった。

メイプルがしっかりと掴まっていることを確認すると、オルトリンデはスピードを上げた。

 

ぐんぐんと遠ざかる地面。

後ろに流れていく背景。

風を切る音が耳を叩く。

 

さながらちょっとスピードの緩いジェットコースターだ。

 

 

 

「スピードは緩めていますが怖いようでしたら目を閉じていただければ。さほど時間はかかりませんから」

 

 

 

「大丈夫、です」

 

 

 

「敬語でなくて結構です。私は貴女方の【サーヴァント】ですので」

 

 

 

表情を変えずそういったオルトリンデは城の開いた窓から中に侵入。

 

中も外観と同じく豪奢で上品な景観、それでいて置かれた絵や調度品に至るまでその全てが氷で出来ている神秘的なものだ。

 

そのまま飛ぶことしばらく、

 

やってきたのは広い空間。

 

数百人は余裕で入りそうな縦長の空間。カーペットなどの調度品が随所に並べられている。

その短い辺、部屋の奥は少し高くなっており如何にも王様の座りそうな豪華な椅子がデンと置かれている。

 

・・・・いや、『ような』ではなく実際そうなのだろう。

 

ここはそう、所謂『謁見の間』というヤツなのだろうと、メイプルは思った。

 

 

と、その一角。

見上げるほどに高い天井を支える太い柱を背にして胡坐をかいている赤T姿のノブナとその隣で衛兵が如く直立している金髪の戦乙女がいた。

 

荘厳な見た目のこの部屋に置いてはラフに過ぎるその恰好はシュールでしかない。

 

 

 

その目の前にスタリと降り立つ。

お礼を言いながら降ろしてもらったメイプルに立ち上がったノブナが言う。

 

 

 

「お、ようやく来たか。というかわざわざ門前から来たんか。設定した場所で鍵を使えば一瞬でこの部屋まで来れたじゃろうに」

 

 

 

「メイプルを驚かせたくて遠回りしちゃいました。ま、そのおかげでゲーム内とは言え空を飛び回るなんていい体験出来ました」

 

 

 

少し遅れて飛んできたサリーが言う。

サリーを下ろし、礼の言葉に微笑みを返したヒルドはオルトリンデと一緒にスルーズの隣に移動、そのまま並び立った。

 

それを横目にメイプルがノブナに話しかける。

 

 

 

「えっと・・・これは一体どういう・・・」

 

 

 

「フム。そうじゃなとりあえず現状の説明といこうか」

 

 

 

サリーとメイプルが座るのを見つつノブナが語り始める。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「―――と、そのような激闘を経た訳じゃが、それが特殊イベントだったらしくての。クリア報酬としてこの城・・・【ギルドホーム】とワルキューレ達・・・【サーヴァント】を手に入れた」

 

 

 

「ハイ、先生質問です!」

 

 

 

「うむ。なんじゃねメイプル君」

 

 

 

「【サーヴァント】って何ですか?・・・・いや、私もFGOはやってるので元々の意味は知ってるんですけどそうじゃなくて」

 

 

 

「なんじゃ運営からの発表見とらんのか?」

 

 

 

「メイプルこの3日間このゲームの情報一切合切を遮断してたらしくて」

 

 

 

「さよか。ならばそちらも説明しとこう」

 

 

 

言ってノブナが画面を出す。

映し出されたのは運営からの最新情報が載っているページだ。

 

其処の一番上。

最新の情報を示す『New』の文字がついたタブをタップするとデカデカと書かれた文字が画面に浮かぶ。

 

 

 

「この度、この『NWO』と『FGO』との正式コラボイベントが発表された」

 

 

 

「ええええええええええええええっ!?」

 

 

 

「わかるわかる。儂も昨日突然発表された時はバイト先でひっくり返って皿割った」

 

 

 

「イベントの詳細はまだまだ未定なんだけどね。ただ一部公開された情報でFGOのキャラクターを【共闘モンスター】・・・シロップや朧と同じように仲間にできる【サーヴァント】システムの実装っていうのがあったんだよ。多分、この【ギルドホーム】イベントもそれに関係したものだったんだと思う。それらしげなこと運営発表にも書いてあったしね」

 

 

 

「なるほどなるほど【サーヴァント】を仲間に・・・・・えええええええええええええええええええええええええっ!!??」

 

 

 

「わかるわかる。儂も発表読んだ時はバイト先で客に運んでた紅茶をぶちまけた」

 

 

 

「・・・いい加減にしとかないとクビになりますよ?」

 

 

 

「昨日は店長が実家の旅館の手伝いに行くとかでいなかったから何とかなった。代わりにヘルプで来てた白髪色黒の凄腕シェフとオカン気質の美人のねーちゃんにしばかれたが」

 

 

 

「白髪・・オカン・・・?・・・いつも思いますけどノブナさんのバイト先って変わった人多いですよね」

 

 

 

「あ、私この前行った時は獣耳と尻尾つけたメイドさんもいたよ。言ってることはよくわかんなかったけど作ってもらったオムライスとっても美味しかったんだよね~卵もフワトロで」

 

 

 

「・・・・なんの話してたんじゃっけか儂ら?」

 

 

 

などと所々でぐだつきながらもメイプルへの説明が終わった。

一通りの話が終わったところで「さて」と言ってノブナが立ち上がる。

 

 

 

「少々予想外のおまけがついてはきたが・・・こうして無事【ギルドホーム】も手に入れたことじゃし知り合い集めて【ギルド】結成といくか。儂とサリーは決定として・・・メイプル、他に声かけたい知り合いとかおるか?」

 

 

 

「私が決めちゃっていいんです?」

 

 

 

「そらそうじゃろお主が【ギルドマスター】になるんじゃし」

 

 

 

「え、わ、私が?」

 

 

 

「正式決定は仲間が集まってからじゃろうがま、ほぼほぼ決定じゃろ。儂の予想通りの面子なら文句もでんじゃろうし」

 

 

 

「私もメイプルなら異議なし」

 

 

 

「わ、わかりました・・・じゃあ・・・そうですね。始めたての頃からお世話になってるイズさんにクロムさん。あとは第2イベントで仲良くなったカスミとカナデ・・・ですかね」

 

 

 

「うんうん、大体は予想通りだね」

 

 

 

「・・・イズかぁ・・・正直今はあんまし会いたくないんじゃよなぁ・・・装備全壊してめっさ追っかけ回されたばっかじゃし・・・というか一人知らん名前がおるが」

 

 

 

「カナデって子で頭いいんですよ~第2イベント中に知り合ったんですけど。私、オセロで一回も勝てなくって」

 

 

 

「なぁサリー。なんでイベント中にオセロやってんのこの娘?」

 

 

 

「メイプルですから」

 

 

 

「・・・それもそうじゃったな。なら、とりあえずそこらに声かけとくと良い。さっさとせんと他ギルドに取られるかもしれんしの」

 

 

 

「わかりました!」

 

 

 

元気に返したメイプルが画面を開いてメールを送る。

数分後、全員からメールの返事が返ってきたようで緊張の面持ちでメール画面をしばらく見つめていた。

 

と、その表情が花が開いたような喜々としたものに変わった。

 

 

 

「皆入ってくれるって!やったー!」

 

 

 

「・・・わっ!?」

 

 

 

「アハハ!よくわからないけどオメデトーマスター」

 

 

 

「おめでとうございます・・・それはそうとこの回転にはなんの意味があるのでしょうか?」

 

 

 

「・・・なんか知らんが和むのう」

 

 

 

「・・・ですね~。なんというか子犬同士のじゃれ合いを見てる感じで」

 

 

たまたま近くにいた戦乙女3騎も巻き込んでくるくると回って全身で喜びを表現するメイプルと三者三様のリアクションでそれに応えるワルキューレ達というなんとも和やかな雰囲気がしばらくの間その場に流れたのだった。

 

 

 

その後、三々五々ギルドメンバー達が集まり(途中クロム、カスミなどが目を白黒させたりとすったもんだはありつつも)顔合わせなどを済ませ、案の定ギルドマスターになったメイプルによってギルド名が決められた。

 

 

 

『楓の木』

 

 

 

後に『人外魔境』、『魔界』、『異聞帯(ロストベルト)』などと呼ばれることになるギルドの誕生であった。

 

 

 

 

 

 




Q ギルド名が【楓の木】なのに木要素が皆無なんですがそれは?


A ホームの見た目を『空想樹』にする案もあったがあまりにも禍々しくなりすぎる気がして止めた。


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器用度極振りの金策事情

今回は短めの話


 

ギルド【楓の木】が結成されて、最初の仕事は素材集めであった。

 

メンバーに生産職であるイズが加入したためだ。

 

彼女は武器、道具は勿論のことアクセサリーや家具に至るまで金と素材さえあればありとあらゆるものを作ってくれるまさしく生産のプロだ。

そんな彼女が十全な働きが出来るように素材と資金の収集に努める、それがメイプルたちが最初に掲げた方針であった。

 

 

その大方針の元、カナデとメイプルは山へ採掘に。

サリー、カスミ、クロムは森へモンスター狩りに。

イズ自身は工房にて先のワルキューレ戦において破壊された(した?)ノブナの防具一式を修理中、ワルキューレはその手伝い兼万一のための予備戦力・・・といった感じの配置である。

 

 

そしてノブナ自身はと言えば・・・

 

 

 

「ほうほうここに来るのも久方ぶりじゃのう」

 

 

 

場所は1層。深い深い森を抜けた先にある崖の下にあるとある場所。

ばすたぁTシャツ姿で腕を組みながら眼前に杭を開けている洞窟を見つめて不敵な笑みを浮かべる。

 

洞窟自体は自然の産物なのだが、その入り口を塞ぐようにして人工的な壁と門とが建てられていた。

とは言ってもその素材は金属やコンクリートではない。

 

ブロックを積み上げて遊ぶクラフトゲーム・・・あるいは子供が組み合わせて遊ぶ知育玩具を彷彿とさせる色とりどりなそれだ。質感も明らかにプラスチックのように見える。

明らかに自然物ではあり得ないそれをしかし、見慣れたもののようにノブナは近づき、門を数回ノックする。

 

 

するとゴゴゴと音を立てて門が左右に開かれる。

 

勝手知ったるとばかりに開け放たれたそこに侵入するノブナ。

 

 

洞窟の中も色とりどりなブロックが組み合わされて作られた通路が奥まで続いている。所々に設置されたランタン・・・これもまた小さなブロックで作られている・・・が光源となっており洞窟内とは思えぬほどに明るい。

 

そのままずんずんとしばらく進む。

 

と、洞窟の奥から何かがこちらへと走り寄ってくるのが見える。

 

 

三等身くらいのくるみ割り人形のような見た目をしているモンスター。

表示された名前は【トイ・ソルジャー】。

手に手に武器を持ち、短い足をバタつかせながら数体がノブナの方目掛けてやってくる。基本的には皆似たり寄ったりの背格好と顔だ。モチーフが人形なのだろうから当然なのだが。

 

が、身に着けている装備がそれぞれ違った。

 

あるものは18世紀くらいの西欧の兵隊の制服にマスケット銃を抱え、またあるものは迷彩柄の軍服で近代的な狙撃銃のスコープを覗きこみ、またあるものは猟師風の恰好で散弾銃に弾を込めている。

 

服装も国も年代もばらばら。唯一共通しているのは武器の種類が銃であることくらいだ。

 

 

 

「む・・・初回はハズレ、と」

 

 

 

独り言を呟き、インベントリから取り出した【タネガシマ】を構え、撃つ。

 

弾丸はスコープを覗きこんでいたおもちゃの兵隊の頭をスコープごと吹き飛ばした。

エフェクトと共に消滅した後、ドロップ品が出現した。

 

無造作にそれをインベントリに突っ込み、そのままノブナは得意の連続撃ちで次々と襲い来る兵隊たちをなぎ倒しながら洞窟の奥へと進んでいく。

 

 

やがて見えてきたのはこれまた玩具で出来た城だ。

その正門の門は閉じられ、門番代わりなのだろう【トイ・ソルジャー】よりも二回りは大きいサイズの兵士が二体、配置されていた。

表示される名前は【トイ・コマンダー】。【トイ・ソルジャー】を束ねる隊長という設定のモンスターだ。

実際、兵士よりもステータスは遥かに上に設定されている。

 

 

 

「ホレホレ踊れ踊れ」

 

 

 

ノブナにとってはさほど関係はないのだが。

【タネガシマ】から放たれる弾丸の雨に瞬く間にコマンダー達のHPが削り取られていき、間もなくガラスが砕けるような音と共にエフェクトを残して消滅した。

 

と、コマンダーが消滅した後の地面にノブナにとっては見慣れたドロップ品が現れた。

彼女の愛銃【タネガシマ】だ。

 

 

 

「おっと、一週目でドロップとは幸先が良いのう。メインの目的でないとはいえ重畳重畳」

 

 

 

ニヤリと笑い、新たな【タネガシマ】をインベントリに放り込む。

そして守るもののいなくなった門を無造作に蹴り開ける。

 

 

門の先は広間のような空間が広がっていた。

そしてその最奥は階段状になっており、その一番頂点にある玉座にモンスターが鎮座している。

例にもれず組み合わされたブロックで出来たその身体は【ソルジャー】【コマンダー】よりも更に巨大であり、その頭部には王冠が輝いている。

 

【トイ・キング】

 

このダンジョン最強のボスモンスターだ。

 

 

【トイ・キング】は椅子から立ち上がると手にした王笏を振り回す。

途端、周囲の空間が円形に歪み、青白い光を放ちながら大量の【トイ・ソルジャー】と【トイ・コマンダー】が現れた。

 

それを迎え撃つようにノブナも赤黒いオーラを放ちながら大量の【タネガシマ】を展開する。

 

数秒の間の後、

 

 

【トイ・キング】が王笏を振り下ろすのと、ノブナが叫ぶのは同時だった。

 

 

 

 

『三千世界』(三段撃ち)!!」

 

 

 

 

銃撃と破壊音が洞窟内に木霊した。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ひーふーみー・・・ふむ一回目にしては中々な戦果。今日は運が良いの」

 

 

 

インベントリ内のドロップ品を数えながら満足げなノブナ。

 

周囲に既にモンスターの姿は一体もなく、玉座へと続く階段の前の床に出現した魔法陣が輝くのみである。

収穫を確認し終えたノブナはすかさず、魔法陣へと足を踏み入れる。

 

一瞬の浮遊感の後、目を開けばダンジョンの入り口であるおもちゃの門の前であった。

ダンジョンの最奥であるボス部屋から入り口への直通の出口だ。

 

 

 

「一回目は終了、と。リアルの時間は・・・フム、午後6時。途中で銃の調整やらの時間を置くとして明日の朝までに5~60くらい周れるか?」

 

 

 

大体のスケジュールを頭の中に思い描きながら、ノブナは再びダンジョンへと侵入していく。

 

 

ここは【おもちゃの王国】と呼ばれるダンジョン。

知る人ぞ知るマイナーなダンジョンであり、ノブナ御用達の稼ぎポイントである。

 

 

各所に現れるおもちゃの兵士達はパーツや整備アイテム、或いはまれにではあるが【銃】本体など『銃』関連のドロップ品ばかりを落とす。

 

本来は決められた場所でしかドロップしない【銃】もあるのだが、このダンジョンでは何故か完全なランダムかつ極々稀な確率ではあるものの全ての【銃】がドロップする可能性があるという、【銃】使いにとっては夢のようなダンジョンでもあった。

 

【銃】は高レアに分類されるものが多いためNPCの店にでも売ればそれなりの金になる。それに加え、最奥にいる【トイ・キング】を倒せばクエストの達成報酬として結構な額のゴールドをドロップするのだ。

 

 

ドロップ運に左右されそこまでの安定性があるわけではないが自前の【銃】の整備や消費アイテムなどにかかる分を除いても、時間はかかるが稼げるダンジョンなのである。

 

 

しかしそんな稼げるスポットがなぜ知る人ぞ知るマイナーな場所になっているのか。

 

 

理由は単純。このダンジョン、仕様がクソなのだ。

 

 

前提としてこのダンジョンにいるモンスターには『【銃】を用いた以外の攻撃のダメージを80%カットする』という謎な仕様が設定されている。

 

この時点で大半のプレイヤーが振り落とされるのだが、ならば【銃】使いならば良いのかというとそうもいかない。

 

【銃】は使用上一発撃つごとに装填(クールタイム)が入る。なので通常の【銃】使いは一発撃ったら隠れるなり後ろに下がるなりしてその時間をやり過ごすというのが定石だ。

 

が、このダンジョンはほぼほぼ一本道で隠れる場所に乏しく、しかも結構な数の敵が配置されているので一度に複数の敵と交戦する羽目になる。

並みの【銃】使いでは一体倒したとて、武器のリロード中に別の敵に近づかれて袋叩きにされる憂き目にあうのだ。

 

ついでに敵の配置もその都度替わる。完全なランダムではなくいくつかの候補の内からランダムに生成されるのだが、それのせいで待ち伏せして一気に殲滅ということもできないという悪意しか感じられない仕様もある。

 

 

そもそも、【銃】使いは通常パーティーを組んで行動するのが普通なので、【銃】使いくらいにしか旨味がない上に資金集めならばもっと効率の良い場所があるので、このようなダンジョンは他のメンバーから敬遠される。そのため行くこと自体を諦めてしまうケースも多いのだ。

 

 

のでこの【おもちゃの国】はほとんどプレイヤーに知られることもなく、知っているプレイヤーからは『運営の悪ふざけ』『悪意の実験場』『スタッフのストレスの捌け口』などと呼ばれ蛇蝎の如く嫌われている。

おかげでノブナ自身、自分以外にここに通うプレイヤーをここを発見してからこっち見たことがない。

 

 

 

「ま、そのおかげで人目を気にすることもなく気楽に周回出来てかつ報酬は総どりと便利極まるのじゃが・・・自分の装備修理代+装備壊したから不機嫌なイズのご機嫌取りに出来るだけ稼いどかんとイカン身としてはありがたい限りじゃて」

 

 

 

そんな独り言をつぶやきながら突然物陰から奇襲を仕掛けてくる【トイ・ソルジャー】を薙ぎ倒しながら突き進む。

敵の出現するポイントはすべて頭に入っている。後はそのあたりを重点的に警戒するだけだ。

 

 

無表情に、なんの感慨もなくモンスターを倒し、出てきたドロップ品を回収、ボスを倒して入り口からもう一周。

ゲームというより作業という方がいいかもしれない無限周回だが、ノブナにとっては慣れたものである。

 

 

 

 

 

 

 

その後ほぼほぼ完徹しながら周回し続けたノブナは結構な数のドロップアイテムと資金をイズに献上出来、なんとか機嫌を直せたのだった。

 

 

 

 




別名【タネガシマ】生産工場

只でさえレアドロップなのに数十種ある【銃】の中から完全ランダムでドロップするので確率めちゃくちゃ低い。ピックアップ?天井?ねぇよそんなもん。星5鯖引くよりきついんじゃあなかろうか。
狙った銃を多数集めようとするのは苦行を超えてもはや拷問。なのでノブナは率直に言って狂人。


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器用度極振りと暇つぶし

 

とある日、ノブナは1層の街を一人ぶらぶらと歩いていた。

 

 

素材と資金集めもしばらく問題ない位の量が集まったということで、一旦終了。

ギルド全体としては当面やることもないので各々の自由時間ということになったのだった。

 

 

とまれ、特にしたいことも思いつかなかったノブナは『例のダンジョンにでも潜って【タネガシマ】掘りでもすんべか』と思い立ち、1層の街へとやってきたのだった。

 

 

 

 

「時間が余ったらとりあえず周回周回、我が事ながら度し難いのう。FGOプレイヤーの悲しき性よ・・・ム?」

 

 

 

ふとあるものが視界に入り、足を止める。

 

1層の街中にある噴水のある広場。プレイヤー達の憩いの場であり、ダンジョンへと赴くための諸々の準備やパーティーの募集なども行われる場所でもある。

以前よりは若干人が減ってはいるが、初期装備で明らかに始めたてのプレイヤーもちらほらと散見でき、未だ結構な活気がある。

 

目に留まったのはそんな広場にいたとある数人の集団。

 

恐らくパーティーなのだろう5人なのだが、装備に明らかな差がある。

 

内3人は男ばかりでそれなりに鎧や剣などで装備を固めている。それなりにゲームを進めているのが分かるくらいには豪華なそれだ。相応に時間とゴールドをつぎ込んでいるのだろう。

が、残りの2人・・・比較的小柄な方のノブナよりも小さい女の子二人組だ・・・はゲーム開始時に支給される初期装備である。纏う雰囲気から見ても明らかに初心者だろう。

 

一見新たに始めたプレイヤーが先に始めていた者たちとパーティーを組んでレベリングしようとしている

ように見える、そんなプレイヤー達。

 

 

が、そうではないことがノブナにはわかる。しっかり装備を固めている側の3人の顔に見覚えがあったからだ。

 

 

 

「・・・あ奴ら『初心者狩り』の屑共ではないか。ま~だ飽きもせずくだらん事しとんのか」

 

 

 

3人共『NWO』関連の掲示板などでよく晒されている所謂『悪質プレイヤー』と呼ばれるような連中だった。

 

奴らの手口は毎度同じ。

 

1層の街に入りびたり、初心者を見つけては『このゲームの事を色々教えてあげるよ』などと善意のプレイヤーを装い近づいてパーティーに引き込む。

 

そうして初心者には到底太刀打ちできないようなモンスターが出てくるダンジョンに連れて行き放置。モンスターに手も足も出ずに蹂躙される初心者を見て笑ったり煽ったりする、といったようなものだ。

 

無論、何度も通報されており運営側にも再三の注意や罰則やアカウントBAN等を受けているはずなのだが、あの様子を見るに未だ懲りてはいないらしい。

 

 

 

 

 

「・・・とはいえ知り合いでも何でもない者をわざわざ助けてやる義理もない」

 

 

 

 

ノブナは別に聖人君子でもなんでもない。

以前は初心者のメイプルの世話をしたことはあるが、あれは友人のサリーから頼まれたからだ。

初心者だからといってすべからく助けようとする気はない。

 

被害を受ける初心者は哀れとは思うが、社会勉強の一環とでも思ってさっさと忘れることを祈っておこう。

 

そう思い、ノブナは広場に背を向け一人ダンジョンへと向かう為の準備に勤しむのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

街にて準備を終えた後、徒歩でダンジョンへと向かうノブナ。

 

ちびノブを使えばすぐに到着出来るが、あれは酷く目立つ。今後の事を鑑みるに隠しておく方が良いという判断だ。

スキルも温存しときたいので時間はかかれども徒歩にて向かっているのだった。

 

えっちらおっちら進んだ先にようやく例のダンジョン・・・『おもちゃの王国』の入り口が見えてきた。

 

が、どこか違和感を感じる。よくよく観察してみればその正体はすぐに分かった。

 

入り口に設置された門が開けられているのである。

 

 

 

「む、先客とな?珍しい、よくもまぁこんなクソ仕様のダンジョンに挑もうなどという気が起きるのう。変わり者か?」

 

 

 

自分のことを全力で棚の上にぶん投げながら首を捻るノブナ。

周りを見ればボス部屋から直通の魔法陣が出現していないので未だクリアはしていないらしい。

それを確認し、しばし黙考。

ここで待っていて先客がいなくなってから周回を始めるのも一つの手ではあるが・・・

 

 

 

「・・・面倒くさいの。とっとと進もう。邪魔ならモンスターごと薙ぎ払えば良いしな」

 

 

 

さらりと物騒なことをのたまいながら、ノブナは悠々と門をくぐっていった。

 

 

 

 

しばらく進みそろそろ最初のモンスター出現候補地につこうかというところで前方からなにやら騒がしい声が聞こえてきた。

 

見れば5人分の人影と2~3体のモンスターの姿が見える。どうやら戦闘中のようだ。が、様子がおかしい。

 

モンスターに囲まれじりじりと壁際に追い詰められた2人を見て他の3人は助けるでもなく笑っているのだ。

 

それを見とがめたノブナは心底げんなりした表情でつぶやく。

 

 

 

「なんじゃ、さっきの馬鹿どもかい。あ~、他にもダンジョンはあるじゃろうになんだってここを選ぶのやら」

 

 

 

・・・単純にここが人気がないからという理由だったりするのだが、そんなことはノブナは知らないし興味もない。

 

 

 

「とはいえ、あの馬鹿どもならば遠慮はいらんか」

 

 

 

ため息交じりに言いながら、【タネガシマ】を引っ張り出す。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「お、お姉ちゃん・・・」

 

 

 

「ううう・・・」

 

 

 

隣にいる双子の妹ユイの震える声を聴きながら、マイは只々壁に背をつき縮こまることしかできない。

目の前には3体のくるみ割り人形に似たモンスター【トイ・ソルジャー】が手に手に銃を持ちながら取り囲むようにじりじりと二人に近づいてきている。

表情もなく機械的ににじり寄ってくる動く人形に更に恐怖が沸き起こり、反射的に距離を取ろうとするが既に背中はぴったりとダンジョンの壁に付けている。これ以上下がれない。

 

 

 

「オイオイ下がってないで攻撃しな!やられちまうぜ?・・・といってもお前らじゃあ攻撃を当てることすらできねぇだろうが」

 

 

 

モンスターの向こうから下卑た笑い声が聞こえる。

ここへ姉妹を連れてきた3人組だ。

自分たちが狙われないようモンスターの標的から外れるアイテムを使い、少し離れたところから追い詰められた二人を見てゲラゲラと嘲笑っている。

 

悪辣極まる。

 

 

 

『なんであんな人達についてきちゃったんだろう・・・私の馬鹿っ!ユイまで巻き込んで・・・』

 

 

 

悔しさと情けなさで涙が出てくる。

実際、慎重な性格のマイは一度は3人組の誘いを断ったのだ。しかし、『いいからいいから』と半ば強引に誘われたのだった。その時点でもっと怪しんで断るべきだったのだが、そうもいっていられない事情が二人にはあった。

 

 

マイとユイの姉妹は初心者であり、かつ初期ステータスポイントのすべてを【STR】に振った『極振り』プレイヤーなのだ。

 

 

ゲーム上の有利不利とは関係なくただ『ゲーム上でくらいは力強くありたい』という理由で『極振り』を選んだ二人だが、その道はいばらの道であった。

 

 

元来『NWO』において『極振り』はデメリットでしかない。―――一部の例外中の例外を除けば・・・だが。

一点特化と言えば聞こえは良いが、逆に言えばそれしか出来ないのだ。

2人の例でいえば【STR】が高いので攻撃の威力はとても高い。食らえば防御力の低い後衛職は勿論前衛職でも致命傷は免れない一撃を放つことが出来る。

 

しかし、他のステータスはからっきしなのでそもそも攻撃を当てられない。近づくことすら難しい。回避もできない。防御力も紙っぺらでかつHPも低いのですぐやられる。

 

これではまともに戦うことすら出来ない。せっかくの攻撃力も宝の持ち腐れというものだ。

 

 

パーティーを組んでサポートされれば変わるかもしれないがどれだけパーティーを組もうとしても悉く断られる。当然だ。

お荷物にしかならない初心者をわざわざパーティーに入れる酔狂なプレイヤーなど早々いない。

 

 

姉妹は完全に詰んでしまっている状況であった。

なので多少怪しいとは思いながらも誘いにのってしまったのだ。

 

その結果がこれだ。

 

 

 

『こんなことになるなら極振りになんてしなければ・・・』

 

 

 

後悔先に立たず。

どれだけ悔もうが現状は変わらない。モンスターは遂に手を伸ばせば届きそうな程に近づいてきた。

その手に持った散弾銃の暗い銃口を二人に向ける。引き金を引けば容易く二人を消し飛ばすだろう。

 

 

もうだめだ。

 

 

せめても妹だけでもと思い、恐怖のあまりしゃがみ込んだユイに覆いかぶさり来る破滅の時に備えて目を閉じた。

 

 

 

ダンっ!!ダンっ!!ダンっ!!と

 

 

 

耳を劈く轟音にビクッと身体が震える。しかし、ダメージを受けた時の痛みがない。撃たれたわけではないのか?ならばこの音は何なのだろう。

 

固く閉じた目を恐る恐る開ける。

 

 

 

「・・・・え?」

 

 

 

間の抜けた声が漏れた。

今の今まで自分達を取り囲んでいたモンスター達の頭から上が無くなっており、バタバタと倒れ込んでいったからだ。ポカンと見る間にも地面に横たわった残った身体もエフェクトと共に消滅していった。

 

 

 

「せっかくの楽しみを邪魔しやがって!何者だてめぇ!」

 

 

 

洞窟内に濁声が響く。3人組の一人の声だ。

そちらへ視線を向ければ、少し離れたところに立っている人影が見えた。

 

 

自分達姉妹程ではないが小柄なプレイヤーだ。150㎝くらいしかないのではないだろうか。逆上し罵声を浴びせ続けているむくつけき3人組と比べると余計に小さく見える。

 

洞窟内を照らし出すランタンの光を受けて光る艶やかな黒の長髪からどうやら現れたのは女性であるようだ。

 

 

手にした火縄銃のような武器の銃口から立ち上る煙を見るに先程モンスター達を仕留めたのはこの女性らしい。

 

 

昔の将校が着ているような軍服。その色は髪と同じく暗闇の一部を切り取ったが如くの漆黒に染まっている。

身に着けた鮮やかな真紅に染まったマントが対照的だ。

 

戦国武将の鎧についている前立てのような装飾がついている軍帽の下から僅かに覗く瞳が周囲を見回し・・・目が合った。

 

 

 

思わずゾクリと肌が粟立つのを感じる。

 

 

 

燃え盛る炎を思わせる紅い瞳はしかし一切の温度を感じさせない氷のような冷たさを湛えている。

決して人が人を見る時に向けるそれではない。

まるで肉食獣に見つめられているいるかのような・・・いや、もっと自分の奥底にある根源的な『ナニカ』が削り取られるような感覚を覚え、知らず知らずに身体が震えだす。

 

と、こちらを見つめていた視線がすっと外れた。圧迫感から解放され思い出したように荒い息を吐く。

 

 

 

 

「・・・誰だか知らねぇがガン無視とはいい度胸してんじゃねぇか。スカしてんじゃねぇぞぉ!!」

 

 

 

と、3人組の一人がしびれを切らしたように手にした剣を振りかざし、切りかかった。

対して女性は避ける素振りもなく、ただ手を前に掲げるのみ。

 

 

 

 

「あぶな・・・」

 

 

 

思わず漏らした声は突然響いた銃声にかき消される。

切りかかった男はその音に怯むこともなく掲げた手を振り下ろし、女性は剣によってその身を切り裂かれる・・・・ことは無かった。

 

 

振り下ろしたはずの腕は握った剣ごとひじから下が消滅していたのだ。

 

 

己の身体に起きた惨状に気付いた男が悲鳴を上げるが、再び響いた銃声がそれをかき消す。

今度は右足が太もも辺りから抉り取られ、男がもんどり打って倒れる。

 

その全身が輝き、エフェクトと共に砕け散った。

 

 

 

「・・・・なんじゃ。わざと急所は外したというにこの程度で死ぬのか。存外加減が難しいものよ」

 

 

 

女性がつまらなそうに鼻を鳴らす。

その横に空中に浮かぶ二丁の火縄銃が銃口から白煙を上げている。

 

非現実的な光景に思考が止まったその隙を縫うようにして女性が動く。

 

 

 

「・・・【単独行動】」

 

 

 

ボソリと呟いた次の瞬間にはその姿は残った二人の眼前に現れていた。

驚愕の声を上げ、遮二無二に武器を振り回す二人。しかしそんな必死の抵抗も悪足掻きにもなりはしない。

 

 

 

「【食いちぎり】」

 

 

 

いつのまにやら握っていた刀を一閃。

それぞれの武器を握っていた腕を切り落とした。

 

あっという間に二人を戦闘不能にした女性は地面に倒れ呻く二人を交互に見やる。

 

 

 

「フム・・・貴様のが良い装備をしとるな」

 

 

 

「がああああああグエっ!?」

 

 

 

のたうち回っていた一人、戦士らしい鎧で武装した大柄の男の頭を蹴り上げ悲鳴を中断させる。

思わず動きを止めた男の胸を思い切り踏みつけ動きを制限し、その首筋に刀の切っ先を突き付けた。

 

 

 

「幼子のようにぴぃぴぃ囀るな。さて、儂の話を聞いてもらおうか」

 

 

 

「て、てめぇ・・・よく見たら『ノブナ』じゃねぇか!?なんでこんなとグヘぇ!?」

 

 

 

男の胸を今一度思い切り踏みつけ、黙らせる。

 

 

 

「貴様に発言を許した覚えはない・・・さて、では貴様の持ってる装備からアイテム、ゴールド、一切合切渡してもらおう。ちなみに拒否権はない」

 

 

 

「は、はぁ!?ふっざけんななんでそんなっが!?」

 

 

 

「貴様も学ばんのう。その頭は飾りか?」

 

 

 

呆れたように言いながら刀の峰で男の頭をぺしぺしと叩く。

足下の男を睥睨し、女性が悪魔のような笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「何故かと問われるならば「物のついで」・・・といったところか。狩りの邪魔じゃから排除したついでに貴様らの身包みでちょっとした小遣い稼ぎをしようという可愛らしい思い付きじゃよ」

 

 

 

あまりにもあんまりな理由に絶句する男。

やがてその顔が羞恥と怒りで真っ赤に染まっていく。

 

 

 

「ふざけんな!渡すわきゃあ無いだりうが!」

 

 

 

「フムそうか・・・【生命ある鎧】」

 

 

 

女性が手に持った刀が形を崩し、一瞬その身体を包み込み消えた。

 

 

 

「【奇妙な隣人】【流体操作】【巨大化】」

 

 

 

ついで口にした言葉で劇的な変化が起きる。

女性の背後に高さ3mはありそうな巨大な骸骨が出現したのだ。

 

 

 

『Ggggggoooooooaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

 

 

声帯のないはずのその口から放たれた咆哮が空気を震わせ、洞窟を揺らす。

巨大な骨の手を伸ばしたのは床を這いずりながら一人逃げようとしていたもう一人の男だった。

 

 

 

 

「ひ、ひいぃ!?」

 

 

 

 

巨大な手から逃れる事能わずあっさりと掴みあげられる男。

そして女性の足元にいる男に見せつけるようにして手を掲げると徐々にその手に力を込め始める。

 

まるで空き缶を握りつぶす様にゆっくりと、丁寧に、徹底的に。

 

巨大な手の中から男の絶叫が響く。

 

それを例の冷たい瞳で見上げながら、女性がつぶやく。

 

 

 

「痛みの軽減があるとはいえ全身をゆっくりと握りつぶされるのはさぞ辛かろう?聞いた話だと万が一にも危険のないようセーフティが設定されとるらしいが・・・さてどの程度で発動するのかのう」

 

 

 

言葉とは裏腹にさほど興味なさげに言いながら力を込める手は緩めない。

パキパキと細い枝が折れるような音が手の中からし始めた辺りで見ていられなくなってマイは視線をそらした。

 

男の絶叫はすでにか細いものとなり、やがてガラスの砕けるような音と共に途絶えた。

誰もが押し黙り静寂が場を支配する。

そんな中、女性の温度を感じさせない声が響く。

 

 

 

 

 

 

「―――さて・・・今一度貴様の返答を聞こう。身包みすべてを差し出して疾く去るか或いは体液をぶちまけながら生きたまま少しづつ肉塊にされるか」

 

 

 

 

 

 

軍帽の下から剣呑な光を湛え、紅く煌めく双眸が覗き、小刻みに震える男の顔を映し出した。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「・・・・お、魔物除けのポーションがこんなに。なんじゃあやつ、生意気にも結構良いもの持っとるではないか」

 

 

 

ほくほく顔でアイテムをインベントリに突っ込むノブナ。

一通りの作業を終えた後、一つ伸びをして立ち上がる。

 

 

 

 

「「ぴっ!?」」

 

 

 

「・・・なんじゃまだおったんか」

 

 

 

視界の隅で小さな悲鳴が上がり反射的に構えた【タネガシマ】をしまう。

初心者装備の二人組が怯えた小動物のように震えていた。顔がそっくりで身長も全く同じ。違いと言えば髪の色が黒か白かの違い位か。どうやら姉妹であるようだ。

 

黒髪の方が怯えながらも口を開いた。

 

 

 

「あ、ああ、あの・・・私達まだ何も持ってなくて」

 

 

 

「見ればわかるわ。貴様ら初心者じゃろう」

 

 

 

ノブナは手をひらひらとさせながらどうでも良さそうに言葉を続ける。

 

 

 

「初心者からアイテム強奪するほど困窮しとらんわ・・・無論、貴様らが儂に牙をむくというなら話は別じゃが・・・」

 

 

 

「「ブンブンブンっ(全力首振り)!!」」

 

 

 

「ま、それが賢明じゃな。では、疾く去るが良い」

 

 

 

姉妹に戦闘の意思がないことを見て、興味を失ったように背を向けて歩き出す。

目指すは洞窟の奥だ。

 

と、思い出したように立ち止まると振り返る。

 

 

 

「っと、そうじゃ貴様ら」

 

 

 

「「は、はひぃい!?」」

 

 

 

声を掛けただけでびくりと固まる姉妹。

リアクションまでそっくりだ。

そんな姉妹の様子を意にも介さずインベントリから男から奪った鎧や剣などの装備一式を取り出すと地面に投げ出す。

ガラガラと音を立てて転がる装備品を見つめて疑問符を浮かべている姉妹。

 

 

 

「・・・・えっと・・・これは」

 

 

 

「先程の男から奪った装備じゃ。貴様らにやる。アイテムに比べれば二束三文の安物じゃが装備するなり売って軍資金にするなり好きにせい」

 

 

 

「え、ええ!?あのちょっと」

 

 

 

言いたいことだけ言い捨ててノブナは今度こそ完全に姉妹に興味を失ったようでスタスタと奥へと進んでいってしまった。

 

残された二人はしばし呆然としたあと、お互いに顔を見合わせる。

 

 

 

「・・・よくわからないけど・・・助けてもらった・・・のかな?」

 

 

 

「・・・たぶん・・・」

 

 

 

・・・実はノブナにはそんなつもりは全くなく、ただただ周回に邪魔なものを排除しただけで、男の装備品を姉妹に渡したのも二束三文程度にしかならない不用品で必要以上にインベントリを圧迫するのを嫌っただけなのだがそんなことは二人は知らない。

 

何はともあれ難を逃れた二人は貰った装備をインベントリに詰め込んでおっかなびっくり街へと引き返していくのであった。

 




STR極振り姉妹は話の都合上原作より早めに登場させていただきました。とはいえ顔見世程度で正式加入は第3イベント後かなと思います。ご了承ください。


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器用度極振りの近況と噂話

【NWO】ノブナ対策本部(常設版)

 

 

 

 

 

 

 

 

165名前:名無しの大盾使い

 

 

 

呼ばれたから来たけど・・・なんだこのスレ?

 

 

 

 

 

166名前:名無しの魔法使い

 

 

 

情報源が来たぞ!

 

 

 

 

 

167名前:名無しの大剣使い

 

 

 

囲め囲め!

 

 

 

 

 

168名前:名無しの弓使い

 

 

 

逃がすな!スレの書き込み用に片手の指さえ動かせれば問題ない!

 

 

 

 

 

169名前:名無しの槍使い

 

 

 

・・・・ノブナコワい・・・

 

 

 

 

 

170名前:名無しの魔法使い

 

 

 

お前はまだソレ治って無かったのかい

 

 

 

 

 

171名前:名無しの大盾使い

 

 

 

なんだなんだ!?何事だ!?

 

 

 

 

 

172名前:名無しの大剣使い

 

 

 

このスレタイを見ればわかるだろう。つまりはそういうことだ。

 

 

 

 

 

173名前:名無しの弓使い

 

 

 

第3回イベントが近く開催されるということで、我々は今情報を欲している。それはもう切実に、だ。

 

そこで君の出番という訳だ。

 

君は対象と同じギルドに所属している。さぞかし様々な情報を知っているに違いない。

 

それを提供願いたい、それも出来るだけ多く、詳細に・・・というのが今回君を呼んだ理由だよ。

 

 

 

 

 

174名前:名無しの大盾使い

 

 

 

おいおい。俺にギルドの仲間を売れと?流石にそれは・・・

 

というか、メイプルちゃんの時と雰囲気違い過ぎないか?あの時は喋れないことは喋らなくていいって話だったのに

 

 

 

 

 

175名前:名無しの魔法使い

 

 

 

そらそうだろ。

 

遠くから眺めてる分には可愛いだけの女の子と積極的に被害をまき散らす人の型した災害を同列に扱う方が間違ってる。

 

 

 

 

 

176名前:名無しの大剣使い

 

 

 

そういうこと。

 

台風が接近してきたって聞いたらテレビや携帯で天気予報見て対策をする。当然の事だろう?

それと同じだよ。

 

 

 

 

 

177名前:名無しの大盾使い

 

 

 

災害って・・・流石に言いすぎだろ

 

 

 

 

 

178名前:名無しの弓使い

 

 

 

・・・それ、あれ見ても同じこと言えんの?

 

 

 

 

 

179名前:名無しの槍使い

 

 

 

・・・・ノブナコワい・・・ジュウコワイ・・・

 

 

 

 

 

180名前:名無しの大盾使い

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スマンかった

 

 

 

 

 

181名前:名無しの魔法使い

 

 

 

理解してくれたのなら良い。という訳でプリーズ!情報プリーズ!

 

 

 

 

 

182名前:名無しの大盾使い

 

 

 

とはいえ、俺もそこまで情報を持ってる訳じゃないぞ?知ってるのは喋っても良いって言われてる範囲のことぐらいだし。

 

 

 

 

 

183名前:名無しの弓使い

 

 

 

それでもいいから早よ早よ!

 

 

 

 

 

184名前:名無しの魔法使い

 

 

 

第2イベントからこっち、そこまで情報が集まらなくて不安で仕方ないんだよぉ!いつ爆発するか分からん爆弾と添い寝させられてるみたいな気分なんだ!

 

 

 

 

 

183名前:名無しの大盾使い

 

 

 

あ~、ここ最近どっかのダンジョンに入り浸ってるみたいだからなぁ。ほとんど人来ないみたいなこと言ってたから情報が集まらんのも頷けるわ。

 

 

 

 

 

184名前:名無しの大剣使い

 

 

 

ダンジョン周回ってどこのだ?

 

 

 

 

 

185名前:名無しの大盾使い

 

 

 

知らん。『教えたとてさほど意味がない』とかなんとか言って教えてくれないんだよな。

話しぶりから1層にあるみたいではあるけどな。

 

 

 

 

 

186名前:名無しの弓使い

 

 

 

まぁ、人の来ないダンジョンに籠ってくれる分には周辺被害は出ないだろうしさほど気にしないでもいいか。1層に行くことも早々ないだろうし。

 

他には何かないか?

 

 

 

 

187名前:名無しの大盾使い

 

 

 

あとは・・・・そうだな。

 

 

 

 

 

 

巨大な骸骨を召喚して連続パンチするようになった。

 

 

 

 

 

188名前:名無しの魔法使い

 

 

 

は?

 

 

 

189名前:名無しの大剣使い

 

 

 

は?

 

 

 

190名前:名無しの弓使い

 

 

 

は? 

 

 

 

191名前:名無しの槍使い

 

 

 

は?

 

意味わからん過ぎて正気に戻ったわ。ナ ニ ソ レ。

 

 

 

 

 

192名前:名無しの大盾使い

 

 

 

気持ちは分かる。

 

えっと説明すると、まず『ちびノブ』っていう小っちゃいノブナみたいなナマモノがいてだな。

 

 

 

 

 

193名前:名無しの大剣使い

 

 

 

いや、『いてだな』じゃないが

 

 

 

 

 

194名前:名無しの大盾使い

 

 

 

で、それとノブナとが合体して

 

 

 

 

 

195名前:名無しの魔法使い

 

 

 

ガッタイ・・・?

 

 

 

 

 

196名前:名無しの大盾使い

 

 

 

で、それが分身して巨大化して骸骨に変身して殴ってくる。

 

 

 

 

 

197名前:名無しの弓使い

 

 

 

・・・おかしいな。待ち望んでいた情報が大量にぶつけられているはずなのに何一つとして理解が出来ない。

 

 

 

 

 

198名前:名無しの槍使い

 

 

 

安心しろ。お前はおかしくない。とりあえず

 

 

 

 

 

詳  細  な  説  明  を  よ  こ  せ

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――大盾使い説明中―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

327名前:名無しの大盾使い

 

 

 

―――と、こんな感じだ。

 

 

 

 

 

 

328名前:名無しの魔法使い

 

 

 

なるほど共闘モンスターとの合体攻撃みたいな感じなんか。

それにしても背後に出現させたヤツによる連続パンチとか

 

それなんてスタ〇ド?

 

 

 

 

329名前:名無しの大剣使い

 

 

 

もしかしてオラオラですかーーーーっ!?

 

 

 

 

 

330名前:名無しの槍使い

 

 

 

YESYESYES

 

 

・・・冗談はさておき、ヤバいな。広範囲攻撃だけじゃなく単体近接攻撃も出来るようになったんか。

 

 

 

 

 

331名前:名無しの弓使い

 

 

 

だな。

銃撃を搔い潜って接近してもその攻撃が飛んでくる。それを嫌って離れたらまた銃撃に晒される・・・敵わないと見て遠くに逃げようとしても第1イベントの時みたいな広範囲ぶっぱで地形ごと削り取られると。

 

地獄かな?

 

 

 

 

332名前:名無しの魔法使い

 

 

 

というか、巨大化出来るノブナみたいな姿のモンスターってことだろ?

 

この前のイベントでそんな話出てなかったか?

 

 

 

 

 

333名前:名無しの槍使い

 

 

 

ああ、『6日目の悪夢』とか言って騒がれてたアレか。

 

とあるエリアで大量のプレイヤーが突然切り殺されたとか、いきなり現れた大型モンスターに蹂躙されたとかいう・・・

 

 

 

 

 

334名前:名無しの大盾使い

 

 

 

それそれ。その大型モンスターってのがそう。

 

 

 

 

 

335名前:名無しの魔法使い

 

 

 

ジョ〇ョではなく進〇の巨人で御座ったか。

 

 

 

 

 

336名前:名無しの弓使い

 

 

 

うなじ切り落としたとしても倒せる気せぇへんな。

そもそも切り落とせんのか?どうなの近接武器使い。

 

 

 

 

 

337名前:名無しの大剣使い

 

 

 

お前はいつから近接武器使いが空を飛べると錯覚していた?

 

 

 

 

 

338名前:名無しの大盾使い

 

 

 

うちのとこのギルドマスターは大盾使いだけど空飛べるな

 

 

 

 

 

339名前:名無しの槍使い

 

 

 

お前んとこがおかしいんだよぉ!?知ってたけどぉ!!

 

 

 

 

 

340名前:名無しの弓使い

 

 

 

それは本当にそう。

 

弓も無理だな

 

 

 

 

 

341名前:名無しの魔法使い

 

 

 

言うまでもないけど魔法でも無理だろうな。

 

決めた。俺、ノブナと遭遇したら無抵抗のまま死んだふりするわ。

 

 

 

 

 

342名前:名無しの槍使い

 

 

 

遭遇する前に射程内に入った瞬間消し飛ばされるぞ。ソースは俺。

 

 

 

 

 

343名前:名無しの大剣使い

 

 

 

流石経験者の言葉は重みが違うなぁ(白目)

 

 

 

 

 

344名前:名無しの大盾使い

 

 

 

あとこれは未確認情報何だが、サリーちゃん曰く他にも第1イベントで見せたアレ以外にも広範囲を攻撃できるようになったとかなんとか。

詳細は何故だかサリーちゃんが頑なに口を閉ざすんで分からないんだが

 

 

 

 

 

345名前:名無しの弓使い

 

 

 

あれ以外の広範囲攻撃方法・・・・・嫌な予感しかしないな。

本家のキャラクターからメタ読みするなら・・・

 

 

絶  対  ろ  く  で  も  な  い  事  に  な  る

 

 

賭けてもいい

 

 

 

 

 

346名前:名無しの魔法使い

 

 

 

元からろくでもない定期。

 

だけどまぁ、確かにそうだなぁ・・・とりあえず炎系の対策はしとくべきかな。どこまで通用するかわかんないけど

 

 

 

 

 

347名前:名無しの大盾使い

 

 

 

・・・うん。喋れるうちだとこんなとこか。

他にもイロイロあるけど流石にそれはギルド外秘ってことで

 

 

 

 

 

348名前:名無しの大剣使い

 

 

 

乙。

ま、ああは言ったけど言えないことあるのはしゃーない。

万一にも唯一の情報源がギルド追放とかされても困るのは俺達だしなー

 

 

 

 

 

349名前:名無しの槍使い

 

 

 

乙。

情報知ったとこで早々対処できるもんでもないしな。心構え位はできるかもしれんが。

 

 

 

 

 

350名前:名無しの魔法使い

 

 

 

おつおつ。

とりあえず出来るだけ出会うな。万が一出会ったら神に祈りながら覚悟をしろという事が分かるだけでも大分違うから良しなのよ。

 

 

 

 

 

351名前:名無しの弓使い

 

 

 

情報乙。

 

あと、未確認情報で思い出したことがある。

 

まぁ、ノブナの情報じゃあないからスレ違いかもしれんが

 

 

 

 

 

352名前:名無しの大盾使い

 

 

 

気にしなくても良いだろ。

というか、そんな意味深なこと言われたら気になって仕方ない。

 

 

 

 

 

353名前:名無しの槍使い

 

 

 

一度口にした情報は最後まで吐き切るのがこのスレの掟だ。語れ。

 

 

 

 

 

354名前:名無しの弓使い

 

 

 

言っても詳細な情報もないただの噂話なんだが。

 

お前ら【集う聖剣】と【炎帝ノ国】ってギルド知ってる?

 

 

 

 

 

355名前:名無しの大剣使い

 

 

 

知らない訳ないだろ。現状このゲームで規模、実力ともに最大規模の2大ギルドだ。

ゲーム始めたての初心者だって名前くらいは聞いたことあるってくらいのレベルだぜ?

 

 

 

 

 

356名前:名無しの魔法使い

 

 

 

で、それがどうかしたのか?

 

 

 

 

 

357名前:名無しの弓使い

 

 

 

何でもその2つのギルドに最近新入りがそれぞれ加入したらしいんだ。

で、その新入りってのがエラク強いらしい。

 

 

 

 

 

358名前:名無しの大盾使い

 

 

 

そんな噂になる位強いのか?

 

 

 

 

 

359名前:名無しの弓使い

 

 

 

らしい。

 

どっちのギルドも今、競い合うように勢力拡大してるから必然他のギルドと小競り合いになることもあるんだが・・・何でもその新入りは一人でギルド一つを潰したとかなんとか。他にも高難易度過ぎて【運営の悪ふざけ】とか言われてるダンジョンの内の一つ【狂える樹木の狂想曲】の最終ボスを軽く捻ったとかもあったかな?どっちがどっちかは・・・スマン、ド忘れした。

 

 

 

 

 

360名前:名無しの魔法使い

 

 

 

はぁ?

なんだそれ。

どっちにしろ無理ゲーなんですがそれは。

 

 

 

 

 

361名前:名無しの槍使い

 

 

 

ギルドは規模にもよるけど、一人でってのが眉唾だなぁ。あの2大ギルドとやり合おうなんてところだろうから小さい訳ないだろうし。

 

 

 

 

 

362名前:名無しの大剣使い

 

 

 

【狂える樹木の狂想曲】も複数のギルドが協力し合ってやっと攻略したとかいう所だろ確か。

2大ギルドならまぁ、出来んこともないだろうけどそれにしたってボス相手に楽勝とかも怪しいとこだ。

 

 

というか、そんなに強いならもっと前から話題になってるだろ

 

 

 

 

 

363名前:名無しの弓使い

 

 

 

それなんだよなぁ。

 

 

【集う聖剣】の方は第2イベント終わってすぐ位から、【炎帝ノ国】に至ってはここ数日で突然現れたとかなんとか。

 

 

あ、あと【集う聖剣】の方は使ってる武器もわかる。槍使いだそうだぞ。

 

【炎帝ノ国】の方は良く分からん。なんかビームがどうたらこうたら。

 

 

 

 

 

364名前:名無しの槍使い

 

 

 

そんな強い槍使いなら俺も話位は耳に入ると思うが知らんなぁ・・・

第2イベントで特殊な装備かスキルでも手に入れた奴か?

 

 

 

 

 

365名前:名無しの魔法使い

 

 

 

てかなんだビームって。メイプルちゃんでもビームは出せんだろう。

・・・・・・・出せないよね?

 

 

 

 

 

366名前:名無しの大盾使い

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今のところは・・・としか・・・

 

 

 

 

 

367名前:名無しの大剣使い

 

 

 

ナニソレコワイ

 

 

ま、まぁそれはともかくとりあえずはその辺りも含めて要チェックってことだな。

第3回イベントも近いっていうし、おいおい情報開示されていくだろ

 

 

 

 

 

368名前:名無しの弓使い

 

 

 

確かにその通り。所詮噂話だからイロイロ盛られてるだろうし話半分位に考えといてくれ。

 

 

 

 

 

369名前:名無しの槍使い

 

 

 

おけ。

じゃあとりあえず今後もノブナの動向には逐一注意しておくってことで・・・本日は解散!!

 

 

 

 

 

370名前:名無しの魔法使い

 

 

 

 

 

 

 

 

371名前:名無しの大盾使い

 

 

 

乙。またなんか情報拾ったら持ってくるわ

 

 

 

 

 

372名前:名無しの大剣使い

 

 

 

乙。

情報ヨロ

 

 

 

 

 

373名前:名無しの弓使い

 

 

 

乙。

期待しとくわ。

 

 

 

 

 



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器用度極振りと第三回イベント 1

ギルド『楓の木』が結成されてから早数週間。

 

その間、メイプルが天使になったり、毛塗れになったり、クロムがユニーク装備を手に入れて人外の道を歩み始めたりと色々とすったもんだありはしたもののそれなりに平和であった時間が過ぎ去り、遂にその日が訪れた。

 

 

NewWorld OnlinetoとFate/GrandOrder、そのコラボイベント初日である。

 

 

話題性を狙ったのか本日に至るまでイベントの詳細についてはほとんどの情報が制限されており、実際ネット上でも多くの推測、憶測が飛び交いそこかしこで盛んに議論が交わされるなど話題を呼んでいた。

 

例によってイベントの詳細告知の場になった大広場にて多くのプレイヤーが期待に胸を躍らせながら今か今かとその時を待っていた。

 

その中には勿論、ギルド『楓の木』のメンバーもいる。

 

 

 

「ふわぁ・・・すっごい人」

 

 

 

「だねぇ。前回よりも明らかに人増えてるね」

 

 

 

「このイベントがきっかけで新規参入がどっと増えたみたいじゃしの。流石はFGOと言ったところか。さっきから視線が鬱陶しくて堪らんわ」

 

 

 

あまりの人の多さに思わず声を漏らすメイプル。

同じく周りを見回し、面白そうに笑うサリー。

恰好が恰好であるために必要以上に悪目立ちして流石に辟易した様子のノブナ。

 

 

「そりゃあそんな恰好してればなぁ・・・しかしホントに増えたなぁ。少し見回しただけでも初心者っぽいプレイヤーも結構見かけるし」

 

 

 

「わかるわかる。ありあわせの武器防具をとりあえずつけてきましたって感じよね」

 

 

 

「ああ、なるほど。上半身だけ鉄鎧とか大斧担いでほぼ防具なしとかいるのはそれか」

 

 

 

「だねぇ。まぁ、装備云々はこの前までほぼ初期装備だった僕が言えた義理じゃないけど」

 

 

 

新たに手に入れた骸骨をモチーフにした装備のクロムが言いイズ、カスミは周囲のプレイヤーをつぶさに観察しながら各々の考えを言い合っている。

その横では髪の色と同じ、赤のキャスケットなど黒と赤を主としたイズ特製の装備に身を包んだカナデがマイペースに手元のルービックキューブの色を揃えてはまた崩してを繰り返している。

 

 

なんとも目立つ一行は周囲のプレイヤーの視線を集めている。

 

初心者からは好奇と興味の、中級者以上からは畏怖の、温度の違うそれが注がれ続けるが、やがてそれも終わることとなった。

 

 

広場の中央にブンという音と共にスクリーンが出現したからだ。

 

 

 

いつもならば画面にはデカデカと『運営』の文字が躍っているところだが今回は違う。

 

 

映し出されたのはどこかの部屋。

 

誰かの私室であり作業部屋でもあるらしく用途がわかるものからそうでないものまでさまざまなものが置かれており、一見雑多な印象を受ける。とは言え散らかっているという訳ではない。きっちりと整頓されている。

中央には木製の机と椅子。その上にはランプが置かれてほのかな光を放っている。

壁に目を向ければ本が並ぶ棚、何かの設計図らしきものが張り付けられたボードがある。

他にも何かの機械のようなもの、並べられた試験管やフラスコ、書きかけの絵画等が置かれている・・・そんな部屋だ。

 

 

 

『やぁやぁ諸君。お集まりいただいているようだね結構結構。本イベントについての説明は私がすることにしよう』

 

 

 

と、そんな声がして画面が横に移動。声の主が映し出された瞬間、広場が歓声に包まれた。

 

 

映し出されたのは一人の人物。

一見してとても美しい女性のように見える。

 

艶やかな長髪に白く透き通るような肌。碧い瞳は理知的な雰囲気を感じさせる。

赤と青を主とした衣装に身を包み、左手は機械的にもファンタジックにも見える不思議な義手となっており魔法使いが持つような杖―――とはいっても随所に装飾が施された真に煌びやかなものであるが―――が握られている。

 

まるで絵画のような・・・否さ実際に絵画を参考にそう『設計した』美貌を持った女性が微笑みながら口を開く。

 

 

 

 

『さて、この場には私を知っている人が大勢いるようだけど、一応自己紹介させてもらおうかな。クラスは『魔術師』(キャスター)。人類史に名を遺す英霊の1騎にして、キミ達を導く頼れる先達。『レオナルド・ダ・ヴィンチ』だ。気安くダヴィンチちゃんと呼んでおくれ』

 

 

 

 

そう言って二コリと微笑むと会場に更に大きな歓声が沸き起こる。

 

 

『レオナルド・ダ・ヴィンチ』

 

 

美術、医学、科学といったことから魔術などのオカルトまでありとあらゆる分野で非凡な才能を発揮した『万能の天才』。

 

FGOにおいてもその万能っぷりをいかんなく発揮しており本編の最初期から登場しストーリー上は勿論の事、キャラの育成から礼装の強化、アイテム購入などの諸々に至るまでプレイヤーをサポートしてくれる。

 

お世話になった人間は数知れず、必然人気も高いメインキャラクターの一人だ。

 

 

 

 

ダヴィンヂぢゃんだぁあああああああああああ!!!(泣)

 

 

 

「・・・メイプルも2部入っとったんか?」

 

 

 

「ちょっと前に。なので割とタイムリーなタイミングなんですよね」

 

 

 

「ならまぁ是非もないのう」

 

 

 

尚諸々の事情から彼女?の元気な姿を見ただけで号泣しているプレイヤーもいたりするがそれはまた別の話だ。

 

会場のざわめきが収まるのを待って再び画面内のダヴィンチちゃんが口を開く。

 

 

 

 

『では早速行ってみよう!FGOコラボイベント詳細情報~!』

 

 

 

 

待ってましたとばかりの拍手と歓声が巻き起こる。

それに満足げにうんうんと頷いたあと、ダヴィンチちゃんが言葉を続ける。

 

 

 

『事前の情報で発表されていたけれど、今回のイベントは探索型だ。前回のイベントとは違い特別なエリアに隔離するのでなく、現状解放されている2層までのエリア、そのありとあらゆる場所が舞台だ。森の中、洞窟の奥、あるいは町の片隅・・・各所に出現する『サーヴァント』達と出会い、提示されるクエストを攻略していき絆を育むことで最終的に『サーヴァント』を仲間にできる。因みに配置される『サーヴァント』は一騎ずつ・・・つまりは早い者勝ちだ。是非とも自分のお気に入りのサーヴァントを仲間にできるよう頑張ってくれたまえ』

 

 

 

『けれど仮に仲間に出来なかったとしても悲観することはない。サーヴァントが提示する最初のクエストをクリアすることが出来れば『絆の芽生え』というアイテムを入手できる。これは1回限りだがそのサーヴァントの力を借りられる・・・具体的には宝具を撃ってくれるというものだ。宝具はどれも強力な効果を持ったものばかり。獲得しておくことをおススメするよ』

 

 

 

『期間はリアル時間で5日間。サーヴァントは自身の思考や気分によって移動したりしなかったりするから日にちや時間帯によっては会えたり会えなかったりする。そのサーヴァントがどう考えてどう動くのか予想しながらあまり気負い過ぎず気長に探すのが肝要さ』

 

 

 

『用意されているクエストは様々な形態が用意されている。純粋な戦闘力が必要とされるものもあれば生産系スキルが問われるものもある。戦闘が得意でない生産系のプレイヤーの諸君も活躍できる可能性があるので期待していてくれ』

 

 

 

大体の説明を終えた後、ダヴィンチちゃんがニコリと微笑む。

 

 

 

『他にも細々したことはあるが・・・詳しくは実際にサーヴァントと契約した後、彼らの口から説明を受けてくれ。それではこれよりイベント開催だ。プレイヤー諸君は楽しんでいってくれたまえ』

 

 

 

にこやかに手を振るダヴィンチちゃんの映像が途切れると同時、歓声と共にプレイヤー達の大移動が始まった。その多くが期待と熱気に目を光らせている。

その流れに乗って移動しながら、ノブナ達は今後の行動方針についてを話し合う。

 

 

 

「ふむ、探索イベントならば分かれて行動すべきか。その方が効率は良さそうじゃし」

 

 

 

「ですね~」

 

 

 

「とはいえどんなクエストがあるか分からないからな。二人一組くらいの方がいいかもな」

 

 

 

「確かに・・・ならば私はノブナと一緒に行動しよう。刀と銃・・・近接と遠距離でバランスが良さそうだ」

 

 

 

「カナデと私の支援組は街中を中心に探索してみようかしら」

 

 

 

「OK。生産系とかパズル系とかそんなクエストがあるかもしれないしね。僕のスキルなら運は絡むけど対応できる幅は広いし」

 

 

 

「う~ん・・・ならクロムと私とメイプルは三人で行動する?微妙に効率悪くなっちゃうけど」

 

 

 

「あ、なら私はワルキューレの皆と一緒に行くよ。サーヴァントを連れてったら何か特殊なイベントとか発生するかもだし」

 

 

 

『・・・・・メイプル一人かぁ・・・・』

 

 

 

微妙な顔をするギルドメンバー(カナデ覗く)達。

メイプルを一人にすると持ち前の突飛な発想と何かに取りつかれてるんじゃないかと思う程の運の良さを発揮して想像もつかないような進化を遂げたりするためだ。

 

さりとてそれが悪い方向にいったことは一度としてないし、他に代案も思い浮かばなかったので最終的には同意することになった。

 

 

 

「なら『楓の木』結成後初めてのイベントだし、皆頑張っていこー」

 

 

 

「「「「「おーーー!」」」」」

 

 

 

ギルドマスターであるメイプルの号令の下、メンバーたちは三々五々散っていったのだった。

 

 

 




戦闘中突然ステラぁされる世界


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器用度極振りと第三回イベント 2

4チームに分かれた『楓の木』のメンバー達。

 

 

カナデ&イズ組は第1、第2層の街中の探索。

サリー&クロム組は第2層の、比較的拠点の街に近しいダンジョンなどを中心に。

能力的に楽に長距離を移動できるメイプル&ワルキューレ組は2層の街から遠い場所を、というようにそれぞれの担当する場所を決め、三々五々散っていった。

 

そしてノブナとカスミのコンビはと言えば―――

 

 

 

「フム・・・こうして第1層に来るのも久しぶりだな」

 

 

 

「まぁ、普通は2層に上がればわざわざこちらへ来る理由もないしの。儂は結構な頻度で来とるが」

 

 

 

懐かしそうに第1層の街中を見回すカスミに対し、日常的に通っているので特に感慨もないノブナが返す。

 

ノブナの言葉通り、第1層はゲームを始めたばかりの初心者以外はほぼほぼ用のない場所である。

普段ならばそこまで人が集まるところでもないのだが、今日はこの時ばかりは別だった。

 

見回す限りの人、人、人。そこら中プレイヤーだらけ。

初心者丸出しのものから歴戦風のものまで多種多様な装備に身を包んだプレイヤー達が町中にひしめき合っている。

第2層が解放される前の町中の喧騒を思い出させる光景だ。

 

そんな中を二人はえっちらおっちら歩いていく。

極振りプレイヤー(ノブナ)がいるのでそれに合わせたゆっくりとした歩みだ。

スルスルと自分たちを抜かしていく何人ものプレイヤー達を見やり、カスミが少々辟易したように言う。

 

 

 

「しかしすごい人だな。少しくらいはいると思っていたが流石にこれ程までとは想定外だった」

 

 

 

「うむ。儂も気になったんで、ちらと掲示板を覗いたらこの町で早速サーヴァントが発見されたようじゃ。大方それが目当てなんじゃろ」

 

 

 

「そうなのか!?なら我々もそこを目指して」

 

 

 

「う~ん・・・やめとこ」

 

 

 

「・・・なぜだ?」

 

 

 

「発見されたのは『ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト』。最初の要求は『とりあえず1曲聴かせて?(傍らのピアノを指さしながら)』だとさ・・・・・お主、リアルでピアノとかやったことある?」

 

 

 

「・・・仮にやってたとしてかの天才を前に演奏する勇気は私にはないな・・・」

 

 

 

「じゃろ?その手のスキルとかあるなら話は変わるかもしれんが・・・儂は聞いたことないな」

 

 

 

「私もない。というか持ってたとしても嫌だ」

 

 

 

「確かに。おそらく現地に行けば哀れな玉砕者達と野次馬が山ほどおると思うが・・・ま、精神衛生上近づかん方がよいと思うぞ」

 

 

 

「同意だ。ならばとりあえずダンジョン周りでも巡ってみようか」

 

 

 

渋い顔をするノブナに同意し、頷くカスミ。

2人はその足を町外へと続くゲートへと向けるのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

所変わって第1層のとある場所。

背の低い下草が一面に生え、緑色の絨毯が敷かれたようにも見える草原地帯が広がっているエリア。

出現するモンスターのレベルが低く、周り一帯を見通せるような開けた場所故に突然の襲撃を受ける心配もない。ゲームを始めたてのプレイヤー達にとってはレベル上げに最適な場所として有名な狩場の一つであり、それゆえ街中ほどではないにしろちらほらとプレイヤーが行き来している光景を見ることが出来た。

 

そんな場所をノブナとカスミの両名が連れ立って歩いていた。

 

 

一歩歩みを進める度に足を受け止める下草の柔らかさを感じ、穏やかな風がわずかな青臭さと花の香を運んでくる、モンスターが出ることを覗けばピクニックに最適そうなのんびりできる場所なのだが二人の意識はそんなことには一切向いてはいなかった。

 

 

 

否、二人だけではない。この一帯にいる全プレイヤーが同じように、ただ一点に視線を向けていた。

 

 

 

草原地帯の中ほど、地面が盛り上がり小高い丘となっている区画・・・その上空。

 

晴天の空に白い雲がゆっくりと流れる、そんな見ているだけで和やかな雰囲気になりそうな空に『ソレ』が浮かんでいる。

 

 

 

穏やかな太陽の光を反射し、ギラギラと光る鋼鉄のボディ。

 

和やかな風を切り裂き、轟轟と空気を振るわせるエンジン。

 

元気に飛び回る小鳥達のさえずりを掻き消す、謎の電子音。

 

 

まるで漫画やアニメ或いはSF映画からそのまま抜き出してきたかのような未来的なデザインの機械戦艦が空中を飛んでおり、下に広がる草原に巨大な影を落としていた。

 

 

真っ白なキャンバスに皿いっぱいに盛ったカレーをぶちまけたものを見せられたような訳の分からなさ極まる光景を見せつけられたカスミは足を止め、目を閉じ、目頭の辺りを揉んでみる。

数回それを繰り返した後、一度深呼吸をして目を開ける。

 

 

宙に浮かぶ巨大戦艦は変わらずそこにあり、機体各所に設置された用途のわからない光源を無駄に光らせ続けている。

 

 

 

 

ワ~オッキイナァ

 

 

 

「逃避したとて現実は変わらんぞ。というかウチのホームだって似たようなもんじゃろ」

 

 

 

瞳のハイライトが消え、平坦な棒読みで空中戦艦を見上げるカスミに、ワルキューレ達が聞いたら光槍を投げられそうなことを宣うノブナ。

 

 

 

「・・・・いや、アレはまだファンタジーの領域だし・・・目の前の宙に浮いてる『アレ』は何ていうかこう・・・違うだろう。多少世界観が違うとかなら許容範囲だが、いくら何でも『アレ』は世界観が違うとかいう領域を飛び越してる。蕎麦にチリソースをかけるような暴挙だろうアレは」

 

 

 

「世界観が違うとかソレよりによって儂の前で言っちゃう?今更じゃない?結婚報告された後に『実は君のこと好きだったんだよね』とかいうサブヒロイン並に今更じゃない?」

 

 

 

「はぁ・・・拭い去れない違和感はともかくとして、だ。どうする?アレが空中に浮かんでる以上、空でも飛べない限りは手の出しようがないだろう。メイプルに連絡して来てもらうか?」

 

 

 

「う~む。見たとこ空中で静止しとるみたいじゃし、近くまで行ければ乗り移れるじゃろ」

 

 

 

「その近くまで行く手段をどうするのかというのを相談しているんだが・・・」

 

 

 

「こうすれば良い―――『マックスウェルの悪魔』からの『秘密兵器(トイ・ボックス)』!」

 

 

 

ブワッと赤黒いオーラを纏わせたノブナが右手を空中要塞に向けて掲げれば、空中に無数の【タネガシマ】が段々に連なって設置される。

 

空中要塞まで直通の、即席の階段が出来上がった。

 

 

 

「・・・・君といると自分の想像力が如何に乏しいのかということを痛感させられるな」

 

 

 

「なんじゃそれ褒めとんのか?」

 

 

 

「褒めてるよ」

 

 

 

諦めに似た息を一つ吐き、慣れた様子で【タネガシマ】に足をかけトントンと軽快に上がっていくノブナを追いかけるようにしてカスミもおっかなびっくり上へ上へと上がっていくのだった。

 

 

そうして即席の階段を上がること数分間。

地面は既に遥か下にあり、驚愕の目でこちらを見上げていた他のプレイヤーの姿も今では豆粒ほどしかない。

 

逆に件の空中戦艦は近く、大きくなっている。

近づけば近づくほどに、その巨大さが理解できる。遠目に見た時はトラック程であったが、今ではほぼほぼそり立つ壁にしか見えない。SF映画でしか見ないようなスケール感に圧倒されながら、それでも歩を進めることしばし。

金属特有の光沢を放つボディの一画に入り口のように見えるものを見つけた。

壁にドアのような四角い隙間が走っているそこに近づき、開けようとするもノブはおろか取っ手らしきものも見当たらない。

カスミが触れても硬く冷たい金属の感触がするだけだ。無論押しても叩いてもうんともすんとも言わない。なしのつぶてである。

 

 

 

「開かんのか?どれ、一つ儂に任せてみよ」

 

 

 

「・・・君、鍵の解除スキルとか持っていたのか?」

 

 

 

「そんなもんはない。だがな、開かない扉がある時は誠心誠意ノックすればよいんじゃ。こんな風に、の!」

 

 

 

言って扉らしきものに【タネガシマ】を斉射。火花と金属を削る音が響き、その形が歪む。

穴だらけとなったそれにとどめとばかりに蹴りを入れればバガンと音を立てて扉が蝶番の部分から外れて下へと落下していった。

 

 

 

「さ、いくぞ」

 

 

 

「押し込み強盗でもしているような気分になるな」

 

 

 

「押し込み強盗も冒険者も似たようなもんじゃろ。・・・・っと中もかなーり広いの」

 

 

 

「確かに、これは中々に凄いな」

 

 

 

開いたところから中に侵入し周囲を観察した二人が思わず感嘆のため息を漏らす。

 

2人のいるそこは通路らしく金属質な光沢を放つ壁が視界の先まで続いていた。

天井もかなり高く、見上げても上が見えない程であり、道幅も大型のダンプが数台余裕ですれ違えるほどに広い。ごうんごうんと艦のエンジン音が低く響いており、時々そこに独特な電子音が混じる。

通路には窓の類がなく、また光源らしきものは見当たらないのだが、通路全体が真昼の太陽の下を歩いているかのように明るすぎる程に明るいため通行に支障はない。

 

 

2人が呆けて回りを見回していると、突然通路全体に警報音が鳴り響いた。

 

 

 

『左舷Kブロックに侵入者あり!繰り返す、左舷Kブロックに侵入者あり!各員直ちに武装の上侵入者を排除せよ!』

 

 

 

「・・・まぁ、扉を壊して無理矢理侵入すればこうもなるな」

 

 

 

「他に方法もなかったし是非もないよネ!」

 

 

 

「お相手もそう思ってくれるなら苦労はしないが・・・」

 

 

 

ため息を吐くカスミの向けた視線の先。

通路の向こうから夥しい量の機械や人らしきものが手に手に物騒な獲物を持ちこちらへやってくるのが見える。やってきた客人をもてなそうとしているようには決して見えない。

 

 

 

 

『排除!排除!排除!排除!』

 

 

 

「あの感じでは無理そうだな」

 

 

 

「分からんぞ?儂らの突然の訪問に驚いてうっかり仕事道具を持ったまま出迎えに来てしまっただけかもしれん」

 

 

 

「そう思うなら君は彼らの歓待を受けるといい。私は逃げる」

 

 

 

「冗談、冗談じゃて!一緒に連れてけ!」

 

 

 

「おい!飛び乗るな!引っ付くな!まったく・・・」

 

 

 

背中に飛び乗り引っ付いて離れないノブナに深い深いため息をつきながら、カスミが叫ぶ。

 

 

 

「【超加速】!」

 

 

 

スキルの効果で凄まじいスピードで集団から逃げ去るカスミ。背中のノブナが凄まじい風とGを受けて変な声を上げているが気にせず走る。

 

通路は入り組み、いくつもの部屋や空間があるようでさながら迷路のようになっている。

そこを爆走しながら追っ手の視界から外れるように右へ左へ逃げていく。

 

やがて十分に引き離したであろうと思われるほどに走ったあたりで一つの扉を発見。

どうやら鍵の類もないようなので扉を開けてするりと中に身体を滑り込ませ、即座に施錠。息をつく。

 

 

 

「ふぅ・・・しばらくはここで身を隠して」

 

 

 

「・・・そうもいかんようじゃぞ?」

 

 

 

背中から降りたノブナが音を立てないためだろう、ちびノブが変化した刀を手にし、即座に部屋の奥へとその切っ先を向ける。

カスミも瞬時にそちらへ視線を向けて、いつでも抜刀できるように腰の刀へと手をかけた。

 

 

2人の視線の先、倉庫らしく様々なモノが箱に詰められ、雑多に置かれているその向こう。

 

壁を背にして一人の人物が立っていた。

 

フード付きの外套を身に纏っており、顔も服装もわからない。が、それほど背が高くはない。ノブナよりも気持ち大きい程度だろう。おそらく女性か背の低い男性といったところか。

 

 

と、そのフードの奥から視線を感じる。

 

 

冷たく、鋭く、薄暗い感情を感じさせるそれ。

 

 

自身に注がれるそんな視線にゾクリと背筋に冷たいものを感じ、カスミは刀を握る手に力を込めた。

 

と、そのフードの人物が口を開く。

 

 

 

「――――刀――――」

 

 

 

ぼそりと小さく呟かれた声はやはり女性のものだ。

その人物は壁から背を放し、一歩踏み出す。その場で静止したかと思えば身に着けた外套に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

「―――つまりは―――『セイバー』!!」

 

 

 

 

 

 

 

そして、ばっと音を立ててそれを脱いだ。

 

 

現れたのは人物の恰好は近未来的なこの場にそぐわないものだった。スポーツ少年が被るような黒いつば付きの帽子に短パン。まるで運動部の学生の如き青いジャージを着ており首には同じく青い特徴的なマフラー

何より特徴的なのは帽子を被った頭からまるで自身の存在を主張するかのようになぜだかピンと飛び出たそのアホ毛。

 

 

 

 

「セイバーは遍く宇宙にただ一人!この『謎のヒロインX』だけでいいのです!セイバー殺すべし、慈悲はない!」

 

 

 

 

よくわからない言葉を並べ立てながら元フードの人物・・・『謎のヒロインX』が剣を構えて襲い掛かってきた。

 

 

 

 

―――『条件:パーティー内に『剣』『刀』を装備したプレイヤーがいる』を達成

 

 

 

 

クエスト名【少女に勝利を、剣士(セイバー)には死を】を開始します。

 

 

 

 




元々はぐだぐだ鯖でもないのに、しれっと当然のような顔して茶の湯イベント特攻サーヴァントの欄に混ざってんの草。

そんな彼女、何を隠そうノッブの次に作者が好きなサーヴァント。興味ない?ソンナ―


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器用度極振りと第三回イベント 3

 

ノブナ達が空中要塞へと行く少し前・・・

 

第2層のダンジョン周りの探索を担当することになったメイプルはと言えば・・・

 

 

 

 

「―――あの・・・マスター?」

 

 

 

「何オルトちゃん?あと、メイプルでいいよ~」

 

 

 

「オル?・・・いえ、それはともかくマスターはマスターですから・・・」

 

 

 

「むぅ・・・まぁいいや。オルトちゃんの好きに呼んでくれれば」

 

 

 

「ありがとうございます・・・それでなんですがマスター」

 

 

 

「うん、何?」

 

 

 

「我々は今何をしているのでしょうか?」

 

 

 

「ん?何って・・・・」

 

 

 

メイプルはちょこんと首を傾げて目の前で困惑顔をしているオルトリンデを見やって言う。

 

 

 

 

「ババ抜き」

 

 

 

「・・・・・はぁ」

 

 

 

事も無げに言う主を前に間の抜けた声を出すしかないオルト。

 

その手には大量のトランプの札。

対面しているメイプルの手にも大量の札が握られている。

 

現在一人と1騎は空中をふよふよと浮かんで移動する巨大な亀・・・シロップの甲羅の上に座ってトランプに興じている所だった。

 

今現在はイベント中なはず。入手した情報から考察するにもっと急ぐべきなのではないのだろうか?少なくともこうして自分とトランプ遊びに興じている場合ではないはず。

 

まして自分は兵器として生み出された戦乙女である。手札の内容に一喜一憂する目の前の主とは違い、人の感情の機微などはいまいち理解できない。

そんなモノを相手にしての遊戯など楽しめるはずもない。

 

にも関わらず当のメイプルは特に急ぎもせず上機嫌に適当な歌を口ずさみながらオルトの手札からカードを抜き、手札から札を捨てている。

 

 

 

 

「クロネコとパンケーキ作る♪~次はオルトちゃんの番だよ」

 

 

 

「はぁ・・・マスター、急がなくてよいのですか?私ならばシロップ様よりも速く移動できると思うのですが・・・あ、いえ、別にシロップ様の能力を過小に見ている訳ではないのですが」

 

 

 

「大丈夫分かってるよ。う~ん、でも何処にサーヴァントがいるか分からないしずっと私を背負って飛び回ると疲れちゃうかもしれないし。シロップならゆっくりだけどMP消費もないし疲れないで移動できるしね」

 

 

 

「・・・マスターは私達の能力に不安が御有りなのですね」

 

 

 

「ふぇ!?違う違う!」

 

 

 

目を伏せたオルトに慌てて手を振りながら否定するメイプル。

 

 

 

「なにがあるか分からないから出来るだけ力を温存していこうってだけだよ。寧ろワルキューレの皆には期待してるんだ。私だけじゃ倒せない敵が出てきたリしたらその時は皆に助けてもらわなきゃいけないしね」

 

 

 

「・・・成程。その時はこの身に代えましてもマスターをお守りします」

 

 

 

「う~ん、むしろ守りよりも攻撃してもらいたいかな~」

 

 

 

「・・・やはり私達では力不足・・・」

 

 

 

「だ~から違うって~!―――あ」

 

 

 

「あ」

 

 

 

ブンブンと手を振った瞬間、大量に握ったカードの内の一枚がスポッと抜け落ち、宙を舞う。

慌てて手を伸ばし、なんとかキャッチに成功するメイプル。

が、巨大とは言え亀の甲羅の上。

バランスを崩したメイプルの身体はゴロゴロと甲羅の上を転がり、空中へとその身を躍らせた。

メイプルの黒い鎧姿はそのまま重力に引かれ、真下に広がる木々の合間に落下していく。

 

 

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」

 

 

 

「ま、マスターーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 

 

落ちていくメイプルをオルトが背中の翼を光らせながら追いかけていく。

 

バキバキと枝をへし折り落下していくメイプル。ガンガンと身体が枝や幹に当たり上下左右に視界が回転する。日頃の癖で思わず装備していた大盾を構えたが落下途上にある太い枝が【悪食】にて消滅していくのを見て慌てて盾を放り出す。

 

 

 

「【悪食】の回数が無くなっちゃう!?」

 

 

 

迫る地面に本能的に目を閉じる。

が、その身体を柔らかい何かが受け止めた。

恐る恐る目を開けてみれば心配そうにのぞき込んでくるオルトの顔があった。

持ち前の飛行スキルをフルに発揮して落下するメイプルを追い抜き地面に着地。そのままメイプルの身体をキャッチするという荒業をやってのけたらしい。

 

 

 

「大丈夫ですかマスター!?」

 

 

 

「だ、大丈夫~ちょっと目が回ったけど。ありがとうね」

 

 

 

「ご無事ですか・・・まったく大盾を投げ捨てられた時はどうなることかと・・・」

 

 

 

「あ!そうだ大盾どこにやったっけ!?」

 

 

 

「えと、それでしたら・・・あちらに」

 

 

 

オルトが指さす方向には見上げる程の大樹があり、その根元の辺りに先ほど投げ捨てた大盾があった。

自身の身体の事より大盾の心配をするメイプルに困惑しつつも特にケガもなさそう(実際の―ダメージであった)なので地面におろす。

しっかりと地に足を付けたメイプルは大樹へと歩み寄ると大盾を回収した。

ちらりと大盾の状態を観察してがっくりと肩を落とす。

 

 

 

「あー・・・やっぱり今日の分の【悪食】無くなっちゃった・・・それに」

 

 

 

気まずそうに大樹を見る。

そこにはメイプルの大盾の形にぱっくりと避けた痕跡。【悪食】の犠牲になった証左。

 

 

 

「あうう、ごめんなさい・・・・あれ?」

 

 

 

謝りながら大樹にできた裂け目の様子を観察していると光を反射して鈍く光る何かを見つけた。

気になって手を伸ばし拾い上げてみればそれは手のひらサイズ程の大きさの錆びた歯車のようだった。

 

 

 

「えっと・・・アイテム名【かつての夢】?装備品じゃないみたいだし、特に効果も説明もないや」

 

 

 

「―――特にサーヴァントとの関連性も無さそうですね。別のイベント用アイテムでしょうか?」

 

 

 

「そっか~、とりあえず持って帰ろうか。ギルドホームの飾りにはなりそうだし」

 

 

 

「か、飾る、のですか?」

 

 

 

王侯貴族が闊歩してそうな城のに飾られる錆びた歯車・・・どう見てもシュールである。

メイプルの突飛な発想に先ほどから困惑しっぱなしのオルト。

そんな彼女をわきに置いてメイプルは歯車をインベントリに入れると大樹の裂け目に手を当てる。

 

 

 

「マスター?何を」

 

 

 

オルトが疑問を口にすると同時、メイプルは装備を新調したばかりの全身真っ白な鎧に変える。

 

 

 

「【慈愛の光】!」

 

 

 

ダメージエフェクトが舞い、それと共に手元に光があふれ出す。

メイプルが新しく入手したスキル【身捧ぐ慈愛】に含まれるいくつかの回復スキルの内の一つだ。

光が大樹を包み込む。

 

しかし、裂け目は変わらず口を開けたままだ。

 

 

 

「駄目かぁ・・・本当にごめんなさい・・・とりあえず森を抜けてシロップを呼べるところに移動しよっか」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

もう一度大樹に向けて頭を下げるメイプル。

これ以上やれることはない。

立ち上がり、装備をいつもの鎧に戻した後でその場を後にする。

 

その数歩後ろをついていきながらオルトが口を開く。

 

 

 

「・・・マスター。一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

 

 

「ん~何?」

 

 

 

「何故あのような行動を?見た目は大樹ですがアレの本質は背景オブジェクトの一部でしかありません。わざわざHPを削ってまでも回復スキルを行使する意図が理解できません」

 

 

 

「なんで、かぁ・・・う~ん改めて聞かれると難しいけど・・・」

 

 

 

腕を組みしばらくうんうんと思考をめぐらすメイプル。

やがて自信なさげに言葉を紡ぐ。

 

 

 

「・・・しいて言うなら・・・そうしたいと思ったから・・・かなぁ?」

 

 

 

「そうしたいから、ですか。つまりは理論的な思考からの行動ではなく感情的な行動であった、と?」

 

 

 

「う~んまぁ、そうだね」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

思わず黙り込んでしまう。

 

答えを聞いても理解が出来ない。

 

効率で考えるならば先ほどの行為は単なるリソースの浪費でしかない。

 

先ほどまでのトランプ遊びとてそうだ。

 

普通に考えるならただの貴重な時間の浪費・・・そのはずだ。

 

しかし、眼前の少女はそれを是とする。

 

ただ『そうしたいから』というだけの曖昧な理由で。

 

『効率』を切り捨ててでも『感情』を優先する。

 

 

―――知らない。

 

 

『感情』とは何だ?

 

 

―――解らない。

 

 

『感情』にはそれほどの価値があるのか?

 

 

―――理解が出来ない。

 

 

喜怒哀楽。

知識としてインプットされてはいるものの実感も共感も出来ない。

 

ただ悶々と思考の渦に呑まれていくオルトの額をぺしりと何かが当たる感触がする。

 

目線を上げればメイプルが手刀の形にした手でオルトの額をペシペシと叩いていた。

 

 

 

「オルトちゃ~ん、大丈夫?」

 

 

 

「・・・あ、はい、問題ありません」

 

 

 

「む~・・いきなり立ち止まったり声を掛けてもしばらく反応しないし、問題ないようには見えないよ・・・何かあった?」

 

 

 

「あ・・・え、と・・・・」

 

 

 

オルトは少しの間迷う様に目を伏せた後、絞り出すように言葉を紡いでいく。

 

 

 

「・・・私たち戦乙女は元々は戦場をめぐり勇士の魂をヴァルハラへと送るいわばシステムの一部です。任務を遂行する自動機械、と言い換えてもいいかもしれません」

 

 

 

「む」

 

 

 

「故に私達には人の『感情』というものが、その・・・」

 

 

 

「わからない?」

 

 

 

「・・・・はい」

 

 

 

「そっか~・・・・う~ん」

 

 

 

またも目を閉じ、腕を組み、左右に身体を揺らして何か考えているメイプル。

と、突然がばっと顔を上げると自身の口の端に両の人差し指を当てると左右に引っ張った。

 

 

 

「ひょう?ひょもしろい?」

 

 

 

「え、と・・・すいません?」

 

 

 

「むむむ~なら~・・・とう!」

 

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

 

今度は手をワキワキとさせながらオルトに飛びついてその脇など敏感なところを弄り始める。

まさかの実力行使だった。

 

 

 

「そ~れ、こしょこしょこしょ!」

 

 

 

「ちょ、ますた、やめ、くふ、ふふ!?」

 

 

 

「あ!ちょっと笑った?それそれそれ!」

 

 

 

「や、やめほんとにふふやめふふふくるしふふ!?」

 

 

 

 

そのままくんずほぐれつ戯れる事しばし。

そこには一仕事やり切ったような顔のメイプルと荒い息で地面に倒れ伏すオルトの姿が。

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・ううう・・・酷いです・・・」

 

 

 

「ごめんごめん・・・でもオルトちゃんもこうやってちゃんと笑顔になれるんだもん。きっとすぐ人の気持ちも分かるようになるよ。あ、もちろん私も協力するよ。同じギルドの仲間だもんね!」

 

 

 

「・・・マスター」

 

 

 

オルトの目線に合わせてしゃがみ込み、任せろとばかりに笑顔で両手で握りこぶしを作るメイプル。

 

今の笑いは云わば生理現象のようなものなのだが、しかし、目の前の少女にはそんなことはどうでも良いのだろう。

本気でオルトが感情を理解できるようになる日が必ず来ると信じている。根拠らしい根拠もないはずなのに、だ。

 

 

そんな彼女を見ていると、理屈や根拠がどうのこうのとウジウジ考えこんでいる自分がなんだか馬鹿らしくなってくる。

 

 

 

 

「―――ふふ」

 

 

 

「? 何かおかしかった?」

 

 

 

「いいえ・・・そうですか。私は今笑えていますか」

 

 

 

「うん・・・???」

 

 

 

『そんなに面白い事言ったかなぁ』と見当違いな呟きを漏らし、疑問符を浮かべながら首を傾げる主を見て更に笑いがこみ上げてくる。

 

先程までのものまでのとは違う、自分の内側から自然と湧き上がって来るものだ。

それと同時、胸の辺りに熱が灯ったように暖かくなるような感じがする。

 

今まで感じたこともない奇妙な、しかし不快ではない不可思議な感覚。

 

 

―――ああ、或いは『コレ』がそうなのだろうか?

 

 

まだわからない。が、構わない。

 

 

目の前の少女が・・・マスターが、きっとその答えを教えてくれるだろうから

 

 

 

オルトはひとつ微笑んで立ち上がり、未だ首を捻っている主に手を差し出す。

 

 

 

 

「私はもう大丈夫です。そろそろ行きましょう、マスター」

 

 

 

「そ?よ~し、じゃあとりあえずシロップに拾ってもらえそうな所に移動しようか」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

とてとてと歩くメイプルの後ろについていくオルト。

その顔には微かな、しかし確かな微笑みが見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――サーヴァントとの『絆』レベルが上昇しました―――――

 

 

 

★ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

しばらく森の中を歩くメイプル達。

 

 

 

落ちてきた森は予想以上に広く、深い森林地帯であったらしい。

 

目の前にはどこまでも広がる緑、緑、緑・・・

 

 

 

とは言え、モンスターらしき影もなく頭上からは生い茂った葉の隙間から太陽の光が差し込んでおり歩くのに支障がない明るさを保っている。メイプル達の歩く音くらいしか聞こえない静寂。周りの緑も相まって森林浴にやって来たのかとすら思える程に落ち着いた和やかな時間が流れている。

 

元々それほど急いでいる訳でもないメイプルはこれ幸いとばかりにシロップを回収した後、ノンビリと森の中を進んでいく。

 

ざくざくと下草を踏みしめる音を立てて歩を進めているメイプルが大きく伸びをする。

 

 

 

 

 

 

 

「ん~、最近シロップに乗って移動することが多かったから自分の足で歩くのも久しぶりだけどいいね、やっぱり」

 

 

 

 

 

 

 

「そうですね」

 

 

 

 

 

 

 

メイプルの横を歩きながらオルトが同意し頷く。

 

先程までよりどこか硬さが抜けたような雰囲気だ。穏やかに微笑みながら頭上から差し込んでくる光に目を細めている。

 

そんな彼女の様子に気を良くしたメイプルは上機嫌に鼻歌など口ずさみながら歩を進めていく。

 

 

 

 

 

と、突然オルトがピタリと足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?どしたの」

 

 

 

 

 

 

 

「下がって下さいマスター」

 

 

 

 

 

 

 

紡がれた声は先程までとは比較にもならない程に冷たく固いもの。

 

フードの下から覗く顔には抜身の刃のような真剣な表情が浮かんでいた。

 

手に光の槍を形成しながらメイプル達が歩いていた道から外れた草むらの奥を睨みつけている。

 

 

 

その様子にメイプルも即座に大盾を構え、何時でも抜けるように腰元の短刀に手をかける。

 

オルトに倣い、じっと視界を塞いでいる葉の向こうを見つめる。

 

 

 

やがてガサガサと草むらが揺れ動く。

 

じっと襲撃に備えて敵を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・しかしそれは結果的に杞憂に終わることになった。

 

 

 

 

 

 

 

ガサガサと草むらを掻き分けて飛び出してきたのは一人の男性プレイヤー。

 

 

 

軽量な皮鎧にショートソードと小さめな盾からして軽量戦士といった風貌である。

 

勢いよく飛び出してきた彼はそのまま重力に引かれるように前のめりに地面へと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ!?ちょ・・・だ、大丈夫!?」

 

 

 

 

 

 

 

「駄目です」

 

 

 

 

 

 

 

思わず駆け寄ろうとしたメイプルをオルトが制す。

 

なぜと問うよりも先に森中に響き渡るかのような絶叫が男の口から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「が、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

血走った目をこれでもかと見開き、叫ぶその口の端からは血の混じった泡を吹き出し、喉も千切れよとばかりの苦悶の絶叫。

 

よくよく男を観察すれば、装備の隙間から覗いた肌は奇妙な色に染まっており、血管が浮き出て所々から肌が破れ出血している。

 

 

 

やがて男の絶叫は唐突に止まり、びくびくと数度身体を痙攣させたかと思えばガラスの砕けるような音と共にエフェクトをまき散らしながら消えていった。

 

 

 

その壮絶な死に様を見たオルトが眉を顰めながらボソリと言う。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・毒ですね。それもかなり強力なものです」

 

 

 

 

 

 

 

「毒・・・だったら私なら」

 

 

 

 

 

 

 

「いえ。マスターが毒無効のスキルを有しているのは承知していますが・・・本当に無事に済むのか正直、確証がありませんでした。そうである以上不用意に手を触れるのは控えるべきかと思いまして」

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんなに?そんなすごい毒なんて今まで見たことないけど」

 

 

 

 

 

 

 

メイプルのスキルはかの毒竜ヒドラの吐くブレスすらも無効化する代物である。

 

故にこのNWOに存在する毒で彼女を害すことは叶わない・・・・そのはずである。

 

 

 

それを十全に理解しているオルトだが止めざるを得なかった。

 

主人の安全が確保できているのか・・・本当にスキルでこの毒を無効化できるのか、確信することが出来なかったからである。

 

 

 

なにせ・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何せこの毒は『サーヴァント』の業によるものですから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑広がる森の奥の更に奥。

 

 

 

 

 

視界を埋めるのは鮮烈な迄の緑。

 

空気は深い森特有の清廉さと青臭さに、微かに土の匂いが混じったもの。

 

周囲一帯に木々と多種多様な植物がひしめいている。そのどれもが生き生きとした生命力に満ち満ちたものばかり。

 

青々としげる葉で太陽の光すらも遮り、辺りは薄暗く、緑から発せられる水蒸気によって湿気に満ちている。

 

 

 

そんな自然が・・・・突如として途切れる。

 

 

 

まるで境界線のようにそこだけ一切の植物が消え去り茶色い地面を晒していた。

 

奇妙な広場のように開けた空間、その中心にある大岩の上。

 

 

 

そこに、人影が一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その人物は小柄であった。

 

華奢な身体に露骨にボディラインが出る服装。一目で女性であると分かる。

 

惜しみなく晒された肌には中東辺りの人種の特徴が見て取れる。

 

肩の辺りまでの長さのショートカットの髪は紫色。

 

 

 

なにより特徴的なのはその顔だ。

 

女性的な細面に似つかわしくない、口元以外を隠す白い仮面。

 

まるで髑髏のようなそれをつけ、顔を隠している。

 

 

 

 

 

その艶めかしい唇が僅かに開かれ、スー・・・と小さく細く吐息が洩れる。

 

 

 

 

 

吐息が空気に交じり、消える。

 

 

 

途端、上空からボトンと何かが墜ちてくる。

 

 

 

鳥だ。

 

 

 

びくびくと身体を震わせながら白目をむき、泡を吹き・・・・やがてその動きを止めた。

 

 

 

それを仮面の向こうから見つめていた少女はやがて膝をかき抱くようにして身体を丸める。

 

そして小さく言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・また・・・・駄目だった。あの人では・・・なかった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かに、絞り出すような呟きは確かな憂いを帯びた物悲しいものであり、しかし誰に届くこともなく、深い森の奥に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 




毒無効に出来る主人公と絡ませる鯖ってことで真っ先に思いついた娘。
FGO主人公が毒無効だからあんまり気になりませんけどよく考えたらヤバい設定している。


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器用度極振りと第三回イベント 4

 

 

 

ブオンブオンと

 

どこかで聞いたことのあるような小気味よい音がするたびカスミの側を一陣の光が通り過ぎ、その同線上にあるものが両断される。

 

原因は眼前の人物・・・『謎のヒロインX』と名乗るサーヴァントのである。

 

彼女の握るのは両刃の西洋剣。が、その表面には何故か青白いオーラのようなものを纏っており振るうたびにブオンブオンという例の音がしている。

 

 

 

「避けるな!戦闘に使えるシーンはせいぜい5分なんですからぱっぱと殺られなさい!」

 

 

 

「無茶を言うな!」

 

 

 

良く分からないことを宣いながら剣を振るうヒロインX。

ふざけた言動、ふざけた格好とは裏腹にその太刀筋は鋭く、正確で力強い。

喰らえば一撃で致命傷になり得るような剣戟を何度も何度も振り下ろしてくる。

明確な殺意が込められたそんな攻撃を紙一重で掻い潜りながら、カスミは油断なく敵の一挙手一投足を注視する。

と、その視界の隅で黒い影が動いた。

 

飛び出したのはノブナ。

 

カスミを頭から一刀両断するために大上段に剣を構えたヒロインXの死角に回り込むようにして移動し、手にした刀による横なぎの一閃。

不意の一撃に一瞬判断が遅れ、回避よりも防御を優先したヒロインXだが器用に手の中で剣を回転させるとノブナの刀を受け止めた。

 

金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

攻撃は止められたが敵の注意が自身から外れたのを感じたカスミは瞬時に手にした刀を構え直すと前方に向けて走る。

 

放たれた矢の如く眼前の敵の懐に入り込む。刀の必殺の間合いだ。

 

カスミは躊躇なくヒロインXの無防備に晒されたマフラーの合間から覗く白い肌・・・その首筋に向けて自身の得物を振り下ろし、

 

 

 

 

ガキンという金属音と共にその刃が受け止められた。

 

 

 

 

刀を止めたのは黒い刀身。

先程まで目の前の少女が振るっていたものと良く似た、しかし真っ黒な色をした二振り目の西洋剣が赤黒いオーラを纏いながら刀の刃とぶつかりギャリギャリと耳障りな音を奏でている。

 

 

 

「不意打ちの上2対1とは卑怯な!汚い、流石セイバー汚い!とりあえずは・・・離れろカリバー!!」

 

 

 

「ちっ」

 

 

 

「・・・」

 

 

 

間の抜けた気合の声と共に物凄い力で振るわれた刀身に押し戻される。

その力に逆らわず、後ろに跳んで距離をとる。横には同じく下がったノブナも見えた。どうやら仕切り直しのようだ。

 

十分な距離を開けたところで改めてヒロインXを観察する。

 

 

黒いつば付きの帽子にアホ毛。そして短パン。青いジャージを首には同じく青い特徴的なマフラー。

 

油断なくこちらの様子を伺いながらいつでも切りかかれるように両の手に握った剣を構え直している。

 

右の手には最初から振るっていた白いオーラを纏った剣。

 

左手には対照的に黒いオーラを纏った剣。

 

 

ブブブと剣身からは独特な音が聞こえている。

 

 

 

「・・・2刀流だったのか」

 

 

 

「なんじゃ知らんかったのか?」

 

 

 

ため息と共に言葉を漏らせば、ノブナが敵から視線を外さずに言ってくる。

こちらも視線を外さないようにしながらに答える。

 

 

 

「それほど詳しくはないな。有名どころを多少聞きかじったことがある程度だ」

 

 

 

「さよか。なら教えておくか・・・奴の名は『謎のヒロインX』」

 

 

 

「待て。本当にその名前なのか?」

 

 

 

「残念ながら正式名称なんじゃよなコレが」

 

 

 

ノブナは朗々と語っていく。

 

 

 

「サーヴァントユニバースからやって来た英霊であり所謂アルトリア種の内の一騎。コードネームはA-X。その目的は未来の世界にて増えすぎたセイバーを過去に戻って抹殺することであるとしてセイバーを見たらとりあえず切りかかる危険人物だ。戦闘スタイルとしては主に白と黒の相反する属性を持つエクスカリバーの二刀流が強力だが、他にも『セイバー忍法』と称する謎の魔技を使うこともあるらしい。ちなみに本人は頑なに自身をセイバーだと主張しておるがクラスはアサシンじゃ」

 

 

 

「・・・スマンが何を言っているのかほとんど分からない」

 

 

 

「言っとる儂自身もそうじゃから是非もないよネ・・・あ~分かりやすく言えばあれじゃ。ギャグ時空の住人とかいう奴。ノリと勢いで予想の斜め上の攻撃してくるから気を付けるんじゃぞ。具体的に言えば、いきなり宇宙船からビーム撃ってきたりする」

 

 

 

「何でもありじゃないか・・・」

 

 

 

ノブナの口から語られる情報に頭痛がしてくる。

今まで数々の強敵と自分の腕一つで渡り合ってきたという自負がカスミにもあるが流石にそのような悪ふざけと悪ノリが服を着て歩いているような存在を相手どったことは無い。

 

訳の分からなさで言えば、ある種メイプルやノブナ以上である。

 

正直何もかもをなかったことにして今すぐ回れ右してこの場を去りたい気持ちが湧き上がってくるが、それを敵が許してくれるとも思えない。

 

 

 

「フム・・・随分とわたしのことに詳しい様子・・・ハッ!?さては・・・わたしのファンですね!」

 

 

 

「・・・・ファン?」

 

 

 

「奴の言動にいちいち過剰反応しとったら身が持たんぞ?・・・・・あ~ならファンのよしみということで一つ今回は見逃してくれたりは・・・」

 

 

 

「やはりそうでしたか!残念です大事な視聴者が二人ほど減ってしまうとは・・・ですがまぁ広大なユニバース的に考えたら誤差の範疇ですよね!」

 

 

 

「あ、ダメそうじゃねこれは」

 

 

 

心底面倒くさいとでも言いたげな顔をしたノブナが両手を上げる。

お手上げという意味のジェスチャーだ。

 

が、カスミの付き合いきれんからどうにかしろとばかりの白い眼を受けてため息交じりに言葉を続ける。

 

 

 

「あ~・・・まぁそう言わずに。対話で解決するならそれが一番じゃろ?ほれ、最近は某光の巨人も怪獣と対話して事件を解決する話も多くなったりしてるらしいし」

 

 

 

「他所は他所、家は家。そもユニバース界では今も昔も見的必殺一択です」

 

 

 

「未来世界を標榜しとる割に治安とか終わってない?・・・・そもそも何故儂らは貴様に襲われとるんじゃ。なし崩し的に切り合うことになったが、争う理由も特になかった気がするんじゃが」

 

 

 

「愚かな!そんなもの貴方達が『セイバー』であるというその一点だけで抹殺するには十分です!」

 

 

 

「『セイバー』・・・・儂らが、か?」

 

 

 

「そうです!その手に握られている刀・・・そして何より私のアホ毛にビンビンくるその溢れ出るセイバー(ちから)・・・誤魔化そうとしても私の眼は欺けませんよ!」

 

 

 

空気抵抗の少なそうな胸を張り、アホ毛をぴょこぴょことさせながらドヤ顔をするヒロインX。

そんな彼女の様子を見ながらノブナの紅い瞳がギラリと光ったような気がした。

 

 

 

「ほうほう・・・そうかそうか・・・先程から聞いていればどうやら貴様は儂らがセイバー・・・つまりは剣士であるから襲い掛かって来たとそういうことか」

 

 

 

「その通りです!」

 

 

 

「で、セイバーかそうでないかの判断はそのセイバー力とかいう謎波動的なものを基準にしておるということで良いのか?」

 

 

 

「ふふん、そうです!このわたしのアホ毛は半径30m以内にセイバーがいる時に敏感に反応するのです!」

 

 

 

「貴様のアホ毛は妖〇アンテナか何かか?・・・それはともかく・・・時にそのセイバー力とやらは本当に正確に計れとるんか?絶対に間違いないと本当に言い切れるんか?」

 

 

 

「何を馬鹿な事を。私のセイバー力センサーはいつだって正確です。間違いなどあるはずが・・・」

 

 

 

自信満々に言い切ろうとした言葉が尻すぼみになりやがて止まった。

その顔に浮かぶ表情は驚愕・・・次いで焦燥。

慌てたように自身の頭に手をやるヒロインX。

その手の中でアホ毛は力なく項垂れている。

 

 

 

「か・・・感じない!?貴方からはセイバー力を全く感じません!?そんな・・・何故!?」

 

 

 

「フム・・・確かに儂は今『刀』を持っとるが反応はしない・・・つまりは剣士ではないと判断された、と。そいつはおかしいのう」

 

 

 

ニヤニヤと嫌らしく笑うノブナ。

その手に握られているのは刀の形をしてはいるがその正体は『共闘モンスター』であるちびノブである。

なので反応しないのは当然なのだがそんなこと当然ながらヒロインXは知らない。

 

驚きと混乱でまとまらない思考でそれでも考える。

 

明かにセイバーぽいのにセイバー判定が出ない。

それが意味することはつまり・・・

 

 

 

「わ、わたしのセイバーセンサーが狂っているということですか・・・そんな馬鹿な・・・」

 

 

 

「しかもその狂った情報を判断材料にしてなんの罪もない儂等に因縁をつけ、突然斬りかかってきていたと、そういう事になるのう」

 

 

 

「う、」

 

 

 

「さてさて・・・これは大問題じゃのう・・・どう落とし前をつけるんかのう・・・のう?」

 

 

 

「ううう・・・」

 

 

 

暫く唸った後、がっくりと地面に両手をつき項垂れるヒロインX。

 

そこに先程までの殺意や敵意は感じられない。

 

それを確認したノブナがカスミに視線を向けると右手の親指を上に上げサムズアップする。

 

 

 

「とりあえず何とかなったぞ。いやはや原作設り騙されやすい性格しとるようで助かったわ」

 

 

 

「ああ・・・どうやらそのようだな。所々納得は行かないが・・・」

 

 

 

聞こえないよう小声で言いながら悪い顔で笑うノブナにカスミは釈然としない様子でそう言うと、刀を鞘へと納めたのだった。

 

 

 

クエスト【少女に勝利を剣士(セイバー)には死を】CLEAR

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

同時刻・・・

 

 

 

 

草を揺らす心地よい風を頬に受けながら宙に浮かぶ巨大戦艦を見上げる人影が二つ。

 

 

 

「・・・あれが報告にあったもの?」

 

 

 

「そのようであるな」

 

 

 

フード付きのマントを身に着け、姿と顔を隠した二人組だ。

どちらもそれほど背が高い訳ではない。むしろ小柄な方だ。

 

と、一人がフードを外す。

 

現れたのは特徴的な赤髪に同じ色をした瞳の女性プレイヤーである。

その赤い瞳で空中要塞を冷たく見上げている。

 

彼女を見る者がいれば驚いていたであろう。何故彼女がこんなところに・・・と。

 

 

 

彼女こそ今現在このNWO上において最大級の勢力を誇っている2大ギルドの内の一つ・・・『炎帝ノ国』のギルドマスター・・・『炎帝』の異名を持つ実力者『ミィ』その人である。

 

 

 

「・・・本当にあそこに貴方の目的とするモノがあるのね?」

 

 

 

「うむ。間違いない」

 

 

 

訝し気に上空のモノを見ながら言うミィに対して返すフードの人物。

その言葉は自身に満ちており、かつその口調はかの『炎帝』に対するものとは思えぬほどに尊大にすら聞こえかねないのものだった。

 

が、当のミィ本人は特に気にした素振りも見せずただ静かに「そう」と返すのみである。

 

 

 

「とはいえ・・・流石にあそこまで空高くにあるというのは流石に予想外ね・・・空を飛べない限りあそこに行くのは無理そう・・・だけど、貴方になら・・・」

 

 

 

「無論、可能だ」

 

 

 

フードの下から聞こえる声は変わらず自身に満ち溢れたものだ。

それにやはり「そう」とだけ返すミィ。

頬を撫ぜる風を感じながら、深く息を吸い、静かに言葉を発す。

 

 

 

 

 

「ならお願い。あの浮遊物体を撃ち落として・・・わたしの『サーヴァント』」

 

 

 

 

 




一応言っておくとセイバー力云々はただの妄想です。


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器用度極振りと第三回イベント 5

 

NWO第2層。

 

比較的拠点の街に近い地域にそのエリアはある。

照りつける太陽。熱せられ水分の抜けきった土地には草木はほとんど見られず、地平線の彼方まで続く広大な砂原が広がっている。

第2層から追加された砂漠地帯だ。

厳しい環境の中で生活する為か、他エリアに比べ比較的タフなモンスターが多く出現するのが特徴のエリアである。

 

 

そんな砂原の真ん中をサリーが駆ける。

 

 

 

『・・・やっぱり普通の地面とは感覚が違うな』

 

 

 

走りながら思う。

普段歩きなれたしっかりとした地面と違い、足元にあるのは流動的な砂だ。

一歩踏み出すたびにわずかに沈み、或いは流れて形を変える。まるで足に絡みついてくるようなそんな感触。

 

正直動きにくさを感じないと言えば噓になる。

 

しかしそんな泣き言は言っていられない。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

視界の隅で光るものを捉え、その場で前方に身体を投げ出すように跳躍。

直後、サリーの身体があった場所を一陣の風が通り過ぎた。

 

風の正体は一人の人物。その手に握られた細身の剣が陽の光を反射して剣呑な光を放っている。

一瞬遅ければ心臓を貫かれていた。そう感じさせるには十分な程の鋭い一撃だった。

 

サリーの背中に冷たいものが流れる。

空中で前転するようにして体勢を入れ替え着地、即座に跳躍して襲撃者から距離を取る。

 

ある程度の距離をとった所で改めて相手に相対し握っていた短剣を構えなおす。

襲撃者はといえば追撃するでもなく、静かに剣の切っ先をサリーへと向けていた。

 

 

 

「・・・今追撃しようと思えばできたんじゃない?余裕の表れってやつなのかな?」

 

 

 

「よく言う。もし私がそうしていればその手の短剣で切り裂くつもりだったろう?」

 

 

 

「あ~・・・やっぱりバレてたかぁ。上手いこと誘ったつもりだったんだけど」

 

 

 

悔しそうに言いながら、しかし楽し気な笑顔を浮かべながらサリーは眼前の相手を見る。

 

 

 

汚れ一つない白いマントが風を受けて棚引き、緑と白を基調とした豪奢でありながら動きやすそうな衣装が覗く。

右手に握る剣は細い刀身であり、持ち手やナックルガードの部分などには細かな装飾がなされた洒落たものだ。

 

頭には幅広の羽帽子。

その下から除くは可憐な金髪碧眼。整った顔立ちは少年にも少女にも見える中性的なもの。

 

 

 

 

「流石『騎士(シュヴァリエ)』の名は伊達じゃないね」

 

 

 

「お褒めに預かり光栄だよ」

 

 

 

そう言って『シュヴァリエ・デオン』は軽く微笑んだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

真名、シャルル・ジュヌヴィエーヌ・デオン・ド・ボーモン。

 

 

冠するクラスは剣士(セイバー)

 

 

18~19世紀のフランスにて王家に仕えていた白百合の騎士であり、男であり女であるとまで称される美貌を用いスパイとして列強各国を相手に立ち回り、また軍において竜騎兵連隊長を務めたとされる文武両面において類まれなる功績を上げた伝説的人物である。

 

 

 

『実際凄い一撃ポンポン放り込んでくるんだよなぁ・・・あの顔からは想像できない位力強いし攻撃も速くて狙いも正確』

 

 

 

相手の力量を観察し、自分の中で情報を整理しながらじりじりと間合いを図る。

対してデオンはこちらに視線を向けているが凛とした立ち姿で剣を構えているのみ。

その姿には一切の隙が見当たらない。どこから斬りかかっても即座に剣の一閃が飛んでくるイメージしか浮かんでこない。

 

 

 

『だけどそうも言ってられないし、ね』

 

 

 

それでもサリーは一歩を踏み出す。死角からの不意打ちは無理と判断してあえての真っ向勝負だ。

デオンに向けて前傾姿勢で駆ける。狙うは脚。咄嗟に避け難く、またまともに食らえば相手の機動力を削ぎその後の戦闘において有利を取れる。

砂煙を舞い上がらせながら凄まじい速さで接近。地面すれすれを滑るようにして逆手に持った剣を一閃。

 

 

 

「甘い!」

 

 

 

しかし、寸での所で一歩後ろに下がられ短剣が空を切る。

すかさず飛んできた反撃の一撃を身体を捻じり交わす。同時に剣を振り下ろした為に下がってきたデオンの首筋を狙いもう片方の剣を振るう。

上体を逸らしたデオンの顎先を剣が過ぎる。

僅かにできた時間を利用して転がるようにして間合いから脱出。再び距離を取る。

溜め込んでいた息を一気に吐き出し、荒い息と共に思わず愚痴が零れる。

 

 

 

 

「今の避けるとかどんな反射神経してるのさ」

 

 

 

「それはお互い様というものさ。普通あそこから急所を狙って一撃、なんて実行しようとは思わないよ」

 

 

 

「く~、まだまだ全然余裕そうだねぇ」

 

 

 

「その言葉もそのまま返そう。そんなに楽しそうな笑顔を浮かべる余裕があるんだから」

 

 

 

デオンの言葉にようやくサリーは自分が笑っていることに気が付いた。

自覚してみれば確かに。

彼女の胸を満たすのは確かな高揚感。自身の全力をもってぶつかれる、そんな強敵の出現を心の底から歓喜した。

 

別のゲームで友人の飛鳥と何度も何度もやりあっていた時。

洞窟奥の隠されたダンジョンにて一人でボスと相対した時。

第2イベントでメイプルの姿と能力をコピーした敵と戦った時。

ノブナと共にワルキューレとぶつかり合った時。

 

 

そのどれとも似ているようで、しかし明確に違う、そんな感覚。

 

 

何より彼女を喜ばせたのはデオンの戦闘スタイルだ。

 

 

敵の攻撃を誘い、それを寸でで躱し、返す刀で正確無比な一撃を放つ。

 

 

手にする獲物こそ違えど、それはサリーが目指す『回避盾』の戦いそのものだ。

それも身のこなしから間合いの管理、足さばきに至るまで全ての動作がサリーを超えた高レベルの水準で纏まっている。

 

まさしく回避盾の理想形・・・それこそがデオンの戦闘スタイルであった。

 

 

 

『いわば生きた教科書。戦ってる最中にも自分がどんどん成長しているのが実感できる・・・!』

 

 

 

動きを見て、学び、試す。相手はそれを受けて更に高度な動きを見せてくれるので更にそれを学ぶ。

斬り合いの中でありながら、その試行錯誤がとにかく楽しかった。

 

本来ならばこの戦闘は第3回イベントにおけるサーヴァント獲得クエストの一環であるのだがそんなことは最早どうでもよかった。

 

 

 

もっと回避が見たい。

もっと攻撃の差し込み方が見たい。

もっと間合いの取り方が見たい。

 

もっと。

 

もっともっともっと・・・!

 

 

 

己の内側から湧き上がる熱情を感じながらサリーは剣を強く握る。

 

 

 

 

『貴方の動き・・・存分に学ばせてもらうよ!』

 

 

 

心の底から楽しそうな笑みを浮かべたサリーは再び眼前の好敵手に向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やっぱりサリーちゃんも大概だなぁ・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣劇の音が響く中、二人の邪魔をしないように距離をとった所で砂の上に座り込んだクロムが呟く。

彼とて新装備で強敵相手にどこまでやれるか試してみたい気持ちはあれど、サリーの楽しそうな顔を見ているとそうする訳にもいかない気がした。

 

ので大人しくこうしてサリーとデオン(人 外)達の戦闘を眺める観客と化しているのである。

 

 

 

「まぁ、攻撃の捌き方とか誘導の仕方とか見てて勉強にはなるんだよなぁ・・・所々目が追っつかないけど」

 

 

 

デオンはFGOにおいて回避盾でありかつスキルを使って敵の攻撃を自身に集める『ターゲット集中』の使い手でもある。

故に正統派大盾使いにしてパーティー内では攻撃を引き受けるタンク役を務めるクロムも学べることは多かった。

 

とは言え手持無沙汰であることには違いはない。

 

 

 

「・・・・とりあえず録画してみるか。あとで見返せば勉強になるかもだし」

 

 

 

そう言っていそいそと録画準備を始めるクロムなのであった。

 

 




本家だと分かりにくいかもですがアーケード版だとデオンクソ強いです。

回避使えてタゲ集使えて回復も出来て更にスタンとかにも強く、かつ宝具で複数に防御ダウンやら確率とはいえスタンもバラまける、と・・・お前ホントに星4?


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器用度極振りと第三回イベント 6

 

空中戦艦内のとある通路。そこをコソコソと移動する人影が3つ。

 

ノブナにカスミそしてヒロインXだ。

 

先の戦闘にてなんとか言いくるめに成功した後、ヒロインXより『行きたいところがある』との申し出があった。どうやら設定された二つ目のクエストが早速開始されるようだ。

二人は一先ず彼女の目的とやらに協力することにし、こうして戦艦の通路をひた走っているのだった。

 

 

 

「・・・オールクリア。行けます」

 

 

 

少し前を先行しながら曲がり角の先を除き、通路に敵がいないのを確認したヒロインXが後ろに続く二人に合図を出す。

カスミとノブナ(カスミに背負われ中)が足早についてくるのを確認したヒロインXは更に先に索敵しにいく。

そのテキパキとした動きにカスミは感心した風に呟く。

 

 

 

「フム、随分慣れた動きをするな彼女は」

 

 

 

「まぁ、元々『暗殺者』(アサシン)ってこういうのが本職の奴がなるクラスのはずじゃし・・・いやでもなぁ・・・城召喚したりジェットつけて飛び回ったりしとる奴もおるからどうなんじゃろ実際」

 

 

 

「・・・・アサシンとは?」

 

 

 

「セイバーを抹殺するって言ってるからって理由でアサシンやっとる奴が目の前におるんだから今更じゃろ」

 

 

 

「潜入任務中に私語とか死亡フラグですよ、お二人とも!」

 

 

 

 

前方を行くヒロインXから注意の声が飛ぶ。

 

セイバー関連が絡まなければ生真面目な委員長的な気質の持ち主らしい。少々猪突猛進すぎるきらいがあることに変わりはないのだがまぁ、今のところ問題もなく進めている。

 

しばらくそうしていくつかの通路を通り抜けていくことしばし

通路の先。ドンつまりにあるとある扉の前でヒロインXがピタリと足を止めた。

 

人差し指を口に当てながら手招きしている。

後続の二人は音を立てないようにしながら扉の前へと移動する。

 

そっと扉に手をかけ、中を覗き込めるくらいの隙間の分だけ開ける。

 

扉の先には広めの空間が広がっていた。

 

天井は見上げる程に高い。全体的に照明が絞られているらしく薄暗い。部屋自体の大きさだけで言えば小学校の体育館ほどはあるのではないだろうか。

そんな部屋の中を所せましとコードや配管が這いまわり、用途の分からない機械類やモニターへとつながっている。機械類特有の駆動音が部屋全体に反響しておりまるで巨大な生物の唸り声のようにすら聞こえてくる。

そんな部屋の中央。

 

一際巨大な機械が鎮座していた。

 

円筒形をしており、丸みを帯びたその表面は硬質な何かしらの金属で出来ている。

そこかしこからホースやコード、配管がつながっている。どうやら周囲の物品は逐一この機械を操作、或いは状態を観察するために必要なものであるらしい。

上部の方にはまるで一つ目のように光るライトのようなものがあり、赤い光を放ち周囲一帯を赤黒く染め上げている。

 

 

控えめに言っても異様な光景である。

見ているだけで妙な威圧感を感じ、己の内側から怖気が湧き上がる。

思わずブルリと小さく身体を震わすカスミ。

その横で背から降りたノブナが静かに呟く。

 

 

 

 

 

「あれが――――『聖杯』」

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

『聖杯』

 

 

元々は神の血を受けた盃であり最高位の聖遺物を指す言葉であるのだが、ことFate世界においては別の意味を持つ。

 

 

曰く、『ありとあらゆる願いを叶える万能の願望機』

 

 

多くの作品にて登場し、血で血を洗う凄絶なる殺し合い『聖杯戦争』の元凶にして原因たる幻の逸品である。

 

 

それが今、自分たちの眼前にあるのだという・・・

 

 

 

「疑う訳じゃあないが・・・これが本当にそうなのか?どう見たってよくわからない機械だろう。『聖杯』、なんてファンタジックなものには到底見えないのだが」

 

 

 

カスミが確かな圧力を感じつつも疑問を口にする。

それに答えたのは忌々し気に機械を睨みつけているヒロインXだった。

 

 

 

「間違いありません。アレこそはアヴァロン星より大量に強奪された『アルトリウム』をあれやこれやして製造された聖杯です!」

 

 

 

「あ、『アルトリウム』・・・?」

 

 

 

「確かサーヴァントユニバースにあるとかいう超高密度の万能エネルギー粒子とかなんとか。因みに言っとくと『聖杯』と言いつつ形は作品によって千差万別じゃぞ。それっぽい杯の場合もあればこんな感じに機械みたいのもあるし、なんなら人でもいい」

 

 

 

「むぅ・・・なんとも複雑なのだな」

 

 

 

実感はわかないがそういうものなのだから仕方ないと言われれば納得するしかない。

カスミは諦観のため息を吐きながら、ヒロインXに視線を向ける。

 

 

 

「それで?君がこの場所を訪れたのはこの聖杯とやらを破壊する為だという話だが」

 

 

 

「ええ。奪われたアルトリウムの量から言ってもかなりのエネルギーを秘めているはず。そんなものを悪用されては大変なことになりますから」

 

 

 

頷き、使命感に燃えた瞳を向けてくる。

ヒロインを自称している辺りからもわかる通り正義感も人並み以上に強いらしい。

そこでノブナが会話に割り込んでくる。

 

 

 

「それはいいが具体的にはどうするつもりなんじゃ。まさか真正面から斬りつけるとか言わんよな?」

 

 

 

「勿論です」

 

 

 

「そうかならばどうやって」

 

 

 

「正々堂々背後から斬ります」

 

 

 

「いやそういうのいいから。先ほどから聞いとるとアレは結構なエネルギーを溜め込んどるのじゃろ?ここで破壊したとしてその後どうなる」

 

 

 

「余剰なエネルギーが制御できなくなって噴出、莫大なエネルギー波が発生しますね。より分かりやすく言えば大爆発します」

 

 

 

「しますじゃないんじゃが!?そんな物騒なもん何の対策もせずぶっ壊すそうとするとか正気か貴様!」

 

 

 

「ですが正義のヒロインの戦闘には爆発がつきものです。派手な見た目は視聴者も喜びますし」

 

 

 

「爆破オチとか今時流行らんぞ」

 

 

 

「サーヴァントユニバースでは常にトレンド上位ですが?」

 

 

 

「そこまで。話が脱線してるぞ」

 

 

 

ぐだぐだし始めた場の雰囲気をカスミが締める。

視線が自分へと集中した所で再び口を開く。

 

 

 

「つまりは脱出方法があれば良いわけだ。何か心当たりはないか?」

 

 

 

「私がここに来るとき乗ってきた宇宙船がありますね。ただ一人用なので3人乗るのは宇宙航空法的に引っかかる可能性が・・・」

 

 

 

「緊急の措置として今回は見逃して貰おう。さてノブナ。君の【タネガシマ】であれを破壊するのは可能か?」

 

 

 

「やってみんことには何とも言えんが・・・まぁ、イケるじゃろ」

 

 

 

「なら決まりだ。ヒロインX、君は脱出用の宇宙船の準備。ノブナは破壊を担当。私は破壊後にノブナを抱えて宇宙船まで走る・・・即興だが役割としてはこんな感じでどうだろうか?」

 

 

 

「良いんじゃないでしょうか。流石です。・・・・どうにもセイバーっぽいのが気に食わないですが(ボソッ)

 

 

 

「まだ言っとんのかお前は・・・ま、儂としても異存はないな」

 

 

 

「よし。なら・・・」

 

 

 

同意を得たカスミが早速準備を始めようと口にしようとした瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が揺れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音と共に身体が上下に激しく揺さぶられる。バランスを崩し思わず膝をつく。とはいえ倒れこまなかっただけ上等だ。何が起こったのか周囲を確認するために周囲を見回してみる。が、通路には窓の類はなく外の様子はわからなかった。

そうしている間にも断続的に響く音。それと同時に船体が揺れ通路を照らす照明がチカチカと明滅する。

腹の底に響くような重低音からするに、おそらくどこかが爆発しているようである。それも何度も。

そう判断した後のカスミ達の行動は早かった。

 

 

 

「ノブナ!ヒロインX!」

 

 

 

「分かっとる!」

 

 

 

カスミの声に応えてノブナは扉を開け放ち即座に発砲。

弾丸の雨が機械やモニターを破壊し、配管を削り、コードを断ち切る。

警報音と共に中央の円筒形の機械のランプが赤く点灯し、そこかしこから蒸気が噴き出し、電流が迸る。

完全破壊とはいかないまでも少なくとも正常な動作が出来そうにもない。

それを確認したヒロインXが二人を先導する。

 

 

 

「あれだけやればとりあえずは大丈夫でしょう・・・こっちです!」

 

 

 

「分かった!掴まっていろよノブナ!」

 

 

 

「言われるまでもないわ」

 

 

 

背中にノブナが飛び乗ったのを確認し、カスミは走り出す。

警報音が鳴り響き、揺れる通路をひた走る。行きと違い隠密もへったくれもない強行軍のため途中何度も敵と遭遇するがヒロインXの剣とノブナの射撃により撃退されていった。

そうして走ること10分程。

 

辿り着いたのは広めの倉庫のような場所。外界からの搬入用のハッチがあり、運び込まれたままの物品が未だ梱包を外されずに並んでいる。

その中にシートを被せられたひと際大きなものが鎮座していた。

駆け寄ったヒロインXの手によりシートが取り払われ、鋼鉄色の肌をした船が露になる。

大きさで言えば戦闘機くらいだろうか、前方にはコックピットらしきものが見える。

ガチャガチャと何やら操作をすればそれを覆っていた風防部分が取り払われ中に入れるようになった。

すかさず飛び乗るカスミとノブナ。それを確認した後ヒロインXも「とう!」という声と共にコックピットに飛び乗った。

コックピット内は操作する為であろう種々様々な機械やメーターが設置されており、ヒロインXが慣れた風に操作すれば軽い排気音と共に風貌が閉じ、エンジンらしき駆動音が空気を振るわせた。

とりあえずは飛び立てそうではある。が、問題が一つ。

 

 

 

「・・・・いくら何でも狭すぎんか?」

 

 

 

「仕方ないじゃないですか。元々この『ドゥスタリオンⅡ』は一人用なんですから」

 

 

 

「それにしたってこれは・・・おい!?どこ触ってるんだノブナ!」

 

 

 

「うっさいわ!そっちこそもそっと詰められんのか!」

 

 

 

「もう!あんまり暴れないでください手元が狂います!」

 

 

 

操縦席に座ったヒロインXは多少はマシだがカスミとノブナはほぼほぼ密着状態である。

ソーシャルディスタンスもへったくれもない状態のまま駆動音が限界まで高まる。

ふわりと身体が浮く感覚。どうやら機体が床から離れて浮遊し始めたらしい。

と、そこでノブナが気づく。

 

 

 

「・・・なんか周りのもの全体的に傾いてない?」

 

 

 

言われてみれば全体的に徐々に世界が傾き始めている。周囲に置かれた雑多な品々がズズズと動き、棚などが倒れ始めた。

 

明らかに空中戦艦全体が傾き始めている。それが示す結果は一つ。

 

墜落だ。

 

 

 

「脱出します!『バンノウレンズ』スイッチON!」

 

 

 

ヒロインXが何かのスイッチをポチっと押す。すると画面上に複雑な数式めいた文字が無数に流れては消えていく。それが数秒続いたところで景色が光に包まれ、猛烈な浮遊感がノブナ達を襲った。

 

内臓を持ち上げられたような感覚がいきなり来て、次の瞬間唐突に終わる。

 

 

 

「・・・ふぅ。とりあえず脱出成功ですね」

 

 

 

一仕事終えたように額の汗を拭うヒロインXが言う。

その言葉にカスミが風防から外を見やれば広がる青空と眼下には緑の草原が広がっているのが見えた。

視線を上げれば雲の間から自分達がいた戦艦が所々から煙や炎を巻き上げながら今まさに高度を下げていくところであった。

 

墜落は時間の問題であろう。

 

 

 

「とりあえず離れた方が良くないか。ここにいて巻き込まれても面白くないじゃろ」

 

 

 

「それもそうですね。では・・・ム!?」

 

 

 

突然コックピット中に響き渡るアラーム。計器が全て狂ったように荒れ狂い、エンジンが狂ったような音を立てる。

素人でも分かる尋常ならざる事態だ。

 

 

 

「何事だ!?」

 

 

 

「この反応・・・聖杯?・・・いえ、ですがこれは・・・」

 

 

 

カスミの悲鳴に近い叫びに手元の計器を睨み付け、焦りと困惑に顔を歪めたヒロインXがぶつぶつと呟く。

と、外の景色を観察していたノブナが声を上げる。

 

 

 

「あそこじゃ!落ちていってる戦艦の真ん中あたり!」

 

 

 

示した先。

空中戦艦の丁度真ん中あたりに赤黒い光がポツンと灯っている。

やがてその光を中心として空間が歪んでいき、収束していく。

まるでブラックホールのように渦を巻き、光を、雲を、空中戦艦の巨大な艦体を、その全てを呑み込んでいく。

最後に残ったのは黒い球体上の闇。

まるで空中に穴が開いたかのような奇妙な光景に思わず視線が集中する。

 

 

 

『――――タクナ

 

 

 

「む?なんぞ言ったか?」

 

 

 

「いや、私は何も」

 

 

 

「私も別に」

 

 

 

空耳かと首を捻るノブナ。

しかし、再び奇妙な音が聞こえてくる。

視線がコックピットの景気へと移る。ザーザーとザッピングの時のような音に交じって何か音が聞こえてくる。

 

 

 

 

『――――シ タク  ナイ

 

 

 

否、音ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイシニタクナイ』

 

『イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ』

 

『イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ』

 

『タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ』

 

 

 

何人もの人間の声が混じり合い壊れたカセットテープのように同じ文言を繰り返し続けている。

聞いているだけで怖気の走るような不気味な音声。

悲鳴や絶叫のようなそんな音声はやがて怨嗟交じりの攻撃的なものへと変化していく。

 

 

 

「暴走した聖杯が死に際の人々の願いに呼応している・・・?もー!これだから中途半端な知識しかない連中が作る粗悪品は嫌なんです!大抵ろくでもないことにしかならない!」

 

 

 

「それは・・・かなりマズそうじゃのう」

 

 

 

「マズそう・・・ではなくマズいです。それもかなり・・・」

 

 

 

ヒロインXが言いながら握っていた操縦桿から手を離す。

途端、グイっと操縦桿が傾き、機体全体の方向が変わる・・・・空中に出来た闇・・・中心へと。

 

 

 

 

 

 

「私たちの船、あそこに引き寄せられてます。制御もワープも出来ません」

 

 

 

 

 

彼女の言葉の意味を理解するよりも早く、機体全体がグングンとスピード上げて進みだす。

進行方向には件の漆黒の闇が口を開けている。このままでは程なくあそこに突っ込む羽目になるのは明白だ。

アレに吸い込まれたらどうなるかは分からない。

しかし少なくとも愉快なことにはならないだろうことは確実である。

 

 

 

「クソ・・・どうにもならないのか!?」

 

 

 

「・・・・一つだけ・・・」

 

 

 

そう言ってヒロインXが操縦席の脇から何かを取り出す。

まるで弁当箱のような平たい四角形の箱状の何かしらの機械であるようだ。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

「スペースエスケープユニットです。ユニバース的な力で身体を一時粒子化、別の場所にワープさせた後になんやかんやで復活させるという宇宙航空法でも一機に一つは常備するように定められている緊急脱出装置です」

 

 

 

「法律で決まっているにしては随分と詳細が曖昧じゃないか!?」

 

 

 

「大丈夫です。ここ数百年で事故の報告は一度もありませんので・・・報告は(ボソッ)

 

 

 

「おい今不穏なことが聞こえたぞ!?それ事故にあった奴が全員いなくなってるから報告がないとかいうオチじゃあ・・・」

 

 

 

「ですが問題があります。これは一人用です・・・二人はここに残らざるを得ません」

 

 

 

「な!?」

 

 

 

ヒロインXの言葉に絶句するカスミ。つまりこの中から誰か二人を犠牲にしなくてはならないということだ。

押し黙り頭を悩ませる。しかし、悠長に考え込でいる時間は残されてはいない。

すると静かに聞いていたノブナが口を開く。

 

 

 

「おい。聖杯の反応はあの闇の中から出ているという事で良いのか?」

 

 

 

「そうですね。恐らくあの中に聖杯があるものとみて間違いはないかと」

 

 

 

「フム・・・ならば決まりじゃの」

 

 

 

ノブナは手を伸ばしてヒロインXから機械を受け取り、そのままカスミへと手渡す。

 

 

 

「お主が逃げろ。儂とこやつで突入して始末をつけてくる」

 

 

 

「何!?しかし・・・」

 

 

 

「仕方ないじゃろ。お主、Fate関連の知識とか薄いと言っておったじゃろうが。聖杯がらみの案件とか知識のない者がいった所で碌な事にならんし」

 

 

 

「私も異存はありません。元々アレを始末するのは私の使命ですから」

 

 

 

「う・・・だが・・・しかし・・・」

 

 

 

それでも納得しかねるという様に迷うカスミ。一人だけ死地から逃げ出すようで気が引けるのだろう。

しかし、最早迷っているだけの時間は残されてはいない。

 

 

 

「ええい!ウジウジしとらんで早よせんか!ホレホレホレ!」

 

 

 

「ちょ、まておい!?」

 

 

 

ぐいぐいとカスミに装置を押し付けると機械の表面にあったスイッチらしきものを勢いよく押し込んだ。

カスミの身体全体が緑色の閃光に包まれ、次の瞬間にはその姿がかき消えた。

 

 

 

「ふぅ・・・ようやく行きよったか。まったく面倒な」

 

 

 

「・・・本当に良かったのですか?ここから先は本当に命の保証はありませんが」

 

 

 

「・・・ま、どうにかなるじゃろ。一応保険もかけといたしの」

 

 

 

「保険・・・ですか?」

 

 

 

「ああ―――」

 

 

 

 

 

ノブナの言葉の続きが聞こえるよりも早く、世界の色が漆黒に染まった・・・

 

 

 

 

 

 



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器用度極振りと第三回イベント 7

 

ノブナが闇に呑まれたのとほぼ同時刻。

 

 

 

 

 

第2層の街には多くのプレイヤー達が集まっていた。

 

 

 

ある者はダンジョンに繰り出す前の下準備や仲間集めの為に。

 

 

 

ある者は街中の探索や情報収集の為に。

 

 

 

ある者はイベントに浮かれる街中の空気を楽しむ物見遊山の為に。

 

 

 

 

 

各々がそれぞれの目的の為に動き回っている。

 

そんな人ごみの中をイズとカナデの両名が一緒になって歩いていた。

 

 

 

「凄い人ね。はぐれないように気を付けましょう」

 

 

 

「そうだね」

 

 

 

カナデはそう言いながらも手元でパズルを解き続けている。その集中力は称賛ものだがこの人だかりの中でそんなことをしていれば早晩はぐれてしまうのは火を見るよりも明らかである。

 

 

 

「仕方ないわね。時間的にもちょうどいいしちょっと休憩にしましょうか」 

 

 

 

言って近くにある店を適当に見繕い、その中で特に落ち着けそうなNPCが経営している喫茶店へと入店する。

店内は純喫茶といった風情であり、微かに聞こえてくるBGMに香ばしい珈琲の匂いが鼻腔をくすぐる。幾つかあるテーブル席とカウンター席とがあり自分達以外にはNPCの店長がカウンター内で豆をひきながら佇んでいるのみである。外の喧騒とは程遠い落ち着いた時間が流れている・・・そんな気すらしてくる落ち着いた雰囲気。

 

予想以上に良い店を選べたと心の内でガッツポーズをしながら空いているテーブル席の一隅にカナデと二人陣取る。

 

 

 

「はふぅ」

 

 

 

席についた瞬間思わず息つく。

どうやら自分で思っていた以上に疲労していたらしい。人混みの中歩きまわるのは予想外に体力を消耗するもののようだ。

或いは知らず知らずに自分も周りの熱気にあてられていたのかもしれない。

 

 

 

『いけないいけない・・・本番はこれからなんだから。雰囲気に流されないようにしないと』

 

 

 

「よし完成。じゃあ次」

 

 

 

密かに反省し気を取り直すイズ。

そんな彼女の前でカナデは解き終わったパズルを再び崩している所だった。

なんともマイペースである。が、周りに流されず自分のペースを保ち続けているその姿勢は素直に凄いと感じる。

 

 

 

『そういう所は見習わなくちゃね』

 

 

 

「いらっしゃいませ。ご注文をお伺い致します」

 

 

 

NPC店長が注文を聞きにやって来た。

手元のメニューをざっと流し見て決めていく。

 

 

 

「そうね・・・コーヒーと軽食で。ミルクと砂糖もお願いします」

 

 

 

「僕は・・・何か甘いもので」

 

 

 

「でしたら此方のチョコレートパフェ等はいかがでしょう」

 

 

 

「じゃあそれで・・・・あ、そうだ店長」

 

 

 

「はい、何で御座いましょう?」

 

 

 

注文を受け慇懃に一礼し去ろうとする店長をカナデが呼び止めた。

再び向き直る店長に向けて質問をぶつける。

 

 

 

「ちょっとお聞きしたいんですが、この辺で最近変わったこととか、ありませんでした?」

 

 

 

「変わったこと、で御座いますか?」

 

 

 

「うんそう。どんな小さなことでも良いんてすけど」

 

 

 

「そうですね・・・」

 

 

 

質問を受け店長は暫くの間難しい顔をして悩んでいる風であったがパッと表情を明るくすると口を開く。

 

 

 

「おお!そう言えばこの店の近くに図書館があるのですが、先日そこの本が幾つか行方不明になったのだとか・・・詳しくはわかりませんが」

 

 

 

「図書館・・・なるほど。ありがとうございます」

 

 

 

「いえいえ、この程度のことでお役にたてたならば嬉しい限りてございます」

 

 

 

そう言って店長は今度こそ二人に背を向けてカウンターの奥へと引っ込んでいった。

それを見送りながらイズが口を開く。

 

 

 

「・・・今のって」

 

 

 

「うん。直近で起こったことみたいだし今回のイベントに何かしら関係ある可能性は高い・・・と思う。確証はないけどね」

 

 

 

「いえ、きっとそうだと私も思うわ。あとで行ってみましょう・・・休憩が終わったら、ね?」

 

 

 

「フフ・・・そうだね。そうしよう」

 

 

 

そう答えてカナデとイズは小さく笑いあった。

其処へ注文したものが届き、二人はとりあえず料理に舌鼓を打つのであった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

少し時間の後、二人の姿は件の図書館にあった。

天井に届かんばかりの巨大な本棚が立ち並び、司書らしきNPCがその間を動き回っている。こじんまりとした外観の図書館ではあったが中に入ってみればなかなかどうして結構な蔵書量であることが見てとれる。

 

そんな場所の一隅。

本を読むための場所なのだろう、十数人は楽に座れそうな大きさの長机にカナデとイズはいた。

 

 

 

「さて、司書さんを捕まえて聞き出した無くなった本のタイトルはええと」

 

 

 

「『グゥエストの冒険』『アダマイト加工法の歴史と変遷』『ミラル神話』の三つだね。娯楽小説に学術書あとは神話、かな?」

 

 

 

「ちょっと聞いただけなのに全部暗記してたの?凄いわね」

 

 

 

「そうでもないよ。だけどこの無くなった本の共通点は・・・わからないな。内容も本自体が無いから確認出来ないし」

 

 

顎に手をやり思考を巡らせるカナデ。

同じようにタイトルをメモした紙をためすがめつ眺めるイズ。

 

 

 

「・・・・・あら?これって・・・」

 

 

 

「ん?何か気付いたことある?」

 

 

 

「・・・正直あんまり自信はないのだけれど」

 

 

 

「それでもいいよ。聞かせて?」

 

 

 

カナデが先を促すとイズはメモしたタイトルを指差しながら話し出す。

 

 

 

「まずこの『グゥエストの冒険』。内容はわからないけどグゥエストって名前には聞き覚えがあるわ。武器の中に確か『グゥエストズブレード』って剣があったはず。ダンジョンではドロップしない生産限定のアイテムで結構高レアな素材を使わないと生産出来ない武器だから記憶に残ってる」

 

 

 

「次に『アダマイト加工法の歴史と変遷』。これは良く知ってる。主に特定の消費アイテムや装飾品の生産方法に関する知識が纏められてる本ね。生産職入門用の教科書みたいなものかしら」

 

 

 

「最後に『ミラル神話』。これはそのままね。ミラル神ていうのはこの世界で鍛冶を司る神様って設定。『ミラル神の御手』って鎧の説明に書いてある神話なんだけど何でも勇気ある戦士の前に現れて武具を与える神様なんだとか」

 

 

 

「・・・つまりはこの本は全部」

 

 

 

「そ。『鍛冶』とか『生産』に関連するものばかりってこと」

 

 

 

イズが同意するように頷き、続ける。

 

 

 

「これだけ明確に共通点のある作品ばかりを消してる以上、これが次の目的地を示すヒントであるのは十中八九間違いないでしょうね。そしてそれが示す目的地はさっきの例を考えるにここの図書館の近くにある鍛冶屋・・・それもプレイヤーが開いてるものじゃなくNPCが経営してるところだと思うわ」

 

 

 

「なるほど確かに。流石だね、助かったよ」

 

 

 

「それほどでもないわ。じゃ、行きましょうか」

 

 

 

イタズラぽく微笑みイズが立ち上がり、カナデもそれに続く。

再び其処らを歩く司書を捕まえて条件に該当する鍛冶屋がないか聞かせて貰うためだ。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

首尾良く情報を聞き出した二人は街を歩き目的地へと向かう。

そうしてたどり着いた先には確かに一つの建物があった。

 

 

「・・・本当にここで合ってるのよね?」

 

 

 

「うん。聞いてた場所はここで間違いないよ」

 

 

 

一応書き留めていたメモを見返しながらカナデが肯定する。

それを受け、イズは目の前の建物を訝しげに見上げる。

 

そこは建物言うよりは掘っ建て小屋と言った方が良いかめしれない、ボロボロになった小さな廃屋であった。

入り口の辺りにかけられた崩れかけた看板からするに元は確かに鍛冶屋ではあったらしい。しかし、今や槌を振るう音も豪快な職人達の笑い声もなく、煤けて埃を被った炉には火は無く只白い灰が残るのみである。

 

 

 

「うーん・・・おかしいわね。条件に合う鍛冶屋はここだけだから間違いないはずなんたけど」

 

 

 

「とりあえず入ってみようよ。何かヒントが残ってるかもしれない」

 

 

 

「・・・それもそうね」

 

 

 

カナデの提案に頷きイズは入り口から中に入る。

外観通り、中も荒れ果てており床は一歩踏み出す度にギシギシと頼りなく軋み、残された僅かな家具や調度品も朽ち果て、埃を被っているものばかりだった。

無論、人の気配など欠片もない。

 

やはりヒントの解釈に間違いがあったのだろうか?

或いはそもそも情報に齟齬があったのか?

 

次々に沸き上がる疑問を頭を降って振り払い、とりあえず図書館に戻ってもう一度検証してみよう、そう提案しようとした所でカナデが部屋の一角を指差しながら声を上げた。

 

 

 

「イズ、あれ」

 

 

 

指の示す先へ視線を向ければそこには木製の机があり、その上には何かが乗っていた。

 

近づいて見てみれば70×100センチほどの大きさの長方形の額縁のようなもの。

その周りには机全体に雑にばら蒔いたように散乱した様々な形をした数々のピース。

 

 

 

「ジグソーパズル?」

 

 

 

「みたいだね。大きさからして・・・ざっと2000ピースってところかな」

 

 

 

イズの隣に立ち、同じく机の上を覗きこんだカナデ。口調こそいつも通りだが、声の調子はいつもより若干楽しげだ。更にその目はどこかキラキラと光っているようにも感じる。

 

まるでお預けをくらっている小型犬のようだ。ピコピコ動く犬耳と尻尾が幻視出来そうにすら思える程に分かりやすい。

 

苦笑したイズは周りを見回し、埃をあまり被っていない椅子に腰をおろす。

 

 

 

「どうぞお好きなように。私はその間休ませて貰うから」

 

 

 

「大丈夫。そんなに待たせないと思う」

 

 

 

良い笑顔で笑いパズルに嬉々として向き合い始めたカナデの背中を静かに見守るイズ。

 

そうすることしばらく。

カナデが「出来たー」とのびをしながら言うのを聞き及びイズはどれどれと椅子から立ち上がると机の上を覗く。

 

あれだけバラバラであったピースは全て収まる所に収まっており一つの絵が完成していた。

どうやら何処かの部屋を描いたものらしい。

 

中央には木製の机と椅子。その上に置かれたランプ。

並ぶ本棚に設計図が張られたボード。

他何かの機械のようなもの。

並べられた試験管やフラスコ。

書きかけの絵画。

 

どれもこれも見覚えがあるものばかり。

それも極々最近に、だ。

 

 

 

「これって・・・」

 

 

 

イズが呟こうとした時、その視界がグニャリと歪む。

咄嗟に近くにいたカナデの腕を掴むことに成功できたのは行幸だった。

次の瞬間には独特の浮遊感が二人の身体を襲う。

 

まるで映画のシーンが次々に切り替わるように、視界に移る景色が巡っていく。

やがて辿り着いたのは先程パズルに描かれていたものとうり二つの部屋。

 

イズとカナデは手をつないだ状態で部屋の片隅へと転送されていた。

呆けた様にキョロキョロと周りを見回している二人。

 

 

 

「やぁやぁようこそ我が工房へ」

 

 

 

そんな二人に声が掛けられる。

そちらへと導かれるように視線を向ける。

 

部屋の中央、木製の机に置いたティーカップを手に取り優雅に紅茶を飲む有名絵画によく似た容姿を持つ美人。

 

万能の天才―――『レオナルドダヴィンチ』が其処にいた。

 

 

 

「歓迎するよマスター候補くん達・・・とりあえず、そうだな・・・紅茶はお好きかな?」

 

 

 

穏やかに微笑みながらダヴィンチちゃんは二人に陶器製のティーカップを掲げて見せるのだった。

 

 



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器用度極振りと第三回イベント 8

 

つんつん・・・

 

 

 

「ぬ・・・?」

 

 

 

頬に感じる硬い感触にノブナは訝しげに瞼を開く。

 

 

 

「知らない天井」

 

 

 

「何を言ってるんですか。ここには天井なんてありませんよ」

 

 

 

「んなこと見ればわかるわ。知らない所で目覚めたならばこのセリフと決まっとる。様式美というヤツじゃ」

 

 

 

「何ですかソレは」

 

 

 

呆れたような声に視線を横に向ければ、しゃがみ込み剣の柄の先でノブナの頬を突っついているヒロインXの姿。

グニグニと無遠慮につついてくるそれを手であしらいながら上半身を起こし、周りを見る。

 

ヒロインXの言葉通り、天井などありはしなかった。というかそもそも壁も床もない。右も左も上も下も、視界にはただただどこまでも続く漆黒の闇が広がるばかり。

 

視界だけではない。

 

仰向けで寝転んでいる状態にも関わらず、背中には一切床や地面といった感触がまるでない。まるで宙に浮いたような奇妙な感覚だ。

試しに立ち上がってみる。―――普段通り問題なく立ち上がれる。が、あるべき足裏に感じる地面の感覚はない。

二度三度とその場で足踏みをしてみる。やはりというか足の裏には何も感じはしない。

 

周囲には光源の一つもないが傍らのヒロインXの姿は何故かその輪郭までもしっかりと視認出来る。先ほどまでのやり取りを見るに向こうからもノブナの姿は認識できているようだ。

 

まるで自分たち以外の全てを黒のベタで塗りつぶしたかのような世界。

 

周囲の状況を一通り見回し終えたノブナはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

 

 

「なんじゃ随分と殺風景な場所に飛ばされたのう。人を呼び込むならも少し楽しませようという気概くらい見せても良かろうに・・・ま、よいわ。とっとと用事を済ませて帰るとしよう」

 

 

 

そう言ってからはたと動きを止める。

右を見て、左を見てから目の前でキョトンとした顔で立っているヒロインXを見る。

 

 

 

「・・・・・で。儂らはどこに行ったら件の聖杯の所に行けるんじゃ?」

 

 

 

「え、知りませんよそんなの。私もこんなところ初めてですし。レーダーとかもありませんし」

 

 

 

事も無げに宣うヒロインX。固まるノブナ。

 

数秒後、怒声が暗闇の世界に響き渡った。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

一方その頃・・・

 

 

 

「う・・・ここは・・・」

 

 

 

カスミは下草の柔らかい感触の中で目を覚ました。

しばしそのままぼうっとしていたが、すぐに目を見開くと急いで上半身を起こす。

周りに広がるのは見覚えのある緑の草原地帯。幸いというべきかモンスターもプレイヤーの姿も近くには見当たらない。

 

 

 

「・・・ノブナもヒロインXもいない・・・な」

 

 

 

2人の姿がないことを今一度確認し、唇をかむ。

 

何もできず仲間を犠牲に逃げ出すしかなかった。その事実が不甲斐なさ、情けなさとして自身を苛む。

 

さりとていつまでも悔しがってばかりではいられない。二人の救出の為になにかしら行動を起こさなくてはならない。

更に言えばここはあくまでも敵対モンスターの湧くフィールドの一つである。レベルは低いとはいえモンスターからの不意の襲撃がないとも限らない。そう考え油断なく刀に手をやり、ゆっくりと立ち上がる。

 

必然視点が高くなり、丘の影で見えなかった場所が見通せるようになり、そこでようやく気付く。

 

見覚えのある景色の中に生じた違和感に。

 

 

 

どこまでも広がる緑色の絨毯。その一点に聳え立つ巨大な金属塊。

それが自分たちが今の今まで乗っていた空中戦艦だと気づくのに少々時間を要した。それほどまでにそれは原型を留めていなかった。頭から地面に突き立った巨大な船体はひしゃげ、つぶれ、その半ばから二つにへし折れている。その節々からは電気が迸り、赤い炎がその躰を焼いている。モクモクと黒煙が立ち上り、日が傾き始めた夕闇の空をどす黒く染め上げる。

 

 

カスミの脳裏にコックピット内での光景が蘇る。

 

 

機体の中心点で光る赤黒い光。

収束する闇。

コントロールを失い吸い込まれる機体。

 

 

―――『聖杯』

 

 

 

「・・・聖杯とやらのことはよく知らないが、あの機械が二人の消失に関連していることは間違いない・・・あそこに行けば何かしら二人の救出に役立つ何かが得られるかもしれない!」

 

 

 

思い立ったが吉日。

カスミは墜落し、燃え盛る元空中戦艦の残骸の下へと走るのだった。

 

 

 

移動することしばし

 

カスミは息を整えながら眼前に聳え立つ金属塊を見上げた。

まるで巨大な塔のように地面に突き立つそれは遠目で見るよりもはるかに激しく損傷していた。

太陽の光を反射していた装甲は剥がれ破れ、中身を晒しており、轟轟と轟音を響かせていたエンジンは鳴りを潜め、燃え盛る炎の音に取って代わられている。戦艦ではなくただの金属塊になり果てている。悠々と空を飛んでいた面影は最早どこにもない。

 

それを取り囲むように多くのプレイヤーが人だかりを作り、何事かとそれを眺めたり仲間としきりに話したり動画を撮影したりしている。

そんな野次馬の間をかき分けるようにしてカスミは最前列へと向かう。

 

と、列の一番前に躍り出た所で行く手を複数の人間によって遮られる。

 

 

 

「申し訳ありませんがここは既に我ら『炎帝ノ国』が押さえました。探索ならば他を当たっていただきたい」

 

 

 

「『炎帝ノ国』?2大ギルドの一画がこんなところに来てまで何をしている?」

 

 

 

訝しげにそのプレイヤー達を眺めるカスミ。

実際、そのプレイヤー達は皆一様に同じような装備に身を包んでおり、何人もの人員が戦艦の残骸を守るようにしてぐるりと周りを取り囲んでいた。

その様はまるでイベント時の警備員の如くだ。否、実際に警備しているのだろう。カスミを含め中に入ろうとするプレイヤーを制止している。

 

今のところ言葉での静止で止まってはいるものの粘り続ければ実力行使も厭わない・・・見ているものにそう確信させるほどには警備している人員には真剣な様子が見て取れた。

 

さりとてカスミもおめおめとこの場を去る選択肢はない。何せ仲間の安否がかかっているかもしれないのだから。

 

 

 

「すまないが私もこの中に用事があるのだが」

 

 

 

「申し訳ありません。ギルド長より何人も中に入れるなと硬く言い含められておりますので」

 

 

 

『ギルド長』の部分を強調しながら武器を握る手に力を込める警備員。

逆らえばどうなるか分かるだろとばかりの対応だ。

それを見てカスミは一つため息をついた。

 

 

 

「やはりというかとりつく島もないな・・・ならば・・・『超加速』!」

 

 

 

「んな!?」

 

 

 

途端にカスミの姿が消失した。

驚き声を上げたギルド員。慌てて周囲を見回して見ればカスミの背中は既に残骸の塔の中へと消えていく所だった。

 

 

 

「侵入者だ!追え!決して御二人の元へ到達させるな!」

 

 

 

その叫びに呼応して幾人かの警備員が手に手に武器を構えバタバタと後を追うのだった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

中は元々複雑な通路が崩れ、塞がり半ば迷宮のようになっていた。地面に突き刺さっている為に中はその全てに傾斜がかかっており通路だったものは一転足を踏み外せば一直線に奈落へと落ちていく落とし穴へと変わっている。移動するのも一苦労だ。

 

 

 

「逆に言えば追っても撒きやすい訳だが、と」

 

 

 

カスミは跳躍。途中斜めになった壁(元は通路の床だが)を蹴り、向かいにあるドアの開いた部屋の中へとその身体を滑り込ませた。

パラパラと穴の下へと落ちていく小さな瓦礫を見送り息をつく。最初こそしつこく追ってきていた追っ手もその影すらも見えない。どうやら本格的に此方を見失ってくれているらしい。カスミにとっては僥倖である。

 

 

 

「随分上に上がってきたな・・・感覚的にはそろそろなんだが」

 

 

 

目指すは瓦礫の塔の頂点。元々の戦艦の中心部であった場所。

最初に例の光が発生したのは其処。つまりはあの奇妙な機械群・・・聖杯があったあの部屋があった場所。

 

あそこに行けば何かしらの解決策が見つかるはず。根拠はないが何故かそう確信出来る。

 

カスミは照明の類いもなく薄暗い縦穴の頂点を睨み付ける。

と、その視線の先にチラと光る何かがあったような気がして目を凝らす。

じっと其方を睨み付けているとまた何か光った。それも今度は数回、チカッ、チカッと。

 

間違いない。あそこが目的地だ。

 

そう思い、足に力を込め跳躍。部屋や壁の僅かな取っ掛りなどを足場にして上へ上へと向かっていく。

近づくにつれて光は強くなってくる。

それと共に腹に響くような音と振動が縦穴を揺らしパラパラと瓦礫や塵が落ちてくる。

 

爆発音や大きな何かがぶつかりあうような音に混じり金属同士がぶつかり合うような音も聞こえてくる。

それは剣士であるカスミにとって聞き慣れた音。

 

 

 

「・・・この音・・・剣戟?上で戦っているのは剣士か?」

 

 

 

他の音からして剣士を含めたパーティーが何かしらとやりあっているのは間違いなさそうだ。

 

そんなことを考えている合間にも足を止めることはせず上を目指す。

そしていよいよ音と振動が酷くなってきたところで遂に目的地が視界内に入った。

 

縦穴の頂点にポッカリと口を開けた入り口。

ドアは既に吹き飛んでいるらしく中からは激しい戦闘音と爆発の光が見える。

 

 

 

「・・・あの高さはただの跳躍だと微妙か・・・一気に行くしかなさそうだな」

 

 

 

刀を抜き握る手に力を込める。

覚悟を決め、入り口へ向けて跳躍。

 

あと少しという所で重力に引かれた身体が急速に失速していくのを感じる。が、それは想定内だ。手に持った刀の柄を握り直し叫ぶ。

 

 

 

「【三ノ太刀・弧月】!」

 

 

 

スキルの使用に伴い、下から上への切り上げモーションが発生。空中での再加速したカスミの身体は入り口の中へと躍り込んだ。

迫る爆煙の中へ腕をクロスさせて顔を庇いながら突っ込み、そのままのスピードで煙の向こうへと跳んでいった。

 

空中へと投げ出される身体。

開ける視界。

 

 

 

「よし!上手く入れ・・・・・・な・・・・!?」

 

 

 

空中でカスミはあまりの驚愕に呆けたような声をもらし顔を歪ませることとなった。

 

カスミは今の今まで元空中戦艦の瓦礫の塔を登って目当ての機械まみれで薄暗い件のあの部屋へとたどり着いたはずであった。

 

しかし、開けた視界に映ったのは全く違う光景。

 

 

 

まずもって広さが違う。

前に見た部屋もそれなりに広さはあった筈だがコードや配管が這いまわり積み上げられた機械が部屋を圧迫していて寧ろ息が詰まりそうな狭苦しい印象を見るものにあたえていた。

 

今目の前に広がっているのは数百人は楽に入れる程の広い空間だ。

機械の類いなどは一つとしてなく、代わりとばかりに細やかな装飾の施された壁や調度品へと成り変わっている。それら自体がかなり豪華なものだがなにより目を引くのはそれら全てが黄金色に光り輝いていることである。

円筒形の底面にあたる場所には広大なステージがあり、それを取り囲むように客席が設置され上へ上へと積み上げるようにして伸びていく。その頂点である天井にはこれまた豪奢な装飾を施された巨大な天窓があり、柔らかな光があまねくステージ全体に降り注ぎ、まるでスポットライトの如く演者を照らし出す。

 

 

『豪華絢爛』

 

 

そんな言葉がぴったり似合う、そんな光景がカスミの眼前に広がっていた。

 

 

・・・全く予想外の光景を突然見せられた人間の反応は幾つかあるがカスミは眼前の情報を処理しきれずに思考停止に陥るタイプである。

 

 

故に失念していた。

 

 

その場所が爆煙渦巻き剣戟が響く戦場であることに。

 

 

 

 

ズルリと

 

 

 

黄金色に囲まれたステージの一画。

ヘドロのような粘着質な黒い液体が現れ広がり、高級感漂う石畳を汚していく。

まるでタールか重油のようなそれは見る間に量を増していき水溜り程の大きさからあっという間に小さめのプール程にまで広がった。その中央部分がグググと盛り上がったかと思えば、空気を切り裂くスピードで伸ばされる。

 

空中で呆けているカスミへと。

 

その切先は鋭く尖った刺状に変化し硬質的な輝きを放っている。このままでは串刺しの憂き目合うのは火を見るより明らかだ。

 

迫る身の危険に流石に気を取り直すカスミ。

が、今は空中。更に言えばスキルを放ったクールタイム(後隙)中だ。

当然ながら回避は出来ず、先ほどのようにスキルのモーションを利用して無理矢理空中移動するのも難しい。

 

故に出来ることと言えば刀を構え迫る刺の切先を逸らそうとすること位である。

 

ぐんぐんと迫る黒い刺。

 

そのスピードはカスミの力で逸らせそうにはとてもではないが見えなかった。

 

万事休すかと思いながらそれでも身体を捩ろうとしている時、

 

 

 

「【爆炎】」

 

 

 

静かな声が響きカスミの眼前まで迫った刺の先端付近で爆発が起きた。

 

その爆風に押されるようにして何とか刺の攻撃を逃れる。

が、攻撃はそれで終わった訳ではなかった。

 

爆煙の中から今度は複数本の細い槍のように変化した刺が飛び出し、落下していくカスミの後を追うように伸びてくる。

 

其を見咎め今度こそはと握る刀を構えようとしたカスミの、その眼前を

 

 

 

 

赤い風が通り過ぎた。

 

ふわりと僅かに香る薔薇の香りが鼻孔を擽る。

 

 

 

と同時、パキリ・・・と

 

 

 

黒い刺に幾筋もの線が入りそこからひび割れ最後は硝子細工が砕けるような音ともに砕け散った。

 

 

 

「・・・な、なんだ?」

 

 

 

訳も分からず体勢を整え、石畳の床へと着地するカスミ。

 

 

 

「・・・随分と派手な登場だな。侵入者」

 

 

 

そこにかけられる冷たい声。

刀を構えながら其方へ身体ごと向き直る。

 

赤色の髪と同じ色の瞳。衣装にもそれに合わせたかのように赤を基調としたものが中心だ。手には装飾の施された杖。明らかに魔法の使い手が持つそれである。

空いた掌に小さな炎を灯しながら剣呑な雰囲気を纏った瞳をカスミへと向けてくる。

 

 

 

「助けてもらった人間に対して随分な対応だな?」

 

 

 

「・・・突然有名人が目の前に現れたんだ咄嗟に身構えてしまう位は許して貰いたいな」

 

 

 

言いつつカスミは刀を持つ手を下げ、目の前の人物に視線を向け直す。

 

 

 

「・・・【炎帝】。二大ギルドの長がこんなところで何をしている?」

 

 

 

「それは此方の台詞。初回イベント6位がここに何のようだ?わざわざあの警備を突破してまでなど余程の事がありそうだが?」

 

 

 

探るような目で此方をねめつけてくる女性プレイヤー。

 

・・・『炎帝』ミィ。

 

かの二大ギルドの一つ『炎帝ノ国』の長にしてNWO内の一握りの上位層にその名を冠す正真正銘のトッププレイヤーの1人である。

 

外の警備員の言葉から予想していたとはいえ、そんな人物との会合に冷たい汗が一筋背中を伝うのを感じながらカスミは言う。

 

 

 

「何、ちょっとした野暮用だよ」

 

 

 

「野暮用?」

 

 

 

「ああ・・・『聖杯』、と言ったか?ソイツに用がある」

 

 

 

「・・・知らないなそんなもの」

 

 

 

 

『聖杯』と聞いた瞬間、ミィの眉が僅かに動いたのをカスミは見逃さなかった。

彼女は嘘をついている。そう思い言葉を紡ごうと口を開きかけた時、それよりも早く別の声が割り込んできた。

 

 

 

「フム・・・ただの火事場泥棒かと思えば余と同じく『聖杯』を狙う者であったか」

 

 

 

カスミがそちらに目を向けるまでもなく、声の主がミィの側へと姿を現す。

 

 

一見すれば鮮やかな赤色のドレスに身を包んだ女性である。身長は150㎝ほどだろうか、小柄である。

艶めいた金髪が天井からの光を受けてキラキラと光って見える。

磨き上げた陶磁器のような白い肌と美貌はドレスと相まって舞台の女優のようにも見える。

 

が、その右手には特徴的な形をした剣が握られており、真紅に染まったその刀身を輝かせている。

 

現れた女性は自身に満ち溢れた表情で胸を張りそれこそ舞台役者の如く高らかに宣誓する。

 

 

 

 

 

「・・・良い!好敵手のいない戦場は楽ではあるがいい加減飽いていた所である。貴様にはこれよりこの余―――『ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマ二クス』と直々に剣を交える栄誉を与える!」

 

 

 

 

 

「・・・正体は隠しておくようにってあれだけ言っておいたのに・・・はぁ・・・」

 

 

 

その後ろでミィが小さな声で呟きながら鎮痛な面持ちで深い深いため息を吐くのだった。

 

 

 

 





この話で溜めてたストックが切れました。
年末も近くなってきており多忙が予想されますので更新遅くなると思います。申し訳ありません。


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