魔法士ゆかり【未完】 (湯川ユノ)
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魔法士ゆかりとはじめての異世界
Ⅰ.ⅰ ある日静かな森の中


本作品は、揚げたわし様の『異世界ゆかり、始めました』をリスペクトしています!この作品がお気に召した方はそちらの方も是非覗いてみてください!
本作品は、駄文を作る事しか出来ないのにも関わらず、更新はクソザコナメクジな人が書いています。
なんだコイツおもんなって方はアドバイスを!
こいつは期待できるなって方はコメントを下さい!
出来る限りで頑張りたいと思いますのでどうかよろしくお願い致します


 ・・・・・・・・・・・・・・・い。

 

 遠くで、声がする。

 

 ・・・・・・・・・輩!

 

 あぁ、この声は・・・あかりちゃんですか・・・。

 

 ・・・・・・先輩!

 

 すいません・・・もっと、近くで言ってくれないと、分かりませんよ・・・。

 

 ・・・・・・ゆかり先輩!

 

 もう・・・どうしたのですか・・・・・・そんなに慌てて・・・。

 

「ゆかりちゃん!」

 

 赤く染った交差点。血に伏した一人の女性の傍で、泣きながら名前を呼ぶ少女が一人。少し離れたところには、警察や救急隊員が慌ただしく走り回っていた。一人の老人男性の運転する車が暴走、そして歩いていた人混みの中へと突っ込んで行った。その際、母親とはぐれた小さな女の子を助ける為に、この突然の事故に対し。たった一人だけ誰かを助ける為に行動し、それを成し遂げた人が居た。名を──。

 

「ゆかりちゃん!しっかりして!」

 

 もう、心配し過ぎですよ・・・。

 

 それにしても良かった・・・。あかりちゃんが無事で・・・・・・。

 

 少しずつ、意識が遠くへと向かっていく。

 

 駆け寄ってくる、一人の女性と先程の女の子。

 

 良かった・・・お母さんと会えたのですね・・・・・・。

 

 あぁ・・・本当に・・・良かっ・・・た・・・・・・。

 

 体が、動かない。もう、言葉すらも・・・・・・。

 

「あ・・・か・・・・・・ちゃ・・・・・・・・・」

 

「ゆ、ゆか・・・り・・・ちゃん・・・・・・?」

 

「あ・・・・・・」

 

 これが私の最後の言葉。私が紡ぐ、最後の唄。

 

「あり・・・がと・・・・・・う」

 

「そんな・・・ゆか・・・ゆかり・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぉあああああ」

 

 もう、そこからは少ししか覚えていない。泣きながら私を抱き寄せるあかりちゃん。その後ろでは、先程の女の子とお母さんが泣いてくれていた。

 

 あぁ、泣かないで?貴方は何も悪くないのだから。

 

 景色が。音が。世界が遠退いて行く。

 

 私は、死んだんですね。さて、ここからどうなるのでしょうか?

 

 景色が。音が。世界が・・・・・・・・・?

 

 え、なんですかコレ。なんで止まってるんですか?私は天国に連れていかれるんじゃないんですか?

 

 私は、この事象に似た物を見たことがある。時に燃え上がる戦闘時に。時にタイトルロゴで。時に涙流すエンディングで。つまるところ、私の天国行きは───。

 

 

 

 

 

 フリーズしたようだ。

 

 

 

 

 ってぇ!そんな訳あるかぁ!あってたまるか!

 

 えぇ、なんなんですかコレ。私、車に轢かれて死んだんですよね?なんでこんな暗闇に閉じ込められてるんですか!

 

 そうは言ってもしょうがない。見えてはいないが、キチンと手足もある。聞こえては居ないが、多分声も出ているだろう。

 

 うーん、こまりました。こんな場面でフリーズだなんて。どうしましょうか?これがゲームとかなら一度落として・・・。

 

 そんな事を考えていると、突然。強い眠気に襲われた。

 

 あぁ、これはようやく逝けるのかな?

 

 少しずつ、瞼が落ちていく。その快楽には抗えそうにもない。

 

 でも、どうせなら・・・最後に、あの新作のゲームとか、遊んでみたかったなぁ・・・・・・。

 

 こうして私は、眠りについた。おやすみ。世界。さようなら、皆さん。

 

 そこで不思議な夢を見た。知らない人と二人で話す夢。でも、どこか懐かしいような。愛おしいような。

 

 

 

 そして目が覚めると・・・・・・。

 

 私は、森の中に居た。

 

「・・・・・・な」

 

「なんでじゃあー!!!!」

 

 ある日静かな森の中。ただ一人の声が、木々の中へと染み込んで行った。




と、第一話でした!
突如として見知らぬ場所に放り出されたゆかりさんの運命とは?!
次回もよろしくお願い致します!


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Ⅰ.ⅱ はじめてのいせかい

本作品は((ry



「なんでじゃあー!!!!」

 

 鳥のさえずりが聞こえる穏やかな森の中。一人の声が木霊する。

 

 落ち着け私。そう、どんな時でもクールで可愛いゆかりさんはこんな時こそ落ち着くのです・・・・・・ん?

 

「ゆかりさん・・・」

 

 自然とそう考えていたのだが、ゆかりさんとは一体、()()()()()()()()()()?駄目だ。さっぱり思い出せない・・・。

 

「うーん。それにここは、どこなんでしょう?」

 

 気がついたら、知らない場所に居た。だが、それよりも重要な事がある。

 

「私は一体、誰なんでしょう?」

 

 駄目だ。眠る前の事を全く思い出せない。

 

「気持ちのいいお昼だからって、こんな所で日光浴・・・なんて、ありませんよね」

 

 何か大切な事を忘れてしまっているような、いや。全て忘れているんでしたね。私。

 

 でも、さっき頭の中に浮かんだ名前・・・なんでしょうか?ゆかりさん・・・・・・それが私の名前?

 

「まぁ。便宜上、私はゆかりさんという事にしておきましょうか」

 

 こうして私は、"ゆかり"になった。

 

 うーん?それにしても自分の事も分からないのにどうしてどうでもいい事はすんなりと頭に浮かんでくるのでしょうか?

 

 思い出すのは自分の名前や友人達との記憶。ではなく、やれ新作のゲームがどうだとか。熱いアニメの格闘シーンだとか。

 

「うん、さっぱりわけが分からない。げえむ?あにめ?はて・・・」

 

 まぁ、そんな事は今は置いておきましょうかね。

 

 どうやら私は、切り替えが早かったようだ。

 

「とりあえず近くに村とか無いんですかね」

 

 気持ちのいい昼真っ只中。私は、村を探して歩き出すことにした。

 

 したのだが・・・・・・。

 

「ちょっ!着いてこないでくださいよ!」

 

 私は今、森の中を駆け抜けている。

 

「もう!なんなんですか!ちょっとハチミツ貰おうと思っただけじゃないですか!」

 

 ハチミツ。それは覚えていた。蜂たちが集める甘い蜜の事だ。とても栄養価が高く、贈り物なんかにも使われるという。

 

 どうしてこんなことばかり覚えているんでしょう・・・。

 

 それは覚えていた。ただ、一つ記憶違いだったのが、その蜂と呼ばれる虫。その大きさだった。私の記憶では、掌に収まる程度の大きさの虫。刺されると痛い。その程度の認識だったのが・・・。

 

「なんで人の胴位の大きさなんです?!」

 

 容易に近づいた私を、敵とみなしたのか。それとも餌とみなしたのか。真意は分からないが、とにかくその大きな蜂に追われて一目散に逃げるしかなかった。

 

「だ、誰か助けてー!!」

 

 そう叫びながら、走り続ける事しか私に出来ることは無かった。

 

 

 静かな森。彼女はそこにいた。

 

「ふう、依頼にあったゴブリンはこれで倒せたかなっ、と」

 

 しっかりとした鉄の鎧を身にまとい、身の丈程の大剣を軽々と担ぎ。その戦利品を取得していく。

 

「お?これは・・・」

 

 ゴブリンは、光るものを集める習性がある種族だ。稀に、その金品を巾着に入れて持ち歩く個体も居る。

 

「銅貨四枚。うん。これは儲けだね」

 

 モンスター。魔物と呼ばれる生物を討伐するクエストは、その生物を討った事を証明する戦利品をギルドに納品する事で収益を得ることが出来る。その分以外の物は、ギルドに売って換金するなり、素材を活かして武具を作るなりと、冒険者の自由にすることが出来るのだ。今回取得した銅貨も、後者である。

 

「さってと。そろそろ帰ろっかな」

 

 彼女がその場を離れようとした時だった。少しずつ声が近づいて来ていた。

 

「・・・・・・・・・てー」

 

「うん?なんだろ」

 

「・・・・・・けーてー!」

 

 次第に近づいてくる声はどうやら助けを求める物のようだった。

 

「うーん、無視も出来ないかな?」

 

 彼女は、声のする方角を探る事にした。

 

 さて、どこからかな?

 

「・・・すーけーてーー!!」

 

 この方角・・・・・・後ろ?

 

 彼女が振り返った時、そこには──。

 

「たーすーけーてーーー!!!」

 

「はい?」

 

 大量の大きなハチ(マグナアピス)を引き連れた女の子が、こちらに向かって走ってきていた。

 

「あ!そこの剣持ってる人!助けてくださいー!」

 

「マグナアピス?!しかも丸腰?!ちょっ!君!何してるのさ!」

 

「な、なにもしてないんですー!」

 

「はぁ?!ちょっ、こっち来んな!」

 

「ちょっ、無理です無理です!止まったら刺されちゃいます!」

 

「クソ!仕方ないッ!」

 

 背負っていた大剣を飛翔する大群へと向けて構える。

 

「ちょ!何する気ですか?!」

 

「助けるんだよ!」

 

「そ、それで私ごとヤる気ですか?!」

 

「もう!いいから早くこっち来い!」

 

 彼女の隣を、丸腰の女の子が駆け抜けて行き、その目の前には大量の蜂。

 

「纏え!雷鳴の子よ!」

 

 彼女の声と共に、愛剣は怒槌を帯びて行く。

 

「さぁ、蜂さん!威力は控えめにしといてあげるから!」

 

 大気がバチバチと音を立て、その剣は飛翔する蜂達へ向けて振りかざされた。

 

「はぇ?」

 

「静かにしててね!!」

 

 その剣が描いた軌跡は、蜂の体を容易に切り裂き、近くを飛んでいた蜂達へと怒槌が襲い掛かる。

 

 プスプスと焼ける音と、少し焦げた匂いが"私"の鼻についた。

 

 電撃を免れた蜂達も踵を返し、元いた所へ戻って行った。

 

「た、助かったぁ・・・」

 

「助かったじゃないよ!何してるのさ!」

 

「な、なにもしてないって言ってるじゃないですか!」

 

「こんな魔区にそんな格好で!」

 

「ま、魔区なんて知りませんよ!なんなんですか!」

 

「む。魔区も知らない?君、もしかして密入国か何か?それともよっぽど人里ない所から来たとか?」

 

「ま、まぁ。そんな感じなのかもしれませんね・・・」

 

「・・・・・・はぁ」

 

「ちょ!なんですか!」

 

「着いてきて、近くの町まで案内するから」

 

「町?近くに町があるんですか?」

 

「うん。小さな町だけどね。君との縁はそこまでだから!」

 

「あ、ありがとうございます!えっと・・・」

 

「うん?あぁ、私?私はね・・・」

 

 そう言いながら、鎧の人はそのフルヘルムを外してくれた。その中から出てきたのは、ゴツイ男の人なんかじゃなくて、綺麗な金色な髪を大きく纏め、すらっとした綺麗な目を持つ美人さんだった。

 

「私はマキ。弦巻マキ。アンタは?」

 

「私ですか?私は・・・ゆかり、ゆかりです。ありがとうございます。助けて頂いて」

 

「良いって、あんなの見過ごすと寝つきが悪くなるからさ。それじゃあ行こっか、ゆかりさん」

 

「は、はい!よろしくお願いします。マキさん」

 

 こうして私は、美人で剣士なマキさんと共に町を目指すことになった。




皆さんこんにちは!結月ゆかりです!
いつも後書きの所って、書くことがないんで、今回からというか次回から結月ゆかりコーナーを開くことになりました!
頂いた質問等は、コメント欄と共にこちらでも答えさせて頂こうかと思っています。まぁ、質問やコメントが来ればの話なんですけど。うp主はこれまで、いくつもの駄文を作っては放棄してきましたが、今回は謎のやる気に満ち溢れているそうですので、どうかお付き合いしてやってくださいね。
あぁ、なんで私。こんな1人芝居してるんでしょうか・・・・・・。
す、すいません。まだ途中でしたね。えっと、次回は私が町に行ったお話になると思います。若干の説明回になるかもですね。それでは皆さん、機会があればまた次回お会いしましょう。


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Ⅰ.ⅲ 町へ行こうよゆかりさん

本作品は((ry


 森を歩くこと約四十分。度々休憩を挟みながら、マキさんに連れられて初めての町「インティウム」を訪れていた。

 

「ほー。なかなか立派な町ですね。衛兵さんもお仕事してましたし」

 

 私が町の入口まで差し掛かった時、衛兵さんに身分を証明出来るものを要求された私は、マキさんの言いくるめによってなんとか町に入ることが出来た。

 

「さ、ここがギルドだよ」

 

 ギルド。マキさん達冒険者が籍を置くクエストを受注したり、素材を売ったり等を行える施設だ。

 

「すいません。何から何まで」

 

「良いって!ゆかりんも大変だったんだし!」

 

 マキさんには、私が自分の事を。記憶がほとんどない事を既に話していた。マキさんは命の恩人なのだ。そこはしっかりしておかなければならない。そして、ここまでの道でこの世界に関する話をマキさんから色々聞かせてもらった。

 

 マキさんが森で使っていた刃に雷を纏わせる能力。あれはこの世界でも珍しい"エンチャント"と呼ばれるスキルで、どうやらこの世界には"魔法"が当たり前のように存在するようだ。

 

 私が知っている限りでは、魔法なんてものは存在していなかった。

 

 ・・・やっぱりここは、私の知ってる世界とは違うようですね。

 

 前居た世界。少しくらいしか覚えてはいないが、それでも気がかりはある。

 

 私にも・・・家族や友人として、慕ってくれる人が居たんでしょうか・・・。もしそうなら、悪い事をしましたね。私の事を探したりしているのでしょうか。心配・・・してくれているのでしょうか・・・。

 

「おーい。ゆかりーん?入るよー?」

 

「あ、はい。今行きます」

 

 とりあえずは目先の事だ。来てしまったものはしょうが無い。それに・・・。

 

 なんだか、楽しそうですしね。

 

 私がどういう人間で、どういう暮らしを過ごしていたのかはよく思い出せない。けれど、こんな暮らしにワクワクしている自分が居るのは、紛れもない事実であった。

 

 

 

『冒険者ギルド"アウローラ"』

 

 その建物の中に入ると、沢山の人が居た。

 

「外にも沢山の人が居ましたけど、中も凄いですね」

 

「私達冒険者は、ギルドで依頼を受けてギルドから報酬を貰うのが基本だからね。行き詰まった冒険者のアドバイスとか、初心冒険者とかへのサポートとかもやってるんだ」

 

「へぇ。それは凄い」

 

「それじゃあ、ゆかりん。登録の受付はあっちだよ」

 

「ありがとうございました。マキさん」

 

「良いって!ほら、私。ゆかりんとは友達になりたいし?」

 

「友達・・・ですか?」

 

「うん。迷惑じゃなかったらだけど」

 

 ・・・友達、ですか。悪い響きじゃありませんね。

 

「迷惑なんかじゃありませんよ。こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 

「うん!今日はちょっと用事があってあれなんだけど、また今度一緒にどこか行こうね!」

 

「はい。その日を心待ちにしてますね」

 

「それじゃあ!ばいばい!」

 

「はい。また」

 

 そう言うと、マキさんは人混みの中へと歩いていった。

 

 マキさんが居なければ、私はこの街までたどり着くことが出来なかった。

 

 本当に、良い人ですね。

 

 私は、私のやるべき事をしなければ。

 

 えーっと。冒険者登録は・・・っと。あれですかね。

 

「お?いらっしゃいませー!御要望は冒険者登録ですかー?」

 

 なんでこの人、こんな無駄にテンション高いんでしょうか?

 

「え、えぇ。そうです」

 

「冒険者登録ということですけどー。他国の人とかですか?」

 

「い、いえ。そういう訳では無いんですけど。以前使っていた物を無くしてしまって・・・」

 

「へぇ。冒険者カードをですか」

 

「は、はい」

 

 これは、道中マキさんに教わっていたやり方だ。こう言っておけば何事もなく手続きが進んで・・・。

 

「冒険者にカードなんてもの、ありませんけどね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・?」

 

「貴方・・・・・・・・・」

 

 は?いや、待って?待って待って待って。聞いてないんですけど?!マ、マキさーん?!

 

「なーんて、冗・談・です✩」

 

「・・・はぁ?」

 

「お客さーん。嘘はダメですよー。その感じだと、始めてでしょー?」

 

「は、はい・・・」

 

「だったらそう言ってくれればいいのにー。人が悪いなー」

 

 マキさん。私、本当にこの世界で上手くやって行けるのでしょうか・・・。

 

「まぁ、カードなんてほとんど使いませんけどね。町に入る時とかくらいじゃないですかね」

 

「は、はぁ・・・」

 

「それはそれ。それじゃあ適性検査。しましょっか」

 

 適性検査・・・検査・・・・・・?

 

「け、検査とかあるんですか」

 

「えー。ありますよー」

 

「ち、ちなみにその検査で駄目だったりすると・・・」

 

「冒険者にはなれませーん。商業ギルドか生産ギルドへご案内(ごあんなーい)!」

 

 た、助けてマキさんー!!!




どうも皆さん。結月ゆかりです。
ようやく町に着いたというのにいきなりの試練が訪れました・・・。いいえ!私は冒険者になるのです!ならねばならぬ!
と、まぁ今回はここら辺で終わっておきましょうかね。ちなみに受付の人。結構わかりやすいと思うんですけど、皆さん誰か分かりますかね?うp主がこの人好きなんで、序盤から登場させたらしいです。
次回は冒険者適性検査。機会があれば、またそちらでお会いしましょう。


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Ⅰ.ⅳ 私、冒険者になります!

本作品は((ry


 受付のお姉さんに案内されてやって来たのは、冒険者ギルドの裏手にある小さな広間だった。

 

「はい。それでは適性検査を始めますね」

 

 亜麻栗色の髪をなびかせて彼女は振り向きざまにそう言った。

 

「は、はいっ!」

 

 この人・・・よくよく見れば凄く可愛い、というか若いですね。歳は・・・同じくらいでしょうか?人って落ち着いただけでこんなにも綺麗に見えるものですか。

 

「どうかしました?」

 

「い、いえ。それで、何をすればいいんでしょうか?」

 

「そうですね、まずはジョブを決めたいと思います」

 

「あれ?検査はどうしたんですか?」

 

「・・・・・・・・・あっ」

 

 "・・・・・・・・・あっ"?

 

「ごめんなさい。もう無理です!」

 

 そう言って、受付の少女はケラケラと笑い始めた。

 

 まさかコイツ・・・。

 

「適性検査って言うのは嘘です。ちょっとからかってみようかなって・・・あ!駄目!やめて?!その拳を降ろして!!」

 

 マジでコイツ・・・・・・。

 

「まぁ、私は心が広いのでこれくらいは許しますよ」

 

「そ、そうですよねー!心が広い──」

 

「でも次は無いぞ」

 

「は、はい・・・・・・」

 

 ゆかりさん。少しずつ、自分のことがわかった気がします。普段は知らない人と話すのって苦手なんですけど、言える時は言える。そういう人間だったらしい。

 

「そ、それではー!気を取り直しまして・・・貴方のお名前を教えていただけますか?」

 

 そして、もう一つ。私は私の事を理解した。

 

「私は、ゆかりです」

 

「ゆかりさん。改めてようこそ、冒険者ギルドへ。貴方にはいくつかの質問に答えて頂く形になりますが、答えられない物は答えずとも構いません」

 

 この突然入る真面目な雰囲気になるの、ずるいですよね・・・。

 

 私は、可愛い女の子にめっぽう弱かった。

 

「わ、分かりました」

 

「それでは始めて行きましょう」

 

 広間に設置された、ベンチに座りながら話を続ける私達。どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

「なるほど。どうやら貴方は"魔法士"向きのようですね」

 

「魔法士、ですか?」

 

「はい。冒険者と一括りに言っても沢山のジョブがあります。ですが、ほとんどの冒険者は基本職である三つの中から選ぶことになります」

 

「三つ・・・」

 

「前に立ち、敵の注目(ヘイト)を稼ぐ"剣士"。中衛から、相手を射抜き強い索敵能力を持つ"弓士"。後衛から、仲間を支える"魔法士"。貴方のお話を聞くに、どうやらSTRとかVITとか低そうですし」

 

 自分でもそうは思うが、人に言われるとこう・・・無性にカチンときますよね。いや、多分実際その通りなんですけど。

 

「ですのでオススメとしては魔法士なんですけど・・・」

 

「どうかしました?」

 

「魔法士って。人気ないんですよね」

 

「へぇ。そうなんですか?」

 

 後衛からズバズバ魔法を当てて敵を仕留めるとか、そういうの人気ありそうですけどね。隣の芝生は青い、と言うことでしょうか?

 

「魔法って、INT依存ですし魔力量が余程高くないと役に立たないんですよ」

 

「あぁ。確かにそうですね。魔法なんて強いもの程必要になる魔力の値が増えますからね」

 

 ・・・・・・・・・あれ?

 

 私、どうしてそんな事を知っているのでしょうか・・・。

 

 今聞いた話は、全てすらすらと頭の中に流れ込んで来ていた。初めて聞くこともあるはずなのに・・・。

 

 うーん?前居た世界・・・で良いのでしょうか?魔法なんて物はなかったはず・・・・・・・・・はっ!あにめ?げぇむ?なんだか良くは分かりませんが、そういうので聞いた事があったのでは?

 

 と、言うことは?この無駄知識を活用すれば私はこの世界でもやって行けるということでは?!

 

 そういえば前の世界で異世界転生なるものを見たことがありましたね。今の私はその状況に置かれている、と。

 

「なんだか、やけに詳しいですね?」

 

「えっ、あぁ。一応そういう知識はあったみたいです」

 

「そうですか・・・で、如何ですかね?別に剣士や弓士の道も無い訳では無いですけど」

 

「うーん、どうしましょうかね」

 

「あっ、じゃあ先に魔質の確認しときましょっか!」

 

「ましつ?」

 

「はい、ちょっと待っててくださいね」

 

 勢いよく立ち上がった彼女はギルドの方へと向かい、片手に水晶玉を持って帰ってきた。

 

「これですこれ!これに手を置いてから、御自身の魔力をイメージしてください!」

 

「は、はぁ・・・」

 

 よく分からないが、とりあえず言われた通りにやってみよう。

 

 何か大切な事のようですし、ここは素直にやっておきますかね。

 

「お、おぉ?」

 

 手を置いた水晶が、様々な色に光り始めた。

 

「あの、これは?」

 

「あ、これはですね。魔力の質、属性を測れるんですよ」

 

「属性ですか?でもそれがジョブと何の関係を?」

 

「魔力の質は大事ですよ?剣士や弓士も、スキルを使う際には魔力を消費しますからね。例えば、盾持ちの近接職なら地の属性と相性が良いです!けれど逆に、風の属性とは相性が良くありません。同じスキルでも効果や消費魔力が全然違うんですよー」

 

「あぁ、なるほど」

 

 マキさんがそんな事を言っていた。魔力は大きく分けて"火""水""風""土"の四種類があり、他の属性はこの四つの派生や、微妙な調整による合成なのだとか。

 

 属性がスキルに影響する・・・魔質が火であれば火の魔法は使える。が、それだけになってしまう。なるほど、だから魔法士の人気が低いという事ですか。

 

「うーん?」

 

「どうしました?」

 

「なかなか安定しませんね。光が強いので魔力は多いと思うんですけど・・・」

 

 光が強ければ強いほど、魔力が多い。という事は赤く光れば魔質が火、ということになる。

 

「四属全て・・・いや、その光り方じゃないですし・・・」

 

「属性ってそんなに何種類も持てるんですか?」

 

「あ、はい。この水晶で分かるのは基本の四属だけですけど、魔質が火と水なら半分くらいが赤で半分が青って感じですかね」

 

「そんな感じなんですか」

 

 つまり四属全てが使える人間は、この水晶が四分割されてそれぞれの色で光るって事ですよね?

 

「でもこれ、瞬いてるじゃないですか?なんなんですかねこれ」

 

「いえ、私に聞かれましても・・・」

 

 もしかして私、魔質がどれにも当てはまらないとか?魔法の才能、ないんでしょうか・・・?

 

 それなら少し残念だ。せっかく魔法が使える世界に来たというのに魔法が使えないなんて、冷めたピザと一緒じゃないですか。

 

「うん?ゆかりさん。もう少し強くしてもらっていいですか?」

 

「え、あ、はい」

 

 強く・・・まだコツとか掴めてないんですけどね。まぁやってみましょうか。

 

 目を閉じて、意識を自分の中へと集めていく。そうすると、わずかながら自らを流れる魔力の流れを感じとれた。

 

 えーっと・・・これが魔力だから・・・・・・こう?

 

 その時だった。パキンと何かが割れるような音がした。

 

「え?」

 

「え?」

 

 私達が何事かと思った時には、もう既に手の下の水晶玉は真っ二つに割れていた。

 

「うそ・・・」

 

「え、あ!違っ!わざとじゃなくて、その・・・」

 

 私がそれを言い終える前に、受付さんは走って行ってしまった。

 

 やってしまった。これ、弁償とかになるんでしょうか・・・。お金、マキさんから借りれるかな・・・。

 

 それからしばらくして、受付さんは真面目な表情をし、ゆっくりと歩いてきた。

 

「ゆかりさん」

 

「ひゃいっ!」

 

「あなたの魔質が、判明しましたよ」

 

「ごめんなさいほんとわざととかじゃ・・・はい?」

 

「あの水晶、名前を"月光石"と言いまして、魔力を結晶内で飽和する性質を持つ石なんです」

 

「月光石?」

 

「はい。月光石には、強い"月"の魔力が蓄えられていて、月の魔力は四属、それに連なる魔質全てを飽和。つまり無力化しちゃうんです。そしてその月の魔力を蓄えた月光石を砕くことが出来るのは"聖女"や"聖者"が持つ"陽"の魔力。そして同じ性質を持つ月の魔力だけ」

 

「月の魔力・・・」

 

「はい。月光石が砕けた時の最後の光は淡い紫でした。それが魔質の色という事ですから、貴方の魔力は激レア中の激レア。月の魔力で間違いありません」

 

 月の魔力・・・。四属全てを無効化する性質を持つ・・・?

 

「えっ、それ、めっちゃ凄くないですか?」

 

「そーなんですよー!私、初めて見ました!」

 

「ま、まぁ?ゆかりさんは天才ですからね!当たり前ですよ!」

 

「さっすがゆかりさん!これはもう魔法士になるしかないですね!」

 

 ・・・・・・ん?

 

「え?魔法士なんですか?そんな希少な魔質なのに?」

 

「え、だって魔鋼剣の火とかも消しちゃいますからね。それってただの剣ですよ」

 

「えーっと、つまり・・・?」

 

「貴方は魔力を持つ武器が使えません!更にー?月の魔力はレア過ぎて月の魔法なんて誰も知りません!」

 

「あ、あは、あははは・・・」

 

 どうやら私は、魔力と相性が悪い。つまり・・・

 

「貴方は、魔法の使えない魔法士という事になりますね!」

 

「あぁ・・・もう・・・勘弁して下さい・・・・・・」

 

 魔法の使えない魔法士が、ただのポンコツが生まれた瞬間だった。




皆さんこんにちはー!さとうささらです!今日は不貞寝したゆかりさんの変わりに後書きコーナーを努めさせていただくことになりました!それにしても、強すぎるが故に最弱なんて、ゆかりさんらしいですよね!
あ!お気に入り登録をしてくれた方々!ありがとうございます!私もうp主と同じくらい嬉しいです!頑張ります!
と、私が語る事はあまりないのでこのくらいですかね?早く正式な出番が欲しいですよー。
それでは皆さん、機会があればまたお会いしましょう!さよならー


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Ⅰ.ⅴ 冒険者ゆかり

本作品は((ry


「まぁ、そう気を落とさないでくださいよ」

 

 あれから暫くして、私はギルドの受け付けまで戻って来ていた。

 

「そうは言われましてもね?魔法の使えない魔法士ってそれ何が出来るんですか?」

 

 おい受付さん。目を逸らすな。

 

「ま、まぁこれで正式に冒険者になったんです!まずはランクⅠのクエストをこなしていけばクラスアップも出来ますし!」

 

 クラスアップ。初級職から次のレベルの職へと付けるシステム。剣士の場合は"騎士"や"戦士"に。弓士は"シーフ"や"ウィッチャー"に。職業と魔質によって、その人の大体のコースが決まるらしい。

 

「無力な魔法士は何になれるんですか?」

 

 おいだから目を逸らすな。こっちを見ろ。

 

「ま、まぁ冒険者にはなれたんですし大丈夫!私も貴方の担当アドバイザーになりました!」

 

「担当アドバイザー?」

 

「はい!何か困った事とかあれば相談になりますよーってやつです!」

 

「いや私、貴方の名前も知らないんですけど」

 

「あれ?言ってませんでした?私は"ささら"です!以後よろしくお願いしますね!ゆかりさん!」

 

「は、はぁ。まぁ、よろしくお願いします」

 

「えっとですね、まず冒険者になった人はステータスを見ることが出来るんですよ!」

 

「ステータスですか」

 

「はい!ゆかりさん、自分の思うようにイメージしながら出してみて下さい」

 

「む。またいきなりですね・・・」

 

 ステータスを確認・・・イメージ・・・・・・。

 

 こうでしょうか?

 

 指を二本だけ伸ばし、横に切るイメージで指を振るった。

 

「お、出ました」

 

「おぉ、一発ですか。これに苦戦する人も結構居るんですけどね?やっぱり魔力量が多いからですかね」

 

「別に嬉しくない話ですね、それ」

 

「まぁまぁそう言わず!で、なんて書いてます?」

 

 えーっと、なになに?STR(筋力値)が八。VIT(耐久値)が八。AGI(敏捷値)が十二。DEX(器用差)が十一。ですか。

 

 グラフを見るに、最大は十八と言った所だろうか?

 

 さて、魔法士にとって必要なINT(知力)はっと・・・・・・ん?

 

「INTが十七あるんですけど」

 

「十七?!完全に魔法士ステじゃないですか!」

 

「いや、魔法は使えませんけどね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 おい。ささら?こっちを見ろ???

 

「も、もしかしたらゆかりさんもオリジナルの魔法とか使えるようになるかもしれませんよ?なんてったって天才ですし!」

 

「そ、そうですよね!私、天才ですからね!で、オリジナルとかあるんですか」

 

「最近多いんですよー。希少な雷魔法を使う『纏雷』って人も居ますし、ゆかりさんと同じ様に超レアな花の魔質を持つ『神子』さんとかもう凄いんです!」

 

「雷魔法・・・そういえばマキさんも雷の魔法を使ってましたっけ」

 

「知ってるんですか?」

 

「え、あぁ。さっきまで一緒に居たんですけどね」

 

「あの"戦乙女(ヴァルキリー)"のマキさんが誰かと仲良くするなんて、聞いたこともありませんよ」

 

「ヴァルキリー?」

 

「はい。ここアウローラだけでなく様々なギルドで注目視されている最大規模のクランなんですよ!」

 

 クラン。そういえばマキさん、そんな事を言っていたような・・・確か実力のある冒険者達が集まるとかなんとか。

 

「クランってどうやったら作れるんですか?」

 

「お、クランに興味あるんですか。まずはランクⅢまでいかなきゃ駄目ですね」

 

「先が遠い話ですね」

 

「いやいや!魔法の適正がそんなにもあるんですし、ゆかりさんならオリジナルの魔法だけでなく、かつての賢者と同じ魔法を使えるかもですよ?」

 

「賢者?」

 

「あら、聞いたことないですか?七百年前、魔族との大戦の最中。突如として現れた四人の賢者が居たんです。四人の賢者の奮闘により、魔族の幹部達のほとんどが死滅。及び撤退したおかげで人族は今もこうして生きている、っておとぎ話ですよ」

 

「その中に月の魔法を使う人が居たんですか」

 

「はい!"月の賢者""鳥の賢者""風の賢者""。そして先程お話した花の魔法を使ったとされる"花の賢者"。その中でも攻撃力だけで言えば月の賢者に並ぶ者無しなんて言われるくらいです!」

 

「それは凄いですね」

 

「ですからそう気を落とさないで下さい!私の勘ですけど、ゆかりさんは凄い魔法士になれると思いますよ!」

 

「ありがとうございます」

 

「まぁとりあえずはランクⅡを目指して頑張りましょう!」

 

「そうですね。くよくよしても始まりませんし、まずは頑張ってみましょうか。ささらさん、これからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ!」

 

 まずは自分に出来る事を一つずつ確かめて行こう。

 

 こうして、私の正式な冒険者生活が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

 盗賊。冒険者や行商人を襲い金品とその命を奪い去る者。ギルドからの要請で冒険者に賞金首とされる者たち。ここはその盗賊達のアジトの一つだ。

 

「で?またなんか用か?」

 

 そこには、この盗賊団を纏める一人の大柄な男と、男に呼ばれた者が居た。

 

「一人、連れてきてもらいたい奴がいる」

 

「なんや。人かいな?金目の物とかや無く?」

 

「そいつは、そこらの金品よりもよっぽど価値があってな」

 

「ふーん。まぁええわ。そうしろと言うならそうする。けど、約束。きっちり守ってくれるんやろな?」

 

「あぁ、これが最後の仕事だよ。そうすれば妹共々、自由の身って訳さ」

 

「そうか。それならええわ」

 

「しっかりやれよ?なんせ大事な妹の為さ」

 

「そんな事、あんたに言われんでも分かっとるわ・・・。ウチは可愛い妹の為ならなんだってする。今までも、そうしてきたはずやろ」

 

 少女は自らの言葉を伝えると次なる仕事の為にアジトを出ていった。それを静かに、笑みを浮かべながら男は言った。

 

「あぁ、そうだったな。今回も頼むぞ───」

 

 

 

 

 

「あかね」




「ゆかりと!」
「ささらの!」

「「魔法講座!!」」

「こんにちは、結月ゆかりです」
「こんばんわ、さとうささらです!」

「えー、今回は駄目なうp主に変わり私達がこの世界における魔法についてお話したいと思います」
「うp主さんは説明文とかを自然と配置するの、苦手ですよね」
「まぁ今はそれは置いておきましょう」
「そうですね。それではまずは属性!」
「基本となるのは四元素。火水風土ですね」
「他にも光、雷、氷、闇、と色々ありますけどね」
「あまり多くなってもややこしいですし、とりあえず基本はこの四つで、後はその派生や進化。オリジナルだったりします」
「四賢者が使っていたとされる花鳥風月も派生になるんですかね?」
「花鳥風は四属から別れたりアレンジだったりですけど、月だけは違います」
「えーっと、確か月は陽と並んでレアレアなんでしたっけ?」
「はい。始まりの魔法と呼ばれる括りに入ります。時の魔法などもそうですね」
「世界を形作る理なんかが始まりの魔法に入るって事ですか」
「その通りです。流石ですね」
「勿論です!出番も貰えましたしこれからも頑張らないと!」
「ふふ。その意気です」
「さて、次回は各属性の説明とかもしたいですけど・・・次回っていつの次回なんですかね?」
「姉ちゃん!」
「ジョ○ョネタとかきっちりさして行きたいですよね」
「えぇ。あれは名言集ですからね」
「と、まぁ長くなってしまいましたが今回はこの辺で!」
「皆さん。また機会があればお会いしましょう」
「さよならー!」


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Ⅰ.ⅵ 月の魔法士

サブタイトルを考えるのに一番時間を使う気がするこの頃。
※話数の表記に迷走しています。


 さて、まずは何から始めましょうか?

 

 私は、とりあえず魔法について知るためにギルドの図書館へとやって来ていた。

 

「うーん。まずは基本的な四属を使えるかどうかですよね」

 

 そういえば、言語や文字は一緒なんですね。ここから始めるとなると、魔法士がどうとかって話じゃなくなってしまいますし。

 

 魔法士入門編と書かれた本を手に取り、パラパラと目を通していく。

 

 うーん。何か良さそうな魔法は・・・おや?

 

 私の目に付いたのは魔力を固めて発射する。無属性魔法『バレット』と書かれた物だった。

 

 えーっと。純粋な魔力を拳ほどの大きさに固めてそれを撃ち出す、透明な弾丸。射程は約五メートル・・・なるほど。

 

 何も無い場所へ向けて、掌を掲げ意識を集中させる。

 

「えーっと、『バレット』?」

 

 その声と共に掌から撃ち出された"薄紫色の弾丸"は暫くして霧散してしまった。

 

「・・・なんで色がついてるんですかね」

 

 私は、この魔法について少し詳しく調べてみる事にした。

 

 

 

「・・・なるほど。魔質ですか」

 

 無属魔法のバレットを扱える者は、それぞれの魔質に伴った魔法を使える可能性が極めて高いという。火の魔質を持つものなら火の弾丸(バレット・イグニス)と言った感じだ。

 

「そういう事なら、私の放つ弾丸は"月の弾丸"という事ですか」

 

 誰に聞かせるでもない、ただの冗談だった。その言葉に反応を示したのは人ではなく、私のステータスだった。

 

 ピロンと音を立て、ステータス画面が表示される。その画面には、"スキル"と書かれた覧が追加され、ピコピコと点滅していた。

 

「なんでしょうか、これ?」

 

 スキルと書かれた覧には、見たこともない文字が新たに記載されていた。

 

月の弾丸(ムーン・バレット)

 

 月の魔力のみで構築された魔法。新たな月魔法が生まれた瞬間だった。

 

「これ、オリジナル魔法・・・なんでしょうか?」

 

 開かれた画面からスキル覧をタップすると、更にそのスキルの詳細が表示された。

 

『純月魔法:混じり気のない月の魔力によって生み出される魔法』

『ムーン・バレット:撃ち放たれた月の弾丸は、対する魔を喰らう。被弾したモノの魔力の流れを阻害する能力。込めた魔力によって、大きさや速度に変化が生じる』

 

「・・・・・・・・・なんか出来ちゃいましたね」

 

 この時の私は何気ない様に見えて実は、むちゃくちゃ動揺していた。どのくらい動揺していたかと言うと・・・。

 

 

 

「ささらさん!」

 

「うわっ!ビックリした!」

 

 全速力で走ってささらのいる受け付けまで戻ってくる程だ。

 

「どうかしました?まだ一時間もたってませんけど・・・もしかして、転職ですか?」

 

「違います!」

 

 何が悲しくて冒険者になって一時間で転職しなければならないんですか。

 

「じゃ、じゃあどうしたんですか。そんなに慌てて」

 

「ま、魔法が出来ちゃったんですよ!」

 

「・・・・・・・・・裏で聞きますね」

 

 私の言葉を聞くなり真面目モードへと切り替わったささらさんと共にギルドの裏。先程の広間ではなく小さな個室へとやって来た。

 

「ここは盗聴とかが出来ない魔法を施しているので、安心して下さいね。それで、魔法ですか」

 

「そうなんですよ!これ!見てくださいこれ!」

 

 スキル画面を開き、指を指すもささらの表情は変わらない。

 

「これ・・・なんですけど・・・」

 

 なんだか、少し自信が無くなってきました。これだけ大騒ぎしておいて誰にでも出来る魔法・・・とか?うわ!すごく恥ずかしい子じゃないですか私・・・・・・。

 

「あのー、ゆかりさん?ステータス画面は他の人には見れないようになってるんですよ」

 

「え、あ、そうなんですか・・・」

 

 と、言うことは私はこの喜びをささらさんに分かち合える事が出来ないと?!うーん。どうにか手は・・・・・・ん?

 

「えっと・・・・・・『開示』」

 

 ステータス画面の端に指を当て、回すように指を横へ切る。すると開かれていたウィンドウが反転し、ささらの方へと向き直った。

 

「え、えぇ?!」

 

「ど、どうかしました?」

 

「な、なんですかコレ!ゆかりさんのステータス・・・なんで私が見れるんですか?」

 

「み、見れるようにしたからでしょうか・・・?」

 

「・・・はぁ・・・」

 

 ちょっ、何でため息着くんですか!その呆れたような目をやめてください!

 

「もうこの際、ウィンドウの魔法をアレンジするなんて事には驚きません。ですけど!あんまり人にステータスを見せない方が良いですよ?何に使われるか分かりませんし」

 

「でも、貴方は使わないでしょう?」

 

「えっ」

 

「使うんですか?」

 

「いや、まぁ・・・使いませんけどぉ・・・」

 

「なら、問題ないですよね」

 

「ぐ、ぐぬぬ・・・」

 

 この子、根は凄く良い子なんですよね。まだ知り合ったばかりですけど、それだけは分かります。

 

「と、とにかくです!あまり人には見せないでくださいね!で、スキルでしたっけ?」

 

「あぁ、そうです。何か練習してたらスキルが追加されてたんですよね」

 

「どれどれ・・・月の弾丸?」

 

「はい。無属性魔法のバレットを使ったら出来るようになりました」

 

「純月魔法・・・?なんですか、これ」

 

「いや、私に聞かれても」

 

 何分、自分の事も分からないのだ。この世界の、更に魔法の事なんて聞かれても皆目検討も付かない。

 

「うーん。月の属性はあまり情報が無いですからね。私にもあんまり細かい事は分からないですけど、多分固有(オリジナル)の魔法だと思いますよ」

 

「これで一応は、魔法が使えない魔法士なんて事態は回避出来たと言う事ですね」

 

「はい!それにしても、早すぎじゃないですか?こんなにも短時間で固有魔法を作り上げた人。少なくとも私は知りませんよ」

 

「そんなものですか」

 

「そんなもの、です」

 

 以前の世界に魔法なんて物は存在しなかった。そんな私には何故か魔法の才能がある。誰も知らない魔法を、私なら作る事が出来る。

 

「ささらさん。私、何か依頼を受けたいんですけど」

 

「お。クエストですか?現在ランクⅠのクエストが、幾つかありますね。見てみますか?」

 

「はい。お願いします!」

 

 以前の世界の私がどういう人間だったのかは私には分からない。けれど、私は私だ。だから、今は私が私らしく居られる生き方をしたい。だから・・・・・・・・・。

 

「やるからには、天辺を」

 

「何か言いました?」

 

「いえ。なんでもありません」

 

 まずはランクⅡへ上がる。そしてランクIIIを目指す。とりあえずの目標は、そんな所ですかね。

 

 

 

 

 

 これは、私の物語だ。他の誰でもない、私が紡ぐ物語。以前居た世界で何があったのかは今は分からない。気にならないと言えば嘘になる。けれど私はここで生きている。この世界で───。

 

 

 第一章、終。




「結月ゆかりと?」
「さとうささらの?」

「「異世界講座ー!!」」

「こんにちは、結月ゆかりです」
「おはようございます、さとうささらです」
「今日は異世界講座という事ですけど・・・」
「あ、はい!マスターから聞いてます!まずはゆかりさんが目覚めた森から近くにあるインティウムの町ですね!」
「インティウムの町の描写は、全然してませんでしたね」
「近々町を散策する予定があるからその時にってマスターが言ってましたよ」
「あのー、ささらさん?」
「?なんですか?」
「どうしてあの人の事をマスターと?」
「あぁ、マスターはなんと!CeVIOのさとうささらトークスターターを思い立って買っちゃったんですよ」
「主人公のゆかりさんを差し置いて?!これはあの人と一度お話をしなければなりませんね・・・」
「ち、近々買う予定だって言ってたんで程々にしてあげてくださいねっ?」
「まぁ、そういう事なら・・・」
(変な尺使っちゃったなぁ・・・マスター。はやくゆかりさんも買ってあげて・・・というか私のTSも早く使って下さい)
「あとは冒険者ギルドのアウローラですね」
「インティウム、アウローラってラテン語でしたっけ?」
「はい。ラテン語ですね。ちなみに森に居た大きな蜂もラテン語ですね。インティウムは"始まり"、アウローラは"夜明け"という意味を持ちます」
「始まりの町って事ですか。マス・・・あ、あの人も色々考えてるんですね」
「まぁ、まだ国の名前どころかおおまかな背景ですら考えてないですけどね」
「それじゃあ今言える事ってこれだけですか」
「そうなりますね」

「「・・・・・・・・・」」

「じ、次回もまたお会いしましょう」
「ま、待て次回!」


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魔法士ゆかりとはじめての敵
Ⅱ.ⅰ インティウム


 この世界に来てから初めての夜が訪れた。小さな窓から暗闇の上、光り輝く月が雲の隙間からその姿をのぞかせた。

 

「月、ですか・・・」

 

 あの後、ささらさんと少し話をし、幾つかクエストを見させてもらったが、あまり良い依頼が見つからなかった。

 

 結局、時間が遅くなって日が暮れてきちゃいましたからね・・・。きちんとした活動はまた明日から、ですか。

 

 冒険者になった私には、ギルドからの支援として、ユキナ銅貨二十枚が支給されている。

 

 ささらさんに教えて貰ったこのお宿、良い所ですね。雰囲気も良い感じですし。ご飯は・・・まぁ普通ですけど。ベッドも悪くありません。それに何より三日で銅貨一枚、というのが大きいですかね。

 

 だからと言ってこのままのんびり、という訳にも行かないのが世の常。まずは明日。依頼を達成して、経験値を稼ぐ。そして報酬も貰う。

 

 ひとまず、今日はもうそろそろ寝ましょうかね。

 

 明日は依頼を受けて冒険者として活動するんだ。少しでも、体を休めておかなくてはならない。

 

 今日は色々な事がありました。色々なことを知りました。そのせいか・・・なんだか・・・もう・・・・・・。

 

 そうして私は、眠りに着いた。漆黒の闇を月が切り裂き、淡く世界を照らす頃。私は、不思議な夢を見た。

 

 その人は誰だったのだろう?誰かと話す夢。その人も、私も、笑って居て。でも、その人が誰だったのか。どうしても思い出せなくて。そんなもどかしいような、愛おしい夢。

 

「んっ・・・・・・朝、ですか」

 

 この世界にも、時間という概念を知る為に時計という道具が存在した。時計の針は、Ⅵの字を少し過ぎた所を指していた。

 

 六時半頃ですか・・・そろそろ起きますかね。

 

 ベッドを降り、グッっと身体を大きく伸ばした。ポキと身体から軽快な音が鳴ったのを感じた。

 

「さて、ギルドは確か八時から開くんでしたっけ」

 

 昨日別れる際、ささらさんがそんなことを言っていた。

 

「どうしましょうか。魔区まで行くのも面倒臭いですし・・・とりあえずは朝食、ですか?」

 

 魔区、というのは魔力を含んだ呪いや恨み。それらが形を成した物、魔物が現れるエリアの事だ。

 

「うん。決めました、朝食にしましょう。この時間でも食べられるんですかね」

 

 二階建てになっているこの宿の一階部分は食事処の様な形になっている。私は、階段をギシギシと踏みしめて下へと降りた。

 

 まぁ、この二階の宿泊施設の利用者、私だけらしいんですけどね。

 

「あ、おはようございます」

 

「おはようございます。朝、早いんですね?もっとゆっくりしてるイメージでしたよ」

 

 食事処のカウンター。そこに座るのは甘栗色の紙をした少女だった。

 

「・・・・・・なんで貴方がここに居るんですか。"ささらさん"」

 

「なんで、って。ここ、(うち)のお宿ですし」

 

「だからオススメですなんて熱く言ってた訳ですか」

 

「あははは。でも、良いお宿でしょう?」

 

「・・・それはそうですね。ありがとうございました」

 

「ここ、食事以外はそこそこって少し前までは繁盛してたんですよー?まぁ、今となっては大通りの大きなお宿にお客さん取られっぱなしですけどね」

 

「大通り、ですか」

 

「あ。ゆかりさん。まだこの町の中、全然見てまわれてないんでしたっけ?」

 

「はい。まだ来たばかりですからね」

 

「良れけばこの後。色々見て回ります?時間が早いんでお店とかは空いてないかもですけど」

 

「そうですね・・・」

 

 まだ時間も早い。朝食をここで取り、少し町を回るのも良いだろう。

 

「それでは、お願いしてもいいですか?」

 

「はい!私も宿の人間の端くれ。案内ならお任せ下さい!」

 

 こうして、ささらさんと共に町中を見て回ることになった。

 

 

 朝食を終え、時刻は七時を過ぎた頃。まだ時間には余裕がある。

 

「さて、まずはどこに行きましょうかねー?どこか見たい所とか、あります?」

 

「うーん。そうですね・・・一応冒険に役立つ物を売ってる所とかは押さえておきたいですね」

 

「なるほどー。それじゃあ商業地区の方とか見に行って見ますか?商業地区ならこの時間なら準備の為に開けてると思いますよー!」

 

「それでは、そこでお願いします」

 

「かしこまりましたー!」

 

 私とマキさんが町に入ったのは町の東門だったらしく、大通りと呼ばれる道は、ちょうどその東門から入った所だったらしい。

 

 どおりで、門からギルドまでが直ぐに着く筈ですね。

 

「この大通りは町のほぼ真ん中を走っていて、そこから大きく四つに地区が分かれていくんですけどね。まずは特定のホームを持たない冒険者達の宿が多い宿泊地区。ゆかりさんがご利用頂いている我が家もそこですね。そして今から向かう商業地区。ここはアイテムとか砥石とかそういうのを売ってますね。専門的な武器をお求めなら商業地区ではなく工業地区がオススメです!生産地区にも幾つかありますけど、生産地区は魔物の皮や爪とかを扱ってる事が多いと思います」

 

「つまり簡易的な武器が欲しいなら商業地区。オーダーメイドが欲しいなら工業地区。って事ですか」

 

「まぁ、そんな感じですね!ほとんどの冒険者は商業地区で買っちゃうので工業地区の職人方はだいたい商業地区からの依頼でカンカン作業してますけどね」

 

 そうこうしている間に、私達は目的の場所。商業地区へと足を踏み入れていた。

 

「さぁて!何を見ます?やっぱり魔法士のゆかりさんならポーションとかですか?」

 

 ポーション。魔力を回復する事が出来るアイテム。少し値が張る。

 

「うーん。本当はそういうのも欲しいのですけどね。今はまだお金も有りませんしやめておきます。それよりささらさん。武器って何処に売ってます?」

 

「・・・ゆかりさん。魔法士なのに武器持つんですか?」

 

「え、持たないんですか?」

 

「えー。持ちませんよ。一番後衛で戦う魔法士が持つのなんて回復系のアイテムとかですよー。まぁたまに杖系のロッドとか持ってる人は居ますけど」

 

 あくまでもアレは魔力の安定をさせる為の物だ、とささらさんは付け足した。

 

 うーん。そんなものなんですかね。私の想像ではもう少し武器とかも使うイメージだったんですけど・・・。

 

「まぁ、ナイフくらいは持っておこうかな、と」

 

「んー。まぁそれくらいならかさばりはしないと思いますけど、じゃあ剣士スキルとかも取るんですか?」

 

「いえ。スキルは特に取る予定は無いですね」

 

「スキルも持たずに武器を持つんですか。いや、まぁそういう人もたまに居ますけどぉ」

 

「まぁ、いいじゃないですか」

 

「そうですね。ナイフでしたらオススメは・・・お?ちょうど開いてますよ!」

 

 そう言ってささらさんが指を指したのは、小さなお店だった。

 

「あそこ、私の知り合いの店なんですけどね?お父さんが工業区で鍛冶師をやってまして、その商品をこの店で扱ってるんですよー」

 

「へぇ。ささらさんのお友達ですか?」

 

「はい!そうですね」

 

「それなら、見て見ましょうか」

 

「はーい!」

 

 店の前に掲げられた看板には『(つづみ)屋』と書かれていた。

 

「おーい、つづみちゃん!」

 

 ささらさんが店に入るなりそう呼びかけると、店の奥から青い髪のショートカットの女の子が出迎えてくれた。

 

「いらっしゃい。珍しいね?佐藤がウチに来るなんて」

 

「佐藤?」

 

「あぁ、私の家名ですよ。さとうささらって言うんです。それよりつづみちゃん!こちらは冒険者のゆかりさん!で、オススメのナイフとかを探してるんだけど」

 

「相変わらず(まく)し立てるね。初めまして。鼓屋の店主を務めさせてもらってる、すずきつづみです」

 

「あぁ、これは御丁寧にどうも。私はゆかりです、冒険者になったばかりなんですけど」

 

「それでナイフを選ぶなんて、もしかして弓士の方ですか?」

 

「いえ。魔法士なんですけどね」

 

「ね?面白い人でしょ?」

 

「さとうが連れてくるのも、分かる気がする」

 

「でしょー!」

 

 この二人、とても仲が良いみたいですね。仲の良い・・・友達・・・・・・。

 

「痛っ」

 

 突然襲いかかる頭痛に、思わず声を上げてしまった。

 

「ど、どうしました?」

 

「あ、なんでもないんです。ちょっと頭痛が・・・。それより、ナイフなんですけど」

 

「あぁ。そうでしたね。どうぞ。ナイフはこちらに幾つかありますので」

 

 そう言うとつづみさんは奥の方へと戻って行った。

 

「あっちにあるんで、見に行きましょっか」

 

「そうですね」

 

 なんだろう。さっき何かを思い出せそうだったのだけれど・・・。まぁ、今は気にしなくてもいいですかね。

 

 先に奥へと入った二人を追って、私も店の奥へと歩を進めた。

 

 




「ささらと!」
「つづみの」

「異世界講座~」

「こんにちは、すずきつづみです」
「こんにちは!さとうささらです!」
「今日はゆかりさんの変わりに後書きコーナーを努めさせていただきます」
「つづみちゃん!今日は何のお話だっけ?」
「今日はゆかりさんも居ないから、私達の家の話だってさ」
「なるほど!まずは私からかな?私の家は、お母さんがさとうの宿って名前のお宿をやってます!昔は繁盛してたんですけど、今はたまに来る人とか近所の人が下で食事をするくらいですね。一応お宿としてはあんまりですけど、飲み場としてはそこそこ流行ってるんですよね」
「次は私。金物刃物の店、鼓屋の店主をやってます。父が作った商品を何とか捌いて生計を立ててます」
「鼓屋さんの武器、凄いの多いんだけどなぁ」
「お父さんが頑固者だから、あんまり売れてないんですよね。オーダーメイド品とかもすぐに断っちゃうから」
「私もたまにお店手伝ったりしてるけど、やっぱり大きい所にお客さん取られちゃって大変だよね」
「うん。もう少しなんとかしたいんだけどね」

「っと、今日はこの辺かな?」
「そうだね。皆さん。また次回お会いしましょう」
「ばいばい!」


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Ⅱ.ⅱ 明けの欠月

「おー。いっぱいありますね」

 

 鼓屋は手前のエリアはオーダーメイドの受付や、簡単な修復。刃の研磨を依頼する事が出来る。そして私達が居る奥のエリア。ここには、つづみさんのお父さんが打った武具がずらりと並んでいた。

 

「ナイフが欲しいって話でしたけど、具体的にどんなのが欲しいとかあるんですか?」

 

「いえ、あまり武器に詳しい訳では無いので・・・。初心者にも扱い易い物が良いですかね」

 

「そうですか・・・。うん。さとう、向こうの棚からダガー何本か出してくれる?あとククリを一本・・・あ、ソードブレイカーも」

 

「了解!ちょっとまっててねー」

 

「それじゃあ、ゆかりさん。取り敢えず握ってみて下さい。どれがしっくり来るとか、どれくらいの重みがいいとか、そういうのを教えて頂ければそれに近いものから徐々に絞り込んでいくので」

 

「分かりました」

 

 ささらさんが運んでくる物の握った時の重み、刃先の重さ。重心のブレ等。様々な点をつづみさんの話で照らし合わせていく。あまりにも時間が掛かってしまった為、ささらさんは途中でギルドの仕事へ戻ってしまった。アシスタントの居なくなった私達は私が気になる物を手に取り、それに近いものをつづみさんが探す、の繰り返しだった。

 

「ここら辺のは凄く手に馴染む感じでしたね」

 

「やっぱりダガー系統。そして、グリップが浅めですか。重さとかは大丈夫でした?」

 

「はい。重さは特に気になりませんでしたね」

 

「うーん。それなら・・・これとかどうです?」

 

 そう言ってつづみさんが用意してくれたのは、余計な装飾の無い、黒を基調とした刃に赤のラインが映える、握り部分も余計な力の入らない形のダガーだった。刃は、どこか三日月を思わせる背の反り。グリップの先には取り回しを向上させるためのリングが添えられていた。

 

「お?・・・おぉ!なんだか凄くしっくり来ますよこれ!」

 

「良かった。それは父の作品でも滅多に売れない部類の武器なんですよね」

 

「へぇ。これで売れないですか?」

 

「何せその武器、魔力を通せないんですよね」

 

「魔力を?」

 

「えぇ。他の武器なら魔力を通すことで能力を発揮する事が出来たりするんですけど、そのダガー。それだけは材料が違うんですよね」

 

 ・・・なんか聞いたことありますね。もしかしてこれ・・・・・・。

 

「もしかして、このダガー。月の?」

 

「おや、よく分かりましたね。それは月の欠片と呼ばれる鉱石をベースに作り上げた物らしいです」

 

 あぁ、やっぱりですか。

 

 やっぱり、魔力を通せない。という性質を持つのは月に連なる物だと、安易に予想が着いた。

 

「あの、これ」

 

「あぁ、やっぱりダメですよね。丁度いいのはそれだと思ったんですけど」

 

「いえ。これが欲しいです」

 

 私の言葉を聞いたつづみさんは、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしていた。

 

「良いんですか?」

 

「はい。もともとメインで使う訳では無いので」

 

「でも、魔法士のゆかりさんなら魔鉄鋼とかの方がいいんじゃないですか?」

 

「私の魔質では、魔鉄鋼の力を引き出せません。それに・・・」

 

「それに?」

 

「好きなんですよね、"月"」

 

「・・・・・・・・・そうですか」

 

 つづみさんはそれだけ言うと席を立ち、一本のペンを手に戻って来た。

 

「つづみさん。それは?」

 

「これは、所有者登録の為のアイテムです。このペンを通して鋼に魔質を流し込み、名を刻む。これを行わないと、盗難等の被害に遭う可能性もあるんですよ」

 

「魔力で名を刻む・・・あぁ。だから売れないんですか」

 

「はい・・・。父の商品の中でもトップクラスの駄作ですよ」

 

 月の魔力を帯びた鉱石を、炎を使い加工をすることは出来る。が、希有な月の魔力に対して魔力で名を刻む事が出来るのは、月の魔力か陽の魔力くらいだろう。例え、月や陽の魔質をを持つものでも、それを正しく扱える者でなければ魔力として行使することは出来ない。

 

「さぁ。ゆかりさん。これで名を。それが出来ないのであれば、それはお譲り出来ません」

 

「は、はい・・・」

 

 月の欠片で出来た刃に、ペン先を突き立て、自らの魔力を流し込んで行く。

 

 集中・・・集中・・・・・・!

 

「で、出来ました!」

 

「うそ・・・本当に、月の魔力を・・・?」

 

「出来ましたよつづみさん!」

 

「・・・・・・・・・そうですね。はい。これでこのダガーはゆかりさんの物になりました。またメンテナンス等の際にウチに持ってきて下さいね」

 

「この子、名前とかあるんですかね?」

 

「えっと、うーん。お父さん、思い入れがあったりするとつけてる時もあったかな?そのダガーのウィンドウを開いてみれば分かると思いますよ」

 

 ウィンドウ?あぁ、ステータスの魔法でしたっけ。武器の情報を確認するウィンドウを展開する、と。

 

 ダガーの表面に指を二本添え、なぞる様に横へ斬る。

 

「お、出ましたね。えーっと・・・つづみさん。これ、なんて読むんですか?」

 

「どれどれ?」

 

 あ、良かった。武器の情報覧とかは他の人も閲覧出来るんですね。

 

「多分ですけど、欠月(かけづき)じゃないですか?」

 

「欠月・・・」

 

 何かを確かめるように、何度のその銘を口にする。

 

「あの!つづみさん!これ、いくらくらいするのでしょうか?」

 

「そうですね・・・。希少な鉱石を使っているのでユキナ銀貨三枚くらい・・・でしょうか?」

 

「ユ、ユキナ銀貨三枚・・・・・・」

 

 銀貨が三枚。と、言うことは銅貨が三百枚必要となる。

 

「あ、あの・・・少しまけて貰えませんか・・・?」

 

「と、本来なら言いたいところですけど」

 

「え?」

 

「さとうが一人の冒険者にここまで肩入れするなんて、珍しいですからね。この代金は、出世払いでも良いですよ?」

 

 意地悪そうに、からかうように微笑んだその仕草にドキッとさせられる。

 

 普段クールな子がこう、ふと見せる笑顔って凄く可愛いですよね。

 

「良いんですか?」

 

「はい。その代わり、いつかこの鼓屋を繁盛させて下さいね?」

 

「・・・はい。必ず」

 

 その後、つづみさんに改めて礼を告げ、急ぎ足で鼓屋を後にした。

 

 さぁ、ようやくです!武器もあるし、魔法もある!ようやく始まる!私の、異世界生活が!

 

 

 

 

 

「ふーん。あの子かいな?蜂もあんな小さい子に興味持つようになったんか?」

 

「雀蜂様、だ。口には気をつけろ」

 

「へいへい。で?あの子をどうしろて?」

 

「今日は・・・うむ。五日後の夕暮れ。南の洞窟だ」

 

「・・・・・・うちには関係のない話やけどな?あの子を連れていったら、オタクら何するつもりや?」

 

「それをお前が知る理由はない」

 

「ま、ええわ。葵のためや。やれと言われればやる」

 

 もう、何人も巻き込んできた。今更、止まることなんて出来ない。

 

 なぁ、葵?きちんと無事で過ごしてるか?うちな・・・ようやく、葵と普通の暮らしが出来そうなんや・・・・・・。

 

「さぁ、行こか」

 

 動き出す。悪意の波が、引いてはまた、寄せて行く。

 




『本日の後書きコーナーは諸事情によりお休みさせていただきます』

「・・・なんですかコレ」
「ま、まぁしょうがない・・・かな?」

「まぁそうだね。休みなら休むしか無いし。それじゃあさとう」
「うん。つづみちゃん!」

「「ばいばい!」」


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Ⅱ.ⅲ 始めての依頼

ほんと、前書きって書くことがないですよね。次回くらいからキャラ設定とか書いていこうかなって思ってます。おわり


「あ、おかえりなさい。良いの・・・あったみたいですね」

 

「もしかして、顔に出てました?」

 

「はい。それはもう、とても分かりやすかったですよ」

 

 私、そんなに分かりやすく顔に出るタイプだったんですね。

 

「それで、どんなのにしたんですか?」

 

「あぁ、これですよ」

 

 腰の部分に付けたホルスターから欠月を抜き放ち、カウンターへと置いた。ちなみにこのホルスターは、つづみさんからの交友の証としてプレゼントして貰った物だ。

 

 本当に、あの人には頭が上がりませんね。

 

「カッコイイのを選びましたね!」

 

「そうでしょう?この子、なんと月の欠片で出来てるらしいんですよ!」

 

「月の欠片・・・」

 

 その名前を聞いたささらさんの表情が、苦い物になったのが分かった。

 

「どうかしました?」

 

「・・・・・・いえ。月の欠片と言うのは、名前は綺麗に聞こえますけど怖い噂みたいなのがあるんですよ。古代から、月の光に魅力された者はその精神を破綻させると言われてました。その魅力された人間は、悪魔憑きだなんて言われてたみたいです。そしてその人間は月に近づく為にその欠片を追い求める。って、まぁおとぎ話みたいなものですけど」

 

「そんなのがあるんですね・・・」

 

「まぁゆかりさんなら大丈夫だと思いますよ。なんせ月の魔力を宿してるんですし。それより、この後は依頼を受けるんでしたよね?」

 

「あぁ、はい。何か良さそうなのありますか?」

 

「うーん。あ、これなんてどうです?東の森のゴブリン退治!」

 

「ゴブリンですか」

 

 ゴブリン。漢字で表すと小鬼。邪悪な心を持つイタズラ好きの精霊の一種とされる。人を襲う事もあるが、人間に友好的な部族も存在するポピュラーな魔物で、光るものを集める習性がある。

 

「はい。特に指定もされていないので何体か倒せば任務としては完了ですね。依頼主は近くの村の方となっています。初心冒険者にはオススメの依頼ですよ!」

 

「そうですね。まずはそれを受けましょうか」

 

「お一人で行かれるんですか?」

 

「そうですね。パーティを組む人も居ませんし、とりあえず一人で行ってみます」

 

「分かりました。くれぐれも無理はしないでくださいね」

 

「はい」

 

 ゴブリンは初心者にでも狩れる相手だ。魔法や欠月を試すのには丁度良い相手だろう。

 

 ささらさんとのやり取りを終え、私は東の森へと向かった。

 

 

 

「こう見ると、なかなか広い森ですね」

 

 東の森へと足を踏み入れた私は、早速標的であるゴブリンを探して周囲の散策を始めた。探し始めて数分。なんなくその姿を目に捉えた。

 

「お、居ました居ました 」

 

 標的は一体のみ。森を流れる渓流の傍で座り込み、何かをしているようだった。

 

「さて、まずは・・・月の弾丸!」

 

 私の掌から放たれた弾丸は、ゴブリンの無防備な背に直撃するも、大したダメージには至らなかったようだ。突然攻撃を受けたゴブリンは傍に置いていた錆びた剣を手に、身構えようと試みるも身体を蝕む月の魔力により身動きが取れずにいた。

 

「ごめんなさいっ!」

 

 私の振るった欠月はゴブリンの首元へ吸い込まれるように突き刺さり、やがてその活動を停止させた。

 

「・・・ふう。やれば出来るものですね」

 

 元の世界ではごく平凡な人間であった私だが、他の命を奪う事で明日を生きていかなければならない。その状況が私を強く突き動かした。

 

「さて、証明となる品を持って帰るんですよね」

 

 何を持って帰れば良いのか分からないが、とりあえずその爪を採り次の獲物を探すべく再び森の中を進んでいく。しばらくして三体のゴブリンを発見出来た。

 

「よし!月の弾丸!」

 

 一体に命中した際、傍にいた二体がこちらに気付きこちらに向かい走ってきた。もう一度月の弾丸を放つも、その性質上ゆっくりとした動きで飛んでいくそれを、ゴブリンは軽々と回避してみせた。

 

「あっ!躱すんですか?!」

 

 近づいて来た一体が振るう棍棒を、身体を捻ることで躱すことに成功するも、もう一体が振るう棍棒を躱しきることが出来ずに肩を掠ってしまう。

 

「痛!こっの・・・!」

 

 お返しに欠月を首元を目掛けて力任せに振るい、それを躱すために体が仰け反ったところに目掛けて月の弾丸を放つ。その弾丸を受けたゴブリンはその体を一瞬硬直させるもすぐに自由を取り戻した。

 

「魔力が少な過ぎた?」

 

 一度大きく飛び退き、ゴブリンとの距離をとる。そのタイミングで最初に硬直させたゴブリンも自由を取り戻し、二体と合流した所で戦闘は振り出しへと戻った。

 

 さて、どうしましょうか・・・。

 

 月の弾丸で動きを止めようにも、ふわふわと漂う弾丸はおそらく容易に躱されるだろう。

 

 まだ魔力の込め方も安定してませんし、ここは無理出来ませんね・・・。それに、こんなにゆっくりじゃまた躱されちゃいます。

 

 どうしたものか。ゴブリンの動きに目をやりながら考える。

 

 もっと早く?もっと小さく?もっと魔力を・・・これだ!

 

 手のひらを向けるのではなく、指を一体立てて手を銃を模した形にし、指先に力を込めていく。

 

 魔力は多め、大きさはそこそこで、速度を重視・・・!

 

 指先から放たれた小さな月は突っ込んで来た一体の動きを完全に静止させ、他の二体にも同じ様に弾丸を叩き付ける。先程とは違い、素早く相手に飛翔する弾丸を躱すことが出来なかったゴブリン達は驚愕した顔を見せるも、その無防備な体に欠月を振るう事でその命を削り着ることが出来た。

 

「はぁ・・・はぁ・・・・・・ふう。よし、これなら戦闘中でも何とか使えそうです」

 

 ピコピコと点滅するスキル覧を確認すると、月の弾丸は月の銃弾へとアップグレードされていた。

 

「月の銃弾。言い得て妙ですね」

 

 素早く戦利品を取得し、次なる獲物を探して更に奥へと進んで行った。

 

 

 

「ふう。まぁ、こんなものですか」

 

 ゴブリンを見つけては銃弾を浴びせ、欠月でとどめを刺す。それを繰り返していくうちにゴブリンの爪は二十本に近い数が集まっていた。

 

「さて、そろそろ町に──ッ!」

 

 何者かの気配を感じ、思わず周囲を確認するもその姿を視界に捉える事は出来なかった。

 

 気のせい・・・では無さそうですけど・・・。何かを仕掛けてくるわけではないので敵ではなさそうですね。

 

 これ以上は考えても仕方がない。私は一応素早く町へと戻るべく足を進めた。

 

 

 

 

「今のを気付くんかいな・・・末恐ろしいでホンマに」

 

 あの子、見たことの無い魔法を使っとったけど、固有魔法か何かか?これは攫うとかは無理そうやなぁ・・・。

 

 木の影から、赤い髪の少女がその姿を表した。

 

 まぁそれならそれでやりようはある。まずは相手に取り入る所から、やな。

 

 そして再び少女は木々の影へと消えて行き、森には普段の静寂が訪れていた。




本日の後書きコーナーはお休みとさせて頂きます。

「また、ですか」
「なんだか後書きコーナーで言うことが思い浮かばないんだってさ」
「まぁ良いですけど。あんまりサボってると読んでくれてる人に怒られるんじゃないですか?」
「まぁ程々にって事ですね」
「そうですね。それではささらさん」
「はい!」

「「ばいばい!」」


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Ⅱ.ⅳ 影

ゆかり:ジョブは魔法士。魔質は月。得意とする魔法は、誰も知らない発展途上のチカラ『純月魔法』
全体的なステータスはこの世界の平均に近いが、魔法士として致命的なINTは17と高い値を誇る。
この世界に来たばかりの18歳で、元の世界に関する記憶の大半を失ってしまっている。マキやささらの手を借りて今日も生きていく。
座右の銘は
「やるからには目標を。目指すからには天辺を」


「ただいま戻りました」

 

「あ、おかえりなさい!少し遅かったですね?」

 

 東の森でのゴブリン退治を終え、変な予感を感じながら素早く冒険者ギルドへと帰還した私をささらさんが出迎えてくれた。

 

「はい。月の魔法を練習していたら少し遅くなっちゃいました。ゴブリンの爪、コレで足りますかね?」

 

「はい。確認しますね・・・爪が二十本、ですか。うーん。爪は承認率が少し下がっちゃうんですけど・・・ま、そこは上手い感じにやっておきますよ。でも私が居ない時とかは爪とかよりゴブリンの巾着や装飾品を持ってきてくれた方がいいかもですね」

 

「分かりました。次からはそうするようにしますね」

 

「まぁ本当は武具とかの方が良いんですけどね。冒険者のカバンにあまり空きは無いでしょうから、とりあえずは装飾品がベストだと思いますよ。収納魔法とか持ってる人は凄い数を一気に納品したりしますけど」

 

 冒険者のカバン。冒険者として認められた者にギルドから贈られる物で、ある程度の"大きさ"や"重さ"を無視して収納することが出来る鞄で冒険者としてのランクが上がる事でその容量が増えて行く。冒険者の中でも、最底辺であるランクⅠの私の鞄の容量はとても小さい。欠月はホルスターに収納している為、容量を食うことは無いが耐久値の高くない私は攻撃を受けた際に体力を回復する為の薬草等を少し多めに持ち運んでいる。ゴブリンの爪程度の質量の物なら大量に持ち運ぶ事が出来るが、少し重い物となって来ると僅かな量しか持つ事が出来ないのだ。

 

 収納魔法・・・なんとかして会得したいものですね。

 

「それはそれとして、はい。依頼の達成、おめでとうございます!」

 

「ありがとうございます」

 

「依頼の達成報酬として、銅貨が十五枚。討伐数による追加報酬として、爪が二十本分で銅貨二十枚。合わせて銅貨三十五枚となります!」

 

「銅貨三十五枚・・・」

 

 一日を銅貨三枚で泊まれるささらさん家のお宿だと、これだけで二週間近くを過ごせるのだ。

 

 と、当分は働かなくても良いのでは・・・?!

 

 なんて駄目な気持ちが私の心に浮上するが、頭を振ってそれを振り払う。

 

 駄目です駄目!一日でも早く稼いでつづみさんに欠月の料金をお払いしに行かなくてはなりません!

 

「どうかしました?」

 

「いえ。なんでもありません。もう良い時間ですし、今日はお宿に帰るとしますね」

 

「あ!じゃ、じゃあちょっとだけ待ってて貰えませんか?私ももうすぐ終わる時間なんで!」

 

 冒険者のギルドは基本的に何時でも開いている。朝から働いてるささらさんは夕方の五時までとなっていて、そこからは夜のパートの人が引き継いでいくのだという。

 

「分かりました。それじゃあ色々と見て回ってますね」

 

「はい!」

 

 さて、それでは少しぶらつきますかね。

 

 ギルドの中を見渡すと、やはりパーティを組んで活動している冒険者が多数で、ソロでギルドに出入りしている人間は少なそうだった。

 

「パーティ、良いですね」

 

「お?なんや、お姉さんおひとり様かいな?」

 

「ん?」

 

 口から自然と出た言葉に、素早く反応を入れて来たのは見たことの無い赤い髪をした少女だった。

 

「うちは"ことね"っちゅうもんや。お姉さん、見たところおひとり様みたいやな?明日から、良ければうちとパーティ組もうや」

 

「良いんですか?私、ランクⅠなんですけど・・・」

 

 色々と聞きたいことはあった。それでも、今は目の前にぶら下げられた餌への欲に抗うことが出来なかった。

 

「なんやそうなんか?東の森でちょこっと見かけた時にはエラい派手に戦っとったから、てっきり同じランクⅡなんかと思っとったわ」

 

「あなただったんですね。森に居たのは」

 

「たはー!バレとったんか。うちの気配遮断はそこそこ通用するんやけどなぁ。ちょいと自信なくすわ」

 

「あ、その。すいません・・・」

 

「冗談や冗談!で?どうする?」

 

「ことねさんがよろしければ、是非お願いします!」

 

「お!決まりやな!依頼はそっちで選んどいてくれるか?うちは東の門の傍で待っとるさかいな」

 

「わ、分かりました!」

 

「ほな、また明日。ゆかりさん!」

 

「は、はい!」

 

 それだけを言うとことねさんはふらりと人混みの中へと消えていった。

 

 もうどこに行ったか分からなくなった。これが気配遮断・・・特別なスキルか何かでしょうか?

 

「すいません!お待たせしました!」

 

 考え事をしていると、ささらさんが駆け寄ってきた。

 

「もうそんな時間でしたか」

 

「はい!今日は商業地区の方へご飯を食べに行きましょう!私が奢りますよ?」

 

「いえ、流石に奢ってもらうのはちょっと・・・」

 

 いや、手持ちの銅貨は依頼で貰った三十五枚と昨日ギルドから貰った二十枚から宿代一枚を引いた十九枚。計五十四枚となっている。

 

 この分で足りる所だといいんですけど・・・。

 

「いやいや!ここは先輩である私が奢りますよ!」

 

 ・・・・・・んん?

 

「え?ささらさん。今いくつです?」

 

「私ですか?私は十六です」

 

「私は十八ですよ?!」

 

「えぇ?!てっきり十五歳くらいなのかと思ってました・・・」

 

 え、この子まだ十六歳?え?この胸で?嘘でしょう?一体何を食べてるんですかこの人。

 

「十八歳なんですね・・・そのむ『その先を言うことの意味、分かりますよね?』あ、なんでもないです」

 

「それならいいです」

 

「ま、まぁ今日は私が奢りますよ!ギルドのお給料って、そこそこあるんです!」

 

「・・・まぁ、そこまで言うであればお願いします」

 

「はい!お酒の美味しいお店、知ってるんですよ!」

 

「ささらさん。十六でお酒なんて飲むんですか?」

 

「えー?まぁまぁ!お堅い事は言わずに!ささ!行きましょう!」

 

 急かすささらさんに手を引かれ、私達は商業地区のささらセレクトの店へと向かった。

 

「ここですここ!良い果実酒が置いてあるんですよー!」

 

「それは楽しみです」

 

「さ、ゆかりさん!早く入りましょう!」

 

 ・・・あれ?・・・・・・ゆかりさん?

 

 そういえばさっき。

 

『ほな、また明日。ゆかりさん!』

 

 私はあの時。まだことねさんに名前を言ってない。

 

 ささらさんと話をしている時、もう既に近くに居た?いや、近くには誰も居なかったはず・・・いや、彼女自身が言っていたでは無いか、"気配遮断"。

 

「あの、ささらさん」

 

「なんですかー?」

 

「気配遮断というスキルをご存知ですか」

 

「・・・なんだか大事な話みたいですね。とりあえずは中へ、個室を用意して貰いましょう」

 

 真面目モードに切り替わるのは良いですけど、すごくこの店に行きたいって事だけは伝わって来ますね。

 

 まぁ、他に安心出来る場所なんて私は知る由もない。ここはとりあえずこの店に入るとしよう。

 

「はい。入りましょう」

 

 店の中に入った私達は、ささらさんの言った通りで個室へと案内された。

 

「それで・・・気配遮断、でしたっけ?」

 

「あ、はい。そうです。そういうスキルがあるんですか?」

 

「正確にはスキルではなくてジョブに付属するパッシブスキルですけどね。ゆかりさん、ステータスのウィンドウを開くと色々と情報が並ぶじゃないですか」

 

「はい。これですね」

 

「そしたらそこにジョブレベルって項目があると思うんですけど」

 

 ウィンドウを開くといつも通り上の方に名前とランク、現在のジョブ、横の方にステータス、スキル、ジョブレベル、フレンド、メッセージと縦に並んでいた。ジョブレベルという項目をタップすると、ウィンドウの画面が切り替わり魔法士LvⅡと表示されていた。

 

「あぁ、これですね。私だと魔法士のレベルがⅡになってます」

 

「一日でLvⅡ・・・INTが高いと経験値の効率が高いんですかね。っと、そのジョブをタップしてみて下さい」

 

「はい。ん?あぁ、なるほど。これがパッシブスキルですか」

 

 私のジョブは初期職である魔法士。その魔法士のパッシブスキルは"詠唱短縮Ⅰ"と書かれており、その能力を見ると本来魔法を扱う際に必要な詠唱を少し短縮する事が出来る、というものだった。

 

「はい。ジョブの能力を使って敵を倒すとジョブの経験値が貰えます。その経験値を使って新たなパッシブスキルを覚えたり、パッシブスキルの強化が出来るって訳です。だから偶に冒険者としてはランクⅡだけれどジョブのレベルは凄く高いって人もいるみたいですよ?あ、すいませーん!注文お願いしてもいいですかー?」

 

 余程空腹だったのか、合間を見つけてはお店の人に声をかけ注文をお願いしていた。私も少し空腹気味だったのでささらさんのオススメを適当に頼んでもらっておいた。

 

「それで、どうして急に気配遮断なんですか?」

 

「さっきギルドでパーティを組まないかって誘われまして、その人が気配遮断に自信があるみたいな事を言ってたんですよ」

 

「気配遮断は弓士の派生職に当たる"シーフ"が得意とする能力です。もちろん弓士の人や普通の剣士の人も取ったりしますけど」

 

「剣士派生でも気配遮断は取れるって事ですか?」

 

「気配遮断の能力は弓士の系統に一番適性があって、次いで剣士の系統なんですよ。魔法士は気配遮断なんて使わなくても似たような魔法があるのでそちらを習得する人が多いですかね。あ、すいません!おかわりお願いしますー!」

 

「・・・ささらさん。それ何杯目ですか?」

 

 まだ店に到着してからほんの数十分足らずだと言うのに、既にコップを二回は空にしてお店の人を呼んでいた。

 

「私嬉しいんです!今まで、仲の良い人ってつづみちゃんくらいでしたから・・・。こんな仕事柄、あんまり歳の近い人とも交流が少ないんですよね。だからゆかりさんが来てくれた時、私は嬉しかったんです!」

 

「ささらさん・・・」

 

 そう言って貰えるのは嬉しい事だった。この世界に来たばかりで右も左も分からない私を支えてくれたのはマキさんとささらさん、つづみさんだった。

 

「だからくれぐれも無理だけはしないで下さい!じゃないと私は、また一人になっちゃいます・・・」

 

 寂しそうに、悲しそうに、そうボヤく彼女の手を取り私はこう告げた。

 

「大丈夫ですよ。私は、絶対に居なくなったりしません」

 

「・・・・・・はいっ!」

 

 それから少し話をした。私はこの世界に関する記憶をほぼ持ち合わせていないこと。自らの事すらもまだ分からないこと。向こうの世界に関する事以外は全てを話した。私の支えになってくれるこの人へのせめてもの礼儀として。

 

 

 

 そうして夜は更けていく。今宵は月がこの世を照らす事は無かった。厚い雲が空を多い、地に影を落として行く。

 

「後、四日か」

 

 その派手な赤い髪を風に揺らし少女はそこに立つ。

 

「ゆかりさん、いうたっけ?ええ人そうやったな・・・」

 

 強い風がその言葉を攫い少女の傍を吹き抜ける。

 

「うちにはうちの目的がある。その為に蜂なんぞに手を貸して来たんや・・・。でも、それももう終わりや」

 

 

 

「せやから・・・堪忍な?」




「どうも、結月ゆかりです。皆様、沢山のお気に入り登録ありがとうございます」
「これからも書主と一緒に頑張りたいと思います!さとうささらです!」

「始めて頂いたコメントも、とても励みになります!」
「最近になって突然、創作意欲が湧き始めちゃったみたいで、渋さんの方でも何作か始めるみたいですね」
「どうなるかは分かりませんが、良ければそちらの作品達も覗いてあげてください!"ここ"とは感じが違う作品らしいですよ!」
「何かしらの形でこの作品との関連も持たせたいってあの人は言ってましたね」
「そうなんですか?!それは私達も期待大ですね!」

「おっと、今回はこの辺りみたいですね」
「皆さん!また次回お会いしましょう!」

「せーのっ」

「「「ばいばい!」」」


「あれ?つづみちゃん」
「私だけ仲間はずれなのは嫌だなーって」
「すいません、つづみさん。次からは3人で言いましょう」
「・・・うん」


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Ⅱ.ⅴ 衝突

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよーさん」

 

 約束通り、東の門の傍に彼女は立っていた。

 

 結局、昨日はささらさんに付き合って遅くまで飲んでいたせいであまり話が出来なかった。

 

 この人については一度保留にしておきましょうかね。ひとまずのところ、明確な敵ではなさそうですし。

 

「それで?ええ依頼はあった?」

 

「はい。今日は東の森の奥地でコボルトの討伐に行きたいと思うんですけど」

 

「あぁ、わん子か。確かにええ相手かも知れやんな」

 

 ことねさんが言う、わん子とはコボルトの事でコボルトはゴブリンと似たような性質を持つ種だが、ゴブリンは好んで人を殺す事は無い。一方、コボルトは犬のような頭部をしていてよく集団で狩りを行う種族だ。ゴブリンが採取の為に人を傷つけるのに対し、コボルトは人を殺して肉を喰らうと、言う点が一番の違いだろう。

 

「えぇ。私達も二人での活動になりましたし、相手にするにはちょうど良いかと」

 

「せやな。コボルト程度ならゆかりさんなら特に問題なく相手に出来るやろしな」

 

「私、貴方に名前言ってましたっけ?」

 

「あぁ、ウチな。あんたの事はこの町に来た時から目に付けとったんよ。それで気配遮断使ってこっそり受付さんとの話を聞いとったんや」

 

「・・・そうですか。まぁそれは良いですけど、次からは止めてくださいね」

 

「勿論や。もうこうして面と向かって話しとる訳やしな」

 

「それじゃあ、行きましょうか」

 

「せや、はよ行こ!」

 

 この人、悪い人って感じはしないんですけどね・・・。でも、何だか少し嫌な予感みたいなのがする時があって・・・・・・。

 

 東の森は、私たちが暮らす町インティウムから街道を通り半時間で着く森だ。始めて目が覚めた場所であり、始めて戦った場所でもある。

 

 マキさん、わざわざ魔物の少ない道を進んでくれてたんですね。

 

 昨日もそうだが、彼女の気使いがこうして自身の判断で道を行くとよく分かる。

 

「なぁ、ゆかりさんは冒険者になったばっかりなんやろ?」

 

「えぇ。そうですよ」

 

「って事は初期職って訳やん?どれにしたん?」

 

「あぁ、私は魔法士にしました」

 

「お。また珍しいやん」

 

「ことねさんは何の職に着いてるんですか?」

 

「うち?うちは今、シーフをやっとるんよ」

 

 やはりシーフですか。

 

 シーフとは、所謂盗賊と呼ばれる職業だ。とはいえ冒険者としての盗賊と、犯罪者としての盗賊では全く意味が違う。だから区別を付ける為に冒険者としての盗賊はシーフと呼ばれている。シーフの特徴は高い気配遮断のスキルと盗みの確率が上がるというものだ。この"盗み"というのは魔物が所持しているアイテムや武器を相手に悟られずに奪い取る事が出来るスキルで、盗みのスキルを高く取って居る者は警戒した冒険者からですらいとも容易く盗みを成功させることが出来るらしい。

 

「な───」

 

 何故シーフを?そう聞こうと思った私は、直前で口を噤んだ。

 

 なんでしょう・・・この感覚・・・・・・。誰かが近くに居る・・・?

 

「──ッ!」

 

 何も無い街道の傍、何かの気配を感じそちらを見るも私の目には何も写らない。

 

「?どないしたんや?急に立ち止まって」

 

「い、いえ。なんでもありません」

 

 これは演技?ことねさんと協力関係にある者が居る?それとも、彼女は何も気づいていないのでしょうか・・・?

 

「んー?何かよぅわからんけど、何にもないんならええわ」

 

「・・・・・・そう、ですね」

 

 再び歩き出したことねさんを追うように、嫌な感じは消えないままだが私も森へと向かい歩き出した。

 

 

 

「ゆかりさん!そっち一匹行ったで!」

 

「・・・はい!」

 

 静かな森の中に、刃がぶつかる音が響き渡る。

 

 コボルトは狩りを行う為に上等な武器を持つことが多い種族だ。私たちが相手にするような下級のコボルトはゴブリンとなんら変わらない装備だが、上級、コボルトロードにもなるとその装備は冒険者が引き継いで使うことがあるほどの物だ。

 

「・・・バレット!」

 

 真名を伏せたままに、月の銃弾を向かってきたコボルトは向けて放ち、その銃弾を追うように欠月をその頭部に向けて叩き付ける。体勢を大きく崩したコボルトはことねさんの手によりしっかりとトドメを刺されていく。

 

「ふう。やっぱ強いなぁ、ゆかりさん。魔法士でナイフ持つ人なんぞ初めて見たわ」

 

「いえ。ことねさんの方はナイフを二本持つんですね」

 

「せやな。人によってはショートソードだったりするんやけどな。ウチはだいたいこのスタイルや」

 

「途中で組み付かれそうになってた時の動き、体術スキルか何かですか?」

 

「あぁ、あれな。あれは弓系に入っとる近接スキルや。体術スキルとはまぁ、似て非なるもんやな。弓系近接スキルは接近された際の脱出手段であり、遠距離から仕留めきれんかった時の保険用のモンや」

 

「へぇ、なかなか面白そうなスキルですね」

 

「お?ゆかりさん興味あるんか?まぁ確かに魔法系の近接は体術スキルくらいしか無いからなぁ。ゆかりさんの戦い方やと弓系近接とか覚えとくんもありやな」

 

 体術スキルと言うのは、あくまでも身体を効率よく動かす為のスキルだ。素早く後方に移動するスキルや、ギリギリの所で攻撃をいなすスキル等、補助的な役割が多い。

 

「さて、これでどれくらい倒しましたっけ?」

 

 戦利品を取得し、一度休憩を挟んだ所で進捗を確認しておく。

 

「ん。今で十匹って所やな。どうする?日も傾いてきとるけど」

 

「そうですね・・・。今日はそろそろ終わりにしましょうか」

 

「了解や」

 

 二人で周囲を警戒しつつ街道まで戻り、ゆっくりと町へと帰還した。

 

 

「・・・ゆかりさん。依頼の完了頼んでええかな?」

 

何処か遠くの方を見つめることねさんが静かな声でそう言った。

 

「構いませんけど。ことねさんは?」

 

「・・・ちょいと武器のメンテナンスに行こうかなて思っとるんよ」

 

「分かりました。分け前はどうします?」

 

「ま、また明日おうた時でええよ。ほな、明日も同じ時間に」

 

「はい。また明日」

 

 こうしてことねさんと別れた私は冒険者ギルドへと向かった。

 

「これお願いしますね」

 

「あ、はい。承りますね」

 

 ちなみに今日はささらさんは昨夜の飲み過ぎで二日酔いになった為、お休みしていた。

 

「お待たせしました。コボルトの討伐、お疲れ様です。依頼の報酬として銅貨が二十枚と、追加分の銅貨が二十枚になっています」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ことねさんへの分け前として半分を差し引いて、私の持つお金は銅貨七十四枚となった。

 

 この調子で行けばつづみさんへの支払いも何とかなりそうですね。

 

 受け付けの人に礼を言い、私は冒険者ギルドを出た。そこで一人の男性に声を掛けられた。

 

「あの、少しお時間いいですか?」

 

「良いですけど、貴方は?」

 

「"眠れ。眠れ。その魂よ。暗き眠りへと墜ちて行け"」

 

「・・・・・・はい?」

 

「『怠惰なる眠り(ヒュプノス)』」

 

 これ・・・は・・・。睡眠・・・系の・・・まほ・・・・・・う・・・・・・?

 

 そこで、私の意識は完全に途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

「この程度の小娘を連れてくるのに、五日も要らないでしょうに・・・やはり、あの子が裏切る可能性があるというのは正しかったと言うことでしょうか」

 

 町行く人は誰もその男を止めようとはしない。

 

 インティウムの町の裏側、悪人達の宴は今宵も開かれる。

 

「さて、あとはこの月の娘を雀蜂様の元へ───」

 

「──おい」

 

 男の足下へと、小さな投擲用のナイフが突き刺さる。

 

 この町の暗黙の了解として、"身分を持つ盗賊"の行為に手を出してはならない、というものが存在する。手を出したものが次の標的にされてしまうからだ。だからこの町の人間達はそれを恐れ、狙われたもの達へと少しばかりの同情を送りつつ、自らが謳歌する幸せを噛み締めるのだ。ただ、少しばかりの例外も存在する。一つとして、その盗賊を殺害する事が出来たのなら、問題は無いのだ。一つたりとも情報を残さずにそいつを殺してしまえば、何の問題もない。もう一つとして、盗賊同士の潰し合い、というものがある。時に縄張りを。時に利益の為。盗賊達は潰し合い、殺し合う時がある。最近になってようやく裏社会を統治する者が現れ、それも減って行った。

 

「・・・・・・その子をどうするつもりや」

 

「どうする?決まっているでしょう。雀蜂様の元へとお届けするのです」

 

「・・・それはうちの獲物や。知ってるやろ?」

 

「ええ。知っていますが、何か?」

 

「・・・人の物を取るってことが、どういうことかも分かっとるわな?」

 

「もちろんです」

 

「そんなら───」

 

 少女の手を介し、二刀のナイフが宙を舞い、空を切る。

 

「アンタはうちの敵って事でええんやなぁ!」

 

「丁度いい。裏切りの可能性がある人間は処分しなければなりませんからねぇ!」

 

「ほう?うちに単独で勝てると?」

 

「ふん。たかが雀蜂様に少し気に入られた程度で何を言うのやら」

 

「あんたの名前(コード)、確か"蟷螂(カマキリ)"やったよな?」

 

 インティウムの裏社会にある盗賊団。彼らを纏めあげるのは雀蜂と呼ばれる男だ。そして雀蜂に列なる上位の者にはそれぞれ"蟲"の名を与えられる。蟷螂もその一人だ。

 

「えぇ。名無しの貴方より格上という事ですよ」

 

「・・・・・・あぁ、そっか。あんたは知らんねんな。うち、この名前嫌いやて使わんからな」

 

「はっ!なんの事かは知りませんが、この蟷螂の鎌から逃げられますかねぇッ!」

 

男が腕を大きく振るい、風の刃は地を抉り少女へと迫る。

 

「逃げる?うちが?そんな攻撃から?」

 

 

 

「────抜かせや」

 

 突如として立ち上がった炎の柱によって、蟷螂と名乗る男は自らの放った風と共に吹き飛ばされてしまった。

 

「グッ・・・・・・え、詠唱を破棄した・・・?」

 

「せや。炎に連なる魔法に対する詠唱を不要とするスキル。うちの権能や」

 

「炎・・・ま、まさか!き、貴様が"蛍"か?!」

 

 その炎は見るものを魅了する。その炎は、罪人を焼き正しき者を守る為に生まれた。

 

「あぁ。かつては人を護りし者。されど今はただの罪人や。せやけど、うちは足を洗いたい。・・・雀蜂のやつをぶん殴って葵を取り戻す!その為にはゆかりさんが必要なんや」

 

 名を蛍。かつて誰かの為にその刃を、その炎を振るいし者。その姿から付けられた名を火垂(ホタル)

 

「うちの名は蛍!いや、琴葉茜や!さぁ!その人、返してもらうで!!」

 



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Ⅱ.ⅵ 火垂

「どうした?もう終わりか?あんだけ大口叩いといてその程度かいな」

 

 ゆかりさんを奪還する為に町に注意を払いつつ、逃げる蟷螂を追っている間に気付かないうちに街道へと繋がる門の前にまで来てしまっていたようだ。

 

 蟷螂。蜂の奴に名前貰っとる割には大したことの無い相手やな?

 

「あ、貴方が何をしようが組織には勝てません・・・知っているでしょう?あの人の恐ろしさを・・・!」

 

「あぁ、確かに蜂の奴は強いな。でも───」

 

 男の魔法により、宙へと浮かぶ彼女に目を遣った。

 

 良かった。怪我とかはしとらんな・・・。

 

「ゆかりさんはもっと強い」

 

「こんな小娘に何を期待しているのかは知りませんが、一つ忠告しておきましょうかね・・・」

 

「なんや?命乞いか?別に命まで取ったり───」

 

「そこが甘いんですよ」

 

 疲労し、横たわっていたはずの男の身体が突如としてその姿を闇へと消した。

 

「消えた?!」

 

「蟷螂という虫の事、あまりご存知ないようですね?」

 

 その声は、闇夜に紛れて移動し続けているのか位置を特定するまでには至らない。

 

「なるほど・・・ステルスか?」

 

「そして・・・この町の事も、ね」

 

 男は、既に町の外へと出て、街道の真ん中に立っていた。

 

「どういう意味や、それ」

 

「今に分かりますよ・・・」

 

 なんやコイツ。えらい気色悪いな・・・ゆかりさんは?

 

 慌てて確認するをするが先程と同じように、風の魔力によって横たわらされた彼女は穏やかな寝息を立てていた。

 

 良かった。・・・・・・これで巻き込む心配もなくなったな。

 

「で?隠れるんはもう止めたんか?それなら全力で行かせてもらうで!」

 

「はい、どうぞ?」

 

「炎の───」

 

解放(リリース)

 

 男の言葉により、圧縮し隠されていた風の刃はその本来の威力を持って炸裂する。

 

「設置型か!」

 

 慌てて飛び退くも、すぐ側で解き放たれた風の魔力の持つ性質によって身体は刃の塊へと吸い込まれていく。

 

「チッ・・・発火!」

 

 生み出した炎を自らの身体にぶつける事で、その衝撃を利用してなんとか風の射程距離からの脱出に成功した。

 

 それは、偶然にも門を越えて町の外へと出ることになったのだが・・・。

 

「やっと、出てくれましたか」

 

「・・・ッ!」

 

 転がった先。そのすぐ横にはもう男が、蟷螂の鎌を持って既にそこに居た。

 

 大丈夫。さっきと同じように・・・え?

 

 その鎌は、容易くうちの身体を袈裟斬りにした。

 

「・・・・・・は?」

 

「我々組織の人間は、町の中での大規模な戦闘を禁じられていましてね?ようやく貴方が町の外へと出てくれたので、助かりました」

 

「さ、さっきまでのは・・・手を・・・・・・?」

 

「これが英雄とまで呼ばれた者の継承者ですか。火垂の名が貴方で途絶えるのは残念で仕方ありませんね」

 

「ッ!」

 

 火垂。それは悪を焼く者。そして善を照らす者。灯者とも言われた人は、この世にはもう居ない。灯者は代々その灯りを継いでいく。時に友人に。時に家族に。その光は絶やされることの無い物。

 

 うちがそれを受け継いだのは二年ほど前の事やった。ある日の事や。仕事に出たはずのおかんが傷だらけになって帰って来た。そん時に初めておかんが灯者やっていうことを知った。そしておかんはうちにその力を託して死んでしまった。それからうちは故郷を離れることにした。灯者としての義務を果たすためや。冒険者でも何でもない葵も、うちについてきてくれた。正直、葵がおらんかったら今までで何回も死んどったと思う。

 

 火垂の力もちょっとは使える様になってきた時やった。うちは、あの蜂と出会ってもうたんや。蜂との戦いに負けたうちに、皮肉にも蛍なんて名前を付けてうちに首輪を掛けた。葵が蜂に捕らえられたのが原因やった。でも、うちは葵のお姉ちゃんや。葵の為にならなんだってする。その覚悟でここまで来て、ようやく希望に出逢えたんや。

 

「例え・・・ウチがここで死ぬことになってもな・・・」

 

「はい?」

 

「この灯りだけは消せはせぇへん!うちは火垂や。その意味を、いずれ分かることになるからな・・・」

 

「私、そういうの嫌いなんですよ。実力も無いのに、名前だけで勝負しようとする人が、一番嫌いです」

 

 あぁ、ゴメンな。葵・・・。ゆかりさんも、ゴメンな・・・・・・。

 

「それでは、サヨウナラ」

 

 振り下ろされる鎌と、風が唸る音がする。

 

 そうして・・・うちは、最後の時を待ち、ゆっくりと目を閉じて───。

 

「ホント、冒険者になって数日で誘拐されるなんて、規格外が過ぎますよー」

 

 その聞きなれぬ声にハッと目を開き、倒れたままにそちらに目をやる。

 

 甘栗色の髪をなびかせて、一人の少女が町の門の前に立つ。

 

「あぁ、もう日が暮れてきちゃいましたね。ゆかりさん、貴方の好きな月が見えますよ」

 

 彼女が触れたその瞬間に、ゆかりさんを捕らえていた風の魔力が霧散し、彼女はゆっくりとゆかりさんを地に降ろすとこちらを見た。

 

「絶対に居なくならないって、約束してくれましたもんね?・・・・・・・・・だから───」

 

 底抜けに明るい雰囲気から一転。凍り付くような、冷たい空気を纏って彼女は一歩、また一歩と歩みを進めた。

 

「誰ですか・・・貴方・・・」

 

「それはこちらの台詞です。良くもまぁ───」

 

 少しづつ、空気が凍てついていく。彼女の周りの地面は既に凍り付き、パキパキと音を立てていた。

 

「この町で・・・よりにもよって、私の友達に手を出しましたね・・・」

 

 な、なんやこの子・・・ゆかりさんとは違うタイプやけど、なんというか・・・ゆかりさんには静かな怖さを感じる時がある。けどこの子は違う。この場からすぐにでも離れたくなる様な・・・身体の芯から強ばっていく感覚がある・・・!

 

「そこで倒れている人。動けます?動けないなら、じっとしておいて下さいね」

 

 それだけを伝え、少女は静かに詠唱を開始した。ボソリと聞こえたその詠唱の断片から、おそらく氷の魔法だと見当がついた。

 

 長い詠唱・・・氷系の・・・LvⅢかいな?!範囲魔法やないか!

 

「ちょっ、待っ・・・」

 

 慌てて頭を抱えて蹲ることしか出来なかった。

 

「『白の世界(グラキエース)』」

 

 その時。世界が止まった───。

 

 

「──はっ?!」

 

「あ、目が覚めました?良かったですねー、貴方に火の適性があって!」

 

 再び意識を取り戻した時には、既に先程の少女が傍らに立っていた。

 

「あ、アイツは?蟷螂は?」

 

「安心して下さい───」

 

 少し先を指差す少女につられてそちらに視線を送る。そこには、完全に凍り付き身動きどころか、意識すらをも刈り取られた蟷螂が氷柱に閉ざされていた。

 

 嘘やろ・・・あの蟷螂を一撃かいな・・・・・・?この子は一体何もんなんや・・・?

 

「それより、貴方に聞きたいことがあるんですけどー」

 

「な、なんや・・・?」

 

「ゆかりさんを"雀蜂"の所に連れて行こうとしてたの、貴方ですよね?ギルドから報告は上がってきてます。事と次第によっては・・・」

 

 再び冷たい氷の様な雰囲気を纏う。

 

「う、うちは・・・・・・」

 

「あの───」

 

 反射的に、その声がした方に視線をやった。それはその少女と同じ事だった。

 

「これは、どういう状況なんですかね?」

 

「ゆかりさん!」

 

 月の魔力を宿した少女が、月明かりに薄らと照らされる。

 

「ささらさん?どうしたんですか、こんな所で・・・って寒っ。この世界の夜はこんなにも冷えるんですか」

 

「あ、その・・・ゆかりさん・・・・・・」

 

「あれ?ことねさん?──どうしたんですか?!血だらけじゃないですか!」

 

 力の入らない脚を奮い立たせて立ち上がった姿を見て、ゆかりさんの顔は青白くなっていった。

 

「・・・・・・はぁ。細かい話は後にしましょう?ゆかりさん、彼女に肩を貸して上げてください。うちの宿に戻りましょう」

 

「あ、はい。大丈夫ですか?ことねさん」

 

「あ、あぁ・・・。うちは大丈夫や。ゆかりさんは?」

 

「私ですか?私は寝てただけですし・・・あれ?そういえば私を眠らせた人は何処にいるんでしょうか?」

 

「ゆかりさん。そんな悠長に話してる時間は無いですよー!」

 

「あ、そうでしたね。ごめんなさい。それじゃあ、行きましょうか」

 

「う、うん・・・・・・」

 

 うちはちらりと街道の奥を見た。月が雲に覆われ闇が続く中、ただずんでいたはずの氷柱は粉々に砕かれ周囲に散らばっていた。

 

 ささらさん、って言うてたっけ・・・。この子、ホンマに何もんなんや・・・?

 

 逃げ出したい気持ちはあるが、傷もあり抗えそうにないので大人しく二人と共に宿へと向かう事になった。




後書きです。本当は蟷螂はもっと強い予定のキャラだったんですけどね・・・・・・?
諦めました☆

「本当に、貴方は駄目なマスターですよね」

ちょっと待ってゆかりさん。流石に僕も傷付くよ?

「あー、はいはい。それより、AHSのセールが──」

次回もまた見てね!ばいばい!

「あ!ちょっ!待ちなさい!」


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Ⅱ.ⅶ 夜明け

お久しぶりです。


 ひ、非常に気まずい・・・・・・!

 

 ここは「さとうの宿」。私が使わせてもらっているお宿で、ささらさんのお母さんが経営している場所だ。

 

 そこの一室。普段は誰も利用していない部屋に、私達は居た。

 

「あ、あの・・・・・・」

 

「ゆかりさん。ちょっと待っててくださいね」

 

 表情は笑っているようにも見えるが、その目は全く笑っているものではなかった。

 

 うぅ。ささらさんが怖い・・・。

 

 先程、私が目覚めた時からささらさんとことねさんは何やら揉めている様子で、私が声を掛けようとすると決まってこう返ってくるのだ。

 

「それで、貴方はゆかりさんをどうするつもりだったんですか」

 

「う、うちは・・・・その・・・・・・ゆかりさんに手伝ってもらおうと・・・」

 

「手伝う?貴方を?ゆかりさんに犯罪者になれと?」

 

「あ、いや・・・その・・・」

 

 もうヤダ。この空気・・・・・・。ことねさんは私を助けてくれたんじゃないんですか・・・・・・?でもささらさんはことねさんに対してすっごい怒ってますし・・・。それにあの男の人はもうあの場には居なかったですし・・・・・・・・・?

 

 駄目だ。眠らされていた間に何があったのか、さっぱり分からない。

 

 でも、こんな空気のまま放置されるのは真っ平御免だ。

 

「さ、ささらさんっ!」

 

「ゆかりさん。ちょっと待って───」

 

「聞いてくださいっ!」

 

「あ、・・・・・・・・・はい」

 

「ことねさん。良ければ聞かせて貰えませんか?今溜め込んでいる事を、貴方の言葉で」

 

 それに私は、この人が悪い人には思えなかった。今もこうして、下唇から血が滲むほど悩んで、噛み締めている人が、悪人であるはずが無いのだ。

 

「う、うちは・・・・・・・・・分かった。全部話すわ」

 

 そうして、ことねさんは話してくれた。火垂という人の、英雄とまで呼ばれた人の話。自らの事。妹の事。そして、雀蜂という男の事。

 

「そういう訳や。うちの本名はあかね。琴葉茜や。ごめんな?嘘ついてて。本間はゆかりさんを雀蜂ん所に連れて行ったそん時に、刺し違えてでもアイツを殺してやろうと思っとった。けど、ゆかりさんは想像よりも遥かに強い人やった。せやから、うちはゆかりさんに手ぇ貸してもらおう思たんや。でも、まさか準備しようと思った時に蟷螂が出てくるとは思っとらんかったけどな」

 

「そういえば蟷螂さん?あの人は私を眠らせた後、どうしたんでしょうか?」

 

「蟷螂はゆかりさんを眠らせた後、近くにいたその人と戦闘になりましてね。そこに私が駆けつけたという訳です。まさかギルドの前で戦闘行為をおっ始めるなんて思ってませんでしたよ。蟷螂は私と・・・茜さん、でしたっけ?茜さんとの挟撃を警戒して何処かに行っちゃいました」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。ねぇ、あかねさん?(・・・・・・)

 

「あ、・・・あぁ。そうなんよ」

 

 この時、部屋の温度が少し下がった気がした。

 

「さーて、うちはもう話すことは無いから、次はあんたの番やな?──ささらさん?」

 

「ッ!」

 

「ささらさん?」

 

「なんや。その感じ、やっぱり話しとらんのやな?あんたはうちらの界隈じゃ人気者やからなぁ?この町の、インティウムの"守護者"が一人。"調停者"のささら。こういうた方がええんかな?『夜明け』の二つ名を持つギルドマスター殿?」

 

「コイツ・・・・・・」

 

 窓枠に嵌められたガラスが、少しづつ凍てついて行く。

 

 これは・・・氷の魔法?ささらさんは、私と同じ魔法士?

 

「なんや。そう怒ることないやん?大事な友達に隠し事ってのは、失礼な話やろ?」

 

「それを貴方が知っている。それ自体が問題なんですよ」

 

「おいおい堪忍してーや。うちかて元蜂ん所の幹部やで?裏の情報くらい回ってくるもんや」

 

「さっきまで死にかけていた人とは思えませんね。やはりここで処分しておきましょうか?」

 

「処分、ねぇ。さっきの蟷螂みたいに、か?」

 

「え?処分?蟷螂さんを?」

 

「・・・・・・決めました。貴方はここで消しておきましょう」

 

 ささらさんの口からは、聞き慣れぬ言葉が紡がれていく。

 

「おまっ、正気か?!こんな所でLvⅢ?!みんな死んでまうで!?」

 

「調整するのでご心配なく。それでは、さようなら」

 

 そして、私の視界は白に満たされていく───。

 

『グラキエース』

 

 その言葉は、私の耳に届くことは無かった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・えっ?」

 

 それを口にしたのは、私でもなく茜さんでもない。

 

 魔法を発動したはずのささらさん自身だった。

 

「ど、どうして・・・?貴方・・・!」

 

「う、うちやないで。うちの火じゃあんたの氷は止められへん。今のを止めたのは・・・」

 

 二人が私を見る。手を銃の形に見立て、その銃弾を打ち終えた後の私の姿を。

 

 そして何かを感じ取ってなのか、ささらさんは一歩、二歩と後退り、茜さんは苦い笑いをこぼしていた。

 

「いい加減に───してくれませんかね?」

 

「「は、はい・・・・・・」」

 

 私の心は、怒りに燃えていた。




「みなさんこんにちは。結月ゆかりです」
「みなさんこんばんは!さとうささらです!」
「そしておはようさん。琴葉茜やで!」

「いやー。今回の更新は遅れに遅れたなー」
「そうですね。お読みいただいている読者様達には申し訳ない気持ちです」
「こんなマイペース投稿ですが、これからもよろしくお願いします」

「それではみなさん」
「ばいばーい!」
「さようなら~」


「え?これで終わり?!うちの初回やのに?!」


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Ⅱ.ⅷ 月

 ここはさとうの宿。その一室だ。ここにいるのは椅子に腰かけた私と、ささらさんと茜さんが床に正座していた。

 

「ねぇ?二人ともー?」

 

「は、はい!」

 

「な、なんでしょうか!」

 

「私の話を、聞いてくれますか?」

 

「も、もちろんです!」

 

「あ、当たり前です!」

 

 私の声を聞く度に、ビクッと肩を震わせていた。

 

「それならいいですけど」

 

「それにしても、一冒険者相手にギルドマスターともあろう者がこの有様かいな?」

 

 そう言って茜さんはケラケラと笑っていた。

 

「茜さんは、さっき話してくれたので終わりですか?」

 

「うん?そうやな。うちから話せるんはそれくらいやな」

 

「それなら茜さんが知っている範囲で、ささらさんの発言に嘘がないか教えてください」

 

「ん。了解や」

 

「それじゃあ、ささらさん」

 

「あ、あの・・・本当に言わなくちゃ──」

 

「はい?」

 

「い、いえ!なんでもないです!」

 

「それじゃあ、キチンと聞かせてくれますよね?」

 

「は、はい!全てお話します!」

 

 そうしてささらさんは話してくれた。その話は驚く事ばかりで正直、途中からはもうちんぷんかんぷんだった。

 

「え、えーっと?つまりささらさんはこの町の冒険者ギルドのギルドマスターで、"夜明け"の二つ名を貰っていて?更に国から調停者の座を貰っている、と?」

 

「は、はい・・・」

 

「おまけに雀蜂ん所の幹部の一人、蟷螂を瞬殺。間違いなくランクIII位の実力は持っとるな」

 

「うぅ・・・」

 

「ささらさん。そんなに強かったんですね」

 

「だから言いたくなかったんです・・・」

 

「それはどうしてです?」

 

「私は、強くなりたくてなった訳じゃありません・・・。たまたま才能があったと言うだけで持ち上げられて今の地位に居ますけど、本当はつづみちゃんみたいに普通の生活をしたかったんです。それに、嫌われると思ったから・・・・・・」

 

 そう言うささらさんの表情は、いつもの底抜けな明るいものでも、たまに見せる真面目なものでもなく、本当に年相応の女の子が見せる悲しそうなものだった。

 

「ゆかりさんは大切なお友達です。その友達が傷付くのは見たくなかった。それだけの事で私は、人を殺しました。それをゆかりさんが知った時、どう思うのか・・・すごく怖かったんです・・・・・・」

 

「ささらさん・・・」

 

「また、ひとりぼっちになっちゃうから・・・・・・」

 

 ささらさんといったお店でした話を、私は思い出した。

 

「馬鹿ですね。ささらさんは」

 

 そう言ってささらさんの頭を優しく撫でてあげる。

 

「ゆかりさん・・・?」

 

「言ったじゃないですか。私は、絶対に居なくなったりしない、って」

 

「ゆ、ゆかりさん・・・!」

 

「私達は友達です。だから、助けてくれた事に感謝はすれど、貴方を悪く思ったりはしませんよ」

 

「・・・はいっ」

 

 やっぱり、この子には笑顔が一番似合いますね・・・。

 

「美しき友情ってやつやな。でもゆかりさん。ホンマにええんか?手伝ってくれ言うたんはウチやけど、相手はあの雀蜂やで?」

 

「はい。勿論ですよ、ことねさん?」

 

「や、やめーやそれ。うちかて嘘ついて悪かったと思とるんやさかい」

 

 少しからかう様に言ってやると、面白いのが返って来るから、この人は嫌いになれないのだ。

 

「それでも、どうするんです?相手はこの町の裏の支配者です。それを相手取るとなると私達三人じゃ厳しいですよ?」

 

「三人?もしかして、ささらさんも手伝ってくれるんですか?」

 

「・・・はい。その人に少し不満はありますけど、大切な友達が手伝うって言ってるんです。なら、私も手伝うしかないじゃないですか」

 

「ありがとうな、二人とも。ウチらの目的は雀蜂の排除とかやない。うちのいもうと、琴葉葵の救出や。それさいできれば他はなんも望まへんよ」

 

「それが言うほど簡単な話じゃないことくらい、貴方が一番分かっているはずです」

 

「うっ・・・」

 

「そりゃあ、私とゆかりさん。あと貴方が居れば雀蜂一人を相手にするなら多分・・・十中八九勝てると思います。でも、それが出来ない相手だからこそ、何か策を練らないと」

 

「どうしてです?勝てる相手なら真っ直ぐ行ってぶっ飛ばせばいいんじゃないですか?」

 

 十中八九。つまり、十回戦えば八回は勝てるのだ。それなら変に悩まずとも直接叩いてやれば良いだけの話。

 

「いえ、相手は裏社会の支配者。取り巻きがいるんです」

 

「・・・・・・。そういう事ですか」

 

「更に私とゆかりさんは魔法職。茜さんも魔法を得意とするタイプです。取り巻きとの戦闘になれば雀蜂を倒す程の魔力が残らないんですよ」

 

「せやな。うちはまだ近接スキルがあるけど、お二人は魔法のみやもんな」

 

 うーん。この話はどうやら、そう簡単なものではないらしい。

 

 相手は裏社会の支配者・・・。取り巻きが多い・・・・・・あっ。

 

「それなら、こういうのはどうですか?」

 

 私の作戦を聞いた二人は、驚いた表情を見せるも、すぐに納得した顔を見せた。

 

「確かに、それなら取り巻きの方は特に気にせんでもええな?」

 

「でも、その作戦だと二日後には雀蜂との戦闘になるかもしれませね」

 

「その二日の間で、私と茜さんはトレーニングをしておきましょう」

 

「うーん。まぁ、せやな!出来ればうちだけの力で蜂を倒したいと思っとったし」

 

「それなら私はギルドで情報を集めておきますよ。相手に少しでも悟られればこちらの勝機はグッと下がりますし」

 

「はい。それでは二人とも。よろしくお願いします」

 

「それはうちのセリフや、二人ともよろしく頼むな」

 

「はい」

 

「まぁ、私はゆかりさんがやるからやるだけですけどね」

 

 

 相手は強大な力を持つ雀蜂・・・ですか。

 

 窓の外。雲の上から顔を覗かせる月を見た。

 

 作戦決行は二日後。失敗すれば命の保証は無い、か。

 

 月はいつもと変わらずに地を照らす。

 

 こうして、私達の。たった三人での戦いが、始まろうとしていた。




次回───激闘。


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Ⅱ.ⅸ 覚悟

一年以上経ってるってマジですの?
いやごめんなさい。一年前の僕と反りが合わなくて目を逸ら続けてました。


 ゆかりさんが挙げてきた案は、要約すると"ゆかりさん自身を囮にする"と言うものだった。ゆかりさんを捕らえたという体で茜さんが雀蜂と接触、その後私が魔法を使い茜さん達と合流し、雀蜂を撃破する。

 

 でも、本当にそう上手く行くんですかねぇ・・・。

 

 相手は長い間、この町を裏から支配し続けてきた男、組織のボスだ。そう簡単に行くとは思えない。

 

 けれど、彼女が言うと何故か信じられる気がするのだ。彼女の言葉には、彼女という存在には、何か不思議な力を感じる。

 

 それも月の魔力、人を魅了する月の魔力という事なのかもしれませんね。

 

 考え事に深ける私の髪を、夜の冷たい風が吹き抜けては消えて行く。

 

「・・・期待、してもいいんですよね?ゆかりさん?」

 

 私の声は誰に届くでもなく、街を洗う風に乗って消えていった。

 

 ◇

 

「で?今これは何してるんですか?」

 

 雀蜂一派の幹部を退け、この町の闇に挑む事を決意した私達は・・・。

 

「え、夕飯ですけど・・・・・・?」

 

 次の日、いつも通りの日常を過ごしていた。

 

「いや、そうでなくてね?」

 

「まぁまぁささらん。ほら、これとか美味しいで?」

 

「えぇ・・・・・・」

 

 ここは先日もお世話になったささらさんイチオシのあのお店。伺ってみるとここは『林檎の森』というお店だそうだ。

 

「いや!そうじゃなくてですね!作戦がどうとか!そういう話をする為に集まったんじゃないんですか?!」

 

「んー?違うで~」

 

「んな・・・ッ!」

 

「今日はウチとゆかりさんでまたわんころシバいて来たからそのお疲れさん会や」

 

「ゆ、ゆかりさん・・・?」

 

「あー、はい。まぁそんな感じですね」

 

「で、でも!何かきちんと策を練らないと雀蜂一派が──」

 

「あぁ、それ。もう無くなったで」

 

「・・・・・・・・・はい?」

 

 あぁ、ささらさんが茜さんに完成に振り回されている・・・・・・。正直、見てて凄く楽しいのでこのまま黙っておこう。

 

「実はな、今日ウチとゆかりさんで探索出とった時に一派から接触があってな?ウチとゆかりさんの二人で明日ん夜にアイツん所行って、葵を返して貰えるって流れらしいんや」

 

「は、はぁ?まさかそんな戯言を信じてるんですか?!相手はあの雀蜂ですよ?!」

 

「そんなん言うてもなぁ。実際、葵の居場所知っとるんわ雀蜂だけやろう?せやからまぁここは和平で済ますんもええかな、て」

 

「・・・・・・本気で言ってるんですか」

 

 空気が凍る。比喩ではなく、周囲の温度が急激に下がっていくのが分かった。少し生ぬるかった店内全ての温度が、寒気が感じられるまでに至る。

 

「・・・やめーや。迷惑やぞ」

 

「ここまで来て、奴に泣き寝入りしろと?」

 

「そうは言うとらんやろ。ただ、争わんでええって事は無駄な血が流れへんっちゅうことや。うちらかて危険が少ないならそれに越した事は───」

 

「そんな事でッ!!」

 

 突如大声を上げて立ち上がったささらさんの身体は、少し震えていた。寒さからではない、怒りや憎しみ、そういった感情を強く感じた。

 

「・・・ささらさん?」

 

「ッ!・・・・・・すいません。私は・・・・・・」

 

「・・・やっぱ、組織となんかあったんやな」

 

「・・・・・・・・・はい」

 

 ささらさんはゆっくりと話してくれた。組織とこの街、長くに渡る因縁。ささらさんの父親、先代ギルドマスターの死。その死には組織が強く結びついている事。もう何人も組織との対立で命を落としている事。やはり自分でどうにかするしかない、そう思っていた時に現れた一人の魔法士、その魔法士は月の魔力を操ること・・・・・・って。

 

「私の事ですか」

 

「・・・はい。ゆかりさんの月の魔力。他者の魔法を打ち消す力さえ有れば、私は・・・・・・私は、父さんの仇が取りたいんです。黙っていて、すいませんでした」

 

「そうならそうと言うといてくれれば良かったのに」

 

「で、でも、こんな自分勝手な理由で・・・」

 

「うちは妹を助けたい。ささらんは父親の仇を。ゆかりさんは友達の手伝いを。みんな自分のエゴで動いとる。それでええやん」

 

 そういう茜さんの表情は、柔らかく優しい、お姉さんの様な表情だった。

 

「けどな、やっぱうちは殺すんは反対や」

 

「・・・・・・非人道的だからですか」

 

「違う。報復の問題や。殺せば殺しに来る。殺されれば殺さなくてはならない。そんなの・・・・・・」

 

「茜さん・・・・・・」

 

「・・・・・・分かりました。なら、約束しましょう。私達は、誰も殺さないし、誰も殺されない。みんなで生きて、また、ここでお酒を飲みましょう」

 

 そう言って笑うささらさんの表情は、何だか重りが取れたような、吹っ切れた顔をしていた。

 

「そんならうちも賛成や。悪党共はみんな捕まえて、葵を助ける。乗ったで」

 

「茜さんの妹さんを助けて、みんなでまたここに、ですか。分かりました。ささらさん、茜さん。作戦は少し変更になりますが、大筋は変わりません。私と茜さんで雀蜂の元へ。ささらさんは魔法を使い潜入。三人で一気に制圧後、雀蜂を捕え、妹さんを救い出す。それでいいですね?」

 

「あぁ、異論は無いで」

 

「私もです」

 

「それなら、明日に備えて」

 

 各々が持つコップをカチンと打ち付けて、それを一気に飲み干した。

 

 私達は、みんな生きて帰るんだ。誰一人、欠けることなく・・・・・・。

 

 ◇

 

 その時は、思いもしなかった。

 

 まさか、あんな事になるなんて・・・・・・。




なーにが、次回激闘、だバーカって感じで書き始めから辞めたくなりましたが、何とか今の僕があの時の僕と和解出来たので形になりました
もうちょい頻度よく上げていきたいですね
失踪する時には十中八九この作品は消えているので消えてたらそういうことだと思っておいて下さい
それでは、機会があればまた次回


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Ⅱ.ⅹ 蜂巣

「ほぅ?おめェさんが・・・。どうだ?俺の町は。楽しんでるか?」

 

 翌日の深夜。生命は眠りに付き、静かな暗闇が町を覆う。黒いフードを被った部下であろう人間に案内されて向かったのは、町のハズレにある大きな建物。以前は酒類を売っている店だったのだろうか?床には散乱した瓶の破片が幾つも転がり、その棚には今も幾つかの瓶が立ち並んでいた。

 

 私達は今、その地下に居る。

 

 地下には大きな椅子、玉座と呼んでも差支えの無いそれにふてぶてしく座り、さも当然かの様に話を始める一人の男が居た。私達をここまですんなりと通した事から、何か策略の様な物は用意されているのだろうが、こちらとしては好都合。私達の目的、その男の懐に潜り込む事には、無事に成功したのだから。

 

「楽しむ?ご冗談を。二人も刺客を差し向けておいて、良くそんな事が言えますね」

 

「かははっ!その内の一人はおめェの横に立ってるじゃねぇかよ。なぁ?"火垂"よォ」

 

「うるさいわ。そんなんええから、はよ本題といこうや」

 

 陽気に笑うその男こそが、我々が倒すべき相手、この町を裏側から総べるもう一人の王『雀蜂』なのだ。

 

「本題ぃ?構わねぇぜ?てめぇらは俺に何の用があるんだったか」

 

「このッ───!」

 

「茜さん。ストップ」

 

 ここで感情的なっては向こうの思う壷。私達の目的はあくまでも妹さんの奪還にある。それは忘れてはいけない。

 

「・・・・・・チッ。まぁええわ」

 

 おぉ、流石は茜さん。熱くなるのは早いが冷めるのも早い。

 

「こちらの要求は三つ。一つ、うちの妹、琴葉葵の解放。一つ、蜂、お前の身柄の確保。一つ、一分一秒でも早く(なるはやで)死ね」

 

「そういう事です」

 

 ・・・・・・んん?最後の一つは何かおかしいなぁ。

 

「かかッ!テメェ等正気かァ?」

 

 雀蜂が右手を上げると、隠密系の魔法でも使っていたのか、周囲の暗闇から黒いフードを被った連中がぞろぞろと湧いて出た。

 

「まず一つ目。妹はテメェが仕事をきちんと終えれば返す。そういう約束だろぅ?」

 

「・・・せやからウチはあんたの前に"月の魔法士"を連れて来た。それで仕事は終わりのハズや」

 

「あぁそうさ。テメェがそいつを置いてここを出て行けば納品完了。妹は解放するとも」

 

「茜さん一人で帰れば良い、と」

 

「それは無理やな。ウチ等は皆、"三人揃って"皆で帰るんや」

 

「・・・・・・三人、だと?」

 

「そうですよ?」

 

 地上へと繋がる唯一の道である階段から、コツッコツッと音が鳴る。

 

「ブンブンと町を飛び回る。薄汚い虫さん?」

 

「テメェ・・・・・・ギルマスか」

 

 この町を表側から総べる、雀蜂と対となる王『夜明け』の名を冠するギルドマスター。

 

「さとうささら。調停者として、平穏を乱す者を捕らえに参りましたよ」

 

「・・・随分と勇ましいじゃねぇか」

 

「貴方こそ、随分と冷静ですね?貴方の戦力は今ここにいる人間だけなんですよ?それに」

 

「それに、それももう片付いたしな」

 

 ささらさんが繋ぎ、茜さんがそう紡ぐ。

 

「コイツら、全く力を感じひん・・・。土属、創造魔法(クリエイト)か」

 

「ご名答。やるじゃねェか」

 

 雀蜂は賞賛と共に手を叩き笑ってみせた。

 

「火垂よォ?おめェウチに居た時より力を上げたか?」

 

「なんなんやお前・・・・・・?」

 

「火垂が離脱。蟷螂が戦闘不能。もう幹部も居ないはず。大量に居た部下もクリエイト・・・。それがバレたって言うのに、何なんですかその余裕は!」

 

「テメェら、一体何の話をしてやがる?」

 

「・・・は?」

 

 雀蜂が指をパチンと打ち合わせる。奴が腰掛けていた椅子が、残っていたクリエイトによって生み出された部下達が、この地下空間に存在する、ありとあらゆる物がゆっくりと砂へと姿を変えて行く。

 

「そもそも、幹部だの何だのってのは部下共が勝手に決めたもんだァ」

 

 立ち上がり、一歩、また一歩と此方へ向けて歩み始めた。

 

「俺は気に入った奴に好きに生きる為の名を与えてやっただけに過ぎねぇ」

 

 その手の中には、いつの間にか生み出されたであろう大きな戦斧が握られていた。

 

「組織なんてモンはテメェら光の人間がキメたもんだ」

 

 全てが溶けて産まれた砂は少しずつ集まり、やがて大きな物へと姿を変えていく。

 

「アイツらが俺に何を求めてたのかは知らねぇが、俺にとっちゃあ奴等は仲間でも部下でも、駒ですらねェんだよ」

 

 大きな翼を持ち、強靭な脚部で血を踏み締め、鋭い爪は人程度なら容易く引き裂くだろう。

 

 その姿は・・・。

 

「ど、ドラゴン・・・?!」

 

「創造魔法『地竜』」

 

「その魔法は・・・・・・ち、違う。そんなハズ、ない・・・・・・」

 

「ささらん?!しっかりせぇ!」

 

 突如膝をつき、呼吸が荒くなっていくささらさんに、茜さんが駆け寄って行く。

 

「役者は揃った。そろそろキメようや」

 

 私は、その『竜』から目が離せなかった。

 

「光と影。この町の行く末をよォ!」

 

 石と砂で形を整えただけの竜が、けたたましく咆哮を上げる。

 

 ささらさんはダウン状態。茜さんも萎縮。平気なのは私だけ?

 

「・・・・・・た」

 

「あ?」

 

 違う。こんな物を目にして、平常心なんて保てるハズがない。

 

「燃えてきた、って言ったんです──よッ!!」

 

 相棒である欠月をホルダーから抜き放ち、地竜に向けて叩き付ける。流石に岩石で身体を構築しているので、欠月の刃は簡単には通らない。

 

「チッ、流石に硬いですね」

 

「おいおい。一人で挑むってのか?コイツはかつて先代ギル──」

 

「うるさいですよ」

 

「・・・・・・あ?」

 

 ごちゃごちゃと雑音が耳につく。どうでもいい。今はただ、このワクワクと共に躍りたい。

 

「本物じゃないのが、ちょっと残念ですけどー。まっ、良いです。この世界には竜が居るって事が分かりましたし」

 

 "この世界"?自分の言葉が、少し心に引っ掛かる。だが今は戦闘中。呼吸を整え、思考を切り替えていく。

 

「茜さん。ささらさんを後ろへ」

 

「わ、分かった!けど、ゆかりさんは?」

 

「私はですね」

 

 大きく息を吸い、一拍置いて吐き出しながら再び眼前の竜へと肉薄する。

 

「竜狩りと洒落こみますよ!」

 

 激闘始まる店の地下。偽りの竜の爪と少女の振るうナイフがぶつかり、甲高い音が響く渡る。

 

「さぁ、ひと狩りいこうぜ」

 

 真夜中は未だ、始まったばかり。




前回の僕とは上手く和解出来た気がします。
戦闘描写が大の苦手なのでたまに、というか頻繁に日本語のエイムが失われたりしますが大目に見て貰えると幸いです
次回もこのくらいの頻度で出したいと思いましたまる


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Ⅱ.ⅹⅠ 竜狩りの月

 私は、今何を見ているのだろうか。

 

 私と同程度の軽装備の少女が片手にナイフ一本だけを携えて、竜へと向かって行く。

 

「危ないで?!」

 

 思わず私の口から盛れたその言葉に、彼女は何の反応も示さない。

 

 振り下ろされた腕、前脚とも呼べる部位に向けて華奢な少女はナイフを叩き付けるも、岩石の竜はその刃を通さない。

 

「チッ、流石に硬いですね」

 

 そう言いながらも止まること無く彼女は戦場を駆け抜ける。

 

 な、何をしてんのやあの人は!

 

「ゆかりさん!流石に無茶や!ここは一回退いて立て直すべきやろ?!」

 

 ◇

 

 もはやその言葉は私の耳には届かない。

 

 もっと速く。

 

 その想いに呼応するように心臓の鼓動はビートを刻む。

 

 連続して振り下ろされる鉤爪を、ステップで躱して前に出る。

 

 もっと・・・もっと速く・・・・・・。

 

 幾度と無く欠月を振るい、その度に竜の体表とぶつかっては弾かれる。だが、

 

 ・・・刃こぼれ一つ無い。ありがとうございます、つづみさん。

 

 ここには居ない友人に、感謝の念を抱きつつ、私は更に深く竜へと肉薄するのだった。

 

 ◇

 

「なんでアレを躱してるんやあの人・・・」

 

 最早、この戦場はゆかりさんと作り出された竜だけのもの。だが、そういう訳にもいかないのだ。

 

「とりあえずアイツはゆかりさんに任せとくとして・・・。ささらん、立てるか?」

 

「は、はい・・・。すいません。私・・・」

 

「そんなんええよ。それより、ほら」

 

 茜さんの視線の先には、たった一人で竜と躍る少女の姿を見て驚愕する雀蜂の姿があった。

 

「ウチらの目的、果たさな」

 

「は、はい。そうですね・・・」

 

「ゆかりさんは竜退治。ウチらは二人で蜂退治と行こうや」

 

「はい・・・」

 

 まだ少しふらつく身体を支えてもらいながら、何とか立ち上がる事が出来た。

 

 それに、確かめなければならない事がある。

 

「雀蜂。・・・・・・いえ、エムさん。・・・貴方が、雀蜂だったんですね・・・・・・」

 

「どうしてそれを・・・・・・そうか。さとう、か。忘れちまってたなァ・・・」

 

 私の中に、朧気に残る記憶。父と楽しそうに笑い、私にも優しかったあの人。

 

「な、何や?知り合いなんか?」

 

「あの人は・・・私の、父の友人だった人なんです」

 

「ささらんの父親?先代のギルドマスターのか?」

 

「はい・・・」

 

 いつもその『竜』の背に乗せてもらっていた事を、それを見て楽しそうに笑う父とその人の事を、思い出した。いや、思い出してしまった。

 

「どうして・・・・・・貴方はッ!・・・・・・いえ。貴方が今何故こんな事になっているのか、それはもういいんです。ただ、一つだけ聞かせて貰えませんか・・・?」

 

「良いだろう。佐藤の娘よ。何が聞きたい」

 

 そこには、先程までの陽気さとは打って変わり、悲しそうな顔をしている男がいた。私がよく知る、エムさんの姿がそこにあった。

 

「・・・・・・・・・貴方が、父を殺したんですか・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・そうだ」

 

 言いたい事があるはずなのに、思考は鈍り、悪い心が渦を巻く。どうして?なんで?口に出すべきはその類のハズだった。だが、それ等を押し退けて私の口からは短い言葉のみが紡がれた。

 

 ◇

 

「コロス」

 

「ッ!ささらんッ!」

 

「・・・・・・そうか。これが、"私達"の行く末か、『レイ』」

 

「お前が・・・父の名をッ!口にするなァッ!」

 

 ささらんと雀蜂の間にある闇は、私達が考えていたものより遥かに深いものらしい。

 

「世界を染める白!今闇を穿つ一条の矢となりてッ!」

 

 世界を白く染めて、全てを凍てつかせる彼女の範囲魔法が、細く長く練り上げられていく。それは矢と呼ぶべきなのか、はたまた槍と呼ぶべきなのか。対象を貫き、凍てつかせ、破壊する為の魔法が、今ここに生まれたのだった。

 

 LvⅢ魔法の改変?まさか、LvIV魔法か?!

 

 周囲のありとあらゆる熱が、全て白き槍へと吸い込まれていく。そのあまりにも強大な吸熱により、大気は凍りチリチリと悲鳴を上げていく。

 

「最後に、言い残すことはありますか・・・・・・」

 

「・・・ォ・・・いや、これは私の問題だったな。レイ、すまなかった」

 

「ッ!貴方は・・・。私は・・・・・・ァ!」

 

 少女の手から、ついに白き槍が放たれる。

 

「死ね!『果てなき氷槍(グラキ・アルクス)ッ!!』

 

「あぁ、やっと・・・思い出せた・・・・・・」

 

 あかん・・・・・・。このままじゃ、雀蜂が死ぬ・・・。それだけやない、このままやと、ウチらまで凍え死ぬ・・・・・・。けど、身体が、動かへん・・・!

 

 頼む・・・・・・!

 

「ゆかりさん!」

 

「はい。任せて下さい」

 

 世界が、眩い光に包まれていく。最後に私の目に映るのは、白き槍に立ちはだかりナイフを構えるゆかりさんの姿だった。

 

 ◇

 

「なっ?!」

 

 対象と定めた相手を確実に殺す為だけに生まれた槍は、父の仇に到達する前に射線上に割り込んだ者の手によって、その効力を望まぬ形で発揮してしまった。溜め込んだ熱が、否。冷気が爆ぜ、放たれた光から思わず目を背けてしまう。氷の魔法に耐性を持つ私は、何とかその場に踏ん張る事が出来たが、他の物は全てが凍てつき、その余波で砕け散っていく。

 

 ごめんなさい。約束、破っちゃいましたね・・・・・・?あれ?私・・・・・・今・・・何を・・・・・・?

 

 怒りのままに我を忘れ、殺意に呑まれていた私はその時、ようやく自我を取り戻した。

 

「あ、・・・・・・あぁ・・・・・・ッ!」

 

 自らの行いにより、取り返しのつかない結果が生まれてしまった。

 

 涙が溢れ、身体からは力が抜けて行く。立つことも困難になり、嗚咽が止まらない。

 

「私・・・私は・・・・・・ッ!」

 

「言ったはずですよ」

 

「・・・え?」

 

 ◇

 

 座り込み、咽び泣く少女の頭を、優しく撫でてあげる。

 

「私は、居なくなったりしない、って。約束ですもんね」

 

 恐る恐るといった様子で、ささらさんはゆっくりと顔を上げ、私の方を見る。

 

「もう。可愛い顔が、涙でグシャグシャじゃないですか。貴方には泣き顔より笑顔の方が似合うとお姉さんは思いますよ?」

 

「ゆ、ゅかりさぁん・・・・・・」

 

「はい。貴方のゆかりさんです」

 

 未だ泣き止まぬささらさんをそっと抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でてあげる。

 

「大丈夫。大丈夫なんですよ。もう、全部終わったんです」

 

 尚も地に膝をつけ、泣き止まぬ少女を気にかけながらゆっくりと立ち上がり、私は周囲を見渡した。

 

「けほっ、まさかホンマに助けてくれるとは・・・助かったわ、ゆかりさん」

 

「良かった。無事でしたか」

 

「今回ばかりはホンマに死ぬかと思たけどな。あー、おっさんも生きとるな。ほれ、そっち見てん」

 

「こほっ、い、生きている?な、何が・・・?なっ?!」

 

 ◇

 

 雀蜂、エムと呼ばれた男の視線の先には、両翼、尻尾、両脚、両腕、果ては頭部までもが切り落とされ、ただの砂の達磨と化した竜だった物が転がっていた。

 

「まさかゆかりさん。アレ、完成したんか」

 

「はい。斬撃系魔法『爪』の応用。拡張魔法『牙』の完成です!」

 

 爪。蟷螂が使っていたような魔力の斬撃を飛ばす魔法。昨日の朝、仕事に出る前に、ゆかりさんとギルドの図書館で調べ物をしていた際に付与魔法、エンチャントとの違いについて考えていた時の事だ。

「爪の魔法が飛ばしたり設置したり出来るのなら、その設置の座標を剣にすればエンチャントになるのでは?」

 突然そんな事を言い出した事がきっかけで、コボルト戦の最中は新技の開発を行っていた。結果から言うと、エンチャントにはならないということが分かった。エンチャントとは、武器を使っての攻撃に魔法の威力を上乗せする、というものだと私達は仮定した。ならば武器の表面を魔力でコーティングした場合、武器そのもののリーチを無視して魔力の刃を構築する事が出来るという利点に気が付いたのだ。魔力を纏わせるのでも無く、魔力を通わせるのでも無く、魔力で刃を形成し、それを自らの武器に装着する魔法。それこそが、ゆかりさんが編み出した新たなる爪の形、牙の魔法の全容だ。

 

「それにしても、あの竜ぶった切って、更にささらんの魔法までぶった斬ったんか。頭おかしいな」

 

「私は別に砂の竜も、あの白い槍も切ってはいませんよ。土属性と氷属性の魔質を月の魔質で妨害しただけです」

 

「理屈はわかる。けど、それをやってのけてるって所が頭おかしいんやって」

 

 何事も無かったかのようにあっけらかんと話すゆかりさんを見て、正直恐怖すら感じた。

 

 ホンマ、敵に回さんで良かったわ。こんなん個人じゃどないも出来やんやろ・・・。

 

「ほんで?雀蜂・・・あー、エムさん言うたっけ?」

 

 未だ尚、自身の見ている光景が信じられないのか、放心を続けるその男にたった一つ、質問を投げかけた。

 

「まだ、やるんか?」

 

「・・・・・・いや、このまま続けても、私の負けだろうな。分かった。降参だ」

 

 正直、その答えは私にとっては意外なものだった。

 

「随分と諦めええやん。自分、ホンマにあの『雀蜂』なんか?ウチの知っとる雀蜂とは、なんかちゃう気ぃすんねけど」

 

「・・・あぁ。私も、ようやく思い出せた、いや、取り戻した、と言うべきか」

 

「取り戻した?」

 

 ささらんの傍に着いていたゆかりさんも、不思議に思ったのか此方に歩いて来た。

 

 ◇

 

「不思議な言い回しをしますね。何を取り戻したと?」

 

「・・・・・・結論から言う。私は、雀蜂であり、雀蜂では無いのだ」

 

「・・・どういうことでしょう」

 

 確かに、男の様子は先程までとは全く違って思える。何か、嫌な気配のような物がサッパリと消えていた。

 

「何を、と聞いたね。敢えて言おう、私は、私自身を取り戻したのだ、と」

 

 男は語る。この戦いの根源。『雀蜂』と呼ばれた"呪い"の話を。




興が乗ったので少し駆け足気味になってしまいましたが、これにて雀蜂と呼ばれた男の物語は終わりを迎えました。
男が語る真実とは。
次回に続きます


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Ⅱ.ⅹⅡ 幕引き

何か前回前々回って、書き方めちゃくちゃ下手くそっすね(他人事)


「あ、ギルマス。こっちお願いしていいですか?」

 

「あぁ。こっちが終わったらすぐに行くよ」

 

「ギルマスー。こっちまだですかー?」

 

「え。あっ。ごめん。これが終わったらスグ──」

 

「あのー。ギルマスー?ずっと待ってるんですけどー?」

 

「あ。ごめっ、って!ささらちゃん!」

 

 慌ただしく走り回る、"新たな"アウローラのギルドマスターとそれをからかう若き元ギルドマスターの姿を見て、私はほっこりとした気持ちで紅茶を頂いていた。

 

 あの戦い、インティウムの街に巣食う闇。雀蜂一派との戦いから一週間が経った。本来処刑も有り得た彼等だったが、これから当分の間、真面目に街の為に尽くすという誓約を交わした者はお咎めが無く、その条件が呑めない者はこの街での登録を抹消。何処かの街で再登録をしようにも、不審な者という扱いを受けて街に入ることすら困難となったであろう。

 

 私もようやく平穏を取り戻し、ここ最近は仕事にも出ずにのんびりとした毎日を過ごしていた。と言うのも、雀蜂一派が所持いていた武器や防具の所有権がギルドを通してコチラに移り、それを再びギルドを通し、街に残る選択をした者達に半値で売却を。街を出る者達の分はそのまま街で処分、もといギルドに売り払わせて貰ったからだ。その為、二十人近く居た罪人の内、街を出たのはほんの数人だったそうだ。更に雀蜂の討伐報酬としてユキナ銀貨が十枚、銅貨で換算すると一千枚に及ぶ収入を得た為、諸々合わせて銅貨千二百枚が我々三人に与えられた。それを分配する際、ささらさんは辞退したが、私と茜さんで五百枚ずつ。残り二百枚をささらさんへと押し付ける形となった。

 

 つづみさんへの支払い、銅貨三百枚を納め終えて尚、まだまだ資金には余裕があった為、今は欠月をメンテナンスに出し、新たに予備としてなるべく重さや握りの近い、極普通のナイフを用意して貰った。

 

 雀蜂一派のボスであったエムさんは、この度新たなギルドマスターとなった。彼は彼なりに裏のルールを制定し、一派が暴走しない様に手綱を握っていたというのが決め手になったのだろうか。それとも、彼本来の人望有ってのものなのか。何にせよ、ささらさんがエムさんを推薦した際に反対する者は居なかったそうだ。

 

「平和ですねぇ」

 

「なんやゆかりさん。えらい年寄り臭いな」

 

「ん?茜さん。今帰りですか?」

 

「せや。葵と二人でまた森にな」

 

「こ、こんにちは・・・」

 

「はい。こんにちは」

 

 茜さんの後ろに隠れる様に小さく挨拶を交わしているのが妹の葵さん。茜さんの赤い髪とは正反対の、空を思わせる青い髪が特徴の女の子だ。

 

「そういえば茜さん。新技とやらは出来たんですか?」

 

「うーん。もうちょいってとこまでは来とるんやけどな。どうも蛍の戦い方が身に付いてもぅてるみたいや」

 

「まぁ癖というのは中々抜けませんからね。葵さんは?」

 

「わ、私の方は・・・・・・ま、まぁまぁかな、と・・・」

 

 少し気恥しそうに葵さんは小さくそう呟いた。

 

 あの戦いの後、エムさんの案内により私達は難無く囚われていた葵さんを助け出す事に成功した。新たな"器"とする為に丁重に扱っていた、というのは本当だった様だ。

 

 でも、まさか、ねぇ・・・・・・。

 

 雀蜂の正体。それが───。

 

 ◇

 

 今宵も月が昇る。私は自室で一人、空を見ていた。

 

「"呪い"ですか・・・」

 

 正直、私自身あまり情報を飲み込めては居ないのだが、エムさんから得た情報を端的に纏めると、『雀蜂とは人を指すのではなく、一種の概念を指すもの』、『それは人から人へと乗り移り、力を蓄えて行く』というものだった。

 

 二年ほど前、ささらさんの父親、レイさんがある日雀蜂に取り憑かれた男と遭遇。突如襲いかかって来た男と応戦するも、その際に雀蜂の器とされてしまった。当時はそれが暴走する病の様なものだと思っていたレイさんは、自らが誰かを傷付ける前に殺す様エムさんに頼んだ。友の願い、覚悟を受け入れてレイさんを殺したエムさんが、次の器となってしまった。雀蜂は、自らを殺した相手に寄生して行くことで強者の肉体へと乗り移る、言わば呪いなのだそうだ。

 

 だが今回の戦いでは、エムさんの中からは消え、誰も新たな器にはなっていない。それは月の魔力によるものだろうとエムさんは言っていた。あの時、私の魔力とささらさんの魔力はほぼ均等にぶつかり合い、弾け飛んだ。その際周囲の魔素濃度が上昇。大量の月の魔力を大気を通して身体に取り入れた事で、雀蜂は何処にも逃れられずに消え去ったのだというのが、エムさんの立てた仮説であった。

 

 本当に、そう上手くいくものなんでしょうか・・・。

 

「まっ、考えても仕方ありませんよね」

 

 私達は、平和で暮らせている。それだけで良いのだ。

 

 夜空を照らす月を見る。それは、いつもより一層輝いている様に思えた。

 

 ◇

 

「へぇ。インティウムの雀蜂が」

 

 遠く離れた場所、同規模程度の街『ファーマ』

 

 その街の酒場に、"彼女"は居た。

 

「あぁ、噂によるとあのギルマスが数人の冒険者と共に討ち取ったらしい」

 

「数人?アイツらってそんな数少なかったっけ」

 

 雀蜂と言うと目立つ様な組織では無いものの、町周辺の街道で商人を襲う事が多い連中だ。ゴロツキの集まりとはいえ、規模も多少あったハズ。

 

「さぁな。真相はいざ知らず。だが、雀蜂が消えたというのは本当らしい。ずっと遅延気味だった交通網が、数日の内に完全に復旧するそうだ」

 

「へぇ。それはめでたい事だね」

 

「今日はやけに大人しいな?いつもなら"そのギルマスと手合わせに行く"って飛び出す所じゃないか」

 

 インティウム、アウローラのギルドマスターと言うと甘栗色の髪の女の子、確か魔法使いだったかな?

 

「あの子ねぇ。魔法特化っしょ?斬り合え無い相手にはあんまり興味無いかな」

 

「全く、戦闘狂め・・・」

 

「あぁ、でも」

 

 インティウムの街。あそこには、アイツが居るんだったな。

 

「あの町には近々また行きたいかな」

 

「何か用事でも?」

 

「うん。会いたいヤツが居てね」

 

 ある日、突然森の奥から現れた少女。武器も無ければ記憶も無い、変わったヤツだった。けれど、何処か惹かれる物を感じたアイツ。

 

「ほう?強いのか?」

 

「うーん、多分」

 

 私がそう告げると、"リーダー"はニヤリと笑い持っていたグラスを一気に傾けた。

 

「そうか。分かった。ならこの仕事が終わり次第、向かうとしよう」

 

「おっけー」

 

 あぁ、ワクワクしてきた。早くアイツに会いたい。きっと、何か楽しい事が待っているはずだ。もしかすると、雀蜂を倒したのもアイツだったり?

 

 そう考えると、不思議と本当にそんな気がしてくるから面白い。それがより一層、アイツへの興味を駆りたてる。

 

「よし、ならば行くぞ。"マキ"」

 

「うん。さっさと終わらせよう」

 

 待っててね?ゆかり、すぐに会いに行くからさ。

 

 こうして、弦巻マキは動き出す。たった一人の、友と呼べる者と再開する為に。




これにて二章は幕引きとなりました。
本当はもーーーっと説明文だったんですけど、書いてて飽きちゃったので要所要所って感じにさせてもらいます


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魔法士ゆかりとはじめての宿敵
Ⅲ.ⅰ ともだち


第三章の開幕なのですよ


 ある日静かな森の中。

 

「そっち行ったで!」

 

「おーらい!」

 

 私の放った魔力の銃弾を受け、コボルトの動きが一瞬止まる。その隙を見逃さず茜さんの振るった剣により、その犬頭は地に伏せた。

 

「ふぅ。まぁワンコ相手やとこんなもんか」

 

「だいぶ慣れて来ましたしね。それに──」

 

「お疲れ様です。二人とも、怪我とか・・・まぁ、ありませんよね」

 

「お、お疲れ様です・・・!」

 

 あの戦いから一ヶ月。再び冒険者としての活動を再開した私は、茜さんと妹の葵さん。更にささらさんを加えての新しいパーティを形成していた。

 

「茜さん、使ってみた感触はどうですか?」

 

「うーん。せやなぁ。アリっちゃアリってとこか?」

 

 茜さんが今使っているのはつづみさんの家の武器屋の試作品。普段はナイフとして扱い、魔力を込める事でショートソード、ごく一般的な片手剣サイズまで刀身が伸びるという魔法剣の一種だ。

 

「茜さんの魔力総量はあまり有りませんからね。今までは権能の補助で火の魔法をぶっ放してましたけど」

 

「あぁ。蛍の灯火は、もう消えたからな」

 

 茜さんは、元々近接が得意なタイプだった。けれど蛍という責務から魔法剣士として中距離メインの戦い方が多かった。雀蜂に負け、蟷螂に負けた。自らの弱さを痛感させられた彼女は、その火を別の形へと変える事を決めた。蛍の名は消えても、その意思は消えること無く、燃え続ける。

 

 彼女らしいな、と私は思った。

 

「葵ちゃんは?この一週間。大きな魔力の使用は控えて貰ってました。どうです?イメージ、掴めて来ました?」

 

「はい。私の中にある魔力の流れが、その性質がハッキリと理解出来てます!」

 

「流石ですねぇ。私だけでなく、ゆかりさんをも超える『原石(INT18)』。期待してますよ」

 

「はい師匠!」

 

 この一ヶ月。葵さんはささらさんから魔法の手解きを受けていた。魔力の総量で言えばささらさんがずば抜けて高い。けれど魔力の繊細なコントロールは葵さんがずば抜けて秀でていた。例えば一つの魔法の発動に五の魔力が必要となる場合、大抵の人間は少し余分に魔力を使い、大体が八の魔力で出力するのだ。けれど葵さんにそれは無い。五の魔力が必要となれば五の魔力のみを使用する。威力を下げて速度を上げたり、逆に速度を落として威力を上げたり等、調整によってその性質を変化させられるのだ。

 

 ささらさんが大量の魔力を用い最強の一手で押し潰す剛のスタイルだとすれば、葵さんは極限まで無駄を削り、手数で相手を圧倒する柔のスタイルと呼べるであろう。

 

「蛍の分割、及び継承も上手くいったみたいで良かったですね。茜さんの魔力耐性が上がっているのはいい事ですし、何より葵ちゃんの魔力操作と蛍の権能の組み合わせは強力ですから」

 

 蛍の権能。対象者の火の魔力への耐性を上昇させ、火の魔力への適正を上げる。それは火の魔法の詠唱を省略破棄する事が出来るというものだ。この省略破棄というのは魔法の名を口にする必要すら無くす物で、術者がイメージを起こした時点で魔法のセットは完了し、出したい時に自在に発動させることが出来るらしい。とても強力な力だそうだ。

 

「あ、あの・・・ゆかりさん!」

 

「はい?葵さん、どうしました?」

 

「その・・・。出来れば私の事は"葵"と呼んで頂ければ・・・」

 

 葵さんは、元の性格もあってなのだろうが、雀蜂から解放した私達の事を恩人の様なモノと考えているらしく、遠慮しがちな事が多かった。

 

 その葵さんが自らその様に言うのであれば、拒否する理由など毛頭ない。

 

「分かりました。それでは今後は葵とお呼びしますね」

 

「・・・!は、はい!」

 

「あ、じゃあ私も"ささら"でお願いします」

 

「ささら・・・何だか慣れませんね」

 

「あはは、私も何だかムズムズしますねー」

 

「えー?じゃあうちも"茜さん"やのーて"茜"って呼んでーや」

 

「分かりました。では今後は"ことね"、と」

 

「まだ言うてるやん?!」

 

 茜さん、いや。茜のツッコミに思わず笑いが溢れた。それに釣られてか、葵もささらも同じ様に笑い、最後には茜も笑っていた。

 

 私達は笑う。これまでの過去を洗い流す様に。

 

 私達は笑う。これからの平和を噛み締めるように。

 

 私達は笑う。何事もない、平穏な暮らしを謳歌する為に。

 

 こんな日々が、ずっと続いていく。そう、思っていた。

 

 その日が、訪れるまでは・・・・・・。

 




特に書くことないね。また次回


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Ⅲ.ⅱ 宿敵(ライバル)

これがホントの三章プロローグ


 二人の少女が互いに剣を構え相対する。

 

「・・・退く気は無いんですか」

 

「勿論」

 

 私が投げ掛けた問に彼女はニヤリと大きく笑い短くそう答えた。

 

「こんな楽しい事──」

 

 大剣を下段に構えたまま大きく踏み込み、その勢いで一気に距離を詰めてくる。

 

「止められないでしょ!」

 

 そしてその突進の勢いを殺すこと無く、大剣を横に大きく振るう。

 

「この・・・ッ!わからず屋!」

 

 バックステップを用いて再び距離を取っての回避を図るも、その突進力と大剣のリーチによって、その攻撃は私の腹部へと命中した。バックステップでの滞空時に攻撃を受けた事が幸いだった。大きく吹き飛ばされはしたものの、体力も少ない支払いで済んだ。

 

「なぁ。お前も楽しいだろ?」

 

「生憎。私は戦いに興味がある訳じゃないので」

 

「はッ!顔見りゃわかるよ。お前はこの状況を、少なくとも嫌がっては居ないさ」

 

 確かに。心の奥、そこには強敵との戦いにワクワクする気持ちがある事は事実だ。けれどそれは今の状況、お世話になった友人との『真剣勝負』を楽しめるかと言われればそれも違う。

 

「・・・どちらかが死ぬかもしれません。それでも続けるんですか」

 

「大丈夫だよ。お前は死にはしないさ」

 

「手加減、してくれるんですか?」

 

「冗談。私は刃を向き合った相手に手を抜いたりしないよ」

 

 では何故?そう私が問う前に答えは帰ってきた。

 

「私が全力でやっても、お前を殺し切れる確証が無いんだ。初めてだよ。戦う前から負けるかもって思うのはさ」

 

 彼女は再びその大剣を眼前に構え、短く呟いた詠唱により、その刃を(神鳴)が覆う。

 

「私を傷付けたくない。自分も傷付きたくない。それなら、本気で来いよ」

 

 かつて一度だけ見たその能力。私を追い回す蜂を焼き焦がしたその一撃が、今は私に向けられている。

 

「・・・・・・ホンットに、わからず屋なんですから・・・」

 

 ホルスターにしまい込んでいた"欠月"を右手に、形だけという事で持っていた市販品のナイフを左手に持ち替え、かつて私の仲間が使っていた構えを取る。

 

「魔法士って聞いてたんだけどな?」

 

「おや、知らないんです?今の魔法士は、ナイフ技能くらい持ってるものですよ」

 

 私はナイフ系統のスキルなんて一つも持っていないが。

 

「お望み通り、全力です」

 

「あはは!良いねぇ!・・・・・・じゃ、行くぞ」

 

 彼女の纏う空気が一変する。

 

 覚悟しろ。"アレ"はもう、私の知っている彼女では無い。

 

 先程受けた突進とは比べ物にならない速度で、雷鳴の如き突きが繰り出される。少し反応が遅れるも事前に練っていた魔力を用い、欠月に"牙"を纏わせて迎撃する。

 

 後にこの戦いを観ていたものは語る。それは二人の少女の──否。

 

「ゆかりぃぃいい!!!」

 

「マキさんッッ!!!!」

 

 それは、神鳴の爪と月光の牙。二つの獣の喰らい合いだった、と。

 



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