娘を探し旅をするカバネリ (ターメリック)
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崩れる平和

カバネ.......

ある日突然現れ、噛まれた者は同じカバネになってしまう。日の本は殆どがカバネに占領され、生き残った者たちは駅を作りその中で生活をしていた。

 

 

この話はカバネに襲われた集落の一人の男の物語。

 

 

 

 

とある集落、いつも平和な時間が過ぎる小さな集落の民家の中に物語の男はいた。

名前は勇名(ゆうめい)。この集落では最も力のある男だ。

彼には妻と一人の娘がいる。家族を養うために出稼ぎに出る。家に帰るのも週に一度くらいしかなくなかなか家族で過ごす時間が少なかった。

 

 

今日も勇名は出稼ぎで炭鉱へ赴いていた。

 

 

「ふんっ!ふんっ!」

 

「おーおー、今日はやけに気合い入ってるな勇名」

 

「なんだ赤城か、まぁなんだその、今日は終われば家に帰れるからな妻や娘が待ってるんだ」

 

「そうか、なら、俺も頑張らないとな!お前と同じで家族が待ってるからな」

 

「あぁ、そうだな!」

 

 

 

それから数時間炭鉱での作業を終えて二人で集落へ戻る。

しかし二人が目にしたのはいつもの平和な集落ではなく至る所で火事などが起きている集落だった。

 

 

「集落が.......燃えてる?」

 

「お、おい勇名早く戻るぞ!」

 

 

二人は急いで集落に戻ると集落のみながなにかに襲われていた。

 

 

「こ、こいつはまさか!」

 

「炭鉱主の言っていたカバネ.......ってやつなのか?」

 

「くっ!」

 

「お、おい!勇名!」

 

 

勇名は急いで家の方へ向かった。

しかし.......勇名の行く手をカバネが遮る。

 

 

 

「くそっ!こっちはダメか!」

 

 

進路を変え別のルートを通り何とかカバネに会わずに家までつくが、勇名が着いた時には既に家も荒らされていた。

 

 

「俺の.......俺の妻と娘はどこに!?」

 

 

すかさず家を飛び出し集落の中心へと向かう途中、ふと道端の遺体に目がいった。

足を止めその遺体に近づく勇名。その遺体を見た勇名は崩れるように膝をついた。

 

 

「まさか.......そんな.......」

 

 

その遺体はなんと勇名の妻だった。カバネに襲われ無惨な姿になっていた。

 

 

「うぉぉおお!!」

 

 

勇名は泣いた。妻を失った悲しみが一気に込み上げてきたのだ。

だが勇名は一つ気づく。娘が未だに見つからないのだ。

妻を弔った後カバネに見つからないように集落全部を回ったがどこにもいない。

 

 

「どこに行ったんだ.......穂積!!」

 

 

その後、集落は壊滅、住み着いたのは人ではなくカバネだった。

勇名は家にある物を取りに戻っていた。

 

 

「あいつらを殺す。そのためにはこいつしかない」

 

 

家の奥の物置に入り桐箱を取り出す。その中に入っていたのは見た目は普通の日本刀だが鞘から抜いた刀身は特殊な模様が入っている。

 

 

「かつて祖父が残した書物に書いてあった。人ならざるものが現れた時に使えと。この刀なら鋼鉄をも切れると言われていた、これを今使わずいつ使うのか」

 

 

勇名は刀を腰に帯刀しその場を去ろうとした時ふと足に痛みが走る。

足元を見るとなんとカバネが足に噛み付いていた。

 

 

「なっ!この!離せぇ!」

 

 

刀を抜きカバネの心臓に突き刺す。

するとカバネは動かなくなった。しかし勇名は気づいていた。カバネに噛まれると同じカバネになってしまうと。意を決して勇名は自害することに.......

 

 

 

丈夫な柱に紐を吊るし自らの首を吊り上げた。

しばらくもがいた勇名だったがそれも長くは続かず力なく腕は垂れる。

もうすぐ命も事切れるという時にまさかの柱が折れ勇名は地面に落ちた。一命を取り留めた勇名は体を見回す。

死んでない、だが噛まれたのにカバネになっていない。ここで勇名は体を起こし辺りを見回す。カバネがこっちに向かって集まってきているのに気づいた。

 

 

「これは天命なのか、はたまた奇跡なのか。俺はカバネにならずに生き延びたことに何か意味があるかもしれない。今はとにかく奴らを蹴散らし娘の.......穂積の無事を確かめるために立ち上がるしかない」

 

 

勇名は立ち上がり抜刀する。そしてカバネの群れに突っ込んでいった。



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孤独な旅

戦闘が始まってから幾時間.......

 

 

力なく倒れた勇名は天を仰いだ。

 

 

「はぁ.......はぁ.......はぁ.......やり切ったぞ.......」

 

 

長い戦闘の果て勇名はカバネを殲滅した。

辺りにはカバネの死体が山積みになっている。

 

 

「さすがに、これだけの数を相手に無傷ってのは厳しかったがもう噛まれてもカバネになることは無さそうだ。何故こんな身体になったのかは分からないが何かと都合がいい。しかしこの状態が大丈夫なのか心配だ、何か知る方法は無いものか.......」

 

 

勇名は考える。しばらく考えたどり着いた答えは、

 

 

「そうだ!金剛郭、あそこに行けば何か分かるはず、そうなればすぐに向かうしかない」

 

 

そして立ち上がり一度家に戻る。

地図、食料を持ち戦闘でボロボロになった服を脱ぎ着替える。

最低限の荷物を持ち別の場所へ。

向かったのは勇名の先祖の眠る墓。そして静かに手を合わせた。

 

 

「集落のみんなはカバネに殺されてしまった、俺はみんなの弔い合戦の為に旅に出る。どうか向こうでみんなと見守ってて欲しい。また次帰って来れるのは何年かかるかもわからない、けど必ず戻ってくるから待ってて欲しい」

 

 

そう言って勇名は墓を後にする。

向かうは金剛郭、とてつもなく長い旅になる。勇名は気を引き締め第一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

道中幾度もカバネと遭遇し戦闘が続いていた勇名。歩くこと数時間、隣の街美明(みあけ)に着いた勇名。しかしこの街も既にカバネの襲撃を受けカバネの巣に成り果てていた。

 

 

「ちっ、まさか隣の街までこんな有様になってるとはな。これじゃあ他の街もダメかも知れないな。だが何かあるかもしれない。カバネを殲滅して調べよう」

 

 

刀を抜き街に突っ込んでいく。

勇名はこの街に来るまでにいくつか気づいた事があった。それはカバネ行動と倒し方だ。

カバネは血の匂いに敏感で血を流していたりすると集まってくる。その他にカバネを倒すと他のカバネは狂ったように襲いかかって来るのだ。

倒し方は剥き出しになっている鋼のように硬い心臓を破壊するか首を落とすと倒せるということだ。

この情報を頭に入れている勇名は腰に付けている袋からあるものを取り出す。竹で出来た水筒だ。その中身を地面に流す。

するとカバネ達は一斉に勇名の方に振り向く。彼が流したもの、それは血である。

これで注意を引き付け集まったところに回り込むようにして切りかかる。

血の匂いとカバネを倒したことにより続々とカバネが集まってきた。

 

 

「数は今のところ約五十体てところか。ふん、一分で終わらせる!」

 

 

そう言って刀を一薙すると刀を左手から右手に持ち替え左手で短刀を抜き的確に急所を狙っていく。

因みにこの短刀も太刀と同じ刃でカバネの心臓を貫き断ち切ることの出来るものだ。どこで入手したかと言うと故郷のカバネ殲滅中この短刀が刺さったままのカバネを見つけて手に取ったところ持っていた太刀と同じ刃だったので妻の遺体の所へ戻ったら短刀の鞘を見つけた。

鞘には太刀の鞘と同じ家紋があり妻が使ったものだとわかったので一緒に持っていくことにしたのだ。

 

 

「やはり二刀流だと体が勝手に反応する。武家の血は争えないということか。そしてこの刀には隠された力がまだある。だが今はまだ使う必要もないな」

 

 

目にも止まらぬ斬撃で瞬く間にカバネを切り倒していく勇名。時間にして約一分カバネを全て切り伏せた。

 

 

「予定通り、だがこの街、何やら嫌な予感がする。調べるにしてももう少し警戒を続ける事にしよう」

 

 

周囲に気を配りながら街の中心へと向かって歩みを進める勇名だった。



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