Fateで学べないギリシャ神話 (水泡人形イムス)
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アキレウスとパトロクロスはお墓の中までズッ友だょ

 ※この作品は英霊が生きていた当時そのものではなく、当時の再現ドラマを英霊当人が演じるものです。再現ドラマなので多少の誇張や差異はあるかもしれません。ご了承ください。

 

 

 

 ――――トロイア戦争。

 ギリシャ中の英雄が集い、そして散っていく壮大な叙事詩。

 気高き英雄譚のひとつを今、解き明かそう。

 

 ギリシャ連合軍のトップ、アガメムノーンがクソコテだったせいで確執を起こしてしまったアキレウスは、トロイアとの戦争に参加せず自陣に引きこもっていた。息子がニートになって激おこに至ったモンスター・ペアレンツこと母テティスは最高神ゼウスに猛抗議。さすがのゼウスもあまりの剣幕にたじたじで言われるがままになった。最高神ってなんだ。

 おかげでギリシャ軍は神の横槍によって色々デバフかけられて連戦連敗の大劣勢に陥った。

 神々はホント最低だな……。

 

 しかしされど、アキレウス一番の大親友であるパトロクロスはギリシャ軍を哀れに思い、自陣の軍船にてシカト決め込むアキレウスに頼み込んだ。

 ちなみにどれくらい大親友かっていうと、ギルガメッシュに対するエルキドゥくらいである。

 

「アキレウス! 我が友、アキレウスよ! どうかお前の鎧兜を私に貸してくれ!」

「パトロクロス! 突然何を言ってるんだ? 父ペーレウスから授かった俺の鎧兜をお前に?」

「ああ、そうだとも。お前の鎧兜に身を包んで戦場に出れば、皆、アキレウスが参戦したと勘違いするだろう。それは味方に勇気を与え、敵に恐怖を与えるだろう」

 

 それは戦場に決して出ようとしないアキレウスに対する最大限の、そして最後の譲歩であった。

 アガメムノーン王との確執をなんとかしようと今まで説得を繰り返してきたのがパトロクロスである。そんな彼がとうとう、アキレウスは戦場に出なくていいと言ったのだ。

 代わりに自分が出るからと。

 故郷からトロイアまで、いついかなる時も支え合い、笑い合ってきた親友の頼みとあっては、出来る限りかなえてやりたいのがアキレウスの本音だ。

 

 それにこれはチャンスでもあった。

 最強の英雄アキレウスの武勇伝は敵味方に知れ渡っているが、それに引き換え、相棒であるパトロクロスの名は添え物でしかなかった。だがそれは決してパトロクロスの武勇が情けない訳ではない、アキレウスがあまりにも強すぎるためのものだ。

 だがパトロクロスが一人で戦場に立てば、アガメムノーン王もビックリする大活躍をするのは間違いない。親友の武勇を轟かせる事ができる。

 アキレウスは快諾しようと思ったが、ふと、ある疑念が脳裏をよぎった。

 

「しかし、うーん…………お前に鎧兜を着せていいものか……」

「どうしたのだアキレウス、私を信用できないのか」

「まさか。お前の腕っぷしを一番よく知ってるのはこの俺だ。お前なら大アイアスやディオメデスに勝るとも劣らない武勇を立ててくれるだろうさ」

「ならば友よ、私を信じて鎧兜をどうか」

「けどなぁ……」

「いったいどうしたというのだ。言いたい事があるならハッキリ言ってくれ」

 

 親友の不安そうな声色を受けて、アキレウスはとうとう胸の内を明かした。

 

 

 

「お前…………女だったりしないよな?」

 

「…………………………………………ほえ?」

 

 

 

 幼き頃からずっと一緒に育ってきた親友の言葉を、パトロクロスは初めて理解できなかった。

 アキレウスは困ったように頭を掻く。

 

「いや……だってよくあるじゃん。男の英雄だと思ってたのが、実は女だったっての」

「いや……何の話だ」

「セイバー(青)とか、セイバー(赤)とか、セイバー(赤の)とか、セイバー(桜)とか」

 

 しかも同じ顔だ。

 そりゃカルチャーショックを受けるだろう。こいつさてはカルデア帰り――!!

 

「何を言ってるんだアキレウス! 気でも触れたか!?」

「だってよぉ、Fateだぜ?」

「そうだけども!」

 

 聖杯戦争が起きたら女体化鯖が一人はいると思え。それがFateである。

 複数いる事もある。それもFateである。

 

「お前、女にしたらいかにも受けそうなポジションしてんじゃねぇか」

「してない! している訳がないだろう!」

 

 大英雄に尽くす健気な親友。

 男の友情の素晴らしさは否定しないが、女の子がやったらヒロイン度が凄まじいよね。

 

「俺の大ファンのイスカンダルだって、影武者は女だったぜ? 俺の影武者をやろうっていうパトロクロスが女だったとして、そう不自然な展開じゃあない」

「不自然だろ!?」

 

 不自然だろうか。

 古代ギリシャの哲学力が試される。

 

「だいたいそれを言うならアキレウス! 女装エピソードのあるお前の方が疑わしい!」

「ナニ言ってんだ。女装エピソードならあの雄の中の雄、ヘラクレスにだってあるぜ?」

「そうだけども!!」

 

 狂化前のヘラクレスはガチ美形なので女装映えしそうではある。

 あの体格と筋肉を除けば。

 

「我が父も参加したアルゴノーツの一員、ディオスクロイの双子だって片方女だったらしいぜ」

「…………親世代からの実例を出すのは卑怯だぞアキレウス」

 

 ちなみにトロイア戦争の発端となったヘレネーのお兄さん達である。

 世界一の美女であるヘレネーはそりゃもう数多の男から求婚され、求婚者同士で争いが起こらぬようオデュッセウスがこのような提案をした。

 

 ――――ヘレネーに何かあった時は全員で助ける! 友情!

 

 結果、ヘレネーがトロイアの王子パリスにNTRされたため元求婚者大集結――それがギリシャ連合の正体である。

 アキレウスは求婚者ではないので他人事なのだが、パトロクロスは求婚者だったので誓いに殉じねばならないのだギリシャ男子的に考えて。

 なお、この約束を言い出したオデュッセウスはペーネロペーという妻にゾッコンLOVEとなっており、今更ヘレネーのためとか言われてもなぁ……と参戦を渋り、気が狂ったフリをしてやり過ごそうとした前科がある。友情ってなんだ。

 

「ではパトロクロスよ、お前は間違いなく男だと言うのだな? 男装美女とかではなく!」

「当たり前だ! だいたい水浴びの時にお互い裸を見た事だってあるだろう、性的な意味でなく」

 

 性的な意味があったらそれはもう友情ではない、愛情だ。

 その方が絆が強い気はするけど。

 

「Fate独自の味付けをされた訳ではないのだな!?」

「Fate未登場キャラは原典風だよ! バニラだよ! もう台無しになってるけどな!」

 

 バニラ、要するに標準的という意味である。

 パトロクロス(バニラ味)である。

 

「すまないパトロクロス、お前を疑ってしまって……」

「分かってくれたかアキレウス」

「もしお前が女だったら、俺は女を身代わりにした卑怯者になってしまうのではと不安になってしまった。魔が差したんだ、どうしてだろうな」

 

 アキレウスは頭を抱えながら苦悩を吐き出した。

 パトロクロスはぶっちゃけお前もう戦場に出なくていいから飯食って酒飲んでぐっすり眠って休んでろと言いたい気持ちを抑えつつ、いたわるように、あるいは誤魔化すように言葉を返す。

 

「そういう唐突な思いつきは、たいてい神々の仕業だ。気に病むな」

 

 実際、トロイア戦争は神様電波を受信して行動を決めさせられる人間がいっぱいいた。

 トロイア王なんかそのせいで丸腰で敵陣まっただなかにやって来てアキレウスに会いに来たりしている。他のギリシャの将に見つかっていたら捕縛間違いなしだった。

 人間の意志ってどこにあるんだろう。

 

「そういう訳で、私がお前の鎧兜を借りる事になんら問題はないのは証明された。友よ、鎧兜を貸してくれるな?」

「ああ。俺の代わりにたっぷりと武名を馳せてくるがいい」

 

 こうしてアキレウスは自慢の鎧兜を親友に預けた。

 当然男性であるパトロクロスにとってサイズもそう差は無く、問題なく装着を完了する。

 遠目から見れば、彼の姿は紛れもなく英雄アキレウスである。

 

「では、行ってくる」

 

 これが悲劇の始まりだと知らず、パトロクロスはアキレウスの戦車へ乗り込み――――。

 

 

 

「アァァアアァァァァァァキレウスゥゥゥウウウウウウウ!!」

 

「ふぎゃっ!?」

 

 

 

 空から降ってきたトゲ付き鉄球がパトロクロスを叩き潰した。

 おお! いかに鎧兜が頑丈でも、圧倒的質量攻撃を受けたら中身はぺしゃんこさ!

 哀れパトロクロスは血飛沫を上げながら情けない悲鳴と共にノックアウト!

 

「パトロクロスゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 これにはアキレウスもビックリ。こんなの脚本にない!

 再現ドラマをぶち壊したのはどこのどいつだ。みずからの行いを棚に上げて、アキレウスは軍船の上から襲撃者を睨んだ。

 残骸と化した戦車へと歩み寄ってきたのは銀色に輝く髪の女戦士。

 

「フシュルルル……今の手応えはアキレウスではない…………だが匂うぞ、アキレウスの匂いがプンプンする………………そぉこぉかぁぁぁあぁあぁあぁっ」

 

 冥界の底から響くような声で、ケルベロスすら恐怖に身をすくませるような恐ろしさで、アマゾネスは怨恨を吐き出しながらギラリとアキレウスを睨み返した。

 ドキリと、怒り以外の感情を呼び起こされながらアキレウスは呟く。

 

「ぺっ……ペンテシレイア!?」

 

 彼女の出番は本来まだ先である。

 パトロクロス死亡、ヘクトール死亡、ペンテシレイア死亡、アキレウス死亡、大アイアス自殺、パリス死亡――Fate関係者に関する今後のトロイア戦争の流れはだいたいこんな感じである。

 ロー・アイアスの本家本元さんが自殺した理由? ……触れてやるな。

 

「なんでここに…………って、来てるよな、再現ドラマなんだから」

「あの時の戦いを再び出来ると聞いた! 今こそ雪辱を晴らしてやるぞアキレウスゥゥゥ!!」

「……で、素直に出番待ってる訳ねぇよな。バーサーカーだし……」

「■■■■■■■■――――――――ッ!!」

 

 言語能力すら喪失して襲ってくる怒りの狂戦士、アマゾネスバーサーカーペンテシレイア!!

 軍船を壊されてはたまらないと、アキレウスも地上に飛び降りて応戦の構え!

 おお! 神話の戦い、当人をキャスティングしてここに再現される!

 

 

 

   ドカッ バキッ グシャッ ドゴォッ バコーン

 

 

 

 再現なのでペンテシレイアは負けた。

 というか素の実力が違うから仕方ない。それにアキレウスって踵以外は不死身だし。

 

「くっ、ううっ…………アキ、レウ、スゥゥゥ……」

「悪いな……詫びのためなら殺されてもいい、とは思っちゃいるんだが…………再現ドラマだし」

「ま、またあの言葉を……我が戦士の誇りを辱めるというのか…………おのれ、おのれぇぇぇ」

「そこまで再現する気はねぇよ。だが、自分の心にも嘘はつけない」

「やめろ……やめろぉぉおぉおぉ……!」

 

 ボッコボコにされて地に伏しながら、ペンテシレイアは怨嗟に満ちた眼差しを猛獣のように歪める。戦士として戦い、敗ける。それはいい。戦いとはそういうものだ。

 だがアキレウスは、事もあろうにアキレウスは。

 美しいと――――ペンテシレイアを戦士ではなく、女として称賛した。

 そのような侮辱、許せるものか。

 

「待て、そこまでだアキレウス」

 

 再びアクセル全開で過ちに踏み込もうとした男を止める声、それは戦車の残骸から聞こえた。

 ハッとして振り向いてみれば、頭から血をピューピュー流しながら立ち上がるパトロクロスの姿があった!

 

「生きていたのかパトロクロス!」

「この鎧兜が無ければ即死だった……」

 

 神々がペーレウス王に与え、そしてアキレウスへと継承された鎧兜は伊達じゃない。

 なおこの後、パトロクロスの仇討ちのためヘファイストスからもっと凄い鎧兜をもらう予定である。ただでさえ不死身なのに神様防具だらけというご贔屓っぷり、それがアキレウス。別にそれらが無くても強い、それがアキレウス。

 

「パトロクロス! お前が無事である事がこんなにも喜ばしいとは! お前を喪ったと思った時、俺は悲しみというものを心底思い知った。例え父ペーレウスを喪おうと、例え我が子ネオプトレモスを喪おうと、お前を喪うほどの悲しみには及ぶまい!」

 

 実際、こんなような事を言います。

 別に父や子を軽んじている訳ではないのは、名誉を示す際に父ペーレウスの名を出す事からもよく分かるものです。つまりそれほどまでにパトロクロスという親友の存在は重く、掛け替えのないものなのです。

 

 葬式もめっちゃ盛大にやります。生贄に犬とか馬とかも捧げます。ヘクトールの遺体も引きずり回します。葬礼競技とか言って競技大会も開きます。

 なおアキレウスの葬式はさらに派手に行われる模様。どれくらい派手かって言うと大アイアスが自殺するくらい派手。

 

 そして男の友情は最高潮を迎え、熱き包容を交わす。

 そりゃもうガッシリと、暑苦しいほどに抱きしめ合う。

 これぞギリシャ男子の友情ってもんだ。

 ちなみにパトロクロスは自分とアキレウスの遺灰は一緒に埋葬してくれとか頼むし、アキレウスも実際そうしてもらうし、友情が重い。お互いに。

 

「アキレウスよ、ペンテシレイアとの決着をつけるべきは今ではないだろう。ひとまず動けなくしたのだから、我々は我々の成すべき事をしよう」

「ああ……行くのか?」

「行くとも。お前の鎧兜と、戦車を借りて――――」

 

 そう言いながら身を離した途端、ガシャンと音を立てて鎧兜が割れ落ちた。鉄球の直撃を受けて限界寸前だったところに、アキレウスとの力強い包容がトドメとなってしまったのだ。

 ついでに言えばアキレウスの戦車もバラバラに砕けており、三頭の馬は困ったようにブルブルといなないている。こっちの鉄球の直撃を受けたもんなぁ、仕方ないよなぁ。

 ダラダラと額から血を流しつつ、パトロクロスは硬直した。

 こんな有様でアキレウスの代わりに戦場に出るとかちょっと無理っぽい。

 それになんだかさっきから頭痛がする、吐き気もだ。気分も悪くなってきた。ペンテシレイアの奇襲を受けたのだから重傷ですんだのはむしろ幸運と言える。

 至近距離ゆえ親友の体調を察したアキレウスは、友情に報いるべく意を決した。

 

 

 

「分かった。俺の振りをするパトロクロスの振りを俺がしよう!」

 

「何を言ってるんだアキレウス。いやマジで」

 

 

 

 しかしそうしないと話が進まない。

 アキレウスはパトロクロスから盾を取り返すと、槍を握りしめて戦場に向かって駆け出した。ギリシャ最速の健脚に負傷済みのパトロクロスが追いつける道理もない。

 置いてきぼりだ。

 

「――――パトロクロス様、パトロクロス様」

 

 と、そんな彼に話しかける声。

 それはアキレウスの戦車を引く三頭の馬のうちの一頭、神馬クサントスであった。

 神馬なので人語を話せます、ブヒヒン。

 

「おお、クサントス。どうした?」

「ペンテシレイアが何か書状のようなものを握っています」

「書状?」

 

 そういえばペンテシレイアがいるのだった。

 大人しいと思ったら気絶していたようで、その手にはクシャクシャに握りしめられた文らしきものがあった。目を覚ましやしないかと注意しながら、恐る恐るそれを回収してみると――――。

 

 

 

『坐骨神経痛がつらいので早退します byヘクトール』

 

 

 

 パトロクロスを殺す予定の宿敵からの早退メールだった。

 もしかしたらパトロクロスではなくアキレウスが来てしまうと察知しての軍略かもしれない。

 結局Fateキャラな時点で最初から再現ドラマなんて破綻していたかもしれない。

 頑張れ、敗けるな、パトロクロス。

 君の戦死は近いぞ!

 

 

 

 CAST

 アキレウス役――アキレウス(ニンジン味)

 パトロクロス役――パトロクロス(バニラ味)

 ペンテシレイア役――ペンテシレイア(アマゾン味)

 クサントス役――クサントス(桜肉味)




 アキレウスが誓いを立てる時「我が父、我が母、我が友の名に懸けて」と言ったりするのは、同じ墓に入るくらい超仲良しだったパトロクロス君が親友だったからです。
 二人の友情が伝わったのなら幸いデス。


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仲良し☆ゴルゴン姉妹

 ※この作品は英霊が生きていた当時そのものではなく、当時の再現ドラマを英霊当人が演じるものです。再現ドラマなので多少の誇張や差異はあるかもしれません。ご了承ください。

 

 

 

 ゴルゴン三姉妹――末の娘メドゥーサは美しい髪の美少女だったが、姉のステンノとエウリュアレはちょっと特徴を記すのが躊躇われる感じの女だった。愛されるために存在するアイドルとか、決してそんな感じの少女ではなかった。メドゥーサと違って女神アテナに呪われる前から蛇頭だったり怪物顔だったりして、全然モテなさそーなタイプだ。

 だがサーヴァント当人による再現ドラマなので、最高に美しいステンノ様と、最高に可愛らしいエウリュアレ様がその役目をなさっている。故に最高に美しい姉と最高に可愛らしい姉と表記せざる得ない。

 

 で、メドゥーサはアテナを軽視してアテナの神殿でポセイドンとハッスルした(あるいはポセイドンに()()()()()された)挙げ句、自分の髪はアテナより美しいとかイキってしまったため、軍神アテナの怒りに触れる。

 そして自慢の髪を蛇に、美しい顔も見るものを恐怖のあまり石化させる化け物フェイスに変えられてしまったのだ。

 おかげで人目のある場所で暮らしていられるかとなり、西の果てにある洞窟へと移り住んだ。そこは元々ステンノとエウリュアレが住んでた洞窟である。こうして三姉妹の共同生活が始まった。

 ステンノとエウリュアレは、醜い姿となってしまったメドゥーサを哀れみ、そして変わらず愛し続けた。

 

「メドゥーサ! メドゥーサ! 洗濯は終わったの!?」

「はいぃっ! 今やってます上姉様!」

「駄メドゥーサ! 部屋の隅に埃が溜まってるわよ!」

「はいぃっ! 洗濯がすんだらすぐに掃除します下姉様!」

 

 …………愛し続けたのである。

 メドゥーサはシャンプーばっちりサラサラキューティクルヘアーをなびかせながら、姉に忠実に働いていた。蛇頭の設定は忘れろ。

 体格が小さくてお美しいステンノ様は、洞窟暮らしに辟易として乾いた笑みを浮かべており、体格が小さくて可愛らしいエウリュアレ様は、貧乏暮らしに辟易として無表情になっている。

 Fateじゃ結構いい感じの神殿に住んでましたもんね。

 

「まったく、なぜ私達がこんなところで暮らさないといけないのかしら。ねえ? (エウリュアレ)

「それもこれも駄メドゥーサがアテナの天罰を受けたせいよ。酷い巻き添えよね、(ステンノ)

 

 念のため言っておくと、原典のステンノとエウリュアレはお互いの事を「私」と呼び合ったりしません。でもFateのステンノ様とエウリュアレ様は「私」と呼び合いますし、再現ドラマだって伝えてあるのに呼び方を改めてくれません。そういう女神なんです。

 こうした毎日を平和に送りながら、可哀想なメドゥーサは姉達から慰められたりしていました。

 

「メドゥーサを慰めればいいのね」

「メドゥーサ、慰めるからこっちへ来なさい」

 

 超、上から目線で命令する姉様ズ。

 洗濯を終えたメドゥーサはいそいそと姉様方の元へやって来た。

 絶対イジメられる……そう確信して、無駄にデカい図体をおどおどさせながら。

 ニッコリ。ステンノスマイルとエウリュアレスマイルによって後光が生じ、人間の男がいたら確実に魅了される光景が現れる。

 一方、メドゥーサは怯えていた。これからいったいナニをされるのかと、それはもう産まれたての子鹿のように震えていた。

 

「ああ、可哀想なメドゥーサ。頭を撫でて上げましょう。いい子いい子」

「ッ!?」

「可愛いメドゥーサ、私達だけはあなたの味方よ。背中から抱きしめて上げましょう。よしよし」

「ッッッッ!?!?!?!?」

 

 なでなで、むぎゅむぎゅ、なでなで、むぎゅむぎゅ。

 小さくて柔らかな手のひらが、キューティクルヘアーをソフトタッチ。

 小さくて柔らかな肢体が、ムチムチボディを背中越しエンブレイス。

 美しーい姉妹愛がハニーシロップのようにトロトロと注がれて、メドゥーサちゃんはリンゴのように真っ赤になって感極まっている。

 

「あ、ああああ、あ、あ、あの、あのの」

「なぁにメドゥーサ」

「どうしたのメドゥーサ」

 

 あえて、二人の姉は妹の耳元に花びらのような唇を寄せて、スウィートブレスを吹きかけながら甘く甘く囁いた。

 

「こっこ、ここ、これはいったいどういう辱めなのでしょうかー!?」

「あら、私達は仲良し姉妹でしょう?」

「神話の通り、こうして仲良くして何の問題があるのかしら」

 

 マジか。神話の自分、こんなコトされていたのか。

 メドゥーサは脳髄を蕩けさせながら、二人の姉に洞窟の奥へと誘われていく。

 

「さあ、今日もいっぱい働いて疲れたでしょう? ベッドに入ってお休みなさい」

「子守唄を歌って上げるわ。ぐっすり眠るのよ、メドゥーサ」

 

 マジか。神話の自分、幸せすぎるでしょう。

 メドゥーサは夢心地で夢の世界へトリップ完了。一点の曇り無くハッピーエンドでした。

 

 

 

 暗い暗い洞窟の中、ステンノとエウリュアレは笑みを深くして妹を見守る。

 それはもう笑みを深くして。唇で三日月を描くようにして。

 

「あらあら、駄メドゥーサったら、すっかり寝入ってしまったわ」

「この後の展開忘れちゃったのかしら」

 

 説明しよう、メドゥーサは寝込みを襲われて死ぬ。

 首チョンパされて死ぬ!

 

 Fateのように巨大怪獣ゴルゴーンと化してスーパー神話バトルとかしない。

 実写映画のように侵入者に気づいて戦闘とかもしない。

 

 

 

 哀れにも寝込みを襲われて!

 全然気づかないまま!

 首を落とされて!

 死ぬ!

 

「スヤスヤ……ふふふ、上姉様……下姉様ぁ…………ムニャムニャ」

 

 死ぬ!

 首を落とされて!

 全然気づかないまま!

 哀れにも寝込みを襲われて!

 

 

 そんなこんなで夜になって、西の果ての洞窟に一人の若者がやって来ました。

 彼の名はペルセウス。

 Fateだと成功した慎二だとか言われたり、カルデアに来たら殺すとメドゥーサさんに嫌われたりしている、割と残念な英雄っぽいぞ。

 でも原典の彼は優しくて気安い好青年なんだ。

 彼もまた神々から宝具レンタルしまくっており、もう神々のテコ入れで勝利確定の布陣である。

 まずは戦の女神アテナからは剣と盾を、ついでにヘルメス神の空飛ぶサンダルも貸してもらいました。冒険始まって早々に空飛ぶアイテムとかRPG舐めてんの?

 道中で出会ったニンフも親切にしてくれて、メドゥーサの首を入れるための袋、さらには冥界の王ハデスから兜を借りてきてくれました。この兜をかぶると姿が消えてしまうのです。

 

 ところが洞窟にやって来たペルセウスは、姿をくらますマントを羽織っていました。

 兜だって言ったろオイ。

 駄目だこいつFate/Prototypeのペルセウスだ。

 

 さて――マジモンの英雄が原典準拠の暗殺ムーブをする事になりました。アサシン適正もバッチリです。足音を立てないよう忍び足で洞窟を進み、ベッドで眠るメドゥーサを見つけました。

 Fateのメドゥーサなので魔眼で見られないと別に石化とかはしないのだけど、ここは再現ドラマの都合上、彼は律儀に盾を掲げてメドゥーサの姿を映し見ました。

 そうしてとうとう不死殺しの剣ハルペーの届く距離まで忍び寄ると――――。

 

「!?」

 

 そこには、頭をシーツでグルグル巻きにされて呻いているメドゥーサの姿が!?

 しかも胴体を鎖でグルグル巻きにされていた。アンドロメダ姫でもここまで縛られてないぞ。

 困惑して思わず盾越しではなく直接メドゥーサの姿を確認しようとしてしまい、慌てて姿勢を崩さぬよう踏ん張った。

 暗い、静かな洞窟に――――ペルセウスの足音が響く。

 直後、天井から網が降ってきた。

 

「うわっ!?」

 

 ハデスのマントで姿を隠していても、肉体が消えた訳ではない。網はペルセウスにかぶさってその輪郭を大まかにあらわにさせ、同時に動きを封じ込めた。

 カツーン、カツーン。ふたつの足音がペルセウスを挟むようにして近づいてくる。

 

「あらあら、メドゥーサの頭が見当たらないわ」

 

 シーツで頭をグルグル巻きにされているからである。

 

「それに動いてもいない、死んでしまったようね」

 

 鎖で縛られて動けないだけである。

 

「つまり次は、メドゥーサの仇を討とうと私達がペルセウスに襲いかかるシーンね」

「今の私達はサーヴァント。不服な事に戦う力を持ってしまっているの」

 

 アサシン、ステンノ。特技は男性ぶっ殺す宝具。

 アーチャー、エウリュアレ。特技は男性セイバー超絶ぶっ殺す宝具。

 ペルセウスは男の子!

 

「ちょ、ちょっと待った! 僕まだメドゥーサに指一本触れてないんだけど!?」

「何を言ってるの? 首が無くなってるじゃない」

「シーツでグルグル巻きにしてあるだけだろ!?」

「そうかしら? 暗くてよく分からないわ」

 

 メドゥーサの首が切り落とされ、頭が無くなっている事に気づいたステンノとエウリュアレは、大いに嘆いたとも、ペルセウスに復讐しようとするも透明兜と空飛ぶサンダルのせいで逃げられてしまったとも言われている。

 とりあえず後者の通り、ステンノとエウリュアレはペルセウスに攻撃しようとするようだ。

 …………網にかかって動けないでいるペルセウスに。

 

 最高に美しいステンノ様は! ペルセウスに向かってハート増し増しウインク!

 最高に可愛いエウリュアレ様は! ペルセウスに向かってハート増し増しスナイプ!

 

 

 

女神の微笑(スマイル・オブ・ザ・ステンノ)!!」

 

女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)!!」

 

「うわぁぁぁ! 僕のハートがラブラブ☆キューン!?」

 

 

 

 男は死ね! 容赦なしの二重奏がペルセウスに炸裂!

 哀れ男はインフレダメージを受けて一撃でノックアウト。心不全を起こしてビクンビクン。

 

「…………手応えは無かったわよね? (エウリュアレ)

「ええ。これは襲撃者に逃げられてしまったようね、(ステンノ)

 

 二人がそう言うと、人間一人分のふくらみのある網がズザザザザと地面を滑り始めた。再現ドラマなので裏方スタッフさんが画面外から紐で引っ張っているのです。網の中身は岩肌でガリガリ削られて酷く乱暴な扱いだけど、裏方さんバーサーカーだから仕方ないね。

 こうしてペルセウスのメドゥーサ退治は、大成功のうちに終わったという事になった。

 

 

 

 ――――二人は洞窟に戻ると、メドゥーサを縛り付けていた毛布と鎖を剥ぎ取る。

 一応音は聞こえていたためメドゥーサは状況を大まかに把握してはいた。

 

「あ、あの……これは……」

 

 ニッコリ笑顔、スマイル・オブ・ザ・ステンノが答える。

 

「再現ドラマは無事終了よ。お疲れ様、メドゥーサ」

「まさか私のために……」

 

 優しい眼差し、アイ・オブ・ザ・エウリュアレが答える。

 

「駄メドゥーサとはいえ、貴女がいないと困ってしまうわ」

「し、下姉様……」

 

 二人の姉は親愛を寄せるようにして、メドゥーサの顔へと近づいていく。

 最愛の姉の笑顔が、眼差しが、自分へと近づいてくる――――それだけでもうメドゥーサは幸せいっぱい胸いっぱいで、感情が溢れ出しそうになった。

 そしてとうとう、互いの距離がゼロになり――――――。

 

 

 

   カプッ。

        カプリ。

 

 

 

「え゛」

 

 上姉様と下姉様の濡れたように輝く唇が、溢れ出したばかりの鮮血によって紅く濡れた。

 具体的に言うとメドゥーサの首筋に左右から噛みついたのだ。

 

「ふふふっ…………やっぱりメドゥーサの血は相性がいいわね。ちゅうちゅう」

「首を落とされてしまったら、鮮度が下がってしまうわ。ちゅうちゅう」

「かっ……身体目当て――――!?」

 

 説明しよう、Fateのゴルゴン姉妹はみんな揃って吸血種。

 メドゥーサは美少女の血が好きで、ステンノとエウリュアレはメドゥーサの血が大好きなのだ。

 可憐な花びらのような唇を、淫らな赤に染めて生命をすする姉二人。

 甘美なる刺激に陶酔して頬を紅潮させる妹一人。

 

「ひぃぃ~~~~! 結局こんな扱いなんですねー!?」

 

 と嘆きつつも、内心満更でもないのがメドゥーサという生き物のサガであった。

 こうして仲良し☆ゴルゴン姉妹の夜は更けていきましたとさ。

 

 

 

「…………これ、邪魔しない方がいいよね」

 

 裏方さんに洞窟の外まで引きずり出されたペルセウスは、メドゥーサ退治を終えたので飛んで帰りました。帰り道で鎖に縛られたアンドロメダ姫を見つけて助けて結婚したり、母の元に帰って母に言い寄ってた王様を石にしたり、故郷に帰って実の父親を事故死させたりした後、ギリシャ英雄には珍しく幸福な一生を送ったのです。

 ただし聖杯戦争に呼ばれてハードモードやらされる。迂闊に英雄になると大変、みんなも気をつけようね。

 

 

 

 CAST

 メドゥーサ役――メドゥーサ(ライダー)

 ステンノ役――ステンノ様(アサシン)

 エウリュアレ役――エウリュアレ様(アーチャー)

 ペルセウス役――ペルセウス(プロト)

 裏方スタッフ――アステリオス(かわいい)




 私はステンノ様とエウリュアレ様を書きたかっただけなのかもしれない。
 実際、神話の通りにメドゥーサ暗殺されたらステンノ様とエウリュアレ様はどのような反応をなさるのだろう? 茫然自失とするのか、泣き喚いてしまうのか、遺体にそっと寄り添うのか。
 色々考えた結果ペルセウスは犠牲になったのだ……美しい姉妹愛の犠牲にな……。


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ヘラクレス星座RTA

 ※この作品は英霊が生きていた当時そのものではなく、当時の再現ドラマを英霊当人が演じるものです。再現ドラマなので多少の誇張や差異はあるかもしれません。ご了承ください。

 

 

 

 ギリシャ神話に謳われる大英雄ヘラクレス。

 十二の試練を踏破した彼の武勇はギリシャ最高峰である。ヒューッ、かっこいー。

 そんな彼にも冒険に出る前の平和な日々があった。

 まだヘラクレス(ヘラの栄光)の名を授からず、人間アルケイデスとして妻子と共に仲睦まじく暮らしていた、平和な日々が……。

 

 という訳で時系列的にはアルケイデスと表記するのが正しいのですが、再現ドラマを演じるのはバーサーカーとして召喚されたヘラクレスなので、ヘラクレスと表記させていただきます。

 

 さて、ヘラクレスが生まれたのはテーバイという国。様々な教育を受けてエリートとして育ちつつ、ちょっと頭がヒットして音楽教師を撲殺したりもしましたが、若くしてライオンを狩ってその毛皮をコスチュームにしたり、ちょっとオルコメノスって国と戦争して無双したり、英雄ムーブに余念のない英雄でした。

 

 おかげさまでテーバイ王クレオンの娘、メガラと結婚して三人の子宝にも恵まれました。

 それとヘラクレスには双子の弟がおり、これまた三人の子宝に恵まれていました。

 

 で、そいつら全員が次のエピソードに関わってきます。ちょっと人数多すぎて、ギリシャ神話初心者の方々は混乱してしまいますね。

 そこで分かりやすくまとめました。

 

 

 

 メガラ――ヘラクレスの最初の妻。

 テリマコス――ヘラクレスとメガラの息子。長男。

 クレオンティアデス――ヘラクレスとメガラの息子。次男。

 デイコオン――ヘラクレスとメガラの娘。末っ子。

 

 イピクレス――双子の弟。Fateでは妹になっている。

 イオラオス――イピクレスの息子。ヘラクレスの甥に当たる。

 子供A――イオラオスとは腹違いの弟。名前が分からない。

 子供B――同上。

 

 

 

 覚え切れない方のためまだ秘策があります。

 そしてこんな大勢の人物が登場する理由は、ヘラクレスの家にこれだけ集まって和気あいあいと過ごしていたからです。多分ホームパーティーって奴です。

 そこに帰ってきたのがみんなの主役、ヘラクレス。

 

「■■■■――――ッ!!」

 

 バーサーカークラスでの出演なので、腰巻き一枚の益荒男です。

 端正な顔立ちは盛り上がった筋肉によって化け物みたいになってるし、肌も鉛色になってて化け物だし、言語能力も喪失して獣のように唸るか吼えるかしかできない化け物だし、化け物です。

 そしてこの後の逸話も含めて――ご家族にバーサーカーと化したヘラクレスさんを会わせるのは倫理的問題があるとの判断につき、代役を用意しました。

 

 

 

「おかえりなさい、ヘラクレスさん!」

 

「…………■■■■――――ッ!?」

 

 

 

 FGOとプリズマ☆イリヤのコラボの産物!

 キャスタークラスで召喚されたイリヤスフィールちゃんだー!!

 月光のような美しい髪と、プニプニほっぺの愛らしい小学五年生の少女。今日は穂群原学園の制服でも魔法少女のコスチュームでもなく、古代ギリシャらしいキトンをまとっての登場です。ほらあの真っ白い布を羽織ったような衣装。キトン。

 まさかのイリヤにヘラクレスさんはビックリ仰天。

 その慌てた様子を見て、イリヤはミスに気づいて慌ててしまう。

 

「あっ――ご、ごめんなさい。おかえりなさい、お父さん! でした」

 

「……………………■■■■■■■■――――――――ッッ!?」

 

 ますます混乱するヘラクレス。

 台本は渡してあるはずだが、バーサーカーなので読めているのか、理解できているのかは、謎。

 

「えっと、今はテリマコス役と、クレオン……テ……クレンディアス役と、デイオコン……じゃないや、デイコオン役を、兼任してのセリフです!」

 

 ややこしい名前をカンペで確認しながら、イリヤはそう言いました。

 ギリシャ人名を現代日本人が暗記するのは手間かかるからカンペは仕方ないね。あ、プリヤのイリヤは日本育ちの日本人です。外国語がどこまで話せるかは不明。

 

 さて――――ぶっちゃけヘラクレスの子供三人、揃って同じ目に遭うから、全部イリヤに兼任してもらう事になりました。

 なので子供三人分の名前を覚える必要はないです。覚えたい人は自習してください。

 

 ちょっと風通しのいいキトン姿にテレテレしながら、イリヤは張り切った様子で告げる。

 

「本当はクロやシトナイにもお願いするはずだったんだけど、伝達ミスでお願いできなかったみたいで……あの、でも、わたし一人でも一生懸命がんばりますから!」

 

 神話の内容をちゃんと知ってる二人には伝達ミスである。安心!

 ――――思わず後ずさるヘラクレス。

 企画の趣旨を理解しているかどうかは不明だが、ここはヘラクレスがメガラとの結婚時代に暮らしていた屋敷を再現したもの。当時の記憶がフラッシュバックしている可能性は高い。

 

「おかえりなさい貴方~、メガラ役のアイリよ~」

 

 そして、さらに、イリヤのお母さんがそのままお母さん役で登場だ。

 彼女もまたFGOとFate/Zeroのコラボによってサーヴァント化したキャスター! 別にキトンに着替えなくても天の衣姿な時点でもうだいぶ神話チックだからそのまんまでよくね? という都合により天の衣姿のまま出演です。

 

「ごああああっ!?」

「ええ、イリヤが貴方の息子&娘役で出演するって聞いたから、私も張りきらなくちゃって」

「ごあっ!? ごああ!?」

「ええ。イリヤは子役兼任なの。負担が大きいから母親として私が支えなくっちゃ!」

 

 ここでFate情報。

 ヘラクレスは「ごあごあ」って鳴く場合もあるぞ!

 アイリさんはヘラクレスのごあごあボイスを解読できるぞ!

 ソースはどっちもタイガーころしあむ。

 

 さて――家族に迎えられたヘラクレスに声をかけたのは、その四人(イリヤ、イリヤ、イリヤ、アイリ)だけではなかった。

 炉に薪を焚べながら、炎の揺らめきに顔を照らされる二人の男。

 

「…………おかえり、兄さん。イピクレス役のエミヤだ」

 

 彼もまたFGOとFate/Zeroのコラボでサーヴァント化した、アサシンのエミヤだ。

 FGOの舞台カルデアにおいてはイリヤやアイリをストーキングするのが趣味の怪しい男だぞ。

 そして彼の座る椅子には、古代ギリシャに相応しくない自動小銃が立てかけられていた。イリヤの体重より重たいそれはまさしく人間の文化が生み出した殺意の結晶。それもこれもプロメテウスが人間に火なんか与えるからこうなったんだ。

 ヘラクレスの双子の弟、イピクレス役エミヤ(アサシン)は、趣旨を理解しているのかいないのか妙に剣呑な眼差しをヘラクレスに向ける。そしてどこか心配そうにメガラ役アイリとテレマコス役クレオンティアデス役デイコオン役イリヤを見つめる。

 

「…………おかえり、伯父さん。イオラオス役のエミヤだ」

 

 そしてもう一人、アーチャーのエミヤがアサシンのエミヤの隣に座っていた。その両手には古代ギリシャには不釣り合いな中華刀、干将莫耶が握られていた。その刀身に炎の揺らめきを映して何やら重苦しい雰囲気をまとっている。

 

 ヘラクレス一家というか、ただの衛宮一家だった。

 

「ごっ……ごああっ……」

「あらあら。キリ……じゃなかった、イピクレスもイオラオスも、もっとちゃんと挨拶なさい」

「ごああ」

「いいのよヘラクレスさん、じゃなかった、貴方。これも家を預かる妻の努め! …………ああ、そうだったわ。イリヤ、貴女も挨拶しないと。ほら、あっちの方で」

 

 メガラ役アイリに言われ、息子&娘役のイリヤはハッと思い出してヘラクレスに頭を下げた。

 

「えっと、お邪魔していますヘラクレス伯父さん。イピクレスお父さんの子供二人も兼任しているイリヤです」

「ごああああーっ!?」

 

 ヘラクレスの長男のテリマコス役と次男のクレオンティアデス役と長女のデイコオン役と、イピクレスの子供多分二人役、合計五人一役のイリヤスフィールです。

 なので、この後ヘラクレスと冒険を共にするイオラオス以外の名前を覚えるのはもっとギリシャ神話に馴染んだ後で結構です。

 

 五人一役にしちゃってシナリオは大丈夫なのか? 原典再現はできるのか?

 出来る、出来ます。

 五人とも同じコトされるから全然大丈夫です。

 

 さて。

 家族一同勢揃い、さらに弟も子連れでやって来た。

 とても賑やかで平和な光景です。

 英雄ヘラクレスにとって幸せの絶頂は、この瞬間かもしれません。

 そして、不幸と絶望の底も――――。

 

 ヘラクレスはゼウスの浮気で生まれた子供である。

 アルクメネという女性の夫に変身して、ゼウスはやらかしやがったのである。

 おかげで正妻のヘラは怒りのあまりヘラクレス暗殺未遂や嫌がらせに余念が無くなりました。

 神々はホント最低だな……。

 

 さて今回ヘラがお送りする嫌がらせは、ヘラクレス発狂電波である。

 これを浴びたヘラクレスは狂気に呑まれて、我が子達を炎に投げ込んで殺してしまうのである!

 ――これが彼がバーサーカー適正を持つ所以のひとつである。ひとつでしかないのは、今後もヘラからヘラクレス発狂電波を浴びせられて友殺しとかさせられるからである。

 神々はホント最低だな……。

 

 という訳で、ヘラクレスにヘラクレス発狂電波が送信されました。

 分かりやすさを優先+出演者への合図のため、ヘラクレスの頭上がピカーっと光った。その演出は神代の魔術によるものである。

 

(ヘラクレス……ヘラクレス……今、貴方の脳内に直接語りかけています)

「ご、ごあ?」

(この一件とまったく、全然、ちっとも関係ないけど…………裏方のメディアよ。演出や薬の提供で協力させてもらっているわ)

「ごあっ……?」

(さあ、このくだらない企画をとっとと終わらせるため、子役のイリヤスフィールを炉に投げ込みなさい)

「ごっ……ごああああーっ!?」

 

 

 

 おお! 何たる悲劇、何たる仕打ち!

 女神ヘラの嫉妬パワーによりヘラクレスはなんと、愛する我が子三人と、イピクレスの子供二人までもを炎に投げ込んで殺してしまうのだ! みずからの手で!

 

 

 

 ジャキン。イピクレス役エミヤ(アサシン)が自動小銃を持ち上げる。

 ジャキン。イオラオス役エミヤ(アーチャー)が夫婦剣を持ち上げる。

 グッ。子供兼任しまくり役イリヤは両腕をヘラクレスに向かって大きく広げる。

 

「えっと…………ここで()()()()()()()()()()()んですよね?」

 

 違う。掴み上げられて炎に投げ込まれるのだ。

 台本ミスでその後のシナリオが伝わってないのでイリヤはとってもほがらかムード。ただのホームパーティーの延長だと思っているので、娘っぽく振る舞おうとスマイル全開。

 あんな風に甘えられたコト僕は無いぞとイピクレス役エミヤ(アサシン)が眼差しを暗く淀ませている。あんたの子じゃないでしょ。いや五役中二役はあんたの子か。

 

「…………? ヘラク……お父さん、どうしたの?」

 

 この後どうなるのか知らないイリヤの無垢な問いかけが、ヘラクレスのハートを深々とえぐる。

 抱き上げられるのを素直に待つイリヤ。まだかな、なんて思って首をちょっと傾ける。クイッとする。可愛いなこの生き物。

 

(ちょっとヘラクレス、早くしてくれない? その子にはちゃんと、昔イアソンに使った火除けの薬を塗ってあるから――――)

 

 さらにヘラクレスの脳内に響くメディア・ボイス。

 ただでさえいっぱいいっぱいだったところに刺激を与えたもんだから、風船が破裂するようにしてヘラクレスは叫んだ。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――――――――――ッッ!!!!」

 

 

 

 叫んで、叫んで、叫んで、叫び尽くして、ヘラクレスは火のついた薪を束で鷲掴みにすると、唐突に駆け出した。

 炎に放り込むべき愛しき少女の前から逃げ出すように。

 

「あれぇぇぇ!? ヘラクレスさん待ってぇ~~~~っ」

 

 慌てた様子で追いかけていくイリヤだが、残念、バーサーカー・ヘラクレスの敏捷ランクはA!

 筋肉=速度ッ!!

 イリヤの足で追いつくのはちょっと無理があった。

 

 呆然として置いてきぼりにされたのはメガラ役アイリ、イピクレス役エミヤ(アサシン)そしてどこか満足気なイオラオス役エミヤ(アーチャー)だった。

 

 

 

 憩いの我が家から逃亡したヘラクレスは走った。

 左手に燃え盛る薪を握りしめたまま、右手で斧剣を振り回し、道中にある大木を切り倒して担ぎ上げて物凄い走った。

 そうしてオイテ山に登ると大木を並べて火葬台とし、燃え盛る薪を放り込んだ。

 …………切り立てで水気のある大木だから火の点きが悪い。

 

(…………はいはい、分かったわよ。これでいいんでしょ)

 

 意図を察した裏方メディアが魔術を唱えると、途端に火葬台は赤々と燃え始めた。

 ヨシ! ヘラクレスは迷う事なく火葬台にダイブ!

 十二の試練(ゴッドハンド)で守護られたヘラクレスの肉体は、Aランクに満たない攻撃を無効化してしまうだがしかし! この炎を放ったのはキャスター・メディアさん!

 そのステータス、実に魔力A+を誇る。

 

 よってヘラクレスの肉体は焼かれて死んだ。

 

 

 

 ――――こうして女神ヘラの狂気を乗り越えた大英雄ヘラクレスは、その功績を讃えられて昇天すると、ヘラクレス星座として夜空に刻まれたのでした。

 

 ヘラクレス星座RTA――――完!

 

 十二の試練? アルゴノーツの冒険? そんなものはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルビー! 結界お願い!」

 

 未だ燃え盛る火葬台。そこに飛び込む小さな人影。

 それはいつもの魔法少女コスチュームをまとった魔法少女イリヤだった。カレイドステッキにより炎を防ぐ結界を張りながら、炎の中にみずから飛び込む。いやまあメディアさんから火除けの薬を塗ってもらってるから必要ないんだけど本人は知らないから。

 そして身の丈をはるかに越える大男、ヘラクレスの腕にしがみついて力いっぱい引っ張った。

 

「もー。イリヤさんの筋力でこの筋肉達磨を動かすのは無理ですって」

「だけど、ほっとけないよ!」

 

 ルビーの苦言に聞く耳持たず、炎の熱さに耐えながら一時の父を救うため、イリヤという少女は誠心誠意の全力を尽くすのだった。

 するとどうだろう、ヘラクレスの炭化した肌がひび割れ、内側から眩い光があふれてくる。

 これぞ十二の試練を踏破した大英雄に与えられた奇跡の力!

 死から蘇る規格外の宝具である!!

 

「■■■■■■■■――――――――ッ!!」

 

 バーサーカー・ヘラクレス復活!!

 彼はすぐさまイリヤを抱きかかえると、みずから火葬台から飛び出した。

 

「――――ッ! ヘラクレスさん、よかった……」

 

 助けられたのは自分だと言うのにイリヤは、助けてくれた相手の事を純粋に慮った。

 その慈悲の心が深々と沁み入り、ヘラクレスは唇の端を小さく持ち上げるのだった。

 

 

 

 それを木陰から頭だけ出して眺めている人影があった。

 メガラ役アイリ(キャスター)――満面のお日様笑顔。

 イピクレス役エミヤ(アサシン)――そのポジション寄越せとばかりにガン飛ばし。

 イオラオス役エミヤ(アーチャー)――最初からこうなるのは分かってた風なドヤ顔。

 という順で串団子のように頭を縦並べ。

 

 ヘラクレス一家の話なのか衛宮一家の話なのか分からなくなってきたので終了。

 

 

 

 CAST

 ヘラクレス役――ヘラクレス(バーサーカー)

 メガラ役――アイリスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 

 テリマコス役――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 クレオンティアデス役――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 デイコオン役――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 

 イピクレス役――エミヤ(アサシン)

 イオラオス役――エミヤ(アーチャー)

 子供役A――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 子供役B――イリヤスフィール・フォン・アインツベルン(キャスター)

 

 スペシャルサンクス――メディア(キャスター)




 よーしだいたい溜まってた妄想は吐き出せた。自己満足完了。
 SNイリヤ及びシトナイだとバーサーカーとの関係がすでに完成されてるけど、プリヤイリヤには優しいバーサーカーとの関係がカード越しなので色々と妄想の余地あります。


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