NEED FOR SPEED:Legend Of The Lan (天羽々矢)
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Opening Section 胎動

また性懲りもなく別の作品を書いてしまった・・・ホント、ネタだけはポンポン出るんですよね・・・
まぁ、暇見つけてちまちま進めていくしかないか・・・
という訳で、閲覧者の皆様は期待しない方向でお願いしますm(__)m


ストリートレーサー・・・それは自分の相棒である車に特別な改造を施し、公道というコースを誰よりも速く走らんとする者達の総称である。

 

我々の住む地球ではそのような事は決して認められる物ではないが、その認識に縛られる事を拒む者は確かに存在する。

 

それは我々から見れば異世界とも言える場所も例外ではない・・・。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

深夜で人気の全くない港エリア。

そこに響き渡るエンジンの爆音と共に4台の車が猛スピードで倉庫の影からドリフトしながら飛び出してきた。そしてコーナーを立ち上がり先頭に出たのはメタリックホワイトのボディにフロントバンパーとボンネットにライムグリーンのストライプが施されている、TRD製の3000GTエアロボディキットで統一されHKS製大口径マフラーを装備した1997年式トヨタ・スープラ(JZA80)だ。

そしてそのスープラの後を追うのはオレンジの1970年式ダッジ・チャージャーR/T、薄く青みがかったシルバーの2009年式アストンマーティン・DB9、RE雨宮のエアロパーツで統一された緑のマツダ・RX-7(FD3S)である。

 

ここまででお分かりになった方もいらっしゃるかもしれないが彼らはストリートレーサー。この深夜の港にて賞金を賭けながら自身の腕を競い合っているのだ。

 

4台はコーナーを抜け最後のストレートへ。先頭のスープラにチャージャーR/Tが迫るが、スープラの運転手はギアをトップの6速へ叩き込みアクセルを強く踏み込む。轟く爆音と共に2JZ-GTE直列6気筒エンジンから発せられたパワーが余す事無く路面に伝えられ車が更に加速。スピードメーターは160kmに迫る勢いで振れ他車の追随を許さない。そして500m先の発煙筒が炊かれたゴールポストを1番に駆け抜けた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

ゴールポストの先にある駐車場。先程のレース参加車の他にも別の車もちらほら見かけ、ギャラリーさしき聴衆も見受けられる。

 

そんな中で先程1着でゴールしたスープラからドライバーらしき若年の男が一息つきながら降りる。

赤のメッシュがかかった白髪で一見女性のような中性的な顔立ち。上着は黒い半袖のパーカーで下はカーキのカーゴパンツをはいた彼の名は“リュウ・アステリオン”。職業はかつては時空管理局と呼ばれる治安維持機構の三等陸尉とそこそこ上の位だったが2年ほど前に退役し今は第3管理世界ヴァイセンを中心に活動するカレドヴルフ・テクニクス社に鞍替えしている。

 

その彼、リュウにレースの進行を務めていたスターター役の人から、レース前に参加者から徴収していた3500ドル・・・参加者は4人の為合計14000ドルの入った封筒を渡される。

リュウはその封筒を受け取ると何処かに向かう。向かった先には1台の車が停まっておりそのボンネットに腰掛ける1人の若年の男。

長い金髪を首の後ろ辺りで束ねている為一見すると短い金髪のように見える彼はリュウを見つけると軽く微笑んで右手を挙げるが、逆にリュウはジト目を向ける。

 

「お帰りリュウ、今夜もやっぱり君の勝ちだったね」

 

「・・・ユーノ、それ俺の車なの知ってるよな・・・?」

 

リュウにユーノと呼ばれた彼は“ユーノ・スクライア”。

彼は管理局の無限書庫と呼ばれるまさに資料の山とも言える場所の支所長を務める重役だが、最近は刺激を求め時折こうして夜の公道に出て来る。

・・・そして、リュウの友人でもある。

 

「別にいいだろ?君に僕の車を貸してるんだから」

 

ユーノの発言にリュウはやれやれと言った具合で溜め息をつく。

そう、レースで彼が駆っていたスープラは元々はリュウの車ではなくユーノの車だったのだ。だが実際は今夜のレースがデカい山になると分かりリュウに無理矢理押し付けたのだが・・・。

 

「まぁ悪かったとは思ってるし・・・分け前は6:4でいいよ。僕が4で君が6って事で」

 

そんなリュウの心境を知ってか否かユーノが言葉を発し、リュウは軽く肩を竦めつつも封筒を漁って中身の14000ドルの内の5600ドルをユーノのスープラのキーと共にユーノの右掌に叩きつけるように渡す。

するとユーノが座っていたボンネットから降りリュウがその車に乗り込みエンジンをかける。

 

リュウの本当の所有車は黒いボディにボンネットと車体両側に赤い炎のバイナルをあしらい、DAMD製ボディキットとARC製GTウィングを装備した三菱・ランサーエボリューションⅨだったのだ。

 

「じゃあ、またな」

 

「うん、また頼むよ」

 

ユーノと言葉を軽く交わし、リュウは駐車場からランエボⅨを発車させる。

それを後目に残りのレーサーやギャラリーの人々も散り散りになっていく。

 

 

 

 

 

・・・だが既に、この時からだった。

 

カチり、と運命の歯車が音を出し動き始める・・・




イメージOP曲:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


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Section01 嫌悪

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


第1管理世界と呼ばれる世界、ミッドチルダの首都クラナガン。

その一角に存在するスポーツジムの入り口前に1台の車が停まっている。

 

黒い車体でDAMD製ボディキット、ARC製GTウィングを装着し、ボンネットと車体両サイドに赤い炎のバイナルを施したランサーエボリューションⅨ、リュウの車である。

その車の持ち主であるリュウは車体左、助手席のドアに軽く寄りかかり携帯端末でSNSに興じていた。

 

今日はリュウは休日であり、とある約束の為に迎えに来ているのだ。

 

《マスター、お見えになられました》

 

「分かった、ありがとうウルス」

 

突然聞こえた女性の声にリュウは携帯をしまう。

その声の発声元は彼が右手首に着けているブレスレットに埋め込まれているカボションカットの青い宝石が点滅している。

リュウの持つブレスレットは、彼に限らず魔法が使える者達の魔法の杖“デバイス”と呼ばれる物で。リュウの持つそれは幼少期から一緒にいた相棒のような存在でもあるインテリジェントデバイス“ウルス”だ。

 

ウルスからの報告を受け、リュウは携帯の画面を切り上着のポケットにしまう。

そして少しするとリュウの下に1人の少女が走ってきた。

濃い茶色の髪をポニーテールにまとめ気の強そうな目付き、半袖のシャツにショートパンツ、腕まくりしたジャケットと動きやすそうな恰好をしている。

 

「押忍!今日もよろしくお願いしますリュウさん!」

 

リュウに元気良く挨拶した彼女は“フーカ・レヴェントン”。

先程彼女が出て来たスポーツジム“ナカジマジム”に住み込みで働くアルバイトでありながら“公式魔法戦競技会(DSAA)”と呼ばれる大会の現役格闘選手でもある。

そんな彼女だが今日はリュウと同じくシフトはオフ。とはいえ毎日こなすトレーニングメニューも既に終えている為今日はもうやる事が無い。

そんな日にこうして2人は会った訳だがこれはフーカのコーチ公認であり、「仕事もトレーニングも無い日は外で刺激してやって」と任されているのだ。

 

リュウはランエボⅨの助手席のドアを開けフーカを乗せると自分も運転席のドアを開け乗り込みエンジンをかける。

タコメーターが立ち上がるのを確認しゆっくりとアクセルペダルを踏み車を走らせる。夜はストリートレーサーとして車をかっ飛ばす彼だが今は昼、モラルは弁えているようだ。

 

リュウとフーカは互いに他愛もない会話をしているが、実はフーカは密かにリュウに想いを寄せている。だが自分で暴力的かつ気の強いと少し自覚している節がある事と、もう1人リュウに想いを寄せる人を知っている為その人に譲って自分は身を退こうとしている。

 

そして2人が乗ったランエボⅨはクラナガン郊外に位置する人気のないサーキット場に着きそこには先客がいた。

プラチナのような髪をリボンでポニーテールに纏め白いインナーと裾にフリルをあしらったアメジストパープルのキャミソールワンピースを着た少女が既に待っていた。

 

「ようリンネ!待っとったか?」

 

「遅いよフーちゃん・・・あ、リュウさんこんにちは!」

 

「ああ、こんにちはリンネ」

 

フーカにリンネと呼ばれた彼女は“リンネ・ベルリネッタ”。

かつてはフーカと同じ孤児であったが現在はミッドチルダ有数の富豪ベルリネッタ家に養女として迎えられている。

1年ほど前まではフーカとは絶縁に近い状態であったが、今ではかつてのように良好な関係に戻った。

 

そして先程記述したが、リュウに想いを寄せるもう1人とはリンネの事である。

 

リュウは2人と一緒に何をしようかと言うと、リュウは徐にフーカに自分のエボⅨのキーを手渡した。

 

「それじゃ2人共、今日も始めようか」

 

『押忍(はい)!』

 

お分かりでない方に説明しよう。・・・今日はリュウによるフーカとリンネのドライビングテクニック、通称ドラテクの練習教室である。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

切っ掛けは何時だろうか、ある日興味本位でリュウについてきたフーカが深夜に行われるアンダーグラウンドなストリートレースを見物した事が始まりである。

高速でコーナーを駆け抜け他者を圧倒するその姿に魅了され、フーカもその背を追いたいと思ったからこそリュウに指南を頼んだ。

最初はリュウもフーカの選手生命を考え返答を渋ったが、フーカのコーチが、

 

「クラナガンにもレース場はあるし、違反しない範囲なら問題ないだろ?」

 

そう言って了承してしまった為逃げ道を塞がれてしまい休みと時間を見つけては仕方なく教えていた。フーカだけならまだ楽だったろうが恐らくフーカのコーチが話したのだろう、リンネもリュウに運転を教わりたいと申し出てきてしまい今のようにフーカとリンネに付き合っている。

 

最初こそ自分は他人に教える側じゃないと面倒がっていたが、2人が目に見えて上達していくのを見ていくにつれ次第に教え子が成長する事への嬉しさと楽しみに目覚め今ではよりしっかり教えるようになっていた。

 

そんなリュウの走りの教え子であるフーカとリンネは、まるで2人の性格を表すかのように車の走らせ方も大きく違う。

フーカがタイヤを滑らせ辺りに煙を撒き散らしながら走るドリフトスタイルに対し、リンネはサーキットのお手本通りのような堅実な物。

2人の走りを一見し、リュウは2人にアドバイスをする事に。

 

「フーカはまぁ・・・車を横に向けるっていう点は守ってるけど、馬力に任せてタイヤが滑りすぎてるから横にパワーが逃げて前に進んでないんだよ」

 

「で、リンネの場合は無駄は全然ないんだけど、コーナー・・・カーブを曲がってる時にアクセルを踏まないからそこをもう少し詰めれば結構いい線行くと思うんだ」

 

リュウのアドバイスを聞くも、2人共リュウに関わってからサーキットというステージに向き合った為に頭に?マークを多数浮かべている。そんな時フーカがふと思いついた。

 

「じゃあリュウさんがやってみてくださいよ、速い走らせ方ちゅーの!」

 

フーカの発言にリンネもハッとしリュウに何かを期待するような視線を送り出す。

そんな2人にリュウは頬を軽くかきながら問う。

 

「俺のは100%独学だけど、それでもいいのか?」

 

リュウの返しに2人は構わないと言わんばかりに力強く頷く。

これは答えないとな、そう思いエボⅨの運転席に乗ろうとした時、3人の時間を邪魔するかのようなV8エンジンの唸るような重いエンジン音が聞こえてきた。

 

サーキットに入ってきたのは1台の黒塗りの車、2015年式フォード・マスタングGT。

Kerberos(ケルベロス)のK'sスタイルボディキットとランボスタイルのリアウイング、マグナフローのマフラーを装備し、ボンネットと車体左右両側に青とシルバーの雷のバイナル、そしてドア部分にはサイズは小さいながらも主張するかのように張られているオブリーク書体で書かれた白い“RZ”の文字。

 

3人は相手が誰か分かり軽く溜め息をつくが、そんな気持ちを知るや否やマスタングの運転席から運転手が降りる。

歳はリュウより少し年上のような男性で鋭めの目付き、逆立てつつも後ろに流している青い短髪が目を引く。両目は開かれてはいるが左目には一本傷がある。

服装はスリットの入った黒いトレンチコートと下に黒いアンダーシャツ、黒いジーパン姿と全身黒ずくめである。

 

男はマスタングのドアを閉め3人に近寄ってくる。

 

「またやってるのかお前は!?やめろって言ってるだろ!」

 

「・・・こんな昼間から何の用だ、“レーザー”?」

 

リュウにレーザーと呼ばれた彼、レーザーというのはストリートレース界における彼の俗称で本名は“アダム・カラハン”。

ベルリネッタ家に勝るとも劣らない富豪カラハン家の長男坊であり彼自身もカーディーラーを経営している。そしてことある事にベルリネッタ家の養女であるリンネに近づこうとするが彼女は大抵は今のように平民出身のリュウの方に寄っていくからかリュウに対し嫉妬や憎悪に近いような感情を抱いている。

 

「何の用だ、だと?お前こそ何の用でリンネに近づいて・・・!!」

 

「やめてくださいカラハンさん!」

 

2人の一触即発の空気にリンネが割って入る。

そうすれば今度はアダムの顔がリンネの方を向く。

 

「なぁリンネ、いい加減目を覚ませよ。君はこんな凡人のどこがそんなに良いっていうんだ?」

 

「凡人じゃと?リュウさんの方がお前よりずっと漢じゃ。ワシはそう思っとるぞ?」

 

アダムの発言に今度はフーカが口を挟むが、それが余計にアダムの怒りの火に油を注ぐどころかぶちまける事になった。

 

「何だとフーカ!よくそんな生意気な口が効け・・・!!」

 

「おいよせよレーザー!落ち着けよ」

 

フーカに詰め寄るアダムを割って入ったリュウが抑え引き離す。だがこのままではラチがあかない。

するとアダムが何か思いついたのか口を開く。

 

「だったら試そうぜ。魔法戦か?何ならサーキット、ダートやストリートでもいいぞ?」

 

「よせって、ムキになるなよ。何も張り合おうとしなくてもいいだろ?」

 

リュウは何とかアダムを宥めようとするが今のアダムは聞く耳を持たない。

 

「いや、勝負だ。お前が勝ったら俺はもう2度とリンネとフーカには近づかないし、俺のコレクションの中からとっておきの奴を進呈しよう。・・・だが俺が勝ったら、お前の車をもらうしリンネには金輪際近づかないでもらう」

 

アダムの発言にリュウだけでなくフーカとリンネも息を呑んだ。つまりはリュウが勝てば今後はリュウの自由、アダムが勝てばリンネはアダムに束縛される事になるという事だ。

リュウはフーカとリンネの方を向く。リンネは心配そうな顔だが逆にフーカは、“リュウさんなら絶対勝てる”と思わせるような自信に満ちた顔だ。

リュウは決心し答えを出す。

 

「・・・分かった」




ED:Blast My Desire/m.o.v.e


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Section02 悲劇

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


リュウはアダムのマスタングに同乗し、後ろからはフーカが運転するリュウのランエボⅨがついて来ている。

2台は1つの門をくぐり豪邸の敷地内に入っていく。

 

「まさかワシがリンネの家以外の豪邸に入る事になるとはのぉ・・・」

 

正面に見える豪邸を見てフーカがそう呟く。

友人であるリンネのベルリネッタ邸にはリンネと和解し家族も紹介してもらってからは何回か足を運んでいたがアダムのそれはリンネの物よりも大きく豪華であった。

2台が駐車スペースに停まり4人が集まりアダムに案内される。

 

「叔父の家だが大丈夫だ、今はヴァイセンに行ってる」

 

アダムが説明しながらガレージの前に3人を案内し、コートのポケットからリモコンを取り出しスイッチ操作をするとガレージのシャッターが開き出す。

 

「こいつらはクラナガンじゃ違法だ。97世界のヨーロッパとかいう地域の仕様だからミッドチルダ(こっち)じゃ登録できない」

 

そしてシャッターが完全に開くとそこには2台の車が鎮座していた。

 

エアロダイナミクス性能に優れていそうな低くて滑らかなボディラインと協力なダウンフォースを発生させそうな大型リアウィングと、どこかレーシングカー然とした綺麗なその姿にアダムを除く全員が息を呑んだ。

 

2台と言ったがそれはカラーリングの違いだけであり、1台はマットブラックに赤のアクセントが入った物で、もう1台はマットブルーとカーボンブラックを組み合わせた物になっている。

 

「リュウさんの本に載ってたフェラーリみたいだけど違う・・・」

 

呟くように言ったリンネの発言にアダムが答えた。

 

「“ケーニグセグ・アゲーラRS”。最高速度は457キロ」

 

アダムのその発言にリュウが軽く吹き出すが、今度はフーカが論するように言う。

 

「457じゃと?アダムの記録は行ってもせいぜい280じゃろ?」

 

その小馬鹿にするような発言に当然アダムは反応しフーカの方を向く。

 

「相変わらず失礼だな」

 

「フン、まぁ今日で決まるんじゃ。どっちがより漢かがのぉ」

 

フーカの発言にアダムは嘲笑し、ガレージの中へ。

戻ってきた時には右腕に箱を抱えていて中身はケーニグセグ社のロゴマークをしたキーである。

 

「2台とも同じアゲーラだ。特別にお前から選ばせてやる」

 

リュウに対しアダムは嘲笑するが憶する事なく箱の中からキーを取り出しロックを解除する。

リュウのキーに反応したのはマットブルーとカーボンブラックのアゲーラだ。

つまり残ったマットブラックとレッドアクセントのアゲーラはアダムが乗る事になる。

 

「695号線の橋がフィニッシュライン。先に橋を渡り切った方が勝ちだ」

 

アダムはキーを起動しアゲーラのロックを外しつつ今回のルールを説明する。

説明を終えるや否やアダムはケーニグセグ車の特徴である後端が上昇して前端が下降しつつ回転しながら外側に開く“ディヘドラル・シンクロ・ヘリックス・アクチュエーション・ドア”、通称ラプタードアを閉めアゲーラRSに乗り込む。

リュウも続いて乗り込もうとするが、その前にまずフーカとリンネの方を向き、その頭を軽く撫でる。

 

「行ってくる」

 

その一言を2人に伝えリュウもアゲーラに乗り込む。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

カラハン邸から出た2台のアゲーラRS。アダムのマットブラックの物が先頭でバトルが始まる。

リュウは最初こそアゲーラRSの5.0LV8ツインターボエンジンのパワーに驚いたもののすぐに思考を切り替え全力アタックを開始。

2台は連なったまま695号線に出る交差点を右折。その際スムーズに通過できたアダムに対しリュウは一般車のセダンに阻まれ立ち上がりで僅かにもたついてしまった。

何とか一般車を回避しハイウェイに乗る。その際にリュウの後方では飛び出してきたリュウのアゲーラを見て急ブレーキをかけたクーペにブレーキが間に合わなかったSUVがクーペの左側面に突っ込んだがリュウは少し見やったらすぐにまたアゲーラを加速させる。

 

リュウのアゲーラがアダムのアゲーラの背後に付き空気抵抗を低減させ車を加速させるスリップストリームの体勢になる。デジタルスピードメーターは既に260キロを示さんとばかりに増大していく。

 

だが今度は2人が次の交差点に差し掛かる瞬間にトレーラーハウスを牽引したピックアップトラックが交差点を直進しようと姿を見せた。

その出来事にアダムは衝突を回避しようとフルブレーキをかける。それに対しリュウはアダムと同じようにブレーキは踏むがステアリングを大きく右に切りアダムのアゲーラとトレーラーハウスを右大回りで回避する事で減速を最小限に止めアダムのアゲーラを追い越した。

それに対しアダムはトレーラーハウスとの激突を避ける為に1度完全に停車してしまった為リュウに再び接近するには多少の時間を要する。

その間にもリュウのアゲーラRSは徐々に加速していきメーターは300キロの大台に差し掛かるがアゲーラはそれではまだ足りないと言わんばかりに更に加速していく。

 

そしてやがれゴール地点である橋が見えて来た。

アダムのアゲーラも何とか再加速をしリュウのアゲーラに追い縋るべくリュウの背後に付きスリップストリームに入るが先行するリュウは既に後方のアダムをブロックする態勢に入っている。

そしてリュウの背後に付いたアダムはリュウを追い抜きにかかるがリュウはそれを被せるようにして進路を塞ぐ形でブロックする。

それをかわす為にアダムは左右に揺さぶりをかけるがリュウはそれに適切に対応していく。

 

「どけよ・・・!!」

 

進路を塞がれアダムはリュウのアゲーラを見ながら忌わしげに呟くが当然リュウに聞こえるはずもない。

橋に差しかかるまでは残り400メートルほど。だが今のスピードでは一瞬である。

 

「どうだレーザー、俺の勝ちだ!」

 

遂にリュウが先行のまま橋に差しかかる。それと同時にリュウの勝利は絶対の物となり、リュウ自身も勝利を確信した。

 

 

 

 

・・・その時だった。

 

アダムのアゲーラが急加速したと思ったらフロントバンパーをリュウのアゲーラの左リアにぶつけた。

メーターは330を示しており、その状態でミッドシップ後輪駆動であるアゲーラRSが駆動軸側であるリアを小突かれたらどうなるか想像に難しくないだろう。

直進していたアゲーラはあっという間にバランスを崩しスピンする。

リアを小突かれバランスを崩した事をすぐに察知したリュウは何とか体勢を立て直そうとステアリング操作をするも300キロ以上でのスピンはリュウの手にも余った。

それでもなおアダムはスピンするリュウのアゲーラの左側面を押し続ける。すると今度はリュウのアゲーラの右側面が跳ね上がり空中に放り上げられる。

 

《マスター!!》

 

「っ・・・!!」

 

ウルスからの声も遠のいて聞こえるような、全てがスローモーションのような感覚になる。

リュウのアゲーラは空中で回転しながらゆっくりと落下。地面に落ちると激しい金属音と共に転がっていく。

 

Protection(プロテクション)!!》

 

ウルスが咄嗟の自己判断でリュウに防御魔法を展開するがそれを無駄だと言わんばかりに今度は落下の衝撃で外に漏れ出たガソリンが激突時に発生した火花で引火しアゲーラが炎上する。そしてひとしきり回転した後にリュウは炎上するアゲーラ共々街頭を1本薙ぎ倒した後に橋から転落。

幸い橋の下は川で岸の水溜まりに落ちた事で火の勢いは弱まりタンクへの引火の心配は無さそうだが未だに燃えているアゲーラの中でリュウはアダムのアゲーラのエンジン音が遠ざかっていくのを聞いた。

 

そしてそれを最後に、リュウは自分の意識を手放した・・・。




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Section03 逃亡

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


世界がぼんやりとして見え、周りの音が遠く聞こえる。

自分の身体が宙に浮いているような感覚の中、未だに感じる痛みと共にリュウは目を覚ました。

状況を確認しようと、彼は混濁する意識の中ゆっくりと周囲を見渡す。

 

そこはどうやら車の中で、ハンドルの中央にポルシェ社のロゴエンブレムがある事からどうやらポルシェの車内のようだ。

普通であれば高級車に乗っている事に喜ぶだろう。・・・両手首をガムテープでハンドルに固定されていなければ。

 

「く・・・何だこれ・・・!?」

 

リュウは何とか拘束から逃れようと腕に力を込めたり身体を揺さぶったりするがガムテープはガッチリ巻かれているようで中々外す事ができない。

ここにウルスがあればもう少し楽になったかもしれないが、外されている所を見る限り、どうやら気を失っている間に()られたようだ。

その時ガンッという音と共に再び浮遊感と同時にポルシェが落下し始める。そして一瞬で地面に落着。その衝撃にリュウは再び来る痛みに呻く。

 

だがそれだけでは終わらない。両側からけたたましい機械の駆動音が聞こえ出すと左側の金属の壁が迫ってくる。

 

「あぁ・・・くそっ・・・!!」

 

小さく悪態をつきながら覚醒したばかりの意識で車からの脱出を試みる。

車は右側の金属の壁まで押し込まれ、その形は少しずつだが歪み始めている。このままでは車と共にサンドイッチにされてしまう。

中々外れないガムテープにリュウは痺れを切らし、右手を固定するガムテープに自分の歯を突き立てる。それにより一部が裂け今度は力ずくで引き千切ろうとする。

布が破けるような音と共に右手を固定していたテープが千切れ右手が自由になった。そして自由になった右手で左手首を持ち、両腕の力で強引に左手のテープも引き千切った。

 

だがまだ両腕が自由になっただけで安心はできない。今度は潰れゆく車内から脱出しなくては。

リュウは辺りを見回し、潰れて砕けかかっているサンルーフを見つけ必死に拳を叩きつける。

何とかサンルーフを叩き割りポルシェのルーフ上によじ登り、更にプレス機の壁に手をかけ再びよじ登り、何とか逃げ出す事に成功した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

荒い息を整えながら、ここから逃げるべくプレス機の影から様子をうかがう。

 

その視線の先には何人かの黒スーツの人間と、それを従えるように佇むグレーのダウンコートと黒スーツを着た40代後半位の男。その男にリュウは見覚えがあった。

確か名前は“ギャレット・カラハン”。レーザーことアダムの父親でカラハン家の現当主でありながら数々の会社を経営する実業家である男。だがそれは表の顔で、裏社会ではクラナガン随一のマフィアの首領(ドン)である。

 

何故そのような事をリュウが知っているのか、それはまだ時空管理局の一局員時代だった頃にかつての上司であった女性士官との合同捜査で調べ上げた事で判明したのだ。

では何故そんな彼が投獄されていないのか、それはギャレットが管理局に対し少なからず影響力を持っている事、そして何より逮捕に繋がる確たる証拠が無い事である。

 

そんな彼がここにいるのだからただ事でないのだけは確かだ。だがその彼の右手にはリュウのデバイスであるウルスのブレスレット形態が握られている。恐らくあの事故の後にリュウをアゲーラから移しその間に外したのだろう。

 

何とかして取り返さねば。だが相手は少なく見ても5人以上はいる。その中で1人でも攻撃を受ければすぐに気付くがやるしかない。

リュウは右手の親指、人差し指、中指を開いて指鉄砲を形作りその先端に自身の魔力を集中させパールホワイトのスフィアを形成。そしてそれと同じ物を自分の周囲に更に4個形成する。

そしてプレス機の影から飛び出すと同時に、

 

「行けっ!!」

 

左手を薙ぎ4つのスフィアを発射する。

放たれた4つのスフィアは真っ直ぐマフィアに向かい直撃、マフィア達は地面に倒れ込む。次は右手に形成したスフィアを物を投げる動作で振るうとそこから同じパールホワイトの魔力の糸が伸びる。

これはリュウの特技で魔力スフィアを様々な形状に変化させる事が出来るのだ。上司であった女性士官は一種の希少技能だと言っていたがそんな大層な物ではないとリュウ自身は思っている。

魔力糸がギャレットの持つウルスを捉え、リュウが右手を引くとギャレットの手からウルスが離れリュウの手に戻った。

それを確認したリュウはすぐに傍らに停車しているシルバーのアウディA4(B7)、そのスポーツモデルのRS4に向かって駆け出す。

 

「おい、奴が逃げるぞ!捕まえろ!急げ!!」

 

気を持ち直したギャレットがマフィア達に叫び、マフィア達はリュウを追おうと駆け出すがリュウがRS4に乗り込みエンジンをかけ発車する方が早かった。

 

《申し訳ありませんマスター、私の力不足で・・・》

 

「謝罪するにしても後で、今は逃げるぞ!」

 

ウルスから陳謝の声がかけられるが今はそれどころではない。

アクセル全開でスクラップヤードの出口を目指すが簡単に終わるはずがない。

 

RS4の後方から黒塗りのBMW社のハイパフォーマンスSUV、X5 Mが3台追ってきている。

そして助手席側のが開くと中のマフィアが身を乗り出し、ライフル銃型のデバイスを担ぎ出すとリュウのRS4に向け発砲してきた。

リュウはコーナーでサイドブレーキを使いドリフトしたり直線では蛇行して魔力弾を極力回避しようとするもマフィアのX5は執拗に追いかけ着実に魔力弾を当ててくる。

魔力弾を受け続けたRS4は既にかなりのダメージを受けておりこれ以上攻撃を受ければ大破は確実、最悪爆発・炎上し火達磨になってしまうかもしれない。

 

何とか追っ手を振り切らなくては・・・だがどうやって?

 

そんな思いに支配され徐々にリュウに焦りが見え始める。

するとそこに、

 

ファーン・・・

 

何か汽笛のような音が聞こえた。

正面を見ると既に踏切のランプは警告音を鳴らしながら点滅し遮断器も下りている。

 

瞬時に判断した、もうこれしかないと・・・

 

「行けぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

雄叫びを上げながらアクセルペダルを最奥まで踏み込みエンジン全開。一気に加速し遮断器を突き破って踏切へ。そして左から列車が迫る・・・。

 

 

 

 

・・・成功だ。

 

RS4は間一髪で列車をかわしそのまま踏切の反対側の道路へ。追手のX5達は列車が通過するまで足止めを喰らう事となった。

 

これで後はスピードを落とさず走れば自ずと追っ手を撒ける。

 

《マスター、これからどういたしますか・・・?》

 

だがウルスから最もな事を聞かれてしまう。

 

「・・・分からない・・・」

 

ウルスの質問に、リュウもどうすればよいか答える事は出来なかった。

実際、何も手立てが無いのだ。

かつての上司に助けを求めるか?駄目だ、自分はもう管理局とは無縁の人間だ。そんな事は虫が良すぎる。向こうが自分の事をどう思っているか分からない上に下手をすればギャレットの息が掛かっているかもしれない。仮に掛かっていなかったとしても、息のかかった別の部署の局員に取り押さえられてしまう。そうなれば自分だけでなくその上司達にまで迷惑をかけてしまう。

だからといって、このまま逃亡を続けるのも不可能に近い。管理局のネットワークは広大で、かつギャレットのマフィアの目もある。どう転ぼうがいずれ捕まるのがオチだ。

 

・・・つまりこの状況で頼れるのは1人しかいない。結論を出したリュウはあの事故でも奇跡的に無事だったスマートフォンをズボンのポケットから出し何処かに連絡を入れる。

 

「ユーノ、俺だ!リュウ!かなりヤバい事になった・・・!」

 

〈大丈夫、落ち着いてリュウ。君の事情はある程度把握してある。哉藍(セイラン)飯店で落ち合おう〉

 

「分かった・・・、できる限り急ぐ・・・!!」

 

リュウはそれだけ言うと通話を切り、ボロボロのRS4を走らせる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「あいつを取り逃がした?」

 

この事件を起こした元凶とも言える人物、アダムはこの時間、自分が経営しているカーディーラーのオフィスである人物と電話をしていた。

 

〈すまないアダム、私がいながらこのような・・・〉

 

「いいんだよ“親父”、これであいつがお終いなのは決まったようなもんだからな」

 

どうやらアダムの通話の相手は父親のギャレットのようだ。

この事態はどうやらアダムの家族ぐるみで起こされているようだ。だがアダムはさらにこの事態を進めるような考えを既に立てている。

 

「それじゃ手筈通り、“お役所連中”は親父に任せた。こっちは俺が何とかする」

 

〈了解した、“裏”は頼んだぞアダム〉

 

ギャレットの言葉を聞くとアダムは通話を切り、デスクの上に置かれている分厚い封筒を手に取った。

 

「俺・・・いや、俺達に楯突いた平民が・・・後悔させてやるよ」

 

忌々し気に呟きながらもアダムは封筒の中身を確認するとオフィスを後にする。

その封筒には、“35万ドル”が入れられていた・・・。




ED:Blast My Desier/m.o.v.e


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Section04 出走

※今回はあとがきに報告有り

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


マフィアから逃げ切ったリュウはあの後、RS4を乗り捨てて繁華街の一角にある哉藍(セイラン)飯店に足を運んでいた。

 

忙しい時間帯を終えているのか店内は閑散としているが営業自体はしているようである。

その店内の席の一角に目的の人物であるユーノ・スクライアの姿があった。リュウはユーノに促されるように席に着き、その席に用意されていた烏龍茶を一口飲み小さく息をつく。

 

「・・・道を踏み外したそうだね、リュウ?」

 

開口一番、ユーノはリュウに問うがリュウは小さく首を横に振り否定する。

 

「違う・・・レーザーとバトルしていた事以外は何もしてない。ハメられたんだ・・・」

 

そう言葉を放つリュウは酷く疲れていた。当然であろう。

アダムにクラッシュさせられたと思ったら、今度はマフィアに命を狙われる事になったのだから。

だがそんな様子とは裏腹にユーノは安心するかのように一息ついた。

 

「大丈夫、君がそういったような事をしないのは僕がよく知ってるよ。・・・でも君に良いニュースと悪いニュースがある」

 

そう前置きしながら目の前の烏龍茶で口を潤すと、少し間を置いて言葉を続ける。

 

「まず悪いニュースの方から。・・・君に車両窃盗と強盗傷害の容疑で指名手配が掛けられたよ。裏社会でもアダム・カラハンがリュウを始末すれば500万ドル、生け捕りにすれば1000万ドルと車1台、ランボルギーニのチェンテナリオを進呈すると宣言してる」

 

「なっ・・・!!」

 

ユーノの言葉にリュウは言葉を失った。

その2つの罪状には全く覚えが無い。アダムとバトルしていた時に乗っていたアゲーラRSだってアダムの承認で乗っていた物だ。ましてや殺されかけたのは自分の方のはずなのに何故管理局がアダムの肩を持ったのか。

 

「君が聞きたい事は分かるよ。あの時君は車2台でレースしてたって、そう言いたいんだよね?」

 

ユーノの質問に静かに頷くリュウ。そして現状を聞く。

 

「リュウと走ってたもう1台の方が行方不明になってるんだよ。既に本局の部署も調べられるところは全部調べたけど何処にも無い・・・。つまりは君の言葉を証明する証拠が無いんだ」

 

「っ・・・クソッ!!」

 

憎々し気に吐き捨てながらリュウが右手拳をテーブルに叩きつける。

その時の衝撃でまだ癒え切っていない身体が再び痛み出し思わずうずくまる。

だがリュウは痛む腹部を抱えつつもユーノから顔は外さず続きを問う。

 

「・・・もう1つ、良いニュースってのは・・・?」

 

「良いニュースというのは、この状況を打開できる手があるという事だよ。でも物凄く危険、ハイリスクハイリターンって奴だよ。・・・返答はYesかNoか」

 

真面目な面持ちでリュウに問うユーノ。店の照明のせいかユーノの表情に影が掛かり冷たい威圧感のようなオーラを放っている。

だが、話を聞いたリュウの答えは決まっていた。

 

「・・・やるよ。何もしないよりずっとマシだ」

 

リュウの返答を聞き、ユーノは安心したような笑みを浮かべる。

 

「その返事を聞けてよかったよ。君には“ザ・ラン”に出てもらうよ」

 

「ザ・ラン?」

 

聞きなれない単語に首をかしげるリュウ。

するとユーノは足元に置いてあるブリーフケースを持つと、リュウに立つよう促す。

リュウは知らぬまま立ち上がり、ユーノはそのまま店の更に奥まで歩を進めリュウもそれに続く。

 

「ザ・ランは次元世界で最も過酷と言われてる、ミッドチルダを横断する超長距離ストリートレースだよ。スタートはトライシティからゴールはクラナガンまで約4800キロ。参加費用は1人35万ドル」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれユーノ、35万ドルなんてそんな金ないぞ?」

 

突拍子もない発言にリュウは呆れながらも返答するが、ユーノは不敵な笑みを返しリュウに対し口を開く。

 

「心配ないよ。僕が立て替えるから。優勝してくれれば君の問題を全部解決するし取り分は15%」

 

「おいおいおいおいもう一度待ってくれ、助けてもらう側だからデカい口利けないのは分かるけど、たったの15%?」

 

ユーノの右腕を掴んで引き留め問い詰めるリュウ。だがそれでもユーノは笑みを崩さなかった。

 

「・・・賞金総額は3500万、その15%だよ」

 

ユーノの返答に納得したのかリュウはなるほどと返しそれ以降は口を開かなかった。

 

2人が着いたのは店の倉庫。ユーノが倉庫の右上を向くと、正面にあるダストシュートの扉が開きユーノはケースをシュート内の台に置く。すると何やら駆動音が聞こえだす。どうやらこのダストシュートは何かの為の偽装品のようだ。1度音が止み少し経つと再び駆動音が鳴り、音が止んでシュートの扉が開くとユーノが置いたケースは無くなっており代わりタブレット端末とクリスタル型のストレージデバイスが置かれていた。

 

「このタブレットは連絡用と大会情報閲覧用だよ。そっちのデバイスは管理局の通信を傍受できるようになってる。さて、残る問題は車だけどリュウの車はもう管理局が・・・」

 

どうやらリュウのランエボⅨは先に管理局に押さえられたらしい。

こんな所で詰みか、と思われたが・・・

 

「・・・大丈夫だユーノ、車なら心配ない」

 

タブレットとデバイスを受け取ったリュウは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

4時間後・・・

 

Tri-City(トライシティ)/6:30 AM

 

朝日が昇り始め通勤で混雑し始める時間帯。

その街の一角、潰れた修理工場にリュウの姿はあった。彼はザ・ランに参加する為の車を取りに来ていた。

そんなリュウの目の前に停まっている1台の車。

 

プラチナムシルバーメタリックのボディカラーにフロントバンパーとボンネットにサファイアブルーのダブルストライプ、左右側面には前輪から車体後部にかけて徐々に広がっていく同じサファイアブルーのチェックのバイナル。

C-WEST(シーウェスト)のPFRP製のN1フロントバンパーⅡ、サイドステップⅡ、リアバンパー、GT-Wing Ⅲ

Sun Line Racing(サンラインレーシング)のPCC製、ボディカラーと同色のGTクーリングポンネット、同材質・同色のライトウェイトトランクとドア。

HKS(エッチ・ケー・エス)製のスーパーターボマフラーTi LIMITED EDITION(チタンリミテッドエディション)

 

その全てが特別なパーツで組み上げられたその車の名は・・・

 

 

日産 スカイラインGT-R Vスペック(BNR34)

 

 

管理局時代の頃から貯めた給料で買いここまで組み上げてきた、文字通りリュウが心血を注いできた特別な1台である。

 

「ふぅ・・・」

 

その車を眼前に控えリュウは一息つくと、ザ・ランに備えるべくシルバーメタリックのYOKOHAMA製SUPER ADVAN Racingホイールを履いた新品のタイヤに交換したりエンジン・足回りの点検・調整等の整備を始める。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「さぁ、行くか・・・!」

 

1時間後、整備を終えR34に乗り込んだリュウは武者震いのような不思議な高揚感を感じていた。

キーを差して奥まで回すと、RB26DETT直列6気筒ツインターボエンジンが獣の唸り声のような低い重低音を上げて目覚める。

するとインパネに取り付けたタブレットから澄んだ電子音が響き、画面にユーノからのテレビ電話が表示された。

 

〈リュウ、準備はいい?〉

 

「あぁ、いつでもいける」

 

ユーノの言葉にリュウは笑みを見せながらそう返す。

 

〈参加ドライバーは総勢200人以上、話した通りトライシティからクラナガンまでは約4800キロだよ〉

 

「フッ、楽しいゲームになりそうだな」

 

〈さぁ急いで、ベイエリアでのレースに遅れるよ〉

 

「了解」

 

ユーノの言葉を受けリュウはアクセルを踏み込みR34を発進させる。

交差点を左折し急勾配の住宅街へ突入していく。

 

その前方には高速で交差点から侵入してきたアウディRB V10、2010年式フォード・フォーカスRS、パガーニ・ゾンダ、シェルビー・コブラ・デイトナ等のエキゾチックカーがGT-Rの進路上に割り込んできた。

間違いなく彼らもザ・ランの出場者だろう。

 

《マスター、ナビゲーションはお任せください。この先4ブロック直進、そこを右折です》

 

「了解、サンキューウルス!」

 

タブレットからコースデータをダウンロードしたウルスがルートを指示し、リュウはそれに従いGT-Rを走らせ住宅地の急勾配を駆け上がっていく。

 

[エコー21だ、ベイエリア地域に多数のエキゾチックカー。10-22の予定は?]

 

[無いぞ、何台だ?]

 

[50台以上だが数は増えてってる]

 

[了解、各車両を編成するぞ]

 

するとタブレットと同じくインパネに取り付けたクリスタル型ストレージデバイスが発光し、点滅しながら管理局の無線を傍受した。

 

「マズい・・・ペースを上げるぞ!」

 

傍受した無線を聞いたリュウは呟きながらも更にアクセルを踏み込んでGT-Rの4WD故の立ち上がり加速で前のフォーカスを追い抜きその先の丁字路を左折。急勾配の下りに差し掛かる。

 

[ストリートレースに間違いない、出来るだけ早く応援を回してくれ]

 

[了解、車両複数が向かった]

 

再びストレージデバイスが無線を傍受すると同時に2台のパトカーがGT-Rの前を通過し別の通りに入っていった。

 

《次の交差点を右折、3ブロック直進後に左折してください》

 

ウルスのナビゲートで下り終わりにある交差点を右折、その先の右コーナーも曲がって再び勾配のきつい上りへ。そんなリュウの前を走っているのはR8、コブラ、ゾンダの3台だ。

 

[厄介な状況だ、応援は何処だ?]

 

[了解、これより応援に向かう!]

 

[10-3、そちらに応援車両が向かった!]

 

デバイスが傍受し続ける管理局の無線を後目にリュウは坂を上り切った先の左コーナーをドリフトしながら抜ける。

 

[アルファ2-2現着!ダメだ、もっと数がいる、50対1だ!]

 

[手の空いてる者を全員送る!]

 

管理局無線に耳を傾けながらもリュウは左コーナーを抜けた先の交差点を左折し大通りに出る。ギアを上げGT-Rを更に加速させる。

すると前方の交差点の左右から今度は1971年式ダッジ・チャレンジャーR/Tと2013年式シボレー・カマロZL1を筆頭にトヨタ・スープラ(JZA80)、ダッジ・チャレンジャーSRT8、メルセデスベンツ・CLK55 AMG等、新たなエキゾチックカーが乱入してきた。

そして交差点を直進するとタブレットの情報が更新され、それとほぼ同時にユーノからの着信も入る。

 

〈リュウ、シルバーロックに150位以内で入るんだ!〉

 

「OK、分かった!」

 

リュウがユーノの言葉に返答し、GT-Rは猛スピードのまま交差点の先の下り坂へ。有り余るスピードでGT-Rが大きくジャンプし激しく着地、強い衝撃でまた襲ってきた身体の痛みに顔を僅かにしかめるがもう2回目のジャンプに差し掛かろうとしていた。大きくジャンプしては着地とそれを3回ほど繰り返した後にその先の丁字路を、ジャンプの立て直しや一般車につっかえてもたついたR8、スープラ、CLK55をパスしつつドリフトしながら右折する。

その先は海岸沿いの道だ。

 

[クソ、一体何処から出てきたんだ!?]

 

[全面封鎖の指示だ、街への主要道路をすぐに封鎖だ!]

 

《マスター、既に管理局が道路封鎖を開始しています!》

 

「分かってるよ!」

 

ウルスの言葉に返事しながらも高速でGT-Rを走らせていくリュウ。

 

[複数のコード6が道路を占拠!すぐに交通規制を!]

 

[了解、区画を封鎖するぞ!]

 

尚も聞こえる無線を他所にGT-Rを走らせるリュウの前方には、先程まで前を走っていたSRT8やデイトナが警邏隊のパトカー、フォード・クラウンビクトリア・ポリスインターセプターに押さえられているのが見えた。

それを後目にリュウは前を走る、カマロ、チャレンジャーを猛然と追いリュウに抜かれたR8、スープラ、CLK55も抜き返そうと必死だ。

 

[複数の目標を発見!アルファ2-1援護できるか?]

 

[無理だ!オレンジのゾンダをコード3で追跡中!]

 

[了解!警邏隊は10-96を解除!最寄りの主要交差点に集結、道路を封鎖してください!]

 

またも聞こえる管理局の無線。その内容はもうほとんど耳に入ってこない。

何故なら今リュウは後方から抜きにかかろうとしているR8とスープラの動きに集中しているのだから。

 

[コード6の車両に管理局スキャン用デバイスがある、バリケードの位置を更新しないこと!]

 

道なりに進みまた交差点。そこを右折するとまたしても警邏隊に押さえられたレーサーがいた、先程あったオレンジのゾンダだ。

傍受した無線の内容も恐らくゾンダのドライバーが捕まった事で判明したのだろう。

直進し2つ目の交差点をまた右折した先の丁字路の右はトライシティの郊外へ通じるシルバリオ・ゲートブリッジにアクセスできる最短ルートだ。

 

[リュウ!何としても橋を超えるんだ!でなきゃ全て終わりだ!]

 

「あぁ分かってるよ!」

 

R8とスープラを抑えつつ2つ目の交差点を右折し、その先の丁字路も右折。その先の高架を通過すればゲートブリッジに入れる。だがその先では恐らくずっと前にいたのであろうシボレー・コルベットZO6(C6)が捕まっており、その応援に駆け付けたパトカー3台がリュウのGT-Rの追跡を開始した。

 

[被疑者をベイブリッジの下で押さえた。チャーリー2-1、援護を!]

 

[無理だ、暴走中のスカイラインGT-Rを発見!明らかにストリートレーサーだ、コード3!]

 

高架を上り切り橋に出ると目に見えて分かるほど一般車の量が増えた。その後方では未だ追い上げの狙うR8、スープラ、CLK55とそれらを追う管理局のクラウンビクトリアが高速で迫りつつある。

 

「時空管理局だ!車を止めろーッ!!」

 

「止まれーッ!、繰り返す、止まれぇーッ!!」

 

スピーカーで叫びながら管理局のパトカーが猛スピードでリュウ達を捕らえようと追撃する。

 

そのパトカー達をバックミラーで確認しながらも未だ冷静であるリュウは通勤の一般車の間を縫うように走り抜け、それに驚いた一般車がクラクションを鳴らしつつハンドルを切りながら急ブレーキをかけ減速。その一般車にパトカーが突っ込んだ。

 

[クソ、やっちまった!10-57の援護は!?]

 

[現在、他の地域から援護車両が向かっています!]

 

尚もリュウが先頭のままレーサーの4台はトンネルに侵入。多量に蔓延る一般車を避けながら疾走していくが、

 

《マスター!前方にバリケードです!》

 

トンネルを抜けた先は幸か不幸か左側が工事中であり、通行可能な右側には既にバリケードが設置されていた。それを見たリュウ以外の後続のレーサーがブレーキをかけ停車、それに追いついたパトカーに押さえられ逮捕。リタイアとなる。

 

・・・だがリュウは違った。ハンドルを左に切り工事区画がある左車線を走行。ギアをトップの6速に入れアクセルを最奥まで踏み込む。設置されているコーンやフェンスをなぎ倒しながら駆け抜けるがその200m程先にはジャンプ台らしき物があるだけで、道路が無かった。

 

それでもリュウは加速するのを止めない。

そしてジャンプ台に差し掛かったと思ったら・・・GT-Rが()()()

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

 

雄叫びを上げるリュウ。

そしてそのまま海に落ちるかと思われたが、 対岸側で完成済みの乗り入れ車線に盛大に着地した。

 

[抜かれた!?追跡を・・・追跡を続けてください!!]

 

悲鳴に近い局員の通信が聞こえるのを後目にリュウは再びGT-Rを加速させる。

 

「おーっし!どうだっ!?はっはっはっ!!」

 

《今のは私でも驚嘆しましたよマスター・・・》

 

勝気な高笑いを上げるリュウにウルスが呆れるような声で言うが、まるで気に留めずハンドルを握りしめGT-Rを走らせる。

 

だが既にトライシティを発ったレーサーは数多くいる。これはまだ序の口に過ぎない。

自由と存亡を賭けたリュウの旅は、まだ始まったばかりだ。




劇中曲:THE MEANING OF TRUTH(Instrumental)/HIRO-X

ED:Blast My Desire/m.o.v.e

今回、この作品においても皆さまからキャラクターを募集したいと思います

詳細はこちら→[https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233938&uid=79933]


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Section05 再起

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


リュウがトライシティを脱出した時とほぼ同時刻。

 

「リュウさん・・・」

 

クラナガンのスポーツジム、“ナカジマジム”の建物内で1人の少女、フーカ・レヴェントンが小さい声で呟く。

 

突然ニュースで発表されたリュウ・アステリオンの指名手配報道を受け、平常心を保てるほど彼女は図太くないのだ。

そんなフーカの周りには4人の少女がいる。

 

「だ、大丈夫ですよフーカさん。リュウさんはそんな悪いことなんて絶対しませんよ!」

 

「そ、そうですよ!ほら、リュウさんって結構真面目でカッコいいし・・・」

 

「そうそう!やるとしてもせいぜいスピード違反くらい・・・」

 

『リオ!!』

 

その中の3人が必死にフーカを励まそうと言葉を送るが、その内の1人が冗談とはいえ不謹慎な発言をし他の2人にどやされる。

 

1人目は短いツーサイドアップの綺麗な金髪で、左眼が赤、右眼が緑の異色光彩の少女“高町 ヴィヴィオ”。

2人目はグレーの髪をキャンディを模した髪留めでダウンツインテールに纏めた少女“コロナ・ティミル”。

そして上記の2人にどやされた3人目はショートの黒髪に頭頂で大きめの白いリボンを結んでいる少女“リオ・ウェズリー”。

 

ヴィヴィオとコロナがリオをどやしつける中、残ったもう1人の少女がフーカの頭に手を乗せあやすようにする。

 

「大丈夫ですよフーカ。リュウさんを信じましょう」

 

「ハルさん・・・」

 

フーカにハルさんと呼ばれた碧銀の髪をツインテールにし右のテールに大きな赤いリボンをつけた左眼が青で右眼が紺という異色光彩の少女は“アインハルト・ストラトス”。

フーカの格闘技の師でもある。

 

「あぁ分かった。今から行くよ」

 

そんな中、事務室から赤いショートヘアで金色の瞳をした少年的な雰囲気を持った女性が携帯で誰かと話しながら出てくる。

彼女こそ、このナカジマジムのオーナー兼コーチを担当する女性“ノーヴェ・ナカジマ”だ。

 

ノーヴェは電話を切りズボンのポケットにしまうと、床に置いてあったバッグを手に取った。

 

「悪い皆、スバルの奴に呼び出されてこれから地上本部に出向することになっちまって」

 

『え?』

 

「しばらくジムの方は休業だ。あたしが戻るまでは各自自主練ということで」

 

ノーヴェは困惑するヴィヴィオ達にそれだけ言うと早足でジムを出てエントランス正面に停めてある乗用車に乗って出発した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

時空管理局・地上本部。

ミッドチルダ首都クラナガンで天まで届くような超高層ビルとそれを取り巻く高層ビル群の総称。

 

その地上本部の一角にある会議室に、ある意味異色とも言うべき面子が揃っていた。

 

 

栗色の髪をサイドテールで纏めた白い制服の女性、エース・オブ・エース・・・高町 なのは

 

豊かな金髪に整ったスタイルの黒い制服の女性、金色の閃光・・・フェイト・T(テスタロッサ)・ハラオウン

 

茶色のショートボブに少し小柄で茶色の制服の女性、夜天の主・・・八神 はやて

 

 

・・・彼女ら3人を筆頭に今この会議室に集められたのは、5年前にミッドチルダを揺るがした大規模テロ“JS事件”を解決に導いた伝説の部隊、“機動六課”のメンバー・・・そして、リュウのかつての仲間でもあった面子だ。

そう、時折出てきたリュウのかつての上司というのはこの機動六課の隊長陣のことである。

 

1年という運用期間を満了し部隊は解散したはずだが、そのメンバーが今こうして再び揃っている。

但し、集められた面子の中にはその当時にいなかった人物もいる。

 

 

右目に黒い眼帯を付けた銀髪の小柄な女性・・・チンク・ナカジマ。

 

跳ね気味の茶髪を纏めた少しぼんやりとした目つきの女性・・・ディエチ・ナカジマ。

 

濃いピンク系色の髪を後ろで纏めた女性・・・ウェンディ・ナカジマ。

 

 

そして最後にノーヴェも会議室に入り、この場に集められたのは全員がリュウの関係者である。

少しした後に眼鏡をかけスキンヘッドの中年の管理局将校とその秘書らしき男が入室する。

 

「傾注!」

 

秘書が声を上げなのは達全員がスキンヘッドの将校に向け敬礼する。

 

「楽にしたまえ」

 

「此方はマサノリ・シドウ少将である。今回の事件の為に諸君らを招集してくださった方だ」

 

秘書が将校、マサノリ・シドウを紹介するとマサノリはなのは達に着席するよう促す。

 

「今回君たちに集まってもらったのは他でもない。市民の平和を脅かす凶悪犯を何としても逮捕するためだ」

 

マサノリがそう言いながら手元のタブレットを操作すると背後の大型モニターにある写真が写された。

それはこのミッドチルダでは違法とされる武器、日本刀を持ちそれと自分の身体に血が付着しているリュウの写真である。

当然これはリュウを貶めるべく捏造された物だが、事情を知らない六課メンバーの大半と新ナカジマ家の4姉妹、N2Rは大きくざわついた。

 

「リュウ・アステリオン。自らの利益のために罪も無い民間人を手にかけ既に多数の金品を強奪した強盗傷害の容疑がかけられている。そして最も新しい物ではあのカラハン家からも車両1台を盗んだ車両窃盗の容疑も・・・」

 

「ちょちょ、ちょっと待ってくださいッ!!」

 

本人が聞けば絶対激怒しながら反発するであろう罪状をスラスラと述べるマサノリに青いショートヘアでボーイッシュな雰囲気の女性スバル・ナカジマが椅子を吹っ飛ばしそうな勢いで立ち上がりながら異を唱えた。

 

「こんなの、全部でっち上げじゃないですか!!リュウは絶対にそんな酷い事はしませんッ!!」

 

スバルは声を荒げながらマサノリに叫ぶが、それに対しマサノリは態度を崩すどころかスバルに対し少し悪辣な笑みを浮かべた。

 

「デタラメだでっち上げだとどう捉えようとも自由だが、私は事実を述べているだけだよ」

 

スバルの言葉をまるで気にも留めなかったマサノリは言葉を続ける。

 

「リュウ・アステリオンは現在、車両にて逃亡中と思われる。最後に目撃されたトライシティの交通局からの報告によれば最後に目撃された時の使用車種はシルバーの日産スカイラインGT-R。最終記録ではシリバリオ・ゲートブリッジを東進。このまま進めばアヴローラ・ナショナルパークに向かう可能性が高い」

 

「ナショナルパークだと?何故そこに向かう必要がある?」

 

マサノリの言葉に銀髪隻眼の小柄な女性、チンクが問うがそれに答えたのはマサノリの秘書だ。

 

「現在リュウ・アステリオンはミッドチルダを横断する大規模な違法ストリートレースに参加しているとの事。スタートは西のトライシティはゴールは東のここ、クラナガンまで。参加者の総数は200人以上と思われます」

 

「に、200人も・・・?」

 

秘書の言葉に腰まで届きそうなピンクの髪を首の後ろ辺りで纏めた小柄な少女“キャロ・ル・ルシエ”が驚きを隠せないまま小さく呟く。

だがそれをマサノリは聞き取ったようで、僅かに嘲笑を浮かべながら言葉を続ける。

 

「何、君たちには問題にもならんよ。リュウ・アステリオンの被害にあったアダム・カラハン氏が勇敢にもこのレースに囮要員として参加してくれている。彼からの情報もありコースの大凡の把握も完了している」

 

「これより皆さまにはシドウ少将直轄の特殊高速機動部隊“Midchilda-Perfect-Defend-Task-Forth(M.P.D.T.F)”の指揮下に入り任務に就いていただきます。既に移動司令部として次元航行艦も用意しました」

 

「それでは各員検討を祈る。解散!」

 

秘書の説明が終わりマサノリが解散を宣言すると、マサノリは秘書を連れ退室する。

残されたなのは達の空気は非常に重く冷たい物であった。

 

信じられずとも、かつて自分たちと共に過ごし、共に戦ってきた家族同然とも言える青年と戦わなければならなくなってしまったのだから・・・




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Section06 密会

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,643km

 

リュウの現在の走行順位・・・205位

 

 

トライシティから脱出したリュウはカーオーディオプレイヤーから流れる朝のラジオの陽気な音楽をBGMにしながら前方の車列を追ってバルモンテパスという低い山道を疾走していた。

現在リュウが追走する集団は手前から、

 

オレンジのダッジ・チャレンジャーSRT8、

メタリックブラックの1977年式ポンティアック・ファイヤーバード・トランザム、

メタリックブルーの1997年式日産・フェアレディZ(Z32)、

ブルーマイカの三菱・ランサーエボリューションⅩ、

シルバーのルノー・メガーヌ クーペ3 RS、

ホワイトの2008年式フォルクスワーゲン・シロッコR、

クリムゾンレッドの1999年式フェラーリ・360モデナ、

メタリックオレンジの2005年式レクサス・IS350 Version S、

ブラックの2005年式4代目三菱・エクリプス、

ガングレーメタリックの2005年式クライスラー・300C SRT-8、

 

この10台である。

 

このまま道なりに進めばアヴローラ・ナショナルパークに最速でアクセスできるルート、インターステイト601に出る。

集団を追ってR34GT-Rを駆るリュウに、インパネのタブレットからユーノの声が響く。

 

〈リュウ!シルバーロックに150位以内で入るんだ!〉

 

「何だって!?もう1度!」

 

自分のGT-Rも含めレーサー達の車両の爆音でよく聞き取れなかったリュウはもう1度ユーノに問う。

 

〈シルバーロック150位以内!でなきゃジ・エンド!!〉

 

「OK、了解!」

 

今度はしっかり聞き取れたリュウはユーノにそう返し。再び運転に集中する。

この先の高速が勝負所だと判断しそれまでは追い抜きにかかりつつも余力を温存するハイスピードクルージングでGT-Rを走らせていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

未だに会議室にいるなのは達は冷たい雰囲気を漂わせていた。

突然のリュウの逮捕命令と、それ故の特殊追跡部隊への編入と・・・頭の処理能力がキャパオーバーしていたのだ。

 

そんな中で、なのはが徐に立ち上がりその場にいる全員に向き直る。

 

「・・・やろう、みんな」

 

なのはのその言葉、それはリュウの逮捕に手を貸すという事だった。

当然それに納得しない者はおり、なのはの言葉に食いつく。

 

「そんな・・・なのはさんはリュウを疑ってるんですか!?」

 

その1人が、先程マサノリに異を唱えようとした青髪の女性スバルである。

スバルの言葉に賛同するかのようにフェイトやはやてといった隊長陣を除いた全員がなのはに注目するが、なのははスバルの言葉に首を横に振って否定する。

 

「ただ捕まえるんじゃなくて、助けるためだよ。きっとリュウは今とても危険な橋を渡ってる・・・私たちなら・・・ううん、私たちじゃないと助けられないよ!」

 

「私もなのはと同じ考えだよ・・・」

 

なのはの決意に彼女の左隣に座るフェイトも立ち上がりながら賛同する。そしてそれに続くようにはやても立ち上がる。

 

「私もなのはちゃんと同じや。このままじゃリュウは遅かれ早かれ折れてまう・・・その前に私らが何とかせぇへんと!幸いこういう時に力になってくれそうな人を知っとるんよ、ちょっと行って来る!」

 

言うや否や、はやては駆け足で会議室を飛び出していった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

場面は変わりクラナガン市内の低所得者街、その一角にある小さなガレージ付きの一軒家。

ガレージの外にリュウより少し年上の雰囲気を醸し出す1人の青年がいた。

 

肩まで届く銀髪と目付きは悪いが整った顔立ちをした赤い眼、黒いパーカーと黒いジーパンを身に着けた青年、名は“ギルバート・ドレイク”。

 

ギルバートは愛車の整備と軽い洗車をしながらもラジオから流れるニュースに耳を傾けていた。

 

〈繰り返します。本日、時空管理局当局はリュウ・アステリオン元三等陸尉を、質量兵器の不法所持、車両窃盗、強盗傷害等の容疑で指名手配する事を発表いたしました。アステリオン容疑者は既に10人以上に重傷を負わせ所持していた金品等を強奪したと思われています。更にはカラハン・モーターズ経営責任者アダム・カラハン氏もアステリオン容疑者の被害にあったと思われており現在も容疑者の行方の捜索が続けられています・・・〉

 

ギルバートは一瞬ニュースの内容を聞いて呆気にとられるも何とか持ち直し、点検を終え愛車のボンネットを閉める。

すると外からエンジン音が聞こえ、ギルバートが外を振り向くと青みがかったシルバーの5代目フォルクスワーゲン・ポロが急ブレーキをかけながらギルバート宅の前で停車した。

そしてポロから1人の女性が飛び出すように降りてきた。

 

「ギルバート君!」

 

「・・・はやて?」

 

その女性とは、はやてであった。

だが今の彼女は酷く焦っているような雰囲気だ。

 

「お願いやギルバート君、助けて!!」

 

「ちょ、ちょっとはやて、まずは一旦落ち着いてくれ・・・」

 

はやてがギルバートに縋るように駆け寄ってきた事でギルバートは一瞬ドキリとしたが、まずは彼女を落ち着かせる事にした。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・落ち着いたか?」

 

「うん、その・・・ごめんな?」

 

とりあえずペットボトルのお茶を差し出して何とか落ち着かせ事情を聴く事ができた。

ギルバートが耳を疑ったリュウの指名手配報道、そしてその逮捕の為にはやて等、元機動六課メンバー全員に白羽の矢が立ったという事。

 

「けど私はリュウがそんな事するなんて思えへんのや・・・」

 

「あぁ俺もだ。あいつとは何回かレースでやり合った事はあるけど、そんな事をするような奴じゃない」

 

ギルバートが言ったレースとは深夜に行われるストリートレースの事だ。

今はこうして管理局二等陸佐のはやてと話してはいるが、その実は夜の世界では知らぬ者はいない程の有名レーサーであり、リュウとは互いの腕を競い合った仲でもある。

 

そんなギルバートが普通なら犬猿の仲である管理局の、しかも二等陸佐という上級幹部のはやてと何故普通に話せているのか?

簡単な事だ、レーサーとしての腕を管理局に見込まれ罪状の赦免と引き換えにこれまで何度か追跡用のドライバーとしての雇われ経験があるからであり、その時に知り合って今では日常でも時間を見つけては連絡を取り合っている仲だ。

 

「せやから、私は・・・私たちはリュウを助けてあげたい。ギルバート君も手伝ってくれへん?」

 

そのはやてからのお願いとは、やはり今回のリュウ絡みの件のようだ。当然管理局員でないギルバートには関係の無い話、もし首を突っ込めばどうなるか分からない。

だがギルバートは既に腹を括っている。

 

「分かった。あいつは俺にとっても仲間だ、放っておく道理なんて無い」

 

ギルバートの答えを聞くとはやては満足そうに笑みを浮かべる。

 

「よかった、ギルバート君ならそう言ってくれると思っとったで」

 

はやてはそう話すと踵を返し乗ってきたポロの方に向かう。

 

「スピード違反は見逃しとくから、できるだけ急いでな」

 

はやてはポロに乗り出発する。

その姿を見てギルバートは手早くガレージの中を片付け、家とガレージの方にも施錠すると、自分の愛車に歩を進める。

 

往年の雰囲気を漂わせる角ばったデザインの中にある完璧な曲線美のボディにそれにマッチしたブラックのボディカラー。

そして何より目を引くのは、ボンネットから突き出たスーパーチャージャーである。

 

まるで有名なカーアクション映画の車をそのまま持ってきたかのようなその車の名は・・・

 

 

1969年式ダッジ・チャージャー B-Body。

 

 

一見すると70年式に見えるそれは、70年式のフロント周りを69年式のボディに移植した物である。

 

ギルバートは自分の愛車であるそのチャージャーに乗り込み、スロットにキーを差し込み回すと7.0L V8スーパーチャージドエンジンが獣の唸り声のような低く重くある爆音を上げながら目覚める。

 

ギルバートはその目付きを更に鋭くさせつつ、ある1つの誓いを立てていた。

 

それは・・・リュウをハメた奴に必ず報いを受けさせる事。

 

その誓いを胸に、ギルバートはアクセルを踏み込んでホイルスピンをさせつつもチャージャーを発進させ自宅を後にし、はやてが乗るポロを追いかける。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

アヴローラ・ナショナルパーク・・・

 

リュウのはるか前方に進んでいる車列の中に1つの異色な集団がいた。

 

PRIOR DESIGN(プリオールデザイン)製P800GTワイドボディキットを組み、車体の中心にアクアブルー・ホワイト・オレンジの3色からなるトリプルストライプスのバイナル。更にボンネットやドアパネルにはTOYO TIRESやSPEED HUNTERS等の各種のメーカーステッカーが貼られているメタリックブラックの“メルセデスAMG・GT S”。

 

そのGT Sの後方には、まるで付き従うように走る3台のマシン・・・。

 

シームレス加工を施したSTAR ROAD(スターロード)製「Fighter」ワイドボディキット、ワンテール型テールランプ、薄型カーボンドアミラー、ヘッドライトカバー、更にYOKOHAMA製ADVAN-A048ホイールを履かせたタイヤ、中央の出っ張りの両脇に排熱ダクトを設けた輸出用形状のカーボンボンネットを装備したグランプリホワイトの日産・フェアレディ240Z。

 

GTレースカーのようなボディキットとレースウィング、SEIBON製GTレーススタイルのカーボンボンネットを付けたペールブルーメタリックのBMW・M3 GTR。

 

GT4レースを彷彿させるボディキット、GTウイング、GT500タイプダクト付カーボンボンネット、CERVINI(サビーニ)製カットバックサイドエキゾーストキットを装備したトリプルイエローの2015年式7代目フォード・マスタングGT。

 

4台が纏まって走る中、GT Sのドライバーであるは女性はインパネに固定してあるタブレットを操作すると、リュウ・アステリオンの情報欄を出した。

 

「・・・ふふっ♪」

 

緑色のセミロングヘアーを首の後ろ辺りで束ね1本にしたヘアスタイル、右眼は赤で左眼は青という異色虹彩を持った幼さが残る顔立ち。

黒いインナーシャツと青いベスト、薄い青のショートパンツにブラウンのブーツを身に着けたGT Sのドライバーであるその女性の名は“トモエ・シズマリ”。

 

 

・・・リュウに賭けられた懸賞を狙う狩人(ハンター)である。




ED:Blast My Desire/m.o.v.e


今回において応募してくださいましたオストラヴァ様とZG様のキャラを少しですが登場させました。
ただしZG様のキャラの方につきましては大きく変更する事になり、この場を借りて謝罪いたしますm(__)m

オストラヴァ様の方のキャラも間違っているか不安ですので先に謝罪しておきますm(__)m


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Section07 烈火

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,504km

 

リュウの現在の走行順位・・・195位

 

 

リュウの作戦通り、やはりインターステイト601は通勤車両でごった返しており、それに閊えた他のレーサーのマシンをパスし順位を上げる事ができた。

 

そして601を通り160号ハイウェイを駆け抜けアヴローラ・ナショナルパークへ突入する。

リュウのすぐ前方では8台のマシンがひしめき合っている。

手前から、

 

シルバーの初代フォルクスワーゲン・ゴルフⅠ GTI、

白黒ツートンカラーのトヨタ・カローラレビンGT-S(AE86)、

WRCブルーの2009年式スバル・インプレッサWRX STI、

マットブラックのロータス・エキシージ S Mk-2、

ディープブルーのアウディ・Ur-クワトロB2、

イエローの初代マツダ・ロードスター(NA6C)、

モスグリーンの日産・200SX(S13)、

ミッドナイトパープルのBMW・E30型M3スポーツエヴォリューション、

 

この8台だ。

だがただ競い合うだけの方がまだマシだっただろう。この先の集団は我先にと言わんばかりに車体をぶつけて強引に進路を確保しようとしている者が多い。

 

〈気を付けて!その先はレースが荒れてるよ!〉

 

「分かった、ありがとう!」

 

タブレットから流れるユーノからの忠告に感謝しつつもシルバーロック150位以内という狭き門を通る為に荒れている車列に挑む。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

リュウがナショナルパークに入る少し前・・・

 

はやての頼みでクラナガンの地上本部に足を運んでいた青年、ギルバート・ドレイク。

そして彼を案内するはやてと共になのは達六課メンバーが待つ会議室に入る。

 

「お待たせみんな、助っ人を連れてきたで」

 

「助っ人?」

 

はやての事情を知らないなのは達は当然はやての言葉に困惑するが、入ってきてとはやてに促され会議室に入室してきたギルバートを見ると、六課副隊長陣である八神家の面子は納得したような表情をする。

 

「はやてと他の面子の中には知ってる奴もいると思うが、知らない奴らの為に一応自己紹介はさせてもらう・・・」

 

元機動六課全員に一応の自己紹介を始めるギルバート。

その後にはやて主催でギルバートを交え今後の方針を決める会議を始める。

 

「今回の任務は無理に魔法を使おうとすればリュウに怪我をさせてまう。せやから車と運転技術が重要になってくる。けど残念な事に今この場でその条件に当てはまっとるのはフェイトちゃんとギルバート君しかおらへん」

 

「車?ま、待ってよはやて、アタシらスポーツカーなんて運転した事ないよ?良くてパトカー位だし・・・」

 

「私もです、主はやて・・・」

 

「わ、私もですはやてちゃん・・・」

 

「私は普段この姿故、運転する機会という物が・・・」

 

はやてのその言葉に上から2本の三つ編みが特徴の赤髪の少女“ヴィータ”、濃い目のピンクの髪をポニーテールに纏めた凛々しい風貌の女性“シグナム”、金髪ショートボブのおっとりした雰囲気の女性“シャマル”、青い毛皮の大柄な狼“ザフィーラ”が順に返答するがどこか恐る恐るといった様子だ。

 

しかし当然と言えば当然である。機動六課は確かにエース揃いの精鋭部隊だ。だがそれは魔法戦に限定した場合の話であり、こと車の知識や運転に関してはリュウやギルバートを始めとしたストリートレーサー達に大きく後れを取っているのが現状である。

 

しかしその言葉を聞いてもはやての表情には不適な自信が見て取れる。

 

「大丈夫、車は管理局が今まで押収してきた中から好きなの選べるし、改造についてもシャーリーとマリエルさん、そしてギルバート君がおるから心配ないんよ」

 

「あぁ。こういった改造は日頃からよくやってる、大丈夫だ」

 

はやての言葉に相槌を打つかのようにギルバートは六課メンバー達からの視線を一身に受けつつも、さも当然のように返した。

 

「あて、じゃあその改造の前にまずは車のチョイスやね、リイン?」

 

「はいです!」

 

はやてが自分の右肩に乗っている少し青みがかった銀髪と垂れ気味な濃青色の瞳を持った目の30㎝程の少女“リインフォース(ツヴァイ)”が手元のタブレットを操作すると、会議室のメインモニター一杯に大量の車両の画像が映し出され、その光景に六課メンバーはもちろんギルバートさえも圧倒されそうになった。

 

「これがここ10年間で管理局が押収した車全部ですぅ」

 

説明するリインと圧倒されている六課メンバーを他所にはやてが口を開く。

 

「さて、それじゃフェイト先生にギルバート先生、どうぞお選びくださいな!」

 

「オッケー、えっと・・・」

 

「待ってくれはやて、俺が選ぶ必要性あるか?」

 

はやての言葉にフェイトは早速車両の選定を始めるが、ギルバートも含まれている事に本人が戸惑っている。

 

「せやよ?何せ現職さんやし、やっぱここはプロの意見は大事やからなぁ」

 

「それに、私だけじゃ分かんない事もあるしね・・・」

 

どうやら自己紹介の時はやてが暇を見つけては連絡を取っていたというはやてからの補足を聞いて他のメンバー達からも随分と信用されてしまったらしい。

それにギルバートも大人しく折れ、フェイトと共に車両の選択を始める。

 

「えぇっと・・・37番に423番・・・シグナムには2056番かな・・・、なのはには・・・」

 

「待った、それなら3527の方がいい」

 

「え、そう?・・・じゃあ530番にしてそれから・・・」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

少しの間議論を重ね、ギルバートとフェイトは遂に車両の選択とメンバー割り振りを決め終える。

 

「それじゃこれから運輸局に連絡して押収車をシャーリーとマリエルさんの所に運んで改造してもらうから、皆は自分の体調管理とデバイスのチェックを怠らんようにね」

 

「そんじゃ、この辺で解散や。車が届くんは1番早くて今日の夜、遅くても明日の昼頃には届ける言うてくれとるから。みんな、絶対に他の部署が捕まえるよりも先にリュウを助け出すよ!」

 

『はいっ!!』

 

フェイトとはやての言葉に六課メンバーとN2R一同は敬礼しながら威勢良く返事し会議室を後にしていく。

だが少しの時間も惜しいこの状況だ。ギルバートは会議室に残ってはやてに問う。

 

「はやて、そのシャーリーとマリエルさんって人のところに案内してくれないか?俺も手伝った方が早く仕上げられる」

 

「・・・ほんま、おおきになギルバート君」

 

ギルバートの意を聞いたはやては感謝を述べ、デスクに置いてある自分のタブレットを持つと、ギルバートを連れシャーリーとマリエルがいる工場へ彼を案内する。

 

(待ってろよリュウ、絶対助けてやるからな・・・!)

 

工場に向かう道中、ギルバートは心の内でリュウに対しそう呟いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

その頃、アヴローラ・ナショナルパーク・・・

 

「・・・今だっ!」

 

前を走るホンダ・S2000(AP1)がオーバースピードで右ヘアピンコーナーのアウト側に膨らんでいったのを見逃さず、リュウはR34のアクセルを思い切り踏み込む。

すぐさまツインターボが動作してブーストがかかり力強い立ち上がり加速を見せS2000をパス。

 

ナショナルパークに差し掛かった時は195位だった順位も現在は181位までジャンプアップに成功した。

 

次の車列までは2kmあるかないかと言った具合だろう。緩やかな左コーナーを抜けトンネルに差し掛かった、その時だ。

 

《後方より車両1台、急速接近!》

 

「何っ!?」

 

相棒のデバイス、ウルスからの警告に耳を傾ける間も無く、リュウの視界の左側から1台の青い車が猛スピードで自分と自分のすぐ目の前を走っていた一般車を追い越していった。

それに驚いた一般車がクラクションを鳴らしながら慌ててハンドルを切った為にバランスが崩れるがリュウは即座に最低限のステアリング操作で一般車を回避し、先ほど追い抜いていった車と車列を追いかける。

 

あの一瞬だったとはいえ、ボディはかなり特徴があった。

何処か丸みを帯びておりセンターに配置したコックピットで表面積を減らし空気抵抗を低減する、ますで航空機かF1レースカーのような風貌と後付けとは言えその存在を更に引き立てる大型のリアウィング。何処のブランドの車か特定はそう難しくなかった。

 

「くっ!ウルス、あのイカれたマクラーレンに乗ってる奴は!?」

 

リュウはすぐさま相棒に自分を追い抜いた車、マクラーレンのドライバーの情報を要求する。

 

《現在検索中・・・検索完了しました!》

 

検索を終えウルスがタブレットに情報を表示する。

 

「なっ・・・!?」

 

その情報を見たリュウは言葉を無くした。

そのマクラーレンのドライバーは、自分にとって宿敵であり憎むべき怨敵でもある者だったからだ。

 

 

 

 

【NAME:Adam(アダム) Callahan(カラハン)

 

【MACHINE:Mclaren(マクラーレン) P1 LM】

 

【RUN POSITION:181】




ED:Blast My Desire/m.o.v.e


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Section08 闘走

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,265km

 

リュウの現在の走行順位・・・182位

 

 

後方から一気に追い上げてきたアダムのマクラーレンP1 LMを追いつつも猛然と先の車列をパスしにかかるリュウ。

アダムのP1が前を走るブラックの日産フェアレディS40Zを追い抜くと、それに続くようにリュウも240ZをパスしアダムのP1を追う。

 

でも未だに前を走る車はおりアダムのP1を除いて手前から、

 

アクアブルーの初代シボレー・カマロSS、

赤の三菱・ランサーエボリューションⅧ、

白にカーボンボンネットのマツダ・RX-8、

緑のボディに白のダブルストライプの1969年式2代目フォード・マスタング BOSS 302、

黄色の日産・フェアレディ350Z、

黒のポルシェ・987前期型ケイマン S、

シルバーのBMW・E90型M3、

メタリックグレーの日産・スカイライン2000GT-R(KPGC10)

 

そして何時ぞやのGTレースボディキットとレース用ウィング、カーボンボンネットを装備したペールブルーメタリックのBMW・M3 GTRだ。

 

この先はコーナーが多いテクニカルなステージとなっており、リュウのR34とアダムのP1は比較的大柄な部類に分けられるだろう。

ましてリュウのR34は元々は1500キロ級の車重を持っていた車だ、いくらカーボンパーツで軽量化しようとも元々の車の特性が完全に消える訳ではない。

 

当然それはR34を組み上げてきたリュウ本人が1番理解している。だからこそ無理に仕掛けて車やタイヤに負担をかけてしまわないよう理性で車をコントロールしつつ前を走るアダムのP1をパッシングするチャンスを伺う。

 

リュウのR34とアダムのP1はカマロSS、ランエボⅧ、RX-8を連続でパスしていきながらも尚もペースを全く落とさない。次は2人の前を走るマスタング BOSS302を始めとした集団だが、ここでアダムのP1が舗装路を外れ右側の未舗装の遊歩道の方に入っていった。

 

《マスター、道路右側に脇道があります!》

 

「了解!」

 

相棒のウルスからの言葉に従いリュウもアダムを追って遊歩道に入る。

舗装されていない道故に揺れが酷く加速も鈍りハンドルも重くなるが、おそらくそれはアダムの方が辛いであろう。

 

綺麗に舗装されたサーキットでのタイムを出す為に改良されたP1 GTRの公道仕様とも言えるP1 LMだと車高が低すぎて跳ねた砂利や石で車に余計なダメージを与えかねない。

 

一方リュウのR34は未舗装でも少しは安心できるほどの地面とのクリアランスを確保しており、その上P1 LMがミッドシップ後輪駆動なのに対しR34は4輪駆動。スペックでは大きく劣るがステージ次第ではまだ勝機はある。

 

リュウはシフトレバーを操作して1段上の3速に入れステアリング操作をしながらフルアクセル。綺麗な4輪ドリフトを披露しコーナーでアダムのP1にアウトから並びかける。

そして遊歩道を抜けると同時に舗装路に戻り舗装路を走り続けていたマスタング BOSS302、350Z、ケイマンS、M3は既に2人の後方にいた。

 

残るはリュウのすぐ右隣りにいるアダムと前を走るM3 GTRだけだ。

サイド・バイ・サイドで緩やかな左コーナーを抜けストレートへ。加速はやはり馬力で勝るP1が有利だがストレートの先はきつい左コーナーが待っている。

スピードが乗った状態でのコーナー侵入は当然ハードなブレーキング勝負となる。

 

2台はほぼ同タイミングでブレーキをかけ旋回態勢に入る。

だがフロントエンジンで4駆のGT-RよりミッドエンジンであるP1の方が車の運動性能は高くコーナリングスピードはアウト側のP1の方が上だ。

 

だがアダムは勝負を焦ったか、前に出ようと旋回も関わらず大きくアクセルを踏み込んでしましリアが大きくスライドしてしまう。

対してリュウも旋回中にスロットルを開けテールスライドが起こるがP1のそれよりは挙動はマイルドで体勢が大きく乱れたP1と比べ安定した姿勢でフロントがコーナー出口を向き、リュウはすかさずフルアクセル。

いち早く立ち上がり加速に入り、遂にアダムのP1 LMをパスした。

 

「よし!!」

 

《お見事です!》

 

思わずハンドルに手を叩きつけながらも喜びを露わにするリュウと賛辞を贈るウルス。

だがまだ安心するには早い。前にはまだBMW・M3 GTRが残っており更にここから先の峡谷地帯は峠のダウンヒルになっている為、より繊細かつ迅速という対称的な2つの要素が際立つ区間だ。

 

しばし長いストレートに入り加速を続けるリュウのR34GT-R、だがその後を体勢を立て直したアダムのP1が猛追する。

そしてリュウのGT-Rに追いついたと思いきや、

 

「うわっ!?」

 

あろう事かGT-Rのリアにぶつけてきた。

幸いバランスは何とか保てたが、P1は1度下がるとまた加速しリアにぶつけてきた。

今度こそバランスを崩しGT-Rはスピンしながら失速。路肩の待避所まで押し出されてしまった。

そしてアダムのP1 LMはリュウのR34を後目にそのまま走り去ってしまう。

 

「くそっ!!」

 

リュウは怒りを隠せず、憎々し気に吐き捨てながらハンドルに拳を叩きつけるも、すぐにギアを1速に入れ直し加速。アダムを追うべくGT-Rを走らせる。

 

 

そして峠のダウンヒルに差し掛かり、右ヘアピンコーナーを曲がった先にはM3 GTRが見えてきたがP1の姿は無い。もう先に行ってしまったのか。ならば前のM3を抜き追いかけるまで。

 

リュウはすぐに判断し、ストレートでM3に追いつき右から追い抜きにかかる。

 

・・・が、なんとM3のドライバーが右にハンドルを切り、その車体をリュウのGT-Rにぶつけてきたではないか。

 

 

 

―――――――———————――――――

 

 

 

そのM3 GTRのドライバー、灰色のショートボブに金色の垂れ気味の目、胸元に「Beep!」と書かれた青地の半袖のスポーティなシャツにベージュのショートパンツというそのドライバーの女性は“ローラ”。

 

既にナショナルパークを通過したメルセデスAMG・GT Sのドライバーであるトモエ・シズマリの一味の1人である。

 

ローラは背後から追い抜きを仕掛けようとしたリュウのGT-Rに対し進路を被せたり躊躇なく車体をぶつけたり等を行い妨害を行う。

彼女がリーダーであるトモエから受けている命令は1つ。

 

“殺さない範囲ならどんなことしてもいいから止めろ”と言う物だ。

 

ローラはその命令を思い出しつつも、未だバックミラーに映るリュウのGT-Rを見てこう吐き捨てる。

 

「抜けるもんなら抜いてみろってんだ!」

 

 

 

―――――――———————――――――

 

 

 

「くっ!」

 

リュウはローラのM3 GTRを見て思わず顔をしかめるが、こいつを倒さない事にはここで脱落となってしまう。

まずは様子見を兼ねアクセルを踏み込んでM3の背後にピッタリと張り付き、左右に揺さぶりをかける。

ローラはそれをバックミラーで確認し確実のリュウの進路に被せ通せんぼするが、

 

「やべっ!?」

 

リュウの動きに集中しすぎた為に次の左ヘアピンのことを失念していた。

慌ててサイドブレーキを引きM3を無理矢理曲げようとするがそれでもオーバースピードはごまかせない。コーナー外側に大きく膨らみ、空いたイン側をリュウのGT-Rが鮮やかに通り抜ける。

 

「この、待て!!」

 

大外を回り失速したローラのM3は何とかコーナーを抜け再加速、リュウのGT-Rを追う。

次のヘアピンに備えスピードを抑えていたリュウには割と簡単に追いつき、左側に並ぶと再びM3の車体をリュウのGT-Rにぶつける。

そのせいで右側のタイヤが舗装路の外にはみ出てリュウが僅かに失速、その間に再びローラが前に出た。

 

「っ・・・」

 

ストリートレーサー達は本来、自分の車に傷が付く事を嫌うものだが、それを平気でやってきた相手にリュウは少しだが確かに憤りを感じていたのか微かに舌打ちをした。

 

次は右の緩く長いヘアピン、そこを抜けると今度はきつい左ヘアピンが待つ上にその区間はコースアウトを防ぐガードレールが無い。ミス=死に繋がりかねない恐怖の区間だ。

 

それでも2台はほとんど差が無いままデンジャラスセクションに入る。

ローラのM3が通せんぼと言った具合に道幅一杯に車を振っていく中でリュウは焦らず正確なコントロールでコーナーをクリアしていく。

S字コーナーを3つほど抜け次は道幅が広い右の中速コーナー。

 

ここでリュウが仕掛けた。

ギアを2速に落としハンドルを逆側の左に切りコーナーのアウト側へ。いくらローラがM3を振り回そうがこのコーナーを完全にブロックするのは不可能である。アウトに行ったGT-Rがフルアクセル、4駆のトラクションとエンジンパワーを活かし再びM3の前に出る。

 

「クソッ!!」

 

ローラが前に出たGT-Rを見て憎々し気に吐き捨て。その後を追いかける。

次は先ほどクリアした右コーナーをそのまま反転させたかのような左コーナー。そして再び右コーナーと、繰り返しに思える程の左右の切り替えしの数々である。

 

続いては右の高速コーナー、しかもガードレール無だ。

リュウの背後にくっついているローラが右側からGT-Rにぶつかりに行く。

大きくリアがスライドしあわやコースアウトと思われた所で踏みとどまり、その先のガードレールの無い低速の左コーナーに差し掛かる・・・と思いきやローラは再びリュウの右側から、今度は押し込むようにぶつけGT-Rは完全に右を向いてしまい、それでも尚ローラはアクセルを離さずGT-Rを押すような形で走行する。

 

リュウは咄嗟にギアを1速に落としサイドブレーキを引きハンドルを右に切ってフルアクセル。するとGT-RはM3から逃げるようにスピンしローラのM3が再び前に。

 

「っ!!」

 

ローラも咄嗟の反応でハンドルを左に切りドリフトでコーナーをクリア。リュウも1回転した後にすぐ左にハンドルを切ってすぐ戻しドリフト。2人の差はほとんど無い。

 

(分かったよ、そっちがその気なら・・・!!)

 

今のローラの攻撃でリュウの思考ギアが完全に切り替わった。

右中速を抜けたストレートでフルアクセル。エンジンが吠えると同時にブーストが立ち上がり一気に加速、リュウがローラのM3に並ぶと、

 

なんと今度はリュウの方からM3にぶつけに行ったではないか。

 

「クソ、ふざけやがって!」

 

ローラは怒りを隠さずに吐き捨てるも進路は譲らない。

それを見てリュウのGT-Rがもう1度M3にぶつかりに行った。

今度はM3の体勢が崩れ僅かに失速、その間にリュウのGT-Rが前に出た。

 

峠であるにも関わらず続くパッシングの応酬である。

 

再び抜かれたローラは怒りで表情を歪めながらもM3を加速させ、GT-Rの体勢を崩すべく左リアに突っ込む。

GT-Rの体勢が僅かに崩れストレートの左側へ。緩い左コーナーを大外から被せて侵入しローラのM3が再び前に。だが何を考えたか右側の斜面を駆け上がりすぐ舗装路に戻った。

 

運転ミスかに思われたが違った。斜面を駆け上がった時に破損したレースウィングが右コーナー旋回時に千切れてリュウの方へ飛んできた。

 

「っ!!」

 

飛んできたウィングがヒットするも、当たった箇所はフロントガラスでヒットした場所もリュウが座る右の運転席側でなく誰もいない左の助手席側だった為に運転に支障は無い。

コーナーを立ち上がり次の右コーナーへのストレートでローラの左側に並び、侵入直前に一気にフルスロットル。ドリフトでローラのM3の頭を押さえ再びリュウが前に出た。

 

続いてはガードレール無の緩い左ヘアピンコーナーだ。

2台がドリフトで侵入し、そこでローラのM3が一気にリュウのGT-Rに並びかける。

 

「往生際が悪いんだよっ!!」

 

ドリフト中でもお構いなしにローラはGT-Rにぶつかりに行く。

2台は並んで立ち上がり次の右コーナーが迫る。

 

ローラは既にぶつかりに行く体勢を取っていたが、それを見たリュウはギアを4速から一気に2速に落としブレーキペダルを目一杯踏み込んで急減速。

 

「なぁっ!!?」

 

攻撃に失敗したローラのM3 GTRはコントロールを失いスピン。4分の3回転後にタイヤがグリップしてしまいそのまま横転し、

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そのまま道路の外へ転落し崖を転げ落ちる。

 

攻撃を回避したリュウは無事左コーナー、その先の右ヘアピンも抜け後はストレートとアクセルオンでも抜けられる緩いコーナーだけの区間へ。

 

そして緩い左コーナーに差し掛かった、その瞬間・・・

 

転落したローラのM3 GTRが落下してきた。

 

「!!」

 

リュウは咄嗟にサイドブレーキを引きハンドルを右に切ってGT-Rを右に向け、そしてすぐ左にハンドルを切りドリフトさせる・・・。

 

 

GT-Rは間一髪のところでM3を回避。

だがリュウは1度バックミラーを見ると左の路肩にGT-Rを停め落下したM3に駆け寄る。

フロントガラスを除いた全ての窓ガラスは粉々になっており、

 

「大丈夫か!?ほら、しっかり!」

 

だがリュウは冷静にローラを固定しているシートベルトを外すとローラの脇の下を持ち彼女を潰れたM3から引っ張り出し路肩に運ぶ。

そして電話を取り出し、

 

「すいません、緊急の要救助者1名。場所はアイク湖の・・・」

 

なんと病院に連絡を入れ始めた。

自分を事故らせるか殺そうとしていた相手をリュウは助けようとしているのだ。

リュウは電話を終えると寝そべるローラを見てしゃがみその手を右肩に添える。

 

「救急隊が来るまでの辛抱だから」

 

「・・・礼は言わないから」

 

リュウの対応に助けられた事への意識からかローラは恥ずかしいのかリュウから顔をそらしつつもある意味では感謝ともとれる言葉を放る。

それを聞くとリュウは踵を返しGT-Rに戻る。

 

《よろしいのですかマスター?殺そうとしてきた相手を助けるなど・・・》

 

「どんな事情であっても、俺としてはやっぱり見過ごせないよ・・・」

 

ウルスの問いにリュウはそう答え、リュウはGT-Rに乗ると再び走り出す。




ED:Blast My Desire/m.o.v.e


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Section09 荒野

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,373km

 

リュウの現在の走行順位・・・172位

 

 

とんだ足止めを食らいつつも無事乗り切り、リュウは第1関門であるシルバーロックが位置する地帯“フォーチュンバレー”に入った。

乾いた大地に聳えるこの地にはシルバーロックはもちろん、更に東へと進むハイウェイといった重要な交通路が存在する。

 

その乾いた大地に奔るハイウェイをリュウのR34GT-Rが前の車列を追いつつ駆け抜ける・・・かのように見えているが当の本人はというと、

 

「はむ、んぐっ、んぐっ・・・」

 

左手に持つサンドイッチを頬張り右手に持つペットボトルのスポーツドリンクで口を潤すという、軽い食事を取っていた。

その間のGT-Rの運転は、リュウが練成した魔力糸の疑似回路がウルスとGT-Rのセンターコンソール間に繋がっておりウルスによる自動運転となっていた。

 

“腹が減っては戦はできぬ”ならぬ“腹が減ってはレースはできぬ”。今の彼の姿はまさにそんな風だった。

 

〈飛ばして。150位以内でシルバーロックに入れないよ〉

 

そんな彼の様子を知ってか否かタブレットでテレビ通話中のユーノがそんな事を言う。

それに対しリュウはペットボトルの口を自分の口から離してボトルホルダーに置き、袋に一緒に入っていた手拭きで軽く手を拭いた後にハンドルを再び握って魔力糸を解除。GT-Rの運転に戻る。

 

〈それとリュウ・・・〉

 

「何?」

 

まだ何かあるのか、と言いたげにリュウが問うが、

 

〈・・・カジノは禁止だからね?〉

 

ユーノの言葉は彼なりに緊張を解そうと考えたジョークであった。

そのジョークを聞き、リュウは不本意ながらも少し笑ってしまうがおかげで気が少し楽になったような気分だった。

 

「思いつきもしなかったな」

 

そんなジョークにリュウも笑みを浮かべながらそう答えると、すぐに表情を引き締めGT-Rを加速させる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻、管理局本局第4ドッグ・・・

 

係留されている次元航行艦“ヴォルフラム”の格納庫内でM.P.D.T.Fなる高速機動部隊に編入されたなのは等元機動六課メンバーは重い面持ちで何かを待っていた。

その理由は、はやてが頼んだ六課メンバーの追跡用車両が何台か届くからである。

 

“何台か”というのは車の改造に協力していたギルバートから全員分の車を仕上げるには圧倒的に時間が足りず、仕上がった分だけでも持ってくると事前に聞いていたからである。

 

「・・・来たみたいやね」

 

はやてが小さく呟くと、格納庫に2台の車が入ってきた。

1台は黒塗りのエンツォフェラーリ。これは既にフェイトが乗っている為彼女が運転する車だという事はすぐ分かった。

 

もう1台はというと、大型のキャリアカーであり荷台には何台か車を載せている。その数は7台程だろうか。フェイトのエンツォも合わせれば8台である。

キャリアカーのドアが開くと中からギルバートともう1人、茶髪のセミロングに丸眼鏡が目立つ女性士官“シャリオ・フィニーノ”である。

 

「悪いなはやて、早く仕上げられるなんて大口叩いておきながら間に合わせられなくて・・・」

 

「大丈夫、気にしてへんよ。むしろ短い時間で8台も揃えてくれてありがとな」

 

全員分を間に合わせる事ができなかったことに対しギルバートが謝罪するが、はやては気にもしていおらずむしろこの短時間で8台も仕上げてくれた事に素直に感謝していた。

 

「大丈夫です、どの子も最高の車に仕上げてますよ!」

 

嬉々とした様子ではやてに伝えるシャーリーは手元のタブレットを操作する。

するとキャリアカーのスロープが下りると同時に積載されている7台の車のエンジンが自動で次々とスタートし順々にスロープを降りて六課メンバーの前まで進むと自動でエンジンを停止、大人しくなった。

 

「うわぁ・・・何かSF映画みたい・・・」

 

なのははそんな車達を見て小さく呟く。

そしてギルバートとタブレットを見ながらのシャリオが口を開く。

 

「まだ全部じゃないとはいえ今は時間が惜しい。調整が終わったのだけこうして持ってきた、皆が今回使う車だ」

 

「え~っと、すでに全車にはストリートレーサー達に対抗できるエンジンや駆動系、サスペンション回りとかを強化した他、皆さんの運転技能を補う為に全車に“D.C.S”、“Device(デバイス)-Control(コントロール)-System(システム)”、を搭載してます」

 

「D.C.S・・・?」

 

全く聞き覚えの無い単語にフェイト、ギルバート、改造を担当したシャリオを除いた六課メンバー全員が微かに首を傾げる。

その様子を後目にシャリオは言葉を続ける。

 

「はい、知っての通り今のなのはさん達の運転技能ではリュウやギルバートさん達ストリートレーサーに対抗するには厳しいという事なので、デバイスがそれらを補う形でサポートしてくれます。ある程度であれば自律走行もできますよ」

 

「・・・やっぱり、何かSF映画みたい。なんだっけ、そんな感じの車が出てくるの・・・」

 

シャリオの解説になのははまた小さく呟き、何かを思い浮かべるような雰囲気である。

そんななのはは放っておき、シャリオはまず車の紹介を始める。

 

「まずなのはさんの車はこれですね、“日産・GT-R”です。各地上部隊のハイウェイパトロール隊でも配備されている由緒正しいスーパーカーです!」

 

「より正確には、日産のワークスチーム“NISMO(ニスモ)”が手掛けた“GT-R NISMO”だな。カーボンパーツの多用でノーマルより40kgほど軽い車体に実際にレースで使われてたGT3タービンをツインで組んで600馬力を叩き出すマシンだ」

 

ギルバートが細かい解説を挟みながらもシャリオが示したのはブリリアントホワイトパールのボディにフロントバンパーとボンネットに施された両脇に赤い細ラインが入っている青のダブルストライプのバイナル、ボディ両側にはなのはの飛行魔法“Flier Fin(フライアーフィン)”をイメージした桜色の羽根のバイナルが前輪部から生えているような感じで施されている“日産・GT-R NISMO(R35)”だ。

 

「GT-Rって、プロのレースにも参加してたあの・・・確かに何か凄く速そう」

 

車に無知ななのはでもGT-Rのブランドは流石に知っていたようで、小さく呟きながらもその顔には笑みが浮かんでいた。

 

「次にスバルはこの車に乗ってね~。“フォード・エスコートRSコスワース”。これも実際にモータースポーツで大活躍した子だよ」

 

「う・・・うわぁ、何これ、カッコいいじゃないですか!?」

 

次にシャリオが示したのはスバルの搭乗車。

 

ラピスラズリブルーのボディにボンネット、ルーフ、トランクはスカイブルーというツートンカラーの“フォード・エスコートRSコスワース”。

残念ながらこの車の最大の特徴とも言える2段式リアスポイラーは装備されていないが、代わりにWRCで実際に使用されたモデルと同じような形のオーソドックスなリアウィングが付いている。

 

「すっごい・・・すっごくイイですっ!!」

 

目を輝かせながら声を荒げるスバルにシャリオは満足気に頷くかに思えたが、その表情はどこか残念そうだ。

 

「本当はもっとカッコいいのを見せてあげたかったんだけどねぇ~・・・」

 

「エスコートコスワース自体がレア物なんだ、本人が良いって言ってるんだからいいだろ」

 

残念そうに呟くシャリオにギルバートがツッコんだ。

ツッコまれたシャリオは嘘くさい咳払いをすると、気を取り直して車紹介を続ける。

 

「次はティアナのだけど、この子がいいかな」

 

そう言ってシャリオが選択したのは、VeilSide(ヴェイルサイド)製C-ⅡボディキットとSEIBON(セイボン)製TR-スタイルカーボンボンネット、ダークガンメタリックのYOKOHAMA ADVAN Racingホイールを装備したオレンジメタリックのトヨタ・スープラRZ(JZA80)だった。

その攻撃的なデザインにティアナは少し威圧されていた。

 

「・・・何と言うか・・・凄い気迫ですね、ただこうして眺めてるだけなのに・・・」

 

「すご~い!ティアの車も凄くカッコいい!!ねぇねぇあたしのと交換しようよぉ~」

 

「うっさい!遊びでやる訳じゃないんだから・・・」

 

いつものコンビの漫才のようなやり取りはさておき、シャリオはまだ口を閉じない。

 

「次にエリオとキャロの車はこれだよ~」

 

そう良い次にシャリオが選択したのは2台。

 

ピンクのボディに細ラインが入った白のレーシングストライプ、車体両サイドにはキャロのデバイスであるケリュケイオンの使用時に生じるフィンを模した白い羽根のバイナルを施し、Wings West(ウィングスウェスト)製のカスタムスタイルボディキットと同社製コマンドスタイルリアリングを装備した、“ヴェント”の名でも知られている1995年式3代目“フォルクスワーゲン・ジェッタ”。

 

赤いボディに車体両サイドに前輪部から後部にかけ広がっていくような白いチェッカーバイナル、RE雨宮製FACER N-1(02MODEL)、UNDER SWEEP CARBON、CANARD-PRO CARBON、スリークライト、GT-AD KIT-Ⅱボディキット、REAR SPOILER GTⅡ(Dry Carbon)、DIFFUSER PRO-Carbon、ツインドルフィンマフラー、

KNIGHT SPORTS(ナイトスポーツ)製カーボン製エアロクーリングボンネット等、下手をすればティアナのスープラよりも派手に感じられるその車は、1999年式“マツダ・RX-7 type RS(FD3S)”。

 

「こ、こんな凄そうな車・・・あ、でもちょっと可愛いかな?」

 

「運転した事あるのはジープくらいだし、スポーツカーなんてテレビや雑誌で見かけるくらいしか無かったからなぁ・・・こんなレースカーみたいな凄い車、僕とストラーダでもやれるんでしょうか・・・?」

 

「大丈夫、似合ってるよエリオ君!」

 

「そ、そう・・・?」

 

キャロのどこかズレた励ましの言葉にエリオは戸惑いながらも返す。

 

「え~次はシグナム副隊長とヴィータ副隊長の使う車ですが・・・」

 

シャリオが別のマシンを選択して口を開きかけると、ヴィータとシグナムがふと口を開いた。

 

「あ、知ってるぜこれ。フェイトのと同じ奴だろ?」

 

「うむ、確かフェラーリだったか?」

 

ヴィータとシグナムは自信がありそうな表情でそう答えるが、それに反応したのはギルバート。2人の答えに少し溜息をついた。

いきなり溜息をつかれた2人はムッとするが、その答えはすぐに帰ってきた。

 

「全然違うぞ2人共。そいつは“ジャガー・XJ220”。フェラーリとは全くの別物だからな?」

 

「そ、そうだったんだ・・・」

 

「う、うむ・・・すまん」

 

ギルバートからのツッコみともとれる返答に知ったかぶりをしてしまった2人は微かに顔を赤らめてしおらしくなってしまった。

件のマシンだが、純正のメタリックシルバーから変更されシグナムとヴィータを表すようなピンク寄りの紫と濃い赤のメタリックツートンという変わったボディカラーに仕上がっている。

 

「で、最後はシャマル先生とザフィーラの車ですが・・・」

 

そう言いシャリオが最後に選択したのは、ライムグリーンのボディにボンネット、ルーフ、エンジンフードはホワイトとうツートンカラー。実際の24時間レースでも使用された大型リアウィングが付けられレースカーの風格を漂わせるその車は“ポルシェ・959”。

 

「まぁ、何か凄そうな車ね」

 

「うむ、これならやれそうだな」

 

その959を見てシャマルとザフィーラも感心したようだ。

現段階での全ての車の紹介を終えたシャリオを見て、今度ははやてが口を開いた。

 

「ひとまず今はこれで全部という事やね。これより私たちはシルバーロックに向けて発進します!各員準備は怠らんように!」

 

『はいっ!!』

 

はやての言葉にメンバー達は敬礼を返し、一同を乗せたヴォルフラムはシルバーロックに向け出港した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻、フォーチュンバレー・・・

 

フォーチュンバレージャンクション、今や無人のゴーストタウンと化しているこの町も今はザ・ランのコースとなっている。

そして丁度そこを走行している車列でのトップを争っている2台のマシン・・・。

 

先行するは車体両サイドにギリシャ神話に出てくる巨鯨ケートスを模したバイナル、ルーフには鯨の尾鰭のバイナルを施したメタリックブルーのトヨタ・スープラであるがただのスープラではない。

2001年までSUPER GTレースで活躍したあの“カストロール・トムス・スープラ”のレプリカモデルである。

 

そのトムス・スープラの後方にはルーフにパトランプを着けパトカー然とした白の2014年式5代目“フォード・エクスプローラー”である。

 

トムス・スープラは執拗に後方のエクスプローラーをブロックし、挙句の果てには前を走る一般車に幅寄せしてハンドルを切れさせ、エクスプローラーへのブロック手段として利用している始末である。

 

「・・・チッ、後ろのパトカーモドキ意外としつこいな・・・」

 

「クソッ、あのトムスモドキ野郎ふざけた真似ばっかしやがって!」

 

ほぼ同じタイミングで悪態をついたドライバー達。

 

トムス・スープラのドライバーは髪に白と黄色のメッシュを入れ、某仮面ライダーに出てきた物のような右耳に着けたデバイスとそれに一体化した眼鏡型ディスプレイを着用し、群青色のパーカーと紺カーキのカーゴパンツを身に着けたその青年は“タツミ・ウェイブ”。走行順位147位。

 

エクスプローラーのドライバーは赤髪に細く整った体系、黒いインナーシャツに白のジャンパー、青いジーンズを身に着けたリュウと同年位のその青年は“暁 哲也”。走行順位148位。

 

彼らはリュウと同じこのザ・ランの覇という1つの栄光を手にすべく走っているが、エクスプローラーのドライバー、哲也にはもう1つ別の目的がある、だがそれはまた別の機会に語るとしよう。

 

今の彼らは互いの行動に奮起しタツミからはそんな様子を伺えなくともヒートアップしている事だけは確か。

だからこそ2人はまだ気づいていない。・・・後方から追い上げるシルバーのR34GT-Rの存在を。




ED:Blast My Desire/m.o.v.e

今回は少しですが青龍騎士様とさすらいのエージェント様のキャラを出演させていただきました。
この場をお借りして青龍騎士様、さすらいのエージェント様、ありがとうございます!

まだ応募枠は空いてますので興味のある方はこちらへ→[https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233938&uid=79933]


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Section10 砂嵐

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,312km

 

リュウの現在の走行順位・・・172位

 

 

フォーチュンバレージャンクション。前方の集団を追いR34GT-Rを走らせるリュウだったが、ふと彼方の方の空を見ると茶色く曇り始めていた。

それが何を意味しているか、この地域の事情を考えれば推測は難しくなかった。

 

「こんな時に砂嵐か・・・!」

 

小さく悪態をつきながらも、リュウはエアコンをオフにし送風口も閉じる。

少し経つと、辺りに砂を孕んだ風が吹き荒れ、視界は赤茶けた砂埃で阻まれ砂の粒が車体を激しく叩き始める。

 

遮られた視界を前にリュウはハイビームライトを点灯させながらもギアを5速に入れGT-Rを加速させる。

この砂嵐の影響で前の集団のペースが少し落ちたようだ。

視界が効かないこの天候下では何時一般車が現れるか分からない。ましてや相手をパッシングすべく対向車線に出れば何も知らない一般車がいきなり飛び出してくる危険を孕んでいるのだ。

だが良い腕を持ちかつ鋭い勘を持ったドライバーであれば一瞬でも隙があれば追い抜きが出来るチャンスでもある。

 

そして、その隙というのは存外早くやって来た。

前の一般車と対向車線の一般車が途切れたのだ。この一瞬の好機を逃さずリュウはアクセルを踏み込み前を走る緑の2016年式フォード・F-150ラプターをパスし、勢いそのままに連なるように走っている黒と紫ツートンの1971年式ダッジ・チャレンジャーR/T、赤のポルシェ・930型911、白の日産・S13型180SXの改造モデルであるシルエイティ、黒のトヨタ・MR2 GT-S(SW20)の4台をごぼう抜きし168位までジャンプアップした。

 

リュウはその顔に笑みを浮かべるもそれはすぐ消える事となる。

路肩の廃屋の裏に隠れる形で潜んでいた2台のパトカーが見えたからだ。

それは現地管理局警邏隊所属の“フォード・トーラス・ポリスインターセプター”。

 

[10-81、コード3で追跡する!]

 

2台はリュウ達を見つけるや否やけたたましくサイレンを鳴らし砂嵐という悪天候の中急発進。追跡を始める。

 

[了解、目標車両を教えてくれ]

 

[目標は・・・あった、こいつに違いない!目標はシルバーのスカイラインGT-R!ただ何かあったんだろうか?目標車両にはかなりのダメージが見れる]

 

タブレットの隣に取り付けたクリスタル型デバイスが点滅しながら管理局の無線を傍受し始める。

リュウの背後では管理局の登場に浮足立ったレーサー達が何人か逮捕されている。そんな彼らを後目にリュウはペースを上げ管理局を引き離しつつ前の集団を追いかける。

 

[ズールー3-6、コード6の一団を発見。コード3に移行!]

 

だが前でもパトロールしていたらしいポリスインターセプターが前にいたレーサーの追跡を既に始めており、前の集団はパトカーに妨害されペースを落とさざるを得ない状況となっている。

そんな混戦である中でもリュウは加速を止めずペースを落としたレーサー車両4台を再びごぼう抜き。164位に上がる。

この調子でいけばシルバーロックまでの希望は見えてくる。

 

[デルタ4-5、バリケードの設置完了。目標を追い込んでください!]

 

ジャンプアップしたリュウの前方には10台ものレーサーの集団、これを追い抜けば第1関門突破に大きく近づく、だがそんな中でデバイスが傍受した管理局の無線。どうやらこの先の道、シルバーキャニオン・トレイル・ハイウェイは既に封鎖されているらしい。だが後ろには追ってきているパトカー、前進も後戻りもできないといった最悪の状況であろう。

 

やがて前方に管理局が構築したバリケードが見えてきたが、もっとタチの悪い事態が起きていた。

本来であれば後続のパトカーの為にある程度通れるスペースは開けておく物だが、無理に突破しようとしたレーサーの3代目ロータス・エキシージがバリケードを構築する車両と激突事故を起こしており、更にそれに巻き込まれたクラッシュしたレーサー車両4台によって道路は完全に通れない状態となっていた。

 

残された道は停車し投降するか、バリケードに突っ込んでクラッシュしかないという絶望的な状況だが、リュウは第3の選択肢という突破口を見つけた。

それはバリケード左側、岩の谷間に奔る砂利道だ。幅はかなり狭く車1台がギリギリ通れるかの幅しかないが、やるしかない。

 

「・・・!!」

 

覚悟を決めバリケードに突撃する直前にギアを5速から一気に3速に落とし目一杯サイドブレーキを引いてハンドルを左へ。GT-Rは左に急旋回しオフロードに入った。

 

[クソッ!目標が道路を逸れた!繰り返す、目標が道路を逸れた!!]

 

怒号と悲鳴が混じったような局員の無線を聞き、リュウはしてやったりといったような笑みを浮かべ岩の谷間に差し掛かる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

シルバーキャニオン・トレイル・・・

 

今尚車列先頭では、カストロール・トムス・スープラ擬きの青い80スープラとパトカー擬きのエクスプローラーとのバトルが続いていた。

変わらず的確なブロッキングでエクスプローラーの進路を塞ぐトムス・スープラ。

 

「チィッ!!」

 

その悪辣な手にエクスプローラーのドライバーの哲也はフラストレーションがマックスまで溜まりそうな程憤慨しており、その右手には力が込められている。

このままでは車窓越しでも車1台を吹き飛ばせる程の威力を持つパンチが炸裂してしまいそうだ。

 

しかし、その均衡は次の高速右コーナーで突然崩れる事となる。2台はコーナーに差し掛かる、その瞬間、

 

 

ブォォォォォンッ!!

 

「何っ!?」

 

「なぁっ!?」

 

トムス・スープラのドライバー、タツミと哲也が同時にその方を向き驚愕した。

向いた先には、左側の崖から飛び出してきたシルバーのR34GT-Rが盛大に着地し、バトル中の2台の前に出たのだ。

そのGT-Rとは、もちろんリュウの操るマシンだ。

 

《お見事ですマスター!先程のショートカットで150位以内に入りました!》

 

「そうか・・・!!」

 

ウルスからの報告にリュウは顔を綻ばせた。何しろ147位を走っていたタツミの前に出たという事は既に自分は第1関門のラインである150位以内に食い込んだという事なのだから。

 

「クソ、今度はワイスピモドキか!?誰だよあのムチャクチャな野郎は!?」

 

リュウのGT-Rが飛び入ってきた為に順位を1つ落とした哲也は飛び込んできたGT-Rのドライバーの情報をインパネに固定したタブレットで調べる。だがその後に言葉を失くす。

 

「・・・リュウ・・・?」

 

呟くように口を開き言葉を漏らす哲也。

飛び込んできた現147位のドライバー、リュウ・アステリオンはこのミッドチルダにおいて彼の親友とも言える人物であったからだ。

彼は独自で今回のリュウの指名手配の件を調べ、それらがカラハン家の陰謀である事を薄っすらではあるが突き止めていた。

 

「出過ぎた真似を・・・!!」

 

だが今の状況が一番気に食わないのはタツミである。今まで自分が集団の先頭だったのにそれに割り込み、尚且つ自分の前を走っているリュウに向け恨めし気に吐き捨てると、ギアを1段低い5速に入れスープラを加速。

前を走るリュウのGT-Rのリアに加速の勢いそのままにぶつけに行ったではないか。

 

「リュウ!」

 

その光景を見て哲也が声を荒げる。

GT-Rは僅かにバランスを崩し失速。その感にタツミのトムス・スープラがリュウのGT-Rの右隣に並び1度右にハンドルを切って距離を取った後に思い切り左に切ってGT-Rに迫りリュウを舗装路の外に突き飛ばそうとしたではないか。

 

このままリュウがスープラに押し出され道路外に弾き飛ばされるかと思われたが、リュウはギアを4速に落とし急ブレーキをかけて減速。タツミのスープラは攻撃を外しそのままGT-Rの前を左へと横切っていった。

 

「クソッ!」

 

タツミはすかさずハンドルを右に切り直しスープラを戻そうとするが勢いがついたスープラはそのまま外側に流れていき、リアが大きくスライドしてしまいその際に左の外側にあった岩の壁にリアウィングの左端を引っ掛けてしまいリアウィングを破損させてしまう。その上ウィングを引っ掛けたせいで失速しリュウに離されただけでなく先程まで後ろを走っていた哲也のエクスプローラーにも先行を許してしまった。

 

「ふざけるな下種共がっ!!」

 

怒りを隠す気も無くタツミは憎々し気に叫びクラクションに右拳を叩きつける。

 

「へっ、ざまあみろ!」

 

後ろでクラクションを鳴らすトムス・スープラを見て哲也が勝気な笑みを浮かべる。だがそんな哲也に悲劇が訪れるとは知る由もなかった。

 

[10-72、別のコード6が接近中!]

 

[了解、奴等を追い込め!]

 

と、ここでクリスタル型デバイスが再び管理局の無線を傍受。内容から推測するに次の緩い右コーナーの先に別のバリケードを設置したようだ。

リュウのGT-Rを筆頭に3台が間もなくバリケードに差し掛かる。

 

「行くぞ!」

 

GT-Rは更に加速しバリケードに接敵。

今度は道を塞ぐ邪魔なレーサー車両は無い。リュウは冷静に、そして的確に後続車用に開けられたスペースを突破。哲也のエクスプローラーとタツミのトムス・スープラもそれに続いた。

 

[奴等が通過!通過したぞ!!]

 

[目標は回避、奴等に逃げられた!!]

 

バリケードを突破した事による局員達の焦りの声がデバイス越しに聞こえてくる。

 

[俺たちはここまでだ・・・ネビュラ州のハイウェイパトロール隊に手配犯の情報を送る!]

 

どうやら警邏隊の管轄域から外れたようでこれ以上追ってはこなかった。

するとリュウのGT-Rが突然スローダウンし始め、エクスプローラーとトムス・スープラを先行させたではないか。

 

リュウの訳も分からない行為に哲也はおろかタツミも困惑するが理由は至極簡単だ。

 

「うぅ~・・・」

 

悔し気に唸るリュウの視線の先には、オレンジの燃料警告灯が点いた燃料系があった。

ここまで無補給で走ってきたGT-Rが、もう腹ペコだと訴えていたのだ。ここからは燃料を労るエコドライブで走らなければ燃料切れでリタイアという何とも恥ずかしい結果になってしまう故、やむを得ない選択だったのだ。

 

だがここに来て砂嵐が晴れ始めそのお陰で視界が戻っていく。

そして砂漠の右脇に立っている看板を見て胸を撫で下ろすと同時に、ここまで来たんだと更に気合が入る。

 

 

“シルバーロックまで、あと10km”

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

同時刻・・・

 

シルバーロック北の街外れにある廃棄された飛行場“エアフィールド73”。

そこに機動六課メンバー達の拠点である次元航行艦ヴォルフラムが腰を下ろしていた。

 

そして同内格納庫では、はやて、リインとN2Rメンバーを除いた六課メンバーとギルバートが各々の相棒であるマシンに乗り込みギルバートのチャージャーを先頭に2列4台に並び静かに時を待っていた。

そして、格納庫内のスピーカーからはやての声が聞こえ出す。

 

《艦内各員、たった今現地のスピードカメラがリュウを捉えたのを確認しました!目標はこのままインターステイト20を西進。シルバーロックに向かってるのは間違いあらへん。何としてもシルバーロックから逃げ出す前に確保する事!各員、作戦開始!!》

 

『了解!!』

 

アナウンスが終わりメンバー達は威勢よく返事すると格納庫内にブザーが鳴り響き、目の前のハッチが重い駆動音を上げながら開放されていく。

それを見てなのは達は鋼の獣達を目覚めさせる。

爆音を上げながらエンジンがスタートし、目の前のハッチが完全に開放された。

するとなのは達の前に3カウント式のレーシングシグナルを模したホログラムが現れ、3つのシグナルが左から順に赤く点灯していき、

 

「・・・GO!!」

 

シグナルのブラックアウトと同時にギルバートのチャージャーが強いトルク故のウィリーを決めながら発進。それを見てなのはのGT-Rとフェイトのエンツォフェラーリを始めとした六課メンバーのマシンも盛大にホイルスピンをかましながら急発進していく。

チャージャー、GT-R、エンツォを先頭にして9台のマシンはエアフィールドを出て073号フリーウェイをけたたましいサイレンを鳴らしながら南へ高速で疾走していく。




劇中曲:EXPLESS LOVE/MEGA NRG MAN

ED:Blast My Desire/m.o.v.e


今回は哲也とタツミとのバトルはともかく、端折りすぎたかな・・・?
読者方がついてこれているが不安です・・・


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Section11 関門

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


「あっつ・・・」

 

インターステイト20、シルバーロックの丁度すぐ手前にあるチャージスタンドでリュウはGT-Rの燃料補給を行っていた。

次元世界において自動車の燃料は特殊な加工を施し流体化した魔力か、合成品とは言えど我々が住む地球と同じような燃料(ガソリン)を使うかの2通り。リュウのGT-Rは後者で今停車しているスタンドもそういった燃料を取り扱っている店であったのは幸い・・・とはリュウには言えなかった。

 

確かに順位を149位まで上げ、もう間もなく第1関門であるシルバーロックに突入するが、太陽が沈み始めている事もあり強くなった日差しとフォーチュンバレーの気候により今まで体感した事のない程の酷暑を経験していた。

 

そこにふと聞こえてきたエンジン音、リュウはその方に顔を向ける。

リュウのすぐ右隣の精算機付き補給機、そこに停車したのは2台の車。どの車も今の地球では滅多にお目にかかれないレア物だ。

 

1台目はBORDER Racing(ボーダーレーシング)製フロントバンパースポイラーTypeⅡ、サイドステップ、リアサイドディフューザー、D-MAX製フロント・リアオーバーフェンダー、RE雨宮製リアスポイラーTypeⅣ、BEHRMAN(ベールマン)製純正形状カーボンボンネットを装備し、赤と白のラインチェッカーにルーフはペールブルーにペイントされたメタリックブルーの“マツダ・サバンナRX-7 (アンフィニ)Ⅲ(FC3S)”。

 

2台目はBORDER Racing製、ボディと同色のカーボン製エアースクープボンネット、フロントエアロフェンダー、フロントバンパーT-1、サイドステップType1、リアサイドディフューザー、GT WING Ⅲ LOWタイプとBORDER Racing製のボディパーツで統一され、車体両サイドに黒のピンストライプと青い翼、フロントバンパーとボンネットに両脇にペールブルーの細ラインを入れた赤のストライプバイナルをあしらったホワイトパールの1988年式“日産・フェアレディZ 300ZX ツインターボ(Z32)”だ。

 

そしてZ32からドライバーらしき人影が降りる。黒いインナーとタイツの上からへそ上まで短くした青いライダージャケットと白いショートパンツ、青いスニーカーに左耳には羽根のようなアンテナが立った耳覆い型の通信デバイスを装着している、栗色の髪を首の後ろで一本の尻尾のように一纏めにした太もも裏までありそうな程の長さのダウンテールをした、リュウよりも年若そうな女性が降りてきた。

 

Z32の前に停車したFCからも1人のドライバーらしき男性が降りる。

こちらも黒インナーに青いライダージャケットまでは同じだがジャケットは通常の丈であり、下は白いカーゴパンツ、腰裏まで綺麗に伸ばした茶髪、右耳にアンテナを立てた耳覆い型通信デバイスと、まるで女性をある程度まで男にしたような程似ている。

 

リュウはその2人に僅かだが見覚えがあった。

あの2人は確か深夜のストリートレースで時折顔を出す2人。だが見かける事はあっても話しかけた事はなかったのだ。

 

その男女も燃料補給を始める中、女性の方はZ32のボンネットを開け状態チェックを始める。

すると女性が気付いたのか、リュウの方を向くと右目を閉じてウィンクしてきた。

 

「っ・・・!」

 

決して女性に免疫がない訳ではないが、恐らく美女の類に入るであろう彼女からのウィンクを受けリュウは思わず顔を赤らめた。

 

「・・・ウ・・・」

 

リュウは何とかそれをごまかしたくなり、着ているパーカーの襟を左手で引っ張って右手で扇ぐ。

 

「・・・ュウ・・・!」

 

今のリュウは凄まじい暑さを感じている。それが女性によるものなのか、それともこの気候のせいか。

 

「リュウ・・・!!」

 

駄目だ、リュウの意識はゆっくりと遠のいていく・・・

 

〈リュウッ!!レースに戻れ!!〉

 

「っ!!」

 

ガチャリ、と補給機のトリガーノズルが勝手に上がった音とタブレットからのユーノの怒号でリュウは現実に引き戻された。

 

「ったくエール、また他人をからかって・・・ほらさっさと行くぞ?」

 

「もうヴァンってば、相変わらずせっかちね」

 

どうやら向こうの2人も同じタイミングで補給が終わったらしい。

ヴァンと呼ばれた長髪の男がエールと呼んだ女性を軽く叱り、エールは肩をすくめながらもZ32に乗車。ヴァンが乗り込んだメタリックブルーのFC3Sに続くように発車した。

 

「マズい・・・!!」

 

リュウは慌ててトリガーノズルを戻し、R34GT-RのエンジンをスタートさせヴァンのFCとエールのZ32を追う。

今のロスで順位は151位にまで後退してしまった。もしあの2人がリュウより先にシルバーロックのチェックポイントを通過してしまえばそこで敗退(エリミネート)となってしまう。だがそれはFCかZ32のどちらかを抜けば第1関門通過という事だ。

 

だが先程からリュウは妙な悪寒を感じていた。

 

(・・・イヤな予感がする・・・)

 

ヴァンのFCとエールのZ32を追いながらもリュウは内心不安で仕方なかった。

 

そしてそれは遂に現実の物となる。

3台が誇座式モノレールのレールの真下を走っている時、1台の車、ブリリアントホワイトパールのボディに桜色の羽根のバイナルを施した日産・GT-R。NISMOのロゴが見えた為GT-R NISMOだという事はすぐ分かったがそれが一般車に紛れ走行している。

それが普通の一般車ならどれだけ楽だったろうか。

 

[見つけた!スターズ1より各員へ、目標を発見!追跡を始めてください!]

 

突然通信傍受デバイスから聞こえたその声に、リュウは驚きと戸惑いを隠せなかった。そしてその声が響いた瞬間、追い越したGT-R NISMOがサイレンを鳴らしながら加速。リュウ達を追い始めた。

 

「今の声って、なのは一尉!?」

 

《声紋一致率96.5%、間違いありません!》

 

相棒のウルスの聞きたくなかった答えを聞いてしまい、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも後ろから迫るなのはのGT-Rから逃げかつ、前のFCとZ32を追いかけるべく更にアクセルを踏み込んでR34を加速させる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

なのはがリュウの一団を発見する少し前・・・

 

なのはが巡回している地点から2.5km離れた場所の区画にギルバートのチャージャーとスバルのエスコートRSコスワース、そして現地管理局警邏隊の2001年式ホンダ・EM2型シビッククーペが3台展開していた。

 

「・・・」

 

愛車のダッジ・チャージャーの中で、ギルバートは神妙な面持ちのままセンターコンソール上に取り付けられた端末とスキャナーを見ながらハンドルを握っていた。

 

[見つけた!スターズ1より各員へ、目標を発見!追跡を始めてください!]

 

その時、コンソール上に設置された端末からなのはからの通信が響き、ギルバートはサイレンを鳴らしチャージャーを加速。それに少し遅れてスバルのエスコートと警邏隊のシビック3台もサイレンを鳴らしながら発進する。

 

ギルバート達の後方にはヴァンのFC3S、エールのZ32、そしてリュウのR34GT-RがなのはのR35GT-R NISMOに追われる形で走行している。

 

[スターズ1より各員、蛇行作戦の準備を!]

 

「スターズ5、コピー!」

 

[スターズ3了解!]

 

[エコー3-4から3-6、蛇行作戦了解です!]

 

なのはからの指示を合図に、ギルバートのチャージャーとスバルのエスコート、そして警邏隊のシビック3台が速度と車間を一定に保ちつつ両車線をブロック、リュウの妨害を目論む。

 

前を走るFCとZ32は進路妨害をする管理局の一団に閊えスローダウンを余儀なくされるが、リュウのR34GT-Rは道を左に外れ住宅地の路地裏に入っていった。

 

[目標が路地裏に入っていったぞ!]

 

次に路地裏からR34が飛び出してきた時にはFCとZ32はおろか、管理局の一団をも抜き去っていた。

 

[こちらスターズ3、リュウは停止勧告を無視し現在も逃走中!あたしが行きます!]

 

[気を付けてねスバル!]

 

スバルが管理局全ユニットに向けた通信を放ち、同時にスバルのエスコートが急加速。リュウのR34の左後方につける。

 

[止まれぇ!]

 

スバルのエスコートが一瞬左にずれ、すぐに右にハンドルを切って車体を右へ。リュウをスピンさせようとするが、ここでリュウがR34のギアを1段上の5速に入れ更に加速。エスコートを置き去りにした。

 

[や、ヤバッ!?]

 

スバルは慌ててハンドルを左に戻すが、完全にバランスを失ったエスコートはそのままスピン。そして後続のシビックの1台がそれを回避しようとハンドルを大きく切り住宅一棟に突っ込んでしまう。

 

[クソ、1台やられた!司令部、至急レッカーと救護隊を頼む!]

 

[こちら司令部、レッカー車と救護隊到着まで約15分かかります]

 

スピンアウトしたスバルのエスコートと住宅に突っ込んで大破したパトカーを見てギルバートが叫ぶ。

 

「ナカジマ、大丈夫か!?」

 

[大丈夫、すぐに追いかけます!]

 

だが端末からはスバルの元気な声が聞こえ、無事だという事を教えてくれた。

前方では完全にフォーメーションが崩れた管理局一団を後続のヴァンのFCとエールのZ32までもが追い抜き3台はほぼ連なった状態で逃走を続けている。

 

「こんな事を今言うのは不謹慎かもしれないが・・・」

 

[???]

 

「普段俺たちを追いかける管理局(あんたら)の苦労がよく分かったよ」

 

通信機越しにぼやいたギルバート・・・確かにその発言は、今の状況では不謹慎である。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「く・・・!!」

 

未だに背後霊のように追ってくるなのは達をバックミラー越しに見ながらもR34を走らせ続けるリュウ。

第1関門まではもうすぐ。その時再び通信傍受デバイスが点滅した。

 

[スターズ4、ティアナです!ライノ隊と共同でバリケードを構築、スパイクベルトも設置しました!座標はマイル標識27!ここで絶対にリュウを止めます!]

 

[ライノ隊より各員へ、道路中央に10-67(スパイク)を設置!そこにコード6を追い込め!]

 

それはティアナと、それに随伴するバリケード部隊の通信。しかも内容が正しければもうすぐ目の前にご丁寧にスパイクまで用意されているらしい。

だがリュウは全く減速せずバリケードに真っ向勝負を仕掛けようとしている。

 

《マスター無茶です!装甲車(ライノ)の強度は貴方も知っているはず、今度こそ無事では済みません!》

 

「大丈夫だウルス、俺を信じてくれ!」

 

心配する相棒を他所にリュウはギアを6速へ入れアクセルを更に強く踏み込み、それに応えるかのようにR34も更に加速していく。

そして遂に目の前に管理局のバリケード部隊が見えた。

 

前列には道路中央に設置されたスパイクベルトと、その両脇と後方を塞ぐようにハイウェイパトロール隊の装甲車が6台展開。その更に後方にはオレンジの80スープラ6台が道路を挟んで路肩を塞ぎ、唯一空いている道路中央にはまたしてもスパイクが設置されている。

 

だがリュウのR34、ヴァンのFC3S、エールのZ32は減速する事なく突っ込んでいく。

 

「くぅぅぅぅぅッ!!」

 

後続のなのは達がスローダウンしていく中、R34、FC3Sは前列を大きく左に、Z32は右に回避するがその先はスープラで構成され、中央にスパイクが待ち構えるバリケードが待っていた

 

「勝負だティアナァァァァァァッ!!!」

 

叫びながらスープラと真っ向勝負を挑む。

 

 

するとどうだろうか、R34はスープラに激突するどころか、スープラが煙のように消えていった。

 

《ランスター執務官の幻術魔法(フェイク・シルエット)ですか》

 

「あぁ、俺たちこう見えても後方要員だったとは言え機動六課フォワード隊のメンバーだったろ?」

 

ウルスからの言葉にリュウはニッと笑みを浮かべる。

後方ではヴァンのFCは突破に成功したようだがエールのZ32は幻術のスープラを本物だと思いハンドルを大きく左に切って道路中央を通ってしまい、設置されていたスパイクの餌食となりそのままスピンアウトした。

他の管理局ユニットもバリケード手前でなのは達が停車した為に、追い上げてきた後続のレーサー達も足止めを余儀なくされ、また管理局も彼らへの対応でしばらく身動きが取れなくなった。

 

今や障害は無し。そのままR34は恐らくZ32のドライバーであるエールの救出に引き返して行ったであろうヴァンのFCを後目に走り抜け、遂に見えてきた。

ネオンが煌めく一流ホテルや大型カジノを始めとした高層建築物。そして目の前には右手にトランプカード、左手にチップを持って笑みを浮かべたディーラーの看板が見えた。

 

 

 

―――――|Welcome to Ganbler's Paradise Silver Rock.《ようこそ。ギャンブラーの楽園、シルバーロックへ》―――――

 

 

 

その看板の横を通り抜けた瞬間、タブレットから観客の歓声じみた音が流れると同時に画面に「Congratulation!!」の文字が表示された。

 

「よぉーっしッ!!」

 

《やりましたね!》

 

リュウが歓喜の声を上げながらハンドルに手を叩きつけ、ウルスからも称賛の声がかかるが気のせいか少し興奮気味に感じられる。

まだ管理局パトカーのサイレンが背後から聞こえる状況ではあるが、一先ずリュウは149位という順位で第1関門を突破できたのだ。

その時、タブレット画面に再びユーノからのテレビ電話が映し出される。

 

〈まだだよリュウ、気を抜かないで。今度は50位以内でロックポートに入るんだ。相手がなのは達とはいえ捕まっちゃダメだからね?〉

 

「分かってるさユーノ。もう切るよ?また追っかけてきたみたいだから」

 

リュウはユーノにそれだけ言うと通話を切り、バックミラー越しにサイレンを鳴らしながら再び追ってきたなのは達のマシンを見ながらもシルバーロック市内に突入する。

そう、ここまではまだ序の口。本当のスタートはここからである。




劇中曲:Determined Eyes/ロックマンゼクス アドベント

ED:Blast My Desire/m.o.v.e


今回は自分の方でオリキャラを出してみました。名前からして誰を参考にしたのかはお分かりですよね?


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Section12 包囲

OP:THE MEANING OF TRUTH/HIRO-X


クラナガンまでの距離・・・4,053km

 

リュウの現在の走行順位・・・149位

 

 

太陽が沈み空に少し朱みが残る中、シルバーロック市内のバリオと呼ばれる低所得者街にてレーサーと管理局との大規模なカーチェイスが繰り広げられていた。

 

[現在ストリートレースが進行中、詳細を送る!]

 

リュウを始めとする第1関門を突破したレーサー達は管理局を逃れながらもレースを継続。現在リュウは148位の黒のランボルギーニ・ミウラSVをロックオンしていた。

 

[もっと応援を。大至急!]

 

[了解。そこから北へ2ブロック先にいる!]

 

未だに激しく点滅し管理局の無線を傍受し続けるクリスタル型デバイスから聞こえる管理局無線を後目にリュウ達はバリオの町を駆け抜ける。

だが、ここでリュウにとってまたしても聞きたくなかった声が聞こえだす。

 

[こちらライトニング1、現在ライトニング2、3、4、5と共にそちらへ向かってます!]

 

傍受デバイスから聞こえてきた女性の声、これもリュウにとっては聞き覚えのあり、今この状況では聞きたくない声に分類される物であった。

 

「今度はフェイト執務官か、クソッ・・・!!」

 

R34の車内でハンドルを握るリュウは小さく悪態をつく。

背後からはなのは達スターズ分隊が、この先にはフェイト率いるライトニング分隊が待ち構えている。

まさか一昔前に同じ部隊で過ごしてきた仲間が、管理局を抜けた自分を捕まえようとしてくるとは何という皮肉だろうか。

 

リュウを含めたレーサー達はバリオを出てレイクサイド・ドライブという幹線道路に出る。が・・・遂にそこで姿を見せた。

 

[見つけた!こちらライトニング1、目標を確認!ライトニング2から5へ。ここで絶対にリュウを止めるよ!]

 

[ライトニング2、了解した!]

 

[ライトニング3了解!行くぞストラーダ!]

 

[ライトニング4、了解です!]

 

[ライトニング5了解!絶対止めるわ!]

 

傍受デバイスから聞こえたのはライトニング分隊の面々ともう1人。隊長であるフェイトと副隊長のシグナム、そしてフォワードのエリオとキャロ、もう1人は後方で医療に就いていたシャマルだ。

 

リュウのR34が道路に合流したのを確認すると、フェイトが操る黒いエンツォフェラーリとシグナムとヴィータが乗るジャガー・XJ220、エリオの赤いRX-7(FD3S)、キャロのピンクの3代目ジェッタ、シャマルのライムグリーンのポルシェ・959が一斉にサイレンを鳴らし追跡に参加する。

 

「リュウお願い、今すぐ止まって!私たちが絶対に助けるから!」

 

背後から迫る黒いエンツォからスピーカー越しにフェイトの悲痛そうな声が聞こえ、それにリュウは心を痛めるもここで止まる訳には行かず、停止勧告を無視し逃走を続ける。

 

[10-73を要請します!]

 

[了解、10-73準備!モニターで確認を!]

 

レーサー達は再びバリオに戻り管理局の追跡を撒こうとするも既に目の前には構築済みのバリケードが存在しそれに驚いたレーサーの何台かは停車し逮捕、リタイアとなった。

その中でありながらも、リュウは冷静さを失わず的確にバリケードに開けられている突破口を突いて突破していき再度レイクサイド・ドライブへ。今度は来た道を戻っていくようなコースを走っていく。

 

[仕方ねぇ!なのは、はやて!アタシとザフィーラで直接リュウを止める!]

 

[なっ、無茶だヴィータ!危険すぎる!]

 

[もうこれしかねぇ!何とか止めてやるから!]

 

痺れを切らしたヴィータが無謀とも言える提案をし、それを危険だとシグナムは止めようとするがヴィータは止まろうとはしない。

なのはとヴォルフラムで指揮を執るはやても決断には少し時間を要したがこういう時のヴィータは言い出したら止まらない事は知っているためにやむなく決断する。

 

[了解、許可します!せやけどリュウに怪我させたらあかんよ!]

 

[ヴィータちゃん、ザフィーラさん、気を付けて!]

 

[おう!絶対止めてやる!]

 

[心得た!]

 

通信が終わるとXJ220と959の窓が開き、身軽な動きで紅のゴスロリドレス風のバリアジャケットを纏ったヴィータと紺の戦闘装束を纏い、筋骨隆々の青年の姿に変身したザフィーラがルーフ上に登り身を屈め姿勢を安定させる。

そしてXJ220と959が同時に加速しリュウのR34に迫る。

 

「く・・・!!」

 

傍受した無線を聞いたリュウは表情を歪めながらも何かこの状況を打開できる手は無いものかと周囲を見渡す。

その時丁度リュウの右前方を走行する故障車満載のセミトレーラー型キャリアカーを見つけた。もうこれしかない。

 

⦅先に謝っておきますヴィータ二尉、ザフィーラさん・・・ごめんなさい!⦆

 

「!?こいつは・・・」

 

「リュウの念話か!?」

 

リュウのR34から頭に直接響くようなリュウの声に2人は反応した。

これはリュウに限らず魔法に関する素質があれば誰でも使える“念話”という伝達魔法であり、我々の世界で俗に言う“テレパシー”のような物である。

 

リュウの念話が何に対しての謝罪か2人は分かりかねたが、次にリュウの起こしたアクションでそれを理解する。

リュウのR34がいきなり右に曲がったかと思えば、そのすぐ隣にいたキャリアカーに車体をぶつける。すると衝撃で荷台のロックが外れ積載されていた故障車が落下してくる。

 

「なっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

丁度リュウに追いつくといった所で故障車の雪崩にシグナムとシャマルは驚き急ブレーキ、だが間に合わず落下した故障車と激突する。

 

「うおぉっ!!?」

 

「ぐおぉっ!!」

 

急ブレーキの衝撃を何とか堪えていたルーフ上の2人も事故の衝撃には耐えきれず振り落とされてしまった。それだけでなく後続の管理局パトカー達も落下した故障車やバランスを崩し横転したキャリアカー等で進路を塞がれた為に停車か迂回を余儀なくされる事になる。

 

その状況で故障車群をかわしたのはギルバートのチャージャーとフェイトのエンツォフェラーリ、この2人は持ち前のドライビングスキルが功を奏したという物だろう。他に突破できたのはエリオのFDとキャロのジェッタといった比較的小型な部類に入る車で大柄なGT-Rやスープラでは通り抜けできない。

 

[なのは大丈夫!?]

 

[うん、大丈夫!フェイトちゃん達は先に行って、後で追いつくから!]

 

足止めを食らったなのはを心配するフェイトとそれに問題無い事を伝えるなのはの声をデバイスが傍受。それを聞いたリュウはやむを得なかったとはいえなのは達への申し訳なさで悲痛な表情を浮かべるが止まってはいられない。

 

リュウはレイクサイド・ドライブを疾走し何ヶ所か構築されたバリケードも突破していく中で次々と他のレーサー達は管理局の強固な包囲網によりリタイアを余儀なくされている。リュウが確認できただけでももう10人以上は捕まっているだろう。

そんな中でリュウの前方に見覚えのあるマシンの背が見えてきた。

 

GTレースを彷彿させるボディキットに車体両サイドにギリシャ神話の巨鯨ケートス、ルーフに鯨の尾鰭のバイナルをあしらったメタリックブルーのトヨタ・80スープラ。

それはシルバーキャニオン・トレイルでリュウを潰そうと攻撃してきたタツミ・ウェイブのカストロール・トムス擬きの80スープラである。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・あの下民か、まだ残ってたか」

 

トムス・スープラのハンドルを握り、バックミラーに移ったシルバーのR34GT-Rを見てドライバーの青年、タツミ・ウェイブが呟いた。

その更に後方からは管理局のEM2型シビッククーペに紛れ覆面仕様の黒いエンツォフェラーリ、カーボンボンネットを装着した赤いFD3S、ピンクの3代目ジェッタ、そしてボンネットから突き出たスーパーチャージャーを装備した黒い69年式ダッジ・チャージャーが追ってきている。

 

「あの伝説の部隊を相手に・・・、下民にしてはよくやる・・・」

 

タツミはしつこく迫りくる機動六課の面々から逃げ続けているリュウに素直に少し関心していた。

だがすぐに運転に集中し、シフトレバーを5速から6速に入れスープラを加速。一般車を交わしつつシルバーロックを出る高速“ザ・ラストウェイ”にアクセスできる“ビリオネア通り”に繋がる道を直進していく。

 

[こちらライトニング1!バリケード設置はまだですか!?]

 

[こちらチャーリー4-6、ハイウェイ行の道路を封鎖しました!目標を追い込んでください!]

 

インパネに取り付けられたクリスタル型傍受デバイスが点滅しながら管理局の無線を傍受。だがタツミは冷静に、そして的確にハンドルを左に切り路地裏へと車体を滑り込ませる。そしてそのタツミの背後を走るリュウのR34GT-Rとそれを追うエンツォフェラーリとチャージャーも少し遅れて滑り込ませる形で路地裏へ。残りのシビッククーペは急ブレーキをかけ停車、FDとジェッタはオーバースピードによってスピンしオーバーランしたようだ。

 

[奴らは東に逃走し路地へ入った!]

 

[うわぁ!リュウさん凄すぎるよぉ~!?]

 

[うわわっ!?クソッ!ごめんなさいフェイトさん、ギルバートさん、後から追っかけます!それまでどうか!]

 

[OK、任せろ!]

 

[分かった、絶対ここで止める!]

 

デバイスが傍受し続ける無線を後目にタツミとリュウはほぼ同時にシフトを3速へ落とし交差点をドリフトしながら左折。

 

「・・・あのチャージャーは見たことはある、さしずめ管理局側の助っ人か、それにあのエンツォも下民にしては悪くない腕だ」

 

バックミラー越しに見えるチャージャーとエンツォを見て相変わらず落ち着いていながらも棘のある言葉を呟く。

 

そして次の丁字路を2台そろってドリフトしながら右折、ホテルやカジノ、飲食チェーン等がひしめく大通り“ビリオネア通り”に出た。

だがその2km前方には管理局のバリケードが。

 

しかしそれは果たしてバリケードと言えるのか、ただ単に余り物のフォード・トーラスポリスインターセプターを乱雑に並べただけだ。

 

「あれでバリケードだと?ふざけた真似を・・・!?」

 

あまりにも杜撰な管理局の動きにタツミは思わず少し憤った瞬間、そのバリケードの後方にライムグリーンの古代ベルカ式の魔法陣が出現し、そこからライムグリーンのポルシェ・959、白の日産・GT-R NISMO、紫とツートンのジャガー・XJ220、ラピスラズリブルーのフォード・エスコートRSコスワース、オレンジメタリックの80スープラが飛び出しバリケードをより強固な物にした。

 

「転移魔法か・・・!!」

 

タツミは一瞬動揺するがすぐに冷静さを取り戻し、バリケードの脆い箇所を探す。

そして見つけた、それは右側のモノレール駅とパトカーとの間に空いた箇所、もう1つは左側のパトカーと

カジノ店との間のスペース。

リュウとタツミで左右に分かれればお互いに突破はできるがそれではバリケードを解いた管理局がタツミをも捕えようと動く。ではどうすべきか。

 

・・・決まっている、()()()()()()()()()()()。そしてその恰好の餌はすぐ左にいるではないか。

 

そう考えたタツミはスープラの車体を少し右へずらすと・・・

 

 

 

あろう事かすぐ左を走るリュウのR34の後部に思い切りぶつけに行ったではないか。

 

高速でぶつけられたR34は4駆であろうと立て直す事はできずバランスを崩しスピン。そのままバリケードに車体左側から突っ込んだ。

そしてタツミはそのすぐ右脇に空いたスペースを突破し、バリケードに突っ込んだR34を後目にスープラを悠然と走らせていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「クソッ!!あいつ!!!」

 

バリケード突破を画策していたリュウは隠す様子もなく憎々し気に吐き捨てる。相手は言わずもがな、バリケードに差し掛かる直前でぶつかりに来たタツミである。

 

とにかく逃げなくては。すぐにぶつかった衝撃で止まったエンジンをかけようとリュウはセルを回すが、キュルキュルと鳴るだけでかかる様子が無い。

 

「おいまさか、ウソだろ・・・!?」

 

最悪の予感にリュウは思わずそう呟きもう1度セルを回すが、それでもキュルキュルと鳴るだけ。

 

それ即ち・・・エンジンのご臨終である。ただでさえここまで飛ばして走ってきて少なからずガタが来ていてもおかしくなかったが、激突した衝撃で完全に終わってしまったようだ。

 

エンジンが動かなければどんなスポーツカーでもガラクタと同じだ。つまり・・・リュウはもう逃げる事はできない。

 

そして、それを更に突きつけるかのようにスープラとGT-Rのスピーカーから声が響く。

 

「もう逃げられないわよリュウ!観念しなさい!」

 

「大人しく投降して!身の安全は私たちが保障します!」

 

そんなティアナとなのはからの声に、リュウは遂に諦めたかのようにシートにもたれかかる。

そして―――――現実に打ちひしがれたリュウは・・・諦観と絶望に染まりつつも決断した。

 

「・・・ウルス、俺はここで終わりみたいだ」

 

《私もご一緒しますマスター。私は貴方のデバイスですから》

 

「・・・ありがとう」

 

たとえそれがただのAIだったとしても、ウルスの言葉にリュウは少し救われたように感じた。

 

そしてリュウはゆっくりとドアを開けそこから両手を出し抵抗の意思は無い事を示し、そのままGT-Rから降りていく。

 

「車から降りた、奴が降りた!」

 

「動くな!時空管理局だ!」

 

「貴様ぁ!跪けッ!」

 

「両手を頭の上に乗せるんだ、さぁ今すぐだッ!!」

 

武装局員達にデバイスを向けられ叫ばれながらも、リュウは静かに膝を折って跪き、言われるがまま両手を頭の後ろに回す。

 

目の前で光る多数のパトランプの光景を見て、リュウは1人静かに涙を流した。

 

 

 

 

 

10/22 07:00 PM

 

リュウ・アステリオン、シルバーロック市内・ビリオネア通りにおいて身柄確保。




ED:無し


やっぱり端折りすぎ感がまだあるかなぁ・・・

参加枠は残り2枠。興味のある方はお早めに![https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233938&uid=79933]


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Section13 突破

OP:無し


「車から降りた、奴が降りた!」

 

「動くな!時空管理局だ!」

 

「貴様ぁ!跪けッ!」

 

「両手を頭の上に乗せるんだ、さぁ今すぐだッ!!」

 

武装局員達がデバイスを向けながら叫び、リュウは言われるがままに静かに膝を折って跪き両手を頭の後ろへ回す。

 

149位とギリギリでありながらザ・ラン第1関門突破を果たしたが、シルバーロック脱出を目前にしてタツミの卑劣な攻撃により逃走する事は叶わなくなってしまった。

 

これで全てお終いなのか、アダムの嘲笑を聞きながら破滅を待つしかないのか。

 

リュウがどんなに願おうとも決して現状が変わる事はない。愛車のGT-Rは既にご臨終、周囲には武装局員だけでなくなのはを始めとした元機動六課メンバー達、逃げ切れる可能性は、限りなくゼロに近い。

その光景を前に、悔しさか己の懺悔か、リュウは静かに涙を流した。

 

「リュウ、思いとどまってくれて嬉しいよ」

 

「泣かないでくださいリュウさん。もう大丈夫、僕たちが助けますから・・・」

 

程なくしてフェイトが子供をあやすような優しい声をかけ、エリオによってバインドという拘束魔法をかけられ縛り上げられると、リュウは大人しく身を預け近くに停車しているパトカーに乗せられようとする・・・

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

場面は変わり、既にシルバーロック脱出を果たしハイウェイを疾走していくレーサー集団。

その最後尾に“彼”と彼の車の姿はあった。

 

白いボディにルーフにパトランプを取り付けパトカー然とした2014年式フォード・エクスプローラーとそのドライバーの青年、暁 哲也である。

そして哲也の傍受デバイスが点滅し管理局の無線を傍受する。

 

[各員へ、被疑者を確保しました]

 

被疑者というのは恐らくリュウの事だろう。哲也は独自で管理局との繋がりを持っており任せておけばまず問題はないだろう。そしてこのレースが終わった後で彼の無実の証拠を集めても十分に公判までには間に合う。

 

そう思っていた哲也だったが、そこで彼の傍受デバイスがノイズを拾ってしまった。

 

「あれ?何だこれ、故障か?」

 

インパネから傍受デバイスを取り外しデバイスを振って確かめる。

すると少ししてノイズは確かに消えたが、今度は別の無線が聞こえてきた。

 

[少将の思惑通り、機動六課の連中がリュウ・アステリオンを捕まえたとよ。あとは手筈通り俺達が身柄を引き取って少将んとこに連れてきゃ万事OKだな]

 

[あぁ、一瞬あのテツヤってガキがちょっかい出してくんじゃねぇかって思ったが意外とマヌケで助かったぜ。ちょっと良い奴ぶって頭下げりゃあっという間に信用したからな]

 

デバイスが傍受したからには管理局側の無線で間違いは無いだろうが、下衆いた口調の言葉に哲也は思わず耳を疑った。何より自分に手を貸すと言ってきた管理局がまさか自分をただ出し抜く為だけに善良人ぶっていたという事に腹を立てていた。しかし哲也の予想を大きく裏切る事態はそれだけではなかった。

 

[けどあのテツヤってガキ、本気で無実の証拠を揃えるかもしれねぇぞ?そん時は流石にマズいだろ?]

 

[何、もし証拠が本物だとしてもシドウ少将の十八番、握り潰しや捏造があるさ。少将は裁判員も抱き込んでるし一度身柄を抑えちまえばもうどう転ぼうg]

 

ガシャンッ!!

 

途中まで聞いた所で哲也は何とデバイスを握り潰そうとし、デバイスのコアに亀裂が入ってしまった。幸い傍受デバイスにはコアの破損でもある程度であれば自己修復する機能が備えられているため問題は無いだろう。

 

それよりも一番重要な問題は、哲也の希望が潰えてしまったという事だ。

たとえ哲也がリュウの無実の証拠を揃えたとしても、管理局少将で現六課メンバー達の司令官マサノリ・シドウの圧力により全て捻じ曲げられてしまう。そして先ほどの局員はそれを承知の上でリュウを拘束しようとしているのだ。

 

哲也は喜んで悪党の肩を持たんとする腐りきった管理局に、そしてそんな人でなし共を信用してしまった自分に対しどす黒い感情が蠢き、

 

「があぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

獣のような雄叫びと共に右手拳をクラクションに叩きつけた。

 

このままでは遅かれ早かれリュウは殺される。もう残された道は1つしかない。

決断にそう時間はかからなかった哲也は、中央分離帯が途切れた箇所でフルブレーキをかけ反転。来た道を戻っていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

リュウは全てに絶望したかのようにその瞳に光は宿っておらず、局員達に猛獣のような目で睨まれながらただ黙ってパトカーに乗せられようとしていた。

 

「頭に気を付けてね」

 

フェイトにそう促され、遂にリュウがパトカーの後部座席に乗り込もうとした、その時だ。

 

「注意しろ!別のコード6が向かってくるぞ!!」

 

誰か別の局員が叫んだ。

その車が徐々に鮮明に見えてくる。白い車体にパトランプと、パトカー然としたそれはフォード・エクスプローラー。だがリュウからは一瞬だがそのドライバー、暁 哲也の姿が見えた。

 

「・・・テツヤ・・・?」

 

静かに呟くが、今の彼は何かの構えを取っているように見えた。

そして哲也のエクスプローラーはサイドブレーキをかけ90度回ったしたところで姿勢をキープしながら迫ってくる。そしてそれ故にリュウからは哲也が何の構えを取っているのか理解し、それ故に戦慄したリュウが叫ぶ。

 

「全員、伏せろおぉぉぉぉッ!!」

 

リュウが叫ぶのとほぼ同タイミングで、なのは達の目前まで迫ったエクスプローラーの運転席で、遂に哲也がその右手拳を全力で振り抜いた・・・。

 

 

 

すると凄まじい衝撃波が発生しバリアジャケットを纏っていた武装局員等はおろかなのは達やバリケードを構築するパトカーまでをも吹っ飛ばした。

ギリギリで伏せていたリュウとそれを抑えるエリオは何とか起き上がると周囲の惨状を見て唖然とした。

横転した車両や吹き飛んだダメージでジャケットが解除された局員がいる。

 

(テツヤのパンチが凄かったのは知ってたけど、本気だとここまで・・・!?)

 

自分の友人でありながら何て奴だと心の中では思ったが、周囲のパトカーやなのは達が吹っ飛んだおかげで守りがかなり薄くなった。そしてそれはリュウに再び希望の灯を灯したのである。それと同じようにリュウの瞳に光が戻った。

 

(・・・ありがとうテツヤ、大きな借りを作っちゃったな)

 

心の中で親友に呆れつつも、同時に感謝した。

今の状況であればまだ手元にある相棒ウルスと力を合わせれば突破できるかもしれない。

突然の事態に理解が追い付かないフェイト達に気取られぬようウルスに目配せすると、相棒は理解したかのように一瞬だが発光した。その様子にリュウは小さく微笑むと、

 

⦅エリオごめん、これが終わったら気が済むまで殴っていいから!⦆

 

「え?・・・ぐぁっ!?」

 

すぐ背後にいるエリオに念話を発した直後に頭突きを叩き込んだ。直撃を喰らったエリオは大きくよろめき後ずさり。

 

「ウルスッ!」

 

《Decording!!》

 

リュウがウルスに叫ぶと同時にウルスがバインドの魔力結合を瞬時に解読し脆い箇所にピンポイントでリュウ自身の魔力を流す事でバインドを破壊。この世で最も固いと言われるダイヤモンドにも脆い箇所があるように、強固な拘束魔法にも必ず急所は存在しリュウとウルスはその解読ができるに限らず、JS事件においては最後の最後まで残ったスカリエッティの部下ナンバーズの4番目“クアットロ”でさえも舌を巻いた程の電子戦魔法の才を開花させた程だ。それ程までに2人の信頼は厚い。

 

バインドを破ったリュウはエリオの腹部の下に潜り肩で担ぐように持ち上げてエリオを近くのパトカーに叩きつけそして続けざまに今度は地面に叩きつけると近くの路地裏に向け駆け出した。

 

「あぁマズい!リュウが逃げる!!」

 

「何!?貴様ぁ、待てッ!!」

 

だがそれに奇跡的に無傷だったギルバートが叫び、他の局員とフォワード隊メンバー達が追ってきた。

 

「貴様ぁ、大人しくしろッ!!止まらなければこの場で撃ち殺すぞッ!!」

 

「お願いリュウ待って!!」

 

「待ってと言われて待つ訳ないだろ!」

 

背後から聞こえる局員の怒号とスバルの声を後目にリュウは目の前にある重ねて立てかけられた荷役台を引き倒す。

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

倒れてきた荷役台で追手の何人かは転倒するが、スバルは持ち前の高い運動能力で台を飛び越え追いかけ続ける。

 

「クソッ・・・!」

 

追って来るスバルを見てリュウは軽く悪態をつくが尚も逃げに徹する。

しかしリュウとスバルでは能力に差があり、スバルはその差を着実に詰めていく。

 

だがリュウは右掌に魔力スフィアを形成し、スフィアを右腕と共に振るうとそこからロープ状に形成されたスフィアが放たれ80メートル程先のネオン看板に命中すると接着されリュウが地面を蹴ると、

 

「行けぇぇぇぇッ!!」

 

彼の身体が宙に引き上げられ映画の蜘蛛男顔負けのターザン移動を見せ、そしてすぐ目の前のフェンスを飛び越えていった。

 

「このっ!行くよマッハキャリバー!!」

 

《All light!》

 

スバルも負けじと相棒のインラインスケート型デバイス“マッハキャリバー”に声をかけるとすぐ右の壁を駆け上がりフェンスを越える。そしてすぐ前に未だ逃走を図るリュウの姿が見えた。

 

「止まれえぇぇぇぇッ!!」

 

一気に加速しリュウに掴みかかるスバルであったが、リュウの服の襟首を掴んだと思ったら彼の姿はまるで煙のように消えて行ってしまった。その光景にスバルは見覚えがあり驚愕した。

 

「これって・・・ティアのフェイクシルエット!?何でリュウが使えるの!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「はぁっ、はぁっ・・・」

 

その頃、本物のリュウはスバルから逃げおおせ近くのブティックに裏口から入っていた。

店内にはカウンターに欠伸をして全くやる気の無い店員が1人いるだけで閑散とした雰囲気が漂っている。

 

「まさか、ティアナに教わったフェイクシルエットがこんな形で役に立つなんて・・・」

 

自分に呆れるな、と続けリュウは溜息をついた。それは機動六課が解散する少し前、どういう風の吹き回しかティアナがリュウに自分の幻術魔法の1つを教えると言い出し、遠慮したら胸倉を掴みながら凄まれた為に大人しくご教授賜った魔法がフェイクシルエットである。

 

自分には宝の持ち腐れであろうと、リュウ自身使う機会は無いと思っていたが、ティアナもこんな形で自分の教えた魔法が使われるとは夢にも思わなかっただろう。

 

とにかくまずは逃げ切る事が優先だ今の服装はとっくに割れてしまっている為別の服に着替えて一般人に成りすますしかない。今のリュウは口座はもちろんだがカードも凍結されて使用できないが幸い現金はある程度は持参出来ている。指名手配される前に口座から降ろしていたのが功を奏した。

 

リュウは適当に替えの服や下着を見繕ってレジに向かうが顔割れしないかが唯一の不安である。しかし店員は寝ぼけているのか特にリュウの事が気にせず無事支払いを終える事ができホッとした。

 

そしてトイレに入り数分後、カーキのカーゴパンツはそのままだが上着は黒いインナーシャツに赤いアクセントが入った白いロングコート、黒と赤の指ぬきグローブ、白いスニーカーに頭にかけたサングラスを乗せている姿になった。

 

《マスター、頭上のサングラス似合っていませんよ》

 

「うるさい、分かってるよ似合ってない事くらい・・・」

 

相棒からのヤジにむくれつつも早足でブティックを後にするリュウ。

だが店を出た直後、奥の車線を走行していたパトカーがリュウ目掛け突っ込んできた。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟にパトカーを踏み台にしジャンプして回避するがバランスを崩して道路中央に転倒。パトカーはそのままブティックの出入り口に突っ込んだ。

 

それに車道の中央に倒れたリュウは一般車の往来に巻き込まれ身動きが取れない。だが更なる不運が襲う。

事故に気付いたトレーラーが急ブレーキをかけ、荷台が大きく横を向きあらゆる物を破壊しながらリュウに迫ってくる。

 

《マスター走って!!》

 

「分かってる!!」

 

ウルスが叫ぶや否やリュウはすぐに起き上がりトレーラーから逃れるべく全力疾走するがそれでもトレーラーはリュウに迫る。そしてトレーラーのタイヤが何かに引っかかったかトレーラーはリュウに向け倒れ込んできた。

 

《伏せて!!》

 

ウルスが叫ぶのとほぼ同タイミングでリュウがスライディングするかのように仰向けに滑り込みトレーラーの真下を抜けた。そしてトレーラーはリュウのすぐ目の前で横転した。

 

「はぁっ、はぁっ・・・!!」

 

さっきスバル達に追われたよりも息切れが激しくまさに生き絶え絶えといった様子であろう。

リュウの周りはまさに大惨事。沢山の事故車に横転したトレーラー、すぐに管理局が来てもおかしくない状態だ。

 

そしてリュウは少し息を整えた後にその場から逃げ去っていく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「リュウを取り逃がした?」

 

同時刻、シルバーロック郊外で待機していたヴォルフラム艦橋で現地のヴィータからの報告を聞いたはやては驚きを隠せなかった。

 

〈あぁごめんはやて。途中で邪魔が入って・・・!!〉

 

「落ち着きやヴィータ、みんなも。リュウはそう遠くへは逃げられへんよ。車を置いてったからな・・・とにかく私は地元管理局部隊と運輸局とコンタクト取って協力を仰いでみるから、ヴィータはなのはちゃんたちと一緒に空から捜索に当たってな?」

 

〈クソ・・・分かった!〉

 

悔し気ながらもそう返しヴィータは通信を切った。そしてはやてはシルバーロックの管理局部隊と運輸局に連絡を取ろうとインターホンのスイッチを押そうとした時、今度ははやて達の現在の司令官であるマサノリ・シドウ少将から掛かってきた。

 

「どういたしました、シドウ少将?」

 

〈八神二等陸佐、君を始めとした元機動六課の面々がいながら何だこの体たらくは?あの凶悪犯を取り逃がしたそうではないか?〉

 

どうやらリュウが逃げた事は既にシドウの耳に届いているらしい。明らかに怒気を孕ませた声がスピーカー越しに聞こえてくるがはやては何とか気を持ち直す。

 

「はい、ですけどそれは今回だけです。今度見つけた時は絶対に逃がしません」

 

〈私が君達を招集するのにどれだけ苦労したと思っているのかね?せめてその私の苦労に見合うだけの成果を上げてくれないと困るのだよ。次は吉報を期待しているぞ〉

 

シドウは言うだけ言って一方的に通話を切った。

はやては苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたままインターホンを戻し、目頭を押さえながら深いため息をついた。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

[司令部より各ユニットへ、被疑者を見失いました。これより緊急配備を発令します。付近の各員は巡回捜索に切り替え、それ以外のユニットは交通機関の封鎖及び主要道路への検問設置を行ってください]

 

[タンゴ3-2了解、捜索を開始する!]

 

[こちらスターズ1、上空より捜索を開始します!]

 

[ライトニング1、西区域にて捜索を始めます]

 

 

「・・・マズいな」

 

リュウの左手に握られている傍受デバイスが傍受した無線にリュウは冷や汗が止まらなかった。

リュウは現在、路地から路地へと縫うように進んで北へ2ブロック程離れた路地で身を潜めてつつ移動していた。愛車であるR34GT-Rは置いてきた以前にエンジンのご臨終によりもう走れない。そうなると取る手段は1つしかない。

 

「こうなれば、どこかで車を()()()しかないか・・・。全く、何処の白黒魔法使いだよ・・・」

 

自分の発言に自分で呆れるという、リュウは今の自分に辟易しているようだ。

 

「それに、借りるにしても何処へ行けばいいか・・・」

 

〈お困りかな?〉

 

リュウが静かに呟いた時、タブレットから澄んだ電子音と共にユーノからのテレビ電話が繋がった。

 

「ユーノ!ちょうど良かった。大至急新しい車が欲しいんだ、それも速い奴!」

 

〈今君がいるのはビリオネア通りだよね?それならカジノホテルで好きなのを選べるよ〉

 

「どうやって?」

 

当然だがリュウは車の窃盗なぞやった事は無い。だからこそユーノからの言葉にリュウは怪訝な表情を浮かべつつ問った。

 

〈シルバーロックのカジノホテルはみんなボーイが駐車場まで車を運転して運ぶんだ。その1人を捕まえてキーを奪えばいい。・・・まぁリュウの事だから気は進まないだろうしもう1つ方法はあるよ。どこかで捕まったレーサーの車を押収される前に乗り込んで発車するか・・・〉

 

「・・・ユーノ、後者の案採用」

 

移動しながらユーノの言葉に耳を傾けていたリュウが静かに、しかしはっきりと答えた。

 

〈それは何?犯罪者から奪う方が気が楽だから?〉

 

「同族嫌悪って言うのかなそれ?確かにそれもなくはないけど・・・」

 

画面の向こうにいるユーノに答えながらも建物の陰に身を隠すリュウ。

その視線の先には・・・逮捕されパトカーの後部席に座らされたストリートレーサーらしき人影があった。

 

「・・・ちょうど目の前で捕まった奴を見つけたから」

 

〈・・・OK。でも君まで捕まらないようにね?〉

 

「同じドジは踏まないよ。通信終わり」

 

ユーノからの通話を切るとリュウはさっそく行動を始める。

あくまで一般の観光客に成りすまし、逮捕されたレーサーとそれを押さえる管理局に近づいていく。そして押さえられたレーサーの車がはっきりした瞬間、リュウは思わず息をのんだ。

 

それはFORTE(フォルテ)製のCFRP製フルエアロキットとIvan Tampi(イワン タンピ)製のGTスタイルリアデッキウィングを装備した白いシボレー・コルベット グランスポーツ(C7)であった。

ノーマルの6.2LのV8エンジンで最大466馬力、最大トルク64.2kg・m、車重1590kg。

・・・だが重要なのはそこではない。そのコルベットのリアに小さくだがHennessey(ヘネシー)とロゴが入っている。つまりはヘネシー・パフォーマンス社のアップグレード・パッケージがインストールされている事を示しており、最低でも馬力は600はある。

排気量を考えると少し不安はあるしリュウのR34には少し及ばないがレースに復帰するには十分なスペックだ。

 

決めた、あれを頂こう。

リュウは心中でそう呟きながら局員に気取られぬように物陰に隠れながらゆっくりと近づいていく。

 

そしてそのC7コルベットの持ち主でレーサーらしき人物がパトカーで連行され残ったもう1人の局員の男が押収記録を纏めているところだ。局員の目の前に白い魔力スフィアがひょっこりと現れ局員をおちょくるように周囲を浮遊する。

誰かのいたずらかと憤慨した局員はスフィアを追い払おうと躍起になりコルベットから意識が離れた。

 

(今だっ!)

 

決心したリュウが物陰から飛び出し素早く局員の背後に回ると首に腕を回し強く締め上げる。

局員は悲鳴を上げる間もなく局員は気を失い大人しくなった。

 

「殺しちゃったか・・・?」

 

《バイタル反応、生存を確認しました》

 

大人しくなった局員を見て思わず恐怖から鳥肌を立てるがウルスからの報告にリュウは一先ず胸をなでおろした。

リュウはすぐ局員の身体をまさぐり、懐からコルベットのキーを探し当てると、すぐにコルベットに乗車しエンジンスタートボタンを押し込むとヘネシーの手によってよパワーアップが施されたV8スーパーチャージドエンジンが咆える。

 

「首を洗って待ってろ、レーザー・・・!!」

 

リュウはハンドルを握りしめギアを1速へ。強くアクセルを踏み込むとそれに呼応しコルベットも急加速しレースへ復帰していく。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

時間はもう午前0時を回ろうとしている。

ザ・ラストウェイに別でアクセスできるブームビルのバイパス道路があり現在そこでは管理局による検問が実施されており多数の車による行列ができていた。

1台1台念入りにチェックされ、1台また1台と検問を抜けていく。だがそこで突然列の中程にいる車が突然威嚇するようにアイドリングを始めた。その車両の行動にその場にいる全局員がその車両を見据えた。

 

それは白いシボレー・C7型コルベット グランスポーツ。そのコルベットは近づいてくる局員に対しなおも威嚇するようなアイドリングを続ける。

 

「おい、車から降りろッ!?」

 

誰かがそう叫んだ瞬間、コルベットは派手なスキール音と共に急加速、対向車がいない対向車線に飛び出すと目の前に立つ局員に対しクラクションで威嚇しながら検問を強行突破していった。

 

「あの野郎ッ!!」

 

「クソッ!逃がすな追えぇッ!!」

 

局員らは急いで検問を撤去。停車させていたシビッククーペに乗り込みサイレンを鳴らして突破したコルベットを追いかけるも既にコルベットの姿を見失いつつあった。

 

「タンゴ4-6より司令部およびタスクフォース、検問を突破されました!至急応援願います!!」

 

[許可できませんタンゴ4-6。現在ユニットの大半が交通機関の封鎖解除に時間を有する為そちらへの増援派遣は不可能です]

 

〈んなっ・・・!?しまった、やられた!!タンゴ4-6、抜けていった車の車種は分かりますか!?〉

 

「あー、該当車両は白のC7型コルベット!繰り返す、該当車両は白のコルベット!あぁクソッ逃げられる!!」

 

〈了解しました、ここからは私たちは引き継ぎます!タンゴ4-6は撤収を!〉

 

「クソ・・・タンゴ4-6了解・・・、追跡を中断します。後はお願いします・・・」

 

司令部とはやてからの指示に局員は悔しさで表情を歪めながらもサイレンを止め追跡を打ち切った。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

その頃、再びハイウェイに戻った哲也は先に行った集団を追い上げるべくエクスプローラーを走らせていた。

するとタブレットに電子音と共に“大会新着情報”というインフォメーションが表示された。

 

【走行順位139位 Ryu(リュウ)Asterion(アステリオン)、諸事情により車両変更の報せ

Nissan Skyline GT-R Vspec(R34)→Chevrolet Corvette Grand Sports(C7)】

 

その表示を見て何とか親友を死の淵から救えた安堵からだろうか、哲也は笑みを浮かべた。

だが少しして表情を引き締め哲也は新たに決意を固める。

 

(ここからはもう、管理局(あいつら)は敵だ!)

 

決意を新たに哲也は前方の集団を追い上げるべくアクセルを強く踏みエクスプローラーを加速させる。




ED:真理の鏡 剣乃ように/鈴木このみ


(おまけ)
現時点までで登場したキャラクターのイメージCV

リュウ・アステリオン/入野自由
ウルス/嶋村侑・Arryn Zech

アダム・カラハン/中村悠一
ギャレット・カラハン/立木文彦

マサノリ・シドウ/池田秀一

ギルバート・ドレイク/細谷佳正

トモエ・シズマリ/石川由依
ローラ/高柳知葉

タツミ・ウェイブ/一色湊
暁 哲也/柿原徹也


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Section14 夜明

OP:Never Ever/今井翼


クラナガンまでの距離・・・4,049km

 

リュウの現在の走行順位・・・129位

 

 

時刻は既に午前1時を過ぎており、辺り一帯が暗闇に包まれた荒野の一本道“ルート186”を駆け抜ける1台の白い車がヘッドライトを煌々と照らしながら時速200km程の高速クルーズで駆け抜けていく。

それはシボレー・コルベット グランスポーツ(C7)・・・。故障により走行不能となったリュウのR34GT-Rに代わり逮捕されたレーサーから押収される直前に盗った物である。

そして現在はシルバーロック近郊に蔓延っていたライバル達とのバトルに勝利し順位を着実に上げている。ナビで確認する限りでは前方に他のライバルは見当たらない。

 

「・・・zzz」

 

だがそのコルベットの運転席にて今のコルベットの主であるリュウはシートにもたれかかり寝息を立てていた。現在コルベットの運転はリュウの魔力糸で形成された回路にて接続された彼の相棒ウルスが代わっている。

ここまで睡眠はもちろん休息と言える物をまともに取っておらず管理局はもちろん、なのは達機動六課メンバーが集結したタスクフォース、更にマフィアまでもがリュウの命を狙う中ウルスがリュウのコンディションを気遣い自ら代わりを買って出たのだ。

 

今ウルスはリュウに代わり200km程の速度でコルベットを走らせていく。

しかしデバイスといえど万能な訳もなく、高速走行で演算能力を大分消費している。そのせいで状況確認能力が鈍っていたのか、後方から迫りくる1台の車に気づく事が出来なかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

ヘッドライトを消して深夜の暗闇に紛れリュウのコルベットの背後に近づく1台のマシン。

黒いボディにF1レースカーのノーズコーンを彷彿とさせるフロント周りと流線形の綺麗なラインをしているその車の名は“メルセデス・ベンツ SLR マクラーレン”。

 

「・・・見つけたぜリュウ・アステリオン」

 

そしてその運転席にてハンドルを握るのは、角刈りに近い黒いヘアスタイルと薄黄色の肌に一重瞼という典型的な日本人の身体的特徴、黒のタンクトップに青のジーンズという成りのその男は“タケル・サトウ”。

 

彼はレーザーことアダム・カラハンの仲間(クルー)でアダムとよくツルむ人物である。

そんな人物が何故このザ・ランに参加しているのか、それはアダムがタケルの参加費35万ドルを立て替える事を引き換えにリュウの始末に手を貸すという事になったからだ。しかし今アダムはかなり先にいる。この調子でアダムがザ・ランに勝利すれば遅かれ早かれリュウは破滅する。

 

そんなどこか余裕めいた考えがあったのか、タケルは自分が駆るSLR マクラーレンをリュウが駆るコルベットの前に出すと同時にライトを点灯してすぐにフルブレーキをかけ急減速。

するとそれに驚いたのかリュウのコルベットは慌てて急ブレーキをかけハンドルを左に切ってSLRを回避するも、完全に制御を失い車体を1回半ほど回しながら路肩の砂地へ突っ込んでいった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

運転を担当しているウルスは主であるリュウを起こさず、かつ後続のレーサーに抜かれまいと必死でコルベットを走らせていた。そのせいか演算処理能力の大半を割かれていたために背後から近づいてくるタケルのSLRに気付けなかったのだ。

そして後ろのSLRがコルベットの前に出たかと思いきや、突然テールライトが点灯しすぐに発光、減速してコルベットにリアから突っ込んできた。

 

《!?》

 

突然目の前に姿を見せたSLRにウルスも対応できず、慌ててサイドブレーキを目一杯引きながらフルブレーキしつつハンドルを左へ。SLRを回避しようとするが結果制御を失いコルベットは1回半ほど回って路肩の砂地へ突っ込んでしまった。

 

「うわっ!?何だ何だっ!?ウルス何があった!?」

 

運転席で寝ていたリュウも突然襲ってきた衝撃に慌てて目を覚ましウルスに問う。

 

《申し訳ありませんマスター、車両の制御に演算能力の95%を割り振っていたために後続車の存在に気付く事ができませんでした・・・》

 

それに対しウルスから返ってきたのは自らの能力不足による失態への謝罪だった。だがすでに起こってしまった事への責任を追及する気にもならずリュウは1つ溜息をつくと一旦車外に出てコルベットを砂地から脱出させるための行動を起こす。

 

「元々は俺の為にウルスに無理させちゃってるんだ。謝るなら俺の方だよ。それよりまずは車を出そう。手伝って」

 

《了解》

 

リュウの言葉にウルスは間髪入れずに即答し、リュウがコルベットのフロントを思い切り手押ししてウルスは車内からの操作でバックギアに入れ必死に後輪を回し抜け出そうとする。やがて砂地から脱出するとリュウは運転席に戻り今度は自分がハンドルを握る。既にタケルのSLRの姿は闇の中に消えており、消えたその姿を追うべくコルベットを走らせる。

 

しばらくすると、徐々に空に明るみが差し込み始め、リュウはその眩しさに一瞬目を瞑り目元を右腕で覆うがすぐに目を開けると、東の砂漠の地平線から太陽が登ってくる光景が見えた。

 

その雄大でありながらも美しいその光景にリュウはしばし見惚れた。それはリュウへの激励かそれとも更なる困難への警鐘か・・・、だが止まる事は許されない。

 

「・・・よし!」

 

リュウは一旦ハンドルから両手を離すと両手で顔を挟むように2回ほど叩いて自分に喝を入れる。そして再びハンドルを握ってコルベットを加速させる。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

シルバーロック郊外、ヴォルフラム艦内格納庫では、シルバーロックでの大追跡において事故やレーサーからの攻撃で破損した車両の修復及びメンテナンスが行われていた。

 

特にダメージが酷かったのはシグナム・ヴィータコンビのジャガー・XJ220とシャマル・ザフィーラコンビのポルシェ・959だ。リュウがキャリアカーに体当たりし起こした故障車の雪崩に巻き込まれたのが1番の要因であろう。

 

「はやて、見て分かる通りXJと959は当分は動かせそうにないぞ」

 

「せやね・・・、それになのはちゃん達も少し怪我してしもうたし、リュウは車を強奪し地元管理局部隊を振り切ってそのままシルバーロックから脱出して東進・・・」

 

現状ははやて達にとって芳しい物とは言えなかった。妨害が入ったとはいえリュウには逃げられその上六課組の最高戦力であるなのは達隊長陣の何人かも負傷してしまっている。当面はフォワード隊メンバーのスバル達を中心に行動せざるを得ないのだ。

 

「・・・まぁ確かになのは達が動けないのは痛いけど、人員なら大丈夫だ。さっき連絡があって遅れてた“4人”のマシンが仕上がったから担当要員もまとめて持ってくると」

 

ギルバートのその知らせを聞いてはやては顔を綻ばせた。今の状況では1人でも人手が欲しいのだ。

 

少しすると外でヘリのローター音が聞こえ、外を見れば管理局にて最近正式採用された輸送ヘリ“JF704式改”が2機着陸して後部ランプドアが開くと合計4台の車両が降りてきた。

 

 

最初に降りたのはVeilSide製FORTUNE MODELボディキットを装着し一見すれば跳ね馬の車と見間違うシルバーストーンメタリックのそれは“ホンダ・NSX(NA1)”

 

2台目はD.SPEED製ボディキットPYTHONフロントリップウィング、フロントグリル、サイドステップ、エアロミラー、リアアンダースポイラー、SARD(サード)製NACAダクト付ドライカーボンボンネット、ドライカーボンルーフ、ドライカーボンリアウィングを装着したレッドメタリックの“日産・スカイラインGT-R Vスペック(R32)”。

 

3台目はVARIS製14 Ver.Relordedスタイルフロントバンパー Ver.2、クーリングエアシュラウド+エアダクト、サイドスカートVer.1、リアバンパー+ディフューザー、フェンダーダクト、GT-WING EURO EDITION、クーリングボンネットフードVer.2、ライトウェイトトランクを装着したライトブラウンメタリックの“三菱・ランサーエボリューションⅩ GSR”。

 

最後に降りた4台目は、ギルバートのチャージャーと比べると小振りだがボンネットから突き出ているスーパーチャージャーが目を引く、ボンネットに両脇にイエローの細ラインをあしらった白いダブルストライプのバイナルを施したワインレッドの1973年式“ポンティアック・ファイヤーバード トランザム”。

 

 

4台が横1列に並び、エンジンが切られると4台からドライバーが降りてきた。

 

 

シルバーのNSXのドライバーは右目に黒い眼帯を着けた長い銀髪の小柄な女性・・・チンク・ナカジマ。

 

レッドメタリックのR32のドライバーは赤い短髪で少年的な雰囲気を纏った女性・・・ノーヴェ・ナカジマ。

 

ブラウンのランエボⅩのドライバーは長い茶髪を薄黄色のリボンで結っている女性・・・ディエチ・ナカジマ。

 

ワインレッドのトランザムのドライバーは赤い髪を後頭部で結ったノーヴェに似て少年的な雰囲気を纏った女性・・・ウェンディ・ナカジマ。

 

 

彼女達は機動六課の面々が集合した際に共にいた人物たちだ。そして・・・

 

「到着が遅れ申し訳ありません、チンク・ナカジマ、ノーヴェ・ナカジマ、ディエチ・ナカジマ、ウェンディ・ナカジマ以上4名、ただいま着任いたしました」

 

ここから先新たに立ち塞がるタスクフォースのメンバーでもある。




ED:真理の鏡、剣乃ように/鈴木このみ

今回はエナジーマン様ご応募のキャラを少し出演させていただきました。

それと思ったより投稿が遅れてしまった為に募集期間を今月一杯まで延長します。[https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=235406&uid=79933]


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Section15 熱砂

OP:Never Ever/今井翼


クラナガンまでの距離・・・3,847km

 

リュウの現在の走行順位・・・130位

 

 

日の出から間もない午前7時程、ルノ州ジリオン・ナショナルパークのエッジロックビルに砂煙を上げながら疾走する11台の車団。その最後尾に遂にリュウのC7コルベットが追いついた。

後尾から順に、

 

白の三菱・ランサーエボリューションⅣ、

青の日産・フェアレディ350Z、

青のスバル・インプレッサWRX STI(GRB)

黒の2010年式6代目フォード・マスタング、

シルバーのフォルクスワーゲン・ゴルフⅦ GTI クラブスポーツ、

紫の三菱・エクリプスGT、

赤の1983年式トヨタ・セリカXX、

黄色のポルシェ・964型911、

緑のBMW・E89型Z4、

白の1999年式ホンダ・インテグラ タイプR(DC2)、

 

そして車団の先頭を走るはGT4レースカーのようなボディキット、GTウィング、GT500タイプダクト付カーボンボンネット、CERVINIのカットバックサイドエキゾーストを装着したトリプルイエローの2015年式7代目フォード・マスタング。

 

ここから先は第1関門を突破した強者揃い、リュウとて一筋縄ではいかないだろう。

内心そんな事を頭の片隅で考えつつもリュウはハンドルを握りしめコルベットを走らせる。

 

岩場に挟まれた未舗装の砂利道をラリーのごとく疾走していく車団。より正確にはレース形式で行われるラリークロスに近いだろうか。

 

未舗装故にタイヤのグリップも大きく落ち込み少しの操作ミスがマシンの制御不能に陥りかねないこの状況下でありながらリュウは着実にライバルとの距離を詰めてくている。

 

しかし無理に勝負を仕掛ければコントロールを無くし自滅する事はリュウも分かっている為、砂利道では無理せず飛ばすという対局的な2つの要素を上手く纏めている故に、車団最後尾のランエボⅣをパスし勢いそのままに350Zとインプレッサも追い抜いていく。

 

その先は切通しのような岩壁の間を縫うように通る入り組んだ区間。無理に追い抜こうとして壁に接触し大破という事態を避けるべく前走のマスタングにピタリと張り付き。切通し区間を抜けると一気にペースを上げマスタングを抜き去る。

 

ここまでで126位までジャンプアップ、次に狙うはゴルフ クラブスポーツだがここで再度岩壁の間を抜ける切通し区間に突入。これでまた無理は出来なくなった。

だが少しのチャンスでも物にする、それがリュウだ。

 

「・・・ここだ!」

 

区間の右ヘアピンにてオーバースピードによりアンダーステアを出して立ち上がりで大きくもたついた前走のエクリプスGTに閊えゴルフの加速が遅れた。それに乗じリュウはマシンを適正速度にコントロールし滑り込むように2台の内側へ入っていく。

 

次は左ヘアピン。テール・トゥ・ノーズのセリカXXと964が順位を争っているが後続のセリカXXが勝負を焦り接近する964を避けようとコーナリングしながらブレーキングし結果アンダーを出してしまった。その間にリュウのコルベットがセリカXXを抜き去り今度は964をロックオンする。

この先は切通しが狭くなる。両端目一杯に寄れば車2台がギリギリで通れるかの幅しかない区間でコルベットが964に並びかける。そうなれば964のドライバーはクラッシュの恐怖からブレーキをかけリュウが前に出る。

 

《マスター、次のヘアピンの先は舗装路です!》

 

「分かった!」

 

相棒(ウルス)からの声にも耳を傾けつつ目の前を走るZ4、インテR、マスタングGTを狙うリュウ。

連なったまま右ヘアピンを抜けた3台にコルベットが追い縋る。だが、

 

[ハイウェイパトロールへ、エッジロックビルにて大規模な違法ラリーレースとの情報!]

 

ここでコンソールに取り付けている傍受用デバイスが点滅しながら管理局の無線を傍受した。

どうやらリュウ達の動きが知られたようである。

 

その無線に思わずリュウは顔をしかめるが、すぐに車団は緩い左コーナーを抜け舗装路に合流する。

だが最悪な事に、鉢合わせてしまった。

 

[地上部隊へ、ストリートレーサーらしき車両の一団を発見。コード3!]

 

舗装路に合流してくるリュウ達を発見しサイレンを鳴らし出したのは“日産 GT-R(R35)”。シルバーロックにてなのはが乗っていたGT-R NISMOに比べればスペックは劣るがそれでもスーパーカーを十分に相手取れる性能を持つ車だ。

 

舗装路と合流してすぐに管理局の追跡部隊、それもハイウェイパトロールに見つかってしまった不運を嘆きそうになるリュウだったが今は考える時間も惜しい。ここからは管理局の追跡を避けながら他のライバル達の前を行かねばならないのだ。

 

合流した舗装路のシルクのような滑らかな走り心地に浸る間もなく、リュウは目先の緩い右コーナーでなく切通しになって封鎖されている直進の砂利道へ突っ込む。

 

[クソ、被疑者が道から外れた!]

 

尚もデバイスが傍受し続ける管理局無線を後目にレースを続ける前走3台を切通しを突っ切る事でパスする事に成功。リュウが舗装路に戻った頃にはリュウが車団の先頭に立っていた。

 

[10-73は行けそうか!?]

 

[スペクター及びビクター了解、バリケードを設置します!]

 

無線によれば本来通るルート上にバリケードが築かれ通れないようだ。だが舗装路がダメであれば、()()()()()()()()()()()

そのルートは管理局のトレーラーにより封鎖されている舗装路のすぐ左にあった。生憎とまたしても未舗装の砂利道だがこの際贅沢は無しだ。

 

「ウルス、突っ込むぞ!」

 

《はい!》

 

何度もバリケードを経験したリュウは最早臆する事無くバリケードに正面から挑む。

砂利道までも封鎖するパトカーの間を、正に針の穴に糸を通すような正確なコントロールで抜けていく。

 

[バリケードに失敗、失敗したぞ!追跡車両は砂漠の小道に入る!]

 

左の90度コーナーを曲がりながら局員の焦りの声に耳を傾ける。

他のレーサー達もマスタングGT以下6台は多少危な気でありながらも突破に成功するが、後続のマスタングがバリケード車両と大事故を起こし結果的にその後続のレーサーと管理局車両が通行不可能になってしまった。

 

《前方より追跡車両接近!》

 

「分かった!」

 

GT-Rの追跡をかわしながらも、ウルスがリュウに警告。見れば前方から別のGTRパトカーが接近し眼前でスライドしながら停車。簡素なバリケードだが幅が狭い砂利道なら効果は見込めるだろう。

しかし相手が悪かった。既にウルスから方を受けていたリュウは冷静に対処し、空いている左側のスペースにコルベットを滑り込ませて行く。

 

[クソ、抜けられた!追跡続行!]

 

後続のGT-Rが追跡を続ける中、リュウは順調に右ヘアピンを抜け緩い2連続S字を抜け左ヘアピンへ。その先は本来のルートである舗装路へ再度合流出来る地点だ。

後方からGT-Rパトカーが迫るもお構いなしに走り続け遂に舗装路と再合流。それを見計らっていたかのようにリュウは更にコルベットを加速させていく。

 

「・・・逃がさないよ」

 

しかしその後方からトリプルイエローのマスタングGTが加速しながら追ってきている事にリュウは気づいていない。

淡いオレンジ色の豊かな髪に微かに鋭いオレンジ色の瞳。女物のレザージャケットと虎柄のシャツ、タイトなレザー式ミニスカートとバイカーブーツを身に着けているマスタングGTのドライバーは“トラミ”という女性。

 

リュウより遥か前方にいるドライバー・・・トモエ・シズマリの一味の1人だ。

 

 

 


 

 

 

エッジロックビルにてリュウ等がハイウェイパトロールを交えた順位争いをしている頃、その車団よりも前方を走る車団に“彼”はいた。

 

フォーチュンバレーのシルバーロックにてリュウを攻撃し脱落間際まで追いやった憎き輩。GTレースを彷彿させるボディキットに車体両サイドにギリシャ神話の巨鯨ケートス、ルーフに鯨の尾鰭のバイナルをあしらったメタリックブルーのカストロール・トムス擬きのトヨタ・80スープラを駆るタツミ・ウェイブである。

 

タツミは今、前を走る1978年式ポンティアック・ファイアーバードに狙いを定めているが、ここで自分の端末にインフォメーションの更新が入っている事に気づいた。

大した情報でないだろうと内心思っていたタツミだったが、その内容を見て驚愕する事になる。

 

Ryu(リュウ)Asterion(アステリオン)、諸事情により車両変更の報せ

Nissan Skyline GT-R Vspec(R34)→Chevrolet Corvette Grand Sports(C7)

走行順位:119】

 

「ふざけるなぁぁぁぁッ!!!」

 

報せを読んだタツミは怒りのままに拳をクラクションに叩きつけた。

このザ・ランにタツミは何としても勝利したい、だからこそ邪魔者を潰しその1人であったリュウもシルバーロックで潰したはず・・・それがマシンを変え再び走り出している事に酷く憤慨した。何故タツミが他者を脱落させてまでこのザ・ランでの優勝を狙うのか、それは両親だ。

 

タツミの両親は5年前、巷ではJS事件と呼ばれる大規模テロが起きた頃だ。

その時のクラナガンに彼と両親はいた。しかし魔導士としての才が無いタツミに両親を助けられる訳もなく、襲い来る爆風や崩れ落ちゆく瓦礫に成す術が無かった。タツミがクラナガン郊外の病院で目覚めた時には両親は重傷で昏睡状態に陥っているという。

 

両親を助け暖かい生活を取り戻すにはどうしても金が要る。その為に財産を売ったり非合法なストリートレースで他者を蹴落としてでも勝利して賭け金を手にしたりとで資金を稼ぎ両親への医療費に充てているのだ。

 

今の彼にとってこのザ・ランは正に千載一遇のチャンスなのだ。絶対に負けたくない、負けられない・・・。

必ずこのザ・ランに勝利し両親を助ける。その思いだけを胸にタツミは前走のファイアーバードと共に左ヘアピンに差し掛かるが、タツミのスープラは全く減速せずにファイアーバードのリアに当たりに行った。

リアをどつかれたファイアーバードは大きく体勢を崩し、対してぶつけた事で減速したタツミのスープラがその内側へ切り込んで行く。ヘアピンを立ち上がる頃には完全にスープラが前に出ていた。

 

しかしまだ先にはまだ別の車列がいる、その車列に追いつくべくタツミはアクセルを踏み込み更にスープラを加速させていく・・・。




ED:真理の鏡、剣乃ように/鈴木このみ

最後の更新から1年も空く羽目になるとは・・・いや~難産だったぜ・・・(-_-;)
あと今は亡き(アカBANて意味で)オストラヴァ様のキャラ再登場です。

本音を言えば今回の描写には納得してないけど更新を優先したのでどうかご容赦くださいm(__)m


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