すれ違いの結末 (ビールは至高の飲料)
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Z編 憎む側と憎まれる側
傷つけられた心


スパロボZ発売前のPVでストフリを前面に出しといてあんな扱いにした当時の事が今更になって憤りが甦ったので書きなぐった。


ランドもセツコも両方最初から仲間になってる設定です。


「その子が?」

 

「あぁ。破棄された研究所に残されていた子だ。何の研究をしていたのかは資料やデータの大半が消去されてたんでいまいち分からんがな」

 

 マリューの問いにバルドフェルドが答えて、椅子に座っている少女を見る。

 本来は綺麗な銀髪だったろうに。手入れのされていないその髪は汚れてボサボサ。

 まともに食事を与えられていなかったのか、身体は痩せ細っており、骨と皮しかなく、その腕は少し強く握れば折れてしまいそうだった。

 10歳くらいに見えるが、もしかしたらもう少し上かもしれない。

 

 様々な世界が混ざりあった多元世界。

 この世界で自分達が出来る事を探すためにオーブを出たアークエンジェル。

 潜伏し、今の世界の情報を集めていた際に、誰とも分からない相手から文面が送られてか来た。

 

『ある研究施設で捕らえられている少女を助けて欲しい』

 

 それだけ書かれ、座っている少女の写真と研究施設の座標だけ送られてきた。

 わざわざアークエンジェルに匿名で送られてきた情報。

 罠かもしれないと思ったが、もし本当なら放置するわけにもいかずに出向いたが、研究施設はもぬけの殻。

 特に労することなく少女の救出に成功した訳だが、腑に落ちない面が多すぎる。

 

「まぁ、考えても仕方ありませんわ。今は、その子を助けられただけでも充分でしょう?」

 

「ラクス」

 

 楽観的なラクスの言葉にカガリが呆れたように名を呼ぶ。

 少女に近づくとラクスは柔らかな笑みを浮かべた。

 

「私はラクス・クライン。貴女のお名前は?」

 

 ラクスが近づくと一瞬少女がビクリと怯えて肩が跳ねたが、その笑みと優しげな声音に上目遣いで答える。

 

「ふぃ、あら……フィアラ」

 

「そう。よろしくお願いしますね、フィアラ」

 

 こうしてフィアラと名乗る少女はアークエンジェルと行動を共にすることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィアラがアークエンジェルと共に行動するようになって一月。

 保護された当初は痩せ細っていた身体も大分肉を取り戻して来た。

 年の近い同性であるラクスやカガリが積極的に面倒を見ていることで、生来は明るかったのだろう性格を取り戻しつつある。

 

「フィアラの髪は綺麗ですわね」

 

「そうですか? ただの白髪だと思うんですけど」

 

「そんなことはないさ。青みのある銀で、積もったばかりの雪みたいだ」

 

 アークエンジェルにある天使の湯。

 そこで3人の少女が入浴しており、ラクスが楽しそうにフィアラの髪を弄っていた。

 フィアラがどうしてあんなところに捕まっていたのか。

 それはまだ話してもらっていない。

 無理に話をさせることは躊躇われ、心を開いたときに話してくれると信じている。

 だから今は心を癒すことに専念していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Poison Monster

 通称PM。

 この多元世界に現れた正体不明の怪物。

 その戦闘能力は高く、世界各地に散発的に出現しては、暴れまわる。

 しかし、もっとも厄介なのはその毒性。

 PMは確かに高い戦闘力を誇るが、決して倒せない敵ではない。しかし、倒すと有毒性のある毒を大地に、水源に、空気中に撒き散らされ、人を含めた生物を住めない土地へと変える。

 毒に汚染された土地を元通りにするには、数年単位の時間が必用と推測される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れたPMに、三つ巴の戦闘をしていたZEUTH、連合、アークエンジェルは、その対処をしていた。

 無差別に襲ってくる怪物を相手に、人間同士で戦闘を続けるほど彼らは愚かではない。

 

 問題は────。

 

「まだ、近くに住む人達の避難が終わってないのに!」

 

 PMが発する毒は強力である。シェルターなどに避難しても時間をかければ、防壁をすり抜けて毒を撒いてくる。

 しかし倒さなければこちらがやられる。

 そして自分達が退けば、近くにある町へと襲いかかるだろう。

 どちらにせよ、何の罪もない人々の命が散らされることになってしまう。

 この戦場に居る誰もが歯噛みしていると、アークエンジェルのブリッジにフィアラが上がって来た。

 誰もが唖然とする中で、フィアラはブリッジから見えるPMに鋭い視線を向ける。

 

「何をしているの!? 早くここから出なさい!」

 

 艦長であるマリューがブリッジの外へと出るように促すがフィアラは首を横に振って宣言する。

 

「あの毒は、私がどうにかします」

 

「え? 何を……」

 

 言って、と続く前にフィアラに変化が起きる。

 彼女の身体から光る金色の紋様が浮かび上がったのだ。

 

「願いを我が中に。私の歌は、世界を侵す」

 

 フィアラの口から歌が紡がれる。

 それにしても呼応してフィアラの紋様が背中から翼のように広がり、アークエンジェルを中心に戦場に囲うように陣を作る。

 そこでアークエンジェルめがけて飛来してきたPMをキラのフリーダムが撃ち落とした。

 

「え?」

 

 それは誰の呟きだったのか。

 PMは、倒せば塵になり、毒素を撒き散らすが、今は塵になるだけで毒の反応がなかった。

 歌は続く。

 アークエンジェルのブリッジで歌っているその歌は、戦場に広がっている紋様からも響かせている。

 戦場に少女の歌が響く。

 撒き散らされる毒の心配がなくなり、その後の戦闘はこれまでに無いほどスムーズに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ……」

 

 戦闘後に倒れてしまったフィアラは、1時間ほどして医務室で目を覚ました。

 アークエンジェルは既に戦域を離れており、潜水している。

 のそりと起き上がると、そこにはキラとラクスがいた。

 

「戦いは……?」

 

「終わったよ。君のおかげで、被害が抑えられた。ありがとう」

 

 キラが礼を言い、ラクスがフィアラの手を握る。

 

「とても、素敵な歌でしたわ。あの歌に込められた想いを、確かに私は感じました」

 

 2人に褒められて、フィアラは顔を赤くして逸らす。

 しかし、すぐに憂いを帯びた表情に変わる。

 

「PM……あれは……」

 

「何か知ってますの?」

 

 ラクスの問いにフィアラは首を横に振る。

 

「わからない……わからないけど……たぶん、あれは……」

 

 自分の体を抱き締めてフィアラは誰かにではなく、自分で確認するように呟く。

 

「私の……同類です……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この少し後に、ラクスは宇宙へと上がり、2つに分かれたZEUTH片方と接触し、共に行動することになる。

 

「なぁ、お前があの歌巫女なのか」

 

「はい?」

 

 行動を共にする事になったZEUTHのガンダムのパイロットの1人である、ガロードがフィアラに話しかけてきた。

 いや、ガロードだけではなく、主に十代半ば頃の少年少女を中心に話しかけていた。

 しかし、フィアラからすれば気になる単語がある。

 

「あの……歌巫女って……何です?」

 

「知らない? 今UNでちょっとした話題になってるんだよ。PMの毒を浄化する歌う巫女って」

 

 レントンの言葉にフィアラが首を傾げた。

 

「巫女?」

 

 フィアラの能力は発動条件が歌であり、展開される紋様からも歌声が響く。

 それは当然、戦場にいた者達にも聴こえており、それがUNで話題になっていた。

 しかし、フィアラからすれば巫女という単語に違和感しかない。

 

「それだけ貴女の歌が素晴らしいと皆がお認めになったということでしょう」

 

 アナ姫がそう言うも、実感が湧かず、はぁ、と気のない返事を返す。

 

 そもそも、あの研究施設からこれまで、アークエンジェルの面々としか過ごしていないフィアラにとってこの大所帯自体慣れないのだ。

 そこでエウレカが提案する。

 

「もし良かったら月光号に来ない? モーリス達にも貴女の歌を聴かせてあげたいの」

 

「え、と……」

 

 視線を近くにいたカガリへと移す。

 彼女は苦笑する。

 

「お前が行きたいなら、行ってくればいいさ。私達にお伺いを立てることじゃないぞ」

 

「なら、少しだけ……」

 

「よっしゃ! 歌巫女の独占ライブだぜ!」

 

 頭を下げ、エウレカに手を引かれて月光号へと移動する。

 

 それにゲッターロボのパイロットである竜馬が話しかける。

 

「いいのかい?」

 

「あの子、アークエンジェル以外の世界を知りませんから。だから、今回、あの子達が話しかけて来てくれて、良い機会だとも思ってます」

 

 そして見ている世界を広げなければならないのは自分達も、なのだろう。

 しかしこの、何気ない選択がフィアラにとって大きな分岐になることを、誰も知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2つに分かれたZEUTH。

 それが今、敵対し、互いに銃を向けあっていた。

 アークエンジェルも当然それに参加する。

 しかし、キラの乗るフリーダムを執拗に追い詰めようとするインパルスと、アークエンジェルを討とうとするミネルバ。

 それを、月光号の中で見ていたフィアラは徐々に追い詰められていくフリーダムとアークエンジェルに危機感を覚える。

 

「や、めて……」

 

 そしてついに、インパルスの対艦刀がフリーダムの腹部を貫き、ミネルバの陽電子砲がアークエンジェルを撃つ。

 

「やめてっ!?」

 

 その懇願の声は近くにいたモーリス、メーテル、リンクスとアナ姫以外に届くことはなく、フリーダムとアークエンジェルが沈んでいく。

 

「あ、あ、あ、あ、あぁっ! ああぁあああぁあああっ!?」

 

 喉を裂くような絶叫が月光号に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやくもう1つZEUTHを振り切って落ち着いた休憩を取れるようになるが、余裕のなかった彼らはアークエンジェルの捜索は行われないこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……」

 

「……」

 

 アナ姫の声にフィアラは反応すらしない。

 フィアラの眼には隈があり、ここ数日ほとんど寝てないのが明白だった。

 アークエンジェルと別れて数日。フィアラは誰が見ても憔悴していた。

 食事もほとんど手を付けていない。

 

「だ、大丈夫だよ! その内、ひょっこり顔を出すって!」

 

 メールがそう励ますが、その言葉にも僅かに視線を動かすだけだった。

 

「なんで……」

 

「え?」

 

「なんで、私だけ助かってるの……?」

 

「フィアラ……」

 

「助けてもらっておいて、私だけノウノウと……こんなの、ない……私、まだ何も返せてないのに……どうして……」

 

 無表情のまま、フィアラの瞳からは涙が溢れ落ちていた。

 それを見た面々は、間違ったのかもしれないと思う。

 あの時、フリーダムとアークエンジェルを孤立させるべきではなかったと。

 いや。あの時に無理を推してでも探しに行けばと。

 例え一緒に行動した期間が短くとも、共に戦った仲間がMIAになり、残された少女が泣いているのを見てなんとも思わないほど彼らは非情ではなかった。

 

 

 

 

 それから少し間を置き、2つのZEUTHは再び道を交わる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 表情こそあれ以来暗いモノとなってしまったが、フィアラは幸いにも食事などは最低限摂ってくれるようになった。

 一応、PMが出現したときはその力で毒性を無力化してくれる。

 だが、もう1つのZEUTHと合流して、前にも増して周りとの交流を拒絶し、ほとんど引きこもりのような状態になっている。

 それでも、無気力状態から次第に目が覚めていき体を動かしたい欲求が生まれる。

 

「う、ん……」

 

 それに従って立ち上がり、部屋から出る。

 しかし、録に艦内の道を覚えてなかったフィアラはどこに行けば良いのか。そもそも、どこに行きたいのかすら自分で分かっていなかった。

 

「……もどろ」

 

 トボトボと来た道を戻ろうとすると、道角で人にぶつかる。

 相手は少しよろめく程度で済んだが、華奢なフィアラはそのまま尻もちをつく。

 

「あ、ごめんなさい。大丈夫?」

 

 黒髪の女性が手を差し出すがフィアラはその手を借りずに自分で立つ。

 見たことがない相手だった事からもしかしたらもう1つのZEUTHの人なのかもしれないと思い、そう考えると沸々と負の感情が沸き上がってくる。

 それを悟られまいと頭だけ下げて立ち去ろうとする。

 しかし、相手が手を掴んできた。

 

「?」

 

「もしかしてサロンに行こうとしたの? ならこっちよ」

 

「いえ、ただ歩いてただけで……もう部屋に戻りますから」

 

 手を放させようとするが相手はフィアラの顔を真剣な表情で見た後に、気づかう笑みを見せる。

 

「どこか、迷子のように見えたから。行きたいところがあるなら────」

 

「行きたい、ところ……」

 

 その言葉だけが妙に頭に残る。

 うん、と頷く相手にフィアラは特に考えもせずに呟いた。

 

「アーク、エンジェル……」

 

「え……?」

 

「アークエンジェル、帰りたい……」

 

 気が付けば、体を震わせて泣きそうな表情になっていた。

 あの研究施設から助け出してくれた人達。

 自分を救ってくれたのは、ZEUTH(ここの者達)ではないのだ。

 あそこに居て、自分が何か出来るわけではなかったけど。それでも、帰りたいと思ってしまうのはわがままだろうか。

 

「……」

 

 フィアラの様子から何かを察したのか、相手が手を引く。

 

「とにかく、皆のところへ行きましょう。独りで考えてたら、悪いことばかり考えてしまうから」

 

 そこで、あ、と思い出したようにフィアラに向く。

 

「私、セツコ・オハラって言います。貴女は?」

 

「フィアラ……」

 

「フィアラちゃんね。行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引かれるままに案内されたのは部隊内の憩いの場であるサロン室だった。

 そのドアを開けようとした時に、中の会話が聞こえてきた。

 

「大体、フリーダムは、戦場に勝手に現れてメチャクチャにしてただけじゃないか!!」

 

 その言葉にドアを少し開いた状態で止まる。

 中の会話からアークエンジェルやフリーダムのせいでどれだけの被害を被ったかを怒り混じりに話しており。

 一時でもアークエンジェルと共に行動していた面々は、フォローしているが、向こう側の鬱憤が強く、どう宥めるか考えている様子だ。

 

 それらの戦闘の全部は知らないまでも、フィアラも一部は見ていた。確かに彼らからすれば迷惑行為だったのだろう。

 しかし、それを耳にしてこちらが全て悪かったと納得出来るほど聞き分けは良くない。

 フィアラの前にいたセツコも戸惑っていると中にいたランドが2人に気付く。

 この時点でフィアラの思考の大半はもうどうにでもなれという自棄っぱちだった。

 なんだろうか? 後の事なんてどうでも良い。ただ、コイツらの言い分を絶対に認めない、という衝動だけだった。

 

 フィアラの事を誰もが大人しい性格の少女と見ていた。

 しかし、それは間違いである。

 本来の彼女はとても気性の激しい人物だ。

 ただ、長い研究施設での生活でそれらの面が抑えられていただけ。

 今の会話で完全に導火線に火が点いた状態だった。

 

 セツコの脇を抜けて歪な笑みを浮かべて自己紹介する。

 

「どうも。いま話題に上がっていたアークエンジェルのクルーです」

 

 フィアラの言葉にサロンにいた面々。特にザフトに協力していた者達は瞬きして驚く。

 

「どうしたんですか? 言いたいことがあるなら言ったらどうです? せっかく忌み嫌うアークエンジェルのクルーが目の前に居るんですから」

 

 クスクスと異様な笑みを浮かべる10そこそこの少女。

 だがしかし、その瞳に込められた強い敵意にZEUTHのメンバーは何も言えないでいた。

 

 そして先程から特にアークエンジェルを批難していた赤い軍服の少年に近づく。

 

 その声はチラムの街で暴れていた巨大MSのパイロットを説得していた者の声だった。

 そして、フリーダム(キラ)を討った者の声でもある。

 フィアラはその少年。シン・アスカに近づいて彼にだけ聞こえるように小声で話しかけた。

 すると、驚いた顔を一瞬。すぐに怒りの形相になり、フィアラの頬を張って、床に倒した。

 

「あ」

 

「おい、シン! なにやってる!?」

 

 近くにいたカミーユ・ビダンが止めに入るが衝動的な攻撃だったために本人もバツが悪そうに手のひらを見つめる。

 

「フィアラちゃん、大丈夫!」

 

 ここまで案内したセツコが様子を手を差し出したが、その手をパシン、と、払う。

 

「触るな、穢らわしい……!」

 

 吐き捨てるフィアラには先程までの心を許しかけた様子など微塵もなく、憎しみだけが瞳に宿っており。その豹変ぶりにセツコはたじろいだ。

 

 フィアラも、事情の全てを知っている訳ではない。

 間違っているのは此方なのかもしれない。

 だけどそんなことは────。

 

「知ったことか……っ!」

 

 小柄な体からは想像できない強い負の感情が込められた声にその場にいる全員が動くことを躊躇った。

 導火線は無くなり、後は爆発するだけ。

 唇を噛みきり、ギリッと歯が鳴る。

 

「誰が頼んだ誰が望んだ! 誰があんなことしてほしいっていったぁ!!」

 

 記憶から甦る。

 アークエンジェルとフリーダムが撃墜された時の絶望が。

 こいつらだ。

 私の居場所を消し去ったのは! 

 肺に溜めた酸素の全て怨嗟の言葉を乗せた。

 

「誰が認めるか誰が許すか! お前達が! お前達が死ねば良かったんだぁああああああぁああぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後、オーブ戦前にZEUTHを出ていって色々あって第二次Zの世界に転移する感じ。


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癒えない心

フィアラがZEUTHを出ていくまでの話


「なんなんだよ、アイツ……!」

 

 突然現れて好き勝手言い。あまつさえ自分達が死ねば良かったなどとぶつけてサロンを出ていった少女に、グランナイツのメンバーであるエイジが不快感と憤りを露にする。

 それは他の面々も同様だが、どちらかと言えば戸惑いの方が強いようだ。

 

「メール、フィアラを追っかけろ」

 

「ダーリン?」

 

「今アイツを1人にさせない方がいい。何しでかすか分かんねぇぞ」

 

 フィアラと比較的仲の良いメールなら、変に拒絶されることもないだろうと頼む。

 それを察してメールも、うん、わかった! と頷いてサロンを出ていった。

 それを見届けて、一息吐いてからいつもの陽気さを抑えて話し始める。

 

「アイツがUNで話題になってる、PMの毒を無力化してた歌巫女だ」

 

 ランドの言葉に別行動だったZEUTH組が驚きの表情になる。

 

「お前らとドンパチしてた時は偶々月光号に居て、そのまま行動を共にすることになった。キラ……あー、フリーダムとアークエンジェルが墜ちるところもモニターで見ちまってる」

 

 淡々と事実だけを述べる。

 しかしランドの表情には苦いものが浮かんでいた。

 

「アークエンジェルと離れた時はかなり取り乱しちまって、俺達から離れて自分で探すなんて言ってたな。余裕がない状態だったとはいえ、捜索を打ち切った時も納得してない感じだったぜ」

 

 何せ、自分の足だけで探しに行こうとしていたのだ。食事だってまともに摂れなくなった。それだけで彼女がどれだけあの場所を大事に思っていたか、察することが出来る。

 それにシンが怒り混じりに問い質す。

 

「だったら! 戦場を混乱させてたアークエンジェルを討った俺達が間違ってるって言いたいのかよ!」

 

「そういう話じゃねぇ!!」

 

 シンの言葉にランドは声を荒らげる。

 

「ただ 、お前達が討とうとした奴に、メシも通らなくなって泣くくらい大事に想ってる娘が居ることを理解しろってこった」

 

 銃を撃ち、誰かから恨まれる。

 引き金を引く以上、それは当たり前の事だ。

 それを頭で理解して憎まれる覚悟を持つ。

 だが実際に恨みをぶつけてくる相手が現れる事は稀だ。

 だから忘れてしまう。自分が討った者にも、大切に想う誰かが存在するということを。

 簡単に、忘れられるのだ。

 フィアラが出ていった扉を見つめてセツコが呟く。

 

「あの子、泣いてた……」

 

 背中を向けられていた他のメンバーは気付かなかったようだが、横から見ていたセツコだけは見ていた。

 その泣き顔を。

 穢らわしいと払われた手の平を見る。

 セツコもシンがフリーダムに勝つ為に協力した。

 シンがステラの死を乗り越えられるように。

 区切りを付けられるように。

 憎しみで戦ってはいけないと諭しながら。

 セツコ自身、チームを喪った悲しみから、戦争で悲しみの涙が拡がらないようにと戦場に身を投じている。

 だけど、あの子を涙を流させたのは自分達なのだと。その手が震えていた。

 

 フィアラが去って行ったドアを睨み付けているシンにルナマリアが話しかける。

 

「どうしたのよ、シン。あんな小さな子に手を上げて」

 

「……別に」

 

 苛立たしげに答えるシンにカミーユが続く。

 

「何か、余程気に障る事でも言われたのか?」

 

「何でもないって言ってるだろ!」

 

 少しだけ声を荒らげてからズカズカとサロンを出ていく。

 

 ────良かったですね。あの大きなMS。自分の手を汚さずに始末してもらえて。

 

 せせら嗤うように言われたあの言葉に、シンは頭に血を昇らせた。

 あのチラムの街での戦闘。

 もう少しで。もう少しでステラを助けられる筈だったのだ。

 フリーダムが余計なことをしなければ。

 

「何も知らないくせに……!」

 

 ギリッと歯を鳴らして、シンはフィアラを叩いた手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前を見ずに走っていたフィアラは途中でキラくらいの少年とぶつかる。

 

「前を見ないで。危ないだろ」

 

 叱るような声で話かける少年。しかしフィアラは少年が着る、ザフトの赤服を見て、目の前が怒りで真っ赤になった気がした。

 

「っ!!」

 

「おいっ!?」

 

 突き飛ばすように押し退けてフィアラは走り去る。

 

 

「なんなんだ……」

 

 納得いかないように1人愚痴る少年にフィアラを追いかけていたメールと会う。

 

「アスラン! 今ここにフィアラ! 銀髪の女の子が通らなかった?」

 

 

「あ、あぁ。そこを通って行ったが……」

 

「そう? じゃあ部屋か……ありがとね、アスラン!」

 

 すぐに追いかけていくメール。

 それを見ていたアスランは納得できないように眉間にしわを寄せた。

 

「なんだったんだ? いったい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メールがフィアラの部屋に着くと、彼女は部屋で身を縮めていた。

 

「……謝りませんから」

 

「……」

 

 拗ねたようにフィアラが呟くと、メールは特に否定することなく棒立ちになる。

 

「謝って……たまるか……!」

 

 項垂れて自分に言い聞かせるように呟く。

 その痛々しい姿にメールは、近づいて寄り添い、頭を撫でた。

 続けていく内に落ち着いたのか、フィアラがポツリと話し始める。

 

「私、あの人達……嫌いです……」

 

「……うん」

 

 メールと視線を合わせずに下を向いたまま続ける。

 先程、僅かに聞いたアークエンジェルに対する風評。

 それは決して好意的な物ではなく、憤りが込もっていた。

 だからこそ────。

 

「もっと、色々と聞いておけばよかった……」

 

 そうすれば、あんな不様な癇癪ではなく、しっかりと反論できたかもしれないのに。

 わめき散らして逃げることしか出来なかった。

 

「……悔しい」

 

 あの研究所から助け出されて。優しくしてもらった。

 自分の力で少しだけ役に立てて、褒められ、それだけで満足し、何も知ろうとしなかった。

 余計なことを訊いて、疎まれたくなかったから。

 ポタポタとフィアラの目から液体が床に落ちる。

 

「ちゃんと、庇うことすら出来ないなんて……それが、悔しい……」

 

「……そんなことは、ないよ。きっと、あんなに真剣に怒ってくれて。それだけで嬉しいと思うよ」

 

 なんて薄っぺらい言葉だろうと、メールは思う。

 そもそも、生存すらまともに確かめようともしなかった自分達が何を言えるのか。

 それでも、それ意外の言葉が見つからなくて。フィアラが落ち着くまでずっと傍にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツコがフィアラの部屋の前に立ったのはそれから1日間を置いてからの事だった。

 最低限落ち着くにはそれくらい必要だろうと思って。

 部屋の中から歌が聴こえてくる。

 以前、アークエンジェルで歌われてた歌。

 あの時は心が安らぐような。どこか包まれるような温かさを感じたが、同じ歌の筈なのに、今は空虚で不安を煽る。

 

 歌が終わり、ノックをすると、ドアが開く。

 

「あ……」

 

 ドアを開けてくれたフィアラを見て思わずそんな声が漏れた。

 驚いたのはその瞳。

 どんよりと暗い、金の瞳。

 こちらを飲み込みそうな瞳をセツコの顔に向ける。

 

「なにか?」

 

「あ、その……うん……少し、話がしたくて……」

 

「はなし?」

 

 焦点すら合ってないように感じる瞳でセツコは中へと通されると、備え付けてある椅子を勧められた。

 フィアラも、ベッドに腰かける。もしかしたらセツコが訪れる前からかもしれないが。

 

「……それで、話ってなんですか?」

 

 不機嫌そうな態度を隠そうともせずに問う。

 そんな相手にセツコは呼吸を調えて先ずはシンが叩いてしまった頬について訊く。

 

「シン君が叩いちゃった頬は大丈夫?」

 

「別にアレくらいなんとも」

 

 実際、叩かれた際に派手に倒れたがシンはさほど力を入れていない。現に叩かれて赤かった頬も既に元の色に戻っている。

 

「ごめんなさい。止められなかった私達の責任ね」

 

 サロンに訪れたあの時に来た道を戻らせて遠ざける事も出来た筈。

 躊躇した結果がアレであったのだから多少の罪悪感はあった。

 

「あなたが謝る事じゃないと思います」

 

 対してフィアラは、アークエンジェルやフリーダムを討った1人として好感は無くとも、叩いた本人でもないのに謝罪されたいとは思わない。

 もっとも、叩いた本人にも謝って欲しい訳ではないが。

 それからセツコは本題に入った。

 

「フィアラちゃんにとって、アークエンジェルはどんな人達だったの?」

 

 セツコの言葉にフィアラは目を見開いた。

 アークエンジェルの行動を非難していたZEUTHの言葉を聞いて激昂した姿を見て、彼らの事が気にかかっていた。

 もしかしたら、UNの情報に騙されて居たとき同様に、先入観を持っていたのではないか? 

 もちろん、彼らの行動の全てを肯定するわけではないが。

 だが、非難するにしても何にしても、自分達は彼らの事を知らなさ過ぎる。

 彼らがどんな想いで戦っていたのか、近くに居たこの少女から聞いてみたいと思った。

 

「貴女が知ってる範囲でいいから、教えて欲しいの」

 

 しかしそのセツコの言葉にフィアラの顔がみるみると憤怒の表情に変わる。

 

「いまさら……」

 

「え……」

 

「いまさら、なんでそんな事訊くんですか!!」

 

 座っていたベッドから立ち上がる。

 

「気になってたなら、あの時に戦いなんてしないで話せば良かったじゃないですか!! 他のZEUTHの人達も居たんだから!!」

 

 感情のままに捲し立てるフィアラ。

 

「あの町の時だって、町の人達を助けようとしただけで! それなのに、あのMSを討った事も否定して……!」

 

 あのMS(デストロイ)にはシンの大切な人が乗っていた。それを討ったフリーダム(キラ)を憎んだ。

 セツコがその事を説明しようとしたが、エネルギーが切れたように再び座って顔を手で覆う。

 

「あの時、キラさんにあのザフトを撃つ気はなかった……それを追いかけ回して殺しておいて、いまさら……今更……っ!」

 

 声から滲み出る怒りと憎しみ。

 それはそのまま拒絶へと繋がる。

 

「出ていってください……」

 

「私達は……」

 

「出てってっ!!」

 

 何も聞きたくないと完全に声を上げるフィアラにセツコはこれ以上話をするのは無理かと出ることにした。

 

「……また、来るわね」

 

 それだけを言い残して部屋を後にする。

 フィアラは忌々しげにベッドに顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、また、来訪を告げるノックがする。

 時計を持たず、部屋に引き込もっているフィアラには正確な時刻は分からず、メール辺りが食事を持って来てくれたのかもしれないと手帳に書き込む手を止めてドアを開けた。

 

「だれ……?」

 

 ドアを開けるとそこに立っていたのは見知らぬ男性だった。

 白衣を着た、蟹を思わせる頭髪の中年男性。

 その男性。トリニティエネルギーの開発者である風見博士は笑みを浮かべてフィアラを見下ろしていた。

 何か嫌な予感がして部屋の奥へと下がるフィアラ。

 そして許可なく部屋の内側へと入るとその手が伸び、フィアラの口を覆って押し倒す。

 

「っ!?」

 

 突然の事に怯えるフィアラに風見博士が話し始めた。

 

「ふふふ。解っているぞ。君の能力はPMの毒を無力化するなどという程度のモノではない。あれは、次元力を用いた事象への干渉。そうだろう?」

 

 話ながら懐から注射器を取り出す。それを見てフィアラは押さえられた口からひっ、と声が漏れる。

 

「君の身体を調べさせてもらう。そうすればゴッドシグマは! そしてZEUTHも! 更なる力を手にして地球を守る事が出来るのだ!!」

 

 言って注射器をフィアラに打とうとする。

 混乱する頭でどうにかしようと身動ぎするが、成人男性の力に抗えないでいる。

 恐怖から反射的に手にしていたボールペンで風見博士の眼球を突き刺した。

 

「ぎゃあああぁああああっ!?」

 

 思わぬ反撃から絶叫を上げる。

 フィアラは、上半身だけを起こしたまま、壁まで下がった。

 風見博士の声に、艦内の人間が集まって来た。

 

「どうしたっ!?」

 

 ランドがメールと共に現れる。

 刺された眼球を押さえる風見博士と転がっている注射器。

 そして怯える様子のフィアラ。

 この部屋に居たのが誰かを考えれば、どちらが先に手を出したかは明白だった。

 

「おいアンタ! いったいこの子に何を────」

 

 ランドが風見博士に詰め寄る。

 フィアラは床に転がっている注射器を見た。

 そこで、あの研究所での記憶が刺激(フラッシュバック)される。

 自分達の事を調べる研究者達。

 度重なる実験で死んだ母と姉2人。

 そして後を追う筈だった自分。

 それら全てが頭に駆け巡り、フィアラは恐怖に染まりきった顔で悲鳴を上げた。

 

「あ、あぁ……あああああぁああぁああああっ!?」

 

「フィアラ!?」

 

 ベッドの端に移動し、毛布にくるまって体を隠そうとするフィアラをメールが抱き締める。

 

「大丈夫! ほら、もう大丈夫だから!」

 

 メールが宥めるがしばらくフィアラはその場から動こうとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に風見博士はこの件に関して自らの非を認めず、むしろフィアラを能力に関して調べるべきだと主張した。

 当然、そんな主張が認められる筈もなく、風見博士はフィアラから遠ざけられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風見博士に襲われた件から更に周りに心を閉ざしたフィアラを心配してメールが外出の誘いに訪れる。

 

「ねぇ、フィアラ。ちょっと街へ買い物に行かない? 引き込もってばかりじゃ体にわる────」

 

 そこでメールは部屋がもぬけの殻なのに気づく。

 

「フィアラ?」

 

 既にフィアラは、ZEUTHの何処にもいない事に気付き、捜索したが、見つからないまま異星人との戦闘に突入し、そのまま戻ってくる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEUTHから飛び出したフィアラは、そのまま宛もなく彷徨っていた。

 あそこに居ては行けないという危機感のままに。

 風見博士のような手合が1人出たのなら、また現れないとも限らない。

 疑心暗鬼に駆られたフィアラはZEUTHを出ることを決めたのだ。

 

 街を出て果てなく続きそうな道路を歩いていると、知らない機体がフィアラを前を塞ぐように着地する。

 中から現れたのは仮面を付けた黒衣の人物だった。

 

「初めまして、フィアラ。かつてオリジン・ローと契約した一族、その末裔。いや、君と話すのにこの仮面は無粋だね」

 

 仮面を取ると、そこには銀髪の美男子がいた。

 馴れ馴れしい態度で男は近づいてくる。

 

「僕は、ジ・エーデル・ベルナル。君を迎えに来たんだ」

 

「迎え……?」

 

「そう。僕が用意してあげるよ。君の剣と鎧。そして翼を。君の為の機体を、ね」

 

 返答を聞く前にフィアラの顔に手を近づける。

 すると、彼女の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか、この後、何故か第二次の世界に行き、単独でPMのみと戦闘をする模様。

アークエンジェル加入時にランドはともかくセツコが割って入るのに違和感があったのでオリ主と接点を入れてみました。


キラとの再開時。

スメラギ「知り合いなの?」

フィアラ「えぇ。もっとも、MIAになって、生きていることをまったく教えてもらえない程度の薄っぺらい関係ですけどね!」

キラ「…………(目逸らし)」

クロウ(事情は知らねぇが、笑顔でメチャメチャ怒ってんな……)


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見失った心

 それは、ZEUTHからフィアラが居なくなった事が発覚した時の事。

 

「ど、どうしよう! フィアラが居なくなっちゃったよダーリン!」

 

「落ち着け! いくらなんでもそう遠くには行けない筈だ! 捜しに行くぞ、メール! お前らも、悪いが手伝ってくれ!」

 

 慌てるメールを落ち着かせながらランドが周りの人達に協力を求める。

 レントンから始まり、元アウトサイダー組のメンバーを中心に協力者が集まる。

 それは、アークエンジェル撃墜後のフィアラの様子を知っていることでの罪悪感もあったのかもしれない。

 もちろん、純粋に心配している面もあるだろうが。

 

「お金とか持ってない筈だから、町の人に聞けばすぐに見つかるよ!」

 

「うん。1人で行動したら危ないし、早く見つけてあげないと!」

 

「アイツの銀髪とか珍しいからな! 目撃してる情報は集めやすい筈だ!」

 

 レントンやエウレカ。ガロードなど、比較的交流の多かった者は率先して動く。

 だが、協力的でない者も当然居た。

 

「放っておけば良いだろ」

 

「おいシン!」

 

 無体な言葉を吐くシンにカミーユが咎めるように名前を呼ぶ。

 しかし、シンは収まらずに吐き捨てるように続ける。

 

「自分から出ていった奴の事なんて構うことはないだろ。大体、何でアークエンジェルに居た奴がZEUTH(ここ)に居たんだか」

 

 不機嫌そうに自身の不満を吐き出すシン。

 彼の中でフィアラに対する印象は最悪だった。

 小さな女の子といえど、自分達が死ねば良かったなどと言う相手に好感など持てる筈もなく、自分に言った一言も未だに許していない。

 まるで、かつてミネルバにカガリが乗っていた時に逆戻りしたような態度。

 見れば他にもシンと似たような思いが顔に出ている者もいる。

 そんなシンの態度にアポロが食って掛かる。

 

「お前、それ本気で言ってんのかよ!」

 

「ここに居たくないってんなら、別に引き留める事なんてないだろ。ずっと部屋から出て来もしないんだし」

 

 拗ねた子供のような態度のシンにガロードが声を荒らげた。

 

「誰のせいでそうなったと思ってんだよ!!」

 

 フィアラが心を閉ざす原因となったのはアークエンジェルとフリーダムの撃墜を見てしまったのが原因。

 確かにアークエンジェルがザフト側のZEUTHと交戦して被害を与えたことは聞いた。

 が、あまりにも不確かで不安定なこの多元世界。すれ違いや目的の違いから戦ってしまう事もあり、自分達もそうだった。

 少なくとも彼らと短いながらも交流したアウトサイダー組は、アークエンジェルの面々が愉快犯としてそんな事をしたとは思えない。

 むしろ、真剣に悩んで自分達なりにこの世界の為に出来る事を探していたように思える。

 多少なりとも交流を持ち、仲間意識が芽生えていたガロード達にはそんな一方的に貶められるような人達とは思えない。

 だからこそ、癇癪染みたもう一方の言い分に限界も感じていた。

 

「俺達が悪いって言うのかよ!」

 

 喧嘩になりそうだったその場をレイ・ザ・バレルが割って入る。

 

「PMの毒性に対処出来るのは彼女だけだ。他の勢力に知られてその手に落ちる前に見つけ出すべきだろう」

 

「そういう事じゃないっ!」

 

 まるで貴重な道具だからこちらに置いておくべきだと言うようなレイの発言にメールが強い反発の声を出す。

 そこで話を聞いていたアナ姫が哀しそうに口を開く。

 

「どうして、そんなことが言えるのですか?」

 

 小さな身体を震わせて問うアナ姫。

 

「大切な人を傷付けられて怒ったり、悲しんだりするのは当たり前ではないのですか? 貴方達が嫌っているから、その人を想う人が居ては()()()()のですか?」

 

 アナ姫の言葉に今までアークエンジェルに対して否定的な意見を述べていた面々は呆気を取られた表情をする。

 

「歌を、聴きました。皆さんと戦う前にフィアラの……」

 

 月光号で僅かな時間、聴いた歌。

 こちらから話しかけて頼み、自分達の為に歌ってくれた。

 フィアラ自身の何かを表現するように、歌っていた。

 どこかで置き忘れてしまった感情(おもい)を思い出させてくれるような温かな歌。

 

「でも……今のフィアラの歌は、まるで泣いているみたいで」

 

 迷って帰り道が分からず、泣きながら家を探す子供のような。

 その不安や寂しさや怖さが伝わってくるのだ。

 もう一度、聴かせて欲しい。彼女が心ままに歌い上げるあの温かな歌を。

 

「このままでは、私達、フィアラの友達にも、仲間にもなれないままでお別れなんて……」

 

 胸を鷲掴みように手を当てるアナ姫。

 誰もが沈黙する中で、始めに動いたのはレントンだった。

 

「ここにいても仕方ないし。俺、町に探しに行くよ」

 

「レントン……」

 

「アナ姫と同じで俺も、またあの子の歌を聴きたい。それに、PMの事で色々と助けてくれたのに、結局フィアラが1番して欲しかった事をしてあげられなかった。それって本当にただ利用してるだけみたいじゃないか」

 

 何だかんだでこれまでフィアラのおかげでPMの毒から沢山の人を助けられた。

 だから、このまま放っておくなんて出来ない。

 せめてアークエンジェルの無事を確認して送り届けるまでは。

 町へ行こうとするレントンにマリンも同意する。

 

「今回、彼女がここを出るのを決めたのは風見博士の暴走が原因だと思う。だから俺達にも彼女を追い詰めた責任があるだろ」

 

 先日起きた風見博士によるフィアラを襲いかかった事件。

 それ件でフィアラのZEUTHに対する不信感が限界を超えた事は誰もが感じていた。

 しかもその後、前にも増してフィアラが引きこもり、メールやアナ姫などの極一部を除いて会うことすら出来ず、ZEUTH側から謝罪の1つすら出来ていない状態だった。

 これ以上話す事はないと町へ出ようとすると、艦内放送が流れる。

 

『ガイゾックを確認! 各員、戦闘準備をお願いします!』

 

「こんな時に!?」

 

「クソッ! タイミングが悪すぎるぜ!!」

 

 敵が来た以上、パイロットは出撃しなければならない。

 この後の戦闘事態は問題なく終わった。

 だが戦闘中も、戦闘後に町の住民に聞き込みなどでフィアラを探したが、結局その姿を見つけることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランがZEUTHからアークエンジェルに巻き込んだメイリンと共にやって来て落ち着き始めた頃。

 キラはある質問をしに訪れた。

 

「アスラン、ちょっといいかな?」

 

「どうした? キラ」

 

「うん。フィアラ。前に成り行きでアークエンジェルに乗ってて、君達と戦った時に別のZEUTHの艦に移ってた銀髪の女の子が居たんだけど……その、知らない?」

 

 キラの質問にアスランは前にぶつかった女の子の事を思い出す。

 あれがアークエンジェルと縁のある子だと知るのはそのすぐ後だったが。

 少し言いづらそうにアスランは答えた。

 

「彼女はZEUTHを降りたよ」

 

「なんで!?」

 

 アスランの言葉にキラが瞬きする。

 そこからは人伝に聞いたことを告げる。

 

「俺達が死ねば良かった、だそうだ」

 

「え?」

 

「ZEUTHで、お前達の行動を非難している会話を聞いて、そう叫んだそうだ。それからは、部屋から出て来ることも稀だったらしい。俺は結局、一度も言葉を交わせなかったよ」

 

 アスランも一度、アークエンジェルの事が聞きたくて部屋に訪れた事があったが、ドアを開けることはなかった。

 すれ違ったあの時、敵意をむき出しにした少女の顔を思い返す。

 それは、大切な場所を奪われた者の怒りの表情で。

 過去の大戦で友を失った自分もした筈の顔だった。

 いったい何度あんな顔を誰かにさせるのかと胸が痛み、どうしてもう少し彼女を気にかけてやれなかったのかと自責からアスランは自嘲の笑みを浮かべた。

 

「きっとあの子にとってアークエンジェル(ここ)は、大切な場所だったんだろうな……」

 

 アスランの言葉を聞いてキラもショックを受けている。

 キラが撃墜され、安全からフィアラへの連絡を絶った。

 フリーダムを失ったこともあり、自分達の生存を知られてアークエンジェルに危機が迫ることを怖れて。

 それに接触したZEUTHの人達は善人で、自分達から離れても大丈夫だろうと楽観視していた。

 少しだけ、とアークエンジェルを離れたフィアラが、かつて守りたかった赤い髪の少女と重なった。

 話があると不安気な顔で告げ、結局話をすることが叶わなかった彼女と。

 

「フィアラは、さ……」

 

 また、あの時の過ちを繰り返してしまったのだろうか? 

 

「ラクス、歌を教わったり。カガリやミリアリアにも可愛がってもらってて……」

 

 何を伝えたかったのか、ハッキリせずに口を閉じてしまう。

 いくらあのZEUTHの人達が善人でも、フィアラと個人的な信頼関係はなく、アークエンジェルがMIAになってどれだけショックだったのか、推し測れなかった迂闊さが悔やまれる。

 

「カガリにフィアラを探してもらえるように頼んでみる」

 

「そうだな……」

 

 自分達の為に怒ってくれた少女の無事を人任せに祈るしかないことが歯痒かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦禍は拡大していく。

 誰もが野心に取り憑かれ、己が理想を成就させようと世界は混沌は広がって行く。

 そんな中でも、人と人との繋がりは生まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、戦闘を戦闘を終えて、アークエンジェルとエターナル。それに所属するMSとZEUTHの舞台が睨み合う形になっている。

 

「僕達は、貴方達に許されない事をしたと思ってます。でも、僕達が望む未来は貴方方と同じだとも思ってます」

 

「だからって、これまでの事を簡単に水に流せるかよ!」

 

「全部が全部お前達の所為だなんて言うつもりねぇがよ。はいそうですかって、納得出来るか……!」

 

 かつて戦場に介入されたZEUTHの面々が当然の如く反発を返す。

 キラ達もそれを粛々と受け止めるように反論しない。

 

「行こう、キラ」

 

「うん……」

 

 アスランに促されてエターナルに帰艦しようとする。そこで待ったをかけたのがランドだった。

 

「だから、そうやって諦めんなよ。話さなきゃ、分かんねぇ事だってあるんだぜ?」

 

「ランドさん」

 

 ここでランドが引き留めに入る。

 

「異星から来た奴や、未来の地球から着た奴。種族が違う奴とだって、最初はどうあれ、ここまで上手くやってこれたんだ。向こうに撃つ気がねぇってんなら、話をしてみるのも悪くねぇんじゃねぇか?」

 

「だけどよ……!」

 

「私も、彼らと話して見るべきだと思います」

 

 まだ納得出来ない者が声を上げるが、そこでセツコがランドに賛成する。

 以前、フィアラに彼らの事を聞こうとしたが、憎しみから拒否されてしまった。

 アスランが脱走した真意も、知るべきだろう。

 

「私達は憎しみや誤解、独善で戦う間違いを知り、抗って来ました。でも、ここで彼らを拒絶すれば、それが全て嘘になってしまうから」

 

 それでもまだ納得出来ない面々がおり、そこでミネルバが動く。

 ミネルバは、プラントへの帰投命令が出ており、一緒に行けるのはここまでだと。

 

 シン、ルナマリア、レイには自身の判断に委ねたが、ザフトに戻ることを決めたのはレイだけで、シンとルナマリアはそのままZEUTHに残ることとなった。

 ミネルバ艦長であるタリアの勧めもあり、現れたハマーン共々話し合いの場を設ける事となった。

 

 しかしそこで、この宙域に居る全員がその反応に驚きを示す。

 突如レーダーに表示された見たことの無い機体。

 MSなどの飛行形態に似たシルエットの乳白色に金ラインが施された機体。

 

「なんだ? あの機体は?」

 

 誰かが、皆の疑問を代弁する。

 その場に佇んでいただけだったその所属不明機は、インパルスへ凄まじい速度で接近する。

 

「え!?」

 

 衝突する直前に先端が割れて脚部となると、飛行形態から人型へと変わり、左腕の小さめなシールドで押し込むように破壊された戦艦の残骸に突っ込ませる。

 ルナマリアは、強い衝撃を受けて意識が飛びかけるが持ち直して所属不明機を睨んだ。

 

「アタシが1番倒し易そうってこと? 舐めないでよね!!」

 

 ビームサーベルを引き抜き、応戦しようとするが、それより早くシールドの内側に搭載されていたビームサーベルを引き抜き、インパルスの右腕を斬り落とす。

 それからサーベルを収納して右腕でインパルスを固定すると、シールドの内部から実体のブレードが飛び出しコックピットに向けて何度も刃を振るう。

 VPS装甲であるインパルス故にコックピットが貫かれる事はなかったが、何度も何度も、嬲るように実体剣を叩きつけてくる。

 

「ルナッ!!」

 

 シンがデスティニーを駆ってルナマリアを助けようとするが、それよりも早く動いたフリーダムとジャスティスが不明機へと仕掛けた。

 

 ドラグーンで囲うようにビームを放つフリーダムとその隙間を通るようにジャスティスのブーメランが襲いかかる。

 ドラグーンのビームの雨を大きく移動する事で避けると、ブーメランは肩の装甲がスライドし、(バリア)を展開して阻む。

 尻部に収納されたライフルを抜き、フリーダムへと照準を合わせる。

 しかし不明機は、ライフルを撃たず、まるで戸惑うようにその場で動きを止めた。

 その一瞬の静止にアロンダイトを引き抜いたデスティニーがその刃を振るう。

 

「ルナを、やらせるかぁあっ!!」

 

 大きく振りかぶった刀身を避けると、そのまま飛行形態へと戻り、戦域から離脱していく。

 

「なんだったんだ? あれは……」

 

 苛立たしげに呟いたシンの疑問に、誰も答えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方も、人間だったんですね……」

 

 この場に居たZEUTH、アクシズ、オーブの代表達が話をしている最中、シンは仇敵であったフリーダムのパイロットであるキラ・ヤマトと対面していた。

 ステラを傷つけた事を謝られ、これまでしてきた事や、これから自分たちがすべき事を聞いた。

 彼らにも守りたい物があり、その為の道を迷いながら模索していた事を、ようやく実感する。

 頭では理解しているつもりでも、心のどこかで彼らをあの、ギム・ギンガナムのように戦いを欲するような者だと思い込んでいた。

 話してみれば何て事のない、自分と同じ人間なのだと実感できる。

 話が一段落したところでランドとメールがやって来た。

 

「よう。話は終わったか?」

 

「えぇ、まぁ」

 

 苦笑するキラにランドが真剣な顔になる。

 

「悪かったな……」

 

「え?」

 

「俺達はお前達と行動してたときに客扱いで遠慮して、踏み込む事をしなかった。それが、お前さんを傷つける結果になっちまってよ」

 

 信頼関係を築くのに時間が足りなかった、といえばそれまでだが、その所為でもっと早く手を取り合える筈だったのを、ここまで長引かせてしまった。

 

「そんな。僕達も、録に話もしないで……」

 

「それと、謝んなきゃいけねぇのはもう1つだ。メール」

 

 ランドの後ろにいたメールが手にしていた手帳を渡す。

 

「フィアラの日記が書かれた手帳。ZEUTHを出るとき慌ててたみたいで、通路に落ちてたの」

 

 落としたことを気付かずに出ていったのだろう。

 それを見つけて今までメールが預かっていた。

 胸ポケットに収まりそうな小さな手帳。キラはそれを開いて中身を見る。

 

 最初は、慣れてない様子で1日に一言書いて終わっているが、少しずつ1日に使うスペースが増えていた。

 だが、その手帳に暗い陰が差し込むようになったのはアークエンジェルと離れてしまってからだ。

 日記の日付も、数日間を置いている事もある。

 

 ○月○日

 今日、キラさん達が消えてくれて良かったと笑っている声を聞いた。

 人を殺してこの部隊の人達は嬉しそうに話している。

 許せない許せない。

 何でこんな奴等が生きて。

 ここに居たくない。誰か助けて助けて助けて────。

 

 等々、フィアラの被害妄想が混じった日記の文が書かれている。

 ただ分かるのは、この日記が進む度にフィアラの精神が追い詰められていった事だけ。

 

 日記を目で追って険しい表情をするキラ。

 それを見て、シンが後悔するように呟く。

 

「俺、前にあの子を叩いたんです……その時はバツは悪かったけど、アイツは俺達が死ねば良かったって言って……頭にきて、あの子がどんなに傷ついてたか考えようともしなかった」

 

 今なら解る。アレは、フィアラなりの精一杯の虚勢だったのだ。

 自分の大切な人達を傷つけられて、悪く言われ、胸を張られたら、どう思うのか。許せないに決まってる。

 そんなことすら想像が及ばなかった。

 だって、自分が倒した者達にも大切に想う人など、居てはいけないから。

 心のどこかでそう逃げていたのだ。

 以前、アナ姫に言われた事を実感してシンは視線を落とす。

 

 この場を去った少女と、無性に話がしたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんとかキラ達を反論させようと思ったけど、彼らって基本自分達の問題行動に対して言い訳するイメージがないから結局ifルート準じになりました。

でも、無印Zで自分達を正義の愚連隊とか言ってる辺り、アークエンジェル組と大差ない気がする。


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仲間にならなかった少女(ひと)

やっぱりZEUTH側の謝罪が中途半端になった。
今回はフィアラがどうしてアークエンジェルに保護されたのかを大雑把に説明する会です。


「何が死ねば良かったよ! こっちの苦労も知らないで!」

 

「ホント。大体、アークエンジェルが余計な事をしたせいで話が拗れた上に向こうのZEUTHと戦う羽目になったのに。それに部隊内の空気まで悪くしてくれちゃってさ」

 

 艦内の通路で話している憤りを交えた会話がなされていた。

 ZEUTHの主要メンバーの大半は15歳前後の少年少女である。

 自分たちに不利益を与えた存在に負の感情を抱くのは当然であり、これまで幾度と地球の脅威と戦い、排除してきたという自負もある。

 だからそれを否定、非難する言動を受ければ腹が立つのは仕方がないだろう。彼、彼女達も人間なのだから。

 しかし、それで丸く済むのは陰口が誰にも聞かれなかった場合である。

 会話をしていた1人が悪気なく言い放つ。

 

「ほんと。これ以上変なことになる前に出ていってくれないかな。PMの事があるのは解るけど、あれだってその内どうにかなるだろうし」

 

 

 どれだけ思っていても言葉にしなければ伝わらない事がある様に、言葉にしてしまえば誰かに伝わってしまうのだ。

 話していた彼女達からは見えない位置に3つの人影があった。

 

「あ、あのフィアラ。これは、その……」

 

「皆も本気で言ってるわけじゃ……」

 

 人が生活していく以上、まったく部屋を出ないという事はなく、普段は引き込もっているフィアラもこの時は左右に居るアナ姫とシルヴィアの勧めでシャワーを浴びて出てきたところだった。

 もしかしたらまた怒りをぶつける行動に出るかとも思ったが、フィアラはその場で留めるだけだった。

 

「べつに……もう、聞き慣れましたから……」

 

 こうした会話が聞こえるのは、これが初めてではない。

 最初は耳を塞いでこうした会話を流していたが段々と慣れて心が動かなくなった。

 それでも苛立ちと鬱屈とした感情だけは消えることがなかったが。

 結局、ここで自分の言葉は子供の癇癪でしかなく、ここに居られるのは、ジャミル達の好意と、PMの毒性に対抗できる都合良い道具だからに過ぎない。

 そしてどちらの割合が多く占めているかといえば────。

 そこまで考えてフィアラは考えを閉ざす。

 考えれば考える程に、醜い感情に支配されるから。

 せめてアナ姫など、気遣ってくれている人達にはこんな醜い気持ちを見せたくなかったから。

 だから、意識的に考えることを止め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、あ……」

 

 フィアラがシミュレーターの中で目を覚ます。

 

「んー!」

 

 そこには、唇を突きだして迫るジエー博士の顔があった。

 

「キャアッ!?」

 

「アウチ!」

 

 反射的にジエー博士の顔を反射的にグー入れて遠ざける。

 しかし頬を殴られた本人はどことなく嬉しそうだった。

 

「グッジョブ! 中々良いパンチだったにゃー! でもキス失敗でちと残念にゃね」

 

「寝起きに、アップで近づかないでください!」

 

 肩で息をして文句を言うフィアラ。正直、突然ジエー博士の顔が目の前にあるのは心臓に悪い。目覚ましには強力だが。しかしジエー博士は気にした様子もなく話を変える。

 

「それより、ま~たシミュレーターの中で寝て。そんなんじゃ身体壊すにゃ?」

 

「……大丈夫です」

 

 ジエー博士の苦言にフィアラは視線を合わせずに答える。

 こうしてフィアラがシミュレーターで寝てしまうの初めてではない。

 むしろ、ここ数日は与えられた自室で寝るより多いくらいだ。

 それを指摘すると彼女は子供のように大丈夫です、とだけ繰り返す。

 フィアラがこうなってしまったのは、初出撃の戦闘でフリーダム。そしてアークエンジェルの存在を確認してしまった事が原因だった。

 混乱から逃げてしまったが、その後にアークエンジェルがZEUTHと行動を共にしていると聞いてなおのこと混乱した。

 どうして、自分達を殺そうとした者達と協力しているのか? 

 どうして、生きているなら一言教えてくれなかったのか? 

 それらを考えると途端に苛立ちが押し寄せてくる。

 

 結局のところ自分という存在は、その程度でしかなかったのか? 

 そう考えれば考えるほど気が沈み、シミュレーターに齧りついて考えないようにして逃避する。

 そこでシエー博士が更に話題を変える。

 

「フィアラちゃんに耳寄りな情報にゃん! ZEUTH、今こっちに向かって来てるよ」

 

「へ?」

 

 呆けた表情のフィアラにジエー博士が続ける。

 

「マジマジ! 今までカイメラが隠してた真実を公開するために、UNの中継ステーションを押さえる気にゃ。もちろん、アークエンジェルも一緒に!」

 

「……」

 

 アークエンジェルの名前を聞いてフィアラの肩が僅かに跳ねた。

 

「で? フィアラちゃんはどうするにゃ?」

 

「?」

 

「ここを出て、ZEUTH──―アークエンジェルと合流したいのなら止めにゃいよ? ワシ。フィアラちゃん用に調整したS4Uもプレゼントするにゃ。もっとも、フィアラちゃんを拾ってくれたあの人とも敵同士って事になるけど」

 

 どうする? と何を考えているのか分からない顔で問うジエー博士。

 その質問で出したフィアラの答えは────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、そこでアークエンジェルに協力していた情報屋(ジャーナリスト)も合流するんですね」

 

「うん。UNに頼らずに集めてた情報を纏めれば、それなりに信憑性は得られると思う」

 

 UNを操作しながら答えるシンの質問にキラ。

 かつてUN内で表示されていたZEUTHの改竄された情報。

 彼らの行動からそれらの情報に疑問を持ったキラ達は、UNによる情報収集を早々に止めて、独自の情報網を広げた。

 その事を聞いてシンが不満そうに言う。

 

「それならそれで、あの時言ってくれれば良かったじゃないですか」

 

 あの時、とは、ZEUTH同士の戦闘が起こってしまった時の事。

 話して誤解を解いてくれればあの戦闘を止められたかもしれないのに、と思ったのだが。

 だが、さすがにその件についてはキラにも言い分がある。

 

「だってシン。君、こっちの話を聞いてくれるような態度じゃなかったじゃないか」

 

「う!?」

 

 ステラを殺されたと思った復讐心から襲いかかったシン。あの時、キラ達が何を言おうと聞く耳持たなかっただろう。

 殺されたと思っていたステラが生きていた事を思えば、余計にばつが悪い。

 そんなシンの様子にキラは怒ってる訳じゃないよ、と苦笑した。

 キラからすれば、生きていれば良いと言う話ではなく、あの怒りは正当な物だと思っている。

 話題をUNに戻す。

 

「アスランからフィアラがZEUTH(ここ)を出ていったって聞いて、UNで試しに情報を集めてみたんだけど。ほら」

 

 誰でも書き込めるフリースペース。

 そこには好き勝手心無い事が書かれていた。

 ZEUTHから離れた土地とは全然別の場所で見ただの。死亡しただの。

 挙げ句の果てにどこぞで身体を売っているだの面白半分で書いただろう情報も数多く交錯していた。

 

「こんな感じだからね。遠回りでも、自分達で情報を集めるしかなかったんだ」

 

 キラの言葉に今更ながらUNに頼りすぎていた自分達の迂闊さを険しい顔になる。

 多くの情報が集まると言えば聞こえは良いが、改めてUNの曖昧な情報に顔をしかめた。

 自分達が互いのZEUTHを疑った時、ちょっとした画像と記事で踊らされていた事が今更ながら恥ずかしい。

 そこで集まっていた壇闘志也が呟く。

 

「俺達も行き当たりばったりなところがあったからなぁ……」

 

 情報が向こうから勝手にやって来ることが多くて自分達から情報を集める努力を怠っていた。

 UNに載っている情報の真偽をまともに確かめようともせずに決めつけてしまった。

 偽ラクスの件や本物のラクスが暗殺されかかった件もキラ達が話さなければ最後まで知ることもなかっただろう。

 彼らがザフトに暗殺されかかったのならこちらと協力できなかったのも頷ける話だった。

 オーブのこともあったのでどちらにしろ難しかったろうが。

 それでもこうして話をして、仲間として一緒に戦えば、望む平和の形は同じなのだと信じられる。

 

「悪かったな」

 

「え?」

 

「今までの事だよ。そっちは謝ってばかりで俺達から謝った事なかったろ?」

 

「いや、でもそれは……」

 

 キラ達の介入で被害が出て、戦場が混乱したのは事実だ。だから、謝られる理由は無いように思える。

 

「これから最後の戦いに挑もうってんだ! わだかまりは少しでも無くしておかないとな! これから戦うのは、今まで世界の真実をねじ曲げてきたカイメラの奴等なんだからよ!」

 

 快活に笑う闘志也にキラケンこと吉良謙作も乗る。

 

「そうだのう。それに、フィアラって子がZEUTHを出ていっちまった事についてもだ。すまんかった」

 

 風見博士の暴走でフィアラが傷付き、姿を消した。

 それは確実にこちらの落ち度だ。

 

「こんなことを言えた立場じゃないかもしれんが、元気な姿で見つかるといいな」

 

 生きていてほしい。

 そして今度こそちゃんと向き合って話したい。

 最後に桂木桂がキラの肩に手を置いて締める。

 

「そっちも、出来る限り言葉にしてくれると助かるけどな。抱え込み過ぎなんだよ、お前さんは」

 

「ええ、そうですね。必ず」

 

 他にも何人か謝罪し、キラは笑みを浮かべてその謝罪を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中継ステーションでのカイメラとの最後の戦いや、その1人であったツィーネの投降。

 そして世界の聖母と言われた、エーデル・ベルナル准将との決戦。

 それらを乗り越え、この世界の為に消えようとしているエウレカを救い、次元修復を行う為にZEUTHは宇宙へと上がる。

 そこで待ち受けていたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッバイ、エーデル様! 君のお仕置きは最高だったよ!」

 

 高笑いと共にエーデル准将を屠る、彼女が乗っていたレムレースの完成型。カオス・レムレース。

 それに乗る黒のカリスマを名乗っていた怪人、ジ・エーデル・ベルナル。

 この多元世界を混乱させた元凶としてZEUTHの前に現れる。

 ただ自身の快楽の為だけに世界を混乱させ、人の生き死にを嘲笑うジ・エーデルの存在を受け入れられる筈もなく、この世界を自分の遊び場と笑う男が許せなくて戦うのだと。

 

 レントンがニルヴァーシュでエウレカを取り戻すとジ・エーデルはあらら、と残念そうな顔をする。

 しかしすぐに笑みを浮かべてふざけた口調を取り戻した。

 

「流石に完成したてのカオス・レムレースでこの数を抑えるのは難しいね。それにしても、僕1人に大人数で襲いかかるなんて酷くない? それが正義の味方の戦い方なの?」

 

 焦った様子はなく、からかうような口調のジ・エーデル。

 

「うるせぇ! だったらお前も仲間でも何でも呼べばいいだろうが! 今更お前に手を貸す奴が居ればだけどな!!」

 

 苛立たしげにガロードが怒鳴る。

 それはジ・エーデルに手を貸す仲間が居ないことを確信しての言葉だったが、彼はふーん、と笑みを深めた。

 

「あ、そ。なら、遠慮なく僕もパートナーに力を借りようかな」

 

 指を鳴らすと、この戦闘区域に機体が1機増える。

 いつぞやの時に現れてインパルスに襲いかかってきた乳白色の機体がステルスを解除して人型で現れた。

 それを見てシンが怒り混じりに言う。

 

「アイツ、ジ・エーデルの仲間だったのか!」

 

 ルナマリアを襲った相手としてシンは闘志を昂らせた。

 しかし、次にジ・エーデルが発した言葉にその闘志は一気に下がる。

 

「さあ! 聴かせておくれ! 僕の為の讃美歌を!!」

 

「あれは、まさか!?」

 

 ジ・エーデルの合図に合わせて乳白色の機体から見覚えのある紋様が広がり、この戦闘区域を包む。

 宇宙空間であるにも関わらず聴こえてくる歌声。

 歌っている歌は違うが、その歌声には聴き覚えがある。

 

「フィアラッ!?」

 

 ラクスが席から身を乗り出してその歌声の主の名を言い当てた。

 その驚きはZEUTH全員にまで伝播していた。

 

「な、なんでフィアラがここに居るの!?」

 

 メールも慌てた様子を見せる。

 

「それは勿論、僕が保護していたからだよ。もっとも、居たのは僕しか知らない基地の最下層だけどね」

 

「お前があの子を操ってるのかよ!!」

 

 紅エイジが怒鳴るとジ・エーデルは心外そうに口を尖らせた。

 

「失礼だね。そんなことしたらフィアラのステキな力が使えなくなるかもしれないじゃないか」

 

「あの子の力だと?」

 

 アムロが疑問を口にすると、ジ・エーデルはそうさ! と応える。

 

「まさか、あの子の力がPMの毒を無力化なんてちゃちな物だと本気で思っていたのかい? はい、不正解! 彼女の本当の能力は、オリジン・ロー。次元力からエネルギーを取り出し、事象を操作する事だよ。今まではただ、PMの毒を無力化するように事象を操作してただけさ! そういう意味では彼女は生体スフィアとも言えるね」

 

「生体スフィアですって!?」

 

 まるで知識をひけらかす子供のような口調で続ける。

 

「彼女の一族は個体差はあるけど昔から次元力と繋がる体質を持って生まれてきてね。その魔法染みた力を求められてあらゆる人間に利用され続けてきた。最後に辿り着いたのがあの研究所だよ。残されたフィアラの母親と姉2人共々、その能力の解明の為に人体実験に晒された訳さ。もっとも、奴らの程度の低い実験じゃあ大したことも解らずに、母親は体をバラバラにされ。2人の姉は薬付けにされて保管されてたみたいだけど」

 

 知らなかったあまりのフィアラの過去に誰もが口を挟めずにいる。

 

「そして、フィアラの番になった時に彼女は自分の身を守る為に力を使って、あの研究所に居た人間を全員あそこから消したんだ」

 

「消した?」

 

「そ。個別に転移させてね。海の底や山の頂上。宇宙空間。果ては、別の多元世界に跳ばされたのも居るみたいだね。フィアラはもっとも強い力を持ってたみたいだし。それくらいはねぇ? ま、あの子は細かなところは覚えてないみたいだけど」

 

「覚えてない?」

 

「家族がモルモットにされて殺されて、幼いあの子の心が耐えられなかったんだよ。酷いことをされたって断片的には覚えてても、大事な部分は本能的に思い出すことを拒否してる。そうじゃなかったら心の傷が深すぎて、廃人になってたろうね。風見博士に襲われた時は断片的に甦ったみたいだけど」

 

 風見博士の名前が出て彼の弟子だったジュリィ野口が反応する。

 

「じゃあ、博士が彼女を襲ったのは……!」

 

「そう。彼だけはフィアラの本当の価値を見抜いていた。だから調べようとしたんだよ」

 

 そこでシンがあることに思い至って話に入る。

 

「じゃあ前に現れたときに、ルナを襲ったのは……!」

 

「あぁ。キラ君の仇を討とうとして君と間違えたんだよ。だって機体を乗り換えてるなんて知らなかったろうし。結局、アークエンジェルが無事なのに混乱して帰って来ちゃったけど。あの時は残念だったねぇ。君達がまた、キラ君やアークエンジェルを倒してそれを見せればより僕好みにフィアラの心が堕ちてくれたろうにねぇ」

 

「あなたはっ!」

 

 ジ・エーデルの言葉にキラが怒りを露にする。

 そこでセツコが質問する。

 

「なら、貴方は彼女に何をさせているのですか?」

 

 次元力からエネルギーを取り出し事象を操る。それならこの場にいる全員をどこかに跳ばすこともできるかもしれない。

 

「別に。フィアラにはこの戦いのリングを作ってもらってるだけだよ。大特異点への道は僕達を倒さないと辿り着けないって訳」

 

 大特異点の存在を隠しているカオス・レムレースと空間を歪ませて戦闘区域から出られないようにしているフィアラ。

 この2人を倒さないと次元修復が出来ない。

 ラクスがフィアラに呼び掛ける。

 

「フィアラ! 話をさせてください! フィアラ!」

 

「無駄だよ。あの機体。S4Uはこのカオス・レムレース以外の通信回線は受け付けないように設定してるから。僕のパートナーなんだから、君達との会話なんて必要ないでしょ?」

 

「S4U?」

 

「そう。正式名称は貴方に贈る歌(Song for you)。フィアラが次元力から取り出したエネルギーで動く、僕が用意した彼女専用の機体。能力の発動条件の歌も、事象を操るならともかく、ただエネルギーを取り出すくらいなら僕の技術でどうとでもなるしね。あぁ。以前、ダーリンやセツコちゃんの機体を弄らせてもらった時のデータはかなり役に立ったよ。ありがとう」

 

 以前、ジエー博士に機体を触らせた時のデータ。それがあの機体に活かされていると言う。

 それに神勝平が悪態を吐く。

 

「そいつを連れ去っただけじゃなく、セツコ姉ちゃん達の機体まで利用しやがって!」

 

「おいおい。保護したって言ってくれよ。ちゃんと衣食住は保証してたし、望めば大抵の物は与えられたよ。あの機体とかさ。本人が望めば全部が終わった後にエーデル准将の後釜に座らせても良い。その代わりに僕の研究にちょっと付き合ってもらうだけ。もちろん、死ぬような実験をするつもりはないよ。なんせ彼女は、この世に残った、たった1人の貴重なサンプルだからね。どうだい? ちゃんとwin-winな関係だろ? 大体、フィアラは元々、僕のところに来る予定だったんだから。ねぇ、ツィーネ」

 

「……」

 

「姐さん?」

 

 ランドに問いかけられてツィーネはそれに答える。

 

「……私はあの人に、あの少女を連れてくるように命令されていた。正確には、生き残っていた彼女の一族を、だが」

 

「なのに君ったら、ボロボロのフィアラに同情して偶々近くに隠れてたアークエンジェルに保護させちゃうんだもん。ま、前大戦から色々と甘い行動を取ってた彼らなら手厚く扱ってくれると思ったんだろうけど」

 

「私が研究所に着いた時には既にあの子しかいなかった。だからこの先、他の者に利用されないようデータを消して、資料も破棄し、お前達に保護するように通信を送ったんだ。あの人の下に連れていくよりは良いと思って」

 

「あの時は正直焦ったよ。でも結果的には良かったかな。アークエンジェルで傷付いた心を癒しZEUTHが程々に追い詰めてくれたおかげで、僕に心を開くのもあっという間だったよ」

 

 その言葉にメールが噛みつくように叫ぶ。

 

「フィアラがアンタなんかに心を許したっていうの!?」

 

「当然じゃない? アークエンジェルやキラ君がやられちゃった時のショックや、ZEUTHで厄介者扱いされてた話を聞いてあげたり、フィアラに都合良くその感情を肯定してあげるだけで良かったよ。どんなにすごい力を持ってても、そこはやっぱり子供だよね! 倫理道徳。善悪なんて曖昧な物じゃなくて、自分に優しいモノに飛び付くものだよ!」

 

 哄笑するジ・エーデル。

 その笑い声に全員が歯噛みした。

 結局、これは誰もがフィアラをぞんざいに扱った結果だった。

 大した価値を見いだせず、近寄ってこないフィアラを一部を除いて接触すらしなかった。

 キラ達も、生きている事を教える事もしなかった。

 誰もがジ・エーデルにフィアラが渡るように動き、その結果が今だ。

 

「で、どうするの? 言っておくけどあの機体、今は自動操縦で、君達のこれまでの戦闘データを入れて対処して動ける。生半可な事じゃとまらないし、そんなことをすると殺られちゃうよ?」

 

 ふざけた口調で話すジ・エーデル。

 最初に動いたのはキラだった。

 

「キラ!?」

 

「あの機体を戦闘不能にして、アークエンジェルかエターナルに降ろす。大丈夫。殺さないように戦うのは得意なんだ。知ってるでしょ?」

 

 全てが上手くいった訳ではないが、それでもそういう戦い方をしてきた。

 例え恨まれても、生きているなら明日には分かりあい、手を取り合えるかもしれない。

 そんな綺麗事を夢見て、戦ってきた。

 だから今度も変わらずにそうするだけ。

 

「それに、フィアラに謝らないといけない。あの子の気持ちを軽んじて、何の連絡も入れなかったことを。そして叱ってあげないと。何も考えずにジ・エーデルに手を貸したことを!」

 

 おそらくはきっとフィアラは考える事を放棄してジ・エーデルに従っている。話して、それでは駄目だと叱り、教えなければいけない。

 キラの宣言にジ・エーデルは面白そうに唇を舐める。

 

「ならやって見せなよ! でも簡単には渡さないよ! 何せ彼女は僕の大事なパートナーだからね!」

 

 こうして、第二幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コックピットの中でフィアラはそろそろ外の状況を知りたいと思った。

 さっきから機体が激しく動いている。そんなに激しい戦闘をしているならモニターを消されている今の状態が恐かった。

 

 戦闘を見ないように言われていたが、別に外を見るくらい良いだろう。

 パネルを操作して、モニターの映像が回ってきた。

 

「あ……」

 

 映ったのは、対艦刀を構えたデスティニーがカオス・レムレースに襲いかかっている場面だった。

 

「あ、あ……あ、ああっ!?」

 

 その映像に、フリーダムが撃墜された時の記憶と重なる。

 

「や、め……やめてぇ!?」

 

 フィアラは反射的に自動(オート)から手動(マニュアル)操縦に切り替え、ペダルを思いっきり踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 デスティニーを駆り、カオス・レムレースに迫っていたシンは、突然間に入ってきた機体を貫く事が止められなかった。

 抑えていた筈のキラや、他数名の機体を振り切り、形振り構わずに直進してきたS4U。

 その胸部にデスティニーのアロンダイトが吸い込まれるようにして突き刺さっていく。

 対してS4Uも、デスティニーの頭部にビームサーベルで貫いていた。

 それは奇しくも、かつてインパルスでフリーダムを討った時に似た構図だった。

 

 貫いた胸部が爆発し、アロンダイトを破壊してデスティニーから離れる。

 

「フィアラッ!?」

 

 とっさにシンがS4Uを掴もうとするが、間にカオス・レムレースの杖が割ってはいる。

 すると、S4Uの姿がその場から消える。

 

「駄目だよ。フィアラは僕の大事なパートナーなんだから。勝手に触れないでくれよ」

 

「テメエッ!? フィアラを何処へやった!」

 

「君達の手の届かない場所さ。これが終わったらちゃんと回収するよ。彼女は僕の大事な人だからね!」

 

「貴方という人はっ!!」

 

 2人のスフィア・リアクターがカオス・レムレースに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦闘でZEUTHはジ・エーデル・ベルナルを討ち、大特異点となったユニウスセブンに到達し、人々の意思を集めて次元修復を決行する。

 しかし、ギリギリまで捜索したS4Uに乗るフィアラは結局発見されず、次元修復後にもその姿は確認出来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったぁ……」

 

 目を覚ましたフィアラは、顔をしかめてパネルを操作した。

 S4Uのコックピットは胸部ではなく、女性の子宮に当たる部位に造られている。

 これは制作者の趣味で、機械の子宮に美少女を閉じ込めるとか最高にゃね! ということらしい。

 その為、爆発の衝撃で意識は飛んだが、パイロットスーツを着ていた事もあり、大事にならずに済んだ。

 それより、自分が宇宙空間に漂っているのは理解できるが、ここが何処なのかまったく解らない。

 機体にある宇宙図のデータから割り出そうとするが、見えるコロニーの位置などが全然違い、当てにならない。

 

「なんで……!?」

 

 だんだん焦りから苛立って来ると、地球を見る。

 そこで、陸の形に違和感を覚えた。

 おかしい。絶対におかしい。

 

「なんで……日本が、2つ?」

 

 訳が解らずに、しばらくフィアラはそのまま宇宙を流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二次スーパーロボット大戦Z 破界篇・予告

 

「あれは……ガンダム?」

 

 突如現れたソレスタル・ビーイングとコロニーか、送られたガンダム。それを皮切りに世界は動き出す。

 

 

「まさかまさかと思ってたけど。本当にこっちの世界にPMが現れるなんて。2年間のシミュレーターでの訓練。どれだけ通用するかな。さあてと、お前達が利用している姉さん達の遺体。私に返してもらう!」

 

 少女は独り戦う。大事なモノを取り戻す為に。

 

 

 インペリウムと破界の王ガイオウ。

 それらの出現に呼応するように次々と別世界より現れるZEUTH。

 彼らはかつて救えなかった少女がこの世界に居ることを知る。

 

「……まさか逃げるからって袋叩きにしてくるとは思いませんでしたよ。大体今更何の用です? こっちは全然用事が無いんですけど?」

 

 ZZEUTHとZEXISの前に曝され少女は、どのような選択をして混迷する世界を生き抜くのか。

 

 第二次スーパーロボット大戦Z破界篇。

 その内公開するかもしれない。

 

 

 

 




第二次書くんならタイトルとダグを一新する。
フィアラが転移したのは第二次の世界。本編が始まる2年程前です。
基本単独行動。PMを対処するとき以外はS4Uで世界中を気ままにぶらぶらしてる。

S4U
正式名称はSong for you
元々有った多くの試作機の中から本人が選んだ物をジエー博士がフィアラ用に改造した機体。
本来は戦闘用ではなく、フィアラが取り寄せている次元力を計測・観測・観察するための機体であり、戦闘力はおまけ。
エネルギー源がフィアラが引き出す次元力な為、彼女以外は動かせない。


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過ぎ去った日々

幕間です。
アークエンジェルに来たばかりの頃とZEUTHを出ていった時のこと。
そして第二次の世界に転移したばかりの頃。

セツコとの2回目の会話とか書こうとしたけど形にならなかったので後回し。


 scene1

 

 アークエンジェルという艦に来て数日。

 フィアラは自分の環境の変化に戸惑っていた。

 ここでは体を押さえつけられてむりやりよく分からない注射を射たれない。

 変な機械で全身を調べられたり、電流を流されたりしない。

 食べる物だって栄養が詰まっただけのカプセルじゃなくてとても美味しい。

 甘いお菓子も食べさせてくれる。

 不満なんてない。

 いつも優しく接してくれる人達に戸惑うことはあるが、とても嬉しい。

 

 なのに、どうして。

 画面から見える空の映像。雲1つない晴天。

 映像を見せてくれたラクスが綺麗ですわね、と笑顔で言う。

 それが、フィアラには理解できなかった。

 フィアラの目には、それが灰色に見えてしまう。

 いや、空の青さは理解しても、どこかそれが嘘臭く見えるというか、薄い灰色のフィルター越しに感じるというか。

 それは空だけでなく、目に映る全てがそのフィルターに挟まっているように感じるのだ。

 世界の何が綺麗なのか。フィアラには理解できないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、町へフィアラに必要な物を買ってきますね」

 

 楽しそうにニコニコとしているラクスにカガリが呆れた様子で忠告する。

 

「ラクス。気分転換も兼ねてるのは分かるが、あまり浮かれるなよ? お前も今は外に出るのは好ましくないんだから」

 

「えぇ。分かってますわ、カガリさん」

 

 本当に分かってるのか不安になるが、これ以上言っても無駄だろうと同伴するミリアリアに頼む。

 あの研究所から連れ出したフィアラには替えの服やその他諸々の私物がない。

 アークエンジェルにも当然子供用の服など置いておらず、今はラクスの私服を手直しして着ているが、町に買い出しに行った方が良いと意見が出た。

 その町は以前ミリアリアが取材で訪れたこともあり、彼女が案内役。護衛役としてキラが動向する。

 尤も、MS戦ならばともかく、生身での戦闘でキラがどれ程役に立つか、という疑問はあるが。

 しかし、艦長のマリューが艦を離れるのは好ましくなく。

 カガリはこれから自分達の活動に協力してくれている者に会わなければならず、バルドフェルドはその護衛。

 そんな訳で、キラが護衛役となったわけだ。

 まぁ、この面子ならバルドフェルドよりキラの方が怪しまれないだろうという理由もある。

 ただ、幾つもの世界が融合している多元世界とはいえ、ラクスが町へ出掛けて正体がバレるのは問題なので、深めの帽子にピンクの髪を隠して、伊達メガネをかけて最低限変装していた。

 

 そして現在────。

 

 

 

 

「あ、こっちの黒いワンピースとか似合いそう!」

 

「銀の髪ですものね! やはり濃い目の色合いがよろしいと思います」

 

「そうね! 最初に会ったときに比べて体も少し変化しているし、ちょっと大きめの服も用意した方がいいかな?」

 

「えぇ! たぶん背なども伸びるでしょうし」

 

 本人をそっちのけでラクスとミリアリアがフィアラの服を選んでいる。

 その姿を見ていたフィアラは緊張した様子で固まっており、横にいるキラは苦笑している。

 

「ほらフィアラ! こっちを着てみて!」

 

 腕を引っ張られてミリアリアに試着室に入れられる。

 

「わからないことがあったら聞いてねー」

 

「あ、はい……」

 

 用意された服を傷つけないように着る。

 渡されたのは、青のミニスカートと黄色いシャツに赤い上着だった。

 ここ数年、入院着のような味気ない服ばかり着ていたため、他の服を着るのは嬉しい反面緊張する。

 着替えを終えて出てくるとラクスとミリアリアから絶賛される。

 

「どう、でしょうか……?」

 

「とてもよくお似合いですよ!」

 

「うんうん。元の素材はかなり良いからね! ねぇ、キラはどう思う?」

 

 ミリアリアに話を振られてキラも笑みを浮かべて「うん、良いと思うよ」と返す。

 ついでにこの後に3回程服を着替え直してキラが全て同じに返したところラクスとミリアリアにどうでも良いみたいと冷たい視線を送られて居心地を悪くしていた。

 

 

 それから少し遅めの昼食を取って帰るところでラクスが思い出したように買った荷物の中から小さな手帳を取り出してフィアラに渡す。

 

「これは……?」

 

「フィアラに。日記にでもなればと」

 

「日記? あの、でも……なにを書けば……」

 

「何でも良いんですよ。1日にあった嬉しかったことや楽しかったこと。嫌だったことや辛かったこと。でも、そうですわね」

 

 ラクスが体を折ってフィアラと視線を合わせた。

 

「フィアラが私達と出会う前。どんな辛いことがあったのかは知りません。ですがこれからは、多くの幸せと出会えればと思っています」

 

「しあわ、せ……」

 

 口の中で反芻するフィアラにラクスは微笑み、歩きながら囁くような声で歌を紡ぐ。

 繋がった手の先にいるラクスの顔に視線を合わせて、さらにその向こうにある雲1つない真っ青な空が瞳に映る。

 

 まだ、あの研究所に連れていかれる前に、年の離れた姉達に追い付く為に走り、見上げていた空も、こんな────。

 

「フィアラ?」

 

 キラが震えているフィアラに驚く。

 見ると空を見上げながらその瞳から止めどなく涙が溢れていた。

 

「ちょっと、どうしたの!? どこか痛い?」

 

 心配そうに訊いてくるミリアリアにフィアラは首を横に振る。

 

「違くて……あそこから出て……はじめて、空が、綺麗だって……」

 

 空が。世界が。こんなにも綺麗なのだと。そう感じることが、嬉しいと思える。

 それが幸せで、涙が溢れてくる。

 

 たどたどしいフィアラの言葉にラクスがその頭を、泣き止むまで撫でてくれた。

 ここは温かくて、別世界のように優しい人達。だからこそ────。

 

 

 

 

「何をしているの!? 早くここから出なさい!」

 

 モニターにPMと呼ばれる奇形な化物が暴れていた。

 自分の中の何かが、アレの本質を訴えてくる。

 彼らを解放する術を持っているのは自分だけだった。

 何より自分がここの人達の為に出来ることもこれだけだった。

 

 だから。

 

 

「私の歌は、世界を侵す」

 

 この戦場にいる全ての人達の為に歌を歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 scene2

 

「あっ!」

 

 アキという少女が自分より小柄な少女にぶつかったのは、同郷の友人である神勝平が仲間に呼ばれて待っているように言われた僅かな間だった。

 

「ごめんなさい……」

 

 アキから見て、その少女は怪しい人物だった。

 艦内だというのに体や顔を隠すようにコートを羽織り、フードを深く被っている。

 体格が小柄で声が女の子の物でなければ、大声で勝平を呼んでいたかもしれない。

 それでも、こんな小さな子供がこの部隊に居ることが不思議だった。

 

「あなたもここの人?」

 

 その疑問にフードの少女は一瞬肩を跳ねた。

 

「違います。私は、ここを出るんです……もう、ここには、居たくない……」

 

 憔悴した声でそう告げる少女に、アキは親切心から話す。

 

「危ないわ。外には、ガイゾックや他にも悪いやつらが大勢居るのよ!」

 

 アキの言葉を聞いても少女はただ首を横に振るう。

 

「ここは、嫌です。怖い……」

 

「……よく分からないけど、とにかく考えなしに外を出るなんてダメよ!」

 

 アキは勝平に相談しようと少女の手を引こうとした。

 そうして彼女の背中を見て、破れている服から見える痣を見てギョッと表情を変える。

 そして、アキの背中に触れてきた。

 どうしたの? 

 そう訊く前に少女が意味の解らない言葉を口にする。

 

 

「私の歌は。世界を侵す」

 

 少女は突然と歌いだす。

 そして現れた金色の紋様がアキを包んだ。

 

「なにこれ!?」

 

 沸き上がる驚きと恐怖。

 しかし、次の瞬間にアキは意識が保てずに睡魔に誘われるままに意識を落とす。

 そのまま少女は床にアキを寝かせたまま、小走りでその場を離れた。

 アキにあった変化は、彼女の背中に自身さえ知らぬ間に付けられていた背中にあった星形の痣が誰にも知られることなく消えていた。

 ガイゾック最悪の兵器。人間爆弾に改造された印は人知れず、本人さえ知ることのないままにその驚異が取り除かれた瞬間。

 そしてアキが眠っていた通路の近くには見知らぬ日記手帳が落とされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 scene3

 

 国連平和維持委員会代表を務めるエルガン・ローディックはつい今しがた回収した乳白色の機体に乗っていた銀髪の少女と向かい会っていた。

 とある人物から彼女の保護を頼まれて、こうして場を設けている。

 居心地が悪そうにしている少女に内心息を吐く。

 

「初めまして。私はこの世界で国連の平和維持委員会の代表の地位にいるエルガン・ローディックだ。次元震動でこの世界に現れた異邦人。君は────」

 

「……フィアラ・フィレス、です」

 

 不安そうに名乗る少女。

 エルガンは手を後ろに組んだままにこの世界についての説明を始める。

 その説明を聞き終えるとフィアラが初めて質問した。

 

「私を、どうするつもりですか?」

 

「私は君をどうこうするつもりはない。元の世界に帰れず、この世界で根を下ろすのなら出来る限りの支援もしよう。もちろん、君がこの世界の平和を乱さないことが条件だが」

 

 この世界で自分だけが話せる彼によりもたらされた情報から今の彼女が世界の敵になる可能性は低いとエルガンは判断していた。

 

「私は……」

 

 自分が何をしたいのか、少し考えた。

 

「世界を、見て回りたいです。独りで」

 

 この世界には自分を知っている人は誰もいない。

 今はとにかく他人と深く関わりたくなかった。

 フィアラの言葉にエルガンはただそうか、とだけ返す。

 

「機体の修理はこちらで受け持とう。それが終わるまで、この世界についてもう少し詳しい情報を見ておくといい」

 

「ありがとう、ございます」

 

 彼を信じて良いのか。それすら分からないが、今は自分の機体を修理することが先決だった。

 そこでもう1つお願いする。

 

「あの……ハサミを貸してくれませんか?」

 

 ハサミ? と首を傾げたが、特に何かを訊かれる事なく渡してもらえた。

 フィアラは後ろ髪を手で束ねる。

 

 自分の銀髪を綺麗だと褒めてくれた人がいた。

 嬉しくて。役に立ちたくて。

 家族に、なれた気がした。

 でも、それは結局自分の勘違いだった。

 自分が感じた怒りも悲しみも、全て無意味で。

 だがら────。

 

「こんなもの、もう要らない」

 

 バッサリと束ねた後ろ髪をハサミで切り落とした。

 

 




フィアラ・フィレス。
無印Zの頃は肩より少し下くらいの長さの銀髪。
第二次Zだと髪を切ったこともあり、男の子みたいな中性的な見た目になっている。口調も大分荒い。
旅を初めて半年くらいにエリア11で日本解放戦線のテロに巻き込まれて右頬に大きな傷が残っている。
戦闘は基本自衛とPMの対処のみ。
通信も滅多に受け付けない。
ZEUTHに対して絶賛反抗期を拗らせ中。
話し合いになっても反抗期のフィアラ。
どうにか話をして仲直りしようとする元ZEUTH面々。
そしてそれを見てフィアラに苛つくZEXIS面々という構図になる模様。
フィアラの日記は現在ラクスが預かっている。



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第二次Z・破界編 信じぬ者として
本当の初陣


今回からPMに関しても情報を出していきます。


『我々は私設武装組織ソレスタルビーング。モビルスーツ、ガンダムを保有し、紛争根絶の為に────』

 

 街中で巨大モニターに映されたで老人が椅子に座って演説をしている。

 その映像を街の住民達が困惑しながら観ていた。

 しかし反応は当然の如く様々だ。

 馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う者。

 自分達が襲われるのではないかと不安がる者。

 現れたモビルスーツに注目する者。

 刺激を与えてくれる存在を喜ぶ者。

 ただ、この時点では映し出された老人の言葉を鵜呑みにしている者は極少数ということは間違いない。

 その少女もその大衆の1人だった。

 短く切られた銀髪に金色の瞳。

 十代半ば頃に見える中性的な顔立ち。

 特徴としては、右頬に切られたような大きな切り傷の痕があること。

 その少女はモニターを見ながら誰にも聞こえない声でポツリと呟く。

 

「ガン、ダム……」

 

 その響きを懐かしがるように口にしたが、すぐに興味を失くしてモニターから視線を外した。

 

「……私には関係ない」

 

 そうして集まっていた街の住民達の輪から外れて銀の少女はその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新型兵器、ブラスタの雇われパイロットであるクロウ・ブルーストは100万Gの借金を返済する為、なし崩しに入隊することになったソレスタルビーング初めての紛争介入に参加していた。

 犯罪はしない主義、と公言している彼が世間的にはテロリスト扱いのソレスタルビーングに参加したのは今のろくでもない世界を変えたいという彼らの本気を感じた事と、ソレスタルビーングに捕まってその場しのぎに助かりたかったという口八丁が半分。

 

(ま、ソレスタルビーングの活動で給料もしっかり出るってんだ。真面目に仕事はさせてもらうぜ)

 

 そんな、本気とも冗談とも取れない事を内心思いながら、クロウは目の前の仕事に集中する。

 元より、ソレスタルビーングのガンダムのみでも充分な戦闘にブラスタを加え、途中から現れたダンクーガまで参戦したことでこの戦闘は油断さえしなければ問題なく終える筈だった。

 それが変化したのは敵も残り3割を切ったところだった。

 

「なんだ?」

 

「どうした、クロウ?」

 

 観測計器から見たことのない反応を示し、訝しむクロウに狙撃していたロックオンが通信で質問してきた。

 

「次元歪曲に異常が出てる! 気をつけろ! 何か来るぞ!」

 

 クロウの警告と共に現れたのは、空と地に描かれる巨大な赤く発光する魔法陣。

 出てきたのは3種類の奇形な怪物だった。

 最も巨大なのは、ダンクーガよりも倍程の大きさで巨大な黒い口に下には無数の触手型の足。

 上には人体の腕が10程に蠢いている。

 

 次にモビルスーツ程の大きさで四足歩行しているが背の部分にキリンのような長い首に先に巨大な赤い瞳持つ化物。

 

 最後に1番小型で凡そ3メートル程。

 基本は緑の魚に似たフォルムだが、蝙蝠のような翼ががあり、鼻と口だけ人面魚。

 

 それらが合計50程の数でこの場に現れている。

 どれもこれも生理的な悪寒が走りる見た目にこの場にいる誰もが一瞬動きを止めた。

 いち早く反応を取り戻した年長者であるロックオンはクロウに質問する。

 

「新入り。アレは新手の次元獣だと思うか?」

 

「いや。観測された次元歪曲パターンが一致しねぇ。おそらくは、だが別物だ。見た目も違い過ぎるしな。どっちもお友達になりたい姿(ナリ)じゃないが……」

 

 軽口を叩きながらも照準を現れたモンスターに合わせつつ出方を窺う。

 動いたのは、1番大きな巨大な口を持つ怪物が、その腕を伸ばした。

 無数の腕が動いた先は、クロウ達が撃墜したが、脱出したパイロット達だった。

 

『た、たすけてくれぇええええっ!?』

 

 集音機能で聞こえるテロリストだった男の叫び。

 その手で人間を掴み上げると、怪物は自身の口へと複数の人間を放り込んだ。

 

「食べたっ!!」

 

 驚きの声を上げるアレルヤ。

 ムシャムシャと口を動かし、人間が噛み砕かれていく。

 

「こいつは……!」

 

 その行動に終えると空飛ぶ人面魚が動き出す。

 ターゲットになったのは、まだ避難し終えていない一般人だった。

 

「やらせるかっ!」

 

 素早く行動したのはエクシアを駆る刹那だった。

 GNビームライフルで人面魚を撃つ。

 群れで行動していた人面魚は次々と血を撒き散らしながら破壊されていく。

 灰になるように消えた人面魚。

 しかし、異変はすぐに現れる。

 倒した人面魚の近くに居た恐怖で足がすくんでいる民間人達が、苦しそうに悶えながら突如倒れ出した。

 生命反応が消えた民間人を見てアレルヤが目を大きく開く。

 

「まさか、毒!」

 

「そんな反応はねぇんだがな! だがもしそうなら不味いぞ! 倒さなけりゃ民間人も含めて全滅! 倒しても毒で俺達はともかく、この街の人間がっ!?」

 

 どうするべきか誰もが迷う中、黙していたティエリアがGNバズーカを構える。

 

「敵のデータを採取しつつ、殲滅する」

 

「待てティエリア!」

 

「このままでは我々もやられる。計画を始めた、こんなところで躓く訳にはいかない」

 

 ロックオンが制止するが、ティエリアは平淡な声で返す。

 ダンクーガの方は向かってくる敵だけを武装で落としているが、通信から混乱が伝わってくる。

 

「倒さなきゃやられる! 倒してもダメ! どうすりゃいいのよ!?」

 

 撃ち落とす度に近くにいる市民が死んでいく。その事実にダンクーガは段々とトリガーを引く指から力が抜けていった。

 

 そこで四足歩行の怪物の赤い眼からレーザーが発射された。

 幸いにして誰も当たることはなかったが、その威力は間違いなく驚異だった。

 ティエリアが攻撃を開始しようとする。

 

「待ってくれ! せめて民間人の避難を!」

 

「そんな時間はない!」

 

 アレルヤの進言をバッサリと切り、ティエリアはGNバズーカを最大出力で発射しようと照準を定める。

 そこでクロウから再び報告が上がる。

 

「上空の空間に異常を感知した! あのバケモノとは別の反応だが!」

 

「まだなにか来んのかよ!?」

 

 いい加減にしろとロックオンが舌打ちをする。

 そしてそれは音もなく出現した。

 

「なに? あのロボット……」

 

 ダンクーガノヴァのメインパイロットである飛鷹葵は戦場を見下ろすように空にいる機体を見て全員の意見を代弁した。

 全体的に乳白色で金のラインが入った不明機。

 誰もがその機体を警戒する中、変化が起こる。

 乳白色の機体を中心に金の紋様が広がる。

 

 そして、戦場に歌が聴こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「転移成功。システムを戦闘モードに移行」

 

 計器を確認し、パネルを操作しながら眼下の戦場を確認する。

 

「やっぱり、こっちの世界でも現れた……」

 

 S4Uの中でフィアラ・フィレスは現れたPM────Poison Monsterを見て深呼吸する。

 ある意味この戦闘が彼女にとって本当の意味での初陣だった。

 この場にソレスタルビーングやダンクーガが居ることは気にしない。あくまでも目的はPMだ。

 

「旅をしながらの2年間のシミュレーター漬けでどこまでやれるか……」

 

 それでも、あのバケモノを駆逐すると自分の意思で戦うと決めたのだ。

 これは、私の戦争だと握っている操縦桿に力を込める。

 

「こちらの世界に繋がるために使った姉さんの遺体を返してもらう」

 

 あのバケモノの倒し方を知ってる。

 私だけができる方法。

 

「私の歌は、世界を侵す……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦場に相応しくない、少女の声で紡がれる歌。

 ある程度紋様が広がると空中で佇んでいた機体がシールド内部のブレードを引き出し、四足歩行のバケモノに突っ込み、レーザーを回避すると、発射元の瞳にブレードを突き刺す。

 ブレードを引き抜いて着地すると襲いかかってきた四足歩行のバケモノをシールドで受け止める。

 そして右足の爪先からビームサーベルが作られ、そのまま蹴り上げて胴体を下から突き刺した。

 よろけたバケモノをブレードで切断しようと掲げる。

 

「待て!」

 

 ロックオンが通信で止めに入るが、そのまま振り下ろされたブレードがバケモノを両断した。

 他のバケモノと同じように消えていく。

 しかし先程までと違い、近くにいた民間人は倒れ、生命反応が消失することもない。

 ロックオン達が驚いている間にも乳白色の不明機は上下に銃口があるライフルを構えて下の銃口からビームマシンガンを発射して飛んでいる人面魚を次々と撃ち殺していく。

 ソレスタルビーングやダンクーガも自分達に向かってくる敵に応戦し、数を減らしていく。

 歌が戦場に響いている間は毒が撒き散らされない。

 その事を認識すると、とにかく手早く正体不明の敵を駆逐するために攻撃する。

 数が減り、残りが巨大な口のバケモノだけになると、乳白色の機体が飛行形態となり、先端となった爪先の部位からビームサーベルを放出し、そのまま口の内部目掛けて突進する。

 後ろまで突き破ると人型に戻り、今度はライフルの上部にある銃口から高威力のビームを撃って焼き払う。

 そうして、この場での戦闘は終了すると同時に戦場に広がっていた紋様は消え、歌は途中で止まってしまう。

 

 誰もがおぞましい見た目のバケモノを相手にして精神がごっそりと削られていた。

 そんな中でクロウだけが不明機である乳白色の機体に通信を送る。

 

「歌、止めちまうのか? せっかくだし、終わりまで歌っていってもいいんだぜ? ちょいと聞きたいこともあるしな」

 

 軽口を叩きながらも相手に呼び掛ける。

 しかし、向こうはクロウの通信を拒絶するように上空に上がると、僅かな空間の揺らぎの観測と共にその場から姿を消した。

 

「すぐに索敵を!」

 

「いや、今日はミススメラギから帰投命令だ。ダンクーガ(あちらさん)を連れて戻ってこいだとよ。俺達も消耗してるしな。これ以上の作戦行動は危険が大きい」

 

 不明機の捜索を進言するティエリアにロックオンが帰投命令を告げる。

 不満そうにする彼に、クロウが宥めるように話しかけた。

 

「ま、今回は助けられた側だ。野暮な詮索は今度にしようぜ。中々良い歌も聴かせてもらったしな」

 

「君、女嫌いだって言っていたよね?」

 

 あれはどう聴いても女の歌声だった。

 ツッコミを入れるアレルヤにクロウが苦笑ぎみに返した。

 

「歌自体に男女を持ち込む気はないさ。ましてやそれが俺達を助けてくれたのならな」

 

 そうしてダンクーガを連れて行こうとするソレスタルビーング。

 だが、刹那だけは一言も声を出さずに、乳白色の機体が消えた空に、視線をギリギリまで外さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




しばらくはこんな感じに各地を転々としてます。


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広がる歌

 頬が痛い。

 フィアラがそう認識したのは殴られてよろけた先が金属の剥がれた尖った部分に頬が切れた瞬間だった。

 偶々観光に来ていたエリア11でテロに巻き込まれた上に日本解放戦線と名乗るテロリスト集団の人質として広い部屋に集められた。

 そこでパニックになった子供が泣き始め、それに苛ついたテロリストが無理矢理黙らせようとする。

 ましてやその親子がブリタニアに降った名誉ブリタニア人だった事もあり、短絡的に手を上げようとする。

 近くに居たことで咄嗟にその親子を庇い、顔を殴られた。

 それだけで済めば良かったのだが、相手は自分の見た目から勝手にブリタニア人と勘違いし、名誉ブリタニア人を庇った事を批難してもう1発殴られる。

 その際に深く頬を切った。

 流石に十代前半に見える少女の頬が切れて血を流していることに若干の後ろめたさを覚えたのか、顔をひきつらせたが、ただ無表情で見てくる此方に馬鹿にされていると感じたのか、胸ぐらを掴んできた。

 そこで外野がフィアラの庇うように引っ張る。

 

「もうやめてください!」

 

 そう言ってくれたのは、オレンジ色に見える長い栗色の髪の少女と、金髪の長髪の少女。

 自分の服が血で汚れるのも構わずにフィアラを抱き寄せた。

 おそらくは知り合いだろう、茶髪混じりの黒髪の温和そうな少年と真っ黒な髪の線の細い美少年も付き合うように割って入った。

 

「無抵抗な女の子を相手に容赦なく暴行を奮う。お前達の理想とやらは弱い者に威張り散らすだけの物らしい。大した理想だよ」

 

 黒髪の少年がそう言うと、フィアラに暴行を加えた日本人が今度は黒髪の少年を殴ろうとするが、別の者が止めに入る。

 悪態ついて背中を見せるその人物に金髪の少女があっなんべーと舌を出すと温和そうな少年が名前を呼んで嗜めた。

 

「あなた、大丈夫?」

 

「あ、はい。少し、痛いですけど……」

 

 頬から流れる血を手で押さえていると、栗色の髪の少女がポシェットから大きめの絆創膏を渡してくれた。

 

「気休めにはなるとおもう。あ、顔見えないよね。貼って上げる!」

 

 そう言ってペタッと絆創膏をフィアラの頬の傷上に貼る。

 

「もう! かわいい顔に傷が残ったらどうするのよ!」

 

「後で、消毒しないとね……」

 

 憤る少女2人に心配してくれる温和な少年。

 最後に黒髪の少年が皮肉げに呆れた様子で言う。

 

「もう少し怖がる素振りでも見せてやれば顔に傷が付く事もなかったろうに」

 

「そうですね。次は善処します。絆創膏、どうも」

 

 淡泊な反応を返して礼を言う。

 その場で座らされブリタニア軍の救助を待つ。

 幸い、日本解放戦線の戦力はそう多くなく、ブリタニアも余程の無能な人事ではない限り、人質を解放するように動くだろうとは黒髪の少年の弁。

 フィアラは天井を見ていると癖で歌を口ずさみ始めた。

 この非常時に何をやっているんだと最初は誰もが眉間にしわを寄せたが、次第にその歌に聴き入ってゆく。

 それは、歌が存在することに感謝をする歌。

 音楽があり、歌を歌える喜びを神や世界。そして聴いてくれる全ての人に感謝を送る。そんな歌詞だった。

 大きな声で歌われているわけではないその歌を聴き、人質になっている者達の心を少しだけ安いでいく。

 その曲が歌い終わると、誰にも聞こえない声で呟く。

 

「……来た」

 

 呟きと同時に建物が大きくんで揺れる。

 突然の震動に室内は一気にパニックになってしまう。

 その混乱に乗じて室内から逃げ出した。

 ステルス機能を使っている愛機に端末を頼りに目的地に急ぐ。

 一瞬だけステルス機能を解除させてから乗り込み、再びステルスを展開する。

 ついでに日本解放戦線が保有する無人のKMF何機か破壊して空に逃げる。

 一応、機体に乗るところは誰にも見られてないと思うが、ブリタニアに見つかる前にエリア11の空へと上がる。

 

(もうエリア11には絶対行かない……)

 

 傷付いた頬に付けた絆創膏を撫でてフィアラはS4Uを飛行形態にしてエリア11を脱出した。

 この時出来た傷は今も残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだこのバケモノはっ!?)

 

 仮面の怪人ゼロは自分の機体である無頼の中で冷や汗を流しながらこの事態を収めるが思考していた。

 黒の騎士団を名乗り、エリア11を支配するブリタニアとの戦いも本格化し始めた頃。

 エリア11の新たな総督となったコーネリア・リ・ブリタニアを捕らえる為の作戦を始めてしばらくしてあのバケモノが現れた。

 ブリタニア人も日本人も関係なく襲いかかるバケモノに恐怖した兵が撃墜すると、近くにいた市民が苦しみだし、倒れる。

 倒すと何らかの毒を撒き散らすと予想されるが、それでは下手に倒せない。

 

『ゼロ! どうすればいいっ!?』

 

 団員である扇が悲鳴のように指示を求める。

 ゼロは今出来る最善の指示を出す。

 

「あのバケモノのデータを取りつつ住民の避難が最優先だ! ブリタニアは放っておけ! この状況ならば、此方に仕掛けてくる余裕はない!」

 

 現に今、黒の騎士団とブリタニアの双方が新手のバケモノの対処に追われている。

 この時、市民の避難を最優先に指示を飛ばしたゼロに、黒の騎士団からの信頼がわずかばかり上昇した。

 黒の騎士団はコロニーのガンダムの協力や凄腕のAT乗りであるキリコを仲間に加えて戦力を強化しているが、あのバケモノを迂闊に駆逐することは出来ない。

 倒さなければやられ、倒せば住民が死ぬ。

 これではまるで────。

 

(ただ、人間を殺すために現れたようではないか!)

 

 何でもいい。例え針の穴程でも事態が好転する何かがあれば必ずやそれを手繰り寄せてみせるのに────。

 奥歯を噛むゼロ。

 

 そして突如、空から金の紋様と歌が聴こえてきた。

 空に佇む乳白色の機体。

 いつの間にかそこに居た不明機から歌と共に展開される魔法陣のような紋様。

 その歌を、ゼロはどこかで聴いたような気がした。

 紋様がある程度広がると空から乳白色の機体が動いた。

 地上に急降下し、シールドに内蔵されたブレードでバケモノを斬り裂く。

 しかし、先程のように住民が死亡することもなかった。

 所属不明の乳白色の機体が次々とバケモノを葬っていく。

 

(あの機体には奴らの毒を無効化する機能が備わっているのか? それとも、敷かれていくこの紋様が────)

 

 ゼロが思考していると、止まっていたヒイロがウイングガンダムのビームサーベルでMS程のバケモノを斬り裂く。

 すると周りへの影響は見られない。

 

『どうやら、奴はこいつらと戦えるようにお膳立てしたらしいな』

 

『無茶すんじゃねぇよ!』

 

 ヒイロの言葉にデュオが怒鳴る。

 しかしこれならば。

 

「各員に告ぐ! 住民を避難させつつ、あのバケモノを駆逐しろ!」

 

『ブリタニアの方はどうすんだよ!』

 

「もはやそんなことを言っている場合ではない! 奴等を掃討した後は、速やかに撤退だ!」

 

『わ、わかったよ!』

 

 玉城からの通信を切り、次元獣とは別のバケモノの掃討に入った。

 戦闘後、コーネリアが所属不明機に呼び掛けていたが、それに応えることなくその機体は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリア11とは違うもう1つの日本。

 そこの熱海という地では日本が誇るスーパーロボット達と宇宙からやって来た侵略者であるギシン星人との戦闘がつい先程まで行われていた。

 しかし突如現れたバケモノにそれどころでは無くなっている。

 それらは町の住民の食い殺し、ギシン星人達にも襲いかかり、戦場を滅茶苦茶にしていた。

 ギシン星人と戦っていたマジンガーZ、トライダーG7、ダイ・ガード、そしてゴッドマーズも当然迎撃しようとするが、正体不明のバケモノを倒すと避難していない町の住民が死んでいく様を見せられて迎撃が難しくなる。

 しかしお構いなしにギシン星人達はバケモノの迎撃に入ってしまい、町の住民が次々と倒れ、被害が広がっていく。

 

「やめろバカ野郎!? このままじゃ、ここに住む人達がっ!」

 

 ダイ・ガードのコックピットでパイロットの1人である赤木が叫ぶが、当然両者共に戦闘を止める気配はない。

 

「クソ! どうすればいいんだ!」

 

 マジンガーZのコックピットの中で甲児が歯噛みしているとその歌が聴こえてきた。

 空中で静止している見知らぬ機体を中心に広がる紋様。

 それが町をある程度覆っていくと空から突撃しながら空飛ぶ魚をビームマシンガンで撃ち落としていく。

 ギシン星人には用がないのか、無視するようにバケモノだけを狙って戦闘を繰り広げていた。

 

「ダメ! 通信を送ってるけど、応答しないわ!」

 

 所属不明機に呼び掛けているコスモクラッシャー隊の日向ミカがそう報告する。

 ギシン星人もスーパーロボット達も無視して独り戦っている。

 

「だが、あの機体が現れてから町の人達の被害も無くなってる! 今なら!」

 

 ゴッドマーズのパイロットであるタケルが近くのバケモノを両断した。

 

「よーし! これで俺たちもちゃんと戦えるぞ!」

 

 トライダーG7のパイロットである竹尾ワッ太も巨大なバケモノに攻撃を開始した。

 こうして、熱海の戦闘はスーパーロボット達の勝利に終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、チーフの考えはどうなんだ?」

 

 クロウ・ブルーストは雇い主であるトライア・スコートに次元獣とは別のバケモノのデータを先日送り意見を求めていた。

 

『アンタの言うとおり、アレは今までの次元獣とは別物だね。次元を越えてやってくること以外は特に共通点は見当たらない』

 

 やっぱりそうかとクロウは嘆息する。

 戦闘データ集めのネタが多いのは歓迎すべき事だが、あんな市民を巻き込むようなバケモノはノーサンキューである。

 

『今のところは次元獣と比べても出現頻度はそう高くないのが救いだね。三大国家のどこかしらに出現してるけど、同時に現れる例の機体が対処してることで被害は少なく済んでるよ』

 

「そうか。奴らの毒については?」

 

『そっちはダメだね。そもそも毒性が検出されないんじゃ調べようがない。これじゃまるで毒と言うよりは呪いみたいだよ』

 

「呪いって……」

 

 科学者にあるまじき発言にクロウは呆れたような声を出す。

 

「それだけ奴らの存在が奇異だってことさ。それこそ、例の不明機に聞かないと分からないんじゃないかい?」

 

 例の不明機にも各国が捜索と接触を求めているが、今のところそれらは成功していない。

 次元獣などと同じ別の次元から現れるのか。それとも高度なステルス機能でも使っているのか。

 

『バケモノの方を三大国家では毒型次元獣なんて呼ばれてるみたいだよ。出現する特徴としては人がそれなりに集まっている町。それも戦闘中に出現するくらいかね』

 

「まったく嫌な連中だぜ」

 

 これまで数度毒型と対峙したことがあるクロウは心底嫌そうに眉を寄せる。

 

『ま、毒型についてなんらかの有益な情報や戦闘データを入手したらじゃんじゃん送っておくれ。アレのデータはどこの国も欲しがってるからね。報酬に多少の色は付けてやるよ』

 

「マジで! ありがとよ、チーフ。俄然やる気が出てきたぜ」

 

『ブレないね、アンタは……』

 

 突然やる気を出したクロウにトライアは苦笑混じりに通信を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異星からの侵略。暗黒大陸の解放。人間同士の争い。

 それらが激化するなかで平和理事委員会は秘密裏にあらゆる組織の垣根を越えた戦力を集めた特別救助組織ZEXISを発足。

 ソレスタルビーングや黒の騎士団。コロニーのガンダムや日本のスーパーロボット。

 別世界からやってきたSMSという民間軍事会社や暗黒大陸からやってきた住民。

 それらが手を取り合い、衝突しながらも仲間意識が芽生えて世界の闇を少しずつ取り払っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた毒型次元獣とこれまで現れていた次元獣の双方が互いに殺し合う。

 

「やっぱり、アイツらは別物らしいな。それも互いに仲が悪いときた」

 

 クロウがぼやいているといつものように上空から現れた機体が歌と共に紋様を広げる。

 

「これでようやくアイツらをぶち殺せるぜ!」

 

 ゲッターのパイロットである竜馬が好戦的な笑みと共を浮かべる。

 毒型の毒さえなければ早々に駆逐するだけ。

 ZEXISがそれぞれ毒型の討伐に入ろうとすると、次元獣を召喚した謎の男、アイム・ライアードが嘲るように、呆れるように呟く。

 

「彼女も熱心ですね。そんなにもPoison Monsterをこの世界に呼び寄せた責任を感じているのですかねぇ?」

 

 その呟きを聞いていたZEXISの面々はその意味を問いかける。

 

「どういう意味だ!」

 

「言葉通りですよ。PM────貴方達が毒型と呼ぶあの怪物達をこの世界に呼び寄せたのは、他ならぬ彼女なのです!」

 

 高らかに言い放つアイム・ライアード。

 その声は、乳白色の機体を駆るパイロットにも聞こえていた筈だが、何も答える事なく戦闘を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ZEUTHが第二次の世界に来るところまで書く。


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会いたくない来訪者

「ZEXIS?」

 

『そうだ。今の世界に必要だと判断した。あらゆる組織の垣根を越えて集結させた特別救助部隊。それがZEXIS。出来れば君にもその部隊に────』

 

「それ、強制ですか?」

 

『以前にも言ったように、私は誰かの自由を侵害する気はない。参加の成否は君の意思で決めてほしい。だが────』

 

「お世話になって心苦しいですが、お断りします。私は、単独行動が性に合ってますので」

 

『……そうか』

 

 フィアラの拒否を特に不快感を示す事はなかった。

 ただ口にしたのは小さな助言だけ。

 

『だがどうか忘れないでくれ。世界は君が恐れるほどに君を拒絶している訳ではないことを』

 

 相手の言葉をフィアラがどう受け止めたのか。それは本人のみ知る事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通常の次元獣と毒型次元獣の双方の討伐を終えて戦闘も一段落した。

 次元獣を召喚したアイム・ライアードも去り、戦場となった街にはZEXISと乳白色の機体だけが残されていた。

 

「こちら、ZEXIS所属のジェフリー・ワイルダー。応答を願う!」

 

 ジェフリーの呼び掛けに乳白色の機体は黙りのまま。

 まったくこっちの応答に答える気のない不明機に他の面々も苛立ち混じりに呼び掛ける。

 

「黙ってないで何かいいなよ!」

 

「お前があのバケモノをこの世界に呼んだってのは本当なのか!」

 

「被害を減らそうとしてくれているのは感謝するが、このままじゃあ、納得出来ないぜ!」

 

 アイム・ライアードの言葉に揺さぶられて非難混じりの言葉が飛ぶ。

 そんな中でクロウが努めて冷静に話をしようとする。

 

「俺達は別にアイムの言葉を信じてる訳じゃねぇ。だが、お前さんにやましい事が無いってんなら少しくらい話をしてくれてもいいんじゃないか?」

 

 ZEXISの呼び掛けにも一切の反応を示さずにいる乳白色の機体に苛立ちが増す。

 

「何とか言えよ!」

 

 アルトの苛立ち混じりの声か通信越しに響く。

 これまで、毒型次元獣の被害に遭った土地と人達をたくさん見てきた。

 理不尽に食われる人々。

 毒で倒れて死亡する人々。

 その凄惨な光景を思い出してZEXISはこの世界にあのバケモノを呼び寄せたかもしれない空中に佇む機体に不信感と苛立ちを募らせる。

 

「我々は人類全体の利益を守る為に戦っている。そちらと敵対し、危害を加える意思はない! 繰り返す! 我々は人類全体の利益の守る為に戦っている! そちらにもその意思があるのなら、どうか話し合いの場を設けて欲しい!」

 

 ゼロはZEXISに絶対に攻撃をしないように厳命しながらも乳白色の機体に呼び掛け続ける。

 だが、その想いはあっさりと袖に振られる。

 僅かな空間の揺らぎを確認されると、いつものように音もなくその場から消え去っていった。

 

「なんなんだよアイツは! こっちが話を聞いてやるって言ってんのによぉ!」

 

 黒の騎士団である玉城がこの場に居る者達の意見を代弁する。

 謎の機体。そのパイロットへの不信感がZEXISの中で棘のような小さい傷となって残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEXISは世界に戦いと混乱を呼び寄せる各勢力との戦闘を続けていく。

 敵対勢力1つであった世界解放戦線(WLF)というテロリストの集団をリモネシア共和国で討ち倒すことに成功した。

 しかし直後にリモネシアの外務大臣であるシオニー・レジスとアクシオン財団のトップであるカルロス・アクシオン・Jr.とこれまでZEXISと敵対してきたアイム・ライアード。

 プロジェクト・ウズメと名付けられた計画の発動により、リモネシアは壊滅的な打撃を受けて、現れたのは破界の王となのる次元獣を従える男。

 

 その男は後にガイオウと名乗り、新帝国インペリウムとして纏まらない世界を無軌道に蹂躙し始める。

 そんな中でソレスタルビーングでありながらプトレマイオス組とは別に独自の行動を取るチーム・トリニティや、インペリウムの蹂躙を利用して勢力図を書き換えようと動く各国。

 WLFを打倒しても世界の暴力はさらに加速していった。

 

 しかし、ガイオウがこの世界に現れたことで次元境界線が曖昧になった影響か、別世界の戦士をこの世界に呼び寄せる結果となる。

 とある世界でZETHUと名乗り、世界の敵と戦い続けた戦士を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破界の王ガイオウに対抗するために戦力を集める事を優先し、別々の行動を取ることにしたZEXIS。

 宇宙に上がった面々はソレスタルビーングやコロニーの物とも異なるガンダムと見たこともないスーパーロボットに乗る少年少女を保護する。

 

 この世界について説明する最に表示された敵データに驚く。

 

「PM!?」

 

「知ってるのか? こっちじゃ、毒型次元獣なんて呼ばれている。そういや、アイムもそんな風に呼んでたが……」

 

 クロウの疑問にアスランが答える。

 

「俺達の世界にも現れている敵です。次元の境界を越えて現れて人々を襲い、倒しても毒を撒いて住民を死に至らしめる。しかも毒性の検知が困難で、除去が難しい。だからPMに襲われた大地は人の住めない土地へと変えられます。俺達の世界ではそれが大きな問題になっているんです」

 

「幸いにも現れる頻度はそう多くないことや、コロニーなどの地球の外に現れないのが救いですが」

 

 続けるカミーユの言葉にスメラギがそんな事になっているのかと予想はしていたがそうならなくて良かったと思い安堵する。

 オズマが説明を続ける。

 

「こっちの世界では毒型。いや、ややこしいからPMでいいか。とにかくあのバケモノの毒を除去している奴がいるおかげで大きな事態にはなっていない。もっとも、そいつのことは俺達もよく分かっていないが」

 

 画面を切り替えてPMと戦う機体を映す。

 それを見たZEUTHのメンバーは更に驚きの声を出す。

 

「S4U!?」

 

 シンの驚きの声にミシェルが反応する。

 

「知ってるのか? もしかして、この子もZEUTHの仲間なのか?」

 

 ミシェルの言葉に皆がどう説明すれば良いのか分からない様子を見せた。

 

 ルナマリアとエイジはシンを見て、アスランはキラを心配そうにして視線を向ける。

 キラはそんな気はなかったとはいえ結果的にフィアラを放り出し、放置してしまった。

 ラクスと宇宙で合流した時は、その事を大分責められてしまった。

 シンも、初対面で彼女を傷付け、最後にその意思はなかったが撃墜までした。

 他のZEUTHの面々にしても彼女に悪意をぶつけてしまった者は少なからずいる。

 生存している僅かな望みを賭けて次元修復後に捜索を続けていたが、ずっと発見されなかった。

 あの戦いの後にこの世界に転移していたのなら、見つからない訳だ。

 

「なぁ、何なんだよアイツは! これまでこっちが話し合いを呼びかけても全部無視して……!」

 

 あの機体への不満をぶつけるようにアルトは問いかける。

 その質問にキラは一瞬瞳を閉じてから答える。

 

「あの機体のパイロットが僕達の知っている子なら、フィアラとう名前の女の子です。僕達が傷付けてしまった大切な……」

 

「傷付けた?」

 

「えぇ。心も体もきっと……」

 

 悔やむように答えるキラに続きを話す機会を先延ばしにする事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEXISに依って集められたZEUTH。

 最初は自分達はこの世界でどのような立ち位置を取るのか悩んでいた彼らも、組織として似たところのあるZEXISに最終的に身を寄せることとした。

 そして、新帝国インペリウムやガイオウの危険性を感じ取り、その打倒に協力することを約束する。

 ZEXISに引き寄せられるようにかつてのZETHUのメンバーも次々と集結しつつあった。

 彼らが再びS4Uと遭遇するのはそんな中での事だった。

 

 

 

 

 

 

「トリニティの奴ら、今度は何処を攻撃してやがる!」

 

 トリニティの出現を聞いてロックオンは苛立たしげに報告を聞く。

 つい先日、チーム・トリニティが民間人しか働いていない軍需工場を襲撃した。

 ガンダムの力で武装もしてない者を襲撃し、蹂躙する。そのやり方に怒りを覚えているのはロックオンだけではない。

 

「場所はブリタニア・ユニオンの領土! これは────」

 

「どうしたの?」

 

「PMと戦闘をしているS4Uと戦闘をしています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こいつら! 町中なのに平気で!)

 

 愛機である機体を操り、力を使うために歌いながら突然襲いかかってきた赤い粒子を出す3機のガンダムに内心で舌打ちする。

 いつものようにPMに対処していると町への被害などを一切考慮せずに襲いかかってきた。

 赤い粒子のガンダムの攻撃で住民に被害が出ようがお構い無し。

 襲ってくるPMは倒しているが、目的がフィアラなのは明白だった。

 ただ、攻撃が胴体部分を避けていることから、目的は捕獲という感じだが。

 3機の攻撃にフィアラは集中してPMに対処することが出来ず、やって来たブリタニア・ユニオンの軍に任せきりになっている。

 特に攻撃に特化した機体が大剣と誘導兵器で向かってくる。

 

『どうしたどうしたぁ!? よそ見してると、誤ってぶった切っちまうぞ!』

 

『能天気な歌なんて歌っちゃって! ムカつくったら!』

 

『2人とも、目的はあくまでも捕獲だということを忘れるな』

 

 そんな通信が聞こえて来るが、いちいち、反応してる余裕はなく、3機のガンダムとPMの攻撃を躱すか防御フィールドで防ぎながら被弾を避ける。

 いつまでも墜とせない事に苛立ったのか、大剣を持ったガンダムが突っ込んでくる。

 

(調子に乗るなっ!)

 

 片腕で振り下ろされようとする大剣。

 それをフィアラはシールドとライフルを空中に放り投げて大剣を両の掌で挟み込んだ。

 

『なっ!?』

 

 白羽取り、と呼ばれるその防御に驚いた相手の隙を突いて、右足の爪先から出したビームサーベルで大剣を持つ腕ごと斬り落として奪う。

 奪った大剣を即座に捨てて放り投げたシールドとライフルをキャッチした。

 

『このぉ! テメェ!!』

 

 誘導兵器を操り、尚も襲ってくるガンダム。

 距離を取りながらビームマシンガンで撃ち落としていく。

 3機の攻撃を避け続けていると、町の方でPMに襲われている数人の子供を見た。

 

(くそっ!?)

 

 急降下し、シールドブレイドでPMを切断して近くにいる敵も片付ける。

 だが、その隙を見逃すほど赤いガンダムは甘くなかった。

 右肩に長い砲身のあるガンダムがこちらを狙ってきた。

 撃たれる。

 そう思った矢先に高速で何かが割って入ってきた。

 ビームシールドで赤い粒子ビームを防いだその機体は威嚇射撃で敵に距離を取らせる。

 その機体を、フィアラは知っていた。

 

(フリーダム……? キラさん……)

 

 S4U(フィアラ)を守るように敵との間に入ったフリーダムは、その銃口を赤い粒子のガンダムへと定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでもいい余談。

フィアラが第二次から歌っている曲は、KOKIAさんの『祈りにも似た美しい世界』のイメージです。


次はフィアラ対ZEXIS。


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閉ざされている心

この戦闘の戦闘条件を纏めるとこんな感じ。

勝利条件
S4U以外のすべての敵を撃墜後、S4UのHPを3000以下にする。

敗北条件
味方戦艦の撃墜
Sフリーダムの撃墜
S4Uの撃墜

SRポイント取得条件
4ターン以内に勝利条件を満たす




「そんな……っ!?」

 

 多元戦争時、エターナルを助けるためにカガリから借りたストライクルージュで宇宙まで上がり、新たなフリーダムで敵を退けたキラはラクスにフィアラが一時的にZEUTHに預けられて後々に去ってしまった事を説明した。

 ショックを受けているラクスは責めるような視線をキラ向けた。

 

「あの子はまだ何も知りません。人を信じることの大切さも。その痛みと喜びも」

 

 手を組み、祈るようなポーズを取るラクス。

 

「フィアラがもし、私達にとって必要のない存在だと思ってしまえば、この先に誰かを信じる事が出来るのでしょうか?」

 

 ラクスは基本的に自分で考えて答えを出すことを良しとする。

 勿論ラクス自身に譲れない物が有って戦う事はあるが、誰かの言葉に同調するだけで自分で考える事を放棄する事に彼女は否定的だ。その終着が、前大戦だと知っているから。

 しかし、その上で彼女は人類の善性を信じている。

 

 だが、フィアラは、自分で何かを決めるよりも先に知らなければならないことや学ばなければならないことがたくさんある。

 それを教える役目は自分達だったとキラを責めていた。

 

「独りぼっちになってしまったあの子は誰かを信じる事が出来るのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラは、自分の機体のシステムチェックをしていたところで、艦内放送が聞こえた。

 

『トリニティがプリタニア・ユニオンでPMと戦闘している所属不明機────S4Uと襲っているとの情報が入りました』

 

 その放送にキラが近くにいたアレルヤに問う。

 

「あの、トリニティって?」

 

「……僕達ソレスタルビーングの別動隊だよ。この状況で各地に武力介入を行っている。僕達も向こうも互いに仲間だなんて思ってないけどね」

 

 苦い表情をしながらアレルヤは簡単にトリニティについて説明する。

 

 異星の敵やインペリウム等の敵が多く存在するこの世界で武力介入で各国の戦力を削るのは自殺行為である。

 だからアレルヤ達も外敵との戦いに活動を変えたのだ。

 

「……」

 

 少し考えてからキラはコックピットに入って機体を立ち上げる。

 

「すみません! 先に出撃します!」

 

『え! ちょっと!』

 

「急いでますので!」

 

 ハッチが開き、カタパルトからフリーダムで一足先に出撃した。

 目的地を地図で確認しながら逸る気持ちを抑えて機体を駆る。

 

 フィアラが何故独りでPMと戦っているのか。

 あの戦いからどうしていたのか。

 聞きたいことや話したいことがたくさんあった。

 

 キラはフリーダムを更に加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然割り込んできたフリーダムにフィアラは歌うのを止めて呆然としてしまった。

 

『フィアラ!』

 

 通信から聞こえてくる懐かしい声にハッとなる。

 フィアラが歌い、戦場に広がっていた紋様を少しずつ消え始めていた。

 歌を再開し、PMの毒を無力化する陣を補填する。

 すると、スローネが再び襲いかかってきた。

 

『もう何なのよ! 仕事の邪魔してくれちゃって!』

 

『ZEXISに協力している他世界のMSか』

 

『何でもいいぜ! 邪魔するってんなら蹂躙するだけだ! 行けよファング!』

 

 スカートから吐き出された誘導兵器。

 フリーダムは住民を巻き込まない為に上空へと逃げた後に両手のライフルで撃ち落とす。

 

『なっ!?』

 

 あっさりと誘導兵器を撃ち落とされ、驚いている隙にフィアラの駆るS4Uが接近すると、残っていた武装である左腕をビームガンごと斬り落とした。

 

『ミハ兄!?』

 

 女の子がパイロットと思われるガンダムがフィアラを攻撃しようとするが、フリーダムが蹴りを入れて体勢を崩させる。

 それが立て直す前にフィアラがビームガンを保持する右腕を撃ち落とす。

 スローネの3機を着々と無力化していくのに成功していると、別の方角からビームが飛んできた。

 それは、ガンダムデュナメスのGNスナイパーライフルだった。

 

『お前さんも無茶するな! パイロットスーツも着ないで!』

 

『すみません! でも急いでて!』

 

 到着したZEXISの母艦から次々とロボット達が発進してくる。

 

『PMの駆除を最優先に! トリニティはソレスタルビーングが対処します』

 

 スメラギが指示を出し、ゼロか追加する。

 

『戦闘の後、S4Uは絶対に逃がすな! 何としても捕らえろ!』

 

 眼下の破壊された町を見てゼロはそう決断する。

 PMによって殺された住民。破壊された建造物。

 一部トリニティが行ったモノもあるだろうが、これ以上の無視を許すことは出来ないと判断していた。

 幸い、ZEUTHもアレとの対話を望んでいる。問題は転移による逃走のみだ。

 

 それを聞いていたフィアラは操縦桿を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリニティはZEXISが到着した際に自分達の不利を悟って撤退していき、S4UとZEXISとブリタニア・ユニオンの兵が駆除していった。

 PMは全て倒し、歌が止み、町に広がっていた陣も消えていく。

 すると、いつものように転移で消えようとするS4U。

 しかし消え去る前に幾つかの方向から攻撃が飛んできた。

 転移を止めて回避行動と防御フィールドを展開する。

 だが、軌道からそれが牽制による攻撃だと分かった。

 

『やはりな。あの機体は転移を用いる時、必ず静止状態を維持していた。システム上の仕様か。エネルギーの問題か。何にせよ止まっていなければ転移することは出来ない』

 

 仮面の男ゼロは自身の推測を証明する。

 これまではどうにか対話しようと攻撃は控えていた。

 しかしそれではいつまで経っても逃げられてばかりだと判断したZEXISは不本意だが荒っぽい手段を取ることにしたのだ。

 幾つかの機体に銃口を向けられながらZEXISから音声通信が届く。

 

『こちらZEXISのジェフリー・ワイルダーだ。こちらに戦闘の意思はない。繰り返す。我々に戦闘の意思はない。応答を願う』

 

 フィアラは相手の声を聞き流しながら町周辺のマップを見ていた。

 

『この世界に現れたZEUTHも君との話し合いを望んでいる。どうか応じてほしい』

 

 ZEUTH、という単語にコンソール操作していた手の動きが僅かに止まったが、ちょうど良い場所を見つけてマップを閉じる。

 

『聞こえてるなら返事しろ! もう俺たちが敵対する理由はないんだ!』

 

『ねぇ! せめて話をさせてよ!』

 

『フィアラ!』

 

 ZEUTHで世話になった者や嫌な思いをさせられた者からも音声が届く。

 

「今さら図々しいことを……」

 

 飛行形態に変形して町から離れる。

 当然のように追ってくるZEXIS。

 人の住んでない土地まで移動すると、人型形態に戻り、照準を密集しているZEXISに合わせる。

 

「ここら辺でいいか。さぁ、それじゃやろうか。正義の味方!」

 

 1射するとビームサーベルを抜いて1番前を移動していたバルキリーに斬りかかる。

 

「なんで攻撃するかなんて馬鹿なことを訊くなよ? 威嚇とはいえ、先に撃ってきたのはそっちなんだからな!」

 

 こっちは関わる気なんて無いのに、と舌打ちして別に狙ってくる敵から回避行動を取る。

 フィアラが本気で撃っていることを確信して信じられないように音声が届く。

 

『おい! たった1人でZEXIS(俺達)を相手にするつもりかよ!』

 

「私は、もう独りだよ。これからもずっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 S4UとZEXISの戦闘はどちらも目的が達成されないまま続いていた。

 ZEXISから逃走したいフィアラは数に邪魔されて逃げ切る事が出来ず、ZEXIS側も撃墜出来ないという制約上、機動力に優れるS4Uを中々無力化出来ないでいた。

 だが、どちらが不利かと言われれば。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!?」

 

 コックピットで大粒の汗を流しながらZEXISの攻撃を回避することに専念する。

 機体のエネルギーはフィアラ自身で賄えても、本人の体力はそうはいかない。

 スローネやPMとの戦闘もあり、集中力が乱れ始めていた。

 次第に機動の精細さを欠いていくS4UにZEXISはまるで集団暴行でも加えている気分になってくる。

 

『いい加減にしろ! これ以上無駄な戦いを続ける気かよ!』

 

『私達は貴女の敵じゃない!』

 

『もうそちらに勝ち目はない! 大人しくこちらの指示に従うんだ! 君の身の安全は────』

 

 言葉の途中で高威力のビームライフルを撃つ。

 少しだけ呼吸を整えながらシールドブレイドを構える。

 

「無駄な戦い? 敵じゃない? それを決めるのは私だよ。どうせお前達も……」

 

 ────(ひと)を利用することしか考えてないくせに! 

 

 近くにいた機体にライフルの照準を合わせて引き金を引くと、飛び込んできたフリーダムがビームシールドを展開して防ぐとS4Uの両肩を掴んだ。

 

『キラッ!?』

 

 ライフルはフリーダムのコックピットに狙いが付いている。フィアラが引き金を引くだけで撃墜(さつがい)することが出来る状態だった。

 

『何をしているキラ・ヤマト!? 殺されるぞ!』

 

 ゼロの忠告に無視してキラはそのままフリーダムのコックピットから生身の姿を晒す。

 誰もが何をやっているのかと思ったが、キラはこうでもしないと力づくで捕らえたとしても、フィアラが心を開くとは思えなかった。

 こちらが本当に戦闘する意志が無いことを示す。先ずはそこから始めないと。

 そしてこの状態なら、フィアラは撃たないと信じなければ。

 インカムでS4Uに通信を送る。

 

「聞いて、フィアラ。僕達は君と話がしたいんだ。皆心配してる。僕やラクス。それに、フィアラがZEUTHで話していた子達も。だから話をしたいんだ、君と」

 

 その言葉に何を思ったのか。フリーダムに向けられていた銃口は数秒カタカタと揺れていたが、腕を下ろした。

 

 そして────。

 

『あっ!?』

 

 S4Uのハッチが開き、中からパイロットが姿を現す。

 キラ達が知る姿よりも成長して、髪も男の子のように短くなっていた。

 頬に付いている傷はどうしたのか。

 沸き出る疑問よりも、ただ生きていてくれたことを確認できて安堵する。

 

 フィアラは手摺に掴まり、銀の髪が風に揺れながらキラに金の瞳を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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S4U(フィアラ) との戦闘前会話※台本形式

取り合えず、完成。時期はスザクが仲間になってカミナ死亡前。

五十音順です。


 VS赤木駿介

 

 赤木「こっちに近付いてきたら、パワーで押さえ込むぞ!」

 

 青山「ったく! 何だってこんなことにっ!?」

 

 赤木「でも、あのパイロット、町の人たちを助けようとしてくれたんだ! 話せば、きっと変なわだかまりも解ける!」

 

 いぶき「相変わらず単純ね!?」

 

 赤木「ZEUTHと何があったか知らないけど、あんなに真剣に話そうとしてるんだ! 力になりたいじゃないっすか!」

 

 フィアラ「こっちを捕まえようっての? そんなとろい機体でっ!」

 

 

 VSアポロ

 

 アポロ「おいお前! なに意地張ってんだよ!」

 

 フィアラ「……今更話す事なんて、何も無いだけだよ。そっちとの関係は、私がZEUTHを出た時に終わってるんだから」

 

 アポロ「ふざけんな! あんな終わり、俺は絶対に認めねぇからな! もう逃がしゃあしねぇぞ!」

 

 

 VS桂木桂

 

 桂「参ったね。君はもう少しおしとやかな娘だと思ってたけど」

 

 フィアラ「貴方とろくに話したことは無い筈だけど」

 

 桂「なら、これからお互いを知るってのはどうだい? 機体から降りてさ」

 

 フィアラ「冗談! 用も無いのに、言い寄られても迷惑なんだよ!」

 

 桂「ずいぶんとおてんばに育って。これは、口説くのに苦労しそうだな!」

 

 

 VS兜甲児

 

 甲児「おい! 聞こえてるなら返事をしろ! 俺達に戦う気はないんだ!」

 

 フィアラ「こっちにだってないけどね! そっちが勝手に追いかけ回して来るだけなんだから!」

 

 甲児「俺達はただ話を────」

 

 フィアラ「私にはないって言ってるだろ!」

 

 甲児「くそ! 取り付く島もなしかよ!」

 

 

 

 VSカミーユ・ビダン

 

 カミーユ「この感じ、怒りと哀しみ。そして小さな安堵か?」

 

 フィアラ「っ!? 他人(ひと)の心を勝手に読んでっ! 図々しい!」

 

 カミーユ「少しでも戦いたくない気持ちが有るのなら、戦闘を止めろ! このままじゃあ、お前自身が後悔することになるんだぞ!」

 

 フィアラ「お前達が知ったような事を言うんじゃない!」

 

 

 VSガロード・ラン

 

 ガロード「お前、いったい何がしたいんだよ!」

 

 フィアラ「何がしたいか。そんなことをいちいち話さないといけない理由があるとでも?」

 

 ガロード「話せば、俺達だって手伝────」

 

 フィアラ「私には誰も居ないし、必要ない。私は独りだ。たがら、為すべきことは自分独りで達成する」

 

 ガロード「っ! バカなことを言うな! お前が独りだとか、誰も必要無いとか、そんなの認められるかよ!」

 

 

 VSキラ・ヤマト

 

 フィアラ「どう、して……?」

 

 キラ「え?」

 

 フィアラ「どうして、今頃になって私の前に出てきて、助けてくれるのかなぁ」

 

 キラ「フィアラ、僕は……」

 

 フィアラ「遅いよ。本当に、色々と遅い。それとも、私の利用価値を理解したから気にかけてくれるの?」

 

 キラ(どうにか、僕達に敵意が無い事を証明しないと。それには、きっと……)

 

 

 

 

 VSキリコ・キュービー

 

 フィアラ「そんな動く棺桶で……!」

 

 キリコ「……機体の性能だけで勝敗は決まらない。それを教えてやる」

 

 

 

 VS枢木スザク

 

 スザク「あの機体には、以前僕達の日本を助けてもらった借りがある。しかし、今はZEXISとしての任務を優先する!」

 

 フィアラ「小さい上にすばしっこい! これだからKMFはやりづらいんだよ!」

 

 

 

 

 VSクロウ・ブルースト

 

 クロウ「チッ。これ以上、俺の女嫌いを深刻化させるのはご遠慮願いたいんだがな」

 

 フィアラ「その機体は……」

 

 クロウ「どうした? ブラスタは俺の借金返済の相棒だ。欲しくてもくれてやる訳にはいかないな」

 

 フィアラ「悪いことは言わないから、大人しくその機体から降りることをお勧めするよ。仲間を撃ち殺す前に」

 

 クロウ「……どうやら、ブラスタ、いや。VXについて何か知ってるみたいだな。お前さんをますます見逃してやるわけにはいかなくなったぜ。悪いが、その不吉な言葉の意味を話してもらう!」

 

 

 

 VSゲイナー・サンガ

 

 ゲイナー「やめてくれ、フィアラ! アナ姫が君の歌を聴きたがってるんだ!」

 

 フィアラ「アナ姫……」

 

 ゲイナー「アナ姫だけじゃない! 皆が、もう一度君と話がしたいって思ってる! だから、こんな戦いはやめるんだ!」

 

 フィアラ「こっちが恥ずかしくなるくらいの愚直さ。でも、もう私は貴方と一緒に歩む気はないんだよ!」

 

 ゲイナー「僕は諦めないぞ! 必ず君をアナ姫のところに連れていく!」

 

 

 

 VS早乙女アルト

 

 アルト「空での戦いなら、こっちに分があるんだ! これ以上、のらりくらりと逃げられると思うな!」

 

 フィアラ「やってみれば? そうやって何でもかんでも力ずくで従わせるのが貴方のやり方なら」

 

 アルト「お前……っ!」

 

 フィアラ「そんなに空での戦いをご所望なら……いいよ。少しばかり付き合ってあげる」

 

 

 

 VSシモン

 

 シモン「アニキ。なんで俺達は戦ってるんだろ……」

 

 カミナ「シモン、お前……」

 

 シモン「だって。あのバケモノを何とかするためにあの子の力が必要で、それなのに、なんで、こんなことになってるんだ」

 

 フィアラ「螺旋族。貴方達に天元に挑むだけの資格があるのか。少し興味はあるけど、今はどのみち……」

 

 

 

 VSジロン・アモス

 

 ジロン「俺達、同じ釜の飯を食った仲間だろ! こんなことやめろぉ!」

 

 フィアラ「仲間、ね。ならどうして……」

 

 ジロン「言いたい事があるなら、ハッキリ言ってくれよ! そうじゃなきゃ、分からないだろ!」

 

 フィアラ「……」

 

 

 

 VSシン・アスカ

 

 フィアラ「相変わらず逃げる相手を追いかけ回すのが好きな奴!」

 

 シン「聞いてくれ! 俺たちがもう戦う理由はないんだ! キラさん達とだってっ!」

 

 フィアラ「ハッ! 自分の都合で人を殺そうとするくせに、今度はお前の都合に合わせて戦うのを止めろ? 調子の良い事を言うよね!」

 

 シン「違う! こんな戦いは誰も望んでない! しちゃいけないんだよ!」

 

 フィアラ「なら、とっとと墜ちろ! 生きてたなら話くらいは聞いてやる! それで、少しは互いの立場も対等になるだろ!」

 

 シン「っ! この、わからず屋がぁ!!」

 

 

 

 VS神勝平

 

 勝平「なんでだよ……キラの兄ちゃんたちとも仲良くなったのに、なんでお前は1人だけこんなことすんだよ……!」

 

 フィアラ「誰も彼もが、自分たちを許して、握手してくれると思うなよ。嫌われることをしたのはお互い様なんだからな!」

 

 

 

 VS刹那・F・セイエイ

 

 フィアラ「さっき、ソレスタルビーング同士で戦ってたみたいだけど、仲間割れ? それとも、同じ組織だけど敵同士なのかな? 以前のZEUTHを思い出すかな?」

 

 刹那「何故だ?」

 

 フィアラ「ん?」

 

 刹那「何故お前はそうまで周りを拒絶する。どうしてお前を想ってくれる者の言葉を聞かない」

 

 フィアラ「……別に。ただ、与えるばかりで、利用されることにうんざりしただけ。ましてや、傷つけていることすら見ようとしない連中なら、尚更に」

 

 

 

 VSゼロ

 

 

 ゼロ「お前の動きは完璧に解析済みだ。ZEUTHの協力もある以上、逃がすことはあり得ん! さぁ、話してもらうぞ! 貴様とあのPMの事を!」

 

 フィアラ「王の力に手にした者、か。さて、私が気にすることじゃないけど、貴方はその力に呑まれずに在り続けることが出来るのかな?」

 

 

 VS竹尾ワッ太

 

 ワッ太「助けてくれたり、逃げ回ったり! 今度は戦って! 何がしたいんだよ、アンタ!」

 

 フィアラ「そっちが私の邪魔をするだけだろうに!」

 

 ワッ太「武器なんて向けないで、ZEUTHの皆やオレたちと話しなよ! きっと、そうすれば……!」

 

 フィアラ「他人の中に、勝手に踏み込もうとするんじゃない!」

 

 

 VS壇闘志也

 

 フィアラ「その機体の製作者には、個人的に恨みがあるし、八つ当たりも込めて徹底的に破壊させてもらおうか!」

 

 キラケン「まてい! ワシらはもう、お前さんと戦う理由は────」

 

 フィアラ「あの男の遺産、何か面倒を起こす前に消し去る!」

 

 ジュリイ「まいったね。どうやら、風見博士がやらかしたことのツケがこんな形で回ってくるとは……」

 

 闘志也「こっちを狙ってくるなら丁度良い! そのまま取っ捕まえてやるぜ!」

 

 

 

 VS天空侍斗牙

 

 エイジ「この野郎! こっちが下手にでりゃあ、調子に乗りやがって!」

 

 琉菜「こんな戦いに何の意味があるのよ!」

 

 フィアラ「意味? 面白いことを訊く。お前たちの行動が回りに回ってこうなった。それだけのことだろうに」

 

 リイル「私たちの所為だというの?」

 

 フィアラ「自覚すらないなら、この場に出てくるな! もっとも、お前たちには、私を倒すことは出来ても、手を取ることは出来ないんだよ!」

 

 斗牙「僕たちは────」

 

 エイジ「斗牙! こうなりゃあ! アイツを取っ捕まえる事だけを考えろ! 自分がどれだけ馬鹿なことをしてるか、解らせるのはその後だ!」

 

 フィアラ「上等だよ! その貰い物の正義、徹底的に叩き潰してやるから!」

 

 斗牙「戦うしか、ないの……?」

 

 

 

 VS流竜馬

 

 武蔵「さぁて! 悪いが、大人しくしてくれや!」

 

 隼人「竜馬! あくまでも目的は無力化だ! 殺すなよ!」

 

 竜馬「分かってる。だが、少しばかりキツいのをいくぜ!」

 

 フィアラ「3機による合体、分離にまったく性能の違う機体……! 思ったよりもずっと……!」

 

 

 VSヒイロ・ユイ

 

 ヒイロ「対象の行動を無力化する」

 

 フィアラ「モビルスーツのくせに硬いな、もう!」

 

 

 VS飛鷹葵

 

 朔哉「ちくしょう! やりづらいぜ! あのロボットには、これまでも世話になってるってのによ!」

 

 ジョニー「そう言えば、僕たちの初出撃も、彼女に助けてもらいましたね」

 

 くらら「恩を仇で返すみたいで気が引けるけど!」

 

 葵「こっちも、ちょっと余裕が無いのよね。だから、少しだけ付き合って貰うわよ!」

 

 

 VSマリン・レイガン

 

 マリン「フィアラ! こんなことはやめるんだ! このまま戦い続ければ、取り返しのつかないことになるぞ!」

 

 フィアラ「だったら、こっちのことは放っておいてほしいなぁ。それとも、故郷が和解出来たから、私とあっさり手を取り合えるなんて思っているのなら、楽観し過ぎだよ」

 

 マリン「確かに人が分かり合うのは容易じゃない! だが、簡単に諦めてたまるか!」

 

 

 

 VS明神タケル

 

 タケル「なんだ? この今まで感じたことの無い念は……彼女の中に、言葉に出来ない何かが……」

 

 フィアラ「チッ! 感応者はこれだから好きになれないんだ。無作法に人の中に押し入ってくる!」

 

 タケル「いや、違う! この感じは今までにも……」

 

 フィアラ「あまり、人の中を勝手に覗かないで欲しいんだけどっ!」

 

 

 

 VSレントン・サーストン

 

 フィアラ「この世界のニルヴァーシュか……」

 

 エウレカ「どうして? あなたは、そうまで心を閉ざすの?」

 

 フィアラ「別に。ただ、信頼は積み重ねだよ。でも、私達は互いにそれを怠った。これはその結果というだけのこと」

 

 レントン「でも! ZEUTHの人達は君と話したがってる! 戦わなくて良い道があるのに、こんな……!」

 

 フィアラ「余計なお世話だよ。もう、誰かの都合に引っ掻き回されるのはうんざりだから」

 

 

 VSロジャー・スミス

 

 ロジャー「私は……私たちは君に謝罪しなければならない」

 

 フィアラ「あ?」

 

 ロジャー「我々はあの時、君に対する配慮を明らかに欠いていた。我々の言動が、君を深く傷付る結果になってしまった」

 

 フィアラ「……今更だよ。それを悪いと思うなら、私の前に出てくるんじゃない!」

 

 

 VSロラン・セアック

 

 ロラン「もうやめるんだ! こんな戦いは、誰も望んでないじゃないですか!」

 

 フィアラ「撃ってきたのはそっちだろうにっ!」

 

 ロラン「僕たちはだだ話を────」

 

 フィアラ「耳障りだ、墜ちろっ!」

 

 ロラン「どうして分かってくれないんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 初対面

 

 AG「はじめましてフィアラ様! 私DEMコーポレーションのエージェント、A────」

 

 フィアラ「……………………なにしてんの? ジ────」

 

 AG「わぁあああっ!? やめてください! 初っぱなからネタバレとか! 私はAGですから! 貴女様とは初対面ですから!」

 

 フィアラ「…………貴方がそう言うなら、そういう事にしておきましょう。でも、あんまりおふざけが過ぎると追い出されるよ?」

 

 AG「肝に銘じておきます……」

 

 フィアラ「だけど、また貴方と会えて嬉しい。これからよろしくね、AG」

 

 AG「(やっぱりバレてしまいましたか。それにしても、あんな風に笑えるようになったんですねぇ、フィアラ様も)」

 

 

 エーストーク

 

 AG「ハッピーエースパイロット、フィアラ様! おめでとうございます!」

 

 フィアラ「…………」

 

 AG「何ですか、その渋い顔。嬉しくないんですか?」

 

 フィアラ「どうだろ? ただ、私でもエースに成れるとか、この部隊の敵との遭遇率がおかしいのか、私の腕が上がってるのか、どっちだろと思って」

 

 AG「純粋に後者だって喜びましょうよ。それはそれとして、私、前から訊きたい事があったのですが」

 

 フィアラ「ん?」

 

 AG「正直、歌いながら機体を操縦するってキツくないですか?」

 

 フィアラ「あぁ。それは慣れかな。要は、操縦する為に使う脳と、歌う為に使う脳を分けてる感じ。どっちにも集中してるけど、どっちの行動や作業にも俯瞰してるような」

 

 AG「(なんだかんだでこの人も高スペックの天才なんですよねぇ……)」

 




参戦作品多い。途中で投げ出しかけた。


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拒絶する言葉

個人的に前話の戦闘前会話でのお気に入りは、桂、カミーユ、シン、甲児、グランナイツ、チームD、スザク、ロジャーだったりします。

フィアラは現在、反抗期、人間不信、被害妄想、癇癪などで、非常にめんどくさいです。
言ってることの正しさを問うなら、正しいのはZEXISで、間違ってるのフィアラの方です。



 ようやくフィアラと話し合いの席を設ける事に成功したZEXIS。

 特に、元ZEUTHのメンバーは変わった彼女に戸惑いつつも生きているその姿を確認出来た事に安堵した。

 そんなフィアラが勧められるままに気怠そうに席へと座って言った最初の一言は────。

 

「もう出て行っていい?」

 

「まだ何にも話してないだろ!?」

 

「チッ」

 

 あんまりな第一声に赤木が驚きからツッコミを入れると聴こえるように舌打ちする。

 その悪態に、ZEUTHの面々は戸惑い気味にフィアラを見て、ZEXISはこれまで無視され続けてきた反動から苛立ちを募らせる。

 それらを察してスメラギが話し始めた。

 

「なら、どうして今回、こちらの要望を最終的に聞き入れてくれたのかしら?」

 

 スメラギの質問にフィアラは一瞬だけキラの方を見てから答える。

 

「……キラさんが生身を晒してまで話がしたいって言ったから、話くらい聞いても良いかな? と思ったけど、ここに案内されるまでに、何かどうでも良くなってきたから」

 

「こいつ……!」

 

 そのあんまりな自己中心的な理由に数名が眉間にしわを寄せた。

 

「遅れましたが、ソレスタルビーング及びZEXISの戦術予報士のスメラギ・李・ノリエガです。理由や過程はどうあれ、話し合いの席に着いてくれた事に、感謝します」

 

「フィアラ・フィレス、です。感謝はいらないから、手早く終わらせましょう。お互い、そんなに暇でもないだろうし」

 

 面倒臭い、という雰囲気を隠すことをしない様子に更なる苛立ちが募る。

 そこでキラが首を傾げた。

 

「フィレス?」

 

 フィアラ、という名前しか知らなかったキラはその事に疑問に思った。

 

「ジ・エーデル・ベルナルのところに世話になってた頃にファミリーネームも調べてもらって。今はそう名乗ってるから」

 

 そこでゼロが話に入る。

 

「何故、これまで我々の呼びかけを無視していた。此方に敵対する意志が無いことは何度も示してきたはずだ」

 

「こっちは貴方達に用なんて何も無いもの。なら、別にそっちに従う理由も無いでしょ。親しい間柄ってわけでもないし。知らない人にはついていっちゃいけませんって誰でも教わるでしょ?」

 

 椅子の背に体重を預けながら答えるフィアラ。

 そこでキラが気になっていた事を訊ねる。

 

「フィアラ、その顔の傷は?」

 

 右頬につけられた目立つ傷。

 もしかしたら、次元修復の為に行った自分達との戦いで付いてしまった傷なのではないか。

 そんな不安に駆られたが、それはまったくの的外れだった。

 

「1年程前に、エリア11に行って、その時に日本解放戦線のテロに巻き込まれて、その際に付けられただけ」

 

 日本解放戦線? と疑問に思うZEUTHにゼロが黒の騎士団が現れる前に活動していたエリア11においてのブリタニアに対する最大のレジスタンスだと軽く説明する。

 フィアラの顔の傷が自分達が負わせたものでないことに安堵する。

 

(もっとも、傷があるのは顔だけじゃないけど……)

 

 その様子を見て小さく息を吐くと、ZEUTHのメンバーが集まっている方に視線を向ける。

 

「そもそも、そっちは今更私に何の用? こっちには用件なんて1つも無いんだけど」

 

 迷惑だと言わんばかりの視線を向けてくるフィアラに、反応したのはZEUTHの面々ではなくワッ太だった。

 

「さっきからそんな態度取らなくてもいいだろ! アンタも、勝平達の仲間なんだろ!」

 

「へー、初耳」

 

 室内の温度が下がるようにフィアラは視線を鋭くした。

 別に、ZEUTHの面々はフィアラを仲間と称した事は無い。

 多元戦争で最終的に敵対したのは事実だし、仲間と呼ぶには互いに精神的な距離があり過ぎた。

 ただ、ガンダムスローネとの戦いにいち早く介入したキラや、彼女に友好的なアナ姫などの存在から、ZEUTHの仲間、という先入観をワッ太に与えただけだ。

 先程の戦闘も、何かの誤解から生じた物と無意識に考えていた。

 眉間に皺を寄せて小さく息を吐くと、ZEUTHとの関係を説明し始める。

 

「どんな都合の良い関係をでっち上げられてるのかは知らないけど、一時期に事情があってZEUTHのところで居候をしてた事があるだけだよ。結局、ウマが合わずに逃げ出した。それだけ」

 

 当時の事を思い出してか、不快そうな雰囲気が深まる。

 また、ZEXISの面々はウマが合わなかった、という言葉に違和感を覚えた。

 ZEXISにしろZEUTHにしろ、人員の割合としては軍人よりも民間人の比率が多い。

 だから、余程の堅物か、人格に問題のある人物でもない限りは、そう不仲にはならなさそうだが。

 まぁ、実際にはウマが合わなかった、というよりも、あまりにも間が悪かった、と言う方が正確なのだが。

 僅かな沈黙の後に会議室に遅れて人が入ってきた。

 

「フィアラッ!!」

 

 慌てた様子で入ってきたのは、ゲイナーとサラに連れられて来たアナ姫だった。

 彼女はフィアラの姿を確認すると、じわりと目に涙が浮かんだ。

 流石に驚き、たじろいでいると、アナ姫がフィアラ抱きついてきた。

 

「よかった……っ! 本当に……フィアラァ!」

 

 そんな純粋な安堵による嗚咽にフィアラは戸惑い、バツが悪そうに頬の傷を掻く。

 アナ姫はZEUTHにいた頃にとても良くしてくれた少女だ。

 ZEUTHに居候していた時に、良い思い出など殆んど無いが、彼女が与えてくれた優しさは覚えている。

 だから、それすらも無下に突き放すのは躊躇われた。

 アナ姫が落ち着いた頃を見計らってゼロが話しかける。

 

「それで、こちらも話を進めたいのだが」

 

「……もう少し空気を読んだらどうだ?」

 

「お前は黙っていろ」

 

 無粋なゼロにC.C.が嗜めると冷たく返す。

 だが、ゼロの言う事も間違っておらず、このまま静観している訳にもいかない。話に割って入ったのはクロウだった。

 

「アイムの言っていた、あのPMって言うバケモノ。アレをこの世界に呼び込んだのが、お前さんってのは本当なのか?」

 

 以前、アイム・ライアードが言っていた事。

 フィアラがPMをこの世界に呼び込んだと。

 それはZEXISの面々が真っ先に知りたい事だった。

 もしそれが本当なら、何故そんな事をしたのかも含めて。

 質問にフィアラは、やや歯切れの悪い表情で答えた。

 

「……そういうことに、なるんじゃないかなぁ?」

 

「はっきりしなさいよ!」

 

 曖昧な答えを返すフィアラにヨーコが苛立たしい態度になった。

 少し考える素振りをするがそれは拒絶や煙に巻くと言うより、どう話すべきか悩んでいる様子だった。

 

「なんだ! 何か疚しい事でもあるのかよ!」

 

「アルト!」

 

 黙っているフィアラに、つい苛立ちから強い口調になってしまったアルトをミシェルが嗜める。

 特に反応はせずに、ZEUTHの面々に視線を向けた。

 

「貴方達がここに居るって事は、ジ・エーデル・ベルナルを倒して、次元修復は無事、行われたんだよね?」

 

「え? あ、あぁ。あの戦いの後、大特異点であるユニウスセブンでな。今は次元境界線も安定してる」

 

 次元修復の結果を簡単にカミーユが説明する。

 ジ・エーデル・ベルナルの事は、ZEUTHにとっては許しがたい敵だが、フィアラにとってはどうか分からず、以前のように感情を爆発させる可能性があるので敢えて事実だけを告げるようにした。

 話を整理するように小さく頷いた後、フィアラは話を始めた。

 

「あの戦いの後に行った次元修復。大特異点の近くにいた影響もあって、私はあの世界から弾かれた」

 

 おそらく理由は、フィアラがあの世界に居る事に嫌気が差していたのが原因だろう。口には出さないが。

 

「その際に、PMが本来居る次元から、此方の世界を観測したと思われる。私が此方に来た際に出来た次元の穴。そこを伝ってアイツらこの世界に現れ、自分達の世界から直接この世界への繋いだ、と考えている」

 

「……では、君の意思でPMをこの世界に呼び込んだ訳ではないと?」

 

「私にそんな事が出来るとでも? まぁ、個人的にアレには用が有るから、こっちに来て2年間、世界中を回って色々と準備してたけど」

 

「2年!?」

 

「多元世界の不条理だな」

 

 道理で体が成長している訳だと思う。

 

(もっとも、理由はそれだけじゃないだろうけど……)

 

 心の中でフィアラは付け足す。

 

「準備?」

 

「もしもアレがこの世界に来た場合を想定して、世界中を回りながら転移するために必要なマーキングと、アレがこの世界に何処に現れた時に分かるように発信器みたいな物を仕込んでた」

 

 転移してきたときに、何故か位置がズレてたりした時があったのはその為かと納得する。

 そこで玉城が怒った顔で発言する。

 

「でも結局よー! こいつがこっちに来たから、あのバケモノが現れたんだろ?」

 

「玉城!」

 

 玉城の言葉に扇が止めに入る。

 しかし、ゼロが意外な言葉を発した。

 

「だが、ある意味では彼女だけ此方に来てくれたのは私達にとって幸運だったとも言える」

 

「なんでだよ!」

 

「考えても見ろよ。この子がこっちに来た事でPMがこっちに来たのなら、ZEUTHがこっちに来てから奴らが現れたら、どうなると思う?」

 

「フィアラ・フィレスがこれまで行って来たという準備をこれからしなければならない。いや、そもそも彼女が此方に来なかった可能性も有る」

 

「そうなったら、あのPMの毒でこの世界の現状はもっと悲惨な事になっていたわね。インペリウムの事も含めて」

 

 ロックオンとティエリアが情報を補足し、くららが締め括る。

 それに玉城が唸るように押し黙った。

 フィアラに対する疑念が多少緩和したところでジェフリーが提案する。

 

「フィアラ君。今、この世界は混迷を極めている。今回のように、君を襲う者が現れないとも言い切れない。我々と行動すれば、少なくとも全力で君を守るつもりだ。どうだろう? 我々、ZEXISに力を貸してくれないか?」

 

 それは、誠実な頼みだった。

 この星を、そこに住む人を想い、守りたいという純粋な願い。

 しかし、フィアラの答えは否だった。

 

「あり得ない。断る」

 

 ただ、鬱陶しそうに返しただけだった。

 僅かな沈黙の後に、スメラギが質問する。

 

「理由を伺っても?」

 

「私、団体行動はしたくないし、別に今のまま独りでも困ってないから。何より、PM以外の敵となんて関わるつもりもない」

 

 あくまでも目的はPMで、他は知ったことじゃないと言うフィアラ。

 

「……色々と言いたい事はあるが、そのPMの対処も、大分難儀しているようだが?」

 

 最近PMの出現頻度が上がり、前は1週間から10日に1回くらいだったのが、今では2日3日、もしくは連日出現することもある。

 その上、個体の戦闘力も上がって来ており、苦戦する場面も増えてきた。

 ZEXISだけでなく、何処の組織も彼女を失ってPMに対処出来なくなるのを恐れている。

 

「PM以外と戦うつもりがないと言うならそれでも良い。だが、このままでは遠からず、限界も来るだろう。君が力を貸してくれれば、こちらも取れる手段が増えるし、君自身の生存率も────」

 

「関係ない」

 

 ゼロの言葉を遮り、フィアラ意固地に拒絶する。

 

「私は誰も信用できない。だから誰とも行動出来ない。ついでに言うなら、PMの対処に遅れ始めている? だから何? 結果的に駆除出来てるんだから、私にはそれで充分」

 

「はぁ!?」

 

 突然のぶっ飛んだ発言に驚きの表情をする。

 

「勘違いしてるようだから訂正するけど。私の行動で助けられる人が居るなら良いかなって思うけど、例え町の人達が全滅してたなら、それは仕方ないかな、とも思ってる。だって私は別に命を助けてる訳じゃないし、正義の味方でも何でもないから」

 

「君。その発言はちょっと無責任じゃないか?」

 

 タケルの言葉に意味が分からないとばかりに鼻で笑った。

 

「無責任? そもそも、責任なんてこっちは背負った覚えはありませんが? 責任云々の話をするなら、今までPMを対処してた活動報酬くらい払って欲しいんだけど。こっちは何も貰ってないのに、責任だけ押し付けないでくれる?」

 

「言ってることは共感できるが……」

 

 フィアラの腕をクイッ、クイッと動かしての主張にクロウが困ったように頬を掻く。

 そこでカミナがフィアラに問い質す。

 

「なら、お前は何だってアイツらと戦ってるてんだ! えぇ!!」

 

「アニキ!」

 

 それは誰もが気になっていたこと。

 彼女が頑なにPMと対峙する理由。

 ZEUTHも知らない事情。

 

「私はアイツらが居る、本来の次元に行きたいの。今はその為の準備段階。PMへの対処も含めて」

 

 場が驚きに支配される。

 PMへの場当たり的な対処だけではなく、敵の居る次元に行けると言う。例え時間がかかるとしても、その利点大きい。

 PMの驚異を、根本から絶てる可能性があるのだから。

 

「だったら尚更、独りじゃダメだ。俺達にも協力させて欲しい」

 

 甲児が真っ直ぐとフィアラを見て説得する。

 彼女がどうしてそんな事が出来るのかは知らないが、あんなバケモノのいる巣窟に単独で挑むなんて危険すぎる。

 それでも、フィアラの答えは否だった。

 

「関係ないって言ったでしょ。私は私の為に戦って行動してる。それに他人を絡ませるつもりはないから。そもそも、私はZEUTHの大半と確執がある。そんな連中と一緒に行動なんて出来ない」

 

 ZEUTHの集まりを指差して主張するフィアラ。

 一瞬その事に険しい顔になるが、シンがどうにか前に出て話そうとした。

 

「確かに、あの時俺達はキラさん達の居たアークエンジェルと敵対していた。けど、もうその事は────」

 

「あれだけ罵詈雑言を言っていたくせに、手を取り合ったって言うのも信じがたいけど。初対面で私の顔を叩いて倒した事は後回しなんだ。へー」

 

「つ────いや、それはっ!?」

 

 フィアラの言葉にZEXISのメンバーが、信じられないと言うような眼でシンを見る。

 シンが何かを言う前に畳み掛けるように続ける。

 

「それと、謝罪はいらない。私に許す意志が無いから意味ないし。そもそも、今更そんなモノは聞きたくない」

 

 続いてZEUTHの全体を見るように首を動かす。

 

「それに、私が居候してた時に、散々陰口を言ってたでしょ? 私みたいな部隊の空気を悪くする奴はさっさと居なくなって欲しいって。望み通り消えてくれてさぞや嬉しかったでしょう?」

 

 嫌味たっぷりの笑みを浮かべて言うフィアラ。

 陰口を言っていた人物達は顔を逸らし、一緒に聞いていたアナ姫等はあ、と思い出して声を漏らした。

 

「そう言えばその時に、PMも自分達ならいずれ対処する手段が見つかるとか言ってたし、良かったねぇ! これで私が死んでも、ZEUTHの人達がきっと何とかしてくれるでしょ?」

 

 態とらしくテンションを上げて言うフィアラにZEUTHが押し黙る。

 

「そういう訳だから、私が死んだら、ZEUTH(彼ら)を頼れば良いよ。私、もう別に必要ないでしょ?」

 

 ZEXISに告げるとロジャーが言葉を発する。

 

「私達の中でそのような発言がした者が居たことは謝罪しよう。だが、情けない話、私達の世界でも、PMに対する打開策は未だ見つからないのが現状だ」

 

「だから? 世界の危機だから、過去の暴言を水に流せとでも? それとも今は我慢してくれ? どっちもゴメンだけど。私、根に持つタイプなので。ほらそれに、過程や道理を無視して、自分達に都合の良い奇跡を引き当てるのは、得意でしょ? それでどうにかしたら?」

 

 小馬鹿にするような視線で笑みでZEUTHを突き放すフィアラ。

 

「大体、私の能力を解明しようと、人体実験のモルモットにしようとしたくせに、信用が得られると思ってるのが甘いんだよ!」

 

 吐き捨てるように言うと、刹那が訝しむ様子で呟く。

 

「人体実験?」

 

 ZEXISの面々も流石に事情が分からずに困惑する。

 彼らがそんな事をフィアラにしようとした事が信じられず、だが、その様子から出任せを言っている感じでもない。

 このままでは話が進まないので、風見博士の弟子だったジュリイが説明する。

 

「……その子がZEUTHに居た頃、俺達のゴッドシグマを開発した風見博士は、彼女の能力に着目し、人体実験にかけようとしたことがある。その子自身が激しく抵抗した結果、未遂で終わったが」

 

「なんだよそれ!?」

 

「フィアラがZEUTHを逃げ出したのは、その少し後で……」

 

 アナ姫が当時の事を思い出して辛そうに目を瞑る。

 

「……それで、その風見って奴は?」

 

「あの人は、結局最終的に俺達とも袂を別って、地球を侵略していた異星人の連合に就き、俺達とも敵対して、倒したよ」

 

 闘志也が苦い表情で説明し終えると、カミナが首を傾げた。

 

「なら、その風見って野郎が悪いんじゃねぇか」

 

 フィアラに酷いことをしようとしたのが風見博士なら、そいつが死んだ時点でこの話は終わりではないだろうか? 

 そう他の者も思ったが、フィアラは冗談じゃない、と吐き捨てる。

 

「どうせ同じ事が起こっても、貴方達は何もしてくれないでしょ? それが信用出来ないって言ってるの」

 

「どういう事だよ!」

 

 アポロの戸惑いにフィアラは続ける。

 

「私を襲ったあの人を貴方達はどうした? 何もしなかったでしょ?」

 

「何もしなかった?」

 

「そう。厳重注意で、私から遠ざけただけで、大した処分もしなかった! あぁ、別に貴方達は間違ってない! 優秀な科学者を、それも大切な身内を、悪意を吐き散らしてたガキの為に人体実験の未遂なんかで一々罰してなんかいられないものね! でも、私はお前達の仲間でも身内でもないから、そんな場所に恐くて居られないんだよ!」

 

 実際に彼は懲りもせずに敵という理由で異星人や、堕天翅の子供を人体実験にかける暴挙を行った。

 それでも彼の優秀さや、以前の人格を信じたZEUTHは処分らしい処分を下さずに裏切りを許して遅すぎる罰を与えた。

 

「ZEUTHではどうだったかは知らないが、ZEXISでもしもそのような非道な行いをする者が現れれば、然るべき処分を下すつもりだ」

 

「その然るべき処分がどういう物かは知らないけど、さっきも言った通り、私は誰も信用できないの。そういうリスクを背負うのは止めたから」

 

 締め括るよう手を叩く。

 どうにかしようとシンがキラに小声で話す。

 

(キラさん! さっきから黙ってないで、何か言って下さいよ! アイツを説得出来る可能性が高いのはキラさん何ですから!)

 

(うん。そう言ってくれるのは嬉しいけど、シンももうちょっと頑張ろうか)

 

 記憶からあまりに変わりすぎているフィアラに面食らっていたキラは、それでも話そうと動く。

 

「久しぶり、で良いのかな? フィアラにとっては2年ぶりみたいだし」

 

「……えぇ、まぁ」

 

 先程の攻撃的な態度は鳴りを潜め、自分の腕を強く握りながらもキラから視線を逸らす。

 その反応に、周りが、ん? という反応をした。

 

「アスランから、フィアラがZEUTHを離れたって聞いて、ずっと捜してたんだ。あの戦いが終わった後も、カガリやラクスも」

 

「……」

 

「あの時、フィアラの気持ちを考えずに、僕達は自分の都合を押し付けた。連絡の1つも入れずに不安にさせて、本当にごめん」

 

「なんで……」

 

「え?」

 

 首を小さく横に振る。

 それは怯えるような。

 怒るような。

 哀しむような。

 堪えるような。

 複数の感情が混ざりあった表情。

 しかし、その表情もすぐに治まり、僅かな俯きの後に消えた。

 

「別に……あそこに居ても大して役に立ってた訳じゃないし。居ても居なくても問題無かったから放置してたんでしょ? だったら、もうこのまま放って置いてほしいんだけど?」

 

 拒絶する声は変わらない。

 ZEUTHがアークエンジェルを責めていた時にあれだけ激昂した筈なのに。

 何が彼女をそこまで変えたのか。

 

「それとも、思ったより使える道具だって判ったから、優しい言葉をかけてくれるのかな?」

 

 笑顔なのにその声と眼は少しも笑っていない。

 流石に今の発言は聞き捨てならず、アスランが割って入る。

 

「君は、キラやアークエンジェルの人達がそんな理由で接してくるように思えるのか?」

 

「さぁ? 私、キラさん達の事は何も知らないし、知ろうともしなかったから。今更、信じるに足る物があるのかな……」

 

 肩を竦めるフィアラ。

 ここまでの会話で元ZEUTHとZEXISは大分戸惑っていた。

 元ZEUTHのメンバーはフィアラのあまりの変わりように、彼女が平行世界の別人なのではないかと思いたい気分だった。

 ZEXISは、今までの戦闘で聴いたフィアラの歌やPMと戦うS4Uの姿から、こういう人物なのかもしれないという想像は悪い意味で叩き折られていた。

 ただ、一方的に拒絶だけを突きつけるフィアラに誰もが苛立ちを募らせている中で、キラがどうにか話そうと心がける。

 

「フィアラ。僕達は、君とやり直したいだけなんだ。だから、もう一度僕達に仲直りをする機会が欲しいんだ」

 

 それはキラからすれば他意のない言葉だった。

 傷つけた事を謝りたい。仲直りがしたい。

 もう一度、フィアラを会いたがっている人に会わせたい。

 それは、純粋な善意だった。

 しかし、それを素直に受け取るには、フィアラの精神は荒みすぎていた。

 歯を鳴らし、表情がみるみると怒りの表す。

 その顔は、かつてZEUTHに死ねば良かったと叫んだ時と同じで。

 

「うそつき……」

 

「え?」

 

「どうせ……どうせ私を利用したいだけのくせに……っ!」

 

 その声は、先程までの煙に巻くモノとは違い、はっきりと怒りを宿していた。

 

「えぇ! そうですよ!! 私なんてどうせ、この能力以外何の価値もない! さぞ滑稽だったでしょうねっ!! あの研究所で家族を失って、助けてくれた貴方達の役に立とうと能力を使う私の姿は!!」

 

 一度堰を切った怒りは収まらず、その言葉が自分の株を下げると知っていても止めることができない。

 

「あの機体をジ・エーデルに貰ったときも、キラさんやアークエンジェルの人達の仇を討つんだって訓練用のシミュレーターに齧りついてたんですよ! そんな必要まったく無かったのに! おっかしいでしょう!!」

 

 その姿にアナ姫も思わず後ずさる程だった。

 聞くのに堪えかねたシンがフィアラの言葉を止めようとする。

 

「おい! ちょっと落ち着け────」

 

「触るな!」

 

 即座にシンの手を払い除けて、彼を、というより、ZEUTHを指差した。

 

「お前達も! いつもいつも自分が誰かを許してやる立場に立ってると思うな! 私、は────」

 

 そこで、ぐらりとフィアラの体が揺れて、椅子の手摺に捕まって倒れるのを防ぐが、怒りで赤くなっていた顔はすぐに青褪めていき、腕から力を失くして、床に倒れ込んだ。

 

「フィ、アラ……? フィアラッ!?」

 

 逸早くフィアラに触れたアナ姫の声が室内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 



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孤独(ひとり)傷痕(だいしょう)

「離して! 離してください!?」

 

 それは、まだこの世界に来たばかりの頃。

 PMに対抗する準備をするために各地を転々と旅していた頃だ。

 その時はまだ、自分のやるべき事で頭がいっぱいで、身の安全なんて二の次だった。

 分かりやすく言えば、世間知らず。

 訪れたその地は、出歩いて突然テロに巻き込まれるほど治安が悪い訳ではないが、少なくとも、銀髪金目の目立つ子供が独りで出歩いて何も起きないほど治安の良い地ではなかった。

 事前情報で理解したつもりになり、目を引く容姿をしている自分が保護者も連れずに遅い時間に出歩けばどうなるかなど、まったく考えていなかった。

 具合が悪そうにしていた男に大丈夫かと話しかけると腕を引っ張られて見知らぬ男逹に囲まれていた。刃物で脅されて連れ去られようとしている。

 

「大人しくしろ!」

 

「この間、旦那が"玩具"を壊して替わりを探してたんだ。ようやく見つけた旦那好みの女。怪我をさせるなよ?」

 

 下衆な話をする男逹にフィアラは足を止め、後ろに居た男に体当たりをして逃げようとする。

 しかし、小柄な少女の体当たりでは体格の良い男に少しばかりふらつかせるだけで、すぐに腕を掴まれる。

 抵抗するフィアラに、苛ついた態度で無理矢理連れていこうとする。

 このままだとどうなるのか。それを考えると恐くて呼吸が荒くなった。

 思い出すのは、あの研究施設。

 壊され、使い捨てられていった母と姉。

 記憶に蓋をしているフィアラだが、断片的にその時の事が頭に過る。

 気づけば、上着に入れてある、護身用として渡されていた小さな拳銃に手が伸びていた。

 フィアラは、その銃で殺すつもりはなかった。

 恐怖から反射的に抵抗できる武器にすがっただけ。

 だが、肩に当てようとした弾は撃ち方が悪く、男の胸へと吸い込まれた。

 

「え……?」

 

 胸から血が出て驚いて数秒放心した。

 男は胸を押さえて倒れた。

 

「おい! こいつ、銃を持ってやがる!」

 

 別の男が慌てる様子に、フィアラは即座に逃げた。

 それは警察とか、そういう物からではなく、人を撃った恐怖から逃げたのだ。

 愛機のコックピット内で震え、数日動くことが出来なかった。

 

 2人目を撃ったのは、中東を訪れた際に宿を取ると、強盗に襲われた時だ。

 2回目に人を撃った時は、以前ほど罪悪感も恐怖も感じなかった。

 それから、国を移動してトラブルに巻き込まれる度に誰かを撃つ事に対して心が乱れなくなった。

 エリア11のテロに巻き込まれた際に残った傷。アレのお陰で近付く人間が減ったので、傷は治さずに残している。

 その頃には、誰かを信じるのが怖くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「過労、ですか……」

 

 マクロス・クォーターのパイロットと衛生兵を兼任しているカナリアの診断に、フィアラが倒れて心配していた面々が反芻する。

 

『そうだ。疲労困憊に睡眠不足。栄養失調、その他諸々。限界まで酷使していた肉体が快適な艦内に入った事や、感情を昂らせた事で一気に蓄積していた疲労が吹き出たのだろう。このまま休ませて、起きたら消化の良い物を食べさせれば元気になる』

 

 ここ最近のPMの出現頻度はかなり頻繁で、それら全てにフィアラは対処していた。

 いつ現れるのかも分からないバケモノだということあり、肉体及び精神的な疲労は相当な物だったのだろうとカナリアは推測を述べる。

 

『……尤も、問題はそちらだけではなさそうだが』

 

 ぼそりと呟いたカナリアの言葉はモニター越しのブリッジには届かなかった。

 取りあえず大事ではないことに安堵する。

 何かしらの病気の可能性や、彼女の能力のデメリット等も想像してただけに、胸を撫で下ろした。

 

「まぁ、なんだ。色々と衝撃的な嬢ちゃんだったな」

 

 クロウが場の空気を少しでもマシにするために口にする。

 と言っても、それは大した意味を為さず、特にZEUTH陣は苦い表情を浮かべていた。

 心のどこかで、話し合えば仲直り出来ると楽観視していた。

 きっと自分逹の言葉に耳を傾けてくれる筈だと。

 不信感が2年間で醸成され、もはやアレルギーに近い感じでZEUTHに敵意を向けている。

 

「フィアラから、とても強い憤りを感じました。自分自身すら見えなくなるほどに強い」

 

 ティファも表情を僅かに消沈させて呟くと、ガロードが肩に手を置く。

 そこでワッ太が納得いかなそうに声を上げる。

 

「なんなんだよ、いったい! いきなり怒鳴り散らしたりしてさ!!」

 

 ワッ太の声は、怒りからではなく戸惑いに依るものだ。

 何故、あんなにも突然怒ったのか理解できない。

 キラの言葉にあそこまで怒る理由があったとは思えず、首を捻るばかりだ。

 そんな中で、映像に映し出されているフィアラを見ているスザクに、シンが話しかけた。

 

「どうした? スザク」

 

「うん。あの子にお礼が言いたかったんだけどね。前にPMが僕達の日本に現れたときに、助けてくれたことを。でも、そんな雰囲気じゃ無くなっちゃったかなって」

 

 残念そうに笑うスザク。

 あの時、ブリタニア・ユニオンの軍は現地の住民を無視してPMの討伐を優先しようとした。フィアラが現れなければ、あそこに居た民間人は毒で死んでいただろう。

 だからその事に関してお礼が言いたかったのだが、まさかあんなにも荒れるとは思わなかった。

 周り全てが敵と言わんばかりの視線。それが気になってスザクはシンに訊き返す。

 

「そう言えば、シン。あの子を叩いたってどういうこと?」

 

「う!?」

 

 あまり訊かれたくなかったのか、シンが言葉を詰まらす。

 視線を泳がせていたが、一度呼吸を調えてから話始めた。

 

 まだ多元世界が生まれたばかりの各勢力が入り乱れた不安定な世界。

 それぞれの目的から集まった組織ZEUTH。

 それが二部隊に別れて行動した際に、片方の部隊とキラが所属していたアークエンジェルという戦艦が目的の相違から敵対関係にあったこと。

 途中、シンが心を通わせた少女をキラが止む終えず殺害(後に生存を確認)したことで互いの事を知らなかったこともあり、シンとキラの溝が決定的になり、不穏な情報による誤解からZEUTH同士の戦闘に発展したのを機に、シンがキラを撃墜、アークエンジェルもその戦闘で撃沈した。

 それからもう片方のZEUTHに預けられていたフィアラは別行動を取っていた2つの部隊がよりを戻したがキラ達の無事を知らなかったフィアラはなし崩しにZEUTHに籍を置く形となった。

 そして、シン達が偶然アークエンジェルに対して憤りを口にしていたところをフィアラが聞いてしまい、怒ったフィアラかシンを挑発したことでカッとなってつい手をあげてしまったと話す。

 それからますます周りとの関係を拒絶し、風見博士の暴走からZEUTHを去り、多元世界を混乱させていた元凶であるジ・エーデル・ベルナルに保護されていた。

 周りにフォローや補足されながら話終えると赤木が質問する。

 

「でも、そのアークエンジェルとZEUTHはちゃんと和解したんだよな?」

 

「はい……」

 

「なら、あの子が起きた時にそこら辺を確りと話そうぜ。シンは先ず謝ってさ」

 

 甲児がそう助言するとシンは気が重そうな表情で分かってると頷く。

 しかし、そこで隼人が口を挟む。

 

「止めておけ。今あの子供に何を言っても、神経を逆撫でするだけだろう」

 

「どういう事だよ?」

 

「ヘソを曲げてるガキに何を言っても無駄ってこった」

 

 アルトの問いに竜馬が答える。

 

「アイツには俺達の言葉の全部が煩わしく感じるんだろうぜ。大体、あのガキが何を怒ってるのか分かってるのか?」

 

「それは……! きっとジ・エーデルの奴に変な事を吹き込まれて!」

 

 龍馬の問いかけに勝平が言葉を濁しながらも口にする。

 世界を混乱に陥れた狂言回しのジ・エーデル・ベルナル。

 あの男の下に居たのなら、ZEUTHに対して恨みを募らせるように言葉をかけた可能性はある。

 もっとも、それが苦し紛れの言葉だとは言った本人も自覚していたが。

 

「どうかしらね。でも、今のままだと一緒に行動するのはちょっと無理かな。後ろから撃たれたら堪らないし」

 

 葵が自分の意見を述べる。

 あそこまで敵意を向けてくる少女。戦場で自分達、というかZEUTHに対して攻撃してきてもおかしくはない。

 本人もPMへの対処はこれからも行うつもりのようだし、放っておけば良いのではないか? とすら思えてくる。

 その冗談ではすまない想像を思い描き、沈黙が支配した。

 

 どうしてこうまで拗れてしまったのか。

 歯車が何か1つでもまともに噛み合えば、ここまで擦れる事はなかったのに。

 どうするべきか。シンは苛立たしげに眉間に皺を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 集まっていた場から離れて休憩室で座っていたキラにアスランが話しかける。

 

「大丈夫か、キラ?」

 

「うん。ちょっとビックリしただけだから」

 

 アークエンジェルの記憶に引っ張られて、まさかフィアラがあんな態度を取るのが予想外だった。

 倒れた事も含めて驚きの連続としか言いようがない。

 もちろん、言われた事に何も傷ついていない、という事は無いが、今はどっちかと言えば倒れたフィアラの体が心配だった。

 

「自分の能力(ちから)以外、何の価値もない……」

 

 自嘲しながら訴えてきた言葉。きっとフィアラには、あらゆる言葉が自分の能力を利用する為の甘言に聞こえるのだろう。

 そう思いたい気持ちはキラにも少しだけ理解できた。

 

「僕も昔、アークエンジェルでストライクを動かしてた頃に、同じような事を思ってたことがあるよ」

 

 キラがまだ民間人で、友人らの守るためにストライクのパイロットをしていた頃。

 替えの利かない貴重なパイロットである自分に周囲も色々と気を使ってくれていた。

 それを、ストライクの替えの利かないパイロットだからと理由はそれだけだと思っていたが、そうではなかった。

 自分を死なせたくないからと忠告や話を聞いてくれた人。

 ブリッジから戦闘機へと志願してくれた友達。

 酷いことをしたのに、それでも死んだと思っていた自分が生きていてくれて嬉しいと言ってくれた友達。

 

「相手が本心から心配しても、何か優しくされる理由があると、そっちに意識が向いて、素直に受け取れなくなる。フィアラもそうなのかなって」

 

 かつての自分からフィアラの心情を推測するキラ。しかし、やはり推測は推測でしかなく、決めつけるのは駄目だと一旦その考えを保留にした。

 

「難しいね。気持ちを誤解なく相手に伝えたり、相手の気持ちを理解するのは」

 

 況してや今のフィアラは今日に至るまでの過程と立場が特殊で、会わなかった空白の期間、どうしていたのかも知らないのだ。

 

「なら、どうするんだ?」

 

「次は、フィアラと2人で話してみるつもり。大勢居たんじゃ、話しづらい事もあるだろうし。アークエンジェルを離れて、今日までどう過ごしていたのかとかさ。そういうことを先ず聞いてみようと思う。それくらいの時間はあると思うから」

 

 幸いにして、ここの人達は、フィアラの体調が戻るまでは艦の外へ出す気はないらしい。

 流石に、体調を崩している少女を追い出すような真似は後味が悪い。

 

「とにかく、今のフィアラを知る必要があると思う。もしかしたら、それも迷惑なのかもしれないけど」

 

 まだ、諦めたくないのだ。

 たった一度の拒絶で、なにもかも関係が絶てるほど諦めが良くなかった。

 だから、先ずは自分達の都合を押し付けて協力を求めるよりも、彼女を知ることから始めようと思った。

 

「だが、あまり悠長にしてる訳にはいかないんだろ?」

 

「うん。それも、分かってる。結局まだ、あの子の目的とかも教えてくれてないし」

 

 今回のもう1つのソレスタル・ビーイングのように、フィアラを連れ去ろうとする者が現れないとも限らない。

 そもそも、PMの存在する世界に独りで乗り込んで、無事に生きて帰って来られるとも思えない。

 S4Uは優れた機体だし、フィアラ自身の腕も悪くない。

 しかし、やはりそこまでだ。

 全てを相手にして無事で居られるほど突出している訳ではない。

 そういう意味でも、一緒に行動してくれると安全なのだが。

 

「本当、難しいね」

 

 全部が全部上手くいくような解答など無いと知っていても、それを求めてしまうのが人間なのだろう。

 

 

 フィアラが目を覚ましたのは彼女が倒れて4時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく息を吐いてフィアラは目を覚ました。

 身体の気怠さと頭痛に顔をしかめつつベッドから上半身を起こす。

 

「目が覚めたか?」

 

 話しかけてきたのはマクロス・クォーターの衛生兵も兼ねているカナリアだった。

 そこでフィアラは自分倒れたのを思い出す。

 

「えぇ、まぁ。迷惑をかけたみたいで」

 

 軽く頭を下げるフィアラにカナリアは気にするなと言う。

 そこでパネルを操作すると、モニターからマクロスのブリッジが映し出され、ジェフリーが話す。

 

『フィアラ君。目を覚ましたようで良かった。気分はどうかね?』

 

「それなりには。お世話になりました」

 

 キョロキョロと周囲を見渡して、探していた物を見つけると、ベッドから降りる。

 洗濯され、綺麗に折り畳まれた自分の服が入った篭まで歩くと、今着ている検査着を脱ぎ出した。

 

『ちょっとアナタ……!?』

 

 ブリッジにいたキャサリンが声を上げて止めるが服を脱いで見たフィアラの体を見て絶句する。

 右肩から背中の半分にかけて残る火傷の痕。

 お腹の横には、素人が傷を塞ぐためだろうが雑に縫い付けた縫合や、太腿には銃で撃たれた傷痕が痛々しく残されている。

 そんな傷だらけの裸を見られても気にした様子もなく、自分を服を着始める。

 

『君、その傷……』

 

「別に。この世界もちょっと前までテロとか多かったし? トラブルに巻き込まれて怪我することがそれなりに。この傷痕のおかげで下手に拐われたりせずに済んでるから残してあるだけ」

 

 フィアラの能力を使えば傷を消すくらい出来るが、顔の傷も含めて都合が良いからそのままにしてある。命に関わらなければ、だが。

 

『そんなに傷を付くって、体まで壊して、これからも無事で居られると思うの!』

 

 ブリッジにいた紅月カレンが同性としての心配からややキツ目の口調で問うが、フィアラは答えずに簡単に銃の確認をしてから胸のホルダーに収め、ジャケットを着る。

 怠そうに猫背でドアまで歩くが開かない。

 

『すまないが、そんな状態の君を、外へ放り出す訳にはいかん。体調が戻るまではそこで療養して欲しい』

 

 ジェフリーの提案にフィアラはあからさまに不服そうな表情をした。

 ペタペタとドアに触れる。

 このドアを開けるのは簡単だが、その後に乗員が連れ戻すのは分かりきっていた。

 どうするかなと悩んでいると、斗牙が口を開く。

 

『大丈夫だよ。何もしないから。短い間だったけど、向こうで一緒に過ごした仲間が具合が悪いのを放っておけないし』

 

 斗牙なりに相手の警戒を解こうとして言った言葉だったが、返ってきたのはハッ、と鼻で笑う嘲笑だった。

 

『何が可笑しいんだよ!』

 

 フィアラの返しに苛立たしい顔をするエイジ。

 

「別に。ちょっと疑わしい情報が出たくらいでろくに確かめもせずに見限りあって殺し合うような連中の仲間とか。薄っぺらいと思っただけ」

 

『なっ!?』

 

 どうやら、ZEUTHの痛いところを徹底的に突いてくるつもりらしい。

 

「どうせ私が今後、町を無差別に破壊しているとかの情報が入ったら、大して確かめもせずに襲って来るでしょう? 世界の状況も読まずに好き勝手してる奴なんて、攻撃しようがどうとでも理由は付けられるし? 訳の分からない奴だから。勝手に動かれて迷惑だから。命令だから。あの時のように」

 

 あの時、とはZEUTH同士の戦闘でキラやアークエンジェルを撃墜した時の事だろう。

 2つの部隊が合流した後も、そう言う発言はしていた。

 だが、今は違うと分かって欲しくてシンが言葉にする。

 

『俺達はもうあんな……!』

 

 しかし、フィアラは聞く気はなく、耳を塞いで寝かされていたベッドに戻る。

 シーツを被ろうとしたところでゼロが最後に質問した。

 

『1つ、訊きたい事がある。あの怪物、PMがなんの目的で動いているのか、君は知っているのか?』

 

 一応の質問だった。

 そもそもあの知性の無さそうな怪物に目的が存在するのかも疑わしい。

 しかし、意外にもフィアラから答えが返ってきた。

 

「PMの目的? そんなもの決まってる。存在する全ての多元世界とそこに生きる全ての生命と尊厳の救済。アレらはあらゆる宇宙の希望を守る為に在るのだから」

 

 フィアラの回答にブリッジにいた誰もが言葉を失った。

 あの怪物のどこにそんな高尚な物があるだろう。

 どういう事か聞こうとするが、フィアラは頭までシーツを被り、話を拒否した。

 彼女の体調を考慮してその場は追求することが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下に広がる光景に誰もが義憤に駆られた。

 嫌悪感を刺激する怪物が人の街に突然現れ、そして無抵抗の人達を食い散らかしている。

 吐き気を誘うその暴力も、何度も遭遇することで馴れた。

 しかし、心の内から溢れる怒りはどうにも治まらない。そうなって欲しいとも思わない。

 

「これが……これのいったいどこが、希望を守る為だってんだ!!」

 

 沸き出る怒りのままに現れたPMへとペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘のドサクサに紛れてZEXISから逃げようとしていたフィアラは、自分の能力でドアを開けたところでアナ姫と遭遇した。

 

「あ……」

 

 心配そうな顔でフィアラを見るアナ姫。

 彼女が出撃しようとしている事を察しているのだろう。

 

「まだ、体調も悪いのに、どこへ行く気ですか?」

 

 それでも、一縷の望みから質問する。

 答えないフィアラにアナ姫が話す。

 

「今回は皆さんに任せましょう。そんな身体で、無茶なのはフィアラが1番理解している筈でしょう?」

 

 PMが毒を撒く前に歌ってくれとは言わなかった。

 その優しさはまだ信じられる。

 それを嬉しいと思ったのか、それとも言うことを聞けない自分が申し訳なかったのか、フィアラは答えない。

 

「ごめんね……そして、ありがとう」

 

 それだけ言うと、振り払うようにフィアラは自分の機体へと走った。

 携帯端末の示す位置へと急ぐ。

 格納庫へ着くと、整備兵に声をかけられたが無視してS4Uに乗り込む。

 その報告がきたのだろう、ブリッジから通信が入った。

 

『フィアラ君、止めなさい! まだ君は!』

 

「ハッチ開けて! じゃないと吹き飛ばすよ!」

 

 ライフルを構えて脅しではないことを示すと、ハッチがゆっくりと開いた。いつものように機体を動かす。

 優れたGの軽減システムを積んでいるS4Uだが、弱った体ではその小さな負担すらキツイ。

 

「関係ない……」

 

 やるべき事は何も変わっていないのだから。

 

「私の歌は、世界を侵す……!」

 

 通信から聞こえるZEXISの言葉を無視して、フィアラは自分のやるべき事に没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(熱が、ぶり返して……!)

 

 歌と機体操縦をしながら、目眩や頭痛に吐き気と戦っていた。

 特に目眩が駄目だ。謝ってZEXISの機体を撃ちそうになる。

 

(このくらいで何を弱気に! 頼らず、甘えず、独りで成し遂げるって決めたんだから! 私は姉さんの遺体を……!)

 

 心の中で叱咤しながら近づいてくる敵をシールドブレードで斬り裂く。

 先程まで、ZEXISから退がれだの無茶するなだのと通信がきていたが、煩わしく集中を欠くだけなので切った。

 

(いらない。私には、誰も……!)

 

 そう断じながら最後の敵に真っ直ぐ掲げたシールドブレイドで突き刺して機体を加速させて正面から突き破る。

 同時に、力尽きたようにS4Uは町の道路に倒れた。

 

「転移、起動……」

 

 震える指でパネルを操作して転移場所を指定。

 蒼い翼のガンダムが、こちらに向かって来ていたが、その前にS4Uはその戦場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日、PMが現れた戦場にもフィアラが現れる事はなく、ZEXISも大グレン団のトップであるカミナの死や、月光号の裏切りによる離脱が起き、それぞれが心に折り合い着けながら進んでいた。

 

 ZEXISはそれぞれの事情により部隊を分散し、そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロであるルルーシュは異母妹であるユーフェミア・リ・ブリタニアと特区日本について黒の騎士団のトップとして対話に来ていた。

 しかし彼はユーフェミアに自分を傷付けさせることで特区日本を欺瞞な物として崩そうと考えていた。

 しかし、ユーフェミアに自分の正体がバレていたこと。王族という立場を棄ててまで自分と妹に手を差し伸べようとしている。

 その覚悟にルルーシュは負けを認めて考えを変えざる得なかった。

 

「それにしても、ルルーシュったら酷いわ。脅されたら私が貴方を傷付けると思っていたなんて」

 

「いや、違うんだ。俺が本気で命令すると、誰も逆らえなくなるんだよ」

 

 それをユーフェミアはルルーシュの冗談だと思っていた。しかし、ルルーシュは苦笑しながら言う。

 その左目に、王の証が浮かんだまま。

 

「本当さ。俺がもし────」

 

 そこで、ルルーシュの携帯が鳴る。

 それは、待機させていた扇からだった。

 

「どうした?」

 

 仮面を被り直し、扇と話す。

 

『ゼロ! PMが現れた!』

 

「なに!?」

 

 予想していなかった訳ではないが、やはり現れれば苦い表情にもなる。

 

「……フィアラ・フィレスは?」

 

 ルルーシュは彼女をZEXISに招き入れた際に、彼の持つ王の力、ギアスで仲間に引き込むつもりだった。

 しかし、彼女のZEUTHに対する怒りが凄まじく、ギアスで無理矢理仲間にしても、そこから自分のギアスに辿り着く可能性を考えて止めた。

 すぐに使い捨てるならともかく、長期に一緒に行動するなら、自分にとってリスクが高いと考えて。

 

『まだだ。あの子は、来ると思うか?』

 

 不安気な声での問い。

 

「来る。あの少女はPMに関わることを並々ならぬ覚悟で挑んでいる。体調もそろそろ持ち直した筈だ」

 

 根拠の薄い発言でも信頼する相手から言われれば安心だけは得られる。ホッとした声を出す扇にルルーシュはゼロとして命じた。

 

「だが、万が一の事もある。黒の騎士団は、ここに集まった日本人の安全を最優先に行動しろ!」

 

『わ、分かった!』

 

 通信を切ると外からスザクがやって来る。

 

「ユフィ!」

 

 スザクはユーフェミアが無事な事に安堵し、PMが現れた事を報告した。

 

「枢木スザク。あの怪物は人類共通の敵だ。ここは、ブリタニアも黒の騎士団も関係なく対処したい。いいか?」

 

 ゼロの言葉に躊躇っていると、ユーフェミアが命じた。

 

「スザク。黒の騎士団と共闘してPMへの対処をお願いします! 集まった日本人の方々の安全を最優先に!」

 

 先程のゼロの命令を復唱するように命じるとスザクが承認した。

 本来訪れる筈の最悪の未来が回避されたことを誰も気付かないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PMの現れた戦場を見下ろしながら、フィアラはいつも通りに歌を歌う。

 

「私の歌は、世界を侵す」

 

 金の紋様が広がり。ドーム状に形成されていく。

 

 ある程度完成したのを確認して戦闘に移ろうとした。しかし────。

 

『ところがギッチョン!!』

 

 少し前に戦った、赤い粒子のガンダム。その1機が襲いかかってきた。

 驚く間もなくシールドで大剣を受け止める。

 距離を取ると、今度は銀色のKLFが接近してきた。

 

『アイムから聞いた! テメエの能力なら、俺達の体を治すことが出来ると! 一緒に来てもらうぜ!』

 

 サーシェスとホランド。2機の強敵に挟まれながらフィアラは地上の戦闘に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直、ブラックリベリオンを再世篇でやるならユーフェミアの死亡もそっちでやって、スザクを最後まで使いたかったな、という理由からこうなりました。

次回で破界篇終わりです。


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休まらない休暇

『テメェは! エウレカに頼らずとも俺達の体を治せる鍵だ! 一緒に来い!』

 

(知るか! 勝手にくたばれ!)

 

 ホーミングレーザーを避ける為に急降下するが、レーザーの光線が幾つか特区日本の会場に当たる。

 その事に顔を青くする間もなく、毒々しい赤い粒子のガンダムが大剣で斬り込んできた。

 振り下ろされる実体剣を横に避けると同時に爪先から出したビームの剣で斬ろうとすると、相手は難なく躱す。

 

(こいつ、ソレスタルビーイングの劣化(パチモン)ガンダムのクセに!)

 

『腕が違うんだよ、腕がぁ!!』

 

 こっちの心を読むような言葉を発してS4Uの胸を蹴りつけられる。

 

『スポンサーさんがお前さんを連れてこいってんだ! 悪く思うなよ、歌姫ちゃんよぉ!』

 

 まったく悪びれる様子のない声でスカートから誘導兵器を射出し、鋭い動きで襲いかかってくる。

 

 ビームマシンガンで撃ち落とそうとするが、連続で発射する弾は、迫りくる誘導兵器に掠りもしない。

 

『ハッ! さっきの返しは悪くなかったが、射撃はイマイチのようだな!』

 

 引き金を引いた高威力のビームライフルを光線をバレルロールしながら躱して接近してくると、大剣で斬り込んでくる。

 だが。

 

『させるかぁ!』

 

 ホランドが機体を駆って赤い粒子のガンダムへと突撃する。

 

『コイツを、テメェに連れてかれる訳にはいかねぇんだよ!』

 

『向かってくるのはかまわねえがな! 仕事の邪魔すんじゃねぇ!』

 

(コイツら、どっちがどっちで喋ってるんだか……!)

 

 内心で悪態を吐きつつ、フィアラはPMの排除をしているブリタニア・ユニオンと黒の騎士団を中心としたZEXISの戦闘を視線を移しつつ、自分にも向かってくるPMを倒す。

 

(誰かに任せても問題無いけど、直接討った方が奴らの因子を取り込み易いのに……このっ!?)

 

 赤いガンダムの粒子ビームを避け、特区日本の会場施設に被害が出ないように立ち回る。

 たが、向かってくる誘導兵器の幾つかが、機体を掠め、フィアラを連れ去ろうとするホランドの機体がシールドに激突する。

 

「あ、がっ!?」

 

 地上に叩き落とされ、フィアラが呻き声を出す。

 

『もらったぁ!!』

 

 ホランドがS4Uを捕まえようと突っ込んでくる。

 ライフルで応戦しようとするフィアラ。2機の間にスーパーロボットの中でも一際巨大な機体が降りてきた。

 

『ダイタァアアアン、カムヒア!!』

 

 全高120mの巨人が突然現れた事にフィアラは呆然となった。

 

『世のため人のため、悪の野望を打ち砕くダイターン3! この日輪の輝きを恐れぬのなら、かかってこい!』

 

 場違いな啖呵が響く中で、誘導兵器がダイターン3をすり抜けてフィアラに向かう。

 すると、1条の光が誘導兵器の1つを撃ち抜いた。

 ダイターンとは反対にS4Uよりも小さな白い機体。ランスロットが守るようにフィアラの前で停止する。

 

『こちらは、ユーフェミア・リ・ブリタニア殿下の専任騎士、枢木スザク。君を援護する』

 

 一方的に宣言されて勝手にこちらを守り始める2機。

 釈然としない気持ちのまま、フィアラは大きく息を吸い、再び歌い始めた。

 消えかけていた金の紋様が補填される。

 先ずはこっちを狙ってくる2機の排除へと動いた。

 ダイターン3を遠慮なく盾にしながら、チマチマと赤い粒子のガンダムと銀色のKLFを攻撃する。

 次第にPMも数を減らしていき、此方を援護する機体が増えてきた。

 

『フィアラ・フィレスの捕縛を絶対に阻止しろ! 奴等に彼女の身柄を渡せば、更なる犠牲を生む!』

 

 ゼロがこの場にいる全ての兵に向けて指示を飛ばした。

 多くの邪魔が入るようになったからか、赤い粒子のガンダムは舌打ちをした。

 

『チッ。これ以上はちと面倒だな。粒子(エネルギー)も心もとねぇ。スポンサーからも、あまり無茶すんなと言われてるし。面白くねぇが、退き時か……』

 

 此方を牽制しながら去っていくガンダム。

 ホランドの方は構わずフィアラを捕まえようとしたが、ウイングガンダムがバスターライフルを撃ち、回避する。

 その僅かな隙を突いてフィアラは、シールドブレイドとビームサーベルの両方を振るって銀色のKLFの両腕を斬り落とした。

 

『クソガッ!?』

 

 流石に形勢不利を悟ったのか、ホランドもそのまま戦場から姿を消した。

 同時に、地上で戦っていた紅蓮二式が最後のPMに輻射波動を叩き込んで撃墜する。

 敵を全て始末したことを確認してから、フィアラは歌を止めて大きく息を吐く。

 すると、ゼロから通信が繋がった。

 

『協力に感謝する。体調はもう良いようだな』

 

「……」

 

 ゼロからの通信にも応答せず、前回の事もあってシールドでコックピットを守りながら警戒を維持して少しずつ距離を取る。

 ある程度距離が取れたことを確認して転移に入る。

 そこでランスロットのパイロットから通信が繋がった。

 

『君のおかげで、前回も今回も、ここに住むたくさんの人の命が失われずに済んだ。だから、来てくれて、本当にありがとう』

 

 その通信に応える気がなかったのか。それともそんな余裕が無かったのか。乳白色の機体は音もなくその場から掻き消えるように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーフェミアが考案した特区日本をどうするのか。

 その案に対して当面はブリタニア、と言うよりも、副総督であるユーフェミアと黒の騎士団が共同で治める事となった。

 ゼロがZEXISの一員として活動し、インペリウムを討つことを条件に特区日本に黒の騎士団の存在を認める提案をした事も理由の1つだ。

 

 そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユーフェミア様の命により、再びZEXISに参加する事になりました、枢木スザクです。また、よろしくお願いします」

 

 黒の騎士団と一緒に戻ってきたスザクはZEXISに挨拶する。

 

「こっちに戻ってきたんだな」

 

「うん。ユーフェミア様は、インペリウムを始めとする各脅威に対して、僕がZEXISに協力するのが1番だとお考えになってね。それまで、この部隊に所属する事になったんだ」

 

 それには黒の騎士団に対する監視の意味もあるが、それはユーフェミアなりの建前だ。

 彼女は姉であるコーネリアの側近であるダールトンを側に置き、特区日本の在り方を模索する事になるだろう。

 

 それを眺めながらゼロは仮面に手を触れる。

 

(ギアスは制御不能に陥り、既に俺の意思でオンオフが利かなくなっていた。もしもあの時、冗談でもユフィに日本人を殺せと命じたら────)

 

 その最悪の光景を想像し、ギアスの扱いを更に気を付けねばと自戒する。

 そして御破算になった計画を練り直しながら、各脅威に対しての戦略を組始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEXISの戦いは更なる苛烈さを増していった。

 しかし、暗黒大陸の螺旋王、月のムーンWILLを撃破。

 手を結んだ三大国家との戦闘やそれを指示していたアレハンドロ・コーナーを倒す事にも成功し、併合されていく組織の膿を取り除いた。

 その過程でソレスタルビーイングのロックオン・ストラトスの死亡という喪失はあったが、それでも彼らは前に進み続ける。

 イマージュとの対話をも成功させ、彼らは2つめの月である陰月で、インペリウム。そして破界の王ガイオウとの熾烈な戦いを勝利に納めた。

 それを機にZEXISは解散。それぞれの生活に戻り、また新たな生活を始める。

 特に別世界から来たZEUTHメンバーは。

 

 そして何故か、インペリウムの討伐を転機に、PMの出現も以前のような緩やかな物へと戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~。こうやってのんびり出来るのも久しぶりかも……」

 

 日本のくろがね屋という温泉宿でフィアラは温泉に浸かっていた。

 まだPMがこの世界に出現する前からたまに来ては湯治しに来ていた。

 従業員が強面ばかりだからか、フィアラの身体の傷で入店拒否される事は無いし、今では常連未満の扱いを受けている。

 尤も、破界事変の際にDr.ヘルの一団が散々熱海で暴れたせいで、客足が減ったと女将が愚痴っていた。

 その煽りか、この女湯にはフィアラ1人しか入っていない。

 

「インペリウムは三大国家が手を取った国連による討伐、ね。そんな事だから国や大衆に良いように使われるんだよ」

 

 発表と違い、フィアラはインペリウムを討伐したのがZEXISだと確信している。

 

「ま、私には関係ないけど……」

 

 温泉に首まで浸かって目を瞑る。

 

「あらあら。お風呂で寝ては危ないですわよ?」

 

 聞き覚えのある透き通った声が届いた。

 目を開けるとそこには、長いピンク色の髪の女性がバスタオルを巻いてフィアラを見下ろしていた。

 そんな髪の毛が似合う人物をフィアラは2人しか知らない。

 

 その女性────ラクス・クラインは、静かにフィアラの横へ湯に入った。

 

「久しぶりですわね、フィアラ。思ったよりも元気そうで良かった」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら、ラクスはフィアラの手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再世篇、予告。

 

 

 

 フィアラ「相変わらず喧しい。言葉に気を付けたら? あのZONEとかいう建造物、破壊できるのが私だけだって解ってる?」

 

 

 フィアラ「侵略者が良くもまぁ、恨み言なんて言えたものね。騎士なんて御大層な看板下ろして、強盗で充分でしょ? なんちゃって騎士様?」

 

 ウェイン「テメェ……!」

 

 フィアラ「次元将に負けた負債を、こっちに押し付けにきてる恥知らずが。貴方達の活動は私にとっても迷惑なのよ」

 

 

 マリリン「あら? 誰かと思えば前に散々イジメてあげた白猫ちゃんじゃない。またイジメられにきたのかしら?」

 

 フィアラ「……相変わらず化粧濃いですね。実年齢をそれで隠せると思ってるんですか? 痛々しいですね!」

 

 フィアラ&マリリン『あははははははは! よし殺そう!』

 

 クロウ(何があったんだよコイツら……)

 

 

 

 メール「あぁ!? フィアラ! どうしてここに!?」

 

 フィアラ「あー。お久しぶりです?」

 

 

 ランカ「あ、あ、うあ……」

 

 フィアラ「歌えないなら、バジュラの方は私がどうにかしましょ」

 

 ランカ「え……?」

 

 フィアラ「私の歌は、世界を侵す……」

 

 

 

 フィアラ「DEエンジンに次元エネルギーの供給を確認。全システム異常無し。S4U-typeZ、起動」

 

 

 第二次スーパーロボット大戦Z 再世篇

 公開未定。

 

 

 フィアラ「さぁ。決着を着けましょうか。私達の関係に。そうでしょう? ZEXIS」

 

 

 

 

 

 




この作品にはまったく関係無いけど、もしもチェンゲの武蔵が最後まで生き残って真・ゲッターロボに乗って戦ってたら、あの戦闘服で決戦に挑んだのだろうか?

くろがね屋の男湯には不動GENとサンドマンが居たりします。
この話でユフィ生存が確定したわけですが、再世篇のifであの雑な生存は無いと思った。
エリア11はコードギアスのゲームであるLOST COLORSのブリタニア、もしくは黒の騎士団ルートのエンディングに近い状態です。


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第二次Z・再世篇 すれ違いの結末
旅は道連れ


『無様ねぇ。自分が助けてた相手に取り押さえられるなんて』

 

 女の悪意に満ちた笑い声にフィアラは眉間に皺を寄せた。

 破界の王を抱えるインペリウムが世界で暴れ始めた頃。

 いつものようにPMの対処をしていると、突然謎の部隊に襲われた。

 いつもならすぐに逃げるところなのだが、その部隊はあろうことか町の住民を人質に取り、機体から降りるように脅迫してきた。

 どうするか迷っていると、相手は機体の大砲を町中で容赦なく発砲。

 住民の何人かが殺され、仕方なしに降りる羽目になった。

 頭と思わしき女に脅されて町の住民に押さえ付けられて差し出されていた。

 

「バケモノから助けた奴らに裏切られてる気分はどう? 歌姫ちゃん。マリリンだったら、そんな恩知らず、すぐに見限って敵ごと皆殺しにしちゃう~!」

 

 演技染みた態度でクスクスと嘲笑う女。

 フィアラはそれに反応せずにマリリンと名乗る女を睨む。

 

「反抗的ね。まだ時間もあるし、これは少しばかり教育が必要かしら?」

 

 そうして手がフィアラに伸ばされる。

 そして。

 そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤな夢見た……」

 

 S4Uのコックピット内で目が覚めたフィアラは先程見た夢に不機嫌になって眉間に皺を寄せる。

 欠伸を1回した後に、警告音がコックピットに鳴る。

 

「PMの出現。場所は────近い」

 

 機体を起動させながら急いで向かう準備をする。

 ここ最近というか、破界事変の少し後に、アロウズと呼ばれる部隊が本格始動してから軍はPMの対処をこっちに丸投げ状態だった。

 

「その上、戦闘が終わったら偉そうにやってくるし。でも、もう少しで」

 

 フィアラの目的を果たすための準備がもう少しで整いつつある。

 それでもまだやることはあるが、PMの世界に行けるまで、そう時間はかからないだろう。

 

「行こう……S4U」

 

 フィアラはゆっくりとペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つい先日次元獣バスターとしてデビューしたエスター・エルハスは初仕事を終え、その途中で一緒に行動することになったコロニーのガンダムのパイロット2人と一緒に行動し、世界を見て回っていた。

 

「今はアロウズを始めとする、一部の連邦軍を何とかしないと、コロニーだっていつ奴等に言い掛かりに遭うか分かったもんじゃないぜ」

 

「インペリウムの脅威が去った今……いえ、去ったからこそアロウズの暴走は止まる事を知りません。この流れをどうにかしないと」

 

 デュオとカトルがあーだこーだと話し合っている中で、輸送機の操縦をしているエスターはうーん、と首を捻る。

 

「でも、そのアロウズをやっつけるにしても、全然戦力が足りないんでしょ? どうするの?」

 

 エスターの質問にデュオが頭を掻く。

 

「真っ先に手を貸してくれそうなのが黒の騎士団、と言いたいが……」

 

「特区・日本に本部を置いている黒の騎士団は、ブリタニア・ユニオンとの折衝で大変みたいですからね。今の時点での接触はマズイでしょうね」

 

 特区・日本。エリア11に於いて唯一日本人を名乗ることが許された特例区。

 しかし、数年間支配下に置いていたブリタニア人との軋轢や、何らかの理由で特区・日本で暮らせないイレヴンの感情。

 それらを回すのにユーフェミアの大分苦労しているようだ。

 

「そんな中で俺らみたいなのを中に招き入れれば、それこそ特区・日本から黒の騎士団を追い出す口実を与えちまう。尤も、ゼロの事だ。情報は集めているだろうし、何らかの行動は起こすだろうがな」

 

 このまま時はアロウズなどの暴走を許せば、黒の騎士団を抱えた特区・日本も何らかの制裁対象にならないとも限らない。

 そうなる前にゼロは動くと確信しているが、此方からは接触出来ない。

 そんな話をしていると、エスターが前に見える空間に描き込まれる金の紋様が見た。

 

「なに、あれ?」

 

 それを見たことのあるガンダムのパイロット2人は、声を出した。

 

「PM!? あの町に現れてんのか!」

 

「ぴーえむって……えーと。毒型次元獣のこと?」

 

「えぇ。あの紋様が見えるということは、彼女が既に到着して対処してるようですが……」

 

 世間では毒型次元獣と言う名称が一般的であり、唯一の専門家である人物が既に到着して対処してる筈だとカトルが説明する。

 少し考えた後にエスターは輸送機を紋様の方角へと変える。

 

「おい!?」

 

「要は、町がバケモノに襲われてるんだろ! ほっとけないよ!」

 

「そうですね。僕も同意見です。あちらは良い顔しないかもしれませんが」

 

「ま、それもそうだな。でもいいのか? 正式な依頼じゃないから、報酬は貰えないかも知れないぜ?」

 

「あたしはクロウみたいなケチじゃない!」

 

 茶化してくるデュオにエスターはしかめっ面で反論した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりに大きな町でフィアラは自機と同程度の大きさを誇るPMの首を狩り、胴体部をビームマシンガンで蜂の巣にした。

 

(相変わらず、軍の出動は無し。仕事しないな)

 

 ここ最近、PMの対処をしている間、軍の機体が現れたことはたまにしかやってこない。

 

(前にやって来た時は一方的に名乗ってきた人がいたっけ。名前は確か……ソーダサワー? そんな名前の……)

 

 まだ避難していない町の住民を確認しながら、そちらに被害が出ないようにするが、フィアラ1人では限界があり、位置が離れた町の人間が襲われ、喰われようとしている。

 

(ちっ!? 軍の連中、せめて避難誘導くらいっ!)

 

 町の警察が一般市民の避難誘導を行っているが、巨大で見た目的にも嫌悪感を引き出す怪物を目の当たりにして、パニックを起こす警察官も少なくない。

 近くで襲われてる市民を助けようとするが────。

 

(間に合わない……!)

 

 冷静な部分がそう判断していると、1番前で住民に襲いかかろうとしていたPMの体が撃ち抜かれた。

 

『あ、当たった! 良かった~!』

 

『危ねぇな! 照準が狂ってたら町の人間に当たってたぜ!』

 

『ですが、そのお陰で助けられましたね!』

 

 現れたのはガンダム2機と、黄色いブラスタ。

 

(あれは……)

 

『次元獣バスター! エスター・エルハス! 助太刀するよ!』

 

「…………」

 

 宣言するエスターに、フィアラは応えず、戦闘を続けている。

 

『ちょっと! 無視しないでよ!!』

 

『いや、歌ってて返せねぇんじゃねぇか?』

 

『え? そうなの?』

 

 地上は2機のガンダム(2人の少年)

 空中は2機の専用機(2人の少女)に分かれて、それぞれ怪物の群れを迎撃していく。

 

 

「うわっ!? やっぱり、次元獣より気持ち悪い!!」

 

 次元獣と同じようにシミュレーターで戦闘したことはあったが、見た目の異質さに若干身が強張る。

 小型のPMが段幕を抜けて襲いかかろうとした時、上から撃ち抜かれて倒される。

 

「アイツ……」

 

 自分を、助けてくれたのだろうか? 

 その考えを見透かすようにブラスタEsの前に一瞬止まりるとすぐにブラスタEsの周りにいる敵を蹴散らしていく。

 その姿に動きが止まっていると、地上で戦っているデュオから叱咤された。

 

『おい! 戦えないなら下がれ! 邪魔だ!』

 

 デュオからの言葉にエスターはハッとなった。

 そうだ。自分は守られる為でも足を引っ張る為にここにいる訳じゃないだから。

 

「足りない物は、気合いでカバーだ!」

 

 勇ましくエスターはペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れたPMは4機によって、速やかに始末され、町への被害も最小で済んだ。

 歌が終わり、紋様も消えると、やって来る軍のMS。

 

『こちら、治安維持独立部隊アロウズ! テロリスト共め! 今すぐ武装解除し、投降せよ!』

 

『あいつら! 今更出て来て何言ってやがる!』

 

 PMとの戦闘には参加せずに終わってからノコノコとやってきたアロウズにデュオは苛立ち混じりに吐き捨てた。

 

「……最近は、大体あんな感じだよ。戦闘はしないくせにこっちに従えって。アレで給料貰えるとか羨ましい限りだよね」

 

 皮肉げに嗤いコックピット内で引き金をトントンと指で叩くフィアラ。

 

(……撃ってしまおうか?)

 

 いい加減仕事をしないくせに上から目線の軍には堪忍袋の緒が切れそうだった。

 ここで憂さ晴らしに叩くのは簡単だが、それを理由に本当のテロリストにでも仕立てあげられたら嫌なので、舌打ちして堪える。

 相手にせずに逃げようとすると、ブラスタEsがS4Uを掴んで引っ張ってきた。

 

『お前もこっち来い!』

 

「へ?」

 

 引っ張られて無理矢理同伴させられた。

 大急ぎで町から離れ、輸送機を隠して停めてある場所まで移動すると、フィアラが通信を寄越した。

 

「どういうつもり?」

 

『え? だって、あのままじゃあ、アロウズに捕まっちゃうだろ?』

 

「いや、転移で逃げられるのは知ってるだろうに……」

 

『そうなの?』

 

 本当に知らなかったのだろう。キョトンとした表情をするエスターに、ガンダムのパイロット2人の笑いを噛み殺す声が聞こえる。

 フィアラも気勢が削がれて息を吐いた。

 

「まぁ、いいか。助かったよ。あの規模の町を私1人でどうにかするのはキツかったし……って何その表情(かお)

 

 目が点になるような表情のデュオとカトルにフィアラが眉をつり上げた。

 

『いやぁ。お前さん、他人(ひと)にお礼が言えたんだなって』

 

 デュオの言葉にフィアラは不機嫌そうに首を動かすが、唯一ZEXISと対話したのがアレだったので、そう思われても仕方がないと思い返す。

 

「別に……貴方たちの事は好きでも嫌いでもないからね。最低限のお礼くらい言うよ。たまには……」

 

 最近は再会したラクスやディアナなどと食事をすることもあるが、基本独りなのだ。

 コミュニケーションが圧倒的に足りてない。

 自分の対人関係の狭さを今更ながらに実感し、フィアラは遠い目をしていると、エスターが斜め上の発言をしてくる。

 

『それより、早く輸送機に乗りなよ。発進できないじゃん』

 

「はい?」

 

『一緒に戦ったのも何かの縁だし。もう少し話もしたいしさ』

 

 清々しいまでに悪意の無い陽気な声で、エスターが言う。

 付き合ってらんないと去ろうとすると目的地を話始めた。

 

『あたしら、これから仕事でランカ・リーのコンサートをやる町に行くんだ。良かったら、一緒に行かない?』

 

 まるで友人を買い物に誘うような気安い提案に、転移しようとする指の動きが止まる。

 その場所は奇しくもこれから向かう筈の目的地だったからだ。

 それだけなら無視するのだが、カトルも続く。

 

『いいですね。簡単な食事も用意するので、どうでしょう?』

 

 携帯食料も切らしており、買いに行くのめんどうだな、と思っていた。

 ついでに言うと、その町にはまだ転移用のマーキングが近くにも設置していない。

 

『なぁ、いいだろ? あ、コイツらが何か変なことをしてくるんじゃないか心配してるんなら、安心して。そんな事したら空から突き落とすから!』

 

『物騒だな、おい!』

 

 そんなエスターの誘いが何となくカガリを思い起こす。

 少し考えてから、幾つかの条件を出して搭乗することにした。

 

(こうなったのも、待ち合わせ場所を指定したラクスさんが悪い……)

 

 そんな八つ当たりを内心で愚痴った。

 

 

 

 

 

 




1:再世篇で没になった展開。
ウイング0で暴走したカトルにフィアラがトロワの代わりに殺されかけて記憶喪失。

2:OZに所属するシンとカミーユの乗るOZの機体を達磨にする。


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嵐の前の……

「そんなこと言ったっけ?」

 

 もぐもぐと出されたトマトソースのパスタを食べながらフィアラは首をかしげた。

 しらばっくれているわけではなく、本当に覚えてないのだ。

 デュオとカトルが質問したのは、以前フィアラがZEXISで倒れた時にした質問。

 PMの目的である。

 フィアラはその時、多元世界に住む全ての生命の為を救う為と答えたが、そこから先は教えてもらえていない。

 

「あの時は熱も出てたし。数ヶ月前のそんな些細な会話、いちいち覚えてないよ」

 

『……』

 

 フィアラの言葉にデュオとカトルは言葉を詰まらせる。

 自分が欲しがっている情報を些細な、と切り捨てられた事に思うところがあるのだ。

 それでも怒らずに話題を少し変えた。

 

 久々に接触したフィアラは、破界事変の時よりも髪が伸びており、服装も以前は少年のようなパンツルックだったが、今は青いワンピースに黒タイツ。そして破界事変の時に着ていたジャケットを椅子にかけている。

 

「そういや、随分とかわいらしい格好になったな」

 

「えぇ。知人に会う度に服をプレゼントされるので」

 

 デュオの話題に少し疲れたようにフィアラは視線を自分が着ている服に落とす。

 丁度背丈の関係で買い替えようと思っていたわけだが、どうにも荷物ばかり増える。

 買ってくれる相手には悪いが今後は断固拒否しよう。

 と、頭の中にある今と関係の無い思考を捨ててさっさと本題を答える事にする。

 

「……彼らは全ての宇宙を救うために自分達の故郷から旅立った」

 

 突然語り始めたフィアラにその場に居た全員が口を閉じる。

 

「彼らが戦おうとしたその存在はあまりにも強大で、理不尽な悪神だった。だから彼らは自らの母星を捨てて、一丸となり、その脅威に立ち向かうと決めた。自分達だけではなく、全ての宇宙。そして、そこに生きる生命の為に」

 

 そこで食べていたパスタを食べ終える。

 

「おかわり貰っていい?」

 

「あ、あぁ……味は何でもいいか?」

 

「うん」

 

 デュオが皿を受け取ると、おかわりのパスタを盛り、温めてあったインスタントのソースをかける。

 

「でも、彼らは何も出来なかった」

 

「何も出来なかった?」

 

 カトルの疑問にフィアラは頷いておかわりのパスタを食べ始める。

 

「言葉通り。意気揚々と宇宙に飛び出したのは良いけど、戦いに敗れて壊滅寸前にまで追い込まれた」

 

 井の中の蛙。当事の彼らを表すならそんなとこだろう。

 胸には気高い理想と善意を宿し、絶望的な戦いに身を投じようとした。

 しかし現実は、そのステージに立つことすら出来なかったのだ。

 

「それで終わっていれば良かったんだけど、残存した連中はそれでは収まらなかった」

 

 我らはあんなにも多くの期待を背負い、多くの物を犠牲にした。

 なのに、何も為し遂げられなかった。

 そんな結果は認められない。

 認められる筈がない。

 

「だから彼らは生命体として在り方すら変えて、あんな姿になり、力を蓄える為に他の世界への侵略を始めた。自分達が出した犠牲を無駄にしない為に更に犠牲を重ねて……」

 

「なんだよそれ!」

 

 今まで黙って操縦席で食事を摂っていたエスターが口を挟む。

 

「その敵っていうのがどんなのかは知らないけどさ! それで色んな世界にやって来て暴れる理由になるもんか!」

 

「出してしまった犠牲に報いたいという気持ちは分かります。ですが、それがこれから出る犠牲を容認するというのは……」

 

「そうでしょうね」

 

 エスターとカトルの言葉にフィアラも肯定する。

 犠牲を無駄にしない為の犠牲。そんな負のスパイラルを容認出来るのは本人達だけだろう。

 

「PMの毒だと思ってるアレは、生命の魂魄とでも言えば良いのかしら? それを奪い取り、自分達の次元に引きずり込んで吸収と同化で自分達を強化する為らしいわ。観測が難しいのは、それ自体、次元の位相がズレているから、らしいわ」

 

「タチわりい……!」

 

 フィアラの説明にデュオが苦い表情で呟く。

 これらの情報はジ・エーデル・ベルナルのところに居た時に教わった事だ。

 話も一段落したところで食事も終わる。

 そのタイミングでデュオが言いづらそうに話題を変えた。

 

「そういや、ここ数ヶ月でシン達には会ったのか? 今はOZに所属してるらしいんだが……」

 

「まったく会ってない。OZの勢力圏にはあまり立ち寄らなかったし。もし会っても、話すことなんてないんだから。放っておけばいい」

 

 面倒そうに返すフィアラにカトルが踏み込む。

 

「どうしてそこまで、彼らを嫌うんですか?」

 

「第一印象が最悪な上に叩かれたり陰口言われたり最期には殺されかけたのにどう好意を持てと?」

 

 淡々と返すフィアラにカトルは困った顔をする。

 水を飲んだ後に右頬の傷を指で撫でた。

 

「例えばこの傷を消したからって、日本解放戦線の連中がこの傷を付けたっていう事実が消える訳じゃない。重要なのは、残った傷痕じゃなくて、傷付けた痛みの方。少なくとも私にとっては」

 

 この世界の医療技術なら大抵の傷痕なんて綺麗さっぱり消すことができる。というか、フィアラなら自分で消すこともできる。

 だけど、痛みを与えた、という事実が消えるわけではない。

 

「弱いもの程相手を許すことが出来ない。許すことは強さの証っていうのは誰の言葉だったかなぁ? ────だから絶対に許さない」

 

 フィアラの言葉にデュオとカトルは唖然とする。

 自分は弱いから相手を許さなくて良いのだと言わんばかりの態度に2人は眩暈がした。

 

「それに、怒りや怨み辛みって与えた側は時間と共に風化していくと勘違いするけど。与えられた側からしたら、時間と共に積み重なっていくいくものだし……ねぇ?」

 

 ここには居ない誰かへの嫌味を込めて笑みを浮かべる。

 

「いや、でもよ。キラ達の方は和解したんたぜ。なら少しは話を聞いてやってもいいんじゃねぇか?」

 

 当事者同士で話が着いている以上、フィアラが1人意地を張るのはおかしいのではないか。

 少なくとも、以前キラにまで当たり散らした理由が分からない。

 デュオの疑問にフィアラは空になったコップを置くとボソリと呟いた。

 

「だからこそ許せないんでしょ。あっさりと自分が殺されかけたことすら水に流してしまったのが」

 

 そこまで言うと、フィアラは意図的に話を変える。

 

「それに、ZEUTHが居た世界で状況を混乱させていたジ・エーデル・ベルナルに与していた私は、PMの問題が終わったらどうなるか分からないし。そもそも、ZEUTHの大半は私と和解したいんじゃなくて、PMに対処するための都合の良い道具を確保したいだけなんだから」

 

 またモルモット行きになるのは当然御免だ。

 その時にZEUTHの連中が都合よく庇ってくれるなんて期待してない。

 

「個人個人で仲良く出来る相手は居るよ。アナ姫とか。でも、ZEUTHっていう組織には今更好感を持てないし、何にも期待してないから。そっちも私に何かを期待するのは止めろと言っといて」

 

 手をひらひらさせてこの話は終わりと明後日の方向を向く。

 もうこの話に付き合うつもりは無いのだろう。

 どうしたもんかと悩んでいると、エスターがまったく別の話を振ってきた。

 

「そう言えばさ。フィアラの歌って他にもあるの? 聴いてみたい!」

 

 場の雰囲気を一切読まないエスターの発言と期待の籠った眼差しに唖然とした。

 その視線に気付いていないのか、エスターは聴かせて聴かせてと頼んでくる。

 

「え……と……」

 

 戸惑うフィアラを見て、それに乗っかかることにした。

 

「そういえば、いつも聴くのは戦場ででしたから。貴女の歌をちゃんと聴いた事はありませんでしたね」

 

「そうだな。せっかくだから聴かせてくれよ」

 

 男2人の内心は察したが、エスターのウキウキとした表情と視線。

 それに食事と乗船賃代わりにそれくらいは叶えても良いだろう。

 一度軽く咳をしてから歌を歌う。

 その雰囲気はさっきまでの壁を作るような物ではなく、ただ一心に歌うことに意識を集中させていた。

 いつも戦場で歌うのとは違う歌。

 自身が願うことへとひたすらに進み、手を伸ばす。

 そんな気持ちにさせる歌だった。

 

 たった3人だけに聴かせた歌。

 しかしそれは間違いなく彼女の想いが込められた歌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的地に着いた別れ際にエスターから握手され、こんな提案をされた。

 

『あたし、打楽器が趣味なんだ! だから、今度一緒に音楽をやろうよ!』

 

 そんな事を一方的に約束させられた。

 裏表の無い、ああいう人は嫌いじゃない。だからこそ、どう接したら良いのか分からない時はあるが。

 そんな事を考えていると、待ち合わせの人物を見つける。

 

「ラクスさん!」

 

 呼ぶと一緒にいるサンドマンとの会話を切り上げて此方に近づいてくる。

 

「フィアラ。随分と早かったですわね」

 

「えぇ。この街にはいつから?」

 

「2日前からですわ」

 

 ラクスとは破界事変の後に再会してからこうして不定期的にだが連絡を取っていた。

 フィアラが無事かの確認と、S4Uの転移システムを利用した各国への行き来とか。

 

「フィアラ。取り敢えず、取ってある宿に行きましよう。そこで話を────」

 

 そこで街に大きな震動が響き渡る。

 振り向くと、この世界の機動兵器であるアクシオシリーズや、紫色のロボットが現れる。

 

「あれは……」

 

 確か破界事変の時にチョロチョロと動いていた集団の筈。

 

「ロボットマフィア、だっけ? こんな大胆に動くのは初めて見るけど」

 

 おそらくランカ・リーの護衛なのか、バルキリーと青い見知らぬロボットが応戦し、そのすぐ後にエスターとコロニーのガンダムが加わる。

 それを眺めつつサンドマンに質問する。

 

「行かなくていいんですか? ああいうのを相手にするのが正義の味方のお仕事でしょ?」

 

「ここは彼らに任せるさ。私達は避難誘導を手伝おう。君の方こそ、行かなくて良いのかい?」

 

「人間同士の戦いは管轄外なので」

 

 毒を含んだ言葉はあっさりとかわされ、舌打ちする。

 

 その間に青いロボットの操縦者と思しき者の主張が聞こえる。

 市民の平和の為にロボットマフィアに立ち向かう子供の声。

 それを耳にしてフィアラが思ったのは。

 

(正義を振りかざして力を振るう子供。気持ち悪い……)

 

 受け付けない何かを感じて背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間が流れ、再度ZEXISの集結や、新しい敵の出現などで再び戦乱へと世界は動く。

 フィアラはその間も特にZEXISと接触する事もなく、作業的に時折現れるPMを狩っていた。

 そんなある日────。

 

 

「何あれ?」

 

 突如現れた巨大なレンズ状の建造物。

 その周りを守護する最近この世界に現れる聖インサラウムと名乗る異世界からの侵略者。

 観測データと自身の感覚を合わせてあの建造物が何なのか、大体の当たりを付ける。

 

「あれは流石に……!」

 

 フィアラは直ぐ様現場へと急いだ。

 

 

 

 

 




次回【キャット・ファイト】


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キャット・ファイト

 黒の騎士団総帥であるゼロは斑鳩の艦長席でインサラウムというこの世界の新たな敵が設置したレンズの建造物が何なのか思案していた。

 ユーフェミアと共に特区・日本を盛り立てていく一方で母艦の斑鳩やKMFの空中戦装備の開発を進めてきた。

 これらを可能にしたのは特区・日本を発案したとはいえ、ブリタニア側が日本人からの信用が殆ど無いこと。

 破界事変で、世界中の敵だったインペリウムと破界の王が討ち倒されたとはいえ、世界が未だ混迷の渦にあったことを理由に黒の騎士団の存在を捩じ込んだ。

 もしもこれを拒否するならインペリウムを倒したのが誰なのかを世間に公表すると脅した上で。

 しかしロボットマフィアや外宇宙からの敵。Dr.ヘル等の活動が活発化し、アロウズの暴挙が目立ってきた事により、黒の騎士団をZEXISとして活動させる名目が立った。

 特区・日本は扇等に任せて斑鳩の運用に必要なスタッフとカレンと藤堂にその部下である四聖剣を連れて日本を出た。

 後にマクロス・クォーターと合流し、世界の陰で戦っていたソレスタル・ビーイング等ともアロウズの虐殺現場で遭遇したこともあり、再び手を取り合う形となった。

 

(出来れば、スザクも此方に来てくれれば心強かったのが……)

 

 ユーフェミアの専任騎士であるスザクは今回の集結に同行していない。

 だが考えてみれば、エリア11にもあらゆる脅威が振り掛ける可能性が在るため、彼の妹や仲間達の安全の為にも残ってくれた方が安心かもしれないと思い直す。

 

(これでZEXISの治安維持という名目でブリタニアの戦力を削ぎつつ皇帝シャルルに近づく機会も出来るだろう。そして母さんの死の真相を────)

 

 そこまで思案したところで目の前の問題に意識を戻した。

 すると、突然ZEXISとインサラウムの中間地点の斜め横の位置に見知った機体が出現する。金のラインが入った乳白色の機体。

 

「S4U! フィアラ・フィレスかっ!?」

 

 PM以外の対処には現れなかった彼女が何故この場に現れたのか。

 この場にPMが現れるのかと思ったが、基本的にフィアラの対処は後手だ。

 ゼロだけでなく、ZEXISの誰もが首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステルス機能を解除して映された映像を見る。

 巨大なレンズの建造物。

 

(あれ、放って置いたら取り返しのつかない事になる類いの物だ)

 

 そして、展開されている次元を渡って現れた侵略者の軍。

 正確にはそれに与している部隊を見た。

 

「なんでアイツらが……」

 

 うんざりした様子で息を吐く。

 付けられた傷痕から痛みが甦ったような気がした。

 そこでZEXISから通信が入る。

 

『フィアラ君。何故君がここに?』

 

 ジェフリー・ワイルダーの質問にフィアラは建造物から視線を外さずに答えた。

 

「……別に。アレは、私にとっても都合の悪そうな物だから調べにね。セツコ・オハラさんだっけ? "悲しみの乙女"のスフィアを覚醒させている貴女なら、アレの危険性を感じ取れるのでは?」

 

 破界事変の時には居なかった元ZEUTHのメンバーであるセツコに問いかける。

 

『セツコさん?』

 

『……フィアラちゃんの言う通りよ。上手く言葉に出来ないけれど、アレを放置していたら、きっと取り返しのつかない事になる』

 

 スフィアを通して感じる危機感に鋭い視線を向ける。

 同じくスフィアを持つクロウは首をかしげた。

 

『俺は、特に何も感じないんだが』

 

 あの建造物がヤバいとは思うが、それはスフィアとは関係なく、彼の経験則から来る物だ。

 

「"揺れる天秤"はまだ因子が足りない。セカンドステージに入っている彼女と、ようやくスフィアの力を引き出し始めた貴方じゃあ、感覚の鋭敏さが違う」

 

 セカンドステージとサラッと新たな情報を出すフィアラにクロウがどういう事か訊こうとするが、その前に割って入る者が現れた。

 

『久しぶりね、白猫ちゃん。元気そうで何よりだわ』

 

『マリリン!』

 

 フィアラよりも先にクロウが反応するが、マリリンはそれを一蹴する。

 

『フラフラちゃんは黙ってなさい。私はあの白猫ちゃんに用があるの』

 

 無視してやろうかとも思ったが、乗ってやる事にする。

 ZEUTH以上に会いたくない連中には違いないが、下手に無視して無茶苦茶な行動を取られても、だ。

 

「元気そうで、なんて言うような関係でもないのに気安く話しかけないでくれるかな?」

 

 あしらうように返すフィアラにマリリンがクスクスと笑う。

 相変わらず悪意しか感じない笑顔だなと心の中で苛立ちを募らせる。

 

『あら冷たい。でもこっちには白猫ちゃんに返さなきゃならない借りがたくさんあるのよ。何と言っても、貴女、うちの隊員を3人も殺されたんだから。しっかりとそのお礼をしないとねぇ』

 

 ねっとりとしたマリリンの言葉にZEXISのメンバーは目を白黒させた。

 

「どうぞお気になさらずに。鬱陶しい、汚らわしい、気色悪いの三拍子揃った害虫駆除に、お礼を貰うなんてとてもとても」

 

『遠慮しなくて良いのよ? 前みたいに可愛らしい悲鳴を上げさせてあげる』

 

「出来ると思う? 業腹だけど、ここに居るのは私だけじゃない上に。人質も居ないこの状況で? 見た目どおりの年齢じゃないとは思ってたけど、痴呆でも始まる年齢だった?」

 

 嫌味ったらしい口調で言うフィアラにマリリンの笑みに青筋が立つ。

 

『……面白い事を言うわね。まぁ、女を棄ててる上に年中独り寂しく活動してるボッチ気取りの構ってちゃんには身嗜みを整える習慣も無いのでしょうね。あーかわいそ』

 

 映像通信を送っていないので誰にも見られてないが、フィアラは目を細める。

 

「少なくとも、そんな連中を侍らせるくらいなら独りの方が幾分かマシだと自負してるけど? というか、姫とか言われて恥ずかしくないの? 年齢考えたら?」

 

『……忘れてたわ。思えば貴女、猫なんて可愛らしい生き物じゃなかったわね。貴女の歌を醜い豚としてぶーぶー鳴かせてあげる』

 

「それはそれは。あはははは」

 

「うふふふふ」

 

『落ち着いてよフィアラ!』

 

『マリリン殿、勝手な行動は……』

 

 嫌な予感がしてエスターとインサラウムのトップであるユーサーが止めに入った。

 しかし────。

 

『あーはっはっはっ!! ────お前はここで死ねよっ!!』

 

『……………………』

 

 フィアラとマリリンが同時に宣言し、ZEXISもインサラウムもそっちのけで戦闘を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インサラウムの部隊を無視してフィアラはファイアバグを相手にしていた。

 改良を加えているとはいえ、高速戦闘を得意とするS4Uを突然現れた建造物のお陰でほぼ更地に近い地形になったこともあり、速度で引っ掻き回して1機ずつ仕止めているのだが。

 

(直前で急所(コックピット)を外してくる。しぶといな、もう!)

 

 今回は相手を殺そうとコックピットを狙っている筈なのに、何だかんだで経験による勘か、ギリギリで外されて脱出する。

 その生き汚なさに舌打ちする。

 既にこの戦場はZEXIS対インサラウムで始まっている。

 当然ファイアバグの部隊にも突っ込んでくる者もいる。

 

『マリリン!』

 

『あームカつく! 今はフラフラちゃんの相手をする気分じゃないのよ!』

 

『知るか! 戦場で会った以上、お前らは俺が潰す!』

 

 クロウの乗るブラスタとマリリンのアクシオのブレードが激突する。

 抑えている間に背後に回ったフィアラが後ろから斬ろうと迫る。

 

「終わりだ猫婆!」

 

『誰が猫婆よ!』

 

 マリリンの後ろに迫るビームの刃。

 それが貫く瞬間。

 

『姫ぇええええぇえっ!!』

 

 ファイアバグの隊員がS4Uにタックルをしてきた。

 

「つっ、この!?」

 

 バランスを崩す前に空へと上昇し、追撃を躱す。

 別の機体がブラスタを

 

『ご無事ですか、姫!』

 

『あんもう! 機体の性能違い過ぎ! ズルい!』

 

 ファイアバグは連係でマリリンを守り、クロウから舌打ちが聞こえた。

 ZEXISの方もインサラウムと戦闘を行っているが、破界の王ガイオウに敗れた残存の軍とは思えない士気と練度で向かってくる。

 また、人造次元獣の存在やユーサーも戦場に出た事で更に士気を高めるが、しばらくしてインサラウム側の主だった面子やファイアバグも撤退。

 残された人造次元獣と兵士達を倒して戦闘を終了させた。

 沈黙している建造物。インサラウムがZONEと呼んでいたそれの調査を始めようとするが、突然ZONEが起動し、周りを全て砂に変えていく。

 それに危機感を覚えた指揮官達は即座にZONEの破壊を命じるも、位相のズレている為にダメージが通らない。

 この場を一時的にでもやり過ごす方法は────。

 

『セツコさん!』

 

『このZONEが周囲の次元力を吸い上げるのなら、私のスフィアからエネルギーを与え続ける事で被害を抑えられます!』

 

 破壊が不可能な以上、ZEXISが取れる手段はそれだけだった。

 

『待てセツコちゃん! スフィアなら俺にもある! ここは俺が────』

 

『ありがとう、でも……』

 

 今のクロウではまだ無理なのだ。

 ZONEへと近づくバルゴラ・グローリー。

 しかしそれを遮る機体があった。

 

『フィアラ、ちゃん……?』

 

「邪魔。何で私がここに居ると思ってる」

 

 S4Uのライフルを構える。

 

「次元力の全てを支配する為に、我らの祖はあらゆる世界に自分の分身を送り込んだ。大半は死亡したけど、その血はまだここに残っている────紛い物なのは同じだけど、どちらが完成品として上か教えてやる」

 

 フィアラはいつもと同じ言葉を言う。

 

「私の歌は、世界を侵す!」

 

 それは、あの輸送機でエスター達に聴かせた歌。

 S4Uから出た紋様はいつもと違って地形に広がらず、ライフルの銃口に翼のような画が空間に描かれる。

 

 銃口からビームが放たれる。

 ZEXISの攻撃を一切受け付けなかったZONEのレンズに攻撃を通す。

 歌と共に引き金を引き、ZONEが完全に沈黙するまで攻撃を続けた。

 ZONEが停止した事を確認して、フィアラは歌を止めて息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ZONE初戦ではファイアバグ戦闘には出てこなかったけど都合上出しました。


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その起源は

 その部屋には人工的に生み出された少女達が眠っていた。

 硝子の容器で育てられている物心が付くかどうかくらいの少女達。

 それら全てがまったく同じ顔の、銀髪金眼という容姿。

 容器の中で眠る少女達を眺めながら男は隣の女性に話しかける。

 その女性も銀髪金眼だった。

 眠る少女達は全て女性のクローンであり、ある研究の成果として生み出せた存在。

 

「で? この人形どもを、あらゆる世界に分散させるってか?」

 

「私の可愛い娘達に対して人形とか言うな」

 

 女性は男の脛を何度も蹴り付ける。

 特に痛がる様子もなく鼻で笑った。

 

「こんなガキを色んな世界に送り出してどうしようってんだ? そんな事をしても大半は死ぬだけだろうぜ」

 

 ひでぇ母親も居たもんだと言う男に女性は目の前の容器に触れて独白するように話す。

 

「……本当なら、それなりの年齢になってから送り出したかったのだけれど仕方ないわ。禁忌の研究の成果であるこの子達をいつ奴らが消しに来るか分からないし。一網打尽にさせる訳にはいかないもの。それにあらゆる世界で血を残し続けるのがこの子達の使命よ」

 

「使命ねぇ……」

 

 その言葉に思うところがあるのか、男は若干目を細めた。

 

「次元力を引き出す生体の依り代。数を増やし、より多くの次元力を引き出し、制御させて貴方達次元将と共に奴らを討つ。何度も説明したでしょ?」

 

「代を重ねりゃあ、使命の事も忘れるんじゃねぇか?」

 

「そこら辺は抜かり無しよ。例え代を重ねようと、力の使い方と必要な知識と使命は年齢と共に浮かび上がってくる。子々孫々、この子達は自分の運命からは逃れられないし、逃さない」

 

 これから先の未来。多くの世界で力を付けるために血を流させるであろう自分ですら言ってやりたくなる。

 この人でなしが、と。

 

 これらは全て奴らに対抗する道具を生産する為の畑だ。

 次元力を引き出す生命体へと変え、使命へと無理矢理巻き込む。

 何百何千年とかけて数を増やし、根源的災厄やバアルに対抗する為の戦力として組み込む。

 その結果、原住民の種が滅ぼうと構わないと本気でこの女性は考えていた。

 

「奴らに対抗するならば、あらゆる者は英雄であり、その為に産み出された物は聖剣と呼ばれて良い。それが、どんな犠牲を払って生まれた存在でも、ね」

 

 それが彼女の持論だった。

 

「ふん。だが、こいつらを巻き込む前に俺達が使命を全うするかもしれないがな」

 

 男の言葉に女性は笑みを浮かべた。

 

「それならそれで良いのよ。その時は、この子達とその子孫が、本当の意味で人間に堕ちる事が出来るのよ」

 

 そこで女性は男を見上げる。

 

「だから旅の途中か、使命を終えた後にこの子達かその子孫に会う事があったら、気にかけてあげてね」

 

「俺に子守りなんざ押し付かんじゃねぇよ」

 

 心底面倒そうに男は返すが、女性は聞く耳持たずで頼んでくる。

 

「お願いね。ヴァイシュラバ」

 

 

 

 

 

 その後、72の子供達はあらゆる世界に送られるも、その数は減らしていった。

 

 人が生きていける環境ではなかった。

 戦争に巻き込まれた。

 少女達の力を知られ、体を弄られた。

 使命の重さに子に押し付ける事を拒み、血を残さなかった。

 

 その他、多くの理由から次元力を引き出す少女達はその血を徐々に絶やしていった。

 

 僅かに残ったその子孫は────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィアラは自分が壊したZONEの破片を手に取っていた。

 手にしたレンズを眺めて苦い顔をするフィアラ。

 

(私が引き出してた次元エネルギーも持ってかれる感覚があった。それにこの惨状、下手したらかなり広範囲であの装置に喰われてたかも)

 

 ZONEの機能で砂となり、あらゆる物が死んでいると思わせる地面を蹴る。

 

「品の無い暴食ぶり」

 

 言って、手にしていたレンズをZONEの壁に向かって投げると、パリンと砕けた。

 そうしていると後ろから声をかけられた。

 

「何をしているの?」

 

「手裏剣を投げる練習」

 

 セツコの質問に真面目に答える気がないのか、適当に返すフィアラに困ったように眉を動かすも、礼を言った。

 

「ありがとう。フィアラちゃんのお陰で助かったわ」

 

 セツコは自分のスフィアを通じてZONEを封じるつもりだった。

 しかしフィアラがZONEを破壊したお陰でそうならずに済んだ。

 フィアラはセツコの方を見ずに砂へ変化した大地を手を置く。

 

「別に。私もコレが邪魔だから壊しただけだし。それに普段してるPMの毒に対する対処の方が難易度は高いから」

 

 素っ気ない態度でこちらに興味無しとばかりに向こうともしない。

 ZEXISに合流し、元ZEUTHの面々からフィアラの事を聞いていたが、容姿と内面の変化にセツコは戸惑う。

 

「ねぇ────」

 

「黙って」

 

 セツコの言葉を遮ると、フィアラは隠すように腰に下げていたナイフを逆手に持つ。

 

「私の歌は、世界を侵す」

 

 すると、フィアラの周囲に見慣れた

 紋様が広がる。

 それはフィアラの周囲からZONEに描き込まれるようにして刻まれていく。

 フィアラの口から歌が紡がれる。

 それは戦闘中に歌っていた歌とは違う。

 亡くなった人達から託された想いを背負って前へと進んでいこうと誓う、哀しくも力強い歌。

 

「────っ」

 

 歌の終わりと同時に手にしているナイフを地面に突き刺す。

 数秒そのまま留まっていると、ナイフを抜いて元の位置に仕舞う。

 

「何をしたの?」

 

「こっちに被害が出ないようにする為の封印。まだ完全に機能が停止してる訳じゃないから。インサラウムに再利用されてもつまらないし」

 

 そう説明されてセツコは笑みを浮かべた。

 

「今の……素敵な歌ね」

 

 この状況にも関わらず、出てきたのは歌の感想だった。

 だがそれは脚色の無い真っ直ぐな気持ちで。

 それを聞いたフィアラは少しの間、首を傾げてから話す。

 

「今の歌? あれ、ジ・エーデルに拾われてからアークエンジェルの人達が生きてるのを知らなかった間に作った、ZEUTH(貴方達)を討つ決意を込めて作ったんだけど」

 

「……」

 

 自分達を討つ為に作られた歌と聞いて何とも言えない表情になる。

 セツコに目もくれずフィアラは自分の機体へと戻っていく。

 

「え!? ちょっと!!」

 

 引き留めようとするセツコだが、その前に別の人物が走って近づいてきた。

 

「フィアラ!!」

 

「オゴッ!?」

 

 タックルする勢いで抱きついてきたエスターにバランスを崩して倒れる。

 エスターが離れると腰を痛そうに擦りながら立ち上がった。

 

「もう! どこ行ってたんだよお前! 別れてすぐにロボットマフィアとの戦闘があっても全然現れないから、何か遇ったんじゃないかって心配したんだからな!」

 

「それよりも先ずは押し倒した事を謝ってほしいんだけど……イテテ」

 

 苦い顔をしてエスターを睨むがあっちはごめんごめんと軽く謝ってくる。

 次に話しかけてきたのはクロウだった。

 

「悪かったな、うちの後輩が。それよりも訊きたい事があるんだが、マリリンの奴とはどういう関係だ? 随分と仲良さそうに見えたが」

 

「……へぇ。仲良さそうに見えたんだ? その節穴だらけの眼球をビー玉にでも取り替えてやろうか」

 

 最後の方は心底不愉快とばかりにドスの利いた声で恐ろしい事を呟く。

 どうやら冗談でもマリリンと仲が良いなどと言われたくないらしい。

 クロウは降参とばかりに両手を上げる。

 

「OK俺が悪かった。だが、いつの間にかあんな奴らと知り合いになったんだ?」

 

「破界事変の時に、破界の王が現れてZEUTHがこっちに来るか来ないかの時だったかな? ある町でいつも通りPMの駆除をしてたら、あいつらが急に現れて、町の住民を人質に取られた事があって、仕方なく機体から降りた」

 

 当時の事を思い出して憎々しげに眉間の皺を寄せた。

 

「その時に、ちょっと反抗的な態度を取ったら、アレの部下や、町の住民に命じて私刑(リンチ)にされた。というか、私の身体の傷の半分以上はあいつらに付けられたモノだし」

 

「あいつら……!」

 

 古巣の連中がそんな蛮行に及んでいたことにクロウは吐き捨てる思いだった。

 以前見たフィアラの身体に付けられた傷。あれが半分以上付けられたと知れば沸々とした怒りも生まれる。

 

「何とか機体を遠隔操作で動かした際に何人か踏み潰して逃げたわけ」

 

「そうか。そりゃあ、災難だったな」

 

 意外にもエグい死に様を想像して嫌な気分になった。

 だからと言って死んだかつての同僚達に同情もしないが。

 そこで話が途切れると、フィアラは再び自分の機体に戻ろうとするのをエスターが止める。

 

「どこ行くんだよ!」

 

「目的は達したから、ご飯でも食べに行こうかなって。なんか、クロウさん? と話してたら日本のラーメンが食べたくなってきた」

 

「なんでだよ!?」

 

 意味不明な連想にクロウが声を上げた。

 今はある場所を除けば、地球のあらゆる国に不法入国し放題なフィアラは気紛れに食べたい物を食べに各国を回っていた。最近ではそちらがメインになりつつある。

 

「じゃ、そういうことで」

 

 自分の機体に乗ろうとするといつの間に近づいたのか、デュオに肩を掴まれた。

 

「まぁ待てよ。そんなに急がなくったっていいだろ?」

 

「もう用事は済んだんだから。私がここにいる理由も話すことも────」

 

「我々にはある」

 

 すると今度はいつの間に戦艦から降りたのか、ゼロが現れた。

 相変わらず胡散臭い格好だと思いながら目を細める。

 

「先ずはお礼を言わせてもらおう。君の尽力のおかげで、我々は大切な仲間失わずに済んだだけでなく、この街を守る事にも成功した」

 

 ゼロの台詞に少しだけセツコの方へと視線を動かす。

 

「大切な仲間ねぇ? ……貴重な駒、じゃなくて?」

 

「……何を勘違いしているのかは知らないが、私は彼女を含めてZEXISのメンバー全員を頼もしい仲間だと思っている」

 

「そういう事にしておこうか」

 

 精々ゼロが僅かでも動揺するのを期待していたが、これ以上の皮肉や嫌味は時間の無駄と判断して切り上げる。

 

「それにしても随分と見積もりが甘い事で。あれだけの次元結晶体。放置すれば、この大陸の1/4はこうなっていたよ」

 

 ZONEによって砂に変わった地面をトントンと踏みつけるフィアラ。

 その発言に息を呑むと同時に話を変える。

 

「以前君と行動を共にしていたエスター・エルハスからPMの目的を聞いた。その事に関して聞きたい事がある」

 

 どうせ拒否されるのは目に見えているが、ゼロはここでフィアラにギアスをかけることも厭わないつもりだった。

 幸いにしてゼロとフィアラは正面から向き合う形であり、仲間も彼の後ろにいる。今ならギアスをかけた事は気付かれない。

 

(話してもらうぞ。貴様が知る全てを!)

 

 そして断られる前にギアスをかけようと────。

 

「……いいよ。前と同じ艦に行けばいい?」

 

「は?」

 

 あまりにもあっさりと承認するフィアラにゼロは間の抜けた声を出した。

 その疑問は周りも同じであり、デュオが問う。

 

「今回は随分と素直だな」

 

「少し、私もそっちに訊きたい事があったのを思い出しただけ」

 

「訊きたいことだと?」

 

 まさかフィアラの方から訊きたい事があるとは思わず、困惑する。

 そのまま自分の機体に乗り込みマクロスへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スフィアは、全て12個存在して各々に当て嵌めた強い感情に反応して力を引き出す」

 

 マクロス・クォーターのブリーフィングルームで腰を下ろしたフィアラは誰に促される訳でもなく話を始めた。

 

「『嘘』を司る『偽りの黒羊』

『欲望』を司る『欲深な金牛』

『矛盾』を司る『いがみ合う双子』

『虚無』を司る『沈黙の巨蟹』

『忍耐』を司る『傷だらけの獅子』

『悲哀』を司る『悲しみの乙女』

『意思』を司る『揺れる天秤』

『憎悪』を司る『怨嗟の魔蠍』

『反抗心』を司る『立ち上がる射手』

『好奇心』を司る『知りたがる山羊』

『愛』を司る『尽きぬ水瓶』

『夢』を司る『夢見る双魚』

 スフィアはあらゆる宇宙に広がり、これらの力を引き出す所有者をスフィア・リアクターと呼ばれている」

 

 ざっとスフィアの名前を並べるとゲイナーが感心した様子で呟く。

 

「名前には十二星座が使われてるんだ」

 

「尽きぬ水瓶は現在、インサラウムの聖王機とやらに搭載されているらしい。もっともあの様子じゃ、スフィアが発動してる感じじゃなかったけど」

 

「あの機体に……」

 

 自分達の前に出てきた気の弱そうな皇子を思い出す。

 しかしその情報網に疑問を持ったマリンが質問した。

 

「どうしてそんな事まで知ってるんだ?」

 

 スフィアの名前は良いとしても、何故侵攻してきたばかりのインサラウムの聖王機にスフィアが搭載されていることや、況してや発動していない名前まで特定しているのか。

 するとフィアラがとんでもない事を言う。

 

「ヴァイシュラバ────あ~破界の王に先日会って、その時に聞いた」

 

『……はぁっ!?』

 

 思いがけない人物が出てきてガロードは声を上げた。

 

「アイツは俺達が倒した筈だろ! いや、それより大丈夫だったのかよ!?」

 

「何か酷いことをされなかった?」

 

「別に。日本の焼肉屋で一緒に昼食を食べながら世間話をしただけ。そういえば、その内にそっちにちょっかい出すとか言ってたから、戦力を集めるなら早い方が良いと思うよ」

 

 他人事のように喋るフィアラ。

 それにしてもフィアラとガイオウが焼肉を食べている様子を想像して困惑している。

 スメラギが念を押すように尋ねる。

 

「本当に何もされてないのね?」

 

「あの人と私は遠縁の親戚みたいな物ですし。此方から敵対するならともかく、私は本来、破界の王側に就く存在。向こうも理由なしに襲いかかったりはしない」

 

「どういう事だよ!」

 

「大昔に託された使命。私達の祖はその為にあらゆる世界に送られた。もっとも大半は死亡したけど、いつか数を増やし、次元将と共に根元的災厄を乗り越える為に」

 

 何処か遠い場所を見るようにその金の瞳を揺らした。

 

「スフィア。次元力。シンカ。クロノエイチ。多元世界。それらに真相に関わって行くと、同じ存在に辿り着く。PMや破界の王。アサキム・ドーウィン。そしてジ・エーデル・ベルナル。過程は違えど根元的災厄を倒す為に存在する。いや、彼らだけでなく、あらゆる世界にはそれに関わる存在が居る」

 

「アサキムやジ・エーデルも……」

 

 意外な名前も出てきてセツコが呟く。

 

「立ち向かうか、服従するか、逃避するかはともかくとして。あらゆる存在が根元的災厄を意識して活動している」

 

「何なんだよ、その根元的災厄ってのは!」

 

 アポロが問うと、フィアラは小さく息を吐く。

 

「悪いけど、そこから先は破界の王にでも聞いて。私の持っている知識は断片的すぎるし、あの人の方が断然詳しい」

 

「何だよ勿体振って!」

 

 エスターがフィアラの頬を引っ張るがすぐに外させる。

 

「だから代わりにスフィアに関して話した。それよりこっちも訊きたい事がある」

 

「此方に答えられる事なら話すけど……」

 

 はぐらかされた面はあるが、有益な情報を貰った事には変わらない。

 

「エルガン・ローディックが現在何処にいるのか。知っているのなら教えて欲しい。三大国家が併合されてから連絡が取れない」

 

 エルガンの名が出てジェフリーが問う。

 

「知り合いだったのかね?」

 

「こっちの世界に飛ばされた当初、保護されて世話になった。それから世界を回りながら集めたテロリストに関する情報を買って貰ったりと。まぁ色々」

 

 フィアラをこの世界で保護したのはエルガンだった。

 その事実を知ってシンは驚きと共に憤る。

 

「あの人、そんな事は一言も言わなかったぞ!」

 

「気を使ってくれたんでしょ。ZEXISが結成された当初、部隊に参加してほしいって頼まれたけど断ったし。それよりZEXISが再結成されたのなら、エルガンさんから何らかの接触があった?」

 

「悪いが、我々もエルガン・ローディックの居場所は知らない。ZEXISは召集権を預かっていた私が必要だと判断した」

 

「そう……」

 

 ゼロの返答に気落ちした様子もなく、フィアラは椅子から立ち上がる。

 

「私ももう行く。閉ざされた暗黒大陸が開けばPMの世界に行くための準備がようやく整う。だから出来る限りあの大陸付近に居たい」

 

「閉ざされている暗黒大陸が再び開くと?」

 

「さぁ? ただ、向こうには螺旋力とゲッター線がある以上、外がこれだけの騒ぎになっているのなら、触発されて近々開く可能性はある。尤も中がどうなっているかは分からないけど」

 

 前々から言っているPMの世界に移動する件。

 暗黒大陸に行って何をするのかは分からないが、そんな無謀を許す訳にはいかない。

 赤木が心配から止めに入る。

 

「そんなのやっぱりダメだ。危険すぎる。俺達も一緒に────」

 

「却下。別に私はPMを倒しに行くわけでなし。万が一貴方達がPMを殲滅したら、私の目的が達せられない。はっきり言って邪魔」

 

「なんだよそれ!」

 

 フィアラの冷めた対応にワッ太が不満そうにする。

 

「大体、お前の目的って何なんだよ!」

 

 しびれを切らしたアルトがフィアラの目的について問い質す。

 PMを倒すのが目的でないのなら、いったいどうしてそんな場所に行こうとするのか。

 その疑問に対してフィアラは答えない。

 

「完全に私の私情なので貴方達に教えるつもりはないよ。ま、PMの力を手に入れて世界征服とかそういう目的じゃないから安心していいよ? 私の目的には最初から意味がないので」

 

「意味がない?」

 

 両方の人差し指で✕を作るフィアラにセツコは訝しむ。

 

「誰にとってもそうする意味も価値もない。誰かにとって損でもないけど、利益が出る訳でもない。これは、私の感情の問題でしかないから。それに世のため人のために頑張ってる貴方達に話すのは恥ずかしくてね」

 

 だから貴方達には話す必要がないと✕を解く。

 そんなフィアラに戸惑った様子で正太郎が質問した。

 

「あなたは、みんなを助けるために戦っていたんじゃないんですか?」

 

「勝手に私の戦う理由を捏造しないでくれる? 私が戦うのは私の為だよ。大体、他人の為に戦っても怨まれたり憎まれたりするのは当たり前だし? 例えば、街を破壊して虐殺を行ってる敵を止めたら、誰かの怨みを買ったり、とかねぇ?」

 

 皮肉いっぱいに言ったその言葉が、ZEUTHの居た世界でステラがデストロイに乗って行ったチラムでの虐殺の事を言っているだと気付く。

 今でもその事を突いてくるフィアラにエイジが前に出る。

 

「お前、まだそんな事言って────」

 

「だったら、自分の為に戦って憎まれた方がマシ」

 

 最後まで聞かずにそう告げる。

 出ていこうとするフィアラにシンが肩を掴んで止めるが、それはすぐに振り払われた。

 

「あの時は色々と視野が狭くなってて、たくさんお前に酷いことをしたと思う」

 

 向かい合ってシンは当時の自分の言動を振り返る。

 自分の都合と憎しみを優先させてフィアラの大事な場所を傷つけたこと。

 初対面で怒りに任せて叩いたこと。

 そして、次元修復を行うあの最後の戦いで態とではないとはいえ、殺しかけたこと。

 

「ごめん。本当にごめんな……」

 

 頭を下げるシンに周りが目を丸くする。フィアラも含めて。

 しかしその表情はすぐに無表情に戻った。

 

「そう……」

 

 それだけ返すと今度こそ部屋から出ていこうとする。

 それを止めたのがルナマリアだった。

 

「ちょっとそれだけ! もっと何か言うことがあるでしょ!!」

 

「別に。前にも言ったよ。謝罪しても許さないって。謝るのは勝手だけど、それで私の中で何かが変わる訳じゃない」

 

「お前、本当にいい加減に────っ!?」

 

 あまりにも頑な態度にエイジが怒ろうとするが、カミーユがそれを制して止める。

 

「向こうの世界に行ったら、こっちに戻ってこられるか分からない。それまでにPMの対処を見つけておいたら?」

 

 フィアラがこの世界から消える。それはPMの魂を奪う毒に対する対応が出来ないという事だ。

 だけど、それとは別に純粋に彼女が心配で、エスターが問いかける。

 

「何でそこまで拒絶するんだよ! PMの世界に行く目的だって、話せばアタシらだって手伝うのに!」

 

「信頼出来ないから」

 

 ドアに触れて、フィアラは顔半分だけ振り返る。

 

「もしも、ここに滞在して私に危害を加える人間が出てきても、絶対に私の味方にはならない。そう思うから、一緒に行動はしない」

 

 これ以上は絶対に距離を縮めない。

 仲間を想う気持ちが強いこの部隊は、そうじゃない者にはきっと────。

 引き止める声があっても、今度こそフィアラは足を止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは宜しくお願いしますね、ティファ」

 

「はい。ラクスさん」

 

 ある依頼を頼みにラクスはティファ・アディールと接触した。

 上手く行けば、ラクス達が居た世界から救援を求める事が出来るだろう。

 

「フィアラに待ち合わせの連絡を入れて、食事にしましょう」

 

「彼女に会ったのですか?」

 

「えぇ。いつも困った顔で、ですけど出来る限り会ってくれますわ」

 

 話ながら、破界事変後に温泉宿で再会したときの事を思い出す。

 

 

 

『私には分からない!! 殺されそうになったのに、簡単に許せるキラさんの考えも! 大事な人を傷つけられても平然としてるラクスさんの気持ちも! 私には全然分からないっ!?』

 

 

 あの宿で癇癪のようにそう叫び、訴えてきた。

 彼女は独りで、許さず、許せず、ずっと訴えていたのだ。

 ラクスは居なかったが、2つに別れたZEUTHでの戦闘。

 その時、キラが乗るフリーダムも、アークエンジェルも、何かが違っていれば全員死んでいた。

 どんな理由があっても、傷つけられたのだから、それは怒って良い。

 怒らなければならないと。

 目の前で消えていった瞬間を見て絶望したフィアラ自身の為に。

 殺されそうになったキラやアークエンジェルの面々の為に。

 そして、残された筈のラクスの為にも。

 例え、ラクス達が水に流したとしても、それは違うと。

 もっと自分を大事にして、傷つけられたことを怒って良い筈だと、フィアラ・フィレスはあの時の感情を忘れず、たった独りで訴えていた。

 独りでずっと怒り続けてくれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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消える少女

 フィアラ・フィレスが室内を出ていった後に呆れた様子で息を吐いたのは飛鷹葵だった。

 

「相も変わらずね。癇癪を起こされないだけマシなのかしら?」

 

「あの人、以前からあんな感じなんですか?」

 

 正太郎の質問に答えたのは頭を掻いたデュオだった。

 

「前に会った時はもうちょっと友好的だったんだがなぁ」

 

 以前少しの間一緒に行動した時は刺のある言動はあったが、態度は大分軟化していた。

 余程ZEUTHと一緒に居るのが嫌なのか。

 

「彼女は以前言ってました。重要なのは体の傷ではなく、痛みを与えられた事実だと」

 

 沈痛な面持ちで発言するカトルに甲児が思い出すように口を開く。

 

「ヘソを曲げてる子に何を言っても無駄か。前に竜馬さんが言ってた通りだな」

 

 今ここには居ない、ゲッターチームのリーダーである流竜馬が以前言ったように、説得も謝罪も届かない。

 ただ受け流されるだけ。

 気落ちしているシンの肩にカミーユが気遣う様子で手を置く。

 

「大丈夫か、シン?」

 

「あ、あぁ……。大丈夫だ。ちょっと、思ったのとは違う反応だったからどう返せばいいのか分からなかったけど」

 

 シンとしては前のように怒鳴ってくるような反応は予想していたが、あんな無視するに近い態度は想定してなかった。

 小さくても何かしらの変化を期待していただけに今回は肩透かしを食らった気分だ。

 アルトが舌打ちする。

 

「ったく! あいつ、ホントいつまで独りで意地張ってるつもりだよ」

 

「なんなら、力づくで拘束した方がいいんじゃないか?」

 

 この場でフィアラとの関係の薄い二代目ロックオンが冗談交じりに発言するがそれを否定したのは刹那だった。

 

「そんな事をしても彼女はこちらに協力しない」

 

「その通りだ。フィアラ・フィレスは自由な立場だからこそ自発的に自分の力を使っているが、誰かに強要された瞬間にその者を敵と見なして一切手を貸さないだろう。その結果、大勢の犠牲が出たとしても」

 

 刹那の意見に同意するゼロ。

 そしてクロウも続く。

 

「まだ何か色々と知ってそうだが、今回の話で得る物が無かった訳じゃない。無理に問い質して怒らせるより、適度な距離で接するしかないって訳だ」

 

「……得る物ってスフィアの事か?」

 

「あぁ。ブラスタのスフィアに関してもちょいと謎が解けたしな。参考にさせてもらうさ」

 

「”意思”だったか。でもちょっと抽象的過ぎないか?」

 

 デュオの質問にクロウは何とかするさ、と笑って見せる。

 

(これまでのアイムの野郎の挑発から大体の想像はつくが、俺にそれだけの資格があるか)

 

 真面目に考えていると、エスターがフィアラ以外にこの場を離れた者に気付く。

 

「セツコさん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って、フィアラちゃん」

 

 肩を掴んできたセツコの手を払うようにして外させて面倒そうに息を吐く。

 

「なに? 私も暇じゃないんだけど?」

 

「……どうしてそこまで。シン君の謝罪が何が気に入らなかった」

 

 まるで教師が生徒に問いかけるような質問。

 フィアラはセツコに視線を合わせずに答える。

 

「別に。ただ自分が嫌な思いをした時はその人の命を奪おうとするくせに、自分は謝罪1つで許されようとするのは腹が立っただけだけど? 流石正義の味方。世界の為に活動してる自分達は特別な訳だ」

 

 眉を寄せて静かだが苛立たしげに話す。

 

「きっと……キラさん達がZEUTH(あなた達)と行動を共にする際に謝ったんだろうね。自分達の行動とか、色々。殺されかけたのはあの人達の筈なのに」

 

 その苛立たしげな表情こそが、彼女が本当に怒りを覚えている手掛かりのように思えた。

 しかしすぐに話題を変えてくる。

 

「私もPMが本拠地にしている世界に行くのに忙しいから。これ以上そっちに構ってらんない」

 

「それだってここの皆にお願いすれば、力になってくれる筈だわ」

 

 PMの本拠地。きっとそこはとても危険な場所の筈だ。

 フィアラ独りで行って無事に帰って来れる保証のない。

 

「だから教えて。フィアラちゃんが何を願っているのかを。きっと私達は力になれるから」

 

 本気なのだろう。

 セツコは真剣にフィアラの望みに対して力になろうとしている。

 だけど────。

 

「あなた達が、私の願いを叶えた事なんて一度もない」

 

「え……?」

 

 瞬きをするセツコにフィアラは冷たく引き離す。

 

「キラさんやアークエンジェルが撃墜されたと思った時に私はあの人達を捜して欲しいとお願いしたけど、うやむやにして逃げられた。その上で、PMに対処するために私の力を要求してくる」

 

 仕方のない理由があった。しかしフィアラがそれを納得しているかは別問題。

 

「それに、私がZEXISをPMのいる世界に連れて行ったとしても、また余裕が失くなれば私の目的を切り捨てるでしょ」

 

 地球のため、世界のため、人類のため、そこに生きる人々の幸福のため。

 素晴らしいことである。

 だからこそ、ZEXISが優先する事とフィアラの目的は噛み合わない。

 

「何度でも言うけど、私はあなた達に何も期待しないから。そっちも私に今更都合の良い期待を押し付けないで」

 

 セツコが何かを言う前にフィアラは自分の機体へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから程無くして暗黒大陸を覆っていた次元の断層によって隔離されていたフィールドは解かれる。

 封鎖された中は10年という時間のズレをもたらした事で急激に発展したカミナシティ。

 開かれた新たな地には様々な勢力が目を付けていた。

 

 

 

 

 

 

 フィアラはステルスで隠れたS4Uのコックピット内でチョコを食べながら、カミナシティに現れたアロウズの声明を聴いていた。

 

「相も変わらずテロリストもビックリな要求と交渉術」

 

 要するに地球の1国家として自分達の傘下に加われ、という一方的な要求をMSの銃をチラつかせながら交渉している。

 カミナシティ側の交渉役もどうにか穏便に済ませようと話し合いに持ち込もうとしているが、アロウズ側はこれだけの都市を見てもこの地に住む者達を未開拓の野蛮人としている節がある。

 その様子を呆れながら眺めているが、どちらにも加担する気はなく、静観している。

 すると2機のウォーカーマシン。少し遅れてこの街の象徴であるグレンラガンが現れた

 アロウズとの戦闘の最中に現れるインベーダー。

 そして部隊を2つに分けて行動していたZEXISが新たな戦力を加えて到着した。

 

 そして────。

 

「きた……!」

 

 PMが出現する反応を確認してフィアラは目を細めた。

 

「この世界に来て約3年……長かったのか短かったのか……」

 

 準備は整っている。

 世界中に埋め込んだ自身の力を合わせれば、目的の地に跳ぶ事が出来る。

 後は一方通行に繋がっている2つの世界。その出入り口を逆転させるだけだから。

 

「さぁ……私の家族を取り戻しに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既にアロウズは撤退していたが、インベーダーとPMという2種類のバケモノを相手に奮闘していた。

 

「だーもう! 2つ揃うと余計に気持ち悪い!」

 

 インベーダーを倒しながらエスターがぼやく。

 クロウもPMの足留めをしながらエスターに心配交じりに軽口を叩く。

 

「恐いんなら下がってても良いんだぜ、エスター!」

 

「冗談! 恐いけど、下がらない! ここで逃げたら、街の人達に被害が出て、自分が許せなくなるからね!」

 

 それだけ啖呵が切れるなら大丈夫かと後輩の成長を喜ぶ。

 クロウも戦闘に集中しているとPMと戦う時にいつも聴こえる歌声が響いた。

 見ると、頭上には乳白色の機体が姿を現していた。

 

「よし! ここからPMも畳み掛けろ!」

 

 金の紋様が広がるとゼロの指示により今まで足留めだけに留めていたPMへの反撃が行われる。

 S4Uはインベーダーの相手をせずにPMのみに武装を向ける。

 今回のPMの出現規模はそう多くはない。

 問題は街への被害だ。

 小型の敵はKMFやATが駆逐し、大型のタイプはスーパーロボットが撃破する。

 インベーダーもPMもその数を減らし、大型PMが最後に残った。

 

「ギガァ! ドリルゥ! ブレイクゥウウウッ!!」

 

 グレンラガンのドリルが大型のPMを貫き、カミナシティに現れた脅威を殲滅した。

 

 最後の1体が消える瞬間に、S4Uのコックピット内に座るフィアラは上空へと移動して呟いた。

 

「私の歌は、世界を繋ぐ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カミナシティに流れていた歌が変わると、その現象は世界中で起きた。

 今までPMが出現する度に現れていた金の紋様。それが世界を覆うように空へと描き込まれていく。

 同時にS4Uの周辺にも変化が表れた。

 

「S4Uを中心に、次元振動を起こされています!」

 

「何をするつもりだ!? フィアラ・フィレス!!」

 

 ゼロがこの異常事態にフィアラへの呼び掛けを行うが、やはり答えない。

 攻撃してでも止めさせるべきか迷っていると、フィアラの機体が少しずつその存在が薄くなるように透明になっていく。

 

 そして、歌を終えると同時に世界中を覆っていた金の紋様は消え去りると同時に次元振動と共にS4Uもこの場から消えていた。

 フィアラが何をしたのかは解らないが、これまでの地球のどこかへ去っていったのではなく、自分達の手の届かない場所へ行ったのだとこの場に居る誰もが理解してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2話くらい主人公不在になります。


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少女が消えた後

主人公が2話不在とか書きましたが全然そんな事はなかったです。


 ZEXISのクルーが団欒として使用している部屋では少々重たい空気が流れていた。

 

「今度は何処がやられたんだ?」

 

「中華連邦の南部にある町だ。それなりの規模の町だから、難民の対応に大慌てみたいだぜ」

 

 彼らが話しているのは今回PMが襲った町の事だ。

 フィアラ・フィレスが消えてから半月程。今回で3回目の襲撃となる。

 

「同じだ、僕達の世界と……」

 

 ゲイナーがポツリと呟く。

 

ZEUTH(みんな)が居た世界と?」

 

「あぁ。あいつら、世界中に見境なしに現れてどうにか倒してもあの毒のせいで人が住めない土地に変えられちまうんだ。俺の故郷の日本はまだそんなに被害はなかったけど……」

 

 ゲイナーに続いて勝平が悔しそうに続く。

 理由は分からないがPMは地球上にしか今のところ現れていない。

 倒すことは出来ても、その後の土地が住めなければ人は生活の場を移すしかない。

 フィアラが言うには魂を奪い取って自分達の糧にしているらしいが、それならなおの事である。

 

「シモンは、自分の街でフィアラに会ったんだよな?」

 

「……あぁ」

 

 アロウズがカミナシティにやって来る前日にたまたまフィアラと遭遇した。

 もっとも向こうはシモンの事など印象に残っておらず、10年も時間のズレがあるのなら尚更に誰か分からなかっただろう。

 話したのは少しだけですぐに逃げ出されてしまった。

 話した内容もシモン達との時間差が主で、PM行く事などの話はしなかった為、大した収穫はない。

 そこで先日合流したレントンに質問する。

 

「そういえば、破界事変の後にレントンとエウレカが住んでた町にもやって来たんだよな?」

 

「うん。数日俺達が暮らしてた家にいたけど、ホランド達の身体を治してどっか行っちゃった」

 

 レントンとエウレカの故郷へとやって来たフィアラ。

 数日の滞在中にホランドと遭遇し、一悶着あった。

 アイム・ライヤードによってフィアラならホランド達の身体を治せると言われていた彼は頭を下げて治療を頼み込んだが、当然エリア11で襲われた件が原因で拒否。

 レントンとエウレカも一緒に頼んで条件付きで治療した。

 

「それが襲ってきた件の慰謝料も含めて50万Gってか?」

 

 クロウが苦笑混じりにフィアラが提示した条件を言う。

 

「うん。これ以上は譲歩しないって」

 

 これは、当時フィアラの所持金が心許なかった事と、違う世界とはいえレントンとエウレカに頼まれた事での譲歩である。

 50万Gと言うと高々クロウが背負っている借金の半額、と思うかもしれないが、そのクロウの1ヶ月の給与は1000Gなので、その額の大きさが解るだろう。

 そしてホランド達は金融機関から借金してフィアラにその金を払い、身体はどうにかなったものの、今は借金返済の為にホランドはZEXISに参加。他の月光号メンバーは情報収集その他で金を集めている。

 

 と、少し話がズレたところで修正する。

 

「アイツ、独りで勝手にどっか行っちまいやがって!」

 

 PMが出した被害に誰もが苛立ちを感じていると、クロウがフォローする。

 

「ま、そう悪いニュースばかりじゃないぜ。うちのチーフの話じゃあ、各国もようやくあのバケモノに対しての本格的な研究を始めたそうだ」

 

「って、それじゃあ今まで何にもしてなかったってこと?」

 

「そうじゃないが、勝手に対処してくれる奴が居たんで後回しになってた感じだな。どうにかあの毒だけでも除去出来ないかと調べ出したようだ」

 

 カミナシティで消えたフィアラ。

 その後、PMが現れても所属不明機(S4U)が対処しない事で各国はようやく腰を上げたのだ。

 そこでつい先日に此方の世界へとやって来て合流したランドの相方であるメールが落ち込むように発言する。

 

「フィアラ、みんなと一緒に行動しなかったんだね……」

 

 ZEUTHの世界ではおそらくもっともフィアラと接したメールは彼女を心配して表情を曇らせるとランドが頭に手を置く。

 

「でもよ。もう半月以上も現れないとなるとあのガキ、やられちまったんじゃねぇか?」

 

 何気ない疑問として出た言葉に一部非難する視線を送るとデュオが明るい口調で意見する。

 

「あの手の奴はわりとしぶといからな。案外その内、ひょっこり現れるかもしれないぜ?」

 

 楽天的な意見かもしれないが、彼なりにフィアラの事を案じての発言だ。

 ZEUTH側から見ても、次元修復をしたあの最終戦で生存が難しいと思っていたところ、別の世界で生きていたのだ。

 だからこそ死んだとは思いたくない。

 

「生きていてくれなきゃ困るな。聞きたい事もあるし」

 

「エスターの事か?」

 

「俺のミスでエスターが次元獣にされちまった。もしかしたらホランド達みたいに何とか出来るかもしれねぇ。そうじゃなくても次元力に詳しいあの子なら何か良い案を出してくれるかもしれないからな」

 

 他人頼みでカッコ悪いが、エスターとフィアラの仲はそう悪くなかった。

 だからこの件に関しては邪険にしないと思う。

 PMだけではなく、その他の問題も山積みなことに誰もが息を吐く。

 とにかくPMに関しては今、各研究機関の結果待ちしかないと結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着々と戦力を充実させていくZEXIS。

 だが戦力を増大させるだけでは対処出来ない事態もある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 捕らえられていた桂木桂がインサラウムの情報を持って脱出し、貴重な情報をZEXISに持ち帰った。

 それにより攻略困難だった新たに現れた次元獣の防御を突破することに成功。

 次元獣になったエスターが、僅かながらにも人の意識を保持している可能性も出てきた。

 

 しかし────。

 

 

 

 

「クソ! アイツらまた!!」

 

 設置されたZONEの起動により、周囲が死んでいく。

 前回はフィアラがZONEを破壊したお陰で事なきを得たが、今この場に彼女はいないのだ。

 

「だぁああありゃあぁああああっ!!」

 

 そこで迷うことなくランドの乗るガンレオンがZONEの中心に飛び込んだ。

 その意味するところは、以前セツコが最初に出現したZONEを封じ込めようとした手段と同じ事をしようとしているのだ。

 

「待ってください、ランドさん! ここは私が!!」

 

「悪ぃな、セツコ! 早い者勝ちだ!」

 

 1番ZONEの近くにいたランドはスフィアの力を引き出して封印を試みる。

 仲間が止めようと説得を試みるがここで引く男ではない。

 

「悪いな、メール。付き合わせちまってよ」

 

「気にしないの! ダーリンとならどこまでもってね!」

 

 どこまでも明るく、悲観せずにこの状況を収めようとするランドとメール。

 ZONEから目映い光が発せられる。

 それが消えると、そこにガンレオンの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンレオンのスフィアがZONEに次元力を供給し続けて被害を抑えている。

 しかしそれもいつまで持つかは不明。

 ZONEの中に封じ込められた人間がどうなっていくのかも解らない状態。

 誰もがこんな結果になってしまった事に怒りを感じていた。

 それでも各勢力が止まってくれる訳もなく戦いは続く。

 クロウがブラスタの新型でアークセイバーの団長であるジェラウドの撃破に成功。

 しかし時を置かずにアロウズの衛星兵器が反勢力に向けて撃たれた事を知り、2部隊の別行動を取る。

 衛星兵器の破壊とその囮役としてだ。

 衛星兵器の破壊ミッションを遂行中にアムロ・レイとの合流を果たす。

 防衛部隊を退け、衛星兵器の破壊に成功してから

 だが、寸前に撃たれた砲は軌道エレベーターに被害をもたらす形となった。

 落下するビラー。

 その排除の為に宇宙にいた部隊も地球に降下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソがっ! これのどこが治安維持だ! いい加減にしやがれ!!」

 

「絶対に、ビラーを地上に落とす訳にはいかない!!」

 

 次々と落ちてくるビラーを破壊していくZEXISの機体。

 飛行能力の無い機体は戦艦の固定砲台として支援する。

 

「こんな事を、許す訳にはいかない!」

 

「下にいる人達を死なせてたまるか!」

 

 破壊作業中にマリリンと次元獣が妨害にやって来たが、スメラギの通信による救援要請に微力ながらも援護に現れる者もいた。

 

「クーデターを鎮圧する為だからって、こんな事が認められるかよ!」

 

「アロウズ! お前達はっ!」

 

 この惨劇を引き起こしたアロウズに怒りをぶつけてビラーの排除し続ける。

 そこで────。

 

「次元歪曲に反応あり! このパターンは……PMです!」

 

「こんな時!?」

 

 悲鳴のように叫ぶと同時にPMが現れる際に描かれる赤い魔法陣。

 この場にいる誰もが最悪の敵に歯を鳴らす。

 しかし現れたのは、PMではなかった。

 

「え?」

 

 出現したのはボロボロの機体。

 乳白色の装甲は所々罅が入っており、左腕と右脚を失っている。

 

「フィアラッ!?」

 

 S4Uは落下してその場に現れた。

 

 

 

 




ボコボコにされて帰ってきました。


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帰還した少女

「だぁ!? 敵多過ぎてっ!」

 

 前後左右上下。何処を見回しても敵敵敵。

 その数は既に点としてではなく面として存在する。

 

「いったい、幾つの世界を喰らったんだ、かっ!?」

 

 側面からの体当たりを盾に受けて体勢が崩れるも、至近距離でビームマシンガンを喰らわせて撃ち落とす。

 

 この世界自体がPMその物であり、今はその腹の中に居るような物だ。

 此方の攻撃をどこにしても当たるが、敵の攻撃も避けようのない面として繰り出される。

 防御フィールドで持ち堪えられているが、それも永続的に続けられる訳ではない。

 

「防御フィールドの冷却に15秒!? 遅すぎる!!」

 

 強制冷却に入ったシステムに難癖を付けるが、その隙に上からフィアラの機体より大きなバケモノが降ってくる。

 回避が間に合わず、押さえ込まれたまま、地面へと落下させられそうになる。

 

「このっ!」

 

 肩の防御フィールド発生機を噛み壊され、肩ごと敵を撃ち抜くと同時に膝蹴りで突き放した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……チッ」

 

 集団で襲いかかる敵に舌打ちするが、敵は待ってはくれない。

 正に全方位から攻撃されようとした瞬間、PMの動きが止まった。

 

「? 何が……」

 

 襲ってこない敵を警戒していると遠くに肉塊で出来たような城が見えた。

 その映像を拡大してフィアラが見た物は────。

 

「あれは……」

 

 それを見た瞬間、フィアラは我を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロの姿で戻ってきたS4Uは重力に逆らわずに落下していたが目が覚めたように急激に姿勢を直す。

 

「ここ……さっきまで私が居た世界と同じだよね……?」

 

 一応此方に戻れるように準備はしていたが、ぶっつけ本番。全然別の世界に跳んだ可能性もある。

 状況が分からず確認しようとすると、通信が入った。

 

『危ない!? 上っ!?』

 

「上?」

 

 顔を上げるとそこには大きな鉄板がフィアラの機体に目掛けて落下してきた。

 

「は?」

 

 動けずに固まっていると、ウイング0から放たれた巨大なビームが鉄板を消滅させる。

 安堵する間もなくZEXISから通信が入る。

 

『現在この空域は、軌道エレベーター損壊によるピラーのパージから地上の人達を守る為のミッションを行ってます!』

 

「軌道エレベーター損壊!? 何処の馬鹿が! 異星人に?」

 

『それは……』

 

『おい! そんなことより、その機体の状態じゃあ危ねぇ! こっちに来い!!』

 

 戦艦に固定されている機体からデュオが指示する。

 フィアラは即座に転移でこの戦域から離れようとする。

 だが────。

 

「システムエラー!? こっちに無茶をして戻ってきたせいで!?」

 

 転移システムの故障に苦い表情をするフィアラ。

 そんな彼女に悪意を持って近づく機体。

 

『アラアラ。どうしたの~? そんなにズタボロになって。ねぇ、白猫ちゃん?』

 

「!?」

 

 マリリン・キャットが近付くと反射的に残った左足の爪先からビームサーベルを出して攻撃しようとするが、動きを読まれて膝から破壊される。

 

「つっ! この!!」

 

 残ったライフルを向けるが引き金を引く前に肘の破壊される。

 

『甘いわよ~? 本当に分かりやすい』

 

 経験の差と機体の状態により、手足を全て失ったS4Uをマリリンの機体が嬲るように攻撃してくる。

 

「つ、あぁ……!?」

 

『本当はZEXISへの嫌がらせ程度で済ませるつもりだったけど、運が良いわね。お婆様が貴女に興味があるようなの。手土産に連れて帰りましょうか』

 

「誰がっ!!」

 

『なら少しお仕置きしてあげるわ!』

 

 手足を失っても機体を動かして抵抗するが、マリリンの攻撃により顔半分の装甲が剥がれ落ちる。

 

『マリリンッ! テメェの相手は俺だろうがっ!!』

 

『状況が変わったわ。フラフラちゃん、またね~。この子は貰って行くから』

 

『フィアラッ!』

 

 フィアラを連れてこの場を去ろうとするマリリンにクロウとキラを始めにZEXISは阻止しようと動くが、落下してくるピラーや次元獣によって足止めされ、思うように救援に向かえない。

 コックピットの中でフィアラは苦悶の表情をしながら、もう居ない母の言葉が頭に過っていた。

 

 "私達の力をこんな風に使っては駄目よ。もしも、それをしてしまえば────"

 

 頭の中でぐるぐると色々な思考が浮かんでは消える。

 故郷での暮らし。

 自分達家族を売った町の住民。

 大切な家族。

 アークエンジェルに拾われてからの生活。

 そして。

 そして────。

 

「私の歌は……」

 

 マリリンの機体であるパールファングがS4Uを捕らえようと迫ってくる。

 頭の中で、売り飛ばされた研究所や、ファイヤバグにされた暴行の記憶が過る。

 その時の恐怖と苦痛が引き金となって、フィアラは母との約束を破った。

 

「世界を喰らう……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロになって突然現れたS4U(フィアラ)

 マリリンが乗るパールファングによって残った手足を破壊され、完全に戦闘能力を失っている。

 それでも駆けつけようとZEXISはピラーや次元獣を排除しつつも行動するが、すぐに駆けつけられないでいる。

 誰もが歯痒い思いをする中で、事態の変化が起こった。

 

「歌……?」

 

 フィアラの歌声が聴こえる。

 そちらに視線を向けると金ではなく、赤い紋様が帯状となってS4Uを中心に放たれる。

 その紋様に触れたパールファングの腕が、文字通り消し去られた。

 

「なっ!?」

 

 驚いたマリリンは慌てて後退する。

 代わりに次元獣がフィアラへと向かうが、赤い紋様に触れて消し去られていく。

 

「何だよありゃあ!?」

 

 アポロが驚きから声を上げる。

 次元獣もピラーも、等しく赤い紋様に触れると問答無用に消えていく。

 そんな中でカトルがあることに気付く。

 

「あの赤い帯、どんどん軌道エレベーターに近付いてる!」

 

 カトルの言葉に誰もが驚愕した。

 確かに緩やかにだか、赤い紋様は軌道エレベーターに近付いていた。

 

「おい! 聞こえてるか! 歌を止めろっ!!」

 

 呼びかけるが、聞こえていないのか、それとも一度発動したら止められない理由があるのか、歌は止まない。

 

「フィアラ・フィレスの機体を接触する!」

 

「刹那!」

 

 ダブルオーライザーが高速でS4Uに接近しようと動く。

 機体を揺さぶれば或いはと考えて。

 しかし、その接近を警戒してか、帯の動きが明らかにダブルオーライザーを狙って動く。

 

「くっ!?」

 

 GNフィールドも肩部のシールドも意味を成さずにダブルオーライザーの左腕を消し去った。

 

「やべぇぞ!! このままじゃ!!」

 

 あんなものが軌道エレベーターに接触したら、今度こそ本当に崩壊する。

 

「フィアラッ!? 止めろっ!!」

 

 キラが近付こうとするが、それを拒絶するように赤い紋様が邪魔をする。

 もう少しで軌道エレベーターに赤い紋様が到達しようとした時に、赤いバルキリーが間に割って入った。

 

「バサラ!?」

 

「こんな事に"歌"を使うんじゃねぇ! 俺の歌を聴けぇっ!!」

 

 赤い紋様を止めるようにバサラが激しく歌い出す。

 すると、紋様はバサラの乗るファイヤーバルキリーを避けて────いや、掻き消えていく。

 バサラの歌に反応して、徐々に紋様は消えると、空中で静止していたS4Uが力を失ったように落下していく。

 

「フィアラッ!?」

 

 完全に落下速度が乗る前にキラが受け止めた。

 通信からは辛そうなフィアラの息遣いだけが聞こえてくる。

 意識を失っているのかもしれない。

 

「キラ君、彼女を早くこちらへ! 各員も、ピラーの排除を続行してください!」

 

「はい!」

 

 キラがS4Uを抱えたままに1番近かったソレスタルビーイングの母艦であるプトレマイオスへと向かった。

 

 

 この後にマリリンや残った次元獣は撤退し、落下するピラーの排除に成功。

 それでも犠牲は皆無とはならず、軌道エレベーターの下に在った街には破片による大きな被害を被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プトレマイオスに回収されたS4U。

 フィアラはあれから発熱が続いており、意識が朦朧としている日々が続いている。

 おそらくは軌道エレベーターで使った赤い紋様が原因と予想されるが、結局詳しい事は不明のまま。

 

 キラはその日、自身の機体整備を終えて自分の部屋に戻る前に医務室に寄ろうと歩いていた。

 キラだけでなく、他にも数名が空いた時間に見舞いに訪れている。

 何か出来る訳ではないがもしかしたらそろそろ体調も回復してきているかもしれない。

 そんな期待を胸に医務室へ向かっているとキラが扉を開ける前に開く。

 

「え?」

 

 医務室の中から現れた人物を見てキラは目を見開いた。

 出てきたのは、この艦の操舵士をしているアニュー・リターナー。

 

「キラ、さん……?」

 

 まだ意識がはっきりしていないフィアラが、熱により辛そうな表情でキラを見る。

 アニューに掴まれたまま無理矢理立たされた彼女の頭には拳銃が突き付けられていた。

 どういう事か訊く前にアニューはキラに拳銃を向ける。

 アニューの瞳は、金色に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 



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危害の代償

「ん……あぁ……」

 

 プトレマイオスの医務室にあるベッドでフィアラは目を覚ました。

 回りを見ると知らない部屋だが、おそらくはZEXISに属するどれかの艦に運ばれたのだろう。

 

「頭いったぁ……」

 

 熱があるのか頭痛がして怠い。

 

「うあ……はぁ……」

 

 熱を吐き出すように大きく呼吸をして起き上がろうとしたが、腕に力が入らずに体が支えきれずに倒れた。

 なんでこんなにも疲弊しているのか。

 

「あぁ、そっか。アレの……」

 

 意識を失う前に使った力を思い出す。

 

「普通のやつと違って、寿命が年単位で縮まるから使うなって母さんが言ってたけど……」

 

 それよりもこの負担の方が今はキツい。

 これはしばらくダメだと判断してそのまま睡魔に意識を預けようとした。

 そこで医務室の扉が開く。

 相手にするのが面倒で寝たふりをしてやり過ごそうと決めて目を瞑る。

 というか、本当に意識を保っているのが辛い。

 寝返りを打って背を向けようとすると、入ってきた誰かがフィアラの首根っこを掴んできた。

 無理矢理相手と視線を合わされると、薄紫色の髪の女性が居た。

 

「ごめんなさい。貴女には私と一緒に来て貰うわ」

 

 抵抗しようと腕を振るうがあっさりと止められる。

 そこで女の瞳が金色に発光し出した。

 

「そう。君はこんなところではなく僕のところに来るべきだ。イノベイターである僕の、ね」

 

(話してるのは、別人……?)

 

 突然少年のような口調が変わった相手をフィアラは睨み付けるが相手はソレヲ意に介さない。

 

「君の力は僕と人類の為に使って貰う。そして君が持つ黒の英知に関しても話して貰おうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬、アニューの瞳が金色に発光していたように見えたが、瞬きと同時に普段の赤い瞳に戻る。

 見間違いかとも思ったが、熱で苦しそうな顔で自分を呼ぶフィアラにキラの意識はそちらに引き戻される。

 

「何をしてるんですか!? その子を離してください!」

 

 近づこうとするも、アニューは銃を向けてきた。

 もっと広い場所ならどうにかしてフィアラを奪い取ることも可能かもしれないが、障害物もない狭い通路で銃弾を避ける事はキラには出来ない。

 

「……フィアラをどうするつもりですか?」

 

「彼女はリボンズの所へ連れていくわ。だって私は、イノベイターだもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックオン・ストラトスはアニューを迎えに医務室まで歩いていた。

 正規のクルーが少ないプトレマイオスは高度な機械化により乗員を抑えており、操舵士だけでなく再生医療を始めとする医療の知識と技術を持つ彼女がこの艦の医務を兼任している。

 故に例の少女────フィアラ・フィレスが運び込まれてから身体の状態をチェックしている。

 その彼女を迎えに行っているのだ。

 

 この角を曲がれば医務室だ。通路を曲がろうとした時────。

 

「だって私は、イノベイターだもの」

 

 恋人の、そんな声が聞こえた。

 思わず角を曲がる前に立ち竦んで覗くような状態でそっと向こう側を見ると、そこにはキラに銃口を向けるアニューの姿があった。

 反対の腕には例の少女が捕まっている。

 

「……フィアラを放して下さい。その子は具合が悪いんですよ」

 

 静かに、しかし怒りの混じった声で言ってキラは前に1歩前に出た。

 それに対してアニューは────。

 

「ごめんなさい……」

 

 そうして向けている拳銃をの引き金を引こうとして。

 

「やめろアニューッ!?」

 

 飛び出したロックオンがそう声を張り上げると、引こうとした指が止まった。

 

「ライル……」

 

 驚いたように目を大きく開けると同時に、アニューが手にしていた銃が弾き落とされた。

 

「つっ!?」

 

「おっと。怪我したくなきゃ、余計な真似はするなよ」

 

「デュオ! カトル!」

 

 フィアラの見舞いに訪れて、横の通路から状況を見ていたデュオとカトルがアニューの拳銃を撃ち落としたのだ。

 

「手を上げて彼女を放してください。手荒な真似はしたくありません」

 

 カトルがそう警告すると、キラやデュオ達がいる方向とは違う通路にフィアラを盾にする形で逃げようと動く。

 

「……私の歌は……世界を侵す……」

 

 フィアラの体から出た金の紋様。

 色は違うが、アニューの頭には軌道エレベーターの時に、次元獣や落下してくるピラーが灰になっていく光景が思い起こされる。

 

「っ!?」

 

 反射的にフィアラを突き飛ばすと、キラが倒れる前に抱き止めた。

 自分の行動ミスに唖然としたが、すぐにその場を去ろうと走る。

 

「逃がすかよ!」

 

 デュオがアニューの脚を撃とうと銃が向けるが。

 

「やめろ!」

 

「何すんだ!?」

 

 ロックオンがデュオの銃を掴んで阻止した。

 その間にアニューはエレベーターに乗り込んでしまう。

 

 このままではマズイとカトルが非常用回線でブリッジに連絡を入れる。

 しかし、その行為も空しくアニューはプトレマイオスから脱出していった。

 ソレスタルビーイングのMSのデータと共に。

 同時にかつての仲間だったクワトロ大尉率いる部隊と遭遇してしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 キラは未だに熱で苦しんでいるフィアラを医務室のベッドに寝かせる。

 心配だが敵が来た以上、自分も出撃しなければいけない。

 格納庫に行こうとすると、フィアラがキラの腕を掴んで引き止めた。

 

「……」

 

 何か言うわけでもなく、かつての後悔を繰り返さないようにと。

 

「大丈夫だよ、フィアラ。大丈夫だから……」

 

 元々さして強く握られていた訳ではない手はスラリと離れて落ちていく。

 眠ったのか、目を閉じて小さく呼吸をするフィアラを置いて格納庫へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イノベイターと合流したアニュー・リターナーは盗み出したソレスタルビーイングのMSデータを引き渡すと、自身もMSで出撃する。

 ついさっきまで仲間だった女性と戦う事に躊躇してしまうが、ロックオンことライル・ディランディの必死な呼びかけにより、彼の下へ戻ろうとする。

 それを許さなかったイノベイターの首領であるリボンズに操られてライルを撃墜しかけるが刹那のフォローにより、彼女を救い出すことに成功する。

 その戦闘の最中、ホワイトファングに協力していたクワトロ・バジーナも再度ZEXISへの協力を決める。

 何とか敵を退けたZEXISだが、休む間もなく新たなZONEが出現。

 クロウとセツコ、どちらかがその封印の役割を担う事になりそうだったが、意外にもその場に現れたアサキムが自らZONEに封印された。

 粗方問題を片付けた彼らは分けられた部隊を合流させようと合流地点へと移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された自分の機体のコックピットでフィアラはS4Uの状態を確認している。

 アサキムがZONEに封印されたのと同じ頃に体調が戻ったフィアラは真っ先に愛機へと向かったのだ。

 

「転移装置は完璧に駄目だ。少なくとも私には直せないなー。飛行機能とステルスが生きてるのは幸いだったけど……」

 

 飛行と言っても、何とかというレベルで、どちらにせよ一度大がかりな修理が必要となるだろう。

 ZEXISがS4Uをほったらかしだったのは、パイロットであるフィアラが倒れていた事と機体の損傷が激しく、後回しになっていた為だ。

 

「どーしよーかなー」

 

 ここまで破壊されたら自己修復機能では直りきらない。多少装甲の皹が修復される程度だろう。

 ついでに言えば、今のS4Uを直すような技術はフィアラにはない。

 

(ここの人達に直してくれなんて頭下げるのは絶対嫌だし、なら────)

 

 この世界から消える前に買っておいたドライフルーツを混ぜた焼き菓子を水で流し込む。すると開いているコックピットの中をキラが覗き込んできた。

 

「ここに居たんだ。医務室から居なくなってたから心配したよ」

 

「あぁ。ご心配をおかけしました。熱も下がったし、食欲もあるから大丈夫です」

 

 嘘ではない。

 まだ怠さは残っているが、充分動ける。

 データを確認していると、メールが届いていることに気付く。

 それを見たフィアラは手を止める。差出人はラクスだった。

 日付は数日前になっている。

 

「ねぇ、キラさ────」

 

 ラクスがこっちに居ることを知ってるのかと訊こうとしたがやめた。別に口止めされている訳ではないが、そっちの方が面白そうだと思ったから。

 

「いや、何でもないです」

 

「何かあるなら言ってよ。それより、手伝おうか?」

 

「機体の状態を確認していただけですよ。もう終わりました」

 

 コックピットから出ると軽く伸びをする。

 すると今度はデュオとカトル。そしてセツコがやって来た。

 

「やっぱりここに居たんですね。医務室に居なかったから」

 

 カトルがホッとしたように息を吐く。

 キラと同様、医務室に見舞いへ行ったら居なかったので格納庫にまで足を運んだのだ。

 

「連れ去られそうになった時、助けてくれたよね? ありがとう、キラさんも」

 

 熱で朦朧としてたが何となく覚えている。

 

「いえ、当然の事をしただけですから」

 

「それと、私を拉致ろうとしたあの女の人、どうなった?」

 

「アニューか? 今はブリッジの操舵士に復帰してるが」

 

「へぇ……」

 

 デュオの返答にフィアラは不快げに目を細める。

 

(もう私にしたことなんて忘れてるんだろうな……)

 

 有耶無耶にして自分がしたことを無かったことにし、今も平然と笑っていると思うと苛立ちが込み上げるが、どうせ無駄なので考えるのを止めた。

 その雰囲気を察してか、セツコがフォローに入ろうとする。

 

「あのフィアラちゃん。あの人は……」

 

「いいよ。外野の私がどう思おうと関係のない話。病人の私を連れていこうとしたことなんて、別に罰する程の事でもないんでしょ? この部隊では」

 

 そう言って水を飲む。

 数日間熱にうなされて水分がとにかく足りない。

 どう分かってもらおうかと考えていると、今度はキラが質問した。

 

「そう言えばさ。シンが、フィアラに謝ったって聞いたけど……」

 

 話を蒸し返されて眉間に皺を寄せる。

 何が納得出来ないのか、という話だろう。

 

「アレッて、本当に私に謝ったのかなぁ?」

 

「え?」

 

「自分の行動を後悔したのか。それとも、自分が誰かに嫌われて憎まれている状態を解消したくて謝ったのか。まぁどちらにせよ────」

 

 都合の良い話だと思う。

 正義の味方なら、謝罪すれば復讐が赦されるとでも? 

 誰かを傷付けたのなら、誰かに嫌われる覚悟くらい持って欲しい物である。

 埒が明かないとデュオが話を変える。

 

「それにしてもお前さん、20日近くも何してたんだ? PMの根城の世界に行ってたんだろ?」

 

 デュオの言葉にフィアラは言っている事が理解できないように瞬きしたが、すぐに理解して返答しようとする。

 

「こっちじゃあ、そんなに時間が経ったんだ。私が向こうに居たのは精々……近づくなっ!」

 

 拳銃を抜いてセツコ達へと向ける。

 しかしその眼差しは更に後ろへと向けられていて。

 

「あ……」

 

 セツコ達が後ろを向くと、そこには自分を抱くように体を縮こませたアニューが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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機体改修依頼

 目の前に現れたアニューに冷ややかな視線で銃を向けるフィアラ。

 脳粒子波を遮断するヘルメットを被っているが、バイザー越しからでも誰かは分かる。

 

「……自分で言うのもなんだけど、私の性格は最悪でね。やって貰った事よりもやられた事の方を優先するし、基本的に初対面の印象で相手の事を決める上に一度嫌な事をされたら中々払拭しない。私だって私みたいな人間に会ったら先ず近づかないなって思う」

 

 銃を向けながら淡々と話すフィアラ。

 

「特に、自分に危害を加えた相手を絶対に信用しない。それでも許すなら、そうしても良いと思える何かがないと」

 

 人間関係というのはつまり信頼の積み重ねである。

 そういう意味ではアニューとZEXISの間にはそれだけの信頼関係が有ったのだろう。絆、と言っても良い。

 だがそれは、フィアラとアニューには関係の無い話で。

 アニューに銃を向けるフィアラ。しかし内心では撃つ気はなかった。

 

(撃っても当たらないしね)

 

 残念な事に、フィアラとアニューの間に居るセツコ、デュオ、カトルの3人に当てずにその向こうに居る人物に命中させる銃の腕はない。撃てば必ず3人の誰かに当たる。

 だからこれは近づくなという脅しである。

 流石にこの場で発砲すればZEXISが後にフィアラをどうするかも予想がつく。

 故にこれはただの脅し。

 しかし、周りがそう思うかもまた別問題。

 

「フィアラ、アニューさんは……っ!?」

 

「キラさん、黙って」

 

 こればかりは譲らないとフィアラはキラに眼球だけ向けて制止する。

 フィアラからすれば、銃を向けられて撃たれたかもしれないのにマイナス感情を持たないキラの方が異常に感じる。

 前々から思っていたが、自分の命に対する執着が薄いのではないだろうか? 

 

(でも、今はその事よりも……)

 

 フィアラは視線をアニューに戻す。

 

「それで、私に何かご用で?」

 

 敵意を隠そうともせずに、銃を向けたまま話を戻すフィアラに対してアニューはその場で肩の力を抜いて悔いるような表情で謝罪を口にする。

 

「あの時はごめんなさい。貴女を────」

 

「あぁ、そういうのはいいんだよ。私に謝罪を受け取る意志がないし。それとも、この部隊の人間があっさりと流したから、私もそうしてくれるだろうって打算?」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

 困惑しているのかそれとも落ち込んでいるのか。それは判断は出来ないが、どちらでも良いと切り捨てる。

 

「私が望んでいるの謝罪じゃない。関わるな。それだけ」

 

 片手で構えていた銃を両手で握り直す。

 本当に、早く立ち去ってほしい。

 訳も分からずいきなり襲ってきた相手を、どうしてそんな謝罪1つで許せると思えるのか。

 反省も謝罪も本心かもしれない。しかしそれは────。

 重くなった空気のまま誰もが動きを止めていると、横から割って入る声が届く。

 

「そこまでだ」

 

 落ち着いた男性の声に6人はそちらの方に視線を向ける。

 現れたのはアムロ・レイだった。

 彼も自分の機体の状態をチェックしていたところで騒がしくなったこの場に顔を出したのだ。

 アムロは銃を構えているフィアラに視線を向ける。

 

「君も、先ずは銃を下ろすんだ」

 

「……少し前に自分に危害を加えた人間を警戒するなとでも?」

 

 アムロの指示にフィアラは棘のある言い方で返す。

 その言葉にアニューが悔いるように一瞬目を閉じた。

 

「理由はどうあれ、無抵抗の者に銃を向ける行為を容認する訳にはいかない」

 

「抵抗する力のない(ひと)をむりやり連れ去ろうとする行為はお咎め無しの癖に?」

 

 鼻で笑うフィアラ。

 ひねくれた子供の揚げ足取りのような態度に周りがどう返すかと思案していると、フィアラの方からあっさりと銃を下ろす。

 

「良いけどね、どうでも……」

 

 元々、近付かないように脅すために銃を構えただけだ。

 それさえ伝われば良い。

 死んでも良いとは思っても、態々自分の手で殺してやりたいと思ってる訳ではないのだ。

 それに本当に撃てば、身内贔屓でお咎め無しになったアニューと違って、フィアラにはどんな制裁を科される事やら。

 ここが退き時だな、と腕を下ろしただけ。

 それでも引き金にかけた指までは外さなかったが。

 アムロはアニューに近付いて小声で話す。

 

「彼女には近づかない方がいい」

 

「……はい」

 

 あそこまで拒絶している以上は、何かしらの切っ掛けがないと心を開くことは無いだろう。

 もしくはマイナスな切っ掛けで本当にアニューを撃つ可能性もある。

 アニューもそれを実感し、大人しくその場を立ち去ろうとする。

 しかしそこで艦内放送でブリーフィングのお報せが流れる。

 

「じゃあ、私も行くとするかな。あ、ハッチ開けるように言っておいて」

 

 コックピットに入ろうとするフィアラを慌ててデュオが止める。

 

「待てよ! 何サラッと出ていこうとしてんだ!? まだ話の途中だろうが!」

 

「私にはない」

 

 まだ抜けきってない気怠さも相まって鬱陶しそうに掴まれた肩を弾く。

 

「話って言われてね。こっちの世界に消えてからの事なら、PMの本拠地に行った。タコ殴りにされて帰って来た。以上ってこれくらいしか言うことないし。あー、今言ったからもういいでしょう?」

 

「言い訳ねぇだろ……」

 

 呆れるデュオにフィアラは聞こえるように舌打ちした。

 そこでセツコが話に入ってくる。

 

「それに、その機体じゃあ……」

 

 外から見たら皹だらけでスクラップ同然の状態にある手足のない機体(S4U)

 

「お気になさらずに。一応飛行とステルスの機能はまだ生きてるから」

 

 多少危ない飛行になるだろうが、戦闘さえしなければ問題はない、筈。

 それでも早く修理する事に越したことはない。

 

(もっとも施設はともかく、技術はどうするかな)

 

 それを考えると頭が痛いが、どうにかするしかないだろう。

 フィアラは機体のチェックと同時並行でやっていたあるデータのコピーをして移したデータスティックを取り外して乱暴に胸ポケットに突っ込む。

 周囲には心配そうにこちらを見る人達。

 

(ここで無理に出ようとしても、絶対に発進させないだろうし、仕方ない)

 

 精々今回の件で嫌味を言ってやろうと眉間に皺を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリーフィングルームに並べてある椅子を1つを隅に移動させて、もう片方の部隊の合流地点を示した地図に興味を示さず聞いていた。

 それでもフィアラがこの世界から一時的に消えてからは何が遇ったのかを大まかに把握する。

 中には有益な情報もあり、それだけでもこの場にいる意味が有ったな、と思う事にする。

 ある程度話が進むと、スメラギがフィアラの方を向く。

 そしてこの場で頭を下げた。

 スメラギの行動にフィアラは不思議そうに瞬きをする。

 

「今回、アニューが貴女にした事は本当に許されない事です。本当にごめんなさい」

 

「……破界事変の時にゼロが言っていた非道を行った者には然るべき処罰云々は、結局口だけになりましたね」

 

 スメラギの謝罪に対して、部隊の甘さに呆れと僅かに有った期待を裏切られた失望からか、口調が静かながらも苛立たし気なものになる。

 この場にアニューはいない。

 ブリッジに人員は必要だし、先程の騒ぎで同じ部屋に居るとどんな騒ぎになるか分からない為だ。

 

「それについても言い訳のしようもありません。でも、彼女はこの艦には必要なクルーなの」

 

 マクロスクォーターと違ってプトレマイオスは最低限の人員で運用している関係もあって代えの人材がすぐに用意出来ない。

 ブリッジの人員が1人抜けるだけで戦闘の効率が低下し、命に関わる。

 もちろんそれはこれからもアニュー・リターナーを仲間として信頼出来ることが大前提だが。

 スメラギの言葉にフィアラは瞬きすれば見逃してしまいそうな程に短く不満そうにすると、小声でボソリと呟いた。

 

「……ぽるかみぜーりあ」

 

「おい!? 今何て言った!」

 

「懐の深いスバラシイブタイデスネって言っただけ」

 

 しれっと返したフィアラは呆れた様子で息を吐いた。

 

「なんて言うか、この部隊ってどんなにヤバい行動を取っても有耶無耶にしそうだよね」

 

「なんだよヤバい事って」

 

 ガロードの聞き返しにフィアラは数秒考えると、具体例を口にする。

 

「街やコロニーを吹き飛ばしたり、陣営をコロコロ変えたり。敵のトップに立って圧政を始めたり、地球に何かデカい物を落としたり、とか? 反省してますってポーズを見せとけば水に流しそう」

 

 フィアラの言葉にカトルの表情が曇り、小さく体を震わせた。

 

「おい」

 

「なに?」

 

 それを見たデュオがフィアラを諌めるが、本人はキョトンとした目をする。

 フィアラがこの世界から消えたのとカトルがウイングゼロでコロニーを破壊したのはほぼ同時期であり、口にした本人はその事を知らない。

 カトルがいいんです、とデュオを止める。

 

「仮に、あのアニューって人が私をイノベイターに引き渡してから本人がノコノコ戻って来ても、どうせ対応は一緒だったんでしょ?」

 

 もしもあの時にキラ達が見舞いに来なければ、本当に誘拐が成功していただろう。

 その後に彼女だけ戻って来ても罰もなく暖かく迎え入れたのが容易に想像が出来る。

 実際の所どうするのかは分からないが、その可能性は低くないと思う。

 そこで周りにあまり感情的にならないようにと忠告されていたロックオンが苛立たしい様子で口を開いた。

 

「あのなぁ、アニューだって好きで────」

 

「まぁ落ち着けよ、ロックオン」

 

 クロウが制止する。

 恋人を庇いたい彼の気持ちは分かるし、顔見知りでもない相手にいきなり襲われて憤るフィアラの気持ちも理解できる。

 だからこそ感情的にぶつかるのを避けたい。

 

「少なくとも、寝ている私の首根っこを掴んだのは本人の意思だった。寝込みを襲われるのは嫌いなの」

 

「寝込みを襲われるのが好きな奴なんていないだろ」

 

 まぁね、と拗ねるように視線を外して顔の傷を指で撫でる。

 

「結局、許すなんて得するの手を上げた側だけだよ。私にはやられた事を無かった事にする理由がない」

 

 フィアラにとって、許すという事はマイナスの感情を0に戻すのと同じ事だ。

 やられた事を許して笑顔で握手を交わす。

 そうして有耶無耶にすれば満足なのか。

 

(冗談じゃない……)

 

 冷たい感情を自分の中で感じながら目を閉じる。

 すると今度は刹那がフィアラを真っ直ぐに見て質問した。

 

「なら、どうすればいい? どうすれば、お前は納得出来る?」

 

 静かに。しかし強い意思を持って問いかける刹那。

 

「……そんなの、私が気の済むまでやり返したらに決まってるでしょ」

 

「ガキかよ……」

 

「ガキだよ」

 

 呆れた様子のロックオンの感想にフィアラは肯定で返した。

 本人も自覚してるが、フィアラ・フィレスという少女は自己中心的な子供なのだ。

 かと言って、今更それを実行に移す気もない。

 本格的に手が出れば、やられるのは自分だし、それよりも優先しなければいけない事があるから。

 だから適度に毒を吐きつつ独りで動くのだ。

 

 話が進まない事に焦れてか、クワトロが本題を切り出した。

 

「君は20日間程、この世界とは別の世界にいたと聞く。いったい何があった?」

 

 先程も同じ事を訊かれて会話が切れた。

 しかし今度は誰かが話を遮ることもなく進む。

 

「私が向こうにいたのは1時間くらいだよ。敵の数が多くて死にかけたのをギリギリでこっちに戻って来れただけ」

 

 思い出して忌々しげに眉間に皺を寄せた。

 

「見渡す限り敵だらけ。スパロボ風に言うなら、S4U()以外のマス目が全部敵で埋まってて、3割減らすか敵ターンフェイズに増援が来てマス目を埋めてくる感じ」

 

「何を言ってるんだ君は?」

 

 良く分からない単語を混ぜ始めるフィアラに困惑する一同。

 その困惑を無視して話を進める。

 

「あの世界そのものがPMと言っても過言じゃない。今回は調査のつもりだったけど、返り討ちに遇っちゃった」

 

 その時のことを思い出して疲れた顔で自嘲するフィアラ。

 目的のモノを探す為に今回は向こうの世界を調べてすぐに戻るつもりだった。

 もちろん、運良く探しモノが見つかればそれに越した事もなかったが。

 

「それにしても、そこまで時間差が生じてるなんて……」

 

「あの世界自体、時間の流れがデタラメな感じだったから。今回は20日間のズレだったみたいだけど、10秒後に戻ってきた可能性もあるし、数年後に戻ってきた可能性もあるかな」

 

 あらゆる世界と繋がりつつも切り離された特異の空間。

 時間の流れも一定ではなかった。

 

「とにかく、しばらくは何処かに身を潜めながら機体の修理に専念しないと」

 

 1番の問題はやはり転移装置。

 破壊された手足は何とかなるかもだが、そちらはフィアラにはどうしようもない。

 落胆した様子を見せるフィアラに、スメラギが発言する。

 

「今回の件のお詫び、という訳じゃないけど、あの機体の修理はこちらで請け負うつもりだけど」

 

「結構です。信頼関係のない相手に、私の機体に触ってほしくない」

 

「そんな事を言ってもよ、直せるのかよ?」

 

「何とかするさ。何とか……」

 

 投げやりな感じでなんとかすると言うフィアラには不安しかない。

 しかし、フィアラからすれば、修理ついでに何か仕込まれるのではないかという不安がある。

 

(発信器とかなら未だしも、遠隔で機体を停止させられるような細工をされたら堪らないし)

 

 それを調べる為にも先程機体の状態を確認したのだ。

 軽く伸びをしてから告げる。

 

「私自身急ぎの目的って訳じゃないし。気長にやっていくよ」

 

「気長にって……本当に、向こうの世界に何をしに行く気なの?」

 

 真っ直ぐ見てのキラの質問にフィアラは一瞬その視線から逃れるように目を閉じたが、小さく息を吐いてから話し始める。

 

「あの世界に探しモノがあってね……別に何かしら必要なモノではないけど、私にとってはどうしても回収しておきたいから。だってせめて────」

 

 そこで言葉を切るフィアラ。

 

「まぁ、そう言うわけだから。貴方達にPMの殲滅されて、あの世界自体を消されちゃ堪らないんだよね」

 

 あの世界がPMそのものである以上、PMの滅ぼせばあの空間自体が消滅する可能性が高い。

 そうなれば勿論、フィアラの探しモノも見つけられなくなる。

 

(彼女、キラが相手だと少し素直になるんだな)

 

 破界事変の時にも思ったが、キラを相手にしている時は態度が僅かばかり軟化する。

 もしくはアナ姫が相手か。

 

「なら、お前が目的を果たすまで待ってろってのかよ!」

 

「いや、別に。好きにすれば良いんじゃないかな?」

 

 アポロに言われてしれっと好きにしろと言う。

 PMを倒せばフィアラの目的が達せられないと言うのに。

 

「私の探しモノとそっちの目的は別問題だし。もしもZEXISが私の目的が達せられる前にPMを何とかしたとしても、それは間に合わなかった私の落ち度だから、文句を言うつもりもない。ただ私は手を貸さないよ。それだけ。もうチマチマ各国を回ってPMの対処をするも必要ないし」

 

「何でだよ!?」

 

 もう現れるPMの対処はしないという言葉にざわめき出す。

 

「あっちに行きたいのなら、破界事変で暗黒大陸が開かれた時に叶ってたよ。でもそれだと、向こうで早々に死ぬ可能性が有ったから。まぁ、今回向こうに行ってもう必要ないって分かったから。第一、私の力を世界中に埋め込むだけなら態々戦闘をする必要もなかったしね」

 

「死ぬって、なんで!?」

 

「あっちはこっちで現れるPMが撒き散らす毒が段違いの濃度なんだよ。だから私、毎回アレに対処しつつ、少しずつその因子を取り込んで免疫というか、抵抗力? 的な物を獲得する為に戦ってただけ。毒の除去はそのついで」

 

 フィアラの力ならそれ無しでも大丈夫かもしれないが、やはり時間をかけても楽できるところは楽をしたかった。

 それが生死を分ける可能性があるならなおの事。

 

「とにかく私はもう、こっちで現れるPMに対応するつもりはないから。これからは、この世界の研究に期待、かなぁ?」

 

 完全に他人事な態度のフィアラにアルトが話しかける。

 

「ちょっと待て! あの化物に襲われた地域がどうなってるか分かってんのかよ!」

 

「大体予想はつくよ。生活圏を汚染されて移民とか大変そうね。頑張ってね、としか言いようがないけど」

 

 フィアラの返答に不満そうにする者がチラホラと。

 その様子に対策息を吐く。

 

「これまで因子の摂取だけじゃなくて、除去までやってたのを感謝されこそすれ、非難される謂れはないよ」

 

 これまで何の報酬も無くやってきたのだ。

 PMに被害に遭う人達に同情する気持ちが無いというわけではないが、それで対処するかは別の話。

 

「大体、人助けなんて貴方達みたいに正義の味方がやってこそ意味ある事で、私みたいな人間がやる人助けなんて、総じて偽善とか余計なお世話に分類されるらしいから」

 

「なに言ってんだ、お前?」

 

「さぁ?」

 

 おどけた感じに誤魔化すフィアラ。

 もう去ろうとするフィアラにクロウが前に出た。

 

「ちょっと待ってくれ。お前さんにはまだ訊きたい事がある。エスターの事なんだが……」

 

「エスターさん?」

 

 てっきり、別部隊にでも居るのかと思ったが。

 気になって続きを聞く。

 クロウのスフィアである揺れる天秤の反作用により暴走し、そのとばっちりでエスターが次元獣に変えられたこと。今はインサラウムに捕獲されていること。

 それでもまだ人間としての意志が残っているであろうことも。

 全てを聞き終わったフィアラは考えるように目を閉じたが、次に出た答えは皆が望むものではなかった。

 

「悪いけど、この件に関して私が力になれる事は無さそう。そもそも次元獣に変えられた人間が元に戻ったなんて話は聞いた事がない」

 

「そうか……」

 

 フィアラの答えに落胆しなかったかと言われれば嘘になるが、予想もしていた答えではあった。

 

「ま、アイツをああしちまったのは俺の責任だからな。どうにかしてみるさ」

 

 クロウの答えにフィアラはそう、とだけ返した。

 

「とにかく、PMを何とかしたいのなら、自分達で方法を探して。そもそも私の力だって何も代償も無いわけじゃ────」

 

 そこまで口にして天井を見る。

 セツコが首をかしげて話しかけた。

 

「どうしたの? 話してる途中で」

 

「ま、どうでも良いことか。それじゃあさようなら」

 

 とっとと出ていこうとするフィアラ。

 おい、と誰かが止めようとしたが、無視してブリーフィングルームを出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZONEの中というのは、特別苦しい訳ではなく、眠っているのと同じ感覚だ。

 ただ意識が曖昧で、外の事が何も知覚出来ない。

 いつまで続くのかも分からない眠り。

 しかし、その眠りは唐突に破られた。

 

「なんだよ、いきなり……」

 

 毒づくようなランドの寝起きの声を聞くメール。

 

「助かったの? アタシ達……」

 

 誰かが自分達をZONEから解放したと見るべきだろう。

 戸惑っている中で通信が入る。

 そこに現れたのは。

 

「どうも……」

 

 記憶と些か異なるが、メールもランドもその人物を知っていた。

 

「あーっ!? なんでフィアラがここにっ!?」

 

 メールの驚きに答えず、フィアラは用件を告げた。

 

「修理屋、ビーターサービス。貴女方を私個人で雇いたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




偽善や余計なお世話云々の話は、無印Zでのディアナを宇宙に上げる時とか、デストロイ撃墜ときのZEUTHの反応に関してを揶揄ってます。

今回依頼した修理に関しては、新型を手に入れるまでの繋ぎです。


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TYPE"Z"

スパロボZの修理、改修技術ってスゴいですよね。
キラにバラされたセイバーも次の話では直ってたし、短期間でWガンダム勢の機体を改修するし。
原作では4年かかったソレスタルビーイングの新型も短い時間で開発されるし。


 フィアラが出ていった後、珍しくカトルが久しぶりに呼吸をしたかのように大きく息を吐く。

 そんなカトルにトロワが肩に手を置いて話しかけた。

 

「大丈夫か、カトル?」

 

「大丈夫だよトロワ。ただ少し、痛いところを突かれただけだから」

 

 フィアラからコロニーを破壊、と口に出された時は自分が糾弾されたような気がした。

 尤も、あの様子ではカトルの事を言ったのではなく、適当にした発言のようだが。

 家族を失った悲しみのままに暴走してコロニーを破壊した。

 それはゼロシステムによる助長もあったにせよ、それを使いこなしている者がいる以上言い訳にはならないだろう。

 破界事変の時にクロウが言った。

 罰を受けるのは、全てが終わってからだと。

 今は世界や人類が崖っぷちに立たされている。

 カトルとて人類の存続や平和の為に戦う事に迷いはない。

 しかし、戻ってきた自分をこの部隊の人間は誰も責めずに受け入れてくれた。

 だからこそ時折、自分の犯した罪の意識が薄らぐ時がある。

 もちろん自分がしてしまった事を忘れるつもりも忘れることも出来ないのだが。

 故に、フィアラが放った一言には釘を刺された思いだった。

 自戒するカトル。

 

 

 アムロとクワトロが先程のフィアラについて話していた。

 

「大尉、あの子をどう思う?」

 

「此方に敵意が有るのは間違いない。だがそれ以上にそうすることで何かを守っていると感じた」

 

「守る、ですか……」

 

 クワトロの意見にシンが反芻するとそうだ、と頷いた

 

「我々を拒絶する事で自分の中にあるモノを保とうとしている。そう感じた。何にせよ、他者の心に踏み切るにはそれなりの資格と覚悟がいる」

 

 それは、多元戦争でもクワトロが言っていた事だ。

 問答無用に自身の心に踏み込もうとする者を受け入れられる人間などそうはいない。

 これは押しの強さよりも、相互の信頼関係と性格の相性の方が重要だからだ。

 あの手の相手に上から言うことを聞かせても逆効果になる。

 PMに関して協力を得られないのは残念だが、無理強いすればここぞという時に裏切るだろうし、それを許さない者も部隊の中から出る可能性がある。

 そんな事になれば、この部隊が崩壊する。

 何にせよ、PMの事は研究者達に期待する方が現実的だろう。

 そう締め括り、別の話題に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう」

 

 フィアラが自分の機体の下に辿り着くと、そこにはギターを構えて積まれている格納庫の荷物に座っているバサラがいた。

 会話もなく、向かい合っていると、口を開いたのはフィアラからだった。

 

「ありがとうございます。あの時、止めてもらって命拾いしました」

 

「……もう、あんな歌を歌うんじゃねぇ」

 

「そのつもりですとも。私も、出来る限り長生きしたいので」

 

 おどけるようにそう口にすると一度息を吐いた。

 すると、今度はどこか羨むような表情でバサラを見る。

 

「貴方は、本当に心のままに歌うんですね」

 

 軌道エレベーターで聴いたバサラの歌。

 感情を乗せたとても情熱的な歌だった。

 

「お前もそうすりゃいいじゃねぇか」

 

 バサラからすればそれは当たり前の事だった。

 それは決して難しい事ではないのだと彼は思っている。

 

「そうですね。そう在れたら良かったのに……」

 

 最後に歌を楽しいと感じたのはいつの事だったか。

 今は周りもフィアラ自身も歌を利用する事しか考えていない。

 そこで胸ポケットに入れていたデータスティックをバサラに投げた。

 

「それ、今回の宿代。この部隊の上役にでも渡しておいて」

 

 中にはPMの世界での戦闘記録が入っている。

 具合が良くなるまで面倒を看て貰ったのは事実なのでタイミングを見て渡そうと思ったが、忘れていた。

 

「それじゃあ」

 

 もう用も無いので、機体に乗り込んでZEXISの艦から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドとメールが案内されたのは、数ヵ月前に解体されたアクシオ社の隠れ工場だった。

 

「この工場は軍とかに卸す商品を開発や製作するんじゃなくて、テロリスト達の機体を受け入れて整備したり、試作の武器やパーツをテロリストに渡して試験運用させる為の施設らしいですよ。まだライフラインも生きてるし、軍に接収される前にこの設備で私の機体を修理して欲しいんです」

 

 破界事変で代表だったカルロスが破界の王を呼び寄せた事と世界を蹂躙したインペリアルに荷担した事で会社は解体されたが、未だにアクシオ社の機体に乗る者は多く、他の会社と合併したり、工場は買い取られたが、中には未だに手付かずで放置された工場が幾つか在る。

 この近くに危険なZONEが設置された事もあり、この工場も放置状態だった。

 

「よくそんな場所しってたな」

 

「まぁ、こっちに来てからアクシオ社にはそれなりに繋がりが有りましたからね」

 

 主に戦場で破壊された機体を(無断)回収して引き取って貰い、お金を得たり。

 そもそもの話、エルガン代表から依頼されてカルロスに揺れる天秤のスフィアであるVXを渡したのが縁の始まりだった。

 メールが固定されているS4Uを見上げる。

 

「また、すごーい壊れっぷりだね……」

 

「とにかく、手足をくっ付いてれば良いんです。後はこっちで何とかします」

 

 流石にフィアラも、この世界に来た時よりも酷い状態の自機を完全に修復出来るとは思っていない。要は継ぎ接ぎでも戦闘が出来れば良いのだ。

 

「……何ならZEXISの連中に頼ったらどうだ?」

 

「あの人達に頼るなら自爆させて供養した方がマシ。何より信頼出来ない」

 

 笑顔でそんな事を言うフィアラ。

 要するに、ZEXISではなくランドとメールなら信頼出来ると思って依頼してきた。

 そう思えば悪い気はしない。

 

「ま、引き受けたからには何とかするさ! 幸いパーツはそれなりに豊富だしな!」

 

 アクシオ系列の機体のパーツが工場内に残っており、それを使えば手足くらいどうとでもなるだろう。

 伊達にあの無法地帯で修理屋は営んでいない。間に合わせの物で直すのはお手の物だ。

 

「大船に乗ったつもりでいろ! 丁重な仕事とスマイルが我社の売りだからな!」

 

「ありがとうございます。私も手伝いますので」

 

 暑苦しい笑みで親指を立てるランドにホッとするフィアラ。

 毎度暑苦しいと評される彼の笑顔だが、以前ジエー博士のドアップが目覚まし代わりだったフィアラにとってそのくらいで動じる事ではない。

 

「じゃあ、早速始めようか! 報酬も前払いでたくさん貰ったし!」

 

 仲間値段というか、ほぼタダで修理するつもりだったが、フィアラはこれは正当な取引なので、とお金を払って貰った。

 年下の女の子といえど、ここで無償で修理を請け負えば、対等な関係とは言えず、フィアラを一人前と見ていないという侮辱にもなる。

 だから2人はフィアラから報酬を貰った。そして貰った以上は誠心誠意仕事をするだけだ。

 

「と言っても、こりゃあ修理つーより改修になりそうだがなぁ」

 

 ランドは苦笑して使えそうな手足を調べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まったS4Uの改修作業。

 ランドとメールが手足の接続とその他の改修を行い、システム面はフィアラが再構築している。

 

 その日も作業を終えてシャワーを浴びていると、隣で体を洗っているメールが話しかけてきた。

 

「ねぇ。機体が直ったらどうするの?」

 

 どうするのか。転移装置が直らない限りはPMの世界には行けない。かと言って、今更また各地でPM退治をする意味が見出だせない。

 

「私達と一緒に、みんなのところに戻らない?」

 

 皆、と言うのは、ZEUTであり、ZEXISの事だろう。

 メールはフィアラの身体を見る。

 顔の傷。首から下も無数の傷痕が刻まれている。

 シャワーを止めると一拍置いて口を開いた。

 

「……私、ZEUTHに居た頃からお礼とか言われたこと、ないんですよね」

 

「え?」

 

「惰性的にPMの対応を手伝ってたけど、私の義務だとでも思ってたのか、感謝の気持ちを表された覚えがない。特に2つの部隊が合流してからは」

 

 それは、アークエンジェルの1件でフィアラが塞ぎこんでしまった事ともう片方との部隊で起きたトラブルもあり、上の人間はフィアラへの対応をメールやアナ姫などに丸投げしていた。

 内心で感謝していた者も居たがZEUTHという1部隊が彼女に礼をした事はない。

 口にしていないのなら、感謝していないのと同意義なのだ。

 

「こっちに来て最初ZEXISにも在らぬ疑いをかけられたし。要するに、合わないんですよね。私みたいな人間は」

 

 それに、前回の事件がある以上、人が増えれば同じ事が起こらないとは限らない。

 そもそもフィアラ自身、あの部隊に馴染める気がしない。

 

「これからの事は機体がどうにかなったら考えます。それに、ここ最近は色々と息の詰まる事の連続だったから。少しの間はゆっくりしたいです」

 

「そっか……」

 

 申し訳なさそうにやんわりと拒否され、それ以上この会話を続ける事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「完せーいっ!!」

 

 達磨から人の形を取り戻したS4Uを見てメールが両手を上げて喜びを体現する。

 残っていたパーツをS4Uの規格に合わせたり、色々と代用した。

 

「前とは見た目が大分変わっちまったがな」

 

「そうだね。何か、太った? エーデル准将が乗ってた機体にちょっと似てる」

 

 本来細かった機体はミサイルポッド付きの両肩両足によって太くなり、防御フィールドが破壊された事で胴体部の装甲やスラスターを追加した結果、エーデル准将の機体であるレムレースを思わせる外観に変わっていた。

 それは、左手が5指の代わりに装備されたドリルも影響しているかもしれない。

 

「助かりました。やっぱり専門がいると、違いますね」

 

 先程機体の動作を確認したフィアラが純粋に称賛する。

 

「つっても、やっぱり突貫の間に合わせだからな。いざ戦闘になったらどんな不具合が出るかは分かんねぇぞ?」

 

「そこは、何とかしま────ん?」

 

 着信が来て内容を確認する。

 すると、フィアラが眼を細めた。

 

「どうしたの?」

 

「えぇ。こっちにいるラクスさん達が、アビスに接触するみたいです。出来れば一緒に来て欲しいと」

 

「え? あの子、こっちに居んのか!?」

 

「えぇ、まぁ……すみません。私はラクスさん達と一緒に一度宇宙に上がります。2人は、ZEXISに戻るんですよね? お別れです」

 

 え? ラクスこっちに居るの? と驚いている間に機体に乗り込もうとするフィアラをランドが止める。

 

「待て待て! 先走るなよ! 俺達も同行するさ」

 

「はい?」

 

「直したばかりの機体で何か遭ったら大変だしね」

 

「ま、アフターサービスって奴だ。もちろんお代は要らないぜ」

 

 ZEXISの事も気になるが、あいつらなら自分で何とかするだろうという信頼がある。

 

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 

 少し悩んだ後にそう頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、指定された場所まで移動してラクス達と再会すると、大型のシャトルで宇宙に上がった。

 向かうのは次元境界線が最も不安定な次元の穴であるアビス。

 

「デケェな……」

 

 広がっているアビスの穴を見てランドが呟く。

 ここにはフィアラとランドの他にラクス達と行動を共にしていたハリー大尉とウィッツにロアビィもいる。

 5機はシャトルを守るようにして停止していた。

 

「私達以外がこっちに近付いてる。この反応は……」

 

 近付いてくる敵を確認して小さく舌打ちするフィアラ。

 肉眼で確認出来る距離まで接近してきた。

 現れたのは次元獣だった。

 

「まぁ、すんなり行くとは思ってなかったがよ!」

 

「フィアラ。その機体で戦えるかい?」

 

「やるしかないでしょう……!」

 

「ディアナ様。ここは我々に任せてお任せ下さい」

 

「皆さん、よろしくお願いします」

 

 シャトルが戦闘に巻き込まれないように離れる。

 

「それにしてもスゴい数だね」

 

「やるしかねぇだろ! いくぜっ!!」

 

 最も装甲の厚いガンレオンが次元獣の群れを相手に先陣を切った。

 2機のガンダムと金色のスモーも応戦に入る。

 フィアラも当然戦闘に参加する。

 左腕のドリルで次元獣の頭部を潰す。

 しかし、やはり今までの愛機と使い勝手が変わりすぎていて扱い難い。

 

「あんまり前に出ないの!」

 

 前に出がちなフィアラをロアビィが援護してくれる。

 

「どうも……」

 

「この状況だしね!」

 

 フィアラの礼を軽く流しロアビイが次の敵を蜂の巣にする。

 ウィッツやハリーも次々と次元獣を片付けていた。

 もちろん、ランドのガンレオンも。

 

「来た!」

 

 アビスの穴から現れたピンクの戦艦エターナルが出現する。

 それと同時に離れていたシャトルもエターナルに向かって移動する。

 しかし、武装のないシャトルを見逃すほど次元獣も甘くなかった。

 5機とエターナルに搭載された2機のMS。

 3桁に近い次元獣では数が違いすぎる。

 

「ラクスさん!?」

 

 シャトルに襲いかかる2匹の次元獣。

 それを守る形で横から体当たりをしてドリルを喰らわせる。

 だが、もう1匹の次元獣に逆に体当たりをされて左肩ごと持っていかれてバランスを崩される。

 その隙を突かれて他の次元獣からの攻撃をシャトルを守る形で受けた。

 トドメを刺そうとした敵をフィアラは右手に持っていた大剣を突き刺し、至近距離でミサイルを叩き込んだ。

 

「フィアラッ!?」

 

「大丈夫、です……あぁ、やっぱり反応が鈍いな!」

 

 所詮間に合わせ。装甲を追加したり手足が大きくなった影響で機体の反応が思ったよりも遅い。

 しかし、左腕を犠牲にした価値はあり、ラクス達の乗るシャトルは無事エターナルに辿り着く。

 そこでエターナルから通信が入った。

 

「久しぶりだな! 元気か?」

 

 バルドフェルド。

 多元戦争の時にフィアラを研究所から保護してくれた人物の1人だ。

 

「フィアラ。お前はエターナルに入れ!」

 

「まだ、やれますよ……!」

 

 右手にライフルを構えて戦闘継続の意思を示す。

 しかし、次に聞いたのは意外な言葉だった。

 

「お前の機体を取りに来い!」

 

「え?」

 

 何を言っているのか。

 私の機体? 

 

 動揺していると、ウィッツとランドがフィアラに近付く次元獣を片付ける。

 

「ボケッとすんな! 死にてぇのか!」

 

「何だか知らねぇが、その機体を取りに行け! こっちは俺達だけで充分だぜ!」

 

「……はい」

 

 機体を開いたエターナルのカタパルトに突っ込む形で入る。

 その中に在る、機体が目に入った。

 乳白色と金のラインが入った、細部は違うがS4Uに似た機体。

 全体的に細身になったが、女性騎士を思わせるデザインになっている。

 

「私の……」

 

 その機体を見たフィアラは今の機体から出て、引き寄せられるように新たな機体に向かう。

 コックピット内に入ると中もこれまでのS4Uとの違いはなかった。

 コックピットを閉じると、自動再世されるようになっていたのか、モニターから見知った顔が映し出された。

 

『アイラビュ~! フィアラちゃん! お久しぶりにゃ~!』

 

「うわ……」

 

 モニターに映っているのはジエー博士だった。

 突然のキスするような彼の唇がドアップで映し出されて、機体を立ち上げていた手が止まる。

 

『コレが流れてるって事は、無事フィアラちゃんに届いたみたいで安心したね!』

 

 ジエー博士の言葉を聞きながら機体のチェックをする。

 武装は殆んど変わらず、幾つか追加がある。

 変形機能は削除されていた。

 

『実は、次元を越えて実験機のS4Uのデータは定期的にワシのところに届いてたにゃん。これはそのデータを元に戦闘用として再開発したフィアラちゃんだけの機体にょね! あ、世界を越えて繋がるって何かロマンチック?』

 

 くだらない冗談を聞き流し、新機能を確認する。

 

『その艦がそっちの世界に行くみたいだったから丁度良くて送りつけたのよ。フィアラちゃんが送ってくれたデータのおかげでワシの研究も大助かりだったにゃー! いつか会いに行くから、今度こそワシの愛を受け取ってー!』

 

 そこで記録されていた映像が途切れた。

 色々と言いたい事はあるが、今言いたいのは。

 

「……ありがとう、博士」

 

 届くことのない感謝を口にした。

 

「DEエンジンへのエネルギー供給ラインの接続完了。全システム問題なし。S4U・TYPE"Zest()"起動完了」

 

 機体に火が点ると開いたままのカタパルトに新型機の発進準備に入る。

 

『S4U発進どうぞ』

 

「フィアラ・フィレス、S4U、出ます!」

 

 加速を付けてエターナルから新型を発進させる。

 

 エターナルから飛び出すと、いつの間にかZEXISが戦線に参加していた。

 敵側には、偽りの黒羊のリアクターであるアイム・ライアードがいる。

 背面に次元エネルギーによって形成された光のマントが生み出される。

 シールドの内側に収められた柄を取り出す。

 

「次元エネルギー、物質化開始」

 

 今までエネルギーの刃を成していたそれは、実体の片刃が生み出される。

 

「シッ!」

 

 エターナルに近付く次元獣を斬り捨てた。

 一直線に並ぶ次元獣を刀身を伸ばして数匹串刺しにする。

 シールドブレードを展開し、両手の刃で立ち回る。

 フィアラ専用に調整されているだけあり、自身の思い通りに反応して動いてくれた。

 アイム・ライアードはスフィア・リアクター達が相手をして、ZEXISの面々も次々と次元獣を撃破していく。

 

「長引かせる必要はなし……一気に決める。私の歌は、世界を侵す」

 

 右手を掲げる新型のS4U。

 歌がこの戦闘区域に広がると、金の紋様はフィアラの機体の周囲に展開された。

 掲げた手の平には球体が生まれ、それが一定の大きさになると、歌が止んだ。

 

「終わりだ!」

 

 集まったエネルギーの球体を次元獣の群れの中心に向けて放つ。

 次元獣の群れの中心に辿り着くと、球体は一瞬で広がり、20程集まっていた敵を飲み込み、跡形もなく消し去った。

 

「────っ! やってくれますね、紛い者の人形が……っ!」

 

「スフィアには特に興味もないけど、貴方は邪魔だ」

 

 刀身を物質化させ、フィアラはアイム・ライアードの機体に襲いかかる。

 一太刀を避けると、大きく後方に退いた。

 

「これ以上の戦闘は無意味ですね。もっと揺れる天秤のスフィアの力を引き出しなさい、クロウ・ブルースト。それこそがエスター・エルハスを救う唯一の術なのです!」

 

 それだけを言い残すと、残った次元獣と共にこの戦域から撤退した。

 戦闘が終了すると、一息吐いた後にフィアラがエターナルの方を向く。

 

「私ももう行く。この機体を届けてくれてありがとう」

 

「やはり、私達と共に戦ってはくれませんか?」

 

「うん。やっぱり私は世界の未来よりも、自分の過去の方が大事だから。だから、さよなら」

 

 転移を発動させたのか、此方が引き止める前にフィアラ機もこの戦域から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビスを通ってやって来たエターナル。

 向こうでしか手に入らないパーツやZEUTHの家族からの手紙などが渡される。

 ラクスと再会したキラはてっきりエターナルで此方に来たのかと思ったが破界事変の頃から此方に居た事を知って驚いた。

 

「フィアラとは、破界事変少し後に再会しましたわ。それからたまに連絡を取り合っていたのです」

 

「そうだったのか」

 

「本当ならば、出来る彼女の傷を癒せればと思っていたのですが。フィアラは思った以上に頑なで、不器用で、そして優しい。だからこそ、自分の傷を守り続けている」

 

 あの子にとってその傷は大事なモノだから、癒すことを拒絶し、それに触れようとする者を攻撃してでも守ろうとする。

 ラクスは瞳を閉じて、あの温泉宿でフィアラと再会した時の事を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルルーシュ「PMから、エリア11を全力で守護しろ!」

フィアラ「!?」


スザク「ありがとう。君のおかげで特区・日本を守ることができたよ」

フィアラ「――――殺してやる……っ!」

カレン「何するのよ!?」

ゼロ「フィアラ・フィレスを止めろ!彼女は錯乱している!」

フィアラ「ゼロ……撃って良いのは、撃たれる覚悟がある奴だけと言ったな。なら、この地ごと消え失せろっ!!他人の心を弄ぶ事がどういう結果を招くのか、その身を持って思い知れぇっ!!」




今後は大体こんな感じで進む予定。
実を言うと、今回ムウさんもこっちに来て貰おうかと思ったけど、話に絡まないからパスしました。なんで出なかった第二次Zでアカツキ。




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許せないモノ

(速く! 速く! もっと速くっ!! そうじゃないと────)

 

 間に合わせる為にペダルを踏んで機体を前へと突っ込ませる。

 しかし、目と鼻の先にある筈のところには一向に近付けない。

 

(どうしてっ!?)

 

 歯軋りしながらも目の前の惨劇を止めようと駆ける。

 なのにどれだけ強くペダルを踏み込んで前に進んでも届かない。

 

(ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ! やめて────っ!!)

 

 フィアラ・フィレスの願いは届くこと無く、青い翼のガンダムは、レーザーの光を宿した剣にその胴体を貫かれた。

 

 

 

 

 

 

「あ~もう……寝違えた……」

 

 コックピットの中で目を覚ましたフィアラは寝違えて固くなった首の筋肉を手でほぐしながら左右に回す。

 

「あの夢……久しぶりに見た……」

 

 ZEUTH同士の仲違いであり、フリーダムとアークエンジェルが撃墜された時の夢。

 それを止めようとしてるのに届かない。

 そんな、自分の無力を象徴するような。

 不快感を吐き出すように大きく息を吐いた。

 

「今は、あの時とは違う……きっと今なら……」

 

 助けられる筈だと、意味のない妄想が過った物の、即座に切って捨てた。

 あの時に何も出来なかった言い訳を夢や妄想で晴らそうなど、無意味だ。

 結果的にだがキラ達は生きていた。

 当の本人達は既に仲直りをしている。

 だから本来、不貞腐れているフィアラの行動は筋違いなのだろう。

 

「だからって、納得出来ないじゃない」

 

 ZEUTHに身を寄せていた頃に聞いた、消えてくれて良かったと言わんばかりの数々の暴言。

 謝罪したのがアークエンジェル側だけと聞けばなおのこと。

 

「殺そうとしたのはZEUTH(お前達)のくせに」

 

 苛立ちを発散させる為にフィアラはシミュレーターのシステムを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破界事変の少し後、くろがね屋という温泉宿でラクスと再会したフィアラは頭をフリーズさせていた。

 ラクスがフィアラの横に入浴する。

 

「思ったよりも元気そうで良かったですわ」

 

 そう口にしたラクスだが、フィアラの体に刻まれた傷を見て顔を曇らせる。

 ラクスの指がフィアラの顔の傷に触れた。

 

「これは……」

 

 その哀しそうな表情が居たたまれなくなり、フィアラは顔を反らす。

 

「前にエリア11でテロに巻き込まれて。他にも色々と。でも、余計な連中に声をかけられずに済むからそのままにしてるだけです」

 

 特に治安の悪い地域に行くとそれだけで身の危険に及んだ。

 こうして顔や体に傷があれば多少はそうしたトラブルを少しだけ回避できる。

 フィアラの言葉に一瞬だけ沈痛な顔をしたが、すぐに小さく笑みを作る。

 

「フィアラは今日この旅館にお泊まりを?」

 

「いえ。お風呂出たらこの国を出ます。料金もそれしか払ってないし」

 

「もしもフィアラが良いなら、一緒に泊まりませんか? 久しぶりにお会いして、話したいことがたくさんありますから」

 

「それは……」

 

 話したいこと。それは間違いなく多元戦争の最後にラクス達と敵対した事だろう。

 もしくはPMに関してか。

 ニコニコしてるラクスの表情が嫌に怖い。

 

(あぁ、アレだ。昔イタズラして姉さんに怒られる直前の緊張感……)

 

 そんな事は思いながらフィアラは口元まで湯に体を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入浴を終えた後に今日は泊まる旨を従業員に伝える。

 部屋もなし崩しにラクスと同じ部屋にした。

 ラクスと一緒に来ていたらしいサンドマンと不動GENが旅館内を散歩している2人を遠巻きに見ている。

 物珍しそうに旅館を散歩するラクスにフィアラはやや居心地の悪そうについている。

 その様子に気付いたラクスがフィアラに話しかける。

 

「どうしました? フィアラ」

 

「……ラクスさんは、私に訊きたい事が有るんじゃないですか? 前の世界での事、とか」

 

 あの最終決戦でジ・エーデル・ベルナル側に就いたフィアラ。

 責める理由は充分だろう。

 なのに、ラクスがフィアラを責める事をせず、まるでそんな事は無かったかのように振る舞っている。

 

「そうですわね。色々と訊きたい事はありますが、こうしてフィアラと会えて今は……」

 

 フィアラの肩に手を置く。

 

「生きていてくれて良かった。ただそう思います」

 

「……」

 

 多元戦争の最終戦で大破した機体。

 消息不明だったフィアラが生きていてくれた。

 ラクスにとってはそれだけで良かった。

 

「私は……」

 

 何かを言おうとしたが、上手く言葉に出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりにまともな物をを食べてる気がする」

 

 くろがね屋で出された食事を口にしながらポツリと呟いた。

 その言葉にラクスが質問する。

 

「普段の食事はどうしているのですか?」

 

「居る国によってだけど、大抵はハンバーガーみたいなファーストフード。基本は歩きながら食べられる物」

 

 補足すると、破界事変の時にかなりの頻度で現れていたPMへの対処。

 それに追われて、いつの頃か如何に手早く食べられるか、としか考えなくなった。

 そのまま食事に拘る事もなくなり、楽だからという理由で殆んど手掴みで食べられる物しか口にしなくなった。

 それを聞いて向かいで食べているサンドマンが話しかける。

 

「自分で作ったりはしないのかい?」

 

「私、料理出来ないし」

 

 そもそも面倒くさいと食事を続けるフィアラ。

 そんな彼女を見てラクスは少し遠い目をしてサンドマンと目を合わせて頷く。

 

「フィアラ……連絡先を教えて頂けませんか? 今後もたまにこうしてお食事をしましょう」

 

「ラクスさん?」

 

「ね?」

 

「は、はぁ……」

 

 珍しく強引な様子のラクスにフィアラは瞬きする。

 ハンバーガー類をバカにするわけではないが、毎日それはマズイだろう。

 栄養が偏る。

 身体が資本のパイロットならなおのこと。

 

 ラクスの圧に押されて連絡先を渡し、この後もそこそこの頻度で会い、食事をしたり、各国の情報を話したりすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクスが2人で泊まる部屋に入ると、中から先に入っていたフィアラの歌が聴こえてきた。

 親が子の成長と巣立ちを見送る。そんな歌詞。

 歌い終わると、ラクスは小さく拍手をする。

 

「素敵な歌ですわね」

 

「……うん。子供の頃に、母さんが子守唄代わりに歌ってくれた歌。うろ覚えなところもあるから、そこはね」

 

 フィアラから家族の事を聞くのは初めてだった。

 

「ラクスさん達に助けてもらった時は、昔の事があやふやだったけど。この世界に来て数年。結構思い出せた。自分の事を」

 

 もう暗い窓の外を見ながらフィアラはポツリと話始める。

 

「私が生まれ育ったのは、工場がたくさん在る、それなりに大きな町だった。軍の整備兵の父に優しいのが取り柄な母。少し年の離れた双子の姉。何処にでも居る普通の5人家族だった。でも父は、前の戦争で死んだ」

 

 前の戦争というのは、血のバレンタインから始まったナチュラルとコーディネーターの戦争の事。

 

「父さんが死んだのは悲しかったけど。それでも戦争が終わって、それなりに平和に暮らしてたと思う。戦争の被害も殆んどなかったし。でもあの事故が、私達家族をどん底に突き落とした」

 

「事故?」

 

「ある工場から危険な科学物質が町に広がって。影響を受けると死亡したり障害が残る可能性のある。実際町では倒れた人が何人もいた。だから────」

 

 そこでフィアラの表情が険しくなり、腕が震えるほどに握り拳を作る。

 

「母さんは、本当に優しいのが取り柄な人だった。だから、撒き散らされて広がる化学物質を自分の力で消した」

 

 フィアラがPMの毒を消したように彼女の母も町に広がった科学物質を除去したのだ。

 

「その結果、私達は母さんが助けた筈の町の人達に研究施設に売り飛ばされたんだ」

 

 心底吐き捨てるようにフィアラは言う。

 

「考えてみれば当然ですよね。遺伝子を操作した人間が現れただけで戦争に発展したんだから。私達みたいな特殊な力を持つ存在は、彼らからしたら恐怖の対象でしかなくて」

 

 当時の事を思い出す。

 仲の良かった隣人が敵に回る恐怖。

 どうか娘達だけは見逃して欲しいと懇願する母。

 無慈悲に連れていかれ、妹を庇ってくれた姉達。

 

「そして私は、自分の身を守るためにあの施設に居た人達を全員遠くに跳ばした」

 

 後はラクス達の知る通りなのだろう。

 ツィーネから情報提供されたアークエンジェルに保護された。

 

「私が跳ばしたのは研究員達だけじゃなくて、母と姉の遺体も。でも、ジエー博士がPMの世界に姉の遺体。正確には瓶詰めにされた脳と脊椎だけど。それを発見してくれて。前の世界の騒動が一段落したら捜すつもりだった」

 

 だからこの世界にPMが現れた事はフィアラにとって幸運だった。準備に時間を要するとはいえ、PMの世界に行く足掛かりが出来たのだから。

 もしも全く当てが無いのなら諦める事が出来たかもしれない。

 だけど目の前にチャンスが在るのなら。

 

「私は姉さんの亡骸を取り戻したい。人間扱いされずに死んだ家族をせめて、実験動物(モルモット)としてじゃなくて、ちゃんと人間として弔ってあげたい。例えそれが、私のワガママだとしても」

 

 きっとそれは、とても難しい事なのだろう。

 1つの世界で1人の亡骸を発見しようと言うのだから。

 

「フィアラ……」

 

 どう言葉にすべきか考えていると、フィアラの方から別の話に切り替えてきた。

 

「ラクスさん達は、どうしてZEUTHと行動を共にすることにしたんですか?」

 

 フィアラが知らないアークエンジェルの時間。

 

「少なくとも、片側のZEUTHはアークエンジェルの人達を殺そうとしたのに」

 

「……私達は────」

 

 そこから、ラクスはZEUTHと行動を共にすることに経緯を説明する。

 あの世界が、既にラクス達の力では抗い切れない程に混迷し、強大な脅威に対抗する為に力を合わせる必要があったこと。

 また、自分達の行動が結果的に世界を混乱させる結果になったことなり、事実ZEUTH同士の仲間割れもその要因の1つとなってしまった。

 

 全てを聞き終えた後に、何かを堪える苦い表情をするフィアラ。

 3分程の沈黙の後にフィアラが口を開く。

 

「私は……それは、違うと思う……」

 

 絞り出すような声。

 頭の中を整理しながらも拙く自分の考えを口にする。

 

「あの時、ザフト側のZEUTHは、本気でキラさんやアークエンジェルの人達を本気で殺そうとしてたのに。なのに、謝るのがラクスさん達の方だけなんて、絶対におかしい」

 

「それは……」

 

 チラムの町で暴れたデストロイ。

 そのパイロットだった少女を殺害────後に生存が発覚したが。

 その復讐に燃えたシンがキラの乗るフリーダムを撃墜した。

 

「自分達が他人を傷付けたり、殺した時は仕方ないで済ませるくせに。自分達が助けたい相手は全部助けられるべき人間で、それを殺したから殺されて償えなんて、そんな馬鹿な理屈はない!」

 

 段々と苛立ちが沸き上がり声と表情に怒りを滲ませる。

 2つのZEUTHが合流した際に時折聞こえてきていた。

 フリーダムのせいで仲間が死んだ。

 ステラはフリーダムに殺されたから。

 俺達が仲間割れしたのはアークエンジェルの奴らのせい。

 

 だから、消えてくれて良かった。

 

 そのような言葉を口にするのを聞く度に石を投げつけてやりたくなった。

 なのにどうして、そんな相手と手を繋ぐ必要があるのか。

 

「殺そうとしたのはザフト側のZEUTHなんですよ。なのに、生きていたから水に流してラクスさん達だけ非を認めるなんて、それは違うと思う……」

 

 強く反論されてラクスは目を大きく開いた。

 

「上手く言えないけど……自分を殺そうとしたのに、自分達の行動に失敗や間違いが有ったからって、殺されても仕方がなみたいな考えは、私には受け入れられないし……それで自分達がやった醜い部分をうやむやにするZEUTHにも納得出来ない……!」

 

 どうにか説明しょうとするフィアラの言葉にラクス少しずつ彼女の反発を理解する。

 フィアラは自分を保護してくれたアークエンジェルという場と人を大事に思っていたのだ。

 だからそこを傷付け、中傷したZEUTHへの怒りを治める事が出来ず、またそれを仕方ないと受け入れたキラやラクス達にも憤っているのだ。

 本当に大切だったからこそ真剣に。

 

「私達を売った町の連中も、人体実験で私の家族を殺したあの研究者達も! 私自身が生きてたからって絶対にうやむやになんて流さない! 許さない! だから────」

 

 ずっと溜め込んでいた感情を言葉ている内に口が止まらなくなった。

 

「私には分からない!! 殺されそうになったのに、簡単に許せるキラさんの考えも! 大事な人を傷つけられても平然としてるラクスさんの気持ちも! 私には全然分からないっ!?」

 

 殺そうとしてきた。殺されそうになった。

 それは安易に許すべきではないと訴えてくる。

 

「ありがとうございます、フィアラ……そこまで私達を想ってくれて。そしてごめんなさい。そこまで貴女を追い詰めてしまって」

 

 ラクスがフィアラを抱きしめる。

 怒りや憎しみを抱える辛さを説いて、もう止めて良いと口にするのは簡単だ。

 しかしそれは彼女の真剣な気持ちを否定する事に繋がりかねない。

 少なくとも今は。

 家族を理不尽に奪われたフィアラにとっては、"許す"というのは殊更難しいのかもしれない。

 それでも少しずつほどいていけたなら。

 

 いつかは、きっと────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、部屋を出る時間になるとラクスが1冊の手帳を渡した。

 

「これを」

 

 それは、多元戦争でZEUTHを出ていった際に紛失したフィアラの日記だった。

 

「……っ!?」

 

 慌ててひったくるように日記を取って胸に抱える。

 

「あらあら。そんな風にしては手帳が傷んでしまいますわよ?」

 

「中は、その……」

 

「あぁ。ごめんなさい。フィアラの事を色々と知りたかったので」

 

 ラクスの返しにフィアラは日記を見られた恥ずかしさに顔を赤くして天井を向く。

 すると、端末からバイブ振動が起きた。

 確認すると、PMの出現を知らせていた。

 

「ゴメン、もう行く!」

 

 慌てた様子で荷物を持って部屋を出ていこうとするフィアラだが、出る瞬間に振り返る。

 

「それじゃあ、()()!」

 

 それだけ告げると今度こそフィアラは部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス?」

 

 エターナルの私室で、物思いに耽っていたラクスはキラの声で現実に引き戻された。

 

「ボーッとしてたけど、大丈夫?」

 

「えぇ。大丈夫ですわ」

 

 そう、まだフィアラとの関係も大丈夫な筈だ。

 あの時、またと言ってくれた彼女なら。

 時間はかかるかもしれないが、きっと大丈夫。

 いつかまた、手を取り合える日はくる。

 そう信じて、ラクスは自分のやるべき事に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フィアラの父親が死亡したのは簡単に言うと、「ナチュラルの捕虜なんかいるかよ!」これです。
ただし家族はパナマの戦闘で死んだとしか知りません。

今回、フィアラが歌っていたのは石川智晶さんの"Little Bird"のイメージ。


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"正しさ"の代償・前

「あーもう! ムリムリきっついなっ!!」

 

 フィアラはPMの世界から元の世界に戻った後に大きく息を吐いて愚痴を吐き出す。

 以前のように機体を大破させる事は無いが、敵の猛攻に目的のモノを探している余裕が無い。

 

「時間の流れが違うから、こっちに戻ってくる度に時刻を直さなきゃいけないし……てか、ここ何処?」

 

 地図で現在地を確認する。

 

「エリア11……あぁ、特区・日本ってところか……」

 

 昔テロに巻き込まれて顔に傷を負った関係から嫌そうな顔をするフィアラ。

 

「ま、いいや……特区になってからは行った事なかったし」

 

 ブリタニア・ユニオンの支配地域で唯一ナンバーズ呼びが無くなった富士山周辺の土地。

 

「色々と買わなきゃだし、1回くらい見ておくのもありか……」

 

 フィアラは機体から出る準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEXISは今、補給やこれまでの激戦の休息を兼ねて特区・日本に訪れていた。

 乗組員が特区・日本の町に出掛けている間に、ゼロはユーフェミアと面会していた。

 

「上手く行っているようだな」

 

「えぇ。ルルーシュには迷惑ばかりかけてるけど……」

 

 特区・日本の運営は当初のルルーシュの予想以上に上手く回っていた。

 勿論問題が無い訳ではない。

 ブリタニアの人間はナンバーズと同じ感覚で日本人に危害を加える事件は起きるし。

 日本人という名を取り戻した日本人がこれまでの報復にブリタニアの人間を傷付ける事もある。

 また、ブリタニア軍と黒の騎士団も、特区・日本に置いては必要にならない限りは互いに不干渉な部分があり、連携が取れているとは言えない。

 また、特区・日本が認められたからこそそれ以外の地域のイレブンに対する風当たりが強くなっている事実も無視できない。

 それらの問題をユーフェミアはZEXISとして活動しているルルーシュに連絡を取って意見を求めていた。

 黒の騎士団のトップとしてでなく、中立的な立場から出来る限り意見を出してくれるルルーシュに随分とユーフェミアは助けられた。

 綱渡りな面はあるが、お陰で特区・日本はどうにか回っている。

 今後の事をある程度話終えると、ルルーシュはゼロの仮面を被る。

 

「もう行ってしまうの?」

 

「あぁ。直にここを見ておきたいし、あまり長々と話をしていると、部屋の外にいるスザクが良い顔をしないからな」

 

 ゼロとユーフェミアが対話をする時にこの部屋には誰も入れない取り決めになっている。

 互いの信頼の証をアピールする意味と、うっかりユーフェミアがルルーシュと呼んでしまうリスクがあるからだ。

 

「せめて、スザクにはその仮面を外して話してみたら?」

 

「機会がくればそうするつもりだ」

 

 いつものやり取りを終えてゼロは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり日本人の食に対する拘りは半端ない)

 

 定食屋でトンカツ定食を食べながら頬を緩めていた。

 特区・日本が成立してまだ日が浅いにも関わらず、この定食屋で食べているトンカツはもう1つの日本とも遜色の無い物だった。以前は胃に入れば何でも良いと手軽な物ばかり食べていたフィアラだが、ラクスと再会してからは時間に余裕がある場合は店で食べるようになった。

 

(キャベツもシャキシャキしてて美味しい……何日ぶりのまともな食事だっけ?)

 

 キャベツを味噌汁で胃に流し、最後の1切を食べ終えた。

 代金を払って店を出ると、端末にバイブ振動をする。

 嫌な予感がしてポケットから取り出すと、空には赤い血で描かれたような魔法陣が出現する。

 

「特区・日本ももう終わりかー……」

 

 他人事のように呟くフィアラ。

 もしかしたら毒の範囲が一部で済むかもしれないが、ここは行政に近いし、PMの被害地域となれば人の流出は避けられないだろう。

 前のようにフィアラが介入すれば良いだけの話だが。

 

(他は無視して、ここだけ助けるのは虫が良すぎるからね)

 

 そんな自己弁護をして愛機の所へ戻ろうとすると、誰かに腕を掴まれた。

 振り向くと、そこには黒髪の、かなり整った顔立ちの男が立っていた。

 

(いや、誰?)

 

 力ずくで掴んでいる手を放させようとすると、男が口を開いた。

 

「君は、特区・日本(ここ)を見捨てるつもりか?」

 

「はぁ?」

 

 突然の問いかけに不快感を顔に出すフィアラ。

 相手は睨み付けて話を続ける。

 

「……俺は、ZEXISだ」

 

 相手の言葉にあぁ、と納得する。

 それならフィアラの事も知っていて不思議でない。

 ZEXISもここに来ているのか、とも思った。

 

「それなら御自分達でどうにかすれば宜しいのでは? それが仕事でしょう?」

 

 掴んでいる手を外させて逃げようとするが、男はしつこく迫ってくる。

 

「分かっているのか! このままでは、大勢の犠牲を出すことになるんだぞ!」

 

「それこそ私に何か関係が? 奇跡やご都合展開はZEXIS(貴方達)の得意技でしょう? 特にあのゼロとかいう人はそれを売りにしてるんだから。そちらを頼ってみれば?」

 

 小馬鹿にするような挑発的な口調のフィアラに男は更に眉間を寄せた。

 しかしそれはすぐに侮蔑のような無表情に変わる。

 空からは常人が受け付けない見た目の怪物が地上に現れている。

 

「……そうか。残念だよ。こんなことで使いたくはなかったが」

 

 左目に手で覆う。

 

「フィアラ・フィレス。今すぐに────」

 

 何かを言おうとした男に向けてフィアラは赤い筒をポイッと投げた。

 それは護身用の発煙筒で、すぐに煙が噴出される。

 相手が驚いている隙に逃げ出す。

 

「待て!?」

 

「待てと言われて待つ馬鹿はいない」

 

 ここに愛機を呼び寄せるか迷ったが、ここでは狭すぎる。

 機体を呼べば、周囲で逃げている誰かが死にかねない。

 あの瞬間、嫌な予感がして咄嗟に発煙筒を投げたが、最後に何かしようとしていたのは間違いない。

 走りながらフィアラが持つ情報と照らし合わせようとする。

 

(異星人の超能力? それとも────)

 

 この世界にやって来た時に世話になったエルガン・ローディック。彼から教えられた情報の中にギアスと呼ばれる力もあった。

 そして破界の王からゼロがそのギアスを持っている事も、破界事変後に聞き及んでいる。

 

(それに、何か口調というか、雰囲気が一瞬ゼロに被ったんだよね)

 

 何にせよここから早く逃げた方が良いだろう。

 とにかくある程度の広さがあり、人の居ない場所へと移動していると、この状況で逃げもせずに、道を遮るように突っ立っている男性が3名。

 邪魔だな、と思いつつ間を通ろうとするが、フィアラに気付いた3人は頑なにその場所を通そうとしなかった。

 

「邪魔だって! 貴方達も早く避難を!?」

 

 そう叫ぶが、相手はこの状況で反応すらしない。

 

(様子がおかしい?)

 

 化物が町に現れたのに、動揺した様子もなく、そこで通せんぼしている。明らかに変だった。

 フィアラは足向きを変える。

 

「ギアスは、人の精神に干渉する能力とは聞いたけど……」

 

 どちらにせよ早々にここから立ち去った方が良さそうだ。

 人の波から外れつつ広い場所を探す。

 

「くそ、ここにも……!?」

 

 道を塞いでいる誰かにまた遭遇し、道を変える。

 誘導されているのは気付いていたが、悩むより動いていた。

 そうして走っていると立ち止まった一瞬に横合いから誰かがフィアラの腕を掴んできた。

 考えるより先に銃を抜いて掴んできた相手に向けた。

 

「あ……」

 

 しかし、その動きは相手を確認して止まった。

 

「ラクスさん……!?」

 

 目の前にいたのは無表情で自分の腕を掴んでいる。

 注意をそちらに向けられると、後ろから誰かがフィアラの頭を掴み、地面に押し倒した。

 

「くっ!?」

 

 頭から手が外れると倒された状態でフィアラの腕を後ろに回されて体を押さえつけられる。

 振り向くと、そこには以前ZEUTHで見かけた事のある赤い髪を左右に結った少女だった。

 他にも人が近づく気配がし、視界を動かすと、ZEXISもしくはZEUTHで見た事のある者達だった。

 最後に先程の黒髪の男が左目を閉じた状態で現れる。

 

「予想以上に分かりやすいルートを通ったな。お陰で人の配置が楽だったよ。そしてラクス・クラインには手荒なことが出来ない事も」

 

「お前……ラクスさん達に何をした……!」

 

 睨み付けて問いかけるフィアラに相手は独り言を呟く。

 

「特区・日本を、あんなバケモノどもの犠牲にさせる訳にはいかない。だから────」

 

「私の質問に答えろっ!!」

 

 フィアラの睨みなど意に介さない様子で男は此方に視線を合わせる。

 

「私の────むぐっ!?」

 

 "歌"でこの場にいる全員の意識を眠らせようとしたが、その前にラクスの手がフィアラの口を塞いだ。

 

 男の左目が開く。

 

「フィアラ・フィレス。この特区・日本をPMから全力で守護しろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 枢木スザクは今の状況に歯噛みしていた。

 新しい機体であるランスロット・アルビオンを操り、突如現れたバケモノを屠っている。

 少し前に任務でこの地に派遣されたブリタニア・ユニオン最強の騎士であるラウンズが2人。

 そして休息に訪れていたZEXISも敵の討伐に協力してくれている。

 倒すだけなら問題はない。

 しかし、PMが撒き散らす毒だけはこの場にいる誰もがどうにも出来ない事だった。

 

(どうしようもないのか?)

 

 まだ形だけではあるが、少しずつ望む形になってきた特区・日本。

 それをこの程度の理不尽で台無しになってしまうのか? 

 思わず握っている操縦桿や踏んでいるペダルに力が籠

 入るが、そうして倒せば倒す程に毒が早く広がるというから質が悪い。

 何か方法は、と考えるが良い案などは浮かばず、こういう時に悪知恵の働く親友の姿が思い浮かんだ。

 

「それでも、僕はっ!!」

 

 襲いかかってきた敵を斬り捨てる。

 そこで通信が送られてきた。

 

『おい! 上を見ろ!?』

 

 言われるままに上を向くと、そこにはスザクが知る機体とは細部が異なるが、見覚えのある乳白色の機体が佇んでいた。

 

「あれは……」

 

 スザクが驚いていると、乳白色の機体から金色の紋様が描かれるように町に広がり、そして。

 

 少女の歌が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も戦闘前会話を用意してますが、前回に増して多い!
1日1人のペースで進行中。


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"正しさ"の代償・後

前半の一部を少し変更。
ガイオウからゼロがギアスを持っていると聞いた事にしました。


「遅れて申し訳ありません!」

 

 特区・日本への休息の最中に現れたPM。

 黒の騎士団に送られて帰艦したラクスは私服のまま自分の席に座る。

 何故か黒の騎士団に拾われる前後の記憶が抜けていることは気になるが。

 

「いえいえ。それじゃあエターナルも発進するぞ!」

 

 戻ってきたラクスにおどけながらバルドフェルドが号令をかける。

 ラクスは戦闘の中心で戦う乳白色の機体に目を向けた。

 

「フィアラ……?」

 

 聴こえてくる歌の違和感。

 アレがフィアラの"歌"だとは思えなくて。

 ラクスは自身の不安を一時的に心の隅に置き、目の前の事への対処に専念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蜃気楼のコックピットに機体を操作しながら周りに指示を出し、ゼロも戦線に参加していた。

 

「大人しくPMへの対処をしていれば良いものを」

 

 今回、フィアラにギアスを使ったのはゼロとしても不本意だった。

 1人に1回しか使えないギアス。

 フィアラ・フィレスに使うにしても、もっと有効的に使うべきだった。

 背に腹は変えられないとはいえ、勿体ない事をしたと毒づく。

 フィアラが逃げたあの後に、避難しようとしていた日本人を数人ギアスをかけて誘導しつつ、偶然観光していたラクス・クラインと一緒に居た数名の女達を発見し、安全にギアスをかけるために利用した。

 彼女なら無関係な赤の他人なら殺害してでも逃げかねないと判断して。

 

「さて問題は……」

 

 この戦闘の後に起こるであろう幾つかのパターンを予測し、ゼロは顔をしかめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィアラの歌が特区・日本に響く。

 その歌に苛立ちの感情を持っていた男が1人居た。

 

「なんだよあの歌は……!」

 

「バサラ?」

 

 バサラの機体が急転回して歌っているS4Uのところまで移動する。

 戦うために歌を利用する点はともかく、その声には確かな感情()が込められていた。

 例えフィアラが何かの目的の為に歌を利用していたとしても、込められた気持ちも間違いなく本物だった。

 なのに今はどうだろう。

 まるで何も無い。

 音程に合わせて声を出しているだけの、それだけの歌だった。

 以前聴いた歌とは似ても似つかない。

 

「お前の歌はそんなんじゃねぇだろ! 忘れたってんなら、俺が思い出させてやるぜっ!」

 

 バサラが感情をぶつけるように激しく歌う。

 その間に、大型のPMの口から高エネルギー反応が観測され、ビルに向かって光線が撃ち出される。

 S4Uは肩から下がエネルギーのコートで守られた状態で受け止め終えると、前面だけを解いて大型のPMを斬り捨てた。

 町を守るように動くフィアラにそれを見ていた何人かの兵士が感心したような視線を向ける。

 つい先日、次元獣から人間の姿を取り戻したエスターが通信を送った。

 

「エライ! でも無茶しすぎだよ!」

 

 敵の攻撃を真っ正面から受け止めた事にヒヤヒヤして注意するエスター。

 歌いながら戦うフィアラは答える事は無かったが、エスターは彼女を援護しようと決める。

 

 特区・日本に置かれた戦力であるブリタニア軍と黒の騎士団。

 そしてZEXISの戦力は速やかにPMを排除していった。

 

 そして────。

 

 刀身を長く伸ばした剣で最後のPMを両断するフィアラ。

 S4Uが着地した後の僅かな時間と共に消えていく敵。

 それが完全に消え去ると同時にフィアラの歌も終わった。

 

『────』

 

 同時に繋がっていた通信から重たい吐息が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロにかけられたギアスから解放されたのはPMが完全に特区・日本から消え去った後だった。

 映し出される周囲の映像からつい今しがた何をしていたのかは覚えて無くても、自分が何をしていたのかは大体察しが付いた。

 

「あ……」

 

 記憶を掘り返して覚えているのはラクス達に取り押さえられた所。

 そこから意識がプツリと途切れている。

 操縦桿から手を離して体を小さくして抱き締めた。

 

『フィアラ。助けに来てくれたんだね』

 

「ハァ……ハ……ッ!!」

 

 良い様に使われたことに不快感と嫌悪感で息が苦しい。

 体を曲げると膝に温かい水滴が落ちた。

 

『ありがとう、君のおかげで特区・日本を守る事ができたよ!』

 

 この世界に来て、何度も身体を傷つけられた。

 しかし肉体への痛みは無くとも、心に爪を立てられた事への不快感と嫌悪感に依る苦痛は、その比ではなかった。

 

『良かったー。アレから連絡も取れないから心配してたんだよ』

 

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! 

 

 感謝の言葉も心配してくれる声も全て不快なノイズに聴こえた。

 

「カッ……ハ……ハァ……ッ!?」

 

『おい! どうしたんだよ! どっか具合が悪いのか?』

 

 踏みにじられた。

 精神を。

 感情を。

 尊厳を。

 自由を。

 意志を犯された。

 今はガイオウと名乗る次元将の言葉が甦る。

 

『あのゼロって奴には気を付けろ。アイツがどんなギアスを持ってるかは知らねぇが、術に嵌まったら、ロクな目に遭わないのは間違いねぇからな』

 

 ゼロとギアス。

 その単語からモニターをぐるりと見渡した。

 視界に入る小型の黒い人型。

 その近くを飛んでいるピンクの戦艦にも。

 エターナルを見てフィアラは奥歯を噛んだ。

 

『フィアラ?』

 

 ふざけるなふざけるなふざけんな! 

 フィアラ・フィレスを利用するためにラクスやその他の人を操る。

 きっと、大人しくフィアラをこの戦場に介入させるなら効率的なのかもしれない。

 それで特区・日本の土地や人が守られたなら、結果的にそれは正しいことなのだろう。

 大勢の人が守られたのだから。

 それを理解した上で激しい怒りが抑えられなかった。

 

 ────何様のつもりだ、お前はっ!? 

 

 自分の中で何かがキレた感触がして、フィアラは操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後のPMを倒してから地上で停止していたS4Uが再び動き出した。

 握っていた剣を空中に向けると、刀身がゼロの機体である蜃気楼まで急速に伸びる。

 絶対守護領域によるバリアでガードするゼロ。

 

「なにするのよ!?」

 

 カレンが慌てて刀身を破壊しようと動くが、その前に元の長さへと縮んだ。

 

「────殺してやるっ!!」

 

 この場にその言葉の意味を呑み込めたのは何人いただろう。

 

「ぶっ殺してやる……っ!!」

 

 心の底から吐き出された憎悪と共にフィアラはゼロの居る位置へと急加速した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然乱心し出したフィアラにZEXISは困惑していた。

 今まで、多元戦争の終盤や破界事変での戦闘の理由は納得は出来ずとも多少理解しているつもりだ。

 しかし今は何故フィアラがここまで激怒し、ゼロに襲いかかるのかまったく理解できないのだから。

 それでも、司令官の1人であるゼロを殺らせる訳にはいかず、止めに入る。

 

「ちぃ! 邪魔をするなっ!」

 

『お前、何やってるのか分かってるのか!?』

 

「うるさい! 私の心を踏みにじったあのクズは、今日ここで殺してやる!」

 

『はぁ?』

 

 ゼロに対して激怒しているフィアラを止めようと動くZEXIS。

 その事を問う前にゼロが通信を行き渡らせた。

 

『フィアラ・フィレスを止めろ! 彼女は錯乱している!』

 

『身に覚えは無いんだろうな!』

 

『ない! しかしこのままでは特区・日本に被害が出る。誤解を解く為にもフィアラ・フィレスを拘束するべきだ!』

 

 力強く断言するゼロ。

 流石に疑わしく思ったが、ゼロの口を割らせるよりも先にフィアラを止める方が先決だった。

 何人かが止まるようにフィアラを説得するが聞く耳持たずで突撃してくる。

 しかし如何に新型に乗り換えたと言っても相手は地球圏で最高戦力であるZEXIS。

 上手く切り込めずに一旦後方へと退く。

 

「そう……貴方達はそいつを守るのか。結局は自分達の仲間なら何をしても良いって訳だ……なら、もういい」

 

 吐き捨てるフィアラにZEXISは説明を求める。

 

『フィアラ・フィレスさん、説明を! 何を怒ってるの!!』

 

 しかし本人は取り合わない。

 

「今からZEXIS(お前達)は、私の敵だ……!」

 

 左手にライフルを持ち、右手に実体化させた剣を持って立ち向かってくる。

 

『なっ!? こいつコックピットをっ!?』

 

「当たり前だ! もうどうなっても知るかっ!!」

 

 感情のままに暴れてZEXISに襲いかかるフィアラ。

 地上からの発砲に鬱陶しくなると、刀身を伸ばして斜めにビルを斬り上げると、地上部隊の機体へ向けて蹴り落とす。

 

『無茶苦茶だアイツッ!?』

 

 巻き込まれそうになったデュオが驚きから叫んだ。

 本気で殺すつもりで武器を振るうフィアラ。

 それでも多勢に無勢な状況にジリジリとゼロから距離を離される。

 

「クソッ。なら!」

 

 突然S4Uが大きく後退する。

 

『逃げるのか?』

 

 そんな疑問とも期待とも取れる言葉。

 しかしそれは違っていた。

 

「私の歌は、世界を繋ぐ……」

 

 歌と同時に翳した右の掌からエネルギーの紋様と共にエネルギーの球体が生み出される。

 それは新型のS4Uで初めて出撃した際に次元獣を一掃した攻撃だった。

 

『あの馬鹿、本気かよ! あんなものをここで撃ったら……』

 

 特区・日本は甚大な損害が出るだろう。

 それを察した何人かが飛び出す。

 

『うおぉおおぉおおっ!!』

 

 先ず飛び出したのが新型のランスロットを駆るスザクだった。

 彼はフィアラの攻撃による危険性を察知し、以前ゼロのギアスによって命じられた"生きろ"という制約が働いた。

 しかしこの場にいる主のユーフェミアや特区・日本の存在が彼にギアスの誓約をほんの少しだけ上回らせた。

 生きる為に逃亡するのではなく、フィアラ・フィレスを殺害する事で自分を含めて周りを生存させる為に斬り込んで行ったのだ。

 

『やめろぉおおおおっ!!』

 

 他にも何人かフィアラの愚行を止めようと動く。

 

「っ!?」

 

 掌にエネルギーを集めながらライフルで応戦しつつ敵の攻撃を避ける。

 自分の意志で次元エネルギーを制御しつつ、戦闘を行うのはまだ難しかった。

 ましてや頭に血が上った状態ならなおのこと。

 

(マズイ! 次元力の制御を失敗し(ミスっ)て────)

 

 敵機の攻撃を避けていると、限界以上に水道の水を流し込んだ水風船が破裂するように掌の球体が広がって行く。

 

 眩い光が広がったのは一瞬。

 

 特区日本の1部分が削り取られたかのように消滅しており、S4Uの近くに近接していた幾つかの機体も消えていた。

 

『なんてこと……』

 

 あまりの惨状に誰かがそう呟く。

 その間にも、管制が状況を報告してくる。

 

『S4Uの反応ありません! 同時にランスロット、グレンラガン、ファイヤーバルキリー、デスティニー、ブラスタEs、ガンレオンの反応も消失!』

 

 上がる報告に誰もが信じられず、動くのに時間を有した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完結っ!!

 
















嘘です。まだ続きます。
戦闘中の会話については次に投稿する予定の戦闘前会話で。


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S4U type Z(フィアラ) との戦闘前会話※台本形式

フィアラの精神コマンドはこんな感じ。
加速、集中、努力、直感、直撃、魂。
周りに頼らない、分け与えない感じ。単独行動だから仕方ないね。


 VS赤木駿介

 

 赤木「町を壊すな!」

 

 フィアラ「住民の避難はあらかた終わってるだろ!」

 

 赤木「ふざけるな! 家を失くした人達にだって生活があるんだぞ!」

 

 フィアラ「ならゼロをこっちに差し出せばいい!」

 

 いぶき「無茶苦茶言うわね……」

 

 青山「どうするんだ?」

 

 赤木「決まってるだろ。あの子を取り押さえて、町を守るんだよ!」

 

 

 VSアポロ

 

 アポロ「いい加減にしろよお前! こんなことして何になるってんだ!」

 

 フィアラ「うるさい! 関係ない奴は引っ込んでろ!」

 

 アポロ「ふざけんな! 仲間を攻撃されて黙ってられるかよ!」

 

 フィアラ「ならお前も同罪だ! 覚悟しろ!」

 

 

 VSアムロ・レイ

 

 フィアラ「他人を子供染みた理想論と非難して、自分たちはコレか! 結果が出るなら、何をやっても良いと思うな!」

 

 アムロ「やめろ! こんなことをすれば、君自身が誰かに撃たれることになるんだぞ!」

 

 フィアラ「都合が悪くなったら綺麗事を言って誤魔化そうとするんじゃないっ!!」

 

 

 

 VSエスター・エルハス

 

 エスター「やめろよ! なにやってんだよお前!」

 

 フィアラ「退いて! こっちはゼロを討てればいいんだから!」

 

 エスター「訳を話してよ! そんなんじゃ、何も分からないだろ!」

 

 フィアラ「アイツを早く討たないと、そっちも何をされるか分からないっていってるんだ!」

 

 

 VS桂木桂

 

 フィアラ「お前もゼロの肩を持つか!」

 

 桂「俺としては女の子の味方をしてあげたいのは山々だけどね。もうちょっと理由を話してくれないか?」

 

 フィアラ「そいつが私を利用した! ここで殺す理由はそれで充分だろ!」

 

 桂「完全に頭に血が昇ってるな、こりゃ。頭を冷やさせるのは苦労しそうだぜ!」

 

 

 

 VSカトル・ラバーバ・ウィナー

 

 フィアラ「やっぱりお前達もテロリストだな! 自分の目的さえ果たせれば、過程はどうだって良い訳だ!」

 

 カトル「違います! 僕達はっ!!」

 

 フィアラ「そういう奴を抱えて好き勝手させてる時点で同類だって言ってるんだよ!」

 

 

 

 VS金田正太郎

 

 正太郎「やめてください! こんなことをして何になるんですか!」

 

 フィアラ「関係ない奴は引っ込んでろ!」

 

 正太郎「関係なくはない! 僕達は、同じ目的で一緒に戦ってきた仲間なんだから! あなたがそれを傷付けるなら!」

 

 フィアラ「仲間? そうやって身内を甘やかす! 自分達の仲間だから、何をしても許されるなんて思うなよこの偽善者!」

 

 

 VS兜甲児

 

 甲児「いい加減にしろ! こんなことをしてたら、世界中を敵に回すことなるんだぞ!」

 

 フィアラ「その時はその時だ! 今はそのクズを叩き斬るのが先決なんだよ!」

 

 甲児「確かにゼロはこれまでも怪しいところがあった。だけど、アイツもみんなの為に戦ってきたんだ!」

 

 フィアラ「そんなもの私に関係あるかっ!」

 

 

 VSカミーユ・ビダン

 

 カミーユ「やめろ! 自分が何をしているのか分かってるのか!」

 

 フィアラ「先に手を出して来たのはそっちなんだよ! 偉そうな事を言うな!!」

 

 カミーユ「くっ!? ゼロはいったい何をしたんだ?」

 

 

 VSガロード・ラン

 

 フィアラ「この時間帯なら、その大砲も使えないだろ!」

 

 ガロード「こんなところでサテライトキャノンなんて使うかよ! それにな、お前を取っ捕まえるのにそんなの必要あるか!」

 

 

 VSキラ・ヤマト

 

 フィアラ「邪魔しないで! ゼロを生かして置いたら、キラさんもラクスさんも、何に利用されるか分かったモノじゃない!」

 

 キラ「フィアラ?」

 

 フィアラ「だから、そいつは私が殺す……!」

 

 キラ「駄目だよ、それは。フィアラが僕達の仲間を殺すところなんて見たくない。だから、君は僕が止める!」

 

 

 

 VSキリコ・キュービー

 

 フィアラ「ちょこまかと鬱陶しい!」

 

 キリコ「……冷静さを欠いた兵士がどうなるか、ここで教えてやる」

 

 フィアラ「やれるものならっ!!」

 

 

 

 VS枢木スザク

 

 スザク「特区・日本に、破壊を撒き散らすならば!」

 

 フィアラ「だったらゼロをこっちに渡せ! 破界事変では敵対してたんだ! そっちとしても都合がいいだろ!」

 

 スザク「ユフィとゼロが手を取り合った。なら僕は、その意思を守る!」

 

 フィアラ「それも本人の意思か分からないんだぞ!」

 

 

 VSクロウ・ブルースト

 

 フィアラ「退かないならここで墜とす!」

 

 クロウ「チッ。コイツはいつにも増してのキレっぷりだぜ。だがな、少しは時と場所を考えやがれ!」

 

 フィアラ「知るか! ゼロが守ろうとした地。それだけで戦場にするには充分だろうが!」

 

 クロウ「そんなバカな理屈があるか! 人様の自由と生活を奪おうってんなら、こっちだって全力で止めるぜ!」

 

 

 VSゲイナー・サンガ

 

 ゲイナー「君が何を怒っているのか、ちゃんと話してくれ!」

 

 フィアラ「お前に関係あるかっ!!」

 

 ゲイナー「そうやって周りを拒絶して閉じこもるから、暴力だけで解決するようになるんだ! もっと別の方法が!」

 

 フィアラ「そう言ってまた、うやむやにするだけのくせに!」

 

 

 VS紅月カレン

 

 カレン「ゼロはやらせないよ!」

 

 フィアラ「ギアスによるゼロの恩恵を1番に受けてるのは黒の騎士団(お前達)だものな!」

 

 カレン「訳分からない事を言ってっ!!」

 

 フィアラ「ゼロの狗が! そんなにそいつが大事なら、一緒に消えてしまえっ!!」

 

 

 VS早乙女アルト

 

 アルト「機体だけじゃない。腕も相当上げてやがる!」

 

 フィアラ「ブンブン飛び回ってるなら退いてろ! 斬り捨てるぞっ!!」

 

 アルト「ふざけるな! 自分勝手に暴れてるような奴に俺が墜とされるかよ!」

 

 

 

 VSシモン

 

 ヴィラル「ゼロと何かあったようだが、どうする?」

 

 シモン「……もしもゼロがフィアラにひどい事をしたなら、俺達が殴った後に落とし前を付けさせる! だからこれ以上ここで戦うのはやめろ!」

 

 フィアラ「それが出来なかったから、今こうなったんだよ! 出来もしないことを言うんじゃない!」

 

 

 VSジュレミア・ゴットバルト

 

 ジュレミア「ゼロの脅威となるならば、この私がっ!!」

 

 フィアラ「オレンジ!? お前も操られてる口かっ!?」

 

 ジュレミア「違う! 私は真に仕えるべき主を見定めただけのこと! 喰らえ! 我が忠義の力を!」

 

 フィアラ「植え付けられた忠誠を偉そうにひけらかすなっ!!」

 

 

 VSジロン・アモス

 

 ジロン「もうやめろぉ! これ以上暴れたら! 俺達だって容赦出来なくなっちまう!」

 

 フィアラ「そうすれば良いだろ! それが嫌なら、黙って見てろ!」

 

 ジロン「仲間が仲間を殺すところを大人しくしてられるかよ!」

 

 

 シン・アスカ

 

 シン「止まれ! これ以上暴れるな!」

 

 フィアラ「うるさいっ! 報復が自分だけに許された特権だと思うな!」

 

 シン「そうじゃない! ここでゼロを討っても、今度はお前が討たれる側になるんだぞ! その前に理由を話してくれれば────」

 

 フィアラ「曖昧に流すだけだろうが! これまでの事から、私がお前達を信じると思うな!」

 

 シン「くそ! なんでこんな!」

 

 

 VS神勝平

 

 勝平「このやろう! いい加減にしやがれってんだ!」

 

 フィアラ「理不尽な目に遭わされれば相手が怒るのは当然でしょう! 世のため人のためを謳ってれば、何でもスルーされると思うな!」

 

 勝平「そうやって暴力で解決しようってんなら! こっちだって手加減しねぇぞ!」

 

 

 VSセツコ・オハラ

 

 セツコ「これ以上の悲しみを広げない為にも、私が貴女を止めます!」

 

 フィアラ「心の区切りを着けさせる為に人殺しを許容した女が、今更聖人ぶるんじゃない!」

 

 セツコ「────! えぇ、そうね。でもだからこそ、同じ過ちは繰り返さる訳にはいかない!」

 

 フィアラ「他人事の時だけ耳障りの良い言葉を言うな!」

 

 

 VS刹那・F・セイエイ

 

 刹那「やめろ、フィアラ・フィレス! 何故こんな事をする!」

 

 フィアラ「GN粒子に汚染されつつあるその頭で、少しは察したらどうだ! 宝の持ち腐れだろうに!」

 

 刹那「脳量子波は関係ない! 相手を理解しようと思わなければ、いつまでも変われない。未来を作る事も出来ないんだ!」

 

 フィアラ「未来なんて知るか! 私の望みは過去にしか無いんだから!」

 

 

 VSゼロ

 

 フィアラ「そこを動くなよ! お前はここでぶっ殺してやる!」

 

 ゼロ「やれやれ。まるで獣だな。君とは、もっと有意義な関係を築きたかったが……残念だよ」

 

 フィアラ「ギアスとかいう力で人を洗脳する奴の言えた事かぁ!」

 

 ゼロ「……なるほど。だが、それを知っている以上、この場から無傷で帰す訳にはいかなくなったな。あぁ、本当に残念だよ」

 

 フィアラ「言ってろ! このペテン師がっ!」

 

 

 VS竹尾ワッ太

 

 ワッ太「町をメチャクチャにして! もう許さないぞ!」

 

 フィアラ「こっちの台詞だ! あんなクズを庇い立てして、タダで済むと思うな!」

 

 

 VS壇闘志也

 

 フィアラ「あんな奴を野放しにするなんて、前の世界から全然変わってないな!」

 

 ジュリイ「何の説明も無しにそんなこと言われてもね」

 

 キラケン「落ち着け! ここはキラキラコンビのワシに免じて────」

 

 フィアラ「問答無用っ!!」

 

 闘志也「聞く耳持たずかよ……! ならこっちだって力ずくで止めてやる!」

 

 

 

 VSデュオ・マックスウェル

 

 デュオ「だ~もう! なんだってコイツはこう感情的なんだよ!」

 

 フィアラ「私は私の為に戦ってるんだ! だから、今も私の為にあの男を殺すんだよ!」

 

 デュオ「ゼロが何をしたか知らねぇが、アイツはまだZEXISに必要な奴なんでな! 悪いが、諦めてもらうぜ!」

 

 

 VS天空侍斗牙

 

 リイル「私達を殺そうとしてきてる……!」

 

 ミツキ「彼女を止めないと、特区・日本への被害も大きくなるわ!」

 

 琉菜「いい加減にしなさいよこのバカ!」

 

 フィアラ「力の無い人達の為の牙、がお前達のスローガンだろ? 良かったな。これで私を殺す理由も出来ただろう?」

 

 エイジ「勝手な解釈してんじゃねぇ!」

 

 斗牙「ここに住む人達を守る為に、僕達が君を止めてみせる!」

 

 

 VS流竜馬

 

 隼人「弁慶。お前なら、あの娘とどう接する?」

 

 弁慶「こんな時にくだねぇことを訊いてんじゃねぇ! だか先ずは向こうの話を聞かなきゃ説教も出来ねぇのは確かだろうぜ」

 

 竜馬「なら、ゲンコツ喰らわせてでも止めてやらなきゃなっ!」

 

 フィアラ「ゲッター線に選ばれた戦士。皇帝に進化する前にここで斬り捨てるのも……」

 

 

 VS熱気バサラ

 

 フィアラ「邪魔だよ!」

 

 バサラ「さっきより熱が乗ってるじゃねぇか! だけどな、そんなやり方じゃ何も動かせねぇんだよ! だから────」

 

 フィアラ「邪魔だって言ってる!」

 

 バサラ「俺の歌を聴けぇっ!!」

 

 

 VS破嵐万丈

 

 万丈「ゼロめ。いったい彼女に何をした」

 

 フィアラ「邪魔なんだよ、このデカブツッ!」

 

 万丈「何にせよ、彼女をこれ以上暴れさせる訳にはいかないか。どちらに非があるか知るのはその後だ」

 

 

 VSヒイロ・ユイ

 

 ヒイロ「ターゲット確認。これより排除する」

 

 フィアラ「反応が速い! だけど────!」

 

 ヒイロ「お前が暴走したのなら、俺がお前を殺す……!」

 

 

 VS飛鷹葵

 

 フィアラ「立ち塞がるならバラバラにしてやる……っ!」

 

 ジョニー「前と違ってやる気満々ですね」

 

 くらら「場所を移す配慮もないしね」

 

 朔哉「くそ! ゼロの奴、なにしたんだよ」

 

 葵「全力で向かってくる熱さは嫌いじゃないけど、ちょっと周りを見なさ過ぎよ!」

 

 

 

 VS藤原忍

 

 忍「俺は他の連中みたいに容赦をするつもりはねぇ!」

 

 フィアラ「上等だ! やれるものならやってみろ!」

 

 忍「癇癪で人様に迷惑かけるガキはお仕置きだ!」

 

 

 

 VSホランド

 

 フィアラ「私に少しでも恩を感じてるなら、そこを退け!」

 

 ホランド「感謝はしてるさ……だが、今テメェに好き勝手暴れさせる訳にはいかねぇんだよ!!」

 

 フィアラ「この恩知らずがっ!」

 

 

 VSマリン・レイガン

 

 マリン「やめろ! 特区・日本を廃墟にする気か!」

 

 フィアラ「それが嫌なら、とっととゼロを差し出せ!」

 

 マリン「なら先ずは訳を話すんだ!」

 

 フィアラ「それじゃあ遅いって言ってるんだ!」

 

 

 VS明神タケル

 

 フィアラ「機体の爆弾が消えたのは幸いだよ! お陰で全力で潰しにかかれる!」

 

 タケル「俺は君と戦うつもりない。だけど、ゼロを殺させるつもりもない!」

 

 フィアラ「言ってろ! それが通用する状況だと思うなら!」

 

 

 VSラクス・クライン

 

 ラクス「フィアラ。止まりなさい!」

 

 フィアラ「ゼロを殺ってからだよ! またラクスさんをくだらない事に利用されてたまるかっ!」

 

 ラクス「なにを……」

 

 バルドフェルド「やれやれ。話には聞いていたが、人が変わりすぎだねぇ、あの子は」

 

 ラクス「艦長。コックピットは避けてください。彼女は死んではならない人です。世界にとっても。私達にとっても」

 

 

 VSランド・トラビス

 

 メール「ちょっと! やめてったら! 何を怒ってるのよ!!」

 

 フィアラ「下がってて! そいつを庇うのなら、あなた達でも容赦しないぞ!」

 

 メール「フィアラ!?」

 

 ランド「いや、いい。全力でぶつかってこい」

 

 メール「ダーリン!」

 

 ランド「気の済むまで付き合ってやる。その全部を受け止めてやらぁっ!!」

 

 

 VSレントン・サーストン

 

 エウレカ「戦うのをやめて!」

 

 レントン「そうだよ! こんな方法を取らなくったって、他に方法があるだろ!」

 

 フィアラ「君だって理不尽な目に遭わされれば武器を取るだろうに! 理由が自分か他人かの違いだけだ!」

 

 

 

 VSロジャー・スミス

 

 ロジャー「……ゼロが君に何かしらの非道を行ったのは事実なのだろう。しかしもう話し合う余地はないのか?」

 

 フィアラ「あるかっ!! 交渉人としての仕事がしたいなら時期を見誤ったなっ!」

 

 ロジャー「いいや、まだだよ。多少乱暴ではあるが、君にはこの事態を説明する為の席に着いてもらう!」

 

 

 VSロラン・セアック

 

 ロラン「コックピットを狙って!?」

 

 フィアラ「戦場で敵を討たないのは気に入らないらしいからな! 御要望通りに殺ってやるよ!」

 

 ロラン「そうじゃない! 僕達はっ!!」

 

 フィアラ「お前達に都合の良い言い訳なんぞ今更聞くか!」

 

 ロラン「どうして話を聞いてくれないんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ1:フィアラ攻撃台詞

 

 エネルギーマシンガン

 パターン1

「下手な鉄砲数撃ち当たるってね」

 パターン2

 フィアラ「弾幕くらいにはなるでしょ!」

 

 高出力エネルギーライフル

 パターン1

「射撃はあんまり得意じゃないけど……!」

 パターン2

「この距離なら外さない!」

 

 足部エネルギーブレイド

 パターン1

「武器を扱うのは、腕だけじゃないんだよ!」

 パターン2

「接近すれば!」

 

 シールド内蔵ブレイド

 パターン1

「この機体には、こういう武器だって!」

「ハァアアアッ!!」

 パターン2

「接近戦の隠し武器には事欠かなくてね!」

「ハァアアアッ!!」

 

 次元エネルギー物質化ブレイド。

 パターン1

「これ13km伸びるらしいよ?」

「ハァッ!!」

 パターン2

「突いてから斬る!」

「私でも、これくらいは!」

 

 総攻撃

「全武装を叩き込めば!」

「先ずは牽制しつつ接近」

「蹴り斬る!」

「これで、終わりっ!!」

「敵機撃墜! 次!」※撃墜時。

 

 歌

「終わらせようか」

「私の歌は、世界を侵す」

「(次元エネルギー収束開始。存在の崩壊へと導くイメージを!)」

「────」

「さようなら……」※撃墜時

 

 

 

 

 

 オマケ2

 

 おまけ。

 

「何をしてるの? フィアラ」

 

「見て分かるでしょ? 店番ですとも」

 

 キラとアスランが何気なくAGが運営するDトレーダーに寄ると、そこにはまったくやる気の感じられない様子のフィアラが会計席で雑誌を読んでいた。

 

「AGはどうしたんだ?」

 

「さっきちょっとしたケンカになって、装甲をハンマーでベッコンベッコンにしてやったから。今はその修理に引っ込んでますよ」

 

 奥の方を指差す。

 するとまたパラパラと雑誌を捲り出した。

 

「いや、何だってそんな事に?」

 

 恐る恐る問いかけるとフィアラは、んー? と一拍置いてから答えるなのは。

 

「人の胸をポンポン触れてきて『いやー女性ホルモンが全然足りませんね。豊胸剤とか入ります?』とか。あと、人の下半身を見て『実は生えてたりしません?』とかしつこく訊いてくるのが鬱陶しくて黙らせた」

 

 その説明にキラとアスランがフィアラのある部分に視線を落とす。そして思わずだが小さく声が出た。

 

『あぁ……』

 

「……その相づちがどこを見て発せられたのかを聞いても?」

 

 おそらくAGを叩いたであろう、ハンマーを指でコツコツと叩く。

 2人は視線を視線を泳がせてから話題を変えた。

 

「そ、そう言えばフィアラってAGと仲良いよね!」

 

「……あからさまな話題変更。まぁ、いいですけど。以前ちょっと世話になってた時期があるんです。それだけですよ」

 

「それは、AGが所属しているDEMコーポレーションという会社にか?」

 

「ん。まぁ、そうなるのかな」

 

 何とも言えない曖昧な答えを返すフィアラ。

 すると店の奥からAGが出てくる。

 

「いやー。ヒドイ目に遭いました。ん? おやおや。キラさんにアスランさん。何かお探しで?」

 

「いや、何となく立ち寄っただけだから」

 

「そうですか。聞いてくださいよお2人共。フィアラさんったらちょっとした冗談ですぐに暴力を振るってくるんですよ! それに店番もどうせやる気0だったんでしょう?」

 

 いけませんよー、とAGが言うが、フィアラ本人は耳を塞いで無視を決め込んでいる。

 

「ほらもっと笑顔で! それでは、今日も張り切って!」

 

「商売商売……」

 

 

 

 

 

 

 

 



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希望

原作である第二次Zのコードギアス関連の情報。
ユフィ生存と特区・日本の成立。
カレンを含めた黒の騎士団の全員がゼロの正体を知らない。
ロロがルルーシュの側に居ない。
スザクがラウンズ入りしていない。
ナナリーの立ち位置が破界篇と変わらない。
オレンジ卿からの情報でギアス教団は壊滅。
C.Cは精神退行中。
作者の都合により、扇とヴィレッタ関連のイベントは破界篇から全面カット。


『今回、特区・日本の防衛支援をありがとうございます』

 

 ユーフェミアが通信越しにZEXISに礼を言う。

 側には、行方不明であるスザクの代わりにラウンズであるジノとアーニャが控えている。

 

「それよりもユーフェミア総督。特区の被害はどうなっている?」

 

 ゼロの質問にユーフェミアは苦い顔になった。

 

『皆さんが迅速に対応してくれたお陰で、PMからの被害は最小限に食い止められました。ただ……』

 

 少し言いづらそうにした後に話を続ける。

 

『例の所属不明機。あの機体との戦闘で避難していた方や、誘導を行っていた黒の騎士団の方に被害が出ました。被害の規模については現在調査中です』

 

「……そうか」

 

 立場が人を作ると言うが、特区・日本を治める立場に立ってからユーフェミアは為政者としての顔に成りつつある。

 それから幾つかの情報をやり取りして通信を切る。

 すると周囲はゼロに対して疑念の視線を向けていた。

 皆を代表してジェフリーがゼロに問いかける。

 

「今回、フィアラ・フィレス君の暴走について説明を求める」

 

「説明、と言われてもな。私とて今回の事態には困惑している」

 

 本当に知らないとばかりの態度。

 今までなら、納得は出来ずとも見過ごす選択も在ったかもしれない。

 だが今回は事情が違う。

 そこでアムロが前に出る。

 

「ゼロ。俺達は今までお前の不審な行動に目を瞑ってきた。しかし、今回はそれでは済まない事をお前も分かっている筈だ」

 

 フィアラ・フィレスとの戦闘でZEXISのメンバーにも被害が出たのだ。

 知りませんでは済まない。

 かと言って、ゼロが何をしたのか、明確な証拠が有る訳でもないのも事実だ。

 

「そう言われてもな。元々フィアラ・フィレスは我々に敵意を抱いていたのは事実だ。それが何らかの形で爆発しても不思議ではあるまい」

 

 シラを切るような態度に黒の騎士団である玉城が加勢する。

 

「そうだぜ。あの子が勝手にやって来て勝手に因縁ふっかけて来たんだろ!」

 

「だが、現れた時のフィアラ・フィレスの様子は明らかにおかしかった。何故彼女は特区・日本を助けに来るような真似をした?」

 

 彼女の話を信じるなら、既にPMの世界へ行く切符を手にしている為に、これ以上はPMの戦闘に関与しないとの事だった。

 ここ最近は現れる事もなく、被害に対して静観を決め込んでいた。

 良くも悪くも有言実行なところのあるフィアラが何故この地だけPMの討伐を行ったのか。

 

「彼女なりの事情が有ったのだろう。我々が推測できる事ではない」

 

 他人事のように言い放つゼロ。

 それに鋭い視線を向けたのはクロウだった。

 

「破界事変の時から今日まで、お前さんが本気で世界を変えようと戦ってたのは知ってる。だけどな、エスター達がああなった以上、俺らも今回そう簡単に納得してやる訳にはいかねぇんだよ」

 

 先日ようやく次元獣から人間に戻れた大事な後輩であるエスターの消失に普段は軽口の多い彼だがこの時ばかりはそうはいかなかった。

 このままのらりくらりとやり過ごそうモノなら、強引に口を割らせるのも視野に入れる。

 険悪な空気になるZEXIS内。

 ゼロを守ろうとジェレミアが彼の前に立っている。

 そんな中でアナ姫がポツリと呟いた。

 

「知っていますか? ゼロ……」

 

 突然口を開いた彼女に視線が集まる。

 

「フィアラは人を傷付ける事を言う時もありますが、基本的に彼女は嘘を吐かないんですよ」

 

 感情だけの言動が多いフィアラ。

 しかし嘘を吐くのが苦手なのか、彼女は隠し事はしても嘘を吐く事はない。

 だからこそこれまで彼女がもたらす情報には一定の信用があった。

 一拍置いてからアナ姫がゼロに問いかける。

 

「ゼロ。貴方は今の自分の言葉が嘘偽りが無いと誓えますか?」

 

 真っ直ぐ見つめられて問われるゼロ。

 

「私は……」

 

 僅かに言葉に詰まっていると、壁を背にして腕を組んで立っていたヒイロがスッと動き、ゼロの仮面に手を伸ばすとそのまま奪い取ってしまった。

 

「ヒイロ、貴様っ!?」

 

 手で顔半分を隠しつつもヒイロを睨み付ける素顔を晒したゼロ。

 その顔を見てカレンがゼロとは別の名を呟く。

 

「ルルーシュ……」

 

 アッシュフォード学園に在籍していた同級生。

 ゼロが未成年である可能性は破界事変の頃から予想されていたが、まさかこんな形で素顔が暴かれるとは思ってなかった。

 カレン同様、元アッシュフォードの生徒だった沙慈も言葉を出せないでいる。

 素顔を暴かれたことでヒイロがゼロに問いかけた。

 

「ゼロ。フィアラ・フィレスにギアスを使ったな?」

 

 質問という形を取っているが、その声には確信がある。

 

「……」

 

 答えずにヒイロを睨み付けるゼロ。

 

「ギアス?」

 

 誰かが疑問を口にしたことでヒイロが自分の知っている情報を明かす。

 ギアスを持つ者によって異なる能力が有ること。

 ゼロの持つギアスが他者に対する絶対命令権で有ることも。

 

「ゼロの起こした奇跡の多くがギアスの力に依る物だ」

 

「何故今まで黙ってたいた」

 

「ゼロの正体も、ギアスを持っているという事実も意味が無いと判断していた」

 

 五飛の問いに即答するヒイロ。

 彼からすればギアスもそういう武器でしかないという認識なのだ。

 それを使い、何を成すのかという面を重要視していた。

 だがらこれまで協力者という形を取り、ゼロの正体を知りながら吹聴する事もなかった。

 しかしここに来て状況が一変する。

 

「ゼロ。本当にあの子にギアスを使ったのか?」

 

「……特区・日本をPMから守る為だ」

 

 甲児の責めるような問いにゼロは眉間にしわを寄せたまま答える。

 

「それが本当なら、あの子がキレる訳だぜ。そういうの、1番嫌いそうだもんな。ということは、あの子はゼロがギアスを持ってるのを知っていた訳だ」

 

「そのようだな」

 

 他人事のように口にしているが、ゼロからすればそれが完全に予想外だった。

 クロウの言うようにフィアラがあそこまで周りを気にせず暴れる理由も頷ける。

 フィアラに限らず自分の意思を他人に渡して許せる者などそうは居ない。

 況してや、フィアラはかなり直情的な性格だ。

 そこで険しい表情を浮かべていたラクスが小さく手を上げて発言する。

 

「ゼロ。もしや、フィアラを捕らえる為、私にギアスを使いましたか?」

 

「ラクス?」

 

 僅かな怒りを滲ませて詰め寄るラクスにゼロは険しかった顔を更に歪める。

 

「PMが現れてから黒の騎士団の方と合流するまでに、不自然な記憶の空白が有ります。おそらくはそれがギアスを使われた者の後遺症」

 

 ゼロの前に立って問い質すラクス。

 

「フィアラ・フィレスに余計な抵抗をさせずにギアスをかける為────っ!?」

 

 言い訳を終える前に、ラクスがゼロの頬を張った。

 それで確認は終わりとばかりに席に戻って目を覆ってラクスは俯く。

 僅かな沈黙の後に隼人が口を開く。

 

「フィアラ・フィレスにギアスをかけた結果、此方はシモン達を失った。その落とし前をどうするつもりだ?」

 

「シモン兄ちゃん達が死んだって言うのかよ!」

 

 立ち上がるワッ太にクワトロが話に入る。

 

「そう判断せざる得まい。あの痕を見てはな……」

 

 特区・日本の一部を抉り取ったあの1撃。

 認めたくないのは皆一緒だが、あの攻撃で止めようと動いたメンバーが消えてしまったのは全員が見ていた。

 それでもいまだ信じられず、心掛け追い付かずにこれまで彼らの話題を出せなかった。

 重たい沈黙が場を支配していると、これまでバルディオスのコックピットに残っていたマリンが入ってきた。

 

「遅れて済まない」

 

「どうしたんだ? 何か調べていたようだが……」

 

 タケルが質問するとマリンは頷いて端末(ノートパソコン)を開く。

 

「聞いてくれ。もしかしたら消えた彼らは無事かもしれない」

 

 マリンの言葉に全員が注目する。

 

「S4Uの最後の攻撃について調べてみた。すると、エターナルと合流した時とはデータが明らかに違っていた。むしろ、カミナシティでフィアラが消えた時の空間の反応と同様のデータが観測された」

 

 フィアラがPMの世界に跳んだ時と同じ反応。

 

「目的を達せられないと判断して逃げようとしたのか。それとも俺達を何処かへ跳ばそうとしたのかは分からない。だが────」

 

「シモン達は無事ってこと?」

 

「可能性の話だが……」

 

「いや、絶対に無事だ。アイツらがあの程度でくたばる訳ねぇぜ」

 

 マリンの報告に竜馬が笑みを浮かべている。

 他の面々も希望が持てた事でモチベーションを上げる。

 シンが居なくなった事で気落ちしていたルナマリアの肩にファが手を置き、ランド達が無事な可能性に旧友達が表情を和らげる。

 そんな中でジェフリーがゼロに言う。

 

「ゼロ。例え彼らが無事だったとしても、今君を信じる事は出来ないのは理解しているな」

 

「私を追放するか?」

 

「貴方の事だもの。そんな事をしたら、何をしでかすか分からないわ。しばらくは監視を付けて自室で待機していて。流石に私達全員にギアスはかけられないでしょう。そうでなかったら、私達はとっくに貴方の私兵になっていたわ。まだ聞かなきゃいけない事もあるしね」

 

 自分達にもギアスをかけられた者が他にも居るかもしれない。

 少なくとも今まで通り肩を並べて戦うのはとてもじゃないが無理だ。

 ゼロの監視役をヒイロが立候補する。

 

「ゼロの監視役は俺がやろう。今回の件は今までゼロを放置していた俺のミスでもある」

 

「なら俺もゼロの監視を引き受けよう。もしも奴が不審な行動に出たのなら俺が始末を付ける」

 

 五飛も監視役に立候補する。

 ゼロを連行されようとするのをジェレミアが防ごうとしたが、ゼロ自身が制止する。

 ここでZEXISの戦力を減らす事に誰も得をしないからだ。

 すれ違い様にロジャーがゼロに言う。

 

「君が今回、このような手段に出たことを残念に思うよ」

 

「……」

 

 ロジャーの言葉にゼロは何の反応も返さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 S4Uの球体が広がった光に呑みこまれ、光が止むとまったく違う景色が映し出されていた。

 

「なんだよこれはっ!?」

 

 コックピットの中でシンは周囲を見渡す。

 前後左右上下。

 あらゆる方面に埋め尽くされたPMの群れ。

 近くにいた何体ものPMがシンのデスティニー目掛けて突っ込んできた。

 

 

 




取り敢えずゼロへの処分は保留です。
取り調べとかから。

戦闘前会話にオレンジ卿追加。


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姉妹の再会

「フルドリライズ!! ぶち抜けぇええええっ!!」

 

 グレンラガンが全身からドリルを発射して周囲のPMを排除する。

 別のところではガンレオンが大型スパナをブン回してPMを蹴散らす。

 

「ダーリン! 次来るよ!!」

 

「チィッ!! 数が多いぜっ!」

 

 ランドはぼやきながらも休みなく大型の敵を倒していく。

 シンのデスティニーが突っ込み、エスターが援護回っている。

 小型のPMはランスロットが蹴散らしていた。

 

「俺の歌を聴けぇっ!!」

 

 バサラもいつも通り、襲いかかってくるPM相手に歌い続ける。

 そんな中でフィアラは────。

 

「……」

 

 向かってくるPMをひたすら斬り捨てていた。

 無言で戦闘しているエスターが通信を入れる。

 

「ちょっと! さっきから戦ってないで、アタシ達を地球に戻してよ!」

 

「……人の邪魔はするくせに、都合良くこっちを頼らないでくれるかな」

 

「フィアラ?」

 

 呆れるように返答するフィアラにメールが首をかしげる。

 

「せっかくゼロだけこっちに送って手打ちにしようと思ったのに邪魔をして。お陰で制御に失敗するし……ハァ……」

 

 溜め息を吐くフィアラにシンが声を荒らげる。

 

「そんな事を言ってる場合か!」

 

「煩いなぁ。玄関の開け閉めじゃないんだから、そんな簡単に世界の移動なんて出来る訳無いでしょ。こっち側に来たら元の世界に戻るのにちょっと時間がかかる、のっ!!」

 

 後ろから突進してきたPMを突き刺して黙らせる。

 

「でもま、私が今帰れようが後で帰れようが関係無いでしょう? 私は1人で勝手に帰る。そっちも勝手に帰れば?」

 

「おいっ!?」

 

 フィアラの心無い発言にランドが反応する。

 

「大丈夫大丈夫。きっと何かいつもみたいによく分からない理不尽な奇跡が起きて結局助かりますって」

 

 面倒臭さと投げやりな態度でそう言うフィアラ。

 本当に自分だけで帰るつもりなのか、少しずつランド達から距離を取る。

 元々ここでの戦闘はフィアラの方が豊富なのだ。逃げる方法なんぞ幾らでもある。

 そこでグレンラガンに乗るヴィラルが舌打ちする。

 

「しかしなんだここは? まるでこの世界自体がこのバケモノで造られているかのようだが……」

 

「正解。ここはPMが自分達の身体で造った1個の惑星と考えて良い。色んな世界から食い物にした魂魄を使って少しずつ大きさや兵の数を増やしてる。だから気を付けなよ。前に言ったように耐性を作った私はともかく、貴方達はここに長居すると、ここの毒素で魂を奪われてここの一部にされるよ」

 

「お前っ!!」

 

 他人事のようにせせら笑いフィアラにシモンが不快感を露にする。

 そんな中でランスロットの様子がおかしかった。

 

「スザク?」

 

「……!?」

 

 スザクの愛機。ランスロット・アルビオンのエナジーが心許ない。

 今すぐエナジーが尽きる訳ではないが、長期戦になれば間違いなく1番早く動かなくなる。

 仲間の足手まといになるかもしれないという焦りが生まれる。

 

「くっ、しまっ!?」

 

 焦りが生んだ一瞬の隙に脚部を掴まれる。

 そのまま地面に叩き付けられた。

 

「ぐあっ!?」

 

「スザクッ!?」

 

 衝撃に呻くスザクにシンが援護に向かう。

 しかしここはあらゆる全てがPMというバケモノに因って構成された世界。

 地面に落ちたランスロットは機体を拘束され、所々に眼球のある複数の触手から攻撃を受ける。

 シンとエスターがランスロットを攻撃する触手を斬るが、1本斬っても3本生えてくる始末。

 スザクはコックピットの中で自分の死を感じていた。

 

(死ぬ────このままじゃ。僕は……俺は……!)

 

 死が迫った時に感じるアレに意識が呑まれる。

 アレに呑まれると気が付けば毎回周囲に破壊が撒き散らされていた。

 自分はまったく覚えていないのに、後から見る映像でまるで鬼神のような戦果だけが残る。

 でも今は駄目だ。

 あんな戦い方をすれば周囲も巻き込んでしまう。

 あの苛烈さとそれを制御する冷静さが必要なのだ。

 これまで世話になった人達の顔が浮かぶ。

 アッシュフォード学園の生徒会やブリタニア・ユニオンで関わった人達。

 それにZEXIS。

 

(ナナリー……ユフィ……ルルーシュッ!!)

 

 最も身近な者達が頭に過ると、溺れ落ちた海水から海面へと抜け出すように意識が鮮明になる。

 

「俺は……生きるっ!!」

 

 極限を超えた精神力。

 それが今、彼にかけられた生きろというギアスを凌駕した。

 両手に握られたMVSと脚部のスラッシュハーケンを駆使してPMの拘束から抜け出す。

 自由になったランスロットはエナジーウイングから放たれる刃でPMを斬り刻んで行く。

 

「無事か! スザク!」

 

「大丈夫。でもこのままじゃ……!」

 

 いずれはエナジーが尽きる事に変わりない。

 永遠に戦闘を続けられる訳ではないのだ。

 フィアラはやはり言葉通りシン達を助ける気は無いのか、少しずつ離れていく。

 そんな中でバサラがフィアラに通信を繋いできた。

 

「おい! ボサッとしてんじゃねぇ! お前も歌えっ!」

 

「はぁ? あぁ。PMの毒をなんとかして欲しいなら他を当たって────」

 

「そんなことはどうでもいいんだよ! コイツらがお前の歌を聴きたがってんだ! だからお前も歌えっ!」

 

「意味がわからない……」

 

 そもそもPMに今更そんな人間らしい思考や感情が残っているとは思えない。

 それでもバサラは歌えとせっついてくる。

 それに根負けしてフィアラは口を開いた。

 

「私の歌は、世界を侵す……」

 

 本当にただPMに歌を届ける為の力の使用。

 フィアラの歌がPMの世界に響き渡る。

 今までは戦うことに必死で必要も無かったから、此方の世界で歌うことは無かった。

 だからこそ今、フィアラの歌に惹かれて()()を呼び寄せる事が出来た。

 その異変に気付いたのはエスターが最初だった。

 

「人?」

 

 ブラスタEsがその人物の姿を映して思わず動きが止まる。

 望遠を調整してハッキリと見ようとした。

 するとその姿を視認して何度も瞬きをする。

 

「フィアラ……?」

 

 見た女性はフィアラ・フィレスとそっくりだった。

 見た目の年齢は二十代前半くらいで銀の髪が地につく程に長い裸の女性。

 もしもフィアラが成長したのなら、きっとあそこに居る女性と似た容姿に成長しただろうと思える。

 エスターが動きを止めた事で、皆がその女性に気付く。

 そしてフィアラが小さく呟いた。

 

「姉、さん……」

 

「えっ!?」

 

 フィアラの呟きにメールが驚きから声を出す。

 

「どういうことだ!」

 

 事情を知らないシモンがフィアラに問い質すが、その声が届いてないようにフィアラは動揺している。

 

「あり得ないあり得ない。なんでぇ……っ!?」

 

「どうした、フィアラ!?」

 

 ランドの呼びかけにも応えずただただあり得ないと繰り返しながら状況を整理する。

 姉に肉体が残っているなどあり得ない。

 姉が脳と脊髄だけにされてガラスケースに収められた姿をフィアラは確かに見ていた。

 だから姉があの姿で居る事はあり得ないのだ。

 考えられるとするなら────。

 

「っ! そうか……姉さんの脳から情報を取得して、肉体を再構成させたのか……!」

 

 忌々しげにフィアラが呟く。

 アレは偽物だ。

 姉の姿をしたPMでしかない。

 アクセルを踏んで姉の姿を真似たPMの下へ加速する。

 

「フィアラッ!?」

 

 いきなり加速したS4UにエスターのブラスタEsが続く。

 機体の中でフィアラは唇を噛んだ。

 

「どいつもこいつも……」

 

 姉の姿をしたPMに向けて手にしている剣を構える。

 

「私達を玩んでぇっ!!」

 

 そのまま刀身を振り下ろした。

 しかしその1撃は見えない力場(フィールド)によって防がれる。

 

「つっ! このぉっ!!」

 

 フィアラは強引に斬り裂こうとするが、S4Uが弾き飛ばされる。

 姿勢制御を行い、体勢を直すとギリッと奥歯を噛む。

 デスティニーで追い付いたシンが制止する。

 

「落ち着けよ! そんな調子じゃあ、本当に墜とされるぞ!!」

 

「うるさいっ! 邪魔だからとっとと失せろよっ!!」

 

「なぁっ!? お前……!」

 

 あまりにもあんまりな態度に怒鳴り返しそうになるが、フィアラの姉の姿をしたPMに変化が生じる。

 背を思いっきり反ると、身体がボコボコと歪に炭酸の泡のように広がり、図体が瞬く間に大きくなっていく。

 普通の人間サイズだったそれは、ドンドン膨らみ、軽く100mは越える巨体に変化する。

 

「姉さん……!」

 

 姉の存在をここまで利用された怒りから沸騰した頭から視界が赤くなったような錯覚を覚える。

 巨体化したその口から歌が紡がれる。

 

『ラララーラ、ラララー』

 

(この感じ……ヤバいっ!?)

 

 口ずさむ音程。

 彼女が歌を口ずさむ度に()()紋様が吐き出されていた。

 以前フィアラが軌道エレベーターに現れた時にやったのと同じ。

 ZONEを暴走させた時と同等の作用をもたらす禁じ手。

 紋様の帯が襲撃してくる。

 

「わっ!?」

 

「しまったっ!?」

 

 避けるのが遅れたブラスタEsのライフルとグレンラガンのウイングの一部分が消滅する。

 そんな中で突っ込んで行く機体が1機。

 

「俺の歌を聴けえぇっ!!」

 

 聴こえてくる歌と競うようにバサラが歌う。

 すると軌道エレベーターの時と同じように赤い紋様は無力化されていった。

 しかし別のPMも此方への攻撃を再開し始めている。

 どういう理屈でバサラが赤い紋様を抑えられるのかは分からないが、このまだと確実に全員が無駄死にする。

 

「姉さんごめん……」

 

 動きを止めていると、上から中型のPMが降ってきたが、ガンレオンが装備したカッターで切り捨てる。

 

「ボケッとしてんじゃねぇ! 死ぬぞ!」

 

「……撤退する」

 

「あん?」

 

「向こうの世界に戻る! 残りたくなかったら、私の近くに来なさい!」

 

 それだけ言うと、周囲が何か言ってくる前に歌う。

 

「私の歌は、世界を繋ぐ……!」

 

 金の紋様がS4Uを中心に広がり、その帯が他の機体に巻き付くように包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面が一変する。

 PM(敵機)だらけの世界から岩肌だらけの場所へと転移した。

 

「ここは?」

 

「どうやら暗黒大陸らしいな。カミナシティから少し離れた場所のようだが……」

 

 シモンの疑問にヴィラルが答える。

 

「全員無事か?」

 

「何とか。あ~流石にダメかと思ったぁ」

 

「こっちも無事だ。スザクは?」

 

「何とかね。でも、ランスロットのエナジーはほぼ使いきっちゃったよ……」

 

 それぞれ無事を確認し合う中、フィアラだけは応答が無かった。

 

「フィアラ! ちょっと返事しなよ!」

 

 通信を切っているのか、此方の呼びかけが通じない。

 心配になりS4Uのコックピットハッチを外部から解放する。

 ハッチが開き、中に覗き混むと蹴りが飛んできた。

 

「おっとっ!?」

 

 1番前に居たランドの胸板を蹴る形になったが、体格の違いからフィアラの蹴りは受け止められ、機体から落ちるのは避けられた。

 

「なにやってんだお前?」

 

「別に。ストレス発散にモニター画面を蹴ってたらハッチが開いただけですが?」

 

 不貞腐れた子供そのものの態度を返すフィアラ。

 コックピットから出ると軽く伸びをして溜め息を吐く。

 そんなフィアラにシンが問い質す。

 

「お前。今回どういうつもりだったんだよ」

 

 いきなりゼロに襲いかかり、PMの世界に跳ばされた。

 幾らなんでも今回の行動はハチャメチャ過ぎる。

 しかしシンの質問に対してフィアラの返答は最悪だった。

 

「うるさい。時獄に堕ちろ」

 

「地獄って……」

 

 フィアラの返答にスザクが戸惑う。

 そこでシモンとヴィラルが会話に入ってきた。

 

「ロシウと連絡が取れた。迎えに来てくれるそうだ。話をするならカミナシティに着いてからにしよう」

 

「貴様はどうするつもりだ?」

 

 ヴィラルからすれば突然襲ってきた警戒すべき相手。

 フィアラは少し考えてから答える。

 

「……先ずはZEXISに行く」

 

「ホントッ!?」

 

 ビックリするメールにフィアラが頷いた。

 

「今度こそ、ゼロを殺すんだよ」

 

 フィアラの宣言に全員が固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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責任の所在

「シモンさん! ご無事で!」

 

「心配かけたな、ロシウ。助かったよ」

 

 陸上戦艦で迎えに来てくれたロシウをシモンは労う。

 暗黒大陸が解放されてしばらくは意見の違いから緊張感のあった2人の関係はこの戦争の中で昔のように戻っていた。

 いや、問題を乗り越えた事でより絆が強くなったのかもしれない。

 

「俺達が消えてどれくらい経っている?」

 

「凡そ5日程です」

 

「5日か……」

 

 向こうの世界と此方の世界では時間の流れが違うとは聞いていたが、思ったよりもズレがなくて助かったと思うべきか。

 

「ZEXISも明日の昼には此方に着くそうです。皆さん、安心なされてましたよ」

 

「そうか……」

 

 ロシウの言葉にシモンは皆に心配かけたことを申し訳なく思う。

 だけど、仲間が無事であることに安心してもいた。

 

「それじゃあロシウ、少しの間だけどよろしく頼む!」

 

「任せてください、シモンさん」

 

 まるでがむしゃらに前だけ見ていた頃のように固い握手をする2人。

 そこでシモンが少し離れた位置にいるフィアラに話しかけた。

 

「それで良いよな! フィアラ!」

 

 訊くと彼女はトコトコと歩いてくる。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 頭を下げたフィアラにシモンは目を丸くした。

 

「どうしました?」

 

「いや、ちゃんとお礼が言えるんだなってビックリした」

 

 これまで、ずっと喧嘩腰だった為に、ここで礼を言われるとは思わなかった。

 それもフィアラ側からすれば────。

 

「今までお礼を言われるような事をしてたつもりだったんですか?」

 

 この一言に尽きるだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カミナ・シティまで1時間程の移動。

 フィアラは自分の機体の傍で休んでいた。

 今日は色々とありすぎて、流石に疲れているのだ。

 力を抜いて水を飲んでいるとメールとエスターが近付いてくる。

 

「フィアラ……」

 

「なにか?」

 

 疲労からなのか、それともPMの世界での出来事が原因か、話しかけられるのが煩わしげに返す。

 エスターも苛立った声で話す。

 

「なにか? じゃないだろ! いきなり襲いかかってきて!」

 

「私はゼロを殺そうとしただけで、邪魔してきたのはそっちなんですけどね」

 

 プリプリと怒るエスターにフィアラは息を吐いた。

 

「ねぇ、どうして? どうしてゼロを殺そうだなんて思ったの?」

 

 メールがなるべく刺激しないように質問する。

 過ごした時間は少ないが、フィアラが理由もなくそんな事をするのが信じられなかった。

 

「……撃っていいのは撃たれる覚悟のおる奴だけ。ゼロの口癖が本人に返ってくる時がきた。それだけですよ」

 

 フィアラは空になったボトルを置く。

 自分を操っていいように使ったことを許す気はない。

 それに────。

 

(ゼロが生きている以上、同じ事が何度でも起こる)

 

 顔を合わせる度に操られる危険性が有る者など生かしておく理由がない。

 ゼロのギアスは対象1人に対して1回しか効かないのだが、それをフィアラが知る由もない。

 

「アイツは死んだ方がいい」

 

 吐き捨てるフィアラ。

 そんなフィアラの様子にエスターは苛立った様子で声を荒らげた。

 

「だーかーらー! なんでそんな考えになるんだよ! いきなり特区・日本に現れてPMを倒してくれたと思ったら攻撃してきて!」

 

 エスターからすれば訳の分からない事の連続だった。

 それで煙に巻くような言い回しをされれば怒りたくもなる

 

「……私が、何の利もない特区・日本を態々助けるような善人に見えるの?」

 

 ハッと鼻で笑うフィアラ。

 

「でも実際に────」

 

「ゼロに嵌められただけだよ。貴女達も、ゼロがこれまで起こしてきた奇跡に何の疑問も思わなかった?」

 

 そう言われても、メールもエスターもZEXISに参加したのはこの戦争からで、ゼロの事をよく知らない。

 他の仲間が信頼してるから自分も信じることにした、という感じだ。

 

「ゼロには、他者を操る力がある」

 

「はぁ?」

 

 いきなり超能力物のフィクションのような話に2人が目を丸くする。

 

「ギアスと呼ばれる精神干渉の能力。ゼロが今まで起こしてきた奇跡がそれを用いたモノ。それで操られて特区・日本を助ける事になっただけ。私の意思じゃない」

 

 コックピットから次の水を出しながら説明するフィアラ。

 すると、それまで周囲で見守っていた男性陣が話に入ってくる。

 

「それは、本当かい?」

 

 険しい表情で質問するスザクにフィアラは新しいボトルに入った水を1口飲んでから答えた。

 

「別に信じてくれなくても結構だよ。証拠もないし。でも確信はある。私はゼロに操られてあの戦闘に介入した」

 

 フィアラの言葉に思うところがあるのかスザクは考える素振りを見せる。

 ランドは信じられない様子だ。

 

「精神操作ねぇ……本当にそんな事ができんのか?」

 

「私みたいな存在を知ってて何を今更。まぁ、信じようが信じまいが、私が殺る事は変わりませんが」

 

 ゼロを殺すと言っているフィアラを動向させているのは、今回の件の真実を明白にする為だ。

 勿論フィアラに行動を共にしてほしいという欲はあるが。

 

「だったら。あの時にちゃんと言葉にすれば良かったじゃないか。態々攻撃してくる事なんてなかっただろう」

 

「うっさい黙れ」

 

 シンの言葉に一変して塩対応を見せる。

 沈黙が流れてからシンが声を荒らげた。

 

「ってなんで俺の時だけそんな態度なんだ!!」

 

「嫌いだからだけど? 自分が好かれてるとでも?」

 

 何を今更と言わんばかりに冷めた視線を送るフィアラにシンは苛立ちを募らせる。

 それにフィアラはあーはいはいと答える。

 

「即攻撃したのはZEXISに訴えても無駄だからだよ。だってZEUTHにしろZEXISにしろ、身内を処罰する事なんて無いでしょう。そこら辺はまったく期待してない」

 

 2本目のボトルを飲みながら返答する。

 エスターを指差す。

 

「カトル、だっけ? 前に貴女と一緒に行動してたガンダムのパイロット。あの人がコロニー1個ぶっ壊したって聞いたんだけど?」

 

 世間話をするような気軽さでここに居ない者の罪を問う。

 

「あぁ、勘違いしないで。私は別に彼を責めるつもりは毛頭ない。でも何故ZEXIS(貴方達)は彼の罪を許したのかって話」

 

「何故って……」

 

 フィアラはその件で加害者でも被害者でもない。だが客観的に見て、何の罰も無いのは違うと思う。

 その問いにエスターが反発する。

 

「だってそれはっ!」

 

 カトルの家族やゼロシステムの事。

 それらが重なった結果であり、カトルだけが悪い訳ではない。

 そう説明する前にフィアラが続ける。

 

「だって、じゃない。原因なんてどうでもいい。どんな理由があれ、コロニーと住民の命より優遇される事なのかって話」

 

「それは……」

 

 言われて口を閉ざすエスター。

 

「今回のゼロの件にしても同じだよ。風見とか言う科学者然り。アニューとか言う女の件然り。結局、うやむやに終わるんだから。どうせゼロがZEXISにギアスの事を自分からバラしたとしても、特区・日本を守る為だったんだから仕方ない、で済ませるに決まってる。だったら、自分の報復は自分で殺らないと」

 

「それでゼロを殺しても、今度はお前の命が狙われる側になるんだぞ!」

 

 シンが険しい表情で諭そうとする。

 ギアスの存在がそう簡単に信じられるとは思えないし、ゼロを殺せば黒の騎士団が黙ってないだろう。

 撃っては撃たれ、そしてまた撃たれる。その連鎖に何故気付かないのか。

 しかしシンの言葉にフィアラは視線を冷たくする。

 

「……貴方にあるの? 誰かを撃って、殺してやると憎まれた事が」

 

「それは……」

 

 過去に戦争に巻き込まれ、家族を失い、ZEUTHでステラをフリーダムに討たれた時も、シンは常に相手を憎む側だった。

 ZEUTHやZEXISの一員として憎悪が向けられた事は有っても、シン個人が憎まれた事はない。

 

「だったらそんな仮定を軽々しく口にするな。不愉快だ」

 

 フィアラが吐き捨てる。

 

「そもそも憎しみの連鎖云々なら、私が殺されたところで復讐しようなんて奇特な人間は1人も居ないよ。私が殺されて、それで終わりだ」

 

 周囲とそういう付き合いをしてきた。

 今更、フィアラが殺されたところで復讐を選ぶ者はいない。

 それにシンが異を唱えた。

 

「キラさんやラクス様が……」

 

「あの人達が? ないない! もしそうなら、態々戦場で敵をなるべく殺さないように立ち回ったり、ZEUTHと和解する事なんて無かったよ」

 

 フィアラが殺されたら、きっと悲しんでくれるだろう。

 だけど復讐しようと行動する事は絶対にない。

 もしもフィアラを殺した誰かを殺害したとしても、その理由はフィアラの復讐ではない。

 

「やられたらやり返し。やり返したらやり返される。その繰り返しを嫌って銃を手にしているのなら。私が殺された程度で復讐なんてしない」

 

「程度って……」

 

 フィアラの自己評価の低さに戸惑う。

 

「それよりも明日、ZEXISと合流したら気を付けないと。全員、ゼロの操り人形にされてる可能性がある」

 

 今回の件でゼロの正体が明るみになれば、ZEXISを完全に自分の支配下に置く可能性がある。

 その時は────。

 

「ゼロはそんな事しないさ」

 

 格納庫にやって来たのはつい先程までブリッジでロシウと話していたシモンとヴィラルだ。

 

「ゼロはアイツなりの覚悟を持って戦ってる。もしも誰かを操る力が有ったとしても、それを仲間に使うような奴じゃない。仮に使ったとしても、その責任は必ず取る男だ」

 

「矛盾してるよ。その責任と覚悟から逃れる為にあんな格好をして正体を隠してるんだろうに。第一それなら……」

 

 どうしてラクスにまでギアスを使ったのか。

 そう言おうとしたがやめた。

 

「それに他人事みたいに言うけど、今までゼロの奇跡の不自然さを見て見ぬふりを続けてた貴方達にだって責任があると思うんだけど?」

 

 今までゼロのヒーローごっこにどれだけの人が操られて消費されていったのか。

 別段それに心を痛める訳ではないが、あまりにも身内に甘過ぎると思う。

 

「そうだな。だから今回の件も含めて色々とハッキリさせたい。ゼロのこれまでを。だからそれまで待ってくれないか?」

 

「話にならないね」

 

 フィアラはゼロの理由になんて興味がない。そんなもの、ただの時間稼ぎにしか感じない。

 

「どんな理由があれ、私はゼロを許す気はない。もしやめさせたいなら、弱味で握って脅迫でもしたら? もしくは……」

 

 フィアラは指でピストルの形を作り、こまかみに当てて弾く動作をする。

 

「こうして私を止めるんだね。仲間を守る為に」

 

 挑発するように嗤うフィアラ。

 だがシモンはその挑発には乗らない。

 

「そんな事はさせないさ。それより、お前に訊きたい事がある。あの世界で最後に見た、フィアラに似た女はなんだ?」

 

 フィアラに似た巨大なPM、と言って良いのかは分からない。

 しかしこれまでのPMとは明らかに異質だった。

 

「それこそ、貴方達には関係ない。答える義理は、ないよ……」

 

 一瞬だけ辛そうな表情をしてそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カミナシティに到着すると、シモンの恋人であるニアが出迎えてくれた。

 

「シモン! おかえりなさい」

 

「ニア、ただいま」

 

 端から見れば仲睦まじい恋人同士の再会。

 しかしニアを見てフィアラは1人冷や汗を流してギョッと目を大きく開いた。

 

 

 

 

 

 

 




ZEXIS合流まで書きたい事を全部書こうとしたらもう1話かかりそうなので分けます。


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貴女が受け取るべき物

「フィアラッ!? 良かった! 目が覚めましたのですね!」

 

 珍しく慌てた声を上げるラクスにフィアラは首を傾げる。

 ベッドで身動ぎすると腹部に痛みが走った。

 

「つあぁ……っ!?」

 

「動かないでください! 貴女は刺されたのですから!」

 

「さされ……?」

 

 そこで何があったのか思い出す。

 いつものようにラクスに食事に誘われてやって来た小さな町で待ち合わせをしていた。

 ラクスを見つけて合流しようと横断歩道を渡ろうとしたところで誰かに刺されたのだ。

 

「……フィアラ。起きたばかりの貴女にこのような事を訊くべきなのか迷いますが、刺された理由に覚えは?」

 

「有りすぎてわかんないね……」

 

 実際にこの世界に来てからフィアラ自身騒動を起こすことも多く、恨まれる理由は幾らでも思い付く。

 痛みを我慢しながらゆっくりと上半身を起こすと、病院の個室の扉がノックされて失礼と、とサンドマンが入ってきた。

 

「フィアラ君を刺した男性は警察に連れていかれたよ」

 

 男性がフィアラを刺した際に、即座にサンドマンが相手を取り押さえた。

 その後、町の警察に引き渡したのだ。

 

「彼は元々ここから南西に位置する町で暮らしていたらしい。何か心当たりは?」

 

 サンドマンの話を聞いて思い至り、フィアラはあぁ、と息を吐く。

 

「以前、PMが出現したから対処した。その後にファイヤバグとか言う傭兵団に町の人間を人質に取られて仕方なく姿を晒した」

 

 破界事変の時にファイヤバグに捕まり、その時のフィアラの態度が大変よろしくなかったらしく、団長だったマリリンという女から暴行を受けた。

 フィアラの身体に残っている傷の殆んどがその時に刻まれた物だ。

 

「逃げる際に何人か団員を殺した。町を見捨てる形になってね。その時に町の人間にも姿を見せてたから。その町も、ファイヤバグに壊滅させられたと聞いたけど」

 

 そこまで聞いて大体の事情を把握するラクスとサンドマン。

 本来憎むべきはファイヤバグなのだろうが、傭兵団と1人の少女のどちらかが手を出しやすいかと言えば────。

 フィアラの責任でなくとも、原因の1人には違いない。憎む理由が何でも良いのならなおのこと。

 サンドマンにから話を聞いてフィアラは自分の銃を手に取る。

 

「ちょっと撃ってきます」

 

 ベッドから降りようとすると、ラクスはフィアラが持つ銃に手を添えて問いかける。

 

「相手を撃てば、癒されますか?」

 

「……殴られたら殴り返されるのは当たり前だって教える必要があるでしょう。泣き寝入りだなんてゴメンですとも。大丈夫、命までは取りません」

 

 原因がフィアラにも有ったとしても、それはそれである。

 だが、過去の大戦を経験しているラクスからすればその果てを予想してフィアラを止める。

 

「誰かに痛みは与えれば、その痛みは必ず自分に返ってきます。その引き金を引いてしまえば、いつかまたフィアラを傷付けようとする人が現れるでしょう」

 

「だから、相手が諦めるまで死なない程度に殴られろとでも?」

 

 相手が殴るのを止めるとは限らない。

 むしろ無抵抗は調子づかせるだけなのだ。

 だからこそ、痛みを与える必要がある。

 

「それも違います。与えられる理不尽に怒りや悲しみを抱くのは当然の事で、人として必要な事です」

 

 ラクスもかつては父を祖国のプラントに殺された身だ。

 それはナチュラルに対して募っていく憎悪に対して少しでも冷静になって欲しいとプラント市民に呼びかけ続けた。

 何より、当時の最新鋭機だったフリーダムをキラに渡した件。

 だからラクスが父を殺されたのは彼女の行動に依る自業自得な面もある。

 だからと言って、父を殺した者や、それを命じた者を怒りや憎しみを抱かなかったのか? と問われれば、首を横に振るだろう。

 

「大事なのは、その感情とどう向き合うかです。ただ怒りや憎しみのままに動けば、その行動の結果は必ず自分に返ってきます」

 

 ここで暴力を返したとしてもまた、もしくは別の誰かがフィアラに襲いかかってくる。

 だからこそ安易な暴力に頼るのではなく、向き合い方と戦い方を考えなければならない。

 無抵抗主義と平和主義は似て非なる物だから。

 ラクスの言葉に納得してない様子のフィアラにサンドマンが情報を追加する。

 

「どの道、君を刺した男性は警察署だよ。面会をするのも難しいだろう」

 

 サンドマンの言葉にフィアラは更に苛立ちを募らせて舌打ちする。

 

「フィアラにもいつか、理解(わか)ってくれると良いのですが」

 

 優しく語りかけるラクス。

 だが結局今も、フィアラは理解できずにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~……広いお風呂さいこー」

 

 メールがふやけた表情で湯に浸かる。

 ここにはメールだけではなく、エスターとフィアラも居た。

 3人共、特区・日本やPMの本拠地での戦闘での疲労がある。

 野郎共も、男性用の大浴場で汗を流しているだろう。

 フィアラも隅っこで湯槽に浸かっていると、エスターが近付いてきた。

 

「お前さ。アレはないんじゃないか?」

 

「なにが?」

 

「シンの事だよ! アイツにだけあの対応は酷いと思うぞ!」

 

「はぁ……互いに仲良くなる理由が無いんだからしょーがない。それと、せっかく気分良くなってるのに腹立つ話題を振るのはやめて」

 

 ニッコリと笑って言うフィアラにエスターは不満そうに唇を尖らせる。

 その様子にフィアラはため息を吐く。

 

「そもそも、相手を嫌うのには大した理由は要らないけど、相手を好きになるには相応の理由が必要だし。私には彼に対して好意的に接する理由がまったくない」

 

 フィアラの言葉にエスターは眉間にしわを寄せる。

 そよ反応にフィアラは面倒そうに話す。

 

「嫌いな相手なら関わらなければいいだけだけど、好きな相手なら一緒に居て、相手の何かを欲しがったり与えたくなる物でしょう? なら、何かしらの理由は必要だ。それが他人からしたら些細な事だったとしても」

 

 それこそ、顔が好みとか自分に優しくしてくれるとかそんな事で良いのだ。

 だが嫌いな相手ならそもそも近寄らなければいいだけの話。

 

「初対面で対応を誤ったのは向こうなんだ。なのに、なんで今更仲良しこよししなきゃならないのか」

 

 もしもZEUTHで初めて会ったあの時に、別の対応をしていれば、また関係が違っていたかもしれないが、そうはならなかった。

 

「自分に危害を加えたヤツなんて、心を開く価値がない」

 

 断言するフィアラにメールが話しかけてくる。

 

「だからゼロを殺すの?」

 

「当たり前です。私の件が無かったとしても、好き勝手人を操るような奴、さっさと殺した方がいい」

 

「でもさ。別に悪いことやらされた訳じゃないだろ」

 

 ゼロがフィアラに命じた事は特区・日本を助けろ、というだけだ。

 確かに気に入らないだろうが、殺す殺さないに発展するのはエスターには少々オーバーに感じる。

 

「人の心を操るヤツだよ? ZEXISだって今頃、ゼロの操り人形になってる可能性も有るんだから」

 

 自棄になったゼロがZEXISを乗っ取っている事態も想定される。

 というか、今までそうしなかったのが不思議なくらいだ。

 ZEXISと合流した時はそこら辺を確りと見極めないと。

 ラクスやキラ。それにアナ姫がゼロの傀儡にされている可能性を想像し、その不安を上を向いて吐息と共に吐き出す。

 

「大体、私の力だってノーリスクな訳じゃ────」

 

 そこで大浴場の扉が開いた。

 貸切だと聞いていたので、3人は不思議そうにする。

 入ってきたのは体にタオルを巻いたニアだった。

 

「私も一緒にいいですか?」

 

「え! はい! どうぞどうぞ! 借りてるのはアタシ達の方ですし」

 

「ありがとうございます」

 

 メールが了承すると嬉しそうにニアも浴槽に浸かる。

 その時にニアの揺れる胸部を見て3人がそれぞれ平らな自分の胸を見る。

 

「どうしましたか?」

 

 不思議そうにするニアにメールがなんでもないと返す。

 それからニアとメール、エスターの3人で会話が弾む。

 ニアがこの戦争が始まってからのZEXISの活躍や日常の事。

 それとシモンの話などで盛り上がっている。

 それを少し距離を置いて見聞きしているフィアラだったが、ニアの方から話しかけてきた。

 

「貴女が、フィアラさん? PMを退治して回ってると聞いてます。以前カミナシティ(この街)も守ってくれた事。ありがとうございます」

 

「別に、街を守るのが目的だった訳じゃない。私は私の目的の為に動いただけ。ただの結果論です」

 

 あの時はようやくPMの世界へ行く為の扉が完成したのだ。

 その為に必要な行動を取っていただけ。

 しかし、ニアにはフィアラの行動の理由は関係なくて。

 

「でも、貴女がこの街を守ってくれた事は事実でしょう? だからやっぱりありがとう、です」

 

(グイグイ来るなぁ、この人……)

 

 手を握ってニコニコとお礼を言うニアに、戸惑う。

 

「どうしました?」

 

「いえ。こっちでPMを退治してた事を初めてちゃんとお礼を言われた気がして」

 

 前の世界ではアークエンジェルの人達からお礼を言われていたが、こっちの世界に来てからは、人との付き合いがあまりにも限られていて、お礼の1つも言われてない気がした。

 

(いや。あのスザクとかいうブリタニア騎士からは言われたか)

 

 特区・日本の宣言をした時に襲ってきたPMを排除した際に自分を守る行動と共に通信越しにお礼を言われた。

 まぁ、今更どうでもいい事だが。

 ただ、こうして面と向かって礼を言われると少し戸惑う。

 

「そうなのですか?」

 

「周りは私がアレの対処をするのが当たり前だと思ってるから」

 

 ややトゲのあるフィアラの物言いにエスターとメールが微妙な表情をした。

 いつの頃か、勝手にPMに対処するフィアラに対しての出来るのだからやってくれて当然、とまではいかないまでも、近い認識があったのは否定できない。

 だからそれを止めたフィアラに不満の声もチラホラ出ている。

 それをどう思ったのか、ニアが握る手を自分の胸に寄せて目を閉じる。

 

「なら、今まで感謝が貰えなかった分、私が伝えます! 本当にありがとうございました」

 

「貴女は……」

 

「どうしました?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 何か言いたそうなフィアラだったが、ニアの後ろに居る2人を見て口を閉ざす。

 そこでニアが少し恥ずかしそうにフィアラにお願いをした。

 

「それで、お願いがあるのですが。歌を、聴かせてくれませんか?」

 

「は?」

 

破界事変(前の戦い)で貴女の歌を聴いて、いつかちゃんと聴いてみたいと思っていたんです。ダメですか?」

 

「それは……」

 

 破界事変の際に偶然ZEXISとして遭遇した事があり、PMとの戦闘中でフィアラの"歌"を聴き入っている余裕はなかった。

 しかし、フィアラはニアから視線を外す。

 

「今は、そんな気分じゃないんで……」

 

「そうですか……」

 

 フィアラの返答にニアが残念そうに肩を落とす。

 だが、すぐに笑みを向けてきた。

 

「いつか。貴女の歌を聴かせてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の歌を聴けぇええええっ!!」

 

 即急で用意されたステージで熱気バサラが単独でライブをしている。

 立食形式の食事で一夜限りの宴が行われていた。

 熱気バサラの歌に会場は集まった人達の歓声に包まれており、フィアラは壁に背を付けて黙々と食事を摂っていた。

 

「お前は歌わねぇのか?」

 

「プロと同じステージに立つとかどんな罰ゲーム?」

 

 ランドの質問にフィアラはそう返す。

 フィアラからすれば、あくまでも歌うのは目的の為の手段であり、熱気バサラのように誰かに聴かせる為の歌ではない。

 ここの責任者であるロシウからも提案されたが同様の理由で断った。

 ステージで歌うバサラを見ながらフィアラは別の事を考える。

 

(あの場所で私が歌う事で、姉さんを取り込んだPMが出てきた。目的には大きく近付けたと言って良い)

 

 思ったより早く、姉の遺体を取り戻す事が可能かもしれないとあの時に歌えとアドバイスしてくれたバサラに後でお礼を言おうと決める。

 柔らかく蒸させた肉と野菜を食べていると、シンが何か言いたそうに此方を見ているが、無視を決め込んでいたが、いい加減、鬱陶しくなってきた。

 

「なにか? 言いたい事があるなら言ったら? 取り合うかは別だけど」

 

「……お前、本当にゼロを殺す気なのか?」

 

 まだその話を蒸し返すのかとうんざりする。

 

「止める理由がある? そんなに止めさせたいなら、ゼロに頼んでもう一度私にギアスで私を洗脳すれば? 自分達の都合の良いように。私の人格を全部否定してさ」

 

 洗脳とはそういう物だ。

 相手の願いや、やりたい事を否定して、自分達の意見に同意させる。

 そこに相手の元の意思など関係ない。

 暗にフィアラ程に拗れた相手にはそれくらいしないと駄目だと示唆する。

 

「そんな事させるか! だけど、ゼロの言い分を聞いてからでも────」

 

「心変わりを期待しているのなら無駄だよ。私はゼロの思惑や人生(かこ)に何の興味もない。やられたことの仕返しと、これからも邪魔になりそうだから排除する。それだけ」

 

 どれだけ同情すべき理由があろうと、此方に手を出した以上は話し合いは論外だ。

 

「それに、相手を操る奴に話し合いとか無意味だよ。どのタイミングで洗脳されるか分かったもんじゃない」

 

 "話し合い"をするにはゼロのギアスはあまりにも相性が悪い。

 そこでランドがあー、と提案を出す。

 

「だったら、これからゼロの奴にギアスを使わせない約束をさせるとかはどうだ?」

 

 自分でも無理があると分かっているのだろう。ランドの言葉に力がない。

 それは、まだギアスに対して半信半疑だからこそ強く案が出せないのかもしれない。

 

「それを私が信じるとでも? そもそもZEXISでは使わなくても、その輪から離れればすぐ誰かに使うでしょ。使い勝手の良い道具は誰だって手放せないし」

 

 ギアスという便利な道具を持っている者が今更対話による相互理解を重視するとは思えない。

 たとえ本人が使わないと決めても、もし危機が訪れたら、あっさりとその誓いを破るかもしれない。

 信じる要素など1つもないのだ。

 そこでスザクが話に入ってくる。

 

「それでも、少しだけ時間をくれないかな? 僕はゼロに確めなきゃいけない事があるんだ」

 

「確めたい事ねぇ? 相手がそれを素直に話すとでも?」

 

「話すさ。ゼロの正体が、僕の予想通りならきっと」

 

 何かを確信した様子のスザク。

 同時に食べ物を見て回りつつ皿に盛っていたメールとエスターがやって来た

 

「ほらダーリン! お肉とお酒ばっかりじゃなくて、野菜や果物も食べる! そんなんじゃ太るよ!」

 

「へいへい」

 

 渡されたサラダを食べるランド。

 その仲の良い男女をエスターは羨ましそうに見ていた。

 

「クロウが居たらアタシも同じ事をしてポイントを上げられるのに……」

 

 などとブツブツ言っている。

 そこでフィアラが場を離れようとする。

 それをシンが呼び止める。

 

「おい。どこ行くんだよ」

 

「関係ないでしょ、鬱陶しいな。糖尿病になれ

 

「聞こえてるぞ! どんな捨て台詞だ!?」

 

 ボソッと言った最後の言葉にシンが反応するが無視して去っていくフィアラ。

 ランドは酒を飲み干して話す。

 

「このタイミングで行方を眩ます事はねぇだろうさ。後は、ZEXISと合流してから考えようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベランダに出ていたニア。

 風に当たっていると後ろから声をかけられた。

 

「どうも」

 

「フィアラ、さん?」

 

 険しい表情のフィアラ。

 その視線は睨んでいると言ってもいい。

 

「単刀直入に訊きます。貴女は自分の今の状態────いつアンチスパイラルに意識を乗っ取られてもおかしくないと気付いていますか?」

 

 アンチスパイラルは一時的に撤退しただけであり、今も地球人類の殲滅を狙っているだろう。

 今は小休止をしているに過ぎない。

 そしてアンチスパイラルが再び動き出せば、ニアはまたメッセンジャーとして自由を奪われるだろう。

 フィアラの質問に、一瞬困ったように笑うが、すぐに強い意思を秘めて頷いた。

 

「はい。理解はしているつもりです。そしておそらくその時が、彼らとの決着となるでしょう」

 

 未来を予言するようにニアは答える。

 

「それを理解していて、あの人の傍に居るんですか?」

 

 敵になると分かっていて、シモンの傍を離れないのかと。責めるようにフィアラは問う。

 

「信じてますから。シモンなら……ZEXISならアンチスパイラルを超えていけると。だから私はシモン達を導く標としていずれは命を懸けましょう」

 

 手を組み、祈るように話す。

 

「人の心は無限。その大きさに私は賭けてみたいのです」

 

「……仮にアンチスパイラルを倒せたとして、自分がどうなるのか、理解してますか?」

 

「分かりません。どうなりますか?」

 

「消えるだけです。アンチスパイラルが滅びる以上、貴女は存在出来なくなる。アレらを倒したところで、貴女に還るモノは何もない」

 

 メッセンジャーとはそういうモノ。

 たとえアンチスパイラルの言いなりになっても、役目を終えれば不要な道具として消されるだけ。

 

「そうですか。でも、フィアラさんは1つだけ間違ってますよ」

 

「?」

 

 大まかではあるが、間違った事は言っていない筈。

 首をかしげるフィアラにニアは分かりませんか? と問う。

 

「たとえこの身体が消えても、シモン達が覚えてくれている限り、私の存在は消えない。私が皆さんと過ごした過去も」

 

 後ろ向きにではなく、本心からニアはそう信じている。

 

「惚気かよ……」

 

 ガリガリとフィアラは頭を掻いた。

 少し考えてからフィアラはベランダの手摺に立つ。

 

「危ないですよ。降りてください」

 

 注意するニアだが、フィアラは息を吸っていつもの言葉を口にする。

 

「私の歌は、世界を侵す……」

 

 フィアラを包むように黄金に光る紋様の帯が出現し、その口から歌が紡がれる。

 それは、夢を追いかける旅人の歌。

 どこまでもどこまでも進み、大切な人達に歌を届ける旅人が口ずさむ歌だった。

 フィアラはくるくると回りながら舞うように手摺の上を歩く。

 たった数分の歌が終わりを告げると同時に紋様は消え、フィアラは軽くジャンプして手摺から降りる。

 同時にパチパチとニアが拍手した。

 

「とても優しい歌でした|

 

「どうも」

 

 いつの間に持っていたのか、手の平には蝶の銀細工をニアに渡す。

 

「あげます」

 

 蝶の飾りを手にしてキョトンとするニア。

 

「アンチスパイラルが倒せば、貴女の消滅は避けられない。だけど、これを持っていれば少しだけ貴女の存在を人並みとはいかずとも、少しだけ長引かせられるはず」

 

 説明を聞いたニアが瞬きをした。

 

「アンチスパイラルの打倒は多くの宇宙の悲願です。貴女がZEXISという剣を導き、それを成すのなら、何らかの報酬が有って然るべしでしょう。要するに、報酬の前払いです」

 

「フィアラさん……貴女は……」

 

「ZEXISが出来るのは敵を倒し、脅威を払い除けるだけだ。貴女に報いれるモノは何もない。だから持っていて欲しい。どんな綺麗事を言ったって、少しでも大事な人の傍に居られるに越した事はないんだから」

 

 フィアラの力を込めた銀細工。

 それを持っていても、精々数年程度の延命だろう。

 だけどフィアラにはこれくらいしか出来ない。

 アンチスパイラルの打倒して得をするのが他人だけで、貰えるのが心の満足だけでは理不尽過ぎる。

 

「さようなら、ニアさん。ここを出たら、もう会うこともないでしょう」

 

 別れを告げてフィアラは会場へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、カミナシティはZEXISを迎え入れる前にちょっとしたトラブルに見舞われていた。

 

『我々はアロウズ。特区・日本を攻撃したテロリストの引き渡すを要求する。従わない場合は、街の安全は保証しない!』

 

 要するに、特区・日本で大暴れしたフィアラをテロリスト認定し、PMに対抗出来る彼女を確保しようというところだろう。

 ロシウが対応してるが既に彼らはMSによる威嚇射撃を行っており、このままではキルモードのオートマトンを投入しかねない。

 それを聞いていたフィアラは不愉快そうに機体のところへ移動する。

 

「1人で戦う気か」

 

 シモンの問いにフィアラは吐き捨てるように返す。

 

「外敵に対して何の役にも立たないくせに、内枠の粗を探して突っついてくるアロウズにはいい加減うんざりしてるんだよ。テロリスト認定して襲ってくるなら、もう容赦しない。そっちは私と無関係を貫けばいいよ」

 

「そんな訳にいくかよ! この街に手を出す以上、こっちも黙ってる訳にはいかねぇ!」

 

 威嚇とはいえ、既に向こうは発砲しているのだ。

 見過ごす訳にはいかない。

 それに昨日、フィアラがニアにプレゼントした蝶の銀細工。

 理由は分からないが、とても大事な物を渡されたと言っていた。

 そんな相手をどうして1人で戦わせる事ができるのか。

 そしてそれは、理由は違えど、他の面々も同じ思いだった。

 

「……好きにすれば?」

 

 物好きな、と言わんばかりの態度で機体に乗る。

 飛び出して速攻でアロウズのMSを撃墜した。

 あまり人数を割けなかったのか、数もそう多くない。

 

(さっさと片付けようか)

 

 そう思っていると、長距離からのビームがアロウズのMSを撃ち抜いた。

 ビームの方角を見ると、そこには見慣れたZEXISの戦艦が並んでいた。しかし────。

 

(黒の騎士団の旗艦がいない……)

 

 どうやらつまらない時間稼ぎをするつもりらしい。

 

『こちらはZEXIS。所属不明機は此方で保護する。これ以上の戦闘行為を行うならば、容赦はしない』

 

 脅しのような言葉と数多くの機体に不利を悟ってか、アロウズは即座に撤退を決め込んだ。

 アロウズが街の外へと移動したのを確認してからフィアラに、ラクスから通信が入る。

 

『フィアラ。此方に戦闘の意思はありません。どうか、私達に話し合いのチャンスをくれませんか』

 

 まだラクスはゼロに操られているのかもしれない。もしかしたらZEXISという部隊その物が。

 その不安が過り、警戒していると、ラクスの話が続く。

 

『ギアスやゼロの正体も既に知っています。その上で断言します。私達は操られてはいません。疑うのは仕方がありませんが、面と向かい合わなければ、確認も出来ないでしょう?』

 

 ゼロが居ない以上、この場に留まる意味はないが、情報は必要だった。

 

「取り敢えず、そちらには従います……」

 

 まったく納得してない様子で小さく息を吐いてZEXISの指示に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロが逃げた~っ!?」

 

 格納庫で話しかけてきたキラからゼロがジュレミアとC.C.。それと何故かナイトオブラウンズのアーニャと共に脱走した事を知らされる。

 黒の騎士団は斑鳩でゼロの捜索を行っているらしい。

 斜め上の事態にフィアラは額に手を当てて大きく息を吐いた。

 その息の長さが失望の度合いを表してるようだった。

 集まっているパイロット達を一瞥してからキラに問う。

 

「率直に思ったことを口にしても良いですか?」

 

「えっと……なに?」

 

 肺の限界まで息を吸うフィアラ。

 

「ホンットーに使(つっか)えないなぁっ!! この部隊はっ!!」

 

 格納庫にフィアラの嫌みが大声で響き渡った。

 

 

 

 

 

 



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