無気力高校生の浦の星学院生活記 (豚骨うどん)
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プロローグ

どうも初めまして豚骨うどんです。
因みにどちらかと言えばラーメン派です。
あ、どうでも良い?アッそう…
それではどうぞ!


「息子よ、転校しくれないか?」

 

「親父よ、説明を求む。」

 

リビングのソファで寝転がりながら漫画を読んでいたところ、急に親父が扉を開けて入ってきたかと思えば第一声がこれである。親父が突拍子もないことを言い出すのは何時もの事だが今日はいつにも増して真剣な雰囲気を醸し出している。大体こういう時碌なことじゃないのは長年の経験で分かっているため、部屋に戻ることにする。レンタルしている漫画の続きを読まなければ。

 

「おい息子よ、自分から説明を求めておいて帰ろうとするな…え、ちょっ待って。ホントに帰っちゃうの?待って、待ってくださいお願いします!」

 

「やるなら最後までキャラ通せよ。」

 

先程まで威厳たっぷりな演技を投げ打って、俺の歩みを必死になって止めようとする親父。

 

「おい大の大人が息子の足に引っ付いて駄々捏ねるなよ、みっともない。」

 

「だってだって息子が冷たいんだもん!」

 

「だもんじゃないよ。」

 

尚も俺の足にしがみつき離れない親父に溜め息をつき、諦めて話を聞く姿勢に入る。親父がここまで粘るのも珍しい。きっと大事な話なのだろう。碌なことではないことには変わりないだろうが。

 

「ほら話があるなら早く終わらせよう。明日返さなきゃいけない漫画が残ってるんだ。」

 

「まったく最初から素直に聞けばいいものを…」

 

「はよしろ。」

 

「アッハイ。」

 

おずおずと俺の前に座り話し始める親父。何でも最近行きつけの居酒屋で知り合った人がとある高校の理事長らしく、その高校の生徒が年々減少していてこのままだと廃校にせざるを得ないことを涙ながらに語ってきたらしい。自分の娘が通っている学校だから何とかしたいと言った理事長の姿が痛々しかったのと、酔っていたのとが重なって親父はつい口を滑らせてしまったらしい。『うちの息子を通わせてはどうだ?』と。うん何故そうなった?

 

「それで、あれよあれよと編入手続きをしてしまったと。」

 

「…ハイ。」

 

「しかもその高校は元女子高で男子も募集したが一人も男子が入らなかったと。」

 

「…ハイソノトオリデス。」

 

「そして俺はその高校での唯一の男子になってしまったと。」

 

「…ハイオッシャルトオリデス。」

 

これを聞いて頭を抱えてしまう俺は悪くない。

マジか~転校か~、そうなると色々準備しないとな…

 

「その高校は何処にあるんだ?」

 

「えっ、ああ…静岡の沼津だが…」

 

「そうなると引越しか。荷物まとめなきゃなぁ。」

 

「お、おい…」

 

「あっちで住める物件探さないとな。学校近くにあるといいが…」

 

「お、おい息子よ!」

 

「何だ親父?」

 

「いいのか?」

 

「いいのかって何が?」

 

「いやだって転校だぞ?その友達とか…」

 

そこで口籠ってしまう親父。そんな親父を見て、親父の言いたいことが何となく分かった。俺が転校することにより、今の学校の奴等と離れ離れになる事を危惧しているのだろう。

 

まあぶっちゃけそこまで気にしていないというのが本音である。別に学校でボッチだからとかそんな事はなく、クラスメイトとは良好な関係を築けていたし、昼休み一緒に弁当を食べる奴らだっていた。なので決してボッチという訳ではない、断じてない。

 

ただそこまでクラスメイトを重要視しているわけではないだけである。休日に遊びに行くような間柄ではなく、あくまで学校内だけでの関係。なら別に今の学校じゃなくても俺は一向に構わない。冷めている考えだとは思うが本当の事なのだから仕方ない。でもこれをそのまま親父に伝えるれば憐みの視線を向けられるのは分かり切ったこと。さてどう伝えてものか…

 

「もし嫌なら父さん今からでも頭下げに…」

 

「……まあ、何だ…親父が困っている人を見過ごせない性格なのは理解しているつもりだ。そんな親父だからこそ俺は自分の出来ることなら協力したいと思えたんだ…だから気にすんなよ。」

 

「む、息子…」

 

どうやら上手く誤魔化せたようだ。さてそれじゃあ改めてこれからの事についての話にもどr…

 

「そんなこと言ってお前のことだからどうせ、別に今の高校だろうが転校先の高校だろうが特に変わらないだろうとか思ってるんだろうがな。」

 

…バレテーラ。さすが俺の親父、俺の事分かっていらっしゃる。

 

「…お前のそういうところも治るかもだしな…」

 

「ん?親父今何か言ったか?」

 

「いや何も言ってないぞ。それよりもホントに良いのか?」

 

「…まあ別に俺は一向に構わんですよ。」

 

「…そうか。」

 

そう呟く親父の顔に少し影が差していることについては触れないでおこう。面倒くさいし。

 

「それなら自分の荷物をダンボールに詰めておいてくれ。それから住む場所はもう決まってるから心配するな。」

 

「おう、分かった。」

 

そう言ってリビングから出ていく親父。一人になったリビングで再びソファに寝転がりながら先程の漫画の続きに目を通す。

 

「早く読んじゃわないとな…」

 

その独り言に答えるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、言い忘れてたけど一週間後編入試験があるからちゃんと勉強しておけよ。」

 

「ホント親父マジふざけんなよおい。」

 

どうやら漫画はしばらくお預けのようだ…

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
良ければ評価や感想お待ちしております。


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第一話 出会い

どうも豚骨うどんです。
豚骨は醤油が一番好きである。
…すいません。どうでもいいですよねハイ…
それじゃあどうぞ~


長い一週間だった。

 

この一週間めちゃんこ大変だった。俺が転入する浦の星学園は結構な進学校だったらしく、そのおかげでレンタルしていた漫画は読めず仕舞いだった。こんなことならやっぱり編入取り消しにしてもらえばよかった。因みに編入試験は無事合格。ギリギリだったみたいだが…

 

「しかし何もないな内浦…」

 

そして現在俺は沼津市の内浦という町を散歩している。東京からここまで長旅でしかも渋滞に巻き込まれたことにより少し遅い到着である。普段ならこんな時間に意味もなくほっつき歩いたりしないし、散歩なんてめったにしないがこれから住む町だしな。それに…

 

『引っ越し作業は俺がやっておくから近所を散歩してこい。それともこっちの手伝いするか?』

 

…面倒くさいのはゴメンだからな。

それにしても都会とは大違い。夕方ということもあって、まるで違う世界に来てしまったような気分になる。景色も綺麗で思わず立ち止まって眺めてしまうほどだ。水平線に沈む夕日。橙色に移る海面。そして服を脱ぎだす少女。これこそ正に絶景と呼ぶにふさわs…ん?何か変なの混ざってなかったか?

 

「タアアアアアアアッ!」

 

「は?」

 

俺は夢でも見ているのだろうか?服を脱いだかと思えば、スクール水着となった少女が叫びながら海目掛けて走っていくではないか。四月に入ったとはいえまだ少し肌寒い。そんな日に海水浴?頭大丈夫か?

 

そんなことを考えていると横からもの凄いスピードでスク水少女の下に走っていく人影。すげえ早さだな、陸上選手か?

 

「待って!死ぬから!死んじゃうからッ!」

 

「離して!行かなくちゃいけないの!」

 

そうこうしているうちに、陸上選手もとい陸上少女がスク水少女に追いつき腰にしがみ付く。陸上少女は必死になって止めているが、スク水少女は頑として海に飛び込もうとする。何ともカオスな状態である。そんな二人の攻防は突如呆気なく終わりを迎える。

 

「えッ」

 

「あッ」

 

「「うわあああああッ!」」

 

二人の少女の着水によって。

…とりあえず近くにコンビニとかがないか探すか。思い立ったが吉日、早速携帯で調べる。ホントにスマホは便利だな~

 

 

 


 

 

 

「なあ、こんな所で焚き火なんてしてホントに大丈夫なのか?」

 

「大丈夫大丈夫!誰も見てないし、このままだと風邪ひいちゃうもん!」

 

「君の言葉の何処に大丈夫な要素があるんだ…」

 

たははと笑う陸上少女は俺が買ってきたタオルで頭拭いている。俺が薄情にも彼女たちを見捨てて帰ったと思った人、正直に手を挙げなさい。お兄さん怒らないから。

 

「あ、あのタオルありがとうございます。」

 

「いや気にしないで下さい。自分が勝手にやっていることなんで。」

 

俺がわざわざタオルを買い与え、尚且つ焚き火まで用意したのは現在タオルに包まっている件のスク水少女のあの珍行動について聞きたかったからだ。一体どうなったらいきなり服を脱ぎだし、肌寒いこの季節に海水浴をしようと考えたのか。そういう類の変態なのかとも考えたが、お礼を言ってくるあたり、一定の礼節はあるようだ。まあ、妙なこと言い出したとしても二度と関わらなければいい話だから問題ないだろう。

 

「それでなんで海に飛び込もうとしたの?」

 

俺がスク水少女にしようとした質問は陸上少女に取られてしまった。ならば俺は聞き手に徹しよう。

 

「…海の音が、聞きたいの。」

 

「海の音?なんで?」

 

「………。」

 

スク水少女は口を噤んでしまう。どうやら聞かれたくないことらしい。聞かれたくないなら無理に聞き出す必要もないだろう。

 

「…じゃあもう聞かない!…海中の音ってこと?」

 

陸上少女も深くは触れないらしい。それが賢い選択だろう。人には言いたくないこと一つや二つあるものだ。俺にもあるしな…

 

「…私ピアノで曲を作ってるの。でもどうしても海の曲のイメージが浮かばなくて…」

 

「へえ!作曲なんてすごいね!ここら辺の高校?」

 

「…東京。」

 

「東京!?わざわざ?」

 

「わざわざっていうか…」

 

何かトントン拍子に話が進んでいるが俺はもう聞くこと聞けたし早々に帰りたいんだが…どうやら会話に入らな過ぎて発言のタイミングを逃したようだ。さてどうするか…

 

「そうだ!じゃあ誰かスクールアイドル知ってる?」

 

「スクールアイドル?」

 

「うん!ほら東京だと有名なグループ沢山いるでしょ?」

 

「何の話?」

 

「え?」

 

おっと本格的に話が逸れてきたぞ。俺ここにいる必要なくなってきたしそろそろお暇しますかね。

 

「あの、そろそr…」

 

「貴方は知ってる?」

 

「え、何を?」

 

「だからスクールアイドルだよ!スクールアイドル!」

 

「…ああ、まあ小耳に挟んだ程度には知ってる、かな?」

 

「何か反応が微妙…ホントに知ってるの?」

 

急な質問に何も考えずに答えてしまった俺に対して陸上少女はこちらにジト目を向けてくる。いやそんな目で見られても…前の学校のクラスメイトがそんな話をしてたなぁ~、程度にしか知らない。つまり何も知らない。…ここは、正直に答えよう。

 

「すまん、クラスメイトの会話にそんな単語聞いた位にしか分からん。」

 

「ということは二人とも知らないの!スクールアイドルだよ!学校でアイドル活動して、大会が開かれたりするんだよ!」

 

「そんなに有名なの?」

 

「有名なんてもんじゃないよ。ドーム大会も開かれたことがあるくらいなんだから。超人気なんだよ!」

 

どうやら陸上少女はそのスクールアイドルにお熱のようだ。とりあえず相槌打って適当に話を切り上げるタイミングを見図ろう。

 

「へえ、そういうのが流行ってるんだな。」

 

「そうなんだ。私ずっとピアノばかりやってたから、そいうの疎くて…」

 

「じゃあ見てみる?なんじゃこりゃあ~ってなるから。」

 

「なんじゃこりゃ?」

 

「うん、なんじゃこりゃ!」

 

陸上少女は変な掛け声と共にスマホ向けてくる。画面には9人の少女たちが写し出されている。この娘達がスクールアイドルだろうか?美少女揃いだな。学校ではさぞかしおモテになっただろう。だが何というかその…

 

「う~ん、何というか普通?」

 

そう普通なのだ。可愛いが言ってしまえばそれだけ。普通という言葉がしっくりくる。まあ学生なのだからそれが当たり前なのだが。

 

「あっいえ、悪い意味じゃなくて…アイドルっていうからもっと芸能人みたいな感じかと思ったっていうか…」

 

「…だよね。」

 

「え?」

 

「だから、衝撃的だったんだよ。」

 

そう呟いた陸上少女は俺たちに背を向けて前に歩き始める。ん?どこ行くんだ?もしかしてこんな中途半端なところで帰ったりしないよな?それはそれで気にせず帰るけど。

 

「私ね、普通なの。」

 

何か自分語りし始めたので要約すると、自分には何も無いなぁと感じながら気づけば高校二年生になっててこのままだと普通怪獣になってしまうと思い悩んでいた時にスクールアイドルに出会ったらしい。普通怪獣ってなんだよ…

 

「みんな私と同じような普通の高校生なのにキラキラしてた。それで思ったんだ。私も仲間と一緒に頑張ってみたい。この人達が目指したところを私も目指したい。私も輝きたいって!」

 

陸上少女が今どんな表情をしているか自分の位置では分からないが、きっといい表情をしているんだろう。夢を人に語って聞かせる人は大抵そういう表情をするものである。()()()()()()()()()()

 

「ありがとう…何か頑張れって言われた気がする。今の話。」

 

「ホント?」

 

「うん。なれるといいわねスクールアイドル。」

 

「うん!私高海千歌!高校二年生だよ。」

 

「同い年ね。私は桜内梨子、よろしくね。」

 

どうやら話に区切りがついたようだ。それじゃあ今度こそお暇しましょうかね…

 

「それと貴方の名前は?」

 

その質問と共に視線が二人分こちらに向いていることに気付く。俺も名乗らなきゃ何ですね…仕方ないか。

 

   無面冷夜(むおもて れいや)だ。別に憶えてくれなくてもいいぞ。」

 

これがスクールアイドルに憧れた少女(高海千歌)と悩みを抱え東京から来た少女(桜内梨子)とのファーストコンタクトである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
主人公の名前の由来ですが

無→無気力
面→面倒くさがり屋
冷→冷めている
夜→夜に名前考えた

といった感じです。適当すぎる?俺は気に入ってるからいいの!
良ければ評価や感想お待ちしております。


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第二話 転校

どうも豚骨うどんです。
興味ないだろうが聞いてくれ!
最近二郎系ラーメンにハマってるんだ!
…それではどうぞ~



自己紹介は大事だと思うんだ。

 

面倒くさがり屋な俺でも自己紹介の重要性は理解している。それに今回は今迄の自己紹介の何倍も重視しなければいけないと考えている。

 

突然だが俺はクラスメイトとの関係を良好なものとしたいと考えている。小学校や中学校、前の高校でもそうだがクラス内では“役割”というものが存在する。例えばクラスを全体的に盛り上げるムードメーカーや、それらをまとめ上げる委員長キャラなどがそれに当たる。まあそんな大それた役割が欲しい訳ではない。俺が欲しい役割は【特に目立ったところはなくプライベートは何やってるか分からない奴だけど、話しかければ一定の会話が成り立つ生徒B】である。このポジションを確立する事により、俺は今迄何事もなく学生生活を過ごしてきた。

 

ただこの学校は少々毛色が違う。何たってこの学校は去年まで女子高で、それに加えて男子は俺一人。改めて考えると何で俺此処にいるの?って思うほど異質なのだ。そんな場所なだけあって俺は彼女達から異性というだけで注目の的になり、人によっては警戒されるだろう。そうなれば俺の【特に目立ったところはなくプライベートは何やってるか分からない奴だけど、話しかければ一定の会話が成り立つ生徒B】の役割を果たせなくなる。だから少しでも自分は何処にでもいる普通の男子高校生で警戒の対象ではないということを自己紹介で示さなければならない。そのために昨日から何を言うか考えていたというのに…

 

「奇跡だよ!」

 

「え!…あ、あなたは!」

 

どうしてこうなった?

 

「一緒に…スクールアイドル始めませんか?」

 

「…ごめんなさい!」

 

「…え?」

 

一体目の前で何が起きているんだ?

 

「それじゃあ貴方は?」

 

「…は?俺?」

 

「うん!一緒にスクールアイドル始めませんか?」

 

目の前の少女は一体何を言っているんだ?

 

…この時俺の頭の中にあった自己紹介原稿は木っ端微塵に砕け散ったのは言うまでもない

 

 

 

 

 


 

 

 

「はあ~…」

 

時間は昼休み。場所は人気のない校舎裏にある昇降口前の階段。俺はそこで階段に腰を掛けながら買ってきた菓子パンを齧っている。決して教室に居場所がないからではない。

 

それどころか逆にみんな高評価で迎えてくれた。理由は陸上少女こと高海と知り合いであったことが大きい。おかげで何とか持ち直し、クラスメイトと無事に会話をすることができた。主に高海との関係について…

 

それでは何故こんな辺鄙な場所で昼食を食べているかというと、件の高海が原因である。高海は昨日の自己紹介からずっと顔を合わせるたびに俺ともう一人の転校生、スク水少女こと桜内にスクールアイドルをやろうと誘ってくるのだ。例えば…

 

『お願い無面くん!スクールアイドル部に入って!』

 

『スクールアイドルって凄いんだよ!学校を救ったり出来るんだよ!』

 

『え?入ったとして何をするんだって?う~んプロデューサーとか?』

 

こんな感じである。桜内を誘うのは分かるが何故俺まで誘うのか、まったくもって見当がつかない。桜内を誘うのはピアノが引けて、作曲も出来る。高海ともう一人の生徒(名前は渡辺だったか?)も作曲出来ないらしいため、即戦力として欲しいのだろう。

 

なら俺は?高海のお眼鏡に適うような特技を持っているわけではない。彼女は何故あそこまでしつこく誘ってくるのだろうか…考えても分からん。ここまでのらりくらりと躱してきたがそろそろ限界か。桜内のように突っぱねるのは簡単だがそれにより彼女達の不評を買う可能性もある。そうすれば今後の学校生活にも支障が出るかもしれない。どうしたものか…

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

声のした方に目を向けると桜内が立っていた。な、何でいるの?高海に勧誘されてたんじゃないの?…まさか!?

 

「大丈夫よ、高海さんは撒いてきたから此処にはいないわよ…多分。」

 

どうやら顔に出たたらしい。よかった~食事中まで迫られたんじゃ溜まったもんじゃないしな…今彼女多分って言わなかった?大丈夫なんだよね?ホントに来ないんだよね!

 

「あの、ごめんなさい食事中に…」

 

「い、いや別に大丈夫だよ。桜内さんはどうしてここに?」

 

「ちょっと無面くんに聞きたいことがあって…隣良いかな?」

 

「え、ああ、どうぞ。」

 

桜内は俺が座っている階段と同じ段の端に座る。そして訪れる静寂。え、何この空気?話があるから来たんじゃないの?新手の嫌がらせか?とりあえずメロンパンを食べて落ち着こう…うん!今日もパンがうまい!

 

「あの、これ…」

 

「ん?」

 

パンを無心で頬張っていると桜内さんがタオルを渡してきた。俺の口の周りにパンのカスでも付いているのだろうか。それならばありがたく貸してもらおう。善意は拒まず受け取り、後でキッチリ返す。人間関係の基本だよね。

 

「ありがとう桜内さん。後で洗濯して返すよ。」

 

「え?いえ、それ貴方のタオル…」

 

「ん?」

 

手渡されたタオルを見る。何の変哲もない無地のタオル、そして彼女は“俺の”と言った。つまりこれは彼女達が海に落ちた日にコンビニで買ったタオルということになる。どうやら俺が勘違いしていたようだ。

 

「ゴメンゴメン、ちょっと勘違いしてたみたい。」

 

「勘違い?」

 

「俺の口の周りが汚れているからタオルを貸してくれたのかと思って…」

 

「……フフッ、何それ。」

 

事情を説明した途端口を押えて笑い出す桜内さん。心成しか空気が軽くなった気がする。一頻り笑い終えたのか、息を整えこちらに顔を向けてくる。

 

「あのね、私無面くんに聞きたいことがあるの?」

 

「何かな桜内さん。」

 

「何で私たちに対して親切にしてくれたの?」

 

「………。」

 

う~ん…特に隠すこともないし、正直に答えても問題ない…のか?

 

「…あの日引っ越してきたばかりだったから、道を憶えるために散歩してたんだ。」

 

「へえ、あの日に引っ越してきたんだ。」

 

「そう、それで散歩の途中で夕日が綺麗だなと思って足を止めて眺めてたんだよ。その時目に入ったのが桜内さんなんだ。」

 

「そ、それって…」

 

「…俺は生まれて初めて外で制服を脱ぎだす女の子を見たんだ。」

 

「ううッ…」

 

俺の発言に顔を赤くしながらアワアワし始める桜内さん。恥ずかしくなるくらいなら最初からやらなきゃいいのに。

 

「…その一部始終を目撃して桜内さんの行動に疑問を憶えたんだ。その疑問の答えを得るためにコンビニに行ってタオルを買ってきて桜内さんと高海さんに渡したんだ。」

 

「………。」

 

「だから俺は別に親切心で助けたわけじゃ……」

 

「え!?そのタオルわざわざ買ってきてくれたの?」

 

「え、そこ?」

 

突っ込むところそこなんだ…俺はてっきり好奇心で助けたことについて何か言われるのかと思った。

 

「だって、そんな事だけでわざわざコンビニに行ってタオル買ってきたりしないと思うけど…」

 

「…まあ、桜内さんの行動はそれ位不思議な行動だったって事だよ。」

 

「ふ~ん……」

 

いや、なんでそんな訝しんだ目でこっち見てくるんですかね?俺が言ってるんだから間違いないでしょうに…と言ってもこの視線を浴びせ続けられるのも面倒くさいし、ここは話題を逸らすとしよう。

 

「…それよりも高海さんとはどうなの?」

 

「え?それってどういう事?」

 

「ほら、誘われてるじゃん、スクールアイドルに。」

 

「それは無面くんもそうでしょう。」

 

「俺はのらりくらりと躱してるし、高海さん達も作曲が出来る桜内さんを優先すると思うし…」

 

「…私は生贄って事?」

 

「言い掛かりだ。」

 

「はあ~、何であんなにしつこいんだろう。私はスクールアイドルなんてやってる暇ないのに…」

 

ここで「何かあるの?」なんて聞かない。人の悩み相談なんて聞いても俺には何もできないしな。

 

「…分からないよ。次の日になったらスクールアイドルやりたいって思ってるかもしれない。人の気持ちは変わりやすいから。」

 

「あり得ないよそんな事…」

 

「その“あり得ない”を信じてるんじゃないの高海さんは。」

 

そうでもなかったらあんなに真っ直ぐ突っ込んじゃこない。それが彼女の美徳なのだろう。まあ、その美徳のせいで迷惑しているがな…

 

「じゃあ無面くんはスクールアイドル部に入りたいと思ってるの?」

 

「今は思ってない。」

 

「じゃあ次の日には入部したいって思ってるって事?」

 

「…分からない。」

 

「分からないって…」

 

分からないものは分からないんだからしょうがない。明日の自分が何を考えているかなんて明日の自分にしか分からないのだ。なら今考えたって仕方ない。答えが出ない問題をいつまでも考えていられるか面倒くさい…

 

「まあ明日の事は明日の俺が何とかしてくれるだろ、知らんけど。」

 

「…何それ、変な人ね。」

 

フフッと呆れたように笑う桜内。変な人とは失礼な、俺の何処が変だと言うんだ。突然服を脱ぎだすほうがよっぽど変な人だろう。口に出しては言わないが。

 

「それじゃあ私行くわね…ごめんなさい、食事中にお邪魔しちゃって…」

 

「大丈夫気にしてないよ。桜内さんと話せて良かったし。」

 

「…私も無面くんと話せて良かった。」

 

そう言って立ち上がりスカートの埃を払って歩いていく桜内。やれやれ、ようやく落ち着いてメシが食える。改めて昼食を再開しようとした時、桜内が立ち止まりこちらに振り向く。まだ何か用があるのだろうか。

 

「無面くん。」

 

「ん?なにか言い忘れたことが?」

 

「うん……これからよろしくね無面くん!」

 

「───ああ、此方こそよろしく桜内さん。」

 

その笑顔がとても魅力的だと感じたのは俺だけの秘密である。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
今回は梨子ちゃんとの絡みでした。
次は誰にしようかなぁ〜( ・∀・)ニタァ
良ければ評価や感想お待ちしております。


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第三話 妥協

どうも豚骨うどんです。
最近ダーウィンズゲームにハマってしまいそっちの二次創作も書きたいなあ〜と考えている二股野郎です…まだ書いたないから未遂ですが…
それではどうぞ〜


この前の昼休みの時、俺は桜内に言った。“人の気持ちは変わりやすい”と。あの時はそう言ったがこれは少し語弊がある。正しくは“人は飽きやすい”である。決してすべての人がそうではないのは分かっている。でも俺はほとんどの人がそうであると思っている。何故かと言えば俺自身がそういう人間だからだ。

 

飽きやすい人の特徴として、諦めや切り替えが早いや好奇心が旺盛、新しいものが好きなどが挙げられる。そこで考えてみて欲しい。今挙げた特徴はほとんどの人に当てはまらないだろうかと。

 

皆誰しも新しいものに目を奪われ、好奇心の思うが侭に進み、何かの拍子に妥協する。そしてまた新しい何かに手を伸ばす。生きるとはそういうことだと俺は思う…十数年しか生きていないガキが何言ってんだと思うかもだが、実際俺も俺が関わってきた人たちもそんな感じなのだから仕方ない。

 

何が言いたいかと言うと飽きやすいことこそ普通であり、逆に言えば何事にも飽きないということはあり得ないのだ。

 

「ねえ無面くん!この曲凄く良いよね!スノーハレーション略してスノハレって言うんだ!」

 

「へえ…」

 

「それとこれ見て!μ'sが優勝した第二回ラブライブ!みんなキラキラ輝いてる!」

 

「ふうん…」

 

「私たちもいつかこのステージに立ちたい!そして輝きたい!」

 

「ほう…」

 

「…もうッ!」

 

「うわッ!どうしたの高海さん?」

 

「無面くんちゃんと聞いてるの!」

 

「…ああ聞いてる。聞いてるからもう少し離れてくれ高海さん…」

 

だからこそ彼女──高海千歌はおかしい奴なんだろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「まったく無面くんは…人の話はちゃんと聞かなきゃ駄目なんだよ!」

 

「……そんなことより何で高海さんがここにいるの?」

 

「梨子ちゃんから聞いたの!」

 

「桜内さん…」

 

場所はいつものベストプレイス(昇降口前の階段)。昼飯である菓子パンを平らげ、日課になった読書に勤しもうとした時事件は起こった。何と俺がこの場所でメシを食うことになった原因を作った普通怪獣ちかチーの襲来である。

 

しかも襲来の引き金を引いたのは先週お互いよろしくと言いあった桜内だという。あの子俺が高海を避けてるって知ってるよね?いったい何考えてるんだ?

 

「というか渡辺さんはどうしたんだよ。いつも一緒だろうに…」

 

「曜ちゃんは梨子ちゃんと一緒に練習メニュー考えてるよ。今日から3人で練習なんだ!」

 

「ふーん…」

 

そういえばもう一つ事件があったな。なんと桜内がスクールアイドル部に入部したのだ。確かに心変わりしてるかもしれないとは言ったがホントにするとは思っていなかった。自分であり得ないって言ってたのにどのような心境の変化があったのだろうか…

 

「高海さんは考えなくてもいいの?」

 

「私がいてもあまり役に立てないし、それに私にはもっと重要なお仕事があるのです!」

 

「重要な仕事?」

 

「うん!無面くんをスクールアイドルに勧誘する大事なお仕事!」

 

ムフーッと胸を張る高海。それは本当に仕事なのか?

 

「だから無面くんスクールアイドル部に入ろうよ!」

 

「何がだからなんだ?」

 

こんな感じで俺は未だに高海に勧誘されている。桜内が入部したことにより、鳴りを潜めると思っていたのに彼女はまだ諦めていないらしい。それは高海の諦めの悪さも要因かもしれないが、“俺がハッキリと入部しないと言っていない”こともこの状況を作り出している原因だと思う。

 

ここで勘違いして欲しくはないのだが、俺は別にスクールアイドルに関して悪いイメージがあるわけでないし、他にやりたいことがあるからのらりくらりと勧誘を躱してきたわけではない。単純に彼女の勧誘に乗る理由がなかったからだ。幸いにも高海はアh…単純な奴なので話をすり替えたり、桜内の方に誘導したりして有耶無耶にしてきた。

 

だが今はそれも面倒くさくなってきた。ここまでくると入部してもいいんじゃないかと思い始めているのは高海の策略なのだろうか…コイツに限ってそれは無いな。

 

「ムウ…やっぱり手強い。どうすれば入ってくれる?」

 

「………。」

 

当の本人はそんなことを聞いてくる。毎回思うが何故コイツは俺を誘うのだろうか。これだけ乗り気じゃありませんと行動で示しているというのに…あれ?

 

「んんッ?」

 

「どうしたの無面くん?急に唸りだしたりして。」

 

そういえば高海に何で俺を誘うか聞いてなくないか?

 

「………。」

 

「大丈夫無面くん。さっきからぼーっとして、私の顔に何かついてる?」

 

「…ああ、目と鼻と口が付いてるよ。」

 

「え!ホントに!?…ってそれは当たり前じゃん!」

 

思い返してみれば高海と話す時はどうやって高海を回避するかばかり考えて、そっちはあまり考えて無かったな…待てよ、これは良い機会なのでは無いだろうか?ここで理由を聞いて否定してしまえば流石の高海も諦めるのでは?

 

「…なあ高海さん。」

 

「なに無面くん、もしかして入ってくれるのスクールアイドル部!」

 

「いやそのこと何だが…」

 

「ん?何か聞きたいこと?あっもしかしてスクールアイドルのこと知りたいの?それだとあまり力になれない…」

 

「いやそうじゃなくて、何で俺の事を誘うんだろうと思って…」

 

「え?」

 

「俺はダンスもやってないし、曲や詩も作れない。高海さんのお眼鏡に適うようなものなんて何も持ってない俺じゃあ何の役にも立てないだろ?」

 

さて果たしてなんと返してくるか、どんな返事でも見事に返してやろう!そしてこの面倒な攻防に終止符を!

 

「……無面くんは最初に会った時の事憶えてる?」

 

「え?ああうん…まあ、あれは衝撃的だったからな。」

 

急な質問に思わず戸惑い返事が遅れてしまった。これはまた長くなる奴かな?別に長話する気はないのだが…

 

「あの日、部活を設立するぞーって張り切ってたんだけど生徒会長に断られちゃって…どうしようって悩んでた時に梨子ちゃんと貴方に出会ったの。」

 

「………。」

 

ああこれ、長話決定ですわ。いつもなら聞き流しているところだが流石に自分で話を振っておいて聞いてませんでしたは、人として駄目だろうし…しょうがない今日の読書はお預けだな。

 

「私ね、梨子ちゃんと無面くんにスクールアイドルのこと話せて頑張るぞーって気持ちになれたんだ。そんな偶然の出会いが前に進めるきっかけになったんだ。」

 

高海はあの日の事を思い出しているのかすごく楽しそうに語っている。というかそんなに大層な思い出だったっけ?

 

「そんな出会いがあった次の日にまた二人と会えた、それも転校生として。私の中で偶然が奇跡になった瞬間だったの!」

 

だからあの時、奇跡だよッ!って叫んだのか…

 

「だからあの時思ったの。この奇跡を大事にしたいって!二人が一緒にいてくれたらもっと輝けるかもしれないって!」

 

「………。」

 

驚き過ぎて開いた口が塞がらない。つまり高海はただ一緒に居たいという理由だけでこんなにもしつこく勧誘してきたという。訳が分からな過ぎて言葉が出ない。たぶん今の俺はもの凄いアホ面をさらしているに違いない。

 

「なので無面くん、スクールアイドル部に入ってください!」

 

そう言って手を差し伸べてくる高海。その顔に迷いは無く、俺の目にとても綺麗に映った。

 

…なんてこった、そんな理由じゃ否定できないじゃないか。残された道はここでハッキリやりたくないと答えることだがこの空気で拒むなんて今の俺には出来ない。完全に積みである。それならば俺に取れる道は一つしかない。

 

「………入るよ。」

 

「え?」

 

「入部するよスクールアイドル部に。」

 

「…ホントに?ホントに良いの?」

 

「良いも何も高海さんが入れ入れって迫ってきたんだろ。」

 

「………。」

 

「おいどうした高海さん?急に固まっちゃって…おーい聴こえてますかー。」

 

「…やったーッ‼︎」

 

「うわッ⁈」

 

呼び掛けても動かない高海に近付いて顔の前で手を振っていると、急に大声を上げてピョンピョン飛び回り始めた。ちょっおま!スカートで飛び回るな見えちゃうだろ‼︎

 

「やったーッ!やったよ‼︎」

 

「そんなに嬉しいのか?」

 

「うん!だってこれでまた一歩前進だよ!これから頑張ろうね冷夜くん。」

 

「いや訳が分からんし、いったい何を頑張るかも見当ついてないし、というか何故名前?」

 

「だってこれから同じ部活で活動していくんだし、いつまでも名字じゃ他人行儀でしょ。私のことも千歌で良いよ!」

 

「え、別に良いよ今まで通り高海って呼ぶから。」

 

「えーッ!なんで⁈」

 

「別に意味はない。ただ何となくだよ」

 

「えーイイじゃん呼んでよ〜」

 

「ちょっ!揺らすないで!さっき食べたの出ちゃうから…ッ」

 

俺たちの攻防は昼休みの終わりを告げる鐘がなるまで続いた。もちろん授業は遅刻し、先生に注意を受けた…解せね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後まで見ていただきありがとうございます。
今回はちょっと少なめです。
良ければ評価や感想お待ちしております


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第四話 名前

どうも豚骨うどんです~
この前カツ丼を使ったら案外美味く出来てとてもご満悦でした。
…それではどうぞ~



突然だが俺がこの浦の星学院に通うことになったそもそもの理由は、俺の親父がこの学校の理事長と知り合ったのが始まりである。俺は親父にその理事長がどんな人なのか聞いたことがある。何でも淡島のホテルを経営しているイタリア系アメリカ人らしい…なんでこの人理事長なんてやってんだ?

 

まあ、とにかく俺はこの学校の理事長は高校生の娘がいることから30代後半から40代前半のオジサンを想像したのだ。それなのに目の前にいるのは…

 

「ハローッ!貴方がパパの言ってた転入生ね!名前は何ていうの?」

 

「…無面冷夜です。」

 

「オーケー!じゃあレイって呼ぶわね。よろしくねレイ!」

 

「…こちらこそよろしくです小原先輩。」

 

「ノンノンッ!マリーって呼んでくれなきゃノーでーす!」

 

「………。」

 

目の前にいるのはどう見たって面倒な絡み方をしてくる女子高生。性別から違うじゃないか。いったいどうなってんだよ親父…

 

しかもこの人砂浜にヘリで登場したのだ。そのおかげで巻き上げられた砂が目に入り大変だった。因みに砂浜にいた理由はスクールアイドル活動である。まあ俺は踊っている三人を撮影したり、タオル渡したりするだけだが…完全にマネージャーである。

 

「…鞠莉さんふざけるのもいい加減にしなさい。無面さんが困ってますわ。」

 

いい加減何とかしないと思ってることが顔に出てしまいそうといったところで、生徒会長の黒澤ダイヤ先輩が俺と自称理事長の間に割り込んでくる。さすが生徒会長、俺の微弱な近寄るなオーラを察知したのかな?何にしても有り難い。

 

「ダイヤ酷ーい。ワタシふざけてなんかないわ!」

 

「これがふざけてると言わずしてなんて言いますの!いきなり帰ってきたと思ったら理事長だなんて…」

 

「だーかーらーふざけてませ~ん!これが目に入らぬか~」

 

そう言って生徒会長の目の前に紙を突き出す。そこには任命状と書かれており、続けて下には『小原鞠莉殿 貴殿を浦の星学院の理事長に任命します』と記載されている。え、その紙本物?マジで?生徒会長も驚いてるってことは本物なのか?

 

「そんな、何で…ッ!」

 

「本当はパパが理事長になるはずだったのだけれど、無理言ってチェンジしてもらったの!キャハッ!」

 

いや、キャハッ!じゃねえよ。無理言えば理事長にしてくれるとかどんな家系だよ。あれか?娘を溺愛している的な感じなのか?

 

「それでは理由になってませんわ。わたしが聞きたいのは…」

 

「それはこの浦の星にスクールアイドルが誕生したという情報をゲットしたからダヨッ!」

 

生徒会長の言葉を遮ったじsy…理事長は今迄会話に入らずボウッと突っ立っている三人  スクールアイドル部のメンバーの方へ視線を向ける。あ、俺の方にも視線が、しかもウィンク付きで。何かすげぇ様になってるな…メンドクサイのは変わらないが。

 

「私たち?」

 

「そう!どうせダイヤに邪魔されてるんじゃないかと思ってね。だから応援しに来たの!」

 

「ホントですか!」

 

「イエスッ!なのでこれからは部として活動できまーす!」

 

「や、やったー!」

 

「良かったね千歌ちゃん。」

 

「ようやく地に足がついたわね。」

 

三人娘、特に高海は部として認めてもらえたことで大喜びである。ちょっとお前ら、時と場所を考えろよ。ここには生徒会長もいるんだぞ。やべぇよ、こっち見てるよ、睨んでるよ、怖ぇよ…

 

生徒会長の視線から逃れるために目を逸らすと丁度理事長が笑うのが見えた。いや、さっきからずっと笑っているのだが、さっきまでのがニコニコなら今のはニヤッて感じだった。何かとても嫌な予感が…

 

「ただし条件があります。」

 

ほらやっぱり、無理難題じゃなきゃいいが…

 

「着いてきてくださーい!」

 

『は、はい…』

 

スキップしながら先導する理事長に困惑しながらついて行く三人娘。俺もその後ろをついて行く。理事長室を出て、ふと後ろを振り返ると生徒会長が俺達とは逆方向に向かって歩いていく。この先の展開には興味がないのか、それとも理事長の出す条件が分かっているのか、どちらにせよ俺に生徒会長を呼び止める言葉など掛けられない。

 

スクールアイドル活動を手伝うと決めた日に生徒会長に声を掛けられ、『あなたも高海さん達に協力するのですね。』と言われた。どこから聴き付けたのやら…そこから何故彼女達に協力するのか聞かれたので勧誘されたからと答えた。最後に貴方がいてもスクールアイドル部は認めないと言い残し去って行った。

 

つまり俺も生徒会長に目をつけられたわけだ。初っ端三人娘に協力を決めたのを後悔した瞬間である。

 

「おーい冷夜くん早く行こうよ!」

 

「…おう。」

 

俺はもう見えなくなった生徒会長の背中から視線を外し、理事長たちに追いつくために再び歩き出す。その時理事長の目がここにはいない生徒会長を見続けているように見えたのは俺の気のせいだろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「ライブやりまーす。お願いします!」

 

「お、お願いします!」

 

場所は沼津駅、目的はライブの告知をするためのチラシ配りである。何故かといえば理事長が出した条件がライブを行い、うちの学校の体育館を満員にすることだからだ。そうすれば部室や部費を提供してくれるらしい。

 

しかしその後生徒全員を集めても体育館が満員にならないことが分かり、外部から人を呼ぼうということで今に至るというわけだ。しっかしチラシ配りか…こういうの苦手なんだがなぁ…

 

「ほら何やってるの冷夜くん。早く配らないと終わらないよ。」

 

「…なあ高海、これ俺もやらなきゃ駄目か?」

 

「何言ってるの!梨子ちゃんも曜ちゃんも頑張ってるんだから、冷夜くんも頑張るの!」

 

先程から遠目で見ていたが、渡辺は持ち前のコミュニケーションスキルで色んな学生に声を掛け、桜内は最初消極的だったがマスクとサングラスを付けた絵に描いたような不審者に渡せてからちょっとずつ配れるようになっている。そして高海はというと、気弱そうな女子高生を壁際に追い込みチラシを渡した以外は特に問題なく渡せている。

 

そんな中俺は三人娘に比べれば少ないがボチボチと言った感じである。だから別にサボっているわけではない。あまり自分から人に話しかけない俺が彼此一時間声掛けをしているのだ。それなのに受け取ってもらえないものがほとんど、もう心はボロボロである。もうヤダ、おうち帰りたい…

 

「あれ?あそこにいるの花丸ちゃんだ!」

 

「花丸ちゃん?誰それ?」

 

「あ、そっか。冷夜くんは知らないのか…そうだ!」

 

おい待て何がそうだ!なんだ?嫌な予感しかしないんだが…

 

「冷夜くん!花丸ちゃん達にチラシを渡しに行こう!」

 

「おい、どうしてそうなった。」

 

「よし!それじゃあ、れっつごーッ!」

 

「ちょっと待って、何が良しなの?ねえちょっと引っ張らないでくれる?分かった、分かったから腕を引っ張るなぁ…」

 

俺の抗議も虚しくズルズルと引きずられていく。というか振りほどけないんだが、こいつなんつう馬鹿力だよ…いやどちらかと言えば俺が弱すぎなのか?

 

「おーい花丸ちゃーん!」

 

「こんにちは先輩。それとそちらの方は…」

 

「花丸ちゃん達は初めてだよね。ほら冷夜くん挨拶して!」

 

「分かったから押すなよ…」

 

高海に背中を押され花丸ちゃんとやらの前へ突き出され、その結果後ろに隠れているもう一人の存在に気付いた。なるほどだから高海は花丸ちゃん“達”と言ったのか。

 

「あ、あの…」

 

おっと、どうやらジロジロ見すぎたようだ。いたずらに警戒心を刺激してしまうのはよくない。ここは自然に且つ単純でスピーディーに自己紹介を…うぅ、緊張するぅ……

 

「ほら冷夜くん!自己紹介!」

 

「…分かった分かった急かすなよ。俺は二年の無面冷夜だ。」

 

「ご、ご親切にどうもです。オr…じゃなかった私は国木田花丸って言います。」

 

「…?ああ国木田さんね。それでそっちの子は…」

 

俺が国木田の後ろに隠れているもう一人に視線を向けると身体をビクッと震わせる。表情は強張り、目には涙を溜めてこちらを見ようとしない。あれ?何か怖がられてる?

 

「こらっ!ダメだよ冷夜くんルビィちゃん怖がらせちゃ!」

 

「え?これ俺が悪いの?俺何もしてないよね?」

 

「あ、違うんです無面先輩!ルビィちゃ…黒澤さんは人見知りで、特に男の人がその…あまり関わらないので…」

 

…よかったぁ、俺が知らず知らずのうちに彼女に何かしたんじゃとヒヤヒヤした。公衆の面前で女の子を泣かせたとか洒落にならない。ホントによかったぁ…

 

「だから、その…」

 

「そういう事なら無理に自己紹介しなくても大丈夫だよ。」

 

「うぅ…」

 

俺の言葉を聞いた彼女が下を向いてしまう。あれ、少し言い方きつく言い過ぎたか?

 

「あ、勘違いしないで欲しい。別に怒ってるわけじゃないよ。ただ苦手なものを無理に克服する必要は無い。」

 

「え、でも…」

 

「少しずつで良い、君のペースで頑張れば良い。それで心の準備が出来たらまた自己紹介しよう。」

 

「………。」

 

俺が言い終わると同時に彼女が顔を上げ、俺は今日初めて彼女と目があった。綺麗なエメラルド色の瞳は大きく見開き、口をポカンと開けている。何かとても面白い顔になっている。俺何か変なこと言っただろうか?……うん言ったね、とても恥ずかしいこと言ってたね俺。緊張から安心への心の急転換で余計なことばっかり発言してたね俺!ヤバいよ、多分彼女俺の発言に対して『こいつ何言ってんだ?頭打ったの?』って思ってる、絶対に思ってる!…そう考えたら早急にここから離れたくなってきた。ああもう、考え無しに発言するからこういうことになるんだぞ無面冷夜!頭を回転させろ!思考を研ぎ澄ませ!今出来る最善策を叩き出せ!…よし!これだ!

 

「というわけだから俺はそろそろ行くよ。あ、あとこれどうぞ。高海を含めた三人がライブするんだ。是非見に来てくれ。それじゃあ後は任せた高海。」

 

「えっ私?」

 

俺が導き出した解答、それは早口でまくし立ててからの高海に押し付けるである。こうすることで俺はこの輪から自然にログアウトすることが出来て、尚且つ当初の予定であるチラシも渡す。これこそ完璧な俺の作せn…

 

「あ、あの!」

 

早歩きで退散している俺の背中に聞きなれない声が掛けられる。反射的に振り向けば、先程まで国木田の後ろにいたはずの彼女が立っていた。

 

「わ、私は…そそその…」

 

「ルビィちゃん。」

 

「は、花丸ちゃん…」

 

「…頑張って。」

 

「…うん!」

 

国木田と言葉を交わしたお蔭か、震えは止まり今度はしっかりと立ち、こちらの目をきちんと見据えている。

 

「無面先輩!」

 

「は、はい。」

 

「私は黒澤ルビィって言います!こ、これからもよろしくお願いします!」

 

「……ああ、こちらこそよろしく。」

 

「…ッ!はい!」

 

何だしっかり自己紹介できるじゃないか。まあこれからも励みたまえ若人よ。それでは無面冷夜はクールに去るz…

 

「あ、そうだ。あの千歌先輩。」

 

「うん?どうしたのルビィちゃん?」

 

「千歌先輩達のグループ名って何ですか?このチラシに書いてなくて…」

 

「あ、ホントずら。」

 

「グループ名?あっ…」

 

…何でクールに去らせてくれないだよぉ……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「まさか決めてないなんて…」

 

「梨子ちゃんだって忘れてたくせに。」

 

「とにかく早く決めなきゃ。」

 

「そうだよね…」

 

時刻は夕方。場所は変わって砂浜。いつもの日課である学校非公認のスクールアイドル活動中。俺達は今ある重要な難題をについて審議している。何と言いだしっぺの高海がグループ名を考えてなかったらしい。名前の無いアイドル、つまりノーネームである。もうグループ名これでいいんじゃね?

 

「学校の名前が入ってたほうが良いのかな?浦の星スクールガールズとか?」

 

「まんまじゃない。」

 

「じゃあ梨子ちゃん考えてよ!」

 

「え!」

 

「そうだね!東京で最先端の言葉とか!」

 

「そうだよ!そうだよ!」

 

まあ審議と言っても時間は有限なため、練習しながら意見を出し合っている。因みにダンスや歌の練習以外、つまり準備運動やアップは俺も参加している。最初は遠くで座って水分とタオル持ってスタンバってたんだけど、高海に『どうせなら一緒にやろうよ!』と有り難いお誘いがあり、怠いしメンドクサイが何もせず只々彼女たちを眺めているのは何とも気まずいし、汗水流している彼女達を見ていて何か自分がいけない事をしている気がしてならなかったので、この状況を打破できるならと渋々誘いを受けたといった流れである。

 

「えっと、じゃあ全員海で知り合ったから、スリーマーメイドとか…」

 

「「1、2、3、4…」」

 

「待って!今の無し!それと冷夜くんも笑わないで!」

 

グループ名決めは中々難攻している。活動している間はずっと付きまとうものである為、慎重に考えなければならないのだが、いざ考えろと言われると難しい。何か題材があれば考えようもあるんだがなぁ。

 

「曜ちゃんは何かない?」

 

「うーん、制服少女隊!どう?」

 

「無いかな。」

 

「そうね。」

 

「えーッ!って冷夜くん!何で笑うの⁈」

 

二人とも真剣に考えているのは分かるのだがそれとこれとは話が別である。スリーマーメイド…制服少女隊…ブフッ……

 

「もう!そんなに笑うなら冷夜くんも考えてよ!」

 

「そうよ!あれだけ笑ってたのだから、さぞ良いグループ名を考えつくんでしょ!」

 

「そうだよ!そうだよ!」

 

桜内と渡辺は頬をプクーっと膨らませこちらを睨んでいる。どうやら少々笑いすぎたようだ。というか高海の合いの手うるせぇ。

 

とは言ってもどうするか…振られたからには何か答えなきゃだよなぁ……あ、そうだ。

 

「なあ高海、確かお前ってμ’sに憧れてスクールアイドル始めようって思ったんだよな?」

 

「え?どうしたの急に?」

 

「いや、ならμ’sと似たような名前にすればいいんじゃないかと思ってな。」

 

「μ’sと?」

 

「ああ、μ’sってたしかギリシア神話の女神から取ってるらしいから、そうだな…海の神様の名前とかどうだ?」

 

「海の神様?例えば?」

 

「あぁ…ポセイドンやネプチューンとか?」

 

「えぇ…」

 

「それはちょっと…」

 

「可愛くない!」

 

ボロクソである。清々しい程に低評価。いいアイデアだと思ったんだが…というか可愛くないって、確かに可愛くないだろうがカッコイイだろう…

 

そんなこんなでこの後も色んな意見が出たが、どれもこれも彼女たちの琴線に触れるようなものは出なかった。

 

「こういうのはやっぱり言いだしっぺが付けるべきよ!」

 

「賛成ー!」

 

「戻ってきたぁ…」

 

「じゃあ制服少女隊で良いって言うの?」

 

「スリーマーメイドよりは良いかな…」

 

「それは無しって言ったでしょ!それと冷夜くんもいい加減忘れて!」

 

「アハハ…うん?あれ何かな?」

 

そろそろ行き詰ってきて、意見も底をつき始めたころ、ふと砂浜にでかでかと書かれたものに高海が指を指す。あれ?あんなところに書いたっけ?

 

「これ何て読むの?」

 

「あきゅあ?」

 

「もしかしてアクアって読むんじゃないの。」

 

「アクア?水って事?」

 

「だと思う。」

 

「「「おぉ……」」」

 

Aqoursねぇ…三人娘の反応からして書いたのは彼女達ではないだろうし、もちろん俺でもない。じゃあいったい誰が書いたんだ?

 

「何か良くない?グループ名に。」

 

「これを?誰が書いたか分からないのに?」

 

「だから良いんだよ!グループ名を考えている時にこの名前出会った。それって凄く大切だと思うんだ!」

 

どうやら高海はご満悦のようだ。他の二人も満更でもないと言った感じだ。これは決まりだな。

 

「冷夜くんもそれでいい?」

 

「ああ、うん。まあスリーマーメイドと制服少女隊以外なら何でもいいよ。」

 

「「それはもういいの!」」

 

兎にも角にも三人娘はこれからAqoursとして活動していくことが決まった。とりあえず綴り忘れないように写真撮っとくか。

 

その後、名前が決まったことで本腰入れて呼びかけするために、町内放送を使い呼びかけを行いグダグダになってしまったのはまた別の話である。原稿書いて来れば良かった…

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は主人公にいろんなキャラと絡ませてみました。
書いてて思ったのですが曜ちゃんとの絡み少なすぎんか?
……まあこれから頑張ります!


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第五話 理解

どうも豚骨うどんです
最近Twitterに小説宣伝用で新しいアカウント作りました〜
https://mobile.twitter.com/oxI2AezR5XnPoEL
…それではどうぞ〜


Aqoursとして活動始めて彼此一カ月、いろんなことがあった。

 

チラシ配りはもちろんの事、ポスター設置の許可を取りに行くのに東へ西へ駆けずり回り、スクールアイドルの知識を取り入れるために他のスクールアイドルを調べまわったり、ダンスの振り付けなども素人ながら意見を出したりと、やる事は山積みであった。

 

「無面くんこの照明運んでもらえる?」

 

「何処に運べばいいんだ?」

 

「このメモに書いてあるからその通りに設置して欲しい。」

 

「分かった。」

 

そんな中三人娘の頑張りに感化されたのか、高海の友達の松田好(まつだよしみ)金本樹(かねもといつき)芹澤睦(せりざわむつ)の三人を中心に協力を申し込んできた。

 

「無面くーんそこの機材取って~。」

 

「これかな?」

 

「そうそうそれ!サンキュー。」

 

この申し出には正直助かった。音響や照明なんてどうすればいいかなんて分からなかったし、舞台設定だって素人だ。なんなら一人で出来るような数ではなかったので協力してもらっている。

 

「無面くんスポドリ買ってきたから千歌達に渡してきてもらっていい?」

 

「ああ分かった。」

 

「それじゃあ私これから沼津に行ってチラシ配ってくるねえ!」

 

「あ、じゃあ俺も…」

 

「何言ってるの!無面くんは千歌達の傍にいてあげて。色々やる事あるでしょ。」

 

「え、いや別に…」

 

「じゃあ行ってくるね。千歌達によろしく言っといて!」

 

「………。」

 

何よりこの三人すごく優秀で気が利く。そのおかげで俺の仕事は激減。もうこの三人居れば俺要らないレベル。

 

「さて、あいつらの所に行きますか。」

 

そんな濃密な一カ月も理事長の出した条件を乗り越えるために必要な努力。そのために三人娘もそれを応援したい奴らも奮闘している。

 

そして今日はその本番に向けてのリハーサルであり、ライブの前日である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「無面さん、ちょっとよろしいですか?」

 

「はい?」

 

三人娘がいるであろう体育館に向かっている最中に後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには絶賛会いたくないランキング第二位の生徒会長である。因みに第一位は言うまでもなく理事長である。

 

「どうしたんですか生徒会長?」

 

「ひとまず生徒会室に来てもらいたいのですが、今時間よろしいですか?」

 

「…はい、大丈夫ですよ。」

 

ええ、マジかよ…俺なんかしたかな…説教か?説教なのか?

 

「では行きましょう。」

 

そう言って俺の前を規則正しいリズムで歩いていく生徒会長に俺も遅れないようについて行く。お互いの間に会話は無く、普通に気まずい。何か話したほうがいいのだろうか?今日はいいお天気ですねぇとか…駄目だ会話が続くとは到底思えない…

 

「どこに行きますの?生徒会室は此処ですわよ。」

 

「…え?あ、すいません。少し上の空でした。」

 

「しっかりしてください。本番は明日なのでしょう。」

 

「あ、はい…」

 

怒られてしまった…

 

「ほらそんなところで立っていないで早く中にお入りなさいな。」

 

「は、はい。」

 

生徒会室に通され、促されるままにパイプ椅子に腰かける。生徒会長は少しお待ちをと言った後、生徒会長がいつも作業しているだろう場所から紙とペンを持って戻ってきた。

 

「無面さんにはこれを書いて貰いたいのです。」

 

「えっと、これは?」

 

「体育館の使用届ですわ。」

 

「使用届、ですか?」

 

「はい、本当は彼女達に書いてほしいのですが忙しそうだったので貴方にお願いしました。」

 

「は、はあ…」

 

それはつまり俺が暇そうに見えたってことですかね?まあその通りなんですけどね…よし!さっさとこれ書いてここから出て仕事しよう。もう誰にも俺を暇とは言わ、せ……ない…?

 

「あの…生徒会長?」

 

「何ですの?」

 

「何故隣に座るのでしょう?」

 

あろうことかこの生徒会長、俺の隣にわざわざ椅子を持ってきて座ったのだ!え?マジで何で?

 

「何故って、貴方この書類の書き方分かりますの?」

 

「…ああ、いえ分かりません。」

 

「でしたら教えて差し上げますから、早く終わらせてしまいましょう。」

 

「は、はい…」

 

うん、まあ理屈は分かるのだが…それにしたって近くないか?チラッと横目で見ればすぐそばに生徒会長の横顔と透き通った長い黒髪が…うん、集中しよう。

 

「ここの団体名は何て書けばいいですか?」

 

「貴方達はまだ部として承認されていないので、『浦の星学園二年生一同』と書いた後に関係者の人数を書いて貰えれば大丈夫ですわ。」

 

「…グループ名は書かなくていいんですか?」

 

「それは書かなくて大丈夫です。次に使用目的ですが…」

 

…これ俺の勘違いじゃなければだけど、もしかして生徒会長って結構面倒見がいいのか?俺の中で生徒会長っていつもガミガミとお小言を飛ばしているイメージが強いんだよなぁ…

 

「…それからここは、って聞いてますの?」

 

「…あ、はい聞いてます。」

 

「本当に聞いてましたの?」

 

そう言ってジト目でこちらを伺う生徒会長。やめてくれぇ…その目は俺に効く!

 

「はあ…そんな調子で大丈夫ですの?」

 

「ああいや、大丈夫ですよ。少しボウッとしてただけなので…」

 

「そうではなくてライブの方ですわ。」

 

「え?」

 

何でここでライブの話になるんだ?もしかして三人娘が気になってんのかな?でも何で…おっとそれよりも早く答えないと。ライブかぁ、うーん…

 

「…分かんないです。」

 

「はあ?」

 

何言ってんだコイツみたいな顔でこちらを見てくる生徒会長。でもこればっかりは分からないと答えるしかない。俺は占い師でも超能力者でもないのだ。確かに思いつく限りの事はやったし、三人娘も周りから手伝いたいと思われるほどに頑張ってはきたが絶対成功するなんて保障はどこにもない。それに…

 

「俺には何も出来ませんから。」

 

これに尽きる。俺はステージには立てないし、万が一立てたとしても何も出来ない事には変わらない。俺がいくら頑張ったとしても結果に結びつくかなんて分からない。だから結果も分からない。分かんないことだらけだ。というか何で俺がこんなネガティブになってるんだ?。こんなの俺の柄じゃn…

 

「貴方がそんなことでどうするのですか!」

 

「ウェア!」

 

「貴方はここまで何をしてきたのですか!」

 

「…は、はいすいません?」

 

何で生徒会長が怒ってんの?カルシウム不足かな?

 

「彼女達と共に頑張ってきたのでしょう?そんな弱気でどうしますの!」

 

「いやでも、ステージに立つのはあいつらですし…」

 

「黙らっしゃい!」

 

「えぇ…」

 

急にキレだした生徒会長に困惑するしかない俺。もう何なのこの人…

 

「貴方はさっき、自分には何も出来ないと言いましたわね?」

 

「…だったら何だって言うんですか?」

 

「私はそれを否定します。」

 

「………」

 

生徒会長が言っていることが分からない。俺にまだ出来ることがあるというのか…駄目だ思いつかない。やれることはもうやっただろ。これ以上俺に何をしろっていうんだ…

 

「…どうやら分からないようですわね。」

 

「……はい。」

 

「はぁ…」

 

おでこに手を当て溜息を付く生徒会長。何か無駄に様になっていて何か腹立つな…

 

「いいですこと?よく聞きなさい。貴方のやるべきことは…」

 

「…やるべきことは?」

 

「ズバリ!信じることですわ!」

 

「…は?」

 

今この人なんて言った?信じる?何を?誰を?何言ってんだこの人は?

 

こんがらがった頭で生徒会長の言葉を理解しようとするが答えにたどり着けない。只々彼女の言葉がグルグルと頭の中で駆け回る。

 

「無面さんは確かにステージには立ちません。ですが彼女達を信じて送り出し、見守ることは出来るはずです。」

 

「信じる…あいつらを……」

 

生徒会長の言葉をゆっくり噛み砕くようにして呟く。それは徐々に頭に浸透していき、駆け回る問いに答えとして自分の心にストンっと入ってきた。

 

「俺に、出来るでしょうか?」

 

「…一番近くで見てきた貴方にしか見えないものが必ずある筈ですわ。」

 

そう言って優しく微笑む生徒会長。その顔は今迄怒ってばかりでしかめっ面であった彼女とは別人なのではないかと思うほどに優しいものであり、思わずあっけにとられてしまった。

 

「…何ですのその失礼なことを考えていそうな顔は?」

 

「え?あ、いやその…」

 

おっと、いつもの顔に戻ってしまった。何か答えないと…やっぱり生徒会長のおかげで自分のすべきことが理解できたのだからここは一つお礼でも言っておこう。

 

「あの生徒会長。」

 

「何ですの、言いたいことがあるならはっきり…」

 

「ありがとうございます。」

 

「………」

 

「おかげでこれからやるべきことが分かった気がします…まだそれが正しいかは分からないですが。」

 

「…貴方は分からないことだらけですわね。」

 

「そんな俺も生徒会長に励ましてもらえたので少しは分かったことも増えましたよ。」

 

「…別に私は貴方を励ましたつもりはないですわ。これも生徒会長としての職務ですもの。」

 

()()()()()()()()()()()素っ気なく返事をする生徒会長。何かの癖だろうか?

 

「そんなことより、ここに貴方の名前を書けば終わりですわ。」

 

「あ、はい…これでいいですか?」

 

「ええ、確かにお預かりしまうわ。」

 

「では、自分はこれで失礼します。」

 

「はい、忙しい時に呼び止めてしまい申し訳ありません。」

 

書類を書き終えて、出口まで生徒会長の言葉を背に歩き出す。ふと言い忘れたことを思い出し再び生徒会長の方へ身体を向ける。

 

「生徒会長。」

 

「はい、何でしょう?」

 

「ライブ是非見に来てください。」

 

「…考えておきますわ。」

 

「はい、失礼しました。」

 

今度こそ生徒会室から退出する。我ながららしくない事を言ってしまった。正直恥ずかしい…

 

「取り敢えずあいつ等のところに行くか…」

 

「ああ!いた!ようやく見つけたよ!」

 

「あぁ?」

 

声のした方を見れば、渡辺がこっちに向かって走ってくる。おいおい生徒会室の前であんまり騒ぐなよ、生徒会長にどやされるだろ…

 

「もう!ずっと探してたんだよ!何してたの?」

 

「ああ…あれだ、生徒会長にに言われて体育館の使用届書いてたんだよ」

 

私怒ってますといった感じでプリプリ怒っている渡辺に説明する。もちろん先程のやり取りは伏せておく。

 

「生徒会長と?何か言われなかった?」

 

それを聞いた途端、さっきまでの怒った表情は鳴りを潜め、心配するように下から俺の顔を覗き込む渡辺

 

「…いや特に何も。使用届の書き方を懇切丁寧に教えてもらってただけ。」

 

「ふ~ん、まあ何もないならいいけど…」

 

渡辺の問いに対して、少し間を開けて答える。どうやら渡辺も俺の答えに納得してくれたようだ…してくれたよね?

 

「よし!じゃあ冷夜君も見つかった事だし体育館に…全速前進ッヨーソロー!」

 

「元気だな…」

 

その言葉を合図に走り出す渡辺。俺は走る気は無いので歩いて向かう。最近体力がついてきたとは言え、メンドクサイしな…

 

「ほらほら、早く来ないと置いてっちゃうよ!」

 

「先行ってていいぞ~俺は松田さんに渡された差し入れを丁重に運ばなきゃいけないからな。」

 

「もう!そんなこと言って走るのがメンドクサイだけでしょ!」

 

一カ月もすればあいつ等も俺の性格を把握してきたようで、最近俺の思考が読まれがちになっている気がする。それだけ俺は三人娘と一緒に過ごしてるということか…

 

「………」

 

「どうしたの?立ち止まったりして?早く行k…」

 

「なあ渡辺。」

 

なら俺も少しは踏み出しても良いのだろうか?前に進んでも良いのだろうか?

 

「何かな冷夜君?」

 

「…俺さ、応援してるから。」

 

「………」

 

俺らしくない事は理解している。でも今はこの感情に身を任せたい。そして…

 

「だから…一緒に頑張ろう。」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「…急にどうしたの冷夜君?」

 

「…別に、ただ言いたくなっただけだよ。」

 

「…そっか、それじゃあその言葉は千歌ちゃんと梨子ちゃんにも言ってあげて。きっと喜ぶから!」

 

「…ああ、そうだな。」

 

普段の俺なら考えもしない、ましてや行動に移すなんて事は絶対にしない。俺の性格を知ってる渡辺が目を見開いて驚いていたのだから間違いない。あの二人も渡辺と同じ顔をするだろう。

 

そしてきっと今の渡辺と同じように微笑んでくれるのだろう。

 

それがこの一ヶ月、三人娘と関わってきて導き出した答えなのだから。

 

「そうと決まれば善は急げだよ!」

 

「え?あ、ちょっと…ッ!」

 

「ほら早く行くよ!」

 

「分かった!分かったから引っ張るな!」

 

この後二人にも同じセリフを言ったことにより、彼の中で新たな黒歴史が生まれることになろうとは、この時の彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。
今回クラスメイトの名字はそれぞれの声優さんから取りました。
名前も漢字一つにして統一感を持たせてみました。
というかダイヤさんの口調ってこんな感じだったか少し不安…
それから少しですが曜ちゃんとの絡みを入れました。
これからも絡ませていきたいですねぇ〜
次回も頑張って書いていくので是非読んでください!


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