忠犬と飼い主~本編~ (herz)
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忠犬、赤井秀一



 本作品を読む前に、1度読んで欲しい注意書きです!


・この作品は二次創作小説です。

・あらゆる妄想を詰め込んでいます。

・キャラ崩壊(主に赤井さん)あり。

・オリ主が登場します。

・ご都合主義です。

・作者は名探偵コナンの原作を読んでいません。アニメも見ていません。
(映画を少し見た程度。あとはpixiv内のコナンの小説から得た情報のみです。)

・登場人物の口調がおかしいかもしれません。

・「」の中は日本語、『』の中は英語を話しています。

・基本的にオリ主の視点から見た話になります。

・忠犬な赤井さんを書きたい!という願望から生まれた二次創作小説です。

・作者に文才はありません!


 以上の注意書きを読み、それでも構わない!という方は、どうぞ!

 楽しんで読んでいただければ、幸いです(*´∀`)





 

 

『――やぁ、久しぶりだね。調子はどうかな?』

 

『あぁ、久しぶりだなボス。調子悪くないぜ。そっちはどうだ?』

 

『こちらも悪くないよ。むしろ皆、例の組織の壊滅作戦の日取りが決まった事で、気分が高揚しているようだ。……私も、年甲斐もなくその日を今か今かと待ちわびているところだ……』

 

『!……そうか。ついに、その時が来たんだな。……で?』

 

『うん?』

 

『その報告のためだけに電話をしてきたってわけじゃないんだろ?……用件は?』

 

『……いやはや、参ったな!やはり君には分かってしまうか。……実はね――』

 

 

 

 

『――ということなんだが、どうだろう?』

 

『……なるほどなぁ……了解だぜボス。準備ができ次第、すぐにそちらに向かうとしよう』

 

『おぉ、助かるよ!君が来てくれると心強い。……しかし、君も長期任務から戻ったばかりだというのに、また働かせてしまってすまないな』

 

『いや、これくらいどうってことないさ。むしろ呼んでくれた事に感謝している。……若い奴らに負けてられないからな』

 

『さすが、頼もしいな。……きっと、彼も喜ぶだろう。師弟の感動の再会だな』

 

『……よせよ。あいつは……秀一はもう、俺の弟子という立場に納まるような奴じゃない。とっくに、俺を越えている。それに、任務中は連絡も取ってなかったからな。最後に会ったのは……6年前か。弟子に劣る師匠の事なんて、気にも留めないだろ』

 

『…………いやー……それはあり得ないだろうな。赤井君は君に会えなくて寂しそうにしていたよ。気にも留めないなんて思っているのは、間違いなく君だけだ』

 

『はは、そんな大げさな!』

 

『大げさではないのだが……』

 

『いや……っと、悪い。呼ばれた。そろそろ切るぞ』

 

『あぁ、引き留めてすまなかった。君の到着を待っているよ、荒垣君』

 

『了解、ジェイムズ。待っていてくれ。じゃあな』

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

(……さて、と。久々の日本だな……)

 

 

 空港にて。俺はそう思いながら、辺りを見渡した。中学生の頃、家族と共にアメリカへ引っ越して以来、日本の土を踏んだ事は数回程度しかない。

 懐かしさを感じつつ、目当ての人物を探す。

 

 

「――荒垣君!」

 

 

 おっと。向こうが先に見つけてくれたか。

 

 振り向くと、ボス――ジェイムズ・ブラックが俺に向かって手を振っていた。俺はそれに応えて、ボスの元に歩み寄る。

 

 

「お久しぶりです、ボス。わざわざ迎えに来て頂き、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしてすみません」

 

「いやいや、気にしないでくれ。私がそうしたかっただけなんだ。……ところで、日本語を話す時の敬語は必要ないよ。いつも通りで頼む」

 

「……ならば、そうさせてもらう」

 

「うむ。……さぁ、そろそろ行こうか」

 

「了解」

 

 

 ボスに案内され、俺は空港を後にした。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ボスが運転する車に乗り――内心、上司に運転させている事にかなり申し訳なく思っている――向かった先は、黒の組織対策の合同捜査本部。FBIと日本の公安警察による、合同捜査の拠点となっている場所だ。

 本部が設置されているビルの地下駐車場で車から降りて、ボスの後をついて行く。

 

 

「そういえば、捜査中に何度か公安と衝突していたって聞いたぜ?今はどうなんだ?」

 

「あぁ……確かにその通りだが、今は落ち着いている。そのおかげで、作戦の日取りも決まったんだ」

 

「へぇ……」

 

 

 アメリカにいる部下から聞いた話では、売り言葉に買い言葉のオンパレードが続き、それでも共通の敵がいるおかげか、どうにか成り立っていたようだが、それも表面上そう見えているだけだったらしい。

 それが落ち着いた。……一体何があったんだ?

 

 疑問に思った俺は、その事をボスに問い掛けた。

 

 

「……それは、公安警察の指揮を取っている降谷零という男と赤井君の関係が、ある程度修復された事がきっかけになったのだ。

 2人はそれぞれの組織内で一目置かれている。しかし、とても仲が悪かった。……私には仲が悪いというよりも、一方的に降谷君が赤井君を敵視しているだけのように見えたのだが、大半の者はそうは思わなかったようだ。……2人に影響されて、我々と公安の関係も悪化した。

 だが、最近になって何があったのか、降谷君が赤井君に突っ掛かる頻度が大幅に減った。それに合わせて、我々と公安の関係も徐々に落ち着いていった……というわけだ」

 

「降谷零……確か、今でもバーボンって名前で組織に潜入している奴だよな?そいつと、秀一の間には何があったんだ?」

 

「私も詳しくは知らない。赤井君に聞いたが、はぐらかされてしまったんだ。……しかし、君が聞けば彼も答えてくれるかもしれないな」

 

「俺が?……ボスが聞いて駄目だったんだ。俺が聞いても同じだろ」

 

 

 何より、答えたくないのであれば俺も無理に聞き出すつもりはない。

 

 

「そうかね?私が聞くよりも答えてくれる可能性は高いと思うのだが。……おぉ。そういえばもう1人その可能性が高い人物がいたな。もしかすると、2人の仲を取り持ったのも彼だったのかもしれない」

 

「彼?」

 

「江戸川コナン君。数日前に電話でも話していた、今回の作戦の司令塔である少年だよ」

 

 

 ――江戸川コナン(クールキッド)。ボスから話は聞いていたし、アメリカにいる部下の口からも度々出て来ていた名前だ。

 頭が切れる。ギフテッドである。あの赤井秀一が一目置いていた。組織に対する切り札……といった評価を受けている少年。

 そして……

 

 

「――秀一の命の恩人、か」

 

「うむ。……コナン君のおかげで、赤井君は無事だった。彼には心から感謝しているよ」

 

「確かに、秀一を救ってくれた事には感謝しないとな。……だが、ジェイムズ。俺は……」

 

「分かっているよ。君は、自分の目で判断したいのだろう?」

 

「……あぁ」

 

 

 ……そう。俺はまだ、他人の視点から見た江戸川コナンしか知らない。自分の目で判断するまでは、ただのガキに命を預ける事はできない。

 "物事はできる限り自分の目で判断する"。秀一がまだ俺の弟子だった頃、一番最初に教え込んだ事だ。

 

 

「……さぁ、着いたぞ。ここだ。……車の中で既に説明したが、この先にいるのは今回の作戦の中心となるメンバー……謂わば幹部達だ。当然、赤井君もこの先にいる」

 

 

 ……そんな事を考えている間に、本部に到着した。……この扉の向こうに、秀一がいるのか。

 

 

「…………」

 

「……緊張しているかい?」

 

「まぁ、な。……6年振りの再会だからな」

 

 

 ……不安だ。流石に元師匠の顔は覚えているだろうが、どんな反応が待っているのか……

 

 

「ふふ……君は緊張しているようだが、私は赤井君の驚いた顔が待っているのだと考えると、とても楽しみだよ」

 

「…………畜生、他人事のように……!」

 

 

 この食えないジジイ……心底楽しそうな顔しやがって!

 

 

「ははは!……では、行こうか」

 

「……おう」

 

 

 そして、扉が開いた。

 

 さぁ、いい加減に腹をくくるんだ、俺。たとえどんな反応をされたとしても冷静に、冷静に……

 

 

「……やぁ。全員揃っているかな?」

 

「ジェイムズさん!……うん!全員いるよ。ジェイムズさんと、あなたが呼んだ助っ人の人で最後だよ」

 

「そうか。ありがとう、コナン君。……さぁ、入ってくれ」

 

「……失礼します」

 

 

 ジェイムズに促されて、部屋の中に入る。……部屋の中にいたのは、6人。その中で俺が知らない人間は3人。

 1人目は金髪で褐色肌の男。2人目は黒髪で眼鏡を掛けた男。どちらもスーツを着ている。おそらくこの2人が公安の人間で、どちらかが降谷零なのだろう。そして3人目……

 

 

(……こいつが、江戸川コナンか。……本当にガキじゃねぇか。随分小さい……)

 

 

 ボスも名前で呼んでいたし、この場にいる少年はこいつだけ。確定だ。

 

 ……ひとまず、このガキは置いといて。残りの3人。ジョディに、キャメルに……

 

 

(秀一……って、髪が短い!?)

 

 

 最後に会った時にはかなり長くなってたのに……結構切ったな!

 

 相変わらず服装は黒一色……ニット帽もそのままだ。そして表情……目を見開いて、僅かに口も開いて唖然としている。

 ……イケメンはどんな表情をしていてもイケメンのままだな。しかし、こいつのこんな表情を見たのは初めてだ。最悪の場合、誰だ?って顔をされる事も覚悟していたが……この反応なら、覚えているんだろう。安心した。

 

 さて、ガキと同様に秀一の事もとりあえず置いといて。軽く自己紹介するとしよう。

 

 

「……荒垣和哉です。ボスからの要請により、今回の作戦に参加させて頂きます。よろしくお願いします」

 

「カズヤ!久しぶりね!まさか助っ人があなただったなんて……」

 

「お久しぶりです、荒垣さん!」

 

「あぁ、ジョディもキャメルも、久しぶりだな。……そちらは初めまして、ですね。お名前を聞いても?」

 

 

 ジョディとキャメルから視線を外し、初対面の2人を見た。その2人のうち、金髪の男の方が先に口を開く。

 

 

「警察庁警備局警備企画課所属、降谷零です」

 

「警視庁公安部所属、風見祐也です」

 

 

 続いて、黒髪の男の方も名乗った。……なるほど。金髪の方が降谷零だったか。

 

 

「降谷さんに、風見さんですね。よろしくお願いします。……さて。残る初対面は君だけだな、江戸川コナン君」

 

「僕の事知ってるの?お兄さん」

 

「お兄さん?……くくっ……嬉しい事を言ってくれるなぁ少年。俺はこれでもそろそろ四十路に近いんだが……」

 

「「はっ!?」」

 

「えっ40歳!?」

 

 

 案の定、驚かれたな。公安の2人まで一緒になって驚いてやがる。

 

 正確に言えば38歳だがな。30を越えた辺りから見た目が20代半ば、もしくは後半ぐらいにしか見えないと言われるようになった。……日本人は童顔だからな……

 なんとなく、降谷零はそうゆう意味で俺と同類なのではないかと思う。

 

 そんなことより、今気になったのは……

 

 

「ところで、江戸川少年?君、四十路なんて言葉の意味をよく知っていたな。小学生だろう?」

 

「えっ!?いや、それは……た、たまたま学校で習ってたんだよ!」

 

「ほう、学校で。……最近の小学生は進んでいるなぁ……」

 

「あ、あはは……」

 

 

 ……ふむ。不意打ちには弱そうだな。それに誤魔化し方が小学生らしく見えない。

 そもそも普通の小学生はこの程度の質問で焦らないはずだ。むしろ、よく知っていたなと褒められたと思って自慢げな様子を見せるんじゃないか?

 

 やはり、妙だなこのガキ……

 

 

「…………和哉さん」

 

 

 おっと。ようやく再起動か?

 

 江戸川コナンについて思考を巡らせている途中で、秀一が声を掛けてきた。

 

 

「おう、秀一。久し……ぶ、り」

 

 

 …………満面の、笑みだ。

 

 一瞬だが思考停止を起こした。仏頂面がデフォルトの秀一が、キラキラ輝かんばかりの笑顔を、俺に向けている。

 

 おい、デフォルト!デフォルトはどうした!?行方不明か!?お前の表情筋意外に動くんだな!?

 

 

「……お久しぶりです、和哉さん。ここにいるという事は、長期任務は無事に終了したんですね。お疲れ様でした」

 

「お、おう……なんとかな」

 

「あなたなら必ず成功させるだろうと、信じていましたよ。……ところで、お怪我はありませんか?体調は?」

 

「……いや、問題ない。ないから、ここにいる」

 

「それもそうでしたね。不躾な質問をしました。申し訳ありません。……しかし、たとえ成功させるだろうと信じていたとしても、心配はしていましたから確かめたくなって……」

 

「い、いや……気にするな」

 

 

 今度は眉を下げて不安そうな表情を見せている。……だから!デフォルト!!表情筋は仕事するんじゃねぇ!

 

 さりげなく、周囲の反応を伺った。

 

 ジョディとキャメルは最初は心底驚いた顔をしていたが、徐々にそれぞれ呆れたような表情と、苦笑いを見せるようになった。

 ボスは、ただニコニコと笑っているだけだ。……楽しそうで何よりですね、この野郎!

 残る初対面の3人は、唖然とした表情を見せている。……あぁ、そうだよ。これが正常だよ!俺だってこんな表情になりそうなところを必死にポーカーフェイス維持して頑張ってんだ!

 

 しかしこれらの反応を見るに、秀一がこうなる原因を知っているのはうちの連中だけか?

 ということは、その原因があるのは俺が長期任務でいなくなった6年前から、秀一が組織に潜入を始める5年前までの1年間?もしくは、組織にNOCである事がバレてアメリカに戻ってから、現在までの2年間か?……何があったんだ一体……

 

 

「……それで?ジェイムズ。何故和哉さんが帰って来ている事を教えてくれなかったんだ」

 

 

 あ、デフォルトが帰ってきた。お帰り!

 

 なんてアホな事を考えるぐらいに突然表情がいつも通りに戻った秀一が、ボスに詰め寄った。

 

 

「いやーすまなかったな、赤井君。これは、君へのサプライズだったんだ」

 

「サプライズ?」

 

 

 ……そう。ボスが俺の事を誰にも言わなかったのは、秀一を喜ばせるためのサプライズだったのだ。正直、俺がサプライズで登場したところで秀一が喜ぶのか?と疑っていたが……一連の反応を見るに、どうやら成功したらしい。

 

 それにしたって、何故あんな満面の笑みを……?

 

 

「うむ。数日前に彼に電話をして現在の粗方の状況を説明し、助っ人として来てくれないかと頼んだのだ。その時に、今までいろいろと頑張ってくれた赤井君をサプライズで喜ばせるために、誰にも帰って来た事を言わないで欲しい、とお願いした」

 

「……そうだったのか」

 

「どうだい、赤井君。リフレッシュになったかな?」

 

「……あぁ。なったよ。これ以上はない程に、な。……和哉さん」

 

「!」

 

 

 あぁデフォルトよ、さよなら。なるべく早く戻って来てくれ。

 

 再び笑顔を見せた秀一は、

 

 

「――お帰りなさい」

 

 

 心底嬉しそうに、そう言った。

 

 

「――おう。ただいま」

 

 

 ……デフォルト。さっきはなるべく早く戻って来い、なんて言ったが……少しだけなら遅れてもいい。表情筋も少しだけなら仕事していいぜ。

 

 勝手な事言っちまって、悪いな。

 

 

 

 

 

 






・そろそろ四十路に近い師匠兼飼い主(仮)

 6年にも及ぶ長期任務から帰って来た。と、思いきや再び上司に働かされる。若い奴らには負けてられないぜ。
 6年振りの元弟子との再会に内心ドキドキ。実はちょこっとヘタレ。
 再会した元弟子のデフォルトが行方不明でビックリ仰天。しかしポーカーフェイスは忘れない。
 しかし、最終的に元弟子の表情筋が仕事する事を許容し、デフォルトの家出も許可した。
 だって、あんなに無邪気にお帰り、なんて言われたら……なぁ?


・三十路を越えてる弟子兼忠犬

 いるはずのない師匠の存在に驚き過ぎて思考停止。後に再起動。デフォルトを取っ払う。ずっと会えなかった師匠に再会できてニコニコ。
 サプライズだと?こんなに嬉しいサプライズは初めてだ!お帰りなさい、和哉さん!!
 自分のデフォルトが崩れている事も、表情筋が今まで以上に仕事している事も自覚済み。しかし、後悔はしていない。
 なお、師匠が既に"元"弟子という認識でいる事に気づいていない。そのうちこの事実を知ったら揉め事が勃発する可能性も……?


・理不尽を受けた忠犬の表情筋

 えっ、仕事しちゃ駄目なんですか!?と、思いきや許容された。


・家出を許可された忠犬のデフォルト

 帰ってこいと言われたり、家出を許可されたり……解せぬ……







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忠犬、赤井秀一2


 前回書き忘れていたのですが、作者は赤井さん贔屓です。また、オリ主が目立ちます。そのため、今後の話の中でも他の登場人物達は影が薄くなるかもしれません。

 今回の話では、オリ主と赤井さんとコナン君以外は影が少し薄くなっています。また、少しだけ純黒の悪夢の話に触れています。




「……ね、ねぇ!荒垣さんは赤井さんとどうゆう関係なの?」

 

 

 秀一への挨拶を終えると、例のガキが俺にそう聞いてきた。まぁ、気になるよな。

 

 それに答えようと口を開いたが、それよりも先に秀一が答えた。

 

 

「和哉さんは、俺の師匠だ。狙撃の技術はもちろん、それ以外にも様々な事を教わった」

 

「えぇっ!?」

 

「師匠、だと!?赤井の!?」

 

 

 江戸川コナンと公安の2人が目を見開いて俺を見ている。……そんな超人を見るような目で俺を見るなよ……

 

 秀一に比べれば、俺は至って平凡な人間だ。確かに、初めの頃は俺の方が狙撃技術やその他諸々が上だった。だが、回数を重ねるうちにあいつは上達して、俺を軽々と越えて行った。

 それが悔しくて、自分が情けなくなっちまって……何より秀一に失望されたくなくて、努力を重ねたが……その天才的な才能には勝てなかった。

 ならば、と始めたのが知識を詰め込む事だった。それから交渉術や話術など、様々な事を学んだ。同じ分野で勝てないのであれば、別の方面から攻めればいい。俺はそう考えた。そうする事で、なんとか師匠としての面子を保っていたのだ。

 幸い、頭の回転の速さには自信があったから、習得するのは速かった。

 話が逸れたがつまり、俺は秀一には劣る人間で、秀一は俺程度の弟子という立場に納まるような男じゃない、という事だ。

 

 しかし、こいつ今俺の事を師匠と呼んだか?まさか、今でもそう思っているわけではないだろう。……元師匠の面子のために気を遣ってくれたのか?

 

 

「赤井さんの師匠か……それなら、ジェイムズさんが助っ人として呼んだ事にも納得だね!」

 

「……まぁ、そうだな。非常に……非常に!不本意だが、赤井の能力の高さは知っているし、その師匠ともなれば作戦の成功にも一役買ってくれるだろう」

 

「あぁ。期待してくれていいぞ。和哉さんだからな」

 

「何故本人よりも貴様が得意げになるんだ……」

 

 

 やめろ、ハードルを上げるな!キラキラと期待する視線を向けるな!

 

 だがしかし、元弟子がせっかく元師匠の面子を保ってくれたんだ。それに応えねぇと……

 

 

「……既に、秀一の狙撃技術は、俺の狙撃技術を大きく越えています。よって、そちらでは大して役に立たないでしょうが……その代わり、知識量や頭の回転の速さには自信があります。それに、10年以上はFBIに勤めているので、多くの経験を積んでいます。こちらの方面でなら、役に立てるでしょう」

 

 

 ……すまん、秀一。俺にはこれが限界だ。

 

 

「おや?君にはパルクールもあるだろう、荒垣君」

 

「…………あのなぁ、ボス。現実的に考えてくれ。確かに素人よりはできるが、やっぱり体力的にそろそろしんどいんだよ。それにこの技術も既に秀一には教えてあるし、秀一の方が俺よりも上だ」

 

「しかし、例の長期任務中に車で逃走する重要参考人を、パルクールで半日追いかけて見事確保したと聞いたぞ?」

 

「あぁ……それ、もう報告されてたのか……でもな。それ、次の日筋肉痛で一日中ベッドの上の住人だった、っていう落ちがあってだな……」

 

 

 ボスの言う通り、確かにパルクールも習得者はなかなかいないだろうし、役に立てるかもしれないが……それにしたって秀一には負けるし、たかが半日走り回っただけで次の日筋肉痛、なんて醜態を晒したからな……

 やっぱり無理がある。

 

 

「…………赤井の身体能力の一端は、師匠の教育にあったのか……通りで観覧車の上でも平気でいられるわけだ……」

 

「あの、それ降谷さんが言いますか?」

 

「本当だよねー。観覧車の上でその赤井さんと喧嘩してた人が、よく言うよ……」

 

「黙れ、風見」

 

「何故私だけ!?」

 

「ねぇ、赤井さんが観覧車の上でもバランスが取れたのって、そのパルクールの技術のおかげ?」

 

「あぁ。師匠の教え方が良かったおかげだな」

 

 

 年にはやっぱり勝てないのか……なんて思っていたら、そんな会話が聞こえた。

 

 おい、ちょっと待て。今聞き捨てならない話が聞こえたぞ……!

 

 

「……秀一」

 

「はい?」

 

「……観覧車の上で、喧嘩……とはどういう事だ……?」

 

「……あ」

 

 

 しまった、とでも言いたげな顔をされたがもう遅い。

 

 

「……で、どういう事だ?」

 

「それ、は……その……」

 

「吐け」

 

「ハイ」

 

 

 そして東都水族館での事件について聞いた俺は、頭を抱えた。

 

 

「秀一……お前なぁ……」

 

「…………すみませんでした」

 

「はぁ……」

 

 

 組織が関わっていて、知らなかったとはいえ爆弾が仕掛けられていた中で喧嘩……馬鹿か、こいつら。

 思わず冷めた目を当事者の2人に向けてしまった。

 

 降谷零は俺の視線から逃れるように目をそらし、秀一は逆に眉を下げて縮こまっていた。

 ……だからお前デフォルトは何処に……いや、もう何も言わねぇ。赤井秀一(旧)から赤井秀一(新)になったと考えよう。

 

 

「全く……まぁ、幸い一般市民への被害はなかったようだし、お前も無事だったからこれ以上は何も言わない。だが同じような事がまた起きたら……今度は俺が1ヶ月くらい口を利かなくなるかもしれないな?」

 

「あっ」

 

「ま、待ってカズヤそれは…」

 

「ん?」

 

 

 何故かキャメルとジョディが俺の言葉に反応した。何かまずい事でも言ったか?俺は冗談のつもりだったんだが……って、

 

 

「……おい、秀一?その世界の終わりを見たかのような表情は何だ!?」

 

「1ヶ月も口を利かないなんて冗談でも笑えない事を言わないで下さい死活問題です」

 

「お、おう」

 

 

 一息でそう断言されてしまい、俺は生返事を返すしかなかった。……やっぱり、うちの奴らを問い詰めよう。本当に何があった?

 まぁ、それは後回しだな。今はそれよりも気になる事がある。

 

 

「ところで、少年。さっきの話の中で、君に聞きたい事ができたのだが」

 

「え、えっと……なぁに?」

 

 

 子供らしく首を傾げているが、その目は油断しておらず、こちらの様子を窺っている。

 初対面でのやり取りのせいか、俺の事を警戒しているようだな。……しかし、今回はこいつが何者なのかを問いただしたいわけではない。

 

 

「君は何故、東都水族館に向かったんだ?危険だと分かっていただろう?」

 

「……確かに、分かっていたよ。でもノックリストの情報が組織に渡ってしまうかもしれない事に気づいたら、いても立ってもいられなくて…」

 

「ならば、それを既に水族館に向かっていた秀一に知らせれば良かっただろう?……実際は君の助力があったおかげでなんとかなったが、本来なら子供が関わっていい事件じゃない」

 

「それは……そう、かもしれないけど、でも…」

 

「でも、何だ?まさか自分は大丈夫、なんて安易に考えてなかっただろうな?黒の組織が関わっている時点で、そんな安易な考えは邪魔でしかない」

 

「違う!安易になんて考えてない!」

 

「じゃあ何故だ?」

 

「何故って、それは…」

 

 

 と、そこまで聞いたところでジョディとキャメルに、公安の2人が止めに入って来た。

 

 

「カズヤ、一体何をしているの!そんなに追い詰めるように詰問して……」

 

「そうですよ!さすがにそこまでしなくても」

 

「FBIに同意するのは癪ですが、俺も同意見だ。子供を相手にやる事ではない!」

 

「それに、初対面だというのに……」

 

「秀一」

 

「了解」

 

 

 しかし、今は邪魔者以外の何者でもないため、秀一に止めてもらう。

 

 

「和哉さんの邪魔をするな。下がれ」

 

「ちょっとシュウ!どういうつもり!?コナン君が可哀想じゃない!」

 

「和哉さんは無駄な事をするような人ではない。俺も、これには意味があると思っている」

 

「子供を詰問する事に何の意味がある!?」

 

 

 ……あー、やっぱり駄目だ。

 

 

「悪いな少年。ちょっと待っててくれ。……おい、そこの2人。今、可哀想だとか子供だとか言ったな?

――その可哀想な子供が今回の作戦に参加する事に、お前らは賛成したんだよな?」

 

「っ!!それ、は……」

 

「そう、だけど……」

 

「お前らはこのガキを子供として扱いしたいのか、司令塔として扱いたいのか、どっちだ?」

 

 

 俺はどうしても、そこが気になっていた。

 こいつらは確かに、このガキを司令塔に据えた。なのに、こいつを同志ではなく子供扱いしているように感じる。……秀一は間違いなくこのガキを同志として扱っている。きっと、ボスも分かっているだろう。だから、2人は俺を止めなかった。

 

 では、このガキ自身はどうだろうか?子供扱いされない、1人の人間として扱われる事への覚悟はあるのか?

 

 秀一とボスはガキとの交流の中でそれを見出し、同志として、司令塔として認めた。しかし、俺は初対面だ。だからこそ……

 

 

(――俺はお前を見極めるぞ、江戸川コナン)

 

 

 お前がか弱い子供なのか、それとも命を預けるに相応しい司令塔で、同志なのか。

 

 

「さて。邪魔が入ってしまったが、話を戻そう」

 

「……うん。いいよ。あの日、僕が何故東都水族館に向かったのか、だよね」

 

 

 おっと?冷静になっているな。もしや、俺が見極めようとしている事に気づいたのか?

 ……まぁ、それぐらいはやってもらわないと司令塔を任せるなんて無理だよな。

 

 

「……危険だと分かっていた。でも、体が勝手に動いちゃったんだ。僕が行かなきゃって、そう思って……今まで、ずっとそうだったから。自分が動いた方が早かったから」

 

 

 江戸川コナンは、自嘲気味にそう言った。……小学生らしくない顔だな。

 

 

「でも、それだけじゃなかった。だって、赤井さんがいるって分かっていたから。……赤井さんの力を借りればきっと大丈夫だ、って思っていたんだ。……凄く、無責任な事だけどね」

 

「あぁ、その通りだな。無責任だ。秀一に自分の身の安全を勝手に委ねたって事だからな。こいつだって、自分の身が危険に晒されていたってのに。そんな中で自分の身だけでなく、お前の身まで守ってくれた秀一に、精々感謝しやがれ」

 

「……うん」

 

「だが、」

 

「?」

 

「どうやらお前はちゃんと反省しているらしいな。そこは認めてやる。……ひとまず、東都水族館での事はここまで。同時に、前置きも終わり」

 

「!」

 

 

 さて、ようやく本題だ。

 

 

「今後、お前は作戦中に司令塔として動くわけだが……お前が考えた作戦中に、死者が出る可能性は当然ある。――その作戦に参加する同志達の命を背負う覚悟はあるか?」

 

「っ!!」

 

「そして最悪の場合、お前の存在が組織の連中にバレるかもしれない。そうすれば狙われるのはお前だ。――自分の命を懸ける覚悟はあるか?」

 

「…………」

 

「……俺は、その覚悟が無いようなら、お前を全力で作戦から遠ざけるぜ。覚悟の無い奴が司令塔になってしまえば、その作戦中に死ぬ奴らが報われねぇ。……何よりも、俺自身が命を懸けるつもりでこの作戦に参加するからな。そんな相手に命を預けたくない」

 

「…………」

 

「で、返答は?」

 

 

 俺は、本気で睨んだ。……しかし、それに対してガキは真っ向から睨み返してくる。

 

 

「…………覚悟はあるよ」

 

「……ほう?」

 

「仲間達の命を背負う事も、自分の命を懸ける事も……既に、覚悟しているよ。僕には――いや俺には、どうしても黒の組織を壊滅させないといけない理由がある!」

 

「……その理由ってのは?」

 

「……取り戻さなきゃいけない物と、守りたい人達がいる」

 

「…………」

 

「取り戻したい物が奴らにバレたら、守りたい人達に危険が迫る。だから、そうなる前に奴らを壊滅させる必要がある。そして何よりも――俺は絶対にそれを取り戻したいんだ!!」

 

「……たとえ、どんな犠牲を払っても?」

 

「死なせはしない!」

 

「何だと?」

 

「俺が必ず、全員が生き残る作戦を成立させてみせる!仲間達全員の力を借りて、作戦を成功させてやる!当然荒垣さん……あんたの力だって借りるからな!!」

 

「……本気か?」

 

「本気だ!!」

 

 

 ……正直、江戸川コナンの覚悟を甘く見ていたかもしれん。まさか、ここまで鬼気迫る程のものだったとは――間違いなく、こいつは本気だ。

 

 ……よし。決めた。

 

 俺はそこで初めて片膝をつき、ガキの……江戸川の目線に自分の目線を合わせた。そして、今もなお睨み返してくるその目に向けて、笑い掛けた。

 

 

「……認めよう。江戸川。お前は間違いなく、俺が命を預けるに相応しい男だ。今までの非礼を詫びる。……すまなかった」

 

 

 そう言って、俺は頭を下げた。

 

 

「えっ!?あ、いや……頭を上げて下さい。あなたは悪くない。本来なら、こんな子供に命を預けるなんて無理な話ですから……」

 

「……普通なら怒ってもいいものだが……お前は器がでかいな。秀一やボスが認めるだけはある」

 

「い、いや、そんなことは……」

 

「ところで、江戸川……俺は面倒になって途中から素の口調に戻したんだが……お前も、それが素なのか?」

 

「え?……あっ!」

 

 

 どうやら我に返ったらしい江戸川は、目に見えて焦り始めた。

 

 

「ええっと……な、何のことかなー?」

 

「誤魔化し方が下手くそだな」

 

 

 バレバレ過ぎて逆に面白い。

 

 

「やっぱり、それはお前が小学生らしくない事に関係しているのか?」

 

「あ、いや……」

 

「和哉さん。それはいずれ、時が来れば彼が自分から話してくれるはずですよ。……そうだよな、ボウヤ?」

 

「それは……その……」

 

「それとも、俺の推測を話してもいいか?かなり自信があるんだが…」

 

「あーっ遠慮するよ!時が来れば絶対に話すから!!」

 

「そうか?残念だな……」

 

「秀一、後でその推測を聞かせてくれ」

 

「えぇ。もちろんいいですよ」

 

「だ、駄目だよ!赤井さん推測って言っておきながら絶対確信してるでしょ!?」

 

「いいや?あくまでも推測だ。99%は確信しているが」

 

「残りの1%の意味は!?」

 

 

「あー……ゴホン」

 

 

 と、ボスがわざとらしく咳払いをした。……秀一と2人して江戸川で遊んでいた事がバレたか。もう少しからかっていたかったが、仕方ない。

 

 

「そろそろ話を進めたいのだが……もういいかな?」

 

「い、いいよジェイムズさん!話を進めよう!」

 

 

 天の助けとばかりに、その助け船に乗った江戸川の目にはきっと、後光が差しているボスの姿が見えているのだろう。

 

 

「……その前に、少し時間をくれないか?コナン君」

 

 

 しかし、そこで降谷零が江戸川に声を掛けた。

 

 

「どうしたの?降谷さん」

 

「……先程の荒垣さんと君の話を聞いて、謝らなければならないと思ったんだ。……俺は君に協力を求めておきながら、まだ君を守るべき子供だと思っていたようだ。だが、君の覚悟を聞かせてもらった事で、そんな自分が恥ずかしくなった。――君は間違いなく、俺達の同志だ。……今まで、すまなかった」

 

「俺にも謝らせてくれ、江戸川君。正直、子供だと侮っていた。……すまない」

 

「ごめんなさい、クールキッド!私は、あなたの覚悟を踏みにじっていたのね……」

 

「すまない、コナン君……」

 

「ええっ!?ちょ、ちょっと……!」

 

 

 ……ふむ、潔いな。下げた評価を元に戻しておくとしよう。

 

 そう思いながら一歩離れた場所で江戸川達の様子を見ていると、いつの間にか隣にいた秀一が声を掛けてきた。

 

 

「さすがです、師匠。あなたの言葉で彼らは確かに変わった。それも、とても良い方向に」

 

「俺は何もしてねぇよ。ただ、江戸川が司令塔に相応しいのかどうかを確かめただけだ」

 

「ご謙遜を……」

 

「ところで、秀一」

 

「はい」

 

「後でさっきの推測聞かせてくれ。江戸川にバレないところでこっそりと、な?」

 

「……くくっ……了解」

 

 

 2人で顔を見合わせて、ニヤリと笑った。

 

 ……恨むのなら、ちゃんと口止めをしなかった自分を恨む事だな、江戸川。

 

 

 

 

 

 

 

 





・自分が凡人だと思っている師匠兼飼い主(仮)

 確かに元弟子に比べれば凡人寄りだが、それでも周囲から言わせれば充分な超人。本人は彼を基準に考えているため、感覚が麻痺して過小評価に。

 ただの冗談のつもりが、赤井に思わぬ反応を返された。やめろ、そんな捨てられた子犬のような目で俺を見るな。おい、うちの連中!説明しろ!

 今回、頭脳は大人な名探偵を見極めた結果、命を預けられる男であると認める。と同時にからかうと面白い事も知った。今後、定期的に赤井と共にからかう所存。悪い大人その1。


・師匠兼飼い主(仮)を自慢したい弟子兼忠犬

 どうだ、俺の師匠は凄いだろう?(ドヤ顔)だがしかし、直後に観覧車での喧嘩についてお叱りを受けて意気消沈。そんな冷たい目で見ないで下さい……

 さらにその後、洒落にならない冗談を言われて愕然。6年間も会えなかったし、それに加えて再会したのに1ヶ月も口を利かない……?やめてください、しんでしまいます……

 オリ主から久々の命令を受けたり、オリ主と一緒に悪巧みができたりしてご機嫌。すまないなボウヤ、楽しくて止められる自信がない。悪い大人その2。


・見極められた頭脳は大人な名探偵

 出会ってすぐにオリ主に痛いところを突かれてしまい、冷や汗を流す。オリ主に対する警戒心はMAX。

 その後は赤井の師匠である事を知り、また自分を試した時の言葉の数々から、尊敬できる大人であると認める。子供扱いではなく、1人の人間として扱ってくれた事が嬉しかった。

 しかし、素を出してしまった事に再び冷や汗が流れ、焦る。追及されて目が泳ぎ、さらに赤井がそれに加わっておろおろ。が、ジェイムズに助け船を出され、これ幸いとそれに乗った。神様仏様ジェイムズ様……!

 な、何だか寒気がする……(フラグ)



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忠犬、赤井秀一 短編集①

 

~忠犬の牽制~

 

 

 俺が秀一達幹部と顔合わせをして、今後の方針を決めた日の翌日。作戦に参加するメンバー全員に顔を見せる事になった。……普通ならわざわざ全員に紹介する程でもないというのに、何故そうなったのか。これには訳がある。

 

 作戦を立案する際に江戸川達に助言をする傍ら、素質のある者達にパルクールの技術を教えてやる事……これが、俺の役目となったからだ。よって、素質のある者を見つけ出すために、全員と顔合わせをしておく必要があった。

 それに公安の面々や、俺が長期任務に就いた以降からFBI所属となった若手連中は、当然俺の顔を知らない。俺は一応、幹部という扱いになる。念のために顔を見せておかないとな。

 

 という訳で現在、俺は会議室で自己紹介していた。

 

 

「FBI所属、荒垣和哉だ。6年前から長期任務に就いていたが、最近になってそれが完了したんで、戻って来た。俺が任務に就いてからFBIに所属するようになった連中とは、初対面になるな。古参の奴らは久しぶり」

 

「おう、久しぶりだな!」

 

「長期任務お疲れ」

 

「待ってたぜ、お帰りカズヤ!」

 

「おー、ただいま。……あ、最初に言っておくが、俺はこれでも38でな。10年以上はFBIにいる」

 

 

 俺がそう言うと、予想通りざわめきが広がった。古参の奴らはニヤニヤと笑っている。

 

 

「さすがBaby face(童顔)!」

 

「Shut up Old face(黙れ老け顔め)。……さて。今後、俺は江戸川達に助言をしつつ、お前達にはパルクールの技術を教える事になる。ただし、これは習得に時間が掛かるため、教えるのは素質のある奴だけだ。習得する見込みのない奴に教えても、時間の無駄になるだけだからな」

 

 

 すると、再びざわめきが広がった。……それはそうだろうな。これは、素質がある奴以外は全員素質がないと言っているのと同じだ。実際、若い奴らが顔をしかめたり眉をつり上げたりしている。今も……

 

 

「……ふざけてるな。素質のない奴はお荷物だとでもいいたいのか?」

 

「馬鹿にしやがって……」

 

『そもそも、あいつ本当にパルクールが使えんのか?』

 

『確かにな。体も細いし、他と比べれば背も少し低めだ。それに女顔だぜ?』

 

『男に体を売ってるとか?ホモか?』

 

『ははっ!』

 

 

 日本語だけでなく、英語でもひそひそとそんな悪口が聞こえてくる。……俺、実は耳がいいから結構聞こえるんだよなぁ……

 

 まぁ、そんな事はもう慣れた。いちいち反応してもしょうがない。無視して話を続け――

 

 

「っ!?」

 

 

 突然、隣からとんでもない殺気を感じた。俺に向けられたものではないが……

 

 

「……しゅ、秀一?」

 

「…………」

 

 

 その殺気の主は秀一だった。イケメンが凶悪面になって周囲に殺気を放っている……!

 

 

「……今、和哉さんを侮辱したのは、どこのどいつだ?」

 

 

 常よりもドスの利いた声で、秀一はそう言った。

 

 

「……ちっ。黙るくらいなら最初から言うんじゃねぇよ……和哉さんは俺の師匠で、俺がFBIの面々の中で最も尊敬している男だ。彼を侮辱するという事は俺を侮辱する事に等しい。――身の程を知れ、屑共」

 

 

 ……表情を見るに皆、俺が秀一の師匠である事に驚愕しているようだが、声には出ない。彼の威圧感が、言葉を奪っているのだろう。

 しかし、驚いた。まさか秀一が俺を尊敬しているなんて。昨日の様子から、慕われているのはなんとなく分かっていたが……実際に言葉にされると少し照れる。

 

 無論、ポーカーフェイスは怠らない。

 

 

「……さぁ、和哉さん。お待たせしました。話の続きをどうぞ」

 

「……あぁ。……ありがとう、秀一。おかげで静かになった」

 

「勿体ないお言葉を頂き、恐縮です」

 

 

 と、満面の笑みで恭しげに一礼して見せた。全く、イケメンは何をしても似合ってるよな……

 

 なお、この時初めて秀一の満面の笑みを見た連中は唖然としていた。

 

 

「……先程の言葉がお前達への侮辱に聞こえたのであれば、謝罪する。だが、事は一刻を争うんだ。作戦決行までもう半年を切っている。その間に、それなりにパルクールを使いこなせるようになってもらわなきゃ困るんだ。何せ予定では、俺を含めたパルクールを使える奴だけのチームを作り、そのチームに重要な役割を任せるつもりだからな」

 

「何だって……?」

 

「その重要な役割というのは?」

 

「……今はまだ言えない。幹部とそのチームに選ばれた奴だけが、詳細を知る事ができる。だが今は……最悪の場合は命に関わる、とだけ伝えておこう」

 

 

 これは俺が考えたものだが、最初は危険だからと、幹部達は納得してくれなかった。しかしその利点と必要性を訴える事で、なんとか認めてもらったのだ。ただし、条件付きだったが。

 

 

「ちなみに、このチームは俺と秀一が主導するからそのつもりでな」

 

 

 その条件というのが、秀一から付けられたものだった。秀一は本来なら万が一の時に自由に動ける立場にいる必要があるというのに、自分をそのチームに参加させないと認めないなんて言ってきやがった。

 江戸川達もそれに同調して、秀一をパルクールのチームにと推してきた。……そういえば、やけに必死だった気がするな。何でだ?

 

 おっと。それはともかく。

 

 

「パルクールの素質があるかどうかをどのように確かめるのかは、後日説明する。……ここまでで、何か質問はあるか?」

 

「なら、1つ聞きたい」

 

 

 そう言って挙手をしたのは、FBIの若い男だった。

 

 

「何だ?」

 

「赤井さんの師匠って事は、あんたには赤井さん以上の実力があるって事なんだよな?」

 

「いいや。秀一はとっくに俺を越えているぞ」

 

「はぁ?じゃああんたはそんなんで俺達に偉そうな事を言ってたのか?それで重要な役割を担うチームを主導するって?冗談はやめてくれ。そんな奴、俺は認めないぜ」

 

「おい、お前…」

 

「秀一、やめろ」

 

「しかし和哉さん…」

 

「秀一」

 

「…………失礼しました」

 

 

 俺は秀一を押し留めて、男の方に向き直った。

 

 

「確かに、俺は秀一には劣る。……だが、お前程度の若造を軽くねじ伏せる事はできる」

 

『……ふざけるなぁっ!!』

 

『あ、おいっ!!』

 

 

 仲間の制止を振り切り、男は俺に殴りかかって来た。……やれやれ。そんな様子でよくFBIが勤まるな。

 

 ――俺は殴りかかって来た男の目の前に、指先を突きつけた。

 

 男は思わず身を引いた。

 

 

「その構えって……截拳道(ジークンドー)!?」

 

「ん?よく知ってるな、江戸川。って、そうか。秀一が使っているのを見たのか」

 

 

 そう。俺が今使った技は、截拳道の技だった。これは俺も秀一もFBIに入る前から習得していたもので、俺達の数少ない共通点のうちの1つだ。

 まだ師弟だった頃に手合わせした事もある。互いに学べる事は多かった。

 

 

「……さて。とりあえず、今のは見逃してやろう。さっきのは挑発するような言葉を使った俺も悪かった。だがな――次はねぇぞ、クソガキ」

 

「ひっ……!!」

 

 

 ……ふん。この程度の気迫に怯えるくらいなら、最初から突っ込んでこなけりゃ良かっただろうが……

 そう思いながらふと、振り返ると……

 

 

「さすが和哉さん。相変わらず惚れ惚れする程の腕前です……!」

 

 

 キラキラと輝く緑の瞳と目があった。……眩しい……眩しいぞ、元弟子よ……!そんな目で俺を見るな……!俺はそんな腕前を見せたつもりはないぞ!?

 なんか変なフィルターが掛かってないだろうな?眼科行くか?

 

 

「昨日も思ったが、こいつは本当にあの、赤井なのか……?影武者じゃないだろうな……?」

 

 

 降谷のそんな呟きが聞こえた。……俺も最初はそれを疑った……でも俺が関わる時以外はいつも通りだからなぁ……

 

 

「むしろ、ますます磨きが掛かっているように見えます。今度改めて手合わせしませんか?」

 

「遠慮する」

 

 

 やめてくれ。いや、マジで。

 

 

 

 

 

 

・女顔の師匠兼飼い主(仮)

 

 女顔ですが、何か?顔や体格絡みで悪口を言われる事には慣れている。しかし、イラついてはいたので、生意気な若造に向けて截拳道を繰り出した。おっさんを嘗めるなよ!

 

 赤井に手合わせを申し込まれた。だが断る!

 

 

・凶悪面の弟子兼忠犬

 

 師匠を侮辱する事は弟子の俺が許さん!

 

 怒っていた事は本当だが、ここでオリ主に対して自分が従順な様子を見せれば、周りも多少は大人しくなるかもしれないと考えた上での牽制だった。

 

 腕に磨きが掛かっていたオリ主に手合わせを申し込むが、断られる。

(´・ω・`)ショボーン

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

~忠犬はストーカー予備軍?~

 

 

「…………ふぅ」

 

 

 会議室にて。書類を読み通した事で一区切りがつき、息を吐く。

 

 今、俺が読み終わった書類は、今回の作戦に参加している面子の身体能力や思考力をまとめた物で、例のパルクールのチームを選抜するために使う。基本的に誰を選抜するかは俺の判断で決定して構わない、と幹部達から許可をもらっていた。

 膨大な情報量を頭に詰め込んだせいか、少し疲れているようだ。

 

 

(……コーヒー……いや、紅茶だな。紅茶が飲みたい)

 

 

 そう思って席を立とうとしたところで、目の前のテーブルに湯気が立つ紅茶が置かれた。……この香りは……

 

 

「アールグレイ……」

 

「さすが和哉さん。ご名答です」

 

 

 声が聞こえた方へ振り向くと、柔和に微笑む秀一がいた。

 

 

「ちょうど飲もうと思っていたところだったんだ。ありがとな」

 

「どういたしまして。今の和哉さんなら、アールグレイが飲みたいだろうと思ったので、入れて来ました」

 

「そうか」

 

 

 気が利くな。……って、ん?何で俺が紅茶を……しかもアールグレイを飲みたがる事が分かったんだ?

 

 

「シュウ!ちょっと来て!」

 

「おっと。……呼ばれたので、失礼します」

 

「お、おう」

 

 

 それを聞こうとしたのだが、秀一はジョディに呼ばれて行ってしまった。……まぁ、いいか。

 気を取り直して、秀一が入れて来たアールグレイを飲む。

 

 

「…………これは……」

 

 

 ミルクの量が絶妙だった。これには驚いた。……美味しい。

 

 俺は、疲れが貯まっている時には紅茶を……特にアールグレイを飲むと決めている。それも、疲れの溜まり具合によってミルクの量を変えるのだが……秀一が入れて来た物は、まさに飲もうとしていた物と同じだった。むしろ……

 

 

(参ったな……これ、俺が入れる紅茶よりうまいかもしれないぞ)

 

 

 こんなところにまで天才的な才能が現れるのか?……俺の元弟子がハイスペック過ぎる……これは、もう一杯飲みたい。

 

 そう思っていたところで、秀一が戻って来た。

 

 

「あ、秀一。時間があったらもう一杯もらっていいか?うまかったんだ」

 

「っ!!」

 

 

 そう言った瞬間、まるで褒められた子供のように無邪気に笑い、すぐに入れて来ると言って立ち去った。……いや、子供というよりもあれは……

 

 

「まるで、飼い主に褒められて尻尾を振ってる犬みたいですね」

 

「……降谷か」

 

 

 誰かが近づいてきているとは分かっていたから驚く事もなかったが、一瞬、心を読まれたのかと思った。

 

 

「何か用か?」

 

「いえ。例のチームに選抜するめぼしい人材はいるのか、と書類を読み終わった時点で聞いてみようとここに来たのですが……来てすぐに犬を見るとは思っていませんでした」

 

「あー……」

 

 

 俺は降谷の言葉を受けて、苦笑いした。

 

 

「……お前の目から見て、そう見えたのか」

 

「えぇ。きっと、僕以外が見てもそう見えるでしょうね。……あの赤井秀一が犬のようになるなんて、一体何をすればあんな癖があり過ぎる男が従順になるんですか、飼い主さん?後学のために是非とも伺いたいのですが……」

 

「俺は飼い主じゃねぇよ。というか後学って……」

 

「いずれ、それなりの地位に就く予定なので、今のうちに駄犬の躾の方法を知っておきたいんですよ」

 

 

 うちには躾のなってない犬が複数いるもので、なんて言いながら笑う美形の目は、決して笑っていなかった。あー怖い、怖い。

 

 

「……確かに、あいつは最初からあんな風だったわけじゃない。だが、生意気だったのは最初の方だけでな。それ以降は俺を師匠として敬ってくれていたよ。……しかし、それでもあんなに無邪気じゃなくてな。昨日再会した時にはもうあんな風になってて、こっちが驚いているんだぜ?」

 

「そうだったんですか?」

 

「あぁ。……って、あ……そういえばあいつが何でああなったのかって話をボス達に聞き忘れてた」

 

 

 しかし、今は誰もが忙しいからな……最悪、全部が終わってからでもいいか。

 

 と、そこで秀一が戻って来た。

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。……やっぱりうまいな」

 

「喜んで頂けたようで、何よりです」

 

「あぁ」

 

「ふん。まるで荒垣さんの使用人だな」

 

「……ん?あぁ、いたのか降谷君」

 

「目の前にいただろうが!」

 

「君よりも和哉さんが優先だからな。気が付かなかった」

 

 

 おそらくわざとだろうが、秀一は今気が付いたかのように降谷に対して答える。……わざと、だよな?

 

 おっと、そういえば……

 

 

「なぁ、秀一」

 

「はい?」

 

「お前、何でさっき俺がアールグレイを飲みたいと思っている事が分かったんだ?それに、ミルクの量まで絶妙だった」

 

 

 先程聞きそびれた事を聞いてみた。すると、秀一はにっこりと笑い……

 

 

「あなたを師匠と認めてから数年間その仕草や癖をずっと観察していたので、あなたが疲れている事や、どんな飲み物を欲しているのかなどが、すぐに分かるようになったんですよ」

 

 

 ……なんて、割と衝撃的な言葉を口にした。

 

 

「…………よし、赤井。両手首を差し出せ。ストーカー予備軍として逮捕する」

 

「おい、待て。何故そうなる?」

 

「数年間もずっと1人の人間を観察してたなんて、ストーカー予備軍以外の何者でもないだろう」

 

「別にその生活を一日中眺めていたわけではない。盗聴や盗撮をしていたわけでもないぞ」

 

「だから予備軍と言っているだろう?将来的に予備軍が外れる可能性は充分ある」

 

「ただ和哉さんの事を知りたかっただけだというのに……」

 

「ストーカーは皆そう言うんだ」

 

「おい、予備軍を外すな。そもそもストーカー扱いをやめろ、理不尽な……和哉さんからもなんとか言って下さい」

 

「あー、うん。降谷、一応冗談はそれぐらいにしようぜ?」

 

「……仕方ないですね……」

 

「しかしな、秀一」

 

「はい?」

 

「正直、一瞬ドン引きした」

 

 

 ……その後、秀一は地面に跪いて項垂れた。……え?いや、そんなになる程の事を言ったのか、俺は!?

 

 俺が焦って秀一を慰めている中で降谷が大爆笑し、会議室にいる仲間達全員の視線が集まったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

・ドン引きした師匠兼飼い主(仮)

 

 最初は赤井のハイスペック具合に驚き、感心したものの、後の暴露に衝撃を受けた。一瞬だけ、本当に、一瞬だけドン引きしたぜ。

 

 ……って、え?あれ?そんなに落ち込む程の事は言ってないぞ!?

 

 

・ドン引きされた弟子兼忠犬

 

 褒められて舞い上がったが、その後どん底に落とされる。リアルOrz。しかし、オリ主から慰められてなんとか立ち直る。

 

 原因になった降谷君は絶許……!

 

 

・ストーカー予備軍を逮捕しようとした公安

 

 腹筋がヤバイwwwww

 

 なお、赤井に前科(阿笠邸の盗聴など)があることは知らない。

 

 

 

 

 

 



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忠犬、赤井秀一3~前編~

 ちょっと長いので、前編と後編に分けます。

 前編、オリ主や赤井さん以外にいつの間にか降谷さんの影が濃くなっていました……自分でも降谷さんの性格がよく分かっていないにも関わらず、拙い物を書いてしまったかもしれません。申し訳ないです……
 後編は逆に降谷さんが引っ込みます。

 また、今回は前編、後編共に捏造が特に激しいです。注意して下さい!


 あれから数ヶ月が経過し、作戦の決行日時が迫って来た。数ヶ月の間に選抜したパルクールのチームも何とか軌道に乗り、今はさらに鍛え上げているところだ。

 

 そんなある日。バーボンとして潜入捜査を続けている降谷が、ある情報を持ち帰って来た。会議室に俺を含めた幹部達が集まり、降谷から話を聞く。

 

 

「――キルシュ?……確か、組織の研究員のうちの1人だったか?」

 

「えぇ。それも古参の研究員です。……そのキルシュが、近々組織を抜けようとしているという情報を入手しました。どうやら組織に対して不満があったらしく、海外への高飛びを計画しているようです」

 

「……それは朗報だな。そいつを確保する事ができれば……」

 

「組織の新しい情報を手に入れる事ができるね!」

 

 

 江戸川の言葉に俺達は大きく頷いた。こいつの言う通り、組織に関する情報を手に入れるためにもキルシュを捕まえなければ。

 

 

「降谷さん。先回りして確保する事はできそう?」

 

「もちろんだよ、コナン君。既にキルシュの逃走経路は確認済みだからね。奴を確保するのに最適な場所を数ヶ所に絞ってある」

 

「さすが降谷さん!」

 

「仕事の早い男だな。さすが、優秀だ」

 

 

 江戸川や俺がそう言って称賛すると、降谷はにっこりと微笑んだ。……何だ?いつもより含みのある笑みだな。

 

 

「ありがとうございます。……ところで、荒垣さん」

 

「……何だ?」

 

「僕と赤井の、どちらの方が優秀だと思いますか?」

 

「はぁ?」

 

 

 いきなり何を言ってるんだ、こいつは。

 

 

「バーボンとして情報収集を行っている経験があるので、ありとあらゆる情報を入手する自信がありますし、たまに参加しているパルクールの訓練にもついて行ける程の身体能力もあります。それに、相手の懐に入り込める程の話術もありますよ」

 

「お、おう。そうだな」

 

「でしょう?……という訳で、身体能力やスナイパーとしての技術ぐらいしか目立つものがない男よりは、僕の方が優秀だと思いませんか?」

 

「ちょっと待て降谷君。それではまるで、俺にはそれしか能がないと言っているように聞こえるのだが?」

 

「事実だろう?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 2人の間に不穏な空気が漂う。……これは駄目だな。しばらく放っておくとしよう。

 そう考えた俺は、残りの幹部4人のいる場所まで避難した。江戸川も同じ事を考えたらしく、先に避難していたようだ。

 

 

「……あいつら、あれで本当に関係がある程度修復されたんだよな?」

 

「えっと、ついこの間まではそうだったはずだよ」

 

「だよな。……じゃあ、何で最近はこうなる事が多いんだ?」

 

 

 最近は何故か、秀一と降谷の間で何度か小競り合いが起きる。そして、それは大体降谷が秀一を煽る事がきっかけになっている。

 それだけなら以前と同じように、秀一が受け流せばいいだけの話なんだが……

 

 

「関係が修復される前みたいに受け流せばいいだろうに、何で秀一はそれをやらないんだ?だから降谷が調子に乗ってるんだろ……」

 

 

 俺には分かる。降谷は絶対に、秀一が受け流す事なく反応を見せる様子を愉快だと思っている。以前は受け流されていたからこそ、余計にそう思っているはずだ。

 普段の秀一なら、すぐにそれに気づくはず。

 

 

「本当にどうしたんだ?秀一は……」

 

「カズヤ……あなた、分からないの?」

 

「珍しく、赤井さんが分かりやすい態度を見せているのですが……」

 

 

 ジョディが呆れた、とため息をつき、キャメルは苦笑している。ボスは困ったように笑い、風見は目を見開いて驚いており、江戸川は空笑いを見せた。……だから江戸川。それは小学生が見せる表情じゃないぞ?隠す気があるのか?

 

 ともあれ、それぞれの反応を見た俺は首を傾げた。

 

 

「…………分からねぇな。お前らは分かるのか?」

 

「分かるわよ!あの2人の会話を聞いていればね!」

 

「会話を?」

 

 

 そこまで言うなら、聞いてみるか。

 

 

「……俺は沖矢昴だった時に料理もできるようになったぞ」

 

「ふん。それも俺が安室透として鍛えた料理の腕に比べれば、それ程でもないだろう?荒垣さんの胃袋を確実に掴む自信があるぞ」

 

「!…………俺にだってある」

 

「さて、それはどうだろうな?煮込み料理程度で胃袋を掴めるか?」

 

「今では煮込み料理以外にもレパートリーが増えた。……まぁ、そもそも和哉さんは料理も得意だからな。その和哉さんを満足させる物を作れるのか、君は」

 

「ほう……それはいい事を聞いた。今度、料理談義を持ち掛けてみるとしよう」

 

「……降谷君は以前よりはましになったものの、FBIの人間が嫌いだったはずだろう?何故和哉さんには積極的に関わろうとしているんだ?ここ最近、その傾向がかなり強くなっているようだが」

 

「確かに、荒垣さんもFBIだからな。こんな状況じゃなければ関わろうとはしない。だが、彼は実に優秀だ。頭の回転は早いし、おかげで仕事も早い。身体能力にも優れているし、お前や他のFBIと比べれば良識的な人物でもある。そして何よりも日本人!公安に欲しい人材だ」

 

「何だと?……和哉さんは俺の(・・)師匠だ。絶対に渡さない!」

 

「今はそうでも、もしかしたらいずれは俺の(・・)部下になっているかもしれないな」

 

 

 …………ふむ。

 

 

「……最近の小競り合いの内容も合わせて思い出してみたが、とりあえず俺が関係している事は分かった。……しかし、だからと言って秀一が冷静でなくなる理由がよく分からん。俺程度が降谷君と交流しようが、公安に引き抜かれそうになろうが、秀一の不利になるような事はないはずだぞ?いや、もちろん俺はFBIを抜けるつもりはさらさら無いが」

 

 

 そう言った途端、江戸川達5人がそれぞれ驚き、次第に呆れた目で俺を見るようになった。

 おいこら、お前ら。そんな目で見るな!俺が何をした?

 

 

「…………荒垣君」

 

「ん?何だよボス」

 

「くれぐれも、赤井君が聞いている時はそんな言葉を口にしないように」

 

「そんな言葉って?」

 

「自分を卑下するような言葉だよ。それに、君は赤井君と再会してから今日に至るまで、彼がどれだけ君を慕っているのか、それを目の当たりにしたはずだ。ならば、彼が冷静さを失っている理由も分かるのではないかね?」

 

「…………あー……」

 

 

 なんとなく、分かる、ような……?

 

 

「という訳で、だ。荒垣君」

 

「ん?」

 

「あの2人の小競り合いを、君が止めて来てくれ。そろそろキルシュを確保するための作戦会議がしたいんだ」

 

「はぁ?俺が?」

 

「そうだよ!お願い、荒垣さん!」

 

「荒垣さん、お願いします。今の赤井さんを止められる人はあなたしかいません!」

 

「それに降谷さんも、あなたなら止められるはずです!」

 

「頼んだわよ、Owner(飼い主)!」

 

「揃いも揃って何なんだお前ら……というか俺は飼い主じゃねぇぞ、ジョディ。……まぁ確かにボスの言う通り、そろそろ作戦を立てないとだな」

 

 

 仕方ない、行くか。……しかし、俺が言って止まるのか?あの2人は……

 

 不安に思いながら、俺は未だに言い争いを続ける2人の元へ向かった。

 

 

「おーい、お前ら。その辺にしたらどうだ?」

 

「あぁ、荒垣さん。良いところに来てくれましたね。……赤井。ここははっきりと、彼に決めてもらうとしようじゃないか」

 

「……よし、良いだろう。……和哉さん」

 

 

 秀一が真顔で見つめてくる。……何だ?

 

 

「俺と降谷君。どちらがより優秀だと思いますか?正直に答えて下さい」

 

「さぁ、荒垣さん。はっきりと答えて下さい。僕ですよね?」

 

「いいや、俺だ」

 

「…………はぁ……」

 

 

 俺は溜め息をつき、頭を抱えた。……そもそも、どちらが優秀なのかで争う事自体がおかしい。秀一も、降谷も。それぞれがそれぞれの分野で優秀なのだから。

 

 まず、秀一。こいつは天才と言える。スナイパーの技術はもちろん、パルクールの技術も最初は俺に劣っていたというのに、たった数年で俺を越えた。頭の回転が早く、物覚えもいい。俺が教えた事を次々と自分の物にして行ったからな。

 それに観察眼、想像力、身体能力などが凡人を大きく上回っている。また、常に冷静さを失わないように心掛けている事も、秀一が優秀である由縁だ。……何故か、今回のように俺が関わるとそうではなくなるのだが……それはともかく。

 先程の話でも、潜伏中に料理まで出来るようになったという。以前はまともな食事を自分から積極的に取る事があまりなく、それを見かねた俺がたまに手料理を食わせていたというのに……成長したものだな。

 

 次に降谷。こいつもまた天才と言えるだろう。まだ付き合いはたった数ヶ月しかないが、とにかく仕事のできる男だ。

 先程自分で言っていたが、こいつは情報収集能力や話術に長けているし、秀一に負けず劣らずの身体能力がある。そして、トリプルフェイスを続けられる程の忍耐力や演技力もある。おまけに料理もできるとか。これらの能力を駆使する事で仕事を行う。……これを優秀と呼ばずに何と呼ぶ?

 さらには、公安の部下達を率いる上でのリーダーシップまである。こいつはきっと将来、日本の警察組織の中でさらなる権力を身に付けるだろう。

 

 ……といった事を2人に話して、それぞれがそれぞれの一面で優れており、2人揃って優秀である事を伝えたのだが……

 

 

「どうしたんだ?お前ら。顔なんて隠して……」

 

「いや、その、はい。降参です。まさか、まさかそんな褒め殺しが返ってくるとは思わなくて……!」

 

『俺の師匠がこんなにも尊い……!』

 

「?……よく分からんが、とにかく作戦を立てる事が優先だ。くだらない小競り合いは後にしろ」

 

「「はい!」」

 

 

 

「……ねぇねぇ、ジェイムズさん」

 

「うん?何かな、コナン君」

 

「荒垣さんって、人たらしなの?」

 

「……うむ。本人は全く自覚がないのだがね……」

 

「そうなのよねぇ……それのせいで、カズヤに反発してた若手のほとんどが既に落ちてるのよ……」

 

「えっ!?あんなに荒垣さんの事を目の敵にしてたのに!?」

 

「赤井さんがあれだけ尊敬している人だからという理由もあるでしょうが、あの人自身にたらし込まれた若手がほとんどでしょうね……」

 

「……そういえば、公安の部下達からも荒垣さんの話をよく聞くような……」

 

 

 

 

「おい、そこの5人。作戦会議を始めるぞ」

 

 

 何やら話し込んでいた江戸川達を呼び寄せると、それぞれ複雑そうな表情で俺を見つめてきた。……どうしたんだ?

 

 しかし5人は特に何も言わなかった。気になってはいたが、今はそれどころじゃない。そのまま作戦会議を始める事にした。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 会議は滞りなく進み、キルシュ確保のための作戦を立てる事ができた。作戦実行は数日後となる。

 会議が終わり、その場は解散となったが、俺は先に1人で会議室を出た降谷に少し話があったため、廊下で呼び止めた。

 

 

「待ってくれ、降谷。話したい事があるんだ。もちろん、手短に済ませる」

 

「構いませんよ。この場でできる話ですか?」

 

「あぁ。……これからは、あまり秀一をからかわないでやってくれないか?あいつはどうも、俺が関わると冷静ではいられないらしい。そのせいで不安にさせたくないからな。……まぁ、その理由は俺自身、未だにはっきりと理解はしていないがな……」

 

「……そう、ですね。すみません。赤井に今まで散々のらりくらりと受け流されていたもので、奴が分かりやすく反発してくる様子を見る事がストレス解消になってしまって……って、ちょっと待って下さい。分からないんですか?あの男があれ程あなたの事を慕っているのに?」

 

「……さっき、同じような事を江戸川達にも言われた。秀一に慕われている事は分かってるんだが、それが理由であったとしても冷静でいられなくなる程の事じゃないと思ってな」

 

 

 そう言うと、珍しく驚いていた降谷が、呆れたような表情を見せた。……さっきの江戸川達と同じ表情だ。

 

 

「荒垣さん。あなた、周りからよく鈍感とか、人たらしだって言われませんか?」

 

「……たまに言われるな。何で分かったんだ?」

 

「それは分かりますよ、当然。……それはさておき、赤井を煽る頻度は減らしますね。では、失礼します」

 

 

 分かった理由は教えてくれないのかよ。それに、頻度を減らすだけで、止めはしないんだな……頑張れ、秀一。

 

 降谷を見送った後に会議室内に戻ると、秀一が声を掛けてきた。

 

 

「和哉さん。降谷君と何を話していたんですか?」

 

「ん、ちょっとな」

 

 

 秀一自身に聞かれてしまって気恥ずかしくなった俺は、そう言って言葉を濁した。……お前のために降谷と話して来た、なんて言えねぇし……

 

 すると、途端に険しい表情に変わった。

 

 

「……まさか、FBIをやめたり、しませんよね?」

 

「はぁ?何でそんな話になるんだ。俺はFBIをやめる気はさらさらねぇよ」

 

「そう、ですか。……そうですよね。疑ってすみませんでした」

 

 

 納得したのか、ほっとしたように微笑んだ。……そこまで気にする事なのか?

 

 

「しかし、その話でないなら一体何の話を……?」

 

「大した事は話してない。そんなことより、腹減ってないか?ここのキッチンを借りて何か作ろうかと思うんだが、ついでだからお前の分も作ろうか?」

 

「是非ともお願いします!」

 

 

 おおう、食い付きがいいな。しかし、おかげで話を逸らせたらしい。

 

 だがその後、江戸川達まで食べたいと言ってきた。仕方がないから俺の分も合わせて7人分の炒飯を作った。しかし、全員揃って無言で食いまくるのは不安になるからやめてくれ。

 最後に全員うまいと言ってくれたから良かったが……また今度作ってくれと念押しされたのは何故だ?

 

 その翌日。俺の料理の事を風見から聞いたのか、降谷が自分だけ仲間外れにするなと言ってきた。とりあえず降谷の分も作った。すると、降谷まで無言で食べていた。だから不安になるだろ……うまかったらしいから良かったがな。

 しかし、その後の反応が違った。この炒飯のレシピについて細かく聞いてきたのだ。別に隠してるわけでもないから、俺がアレンジを加えたレシピを教えた。真剣な表情でそれを聞き終えると……

 

 

「……荒垣さん。一緒にポアロの店員に…じゃなくて、潜入捜査しませんか?この腕ならいけますよ。間違いなく!」

 

「ははっ!冗談言うなって。無理だろ」

 

「いえ、冗談ではなく……むしろそのまま公安に…」

 

「降谷君、何を言ってるんだ。和哉さんは渡さないと言っただろう!」

 

「うわ、赤井!?どっから湧いて来たんだ貴様!」

 

 

 いつの間にいたのか、秀一が乱入して来てそのまま話はうやむやになった。結局俺は、2人の言い争いを止める事になった……

 まったく、少しは仲良くできねぇのかこいつらは……

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 幹部の作戦会議から数日後の真夜中。作戦を実行する時が来た。俺達が狙っているのは、高飛びをする前にキルシュを捕らえる事だ。さすがに空港で大捕物をするわけにはいかないからな。

 降谷が言うには、キルシュは人目を避けるような逃走経路を選んでおり、その経路にはある港が含まれている。その港は今の時間帯、全く人気がなくなるようだ。捕獲作戦の舞台は、その港に決まった。

 

 

 作戦の概要はこうだ。……まず、キルシュは車で移動しているため、こちらも車で奴を追跡する。そして、奴が港に入ったら港の全ての出入り口を塞ぐ。そうして袋の鼠となったところで、確保。

 ……という段取りだ。実にシンプルだが、これが一番確実で、周りへの被害をゼロにできる方法だ。既に、港周辺の人払いは完了している。

 

 ちなみに今回、パルクールのチームは作戦行動を取る事はない。キルシュに対しては、組織の追っ手が掛かる可能性が高い。そうなった時に、組織の人間に俺達がパルクールを使っているところを見られるのはまずい。壊滅作戦中に何らかの対策を取られてしまうかもしれない。

 また、ほぼ同様の理由で、降谷と江戸川も今回は不参加だ。降谷の場合、組織の人間にあいつが公安と一緒にいるところを見られるわけにはいかないし、江戸川の場合も、司令塔であるこいつの姿を見せるわけにはいかない。

 そもそも、江戸川は一応小学生だからな。こんな真夜中に外に出せるはずがない。良い子は寝る時間だ。大人しくしてなさい。

 

 ……しかし、作戦中に万が一の事があった場合、俺か秀一がパルクールを使う事を視野に入れている。秀一は組織の人間に姿を見られても問題ないように、今回は顔や体格を隠せる服装で参加させる事にした。

 だが、特に何事もなければ秀一の出番はない。念のために、いつでも狙撃ができるようにベストポジションで待機してもらうが。

 

 

 ……さて、準備は整った。あとは実行するだけだ。

 

 

「荒垣さん!今、無線で連絡が来たぜ。予定通り、キルシュをこの港まで追い込んだと。それから、出入口も全て塞いだとの報告も入った」

 

「了解。……それじゃあ、袋の鼠を捕まえるとするかね。……だが、油断するなよ。窮鼠猫を噛むという言葉があるくらいだからな」

 

 

 俺の言葉に、FBIの若手や公安所属の者達が大きく頷いた。……最初に比べると、こいつらの俺に対する態度がかなり変わったな。何度もコミュニケーションした甲斐があった……

 

 しみじみとそう思いながら、仲間達と共にキルシュ確保のために動き出す。……と、その時。無線機から秀一の声が聞こえてきた。

 

 

「和哉さん。予定通り、キルシュはあなたが今いる場所の北東側から港に入りました。ご武運を」

 

「あぁ。ありがとう。……ハジメ(・・・)。念のため、いつでも動けるようにしとけよ」

 

「了解しました。では、切ります」

 

 

 そう言って、秀一は無線を切った。

 

 

 今、秀一の事を"ハジメ"と呼んだ理由は、この作戦内での秀一の偽名がそれだったからだ。無線を組織の人間に傍受された時の対策のためである。

 この偽名を決める時、秀一は何故か俺に決めて欲しいと頼んできた。……正直、何も思い浮かばなかったから、適当に秀一の"一"を取って、ハジメと呼んだ。するとあいつは心底嬉しそうに、それにします、と満面の笑みで言った。……適当に決めた、とは言えなかった。

 

 それから改めて、キルシュ確保のために行動を始めた。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 既に始まっていたカーチェイスに俺達も参加し、キルシュが乗った車をうまく誘導した結果、袋小路まで追い詰める事に成功した。……しかし、奴は諦めが悪いらしい。

 キルシュは、それまで乗っていた車を乗り捨てて、俺達が見逃していた小道を使って逃げ出したのだった。

 

 

「っ、まずいわ!逃げられちゃう!!」

 

「追いかけましょう!」

 

「まぁ待て。ジョディ、キャメル。落ち着け」

 

「荒垣さん!?何を呑気に……!」

 

「そうよ、カズヤ!このままじゃ…」

 

「落ち着けって」

 

 

 俺は焦る事なく、無線機を使う。

 

 

「……聞こえていたな?ハジメ」

 

「はい」

 

「――Go(行け)!捕まえて、俺の元へ連れて来い!」

 

「……くくっ――Yes Master(はいご主人様) 。必ず!」

 

 

 

 

 

 



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忠犬、赤井秀一3~後編~

 

 

 その日。キルシュは以前から考えていた逃亡計画を実行した。逃走経路を何度も何度も確認して、自身が持っているコネを有効活用して、海外へ逃亡するつもりだった。

 ずっと、不満だったのだ。キルシュはより多くの人間に絶望を与えたくて研究者になった。自分が作った化学兵器で、世界中を恐怖のドン底に落としてやりたかった。だからこそ、後ろ盾が必要だった。それも、金があるデカイ組織の後ろ盾が。

 ようやく見つけた後ろ盾は、確かに金があった。……最初のうちは。

 

 最近になってどうも、この組織は金払いが悪くなってきた。それに、いつまで経ってもキルシュが一番やりたかった、テロを引き起こせるぐらいの化学兵器の開発ができない。いつもいつも、別の研究しかやらせてくれない。

 どうやら、組織の研究部はキルシュが仕方なくやっているこの研究に力を入れているらしい。……キルシュにとってはどうでもいい研究だったが。そんなにいい物なのだろうか。不老不死(・・・・)なんて物は……

 キルシュはそんな物よりも、海外に渡って別の組織の後ろ盾を得て、人々を絶望させる化学兵器の開発に勤しむ事を決めた。そして、逃亡計画を実行した。

 

 

 組織を抜けるために行動を起こし、あとは海外に逃げるだけだという段階まで来た現在。キルシュは必死で逃げていた。

 

 逃走経路中の港近くまで車で来た時、突然背後からサイレンが聞こえてきて、気がつけばキルシュは囲まれそうになっていた。慌てて港内へと逃げたものの、袋小路まで来てしまった。咄嗟に車から飛び出して、目についた小道に逃げ込んだ。

 

 

(何故だ……何故私の計画がバレた!?それも警察に!一体、何故……!!)

 

 

 自身の天才的頭脳で考えても、答えは出なかった。

 

 

(逃げなければ……!――しかし、どこへ?)

 

 

 そう思ったその時、キルシュの真上から影が差し、ただでさえ真夜中で暗いというのに、キルシュの周りはさらに暗くなった。思わず振り向き、真っ先に目に入ったのは……

 

 ――黒いフード付きのジャケットに、黒いカーゴパンツという、全身が真っ黒の何者かが、自分目掛けて真上から飛び降りて来る様子だった。

 

 悲鳴を上げる間もなく、キルシュはその何者かに組み敷かれた。

 

 

「――捕まえた」

 

 

 妙に色気のある低い声でそう呟いた何者かは、ジャケットで口元まで隠していた。その分目立っていたのが瞳だ。

 

 爛々と輝く緑の瞳が、キルシュ(獲物)を見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ……やがて、秀一が拘束したキルシュを担いで連れて来て、俺の目の前に落とした。

 もう1度言おう。落としたんだ。ドサッと。……いくら組織の人間であっても一応は人間なんだから、もう少し丁寧に扱えよ……

 

 俺は呆れながらも秀一を見たが、秀一は逆に目を輝かせて俺を見ている。

 

 

「……和哉さん。命令された"取って来い"は完遂させましたよ」

 

「あぁ。……うん?」

 

 

 "取って来い"って、何の事だ?

 

 

「だから、褒めて下さい」

 

「あ、あぁ……よく、やったな?」

 

「はい!」

 

 

 秀一は、ニコニコと満面の笑みでご機嫌な様子だ。……そんなに褒められたかったのか?

 

 

「…………これは、あれね。飼い主が飼い犬に物を"取って来い"って命令して、飼い犬が持って来た物を飼い主の目の前に落として、褒めてって催促している図ね!」

 

「そのままですね……」

 

「そのまま言うしかない程、再現されているのよ……」

 

 

 おい、聞こえてるぞそこの2人。俺は飼い主じゃない。……いや、そんな事よりも。

 

 

「ボスと風見に連絡を入れよう。作戦は成功した、と。それからすぐに撤収だ。組織の追っ手が来る前にな」

 

「「「了解!」」」

 

 

 秀一、ジョディ、キャメルに続いて部下達も返事をした後、それぞれ作業を始めた。さて、俺も撤収準備だな。

 そう思い、とりあえず拘束されたキルシュ――何故か白目を剥いて気絶している――を連れて行こうとしたその時……

 

 ――赤色の光が、急にキルシュの心臓部分に現れた。

 

 

(……レーザーサイト!?)

 

 

 それに思い至った瞬間、俺の体は勝手に動き、キルシュの体を突き飛ばした。

 

 

「うぐっ!!」

 

 

 案の定、銃声と共に俺の背中に銃弾が当たった。その衝撃で地面に倒れ込む。防弾チョッキのおかげで肉体にまで貫通はしていないものの、痛いものは痛い……!

 いくつもの怒声が聞こえる中、FBIの古参の数人が俺の安否を確かめに来る。痛みはあるが、肉体には貫通していないから問題ないと伝えたら、安心した様子を見せた。そいつらの手を借りて体を起こすと、周辺の状況が見えてきた。

 

 まず、仲間達に取り押さえられている、見知らぬ男達が数人。……おそらく、こいつらがいつの間にか紛れ込んでいた組織の追っ手で、この中の誰かがキルシュを撃とうとしたのだろう。

 次に、そこから少し離れたところでFBIの古参の1人に羽交い締めにされ、さらに周りを取り囲まれている秀一。こちらの方が追っ手の男達の方よりも動員されている人数が多い。……いや、何で?

 

 

『離せ!離しやがれ!そいつらぶん殴ってやる!!』

 

『おい!暴れるなっ!!』

 

『シュウ、落ち着いて!』

 

『落ち着いて下さい!赤井さん!!』

 

『っやべぇ、力、強過ぎだこいつ!おい、もう1人手を貸せ!!』

 

『分かった!』

 

『落ち着けよ、シュウ!カズヤは無事だって!』

 

『んな事は分かってんだよ!それでも、それでも一発殴ってやらなきゃ気がすまねぇ!!当たり所が悪かったらあの人が死んでたかもしれない!この――――――がっ!!』

 

『おい!お綺麗な顔でなんて言葉を吐きやがる!?』

 

 

 ……秀一の口から今、普通は言っちゃいけないスラング英語が吐かれた。そういえば、普段から秀一と2人きりの時は日本語で話してるから、そう言う言葉もなかなか聞けない。レアだな。しかし、教育には悪いだろう。英語もしっかり理解できる江戸川がここにいなくて良かった。

 ……なんて、現実逃避している暇はないらしい。そろそろうちの連中が秀一を押さえられなくなっている!

 

 そう思った俺は、咄嗟にこう言った。

 

 

「――秀一、Stay(待て)!!」

 

 

 すると、秀一はピタッと動きを止めて、大人しくなった。そして、顔をこちらに向ける。

 何故だか分からんが、チャンスだ!

 

 

Come Here(来い)

 

 

 呼ぶと素直に寄って来た。よしよし。

 

 

Sit(座れ)……ん、Good Boy(いい子だ)

 

 

 あまりにも素直だったから、つい頭を撫でてしまった。成人男性にこれはまずかったか?

 ……と、思いきや。秀一はむしろ頭を押し付けて来て、さらには俺の肩に頭を乗せて、動かなくなった。いつの間にか、俺の腰に腕まで回している。……動けない。というかまだ背中が痛いから元々うまく動けない。八方塞がりだ。

 

 

「……あー悪い、お前ら。撤収作業は任せたわ。これじゃあ動けないから」

 

「いいえ!お任せ下さい!!」

 

「むしろシュウを任せるわ!」

 

「そのまま狂犬の手綱を握っとけ、飼い主!!」

 

「頼んだぜ飼い主!」

 

 

 周りにいた連中は次々にそう言って、撤収作業を始めた。いや、だから俺は飼い主じゃ……って、待てよ?

 

 さっき、俺は咄嗟に英語で秀一を呼び寄せたが……Stay(待て)Come Here(来い)Sit(座れ)Good Boy(いい子だ)って……飼い主が犬に対して出す指示コマンドじゃね?

 

 …………。

 

 

「……俺、いつの間にか秀一の飼い主になってる……!?」

 

「え、今さら!?」

 

 

 偶然通りかかった古参の1人に、そう突っ込まれた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 とあるビルの屋上に、1人の男がいた。

 

 男はライフルを手にしており、そのスコープ越しに普段は人気のない港で起こった出来事の一部始終を眺めていたのだ。

 

 

「……キルシュの殺害は失敗か。……まぁいい」

 

 

 ふと、男はもう1度スコープの中を覗いた。その先には黒フードを被った人間が、誰かに頭を押し付けている様子が見えている。

 

 男は読唇術が使えた。だからこそ、港にいる人間達が黒フードの人間を何と読んだのかが見えていたのだ。

 

 

「――赤井、秀一…………くくっ……生きてやがったのか……」

 

 

 ニヤリと嗤った男は、スコープの標準を移動させる。

 

 

「……1度俺の手で、お前の大事な物を壊したが……今度はお前の目の前で……それも、より絶望的な場面で、もう1つ大切な物を壊してやったら……お前はどんな顔をするんだろうなぁ……赤井秀一」

 

 

 スコープを移動させた先にいたのは、黒フードの人間が頭を押し付けていた、女顔の男だった。

 男は、この女顔の男の名前も読んでいた。

 

 

「――荒垣和哉、か」

 

 

 スコープ越しに覗いていた男――ジンは、そう呟いて凄絶な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 






・遂に自覚した師匠兼飼い主

 どっちが優秀かだって?どっちも優秀に決まってんだろ、俺よりも(真顔)。自分がどれだけ殺し文句を言ったのかを自覚していない。重度の鈍感(自分に対する好意限定の)であり、人たらし(無意識)。

 キルシュを庇って撃たれるが、防弾チョッキに助けられた。大事な情報源は守らないとな。
 しかし、それがきっかけで赤井が暴走するとは予測できなかった。まさか、あいつの口から放送禁止用語が飛び出すとは……(遠い目)

 咄嗟に止めるために出てしまった言葉から、ようやく自覚に至った。俺が自分から飼い主になってどうすんだよ……Orz
 今後、意識してそう見えないように行動するが、既に無意識に取る行動がそう見えてしまうため、手遅れ。赤井が積極的に犬のような振舞いを見せる事も、それに拍車をかけている。


・激怒した弟子兼忠犬


 俺の師匠が尊い(赤面)。一生ついて行きます……!オリ主が人たらしである事をよく知っているため、誰彼構わず無意識に口説かないように、できる限り目を光らせている。FBI内でもオリ主はよく引き抜かれそうになるため、その度に全力で阻止していた。
 無論、公安にも渡さないからな!

 オリ主が撃たれてぶちギレた。絶対に許さねぇ!この(ピーーー)!!これでオリ主が死んでたらコンマ1秒で銃の引き金を引いている。無事だったから殴るだけで済ませようとしていた。……それでも半殺し、いや4分の3殺しだが。

 しかし、オリ主の命令に従った。ご主人様の命令は絶対!実は、この時点ではまだ正気に戻っていなかった。オリ主に従ったのはほぼ条件反射。オリ主に頭を撫でられて、その肩に頭を押しつけてから徐々に正気に戻っていった。
 さすがに頭に血が上り過ぎたな……反省しよう。




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忠犬、赤井秀一4


 組織について捏造がありますので、ご了承下さい!

 また、オリ主と赤井さんがコナンの正体を知ります。


 

 

 最後はいろいろあって(主に秀一のせいで)ドタバタしたがキルシュと、ついでに組織からの追っ手の男達を捕らえる事ができた。それぞれ休息を取ったり、キルシュ達の取り調べをしたり、事後処理をしたりと動いていれば、気がつけば翌日の夕方になっていた。

 そこで、遅れてやって来た降谷と江戸川に一部始終を語ると、秀一の暴走に呆れつつも俺の事を心配してくれた。俺は特に問題ない。ちょっと撃たれた部分が痣になってただけだ。

 

 そして、現在。会議室には俺を含めた幹部の8人が集まっていた。

 

 

「会議を始める前に、1つだけ。……おい赤井。貴様、昨日は暴走して荒垣さんや仲間達に迷惑を掛けたそうじゃないか。作戦中に何をやっているんだ」

 

「返す言葉もない……昨日の一件は確かに俺の落ち度だ。頭に血が上り過ぎた……」

 

「……そう殊勝に返されるとこちらは何も言えなくなるだろうが……全く。……荒垣さんも頼みますよ?この駄犬の手綱を握れるのは、飼い主のあなたしかいないんですから」

 

「…………だから、俺は飼い主じゃねぇって言ってるだろ……」

 

「おや?いつもより返しが遅いですね」

 

「荒垣さん、何かあったの?」

 

「それがねー、2人共。実は昨日…」

 

「ちょっと待てジョディ!」

 

「待ちませーん!実はね……!」

 

 

 俺の制止を振り切って、ジョディは昨日の俺の行動について降谷と江戸川に語った。すると、2人は生暖かい目で俺を見る。

 

 

「……なるほど。自分が無意識に赤井を犬扱いしていた事に、愕然としたわけですね。そこでようやく自覚した、と」

 

「大丈夫だよ、荒垣さん。僕達はもう分かってたから!」

 

「全然大丈夫じゃねぇ……!」

 

 

 分かってたから、じゃねぇから!俺は周りからどう見られてたんだ……

 

 

「……とにかく会議を始めるぞ!キルシュの取り調べをした事で、いろいろ分かってきたからな」

 

「おっと、そうでしたね。僕とコナン君はそれについてまだ聞いていないので、報告をお願いします」

 

 

 別に話を逸らそうとしたわけじゃない。違うからな。……誰に言い訳してるんだ、俺は。

 

 

 それから、俺は2人にキルシュから聞き出した事を話した。……とは言え、新しい情報は2つだけ。

 

 

 1つは、組織の金払いが悪くなっているという事。

 

 研究や開発には当然、金がいる。キルシュが組織の一員になった当初は、かなりの金が渡されていたようだ。それを使って、とある研究を任されていたようだが……本人はどうやら化学兵器の方の開発がしたかったらしい。

 最初は別の研究員がその開発を任されていたようで、キルシュはそれに携わる事ができなかった。だからその機会が訪れるのを、ずっと待っていたそうだ。しかし、その機会が訪れる事はなく、キルシュは全く興味のないとある研究の方へ専念せざるを得なかった。

 だが、最近になって化学兵器の開発計画が凍結となったらしい。その理由はキルシュも知らなかったが……俺は、その理由こそが金払いの悪さに直結しているのではないか、と勝手に推測している。金が少なくなった事で開発ができなくなったのではないか、と。

 ただ、キルシュはそこまで思い至らなかったようで、化学兵器の開発を再開させて欲しいと上に要求したそうだ。そして、その主導を自分にやらせてくれ、と。……こいつ、どれだけ化学兵器が好きなんだか。いや、確か多くの人間を絶望させたかったから……だったか?

 

 おっと。それはともかく。

 

 結局、キルシュの要求が通る事はなく。そんな事よりも今やっている研究を進めろ、と催促されたようだ。それに対してキルシュは不満に思い、逃亡計画を立てるまでに至った。

 

 

「……と、ここまではいいか?」

 

「はい。……確かに、金払いが悪いという話は最近組織内で話題になっています。組織の下っ端に含まれる者達も、割に合わない仕事が多くなった、と不満が出始めていますね。……そういえば、最近は表に出る程の大事をしでかす事もないな……」

 

「もしかして、それもお金がないから?」

 

「うん。かもしれないね。……荒垣さんが推測していましたが、化学兵器の開発計画が凍結したのも、金が原因である可能性が高いでしょう」

 

「やっぱりそうだよな。しかし、そうなると……」

 

「組織の弱体化……ですよね、和哉さん」

 

「あぁ」

 

 

 どうやら、組織の壊滅作戦に向けて希望が出て来たらしい。

 

 

「それで、荒垣さん。もう1つの新情報は?」

 

「あぁ、そうだったな。悪い、江戸川。……2つ目の新しい情報については、俺も聞いた時は耳を疑ったが、どうやら奴らは――不老不死になるための方法を研究しているらしい」

 

「…………はぁ?」

 

 

 降谷が胡乱げな目で俺を見た。……うん。気持ちは分かる。俺も多分、そんな目でキルシュを見たんだろう。

 

 急に話がファンタジーになったなぁ、と。キルシュの話を聞いていて思ったが、決してふざけているわけではなく、黒の組織は……というより、組織の上層部は本気で不老不死を実現させようとしているらしい。化学兵器の開発計画は凍結させても、そちらの研究を凍結させる事はなかった点からも、上層部が本気である事が分かる。

 しかも衝撃的なのが、元々組織が設立されたきっかけが、その不老不死を求めた結果からだったらしい。研究のための金を集めるために、組織的な活動が必要だった、と。

 

 

「……そもそも、何故不老不死を求めたんだ?俺には分からねぇな……」

 

「……永遠の命や、若さに憧れたんじゃないですかね?」

 

「それはそんなにいいものか?」

 

「和哉さんは、そうは思わないんですか?」

 

「思わない。……だって、人間はいつか死ぬって事が分かってるから、今を必死に生きようとしてるんだろ。そして、だからこそ人生が意味のある物になるんじゃないか?」

 

 

 俺の持論になってしまうが、人生の最終地点が"死"である事が分かっているから、それまでにやりたい事をやってみたり、恋愛してみたり、友情を育んでみたり……それらを楽しむ事ができるんだと、俺は思う。

 もちろん、不老不死であってもそれはできるだろう。だが、それらをやり遂げた後は?やりたい事を全部やって、やる事がなくなった後でも、生き続ける意味はあるのか?

 そうなった時、不老不死の人間は死にたくても死ねないじゃないか。……俺だったら、それでも生き続けたいとは思えない。

 

 俺は、終わりがある事が分かっているから、今を楽しみたいと思う事ができるんだ。

 

 

「人生はタイムリミットがあってこそだと、俺は思うがね……それに、ボスを見ていると歳を取る事も悪くないな、って思えるんだよ。俺は歳を取るなら、昔から尊敬しているボスみたいに歳を取ってみたい。……それからボスのように、FBIの若手を育ててみたいな。あとは、秀一を連れて来た時みたいに、優秀な人材を引き抜いて来たりとかな」

 

 

 今、思い付きで言ったのだが、将来はそうしてみるのもいいかもしれない。夢が広がるな。

 ……なんて思っていたら、いつの間にか会議室が静かになっていた。周囲の様子を見ていると、何故か幹部達が全員、俺の事をガン見していた。……え?俺なんかまずい事言ったか?もしや、いきなり持論を展開した事が駄目だったか……?

 

 

「……な、なぁ。俺は何かまずい事を言ったのか?」

 

「!……いいえ、和哉さん。言ってませんよ。むしろその逆です」

 

 

 はっと我に返った様子を見せた後、秀一がそう言った。

 

 

「とても深い、ためになるお話でした。俺はそこまで考えた事はなかったので……人生はタイムリミットがあってこそ、でしたね。……素晴らしい考えだと思います」

 

「そうか?……俺はただ、思った事を言っただけなんだけどな……」

 

「さすが和哉さんです。……ほら、ボスなんて泣く程感動していますよ」

 

「は?……ジェ、ジェイムズ!?」

 

 

 マジで泣いてんじゃねぇか!

 

 

「おい、どうしたんだよ!別に俺は泣かせるような事は言ってないだろうが……!」

 

「いや……すま、ない。……まさか、君がそんな事を思ってくれていたとは思わず……つい、感動してな……私も、歳を取った甲斐があったものだなぁ……ぐすっ」

 

「あーもー、ほら、落ち着けよ……」

 

 

 

「…………羨ましい……心底、ジェイムズさんが羨ましい。僕も将来はあんな風に上司思いの部下が欲しい……!」

 

「…………それは、私では足りないという事でしょうか、降谷さん……いや、そう、ですよね。私のような頼りない部下では……」

 

「!!ま、待て風見。そんなつもりじゃなかったんだ!お前は充分頼りになる優秀な部下だから!」

 

「……あー!降谷さんが風見さんをいじめたー!かわいそーに……」

 

「酷い事をするわね、フルヤ」

 

「風見さん、大丈夫。あなたはとても優秀ですよ!元気出して!」

 

「なんなら、公安をやめてFBIに来るかい、風見君」

 

「赤井、貴様!!風見は渡さん!!」

 

「降谷君、俺は最近覚えた言葉があるんだが……確か、そうゆうのを"ブーメラン"と言うのではなかったか?」

 

 

 

「……あっちはあっちで騒いでやがるし……全く。会議が進まねぇだろ……」

 

「すまないね、荒垣君……私は落ち着いたから、続けてもらって大丈夫だよ」

 

「あぁ、いや。あんたは悪くないから。……さてと」

 

 

 なるべく大きな音が出るように2回程拍手すると、秀一達がこちらに振り向いた。

 

 

「ほら!会議を続けるぞ!」

 

 

 その後は新情報について話し、今後の方針を決めたところで会議は終了した。

 

 解散した後、俺は江戸川を引き留めた。

 

 

「……江戸川」

 

「ん?何、荒垣さん」

 

「……さっきはあえて聞かなかったが……お前、奴らが求めている不老不死について、何か気になる事があるのか?」

 

「え……」

 

 

 一瞬、驚いた様子を見せた江戸川は、その後すぐに取り繕うように笑った。

 

 

「どうして、そう思ったの?」

 

「結構分かりやすかったぞ。不老不死の話に触れた後、他の奴らが話してる間にずっと黙って何か考え込んでいたじゃないか。……お前もそれに気づいていたんだろ?秀一」

 

「っ!?」

 

 

 江戸川の背後には秀一がいた。俺の視線を追って振り返った江戸川が驚く。間違いなく、秀一も俺と同じ事が気になってここに残ったんだろう。

 

 

「えぇ。その通りです。……それで、ボウヤ。どうしたんだ?」

 

「それは……その、」

 

 

 江戸川はちらちらと、俺を見ながら困った様子を見せた。……あぁ、もしかすると……

 

 

「……江戸川。俺は既に秀一から、お前の正体についての推測を聞いている」

 

「なっ!?」

 

 

 俺の言葉に、江戸川は目を見開いている。……この反応を見る限り、やはりこいつの正体が関係しているようだな。

 

 

「最初はもちろん、疑ったさ。だが、秀一からその推測に至った根拠を聞いて、お前がどれだけ頭が切れる男なのかを俺自身が知った事で、その推測が真実味を帯びて来たんだ」

 

「…………」

 

「……できれば、お前の口から明かしてもらいたいところだが……どうだ?」

 

「俺も、ボウヤには是非ともそうして欲しいな」

 

「…………分かりました。降参です」

 

 

 そう言うと、江戸川は眼鏡を外して俺達を見据えた。……もう、小学生らしさは何処にもない。不意を突かれない限りは、こいつの小学生を演じる演技力はプロ級なんだよなぁ……

 

 

「――俺の正体は、高校生探偵、工藤新一です」

 

「……やはり、そうだったのか」

 

「……ちなみに、赤井さんはどのあたりで気づきました?」

 

「元々ただの小学生ではないなと思っていたんだが、きっかけはボウヤが工藤邸で変声機を使って、工藤新一の声で電話をしていた時だな」

 

「あぁ……あの時の……」

 

「くくっ……迂闊だったな?」

 

「えぇ。本当に」

 

 

 江戸川……いや、工藤は苦笑いを浮かべた。

 

 

「……工藤。お前がその姿になった理由と、不老不死の話は何か関係があるのか?……何が気になっている?」

 

「…………まずは、俺が何故こんな姿になったのかについて、話しますね」

 

 

 それから工藤は、自身が幼児化した一部始終を聞かせてくれた。事実なのかと疑いたくなるような話を。……まぁ、実例が目の前にいるからな。信じざるを得ない。

 

 

「……なるほど。だからボウヤは小さくなったんだな。……という事は、志保もそうか?」

 

「はい」

 

「……志保?」

 

「……あぁ、和哉さんは知らないですよね。宮野志保。コードネームはシェリー。……俺が組織に潜入する際に…利用した、宮野明美の妹です。……俺が工藤邸に居候して、灰原哀という少女の護衛をしていた事は話しましたよね?」

 

 

 ……今。宮野明美の事に触れる前に、一瞬だけ間があったな。……聞かない方がいいか。

 

 

「……あぁ。今でもうちの連中が交代で護衛を続けているんだったな?……宮野志保が工藤と同じように小さくなっていて、その少女の名前が出たという事は……両者が同一人物だという事か」

 

「そうです」

 

「……実は、その"APTX4869"を作り上げたのが、灰原なんです」

 

「何……?」

 

「じゃあ、宮野志保は自分でその薬を飲んだのか?一体、何故……」

 

「……自殺するつもりだったんですよ。その時点で薬を飲まされた人間は、幼児化した俺以外、全員死んでいたので……」

 

「…………そう、か」

 

 

 そう呟いてから、秀一は言葉に詰まったようで何も言わなくなった。……いかんな。話をさっさと進めよう。

 

 

「それで、工藤?お前は何が気になっているんだ?」

 

「あ、はい。……俺はこの薬を飲んで幼児化しました。……結果的に若返っているんです。だから、この組織が今でも研究している不老不死に、この薬の事が少なからず関係しているんじゃないかって思っています。だとすれば……その不老不死の研究資料の中に、俺と灰原が元の姿に戻るためのヒントが隠されていないかなって……」

 

「なるほどな。……しかし秀一から聞いたが、お前は何度か元の姿に戻っているそうだな?それはどうなんだ?」

 

「あれは駄目なんです!確かに1日は元の姿に戻れましたが、あれでは完全に戻ったとは言えない」

 

「そうか。……で?どうするつもりだ?」

 

「どうする……って……」

 

「お前は元の姿に戻る方法を探す事を優先したいのか、それとも組織の壊滅を優先させるのか……どっちだ?」

 

「!!」

 

 

 俺は、はっとしたように顔を上げた工藤を睨み付けた。……まるで、数ヶ月前のやり取りを再現しているかのようだな。

 

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず……意味は分かるだろ?」

 

「……はい」

 

「それで?返答は?」

 

 

 俺は、不謹慎だが、内心では少し楽しみだと思っていた。こいつがどんな選択をするのか、興味があった。

 

 ……さぁ、どう答えるんだ?

 

 

「…………組織を壊滅させる事を優先させます」

 

「ほう?」

 

「ただ、」

 

「ん?」

 

「元の姿に戻る方法を探す事を、諦めたわけではありません。たとえ作戦行動中でも、チャンスは見逃さない。……ずっと、ずっとこの時を待っていたんだ……!俺は絶対に諦めない!二兎を追って、どっちも確実に捕らえてやる!やってみなきゃわかんねーだろ!!」

 

「…………っ!!」

 

 

 ……こいつ……っ!

 

 

「ふっ……くくっ、くく……はっ、はははははっ!!」

 

「うぇっ!?」

 

「か、和哉……さん!?」

 

「ははは、っ馬鹿だ!馬鹿がいやがる!二兎を追ってどっちも捕まえるだぁ?あっはははは!そんな事言う奴なんていたんだなぁっ!!」

 

 

 やばい……!腹痛い……!!

 

 

「なっ……んなことはやってみなきゃわかんねーじゃねーかっ!!馬鹿にすんなバーローっ!」

 

「くくっ、くく……あぁ、待て待て違うって!馬鹿にしたつもりはねぇよ!」

 

「じゃあ何だよ!!」

 

「俺はなぁ!そうゆう理想論をバカ真面目に口にする奴が大好きなんだ!」

 

「はぁ!?」

 

「くくっ……はー、笑ったわ。何年振りだろうな、こんなに笑ったのは。やっと落ち着いた。……いいぜ、Commander(司令官)。やってみろ。その天才的な頭脳で、二兎をどちらも確保できるような作戦を考えてみろよ。そして、その理想を実現するために俺の力が必要だと言うのなら……いくらでも貸してやるよ、工藤。いや――新一(・・)

 

「……荒垣さん……」

 

 

 俺が新一に笑い掛けると、新一も笑顔を見せてくれた。……なんだよ。ちゃんとガキらしく笑えるんじゃねぇか。

 

 

「……じゃあ、荒垣さん。改めて、あなたの力を俺に貸して下さい!」

 

「おう。任せな。……秀一。お前も協力するだろ?」

 

「えぇ。もちろんです。……俺にも協力させてくれよ、ボウヤ?」

 

「はい!赤井さんも、よろしくお願いします。……荒垣さんと赤井さんがいてくれて、本当に良かった。ありがとうございます……!」

 

 

 新一は深く頭を下げた。……もしかしたらこいつは、今まで周りの大人から面と向かって力を貸すと言われた事がないのかもしれない。

 俺は、なんとなくそう思った。

 

 ……ところで、秀一。お前さっきからニコニコとご機嫌みたいだが、何かあったのか?

 

 

 

 






・小さな名探偵がお気に入りな師匠兼飼い主(にはなりたくないbyオリ主)

 俺は飼い主じゃない!……はずだ。周りが自分をどう見ているのかが気になる。

 不老不死についての持論を語る。人生は終わりがあってこそだろう!……と、語ったついでに尊敬する上司の話に触れたら本人に泣かれた。え、ちょっ、ボス!?

 既に赤井からコナンの正体についての推測を聞いており、自分なりにコナンを観察した結果、推測が間違っていない事を確信する。
 そして今回、本格的にコナンがお気に入りに。バカ正直に理想論を語る奴は大好きだ!いつでも力を貸してやるぜ。
 さすがに、そろそろデフォルト崩れまくりの赤井に慣れてきたらしい。


・改めて師匠を尊敬した弟子兼忠犬

 密かに、次にオリ主に命令される時を心待ちにしている。和哉さん、ご命令を!

 オリ主の不老不死についての持論を聞き、より一層尊敬する。人生はタイムリミットがあってこそ……至言ですね!
 どさくさに紛れて、風見を引き抜こうとするが降谷に阻止される。君だって和哉さんを引き抜こうとしたじゃないか。俺は知っているぞ。そうゆうのを日本ではブーメランと言うんだろう!

 以前から考えていた推測が当たっていた事を確認した。やはりそうか……
 オリ主の大爆笑を見て驚愕。レア顔を見られてご機嫌。さらに、お気に入りのボウヤと敬愛する師匠の仲が良くてニコニコ。




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忠犬、赤井秀一5~前編~


 長いので、前編、後編に分けました。

 組織壊滅作戦編!いきなりクライマックスから始まります!

 例のごとく捏造しまくりなので、注意して下さい。

 また、今回は特にキャラ崩壊が激しくなっています。




「……っ……はぁ……っくそ……手間、取らせやがって……!」

 

 

 今、俺は薄暗い地下にいる。……ここは、黒の組織の拠点内部だ。

 

 

 キルシュを確保してから1ヶ月が経過した今日。ついに、組織壊滅作戦が実行された。

 俺はパルクールのチームを率いて、降谷が率いる本隊が突入する前に潜入し、拠点内部で暴れる事で、奴らを撹乱させた。そうして俺達が陽動している間に、本隊が突入。その場をさらに混乱させる事に成功したのだ。

 

 さらに、コナンが求めていた不老不死に関する資料を発見。その中には、"APTX4869"の事と思われる内容の資料も存在した。

 その資料はパルクールチームの1人に預け、外で指揮を取っているコナンの元へ運んでもらった。今のところ、仲間内でこの資料の重要性を本当の意味で知っているのは、コナンの正体を知っている俺と秀一のみ。だからこそ、チームの皆はこの資料が本当に必要なのか疑問に思っていたようだが、俺達を信じて従ってくれた。ありがたい。

 

 

 それから、俺達は互いに別行動を取り、本隊のサポートのために動き出したのだが……

 

 

「……まさか……その途中で、雑魚共の襲撃を受けるとは……」

 

 

 今いる地下へと降りて来た瞬間、大勢の敵に襲撃された。敵自体はほとんど雑魚だったからどうにかなったが……思った以上に手間取ってしまった。それに、疲労もある。

 襲撃される前の無線での報告によると、既に秀一や降谷達が幹部のほとんどを捕縛したそうだ。未だに見つかっていないのはジン、ラム、そして黒の組織のボスだけだ。……ウォッカとジンがセットじゃなかったのは意外だったな。ジンが子分を連れずに動いているという事は、もしかしたら何かを企んでいるのかもしれない。警戒が必要だ。

 

 ……疲労のせいもあるだろうが……警戒が必要だと考えていながら、俺は油断していた。

 

 

「とりあえず……疲労を回復させるためにも、しばらく、身を隠して――っ!?」

 

 

 ――だから、背後から近づく何者かがいる事に、直前まで気づけなかった。

 

 気配を感じ、振り向いた瞬間に顎を捕まれ、同時に首筋に何かが刺さったのを感じた。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 即座に離れようとしたのだが、すぐに自身の体の異変に気づいた。

 

 

(――体が、痺れて……!?)

 

 

 酷い痺れに襲われ、うまく動けなくなってしまった。そうして、何者かに簡単に捕らえられた。

 

 

「……くくっ……ようやく捕まえたぜ。お前が油断するその瞬間を待った甲斐があった」

 

「てめぇ……っ……ジン……!」

 

 

 まずい……1番厄介な奴に捕まっちまった……!何で油断してたんだ、俺は!!

 

 ……いや。自分の過ちを今さら後悔したところで遅い!今は、状況を確認する事だけに専念しなければ。

 その時、ジンが手に持っていた何かを捨てた。……それは注射器だった。まさか、あれの中身を俺の首に……!?

 

 

「何を、入れた!?俺の体に……!」

 

「あぁ……組織が独自に開発した、即効性の神経毒だ」

 

 

 神経毒……!?だから体が痺れているのか。

 今のところ足はなんとか動くが、抵抗できる程に万全ではない。それから、口も利けるようだ。しかし、それ以外の部位は全く駄目だ。痺れのせいで、うまく動かせない……!

 

 

「今は足が動き、声も出るようだが、それも時間の問題だろうな。そして徐々に痺れが強くなっていき――やがて死に至る。そんな毒だ」

 

「……っ!!」

 

 

 死に至る。そう言われて、俺は息を呑んだ。死への恐怖がないと言えば嘘になる。しかし、それでも気になったのは……

 

 

「……何故、だ?」

 

「あ?」

 

「なんで、てめぇは……俺を、すぐに殺さなかった?」

 

 

 そう。やろうと思えば、すぐに殺せたはずだ。こいつに背後を取られた時、俺は油断していたのだから。

 ……背後から突然攻撃されても、それに対処できる自信はあった。しかし、それでも無傷ではいられなかっただろう。

 それに、さっきジンは"俺が油断する瞬間を待っていた"と言っていた。おそらく、雑魚共を俺と戦わせたのはこいつだろう。俺がその疲れで気が緩んだ瞬間を狙ったんだ。

 そうしてわざわざ神経毒を使ってまでも、俺をしばらく生かしておく理由があるはずだ。

 

 

「てめぇには何か……俺を利用したい、理由があるんだろ?……何を企んでやがる……!」

 

「ふっ……さすが、赤井秀一の師匠なだけあって、頭の回転が早いな。……荒垣和哉。FBIの中でもそれなりにベテランの捜査官だそうだな?」

 

「っ!?」

 

 

 馬鹿な……何故こいつは俺の事を知っているんだ!?

 

 俺は秀一達とは違って、黒の組織の幹部とは1度も顔を合わせていない。だから、こいつは俺の名前も、俺がFBI所属である事も、秀一の師匠である事も知らないはず……!

 俺達の中に内通者がいたのか!?……いや、だとすれば幹部やパルクールのチームだけが知っている情報以外が、こいつらに筒抜けになっているはず。それなら当然、今日という日を限界体制で迎えていただろう。……だが実際は、突入した時に見たこいつらは確かに油断していたんだ。

 では、こいつはいつ俺の事を知った?そもそも俺の存在を知るきっかけがなければ、調べる事もできない。

 

 きっかけがあったとすれば……

 

 

「……キルシュを確保した時か……!あの時てめぇは、どこかで……その様子を見ていて、秀一が生きていた事、そして俺の存在を知った……っ!それから、俺の事を調べたんだな……!?」

 

「くくっ……あぁ、そうさ。ビュロウの本部にハッキングを仕掛けてな。お前の情報を抜き取るのはさすがに骨が折れたが」

 

 

 やっぱりか……!おいこら、うちのサイバー対策課!仕事しろよ!!

 

 何て、無責任に怒ったところで意味はない。それに、俺達もあの時周辺をもっとよく調べていれば、ジンが入り込む隙を作る事もなかったかもしれない。

 

 と、後悔していたその時。無線機から声が聞こえた。

 

 

「……和哉さん、赤井です!応答して下さい!」

 

「っ!!」

 

 

 秀一!……合流場所と時間を決めておいたが、その場所に時間になっても俺が現れなかったから無線を使ったのか。

 ……っておい、ちょっと待て。よく考えたらこの状況はまずいんじゃないか?

 

 秀一はキルシュ確保作戦の時に、俺がちょっと撃たれただけで暴走していた。その秀一が、俺が捕まって身動きが取れない状態である事を……しかも、それをやったのが宿敵のジンである事を知ったら……?

 

 ――結論。暴走待ったなし。

 

 そう思って冷や汗を流した瞬間、ジンが俺から無線機を奪った。そしてもう片方の手で俺の口を塞いだ。

 

 

「和哉さん!?」

 

「――残念だったな、ライ。俺だ」

 

「っ!?」

 

 

 ミシリ。と嫌な音が聞こえた。……もしや、秀一が無線機を握った音か?

 

 

「…………ジン、か」

 

「あぁ。俺だ。……無線で応えたのが大好きな飼い主じゃなく、俺だった時の気分はどうだ?」

 

「ふん……最悪に決まってるだろうが」

 

「くくっ……そいつは何よりだ」

 

 

 ……思ったよりも声は冷静だった。ひとまず安心。

 

 

「……和哉さんはどうした」

 

「お前の飼い主か?……何なら、声を聞かせてやるよ」

 

 

 ……何?

 

 

「まぁ、無駄だろうがな。……ほら。飼い犬に声を聞かせてやれ」

 

 

 ジンが俺の口元に無線機を近づける。……嫌な予感がしながらも、秀一に声を掛けた。

 

 

「し、うっ…?…しゅ、…い、ち…っ!?……しゅ、……っ!!」

 

 

 ――声が、うまく出せない!?

 

 喉に痺れを感じる!まさか、これが神経毒の……!?

 

 

「和哉さん?……っどうしたんですか!?和哉さん!!」

 

「ふっ……ほらな。無駄だっただろ?」

 

「っジン、てめぇ!その人に何をした!?」

 

「ははっ……そうだ……お前のそういう声が聞きたかったんだよ。感情が極限まで高ぶっているのがよく分かる、その声が!いい気味だ……!」

 

『うるせぇ!答えろ!!』

 

 

 まずいな……間違いなく怒り狂ってる。……喉が痺れている状態でも、一音ずつなら声は出せそうだ。聞こえるか分からないが、言ってみるしかない!

 

 

『聞こえてるのか!?答えろって言ってんだろ!!』

 

「ス、テ、イ!!」

 

「っ!?…………ふー……Yes Master(はい、ご主人様)

 

 

 ……よし。聞き取れたようだな。それに一旦冷静になってくれた。……こんな形でまた犬扱いする事になろうとは……

 

 

「くくくっ……!まさに忠犬だな。……いや、飼い主に危害を加える者に牙を向く狂犬か?」

 

「……もう1度聞くぞ、ジン。和哉さんに何をした?」

 

「いずれは死に至る神経毒を盛った」

 

「なっ!?」

 

「こいつを助けたいか?……なら、ここの最下層まで来い。……お仲間を引き連れて来ても構わねぇぜ?……じゃあな」

 

 

 そう言って、ジンは無線機を破壊した。

 

 

「さて……最下層までエスコートしてやるよ、飼い主様?」

 

「……っ……」

 

 

 ……てっきり、引きずって連れていかれるのだとばかり思っていたが、そんな事はなかった。むしろ俺に合わせてゆっくり歩いている。さらには、俺が躓きそうになれば支えて止めていた。

 ……まさしく、エスコートだった。何のつもりだ?こいつ……

 

 

「……おっと。忘れる前に、こいつを渡しておくぜ」

 

「……?」

 

 

 ジンは、俺の胸ポケットに何かを入れた。何を入れたんだ?

 

 

「そいつはな――」

 

 

 ……胸ポケットに入れた物の正体を聞いて、俺はこの男が何を考えているのかが、ますます分からなくなってしまった。

 

 分からない……!こいつ、一体何を企んでる!?これを俺に渡したところで、何の得にもならないはず……!

 

 

「……ジ、…ン……!」

 

「あ?」

 

「な、……に、を……か、ん…が、え……て……!?」

 

「……俺は……見届けたいんだよ。……お前ら2人の結末を、な」

 

 

 そう言った時の、ジンの表情は――

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 赤井は今、必死に怒りと焦りを抑え、冷静になろうとしていた。それが、敬愛する師匠からの命令だったからだ。

 その様子をパルクールチームのメンバー達や、合流した降谷が率いる本隊の者達が息を潜めて見つめていた。

 

 

(……落ち着け……落ち着け……っ!……和哉さんが"待て"と言ったのだから、冷静に、冷静に……!!)

 

 

 そう考えつつ、自身の怒りの感情と戦い……ついに、それを抑え込んだ。

 

 

「…………ふー……」

 

 

 息を吐き出した後、降谷達がいる方へ向き直った。

 

 

「……もういいか?」

 

「……あぁ。……ようやく、ある程度は落ち着いた」

 

「ある程度……か。もう暴れてくれるなよ。こちらは貴様を押さえ込むのに必死だったんだからな!」

 

「あぁ。分かっている。……主人の命令は守る」

 

「……シュウがそう言うと途端に安心できちゃうのが不思議だわ……」

 

 

 降谷が言っていたように、赤井は先程まで仲間達の手で体を拘束されていた。そうでもしないと赤井の暴走を止める事ができなかったのだ。

 しかし、それも荒垣が"待て"と言うまでだった。その命令が聞こえた瞬間、赤井は突然大人しくなった。……そして、ジンが荒垣に毒を盛ったと聞いた後も、なんとか冷静さを失わずに済んだ。

 

 

「……ジンは神経毒って言ってた……という事は今、荒垣さんは満足に動けない状態だって事だね。それも、声をうまく出せないぐらいに……」

 

「うむ。……そんな中で、よくぞ赤井君を正気に戻してくれたものだ……」

 

 

 組織の拠点の外にある作戦本部にいるコナンとジェイムズが、無線機越しに言う。

 今回、コナンは外から全体の指揮を取り、ジェイムズがその補佐役としてついていた。

 

 

「…………やっぱり、僕もそっちに…」

 

「「駄目だ」」

 

 

 赤井と降谷が揃ってそう言った。一瞬、嫌そうな顔をした降谷が、コナンを諭す。

 

 

「それは駄目だよ、コナン君。君は司令塔なんだ。君に何かあったら、戦線は崩壊する」

 

「それに、和哉さんもよく言い聞かせていたじゃないか。作戦本部が安全である限り、そこから離れるな、と」

 

「そう、だけど…」

 

「そんな事より、ボウヤ。指示をくれ。一刻も早く……和哉さんを助けなければ!」

 

「……!……赤井さん……」

 

 

 赤井の声が少し震えている事に、コナンは気づいた。そして、わがままを言った事を悔やんだ。

 

 

(赤井さんは表面上は冷静だが……きっと内心では荒垣さんの死を心から恐れている。そんな時に、俺がわがままを言って対処を遅らせてはいけない……俺は何をやってたんだ……!ごめん、赤井さん……)

 

 

 心の中で赤井に謝罪したコナンは、さっそく指示を出す事にした。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 コナンの指示により、彼とジェイムズを除く幹部5人と、仲間の中から選び抜かれた精鋭達数人で荒垣を救出し、ジンを確保するために最下層へと向かう事になった。

 何が起こっても対処できるよう、それ以外の人員の半分は、最下層へ続く階段の前で待機する。そして、残りの半分は引き続き組織のボスとラムの捜索、残党狩りを担当する。

 

 ……やがて、赤井達は最下層へ続く階段の前に到着した。

 

 

「……それじゃあ、俺達はここで待機してるぜ」

 

「カズヤの事、頼んだぞ!」

 

「言われずとも分かっている。……ボウヤ。聞こえたか?今から最下層へ突入する」

 

「うん。無線機はそっちの会話が聞こえるように、そのままでね!」

 

「あぁ」

 

「……行くぞ。暴走するなよ、赤井」

 

「和哉さんが"よし"と言うまでは大人しくしてるさ」

 

「…………ぶれないな、貴様……」

 

「ただし――いつでも噛みつく準備は、できているぞ?」

 

 

 その時、降谷は初めて赤井に対して一瞬だが恐怖を感じた。

 ……赤井の目は、まさしく獣のそれだったのだ。緑の瞳を爛々と輝かせ、獲物に食らいつく瞬間を今か今かと待ちわびている。……それに、口元は笑っているのに、目は全く笑っていない。

 

 

「――殺すなよ?」

 

 

 降谷のその言葉に対して、赤井は沈黙を貫いた。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 階段を降り切って一本道を進むと、最奥にたどり着いた。既に扉は開いており、赤井を先頭にして全員が中へ入る。

 内部は広かったが、置かれている物は少ない。……そのせいか、その部屋の奥でジンに背後から腕を回され、首にナイフを押し付けられている荒垣の姿がすぐに目に入った。荒垣は見るからにぐったりしており、立っているのがやっとという状態だった。

 

 

「……和哉さん……!」

 

 

 赤井に呼ばれ、荒垣が目を開けた。そして口を動かし、何かを呟いた。……声は聞こえない。

 

 

(……まさか……もう声が出ない程に毒が回っているのか……!?)

 

 

 赤井は内心の怒りと焦りを再び押さえ込み、ジンを睨んだ。

 

 

「ふっ……よく来たな。歓迎するぜ」

 

「ご託はいい。……和哉さんを返せ」

 

「まぁ、そう焦るな。まずは……」

 

 

 すると、ジンが手元にあった何かのスイッチを押した。……その瞬間、赤井達の背後の扉が閉まった。

 慌てて、扉の1番近くにいた風見が扉へと駆け寄るが……

 

 

「風見、どうだ!?」

 

「……っ!開きません!!」

 

 

 続いて、キャメルも駆け寄って、風見と共に無理やり開こうと試みるが……

 

 

「駄目だ……開かない……!」

 

「ちっ……迂闊だったか……!どうゆうつもりだ、ジン!」

 

「あぁ……そういや、お前もいたなバーボン」

 

 

 ニヤリと笑ったジンは、そのまま話を続ける。

 

 

「さて。荒垣和哉を解放したいのであれば、今から俺が言う条件を呑む事だな」

 

「……条件?」

 

「あぁ。……いるんだろ?お前達に指示を出している奴が。――そいつを引き渡せ。そうすれば、荒垣和哉を解放する」

 

「なっ……!?」

 

「そ、そんな事、できるわけないじゃない!」

 

「なら、こいつが毒で死ぬだけだ。……既に、荒垣和哉には時間が残されていない。この神経毒は体全体に回るのが早いからな。あと数時間の命ってところだろ。早く医者に見せないと助からねぇかもな」

 

「……っ……!!」

 

 

 赤井達と、無線機越しに会話を聞いていたコナンとジェイムズが息を呑んだ。

 その時、降谷がジンに問い掛けた。

 

 

「……もしも我々がこちらの司令塔を貴様に渡した場合、その司令塔をどうするつもりだ?」

 

「はっ……殺すに決まってるだろ?邪魔だからな」

 

「……貴様……っ!」

 

 

 つまり、ジンはこう言っているのだ。

 

 ――荒垣を見捨ててコナンを助けるか、コナンを見捨てて荒垣を助けるか。

 

 ……要求されている側からすれば、選べるはずがない、究極の2択だった。

 

 

「そして、もう1つ条件がある。……この状況を呑むか、呑まないかを決めるのは――赤井秀一。お前だ。それ以外は認めない」

 

「何だと!?そんな事…」

 

 

 降谷が反論しようとした瞬間、彼の顔の真横を銃弾が横切った。……いつの間にか、扉のスイッチを持っていたジンの手に拳銃が握られている。

 

 

「黙れ、バーボン。……これ以降、発言を許すのは赤井だけだ。もしも次にそれ以外の人間が口を開いたら……こいつの首を切るぜ」

 

 

 するとジンは、その言葉通り荒垣の首に強くナイフを押し付ける。……荒垣の首から微量の血が滴る様子を見た赤井は、耐えられずに叫んだ。

 

 

「やめろ、ジン!!」

 

「くくくっ……!……ならば、どうするべきか……分かるだろ?」

 

「……っ……」

 

「……2分だけ、待ってやる。その間に決めろ」

 

 

 赤井は、必死に考えた。この状況を打開する方法を。……しかし、何も思い付かずに1分が経過してしまった。……その時、無線機越しに声が聞こえた。

 

 

「……赤井さん……!」

 

「……っ!!」

 

 

 コナンの声だった。……それは、何か用があって赤井を呼んだというよりも、無意識に出てしまったような声だった。

 しかしそれが、赤井にとって契機となる。

 

 

(――思い出した。まだ沖矢昴として生きていた頃に、ボウヤから聞いたあの話を……!その話の中のボウヤと同じ行動を取れば、和哉さんを助けられるかもしれない!)

 

 

 それは確かに、赤井にとって希望となった。……しかし、

 

 

(……今の俺に、できるか?和哉さんを人質に取られて、普段よりも冷静ではない、俺に……)

 

 

 もしも、自分の選択で荒垣を傷つけてしまったら?失敗してしまったら?……そんな不安からつい、荒垣を見た。……目が合った。

 

 

「!?」

 

 

 ――荒垣の目から、強い意思を感じた。……彼は、まだ諦めていないのだ。

 

 

(ならば……俺だって諦めるわけにはいかない!他でもない、和哉さんが諦めていないのだから!!)

 

 

 赤井は密かに、装備している拳銃に指を這わせた。

 

 

「赤井さん……やっぱり俺がそっちに…」

 

「早まるな、ボウヤ。俺は和哉さんもボウヤも、どちらも渡さない」

 

「え……?」

 

「……時間だ。……さぁ。答えを聞かせろ、赤井秀一!」

 

 

 こっそりとコナンの声に応えた後、ジンがそう告げた。……既に、赤井の答えは決まっている。

 

 

「俺の、答えは――こうだ!!」

 

 

 一瞬で銃を構えた赤井が放った弾丸は――荒垣の足に被弾した。

 

 

「――何っ!?」

 

 

 誰もが驚いていた中、最も驚いていたのがジンだった。

 赤井が予想外な行動を取った事。そして、その結果自身の腕の中から荒垣が崩れ落ちてしまった事。この2つの出来事が、ジンを動揺させた。……その瞬間を、赤井は見逃さなかった。

 

 間髪入れずに2発目の弾丸を放ち、ジンが持っていた拳銃を弾いた。そしてすぐに3発目を放とうとしたその時……

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 赤井ではなく降谷が発砲し、今度はナイフを弾いた。そして間髪入れずに肩を狙って発砲。被弾した瞬間に声を荒らげた。

 

 

「――総員確保だ!!」

 

 

 訓練された精鋭達は、その声に従って即座にジンを確保した。

 その間に、赤井は荒垣の元へ向かう。

 

 

「和哉さん!和哉さん!……っ和哉さん……!!」

 

 

 荒垣を抱き起こし、必死に呼び掛けると、荒垣は口を動かして何かを伝えようとしている。

 赤井は以前荒垣から教わった読心術を利用して、それを読み取った。

 

 

(……む、ね、ぽ、け、と……げ、ど、く、ざ、い…っ!?)

 

 

 ――胸ポケットに解毒剤!!

 

 

「失礼します!」

 

 

 すぐさま荒垣の服の胸ポケットを探り、解毒剤を入手すると、それを慎重に荒垣の体へ使用する。

 ……やがて、荒垣の体調が落ち着いてきたようだ。顔色が少しずつ良くなっている。

 

 

「……ぁ…………しゅ、う、いち……」

 

「!……っはい!何ですか、和哉さん!」

 

「……し……しん、じて、た……」

 

「……っ……っ!!」

 

 

 ……既に涙目だった赤井は、その一言でついに一粒の涙を落とした。

 

 

「……あなたが無事で、良かった――本当に……良かった……!!」

 

 

 すると荒垣は目を見開いた後すぐに、仕方ないとでも言いたげに、困ったように笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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忠犬、赤井秀一5~後編~

 

 

 ふと、目を覚ますと、白い天井が目に入った。……どこだ、ここ?

 

 

 

 ……どうやら俺はベッドの上で寝ていたらしい。起き上がろうとしたが、体がいつもより重く感じたため、止めた。代わりに寝返りをする。

 ……椅子に座り、目を閉じて船を漕いでいる美形が目に入った。……秀一だ。……あれ?こいつ頬に湿布が貼ってある。そんな怪我してたか?……って、そういえば俺は……

 

 

「……あー……そうか、俺は……」

 

 

 あの時、秀一に抱き起こされた後に意識を失ったんだったな……

 そう思いつつ、その時の事を思い出す。

 

 あの時、俺は秀一を信じた。秀一1人に任せる事を心苦しく思ったが、こいつならこの状況を打開してくれる筈だと、そう思ったんだ。……まさかあんな形で解決してしまうとは、想像もしていなかったが。

 たった2分でそれを思い付いた秀一は、やはり天才だと思う。

 

 すると、秀一が目を覚ました。……まだ寝惚けているのか、目を擦りながらぼーっとした顔で俺を見ている。

 

 

「……おー、おはよう。ねぼすけ」

 

「……おはよう、ございます」

 

「うん」

 

「……和哉、さん?」

 

「おー」

 

「…………っ、和哉さん!?」

 

 

 お、覚醒した。

 

 

「和哉さん……和哉さん、良かった……!あれから3日も眠ったままで……!」

 

「3日、だと!?」

 

 

 ねぼすけは俺の方だったか!

 

 

「とりあえず、ナースコールを押します」

 

「ナースコール……あぁ、ここ病院か」

 

「そうですよ。何を寝惚けているんですか。……いえ、3日も寝ていればそうなりますよね、すみません」

 

 

 こら、自分がさっきまで寝惚けていた事を棚に上げるな。

 何て心の中で文句を言っていたら、すぐに医者と看護師がやって来て、秀一は邪魔だからと無理やり退出させられた。

 

 

 ……やがて、簡単な診察を終えた。医者の話によれば、どうやら薬は抜けているらしく、体も健康体だという。また、秀一に撃たれた足の怪我も致命傷にはなっていなかった。秀一はうまくやってくれたらしい。

 念のために今日1日は入院するように言われたが、明日には退院していいそうだ。ただし、しばらくは定期的に通院するようにと言われた。

 そして、その医者から気になる話を聞いた。

 

 

 その医者は、こちらの事情を粗方把握している協力者の1人だった。

 そのため、作戦中に見つけた例の不老不死に関する資料の中に、俺に盛られたと思われる神経毒についての詳細が書かれたものを見つけたコナンが、それを医者に渡して俺の治療をするように頼んだ。

 その資料には、ジンが説明していた効果が書かれていたが、1ヶ所だけ、内容が違っていた。

 

 ――その神経毒は、致死性の毒ではなかったのだ。

 

 確かにかなり強い毒なのだが、その資料には致死性の毒だとは書かれていなかったという。……資料の方に嘘が書かれていたのかと聞けば、それはないと答えられた。

 あの後、組織の拠点から俺に盛られた毒薬と同じ物を入手する事に成功し、その毒薬の成分を調べた結果、資料の方が正しい事が分かったらしい。

 

 ……一体、どうゆう事なんだ?

 

 

 俺が疑問に頭を悩ませていると、病室のドアがノックされた。入室を促すと、秀一を先頭に幹部達7人が入って来た。

 

 

「荒垣君!無事に目覚めてくれたようで何よりだ」

 

「おう、ボス。ありがとう。……まさか3日も眠っていたとは思わなかったが……」

 

「心配したのよ!?全く目を覚まさなかったから……」

 

「本当に……無事で良かったです……!」

 

「ジョディとキャメルも、心配掛けて悪かったな」

 

 

 3人揃って涙目になっているのを見るに、相当心配させたのだろう。……本当にすまない。

 それから、他の4人にも声を掛ける。

 

 

「お前らも、悪かったな。面倒を掛けた」

 

「えぇ、全くですね!あなたが眠っている間に赤井が面倒くさかったんですよ!あなたは何も悪くないですけど愚痴ぐらいは聞いて下さい!!」

 

「お、おう……?」

 

「あっ……あー……」

 

「あ、ははは……は……」

 

 

 風見は納得したように何度か頷き、コナンは疲れたように空笑いをしていた。

 

 ……以下は、降谷の不満恨み辛み怒り呆れ等を抜いて俺が要約した、秀一の3日間の様子である。

 

 

 まず1日目。秀一は仲間達と共に作戦終了後の後始末をしていた。しかし、隙あらば俺がいる病室へ行こうとしていたらしい。その度にそれを阻止する降谷との攻防を繰り広げたそうだ。

 時には口論で、時には無言のやり取りで、時には肉体言語で…っておい。それは喧嘩だろ!いい年した大人2人が何やってんだか……

 

 2日目。痺れを切らした秀一が、降谷を本気でぶん殴って俺がいる病室へ直行した。この馬鹿野郎!何やってんだ秀一!?

 ……って事は降谷の頬に貼ってある湿布はそれのせいか?記憶が少し曖昧だが、俺が気絶する前に見た降谷の顔にはそんな怪我はなかった気がする……すまない、降谷。本当にすまない……!

 そしてその日も目を覚まさなかった俺を心配して、秀一は病室から一歩も動かなかったそうだ。ご丁寧に、自分がやるべき書類仕事だけは全て持ち込んで。

 

 3日目。秀一はその日も病室から一歩も動かなかった。ジェイムズを筆頭に、FBIの皆が説得したのだが、それでも駄目だった。

 さらに、その時に秀一が1日目から一睡もしておらず、まともな飯も食っていない事が発覚した。それを聞いた降谷が激怒。秀一を一発殴って病室から引きずり出し、降谷の手料理を食べさせて、無理やり仮眠室に押し込んだ。……おそらく、秀一の頬の湿布はこれが原因だろうな。

 降谷曰く……しっかり食べて寝てなきゃ荒垣さんが悲しむだろうが!ついでに貴様が使い物にならなきゃ仲間達と俺が困る!……だ、そうだ。降谷、お前いい奴だな……!?

 

 あえて、ツンデレだな、とは言わないでおく。

 

 

 ……長くなってしまったが、これでも短くなった方だ。降谷の不満恨み辛み云々を入れたらもっと長くなってしまう。……さて、とりあえずはお説教だな。

 

 

「なるほどなぁ……よーく、分かった。……秀一、Sit(座れ)

 

Yes Master(ハイ、ご主人様)

 

 

 俺のベッドの横の床に、秀一が正座で座った。……正座で座るあたり、こいつも反省はしてるのか?

 

 

「俺が何を言いたいのか……分かるよな?」

 

「はい……」

 

「なら、今自分がすべき事も……分かってるだろ?」

 

「分かっています」

 

「よし。やれ」

 

「はい!」

 

 

 すると、秀一は降谷達がいる方へ正座をしたまま向き直り、深々と頭を下げた。見事な土下座の出来上がりだ。……いや、そこまでやれとは言ってないが……まぁ、いいか。

 

 

「!?」

 

「えっ、ちょ、赤井さん!?何やってるの!?」

 

「……皆に多大な迷惑を掛けてしまい、本当にすまなかった。特に、降谷君には重ねて謝罪と感謝を。あれだけの事をしたのに見捨てずに食事まで作ってくれて、本当にありがとう」

 

「……別に、荒垣さんのためにやったのであって、貴様のためにやったわけじゃない」

 

「それでも、だ。……ありがとう」

 

「……っ……だぁー!もういいから土下座をやめろこのバカ井めどういたしましてっ!!」

 

「……あぁ。そうする」

 

 

 そう言って、秀一は立ち上がった。どうやら話がまとまったようだな。

 

 

「……俺からも謝る。秀一が迷惑を掛けてしまってすまなかったな、降谷」

 

「いいえ。荒垣さんは悪くありませんから。この貸しは、このアホ井の仕事を倍にする事で返してもらいますので、ご心配なく!」

 

「仕事が、倍に……」

 

「何か文句でも?」

 

「…………いや、ない」

 

 

 苦々しげな表情を見せる秀一。……お前、書類仕事はあまり好きじゃないもんな。まぁ、頑張れ。

 

 それにしても……

 

 

「秀一にも、心配掛けちまったな。悪い」

 

「いえ、そんな……おそらく和哉さんがジンに狙われたのは、俺のせいです。だから、むしろ俺の方が謝らないといけません」

 

「いや。それは必要ない。お前のせいだとは思ってないからな。……それに、奴は俺の事も始めから狙っていたんだと思う」

 

「!?……それは、どうゆう事ですか?」

 

 

 秀一が険しい顔で俺を見つめている。ふと見れば、コナン達も説明しろと目で訴えている。

 ……そういえば、こいつらはまだ俺とジンの会話の内容を知らないんだった。

 

 

「……キルシュを確保した日、奴はどこかでその一部始終を見ていたらしい。そして秀一が生きていた事と、俺の存在を知った。それからうちの本部にハッキングを仕掛けて、俺の事を調べ上げた」

 

「なっ……本当ですか、それは……!」

 

「あぁ。本人がそう言っていた」

 

「……ちょっと、待って下さい。ジンがあの日の一部始終を見ていたとしたら、何らかの報告を上げているはずです。特に、赤井の生存について。でも幹部にも下っ端の構成員にも、そんな情報は共有されていない!何故だ……?」

 

「それは、俺にも分からない。ジンに直接聞かないことには……そういえば、今取り調べしてるんだろ?何か話したか?」

 

 

 俺は降谷にジンの取り調べについて聞いた。

 

 

 今回の作戦において、FBIは公安に対して借りを返さなければならなかった。その借りとは、ホームでもないのにFBIが許可を取らずに勝手に捜査をしてしまった事だ。

 

 そのため、うちと公安が交渉する事になった。その交渉役を任された俺が降谷と話し合った結果、重要参考人の取り調べは公安側が先にやる事、そしてその身柄を預かる際は公安側の意見を優先させる事を条件に、借りを返す事となった。当然、ジンは重要参考人であるため、この条件が適用される。

 

 ……実は、この条件を提案したのは俺の方だった。降谷はFBIが不利になる条件を俺から提案した事に酷く驚いていた。無理もない。そんな交渉なんて滅多にないからな。

 

 

 俺としてはどう考えてもこちら側に非があったとしか思えない。確かに、こちらもなりふり構っていられなかったからやった事だが、だからと言って許される事ではない。

 

 そんな事よりもFBIと公安が不仲になってしまう事の方が大問題だ。今後もしも同じような事があった時に協力を求める事ができなくなる。1度なくなった信用を回復させる事は非常に難しい。……という事をうちの連中に説明し、根気よく説得する事で納得してもらった。

 

 ……とはいえ、納得したのはあくまで今回の作戦に参加した連中だけだ。あらかじめ"作戦中の全ての判断は現場に一任する"と言質を取っていたが、アメリカに戻ったら上層部からのお叱りと、風当たりの強い日々が待っているだろうな。やれやれだ。

 

 まぁ、こちらが不利になる条件を提案する代わりに、今後は公安と友好的な関係を築きたい、という事を伝えて了承してもらったから、それで我慢してくれ。

 

 

 ……おっと、閑話休題。

 

 

「FBIに教える気はない。……と、言いたいところですが、交渉の件であなたには個人的に恩があるので、特別に答えましょう。……実は、一言も話さないんです。何を聞いても、反応しません。……無論、諦めるつもりは全くないですけど」

 

「……そうか。……やっぱりよく分からねぇな、ジンの野郎は。奴が俺を捕らえていた間も何を考えているのかがさっぱりだった」

 

「そういえばまだ話の途中だよ、荒垣さん。ジンとの間に何があったの?」

 

「おぉ、そうだったな」

 

 

 忘れてた。すまんな、コナン。

 

 

「じゃあ、作戦中に秀一がジンと無線機越しに話した後の事を話そう。……あの後、ジンは俺を最下層まで連れて行ったんだが……妙に、優しかった」

 

「…………は?」

 

「いや、それがな?奴は体全体が痺れてうまく歩く事ができなかった俺の歩く速度に合わせてゆっくり歩いて、しかも俺が躓きそうになったらその度に支えて、さらには階段を降りる時は抱えて降りてくれて…」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!今誰の話してます?」

 

「だからジンの話だって」

 

 

 まぁ、そう聞きたくなる気持ちはよーく分かる。

 俺も今回初めて奴と話したが、最初の印象はいきなり毒薬盛られたから最悪だったし、ジンの話は秀一達からも聞いていて恐ろしい男だと思っていた。

 だからこそ、行動が予想外すぎて俺の考えていたジンのイメージがぐらついている。

 

 

「それに、まだあるぞ」

 

「え、まだあるの!?」

 

「あぁ。……秀一。お前、俺の胸ポケットから解毒剤が出てきたのは、何でだと思う?」

 

「それは……和哉さんがジンと交渉して手に入れた……というわけではないですよね。あなたは毒薬のせいでまともに話せなかったはずですし。……という事は……」

 

「そう。……俺の胸ポケットに解毒剤を入れたのはジンだ」

 

 

 最下層に行く前。ジンは忘れないうちに、と俺の胸ポケットに何かを入れた。それが、俺に盛られた神経毒の解毒剤だったのだ。

 

 

「そもそも、その神経毒も致死性のものじゃなかったしな……」

 

「……そうでしたね」

 

「……わけが分からなかったから、ジンに聞いたんだ。何を考えているんだ、ってな」

 

「ジンは何と?」

 

「……俺と秀一の結末を見届けたいんだ、と」

 

「カズヤとシュウの……結末?」

 

「……それは、最後に俺が選択を迫られた時の事が関係しているのでしょうか?」

 

「多分、な」

 

 

 ……秀一がどちらを選ぶのか、そして俺がそれに対してどんな反応を見せるのかを見届けたかったのか……?

 

 その時ふと、思い出した。俺がジンに何を考えているのかを聞いて、それに奴が答えた時の表情を。

 

 

「……見届けたかった……というよりも、期待していた、のか?」

 

「えっ?」

 

「和哉さん?それはどうゆう……?」

 

「……ジンは、俺に何を考えているのかと聞かれて、それに答えた時に、何かを期待しているような……そんな表情を見せてな」

 

「……本当に、そんな表情を見せたんですか?あの仏頂面のジンが?」

 

「いや……あり得ない話ではないよ、降谷君。荒垣君は、以前の仏頂面の赤井君の表情の微妙な変化を読み取る程の観察眼があったからね。ジンの表情も読み取れたのかもしれない」

 

 

 いやいや。大袈裟に言わないでくれよボス。よく見れば昔の秀一の表情も割と分かりやすかったぞ?……今はむしろ分かりやす過ぎるが。

 ジンの表情だって、今回のは誰が見ても分かりやすいものだったと思う。

 

 

「それが本当なら、荒垣さんはかなりの観察眼を持っている事になりますね……いや、今はそれよりもジンの事です」

 

「あぁ。……和哉さん。ジンは何を期待していたと思いますか?」

 

「それは……直感でもいいのか?」

 

「えぇ。むしろ、それが聞きたいんです」

 

「分かった。……奴は、秀一が俺を助ける選択をする事を期待していたんだと思っている。……根拠はない。本当に直感だ。ただ……」

 

「ただ……何ですか?」

 

「……ジンの身に、俺に対して優しくなったり、解毒剤を前もって渡したりするといった変化をもたらす"何か"が、あったんじゃないか、とも思っている」

 

「…………なるほど」

 

 

 秀一は1つ頷くと、降谷を見た。

 

 

「降谷君。ジンが何も話さないというのであれば、その周囲の人間にここ最近のジンの変化について聞いてみたらどうだ?そして、君自身もバーボンとして奴に会った時に何か気づいた事がなかったかどうか、今一度考えてみるといい」

 

「はぁ?何故貴様にそんな事を指示されなければいけないんだ!」

 

「まぁ、騙されたと思ってやってみろ。……こうゆう時の和哉さんの直感は、恐ろしい程に当たるんだ」

 

 

 え、俺?……確かに、勘は良い方だなと自分でもたまに思うが……

 

 

「…………いいだろう。やってやろうじゃないか。だが勘違いするなよ!俺は貴様の言葉に従うんじゃない。荒垣さんの勘を信じて動くんだからな!」

 

「分かった、分かった。そうだな、君が俺の言葉に従う理由はないからな、そうだよな」

 

「そうだ!分かっているじゃないか!」

 

 

 ……降谷の奴、秀一が棒読みで言っている事に気づいてないのか……?

 

 

「……ところで、荒垣さん」

 

「お、う。……何だ?」

 

 

 さっきまで秀一に般若顔を向けていたというのに、一瞬で普段の真面目な顔に戻った。……それ、もう一種の顔芸みたくなってるぞ、降谷……

 

 

「あなたは、あの時赤井に撃たれましたよね?」

 

「っ!!」

 

 

 視界の端で、秀一が一瞬だけ体を揺らしたのが見えた。

 

 

「……あぁ。そうだな」

 

「そうだな、って……何も思わないんですか?……結局、あの後すぐに荒垣さんが気を失った事でそいつがみっともなく狼狽えたので、何故荒垣さんを撃ったのかを聞けなかったんですが……あなただって、その理由が気になるのでは?」

 

 

 気がつけば、その場にいた全員の視線が俺に集まっていた。

 

 

「――いいや?別に。もう分かってるから聞く必要はないしな」

 

「和哉、さん?」

 

 

 秀一が、不安そうな顔で俺を見ている。……ったく、しょうがねぇな……

 

 

「……そこで不安そうにしてる奴がいるから答えるが……あの時の俺は立っているのがやっとだった。足を撃たれれば、当然崩れ落ちる。そうなれば、こいつが俺に銃を向けた時点で動揺していたジンが、さらに動揺する。あとはそれを利用して凶器を銃弾で弾くだけだ。――つまり。秀一は俺を助けるために、俺を撃ったんだ。……そうだろ?」

 

「……そうです……」

 

「ほらな。やっぱりそうだった」

 

 

 あえて得意げに笑ってやると、コナンが口を開いた。

 

 

「赤井さん。もしかして、僕が前に話したあの事件の話を……」

 

「……あぁ。そうだ。それを見習わせてもらったよ」

 

「あの事件って、何です?」

 

「えっとね……」

 

 

 コナンが、毛利小五郎の知人の中でも、名前に数字の入った人間が狙われた事から始まり、最終的にその娘の毛利蘭が人質に取られてしまった事件について話した。

 コナンはその時、人質になった毛利蘭を助けるために彼女の足を撃ったのだと言う。おい、こら。銃を使うのは危ないだろう!

 と、俺が怒るまでもなく、降谷達が叱っていた。秀一も頷いていたのを見るに、おそらくこいつも話を聞いた後で叱ったんだろうな。

 

 

「……まぁ、話は分かりました。しかし、あなたは赤井を責めても許されると思うんですがね……当たり所が悪ければあなたも無事では済まなかったはず……」

 

「責める?何を責める必要があるんだよ。あの時俺は、自分の命運を秀一に預けるしかなかったんだ。そんな責任を押し付けちまった事に謝りはするが、責める事はしない。それに……」

 

「それに?」

 

「――俺は秀一を信じていた。こいつならきっと、あの状況を打開してくれるはずだ……ってな」

 

 

 そう言って、ちょうど手の届くところに座っている秀一の頭があったので、軽く手を置いて撫でた。

 すると、秀一は俺の手をそのままに、自分の両手で顔を覆って俯いてしまった。

 

 

「ん?……ど、どうした?」

 

「すみません……すみません、放って置いて下さい。今みっともない顔になっていると思うので……」

 

「赤井のみっともない顔、だと!?……よし、見せろ。今すぐ見せろ!思いっきり笑ってやる!」

 

「!?おい、何をするんだ降谷君、やめろ!」

 

 

 と、いい年した2人の男が攻防を繰り広げた(じゃれあった)結果、降谷が勝利した。

 

 その顔を見た瞬間、宣言通り降谷は大爆笑。結果的に顔に湿布を増やす事になった。……こればかりは、自業自得だな。というかお前らやっぱり仲良いんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 






・忠犬の頭をなでなでした師匠兼飼い主

 雑魚共の対処に夢中になっていた俺は、背後から近づいてくる奴らの仲間に気がつかなかった!俺はその男に毒薬を盛られ、気がつけば……体が痺れてしまっていた!(例の定型文より)
 また、その後のジンの対応を全力で怪しむ。……ジンが優しい、だと……!?何を企んでいる!?


 自分が寝ている間の赤井のご乱心を聞いて唖然。何やってんだよ秀一!皆に謝りなさい!……って、土下座?いや、そこまでやれとは言ってないんだが……
 その後、改めてジンの行動について皆に説明する。結果的にますますジンのイメージがよく分からないものになってしまって混乱中。


 降谷に赤井がオリ主を撃った事について聞かれ、正直に心境を答えた。責める?そんな事するかよ!感謝はするけどな。さらに赤井を信じていたと堂々と口にした。お前ならやれるって信じてたぜ(頭なでなで)
 するとすぐに赤井が顔を隠してしまったため、首を傾げた。……どんな顔してたんだ?気になるな……


・決して見せられない顔になった弟子兼忠犬(キャラ崩壊が激しい奴その1)

 オリ主を人質に取られて激怒。しかしオリ主の指示に従って辛うじて冷静さを取り戻した。
 その後、最下層でオリ主のぐったりした様子を見てジンへの怒りが増した。できる事なら殺してやりたい……!!また、選べるはずのない2択を迫られ焦るが、土壇場で第3の選択肢を取る。どちらか一方を選択できないのなら、新たな選択肢を自分で作ればいいじゃないか!
 無事に助ける事ができたオリ主に"信じていた"と言われ、つい泣いてしまった。


 3日間のご乱心について、心から反省した。日本では土下座が最も分かりやすい謝罪だと聞いたんだ……
 オリ主自身もジンに狙われていたと聞いて驚愕。また、オリ主が捕まっていた間のジンの行動を知ってさらに驚愕。……和哉さんには優しかったとしてもお前だけは決して許さん。


 降谷がオリ主に自分がオリ主を撃った事についての心境を聞き始めたため、内心嫌われたんじゃないかと怯えていた。……しかし、それが杞憂だったと知り、さらには改めて信じていたと言われながら頭を撫でられて、決して見せられない顔になってしまった。やめろ降谷君!無理やり手を剥がそうとするんじゃない!!
 だがしかし、結局見られて大爆笑されたために、思わずぶん殴った。……俺は悪くない……!


・再び殴られた元トリプルフェイス(キャラ崩壊が激しい奴その2)

 今回、ほとんど何もできなかった事を内心、心苦しく思っている。だからこそ、状況を打開できるチャンスを作った赤井の行動に、すぐに合わせる事ができた。


 赤井の3日間のご乱心に対して苦心する。大人しくしてろ赤井秀一ィィ!!……しかし、苦労させられたにも関わらず決して見捨てる事はしなかった。べ、別にお前のためじゃないからな!……なお、このツンデレは赤井に対してのみ発動する模様。


 赤井曰く、みっともない顔を無理やり見て、さらには大爆笑したために再びぶん殴られた。赤井がどんな顔をしていたのかは、降谷のみぞ知る……






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忠犬、赤井秀一6~前編~


 長くなったので、前編、後編に分けます。

 今回は、前回のジンの行動の謎が明かされます。気がつけば赤井さんよりもジンの方が目立っていました……私は赤井さん派のはずなのに……(´・ω・`)

 ジンの過去や黒の組織のボスについてかなり捏造しています!また、ジンのキャラ崩壊がありますので、注意して下さい!




 結局。あの後はあまりにも騒ぎ過ぎた事で医者と看護師に叱られ、患者には安静にしてもらいたいからと、秀一達は追い払われてしまった。まだ俺が気絶した後の3日間の事を詳しく聞いていなかったというのに……

 

 そこで翌日の朝。その事を聞くために退院後すぐに作戦本部に向かった。

 いつも幹部達が集まっている会議室の扉を開くと、既に秀一達7人が揃っていた。

 

 

「和哉さん、おはようございます。退院おめでとうございます。……迎えに行けず、申し訳ありません」

 

「いや、構わない。忙しいだろうから、わざわざ迎えに来なくてもいいと言ったのは俺の方だ。……皆もおはよう」

 

 

 全員と挨拶を交わした後、本題に入るとした。

 

 

「さて……昨日はいい年した大人達若干2名がじゃれあったせいで、話が止まっちまったからな。俺が寝ていた間の事を詳しく聞かせてくれ」

 

「じゃれあってない!」

 

「……みっともなく騒いでしまいました。すみません……」

 

 

 むきになって否定する降谷と、素直に謝る秀一を尻目にコナンが説明してくれた。

 

 

 ……ジンを確保した後、黒の組織の拠点内部を隈なく探し回ったが、結局ラムと組織のボスは見つからなかったという。

 

 ただ、ボスの部屋と思われる場所が酷く荒らされていたらしい。そこを調べた結果、ボスがこちらの襲撃を受けた直後に慌てて逃げ出したという事実が判明した。そしておそらく、ラムはその護衛として同行していると思われる。

 

 拠点に残っていた幹部達を含め、組織の構成員達はその事を知らなかった。取り調べ中にその事実を知って酷く驚いていたらしい。……中には、信じられないと喚く者もいたようだが。

 

 しかし、ベルモットは違う反応を見せた。

 

 

「――いつかはそうなると思っていたわ」

 

 

 ……と、呆れ顔で呟いていたらしい。

 

 また、ジンもこの事を知っていたと思われる。この事実を知れば、知らなかった者は必ず何かしらの反応を見せるはず。しかしジンはこの話を聞いても驚くどころか、無反応だったらしい。おそらく知っていたんだろうな。

 

 そのジンはというと、未だに何も語らないのだという。組織のボスとラムの居場所を知っている可能性が最も高いのがこいつなんだが……

 

 しかし、何も進展していないわけではない。昨日、秀一に言われた事を実行した降谷のおかげで、ジンに関する情報が手に入った。

 

 

 1ヶ月程前。ジンが上機嫌で拠点の外から帰って来た様子が目撃される。また、その日はジンが"ボスに会いに行く"と言ってウォッカを置いて1人でボスの元へ向かっていた、という情報も得た。

 ……1ヶ月程前、と言えばキルシュを確保した日が近い。……繋がりはあるのだろうか?

 

 ただ、その日ボスの元から帰って来て以降、ジンの様子に変化が現れたという。普段から1日中機嫌が悪い日というのがたまにあったそうだが、それがほぼ毎日続いていたらしい。普段以上に威圧感を放っていたせいで、子分のウォッカがしばらく距離を取る程に酷い状態だったとか。

 

 降谷も構成員達の証言を元に記憶を探ってみたところ、確かにそれと思われる様子が見られた、と人伝に聞いた事を思い出したそうだ。

 ……というのも、降谷は作戦決行日に向けて徐々に組織の拠点に足を運ぶ頻度を減らし、拠点から遠退くように行動していた。無論、組織側から怪しまれないよう慎重に。そのせいか、普段から出来る限りジンに近づかないようにしていたため、ジンと接触する事もほとんどなくなってしまった。奴の変化を人伝に聞く事があっただけで、直接見る事がなかったのだ。

 

 ……ジンと組織のボスの間に、何があったのだろうか。

 奴は組織のボスに対する忠誠心が強かったという。そんな奴の機嫌が急降下する程の何かを、ボスがやらかしたのか……?

 

 

「……と、今分かっている事は大体こんな感じかな」

 

「そうか。ありがとな、コナン。……ところで降谷。ジンの機嫌が悪くなった原因を推測する事は……?」

 

「……できるわけがないですよ。奴の心境を理解できるはずがない。むしろしたくない」

 

「だよな……」

 

「……しかし、ベルモットがジンについて妙な事を言っていました」

 

「妙な事?」

 

「"あれは複雑な感情の処理の仕方が分からない事への苛立ちによるものだった"と」

 

「…………ほう」

 

 

 ベルモットはあれでも表では大女優だった女だ。人間観察にも優れているはず。そのベルモットが言うくらいだ。信憑性はあるだろう。……しかし、それは俺自身が直接確かめなければ信じられない。

 まぁ、公安の人間が取り調べしている中に割って入るわけには行かないから、今はやらないが。

 

 

「ベルモットが何故そう思ったのかは聞いたのか?」

 

「聞きました。しかしただ一言、"女の勘だ"と。……全く、ふざけている……!」

 

「そうか?案外女の勘ってのは馬鹿にできないぜ?」

 

「……まさか、ベルモットの言葉を信じると?」

 

「いや…」

 

「降谷君。和哉さんは自分で直接確かめない限りは物事を信じない、用心深い人だぞ。そんな人が敵の言葉を信じるはずないだろう」

 

「何故貴様が答えるんだ……」

 

「確かにその通りだけど秀一、お前な……あぁいや、いい。それよりも、だ。ベルモットが答えられないのなら、もう直接ジンに聞くしかないんじゃないか?」

 

「…………駄目で元々、ですか……」

 

「あぁ。……それに、ジンには今までラムと組織のボスに関する事ぐらいしか聞いてないんだろ?なら、それから少し離れた質問をしてみるのもいいんじゃないか?案外そこから突破口が見つかるかもな」

 

「まぁ……一理ありますね。……風見」

 

「了解しました。すぐに取り調べ担当の者に指示を伝えてきます」

 

「頼む」

 

 

 降谷に指示され、風見は会議室から出て行った。

 

 

「……ジンは、何か反応を見せるかな?」

 

「さてな。俺にも分からん。……しかし、これで何も反応が見られなくても、その時はまた皆でどうすればいいのか考えよう。だから、降谷。また何かあったらいつでも俺達に相談してくれ。特に俺は――公安もFBIも関係なく、大切な同志の力になりたいんだ」

 

「……っ……そうゆうところですよ、荒垣さん!」

 

「ん?」

 

 

 降谷が口元を隠してそっぽを向いた。……どうしたんだ?

 

 

「和哉さん……誰彼構わずたらし込まないで下さい」

 

「うん……?」

 

「対処が大変なんですよ。あなたを横取りされないようにさらに牽制しなくては……俺の飼い主は俺が守らないと」

 

「いや、だから俺はお前の飼い主じゃ…」

 

「じゃあ僕の飼い主になります?」

 

「――あ"?」

 

 

 秀一が、柄の悪い声を出して降谷を睨んだ。……凶悪面だ。

 

 

「おい、赤井。一瞬ライの顔が出てたぞ」

 

「うるさい、黙れ。和哉さんの犬は俺だけだ」

 

「お前を俺の犬にした覚えはねぇぞ」

 

 

 何を言い出すんだか……

 

 

「それから降谷。秀一をわざと煽るな、収拾がつかない。それにお前の性質はどちらかというと犬より飼い主側だろ。……いや、日本を守る番犬という意味でなら犬側か?」

 

「日本を守る……番犬……!?」

 

 

 降谷は目を見開いた。それから、次第に笑顔になっていく。……そんなに喜ぶような事言ったか?

 

 

「そうですか、そう見えるんですね?」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

「ならば俺の飼い主は日本、という事か……うん。いいな、それ」

 

 

 満足そうに頷いている。……よく分からんが収拾、ついたか?

 と、その時。風見が会議室に戻って来た。……早いな。

 

 

「降谷さん、報告が……降谷さん?」

 

「ん?……あ、あぁ風見か。早いな、もう戻って来たのか」

 

「それが、ですね……」

 

「……どうした?何があったんだ」

 

 

 すぐに表情を真剣なものに戻した降谷が、風見を促す。すると、風見は一瞬だけ俺を見た後にこう言った。

 

 

「ジンが――荒垣和哉を呼べ、と」

 

 

 他の幹部達の視線が――特に秀一の視線が強い――集まるのを感じた。

 確かに……確かにジンが何らかの反応をする事を望んではいたが、面倒事を望んだ覚えはねぇぞ……!!

 

 俺は頭を抱えてため息をついた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「――よぉ。待ってたぜ、荒垣和哉」

 

「……そりゃどうも」

 

「……どうした?機嫌が悪そうだな」

 

「っ当たり前だろうが!今まで何の反応もしなかったてめぇがやっと反応したと思ったら"俺を呼べ"だぞ?FBIの俺を!そのせいで取り調べ担当の公安にねちねちと文句を言われたんだ!全く面倒な……!!」

 

 

 取調室にて。俺はニヒルに笑う銀髪野郎に不満をぶつけた。すると鼻で笑われた。てめぇこの野郎……!

 

 せっかく……せっかく最近になって公安の連中とも少し仲良くなれたところだったのに……!これでFBIと公安の仲がまた悪くなったらてめぇのせいだからな!!

 

 

「…………その様子じゃあ、体調も万全か」

 

「あぁ、てめぇに盛られた毒はもうすっかり抜けたが3日も眠り続けたぜ、おかげ様でな!!」

 

「そうか……念のために待っていた甲斐があった。回復おめでとう、良かったな」

 

「え?……お、おう……」

 

 

 唐突な祝福に面を食らった。……やっぱりおかしくないか?こいつ。俺の中にあるジンのイメージが、また1つ崩れていく。

 ……って、ちょっと待て。

 

 

「今……念のために待っていた、って言ったよな?」

 

「あぁ」

 

「……まさか、今まで何を聞かれても無反応だったのは……」

 

「お前が来るのを待っていた。いきなり呼んでも、その時点で毒が完全に抜けきっていない状態だったら悪いからな。時間を置いた」

 

 

 という事は、ジンがずっとだんまりだったのは俺のせいだった?……胃が痛くなりそうだ。

 

 

「……という事は、俺が聞けば黒の組織のボスとラムの居場所を答えてくれたり…って、そんなわけないよな。てめぇがそんな素直に答えてくれるはずが…」

 

「別に答えてもいいが、」

 

「いいのかよ!?」

 

「お前からの取り調べだけは、元から受けるつもりだった。条件付きでな」

 

「……条件?」

 

 ……やはり、そんな旨い話があるわけないか。一体どんな条件なんだ……?

 

 

「俺がお前の質問に答える代わりに、お前も俺の質問に答えろ」

 

「……もしも俺が質問に答えられなかったら?」

 

「その時は、俺もお前の質問に答えなくなるだけだ」

 

「…………」

 

 

 つまり。俺が質問に答えられなければ、ジンから情報を得る事ができなくなる、って事か。

 これでもしも、FBIの機密情報は?なんて質問されたらまずい。非常にまずい。

 

 嘘をつけばいい。そんな考えが一瞬浮かんだが即刻取り消した。もしも嘘がバレたら、今度こそジンが何も話さなくなるかもしれない。

 そして何より、俺の背後にあるマジックミラーの先で公安の人間がこの会話を聞いている。迂闊に話してしまえば怪しまれるだろうし、こちらは公安と友好的な関係でいたいのだから、それが水の泡になるような真似はしたくない。

 

 どうする?とりあえず1度持ち帰って皆に相談を…

 

 

「おっと、1つ言い忘れた。条件を呑むかどうかは今この場で決めろ。お前がこの部屋から出た瞬間、俺はもう2度と口を開かねぇからな」

 

「……っ!!」

 

 

 まるで狙っていたかのようなタイミングだ。……これは、駄目だな。こいつとの前哨戦は完敗だ。今後の取り調べの中で優位に立つしかない。

 

 ――しかしまぁ、なんとかなるだろ。取り調べは得意だ。……後で勝手に取り調べをしてしまった事を降谷に謝っておこう。

 そう考えた俺は、ジンを見据えて口を開いた。

 

 

「――分かった。条件を呑もう。その代わり、ちゃんと俺の質問に答えてくれよ?」

 

「ふっ……あぁ。お前こそ、俺からの質問に言葉を濁したりするんじゃねぇぞ」

 

「もちろん、分かっている。……じゃあ、最初の質問は…」

 

「待て。質問は俺が先だ。お前から質問しておいて、聞きたい事は聞けたからと俺の質問に答えずにとんずらされるわけにはいかねぇ」

 

「……なるほど、一理ある。では、そちらの質問を聞こうか」

 

 

 ちっ……流れで先手を打とうとしたんだがな……まぁいい。相手の出方を窺うとしよう。

 

 

「――お前にとって、赤井秀一はどんな存在だ?」

 

「――はぁ?」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「――お前にとって、赤井秀一はどんな存在だ?」

 

「「――はぁ?」」

 

 

 荒垣と、マジックミラーの先にある部屋にいた赤井の声が図らずも重なった。

 

 現在。荒垣以外の7人の幹部達が、マジックミラー越しにジンの取り調べの様子を見守っていた。しかし、ジンの思わぬ質問に全員が困惑する。

 

 

「……分からない……ジンの考えがさっぱり分からない……!」

 

「降谷さん……それはこの場にいる全員がそう思っています」

 

「そうよ、フルヤ。私達にだってさっぱり分からないわ!」

 

「一体……何が目的なんでしょうか?」

 

「……今は、分からない。これからの取り調べの中でそれを追及するしかないだろう」

 

「その追及は、荒垣さんに任せるしかないんだよね……大丈夫かな」

 

 

 そう言ったコナンと、それを聞いた降谷と風見の表情が強張る。……しかし、FBIの4人は、それとは対照的に表情を緩ませた。

 

 

「和哉さんが担当するなら問題ない。あの人は今まで数多くの犯罪者達の取り調べを行い、その懐に潜って有益な情報を引き出して来た。……和哉さんの手に掛かれば、たとえどんな凶悪な犯罪者であっても骨抜きにされ、その鋭い牙を抜かれてしまうのさ。弟子として、多くの事を学ばせてもらったが……この取り調べの技術だけは俺でも習得できなかった。こればっかりは、あの人だけが持つ技術だ」

 

「……用は、荒垣さんお得意の人たらしという天賦の才を応用しているわけだな」

 

「降谷君。俺がせっかく和哉さんを讃えたというのに、それを一言で片付けないでくれないか?まぁ、その通りなのだが」

 

「…………その通りなのかよ」

 

 

 赤井の言葉に対して、コナンがこっそり呟く。

 

 

「……それにしても、ジレンマだな。和哉さんの魅力を周囲に自慢したいという気持ちがあるが、敬愛する師匠を独り占めしていたいという気持ちも同時に存在している。……悩ましい……」

 

「あー、はいはい。分かったから、今はそれよりもジンの取り調べの方に集中しなさい」

 

「おっと、そうだったな」

 

 

 実を言うと、赤井は少し緊張していた。今まで、荒垣が自分の事をどう思っているのかを聞く事ができる機会などなかったからである。

 

 ……やがて、荒垣が口を開いた。

 

 

「……てめぇが何を思ってそんな質問をしたのかは分からねぇが……まぁ、いいだろう。長くなるぞ」

 

 

 そう言って荒垣が語り始めたのは、赤井にとっては青天の霹靂と言える程の内容だった。

 

 

「――最初は、クソ生意気な野郎だと思っていたよ。命令違反はよくやってたし、教育係の俺の事を見下していた。だから、初めに上下関係をしっかり教えてやった。そうしたら急に大人しくなって、最終的には弟子にしてくれって言われてな。調子の良い奴だなと思った。

 でも、その熱意は本物だったよ。あいつを弟子にしたのはそれに根負けしたからだ。

 

 ……最初のうちは俺の方があいつを上回っていた。……しかし、すぐに追い抜かれた。その時理解したんだ。こいつは俺のような凡人とは比べ物にならねぇぐらいの天才なんだって。

 俺が数年掛けてようやくものにした技術を、あいつはたった数ヶ月で会得して、俺以上にそれを磨き上げた。――妬ましい。……俺よりも年下の男に対してそう思っちまったんだよ。

 

 でも……俺がそんな醜い感情を抱いているのにも気付かず、あいつは俺の後ろをついて来て、一挙一動を見逃さないように観察してくる。それに、俺に対して敬意を払ってくるんだ。……そんなあいつの様子を見ていたら、嫉妬している自分が恥ずかしくなってな。

 ――こいつに失望されたくない。……そう、強く思った。

 

 そう思った時から俺は努力を重ねた。あんなにも必死になったのは、FBIに入った当初以来だったな。……まぁ、努力しても技術面では天才のあいつには勝てなかったが、それで駄目なら今度は知識だと思って、ありとあらゆる知識を頭に詰め込んだ。あいつがあまり手を出さない分野に手を出し始めたのもその頃だったな。同じ分野で勝てないなら別の分野で勝とうって考えたんだ。

 交渉術、話術、心理学、医学、語学、爆発物の処理技術、演技力、クラッキング、とまぁ……いろいろな。

 

 そうする事でようやく、俺は師匠としての面子を保つ事ができたんだ。……と言っても、今は"元"がくっつくけどな。既にあいつは俺を軽々と越えている。俺なんかの弟子という立場に納まるような男じゃねぇ。……今でも師匠として敬ってくれるのはありがたいが、とっくに免許皆伝したものだと思ってるんだよなぁ、俺としては。

 

 いろいろ話したが、結論を言えば……あいつのおかげで俺は努力の大切さを思い出し、あらゆる知識を詰め込み、新たな技術を身に付けた事で、更なる高みへと昇る事ができた。そう考えると、あいつは……

 

 ――俺自身をさらに鍛えるためのきっかけをくれた恩人だな。それから、元師匠として誇りに思っているよ」

 

 

 荒垣が語り終える頃には、赤井は顔を覆って天を仰いでいた。

 

 

「俺の師匠が尊すぎてつらい……やっぱり周りに自慢するのはもったいない。独り占めしておこう、そうしよう」

 

「赤井さん……」

 

 

 遂にはキャメルまで赤井を呆れた目で見始めた。

 しかし、赤井は途端に真顔になった。

 

 

「だが……免許皆伝なんて聞き捨てならない言葉もあったな。後で問い詰めなければ」

 

「あーあ……」

 

「……御愁傷様……ですかね」

 

「……そうだな」

 

 

 コナン、風見、降谷の3人は、荒垣に向かってこっそり合掌した。

 

 

(……っ!?一瞬寒気がしたような……?)

 

 

 勘の鋭い荒垣はその頃寒気を感じていたが、さすがに原因を予測する事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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忠犬、赤井秀一6~後編~

 何やら寒気を感じたが……今はそれよりも取り調べに集中するとしよう。

 そう思った俺は、ジンに問い掛けた。

 

 

「……で?この質問に何の意味が…」

 

「なんで、」

 

「……あ?」

 

「――なんで、お前じゃなかったんだ」

 

 

 俺は思わず息を呑んだ。……ジンの目に、光がない。

 

 

「……あの時お前に出会えていたら、俺は、もしかしたら……」

 

「……ジン?」

 

「…………何でもねぇよ。……それより、次はお前からだ。聞きたい事があるんだろ?別に、さっき言ってたボスとラムの居場所を今すぐに聞いてもいいんだぜ?」

 

「…………」

 

 

 その言葉に対して、俺は……

 

 

「……ならば、ジン。――お前にとって、黒の組織のボスはどんな存在だ?」

 

「っ!?」

 

 

 あえて、意表をつく質問をしてみた。案の定、ジンはそこで初めて分かりやすく表情を変えた。

 

 

「そこまで驚くような事か?お前も俺に同じような事を聞いただろう。……互いに質問してそれに答える……これを条件にしたのはお前だったはずだぞ、ジン」

 

「…………」

 

「……で、どうする?答えるのか……それとも逃げるのか」

 

 

 途端に黙り込んだジンの様子を見つつ、俺は心の中で仲間達に謝罪した。

 

 すまない、皆。俺は組織のボスとラムの行方よりも、ジンの事を優先する。

 どうしても、知りたいんだ。こいつに何があったのかを……

 

 

 ……やがて、ジンは口を開いた。

 

 

「――あの方に出会った、あの日。俺は身も心も救われたんだ。

 俺は物心がついた頃には既に、アメリカのスラム街にいた。何故そこにいたのかは分からねぇ。そんな事を考える暇があるなら、それよりも先にそこで生き抜いて行く術を身に付ける必要があった。窃盗、暴行、殺人……世間では犯罪とされるそれらに手を出すのは当たり前だった。そうしないと死んじまうからな。

 ……スラム街に住んでいた奴らは、俺を含めて常に、"死"への恐怖と闘いながら生きていた。――死にたくない。……ただただ、その一心で生きていたんだ。

 

 そんなある日、俺はある金持ちに対して盗みを働いて、その護衛にボコボコにされて死にかけていた。だが、路地裏に捨てられていた俺の近くに偶然通り掛かったあの方がやって来て、俺を拾ってくれたんだ。

 あの方は衰弱していた俺を甲斐甲斐しく介抱してくれた。その過程であの方に敵意がない事を理解した俺は、全快する頃にはあの方を疑う気がすっかり失せていた。そして、あの方が目指している物――不老不死の実現について聞いた。

 

 ……俺にとってそれは福音だった。それが実現したら、もしかしたら俺も不老不死になって……"死"への恐怖から逃れる事ができるんじゃないか、と。……そう思ったんだ。

 だから、不老不死を実現させるためにあの方の手助けをして多大な恩を返すと同時に、俺自身も不老不死になりたい、とあの方に懇願した。……あの方は歓迎してくれた。その日から俺は、あの方への忠誠を誓ったのさ。

 

 ――俺を救い、不老不死へと導こうとしてくれたあの方は、俺にとっては神に等しい存在……だった」

 

「……だった(・・・)?」

 

「……さて、お前の質問には答えたぜ。次はお前が答えろ」

 

 

 ……どうやら、あくまでも条件に沿ったやり方で進めるつもりらしい。

 かなり衝撃的な話を聞いたから、すぐにでもいろいろ聞きたかったんだが……仕方ない。

 

 

「……分かった。何が聞きたい?」

 

「……お前は、死や不老不死についてどう思っている?」

 

「……ふむ」

 

 

 どう答えようか考えながら、ふと思う。……これって取り調べと言えるのだろうか、と。……本当に、今さらだが。

 

 とりあえず、以前俺が秀一達に話した、死と不老不死についての持論を話した。するとジンは困惑する様子を見せた。……最初よりもかなり表情が分かりやすくなっているな。ポーカーフェイスを保てない程に動揺しているのか?

 

 

「お前は……いや。次は俺が答える番だったな」

 

「あぁ」

 

 

 聞きたい事は、既に決まっていた。

 

 

「……他の幹部や構成員達から聞いたぞ。1ヶ月程前に組織のボスに会いに行って帰って来てから、お前の様子がおかしくなったと。……その時、何があったんだ?」

 

「……っ……」

 

 

 そう聞いた瞬間、ジンは悲痛な表情を浮かべた。

 ……こいつは本当にあの、俺達が特に恐れ、警戒していた黒の組織の幹部なのだろうか。今のこいつは、まるで迷子のようだ。……まさか、これが本来のジンの姿……?

 

 俺がそう考えている間に、ジンが話し出した。

 

 

「……俺はその日、キルシュの殺害に失敗した事と、赤井の生存を報告をするために、あの方の元へ向かった。

 ……俺はその時までは、この手で赤井に止めを刺せなかった事が惜しいと思っていたからな。その生存が分かって、機嫌が良かったんだ。自分の手で止めを刺す機会がやって来たんだ、と。……それに、お前という餌を見つけたからな。お前を利用すれば、赤井をさらに絶望させる事ができると考えていた。

 

 ……だが。報告した途端、あの方は突然顔色を悪くして怯え出したんだ。動揺したあの方は、いろいろ喚いていた。

 ……曰く。キルシュを敵に確保されてしまった事はまずい。組織の弱体化が露呈する。不老不死の研究について知られてしまう。それは自分だけの物だ。渡したくない。銀の弾丸(シルバーブレット)が生きているのならこの組織は終わりだ……とな。

 そこでようやく俺がそこにいた事を思い出したのか、焦ったように怒鳴って、俺を追い出した。……"この事実を他の幹部や構成員には黙っておくんだ。分かったらさっさと出ていけ、この役立たずが"……だってよ。

 

 言われた通りにあの方の元を離れて、命令通りに事実を誰にも言わないようにしようと考えてから、俺は……どうすればいいのか分からなくなった。頭の中がごちゃごちゃして、うまく考えをまとめる事ができなかった。……自分の感情も分からなくなった。だからその苛立ちを吹っ切ろうとして、ウォッカや他の構成員達に当たり散らしていたんだ」

 

 

 ……なるほど。ベルモットの女の勘は当たっていたという事か。

 そこで終わりかと思えば、ジンは再び口を開いていた。

 

 

「……あの方があんなにも動揺している姿を見たのは初めてだったんだ。いつも堂々としていて、頼もしいあの方の姿は――俺が信じていた神の姿は、どこにもなかった。

 ……不老不死が、自分だけの物?――俺にもその恩恵を分けてくれると約束したのに。

 赤井秀一が生きているのならこの組織は終わり?――俺を頼ってくれればそんな事はさせないのに。

 

 ――結局信じていたのは、俺だけだったのか。俺の独り善がりだったのか……!」

 

 

 最後に絞り出すような声でそう言ったジンは、悲痛な……泣きそうな表情をしていた。

 

 ……俺はたまに、今のジンと似たような表情を見せる奴と話す事があった。それは……虐待されていた子供や、幼少期に虐待を受けた経験を持つ犯罪者達。彼らは皆、泣きたくても泣き方を知らない、またはそれを忘れてしまった奴らばかりだった。

 そんな彼らと今のジンの姿が重なり、俺は自身の怒りの感情を必死に抑え込んだ。……そして、心に決めた。

 

 

(こいつにこんな表情を出させた元凶――黒の組織のボスを、絶対にこの手で捕らえてやる……!!)

 

 

 あと、ついでにラムも。

 

 

「…………次は、俺が質問する番だな」

 

 

 俺が決意を固めた時、ジンがそう言った。

 

 

「あぁ、そうだったな。次は何が聞きたいんだ?」

 

「……あの時、赤井は何故お前を撃ったんだ?そして、お前は自分を撃った赤井の事を恨まないのか?」

 

「おい。しれっと質問が2つになってるぞ」

 

「あぁ、分かっている。だから、次にお前が質問する事も2つで構わない」

 

「……分かった。……じゃあ、まず秀一が何故俺を撃ったのか、だな。それは……」

 

 

 そして、俺は昨日病室で降谷に向けて答えた事と同じ内容をジンに話した。

 

 

「……と、まぁそんなわけで。俺は秀一が俺の足を撃った理由を理解していたし、恨んだりなんてしない。――あいつの事を、信じているからな」

 

「…………」

 

 

 俺の話を聞いた後、ジンは俯いてしまった。

 

 

「……ジン?」

 

「…………やはり、な。お前らのその信頼関係こそが、俺が望んでいたものだったんだ。特に、お前は――お前こそが、俺の理想の主なんだよ、荒垣和哉。……あの方が、お前のような人間だったら、どんなに良かったか……」

 

 

 そう言ったジンの表情は、よく見えない。……だが、きっとあの泣きたくても泣けないような、悲痛な表情を浮かべているんだろうと思った。

 

 そこで俺は、ジンに質問する。

 

 

「……お前は、俺と秀一のような信頼関係を望んでいて、特に俺自身はお前の理想だと言っていたな。……もしかしてそれは、お前が俺を捕らえていた時の、俺へのやけに優しい対応と何か関係があるのか?」

 

「……あぁ。そうだ。……あの方に追い出されたあの日、俺はFBIの本部にハッキングを仕掛けて、お前の事を調べ上げた。

 ……比べてみようと、思ったんだ。俺という犬の飼い主であるあの方と、赤井秀一という犬の飼い主であるお前の事を。……そうする事で、あの方の方が優れているという事を確認したかった……いや、そう信じたかったのかもしれないな。

 

 しかし、お前の事を調べれば調べる程、赤井との信頼関係の深さが分かり、お前の方が主として優れている事を理解した。……それを知ってから徐々に、あの方への忠誠心が消えていくのを感じていた。

 ……完全にそれが消え去ったのは、組織の拠点にお前らが襲撃を仕掛けたあの日。あの方がラムと共に即座に逃げ出した時だったな。

 

 それからは何もかもがどうでもよくなった。組織が壊滅しようがどうだっていい。……そう思った。

 しかし、最後に試したくなったんだ。……お前と赤井の間の信頼関係――絆がどれ程の物なのかを、な。

 

 それからはお前も知っているように、まずはお前を人質にした。……実を言うと、お前という俺の理想に、致死性はないとは言え毒を盛る事はかなり心苦しかった。お前への対応が丁寧だったのは、それによって生じた罪悪感が原因だろうな。

 それから……赤井に選択を迫った。……まさか、あんな方法でお前とお前らの司令塔を助けるとは思わなかったが。……結果的にこうして、お前と赤井の間にある信頼関係の深さを確かめる事ができたし、満足はしている。

 

 気にくわない事は確かだが――あの方が恐れている赤井なら、俺の理想であるお前を守ってくれるだろうと、期待していたんだ」

 

 

 ……今、ようやくジンの行動の謎が明らかになった。

 まさか、そんな理由があったとは……今まで考えていたジンのイメージが、全て覆されてしまった。

 

 というか俺が理想の主、だと?俺のどこが?一体何がジンの琴線に触れたのか……

 

 ……まだいくつか分からない事があるが、そろそろ最後の質問をしないとだな。

 

 

「……そうか。よく分かった。……確か、もう1つ質問していいんだったな?……これが、最後の質問になる」

 

「!……あの方と、ラムの居場所についてか?」

 

「そうだ」

 

「…………分かった」

 

 

 ……そして。ジンは組織のボスとラムの居場所の詳細を語ってくれた。……これで、奴らを捕らえる事ができる!

 

 ……ジンには、お礼をしないとだな。

 

 

「……協力に感謝する」

 

「あ?……犯罪者に感謝するなんて、変な奴だな」

 

「たとえ犯罪者であろうと、協力してくれた相手には礼儀を払うべきだと、俺は思っている」

 

「……ふっ……律儀な野郎だな」

 

「何とでも言え。……さて、その礼の代わりと言ってはなんだが……他に何か質問したい事はあるか?今なら1つだけ、答えられる範囲で答えるぜ?」

 

「……それなら、1つある」

 

 

 ジンは俺の目をまっすぐ見つめた。……どこか、緊張した様子を見せながら、口を開く。

 

 

「お前はさっき、人生はタイムリミットがあってこそだ、と言っていたよな?」

 

「あぁ」

 

「お前は――"死"が怖くないのか?」

 

「――怖いよ。当たり前だろ?」

 

「!?……なら、何でさっき……」

 

「確かに、人生は終わりがあってこそだと言う考えは変わらない。

 しかし、"死"が怖いのは当たり前だ。誰だってそうだろう。だって、生きているうちはその先に何があるのかを確かめようがないんだからな。……でも、きっとその瞬間に悔いが残っていなければ、"死"への恐怖も少しは和らぐんじゃないかと思っている。

 そう思っているからこそ、俺は今を必死に生きようとしているんだ。生きているうちにできる限りの事をやってみようと考えてな。そうすれば、死ぬ時にも悔いが残らないはずだ。

 

 ――つまり、"死"への恐怖も少しはましになるんじゃないか?」

 

「…………」

 

 

 思ってもみない事を言われた、とでも言いたげに、ジンの目が点になっている。

 ……確かに、俺の考え方はちょっと独特かもしれないな。

 

 

「お前だって、これからはその恐怖も少しはましになるはずだ」

 

「……何?」

 

「お前が"死"を怖がるのは、スラム街にいた時のように餓えで死ぬ事とか、誰かに殺されて死ぬ事が印象的になっているせいで、死にたくないという気持ちが強くなっているからじゃないか?」

 

「それは…………そう、かもしれない」

 

「だったら心配ない。これから待っているのは獄中生活だ。お前はおそらく最低でも獄中から解放される事はないだろうから、残りの人生をそこで過ごす事になるはずだ。

 しかし、獄中では飯も食えるし、中で勤務している刑務官が目を光らせているから、余程の事が起こらない限りは殺人なんてあり得ない。

 そう考えれば、獄中はスラム街よりもよっぽどいい環境じゃないか?

 

 ……って、あぁ!悪い、結構無神経な事を言ったな。すまない!」

 

 

 今さらだが、こんな言い方はさすがに駄目だろうと思って、慌てて謝れば……

 

 

「ふっ……くく……ふふふ……!」

 

 

 ジンが顔を伏せて必死に笑いを耐えようとしていた。

 あのジンが、こんなにも分かりやすく笑っている……?しかも嘲笑のような笑い方ではない!?

 

 

「はははっ…………っあぁ、全く……お前は――言葉1つで人間1人を救えるんだな……さすが俺の理想の主だ……!赤井の事が心底羨ましい……」

 

「はぁ……?……よく分からねぇが、とりあえず質問の答えはこんなものでいいのか?」

 

「あぁ。――ありがとう。充分だ」

 

「お、う……そ、そうか。ならいいが」

 

 

 今度は微笑を浮かべるジン。……久々に言うが、デフォルトはどこ行った!?そして滅多に笑わない美形が微笑んだ時の破壊力よ……

 秀一の事が原因で慣れていたから、そこまで驚く程でもなかったが。

 

 

 その後、俺は取り調べを終えて部屋を出た。……その直後に隣の部屋から出て来た秀一に腕を掴まれてどこかへ引きずられていく。

 

 え、ちょ、おい!?

 

 

「荒垣さん、頑張ってねー!」

 

「後の事は公安にお任せ下さい!」

 

「ご協力に感謝します!」

 

「赤井君の事は任せたよ、荒垣君」

 

「頑張ってね、Owner(飼い主さん)!」

 

「えっと……が、頑張って下さい荒垣さん!」

 

 

 コナン達が、それぞれ続けて俺を応援した。

 

 いや、ちょっと待ってくれ!俺は秀一に何をされるんだ!?おい!!

 

 

「ちょっ、誰か……Help me(助けてくれ)!!」

 

 

 ……結局。誰も助けてくれなかった。

 

 

 

 

 

 






・助けを求めたが無駄に終わった師匠兼飼い主

 ジンに呼び出されて面倒事の気配を察知。何で俺を呼ぶんだよ……!てめぇのせいで"公安と仲良くなろう大作戦"が振り出しに戻ったらどうしてくれる!?

 しかしその後、ジンからの質問に困惑していたものの、ジンの過去や謎行動の真意を知って、態度を改めた。俺は子供の泣き顔に弱いんだよ……

 自分の言葉がどれ程相手に影響を与えているのかについて、全く気づいていない。今回はそれのおかげでジンの心を開く事に成功したが、それと同時に忠犬の嫉妬心を煽ってしまった。

 は?ちょっ、秀一!?俺をどこに連れて行くつもりだ!?誰か助けてくれ!!


・嫉妬で暴走中の弟子兼忠犬

 オリ主が語った自分に対する心境を聞き、撃沈。和哉さん……尊い……!!しかし聞き捨てならない言葉を聞いたぞ……!

 さらに、間近でオリ主がジンを口説く()場面を見て、嫉妬心が爆発。確かにジンが置かれていた状況は同情に値するが、それとこれとは話が別だ。

 さぁて、和哉さん。俺とちょっとお・は・な・し、しましょうか(#´∀`)


・オリ主の言葉に救われた元黒の組織幹部

 そろそろ回復したころか……?よし、呼び出そう。聞きたい事がある。

 そうして呼び出したオリ主との問答により、少しづつ心が軽くなっていき、最終的には完全に心を開いた。さすがは俺の理想……!!
 ……しかし、こんな調子で他の人間もたらし込んでいるのか?そう考えると気分はあまり良くない。……赤井も苦労しているだろうな。

 実は、取り調べ室の中で最後のオリ主の助けを求める声が聞こえていた。その事で後に部屋に入ってきた公安の若手を鬼気迫る表情で問い詰め、怖がらせる。

 あの人は無事なんだろうな!?




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忠犬、赤井秀一7

 今回で本編は完結!あとはこちらで過去編を1つと、短編をもう1つ。それから、現在pixivで公開中のIF話やリクエスト作品、ネタ、短編の紹介文を書いた話を投稿した後、終了となります!

 注意!相変わらずのキャラ崩壊と、捏造のオンパレードです。特にFBIについての捏造が強め。また、前半でオリ主が弱音を吐きます。少しシリアス風味です。




 秀一は俺を無言で引き摺りながらどこかを目指す。一体、どこに行こうとしているんだ?

 

 

「秀一、どこに向かっているんだ?」

 

「…………」

 

 

 俺の問い掛けにも答えず、秀一はひたすら前へと進む。……これは相当苛立っているようだ。

 しかし、何故こいつはこんなにも苛立っている?俺に対してか?だとしたら俺の何に対して?……先程のジンとのやり取りの中で、俺は何かをやらかしたのか?

 ……疑問ばかりが浮かぶが、今の俺には大人しく秀一について行く事しかできない。

 

 そう考えていると、秀一がある扉の前で立ち止まった。……ここは、

 

 

「仮眠室……?」

 

「…………」

 

 

 ……黒の組織対策の合同捜査本部があるビルには、俺達がいつも作戦会議をする会議室や取調室の他に、個室型の仮眠室が幾つか備えられている場所がある。それが、この扉の向こうにあるのだ。

 

 秀一が扉を開き、その先にある廊下を進んで1番奥の仮眠室の扉を開く。それから俺を連れてその部屋に入ると、すぐに鍵を閉めた。

 

 

「……そこに座って下さい……そうです。そのままでいて下さい」

 

 

 ベッドの横にある背もたれのある椅子を示されたため、俺はそこに座った。

 

 いつもなら指示するのは俺の役目なのに……立場が逆転している。

 しかし、下手に反抗してこれ以上秀一の機嫌を損ねるわけにもいかない。……素直に従うしかなかった。

 すると、秀一は両膝をついて座っている俺の腰に両腕を巻き付け、俺の腹に頭を押し付けて動かなくなった。……いや、何してんだお前は。

 

 

「おい、秀一?」

 

「…………」

 

 

 秀一は未だに無言のまま。……勝手に話して、その反応を待つしかないか……

 

 

「……秀一が何を思ってこんな行動に出ているのか、俺にはよく分からん。……だが、お前が何かに苛立ちを感じているという事はなんとなく分かる」

 

「…………」

 

「その何かの原因が俺だったとしたら、できれば俺の何に対して苛立っているのかを教えて欲しい」

 

「…………」

 

「――"元"とはいえ、俺とお前は師弟だったからな。弟子だったお前のために、できる限りの事をしたいんだ。まぁ、俺なんかにできる事なんてたかが知れているだろうが……」

 

 

 ……おそらく、その言葉がトリガーだったのだろう。

 

 突然、顔を上げた。……その表情から、秀一が怒っている事は分かった。しかし、今の言葉の何に怒りを感じたのかが分からない。

 

 そして、秀一が口を開いた。

 

 

「"元"……とはどうゆう事ですか?俺は今も、これからもあなたの弟子です!」

 

「は?いや、でもお前はいつまでも俺なんかの弟子にして置くにはもったいな…」

 

「それですよ!!」

 

「えっ?」

 

「"俺なんか"ってなんですか?何故そこまで自分を卑下するんですか!?」

 

 

 俺は目を見開いた。……こいつが苛立っていたのはこの言葉が原因か?そういえば、ジンと話していた時も言った気がする。

 

 

「聞いてるんですか!?」

 

「聞いてるよ。……なんで俺が自分を卑下するのか、だろ?」

 

「…………そうです」

 

「何故、と言われてもなぁ……お前と比べたら俺なんて…あぁ、いや。俺は凡人だから」

 

 

 俺なんて、と言った瞬間ギロリと睨んで来たため、すぐに言葉を言い換えた。

 "俺なんて"という言葉は、どうやら秀一にとって禁句らしい。

 

 

「……確かに、事実を言ってしまえばあなたよりは俺の方が射撃技術も、体術も、その他の能力も上です。俺が現れる前までは、あなたがFBIのエースだったと聞いていたので、それを越えた俺に対して劣等感を持ってしまう事も仕方ないと思います。しかし…」

 

「ちょっと待て。俺がFBIのエース?そんな事誰が言ったんだ?」

 

「ジェイムズを含めた古参のメンバー達がそう言っていました」

 

「あいつらは……!」

 

 

 何言ってんだ、本当に!俺がエースだと?俺なんかにそんな大層な役は似合わないし、資格もな…

 

 

「――今、また自分を卑下しましたね?心の中で」

 

「…………なんで、分かった?」

 

 

 ……馬鹿な。ポーカーフェイスは完璧だったはず。何故バレたんだ?

 

 

「あなたのポーカーフェイスを見破る事は、他の仲間達にはできないでしょうが……俺には分かります。様々な技術を盗むために、ずっとあなたを観察していましたから。……とはいえ、今のように距離が近くないと見破れないのですが……」

 

「まさかお前……わざわざこの体勢を選んだのは、俺を逃がさないようにしつつ、その表情の変化を見破るためか……?」

 

 

 確かに今のように、体重を掛けられて腰に腕まで巻かれたらさすがに逃げられないし、僅かな変化でも近距離ならば見破れるだろう。

 

 

「4割ぐらいはそれが理由です」

 

「……じゃあ、残りの6割は?」

 

「俺がこうしたかったからです」

 

「あ、そう……」

 

 

 ブレねぇな、こいつ……

 

 

「……ところで、和哉さん。忘れていませんか?――俺は怒っているんですよ?」

 

 

 そう言うと、秀一は腕の力を強めた。……少し痛い。

 

 

「……痛かったですか?すみません。でも、止めませんよ。あなたが"元"師弟なんて言葉を撤回し、自分を卑下する事をやめるまでは」

 

「……撤回する気はない。お前よりも能力が劣っている奴と師弟関係のままでいれば、お前に迷惑がかかる」

 

「迷惑?そんな事、俺は気にしません!」

 

「駄目だ!お前がそうでも周囲の人間……特にうちの上層部はそうは思わないだろう。組織に潜入して有益な情報を入手し、さらに壊滅させるのに一役買ったお前は、今後はFBIの中心人物に据えられるはずだ。それも広告塔にな」

 

「広告塔……?」

 

 

 秀一は訝しげに眉をひそめている。……やはりな。こいつは自分の存在がどれだけ周囲に影響を及ぼすのかを理解していない。

 

 

 世界的に有名な犯罪組織が壊滅したとなれば、メディアもこぞって騒ぎ立てるはずだ。そうなれば、いくら秘匿したとしても秀一の存在はいずれバレる。ならば、そうなる前にむしろそれを利用してFBIの広告塔にしてしまえ。

 ……なんて、考えを持ちそうな野郎が何人か上層部にいる。そいつらにとってはお誂え向きに、秀一はハイスペックだからな。

 

 容姿端麗。頭脳明晰。さらにはスナイパーとしても近接戦闘員としても一流。そんな一面だけを強調すれば、民衆の大好物なスーパーヒーローの出来上がりだ。

 それに憧れてFBIを目指す若者が出てくるだろうし、FBIのイメージをより良いものにする事も可能だろう。さらに秀一が表に出てくれば、今も逃げ回っているであろう組織の残党達を誘き寄せる事ができるかもしれない。

 広告塔にする事でFBIの利益を増やし、同時に囮の役割を押し付ける……いかにもうちの上層部が考えそうな事だ。

 

 もちろん、俺の思い過ごしという可能性もなくはない。だが、それは限りなく低いだろう。秀一がいかにハイスペックであるかを考えれば、容易に想像できる事だ。

 

 

 ……といった事を説明した。秀一はそれを聞いて目を見開いている。

 

 

「……にわかには信じがたいのですが……俺よりも上層部の人間の事をよく知っている和哉さんがそう言うのであれば、可能性は高いのでしょう。……しかし、それと先程の話がどう関係しているんですか?」

 

「……お前を広告塔にする上で、俺の存在は邪魔になるんだよ」

 

「何故です!?俺がここまで成長する事ができたのは、和哉さんがいたからです!あなたの弟子になって修行したからこそ俺は……!」

 

「秀一……」

 

 

 ……正直、泣きそうになった。まさかこいつがそう断言する程、俺の存在が役立っていたとは。……しかし、そうも言っていられない。おそらく上層部にとっては、それでは困るはずだ。

 

 

 ――想像してみて欲しい。

 

 例えば、多くの人間に愛されているアイドルがいるとしよう。そのアイドルはある人物を尊敬しており、何よりもその人物の事を優先させる。……そんな人物なのだから、そのアイドルと同等か、それ以上に素晴らしい人物なのだろうと、多くの人間が考えるはず。

 しかし、その人物はそのアイドルと比べれば明らかに劣っている人物だった。それを知った多くの人間は、どう思う?

 

 ――当然、嫉妬するだろうな。欠点のないアイドルが、欠点のある人物を尊敬しているとなれば。

 

 例えば、アイドルが尊敬している人物に対して嫉妬した者がその人物を叩き、それをアイドルが庇ったりすればその人物へのヘイトが増す。

 例えば、逆にアイドルに嫉妬している者が、アイドルに劣っている人物を尊敬している事を嘲笑い、ある事ない事吹聴する。

 ……なんて事が起こるかもしれない。

 

 それを秀一と俺に当てはめて考えた場合、秀一(アイドル)を……FBIの広告塔を中心に面倒事が巻き起こる事態を、上層部が良しとするだろうか?……否だ。間違いなく。

 では、どうするか。……面倒事の原因となるであろう俺の存在を、なかった事にしてしまえばいい。……と、なるわけだ。

 

 

 まぁ、おそらく。俺を不利な状況へと追い込む事ができれば、上層部はなんでもいいんだろう。もちろん、広告塔を汚したくないという理由もあるだろうが……あいつら俺の事大嫌いだからなぁ……

 以前からそれだけの事をやらかしている自覚はある。だが、後悔はしていない。

 

 

「というわけで、だ。俺と師弟関係のままだと面倒事が起こる。……これも、俺がはっきりさせていなかったのが悪いんだよな……」

 

「……和哉さん?」

 

「……後始末が大体終わって本国に戻ったら――俺と秀一の師弟関係が解消された事を周知させるべきか」

 

「っ!?」

 

 

 そうしなければ、確実に秀一に迷惑が掛かる。不甲斐ない俺が秀一の師匠という立場に居座ったままではよくない。……いずれ、俺がジンに人質にされて秀一や仲間達に迷惑を掛けてしまった事が報告される。そうなれば、俺の存在はますます邪魔になるだろう。

 今回の事を理由に、"自分に赤井捜査官の師匠という立場は分不相応なので、師弟関係を解消しました"とでも言えば上層部も周囲の人間も納得するはず。

 

 あとは、どうにかして秀一を説得できれば――

 

 

「――俺は納得しませんよ。絶対に」

 

 

 ……どうやら、また俺の表情を見て読み取ったらしい。

 

 

「俺は今も、そしてこれからも和哉さんの弟子であり続けます。たとえ破門したとしても無駄ですからね!」

 

「いや、破門じゃなくて免許皆伝で師弟関係を解消するんだ」

 

「同じ事ですよ、どちらにせよあなたとの繋がりが消えるんですから!俺は絶対に納得しません!!」

 

「いや、待て、俺の話を…」

 

「嫌なものは嫌です!!」

 

 

 ……っ……この、分からず屋が!!

 

 

「――聞き分けろ秀一!!俺の存在はお前のためにならない!俺はお前の足枷になりたくねぇんだ!!」

 

「っ!?」

 

 

 ポーカーフェイスも冷静な態度もかなぐり捨てて秀一の両肩を鷲掴み、俺は叫ぶ。……仮眠室で良かった。防音仕様だからな、ここは。

 

 

「さすがに鈍感だのなんだの言われる俺でも分かる!――俺はお前の弱点なんだよ、秀一!!

 俺さえ抑えれば、いくら天才のお前でも簡単に制圧されてしまうかもしれない。それは今回、俺がジンに人質された事で証明されちまったんだ!お前が取り乱した姿を何人もの人間が目撃してるんだよ!!

 

 今回は、ジンの目的がお前を殺す事じゃなかった。

 だが、今後はどうだ?黒の組織の残党達は、お前とその弱点である俺の存在を知っているはず。厄介なお前を始末するのに1番楽な方法は、俺を人質に取る事だろうが!!事実、俺は秀一に劣っているんだから奴らもまず俺を狙うはずだ!

 それにお前の存在がメディアによって表に出たら……今度は別の犯罪組織も同じような事を考えるかもしれない。

 

 そうなった時……お前は俺を見捨てられるか?――できねぇだろ!?」

 

「…………」

 

「……だから俺は、そんな事態になる前に、お前から離れるべきだ。今回人質にされてそれを思い知った。……俺は無力だ!俺の存在は、お前の邪魔にしかならない……!!」

 

 

 ……改めて言葉にすると、俺の無能っぷりには怒りも呆れも通り越して笑いが出てきそうだ。

 

「頼むから、聞き分けてくれ秀一。俺のせいでお前に何かあったら……お前を失ったら……俺は……っ!!」

 

 

 もしも秀一を失ったら?……そんな想像をして涙が出そうになったが、必死に堪えた。これ以上情けない姿を見せるわけにはいかない。

 

 何故ならば俺は――あの"赤井秀一"が尊敬している男だから……!!

 

 こんなにも優秀なこの男が、俺なんかを尊敬してくれているんだ。だから俺は、こいつから離れるその日が来るまでは、それに相応しい人間になる必要がある。情けない姿を見せてはいけないし、弱音を吐いてもいけない。

 でも……でも今だけは、情けない姿を見せる事も弱音を吐く事も、許してくれ……これ以降は、秀一のもとを離れるまでは、強くあろうと頑張るから……!

 

 ……なんて、俺は一体何に対して許しを得ようとしているのか。神か?……それとも秀一にか?

 

 …………駄目だ。どうにも思考がまとまらない。

 

 

「――和哉さん」

 

「っ!?」

 

 

 突然、何か暖かいものに包まれた。……秀一が好んで吸っている煙草の匂いがする。そして、俺のものではない心音が聞こえた。

 ……いつの間にか立ち上がっていた秀一が、俺を抱き締めていたのだ。

 

 

「しゅう、いち……?」

 

「落ち着いて。……大丈夫です。俺はここにいますから」

 

「……っ……」

 

 

 ……秀一の言う通りだ。落ち着こう。

 

 そう考えた俺は秀一の腕の中で深呼吸し、心を落ち着かせる。

 

 

「…………すまん。もう、大丈夫だ」

 

「……そのようですね。良かった」

 

 

 秀一は俺から離れて微笑み、ベッドに腰掛けた。

 

 

「和哉さん。……申し訳ありません」

 

「……なんでお前が謝るんだ?」

 

「俺は……あなたを追い詰めてしまった。それも、常に冷静であるはずのあなたが取り乱す程に」

 

「そんな事はない。お前は何も悪くないんだ。悪いのは……臆病な俺の方だ」

 

 

 そう。秀一は何も悪くない。……すると、秀一が深いため息をついた。

 

 

「……今までの俺は、盲目だったのでしょう。あなたに憧れるあまりに、あなたが俺と同じ人間である事をすっかり忘れてしまっていた。……俺と同じように、心が弱くなる時があるのだという事を、忘れていたんだ」

 

「秀一……?」

 

「……和哉さん。あなたが背負っているその重荷を、俺にも分けてもらえませんか?1人で何もかも抱え込まないで下さい。……俺はもう、盲目になんてなりません。だから――こうゆう時こそ弟子の俺を頼って下さい、師匠!」

 

「……俺はお前の師匠に相応しくねぇよ」

 

「相応しいか否かは関係ありません。周囲の評価なんて気にしなければいい。その結果、あなたに迷惑を掛けられても俺はそれを迷惑だとは思わない。そして、逆に俺があなたに迷惑を掛けたとしても、申し訳ないですがあなたの元からは離れません。たとえ、何があっても」

 

 

 そう言われ、俺は反論しようと口を開いたが……秀一の目を見て、その口を閉じた。なんと言われても譲らない。……目でそう訴えられた。

 

 

「……だが、お前がそうでも俺は耐えられない!俺のせいで、お前の身に何かあったら……!!」

 

「それは和哉さんが人質に取られたらの話ですよね?……俺を甘く見ないでくれ」

 

 

 爛々と輝く緑目が俺を見据え、口元は挑戦的な笑みを浮かべる。

 

 

「――この俺が、同じ失態を繰り返すとでも?」

 

 

 ……俺はその言葉を聞いただけで、自身の不安や恐れが消え去っていくのを感じていた。

 

 

「……なんてこった。お前がそう言うだけでもすげぇ説得力がある」

 

「ふっ……そうでしょう?まぁそれでも安心できないのなら、俺も和哉さんもさらに自身を磨けばいいんですよ。何が起こってもすぐに対処でにるように。……それとも和哉さん。あなたはもう能力的に限界に達しているんですか?その程度の男なんですか?」

 

「っ!!」

 

 

 あぁ……参った。こいつは俺をその気にさせるのがうまい。

 

 

「ふっ……くく……っ!!」

 

「……和哉さん?」

 

「言ってくれんじゃねぇか、秀一!!」

 

 

 そう言うや否や、俺は秀一のニット帽を奪い、その下に隠れていた癖っ毛を掻き回すように頭を撫でる。

 

 

「な、何するんですか!?」

 

 

 焦りながら俺から離れるついでにニット帽を奪うと、秀一はそれを被り直して俺に文句を言った。

 俺はそんな秀一に向かって頭を下げる。

 

 

「……すまなかった。俺はどうやらいつの間にか腑抜けになっていたらしい。……いつか訪れるかもしれない未来に怯えて苦渋の決断をするよりは、お前が言った通りいつ何が起こってもいいように自分を鍛えた方が、よっぽど建設的だ」

 

「!!……ようやく、いつもの和哉さんに戻ってくれたんですね」

 

「あぁ。迷惑掛けて悪かったな。……もう"元"師匠とか、"俺なんか"とかは言わないようにする」

 

「そうして下さい」

 

「それから、」

 

「?」

 

「――これからも頼りにしてるぜ、愛弟子(・・・)

 

 

 俺はつい照れ臭くなって、そっぽを向きながらそう言った。……しかし、秀一からの反応がない。

 それが気になってその顔を見ようとした瞬間、秀一が動いた。

 

 秀一は俺の目の前で床に片膝をつき、次いで右手を左胸に当てる。……それはまさしく、忠誠を誓う者の仕草だった。そして……

 

 

「――Yes master(はい、ご主人様)。いつでも頼って下さい。俺の忠誠心は全て、あなたに捧げていますから」

 

「いや駄目だろ」

 

 

 思わず俺がそう突っ込むと、秀一は不満そうな顔をした。

 

 

「そんな顔をしても駄目なものは駄目だ。俺達はFBIだぞ?形だけでもその忠誠心はアメリカという国に捧げとけ」

 

「……では、和哉さんの忠誠心は何に捧げているんですか?」

 

「俺か?俺は……あー…………言っても笑ったりしないと約束するのであれば、教えてやる」

 

「約束します」

 

「絶対だぞ?……俺の忠誠心は国に捧げている……というのは建前で、」

 

「建前で?」

 

「――実際は、国民に捧げている」

 

 

 俺は"国民がいてこその国"だと考えている。だから、忠誠心を捧げて護る相手は、国よりも国民の方だと思っているのだ。国民を護るためなら、たとえ上層部が相手でも反発する。

 

 

「……とはいえ。それはあくまでも公的な立場ではそう考えているだけで、私的には忠誠心云々の問題ではなく、お前を含めた仲間達を優先しているんだけどな」

 

「…………」

 

 

 すると、秀一は一瞬真顔になった後、顔を覆って天を仰いだ。……前にも見た気がするぞ、この動作。

 

 

『俺の師匠が尊すぎて本当につらい……』

 

「あー、はいはい」

 

「……なんだか最近、和哉さんまで対応が冷たくなってきてませんか?」

 

「気のせい、気のせい」

 

 

 そう。気のせいだぜ、秀一。

 

 ……毎回突っ込むのが面倒くさくなったとか、そうゆうわけではないぞ。うん。

 

 

「そうですか?ならいいですけど……しかし、なるほど。公的な立場と私的な立場を分けて考えているんですね。……それならば、俺の忠誠心は公的には"公的な立場を取っている和哉さん"に、私的には"私的な立場を取っている和哉さん"に捧げましょう」

 

「おいちょっと待て。それじゃあ何も変わらないだろ!?」

 

「変わりますよ?公的な場合では、あなたを通して間接的に国民に忠誠を捧げていますから」

 

「屁理屈!!」

 

 

 ……その後は屁理屈に対して一通り突っ込みを入れたり、調子に乗って片膝をついたまま俺の手の甲にキスをしようとした秀一の脳天に手刀を振り下ろしたり、ジンを口説いた事――俺は口説いたつもりは全くない!――を叱られたりと、散々騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ジンの取り調べから数日後、俺達は黒の組織のボスとラムが潜伏している場所を突き止め、2人を捕らえるためにその場所へと向かう。

 ……そして、あっさりと決着がついた。

 

 2人が潜伏している場所に突入した時、そこには組織のボスとラム以外に、2人に雇われたと思われるごろつきが数名いただけだった。おかげで簡単に制圧する事ができた。

 しかし、ラムが全く抵抗しなかった事が意外だった。後程、その理由を公安の連中が取り調べで聞くと、

 

 ――だいぶ前から組織が滅びるだろうと予測していた。だから抵抗しても無駄である事は分かっていた。

 拠点からボスと共に逃げたのは、ボスから自分を守れと命令されたから。しかし、それも"たとえ何があっても最後までボスへの忠誠を誓う"と決めていたからだ。でなければ、拠点に襲撃を掛けられた時点で自分だけでも投降していた。

 

 ……と、話していたらしい。

 

 だが逆に、そんなラムに忠誠を誓われている組織のボスはみっともなく抵抗し、喚いていた。

 そしてその中で聞き捨てならない言葉を聞いたのだ。

 

 

「そうか……そうか、分かったぞ!ジンだな!?あいつがこの場所を教えたんだな!?この場所はラム以外にあいつしか知らねぇからな!!

 あの野郎ふざけやがって!!この俺が、あいつがガキの頃に助けてやった恩も忘れて裏切ったんだな!?あれだけ優遇してやったのに……!!こんな事になるなら、あんな薄汚いガキなんて拾わなきゃ良かったんだ!!」

 

 

 ――その言葉を聞いた瞬間、俺は渾身の力を籠めてそいつの顔面をぶん殴っていた。……らしい。

 その時は怒りで我を忘れていたから記憶が曖昧なのだが、殴った後に俺はそのまま奴の胸ぐらを掴んで……

 

 

『――ふざけてるのはてめぇの方だ!!あいつが……ジンがてめぇの事をどれだけ慕っていたと思ってる!?あいつの忠誠心を何だと思ってやがるんだ!?それに裏切っただと?――先にジンを裏切ったのはてめぇ自身だろ!?このクズ野郎が!!』

 

 

 ……と、英語で罵倒したらしい。それから俺は秀一に取り押さえられ、ようやく落ち着いた。

 うちの古参のメンバー曰く、その時の俺の顔がまるでOgre()のようだったという。……誰が鬼だ、誰が!

 

 そして、俺達は組織のボスとラムを逮捕した。その翌日である今日も2人の取り調べは続いている。

 

 

 そんな中で、俺は降谷に無理を言ってジンと面会していた。

 ……どうしても、事の顛末をジンに教えたいと思った。あいつの証言があったからこそ奴らを捕らえる事ができたわけだし、あいつには事の顛末を知る権利がある。

 

 そして現在。俺はジンに事の顛末――組織のボスが言っていた、胸糞悪い言葉は除く――を語っていた。

 

 

「……というわけで、組織のボスとラムは現在も取り調べを受けている。……話は以上だ。何か質問はあるか?」

 

 

 ジンは目を閉じたまま黙っていたが、やがて目を開き、俺の目をまっすぐ見つめた。……そういえば、

 

 

(……こいつの目も、緑色だ)

 

 

 秀一と同じだ。……なんて言えばあいつは、ジンと一緒にするな、なんて言って不機嫌になるだろうな。黙っておこう。

 そう考えている間に、ジンが口を開いた。

 

 

「……あの方は、俺の事で何か言っていたか?」

 

 

 あー……ピンポイントでそれを聞くか。さて、どうするかな……あまり刺激したくないし……何より、落ち込ませたくない。

 

 

「どんな内容でも構わない。教えてくれ」

 

「…………本当に、いいんだな?正直かなり酷いぞ?」

 

「構わない。……俺には知る権利があるんだろ?」

 

「……分かった」

 

 

 俺はジンに、組織のボスが言っていた胸糞悪い言葉を聞かせる。その際、ついあの時の事を思い出して苛立ちが抑えられなくなり、気がつけば俺がぶん殴ってしまった事も伝えていた。

 すると、ジンは秀一と同じ緑目を点にして驚き……

 

 

「くくっ……ふ、ははははっ!!」

 

「What!?」

 

 

 思わず口から英語が飛び出した。……あのジンが、大爆笑、だと……!?

 

 

「はははっ!ふっ、くくっ……!あぁ……ようやく収まった……俺も見たかったぜ。直接見たら絶対にスカッとしただろうに」

 

「……お前……全然平気そう、だな?」

 

「ん?……あぁ、なるほど。俺が聞いたらショックを受けるんじゃないかと考えたから、話すのを渋っていたわけか。……俺の事を、心配してくれたのか?」

 

「…………それは、その……まぁ……な」

 

 

 何かを期待するような目でこちらを見てくるジンから目を逸らし、俺は歯切れ悪くそう答える。……急に照れ臭くなっちまった。

 

 

「そうか」

 

 

 ジンは一言そう答えると、それからは始終上機嫌だった。……何でだ?

 その後、面会時間は終了した。……ただ、気になる事が1つ。

 

 

「……なぁ。あんたは後始末が終わったらアメリカに帰るのか?日本に残ったりしねぇのか?」

 

 

 もちろん、答えは"Yes"だ。……あいつはそんな当たり前の事を聞いてどうするつもりなんだ?

 

 しかし翌日。ジンがとんでもない事を言い出したと、降谷が報告してきた。曰く、

 

 

「俺の身柄をFBIに引き渡せ。……でないと俺は、今後2度と口を利かない」

 

 

 ……そう言って、本当に口を閉ざしてしまったそうだ。重要参考人であるジンの取り調べが今後不可能となるのはまずい。…また、その報告を聞いた後の幹部達の視線が痛かった。……俺のせい、なのか?

 そして、ジェイムズからその件での交渉役を押し付けられた俺が四苦八苦した結果、最終的に諸々の条件付きで、ジンが言うようにその身柄をFBIが引き取る事になった。……なるべくFBIと公安の仲がまた悪くならないようにと必死になったせいで、胃が痛かった。

 

 故に、後にその報告のために降谷と共にジンと取り調べ室にて面会した俺が、満足そうに微笑むそいつにヘッドロックを仕掛けたとしても仕方ない。降谷にも止められるどころかむしろゴーサインを送られた。

 

 その後、何故FBIに自身の身柄を引き渡す事を要求したのかと聞いた。

 

 

「…………あの方……いや、あの男が関わる出来事の多くを嫌でも思い出す日本にはいたくなかった。それと、今後は死ぬまで獄中にいる事になるわけだから、物心ついた時から住んでいたアメリカで最後を迎えたかった。そして何より……アメリカの刑務所にいるんだったら、あんたの事だから俺が死ぬまでに何度か顔を見せてくれるんじゃないかと考えてな。……そうだろ、和哉?」

 

 

 ……何故分かった?確かに俺はそのつもりだったが……というか、いつの間にか名前を呼び捨てで呼ばれている。切実にやめて欲しい。マジックミラーの先の部屋にいるであろう秀一は今、きっと怒りで恐ろしい表情になっているはず。昔ならまだしも、今のあいつが俺の名前を気安く呼び捨てで呼んでいる相手に対して怒りを感じないはずがない。

 最近になってようやく、秀一がいかに俺を敬愛しているのかを理解したため、こうゆう状況があいつの機嫌を急降下させる事も分かってきた。

 

 案の定、面会を終えた後にあいつのご機嫌取りに頭を悩ませる事となった。

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 それから数ヶ月後。黒の組織壊滅作戦の後始末を終えた俺達FBIの面々は、アメリカに帰る事となった。……とはいえ、まだ捕らえられていない残党がいる事が判明しているから、これからは通常業務に加えて残党の行方を追う事も仕事になるだろう。

 

 ……現在。空港にいる俺と秀一は飛行機の搭乗時刻が迫る中、それでもある男が見送りに来るのを待っていた。

 

 

「……そろそろ行かないとまずいな」

 

「そう、ですね。……まさか、何かに巻き込まれたんじゃないだろうな……?」

 

「あー……コナンは事件を引き寄せる奴だからなぁ……」

 

 

 ある男……江戸川コナンを待っている俺達は、揃ってため息をついた。

 今日は必ず俺達の見送りに行くと言っていたが、その道中で事件に巻き込まれていてもおかしくはない。……むしろ、自分から頭を突っ込んでいる可能性もある。

 

 

「……仕方ない。メールで一言送ってから行くとするか」

 

「……そうしましょうか」

 

 

 そして、俺がスマホを取り出したその時、画面が光った。……コナンからの電話だ!

 

 

「もしもし、コナンか?今ちょうど秀一と搭乗口に向かおうとしていたところだったんだが……大丈夫か?何か事件に巻き込まれたりとかしてないだろうな?」

 

「…………」

 

「……おい、コナン?」

 

 

 まさか、本当に巻き込まれたのか!?

 

 

「……荒垣さん。何も言わずに赤井さんと一緒に後ろを振り返ってみて下さい」

 

「……後ろ?」

 

 

 何故か敬語だったのが気になるが……ひとまず、秀一を促して一緒に振り返ってみた。――息を呑む。

 

 そこには、1人の青年がいた。……眼鏡は掛けていないが、江戸川コナンの面影があるその青年――工藤新一が、微笑んだ。

 

 

「……この姿では、初めましてになりますね」

 

 

 蝶ネクタイ型変声機を懐に仕舞い、新一がこちらに歩み寄る。

 

 

「…………驚いたな……」

 

「いつ薬が完成したんだ?」

 

「今日です」

 

「今日!?」

 

「完成したその日にすぐ薬を呑むとは、無茶をしたものだ……」

 

 

 俺と秀一が呆れていると、コナン……否、新一はばつが悪そうな表情を見せた後、謝罪した。それから残念そうに呟く。

 

 

「……本当は、他の仲間達にもこの姿を見せたかったんですけどね……俺の正体は明かしてありましたし……」

 

 

 そう。実は今日に至るまでの数ヶ月の間に、江戸川コナンの正体を今回の作戦に参加した仲間達全員に明かしていたのだ。最初は半信半疑だった者達も、俺と秀一が事実である事を認めると信じてくれた。

 また、同時期に江戸川コナンは周囲の何も知らない知り合い達にお別れを告げていた。工藤新一に戻るという事はつまり、江戸川コナンが消える事を意味する。設定として、江戸川コナンは海外で(架空の)両親と共に暮らすために引っ越す、というものにした。

 それと同時期に灰原哀が、それから間を空けて沖矢昴が、さらに間を空けて安室透がもっともらしい理由を付けて、表舞台から消える事となった。

 

 それからというもの、灰原哀……もとい、宮野志保は黒の組織対策本部のあるビルにて保護され、新一と彼女が元の姿に戻るための薬を開発していたのだが……

 

 

「……宮野が頑張ってくれたおかげで、ギリギリ間に合いました。どうしても、この姿であなた達を見送りたかったんです。……この姿を取り戻せたのは、あなた達のおかげでもあります。――本当に、ありがとうございました……!!」

 

 

 そう言って、新一は頭を下げた。

 

 

「……頭を上げてくれ、新一」

 

「…………はい」

 

「お前は俺達のおかげだと言ったが、俺だってお前には感謝しかないぜ。……新一が俺達や仲間達を率いてくれたおかげで、あの組織を壊滅させる事ができたんだからな」

 

「俺にも礼を言わせてくれ、ボウヤ。……あぁ、いや。もうボウヤ扱いは失礼だな。ありがとう、新一。俺達のホームズ」

 

「いえ、そんな……!もったいないお言葉です!それに俺達のホームズ、なんて……嬉しいですけど、俺はまだホームズの足元にも及ばないですし……」

 

「くくっ……」

 

「はははっ!」

 

 

 慌てて謙遜する新一を見て、俺達は笑った。すると、新一は拗ねたようにそっぽを向く。

 

 

「そんなに笑う事ねーだろ……」

 

「ふふっ……悪い、悪い」

 

「……和哉さん、そろそろ……」

 

「あぁ、そうだったな。……じゃあ、俺達はもう行くよ」

 

「……はい。……俺、そのうち予定空けて絶対にアメリカに行きますから!その時はいろいろ案内して下さい!」

 

「おう!良い場所をたくさん教えてやるよ」

 

「またな、新一」

 

 

 そう言って、俺達は新一に背を向けて搭乗口へと向かった。……その時ふと、シャーロキアンの秀一から聞いた話の中に、今の新一に当てはまる名前があった事を思い出した。

 俺はそれを伝えるために、振り向いた。

 

 

「新一。お前、まだホームズの足元にも及ばないって言ってたな」

 

「?……はい」

 

 

 ……それは、シャーロック・ホームズがコナン・ドイルにそう名付けられる前に付けられた仮の名前だと、秀一から聞いた。また、例の体が小さくなる薬もたまにこの名前で呼ばれていたらしい。

 "試作段階の名探偵"……今はまだ若い探偵である新一にぴったりだろう。

 

 

「なら――シェリングフォードだ。……こっちの方が、今のお前に当てはまるんじゃないか?」

 

「っ!!」

 

 

 目を見開いてこちらを見る新一に向かって、ニヤリと笑う。

 

 

「じゃあな、俺達のシェリングフォード。……いずれ、お前は必ずホームズを名乗れる程に立派な探偵となるだろう。その日を楽しみに待ってるぜ?」

 

 

 そう言った俺は、その後振り返らずに搭乗口へ向かって歩き始める。その隣に、秀一が並んだ。

 

 

「シェリングフォード、ですか。彼にはぴったりですね」

 

「だろう?お前から聞いた話を思い出してな」

 

「そして確実に、また1人落としましたね」

 

「うん?」

 

「……まぁ、彼なら構いませんがね。俺も特に気に入っていますし……」

 

 

 ……何の事だ?

 

 

 

 

「……くそ……あの天然たらしめ……!FBIの若手や公安の人達が落ちた理由が今分かった……!!」

 

 

 ……俺が秀一と一緒に立ち去った後、新一がそう独り言を言っていた事を、俺は知らない。

 

 

 

 

 

 

 





・実はかなり精神的に追い込まれていた、師匠兼飼い主

 赤井に説教され、最終的に今まで抱えていた不安が爆発。ポーカーフェイスも保てなくなり、逆に赤井に慰められるという情けない状態に。しかし、赤井の言葉で立ち直り、ついに"元"という言葉を撤回。師弟としての絆を結び直す。これからも頼んだぜ、愛弟子。
 ……しかし、だからと言って調子に乗っていいとは言っていない!手の甲にキスなんてキザな真似は女にやれ!!
 うっかりキュンとしちまったらどうしてくれる!?

 アメリカへ帰る前に新一を口説く…もとい、新一にエールを送った。期待してるぞ、シェリングフォード!


・盲目から目を覚ました弟子兼忠犬

 憧れるあまり盲目となっていた事を反省し、責任を持ってオリ主を慰める。俺の事でこんなにも悩んでくれていたのかと思うと嬉し…いやいや、不謹慎だ!!
 その後。愛弟子と呼ばれた事に感極まるあまり、忠誠を誓う騎士のように振る舞い、さらには調子に乗って手の甲にキスしようとしてオリ主の脳天チョップをくらう。さらなる忠誠心を示そうとしただけなので、後悔はしていない。

 オリ主がまた1人を口説く場面を目撃したが、俺のお気に入りなら許す。むしろ和哉さんの良さを語ってやりたい!(実は誰かに語りたくてウズウズしてた。)


・オリ主が恋しくなる前に自ら行動に出た、元黒の組織の幹部

 全部終わったらアメリカに帰る……?おい、公安。FBIに俺の身柄を引き渡せ!俺が寂しくなる前に!

 ヘッドロックされた。反省も後悔もしていない!!

・オリ主に口説かれた名探偵

 口説かれてコロッと落ちた。この天然たらしめ!
 でも光栄です、ありがとうございます!!シェリングフォードからホームズになれるように頑張ります!




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忠犬、赤井秀一 短編集②

 1つ目は、赤井さんとオリ主がポアロに突撃するお話。オリ主は自分の犬だけでなく、他所の犬の躾もお手の物!?

 2つ目は、モブ視点の話。"FBIきっての熟年夫婦"(赤井さんとオリ主)について、モブが愚痴をこぼす!……なお、途中からモブによるオリ主語り。




~忠犬と飼い主、ポアロに行く~

 

 

・時期は黒の組織のボスとラムを逮捕した後の数ヶ月間のどこか

 

・コナンはまだ赤井とオリ主以外の仲間達に正体を明かしていない。

 

・世良は赤井が沖矢昴として潜伏していた事を知っている。

 

・梓さんは不在

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいま…お帰りはあちらです、さようなら!!」

 

「酷いな、安室君」

 

「赤井さん!?」

 

「えっ、秀兄!?」

 

「ちょっとちょっと!何、あのイケメン!安室さんとは違ったタイプで素敵!!……って、ガキンチョあの人の事知ってるの?それに世良さん、秀兄って!?」

 

「あ、あの人……!!」

 

「蘭まで知ってるの!?」

 

 

 ある日の夕方。ポアロに赤井秀一が訪れた事で、穏やかな空間は一気に騒がしいものへと変わった。

 

 

「あぁ、ボウヤ。お前もここにいたのか。それに、真純は久しぶりだな」

 

「う、うん……」

 

「久しぶり、秀兄!今日はどうしたの?何でここに?」

 

「ボウヤにも真純にも、ポアロの事は聞いていたからな。気になって一度来てみたんだ。それに、店員は個人的に知り合いだったからな……なぁ、安室君?」

 

「はぁ?どちら様でしょうか?僕にはあなたのような目付きの悪い男に知り合いはいませんがね!さっさと帰れ赤井秀一!!」

 

「知ってるじゃないか。……あぁ、そうだ。アイスコーヒーを1つ頼みたい」

 

「誰が貴様なんかの注文を…」

 

「おや、いいのかな?今の君はポアロの店員で、俺は客の1人だが?」

 

「ぐっ……かしこまりましたっ!!」

 

 

 肩を怒らせてそう言った安室がキッチンへと向かう様子に構う事なく、飄々とした態度でカウンター席に座る赤井に、園子が見惚れる。

 

 

「クール系イケメン……いいじゃない!ちょっとガキンチョと世良さん、あの人紹介してよ!!それに、蘭もあの人の事知ってるんだよね?」

 

 

 園子に催促され、コナンと世良は赤井を園子に紹介し、蘭はアメリカでの出来事を話した。

 

 

「……なるほどねぇ……ガキンチョは事件で知り合って、世良さんにとっては歳の離れたお兄さんで、蘭はアメリカで会ったのか……それにしてもFBIって……最近凶悪な犯罪組織を日本警察とFBIが協力して一斉検挙したってニュースで言ってたけど、もしかして……」

 

「……あぁ、そうだ。俺も少し関わっている。……だが、他の人間には俺自身の事も含めて他言無用で頼むよ?」

 

「っ!!……は、はい!もちろん秘密にします!!」

 

 

 赤井が口元で人差し指を立て、園子に流し目を送ると、園子は顔を赤らめて何度も首を縦に振ってそう言った。

 そんな様子を、コナンと世良がジト目で見る。

 

 

「……さすが秀兄。自分の顔の良さをちゃんと分かってる……」

 

「……女子高生ならイチコロだな……」

 

 

 そこでふと、蘭が赤井に話しかけた。

 

 

「あ、あの……赤井さんは安室さんとも知り合いなんですよね?」

 

「あぁ。ある事件に巻き込まれた時に知り合った」

 

「……そういえば、赤井さんに気を取られてたけど、あの誰にでも紳士的に接する安室さんがあんな態度を見せるなんて、私初めて見たわ!」

 

「確かに、そうだな。……秀兄、彼と何かあったの?」

 

「……まぁ、な。いろいろあったよ」

 

「えぇ、本当にいろいろありました!アイスコーヒーです!!」

 

 

 そこへ、安室がアイスコーヒーを持って戻って来た。……勢いよく置いたせいか、中身がほんの少しだけ零れた。

 しかし、赤井は気にする事もなく礼を言う。

 

 

「あぁ、ありがとう」

 

「それを飲んだらさっさと帰れ」

 

「…………安室さんが敬語を抜いちゃった……」

 

「本当に、珍しいわ……」

 

「!!」

 

 

 蘭と園子の言葉でようやく我に返ったのか、安室は慌てて取り繕う。

 

 

「あぁ、その……見苦しいところを見せてしまって、すみません。僕はこいつが相手だとどうしても態度が悪くなってしまって……あの、この事は他の方には内緒にしてもらえませんか……?」

 

 

 困ったような表情のまま、上目遣いで2人を見つめる安室。そんな安室の姿に、2人はそれぞれ顔を赤らめて頷いた。……そして、コナンと世良は再びジト目でそれを見る。

 それを横目で見つつ、赤井が安室に声を掛けた。

 

 

「そういえば、ここのハムサンドがうまいと聞いた。それも頼みたいんだが…」

 

「だからさっさと帰れと言ってるだろ!?」

 

「そうゆうわけにもいかない。今日はもう1人呼んでいるんだ」

 

「もう1人だと……?」

 

 

 ……その時、ポアロにまた1人来店した。安室がそれに反応して振り向き、目を見開く。

 

 

「――荒垣さん!?」

 

「おう、安室。邪魔するぜ」

 

「いらっしゃいませ!どうぞ、お好きな席へ!」

 

「ありがとう。……悪い、秀一。待たせたな」

 

「いいえ、それ程待っていませんよ。……さぁ、どうぞ」

 

「あぁ」

 

 

 荒垣に声を掛けられた瞬間、ニコニコとした笑顔を浮かべた赤井はすぐに席から立ち上がり、自分の隣の椅子を引いて恭しくそこに座るように誘導した。荒垣はもう慣れたものとばかりに堂々とそこに座った。

 ……それを、園子達3人――特に世良――が唖然とした様子で見ている。

 

 

「あー……荒垣さんがいると相変わらずだね、赤井さんは」

 

「えっ?どうゆうことだい、コナン君!あんな秀兄、僕見たことないんだけど!?」

 

「世良さんがそう言うって事は、やっぱり珍しいのね……」

 

「うん!秀兄が敬語を使った事なんてなかったし、あんなに誰かを敬うような態度を見せた事もないし……何よりあの笑顔!あれ程嬉しそうにしてる秀兄なんて初めて見たぞ!?」

 

「いきなり笑顔になった時は驚いたけど……ギャップ萌えもいいわぁ……!」

 

「園子はイケメンならなんでもいいのね……」

 

「もちろん、一番は真さんだけどね!!」

 

「はいはい」

 

「そんな事より!コナン君は彼の事を知ってるんだよね!?見た目は秀兄よりも年下に見えるんだけど…」

 

「外れ。俺はこれでも40に近いんだ」

 

「「「えぇっ!?」」」

 

 

 突然、会話に入ってきた荒垣がそう言うと、女子高生3人が驚愕する。その流れで荒垣は自己紹介も済ませた。

 

 

「秀兄の師匠……!?そっか、だから秀兄もあんな態度に……いや、それにしても変わり過ぎだよ……」

 

「ほ、本当に38歳なんですか……?」

 

「信じられない……!!どんだけ若作りなの……!?」

 

「別に若作りはしていないが……ほら、安室だってこれでも29歳だろう?」

 

「確かに僕も年齢より若く見られがちですが、あなた程ではありません。……それより、ご注文は?」

 

「おっと、そうだったな。……じゃあ、アイスコーヒーと……確か、ハムサンドがうまいんだったな?それを1つずつ頼む」

 

 

 それを聞いて、安室は苦い顔をした。

 

 

「何故こいつと全く同じ注文を……!!」

 

「え?」

 

「ふふ……とても気が合いますね、和哉さん。さっき、俺もアイスコーヒーを注文して、今はハムサンドを注文しようとしていたんですよ。しかし、安室君がさっさと帰れと言って注文を受け付けてくれなくて……彼が作るハムサンドは絶品だと聞いていたので、残念です…」

 

「っあぁ、もう!分かりましたよ!やればいいんでしょう、やれば!!」

 

 

 安室は苛立ちを隠す事なく、キッチンへ向かう。

 

 

「…………今日だけで珍しい安室さんをたくさん見てる……」

 

「はは……まぁ、あいつは秀一にだけ辛辣だからな……もう憎んでいるわけではないはずだから、単に素直になれないだけなんだろう」

 

「子犬がじゃれてくるようなものだ」

 

「赤井さん。安室さんをあんまり煽ったらだめだよ?」

 

「善処しよう」

 

「……後でしっぺ返しくらっても僕知らなーい」

 

 

 ……やがて、安室が戻ってきた。

 

 

「お待たせしました」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「ありがとう、安室……って、なんで俺の隣に座るんだ?」

 

「今日はこれ以上お客さんが来る事はなさそうなので、僕は休憩します」

 

「それなら別にここじゃなくてもいいだろう?」

 

「僕はここがいいです」

 

「……あ、そう」

 

 

 てこでも動きそうにない気配を感じた荒垣は説得を早々に諦め、ハムサンドを食べる事にした。……その様子を、安室が頬杖をつきながらニコニコと見ている。

 

 

「お味はどうですか?」

 

「……うまい」

 

「それは良かった!」

 

「うまいぞ、安室君。さすがだな」

 

「赤井には聞いてません!黙って食え!」

 

 

 

 

「……なんだか、端から見てるとあの扱いの差が面白く見えてくるわね」

 

「あはは……そうね」

 

「秀兄は秀兄で全然気にしてないし……コナン君、あの2人はあれで通常運転なのかい?」

 

「うん、そうだよ。……まぁ、荒垣さんの事が絡んでくると立場が逆転するんだけど……」

 

「?……それはどうゆう…」

 

 

 コナンの言葉を不思議に思った世良が詳しく聞こうとした時、

 

 

「――ところで、荒垣さん。FBIをやめて日本に残る気はありませんか?」

 

「――あ"?」

 

 

 空気が殺伐としたものに変わった。赤井の柄の悪い声に女子高生達が驚く。しかし、コナンは動じない。

 

 

「あ、始まった」

 

「コナン君。始まったって、何が始まったの?」

 

「安室さんが反撃に出たんだよ。……だから僕、しっぺ返しくらっても知らないって言ったのに……」

 

「え、ちょ、どうゆうことよガキンチョ!あの2人、超睨み合ってるんだけど!?」

 

「……まさか、こんなところで手や足を出すような喧嘩を始めたりしないだろうな……?」

 

 

 4人の会話を他所に、赤井と安室の言い争いが始まった。

 

 

「……以前も言ったはずだぞ、安室君。和哉さんは絶対に渡さないと……!」

 

「さて、何の事でしょう?僕はFBIをやめて日本に残りませんか、と聞いただけであって、渡す渡さないの問題ではないはずですが?」

 

「……君がそうでも、()はどうなんだ?」

 

「あぁ……()ですか。どうでしょう?……まぁ、僕自身は荒垣さんがFBIをやめてくれたら、つてを頼って新しい仕事を紹介するつもりでいますが……荒垣さん、日本の警察には興味はありませんか?」

 

「完全に狙っているじゃないか、やめろ!」

 

「そうですねぇ……()もいる公安警察なんていかがです?」

 

「無視するな。しかも露骨だぞ!」

 

「うるさいですね。駄犬は黙っていて下さい」

 

「君が和哉さんを誑かすのをやめる方が先だ」

 

「人聞きの悪い事を言わないで下さい」

 

「事実だろう」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 そして、2人が睨み合いながら同時に立ち上がった。それを見た女子高生3人が焦る。

 

 

「ど、どうしよう……!」

 

「まさか本当に殴り合いを……!?」

 

「あぁ、大丈夫だよ。荒垣さんがいるし」

 

 

 

 

「――秀一、Sit(座れ)……よし、Good boy(いい子だ)

 

 

 赤井が元の席に座ると、荒垣はその頭を軽く撫でた。赤井は幸せそうに目を細めてそれを享受していた。……ちなみにこの間、荒垣は一度も赤井の方を見ていない。

 

 ここ最近の荒垣は、開き直ったのか赤井を犬扱いする事に抵抗がなくなってきている。今ではもう慣れたものだとばかりに、指示に従った後に褒める事までが必ずセットになっていた。

 

 次に、荒垣は安室を見る。その冷たい視線に、安室は背筋を伸ばした。

 

 

「……安室」

 

「っはい!」

 

「隣に座る事は許したが、秀一とじゃれあう事を許した覚えはねぇぞ」

 

「はい、すみません!」

 

「分かったなら仕事だ。アイスコーヒーをもう一杯頼む。俺と秀一の分、どっちもだぞ」

 

「かしこまりました!!」

 

 

 

 

「…………ね?大丈夫だったでしょ?」

 

「……おかしいな。秀兄に犬耳と尻尾が生えてるように見えるよ……」

 

「……クール系のイケメンが、実はワンコ系イケメンだったのね……」

 

「あんな殺伐とした空気の中で仲裁ができるなんて、すごい……」

 

「あはは……荒垣さんの人身掌握術(人たらし)には誰も敵わないんだよね……」

 

 

 遠い目になりながら、最後にコナンが呟いた。

 

 

 

 

 

 

人身掌握術(人たらし)がカンストしている師匠兼飼い主

 

 今回、前々から行きたいと思っていたポアロに行く事ができて満足。ハムサンドうまい。コーヒーもおかわり!

 

 開き直って自ら飼い主になる事にした。他所のワンコと喧嘩してはいけません!

 

 なお、いつの間にか他所のワンコも躾していた事には気づいていない。

 

 

・他所のワンコと喧嘩した弟子兼忠犬

 

 オリ主とポアロで待ち合わせの約束をしていた。楽しみ過ぎて予定よりも早くに到着してしまった……

 

 最近オリ主が開き直り、積極的に飼い主になり始めた事でご機嫌。これで"自他共に認める忠犬と飼い主"の図が完成だ!周囲への牽制に役立つだろう。

 

 俺の飼い主は渡さない!和哉さんも、多頭飼いは認めませんからね!!(主に降谷君とかジンとかジンとかジンとか……)

 

 

・他所のワンコもとい、喫茶店の店員兼公安(())

 

 何故貴様がここにいるんだ赤井ィィ!!とっととアメリカに帰れ!ただし、荒垣さんは置いていけ!!

 

 オリ主と赤井が自他共に認める飼い主とその犬という関係になった事に、若干思うところがある。べ、別に羨ましいとかそんなんじゃないからな!

 

 本人も気づかないうちにオリ主に躾られていた。だがしかし、俺の飼い主は日本だ!

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

~とあるモブの愚痴~

 

 

・組織壊滅後。まだボスとラムは捕まっていない。

 

・モブ視点。

 

・オリ主と赤井の距離が近い。

 

・短編集①の「忠犬の牽制」と少し繋がっている

 

 

 

 

 

 

 オレはFBI捜査官だ。名前は……どうでもいいか。とりあえず、FBIになってまだ2年程しか経っていない若手である事を覚えてくれたら、それでいい。

 

 

 さて……いきなりだが、オレには尊敬している人が2人いる。

 

 1人目は、赤井秀一。我らがエース。一流のスナイパーである事はさる事ながら、頭の回転が速く、周囲からの信頼も厚いという、天から二物も三物も与えられた男。欠点はおそらく無愛想である事と、たまに命令違反をする事ぐらいか?

 

 2人目は、荒垣和哉。6年にも及ぶ長期任務を終え、最近帰って来たベテラン捜査官。オレが最も尊敬している人物だ。

 

 最初は見た目だけで判断してしまい、荒垣さんの事を馬鹿にして反抗していた。しかし他の古参の人達から彼の武勇伝を聞いたり、本人の人柄を知ったりした事で、オレは自らの行いを恥じた。そしてある出来事をきっかけに、それまで尊敬していた赤井さん以上に彼の事を尊敬するようになったのだ。

 だから、荒垣さんと赤井さんが主導するパルクールのチームメンバーに選ばれた時、それはもう喜んだ。こんなオレでも役に立ちたいと思った。

 

 ……と、前置きはここまで。今日話したいのはオレが尊敬しているその2人の関係についてだ。

 

 

 2人は師弟関係にある。荒垣さんが師匠、赤井さんがその弟子だ。……正直、荒垣さん自身も認めていたが、荒垣さんよりも赤井さんの方が今では能力的に上である。

 しかしそれでも師弟関係が続いているのは、おそらく赤井さんに原因がある。

 

 赤井さんは荒垣さんを敬愛している。……いや、あれはもはや崇拝と言ってもいい。まるで犬のように荒垣さんに懐き、荒垣さんを貶した相手や、危害を加えた相手に対しては即座に噛みつく狂犬へと変貌する。

 赤井さんがあの態度を変えない限り、師弟関係が解消されたり、逆転したりする事はないはずだ。……まぁ、赤井さんの態度が変化する可能性なんて、万に一つもないだろうが。

 

 荒垣さんはそんな赤井さんに対して、最初はかなり戸惑っているようだった。しかし段々と慣れてきたのか、簡単にあしらうようになっていた。その様子はまるで犬とその飼い主のように見えた。……荒垣さんだけはそれを否定しているが。

 

 

 そんな荒垣さんと赤井さんは、とても仲が良い。羨まし…いやいや実に良い事だ。……その仲の良さがツッコミどころ満載である事を除けばな!

 

 

「秀一」

 

「はい、コーヒーですね。すぐに」

 

「頼む」

 

 

 

 

「秀一…」

 

「はい。その資料ならここにあります」

 

「ん、ありがとう」

 

 

 

 

「…………秀一」

 

「仮眠ですね。どうぞ、行って来て下さい。残りの書類は俺が片付けておきますから」

 

「悪いな」

 

 

 ……お分かり頂けただろうか?

 

 荒垣さんは赤井さんの名前しか呼んでいないのに、赤井さんは荒垣さんの意図を完璧に読み取っているのだ。……何故読み取れるんだ!?普通は分からないだろ!?そんなんだから"FBIきっての熟年夫婦"なんて呼ばれるんだぞ!?まさか付き合ってるんじゃないだろうな!?

 

 ……とまぁ、さっそくツッコミしたわけだが。これはあくまで数多くあるツッコミどころのごく一部である。こんなものはまだ序の口なのだ。

 

 

 まず、彼らは基本的にセット扱いだ。食事をする時も、仕事をする時も、休憩する時も……とにかく大体は行動を共にしている。……まぁ、示し合わせたわけではなく、荒垣さんが行くところに赤井さんがついて行っているだけのようだが……

 赤井さん!あんたは親鳥について行く雛鳥か!?もしくは飼い主から離れない忠犬か!?……いや忠犬で合ってるな。うん。

 

 では荒垣さんはどうなのかというと、全く気にしていないようだ。ついて来ても来なくてもどちらでも構わないらしい。

 

 ……そういえば、そんな荒垣さんだが。ここ最近になって赤井さんへの接し方が変わった。それは決して悪い変化ではなかったのだが……やはりツッコミどころはあった。

 

 

「これは……俺が探していた資料じゃないか。秀一が見つけてきたのか?……そうか、よくやった。いい子だな」

 

 

 

 

「……もう終わらせたのか?苦手だというのによくやったな。……ん?……あぁ、そうだった。時間内に終わらせたら褒めてやるって言ったよな。……よしよし」

 

 

 

 

「ん……相変わらずお前が作る紅茶はうまいな。おいしいよ、ありがとう。……さすが、俺の弟子だな」

 

 

 ……このように、荒垣さんは積極的に赤井さんを褒めるようになった。しかも、頭を撫でるまでがセットだ。

 何があった、荒垣さん!?あんたはこの前まで赤井さんの飼い主って呼ばれても否定してただろ!?これじゃあ立派な飼い主だぞ!?

 

 あぁ、ツッコミが追い付かない……!

 

 

『というか赤井さん、そこ代われ!オレだって荒垣さんに褒められたい!!』

 

『……おい。いろいろ言ってたけどとりあえずそれが本音だな?』

 

『そうだよ!悪いか!?』

 

 

 ……現在。オレは荒垣さんと赤井さんのツッコミどころがあり過ぎる関係について、最近仲良くなった日本の公安所属の男に語っていた。オレに合わせてわざわざ英語で話してくれる、優しい男だ。

 

 

『……荒垣さんが初めて顔見せした時に殴り掛かった上に返り討ちにされた男のセリフとは到底思えないぞ……』

 

『それは忘れてくれ』

 

『いや、無理があるだろ。……本当に盛大な手のひら返しだな……』

 

 

 ……確かに、我ながら無理があるなと思っている。だが、あれは黒歴史なんだ!忘れてくれ!!

 

 あの日。オレは荒垣さんが赤井さんよりも実力が下である事を知って反抗し、さらには頭に血がのぼって同僚の制止を振り切り、彼に殴り掛かってしまった。……結果、彼の截拳道(ジークンドー)と彼が発する気迫によって返り討ちにされたわけだが。

 その時のオレと今のオレを比べると、確かに様変わりしている。

 

 

『最初は荒垣さんにあれだけ反抗していた奴が、今では赤井さんには及ばないものの、荒垣さんの忠実な部下になっているとはな……俺の同僚達も、お前の同僚達も驚いてたぜ。……そういえば、何がきっかけでそうなったんだ?』

 

『よくぞ聞いてくれた!!』

 

「うおっ!?」

 

 

 オレは身を乗り出して、そう聞いてくれた公安の男に、荒垣さんの事を尊敬するようになったきっかけを語った。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その日、オレは荒垣さんを探していた。彼が初めて顔見せした日に殴り掛かってしまった事を謝るために。

 

 荒垣さんに返り討ちにされてから、オレはできる限り彼に接触する事を避けていた。殴り掛かってしまったオレに対して何を言ってくるか不安に思っていたし、何よりも赤井さんの目が怖かったのだ。

 赤井さんはオレを完全に敵であると認識したようで、近くを通るだけで刺すような視線を送って来る。……あれはもう、視線だけで人を殺せるんじゃないか?

 

 そんなわけで、荒垣さんとの接触をできる限り避けていたオレだったが、そうゆうわけにも行かなくなった。古参の人達から荒垣さんの武勇伝について聞いたし、オレ自身も彼の人柄を知って、自分の行いを恥ずかしく思うようになったからだ。だから、彼に直接謝ろうと決意した。

 

 そしてようやく、荒垣さんを見つけて話し掛けようとしたのだが……

 

 

(あ、これはまずい)

 

 

 ちょうど、その側に赤井さんがいたのだ。案の定、彼はオレを鋭い目で睨んで来る。……だが今回ばかりは負けられない。

 その視線を無視して近づくと、赤井さんが発する威圧感がさらに増した。……それでもオレは、前に進む。

 

 周辺にいた他のFBI捜査官や公安の奴らの数名がその威圧感を感じ取ったようで、視線が集まっているのが分かった。……当然、荒垣さんも気づいた。

 

 

「……どうした、秀一…って、お前……」

 

 

 そして、赤井さんの視線の先にいたオレにも気づいた。

 

 

「今まで俺に接触する事をできる限り避けていただろう?今日はどうしたんだ?」

 

 

 どうやら、オレが避けていた事にも気づいていたらしい。

 

 

「あの……荒垣さん、オレ、」

 

「どの面下げて来た?和哉さんを侮辱した挙げ句、殴り掛かった男が……今さら和哉さんに何の用だ?」

 

「っ……!!」

 

 

 赤井さんが殺気を向けて来た。……今にも逃げ出したいが、今逃げたら2度と謝れない気がする。

 そう考えて、なんとか踏み留まっていると……

 

 

「よせ、秀一」

 

「……しかし、和哉さん……」

 

「……これだけお前が殺気を出しても逃げないんだ。余程の理由があるんだろう。……話を聞こう。場所を移すぞ。……秀一、お前は…」

 

「一緒に行きます」

 

「…………分かったよ。……悪いな。こいつも同席させてくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 

 荒垣さんのおかげで、なんとか話ができるようになった。

 その後、個室に移動した。荒垣さんの背後には赤井さんが控えており、オレの事を警戒している。

 

 

『さて……じゃあ、話を聞こうか。一体どうしたんだ?今日は。あぁ、英語でいいからな』

 

『……ありがとう』

 

 

 荒垣さんの配慮に感謝した後、オレは頭を下げた。

 

 

『あの日……あんたを侮辱して、殴り掛かってしまった事について謝罪する。本当に申し訳なかった……!!』

 

 

 ……荒垣さんは無言のまま。何も返って来ない。こちらは頭を下げているから彼の顔は見えない。一体どんな顔をしているのかと不安に思っていた時、赤井さんが先に口を開いた。

 

 

『遅すぎる謝罪だな。本来なら和哉さんに殴り掛かったその日に謝罪するべきだというのに……』

 

『あぁ。その通りだ。自分でも今さらだと思っている。……許されないのも当然の事だ。だが、それでも謝りたかったんだ!古参の人達からあんたの事を聞いて、オレ自身もあんたの人柄を知って、自分の行動がどれ程恥ずかしい事だったのか、よく分かったから!これはオレの自己満足にしかならないかもしれない。それでも……!!』

 

 

 そう。それでもオレはどうしても謝りたかった。そうでもしないと気がすまなかったから。

 

 ……と、その時。ずっと黙っていた荒垣さんが口を開いた。

 

 

『……頭を上げてくれ』

 

『和哉さん?』

 

『お前は黙っていてくれ秀一。……さぁ、頭を上げてくれ、――――』

 

『えっ?』

 

 

 オレは思わず頭を上げた。……荒垣さんが最後に言ったのはオレの名前だった。

 

 

『……な、なんでオレの名前を知ってるんだ?』

 

『?当たり前だろう。同じFBI捜査官であり、今回共に戦う仲間の名前なんだから。さすがに公安の連中の名前はまだ覚えられていないが、今回の作戦に参加するうちの若手連中の顔と名前は全員分覚えたぞ。初めて顔見せしたあの日に、ジェイムズから仲間達の詳細が書かれた資料をもらってな。……もっとも、覚えるのに3日は掛かってしまったが……』

 

『…………』

 

 

 荒垣さんは当然のようにそう言っているが、それがどれだけ難しい事なのかを、オレは知っている。なんせ、今回の作戦に参加する人数は、FBI捜査官だけでもかなりの人数だ。それも、その大半が若手だった。

 この人は端から見ても仕事が多そうだった。そんな余裕もない中、たった3日で覚えてしまうとは、恐ろしい記憶力だ……

 

 

『……よく、覚えていてくれたな。あんな事をやらかした、オレの名前を……』

 

『あぁ。……お前の事は特に覚えやすかったよ』

 

 

 ……なるほど。あんな事をやらかしたオレの事なら、逆に覚えやすかったわけだな。

 しかし次の言葉を聞いて、目を見開いた。

 

 

『お前は若手の中でも、特に優秀だったからな』

 

『え?』

 

『研修中の成績は常にトップクラス。また、実際の現場でも臨機応変に動く事で事件の解決を早めた。最近まで逃走していた指名手配犯を発見し、捕らえたのもお前だったな。凄いじゃないか。まぁ、上官に対する態度が悪いらしいが……結果が出ているなら構わないだろう』

 

『……!?』

 

 

 ――面と向かって誰かに褒められたのは、初めてだった。

 

 それに、態度の悪さを許容された事も初めてだ。オレは褒められるよりも態度の悪さを叱られる事の方が多いから。しかも褒めてくれた相手は、オレが侮辱した挙げ句殴り掛かってしまった人だ。

 

 

『……で、謝罪だったな。……謝罪は必要ない。確かに、あの時のお前の行動は浅はかだった。だが、それは俺がそのつもりはなくとも挑発してしまったせいだ。だから、俺ももう1度謝る。……すまなかったな』

 

『!?い、いや、あんたが謝る必要はないだろ!?』

 

『そう思ってくれるなら……これで互いにあの日の事を水に流さないか?俺としては仲間のうちの1人であるお前に、距離を取られたくない。これからは黒の組織を壊滅させるという目標に向かって、共に戦いたいんだ』

 

『…………!!』

 

 

 ……あぁ、なんてこった。……器のデカさが違う。

 普通なら恨み言の1つや2つを言ってもおかしくないし、そもそも2度と関わるなと言われてもおかしくないというのに、この人は……!!

 

 

『……分かった。そうする』

 

『そうか……!ありがとう。助かるよ』

 

 

 そう言って、本当に嬉しそうに微笑むものだから、こちらまで笑ってしまった。

 

 そして彼はオレの元まで歩み寄って来て、オレの肩に優しく手を置く。

 

 

『――お前のような、将来有望な若者がFBIになってくれた事を、そして今回の作戦で共に戦ってくれる事を、とても嬉しく思う。これからのお前の活躍に期待しているぞ』

 

『――――』

 

『じゃあな。……行くぞ、秀一』

 

『はい』

 

 

 完全に固まってしまったオレを置いて、2人は部屋から出ていった。

 そして、オレはその場で膝をついて顔を両手で覆い、天を仰ぐ。

 

 

『…………あの人は聖人か……いや、神なのか!?』

 

 

 彼の言葉で完全に落ちたオレは、その日から赤井さん以上に荒垣さんの事を尊敬するようになったのである。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

『……と、いうわけなんだよ!凄いだろう、荒垣さんは!!神だろう!?』

 

「あー、うん。そうだな。…………さすが赤井秀一第2号……」

 

『なんか言ったか?』

 

『いや、なんでもない。……それより、話がズレてないか?』

 

『おっと!そうだったな』

 

 

 その後もオレは、公安の男に荒垣さんと赤井さんの関係について愚痴を吐き出し続けた。

 

 

 

 

 

 

・赤井秀一第2号なモブ

 

 短編集①で登場したFBI捜査官のモブ。今では立派なオリ主信者。

 

 赤井さん、そこ代われ!!

 

 その変貌ぶりから、第2の赤井秀一と呼ばれているが、その事には気づいていない。

 

 

・愚痴を聞いていた公安のモブ

 

 延々と続くFBIモブの愚痴を聞き続けた。

 

 さすが赤井秀一第2号。荒垣さん語りが止まらない……

 

 実は、赤井秀一第2号と名付け、それを広めたのはこのモブである。

 

 

・FBIきっての熟年夫婦な忠犬と飼い主(付き合ってない)

 

 既に赤井はそう呼ばれている事に気づいているが、そのまま放置している。別に困らないしな。

 そのうち、気づいたオリ主が否定して回る。俺達は夫婦じゃない!まだ飼い主と犬って呼ばれる方がましだ!

 

 なお、FBIきっての熟年夫婦と名付け、広めたのは公安の女性警察官(腐女子)。現在はFBIの女性捜査官達に赤井×荒垣もしくは荒垣×赤井を布教する事を企んでいる。

 

 

 

 

 

 



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忠犬、赤井秀一 過去編


 ――忠犬は、如何にして忠犬となったのか。

 ……サブタイトルは、"忠犬、赤井秀一の1人でお留守番できるかな?"です。

 今回は、様々な登場人物の視点から、赤井さんの様子を観察(笑)してもらいました。
 盛大に捏造、及びキャラ崩壊していますので注意して下さい。




~6年前――SIDE:荒垣和哉~

 

 

 ――よく晴れた日の朝に、俺は長期任務でヨーロッパへと旅立つ事になった。空港にはFBIの仲間達が見送りのために一緒に来てくれて……その中に、秀一の姿もあった。

 ボスや仲間達が俺に声を掛けてくれる中で、秀一は少し離れた場所にいる。

 

 

『カズヤ。そろそろシュウに声掛けてやったらどうだ?』

 

『言われずとも、そのつもりさ』

 

 

 古参の1人に言われるまでもなく、俺はそのつもりでいた。

 

 それから俺は、仲間達から離れて秀一に声を掛けた。

 

 

「秀一」

 

「……和哉さん」

 

「……お前ならまず大丈夫だろうが、念のために言っておく。俺がいない間も、日々の鍛練を欠かさないようにな」

 

「はい。分かっています。……あなたから教わった事は、決して忘れません」

 

「ならば、よし。……もう、俺から教えてやれる事はないな」

 

「ご冗談を……俺はまだまだ教わりたい事がたくさんあります」

 

 

 冗談ではないんだが……

 

 

「だから――無事に、帰って来て下さい」

 

「……!」

 

 

 いつも通りの無表情だったが、こいつと今まで師弟関係にあった俺だからこそ、気づいた。

 深緑の瞳が、少しだけ不安そうに揺れている事に。

 

 

(本当だったら、ここで免許皆伝と言いたかったところだが……これじゃあ言えねぇよなぁ……)

 

 

 そう思ってから俺は、秀一の瞳を見据えて口を開いた。

 

 

「――分かった。約束しよう。俺は必ず無事に、アメリカへ帰って来る。必ずだ」

 

「……約束ですよ」

 

「あぁ」

 

「絶対ですからね」

 

「あぁ。……なんだ、そんなに俺が信用できないのか?それなら大サービスだ。今ならお兄さんがハグしてやるぞ、Kid(坊や)?」

 

 

 まぁお兄さんって言っても、もう30を過ぎてるんだけどな!……と、両腕を広げつつ、頭の中で自分にツッコミを入れていたら、

 

 

「っ!!」

 

「おっ、と……!?」

 

 

 突然、秀一が俺の腕の中に飛び込んで来た。……まさか、本気にするとは思わなかった。こいつってそんな奴だったっけ?

 背後から仲間達の冷やかしの声が聞こえるが、秀一は全く気にしていない。

 

 

「…………絶対に、無事に帰って来て下さい。できるだけ、早くに」

 

「あ、あぁ……善処する」

 

 

 秀一の意外な一面を見た俺は、その後すぐにヨーロッパへと旅立った。

 

 

 ……俺はこの時、6年後にこいつがとんだ変貌を遂げる事になろうとは、全く、これっぽっちも、予想していなかった――

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

~5年前――SIDE:ジョディ・スターリング~

 

 

 ――最近、シュウの様子がおかしい。現場に出ている時はいつも通りだけど、それ以外ではほとんどが上の空だった。

 例えば、私と2人きりで話している時に突然ぼんやりとし始めたり、デスクワーク中に手を止めてどこか遠くを見つめていたり、煙草の灰が服に落ちているのにも気付かずに吸い続けていたり……明らかに、おかしい。

 

 その様子には仲間達も気づいているようで、恋人である私に何か心当たりはないかと聞いてくる人もいる。……確かに、1つだけ心当たりはあった。でも確信はなかったから、仲間達には黙っていた。

 そんなある日。シュウが、2人きりで話したい事がある、と言って私を呼び出した。……ちょうどいいわ。私の予想が正しいかどうか、確かめてみましょう。

 

 

 そして現在。私は自宅に彼を招いていた。

 

 

『……それで、話したい事って?』

 

『……今回、俺が任された黒の組織への潜入捜査の事で、少しな』

 

『!』

 

 

 という事は、やっぱり……

 

 

『……やっぱり最近、あなたの様子がおかしかったのは、それが理由なの?』

 

『…………そうか。やはり気づいていたのか。他の奴らにも遠回しに心配されたし、自分でも隠せなくなっている事は自覚していたが……』

 

『質問の答えになってないわよ』

 

 

 自分だけで納得しないで欲しいわ!まったく……

 

 

『……確かに、最近の俺の様子がおかしかった原因は、潜入捜査を任された件が関係している。……まぁ、直接の原因ではなく、あくまでも間接的なものだが……』

 

『間接的?』

 

『あぁ。……俺は潜入捜査で日本に行く事になる』

 

『そうね』

 

『そして潜入捜査中は当然、FBIの人間に安易に連絡を取る事ができなくなる』

 

『……えぇ』

 

『それはつまり――もしも和哉さんが戻って来たとしてもすぐに知る事はできないし、会う事もできない、という事になる』

 

『えぇ、そう……ね……?』

 

『和哉さんが戻って来たら1番に会いたいというのに、潜入捜査中ではそれが不可能だ。……確かに、例の組織への潜入捜査は俺の目的達成のためにも必要な事だが、その任務がよりによって和哉さんがまだ戻って来ていないタイミングで回って来るとは……あぁ、行きたくない……』

 

『…………』

 

「和哉さん……和哉さんに会いたい……」

 

 

 ――あなた、誰?本当にあの赤井秀一なの……!?

 

 そう思ってしまう程に、彼は消沈していた。今でもテーブルに肘をついて頭を抱え、和哉さん和哉さんと呟いている。

 

 

『…………まさかとは思うけど……あなた、カズヤが長期任務に行った日からずっと落ち込んでいたの!?あれから1年も経ってるのに!?』

 

『……たった(・・・)1年で和哉さんがいないという事実を飲み込めるはずがないだろ……』

 

『充分でしょう!?』

 

 

 呆れた!まさか今までずっと引きずっていたなんて……いえ、それよりも、

 

 

『あなた、そんなにカズヤの事を慕っていたの?初めて知ったわ……』

 

『俺はだいぶ前から和哉さんの事を慕っていたさ。表には出さなかっただけで。……和哉さんは本当に凄いんだ』

 

 

 それからシュウは、カズヤがどれ程凄い人なのかを語り始めた。……いつも無表情で無口な彼が非常に――非常に!――珍しく、子供のようにキラキラと瞳を輝かせ、饒舌に語っている……!!

 そして、長々と数十分ほど語った後に、シュウはこう言った。

 

 

『あんなにカッコ良くて、男前の和哉さんが未だに独身だなんて信じられない!もしも俺が女だったら絶対に放って置かないだろう。……いや、逆にもしもあの人が女に生まれていたら、それこそ口説き落としてでも手に入れていただろうな……』

 

『…………シュウ?あなた、恋人である私の前で、よくもまぁ、そんな事を……!』

 

 

 返答によっては痴話喧嘩(戦争)も辞さないわよ……?

 

 

『あぁ、そうだ。その話なんだがなジョディ、』

 

『何よ!』

 

 

 

 

 

『――別れようか』

 

『――は?』

 

 

 ――よろしい、ならば戦争だ。

 

 

 

 

 ………その後。小一時間ほど口喧嘩をした後に、別れを切り出した理由が潜入捜査のためである事を知った。

 

 言葉が足りないのよシュウは!!カズヤの事を語っていた時はあれだけ饒舌だったくせに!!

 

 

 

 

 

 

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~3年前――SIDE:スコッチ~

 

 

 黒の組織での潜入捜査中。組織の人間として、とある任務を受ける事になり、つい先程それを完了した。

 俺が運転する車で、一度黒の組織の拠点に立ち寄り、用事があるというゼロ……じゃない、バーボンを降ろして、ライと2人で帰る事になった。ライは車内で呑気に眠っていた。……どうやら、相当疲れていたらしい。確かに、今回ライはこき使われたしな……バーボンに。

 

 特に問題もなく、そろそろライを降ろす場所まで近づいてきた。……その時だった。

 

 

「……っ、ぐ……う……!!」

 

「……?……ライ?」

 

「う、あ……っく……!!」

 

「!?お、おい、ライ!?」

 

 

 突然、眠っていたライが魘され始めた。

 

 慌てて車を止めてシートベルトを外し、後部座席まで身を乗り出して、ライの体を揺さぶる。

 

 

「ライ……っおい!目を覚ませ!」

 

「ぐ、あ……っ、かずや、さん……!!」

 

「ライ!!」

 

「っ!?」

 

 

 そしてようやく、ライが目を覚ました。

 

 

「あ……?」

 

「あぁ……良かった。目が覚めたか」

 

「……スコッチ?」

 

「おう。……急にお前が魘され始めたものだから、驚いたぜ……」

 

「魘されて?……そうか……」

 

 

 少し青ざめた表情を見せるライに対して、俺はつい好奇心を抑えきれずに、彼が先程口にしていた事について聞いてしまった。……潜入捜査官として、あわよくば、コードネームを与えられた幹部の1人である、この男の弱みを握れないかと考えたからだ。

 

 

「なぁ、ライ――カズヤさんって誰だ?」

 

 

 ――瞬間。特大の殺気を向けられ、俺の背筋は震え上がり、冷や汗がだらだらと流れ出した。

 

 

「――てめぇ……どこで聞いたんだ、その名を……!!」

 

 

 いつの間に手にしていたのか、拳銃の銃口が目の前にあった。

 

 

(これはまずいな……)

 

 

 どうやら、俺はピンポイントでライの地雷を踏んだらしい。

 弱みを握る事は諦めて、ライを落ち着かせる事にした。

 

 

「あー……いや、お前がついさっき、自分で言ってたんだけど……」

 

「…………何だと……?」

 

「さっき魘されてた時に、カズヤさん、って言ってたんだよ、お前が」

 

「……本当か?」

 

「本当だよ!」

 

「…………そう、か……」

 

 

 すると、ライはため息をついて頭を抱えた。

 

 

「えっと……ライ……?」

 

「……スコッチ」

 

「お、おう」

 

「すまなかった」

 

「え、あ、うん……って、えっ!?」

 

 

 今、こいつ……謝った、よな!?ジンほどではないが、俺様気質のライが謝った、だと……!?

 

 

「……今のはどう考えても、俺の落ち度だ。……悪かった」

 

「あぁ、いや……俺も、余計な事聞いちゃって、ごめん」

 

「いや……それはいい。それよりも、だ。……今日の事は、誰にも言わないでくれないか?特に、和哉さんの事は。……無論タダで、とは言わない。今回の事はお前個人から、俺への"貸し"だと思ってくれて構わない。だからその代わりに……和哉さんの事は、黙っていてくれ……頼む」

 

 

 ……その強い眼差しに負けた俺は、ライの頼みに対して頷いてしまった。

 

 

「――ありがとう、スコッチ」

 

 

 その後、あまりにもほっとしたという表情をしたライを見た俺は、こっそりとゼロに報告しようかと考えていたのだが、その気も失せてしまった。……甘いなぁ、俺。

 

 

「……なぁ。誰にも言わないからさ。聞かせてくれないか?そのカズヤさんって、お前にとってどんな人なんだ?」

 

「……あれだけの殺気を向けられた後にそれを聞くとは……馬鹿か、お前は。……まぁ、いい。答えてやろう。あの人は俺にとって心から尊敬する相手であり、目標だ。そして――俺の、唯一無二だ」

 

 

 ――そう言い切ったライの誇らしげな表情を、俺は一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その数日後。俺はそんなライの秘密を抱えたまま、自殺した。まだ"貸し"がそのままになってたんだけどなぁ――

 

 

 

 

 

 

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~1年前――SIDE:ジェイムズ・ブラック~

 

 

 赤井君が本国に戻って来てから1年が経ったある日の事。古参の捜査官達が談笑している輪の中に、珍しく赤井君の姿があった。

 

 

『……そして、カズヤの奴はそのチームのリーダーに向かってこう言ったのさ。"任務を達成し、死地から帰還した部下に対して掛ける言葉がそれか!?上司の風上にも置けねぇ奴だ!"ってな。

 それからカズヤは、カズヤの事を罵るそいつに向かって"文句があるなら自分も同じ死地から任務を達成した上で帰還してから言いやがれ。それができねぇなら口出しするんじゃねぇよ、臆病者が!!"って言ったんだ。……いやー、あの時はスカッとしたぜ!』

 

『……さすが和哉さん……カッコいい!』

 

 

 ……予想はしていたが、やはり荒垣君の話をしていたようだ。赤井君は古参の1人から荒垣君の話を聞き、まるで少年のように目を輝かせている。最近では、こんな光景を見る機会が多くなっていた。

 

 

 初めて知った時は驚いたのだが……赤井君は弟子として、師匠である荒垣君の事を特別に慕っている。

 

 5年前に黒の組織への潜入捜査を任されたあたりから、彼の様子がおかしくなり、その原因が荒垣君の不在にあるという事を、ジョディ君から教えてもらった。

 赤井君は荒垣君と会えない事に耐えられず、それが表に出てきた結果、様子がおかしくなったのだ、と。……最初は、まさかあの赤井君が、と耳を疑った。しかし、ジョディ君は本気でそう言っているようだった。

 

 その話を聞いた数日後に、赤井君は日本へ向かってしまったため、その真偽を確かめる事はできなかった。

 しかし、2年前に帰国した赤井君のますますおかしくなった様子を見て、ジョディ君から聞いた話を思い出した私は、ダメ元で彼に昔の荒垣君の話を聞かせてあげた。もしもジョディ君の話が本当なら、そうする事で少しは元気になってくれるのではないかと、そう考えたのだ。

 

 その結果。予想以上に効果が見られた。

 

 深緑の瞳が輝き、生気が戻って来る様子を間近で見た私は、ジョディ君の話が本当だった事を知った。

 それからは、部下達……主に古参の捜査官達にこの事を伝え、定期的に赤井君に荒垣君の話を聞かせてあげて欲しい、と頼んだ。最初は半信半疑だった彼らも、実際に赤井君の反応を見た事で、積極的に話してくれるようになった。彼らからしても、いつも無愛想な部下が、自慢の仲間の1人の話を熱心に、楽しそうに聞いてくれる事が嬉しいのだろう。

 

 

 そんな経緯があり、今も彼らは赤井君に荒垣君の話をしている。

 

 

『よし、なら俺もおもしろい話を聞かせてやろう!ある事件に関わった時、ティーンだと勘違いされたカズヤの話をな!』

 

『何だそれ詳しく!』

 

『ただし!……カズヤには口止めされてるから、俺が話したって事は内緒で頼むぜ?な?』

 

 

 ……さすがに本人に口止めされているにも関わらず話してしまうのはどうかと思うが……私は止めなかった。

 

 

『……私も気になるな……是非とも聞かせてくれないか?』

 

『あ、ボス。……いいけど、カズヤには内緒にしてくれよ?』

 

『あぁ、もちろん』

 

 

 すまない、荒垣君。私もその話は気になるのでな。

 

 

『じゃあ、さっそく話すとしよう。まだカズヤが20代だった頃の話だ――』

 

 

 ……荒垣君達はとある事件の捜査をしていた。そのとある事件というのが、10代の少年少女の連続誘拐事件だった。……その事件の大まかな内容は、私もよく覚えている。当時は特に話題になっていたからな……

 

 

 その事件については、4件起こった誘拐事件にそれぞれ共通点があった事から、同一犯による連続誘拐事件である事。現場に残された痕跡から、犯人が複数いる可能性が高い事が判明していたらしい。しかし手掛かりは少なく、犯人達が見つからないまま、数日が経過してしまったのだという。

 

 そんなある日の事。その日の捜査を終えた荒垣君は、帰宅途中に人気のない道を通ったところで見知らぬ女性に声を掛けられ、道を聞かれた。……なんとなく嫌な予感がした荒垣君は、気づかれないように警戒していたそうだ。

 

 その予感は、見事に的中した。

 

 荒垣君は女性に道を教えている最中、女性がやけに会話を長引かせようとしている事に気がついた。……同時に、背後から何者かが忍び寄っている事にも気づく。

 そして、背後から拘束されそうになったが、荒垣君は速やかにその相手を無力化した。相手は男性だった。

 また、その後に逃走しようとした、道を聞いてきた女性も捕らえ、応援を呼んだ。……そしてその2名が、連続誘拐事件の犯人だったのだ。

 

 犯人達はネットの中で知り合いになった後、今回の犯行に及んだのだという。……見目麗しい少年少女を誘拐、そして監禁した後にペットのように扱って楽しむ……これが、動機だったらしい。

  本当なら、犯行についてメディアでも話題になっていたため、4件のみで犯行を止めるつもりだったが……そんな時に女性の好みの容姿の少年……荒垣君を見かけて欲が出てしまい、これで最後にしようと男性を説得し、荒垣君を誘拐しようとした。

 

 

 そんな自供を聞いた荒垣君は……

 

 

『――俺はティーンじゃねぇ!!とっくに20を過ぎてんだよ!つーか、20どころかあと4、5年もすれば三十路になるんだぞ!?』

 

 

 ……と、憤慨していたらしい。

 

 

『……とまぁ、そうゆうわけで事件自体は解決したんだが、しばらくはカズヤの機嫌が悪くてな……』

 

『……そういえば確かに、一時期カズヤの機嫌がとてつもなく悪かった時があったな……』

 

『あー、それが理由だったんだなぁ……』

 

 

 古参の者達が当時を思い出していた時、赤井君が口を開いた。

 

 

『なるほど、そんな事が……しかし惜しかったな――当時俺が和哉さんの誘拐未遂に鉢合わせていたら、そいつら2人を半殺しにしてやったのに……』

 

 

 眼光鋭く虚空を見つめ、そう呟いた赤井君の声音は常よりも低い。……その殺気に、我々は揃って背筋を震わせた。

 

 

『あーっと……そ、そうだシュウ!カズヤがアクション俳優並みの動きで事件の犯人を取り押さえた話があるけど、聞くか?』

 

『聞きたい!』

 

 

 古参のうちの1人の機転によって、赤井君は再び少年のように目を輝かせる。……それを見て、我々は安堵した。

 

 

(……先程の様子から察するに……赤井君は荒垣君を尊敬するどころか、もはや崇拝しているのかもしれない……)

 

 

 荒垣君は、赤井君の心境の変化に気づいているのだろうか?……いや。おそらく気づいていないだろうな。

 

 彼は自己評価が低いせいか、自身に向けられる好意に対しては途端に鈍くなってしまうからなぁ……2人の間にある認識の違いが露呈した時、一体どうなるだろうか……

 

 

(最低でも口喧嘩にはなりそうだな……)

 

 

 ……まぁ、2人なら大丈夫だろう。どちらもいい年の大人だし、2人の間には今まで積み上げてきた信頼関係がある。最悪の事態にはならないはずだ。

 

 そんな事を考えている私を他所に、赤井君と古参の捜査官達は、休憩時間中ずっと荒垣君の事を話し続けた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

~数ヵ月前――SIDE:江戸川コナン~

 

 

 今日は昴さん……否、赤井さんに誘われて、工藤邸に泊まりに来ていた。

 黒の組織についての新しい情報と、日本の公安とFBIの合同捜査が決まった事について話しておきたい。長い話になるだろうから、泊まっていかないか?……というのが、赤井さんが俺を呼んだ理由だった。無論、俺がその誘いを断るはずがなかった。

 

 昼前に工藤邸に来て、それから赤井さんに詳しい話を聞く。……それが終わる頃には、既に夜中となっていた。

 赤井さんが作ってくれた夕飯を食べ終わり、彼が風呂から出てきた後に俺も風呂に入った。そして風呂から出ると……

 

 

「……あぁ、ボウヤ。すまないな。酒臭いだろうが……」

 

「大丈夫だよ!小五郎のおじさんもよくお酒飲むから、慣れてるし」

 

 

 赤井さんがお酒を飲んでいた。ちらっと酒瓶を見ると、バーボンと書かれたラベルが貼られている。

 

 

「バーボン、か……仲直り、できるといいね」

 

「ん?……あぁ、安室君か」

 

 

 誰と、とは言わなかったが、赤井さんには伝わったようだ。

 

 

「ふっ……彼なら、そもそも仲"直り"するほど仲が良かったわけではない、などと言いそうだな」

 

「あぁ……あ、ははは……」

 

 

 あの人なら本当に言いそうだ……と思いながら苦笑いしていると、赤井さんがこう言った。

 

 

「なぁ、ボウヤ……少しだけ、俺の話に付き合ってくれないか?今日は話をしたい気分なんだ」

 

「……珍しいね。いつもなら子供は寝る時間だから、なんて言って部屋に追いやるくせに……」

 

「ホー……それがお望みならすぐにでもそうするが…」

 

「わーい!僕、赤井さんのお話が聞きたいなぁ!!」

 

 

 慌ててそう言って、赤井さんの目の前のソファーに座った。

 

 

「くくっ……そうか。よし、分かった……少し待っていろ。暖かい飲み物を淹れて来る」

 

 

 そう言って席を立ち、しばらくして赤井さんが持って来たのは……

 

 

「ミルクティー……?」

 

「……意外か?」

 

「あ、えーと…………うん」

 

 

 思わず正直に頷いてしまった。……こうゆう時、淹れてくれるのはいつもホットミルクだったしな……それも蜂蜜入りの。

 

 

「赤井さんが僕に紅茶を淹れてくれた事って、今まで無かったんじゃないかな?大体がコーヒーか、寝る前のホットミルクだった気がする……」

 

「そう言われてみれば……そうかもしれない。俺も紅茶は久々に淹れたよ。……以前は、彼のために淹れていたからな……」

 

「彼……?」

 

「――彼は、俺が心の底から尊敬している人で、俺の唯一無二だよ」

 

 

 俺は目を見開いて赤井さんの顔を見た。……赤井さんは、微笑んでいた。あの赤井さんが、穏やかに笑っている……!?

 

 

「あの人と出会ってから、もう少しで10年は経つか?

 

 ――初めて会った時、俺は生意気にもあの人の事を見下していたんだ。日本人で、童顔で、女顔で、身長も俺や他の男連中より低かったからな。そんな奴が俺の教育係だなんて、信じたくなかった。

 だから俺は命令違反はよくやったし、あの人や周囲の人間への態度もかなり悪かったと思う。……まぁ、その分だけやるべき事はこなしていたからか、あまり文句は言われなかったが。

 だからこそ、調子に乗っていたんだろうな……

 

 ある日、俺はミスをした。詳しくは話せないが、下手をすればその作戦に参加した捜査官の全員を危険にさらしてしまうような……そんなミスをしてしまったんだ。しかし、あの人がうまくフォローしてくれたおかげで、なんとか事なきを得た。

 そして、作戦が終了してFBIの本部に戻った先で、あの人は俺を殴り……」

 

 

 ――あの作戦はてめぇが1人で参加したわけじゃねぇ。チームに所属する全員が参加していたんだ。……つまり、てめぇのミスは全員のミスに繋がるんだよ。分かるか?――もしかしたらてめぇのミスのせいで、全員が死んでいたかもしれない!てめぇの行動次第で、他の捜査官達に影響が出る場合もあるという事実を、よーく考えて反省しやがれ!!

 

 

「……と、言ったんだ。だが、それだけではなくてな……」

 

 

 ――しかしだからと言って、俺はてめぇ1人で勝手に死ねと言っているわけじゃない。たとえ生意気でも、てめぇは俺達の期待のルーキーで、大事な仲間の1人なんだ。……お前が死ねば、皆が悲しむ。当然、俺もだ。――だから、もっと周りの人間を頼る事を覚えてくれ。俺は……いつかお前が1人で突っ走って死んでしまうんじゃないかって……心配してるんだよ。

 

 

「……とも、言っていた。……俺がその意味を理解したのは、あの人が作戦の指揮を取っていたジェイムズに、頭を下げるのを見た時だった」

 

 

 ――本当に、すまなかった。今回の一件は、俺の監督の不行き届きが原因だ。チームで行動する際の心得を、もっとしっかりとこいつに教えてやるべきだった。こいつのミスの責任は、俺にある。――罰するなら、それを踏まえた上でこいつだけでなく、俺にもそうしてくれ。ボス。

 

 

「……そう言ったあの人の背中が……とても大きく見えたんだ。

 

 ……結局、ジェイムズは俺に与えた罰よりも重い罰を、あの人に与えた。……その時俺に与えられた罰は、あの人のものよりは確かに軽かったが……俺には、今まで与えられた罰の中でも、一番重く感じられたよ。

 その日から俺は、あの人自身に関心を向けるようになった。……すると、今まで見えなかった部分が見えてきて……あの人が当時の俺よりも、あらゆる意味で優れた捜査官である事を知った。

 スナイパーとしても、近接戦闘員としても……そして推理力も、俺を上回っていて、FBIの中で一番だった。……上層部の人間には嫌われているようだったが……それ以外の捜査官達にはよく慕われているのが、目に見えて分かった。

 その時、思ったんだ。――あの人のような男になりたい、と。

 

 それからは、今までの態度を棚に上げて、あの人に弟子にしてくれと頼み込んだんだ。……もちろん、最初は良い顔をされなかったさ。今までの態度が悪過ぎたからな。それでも、どうしても弟子にして欲しいと何度も頼んだら、あの人はそれに応えてくれた。

 あの人は師匠として、俺に様々な事を教えてくれた。自分のためにも、教えてくれるあの人のためにも、必死に学んだ。

 ……そして気がついた時には、俺はあの人以上の実力を持つようになっていて、いつの間にかFBIのエースなどと呼ばれるようになっていた。……全ては、あの人のおかげだ。……そういえば、その頃からだったかな。あの人が様々な知識や技術を身に付けるようになったのは。

 

 それらは俺にとっては必要だとは思えないものばかりで、何故そんな事をやっているのか疑問に思っていたが……それらが所々で役立っているのを目の当たりにした時、改めてあの人は凄い人だと思ったよ。ますます尊敬した」

 

 

 ……バーボンを飲みながら、珍しく饒舌に話していた赤井さんが、そこでふと、大きなため息をついた。……これも珍しい。

 今日だけで、今までに見たことがない赤井さんをたくさん見ている。

 

 

「そんなあの人は今、日本どころかアメリカにもいない」

 

「えっ?どうして?」

 

「6年前から長期任務でヨーロッパにいるんだ。……任務内容を考えると、彼と頻繁に連絡を取るわけにもいかなくてな。そのせいで6年前から電話もしていないし、直接会う事もできていない。……ましてや、今の俺は死人だからな……」

 

「あ……そ、その……ごめんなさい、僕のせいで…」

 

「何を言う。君が考えた策のおかげで、俺は今でもこうして生きていられるんだ。君のせいではない。恨んでもいないから安心してくれ。……あぁ、それにしても……」

 

 

 すると突然、赤井さんはグラスをテーブルに置いて、座っていたソファーに横倒れになった。

 

 

「え、ちょ、赤井さ…」

 

「――さびしい」

 

「――っ!?」

 

 

 滅多に口にしない言葉を、舌足らずにそう言った赤井さんは、どこか遠くを見つめながら、再び口を開く。

 

 

「……はやく……はやく、かえってきてください……あいたい、です。……ます、たー……――かずや、さ…」

 

 

 …………見てはいけないものを見て、聞いてはいけない事を聞いてしまった気がする……

 "カズヤ"というのが、赤井さんが話していた人の名前なんだろうか。"マスター"とも呼んでいるようだが。

 

 ……それからすぐに、赤井さんはすやすやと眠ってしまった。

 

 

「……どうする?ここだと風邪引いちまうかもしれねーし……」

 

 

 ……仕方ない、起こそう。眠っているところで悪いけど。

 そう思って、赤井さんが眠っているソファーに近づいた時、

 

 

「ん?……う、わ……」

 

 

 そこでようやく、そのソファーの後ろに酒瓶が数本転がっている事に気がついた。……見た感じ10本には届いていないようだが、それにしたって凄い量だ!

 なるほど。赤井さんが珍しく饒舌で、様子がおかしかったのはお酒のせいだったのか。納得した。

 

 

(酔っ払ってしまえば、この人もただの人、か……ちょっと安心したぜ)

 

 

 こっそりとそう安堵しながら、俺は赤井さんの体を揺さぶった。

 

 

「赤井さーん、起きてー!ここだと風邪引いちゃうよーせめてベッドに、って!?」

 

 

 その時、赤井さんが両腕で俺の体を掴んで自分の胸元まで持って行き、そのまま抱き込んで再び眠ってしまった。……えっ?ちょっと、嘘だろ……!?

 

 

「赤井さん!?赤井さーん!?……おいおい……!起きねーぞ、この大人……!!」

 

 

 そうして四苦八苦しているうちに、気がつけば俺も寝てしまっていた。……そして翌日……

 

 

「……ボウヤ、すまない。昨日は何があったんだ?酒瓶が転がっているから酔っ払ってお前を抱き枕にしてしまった、というのは分かるんだが……全く覚えていないんだ」

 

「――赤井さんなんてもう知らない!ジョディ先生に言いつけてやる!!」

 

「なっ!?待ってくれボウヤ!ジョディに知られたら面倒な事になる!」

 

 

 その後、やけに平謝りしてくる赤井さんを見て溜飲が下がったため、許してあげた。……ジョディ先生と何かあったのだろうか?"もう説教じみた喧嘩はこりごりだ"と言っていたが……

 

 とりあえず、昨日見た"見てはいけない赤井さん"については、俺の心の中に閉まっておく事にした。

 それにしても……あの赤井さんをあそこまで心酔させてしまう"カズヤ"さんとは、一体どんな人なんだろうか……

 

 ――まさか、数ヵ月後にその"カズヤ"さんと会う事になるとはつゆ知らず、俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

~現在――SIDE:赤井秀一~

 

 

「……やぁ。全員揃っているかな?」

 

「ジェイムズさん!……うん!全員いるよ。ジェイムズさんと、あなたが呼んだ助っ人の人で最後だよ」

 

「そうか。ありがとう、コナン君。……さぁ、入ってくれ」

 

「――失礼します」

 

 

 その声を聞いた瞬間、まさか、と思った。まさか、あの人がここにいるはずがない、と。しかし……

 

 

(――嗚呼(あぁ)……!!)

 

 

 扉が開く。……姿を現した人物は、間違いなく、和哉さんだった。

 多少髪が伸びているし、ほんの少しだけ顔つきが変わっていたが……俺が和哉さんを見間違えるはずがなかった。

 

 ……しばらくの間、俺は唖然としていた。自分でも間抜け面を晒していた事は自覚している。

 そしてようやく、目の前に和哉さんがいるという現実を受け止められたため、和哉さんに話し掛ける事にした。……今の俺は、今までにないくらい緩んだ表情をしているのだろうな。

 

 

「――和哉さん」

 

 

 それから少し和哉さんと話した後、何故彼が帰って来ている事を教えてくれなかったのか、とジェイムズに詰め寄った。……すると、ジェイムズはこれは俺へのサプライズである、と答えた。……なるほど、それで……これは嬉しいサプライズだな。

 

 ……あぁ、忘れるところだった。

 

 

「和哉さん――お帰りなさい」

 

「――おう。ただいま」

 

 

 ――あなたの帰りを、心待ちにしていました。

 

 

 

 

 

 






・寂し過ぎて死んじゃう病、な忠犬

 和哉さん和哉さん和哉さん和哉さん――さびしいです……
 6年前から年々寂しさが増していき、今では立派なオリ主中毒患者。禁断症状が発生していた最中にオリ主と再会できて脳内お花畑。
 良い子にお留守番していました!褒めて下さい、マスター!!


・旅立った飼い主

 忠犬をアメリカに残してヨーロッパに旅立った。まさか弟子が禁断症状を発生させていたとはいざ知らず、長期任務をこなしていた師匠。日本で再会して大混乱。
 弟子のデフォルトよ!帰って来い!!


・忠犬の元恋人

 オリ主が自分以上に赤井に慕われていたため、軽く(?)嫉妬。小一時間ほど説教…もとい喧嘩した。赤井に対して強気でいける女性は、おそらくこの人しかいない。
 ――よろしい、ならば戦争だ!


・英国産ウイスキー

 赤井の地雷をピンポイントで思いきり踏んだ。冷や汗だらだら。これはやばい……(;・∀・)しかし、なんとか許してもらえた。むしろ謝られて目を白黒させた。
 ライに"貸し"作ってやったぜ!……と思っていたら――


・忠犬と飼い主の上司

 忠犬と飼い主の行く末を心配している。だが、あの2人なら大丈夫だろう、と信用もしている。おそらく忠犬の心境の細かい変化に、一番最初に気づいた。
 さて、これから先この2人はどうなるか見もの…ゴホン、心配だなぁ……


・見た目は子供…以下略

 珍しい赤井の姿を見て、内心ではちょっと喜んでいたが、その後すぐに酔っ払いに絡まれて体力を消耗した。
 赤井さんなんてもう知らない!……というのは嘘。今でもしっかり憧れています!




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【pixiv】他シリーズリンク先

 pixivにて公開中の二次創作小説のリンク先を掲載しておきます!

 念のため、こちらで掲載している話と内容が全く同じですが、pixivで連載している方の「忠犬と飼い主シリーズ~本編~」と「忠犬と飼い主~IF~」のリンク先も掲載します。


1.忠犬と飼い主~本編~

→https://www.pixiv.net/novel/series/1138485

 

 ハーメルンでも公開中!pixivでは緋色の弾丸にオリ主を介入させたIF話も投稿しました。

 

 作者の初投稿から始まった、忠犬と飼い主シリーズの本編です。

 男主に対しては忠犬気質になる赤井さんと、そんな赤井さんに毒されて立派な飼い主になっていく男主のお話。

 

 ついでに、男主の大体の設定。

 

 赤井さんの師匠で、原作の6年前からヨーロッパの長期任務に出ていたが、帰って来て早々、黒の組織壊滅作戦に参加する事に。そこで赤井さんと再会。赤井さんの豹変ぶりに、唖然。

 

 性格は男前。冷静沈着。基本的に落ち着いているが、怒らせたら誰よりも怖い。人たらし。若干へたれ。

 赤井さんと比べれば自分は凡人だと思っている。が、確かに赤井さんには劣るものの、充分ハイスペック人間。

 

 見た目は女顔。脅威レベルの童顔(実年齢は38歳なのに、何故か20代前半~後半だと見られる不思議)。

 目は黒で切れ長。髪も黒で少し長め。身長は180ぐらい。色白。右目の下に泣き黒子。

 

 

2.忠犬と飼い主~IF~

→https://www.pixiv.net/novel/series/1223352

 

 忠犬と飼い主~本編~から派生した、もしもの話。ハーメルンでも公開中!

 

 

・「IF:もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら?」

 

 オリ主が黒の組織のメンバーの兄貴分的立ち位置にいます。名前はシンガニ。

 基本的に本編のオリ主の設定と同じ。ただし、本編のオリ主は"自覚なし"の人たらしだったが、シンガニは"自覚あり"の人たらし。FBIから赤井さんを引き抜けるほどの人たらしスキルを持つ。最終的に赤井さん(ライ)とは依存関係に。

 

 

・「IF:もしもオリ主とルパン三世が過去に出会っていたら?」

 

 ルパン三世が乱入しているクロスオーバー作品。内容は原作や映画には沿っていない、オリジナルのもの。

 オリ主の設定は本編と全く同じ。持ち前の人たらしスキルで、ルパン三世を落とす!!(なお、無自覚です)最終的に、最強の○○が爆★誕します。

 

 

・「もしもオリ主が相棒世界のあの人の関係者だったら?」

 テレビドラマ「相棒」とのクロスオーバー。原作等には沿っていないオリジナル話。オリ主の設定は本編と同じ。オリ主が相棒世界のあの人の○○になっています。

 

 

3.ブックマーク数500突破記念リクエスト

→https://www.pixiv.net/novel/series/1223350

 

 「忠犬、赤井秀一」のブックマーク数が500を突破した際に募集した、リクエスト作品です。

 

 

・「もしもコナンの世界にポケモンが存在していたら?」

 忠犬と飼い主シリーズのオリ主が、あるポケモンと一緒にサボタージュ。そんなオリ主の捜索に出る赤井さん。

 

 

・「もしもオリ主達がポケモン世界に転生したら?」

 赤井さんが、とあるポケモンになって転生!?オリ主の手持ちポケモンに!得意技は「おんがえし(レベルMAX)」

 

 

・「もしもオリ主の視界に○○が見えるようになったら?」

 オリ主だけでなく、ある人物の視界にも○○が現れる……!?オリ主の感情はある人物に筒抜け!

 

 

・「オリ主取り合い戦争」

 赤井さんと降谷さんによる取り合い。一体、第n次戦争となるのか……?降谷さんのキャラ崩壊が激しい!

 

 

・「上書きと、充電」

 もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら?の設定の話。オリ主とライがタキシード装着!?キャンティとコルンもいるよ!

 

 

 リクエストしていただいた読者様に、心から感謝を!

 

 

4.思いつき短編集&リクエスト作品集

→https://www.pixiv.net/novel/series/1231561

 

 忠犬と飼い主シリーズとは関係のない短編が置いてあります。リクエスト作品も置いてます。

 

 

・「シルバーブレッドの休息」

 女主と赤井さんの話。恋愛関係が始まる前。赤井さんのメンタルが……

 

 

・「夢枕に、英国産ウイスキー」

 緋色組とスコッチ(諸伏景光)の話。コナンの夢枕に、ある人物(正体バレバレ)が立つ。

 

 

・「女としての幸せを捨てた私は運命と出会ったその日のうちにキスされて腰砕けにされてお持ち帰りされました」

 「シルバーブレッドの休息」とは別の女主と、赤井さんの話。グイグイ迫る赤井さんと、根負けしてお持ち帰りされた女主。ごめん、姉さん。運命は実在した!!(土下座)by女主

 

 

・「幸せになる事を諦めていた俺は運命に出会ったので、本気で落とすためにその日のうちにお持ち帰りした」

 上の話の赤井さん視点Ver.の話。ちょっとだけ後日談もあり。すまない、同僚。運命は実在したんだな……(高級チョコレートケーキ献上)by赤井秀一

 

 

・「降谷零の上司は、癒し系フツメン。ただし、その中身は――」

 作者にとっては初の腐向け小説。降谷さん×男主。男主によるギャップ萌えの嵐が降谷零を襲う……!?

 

 

・「サンダースお兄さんの昼ドラ的日常」

 サンダースが主人公。ブイズ姉妹ハーレム。一生独身希望!!byサンダース

 

 

・「DC交換日記~秀一お兄様は胃が痛いよ、の巻~」←NEW!

 ダークバッチ組+コナンによる交換日記。キャラ崩壊満載。大体赤井さんがツッコミ役。ただ作者がダークバッチ組というタグを使いたかっただけです( ̄▽ ̄;)

 

 

5.忠犬と飼い主~ネタ~

→https://www.pixiv.net/novel/series/1247715

 

 忠犬と飼い主~本編~から派生した、ネタ話です。あくまでもネタなので、設定が甘かったりします!

 

 

・「○○救済」

 男主の番犬が3頭に増えるよ!やったね、飼い主!(不本意)。俺達がやたら神話に詳しくなったのは、大体が某銀髪詩人幹部のせいだぜ……(遠い目)

 

 

・「○○の裏切り」

 一体どこの詩人が裏切るんだ……?(棒読み)。後に、某銀髪元幹部と忠犬と飼い主による、共同生活が始まる。

 

 

・「オリ主が原作に介入!?」

 組織絶対殺すマン、見★参!そのうち、○○による「突撃★□□□!」が起きる、かも。その他、原作や映画の話にオリ主が乱入します。

 組織壊滅作戦前の話で1度区切りましたが、もしもオリ主と赤井さんに介入してもらいたい原作の話、アニメ、映画などがありましたら、リクエストを頂けるととても嬉しいです!

 

 

・「見た目は子供!頭脳は大人!……な、オリ主」

 もしも、オリ主がAPTX4869を飲まされて幼児化していたら?というネタ。イケショタ誕生!

 

・「見た目は子供!頭脳は大人……な、赤井秀一と降谷零」

 もしも、赤井さんと降谷さんがAPTX4869を飲まされて幼児化し、オリ主に保護されたら?というネタ。

 

 

・「忠犬と飼い主シリーズ~警察犬パロディ~」

 赤井さんが警察犬になったパロディ。赤井さんが犬になってます。擬人化はありません(笑)最終的にオリ主が大好き過ぎて暴走する赤井さん(犬)が登場します。

 

 

・「続・○○が特技な、オリ主」

 忠犬と飼い主シリーズ ネタ2の3ページ目の続き。FBIと公安+コナンが歌って騒いで爆笑して号泣する組織壊滅作戦後の慰労会のお話。オリ主による○○無双!

 

 

・「続・○○な赤井さん」

 忠犬と飼い主シリーズ ネタ2の4ページ目の続き。赤井さん(変態気味)にオリ主が振り回されています。腐向けではありませんので、悪しからず(´・ω・`)

 

 

・「続・最強のスタンド使いの親友」

 忠犬と飼い主シリーズ ネタ3の3ページ目の続き。設定は甘いですが、オリ主と赤井さんのオリジナルスタンドも登場します。

 

 

・「マスタング組の赤井さん」

 忠犬と飼い主シリーズ ネタ4の3ページ目の続き。最悪の再会から始まる話。オリキャラが目立つ。最終的にとある原作キャラ1人を救済します。

 

 

・「スカラビア主従成り代わり」←NEW!

 読者様からのリクエストで始まった、ツイステ世界のスカラビア主従に成り代わったオリ主と赤井さんのシリーズ。たまに更新してます!

 

 

・「レオナさんと仲良しなオリ主」←NEW!

 こちらも読者様からのリクエスト。成り代わりではなく、ツイステ世界に転生して幼馴染みになっているオリ主と赤井さん。

 レオナさんとオリ主が仲良くなった事で、レオナさんとオリ主の取り合いをしている赤井さんがいます。

 

 

 

6.フォロワー数300突破記念リクエスト企画 →https://www.pixiv.net/novel/series/1275682

 

 フォロワー数が300を突破した際に募集した、リクエスト作品集です。

 

 

・「オリ主と赤井さんはスネイプ先生の幼馴染み!?」

 忠犬と飼い主シリーズのオリ主と赤井さんがスネイプ先生の幼馴染みになってます。オリ主と赤井さんのスリザリン入り。グリフィンドールの扱いが悪くなります(´・ω・`)

 秘密の部屋、アズカバンの囚人、謎のプリンス、死の秘宝、エピローグ&後日談、投稿済み。完結しました!

 

 

・「飼い主の手を噛む前と、その後の話」

 忠犬と飼い主シリーズのオリ主が、もしも子供時代に子ジンと出会っていたら?「続・○○の裏切り」設定と、忠犬と飼い主~本編~の設定が混ざっています。

 

 

・「雄英のカウンセラーになったオリ主と、フリーのヒーローになった赤井さん」

 ヒロアカとのクロスオーバー。忠犬と飼い主シリーズのオリ主と赤井さんがヒロアカの原作に少しだけ介入しています。オリ主は相澤先生とプレゼント・マイクの同期で、赤井さんはその後輩。

 

 

・「エーフィお姉さんは流される」

 エーフィ(♀)が主人公の、ブイズ兄弟による逆ハーレム。ニンフィア(♀)のレズ要素あり。サブタイトルはラスボス降★臨。

 

 

・「現実から逃げ出したいヒノアラシ君」

 ヒノアラシ(♂)が主人公の、総受け話。腐向け。5体の♂によるヒノアラシ争奪戦バトルロワイヤルがはじまる……!?

 

 

・「忠犬と飼い主~警察犬パロディ~ 2」

 前回の続き。最初ほのぼの。最近のシェパードは分身の術が使えるのか!?←オリ主の渾身のボケ。後にシリアス。オリ主と赤井さん(犬)のメンタルが……(´;ω;`)特にオリ主がSAN値ピンチ!

 

 

・「忠犬と飼い主~警察犬パロディ~おまけ」

 警察犬パロ2のおまけ。赤井さんの立ち位置になったオリ主の話。赤井さんは出てきません。オリ主が目立ちます。

 

 

・「純黒の彼女は純白に染まる」

 映画、純黒の悪夢のキュラソーが主人公。オリ主は出てきません。キュラソーが幼児化して少年探偵団に仲間入りする話。少年探偵団専属最強セコムが誕生する……!?

 

 

・「分離しましたが、何か?by赤井秀一」

 忠犬と飼い主シリーズの赤井さんが、赤井秀一、ライ、沖矢昴の3人に分離。オリ主の夢落ち設定。夢の中だから、とオリ主が開き直っていろいろ暴露しちゃいます。

 

 

・「ヤンデレスナイパーによる囲い込み計画」

 ヤンデレ赤井さんと女主の話。外堀を確実に埋めてからチョロインを捕まえるという簡単なお仕事。女主と結婚した後も監禁道具を隠し持っているヤンデレスナイパーさんがいます。

 

 

・「前世の最推しを幸せにするために――」

 転生女主と赤井さんの話。赤井さんの幸せのために身を引いて姿を消した女主を、赤井さんが探し当てて口説き落とす。スコッチと明美さんがあっさり救済されています。

 

 

・「性別は女。心は男。体は――その両方」

 女性だが男性にもなれるという特殊能力持ちの女主と、赤井さんの話。心も体も男寄りだった女主が、赤井さんに口説かれて心も体も本来の性別に戻っていく。

 

 

 

7.ブックマーク数800突破記念質問コーナー→https://www.pixiv.net/novel/series/1334942

 

 「忠犬、赤井秀一」のブックマーク数800突破を記念した質問コーナー。読者様からの質問の募集期間は無期限です。皆様からの質問をお待ちしております!詳しくは、シリーズ内にある説明文の中で。

 

 

・「忠犬と飼い主シリーズ~オリ主と赤井さんに50の質問!~」

 タイトル通りのコーナーです。忠犬と飼い主シリーズのネタバレ、メタ発言、腐向けと思われる発言あり。(ただし、作者が好むのはブロマンス。完全な腐向けではありません)

 

 

 

8.忠犬と飼い主の非日常→https://www.pixiv.net/novel/series/1352857

 

 忠犬と飼い主~本編~の続編ですが、初見の方でも読める内容になっています!

 赤井さんと男主中心の非日常。黒の組織壊滅後、FBIが日本からアメリカに帰国した後のオリジナル話。

 

 pixivのみでマイピク限定の小説を3話公開しています。R15(R17?)の小説が前編後編で2つ。R18の小説が1つ。詳しくはこちら!←NEW!

→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14886929

 

 

 

9.忠犬と飼い主~鋼錬パロ~→https://www.pixiv.net/novel/series/1547295

 

 忠犬と飼い主シリーズのオリ主と赤井さんの鋼錬パロディ。オリ主が鋼錬世界のホークアイ中尉、赤井さんがマスタング大佐のポジション。

 原作のホークアイ中尉とマスタング大佐が登場しない事を除いて、登場人物と世界観は変わりません。救済無し。ネタバレ注意!!

 

 

 

 

 

 

 ……現在投稿中のシリーズは、以上です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 以上で忠犬と飼い主~本編~の、ハーメルンへの連続投稿を終了し、完結扱いとします!

 ここまで閲覧していただき、本当にありがとうございました!!



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