やはり俺がアイドル達に救われるのはまちがっていない。 (ゆっくりblue1)
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一つの転換期

第1話です。デレステは未プレイなので至らない点があると思いますが、暖かく見守ってくれたら幸いです。デレステ小説見たら書きたくなったので書いてみました。


「貴方のやり方、嫌いだわ」

 

 

「もっと人の気持ち考えてよ!」

 

 

二つの言葉が俺の頭の中に反芻する。なあ、俺が間違ってんのか・・・・?

 

 

総武高校の修学旅行1週間前で俺たち奉仕部は依頼を受けた。3つの依頼を。あるグループの男子が、『絶対振られない告白の支援』の依頼をしてきた。俺こと比企谷八幡と奉仕部部長の雪ノ下雪乃は不得手な類のものだったため断ろうとした。

 

 

「ええ~、いいじゃん!受けようよ~ゆきのん」

 

 

しかし、もう1人の部員であり、そのグループの仲間である由比ヶ浜結衣が雪ノ下雪乃を説得し、俺は半ば強制的に依頼を手伝わされることになった。そして2つ目はその依頼者の告白相手からの依頼で『グループの現状が好きだから、告白の阻止をしてほしい』というものだった。しかし、俺以外の2人は遠回しな言い回しの依頼に気づかなかった。もっとも、俺も直前までわからなかったが。

 

 

そして3つ目の依頼はそのグループリーダーの依頼で2つ目の依頼と同じものだった。告白に前日に依頼された。

 

 

二律背反するこの依頼の中、俺が取れる手段は1つだった。このグループの関係にも価値のあるものがあったから・・・否、そう信じたかったのだろう。そして俺は告白の瞬間に行った。依頼を解消するために。

 

 

『嘘告白』・・・それが俺の取れた唯一の手段。それによって告白の延期、尚且つグループの波風を荒立てず、奉仕部の依頼失敗時における間接的被害を防げる俺の考え付いた中での最善の一手を。

 

 

しかし、現実は非常で、俺は人生の中で最も信頼に置けるであろう2人に拒絶された。俺がどんな思いでこの依頼を解消したかを1度も聞かずに。

 

 

「済まない・・・君がこのやり方しかできないと知っていたのに・・・・』

 

 

そしてグループのリーダーの葉山隼人から何もこもっていない謝罪を受け、俺は告白場所の嵐山の竹林の中を1人佇んだ。

 

 

そして修学旅行から帰った俺を待っていたのは、地獄だった。俺が行った嘘告白の噂がグル-プの仲間から蔓延し、俺の味方は戸塚と材木座と川崎、そして平塚先生しかいなくなった。悪意ある視線、学校での俺の座席は切り刻まれ、トイレでは水をかけられ、下駄箱はゴミ箱に変貌し、上履きはボロボロ。終いには待ち伏せされた先でリンチされ、金を奪い取られる。そしてそれは日々エスカレートして行き、ついにカッターやライターなどの攻撃を受けるようになった。当のグループは噂を止めようともせず、いつも通り過ごしている。ただ、2つ目の依頼した依頼者である海老名さんは申し訳なさそうにこちらを見ていたが。止めもしない、真相も話そうともしないくせにそんな目で見てんじゃねえよ。

 

 

そして最後の望みにかけて事の真相を話そうと俺は奉仕部に行った。そして入り口の扉に手をかけようとしたその瞬間、中にいる2人の会話が耳に入った。

 

 

「ヒッキー、今日は来るのかな・・・」

 

 

「来なくていいわあんな男。少しは反省すべきよ」

 

 

「そうだね!私達の気持ちを考えずにこんなことをしたんだからじごうじごく?だよねっ」

 

 

それを聞いた瞬間俺の中にあった何かが砕け散った気がした。俺は弾かれるようにしてその場を離れた。この日をもって俺が奉仕部に行くことはなくなった。

 

 

先生に相談すればもっと恨みを買うことになると思い、我慢していた。その日も精神も肉体もズタボロな中で、家に帰ると妹の小町が待っていた。更なる地獄が待っていると知らずに。

 

 

「ごみいちゃん!雪乃さんや結衣さんに聞いたよ依頼のこと!!2人に謝ってきてっ!!」

 

 

俺は依頼の真相を話そうとした。しかし、聞く耳を持ってくれずに言い合いになって我慢の限界に達し、つい叩いてしまった。そして俺は小町に家を追い出された。鍵を閉められたため、家には入れなくなったため、おれはとぼとぼと近くの公園に歩いてベンチにへたり込むように座る。

 

 

「何で俺が全部悪いことになってんだよ・・・・っ」

 

 

俺のやり方が嫌いなら何で俺に任せるなんて言ったんだよ、雪ノ下。人の気持ちを考えろ?後先考えずに自分の考えを押し付けるお前には死んでも言われたくねえよ、由比ヶ浜。

 

 

もう俺は何も起こす気も起きず、目の前の光景の色彩がなくなり、モノクロになった。

 

 

せめて、遠くのどこかで誰にも知られず、ひっそり死ぬかな・・・・・そのほうが落ち着くし、それにもう、疲れた。そして俺は公園を離れて町はずれに向かって歩き始めた。

 

 

そして町はずれに向かうためにいくつかの交差点を渡っていく。そして交差点で信号に捕まり、しばらくして青になった。渡ろうとした時、視界の端からスピ-ドの緩む気配がしないトラックが映った。そのトラックの先には1人の女性。

 

 

せめて、胸を張れることをして死のう。そんな思いとともに咄嗟に体が動き、車線上にいた女性を突き飛ばして車線上から外す。残ったのは俺だけだ。そんな突然の状況に突き飛ばされた女性は驚き、そして一瞬だけ俺との視線が交差した。

 

 

ああ、こんな俺でも助けられたんだな・・・・・思わず頬が緩んだ。

 

 

そのままスピ-ドを緩めず、突っ込んでくるトラック。こんな時って走馬灯見るらしいけど、全然現れなかった。未練がねえのか俺は。しかし、思考は動いていて。俺は残された味方をしてくれた人達と世話になった人達に思い馳せた。

 

 

戸塚、俺が死んでも元気な笑顔でいてくれよ。癒されるから。材木座、ちゃんと自分だけの小説を書けよ。お前の気持ちは本物だから。川崎、ちゃんと下の面倒見ろよ。家族思いの優しいお前ならできると思うし。平塚先生、良い人見つけて結婚してくださいよ。俺じゃもう無理だから。雪ノ下さん、本当の自分を見てくれる人、見つけてくださいよ。母ちゃんに親父、小町をちゃんと見守ってあげてくれよ。そしてこんな俺を生んで育ててくれてありがとう。後、親父はしっかり小町離れしてくれよ。

 

 

そして来るであろう衝撃に逆らわず・・・・・

 

 

ドゴオッ!!

 

 

引き飛ばされた俺は吹き飛んで地面に転がった。向かい車線のほうから運良く車は来なかったため再度引かれることはなかった。流石に2度もこの痛みを味わいたくはねえな・・・・ハハッ。どくどくと広がる自分の血に左手を持っていく。俺の血はちゃんと紅かった。目が濁っててゾンビ扱いされていてもちゃんと。

 

 

「眠・・・い・・・・は、やく寝・・・か・・せて・・・くれ・・・よ・・・」

 

 

徐々に五感はシャットダウンしていき、騒ぐ音も光景も聞こえなくなってきた。影が映ったが視界がぼやけ何を言っているのかも聞き取れない。

 

 

最後に・・・・来世があって生まれ・・・変われる・・・・なら・・・・しあ・・・わせ・・・・・に・・・・・

 

 

そこで俺の意識は切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い・・・・何だ・・・・?不思議な感覚に身を任せていると暗い空間が急に光り出した。

 

 

そして意識が浮上し、目を開いた。白い天井が真っ先に視界に入った。

 

 

「・・・なんで生きて・・・・」

 

 

知らない天井だ。とか言ってふざけられるほどの余裕は今の自分にはない。おそらく病院だろう。そして俺は一命を取り留めた。しかし、生きていると分かった嬉しさはなく、あるのはただの悲しみだけだった。

 

 

そしてふと何かに左手が包まれているようなぬくもりを感じたため、恐る恐る左側に顔を向けた。そこにはセミロングのアッシュ色の髪をした女性が俺の手を握って椅子に座りながら眠っていた。何このちょー美人さんは。気になったので覗き込むと目を開いて視線が合った。

 

 

「・・・・・」

 

 

「・・・・・」

 

 

言葉が出ない。その人は茫然と俺を見ていて固まっている。俺も気づいたことがあった。この人は・・・・・そして我に帰ったのか慌てて聞いてきた。

 

 

「起きたんですか・・・?」

 

 

「え、あ、はい・・・」

 

 

俺もテンパって返事を返した。だってこんな美女が近くにいるんだし、噛まないだけまだマシな方だ。すると急にその美女が抱きしめてきた。ええええええっ!!?

 

 

「え、あのt「良かった・・・!」・・・え?」

 

 

「生きててくれて、良かった・・・!」

 

 

そのまま泣き出してしまい、俺はどうすることも出来ずにただじっとしていた。こんな泣いてる女性を無理やり引きはがすなんてできないし。

 

 

そしてしばらくして泣き止み、抱擁を解く。女性の顔は成熟したリンゴのように赤らんでいたが、やがてそれも落ち着くとゆっくり俺に向かって言った。

 

 

「あの、轢かれそうになっていた私を助けてくださってありがとうございました」

 

 

お辞儀をしてそう言ってきたのでこっちも慌てて首を横に振って言った。

 

 

「い、いえ、咄嗟に体が動いただけです。頭を上げてください」

 

 

俺が頭を上げさせるよう言うと、女性は納得いっていない感じだが次の話題へ移る。

 

 

「貴方の名前を聞いてもいいですか?」

 

 

「は、はい。比企谷八幡でしゅ」

 

 

やっべー、噛んじまったよ。思わず心中で悶えていると、女性は俺の様子を見てクスリと笑った。

 

 

「ふ、ふふ、ああ、すみません。笑ってしまって。私の名前は高垣楓と言います。よろしくお願いしますね比企谷君」

 

 

!やっぱり・・・この人が、あの・・・・俺が考えていると、高垣さんが覗き込んできた。うおっ!?近い近い近い!!

 

 

「大丈夫ですか?比企谷君」

 

 

「は、はい、大丈夫です。高垣さんってあの・・・・」

 

 

「はい、たぶん比企谷君の考えている通り、346プロダクションに所属しているアイドルで活動しています。知名度は低いかもしれませんが」

 

 

高垣さんはそう言うと、俺を心配そうに見て言った。

 

 

「とりあえずナースコールを押しましょう。比企谷君、どこか痛みますか?」

 

 

「・・・・全身が痛いですね」

 

 

そしてナースコールで医者と看護師さんとおそらく高垣さんのマネージャーらしき人がとんできた。

 

 

「この度は高垣楓さんの命を救っていただいてありがとうございました、比企谷八幡さん」

 

 

そう頭を腰まで折った体勢できれいにお辞儀してきたマネージャーさん。この人は良い人なのだろうな。

 

 

「い、いえいえ、体が勝手に動いただけで、助けられて良かったです」

 

 

「入院費や治療費はこっちが受け持ちますのでよろしくお願いします」

 

 

マネージャーさんとの話をいったん終えたのを見計らって医者の人が話し始める。

 

 

「それで比企谷君、君に集中治療を施す前に体を見させてもらったが、体に数え切れないほどの痣と切り傷があったのだが、君は虐待やいじめにあっているのかな?」

 

 

その言葉を聞いて高垣さんとマネージャーさんが驚いてこっちを見る。体が震えるが何とか我慢して声を絞り出すようにして答える。

 

 

「・・・・はい。虐待ではありませんが、学校でいじめにあってます。先生に相談しようとして、下手に刺激してしまったらと思うと中々相談できず・・・・」

 

 

教育委員会とかや児童相談所にも相談しようにも余裕がなかった。

 

 

「ふむ、ご両親にも相談していないと判断させてもらうが、何故ここまでの事になったのか説明できるかい?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

俺は俯き、拳を握る。怖い、この人たちにも悪意を向けられるんじゃないかと思ってしまう。そんなことになれば今度こそ俺は・・・・・

 

 

俺の震える手に高垣さんの手が添えられる。俺は驚いて顔を向けると高垣さんは優しい瞳と声を俺に向けて幼子をあやす様に言った。

 

 

「大丈夫です比企谷君。私たちは貴方にどんな事情があったとしても見捨てません。言える範囲でいいですから話してください」

 

 

「・・・・・・わかりました」

 

 

高垣さんとこの人達を信じて俺は学校での出来事を話した。この1年間であったことを全て。

 

 

誰も口を挟まず、真剣に聴いてくれた。高垣さんは涙を流して俺を抱きしめて、マネージャーさんは話の内容の相手に向けて怒っていて、医者の人や看護師さんも同様だった。

 

 

「比企谷君、頑張ったわね。とっても」

 

 

「俺はッ・・・・俺は頑張ったんだッ・・・・けど誰も信じてくれなかった、そんな俺は生きている価値があるのかってッ・・・・!」

 

 

「大丈夫・・・!比企谷君が生きても、もう誰も責めたりしないからッ・・・いじめたりしないから」

 

 

「っあ、う、うああああああ・・・・・・!!!」

 

 

俺はそのまま今まで抱えていたものを吐き出して、泣きじゃくった。みっともないくらい。

 

 

つながりが欲しかった。上辺なんかじゃない。深い関係が、お互いを理解あって支えあう理想の願いを。その願いは打ち砕かれた。非常にも・・・・

 

 

ーーーーそれでも、こんな今の、酷く、薄汚く、欺瞞にまみれた俺を包んでくれた。だから・・・・・

 

 

「間違ってなかったッ・・・・!!」

 

 

もう一度だけ信じてみよう、この人を。高垣楓という人を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは1人の少年がアイドル達に救われる話。その小さな1幕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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新たな生活の方針

第2話です。今回もお楽しみいただけたら幸いです。この作品で小町はアンチにしません。奉仕部と葉山はアンチ対象ですが・・・・・


「おい、ヒキタニ!」

 

 

腹を殴られる。痛い・・・・そんな俺を見たやつは嘲るように嗤う。そしてその後ろから。

 

 

「お前があいつと付き合えるわけないだろっ!!」

 

 

背中を思いきり蹴られた。痛え・・・俺が一体お前らに何したってんだよ。蹴られた衝撃で地面に転がる。周りの大勢の奴が俺を見下ろす。

 

 

「まじあいつさいてー」

 

 

「何、人の告白を邪魔してんの?」

 

 

「お前、屑だな!」

 

 

そこから蔓延する罵詈雑言の嵐。俺はその視線と声から逃げるように耳を手で抑え、目を瞑る。しかし、それでも手を通して、瞼越しに鮮明に鮮烈に聞こえ、見える。

 

 

『お前って生きてる価値あんのかよ』

 

 

やめろ・・・・・

 

 

『ねえよ。文化祭でも最低なことした奴なんだぜ?他にもいろんな奴を泣かせてきたんだろ』

 

 

ヤメろ・・・・・やめてくれ・・・・

 

 

『マジかよ・・・・もう死ねよ、お前』

 

 

やめろ・・・・・本当に止めてくれ。しかしそんな願いは通じるわけはなく、その言葉は水の波紋のように伝染する。死ね、と誰かが言った。死ね、とまた誰かが言った。死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「止めてくれええええええええええええーーーーーっ!!!!」

 

 

そう叫んだ瞬間その声が止み、蹲っていた俺の前に1人の男が現れた。俺は見上げると、そこには冷たく嗤う『俺自身』がいた。そしてその表情を崩さないまま俺に問いかける。まるで子供が両親に玩具を貰った時の様なうれしそうな声で。

 

 

『お前はこれで満足か?自分のその欲求を、自分自身を切ってまでその()()()とやらが守れて嬉しかったか?』

 

 

黙れ・・・・俺はそんなつもりで今までやってきたわけじゃない。

 

 

『嘘つけよ。出来損ないのお前(オレ)がその歪んだ方法であいつらを助けたって守れたって思えたんだろ?そこにしか縋れないから』

 

 

うるせえ・・・・この方法しか思いつかなかったし、俺はその結果に満足してるんだよ。

 

 

『そうだよなぁ。お前はそう思うしかないもんなあ?何故ならあいつらにどんなに失望されても、拒絶されても自分の気持ちを抑え込めるのは目の前(現実)から目を逸らして自分(理想)に酔うしかないもんなあ』

 

 

違う・・・・俺は俺自身が作り出した状況に酔ってなんかいない。失望されようが拒絶されようが、俺は目の前から目を逸らしてなんか・・・・・すると、『俺』の嬉しそうな表情は憎悪に歪んだような表情になった。

 

 

『いい加減現実を見ろよ。お前という人間はどんなに頑張っても自分に酔えないんだから。本当は分かってんだろ?』

 

 

分かってるって何だよ。現実なんかいくらでもお前なんかに言われずとも見てきてんだよ。

 

 

『じゃあ・・・・何でそんな残念がってる?何を欲しがっているんだ?』

 

 

残念?欲しがる?別に俺は何かを望んで何かーーーーー

 

 

『お前が生まれて幼稚園、小学校、中学校の()()()から芽生えだして、あいつらと出会って今に至るまでずぅーっと持ち続けた想い、いや、願いか?・・・・いや我儘か』

 

 

言うな・・・止めろ・・・・・お前がソレを語るな。目の前の俺はそんな俺を見て嘲うかのようにクッ、クッと楽しそうに嗤って言い放つ。

 

 

『本物だったな。ククッ、そんなお伽話のような想いを抱いてあいつらと接してきたのかよ。だったら見せてやるよ、お前のその想いのなれの果てを』

 

 

 

俺の前からどいて、俺が視界に移している前から2人の女の子が歩いてきた。止めろやめろヤメロやめろ・・・・・・そして口を開いて言った。

 

 

「貴方のやり方、嫌いだわ」

 

 

「もっと人の気持ち考えてよ!」

 

 

その言葉を聞いた瞬間俺の中の何かが砕け散った。どす黒い何かに覆われ、吐き出すように叫んだ。

 

 

「うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

私は千葉にある総合病院にいた。病室には1人の少年が寝かされている。私の命の恩人である人が苦しそうな表情で魘されている。

 

 

「ぅう・・・やめてくれ・・・・」

 

 

そんな苦しそうな彼を癒すために手を握る。しかし、彼の表情は一向に良くなる気配がない。

 

 

「何がアイドルよ・・・」

 

 

自分の命を救ってくれた彼が苦しんでいることに、そしてそれを何とかできない自分に堪らなく嫌気がさす。私はいろんな人を笑顔にしたくてアイドルになったのに、本当に笑ってほしい人を笑顔に出来なくてどうするのか。

 

 

無力の自分が憎くて憎くて仕方がない。思わず涙が零れそうになる。そこでハッとなる。彼が苦しんでいるのに支えるべき私が弱気になってどうする。そんな自分を叩き直して、私は彼の手を包み込むように優しく握って願った。

 

 

「苦しまないで・・・独りじゃないよ。私が支えるから一人で泣かないで・・・・」

 

 

すると彼は呻く様に言った。道を彷徨った子供が出口を見つけたような安堵が滲み出る声で。

 

 

「あり・・・がとう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は目覚めた。高垣さんがまた目の前にいたことに驚いてあわあわしてしまったが、そんな俺を見ても優しく落ち着かせてくれる。そんな紆余曲折があったが、主治医の人が俺の容態を伝えた。肋骨3本を骨折、内臓が少し損傷していたらしく、結構な重体だったみたいだが緊急手術を施した今は回復したという。幸い神経や脳には傷はなく、障害は出てないと言われた。

 

 

高垣さんを交えて主治医の人に脳に異常がないか、一応の確かめとしていくつかの質疑応答をされていたところ、急に病室の扉が開いた。

 

 

「「八幡!」」

 

 

そこから入ってきたのは親父と母ちゃんだった。2人とも心底心配そうな表情をしているので予想外の反応に俺は驚いた。

 

 

「そ、そんな焦ってどうしたんだよ2人とも」

 

 

「焦るに決まってるわよ!昨日まで元気だったあんたが、意識不明の重体になるほどのけがを負ったって病院から電話があったんだから!」

 

 

「当たり前だろ。お前の親なんだから」

 

 

いやでも前はそこまで心配そうにしてなかったし、見舞いにも来なかった。来てくれたのは小町だけだったしな。

 

 

戸惑っていると主治医の人が両親に俺の容態を2人に説明した。そして高垣さんが経緯について説明すると母ちゃんは俺を抱きしめ、親父は優しく俺の頭を撫でてくれた。

 

 

「そう、あんたは偉いわね。優しい子よ」

 

 

「よく頑張ったな、お前は俺たちの誇りだ」

 

 

何故か涙が止まらない。そのまま俺は今まで思っていたことをぶつけた。

 

 

「何で、何で今まで俺をほったらかしにしてたんだ・・・・?」

 

 

言うと2人は申し訳なさそうな顔で言った。

 

 

「そうね・・・まずごめんね、八幡。確かに今まであんたを蔑ろにしていたわ。でもあんたを愛していなかったわけじゃなかったの。小町が生まれて、育てているとあんたの様子が急変してそっけなくなったのよ。生活も私たちの手をかけずに自分でやり始めた。その時に旅行も行く気をなくしていたし、どう接したらいいか分からなかった私達は小町を優先してしまったの」

 

 

「そうだな・・・俺たちは小町と仕事を優先したあまりにお前と向き合ってこれなかった。本当に済まなかった八幡、俺達は親として失格だ」

 

 

謝ってくる2人を見て、俺は更に涙が零れ出る。蔑ろにされたわけではなく、俺自身が選択していたのか・・・・・

 

 

「っう、うう」

 

 

本当は愛されてたんだな・・・・俺。そして両親を抱きしめながらまた泣いた。

 

 

「・・・良かった、本当に良かったね。比企谷君」

 

 

その様子を高垣さんは嬉しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

そして暫くして落ち着くと、今度は小町が入ってきた。俺を見るや否やかけてきて飛び込んできた。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

俺は抱きしめると、小町は泣きながら謝ってきた。

 

 

「ごめんなさいお兄ちゃん!小町がちゃんと話を聞いてればこんなことにはならなかったのに・・・ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

 

「良いんだ、小町。誰でも冷静じゃないことだってあるんだからな・・・・それに喧嘩したおかげ、おかげって言うのもなんだが高垣さんを助けられたしな。それにまた小町と仲直りして話せるんだから俺はそれだけで十分だよ・・・・今度から俺の話もちゃんと聞いてくれればそれで良い」

 

 

そう言うと更に小町が泣いてしまったので頭を撫で、落ち着かせる。

 

 

小町も落ち着いて話に参加した。落ち着いた状態で高垣さんを見て仰天していたが小町は高垣さんのファンのようだった。そしてある程度話が進んで、今後の俺の生活についての話になった。すると親父が真剣そうに話し始める。

 

 

「・・・八幡、転校するか?」

 

 

その言葉に俺は沈黙で返す。すると小町と母ちゃんが言った。

 

 

「お兄ちゃん、そうしよう?今のあの学校はお兄ちゃんにとって危険すぎるよ」

 

 

「八幡、あんたの今の状態は良くない。本当の気持ちを言ってごらん?」

 

 

俺が学校でいじめを受けていること知った3人は驚いて、小町は泣いて、両親は物凄く怒っていた。その後小町も怒って2人よりも怖かった。眼の光が消えてたもんなあ・・・

 

 

「正直に言えば転校したいけど、総武と同じレベルの所はあるのか・・・?」

 

 

総武より下のレベルだと大学が行きにくくなる。楽するために指定校推薦狙ってた俺にとっては結構この問題は重要だ。

 

 

「同じレベル位ってなると海浜高校ぐらいしかないが、あそこは設備が良くても評判があんまり良くないって聞いたことあるからなぁ」

 

 

家族全員で首を捻っていると、恐る恐る高垣さんが言った。

 

 

「でしたら、○○高校はどうですか?あそこなら総武高校と同じレベルの筈ですから」

 

 

一瞬その意見を採用しかけたが、ここで新たな問題が浮上する。親父が悩ましげに唸って言う。

 

 

「あの高校だと今度はうちの家からの距離がなぁ・・・・・」

 

 

そうあそこの高校は結構遠く、車を結構な速さで飛ばしても2時間弱はかかる。そして難色を示された高垣さんはポツリと呟いた。

 

 

「そう思えばあの高校、うちのマンションから近かっただけだったわね・・・・・」

 

 

するとこの言葉に小町がピクリと反応して何やら暫く考えていたが、何か思いついたようで口を開いた。しかし、今この瞬間、あんなことを小町が言い出すとは俺は思わなかった。

 

 

「だったらお兄ちゃんが楓さんの所で一緒に住んだらいいんじゃない?」

 

 

・・・・・・はっ?

 

 

思わずその言葉に俺の時間が止まった。揶揄じゃなくて本当に。そして次の瞬間。

 

 

「はあああああああ!!?」

 

 

思わず叫んでしまった俺はまったく悪くないだろう。そんな案を提示されたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ここから彼、比企谷八幡の物語が始まることをまだ彼自身は知る由もなかった。



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八幡「どうky楓「同棲です♡」・・・」

大変更新が遅れて申し訳ありませんでしたあああああああ!!第3話です!今回はくそ長いです。あの名言を使って表現しきれているかわかりませんが、今回もお楽しみいただけたら幸いです。


後、コロナウイルスが流行していますので手洗いやうがいなど、体調に気を付けながらお過ごしください。


あれから数日の時間が経った。高垣さんは毎日病院に来てくれている。アイドルや最近始めたというモデルの仕事は良いのかと聞くと、あの事件でドタバタしていて会見の準備が済むまでは休業するそうだ。

 

 

マネージャーではなくアイドルプロデューサーの人もこのことは了承していて、周りの関係者、スタッフや同僚のアイドル達にとても心配させてしまったと苦笑しながら高垣さんは語っていた。まあ、日本屈指のトップアイドルで最近ではパリコレなどの世界の有名所からもオファーが来るような人だ。心配されるだろう。

 

 

そんなこんなで仕事が今のところはないため、俺がいる病室に来てくれては話し相手などになってくれている。話す内容は仕事の話から、世間話、趣味の話などいろいろだ。特に趣味の話などで盛り上がる。高垣さんは酒好きでよく同世代のアイドルや仕事の関係者と飲みに行くらしい。それに対して俺の話は意外や意外、ライトノベルの話が中心だった。その手の話題に興味があるらしく、聞いてみたかったんだそうだ。

 

 

今日も1日小町の持ってきてくれたラノベを読んでいるとコンコンコン、とノック音がなった。そして俺はどうぞと言うと、病室の扉が開いた。

 

 

「こんにちは、比企谷君」

 

 

「ええ、こんにちはです。高垣さん」

 

 

挨拶をして微笑みながら病室に入ってきた高垣さんに俺も慣れてきたのかテンパることはなく挨拶を返す。最初は本当に噛み噛みだったから大きな進歩だと思う。そんな自分自身を感慨深く振り返っていると、高垣さんはベッドのすぐ隣に椅子を置いて棚に荷物を置く。そしてどこかのコンビニで買ってきたお菓子を取り出した。

 

 

「クッキー買ってきましたけど、食べますか?」

 

 

「・・・・・じゃあ、頂きます」

 

 

俺はクッキーを受け取って袋を開けて食べ始める。そんな俺の様子を高垣さんは楽しそうに見つめてきた。何か滅茶苦茶むず痒いんだが・・・・・そして俺が食べ終えたのを見て話しを始める。

 

 

「比企谷君、足や体の調子はどうですか?」

 

 

「順調にリハビリで回復してきてますよ。医者の人にも後半月位で退院出来るって言ってくれてますから」

 

 

高垣さんは最初に体の調子について必ず聞いてくれる。定例の報告のように俺を気遣ってくれる。それは大変ありがたいことだし嬉しい。が・・・・・

 

 

「あの、少し離れてほしいんですけど・・・・・」

 

 

思った以上に距離を詰めてくるものだから緊張して仕方がない。アイドルだから身だしなみは当然としてとてつもなく美人でスタイルも良いので毎回ドキドキしていて精神が持ちそうにない。香水もつけているのだろうか、少し甘い柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

そんな俺の言葉を聞いて我に返ったのか慌てて顔を赤らめて体を引いて距離を開けた。ふう、俺の心の安寧(ATフィールド)をこの人はいとも容易く打ち破ってくるから恐ろしい。人間は一定の『精神的距離感(パーソナルスペース)』でどのような人間かを区別して一定の許容範囲を図って接する。他人ならここまで、知り合いならここまで、という感じで。これは人間心理の無意識な行動なので必然的に行うことなのだそうだ。高垣さんの職業柄アイドルに対してファンが出来るのはそういうコントロールが上手いのもあるだろう。

 

 

「す、すいません。嫌でしたよね」

 

 

シュンと落ち込んだような様子を見せる高垣さん。俺は慌てて言った。

 

 

「い、いえ、嫌というわけではなくて少し緊張してしまうので・・・・・」

 

 

俺の目を見つめて距離を詰めてくる人なんて小町くらいしかいなかったし、逆にこっちが距離を詰めたら悲鳴とか通報が返ってきたからな。慣れないことの上にこんな美人なアイドルが距離を詰めてきたらこっちがキョドって逆に気持ち悪がられる」

 

 

俺は息を整えながらそう思って高垣さんを見ると、何故か顔を赤らめていた。何かあったのか?

 

 

「・・・そ、その、比企谷君。・・・・声に出てますよ」

 

 

「え、やっ・・・・マジですか?」

 

 

声が漏れていると言われた為、思わず焦りながら聞くと、高垣さんは赤みがかった頬を更にリンゴのように真っ赤になって頷いた。・・・・・・・・・う、うあああああああああぁぁぁぁぁっ!?何言ってんの俺!?バーカバーカ!!こんなの完全に痛い奴じゃねえかよぉ・・・・・俺なんかに美人って言われても嬉しくなる筈がない。ぐおおおおぉぉぉ・・・死にてぇよおぉ。

 

 

思わず心内で悶えながらも何とか怒っているであろう高垣さんに謝る。ここで嫌われたりなんかしたらファンにぬッ殺されること確定だからな。マジで通報されたりなんかされたら人生詰む。

 

 

「す、すいません!変な事を口走ってしまって・・・・通報だけはどうかご勘弁を」

 

 

土下座する勢いで頭を下げる。そしてどんな言葉が返ってくるのかと戦々恐々と待っていると。

 

 

「あ、頭を上げてください比企谷君。別に不快に思ってるわけではないですから!・・・・比企谷君なら嬉しいし」

 

 

顔を上げると高垣さんは本気でそう言ってくれてることが分かったので一安心だ。最後のほうは俺はラノベの難聴系主人公ではないのだがボソッとは聞こえた。が、本当に小声だったため中身までは聞き取れなかった。まあ、特に気にしなくても良いだろう。

 

 

その後何とかこの空気を換え、いつものように高垣さんとの会話を楽しんでいると、病室の扉がノックされた。俺は会話を一時中断して、どうぞと言う。看護師の人だろうか。

 

 

しかし扉が開かれ、そこにいる人達を見て俺の予想は大きく外れた。そこには総武高校の現国兼生活指導担当であり、奉仕部での顧問でもあり、そして俺の学校での味方でもあった平塚先生と俺を拒絶した2人のうちの1人である雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃がいた。

 

 

2人は俺を見て焦った様子で心配してきたため、何とか宥めつつ、落ち着いたところで平塚先生が口を開いた。

 

 

「比企谷・・・今まで本当にすまなかった!」

 

 

平塚先生が頭を下げて謝罪してきた。俺はその様子を見て慌てて頭を上げるように言った。

 

 

「ちょっ!頭を上げてください先生!別に俺は平塚先生のことを恨んではいませんよ、それに最後まで俺を庇ってくれたり、奉仕部を退部させてくれたじゃないですか」

 

 

確かに作文の件で無理矢理奉仕部に入れたのは流石にどうかと思ったが、この人から色々学ばせてもらったこともまた事実だ。案外、先生とのやり取りは面白くて気に入ってたからな。暴力に走るのは玉に瑕だが、教師の中で一番生徒をよく思っていた。

 

 

その言葉に顔を上げた先生は安堵したのか涙で潤んでいた。ありがとう。と返事を返した後にその隣に立っていた雪ノ下さんが頭を下げた。

 

 

「今回の修学旅行で雪乃ちゃん(愚妹)隼人(葉虫)が大変ご迷惑をかけてしまった件と、この前の文化祭で私がめちゃくちゃにしてしまった件を改めてお詫びします。本当に申し訳ありません」

 

 

公共の場と家の立場も考慮したのか普段は敬語を使わない雪ノ下さんが手をきちんとそろえて膝辺りに添え、腰を90度までしっかり曲げて謝ってきた。

 

 

それにまた俺は慌てて頭を上げるように促した後、疑問に思ったことを聞いた。

 

 

「あの、雪ノ下さんはどうやって修学旅行のことを知ったんですか?」

 

 

調べるにしたって雪ノ下達はおそらく主観からしか見れないだろうから俺が依頼を滅茶苦茶にしたっていうだろうし、葉山は俺を嵌めるために嘘をついているだろうからな。雪ノ下に好意的な感情を持ってたし、大方そばにいた異性である俺に嫉妬して潰そうとしてると思う。彼奴はよりを戻したそうにしてるのは察せられるからな。まあ、ぶっちゃけどうでもいいがな。

 

 

俺は誰から聞いたのか考えていると、雪ノ下さんから予想だにしない意外な人物が言い渡された。

 

 

「ーーーーーー海老名さんだよ」

 

 

「海老名さんがですか!?」

 

 

正直言って海老名さんが真相を明かすとは思わなかった。あの時からいじめられている間ずっとちらちら視線を向けてきていたのは知っていたが、自分から言うとは思えなかったからだ。あの人自分で腐ってるって言ってたからな。打算的な考えしか持っていないと思っていた。

 

 

「うん。あの子は私が修学旅行のこと聞いた途端、すすり泣きながら真相を話していたよ。『ヒキタニ君に申し訳ないことをしたって』・・・・今更遅すぎるのにね」

 

 

ぐっと拳を握りこんでぞっとするほど冷たい目で話す雪ノ下さん。この人が仮面を外してここまで怒るとはな。

 

 

「そして事情を知って、雪乃ちゃんとかガ浜ちゃんからも事情を聴いたのよ。そして今の君の現状を知るためにお母さんにも頼んで調査したよ。そしてすべてを知ったそのすぐ後に君が車に轢かれたっていう連絡が静ちゃんから入ったんだ」

 

 

怖いって恐れていたお母さんの力を借りてまで事情を調べたのか。何でそこまでして・・・・・・

 

 

「それに実は最初は調べようとしてはいなかったのよ。隼人からの連絡で『雪乃ちゃんが比企谷から裏切られた』っていう連絡が入ったの」

 

 

何・・・?あいつまさか俺を・・・・・

 

 

「多分、比企谷君が思った通り、隼人は私を使って君を潰そうとしたよ。でも君が簡単にそんな行動をとるとは思えなかったから隼人から事情を聴いた。でも矛盾点とか隼人は何か隠してるって考えた私は、秘密裏に腐女子ちゃんから事情を聞き出したっていう感じかな」

 

 

「そこまで堕ちたのか葉山の奴・・・・・」

 

 

思わず呟いた言葉。雪ノ下とは割と俺の人生の中では親しかったほうだし、彼奴の在り方に憧れも抱いてたが、恋愛感情を持ったことは一切ない。おそらく焦った葉山は依頼のことを奉仕部に押し付けて俺に尻拭いさせた上に2人に拒絶させて俺と雪ノ下を引き離したかったんだろう。現にあいつは噂で俺のことを庇わなかったし、真相も話そうともしなかったからな。あの2つの依頼は完全に利用しただけだろう。

 

 

内心、葉山を嫌悪していると更に病室の扉がノックされた。話を1回区切って、どうぞ。と促す。扉が開かれそこにいたのはーーーーーー

 

 

「失礼します」

 

 

「お母さん!?」

 

 

雪ノ下さんが驚いていった。え、マジで!?魔王の次は大魔王かよ。俺の精神的にきついんだが・・・・・・一体何の用だ?

 

 

「貴方が比企谷八幡さんですね?」

 

 

「・・・・・は、はい。そうでしゅ」

 

 

怖すぎて思わず噛んじまったよ!?雪ノ下さんと平塚先生はそんな俺の様子を見て若干肩を震わせていた。笑いこらえてるよこの人達。高垣さんをちらりと見ると、あっ、顔逸らして震わせてる。ここに俺の味方はいねえのか!?

 

 

「この度は昨年の入学式及び私の娘たちと葉山隼人さん(愚か者)が度々貴方に迷惑をかけてきたことを保護者、そして責任者としてお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」

 

 

雪ノ下母は俺をしっかりと見据えた上で先程の雪ノ下さんと同様に頭を下げた。俺は内心驚きながらも気になったことを言った。

 

 

「あの、貴女がやったわけではないですし、頭を上げてください。・・・・それにそのような社交場に出るときに使う外面は使わなくていいですよ」

 

 

雪ノ下さんの外面より練度が高かったので本当にこの人の母親なんだなと思わされた。雪ノ下さんとの外面の経験がなければ恐らく見抜けないであろうレベルだったからな。俺の言葉に頭を上げた雪ノ下母は目を見開いてその後微笑んだ。しかし目は一切笑っていない。

 

 

「・・・ふふっ、陽乃から聞いた通りの方ですね」

 

 

しかし、息が詰まるような雰囲気を出したのは一瞬で、すぐに消して瞳には優しさが宿った。ていうか何で俺のことを知っていたんだ?そんな俺の疑問はすぐ晴らされることになる。

 

 

「実は陽乃が話す話題に比企谷さんのことが時々出るのですよ。『私の外面を見切ったのに自然体のまま接してくれる』とか『揶揄った時の反応がとても可愛い』などとか」

 

 

雪ノ下母は雪ノ下さんの方を見てクスリと笑う。その様子を見た雪ノ下さんは珍しくあたふたしている。顔も赤い。てか、家でもこの人の餌食になってるのかよ。やめて!可愛いとか男にとっては全く需要無いからっ!!

 

 

「・・・・今までそんな陽乃を見たことはありませんでした」

 

 

俺に向き直って再び口から出た言葉は懺悔だった。雪ノ下母は本当に後悔しているように見えた。

 

 

「普通ならそんな楽しそうな表情を引き出さなければならないのは私たち、家族なのに。私は雪ノ下家の名に恥じないように様々な英才教育を施しました。娘達が幸せになるなら何でもやろうと」

 

 

「そう思って育てていました。しかしその結果、陽乃や雪乃から笑顔は消えました。雪乃は私に苦手意識を持って1人暮らしをし始め、話すことも少なくなってしまいました。陽乃は私たちの仕事を手伝ったり話してもくれますが、先程貴方が見破った外面を被り、本心を決して話さなくなってしまいました。でもある時、陽乃の話題に貴方の事が出たとき、久しぶりに本心からの笑顔を見たのです」

 

 

あの雪ノ下さんが・・・・?俄かには信じがたいんだが。なおも雪ノ下母は語る。

 

 

「そんな貴方の話を聞いた時、私は貴方のことが気になり始めました。陽乃や雪乃の2人の笑顔を引き出せる人物がどんな人なのかと」

 

 

「その気持ちが日に日に大きくなっていた時、陽乃が貴方のことを調べるのを手伝ってほしいと言ってきました。あの陽乃が久しぶりに我儘を言ってくれた、そして娘をそこまで変えた貴方が気になって私は調べ始めたのです」

 

 

個人情報を調べられるって雪ノ下家ってどんだけ権力凄いのん?ていうか個人情報保護法に抵触するのでは・・・考えるのは止そう、まだ俺は死にたくない。

 

 

俺が雪ノ下家の裏に内心戦慄していると、雪ノ下母は真剣な面持ちで続けて言う。

 

 

「そして調べさせていただきました。総武高校での事はもちろん、小学校の生活、そして中学校の()()()()()についても・・・・・」

 

 

!?・・・・そこまで調べられてんのかよ。ほんとに恐ろしいものがあるぞ。

 

 

「・・・貴女は俺の修学旅行での依頼の解消方法をどう思ってますか・・・・?」

 

 

気になってつい聞いてしまった。そこまで調べがついているのならあの解消方法についてどう思ったか気になったからだ。俺が聞くと雪ノ下母は暫く瞑目し、そして目を開いて言った。

 

 

「・・・・確かに一見すると貴方がとったあの方法は決して褒められることはないでしょう」

 

 

「・・・・そうですよね「ーーーーーですが」?」

 

 

「あくまでそれは一方面だけを見た場合の感想です。見方を変えれば貴方はその無茶な3つの依頼が失敗した時に出る被害が雪乃や由比ヶ浜結衣さんに行かないようにしているようにも感じます」

 

 

「っ!!」

 

 

「それに元を辿れば最初の依頼について受けることは比企谷さんは反対だったのではないですか?」

 

 

「そうです」

 

 

予想通りだったようで雪ノ下母はこめかみに手をやり溜め息を吐いた。そのしぐさは雪ノ下雪乃に似ている。

 

 

「中学校でのあの出来事の経験を持った貴方や小学校に男子からの頻繁な告白を受けて女子からの嫉妬といじめを受けていた雪乃が受けるとは思えません。だから受けたのはその最初の依頼を持ってきた人の所属するグループの仲間である由比ヶ浜結衣さんですよね?」

 

 

「はい、その通りです」

 

 

「そして友達の由比ヶ浜結衣さんに説得された雪乃は依頼を受けたということですね?」

 

 

まるでその現場を見たかのように聞いてくる雪ノ下母に俺は若干恐怖を抱いた。これほどの人なら雪ノ下さんが恐れていても納得がいく。

 

 

「2つ目の依頼は依頼者の言い回しが遠回り過ぎて違和感を抱いたのは比企谷さんのみだったと、そして気づいたのは告白の3時間前だった」

 

 

「3つ目は・・・・もうこれは論外ですね」

 

 

淡々と言う雪ノ下母は呆れているが若干の怒りを抱いているように見える。そのぞっとするほど顰められた威圧感と表情に思わず冷や汗が流れる。雪ノ下さんが自分より怖いと言っていた理由がわかった気がする。

 

 

「そして雪乃と由比ヶ浜結衣さんはほぼ何も出来ず、貴方が依頼を解消した・・・・ということですね」

 

 

もはや語るに落ちたという表情で言ってくる。

 

 

「まず1番ここまで今回の出来事が拗れた理由は葉山さんと由比ヶ浜結衣さんというのが私の意見ですね」

 

 

そうだ。そもそも葉山グループの問題を奉仕部に持ち出すのがおかしいのだ。その違和感に気づかず勢いだけで依頼を受けた由比ヶ浜も。挙句全く依頼の手伝いをしなかった。

 

 

「雪乃も自分の意見を持たず、流されるなんて・・・・本当、情けないわ。しかも、自分で受理した依頼を知らなかった依頼があったとは言え比企谷さんに解消させ、挙句の果てにはそのやり方が気に入らないから否定するなんて・・・・」

 

 

失望したような表情を浮かべた雪ノ下母に、同様の雪ノ下さん、そして自分にも責任があると思ったのか苦虫を潰したような表情を浮かべる平塚先生、俺を気遣うように手を握り締めてくれる高垣さん。

 

 

「・・・比企谷さんの反省点はもっと強く反対すべきでした。しかし恐らく強制的に受けさせられたのでしょう。それならば2つ目の依頼を断るべきでした」

 

 

確かにその通りだ。戸部の依頼はともかく、海老名さんの依頼は気付けたのは俺のみだったので断ることもできたからだ。葉山グループのフォローなんざしなくたってよかったのだ。何であの時俺は惑わされたのだろう。

 

 

「全員反省すべき点はありますが、少なくとも雪乃や由比ヶ浜結衣さんが貴方の解消方法について否定する資格はないでしょう。それに貴方が学校でいじめられているときのフォローを3人は全くしなかった。雪乃は小学校の時の女子と同類になっていることに気づかないなんてね・・・・由比ヶ浜さんは入学式の件と言い、比企谷君を助けようともしない。全く、酷いですね」

 

 

溜め息を吐いた雪ノ下母は話題を切り替えて言った。

 

 

「とにかく、これまで比企谷君には散々のお世話とご迷惑をかけてしまったので、今後は私達雪ノ下家が出来る限り最大の支援をしたいと思っていますので連絡先を交換しましょう」

 

 

「え、いいんですかね・・・?」

 

 

ここで雪ノ下家との繋がりを得られるのはありがたい。これで万が一、雪ノ下達や葉山に突っかかられても安心だ。

 

 

「大丈夫ですよ。むしろもっと注文して下さっても構いませんよ」

 

 

そして雪ノ下母と連絡先を交換し、雪ノ下さんともーーーー半ば強制的にーーーー交換され、去っていった。平塚先生も最後にもう一度だけ頭を下げて学校に戻っていった。

 

 

その後、高垣さんとも連絡先を交換して、高垣さんが俺に言った。

 

 

「比企谷君、私は今回の話を聞いて決めました。小町さんのあの提案、賛成します」

 

 

あの提案というと転校の際に高垣さんのマンションに同居する件だ。

 

 

「同居の件ですよね?」

 

 

「同居は同居ですが、私と同じ部屋に住んでほしいんです。所謂、同棲です」

 

 

はっ・・・!?いやいやいやいや・・・・駄目だろうそれは?!

 

 

「いや駄目ですって、同じ屋根の下ですよ!?しかも貴方はアイドルでしょう!スキャンダルになりますよ!?」

 

 

もし間違いが起こったらどうするのか、責任が取りたくても取れないし、そもそも346プロが許すわけがない。

 

 

「勝手にすみませんが実は社長に比企谷君の境遇と小町さんの提案について話させてもらいました。事務所は私と比企谷君の合意ならば条件付きでよいと言ってくれました」

 

 

何で了承しちゃってんのおおおお!?普通駄目だろ!トップアイドルがスキャンダル塗れになんぞ!

 

 

「そ、その条件は・・・?」

 

 

条件が無理難題なら同棲せずに済む。しかし俺のその希望的観測は見事に打ち砕かれることになる。

 

 

「条件その1、同棲する際、346プロの関係者以外に同棲のことを話さないこと。その2、マスコミにばれた際は346プロで働くこと。条件その3、付き合うなら清い交際をすること。その4、間違いが起こってしまった場合、・・・・・責任として条件その2同様、346プロで働いて更に私と結婚すること。子供ができた場合は346プロが支援するからしっかり2人で育てること」

 

 

高垣さんは第4の条件をいうとき、恥ずかしかったのか頬を赤らめた。・・・・・嘘だろおおおおおおおおおお!?前半の部分はともかく後半おかしいだろ!何で応援するような条件なの!?ていうか・・・・・

 

 

「その、高垣さんは本当に良いんですか?こんな俺と住むことになっても・・・・」

 

 

俺と一緒に暮らしても楽しめることほとんどないと思う。コミュ障だし、話せる話題なんて持っていない。将来の夢なんて専業主婦だ。・・・あれ、なんか自分で思ってて虚しくなってきたぞ?目から汗が・・・・・

 

 

そんな悲しい思考をしていると高垣さんは真剣な表情で言ってきた。

 

 

「・・・比企谷君。私は貴方に助けてもらって、その恩があるからこの提案を賛成したわけじゃなくて、貴方のことを知りたいと思ったんです。捻くれてて、でもとても他人のことを考えて行動できる優しい貴方が。知りたいんです」

 

 

・・・・俺はそんな万人の思うような理想の人間じゃない。他人に嫌われて、蔑まれて、拒絶される。そんな人間だ。高垣さんのような人に相手にされていい奴じゃない。

 

 

「・・・・俺は他人に否定されるやり方でしか問題を解消出来ないやつですよ?目が濁っててすぐに通報されるようなやつです」

 

 

「否定されてしまうやり方なら私も一緒に手伝います。それで一緒に見直して修正していけばいいんですよ。目のことは眼鏡をかけたら良くなると思いますよ?」

 

 

「・・・・友達なんてほぼいないですし、妹に世話をかけてしまうような男です」

 

 

「たくさんの友達がいる方なんて拘りはありません。妹さんに支えられるなら支え返せばいいんですよ。そうでしょう?」

 

 

「・・・・面倒くさがりで、顔も良いわけじゃないです」

 

 

「誰だって面倒なことぐらいはありますよ。それに顔で判断するわけじゃないです。私、アイドルですから人を見る目は自信ありますから」

 

 

「・・・・俺は学校一嫌われて拒絶されるようなやつです」

 

 

「嫌われているからといって私は拒絶しませんよ」

 

 

「・・・・・本当に否定しないんですか?俺を、こんな生き方しかできない俺を」

 

 

「・・・・・否定しない。と言い切れる自信はありません」

 

 

「だったらッ「ーーーでも」!」

 

 

俺の手を握り締めて真っ直ぐ俺を見据える高垣さん。目を逸らそうと思っても逸らすことを許さないというように力強く瞳で射抜かれ、体が動かない。

 

 

「拒絶は決してしません。これは言い切れます。否定されるようなやり方をするなら叱ります、貴方が悲しんでいるなら寄り添います、嬉しいなら一緒に笑います。絶対に独りにはしません」

 

 

ーーーー昔から欲しいものは確かにあった。仲良くしたいとか、一緒にいたいとかそういうことじゃない。分かってもらいたいんじゃない。俺は分かりたいのだ。分かりたい、知っていたい、知って安心したい、安らぎを得ていたい。 分からないことは酷く恐ろしいことだから。

 

 

完全に理解したいだなんて、酷く独善的で、独裁的で、傲慢な願いだ。本当に浅ましくて悍ましい、こんな願望を抱いている自分が気持ち悪くて仕方がない。

 

 

だけどもしも、もしもお互いがそう思えるなら、その醜い自己満足を押し付けあい、許容できる関係性が存在するなら、そんなこと絶対に無いのは知っている。そんな物に手が届かないことは分かっている。

 

 

それでも、それでももし、願っていいのならーーーー

 

 

「ーーーーー俺と”本物”を探してくれませんか?」

 

 

そんな俺の願いを聞いて、高垣さんは微笑んで。

 

 

「ーーーーーーはい、一緒に探しましょう」

 

 

そうして頷いた高垣さんを見た時、今まで生きてきて出逢った女性の中で一番美しいと思えたのであった。



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