鬼滅の人柱力 (狼ルプス)
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始まり

「ここは、一体?確か俺は……!?」

 

俺は波風春翔。自宅のアパートに帰る際、悲鳴が聞こえ、その声がした方を見ると、ナイフを持った男が走っていた。そして、その通り魔の目の前には子連れの親がいた。親子は、パニックになったのか、その場から動けないようだった。俺は、咄嗟に、その親子の盾になるように庇ったのだ。

すると腹部に激痛が走った。自身を見ると着ていた白いシャツは真っ赤な血に染まっていた。刺した男はそのまま逃走したようだった。

辺りに血溜まりが広がる。

悲鳴を上げる者もいた。女の子とその母親は泣きながら俺に声をかけていた。

 

意識が朦朧とする中、親娘が無事であると確認できた後、意識を落としたが、気がついたらこの空間にいた。

 

「目覚めましたか?」

 

突然後ろから声をかけられた。振り返ると、目の前に綺麗な巫女姿の女性が立っていた。

 

「えっと…あなたは?」

 

「私ですか?私は女神…簡単に言えば神様です。気付いてるかもしれないですが、あなたは、もう……」

 

「そうか、やっぱり俺は……。それと、あなたは神様と言いましたよね?ここは一体?」

 

「死後の世界の狭間です。あなたは通り魔の手により命を奪われました。ですが、あなたの様な人が死ぬには早すぎるとのお達しがあり、別世界に転生していただくこととなりました。」

 

「転生……ですか?」

 

正直、何を言っているのかわからない。

 

「大丈夫です。説明はしっかりしますので」

 

「って、何気に人の思考読まないでくださいよ!」

 

「うふふっ、だって神様ですから」

 

こればかりは流石神様と言うだけはある。人の考えなんて丸わかりみたいだ。

 

「ふふん♪すごいでしょ?」

 

「だから人の思考読むのやめてください。考えように考えられませんから……転生の説明をお願いしてもいいですか?」

 

「……そうですね。では、内容を説明します。あなたを元の世界へ転生はする事はできません。よって、別の世界へ転生させます。その異世界は、アニメやゲームの世界などが主です。」

どうやら俺の生きていた世界には戻れないみたいだ。確かに俺はあの世界ではもう死んでいる。死んだ人間が復活したなんてなったら大騒ぎだ。

 

「成る程、内容はわかりました。因みに俺が転生する世界はどんな世界ですか?」

 

「はい、あなたが転生するのは『鬼滅の刃』の世界です。」

 

「『鬼滅の刃』?どこかで聞いた事がある様な……」

 

「え、知らないのですか?結構有名な内容なんですが……」

 

「すみません。最近は娯楽から離れていたもので……」

両親が存命だった頃の春翔は、アニメをよく見ていた。しかし、両親を亡くし、独り身になったことでそんな余裕はなくなってしまった。なので転生先の世界がどの様なものか知らないのだ。

 

「そうでしたか……では、簡単な内容の説明をしますね」

しばらく神様から『鬼滅の刃』についてレクチャーされた、大正時代が舞台となっており、人を喰らう鬼が存在する事、鬼は千年前から存在しており、それを倒すための非公認組織が存在し、そして鬼はある素材を使った武器で頸を切らなければ死なないことなどを。

 

「……という内容です」

 

「人食い鬼が存在している日本の世界……俺、そんな世界で生きられるのかな?」

春翔は不安の気持ちで一杯だった。鬼はある素材を使った武器で頸を斬るか日光でしか死なないという。当然ながら、そんな世界で生きられる自信は今の春翔にはなかった。

 

「そこは安心してください。あなたにはその世界で生きられる様、力をを与えます。ようは転生特典ですね」

 

「特典……ですか?」

 

「はい、春翔さんが望む力を言ってください。私はそれを春翔さんに授けます」

 

力か……思い浮かんだのがいくつかあった。

 

「なら、『NARUTO』に登場する忍術・仙術をお願いします。右眼は写輪眼……永遠の万華鏡写輪眼ではたけカカシ先生とうちはオビトさんとうちはサスケさんの瞳術を使えるようにしてください。そして左眼はサスケさんが使っていた輪廻写輪眼を、それから尾獣の『九喇嘛』の人柱力にしてください。最後にもう一つ、転生する前に修行をさせてほしいです」

 

「分かりました(欲張りセットですね)」

 

「理由としては、転生した後でも、周りを気にせず遠慮なく出来る修行場所が欲しいのもあります。だってアニメの世界とは言え、俺の住んでいた日本には変わりはありませんから……」

 

余り目立つ様な事は避けたいため無の世界である時空間が必要であった。大正とは言え、そのうち噂が立つ恐れがあるため、術の余波で一般の人を不安にさせたくないし、周りの物を傷つけたくなかったのもある。

 

「わかりました。修行はあの扉を通れば行えます。満足するまでやって下さい。因みにあなたは忍術と仙術は使えますし、中に九喇嘛はもういますよ」

 

『ケッ!こんな弱っちいガキが儂の人柱力か』

 

「うわっ!ビックリした。もしかして九喇嘛なのか?」

 

『フンっ、だったらなんだ…そんな腑抜けてるとお前の体を乗っとるぞ』

 

「ああ、すまない…お前に認められるよう、これから頑張るよ」

 

『フン、精精頑張るんだな』

 

俺は戦い方を覚えるため、力を使いこなすため扉を潜る。それだけではない。憧れた九喇嘛とも仲良くしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三年間、春翔は修行していた。

体力作りに体術や手裏剣術、忍術、仙術、写輪眼、神威、天照、炎遁・加具土命、須佐能乎、天手力などを使いこなすのには凄く時間がかかったが、どうにか形になった。

 

その時に九喇嘛とも戦った。

 

一番しんどかったが、九喇嘛に俺を認めてもらう事ができ、九喇嘛と拳を合わせた。

九喇嘛とのリンクができるようになり九尾モードにもなれるようになった。

 

『フン、この三年で見違えるようになったじゃねぇか…春翔』

今では九喇嘛も春翔の事を名前で呼ぶようになった。互いに信じ合える仲になったのだ。

 

「九喇嘛のおかげだよ……俺一人じゃここまではできなかった。ありがとう」

 

『フンッ!さっさとこの部屋から出たらどうなんだ。そろそろ頃合いだろう』

 

九喇嘛と三年共にしてわかったが、今の九喇嘛は照れを隠している。俺の中の九喇嘛もどうやらツンがあるようだ。大きいため怒ると手に負えなくなるから言葉には出さないようにしている。

春翔は立ち上がり、修行していた空間から出る為、扉を潜る。

扉を抜けると、神様が待っていた。

 

 

「お帰りなさい……修行は如何でしたか?」

 

「はい、バッチリです。お陰で九喇嘛とも仲良くなれましたし。」

 

「ふふっ、そのようですね。彼の雰囲気で分かります。荒々しい感じが静まっていますから」

 

「はい、今じゃ最高の相棒ですよ」

 

「もう大丈夫みたいですね、転生の準備は出来ましたか?」

 

「はい、いつでも大丈夫です」

 

「わかりました、あっ、もう一つ言い忘れいました」

 

「なんですか?」

 

「春翔さんが転生する際に、サスケさんが使っていた草薙の剣を送ります。見た目は『BORUTO』バージョンです。鬼を倒せるように作っておきます」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

「それでは……転生を開始します」

神様は印を結ぶと、俺は下から粒子状になりながら消えていく。

 

「神様……色々とお世話になりました。このもらった命、無駄にはしません。今度会うときは、しっかり人生を全うした時に、また……」

春翔は消え、転生が完了した。

 

「あんな子…今までで初めてだわ。少しおまけしちゃおっと、願わくば、あなたに幸せがあらん事を」

 

女神は春翔の幸せを祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから波風春翔の物語が幕を開く



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現状と鬼

「何処なんだ、ここは?」

目を覚まし、辺りを見渡すと、暗い森の中に仰向け状態で倒れていた。

 

「森の中だよなここはしかも夜中……これも修行のお陰か周りがはっきり見える。神様、もうちょっとまともな場所に転生させてくれたって……あれ?」

違和感を感じて自身を確認すると服装が変わっていた。刀もあり、しかも身長も縮んでいるような気がする。それに、左側の髪が左目を隠すように覆っている。

 

「左前髪こんなに長かったっけ?なんかサスケさんみたいな感じだな……おそらく左眼の輪廻写輪眼を隠すためだろうが、ちょっと邪魔だな」

慣れない髪型に違和感があって仕方がない。

 

「確か刀は明治の時点で廃刀令が出ているはず。街中を歩くときは変化させておくか…」

 

『おい春翔……お前の懐から何やら気配を感じるぞ』

九喇嘛から突然話しかけられる。自身の服の中を探ると、中から手紙が出てきた。

 

「手紙か…この感じは、神様の気配……読めって事だろうか」

春翔が手紙を開くと、突如ボム!と煙が出てきて、手鏡が現れた。

 

「びっくりした!……何故手鏡?」

春翔は手鏡を持ちながら、書かれている文を読み始める。

 

 

 拝啓 波風春翔さんへ

 

この手紙を読んでいるということは無事に転生できたと言う事ですね。それとごめんなさい。送った場所がランダムだったためよくわからない場所に転生させたかもしれません。

こうして春翔さんに手紙と手鏡を送ったのは理由があります。とりあえずは鏡で自分を見てください。

 

春翔は手鏡で自分を見ると、少し髪型の変わった自分が映っていた。風が少し吹き、髪が揺れ左目が露わになる。

右眼は瞳が赤く、瞳孔の周囲に黒い勾玉が三つ浮かんでいる。暗闇のせいか赤く発光しているようだ。

春翔はそのまま万華鏡写輪眼に変化させると、勾玉模様から六芒星の形に変わった。左眼は薄紫色の波紋のような模様で、写輪眼の勾玉模様が複数配置されていた。

 

「うん、写輪眼と輪廻写輪眼だよな。でも、やっぱ変な感じだな、自分の瞳がこうなってるのは……まぁ俺が頼んだからだけどさ」

春翔は再び手紙に目を通す。

 

春翔さんは、今、15歳の少年になっています。見た目と髪型も本来より少し弄らせていただきました。

 

 

「15って、ずいぶん若返ったな。転生前は22だぞ俺、いや…あの世で三年修行していたから25か、年はとってないんだろうけど」

再び手鏡を見ると多少イメチェン気味になってしまい、身長も縮み子供に戻ってしまった事に落ち込む。

 

『随分と小さくなっちまったな、春翔』

 

「言うな九喇嘛、どうせまた身長は伸びる。元の身長に戻るかはわからないけど」

 

手紙に目を向けて今度は最後まで読み上げる。

 

 

須佐能乎についてですが、神威手裏剣なども勿論使えます。オマケに本来須佐能乎に出来なかったことをできる様にしています。これは春翔さん自身で見つけてください

 

必要なものは巻物にあるので口寄せをすれば出てきます。

 

それと、この手紙は読み終わったら直ぐに消えます。

 

貴方が天寿を全うした時にまたお会いしましょう。

 

この素晴らしい世界に祝福を。 神様より

 

ボン!

 

読み終わると、手紙と手鏡は消えた。

 

 

「本来の須佐能乎に出来なかったことってなんだろう?早速修行してみるか」

 

『…儂が相手してやろうか?』

 

「そうだな、須佐能乎を使うにはいい相手になる。さっそく時空間に……っ!?」

 

春翔は刀の柄を握り警戒態勢に入る。

 

『何かいやがるな…人間じゃねぇ何かが』

 

「忠告ありがとう」

それは徐々に近づき姿を現した。

 

「キヒヒヒヒ!今日はついてるなぁ!しかも極上の“稀血”じゃねえか!こいつを食らえばあのお方からも認めてもらえる‼︎」

 

肌は人間とかけ離れた色をし、手には凡そ普通の人に備わっていない鋭利な長い爪が反射し、口から覗く歯はギザギザな鋭い牙となっていた。

もはや人間ではない異形の存在が目の前に現れたのだ。

 

「(なんだこいつ?もしかして…こいつが“鬼”なのか、それに“稀血”ってなんだ?)」

不思議と冷静に考える事ができた。厄介そうだが、あの修行に比べれば、たいした事はない。

 

「(丁度いい。あれを試してみるか)」

春翔は「忍愛之剣」と書かれたクナイを取り出し、左手に構える。

 

「キヒヒ、おとなしくした方が身のためだぞぉ…なんたってお前はこれから俺の血肉となるんだからなぁ!ありがたく思え!」

 

『舐められたもんだな、春翔』

 

「(言わせておけばいい……実力の差もわからない頭の悪い奴だ、一瞬で終わらせる)」

春翔はクナイを鬼に向けて投げる。

 

「(なんだぁ…たかが短剣如きで俺に当てられると思ってんのかこいつ?しかもこれは外れる。動く必要もな——)」

 

ザシュッ!

 

「………は?」

自身の視界が反転しているのに気づいた時には、もう遅い。

 

 

 

 

 

 

 

「飛雷神斬り」

 

鬼は頸を跳ね飛ばされ、鮮血が舞う。

 

マーキングしたクナイを鬼の元へ投げ、クナイが相手に近づいた直後に飛雷神の術を発動し、隙を与えず刀で頸を斬り飛ばしたのだ。

 

 

「いつ…の間に⁉︎、なっ何故体が動かせない‼︎」

 

「お前は、俺をただの人間だと思っていたみたいだな。生憎と…普通の人間じゃないのさ……」

 

「この刀の斬撃……貴様、まさか“鬼狩り”か⁉︎」

 

「“鬼狩り”?なんのことかは知らないけど……俺は忍だ。忍と言っても……君達からみると、かなりかけ離れてるけどね」

 

鬼は体を灰にしながら、服を残し消滅していった。

 

「跡形もなく消えた。確か鬼は……元は人間だったって神様が言っていたな………どうか安らかに」

 

春翔は両手を合わせ、消えた鬼に合掌をする。

 

辺りを調べると、人を食い散らかした跡があった。人の遺体や血濡れになった着物が散らばっていた……

 

 

「これは…さっきの鬼がやったのか」

 

『おそらくそうだろうな…さっきの奴の臭いが残っていやがる』

九喇嘛の言う通り、さっきの鬼の臭いが異臭と混じり残っている。

 

「………」

春翔は冷たくなった手を無言で握る。そして春翔は、しばらく握った跡、影分身を使って、遺体を集めた。火葬する為、出来るだけ誰かわかるように判別する。

 

それから、松明を作り、組み立てた木材に火を着けた。

 

数時間後、遺体は全て灰となった。その灰を土に埋め墓標を立てる。

 

「……どうか安らかに眠ってください。もし次あったら……来世に幸せがありますように。」

 

春翔はしばらく死者を弔う。

 

 

 

「行くか…」

 

しばらく祈った後、春翔はその場から移動し、森の中へ移動する。

 

 

 

 

 

 

 

「(この刀、確か鬼を倒すための素材で作ってるて言っていたな。見た目は普通の刀身だが……)」

普通刀は色を持った反射はしないはずだが、この草薙の剣は光にかざすと紫色の光沢を放つ。

春翔はこれが不思議で仕方なかった。

 

「考えても仕方ない。森を抜けるのは日が昇ってからにしよう、とりあえずは……木遁・四柱家の術」

 

開けた場所を見つけ、印を組み、土から生きてるかのように木が動き、木遁で休める小屋を形成している。しばらくすると小さな小屋が完成した。

 

「やっぱり木遁って凄いな…」

春翔は木遁で作った家の中に入る。一人で住むにはちょうど良い小屋だ。

 

 

「今日はとりあえずここで一晩過ごすか」

囲炉裏に火をつけ辺りを明るくする。

 

春翔は、床に座り…巻物をいくつか取り出す。

 

「結構あるな…、取り敢えずこっちから確認するか」

[具]と書かれた巻物を開き、春翔は親指を噛み血を出し、巻物に手を添える。

 

「口寄せの術」

巻物の周りに文字が浮かび上がり煙が発生した。そして煙が収まると、忍具が床に鎮座されていた。

 

「凄い量だな……クナイは手持ちでもあるが、ここまであるのか。他は——」

 

 

 

 

 

 

 

 

他の巻物の中身を確認し、何があるか確認を終えてから、忍具を巻物の中に戻す。

 

「巻物の中身を物を纏めると…忍具と手入れ道具、寝具、衣類、医療キットに薬類、ご丁寧にお金まで…あの神様、至れり尽くせりだよ。それはいいとして……なんでこの羽織まであるんだ?」

 

これから旅をするのには困らない程度の物は揃っていた。しかし中にはNARUTOに出てきた“四代目火影”と背中に刺繍されていた羽織があった。

 

「着る機会なんてあるかな、この羽織。取り敢えず明日、街にでもいってみるか。大正の風景も見てみたいし」

 

 

春翔は布団を敷き仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——数日後——

 

 

「これは……お墓」

刀を腰に携え、蝶柄の羽織を纏った一人の少女が墓標の前に立っている。

 

「(鬼の気配が全くしない。それに、この墓標は建てられてからまだ日は経っていない。鴉からは他の隊士がいる情報はなかった。この森にいた鬼を誰かが倒したとしか思えない。でも……一体誰が?」

 

少女はある組織の任務でこの森に訪れたが、鬼の気配が全くなかった為、しばらく森を調査し、この小さな墓標を発見したのだ。

 

 

「だけど、これはきっと、優しい人が……あなた達を弔ってくれたんですね」

少女はかがむと墓標の前で目を瞑り、手を合わせる。

 

 

 

 

花の剣士と赤き閃光の邂逅はまだ先になる。



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修行と医者の鬼

あれから一年の月日が経った。日本中流浪していたが、夜になるにつれ鬼に狙われては倒したりの繰り返しだ。

稀血、稀血と叫びながら襲いかかって来て、稀血について聞こうにも聞いてくれない。結局稀血がなんなのかここまで分からずじまいだ。

鬼狩りについて聞こうにも鬼も俺がそいつらの仲間だと勘違いされるのが殆どだ。

 

それと、風や動いた際に左前髪が揺れ、写輪眼が露わになり、眼を見た途端、鬼は“赤の閃光”と言って俺を恐れていた。

 

人に害をなす鬼は即斬り伏せた。

 

 

 

 

「ハァァァっ!」

 

『ウオラァァァッ!』

ある空間の中で紫色の巨大な鎧武者と、赤と黄色が混ざり黒の線がある一匹の巨大な狐が対峙していた。

鎧武者は剣を振るい、狐は尻尾で受け流し、その衝撃で余波が広がる。

 

 

 

 

「ふっ!やるな九喇嘛!」

 

『フン!このワシを舐めるな…春翔』

現在二人は手合わせをしている。しかしただの手合わせではない。九喇嘛はチャクラ体のままで、春翔は完成体須佐能乎だ。

 

 

「じゃあ・・・これならどうだ!」

春翔は須佐能乎の手のひらにチャクラを乱回転ながら球状を形成し圧縮する。

それだけではなく巨大な手裏剣の形状が現れる。周辺に振動と風を切るような高音が発生する。

 

 

「風遁・超大玉螺旋手裏剣!」

 

春翔は九喇嘛に向けて投擲する。

 

『ケッ!ワシを甘く見るなよ…春翔ォ!』

 

九喇嘛は九本の尾を使い、螺旋手裏剣を弾く。

 

「やっぱりそう簡単にはいかないか」

 

『あたり前だ…お返しにコイツをくらいやがれ!』

 

高密度に圧縮された巨大な玉を形成する。

 

「っ!尾獣玉か!」

 

尾獣が使用する高密度に圧縮された技である。

尾獣チャクラには+の黒チャクラと-の白チャクラがありそれを8:2の割合で混ぜて球状に形態変化させ、チャクラを口から放つ。

 

春翔も九喇嘛とリンクした状態と九尾チャクラモードになっている間使用できる。

 

九喇嘛は尾獣玉を春翔に放つ。

 

「ッ……!」

 

一瞬で尾獣玉と自身を入れ替える。そして須佐能乎状態の春翔の背後は大爆発を起こす。

 

春翔が使用したのは輪廻写輪眼の固有瞳術の一つ

 

 

天手力

 

視野に入れた対象及び空間でないと発動できないという難点はあるが、一瞬で任意の空間を“入れ替える”ことが出来る時空間忍術だ。

 

 

『チッ!左眼の瞳術か…』

 

「はぁ、はぁ、まぁ…な、刀で受け流すのもよかったが…こっちの方が確実に回避は出来るからな」

春翔は息をあげながら答える。

 

 

神威を使おうにも、現実に飛んでしまう為、時空間では使わないことにしている。

 

すると限界を迎えたのか須佐能乎は突如と消え、春翔は落下していく。

 

『チッ…ったく、世話の焼ける奴だ。』

 

九喇嘛は落下する春翔を受け止める。

 

「はぁ、はぁ、ありがとう九喇嘛…助かった。」

 

『…フン、あの時より長く戦える様なったじゃねぇか……春翔』

 

「ははは…一日中戦った柱間さんやマダラさんと比べればまだまだだよ」

 

九喇嘛は春翔を降ろした後、春翔の中に戻ってゆく。

 

「フゥー、やっぱりお前と相手してるといい運動になるよ」

 

『ワシはお前のトレーニングマシーンじゃないんだぞ』

 

「分かってる。と言うかそんな事一言も言ってないだろ」

こんな感じで九喇嘛とはよく会話をしている。普段は眠っていることがよくあるが、俺にとっては大事な家族だ。

 

「さて…そろそろ時空間から出るか流石に朝からぶっ通しでお腹も空いて来たし、おそらく現実は夜の筈。」

春翔は神威を発動させ現実世界に戻る。

 

 

「よっと…、うん、夜だな……早速飯屋でも探すとするか」

人気のない場所に現れた春翔は周りを確認する。

 

現在俺は都会に来ている。現代とは違い、周りは昔ながらの文化が広がっていた。

 

「やっぱり歴史の教科書と写真で見るのとまったく違うな……この場所が後に俺の知ってる建物に変わっていくのか……しかし今の時代、観光名所も少ないもんだな」

 

各地を流浪して分かったが、未だ村もあり技術も発展もない街がたくさんあった。大正時代というだけあってまだ発展途上の様だ。未来に残っている建造物を幾つが見たが、それが時代につれ俺が生きていた時代まで発展するのが春翔には信じられなかった。

 

「やっぱり科学って凄いんだな」

春翔にはこの一言しか出なかった。

 

 

暫く飲食店を探していたがどこも人がいっぱいの状態で中々入れそうな店が見つからなかった。

 

 

「やっぱりどの時代でも人はいっぱいか……この時間帯は流石に席が空いてそうな店はなさそう…………えっ?」

辺りを見渡していた春翔は衝撃な物を見てしまった。

 

店舗は道に面しており、扉が無く、暖簾の奥に6人掛けのカウンター席があるだけというシンプルな構造——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして暖簾には[ラーメン一楽]と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「な…なんで『NARUTO』に出た一楽のラーメンがこの世界に、しかも見た目もまんまじゃないか」 

いきなり視界に入り、驚きを隠せなかった。

「ラーメン一楽」といえば、主人公であるうずまきナルトが幼少期からの行きつけの店だ。ナルトにとって思い出の場所でもある。

 

 

「と、取り敢えず入ってみるか…席は空いてそうだし」

春翔は一楽の暖簾を潜り店内に入る。

 

「らっしゃい!」

一人の店長らしき人が来店を歓迎する。

 

しかも店長はまんまテウチさんで、近くにいた女性は愛娘アヤメさんだった。

 

「おっ?坊主…見ねぇ顔だな、もしかしてここは初めてか?」

 

「あ、はい…初めてです。」

 

「そうかい、アヤメ!お客様一名来店だ!」

 

「はーい!」

 

春翔は席に座る。時代が時代でまだ回転する椅子ではなく木製の椅子だ。

 

周りに貼り付けられたメニューを見ると色々とあった。

 

「えっと、味噌ラーメンをお願いします」

 

「はいよ!」

テウチさんは手際良く調理を開始する。

 

「お冷やをどうぞ」

 

「あ…ありがとうございます」

水をアヤメさんから手渡され一気に飲み干す。

 

「君…一人なの?見た感じ、まだ子供みたいだけど」

アヤメさんが話しかけて来た。

 

「はい…一人です。年は十六で、今は日本を旅して回っています。」

 

「えっ!十六で日本を⁉︎凄いじゃない君!だからそんな格好していたのね」

アヤメさんは俺の格好を見て納得してくれた様子だった。

 

「まぁ…色々ありまして」

 

「いいなぁ…私も行ってないところに行ってみたいなぁ、けど…嫌な噂も立ってるから出歩こうにも出歩けないからなぁ」

 

「噂?」

 

「ええ…今は収まってはいるんだけど、夜になると、行方不明事件が何度も起こったことがあったの。でもそれが急になくなって落ち着いたのよ」

 

『こりぁ…確実に鬼共の仕業だな』

 

「(ああ…でも、収まったって事は、誰かが鬼を倒したって事だろ。今まで遭遇した鬼が言っていた“鬼狩り”って奴の仕業だろうな)」

九喇嘛が噂の正体を上げたが、事実その通りだろう。中には術を使う鬼に遭遇した事もある。最初はチャクラの概念が存在していると思ったが、鬼達は発動する前に血鬼術と言っていた。

 

チャクラとは違う術式なのは分かったが、春翔みたいに複数の術を使えるわけではなかった。

 

「君も旅の道中は気をつけてね。」

 

「わかりました…お気遣いありがとうございます」

 

 

「味噌ラーメンお待ち!」

テウチさんがラーメンをテーブルに置く。シンプルだがとても美味しそうなラーメンだった。

 

「いただきます」

割り箸を割り、麺を箸で掴み、麺をレンゲに入れスープを絡ませ口に運びすする。

 

「……美味い」

想像していた味より美味しい、なんだかナルトさんが毎日のように一楽のラーメンに通うのもわかる気がした。

 

「だろぉ…うめぇだろ。うちの自慢の味だ。」

店長のテウチさんが誇らしげにそう応じてくれた。確かに前世を含め、俺が今まで食べて来たラーメンの中で一番美味しいかもしれない。

 

「はい…今まで食べてきたラーメンの中で一番美味しいです!」

 

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

 

春翔はそのままラーメンを食べ、修行後の事もあり、ご飯も頼み結果九杯も平らげた。

 

「フゥー、ご馳走様でした。」

 

「凄い…結構食べたね、君」

 

「さて…行きますか、お代…ここに置いていきますね」

 

「おう、毎度あり!」

 

春翔は立ち上がりお金を払い店を出る。

 

 

 

「まさか一楽のラーメンをこの世界で食べることになるとはなぁ、また機会があれば寄るか」

 

春翔は再び街中を歩き回る。

夜だと言うのに、どこを見ても人だらけ…大正も未来の東京とはそこまで変わらない様だ。建物はかしこに並び和風と洋風が混ざった感じだ。

 

「やっぱりまだ木造やレンガを使った建物が多いな……災害が起きたらあの強度じゃあっという間に大惨事になるな」

春翔も前世では田舎生まれの都会育ちだった為、人混みに慣れており、すらすらと歩いてゆく。

 

 

『おい春翔…気付いているか?』

 

「(ああ……誰かにつけられてるな。この感じは……鬼か?しかし今までとは気配が少し違うな。なんというか……敵意を感じない)」

 

九喇嘛も気付いていた様だが、店を出た後からつけられていて、視線も感じる。

姿が見えないところを見ると術を使っているのは確かだった。

 

『どうするつもりだ…春翔』

 

「(人通りが無いところに誘い出す。それだけさ)」

 

春翔は尾行している相手に悟られない様歩く。

そして人通りのない場所に来たところで変化させた刀を元の姿に戻し構える。

 

「姿を現したらどうだ」

今周りに人はいない。今なら軽い術くらいなら使っても目立つ事はない。流石につけてる鬼も俺が気づいていることを察しただろう。

 

春翔は左手に青い雷を纏わせる。

 

「出て来ないのならば強硬手段をとる……どうする?」

 

殺意を込めて左手の雷を更に強くする。

 

「お話を聞いていただけないでしょうか」

 

誰もいなかった空間から突如女の人が姿を現した。女性は何やら札の様なものを持っていた。

 

 

「内容によるが、変なそぶりを見せれば容赦はしない(この女、何もない所から…これも血鬼術ってやつなのか、あの紙が術式になってるのか)」

 

「はい、それで構いません。確認をしたいのですが、あなたは“赤き閃光」で間違いないでしょうか?」

 

女性は両手を挙げて会話を続ける。

 

「おそらく俺だろう……やはりお前の耳にも入っているみたいだな」

 

この女性に敵意や害意というものは感じられない。嘘をついている様子はないが警戒は解かない。

 

「私は、鬼ではありますが、人を食べる必要はありません。私は鬼舞辻無惨と敵対している者です」

 

「鬼舞辻無惨が誰かは知らないけど、どうやら貴女は…話が通じる様だな」

春翔は女性の言葉を信じ、左手の雷を沈め、刀を鞘に納刀する。

 

「もしかして、あなたは鬼狩りではないのですか?」

 

「やっぱりそう言うんですね。生憎俺は、日本を流浪している旅人です。まぁ、少し変わった忍でもありますけど」

 

「そうでしたか……私の名は珠世。一度、私の拠点に来ませんか?」

 

「良いですよ、一先ずあなたを信じます。俺は波風春翔、珠世さんには色々聞きたい事もあるからな」

 

「わかりました。此方へ、案内します」

 

暫く珠世さんと同行した。辺りには住宅街があったが、それはフェイクで、通常では認知できないように隠された屋敷があった。屋敷を見ると珠世さんが持っていた札と同じ絵が書かれていた。

 

 

「(成る程、幻影タイプか。さっき珠世さんが使っていたのは人から視認できなくなる術の様だ。)」

 

屋敷内に入り案内されると薬品の臭いが漂ってきた。

 

「(薬品の匂い、医者をしていると言うだけはあるな…)」

春翔の嗅覚は『NARUTO』のカカシ並みに鋭い。写輪眼を頼んだ際、その特性も付与されているみたいだ。 

 

「珠世様!人間を連れてくるとはどういう事ですか!」

 

屋敷にはもう一人、人が…いや、鬼がいた。

 

「あの…珠世さん、もしかしてこの人も」

 

「はい…私と同じ鬼です。彼も私と同じで人を食べる必要はありません」

 

珠世さんの話ではこの少年?も同様に人を食べない鬼らしい。

鬼は見た目によらず長生きしている者もいる為、実際年齢はわからない、中には百年生きた鬼とも遭遇した事もある。

 

「おい人間!貴様、珠世様に何軽い口を聞いているんだ!」

 

「よしなさい愈史郎、この方は他の鬼が噂していた赤き閃光、波風春翔さん、客人です。」

 

「……珠世様がそう仰るのなら」

 

 

愈史郎と呼ばれた鬼は見た感じ同い年に見えるが、先ほども言った通り、見た目で判断はできない。さっき案内されている時に聞いたが、珠世さんはなんと四百年も生きているといわれ驚きを隠せなかった。

 

だって珠世さん、凄い綺麗だったから……

 

「とりあえず、話をしたい。俺は二人に害を加えるつもりはない」

 

「そうですね。続きは別室で話しましょう。」

 

珠世さんの案内で応接の間へ向かう。

 

「楽にしてくださって構いませんよ。」

 

「ありがとうございます。早速質問なんですが、俺が今まで遭遇した鬼は人を食う事に執着しているが、あなた達はそれがない。それは何故ですか?」

 

「私たちは人を食らうことなく暮らしていけるようにしました。人の血を少量飲むだけで事足りる。不快に思われるかもしれませんが、金銭に余裕のない方から輸血と称して血を買っています。もちろん、彼らの体に支障が出ない量です」

 

 

その言葉を聞いて、春翔は一瞬吸血鬼がよぎってしまった。血を飲むだけで足りる時点でもはや吸血鬼に近い。

 

 

「愈史郎はもっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」

 

 「え!?それは本当ですか?と言うか、鬼にしたって……」

 

「鬼舞辻以外は鬼を増やすことができないと言われていますが、二百年以上かかって鬼にできたのは、愈史郎ただ一人ですから…」

 

「あの、鬼舞辻とは誰なんですか?もしかして、俺が遭遇した鬼が言っていた“あのお方”に関係するんですか?」

 

「はい、関係しております。鬼舞辻無惨……千年以上前に、一番最初に鬼になった人喰い鬼の原種にして首魁。」

 

「鬼の首魁…」

 

「鬼舞辻の血は人間を鬼に変える事ができ、鬼にさらに血を与えると力が増強される。この能力を持つのは、鬼舞辻ただ一人。鬼舞辻は配下を誰も信用しておらず、もし奴に関する事を喋ったり、名前を口にしただけでも、その身が滅び去ってしまう“呪い”が、配下全員にかけられています。私は鬼舞辻の呪いは外している為、呪い殺される事はありません。」

 

「そうですか…、鬼舞辻無惨、鬼の首魁の名前が分かっただけでもよかったです。二つ目の質問になりますけど、稀血ってなんですか?人食い鬼に遭遇するたび言われるのですが…」

鬼と遭遇するたびに言われた、稀血とは……。

 

「やはりそうでしたか…… 稀血とは、珍しい性質をもつ人間のことを言います。鬼が稀血の人間を捕食する事で普通の人間の五十から百人分を食べたことに相当する力を得られる。簡単に言えば、春翔さんは鬼に狙われやすい体質と言う事です。」

 

「成る程、そう言う事だったのか。」

 

「お前…まさか知らずにずっと旅をしていたのか?」

 

「知っていたら質問しませんよ……それと、最後の質問になりますけど、鬼狩りとは一体なんですか?」

 

「人喰い鬼を狩る力を有した剣士、そしてその剣士を支える者たちが集まった政府非公認の組織。鬼からは鬼狩りと言われているが、名称は鬼殺隊、文字通り、鬼を滅殺する為の組織だ。」

 

愈史郎は鬼狩り、鬼殺隊について説明した。

 

 

「(そう言えば…神様がそんなこと言っていたな)」

春翔は転生の際、神様の説明内容をふと思い出した。

 

「他に何か聞きたい事はありませんか?」

 

「いえ…充分です。ありがとうございます。色々と聞けて良かったです。それに…鬼であってもあなた達みたいな人がいて少し安心しました」

 

「人? 春翔さん、私たちは鬼ですが・・・」

 

「確かにあなた達は鬼です。でも心は人間だって事はわかります。」

 

「……お優しいのですね」

 

「本心を言ったまでです。」

 

「貴様!何珠世様を口説いている!珠世様が穢れるだろ!」

 

愈史郎さんは俺に殴りかかってくるが、難なく片腕で受け止めた。

 

「落ち着け九喇嘛…チャクラを荒立てるのはやめろ」

 

「ッ……⁉︎」

 

春翔の右眼は朱色に変化した。そして、愈史郎は春翔の背後に巨大な獣が自分を睨み付けているのを感じた。

愈史郎はその姿に冷や汗が止まらず、尻餅をつき息を荒立てていた。

 

「愈史郎⁉︎」

珠世が愈史郎に駆け寄る。愈史郎は顔色が悪く尋常ではないほど震えていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、お前……一体何者なんだ?なんでお前の中に九尾の狐が」

 

「俺の大事な家族さ。」

今の愈史郎は化け物を見る様な目で春翔を見つめていた。

 

愈史郎は口が悪く、珠世以外には冷たい態度をとってくるが悪いやつではないのは春翔には分かっていた。さっきの行為は珠世の為にやっていた事は拳から伝わっていた。

 

 珠世さんと愈史郎さんにあの後、九喇嘛や術について説明した。その後、珠世さんからは十二鬼月と言う鬼舞辻直属の配下について説明され、強い鬼の血を回収してきて欲しいという依頼も受けた。どうやら鬼を人間に戻す血清を作るために使うみたいだ。

 

愈史郎は猛反対していたが、珠世の言葉だと素直に言うことを聞いた。

 

 

 

 

旅の目的が一つ出来た春翔であった。



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赤の閃光と上弦の月

珠世から依頼されて半年、鬼に遭遇するもどれも弱い部類の鬼な為中々十二鬼月にすら遭遇できていない。

噂になっているのなら相手側から来てもおかしくはないと思っていたが、おそらく取るに足らないと思われていると判断する。

 

 

そして春翔は現在、人気のない夜の町中を歩いていた。

 

「はぁ……珠世さんから依頼されて半年、十二鬼月にすら遭遇しない。俺って運がないのかな」

血清を作ろうにも鬼舞辻の血が濃くないと作り様がない為十二鬼月の血が必要であった。

 

「今気がついたけど、星がすごい綺麗に見える。電気がなかったらこんなにはっきり見えるんだ」

春翔は無意識に夜空を見上げ星空を眺める。春翔が過ごした時代とは違い、沢山の星が見える。

 

「それにしても、夜の町はすごい静かだな」

 

『なんだ…怖いのか?春翔』

 

「そうじゃない、静かな山や森を歩き慣れてるから……町中は新鮮に感じるんだよ」

春翔は夜は町中を歩く事は無く宿に泊まる、もしくは、森や山中だと木遁で家を作り野宿している事が多い。

 

春翔は基本、夜中の町を歩く事は滅多にない。

 

「と言うか九喇嘛、お前寝ていたんじゃなかったのか?」

 

『フン、いつまで経ってもブツブツブツブツ独り言が煩くてしょうがない。悪い癖だぜ?』

どうやら春翔は独り言をつづけていた為、九喇嘛の気に触ってしまったのだろう。

 

「(すまない、次からは気をつける)」

春翔はとりあえず九喇嘛に謝る。しかし九喇嘛がこの時間帯に起きているのは珍しい。

 

「(と言うかお前、俺の独り言で眠れないような奴じゃないだろ……今までなかったよな)」

 

『さぁな…だが、今日はやたらときな臭せぇんだよ』

 

「(きな臭い・・・か、お前の口からそんな言葉が出てくるとはな)」

春翔は神経を研ぎ澄ませ、いつでも対応できるよう辺りを警戒しながら町を歩く。

 

旅の際、別の町中や村などに鬼と遭遇した事はあったが、難なく倒す事はできた。しかし、中には鬼を神と崇める集落もあったり助けを求めた一人の村人に頼まれ、助けたつもりが罵倒されたりすることもあった。

助けを求めた村人はお礼を言ってくれたのがせめてもの救いだった。春翔は写輪眼を使い集落の人達の記憶を消したが、あまりいい気分ではなかった。

 

「(難しいよな、人間って)」

 

『フン……人間は単純じゃねえってことさ。誰しもお前みたいな善人ばっかだと思ったか?』

 

「(分かってるさ…そんな事)」

春翔は夜の町を歩き続けた。すると雲が開け、月明かりが照らしてくる。綺麗な満月が暗闇を照らす。

 

ガキィーン!

 

「なんだ……金属音?」

 

いきなりの金属音に春翔は立ち止まり気配を探る。

 

 

「(これは鬼の気配、しかも今まで感じた事がないくらい大きい。もう一つは…人か?まさか……)誰か戦っているのか!?」

春翔は鬼だけでは無く人の気配も感知出来た。探った様子だと戦闘が行われているのがわかった。

 

春翔は飛び上がり、音がした方へと屋根伝いに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の外れにある広場……月明かりに照らされ、二人の影が浮かび上がる。

 

一人は虹色がかった瞳、そして眼球には「上弦弐」とあり、白橡色の髪を持つ特異な容姿の男で、もう一人は、長い髪に、蝶柄の羽織を着込み、頭の左右に蝶の髪飾りを付けた女だった。

 

 

「ケホッ!ケホッ!」

 

私は上弦の弐に傷一つ付ける事が出来ず地面に横たわっていた。

上弦の弐は今まで戦ってきた鬼とは別次元の強さを持っていた。鉄扇での攻撃に加えて氷系統の血鬼術使いだったみたいで、呼吸を使った時に血鬼術が肺に入り込んでしまったらしい。呼吸が使えなくなったようだ。

 

 

女は体中に傷を負い、吐血しており、満身創痍の状態だった。

 

男は笑みを浮かべ、ゆっくりと女に近寄って行く。

 

 

「辛いよね?けど大丈夫だよ、直ぐに俺が君を救済してあげるから!」

 

肺をやられ呼吸も使えなくなった少女は上弦の弐が殺しに来るのをただただ待っているしか無かった。

 

「(ああ、私……ここで死ぬんだ。あの子達を残して、しのぶを独りにして、せめて最後に…もう一度会いたかったなぁ)」

 

上弦の弐はそのまま私へと扇が迫ってくる。

 

 

「(みんな…大好きだよ)」

 

 

しかし

 

 

 

ヒュン!

 

突如と文字の書かれた小刀が私と鬼の間に飛んできて地面に突き刺さると同時に人が突如現れた。

 

「螺旋丸!」

 

「え?」

鬼は突然の事で反応できず、手にあった青い球体を相手にぶつけられた。鬼は螺旋状の傷を負いながら高速で吹っ飛ぶ。

 

「おい、死んでは無いだろうな?」

 

上弦の弐を吹き飛ばしたのは左眼を覆う長い前髪が特徴的な少年だった。

 

しかし風で髪が揺れると、左眼は普通の目とは違うと分かった。波紋のような模様で色は薄い紫色、勾玉模様が複数配置されていた。

 

少年は私に近づき容態を確認する。

 

「無事か?意識があったら返事をしてくれ」

 

「き、きみ…は?」

触れてる手は不思議と安心するくらい温かかった。

 

「良かった、意識はあるみたいだ。直ぐに傷を治す。ジッとしててくれ」

少年は手を巧みに動かし印を組み、両手を重ねると、黄緑色の光が手を覆う。

 

その手を私の傷口に添えると、痛みが和らぐ感覚がしてきた。

 

「なに、を…」

 

「今は何も言うな、お前…相当傷が深いんだ。無闇に喋ると……」

 

手に黄緑色の光が現れたと思ったら先程までの痛みが無くなったことに気がついた。

不思議な人だった。いきなり目の前に現れ上弦の鬼を吹っ飛ばした後、鬼が使う血鬼術のような力で私を治療してくれている。

 

「あり……がとう」

 

「…………どういたしまして」

 

彼は笑顔で言葉を返してくれた。

 

 

少女は安心した途端、切れるかの様に眠るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇春翔視点

 

 

「眠ったのか…」

少女の表情はとても安心した様な顔だった。春翔は医療忍術を続け傷を塞いでいく。

 

『春翔…気付いてるか』

 

「ああ…安心するのはまだ早いみたいだな」

春翔は医療忍術を中断して、眠っている少女を抱きかかえる。

 

「いやはや、驚いたよ。君、もしかして人間かい?俺たち鬼の血鬼術のような力を持ってるけど気配は間違いなく人間だよね?」

 

先程、螺旋丸で吹き飛ばされた鬼がこちらに向かってきていた。

 

「こっちも驚いたぞ…まさか螺旋丸をまともに喰らってもう再生しているとはな」

 

「確かに今のはかなり痛かったよ。それに君、鬼狩りじゃないよね?」

 

螺旋丸を食らった今までの鬼は再生は出来ず、動けなくなる個体が多かったが、今回の鬼は再生させて平然と歩いている。

 

『春翔…奴の目を見て見ろ』

 

「(目?)」

九喇嘛が鬼の目を見る様促すと、眼球には上弦弐と刻まれていた。

 

「お前…十二鬼月か?」

 

「ヘェー、ただの人間なのに俺達十二鬼月のこと知ってるんだ」

 

 

「医者をしてる鬼に聞いたからな、お前ら十二鬼月と鬼舞辻のことも」

 

「医者をしている鬼?ああ、あの逃れ者の鬼かぁ」

 

 

上弦の弐は顔を顰める。この様子だと珠世さんは邪魔者なのだろう。

 

今この少女を抱えた状態で印を組むのは難しい。

 

「(九喇嘛……行けるか?)」

 

『ケッ!誰にものを言っている?』

 

「(ふっ、愚問だったな)」

 

 

「それに、夜明けまで時間がないし。君を殺してその子を救済しないとね」

 

「救済だと?これの何処に……救済があるんだよ!」

 

春翔はここに来るまで、食い散らかされた遺体を見てきた。しかも殆どが女性だった。匂いからして目の前の鬼がやったことは直ぐに分かった。

 

そして今度は今抱えている少女ですら殺そうとしている。

 

救済と言う名の殺戮だ。

 

「俺に食べられることで皆救われる。老いることも悲しむことも苦しむこともなく、俺の中で永遠を生きられるんだ」

 

「何を言っても無駄みたいだな……クソ野郎」

 

上弦の弐は扇を取り出す。

 

「君一人、その子を抱えたままじゃまともに戦えないよね?」

 

──血鬼術・粉凍り──

 

凍らせた血を微細な霧状にし、扇子で扇ぎ、周囲に散布する。

 

春翔に霧状の氷が接近する中、春翔の左眼の輪廻眼は童磨を視野に入れ───

 

 

天手力!

 

 

春翔は輪廻写輪眼の瞳術で、春翔と童磨の立っていた場所を入れ替えた。

 

 

 

「ゴホッ!あれ……どうして俺がここに?」

童磨は自身の術の範囲に入り込み霧状の氷を吸い込んでしまい吐血する。

 

 

「(あいつの術、氷遁を使うのか。あの様子だと奴の術の範囲内で息は吸わないほうがいいな、とりあえずは)影分身の術」

 

鬼の術を分析した後、その隙に春翔は少女を抱えながらも、なんとか両手の人差し指と中指を交差させ印を組む。

 

隣にもう一人の春翔が現れる。

 

影分身は残像を作り出す分身の術と違い、もう一人の“実体"を作り出す。

 

実体である為、基本的に一撃でも攻撃を喰らうと解除される。また、本体が気絶・死亡することでも術が保てず解除される。

 

しかし熟練者であれば影分身もいくらかはダメージを受けても活動を続けられるが、本体に比べれば耐久力は遥かに低い。

 

 

 

「この子を時空間へ、治療の続きを頼む」

 

「ああ、任された」

 

分身春翔は少女を受け取り、神威を発動させ、時空間へ飛ぶ。

 

「これで気にせず戦えるな」

 

「可笑しいなぁ、なんで君がそこに?そこはさっき俺が立っていた場所だよね、それに…さっきもう一人君がいたよね?君、本当に人間かい?」

上弦の弐は何がなんだかわからない様子だった。

 

「自分の能力を話すとでも思うか?それよりどうだった、自分の術を喰らった気分は」

 

「自分の術でやられるのは新鮮な気分だよ。それに君の眼、思い出した。君はあのお方が言っていた赤き閃光だよね?」

童磨は、春翔の瞳を見て下っ端の鬼の間で恐れられる人物を思い出した。どうやら春翔の噂は鬼の首魁まで耳に入っていたみたいだ。

 

「だったら何だ」

 

「あのお方からも君の抹殺命令も出てるからね…それに、君一人じゃ俺は倒せないよ」

 

「ふっ、誰が一人だって?俺は一人じゃない」

 

全身が薄いオレンジ色に光り、髪の一部が2本の角のように逆立ち、衣服は襟に6つの勾玉模様がある丈の長い羽織を身に纏っている。

 

「俺と九喇嘛で……お前を倒す!」

 

春翔は九喇嘛とリンクし、尾獣化する。

 

 

「へぇー!君、身体を変化させることができるんだ!でも何だろう……やっぱり鬼とは違う何かを感じるね。さっき言ってた九喇嘛って奴が関係するのかな?」

 

「お前に話すと思うか?先に言っておく、お前はもう…俺の動きについて来れない」

 

「へぇー、大きく出たね。夜明けまで時間がないし。君をさっさと殺して退散しないとね」

 

 

───血鬼術・冬ざれ氷柱───

 

上方から巨大なつららを春翔に向けて多数落下させる。

 

 

「九喇嘛」

しかし春翔はそのまま動かず、九喇嘛のチャクラの尾を使い氷の氷柱を砕く。

 

「アッハハハ!すごいね君。今のは尻尾かな?全部壊すなんて思わなかったよ。」

 

「………」

 

「無視は酷いなぁ……血鬼術・散り蓮華」

 

扇子を振るうとともに砕けた花のような氷を発生させる。

 

 

「ハアッ!」

しかし春翔は動かず腕を振るい、氷を風圧で砕く。

 

「嘘でしょ!?」

童磨も動揺を隠せない様子だった。まさか腕を振るった風圧で氷を砕くとは予想もしていなかったのだろう。

 

「それだけか?悪いが日が昇る前にお前を倒させてもらう。」

 

春翔は足に力を込め視認できない速さで、一瞬にして上弦の弐に接近する。

 

「ハッ!」

春翔は腕に尾獣チャクラで変形させ童磨を腹部を殴る。

 

「ゴハッ!」

童磨は口から尋常ではない量の血を吐いた。

 

「吹っ飛べ!」

春翔は立て続けに童磨の顎を殴り空高く舞い上げる。

空に高く飛んだのを確認した春翔は建物の屋根に移動する。

 

 

 

「いくぜ九喇嘛!」

 

『オウ!』

九喇嘛のチャクラを使い手の平に尾獣玉を形成する。それに加えて風遁を更に詰め、中心に巨大な手裏剣状の風のチャクラを覆うと、周囲に凄まじい轟音と震動が響き渡る。

 

 

「こいつで終わりだクソ野郎!尾獣玉螺旋手裏剣!」

 

春翔は童磨に向けて投げ飛ばす。

 

しばらくして童磨に着弾したのか、爆発が発生。周囲は爆発により空が明るく照らす。

爆発が収まると爆風が来たが、辺りは強風に吹かれた程度で建物には問題ない。

 

 

「実戦で使ったのは初めてだが…相変わらずなんて威力だ。空中に放って正解だったな」

 

『それよりよかったのか?奴の血の回収をしないで倒しちまったぞ』

 

 

「………ああーっ⁉︎そうだったぁっ!ヤバイ!どうしよう⁉︎折角十二鬼月に遭遇したの完全に忘れてた!」

珠世からの依頼を完全にド忘れした春翔……おそらく童磨は跡形もなく消し去った為、体の一部も残っていない。

 

『とにかく落ち着け、さっき時空間に送った小娘はいいのか?』

 

「そうだった…あの女の子も容体も確認しないといけなかった。神威!」

春翔は神威を発動させ時空間へ飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「おい俺!その子の様子は」

春翔は時空間に入った時、分身体の春翔が治療を終えていた状態だった。

 

「ああ…大丈夫だ。ひとまず危機は脱した。」

 

「そうか、お疲れ様、もう消えても大丈夫だ。ありがとう」

 

「ああ…それじゃあ後はよろしくな」

分身春翔は人差し指と中指を交差しそのまま消えた。消えた瞬間、分身がやっていた情報が頭の中に入ってきた

影分身は分身が消えた際にその経験と情報は本体に還元されるという効果もあり、危険な場所への偵察や相手の動きの分析などで使われることもある。

 

「よし…後はこの子を現実に連れ戻すだけだ」

春翔は少女を抱き抱え、現実に戻る準備をする

 

「……う、ぅん」

ふと少女が目を開けた。そして視線を動かし、九喇嘛とリンク状態の春翔を見つめる。

 

「君は……さっきの」

 

「起きたのか?寝起きですまないがじっとしててくれ、これから現実に戻る。神威!」

神威を発動させ、春翔は少女を抱えたまま現実に戻っていく。

 

 

 

現実に戻り、空に目を向けると朝日が昇ってくるのが分かった。

 

 

「朝か、ううっ……眩しいな」

春翔は九喇嘛とのリンクを解除し元の姿に戻る。

 

「あ…あの」

 

「ん、どうした?」

 

「その……助けてくれてありがとケホッケホッ」

 

「あまり無理して喋らないで。傷は治したけど、全部を治せたわけじゃないから」

 

「ふふっ、そうね。少し呼吸がし辛いわ。」

 

「おそらくさっきの鬼の術を吸ったんだろう。肺に何か影響を及ぼしているのは確かだな」

 

「姉さんっ!」

 

遠くから声が聞こえてきた。俺は少女を壁側におろす。おそらくこの少女は鬼殺隊の為、仲間が駆けつけたのだろう

 

「それじゃあ…俺はこれで」

 

「待って!君の名前……教えてくれないかしら」

 

「波風春翔、通りすがりの流浪人だ。付け加えると、少し変わった忍だ」

 

春翔は飛雷神の術を使い一瞬にして少女の目の前から消えた。

 

 

「波風春翔…」

 

 

 

 

 

その後少女はなんとか立ち上がり、近くにあった春翔の飛雷神の術式付きのクナイを見つけ大事そうに両手で胸元に抱えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「また……会えるといいな、春翔くん」 

 

花の少女が赤の閃光への淡い恋心に気づくのは…まだ先のこと



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蝶と赤き閃光

上弦の弐と戦って三カ月経った。

 

「はぁ、最悪だ……」

 

上弦の弐との戦いの後、しばらくしてから愈史郎さんから手紙がきた。上弦の鬼と遭遇したのに血の回収を忘れていた事を知られたのだ。手紙の内容は一言…大きい文字で、

 

 

 

 

「死ね!」

 

 

と書かれていた、しかも赤い文字で。

 

 

 

確かにド忘れていた俺も悪いが流石にその一言は傷つきますよ。

 

 

 

 

 

 

そして、九喇嘛に驚かされた。ある日、山道を歩いていた時、偶然湧き温泉を見つけ、入浴していた際、九喇嘛が小さいサイズで俺から出てきたのだ。

 

九喇嘛が言うには、長くはいられないとのことで温泉に満足すると消え、俺の中に戻っていった。

 

 

俺はと言うと変わらず旅をしていた。鬼殺隊の関係者にバレない様流浪していた。時折鬼殺隊の隊士を見かける事もあった。背中に滅の文字が刺繍されているためすぐに気づく。羽織を羽織っている者もいた。刀は上手く隠してはいるが、非公認組織故、偶に警察にバレて逃走劇を繰り広げていた光景も目撃した。俺の場合刀を変化させているためバレることはまずない。

 

 

 

「もう転生して二年近くになるんだな……」

 

春翔は、新たな生をもらい思い出に浸っていた。普通じゃない人生を過ごしているが苦ではない。鬼を倒しても人からは罵倒される事もあったが、最近は軽く流している。

 

 

「(あの蝶柄羽織の女の子、どうなったんだろうな)」

 

 

『何だぁ?あの小娘の事が気になるのかぁ〜、春翔?』

 

 

「(気になると言うか…あの後どうなったか気になってるだけだ。傷は治したが、上弦の鬼の術で肺に何かしら影響を及ぼしていたからな)」

春翔は少女の傷を治した後は、鬼殺隊に任せその場から退散したのな。

 

正直外科関連は専門外な為、春翔にはどうする事もできなかった。

 

 

 

現在春翔は街の茶屋に寄っており休憩している。みたらし団子を食べながら九喇嘛と会話している。

 

 

『最近やたらと鴉がうろちょろしてるな…』

 

「(たかが鴉だろ…何処にでもいる)」

 

『そうじゃねぇ…今いる鴉の殆どが同じ個体の鴉だ。お前は大して気にしてはいなかったからわからねぇだろうな』

 

「(どう言う意味だ…九喇嘛?)」

 

『匂いを嗅いでみろ、鴉から微かに花の様な臭いがする筈だ』

春翔は試しに匂いを嗅いでみると花の香りを嗅ぐ事ができた

 

「(確かに…何かの花の匂い、それと僅かだが人の匂いがするな)」

 

『おそらくつけられているな…ただの鴉じゃねえってことだけは頭に入れておけ……』

 

「(わかった。今後は警戒しておく、少し格好を変えた方がいいかもしれないな)」

春翔は代金を払い茶屋から離れる。そして、人気のない場所に移動し、神威を発動させ、時空間で服を着替えた。

 

格好はほぼ『BORUTO』のサスケさんが着ていた衣装だ。ただ、髪型が髪型のため、よりサスケさんっぽくなってしまった。

 

 

 

 

着替えが終わった後、神威を再び発動させ、現実に戻る。

 

現実に戻ると、春翔は左目に眼帯をつけ、人混みに紛れ、移動を再開する。

 

 

「(うまく撒いたみたいだな)」

辺りを見渡し、鴉がいないのを確認し安堵の息を吐く。

 

「(あの鴉…一体なんなんだ、鬼殺隊にも口寄せ動物的な奴がいるのか)」

 

春翔は考察しながら歩くと、

 

「やめてください‼」

 

「ん?なんだ」

 

突然、女性の嫌がる声が聞こえ、足を止めて、声が聞こえた方に顔を向ける。

するとそこには、風呂敷を抱え、蝶の髪飾りを身につけた少女がいかにもチャラそうな男3人に言い寄られていた。

 

「(この時代にもいるんだな、ああいうやつら)」

春翔が過ごしていた時代の言い方ではナンパだ。

周りは手助けしようとする様子はなく素通りしている。春翔は溜息を交じりながら近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

「いいじゃん、いいじゃん俺らと一緒に遊ぼうよ」

 

「楽しいよ~」

 

「私は忙しいんです。誰があんた達なんかと」

 

「そんなとこより、俺らと違うとこい「おい、あんたら」あ?」

 

「えっ?」

 

見兼ねた春翔は、男たちを止めるため、声をかけた。

 

「なんだテメェ?」

 

「ただの流浪人だ。その娘に言い寄るのはやめろ」

 

「はっ?なんでだよ?ガキには関係ねぇだろ?」

 

「ハァー、見るに耐えないな」

 

「なんだと?」

 

「大の男三人が、一人の女に寄ってたかって無理矢理口説こうとするのがあまりにも酷くてな、くくっ……笑いしか出てこないな」

 

「んだと?オラッ‼」

 

「ッ⁉危ない‼」

 

春翔の言葉に怒ったチャラ男の一人が、春翔に向かって殴りかかる。

 

少女は危険を感じ、春翔に叫ぶ。

 

 

だが、今目の前にいる少年は普通ではなかった。春翔は拳を片手で難なく受け止める。

 

「…………ッ!」

春翔の右眼は写輪眼に変化させ殴りかかった男を睨みつける。

 

 

「ガハッ…………!?」

 

 

千鳥で男の心臓を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ…………あぁ……ああああああ…………っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

幻 術 だ。殴りかかった男に、俺が千鳥で心臓を貫く幻術を見せた。

 

 

『やり過ぎなんじゃねぇのか?』

珍しく九喇嘛が同情している。

 

 

やり過ぎだって?こう言う奴は少し怖い目に遭わせないとわからないからな。幻術はしばらくしたら解けるよう設定した。

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「なっ!テメェ⁉」

 

「兄貴に何しやがった⁉︎」

 

他の男も、春翔に殴りかかる。

だが

 

「甘い!」

 

「がっ⁉」

 

「がはっ⁉」

 

春翔は足で男たちを蹴り飛ばす。こんな奴らの拳なんてぬるすぎる、今の俺にとっては遅く見える。

 

 

少女はまさかの事態に驚く。そして、驚く男達を、春翔は地面に投げた。

 

「いてて」

 

「こ、このガキ」

 

「さっさとそいつ連れて失せろ。二度とこんな事はするな」

 

殺気を放ちながら言う。俺の殺気に案の定、男達は顔をひきつらせていた。

 

 

「お…おい、このガキヤベェぞ、いくぞ」

 

「あ、ああ」

 

二人は幻術をかけた男を引きずってその場から逃げていった。周りから視線が集まってきた為、春翔はその場から離れるよう歩きだした。

 

 

 

 

 

その時、

 

 

 

「あ、あの‼待ってください‼」

 

「ん?」

 

先程の男達に言い寄られていた少女が、春翔に待つよう声を上げた。春翔は足を止めその少女に顔を向けた。

 

「なんだ?」

 

「その……助けてくれて、ありがとうございます」

 

「気にしないでくれ。見てられなくて勝手にしただけだ」

 

「そうですか」

 

「……じゃあ、俺はこれで」

 

春翔はそう言って、その場を後にしようとするが

 

 

「待ってください‼」

 

少女が春翔がその場から去るのを阻止した。

 

「…………なんだ?」

 

「何かお礼をさせて下さい、助けられて何もしないのは……」

 

 

「俺が勝手にしただけだ。気にする事はない」

 

 

「素直にお礼も受け取れないんですかあなたは!だったらせめて名前だけでも教えてください‼」

 

何故か青筋をたてながら怒鳴り、俺の名前を聞いてくる。 

 

 

「……波風春翔」

 

「………えっ?」

俺の名を聞いた途端、少女は驚き目を見開いた。

 

「これでいいだろ…生憎暇じゃないんでな」

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

少女は春翔の手を握って立ち去るのを阻止する。

 

「……今度は何だよ?」

 

「もしかしてあなた……姉さんを助けてくれた…波風春翔?」

 

「は………姉さん?」

 

「こう言えばわかりますか!蝶柄の羽織りをは羽織った女性の事!そしてこれは…あなたの物でしょ!」

 

少女は風呂敷の中から飛雷神の術式付きのクナイを春翔に見せつけた。

 

「お前……何でそれを持っているんだ?」

 

「やっぱりその反応、あなただったんです「しのぶ〜」ね、姉さん!」

 

「ごめんね〜遅くなっ……て、えっと、しのぶ…この人は?」

 

「この人よ姉さん!姉さんを助けてくれた人!」

 

「え?は、春翔くん…なの?」

姉さんと呼ばれた少女は服装や眼帯などを身につけ変えている為すぐには気づかなかった。しかし、しのぶと呼ばれた少女に教えられた途端、ハッと気づいたようだ。

 

 

『オイ…どうするつもりだ?春翔』

 

「(どうするつもりだって?目の前にいる二人は鬼殺隊関係者と分かった時点でもう決まっているだろ)」

 

春翔は何も言わずその場から走り出した。

 

「あっ!ちょっと待って!春翔くん!」

 

「姉さんはそこで待ってて、私が追いかけるから!」

しのぶは持っている風呂敷を姉に預けて、春翔を追いかける。

 

 

 

 

鬼殺隊と人柱力の忍との逃走劇が始まった。



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柱と赤き閃光

どうも…波風春翔だ!現在俺は街中を全力で駆け出している!

理由としては鬼殺隊の関係者に遭遇したからだ!

あまり目立つ様なことは避けたいため術は使っていない。

 

それにしても

 

 

「待ちなさい!絶対に逃さない!」

 

 

「(あの子速いな…それに動きも普通の女性とは思えない、鬼殺隊の連中は全員ああなのか…)」

春翔は鬼殺隊の事は珠世にどのような組織か聞いただけでどんな技術を持っているかは聞いていないため未知数だ。

 

「(流石に人が少ない…人混みに紛れるのはまず無理だな、変化したいところだがこの状況じゃ無理だ。あまり目につく様なことは避けたい)」

春翔はどう撒こうか考えていた。神威を発動しようにも自身が時空間に移動する際はその場から動けず隙ができてしまうため却下した。しばらくして町から出て人気はなくなった。

 

「あなたには聞きたいことが沢山あるんです!手荒な真似をされる前にあなたを鬼殺隊本部に連れて行く必要があるんです!お願いします!一緒に同行してください!」

 

少女は大声で説得を試みるが春翔は振り向くことなく走り続ける。

 

「そんなこと言われて大人しく捕まるつもりはない!政府からの非公認組織ならなおさら信用できん」

 

春翔は言い返すと更に速度を上げ距離をどんどん離す。

 

「(速い!あの速度…柱同等の…いや…下手するとそれ以上、まずい…このままじゃ逃げられる)」

 

距離を離され、しのぶは諦めかけたが、先を見ると二人の隊士が春翔の目の前に立っているのが見えた。

 

 

「よぉ、派手に逃げ回ってるじゃねぇか…赤の閃光さんよぉ」

 

「…………」

一人は派手な格好をした長身の男で、もう一人は半端柄の羽織を羽織った青年だった。

 

「誰だ?あんたらは」

 

「よくぞ聞いてくれた!いいか?俺は神だ!その名を頭に叩き込んでおけ!鬼殺隊・音柱宇髄天元、もう一度言うが…俺は神だ!!」

 

 

ヒュゥゥと、風が吹き間が開く。

 

「(何いっているのあの人?全然意味がわからないわ、冨岡さんは何か言ったらどうですか!)」

 

すると春翔がゆっくりと手を上げる。二人は何か仕掛けると思ったのかいつでも動ける様に警戒するが、

 

「具体的には何を司る神だ?」

 

『オイ、それは質問するところか?』

 

九喇嘛は春翔に突っ込み呆れている。九喇嘛の印象はアホだ。アホを司っていると思っている。

 

「おっ…いい質問だ。見込みがあるなお前」

 

「(何処がいい質問よ…アホの質問の間違いでしょ!)」

 

しのぶは会話に呆れており、これの何処に見込みがあるのだろうと思ってしまう。

 

「俺は派手を司る神…祭りの神だ」

 

「祭りの神か、よろしくな…祭りの神、んでそっちのあんたは」

 

 

「…………」

 

「俺は波風春翔…あんたの名前は?」

 

「……冨岡義勇」

 

よかった、ちゃんと名乗ってくれた。

 

「義勇…いい名前だな、それで…鬼殺隊のあんた達が俺になんの用だ?」

 

「胡蝶の鴉から伝令が来たんだよ。赤の閃光を見つけたってな。んで近くにいた俺達が駆け付けたってわけよ、単刀直入に言うが…大人しく俺らと同行する気は「ない」…即答か」

 

 

「当たり前だ。同行してくださいって言われて素直に承諾すると思ったか?」

 

「それもそうだな…んじゃ悪いが、少し派手にいかせてもらうぜ」

すると春翔を囲む様に三人の女性が取り囲む。

 

「(三人も忍ばせていたのか…それにあの独特な動き、忍か?この世界の大正時代は忍がいたのか?)」

 

「大人しくしてな、逃げ場はないよ、坊や」

 

「申し訳ありませんが…大人しくしていてください。手荒な真似はしたくありません」

 

「ご、ごめんなさい!何もしないでいただけるとありがたいです」

 

「(個性的なくノ一だな)」

春翔は周囲を確認した。辺りに人気はなく鬼殺隊の剣士しかいない。近くに建造物も無く町からは離れてしまい、辺りは平地で姿を眩ませるには難しい。

 

『どうする…囲まれちまったぞ』

 

「(何とかして逃げ切らないとな…珠世さんと愈史郎さんの事もある。鬼殺を生業としてる奴らに鬼と関わりなんて持っているのが知られたらあの二人に危険が及ぶ)」

春翔は現在五対一の不利な状況……普通ならそうだが、春翔は普通の人間ではない為、どう撒こうか思考を巡らせている。

春翔は近くの川に目を向ける。

 

「(ちょうど良い、あの川を利用させてもらうか)」

春翔は巻物に変化させていた刀を元に戻し抜刀し構える。

鬼殺隊の剣士達は突然巻物が刀に変化したのに驚くも刀を抜き構える。

 

「巻物が刀に…派手に妙な術を使うな」

 

「宇髄…あれは人間だ。鬼ではない」

 

「お前に言われなくてもわかってるわ。結局実力行使になっちまうわけか」

鬼殺隊の剣士達はいつでも動けるよう、神経を研ぎ澄ませる。

 

春翔は両手を巧みに動かし高速で印を組む。

 

「(何をするつもりだ?)」

 

「水遁・水龍弾の術」

近くの川から龍を象った水が現れ、春翔の周りを飛び回る。

 

「なっ⁉︎」

 

「な、何じゃありぁ⁉︎」

 

「み、水の龍⁉︎」

 

「嘘でしょ⁉︎」

 

「いやーー!結局こうなってしまうのですか⁉︎」

そして水の龍は鬼殺隊に襲いかかる。近くいた柱の二人は回避する。しかし水龍は止まらず追撃をする。

 

「水の呼吸 弐ノ型・水車」

 

垂直方向に身体ごと一回転しながら斬りつけるが、水のため水龍に傷はつかない。

 

「冨岡!!あの龍はおそらく物理的な攻撃は効かねぇ!術者をなんとかしねぇと無理だ!」

水の龍はクノイチの女性の方へ気が向いている間に、宇髄と冨岡は春翔へ剣を向ける。

 

「音の呼吸 壱ノ型・轟!」

宇髄は二刀を頭上から振り下ろす。春翔は危機感を感じたのか後方へと回避した。剣が地面に叩きつけられると同時に爆発がおこる。地面に大穴を開ける程の威力だった。

 

「(何だあの刀、叩きつけた途端爆発した。忍刀七人衆の爆刀・飛沫みたいなものか?それにこの二人…呼吸の仕方が独特だ。鬼殺隊ならではの戦闘技術か?さっきの半羽織は水が見えたが……本物の水じゃない、錯覚するくらいの技術があるのか)」

春翔は冷静に分析し、二人の剣士の技は呼吸によって生み出されていることに気づく。

 

「(この二人に遠慮はいらないな。剣の腕は相当な実力者なのは確かだ。殺さないように気をつけないとな)」

春翔は気が散った為、水龍は消え水へと戻り地面へと落ちるが、地上にいたクノイチ三人は水浸しとなり、びしょ濡れになってしまう。

何やら喚いていたが、こちらの二人に集中する。

 

「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き」

半羽織の男は水の最速の突きを繰り出すが、春翔は刀で受け流す。

 

 

「肆ノ型・打ち潮」

淀みない動きで斬撃を繰り出しながら繋げる。春翔はこれを回避するが左眼に身につけていた眼帯が切れてしまい左眼があらわになる。

祭り神が二振りの刀を振り抜き、鍔迫り合いとなる。

 

「柱を二人に派手にやるじゃねぇか、それとその刀…日輪刀か?何で鬼殺隊でもないお前が持っている?」

 

「日輪刀?この刀はずっと持っている愛刀だ」

 

「そうかい、それとお前は何者だ?鬼でもないお前が何故あんな派手な血鬼術擬きを使える?」

 

「血鬼術ではない…忍術だ」

 

「忍術?お前…忍か?しかし俺はお前のような忍は見た覚えがないな」

 

「お前が思っている忍じゃない、常識を遥かにかけ離れているけどな。悪いがすぐに終わらせる、あいにく暇じゃないんでな」

 

春翔は天元を押し返し距離を取るが、全方位から先程のクノイチ三人と義勇が仕掛けてくる。

 

春翔は両手を広げて雷遁を発動させる。

 

「千鳥流し!」

 

千鳥……雷切の応用技で、全身に千鳥を流して纏う術である。触れた敵を弾き飛ばすことができ、地面に触れたり、持っている刀を地面に刺すことで電流を流し広範囲攻撃も可能だ。

 

「「「アババババ!」」」

勿論加減はした。本気でやると殺しかねないからな。多少は麻痺してもらおう。

クノイチ三人は地面に倒れ込み動けないが、柱の二人は剣先を地面に刺し杖代わりにするよう膝をついている。

 

 

「…くっ」

 

「今度は雷かよ、テメェ……本当に人間か?」

 

「人間だよ…一応加減はしておいたが、しばらくはまともに動けないぞ」

千鳥流しで麻痺しているため二人は動けないが、倒れることはなかった。

 

「俺はここで退散させてもらうぞ、お前ら鬼殺隊に捕まるのはノーサンキューだからな」

春翔は念のため先ほどの町に飛雷神のクナイを置いており、春翔は先ほどの町へ飛ぼうとするが、

 

「まって!あなた、一体何が目的なの!!あなたも鬼を倒しているなら、目的も鬼殺隊とやっている事と同じはずでしょ!それと何よ、“のうさんきゅー”って!?」

少女が怒鳴りながら俺の目的を問い出す。春翔は首だけ振り向き

 

「お前らには関係ない事だ……」

そう告げた後、その場から消えた。その場に残された鬼殺隊の隊士は敗北を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで懲りてくれるといいが「は、春翔くん?」……え」

 

春翔は声のした方へ振り向くと、そこには春翔の飛雷神のクナイを持っている胡蝶カナエの姿があった。



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