八雲学園の七不思議 (南宮)
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リメイク前
プロローグ:絵画の謎


 薬品と古紙の香りで充満する化学準備室の中で、気だるげな青年と活発な少女の声が飛び交っていた。

 

「森近先生。

 最近、学校の七不思議というモノが流行っているそうですが、化学教師としてどう思いますか?」

 

「別に良いんじゃないかな?

 その手の噂話なんて、そこかしこに転がっているじゃないか。

 真に受けるなんて少々素直過ぎないかい...

 二年生にして剣道部主将に任命された期待の新鋭、魂魄妖夢さん?」

 

 言外に怖いのかと皮肉を言われているのに気が付かず、褒められたと受け取った妖夢はむず痒そうに少しだけ朱に染まった頬を指で掻く。

 森近先生こと、八雲学園の化学教師である森近霖之助は、その様子に呆れた様にしながらも目線を手元に広げている古文書から話す事は無かった。

 

 この二人は生徒と教師という間柄だが、妖夢が幼少よりお世話になっている白玉楼と呼ばれる道場で開かれる宴会に度々呼ばれていた霖之助と妖夢はそれなりに合う機会があったのだ。

 霖之助は元々の気質なのだろうが、騒がしい宴会というモノがあまり好きではなく、呼ばれたは良いものの何だかんだと理由を付けて道場の縁側に逃げていたのだ。

 それを幼い妖夢が見つけ、不審者と間違えて騒いだところから二人の付き合いが始まったのだ。

 ...所謂、腐れ縁というモノか幼馴染と言うモノだろう(もっとも、10歳近く歳の離れた者も幼馴染と言うのならだが)

 

---閑話休題---

 

「あっ!

 こんな話をしに来たんじゃないですよ、私は!!

 私は『八雲学園の七不思議』について、森近先生に聞きに来たんですよ!」

 

「知らないよ...

 ボクはこの古文書の解読で忙しいんだから、気になるのならば新聞部の部長とか剣道部の副部長とかと一緒に行けばいいだろう?

 何も、無理にボクと一緒じゃなきゃダメだという理由がある訳じゃあないんだ」

 

 このままではマトモに取り合ってくれないと分かった妖夢は、霖之助から古文書を取り上げる。

 

「何のつもりかな?」

 

「このままだと、まともに話を聞いてくれそうになかったので」

 

 そういうとばつが悪そうに顔を背ける霖之助に対して、今度は妖夢が呆れた様な顔をする。

 案外この二人は似た者同士なのかもしれいない。

 

「...それで、その七不思議とやらがどうしたのかな?」

 

 如何にも早く話をして古文書を返してくれと言った様子の霖之助に対して、妖夢は溜息を吐きながら話を切り出す。

 

「森近先生って、除霊師みたいなのをやってたらしいじゃないですか。

 だから、この話を森近先生にしてるんですよ?

 なんでもこの怪談には本当にそういったモノが絡んでいるらしいので、いざという時の為に付いて来ていただこうと...」

 

「...除霊師じゃなくて、神主の真似事だよ。

 それに、それを言ったのは紫だろう?

 言ってはアレかも知れないが、良くあの胡散臭さの塊みたいな存在の言葉を信じたね」

 

「この話はお母様と理事長が昔話をしているのを聞いた話ですし、お母様も違和感なくお話に花を咲かせていたので間違いではないと思いました。

 この七不思議の話してくださったのは理事長補佐の藍さんで、決して夕暮れ時以降は校舎に立ち入らないようにとの事でしたので間違いないはずです!」

 

 たしかに、それならば信じられだろう...と納得した様に小首を傾ける霖之助。

 

 しかし、本人がいざという時と言うように、本来ならば霖之助はついていかなくとも問題が無いはずなのだ。

 何故かというと、妖夢は行方不明(と言う名の武者修行)になった祖父から譲り受けた御神刀『楼観剣』と『白楼剣』の二振りを扱う妖夢にとって幽霊が出たとしても切り払ってしまえるのだから。

 とはいえ、幽霊以外が出てしまうと未だに御神刀を扱いきれていない妖夢では対処がしきれないという事で、霖之助を誘ってとしても可笑しくなないのだろう。

 ---実際のところ、妖夢は夜の校舎を霖之助と一緒に散策したいだけなのだが、

 

「わかった。

 それじゃあ、今日中に七不思議すべてを調査しよう」

 

「それが、七不思議は一夜に一つしか起こらないらしく、本日は夜の美術室で絵画が此方を凝視してくるというモノらしいのです。

 なんでも、部屋の四隅へ行こうとも絵画の目の部分だけが此方を見てくるというだけの実害がない怪異ですが、いずれ何かが起こってからでは遅いので今夜討滅しましょう」

 

「そんな非効率な怪異なんて聞いたことが無いんだが...

 怪異って言うのは、大抵が理不尽の塊なんだ。

 そんな当番制とかシフト制みたいな事がある訳がないだろう?」

 

「ですが、実際に被害にあった方々は曜日毎に被害にあった内容が完全に分かれていますので仕方がないですよ。

 これは文先輩からの情報なので信憑性はかなり高いですよ」

 

 新聞部部長という肩書を持った文が言うのならば信憑性は高いだろう。

 何せ彼女は下手な情報屋よりも世情に詳しく、そして何よりもしっかりとしたソースがある上にそれらを証明する証拠すらも用意してしまうのだから。

 とはいえ、どうやってそれらの証拠品を揃えているのかは考えない方が良いのだろう。

 

 それはそれとしても、どうもこの件は怪しいのだ。

 こう、裏で手を引いている者が居る様なそんな感じの感覚が霖之助を襲うのだ。

 故にこそ、それなりの付き合いがある妖夢を一人でこの面倒事に対処させるわけにはいかないのだ。

 いくら彼女が強いとはいえ、実際の怪異に当たってしまったら彼女では対処できなくなるのだから。

 

「わかった。

 ボクも手伝おう。

 ただし、もしもの時の為に幽々子さんと理事長には声を掛けておくと良い。

 実際そうなるかはわからないんが、もし校舎が壊れたりした時の後処理をお願いしたいからね」

 

「わかりました!

 それでは早速、お母様と理事長に連絡してきます!!」

 

 それだけ言い残して、足早と化学準備室から出て入った妖夢を見て呆れる霖之助だが、古文書を返して貰っていない事に後程気が付いて頭を抱える事になるを今の彼は知らなかったのだ。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 夕暮れを過ぎて夜の帳が舞い降り、怪しげに輝く三日月が雲の隙間から顔を覗かせる。

 そのような時間帯だというのに周囲の家には灯りが灯っておらず、暗いままだ。

 本来ならばあり得ない状況だが、この異界に於いては寧ろこの状況こそが正常なのだ。

 この異界とかした学園の敷地は八雲学園の理事長兼創設者である八雲紫が張った結界の内側であり、内のモノを外へと出さない為の結界だ。

 とはいえ、ただそれだけだと中に迷い込んでしまった者が出られないので、特定の条件を満たすことによって出入りが可能となるのだ。

 そもそも、条件を満たしていないと結界の作用により学園に行こうとすらも思えなくなるのだが、それはそれだろう。

 

---閑話休題---

 

 ともかく、その様な異常な空間と化した学園の敷地内に人影が二つあったのだ。

 一つは和服に西洋風と中華風を取り入れたかのような特徴的な服装をして、明らかに実践向きではない様な宝飾が施された宝剣を帯刀している男性。

 一つは白いワンピースに緑のノースリーブを組み合わせたような服装をし、四尺(=約132㎝)を越える程の長さの太刀と一、二尺程度(=約33cm~66cm)の短刀を背に携えた少女。

 

 ---すなわち、森近霖之助と魂魄妖夢の事である。

 

 二人は日中に八雲学園の七不思議を解き明かし、七不思議に関わっているといわれる怪異に対して除霊などの対処をするという事になったのだ。

 今夜解き明かす怪異は、美術室の凝視してくるという絵画だったのだが...

 

「それでご丁寧に結界が張っているのを越えて来た訳だけど、これはどういう事かな?

 明らかに凸レンズを利用しただけの悪戯じゃないか。

 あの面倒臭がり屋な紫が結界を張っているのだから何かしらの怪異が居ると思って来たは良い物の、ただの悪戯で初日が終わるなんて先が思いやられるよ」

 

「...ですね。

 とはいえ、これで凝視してくる怪異の正体が分かりました。

 そもそも七不思議なのに8つある時点でどれか一つはただの悪戯だろうとは思っていたので、一番最初にいたずらだと分かってよかったじゃないですか」

 

「そういう事は先に言ってくれないかい?

 まあ、確かに初回で悪戯に当たれたのは良かったよ。

 後はもう怪異しかないのだから、変に肩透かしを喰らう事もないだろうからね。

 それじゃあ、今日はもう帰ろう。遅いから送るよ」

 

 霖之助の提案に気の抜けた声を上げる妖夢。

 なんだかんだで夜の校舎でプチデートだと期待していた妖夢にとって、この提案は寝耳に水であった。

 とはいえ、送ってくれるというのならば遠慮はせずにしっかりお願いする妖夢であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--- 絵画の謎:解明 ---

 

 

 




大体の構想は既に練っているので、この落ちは決まってました。
このお話は導入の様な物なので割とあっさりと改名されましたが、次の怪異はどうなるんでしょうね。

---三次創作として書かせて戴いているので、出来る限り完結させたいです。

  エタらないように頑張ります!


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第一之怪異:音楽室の謎

--- 前回のあらすじ ---

 

 化学教師の森近霖之助(25歳)は剣道部主将である魂魄妖夢(17歳)によって、八雲学園の七不思議を解明する事となったのだ。

 しかし、その初日は何者かの悪戯で潰れてしまったのだ。

 そして今日、一つ目の怪異である『夜中の音楽室で聞こえる琵琶の音を4回聞いてしまうと不幸になる』と言う怪異の解明するのだぁ!

 

(若本規夫ボイスゥ)

 

--- 本編 ---

 

 本来ならば午後から始まる眠気との死闘に備えて弁当箱を突っつきながらワイワイと知人友人で騒ぐような時間帯に、薬品と古紙のにおいが充満している空間で青春盛りの女子高生と化学教師が密着していた。

 

「何やらとんでもない誤解がされそうなことを言われた気がする」

 

「...急に何を言い出すんですか?

 話をそらそうとしたってそうはいきませんよ!

 ともかく、森近先生は早くこのセロリを食べてください。

 もし自分で食べないのならば、無理矢理口をこじ開けて食べさせますよ!」

 

「止めてくれ。

 いくらボクでも、そんな事をされたら恥ずかしいよ。

 そもそも、セロリがどうして苦いかという事を知っているかい?

 それは...」

 

「その話はもう10回近くは聞いています。そんな下手に悪知恵を付けた子供みたいな言い訳はもう効きません!

 それにこの前の健康診断で野菜不足だと注意されたと私は理事長から聞きました。

 なので、大人しくに口を開けて食べてください!」

 

 はっきりと言ってしまえば、セロリ意地でも食べようとしない霖之助に対して妖夢が無理矢理食べさせようと密着しているのだ。

 人生のクオーターラインに差し掛かった大人(教師)が自分よりも十歳近く歳の離れた子供(生徒)に好き嫌いをするなと諭されているという、少々情けない光景であった。

 

こんな風なありふれた日常を妖夢が送れる事に、霖之助は感謝していたのだ。

 霖之助は元々、将来を約束される程の実力と霊力を持っていたのだ。

 ・・・だが、色々とあって霖之助は霊力の大半を失ってしまう事となる。

 その頃の相棒であった八雲紫が経営する学園で化学教師となったのだ

 

--- 閑話休題 ---

 

 昼休みももうすぐ終わるという時間に差し掛かったところで妖夢は今日の夜に解明するであろう怪異の話を切り出した。

 

「ところで今日解決する予定の七不思議について、森近先生はどう考えますか?」

 

「そうだね。

 まず明らかに怪しい古道具が沢山有るあの音楽室の事だから、色々と怪しい物はあるけどね。

 概ね『付喪神』という存在が起こしているのだろう。

 付喪神と言う存在は、永らく時を得た道具に魂が宿るという物だ。

 その宿る魂には、二種類あるんだ。

 その一つが『神霊』や『精霊』が宿る事によって持ち主に幸運をもたらす存在へと変化(へんげ)するというモノ。

 もう一つが『妖怪』となり、持ち主に害を成す存在へと変化(へんげ)するというモノだ。

 これは、簡単な条件が...」

 

--- キーンコーンカーンコーン ---

 

「森近先生!

 続きはまた夜にお願いします!!」

 

 慌てて小走りで化学準備室から出ていく妖夢に呆れながらも、それでも微かに笑みを浮かべる霖之助であった。

 

--- キングクリムゾン ---

 

 異常事態であることから総ての人間が学校から居なくなり結界が張られた学び舎に、二つの人影が現れた。

 皆さんお察しの通り、複数の地域の伝統的な衣装を複合した様な衣装を纏い宝剣を腰に帯びている森近霖之助と白のワンピースに緑のノースリーブドレスを纏い短刀と長刀を背に帯びている魂魄妖夢である。

 

「霖之助さん、お昼に話していた付喪神について続きをお願いします」

 

「そうだね、何処まで話したかな・・・

 ああ。確か、どうやったら変化する先が分岐するのかという事についてだったね。

 それは簡単な事だよ。

 永く大切に扱われた道具は持ち主に恩を介したいと宿った魂は『神霊』や『精霊』が宿り、永らく放置されていたり粗雑な扱いをされていた道具は持ち主に対して害成す為に『妖怪』へと変化するんだよ。

 だから、今回の怪異は十中八九で『妖怪』と化した古道具が起こしている者だろう。

 そこで妖夢に聞きたいのは...」

 

--- ベンッ ベンッ ベンベン ベンッ ---

 

 霖之助が妖夢に何かを聞こうとした時、突如として鳴り響いた琵琶を奏でる音。

 それは琵琶の名師が奏でる様な艶やかな音色で、心を揺さぶり引き付ける。

 更には、奏でている者の傍に行きたくなってしまう魅了のような...

 

「妖夢、それ以上ボクから離れてはダメだよ。

 相手がどの様な性質をしているのか分からないのだから、下手に近寄ってしまっては絡め捕られてしまうよ」

 

「ッ!?

 わ、私は一体何を…」

 

「このお守りを持っていると良い。

 これを持っていれば魅せられる事も無くなる。

 ...というか、白楼剣に手を当てていれば防げると思うんだけどね」

 

 付喪神が奏でる音色によって魅せられてしまった妖夢と音色を響かせる音楽室の間に入り込んだ霖之助にお守りを首に掛けられて正気を取り戻した妖夢は霖之助が苦笑しながら漏らした小言を聞いて赤面するのだった。

 そして、苦笑しつつも相手がいるであろう音楽室を睨む霖之助に対して、透き通るような声をした人物がお道化て話しかけるのだった。

 

「あら、そんなに睨まなくっても良いじゃない。

 ただ一緒にお茶をしようとお誘いしただけなのだから」

 

「仮に本当にお茶会するにしても、魅了を掛ける必要はあるのかな?

 それに、ご丁寧に吸精まで付け加えてるんだ。

 そんな戯言を真に受ける訳が無いだろう?」

 

 からからと笑いながら霖之助に対して軽口を叩く美女。

 それに対して理詰めで軽口を捻じ伏せる霖之助。

 二者の間には剣呑な雰囲気が漂い始め、今のも戦いの火蓋が斬られそうな雰囲気だ。

 

「はいそこまでー。

 お姉ちゃん、その似合わない演技止めてくれない?

 私が恥じかしいから」

 

「ちょ、八橋!

 今良い処なんだから邪魔しないでよ!!」

 

「だって、このままだと此処で喧嘩しそうだったんだもん。

 というか、まだマトモに力を制御できていないのを如何にも狙ってやりました読みたいに言わないでよ」

 

「...一体何なんだいキミ達は」

 

 明らかに戦うという雰囲気じゃなくなったのを感じ取ったのか、霖之助は宝剣の柄頭に手を添えながらもその雰囲気からは険しさが薄まっていた。

 また、それを感じ取ったのか姉に文句を言いながらも霖之助を警戒していた八橋からも最低限の注意を残してその大半が柔らかな雰囲気となっていた。

 

「愚姉がごめんなさね。

 私は九十九八橋って言うの。

 最近になって付喪神になった新参者よ。

 後ついでにコレは私の姉という事になってる九十九弁々」

 

「紹介がかなり雑な気がするわ...

 まあいいわ。私は九十九弁々。

 由緒ある琵琶の付喪神よ!」

 

「ご丁寧にありがとう。

 ボクは森近霖之助。

 この学校の化学教師をしている

 

 ・・・何時まで呆けてるのかな、妖夢。

 自己紹介だよ」

 

 

「へ?

 あっ、はい。

 私は魂魄妖夢と申します。

 この学園では、剣道部の主将を任されていますっ」

 

 急に剣呑とした雰囲気が緩み、自己紹介となった場に付いて行けずに呆けていた妖夢に対して霖之助は軽く頭に手を置いて妖夢に声を掛ける。

 (妖夢からしたら)その急な動作によって嬉しいやら恥ずかしいやらが綯い交ぜになった妖夢に対して自己紹介を促す霖之助。

 ・・・実際のところは、未だに九十九姉妹の事を完全に信用していなかった霖之助が何か変な術に掛けられていないかを確認する為に頭に手を置いて確認しただけなのだが、言わぬが花であろう。

 

「それじゃあ自己紹介も済んだことだし、どうしてこんな事をしていたのかを聞かせてもらえるかな?

 納得出来ない様な理由なら退治するだけだから、細かい事は気にせず話して良いよ」

 

「...そんな事を言われたら気にせずに話すとか無理でしょ。

 というか、それを自然体で言うとか鬼畜だわ」

 

「何か?」

 

「いいえ、何でもないわ(人間って怖いわぁ)」

 

 ナチュラルに退治するといった霖之助に対して八橋が小声で愚痴を吐くと、それに対して丁寧に反応した霖之助。

 それに対して、どこぞの狼女のセリフだけが予期せず先んじて出てくるのだった。

 

「...まあいいわ。

 私達って生まれたばかりの怪異だから、まだ存在が安定してないの。

 だから、適当に怖がらせて存在を安定させようとしてたのよ。

 私達が生きる為だから、他の人間は殺さないようにしてるわ」

 

 ...生徒達の精気を吸い尽くして絞り殺しちゃったら貴方みたいな退治屋に逆に私達が殺されちゃうもの。

 と先ほどの事に対しての愚痴も付け加えながらも理由を説明する八橋に対して、霖之助は何かを考える様に瞑目する。

 ほんの少しの間とはいえ、瞑目して深慮する霖之助の姿を見て妖夢もようやく彼女たちが敵ではないと気が付いたのか、柄頭に常に置いていた手を離して肩の力を抜いた。

 

「・・・つまり、君たちは存在が安定すればこの学校から去るなりなんなりするという事で良いのかな?」

 

「ええ、そうよ。

 とはいっても私達はつい最近に昇華したから何処にもツテが無いから、しばらくは此処でお世話になるかもしれないけど?」

 

「はぁ。わかったよ。

 当面の間は家に来ると良い。

 とはいえ、人の世の常識を叩き込んである程度やれると思ったら追い出すからね」

 

「助かるわ」

 

 明らかに強請ってきている八橋に対して、霖之助は自分の家に来ると良いと言う。

 それに対して、飄々とお礼を言う八橋。

 この二人がやり取りをしている間、弁々は蛇に睨まれた蛙の様にガタガタと震えていたが何があったのだろうか?

 

「とはいえ、これで今日の怪異は解決だね。

 ほら、さっさと帰るよ」

 

「えっ!

 霖之助さん、良いんですか?

 このまま彼女達を此処に居させたら解決にならないんじゃ...」

 

「何を言ってるんだい妖夢。

 彼女たちは今日からボクの家に来て貰う予定だよ。

 そもそも、このまま置いて於くよりも直ぐに対処出来る処に置いて於く方が都合が良いからね。

 まだ彼女たちを信用したわけじゃないから、拒否権は無いよ」

 

 ...それにどうせ休日を挟むんだから、彼女たちに常識を教えるのに丁度良いからね。

 妖夢にだけ聞こえる様に小声で伝えた霖之助に、妖夢は冷や汗を流していた。

 

(これって、霖之助さんを取られちゃう可能性があるんじゃ。

 でも、休日に霖之助さんの家に行くのはハードルがかなり高いし...)

 

 悶々としながらも、帰路に就く妖夢。

 それを不思議に思いながらも、式のヒトガタに護衛を陰ながら頼みつつ霖之助もまた帰路に就く。

 

--- 音楽室の謎:解明 ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




休日のお話は、本編では触れる事はありません。
ただ、後日譚として書くかもしれません


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第二之怪異:女子トイレの謎

--- 前回までのあらすじっ!---

 

 なんやかんやで居候が増えた化学教師の霖之助(25歳児)は、付喪神の姉妹に土日を使って常識を教えることになったの。

 それに対して、剣道部主将を任されている魂魄妖夢(17歳ヒロイン)が霖之助では教えられない類の常識を教える為に霖之助の家にしばらく居候することになったわ!

 

(釘宮理恵ボイス)

 

--- 本編 ---

 

 週が始まった初日だというのに若々しい明るい空気が皆無な空間では、毎度お馴染みな怪異対策会議(という名の逢引き)が行われていた。

 

「それで、今回はどんな怪異なんだい?」

 

「そうですね。

 今回はなんでも2階の女子トイレで清掃員の方が獣の爪で切り裂かれたかのような傷を負ったらしいです。

 これが初めて実際に被害が確認された怪異みたいですよ」

 

 ・・・これはいよいよ本格的な荒事になりそうだね。

 口の中でそう呟く霖之助の真剣な表情を見て妖夢も緩みかけた釣られて顔を引き締める。

 とはいえ、いくら引き締めようとしても霖之助の真剣な顔を見てまたほおを緩めてしまっているのだが...

 

「霖之助さん!

 今日のお昼ご飯作られてなかったんですけど!!」

 

「姉さん、今そういった雰囲気じゃないから...ね?」

 

 やはりというか、シリアスな雰囲気は長く続かないらしい。

 シリアスな雰囲気を壊したのは先日解決した音楽室での怪異を起こしていた付喪神の姉妹であった。

 

「まったく。

 君たちは自分で作るという選択肢を思い浮かばなかったのかい?」

 

 あっ!と今気が付いた姉の弁々に対して、妹の八橋は少々冷ややかな目線で見ていた。

 ・・・この妹、明らかに確信犯である。

 

「というか、八橋は分かっていて付いて来たんだろう?」

 

「...だって、霖之助さんが作ったほうが美味しいですし」

 

「なっ!?

 霖之助さんの手作り料理...!?

 (私もしばらく食べていないのにそれを毎日食べているなんて、羨ましい!!)」

 

「ねえねえ、ご飯まだ~?」

 

 シリアスな雰囲気はたったの数十秒で跡形もなく消し飛んでしまった状況に対して、頭を抱える霖之助。

 しかし、このような状況も悪くないと心の何処かで秘かに思っているのは、霖之助本人も気が付いていない。

 このような日常がいつまでも続いてほしい。

 そう思う霖之助であった。

 

--- Now Loading To Night School ---

 

「ふ~ん。

 なんか不気味な空間ね」

 

「確かにお昼には人間が居たはずなのに精気の欠片も感じない空間なんて違和感しかないけど、そういう結界が張られているという事なんだから気にしても仕方ないと思いますよ?」

 

「...君達は少し緊張感を持った方が良いと思うよ。

 もし不意打ちを喰らったら君達も含めて守れる程余裕があるとは限らないからね」

 

 いつも霖之助と妖夢のコンビに加えて付喪神姉妹も今回の異変に付いて来るという話になったのだが、正直な話足手纏いになる気しかしない霖之助は前もって忠告をするのだった。

 

「ところで、僕が女子トイレに入るのってどうなんだい?

 正直、通報されたら現行犯逮捕になってしまう気がするんだけど...」

 

「・・・そうですね。

 そうなったら切ります」

 

 適度に緊張を紛らわそうと軽い冗句を言った霖之助に対して妖夢は片手を柄頭に添えながら"切る"言ったのだが、これは別の事案が発生しそうだ。

 それはそれとして、実際に"女生徒(17歳)と共に女子トイレに入る男子教諭(25歳)"という状況だけを切り出した場合、完全に事案である。

 

「つい先日携帯を契約したので、その現場を撮って良いですが?」

 

「止めてくれ。

 流石にそれは言い逃れが出来ない」

 

「切りますか?」

 

「ちょ!?

 私の妹を切ろうとしないでよ!?」

 

 つい先日の怪異とは打って変わって和気藹々としているが、周囲に対して警戒を怠っていないので問題は無いだろう。

 

 

--- 閑話休題(わだいてんかん) ---

 

 適度に談話をして緊張を解した一行は無事2階の女子トイレの前に到着したのだが、此処で一行は作戦会議をしていた。

 

「・・・本当に入るのかい?」

 

「霖之助さんに付いて来て貰った理由は不測の事態になった時の保険という事になってますから、仕方ないですよ...」

 

「撮影準備OKですよ~」

 

「バカッ!

 切られるわよ!?」

 

 もう少しシリアスに出来ないのだろうか?

 んんっ!

 一行が作戦会議をしている間に怪異の方から出てくるという事は考えていないのだろうか...

 

「あ、あのぉ...」

 

「そうはいっても女子トイレに男のボクが入るのは抵抗が、ねえ?」

 

「早く怪異を解決して帰りましょう。

 ...其処の京都土産は後で斬るので、覚悟しておいてください」

 

「悪さをしていない怪異を滅するのは"特例妖魔措置法"に違反するらしいですけど?」

 

 突如現れた気弱そうな声に気が付かず作戦会議(笑)をしている一行は、徐々に剣呑な雰囲気になり始めていた。

 というか、八橋(名前)だからと言って京都土産扱いはどうなのだろうか?

 それにしても、何処の日本庭園で庭師している並行世界みたいに辻斬りの(さが)が目覚め始めていないだろうか?

 霖之助が胃薬を常飲する日々は遠くないかもしれない。

 

「あっ、あの!」

 

「異変解決と言ってもねえ。

 正直な疑問だけど、今回の怪異って本当に危険なのかい?

 此処まで来て未だに邪気が感じられない」

 

「ですが実際に被害にあった方は傷を負っていましたし、紫さんからもその様に聞きましたから...」

 

「なんであの胡散臭いオバさ...ッ!」

 

「八橋ィ!!

 アンタそれ以上言ったら消されるわよ!?」

 

「妖夢...

 紫の言葉を鵜呑みにするのは止めなさい。

 アレはかなりの悪戯好きだからねえ。

 例え事実だとしても面白くなるように一部だけを抜き出して話す事もある。

 紫と話をする時は話半分で聞くようにすると良い」

 

「気が付いてるんですよね!?

 気が付いてて無視してるんですよね!?!?

 ・・・お願いですから、無視しないでくださいぃ」

 

「「「「え?」」」」

 

 ようやく気が付いたこの一行は、いったい何を警戒していたのだろうか?

 いや、気が付かなかったのは理解できない事もない。

 正直彼女の気配が薄い事に加えて彼女はかなり気が弱い。

 それは怪異にとって致命的なレベルで欠点なのだ。

 恐れられなければ怪異は"怪異"として成立されない。

 つまり、彼女は"怪異"としては致命的に向いていないのだ。

 それはつまり、彼女の存在が希薄だという事なのだ。

 

「えっ...

 もしかして、気が付いていなかったんですか...」

 

「すまない。

 正直、全く気が付かなかったよ」

 

「なんというか、申し訳ございません...」

 

 本格的に泣きそうになってきた謎のケモミミ少女に荒事と言った雰囲気が霧散した。

 

「取り合えず、名乗って貰えないかな?

 名前が分からないと会話するにも困るからね」

 

「あっ、はい。

 私は今泉影狼と申します。

 一応"日本狼のウェアウルフ"です」

 

 さりげなく怪異に対して真名を名乗らせるという外道。

 でも、仕方がないと言う他ない。

 だって、名前が出て来ないとコミュニケーションが取り難いのは常ですし...

 

「それで、どうして清掃員を襲ったのかな?

 君の性格上そういった事をするとは思えないのだけど...」

 

「あの...

 言わなきゃダメですか?」

 

「そうだね。

 言ってもらえないと君を滅しないといけなくなるから、言ってもらえないと...

 ねえ?」

 

 笑顔で泣いている少女(ケモミミ)に凶器(退魔の札)を突き付ける成人男性の図。

 またしても事案ですね。

 やったね霖ちゃん!余罪が増えるよ!!

 

「あの、流石に止めてあげましょうよ...

 この絵面を第三者が見たら確実に通報案件ですよ?」

 

「っ!

 女神様!!」

 

「いや、ソイツただの辻斬りよ!?」

 

「姉さん、少し黙りましょ?」

 

 なんで!?っと騒ぐ弁々に対して、またも冷ややかな目で見る八橋。

 この姉妹はどっちがボケなのかが分からなくなってきた気がする。

 

「...取り合えず後で斬る。ボソッ

 影狼さん。話してくれますよね?

 霖之助さんに言い難い事でしたら、私が代わりに聞きますのでお話しいただけませんか?」

 

「は、はいぃ」

 

 影狼を連れて少し離れたところに行った妖夢たちだが、その位置では霖之助に筒抜けになるのだが...

 

[あの、私が・・・時に・・・で・・・だったのですが、ソレをその・・・男性の方が・・・でつい。

 あと満月の夜という事もありまして・・・]

 

[それは仕方ないですね...

 後で紫さんに清掃員の方を処してもらわないといけなくなりましたね]

 

 どうやら、そういう事らしかった。

 後で人事部を精査するように紫に言っておこうと思う霖之助であった。

 

「霖之助さん。

 彼女は特に悪くはないと判明しました。

 ついでに、清掃員の方は処します」

 

「彼女が言うと斬首にしか聞こえないのが不思議だわ」

 

「清掃員の方は紫に言いなさい。

 まあ、彼女が悪人じゃないって言うのはわかってた事だからね。

 妖夢が私情でこういった事を決めるとは思えないから、妖夢の言を信じよう。

 ・・・ああ、住む場所も無いんだよね。

 暫くの間、ボクの家に来ると良い」

 

「は?」

 

「ひあぁぁ」

 

 同情の目で影狼を見ていた妖夢は眼の色を変えて、影狼を射殺せそうな目で見ていた。

 また影狼も救世主であったハズの妖夢から殺気を向けられてパニックになったのか、霖之助の背後に隠れてしまった。

 これは修羅場不可避である。

 

「は?」

 

「   」

 

「妖夢、ストップだ。

 それ以上は流石に見逃せない」

 

 向けられた殺気に耐えられなくなった影狼は気絶し、それを見かねた霖之助が仲裁に入る。

 九十九姉妹はソレを丁度良い娯楽だと思ったのか、高みの見物を始めていた。

 今宵の怪異はこれにて解決という事になるのだろうか?

 ...逆に新たな怪異が生まれそうな気配がするが、気のせいだという事にしましょう。

 

 

 後日、影狼と妖夢の因縁(勘違い)を解決しようとした霖之助に対して影狼が惚れてしまい因縁(真)になる事態が勃発するのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

--- 女子トイレの謎:解明(?) ---

 

 



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第三之怪異:転がる生首の謎 上

3000字程度で収まらなかったので上下編に分けます


--- 前回までのあらすじだワン ---

 

 霖之助が行った安易な行動により妖夢の怒りを買った影狼と妖夢によるキャットファイトが繰り広げられたのは言うまでもないが、キャットはそんな事よりもニンジンを食べたいのだ。

 まあ、キャットも大人だ。

 報酬にはニンジンを戴こう。

 さて、影狼と妖夢によるキャットファイトを止めようとした霖之助がなんやかんやあって影狼に惚れられたせいで、因縁が(仮)から(真)に変わったのだが、キャットにはあずかり知らぬ処である。

 さて、あらすじ説明は終わったな?

 報酬にニンジンを戴こう。

 

--- 本編 ---

 

 妖夢が学園に入ってから続くいつも通りの風景は、早々変わる事は無い筈だった。

 しかし、理事長による策略と言う名の依頼によって歪みが生じ始めてきたのだ。

 そのことを裏付けるかのように化学準備室に姦しい声が響いていた。

 

「霖之助さ~ん!遊びに来ましたぁ!」

 

「...影狼、此処は遊びに来る場所じゃないよ。

 それにボクはまだ勤務中だ。

 さあ、帰った帰った」

 

「影狼さん、良い度胸ですね?」

 

「い、いくら妖夢さんでも譲れませんからね!?」

 

「やつはし~、ご飯まだ~?」

 

「適当にその辺で買えばいいじゃないですか。

 ほら。これ使って良いですから適当に何か買って食べてください」

 

 現在進行形で森近家に居候する少女たちの声によって化学準備室は一種の魔境と化していた。

 しかも少女たちの気が昂るにつれて徐々に霊力や妖力が溢れ出しており、比喩的な意味での魔境ではなく物理的に俗世から隔離された異界化され始めていた。

 これはマズイと思い始めた霖之助は少女たちに声を掛けるのだが、一顧だにされずに無視されていた。

 流石の霖之助も徐々に苛立ち始め、ついには限界を迎えてしまった。

 

少し煩いよ

 

 苛ついていたせいか、かなり霊力がが漏れ出していた。

 しかも霖之助はとある事情によりその霊力が変容しやすくなっているのだが、そのせいか霊力が禍々しくなっている。

 

 ・・・少々話が逸れるが、ここは稀代の天才が治めている学園だ。

 しかも、学園を創設した理由と言うのが天才と霖之助の子供を自分が学園を創設したって言ったら子供にドヤ顔出来るよね!

 とか言う理由によって創設された、100%ノリで創られた学園なのである。

 もっと言うとこの学園を創設した理由も理由な為、かなり警備がしっかりしているのだ。

 

 ・・・結論を言ってしまうと、霖之助がこの様な禍々しい霊力を発したせいでその警備用の術式が発動してしまったのだ。

 しかも、かなり低層に位置する危険なモノが。

 

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「君たちは、本当に厄介な事しかしないね」

 

「いや、これって霖之助さんのせいじゃ」

 

「...君たちは、本当に厄介な事しかしないね」

 

「うわっ、大人にあるまじき責任転嫁」

 

 弁々が言ったように霖之助が霊力を開放しなければこの様にならなかったのは確かだが、そもそもの原因としては彼女たちの姦しいやり取りが原因だが、そこはもう怪異らしく自分の事は棚上げしている。

 本来ならば稀代の天才である八雲紫の警備用の罠が発動したというのにこのようなやり取りをしている暇は実際には無いのだが、そこは霖之助が気付かれないようにこっそりと責任を取っているのだった。

 

「...物々しい警告が出た割には何も起きませんね。

 脅しか何かだったのでしょうか?」

 

「...そんなわけないでしょうが。

 何やってるのよアナタたちは!」

 

「随分と遅かったじゃないか。

 早くこの重力系の呪術をどうにかしてくれるかい?」

 

 突然空間が湾曲したスーツ姿の女性が突如現れた。

 彼女こそが、自分の子供を通わせたいという理由だけで学園を創設した稀代の天才である。

 ただし自分の子供をどうこう以前の問題として結婚したい相手から特に相手にされていないのだが...

 しかし、理由はどうあれ彼女は学園を創設できるだけの地位と資金を持っているというのは確かなのだ。

 

「まあそれは良いですけど...

 どうしてこのような事になったのかを教えてくださるかしら?」

 

「むしゃくしゃしてやった。

 反省はしているかもしれないけど後悔は一切していない」

 

「かもしれないって何よ、かもしれないって。

 取り合えず説明してくださいな」

 

「さっき言った通りだよ。

 実際、イラッとしてちょっと霊力を開放しちゃっただけだしね」

 

 霖之助がこうも頑なに言う理由は、問題を起こした原因が影狼たちである事なのだ。

 何時だったかも言ったやも知れないが、問題を起こさず対話が出来る怪異は基本的に保護される事になっている。

 しかし、今回の騒動は影狼達が話を聞かずに騒がしくしたと言うのが事の発端である。

 ただの口論だとしてもソレが実際に暴力を伴った喧嘩となった場合、一般人の場合はまず身体能力と言う点ではまず勝てないのだ。

 故に事情を説明した場合、最悪彼女たちが滅される事になるからこそ霖之助はこうして紫を煙に巻こうとしているのだ。

 

「...良いでしょう。

 そういう事にしておきます」

 

「助かるよ。

 そろそろ昼休みが終わるし、君たちは早く帰りなさい。

 怖い陰陽師に対峙される前にね」

 

「怖いってどういうことかしら?

 私は優しくて美人で綺麗なお姉さんって有名なんですからね??」

 

「知っているよ。

 君のおかげで路頭に迷う事が無かったのだから、感謝してる

 そろそろいい時間だ。特に何も問題が無かったのだから理事長室に戻った方が良いんじゃないかい?」

 

「あっ。

 いえ、何事もなかったとはいえこの後何か起こるかも...」

 

「でしたら防衛機構の術式を補填していただけませんか?

 私では補填できないので紫様が来てくださらないと私が出来る事がないのですが」

 

 そう言って紫にはよ戻れと催促したのはかつて京の都を恐怖に陥れた大怪異こと白面金毛九尾の狐であり、現在は紫の式神をしてる八雲藍であった。

 つまり、紫はかの大怪異を屈服させて懐柔しているのだ。

 それは前代未聞の偉業なのだが人柄ゆえに親しみやすく、気兼ねなくやり取りできるという点で紫自身が言っていたことは強ち間違いではないのだ。

 

「...はい」

 

「それでは私達はこれで失礼します。

 森近先生、次の時限は上白沢先生の歴史の授業と差し換えますので理事長室に来てください」

 

「わかりました。

 次の授業が始まり次第向かいます」

 

--- Continued ---



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