ソラール提督がいく(改修中) (タータ/タンタル)
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第一話

多分キャラの台詞が合ってない気もする。
まるゆはこんなこと言わない!
嗚呼そうさ。
だって色々あるんだもん。


海から生まれる深海の化身…

否、深海に沈んだ孤独な彼女達

そして、自らから人々を守る為に立ち上がった正義の存在

 

彼女らのいる世界は

『艦隊これくしょん』

と呼ばれていた。

 

その世界にはありとあらゆる物が流れ着く。

古いロボットとその操縦士

東の方の巫女達

一億人を殺したとある獣

偉大なる潜入の達人

何処から現れた天使

果てには犬や鳥

彼らは皆提督と呼ばれていた。

 

されど、この世界はそんな彼らがいた世界から少し離れた、小さな世界。

偉大なる彼らが来なかった世界。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あれ?なんだろう」

砂浜で黒い髪の女の子が何かを見つけた。

錆びているが、明らかにあれは鎧である。

バケツをひっくり返したような形の兜

太陽が書かれたふさふさしていそうな鎧

無骨な足甲

無骨な腕輪

明らかに時代が違う。

とっても不思議に思って少女が近づくと不意に鎧が動いた!

「わぁ!」

驚いた彼女は尻餅をついてしまった。

 

ゆっくりと鎧が立ち上がる。

そして腕を大きくちょうどYの字になるように伸びをした。

すると目の前に尻餅を突きながら唖然としている少女を見つけた。

「貴公、無事か?」

「はい、まるゆは大丈夫……でしょうか?」

少女は驚きながらも曖昧な回答とは反対の輝かしい笑顔で答えた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

されど彼はやってきた。

 

彼は選ばれなかった。だけど、だからこそ彼が世界を救うのさね。

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「貴公…それはどっちなんだ?」

「多分大丈夫です」

「うーむ」

彼は物凄く悩んだ。本当に無事なのだろうか?見るからに軽装なまるゆと名乗った彼女は明らかに危なそうである。

「大丈夫です!」

それを感じ取ったのかまるゆははっきりと答えた。

「ふむ、それでここがどこか判るか?記憶に無い所のようだ。それに貴公は、軽装と見た。それであるならば危険だ。引き返さなければ」

「?」

首を傾げていて、よくわかっていないようなので彼は訂正した。

「ここはどこか判るか?」

「日本の南東の島ですけど…なにか?」

帰って来たのは予想だにしない答えだった。

兜に手を当てて物凄く悩む。

「日本とは何処だ?いいや、私はアノールロンドからイザリスへ…いや、イザリスに着いていた?あれ?私はいったい…」

最初は面白そうに見ていたまるゆも心配そうに見ている。

「ああ…貴公。すまない、取り乱してしまったようだ」

「記憶喪失…ですか?」

「?」

「記憶が無いようで、何か混乱していたようだったので…」

「ああ、きっとそのキオクソーシツだろう。すまない」

「大丈夫です。まるゆはげんきです!」

ありがとう。と、小声で呟くと彼は名乗った。

「私はソラール。今はそれだけしか判らないが貴公…助かった。私は自分を探す旅に出る」

そう言うと彼は海岸沿いを歩き始めた。

 

「ところで貴公、何故着いてくる?」

「向こうに行っても出られないよ」

「ふむ、ならば逆か」

「そっちもダメですよ」

「なぜ?」

「ここは島です。船もなかなか来無いです」

 

ーーーーーーーーーー

 

「貴公……済まない。私に食事を…ここに泊まるようにしてくれて」

「大丈夫です。まるゆは寂しかったので」

「それで、鎮守府や艦娘や深海棲艦や日本について教えてくれ」

「日本語は読めるでしょうか?」

「日本語…?」

「…先ずは試せです!」

 

向かった先には椅子と机が置いてあるだけの部屋が有った。

「ここは…」

「ここで寝泊まりして下さい。布団は押し入れに入っています。記憶が戻るか、この国の事を完全に覚えるまで、ここで寝泊まりしていて下さい」

「分かった」

「そして、この隣が提督であるまるゆの寝室です!」

「提督?」

「艦を率いるリーダーです。ここは提督が居ないのでまるゆが替わりにやっているだけです」

「ふむ…」

「この隣が執務室です。普段は艦隊の指揮を執る場所なのですが…あまり使ってないです」

「ふむ」

「ですが、ここの本棚にいっぱい資料があるので、説明するものが出来るまで部屋で待機していて下さい」

「分かった」

「あっ!自己紹介をするのを忘れてました。まるゆはまるゆです。ここの鎮守府の…提督と艦隊両方を務めています」

 

ーーーーーーーーーー

 

部屋は十二畳程で、そこそこ広い。

まるゆが用意してくれたTシャツとズボンを履く。

鏡を見ると目の前には金髪の男が立っている。さながら外国人観光客であるが本人は風貌についてあまり考えていない。

外を眺めると眼下に海と泊地、赤い煉瓦の建物がいくつか見える。

動きやすい服、見慣れない景色にとても心が躍っている。

 

「まるで夢の世界のようだ」

 

そう呟く。

何故か体が震えて来た。

ああ、まるで…そうだ。私は。

太陽を求めていた。

 

窓の外の海に何かが見えた。

黒い粒だ。

それがこちらへ向かって来ているようだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「とりあえずこの資料はまとめられました」

山の様な資料を数枚の紙に絵付きで纏めてある。

「問題は日本語が読めるかですが…会話が出来れば大丈夫ですか?」

誰もいない広い空間に聞いてみる。

提督机の上にはまるゆと一人の男が写った写真が置いてある。

 




だって色々あるんだもん。


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第二話

ACが無いじゃ無いかって?
いや、魂が戦場に引かれてるじゃ無いか。
戦場こそがこの場所が彼女たちの魂の場所よ


黒い点が近づいてくる。

「魚か?いや…違う」

魚にしては大きすぎる。

何処か機械的な…ゴーレムの様な雰囲気を離れていても感じ取れる。

直感的に何か危ない事を感じ取った。

ここにはあの少女と自分しかいない。

ならば行くのは自分だ。

慌てて鎧を着て駆け出した。

手には上質の直剣と太陽が書かれた盾を握っている。

 

波止場の前にはあの魚…イ級がいた。

イ級はソラールを見つけるや否や砲撃を始めた。

だが彼にとって避けるのは容易い。

 

彼の鎧は非常に軽く、そして弱い。

しっかりと手入れはされて来たが、弱い。

しかしそれは彼には関係ない。

彼は強靭な肉体を持ち、それゆえに弱くても構わないのだ。

決して強いとは言えない装備。

しかし己の強さでカバーする。

彼の強さは、そこにあった。

彼はそうして、あの地を駆けたのだ。

 

数メートルのところまで近づくと腰にぶら下げてあるタリスマンを取り出し、牽制の雷の槍を投げる。

イ級に向かって飛び、落下攻撃を仕掛ける。

そして、怯んだところにタメ攻撃。

イ級は火花を散らして沈んでいく。

 

ーーーーーーーーーー

 

「な!なんですか!隊長!」

慌てて外を覗くとあの鎧がイ級が向かっているのを見つけた。

「あわわわ。なんであそこにいるの?」

慌てて艤装に着替える。

その間にも砲撃の音が何度もしてくる。

本来、深海棲艦には既存の兵器は殆ど効かない。

ましてや、有り得ないのだ。

‘人間’が海に浮かぶなど。

さすがまるゆ。前後ろを間違えたりしなければもう少しカッコ良かったかもしれない。

 

ーーーーーーーーーー

 

まるゆはポカーンとしている。

あの鎧が水の上に立っているのだ。

ましてや、自分に向かって手を振っている。

既存の兵器…否、過去の武器である直剣を携えて。

「魚ゴーレムはこちらで倒したぞ。ハハハ。貴公何か奇妙な格好をしているな」

まるゆの顔が赤くなる。

「あれが深海棲艦です!普通なら貴方は死にかけたのですよ!」

何と涙を流しながら叫んだ。

ソラールは慌てて謝る。

「貴公、私は太陽の戦士ソラール。この魚ゴーレムから嫌な雰囲気を感じてしまってな。貴公のような少女は護らねばと……すまない」

少女と呼ばれたのが嬉しいのか先程怒鳴った事さえ忘れたかの様な表情になる。

「でも無事で良かったです。でもなんで海の上に立てているのでしょう?」

「ふむ…何故だろう?」

「まるゆも分からないです」

 

ーーーーーーーーーー

 

「ソラールさんが日本語が読めると分かったところでここについて説明するよ。ここは日本っていう島国の本土から南西に20海里ほど離れた孤島にある鎮守府です」

「ふむ…書き慣れない単語がいくつかあるな。貴公、日本や鎮守府とは何だろうか」

目の前のホワイトボードには世界地図といくつかの文字が書いてある。

「日本っていうのは国で、世界地図のここにある国です」

「ふむ、たしかに島国だな」

「鎮守府についてですが、深海棲艦について絡めて説明するよ。

昔、まだこの国が帝国だった頃、大国との戦争で幾つもの軍艦が造られました。

ソラールさんに説明しにくいのですが、大砲をたくさん載せた船って考えていいと思います。ソラールさんって中世のひとですよね?」

「中世……?」

「まぁ、その…気にしないでいいですよ。知らない単語があるのは仕方ないので…」

「ああ、貴公…」

「それでですね。

 

ーーーーーーーーーー

8日後

 

ソラールは外に出るとお馴染みの伸びをした。

この8日で彼は国語辞典を読み漁り、人並みの知識を得た。

まるゆと近づいて来たイ級の退治をしながら、かつての記憶が湧いて来た。

太陽に憧れたこと、太陽のホーリーシンボルを自作したこと。故郷のアストラの直剣を太陽の直剣、この円盾を太陽の盾、タリスマンは太陽のタリスマンと呼んでいたこと。

太陽を目指す為に沢山の事を学び、沢山の修行を行なって来たこと。

そして太陽の様に大きく熱くなる事を目指して、旅に出た事。

あの太陽の地ロードランに。

自ら不死になって。

あの未知の地へ行く為に足掻いた日々

それと比べればこの日本の事はわかりやすかった。

それに‘日’本である。

やる気が出るというものだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「なぁ貴公、このカレー以外に作れる物は無いのか?」

「まるゆはカレーしか作れないです」

「ううむ、材料はこれだけしか無いのか」

「ソラールさんは料理出来るのですか?」

「一応出来るが、数えられない程前だからなぁ。分からないが試してみよう」

「ソラールさんって不思議です。私達みたいなのに私達よりも長くを古い時代を生きてきたみたいです」

「ああ、きっと古い時代を生きたのだろう。記憶がまだ途中までしか思い出せない。それでも永く瞬く間を生きていた事を感じ取れる」

「ソラールさんさんはきっと自分の目指した太陽になれたと思います。隊ちょ……優しいですから」

何かを言いかけた事が気になった様子だが、聞くのは野暮用だろう。

そう思ったソラールはおもむろに肉を切り出し、豪快にフライパンで焼き始めた。

 

焼いた肉に、付け合わせに蒸した芋と人参、玉ねぎ、そして御茶碗に乗せた白い米。

味付けは塩コショウで簡素な出来では有るが、カレーしか食べて来ていないので、とてもうまく感じる。

「ううむ、やはり、久々の料理は難しい」

「そうだ!ソラールさん。魚ならば海で釣れば採れますよ。まるゆはボーってしててなかなか捕まえられないですけど」

「成る程、魚か」

会話をしている間にも箸は進む。ソラールはナイフとフォークだが。

不意にまるゆが話を変えた。

「明日、本土に行きます。お米とか、必要な物を買い溜めします!ソラールさんもきませんか?」

「うむ。日本の物を見ればこの時代が、私がどのくらいの時代の人間かわかるかも知れない。あと剣の手入れをしたい。鈍ではあいつらに刃が通らないだろう」

あの上質の直剣は質こそそこそこの性能だが、手入れをしなければ鈍になってしまう。ただ、流石に工廠にあるよくわからない機材を愛刀に使うのも気が引ける。

 

ーーーーーーーーーー

 

まるゆは自分の机。

提督机に着くと今日のことを報告する。

ソラールの成長具合、記憶の回復具合。

何があったか、何をしようとしているか。

笑顔と哀しみに満ちた顔を交互に見せながら、、

あの写真に別れを告げた。

「隊長。まるゆは本土に行く事にしました。きっと、まるゆは帰れなくなると思います。でも、まるゆは護ります。隊長がまるゆを守ってくれたように」

拳を握りしめ、決意したように天を見た。

きっとあそこにいる憧れのあの人のように、きっとあそこに自分も辿り着けるように。

そして、艦としての役目を、三式潜航輸送艇としての役目を果たせるように。

 

ーーーーーーーーーー

 

きっとその想いは届いただろう。

天国にいる隊長《提督》に、扉の外で聞き耳を立てていた彼に。

彼は苦悩するだろう。

彼女の決意に対して、そして湧き上がった己の記憶に。




オリ設定

世界観
現代(2020年)から少し未来
微妙に地形や国家などの組織が違うがだいたい現実の地球。

艦娘、深海棲艦について
艦の記憶を持って海から産まれる。艦が多く沈んだ海に多く、強い個体が出現する。
普通の記憶を持って産まれると艦娘、膨れ上がった怨念の記憶を持って産まれると深海棲艦。(普通の記憶には沈没時などの負の面も含まれる)
どちらも既存の兵器は効かない。これには彼女らがこの世界の物理と違う力を持っているため。しかし、効かないとは言えダメージは負う。ただし、核兵器などの超高火力ならば一撃だが汚染地域には深海棲艦が大量に発生する可能性がある。艦娘や人型の深海棲艦に対して発見順に番号が振られるが、これらはあくまでも識別の為である。
また、特徴的な個性を持つ個体も多く見られる。


小さい島
まるゆのいる鎮守府のある島、本土から37Kmほど離れたところにある。山の上に本館、海岸沿いに入渠設備と工廠を兼ねた赤煉瓦の建物がある。山には木の実やきのこがある。ちなみに隊長は食べてお腹を下した。

まるゆのいる鎮守府
首都への大規模襲撃に備える為の監視、もしくは若手の艦娘の育成の育成を目的とした設備がある。その目的のため他の鎮守府から独立して設けられていた。本格的な防衛をするわけでも一から育成するわけでもない。
そのため鎮守府としてはとても小さく、小さい島にあった。

鎮守府本館
まるゆのいる鎮守府の本館。山の上にある。海岸から歩いて10分。地下に緊急時用のリフトにあり、そこから裏の脱出路(洞窟)に繋がっている。
執務室や客室だけでなく食堂、風呂などの宿泊施設も兼ねている。
監視用の高い塔がくっ付いている。


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第三話

騙して悪いが
「唐突の過去編」
なんでな
ここで死んでもらう。


「辺境の鎮守府ですか⁈」

男の素っ頓狂な声が聞こえる。

‘長い黒髪の背の高い’彼女はその男の隣に立っていた。

「つまり文字通り、島流しと」

「あっ長門!上官に失礼だろう」

「いいや、気になさるな。それにその通りだ」

白髪の老翁が大きく笑う。隣には暁が正しくレディーの様に紅茶を飲んでいる。もちろん砂糖とミルクをたっぷり入れたロイヤルミルクティーだ。

「君の長門の言う通り、これは島流しだ。恐らく私への当て付けだろう。仕方ない、我々は軍であるが政治家ではない。よほど君のその戦績に裏があると睨んでいるのだろう。この世の中さ、皆がピリピリしてるだろう」

「理由はそれだけか?」

「うーむ。これから君に着いてもらう鎮守府はちょっと特殊でな、鎮守府と言うよりはなんだろうか…監視塔みたいな施設でな。そこで養成学校を卒業したばかりの艦娘の指導を頼みたい。君にならそれが出来るはずだ」

「分かりました。つまり、その血気盛んなお嬢様方のご指導を頼まれたわけですか」

「ああ、証明して見せろ。お前とあいつらの可能性を」

「ふう、そう言う事なら私も付いていこう。派手にやろうじゃないか」

腕組みをしながら長門が納得したと頷いた。

「皆さんこそ血気盛んですね。全く」

服にこぼした紅茶のシミをハンカチでトントンしながら暁が呆れる。

せっかく昨日クリーニングに出したのに、と。

 

ーーーーーーーーーー

 

「遅いなぁ。島風の方が速いよ!」

「いいですカ?この船は輸送を目的としてるネー。速さを求めてる訳では無いデース」

「魚!魚です」

「……」

輸送船に乗って鎮守府を目指して海の上を進んでいる。

「あれがそうか。意外と大きいな」

港のそこそこ大きな赤煉瓦の建物と山の上にある本館を見て思う。6人で過ごす場所でも無いな。

そんな冷めた目と違い、新人の4人は目を輝かせている

 

輸送船を港に着けて上陸する。

この鎮守府についてある程度資料を読んだ。

設備としてはまあまあ。

ただここが流刑地だとするとまぁそれらしいと言えばそれらしいのだが。

「本土からこの距離で流刑地…か」

 

「各自上陸の準備を済ましておけ」

「「「はい」デース」」

「…」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「完全に山だな」

「十分はかかるな」

「島風に追いつけないって!」

島風が走り出し、自分たちの十段ほど前を走っている。

「さっそくお天端のお出ましですか。提督」

「島風!走ると転ぶぞ。先に行き過ぎると迷子になるぞ」

「おそーい!」

やはり島風、速さ以外に微塵も興味がない様だ。

すると足を踏み外し、前に転んでしまった。

「いったーい!」

「言わんこっちゃ無い」

「全くだ」

長門と提督は呆れ返ってしまう。

そんな姿を見たのか島風が泣き出した。

「うぇーん、うぇーん」

「はぁ。泣いても提督と私は知らないぞ」

「だな、自業自得だ」

気にも留めない様に泣いている島風の隣を歩いていく。

「hayテートク、流石に女の子にそれは無いんじゃない?」

「ああ、普通の女の子ならな。お前たちは兵器だ。そこを忘れないでおけ」

「テートク私達は兵器じゃないネ、人と同じように食事もするし、寝るし、遊んだりするネ」

「二度同じ事を言わせるな。お前たちは兵器だ。そして司令官は私だ。司令官の話を聞かないようではただの道具さ。取っ替えが効くようなね」

「了解した…ネ」

「あわわ、スパルタのしれぇです!ブラックです!」

「……」

 

「さて、本館の前に来たが、アイツ以外全員いるな。ここから5時間自由にする。各自の部屋を掃除するなり整えるなり生活の準備をしろ」

「了解したネ」

「了解しました!」

「…」

「長門が執務室か私か彼女の自室もしくは食堂辺りにいる。何か用があればそこ辺りを探して来るように。解散」

 

ーーーーーーーーーー

 

自分の部屋へ荷物を置くとポーチを肩にかけて窓から外に出る。

鎮守府から見えなくなった所で急いで下へ転ばないギリギリの速さで降りていく。

泣き声が未だに聞こえる。

さっきとちっとも変わらない場所に少女はずっと泣いていた。

おもむろにポーチからガーゼと消毒液を出してすりむいた膝に手当てをする。

膝に大きめの絆創膏を貼り付けると笑顔で手を差し伸べた。

そのまま島風を背中に乗せた。

小さな身体には島風の身体は大きすぎる。

それでも一段一段と着実に登っていく。

背中の少女は泣き止んだのか

「グスッ、グスッ」

と声がする。

 

ーーーーーーーーーー

 

「え…」

目の前にはあの司令官が立っていた。

階段を上り切った先、本館の前の広場に立っていた。

「ふむ…さて、どうしたものか」

目は爛々と光っており、見るものが見れば気絶しそうである。

「お前は、陸の船だったなぁ。ふむ…」

まるで品定めをする様にこちらを睨んでいる。

一歩後退りをしそうになるが、精一杯の勇気を出して前に出た

「まるゆ。負傷した島風を救助してきました」

「まぁいい、そのまま自室にでも送ってやれ」

ほっと撫で下ろし、ピリピリした空気を感じながら司令官の隣を歩いていく。

不意に後ろから声が聞こえて来た。

「後で二人とも私の部屋に来たまえ」

その声がひどく重く心にのしかかって来た。

 

ーーーーーーーーーー

 

「島風です。失礼します」

「遅い。まるゆはすぐに来た」

遅いと言われて苦虫を噛んだ顔になる。

しかしそんな様子さえ吟味するように司令官が見てくる。

反抗の言葉も出ない。グッと堪えた。

「さて、島風。そこに座れ。まるゆの向かいだ」

「はい」

司令官のが座っている提督机の前にテーブルが一つ置いてある。

まるゆは自身から右手に座っていた。

恐る恐る左手に座る。

二人ともビクビクとただでさえ低い背がさらに小さくなっている。

「さて島風。まずまるゆに言う事があるのでは?礼はしっかりと言え」

「……助けてくれてありがとう」

「…どういたしまして」

さて、どういったものかと提督が帽子の中を掻く。

「よし、先ずは助けて貰ったらお礼は言わなければ。人間なんだろう?」

「…た、司令官、先程私たちは兵器だとおっしゃっていましたよね」

「ああ、そうだが?」

「司令官は私たちはどっちで観てるんですか?兵器ですか人間ですか?」

「ふむ…」

島風の顔は先程から恐怖で青くなっている。

しかし返答は意外なものだった。

「両方…だろう。線引きが難しい所ではあるからな」

「両方ですか?」

「ああ両方だ。兵器は自立して色々考えたり考えなかったりするか?」

「…しないです」

「だろう。でも君たちは人以上の力を持っている。それは兵器と呼んで良いのではないかな?兵器の体に人の心。それでいいだろ」

「はい」

「まぁ。そんなことを言えば私も兵器に入ってしまうだろうが。いわゆる兵器を操るスーパーコンピュータって所だしな。ただし、正しい命令…忠告を聞かないようではただの道具だ。いう事を聞かない解放者(リベレーター)ってところさ」

ハハハっと笑い声が執務室に広がる

「うーむ。今の笑う所じゃない?まぁいい、島風の件だ。私の忠告を聞かなかっただろう。走ると転ぶって言っただろ。さっきも言ったが身体は兵器なんだ、もし一般人に当たったら大怪我だぞ。私の忠告はしっかりと聞くべきだったな」

青い顔の島風はこくこくとうなずいた。

「なんだよ。俺が怖いのか。ふふふ、怖いか?」

司令官が目を手で塞いで某軽巡の真似をし始める。

明らか違うのだがどこかしら似ている。

「天龍様のお通りだ!」

そんな妙に微妙な物真似を見ていると島風が笑い出し、まるゆも笑顔になった。

「入るぞ」

そこに長門が入って来てしまった。

冷めた目で「フフ怖」とか言っている司令官を見る。見た目はいい年したおじさんである。

「お前、それはないだろ」

「あっ。やべ」

提督の顔が青ざめる。ついでに冷や汗が出る。

「お前、島風の忠告無視を注意してまるゆの救助を褒めるって急いでここの掃除をさせたんじゃないか。それがなんだ。妙に微妙な物真似をしてるなぁ」

一歩づつゆっくりと進み。目の前に来ると片目だけ大きく広げ、ゆっくりと手を伸ばし襟を掴んだ。

「あっ、いや、長門さん。これは深い訳が」

「どうせあらかたたまたま言ったセリフが艦娘のセリフに似てる!って調子乗ってたんだろう。なぁ提督」

「あっ、そうです。ハイ」

「食堂の掃除に行くぞ。二人は自室の整理が終わったら廊下でも掃除しておいてくれ。夕飯にゼリーを一個おまけしてやる」

そう言うと長門は提督の首根っこをぶら下げて執務室から出ていった。

残された二人は顔を見合わせると廊下掃除に取り掛かった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「はっやーい!ビューン」

怪我を物ともしないで廊下を雑巾掛けしている。ただのかすり傷だ。対して痛くもなかったのだろう。

「あわわ、危ない!」

窓を拭いていたまるゆに直撃!

汚れた雑巾が頭に乗っかる。

「うへぇ」

「あわわ、どうしよう」

まるゆは困った顔をするが、そんな事は気にしない島風。

「へいきへいき。シャワー浴びるついでにお風呂も洗おう」

「…うん」

 

「「お風呂!お風呂!」」

ガラガラと鳴るガラス戸を開ける。

とても広い浴室だ。シャワーが5つに八畳ほどの浴槽がある。

「誰デス?って…何するつもりネ」

「あわわ!金剛さん⁈なんでここに」

「なんでって、ここの掃除を長門さんに頼まれてネ。…暇だったら掃除をするのを手伝うデース…島風は水仕事はよした方がいいんじゃなない?脱衣所を掃除するネ」

「えー、頭が臭いまま?」

「what's?どう言うことネ?」

「実は

 

ーーーーーーーーーー

 

「廊下は走らない。これは鉄則ネ」

「はーい」

「少しはお灸が効いたようネ」

人の注意を聞くようになって感心していると、質問が来た。

「金剛さん。お灸ってなぁに?」

「雪風。お灸というのは…what's?お灸を添えるって注意するって意味ネ。でも、お灸そのものは分からないデース」

 

「あれれ?浮かんじゃうよう」

「あれ?まるゆちゃん。艤装を付けてないのに浮かぶの⁈」

「なんでだろーなー?まるゆぷかぷか」

「島風が抑えれば肩まで浸かるかなぁ」

グイッと肩を押さえるとゆっくりと沈み、肩まで浸かった。

「ありがとう島風さん」

 

『えーえーマイクテスト、マイクテスト。聞こえているならば速やかに食堂へ来るように』

「わぁ、ブラックしれぇの声です!急がないと雪風達が怒られるです」

「そんな事ないデース。多分夕飯が出来たネ」

「それならもっと急がなければ!」

「島風みたいに転びたいデースカ?」

「雪風は走りません!」

「よし、いい子デース」

 

ーーーーーーーーーー

 

「四人共、さっぱりしたか?」

「ええ、お願いを聞いてくれてthank youネ」

「ああ、別に掃除をしてもらったんだ、一番風呂でも入れさせてやるさ」

「くんくん。この匂いは!」

「そうだ。今日のメニューはカレーだ!」

腕を組み私が作ったと言わんばかりにドヤ顔をかます。掃除しかしていないのに。

「長門…作ったのは私だぞ。何ドヤ顔してるんだ」

 

10リットルはあるカレーが瞬く間に消えていった。

戦犯は戦艦の二人と提督である。この3人で5分の4ほど食べた。

それでも、2リットルは食べたのだから小柄といえど艦娘である。

 

「ふんふんふふーん。雪風は〜皿〜を〜洗う。ふんふふふーん。ふんふふふーん」

雪風はおまけのゼリーをもらう為司令官の後片付けを手伝っている。仕方ない、ほかの皆にあげて雪風にあげないという訳にはいかないのだ。

「なぁ、長門、雪風って幾つだ?」

「6歳ぐらいじゃ無いか?」

「それだとして

 

ーーーーーーーーーー

 

「さて、草木も眠るウシミツアワーだが、長門。全員寝静まったか?」

「ああ、提督。それで、なんだ?ただごとじゃ無いのだろう。その目を見ればわかる」

「お見通しか。流石秘書艦なだけはある。なぁ長門、この鎮守府の目的は判るか?」

「それは、新人艦娘の育成と敵の大規模艦隊が来ないかの監視と総司令官が…」

「ああ、お前にだけは言っておく。それは嘘だ。俺たちを騙す…いや、初めからその目的に気付かせておく為のな。総司令官は言ってただろう」

「……まさか。島流しって」

「本土に帰るなって話だろう。おまけにコレ読んでみろ」

黒いファイルを机の上に投げる。

表紙には『project dark』とだけ書かれている。

「ふむ、暗黒計画ですか」

「まあ、直訳すればそうなるかもしれない。ただ、俺は腹黒計画って訳すね。まさにその通りさ」

 




オリ設定

提督
本名 六 虫追(むい むそう)
総司令官の息子。血は繋がっていないが、公表されていない。見た目は三十代前半ぐらい。
幾度の騙し討ちさえ跳ね返すほどの実力者。彼にはあらゆる工作が効かないという。
彼の指揮する艦隊は決して沈まないが最大限の成果を挙げることで有名。チートスペック。自らなろう出身や僕の考えた最強のヒーローと名乗るが、果たして。

総司令官
本名 六 天地(むい あまつち)
生きる伝説とさえ言われる。不死身の老兵。
深海棲艦相手に囮になって仲間たちを逃し、ただ一人海に残ったが無事生還する。たった一人深海棲艦に対抗できる人間。ただし近接戦闘に限る。知略もかなり優れている。
彼の元には肌の白い艦娘が居るとか居ないとか。

長門
提督の秘書艦。No.9
この提督にこの秘書艦あり。命中率は驚異の8割。さらに専用に追加装甲を作っており、大破は愚か中破すらした事がない。ながもん化の能力もある。できる秘書艦オーラを出す事も出来る。
ロリコンでは無い。可愛いものに目が無いだけである。
ボケとツッコミ両方できる。


総司令官の秘書艦。No.1
自分の司令官と違いお淑やかで優雅なレディーを体得している。ちなみに司令官の無茶については諦めている。
現場での指揮は随一。総司令官からやはり絶大な信頼を受けている。
レディーだが、所々で失敗する。だがそれをレディーにカバーする。
何故ならそれがレディーだから。


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第四話

きっと、大好きだったのだろう。


きっと


夢を見た。

自分の背丈の何倍も…何十倍も大きな城だ。

目の前には巨大な女性…グウィネヴィア。太陽の女王だ。

だが、私が目指すのは太陽である。彼女は太陽というにふさわしい力を持っている。

「太陽の女王様に恥を偲んで窺います。太陽とは何ですか。どうすれば太陽になれるんですか?」

彼女は言葉を詰まらせ口を閉じた。

 

そのままソラールはアノール・ロンドを出て行ってしまった。

きっと、ここに太陽は無いのだ。ただそれが胸に詰まる。

ここにこそあるはずの太陽。

 

太陽?たいようタイヨウたいようタイヨウたいようタイヨウ?

視界が暗転する。

 

ーーーーー

 

「うわぁ!」

「あわわ!びっくりした。まるゆは操縦してるんです。驚かせないでください」

「失敬、すまない。昔の話だ」

どこか欠けている。昔の夢である。

何かが足りない。もっと大切な何かだ。きっと、太陽に近い。

「ところで、陸まであとどれぐらいだ?」

「総司令官の別荘まであと20分です」

「ああ、そう言ってたな。そのソーシレーカンという将軍の別荘によるんだったな」

「どうしたんですか?また記憶が戻ったんですか?」

「…ああ。だが、コレでは無い。私の求める記憶はこれじゃ無い」

ソラールは涙をながし悔しそうにゴムボートの縁を叩く。

「まるゆは詳しい事は判りません。貴方は不思議で雲のようで、本当に何者なのかすら分かりません」

まるゆは上を向いて、話を続ける。拳を握り、ソラールにはまるで戦場に行く覚悟を決めたように見える。否、そうなのだろう。

「まるゆは…まるゆの正式名称は三式潜航輸送艇って名前です」

「サンシキセンコウユソウテイ?」

「はい!人や物資を運ぶ海に潜る船って意味です。とても大切な役割を担いました。とても小さな艦で、24トンのまでしか運べず、おまけにとても遅くて、中に乗った人達はみんな文句を言ってました」

「そうか。でもなぜそれを今」

「前に説明したみたいに、みんな艦だった頃の記憶を少なからず持っているんです。夢見たいなとても曖昧な。だけど、私の記憶はとても鮮明で、沢山のことが分かるんです」

「そうか……でも」

「まるゆは全部で38隻居ました。そのみんなの記憶があるんです。時化の時に苦労したこと、味方に敵と思われて攻撃されたこと、敵が沢山いる中を進んだ事。そして、物資や人を届けた事」

ちょうど船の向きが変わり、まるゆの上に太陽が来た。

「そして、みんなが戦っていた事。まるゆは戦闘が出来なかったけど、みんなの為に闘った。きっと、みんなの笑顔になったと、その為にまたこの身体で産まれたんだって思うんです。だから、きっと。ソラールさんも…」

言葉が途切れる。きっと出せる単語が無いのだろう。

それでも恐らく届いたはずである。

ソラールは頭を抱えて考え始めたのだから。

 

ーーーーー

 

ハードを被った3人組の一人が双眼鏡を覗いている。

「…、うーん。あれはまるゆだな。No.123だろう」

「見せろ」

「おい、俺の双眼鏡を取るなよ」

「お前のじゃなくて私のだ」

一人が『ゴツン』とゲンコツで二人の頭を殴る。

「二人で仲良く使え」

「痛み」

「痛っ」

そこへ、背後からもう一人現れる。

「遊んでないで、索敵はどうだった?」

先に覗いていた一人が答える。

「ゴムボートにまるゆNo.123と思われる個体と謎のおっさんが乗っていてこちらに向かっている」

「謎のおっさん?詳細に」

「金髪で三十代ぐらい、体格的に工場で働いていそうな感じだな」

「さて、お出迎えの準備をしなければな」

 

ーーーーー

 

「あれがそうです」

目の前の岬には、削って作ったであろう階段が見える。

そして岬の上に平屋の一軒家が見えた。

「うむ…貴公」

「ええ、これは来てますよ」

万が一の為に持っている最低限の装備を取り出す。

まるゆはコンバットナイフと拳銃。ソラールは警棒と太陽のタリスマンである。

ゴムボートから海上に降りる。

「!ソラールさん、雷撃です」

「了解した」

雷の槍が魚雷に当たり、爆発。

水しぶきが飛ぶ。

二人して、目を腕で守ってしまう。

「やあ」

目の前に現れたのはフードの女の子である。顔は隠れてうまく見えない。

そして無論、水上に立っている。

「奇妙な術を使うね。そこのおじさん」

「貴公よりは不気味では無い」

「ああ、そうかい」

光の加減で薄らと顔が見えた。

白い肌に青い瞳だ。薄らと笑っている。

「!ソラールさん、逃げて下さい援護し

水上を真横に飛んだ。否、飛ばされた。

「だ…誰?」

「もう一人いるのに気が付かないとは、まだまだ未熟というわけか…それともただのまるゆかな?」

蹴った片足を下ろした新手は紫色に目が光っている。

「貴公!」

「よそ見をしている隙はあるのかなぁ?」

魚雷が六機放たれる。

「…間に合わん」

回避し切れず一発に当たって吹っ飛び、そのまま海面に打ち付けられる。

「ぐぁ」

その起き上がれない隙に相手は一歩ずつ歩いて近づいて来る。

「電撃を放つまでに多少の隙が生まれる、だから回避する。回避出来ないから片足を前に出して構える」

ソラールはそのまま痛みを堪えて立ち上がる。

「ずいぶん戦闘に慣れているみたいね。でも、装備は万全じゃないみたい。まぁ、私達には関係ないけど」

 

ーーーーー

 

フードを取ると、白い髪に白い肌が現れる。

「レ…レ級」

資料に載っていたのを前に読んだ。カテゴリはイロハ級だが扱いは鬼級とほぼ同等かそれ以上。多彩かつ強力な攻撃をしてくる。

もし、本土河合に出現すれば、総司令官直属の特殊艦隊が迎撃に来るが、それでも町一つを失う覚悟が必要である。

それが今目の前にいる。

「お前はNo.123だな」

「な、そんな。なんで知ってるんです!」

「それはうちらが繋がりを持っているからな。其方の総司令官とね」

尻尾に付いている砲身をまるゆに向ける。

「良いことを教えてやろう。あの金髪の外国人が立ち向かってるのは軽巡棲鬼だ。ちなみにあと空母水鬼、北方棲姫、軽巡棲姫、戦艦水鬼がここにいる」

「え……」

「残念だけど、嘘じゃないんだ…君たちには悪いけど」

まるゆは慌ててゴムボートに向かう。

「ケータイを忘れたのかなぁ?お出かけには必須でしょ?」

『ドゴン』『ドゴン』

ゴムボートの周りに水柱が上がる。

「だけど、行かせないよ。最弱艦のまるゆくん」

レ級が宙を跳び、ゴムボートの前で着水する。

風に二人の短い髪がなびく。

 

ーーーーー

 

「くっ。まだまだぁ」

「ゼェゼェ」

先程から軽巡棲鬼が魚雷を放ち、ソラールがその隙に雷の槍を放つという我慢比べの様な状態が続いている。

「あっ、切れちゃった」

どうやら、軽巡棲鬼の魚雷が切れたようだ

だが、臆さない。

「さっきまで魚雷だけだったけど、こっちでやるか。魚雷よりも速いからちゃんと見切ってね」

砲身をソラールに向ける。その瞳は蘭々と輝き、向い風で外れたフードから長い髪の毛がたなびく。

ソラールはその見た目に驚きながらも、納得する。

「貴公。行くぞ」

ソラールは海を蹴った。

 

ーーーーー

 

「良い判断だ。海上防衛隊に連絡しようって話だろう。そんなのは困るなぁ」

「な!」

「言っただろ。総司令官と繋がりがあるって」

ニッと不敵な笑顔を見せる。

「まるゆちゃんは最弱だものね。まぁ、‘一発だけなら耐えられる’けど」

足が海の中に沈みかけている。

装備も貧弱。文字通り『轟沈』寸前だろう。

先程の蹴りで大破まで持っていかれていた。

だが、

「ふふ、まるゆは屈しないです。まるゆは陸の艦です!」

大地を蹴った。

選んだのは接近戦である。

 

艦娘が艦の記憶を持っていたとして、それが何の役に立つのだろうか。憎悪から来る力に果たして生半可な力は勝てるのだろうか?否、勝てない。思いの力は果てしなく重く積もる。

 

水面を駆け抜ける。

鈍足の彼女に向けられる魚雷たち。

その全てを躱す。

 

まるゆという船は最弱である。

そもそも、彼女‘達’は潜航輸送艇であり、戦闘する為の装備が一切載っていない為である。根本からして海軍の艦とは目的が大きく異なる。

 

であれば一隻のまるゆでいる事を辞めれば良い。

 

黒い瞳が僅かに赤く金色にチラつく。

赤い粒子が辺りに漂い、短い髪の毛が下からの風になびく。

大破して沈みかけた足が再び海上に立つ。

 

「再起動…あり得るのか」

レ級はニッと満面の笑みを浮かべる。

 

ーーーーー

 

水柱が二つ上がり、思わず其方の方を向いてしまった。

「がはっ」

「これで6ヒット。なかなかやるんじゃないかしら?でも、もう終わり。隙を見せなければ良かったのに」

砲身が目の前来る。

「これでは逃げようがないよね」

『ドン』

 

 

 

 

 

 

 




特殊艦隊
緊急時に超音速輸送機に乗って現場に駆けつける特殊部隊。
その正体は極秘。
総司令官直属の部隊である事、その強さ、その存在のみが知られている。

まるゆ
最弱の艦娘。No.123
文字通り最弱。戦闘における長所といえば一撃だけ耐えられる事だけ。
まだ改すらに達していない為、本当に弱い。
特徴があるとすれば他の同型含む艦娘よりも鮮明な戦時中の記憶があるだけ。
ただそれだけ。
それだけ。

ソラール
まるゆに拾われたおじさん。
記憶を無くしているが少しずつ思い出している。
思い出した記憶はどこか不完全であり、不完全である事はわかるのだが、何が不完全なのかはそもそもの記憶が無いので分からない。
太陽の戦士。アストラのソラール。
しかし彼の求める太陽は彼が目指した先にはなかったようだ。


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第五話

一部登場人物主観注意。

ダクソ考察たーのしー


マラソンたーのしー




    死






冷たい。

海の上に立ったとこはあったが、潜った事は無かったな。

海は冷たいのか。

彼女たちはここに居たのか。

暗くて寒くて、寂しくて。

ああ、今にも吸い込まれそうだ。

沈んでいきそうだ。

 

…ああ、ダメだ…

…俺の、俺の太陽が、沈む…

…暗い、まっくらだ…

 

 

ーーーーー

 

 

地の底

イザリスの都

彼女から生まれた

混沌に溢れている地である。

 

アノールロンドに太陽は無かった。ここに賭けるしかない。

偽りの火でも良い。作られた火でも良い。

太陽にさえなれるのなら。

 

それで見てしまったんだ。

あのアノールロンドにもあった華の模様。

全く同じだった。

 

そして、廃都イザリスを歩き回った。

ここに、ここに太陽があるかも知れないと。

壁だろうと天井だろうと何かがあれば目を凝らして覗いた。

 

ああ、太陽…

きっと、そうなのだろう。

ああ、そうか。

 

知ってはならない真実を知ってしまった。

確実では無いが、そうなのだ。

 

私は脇道に倒れ込んだ。

ふと、前に丸からトゲトゲが生えた何かが見えた。

初めから目指した太陽などないのだ。

ならば

 

 

…ついに、ついに、手に入れたぞ、入れたんだ…

…俺の、俺の太陽、俺が太陽だ…

…やった…やったぞ…

…どうだっ、俺は、やったんだ…

…お、おおっ…

…おおおおおおおおっ!

 

ーーーーー

 

「ソラールさん!」

「へえ…余裕が…あるんだ」

レ級の右ストレートが刺さる。

まるゆはよろめいてしまう。

レ級はそこへ蹴りを入れる。

「ぐぁっ」

6メートルも吹っ飛ぶ。

先程、限界を超えて回復した体力ももう半分しかない。

だが、立ち上がる。

蹌踉めきながら、拳を構えて前へ走り出す。

「お前がその気なら」

砲身をまるゆに向けて撃つ。

しかし当たらない。

「まだまだ」

轟音と共に弾が放たれる。

それでも当たらない。

「それなら」

レ級は拳を構え、直前まで来たまるゆを殴り付ける。

しかし、よろけ倒れ込んだまるゆには当たらない。

否、ローリングしたまるゆはレ級の背後に回り、渾身の一撃を叩き込む。

「ぐぁ」

レ級は前のめりに倒れ込む。

下半身は既に沈み上半身が辛うじて浮いている。

『大破』だ。

「流石、再起動するだけはある。だが、私を倒したとして、まだ6体もの鬼・姫級がいるんだ。出来るか?」

レ級の瞳には、緋色に光る瞳の少女が映っている。

恐らく、彼女ならあのおっさんの相手をしていた軽巡棲鬼を倒す事が出来るだろう。

「ああ、覚悟はあるようだ。…!」

「!」

「あはは、やばいなコレは」

「な…なにを用意したんですか!」

「用意したのは私達じゃ無い。お前だろ」

 

ーーーーー

 

「なっ、大破したはず」

目の前の男がむっくりと起き上がる。

「…」

腕を上げ、雷の槍を構える。

しかし、雷は出ない。

「弾切れのようだね」

軽巡棲鬼は嘲笑う

「あはは、あんたみたいなおっさんが何か出来るわけがないだろ。大破してボロボロの癖に」

「…嗤った…ワラッタァァァア」

空気が凍てつく。重い何かがのし上がって来る。

「!まさか…そんな…」

軽巡棲鬼の顔が恐怖で埋め尽くされる。

こんな事はあり得ない!

「深海に…落ちたの?」

 

ーーーーー

 

「ははっ、こりゃヤベェ、軽巡棲鬼!全力で逃げろ」

レ級が軽巡棲鬼に向かって大声で叫ぶ。

まるゆもそっちの方を見ると、ソラールが再び立ち上がっている姿が目に浮かんだ。

「ソラールさん⁈さっき沈みかけて…え?」

「お前、逃げた方がいいぞ。ありゃ、死ぬ。完全に呑まれた」

「…どういう事ですか?」

「もし、お前が私を陸…あれは陸の戦士だな、仲間の方が安全か、総司令官の別荘まで運んでくれ」

「…それを言える立場ですか?それにお仲間がいるんですよね」

「うーん、言える立場じゃないな」

「なら、私一人で逃げます」

まるゆはレ級の真反対の方向を向く。

「ちょっと待ってくれ。知りたく無いのか?なんで総司令官が私達と繋がりを持ってるのか。なんで、私達が居るのに、特殊艦隊が来ないのか」

「…まさか」

ニィッと出来る限りの笑みを浮かべた。

「察しが良いな。はは、この気配を感じとって戦艦水鬼が来てくれるだろう。全力で逃げろ。いいな」

「…分かりました」

 

ーーーーー

 

「やばいやばい!」

ただならぬ気配の男から、全力で逃げている。

さっきとは違って、とても冷たい。

ちょっと大破まで持っていって驚かす計画が、此方が驚く羽目になった。

あんな事言わなければ良かった!

気配を感じとって近づいてこないかもって。

だから、大破まで持って行って、無理矢理中に連れて来るか、驚かして脅し、言うことを聞かせよう!と。

「うわーん」

涙目になりながら、駆け抜ける。

ホラー映画でキラーから逃げる少女のようだ。

ふと、涙で歪んだ視界に引きずられるレ級と、まるゆが映った。

どうやら拠点に戻って援軍を呼ぶようだ。

腕で涙を拭い、旋回して後ろを追いかけていた鎧に向かう。

風に髪がなびぎ、不敵な笑みが顕になる。

「再起動《本気モード》」

「!」

「ふふーん、状態回復にコレを使うと疲れちゃうからね。使いたく無かったんだ」

青い光が宙を舞う。光と共に白い脚が現れる。

「ここからは、楽しいリサイタル!はっじまるよ」

「グァァァ」

理性を失った男はそんなことを気にせずに襲い掛かる。

まるで獣のように唸っている。

「わお、凄いね。本当に堕ちたみたい」

先程と違って、大振りな攻撃だ。

避けるのは容易い。

「ワンワンってね」

「ガルルル…シズメ…グァァアアア」

「ひっ!」

大振りかつ素早い、乱撃。

避けられ無い。

一撃目で怯んでしまい、四撃当たったが、なんとかステップで回避する。

「いったーい。女の子にそんなことしちゃダメ」

人差し指を立てて横にふる。

そして魚雷を放つ。

「ヒットアンドアウェイってやつ?チマチマやるのつまんない」

不敵な笑みを崩さない。

出来るだけヘイトを稼ぐ。

確実に、時間を稼ぐ事だけを考える。

 

ーーーーー

 

遠い、未来の話。

かの地には、とある信仰がひっそりとあった。

 

とある城の隅の小さな部屋。

 

とある友の持ち物。

 

見えない烏の交換場所。

 

きっとそこで見られるだろう。

 

彼を

 

彼に

 

ーーーーー

 

向こうから戦艦水鬼がやって来た。

黒い髪の毛に高い背丈、そして何よりも桁違いの大きさの艤装。

コレを見て逃げない方がおかしい。

「やぁ。軽巡棲鬼の応援を頼むよ」

「あんた…ボロボロじゃない」

「最高の気分さ」

「流石ジャンキーね」

遠くを目を凝らして見る。

軽巡棲鬼が、魚雷や砲撃をしながら距離を取っている。

その向く先にソレがいる。

飛びかかる様はまさしく獣だ。

「ええ。とても深い。私よりもきっと。でも…私がやる」

「ジャンキーだなんて、人の事を言えるかよ」

「アンタとは戦う目的が違うわ。それと、まるゆ。ありがとう。このジャンキーは任せた」

「了解しました!」

「レ級と軽巡棲鬼はあとでみっちりお説教ね」

「え⁈」

レ級の目からハイライトが消えた。

心なしか少し重くなった気がする。

 

ーーーーー

 

その果ての世界

そこで海を見た者達がいる。

深い海の時代。

人々の信仰は失われ、まさしく尺爛々とした阿鼻叫喚の地獄絵図。

だからこそ訪れぬよう世界を繰り返した。

だが、ソレが気付きソレが繰り返しを終わらせた。

火継ぎ。

まさしくそれは

『流刑』

であった。

 

ーーーーー

 

「軽巡棲鬼、お前にはあとでたんまり説教してやる」

「ええ〜そんな〜」

巨大な轟音と共に現れた戦艦水鬼は男と軽巡棲鬼の間に入る。

そして、哀れみの目で男を見る。

「逃げたまえ。君」

艤装の砲身全てが、男を向いている。

「グァァアアア」

しかしそんな事は関係ないようだ。飛びかかって来る。

「っ!一斉射撃。用意……射てぇ」

『ドゴンッ』

全弾着弾し男の体が吹っ飛ぶ。

「一斉射撃はよしてよ。直すの私なんだし、負荷が大きいし、うるさいし」

「ああ?聞こえない」

男がゆっくりと立ち上がる。

2人とも、構え、次の攻撃に備える。

だが、明らかに様子が違う。

男は冷たく重たい声で唸る。

「…シズメ、ヒノナイ…ツメタイウミ二…シズメ…」

彼の身体の所々が黒く歪んでいる。

歪みは大きくなり、男の身体は鎧を着た姿になる。右手にはいつのまにか直剣が、左手にはホーリーシンボルの描かれた盾を持っている。

2人は手を横に当てて笑う。

「ああ、あり得ん。水鬼級だ…。こいつ、進化した」

「一つ聞くが、こいつこうなる以前も何かおかしかったか?」

「ええ、奇妙な術で雷を投げてきたり、水面に立ったり。…はは、全く、興味は尽きないです」

「船でないのに私達と同じ力を持っていて、さらに深い海に沈むなんて…ますますただではおけない」

 

 

ーーーーー

 

ああ、きっと君は辞めたのだろう

 

薪になる事を

 

火を継ぐ事を

 

拒んだのだろう。

 

君。

 

即ちイレギュラー。

 

つまり、プレイヤー。

 

君。

 

ーーーーー

 

「アアア!ワラッタ!マタ、ワラッタ!」

重い一撃が艤装にのしかかる。

「ぐ…凄い重い。何なのこれ」

「やはり、あの男…」

「ん?軽巡棲鬼、どうかしたか?」

「アイツ、煽り耐性が皆無です」

「それ、私の後ろに隠れて言ってたら惨めにみえるぞ。というかお前が煽り過ぎて沸点が下がったんだよ」

砲撃をしながら距離を取る。先程と全く変わらないが、こちらの方が確実だ。それに2人いる。ターゲットを交互に取らせればそこそこ持つだろう。

「タイヨウノヒカリノトドカヌシンカイヘシズメ」

雷の槍を構える。さっきとは色と大きさが全く違う。大きなオレンジ色の雷の槍の周りに黒い粒子がとんでいる。

とても禍々しい。

「デカっ、さっきよりも大きいです」

「それは、ル級レベルの気配から水鬼級レベルの気配にグレードアップしたから、当然といえば当然かね」

「そうだとしたら避けないと…」

「‘怯ませる’」

「あっ、ちょっと!」

「一斉射撃、用意……順次、射てぇ」

『ドカンッ』『ドカンッ』『ドカンッ』

全弾命中、しかし、男は怯まずに槍を投げていた。

闇を纏った太陽の光の槍、その直撃を受けた。

「がぁ!あ、ぐぎ、随分と痛いじゃない」

「戦艦水鬼さん!」

「装甲が高くて良かったよ。こいつが、怯まなくなったのは、きっと私のせいだろう。見ろよ、全弾命中したのに中破すらしてない…やばいぞあれ」

 

ーーーーー

 

「まるゆちゃん、行っちゃうの?大丈夫?」

「うん、平気。きっと、あの人を倒す…元に戻すには私が必要だから」

「…分かった。幸運を」

「ありがとうございます」

直った身体で、海上の上に立った。

さっきみたいに輝いて居ない。黒い髪に風が当たる。

きっと、また輝くだろう。

彼を助けるために。

 

ーーーーー

 

だが、深海の時代、いつか火が起こるだろう。

小さな火が。




オリ設定

まるゆ(再起動)
中破状態から限界を超えて回復した姿。
凛々しい。
まるゆが過去と共に未来へ進もうとする意思に呼応した。
やっぱり再起動は良いよな。

ソラール(シンカイ)
大破状態から暴走形態を経て完全に堕ちた。
禍々しい。
鎧が何処からともなく現れ、身に纏っている。強さで言えば水鬼級を凌ぐほど。それほどまでに彼の手にしたものは深く、それを背負う羽目になったのだろう。


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サイドストーリー1

やっぱね。
艦coreってあるじゃない。
面白いよね。
うん。



日本国、首都東京

いわゆる日本の心臓である。

ここを深海棲艦の襲撃から守るため、海上自衛隊と海上保安庁との共同組織『大本営』が作られた。

この組織は政府直属であり、高い権限を持っている。

これ程までに深海棲艦による被害は大きく、経済は大きく崩落した。

そして、いくつかの廃墟を潰す形で港区に大本営の施設が作られた。

この国では、近々、首都を京都に戻すべきかの会合さえ行なっている。

安全な内陸部は地価が大きく上昇し、反対に海周辺は大きく下がっている。

そして、首都東京も例外では無かった。

その結果、治安は悪化の一途を辿る。

 

そんな暗い街に一人の男が訪れた。

 

ーーーーー

 

「分かった分かった。ノーカウントだノーカウント。な?な?」

「しらばっくれるんじゃねぇ!」

「おっと、おいたはよしてくれよ」

だが男の拳は顔面に当たる。クリーンヒットだ。

「あんた正気か?」

「ああ?もういっぺん殴ってやる」

だが、男の拳が当たる前に、さっき殴られた男が腕を上に上げて弾く。

弾かれた隙に思いっきりお腹を殴る。

「ぐぇぇぇえ」

「な、おいたはよしてくれって言っただろ?」

スキンヘッドの男はそういうと、路地裏に消えてった。

腹パンされた男はただ闇に消える彼を見る事しか出来なかった。

 

ーーーーー

 

「はぁ、あっちにもコッチにも放棄されたビルがあってまぁ!」

道端にポイ捨てされたジュースの空き缶を蹴りながらしみじみと言う。

さっき殴られた顔面がズキズキするが、そんな事は毎日だ。

「いつの時代も人の欲とは変わらないものだな」

さっきも道端に仕掛けを仕込んだ財布を置き、拾った人に自分の物だと声をかけ、返してくれたら何もしない。返さなかったらスイッチを押して電流を流したり、水浸しにしたりという子供騙しな悪戯だ。

「無欲な俺にはとんとわからぬ話だがな。よっ、」

ははははっと笑い声を上げる。蹴り上げた缶が自販機のゴミ箱に入る。

「ストライク」

彼の話はもはや一部の界隈で有名だ。

ボロ屋を借りて暮らし、金銭はその日限りのバイトをしたり、拾ったもの釣ったものを売って稼ぎ、暇さえあれば先程の子供騙しな悪戯をする。

そんな彼に親しみを持ってこう呼ぶのだ。『鉄板のパッチ』と。

 

ーーーー

 

「ニヒヒ、今日はこれだけか…。ええと、1、2、3、4。五千円…まぁ、8時間でこれじゃあ妥当だな」

「それは、正当に稼いだ奴ですか?」

目の前にちんまい子供がいる。

彼から見れば頭三つも背が小さい。

この治安の悪い地域の薄暗い路地裏に居るとなれば何か裏があるだろ。

「なんだ?ガキンチョ。お前にはやる分は無い。とっとと帰るんだな」

「お金なんて要らないよ。なんせたんまりある」

そういうと持っているバッグから財布を取り出し、諭吉様を3枚も見せびらかした。

「おうおう、悪い事は言わない。早くしまえ、ここは治安が悪いんだ」

「それよりも、そのお金の出所が気になります。本当に稼いだのですか?」

「ああ?だから、そうだって」

「これを見た後でも?」

「ん?なんだ?」

タブレット端末を渡され、とある動画を見せられた。

ツルッパゲの男が相手に殴られた後に、2回目のパンチを弾いて腹パンする動画だ。

「って、こりゃ、さっきの奴じゃ無いか」

「だからです。貴方、ああやってお金をすって稼いだ訳でしょう」

「んな、お前、警察か?まさか…取り立てじゃ無いよな。俺のなけなしのお金の」

「今のご時世に取り立てなんてあり得ないでしょ、おまけに臭いも酷いし、まぁ慣れてはいるんです。臭いには」

「はぁ。で?バイトっても、その日限りの草むしりとか、荷物運びだとか、色々だけどな」

「やっぱり盗んだんですね」

「盗んで無いだろ。どう見ても、この顔が盗む顔か?」

「ええ、財布を道端に置いて、何をするのかと思いきや持ち帰ろうとした相手を冷やかして殴る。貴方の常套手段です」

「常套手段ってそりぁないぜ。盗んでないと何度言わせれば良いんだ。俺は無欲なんだ!」

にしし、と少女が笑う。

「冗談ですよ冗談。貴方、あんな事してる割に純粋ね。何か目的があるの?」

「…は?」

ツルツルの顔を真っ赤にして言い返す。

「まさか、今日一日中、尾行してたって訳じゃ無いよな」

「…今日一日中じゃなくて、1週間前からです」

「はぁ?マ、マジですか?あんな事やこんな事を…見たんですか?」

「ええ」

目の前の少女はタブレットを見ながら淡々と話す。

ここ1週間の仕事の内容。

朝昼晩の食べた物。

立ち寄ったお店、買った物。

 

言い終わる頃には彼の顔は意気消沈していた。弱々しい声で質問する。

「……で、何か用事でもあるのか?わざわざ尾行していた相手に出会うとはよ」

「はい、とある件で、貴方に来てもらいたいんです『鉄板のパッチ』さん」

「そこまで知ってるのな」

「有名ですよ。バイトでやった金を気持ちいい具合にばらまくんですって」

「そりゃ、良いじゃ無い。こんなご時世にヒーローが現れるんだからよ」

「ふふ、ヒーローですか」

「なんだ?おかしいのか?」

「いいや、いいなぁって思って」

「?」

「まぁ、ともかく、貴方に目星を付けてたんです。ヒーローさん」

「お前!大人を揶揄うのは大概にしろよ!」

「残念、私は大人です」

「嘘だろ」

「本当です」

「う…」

「本当です」

「…」

「本当です」

「何も言ってねえよ」

「まぁ、とにかく貴方に用があります。問答無用で来てもらいます」

少女はパッチの腕を掴み、引っ張っていった。

 

ーーーーー

 

「はぁ、政府のお偉いさんだとはね」

黒塗りの高級車に乗りながら呟く。

もちろん、運転席には先程少女が座っている。

「まぁ、そこそこの立場ですよ」

「はぁ、そんな位の人がなんで俺なんかに」

「貴方だからです」

「ふーん、って、この先は行き止まりだぞ」

「言ったでしょう。そこそこ地位だって」

「……!。完全に、政府の機密組織じゃ無いか!」

「ええ、ここに来たからには、タダでは逃がさないですよ」

「…え、ちょっと。そりゃないでしょ」

「うーん、機密性の高い組織だからなぁ〜、どうだろうなぁ〜」

「おいおい、よしてくれよ。俺は無欲なんだ。金はいらない。帰してくれ」

「残念。もう敷地内です」

「…マジか…、お前、すごい自由気ままだな。はぁ」

「にひひ、絶対に逃がさないですよ」

「はぁ、どうなってるんだ。俺みたいな奴がいるってなんだか」

車は地下に入り、複雑な道を登り降りする。

彼のため息はもう地上に届かないだろう。

 

ーーーーー

 

「では、ここで待っていて下さい。逃げたら、って逃れるはずは無いんですけど」

案内された客間は非常に豪華だ。

さらに、屈強な男の警備員が二人、腰には拳銃。

ガチガチの警備だ。

「おい、はぁ」

頭を抱えて悩む。どうするべきか。ここはどんな組織なのか。

「なぁ、警備員さんよ。ここは何処だ?なんなんだ?」

「私にそれを言う権利は有りません。とりあえず、ドアから向こう側の席に座っていて下さい」

「チッ、つれないぜ。俺みたいな薄汚い男の何が良いんだか?」

悪態をつきながら渋々座る。

「なんで俺なんだ?」

「私達に多くは知らされていないので」

「…はぁ」

「まぁ、貴方の悪名というかなんというかは聞いていましたが」

「……終わったな」

そういうと、天井の模様を数え始めた。

 

ーーーーー

 

「お待たせしました」

「…!………!」

「どうしました?」

口をパクパクするだけで声が出ない。

何を言おうと目の前にはセーラー服を着た少女がいる。

どう見ても犯罪的である。

そんな彼女は向かいの席に座った。

「私の名前は春雨。ここで最前線で戦っています」

「…成る程…。ここは吉原だな。知ってるぞ」

「殴りますよ」

「じゃあその格好はなんだよ」

「制服です。セーラー服。海兵隊の衣装ですよ」

「それは知ってる。その格好はなんだ?」

「だから、私は海兵隊です!艦娘!聞いたことあるでしょ」

「…艦娘⁈…」

「そうです。最近タレントだとか色々活動していて有名でしょう。あの『暴食王赤城が行く海の幸山の幸』とか『吹雪の毎日日記』だとか」

「艦娘…」

ツルツルの頭をコンコンと叩きながら悩む。

「?」

「分からん。知らん。聞いた事ない!」

「え⁈今や国民的人気を獲得し、テレビ番組に引っ張りだこですよ」

「そもそも、俺の家を覗いた割に気付かないのか…。うちにはTVもラジオも、ケータイも無い!貧乏だから」

「あっ…」

すごい憐みの目で見つめている。

春雨は、懐から20枚の諭吉様を取り出す。

「これで、どうか」

「要らん。人にそんな物をやるな」

「そう言わずに」

「俺は帰る!ここにいるとやたらと惨めな思いになっちまう。豪華な部屋に、屈強な警備員、おまけに金持ちの可愛い子娘ときた、なんだよこんな事をやってる奴は!欲深いな」

席から立ち上がりドアの前に行こうとする。

空かさず二人の警備員がドアの前に立つ。

「どけ」

「ダメだ」

「どいてください」

「ダメです」

「どいていただけませんか?」

「ダメです」

ぐぎぎぎ。と歯軋りをする。

渋々と元の席に戻った。

それをニコニコと春雨が見ていた。

「やっぱり調べた通りですね」

「このストーカーめ」

「何とでも。貴方はもうここからただでは、出られないんですよ」

「…」

「よろしい。さて、紆余曲折ありましたが、貴方が落ち着いた所で本題に入ります。パッチさん。貴方には提督、即ち私たちの司令官になって貰います」

 




オリ設定

東京大鎮守府
東京湾に沿う形で基地が9つ配置されている。東京湾の奥地にある基地は、防衛面で見てもとても立地が良いため、大本営の本部が置かれている。
総司令官は港区に作られた基地に暮らしており、休暇になると別荘で過ごす。
極秘施設が多くある為、入るためには複雑な形状をしたトンネルを通らなければならない。
まぁ、上から入れたりするが。

ボロ屋
漁師に拾われたパッチがその元漁師から借りている家。海に近い川沿い。
電気ガス水道は完備してあるが、水道以外、契約していないため、止まっている。
調理や湯沸かしはカセットコンロか焚き火。
風呂は週に3回、遠くの銭湯に行く。

艦娘タレント
一部の個性的な艦娘をタレントとして起用。
艦娘や鎮守府といった軍事的な物に対しての嫌悪感を減らす為の作戦。
タレントとして出ている彼女たちは熟練であり、ロケ中に出撃し番組が中止することもある。
それでも根強い人気があるため、引っ張りだこである。

『暴食王赤城が行く海の幸山の幸』
空母赤城が実際にその地域の人達と海に潜ったり、山で狩りをして食材を調達し、赤城自ら調理する番組。
調理指導は鳳翔さん。
赤城が居ない時には謎の弓の達人『Ms.ミサキ』が登場し、海だろうと山だろうと矢を放って、食材を調達する。謎である。

『吹雪の毎日日記』
形式はバラエティ番組に近い。司会は吹雪。吹雪型の誰かとゲストで地方を歩いたり、大食いにチャレンジしたり、創作料理チャレンジなど、比較的にのんびりとした番組。
しかし、三ヶ月に一度、ゲストで謎の『ながもん』と呼ばれる人物が登場すると、状況は一転、捕まったら罰ゲームをクリアしないと逃げられない戦場と化す。


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第六話

ダクソ考察も行き詰まり、何もすることもなく。
ただ啓蒙の低い私はおもむろに空いっぱいに手を広げた。
『十字架にかけられたイエスのポーズ』



        死





「う、ああ、う……ここは?」

とても真っ暗なところに一人で立っている。

当然何かが見えると言うことはなく、彼にあるのは恐怖である。

「ああ、貴公、ここは何処だ?」

だからこそ、人影を見ると話しかけた。

だが、顔は酷く歪む。

頭にあの刺刺した虫を被っている。そして、なによりも太陽印の鎧をきている。

「うわぁ!」

「…俺が太陽だ…」

そして襲いかかってきた。

乱雑な一撃、きっと彼にとって倒せる簡単な相手だろう。

 

ーーーーー

 

「ひいっ」

だが、先ほどからただ避けたり逃げるだけで反撃をしない。

「何なんだぁ」

きっと彼には恐ろしいのだろう。

狂った自分の姿が。

深いこの深淵が。

何か蠢く物が湧く世界が。

だからこそ、

「ああ、貴公……!うわぁ!」

人の形に助けを求め、簡単に裏切られる。

 

次第にその数は増していき、彼の周りには8体もの狂った自分の姿がいる。

そのどれもが自分に襲ってくる。

 

ーーーーー

 

「ソラールさん!」

「ま、まるゆ⁈入渠は?って、ああ、そうか。まるゆだったな」

水面を駆けて走ってくる。

確かに今の彼を相手にするのでは、装甲よりも回避の方が重要だろう。

あのレ級と戦えたまるゆなら可能性は高いだろう。だが、

「お前、弱い状態じゃないか」

髪や瞳は黒く、通常の見た目だ。

「一発だけなら平気です」

「って、それじゃあ中破じゃないか」

「それに、私に責任があります」

「そうか。だが、その責任とやらに呑まれるなよ」

「?」

「いいや、昔の話だ。気にするな。行け!」

「はい!」

ソラールに向かって走っていった。

「軽巡棲鬼、まるゆの援護だ。あいつが囮になるらしい」

遠くで彼の剣をバックステップで躱している軽巡棲鬼に向かって戦艦水鬼が叫んだ。

 

ーーーーー

 

「ひぃ、いつになったらこの悪魔から醒めるんだ!」

彼の体力はもう底をつきかけている。

あの狂った自分達の波に呑まれる。

 

そして死んだ。

 

 

「な、なんで。ひぃ!」

しかし終わらない。初めからである。先ほどと変わらずひたすら逃げるだけである。

 

 

 

彼は気付くべきなのだ。

 

ーーーーー

 

「『再起動』」

後ろに滑りながら、屈んで力を巻き起こす。

「…なんだ。掴んだの?」

「ええ、過去は踏み台です。重りじゃないです。きっと皆んなそう願っています」

先ほどと同じく輝く粒子を纏いながら緋色の覚悟した目で拳を握った。

不意に隣の声が変わる。

「良い。実に良い。決してねじ曲げるな、まるゆ君」

「た、隊長⁈」

思わず隣を見る。しかし、そこに居たのは軽巡棲鬼だ。

「残念!ただ声真似しただけです」

「⁈このやろう。あとでとっちめてやる」

まるゆが海面を蹴って前に跳ぶ。

にしし、と軽巡棲鬼が笑う。ボイスレコーダーをスカートのポケットにしまいながら。

「はぁ、どいつもこいつもぶっ壊れ性能だな」

「お前が言う話じゃないだろ」

「戦艦水鬼!」

「サポートっても誤射しかねない。せいぜい危ない時の盾になるか」

「隙を見て叩き込みましょう。そんな事、あの子も分かってますよ」

「そうか」

じっと、まるゆを見つめている。底知れない何かをあの子も持っている。

それを見極める為に。

「とりあえず応急処置はしときますね」

「すまない」

気を利かせた軽巡棲鬼が簡易的な補強を施す。

その間もまるゆとあの男は激しい戦いをしている。まさしく、超人同士の争いといったところか。

太刀筋を見極めてギリギリで回避し、その先に殴る。距離を取ればあの雷とまるゆの腰にあるリボルバーで戦う。

砲を持って構える戦闘ではない。

「あれに、入る隙ってあるか?」

「ないと思う」

「はぁ」

二人はため息をする。

 

ーーーーー

 

「くそう。ここは何処なんだ」

必死に自分から逃げる。

腰につけた剣を抜かずに。

 

「…。え…」

背中から剣が突き刺さっている。

当たり前だ。敵に背後を見せるなとよく言われるだろう。

地面に振り落とされ、そこに沢山の自分が襲いかかってくる。一人を蹴り飛ばしても、群がる虫の如く押し潰された。

 

「何なんだよぉ!」

そして、初めから。

 

醒めることのない悪夢。

だからこそ、悪夢に向き合うべきだと。

 

ーーーーー

 

「ソラールさん!目を覚ましてください」

「ヒノヒカリハトドカナイ」

「ソラールさん!ソラールさん!」

「エエイ、ナニモイラナイ!」

まるゆは弾き飛ばされ、身体にあの太陽の光の槍をくらう。

そんな事は気にせず立ち上がり、再び男に飛びかかる。

「ヒノヒカリナンテ、タイヨウナンテナインダ!」

再びがむしゃらに暴れ始める。ひたすら後ろへステップして回避する。

「…ソラールさん」

まるゆは気づいてしまった。彼の背負ってきた過去に。

ならば…

「…」

もう言葉は出ない。

 

本当の真剣勝負が始まった。

 

ソラールの大振りの攻撃を、ナイフで弾いてその隙に殴る。

まるゆが殴る前に体勢を立て直し、後ろへステップする。

空かさずリボルバーを撃つ。

ステップで回避。から、太陽の光の槍を放つ。

横に避けた後、海面を蹴り、思いっきりナイフを突き立てる。

それを太陽の盾で防ぎ、直剣で突く。

 

直感的な力と短距離を素早く動く術が無ければこのような戦いは生まれないだろう。小柄な陸の艦だからこそ出来る動きであった。

 

ーーーーー

 

「ひぃ!まただよ。助けは、居ないのか…」

「ソラールさん!」

まるゆの声が不意に聞こえる。

「ああ!ここだ、助けてくれ!」

大声で叫ぶ。

しかし帰ってきた声は

「目を覚ましてください」

である。覚ます?目を?

「聞こえないのか?ここだ!ここだ!」

助けを求めるが返事は変わらない。

「ソラールさん!」

「お願いだぁ。助けてくれぇ」

「ソラールさん!」

「助けてくれぇ、真っ暗で、よくわからない自分が襲ってきて、だんだん増えて、何なんだよぉ。助けてくれぇ」

「ソラールさん」

先程の叫び声ではなく弱々しい声だ。

「見捨てないでくれぇ」

 

叫びは虚しく、深淵へと消えていった。

 

そして気がつく。

「…。そもそも何なんだ?ここは…確か、まるゆと島の外に出て…違う。その後に…」

 

ーーーーー

 

戦艦水鬼と軽巡棲鬼が双眼鏡を覗いている。

「…なんか、苦しみ出したぞ」

「うむ…謎、…じゃないですね」

「ああ。私達と同じだ」

「解放されたんですかね」

「どうだろうか?」

「そんな曖昧な回答じゃ無くてですね」

「そう言われてもな。私達とあの男、根本が違うかも知れないし、何より私達よりも深い域に達している。どうなるか分からないさ」

「まぁ、初のデータが取れます。少なくとも、今後、彼のような人が出た場合に」

「ああ、存分に取っておけ。お前の趣味だろう?メカニックさん」

軽巡棲鬼はそう呼ばれてニッコリと笑う。

 

ーーーーー

 

「その後沈んで…沈む?違う。大破だ。ならこの空間は…あの世ではない?」

そう考える隙に狂った自分が襲いかかってくる。

それを簡単にあしらって、また考え込む。

「あの後何を見た?違う。思い出したんだ。ああ!思い出した!」

切り掛かって来たやつを盾を使って攻撃し、体幹を崩させる。そこに素早く二連撃。

「廃都イザリスじゃない、太陽を手にしたわけじゃない。この手に掴んだのは」

 

おお、貴公!どうやら亡者では無いらしいな

俺はアストラのソラール。見ての通り太陽の神の使徒だ

不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に俺自身の太陽を探しに来た!

…変人だ、と思ったか?まあその通りだ

気にするな、皆同じ顔をする

ウワッハッハッハハ

 

ーーーーー

 

「ソラールさん?どうしたんですか…もしかして、まるゆが轟沈させちゃった…」

「キコウ、私…オレ…」

鎧がチリとなり、風に飛ばされ消えていった。

不意に脚に力が入らなかったのか倒れ込む。

「ソ、ソラールさん!」

まるゆが慌てて抱え込む。

「ハハハハ、俺はやったんだ。なっていたんだ。タいヨ…う…」

「ソラールさん?ソラールさん!」

慌てて寄り掛かっているソラールを激しく揺らす。

「ちょ!おい馬鹿!」

そんなまるゆを後ろから押さえ込む。

「あんなに揺らしたら普通は死ぬぞ。特に今はお疲れのようだ。優しくしてあげて」

戦艦水鬼が優しく諭す。

まるゆは落ち着き、ソラールを戦艦水鬼に預けて前へ進んでいった。

今の彼女は残りHP 2。中破であった。

 

 

 

 




オリ設定

深淵(ソラール)
彼の過去が重なって産まれた場所。彼の深層心理。
とても暗く、冷たく、また狂った自分が襲ってくるのはまさに彼が彼自身の過去の怨嗟に呑まれた結果である。
だが恐れる事はない。この暗がりに蠢くものがあっただろうか!だからこそ、太陽の時だ。

特殊艦隊の特殊事情
特殊艦隊の深海棲艦部隊は深海棲艦でありながら人類の味方であり、他の深海棲艦の敵である。
本来、深海棲艦を艦娘が撃破する事で、肉体ごと怨嗟から解放され、再構築された体に解放された純粋な魂が入り込む事で艦娘になる事が時々ある。また、積もった怨嗟を純粋な思いに変える事で経験値となる。
だがしかし、特殊艦隊の深海棲艦部隊は某ヤンチャな人に倒され、怨嗟から解放されたものの、肉体と魂の再構築が行われ無かった為、深海棲艦でありながら、怨嗟に呑まれていない艦娘の魂を宿すに至った。純粋な物に再構築していない為、いくつかの艦娘の魂が入っている個体もいる。
これはごく稀なケースであり、総司令官でなければ無理だろう。



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第七話

やってまいりました!
誓約アイテムマラソン!
月光大剣を携えて、ブンブン振っています。
おおっと、ここでさらに強力なネタ武器に切り替えた!
物干し竿です。しかも毒派生の!
そこは普通、鋭利や上質か血派生でしょう!
しかし毒派生!なんたる事か!
おおっと敵を襲う前にコインを割るのを忘れてた!
敵の目の前でコインを割っています!
袋叩きにされてあえなく御免。
これは…頭につけた貪欲者の烙印が最後の決めてでしたね。あれのおかげで装備変更した際に、大きくHPが切れてましたし、重ロリになっていましたし。そもそもフルカタリナの頭だけ付け替えるのは無いでしょう。胴体を上級騎士装備に変えるだけでも効果があったんじゃないでしょうか。
成る程、参考になりますね。
以上、ロスリックからでした。


「さて、まるゆ君、ソラール君、ようこそ、我が別荘へ」

「…」

「…」

案内された先に執務室があり、中にヒゲモジャの総司令官が座っていたのならこの反応だろう。

個人の別荘にそんな部屋があるのだから。

「どうしたんだね?」

「なんで総司令官が此方へ?」

髭を触りながら話す。

「いや、お仕事中に、なんか別荘に、現れたって連絡が来てね。君たちイレギュラーが」

ギャハハハハと笑う。

ちゃっかり執務室の提督机に座っている辺り、あの戦いの最中、この別荘に入っていたという事だ。

肝っ玉が大きいにも程がある。

「うちの秘密部隊、なかなか強かったでしょ」

「ええ…ちょっと個性的でしたが」

「うむ。俺の場合ちょっと、そちらの娘のせいもあったり無かったり」

「ガハハハハハ。お灸は添える予定だ」

「?」

「?」

「みっちり二日間、私の秘書兼練習相手になってもらうんだ。もちろん、二人ともな。そうだ!君の鎮守府を用意させてもらうよ」

「え?」

「つまり?」

「ああ、君たちの鎮守府だ。提督はソラール君、君に任せる。まるゆ君はとりあえず彼の元で秘書艦としてサポートしておいてくれ。ああ!まるゆ君には後で話がある。ここに残っていなさい。ほっぽ。彼の案内を頼む」

「了解した」

提督机に隠れて見えなかったが、横からピョコッと顔を出して、そのままソラールの手を引いた。

そして引っ張られるままにソラールが執務室から出て行った。

 

「さて、まるゆ君。君はあの鎮守府について、どこまで知ってるんだい?」

 

ーーーーー

 

 

「ここが風呂場だ。混浴というやつだな。気にはならないが。まぁ個人の別荘にしては大きいんじゃないか?あと、向こうに露天風呂があるが、酒を飲む時に総司令が使ってたな」

「うむ…、しかし、さっきは入渠施設があったし、大浴場まであるとは…、果たして本当に個人のものなのか?」

「うむ。難しいところだが、私達は総司令官の所有物として扱われている。そうでもしないとバレた時に危ないからな。いろんな意味で諸刃の剣だな」

「成る程」

「まぁ、その分扱いは良いがな。ほら、烈風を沢山くれた」

扉を開けると目の前には山積みになった烈風がある。

そこをせっせと妖精達が動いている。恐らく入渠している戦艦水鬼と軽巡棲鬼の修理で忙しいのだろう。

「ここは工廠だな。普段、軽巡棲鬼はここで何やら弄っている」

「うむ…ここは基地か何かか?」

「うん。まぁ、公式の物ではないけど、色々ある。例えばドックの中が他の鎮守府のものより快適になっていたりな」

「成る程。特殊部隊の秘密基地ってところか」

「そうだな。それだな!」

つい嬉しくなったのか何やら歌を口ずさむ。

「ズイズイーズイズイ!水上戦隊ズイウンジャー!ドカーン」

「?」

「なんだ?ズイウンジャーを知らないのか?」

ここから、2時間。

ソラールは北方棲姫の話に付き合う羽目になるとは知る由もない。

 

ーーーーー

 

「ええと」

まるゆはどこか言葉に詰まる。

「いいや、良いんだ。あそこからここへ来たんだ。君には知る権利と義務がある」

目が笑っていない。

覚悟をしている目だ。

「はい」

まるゆもそれに応える。

「まず、謝らせて貰いたい。本当に済まなかった」

提督机から立ち上がり、まるゆの目の前で土下座をした。

「え?どういう」

「それは順次説明する」

そのまま、まるゆの前で正座をしたまま。話を始めた。

まるゆも何かを感じとり、そのまま話を聴くことにした。

総司令官の頭はまるゆよりも低かった。

「あの鎮守府の目的は何か分かるか?」

「若手の艦娘の育成と敵大部隊が本土に近づかないかの監視ですよね」

「ああ、表上そういう事にしている」

「表上…他に何か理由が」

「今から12年前ほど、ちょうど世界で初めての艦娘が発見されてから5年が経った時だ」

「それって、あの第一次本土防衛戦ですか」

「ああ、そうだ。知ってるだろう。天文学的な量の損害を出して、得られたものは雀の涙」

「はい、私はあの時、生まれて無かったので何があったか分からないのですが」

「ああ、あのお陰で沿岸部の地価が大きく下落。元々ダメだった貿易に続き、漁業も行えるような状態でなくなった為、各地の港が次々に閉鎖。放棄される事になった。今まで観光業でなんとか稼いでいた土地にそんな打撃が来るわけだから多くの人が難民として内陸部へ移動。ますます沿岸部の地価が下がるという有り様だった」

「はい。それは士官学校で習いました」

「ああ、そこは基本中の基本だ。そこで、政府の出した答えは、鎮守府の増設だった。目論見は無論、成功した。基地の周りに幾つかの商業施設が戻って来たり、基地で働いている人の家族はとても安くて安全な土地に簡単に引っ越せた。こうして幾つかの地域は鎮守府と連携して漁業をする所も現れる。こうしてなんとか持ち堪えた訳だがひとつ大事な事がある」

「二度と同じ誤ちを犯さない事ですね」

「そうだ。だから、鎮守府を増やした。基地を増やした。だが、あらかじめ深海棲艦の大軍がいる事を知らなければならない。レーダーで観測できればの話だが」

「そんな事は出来ない」

「ああ、言ってしまえば、艦娘も深海棲艦も幽霊のようなものだからな。幽霊同士なら気配を強く察知出来るがそれでも限りがあるだろう」

「まさか…そんな事は無いですよね」

「君が何を思っているかは分からない。大体分かるがな。だが順を追って説明させてもらう」

「分かりました。順番は大事ですよね」

「そうだな。まぁ、続きだ。幽霊には幽霊を。そこで生まれたのが超弩級船舶型第一基地『やまと』、第二基地『むさし』、第三基地『しなの』、第四基地『ひゃくじゅういち』第五『ふそう』、第六『やましろ』、第七『いせ』、第八『ひゅうが』が作られた。これは名前の通り海上を移動する基地だ。まさに島だな。熟練の艦娘と数人のクルーによる観測で大部隊を早期発見する。そんな可能な限りの努力をしたが、第二次本土防衛戦が起こったのだ」

「役割を果たしても、基地が弱かった」

「ああ、貴重な熟練の艦娘や乗組員達を失った。だが、幾つかの要因がある事が判明した。まず、艦娘と艦娘。深海棲艦と艦娘は惹かれ合う。だから、互いを強く認識する。だから、気配を感じ取るのが容易い」

「だから狙われる」

「ああ。お陰で『ひゃくじゅういち』と『いせ』が轟沈、海の底に沈んだ。あとは中破か小破でなんとか近くの造船所に戻ってきたが、被害は免れなかった」

「ええ…、まるゆはその後、生まれたんですよね」

「大量の資材を費やし、総司令本部で大型建造を何度も行った。それほどまでに失った足が大きかった。政府の鎮守府に対する扱いも悪化した。所詮は腹いせだろう。アイツらもそこは分かってると思うが」

「移動基地を縮小するしか無かった」

「そうだ。今じゃあ『やまと』と『むさし』、『ふそう』『やましろ』の四隻だけだ。‘自分達を守る盾を棄てた’訳だ。まぁ、けじめは取らせなければ、示しがつかない。そこは理解している。だが、棄てた盾の代わりを見つけなければならない」

「だから、あの島を。皆んなを。私を」

「囮にした」

 

ーーーーー

 

「ここがお前の部屋、隣がまるゆの部屋。アイツにも教えといてくれ」

「分かった。ところで貴公。‘あの鎮守府’について教えてもらう事は出来ないか?」

「生憎だけどほっぽに、その権利はない」

「分かった」

「だが、総司令に聞くといい。何か気付いたのだろう」

「ああ、昔、古い遺跡を無我夢中に調べ過ぎて、知ってはいけないものを見てしまった。それと似たような感覚があの鎮守府にあったからな」

「成る程。眼も良いようだな。立派な提督になれるよ」

「ありがとう」

「禁忌というのは知らなければ、次に進めない」

「…?」

「前の提督。前のまるゆの提督で総司令官の義理の息子の言葉だ。忘れないでおけ」

「分かった。肝に銘じておこう」

 

ーーーーー

 

「で、ここか」

「ああ、引き続き君たちにはここで過ごしてもらう。まぁ、別荘から近いから、いざとなったら救援に来れるし」

 

まるゆのいた鎮守府。あの小島に配属された。

真相を知った身とすれば、少々どころでなく、かなり怖いのだが、こればかりは仕方ないだろう。

堂々と本土を歩けるようになったと考えればまぁ妥当だろうか。機密事項として処理されない分、マシなのだろうか?

ただ、公の鎮守府として扱われるため、そこら辺は心配ないのかもしれない。

 

この二週間で多岐にわたる事を学んだ。

航海術、海戦術、数学、物理、その他沢山の事だ。

常人ではない速さで理解できたのは、俺の根本が艦娘に近いからだろうか?

だが、より、気になるのはまるゆの方だ。

彼女はこの地にどんな思いを抱くのだろうか。

そして、過去の俺のように溺れないだろうか。

もし、溺れたとして、果たして俺のように浮かんで来れるだろうか。

 

彼女の覚悟が折れていなければ良いが。

 

 




オリ設定

まるゆのいる鎮守府
ソラールが流れ着いた、まるゆのいる鎮守府。
秘密裏に作られ、囮にされて放棄された。
今回、総司令直属『第一要塞鎮守府』として設置された。
この案を提出した総司令官の後ろに疲れ果てた黒髪に白い肌の少女と白髪に白い肌の少女が居たとか。
この鎮守府のお陰で周辺で沖合漁業が再開できるようになった。

『超弩級船舶型基地』
かつての大和型戦艦を彷彿させるようなフォルムの分厚い装甲の超大型の船。その名の通り、中に入渠室や工廠室があり、移動する基地である。
深海棲艦の大軍の早期発見の為に造られた。
船自体に兵器は搭載されておらず、中に乗っている艦娘によって周辺の深海棲艦を探知及び撃退、撃破しながら進む。
第二次本土防衛戦において、敵大部隊の早期発見に成功したが、集中的に狙われ、そのまま轟沈する。もしくは何とか鎮守府周辺に避難する事ができ、中破で済んだ船もあった。
この船が囮になったことで本土での防衛準備が整い、万全な状態で敵軍に挑む事が出来た。

そして‘轟沈しない’囮を造る計画に入る。




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第八話

過ぎ去りし未来は今ここに



ああ懐かしい未来かな






3ヶ月前 ソラールが流れ着く2ヶ月前

 

「長門。これ、何?」

「え?ああ、これはとあるゲームに出てくるVOBって言う外付けの推進加速機だ。マッハ24ぐらいは出るかな?」

そういうと、島風が目を輝かせて目の前のプラモデルをまじまじと見る。長門と比べるととても小さい。

「本物はあるの?」

「いや、ゲームの中の話だから。現実にはあり得ないよ」

「いや、どうかな!」

「「提督⁉︎」」

「まずは幾つかのこのVOBの設定と何故現実的でないのか。それを挙げてみよう。さぁ長門!」

物凄い生き生きとして登場した提督が、いつのまにかホワイトボードを持って来ていた。

背後に疲れた様子のまるゆが居たのは気にしない。きっと提督との近接戦闘の練習で疲れたのだろう。いつもの事だ。

「ええと、ロケットそのものを横に付けた代物だったはず…無理やろ」

「成る程、じゃあ、サイズは気にしないで良いかな。だって動かすものが小さくて良いんだし」

「…まさか!提督」

「ああ、人間サイズなら小さくても支障は無いだろ」

「成る程」

「造るのにいくらかかるの?」

「まずは燃料の確保、燃料の冷却、燃料を冷却した状態のままタンクに入れる装置でしょ……ざっと1兆?」

「無理だね」

「まぁ、元ネタでは資本を牛耳ってる企業が作った訳だし」

「それを先に言ってくれよ」

「というか、艦娘をこれで飛ばして無事で済むのか?」

「…」

「ダメじゃないか!」

 

ーーーーー

 

「…はぁ、疲れた」

「お帰りまるゆ殿!」

雪風が丁寧に陸軍式の敬礼をしていた。

「殿呼びはよしてよ。まるゆ、そんなに怖い?」

「いや、その…怖くはないです!」

「そうですか…」

とほほ、とダイニングテーブルに突っ伏した。

提督があそこまで体術が得意で、それの練習相手にさせられるとは、思ってもみなかっただろう。しかもいつもギリギリで勝つのだが、どうも負けた提督の方がピンピンしているのだ。実に奇妙である。

「かき氷でも作りますか」

「雪風!行って来ますです」

「いや、自分で作るからいいよ」

「了解したであります!雪風!全力でサポートします」

「氷をかくだけで何かサポートする事ってあるの?」

「は⁈雪風!ピンチです!」

そして雪風が妙に遜っているのには訳がある。

そう、しれぇとまるゆの闘いである。雪風は見抜いてしまった。しれぇのあの手捌き。まるで流れる激流のよう、対してまるゆはどっしりと構える山のように流れを破るのだ。

己の悪運のせいなのか、たまたま見掛けてしまったのだ。

明らかに達人の域に二人とも入る。それは恐ろしい事だ。

海では速さの島風、頑丈さの長門、強運の雪風。しかし!

陸での支配権はあの二人が握っている!

「ガクブル、ガクブル」

「どうしたんですか?雪風さん。かき氷を食べていないのにブルブル震えて」

「いや、気にしないでいただきたい」

「そう…もぐもぐ」

「むしゃむしゃ」

 

ーーーーー

 

「そうか!成る程、クルーザーにつければ…いや、空気圧が違う。ソニックムーブが簡単に起こる。そうなると単体で発射させれば、或いは」

ずっとホワイトボードに向かって何やら公式を書き始めている提督を横目に、プラモを造る長門、そして、それをスケッチしている島風。

とにかく異様としか言えない空気に思わず金剛が退いた。

が金剛型一番艦が退いてどうする。

「he、heyテートク。ティータイムにしない?」

「後で」

「⁈」

ガーンという擬音が出そうな顔つきで横を見る。どうにも全員がティータイムに興味無さそうな雰囲気だ。

「雪風とまるゆの所にいくネー」

とぼとぼと廊下を歩く様はおばあちゃ…ゲフンゲフン。とても疲れているようだ。

廊下を進み、雪風とまるゆの声のする食堂に向かう。

細波の音が聞こえて来る。

そしてドアを開けると。

「な!」

濃く出した紅茶を山盛りにしたかき氷にかけ、さらにクリームをかけている雪風を肩車しているまるゆに遭遇した。

何を言っているか分からないと思うが、とにかく金剛は固まった。

「何をしてるネー」

「あっ!金剛さん!見つかっちゃいました!まるゆ殿!」

「あわわ。これは、その」

「ちょうどティータイムにしようとしてたデース。で、茶葉をどのくらい使ったネ?」

「あわわ。その…300gくらい」

「what's?そんなに使うかしら?」

「その、紅茶かき氷にかかる濃い奴と、あと、紅茶ケーキをつくったのです!」

「成る程!」

「ごめんなさい」

「私は怒ってないネー。紅茶は鎮守府の備蓄だから、自由に使って構わないデース」

 

ーーーーー

 

「さて、長門、今回の調査はどうだった」

「ダメだ」

「そうか…はぁ、そろそろこの名誉ともおさらばか」

「提督!今のセリフ、もう一度言うならブチ飛ばすからな」

長門が鬼のような形相で提督の胸ぐらを掴む。

「わかってる。だが、戦争だ。我々がやっているのは当てのない戦争だ。どんな戦争だろうと犠牲はつきものさ。いつもそうだ。戦場で散らない命など無いに等しい」

「貴様」

「お前も、‘覚えてる’だろう。失った者達を、消えた物を」

「だから、だからそれを食い止める為に私達が!」

「ああ、だから生贄に捧げられたのだよ。逃げれば本土の奴らに被害が出る。はは。さすが『project dark』だ」

「くそ、捨て駒かよ」

「だが、やりようは幾らでもある」

「?」

「もしも大軍が来たらこう動け」

ホワイトボードに島の図を書き記しながら話す。

「長門は追加装甲を持って、ここを進んで、島の中に入る。俺はまるゆと島に残る。アイツなら奴らが上陸しても大丈夫だろう」

「いや、まるゆは装甲が薄い。それでは」

長門がホワイトボードに線を書き入れる。それを横目に提督がさらにホワイトボードに書き入れる。

「いや、それだと島風の速力を。いや、敢えて…耐久が持つか…」

「まるゆがネックだな」

「だからと言って切り離せるような物でも無いぞ。アイツは近接戦闘なら上手だ」

「近接戦闘ってもタイマンだろ。少数対多数の戦いだ」

「そこなんだよ。くそ、二人だけ鎮守府に残るか…」

「全員で逃げたとして食い止めなければ…」

『project dark』と題を付けられたファイルを見る。

真っ黒だ。

「!」

「どうした?提督」

「長門、お前に沈む覚悟はあるか?」

「…ある。お前よりも」

「そうでなければな」

提督がニヤリと笑う。

長門はそんな姿を見てその時訪れる死を覚悟した。

 

ーーーーー

 

1ヶ月後、ソラールが流れ着く1ヶ月前

時は訪れた。

 

「これでどうだ」

完成したプラモデルを掲げる。そして思わず声が出る。

「J、調子はどうだね」

「良好だ」

声を出したのは思いがけない人物だった。

「島風!」

「にしし、一通りやってみたよ」

「よくクリアできたね」

「フラジールって機体を真似てみたんだけど強いね」

「…」

思わず固まる長門。超軽量機体。それは装甲を削り、武装を削った超ピーキー機体である。当たってもカスダメ。被弾すれば即死亡。まさに弱点しか無い驚異の機体である。

「長門?」

「フラジール?つまり、超軽量機体?」

「うん!だって速いんだもん。弾だって当たらないよ」

「島風……すごいね!」

まるで少年のように目を輝かせる長門。少年の心はロマンを求める物なのだ。

 

「まるゆししょーこうですか?」

「そうすると、こうなって、転ばされるから、すぐに足を引けば相手に一撃を与えられる」

「成る程。でも俺だったら踏みこんでもう一撃を決めるかな。そうすれば上手く両足が付くし」

「うーん、でも隊長。リスクが高いのでは?」

「まぁ、雪風の好きなようにすれば良いさ。俺たち二人ともコンセプトが違う訳だし」

「ししょーかしれぇか…」

二人の顔をまじまじと見つめる。

「うーん。雪風、困りました!」

 

「相変わらず元気デース。はぁ、姉妹がいないと、凄い寂しいネ」

一人で外に出てまるゆ達の修行とプラモデルを一緒に作っている長門達を見ながら、あったかい紅茶を一人で啜る。

ようはボッチである。

だが、もうこの状態には慣れた。

 

そんな日常であった。

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

気がつくと、自分一人が砂浜に転がっていた。

紅くなった海も蒼に戻っている。

「みんな…」

遠くに朝日が昇り始める。

「まるゆは、どうすれば」

檸檬色に照らされて、紫色の空が輝く。

冷め切った体温のまま、ふらりふらりと歩き、自分の部屋で力尽きた。

体についた傷はとっくに自己再生して消えている。

 

もう、何もかもが失われた。

 

 

まるゆ、単艦のみ帰投。

ソラールが流れ着くニ週間前の出来事であった。




オリ設定

『project dark』
数人の艦娘と一人の提督、数人の妖精と小さな建物を犠牲に本土を守る囮にさせる計画。
大本営の一部の上層部のみに知らされた恐るべき計画。
計画書のコピーが挟まったファイルが総司令官によって秘密裏に六 虫追提督に渡された。
これを読めば自分達に課せられた、本土の運命を背負わなければならない事を知るだろう。





果たして、たったそれだけの計画だろうか。


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第九話

まるゆは癒し




ほっぽちゃんも癒し


決してロリコンじゃないんだからね
ながもんも癒しだからね!


「…そうか。こっちはまぁまぁだ」

「ありがとう。これで計画も上々だ」

「全く。よく言えるよ」

「まぁね。所詮は老いぼれだからなぁ」

 

ーーーーー

 

「ふと気になったのだが、日本以外の国って今もあるのか?」

太陽のタリスマンを興味深々で見つめている北方棲姫に声をかける。

あれから、何故かこちらに来た北方棲姫であるが、半地下室に住み着いている。一応機密事項であるのだが、総司令官が寄越したそうだ。

「うむ、日本ほど被害を受けてないと思うぞ。だけどもハワイ諸島なんかの諸島みたいなのは全滅だろうな。あとどの国も沿岸部なんかは特にね」

北方棲姫は、安楽椅子に足を組みながら座り、広げてあった新聞の上にタリスマンを置き、熱々のコーヒーを啜っている。

「船で輸送するのに大艦隊で護衛しなければならないし、空輸するにも燃料が高く付くし、対空特化の深海棲艦に墜とされたら笑えないし、相当難しいと思うよ。まぁ、私達の登場での恩恵もあるみたいだし」

「例えば?」

「まず、この国に攻めてこられる国がなくなった。海に出れば我々に対応しなければならなくなったからな。余裕がなくなった」

「ある種の平和か」

「平和は争いの上澄みにある。有名な話さ。争いが無ければ平和もない。2つは同時に存在し得る。皮肉な物だ」

「じゃあ、上に戻るよ。何か必要だったら言ってね」

「了解。のんびりしているよ」

北方棲姫は太陽のタリスマンをソラールに返すと、そのまま新聞に目を落とした。

薄暗い部屋に並んだ本棚に囲まれている北方棲姫は、物凄い馴染んでいた。

 

ーーーーー

 

「うむ、これで良いか」

「はい。たぶん大丈夫だと思います」

「そうか。この量を掃除するのも大変だな」

「まぁ、私達三人しか居ないし妖精さんも戻ってきてるし、そこまで汚れて無かったね」

鎮守府の本館から工廠まで、全てを掃除した。

「さて、後はお出迎えの準備をしなければ」

「まるゆも頑張ります」

食堂の飾り付けに向かう。

 

食堂の大扉を開けると、

その先には、ダイニングテーブルに白いテーブルクロスが敷かれており、上にバゲットが置かれている。

そして、食堂から、何やら良い香りがする。

「……なんだこれ」

「すごいですね。ほっぽちゃん」

「私の趣味が料理で良かったな」

「ああ、ありがとう。これで後は」

「あわわ!提督。十分前です」

「了解。急いで着替えて、身嗜みを整えるぞ」

 

ーーーーー

 

慌てて下に降りていった二人を見送り、北方棲姫は半地下室に戻っていった。

「はぁ、本格的に隠れて生活しなければ。地下室的なのがあったかな」

本棚をひっくり返し、一つのファイルを取り出した。

『project dark』

ただそれだけが書かれた因縁の書物だ。

このファイルには計画の動機、構想からこの島の施設の綿密な地図まで全てが詰まっている。

「計画はこれにて完遂か…まさか、こうも上手くいくとは。さて、地下室はどこかにあるかな」

地図を開き、指でなぞっていく。

「…無いな。まぁ、ないなら作れば良いか。脱出用のエレベーターに当たらないようにしないとな」

地下の配管に気をつけながら、少しずつ案を練っていく。

大まかな設計図を作り、あの二人に確認するまで、とりあえず保留しておく。

「さすがにアイツらに勝てるとは思えないもんなぁ」

あの二人は明らかに土俵が違う。堅実にやるには遠距離からの砲撃ぐらいである。

だから、争いの火種になるような物は堅実に潰していかなければならない。

「全く、お偉いさんども。何を考えているのだ?あんな特別な存在なんて作って、量産でもする気か?」

あるいは…

いや

やめておこう。

 

ファイルを棚に戻し、回転させて隠した後に、表の本を取り出した。

『嵐の王‘白’』

そう書かれた黒塗りの本をテーブルに置き、コーヒーの準備をする。

フィルターに豆を入れるドリップ式だ。

「いつか、平和な海で」

 

沸いたお湯をフィルターに注ぐ。

とぽとぽと、お湯の流れる音とともに遠くから話し声が聞こえてきた。

どうやら、あの山道を登って来たらしい。

 

新しい風が吹くだろう。

 

きっと、同胞たちを救ってくれるだろう。

 

 

ーーーーー

 

「なぁ、提督、向こうの提督ってどんななんだ?」

「まるゆが秘書官らしいな」

「…まるゆがか?他に居ないのか?」

「どうも、そうらしい」

「そんな鎮守府に移動になったのか」

親指を上に立ててそのまま前に突き出す。

「そうだ」

「わぁ」

「だが、油断するなよ。装備が貧弱な奴ほど危ないんだ」

小さな漁船2つに自分の全艦隊が入るのだから、他人の事は言えないと、ひひひと笑う。

 

「で、えーと、長門さん?大和さん?武蔵さん?何を」

「何って、釣りだが?」

「釣りです」

「釣りだ」

「ちょっと、その、走行中はスクリューに絡まったら危ないし…というか釣りをしに来た訳じゃないでしょう」

「いや、釣りたくなるだろ」

「漁船ですし」

「向こうの人にお土産をだな」

「いや、お土産って、ここで釣った物をお土産とは言えないんじゃないかな?それに、海の上で止まる予定はないので諦めて下さい」

「そうか、どうしよう」

「向こうの鎮守府の波止場で釣りましょう」

「ああ、それしかないだろうな」

「向こうに着いたら、自分の部屋の整理と、島の地理を見て回るのが、今後の予定です。開くとしたら夕食後です」

「そうなるとお土産をどうしろと」

「私の釣具をお土産に」

「いや、私が替わりになってやる」

「…、お土産の方は提督が用意してありますから、要らないです」

 

「向こうに三人組を置いていって大丈夫だったか?」

「ダメでした。普段は私がボケ担当なのに」

「やめとけ、やめとけ」

「?」

「俺のストレスがマッハだ」

「音速に達したんですね。島風がいれば、羨ましがります」

「…、もう、突っ込まないからな」

「ほら、建物が見えて来ました」

「…」

頭をポリポリと掻く。

他の春雨はとてもおしとやかで健気なのに、この春雨はそれとは真逆を地でいくからとても不気味だ。

気にする事も無いし、同じ艦で性格まで同じだと、そちらの方が恐ろしいと感じるのだが。

「?長門、大和、武蔵どうした?」

「いやね、なんか雰囲気が」

「ちょっと悪いというか、深海棲艦みたいなよくない感じが。いや、深海棲艦とは違うんですけど、何というか」

「わ、私は怖く無いぞ」

「?塩サバを食べていたつもりだったのに、いつの間にか味噌サバを食べていたって感じ?」

「ああ!そうだそれそれ」

「そうです。そんな感じです。みたらし団子を頼んだのに出て来たのが味噌団子だったみたいな」

「わ、私は怖く無いぞ。コーンスープが味噌汁になっても」

「もう突っ込まないからな。まぁ、雰囲気としてはちょっとな」

とてつもなく感じる。欲だ。

欲に満ちたあの世界の記憶が呼び起こされる。

きっと、あそこに居るのは恐ろしい程欲が強い人間に違いない。

階段を登ってその顔を拝んでやろうと、足の動きが速くなる。

そして、本館の前の広場に差し掛かった時。

思わず声が出た。

 

ーーーーー

 

「Tシャツでいいのか?正装にした方がいいのでは?」

「相手も動きやすい服で来るでしょうし、ソラールさんのそれ、とても似合ってますよ」

「ああ、そうか。まぁ、俺の自作のホーリーシンボルだからな!」

ソラールのあのホーリーシンボルをプリントしたTシャツをお揃いで着ている。

 

そして階段を一番に登って来たのは、スキンヘッドの男だった。

 

「あ⁉︎」

「あ⁉︎お前は」

「ソラールさん、知り合いですか?」

「提督?どうした、前に進めないぞ」

「うん?…あ、ああ」

後ろが詰まってしまうので、そのまま流されるままに広場に並ぶ。

提督同士の間に何かがあると両艦隊が疑問に思い始める。

数々の視線がぶつかる中、二人の提督が並ぶ。

「え、ええと。パッチ提督、ですか?」

「ああ、八提督、愛称がパッチだ」

「あ、ええと、ソラールです。よろしく」

「え、ええ」

二人は不器用に握手する。

ますます奇妙な目で見る艦娘達。

「ああ、歓迎の言葉みたいなの言った方がいいよね」

「え⁈あ、はい」

急に質問が飛んできてまるゆが驚いた。

「えーえ。ごほん。お、私はソラールです。提督ですね。ええと艦隊っていうかまるゆだけなんだけど…まぁ、頑張ってます。ええと、ここの施設で何か質問があれば随時聞きに来てくれて構わない。まぁ、見ての通り変わり者だが、ハハハハハハ」

「んじゃあ各自、予め渡してた部屋割り通りに部屋に入って、整理するんだな。終わったら…ええとお昼だっけ?」

「ああ、そうだ」

「食堂に向かえ。そしたら施設を見て回るからな。ソラール提督。その時は頼む」

「ああ、了解している」

 

ーーーーー

 

「貴公の艦隊は結構いるな」

「いや、そっちが少ないんだろう。基本は攻略組、遠征組、居残り組に分かれるだろ。あとは資材集め組とか」

「そうなのか?基本は攻めて無かったからな。あ、まるゆから聞いたかな?」

「…まるゆから?」

「ああ、流れ着いたんだ。この島に」

「成る程、お前もか…」

「ふむ、意外と居るのかも知れないな」

 

「やっぱり、あの二人。知り合いなんじゃ」

「まるゆちゃんもやっぱりそう思うよね。でも、接点は無いはずなんだよ」

「はいはい、前世の恋人同士とか?」

「私は、前世の友人同士だと思います」

「私は…その、長門の意見だな」

「あなた方は多分外れているので天龍さんに聞いてみましょう」

春雨は三人組を置いておいて、天龍に話を振った。

ぶーぶーとブーイングが聞こえるが気にしない。

「あ⁈いま、チビ共と喋ってただろ。なんで急にふる」

「僕も気になります」

「夕立も気になるっぽい」

その他五人の駆逐艦達+αから見つめられ、少し引く。

頬をかきながら考える

「もしかして、スパイ的なサムシングというか、なんだろ。軍の秘密部隊のライバルとか」

あたふたしながら、手をバタバタさせ、なんとか手振りで教えよとするが、春雨から痛恨の一撃が

「ソラールさんは先月、提督になったばかりですし、聞くところによると海の上を漂流してたみたいですよ。あそこまで親しくなるのに時間がかかるんじゃあないですか?」

「あっ、それもそうだな。うん」

そのまま机に突っ伏して動かなくなってしまった。

 

ーーーーー

 

執務室にパッチが入って来た。

ソラールは既に提督机の前のソファに座っている。

「執務室が一つしかないのか」

頭をポリポリと掻きながらもう片方の手で顎を触り、唸りながら、ソラールの向かいに座る。

「それならまるまる使って構わない」

ソラールは立ち上がると、提督机の奥の窓を覗く。

「いや、そっちの指揮がって、そうか、まるゆちゃんだけなのか」

「ああ、基本はこの島の施設の管理と護衛を任されてるからな。近海に深海棲艦が出ないと使わないだろうし。それに使う前に倒せるからな」

「ああ、噂のまるゆちゃんだからな」

「いや、俺も一緒に出るぞ」

「?お前もか…、まさか、総司令官の秘蔵艦隊っておまえか?…いや艦隊ってことはお前みたいなよく分からないのがウヨウヨいるのか」

「それとは扱いが別みたいだが。それに船じゃないし」

「そうか、なら良かった」

パッチは、もう身内がいるのは懲り懲りだと言わんばかりのため息を付く。

「お、どうやら釣れた様だな」

「…ああ、あの三人組か…凄い不思議な組み合わせだろう」

「ああ、長門と大和、武蔵だったな。確か」

「そうだ。大和と武蔵は姉妹艦だが、それ以上の関わりは殆ど無い。結構、あの二人はギクシャクしてたんだ」

「…そうか。その間に長門が入ったと」

「驚いたよ。でも、そうだな。意味を見つけたよ」

「?」

「何で、艦娘…過去の艦の幽霊が人の形を取るのか。何故、深海棲艦は過去の艦や基地の亡霊と言うが、人の形を取るのか」

「成る程、まるで、神々の様だな」

「…そうか、お前聖職者…か?」

「難しいな。一応、太陽を信仰してるが、どうだか…あ!そうだ、確か、俺、崇められてたわ。死んだあと。神格化って言うんだっけ」

「…お前…そうか。うん」

「いやぁ、凄い驚いたね」

「…そうか。ああ、まぁ。よくやったな」

「ああ、きっとあいつがやったんだろう」

「ん?ああ、あいつか」

「ハハハ、太陽になるために禁忌に触れてみるものだな」

「お前…はぁ。欲が少ないな」

呆れた様子で、立ち上がり、そのまま廊下に出て行った。

月明かりが廊下を明るく照らしている。




オリ設定

北方棲姫
ほっぽちゃん。建築レベルが異常に高い。『project dark』に関わる施設は全て彼女の元で作られた。
ネコヤキをサポートにつかって建築する為、効率が良い。岩盤を掘削するのも得意である。
コーヒーを飲む。ハードボイルドな性格。読書家。
軽巡棲鬼ほどでは無いがメカニック。

半地下室
鎮守府本館の執務室の隠し扉から入る。
北方棲姫の住処になっており、彼女によって色々な改造が施されている。
両壁が本棚になっており、本で埋め尽くされている。
元々は資料置き場兼、倉庫。

『嵐の王‘白’』
とある嵐の神が没落するまでを描いた小説。
ただそれだけ。
北方棲姫の愛読書。


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第十話

マラソンが終わったと思ってたら、レアドロップが10足りなかったんだ。


ああ、追加で1日消化したよ。

ちなみに超展開!
オリキャラぽいけどオリキャラじゃない奴が出てくるぞ。ダクソのとあるキャラの名前の意味を知ってれば分かるぞ。
さぁ、君も考察班に入ろう!



日本から約6600km。ハワイ島。

海は紅く。

空は暗い。

闇の様に優しく無く。

混沌の様に暖かく無い。

冷たく、深く、暗い。

重い空気が漂っている。

そこに数多もの幽霊が住んでいる。

冷たく、深く、暗い。古の兵器の亡霊。古の地の亡霊。

 

そこに一人の亡霊が‘流れ着いた’。

 

痩せこけ、酷く衰弱した様子だ。

 

「あ、ああ」

 

砂浜に打ち上げられ、白い砂が顔に付く。

そして、起き上がろうとして、足を取られて転び、そのまま力尽きた。

 

ーーーーー

 

「キガツイタ?」

「?あ、ああ。感謝する」

目の前には白い女が立っている。

男はベッドの上に寝ている。

「マサカ、ニンゲンガ、ヒョウリュウシテクルトハ」

「人間…」

自分の掌をまじまじと見つめ。そして気がつく。

「私は、私は誰だ?…私はどれだ?」

数多にある自分の記憶に混乱している様だ。白い女は気がつく。

「ソウカ、キオクガ…ワタシタチトオナジ。イヤ、チガウカ」

「…なんだ」

「ワタシタチハ、ヒトリデハナイ。ソシテ、シュウゴウタイデモナイ。アイマイナ、ソンザイ。‘コ’デアリナガラ‘グン’。トテモコワレワスイ」

「どう言うことだ?」

「アナタハ、アイマイナソンザイタチヲイレルウツワ。ダッタ。ソウミエル。ワタシタチミタイニフカクテ、コドク。ダケド、ジブンノカラダヲモッテイル」

「…よくわからない」

「エエ、オキタバカリダモノ。オチツイタラ、マタハナスワ。ワタシノナマエハ、クウボセイキ。アナタハ…」

「名前?ああ、ええと」

「ナラ、ワタシガツケテアゲル。アナタニ、ワタシタチトオナジ、フカイウミデモ、ミツケラレルヨウニ。‘アルブム’。イミハ‘シロ’。ワタシタチノカラダトオナジイロ」

「アルブム…成る程。ありがとう」

「ドウイタシマシテ。アナタニ、キオクガモドリマスヨウニ」

空母棲姫は不器用に微笑む。

こうしてアルブムと空母棲姫の生活が始まった。

 

ーーーーー

 

場所は代わり、某鎮守府。

 

三人の戦艦と提督二人が、沖合で釣りをしている。

ちなみにまるゆと春雨は島の裏側の岸壁で素潜りをしている。駆逐艦が水に潜るなんて気にしてはいけない、イイネ。

天龍率いる遠征組はこの鎮守府への物資の護衛に向かっている。その間は凄く暇なので、余った数人で海に出たというわけである。

 

「釣れない」

「釣れない」

「釣れない」

「…お前ら静かにできんか?」

糸を垂らしながら、パッチが三人を注意する。

隣のソラールは黙々と釣り上げている。

三人で一匹も釣れないのに対して、提督たちはそれぞれ20尾ほど釣っている。

時期が時期なので大きなものではないが、それでも両手からはみ出るぐらいには大きい。

「何故だ」

「餌が悪いのかしら」

「道具の質か」

「いや、仕掛けが違うだろ。仕掛けのターゲットが。俺は小さめの魚狙い。お前らは大物も視野に入れた仕掛けだろ」

「貴公、大変だな」

「ああ、俺はツッコミ役になった覚えがないんだがな」

 

ーーーーー

 

「で、そっちの戦果はそんなですか」

「ああ。こいつら、マグロを釣りやがった。どう見ても仕掛けも時期もあって居ないのに」

「ふむ。漁業者が減ったせいで海洋の生態が変化したか…」

「じゃあ、俺の愛読書は古いって訳か」

「まぁ、端的に言えば」

「俺の教科書がぁ」

「いや、釣りの仕掛けは響いてるんじゃないですかね。司令官は大量の魚を釣ってるので」

「良かった」

「全く、司令官のくせに」

「しょうがないだろ。ボロ屋に住んでいた時になけなしの金で買った釣り入門書と仕掛けたちだもの」

「中古屋で竿から仕掛けまで全部合わせて二千円。大した大出費ですよ」

「ああん、お前、この提督に向かってなんだよその口はぁ!他の春雨みたいにおしとやかにしろ!」

笑いながら逃げる春雨をパッチが追いかける。

あっという間に豆粒になった。

「いつもの事だな」

「気にしなくて大丈夫ですよ。30分もすれば春雨を抱えて帰ってくるので」

「週一で見られるぞ」

「あ、はい」

「ええと、まるゆ達はこれだけ取りました」

「多いな。ええと、帆立とわかめと、これは」

「サザエです」

「これらも普通は取れないのか?」

「たぶんそうです」

「ふむ…よくわからないな。少し調べるか」

「はい!まるゆも一緒に行きます」

「と、その前に取れたものを運ばなければ」

三人組が三人揃って腕を曲げて、力瘤に手を当て構える。

「「「了解」」」

 

ーーーーー

 

「はぁ、俺たち遠征組はいつも護衛任務ばかりで飽き飽きするぜ」

「なのです!」

電が意気揚々と答える。

「いや、それはちょっと。同意しかねる」

それに対して響は反対する。

「レベルが春雨ほどないし、仕方ない面もあるけど。やっぱり攻略組に混ざりたいね」

「天龍ちゃんなら調子に乗ってタイタニックみたいに沈みますよ」

「おい!龍田、怖い事言うなよ」

「ええ。攻略の怖い所を知らないんだもの」

「わかってる。わかってるってば。沈んだら終わりなんだろ」

「ええ。でも、もしかして、この子たちに寂しい思いをさせるつもり?」

「あ、いや、そう言うわけでは」

顔を逸らしてポリポリと掻く。どうやら、納得した様だ。

「龍田さん。ありがとう」

響が天龍と同じ様な仕草をしながら龍田にお礼を言う。

後ろには夕立や時雨達が楽しそうに会話しながらついてきている。

物資の中にあったスパイスやニンジン、ジャガイモの段ボールから帰ったらカレーだと大騒ぎである。

 

魚フライと知ったらどの様な反応をするのだろうか

 

ーーーーー

 

「凄い寂れている。人が居ない」

「エエ、ミンナ、イナクナッタ」

凄く寂れた建物やその残骸の上を、黒や白の人影が動いている。クウボセイキと雰囲気が似ている。

「彷徨っているのは、君たちの仲間か?」

「ソウ。ワタシタチハ、シンカイセイカン。カコノボウレイ。アナタトオナジ、カコニトラワレテイル」

「シンカイセイカン…。亡霊…」

「ソウ。ムカシノヘイキガ、シズンダ。シンダ。ハカイサレタ。エンジョウシタ。ソノ、‘フ’ノオモイガフクレテ、カタチニナッタ。ソレガ、ワタシタチ」

「何処かで…私の誰かがそれを知っている」

深く溜まった思いが形となる。強い思いが形になる。理力。信仰。それらが、世界を形作る。しかし、人の思いが人の形を取っただろうか。

「この世界は、私の世界とは違うみたいだ。どうやら、どの記憶にもこの光景は無い」

「ソウ。キオクガモドルマデ、ワタシノモトデクラストイイ。タベモノガ、ナイカモシレナイガ」

空母棲姫は少し申し訳なさそうな顔を見せた。

 

ーーーーー

 

食料を探す為、スーパーマーケットの瓦礫の山を掘り起こしている。

空母棲姫は両手に何かを抱えて、アルブムの所へ駆け寄って来た。

「カンズメガ、イクツカミツカッタ」

「カンズメ?なんだそれは。金属の円柱?」

「ナカニ、タベモノガハイッテル。コレハ、ユデタトマト。イワシノオリーブオイルヅケ。ミンナタベナイカラ、アマッテイテ、タスカッタ」

「ふむ…よく分からない」

「マァ、タベラレルモノッタコトダ。タブンダガ」

「いや、その円柱に食べ物が入っているのは何となくわかる。そうじゃなくて、なんで他の皆は食べないんだ?」

「…アア、アジヲカンジニクイシ、ヒトヲヒドクニクンデイルヤツモイル。ソレニ、ワタシタチハ、タベナクテモイキテイケルカラ」

「成る程…でも。食べてみたくはならないのか?」

「イイヤ、カナシクナルカライイ」

「食べると、悲しくなるのか」

「タブン。ホンノウテキニソウカンジル。ソレハ、ワタシタチノ‘サガ’ダトオモウ」

「…そうか。一緒に食べれないか」

「…タベル」

「え?」

「ワタシ、オナカガスイタ。ムショウニ、タベタイ!」

「⁈」

 

建物の残骸中の食べれそうなモノをひと通り集め終えた。

大きめの箱二つを担いでいる空母棲姫を横目に、目の前の箱を運ぶ。アレからアルブムはソワソワしている。

アルブムは、空母棲姫の見せた空腹のあの表情に魅せられた様だ。

 

 




オリ設定

アルブム
ラテン語で白。
ただの男。それだけである。
現在、空母棲姫と同居中。
羨ましい限りである。空母おばさんと言えば瞬く間に滅びが訪れるだろう。

紅い海
深海棲艦により完全に制圧されている海域。主に、過去に大きな戦いがあった場所に現れる。
現れる海域は深く、冷たく、重たい。
赤潮とは違い、生態系は死滅しないが、混沌とした生態系になる。
深海棲艦が退けば元に戻る。

イワシノオリーブオイルヅケ
オイルサーディンの事。米かビールが欲しくなる。
ちなみに二人はユデタトマトと一緒に食べた。
著者はイワシの蒲焼の方が好き。


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サイドストーリー2

アーマードコアの新作はまだかなぁ。


早く、超軽量機で遊びたいナリ。

パイルを両手に装備して、キメるんだ。

俺が、俺たちが、首輪付きだ!
人類の天敵種だ!
俺がフラジールだ!


まるゆの前の提督『六 虫追』が提督になる少し前。

第一次本土防衛戦の少し前。

 

沖縄防衛戦。敗退後。

 

その沖縄に一人の男が流れ着いた。

 

その男に一人の深海棲艦が心を開いた。

 

彼女の率いる艦隊はイロハ級のみであり、決して強いとは言い切れなかった。

 

結果、第一次本土防衛戦後、沖縄は奪還される事となる。

 

男と深海棲艦はその際に大波に呑まれて消え去り、行方は知られていない。

 

そして、その話を知る者もごく僅かである。

 

ーーーーー

 

それから2年。

東京都

東京大鎮守府

港区基地

総司令執務室

「司令官、質問なんですが、あの男は一体」

「…過去のしがらみ。とでも言っておくか」

「しがらみ、ですか」

「ああ、俺の過去の枷だ」

「あんなに傍若無人な…いや、春雨ちゃんの方が傍若無人でした」

「まぁ、気にするな。あの男はただ者じゃ無い。ほら、俺の息子とどっこいだろうな」

「息子さんと?」

「ああ、倅と。まぁ、ろくにアイツに会えてないから勘頼りだがな」

「そうですか。それで、なぜ息子ではなく、あの男を総司令権限で推薦したのですか?」

「うーん。可愛い子には旅をさせろって言うしね」

「はぁ」

よく分からないという表情で、暁が紅茶を飲む。

「カッ、あっつ!熱くない?これ」

熱湯で入れた紅茶はとても熱い。

ひたすらフーフーしながら冷まそうとする。

「そりゃ、見るからに熱々の紅茶だろう。全く、同じことを昨日も見たぞ」

「それは…失礼。というか、しがらみって過去に何があったの?」

「口調が戻ってる。戻ってる。…まぁ、いろいろあったんだがな。忘れちまった」

「何?もしかして私が一人前のレディーじゃないから教えてくれないの?」

「さあね」

無碍に扱われ、暁は頬を大きく膨らませる。

ぷっくりと膨れた頬を総司令が思いっきり押した。

 

ーーーーー

 

さらに、1年後、駿河鎮守府第三基地

 

「はぁ、疲れた」

「まぁ、道が余り良くないですし」

「この車って言うのは速いのはいいが、こう、操作が難しいんだよなぁ」

「船の免許を取ったくせになんですか」

「いや、船と車は違うでしょ。障害物の有無もスピードも違うし」

「私は船の方が難しいと思いますね。船を使わない方が本能的に出来ますし」

「成る程。艦だもんな」

「おい、二人とも、いちゃつくのはいいが、程々にしておけよ」

「天龍さん!」

「よお、春雨。No.25だっけ。他の春雨よりも凄い目立ってた」

「はい。ええと、司令官、こちらは天龍さんです。私の士官学校時代の先生でした」

「天龍だ。No.2。今はこの鎮守府の遠征部隊の長をやっている。総司令から案内と貴艦隊に入るように頼まれている。ようこそ、駿河鎮守府沼津基地へ。八提督。歓迎するぜ」

ニッと笑って二人が握手をし、門を通り、そのまま基地の敷地の中へ進む。

「しっかし、驚いた。総司令のご指名なんだって?」

「ああ、あのじいさん。アレが総司令だったのか」

「はぁ⁉︎総司令を知らなかったのか?」

「あ、ああ。すまない。この1年は免許だとかそういうのを取ってたから」

「…まぁいいや。あのじいさんの事だから隠してたんだろう。全く、やなご老人だこと」

「まぁ、それよりも、新天地でうまくやれるかなぁ」

「司令官が弱気になってる。珍しい」

「ああ?お前、司令官に対してなんだその口は!」

「あ、天龍さん。それはいつもの事で…」

「提督。俺は呼び捨てで構わない。すまん、後で」

そういうと、パッチを置いて、春雨を追いかけて行ってしまった。

「俺は、何をどうすれば…」

一人残されたパッチはただ呆然としている。

「まぁ、いっか」

そういうと、鞄の中から、渡されていたこの基地についてのファイルを開き、中の地図を見る。

「取り敢えず、部屋の整理をするか」

そう言うと、玄関の大扉を開けた。

 

ーーーーー

 

「さて、ふむ、先ずは艦隊を作らなければ始まらないんだよな…いや、その前に近隣住民への挨拶をするべきか」

執務室と自身の部屋の整理を終え、ふと思い至る。

「昼ごはんがまだだった」

朝早くに東京を出発し、着いたのが9時だったため、ちょうど整理が終わると時刻は正午になっていた。

気付くとお腹が余計に空いてくる。

酷く長い50メートルの道のりを越え、食堂にたどり着いた。

食堂と書かれた暖簾が垂れており、中から良い香りがする。

「いらっしゃい。えっ、…ああ、提督でしたか」

「…、あの、どちら様で?」

「鳳翔ですが…もしかして、聴いていませんでしたか?私の事」

「…ああ、忘れちまったのかな?聞いてないな」

「なら、改めて、私は鳳翔。番号はNo.1です」

「ええと俺…私は八です。ええと、前はパッチと呼ばれてたので、そっちの方が良いかな。うん」

「分かりました。八提督。あ、いや。パッチ提督」

細やかな笑みを浮かべる。

シューと音が聞こえる。

「あっ、味噌汁が。ちょっとそこの椅子に腰掛けて待ってて下さい」

食堂にはカウンター席とテーブル席がいくつかあるだけであり、食堂よりも酒場と言われた方がしっくりくる。

さくら色の着物の上に割烹着を着た姿は正しく、大和撫子と呼ぶにふさわしいだろう。

パッチは、カウンター席に座った。

すると、カウンターの向こうからお盆に乗せられたご飯と味噌汁、そして豚カツが出てきた。

狐色の衣が見るからにサクサクしていて美味しそうだ。

「どうぞ」

「いただきます」

見た目通り、とても美味しい。

米が進む。

不意に台所から疑問が飛んでくる。

「天龍ちゃん、本当に私の事、言ってなかったかしら」

「…天龍…。No.2のですよね。それなら春雨とどっかに行ったきり、二人とも戻って来てないな」

「天龍ちゃんが出迎えに行ったのが、車の音が聞こえて来てからだから、ちょうど朝ご飯の片付けを…まさか」

「え、ええと。いや、確かに、流石に、三時間はおかしい」

「提督。準備を」

「準備…あっ。発艦じゃなくて、出掛ける方ね」

 

ーーーーー

 

正門の前に、動きやすい黒地に桜色のラインが入ったジャージ姿の鳳翔がいた。やけに気合いが入っているようだ。

「ええと、GPSによると…」

「GPS?」

「ええ、居場所を特定するやつです。確か艦娘全員に機能付きのデバイスが渡されたはずですが」

「デバイス…これ?」

スマートフォンをポケットから取り出す。

「ええ、もしかして、走り回って探すつも…」

赤面して丸くなった。本当に走り回るつもりだったらしい。

「ええと、ほら、最初期の艦娘なら、艦娘用の士官学校が生まれる前ですし、ね。知らない事はあってもおかしくないよね」

慰めているのかわからないセリフが出てくるパッチ。

鳳翔はうずくまるばかりである。

「あ、ここだ。って司令官⁈と鳳翔さん…何で蹲って」

「うん?まさか、提督、鳳翔さんを泣かせたな!」

「お前らが言える口じゃないだろ」

正門の影から春雨と天龍が現れた。片手にはスマートフォンを持っている。どうやら地図を見ながらこちらに戻って来たらしい。

しかし、なんともタイミングが悪い。

「ええと、鳳翔さん。先に行って、2人を説教してるから、ね」

『えー』と何処からか文句が聞こえて来たが気にしない。

そのまま2人の首を掴んで、建物の中に入って行った。

 

ーーーーー

 

『コンコン』ドアを叩く音がする。

この時期だからか、既に外は暗く、廊下の蛍光灯がチカチカと光っている。

「提督。ちょっと良いですか?」

頼りなさそうな明かりの元で鳳翔が訪ねて来た。

「ああ。どうぞ。そこに座って」

パッチは中に招き入れるとそのまま和室のちゃぶ台の向かいに座るように座布団を置いて勧める。

そして、電気ポットでお湯を沸かし始める。

「新人の提督さんに言うのは難ですが、どうして、私たちっているんでしょう」

「?…どう言う事だ?」

「私たちは、人の形をしています」

「ああ。そうだな」

鳳翔が涙ながらに話を始める。

「私、なんでこうなったのか、わからないんです。なんで、感情なんて手に入れたのか」

「過去に、何かあったのか?」

「提督がこちらにくる二年前。私は、とある島の奪還作戦に参加していました」

「沖縄奪還作戦か」

「ええ。そうです。私はそこで、とある罪を犯したんです」

「罪?」

「1人の少女を殺しかけ、その少女はもう1人の男と共に」

「…それは」

「駆逐棲姫。ただの姫級の駆逐艦。強い敵の駆逐艦。そう思っていました」

「でも、違った」

「ええ、彼女は悲しみ、そして守る。意思を持っていました。船だった頃は敵なんて何を考えているのかわからなかった。でも、今は耳も目もあるんです。あの子の悲鳴も聞こえるんです。あの子の愛した男の決意もあの表情も」

「でも、それをなんでここに来たばかりの俺に」

「…それは」

言葉が詰まり、顔が歪む。何やら衝動的に思い出してしまったらしい。

きっと、潰される前に誰かを頼ったのだ。

「…まぁ良い。話せない事は話さなくて。まぁ、そうだな。何故、人の形なのか、人としてまたこの世に舞い戻ったのか。それが知りたいのか」

「はい。無かった感情を手に入れたのに、やる事は‘前’と同じ。文字通り身体が軋み、心がすり減ります。本当に‘前’と同じ事をする為に、私達がこの世に産まれたのなら、そんなのなんて、残酷です。それは私たちの意味が無いじゃないですか」

泣きながらちゃぶ台に突っ伏す。

酷く泣きじゃくっている彼女。何処かで見た記憶がある。

パッチは自然と言葉が出てくる。立ち上がり、窓辺に移動しながら外の景色を見る。

「溜めすぎたな。吐き出した方が良い。俺は無欲だが他の人は欲深かった。ものを溜め込んで、溜め込んで。最後は呑まれて行った。溜めすぎるのも良くないし溜めさせられるのも良くない。気楽にな。そうすれば生きれる」

「はい…」

「俺も初めてなんだ。よくわからない事だらけだ。よろしく頼む」

 

ーーーーー

 

鳳翔は部屋に戻り、パジャマに着替える。

わかっているのだ。

八提督を見た瞬間。その時から胸騒ぎが治らないのだ。

春雨を見た時、、理解した。

これは、自分の奥底で溜め込んで終わなければ。

酷く恐ろしい。

 

私があの2人を沈めた。

 

 

2人を殺した。




オリ設定

駿河鎮守府第三基地
駿河湾近辺の住民の護衛の為の基地。前任者は昇級し、呉鎮守府に行った為、八ことパッチがやって来た。

『八 深津』(はち ふくつ)。
本名はパッチ。この名前は海岸に流れ着いたパッチを助けた漁師に付けられた偽名。公的にはこちらを使っている。
元は苦労をかけさせていた立場だが、何故かこの世界では苦労するばかりの苦労人。向こうの世界の記憶は完全に覚えている。

春雨
何故かおしとやかでない春雨。No.25。
浜辺に流れ着いた所を総司令官に拾われる。
士官学校に通ったのち、総司令艦隊準準攻略組に入る。
パッチの秘書艦。
意外と頭脳が優れている。

天龍
No.2。
士官学校で実務の教官をしていた。前任者の秘書艦の鹿島と入れ替わる形で第三基地の管理を任されており、そのまま八提督の艦隊に合流した。
剣捌きはそこそこ上手いが、ゴリ押しの面が強い。
沖縄奪還作戦に参加していたが、途中で撤退した。

鳳翔
みんなのお艦。No.1。
沖縄奪還作戦に従事した。沖縄奪還作戦の結末を知る数少ない人物。その結末から、自分達の存在について疑問を持つ事になる。
戦争は少女の姿をしていない。
しかし、彼女もまた、紛れもなく少女なのだ。



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第十一話

そういえば、タイトル回収はしたものの全く提督らしい事してないな。

まぁ、心はいつまでも少年だから、ね。

提督を戦わせたいのよ。



せっかく、あの地から呼び寄せたんだし。


ぼーっとしているパッチに声をかける。

「パッチ司令官?」

「ん?なんだ?ああ、電、遠征から帰ってきたのか」

「なのです!ですが、あの。ソラール提督の事なんですが」

 

1時間前。

『太陽の光の槍』

バケツをかぶった用な鎧の男が水面に立ち、手に持った赤く輝く黄色の槍を投げる。

ああ、無情。リ級は轟沈。ついでに広がった雷(いかずちじゃないわ!)で周りのイ級も轟沈。

「ハッハハハハ」

という笑い声が海に広がる。

 

「ということがあったのです」

「ふーん。…って太陽の光の槍って、あの太陽の光の槍か?え?まさか」

「?どの太陽の光の槍ですか?…うん?太陽の光の槍?」

「いや、なんでもない。気にするな。で?どうしたんだ?」

「そのソラールさん曰くただの準備運動だから、戦果は全部私たち持ちだって」

「いいんじゃない?そのままで」

「それだと、私たちのそのアレがですね」

「ソラールと俺はいわば旧友の仲だ。よく分からない事で心配するな」

徐に手が電の頭になり、すこし不器用に撫でる。

 

ーーーーー

 

「よし、来い」

「うおりゃあ。ぐあっ」

大振りの縦切りを弾かれる。

「ふん」

そのままタックルが来る。

「ヤベェ」

慌てて横にステップ。

「…というか、剣の練習に、タックルは無いだろ」

「…そうか、すまん。いつも通りやってしまった。まるゆとなら別に気にしてなかったんだが」

「まるゆと?俺をおちょくってるのか?」

「いや、そういうわけじゃない。何というか、私のまるゆは特別でね」

「ふーん。で、そのまるゆが今、お前の後ろでのんびり日向ぼっこしてるんだが」

動きを辞めて、地面に剣を突き刺した。思わずソラールは身構える。

「それなりに戦えるって事だよな」

「ああ、保証する。だが、貴公、今は前に集中しろ」

「ああ、初めからそのつもりだ」

剣を構える。

 

 

 

「で、天龍ちゃんは中破、ソラール提督はほぼ無傷ね。ソラール提督にハンデがあったのに」

「ハンデ?」

「ええ、ソラール提督。確かに優しいけど、見た目通り野蛮よ。本来なら勝つ為なら手を惜しまないはず。天龍ちゃんに合わせて、剣と盾だけで戦ってたのよ」

「ああ、そうか、ソラール提督の戦い方もあるのか。確かに少しぎこちなかったな」

「ええ、出来るだけ守りながら味方に攻撃させる。それが彼の戦い方みたいね。だから、体幹を崩してきたりするし、敵の隙を見逃さない」

「出撃時はまるゆとのコンビみたいだしな。ザ・囮役だな」

「囮だからって油断したら駄目よ」

「分かってる。仮にも扱いが総司令官と同等だからな」

「ええ、『人類の希望』だなんて。全く、上は何を考えてるのかしら」

 

ーーーーー

 

「ああ、聞こえるか?単縦陣だ」

『了解した』

マイクに向かって指示を出していくパッチを興味深そうに、2人が見ている。

無論、艦隊の指揮とは程遠いソラールと、攻略とは程遠いまるゆの2人だ。

「敵の編成は」

『戦艦水鬼が一隻、戦艦棲姫が二隻あとは、ヲ級一隻、ネ級二隻』

「ふむ、いつもの。食わせてやれ」

『了解』

目を輝かせて見ている2人に気づき、少し慄く。

パッチから見れば2人の方がよっぽど化け物である。

海の上を駆け、知らない間にかの大王の奇跡を使いこなしているソラール。

海の中を泳ぎ、敵に奇襲を仕掛けて殴り倒すまるゆ。

その両者から、眼差しを受けているのだ。

怖気が凄まじい。果たしてここまで緊張する事があっただろうか。

 

ーーーーー

 

結果、作戦実行中、ずっと見られていた。

ただでさえ、資材の消費が激しいゴリ押しの攻略艦隊に加え、あの2人のおかげで、パッチのストレスはマッハである。

お陰で、頭がハゲている。

 

「資材はこれだけ吹っ飛んだか…なら足りたな。良かった」

日々、駿河鎮守府第三基地から重い資材を輸送してくれている遠征組には頭が上がらない。

「低コストの護衛艦隊か…、まぁこの基地を守るには過剰な気もするが」

頭の中には暴れ回る2人がいる。

一対一が基本の2人に対して6隻で挑む深海棲艦。

着実に沈めて来る2人の方が上手だろうか。

というか2人のイレギュラーには対応する術は無いのでは?

そっと、いつか来るであろう敵艦隊に祈りを捧げる。

 

ーーーーー

 

「ふう、久々のドックは辛いなぁ」

「スッキリしましたけどやっぱり狭いです」

「ふう、風呂上りはこの姿に限る」

浴衣姿の戦艦三人が悠々と歩いている。

どこぞの駆逐艦がいたら発狂するだろうか。

その三人の前に、1人の少女が文字通り空から現れる。

流れる長いピンクの髪。

「今回消費した資材から約十日間。仕事は無いです」

衝撃の告白。

三人に戦慄が走る。

「十日も…」

「資材置き場が狭いのが問題なのかしら」

「十日もニー活状態なのか」

「いや、資材の運搬がどうしても限度があるんですよ。資材置き場はあまり変わらないですし」

「なら私たちが運搬すれば」

「ドラム缶持てたかしら」

「ニー活が…。仕方ないマッハでこなす」

「やめい!そもそもドラム缶を積めないし、消費が激しいあんた達三人組が任務をこなすだけで大赤字確定」

暴走する三人を押さえ込もうとする暴走した春雨。

無駄に手振りをしている様を不思議そうに三人が見つめている。

 

それを陰から輸送任務帰りの遠征組が見ている。

「とても複雑な動きっぽい!」

「春雨のあの動き、僕、アニメで見た事がある」

「ああ、あれは、攻防一体のあの構えだ」

「天地反転撃の動きなのです!」

「さすが、春雨。アニメを見ただけでマスターするなんて」

「もしかして、あの三人組に立ち向かってるのか?」

「ええ、…(あれは、ただあたふたしてるだけじゃ無いかしら)」

 

ーーーーー

 

「ふむ。貴公。なかなか良いものを見た」

「お陰でこっちは普段より疲れた」

「ああ!それは済まなかった。どうも、興奮してしまってな」

ソラールは頭を掻きながら申し訳なさそうに言った。

パッチも流石にこれ以上は文句が出なかった。

「ところで、パッチ提督は戦ったりしないのか?」

「机の上で戦ってるが…」

「机の上じゃなくて、深海棲艦相手に」

「出来たらやってる。そもそもお前の方が異常なんだよ」

「いや、そう言われても、他に知ってる提督は総司令官だけだし」

「それなら、駄目だな」

当然である。描写は少なかったが、あの人は規格外なのだ。

 

 

 

 




オリ設定

八提督と六提督
犬猿の仲。パッチが罠を仕掛け、虫追がそれを邪魔する。
邪魔をするが、殴りかかるなどをしてこない虫追を
罠をけしかけるが、決して悪趣味なもので無い深津を
互いを認めている。
良きライバルであり、戦績は虫追の方が高い。

三人組と春雨
ボケとボケが出会う時、その地域の弱いボケはツッコミになる。即ち、天然とキャラを被っている人では天然の方が強い。
春雨はここでは苦労人である。
ちなみにパッチはそこまで気にならない。
三つ巴である。

『人類の希望』
総司令官を筆頭に、深海棲艦と渡り歩く事ができる人間を指す言葉。
脱艦娘を掲げる一部の人々によって付けられた名前がそのまま定着してしまった。
今では、そのネガティブな意味は既に廃れている。

奥義・天地反転撃
アニメ『夜戦仮面』に登場する。手を複雑に円形に動かしながら敵の物理攻撃が来るのを待ち、その複雑な動きを持って敵をひっくり返し、追撃をする技。相応の筋力と技量、精神力が必要である。
『夜戦仮面・1号』『夜戦仮面・2号』『夜戦仮面・3号』の技
ちなみにまるゆも使える。


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第十二話

僕は月光技量戦士。
だけど、月光は出が遅くてクソ弱い。
仕方がないので理力補正のある鎌を使ってるんですが、こっちは火力が低すぎる。
何?直剣?あんな短いリーチの…つまらん。
俺は愚者セスタスでいくぜ。


結局弱い。

だが、ロマンに勝る力などあるだろうか?



「モエツキテシマエ」

数多もの艦載機がこちらに向かって来る。

「全艦隊、迎撃及び回避に専念せよ」

「了解」

轟く対空砲。

素早く放たれる艦載機。

攻撃をやめ、蛇行を始める。

立ち上がる水柱が迫って来る。

 

ーーーーー

 

「総司令官殿、あきつ丸であります」

「件の話か、入っていいぞ」

「失礼します」

灰色の軍服を着たあきつ丸がドアを開けて中に入って来る。

手には分厚い資料の束だ。

「今回のアメリカ航路解放作戦は失敗でした」

「…やはりな」

「と、言いますと」

「ハワイとミッドウェー、それ以外にも多くの船が底に居るんだ。あり得ない話でもない」

「それにしては多すぎる気がするであります。この資料に目を通したのですが、今回、我々の『ふそう』を中心にした大艦隊ですら、突破が出来ない量なんですよ」

資料をめくりながらあきつ丸の話を聞く。

成る程、たしかに少し異常な気もするが、原因は明白だ。

「それだけ、その周辺の海は深いんだよ。それに超弩級船舶型基地なんて、ただの重りにしかならないだろう。どうせなら、狙われないように敵の完全支配権に入る前に停止しなければならないだろうに。後は、アメリカと繋がる為には超高高度の空輸ぐらいしか無いだろう」

「上空に対する索敵能力がどれくらいあるかに左右されるであります」

「ああ、少なくとも、ロケットで空輸なんて馬鹿な真似は出来ないがな」

 

ーーーーー

 

「お帰り。あまり釣れないね」

「ああ、そういえば総司令官がおかしな事を言ってたな」

「アメリカ航路解放作戦ってやつかい?」

「ああ、どうも失敗したらしいんだが」

「…私達に要請が来なかったね」

「いや、そこじゃない。明らかに普通の人から見ておかしいんだ」

レ級は首を傾げる。

竿にアタリが入り、リールを巻き始める。

釣れたのはただのイワシだ。

「あの超弩級船舶型基地を敵陣の中に送り込んだらしい」

「…そりゃ、アホだな」

「そうだろう。でもそんな柔な事、普通するか?」

「…、諜報員をひとり仕向けたいって事?」

「そうだな。コイツを報酬にどうだ?」

「な!そ、それは!」

 

ーーーーー

 

「はぁ、お腹が空いた」

壊れたビルの上に座る。

大きなシャツとズボンを着ている。

アルブムだ。

あれからちっとも記憶が戻らない…いや、記憶が整理出来ていない。

無数に記憶があるのだ。

まるで、世界そのものを取り込んだように。

そして、数多の物語を見た。

地下に押し込められた墓の王。

嵐の王とその妻達の悲劇。

愛に溺れた古竜とそれを受けた小さな古竜達。

深淵に堕ちた暖かな4人の王達。

どれも皆悲劇で終わる。だが、果たして悲劇なのだろうか。

 

とある男がいた。

ダークリングが体に生まれ、亡者として、北の不死院に幽閉されていた。

 

彼はとある使者から世界のカギを貰い、そして、世界に旅立った。

 

カギの通り、突き進み、巡り、鐘を鳴らした。

 

ーーーーー

 

「ですが、総司令官」

あきつ丸が慌てて総司令官を押さえ込む。

その姿を暁が砂糖を大量に入れたコーヒーを飲みながら眺めている。舌を火傷したのか、ひたすらフーフーして冷ましている

「…老人どもに灸を添えるだけだ」

「そうは言っても」

「…もう、虫追の時のような事はさせん」

「例の作戦は成功したのでありますか」

「…そうだ。友軍が間に合わなかった」

「…、そうでしたか」

あきつ丸は床に雪崩れ込んだ。

「それなら、あの子も…」

「まるゆか?」

「ええ、同じ陸の仲間ですが」

「まるゆなら生きのびた」

「え、」

「機密事項なんだが、特別だ。移動させてやろうか?」

あきつ丸の目が輝く。無表情でも喜んでいるのが分かりやすい。

しかし出てくる回答は違う。

「いや、いいです。私からあの子の元へ行く資格はありません」

「それは…」

 

ーーーーー

 

「しかし。あの兵器を使う訳にはいきません」

「だからと言って、我々の国民は飢えている」

「だからと言って、それは逆効果です」

2人の男が、他の人達が見ている中、言い争っている。

それを天井裏から彼女。

軽巡棲姫は覗いている。

軽巡棲鬼の胃カメラ風スコープを使い、マスクのモニターにその様子が映し出される。

「だいぶ、荒れてるようね」

カメラを少しずつ動かしながら辺りを見回す。

「深海棲艦。あれはおそらく怨念の類です。刺激してはいけません」

「なら、飢えて苦しみながら死ねというのか?」

「そうじゃなくて…改めて言いますよ。よく聞いていて下さい。現在、日本の人口は深海棲艦が現れた十二年前の約半分。六千万人まで落ちました。それは分かりますね」

「ああ。沿岸部の価値が大きく下がった。だから、皆、安全な内陸部に籠もっている」

「そうです。だから、その安い土地を我々が買い取り、軍事組織の基地を次々と建てて来ました。なら、同じ要領で農園を作れば、食糧は回復するのでは?」

「いいか、敵がいつ本土強襲を仕掛けてくるのかわからない。なら、あらかじめ倒しておく必要があるだろう。そうでもしなければ働き手の若者はわざわざ危険な場所に来ない」

「人口が半分に減った以上、決してより激化するような行為は避けなければ、人口はますます減る限りですよ」

2人の話は激化し、逆に周囲からは圧倒されたのか、野次の一つも飛ば無かった。

まさに2人とも膠着状態。どちらの意見も一理ある。

そこに現れる特異点。

「ちょっと待ちたまえ、君たち。私直々にいろいろなヒントを与えてやろう」

「…あ、貴女は!」

 

ーーーーー

 

「ああ、永い物語だ」

読んでみても答えは変わらない。私の記憶は依然として混沌としている。

「ナニカ、ホンヲヨンデイタノカ?」

「いいや、自分の記憶だ」

「ソウカ、ワタシタチヨリモナガクテオオキナモノガタリナノネ」

「ああ、本にするととても分厚くなると思う」

「ナラ、ホンヲカイテミルカ?」

「書き記せる自信はない」

「ソウカ、モッタイナイ」

空母棲姫が隣に座る。

「ワタシタチノモノガタリハ、トテモカナシイ。ワタシタチノカツヤクハムナシク、ムイミニオワッタ」

「まるで…」

「?モシカシテ、アナタモ?」

「…いや、違う。我々は次の世界に繋がった。我々は、我々は」

「…ソウ。アナタハワタシタチトハチガウノネ」

「…そうかもしれない。だけど、我々の物語は我々の物語上に積もっていた。悲劇も喜劇も」

「…アナタハ、ヤサシイノネ。きっと私たちも」

空母棲姫の周囲から光が零れ落ちる。

地面に落ちて砕け散った。

美しい娘よ、泣いているのだろうか?

「でも、私たちは終わらない。今にいる」

「…そうか。なら、物語を紡いでくれ。君にはその権利と義務がある」

「それは貴方も、そうでしょう」

「過去の我々には権利すら無いが」

空母棲姫が立ち上がる。

思わずアルブムは跪いた。手を前に伸ばした状態で。

「今の我々はその義務がある」

 

ーーーーー

 

「…さっきから聞いてたけど。もし、本当にそう思って居るのなら、私は貴女を殴るわ」

拳を握り、肩に力をいれ、首をぐるりと動かす。

「え?あ、ガッ」

「そうじゃ無くても癪に触るから同じだけど」

既に右ストレートが入る。さらに流れで左フック。

背中から地面に落ちた。

「私たちの覚悟を侮辱しないでくれる?あきつ丸No.34」

冷たい視線が当たる。

「そこまでにしておけ。あきつ丸。相当効いただろう。ドッグに入るといい」

むくりと起き上がり、痛みを堪えて敬礼する。

「わかりました」

痛みを堪えているせいか、チマチマと歩いて出て行った。

 

「痛かったろう。お前も行ってこい」

「ええ、そうさせて貰うわ。あいつ、お腹に鉄板でも仕込んでいるのかしら」

涙ながらに暁が言った。

 

ーーーーー

 

「これらの資料を参考に、、私の苦労も考慮して頂戴」

そういうと紙の束を机に置き、颯爽と会議室から出て行った。

まさに嵐の類だろう。

その場にいる者達はすかさず山の様な資料をあさり始める。

彼女の言った事が事実であれば今の状況を覆せるかも知れない。

 

「…あんた。普通に堂々と入ってきたけど、度胸あるわね」

「うわ!なんだ…軽巡棲姫か」

「なんだって何よ。レ級」

「だって上からワイヤーでぶら下がっているんだもの」

腕から伸ばしたワイヤーで天井にぶら下がっている。

まさしくニンジャである。

「それは軽巡棲鬼の発明品か?」

「その通り、もちろん原理は不明よ」

「やっぱりな」

「貴女のおかげでうまく進むといいけど」

 




オリ設定

あきつ丸
No.34。まるゆNo.123と同期に六提督の元で建造された。
特殊個体のNo.123よりも先に士官学校を卒業。虫追の元で戦果を上げて行った。
別れの際の一悶着を心の隅で後悔している。

士官学校
本来なら少尉以上の士官を育てる施設だが、艦娘にはそれと等しい役割があるため、この名前を用いている。
通常の士官学校は別にある。



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第十三話

僕ね。思ったのよ。


ダクソでマイネェェェーーム!イズ!ギョブマサタカ!オニワァァァアア!やりたい。


兜がない?

俺がマイネェェェーーム!イズ!ギョブマサタカ!オニワァァァアア!と思ったのならば、それはマイネェェェーーム!イズ!ギョブマサタカ!オニワァァァアア!なんだ。
俺が、俺たちがマイネェェェーーム!イズ!ギョブマサタカ!オニワァァァアア!だ!

いつもの過去編ね。


金剛が外にテーブルを出して、紅茶を飲んでいる。

隣には氷をガリガリする雪風。顔は真っ赤ですごい汗だ。先程の指導でとても疲れたらしい。

金剛は、観るものが無くなった為、ずっと海を眺めている。

薄らと、水平線の境目辺りが紅く色づいている。

「あ、紅く」

「え、うそ」

『全員直ちに執務室へ来る様に、そうでなければ私でも命の保証は出来かねない』

慌てて走る金剛と雪風。

緊急事態である事は確かだ。

 

ーーーーー

 

執務室に既に全員が揃っていた。

「全員、揃ったな。ふむ。長門、状況の説明を」

「ああ、色々と疑問があると思うが、取り敢えず話を聞いて欲しい。知っているだろうが、紅い海は深海棲艦に完全に制圧された箇所だ。それがこの島の近海に観測された」

「そこで我々の目的が出てくる」

金剛が手を上げる

「目的って何デース?私たち聞いてないネ」

「言ったらお前たちがお構い無しに逃げる可能性が高かったからだ」

「そんな事…もぐもぐ」

誰かが、金剛の口を塞ぐ。

「提督はまるゆ達の覚悟を知らないんですか?」

「いや、今なら大丈夫だろう。逃げるか逃げないかを君たちに委ねる」

全員が息を飲む。最弱の中で提督から声が出る。

「この鎮守府の本来の目的は囮。我々は囮だ。本土に対して警笛を鳴らし、時間を稼ぐ囮だ」

「え?それって」

どよめきが起こる。雪風はポカーンとし、島風は雪風を揺らし、金剛の目からハイライトが消えてぶつぶつと何かをとなえ、まるゆはただ隊長の目を見つめた。

「静粛に」

長門が怒鳴った。雪風の魂が舞い戻り、島風は戻ってきた雪風に抱きつき、金剛は瞳に光が戻り念仏を唱えるのを止め、まるゆは長門の目を見つめた。

「今から、作戦を、説明する。目的は囮になって本土が準備するまでの時間を稼ぐ。そして、全員での帰還だ」

 

ーーーーー

 

「これで良いのかな?」

「長門さんとまるゆ、そして提督の作戦にかけるしかないデース。後は自分たちの運ネ」

「雪風、運には自信があります!」

「でも、こんな施設があるとはネ」

エレベーターで下に降りる。緊急事態に備えて作られた脱出路だ。

「タイミングは長門さんの砲撃が聞こえた瞬間ネ」

「雪風、緊張するです」

「私、帰れたら、いっぱいレベリングするんだ」

「島風!それは言ってはノー。帰れたらなんて、必ず帰るデース」

「そうだね。マイナスの事は考えたらダメだね」

「雪風!了解しました!」

「元気ネ。グッドデース」

リフトから降りて、洞窟に出る。

 

ーーーーー

 

「さて、俺達は少しばかり覚悟を決めないとな」

「まるゆ、がんばります」

「ああ、頼むぞ。お前が鍵だからな」

「いくぞ、まるゆ」

長門が海の上を走り出す。長門の腰に巻いたロープに繋がっているボートに提督とまるゆが乗っている。

小舟の両縁を掴みながら紅い海に慄く。

例えこの高レベルの長門がいるとしても、果たして、超低レベルの自分に役目が果たせるのだろうか。

そう考える暇もなく、長門が砲撃を開始した。

提督が深海棲艦の位置を知らせ、長門が確認して砲撃。

瞬く間に多くの深海棲艦が沈んで行く。

まるゆはただ唖然と2人の域を眺めているしかなかった。

 

ーーーーー

 

ホワイトボードに図形を書いていく。

この島の形だ。

「先ず、長門と私、そしてまるゆが此方で出撃。後に敵の中枢を撃破、そのまま本土の知り合いの別荘へ向かう。緊急事態である事は既に伝えてある。きっと援軍が来てくれるだろう。そして、金剛、雪風、島風はこの建物の地下、緊急時用の脱出路にて待機。長門の砲撃が聞こえたら真っ直ぐ本土へ向かえ、西に進めばあるはずだ。そして援軍の指示を受けろ。もしも援軍が見つからなかったら…」

「逃げろ。深海棲艦から、鎮守府の人間から」

「だ、そうだ。吉と出るか凶と出るかの賭けに過ぎない。ただ凶の割合が随分と多いが、まぁ、全員、死ぬな。以上」

「装備は出来るだけ高速になる様に積め。極力、戦闘は避けろ」

 

ーーーーー

 

「雪風!砲撃が聞こえました!」

「私も聞こえたよ」

「了解。作戦開始デース」

洞窟の陰から海に出る、手に持ったコンパスを頼りに西に進む。

紅い海原をかき分けて進む。

暗く深くなった空は道標を示さない。

 

ーーーーー

 

「ふむ。提督。元気で」

「ああ、頼んだ」

「こっちのセリフだ」

提督は小舟の後ろに移動してエンジンをかける。

長門はそのまま敵の中枢へ向かい、逆にボートは反転して敵艦隊の攻撃可能範囲をなぞる様に進む。

「…提督?あの、もしかして」

「…お前は黙っていろ」

「はい」

「いや、口が悪かった。こっちは元から覚悟は決まってるんだ」

提督は帽子を深く被った。

目は鋭く光っている。

突然、近くに水柱が上がる。

「近くに来たか。しっかりと両端をつかんでいろ」

ボートは素早く動き回り、敵の攻撃を物ともせず、翻弄していく。

 

まるゆは気づいた。

なぜ長門に牽引させていたのか。

だけど黙っている事にした。

覚悟が足りない。

そうなってはいけないからだ。

 

ーーーーー

 

「…お前がこの艦隊のボスかな?」

目の前には1人の女性が立っている。

黒い髪、白い肌、突き出た角、後ろにいる二つの頭の怪物。

戦艦水鬼だ。

「ヤクニタタヌ…イマイマシイ……ガラクタドモメッ!!」

「そうか、ガラクタね。お前も私と同じさ」

距離を開けながら少しずつ砲撃していく。

確実に一発を当てていく。

「志は違うがな」

「ナカナカ…ヤルジャナイカ……」

 

ーーーーー

 

 

『project dark』のファイルの一番後ろには、こう書かれている。

『緊急連絡の後、六提督からの連絡は途絶えた。これを持って『project dark』を終わりにする』

 

 

 

 

 

行方不明 1人、艦娘四隻

生存 艦娘一隻

 

 

『project dark』

 

作戦目標、達成。




オリ設定

ボート
少し速く、小回りが効く少し厚めの装甲を持っている特別仕様。一発でお釈迦になるのは変わらない。



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第十四話

長門は可愛いなぁ。

なぁ。


可愛いなぁ。

すべすべしそう。すりすりしたい。癒されたい!



「提督?提督」

「ん?ああ。何かようか?」

「いや、大丈夫か?寝ちゃった見たいだから」

「大和、心配です」

「あっ、やべ」

武蔵がスマホを慌てて机の中に仕舞う。

が、ほかの2人はそのまま構えたままである。

「しまえよ、せめて隠せよ」

パッチは三人に呆れるばかりである。

「よっこいせっ、と」

寝転がっていたソファから起き上がる。

「いよいよ、お出ましか」

「?」

「?」

「?」

三人同時に首を傾げる。

 

ーーーーー

 

「ふむ、むむ」

「アルブム、どうした?」

「いや、少しばかり気になる事がな」

「だからといって落書きを描いてどうするの?」

「落書きじゃない。歴とした文字だ」

「私は日本語しか分からないです」

「日本語?…あーうん?なんだっけ?」

「…、あー。(前々回で)カッコつけてみましたが、そこからですか。…まぁ、普通はそうね」

「…。すまない。記憶の中に微かにあった気もする」

「そうですか。で、気になった事とは」

「物語の中核に器になった人物がいるんだ。君の言った器だ。不死人の…ああ、知らないか。まぁ、そこは気にするな。とある男だ。もしかしたら自分はその男かもしれない」

「ふむ、自分を見つけた訳ですか」

「ああ、少しずつ整理していく。あ、ああ、日本語についてもおしえてくれ。行くんだろう。故郷に」

「…ええ。徒歩では長いので、歩きながら教えます。もしかしたら記憶の片隅にあるかもしれないですが」

 

ーーーーー

 

「…。これで、役は揃ったのか」

「これから我々はこの国で革命を起こす」

「艦娘などという所詮は過去の残骸にこの国の運命を任せる訳に行くまい」

「未来へ進む為に過去は切り捨てるべきなのだ。歴史がそれを語っている」

 

ーーーーー

 

「…提督?どうしたんだ?」

「お客さんですか?」

「右眼が疼く」

「敵だ。お前らは引っ込んでいなさい。俺の敵だ」

そう言うとパッチは走り出した。

「ええと、どうしよう」

「提督の指示に従ったほうが良いのかな」

「はっ!闇の組織⁈」

 

浜辺に立つと、1人の男が立っていた。

「お前は」

「排除」

「成る程な、だいたい分かった」

「排除」

「できるのならな」

闇パッチとでも言うのだろうか。赤く光る目をしている。

手には穂先にかえしがついた長柄の槍と大鷲の書かれた盾を握っている。

「ふん。気持ち悪い事をするね」

逆に、こちらは何も持っていない。

訳ではない。

腰のマグナムをすぐさま構えて引き金を引く

強い反動と轟音と共に弾が射出される。

しかし、弾が構えた大盾に塞がれる。

小さな音と共に玉は静止した。

「成る程。系統としてはあいつらか。ますます気に食わないな」

「排除」

「おまけに聖職者にホイホイ付いていきそうだ。ムカつく」

「排除」

「煩い。誇りを舐めるな」

次々に弾丸を放つ。

盾を崩せば隙はあるはずだ。

「排除」

盾を構えたまま少しずつ近づいてくる。

この手の敵にはソラールが向いているが、まるゆと近海のパトロール中だ。

だが、まだ手はある。

「はっ、亡者の仲間にはなりたくないが」

海に落ちていた太い流木を手に持つ。

「致し方なし」

槍の突きを避けながら、相手の背中に回り込み、二撃加える。そしてそのままチリとなって消えて行った。

「臨機応変ってやつだ。覚えておけ」

木の棒を浜辺に投げ捨てた。

 

ーーーーー

 

「うむ、弱い。弱いぞ」

「ソラールさんにそっくりですね」

「まぁ、気にするほどでもないがな。本物は私だし」

「目が赤いのも気になりますし、ずっと排除排除って言ってました」

「亡者の類いか?」

「亡者?もしかして、ゾンビですか⁈イヤ!コワイ!まるゆはホラーは苦手です」

「いや、ホラーでは…ホラーか?いや、うむ」

考え込むソラールと顔が蒼くなるまるゆ。

「ふむ、パッチに相談するか」

「パッチさんと昔馴染みだと言ってましけど、何かあったんですか?」

「いや、あいつが突き落としてきたりだな」

「…それであの仲なんですか?」

「なかなか憎めない奴でな。おまけに実力は確かだ。こっちでも有名な提督なんだろ」

「ええ、八提督は隊長と並ぶ実力者です」

「ふむ。なら、相当だな」

 

ーーーーー

 

「ええと、この状況は」

まるゆとソラールは2人でぽつーんとしている。

「提督。答えろ。アレはなんだったんだ」

「提督、教えて下さい」

「裏組織の秘密兵器?それとも裏の自分?」

何故かワクワクしている武蔵は置いておいて、パッチは問い詰められていた。

2人はどうにも話の輪の中に入れない。

「お教えしましょう」

いきなり肩を叩かれ、二人とも震え上がる。そこに居たのは春雨だ。少し心外そうな顔をしている。

「私たちのパッチ提督が、赤目のパッチと戦っていた、とあの三人が問い詰めているんですが、流石にあり得ないと思うんです。私達ならまだしも、ただの人間ですよ」

「いや、嘘じゃないと思うぞ。だって俺も同じ様なのと戦ったんだし」

「赤目のソラールさん、ソラールさんよりも弱かったです」

「ええ…、人間なのに?」

「うーむ。ああ!クローンとかって言う技術が無かったか?それを使えば説明がつくんじゃないか?」

「いや、人間のクローンは、法律上、倫理上認められていないですよ」

「そうなると、法律が変わったのか、人間として認められていないのか」

「え?そんなまさか」

春雨はパッチを眺める。戦艦三隻に問い詰められて色々なんかやっている様だが、どう見ても人間だ。だが、一つの答えに行き着く。本人は語っていなかったが。

「まさか、ソラール提督と同じ」

 

戦艦に混じってパッチを問い詰める姿をソラールとまるが唖然としながら見ていた。

 

ーーーーー

 

暗くなった執務室でスタンドライトの灯の中で、二人は晩酌をしている。

「飛んだ災難だった」

「お疲れ。しかし、ロードランの事を未だに言ってなかったとは」

「だって異世界から来ました。だなんて受け入れられるか?」

「それもそうだな」

「それに、見せられる話じゃない。触れたんだろ禁忌に」

「ああ。恐ろしかった。信じたものが崩れるのが」

「あいつらに、アレを教えたくない」

「…それはわかるが、今日のお昼ごろのアレ。知ってるんじゃないか?」

「予感してただけだ『project dark』この小島を囮に本土を守るって作戦だが、まず有り得ない。この小島に果たして惹かれる深海棲艦がいるだろうか?まして、少数の艦娘しか居ないのに」

ソラールの目が細くなる。

「なら、まるゆが隊長達と逸れたって言うのはなんだったんだ」

「いや、本当に深海棲艦が来たんだろう。だが、それはイレギュラーな出来事だ。たまたま船団が巡航している時に島に近づいたか、誰かが仕向けたか」

「なんだ?お前は、知ってるんじゃ無いのか?」

まるで知っているかの様な話に少し疑問を持った。純粋な疑問だ。

しかし、来たのは怒声だ。

「調べたんだよ。アイツの足跡を追って。孤島にずっといたお前に分からないと思うが、本土には沢山の人がいるんだ。あの地よりも弱くて優しい人たちが。俺達はその為になったんだ。提督に」

負けじとソラールも怒声をあげる。

「ああ、俺には分からないだろう。お前が怒るのも分からない。だが、俺が易々と提督になったと思ったのか?確かに背負うものの大きさが違う。だが、俺はアイツと一緒に居たいんだ。アイツはもはや艦娘では無くなった。だから、人として、一緒に居てやりたい。ほんの数週間の付き合いでも、アイツが背負った物に気付かないほど馬鹿じゃない」

「そうか、済まない」

「ああ、こちらこそ」

 

この後、こっぴどく怒られるのだが。

 

 




オリ設定

とある不死人
北の不死院で目覚め、ロードランの三つの鐘を鳴らして、ニト、イザリス、シース、四人の公王、そしてグウィンを討ち取った存在。
彼、もしくは彼女の歩んだ道は無数にある。その道を決めた存在は果たして何処にいるのか。

次の計画
『project dark』の本当の目的。
深海棲艦と戦う兵器を作り出す。


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第十五話

やばい、槍に慣れてないせいか、詰んだ。


助けて、ソラールさん!


そこのロングソードなんて使いたく無いよ!


「…昔話をしよう。昔、人類は争っていた。今よりも沢山の人が死んだ。だからこそ、人は争いを止めようとした。だが、そのお陰で、新たな争いが生まれた。争いを止める為に相手を束縛し傷付けたからだ。前よりも大きな、次の争いの最後、『人類の滅亡』、小規模だけど、その瞬間を見つめる事になる。やがて、人類は大きな争いを止めた。次が来た時が、地球の終わりだと、知ったからだ」

声と共に『カツン、カツン』とヒールが硬い床に当たった音がする。

底が見えない暗闇の中、

彼女はゆっくりとこちらに向かって来た。

長い髪がサラリと流れる。

思わず目が奪われた。

「だから、私達は生まれた」

「…知っている。しかし、それだけでは無い」

「さすが、私達の」

彼女は目の前で跪く。

「提督」

手は白い。

 

ーーーーー

 

「グハァ」

海の上で目覚めた。肺に入った海水を吐き出す。

「オェェ。しょっぺ」

あっぷあっぷしている所に運命の悪戯か、二人組が通りかかる。

「…貴方は」

「俺は…そうか。分かった。黒い鳥とでも呼んでくれ」

「偽名…。まぁ、事情があるんですか?」

「そう言う事だ。空母棲姫」

「…軍の関係者ですか?」

「ああ。そうだ。大人しくしろ」

「…どうする?アルブム」

「へ?…ああ。成る程?」

後ろに大男が立っている。

海の上なのに。

つまりは、

「新手の深海棲艦?」

「違う」

「ならなんで海の上に立ってるんだ?」

「知らない」

「はぁ。分かったよ。降参だ。で?二人はどちらへ?」

「日本へ行く。うん?お前は…日本人か?」

「生憎ね。さっきまで死んでたけど。海流に乗って流されちまった」

「死んだの⁈」

「不死人か?」

「不死人?なんだそれ?」

 

ーーーーー

 

「ふう。まさか俺もだとは」

海の上に立っている。先程、あの男、アルブムに驚いたが、まさか自分までもとは思わなかった。

「…その服…提督…?」

「ああ。元が付くと思うが。殉職した」

「死んで蘇るとか不気味ね」

「お前達ほどじゃ無い。沈んだのに蘇って、挙げ句の果てに同じのがいくつもいる」

「お前…」

「どの子も可愛くてケッコンカッコカリするのに苦労した」

「…お前」

「出来ればヲ級ちゃんとしたかった」

「…」

 

ーーーーー

 

「見せて下さい。人間の可能性を」

「証明して見せよう」

「貴方にならできるはず」

戦艦水鬼は光の粒子になって消えていった。

ただ暗い暗闇に一人で残された。

「ふう。マジな勝負ってのは好きじゃないんだ」

 

暗闇の中を一歩ずつ進んで行く。

次第に体が光に包まれ始める。

 

そして身体は、光溢れる水面に。

 

ーーーーー

 

大本営。

その設備のある地下300メートルの極秘研究所。

秘密兵器量産工場

 

「データの収集は完了した。実験は次の段階へ進む」

「まさか、本当に行けるとは」

「これで人類…いや、日本は絶対的な兵器を手に入れた」

人が中に入ったカプセルが大量に並んでいる。

『Patches』『Solaire』と手前から番号が振られたカプセルの中には本物そっくりの彼らがいる。

「死んでも変えが効く。下手な意思もない。おまけに、データの収集により最適な進化をする」

「我々の計画もここまで進んだ。長かったな」

「十数年も深海棲艦と対して変わらない艦娘に運命を握られていたんだ」

「さぁ、『project phantasma』の始まりだ」

大声と共に拍手が起こる。

数十人の白衣を着た研究者らしき人達だ。

数百…数千はあるカプセル。

まさしく、この地球の歴史に存在していない存在。‘亡霊’達によって船の亡霊を倒す。

その計画の一端がここにあった。




オリ設定

『project phantasma』(プロジェクトファンタズマ)
直訳で亡霊計画。極秘密裏に計画されていた。
異なる世界から流れ着いた存在に人権が適応され難い所を突いて、クローン兵士『phantasma』を作り出す。
『phantasma』には、深海棲艦や艦娘に対抗する為に、艤装の一部を体に埋め込まれている。

戦艦水鬼
本当は戦艦水鬼改。
本体の見た目ではあまり違いがないからね。しょうがないね。



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サイドストーリー3

パッチがメインになっている。

どうしよう。

タイトル詐欺だと言われそう。


本当はソラールさんよりもパッチが好きだとバレてしまう。
だってかっこいいやんか。ひょうきんものだけど戦うと強いとか。

主任みたいで


北の大地

北海道。

深海棲艦が現れてから多くの人々が、この大地に移り住んできた。

有り余るほどの内陸の土地がそこにあるからだ。

疎開先として選ばれたこの大地に、とある不可思議な姉妹一家が居たそうな。

彼女たちは普通は選ばない、鎮守府の無い沿岸部に住んでいる。人は殆ど内陸部に移り住み、数人の老人しか住んでいない正に限界集落の小さな漁村。

 

その少し内陸側にある小さな平屋の家

 

「これだけ稼げたのなら万歳ネ」

黒い髪の毛の彼女は腰に白い手を当ててフンスと鼻息を出す。

目の前には一万円札が置いてある。本日の日給だ。

「ただいま。ふう、冷たかった」

「ただいまです!」

二人の少女が帰ってきた。無論、姉と同じく黒髪で肌白い。

「今日の稼ぎ」

そう言って、テーブルに置いたのは何と十万円。

「この家と土地の家賃は払えるけど、買い取って貰う人が大家さんだからなぁ」

「大家さん曰く、息子の手で内陸で販売しているそうです。だいたい一つ千円で売れるそうです」

「私たちで百本だから、そうなると、すごい減ってる気がする」

「一万。一万」

向かいで啜り泣いている声がするが二人の少女は気にしていない。

今のご時世、庭の草刈りや廃墟の整備よりも漁師の方が稼げるのだ。

 

ーーーーー

 

「おばあちゃん、今日の成果」

店先で二人の少女が不釣り合いな大きさのクーラーボックスを四つ手に持ってやって来た。

店先で待っていた老婆がその中身を確認する。

「うーん、よく分からない魚が十匹と大量の昆布がそれぞれ二箱ね。ええと前回がこれだけで売れたから」

カゴに取って量を計り、器用に指を動かして計算する。

「今日は35万でどうかな」

「やった!」

「やりましたです!」

「まぁ、喜ぶのは良いけど、数年前みたいな物価でも無いし、比較的海産物の値段が上がったとしても、今ならうちの息子みたいに陸で養殖が出来るからね」

 

ーーーーー

 

「ふんす」

拳を腰に当てて鼻息を出す。

目の前には山のようなジャガイモがある。

沿岸部の土地は安いため、安価に農業や牧畜が出来るのだ。

そのため、土地を格安で借りて、畑を耕したりしている。

言わば彼女は農家である。麦わら帽子が似合っている。

 

無論、ほかのご老人方が後ろにいる事を忘れてはいけない。

というか、大体機械がやっているので仕事が無いのだが。

だが、豆によく働く彼女に悪い思いは無いようだ。

 

ーーーーー

 

半年前

 

「昨夜は凄い嵐でしたね」

「んだ!隣の廃墟が倒れてしまったわい」

「そりゃ、大変。息子に手伝わせましょうか?」

「いや、いい。どうせ誰も住まない」

「そうですか」

おばあちゃんが二人、片方は杖をついて海岸沿いを歩いている。

昨夜の嵐の反動か、海は静かな細波の音を立てる。

ふと、向こう側から三人が歩いて来るのが見える。

目を細く、よく凝らして見ると、和服で無いようなそうであるようなよく分からない服を着た茶髪の大柄の女性と、明らかに寒そうな格好をしている少女、普通のセーラー服…いやとても寒そうな格好の小柄な女の子がいる。そして皆、服はボロボロ、髪の毛は黒く、肌は白かった。

歩き方はやけにぎこちなく、とても疲弊しているようだ。

二人はびっくり仰天。この限界集落に若い女性が訪れる事も無ければ、ボロボロの服を着ている事もない。

「ツネさん。ありゃ、凄い」

「ええと、どうしましょう」

「どっちなんでしょうか」

二人は戸惑った。

ぱっと見はテレビの特番に出ていた艦娘。だけど、よく凝らして見るとテレビのニュースに出ていた深海棲艦に似ている。

まるで幽霊の様な三人は二人の横を通り過ぎようとする。

『ぐ〜〜』

大きな音が三人のお腹から出る。

「あれまぁ」

「あらあら」

「「ひっ」」

慌てて二人の少女が、大柄の女性の後ろに隠れた。

今更、二人がいるのに気付いたのか物凄い形相で驚く三人を宥めるように話始める。

「ええと、こんにちは」

「はい。こんにちは」

「ええと、艦娘さんですか?」

「判ラないデす。どっちナんでしょうカ」

少し淀んだか細い声で答える。とても寂しそうである。

二人は少し狼狽た。が、興味の方が勝る。

「…その服は、金剛さんですか?」

「こん、ごう?…はい。多分」

「…なら、素敵な格好の子が島風ちゃん、セーラー服の子が雪風ちゃん。テレビでやってて、暇だから覚えちゃった」

ニッコリと優しく笑う二人の姿を見て、後ろに隠れていた二人が出て来た。

「ええと、…しまかぜです?」

「多分、ゆきかぜ?です」

曖昧で覇気のない挨拶であったが、これが精一杯の声なのだろう。自分の名前を名乗るのに疑問文になる。

そんなにも心身共に疲弊している姿を見て、二人の考えは纏まった。

「うちに来て、休んでいかない?ほら、二人だけだと寂しいから」

「あれ、ツネさんも。まぁ、ツネさん家の方が大きいもの。そちらに行きましょう」

「えっ?」

流れるままに自身の行き先を決められて流れるままに二人の老婆の後ろを歩いている。

なんとなく、断るのが怖かったのだ。

 

ーーーーー

 

「お風呂も沸いてあるよ」

「ほら、三人とも入って来な。着替えは用意しておくから」

流されるように風呂に入り

 

「ほら、お夕飯をお食べ」

「ツネさんの料理は絶品なのよ」

流されるように食事を摂り

 

「はい、おやすみ」

「じゃあ、私も帰って寝るわ」

流されるように布団で寝た

 

ーーーーー

 

「顔色が良くならないね」

「まだ、休息が足らないのかしらね」

「おーい、ツネさん。なんだ、若い子を3人も泊めてるらしいじゃないか」

ズカズカと中に入ったのは男達。

仕事帰りのせいか、泥だらけである。

「土塗れのあんたらが来たら驚いちまうし、泥と汗の臭いでむせちまう」

「なんだよ、ヨメさんもそんな顔しないでくれよ」

「相手は、とても疲れてるんだよ。察しなさい」

「…うん、それなら、仕方ない。ほら、一旦帰って綺麗にしてからだ」

「へいへい」

「了解しました。銭湯に行きましょう」

 

玄関でそんなやり取りがあるのを聞いて、3人とも布団の中で目が覚めた。

「逃げなきゃ」

「どうやって」

「ぐごー」

訂正、二人だ。驚いた様子で起こそうとする。

「ちょっと、起きて」

「起きろ」

「むにゃむにゃ」

そして奥の手を出す。

「オキロ」

「ひっ」

「ひいっ!」

3人目が飛び起きた。慌てて、辺りをキョロキョロとする。その肩を叩いて話をする。

「ほら、逃げないと」

「そうだよ。今のうちに」

「わかった」

律儀に布団を丁寧に畳んでから部屋の外に出る。

 

しかし逃げようとは問屋が下さない。

部屋の前にはおばあちゃんが。

毅然として立っていた。

「ご飯が冷めちゃったけど、朝食の分も食べる?」

 

ーーーーー

 

「それで、何にも覚えてないの?」

「うん」

目の前には昼食となった朝食と昼食がテーブルの上に置いてある。

「それは、困ったね。近くの鎮守府の人に引き取って貰おうかしら。そうすれば思い出せるかも」

思わずスッと手が出て、静止させる。

「それは、やめて、ください」

「…そんなに止めてほしいなら…」

「あ、ありがとう。ございます」

ツネの孫の服を着た二人の少女はガツガツと朝食分を平らげている。

「そんなに急いで食べたら、喉につっかえるぞ」

3人が反射的に声のする方へ向く。

「タイゾウさん、早いですよ。まだ、皆さんの分のご飯は出来てないです」

「そうか、まぁ、待ってるよ」

「そうですか」

そう言うとツネは台所へ入っていった。

タイゾウと呼ばれた男は、軒先で寝転がり始めた。

気が付かなかったが、今日はポカポカしている。何処からか、呑気なイビキが聞こえる。

 

ーーーーー

 

三日後、正午

 

「また、海を眺めているんですか?」

「ええ。ちょっとだけ」

「そう言って毎日、ずっと見ていて飽きないんですか?」

「いえ、とても寂しそうで、でも手を伸ばそうとすると深くて、今にも沈んでいきそうで、でも、凄く恋しくて」

「…そう。貴女は、頑張ったのね」

「?」

頭にハテナが浮かび、首を傾げる。

「いいえ、きっと、そうだったのよ」

「ツネさん」

「もしも、沈んでも、海は冷たいけど、魚の棲家だったり、深くても泳げるから、寂しくないと思うよ」

「…それなら、素敵です」

 

話していると遠くから呼ぶ声が聞こえてくる。

「おーい、お嬢さん達。そろそろ焼けるよ」

野太くて、それでいてよく響く声だ。

「タイゾウさ〜ん。今行きまーす」

ツネも杖を突きながら、早歩きで向こうへ向かった。

10秒程遅れて、彼女は歩き出した。

 

「今日はな、知り合いから、山のようなサンマを貰ったんだが、腐らせそうでな。丁度良かった。若い子がツネさんの所に来て」

ツネさんの家の庭に、七輪をいくつか並べ、それを数人で囲っている。

サンマは炭火とワラで焼かれており、もくもくとした煙が立ち昇る。

また、タイゾウの所では芋を焼いていた。

「サンマ…」

「…サンマ?」

二人の少女は興味深々でサンマを見つめている。

ふと、何が引っかかるようだが、それでも分からないようだ。

 

「…まぁ、そんなに汚して」

二人のTシャツが埃と煙と油で汚れていた。

「あっ、すみません。ごめんなさい」

「だから、お下がりだから気にしないでねと言ったよ。私の孫娘なんて、今はもう立派に成人しているもの」

「ありがとう、ございます」

「それよりも、捨てられなくて困ってたから助かるよ。なんだか、勿体無くてね」

目をそっと閉じて、思い出に浸り始める。

「あの子達がもう少し成長したぐらいの12歳の時に、引越ししてね」

とても優しい笑顔だ

「だから、貴女達が来てくれて嬉しかった。ほら、みーんなお年寄りだから、元気な若い子が来てくれて、嬉しいんだよ」

 

ーーーーー

 

「ふむ」

テレビを見ていたら来客が来た。

ヨメとタイゾウだ。

「ツネさん、ツネさん。大変、鎮守府のお偉いさんが明後日来るって」

見ていた『暴食王赤城が行く海の幸山の幸』が後ろで流れている。

「ヨメさん。本当かい?」

「ええ、村長のタイゾウさんに、なんでもすごいお偉いさんが、鎮守府設備の増設の下見にって、連絡が」

「あら…」

「ごんごうちゃん達はどうしましょうか」

「そうか、こんごうちゃん達はとても怖がってた。でも、どうやって」

「この村の外れに隠せば」

「そうしても、逆に村はずれに基地を作る予定なら、見られるかも」

「ああー、どうしましょう」

『この北海道では、このように、よくじゃがいもが栽培されています。私もよく、小腹が空いた時、5キロぐらいお世話になっています。私の所では、月一でジャガイモを船で買い取りに行ってるんですよ。もちろん、私と加賀さんの給料はかなり減りましたが。背に腹は代えられません』

「そうだ。農家のふりをすれば見つからないかもしれない」

「でも二人の知り合いだったら」

「…でも、万が一にもそれは無いはず。今の基地って沢山あるんでしょう」

「ええ。それに今の3人はテレビで見る三人と同じだとは思えないよ」

「そうか…あの子達、まだ、肌白いままだった」

「金剛ちゃんと雪風ちゃんは茶色、島風ちゃんは薄い金色みたいだけど。みんな黒髪だし」

「それなら、帽子を被って、おばあちゃん風の服を着せればバレないだろう」

三人の井戸端会議は盛り上がり、熱は冷めない。

付けっぱなしの画面の向こうには『デデン』と特徴的なイントロのBGMが流れている。

三人はもう既にぐっすりと、深い眠りの中だ。

 

 




オリ設定

海産物の相場
深海棲艦が現れてから五年間は少し上がった程度だったが、第一次本土防衛戦の後に2倍に跳ね上がる。
一旦、1.3倍程度まで落ち着いたが、第二次本土防衛戦により壊滅的な被害が起きて価格は更に跳ね上がり5倍に。
ただし、養殖は内陸部で活発的に行われる様になったため、少しの贅沢品だが、家庭の食卓に魚は並ぶ。
また、鎮守府に要請を出す事で、艦娘の協力の下で漁に出る事も可能。この場合、漁の成果に対応して報酬を支払わなければならない。

農産物の相場
輸出入が断たれた為、政府の政策により、農業従事者が増えた。安くなった沿岸部の平野を開墾したものが主流になる。
大量生産を推奨されている為、相対的に農産物の価格が下がるが、それでも2.2倍ほどの値段がする。相場は比較的に安定している。

その他の相場
輸入出来ないので、金属類は鎮守府から支給される様になった。その為、純国産製品を造るしかなく、割高になる。


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第十六話

ああ、やっぱりダクソ全クリはダメだったよ





とでも、言うと思ったかい。
この程度。想定の範囲内だよ。

地球防衛軍5、トロコンチャレンジに戻れば良いのだよ。


「黒い鳥。何してる?」

「うん?現在地の確認」

「片方の腕を真上にして、もう片方の腕を真横にして、それを交互に入れ替えて、どうしてわかるんだ?」

「交信」

「は?」

「だから、交信」

「へ?」

 

ーーーーー

 

天龍が木箱を大事そうに笑みを浮かべながら抱えている。

「…天龍ちゃん。私の薙刀…その箱、なあに?」

後ろから急に肩を叩かれて悲鳴を上げる。

「キャッ…怖いな」

「…実の妹に、そんなセリフ」

「ああ、いや、そうじゃなくて」

「はい、もーらい、重!」

持てない重さでは無かったが、その重さに驚いて、そのまま腰からガクッとなり、箱は床に叩きつけられた。

「あっ。俺の46cm三連装砲」

箱の中身は46cm三連装砲だったようだ。

中を慌てて確認すると、砲身がポッキリ。

「あ、あらー」

額から冷や汗が滝の様に湧き出る。

「ええと、その」

困り顔の姉に、土下座する。

「ごめんなさい」

「へ?…ああ、良いよ。また、提督に頼めば」

「でも、それって」

「ん?ああ、頼めばドックに入れて元に戻せるよ。…あ、そうだ龍田。お前の薙刀、提督が借りてったよ。なんでも、今後の為に欲しいって」

「へ?」

 

ーーーーー

 

ソラールが工廠で、明石相手に駄弁っている。

パッチが連れて来た彼女は、武器のメンテナンスも上手く、良い話し相手になる。

「それで、ええとこの盾を」

「ああ、そうして…ダメだ。それだと壊れる」

「ソラールさん?何してるんですか?」

「ああ、明石さんに、予備の武器を頼んでてな」

まるゆが興味深そうに見つめている。

「今は叩き直しをしているんだ。これからは盾受けも考えなければならないから。頑丈に頼んだ」

「彼の武器は、よく丁寧に整備されていて、こちらも気合が入ります」

炉から、真っ白に熱せられた太い鋼材を取り出し、叩いて平くする。

艦娘ならではの高い打撃力で、あっという間に剣の形になっていく。

そして、それをソラールがじっくりと眺める。

「鍛えるのは形が出来てからなのか?」

「ええ。ある程度形が出来たので、次の工程です。妖精さんにも手伝って貰うんですよ」

「ふむ。成る程」

「貴方のその剣。相当な思い出が詰まっているので、それと出来るだけ近いものにします」

太陽の直剣をまだ刃も柄も付けられてない剣の隣に置いた。

「ここからは、少し危険なので着替えて来ます」

「ふむ。そうなのか」

 

「ただいま戻りました」

「ああ。よろしく」

明石は分厚い作業着にゴーグルを装着して戻ってきた。

「それで、あの、申し訳ないんですが」

「…作業中は見るなって事か」

「ええ、ちょっと特殊なので」

「分かった」

仕方なく工廠から出る。

後ろを振り向くと建物の中からオレンジ色の光が光っていたり、なんかよくわからない絶叫が聞こえてきたが、無粋に開けるわけにいかない。

「ソラールさん。大丈夫なんでしょうか?」

「一応信頼はしている。あんまり長い仲では無いが」

「それって信用して良いんですか?一応、明石さん達はみんなが認める技術屋ですけど」

「俺に話しかけてきて、剣の手入れを知っていた。それに勝る話はない」

「…そうですか」

「そうだ。俺に話しかけてきて、この太陽の直剣…ああ、渡してた。を貸して欲しいって。嬉しかったよ。興味深そうに見つめててな」

「嬉しそうですね」

「ああ。この時代の人間でも、評価してくれる人は居るんだと思ったよ。手入れを欠かさないで良かった」

 

ーーーーー

 

「…、やあ。こんにちは」

「な…北方棲姫⁈ここはさほど高緯度では無いはず」

空母棲姫が驚く。確かにここは北方海域では無い。

「虫追。信号を受け取った。君の生存を心から喜んでいる」

「虫追?…ああ、あ?ああ!そうか。久しぶり。よろしく頼む」

北方棲姫は手を伸ばし、六と握手した後に笑顔を見せる。

「そちらの友人方は、こっちに来るか?」

「え、ええと。どういう事?空母棲姫…」

「…北方棲姫?へ?どういう事?」

目の焦点が合わない。

「へあ⁈えっあ、あの。先ずは説明を」

 

「ようは、日本の鎮守府…じゃなくて、総司令官の元につけって話だ」

「…なんで鎮守府じゃ無いんでしょう?」

空母棲姫が質問する。

「…今、とうとう上が動き出してね」

「そうか、なら、そうだな。他の皆は…」

手に指を当てて六を制止する。

「気にするな。とは言えないが。気にするな」

硬い瞳で六を見る。

「ああ。分かった」

「上で何があるの?」

 

「脱艦娘?そんなのをやって何になる?」

「敵が減って、良い事じゃ無いのか?」

「違う。悪い事だ。我々も貴方達に協力する。阻止してくれ」

「残念だけど、来ちゃったみたいだな」

北方棲姫が来た道を振り返ると、3人のバケツ鎧に赤目の男と3人のスキンヘッドに赤目の男が整列しているのが見える。

「成る程、こりゃあ、胸糞悪い」

六は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

「よほど、俺たちが怖いと見た」

「ふむ、動いているのは初めて見るよ」

北方棲姫と六が構える。

「アルブム、いったん引きます。空母には近接は無理。護衛は出来る?」

「ええ、一応、記憶の中では剣を振った事もあります」

「なら、頼むわ」

「はい!」

 

ーーーーー

 

「提督〜私の薙刀どこにやったの?」

「明石の所で複製して貰ってる」

「そう。ならなんで無断で持っていったのかしら?」

「それよりも46cm三連装砲を壊したって話じゃ無いか」

スキンヘッドの男がニヤリと笑う。不気味な程に。

「ひっ」

「どうすべきか分かってるよな」

恐ろしい。龍田は泣きそうな目で土下座する。

「ごめんなさい。何でもしますから、天龍ちゃんだけは」

「何もしないよ。ていうかなんで土下座なんだ?普通に謝れば良いじゃない」

「へ?」

「プレゼントした46cm三連装砲を壊して、天龍に謝ったみたいだし。気にしないよ。これぐらいでも、ドックに突っ込めば治るし」

別に特段気にしていない様子で立ち上がる。

「それよりも、薙刀、明石の所へ取りに行こうぜ」

急にパッチの背筋が凍る。

「私の薙刀。私に言わずに持ち出したでしょう」

真後ろにいつの間にか龍田が立っている。この間を瞬時に動いたのだ。パッチは慄きながらも毅然として答える。

「いや、天龍に許可は貰ったぞ。壊すわけじゃ無いし。借りパクする訳でも無いから」

「あら〜。天龍ちゃんね。それよりも、私の薙刀。明石さんに預けてたの?なんで?」

 

ーーーーー

 

「さて、ふむ。おお」

「どうですか?馴染みますか?」

「ああ、少し危ないから2人共、離れていろ」

ソラールも2人から離れたところに行き、ブンブンと振る。

剣を引いて突く。後ろを振り向き、そのまま振る。ローリングした後、突く。

その後、剣を大きく構えて、剣を押し出す。

「ふん」

しかし上手く入らず、剣が下に落ちそうになる。

「おおっと」

「あれ?突きが上手く」

「あれ〜、重心が間違えちゃったかな」

「うん。大きな構えからの突きが出来なくても、普通の突きは問題なくできたし。重心は合っていたぞ」

「それじゃあなんで?」

「まぁ、分からない話でも無い。腕が劣っていたのかもな。最近は振るだけだったし」

「そうですか?」

「ああ。多分そうなんだろう」

「あっ、龍田さんと提督かアレ」

「うん?ああ。パッチか」

青い顔をして、歩いている男はきっと、天龍に大和砲をあげる代わりに刀を貸して貰った事を知られたのだろう。

何を代償にされるか分かったものでは無い。

 

後日、ケーキを旨そうに食べる龍田の姿があった。

目を輝かせた三人組と天龍などの仲間たち達に切り分けて振る舞っているその顔は笑顔である。

逆に提督の財布は雀の涙であった。

 

そのあと、ムシャクシャして、波止場で黄昏ていたソラールを蹴り落とした事も、海上に立っていたソラールに足を引っ張られて仕返しされ、そのまま海中にダイブする羽目になった事も内緒である。




オリ設定

脱艦娘主義
その名の通り、艦娘の運用を止める主義。これは、自由意志のある兵器である彼女達に運命を預ける不安。即ち、過去の戦いの記憶を持っている彼女達は自発的に深海堕ちをしないのか?もしくはその圧倒的な力を用いて人類の支配をしかねない。と言った不安により生まれた。だが、今までは深海棲艦という脅威には、艦娘しか効率的に対抗できなかった。そのため、一部の人々しか主張していながったが、確かに軍部にその思想は根付いており『project dark』の成功を確認した後、『project phantasma』の実行を開始した。



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第十七話

月光大剣がやたらと重いと感じる今日この頃。
フルハベルでセスタスを握りしめ、ロスリックを駆けていく。
挫折したマイネェェェーーム!イズ!ギョブマサタカ!オニワァァァアア!を跡に残して。

いざ、作者の技量的に絶対に勝てないミディール戦へ


あー、EDF5はたのしいなあ。
infernoのマザーシップ戦から目を背きながら。
持ってきた武器のレンジが思ったより短くて、かなり絶望した。


北方棲姫がクルーザーを運転している。

元々、乗っていたのだが、3つの水鬼以上の力を感じて、離れた所に停めていたのだ。

「なぁ、コレ、俺のじゃ無いか?」

六の所持品である。

だが、改造が施され、45ktは軽く出るようになっており、安全のために座席は前向きになっており、シートベルトが付いている。

「本人に無断で改造してあるじゃ無いか」

「総司令官に許可を得て軽巡棲鬼がやった」

「クソ、生意気にやりやがった。ムカムカする。俺に運転を変えろ」

 

ーーーーー

 

クルーザーで海上を移動していると目の前に再び、赤目の男達が現れる。器用にドリフトして、少し離れた場所にクルーザーを止めた。

「くそ、ここも人形だらけか」

クルーザーを運転していた六が悪態をつく。

「まず最初に敵対している深海棲艦を潰しておく気らしい。お利口さんだな。狙いはハワイかミッドウェーか」

北方棲姫が推測する。

「私が行く。援護は頼んだ」

シートベルトを外したアルブムが、海上に立った。拳は僅かに震えていた。

「空母棲姫、了解しました。護衛は頼みます」

空母棲姫もアルブムの後を追おうとする。

しかし、クルーザーの縁から水面に降りる瞬間にその必要は無くなった。

アルブムは海の底から一本の剣を取り出す。

その大剣を直剣の様に構える。

否。大柄の彼にとっては直剣なのだろう。

無慈悲な乱撃は火を伴い、破壊をもたらす。

そして、とどめに燃える剣を水面に突き刺し、爆発を起こす。

不意に近づいていれば、死は免れないだろう。

「…うん。流石、器だな」

「やはり、器なだけはある」

「器?貴方達、知ってるの?彼の正体」

「ああ。君の正体も」

「まぁ、君も彼も既に気付いている筈だ。だが、我々が話す訳にはいかない」

「そう。あの力。何か奇妙なものを感じる。貴方達も私の中にも」

空母棲姫は胸の前で祈る様に手を握る。

ここに違和感があるのだろう。

 

ーーーーー

 

「ああ。分かった。器だ」

自分を見つけた。

目の前に刀身が螺旋状に捻れた奇妙な剣が現れる。

刀身も柄も鐔も全て一つで出来ている奇妙な剣。

継ぎ目すらもう見えない。

きっと、誰かがその部分を繋げたのだろうのだろうか。

その剣を構える。

ここで欲しいのは守る事。

剣はいつの間にか長く伸び、槍の様になっている。

槍を振り回して攻撃する。

空母棲姫に近づいていた、赤目スキンヘッドの男達をなぎ倒す。

慣れた手つきで槍を振り回し、捌いていく。

余った隙に、大きな白い爆発を起こす。

敵が空母棲姫からある程度の距離まで離れると、槍は曲がった剣になる。

攻撃を叩き込む。流れる様に、乱撃を入れて、盾を崩し

 

二人の元へ、六と北方棲姫が駆けつける。

「…嵐の王、か」

「あらまぁ。なんだよあの力。こっちは拳しか無いって話なのに」

「まぁ、あいつがおそらく我々が出会って来た中で、最強の存在だろう」

「正体を知ってるのか?アイツの時みたいに」

「神。そう言えば聞こえはいい。詳しくはアイツの口からだ。部外者が語るべきもので無い」

 

既に、アルブムは二人が討ち逃した二体を倒していた。

驚いた様子で彼を見る空母棲姫。

螺旋剣は、いつの間にか消えている。

 

彼の背中はとても大きく、何故か見窄らしかった。

 

ーーーーー

 

数日後、真夜中。

北方棲姫が船の速度を落として言う。

「起きろ。目的地に着いたぞ」

席に着いたまま寝ていた3人を起こした。

「ここは」

窓の外を見ると、六にとって見慣れた地形の島が見える。

「‘我々’の今の拠点。と言っておこうか」

北方棲姫が説明する。

「?何か問題でも?黒い鳥。困った顔をして」

六が眉をへの字にしている。

「…その名前は出さないでくれ。ちょっと顔を出しにくいというか」

「アルブム?なんだ、不思議そうな顔をして」

「…知っている人が二人いる」

「知り合いですか?」

「いや、こちらが一方的に知っているだけだと思う。相手は気付かない…片方は気付くかもしれない」

「そう。あの人も元気なようね」

 

クルーザーが港に着岸する。

港では、既に全員が待機していた。

まるで、自分たちが来るのを知っているように。

そこには、彼らにとって懐かしい面々がいた。

 




オリ設定

深海堕ち(深海棲艦化)
艦娘から深海棲艦になる事。艦娘に憎悪や無念が蓄積されて自らなる場合、艦娘が深海棲艦に沈められてなる場合がある。
だが、その深海棲艦を倒す事に躊躇う事があろうか。

生成り
艦娘から深海棲艦になる途中。心に一時的な静寂が訪れる。
だが、暴走するのは時間の問題である。
進んだ先では戻れない。
それは当たり前の事だろう?

どちらも既に数十回は報告されている。
この事実を元に艦娘は非常に不安定であるとし、艦娘の運用を停止する。
したがって、本日をもち、全鎮守府の権限を大本営に移す。
一ヶ月後、全艦娘の解体を開始する。
今後の対深海棲艦については、新兵器を用いて対応する。










解体
艦娘が人になる唯一の方法。艦である事を棄てる。少しの資材を遺して記憶が消え、見た目が変化する。
人に成るには、同等の価値だろう。
強いられようと、自ら進もうと。


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第十八話

フルハベルに月光大剣を積んだ時にふと脳裏に浮かんだ。
『不明なユニットが接続されました』
『システムに深刻な障害が発生しています』
『直ちに使用を停止して下さい』
もちろんドッスンローリングである。
あっ、でもOWは連続ヒットするんだっけ?

光波を出しつつぶん殴る。



相手はミリ残る。


正義など、とうに

 

深い海に降りていく。

 

「チッ、コザカシイ」

酷く重々しい高い声が響く。

「生憎だが、私は守るべきものがあるんだ。最速の力、見せてやる」

砲撃を掻い潜り、確実に当てていく。

「やはり、速さもロマンだな」

単艦出撃などと言う無謀なこと。

だからこそ楽しい。

思い出は全てここに。

 

ーーーーー

 

「私が、新人提督の秘書艦にですか?」

総司令官が資料を渡す。

「ああ。だが、面白いやつだ。きっとお前も気にいる」

長門は不服そうに顔を歪めた。

「はい。まぁ、了解しました」

 

「貴方が私の提督か?」

長門が執務室の提督机に座っている男に話しかける。

「…どうも。提督だ。よろしく」

だが、男はお世辞にも海の男とは言えない体つきだった。

「私は長門No.9。随分と貧弱そうだが、大丈夫か?」

 

「おい、待ってくれ、速いよ!」

長門が追いかける。

「島風に、追いつけないって」

提督が走り抜ける。その速さ、まさに島風の如く。

「提督!お前が言うな!気持ち悪い」

 

「…お前が噂の」

暗い執務室に人影がある。その相手はニヤリと笑った。

「どうやら、そうらしい。ああ、正式な名前を言ってなかったな」

その名前を聞き、驚愕する。そして慌てて土下座する。

「今までの失態。失礼しました!」

 

ーーーーー

 

「オロカナニンゲンドモニ、シズメラレタ。コノゼツボウハ、ハカリシレハ、シナイ。ワタシモタタカイタカッタ」

戦艦水鬼が変化する。背後の艤装が溶けて形を変える。『戦艦水鬼改-壊』である。

「ワタシハ、ズットコノセンジョウニヒカレテイタ」

その声は正しく、相対する物に対する恨み言のようだ。

「何だ?その姿は。聞いてないぞ…。お前は、No.1か。ははっ。新たな深海棲艦の前か…胸が熱くなるな」

ニッと不敵な笑みを浮かべる。

額を拭い、改めて砲身を相手に向ける。

「この私を倒してみろ。貴様にそれができるのならな」

 

ーーーーー

 

「くそっ、なんで負けるんだ」

タブレットを床に置きクッションを叩く。

「そのマップ…ギミックがあるのを知らないのか?」

覗き込んだ六がアドバイスをする。

「ギミック⁉︎なんだって!」

 

「提督。それはまさか」

箱が机の上に置いてある。中身はなんとプラモデルだ。

「こいつが欲しいかな。良い子にしているならやらない事も無いが…」

直ぐ様、姿勢を正して綺麗にお行儀良く座る。

「欲しいです!下さい!」

 

「おまっ、提督。それは無い」

不服そうな顔をして提督の顔を見る。

「なんでだ?カレーにちくわ。入れないのか?」

そう、カレーにちくわである。何と恐ろしい。

「ちくわを入れるのはよしてくれ、コーンもだ。甘口にするのにコーンはいらない。せめて、甘口のルーだけにしてくれ」

 

「なぁ、私を実戦に出してくれ」

廊下で提督の裾を掴んだ

「お前は出撃するにも、修理するにも資材が多く必要なんだ。諦めてくれ」

わかっていた回答だ。‘前’もそうだった。

「…そうか。また…か。時間を潰すものはいくらでもある」

 

ーーーーー

 

「オマエハ、シッテイル。ワタシタチノヒゲキヲ」

長門は右肩に被弾する。

「…悲劇。終わりを悲劇と呼ぶのなら。そうなのだろう」

しかし直ぐに動き、次の砲撃を掻い潜る。

「イヤ、オマエモワタシトオナジ。アノヒカリニキエタ」

「…そうか。成る程」

長門は目の前の彼女『戦艦水鬼改-壊』をじっと見つめる。

「だが、私はお前とは違う」

獣の如く姿勢を低くして駆け出し、手を海面に突っ込んで無理やり旋回する。

そして戦艦水鬼改-壊の後ろに回り込む。

 

ーーーーー

 

「な、私が、旗艦?」

思わず手に持っていたタブレットを落とす。約五万円のか賠償だ。

「この海域には姫級が既に数体見つかっている。旗艦に大和型か長門型にしておきたいのだが」

生憎、その内、三名はいないと言おうとするも長門の声が遮る。

「提督!ありがとう!」

 

「…どうだ?私もなかなかやるだろう」

長門がドヤ顔を決める。MVPを取ったのだ。

「いや、褒めるべきは資材集めをしてくれた駆逐艦た…」

ポロポロと大粒の涙を溢して走り出す。提督は弾き飛ばされた。

「提督のバカー」

 

「…グスっ」

工廠の裏でひっそりと泣いている。

「…こんなに殴らなくても良いのに、分かってるさ。よく頑張った」

後ろから現れた提督に飛びついた。

「うん」

 

ーーーーー

 

砲撃が頭に直撃した。

額から血が流れる。

既に満身創痍、否、瞳は輝いている。

「背負うべきものがある。それが志だろう。なぁ、私…いや、長門。私は長門No.9。もう一度言おう。例え、お前が長門だろうと、お前とは違う」

精一杯叫んだ後、目の前の標的に向かって走り出す。

「ナガト…、ア」

「いくら装甲が高かろうと、攻撃力が高かろうと、私は、お前よりも強い」

拳を大きく構えた。

 

ーーーーー

 

「あれ?提督…この書類」

長門が一枚の書類を見つけた。

「ん?ああ、改二の手続きをね」

確かにコレはそうなのだが、艦名の欄に…

「…提督。ありがとうございます」

 

「改装されたこの長門。まだまだ新入りには負けないさ。行くぞっ!」

改二になった長門が誇らしげに腕組みをする。

「…相変わらずピーキーなんだがなぁ」

変わらず、六は野暮な話をふる。

「ああ。ピーキーだな」

しかし、長門の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「…とうとう達したか」

念願のレベル99である。艦娘として、到達すべきところまで来た。

「ああ、遂にカンストしたな。おめでとう。ほら、コイツをやろう」

渡された包みを開ける。

「コレは…今はもう限定品になったあのプラモデルじゃ無いか!」

 

「提督?なんだ?話って、…暗いな」

何故か暗い執務室。提督が、満月の薄明かりの中、提督机についているのが見える。

「いや、そうだな。ちょっとロマンチックになるか試しただけだ」

そう言うと机の中から何かを取り出した。

「まさか…それは」

 

「長門。お前に一つ聞きたい」

目の前には指輪が一つ。小さなケースに入っている。

「コレはまぁ、俺と硬い絆を結ぶ事で、補給時の消費が減ったり、レベル最大値が大幅に上がる代物なんだが」

少し困った顔を見せる。

「出来てはいたのだが、前例が余りにも少なくてな」

そう。レベル99という境地に辿り着けるのはほんの一部。

「副作用が無いとは限らない。受け取るか受け取らないか。決めて欲しい」

長門はじっと、目の前の輪っかを見つめる。

「お前に心配されるほど、柔な身体ではない。やる」

そう言うと、指輪を掴んだ。

「なんだろう? 記憶の彼方にある、あの光景は? 敵味方の艦たち、そしてあの巨大な光…。疲れているのか…な、提督」

「…そうか。ハッキリと思い出したか」

「…夢、じゃ無いのか?」

ポロポロと溢れていく。

「成る程、硬い絆を…か」

六は提督帽を深めに被った。

 

ーーーーー

 

「怨みだけが私では無い」

海上に、最後まで立っていたのは長門である。

「誇りが、艦としての、誇りを持ってこそ私だ」

海の上で沈みかけている彼女を見つめる。

「ヒカリ…アフレル…ミナモニ…ワタシモ……そう…っ⁉︎」

消えていく彼女に、敬礼をする。

暁の水平線に、青い海が戻る。

長門は勝った。

しかし、戦いに負けた。

もう水に浮く力も無い長門に一隻のイ級が近づく。

「戦いの中で沈むのだ…あの光ではなく…本望だな…」

だが、イ級はただ遠くから眺めているようだ。

 

ーーーーー

 

決意した視線が飛び交う。

言葉はいらない。

ただ、相手が無事である。

そう、するべきだと。

背負うべきだと。

 

ーーーーー

 

「はは、終わってたまるか。あの光。だからこそ、私は誇りを掴んだ。第二の私の人生は…終わらせない。長門である誇りを失って、沈んでたまるか」

流れ出る真紅の体液が、オレンジ色に燃え出す。

「私は沈まない。アイツの顔に、泥は塗らせない」

遠くから眺めていたイ級が砲撃する。

だが、避けるのは容易い。

そのままイ級を蹴散らし、彼を探し始めた

 




オリ設定(完全なる妄想)

長門No.9について

あの光
言わずと知れたクロスロード作戦の事だろうと思う。コレをもとに著者は、戦いの中で沈めなかったのが、長門のコンプレックスであると察した。
ただ、著者的には、あの光に呑まれたことを誇りにして欲しいと思う。少なくとも、それが長門であり、最期にいうセリフが、「あの光で死ななくてよかった」と誇りと長門である事を捨ててしまっている事が、結構胸に刺さった。

なんでプラモデルが好きなのか?
暇潰し。消費燃料・弾薬が余りにも大きくて中々出撃出来ないのはよくある話。あと、やっぱり子供たちの憧れの長門には少年少女の心を持っていて欲しい。


著者は絶対に沈めない覚悟の元、一隻も沈めずに頑張ってます。


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第十九話

アーマードコア6を出すのです。
エルデンリングを出すのです。


クリアできる気はしないが。
やっぱり楽しんだ者勝ちだよな。

ゲール爺とかミディールから目を背きながら。


「…隊、長?隊長ですか?」

一人の少女が、六に向かって走り出す。

「ぐぁふ」

そのまま六の腹に頭が直撃した。

「つ、強え」

「隊長!隊長!お帰りなさい」

「ああ、ただいま」

 

ーーーーー

 

「うん?あれは空母棲姫か?…ああ、やばいな。総司令官の戦力は余りにもデカいぞ」

「…あの特殊艦隊といい、なんと言いますか。やはり、総司令官には、とても恐ろしいものを感じます」

「まぁ、その戦力にカウントされてる身としては、複雑というか」

「まぁ、そうなんですよね」

二人の背が縮こまる。

「なんかもう。規格外だなぁって」

「そうですね」

 

ーーーーー

 

「こちらはソラール。こちらはアルブムと空母棲姫だ」

「貴方がここの提督?」

「一応そうだが、基本は防衛しかしていない。攻略は全部パッチ任せだ」

「アルブム?どうかしたのか?」

「いや、何でもない」

何故か殴り合いを始める六とまるゆを遠目に、難しい顔をしている。

「ところでアルブム、と言ったか。戦えるか?」

「無論。私は自ら海にでて戦う」

「そうか。ふむ。なら、構わない。今度こそ、自分の身を守れるのなら」

「…そうか」

「ハハハ、知ってるぞ。俺は」

「そうか、なら、このことは秘密にしてくれ」

「どうだろうか。出来るだけだが」

 

ーーーーー

 

「おい、やべえよ。死んじまうよ」

青ざめた天龍が、後ろに居る駆逐艦が前に出ないように手を広げながら後退りする。

「少し、わくわくするっぽい」

少なからず、手を出しかねないのが居るからである。

「危ないから、よしなさい」

天龍と同じく青くなった龍田も薙刀を握りしめて制する。

「やっぱり、ちょっと怖いな」

「なのです!あの動きすごいのです」

「あれ?あの人って、提督さん?服は司令官と同じだけど」

「大抵の提督はこのぐらい大したことない」

「何よ、そんなのあり得ないわ。私たちの出力がどれくらい有るのか、分かってるの?」

 

ーーーーー

 

「ふむ、新しい風が吹くな」

「ええ、良い風だと良いのですが」

「憂いれば、悲劇ぞ」

三人組が、駆逐艦達の後ろから眺めている。

「だが、きっと。決まっている」

「風に飛ばされるような私では有りません」

「ふふ。楽しみだ」

満面の笑みを浮かべている

「さて、帰ったらゲームの続きだ」

「久々に六提督とゲームで対戦してみたいですね」

「私はエンジョイ勢だがら、ネタに技量がついてきているアレは無理だから」

 

ーーーーー

 

 

「さて、段階は最終フェーズだ。敵対勢力は根絶やしにしなければ」

「総司令官から、通達が来たのですが『拒否する』とだけ」

「何、気にするな、腑抜けた深海棲艦共と柔らかな艦娘しか居ないのだ。簡単に撃破出来る。それに何、人間を傷つけなければ良いだけのこと」

「まぁ、相手はただの艦の亡霊ですしね」

「侮るのは控えなければ痛い目に合うからな。ここまでにしておこう。サンプルは出来た」

『Solaire』のカプセルの列の隣。新しい大きなカプセルにはある名前が刻まれていた。

 

ーーーーー

 

「隊長。あの、皆と合流できたんですか?」

「…分からない。だけど、何故か知らないけど、生きている気がする」

「そうですか。でも、まるゆはお友達が増えたんですよ」

「そうか。なら良かった」

「ソラールさんに、パッチ提督。あとは、ええと、たくさん」

「そうかそうか」

 

ーーーーー

 

「…司令官。そろそろ、部屋に戻りましょう」

「だな、気になる増援は見れたし、あとは総司令官が無事かどうかだな」

「あの人なら絶対無事ですって」

「そうだな。ギャグ補正がかかってるもんな」

「私がボケる隙がない、天敵です」

「俺は楽でいいよ」

 

ーーーーー

 

「…ソラール提督は、余り驚いているように見えませんが」

アルブムがふと思い至る。

「二度有ることは何度でも。良く有ることだからな」

「そうですか」

「…アルブム、まさか、知り合いってソラール提督の事?」

空母棲姫が尋ねる。

「ああ。ちょっと昔にね」

「ハハハ、まぁ、いつか話してくれるよ」

「皆んな揃いも揃って、いつか話してくれるなんて」

空母棲姫がそっぽを向いて拗ねてしまった。

 

ーーーーー

 

「あの提督、なかなかやるな」

「パッチ提督と同じぐらいっぽい」

「ちょっと、天龍ちゃん⁈やめて、手を出そうとしないで」

「天龍さん。あぶないよ」

「あの動きについて行けるとは思わないのです」

「やっぱり提督ならなんでも出来るのかしら」

「提督は、空を飛んだり、全てを黒く焼き尽くしたり出来るはず」

「どこに、火を操る提督がいるの?なんでそうなるの」

 

ーーーーー

 

「おいおい。私の装甲は伊達では無いぞ」

「大和、砲雷撃戦入ります」

「私を倒して見せろ」

部屋に戻ってゲームを再開している。

「まだまだ、若いのには負けないさ」

「大和砲。射てぇー」

「当たらなければ、痛くない」

とても盛り上がっているようだ

「げ、当たった」

「まだまだぁ」

「ふむ。やっぱりこの装備だと弾速がネックだな」

 

ーーーーー

 

 

「さて、ふむ。深海棲艦諸共、めちゃくちゃにしようじゃないか」

「ですが、コレを制御出来るでしょうか」

「知らないのか?一人の英雄よりも、数十人の勇気ある凡人の方が強いのだよ」

「こいつも所詮はって事ですか」

「ああ。艦娘や深海棲艦と戦えるだけでなく、既存の兵器が文字通り‘人並み’に効くんだ」

「暴走しても、対処できるって事ですか」

「そう言っただろう。艦娘は暴走したら艦娘でないと対処出来ないが、なまっちょろいあいつらは情にかけている。その際で新たな脅威を逃した」

「でも、量産が効きますよね、コレ」

「流石、そこに気付くとは、いい目だ」

ニタリとほくそ笑む。

「ゆくゆくは、この次に行かなくてはならないのでな」

 

白衣の男は『Gwyn』と書かれた大きなカプセルの列を覗き込んだ。

 




オリ設定

総司令官の戦力(現在判明している限り)

直属の組織(東京大鎮守府総司令直属部。第一要塞鎮守府)
特殊艦隊(深海棲艦達)
総司令官(ギャグ補正)



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第二十話

しかし、まじでゲームが詰んだぞ。

艦coreという素敵なものを漁ろう。
しかし、ダークソウル×艦これが少ないのは何故だろうか。
私は答えを求めるため、ロードランの奥地へ向かった。


「うん…、ここは」

暗い空間の中に気がつくと立っていた。

「起きたか?提督」

「ああ、君か」

目の前には戦艦水鬼がいる。

「…ふむ。そうか。成る程」

「うん?どうした?」

「俺が水面に立てたのはお前が入っているからか」

「その通り。私のおかげだ。察しが良いな」

「…その喋り、長門か?」

「いかにも。長門だ、少し他の艦も混じっているが。流石、秘書艦やケッコン艦に選ぶだけはある」

「長い付きでね。お前がNo.9でないことも分かる」

「ふむ。凄いな。しかし、なぜ、私は君の体の中に入っているのか。視覚と聴覚は共通のものを感じた」

「解らん。親父に聞けば分かるかもしれないが…生憎、所在地が分からなくてな」

「それも知ってる」

「成る程、聞いていたな」

「仕方ないだろう。君が起きている間、私の意識は消えるようだし」

「ふむ、しかし、不思議な感覚だな」

「なんだろう。とても気持ち悪いです。他人の夫に手を出すやばいやつみたいで」

「悪かったな。既婚者で」

「いや、呪うべきは運命です」

「俺としては生き返れてよかったんだが…うん?」

「どうした?」

「お前、ケッコン艦に長門を選んだってなんで知ってるんだ?深海棲艦だろう…まさか、お前が俺の長門を」

「いや、負けたから、強いね。彼女。こっちの艦隊は全滅」

「そうか、なら良かった」

「ああ、お陰で沈む前に目が醒めた」

「ふむ。それなら心強い味方だな。改めてよろしく頼む」

六が右手を出した。空かさず六の右手を握った。

「こちらこそ宜しく。そういえば、なんで、北方棲姫があんなにダンディーな感じになるのか?」

「さあ?体術の稽古を受けた時も既にそうだったし」

「…凄いな」

 

ーーーーー

 

「ふむ。なかなか起きないな」

「俺たちが覚悟して、向こうの世界の話をしてたって言うのに」

「少し、遺憾だな」

六がソファでぐーぐー寝ている。

それを三人とその秘書艦、そして空母棲姫が眺めている。

「な、長門ぉ」 

不意に六が寝言を言い始めた。

「長門?何を寝言で言ってるの?」

「起こすのはやめておきましょう。きっと疲れたんですよ」

まるゆが少し、寂しそうな顔で言った。

部屋の隅では、空母棲姫がパンクしそうになっている。

そりゃそうだろう。急に異世界だの何なのと言われて納得する筈もない。おまけにアルブムはとある国の大王ときた。益々、混乱するだろう。

自分の打ち明けようとしている事が小さく見えた。

 

「フぁ〜」

「起きたか」

「あ、済まない。話の途中で寝てしまった」

首をポリポリ掻きながら頭を下げた。

「…もうお前には話さないからな」

かなり怒ったようでアルブムが言った。

「ロードランの話か?それとも大王の奥さん達の愛憎劇?」

だが六は知っていた。

「…その話はよしてくれ。本当にで黙っていてくれ」

後退りして土下座しようとするアルブム。

「あっ。すまん」

六の血の気が引いた。地雷を踏み掛けた気がする。

「あれは…なかなか、ヤバイ代物だった」

ソラールが追い討ちを掛ける。

「ソラールさん?知ってるんですか?」

「秘密だ。流石にアレを思い出すのは懲り懲りだ」

「…そんなにヤバイ事をしたんですか?浮気、不倫、挙げ句の果てに夜逃げ!」

「ヒィー」

まるゆの顔が青くなる。目の前の大男を冷めた目でブルブルと震えながら見つめる。

「いや、そんな事はしてないから。多分」

「ひえー」

「ヤバイ人が来ちゃったです」

 

「…いたか。空母棲姫」

「どうも。何故ここに?」

六がアルブムとソラールを囲っている輪から出てきた。

「やや、少し、お手伝いをね」

「?」

「人生は後悔はだらけだ。アイツらはその上に立っている。お前も俺も同じく。後悔先に立たず、後悔後を絶たず。まぁ、進まなさらば得られない思いだ。好きにすると良い」

そういうと、アルブムを問い詰める輪の中に混ざって行った。

 

無論、六も問い詰められる立場にいる事を忘れてはならない。

 

ーーーーー

 

「…ふむ。そろそろ、か」

窓から覗いていた北方棲姫がポケットから出したケータイで電話する。

「ああ、こちらは北方棲姫だ」

星が輝く綺麗な空に片方の手を伸ばした。

「全員が合流した。そちらはどうだ?」

遠くて掴めない。

「…了解。では、作戦実行の時まで」

少し寂しい。

「ああ。お土産を頼むよ。とびきりの」

 

 

 

 




オリ設定

長門が沢山。
識別番号があるのはそう言う事。資材という器に何らかの艦の魂を注ぎ入れる際はどうしてもランダムな為。更に日本では現在約十三万隻の艦娘が活躍している。

戦艦水鬼改
No.1(暫定)。長門No.9が出会った新種の深海棲艦。もちろん戦艦水鬼改-壊に変形する。
長門は良くソロで出来たと思う。
作者は怖くて甲は行ってない。丙です。
長門vs長門(怨念の塊)
その為、長門に感化されて倒される前に浄化されてしまった。肉体は再構築されずに何故か、六の体に入り込んでいる。




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サイドストーリー4

そろそろ妄想が尽き始めた。
やっぱり、深海棲艦とダクソ3の人の膿とか、深海の時代とか、なんか凄いインスピレーションを受けるんだわ。
それにさ、ほら、キーワードにも出てくる月とか、そういうのがマッチする気がしなくも無い。


月光とか、跳ねる武器が好きなだけなんですけどね。


「しっかし、本当に何にも無いな」

「そうですね。流石は北海道と言ったところでしょうか。私、艦娘辞めたら、北海道に移住して、ジャガイモ農家になるんだ」

「はいはい。戦う前じゃ無いし、フラグにはならないと思うぜ。はぁ、新規の鎮守府への移動を前に、こんな出張とか有りかよ」

「総司令官は日時の都合上来れないですし、今、本土とこの北海道を行き来できるのは、鎮守府の護衛がついた船だけですからね」

「はぁ…こんな5年やそこらで今や古参の扱い。世知辛いな」

「そうは言っても、第二次本土防衛戦の最大の功績者ですしね。いよっ、英雄」

「そんな大層な渾名は付かないけどなぁ」

「いよっ、鬼の八。不屈の八」

「だから、その名は止めろ。ええ加減にしないと、このだだっ広い北海道の僻地に置いてくぞ」

「やってみろ〜。この超主力級の私を捨てて良いなら」

「ああ、分かった」

車を脇道に止める。

「えっ?何を」

助手席側のドアをあける。

「降りろ」

ドスの効いた声だ。

「ちょっと、待って、冗談だから」

「生憎だが、大和型二隻に長門、正規空母数隻、更に北上を中心としたヤバイ奴らが居るんだ。駆逐艦一隻の代わりは効く」

「え…」

衝撃のセリフ、意識は果てしなく高い場所へ。否、深い場所へ。

魂が戻ったときには既に自分は降ろされており、車が遠くに行っていた。

「ちょ、待って、置いて行かないで」

 

ーーーーー

 

「ええと、山田さんがここか」

目の前には如何にも農家な住宅がある。

生垣で囲われ、立派な門の向こうには、母屋と蔵が別々になっており、庭はとても広い。

「ええと、インターホンは」

門の辺りを探していると後ろから声がかかる。

優しそうなおばあちゃんだ。

「貴方、もしかして、噂の鎮守府の凄いお偉いさん?」

「いや、自分は偉いのかどうかは判らないんですが、鎮守府の者です」

「…貴方。もしかして、TVに出た事有ります?」

「ええ。広報関係で」

「もしかして、あの小さい子なんだっけ。ええとー」

「春雨ですか?」

「ああ、そうそう。その子。春雨ちゃん。…⁈ひぇー。まさか、こんな大物が!」

「ああ、そうか、そうだった」

全てを理解して、額に手を当てた。ずっと鎮守府勤めで失念していたが、自分は意外と有名人なのだ。

「サイン…色紙が無い。ええと、うんと」

「あの。タイゾウさんはどちらへ」

「ああ、こんな所で長話するのもなんだから、入っちゃって」

「あの、インターホンは?」

「宅配便でも無いのにそんなもの要らないわよ。ヅカヅカ入っちゃって問題ないわ」

そのまま流れるままに家に上がらせられてしまった。

サイン色紙の山が渡されるのも時間の問題だろう。少なくとも目の前のおばあちゃんが孫に自慢する姿がパッチの目には浮かんだ。

そう。どこへ行っても苦労する羽目になるのだ。

 

ーーーーー

 

「あ、あのー、ここら辺にある漁村ってあとどれぐらい掛かります?」

車が行ってしまった方向から歩いてきた女性に声をかける。

「漁村…だったら、この道を真っ直ぐ。それで着く。案内しようか?」

そういうと、元来た道を引き返し始めた。春雨はそれに着いていく事にした。

「ありがとうございます。…うん?何処かで会いました?」

「記憶には無いんですが、その。そんな気はするような」

「あれ?」

春雨はふと思い至る

「まさか…ね」

春雨の顔が青くなる。

白い肌に長い背丈と髪の毛、そして白いワンピースに麦わら帽子。覇気のない声。

前にテレビのホラー番組に出ていた幽霊そのものだ。

あの時はパッチを茶化すのに使っていたが、まさか現実になるとは。

まさか、自分の魂がまだ体に戻っていないのかと、後ろを振り向くも、体はここにあるため、またいた場所には何も無い。

 

ーーーーー

 

「それで、ええと、話というのはですね」

色紙の山に即興で作ったサインを書きながら、件の話を始めた。

「鎮守府設備の増設じゃないのか?」

目の前の老人が凄い不思議そうな顔で尋ねる。

「それだったら、航空写真や地図、その地域の歴史的背景を見て考案しますが…。今回は別ですよ。そもそも、ここら一帯はまだ疎開先に選ばれていないので、失礼ですが重要な防衛地点でも無いですし。それに加えてここは、近くの鎮守府からすぐに来れる距離に有ります」

「じゃあ、なんだっていうんだい」

「人探しです。こちらに流れ着いて居ないんですか?」

「な、流れ着くってなんだ?瓶詰めの手紙か?」

「金剛、島風、雪風の三隻です。一刻も早く見つけたい」

「し、知らんな」

「そうですか」

パッチはスッと目を細める。

「嘘、じゃないですよね。もしも嘘だとしたら、今の鎮守府の権限がどれくらいなのか。もちろん、知って居ますよね」

「ひぇ」

「ふむ。まぁ、いいでしょう。必要な情報はありますし」

机から立ち上がる。

「え、あ、お茶は」

「朝ご飯を食べすぎましてね。失礼ですが、大丈夫です」

そういうと、そのまま玄関から出て行き、タイゾウがショックの余りにボケーとしている間に、車のエンジンの音が聞こえてきた。

「お茶…あれ?八さんは?」

ヨメが持っているお盆に乗せられた湯呑みから、湯気が昇る。

 

ーーーーー

 

目の前の黒い髪の女性の後ろを疑心暗鬼になりながら歩いている。

「あの、その、あのー」

「どうしたの?」

「ヒィ」

流れる黒髪が、顔の前に行き、まさに、そう。完全に、それだ。悲鳴を上げながら、拳を構えて臨戦態勢になるのは流石と言えるだろう。

目の前の彼女は、それを見て逆に驚き尻餅をついた。

「ひ、殴らないで」

「あ、すみません。ごめんなさい。驚いちゃって。職業柄こうなっちゃうんです」

「職業柄?」

「ええ。テレビで私、見たことないですか?」

「テレビ?ええと。その格好…もしかして艦娘さん?」

「そうそう。白露型5番艦の春雨です。No.25です。まぁ、ほかの春雨の娘とは違うんですけど」

「…何か違うの?性能?」

「性格ですよ。どうもほかの娘と違って、自由人らしいんですよ。ほかの子は輸送任務とをせっせとこなす頑張り屋だけど、私は好き勝手にやって攻略。もしかして、自分は夕立じゃ無いかって偶に思うんですけど、やっぱり春雨なんですよね」

 

ーーーーー

 

日が西に傾き、空が色づいたころ。

遠くから車の音が聞こえてきた。ピタリと家の前で音が止むと、今度は庭の砂利道を歩く音が聞こえる。

パッチは玄関の前のインターホンを押した。

「ごめん下さい。山田さんはいらっしゃいますか」

「ああ、八さん」

少し寂しそうな顔で、タイゾウが出てきた。せっかく、やって来た若い子が居なくなるのは寂しいのだ。

「探してる人は見つかったのか?」

「いいえ。ですが、ある程度は大丈夫でしょうが、少しばかりね、用事ができてしまったんですよ」

「?」

「司令官、ここでいいですか?」

大きな箱が乗ったリヤカーを引っ張りながら、春雨がやって来た。

「ああ、春雨。一旦そこに置いておいて」

「もしも、あの子達が現れたなら。あれを渡しておいて下さい」

「そんなに大きい物…」

パッチがニッと笑う。

「わ、分かりました。どうかこの事は内密にお願いします」

「初めからそのつもりですよ」

「へ?」

「証拠作り。信用できる人物の云々が有れば、多少はいいんじゃないか?」

「…貴方は全く、テレビの通りですね。鬼ですよ」

「生憎、それで生き延びたんだ。それに、そうでなければ長くは続きませんよ」

「そうですか。面倒はしっかりと見ますよ」

「お願いしますね」

 

ーーーーー

 

「…司令官!」

車が目の前で止まった。

「はぁ、ほら、乗ってけ。まったく、反省はしただろうな」

「どうでしょうか?」

「…あの。この子の上司の方ですか?」

「うん?ああ、まぁそうです」

「どうでしょうかね。私を道端に落とすなんて非道な事するなんて」

「下手しても迷わない道で落としただろう。それに、直ぐに迎いに来てやっただろ」

「はいはい」

「ああ、うちの春雨の面倒を見てくれてありがとうございました」

「あ、どういたしまして」

「バイバイ」

そういうと、すぐに車は内陸の方へ走っていった。

 

 

しかし、すぐに近くの脇道でターンして戻ってきた。

「つかぬ事を聞きますが、お昼ご飯が食べれるところって近くにあります?」

「え?あ、ツネさんのお店なら多分何かあるんじゃないでしょうか?」

「案内してくれる?」

「あ、はい」

「春雨、後ろに移って」

「はいはい」

 

ーーーーー

 

「…あんた。はぁ、言わなかったのが仇になるとは」

「?」

「ええと、お客さん。すみませんがね」

断ろうとするものの、そう言いかけると、二人のお腹から、音が響く。

「あ、凄いお腹すいた」

「司令官は、面白い具合になりますね」

「お前もだろう」

「女の子に失礼です」

「女の子って、そう思えないな」

「失礼な」

「あの、料理は売ってないんですが、お昼ご飯。食べて行きませんか?」

少し神妙そうな顔をして、ツネは昼飯に誘った。

流石に小さい子に貧しい思いはさせたくないのだろう。

 

ーーーーー

 

「ねえねえ、パッチさんってなんの仕事してるの?」

「役所の人だ。ほら、2人とも制服を着てるだろ?」

「本当だ」

テーブルにならんだお皿を六人で囲う。

「え?あんた」

「ええ、公務員ですよ」

「ああ、そうかい。ありがとう」

「?どうしたんですか?急に」

「さあね。歳を取るとよくわからん」

「そういうものですか」

迎いに座った三人の少女達は嬉しそうに話している。

「まぁ、取りに行かなきゃな」

「?」

「ご馳走様。お代はコレぐらいで」

そう言うと、財布から二千円を取り出した。

「え?そんなに沢山要らないよ」

「なら、彼女たちに一皿多く食べさせてやってくれ」

 

 

 




オリ設定

大きな箱の中身

彼女たちはいつか、思い出すだろう。
そうしたら、出来ればこちら側に来て欲しい。
だが、それ相応の事があったのならば、それは余り良いとは言えない。
だからこそ、コレを置いて行こう。
せめてもの祝福のために。



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第二十一話

久しぶりにACVをやっていたが、やっぱりコレだな。
ボリュームがやばい。たーのしー。アハハ。



何?ボリュームならダークソウル2?



知らんな。


「ここで、沈むわけ…」

仲間が次々に沈んでいく。

まさしく、戦いにならない。

容易く砲弾や魚雷を避け、こちら側が不利なインファイトに持ち込んで来る。

そして奴らも簡単に沈む。

だがしかし、直ぐに次の相手が出てくる。

まるで機械のように、赤く光る目を輝かせ、冷たい声で呻く。

「排除」

ただ、それだけ。

 

ーーーーー

 

『鎮守府の停止』と『艦娘の解体』が発令されてから僅か一週間。

既に、アジア方面のいくつかのシーレーンは解放された。

こうして、新兵器が如何に強いかが証明され、艦娘を解体する風潮が強まった。

 

しかし、発表と共に総司令官が大本営へ反旗を翻した。

大本営に対する、反抗宣言を出した後、彼の率いる艦娘、彼の元に付いた提督やその艦娘達は消息を絶った。

 

こうして、提督や艦娘の存在は予定よりも早く、日本から消えることとなった。

彼ら、彼女らはただの人として、或いは反逆者として。

 

ーーーーー

 

「なぁ、ちょっと遊ぼうか」

突如現れた女性が目の前まできた大男を蹴り飛ばした。

ただ艤装は付いておらず、艦娘でもないようだ。

「…女の人?なんで海の上に…あ!」

背後に赤い瞳が輝く。

「退いてな。危ない」

背後の顔を掴み、勢いをつけて前方の海中に叩きつける。

強引に水面に叩きつけられたため、轟音と共に大きな波が生まれた。

「うわぁあぁあ」

「言わんこっちゃない。退くぞ」

手を引かれ、思いもよらない速さで進む。

まるで空を駆けるように、海上を進んでいく。

あの大男の集団も既に霞んできた。

 

ーーーーー

 

いつの時代もイレギュラーは存在する。

その時代の主役でない矮小な存在。

ただその中の一つに過ぎない。

だからこそ、足掻くのだ。

文字通り、何度も死んでも。

沈んでも。

 

ーーーーー

 

小さな小島の洞窟の前で焚き火をしている。

パチパチと音を立て、炎は暗い洞窟を照らしている。

「どうだ?心は、晴れたか?」

潜水棲姫改の涙としゃっくりが止まった。

「うん。ありがとう」

「そうか、済まないな、私に力が無くて」

「ううん。みんなと一緒だから怖くない。それに、お友達もいっぱい居るし」

「そうかそうか。なら良かった」

「ねぇ、やっぱりお姉さんって艦娘?」

「いいや、そうじゃないよ」

背後に二つ頭の怪物が出て来る。

「その艤装…戦艦水鬼?」

「さあね。私にも判らないよ」

「?ふーん」

白い肌にオレンジ色の炎が映り込む。

怖かった火がいつのまにか暖かく感じる。

「あれ?なんだか眠たい」

「はは、正気になれば眠くなるもんだ。しっかりと寝な」

「分かった」

そのまま、用意されていた寝袋に入る。

火の影になっている大きな身体はとても頼もしく思えた。

 

ーーーーー

 

答えを求めて。

 

 




オリ設定

謎の人物
戦艦水鬼の艤装を装備している。
ただし、肌は健康そうな色をしており、深海棲艦とは見えない。大柄。
援護した潜水棲姫改の他にも数十隻の深海棲艦を保有している。
あくまでも基地に向かう途中で休息を取っただけ。洞窟暮らしをするほど野生的ではない。




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第二十二話

やっぱり、ダクソだよな。

久しぶりの月光大剣は楽しかった。




圧倒的浪漫力




「ソラールさん。本当に、大丈夫なんですか?」

「だから、始めからそうだと言っている」

目の前には数十を超えるほどの赤目の大軍がいる。

「やはり、一対多は面倒だ」

だが、そのまま前進する。

 

ーーーーー

 

「作戦の説明だ。ソラールを囮に俺たちが後ろから叩く、以上」

六がそう言うと、春雨から声が漏れる。

「…そんなので、出来るんですか?」

「…知らない。だからこそ、ここにいる。作戦の変更など容易い。戦いに、決まりは存在しないんだ」

パッチはただ、目の前の男を見つめる。

「まぁ、こいつが無茶苦茶なのは、前からだ。このご時世に轟沈させた艦など一つもないのは珍しい。それに、俺たちは全員が数十メートルの近接戦しか出来ない。近付かれると砲撃や魚雷を出しにくくなるのであって、効かない訳じゃない。そうだろう?」

「ああ、さすが八だな」

「へへっ。あんたに言われたくないね」

ソラールが質問する。

「…何で、俺を選んだ?」

「硬いから。出来るだろう?敵を纏めて、自分は避けるのに集中すれば良い。それにその力があるんだろう」

「…そうだな」

どうやら納得した様だ。

「取り敢えず、敵は目の前だ。失敗するなよ。お前達五人にかかってるからな」

「よし、まだまだ負けないさ」

「大和、頑張ります」

「ゴリ押しスナイパー部隊、行きます」

「私も?」

「無論、空母棲姫、お前もだ」

 

ーーーーー

 

ここを叩くのは明白だった。

総司令官直轄の鎮守府であり、第二次本土防衛戦の英雄とその艦娘、『phantasma』のオリジナルに極秘の特殊艦隊。

多くの艦娘や提督が消息を絶った今、所在が明らかな場所を狙うのが必然だ。

解体令から二週間しか経っていないが、やはり、あらかじめ叩いておかねば危険と判断したのだろう。

今現在、相手方の戦力が明確でない以上、こちらは戦うべきではないが、ここを攻められたら終わりだ。

 

「…さて、進むべきは」

北方棲姫はただ、作戦の動向を窺っていた。

 

ーーーーー

 

「…『太陽の光の槍』」

緋色の雷が発生し、それを放つ。

雷が水面に当り、集団にダメージを与える。

「こっちだ。いいぞ」

ターゲットを定めた十数体がソラールに向かって来る。

「やっぱり、俺の戦いはこうでなければ」

ソラールの装備は基本的に弱い。

太陽のタリスマンはやはり、威力に乏しい。

装備は鎧の中では軽く、故に弱く。

故に盾を使いこなし、素早く動く。

確実に、堅実にこなしていく。

仲間と共にあって、真価を発揮する。

太陽。

正にその名の通りである。

ソラールに向かっていた十数体に砲弾が当り、吹き飛んだ。

フッと鎧の中で笑みが溢れる。

再び、自分の世界とは違う事を噛み締めた。

「あいつみたいに頼れる仲間だらけだな」

 

ーーーーー

 

「…それで、この『Gwyn』の学習具合はどうだ?」

「50%ぐらいです」

「ふむ、『Solaire』が110%だから少し遅いな」

「やっぱり、『Gwen』は手に余る力なんじゃ」

「そりゃない。こうして自壊機能も付いているんだ。万が一にもあり得ない」

「そうですか」

「既に設備を全国に増設しているんだ。それに、二重にも三重にも保険を巡らせてある」

「…流石に、出来る訳ないですよね」

「ああ、私の信念は揺るがない。艦の亡霊を全て消す。確実に」

 

ーーーーー

 

湯気が心細く揺らめく。

コーヒーの香りが揺らめきながら吹き飛んだ。

「…騒がしいな」

前方では、長門、大和、武蔵が主砲を構え、ソラールから離れた相手を各個撃破している。

空母棲姫も艦載機を飛ばし、敵を撹乱し、撃破している。

一方、北方棲姫はただ、偵察だけをしていた。

「ふむ。ターゲット確認。爆雷、投下」

そう、狙いは海中に潜む、次の大軍である。

水中では衝撃波は大きく伝わり易い。

生態系に支障が出る事は否めないが、仕方ない。

「…流石に全員を引きずり上げるとなると、ソラールの身が持たないからな」

自分の隣にいつの間にか立っていた六が双眼鏡を覗きながら呟く。

「やはり、その程度の事は察せると」

「海で見たでしょう?先生も」

「先生はよせ。せめて北方棲姫とよべ」

 




オリ設定

『Gwen』
大王らしき者。古い竜を狩り一世代で大国を築いたが、最後は自ら火に飛び込んだらしい。
近距離特化であり、火の灯った剣を持つ。

『Solaire』
断固たる信仰の持ち主らしき者。太陽を崇めていたが、遂に気を悪くしたらしい。終に、彼は大王を狩るか仲間を殺す事にした様だ。
近中距離で能力を発揮し、回復も卒なくこなす。

『Patches』
愚かな盗人らしき者。多くの相手を崖付近に誘っては蹴り落としてきたらしい。彼は不死の中では、より人に近かっただろう。
近距離で能力を発揮し、大盾により硬い。


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第二十三話

STAIN(A perfect day)とシズメシズメのマッシュアップって無いのかな?


だったら作れって?
私にその技術は無い!


人類史上、最悪の部類に入るだろうか。

ヒト科ヒト属ヒトとは異なる。今までの生命とは異なる。新たな人間の誕生。

 

それは突如起こった。

いや、現れたのは突然だが、その勢力は緩やかに増大していった。

 

この高度なグローバル化の時代。

国境間のインフラの崩壊は即ち、国の崩壊を意味するだろう。

 

ーーーーー

 

私は地方に住む、ただの若僧であった。

過疎化が激しく、手入れが行き届いていない海や山のある田舎だ。

今の時代、ネットというものが存在し、私は本の虫では無く、パソコンの虫であった。

だからだろうか、幼少の頃、近所の友人のお爺さんの部屋に飾られていた一隻の船に沢山の人が乗っている写真を見て、興味を持ち、調べ上げた。

だが、まだ小学校を卒業して間もない自分には、早い内容だった。

酷く恐怖した事を覚えている。

自分が生まれるよりも遠い昔、私のお爺さんのお爺さんの時代の物だった。

あの船が本物だと知った。

確かに、何回か授業でやったし、夏になるとよく映画がテレビで流れるが、夢物語の様に曖昧な感じだった。

だからこそ、身近にそれが存在する事を恐怖した。

写真の船はいわゆる復員輸送艦という物だった。

 

ーーーーー

 

「…これは?」

目の前に出された写真には、魚の様て金属の様な重厚感のある奇妙な物体が写っている。

「近海で、目撃が多発している海の亡霊って話です」

「凄いハッキリと写ってるな…、合成じゃないのか?」

「それが、全員の証言が揃っていますし、船に体当たりされた様な傷が付いていて」

二枚目の写真には、船が写っている。よくこれで港まで帰って来れたと言わんばかりの傷が付いている。

そして、三枚目には破断した後の付いた丸い穴が写っている。

「鯨や鮫の類じゃないな」

余程の硬さでなければこの傷は付かないだろう。まして、この丸い穴を開けるとなると余程のもので無ければ。

「だから、万が一の事を考えて海上保安庁に連絡を入れたらしいです」

「なるほどな。カモフラージュした兵器って可能性も否めないが、まあ、調べるに越した事はない」

ふと、脳裏に浮かんだ事が有ったが、余りにも可笑しな話なので心の中にしまった。

そのまま、上に報告し、私は出発の許可が降りるまで待機していた。

 

ーーーーー

 

あの地獄の世界を見た記憶は無い。

だが、何故かかの戦場がハッキリと見える。

故郷とは違う熱帯の島。

飛び交う銃弾、飢え、それが果てしなく続いている。

正に地獄と呼ばずになんと呼ぼうか。

 

だが、それも時代の最中の少しにしか変わりない。

きっと、これが争いなのだ。

これを無残と言うならば、遥か遠い時代の戦いもそうだったのだろう。

 

私はやはりパソコンの虫になり、各地のそうした歴史を見ていた。

田舎の中学の為、一学年に30人もおらず私のその異常さは、目立った。

身近な友人にそんな事を調べる人はいない。

この年頃なら、テレビのドラマや特撮、ゲームだとかアニメだとかを嗜むべきなのだから。

 

ーーーーー

 

「許可が下りなかった?」

「ええ、合成か岩場にぶつかったんだと、だから近海の岩場が無いかの調査のみ許可するって」

「はぁ。この亡霊の写真が合成だとして、あの丸い穴を何と言うんだ?」

「それが、尖った岩でもあったんだろうって」

「…無能。ああ、もう、平和ボケしやがって、どう見てもこれは砲撃が被弾した跡…」

「え?」

「…そうか。やはり兵器か。コイツは。しかも砲弾なんてローコストな手段を取ってやがる。いや、今の時代、砲弾の方が効果的なのか」

ぶつぶつと机に向かい、殴り書きでメモを取る。

「えっと」

「いくぞ」

「へ?何処へ?」

「ムカムカするんだ。明日、休日だろう?海に出る。付き合わないか?」

「…了解しました。装備を整えます」

 

ーーーーー

 

だからこそ、平和である事を愛おしく思った。

だから、自分こそが、日本の平和を保つのだと。

日本の命綱を護ると。

 

夢は既に決まっていた。

 

ーーーーー

 

そうして、私は神秘とも言えない恐怖を根底に芽生えさせた。

知るべきではない。

禁忌を犯した様で、まるで、無くなったパズルのピースが空から降ってきて、カチリとハマったような不可思議な感覚だ。

 

ーーーーー

 

私の夢は叶わず。

日本は幾度も危機に遭った。

硬い信念は全て、打ち砕かれた。

自分が海の平和を、日本の平和を守るのだと。

だが、どこにそんな力があろうか?

 

ーーーーー

 

私の夢は壊れた。

この平和を守るのはかつての亡霊達だった。

亡霊には亡霊を。

私の活躍で、深海棲艦を発見し、平和へ貢献したのにも関わらず、世間の関心は味方の亡霊やその為の新たな組織へとばかり向く。

認証欲求がある訳ではないが、心の奥底で煮え滾るものがある。

組織を設立する権限は無い。亡霊達を指揮する権限も無い。

 

だから、私は得意な頭脳を使い研究する事にした。

 

あの根底に芽生えた神秘の恐怖を糧に。

 

 




オリ設定

元海上自衛官、現大本営研究所社長

深海棲艦を発見し、警告した一人だが、上司の手柄になってしまう。
研究所では、艦娘や深海棲艦の兵装を研究するとともに、『project dark』の発案や『project phantasma』の進行をしている。


大本営研究所

艦娘や深海棲艦について研究している組織。
やはり、現存の兵器が効かない以上、調べなければ分からないだろう。






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第二十四話

私が望むのは果てなき戦い、そしてその先の滅亡。






即ち超⭐︎展⭐︎開


「今こそ、決戦の時」

周りより高い舞台のさらに高い台に、一人の女性が立つ。

背後には黒い二つ頭の怪物が。

顔は凛々しく、流れるような髪が、周りの白と黒の人々…深海棲艦の少女達を撫でる。

空には大きな鯨のような艤装が浮かんでいる。やはり、彼女の器は余りにも大きい。

「私たちはその先に何を望む?」

見る人が見れば幻想的とも思える光景が目の前に現れる。

「新たな戦いか?抹殺か?それとも名誉か?」

背後の怪物のような艤装が金色に輝き、彼女の周りに着いた。

まるで船のような形。恐ろしい怪物があるべき姿に戻った。

「考えられた奴だけ付いてこい」

そう言うと彼女は後ろを振り向き、台から降りた。

そのまま、進むようだ。

三十人全ての人影は彼女に付いていく。

 

連合艦隊旗艦を務めた後姿は圧巻だった。

 

ーーーーー

 

まさにこの世の終わりだろうか?

ああ、そうだろう。

この世のものではない存在達が陸に上がり、闊歩する。

送り出された『phantasma』達も、陸の人々も。

きっと知る由もないだろう。

 

まるで夢のように、彼女達の歩く様を見るのだ。

 

ある者は二度と帰れなかった故郷を踏み締め。

 

ある者は激戦を広げ散った敵の国に立ち。

 

ある者は人としての体に歓喜の声を上げる。

 

彼女達の喜びは、声にはならない。

 

ーーーーー

 

こうして、日本は大勢の深海棲艦を受け入れる事となる。

 

『第一要塞鎮守府』の本土進軍と‘偶然’重なったそれは、決定的な致命であった。

 

海上防衛に徹した国の政策により、陸上自衛隊は機能を失っていた。いや、その事は関係ないだろう。何せ、彼女達に兵器は効かないのだから。それ故に、海上防衛に徹したのだから。

抵抗は虚しく、国会が占拠され、彼女達の意思を表明させられる事となる。

結果、脱艦娘の風潮は、消え去り。ただ、人々の生活により一層、彼女達の存在が溶け込む事となる。

 

果たしてこれからどうなるのだろうか

 

それを語るのは私の役目では無い。

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数の『phantasma』が無残に散った。

目の間には亡霊達が立っている。

「…さて、観念しな」

その内の一人が槍を私の顔の目の前まで突いた。

冷や汗が出る。

「残念だが、スパイと言うのはあるものでな。へへっ。こっちには居るんだ。欲しい情報は…」

私は何を言っても無駄だと気付く。

研究結果などが入ったメモリが時折消えていた事を思い出した。

そう言う事だ。

酷く狼狽し、目の前の槍の刃を見つめながらジリジリと後ろへ下がる。

「お前の意思だ。何故?こんな気持ち悪い事をした?」

私は呆気に取られた。

もしかしたら殺されないかもと言う淡い希望にしがみつき、事の発端を話した。

 




オリ設定

友好な深海棲艦
争う事など初めから望んでいない。ただ、戦争という恐怖を。その忘却という更なる恐怖を。
恐れていただけである。

新時代の幕開け
世界で初めて、深海棲艦という恐怖に耐え、味方にした国はないだろう。これを機に、内地で籠もっている人々が広い海に出るだろうか?
だからこそ、今はただ、‘世界’の海の平和を願うだけである。



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Another Age 1

ソラールの出番がなさ過ぎる。
やっぱり、タイトルを変えた方が良いかな





ソラールが流れ着くおよそ11年前。

沖縄本島沖南へ約500キロメートル

 

「くっ、大破しました!」

ボロボロになりながら、金剛に不知火が告げる。

「…半数が既に大破…。かなりdifficultネ。暁ちゃん」

「全艦撤退!」

暁が叫ぶ。

「あ…すみません。不知火の…落ち度です」

「仕方ないネ。生きるのが優先」

「はい」

進路を変える。

ふと、追撃して来ないのか後ろを振り向くと、不敵に笑みを浮かべる少女が面白そうに手を大きく振った。

まるで、遊んだ後にバイバイと言うように。

レ級との初めての遭遇である。

 

「で、敗因は人型の深海棲艦だと」

「ええ、新手の深海棲艦でした」

「…ふむ。魚雷が使えてかつ大型の主砲を持つか…他の特徴は?」

「艦載機を飛ばして」

「空母もか?…文献にそんな艦はあったかな?」

「…?分からないわ。でも、砲撃も雷撃も爆撃もやってのけるのよ。私たちの艦隊じゃ無理よ」

「艦載機には高射砲を積んで対策するしかないか…」

「でも、今はその装備は開発できていないわ」

「…他の提督に頼むしかないか」

「ええ、シーレーンを護れ無ければ、物資を断たれたら日本は崩壊するわ。そんなの、もう見たくない」

「わかってる。だからこそ、政府が頑張ってる。昔と同じ過ちを冒さないようにな」

「ええ。司令官、ありがとう」

 

ーーーーー

八ヶ月前

 

「…私が、提督…ですか?」

和室に置かれた丸いちゃぶ台に中年の男と、もうすでに十分老いている男が向かい合って茶をすすっている。

40代後半の男は提督という大層な名前を聞き、不思議そうに目の前の老人を見つめる。

「ああ、提督。敵性勢力と戦える兵器を見つけた。と言ったら、どう思うかね?」

「…船の様なものって事ですか?」

「ああ。暁、こっちにきてくれ」

生やした老人が家の奥に向かって呼んだ。

「…返事が来ないな。…そう言えば、あやつは朝ご飯を食べていたかな?食べてないか。…そうか、ねてるのか」

「?もしかして、兵器って…」

「いや、ロボット兵士だのサイボーグだのを作れるほどの技術は持ち合わせていないさ。それはお前が知ってるだろ?なんせ一番弟子だからな」

老人が立ち上がり、襖を開けて手招きする。

老年に入りかけた男が後を付いていく。

年季の入った日本家屋である。だがリフォームした時に無理やりつけたであろう、この家屋に似合わない洋風の扉が目に入る。

「見た方が早い」

そう言って、その木の扉を引いて開けた

 

目の前には布団に大の字になって寝ている女の子がいた。

なんとも豪快である。まるで、自分の娘や義息の様だと思いながら少し微笑ましく思う。

「…これが兵器ですか?」

「ああ!驚いた事に、浜で拾ってきてな」

「誘拐じゃないですか」

「いや、しっかりと警察に連絡した。女の子が流れ着いてきた!って」

「それで、なんで先生の家に」

「それが、どの役所にもデータがないって言われてな。仕方ないから戸籍を作って、養う事になったんだが」

「ただの女の子ではなかった…」

「ああ。自分は暁型駆逐艦一番艦の暁だと言うし、それならその船はいつ、何をしたんだ?って聞くとピッタリ史実をいうのさ」

「…この歳でそんなことを知っているのか?」

「私も役所の人も最近の若い子はこんな事までネットで調べてるのかと感心したんだがな、質問の所々で青い顔になって、最後の事を質問しようとしたら物凄い蒼ざめた顔をするんだ。まるで、本当に遭ったみたいに」

「…子供の感受性…って話じゃなさそうだな」

「ああ。私も子や孫を見てきたが、あそこまで感化されるのは見たことがない。それに、他の艦の話を聞くとそこまでピタリと言えないんだ」

「…暁型駆逐艦一番艦の熱狂的なファンというのはあり得ないよな。普通だったら艦が好きだとか」

「ああ、普通だったら他の艦についても調べてる筈…あ、忘れてたんだが、決定的なことがあってだな」

「?」

「インターネットを知らなかったんだ。おまけに、デジタルTVもデジタルカメラもケータイも。あの時代以降の物は全て」

「…なら、この子が暁型駆逐艦一番艦だと」

「ああ、にわかには信じ難いが…だが、幽霊の様なものが海に出るなら、有り得ない話では無いんじゃないか」

「…艦の幽霊…か」

「どうだろうか?」

「ふむ…先ずは、話を聞かないとな」

 

「君は、暁型駆逐艦一番艦の暁だって言うけど本当?」

「失礼ね。正真正銘の暁よ。でも、みーんな信じない。失礼ね」

「はは、それは失敬。だけど、今はその時代から1世紀ぐらい過ぎたんだよ」

「…知ってる。私の知らない事ばかり。私の事が本に載ってたり、この国が平和になってたり…今は、アイツらが来てるからそうじゃないけど」

「アイツら?」

「艦の亡霊。深い海に沈んだ船の怨念が具現化したやつ。魚みたいで口の中に砲がある」

「…あれ?先生、教えた?」

「いいや。教えてないが…。ふむ、どこで知った?」

「…襲われたの。気がつくと海の上に二本足で立ってて、何も分からない時に、被弾して、それで逃げてる途中で大破して、力尽きた所て、気がつくとあのお爺さんが私を警察や役所で色々振り回されて」

「ふむ、暁ちゃんは、どうしてソレが艦の亡霊だって分かったの?」

「どう見てもそうじゃない。暗くて深くて…それでいて、何処となく私みたいだった。とても冷たくて、悲しそうだった」

二人の男は顔を見合わせた。

 

ーーーーー

 

「ふむ、戦艦という事で上層部は纏まったか…。自我が薄くて言語を話さない。戦力としては鬼姫級だが、そうとは言えない…か」

「でも、あれは愉しむ目でした。とても怖かった」

「戦いを愉しむ目か…生まれながらにそうなっていたか、或いは…」

「…狂って堕ちた…ね」

 




オリ設定

十一年前の艦娘
大本営が設立されて間もなく、基本装備やその派生品しか出回っておらず、非常に苦戦していた。
後の要になる近代化改修も行われていない。


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