多重クロスオーバーな世界の転生者 (菅野アスカ)
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1話 少年探偵団と夜廻少女

文句はネタ神様にお願いします。


コナンサイド

 

今日は、休日。少年探偵団の面々と一緒に、幽霊屋敷の探索に行くことになった。

またかよ、と思ったものの、興味はあった。…主に、その幽霊屋敷が存在する町のほうに。

 

米花町からは若干離れているものの、電車などを使えば子供たちだけでいけない距離ではない、というくらいのところにある町。田舎か都会かと言われたら、田舎のほうだろう。田畑がそれなりに多く、町の北側は小さめの山に面している。

 

目当てのお化け屋敷は町の中央のあたりに存在していた。そこは江戸時代に建てられた屋敷で、かつては金持ちの家族が住んでいたが、ある時母親が一家心中をしようとし、娘だけが生き延びた。しかし、その時飲んだ毒薬のせいで、娘の顔は見るも無残な有様になってしまい、すべてに絶望した娘は首をくくって自殺した。それ以降、その屋敷には娘の亡霊が住み着いているのだという。

 

探せば割とどこにでもある話だが、オレが気になったのは、そこについて調べるうちに知ったある事実。

その町は、毎年のように行方不明者が出ているのだという。

年齢、性別、職業。そのどれもがばらばらで、掠りもしていない。だが、1つだけ共通点がある。…彼らは皆、何かしらの経緯で北の山へ足を運んでいるのだ。

ある女性は、ハイキング。またある老人は、山菜摘み。様々な理由で山を訪れ、その後しばらくしてから行方が分からなくなっている。ネット上では、神隠しではないか、などと言われていたが、幽霊屋敷探検ということもあってか、オレはある事件を思い出した。

少年探偵団ができたばかりの頃、探索に行った屋敷。そこには、殺人事件の容疑者が隠れ住んでいた。

あの時のように、山に何者かが住んでいて、山に行った彼らは、その人物にとって都合の悪いものを見てしまい、消されてしまったのではないか?

そう思った俺は、少年探偵団の面々に山のうわさを話し、幽霊屋敷の後に山にも赴くことにした。

 

 

××××

 

 

「うわあ、おっきいおうち…」

「田舎のほうは大きな家も多いですけど、立派ですね…」

 

その屋敷は、当たり前ではあるが、純然たる日本家屋だった。割と大きく、庭には小さな池まである。

開いていた門から入って辺りを見渡すと、あることに気づいた。

庭の木々や花が、手入れをされた形跡がある。

もしや、ここは廃墟などではなく――

 

「ちょっと、何してるの」

「ひっ!?」

「で、出たー!!!」

 

戸を開け、1人の少女が出てきた。

 

年は、大学に上がったか上がらないかくらい。少なくとも、本来のオレよりは年上だ。ふんわりとした柔らかそうな髪は、黒。巻いているのか、元から巻き毛なのか、カールしている。腰より少し上くらいで切りそろえていて、白と黒の2つのポンポンがついたヘアゴムでまとめている。ほとんど外に出ないのか、抜けるように色が白い。瞳の黒と唇の赤がよく映えている。

あまり印象に残るタイプではないが、十分に美人を名乗っていい外見だ。だが、最も目を引くのは、その格好。…少女は、和服を着ていた。

浴衣などではなく、おそらく専門の店にでも行かなければ置いていないようなもの。小袖というやつだろうか。卵色の地に、紅梅やウグイスなどの染模様。帯はしっとりと落ち着いた臙脂色。薄ピンクの糸で、アゲハチョウの刺繍が施されている。

さらに、顔の向かって左半分を包帯で覆っており、それが非常に目立っている。

…なんだろう。ここのうわさの真相がわかった気がする。

 

「人んちの庭に勝手に上がり込んだ挙句、主人を幽霊扱いとはいい度胸だね」

「幽霊じゃ…ない…?」

「白昼堂々幽霊が出てたまるか。雨や曇りの日ならまだしも、今ピーカンでしょうが」

 

ああ、オレの思ったとおりらしい。灰原も、呆れたような納得したような、微妙な顔をしている。

 

「えっと…お姉さんは、ここに住んでるの?」

「そうだけど。君たちも、幽霊屋敷だって聞いてきたわけ?」

「う、うん」

 

オレがそう答えると、少女は心底うんざりだと言わんばかりにため息をつき、言った。

 

「やっぱりか。1週間くらい前から、そういう奴がよく来るんだよね。本当、迷惑だからやめてほしいよ」

 

それから少女は、語り始めた。

10日ほど前、観光か何かでやってきた男女2人組が、たまたまこの家の前を通りがかり、たまたま庭の掃き掃除をしていた少女の姿を見かけた。

少女の格好のためか、男女は少女を幽霊と勘違いし、悲鳴を上げて逃げ出した。

その後数日たって、この家を幽霊屋敷と思ってやってくる人物が来るようになった。

かいつまんでいえば、そんな話だった。

 

「幽霊屋敷じゃなかったんだ…」

「できれば、デマだって広めてもらえるかな。近所の人にも迷惑かかるし」

「はーい!」

 

歩美が言う。

 

「じゃ、そろそろ山に行きましょう。デマだったわけですし」

「…山に行くの?」

 

光彦の言葉に、少女が反応した。

 

「やめておいたほうがいいよ。あの山、昨日土砂崩れしたし、しょっちゅう犠牲者が出てるんだ」

「でも、山の上に神社があるって聞いて、どうしても行きたくなっちゃったんです。お守りとかあったら買いたいなって」

 

…そこまでは調べてなかったな。山のことを言った後、歩美が自力で調べたんだろうか。

 

「あの神社、疫病神しかいないよ。あそこ行く人なんて、大概オカルトマニアか物好きか丑の刻参りがしたい人かのどれかだけど。呪い殺したい人でもいるの?」

 

平然とした顔で、少女が言った。おい。それ、子供に聞かせる話じゃないだろう。

 

「えっ!?そ、そんな人いません!!」

「じゃあ、やめなよ。神社だったら手児奈神社っていう霊験あらたかな厄除けの神社があるから。お守り欲しいなら別のところになるけど」

「そ、そうしておきます」

 

真っ青な顔でそういう歩美。

 

「どうせなら、案内してあげようか?」

「いいんですか?」

「うん」

 

…この人は、何故ここまでオレたちを山から引き離そうとしているんだ?山に行かれると、不都合なことでもあるのか?

 

「でもボク、山に興味があるんだけどな~」

「死にたいの?崩れたのは登山道だよ」

 

なんでこの人、さっきから言葉遣いがやけに物騒なんだ。

 

「ああ、山が気になるってことは、行方不明の件で何かあるのかな?首突っ込まないほうが身のためだよ」

「ですが、少年探偵団を名乗っている以上、連続行方不明事件なんて見過ごせません!」

 

光彦が言った。

 

「少年探偵団、ね。正義の味方ごっこもいいけど、あの山は本当にまずい。祟られるか獲物認定されるかのどっちかだと思うよ」

「今は科学の時代ですよ?祟りなんてあるわけないじゃないですか」

「じゃあ、君はお墓を蹴り飛ばしたり、神社の鳥居に火をつけたりできるんだね?『祟りなんてあるわけない』んだから」

「それとこれとは話が別でしょう」

 

…怪しい。まさか、この人が行方不明事件の犯人なのか…!?

 

「お姉ちゃん?」

 

戸を開けて、もう1人、少女が出てきた。

こちらはおそらく小学生、今のオレたちと大差ない。枯草色の髪を三つ編みにしていて、大きな青いリボンをつけている。この人の妹だろうか…?

 

「あれ、ハル。私そんなに声大きかった?」

「ううん。知らない子の声がしたから、誰だろって思って」

 

どうやら、青いリボンの少女はハルというらしい。

 

「ああそうだ、ハルからも説得してもらえる?この子たち、山に行きたがってて…」

 

着物の少女が言うと、ハルはぎょっとした顔をして、慌ててこっちへ走ってきた。

 

「っ!」

 

近づいたことで分かったが…ハルの、()()()()()。すっぱりと切れて、無くなっている。

 

「ダメ…山はダメ。危ないよ」

「ねえ、なんで2人ともそんなに止めるの?もしかして、山に何か知られたくないことがあったりして…」

「そんな理由じゃない!!!」

 

きっとこちらを睨みつけ、そう叫ぶハル。

 

「ハル、落ち着いてね。…正直言うと、さ。私は別に君らが山で野垂れ死にしようが取り殺されようがどうでもいいんだよ。けどね、犠牲者はできるだけ減らしたいわけ。だからこうして、君らに忠告してるんだけど…命を投げ捨てるものだと考えてるなら、行ってもいいよ。何が起きても、私知らないけど」

 

つまり、「山に入ってもいいが、そこから先どうなっても責任は持てない」ということのようだ。

 

「じ、じゃあ、やめておきます…」

 

ハルのあの剣幕を見た後では、行くとはとても言えなかった。

そして、すっかり興が醒めてしまい、そのまま米花町に戻ることになった。

 

 

××××

 

 

オリ主サイド

 

ハーイ(ヘー〇ル君風)。転生者です。

意味わからない?うん、私もさっぱりわかりません。

 

まず、最初の私が生まれたのは平成の日本。見た目も中身も今と一緒。立派な雑食のオタクだった。

父が某奪還者や某連邦の白い悪魔やらを見て育ったエンジニアで、母は某魔女っ子とか某花の子とかを見て育った貴腐人。受け継がれるオタクの系譜と言っていいだろう。父なんてロボット物が好きすぎてエンジニアになったんだからな。私の覚醒は、母が持ってた某常春の国の漫画だったか…。

 

ところがある時、信号が変わるのを待ってたら、信号無視の原付バイクに突っ込まれ、気づいたら知らない場所にいた。

 

あれ?ここどこ?というか私さっきぶつかったよね??と、めちゃくちゃ混乱していたら、目の前に見知らぬ人物が現れた。

 

「ごめん、マジごめん。こんなテンプレなミスするとか思わなかった」

 

そう言ったその人物は、転生物でよく見るいかにも神でございと言わんばかりの見た目の白いおひげのじいちゃんとかではなく、白髪の美少女だった。

彼女は、『管理人』と名乗った。

 

彼女はその名の通り、時折現れる『世界の枠を飛び越えた転生者』を管理するための存在であるらしい。彼女が言うには、私が元居た世界にもそういう転生者がいた。ところが、その転生者は、前世の記憶というアドバンテージを利用して、やりたいようにやっていた。それだけならまだよかったが、国際的な犯罪組織まで作り上げ、なんと国の乗っ取りを目指していたのだという。どんな世界から転生してきたんだそいつは。

で、これはまずいと思った彼女は、そいつを排除するために手下的なものを送り込み、殺害しようとした。それがあの原付。

 

しかし、本当ならそいつだけをピンポイントで殺すはずが、うっかり私という無関係な人間まで巻き込んでしまった。そのうえ、彼女の手下という超常存在と直に接触してしまったことにより、『運命力』というものが付け足されてしまった。これは通常、人間が生きる上で使うもので、一生をきちんと生きれば使い切られるらしい。だが、稀に超常存在(神様とか)に接触すると、足されてしまう場合がある。そして、この運命力が死亡した時点で多すぎると、全く異なる世界に転生してしまう、らしい。

ただでさえ、若くして死んだせいで通常よりも多かったのに、さらに追加されたせいで、私自身も異世界に転生してしまったのだという。

 

彼女自身は異世界や平行世界への移動も普通に可能だが、他人を異世界などに送ることはできない。苦肉の策として、彼女は私に様々な特典をくっつけた。

 

まず、本来ならば赤ん坊からやり直しになるはずだったのだが、弾き飛ばされて異世界へ放り込まれた私の魂を転生前に探し出して、元の自分と全く同じ姿かたちで年齢と声だけが異なる(前は三十路だったが、15くらいになってた。声は、声帯の再現が難しかったためとのこと)肉体を用意し、そこに魂を突っ込むことですぐに行動できるようにしてくれた。

次に、転生先が戦国BASARAの世界ということで(教えてもらったときめっちゃびっくりした、箱推しだけど最推しは濃姫様)、自衛程度の婆娑羅を使えるようにしてくれた。ちなみに闇。

そして、路銀や衣服、日持ちのする食料なども用意してくれた。

 

向こうの世界に未練がなかったわけではないが、戻る手段がないなら仕方ないということで、なんかもういろいろ吹っ切れて婆娑羅の試し打ち(?)をしてみたところ、少々問題が発覚した。

 

管理人が私に用意してくれた婆娑羅は、『目にまつわる能力を持った蛇を呼び出し自分に取りつかせる』というものだったのだ。

 

なるほどカゲプロじゃねえか!!!(机ダァン)

うん、好きだよカゲプロ。書籍版は軽く読んだ程度だけど、曲は好きですよ。でもさ…だからってこれは…。

 

できればもうちょっと戦闘に使える能力のほうが心強かったな、と思いつつ、旅をすること数か月。

尾張の辺りへ差し掛かった時、強盗(?)に襲われやむなく婆娑羅を使って逃げたのだが、運がいいのか悪いのか、それを明智様に見られていた。

それで、まあ、面白がった明智様に拉致られまして、いろいろとお話して(だいたいのことは『知らない』と『わからない』でごり押した)、「あてもない一人旅をしている身寄りのない女の子」であると納得させた。嘘は言っていない、嘘は。真実を少し隠しただけだ。

…そしたら、「女性の一人旅は大変でしょう」とか言われて織田軍で働く羽目になりました。断言しよう、あの時の明智様の目は、完璧に「下校中に変わった虫見つけた男子小学生の目」だったと。

 

最初は、生まれが分からないということもあり、炊事などを担当する下女中だったが、功績が認められたのか、はたまた婆娑羅を加味されたのか、最終的に濃姫様付きの侍女にまで昇格した。うむ、私超がんばった。

 

4以降に出てくるキャラもいたが、流れとしては3のそれに近かった。屋敷で本能寺の変のことを知り、ほかの女中や侍女たちと違って帰るあても次の勤め先のつてもなかった私は、とりあえず居場所がはっきりしているおひい様(お市様)のところへ行くことにした。浅井が滅亡していても、おひい様が生きていれば、きっと小谷城跡に戻るだろうと思っていたから。

 

尾張から金ヶ崎へ行くのは少々つらかったが、どうにかたどり着いた。

おひい様に会ったことは、なくもなかった。まさか、濃姫様の侍女の1人に過ぎない女を覚えてくださっていたとは、思いもしなかったけど。

それでも、名前はわからなかったらしくて、「黒蛇さん」と呼ばれた。

 

おひい様が生きる意味を見つけたそのあとは、天海様を探しに来た金吾さんに見つけられて、そのまま小早川軍で女中をやって一生を終えた。

 

そして転生である。もう訳が分からない。

記憶を取り戻すと同時に現れた管理人いわく、特典付与するときに若干追加された運命力と、第六天魔王の強烈な妖気が相乗効果を起こした結果らしい。私だけでなくキャラ達まで転生したのがその証拠、とのこと。

 

普通の世界に転生したなら、それでもよかった。

よりによって…名探偵コナンの世界に転生していたのだ、私たちは。

しかも、夜廻シリーズ&マギアレコードとクロスオーバーした状態の。

 

盛りすぎだろう(白目)。

知らない人のために行っておくと、コナンは人がバンバン死にまくる推理物漫画、夜廻は女の子が夜の町を探索するホラーゲーム、マギアレコードは魔法少女まどか☆マギカというハートフルボッコ魔法少女アニメが原作のソシャゲだ。

 

この3つが混ざって悪魔合体とかどこの誰が得するんだよおおおおおおおおおお!!!!!!

 

唯一の救いは、マギアレコード要素が「ウワサ」だけなこと。キュゥべえが居たら危なかった。

ウワサというのはマギアレコードの敵キャラの一種で、文字通りささやかれているうわさ通りのことをする。マギアレコードではある魔法少女によって生み出された存在だったが、こちら側では単にうわさが具現化しただけのものである模様。

 

ちなみに、今回の私は夜廻の続編である深夜廻の主人公、ハルのはとこであり、一緒に住んでいる。

 

ハルは、深夜廻のエンディング後に別の町へ引っ越す。けれど、この時空だと、引っ越した直後、ハルの両親が交通事故で死んでしまった。単なる事故だったのか、それとも深夜廻ラスボスの仕業だったのか、私にはわからないが。

 

そうなると、困るのがハルの処遇である。

 

今の私の祖母(事情があって私を引き取った。今の私の父のお母さん。今から10か月ほど前に逝去)がハルをかわいがっていて、できればうちで引き取りたいと言っていたため、お葬式に私たちも参列した。

そこで目にしたのは、想像していた通りの、親戚による押し付け合い。

うちにそんな余裕はない、犬まで引き取れない、というところから始まって、徐々にエスカレートしていき、変なものを集めてばかりいるらしい、ハサミなんて持ち歩いている、左手がなくて気味が悪い、という風にハルへの批判へと変わっていった。

 

最終的に、誰かが「両親と一緒に死ねばよかった」と言ったその瞬間、それまで黙っていた祖母が思い切り机をたたいた。

 

驚きこちらを向く人々に向かって、祖母は凛とした声で、「私が引き取ります」と言った。普段はおっとりと優しい祖母が、ここまで強気になったのは、後にも先にもこの時だけである。

そんなことがあり、ハルを引き取ったのが去年のこと。

この町にもだいぶ慣れたようだし、それなりに楽しく日々を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この町が、夜廻の町の隣町でなきゃ、もっとよかったんだけどな。




オリ主
名前は「花ノ木あやめ」。18歳。
12年前、ある人物を探して夜廻な体験をする。体のいたるところに包帯を巻いているのはそのため。
手先がかなり器用で、化粧や物作りがうまい。
ヘアゴムは濃姫からもらったもの。
祖母に迷惑をかけたくなかったため、大学には行っていない。かつては祖母の農作業を手伝っていたが、今は内職とバイト、あと余裕があるときの同人販売で稼いでいる。ペンネームは「黒蛇系女子」。
雑食のオタク。ダメ絶対音感の持ち主。
現在の体は管理人が用意した体と同じスペックになっているため、声が最初の彼女と異なり、cv浅川悠。管理人が狙ってこの声にしたわけではなく、偶然の産物である。
着物は休日にはよく着ている。祖母の物が多い。
身内以外には割と辛辣。たまに身内にも辛辣になる。

バサラ町
あやめとハルが住んでいる町。夜廻の舞台の町の隣町。ほぼ毎年必ず行方不明者が出ている。
深夜廻の町 夜廻の町 バサラ町 という風に並んでいる。
山の神社に疫病神が封じられており、町中に神社や地蔵がある。かつて、あやめはこの疫病神と取引をし、ある物を代償にある人物を取り戻した。その結果、包帯を巻いて過ごすようになった。

手児奈神社
町の片隅にひっそりと存在する、誰もいない神社。町の人からはそれなりに親しまれており、町内会の人たちが手入れなどをしている。厄除けのご利益がある。ご祭神は手児奈様と呼ばれる氏神。それ以外は全く文献が残っていない。
なお、町の反対側には、夢見神社という大きな桜が植えられた神社が存在する。

ウワサ
バサラ町のうわさが具現化したもの。
元々、うわさが広がりやすい傾向のあるバサラ町ならではの怪異。
12年前、ほとんどのウワサをあやめが撲滅したが、うわさまで消えるわけではなく、またバサラ町の風土の関係で、放っておくといつの間にか復活している。
復活したら、またあやめが物理で殴りに行く。

婆娑羅者たちは、やや劣化してはいるものの、婆娑羅を使用可能。
ただし、あやめの物は劣化する余地がないためそのまま。

あやめが呼び出す蛇は若干能力が変化していることがある。
例えば、目が冴える蛇(本来の能力は『願いをかなえる』)がかなえられる願いは「宝くじで4等が当たる」程度の微妙な願いのみだし、目を醒ます蛇(本来の能力は『自分の望み通りに肉体を作り替える』)はほんの一瞬火事場の馬鹿力を発揮する程度の力しか持たない。あやめはこの微妙な力を利用する手段をかなり頑張って模索した結果、「首の皮一枚つながればよし」という結論に至ってしまった。

蛇は1匹1匹色や大きさが異なり、自我を持つ。あやめは彼らにカゲプロでの宿主たちの名前を付けて呼び分けている。
しかし、宿主たちに似ているわけではない。管理人が彼女の力で再現した複製品であるため、彼女が知り合った人物たちの人格モデルが搭載されている。


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2話 婆娑羅&夜廻女子会 in ポアロ

安室サイド

 

「…っていうことがあったんだ」

「バサラ町のことは聞いたことがあるけど、山頂の神社のことは知らなかったな。地元の人間だっていうのは、間違いないんじゃない?」

「そうかもしれないけど、ただそれだけにしてはずいぶんきつい警告だったなって」

「神道の考え方に沿うなら、間違いでもないと思うよ。ほら、触らぬ神に祟りなしっていうだろう?悪いものを祀っている神社っていうのは、鎮めるための神社なんだ。うかつに近寄ると、ご利益どころか害になることもある。その子が神道を厚く信仰していたなら、本気で心配して忠告したんじゃないかな」

「安室さん、詳しいね」

「初詣のルールとか調べてたら、同じサイトに『参拝してはいけない神社特集』っていうのが載ってたんだ」

「ふーん」

 

それだけ言って、パイを食べ進めるコナン君。

 

バサラ町で毎年行方不明事件が起きるというのは、僕も以前聞いたことがある。公安に入ったばかりの頃、休憩時間に自分たちの地元の話になって、バサラ町出身の同僚に聞かされたのだったか。ずいぶん物騒な町だなと言ったら、行方不明を殺人に置き換えれば米花町になると反論された。否定できないのが悔しかった。

その後なんとなく気になって調べてみたら、バサラ町の隣町のほうが件数が多かった。さらにその隣町に至っては、町に面している山が自殺の名所。もはや呪われているんじゃないだろうかと思った。なるほど、あの町で起きる行方不明事件が神隠しとか言われるわけだ。

 

カランと、ドアベルの音が鳴った。顔を上げると、4人の人物が入ってくるのが見えた。

 

「いらっしゃいませ」

「4人よ」

 

そう言った、先頭の女性に、見覚えがあった。

つややかな黒髪を綺麗にまとめてかんざしを挿し、白いTシャツの上から黒地にオレンジの蝶の模様の上着を羽織り、赤いロングスカートをはいたその女性。目が切れ長でつり目であるため、気の強そうな印象を受ける。ずいぶんとカジュアルな格好をしてはいるが、この女性は間違いなく、自分が思い浮かべている人物だ。あそこまで強烈な印象を持つ人物を、見間違えるわけがない。

織田財閥会長夫人、織田帰蝶。

何故、ここに…?

 

そんな動揺はおくびにも出さず、4人を席に案内する。1人は夫人と同じくらいの年で、残りの2人は、おそらく未成年と思われる少女だった。

 

もう1人の女性は、焦げ茶の髪を肩にかかる程度のところで切りそろえ、赤いリボンでハーフアップにしている。切れ長の目は、髪と同じ焦げ茶色。すらりと背が高く、白から黒へのグラデーションのタートルネックワンピースの上から黒いパーカーを着ている。その色合いのせいか、なんとなく、タンチョウヅルを連想させられた。

 

少女の1人は、18歳ほどの少女。黒い巻き毛を紫色のリボンでまとめている。夫人と同じ黒髪黒目であるものの、こちらはたれ目であるためか、柔和な印象だ。薄ピンクのタートルネックにベージュのロングスカートという取り合わせも、その印象を強めている。ベルモットのような派手な美人ではなく、野に咲く花のような人、という言葉がよく似合う美人。そのためか、ひどく影が薄い。赤い眼鏡と、金色のリングのペンダントが目立っている。

 

もう1人は、どう見ても小学生。3年生くらいだろうか。三つ編みにした髪は枯草色で、黒い目をしている。大きな青いリボンを頭につけており、スカートもそれに合わせたらしき青。白いブラウスを着ている。背負ったウサギのナップザックの耳の部分に、赤いリボンが巻いてあってかわいらしい。事故か何かに巻き込まれたのか、左手がないのが見ていて痛々しかった。

 

案内を終えてカウンターの内側に戻ると、コナン君が小声で話しかけてきた。

 

「安室さん、さっき言ったのあの人だよ」

「え?」

「あの、ピンク色のタートルネックの人。リボンの女の子も」

「本当かい?でも、君の話通りなら」

 

コナン君が出会った巻き毛の少女は、顔の左側に、包帯を巻いていた。つまり、顔の左側は、怪我かあざでもあるはずなのだが。

 

「メイクか何かで隠したとか?」

「あ、そっか」

 

なるほど、とつぶやいたのち、コナン君はこう続けた。

 

「ねえ、一緒にいるあのかんざしの人って…」

「僕の記憶が正しければ、織田財閥の会長夫人だね」

「なんで、そんな人と一緒に…?」

 

うーん、と考え込むコナン君。

あそこの会長は、確かにバサラ町の出身ではある。だが、ただの一般人の少女と知り合いだとは考えにくい。

いったい、どういう関係だ…?

 

 

××××

 

 

あやめサイド

 

何故私はポアロにいるんだ(絶望)。

どうも皆さんこんにちは、転生者ことあやめです。

濃姫様とそのご友人の女子会に誘われて、休日だからとハルもつれてきた(昼間といえども、さすがに家でチャコと一緒にお留守番、という気にはなれなかった。チャコは神社住まいの知人に頼んで留守の間だけ面倒を見てもらうことに)ら、会場がまさかのポアロ(安室さん&コナン君アリ)だった件について。

 

「…お姉ちゃん、あの子って」

「前にうちに来た子だね、この辺の子だったから見ない顔だったわけだ」

 

濃姫様は友人様の右隣に座り、私はハルの左隣に座る。

え?ご友人って誰だって?

 

ご友人は保子様とおっしゃる。旧姓広橋。はい、歴史好きの皆様の中で、心当たりのある人挙手。

そう…乱世の梟雄・松永久秀様の後妻、広橋保子様にございます。あ、今は松永姓ね。

この方は転生者ではないが、うん、その、ね?あのチャッカマンおじさんの奥方様で、それなりに夫婦仲よかったわけだから…中身はお察し。夫同士が仲いいためか、濃姫様と保子様もそれなりに仲がいい。

 

注文を終えて、まず話し出したのは、保子様。

 

「それにしても、君本当に化粧が上手だね」

 

まさか自分に向けられるとは思わなかった。

 

「ええ、まあ」

「そうね、自慢の侍女よ」

 

ふふ、と笑う濃姫様の顔は、わずかに悲しげだ。この顔のこと、そんなに気にしてくださらなくても…。

 

「ああ、鷺山殿、そんな顔をしないでおくれ。君は笑っているほうが綺麗だ」

「あなたねえ、人妻を口説くのはどうかと思うわよ」

 

やや呆れ気味な顔をして、濃姫様が言った。

保子様は、こんな感じで、中性的な口調で話す。きりっとしたクールな顔立ちや、170㎝強の身長もあって、宝塚の男役のお姉様のような雰囲気。これが、松永様の前に行くと、若干雰囲気と表情と言動が柔らかくなるのだから不思議なものだ。

 

「私としては、口説いているつもりはないんだけどね」

「自然体で口説いてしまうのが問題なのよ」

 

あと、キザったらしいセリフ言って違和感のないその見た目も問題です。

 

「まあ、確かに、久々に会えたのに辛気臭い顔じゃあいけないわね」

「そうですね」

 

濃姫様の地位が地位だから、なかなか都合がつかないのである。いっそ自分も財閥に勤めてしまおうかとも思ったのだが、濃姫様に「光秀に見つかっておもちゃ扱いされるのがオチだからやめておきなさい」と何度も忠告され、心が折れた。嫌いでは、ないんです。苦手なんです。申し訳のうございます明智様。

 

「お姉さん、バサラ町の人じゃなかったの?」

 

おっと、コナン君が来たぞ~?頼むから余計なこと言わないでくれよマジで。濃姫様はともかく、保子様は地雷の位置と総数を把握しきれてないんだから。

 

「知り合いかい?」

「いえ、ちょっと前にいろいろあってちょっと話しただけです」

 

さすがに「自分の家が幽霊屋敷呼ばわりされてたんです」とは恥ずかしくて言えなかった。

 

「坊や、いきなり他人に話しかけるものではなくてよ」

「だってー、気になっちゃったんだもん!前に会ったとき、眼鏡かけてなかったし、顔半分に包帯巻いてたし」

 

おいやめろ。奥で安室さんが聞き耳立ててるのが見える。注視されると目を隠す蛇の力使えないんだぞ。行き先がポアロだって聞いたからずっと発動してたってのに。

 

「たまたまこっちに来ただけで、バサラ町の住人だよ。この眼鏡は単なるおしゃれ」

 

希望に合致する伊達眼鏡を探すのは、なかなか大変だった。

今回の格好、実はコスプレ。と言っても、この世界には存在しないキャラクターだけれど。

この、管理人がうまく声帯を再現できなかったことによる副産物の、無駄な浅川ボイス。これに合わせて、ボカロのルカさんのモジュール(衣装)の1つ、「ゆるふわコーデ」を再現して着てきたのである。これ普通に普段使いできる。昔懐かしの足踏みミシン(これしか母屋になかった、今思うと離れに電動ミシンがあったんだからあれ使えばよかった)でこれを作り上げた私を誰か褒めろ。技術のあるオタクを甘く見てはいけない。

 

「それで、包帯はね」

 

牽制も込めて、ほんの少しだけ見せることにした。

左袖をまくり上げ、左腕に巻いた包帯をほどいていく。

包帯を巻いている=デリケートな事情がある、ってことくらい、ちゃんと覚えておこうね。

 

 

××××

 

 

コナンサイド

 

オレは、自分の軽率な発言を、大いに後悔した。

包帯がほどけて出てきた腕。…おそらく、昔、大きな怪我か病気でもしたのだろう。皮膚が引きつれて、酷いことになっていた。

 

「今日はごまかしてきたけど、これと同じのが顔にもあるって思って」

 

彼女はそう言って笑うと、包帯を巻きなおし、ちょうど運ばれてきたアイスティーに手を付けた。




松永(広橋)保子
歳は聞いてはいけない。
戦国爆弾魔の2番目の嫁。お互いバツイチ。
クール系美女。よそ様に愛想がよくて旦那にはそっけない…と思われがちだが、実のところ、旦那にメロメロである。切り替えがうまい。
属性は風で、武器はでかい筆。肩書は「仙渓素娥」、書き文字は「臨場」。
なお、今生の松永様は爆処の班長である。

野の花にたとえられたオリ主
しかしその実態はコンクリぶち破って花を咲かせるド根性タンポポ(生命力的な意味で)。
能力使用中は、それぞれの蛇が様々なものに変化して体のどこかにくっついている。今回はリボン。

オリ主の上司な濃姫様
ちょっと見ないうちに私の侍女の化粧の腕が上がってる気がする。

深夜廻少女
今回は空気。

藪をつついてマムシの侍女を出した小さい探偵
やらかした…。

一部始終を目撃した店員
何してるんだコナン君。


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3話 夜廻少女のウワサ

アラもう聞いた?誰から聞いた?

夜廻少女のそのウワサ

 

家族に、友達、大事なあの人

探して夜をずーっと廻る、とってもカワイイ夜廻少女

 

小石をころころ、転がして

紙飛行機をビューンと飛ばし

雨にも負けず風にも負けず、オバケにも負けずに歩き続けるケナゲな子!

 

でもでも、どうか気を付けて

あんまりケナゲでカワイイから、神様が気に入って取りついちゃった!?

神様ってば、張り切りすぎて、近寄る相手には容赦ナシ!

 

会ったが最後、オバケじゃなくてもサクッとやられちゃうって

バサラ町の学生たちの間ではもっぱらのウワサ

 

ワタシニンゲンー!

 

 

××××

 

 

あやめサイド

 

「…ってうわさを聞いたんだけど、これ私かな」

「たぶん」

「やっぱりかー…うわあ…」

 

現在地、我が家の母屋の座敷。

この場にいるのは、私、ハル、こともちゃん。

夜廻ガールズ大集合。

 

「別に神様に取りつかれたわけじゃないんだけどなあ」

 

一応、心当たりは、ある。

いつだったか覚えていないが、いつものように夜のパトロールをしていた時のこと。

復活したミザリーリュトンのウワサを、町中歩き回ってようやく仕留めたはいいものの、疲れといら立ちで正常な判断ができなくなっていた私は…うっかり、真後ろにいた男性に、後ろ回し蹴りを決めてしまったのである。

大方、路地裏に入っていく私を心配したか、やましい目で見たかのどちらかだろう。焦ってとりあえず目が冴える蛇の力で目を隠す蛇の力を拡張し、ウワサに関する記憶を目を隠す蛇の力で隠してはおいた。でも、私を見つけた記憶を隠し忘れていた。

あの人に中途半端にウワサの記憶が残ってしまっていたのなら、あんなうわさが出回ったのにも説明はつく。

 

「やっちゃったなあ…」

 

 

××××

 

 

ハルサイド

 

どうしよう。

あのうわさは…私のせいかもしれない。

 

お姉ちゃんが心配するから、最近はあんまり夜中に外へ出ることはなくなった。

でも、たまに、夜に歩きたくなることがあって、この間、チャコを連れて外に出た。お姉ちゃんは疲れて眠ってたから、多分知らないけど。

 

歩いていたら、ゴミ捨て場の中で何かが光っているのを見つけて、気になって近寄った。

そうしたら、それは、時々台所とかに出る、私もお姉ちゃんも大嫌いな、お姉ちゃんが絶対に名前を呼ぼうとしない虫の大群で。

怖くなって逃げたら、後ろで虫が飛ぶ音がした。

 

それで、うっかり、叫んでしまったのだ。「もういやだ!」と。

 

そのあとは、うん。お姉ちゃんが藁人形の作り方を教えてくれてなかったら、たぶんすごく危なかった。

 

もしそれを、誰かに見られてたなら。

うわさになったのは、私なのかもしれない…。

 

 

××××

 

 

こともサイド

 

どうしよう…心当たりがある。

 

確か、あれは、1週間くらい前。よまわりさんにつかまった子がいないかどうか、工場に確認に行ったんだっけ。

 

歩いていくのは大変だから、お地蔵さまに頼んで移動させてもらって、工場をぐるっと回って誰もいないのを確かめて、帰ろうとした。

そしたら、よまわりさんに見つかって、コンテナに隠れながら走って逃げた。

逃げて逃げて、ようやく工場を出たころには、日付が変わっていた。

 

早く帰らないと、と思って走っていたら、後ろで男の人の声がした。振り向いたら、男の人がよまわりさんに追いかけられていた。よまわりさんは優しいお化けだから、あの人は悪い人だったのかもしれない。

 

男の人が無事だったら、あんな感じのうわさを流しても、おかしくないのかも…。




蛇の女王なオリ主
能力の拡張程度なら、劣化した目が冴える蛇でもなんとかなる。
夜を廻る理由は、本人曰くパトロールだが、実質ウワサを利用した肩慣らし。物理で殴って解決する系少女。

縁切りの神様に愛されてる二代目夜廻少女
ネズミが大丈夫でもさすがにゴキは無理だった。
時たま、夜廻したくなる。
うっかり「もういやだ」と言っちゃったときのために、あやめが折り紙のやっこさんや形代や藁人形の作り方を教え込んだ。ついでに持たせた。ただ、さすがにあやめも、コトワリ様が隣町の隣町まで出張してくるとは本気では思ってなかった。道具で何とかする系少女。

ムカデ様の巫女になった伝説の幼兵
よまわりさん、近所のやばいのとお隣さんのやばいのから子供を守るべく、パトロール強化中。
最近は夜中に1人で歩く子も増えてきたので、定期的に工場を見に行っている。隠れスポットと足で逃げる系少女。

夜廻少女のウワサ
3人の目撃情報が混ざって爆誕したうわさ。


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4話 万年桜と天才少女

☆3評価をしてくださったギフラーさん、ありがとうございます!


哀サイド

 

「…ここね」

 

そう呟いた私の目の前には、大きな鳥居がある。

 

以前、この町…バサラ町に来た時、少し気になったことがあったのだ。

この町、お地蔵様と神社が多い。

何しろ地図を広げて目についただけでも神社が4つ、歩いて見つけたお地蔵様は5つ。六地蔵のように固まっておいてあるわけでもないのに、少し歩くだけで見つかるのだ。そんなに大きくない町だというのに。

 

幽霊屋敷で出会った彼女が言ったこともあり、気になってしまって調べてみたところ、ある神社を見つけた。

夢見神社。ご祭神はコノハナノサクヤビメとされているけれど、真偽は不明。本来は氏神をまつる神社だったのが、桜という共通点があるから、途中でコノハナノサクヤビメと混ざったのだろうと言われているらしい。夢見なんてかわいい名前がついているなと思ったら、どうやら桜のことらしい。

どんな神社なんだろう、と思ってそのページ(観光サイト)を読み進め、ご利益の欄を見た瞬間に、手が止まった。

 

会いたい誰かに会わせてくれる。それが、夢見神社の御利益だった。

 

縁結びとはまた違うようで、この神社は再会に特化しているらしい。口コミの部分には、「長いこと会えなかった旧友と会えた」、「家出していた兄が戻ってきた」、果ては「死んだ祖母が夢枕に立って、たくさん話ができた」というものまであった。

 

神や仏を信じるような性質では、ないけど。

少しだけ、縋りたくなってしまったのだ。

 

鳥居をくぐると、たくさんの桜が出迎えてくれた。

半分葉桜になりかけている、はっきりしたピンク色の物や、同じような色合いだけれど大輪で、まだ葉が出てきていないもの、赤に近いピンクの物、つぼみが膨らみだしているものなど様々だ。ひときわ大きなものには柵が設けられていて、説明文が書かれた立て看板が設置されている。

 

「こんにちは」

「!?」

 

突然、背後から声をかけられた。

振り向くと、そこには1人の少女が立っていた。

 

桜みたいな白い髪に、濃いピンクの瞳。頭に動物の耳のような飾りをつけていて、白いワンピースを着ている。とても綺麗だ。

 

「参拝に来たの?」

「え、ええ…そうなの」

「そう。絵馬も買う?」

「そのつもりだけど…」

 

私がそういうと、少女は笑ってこう言った。

 

「そんなに警戒しなくていいよ、私はここの住人だから」

「住人?」

 

巫女、とかではなく、住人。どういうことだろう。

 

彼女の話によると、彼女の名前は「柊桜子」。元々はこの神社の神主の家の分家であり、本家が絶えた後、いろいろあってこちらに移住してきたとのこと。ただ住んでいるだけだから巫女ではないが、何もしないのはさすがにまずいということで巫女替わりをしている…らしい。

絵馬持ってくるからちょっと待ってて、と言ってどこかへ駆けていく彼女を見送った後、手水舎に向かって手水を使い、賽銭箱の前へ。

 

鈴を鳴らして、5円玉を賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼。お姉ちゃんに会えますように、と念じるのも忘れずに。

そこまで終わらせると、桜子が帰ってきた。

 

「はい、絵馬。500円ね」

 

そういって桜子が差し出したのは、かわいらしい桜の形の絵馬。

500円払って絵馬を受け取り、書くためのスペースへ移動する。テーブルの上に置かれたペンで、「お姉ちゃんに会えますように」と書き込んで、奉納。

 

帰ろうとした、その時。

 

「桜~」

 

聞き覚えのある声がして、そちらを見ると。

そこには、幽霊と勘違いされた、あの少女がいた。

 

 

××××

 

 

あやめサイド

 

なんでここに哀ちゃんがいるんや。

 

「…あなたは」

「また会ったね」

 

怪しまれないように、必要以上の接触は避ける。大して親しくもないのだ、これくらいで十分だろう。

 

「あやめ、遊びに来たの?」

「うん」

 

桜こと、桜子とは、割と仲がいい。協力関係、と言ったほうが近いかもしれないが。

 

「じゃあ、こっちに」

 

さて、やりますか。

今日は、マチビト馬のウワサにでもしてもらおうかな…




さみしくなった天才少女
…あの人、着物以外も着てるのね。
ご利益があったかどうかはまた別のお話。

柊桜子
万年桜のウワサ。
その正体は、夢見神社のご神木にしてご神体、万年桜。バサラ町であればどこにでも目が届き、そのすべてを記録している。
神主の家系が途絶えたことに危機感を感じ、この姿で顕現。今の名前はあやめがつけた。

ちょい役オリ主
時々、桜子に頼んで、記録したウワサを再現してもらい、修行していたりする。
得物はバールと鉄パイプ。


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5話 発覚する事実と加速する疑惑

副題・明智夫婦尊い&織田は美形の家系 天女を添えて

☆9評価をしてくださった白結雪羽さん、ありがとうございます!


コナンサイド

 

ポアロにて。

オレの正面、蘭の右隣に座っていた園子が、客の1人を見て言った。

 

「ねえちょっと、あの人超かっこよくない!?」

「ちょ、園子、声大きいわよ…」

 

言いつつ、園子が指さすほうを見る蘭。俺もそちらを向くと、4人掛けの席に、2人の人物が向かい合って座っていた。

 

片方は、白髪でロングヘアの青年。前髪と後ろ髪を同じくらいの長さに伸ばしていて、右目を隠している。露出した左目は切れ長で、どこか蛇を連想させられる。整った顔立ちだが、特徴がジンに似通っているせいか、いささか恐ろしいというか、胡散臭いというか。

黒いジャケットに白いシャツ、黒いジーンズという格好のため、体、特に手足の細長さが際立っていて、それが一層蛇のような印象に拍車をかけている。

 

もう片方は女性。こちらは黒い髪に、ぱっちりとした焦げ茶の目。青年同様、髪は長く、それをキキョウらしき花の飾りがついたヘアゴムでポニーテールにしている。美しいというより、かわいらしいという言葉がふさわしいだろう。

着ているのは、水色の地にキキョウの柄のワンピース。その上から空色のパーカーを着ているから、爽やかな印象だ。

 

最初は、カップルか?とも思ったが、よく見ると左手の薬指に指輪が見える。どうやら、夫婦のようだ。

 

「うわ~、美男美女…」

「旦那さんのほうもかっこいいけど、奥さんのほうもキレイ…でも、なんで4人掛けなのかしら?」

「あとから誰か来るんじゃない?ダブルデートとか」

「あー、ありそう」

 

そんな風に話をされているとはいざ知らず、男女は楽しげに談笑している。

 

カラン、とドアベルが鳴って、入ってきた人物を見て、女性のほうが手を振った。蘭と園子が、わあ、と小さく声を上げる。オレは、ちょうどドアに背を向ける姿勢をとっているため、オレからはその人物が見えない。

 

トコトコと靴音を鳴らし、女性の横の席に座ったその人を見て、驚愕した。

以前出会った、バサラ町在住の少女だった。

 

今日は、包帯を巻く代わりにアゲハチョウの飾りで左側を覆って隠している。大きく襟ぐりが開いたフリル付きの白いブラウスに、一つだけ石がついたペンダント、いくつも布が重なったデザインの花柄プリントのスカート、というなんとも春らしい格好だ。

 

「お待たせしましたか?」

「ううん、そうでもないよ」

 

彼女は、どうやら夫婦とは親しいらしい。

 

「あれ、まだいらしていないんですね」

「ええ。大方、信長公にでも足止めをくらっているのでしょう」

「…あり得ますね」

 

そういって彼女が苦笑すると同時に、またしてもドアベルの音。

彼女はドアのほうを一瞥すると、興味なさそうに手元のスマートフォンに目を落とした。待ち人ではなかったようだ。

代わりに、蘭が眉をひそめ、園子が「げっ」と小さくつぶやいた。いったい誰が来たのかと思っていたら、幼いころから慣れ親しんだ、そして今一番聞きたくない人物の声が聞こえた。

 

「安室さんっ」

 

自分の眉間にしわが寄るのが分かった。

そこにいたのは、ふんわりした茶髪を長く伸ばしてツインテールにし、フリフリヒラヒラなピンクのワンピースを着た、砂糖菓子のようにかわいらしい美少女…なのだが言葉を発するたびに玉を転がすような声にもかかわらずイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちていくオレの幼馴染、寺田百合子だった。

 

オレと百合子は家が近く、小さい頃はよく遊んだ。だが、成長するにつれて、面食いで男好きな本性が見えてくるようになり、さらに中学の時に蘭を階段から突き落とそうとしている現場に遭遇したため、ほとんど絶縁状態が続いている。それ以降も引っ付いてきたのだが、最近は安室さんや沖矢さんに言い寄っているようで、よく苦情を聞く。「ちっちゃいころの新一に似ててカワイイ」とか言ってオレにも絡んでくる、バレていないことを祈ろう。

 

安室さんもあいつには辟易しているらしく、一瞬表情が険しくなった。すぐに営業スマイルを張り付け何事もなかったかのように接客するその姿は、プロと呼んでいいだろう。

 

百合子が着席し、さらに安室さんに何かを言おうとした、その時。

 

カウンターの席で、悲鳴が上がった。

 

 

××××

 

 

安室サイド

 

被害者の名前は、妹尾美代子。死因はアイスティーに入っていたトリカブトによる毒殺。ポアロの常連客で、1人で来ていた。

容疑者は、アイスティーを作って運んだ僕と、隣の席に座っていた相沢優奈さんと、小林和香さん。相沢さんは同じく常連客であり、悲鳴を上げた張本人。以前妹尾さんと口論になったことがある。小林さんは、昔妹尾さんと同じ会社に勤めていたそうだ。

 

蘭さんの迅速な通報により駆け付けた目暮警部が、状況を整理し、僕に言った。

 

「こうなると、最も疑わしいのがあなたになるわけですが…」

「ちょっとアンタ!!安室さんが殺人なんてするわけないでしょ!?」

 

そう叫んだのは、最近やけに絡んでくる、蘭さんの知人の寺田さん。捜査の邪魔をしないでほしい。

 

「お嬢さん、私はその可能性があると言っただけであって」

「安室さんを疑ったりするなんて!!!」

「百合子姉ちゃん落ち着きなよ…」

 

見かねたようにコナン君がそういうと、寺田さんは一瞬で機嫌を直して、今度はコナン君に絡みだす。頼む、コナン君。この事件が解決するまで耐えてくれ。

 

「あの、すみません」

 

目暮警部に、誰かが話しかける。見ると、いつぞやコナン君が地雷を踏み抜いてしまった少女で、手にはスマホを持っていた。

 

「どうしました?」

「実は、資料にしたくて、これで店内を録画してたんです。何か映ってるかもしれないので、見ていただけますか」

「なんですと!?」

 

驚く目暮警部の前で、少女は動画を再生した。僕も後ろから見させてもらう。

動画は、店内をぐるりと映した後、相沢さんの悲鳴でもう一度カウンターを映して終わっている。

 

「ふむ、これと言っておかしなところは…」

「ねえねえ、ボクも見せてもらっていい?」

 

そう言ったのは、コナン君。君まだ懲りてないのか。

彼女は気にした様子もなく、もう一度再生する。

 

「あれれ~?小林さんが頼んだのって、ストレートのアイスティーだよね?なんで、ここでガムシロップ持ってるの?運ばれてきた時、ガムシロップはなかったよね?」

「!?そ、それは妹尾さんのを拾ったからよ、ほら、渡してるじゃない」

 

動画には、確かに妹尾さんが気づかずに落としたガムシロップを小林さんが拾い、妹尾さんに差し出す場面が映っている。

 

「なら、どうして右手で拾って左手で渡しているんです?あなたは妹尾さんの左隣に座っていたのですから、そのまま右手で渡せばいいでしょうに」

「それは…」

 

つぶやく小林さんの右手の袖から、ガムシロップが転げ落ちた。

 

「あ!」

 

小林さんよりも先に、コナン君が拾い上げた。

 

「これって、ポアロで使ってるやつだよね?」

「~~~!!!こうなったら…!」

 

 

そう叫ぶや否や、小林さんはカバンの中からナイフを取り出し…少女に向かって振り下ろした。

 

「危ない!!」

 

腕を掴んで止めようとしたら、彼女の腕は、別の誰かに掴まれ捻られた。

 

「ひ!?い、痛いっ…!!」

「痛くしているのだから当たり前でしょう」

 

こともなげにそういう青年は、少女の連れだった。日本人にしては珍しい白髪の、蛇のような青年。その青年がいつの間にか席を立ち、小林さんの手を捻り上げてナイフを手放させた。

 

「そんな…こいつのせいで…こいつのせいで、私はまた不幸になるの!?」

「は?」

 

意味が分からない、とでも言わんばかりに、少女が言う。

 

「とぼけないでよ!!私の和弘君を取ったくせに!!!」

「…あー、ひょっとして、3か月くらい前につぶれた元バイト先のコンビニの店長さんでしょうか?」

「よく覚えていましたね」

「強烈な方でしたので…」

 

「そうよ、あの女のせいでつぶれた、あの店の店長よ!!!」

 

妹尾さんはコンビニの本社に勤務していたが、万引きの常習犯で、自社ならばバレないだろうとでも思ったのか、そのコンビニでばかり万引きをしていたらしい。結果、そのコンビニのバサラ町店はつぶれてしまい、そこでバイトをしていた和弘という少年ともなかなか会えなくなってしまったという。

 

「全然家を教えてくれないから、自分で調べて会いに行ったら…『僕の恋人はあやめであってあなたじゃない、帰ってくれ』って…!!!私の和弘君があんなこと言うなんておかしいわ、その女に毒されたのよ!!!悪い奴をみんな殺せば、きっとみんな元に戻るわ。邪魔者が消えれば、和弘君は元通りになるはずよ!!私は悪くない、悪いのはそこにいるクズよ!!!!」

「なぜ私だと思ったので?」

「はあ?和弘君の近くにいたあやめって名前の女、あんたしかいないじゃない!!!」

「『あやめ』じゃなくて、『あやね』です」

「…え?」

 

「和弘君の恋人さんは、私のお向かいさんであそこの常連だった高町彩音さん。私じゃありませんよ」

 

人違いで殺されてたまるか、と、あやめと呼ばれた彼女は付け加えた。

 

 

××××

 

 

コナンサイド

 

小林さんはそのまま連行されていった。蓋を開けてみれば簡単なトリックで、左手の袖に毒を仕込んだガムシロップを隠しておいて、すり替えた。ただそれだけだった。

 

「怪我はない?」

「ありません」

「なら良かったわ。あなたを守ったのが光秀様というところが、少しだけ憎らしいけど」

「おや、妬いてくれるのですか?」

「もう、お前様。盗み聞きなんて酷いじゃありませんか」

「聞こえる声で言うのが悪いのですよ」

 

和気あいあい、という言葉がふさわしい。いつの間にか、少女…あやめが取り残されているが。

取り残されたあやめに、安室さんが話しかけた。いったいどうしたんだ?

 

「すみません、少しいいですか?」

「はい、何でしょう」

 

「先ほど、『資料にしたくて店内を録画していた』とおっしゃっていましたよね。建築関係の学校にでも通っていらっしゃるのですか?」

「いえ、違います。趣味で小説を書いていまして、その挿絵の参考に…と」

「なるほど、そうでしたか」

 

趣味で執筆を?

そういえば、最近は小説投稿サイトというのがたくさんある。そう言ったところに投稿しているのだろうか。

 

「あ、ついでに注文いいですか」

「…どうぞ」

 

いささか面食らったように、安室さんが答える。

 

「アイスコーヒーください。ブラックで」

「かしこまりました」

 

そういって安室さんが離れた瞬間、恐れていたことが発生した。

 

「アンタ、モブのくせして出しゃばって安室さんを困らせるんじゃないわよ!!」

 

百合子があやめに突っかかった。

 

「そうやって大声出したほうが営業妨害で迷惑かかると思いますよ」

「モブが口答えしていいと思ってるわけ!?」

「あいにく私は赤べこではありませんので、はい以外も言いますよ」

「馬鹿にしてんの!?」

「ちょっと、やめなさいよ」

 

園子がそう言って、近づく。

 

「うるさい!!!ちょっと金持ちだからって調子乗ってんじゃないわよ、この高飛車女!!!」

「うるさいのはそっちでしょうが、公共の場でこんな大声出して」

「そんなにおっきな声出してたら、お客さん怖がって逃げちゃうよ。そしたら、安室さんのお給料減っちゃうよ」

 

園子だけだと確実に火に油を注ぐ結果になるから、オレも援護射撃をする。

 

「そ、それもそうね…」

 

途端に頬を染め、「ヤダ、私ったら」と恥じらうようなしぐさをする百合子。

小さい頃はかわいいと思ったのだが、今となると演技臭い。

そのまま席に戻る百合子を見届けてから、園子があやめに言った。

 

「すみません。あの子いつもあんな感じで…」

「気にしてないからいいよ」

 

笑ってそういうと、あやめはスマホを起動させて画面をじっと見る。…いや、正しくは画面の時刻、か?

 

「お待たせしました、アイスコーヒーです」

 

また安室さんが来るのはまずいと判断したらしく、梓さんが持ってきた。

顔を上げ、アイスコーヒーを受け取るあやめに、梓さんが言った。

 

「お連れの方、まだ来られないんですか?」

「そうみたいです。せっかくおしゃれしたのに」

 

確かに、以前見かけたときの服装と比べると、かなり気合が入っているような気がする。以前のはさりげないおしゃれといった感じだったが、今回は前衛的というか、なんというか。

 

「こんなに可愛い彼女さんを放っておくなんて、酷い彼氏さんですね」

「彼氏ってわけじゃないんですけどね。時間は厳守してくださる方ですから、どこかで足止めくらってるんでしょうけど…」

 

少しつまらなさそうに言う彼女に、蘭が話しかけた。

 

「あ、あの!」

「?」

「そ、その服どこで買ったんですかっ!?」

 

…そういえば、あやめの服はこのあたりの服屋で見かけた覚えがない。バサラ町の隣町にショッピングモールがあったから、そこで買ったんだろうか?

 

「ごめん、これ一点物なんだ。自作だから…」

「へ?」

「自作!?」

 

そう言ったのは、園子だ。

 

「興奮するのはわかるけど静かにね」

「あ、はい。…それ、自分で縫ったんですか?」

「うん。近所の手芸屋さんの品ぞろえが結構よくて」

 

あやめの言葉に、女子力高い…とつぶやく園子と梓さん。

スカートと良いブラウスと言い、ヒラヒラとしてかわいらしいがどこか大人っぽさのあるデザイン。型紙から作ったのであれば、相当な技術と労力がかかったのであろうことは、手芸にはあまり詳しくないオレでもわかる。

 

「これでも、ハンドメイド作家だからね」

「そうなんですか!じゃあ、あの人たちはその関係で知り合ったんですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…なんて言えばいいのか…」

 

うーん、と考え込むあやめ。

そんなに説明するのが難しい関係なのか?

 

「私の従姉妹と仲が良かったので、従姉妹経由で知り合ったのですよ」

 

さっきまで奥さんらしき人と2人の世界を作っていた青年が、そう言った。

 

「それとも、浮気相手にでも見えました?」

「!?」

 

青年の爆弾発言に、あやめが青年のほうを三度見くらいした後、恐る恐る奥さんらしき女性のほうを見た。

 

「そういう冗談は他所でしないでくださいませと、何度も申し上げておりますのに。おいたが過ぎますよ」

「ああ、すみません。お前が焼きもちを焼くのがあんまりかわいいので、つい」

「お前様ったら」

 

二人の世界、再度開幕。またしても取り残されたあやめはというと、

 

「これが芭蕉も句に詠んだ戦国リア充大爆発…」

 

なんだかよくわからない言葉をつぶやいていた。なんでここで芭蕉が出てくるんだ?句、ということは松尾芭蕉のことだろうとは思うが…。

 

「芭蕉?」

「…『松尾芭蕉 明智光秀』で検索かければわかるよ」

 

チベットスナギツネのような顔で言った後、アイスコーヒーに口をつけるあやめ。そうか、だからブラックだったのか。オレも今、猛烈にブラックコーヒーが飲みたい。梓さん・蘭・園子の3人はキャーキャー言っているが。

 

俺もコーヒーのおかわり頼もうか、と思って梓さんのほうを向いた瞬間。

 

ドアベルが鳴り、1人の青年が入ってきた。

絶句した。

 

白粉でも塗ったかのように白い肌、それに映える赤い唇。きれいに切りそろえられた黒髪は濡れたようにつややかで、より一層肌の白さを引き立てている。

一瞬性別が分からなくなるほど中性的な顔は、疲労の色が浮かんでいるにもかかわらず美しい。だが、猫のような大きなヘーゼルの瞳は、どういうわけか完璧に死んでいる。

 

「…大丈夫です、待ち合わせの時間ぴったりです。私たちが早く来ただけですから」

 

フォローするように、あやめが言った。

 

「そう…か…」

 

そういうと青年は、ふらふらと白髪の青年の隣の席につき、テーブルに突っ伏して。

 

「兄上もげろ…」

「落ち着いてくださいませ」

 

純度100%の呪詛を吐いた。

 

「何のためにスケジュール詰めたんだと思ってるんだあの魔王は…姉上も面白がってないで止めろ…」

「何が起きたのかだいたい察しましたのでとにかく落ち着いてください本当に。ここは公共の場です。すみませんホットミルクください」

 

青年をなだめるあやめの姿は、何よりも如実に物語っていた。

いつものことなんです、と。

 

「あらあら」

「魔王の弟が社畜とは、笑い話にもなりませんねえ」

 

…さっきから言ってる「魔王」って誰のことだ?

 

「ねえお兄さ、」

「あああああー!!!」

 

白髪の青年に尋ねようとしたオレの声は、園子の絶叫にさえぎられた。

 

「園子?どうしたのよ一体」

「お、おおおおお、織田財閥の専務!」

「…え?」

 

また、織田財閥?

 

「ん、ああ…鈴木財閥の。頭に響く、もうちょっと静かにしてくれ」

「えっと、園子のお知り合いですか?」

「パーティーで何度か」

 

いまだ死んだ目でそういう青年。

…いや待て、なんで財閥の専務が一般人と茶飲みに来てるんだよ!?

 

「ね、ねえ。お姉さん、なんでそんなすごいところの人の知り合いなの?」

「なんでと言われても」

「お待たせしました、ご注文のホットミルクです」

 

タイミング悪く梓さんが来た。梓さんに罪はないんだが、もやもやする。

あやめはホットミルクを受け取ると、また突っ伏してしまった青年の肩をトントンと叩いて顔を上げさせた。

 

「いつもお疲れ様です」

 

あやめはそう言いながら、青年にホットミルクを差し出す。青年はそれを受け取ると

 

「俺の嫁候補がこんなにも天使…」

 

と呟いて、片手で両目を覆って天を仰いだ。

 

「冷める前に飲んでくださいね」

 

あやめはどこまでも素っ気ないが、青年は気にしていないようだ。

 

…彼らのつながりがまるで読めない。どういう関係なんだ?

考えても、埒が明かない。こうなったら…

 

「あ!」

 

転んでぶつかったふりをして、あやめのスカートのフリルの内側に盗聴器を張り付けた。

 

「大丈夫?」

「うん!なんか、ちょっとよろけちゃっただけだから」

「そう」

 

 

 

 

後日、オレは聞こえてきた音声に驚愕することになる。




明智(妻木)煕子
光秀の妻。夫が変態だろうが何だろうが一途に愛し、かつ絞るときは絞るできた嫁。
夫婦仲は極めて良好。お前ら爆発しろ。
この時空では病気にはならなかった。
あやめとはそれなりに仲がいい。
属性は意外なことに光。武器は小刀で、肩書は「愛屋及烏」。書き文字は「実行」。
いつ結婚したとか記録残ってないけど、調べれば調べるほど萌える逸話が出てきて「書かねば」と思って書いた。後悔も反省もしていない。

織田秀孝
22歳。信長の弟でお市の兄。
濃姫の化粧やら着替えやらを頑張って手伝うあやめをいつのころからかロックオン。でも本能寺より前に誤射が原因で死亡。
若気の至りでやらかしてしまったこともあり、信長には頭が上がらない。社畜系美人。
当然のごとく闇属性で武器は槍。肩書は「夢幻泡影」、書き文字は「参上」。
美形ぞろいで有名な織田でも桁違いの美貌の持ち主。公式(史実)美形。
「御膚は白粉の如く、たんくわん(丹花)のくちびる、柔和なすがた、容顔美麗、人にすぐれていつくしきとも、中々たとへにも及び難き御方様なり(訳:肌はおしろいを塗ったかのように白く、花のように赤い唇に柔和な姿、顔形は人に優れて麗しく、その美しさは例えようもなかった)」とか、源氏物語の姫の描写か!?と思った。これは書かざるを得ないと思って登場させた。

寺田百合子
転生者。新一の幼馴染。
見た目はかわいいが話すとボロが出る。
自分の目的のためなら努力を惜しまないが、努力の方向性がおかしい。
ありとあらゆる事象を自分の都合のいいように解釈する。そして思い込みも激しく夢見がち。現実が見えていない。
なまじスペックが高い分、残念な部分が際立つ。
BASARAは知らない。というか、ゲームをしない。
見覚えのないイケメンを発見し、自分が知らないコナンキャラであると解釈。ターゲッティングした。
名前はミセス・コロンボのケイトとジェニーの吹き替えを行った「寺田路恵」さんと「三好由里子」さんより。

人違いで狙われたオリ主
左側、とずっと書いていたが、正しくは向かって左側なので右目側(今更)。
気を抜いてるときは包帯を巻き、気合入れたときは化粧で隠し、これ以上ないほど気合を入れると隠した上から飾りをつける。
美人の部類に入るが、絶世の美女(お市様とか濃姫様とか)を間近で見続けたせいで若干自信がなくなってきている。だからこそ本気出すときはガチのおしゃれをする。
実は店入った瞬間に明智様の脚線美に目が行った。今日の衣装はやっぱりルカさんのモジュールの「フローラル」。
同人誌書いてるのは半分趣味みたいなもんだからあながち嘘でもない。
元々再現料理作ったりコスプレ衣装自作したりしてたから意外と女子力が高い。前世の女中生活によって余計に腕が上がった。スカートとか何度も作ったから、デザイン案さえあれば型紙なしでもいける。
いきなり秀孝にプロポーズされた時は驚いたが、知人とはいえ自分には地位とかないし急には決められないから友人から始めた。友人の枠を超えてきている気がする。最近自分の境遇が王道な身分違い物であることに気づいて執筆中。はかどっている様子。

胡散臭い本能寺の変隊
嘘はついていない。
変態だけど美的感覚はまともだから私服はセンスいいんじゃないかなって。

疑う名探偵
なんで一般人が財閥の専務の知人なんだよ…!?(人のことは言えない)
後日、「月さびよ」で始まるあの句を無事発見し、夫婦仲については理解した。

絡まれてる公安
精神的にも肉体的にも疲労困憊。


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6話 不審物は粉砕するもの

「ハル、今日は冷えるし、お夕飯お鍋でいい?」

 

鍋なら買い物に行かなくても何とかなる、という理由もあるけれど。この町もなかなかにゴーストタウン(物理)になってるから、夕方の買い物は避けたい。

 

「大丈夫」

「そっか。何がいいとかある?」

「えっと…1週間くらい前にやったやつ」

 

はて、1週間前というと…

 

「キレーションランドのやつかな?」

「あ、たぶんそれ」

 

よし、それだったら冷蔵庫の中身で作れる。

 

キレーションランド。それは、マギアレコードでは、ウワサによってできた遊園地だった。この時空では、かつて存在したが不祥事によって閉演した遊園地、となっているらしい。

そしてそこの名物、それこそがノンビリの象徴。すなわち鍋。マギアレコードだと、ウワサに取り憑かれて管理人にされた魔法少女が(理由は本人にさえ不明だが)考案したものだったのだが…こっちのキレーションランドの商品開発部は、何を思って鍋を名物にしようと思ったのか。いや、おいしいんだけど。

 

イラストで見るだけでもおいしそうで、最初の人生では冬になるたび作っていた。現在も、もやし祭りと並ぶ我が家の食卓の定番である。

具材も、お肉、シイタケ、しめじ、ネギ、水菜、白菜と、割と色々使えるから冷蔵庫に常備してあるのがほとんどだ。具が足りなくなったらもやしでも入れればかさ増しできるし。

惜しむらくは、つゆが何味なのかがイラストだと判別しづらく、いろいろ試すせいで作るたびに味が変わること。目下のところ醤油が一番おいしい。というか醤油は万能だ。次点で白だし。今日はいっそのこと水炊きにでもしてしまおうか。まだやってなかった気がするし、おじやにすれば冷凍庫を圧迫している大量の余りご飯を整理できる。

 

「…いや、待てよ」

 

小十郎さん(金吾さん経由で仲がいい)のお料理教室、次回は米消費メニューだとか言ってなかったか。そう何度もおじやではハルも飽きるかもしれない。

ならば前回同様、醤油で行くか。

 

市販の醤油味の鍋つゆ出して、具材を確認して…とやっていると、電話が鳴った。

 

「ごめん、ハル、出てもらえる?」

「うん」

 

パタパタかけていって、少ししてから受話器を持って戻って来た。

 

「伊達さんからお電話だよ。お姉ちゃんに用事があるって」

「ああ、そうなの。ありがとう」

 

この場合の「伊達さん」とは、政宗公を指す。警察学校組の伊達さんとは接点も何も無いもん。

 

「はい、お電話変わりました」

『花ノ木だな?』

「ええ」

『うちの畑に人面野菜のウワサが出た』

「お夕飯を野菜オンリーにすれば消えます。それじゃ」

 

まだ何か言っていたが、そのまま叩き切った。

 

「人面野菜のウワサ」は野菜を嫌がる人がいる家限定で現れるウワサだ。たぶん、野菜嫌いな子供を持つお母さんか何かが流行らせたウワサだろう。

その名の通り野菜に憑りつく形で現れるウワサで、これを食べた人は最長1か月は野菜だけしか食べようとしなくなる。これと言って実害はないが、面倒臭いと言えば面倒臭い。その家の人が野菜をたくさん食べれば消えるから、お手軽ではある。

 

そういえば小十郎さん、野菜が豊作すぎるからもらってくれとか言ってたような。政宗公から「この頃野菜尽くしだから助けてくれ」とかいう内容のメッセージも来たような。だからか。

 

「…ん?」

 

受話器を戻して、何気なく視線を下にやると、スカートのフリルの間から何かのぞいている。

 

「シール?」

 

ぺりっとはがして目の前に持ってきた瞬間、気づいた。

これ盗聴器やん。

 

ノータイムで折りたたんで押しつぶして近所のばあちゃんが野焼きしてるところへ放り込んだ私は悪くないと思う。




意外と顔が広いオリ主
容赦?知らんな。

深夜廻少女
あやめに餌付けされている。

名前だけ出た戦国オカンその1
定期的に料理教室を開いている。

野菜ばっかり食わされてる独眼竜王
ウワサを消すために犠牲となった。
しばらく野菜は見たくない。

盗聴してた名探偵
盗聴中に壊されたせいでしばらく耳がやばかった。


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