2枚のトランプカード (sao.m)
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2枚のトランプカード(1)

あの日から、ゴッサムの街は変わった。

日々道化師の仮面をつけた暴徒たちによる犯罪が絶えず、街の犯罪率は過去最悪となった。

そんな暴徒たちの最前線に立つ一人のメイクをした男がいるー…

 

「おい、新人。きっちりやれよ、これはテストだからな。」

道化師の仮面をつけた二人組の男たちが、ゴッサムシティ中心部 犯罪対策本部への階段を駆け上がる。

「テスト…とは?」

「ったく、お前もやったろ?ボスの入団テストだ。お前の初仕事は、その"ゴミ"をかっぱらうこと。俺は、お前の教育係。これもテストの一部だぞ。」

二人組はいきおいよく、対策本部のドアを足で蹴飛ばした。

「きゃああああああああ!」

「ピエロの暴徒だ!」

一人が、銃を一人の男の頭に当てた。

「今日もゴミ回収の時間だぜ~?こいつの身代わりになるのは誰だ?」

対策本部には、捜査員数名…指揮官たちは別の場所へ行っている。

「や、やめてくれ!撃たないで!誰か助けて…」

銃を向けられている捜査員は必死に目で訴えるが誰も目を合わせない。

「はは、新人。早速こいつを運んで…」

するとー…仮面をつけたもう一人の男が、咄嗟に笑い出した。

「 ハハハハハハハハハ!!!!」

銃を突き付けている一人の男は、新人の笑いに驚いている、

「ああ、もう、可笑しくてたまらないぜ… ヒヒッ 世の中っていうのは、本当に皮肉だらけだよなぁ…」

銃をつきつけている男は、息を飲んだ。

「い、いかれちまったのか?あぁ? まあいい、さっさとボスのところに運ぶぞ。」

「ボスはいいやつだなぁ、手間が省ける。」

その時、新人と思われる男が自身の唇をなめる音がした。

「…この仕草、まさか」

人質に銃をつきつけている男は、何かに気が付いたような顔をしている。。

 

「人質を放せ!!」

捜査員の一人が、護身用の銃を暴徒たちに向けた。

「今指揮官に連絡をした!… お前らはすぐ逮捕される。もう終わりだぞ!」

 

「そうか… ここにも、こんなにたくさんの種類のゴミがあふれていたんだった。すまない、本当に今すぐ回収をしてやりたいのだが、手一杯で。」

華麗な立ち振る舞いをしながら高笑いをした男が言った。

「早く人質を放せ!…」

「ああ… ほら放した。」

高笑いをした男は、人質を助けようと向かってくる男に殴りかかった。

 

指揮官たちが、階段を上る。

「リース捜査員…!一体な…にが」

警察本部長 マイケルは、その場の光景にぞっとした。

緑色の髪に、白粉がまぶされた横顔、さけた唇…高笑いをした男は仮面を脱いでいた。 その男は、気絶した同じく仲間だと思われる仮面の男と捜査員を肩につれ、窓から飛び降りようとしていた。

「お前は…だれだ。仮面をかぶっていなくてもわかる、ジョーカーの組織だな。」

「う~ん、まあそんな所だ。…」

「捜査員が全員死んでいる… くそっ。… 一体何が目的なんだ!!」

副部長のシリウスが叫ぶ。 

男は、目を指揮官たちの方へ向けた。

「なぁ、知ってるか?…。」

男は、片足を窓に出した。

「 トランプには…ジョーカーが…2枚あるんだとなぁ!」

男は窓から飛び降りた。

「おい!…。」

警察本部長、マイケルと副部長 シリウスは急いで窓辺へと駆け込んだ…

「あいつ、どこへ行ったんだ…しかし、あの男も…」

「ああ、シリウス。とても嫌な予感しかしないよ、とても…「ジョーカー」が今はアーカムに収容されているとはいえ、奴の組織はまだ動いている。」

「巣を一省摘発せねばな、今のところおとり捜査も考えている。とてもリスクがあるが、ほかに方法が…」

「… この街は、変わってしまったのだろうか、、、、」

二人の刑事は、ただ窓の外を見つめることしかできなかった。

 

暗く、ゴミだらけの路地。ゴッサム中心部から少し離れたところだ。街頭は一つだけ…

仮面をつけた老若男女が足音を立てながら建物に入っていく。まるで、吸い込まれるように。

一つの大きな部屋には、ピエロの絵が事細かく書いてある。

「今日のゴミ係はまだか? たくさんの新人が来ているというのに…ボスもお帰りでない。」

「ボス、またやらかしたんじゃないですかぁ?この前なんて、爆破のタイミング間違えてましたもんね」

暴徒の一人が、面白おかしく語る。その背後に、大きな紫色のマントを羽織っている大きな男がいると知らずに。…

「爆破のタイミングを間違えたのは確かだが… それがどうした?」

とても低い声、暴徒たちはそれが誰であるかすぐに分かった。

「ひっ… 、あのボス 悪気はないんです。」

「ふぅん なぜそんな深刻そうな顔をする?ジョークで笑い飛ばしてしまえばいいものを。…」

ボスと呼ばれる男は、暴徒の一人の首根っこをつかみナイフを口元へと向けた。

 

「そのしかめっ面はなんだ?」

暴徒が悲鳴をあげる隙も無く… 暴徒の口をナイフで引き裂いた。

「あっ… ぐっ…」

口を引き裂かれた男は、もがき苦しみながら倒れた。

「ボ、ボス… 実は今日のゴミ係が帰ってきていなくて、その。。」

「俺が直接、回収してきてやったんだ。ヒヒッ、マイケルとシリウスにうっかり顔を見られちまった~、」

 

ボスと呼ばれる男は、そう言うと道化師の仮面をつけた気絶した部下と捜査員を連れてこさせた。

「ボ、ボス さすがです!」

ボスと呼ばれる男は、自身の名刺だと思われるカードを取り出し壁に向かって投げつけた。

「レディースアンドジェントルマン… 今日の入団テスト開始だ♡」

カードには、 JOKER と描かれていた…

 



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2枚のトランプカード(2)

ゴッサムシティ 中心部犯罪対策本部のテレビには…

「マレー殺害とともに、このゴッサムシティの犯罪率は過去最悪となり今日も大規模なデモが行われています…アーカム州立病院前では現在収容されているあの「ジョーカー」に対し称賛の声をあげる人が多数おり、市民からはゴッサム警察への疑問の声が上がっています。」

本部長、マイケルは嫌なものでも察したかのようにネクタイを緩めながらテレビを消した。

「…報道各社も警察に圧力をかけてきている。しかしあの男、トランプのジョーカーは2枚あると言っていたな。まさしく、その通りだ、」

副本部長、シリウスはマイケルに駆け寄った。

「本部長、これは昨日あの口が裂けていた男もジョーカーであるという宣言であると思われます。つまり、現在アーカムに収容されている「ジョーカー」に感化された一部の暴徒が新たなジョーカーとして組織を作り上げているのだと思います。」

「そうだな、これ以上ゴッサムの街を荒らさせはしない。やつらの巣を、内部から徹底的に駆除するのだ。」

秘書のソフィが新人に関する資料を持ってきた。

「本部長、副部長。この管轄に、新人が入るそうです。それで、昨日のお話を聞いてしまったのですが」

「ソフィ、ありがとう。ほう、新人か。話とは…なんだ?」

「私もやはりおとり捜査を行うべきかと。内部に侵入させ、新たなジョーカーの組織をつぶすのです。危険がかなり伴いますが…

マイケルとシリウスは、お互いに目を合わせた。

「私もそう思います、新人の経歴を見たところ…なかなかの期待です。」

シリウスが、目を輝かせて言った。

「よし、さっそく打ち合わせをしよう。」

マイケルは、ソフィに新人を連れてこさせるよう言った。

 

…真っ白な廊下。

今日もタップダンスの華麗な音が廊下中に響き渡っている。陽気な鼻歌は、彼のお気に入り。

今日も彼は笑っている。

 

一人の職員と思われる男性が、食事を運びにその男の部屋へと入る。

「…アーサーフレックさん。食事を食べてください。」

「ふふっ、あれ?昨日の人と違う… 名前は、トムっていうんだね。それに僕はその名前では返事はしないよ。僕の気が狂う前に、やめた方がいい。。。。 」

アーサーは、真っ白な服に身をつつみただ黙ってトムを見つめていた。

「食事です… 口を開けてください。」

トムは、震えながらスプーンで食べ物をアーサーの口へやろうとする。アーサーは、そのステンドグラスのように透き通った瞳でトムを見つめる。

「震えている…」

アーサーは、そう言いスプーンを口に入れた。

「ねぇ、なんでアーサーって呼ばないの?」

「…」

トムは黙り、アーサーと目を合わせないようにした。

「僕はどうしたらいいと思う?…。昨日もたくさん聞かれたんだ。なぜか、別のジョーカーが街をうろついてるみたいでね、本当にびっくりしたよ モグモグ…」

アーサーの貧乏ゆすりが激しくなっている。

「僕はこれで…」

アーサーは出ようと立ち上がろうとした職員の服をぐいとつかんだ。

「いかないで…もう少しだけここにいてよ。」

職員は、思わずアーサーと目を合わせてしまった。その透き通り、すきこまれるような瞳と目を合わせたら戻れない。それを職員は知っていたのだ。

「髪はこげ茶、とっても似合っているよ。」

職員はなぜかアーサーの手の中に吸い込まれるように、ひざをついて倒れた。

「君だけに、僕のお話を聞かせてあげるね。」

職員はアーサーの瞳を見つめながら泣いていた。

 

ゴッサム中心部

「本部長、彼がマークです。彼は素晴らしい経歴の持ち主ですし、力もある。

今回の捜査にぴったりかと。」

マイケルとシリウスは、マークを見てうなずいた。

「こんにちは、マーク・R・レリーフです。マークと呼んでください。私に、何か要件があるとかないとか、」

「実は、シリウスと話していたのだが」

マイケルは、右手をマークの右肩にぽんぽんと置いた。

「君も、この街がどれだけあれているか知っているだろう。謎の道化師、ジョーカーによってこの街は狂わされてしまったんだ。今、その元凶となったアーサー・フレックはアーカムに収容されているが…」

マイケルは、目をしかめシリウスと目を合わせた。

「先日、警視庁本部が襲われ新たなジョーカーが現れたんだ。口が裂け、紫のコートを着ているよ。」

「ニュースを見ました、僕はこれ以上ゴッサムの街が荒れ果てていくところは見たくない。ぜひ、僕におとり捜査をさせてください。」

「でもね、マーク。」

秘書のソフィが、口を開いた。

「おとり捜査はとても危険よ、私達ゴッサム警察もいまだに経験がないことなの。あなたは、期待の新人だし、気持ちは分かるわ。」

マークは、微笑みながらソフィの目を見つめた。

「…ソフィさん、僕は大丈夫です。ご心配ありがとう。早速、場所のデータをください。」

マイケルとシリウスは、安堵しネクタイを締めなおした。

「決まりだな、マーク君。君は、ゴッサムの期待の星だ。私たちの、希望なんだ。」

マイケルが語り掛けるように、一文字ずつゆっくりと口を開いた。と、同時にマークは満足そうに微笑んでいた。

「マーク君、新たなジョーカーの巣を捜査チームが突き止めたそうだ。早速、情報を調べ上げ近いうちに潜り込むことはできるかね?」

「マーク、私が協力するわ。早速、彼らについて調べ上げるわよ。」

「ソフィさん、ありがとう。今日から調査を始めますね。」

マイケルとシリウスが、マークとソフィを置いて部屋を抜け出した。

「やはり、期待の新人ですな。彼の意欲は素晴らしい。」

マイケルが、声をあげて喝采の意を示した。

「嫌なことが何か起こらなければいいのだが…」

シリウスは顔をしかめた。

 



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2枚のトランプカード(3)

「Why so serious?!」

口は裂け、髪は乱れ大きな紫色のマントを着たジョーカーと呼ばれる男は自身の部下の口元にナイフをかざし口元に大きな裂けた傷をアジトにて負わせていた。アジトの壁は、いつも赤い血で染まっている。

「ボス、今日は何だが気分が悪いらしい。」

ジョーカーは、そんな些細な声を聞き逃しはしない。

ダァアアアアアアアン 

アジトに響く、マシンガンの音が部下のうめき声を消していく。

「…また、アイツに来てもらわないと。“ゴミ回収車”の奴を頼む。」

ピエロの仮面をかぶった一人の男が、電話を掛けた。

ジョーカーの“右腕‘ともいえる、クランピーはいつも忠実であるがゆえに彼に気に入れられている。彼が、笑えと言われれば笑い、死ねと言われれば死ぬのである。

「もうすぐ、到着するそうです。」

「ジョーカー、またこれは派手な入団テストだな。」

 

黒いニット帽をかぶった年寄りの男が、大きな袋をのっそのっそともって現れた。

「…どうも、誰もしっくりこない。唯一の右腕と数人残したが本命じゃぁない。なぁ、サムさんとやら。入団しないか?いい殺し屋として、雇ってやるよ。」

ジョーカーは、唇をぐるりと舌で嘗め回した。

「わりぃが、俺は殺し屋じゃない。“あの時”、お前さんは俺を救ってくれた。あの日から俺は、お前さんの見受けとしてやっているが。。妻子がいるんでね。」

ジョーカーは、下を向いたまま何も話さなかった。

「妻子ねぇ…、面白い傷の話は聞きたいか?」

ジョーカーがナイフを持ち、サムに駆け寄る。サムは、死体が入っている袋を持ちながら後ずさる…

「待て、待てジョーカー。お前が本当に欲しいものをいい当ててやるぞ。」

ジョーカーは、はっと我に返ったように目を見開き興味深そうにサムの顔を除いた。

「俺が本当に欲しいものだと…?」

「ああ。そうだ、お前さんが欲しいもの。それは、“ジョーカー”だ。アーカムに収容されている、あのピエロの暴動を起こした先導者、アーサー・フレック…。俺たちを引き合わせ、お前さんを生んだ元凶さ。1枚目のジョーカーだ。」

ジョーカーはその名を聞いたとき、体に電気が流されたように何かを感じた。

「アーサー・フレックだと…ああ、ああ、ヒャハハハハ…!!!」

「なぁ?どうだ、当たっているだろう?」

サムは、ジョーカーが高笑いをしている間に死体を集め終えていた。

「お、俺はこれで…」

「待て、サム。」

ジョーカーは、興奮し息が荒立っていた。今彼の指は、部下たちを殺したあのマシンガンの引き金をまさに引こうとしている。

「…そうだったよ。思わず、今の俺に気を取られていて愛しいハッピーちゃんのことを忘れていた。」

サムは、息をのんだ。ジョーカーは、奇想天外で彼が何をしでかすかわからない。彼の気を損ねれば、マシンガンの弾が彼の体を貫通してしまう。

「なぁ、プリンセスには何が必要だと思う?クランピー、」

急に話を振られ、クランピーは動揺していた。

 

ダダダダダダダダ…!!

右腕とさえ言われたクランピーの体をマシンガンの銃が一気貫いた。

「ヒヒッ…かぼちゃの馬車と、素敵な素敵な王子様だよ。サム、嫁さんと子供を銃弾の雨に頬りだしたくなかったら協力することだな。」

サムは、重い首を縦に振った。

 

タッ…タッタ…タッタタ

真っ白な壁一面に鼓動のように響く、男のタップダンス。彼の足元は、際立つほどの赤色で染まっていた。

「優しい人だったなぁ…、僕にあんなにやさしくしてくれたのに。ああ。またやってしまった。つい癖でね。」

鉄格子のかかった窓の外からは、アーカムの前に座り込んでいる奴らが見える。今日も仮面をかぶった道化師たちが「ジョーカー」という看板をもって立っている。

「ジョーカー!!あなたを待っている!」

「あなたこそが、我々の希望だ!」

男は、うっすら白いひげを生やした自身の顎を血で染められた親指でゆっくりなぞると、

うつろな瞳で彼らを見つめ笑った。時々、のどをつまらせながらも彼は腹を抱えて笑った。

「…僕を探しに行かなくちゃ。」

 

男はそういうと、ナースルームへ向かい自身のカルテを手に取った。上の階からか、2名ほどの職員の話し声がする。

「…懐かしい、あの時ペニーのカルテを取ってきてくれた黒人の事務職さんはどこにいるんだろうか。ああ、」

男は、ふぅと深いため息をついてから目をつむりもう一度目を開いた。

「これが僕さ。」

旋律が奏でる赤、音楽にのせて揺れる緑、虚ろなエメラルドグリーンの瞳…彼は、ジョーカーだ。

「ここの階にいる人はみーんな、僕の笑顔の一部になったんだ。」

ジョーカーは満足そうに、またタップダンスを始めた。ナースセンターの血が塗りたくられたテレビからニュースの画面が映し出された。

…新たな犯罪組織ジョーカーについてです。リーダーだと思われる男、ジョーカーは明日アーカム州立精神病院に爆弾を仕掛け爆破する、という犯行予告を出してきました…交換条件として“現在アーカムに収容されているジョーカーを引き渡せ”ということです。

「ジョーカーだって…?ジョーカーはこの僕一人だけだけど…」

ジョーカーは、興味津々に目を輝かせ画面を見つめた。そして、自分と同じ人間、いやそれ以上の人間が自分を求めていることにとても心躍った。彼のタップダンスは、激しくなるばかり…

「フフ…ジョーカー、君は僕の王子様だよ。」

真っ白な廊下に飛び散った赤色のペンキを、ジョーカーは自身の口元のメイクに一筆塗った。

「ねぇ…どんなとびきり面白いジョークをしてくれるの?」

 

アーカム病院内から、銃声が2発聞こえた。

 



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2枚のトランプカード(3)

ゴッサム中心警察本部

「マーク、さっき教えた銃の使い方は大丈夫?あなた、銃の使い方も知らずによくここへはいれたわね…」

ソフィとマークは、ゴッサム中心警察本部地下1階の銃格納庫に居た。

「ソフィさん、使い方を教えてくれてありがとう。実際、知識はあるけれど持つのが怖くて…なにせ、僕の両親は銃で殺されてしまったんだ。銃に対する、恐怖心というか抵抗があってね、」

ソフィは、銃を持ち震えるマークの手を握った。

「そうだったのね…それで、あなたは警察官に?とっても素敵だと思うわ、」

マークはソフィの手を強く握り返し、ソフィを見つめた。

「ソフィーさん、僕…」

ザザ…ザザザ

ゴッサム警察の放送機が不吉なノイズ音とともに、作動した。

「はぁ~い♡ゴッサム警察の紳士たちよ。俺は明日、アーカム州立病院を爆破する。俺は常にスリルと恐怖のはざまにいる男だ…ヒヒ、明日、俺はアーカムにいるプリンセスを迎えに行かなくちゃならない。明日の、午後12時だ。それまでに引き渡すというのならば、爆破はしないぞ…

さぁ、here we go!!」

バチッ…

「…まずい!!」

ソフィとマークは顔を合わせ、警察本部最上階へと向かった。

「シリウスさん、マイケルさん…!!」

「マーク君、ついに君の番が来たようだ。この後すぐ、彼らの巣へと乗り込んで爆弾の情報を聞き出すのだ。SWATチームの突入指令はソフィ君。君に頼むよ。」

「わかりました!私も現場に同行します、」

シリウスは、マークの肩に手を乗せて力強く目を見つめた。

「…わかりました、必ずや情報を聞き出します。」

「私は車の手配と、SWATチームへ指令を送ります。マークさん、出発できる?」

「もちろん、銃も…ばっちりだ。」

 

「ボス、アーカム病院からの返事はいまだありません。部下が偵察に行っていますが、受け渡す素振りなども見られないようで…」

ナイフを丁寧に磨いている、ジョーカー、ボスと呼ばれる紫のコートを着た男は唇を大きくなめた。

「…それと、アジトの外にぜひボスの組織に入りたいという男が立っていますがどうしますか?」

 

ジョーカーは、ナイフ磨きをピタリとやめた。

「この組織に…入りたいと?ヒヒ、ゴミに捨てられた爪弾き者ってやつだな。チャッキー、すぐに“テスト”の準備をしろ。」

チャッキーは、殺されまいとすぐ“支度”をした。

「なんせ、この場所を知っているのはとんだもの好きなやつらでね…素質を磨こうか。」

 

「ザザ…聞こえる?マークさん、こちらソフィ。あなたとその耳の装置で繋がっているわ。そちらの声が聞こえるようになっているの。」

「ソフィさん、今ピエロマスクを被った男に誘導されてアジトへ侵入している…不気味なピエロの絵ばかりだ。」

マークが暗がりの不気味なピエロの廊下を歩くたびに、ミシミシと床が不吉な音を立てる。

「気を付けて…身に危険を感じたら発砲してもいいのよ、正当防衛だわ。」

「わかっている…」

案内役の男が廊下の途中でピタリと足を止めた。

「…どうした?なぜ止まった?」

マークが焦りながらピエロマスクの男に解いた。

「どうして俺がお前の案内役かわかったよ…今日は俺がゴミなんだぁああ!」

ピピピピピピ…不吉な時限爆弾の音がその男の首元からする。

「マーク!そのマスクの男から離れて!!」

っ…!!

マークは、自身がソフィに呼び捨てにされたことに少し動揺する暇もなく

バン…

「あ…あああ、」

目の前の男の首は、ごろんとマークの足元へ転がった。

「うああああ!」

「これぐらいでぇ…驚かれちゃあな。テストではうまくできるか?んん?」

マークは迫りくる大男の気配を察し、後ろを向いた。

「お、お前がジョーカーか…?」

さけた唇、緑色の髪、紫の大マント…ジョーカーがたっていた。

「ああ、そうさぁ…君が夢にまで願った組織だ。ほら?どうだ?入団テストを受けに来たんじゃないのか?こんなに丸腰で!!!!」

「?!…」

マークは足を取られ、床に叩きつかれた。さらにジョーカーは、いつのまにかマークの無線を奪い取り自慢のナイフをマークの口元へとやった。

「なんだ?そのしかめっ面は?美人なかみさんと電話でもしていたか…?」

マークは、何が起こったのかわからずただ動揺し呼吸が荒くなった。

そして、ジョーカーは無線を右手で握りつぶし不気味な笑みを浮かべて、マークを気絶させた。

「マーク?!応答がない…そして回線が切られている。」

「おそらく、ジョーカーにこちらの動きがバレたようだ…彼がおとり捜査官であるということも。」

マイケルがため息をつきながら言った。

「そんな、では彼の命は…SWATチームにかけるしかなさそうですね。」

「君の支持で、彼らは動くはずだ。タイミングを見計らって、突入させるしかない」

 

 



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2枚のトランプカード(4)

“逃げろ!マーク、クローゼットの中だ!”

“父さん、でも僕は…”

“早く、行くんだ!”

“嫌だぁあああ!!!!…”

 

ダン!

すぐ耳元でした銃弾の音に、マークははっと目を覚ました。どうやら、気絶している間に

親が銃で殺された記憶がフラッシュバックしていたようだ。

見渡す限り、部屋の光は天井の虫がたかっている照明一つ。ピエロマスクを被ったジョーカーの手下たちが数人銃を持っている…

「お~い、いつまで寝ているんだ?テストの開始だぞ?」

ジョーカーは唇を舐め、言った。

両腕、両足、全てが紐で結ばれマークは身動きが取れない。と、同時にジョーカーに圧倒されてしまった。 瞬きなんぞできやしない。一言発すれば、彼が持つお気に入りのナイフで一生笑わせられてしまう。

「…テストとは、なんだ。」

マークは、彼の機嫌を損ねないようにゆっくりと口を開いた。ジョーカーは、マークを舐めるように見た後お気に入りナイフでマークを縛っているなわを、不気味な笑みを浮かべながら解いた。

「一体、なんだ?」

「たった…一つだけさ。ごみを持ってこい。」

マークは、想像もしなかったことに瞬きを2、3回素早くし一体どうすればいいのかと自問自答していた。

「ほら?早くしろ…ごみだ。」

そしてジョーカーは、ゆっくりマークの手に拳銃を持たせ握らせた手を優しくなでた。

「一体、‘何をすれば」

「手が震えている…ああ、きっとご両親か何かが銃で殺されちまったか?んん?」

ジョーカーの鋭い眼光と見つめられながら言われたその一言にマークは動揺し銃を落とした。

「この間抜けが!銃も持てないくせになんでここに来やがったんだ。」

見張り役のジョーカーの手下が声を荒げた。ジョーカーはただ、マークを見つめ眉一つ動かさなかった。

「さぁ…、マーク。俺たちの組織に入りたいのならば君の力をぜひ見せていただきたい。なんせ君の経歴はすさまじいものだ。警察学校とやらでも成績優秀、しかし…今お前はどうなっている?お偉いさんにこき使われ今は、ただの、犬だ。」

マークは、はっと目を見開いた。

「犬…だと?違う、彼らは僕を信用しているんだ。だから僕におとり捜査を、」

「いいや、違う。結局人間、自分以外にかわいいものなんて…いないのさ。用が済めば、ポイ!ああ、憐れむ暇もない..お前を…」

ジョーカーは、銃をもう一度マークに握らせながら耳元でつぶやいた。

「この銃口は、お前という人間を犬のように扱うゴミに向けるものさ…」

マークは動悸が激しくなり、両手で銃を構えた後引き金を引いた。

 

「ソフィーさん、こちらSWATチーム隊…アジトの中で銃声が聞こえます。」

「そんな、マーク…これだからおとり捜査は…今すぐ投入開始!繰り返す、投入を開始せよ!」

ソフィーは声を荒げ、SWATチームは急いでアジトへと侵入した。

「マーク警部…!どこにいるんだ!」

SWATチームは、不気味で暗く誇りが舞う空間をライトをつけながらゆっくりと進んでいった。

「中は静かだぞ…?さっきまで、銃声がしていたのに、」

「隊長、あれは…?」

隊員の一人が、大広間と思われる場所にぐったりと横たわっているマークを見つけた。

「よかった…、SWATチームです。今すぐ運び出しますから、けがの手当てをしますね。」

「僕にはそんなものいらない」

マークは右手で、隊長の顔面を銃で撃ちぬいた…と、同時にピエロマスクを被った暴徒たちによってSWATチームは縄でとらえられてしまった。

「くそ…!マーク警部、一体何があったのですか!あなたの任務を…」

マークは立ち上がり、服についた隊長の血を振り払う仕草をした。

「はぁ…任務だが。どうだが。僕を犬扱いするやつなんか、ただのゴミ同然さ。」

アジトから銃声が鳴り響いた。

「SWATチーム、応答せよ!…SWATチーム…?」

ソフィは何度も通信のボタンを押すが、ボタンの「カチっ」という音が響くのみで応答は聞こえなくなった。

「そんな…すぐ現場に!」

「だめだ、ソフィー君。これで分かっただろう…ジョーカーはただの犯罪者ではない。悪魔

?だ…これ以上の犠牲が出ないよう祈るしかない。」

シリウスが神妙な面持ちでソフィに語り掛けた。

「彼と…SWATチームを何だと思っているのですか?!まだ生きているかもしれません…私はあきらめません」

シリウスは、ソフィから目線をそらした。

 



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2枚のトランプカード(5)

「素晴らしい夜だ、なぁマーク?お前さんのおかげでまとめてゴミを補充できたんだからなぁ…」

アジトの割れた窓ガラスに、月の光が差し込む。

「ジョーカー、それでお前の言うプリンセスとはなんだ。」

マークが威張った声で話した。

ジョーカーは、ヒヒッと不吉な笑いを浮かべ

「ああ、そうだった。目的を見失う所だった。トランプのカードは何枚あるか知ってるか?」

「…2枚か?」

「そうさ、お前さんもゴッサムが暴徒たちであふれたあの日を知っているだろう?町中がまるで火の海さ…旋律が奏でる赤、音楽にのせて揺れる緑、虚ろなエメラルドグリーンの瞳。

そんな、火の海を従える道化師…ジョーカー。とんでもない、迫力さ。」

「そうか、それでジョーカー。お前の作戦は…」

ジョーカーの目が光った。

「お前には教えないぞ?」

ジョーカーは自身の唇を舐めた後部屋を出て行った。マークは、ただしかめる事しかできなかった。

 

「アーサー・フレックを確保しろ!」

 

アーカム州立病院の真っ白な廊下で“ジョーカー”は複数人の職員に追われていた。

「はぁ…はぁ、僕体力無いからなぁ。せっかくしたメイクも、崩れてきちゃうよ。」

ジョーカーは角に差し掛かった時自身の涙を表す青色のメイクが赤の衣装に垂れていたことに気が付いた。

「…」

それからは一瞬だった。真っ白な壁は、赤く血塗られた。美しい花びらがはらはらと舞った後テンポの良いステップの音が廊下に響き渡っていた。

「…さあ次はどんな花びらが待ってくれるのかな?」

 

ザザ…“院内の患者はすべて輸送しました…あとは彼を確保し、もう一人のジョーカーを逮捕すれば収まるかと、”

アーカム内に響く職員の声だ。

「もう一人の…僕?」

もう一人、という言葉がジョーカーを苦しめる。胸の奥から焼けるような感じ、ジョーカーはその場に倒れた。

「ぐはっ…もう一人の僕? ああ僕にはもっとたくさん僕がいたはずなんだ。もう一人、もう一人…」

ジョーカーは胸元を抑えながら立ち上がり、いつのまにか自分の姿がアーカム内に収容されている患者の真っ白な服になっていることに気づく。そして、月の光が真っ白な彼を照らしている。

「…もう一人。」

“なんだと?職員からの応答がない?どうなっている?上にいる職員が全員?”

“まずいです、院長…あと1時間で彼を引き渡さないと病院が爆破、これじゃあ市の予算に問題が、”

アーカム職員の声が院内に響き渡っている。

 

白い服をまとったジョーカーは、階段を一段ずつゆっくりと降りる。

一つ目の踊り場で、体中きずだらけの小さな少年に出会った。そうだ、とジョーカーは腰を下ろしその少年は自分の幼少期だと悟り、また一つ階段を下りていく。

 

“アーカム収容患者も一時待機させてもらっている病院しかなく、精神異常者たちを長期に引き受けてくれる病院なんてない…もういっそ彼を引き渡すしか。。”

 

弐つ目の踊り場で、黄色い看板を持ったピエロと出会った。腰には、今にも落ちそうな銃。ああ、とジョーカーは言い残し彼を置いてまた一つ階段を下りていく。

 

“だがその後のゴッサムはどうなる?すべて、すべてが終わりだ。また精神異常者たちがゴミを散らかし街は火の海。”

 

参つ目の踊り場で、赤いチョッキを着たアーサーの姿。ジョーカーは、彼が大事そうに持っているメモ帳を取り上げ、投げ捨てた。

“それでいいんだ…もうこの街は変えられない。すべてが狂ってしまったのは、社会のせいだ。”

 

最期の階段を下りた時、白い服を着たジョーカーは白い光に包まれている赤い服を着たジョーカーの後ろ姿が見えた。おそるおそる駆け寄ると、赤い服を着たジョーカーには顔が無かった。

「君は僕で、僕は君か?」

白い服を着たジョーカーが問いかけると、顔のない赤い服を着たジョーカーは「ついておいで」というように、白い光の中へと誘い込む。

 

 



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2枚のトランプカード(6)

「ジョーカー!ジョーカー!」

自分の両手が真っ赤な花びらでいっぱいになっていることに気が付いた時、彼は大きく両手を広げまた赤の旋律を奏でるのだった。

 

 

“現在、ゴッサムシティはアーカム州立病院の入り口に大勢のピエロマスクを被った暴徒たちであふれかえっています…カメラがとらえているのは…アーサー・フレックだと思われるジョーカーです、暴徒たちに囲まれているようです。”

「なんだと?!」

シリウスが飲みかけのコーヒーを机に叩き付け、テレビと睨みあった。

「ジョーカーが脱走している…確か患者は他の病院に移されているらしいが、残った職員は何をしているんだ!」

「シリウス…アーサー・フレックが全員殺したとしか思えんな。全員彼の罠にはまったんだ。」

マイケルがゆっくりと指揮官室に入ってきた。

「罠…くそ、あと1時間後だぞ?このまま二人のジョーカーが出会えばより勢力は増し、この街は終わりだ。一体どうすればいいんだ!」

シリウスは頭に血が上り、一体どうしたものかと怒りを見えない何かにぶつけている

と、書類を渡しに来たソフィが入るのを戸惑う。

「そこで…アーカムにジョーカーが現れた時、我々は新たなSWATチームと一斉攻撃を仕掛ける。」

マイケルはそういうとトランプのカードを出し、破り捨てた。

ソフィは、それを聞き息を飲んだ。一斉攻撃?、それは最終手段であり街中心にそびえたつアーカム周辺には多くの市民がすんでいるはずだ。その人たちを巻き込むなど…そして、

「一斉攻撃だと…?そんな、無茶だ!危険すぎる、一般市民を巻き込むのだぞ!」

シリウスは声を荒げた。

「…仕方がない。勝利に犠牲はつきものさ、それにこのままだと俺たち警察のトップの立場も危うい。」

ソフィは、いてもたってもいられず

「…ならば、マークの死は!!」

思わず書類を投げ捨て、ソフィはシリウスとマイケルに詰めよる。

「無駄死にだったのですか…?最初からその手があったのではないのですか!」

マイケルはソフィから目線をそらし、落とした。拳を握り、ただ歯をくいしばっていた。

「おとり捜査など無意味だったのです…」

ソフィは泣き崩れ、マイケルがゆっくり口を開く。

「ソフィくん…すべての者が善良だと信じるかね?すまない、これは“彼”のためでもあるのだ。」

マイケルは、一枚の診断書をソフィに渡した。

「マイケル、これは…?」

シリウスがおそるおそる診断書を見る。

「マークの…精神診断書ですって?一体、どうゆうことなのですか?彼は精神に異常が?」

シリウスも驚いた表情をしている。

「彼は確かに警察学校ではトップクラスの成績であった…が、その学校で銃乱射事件を起こし8人を殺していたことが隠蔽されていたのだよ。」

ソフィは何が起こったかわからず、ただ診断書を漠然と見るだけであった。

「マイケル、これは本当か?本当に、銃さえも持てないマークが…」

「あ…ああ、嫌。こんなの信じられません、マークは銃を持つのさえ必死であったのにあれはすべて演技で、彼の本当の顔は…ただの快楽殺人者とでもおっしゃるのですか!?」

ソフィは息を吸うのに必死で、呼吸が荒々しくなっていた。

「ソフィ君、そうだ。私はこの診断書を見つけ彼のおとり捜査を進めたのだよ。おそらく、この事件を隠蔽したのは警察学校だ。自分たちの監視の甘さが世間にしれ渡れば自分達の立場が危うくなるのだ。」

シリウスはただ目の前を見つめ、一体何が起こっているのかと自問自答するばかりであった。

「彼は多重人格障害に悩まされていたらしい。幼少期のあらゆる事件が根本的なトラウマとなって…」

「…マイケルさん、SWAT隊と一斉攻撃を仕掛けるのです。ただ一般市民への被害は最小限に。」

マイケルは震えるソフィの手を固く握り、「大丈夫だ」と声をかけSWAT隊の指揮へと向かった。

 

「さてさてさて~…?あと30分でお約束のお迎えの時間だが…マーク、準備はできたか?」ジョーカー達は、大きなトラックに乗り車道を走る車たちを次々と跳ねていった。

跳ねるたびに車体が大きく揺れる。

「…この爆弾をもって、アーカムの最上階へ行けと?」

「ああ、そうさ。俺がプリンセスをお迎えしたらすぐに、爆弾を置いたお前も迎えにいってやるよ。ただし爆弾は誰にも見つからないところへ置くんだ…俺が起爆装置を持っている。」

マークは顔をしかめた。

「なぜ俺が起爆装置を持てない?」

ジョーカーはナイフ磨きをはじめ、何も答えなかった。

“殺せるときに殺すため…か、”

マークはぽつりと考えた。と、その時思いもよらぬ感情の波が押し寄せてきた。

「ならば…ならば俺は犬か?しつけされている都合のいい捨て犬か?」

ジョーカーはナイフ磨きをピタリと止めた。

と、その瞬間アーカム州立精神病院に着く手前で大きな銃声がトラック内を駆け抜けた。

「SWAT隊!トラックを撃ちぬけ!命令があり次第、突入する。」

銃声が鳴りやまず、ジョーカーの手下は慌てて窓から出ようとしている。

「う、わぁあああ…死にたくない!」

手下が運転席の窓を壊し脱出しようとしたとき、ジョーカーはためらいもせず、まるで虫を払うかのようにその手下を撃ち殺した。

「答えろ!俺は犬のままなんて嫌だ!」

マークが大声を張り上げる…と同時に、「ぐはっ…」というマークのうめき声が聞こえる。

ジョーカーはお気に入りナイフで、マークの腹を刺したのだ。

「なら自分が狼になれるとでも…?だったら君は最高の負け犬さ。」

ジョーカーがそういうと、手下たちはトラックの隠し扉を開き裏側から脱出した。

マークは腹を刺され、トラックの中でぐったりと横たわり、爆弾を持っている。

「ヒヒ…」

ジョーカーは不吉な笑みを残し、マークはトラックの中に取り残されてしまった。

 

 

 



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2枚のトランプカード(7)

また、同じ景色が広がる。

ジョーカーはあのマレーのショーを思い出した。パトカーの上から見下ろせば、暴徒たちの燃えるような喝采と火の海だ。ゴッサムから出てきたジョーカーを暴徒たちが取り囲み道を作っている。

 

「さ~て、ここからは銃撃戦ということか?ああ、大事な一般市民を巻き込むことになるぞ?」

ジョーカーが吐き散らした、と、一味の前に、大勢のパトカーが走ってくる。

“全車両に次ぐ、ジョーカーを止めろ。アーカムに収容されているジョーカーの確保にも全力を注ぐ…”

「了解、ジョーカー一味がこちらに向かっている。なんとしても食い止める。」

パトカーに乗っている一人が無線で会話をし、いざ銃を構えた時

「俺は混乱の使者…」

ジョーカーは初めにそう言い放ち、バズーカ砲で食い止めているパトカーを次々と爆破させていった。手下が向かってくるSWAT隊に対して、銃やマシンガンで応戦する。

「ジョーカーだ!!」

「ジョーカー、この街をクソどもから救ってくれ!」

住民が叫んでいる。ジョーカーは、住民や警察、パトカー、SWAT隊、手下たちの銃弾や罵声が飛び交う中をただ歩き前を遮るものがあれば容赦なく、バズーカ砲を放つのだった。

「…喝采などいらない、そんなものなど遠い昔にこの“笑顔”とともに捨てた。」

そういうと、ピエロマスクを被った大勢の手下に囲まれた“ジョーカー”がいるのに気づきジョーカーは口角を上げ、彼の元へと足を走らせた。

 

「SWAT隊や警官が銃撃戦を行っているようです、一般市民も巻き込まれています…」

テレビ中継された、銃撃戦の様子はまさに地獄絵図であった。

ソフィは茫然とテレビ画面を指揮官室から見るのだった。倒れている一般市民の中には、子供を抱えた女性までもがいる。拳を、ぎゅっと握るのであった。

「ソフィ君、SWAT隊から、“マークを見つけた”との情報が…」

シリウスが、電話をソフィへ渡す。ソフィは驚いた表情で、すかさず電話を取った。

「…マークが?本当にいるのですか?生きていたと…分かりました、シセロストリートの角の、はい、音楽店の横のトラックですね!すぐ向かいます。」

「ソフィ君!」

上着と、銃を持って部屋から出ようとしているソフィにシリウスが声をかけた。

「君まで巻き込まれてしまうぞ!…それに、それにもしかしたらジョーカーの罠かもしれないのに…」

「いいえ!私は、私は彼を信じています!」

ソフィはそう言い放つと、歯をくいしばり、階段を下りて行った…螺旋階段を下りていく彼女の姿をシリウスはただ茫然と見ることしかできなかった。

 

ソフィが外に出ると、ゴッサムの中心部ともいえるシセロストリートでは住民や警官、SWAT隊やジョーカーの手下たちが殴り合ったり発砲しあっていた。

「これが…ジョーカーの罠?混乱の…使者だというの?」

ソフィがそう言うと、一人の警察官が手下に対して発砲した銃弾がソフィの腹を撃ちぬいてしまった。

「ああっ…!!!ぐっ、」

流れ出る血を必死に、ハンカチで抑え痛みをこらえながら目的のトラックの中へと入った。

「SWAT隊…?いる…の?」

奥へと進むと、衝撃的な光景が広がっていた。

「ああ…来てくれたんだね、ソフィさん。」

SWAT隊の一人が頭に銃をつきつけられ、電話の受話器を持っていた。10数人いたSWAT隊は頭を撃ちぬかれ、人質以外は全員死んでいる。

「そんな…嘘よ!マーク!」

銃を突き付けていたのは、マークだった。腹に、ナイフで刺され血を流している。

「ご苦労様。」

マークがそういうと、銃を突き付けられていた人質は殺された。

「マーク…こんな、こんなひどいことを!」

「酷いのは…僕をきづつけるすべてだ!」

マークは、右手に巻き付けてある爆弾をソフィに見せた。

「自分を…自分を抑えるのに疲れた。どうせ死ぬなら、最後に君に居てほしかった。」

ソフィは、唖然とマークを見つめ、その場に腹の傷に苦しみながら倒れた。

「あっ…ぐっ、」

「ソフィ…さん?血が…」

朦朧とする意識の中、ソフィは自分を助けようと必死で止血しているマークが以前銃の使い方を教えた時のマークに戻っていることに気づき微笑んだ。

「…マーク、もう隠れなくていいの。」

マークは、ソフィの声とともにあの日、両親が銃で殺された日がフラッシュバックし、クローゼットの扉を開け、彼を抱き上げる光景が目に映った。

「クローゼットの中から、出ておいで。」

そういい、彼女は意識を失った。マークは冷たくなっていく彼女の頬を触り、トラックを下りて、彼女を抱きかかえた。彼はただ、混乱の渦の中を歩いた…遮ろうとするものがいれば、彼は銃で撃ち殺していった。

 



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2枚のトランプカード(8)

「ジョーカー!ジョーカー!」

ピエロマスクの暴徒が歓声を上げる中、“約束の時”が近づく…SWAT隊や警官たちが入る隙など無いくらい、ジョーカーの手下で埋め尽くされていたのだ。

「ジョーカー、君はいるの?もう一枚の、ジョーカー…」

アーカムから出てきたジョーカーが、そうつぶやき、暗くなったあたりに銃の音や罵声が響きわたっている光景を見て、歩いた。

暴徒たちが道を作り、“彼ら”を誘導している。

「ハッピーちゃん…お迎えだ。」

ナイフを持ったジョーカーは、暴徒たちによって作られた道を頼りにもう一枚のジョーカーを探し、歩く。彼の背後には、人々が混乱し殺しあっている光景が映し出される…

「2枚のジョーカー…」

お互いがそう言うと、彼らは磁石のように引かれあいただ互いを見つめる。2枚のジョーカーが出会ったとき暴徒たちの歓声が一斉に高まり、殺し合いはさらにヒートアップした。

「俺は、お前さんを探していた…お前が俺という存在を作り上げたあの日から。」

ナイフを持ったジョーカーは、そう言った。

赤の衣装を身にまとったジョーカーは、マレーを殺し自分がジョーカーとしてパトカーに乗り上げ暴徒たちが歓声を上げる中に“彼”がいたことを知ったのだった。

「お前は美しかった。醜いものしか見てこなかった俺が、初めて美しいと思ったのさ…ゴッサムが燃えている、その混乱の渦にお前は居たんだ。そして俺は…半分の“顔の傷”の話を作った。」

ジョーカーはナイフを見せ、

「親父が俺に“傷の話”作り、俺が親父を刺し殺したナイフで…」

ジョーカーがそういうと、赤の衣装をまとったジョーカーは、口角を上げ、笑い、手を広げた。

「…この世界はまるで悲劇さ。」

「ならば喜劇とは、」

もう一枚の紫のジョーカーも手を広げた。

その時、鐘が、0時であることを告げた。

「ジョーカー!!!」

暴徒たちの中をかき分け、ソフィを抱きかかえたマークが居た。彼は、右手を掲げ、

「ソフィの仇だ!」と叫んだ。

ソフィをその場に横たわらせ、彼は2枚のジョーカーの元へと走っていったのだった。

「ならば喜劇とは、“笑い”から生まれるのさ。」

「とんだジョークさ…笑い飛ばしてしまえばいいものを。」

「うあああああああっ!」…マークが叫びながら向かってくる。

そして、紫のジョーカーは、0時の鐘が鳴り終わる前に彼の右手の起爆スイッチを押したのだった。

 

とてつもない爆風が、混乱する人々を吹き飛ばしシセロストリートは壊滅状態となったのだった。

 



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