エリス・アイスナーのフォドラ奮闘記 (ゴアゴマ)
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始まりの章
始まりと兄


どうも、ゴアゴマです。

ハイスクールDxDが描き終わってないにも関わらず、こっちのアイデアもビビッと湧いてきたので、
書かせていただくことにしました。

ご都合主義や、無理やりな場面、原作改変が含まれます。
苦手な方や、原作を弄ってしまっている作品が受け付けない方は閲覧せずに作品を閉じる事をオススメします。
申し訳ございません。

それでは、どうぞ。


いつかのフォドラにて、

2人の男女が遠くから自分達が住まう世界を見下ろしていた。

 

どちらも同じような身長で、男の方も女性の様な風貌であった。

 

「…果たして彼らは、どの様に世界を渡り歩いて行くかな」

 

「…不安なのか?」

 

女性がそう言うと、男はふと微笑みながら、まさかと答える。

 

その様子はどこか懐かしく、記憶のどこかにあるかのように感じさせる光景であった。

 

「…もしも、」

 

「ぬ?」

 

「もしも彼等が間違った道に進むとしても、私は導かなければならないだろう。だが、その私が…私自身も道を踏み外してしまった時は、

 

その時は、君の手で…この世界を守る為に」

 

「…そなたは変わらぬな。昔から…」

 

その少女の悲しげに笑うその顔が、本当にどこか記憶の底にありそうで、

 

「…ならその代わり、わしが利用されようものならば、その時はそなたが、皆を導いてやれ。それをわしらの約束としよう」

 

「…あぁ、約束しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソティス」

 

語られたその名前を自分が知っているような気がして、落ち着かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…訳が分からねぇ夢だ。」

 

随分と長い事寝てしまっていたらしい。

 

それにこんな世の中のせいか、知らない男女の夢を見るだなんて、そのうち目の前に出てきそうで怖いったりゃありゃしねぇ。

 

「なんなんだ全く…この前は変な所で顔も知らない奴らに敵意むき出しにされて冷汗かきながら飛び起きたら、今度は訳の分からない話しまくるカップル見てぇな夢を…

 

うん、やっぱ疲れてんだな俺。血ばっかり見てるせいだきっと」

 

唐突なんだが、自己紹介させてもらう。俺の名前はエリス・アイスナー。

 

この物騒な世の中で傭兵の息子なんて言う肩書きのせいで傭兵とはいかずとも俺まで戦闘に駆り出されちまってる男だ。

 

と言っても俺は昔から運動神経が良いってもんでもなく、最初は傭兵として戦場に出されたんだが、余りにも剣の才能やらなにやらが無さすぎるせいでリストラされちまったって訳だ。

 

まぁ、それで戦わずして過ごせるかと思ったら自分には魔法の才能がありまして、そのせいで後方支援と言う形で結局は戦闘メンバーの仲間入り。

 

そんで最近余りにも戦いすぎて血を見すぎちまったせいか、変な夢ばっかり見る訳で。

 

まぁ、そんな感じだけども別に家族が悪いとか、仲間が嫌って訳でもないから、まぁいいんだけども。

 

「残念だがそんなお疲れさんな奴に仕事だ」

 

「うぉい!?」

 

いきなり背後に現れやがって…。変な声出しちまったじゃねぇかよ。

 

「…はぁ、ベレスがそうだったら、お前もそうか。全く、兄妹変なとこばっかり似やがって」

 

「…なんだよ親父」

 

今頭を掻きながら俺の前に立って居るのは俺の父親だ。ジェラルト・アイスナーって人で、とんでもない強さの持ち主で俺も1度も勝てたことは無い。

 

だってさぁ、反則じゃね? なんで魔法が全く通用せずに強行突破されんの? なんかやってんじゃないの? って思えてくる程の常識外れだ。

 

「来るのが遅れちまって悪いが、仕事だ。近くの村で盗賊が暴れてるらしい。先にベレスが向かってるから、お前もすぐ来い」

 

「…はぁ、まーた流れ作業か」

 

「愚痴なら後にしろ。お前だって人が虐殺されてるのを見るのは気が気じゃねぇだろ」

 

「…へーい」

 

いや別に構わないんだけどさ、毎度毎度ベレスがちぎっては投げ、ちぎっては投げしてる後ろで逃げようとしてる奴を倒すって…。

もう恒例行事みたいになってんだよ。それを何回も繰り返してみろ。またこの流れかーってなるから。

 

…まぁ、そんでも人が襲われてんのを黙って見てるってのは嫌だし、急いで向かいますけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…着いたはいいんだけど、なんでベレスは知らない3人組を連れて戦ってるわけ?

え、なに、とうとう疲れすぎて一般人を巻き込んでもよろしい考えになったわけ?」

 

「落ち着け。アイツらが手を貸してくれって言ったんだ。そして疲れてんのはお前だ」

 

「はぁ〜、最近の若いのは威勢がいいねぇ」

 

「茶化してる暇があるなら早くベレスの応援に向かえ」

 

ったく人使いの荒いこって…まぁいいや。ベレスに苦戦されちゃあ困るからな。

 

ま、取り敢えず

 

「ファイアー!」

 

「ぐぁぁぁぁぁ!?」

 

後ろに回り込んでベレス達を攻撃しようとしていた賊を無力化させて、彼女達の元へ向かう。

 

「ベレス、怪我はないか?」

 

「兄さん」

 

そう言ってベレスは安心したような笑みを浮かべながらこちらを見つめる。分かっていると思うがベレスは俺の妹である。

義理のとか、そんなんじゃなく、正真正銘同じ母親から産まれてきた兄妹だ。だって父親もそう豪語してるし。

 

「全く、またいつもの戦術になっちまったじゃねぇか。まぁ魔法だけで先陣突っ込んだら思いっ切りぶっ斬られちまうのがオチなのは分かってるけどさぁ」

 

「兄さんは後方支援が嫌なのか?」

 

「そうじゃないけどさ、毎回毎回だと飽きるじゃねぇかよ」

 

「うーむ、そういうものか?」

 

「そうだろ、お前だって毎度毎度親父と一緒に寝るのは飽きるだろ?」

 

「うん。飽きるな」

 

「そゆことだよ」

 

「お前ら…無駄口叩いてないでさっさと族の討伐に向かえ」

 

うん、いつもこんな感じだ。このように俺とベレスのほんわかした話に親父の集中しろーで敵を殲滅していく。

 

いや嫌な訳じゃないけどさ、たまにはこう、変わった事もしてみたいじゃん。まぁそれで被害が拡大したら元も子もないからしないけど。

 

「えっと、貴方は?」

 

そうこう親父いじりをしながらの雑談プレイをしていると、金髪の男が俺に話をしてきた。

その発言に同情するかのように白い髪の女と黒い髪の男もじっと俺を見つめている。

 

…へぇ。コイツはまた随分と…。

 

いやいいや、取り敢えず怪しまれないようにしねぇとな。

 

「どーも。俺はこの無双してる女の兄だ」

 

「おぉう、兄妹だったのねあんたら…」

 

「でも、あまり似てないわね」

 

いや、兄だからとかで確実に似てる人はそうそう多くねぇだろ。と言いかけて口の中にしまい込んだ俺は偉いと思う。

 

「おいお前ら、さっさと行くぞ。村は何としても守らねぇといけねぇしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんでこんな所に壊刃ジェラルトがいやがんだ!

聞いてねぇぞ!」

 

「…はぁ、とっとと終わらすか」

 

親父はあっちの方で族の親玉を制裁中か。まぁ、数秒もしないうちに片付くだろうよ。さて、こっちは、

 

「こ、この…!無表情に剣振り回しやがって…!」

 

「…!」

 

「ギャァァァァァァァァ!」

 

残酷な切り裂かれた音と共に絶叫しながら族の1人が倒れていく。

まぁ、さすがベレスと言ったところか。伊達に傭兵やってきた訳では無さそうだ。

 

他の3人はどうだろうな?

 

「こ、このガキ共が先だ! やっちまえ!」

 

「悪いが、ここで死ぬ訳には行かないんで、な!」

 

「ぐぁぁぁ!」

 

金髪の青年。ふむ、彼は槍使いか。俺にはさっぱりだが。でもあいつ、力でねじ込んでないか?

なんか、ミシミシって嫌な音たてながら突き刺してんだけど。

 

「はぁ、全く。大人しくして欲しいものね。ハァ!」

 

「ぐべぇ!?」

 

あの女子は斧か。て待て。お前もか。お前もなんかしちゃいけない音を出しながらやってない?

なに?コイツら脳筋なの?完全に俺場違いなんすけど。てことは、あの青年ももしかして…

 

「痛てぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「おっと、すまなかったな。狙い所が悪かったみたいだ。」

 

おぉ。彼は弓か。なんか二つの意味で凄く安心した。脳筋でもなさそうだし、何より後方支援ってのが共感出来る。

 

「うーん、でも味気ないな。矢に毒でも塗っときゃ良かったか?」

 

前言撤回。こいつもやべぇやつだった。そろっと危ねぇこと言ってるぞこいつ。味気ねぇって理由で毒なんか使っちゃいけません。絶対に。

 

「後ろががら空きだぞオラァ!」

 

「ガキの癖に調子に乗りやがってぇ!」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「行くぞオラァ!」

 

あら。いつの間に4人の背後に回り込んだんだあんたら。いやまぁ、回り込んだは良いけどよ?

 

「ほいっと!」

 

「「「「ギャァァァァァァァァ!」」」」

 

俺は瞬時にサンダーを連続で使い、奴らに被弾させた。後ろをとってもそのまた後ろに気を付けねぇとロクなことにならんぞ?

 

「いつの間に後ろにいやがったんだこいつら…」

 

「そいつらは放っておいていいから、親父んとこ向かうぞ」

 

もう終わって入ると思うがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「全く。俺も歳かね。無駄な時間使っちまった」

 

ありゃ?今終わったとこだったか。

 

「親父。こっちは片付いたぜ」

 

「おぉ、お前らか。随分早かったな」

 

「いつも通りの俺らとこいつら3人が上手くやってくれたおかげでな」

 

ようやく一仕事終わったし、これでまたゆっくり出来そうかね。

 

にしてもこの3人がまさかこんだけこの状況に対応出来るってことは、それなりに戦い方は学んだのだろうか。

まだベレス程俊敏に動けていない点では戦いになれる段階ってとこなのかね。

 

…まぁ、それでも…!?

 

「はぁ、無駄な体力使っちまった。さっさと」

 

「おい!後ろ!」

 

「は?」

 

「…ぜぇ、ぜぇ、舐めてんじゃねぇぞこの野郎!」

 

あいつ、親父の攻撃食らってまだ動けんのか!?でも、あいつの向かってる方向は親父じゃなくて…あの女子か!?

 

「死ねぇぇぇぇぇ!」

 

「ッ!?」

 

チッ、まさかタフな奴がいたなんて、油断してた! 不味いな、皆安心したせいかそれぞれ離れた所にいるせいで、1番奴に近いアイツを狙いやがったのか!

 

俺が魔法を放とうとしていると、そこに1つの影が乱入してきた。それは俺の妹。

あいつは背中を族に向け、やつの攻撃から少女を守ろうとしていた。

 

やべぇ、このままじゃベレスが斬られる。俺はそう思って駆け出そうとした。先陣だろうが後方支援だろうが関係あるかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、体が動かなかった。別に、恐怖でとかではない。よく見ると、俺だけではない。全てが止まっていた。

 

何事か、と俺が思考していると、何故か視界が真っ黒になっていき、やがて

 

『ほぉ、やっと力に目覚めるのか。遅かったね』

 

声だけが俺に聞こえてきた。

 

「…どこだここは?」

 

『ここは君の精神の中ってとこだね。そして私の、いや僕のでもある』

 

「お前も?どういう事だ?」

 

『ふぅむ、どう説明すべきかな。君は僕。僕は君なんだよ』

 

…つまり俺は二重人格だったと言うべきか?

 

『うーん、そうとも言いきれないんだよね』

 

っ、心が読めている?

 

『そりゃ、まぁね。僕は君なんだから。

まぁ、君の知らない部分の君が僕、とでも言えばいいのかな?』

 

「…難しいな」

 

本当に何を言っているのだろうか。いきなり変な空間に来て、俺の知らない部分だとか。なんの事かさっぱりだ。

 

「それよりも、早くベレスの所に行かねば」

 

『…いや、行ってもいいけど、このままだと彼女、死ぬよ?』

 

「いや、だからそれを止めようとしてるんだろうが」

 

『いや、止められないよ。だってあのタイミングで魔法を打つにも、魔法が届くよりも早く刃がベレスの体に吸い込まれて行くからね。どうしようもないさ』

 

「…手遅れってことかよ?」

 

たった1人の妹も守れずに終わるとか、まじで無能すぎんじゃねぇか俺は。そう思わずにはいられねぇ。親父に何と顔向けすりゃ良いのか。

それに3人も初対面が殺されたなんて目覚めのいいもんじゃねぇだろ。

 

『…でも、起きる事が分かっていれば対処出来るんじゃない?』

 

「…なに?」

 

『うん、もうそろそろあっちも終わる頃かな。後で君にもよく説明するから、とりあえず今はベレスを助ける事に集中しなよ』

 

「え? ちょっと待て! どういう事だ!」

 

訳の分からないまま、何か後ろに引っ張られるような感覚と共に、再び元の世界へ戻る。

 

相変わらず世界は止まったままで、刃もベレスの目の前で止まっている。間に合わないと言ったのにどうやって助けるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、束の間、引き戻される感覚と共に、世界が巻き戻り始めた。

 

どうなってやがる?としか思えない。こんな現象は初めて見る。

それに、まるでアイツはこのことを分かっているかのようだった。

 

…何か関係がありありなのは分かった。

 

やがて巻戻りが止まり、そこの風景は族が立ち上がり女子を狙い、走り出す直前だった。

 

「サンダー!」

 

「ギャァァァァァァァァ!」

 

俺は急いで魔法を唱え、族に命中させて倒れさせる。

今度はキッチリ効いたようで、ピクピクと痙攣しながらその場に伏せている。

 

「…ッ!? 兄さん…?」

 

ベレスを見ると、あちらも俺の方を見て、何故か不思議そうに俺を眺めていた。

 

…俺の咄嗟の反応に驚いた訳では無さそうだ。ではなぜ?

 

「エリス、ベレス、お前ら今何か…?」

 

…親父の反応を見て理解する。

1度娘が斬られそうになったのに、ベレスに急いでかけ寄らない親父。

ここだけ聞いたらなんと酷いとなってしまうが、もしさっきのが本当に時間が巻き戻ったのなら、彼はベレスが斬られるのを知らない。いや、そもそもそんなことがないため、親父には少し変な風に見えてしまうだけになる。

 

しかし、親父と違いベレスは俺の行動にとても驚いていた。

 

急な行動に驚く様なではなく、余りにも不自然なものを目撃して怪しむように。

 

…もしや、この巻き戻りは…

 

「そこまでだ族共!セイロス騎士団の名のもとに成敗してくれ…て、む? 族達はどこだ?」

 

「…おっとぉ、面倒なやつが来ちまった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらベレスとの話はあとになりそうだ。




どうでしたでしょうか。
分かりますよ。
自分でほんとに恥ずかしくなります。
すいません。ほんとすいません。
まじで駄文になってしまいました。
途中ところどころ何を言っているのかわからなくなってる部分がありそうですね…。


ちなみに私はfeはifと風花雪月をプレイしております。
ifは暗夜と透魔をやりました。
好きなルートは暗夜で、育った国を味方にして中から真の敵を炙り出していくあの感じはとても作者にとって素晴らしい作品だったと感じています。
特に、どのルートでも当てはまりますが、カムイをめぐってのあのシーンは、なんかこう、ぐっと来るものがありましたね。
ラスボスBGM全ての路の果てには初めて聴いた時には鳥肌もんだったのを今でも覚えています。

一番好きなキャラはサクラで、物静かながらとても芯の強いあの子はホント、見てて和むし、最高ですね。

風花雪月は銀雪以外のルートをクリアして、今銀雪をやっております。
ルート的には紅花で、これまた敵であるはずの教え子と共に歩むなんてのが、新鮮だったですね。

一番好きなキャラはアネットで、ベレアネ結婚を見た後、私的にこれが一番じゃねぇかと思ったほどでした。

出来ればこの作品も暖かい目で見守って下さったらとても嬉しいです。

宜しければ感想をよろしくお願い致します。

それでは、また次回。


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もう一人の自分

どうも、ゴアゴマです。

中々オリジナルを原作にぶち込むのが難しく、中々完成しませんでした。申し訳ございません。

では、どうぞ。


あの後、親父が突如現れたおっさん風の騎士に絡まれ、なんやら訳アリのようで強制連行される事に。

 

当然俺達も道連れにされる訳で。まぁええんちゃう?正直飽きてきた面もあるし。新しいとこに行ってなんか新しい事するのも悪くは無いっていうか。

 

「…兄さん。少し話が。」

 

俺が親父に哀れみの目とこれからの事に期待を膨らましていると、ベレスが俺に話しかけて来た。向こうから来てくれるとは、少しありがたくもあり、不安でもあるな。一体どう言った展開になっていくのやら。

 

「…丁度良かった。ベレス。俺もお前に話があるんだ」

 

「…兄さんも?」

 

「…あぁ」

 

「…両想いだね」

 

「この展開にぶち壊し入れないでくんね!?」

 

また出たわ。ベレスの悪い癖。シリアス持ちかけるだけ持ちかけといてアホな事抜かしよるこの癖、まだ直ってなかったんだな。アホな事も大抵の事ならツッこんで終わるんだけども、たまにこいつ血が繋がってること分かってるのかって言いたくなるような発言をしてくるから、ヒヤッとする。

 

その原因は周りの男共と何故か親父までもが俺に睨みを効かせてくるからだ。いや、俺筋違いだから。怒るなら羞恥心も何も無い天然ボマーのベレスちゃんにしてちょうだい。

 

「…兄さん?大丈夫?ボーッとしてるけど」

 

「あ?あぁ、大丈夫。ちょっと考え事をね。

それよりも、話ってなんだ?」

 

これ以上無駄話を続けると延々と続いてしまう予感がしたので、本題に入らせることにした。

 

「兄さんは、私が斬られそうになった事を知っているか?」

 

「あぁ。止めようとして世界が止まった所まで全部な」

 

この発言で、お互いが時間の巻き戻り以前の記憶を保持している事が確認された。だが、まだ肝心のその巻き戻しの犯人が分からない。

 

「ちなみに、この巻き戻しを起こした奴って、誰なんだろうな。こんな人助けのような事をイタズラでやるわけもないだろうし、俺らの関係者しか居ないように思えるが」

 

「…それは…」

 

その発言で、ベレスの雰囲気が重くなる様な気がした。それだけで、何を表しているのか察しがついてしまった。

恐らく、珍しい事をしでかした自分を俺はどのように見るのだろうかと不安なのだろう。

 

「…ベレス」

 

「っ?」

 

名を呼ぶと共に、俺はベレスの頭を撫で回した。こうすることで少しくらい気持ちが安らぐだろう。

 

「何でかとか、そう言うのは聞かねぇよ。ただ、言いたくなったらすぐいいな。俺はお前がどんな事が出来たとしても失望なんてしねぇから」

 

「…兄さん」

 

相変わらず無表情だが、少しだけ雰囲気が柔らかくなった気がした。

 

この子は感情を余り表に出さない子で、滅多に笑ったりする事がない。怒る事も、悲しむ事も、本当に極々稀にしか見せない。

 

でも、彼女に感情がない訳では無い。不安になる事だってそりゃあある。だからこそ、兄の俺がちゃんと味方で居てやらねぇとな。と世話を焼いちまうんだよな。

 

「…っ?」

 

「ん?どうした?なんかそっちにあるのか?」

 

ベレスが何かを気にし始めたので、撫でるのをやめて、

そちらを向く。すると、そこには先程の3人がこちらを見ていて、ベレスを呼んでいるようだった。

 

「行ってこいよ。ベレス」

 

「うん。兄さんも一緒にね」

 

そう言うと、ベレスは俺の手を引いて3人の方に連れて行く。

はぁ。まぁいいか。あの3人の事も知りたいしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁー。助かったよ。あんたらのおかげでさ」

 

「あぁ。本当に素晴らしい連携だった」

 

「さすが、壊刃ジェラルトの子供と言ったところかしらね」

 

「いや、君達が無事なら良かった」

 

「俺なんか後ろで魔法撃っているだけだしな」

 

3人にお礼を言われたが、実際俺はチキンプレイしてただけなんだけどなぁ。

 

「いや?そんなことは無いぜ。あの剣の身のこなしと合わせたアンタの正確な魔法、あれでただ普通に戦っていると言われる方がおかしいってもんだろ」

 

「そうだ。2人とも是非王国に来ないか?王国はお前達の様な優秀な人材を欲している。良ければこの後すぐにでも」

 

「ちょっと待ちなさい。それを言うなら私もよ。是非帝国に来ないかしら?」

 

「おいおい、お2人さん。いきなり口説くなんてズルいじゃないか。それを言うなら同盟国としてもこの人達の力が欲しいんだがねぇ」

 

「…人の前で口論を始めやがったな」

 

「? 仲良さげじゃないのか?」

 

「お前ホント戦闘系以外の事疎いよな」

 

それから、しばらく揉めたあと、1番どこが良いか等を聞いてきて、困惑してしまった。ベレスは帝国が良いと言っていたが、俺は別に帝国だの王国だの同盟だのってのは余り興味が無いから、そんなに知らないから決められないと答えたら、なんか微妙な反応をされてしまった。

そんなことを言っていると、先程のオッサンのような騎士が出発をするから準備をしろと声をかけてきた。

 

そして、俺達5人はそれぞれの準備に取り掛かるべく別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まぁ、随分と濃い性格をした奴らだったな。」

 

別れたあと、俺はあの3人の事を思い出していた。帝国の女子と、王国の男子、そして同盟国の男子。戦いのセンスもあるし、カリスマもありそうで、こいつらがそれぞれの指揮を取るのならば上手くいくんじゃないかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれの瞳の奥に闇が見えていなければの話だが。

 

表面上は取り繕っているのかは知らないが、それぞれが何か言葉にならない凄まじいものを抱えているような、そんな気がした。

 

帝国の女子。

あいつは、人の事を品定めする様に見る視線を送ってきた。まぁそれはまだいいだろう。人の事を判断する力も必要なんだろうし。ただ、それとは別に直感的に何か、この世界を揺るがしかねん野望を秘めている様な、そんな気がした。

 

王国の男子。

あいつは好青年に見えて、隠しきれていないほどの憎悪と怨念が渦巻いている感覚がした。今はいいが、間違いなくあのままだと自滅する。それも周りと共に。

 

同盟の男子。

人懐っこそうな雰囲気や、絡みやすそうな言動で接してくるが、それら全てが胡散臭く感じる。目が1つも笑っていないその表情からは、全てをひっくり返す様なことを仕出かす事を予言するかのようにも感じ取れた。

 

って、なんで俺はこんなにも明確にありもしない事を…?

 

『結構な名推理、いや、迷推理かな?』

 

「うるせぇな! ってお前…!」

 

急に貶された為に反射的にツッコんでしまうが、その声は世界が停止した時に聞こえた、男の声だった。

 

『やぁ、さっきぶりだね。何とか間に合ったようで良かったよ』

 

「…まさかまた会話することになるとは思っていなかったぜ」

 

『何もあそこの空間だけで話せるわけじゃないよ。僕もどう言う原理なのかは知らないけどね』

 

「…と言うか、後で説明するって言われた事、詳しく聞かせてもらおうか」

 

『おいおい、焦っても何もいい事なんてないよ?

それに、いくら同一人物的ななにかと言っても、呼び方が無いと不便じゃん?だから今度から、僕の事はイージスとでも呼んでくれよ。』

 

「…ちなみにその名前にした理由は?」

 

『パッと思い浮かんだから』

 

「…お前の頭どうなってんだよ。あ、俺の頭でもあるのか。ってめんどくせぇな!」

 

こいつ、まさかのボケ担当か…。また忙しなくなるな…。

 

『まぁまぁ、そんな辛辣な言葉を吹っかけないでさ! とりあえず、準備でもしたら?話は後でじっくりしてあげるからさ』

 

「…またはぐらかしたな。はぁ…まぁいいか。とりあえず、支度しないとなぁ」

 

色々疑問が残る中だが、奴に急かされ、とりあえず準備をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、説明をしてもしなくても、いずれかには全て八ッキリするだろうさ。何せ今から君が向かうのは、僕にとっての情報に満ち溢れているだろうからね。フフ…全てを知った時、君がどう決断するのか、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が、不可能だった事を出来そうな予感がして、ね?』

 

イージスが何かボソッと一気に呟いたが、何故か聞き取れなかった。




閲覧、ありがとうございました。

一体、イージスとは何者なのでしょうか。
そして、何故エリスに向かってあのような意味深な発言をしたのでしょうか。それを知るのは、まだ先になりそうですね。


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干渉の力

どうも、ゴアゴマです。

ベレト×アネット(ベレアネ)尊すぎる…
でもあまり見ない…寂しい
皆さんはどのカップリングが良いですかねぇ?
ベレアネの他には私はヒルダ×マリアンヌ(ヒルマリ)
ディミトリ×イングリット(ディミイン)がいいかなぁw

では、どうぞ。


イージスとの話を途中中断してから、俺達はこれからの目的地へと向かっていた。話の始まりに自己紹介をして、帝国の少女がエーデルガルト、

王国の青年がディミトリ、

同盟の青年がクロード、とわかった所で、それぞれが気になる話題をぶつけあった。

 

4人と話す途中で、時々イージスが口を挟んでくるが俺にしか聞こえてないようで、口で返答したら、3人におかしな目で見られた。何故かベレスは同情の眼差しを向けてきた。

 

もしや、ベレスにも同じような存在がいるのか? 一応、その可能性も捨てきれない為、気に留めておくことにしよう。

 

「そう言えば、お二人さんは兄妹らしいが、仲は良いのか?」

 

ふと、クロードがそんな事を聞いてきた。逆にここまで一緒にいて仲が悪かったら、本当に仲がいい奴らはどんなスキンシップを取っているのか気になるわ。

 

「無論、仲は良いぞ。仲が悪い所を想像した事は無いくらいにはな」

 

「もちろんだ。私と兄さんは深い絆で結ばれているからな」

 

「…そう。すごく仲が良いのね」

 

?おかしい事言ったかな俺達。普通に答えただけなんだが。少しだけエーデルガルトの目が曇ったように感じた。すぐさま謝罪しようと思ったのだが、余計な気を使わせまいと思ったのか、すぐにあちらが口を開いた。

 

「ご、ごめんなさいね。少し、昔の事を思い出してただけだから」

 

昔…か。詮索はよした方がいいかも知れないな。無闇に聞くのは止めよう。

 

「じゃあ、2人は食事とかも一緒に取ったりしているのか?」

 

「あぁ、そうだな。と言っても食事中はあまり話さないけどな」

 

「あぁ、食事だけじゃない。寝る時も一緒だ」

 

「うぉい!?」

 

また始まったなこの無自覚がぁ! サラッととんでもないこと抜かしてんじゃねぇよ! てか、いつも寝てたら勝手にお前が入ってくるんだろうが!

見ろほら! 3人の顔が無になってるだろうが! なんでテメェはそんなポンポンとメティオ発射すんだよ!!

 

「兄さんは寝る時も大胆だからな。さりげなく私を抱いてくれるんだモガ」

 

「待て待て待て待て! すこーしお口を閉じような!

色々抜けてるせいで俺がヤバいことしてるように聞こえるから!」

 

どうしてこうも恥じらいもなくこんな発言ができるんだ? あ、気付いてないからか! いやだとしたらなんで普通に話しててそんな風な発言が出てくるんだ!?

 

あぁ待って! 3人ともそんな絶対零度の眼差しで俺を見ないで!

 

「いやはや、ま、まさかこれ程とはなぁ」

 

「いや言うなクロード。世の中には様々な愛の形があるんだ。俺たち部外者が口を挟んでいいものじゃな、ない、はずだ…」

 

「…とんだ人ね」

 

「おい待て!誤解だ! さすがに俺も妹を召し上がる気はねぇよ!」

 

「?兄さん、召し上がるとはなんだ?私は兄さんに食べられるのか?」

 

「だぁぁぁぁぁぁ! いつの間に拘束破ったんじゃテメェ! いいからも少し黙ってろぉ!」

 

「モガモガ、りいふぁん、しゃふぇれらい(兄さん、喋れない)」

 

自業自得だ。無自覚メティオは黙っとれい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、普通に一緒に寝ただけね。びっくりしたわ」

 

「良かった。これで変に悩まずに済む」

 

「ホントそうね。お兄さんの方の印象が最悪になる所だったわ」

 

俺も良かったわ。知り合って早々ギスギスした関係なんてなりたくねぇからな…!

 

「兄さん、酷い」

 

「悪かったって。やり過ぎたのは謝るから。でもお前の悪い癖が出たせいだからな? 気を付けろよ?」

 

「おっと、また失礼な発言をしてしまっていたか。それは済まない」

 

言って聞かせるとすぐに納得してくれるからいい子なんだけどなぁ。無自覚って怖いわ。

 

『ハッハッハ、随分と災難じゃないか』

 

(うるせぇな、他人事のように言いやがって)

 

『でも口に出して怒らないのを見る限り、君は妹に甘々なんだね』

 

(だからうっせえって)

 

『…ホント、僕にそっくりだ』

 

(あ?何が)

 

『いやなんでもない。それよりも、さっきエーデルガルトだっけ? あの子、すごく暗そうな表情をしてたよね。何があったんだろうね?』

 

話を掘り返してきた。そうまでしてまで何が目的だ?

 

(気になるが、そんな物を聞くなんて出来るわけねぇだろう。だから、それはまた後に)

 

『いや?君は知る必要がある。それに、彼女に言わずに知る事だって出来る』

 

突然何を言い出すんだ?こいつは。知る必要がある?

それは一体…

 

「はっ? なにが」

 

イージスが言った事に一瞬呆然としてしまい、ふと、エーデルガルトを見てしまった。すると突然、何かが俺の頭に入ってくる様な感覚があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入ってきた物、それは映像。何者かに監禁されている複数人の男女が、何かとてつもない人体実験を繰り返されている図。そして、次々と様子がおかしくなっていき、倒れていく人々。その中で1人だけ残り、虚ろな目をした白髪の少女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

「? 兄さん?」

 

一気に引き戻されてくる感覚と共に、現実へと戻ってくる。

 

余りにも強烈すぎる光景を目にしたせいで、汗が吹きでる。

今のは、なんだ?なぜ、今の様な映像が?

 

『見てきたようだね。彼女の過去を』

 

(ッ、見てきた、だと?)

 

過去を? 見た? あの拷問の様な光景が彼女の過去だということか?

 

「兄さん?」

 

『そう。君は、君の力は、あらゆるものに干渉する力というものだ』

 

(干、渉?)

 

『まぁ、言葉通りだよ。今のように他人の過去に干渉して情報を得たり、とかね。あとはあの巻き戻しも力に干渉して影響を受けなかった、とかね』

 

いや、規格外すぎるだろう。

 

「兄さ〜ん」

 

(しかし、いくらなんでも知り合ったばかりの奴の記憶を盗み見るなんて、どうかしてないか?)

 

俺が平然と口にした、いや、心の中で口にした、アァめんどくせぇ!

とりあえずイージスに向かって言った言葉に、何故か奴が言葉に詰まっているかのように感じた。

 

『…その点に関しては僕も同じ意見だよ。

でも、君はこれからこの能力でで様々なものに影響されなければならないからね。急いでこれに慣れてもらわないと困るんだ。

 

…最悪の事態を逃れる為にも。ね』

 

その言葉に、俺は何故か言い返せなかった。そんなありきたりな事、と言えれば楽なのだろうが、どこかその言葉に納得してしまう様な自分がいてならなかったからだ。

 

確証はないが、そんな気がする。

 

「? 気付いてないのかな。兄さん?(ほっぺむにむに)」

 

(…ハァ。と言ってもなぁ。映像が見えただけで、あれがエーデルガルトと言う保証もないしなぁ)

 

『まぁ、自覚して貰う為には誰でも良かったんだけどね。それに、それは力に目覚めたばっかりなんだから大まかな情報しか手に入らないに決まってるじゃないか。これ以上の情報が欲しいのなら、本人に聞くか力の使い方に慣れてから干渉することだね』

 

酷いし適当だし大雑把過ぎるわ。

 

「…いつになく柔らかい。(むにむに)」

 

にしても、あれが誰にせよ、イージスの言っていることが本当なら、この世界は相当に闇が深いって事になるな…。俺はあんまりこことかの情報知らないんだが、そんな俺でもここら辺の表裏は激しいんだろうなと感じてしまう程には。

 

(でもよ、お前、そうやってやたらと俺に何かさせようと急かすけどよ、何でなんだ?)

 

『…今はまだ全てを話す時じゃない。時が来れば、自ずとわかってくるさ。

ただ、一つだけ言うとなれば、君はこれからこの世界の事を知らなければならない。中には君が目を背けたいこともね。そして、

全てを知った時、君がどうするかによって未来は大きく変わる。ということだね。

 

・・・後は、君の全ても、ね』

 

ひと通り話し終えた後に、何かボソッと呟くのだが、何故か同じ体の中の人の発言なのに聞き取れなく、何を言っているのかさっぱりだ。

 

「まだ気付かないのかな。(むにむにむにむに)」

 

俺が何をしようと情報は勝手に入ってくるから自然体で待ってれば進んでいくってことか?

 

「…(びよーん)」

 

『そういう事だよ。よく分かってるじゃないか』

 

「…(びよーんむにむにむにむに)」

 

人の心を読むんじゃねぇ!ってこいつには分かるか。

 

「っていつまでお前は人の頬で遊んでんだ!」

 

「あう」

 

遊んでいたベレスに容赦なく拳骨を喰らわせる。お前は幼い子供か。何人の頬を触り倒してんだ。最終的にはなんだよ伸ばしながら揉むってアホか。あぁ、こいつはアホだった。そうだった。平気で人の寝床に潜り込んでくるアホでした。

 

「兄さんがぼうっとしてるのが悪い。あと兄さんの頬がふわふわなのが悪い」

 

「いや1つは分かるけど後のは俺悪くなくね!?」

 

「あー、お二人さん、仲が良くて結構なんだが、もうそろそろ着くぞ?」

 

そう言われ、ベレスとの口論?のようなものを中断して前を向くと、坂の上に何やら宮殿?の様な城のような兎に角大層な建物が見え始めた。

 

「あれが今、私達が向かっている場所、

ガルグマク大修道院よ」

 

ほう。あそこか。にしても、随分とでかい建物だな…。

 

(ここでしばらく滞在すんのか?まさか、ここに住み込みで働くっとかねぇよなぁ)

 

『良いじゃないか。ここには君が知るべき情報がわんさか眠ってるからね』

 

(なんで来たこともないのにそんなことが言えるんだお前)

 

『まぁまぁ、それはこれから分かるって』

 

こいつほんと具体的な事と匂わせる事しか言わねぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後あの3人とは別れ、俺とベレスは親父について行った。それで、ガルグマクの中に入った訳だが、中も広いんだな此処。しっかり着いて行かねぇと迷いそうだなぁ。

 

その途中、ふと突然親父が立ち止まって上を見あげた。そこには、2階のテラス?の様な所から美人な女性がこちらを見下ろしていた。

 

「…レア様…」

 

親父がふと呟く。その顔は、どこか嬉しそうで、どこか警戒している様な複雑な表情だった。




どうでしたでしょうか。

はい、エリス君の能力は天刻では無く、
干渉能力、という事ですね。

最初はどんな能力にしようか迷ったのですが、この物語の最終的な結果にするためには、まずある物を知ってもらわねばならないため、情報を入手したりすることができるような能力にしたいと思った結果、少し規格外な能力に…。
さすがにベレトスと同じ力では味気なくなっちゃう感じがしたし、ベレス(とソティス)だけの力にしたいですしね。

流石に力の流れを変えて殺されないようにする、とかは無理ですが、あ情報収集と特殊な力の無効化は可能です。

良ければ、感想もよろしくお願いします。

では、また次回。


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白雲の章
専門教師


どうも、ゴアゴマです。

今の所ベレスがヒロインに選ばれそうになっております。

兄妹を超えた恋愛ですか、良いですねぇ。

自分が1番いいと思う3名の内1名への投票、
是非よろしくお願いします。

では、どうぞ。


レア。

 

その姿を見た時、何故か安心感の様なものが胸の中をいっぱいにした。

何なのだろうか、良かった?なのか?何も分からないのに、何故なのだろう。

 

…先程は急に力を使ってしまったが、今ここで力を使えばまたベレスにいたずら、もとい心配されてしまうと考え、もう少し場が安定したら彼女に対して使ってみようと考えた。

 

『その判断はとても良いと思うよ。僕も、ね』

 

(お前も?力を勧めてきたお前にしては珍しいような)

 

『僕は力を使いこなせとは言ったけど乱用しろとは言っていないよ。使い時ぐらいは考えてもらわないと。それに彼女セイ…レアだっけ? 只者じゃなさそうだ。今の君ならボロが出そうだしね』

 

(ボロクソ言ってくれるじゃねぇか。まぁいいや、そういう事にしておく)

 

じっとこちらを見定める様に見つめてくるレアを後に、俺達は建物の中に入り始めた。ちなみにベレスも見られていたが、あの人は誰だろうくらいの感覚で見ていた様に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、まだ意思は残っているのですね。

お母様、お父様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事だったのだね。しかし、名前を変えここに居るとはね。

…まだ囚われているのかい、セイロス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して誰にも伝わることの無い両者の呟きが、それぞれ寂しげに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いた俺達は、何やらだだっ広い所に行き着いた。どうやら、此処で待ってれば良いみたいだが。

 

「にしても、親父があそこまで翻弄されるとはな、少し、意外だったな、フフッ」

 

「いじらしく笑ってんじゃねぇ。普通そこは慰めるなりなんなりする所だろうが」

 

「いや親父に慰めは要らねぇだろ。天下のジェラルトアイスナー にはな?」

 

「煽ってんじゃねぇ!おいベレス、こいつの代わりに慰めてくれ!」

 

「分かった。抱き締めればいいか?」

 

「あ、もううちの娘最高、おいエリスどけ。俺の娘の近くは親の俺が陣取る」

 

「てめぇは俺の親でもあんだろうが! こんな所で変な親バカ発揮すんなアホ!」

 

たくなんでこうも親子揃って可笑しいことばっかり言うんだか、俺には全く理解ができん。騒がしいしやかましい親父と静かなる天然爆弾妹、全くジャンルの違うバカではあるんだが合わさるとホントうぜぇ。収集がつかなくなるから困る。

 

「だが、ここに来るのも何年ぶりかね。今更あの人と顔を合わせた所で…」

 

不意にいつもの調子に戻るジェラルトの顔がまた変化して曇り始めた。忙しいなあんたも。

でも、大体親父が変な顔をする時って何かしらやべぇ事があったりすんだよなぁ。

 

「あの人って?」

 

「さっき中庭の2階から俺達を見てた人じゃねぇの? 親父がレア、とか言ってた人」

 

「エリスの話した通りだ。

大司教レア様。ベレスは知ってるだろうが、このフォドラの住人の大半は、セイロス教の敬虔な使徒だ。

そんな馬鹿でかい教団の最高支配者が、大司教たるレア様ってわけよ。そこのバカは知らないだろうがな」

 

「うっせぇな。俺は世間に関してはこれっぽっちも興味がなかったんだ。知らなくて当然だろうが」

 

「ハァ、興味が無いにしても重要な事くらい少しは覚えておけよ。良くそんなので魔法が使えるようになったな」

 

「いやあれは面白いじゃん? 何でいちいち面白みの無いもの聞いてたって何の得もねぇものを覚えなきゃならねぇんだよ」

 

「…お前のその大雑把加減には本当に呆れるなぁ。まぁいいや、とりあえず、今からでもいい。世間についてよく勉強しろ。」

 

『親父さんの言う通りだね。一応並の知識以上は覚えた方がいいよ。いや覚えてくれ』

 

2人がかりで言われてもなぁ。興味無いものに時間を割きたくないしなぁ。

 

『…頼む。いずれ必要になるんだ』

 

…コイツ何に必死になってるんだろうか。俺に情報を頭に詰め込ませて歩く辞書にでもさせる気か? ふざけましたすみません。

 

「まぁ、考えておくわ。やるかやらないかは別として」

 

「なんだ、やけに素直じゃねぇか。明日は槍でも降るのかねぇ」

 

「オゥクソ親父、そこに直れトロンぶちかますぞ」

 

「お前が俺に勝とうなんざ100年早ぇ。せめて長時間働けるようになってから挑みやがれ」

 

「お待たせ致しました、ジェラルトさんってこんな所で騒ぎを起こすのはやめてください」

 

親父と些細な喧嘩をしていると、緑の髪の男と先程のレアと呼ばれる人物がこちらに来ていた。

うーん、なんか近くで見れば見るほどなんか懐かしげがある顔だな。あと男の方も。

 

『分かってると思うけど、力を使うなら様子を見て使ってね。あの時強制させた僕が言える言葉では無いけども』

 

(分かってるって)

 

「久しいですねジェラルト」

 

「えぇ、ホント、何十年ぶりかってもんですがねぇ。ここを出てから、まぁ色々とありましてね」

 

「そして授かった子供達が、その子達、という訳ですね」

 

急にレアの視線が俺達2人の方に向く。

っ、なんだこの舐め回されるような目は。なんだ? 何かを期待しているのか?宝石の様に綺麗目をしながら俺達を見つめているのに、何か、偶に透き通った色が濁る様に不安な何かが俺を見つめているようにも感じた。

 

「どうも…ベレスです」

 

「…エリスだ」

 

「おいエリス。もうちっと柔らかく対応できねぇのかお前は」

 

「仕方ねぇだろこれがありのままなんだからよ」

 

「まぁまぁジェラルト。元気があってよろしいでは無いですか」

 

なんかうさんくさくて警戒してしまう様な人に優しく話しかける方が無理な話だと思うんだがな。俺は特に。気を使ったりするのあんまり得意じゃねぇし。知り合い以外には。

 

「…兄さん」

 

「なんだベレス。お腹でも痛いのか」

 

「違う。あのレアって人、どう思う?」

 

「どうって?」

 

「父さんがあんなに畏まってたりするの、見た事ないし、さっきの父さんの説明から凄い人なのは分かるけど、それだけなのかなって」

 

そうか、こいつも何か感じ取ったのか。鈍感天然なところが多いが、こう言ったやつには俺と同じで勘が鋭いからな。

 

「…正直得体が知れないとは思う。だから警戒しておくのも一理あるだろう」

 

「…分かった。そうしてみるね」

 

俺達が話し終えて正面を向くと、何やら話が終わった様な様子が漂っていた。

 

「積もる話もあるとは思いますが、今日はとりあえずこれで終わりにしましょう。今は体を休めて、明日詳しい事を話すとしましょう」

 

彼女がそう言うと、その場は解散となり俺達はまた案内されて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、また昨日の場所に招集され、何やら疲れた顔で来た親父が先に居た。

 

「やれやれ、またセイロス騎士団の団長になる事になっちまった」

 

「あら、親父元々ここの騎士団の人だったのね。どーりであのアロイス?て人に団長とか言われてたのか」

 

「そんな呑気に俺のこと語ってる暇はねぇぞ。お前らもここで働く事になったらしいからな」

 

「それは、私達も傭兵として?」

 

「いや違う、なんでも士官学校の教師として、だそうだ。」

 

はァ?教師?俺達が?そんな事言っても俺教えられること何も無いんだけど?

 

「こんにちはー。あら、貴方が新しい先生? 中々逞しいじゃなーい?」

 

「あぁ違う。俺じゃなくて隣のこの2人だ。じゃあ俺は騎士団の仕事に向かうから、上手くやれよ」

 

見ない2人の男女がここに来たら、親父が簡単な説明だけしてその場から立ち去ろうとした。

逃げんのかお前。と思ったが、次の一言で態々そそくさと退出しようとしてまで言いたかったことがあると分かった。

 

「…レア様には気を付けろ。あの人がお前らを教師にする意図が読めねぇ。なにか裏があるかもしれねぇ」

 

なるほど、俺達3人の意思は一致したというわけか。元々ここに居たであろう親父が警戒しろと言うのであれば、俺のこの不信感も確定なんだろう。

 

そして入れ替わる様に入ってきたレア達と話し、3つのクラスがあるからどのクラスにするかを決めてこいと言われた。

 

とりあえずクラスを見てこいと言われたので、その場を後にしようとした所、レアに引き留められた。

 

「…何か?」

 

「申し訳ないのですが、エリス。貴方は3つのクラスを選ぶのではなく、ある専門の教師をして貰いたいのです」

 

「…なに?」

 

「ジェラルトから話を聞いた限りでは、貴方は魔法の才能がとても凄まじいとか。その実力を見込んで、貴方には3クラス共通の魔道専門の教師をして貰いたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」




如何でしたでしょうか。

主人公以外のカップルも登場する予定ですので、
登場させてほしいカップリングなどがあればご提案して頂いていいですので、よろしくお願いしますね。

では、また次回。


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トラウマとそれぞれの学級

どうも、ゴアゴマです。

獣面草様、カップリングの提案ありがとうございます。

ヒュー×ベルはいいですよねぇ。
あの最初は絶対に合わないんじゃないか、からの
あれですからねぇ。

また、きちんとした配慮をせずに
無責任に発言をしてしまい、申し訳ございません。
皆様、
もし何か提案がございましたら、活動報告の方に投稿場所を設けましたので、そちらにご記入をよろしくお願いします。

それでは、どうぞ。


「専門、教師?」

 

待て、なんでそんな話になった。なぜ魔道専門? 教えられるわけねぇだろそんなんだったらまだ傭兵まがいの方がマシだったわ!

 

「いや、無理だって。俺まともに教えられる気がしねぇもん」

 

「いいえ、そんな事はありません。何事もやってみないと分からないものです。それに最初からまともに教えられる人なんて少ないと思いますよ? ただ純粋にそうして欲しいと私が思っただけです」

 

いやぁ、ねぇ。そんな事言われてもなぁ。うーん。

 

「あらぁ、良いじゃないの。アナタみたいな美形に教えられたらきっと皆喜ぶわよぉ?」

 

「美、形?」

 

「え? そうでしょ? だってアナタ見間違われる程に女性の顔よ?説明されてた人は兎も角、私は間違えないけど」

 

…あぁ。なんだろう。遠回しに男らしくないと言われている様なこの感じは。

 

 

今まで言わなかったが、俺は非常に男とは思えない顔つきなのだ。それに体も華奢で、女の人と間違われてナンパをされた事等何回もある。別にナンパはいい。来られてもしつこければ男の勲章に思いっきりボルガノンを放って後悔させれば良いだけの話だし。

 

因みにこれをディミトリ達の前で話したら、何故か男子2名がの歩き方が変になっていた。オマケにエーデルガルトには汚物を見る目で見られた。解せぬ。

 

ただ、性別を間違われるのだけは本当にやめて欲しい。本当にトラウマが蘇りそうになる。

 

昔、女の傭兵達に突然、

『エリス君ってすっごく女の子っぽいよねぇ、あ! お化粧してみようか! 絶対可愛いから!』から始まった突然の化粧パーティからのお着替え、髪型いじり等等…。

およそ2時間以上に渡る女性達の拷問ともいえるエリストーリー女性化パーティによって俺の心にはとんでもない傷が出来てしまったのである。

 

何故これで傷が出来るか?それはだね、この格好で傭兵団全員に顔を見せに行かされたからだよ。

考えてみろ。半強制で嫌がっているにも関わらずの格好で身内を含めた奴らに見せられるんだぞ?

 

…羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。そもそもなんで化粧道具なんか持ってんだよ。傭兵にそんな暇ねぇだろ! どこで買ったんだよお前ら!

 

「あ、あら?何か固まっちゃったわ。ちょっと大丈夫ー?」

 

「マヌエラ君…今のは明らかに君が悪い。彼が復活したらちゃんと謝りたまえ」

 

マヌエラと呼ばれた女性が何やら焦っているが、悪いが今の俺に答えられる精神力は無い。またここでも間違われるのか…。あの3人がちゃんと説明してくれれば良いんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん…取り乱した」

 

「え、えぇ。ゴメンなさいね?そこまでの反応をされると思わなかったから」

 

『…何だろう、凄く共感出来るような気がする』

 

(折角立ち直れたのにまたぶり返すなや。共感出来るなら良いけどさぁ)

 

何とか立ち直れた所で、再び話に戻る。

 

「…俺に教えられるかは分からない。でも、頼まれたからにはやれる事をしようと思う」

 

「そうですか…。それは良かったです。

では、そうと決まったところで、貴方も学級の見学に行ってみては如何ですか? 学級を持たないとはいえ、これから接していく子達とは今のうちに顔を合わせておきたいでしょう?」

 

「そうだな…。じゃあ、少し見て回ってくるよ」

 

そう言って俺はベレスが出ていってからだいぶ経ってから、顔合わせに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レア…。やはり止めないか?あんな得体の知れない者達をいきなり教師にするなど…」

 

「セテス…それでも決めたのです。あの子達には、皆を導いてくれる何かがあると信じたからこそ…」

 

「…確かに2人が優秀なのはジェラルトから聞いている。しかし、ましてや行方をくらましていた男の話をいきなり信じるのも…。それに、気の所為かもしれないが、あのエリスと言う男は…」

 

「…セテス。それ以上はお止めなさい」

 

「…分かった。だが、もし何かがあれば、その時は…」

 

「えぇ、心得ております。」

 

「では、私も仕事があるので、これで失礼する…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…セテス…やはり許せませんか。お父様を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず外に出て、各学級を見て回ってみる事にした。でもなぁ、見て回るって言っても、どこに行けばいいのやら分からねぇなぁ。

 

「あら?そこにいるのは、もしかして…」

 

出てすぐの場所で少し悩んでいると、エーデルガルトが声を掛けてきた。

 

「おぉ、エーデルガルトか」

 

「貴方、ここの学校の教師になるんですってね。妹さんと一緒で、折角帝国に引き抜こうと思ったけれど…。残念ね」

 

「まぁ、そんな上手く行く事ばかりでは無いでしょうに。俺もいきなりこんな事になって混乱してるしな」

 

「あら? その様には全然見えないけれど、意外と顔に出ないのかしら」

 

うん、さっきの事もあったから、あの話題に触れられないでこうやって話してくれることに凄く敬意を覚える。

 

「あ、そう言えば、貴方もどこの学級の担当にするのか決めているのかしら?」

 

「いや、俺はどうやら、担任ではなく、魔道専門の教師にされるらしい。だから一応生徒の顔を見ておこうと思ってな」

 

「専門教師…!? …また随分と難題を押し付けられたのね」

 

…何だろうか。凄くエーデルガルトが味方に見える。いい子だいい子。今までの中で唯一俺へと厄介事を持ち込まなそうだ。もしかして生徒は皆そうなのだろうか?

 

「そんな訳だ。だからみんなの顔を見ていこうと思ったのだが、何処に何があるのか全くわからなくてな」

 

「あぁ、それなら私が案内しようかしら? 丁度手も空いているし、どうかしら」

 

益々救世主ですね。えぇ。こんないい子を怪しんだ俺が恥ずかしいですわ。まぁ警戒は解きませんけど。

 

「本当か? ならお願いするぜ」

 

「じゃあ、私についてきて頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、エーデルガルトの学級を見て周り、その後にディミトリの学級、そして最後にクロードの学級を見学してきた。

 

中々に皆癖のある奴らばっかりで、飽きはしないだろうがカロリーは高そうだと若干引き気味になってしまったのは致し方ないだろう。

 

因みに、ディミトリのクラスで、赤髪の男、シルヴァン、だったか? そいつが俺を見た瞬間に、

 

「おぉ、何て美しい方なんだ。お嬢さん、俺と一緒に食事でもどうですか?」

 

とトラウマを抉るような発言をしてきた為にブッパしてやろうかと思ったが、流石に初対面の奴を殴るのは不味いと思い直し、何とか踏みとどまった。

 

しかし、あまりにもしつこく

「まぁまぁ、そう言わずに」

 

などとウザかったので、急所にトロンを放って白目を向かせて行動不能にさせた。因みにその際、イングリットと言う女子とフェリクスと言う男子とディミトリが賞賛の眼差しで俺を見てきていた。

 

「ありがとうございます!これでシルヴァンも少しは懲りるでしょう」

 

「フン、バカに良い薬だ」

 

「流石のお手前です」

 

などと思わずシルヴァン、泣いていいぞ。と言わんばかりの擁護の無さに絶句してしまった。

まぁ、その後の男性発言にも目もくれず、それでも美しい。とほざいた時には咄嗟にサイレス(沈黙魔法)を掛けてしまったが、これもまた3人に喜ばれた。

(特にイングリットは泣いて喜んでいた)どんだけ苦労をかけさせているんだこの馬鹿は。

 

後は、クロードの金鹿の学級では、

リシテア、だったか?が俺が魔導の専門教師だと知ると物凄い勢いで食いつき、今からでも授業を受けても構いませんとばかりに俺に話を求めてきた。

 

高度な魔法を放つ場合等の注意点とか、連続魔法のコツとか、そういったモノをサラッと教えるとまるで子供の様に眼をキラキラさせていた。

因みに、この様に考えた途端に急に顔が真顔になり、何か失礼なこと考えましたか?と聞いてきた。

 

お前は読心魔術でも心得て居るので?

 

独自で編み出した魔法を簡潔に教えたりすると、変な声を上げながら、

 

「これからの講義、何卒よろしくお願いします!」

 

とものすごい勢いで頭を下げられた。何か、凄い子だわ。魔術系が好き?なんだろうが、あそこまで良い反応をするとは。

 

 

 

後はなんだ、カスパルとフェリクスとラファエル?の3人からは、

 

「先生強えのか? なんかヒョロっちくて弱そうだけどなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」

 

「魔導の才能はあるのだろうが、全く持って強者の風格は見えんな。これならあの先生の方が手応えがありそうだ」

 

「おめぇ、体弱いって言われたことねぇか? もっと筋肉付けた方がイイぞぉ!」

 

と弱いとのレッテルを貼られてしまいました。泣くわ。

確かに俺あんま体力無いし体も華奢だし近接攻撃雑魚だけどさぁ、そこまで言わなくてよくね? まず第一印象だけでそこまで決めなくて良くね?

 

他の皆にも反論してくれと目で訴えたが、どうも事実だしなぁと思っている生徒が大半のようで、苦笑いを返された。号泣物だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、兄さん」

 

一通り見学が終わったので、とりあえずレアの所に戻ってみるかと道を歩いていると、教室が無い所からベレスが歩いてきた。

 

「ん?どうした?もう戻ったものかと思ってたぜ」

 

「いや、此処に来たばかりだから、少しこの辺りを見て回ろうかと思って」

 

ほへぇ、此奴らしいな。こういう素直で真面目な所は物凄く傭兵でも人気だったもんな。何故かあのド天然も好評だったけど。

 

「兄さんは今終わったところ?」

 

「あぁ、一通り挨拶してきた」

 

「そっか。皆不思議だったでしょ」

 

「まぁ、な。癖があり過ぎるけどな」

 

あれは本当にどうにかならない物がね。

 

「そう言えば、リシテアか。アイツ、すっごい魔術の話についてきてたんだよな。これは授業が助かりそうだな。なんつってな」

 

「…」

 

「あれ? ベレス?」

 

「なに?兄さん」

 

「ちょっと黙り込んでたから。何かあったのかなって」

 

明らかに急に雰囲気が変わったもんな。普通にいきいきしてる感じだったのに急に哀愁っぽい感じが出ている、ような感じがする。

 

「何でもないよ。少し私も考え事してた」

 

「そうか?まぁ仕方ないか。新しい所に無理矢理放り込まれたらそりゃあ疲れるだろ。やる事やったら今日も休め」

 

「…うん。そうする」

 

?なんだかなぁ。傭兵時代はそんなに頻繁に変な雰囲気になる事は無かったんだがなぁ。やっぱり環境の変化に慣れてねぇのかね。うん。そうだな。

 

少し話すと、俺達はそそくさとレアの所に戻り、ベレスは担当する学級をレアに話していた。なんでも、エーデルガルトの黒鷲の学級にするらしい。

…なんかベレスならあそこの学級が纏まりそうな気配がするのは気の所為だろうか。

 

「あら?お兄様?此処にいらしたんですね」

 

「む? フレン、今は仕事中だぞ。何か用か?」

 

話をしていると、フレンと呼ばれたセテスの妹?らしき少女?が来た。

 

『随分と疑問形が多いね君。何か彼女に変な感じでもあるの?』

 

(いや別に?何か違和感があっただけだ)

 

どうやらお兄様の様子を見に来た?様だったが、俺達の存在に気づき、セテスに尋ねていた。

 

「お兄様、こちらの方々は?」

 

「あぁ、この者達は、

新しく士官学校の教師になる人達だ」

 

「ま!そうなんですわね! 私、フレンと言いますわ。これからよろしくお願い致しますわね! 先生方」

 

何故にお嬢様口調なんだ?兄と妹でそんなに違いがあったりするのか?

 

あ、ウチもそうだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、セテスさんから地味に殺気を向けられている様な気がするのは気のせいか?

 

 




如何でしたでしょうか。

突然内容を変更してしまい、申し訳ございません。
ただ、変更する前と状況は同じですので、
級長がエリスを学級に案内するのはあり、
ベレスとエリスが後から先生と知られる。というのは起こりません。

アンケートについてですが、6話が投稿して時間になったら終了にしたいと思います。
ご協力よろしくお願いします。

それでは、また次回。


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幕間〜妹から見た兄

どうも、ゴアゴマです。ドタバタとしてしまい申し訳ございません。

私優柔不断なもんで中々確定する事が難しいもんで…

と、そんな言い訳は要らないですね。

では、どうぞ。


私、ベレス・アイスナーはエリス・アイスナーの妹だ。

 

父さんの傭兵団で一緒に働いていて、私が産まれた時からずっと一緒にいた人、と父さんから聞いている。

 

初めの内は余り話す中では無かったが、今では少しでも離れたくない人となった。それほどまでに私は兄を敬愛している。何故かはまた別の時に話すとしよう。

 

兄さんと言うが、お世辞にもとても彼は男には見えない。何度も姉さんと呼びかけて兄さんのことを泣かせかけたのは後悔している。ただ、兄さんは今の見た目を嫌っているが、私はそうは思わない。寧ろ、こんなに綺麗な人が私の兄さんだと思うととても幸福感に満たされる。そう兄さんに告げると兄さんは1日私と口を聞いてくれなかった。

 

何か気に入らなかったのだろうか。

 

また、兄さんは怒りっぽく、よく怖がられたりすることもあったりするらしいが、私は怖がったりしたことは無い。私の事を気にかけてくれるし、私が不安そうにしてると、優しく頭を撫でてくれるのだ。その度に私はどこか切ないような、安心するような、でも嫌な感じではない気持ちに満たされる。

 

私は本当に兄さんの事を気に入っているのだろう。

 

そんな兄さんと私だが、突如として傭兵から、教師へと変わる事となった。

 

教師…私に務まるのだろうか。そう思ってふと兄さんを見ると、兄さんも同じく不安そうな表情をしていた。

 

どこか安心した。別に私は兄さん完璧主義ではない。兄さんだって苦手な事もあるし、不安な事だってあるだろう。寧ろ、私と同じ感情を持っているのだろうと思うと、とても安堵に包まれる。

 

 

 

話は変わるが、私は今、担当する学級を決めるために見学をしに出ているのだが、どの学級も中々個性的で不思議な人達ばかりだ。

 

兄さんはどこの学級を担当するのだろうか?

 

『お主、さっきから誰に話しておるのじゃ?』

 

(!?)

 

急に自分にだけ話しかけてくる人物に、私はまた驚いてしまう。声を掛けてきたのはソティス。何故か私の中に住んでいるという謎の少女である。この前少女を庇って死にかけたところを時を巻き戻すという規格外な力で助けてくれた、恩人のような人でもある。あれからこうして偶に私に話しかけてくるのだが、慣れない。どうしても身構えてしまう。

 

『お主なぁ…早う慣れんか。儂も落ち着かんわい。いちいち話しかける度にそんな反応をされては。

 

…それにしても、お主は本当に兄が好きなのじゃな。聞いているだけで口の中が甘くなったぞ。』

 

落ち着かないものは落ち着かないのだ。慣れるまで待って欲しい。それも当然じゃないのか?妹が兄を敬愛するのは。

 

『…聞いている限りお主のそれは敬愛とは違う気がするんじゃがのぉ。』

 

ソティスの言葉に、私は首を傾げるしか出来なかった。敬愛ではない? では何と言うんだ? 兄愛?

 

『そういう事ではないわ!この鈍い奴め!』

 

何故か私が怒られながら歩いていると、兄さんと会った。

 

兄さんも一通り学級を見終わったそうで、兄さんも個性的な人達ばかりだと言っていた。

 

私がどこの学級にするのかと聞くと、私が出た後にレアから三学級の専門教師を任されたらしく、一応全ての学級を担当するらしい。

 

…兄さんだけ随分と重労働ではないだろうか。そう告げると彼は苦笑いしながら、出来るか分からないが言われたからにはやるしかないだろと言った。

 

…できるだけ手伝おう。そうすれば少しでも兄さんの肩が軽くなるかもしれない。

 

 

 

私が考える事を止めると、兄さんはもう思い出が出来たのか、私に楽しそうに事を話す。

 

シルヴァンからしつこくナンパされたのを返り討ちにしたら、多くの生徒に感謝された、と。

 

カスパルとフェリクスとラファエルからひ弱そうだと言われ、泣きかけた、と。

 

リシテアとは魔術の話をした時に食いついて来た。これは授業が助かりそうだ、と。

 

もう馴染めそうなのか、と少し兄さんの適応能力の高さには驚いた。

 

それにしてもシルヴァン、私だけではなく、男の兄さんまでも口説くなんて…。少し警戒しておく必要がありそうかな。このままでは兄さんの身に危険が及ぶかもしれない。

(なお、ベレスは本能的に危険だと思っているだけで、ナニが危険とかは全く分からない。中身のない警戒である。)

 

あの3人も、何時しか特訓と言って兄さんに無理やり肉をつけさせる気がしてならない。兄さんはあのままだからいいのに。

 

色々考え込んでしまったが、兄さんに引き戻され、私達はレアの所に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、リシテアの話を聞いた時だけ、何故か胸の奥が痛む感覚がしたのは何故だろう。その話をソティスにすると、何故かくくくと笑いを堪える声が響き、

 

『ほほう、若いとはいいもんじゃなぁ!ほれほれ、もっとその事について聞かせてみよ!』

 

と小一時間くらい問い詰められた。

 

何か珍しいのだろうか。




はい、今回は幕間ですね。

ベレスの兄に対する感情を書いております。

これがどんどんと酷くなっていくのか、はたまた
惚気となって行くのか。

後、アンケートは投稿して15時になったら締切とさせていただきます。

では、また次回。


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紋章と新たな日常

どうも、ゴアゴマです。

まず今回の話なのですが、前々回の内容を変更したので、自己紹介では無くなっています。
ご了承ください。

また、軽くですが現時点でのエリスの紹介文を書いておこうと思います。

見ないでも大丈夫!と言う方はスクロールして本編をご覧下さい。


名前 エリス・アイスナー

性別 男(男の娘疑惑あり)

趣味 睡眠

好きな事 家族との何気ない雑談

苦手な事 面倒な事を何回も繰り返す事

嫌いな事 不明

好きな人 ベレス ジェラルト

苦手な人 女傭兵団達

嫌いな人 不明

紋章 ???の紋章

特殊能力 干渉の力

人物像 ベレスの兄。男だが、女の子の様な見た目のせいであまりそう見られない。
髪色は濃い緑で、長めの髪。
まだ語られていないが、身長も低めで、
それもまたコンプレックスとなっている。

あまり感情を表に出さないベレスとは違い、
怒りっぽく(本人はツッコミを入れているつもりだが、ベレスや周りにはそう見えるらしい。)、そして傷つきやすい。

基本的には言われたことは何でもこなすが、
面倒臭い事を何度も繰り返して行う事はあまり好きではない。

何故か身体能力が皆無で、普通に歩く分にはいいが、
走ったり、武器を持って1回だけでも攻撃すると
膝を着いてしまう程に無い。
その代わり、魔術に関してはズバ抜けており、
その実力を買われて、レアに魔術の専門教師を任される事になった。

また、自身の中にはイージスという人格がおり、
よく絡まれている。が、周りには見えず聞こえずなので、たまに口に出して返答してしまい恥ずかしい思いをする事も。

干渉する力、という特殊能力を使える。
が、どんな能力かはまだ分からず、判明している事は、
言葉通りに様々な力等に干渉して、場を有利にしたり、
他人の記憶を辿って情報を得たりすることが出来る。
これ以上の事も可能らしい。
また、エリスはまだこの力に目覚めた?ばかりで、
上手くつかいこなせていないからか、
かなりの情報や力を入手したり干渉したりすることは現時点では不可能らしい。


現時点ではこんな感じです。
長文失礼致しました。
では、どうぞ。


「これは…どちらも見た事がない紋章だな…! まさか、未発見の紋章だと言うのか!?」

 

教師としての生活が始まる前に、ハンネマン教授に呼び出され、突然君達に紋章が無いか確かめさせてくれ、と言われた。俺は当然のごとく知らないが、ベレスまでもが知らないとなれば、もうお手上げだろう。

 

ベレスはこの世界の大まかな事は知っているが、具体的な事はあまり知らないらしい。初めて聞いたと首を傾げる姿に、顔が少し熱くなった気がしたのは忘れよう。

 

ハンネマンは俺達の反応を見て軽く驚いていたが、すぐにどういうものかを教えてくれた。

 

紋章とは、はるか昔に、神によって人に授けられ、人の体に宿り、血によって受け継がれる物だという。紋章を宿した者は、魔術に優れたり、凄まじい肉体を持ったり等、人智を超える力を持つことが出来るらしい。

 

あれ?て事は、俺のこの他の人よりも少し凄い魔術ってのは、紋章のおかげって事なのか?

 

そう聞くと、調べてみない事には分からないと返された。いいか、調べれば分かる事だしな。と、そこからハンネマンの指示通りに、彼が用意した装置の前に手を伸ばした。

 

そこからは上記の通りである。

 

ベレスが手をかざした所に浮かび上がったのは、何か触手のようにうねうねとしたものが左右均等に出ている物。そして俺の所に浮かび上がったのは、1面黒になり、中心だけが小さく何も描かれていない物だった。

 

見たことも無い紋章が2つも…!?とか言い出して、興奮し始めたのだ。親父の興奮姿なんて誰が得するんだ?

 

『君じゃないの?』

 

(ぶちのめされてぇのかテメェ)

 

「この世にまだ我輩の知らぬ紋章が存在していたとは…! 格別の刺激だ!」

 

紋章を知ったばかりの俺達には、何がどう気分が上がるのかは、全く理解し難い物だった。ただ、俺達にわかる事とすれば、俺達の目の前でトリップして、おじさんがしては行けないような顔を浮かべながら、鼻息を荒くしているハンネマンが危ない人物だと言うことは感じ取った。

 

「ふぅ、ふぅ、いかん、興奮しすぎてしまった。さ、もう結構だ。出ていってくれて構わん。我輩はこの2つの紋章について調べなければならん。君達の役目は終わった」

 

と、それだけ言い残して俺達に背を向けてしまった。興味無くすの早くないか?

 

「兄さん…放っておいて行こう」

 

「…いや、でも、えぇ…」

 

「良いから行こう。ああいう感じの人とは距離を取った方がいいって父さんも言ってた」

 

「お前の父さん過保護すぎねぇ?」

 

「兄さんも同じ父親でしょ」

 

「あーハイハイ口より先に足を動かせと、分かりましたよ。そんなに押すな倒れる」

 

 

ベレスに背中を押されながら、俺達は研究室を後にした。

 

「うぅーむ、やはりあの二人は興味深いな…。今度髪の毛や血とか体液とかも提供してもらおうか…。研究が捗るかもしれんな!」

 

はい!撤収しよう!ベレスの判断は正しかった!こんな所にいたくない!と後半は自分でずんずんと進んで行ったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから俺達の大修道院での生活が始まった。最初の顔合わせで意外と好印象で始まったからか、そんなに居づらく感じることは無かった。

 

だが、中には俺達を警戒している者も居るらしく、殺気を向けられたり、ジッと見られたり、逆に避けられたりすることもあった。

何と言うか、今の所凄く落ち着かない。特に酷いのがベルナデッタ。彼女は講義の時以外自室から出ようとせず、たまに部屋を訪ねたりするが、

大体が「お、お引き取り下さぃぃぃぃぃぃ!」と言われ話を聞いてくれない。挙げ句の果てには講義中にすら俺の顔を見ただけで悲鳴を上げるくらいだ。

 

…俺ってそんなに怖かったっけ?とベレスに聞くと、「兄さんは怒りやすいから普段から顔が怖くなっちゃうんだと思う」

と言われて正直グサッと来た。

 

確かに感情の上がり下がり激しいとは言われたことあったけど。…今度笑顔の練習でもしておこうか。

 

ただ、その反対に俺に凄く構ってくれる人達もいる。リシテアは当然の様にだが、アッシュやカスパルもよく俺に話しかけて来てくれるのだ。

 

何故かはよく分からないが、この3人はそれぞれの学級で1番早く懐いてくれた。講義の際も、何かと手伝ってくれたりする。なんであれ、今の俺にはすごく有難い。

 

ただ、シルヴァンは本当にどうにかして欲しい。男だと説明したのにも関わらず、相変わらず俺を口説いてくるのだ。俺には男とそういう関係になる予定は無いので、早めにお引き取り願いたいものだ。…気の所為かベレスのシルヴァンを見る目も少し冷たく感じるのは心配してくれているのだろうな。

 

それはさておき、今日は休日で、皆が修道院内で暇を潰していたりやることの消化をしている。俺も何かしようかと思ったが、正直休みたい為、自室に戻って休憩を取る事にした。

 

ベッドの上に寝転がり、目を瞑る。それだけで少しだけ疲れが取れる気がする。

 

『君、余程疲れているんだね。心無しか僕もだるい気がするよ』

 

少し経つと、待っていたかのようにイージスが語りかけて来た。

 

(そりゃあ、俺の体力ならこの程度、すぐ疲れるってもんだ)

 

『褒めてないよ。全く、そんなんでこれから持つのかな。まだやる事の や の字も出来てないのに』

 

(そんな事言われてもなぁ。疲れている今行動したって

逆効果じゃねぇ?)

 

『…しょうがないな。じゃあ今日はゆっくり体を休めなよ。その代わり、次の休暇は書庫に行ってもらうからね』

 

(はいはい。そうするわ)

 

その会話が途切れると、俺は夢の中へと行き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

おまけ

 

黒鷲の学級での講義の風景

 

「…つまり、注ぐ魔力の量を中途半端にして発動してしまうと、暴発してしまう危険性がある為、出鱈目に魔術を扱おうとすると痛い目を見る、という事だな」

 

「…なるほどね。理解したわ。先生」

 

「確かにそうですな。私も実際に初めて行った結果、なんとも悲惨な状況になりましたからな」

 

「…ねぇヒューベルト。それは髪がとか、それくらいの程度の状況なんでしょう?」

 

「ククク。エーデルガルト様はこれ以上の惨劇をお望みで?」

 

「はいストップな。髪の毛程度で済んで良かったものの、最悪惨劇では済まない事になりかねねぇからな。遊ぶのは禁止な」

 

「先生? 因みに済まない事ってどんな事ですか?」

 

「骨ごと消え去る」

 

「消え去るんですか!?」

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇ!? そんなおっかないことベルやりたくないですぅぅぅぅぅぅぅぅ! 巻き込まれたくもないぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

「冗談だ。でも、高難易度になればなるほどリスクは計り知れないから、どちらにせよ慎重にな」

 

「あ、あぁ。それは心得たが、もう少しマシな冗談は無かったのか?流石にまずくないか先生」

 

「いやあれでも大分マシな表現だったんだがな」

 

「アレで!? あれ以上にヤバいのがあるの!?」

 

「もういいですぅぅぅぅぅ! ベルにとっては暴発の時点でヤバいんですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

「でも俺少し気になるなぁ、その暴発に耐えれたら物凄い鍛えられねぇか!?」

 

「なんで巻き込まれる気満々なんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「先生、それ、起きた場合、避ける、可能、ですか?」

 

「あのなぁお前ら。そんな物で訓練するよりも普通のファイアとかをまともに食らったり避けたりした方が効率良いだろうが。」

 

「あぁ!確かにそうだな!普通に考えたらその通りだな!」

 

「確かに、それ、確実です。私、見落とす、しました」

 

「いやいかにも普通な事言われているようになってるけど危ないからね!?」

 

「兎に角まず魔術を扱うなら、加減を覚える事から始める、て感じかな」

 

「ま、まぁ、大まかなことは分かったわ。…それにしても」

 

「ZZZZZZ」

 

「おいリンハルト!また寝てんのかよ!流石に講義中くらい起きろって!」

 

「おやおや、これはまたエーデルガルト様の有難いお言葉が身に染みますな」

 

「余計なお世話よヒューベルト。全く…。私はこれを何回繰り返せばいいのかしら」

 

「なんだ、また寝てるのか…。そうだ。いい機会だし、もう1つ教えておくか」

 

「え? 先生、リンくんで何か教えられるんですか?」

 

「まぁ、講義を寝てしまうんだから、お灸を据えるってのと並行してな」

 

「…なんか凄く嫌な予感がするのだが」

 

「まぁ、中途半端にすると暴発するって言ったけどさ、上手く調節すれば、倍や半分の魔力でも発動は出来るんだけどな。このようにな」

 

「ボルガノン」

 

「アバババババババババババババババババババババ!」

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「まぁ、こんな感じで超強力なボルガノンも、やりようによってはファイヤー並の威力にも出来なくはないって事で」

 

「「「いやいやいやいや待て待て待て待て!!!!」」」(エル、ドロ、フェル)

 

「ん? なんだ?」

 

「なんだ? じゃないわよ! 明らかにお灸を据えるってレベルの威力じゃなかったわよ!?」

 

「大丈夫だ。元々がボルガノンだから迫力がとてもあるように見えるが、威力自体はサンダーと大して変わんねぇよ」

 

「いやそもそも生徒にそんなに簡単に魔法を使っていいのかね!? 問題になるのでは!?」

 

「大丈夫だ。親父から許可はもらった」

 

「いやセテスさんに怒られますよ!?」

 

「おおお!これが高難度の魔法か!よっしゃあ!俺はこれに耐えれる程に強くなってやるぜ!明日から特訓の量を増やさなきゃな!」

 

「君は何の話を聞いていたのかね!?」

 

「ククク、これは評価を上げる必要がある様で…中々愉快ですな」

 

「サラッととんでもない発言しないでちょうだいヒューベルト!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!周り変人ばかりですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

 

この騒ぎ以降俺は講義中の魔法の使用を禁止された。




如何でしたでしょうか。

おまけで出てきた魔法の設定はオリジナルです。
魔法について調べたんですが
あまり有力な情報が得られなかったので、
これくらいの設定追加してもいいよね。うん。
てノリで付けちゃいました。反省はしても後悔はしてない。

では、また次回。


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模擬戦 前編

どうも、ゴアゴマです。

今回は模擬戦です。
普通なら何のあれもなく開始しますが、
全学級の担任をしているエリスは、
どの様に扱おうかと考えた所、
今回の模擬戦は以下の様にさせて頂きました。
詳しくは本編をご覧下さい。
また、模擬戦で原作では出ていたキャラが、
1部変更されているので、ご了承ください。


では、どうぞ。


「いよいよね。そうだ、師。今回の模擬戦、あなたが指揮を取ってくれないかしら?」

 

「任せてくれ。上手く指揮をとって見せよう。

そういえば、兄さんはどうするんだろうか?三学級担当の教師ってどこに着くか分からないな」

 

「それなんだよなぁ…。もしかして、見学とか?」

 

模擬戦の大まかな説明だけで、俺がどうするかまだ言われてないからなぁ。

今から何か指示があるのだろうか?

 

「でも、この戦闘で同時に貴方達の実力もはかる、と言われたのよね?だったら、何かしらの方法で

出場するのでは無いのかしら?」

 

「うぇ…面倒臭いのは勘弁だぜ俺…。

てか、俺ここに居て大丈夫なのか?もし参加するとしても、黒鷲の学級の味方とも限らないから不味いんじゃねぇか?」

 

「大丈夫じゃないかしら。別にこれと言った作戦も話してないし」

 

それでいいのか。確かにそんな重要な事は話してないけどさ。

 

と話していると、クロードとディミトリが途中参加してきた。

 

「おーおー、御三方で悪巧みですかい?じゃあ俺達も混ぜてもらおうかな?」

 

「別にそんなんじゃないわ。それに、彼はどうなるか分からないわよ」

 

「お?そうなのかい?じゃあ是非ウチの学級に来て暴れてもらいたいね」

 

「俺体力無いから暴れられないんだけど?お前は俺を殺す気か?」

 

「先生…そうではないんだ。少しズレて解釈をしているぞ」

 

だって本当の事だし。模擬戦なんかで走り回ったらあっという間に地に伏せてしまうんじゃないか?

 

「あら?皆で集まってお喋りかしら?もう仲良くなったのね」

 

「君達、仲良くするのはいい事だが、そろそろ時間だ。そろそろ作戦会議の時間だ、っと。エリス先生。

君は今回の模擬戦でどうするか聞いているかね?」

 

あ、ようやくか。

さて、見学かな?それとも参加かな?

 

「いや、聞いてないが、何か?」

 

「本来ならどの学級にも属さない者を入れるのは考えられていなかったが、君の実力も確かめたいとの事により、三学級のどこかに入って参加する事になった」

 

あー、さようなら俺の足。どうやらここまでの様だ。

 

「そ、それでどこに配属される事に?」

 

「うむ、それなのだが、三級の級長と先生との間で決めてくれ、との事だ」

 

またこれは面倒臭い指令を出しやがったな…。揉めそうな予感がするのは気のせいか?

 

「おぉ、じゃあ俺達の学級に来てもらおうかな?

何としても警戒しておくべきベレス先生が敵に回ってる時点で、もう1人の戦力は貰っておきたいしな。」

 

「待て、そちらのクラスにはエリス先生によって魔改造されている人物が1人いるだろう。となれば、やはりここは俺達の学級に来てもらいたい」

 

「ちょっと待ってちょうだい。戦力は多い方が良いわ。やはり兄妹揃えるってのも手だと思うのよ」

 

「おーい、そんなに期待しないでくれー。そこまで来るともう人材と言うより物のように感じてしまうわ」

 

「いや、でも兄さんが即戦力なのは真実だろう。私も兄さんを倒すのは骨が折れそうになるからな」

 

過大評価のしすぎだと思います。私はそこら辺の石ころのように思っていただけると。

 

『あのさ、イジイジしてる所見せられてるこっちの身にもなってくれよ。いい加減腹を括って君がここがいいって言ってぱっと終わらせればいいじゃないか』

 

お叱りを受けてしまいました。ちくせう。分かったよ。やればいいんだろやれば。

 

「…俺は、青獅子の学級に入ろうかな」

 

「本当か!? よし、そうと決まれば早速作戦会議に入ろう」

 

「あちゃー、残念。ま、現時点でのウチの最強さんに頑張ってもらいますか」

 

「流石に無茶の様ね…。仕方ないわね。師、じゃあ私達も行きましょう」

 

「ヒト1人決めるだけでこんなに悩むのね…。まぁいいわ。とりあえず私達も行きましょう」

 

「そうだな。うーむ、彼がこの学級に入った事により上手く事を運べそうだな」

 

こうして青獅子の学級で戦うことになり、俺の体はしばらく使い物にならなくなる危険性がぐっと高まったのだった。 あと1年体持つか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、俺達の学級の助っ人として入ってくれた。協力して勝利を掴もうと思う」

 

「わぁ!先生、僕達と一緒に戦ってくれるんですね!頼もしいです!」

 

「アッシュ…あんまり期待すんなよ?」

 

他の皆も期待の(フェリクスは体力の事を見抜いているのでそれなり)眼差しで見て来ているが、まぁたしかに魔法では少しは全然出来ると思うけど、接近されて一気に攻撃されたら俺の場合避けらんないからモロに喰らってダウンなんだよなぁ。

 

でもすぐへばっちゃうから頼りにしないでねなんて言っても聞いてくれなそうだしなぁ…。どうすっかねぇ。

 

「先生、君の体力の事は大体知っている。だから、それを踏まえても策を考えるから、ここは吾輩に任せて貰えないかね?」

 

ハンネマンナイスフォロー…!ならそうさせてもらおうかな。

 

「じゃあ、頼む」

 

 

そこから、ハンネマンを中心に、作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、模擬戦の時間になり、それぞれが持ち場につき始めた。

 

各学級それぞれ5人選抜を決めて、模擬戦を行い、全滅させた学級が勝利となる。その選抜の5人に選ばれたのは、

 

黒鷲の学級

 

ベレス

 

エーデルガルト

 

フェルディナント

 

ベルナデッタ

 

ドロテア

 

金鹿の学級

 

クロード

 

リシテア

 

ローレンツ

 

ヒルダ

 

マヌエラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青獅子の学級

 

ディミトリ

 

メルセデス

 

 

シルヴァン

 

ハンネマン

 

の5人になった。

 

ディミトリが前に出て、メルセデスが遠距離攻撃と回復、俺が魔法による攻撃で、シルヴァンが俺の近くで近接攻撃を防ぎながら攻撃、ハンネマンが後ろで待機かつ指示という形で行くらしい。

 

因みに、初めはディミトリに指揮を任されており、ディミトリが敗走した場合にハンネマンがそれを受け継ぐ事になっている。

 

…よりにもよってシルヴァンとかぁ…。ちゃんと真面目に集中してくれるかねぇ。途中でナンパとかに走らねぇよな。

 

「いやぁ、近くで護衛の形で戦えるなんて光栄ですねぇ。これが終わったらお茶でもいかがです?先生」

 

「シルヴァン、お前はまた先生をナンパしているのか…!頼むから戦闘の時だけでも集中してくれ…!」

 

「いいじゃないですか殿下!こういう時こそこんな風に楽に対応した方がやりやすいですよ?」

 

俺 は 楽 じ ゃ ね ぇ ん だ け ど な ?

 

やっぱり開始と同時に消し飛ばしとこうかな…。いや、それだと俺が速攻でやられる可能性もあるな…。うわぁ…。精神的にもやられるとかないわぁ…。

 

「おーし、そろそろ模擬戦を始めるぞ。分かってると思うが、他の学級の奴らを残らず配送させた学級の勝利だからな」

 

呼び掛けが掛かり、いつまでも嘆けなくなったので、

仕方なく位置に着く。

 

『因みに、この戦いで力は使うのかい?』

 

(いや、ここではまだ使わないでおこうと思う。

流石に此処で力使うのは違う気がする…。)

 

「では…始め!」

 

号令がかかると、全員の顔に真剣さが入った。シルヴァンもそうなってて安心はした。

 

「さて、と、他の奴らはどう出てくるか確認しないとな…」

 

「クロード!お前の浅知恵など必要ない!僕とリシテア君で敵の出鼻を挫いてくる!」

 

「…ハァ、なんで私まで巻き込まれてるんですか…。私としてはエリス先生の実力も知りたいのであんたとは

別行動を取りたいのですが…」

 

「おいおい、仲間割れもそこまでにしてくれないか…。それに、あの先生2人を侮ってると足元を掬われるぞ…?」

 

…なんかローレンツ、真っ先にやられる予感が見えたんだが…。

 

『彼、自分の力を過信しすぎているようだね。

あれじゃあ自滅する未来しか見えないんだけど』

 

あの感じじゃあなぁ…。この修道院の生活で変わってくれるといいんだけどなぁ…。

 

「フェルディナント、ローレンツを相手してくれないか?ドロテアはリシテアを頼む」

 

「任せたまえ先生!見事にその役目を果たして見せよう!」

 

「了解です先生♪私に任せて下さい」

 

相変わらずベレスは冷静だな…。よくそこまで指示が出せるもんだ。

 

『指示って言っても難しい事は言ってなくない? もしかして君そういうの苦手?』

 

(悪いか?俺は魔法くらいしか得意なものがないんだよ)

 

「先生、先ずは金鹿から攻めたい。シルヴァンと協力して敵を引き付けながら撃破して欲しい。頼めるか?」

 

「分かった。なるべく善戦に持ち込もうと思うが、期待はすんなよ。…頼むぞシルヴァン」

 

「了解ですよー!いやー、本当にこんな美人を守れるなんて、至福ですねぇ」

 

「まじでこの戦闘終わったら覚えとけよお前」

 

こいつに背中預けたくねぇなぁと思いながら、俺は金鹿の陣営へ足を踏み入れようとした。

 

「おいおい、これは挟まれてんじゃねぇか?此処で黒鷲の学級を待ち伏せするのは不味いか」

 

「えー、早速ピンチとかヒルダちゃんやる気なくしちゃうんですけどー。どうするのクロード君?」

 

「…取り敢えず黒鷲はローレンツとリシテアに任せよう。俺達は青獅子の連中を迎え撃つか」

 

「はぁー、了解ー。折角待ち伏せしてたのになー」

 

どうやら金鹿は攻めと迎え撃ちにわかれたようだな。初戦が2人か…。まぁ、やれるだけやるか。

 

「おや?初戦が先生とは、俺もついてねぇな。ヒルダ、先に先生を狙ってくれ。俺はシルヴァンを仕留める」

 

「はいはーい。じゃあ、やりますかー!」

 

「シルヴァン、俺に近づけ無い様にヒルダを撃破してくれると助かる。頼めるか?」

 

「分かりましたよ先生! じゃ、行ってきますわ!」

 

 

 

「悪いけど、先生、倒させてもらいますねー!」

 

先手を打ったのはヒルダだった。斧を構え、俺へと近づいてくる。が、それをシルヴァンが止める。

 

「おっと!そうはさせないぜヒルダ。先生から守れと言われてるんでね」

 

どうやってるのか知らないが、槍で斧を受け流している。すげぇな。力づくで折られそうなのに流すって。

 

「もー!邪魔しないでくれるかなシルヴァンくん!」

 

「ヒルダだけに集中してたらやられちまうぜ?シルヴァン」

 

そこに、クロードが援護射撃を入れようと弓矢を放ってきた。さて、俺はこいつの相手をするか。

 

「悪いが、その矢は撃ち落とさせてもらう。ウインド!」

 

風を起こし、矢のスピードを落として落下させる。

 

「おっとぉ、その魔法は厄介だねぇ先生」

 

「そのぐらいの距離なら射程範囲だしな。悪いが、やられてくれると助かるんだがな」

 

「悪いね。それは断るわ。俺達もやるからには勝ちたいんでな!ヒルダ!俺は先生を狙う。お前はシルヴァンをそのまま撃破してくれ!」

 

「もー!人使いが荒いんだからクロード君はー! 結構シルヴァン君の相手大変なんだよー!?」

 

愚痴を言ってる割には余裕そうなんですが? ポーカーフェイスなのか?

 

「シルヴァン。そのまま頼む。クロードは俺が仕留めるわ」

 

「えぇ!任せて下さい先生!終わったらデートしましょう!」

 

ヒルダぶちのめしていいよそいつ。っと危ない。先生は思わず敵を応援してしまったぜ☆

 

「よそ見してていいのか先生!」

 

ふと視界をクロードに戻すと、俺の両手を確実に狙って矢を放ってきていた。

 

「悪いが動かず、遠距離ならばこっちの土俵なんだわ!ウインド!」

 

当然の様に矢を落下させ、すぐ様次の魔法を唱える。

 

「アロー!」

 

放たれた魔法の矢は真っ直ぐにクロードに向かっていった。その矢は目に捉えるのがやっとの位速く、そして正確にクロードの右肩を狙い向かっていった。

 

「うぉ!?」

 

その速さに反応が追い付かなかったのか、クロードは咄嗟に避けてバランスを崩してしまった。

 

その隙を俺は見逃さずに、すぐ様もう1発アローを放つ。

 

2発目は今のクロードの肩の少し下に飛んでいく。だがバランスを崩して倒れゆくクロードはそれに対応できず、そのまま倒れていき、丁度肩と矢の位置が重なった。そしてそのまま、

 

その矢は肩を貫いた。

 

「ぐっ!」

 

軽く呻き声を上げながら、そのままクロードは何とか片膝をついて俺を見る。

 

「あちゃあ、こりゃやられたな。

これじゃあ弓を使うことが出来ないからなぁ。悔しいが降参するしかないな」

 

完全に戦意を解いたクロードは、とても軽い口調でそう言う。

 

「ふぅ…何とかなったな。シルヴァン!そっちはどうだ?」

 

「こっちも終わりましたよー! 流石に苦戦しましたけどね」

 

「もー!いったーい!もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないのー!?」

 

「いやぁ、参ったな。けど油断すんなよ、先生。さっきも言ったが、ウチの学級にはアンタが強化してくれた最強の戦力がいるからな。って、俺が自慢してどうなるんだって話だけどな」

 

いや、実際油断出来ないんだよなぁ。あれから俺が教えたことをスポンジ、いや、それ以上に吸収量が凄まじいメキメキと成長して言ってるからなぁ。

 

今のところ生徒の中ではダントツの強さを持ってるんじゃないかとは思う。まぁ、まだ戦ってないから分からないが。

 

「とりあえず、一旦ディミトリ達の所に戻るか。シルヴァン」

 

「了解です。いやぁ、また美人と戦えたりしないですかねぇ?先生」

 

「…お前は戦いたいんじゃなくて顔と声が聞きたいのと喋りたいだけだろう」

 

「あ、バレました?」

 

…やっぱりコイツが共闘するのはこれで最後にしてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、同時刻、

 

 

「悪いな。ローレンツ君。ここは勝たせてもらう!」

 

「ちっ、僕とした事が…。模擬戦とはいえ腹ただしい!」

 

「悪いけど、ここで負ける訳には行かないんですよ」

 

「あら・・・やっぱりエリス先生の1番の教え子的存在のリシテアちゃんには適わなかったわねぇ」

 

「よし、此処の敵は倒しました…。後は…エリス先生に挑みに行くだけです…!」

 

 

 

ローレンツとドロテアが敗北し、その後にフェルディナントとリシテアが戦い、リシテアが難なくフェルディナントを撃破して、エリスの所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が戻ると、エーデルガルトに苦戦しているディミトリが居た。

 

「っ!先生とシルヴァンか!すまないが加勢してくれないか?流石にこのままでは分が悪い!」

 

「分かった!メルセデスはどうした?」

 

「ベレス先生がハンネマン先生を狙いに行った為、加勢に行っている!正直このままだと不味い!」

 

うーむ、ならばどうしようか。

 

流石に2人でベレスに適うかと言われればほぼ不可能だと思う。かと言って俺が行ったとしても、急いでも歩いてしか行けないから間に合わないだろうし、今のシルヴァンやディミトリを向かわせたとしても正直適うかどうか…。

 

「…シルヴァン、メルセデスとハンネマンの加勢に行ってくれないか?」

 

「!待て先生!それは」

 

「確かに色々と問題点はあるが、もはやこうなったら仕方ねぇだろ。俺は過度に動かないようにすればいいし、メルセデス達も数が多い方が助かるだろうしな」

 

「…分かりました。とりあえず加勢に行ってきます!」

 

「…あら、それでも私は結構厳しいわね。先生がディミトリに加勢したせいで、私の勝率はグンと下がってしまった様ね」

 

「ま、俺達も負けられないんでな。色々試行錯誤してやるしかないからな」

 

「まぁいいわ。せめて師が2人、いえ、3人を倒すまでは時間を稼ぐとしましょうか」

 

「なら俺達はお前を早く倒して、3人を助けに向かうとしよう!」

 

ディミトリの槍と、エーデルガルトの斧が重なり合う。あれ?この光景さっきも見た様な…。

 

「相変わらず、怪力なのね、貴方!」

 

「君も、引けに、取らないくらいだと、思うがな!」

 

「うわぁ、2人揃ってゴリラとか、俺あっという間に潰されそうだわ」

 

「「なにか言った(か)?」」

 

「おぉ、こわ」

 

なんで戦闘中なのに息ぴったりなんだよ。そのうち俺に武器が飛んできそうで怖いわ。しかもなんかミシミシ言ってるし。

 

「まぁ、でも急いでるんでな。横槍入れても文句言わないでくれよ!ボルガノン!」

 

炎がエーデルガルトに向かって伸びていく。そして、直撃、

 

「そうはいかないわ!」

 

その刹那、エーデルガルトは後ろへ跳び、それをかわした。

 

「悪いが今回は俺達の勝ちだ」

 

だが、ディミトリがどうやって回り込んだのか、エーデルガルトの後ろへ回りこみ、槍で攻撃した。

 

「ぐぅ!…それだけでは私は倒れ」

「無いだろうからもう1発喰らっときな!」

 

すかさず俺はもう一度ボルガノンを唱え、直撃させる。流石に耐えきれず、エーデルガルトは膝を地につけた。

 

「くっ…!良いのを貰ってしまったようね。仕方ない…降参するわ」

 

エーデルガルトを撃破した俺達は、すぐ様メルセデス達の援護に向かおうとした。

 

「よし、行くぞディミトリ」

 

「勿論だ!直ぐに向かおう!」

 

「そうは行きませんよ。先生」

 

後ろから声を掛けられた為、振り返ると、そこにはリシテアが居た。

 

「リシテアか…。やはり、狙いは俺か」

 

「はい!やはり私は先生の実力が知りたいですし、

今の私がどこまで通用するか、確かめたいのです!」

 

…こればっかりは足がーとか、近接がーとか行ってられないよなぁ。なんか師弟対決、て雰囲気が出てるしなぁ。

 

「…ディミトリ。お前は先に3人の援護に迎え」

 

「先生!?だが、1人で平気か!?」

 

「俺も色々考えたが、流石にこの状況ではそれは無理だろう。終わったらすぐに向かう。だから先に行ってくれ」

 

「…分かった。くれぐれも気をつけてくれ、先生!」

 

「…さぁ、始めるか」

 

「はい!行きますよ!」

 

こうして、まだ知り合ったばっかりなのに絶大な憧れを持たれた俺は、持っている者との決戦を行うのであった。




如何でしたでしょうか。

はい、リシテアちゃんが参加したのと同時に、
バリバリ強化されて登場です。

まぁ、彼女は凄く先生に懐いているので、
あーゆー展開もいいかなーと。

次回は模擬戦の決着が着きます。

それでは、また次回。


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模擬戦 後編

どうも、ゴアゴマです。

はい、という事で模擬戦後編です。

ちなみに原作ではキャラ別に使える魔法が異なりますが、
魔法専門教師のエリス先生がいるから少しぐらい
生徒達も使える魔法増えてもよくね?
という事で今回のリシテアがいい例ですが
本来なら習得しない魔法が使えている、という場合がございますので、
このように至る所で原作と違う点が出てきますが、
何卒御容赦していただけるととても助かります。

よろしくお願いします。

では、どうぞ。


「「サンダー!」」

 

 

 

対峙するやすぐさま唱え、お互いの雷が衝突し合う。

やがてぶつかりあった雷は力を失い、花火のように拡散しながら消え去った。

 

「おぉ、早速使えるようになったか。上手いもんだな」

 

「それは何とも嬉しい言葉です。ですが、まだまだ行きますよ!」

 

俺は彼女を賞賛するが、それを使えただけでは満足しない様子で、まだまだ戦意喪失の気配は見られない。

 

「アロー」

 

「ウインド!」

 

すかさず俺が追撃を入れると、リシテアは俺がクロードが放った弓矢に対して行った対処法を使い、アローをかき消した。

 

「…俺、このやり方教えたっけ?」

 

「先生が言ったでは無いですか。攻撃だけではなく、上手く有効活用して場を有利に進めろ、と」

 

「それもそうだった、な!」

 

口を動かしながらも俺は彼女目掛け、ボルガノンを放つ。通常の2倍近く大きさの真紅の炎が、彼女を覆わんと飛んでいく。

 

「ブリザー!」

 

途中まで避けの体勢だったが無理と判断したのか、氷魔法を唱えて凌がれた。自分のせいだとはいえ、ここまで強くなったってのは予想外だったなこりゃ。

今までの奴らとは違い、ほぼほぼ余裕を持って攻撃を防いでいる。

 

「ウォームz!」

 

「っ! 危ねぇ!?」

 

俺が少し分析に思考を向けていると、厄介な闇魔法を放ってきた。少々反応が遅れてしまい、ファイアで打ち消そうとしたが左手に掠ってしまった。

 

「チッ、参ったな。動きにくくなっちまった」

 

闇魔法の厄介な部分は、1部の魔法に相手の動きを少し封じる力があり、命中すると移動しにくくなってしまうという効果がある。ま、俺はあんま動かないから意味は無いけど。

 

「今のは防がれると思いましたが、案外やって見るものですね! それに攻めるなら今と見ました!ドーラΔ!」

 

はぁ、何やってんだか、油断は禁物とか言っときながら考え込んで先制を許すとか。

 

「そう簡単に当てれると思うなよ!」

 

『いやさっきめっちゃ当たってたでしょ』

 

ツッコミは聞かなーい。それにほら、防げてるからいいでしょ。

 

にしても、確かにクロードの言う通りだな。油断したら一気に首を切られそうだ。だが、

 

「まだまだ若いもんには負けんわァ!」

 

『1歩も動いてないやつに凄まれても何の説得力も無いんだけどね?』

 

ちょっと。いい所なんだからそのままにしとけよ。恥ずかしくなってきたわ。

 

「やはり、一筋縄ではいかない様ですね。でも、これでこそです。今の自分でどこまで貴方と渡り合えるか知りたいから!」

 

『ほら、ああいう風にカッコつけたら輝くんだって。何そのセンスも欠片もへったくれも無い決めゼリフ。だっさいわぁー』

 

分かったから!ちょっと黙ってろ気が散るわ!

 

「なら、少し本気を出すとするか。上手く避けろよ!」

 

俺はまたアローを唱える。だが、今から発動させるモノは一味違う。構造としては、俺の周りに幾つもの矢が精製され、リシテアを狙っている感じだ。まぁ、察しの通り連続で魔法を発動して攻撃しようとしている、つまりは連続魔法なんて言う奴だ。

 

「アロー×5!」

 

『ダサっ!!』

 

(うるせぇよ!)

 

イージスからの手厳しい発言を頂いたが、それもお構い無しに順々にリシテアに向かって飛んでいく。

 

「一度に5発も…!?

でも、何とか凌がなければ!」

 

彼女は一瞬戸惑うも、1、2発目を避け、3、4発目を自分の魔法を使って防いだ。が、5発目が運悪く自分の腕を掠ってしまった。

 

「いっ!?」

 

「悪いがこれで終わりだ!シェイバー!」

 

リシテアには悪いが、この好機を活用してトドメを指す。放たれた強烈な風が吹き荒れながらリシテアを包む。

 

「え、避けれな、キャァァァァァァァァァ!」

 

流石にいいのを貰ったので、その場に膝を着いてしまった。俺はそのまま彼女に駆け寄る。 (いつの間にかウォームΔの効果は切れていた)

 

「や、やはり流石は先生、ですね。1発しか当てられませんでした」

 

「いや、俺も危なかった。気を常に張り巡らしてなければいつやられるか分からなかったからな」

 

『流石に一瞬別の事考えて喰らったなんて言えないもんね』

 

(ちょっと黙って?)

 

「…今の実力では、先生には全く太刀打ち出来ませんね…。…もっと頑張らないと。その為に私は…」

 

…っ、気の所為だろうか。少しだけリシテアの目に闇が見えた気がした。…ここまで魔道に執着するのと何か関係があるのだろうか。

 

「…次の講義から今よりも幅広い範囲の魔法を教えよう。それでもっと力を付けて再戦しような」

 

「! はい!」

 

暫くそのままのリシテアだったが、講義の話を持ち出して励まし?をすると再び目が輝き出した。

 

彼女もまた何かを抱えているのかもしれない。だが、何も知らない以上踏み込めないし、力を使うにしても彼女を知らなすぎる。今の俺に出来るのはリシテアが努力している事の手助けをすること、なのかもしれないな。

 

「あー、そこ、いい感じ出してるけどリタイアだからな。さっさと戻れよー」

 

少し生徒とのコミュニケーションとってただけなのにもう終わりかよ。親父もつれないな全く。

 

て、やべぇ。まだベレスがいるんだった。急いで行かねぇとな。ディミトリ達、まだ粘れてるかな?

 

 

 

 

にしても、

 

「やべ、走っちゃったから息が、酸素が少な、やべ」

 

「先生!? 大丈夫ですか!?」

 

急いで駆け寄ったせいで息切れ起こしてしまった。全くもうこの体は。

 

『はぁ、しっかりしてよもう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディミトリ、悪いけどここで終わりだ。」

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

遅かったわ。すまんディミトリ。俺の体力が少なすぎるせいで。

 

「っ、先生か。すまない。なんとか食い止めようとしたのだが、歯が立たなかった」

 

「俺の方こそすまん。遅れちまった。だがあとは任せろ。やれるだけのことはする」

 

「せめてそこは俺がやるって言い切ろうよ兄さん」

 

「ベレスがツッコんだ!?」

 

「つっこ? 何だそれは? 何か楽しいことか?」

 

「そしてすぐ天然になった!」

 

『『どうでもいいからさっさと始めてよ(るのじゃ)!!』』

 

わかった、わかったって。そんな怒んなって。ってん?何かハモったか?

 

「て言っても正直勝てる気がしねぇな。一気に間合いを詰められたら終わるしなぁ」

 

「それはこっちもだ。近づくまでにどれだけの痛みを与えられるのか分からないな」

 

お互いに謙遜し合ってても何も始まらないし、そろそろ始めるか。

 

「先手はいただくぞ。ボルガノン!」

 

「シッ!」

 

俺が放った炎を、ベレスは勢いよく横へと避け、その駆け出した勢いのままに俺の方へ走り出してきた。

 

「悪いが加減は無しだ! アロー×5!」

 

『だからダサイって』

 

「その手は何度も食らった!」

 

先程リシテアを少し翻弄した連続魔法も、ベレスは軽々と避けていく。

 

「そのちょこまかを直したらもっと可愛くなるんじゃねぇのか、よ!」

 

余りにも早く避けられるので、ウォームΔで遅くしようとする。

 

「フッ!」

 

「あぁもうこれだから運動神経抜群な奴はよぉ!」

 

その魔法ですらブリッジで避けられる。その頭を後ろに持ってくやつはどこの筋肉を柔らかくしたら出来るんですかぁ?俺が必死になるも適わず、あっという間に間合いを詰められてしまった。

 

「ハァ!」

 

「っ! ウォームΔ!」

 

「うぁ!?」

 

剣が体の端から端をなぞる前に、近距離で魔法をぶち当ててやった。ベレスはまともに喰らって、しかもあの魔法なので少し動きが鈍くなった。

 

「いってぇ…!!」

 

しかし、俺も全てを防ぎきれた訳ではなく、肩を少し斬られてしまった。激痛が走り、抑えずには居られない。

 

俺達は距離を離す。

 

「お互いに結構厳しいんじゃないか?これはよ」

 

「あぁ、私もかなり体力を持っていかれた」

 

これは次の一手で決まるかね。そう考え、俺は次の魔法に勝利を託す事にした。

 

それはベレスも同じ様で、一撃で俺を仕留めるように集中している。

 

「! ハァ!」

 

「シェイバー!」

 

また一気に間合いを詰め、彼女の一振が先に俺に届くか、それとも俺の放った風が彼女を包み込むのが先か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超痛てぇ…やっぱ動く事もままならねぇと不便だなぁ」

 

勝ったのはベレスだった。彼女は、俺の放った魔法を勢い良く飛び越え、そのまま着地と同時に俺を斬ったのだ。

 

「大丈夫か兄さん?」

 

すぐさまベレスが倒れた俺を抱える。色々と疲れたのでそのままの状態で話す。

 

「大丈夫じゃねぇよ。善戦したかと思ったんだが、キツい状態でもお構い無しにあの身体能力を発揮するってどんな奴だよ」

 

「いや、あれでも踏ん張った方だ。油断したら足がもつれそうだったな」

 

あー、でも、負けちまったか。これで全滅って、ん?

 

「あれ、そういえば、マヌエラを倒してなかった気がするが、どうするんだ?」

 

「あぁ、大丈夫だ。彼女ならもう撃破してある」

 

「え?お前が?」

 

「違う。ほら、見てみて」

 

後ろに指を刺されたため、見てみると、

 

「こっちに来たと思ったら皆無視して他の人たちの所に行っちゃって、エリス先生すら来てくれなかったのに、終盤になってこっそり近付かれて倒されるって私の扱い酷くないかしらァ!?」

 

「ぴぃぃぃぃぃ!?倒したァァァ!!倒したけど怖いですぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

ベルナデッタにやられて嘆いているマヌエラと、マヌエラに怯えているベルナデッタが目に映った。

 

「なにあれカオスゥ…」

 

「ベルナデッタには隠れて敵を撃破してくれと指示を出したんだが、上手く気付かれずにやってくれたようだな」

 

「…はぁ。あと少し遅かったら2人にリンチにされてたな。危なかったわ」

 

「そこまで! 戦闘の結果、勝者は、黒鷲の学級だな!」

 

「ふぅ。一先ずは良い成績を残せたんじゃないか?」

 

全ての戦闘を終えたベレスは、俺の手を引いて俺を立ち上がらせる。が、疲れきった俺は上手く立っていられずにベレスに寄りかかってしまった。

 

「っ、兄さん?」

 

「悪い、ベレス。歩けねぇわ」

 

明日絶対動けないコースだわこれ。全く体が動く事を許可してくれない。

 

「なら私がおんぶしよう。そのまま修道院まで行こうか」

 

「いや。この歳になってまでおんぶはさぁ」

 

「いいから乗る」

 

「わふ」

 

強引に背中に乗せられてしまった。心配してくれてるのは分かるけどちとむりくり過ぎないかな?

 

まぁ、助かったのは事実だからいいけどさ。

 

(っ、兄さんが背中に密着している。寝ている時も感じたが、やはり兄さんは暖かいな。ずっとこうしていたい気分だ。それに、沢山動いたからか、やけに鼓動が速い。私の背中に直接振動が伝わっている。

?私は何故こんなにも兄さんのあれこれを意識している?)

 

『ムッフッフ。こやつ達のこのやり取りは見て飽きんのう!先が楽しみじゃ!』

 

彼女とその中の人がヒートアップしていることなんて今の俺には全く分からないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、模擬戦は黒鷲の学級での勝利で終わった。




如何でしたでしょうか。

苦手な戦闘シーン頑張りましたw

戦闘描写って中々難しいんですよねー。

余りバシュ!とか入れないで字で表現しようとしても、
あれをした。これをした。肉が切れた。しか
書けないって…。

さて、いよいよ次回から課題やなんやに入って物語はどんどん加速していきます。

では、また次回。


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反省会と課題

どうも、ゴアゴマです。

ベレスヒロインになったのに何故か最近リシテアがグイグイ来ている気が…。

そのうち喧嘩しそうで怖いわ…(他人事)

では、どうぞ。




「お疲れ様、先生。負けてしまったが、素晴らしい戦績だったと思う」

 

「おぉ、ありがとなディミトリ。心配してるよりは役に立てたようで何よりだわ。現段階で迷惑かけちまってるがな」

 

模擬戦が終了したあと、疲れて倒れかけた俺をベレスが大修道院まで運んで行ってくれたのだが、ベレスは黒鷲の学級で集まり、俺も青獅子の学級で集まる事になり、途中で交代してディミトリが担いで行く事になった。

 

「何言ってんすか先生! 大活躍でしたよ! 先生が居なかったらあそこまで他と渡り合えたかどうか分からなかったですし…」

 

「えぇ〜。それに、事前の先生の講義のおかげで前より上手くライブを使いこなせたから、思ってたよりも皆粘れてたのよ〜」

 

「いやー、あれは相手がベレス先生じゃなければ勝ってたよね〜。あそこでエリス先生が味方になってくれて本当に良かったって思ったもん!」

 

「確かにそうですね…。もしお二人共黒鷲の学級で来られてたと想像すると…」

 

「やめてください想像したくもないです…!」

 

思っていた何倍もの優しい言葉に、おもわず涙ぐんでしまったのは言うまでもない。

その後にまたシルヴァンが余計な事を言ったので制裁(アロー)を加えた。尻に刺さっていた。そんな中、フェリクスは違う事が気になっているようで、俺に質問してきた。

 

「おい、金鹿のリシテアだったか? 奴は何故あそこまで強くなった?

普通に教える事を教えただけで、この短期間であそこまでになるのはほぼほぼ不可能のはずだが」

 

「ちょっとフェリクス…。聞き方ってものがあるでしょ…。まぁ、私も気になりますけど」

 

「どうってなぁ…。別に講義外でも教えて貰いに来ること以外特に他の人と変わらないけどなぁ…」

 

「…普通にそれが理由だと思うのだが」

 

「いや、それ以上に彼女の精神力の強さだと思うのだがね。でないとそこまでの成果は出せんよ」

 

実際俺もよくわかってないんだけどな…。ただ、一番生徒の中で意欲的かつ積極的だったのはリシテアだった。そして結果が出るように何度も復習していたり、成功するように実戦を繰り返していた。ハンネマンの言う事も一理あるのかもしれないな…。

 

ただ…

「あの、先生!」

 

「ん?」

 

ふと目を向けると、アネットがこちらを見ていた。いや皆も見てるけども。一回り真剣な眼差しでで俺を捉えていた。

 

「あの、あたしにももっと色々教えていただけないですか?」

 

「ん?それはリシテアみたいに講義外でって事か?」

 

「はいっ。あたしの今の実力じゃ、いずれ着いて行けなくなって皆の足を引っ張るんじゃないかって。今回の模擬戦を見ててそう思ったんです。だから、今のうちからもっと頑張らなきゃって、強くなりたいなって…!」

 

…アネットも努力家ってのが伝わるな。頑張ることに何よりも力を入れている…。そんな子の願いを断る事なんざ鬼でもなければ出来ないだろう、とのことで普通に了承した。

 

「いいぞ。ただ、時間が取れたら、な。リシテアの時も中々時間を取るのが難しい事があるからな」

 

「! はい! ありがとうございます! 先生!」

 

了承すると、アネットは物凄く明るい笑顔を作ってみせた。不覚にも少しドキッとした俺を殴りたくなった。

その瞬間、誰かに鋭い殺気を向けられた気がした。なんでさ。俺がなにかしたって言うのか?

 

『 後ろから刺されないといいね』

 

不吉なこと言うなよ!?

 

「あら、なら先生〜?私もお願いしてもいいかしら〜? この模擬戦で自分の改善点を幾つか見つけたのだけれど、先生の御指導と一緒に直していきたいの〜」

 

「あぁ、構わない。」

 

「あら〜。ありがとう〜。先生〜」

 

「 …個別講義とはまた違う個別時間を貰えたりしねぇかな?」

 

なんやかんな言いながら、既に教師に慣れている俺は、変化に対応しやすい人間なのか? 意外とそうなのかもしれないと簡単に思えるくらいに対応出来てるからな。

 

『無意識に干渉の力を垂れ流してるのかもね〜』

 

(マジで!?制御出来なきゃ不味いなそりゃあ…)

 

『真に受けないでよ。最近使ってないくせに何を言ってんのさ』

 

「取り敢えず、今回はお疲れ様。先生。今回だけじゃなく、これからも俺達、青獅子の学級を宜しく頼むよ。勿論、他の2学級もな」

 

ディミトリが代表してそう言い、一応反省会?みたいなものは幕を閉じた。

 

「…ディミトリ、すまん。そのまま俺の部屋に送ってって貰えないか?」

 

「…せめてもう少し体力はつけた方がいいと思うぞ。先生」

 

仕方ないだろ! 何やってもつかないんだからさぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、俺達はレアに呼ばれ、今回の模擬戦に対しての言葉を言われた。

 

「此度はお疲れ様でした。ベレス。エリス。どちらとも見事な活躍でしたね。

今回の模擬戦で、少し生徒達とも親睦を深められたのでは無いですか?」

 

「あぁ、中々に距離は縮まったと思う。」

 

「むしろ初対面から馴れ馴れしい奴も1人いて蹴り飛ばしたくなるくらいだ。あ、他は凄くいい奴ばっかだけどな」

 

「そ、そうですか。仲を深められたのなら何よりです」

 

何故かベレスから少し冷たいような視線で見られた。

大方レア困っちゃってるじゃん、と言いたげのようだが、それはシルヴァンに言ってくれ。アイツの女癖の悪さがいけないんだって誰が女だ!?

 

『自爆しないでよ。ださいな』

 

「因みに、今回の模擬戦は前哨戦に過ぎない」

 

「マジかよ…もっとキツイのがあんのか…」

 

「まぁ、兄さんにとってはこれ以上は辛いだろうね。だからこそ一緒の学級で戦えたらサポートが出来るんだけど」

 

「そんな私欲丸出しのお誘いには乗りませんよお兄ちゃんは」

 

「…話を戻してもいいか。本番は飛竜の節に行われる伝統ある鷲獅子戦だ。恥じぬ戦いになるように、しっかりと生徒達を鍛えてもらいたい」

 

鍛える事については任せてもらって構わないんだけど、それ以上にまた俺出んの? 本当に辞退していいかな俺。

 

「模擬戦の話はここまでにしましょう。さて、今日貴方達を此処へ呼んだのは、翌節の課題を伝える為です」

 

「課題?」

 

「…俺来年には屍になってるんじゃなかろうか」

 

「恐ろしい事を言うな。この大修道院では、身分を問わず奉仕活動に取り組んでもらっている。

無論、生徒も例外ではない。節ごとに奉仕に代わる課題に取り組んでもらう」

 

つまり、何かしらの問題とかが起これば、それを対処してこい、との事ね。歩きさえしなければなんでもいいんだけどな…。早く歩かずに移動出来る魔法、開発しねぇとなぁ。

 

「因みに、エリス。君は課題については、今回の模擬戦と同じ様に節ごとに違う学級で課題に参加して欲しい。配属する学級についてはこちらが決めさせてもらうので、待っていてもらいたい」

 

「…了解だ。」

 

「ベレス。エリス。貴方達には特別な何かを感じます。期待していますよ」

 

全ての報告事が終わったようなので、俺達は出ていく為に扉の方に向かって歩き出した。やけにベレスが明るげに見えたのは、次こそは兄さんと一緒に行動出来る、と言った私利私欲からのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

にしても、そんなに睨まなくても分かってるっての。嫌いならそれでいいからよ。変な事件は起こすなよ?

 

セテス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、彼らに教師を任せて正解でしたね。リシテアを筆頭に今は少しですが、着々と力をつけているようですし」

 

「…なぁ、レア。今からでも遅くない。エリス アイスナーはやはり生徒達に近づけるべきでは無いのではないか?」

 

「…セテス。何度も言いますが、これは既に決めた事です。何かあれば私が責任を取ると言ったでは無いですか」

 

「確かに聞いた。それに、実力も確かだ。彼等ならば、この世に送り出せる程の実力者を生み出すのも容易いだろう。だがな、レア。私は危惧しているのだ。もし、彼がそうならば、またあの様な事に…」

 

「セテス」

 

「…!」

 

「それ以上は私も聞き捨てする訳には行きません。それを私は、私達はとやかく言える立場でもない。私達がここに来た時から、既にあの事態が起きる事は覚悟しなければならないものだった。それは胸に留めて置きなさい。」

 

「…レア。君は」

 

「…彼の事はもういいでしょう。それよりも、あの蠢く者達の詳細は掴めているのですか?」

 

「いや、今のところ有力な情報は掴めていない。何か分かり次第、直ぐに耳に入る様にしておこう」

 

「お願いしますね。では、私は少し席を外します」

 

「…」

 

「…レア。君は、まだ信じているのか。悪いが、幾ら否定しても、私にはあの者を信じる事が出来ない。それに、エリス アイスナーを見ていると、不安になる。何もかもが被るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの反逆の神祖と」




如何でしたか?

最後の方の人物。誰なんでしょうね()

それと、レアについてですが、原作と少しだけ変化があるかもしれません。
最初の方って余りネタを話せないのが辛い…!

さて、次回からは課題に入っていきます。
エリス君が力を使い始めるようなので、是非見てあげてくださいねー。多分(汗)

ではでは。


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盗賊討伐と力

どうも、ゴアゴマです。
前回の展開は少しネタバレし過ぎかと思いましたが、
今まで匂わせな言動しか言ってこなかったので、
少しくらい大まかなネタバレがあってもいいかな、ということでやったりました。

では、どうぞ。


「クソっ…!何が貴族のガキを数人殺すだけ、だ!

セイロス騎士団が追ってくるなんて話が違ぇじゃねぇか!」

 

「貴様らが仕損じたからであろう。…にしても元騎士団長の子、か。しかも片方は魔術特化…。なかなかやるものだ」

 

「てめぇ、聞いてんのかよ…。」

 

「だが、そんな二人を教師にするなど…益々あの女の考えが読めぬな…」

 

「聞いてんのか!? 俺達は…どうすりゃいいんだよ!?」

 

「死ね」

 

「何!?」

 

「もはや教団は容赦せぬだろう。せいぜいお仲間を増やしておくのだな」

 

「!? 待て! クソ! クソォォォォォォォォォォォォ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、黒鷲の学級で賊討伐になったんだな」

 

「うん、でも嬉しい。今回は私が兄さんを守れるから」

 

「…せめて一緒に戦えるにしてくれ。物凄く恥ずかしいんだそれ」

 

「ククク、講義上の独裁者も妹の前ではタジタジの様で…」

 

「ちょっと待て!なんだそのダッセェ2つ名!」

 

「だってー、貴方講義になると時々暴走するじゃないですか。この前だって実際に魔法発動して禁止令出されてたし」

 

「待って!? それお前が寝てたのが悪いよね!? 確かに発動させた俺も悪いけどさ!」

 

「いやあれ、痛いなんて物じゃなかったですよ? 意識戻ってまた強制的に意識飛ばされましたからね。弱めてるとはいえやり過ぎのような…」

 

「それ程までの経験をしたのだから、もう居眠りはしないのよね?」

 

「頑張りますよー。3割くらいは」

 

「軟弱者か君は!!」

 

なんだ…。目の前でコントが行われている…。何故直ぐにコントに切り替えられる…。

 

「てかそもそも、なんで賊なんて奴らが蔓延るんだろう。満足の行かない事があったのかね」

 

「…師。やはり、先生は政治や治安について詳しくないのね」

 

「あぁ。兄さんは異常と言える程に知らなすぎるんだ。私もある程度しか知らないが」

 

だってなぁ。政治とかいっちばん興味無いしなぁ。俺もよく分からないけどあまりそーゆーのは知ろうと思わないんだよな。これから関わって行くから仕方なく知るしか無いけどさ。

 

「…悪事に手を染めてしまうのには3つ程理由があるわ。1つ目は、己自ら悪事に手を出す、より危険な害悪。2つ目は、生きる為に仕方なく手を染めるしか無かった哀れな人達。3つ目は、恨みに心を囚われ、迷いを捨てて修羅となる道を選んだ人達。

 

まぁ、少なくとも今回の賊達は、前者でしょうけどね」

 

「…そうなのか…。でもよ、それが起きるってことは、フォドラって、少し、いや、かなり治安が悪いのか?」

 

「…悔しいけれど、その通りね。今のフォドラは身分格差が激しいが為に、上手く社会に馴染めずに、盗賊になる者もいるとされるし…。傭兵が当たる仕事で族の討伐が多いのも、それが原因でしょうね」

 

「…そうか。」

 

詳しくは書庫で調べるとするにしても…、

身分格差?何が原因でそんな事が?

 

「先生、討伐する前にその様な暗い話をしては、士気に関わる。続きは終わってからにしないかね?」

 

「そうだな。赤き谷、ザクザクだっけ?そこに追い詰めてあるんだろ?」

 

「ザナドだ!なんだその谷は!?ザしか合っていないだろう!?」

 

シリアスムードから一変、俺の言い間違いによって、

急な展開を予想していなかった皆はガタタッと音を立ててコケだした。

 

「流石兄さん。切り替え方が一味違う」

 

「それ煽ってんだろ」

 

「おーい、さっさと行こうぜ!悪い奴らを早くとっちめねぇと不味いだろ!?」

 

「それもそうね。お喋りもそこまでにして、そろそろ行きましょう」

 

級長の合図とともに、俺達は賊が絶体絶命として待っている場所へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たわ。早速始めましょう」

 

「おっしゃぁぁぁぁぁ!かかってこい賊共!まとめて成敗してやるぜぇぇぇ!」

 

「や、やっぱり怖いですぅぅぅぅぅ! 帰らせてくださいぃぃぃぃ!」

 

「大丈夫よ、ベルちゃん。落ち着いてやれば怖くないわ」

 

「よし、貴族としての誇りを今こそ見せる時だ! 悪事を働く者達を懲らしめてやろうではないか!」

 

「どうでもいいけどさ〜。とりあえず僕は後ろにいていいですかね。血とかダメなんですよ僕」

 

「それ、はやく、言う、しないと、だめ、です」

 

「ククク…我が主の為の犠牲となっていただきましょう」

 

気合いの入れ方が人それぞれ違う…。と言うか、混沌としてると言うか…。こんな状態で本当に討伐出来んのか?

 

『今こそ力を使う時だね。上手く扱えば負傷者を減らす事も出来るはずだよ。流石に使い過ぎは出来ないけどね』

 

模擬戦では使うのは違う感じがしたが、今回は討伐だとんな。遠慮なく使わして貰うわ。

 

「兄さん。行こう」

 

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お頭ぁ!やっぱ逃げましょうよ!」

 

「馬鹿野郎! 今更逃げ場なんてどこにあるってんだ!?」

 

奴らはとてつもなく焦っているようで、少し怯ませればあっという間に片付くのではないかと思わせるほどに弱々しい様に見えた。

 

「仕方ねぇ! やっちまえ!」

 

「くたばれガキぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

早速下っ端の賊が、俺達目掛けて襲いかかってきた。どんどんと奴が振った剣が俺達に近づいていくが、それが届くことは無かった。

 

「遅いわね。ファイアー!」

 

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一切の加減がない、相手を殺す事為に放たれたドロテアの魔法が、焼き尽くす。模擬戦の時とは違い、確実に相手を仕留める様に威力を調整したファイアーは、賊を殺すには充分な威力を備えていた。

 

「…これが、実戦…。こうして命を奪っていくのね…」

 

「手応えに嫌悪感を持つのは分かるが、終わってからにしろ。相手は待ってくれないからな」

 

「兄さんの言う通りだ。ドロテアに続け! 皆!」

 

「よっしゃ! 行ってやるぜ!」

 

「あぁぁぁもう! なる様になりやがれですぅぅぅぅぅぅ!」

 

俺達の鼓舞を切り目に、やる気を再注入された生徒達は

賊達に向かって行った。と言っても、無闇矢鱈に突っ込むのではなく、油断せずに何時でも対応できるように行っている。

 

「おい! このガキが1番弱そうじゃねぇのか!?」

 

「そうだな! やっちまえ!」

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇ!! やっぱり来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ベルナデッタを狙った二人の賊だが、錯乱しながらも正確な矢を放った彼女に片方が殺られてしまった。完璧なヘッドショットである。

 

「こ、このガキ!! 死にやがれぇぇぇ!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

が、初めて人を殺した感覚に怯んでしまった彼女に、憤慨したもう1人が殺しにかかる。そして、そのままベルナデッタに剣が吸い込まれていく。

 

 

 

しかし、何故か剣は彼女の横を通り過ぎて、血が噴射する事は無かった。

 

「はァ!? 嘘だろ!? 確実に狙ったはずなのに…」

 

「ただ単にお前の技術と油断の問題だろう、が!」

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

突如としてベルナデッタの後ろから現れたエリスのアローによって、もう片方の賊も討伐された。

 

「ベルナデッタ。無理に慣れろとは言わねぇ。だが、隙は見せるな。自分がやられては意味がねぇ」

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇ!! ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ! 助かりましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

とりあえず彼女をなだめ、ある程度落ち着いた所で活動を再開する。後ろに戻るかと聞いたが、後ろまで来られて奇襲されたら怖いから着いていく、と言われたので、はぐれないように彼女を連れて行きながら賊を討伐して行った。

 

『…どう?力の加減は?』

 

(悪くない。けど、何処か怠さが残る)

 

俺は先程力を使ったが、どの様に使ったかはお分かりだろう。ベルナデッタを切り裂こうとした剣に向かい、振るわれる力の向きに干渉して、少しだけ掛かる力の向きを変えたのだ。それにより、賊の攻撃が通ることは無く、そのまま焦って防御が厳かになり、俺に倒されたと言うわけだ。

 

『初めて自分から使ったにしては上出来だね。教えた通りに出来ている』

 

(ただ本当に連発は出来なそうだな。今の状態じゃあと1回使ったら倒れそうだ。)

 

『流石に最初はね。でも慣れていけば回数も増えていくはずだ。』

 

「そりゃあ助言どう、も!」

 

「アババババババババババババババババ!」

 

イージスの励ましを聞きながら、俺は魔法の詠唱を止めることなく賊に繰り出していく。そして、少し回復したベルナデッタが、俺が仕留めなかった賊の頭蓋骨目掛けて矢を放つ。

 

「兄さん。調子はどうだ?」

 

いつの間にか、ベレス達と合流しており、俺たちの周りにはそのまま真っ直ぐに賊へと続いている橋と、遠回りになるけれども繋がっている橋があった。

 

「師、提案なんだけど、挟み撃ちにしないかしら?彼等が逃げるであろう道を少しでも潰しておけば、確実に壊滅出来ると思うの」

 

「そうだな。じゃあ、私、兄さん、ヒューベルト、ベルナデッタ、エーデルガルトが直進、

ペトラ、リンハルト、フェルディナント、ドロテア、カスパルが左の橋を通ってくれ。」

 

《了解!》

 

指示が掛かり、俺達はそそくさと自分が通る道へと歩み始めた。ただ俺は早めに歩く事が出来ないため、ベレスがおぶって行った。恥ずかしくて生徒達と目が合わせられなかった。

 

「兄さんをおぶって戦えるなんて凄く新鮮だな。今度からの戦術はこれにしないか?」

 

「俺のメンタルがズタボロになるから絶対止めて!!」

 

「何イチャつきやがってんだガキャァ!」

 

「誰がガキじゃゴルァァァ!!」

 

「ァァァァァァァァ焼けるぅァァァァァァァァァ!!」

 

「ぎぃぇぇぇぇぇぇ!やっぱり先生おっかないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「おやおや…普通に対応しているだけなのにこの仕打ち…随分と苦労しますな、先生」

 

「何でしょう…。すごくシリアスな展開なのにこんなにも馬鹿らしく感じてきてしまうのは…」

 

「それは言ってはいけないエーデルガルト」

 

いや言っていいよ。カオスだよこれ。

何で言われて嫌な事に対応しただけでビビられるんだよ。俺が引きこもりたいわ。

 

「兄さんが引きこもりになったら私が1日面倒を見よう。」

 

あら嬉しい。嬉しいけどなんだろう。すっごくいい事のはずなのに物凄く危険な香りがするんだけど。

 

「そろそろしゃんとしましょう。ほら、親玉が見えたわ!」

 

「チッ…!ガキの癖に賢く動き回りやがって…! 向こう側の奴らは何をしてやがんだ!?」

 

アイツ、この前の村を襲った賊の頭じゃねぇか。なんだ、前よりも随分と怯えた表情になってんな。

 

「あぁ、それなら多分別れた生徒達が片付けたはずだが?」

 

「待たせたな先生!逃げ道を無くすのと、あっちに群がってた賊残らずぶっ飛ばしてやったぜ!」

 

タイミング良く、あちら側の橋を通って来た皆も合流し、これでコスタスの逃げ場は完全に失われた。

 

「っこの、ガキの分際でぇ…!! おい! 何人残ってるか知らねぇが、こうなりゃ悪足掻きでも何でもしてやらぁ! 道連れを1人でも増やしてやれぇ!!」

 

《うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!》

 

「先ずは周りの奴らを先に片付けよう。早く手の空いた者はコスタスを狙うんだ!」

 

《了解!》

 

追い詰められた賊と、追い詰めた生徒達の最後の決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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No side

 

 

賊達は何とか生徒達に攻撃を当てて、苦痛を与える事には成功しているが、ベレスが伝授した体術や身体強化を受けた彼等には、賊の荒削りな攻撃では致命的にはならず、逆に洗練された攻撃が賊を薙ぎ払う。

 

「く、このっ! 何でこれでくたばらねぇんだ…!?」

 

「悪ぃな、こちとら鍛えてるんで、なぁ!!」

 

「ぐぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

次々と地に伏せていく仲間を見て、コスタスはどんどん顔が青ざめていく。やがて、エーデルガルトが早く切り抜け、コスタスへと斧を向ける。

 

「てめぇ…あの時俺が仕留め損ねたガキか!!」

 

「仕留め損ねた? 返り討ちにされた間抜けの発言にしては上出来ね」

 

「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

逆上した彼は今度こそは、とエーデルガルトへ凶器を振りかざすが、

 

「…遅いわね。師のあの猛攻に比べれば何倍も!」

 

踊りを披露するように華麗な足使いで、荒い攻撃をスラスラと避けていく。それに更に腹を立てたコスタスは、必死の抵抗で彼女の手を掴み、そして切り落とそうとした。

 

「手の1本だけでも貰ってやるァ!!」

 

「いちいち怒鳴って…。正直言って耳障りだわ。ハァ!!」

 

だがエーデルガルトは涼し気な表情を崩すこと無く、掴まれた手とは反対方向に持った斧で彼の武器を止め、腹を目掛けて蹴りを繰り出した。これもまたベレスによって伝授されているため、コスタスを無力化させるには充分な威力だった。

 

「ガフッァ!!」

 

為す術なく崩れ落ちるのを、エーデルガルトは冷酷な目で見下ろす。

 

「この、苦労も知らねぇ温室育ちの貴族のガキが…! 邪魔ばかりしやがって…!!」

 

「…!」

 

その言葉が耳に届くとエーデルガルトは、初めてそこで涼し気な表情を一変させた。

 

 

 

 

 

 

Noside終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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エリスside

 

「おぉ、エーデルガルトの奴、アイツの事ここまで追い詰めたのか!」

 

少し遠くに居た下っ端を片付けていたベレスと俺は、到着が遅れてしまい、コスタスの所へと向かった際には、エーデルガルトにボコボコに既にされている彼の姿があった。

 

だが、少しエーデルガルトの様子がおかしい。いつもの様な淑女らしさみたいな物が一切感じられず、何か重厚な圧がかかっているような気がした。

 

「…苦労を知らない?では貴方達はしたとでも言うの? …馬鹿馬鹿しい。貴方達は苦労したのではない。かけさせたの間違いではないの?」

 

「っなんだとテメェ…! ヒィ!?」

 

「っ、アイツ…?」

 

普段の修道院では見せない様な姿を、彼女は今これでもかと見せていた。あの険しく相手を睨む表情で、俺は何故か出会った時に感じた謎の感覚を、この時鮮明に思い出していた。

 

「私は、貴方の様な愚かな人が本当に嫌いなの。だから、もう黙りなさい」

 

「ひ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一切の躊躇もなく、彼女はコスタスを切り飛ばした。断末魔を上げながら、彼は跳ねて地に倒れる。

 

「あ、あの、仮面野郎の言いなりになんざ…なるべきじゃ、無かった…クソ…」

 

コスタスは絶命した。苦痛を浮かべた表情からは、最後まで俺達を殺そうとしていた事を明白に語っている。

 

「…終わったようだな。エーデルガルト」

 

「っ!?あ、あら、2人共来てたのね。てっきり私しかいないと思ってたから」

 

俺達に気付かないくらいに我を忘れてたのか? そんなキャラではない気がするんだが…。

 

「そ、それにしても、この谷、少し奇妙だと思わない?」

 

誤魔化したな…。まぁ確かに奇妙だとは思うが…。

…ん?

 

待て…俺は、この景色を、知っているような…?

 

『あれ? 勝手に力が発動してるね。もしかして少し思い出すのかな?』

 

自分の意思とは関係なく、勝手に何か情報が頭に入ってくる。

 

流れてくるのは、かつての夢で二人の男女が見下ろしていた風景…。その光景が、このザナドと一致している気がした。

 

「っ! ハァ…ハァ…」

 

「? 先生? どうかしたの?」

 

情報の入手が終わると、エーデルガルトの心配する声が聞こえてくる。どうやら、急に息切れし出した事を不審に思ったようだ。

 

にしても、あの景色…。もしや、このザナドが夢で見下ろしていた場所…なのか?

 

「いや、なんでもない…。ちょっと疲れただけだ…」

 

心配ない、と返答しようとすると、また力が抜ける感覚がして、その場に倒れこんでしまう。

 

「先生!? 本当に大丈夫!?」

 

どうやら、勝手にとは言え力を今日だけで2回使ったので、体が限界を迎えたようだ。

 

「どうしましょう…。そうだ、師、師?」

 

「っん? どうしたエーデルガルト。って兄さん? もしかしてまた疲れたのか?」

 

気付いてなかったんかい…。

 

「あぁ、ちょっとな」

 

「そうか。ならほら、背中に乗ってくれ」

 

「え、いや、何回も乗るのは流石にお前も疲れるだろう。だから今回は違う人に…」

 

「いいや、皆も疲れている。ならばここは妹である私がおぶっていくべきだと思う」

 

皆の疲労を理由にして欲望を優先させたな…!?

 

「さぁ、修道院に戻ろう。兄さんは帰って寝た方がいい。なんなら、寝やすい様に私が添い寝をしようか?」

 

「おぶるなら早くしてくれ!! 無駄に恥ずかしい事をサラッと抜かすんじゃねぇって何回言えばわかるんだお前は!!」

 

この後、本当に添い寝をせがんで来たので、流石に追い返そうとしたが俺の力ではベレスを帰させる事が出來ず、そのまま同じベッドで寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りに入る前、何故かレアらしき視線が俺達を熱い眼差しで見ていた様な気がしたのは気の所為だろうか。




うーん、今回は特に上手く書けなかったような…。

中々シリアスから抜け出す描写を書くのが難しいなこれ。




では、また次回。


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休暇その1 人の苦手な事で喧嘩するとか珍しい事してんな

どうも、名前の通りにゴアマガラが大好きな、
ゴアゴマです。関係ない?すんません。

今回は、休暇パートと言って、
ゲームでの散策にできる事や、サブイベント等を
ギャグ八割、シリアス二割でやって行こうと思います。

物語の進行はここでは行わず、本編で進めると言った形になります。(伏線はありますが)

では、どうぞ。


盗賊の討伐から少し時間が経ち、今は休暇を過ごしている。休暇は、俺には魔法の研究、読書くらいしか出来ることが無いが、散歩ならば何とか出来るので、今日はその辺をブラブラと歩いていた。

 

「あ、エリス先生、おはようございます!」

 

そのまま広場辺りをグルグルとしていると、通りかかった生徒達が俺に挨拶をしてくる。

 

「あぁ、おはよう」

 

そう言って、特に会話する事もなく通り過ぎて行った生徒から目を離し、また適当に場所を選んで歩き始める。

 

『君、歩く事だけは清々しく出来るよね』

 

「仕方ねぇだろ。少し足がキツイけどよ。弱音を吐いたらどっかの誰かさんが、直ぐに背に乗せたがるからよ…」

 

『それなら歩かなければ良くないか?』

 

「暇すぎてじっとしてられないから無理だな」

 

『そんな性格してるねホント…』

 

何時もと違い、頭の中の人物と話しているが、周りに人が居ない為、別にいいかと言う感じで口に出して話している。

 

「それにどうしたって、一日に1回は俺に会いに来るからな。ベレスは…」

 

「私がどうしたんだ? 兄さん」

 

「ザナドォォォォォォォ!?」

 

「? それは赤き谷じゃないか?」

 

後ろを振り向くと、ベレスが超至近距離で俺をじっと見つめていた。普通に恐怖で腰が砕ける錯覚に襲われる感覚で、そのまま地面にヘナヘナと尻をつける。

 

「お、お、お、お、お、お、お、驚かしゅなよ!! びびびびっきゅりしたじゃねぇか!!」

 

「あ…。…すまない。兄さんがこう言う事が苦手なの忘れていた」

 

「今一瞬考えたよね!? 最初からやる気だったんだろその反応は!!」

 

「そんな事ない。兄さんがびっくりした様子を見たいがために、私がそんな事をする筈ないじゃないか」

 

「さりげなく目、逸らしたよな。嘘ついてんじゃねぇ。正直に言え」

 

「兄さんの怯えた表情が愛くるしいのが悪い」

 

「また開き直りやがったこの妹!!」

 

この恐怖煽り性能メティオ級のド天然め…。ことごとく俺のどこかしらの部位破壊を行いやがって…。この前は膝をやったんだぞそれで!! 待ってろこの…。俺の怒りを思い知れこの10割純粋果汁め…。

(力ない手でベレスの頬を抓る予定)ってあれ?

 

「兄さん? どうしたの?」

 

「…」

 

「兄さん?」

 

「腰が…ぬけて…立てない…」

 

「え…?」

 

止めて、そんなにショックを受けないで。なんかこっちが悪いって思うじゃん。

 

「可愛い」

 

前言撤回。反省しろこの欲望に忠実な妹が。腰ぬけてるって言ってるだろうが。

 

「このまま私の部屋にお持ち帰りしたい」

 

「止めろ」

 

「あう」

 

暴走を引き起こしそうになっていたので、軽くスネに手刀を入れて停止させる。その代わり、俺を見つめる無機質ながらも欲望に忠実なのが分かる瞳は全く変わらないが。

 

「…それで要件はなんだよ。まさかこれだけの為に声をかけたとか言わないよな?」

 

「いや、兄さんを探してたら何か1人で喋っていたから、話し相手になってあげようかと」

 

「…お前が話したいだけじゃねぇのか?」

 

「そうとも言える」

 

「おい」

 

少しは誤魔化せよ…。いや、さっき誤魔化してたか。えぇっと、なんて言えば…。そうだ、自重しろだわ。余りにもさっきのダメージが大きすぎて頭が混乱してんじゃねぇか。

 

「…別に話し相手が欲しいわけじゃねぇけど。そんで、なぜ俺を探してたんだよ」

 

「朝食を一緒に食べようと思って探してたんだけど、都合でも悪い?」

 

「いや、別にそういう訳じゃねぇよ」

 

なんだ、普通の事じゃねぇか…。もっと普通に呼びかけて欲しかったけどな。

 

「あ、そうだ…立てないんだった…」

 

「じゃあはい。私の背中に乗っていいよ」

 

おい、まるでそうなる事を予測してた様な準備の速さだな。 「あ、そうだ」 のあ、で後ろ向いて何時でもおぶれる様にしやがって…。まぁ乗るんだけど。

 

「よいしょ…。うん、何時もの重さだ」

 

「…お前コレをやる事も考えてたんじゃないだろうな?」

 

「…さぁ、食堂に行こう。なくなってしまう前に」

 

「もう二度と口聞いてやらねぇ」

 

「ごめんなさい」

 

漸く止まったか…全く…。何でこうも俺に対して色々とはっちゃけるんだろうな…。

 

何時までも困らせる事が大好きな(偶に無自覚)妹だが、憎めないのが不思議だよなぁ、と、ベレスが歩く振動に揺られながら感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、食べよう。今日は魚がメインの様だな」

 

「ほぉ…。心が踊るなァってやっぱこれ恥ずかしいな…」

 

食堂へと着き、まだ回復しない俺を乗せたまま、ベレスは2人分の食事を手に持ち食事場所を決めていた。俺は魚が主に大好物な為、大分朝から疲れたこの神経や体を癒せそうだ。

 

余りにも凄い技術と興味が集まりやすい状態である俺達を見て、周りがジッと集中的に見てくるのは止めて欲しいが…。怖すぎるわ。

 

特にシルヴァンの見る目がヤベェな。完全に獣じゃんあの眼。なんかブツブツ言ってるし…

 

「なぁベレス。シルヴァン俺たちを見て何か言ってないか?」

 

「ん?そうだな…。『姉妹丼も中々に素晴らしいなぁ。大と小で挟まれたら最高だろうねぇ…』

という感じだな。何が大なんだ? 」

 

良し、処すか。ベレスに色目使った上に何ちゃっかり俺を女性で通してんだ、このド変態アホヴァン。

 

「?気の所為だろうか。少しシルヴァンの顔が綻んでいる様な…」

 

心読んだ上に喜んでいる…だと…!?…エーデルガルトとディミトリに潰してもらおう。そうしよう。

 

「あ、今度は青くなった。忙しいヤツだなシルヴァンは。あれ? ディミトリとエーデルガルトが彼を鬼の様な眼で見ているが…。喧嘩したのかな?」

 

変態処されるべし慈悲はない。なぜお前らが人の考えが分かるのか知らないが…。そのまま訓練用マネキンにでもされてこい。

 

そしてベレスよ。それは鈍感すぎる。何時もの俺へのあの行動の過激さは何処へ?

 

「此処で食べようか。良いかな、リシテア、ローレンツ」

 

「えぇ、構いませんよってどうしたんですかエリス先生!?」

 

「僕も構わないさ!というか、今になって気付いたのかねリシテア君…。余程魚に気を取られていたようだね。悪い意味で」

 

ベレスが座ったのは、リシテアとローレンツが既に食事をとっている場所の隣だった。俺を隣へと座らせた跡に、何故かこちらも青い顔をしたリシテアが、俺を見た途端に更に青くなったのに対して俺はどの様に反応を返せばいいんだ…?

 

「俺は気にするな…。少し腰を抜かして立てなくなっただけだ」

 

「いや何故そんな状況に…。貴方の場合ではそんな状況に出くわす事等、驚かされた位でしかならない筈では…?」

 

「あぁ、まさにその通りだよ。こいつのおかげでな」

 

そう言って俺は原因を指さしながら説明する。悪いか?と首を傾げるベレスの頬を少し捻ってやると、彼女はうぁー、と声を出すので、もう片方もしてやった。仕返しにもなってるか分からないが。

 

普段の講義で偶に2人で教える時に、この手のスキンシップ等は結構やっている為、ローレンツはまた仲のいい事でもしたんだろうな。位にしか思って居ないからか、苦笑いを浮かべていた。

 

リシテアはやりすぎです。とベレスに説教していたが。何でベレスも兄さんが可愛いからの一点張りなんだよ。リシテア複雑な表情してんじゃねぇか。

 

「ん?リシテア、食べないのか?」

 

「ふぇ?あぁ、そうなんです! 今はちょっと食欲がなくて…」

 

「朝はしっかり食べないと後に響くぞ?」

 

「いえ、大丈夫です! 後でちゃんと食べますから!」

 

「…それじゃあ何の為に食堂へ来たのかね…リシテア君。」

 

「うぐっ…」

 

もしかして…魚が苦手

「それはありません!!絶対に!」

 

なんで心読むかねぇ…。それだと肯定してるのと同じだけどね。

 

「にしても、ベレス先生は量多いですね。そんなに食べれるんですか?」

 

「あぁ。私は結構入るな。でも、兄さんの方がもっと食べるよ」

 

「何?エリス先生は1品しか持ってきていないようだが?」

 

「兄さんは1品ずつ平らげていくんだ。意外と几帳面なんだ」

 

意外は余計だ。まぁ、食えもしないものを余計に持ってきても失礼だからな。おっと、もう食べ終わったか。なら、次の料理を持ってこよう。

 

「…なるほど。あぁやって次々と持ってくるのですね」

 

「兄さんは動けない代わりに、殆どのエネルギーを食事で補っているらしいんだ。正直兄さんの胃袋は収まる所を知らないな。自分がこれくらいにしようと言うか、此方が止めるまで何時までも食べ続ける事が出来る様だな」

 

「食べた物は何処ヘ向かって行っているのだ…?」

 

「好き嫌いとかあるんですか?お二人って」

 

「私は特に無いが…。兄さんは一つだけ苦手な奴があったんだったな…」

 

「それって…?」

 

ん?戻ってきたら何の話をしてやがんだ?リシテアが凄い食い付いているようだが。

 

「あ、先生、苦手な食べ物ってなんですか?」

 

「苦手…?あぁ、スイーツだな」

 

「えぇ!?」

 

物凄くショックを受けているな…。何だ、スイーツが嫌いでなにか都合の悪い事でもあるのか?

 

『この場合1つしか考えられないだろ』

 

「あんなに美味しいのにですか!? あの魔法の食べ物が!?」

 

「ま、魔法の食べ物って大袈裟な…」

 

「何を言いますか!! あれこそ至高の食べ物ではありませんか!! 甘く、そして蕩けるような至福の口溶け…。あれほど完璧な食べ物を、わたしは知りません!」

 

「分かったから! 取り敢えず座れ! えらい注目集めてるから!」

 

「あっ…////」

 

俺の注意で周りを見渡し、顔を真っ赤にして座った。そんなに熱中する程好きな食べ物なのか。それならあれほど反応しても可笑しくはないが…。申し訳ないんだが、俺はその甘い感じが苦手なんだよなぁ。

 

「なら、今度私が街に行った時にスイーツの良さを教えてあげましょう!」

 

「ウェ!?」

 

あ、これあかんやつや。我を見失ってる感半端ねぇ。暴走時のベレスと同じ匂いがするぞ。

 

「ちょっと待て。それは流石に聞き捨てならないな。兄さんの苦手な物を無理矢理押し付けるなど」

 

おぉ、珍しく状況的にベレスが味方になってくれたな。いやでもお前が言えたことではないんですけどね!!

 

「何を言ってるんですか。1度も先生は食べれないとは言ってないじゃないですか。それを言うならあんたはどうなんですか? 先生が腰をぬかす程の事をやっているじゃないですか」

 

いや何故こんな時だけ心読まないんだよ…!苦手なんだからそっとしてくれよ!

 

「私は確かに兄さんを驚かせているが、兄さんを恐怖に陥れる様な非道な事には手を染めてなど居ない。それに、私が見た中で、兄さんは1度もスイーツへと手を伸ばす事は無かった。だから、それは認められない」

 

「立てなくなってる時点で同じだと思いますが?それに、手を出すのが少し抵抗があるだけで食べたら変わる事もあると思いますが」

 

「…」

 

「…」

 

わぁお、修 羅 場 ☆

じゃねぇよ!何で人の苦手なもので喧嘩になってんだよ!どうせならもっとマシなものでしろよ!!

 

怖ぇよ、ベレスは相変わらず無表情なのに、明らかに手に力が入って怒ってますオーラ全開で、リシテアは笑顔のままベレスを睨んでるんだけど…!何か2人の目からバチバチと見えるんですけど…!?

 

「お、落ち着きたまえ、2人共。場が悪すぎるぞ流石に」

 

「…」

 

「…」

 

アカンやつやこれ。周りの声が全く入っていない。全く動かないで威圧し合ってるわ。うーん、どうするかな…。…あーもう!

 

「はいはい、2人とも落ち着こうな」

 

「「!?」」

 

「せ、先生…? そんな大胆な…」

…あれ?場が落ち着かない時は頭に手を置いて注目を向けされろって親父が言ってたような…。ってしまった。親父の場の治め方はろくなもんがなかったわ…

あー、でもとりあえず落ち着いた様だから、

この場を収集つくようにしよう。

 

「あのな、この場でこんなことを揉めるなんて大人気な

さすぎるにも程がありすぎだろうが。俺は正直どっちも苦手だが、発狂する程とか、そんなんでは無い。だから、もうこの話はしまいな?」

 

「…分かった。ごめん兄さん」

 

「…失礼しました。少し取り乱しました」

 

良かった。上手く纏まったようだ。止めていた手を動かして、食事を再開してくれているな。…俺が原因なんだけどね。

 

「ちょっと待ちたまえ。先生。いつのまにそんなに平らげたのかは別として、何故殆どの料理がザリガニのフライなんだ?」

 

「え?」

 

「あぁ。やっぱり兄さんだね」

 

え? 何か悪いか? 量は途中から料理人さんが何故かいっぱい運んできてくれたんだけども。

 

「兄さんはザリガニがとても大好物なんだよ。初めて食べた時に感動したらしい」

 

「な、なるほど。まさかこれを好んで食べる人がいるとはな…」

 

「うぅ、エリス先生とはとことん料理の価値観が合わな いですね…」

 

不味いか?この身が堪らなく美味いと思うんだが…。料理人さんからは物凄く喜んでくれているけど…。まさか、それが理由で?

 

結局、俺は2品を自分で選んで食い、残りの18品をザリガニで腹を満たした。美味かったなぁ。今度の魚メニューの時もああやってサービスしてくれたら嬉しいけどなぁ…。

 

周りからはすっごい奇怪な目で見られたけどな。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えて、ベレスと一緒にその辺を散歩して結局その日は終わりを迎え、いつものように眠ろうと考えて戻ってきた。のだが…

 

「なんでお前もいる訳?」

 

「だめか?」

 

「いやダメではないが…」

 

何でこうもベッタリなんだろうなぁ…。…というか、朝食終わってから少しだけ静かすぎるが、まだ何か気にしてんのか?

 

「…その、兄さん。嫌だったかな。今日というか、いつもの驚かせるの」

 

「あ?何を急に何言ってんだお前。そんなもん気にすんじゃねぇ」

 

「でも…私、さっきリシテアには言い返したけど、本当は兄さんに嫌な思いさせてたんじゃないかって…」

 

このままだと何時までも沈んだままだと感じたので、強引に頭を引き寄せて撫でてやる。すると、大人しくなって俺の言う事を聞いてくれる。

 

『そこだけ聞いてるとヤバい人だよ君。』

 

「あのな、苦手だとかなんだとか言うけどよ。本当は少し嬉しいのもあんだよ。おかしいかも知んねぇけど、こうやってなんだかんだ構ってくれて喜んでる部分もあるんだわ」

 

「…兄さん」

 

「本当に俺が嫌なのは、相手にもされず、ただ悪意だけを向けられる事なのかもしれないって感じがするからさ。なんか、あーやって馬鹿な事で喧嘩してるのを見て、少し可笑しくなってたわ。ツッコミ所はありまくりだったけどな」

 

『青春だねぇ。少しおかしいけど』

 

お前はお口を塞いでろ。ややこしくなる。

 

「…ありがとう。兄さん」

 

「…おう。」

 

全く。本当に何時までも世話のやける妹だ事。イタズラ好きな癖に、俺が困ったようにしてるとすぐ気にする所とかよ。

 

そういう所見せられると、まだまだ兄やってないとダメそうだよな。

 

「今日は手足絡みついて寝ても良いよね」

 

「最後で台無しだよアホ妹!さっさと寝ろ!」

 

「わぁ」

 

やっぱり変態だわウチの妹…。これで下心無しなんだよな…。嫁に行くまでには治してくれねぇかな。

 

『…色々な意味でもう疲れた。僕も寝るわ。』

 

「っていてててててて!!なんだよ急に抓って!」

 

「…兄さんも台無しな事思った気がした。」

 

「だからお前らなんで心読めるんだってアダダダダダダダダダ!力強いって!お前の力で抓ったら普通にもげアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」




如何でしたでしょうか。


はい。色々とタガを外した結果、こんなカオスになってしまいました…。申し訳ございません。

基本的に休暇はこんな感じで進んでいくと思います。

ベレスはもう、あれですね。無表情天然なサド依存系
妹(長)化してますね。

おや、リシテアの様子が…?

では、また次回。


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後押しを

どうも、ゴアゴマです。

暫く、全ての物語を更新できない日が続いてしまいました。申し訳ございません。

現実が忙しくなり、書こうとしても夢へと…。
という事が多発しまして…。

少しリラックス出来るようにはなってきているので、
少しずつ更新していこうと思います。

では、久しぶりの風花雪月、どうぞ。


「突然すみません、エリス。ですがまた、貴方にお願いしたい事があるのです」

 

「…あぁ。まぁ良いけど、今日は俺だけか?」

 

節も変わったすぐ序盤に、俺はまたレアに呼び出しを食らったので、会いに行くと当然の様に課題だった。

毎度毎度思うが、体持つかな?

 

一つだけ違うのは、前は一緒にこの場に来ていたベレスがいないということだ。という事は…。

 

「そうだ。黒鷲の学級には別の課題を出している。君は今回金鹿の学級に加入し、ロナート卿の反乱を鎮圧して欲しいのだ」

 

「おぉ…漸くクロードの学級か…って反乱?」

 

これはまた物騒な物の鎮圧を任されたな…。

ロナート卿ってのはまっっったく知らないが。

 

「…少し難しい話になりますが、ロナート卿は王国の小領主なのです。ある時から教団に敵意を持ち、現在に至ったという訳です」

 

本当に難しい話だな。ただ、要するに何かしらで恨みを買ったか、邪魔に思われたかって事か。前者の可能性の方が高そうだけどな。後者でこんな苦悶な表情はしないだろうし。

 

「既にセイロス騎士団の先遣隊が、彼の本拠であるガスパール城へと向かっている。兵力は僅かであるため、鎮圧は難しくは無いとは思うが…」

 

セテスの声が止まる。此方も苦虫を潰した様な顔をしている。成程、兵力は僅かでも、少し倒しにくい事情があるとか、そんなものか?

 

「失礼します。レア様、アタシをお呼びだとか?」

 

後ろからツカツカと此方に近づいてきた、既に戦闘準備万全な格好の女性がレアに語りかける。

 

「よく来ましたねカトリーヌ。早くからすみませんね」

 

「いえ、レア様に呼び出し頂いて嫌な筈がありませんよ。それで、隣の奴が今回の…」

 

「えぇ、エリス。彼女が同行する騎士団を率いるカトリーヌです」

 

ほぉ、この人が…。中々強そうだな。親父とどっちが…。いや、止めておこう。引き合いに出した所悪いが、親父がそこら辺の騎士に負ける程の男ではないけどな。桁外れの戦闘力を持ち合わせてるし、あのジジイ。

 

『口が悪くないかい?完全な嫌味でないのがまた面白いけどさ』

 

(毎度毎度ツッコまないと居られないのかお前?最近そんな事しか聞いてない気がするけどさ)

 

「…へぇ、アンタが…。ふぅん…」

 

カトリーヌと呼ばれた女性は、ジロジロと俺を事細かく

見定める様に観察し始めた。いや、何も怪しい事は無いはずだが…。

 

「…何か用か?」

 

「いや?別に。噂通りの人物か確かめただけ。ま、何かあったらアタシらを頼りな。少なくとも、足を引っ張る様な真似はしないさ」

 

それだけを言い述べると、彼女は興味を無くしたのか、

レアの方へと顔を向けて指示を待つ。なんか、随分とあっさりしてるな…。

 

「カトリーヌはセイロス騎士団の勇士ですが、彼女以外の騎士達も精鋭が揃っています。…この課題で、主に刃を向ける事の愚かしさを、生徒たちも学ぶ事になるでしょう…」

 

『…愚か、ねぇ…』

 

(…?)

 

いつもの様に出ていくが、イージスの呟きが、やけにいつものおどけた様には感じられなかった事が、何か頭から離れないまま俺はその場をあとにしようとした。

 

「少しお待ちなさい。エリス」

 

が、会話を終えたはずのレアが思い出したように声をかけてきたため、その場で立ち止まってレアを見る。

 

「ひとつ言い忘れていました。金鹿の学級に任せた、と言えどもこれは生徒への課題、という事を覚えておいてくださいね」

 

まるで何かを察知しているかのような様子で、比較的冷静に俺へとそう告げる。これは、何か行動をおこせ、という事なのか?

 

呟き、意味深な発言に少し頭を抱えながら、今度こそ俺は扉を開け、出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エリス・アイスナー、ねぇ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってきた俺は、朝食を摂るために、またいつもの食堂へと向かう。今日は肉料理がメイン、と聞いた為、魚の時よりは薄いが少しだけウキウキと心を弾ませながら歩いて行った。いざ辿り着くと、金鹿の何人かが此方に集まり、俺に話しかけてきた。

 

「いやぁ、今回でやっとアンタの力を借りる事が出来そうだな。頼りにしてるよ。先生」

 

「模擬戦の時とことん振り回されましたからねー。この学級に来たら今度はこっちが振り回しますからねー。主に戦闘を引き受けたりとかー、なんて」

 

「先生はすぐ倒れるんだろ?だったらあまり無理させない方がいいと思うけどなぁ。先生はまず肉体改造から始めた方がいいぞ!」

 

「結局無理させに行ってるような物じゃないですか…。でも、わたしも先生が加入してくれる事、凄く心強いです」

 

「…あんまり頼ったりしすぎないでくれよ?すぐ疲労しちまうからな…。」

 

まぁ頼られるのは嬉しいけど、俺の場合だと過ぎるとオーバーヒートしてしまう欠陥な体力ありなんでね…。ヒルダに至っては俺を完全にパシリにしようとしてるし…。パシリのパも出来ねぇぞ俺は。

 

にしてもさぁ。

 

 

「…あのなぁ、仕方ないだろうが。言ってたろセテスも。何処に配属されるのかは此方が決めるって」

 

「…言った。言ったけど、実際になると凄く嫌」

 

「嫌ってお前…子供じゃねぇんだから…」

 

俺の横には当然の様にベレスが隣へ座り、共に行動出来ないと、やたら不機嫌そうに俺の手にしがみついて離さなくなってしまった。心配なのも離れるのが嫌なのも分かるけど、これは皆の前ではやり過ぎです。天然妹よ。

 

「おーおー、やっぱり兄妹の絆は堅く結ばれてるようだな。俺達が入る隙間も無い、と」

 

「隙間というかクロードくん。これあたし達お邪魔じゃなーい?」

 

「見てるだけなら構わないと思うぞ?オデも良く妹とこうやって接してる時、周りが静かに見守ってたりする事あったもんなぁ。」

 

「相変わらず兄弟系の話になると食いついてくんのなラファエルは。てかリシテア、そんな顔すんなって。明らかに不自然すぎるだろ」

 

「…」

 

今のベレスは不機嫌な甘えん坊(無表情)になっており、そのうち2人は苦笑い、ラファエルは我が子を見守る様な優しい目で、リシテアは肉を頬張りながら、じっと此方を少したりともずらさずに見てきていた。

 

2人の反応は分かるし、ラファエルはとても有難い反応だが、リシテアに至っては普通に怖すぎるわ…。段々と眉がつり上がって来ているし、とても機嫌が良い、とは言えないな。

 

「私も別の課題さえ無ければすぐ様兄さんの近くで闘うのに…。どうにかして早めに終わらせて兄さんの所へ行けないかな」

 

「頼むから今回ばかりは諦めてくれ…。講義とかの時はいつも離れてるだろうが」

 

過保護すぎなのやら、独占欲が強いのやら…。これじゃあただの束縛が強いラブコメ見たいじゃねぇか。

 

『メタ発言はご法度だよエリス君』

 

こんな時ばかり真面目になりやがって…。

 

にしても、これまさか、離れる度にこうなる、とかならないよな…。そしたら大分手のかかる子じゃねぇか。傭兵の時はこんな事無かったんだけどなぁ。あ、いつも一緒だったからか。

 

「先生、エリス先生なら心配いらないさ。俺達だって、ただの荷物になるつもりは無い。先生が危なくなった時のフォローくらい入れますとも」

 

「クロードくんのフォロー程悪どいものはないと思うけどね。てゆーか、君も女心分かってないのねー。安全とかの問題じゃないんだってー」

 

「…手厚い助言どーも」

 

完全に勢いを失ってんじゃねぇかクロード。金鹿の男は皆尻に敷かれるタイプ…なのか?ローレンツもこの前こんな感じで言いくるめられてた時があった様な…。

 

「安心しろ…と完全に言いきれないのが辛いが、必ず帰ってくるから。だから我慢してくれ、な?」

 

「…」

 

取り敢えず帰還を保証してみたが、どうだ…?これで上手くいけるとは思わないが…。

 

「…帰ったら添い寝」

 

行けたわ。そしてまたかよ。どんだけ添い寝を所望したら気が済むんだこの甘々。

 

「…ッ…」

 

「…おいおい、イチャつくのもその辺にしてくれよ…。我等が主戦力様がどんどん不機嫌になってんぞ…」

 

「んー、余程気にいってるみたいだねー。自覚はしてないみたいだけどー」

 

「ん?何でリシテアさんはあんな怒ってるんだ?飯が口に合わなかったのか?」

 

《ラファエル(君)…それは鈍感すぎ…》

 

少しばかり気が楽になった様で、腕から離れてはくれたが、椅子をこれでもかと近付けて密着しているので、結局はすごく気まずいんだが…。

 

「あれ?」

 

「どうしたヒルダ?」

 

俺達を見つめていたヒルダが、ふと扉から垣間見える外に目を移すと、何か目に止まるものがあったのか、疑問を口にする。

なんだなんだと俺たちも視線を向けると、灰色の髪の人物が、なにか思い詰めたように立ちつくす姿があり、たまたま目があったのだが、直ぐにそらされ立ち去るといった光景が目に入った。

 

「あれ、アッシュじゃなかった?朝食も食べないで何やってるのかなー」

 

「珍しいな。アイツがディミトリや先生の所に来ないだ なんて。何時もならどっちかの所へ混ざるのに」

 

確かにな。アッシュは生徒の中でもかなりの人懐っこさだったからな…。何時もなら

 

「先生、ご一緒してもいいでしょうか?」

 

とか言いながらこっちに来るのに。

 

「…もしかして、今節の課題で何かあったのかな」

 

「ロナート卿の反乱でか?」

 

「…情報が少ないから、様子が急変した理由を考えるに はまずそれが一番に上がると思う」

 

成程、つまりは反乱の中の誰かしらと敵対している、という事になるか。

となると、今回の課題は結構、難題な物になってくるんじゃねぇか?

 

「アッシュがああなるのも仕方ないと思いますよ。先生」

 

「うわ、出た女漁り」

 

「ちょ、顔合わせて早々それは酷くないっすか?」

 

知らん。普段のお前の行いの結果だろ。

 

「あ、女にだらしない男」

 

「ちょ、ベレス先生まで毒舌っすね!?」

 

「あ、女の敵だ」

「あ、女の敵さんだ」

 

「俺泣いていいよね。何この塩対応」

 

仕方ないね、事実だもん。特にこの間の朝食の件についてと初対面について。

ほら見た事か、青獅子組からも冷徹な視線で見られてるじゃねぇかお前。特にイングリットとフェリクス。

 

そしてリシテア。今にも灰にしてやろうかみたいな目で見ないの。あーあー、そんなにフォーク握りしめたら折れるって。なんでお前がさっきから不機嫌になるのか分からないが、とりあえず落ち着け。

 

「…エリス先生に色目を使う危険人物」

 

「…それに関しては同感だ」

 

「アンタ達から見た俺は一体何なんだ!? 化け物か何か か!?」

 

「性欲の化け物だな」

 

「性欲の具現化だな」

 

「性欲モンスターだね」

 

「シルヴァン へやにかえる」

 

気力を完全に消滅させてしまったようだ。可哀想に。普段のチャラさが何処へやら。いじける可愛い生物が出来上がった。俺からしたら可愛くもないが。

 

『ホント、君彼には手厳しいよね』

 

根本的に性別強制ねじ伏せて接してくるやつの何処を信用して接しろと?嫌なものは嫌なんだよ。

 

「で? シルヴァン君は何を言いたかったんだ?先生は情報を欲してるみたいだから、ぜひ教えて欲しいんだぞ」

 

「…ラファエル。今度いい店紹介してやるわ」

 

「? 店がなんだか知らねぇが、美味い飯を食わせてくれ るなら何でもいいぞ?」

 

今のシルヴァンには彼が唯一の癒しの様だな。癒しは必要だからな。うんうん。

 

『ほぼほぼ君達のせいだけどね。彼の行動とも言えるけど』

 

「…あー、本題に戻りますが、ロナート卿は、アッシュの義父、みたいなもんなんですよ。何でも、自分を実の息子のように育ててくれた恩師の様で」

 

やはり関係のある人物だったのか。ん?でも、普通義父程の近しい人物なら、もっと早くに挙兵に気付けたんじゃねぇのか?

 

「ただ、何故かアッシュの所には何も連絡が無かったら しく、いきなりのロナート卿の暴挙に、彼はあんなに憔悴しきってるんですよ」

 

まさかの事前すらなし、か。

…息子を巻き込みたくなかったのか、心配させたくなかったのか、あるいは既に…。

 

「正直俺は、この件は青獅子の学級が担当すると思って ました。でも、そうはならなかった。レア様達が何かを考えての事だとは思いますが、個人的には当事者であるアッシュはこの課題に関与すべきだったのではないか、と思いますね」

 

「でも、流石に考えたんじゃないのかなー。親とも言える存在に手をかけることがどれ程辛いかって」

 

どちらの意見も賛同できるものだ。知人を手にかける、というのは当事者には苦すぎる難題。ただ、真実を知る為やアッシュの意志的にも、ここで立ち向かうというのも。

 

ただ、ヒルダの意見には少しだけ引っかかる部分があった。

 

「人を殺す事を課題として出している者が、情けを考慮して、なんて事があるのか?」

 

「先生、納得は出来るがその言い方は…」

 

「勿論自分でも分かってる。だが、どうも引っかかるん だよ。そもそもの問題、人殺しにも躊躇や覚悟を決める必要がある。それを態々、知人 と対象が変わっただけでケアを施す、ってのは余りにも理不尽すぎる気がするんだよな…。それに…」

 

あのレアの発言からすると…これは…。

 

「先生? どうかしたのか?」

 

「…少し予定が出来た。さっさと平らげて、それぞれの やる事を進めるとしようか」

 

「え、ちょっと急すぎないですかせんせーってはや!!どんなスピードで食べてるんですか先生!?」

 

「ちなみに兄さんは早食いにおいても頂点に立つ男だ。ほぼほぼ魔力と食欲に能力を持っていかれている状態だな」

 

「先生…言いたい事はわかる。わかるが、何故かその表現を聞いて謎のサソリ姿の騎士が出てきたのは何でだ?」

 

「止めなさいクロード。それ以上は言ってはいけません。先生は変な粒子を纏って速くなったりしません」

 

「いやリシテア。それ充分にお前もダメなやつだからな」

 

…人の食べ方で何訳の分からない事を言ってんだコイツらは。良いだろうが、急いでんだからこのぐらい。

 

『異常すぎるからに決まってるでしょ』

 

すぐ様食事を終わらせると、俺はすぐ様目的の場所へと足を運ばせた。ついでにベレス付きで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

side アッシュ

 

やってしまった。

いくら取り乱しているとはいえ、先生達を無視して立ち去ってしまうだなんて…。既に混乱している頭に、後悔の念が押し寄せてきて、更に頭が破裂しそうになる。

 

けれど、それでも理解出来ない。何故、あんなにも優しかったロナート様が、急にこんな…。

 

今回の課題は僕達の学級ではなく、金鹿の学級の皆が担当する事になったらしい。

 

…僕は…。

 

「悩める青年の背中を押すというのは難しいものだな」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァ!」

 

「おいベレス…驚かすなって言っただろ」

 

「やってない。普通に近づいただけ」

 

突然の後ろからの襲来に僕は普段出さない様な絶叫をしてしまった。まさかそれが先生だったとは思わないから、後ろを向いて怒りをぶつけようとする。

 

「い、いきなり何を…って先生!?」

 

「おう、アッシュ。元気が無さそうだったから、ちょっと追いかけてみたんだが、マズかったか?」

 

「やぁアッシュ。兄さんから大切な話があるみたいだよ」

 

「待て、何か語弊が感じられるなその言い方は」

 

「え、そ、それって…」

 

「お前も真に受けんな!!」

 

普通に反応しただけなのに叩かれた。解せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

sideエリス

 

 

「そ、それで何か様でしょうか。」

 

「…一応事情は聞いた。今節の課題の事でな。余り踏み込まない方が良いのは承知だが、少々それで話があってな」

 

「…あぁ、ロナート卿の事ですね。まぁ、そんな所だろうとは思ってました」

 

その話を切り出すと、アッシュは先程の暗い表情へと戻り、ポツポツとロナートとの関係等を語り出す。そこから話されるのは、彼が本当にロナート卿を敬愛していたと、反乱をおこすなんて考えられない、といった感情が痛いほどよく伝わってくるものだった。

 

「…ロナート様は、僕が大修道院に行く、となった時も優しく見送って下さいました。その姿は、寛大な父親そのものでしたから…。どうしてもその姿を見ていると、今回の事は嘘なんじゃないか、見間違いなんじゃないかって…」

 

成程、アッシュの前では小領主とか、武器を振るう騎士とかではなく、1人の優しい父親であったのか…。

 

「あの方は、何時だって僕を気にかけてくれた…。罪を犯した僕を受け入れてくれて、それなのに…」

 

「…?」

 

「あ、いえ、なんでもないんです。忘れて下さい」

 

…罪?いや、掘り返すのはよそう。説明しなかったのだから。

 

「…アッシュはどうしたいんだ?」

 

俺は彼にそう質問したが、分からないと答えた。

 

「…出来ることなら、ロナート様と会って、何をしたいのか問いただしたいです。でも、果たして今の僕に何が出来るんだろうって…」

 

やはり、自分と関わりの深い者の騒動は心に傷をつけたか。普段の彼ならば、後半部分の言葉は吐かないはずなのに。

 

ふむ、ここは、少し指導した方がいい感じか?

 

「何を悩む必要があるんだ?」

 

「…え?」

 

「お前がやりてぇ思う事があんなら、それはやるべき事 なんだ。寧ろ、お前が一番その人に会ってやるべきなんじゃないのか?」

 

彼の目を見ながら答えるが、未だその目に光は灯らず、迷いの中を駆け巡っていることが見てわかる。

 

「もしかしてさ、ここで刃を向ける事が、仇を返す事に なる、とか考えてねぇだろうな」

 

「そ、それは…」

 

「俺は、意味もなく戦闘を強要なんて事はしねぇ。だから、無理に殺しにいけとか、そんなことを言うつもりはない。けど、お前の心に後悔を残す様な選択はして欲しくねぇ」

 

「…でも…今の状態のロナート様に、僕が対等に話せる か自信がありません…」

 

…まぁ、普段そんな事しない様な奴だと、余計だろうな。俺だって、ベレスがいきなり正反対な事を始めたら腰抜かすどころの騒ぎではないだろうし…。

 

…もう少し押してみるか。

 

「…俺の親父はな、知ってると思うが物凄く強いんだ よ。俺の魔法は容易く避けるし、ベレスの剣技でさえ赤子扱いをうける程に」

 

「え…?」

 

「親父は、完璧な人間ではねぇからよ。偶に馬鹿みてぇ な事を仕出かす事があるんだわ。特に酒が入ったりしたら、な?」

 

「あぁ、元々猛者だった人が理性を失うという程、手のつけられない物はないな」

 

「あ、あの、何の話を…」

 

「でも、手が出せない、と言って放っておくと思うか?」

 

俺の言葉にまだしっくり来ていないようで、眉を下げて、考え込む動作をとる。

 

「だってよ、そこで止めなかったら、辺り一面が廃墟の 様に悲惨な事になるんだぜ?文句垂れてる暇なんてねぇだろ」

 

「…それで、どうなったんですか?」

 

「ん?まぁ、何とか暴走は止められたよ。代わりにベレスも俺も、しばらく身体が動かなくなったけどな。…俺の場合はもれなく全身激痛でな…」

 

思い出しただけで身体の悲鳴が思い出される。あぁ、こんな事鮮明に思い出さなくていいのに何でこんなのに限ってめっちゃ出てくるんだ…。

 

「…何と言うか、苦労してたんですね…」

 

 

 

「まーな。…お前は自分に何が出来るのかって凄く悩んでると思うけどよ。結果なんて、実際にやって見なきゃどうなるかなんて分からねぇんだよ。あんだけ温厚なロナート様がここまでの事をしたから、僕なんかの言葉が届くとは思えない?だったら、俺らなんてとっくに地面と同化してるわ。此処で刃を向けるのが恩を仇で返す?恩師を止めるために刃を向ける事の何が仇なんだよ?そしたら俺達なんざとっくに団長様の裏切り者だろうが」

 

「…っ」

 

アッシュが何かに気付いたかのように目を見開く。…少しはいつもの気持ちを取り戻したか?

 

「いいか?もう一度言うからな。やる前から自分の嫌な結果ばかりを思い浮かべてんじゃねぇよ。それで後悔して後から気が重くなるんぐらいなら、今本当にすべきだと思う事をやれ。自分の本心を伝える事が、今のお前のやりたいことなんじゃねぇのか?」

 

「…!」

 

俺が言いたい事を述べ終えると、漸くアッシュの目に光が灯るのを確信した。

 

「何時だって、恩人を止められるのは恩を受けた側だ」

 

「!…そうだ。僕は…」

 

《金鹿の学級に任せた、と言えどもこれは生徒への課題、という事を覚えておいてくださいね》

 

全く、ただのお偉いさんなのか、先まで見据えた偉大なお方なのか…。アンタが何を思って俺にこんな事を言ったかなんて知らないが、それが罠だろうがなんだろうが、今回は利用させてもらおうじゃねぇか。

 

「大司教には俺から言っておこう。準備は予めしておけよ」

 

それを言い終えると、俺はアッシュに背を向け、行動を開始した。

 

『全く、大した演説だね。普段の怠がってばかりの君とは全く別人の様だ』

 

(うるせぇな、たまにはいいだろ。たまには)

 

にしても、慣れないことを言うと少し疲れるな…。まぁ、アッシュが少しでもいつもの気力を取り戻せたのなら、結果おーらいってやつか。にしても、頑張りすぎたからか、左肩が物凄く重いな…。

 

 

ん?

 

「…」

 

「何で俺の肩に抱きついてんのお前…」

 

「…今のうちに兄さんを補給しておく」

 

「どんだけ離れるのが嫌なんだお前は!? 兄さんを補給ってなんだよそんで!!」

 

結局そのままレアの所へ行き、セテスからは白い目で、フレンは口を抑えて素晴らしい愛ですわね、とか呟き、レアからは何故か鼻を抑えながら目を血走らせながらサムズアップをされた。

 

…最後くらい上手く終わらせてくれよ…。




如何でしたでしょうか。

…ベレスのクールキャラが少しずつ違う事に…。

このまま行くと1部完結までにもすごい時間がかかりそうだな…。
もしかしたら、飛ばす課題が出てくるかもしれません。(飛ばさない事もあるかも)

では、また次の話で。


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子は親を、ならば親は子を見るか

どうも、ゴアゴマです。

亀更新気味ですが、痺れを切らされていないか心配です…汗

今回はアッシュとロナートの話ですね。

あと、かなりのオリジナル展開です。

では、どうぞ。


「いやはや、まさか雷霆のカトリーヌさんとご一緒とは、光栄の至りですね」

 

「光栄に思うのは自由だが、それで自分の役目を厳かにするなよ? ちゃんとお前らのセンセイからは伝達されてるはずだからな」

 

現在俺たちはロナート達の反乱を鎮圧するためにガスパール城付近へと来ている。やけに木々が生い茂っており、心做しか視界もぼやけている気がする。に、しても雷霆とは何なんだ?

 

「おい、お前今雷霆とは何だとか言ったか?」

 

なんでスラッと心を読むんだよ。怖いわエスパーちゃんが居るよここに。

 

『…雷霆…ねぇ』

 

…最近重要人物はそんなつぶやきしか出来ないのか?

 

『おい、それ以上は止めな』

 

「いいか、雷霆ってのは英雄の遺産の一つだ。遥か昔、神々より力を授かりし10人の英雄…その子孫に伝わる聖なる武器さ。つっても今回雷霆を振るう機会はないさ。アタシらの任務は事後処理ってとこだからね」

 

『…英雄?』

 

(おい、どうした急に。声にドス黒い何かが入り混じってるが)

 

『…いや、気にしないでくれ。ところでエリス。あのやけに態度が鼻につくマドレーヌと言う奴は始末していいのか?』

 

(カトリーヌな! そして止めろ! 更に気になる事ありまくり過ぎだろ!!)

 

カトリーヌが雷霆の話をし始めた辺りからやけに不機嫌なトーンで話すとは思っていたが、何であたりまで強くなってんだ?

まぁ、俺も何だか知らないがあの剣には良い印象を持てないんだが。

 

…それはそれとして、

 

「一応大丈夫だとは思うが、準備は万全だな?

 

 

アッシュ」

 

「はい。ちゃんと、自分のやるべきことに目を逸らさずやり遂げる為に、ここに来ました」

 

「よし。なら後は分かるな?」

 

「はい!」

 

アッシュは、この前の迷いの中にある顔持ちではなく、何事にも左右されない堂々たる面持ちでその場に立っている。どうやら、覚悟を決めたようだ。

…なら出来る限りの援護をしてやらなくてはな。

 

『でも自分も気をつけなよ? 後ろから刺されたりしたら元も子もないからね』

 

分かってるっての。それに、十分注意しなけりゃ行けないやつも居るし。っと、どうやら先に向かっていた騎士が現状を報告しに来たようだ。

 

「さて、そろそろ向かうか。クロード。他の奴らを呼んできてくれ」

 

「りょーかい。それと、腰の防御は固めとけよ?」

 

「おお。って腰? 何故に…」

 

クロードの不安要素満載の返答には何も返せなかったが、頭の中の奴の注意の源でもある、今俺に向かってハッキリとした敵意を向けられていることに気が向いてしまい、それ以上考えることは出来なかった。

 

「先生! 出番ですか!? 任せてください! 何人たりとも近づけさせませんから!」

 

「ぐぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「あ、気を付けとけって言ったのにとかふざけてる場合じゃないか。おーいリシテア、その辺にしとけ。先生が綺麗に曲がってるぞ腰中心に」

 

うん。何かあるかとは一瞬思い付いたけど、まさか本当に腰を折られるとは思わねぇだろ。痛てぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案内されたところまで固まって行くと、段々と霧の濃さが増していき、あっという間に視界が真っ白になってしまった。この中途半端な霧のかかり方…。明らかに人の手が加えられてるな。とすれば…。

 

「敵の中には間違いなく魔術師が居るだろうな。怪しいやつを見つけたら無力化してくれ。こんな状況じゃ探すこともままならねぇ」

 

「これが人の手でか…。だいぶ濃いが、相手側はこちらを発見できるのかねぇ」

 

「この手の策略ならばこちらが不利になればどうということは無いんだろうな。ただまぁ」

 

俺は一旦会話を中断すると、片手に魔力を集中させ、密かに近づいてくる気配の方角に対してサンダーを放つ。

 

「グァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

着弾したのだろう。体が痙攣しているように声を震わせながら断末魔が上がる。明らかに俺達の位置やら何やらを把握していた

 

「…なるほどな。こりゃ、だいぶ目を鍛えてあるな。今度の講義の課題にしてみるか…?」

 

「止めたまえ先生…。セテス殿からまた苦情が来るぞ…」

 

ほんと、なんであの人俺がやる事なす事全てにつっこんで来るんだろう。何、恨まれてんの俺?

 

「条件としてはあちらも同じなんだろうが、俺達は地理に関して疎いのが多いからな…。明らかに不利だな」

 

「不用意につっこむなよ? 狙ってきた奴から仕留め続ければそうする必要が無いからな」

 

指示通り、俺達を発見し襲撃せんと向かってくる人々が増えてきており、俺達はそいつらを教えた通りのやり方や戦法で対処していく。確かに視界を奪うというやり方は1枚上手かもしれないが、純粋な戦闘ではこちらの方が経験値の差で有利なのかもしれないな。

 

ただ、そうするとやはり気になることがある。先程から攻撃を仕掛けてくるヤツら。まるで武器の振り方が素人そのものだ。とても騎士やら兵士やらの戦い方とは思えないやり方で、俺より少し上手いくらいの振り方だ。

 

おまけに、相手側はなにかと言葉に違和感があり、

 

「うぉぉぉぉぉ!! 領主様を死なせてたまるかァァァァァ!」

 

「ロナート様の悲しみと怒りは…おら達がこの手で晴らすんだァァァ!!」

 

「コイツら…この訛りようと一人称…まさかとは思うが…」

 

クロードが何かに気づいたように敵兵の手と足スレスレに矢を放ち、それを避けようとして掠った相手がヅルンと転倒する。

咄嗟にローレンツが相手の手に取っている武器を退かし、敵兵の手を見やると、その手は明らかに武器を持って戦う騎士達とは思えない手つきだった。

 

「このマメの入り方…そして土がこびりついて茶色く汚れた爪や掌…。コイツら、農民か!?」

 

「そんな…!? まさか、街や村のみんなまで戦場に!?」

 

「もはや手段は選ばないってか…。やはりこれは修羅の道に入った結果か? だが何故…」

 

『どうせなら、使ってみれば? なにか分かると思うよ』

 

イージスの言葉通りにし、俺は倒れている農民の記憶に干渉し、何が起こっているかの情報を集め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街のような場所で、明らかにカリスマ溢れる中年の甲冑に身を包んだ男が、どこかへ向かって進撃していく。それを引き留める農民達、そして団結する一行。

そして、その怒りの矛先は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レア率いる教会に対しての怒りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭が揺さぶられるような感覚と共に現実へと引き戻される。幸いに今回は誰にも違和感を感じられていないようで、俺が農民を少し調べているように解釈されたようだ。

 

「どうした、先生。なんか分かったのか?」

 

「いや、特には。それよりも、なんだか前方の方に少し強力な魔力を感じる。もしかしたらこの霧の発動者がいるかもしれない。ゆっくり接近してみるとしよう」

 

俺の言葉に全員が賛同する。しかしこの発言には6割の事実、そして4割の嘘が含まれている。たしかに少しばかりの魔力の違和感はあるが、結果的には干渉時に場所バレしてしまっただけなんですけどね。

 

そしてこの発言はしなければ良かったと思いました。何故ならば、今俺の右腕付近へと近づき俺へアッツーいキラキラした目を向けている優等生ちゃんの顔がまともに見れないからです。

 

「そんな…さりげなく魔力を感知するなんて…!!!!」

 

あー。もう。何も言うまい。なんか純粋な子を騙してる気がして胃が痛いですよぼかぁ。

 

と、ここで何も居なければ俺の勘違いで済んだのかもしれないが、本当に居るもんだから余計に眩しい目線が俺を痛めました。なんで何もしてないのに自分の首を絞めなくちゃいけないのだ。

 

「せ、先生。ちょっとリシテア君の顔が近すぎる気がするのだが…」

 

「止めてくれローレンツ。それよりも前の敵に集中しろって、あれ? ダークメイジは?」

 

「あのー、先生大変申し上げにくいんですけど〜。先生を熱く見上げながらリシテアちゃんが片手で相殺してました…」

 

「ゑ」

 

「褒めてとは言いません。こんな状況ですし? でも、空気が読めないとか言わないでくださいね! だって先生を尊敬して見つめてたら魔力ぶっ放してくるんですもん!」

 

「分かった! 分かったからはい深呼吸! お前先生が絡むと何でそんなに短気になるんだよ!!」

 

レオニーがお母さんしている…。めっちゃ暴走っ子を宥めんの上手いな…。

 

『あの、何回も言うけどほぼほぼ全部の原因君だからね?』

 

察さないでくれ。胃が痛くなる言ってるだろ。

 

「…! 霧が…晴れてきます…!」

 

随分と呆気なさがあるが、発動者であった魔術師を倒した事によって、鬱陶しく思い始めていた霧がサァッと音を立てるかのように消えていく。

 

やがて全ての霧が無くなると、隠れる場所を無くし動揺する兵士達と、カトリーヌに向かって怒りの眼差しを向ける、映像と同じ男が立っていた。

 

「カサンドラ…!! 雷獄のカサンドラ…!! 我が息子を裏切った狂信者め…!!」

 

「…カサンドラ…。

 

 

 

アタシの名はカトリーヌだ。神々の僕たるセイロス騎士団の剣…その身で味わいな…!」

 

…カサンドラ…?視線の矛先からしてカトリーヌの事だろうが…。瓜二つとか?それとも…。

 

これは後でまた使用しなきゃ行けないか。はぁ…。体力が…。

 

「…ロナート様…」

 

どうやら、あの男はロナートと断定していいらしい。アッシュは少し悲しげな目を向けたあと、顔を左右に振り、目の色を入れ替える。

 

「先生、僕、ロナート様と話します。話して、あの人を止めてみせる…!」

 

「…任せな。周りの事は他に任せて、行け!」

 

「はい!」

 

彼は駆け出し始め、今カトリーヌと激闘を繰り広げようとするロナートの元へと疾走し始めた。当然、自分達の主将な訳だから、周りのヤツらはアッシュを止めようと集団攻撃に乗り出ようとするが、俺達は約束通り阻もうとする奴らを蹴散らしていく。

 

「悪いけど、ここはアッシュ君の腕の見せどころなんだぁ。おめぇ達の相手は、オデが引き受けるぞぉ!」

 

ラファエルが俺達の言いたい事を全て宣言する。如何なる理由があろうとも、親子の会話を妨げるなんてことはしちゃいけないからな…!

 

「さ、かかってこい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Noside

 

「貴様だけは…! 貴様だけはこのわしが…!!」

 

「…随分と荒れてるじゃないか…。目の前にある正義にすら気付けなくなっちまったかい」

 

「それを貴様が言うか偽善者め!! 我が息子を裏切った貴様こそ、何が正義かを見失ったのではないか!!」

 

「…っ…何も言えないのが辛いねぇ…。明らかに、アンタを歪めちまったのはアタシだ。…せめてアタシの手で送ってやるよ…。主の見許へね…!」

 

「それは貴様の方だカサンドラ!! 女狐に化かされた狂信者は、わしがこの手で討つ!!」

 

憎悪に塗れた剣と、罪の意識が入り混じる剣が交差し、辺りに甲高い音が鳴り響く。荒々しく繰り出されるロナートの剣技と、それを受け流しつつ冷静に仕留めんとするカトリーヌの剣技が何度もお互いの息の根を止めようと相手へと向かい、弾かれ、向かい、弾かれを幾度となく繰り返す。

 

「全く、アンタはこんな戦い方じゃなかったはずだろ?」

 

「ふん! 貴様こそ、どうした! 我が息子を手にかけた悪魔とは思えない剣技だな!!」

 

「…言ってくれるじゃないか。生憎と、憎悪に全てを捧げた奴にやられるアタシじゃない、よ!」

 

煽りに対して答えるかのように、カトリーヌは勢いを強め、それに加え足払いやステップを上手く扱い、ロナートを手にとるように圧倒していく。

 

「力の差は明らかだ。今投降すれば少しは軽くなるから、してくれないかなぁ」

 

「ふん、何を今更。どうせお前はクリストフの話もろくに聞かなかった分際で、善人ぶるとはな。さぞかし息子を殺した時に得た名声で作り上げた偽善伝説は気持ちが良かっただろうな!!」

 

「…っ…」

 

「ハァ!!」

 

「ぐっ…!!」

 

糸が切れたように攻撃に隙が現れ始めたカトリーヌを馬と協力し彼女を突き飛ばし、地に伏せさせる。

彼女が立ち上がろうとすると、首に剣が当てられる。

次の一撃で刈り取ろうという気迫が分かる。

 

「…息子の…仇だ…。だが、貴様はクリストフの友人だと聞いた…せめて痛くないように一瞬で葬ってやろう…」

 

「…ふ…まぁ、これも仕方ない…か」

「ロナート様!!」

 

トドメを刺そうとしたロナートの体に誰かが突進し、馬から体が飛ばされたロナートはそのままその人物とともに地を転がる。

 

そして、彼を起き上がらせると、その原因であるアッシュは必死に説得を始める。

 

「ロナート様…! もう、おやめ下さい! 何故、このような…!」

 

「…どくのだ。アッシュ。わしはもう止まる訳には行かぬのだ」

 

「答えてくださいロナート様!!」

 

「レアは! 民を欺き、主を冒涜する背信の徒だ! 大義は我らにあり、主の加護も我らにある!!」

 

「だからって…! こんな事は絶対に間違っています! 街や村の人達まで動員するなんて…!!」

 

「ならば…!遠慮なくわしに刃を向けよ! …わしは…もう…止まれぬのだ…後には引けぬのだ!! 全てを覚悟してここに立っている!! お前も説得したいというのであれば、その手でわしを止めて見せよ!!」

 

「…っ、ロナート様…!」

 

かつて見た事のない、父親も同然であった男の豹変に、狼狽えてしまうアッシュ。故に、それしか方法がないと分かっているのに、手が弓を取ろうとしない。してくれない。動こうとしてくれない。

 

再び自分の歩みを止めてしまったアッシュを、ロナートは敵とみなし、問答無用で刃を向けて近づいてくる。

彼が繰り出した一撃一撃を、弓で受け流し、またはベレスに学んで染み込んだ身の子なしで対応しているが、1度も自分から攻撃をしようという姿勢は見られない。

 

「ハァ!!」

 

「うわァァァ!!」

 

痺れを切らしたように一気に薙ぎ払われ、アッシュはそのまままともに喰らい、膝から崩れてしまう。

 

「情けは捨てよ、アッシュ。ここに来た時点でお前がするべき事は、獲物を捨てるか、わしを討つかの2択しか残されていないのだ…!!」

 

「ロナート様…!! 一体…どうしたら…!?」

 

アッシュが迷いに入ってしまった事を視野に捉えると、興味をなくしたようにカトリーヌへと矛先を変え、そのまま去ろうとする。

 

(…僕は…ロナート様に弓を撃たなければならない。じゃないと、取り返しのつかないことになる…。でも、刃を向けてしまえば…。僕は…。)

 

自分はどうすればいい、と頭を抱え、もはや本来の目的を遂行することなく役目を終えてしまうかのように思われた。が、ここである言葉がアッシュの頭によぎる。

 

『刃を向けることが、恩を仇で返すってことになるなんて思ってねぇよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔してあとから悔やむくらいなら、今本当にすべきだと思うことをやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時だって、恩人を止められるのは恩を受けた側だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…そうだ…僕は、あの時教えられて、誓ったじゃないか。自分の心に…。

 

 

 

例えどんな事になろうとも、ロナート様を止めるって。

その覚悟もなしにこんな所に来ちゃいけない。後から後悔しないようにすべき事を全てやり遂げる。それが、

 

今僕がすべき事だから…!!)

 

覚悟を思い出し、もう一度決心したアッシュは、1度深呼吸をし、手に力を込めて、

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一気に引き絞った矢を放ち、ロナートの腕へと目掛けて飛ばす。

 

「ぬぅ!?」

 

背後の異変に気付いたロナートはその矢を弾いたが、覚悟を決めたアッシュはそれだけで攻撃を止めず、足と手に正確に当たる位置へと連射し、受け流しきれなかったその中の2本が見事にロナートの両腕へと命中する。

 

「ぬぁぁぁ!!!」

 

好機と見たアッシュはそのまま全速力でロナートへ突進し、また押し倒して、矢を、今度はロナートの頭へと向けて引き絞る。

 

一瞬戸惑ったような顔をしたロナートだったが、観念したのか抵抗しようとした足を止め、アッシュの一撃を受け入れようとする。やがて目を閉じ、時期に来る痛みを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、何時になってもその痛みはこない。どういうことか、と目を開くと、涙を流しながら弓を収めるアッシュの姿があった。

 

「僕にはっ…できません…! 僕がここに来たのは、貴方を討つためじゃ無いから…!」

 

「何を言っている…! わしは、そのような事を望んではいない。さぁ、わしを討て…!」

 

「いやですっ…その言葉には従えません…!」

 

「何時まで悩んでいる! 言ったであろう! どちらかしか選べないと!」

 

「例えそうだとしても!! 僕はそれを望まない!」

 

「…なに?」

 

どんなに否定されたとしても、アッシュは決して自分の意思を曲げようとはしなかった。ただ、自分の望みを口にする。そのただ1つの行動だが、それを言うにはかなりの覚悟がいる状況。その中でも、曲げようとしなかった。

 

「僕がここに来たのは、貴方を止めるためです。殺すためじゃない…!」

 

弓を収めたその震える手を抑えるようにしながら、必死に救うべき者に呼びかける。普段では考えられないように声が上擦っており、以下に必死なのかが分かる。

 

「僕は、あなたに救われた。僕には触れられないほどに傷付いているのに、苦しんでいるのに、あなたは僕に、僕に無いものを与えてくれた。

 

生き方を教えてくれた。

 

優しさをくれた。

 

居場所を与えてくれた。

 

 

 

 

今の僕の在り方を作ってくれたのは…貴方なんです…!」

 

「…アッシュ…」

 

「僕に代わりとか、そんな事をできるなんて言いませんし、そんなことはしません。だって、貴方にとって息子は、クリストフさんだけだから。でも、僕は少しでも、あなたに貰った恩を返したい。たとえどんな風になったとしても、あなたの心が救えることが僕にも出来るなら…

 

 

 

 

 

 

 

どうか僕に、恩返しをさせて下さい…!」

 

普通この状況では、こんな事は言えないだろう。憎しみに飲まれた者が、いくら恩人だからといえども、それで憎しみが消えるなんて事など、無理に等しいのだから。

 

そう、憎しみは。

 

「…ふ、愚かなのはわしもだったようだな…。自分が育てると豪語した子にここまで悲しい顔をさせるなど…」

 

「ロナート様…」

 

「…心の中では分かっていたのだ。こんな事をしても、クリストフは戻ってこない事など…。それでもわしはそれを言い訳にし、息子を奪った憎き女狐率いる教会を亡き者にしようと立ち上がった…。だが…」

 

ロナートは溜息をつきながら、手をそっとアッシュの頭へと持っていき、優しく撫で始める。そこには、復讐鬼となった姿もなく、ただの父親のように感じられる物だった。

 

「同時に大切なものを作りすぎたか…。それすらを押し込めて、復讐へと費やそうとしたが、わしには無理だったようだ…フッ、哀れな復讐者と笑うか。アッシュ」

 

「そんなことありません…! 僕が貴方を笑うなんてこと、絶対に有り得ません…!」

 

アッシュはそれを否定する。心から尊敬している人を、笑う事なんて何一つないからだ。

 

「…だが、わしはもう、止まることが出来ぬ…。何人もの民を犠牲にし、目的を果たせなかったわしは散る以外に道は残されておらぬ…」

「領主様!!」

 

「なに…?」

 

ロナートがアッシュではない声の主の方向へと顔を向けると、そこには戦死したはずと思い込んでいた己の仲間達が集まっていた。

 

「すまねぇ、領主様…!あんたの為に戦うと言ったのに、結局力になれなかった…!」

 

「…何故だ…いくら農民とはいえ、敵に変わりないのだぞ…?」

 

ロナートは近くにいたクロードへと語りかける。その様子に彼は苦笑し、自分達の真意を打ち明ける。

 

「我らが先生の判断さ。あの人、平気で難しいこと言ってくるからなぁ。力の制御を身につけるに丁度いいと思えとか、唐突すぎるだろ…」

 

「なに、先生だと…?」

 

「先生、もしかして…」

 

「言っただろ。後のことは俺らに任せろってな。それに最初からお前の目的が説得だって分かってたからな。無理にトドメを刺す理由なんてなかったし」

 

エリスは、何かと理由を見つけて自分を卑下しようとしているロナートの元へ行き、声をかける。

 

「あんたは農民達を死なせてしまった、だから後には引けない等と思ってるんだろうが…ご覧の通り、あんたの農民達は生きてる。それに…あんた、復讐鬼になったにしては随分と味方に対して甘すぎる気がするがな…きっと、あんたにとってアッシュと民達はとてつもなくかけがえのないものになってたんじゃねぇのか? 」

 

「…だが、わしは民を巻き込み死なせようとしてしまった…。アッシュにまで悲しい思いをさせてしまった…」

 

「領主様、そう自分を責めねぇでくだせぇよ。オラ達は、あんたが領主様だからついて行ったんだ。復讐をしたいなら最後までお供するし、皆で暮らしたいと言うんなら、途中で武器を捨ててあんたと一緒に平和に暮らすさ」

 

「そうですよ! いくら巻き込まれようが、利用されようが、地の果てまでついて行きますよ! むしろ、俺達が途中で見限るとでも思ったんですか?」

 

「…お前達…」

 

ロナートは、全員を見渡す。もうそこには復讐の火は灯っておらず、優しい領主の顔だった。

 

「すまぬ…お前達を盛大に巻き込み、悲しませておきながら、わしにはもう、復讐を行うことが出来ないようだ…。お前達という存在が、復讐を行う中で、どれだけ大切なのかという気持ちがどんどんと溢れてきてしまってな…今更何をと思うだろうが…もう一度、わしと共に生きてくれないだろうか…?」

 

《勿論です!》

 

「ロナート様、言ったばかりでは無いですか。恩返しがしたいと。貴方がそう望むのであれば、僕はそれを全力で支えます。あなたの心の傷が少しでも和らげるなら、僕は、あなたと共に生きる道を選びますよ」

 

「…お前達…!」

(あぁ…わしは、こんなにも暖かな存在を手に入れていたのか…。…もしかすると、クリストフからの贈り物なのかも、しれんな…)

 

その場は、ロナートを中心としてアッシュを含めた民達が集い、全員が涙するという場であったが、誰もそれを邪魔することはなく、ロナートの心を満たす新たな存在を認識した瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

sideエリス

 

「アッシュ…やり遂げたんだな…」

 

あの場に気を使って遠くまで来てみたが、やはりここからでも嗚咽とかが聞こえてくるな…。どんだけでかいんだ…。

 

『でも、良かったのかい? 仮に命を助けたとしても、レアが下す判断が緩くなるとは思えないが…』

 

それは俺がなんとか掛け合っては見るし、だからといってよ。あんな風にまだ笑い合えるのに、命を奪うなんてことの方が無理だと思うけどな…。

 

『…まぁ、君がそうしたいのであれば何も言わな…! エリス、後ろ!』

 

「っ!!」

 

うぉぉ!? なんでいきなり後ろから攻撃されたし…!?

ってあぁ、やっぱりコイツだったか…。

 

「へぇ、体力ないってレア様から聞いてたけど、反射神経はあるんだね。少し驚いた」

 

「驚いた…じゃねぇよ。まぁ、警戒してたから対応出来たのもあるけどな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カトリーヌ」

 

 




如何でしょうか。
うーんやっぱり強引感がつおい。
本編ではアッシュを連れて行っても一切の救済がなかったロナート。流石にそれではと思ったので、今回は特別ということでロナートはこういう立ち位置となりました。そして誰やこのイケオジ…。

てか、シリアスなのにガスパール兵長の時だけギャグ風になってしまったのは俺の悪い癖でしょうか。
そして安定のリシテアのキャラ崩壊具合が半端ではない。

そして、まさかのエリスとカトリーヌの相性最悪というね…。今のところ教会レアとフレン以外エリスの事嫌ってますね。

さてこの関係性がどう変わってくのか見物ですね。


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決めるのは自分

お待たせしました。ゴアゴマです。

今回は最後イージスが少し…?




あれから一悶着あったが、無事ガルグマクへと戻ってきてすぐ様ベレスに介抱された。

 

いやー、それにしても、最近リシテアが暴れている光景を見るのが増えた気がするのは気の所為だろうか。

攻撃を仕掛けるカトリーヌを見つけてブチ切れ魔法ブッパしーの、喧嘩腰に来たセテスに向かってぶっ叩こうとしたりーの、介抱したベレスにキレりーの…。

 

あれ、もしかして過保護増えた? 明らかに俺関係でキレてるよな…。

 

『難儀だね。妹もあの子も。こんな気付き悪い奴にしちゃってさ』

 

うるせーな。というか、さっきからまた視線を感じるんだけど、一体全体誰が何のために俺を見てるんだ…ってうわ。見なきゃ良かったわ。

 

『…あー、君も厄介なのに目をつけられたね。ホント』

 

後ろを向くと、物凄く険しい表情で俺を監視しているとも取れる位置で見ているカトリーヌがいた。うっそだろなんでお前ここにいんだよ。愛しのレア様の所に行けや。

 

てか、後ろ見たんだからバレてんの知ってんだろ。なんで未だにこっち見てんだよ。とっとと帰ってくれないかね。

 

『…取り敢えず普通に過ごしてみれば? 流石にこんな人目のある所で襲って来たりなんて馬鹿な真似はしないだろうし』

 

それ言うとまじでやって来そうだからやめろ。

でも、意見には賛成するわ。取り敢えずその辺ぶらぶらでもしようかな。そのうち飽きるでしょ。

 

『ベレスとかリシテアの所に行けばいいんじゃないか?』

 

バッカお前アイツらがコイツの尾行に気づかないとでも思ってんのかよ。速攻リアルファイトまっしぐらですけど? そんとき被害来るの俺なんだからさ。

 

『なら3人の級長の所にでも行けばいいんじゃないか? 頭の冴える人らだろうし、何かあれば対処くらいはしてくれるんじゃない?』

 

さりげなくアイツらを売るなよ…。まぁ選択肢が限られているのも事実なんで行かせてもらいますが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で少し相談相手になってる感じで付き合ってくれ」

 

「どういう訳よ…。でも先生運が良かったわね。その目当ての級長3人が揃っている状態で」

 

「はっはー。この前から何かと胡散臭い目を向けられてんなとは思ってたが、やっぱり目を付けられてたか。

雷霆に目を付けられるなんて、流石だな先生」

 

「何処が流石なのか分からないが、本当に身に覚えがないのか? 先生。一度何処かで出会っていて、何か粗相をしてしまったとか」

 

「いや、あんだけ自信たっぷりなレア様大好き人間の事忘れないだろうし、何かしたらすぐ斬りそうだからねぇだろ」

 

「取り敢えず先生の中でのカトリーヌ殿が碌でもない人認定されているのは分かったわ」

 

「心做しか今あの人が盛大な舌打ちした気がするんだが…。もしかして地獄耳?」

 

いやだって仕方ねぇじゃん。そう思いたくもなるよ。

 

『まぁ、その点に関しては僕も同感だね。碌でもない事には変わりないかな』

 

「敬愛するレア様の評価が悪くなったり、自分の立場も危うくなるの分かってる筈でのあの不意打ちだからなぁ…。少しぶっ飛んでると思われても仕方ないとは思うが」

 

「容赦ないわね…。でも、それくらい思った事をハッキリ言ってくれた方が、教師としてはしっかりしてるのかしら。先生も師も、そこの所は妥協が無いのよね」

 

「流石に弁える時はあるけどこればっかりはな。行動1つで人の信頼に関わる事だし」

 

ハッキリ言うに関しては、ベレスは徹底されてるだろうな。アイツ加減て物を知らないし、相手が根をあげるまでとことん言いくるめそうだからな。

 

『君も大差無いけどね』

 

「そう言えば、ハッキリって事で少し考えたんだが、先生の中で今1番見込みのある生徒って誰なんだ? ウチの即戦力は抜きで」

 

「え、リシテアってそこまで成果あげてるの? クロード」

 

「あれ、皇女は知らないのか? 今生徒達の中で1番勢いのついてるって噂だけど」

 

「いや、それは知ってるんだけど…どれだけ魔改造したの先生…」

 

「失敬だなお前。ただ少し基礎を教え直したり魔力操作を伝授したり、今覚えてる魔法の強化を促したりしただけだけど?」

 

「…その割には早過ぎないか? 成長が明らかに」

 

「…きっと想いから来るのでしょうね。そうとしか説明がつかないわ」

 

そう言われてもなぁ…。というか、リシテア以外で見込みのある奴…ねぇ。

基本的に率直な意見としては、良くも悪くも飛び抜けてるとかってのは無いんだよな。それぞれの得意分野で補って互角同士って感じでな…。

 

そういう点ではリシテアも俺と同じような感じなんだよな…。魔法で戦闘の全体を支えてる感じで。

その魔法がズバ抜けてるから少し皆の前にいるわけだけど。

 

『ぱっと出ない様だから、実際に実名上げてもらった方が評価しやすいんじゃない?』

 

あー、それはあるかもな。じゃあ早速聞いてみて…

「アネット辺りはどうなんだ先生? この前の模擬戦の終わりに指導をお願いしてただろう」

 

何ァ故ェ聞く前に言った? エスパーなのか? え? エスパーか?ディミトリ。手間が省けたけども僕ァ君が怖いよ全く。

 

「ア、アネットか。アイツ自身が頑張り屋なところもあって、魔法の進展は早い方だな。ベレスのキツい訓練にも必死に食らいついてるみたいで、実際に剣術や忍耐力が少し上がってたのも見込みはありそうだな。

ただ、1番かと言われるとな…。少し判断はしにくいな」

 

「アネットでは無いのか? 」

 

「軽い万能型ではあるし即戦力だとは思うが、今回の着目点は見込みのある生徒だからな…。そう考えると別だな」

 

成長の良さと1目置くのは若干違うからな。あ、決して否定してるわけじゃないから安心しろよ?

 

『何故弁解したんだい?』

 

なんか遠くの方でアネットが涙ぐんでる気がした。いや、これ確実に必死に講義求められるわこれ。はぁ、体力持つかな…。

 

『いっつもだけど君のせいじゃないか。というか、君の言葉を借りるとすると、皆エスパーの様だね。というか普通に気持ち悪』

分かったからいっぺんに喋んないでくんね!? 後気持ち悪いって言うなそんな気がしただけなんだから! お兄さん傷つくよ!?

 

「じゃあ、ドロテアはどうかしら? あの子かなりのやり手に感じるし、攻撃系の覚えはいいと思うけど」

 

「あー、アイツは威力寄りで相手を蹴散らしたい時にはとても好戦力になるだろうな。黒鷲の特攻隊長でも良いんじゃねぇかとは思うくらいに。

ただ威力の操作が苦手のようでな…。そこが少し痛手かもしれねぇな…」

 

「…良く見てるのね。相談されたわけじゃないのでしょ?」

 

「初めて見た時から威力に持っていかれてしまってるのは直ぐに勘づいててな。そこはかなりの修正を入れているんだが、こればっかりは本人の想像力やら制御力に限るからな…。

制御の一歩が踏み出せるかどうかで今後の評価が変わりそうな1人ではある」

 

「成程ね…。流石傭兵イチの魔道士と言われてただけはあるわね。因みに私はどうなのかしら? 今後の為にも一応聞いておきたいのだけれど」

 

「魔道に関しても戦闘に関してもかなりの優秀さは持っているし、教えられたことを直ぐに吸収して自分のものにしているのは評価出来るが、立ち回りが遅いせいで攻撃は良いのに追撃を加えられてペースが乱れるのはどうかと思うな。それをどうかしないと折角いい物を持っているのにそこで全て無しになってしまう。それを何回も言っているのに1回の攻撃に集中してしまって俺の攻撃を何度も食らう様では流石に1番には出来ない(略」

 

「そ、そ、そんなに、い、い、いわ、いわ…」

 

「おーおー先生その辺にしとけ。態度の割にメンタル激弱な皇女様のメンタルが破壊しかけてる」

「クロード!! それ以上はやめなさい!!」

 

「ちょ!! 待て待て! 悪かった指摘したのは悪かったからあだだだだだだだだだだだだだ!!!! 背骨! 背骨折れルルルァァァァァァァァァァァ!!!」

 

あ、あらら。今綺麗にパキンって音がしたな。こりゃやってんな。

 

てかやっちまったわ…。さっきから注意はしてたのについ熱が入っちまって説教みたいになっちまった…。

ヒューベルトに怒られるかね。それともそれくらい言ってもらって構わないと後押しされるかね。

 

『意外と後者かもしれないね。彼結構辛辣な部分あるし。エーデルガルトに関してもね』

 

「…ふぅ。私とした事が…。失礼したわね先生。少し、えぇ少し、ほんの少し心に来てしまうものがあったわ」

 

「あー、すまんなエーデルガルト。怒ってるか?」

 

「…いえ? 別に怒ってなんかいないわよ。えぇそうですとも。予想よりもダメ出しされて、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかなんて、そんな面倒臭い考えなんてしてないわよ。師だったらもう少し優しくしてくれたのになんて思ってないわ。えぇ、無いわよ」

 

「うん。済まなかった。今度浮遊魔法でむっちゃいい景色見せるわ」

 

「だ、だから別に怒ってないわよ…! そ、そんなものに釣られたみたいになるから嫌よ…。

…高い所からみた街が見てみたいわ…///」

 

「欲望丸出しだなエーデルガルト。非常に面倒臭いと感じてしまうのは俺だけかクロード?」

 

「いーや、王子様は間違ってねぇよ。皇女様は猫のように気まぐれな上に、先生の手で転がされてるカワイイヒトなのさ」

 

「〜!!…貴方達覚えておきなさい…!」

 

わー、手から血が出るほど拳が力強く握られてる。この前のリシテアとどちらが強いんだろう。今度何かで勝負でもしてもらおうかね。

 

自分でやったら間違いなく腕が破滅するからやらないけど。

 

「あー、気を取り直して、金鹿はどうなんだ? 先生。マリアンヌ辺りとか」

 

「マリアンヌは…素質はあるし、かなりの純度の魔力も備わってるんだが…自分の過小評価が過ぎるせいで魔力にも影響を及ぼしてて、ドロテアよりも制御が出来てない部分がどうもな…。物理系も苦手なようだし…。戦闘面に関しては今のところ余り向上は見られそうにないな」

 

「あー、これはまた1人泣かせたな。先生」

「人聞きの悪いことを言うな。俺だってこんな事言うのやだわ。ただ、人を癒そうと言う気持ちは誰よりも強いのか、回復魔法や補助魔法に関しては言うことがないんだよな。特に動物に関しては凄まじくてな。馬が大怪我してても、秒で完治させてしまうくらいには」

 

「…つまり先生は、今までとは別に注目する1人として彼女を見てると?」

 

俺はそれに静かに頷く。彼女は自信を持てばかなりの即戦力になると思うし、そうでなくても他人に関しての助力精神は中々のものだ。

 

…まぁ、少し怖がられてる気がするでもないから、近づくのは少し難しそうで教える教えないの問題という…。

 

「いやー、でも今の先生の意見を皆が聞いてたら、かなり心に来たりしてるだろうなー。或いは1番だったやつが調子に乗ったりとか」

 

「1番しそうなのは貴方だけどね」

 

「あぁ。この前に器用さを褒められて水に下剤を入れられた時に確信した」

 

「あ、バレた?」

 

 

「お前何してたんだよ…。

 

まぁでも、見込みがあるとかなんとか言ってるがさ、結局は俺個人の意見なだけであってよ。見込まれてるから大物になるとか、そういったわけじゃねぇんだよな」

 

「それはつまり…?」

 

「俺がなんと言おうが、もうお前ら全員はそれぞれで活躍出来る何かを持ってるし、俺はただそれを伸ばしたり、完成に向けての助力を尽くしてるに過ぎないからな。

最初は余り何も感じられなかったやつでも、数年後には全てに才を置ける大英雄になってたりするだろうし…。

 

アネットだってその頑張り屋な性格によって今の何倍にも光るものを育てられるだろうし。

 

ドロテアだって今は慣れてないだけで、段々と手取り足取り自由自在に操作出来るようになるだろうし。

 

エーデルガルトは…まぁ余裕を持つ事と油断しない事を両立させれば立ち回りなんて伸びるに伸びるしな。

 

マリアンヌだってきっかけさえあれば、どの様にだって変わっていけるだろうし。

 

様はその人次第って訳だよ。1番見込まれてるからってうかうかしてたら数ヵ月後に予想外の奴が追い越してる可能性だってあるしな」

 

『良いように言ってるけど、体動かす事に関して放棄を徹底している君が言えた台詞じゃないよね?』

 

なんで毎回毎回台無しの言葉を添えてくんだよ。気分良く終わらせろや。

 

「何か私だけ呆れたように纏められたのがモヤモヤするけど…まぁいいわ。結局は見込み何てものは余り左右する様なものじゃないから、本人達がすること次第で何もかもが変わるって事ね」

 

「そーそー。助言の1つとして取っておけって話。だって親父の助言なんて良い所だけ身に付けて、要らない部分全部聞き流してたし。俺なんて」

 

「それは…参考になるのか…?」

 

「なるだろ。何が自分にとって正しいかなんて自分が決めるんだし。あれこれ言って全部身につけようとしたら、混乱して結局何も得ずで終わるだけだろ。

リシテアはその点はしっかりも身についてるようでな。俺の助言を取り入れて、それを自分に合うように調節してるから、俺から言うことは何もねぇしな。

 

この前のアッシュだって、あくまで俺は1つの可能性を促しただけで、結局どうしたかってのはアイツが決めた事だしな。まぁこれは少し話の趣旨には関係ないが」

 

「おー…。なんかちょっとした疑問から講義みたいになっちまったな。ま、勉強になったからいいけどな」

 

「悪い悪い。ただ、中には知らずに卑屈な考えになってるやつもいるだろうしな。特にお前ら3人は」

 

「「「!」」」

 

…まぁ予想はしてたけどな。上に立つものだったりなんだり、後はまぁ、あのビジョンからしても様々な葛藤があるんだろうが。

 

まぁ流石に全部は言えないから、それっぽく言って伝えるしかないけどな。

 

「上に立つからには、下からの圧力だったり、あーしろこーしろとか、今のうちから口酸っぱく言われてるだろうが、最終的に何が一番いいのか決めるのなんて自分なんだからよ。よく考えて、最善だと思ったのだけ取り入れて前に進めばいいわけだよ」

 

「…私の…最善…」

 

「…流石は先生だ。言葉通り、俺も考え直す事が山ほどありそうだ」

 

「なぁこれ、益々講義じゃね? 俺たち先生助けるためにこうしてるのに、本気で人生相談しちゃってどうすんだよ…」

 

あっと俺を含めた3人は思い出した様に、自分達がふけっていたことに対して、喋っていた事に赤面してしまう。

そーいや、なんで見込みからこんなに話が広まったんだ…?俺も、こんなに熱く語ってしまって…。最善という言葉に凄く体が強ばるんだが…。

 

『…最善…』

 

なんでお前まで真に受けてるわけ?

 

「あら?そういえば、目的のカトリーヌ殿が居なくなってるわね」

 

「ん? 本当だわ。もしかしたら、余りにも真剣だったりなんだりしたから、居られなくなって帰ったのか?」

 

「あの人がそんな人には見えないが…もしかしたらレア様に呼ばれたのかもな。流石に先生よりもそっちを優先するしかないんだろ」

 

「最初からそうしてくれよ…。…んじゃ、長らく失礼したな」

 

すくっと席を立つと、慌てたように3人が立ち上がる。

 

「いや、良いのよ。私達も適当に時間を潰すつもりだったし、折角のいい勉強にさせてもらったしね」

 

「そうだぞ。俺達は普段から様々なことをお世話になっているんだ。こんな事で助けられるなら、何時でも頼ってくれ」

 

「まー、これから面白くなりそうだし、いいことが聞けたからチャラって事で良いんだぜ」

 

「ハハッ。慌てながら言われてもなクロード」

 

さて、いい加減ベレスが寂しがってそうだし、行ってやるか。

 

「あ、そうだ先生。折角だから参考程度でいいからさ、1番見込みのある人だけ教えて行ってくれよ」

 

「ん? …んー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペトラかな」

 

 

「ペ!?」

 

「ト…!?」

 

「ラかぁ〜」

 

おぉ、見事にシンクロしてる。色んな意味で。

まぁ意外だろうな。彼女カスパル的な部分もあるからそう取られても仕方ないね。

 

「え、えっと先生、さっきの話を聞いても、流石に先生からしてペトラが口から出るとは思えなかったわ…」

 

「ん? まー、彼女は何にでも全力で取り組んでくれるところはまぁいいのと、対応力や発想力、身につきやすさもピカイチだからな。魔改造したら面白そうだなーっと個人的に」

 

「やっぱり魔改造しようとしてるじゃないの!!」

 

「ハッハッハ! ま、あくまで参考程度、な」

 

そのまま俺は困惑する3人に手を振り、その場をあとにした。

 

…まぁ彼女はだって苦手な魔法系にも独自に解釈しようとして面白そうな事になってるしな…。つきっきりで強化させたら化けそうだしな…。

 

あれ? そう考えるとやっぱり全員そうだな。素直にそう言っとけば良かったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

にしても、やっぱり鎌をかけてみて正解だったな。

クロードは野心のみって感じで、少し働きかければそんなに暴走はしなさそうだが…。問題はあの二人だな。

 

完全にアイツら、この手の話題を出した時に目が一気に淀んだ。あれは、俺の言葉通りにはならないな。

 

早めに何とかしないとな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのままじゃ、あの二人は確実に壊れる。独走と勘違いしてるからな。俺の言ったことを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…最善…。あぁ、そうさ、僕は何時だって最善に力を注いできた。だから、止めた。考え抜いて行動して…。だからこそ僕は、いや、私は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君に破滅の道を望んでる』




この助言が、あの3人には魔の言葉となってしまうのか…。

そして、自分の中で少しだけイージスがリゼロのエキドナと重なって見えた気が…。違うか。

今回は余り他のことは書いてませんが、次回辺りにロナートや、エリスの知りたい事が分かったり、カトリーヌと? についてを書くつもりです。


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兄は苦労人

ゴアゴマです。

今回少しだけR15以上、ギリR17.9要素が含まれます。まぁ、あくまで要素ってだけで、ガッツリではありませんのでご安心ください。聞こえ方によってはど健全ですので。おそらく。

あと、カトリーヌファンとシャミアファンの方々、この2人のキャラ崩壊未遂があります。先に謝罪します。申し訳ございません。


あれから少し経ったが、ロナートがどうなるかが決まった様だ。

 

本来であれば反逆罪として、罪は重く最悪は死刑とされていたが、俺や金鹿の奴ら、そしてアッシュが事情を説明し、全てとは言えずとも、少しばかりでも罪を軽くして欲しいと訴えたところ、俺の顔をじっと30秒くらい見続けで微笑んだ後に、踵を返したように意見を変えて、半年の拘束、武器の没収によって解放することを約束された。

 

アッシュの安堵の様子や、涙を流す様子は本当にこちらも安心出来たし、何やらフレンまでもが少しだけ何時もよりもにこやかにしていた。

 

が、セテスは相変わらず俺に対して睨みをきかせていて、何が狙いだとばかりに俺を監視している。その隣にはカトリーヌもおり、俺が変な真似をしたら直ぐに斬れる様に、片手に剣の鞘を持ち構えていた。

 

そんな警戒すんならさっさとやればいいのになぁ…。そうなったとは思いたくないが…。

 

「おいリシテア君、落ち着くんだ。此処で君が暴れれば先生の品格が疑われる」

 

「離してくださいローレンツ! あんた、先生が殺されそうになってるのにモガモガ!!」

 

「はーい先生ラブな子はすこーしお口閉じてようねー」

 

「むー! ヒルふぁ、ひゃべへむー!むー! (んー!ヒルダ、喋れないんー!)」

 

あー、お疲れ様です。その子中々暴れたら止まらなくて。

幸い彼らが気付くことは無かったが。まぁ俺に集中してますものね。

 

「2人とも、おやめなさい。此処は争いを起こす場ではありません。それにこれは私の判断です。睨む相手は私であると思うのですが、違いますか?」

 

「レア!? 何を…」

 

「レア様…お言葉ですが、流石にそれはご判断が甘いのでは無いでしょうか。今までのご決断も、死刑とは言わずともかなりの刑だったはず…」

 

「今は状況が違います。それに、この事件は思ったよりも根が深そうな予感がするのです。下手に動けば状況が悪化する場合もあります。それを考えても、彼らの処罰は妥当かと」

 

「いやしかし、レア」

「セテス」

 

「…分かった。君の判断なら従おう…」

 

へぇ。何かとしっかりしてんのなレアって。いや、踵を返した時点でチョロいだけの奴って分かるわな。前言撤回だわ。

 

「リシテア。この通りです。今回は此方の非という事で、怒りを鎮めていただけませんか?」

 

「謝るのであれば先生にして下さい。先生がこの2人からどれだけ命を狙われたと思ってるんですかっ」

 

いやなんでレアを手中に収めてるわけだよお前。止めて、なんか俺が罪悪感エグいから止めて。そしてレアもそんなすっごい泣きそうな目でこっちを見ないでくれ!それこっちのしたい事!!

 

「あー、別に俺は気にしてないから気にしないでくれ。それよりも、バックにいる存在って方が気になって仕方ねぇ。この世の中にはそんな危ない主犯みたいな奴がいるのか?」

 

「そんな事…。! こほん。えぇ、その通りです。詳しくはあまり話せないのですが、この世界には貴方が思っているよりも、闇で蠢き暗躍する者が多いのです。

そして今回、ロナート宛の私を暗殺する様示唆する書が見つかった…。これにより、元々の怨念に付け込まれて事を起こされたと言うことが証明できます」

 

闇で蠢く何か…ねえ。なんだろ、何かそのワードに体全体がゾワゾワと拒否してる感じがある…。

なぁイージス。これってまさか、俺とこの団体が何か関係してるってことなのか?

 

…。

 

おーい。イージス?

 

おっかしいな。この前の級長との会話からやはり口を聞いてくれねぇな…。風邪でも引いてんのか? いやないない。なんで精神体が風邪引くんだよ。え、じゃなんで喋らねぇんだコイツ。

 

「エリス? どうかいたしましたか?」

 

「いや?なんでもねぇよ」

 

危ねぇ。また思い詰めた顔してたか。気をつけないとな。

 

「そうですか。なら良かったです。…アッシュ」

 

「は、はい」

 

「面会の時間は幾らでもとりましょう。会いたくなったり、話したくなった際には遠慮せずに行ってあげなさい。

私が言える事ではありませんが、今の彼らには貴方の存在が不可欠です」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

アッシュは心の底から安心したのだろう。何度も声が上擦って、揺らいで目からは雫が零れていたが、とても穏やかな表情でレアに向かって満面の笑みを浮かべていた。

 

俺もこれにはつられてしまったさ。何であれ、親子は隣に居るべきだからな。ま、険悪な奴らは例外だが。

 

「さて、今朝伝えたい事は全て終わりました。それぞれ、自分がすべき行動に移していただいて構いませんよ」

 

終わったか。さーて、じゃあ早速講義の準備に取り掛からないとな…。今回はどれだけの仕事が手伝いされるんだろうか。

 

「エリス。伝え忘れた事がありました。本日の夜、近々行われる課題についての話があるので、再び来ていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「? まぁ、食後でもいいなら…」

 

「はい。それで構いませんよ」

 

なんで夜? なんで1人? んー、喋りにくいことでもあんのかな。夜行けばわかるだろうし、いいか。

 

「先生! その案件、私も同行させてください!」

 

「え、いやだって俺一人のご指名だからそれはいかんだろ」

 

「いけません! 夜の呼び出しなんて、絶対になにかよからぬ事を企んでるに違いありません! 私も同行します!」

 

何とち狂ったこと言ってんの!? 流石にレアもそこまでの事しないだろというか、度胸あんねお前!

 

「まぁ、そんな事致しませんよリシテア。私はただ、健全に今後のお話がしたいだけの事。そこまで心配なさらなくても危害など加えません」

 

「いいえ! 世の中そんな甘くないんです! スイーツのようには決して! あの妹でさえ健全を装いながら先生にベタベタベタベタと何時までもくっついて…!

どうせ先生の何かを狙ってるんでしょう!? だから態々夜にむぐぅ!?」

 

「いい加減にしたまえリシテア君!! 先生を心配する気持ちはわかるが、毎度毎度君はやり過ぎなのだよ!」

 

「てか何だよ先生の何かって! お前最近本当にどうした!? あたしから見てもいつものお前と違うんだが!? 感情の起伏激しすぎだろ!」

 

「ねーちょっとリシテアちゃん落ち着いてってぁぁぁぁ!? 力強っっ! ねぇ、あたし結構力に自信あったんだけど!? これも愛の力ってやつなのー!?」

 

「…先生、苦労してますのね」

 

すんません。ウチの即戦力かつ問題児が、本当に!!

 

「えーっと、レア。これ以上は収拾がつかなくなるから、一旦出直していいか? すまんな」

 

「えぇ。構いませんよ。講義の時間を減らす訳には行きませんからね。そんな気になさらないで下さい。

生徒に愛されるということはそれだけ貴方が適応出来ている証なのですから」

 

やっべ、大人やわ。惚れかけもしないけど。さ、これ以上訳が分からなくなる前にとっととズラかろう。

 

「むーー! おふぉへー!!!!! へんへいああーひうぁまおうー! はーへー! (うー! おのれー! 先生は私が守るー!! 離せー!)」

 

はいそこの3人。しっかり抑えててなー。回収していきましょうねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何度暴走したら気が済むんだお前は…」

 

レアから離れ、講義の準備をして開始時間を待つ間に金鹿の連中と集まると、リシテアが綺麗に円を描かれて同級生からお叱りを受けていた。勿論本人は納得はいかず、ぷくーっと頬を膨らませている。

 

「いや、わかるけどもさ。愛しの先生に矛先を向けられたり、癇に障ることを言われて我慢効かなくなったのは分かるけども。なんで本当にお前先生が絡むとポンコツになるわけ?」

 

「先生がレア様に汚されると思ったからですが何か?」

 

「よご…?」

 

あ、なんかマリアンヌに変なスイッチ入ってる気がするわ。頭の上に変なイメージが見えるんだが?

なになに、レアが俺に馬乗りになって? えっとー…。

 

『れ、レア…/// そこは…くぅ!?///』

 

『あらあら、女の子の様な声を出すのですね。本当に可愛い……/// ほら、ここはどうですか?』

 

『ひぃ!?/// や、やめ……』

 

『いいえ、止めません。あなたは既に2人にも狙われているのですから。早めに済ませておきましょう、と思いまして。という事で、いきますね?///』

 

『レ、レア…///』

 

『エリス…///』

 

ヤメルルォォォォォォォォォォ!!!!!

 

え、なんで!? なんでこんなおっそろしい妄想が俺にまで届いてる訳!? 干渉!? 干渉ですかそーですかー! あっしまった! 気になって覗こうとしてたの俺だったわ…。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

あるぇ!? なんか影響受けないはずのリシテアも白目剥いてるんですけど!?

 

「じ、じ、自分で言って気持ち悪くなりました…。あぁ、先生…」

 

「リシテアァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

「というか、これ不味くない!? 下な奴は此方ではあまりウケないって言うのにこんだけ攻めて大丈夫なのかよ!?」

 

「止めてレオニーちゃんそれ以上は言っちゃダメ! 色々不味くなるから!!」

 

「あ、そんな、怖いイメージの先生があんなにも容易くレア様に…/// あ、でも、意外といいかもしれない…///」

 

『なんで少し思い詰めてた時にこんな混沌としてるんだい…? 』

 

あー…もう、そっとしておいてくれ…。

ちょっとカロリーが高すぎて俺には何も…。

 

「あー、とりあえず、講義を始めるから、席に着こう、な?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

やっっと講義が終わった…。今回は地獄に相応しい講義だったな…。雰囲気がマジでピクリとも明るくならねぇのなんの…。特にリシテアを中心にな…。

 

『すまないね。少し席を外してた際にとても面白い事があったようだね』

 

お も し ろ く な い 。

 

ただの地獄絵図でしか無かったわ。セテス達にころされかけるわ、リシテアは暴走しかしないわ、マリアンヌの頭の中で汚されたわ、講義は重いわ…。変わってみるか? ん?

 

『いや、すまない…っくくっ。随分と愉快だったようだね…フッハッ…』

 

もう嫌だコイツ…。ベレス助けてくれ…。

 

「勿論だ」

 

「いゃぁぁぁ!?」

 

いつからそこに!? というか、なんで毎度毎度お前らは人の心(略

 

「兄さんの心の叫びを聞きつけ、私が来たぞ。何か用か兄さん。膝枕か?」

 

「いや膝枕の為に心で叫ばないだろ」

 

「私は何時でも兄さんに抱きつきたいが為に叫んでるぞ? 1回も叶った事はないがな…」

そんなしゅんとされてもなぁ…。てか、お前が心の中で叫んでるのなんて想像もつかなかったわ。ちょっとそれは見てみたいかも実際に。

 

「兄さんに抱きしめられたーい」

 

「いやそういう事じゃなくて、というかこうなる事自体もおかしくて! ね!?」

 

「で、どうした兄さん。添い寝か?」

 

「あーお前が不完全燃焼なのは分かった。後でたっぷり構ってやるから」

 

「…っ」

 

おーい、そんなあからさまにガッツポーズすんな。お前が今どんな心境なのか丸分かりだぞー。

 

「いや、実はかくかくしかじかのうまうまジェラルトで」

「なるほど、それは災難だったな。暫く私が一緒に居よう」

 

通じたよ…。適当に言って伝えようとしたらまさかの即解決だよ…。もう凄い通り越して不思議だわ…。

そして何事もなく自分を俺の近くに置くことに成功してるのもある意味小狡いと言うか…。

 

「…ただ兄さん」

 

「ん?」

 

「そのセテスとカトリーヌに命を狙われそうになったというのはどういう事だ?」

あ。

 

『あー』

 

「…ほう。そうかそうか。この前から、いや大分前から兄さんに何か良からぬ視線を感じていたがそういう事だったのか…」

 

「あのー、ベレスさん?」

 

「よし、今晩はワカメとバナナジュースだな」

 

「うぇーお!! 待つんだヘイ!! 髪の毛の色で調理しないで勝手に! というか人間で調理とか頭のネジ外れてんか!? 頭冷やせ妹よ!」

 

『いや実際ワカメとバナナとか栄養偏りすぎじゃないか…』

 

「兄さんに牙を向けたことを後悔させよう」

 

あー、稀に見るベレス激怒体が姿を現したな…。

 

『何だいそれは?』

 

言葉通りだけどな。親父と一緒にあんな感じのベレスをそう言う事にしたんだ。

1回俺が変な奴らに悪く言われたことがあってな。それでそいつらの性根そのものを紛失させる程いたぶり尽くしたことがあって…。その時の顔が普段見せない恐ろしいものだったからな。

 

『なんか、想像したくないね』

 

嫌でもビジョンがお前に行ってると思うからゆっくり堪能してくれ。俺だって目のやり場が分かんなかったし。

 

『…おおう…。これは中々に…。でも見るからに、対処法はあるんだろう?』

 

まぁな。恥ずかしいからあんまりやりたくはないけど。

 

「ベレス。止めるんだ」

 

「兄さん。流石に兄さんの頼みでも、それは聞けな」

「お兄ちゃんのお願い、聞いてくれないのか…?」

 

『…うわ…策士だね君』

 

俺がやってるのは、ベレスの顔が上にある状態で、顔をじっと見つめるこの行動…。上目遣いだったか? これだ。

 

『んー、でも流石にこれで止まるとは…』

「仕方ないなお兄ちゃんの頼みだものな。やる気などすぐ失せたそしてそんなお兄ちゃんをぎゅー」

 

ほらね?

 

『…なんか君の頭の速さの理由がベレスにも感じてきたよ』

 

言うな。だってこの子これをしないと止まってくれないんだもん。恥も捨ててやるしかないだろうだって。犠牲が出たなんて言われるくらいならさ…。

 

そんで結局抱きしめてるじゃん。あれはなんだったんだ。

 

「兄さんからは余りやってくれないから言っているんだ。これでも不満なんだぞ」

 

「だからそれを含めて後でめいっばい構ってやるって…。そうだベレス。書庫に行かないか? 一緒に調べ物してくれると嬉しいんだが」

「行く」

 

即答かよ…。まぁいいや。心強い味方ではあるしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、書庫へ。探しものですか先生方?」

 

書庫へ着くと、トマシュが待っていたように対応してくれる。調べたい本の特徴を話すと大体の位置を指示され、俺達はその場所まで行って目的の書物を探し始める。

 

「ところで兄さん、何を探してるんだ? 童話か?」

 

「なわけないだろ…。ちょくちょく出入りしてこの世界の現状の勉強はしてるが、少し昔の出来事とかも調べる必要があるからな…。何か良さそうな書物がないかと思って…」

 

「成程。そういう事なら手を貸そう。図書室デートという物もありらしいからな」

 

「はいはい。は? デート? お前そんな事よく知ってんな?」

 

「ソ…見知らぬ女の子が言ってたんだ。2人で何処かにお出かけする事をデートって言うんだって」

 

「見知らぬ女の子すげぇな。その歳で知ってんのか。なら今のうちに堪能しとけ」

 

「言われずとも満喫してる」

 

お前レベルになると捜し物しながらそんなウキウキしてられるのね。何かを俺とするのがそんなに嬉しいのか…。兄離れは一体いつになるのやらでででででで。

 

「…何時までもしない」

 

だからなんで分かるんだよ…。

 

「ダダ漏れだけど?」

 

嘘だろ…。これから喋る時に気をつければ大丈夫か。そうしたら。

 

なになに、英雄の遺産、十傑…どれも一緒のようなものばっかりだな。特に多いのがこの神祖を崇める書物か。ん?隣から本が引き出された音が…。

 

「兄さん、こんなものがあったんだが…」

 

「おー、ありがとうベレス…。これは?」

 

「ん? 昔の人を書いた本らしいけど、なんか片方を崇めてて、もう片方を酷く蔑んでるのが少し引っかかって…な」

 

「なになに…我々を守り導いた神祖と、反逆の神祖…?」

 

なんだこりゃ、全くの正反対じゃねぇか。どんな内容なんだ…?

 

「我々に力を授けて下さり、我々を見守り続けている神祖様。その一方で、我々の命を脅かし、あろう事か邪悪なるものに手を貸した反逆の神祖。この書物にこの話を記そう。

 

反逆の神祖は持つ力で辺りを焼け野原にし、我々の拠点となる地の全てを倒壊させ、付き従えた邪悪なるものと共にこのフォドラの半分近くを占領する暴挙に出た。

 

我々が信仰する神祖に近い存在でありながら、その力を暴虐と殺戮の為に奮ったことにより、世界に仇なす敵とみなされ、フォドラの民総力を上げて討ち滅ぼた恐るべき存在。

かつてネメシスが起こした惨劇以上の被害を出したことから、別名、暴虐神とも名付けられている…はえー、すげぇのもいるもんだな」

 

「暴虐神…、反逆の神祖…。どうやら昔にも恐ろしい力で世界を破滅させかけた存在がいるんだな…。今も居るけど…」

 

「あー、壊刃こと俺らの親父ね…。少し思い出したくないわそれ方面は…」

 

反逆ねぇ…。詳しい内容が書かれていないのに何故またそんな物騒な名前が…? ただ神祖と言うだけで虐殺を繰り返して反逆はおかしくねぇか…?

 

『…反逆…』

 

おいおい、また音信不通になるのだけは止めてくれよ?

なんで最近そんなに引っかかってばっかりなんだよ。

 

『いや、何でもないさ。気にするんじゃない』

 

「んー…。夜レア辺りに尋ねてみるか…? 」

 

「夜…? 夜とはどういうことだ?」

 

あ…。

 

『君、学習能力無いね?』

 

「いや、夜課題について話したいって言うから、どっちみち行くんだよ」

 

「…」

 

うわ、リシテアの再臨だわコレ…。

 

「私も行く」

 

「いや、俺一人だから。同行するほど心配要らないよ」

 

「レアと2人きりにしたら行けない感じがする」

 

「何だよ行けない感じって…」

 

「分からない…けど、何かこう、胸の奥がモヤモヤする…。行かせたらこのモヤモヤが溢れ出て自分でも止められなくなる気がするから…」

 

いやそんな事言われても…って可愛ヨ。何だうちの妹、めっちゃ健気やん。可愛ええやん。そんな少し眉を下げて手を可愛く当てちゃって…って馬鹿か俺は。親父と同じじゃねぇか。

 

「兄さん…」

 

「うっ、そんな顔されてもダメです。約束した以上行かないとねぇ…」

 

「…行っちゃヤダ」

 

ぐはぁ!?

 

『エリスゥ!?』

 

やっば…。上目遣い返しと腕くいとか反則だろ…。

流石無自覚メティオ…。遠慮がない分破壊力も抜群だな…。

だが、ここは心を鬼にして…。

 

「…駄目」

 

「…」

 

「…だ」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…添い寝と膝枕してあげるから」

 

「…一日コース」

 

長っ…。まぁ、仕方ねぇか。足が残ってるか分からないけど。

 

「分かった。じゃあ、少しこのまま情報収集続けるか」

 

「わかった。ついでに妹を愛でたくなる秘訣本も探してくるね」

 

「そんなもんねぇよ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ…。疲れたなぁ…」

 

「兄さんずっと姿勢が前のめりになってた。無理して腰を維持してるからだよ」

 

姿勢よくしろと言ってる側からしたら俺がだらしない格好してるのは如何なものかと思うから、しゃんとしないとと思ってるんだけどなぁ…。あんたは無理すんなって言われればどれだけ楽か…。

 

(皆が楽すればいいのにと思ってるのに気付けばどれだけ楽になるだろうか)

 

『どうやらお互いがお互いに損してるようだね』

 

は? それはどういう意味…

「まだこんな所で道草食ってたのかい」

 

「は? 何がって…お前…」

 

おいおい、忠犬さんまた来やがったのかよカトリーヌ。今度は何用ですか?殺し合いなら他所でやってくれ。

 

「何ってあんた、もう夕食の時間じゃないのかい? 早く食ってレア様の所に行ってくれよ。じゃないと、レア様が泣き喚くって聞かないからさ…」

 

「いや、そんな明らかに近付いたら殺すみたいな眼光で言われても説得力もないんだが…そしてお前も近づいても殺すみたいな目で見るな」

 

「…」

 

「なんだいあんた。あたしに何かようか?」

 

「…っ(ギリッ)」

 

あーもー、だから合わせたくなかったのに…。大事になる方が嫌だから、とりあえず先に行かせるか…。

 

「ベレス。俺は少しこいつと話してく。から、先に行って席を確保しててくれ」

 

「それだと兄さんが…」

 

「俺は大丈夫だ。それに、ストッパーも居るらしいからな…」

 

「?」

 

「とりあえず行け。こっちは兄ちゃんだけで大丈夫だから。な?」

 

うわー、雰囲気でしか分からないけど凄くいやそーにしてるなぁ…。

 

「…分かった。けれど、何かあったら直ぐに駆けつけるから」

 

よし、これで爆発寸前の方は行ったな。残りは…。

 

「まるで人を危険物のように扱うんだな。少し想定通りだよアンタは」

 

「お前の中でどんな扱いなってんのか知らないけど、俺もお前の事は周りが見えない猪みたいなやつだとは思ってるわ」

 

分かりやすそうに青筋立てたな…。膝に力が入って、片手に携えてる剣が苦しそうにプルプルと震えてるわ。

 

「猪とは言ってくれるじゃないか。この前も生徒達を囮にしてあたしを出し抜こうとした腰抜けなのにさ? それでよく教師を名乗れるね?」

 

「あー、それはすまなかったね。仮にもレアというフォドラの顔ともなってる人の部下ともあろう人が、何やら人に恨みを買うような失態をして、殺すことで尻拭いをしようとするどころか、今のところ何も仕出かしてない俺を私情だけで殺そうとする、上司の事を何も考えてない猪さんには理解が出来ない行動だったな」

 

「…っっっ!!! アンタ…!! ほんっっとうに腹正しいやつだね…!! レア様に気に入られて無ければ速攻でねじ切ってた所だよ…!!」

 

いやこの程度の煽りにも耐えられないとは…。というか、一応上の顔もあるよってこと伝えたのに、何も伝わって無いのかな? んー、そんな所が猪だって言いたいんだが…。

 

『いいぞ。もっとやれ』

 

ウチの脳内のマトモさんもそう言ってますし…。

 

「…一体何が目的だい…? それだけの魔力を持って、何を白々とレア様の前に現れたんだ?」

 

「やっぱりお前程の歴戦になってくると、持ち前の魔力とかも感じるようになるのか。これは一つ参考になったな。ありがとうありがとう」

 

「巫山戯るのもいい加減にしてくれないかい? …大体、怪しすぎるんだよ。

壊刃の息子娘だか知らないけど、クスリともしなくて武器の扱いと成長速度が尋常じゃない妹と、体力が皆無な癖に魔力だけは村1つを容易く消し去るほどの濃度の兄…。こんな虫のいい話、何かあって当然じゃないか」

 

…へぇ。中々頭は切れるようだな。能力持ちということを確証はせずとも違和感で察知したか…。

少し疑問はあったが、これくらい洞察力があれば、側近に選ばれても何もおかしくはないな…。向いてはないけど。

 

「で? お前は何が望みなんだ? セテスといい、俺を目の敵にしやがって。殺りたいなら一思いにやればいいのにネチネチと後をつけやがって…」

 

「ふん。あんたの人となりの再確認をしてただけだ。想定通り、だったけどね。

…アンタはやっぱ危険だ。レア様にこれ以上近づける訳にはいかない」

 

「危険? 別にそんな目立ったことはして無いけどね?」

 

「あたしぐらいになると見てわかるんだよ。アンタは、一見しちゃ口が悪いが気前の良い青年に見える。…が、あたしの勘が言ってるんだ。アンタは恐ろしいって」

 

…話にならねぇな。帰っていいか?

 

『待ちなって。もう少しだけ聞いていこうよ。コイツの言い分がどれだけ廃れてるのか気になってきた』

 

「なぁ、お前早く飯を食べさせるために来たんだろ? 何かあるとは思って話は聞いたけどさ、そんな内容なら行っていいか? レア様の意見を尊重したいんだが」

 

「最早必要も無いよ。アンタには此処で出てってもらう。レア様に近づける訳には行かないからね」

 

ダメだ…。話が通じない…。でもどうするかね。ガチになったら真面目に血祭りにされるんだよな…。

見栄張ったはいいけど、戦闘になったらのこと考えてなかった…。まぁ大丈夫とは思うけど。

 

「にしても、アンタの妹も随分と表情もつくらずに残酷な行動が取れるよな。兄が恐ろしいと妹にも影響するのかね。確か、灰色の悪魔、だっけ? 2つ名。その通りだとは思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余り調子に乗るなよ。小娘

 

「!?」

 

「私は、それなりの会話が窘める者は好きだ。だが、中身のない暴力とだけ化す無能な発言は…

 

 

嫌いなんだよ

 

「ヒィ!? て、なんでいきなり目の前に…!? ギャ!?」

 

「よりにもよって、忠告を無視し続け、挙句の果てには我が妹にまでその口を貫くか…。

 

 

 

愚者が

 

「ヒァ!? …っ………」

 

…ん? なんで俺こんなカトリーヌに近づいてるんだ? てか、顔近って白目むいて泡吹いてる!?なんでこんなことになってんの!? イージスなんかした!?

 

『いや? 僕は何も。でも、君は本当に面白いね』

 

何が!?

 

「…はぁ。こうなると薄々分かっていたさ。私の相棒はやはり抜けているところがあるようだな」

 

低音な女性の声が俺の耳へと届き、視線を向けるとそこにはカトリーヌとは正反対のクールな女性がこちらを見据えていた。

 

「相棒が失礼した。私はシャミア。これでもレアさんに世話になってる1人だ。あぁ安心してくれ。

私はそこのバカほど話が通じない訳では無い。あんたが危害も何も与えない事くらいよく分かってるからな。此方から何もしなければ」

 

「あ? あー、なんかとりあえずアンタを見る限り俺が何かしたのは分かったわ。なんかごめん。あ、エリスだよろしく」

 

一見凛としているが、足がとてつもなくブルブルと面白い程に震えているので、どうやら初対面は最悪のようだ。話は通じるけど。

 

「気にするな。これは武者震いと言うやつだ。だからほっといて欲しい。それよりもそいつを渡してくれないか? レアさんには事情もあんたがすぐ来る事も伝えておく」

 

「あ、あー。分かった」

 

すっかり骨を抜かれたように抜け殻になっている廃人を震える手で必死に背負い、そそくさと逃げるように去っていった。

すげぇなそんなになってんのに少しも顔色だけは変えてなかった。ポーカーフェイスだな。これこそが。

 

あー、にしても、なんか体がどっと疲れたな…。やべ、立ってられねぇかも。

 

『あー、ま、そうなるのが普通だろうね』

 

「先生!? どうしたんですか!?」

 

ん? この声は、リシテアか?

 

「あー、すまんちょっと立ちくらみがしてな」

 

「また無理をしたんですか? 余りなさらないで下さいといつも言ってますのに」

 

「いやー、何だかな。ちょっと食堂まで行けなさそうだわ。マジどうしよう」

 

「でしたら私がおぶって連れて行きます!! いつもお世話になっていますし、その間に何かあったら危険ですから!」

 

「いや、でも…と言いたい所だが、今のところ頼めるのお前しかいないよな…」

 

そうでしょう、そうでしょうと言わんばかりに俺に眼を輝かせながら近づいてくるが、頭と腰に犬の部位が見えたのは錯覚か?

 

「じゃあ、頼むわ」

 

「!! 勿論です! さぁ、早く背中にどうぞ! さぁ!」

 

押しが強い…。うわぁ、めっちゃ尻尾がブンブンしてる気がする…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、食堂にてまたベレスとリシテアの修羅場が待っていて俺の胃が休まらなかったのは別の話とする。いやもうしてくれ。

 

 




アンチは一切ございません。 ただ、こういった感じで絡ませてもいいかなっと言う想像で書いてるだけなので。カトリーヌは初期は油断とかしてて煽った結果、痛い目を見て、って感じの想像が思いついたので…。
あと今回に関しては相当頭にきてたのとかもありますしね…。



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休暇2 やっぱり大司教様は変態の兆しあり。

どうも、ゴアゴマです。

休暇パートです。

今回は少し短めです。

今回は2話同時投稿です。


「エリス。ベレス。大聖堂を回ってみませんか?」

 

「いきなり呼び出されたと思ったらデートのお誘いって喜んでいいのやら戸惑っていいのやら」

 

「まぁ…デートだなんてそんな、私達にはまだ早いです」

 

明らかに喜んでるじゃないかい…。

 

休暇が来たからその辺ぶらぶらしようと思ってたら呼び出されて、緊急かと思ったらデートのお誘い…。

いくら大司教の仕事が少ない日だからって、速攻で誘うとか相当の気に入りようですねレアはん。

 

さてと、今日のベレス不機嫌度は…

 

「…兄さんをデートに誘っていいのは私だけ」

 

「あ、あらあらベレス。そんなに不機嫌にならないで下さい。何も私は貴方からエリスを奪う訳ではありませんよ? ただ、親睦を深めるも兼ねて3人で出掛けたいだけなのです」

 

大修道院内ですけどね。

 

「…そもそも、セテスがそれを許すと思わない」

 

「…セテスは知りません」

 

あーら、そんな乙女のように頬を膨らませて明後日の方を向いてもねぇ。あんまりトキメキもしないから…ってあれ、睨まれると思ってたけど涙目ですか。待って悪かった。俺が悪かったからそんなウルウルした目でこっちを見ないで。

 

「おと…エリスは私の仕草はお嫌いですか?」

 

「いや、別にそういう訳じゃ」

「余りいい印象はないから極力やめて欲しいな」

 

いや食い気味ぃ。俺喋ってんのに何故そうしてまで拒否する。

 

「やめ…」

 

あーあー、重い。重いよ空気が。なんかレアの頭上が淀んで見えるぞこれ。あれだな、ベレスに拒否られたのとベレスが代弁したのが俺の本心だと勘違いしてるので沈んでんな。

 

「…あぁ、これが私の罪と言うならば受け入れましょう」

 

なんか一人でブツブツ言ってるぅ…。

ちょっとベレスさん? 嫌いなのはわかるけどもう少し物腰柔らかくしてあげましょうね? ここにセテスとかが居ないのが唯一の救いだけど。多分喧嘩になるのが目に見えてるから内緒で抜け出してきたんだろうけど。

 

「ベレス。俺は気にしてないから、少しだけでもいいからレアに対して優しくしてやれよ。この前の夜の誘い的なやつが気に食わなかったのはわかるけどさ」

 

「…ん、分かった」

 

俺がベレスを宥めたら明らかにレアの機嫌が良くなった。「まぁ…! まぁ…!」なんて口ずさんで微笑ましげにこちらを見つめている。正直いって胡散…いや止めておこう。

 

「素晴らしい兄妹愛です…! あぁ、眼福眼福…!」

 

あの、人を見て拝まないでもらっていいですかね。そんな有り難いものみたいに。

なんだろ、レアって俺達のことを気に入っているようだけど、どちらもなんだよなぁ。しかもなんかそう言う感じの気に入り方でも無さそうだし、なんか崇めるようにこちらを見る時があるんだよなぁ…。

 

『これだけで普通は何かしらあるんだってわかるよね』

 

まぁ、知らんけど。

 

『あ、そうだったコイツ馬鹿だった』

 

「でも、大聖堂へ行くって言ったって何をするんだ? 俺あそこに行ったことないから具体的な事知らないぞ?」

 

「あそこは主に祈りを捧げたり、大修道院に滞在している人達からの相談を受けたり、合唱したりと言ったことが出来る所だな。私も何回か訪れたが、毎回気持ちのいい歌が聞こえてきてとても安らぐ」

 

あー俺祈りを捧げる感じしかしなかったから意外だわ。

にしても、歌か。絶対俺聞いたら眠気が来るような…。

 

「丁度私も大聖堂に立ち寄る用事があったので、折角ですから一緒に回らないかと思いまして。どうでしょう?」

 

「あぁ、いいぞ。ただセテスに見つかりそうなら逃げるけどいいな?」

 

「安心してくれ兄さん。もしそうなった場合はワカメにする」

 

「どういう処罰!?」

 

「べ、ベレス。一応セテスは私の古くからの知人です。余り手荒な真似は止めてあげてくださいね」

 

渋々頷いてる…。そんなに嫌か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応計画が一通り立てられた俺達は早速その大聖堂へと足を運ばせた。途中でセテス達に見つかるかと思ったが、何故かセテスもカトリーヌも姿を見せることはなく、すんなりと到着する事が出来た。

皆は物珍しそうな様子でこちらを眺めてはいたが、さすがに恐縮しているのか話しかけてくる事は無かった。

 

「では、早速主に祈りを捧げましょうか」

 

「いきなりだな…まぁいいけど」

 

辿り着いて直ぐに手を胸の前で組み、3人同時に主に対して祈りを捧げるが、この時ばかりは2人とも変な気は起こさず、ただ集中して祈りを捧げていた。

おっといけない。俺も祈るとするか。

 

『…』

 

お前もなんで祈り捧げてんの?

 

『悪いかい? 僕だって思い入れがあるんだ。しようがしまいが自由だろう』

 

あ、そーですか。

 

 

 

 

 

祈りを終えると、レアは後はそこら辺の施設を回ってみましょうといいだし、手始めにお悩み相談の目安箱? のような所へ連れてこられた。

なんでも、ここでは普段の生活においての悩みなどを解決する為に手紙を書いてもらい、それを教師が見る事で悩みを解決へと導く施設だという。

 

「試しにやってみませんか?」

 

と言われ、俺とベレスはそれぞれ紙を取りだし、それぞれの悩みに向き合った。

 

せっかく2人もいる事だし、最初は2人で協力して答えを導くことにした。

 

「なになに… 武器を振るう際、かなり力を抑えてはいるんだが、度々、加減を誤って武器を壊してしまうことがある。どうしたものだろうか。だってよ。どんな握力の持ち主だこいつ…」

 

「なんだ、そんな事か。それなら簡単だ。こまめにその武器を修理してもらえばいい。壊れれば直せばいいんだからな」

 

「完璧な回答だな。流石はベレス先生だ」

 

まだ数ヶ月しかたってないが、元々の指導力が高いこともあってなかなか筋がいいな。やっぱこいつ1人だけでも良かったんじゃないか?

 

「兄さんが教師じゃなかったらここまでの成果は出せなかった。そんな卑下はしないで」

 

うん。もう怖いから何も思わないわ。さて、次は…。

 

「他の女に手を出しても笑って許してくれるような、心の広いお嬢さんは、どこかに転がってないもんですかねぇ…。あ、女の魅力溢れる男でも大歓迎なんすけどね!」

 

これ絶っっっっ対アイツだろ。しかもなんだ女の魅力溢れる男って。遠回しに俺の事言ってんのか? シバキ回すぞ。

 

「んー、でも質問だからなぁ…ここはまずは自分が広い心を持つようにしようとか」

「ちょっと此方では分かりかねないから特別指導としてイングリットとフェリクスを送り込むからきっちり教えて貰え。よし」

 

「素晴らしい回答ですね! ベレス!」

 

「…」

 

ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

「何だ兄さん。今の回答になにか不満でもあったか?」

 

「ねぇよ!! 素晴らしい回答だとは思いますけども! 質問の返答としては余りにも酷くないか!? 」

 

「何を言うのですかエリス。女性を物としか思っていないような発言。堂々の不倫発言。これだけの不埒な質問にふさわしい回答など、これしかありません」

 

「絶対わかって言ってるよね!? というか、違うでしょ! 最後の文で判断しただろお前ら!! 俺知ってるかんな! 女の魅力溢れるの所で苦虫潰したような顔になったの知ってんかんな!!」

 

「捻りとります」

「捻り潰す」

 

「応答になってねぇ!! 私怨たっぷりじゃねぇか!!」

 

あーもう、無茶苦茶だ。取り敢えず自分の見方を変えることから始めてみれば…ってあれ? 紙は?

 

「もうベレスが出しましたよ」

 

おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

何やってんだよ!!シルヴァンボッコボコになっちゃうじゃん!! 可哀想じゃん!! ちなみになんて書いたの!?

 

「その通りに」

 

ダメだ終わったわ。てかいいの? シルヴァンボッコボコよ? タコ殴りよ? 構わないの?

 

「いっつも制裁加えている貴方が言える言葉では無いと思います…」

 

あ、そっか。変態が制裁されるなら別に構わないか。

 

『可哀想なシルヴァン君』

 

 

 

 

では次のお便りに参りましょう。

 

「えっと? 最近エリス先生の事が頭から全く離れません。食事の時もお花の時もお風呂の時も就寝の時もずっと頭の中に先生の顔が浮かび上がります。でもそれが全然嫌じゃなくて、むしろ心地よくて、胸が暖かくなるんです。これは一体なんなんですか?

2つ目3つ目の理由はいらないと思うが…こんなに純粋な手紙をみるとなんか照れるな…/// 」

 

「兄さんが照れてる…。これは」

 

「エリスの照れ顔…。これは」

 

「「メシウマですわ」」

 

「俺の顔で飯を食うな。因みにどのくらい行けんの?」

 

「「愛の胃袋は限界なんてないですの」」

 

「あ、もう何も突っ込みません。因みに質問の答えはどうする?」

 

「「胸焼けで良いのでは」」

 

「絶対違うよな!?!? しかも適当!! 」

 

んー、相手が誰だか見当はつかないが、これは明らかに普段の感情ではないと思うからなぁ。何気なく励ます感じがいいか…?

 

『君もひっどい奴だよねほんっと』

 

「えっと、貴方が抱いているそれは何も不思議なことではありません。人の事を思い浮かべて、とても胸が暖かくなるのは、その浮かべた人の事をとても信頼していて、今1番安心出来る存在ということなのです。どうかその気持ちを大切に持っておいて下さい。きっと、辛い時にとても助けてくれる気持ちとなりますよ。

…自分で言ってて恥ずかしいな」

 

『珍しいね。そう言う色物には疎いと思ってたけど』

 

え? 何が? これって親とかに抱く気持ちと一緒じゃないの?

 

『前言撤回。やっぱクソ野郎だな君は』

 

何で!?

 

「兄さん…」

 

ん? どうしたんだベレスは。何故俺の肩に抱きついてきてる? 寂しくなったのか?

 

「どうした? ベレス」

 

「…ん、分からない。 けど、兄さんの返答を見てたら、私も頭に1番浮かぶのは兄さんだなって思って…。

…だから兄さんが一番安心できる存在なんだなって再確認出来たと思ったら…何かとても嬉しいんだ」

 

ぐぅ…!! 可愛い…! 表情は余り変わってないのに凄く目が和らいでて、少し口がはにかんでるのがとてもいい…!! 何か抱き締め返したくなっちまうじゃねぇかよ。まぁ、抱きつくんですけど。

 

「…っ。兄さん…」

 

ちらほら人もいるけど関係ないわ。こんな天然メティオだけどこんなに可愛い妹を愛でない兄は居ないよほんと。

 

「ぁぁ、尊い…。この2人は本当に尊いです…。あ、やば、鼻血が…。いけませんレア…! 大聖堂でその様なものを出しては…。でも、くぅ…! 堪らないです…! あぁ素晴らしい…!!」

 

「…ベレス。これ以上は危険だから離れようか」

 

「…あ…。…しょうがないな…」

 

そんな寂しそうな顔しないでくれ。だって横にとんでもない変態が居るんだもん。やっぱり両方の判断は正しかったのかもしれない…。

 

「あ、もう終わってしまったのですか。残念です」

 

お前は絶対にそんな顔してはいけない。てか原因お前だからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからまた少し相談を済ませ、それが済んだ俺達は合唱の場まで訪れた。そこでは昼頃だと言うのに合唱の真っ盛りであり、大聖堂に入った時から聞こえてたのを考えると、かなりの時間歌っていると考える。

 

中には知っている顔も少し居り、俺達を見つけると少しだけ頭を下げて直ぐに歌へと戻った。

 

「休憩も無く歌ってるのか? ここの人達は」

 

「いえ、常に交代しながら続けているのですよ。ほら、あそことか」

 

あ、ホントだ。新しく来た人が交代してしれっと混ざってる。

 

「どうですか? 折角ですから混ざってみますか?」

 

「え? いや、いきなり何の練習もしてない2人が混ざったら可笑しくならないか?」

 

「でしたらあそこに混ざっている生徒達も練習は特にしていませんよ? 自由参加ってことになっていますので。余りにも酷い場合は残念ながら控えてもらいますが」

 

やりたくないんですが。え? 全くやりたくないんですが。

 

「兄さん。1回だけ混ざってみよう。多分大丈夫だよ。私達が傭兵の時に少し歌った時も皆拍手してくれたでしょ」

 

「いや、あれはお世辞かもしれないっておい」

 

ベレスめ…。ただ俺と思い出を作りたいだけだろ…。

引っ張られて合唱団の中に連れ込まれ、許可を取ってから入りやすい位置へと移動してしまう。

俺達に気付いていた人達は密かに耳を傾けており、今か今かとソワソワしていた。

 

…はぁ…。朝からこの曲を聴いてたから頭には入ってるけど、あんまり期待するなよ…?

 

入りやすい所まで伴奏が来たら、俺達は息を整えて腹の底から声を出していく。

 

『〜♪』

 

瞬間、周りの音が止まったような気がした。が、俺達2人はそれを気にせずに歌を紡いでいく。

特に大きな盛り上がりはなく、ただただ美しい、柔らかな音色を出すイメージで、1音1音の音を奏でていく。

 

やがて一通り歌い終え、そそくさと立ち去ろうと目を開けると…。

 

「あぁ、至高です…!! これこそ美声…!! 大聖堂に相応しい歌声です…!!」

 

レアが、生徒達が、更には合唱団の方達が俺達に向かって手の叩く音の合唱を奏でていた。

あれ、もしかしなくても大成功?

 

『っあぁ…。本当…聞き惚れる程の最高のものを聞かせてもらったよ…!』

 

アレェ!? なんでお前も泣いてるの!?

 

「ね? 兄さん。大丈夫だったでしょ?」

 

「なんでお前はそんなに落ち着いてるんだよ…。そんなに自信あったっけ?」

 

「いや、兄さんの歌声を信頼してたからね。いつも合わせやすいし、2人なら絶対に大丈夫って思ってたから」

 

お前の中での俺の信頼度は一体…。

 

「先生! もう1回お願いします! 今度は大勢の方々と一緒に! お願いします!」

 

何故いるリシテア!? まさかこの音色を聞きつけて飛んできたんじゃないだろうな!?

 

『あながち間違ってないよ』

 

はぁ…。すんません、皆さん。今度は一緒に良いですか? あ、喜んで? 分かりました…。

 

「兄さん。もう一曲、頑張ろう?」

 

「…はぁ。分かったよ。さ、行くぞ?」

 

こうして結局1曲では済まされず、喉が潰れるまで歌い続けさせられましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、王子は鍛冶屋に入り浸っているところを発見され、色男は壁に突き刺さっており、乙女は軽やかなステップで大修道院内を駆け回っているところを目撃された。




ベレス達が歌っているのは、大聖堂で流れているBGMに歌が付いたような物です。想像してご覧下さい。

今回はこれと同時に生徒達の心境を投稿致しますので、同時上映のようにお楽しみ下さい。


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幕間~生徒+αから見たエリスPart1

連続です。


1人目 アッシュ

 

エリス先生は僕の恩人だ。

 

 

 

別に何か特別な事をしてもらった訳ではない。誰にでも響く言葉を言われた訳でもない。でも、その言葉はしかと僕の心に刺さった。確かにそれで心を動かされたんだ。

 

 

 

あの人と初めて会った時は、少し怖いと感じた。けど勇気をだして声をかけてみると、とても気さくで優しい人だと感じた。

模擬戦の時も、みんなに対して自分の知識や実力を押し付けることも無く、その場その場に相応しい立ち振る舞いで僕達を導いて善戦まで持ち込んでくれたのだ。

 

けど、何処かで最初の怖い気持ちも残っていたんだろう。いつか、その優しい所が崩れていってしまうのではないかと少し不安だった。その中でのロナート様の反乱だった。

 

どうにかなってしまいそうで、頭が混乱してしまった。きっと食事の時に僕を見ていた時も、心配してくれていた筈なのに、僕は逃げ出してしまった。

その時は本当に自分でも情けなくて、どうしようもなかった。

 

けれど、先生は追いかけてきてくれて、でもそれだけじゃなくて、しっかりと芯のある言葉で僕の迷いを晴らそうとしてくれた。

 

その言葉に胸を打たれた僕は、課題に参加し、ロナート様の反乱を止める事が出来た。

やはり、僕の最初の感情はその場だけのもので、本当に先生は人として完成された人なのだろうと感じたのだった。

 

…偶に授業で暴走してしまう時はさすがに怖いけど…。

 

あの人が僕に対して気にかけてくれなければ、今僕はこうして、どんな形だったとしてもロナート様の傍に居られることは無かっただろう。

 

でも、あの人にどんなにお礼を伝えても、俺は何もしていないの一点張りで、受け取ってくれないのだ。

少し不満ではあるけど、そこで素直に例を受け取らないからこそ、先生のは今の人格者として成り立っているんだろう。

 

けれど、それでは僕の気が済まないから、思い切って先生を呼び出して街で見つけてきた先生に似合いそうな腕輪をプレゼントしてみた。日頃の感謝だって言って。

 

とても喜んでくれていたし、大切にするとも言ってくれたけど、なんであの時僕じゃない明後日の方を見て目を抑えていたんだろう…?

 

またこれも偶然出会った先生の父親であるジェラルトさんに聞いてみると、先生は結構感情が出やすいんだという。だから、感激して涙を流してしまったんだろうと言っていた。

それを口にした瞬間に何処からともなく先生が現れて、ボルガノンをジェラルトさんに放っていたけど、あれは照れ隠しだったんだろう。多分。

途中から殺し合いみたいに戦闘が激化してたけど、多分照れ隠しだろう…。(大事な事なので2回言った)

 

どんな事にも永遠は無いから、きっと僕が卒業したら先生と会う機会も減ってしまう。だから、修道院に居られる今の間に、もっと先生に恩を返して、教えを乞うつもりだ。

 

でも、偶に誰もいない空間に話しかけている時があるのは、少し怖く思った。多分、先生程になると見えない何かに話せる程に感覚が鋭くなるんだろう、と解釈はしたけど。

 

 

 

 

2人目 カスパル

 

 

先生に会った時は、この人本当に強いのか? と舐めた事を考えてた。

だって、走る事も苦手だし、体を動かす事も無理だっていうし、武器を握るのも一苦労って言うからよ!

びっくりしねぇ方がおかしいんだよ!

だから最初に先生にあった時、気にしてるとも知らずに先生に変な気遣いをしちまってよ。明らかに気分が沈んでいたから、後悔したけど。

 

 

 

でもよ! 模擬戦が始まって実力を見てみたら、すげぇんだぜ!? 全く身体は移動してないのに、繰り出す魔法だけで殆どの奴らをぶっ飛ばしちまうんだ! 俺は魔法の技術は全く知らねぇけど、そんな俺でもあれはヤベぇって感じちまったもんな!

流石にベレス先生には勝てなかったみたいだけど、単純な魔法だけで言ったらこの大修道院の奴らでは相手にならないって事だけははっきり伝わったぜ!

 

 

俺は確信したぜ。世の中ってのは体力とか知力だけじゃねぇんだ。あんな風な技術とかによっても強くなることが出来るんだってな! だとしたら、苦手だけど手を出さない訳には行かねぇ! 今から猛特訓して、魔法と体力を両立させて、俺は更に強くなってやるぜ!

そうしたら、先生の事も越えられるかもしれねぇからな!

 

 

 

 

 

 

 

そう言って少し身につけて先生に勝負を挑んだら、完膚なきまでに叩きのめされちまった。クソっ、簡単には越えられねぇな!

 

 

 

 

 

 

 

 

3人目 ベルナデッタ

 

怖い。偶に優しいかと思ったけど全部が怖い。

ベレス先生は全然怖くないのになんでこの人はこんなに怖いんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

もう話したくないですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

 

 

 

 

 

4人目 リシテア

 

怖いとは失礼ですね。ベルナデッタ。あの人程優しい人は居ないと思いますよ。今度良く話してみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

…私は幼い時から余り幸せとは言えなかった。

幼い体に2つの濃い烙印を刻まれ、そこからの私は地獄と言っていいほどの暮らしを続けてきた。

 

…何の為に努力しているかを時々忘れてしまう時もあった。けれど、私は進まなければならない。でなければ、私は…。

 

烙印のせいで、私の体は本当にズタボロとなっていた。髪は白く染まり、成長も余り感じられない。そのせいで周りからは子供扱いを受けることもしばしばあって、その度に私はうんざりしてしまう。

心は…? そんなの、とっくに分からない。

 

周りの人に、何か楽しみは無いの? と聞かれたことがあった。

 

…楽しみ? …甘い物を食べている時と魔法の研究はとても心が踊るけど、それ以外に感じた事なんて…。あったかも忘れた。

何も魅力を感じなくなっているんだろう。それ程までに。

 

 

 

 

 

 

けど、大修道院に入って、少しした頃だった。突如として私はある出会いをする。

 

クロード達が助けられたと言う傭兵の中に、1人の女性のような男性がいた。

 

その人はエリスと言った。彼は妹と一緒にこのガルグマクの教師をする事になったらしい。

 

…けれど最初は、この人も周りと一緒で興味も湧かないと思っていた。

 

でも、私達の学級を見て回っている時にふと彼が話した魔法について、私は人生で1番と言えるほどの興味を惹かれていた。合成魔法? 連続? なんて素晴らしい事をするのだろうと思っていた。

正直この時の私は驚く程に興奮してたと思う。気付いた時にはこれからよろしくと先生に深々とお辞儀をしていた。

この時はただ単に先生の魔法に興味がわいただけだと、そう思っていた。

 

 

でもそれは単なる間違いだったと気づいた時は、いつ頃だっただろう。

 

先生の講義で自分が知らないことを知る時、いつも興奮が止まらなかった。

 

模擬戦で先生の実力が知りたくて真剣勝負を望んだ時だって、負けて悔しい気持ちもあったけど、何故か清々しい気持ちになっていた。

 

魔法以外でも、食事を一緒に取った時に見せる美味しそうに顔を綻ばせる顔には、何故か胸がキュンとした。

 

講義の前の準備で私達の手伝いでやることが無くなってしまって、少し寂しそうな顔をしている時も、何故か私も切なくなってしまう。

 

きっと母性本能が擽られるんだと自己解決しようとしたけど、逆に個別指導で上手く出来た時に、優しく頭を撫でられると、いつもと同じような感覚になって、この時間が永遠に続けばいいと思うようになってた。

 

ではこの気持ちは何なのだろう。

今まで生きてきた中で、こんな気持ちになったのは両親に頭を撫でられた時以来だった。いや、今回のはあれよりも大きかった気がしなくもない。

 

思い切って大聖堂の相談所のような所に紙を出して、返答を待っていると、それは不思議なことではなく、それはその人を信頼している証なのだと言う答えが返ってきた。

 

…そっか。

 

最初はただ興味がわいただけだと思っていたけど、違うんだ。

 

何も特別なことをされたわけじゃないけど、私を良過ぎず悪過ぎずな過度な接し方をせずに、1人の人として接してくれている彼に、どうしようもなく安心しているんだと、やっと自分の中で行き着いた。

 

そう確信すると、何でか嬉しくなって、その日は1日大修道院を軽く歩き回ってしまった。

 

何も興味が湧かなくなるほど、私の心は廃れていなかった事に喜びたいのか。

そうじゃない。

 

こんな発見があったことを誰かに伝えたいのか。

違う。

 

ただ純粋に、この気持ちを大切にしたいのか。

 

そうだ。

 

きっとそうだ。

 

だからこそ私は、この気持ちを大事に、いつも先生と一緒に行動を共にしたいと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、先生は体が弱いと言う事を考えると、私はどうしようもない胸騒ぎを覚える。

 

弱いと言っても病弱ということでは無いらしいけど、体を動かすことや、運動をするという事が異常な程に苦手だという。

 

そういう人もいて仕方の無い世の中だろうと考えても、私の心は晴れなかった。

 

もし、体力の低下で疲れている時に襲われたら?

 

魔法の速度が追いつかず、刺されてしまったら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが原因で、居なくなってしまったら?

 

 

怖かった。泣き叫びそうだった。

私の心を動かしてくれた人が、その体力のせいでいなくなってしまうと考えただけで、張り裂けて消えてしまいそうになった。

 

 

 

いやだ。

 

 

いやだ。

 

 

 

それだけはいやだ。

嫌だと考えるほどに、私の中での最悪な展開が頭の中を駆け巡り、狂ってしまいそうになった。

 

 

ならどうすればいい?

 

今の私に出来ることは限られている。なら、今よりも力をつける事。それが今の私に出来る事。

 

 

あ…いけない。今この瞬間にも不安になってしまっていた。

本人の前でこんなところ見せられない。

 

 

とりあえず、今日は先生を誘って書庫にでも行こうか。

きっと、本を読む先生も凄く輝いて見えるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

妹がついてくるとは思わなかったけど。レアといい、妹といい、何故こんなにも先生に執着しているのだろうか。腹が立ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5人目 門番さん

 

本日も異常ありであります!! 上の方がとてつもなく闇を抱えて私まで足が震えてきますよ!!

 

あ、エリス先生の事ですか?

 

とても楽しい人でありますね。良く門番である私とも気軽に話してくれるのですが、会話が楽しくて共に門番をしてくれないかと思う事もあります。

 

 

 

…まぁ、ベレス先生とリシテアさんに挟まれている事をよく見てもいるので、なにか相談相手にもされることも多いのですが。

 

あ、自分はもう少し見回りをしなければならないので、では!!




この世界にはエリスとイージスと言った存在がいるため、原作とは違った展開があちこちにあります。
かなり違う場面がありますが、そこはこの物語の1つのポイントとしてご覧いただけると。

あれー…。なんか依存の兆しが見えるぞ…?

追加連絡です。今までのアンケートを終了し、新たなアンケートを設けました。突然の変更で申し訳ございません。


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死神の鎌

「おい、そっちはどうだ」

 

「誰も居ないな。情報によると今日は儀式みたいなのをやるんだろ?

だってのに、この警戒の薄さは異常じゃないか?」

 

「まぁいいんじゃないか。サクッと目標達成出来れば」

 

「それもそうか。なら、早速乗り込もうぜ」

 

周りを不自然な程に警戒する集団が、ひっそりと身を潜めながら建築物の中へと忍び寄る。非常に慣れた様子で人からの視界から逃れる間隔で、引き込まれるように。

 

 

 

 

 

それで済めば彼等にとってはどんなに良かった事か。

 

「本当に誰もいねぇな……」

 

「…」

 

「? おい、どうした?」

 

「…ぁ…」

 

「? おい?」

 

アババババババババババババババ!?

 

「は!? おい、どうしたアババババババババババババババ!?

 

油断怠慢。即ち撃退されし。僅かな効果音が鳴らされると、雷が落ちたかのような威力の電力が集団の身体を回り、踊りを踊るように手足をくねらせながら、眩い光を放出する。

 

やがて踊りを終えると、プツンと操る糸が切れた傀儡の様にぺたりと座り込み、力なくへたれこんでしまった。

 

「ば、馬鹿な…トラップだと…? 明らかに仕掛けられる罠の威力では…な…がは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良し、これでここのポイントは完了だな…。

 

 

にしても、レアも難題を言うもんだ…こんな回りくどいやり方を進めるなんてな…さ、さっさと済ませてベレス達の援護に向かうか…」

 

上より彼等を狙った影の刺客は、誰かに聞こえたかも分からない呟きを残し、消える様に立ち去った。

その場には、罠の雷によって黒く染められたブリキの様に動かない人達の微かに呻く声のみしか響き渡らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

sideエリス

 

課題当日より前の夜。俺はあの騒がしい夕食の後直ぐにレアの元へと向かった。

 

レアは俺を見つける前は、優雅な聖母の様な様子で窓からの夜景を眺めていた。しかし、俺を見つけると無邪気な子供のような、けれどもどこか落ち着いているような表情の早足で俺を出迎える。

 

…本当に子供見てぇだな…。失礼かこれは。

 

「良く来てくれましたね。エリス。さ、此方に。紅茶は要りますか?」

 

「ん…折角だから貰おうか。ありがとう」

 

『少し気取ったね君。カッコつける程余裕がある相手でも無かろうに』

 

落ち着けてるんだよ察しろテメェ。もう少しはベレスみたいに普段の大人しさを出せよ。アイツもそんなんでもないけど。

 

(呼んだか兄さん?)

 

呼んでねぇ。先程暴走した子はお帰りください。

 

(…シュン)

 

口でシュンとか言う時代だっけ此処。そういう所可愛…あざといと思うがな。

 

『コイツ可愛いって言いかけたよね絶対』

 

「…どうかしましたか? エリス。何か粗相を致しましたでしょうか」

 

俺が想像の中の人物との妄想乱闘を繰り広げている様を、レアは自分が何かしてしまったのかと不安げに瞳を淀ませながらこちらを見る。

粗相も何もお前は何もしていないと思うのだが…。何故お前は俺を、いや俺達をそこまで気にかける?

 

『…油断しないでねエリス。彼女の事は父も言っていただろう。何か裏があるとしか思えない』

 

…それは承知の上だ。だが、それを引っ括めてコイツの思考が読めない。だから不思議なんだよ。

 

あの力を使ってもいいだろうが、何故かわからないがコイツにあの力を使うのは危険のように感じてならないし…。

どうすればいいんだこれは。

 

「…いや? この紅茶、美味ぇと思ってな」

 

「あらあら…それは良かったです。二つの意味で」

 

「二つの意味で…? まぁいいか。うん、余り甘いのは好まないからな。もしかして、俺が甘いのを好まないの知ってたのか?」

 

「えぇ。普段の立ち振る舞いから貴方が苦手なものは大体把握しているつもりです」

 

俺の素朴な疑問に胸を張って自慢げに鼻を鳴らす。

この辺りにカトリーヌとかがいれば褒めの嵐なのだろうが、俺は背筋がスゥっと寒くなる様な悪寒を感じていた。

レアは基本的に呼び出し以外ではあまり会う事がない。それも俺が会おうとしない限りは尚更。誰かに聞いてもお仕事だと言ってあまり彼女の行動は不明なのだ。そんな中で俺の動向の把握…。

 

 

一体いつ把握する時間があったのだ?

 

「…あ、決して怪しい事をした訳ではありませんよ? 私もこの大修道院に居るものです。噂や情報はかなり耳に入ります」

 

「いや、別に気にしてるわけじゃねぇからお前も気にすんなよ」

 

「えぇ。貴方がそう言うなら。…ふふ、初々しいですね…」

 

嘘だけどな。さっきから警戒しっ放しだ。よくこんなミステリアスで誰も不思議に思わないよな大修道院の奴ら。親父が言ってたのも理解はできる。

 

『ああ。それに、アイツは君が警戒しているのを楽しんでいる様だ。

疑ってくれと言っているようなものだろう』

 

心の中の会議室で疑いを濃くしていく俺達とは反対側に、どこか楽しそうなレアは早速ですがと本題に入っていく。

 

話された内容はやはり、今期の課題についてのものだった。

何やら今回は、女神再誕の儀式と言うものを行うという。その為に、これまでの課題でも現れたレアの首を狙う組織の介入が予期される事態だという。

 

これを課題にしたいのだと言うが、それとは別に俺にはまた違った任務を与えたいのだという。

 

それが

 

「今回は個別に活動…だと?」

 

「はい。貴方の体力を考えるとそれは確かに無謀なお願いではあります。しかし、私は貴方の技量を理由にこの課題を貴方に成し遂げてもらいたいのです」

 

「いやいやいやいや…分かってる? 俺チョロっと走っただけで膝が笑っちゃうクソ体力なの。そんな俺が単独とか死ねと?」

 

「えぇ。しかしそれは…肉体的な面では、ですよね?」

 

「…」

 

確かにそうなんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

いや確かに、今まで見てきてた奴等なら何でそこそこ体力使うはずの魔法はどんだけ使っても大丈夫なんだとか言う奴ら居るとは思うけど!

思うけどもさぁ!! 仕方ないじゃん俺も原因不明なんだよ!

 

『いや冷静になりなって…レアは別にそんな事言ってないじゃないか。それよりも更に危険な状態になったって自覚してる?』

 

それはしてるけどさ…!!

誰も言ってこなかったタブーなんじゃないか問題に直球で踏み込んできやがったからなコイツ…。

 

ヤベぇよ鬼の目だよコレ…絶対扱き使われるよ丸められて捨てられるよ…!!

 

「あら…そんなに怯えた顔をしなくても酷い事はお願いしませんよ?

ただ、魔法が貴方の身体を蝕まない唯一の手段であるとするのなら、それを有効活用してこの課題を成功させて欲しいな…という私の些細な願いです」

 

うん。酷いお願いはしてないね。酷い言い回しだけどね…!!

綺麗に言い替えただけで俺をボロ雑巾になるまで使い古すつもりだよね…!?

 

「…別にビビってねぇけど…何故そうまでして俺にやらせたいんだよ…何か理由でも?」

 

「…それは…」

 

…戸惑いを見せたな。矢張りやましい事でもあるのか?

あっきらかに目の泳ぎ方が尋常じゃねぇけど…冷や汗ダラダラだけど…なんか既視感のある膝の動きが加わってるけど…。

 

『シャミアのあれは少し異常だったよね。膝が面白いくらいにブルブルしてたもんね。あの顔で…ぶふっ』

 

 

 

「…カトリーヌの件をシャミアから聞きました。貴方に粗相を働いたと」

 

…。

 

あ、それ?

 

なんだ警戒して損した…。下心丸出しの腹黒内容かと身構えた俺が恥ずかし。

 

「あの子に悪気が無いのも事実です。しかし、それが何の罪もない貴方を巻き込んでしまったという事実も。

…あの子は、自分で言うのもアレですが…私を第一に考える子です。それが故に、中々対人関係が上手くいかない事を良く耳にしておりました。

…カトリーヌだけではありません。大修道院の私に信頼を持っているごく一部の方々が貴方を目の敵にしているのです。

 

多くはカトリーヌと同じ警戒心からですが…中にはその体力だけを見据え、貴方を見下す者達も少なからず居る…」

 

「…別にそんなのは気にしなくても良いけどな? 俺はもう慣れてるし。俺は親父とベレスが」

 

「そんな悲しい事は仰らないでください…!」

 

「っ?」

 

…参ったな。そんな顔を歪めて止められるとは思わなかった。

俺の中のレアという人物像が回転し始めたんだが…。

 

「確かに貴方を嫌う者達も居ることでしょう。しかし、今朝のあのリシテアを見たでしょう? あの子は、ここ数ヶ月という月日で貴方をとてつもなく信頼した一人なのです。

私が何もしないと言った時でも、貴方を案じて引こうとしなかったあの子の事です。そんな言葉を聞いてしまったら…何と思うでしょうか?」

 

「…驚いた。まさかそこまで言われるとは思わねぇもんで…」

 

「…失礼いたしました。ですが、あまりこの様な事は仰らないでください。…あの時を思い出して…胸が締め付けられてしまう

 

「…?」

 

…なんだ? 少し警戒心が薄れて…?

 

『…レア』

 

「あ、どうしても嫌ならベレスと一緒に行動しますか? 手取り足取り支援してくれますよ?」

 

「はっ倒すぞてめぇ」

 

前言撤回だ。シリアスとふざけが転々とするやつだったよコイツ…。

アイツの手取り足取りは手出すな足出すななんだよ。

全部一人でやっちまうんだもんだって。

 

「…あーでもつまり、俺の事を考えてこの課題を作ってくれたって解釈でいいのか?」

 

「えぇ。その通りです。信頼する者の評価を出来る限り上げたいと思うのは、いけない事でしょうか?」

 

…すまんなエリス。今回だけこいつの口車に乗る。未知な領域なのは分かってるが、どうも調子が狂う。

 

『…仕方ないね。背後には注意しなよ?』

 

あぁ。それは注意する。

 

「…分かったよ。その課題、受けさせてもらう。

…心配してくれたようで、ありがとな…?」

 

「!! ぐほっ…!!」

 

「どうした!?」

 

おいおい、何だってんだ!? いきなり鼻と口から赤い液体を噴出しやがった…!!

ちょっと笑っただけでこうなるのか…!?

 

「ご、ごめんあそばせ…少し取り乱してしまいました…」

 

「取り乱したら血を出すのかあんたは!? その先が怖すぎるわ!!」

 

『今更変人のやることなすこと全部突っ込んでたら疲れるよ?

これくらいスルーしなって』

 

うん…もう突っ込むのも怠さが付きまとうわ…。

 

 

血で物騒になった床を拭くのを手伝い、再び綺麗に戻すと、恥ずかしそうにしながら謝ってくる。

直々入れてくるお茶目さに警戒が解けそうになるが、その誘惑には乗らない…がな。

 

「…それにしても、貴方は夜がとても似合いますね。その静かな顔立ちが、美しさをより引き立たせます」

 

「口説いてるのかそれ?」

 

月と共鳴するように潤わせた瞳を此方へと向け、何故か俺に吸い込まれるように手を、顔を近づけ始める。

 

「…やはり貴方は、純粋な目をしています」

 

「っ? 可愛いとはよく言われるが、純粋とは初めて言われたな。そうか?」

 

「えぇ。本当に…

 

 

美しいと感じます」

 

彼女の緩やかな手つきが徐々に、徐々に俺の頬をなぞる。まるで懐かしい何かを触れるように、割れ物を扱う様にそろりと大事そうになぞっていく。

 

「っ…? っ…? な、なんだ? 何を…」

 

「…あぁ…この光にずっと触れたかった…あの日手放してしまったその暖かな光に…私は今触れている…」

 

「あ、あの…レアさ…んん!?」

 

ちょっと!? 手つきが段々と激しくなってるんだけど!? 頬撫で回されて痛いんだけど! 力入りすぎてるんですけど…!!

てか、離れようとしたらもう1つの手でがっちりホールドされて離れられないんですけど…!

 

『本性表したのか…? いや、これはただ暴走してるだけなのかな』

 

冷静に分析してる場合じゃねぇ…!! こんなの見つかったらタダじゃすまねぇぞ!?

 

「…お父様…」

 

「!?!?」

 

「あ…!?」

 

自分でも信じられないくらいの力でレアを振りほどく。今までにないくらい身体が強ばっており、筋が出るくらいに力が入っているのが分かる。

お父様。この言葉を聞いた途端に俺の中の何かが物凄く暴れようとしだしたのだ。悲しい様な、怒りの様な。

 

『…!!』

 

「あ…ご、ごめんなさい。少し、気持ちが昂って…」

 

「…いや、いい」

 

少しぶっきらぼうな言い回しになってしまったのを後悔する暇も無く、

俺は乱暴に立ち上がる。荒さを抑えられないまま扉へと近づいて、そのまま開ける為に力を入れる。

 

「…課題は喜んで受ける。だが、今日はこれくらいにさせてくれ。

俺も少し疲れてしまったんだ」

 

「…えぇ。ゆっくりと身体を休めてくださいね」

 

そんな事を言いたい訳でもない気持ちを不意に抑えてしまい、俺はそれ以上何も言わずに扉を閉めた。

中で響いた声に何も言わずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…やはり、奥底に私がまだ覚えられているのですね…

であれば…あの反応は当然でしょう。

 

 

 

私はあの時…どうしようもない怒りを覚えられても仕方の無いくらいの無礼を働いてしまったのですから…拭いきれもしない罪を…お父様に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

現在

 

今思い出してもあの振る舞いは無いわ…。どうこう言える立場じゃないけどさぁ…。

よし、、これで40人目…!

 

ブベベラァァバガァバビビバビヒババ!?!?

 

少し順調に行き過ぎな気もするが、俺はレアの指示通り、天井近くに魔法で浮遊し、上から罠を仕掛けて侵入者を感電させる作戦に出た。

それにより、ある程度の処理は済んでいる。

まぁ、マークしてたルート以外の奴らには侵入されてしまったので、後はベレス達に任せるが…。大分数は減らしてるから苦戦はしないと思うけどな。

 

「さっきからなんだ!? 次々と罠に引っかかるぞ!?」

 

「一体なんだ!? まさか、警備が厳重になってたのか…!?」

 

「いや、しかしこんな高度な罠は無かったはずだ! このフォドラにここまでの技術は…! まさか…天井にバァァァァァァァァァ!?!?

 

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

危ない危ない…。勘づかれそうになってしまった…。

実際に俺は罠を貼ってる訳では無いからな。であったら態々こんな所に隠れる必要も無いし…。

 

俺がアイツらに仕向けているものは言わば、時限式の魔法弾みたいな物だ。

床に設置されてから数秒で魔法が発動する、少し難易度が高い方法だ。

これには放ちたい魔法を圧縮して固体?にする必要があるのだが、途中で暴発すると普通の暴発よりも威力が倍になるからな…。

リスクは高いが、陰から相手を始末する時にはうってつけな方法故に、今回はこれで行く事にした。

 

『順調そうだね』

 

ああ。ただ、こうやって陰で行動してるのが評価されるのかと疑問に思うが…これでいいのか?

 

『…まぁ、あの娘の事だから何を考えてるかは分からないけど、何かしら説得の機会は与えられるんじゃないかな?』

 

それもそうだな…。さて、じゃあ大修道院外部のルートも見て回るか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外の監視の為に外に出た俺は、所々の高台や草むら等に身を隠し、先程の戦術が何時でも繰り出せる様に身構えておく。サンダーを圧縮し、罠を手の上で待機させる。

しかし、嵐は通り過ぎたのだろうか。誰一人として通過する兆しも見られない。

 

(静か過ぎる…。先程の侵入者が嘘のようだ…)

 

伝書フクロウがホウ、ホウ、と穏やかに鳴く音が聴こえる。しかし、此方には今日だけは穏やかとは思えず、何かを警戒させる為に鳴いているようにしか思えなかった。

 

 

 

 

そして、その疑問は的中する。

 

「…!? サンダー!!」

 

物陰に接近する何かに気がついた俺は、瞬時に罠を解いて通常形態にし、近付く物の勢いを殺そうと相対させる。

ギリギリと魔法と武器の対決では有り得ないような音が響く。

やがてサンダーが消えると、俺の肩が熱くジリジリとし始める。

 

「!? ぐぅぅぅぅ!!!!」

 

チラッと見やると、今までにないくらいの血がドバドバと流れていた。どうやら、俺は力の勝負に負けたらしい。

俺と相対する何かの元に帰っていくその鎌を睨み、そう悔やむ。

 

「…感じる。強大な力を…

 

さぁ、愉悦を…愉悦を満たせ」

 

髑髏の禍々しい甲冑が、おどろおどろしい鎌を差し向け俺を嘲笑った。




今回死神騎士はこちら側に来させることにしました。

この方が、無双してる彼には良い相手になるでしょう。

さて、次回はオリキャラが登場します。
ご期待ください。


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ライゼル

「髑髏の…甲冑…!?」

 

気味が悪い。見ているだけで吐き気を催す様なおぞましい、髑髏の中に宿る眼光に怯みを覚えてしまう。

以前のレアの比にならないくらい程の悪寒が背筋に走る。足が石にでもなったのでは無いかと錯覚を覚える程に。

 

「…どうした。来ないのか」

 

「…っ! ボルガノン!!」

 

怯える身体を奮い立たせ、俺は右手に有り余る力を集中させ、唸る炎の渦を繰り出す。俺の中の恐れと比例するように、速度を増して弓矢の様に早く、駆け抜けるように騎士に向かわせる。

 

「…この程度か?」

 

嘲笑いは未だに響いたのだ。騎士は戯ける様に鎌を振り下ろし、あろう事か俺のボルガノンを真っ二つに切り裂いたのだった。

勢いが完全に殺された紅は申し訳なさそうにシュウっと音を立てて掻き消えてしまった。

 

「ウソだろ…!? そんなの有りかよ…!!」

 

「…ッシ!!」

 

「はぁ!? このっ!!」

 

一瞬骸の姿が振れたかと思うと、束の間頭部スレスレに鎌が出現し、次は俺ごと切り裂こうと牙を剥く。咄嗟に魔法で壁を作ったから言いものの、判断がズレればどうなっていたかと思うとゾッとする。

 

そしてそれで終わればいいものを、納得の行かないのだろうか騎士は2度、3度、4度、5度と全方向からの連撃を繰り出してきやがった。

耐えれるか、耐えきれないかの境目で俺は受け切ろうとする。

が、コイツ、かなりの熟練者らしい。俺の攻撃どころか、防御さえも捌いてくる始末だ。

 

「グッ!? がァ!? ァァァァ!!!!」

 

有り得ないくらいの流血が、有り得ない場所からドバドバと出てきてしまっている。感じたことの無い痛みが身体中を駆け巡るから、視界が白黒としてしまっている感覚に陥る。

 

痛い…痛すぎる…!!刃物ってこんなに痛いものだったのか…!?!?

 

『落ち着くんだエリス! 君の取り柄のひとつの判断が働かなければ、どうやってもアイツには勝てないよ!』

 

んなもん分かってる…!! クソっ…だったら!

 

イメージは冷気と熱気…。左手を凍らせる想像と右手を燃やす想像…。

ブリザーを放った後、すぐさまファイアーを叩き込む!!

 

「ぜぇぁぁぁ!!!!!」

 

「む…!!」

 

良し、ひとまず状況を立て直すことに専念する!

 

『今のは…1種の目眩ましか?』

 

あぁ。僅かだが、ブリザーが溶ける時の水蒸気を利用した。かなりの冷たさをかなりの温度で溶かしたから、視界は捉えたと思うのだがな…。

 

俺は激痛に蝕まれる身体を引きずるようにして持ち場を離れ、一旦別の隠れ場へと身を隠す。真っ白にはなってないものの、相手の視界を一時的に封じ込める事は可能な筈…。

 

「見事な策略…しかし、無駄な事…!」

 

へ…?

 

『!! エリス! 足が!!』

 

「へ?…痛っ…がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?!?

 

さっきまでのが軽い肩慣らしに思えるくらいに引き裂かれてやがる…!? 最早流血してない所が見当たらねぇ…!!

 

「がっ…! ハァ…! ハァ…! ぐっ…あんま舐めんな…よ!!

 

ウォームz!!」

 

「…む」

 

「っ…リザイアァ!! 」

 

「…! ほう…」

 

少しの工夫では奴には届かない。ならば、魔法による掛け合わせを行い、相手に厳しく自分に建て直せる状態を作る。

 

「…矢張り手慣れの様だ…芸は申し分無い。

 

 

 

 

…しかし、届かぬ」

 

「! バケモンかテメェ!?」

 

1回言っておくが、俺はここまで少しも動いていない。

しかしそれは余裕があるから、とか単純な話ではなく、

全く身動きを取れない、と言うのでもなく。

ただ単純に体を使った回避をすれば体力が底をつくからである。

 

そんな俺が魔法だけでこの猛攻何とかしてんだから素直に褒めてくれよォ!! なんだよ届かぬ…って! メンタルへし折られるわコノヤロウ!

 

『いや実際君規格外な事してるよ。ただ今回は相手が悪かったね。そこら辺のゴロツキでは束になっても、此奴には敵わない。

 

明らかにコイツはベレスよりも強いね。今の彼女でも1回膝をつかせるくらいが限界じゃないかな…?』

 

あぁ。でもアイツは成長速度も尋常じゃねぇ。現段階ではそうだが、いずれかは越すんじゃないかね。親父にも最近やっと一撃入れられるくらいにはって張り切ってたし…。

 

 

 

いくらペナルティがあるとはいえ、置いてかれるのはやな気分だな。全く…。

 

『エリス…

 

 

こんな時にあれかとも思うけど、君にはもう一つ力があるじゃないか』

 

うーん…。でもなぁ、あれも結構使い所考えないと自爆る可能性が高いんだよなぁ。一応あの力を使ってやれそうな事は考えてはいるんだけど…。

 

「…隙…!」

 

「どわぁぁぁぁ!?」

 

隙…! じゃねぇよテメェ!! 何速さ落ちてる筈なのに着いていけてんだコイツ!

 

『考えてる暇は無いだろうエリス。今こそ使うべきだ!』

 

…むーん…。確かに打開策はそれしか無いだろうけど…。

 

『心配は要らない! 何せその力に関しては僕は詳しい! ポイント全ては私が合図する! だから君はしように専念してくれ!

 

 

 

何せ、このような所で君をこんな訳の分からない狂人に倒させる訳にはいかないからね…!

 

…あぁそうかよ。ならとことん命令してくれよ先輩!

適当な事言ったら死ぬからなマジで!!

 

『勿論だ。後輩を育てるのも僕の運命だからね!』

 

 

 

 

 

「…シッ!」

 

『今は防いで! 』

 

繰り返しにはなっちまうが、俺はなるべく防御に集中し、騎士の攻撃を何とか軽減する。

完全に防げてる訳では無いので、俺の体からは矢張り鮮血が散ってしまう。見慣れてくるという物は恐ろしいが、一々そんな事に構ってる暇等ない。

 

「…ぐぅ! ぁぁ!! ふぅぅ!!」

 

『まだ耐えてエリス! もう暫くの辛抱だ!』

 

「…無駄な事。直に限界に陥る。…達者な芸をする者として…儚く散れ…」

 

相手はこれ以上の成長は無いと踏んだのか、そもそも単純に飽きたからなのか、殺意の増した鎌を振るい俺の息の根を止めようとする。

 

…だと言うのなら、もうすぐトドメの一撃が来るハズ…!

 

「…散れ」

 

『! 予定通りだ! 今だエリス!』

 

速さは変わらない。しかし決定的に今までよりも振りかぶる動作にタメがある事を確認する。その隙を逃さない。

 

「…ぬぅん!!」

 

決死の覚悟で、俺はその急所を狙った攻撃を力を働かせ逸らし、腕に来るようにして鎌を捉える。俺の腕に鎌が見事にささり、激痛に重ねた激痛が俺を苦しめていく。

 

「ぎぃぃぃ!!!! ただぁ届けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

力で振り回される前に俺はもう片方の手を精一杯伸ばし、相手の腹を目掛けて叩き込む。

 

「…それがどうし…!? ぐぉぉ…!?」

 

通常の俺の打撃ならここまでの反応は示さない。騎士はまるで鳩尾を食らったかのように大きく怯み、鎌から手を離してしまう。

さぁ、最後の仕上げだ。

 

『やれエリス!』

 

「スぅぅぅぅぅぅぅぅ…

 

 

ボル!ガノン!!!!」

 

全魔力を身体に行き渡らせ、最高度の炎を相手に浴びさせる。

 

「…ぬぁぁぁぁぁ…!?」

 

刹那、騎士を盛大に巻き込み、辺り一面が真紅に染まった。

ごうごうと炎がわきあがる音と共に、騎士はその紅に飲み込まれる。

相手の状態も確認出来ぬまま、俺は余力を尽くしてその場を後にする。

 

「はぁ…はぁ…痛っぁぁぁぁ…!!」

 

俺の姿はどこからどう見ても悲惨だ。肌色は恐ろしく血に塗れ、鎌が刺さり左腕は貫通。ベレスやリシテア達に見られれば発狂どころでは済まされない姿に成れ果ててしまっている。

オマケに体力を大幅に消費している為に身体に力が入らず、今にも意識が飛びそうだ。

 

『エリス…良くやったじゃないか。自分を犠牲にするのは僕も思うことはあるけど、あのやり方は素晴らしいものを感じたよ』

 

「お前…それ…こんなボロボロな奴に…かける…言葉じゃ…ねぇ…」

 

そう。実際に俺がやった行動はかなりの博打である。

干渉の力とは俺が周囲の情報を感知したり、力に関与したりする力ではある。それが故に、敵の攻撃を操作して当たらない様にするのは定番のやり方だ。

 

しかし、干渉の力というのは、それだけだ終わらせるにはつまらない力だ。とイージスは言っていた。この力の怖い所は、それだけではないと。

 

干渉。それは今まで俺しか体感してこなかったことだ。だが、これが逆になった場合、どのような使い方が出来るだろうか。

 

そう、この力は、相手に干渉させる事も可能なのである。

それを利用して、俺は自分の痛みを相手に無理矢理干渉させ、共有状態の様にさせたのだ。これには相手がかなりのタフであるという条件や、相手の行動が俺の行動を上回ると失敗してしまう。が、ギリギリの条件下が揃った事により、俺は奴に自分のダメージを与える事が出来た。

 

その為に自ら攻撃に当たりに行ったのだが…これはかなりキツい…。

 

『それは心配ないさ。この程度の傷で済んだのが何よりだ。これが首が飛んだとかになると話は別になってくるけどね』

 

…? それはどういう…

 

 

 

 

 

 

「…見事。…その膨大な力に見合うだけの力も身に付いている…

愉悦…愉悦なり…」

 

「!?」

 

ま、まさか…

 

『…これは非常に不味いな。あれでまだ耐えるか』

 

地が凍る様な声が再び聞こえたと思うと、目の前には黒に滴る赤を纏った、少しボロついた髑髏の騎士が俺を見ていた。

どこか浮ついた声で、俺に賞賛を述べる。が、俺には少しの嬉しさもない。

 

「さぁ、愉悦なる戦いを再開する…構えよ…」

 

やっべぇ…!! 身体が動かねぇ…!!

 

『くっ…これは僕も予想外だ…!』

 

まるで髑髏がケタケタと笑っているかのように見えたが、身体的にも限界が近いのだろう。ぼんやりと視界が薄れていく。

 

「…行く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

一方その頃ベレス達は…

 

「そ、その剣は…まさか…!!」

 

「…ふっ!…」

 

薄暗い空間の中。一つの淡く光る剣を振り上げたベレスが、仮面を被った男の魔法を突き破り、トドメを指していた。

彼女の行動を早める理由はただ1つ。兄の身を案じている為だ。

 

(早く…早く兄さんに会いたい)

 

彼女のもはや行動原理としても成り立っている兄、エリスアイスナーの存在。それこそが彼女を突き動かす原動力。

 

「終わったわよ。師…ってその剣は…」

 

「ん? エーデルガルトか。この剣なのだが、どうも私にしっくりくるようでな。何か知らないか?」

 

「うぇぇ? …え、えっとぉ…」

 

彼女の生徒達は、それぞれの役目を終え先生を取り囲むようにして戦闘の終わりを安堵していた。

誰も彼もが、その顔には微かなものも居るものの信頼の色を宿していた。

 

「それにしてもよ先生! エリス先生は今日どうしたんだろうな? 何処を見ても見当たらないし、腹でも下してんのか?」

 

「カスパル、遠慮、ない、です。もう少し、柔らかめ、もの、言う、します」

 

「その通りだ。それに考えても…それ見ろ。先生が居てもたってもいられなくなってしまったでは無いか」

 

「師。気持ちはわかるけど落ち着いて。その剣が有り得ないくらいミシミシいってるわ」

 

「ククク…先生はかの御仁になると途端に豹変しますな。それ程までに惹き付ける何かを持っているのか、或いは…」

 

「或いはに決まってるでしょヒュー君。あの反応を見てそうじゃないって言う方が可笑しいわよ。どんな形であれ私は良いと思うけどね?」

 

「…兄さん…」

 

賑わう生徒達とは反比例し、ベレスはどんどんと行動に余裕が無くなる。顔に変化は無いものの、明らかに焦りが見える。

そして、その不安は最悪な形で耳に届いた言葉によって加速する。

 

「ほ、報告です!!」

 

「む、騎士団の方々ですな。一体どうされたのです…?」

 

「だ、大修道院外部にて、エリスアイスナー先生が謎の黒騎士と戦闘中! そして、身体中に激しい深手を負い、不利状況であると…!!」

 

『!!』

 

「あ、待って師!! って速!! 速すぎるのだけれど!?」

 

安堵の雰囲気に包まれていた生徒達に、冷や汗と緊張が走る。

あれほどまでの状態の中で1度も重傷を負った事の無かったエリスの突然の危機状態なのだ。取り乱さない方がおかしいのだ。

 

「ど、どうすんだよ!? 俺達も早く行かねぇと!」

 

「いや、先ずは戦力を集めるべきでは無いのか!? 我々よりも遥かに場数を踏んでいるはずの先生でさえこの状況だ。私達で歯が経つとは思えない!」

 

「しかし、ベレス先生、のみ、応戦、かなり不利、です。

私達、半分、する、適切、です」

 

「なら二手に別れれば良いでしょう! ベルナデッタとリンハルト、フェルディナントは応戦を要請してきて! 後は救援に向かうわよ!」

 

「びゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 誰か早く来てくださいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! おっかない先生がやられちゃいますぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「あー、そこの人達、早く大修道院外部へ向かって下さーい。じゃないと本当に不味いんですよコレ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…兄さん…! 兄さん…!」

 

『落ち着かんか戯け! そんな状態では兄を救うどころか、見つける前にお主が砕けてしまうぞ!』

 

走り続けるベレスは普段は考えられない程に顔を歪めていた。瞳は潤いを宿し、呼吸は乱れ、無表情とは何処へ行ったのかと思う程に不安に駆られていた。それでも、周りの生徒達と比べると些細な違いではあるのだが、ベレスにとっては大きな変化だった。

 

「私が…兄さんの傍に居たらこんな事には…!!」

 

『落ち着かんかと言うておる! まだ現状を見たわけでもなかろう!

それに、そんな事を思うだけ無駄じゃ! どうあってもあの兄とその騎士とやらの戦闘は避けられなかった! 仮にお主が、誰かが居たとしても同じ行動を取ったろうて!』

 

ベレスの中に宿る少女は必死に宥めるが、聞く耳すら持たない。自分の身体に鞭を打ち続け、兄を救う為だけに身体を走らせていた。

 

恐怖、不安、絶望、後悔。それら全ての負の感情がベレスを支配する。

空も見えぬ淀んだ空がそれを写すように、ベレスの心はどんどんと荒んでいく。

これが本当に、灰色の悪魔と恐れられた少女なのだろうかと疑われるのも無理はないくらいだ。

今の彼女は、ただ失いたくない1人の弱い人間だった。

 

そして、少女はその姿を目の当たりにする。

 

「…!! 兄さん…!!」

 

それは、必死にもがくエリスに鎌を振り下ろす騎士の姿。

 

「! やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

自分でも驚くくらいの叫び声をあげる。型も何もを忘れた剣を振るう手から、蛇腹状の刀身が伸びて行く。

 

(もしこれが弾かれたなら…その時は天刻を使って解決策を練る…!

 

ここで兄さんを死なせたりなんかしたくない…!!)

 

父親が見れば激怒するだろう。でも、今は彼女は妹なのだ。戦場の悪魔ではない。

 

たった1人の兄を救いたい、妹なのだ。

 

妹を出してしまったのだ。

 

(頼む…! 届いてくれ…!!)

 

 

 

 

 

 

 

鎧が貫かれる鈍い音がした。

 

 

その鎧に刺さる刃は、確かに騎士を捉えており、そして、射し込むように、トドメを刺す様にされた。

 

 

 

一人の男によって。

 

「…ぬぅ…!!」

 

「我の前でなんとまあ…下劣な真似をしてくれた物よ…

 

とっとと消え失せよ。骸の愚者よ」

 

ベレスが剣先を届かせる数秒前である。突如の乱入者によって先に騎士の行動を止められ、危機は回避されたのだ。

 

「…む…止むを得ん。退散する…」

 

乱入者によって興を削がれたであろう騎士は、名残惜しそうにエリスを見ながらその場を後にする。騎士が姿を消すまでに、数秒も要らなかった。

 

脅威が去ったことを確認したベレスは、まるで子供のように必死になってエリスの身体を包む。

もう、何が何だか分からなくなってしまっているのだ。

 

「兄さん…! 目を…目を開けて…!!」

 

「…安心せよ小娘。そのお方は無事だ。少し身体を休めれば直ぐにご回復なさる」

 

ベレスの不安を取り除くかのような発言をする乱入者。しかし、その言葉に一切の気遣い等無し。声色はまるで彼女を責め立てるかのような鋭いもの。そして、言葉遣いからしてエリスを神聖な何かと思っているようだ。

 

「…ありがとう。兄さんを助けてくれて…」

 

「…ふん。あの暴走の元凶めが何を今更…

 

そのお方を救援するのは我として当然の事。貴様に言われずともそうしてたわ」

 

まるでベレスを敵とみなすかのように、彼は一切の厳しさをとらない。

それどころか、大修道院すらを目に写し、憎悪の眼差しで見つめる始末。

 

「…が…は…」

 

「…兄さん!」

 

「…目が覚められましたか。しかし、まだ安静になさって下され。貴方様のお身体の無事こそ、我の最大の喜び故」

 

エリスが苦しそうに目を開け、妹が嬉しそうに顔を緩めると、乱入者は先程とはうって変わり慈悲深き顔へところっと変え、微笑みを向ける。

 

「…おま…えは…だれ…だ…?」

 

名前を聞かれた乱入者は、待ってましたとばかりに顔を覗き込み、まるで配下の様に跪く。

 

「…無礼、御容赦くださいませ。

 

 

我はライゼル。貴方様の身を死守するべく参上致しました、貴方様の剣でございます」




オリキャラ登場。ライゼルさんです。

はい。怪しさMAX&エリスへの忠誠心MAXですね。

彼はかなりの頻度で物語を引っ張るキーとして登場します。

また、エリスの記憶の重要な1人としても関わってきます。


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微かな不穏~前編

「…何か言いたい事は」

 

「い、いや、あのですねベレス。これには理由が…」

 

「黙れ女狐。貴様の意見など聞きたくもないわ。恥を知れ」

 

「…うぅ…」

 

現在、無事生還した俺の前にはカリスマの欠片もなく正座させられている大司教がいた。他にも、大司教の暴走を止めなかったとして、セテスとカトリーヌまでもが向き添えを食らっていた。

 

「…なぜ私もなのだ…?」

 

「レア様が謝罪するくらいならアタシが謝るけど…理由がアイツなのが何か腑に落ちない…!!」

 

「貴様らも口を慎め。貴様らの腑抜けた管理が原因で、我が主がこの様な傷を負ってしまったのだ」

 

「…」

 

(…不味いですよセテス…ベレスが激昂状態です…私まともに目を見れません)

 

(おぃぃぃぃぃ!? しっかりしてくれレア!! そもそも独自であんな課題を出すからこんな事になってるのだろうが!!)

 

(し、仕方ないでしょう!? だって私もここまでの事が起きるだなんて思ってもいませんでしたもの! とにかくエリスのイメージを払拭したかったのですよ私だって!!)

 

(思えぇぇぇぇぇぇ!! そして隠すなァァァァァァ!! 一司教がこんな物を一人で断行するなぁァァァァァァお陰で某生徒からクーデター起こされそうになってるだろうがァァァァァァァァ!!)

 

何を言ってるのかさっぱり聞こえないけど、物凄く焦って面白い顔になってるのだけは伝わった。

 

いや、にしても帰ってきたら大変だったな。

気絶してるって言うのに約2名ほどの発狂ぶりが伝わってくるし。

目覚めたら目覚めたで一人の生徒から泣きつかれるし。

もう一人の教師に死ぬかと思われる程抱擁されるし。

アッシュまで過保護になるし。

上記2名がふと顔が無になったと思うと、いきなり大司教の名前を狂ったように叫び出して血祭り寸前まで追い込むし。

 

誰も止めねぇし。

 

 

誰も止めねぇし。

『大事な事なので2回言ったね』

 

いやと言うかさ、まだいいのよ。この3人が俺の事をめっちゃ心配してくれるのは分かるし、全然理解できるのよ。

 

でもさ、

 

「大体貴様らはエリス様を兵器かなにかと勘違いでもしているのか? あちらこちらを見やればウンザリするような視線を浴びせる奴等まで出てきておる…。

 

即刻我が打首にしても良いのだが?」

 

「お 前 は 何 故 に?」

 

「む? 如何なされましたか? エリス様。お身体の具合が悪いのでございますか?」

 

「兄さんほら、立ってるのが辛かったら私の背中に」

 

「いやもう乗せてるじゃないか…。

 

いやそうじゃなくて!! ライゼル! お前までベレスに混じって何やってんだ!?」

 

「? 愚者共の制裁ですが? 何か至らぬ点でもありましたでしょうか?」

 

「大アリだわ!! いきなりこの前パッと出てきて強敵倒したと思ったら、何サラッと過保護団体に混じってんだ!! 説明足らな過ぎて渋滞してんだこっちは!!」

 

「私達は無視ですか!?」

 

「ハッ!? 申し訳ございません! 我、エリス様の身を案じるあまり自分の事をすっかり抜けさせておりました。

 

名前はライゼル。身長は高め。体重は普通。筋肉質は…」

 

「誰がいっちばん初っ端から説明しろって言った!? 普通に素性を明かせば良いだろ素性を!! 何で説明って言われて自分の体の仕組みの説明から聞かされるんだよ!!」

 

「申し訳ございません! 漸くお目にかかれた嬉しさで上手く口が回りません!」

 

「うん! だからその理由を言えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。何でこんなツッコミで疲れなきゃ行けないんだ…。というか怪我人にツッコミをさせる雰囲気を作るな…。

 

『お疲れ様だね。代われるなら代わってあげたいけど、諦めてね』

 

なら何でその関連の話を持ち出した…?

それなら何も言わないでいた方がまだ良かった…!

 

「あー、えっとですね。実は我、貴方様が傭兵として活動なさっている際に助けて頂いた者の中の一人でして…その時から貴方様に心酔しているのです」

 

…ん? …そうか。まぁ、こう言われると信憑性も増してくるから何も言えないな…。

いや待て…。それだけの理由でここまでの忠誠心的なのを持つものなのか? いや、持つものか。前例が前例だからな。リシテアとベレスだものな。

 

「? どうした兄さん。膝枕が所望か?」

 

「ちが…分かった部屋帰ったらしてもらうから。そんな絶望した雰囲気を出すなっつーの。

 

…なあ、そろそろ身体の限界が近いから、部屋に帰ってもいいか?」

 

「…え、いやあの、エリス。もう少しだけいて貰えませんか? 本当に用事があるのと、この空間に貴方が居ないのはちょっとキツイ」

「全ては主の御身のままに。ささ、私がお送り致しますのでエリス様の部屋に戻りましょう」

「また私は居ないものですか!?」

 

俺が少し弱音を吐くと、怯え気味のレアに代わりライゼルが俺の要件を快諾する。すると、何の不自然もなさそうな慣れた動作で俺を背負い、そのまま扉を出ていこうとする。

 

「ちょっと待ってくれ。私が兄さんを背負っていく。だから貴方は代わりに要件を聞いて欲しい」

 

「は? 何を言ってるのかさっぱりだが小娘。お前よりも我の方が確実にエリス様をお送りする事が出来る。お前が話を聞け」

 

「兄さんも普段から一緒にいた妹の方が安心出来る。だから貴方が聞いて欲しい」

 

「ほう? 聞き捨てならんな小娘。我の方があの方を安心させる事が出来る。その確証もある。高々数十年過ごした身で思い上がるな」

 

「貴方だって出会ったのは私達が立ち寄った何処かで救われたと言った。私とそこまで年数は変わらない筈だ。そもそも、その言葉からは危険な匂いがしてならない。兄さんを任せるのは些か肯定しかねる」

 

「…死にたいようだな小娘」

 

「…邪魔しないで」

 

『わぁ。修羅場だ修羅場だ。僕修羅場ダイスキ。

 

ヤッタネエリス君今度は3代表修羅場が見られるヨ』

 

お前が壊れるなァ!!!! 俺だけでこれを扱いたくない!!

 

何方にしても着いてくるのは溺愛組なんだよな…。ベッドに入るまで動かせてくれないだろうし… いったらいったで強制的に寝させられるし…。ライゼルに関してはもうその予感しかしないのが怖い。

まだ1回もされてないのに。

 

『1 お兄ちゃん大好きベレスちゃんに手取り足取り甘々コース

2 初対面? なのに忠誠心MAXなライゼル君の何でもしてくれるコース

3 ドキドキ! 助っ人召喚大作戦!!

 

どれがいいと思う?』

 

勝手に! 選択肢を! 増やすなぁァァァァァァ!!

 

待ってくれよ…。1番を選んだら何か貞操関係で危機を感じるし…2番を選んだら新たな道開かれそうだし…。

いや2人ともそんな気は全くないとは思うんだけど…今見れば分かる程に気が立ってるからなぁ…。連れてっても残しても何かしらやらかす可能性しかないんだよなぁ…。

 

…ここは大体結末分かってるけど、呼ぶしかないかな。

 

『エ リ ス 君 は(心の中で) 仲 間 を 呼 ん だ !』

 

心の中で呼んだだけで来るものなのか…? いや来るものか。だってこの大修道院エスパーいっぱい居るんだもん。来るわ絶対。

 

耳が微かな地を踏む音を捉える。それも少しの早めな音で。

…これはまさか、本当に…?

 

扉が勢いよく開けられる。本当に召喚されたようだ。そして、その扉とエリスの希望を開いたのは…

 

「失礼します! エリス先生が呼んでいると確信を得たので、参りました!!」

 

あらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

選択肢その3(New!先生だいちゅきリシテアちゃんの全肯定プレイ!)だった。

 

いや知ってたよ。だと思ったよそんな都合のいい話しあるわけないと思ったよ! 謀ったなイージス!?

 

『そもそも君がこういう状況で美味い汁を啜れる確率なんてゼロに等しい!!』

 

等しくねぇよ俺の半身的立ち位置なら庇えぇぇぇぇぇぇ!!

やへぇよ自分で地雷引いちゃったよ…。これ完全に3代表修羅場成立しちゃったじゃん。イージス大歓喜じゃん。

 

『やったぜ』

 

止めろよ!? 無理だけど! 無理なのはわかってるけどこれどうすりゃいいのさ!?

 

「…もう、お二人共いい加減になさったらどうですか? 話はよく分かりませんが、エリス先生が決めた事ならエリス先生の判断に任せるべきでしょう?」

 

…あれ?

 

「…そうだね。確かに、少し不満があるけどリシテアの言う通りだ」

 

「…そうだな。エリス様のご意見こそ、我等の判断基準。出過ぎた真似を致しました」

 

…俺は何か勘違いをしているのか? いつも通りだと思われたリシテアが、両手を腰に当ててお姉さん感を丸出しにしながら、2人を宥めている。

…あの暴走娘でお馴染みのリシテアがか?

 

「あ、あのすみません」

 

「? なんでしょうか先生!」

 

リシテアは俺に呼ばれると、子犬のようなキラキラした目で、ないはずなのに見える尻尾をブンブンと振るわせながら俺から出る言葉を待ち望んでいる。

? ここはいつも通りだな…。

 

「あ、貴方は本当にリシテアなのですか…?」

 

「? よく分かりませんが、貴方のリシテアですよ?」

 

うん。これは完全にリシテアだわ。天然+爆弾発言なのはベレスとリシテアだけだからな。しかも、不思議そうな顔をしながら上記の子犬のような行動?の一つ一つは継続中である。

 

…んー。此処は一番マトモそうなリシテアにするべきかな?

 

「 …悪いが、今日はリシテアに送って行ってもらおうかな。2人も多分、レア達と話したい事があるだろうし、今日は話を聞いて貰えるか?」

 

「…………………………分かった。本……………当に心配だから、早めに話して戻るから」

 

「…御意。非っっっっっっっ常に不服でありますが、貴方様のご意向に従いましょう」

 

…何とか話を呑んでくれた。タメに溜めたけどな。

…ふぅ。なんか益々力が抜けてくみたいだ。早めに送ってもらおうかな。

 

「分かりました先生! では、参りますよ〜!!」

 

…なんで既に背負われてるかは不問にしておくよ。

何やら俺の返答に希望も欠片もないと呆然とした顔のレア一行を敢えて見ないようにして、俺は背負われるがままに退出した。

 

取り敢えず、帰るまで何事もなく進んで欲しいものだ…。

いや、グッスリするまでかな?

 

 

 

 

 

 

 

『…多分そうなる可能性低過ぎると思うけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

No side

 

「…さて、取り敢えず言いたい事は後にして、その要件を聞くかな。

…次は何をするの? いや…

 

 

何を兄さんにさせる気なのかな? レア」

 

エリスが立ち去り、しんと静まり返った空間に再び、耳に恐ろしく響くソプラノボイスが放たれた。その手は、おかしな事を抜かせば何時でも振り下ろせるようにと天帝の剣を当てている。

その様子にセテスは少し顔を強ばらせて指摘しようとしたが、こればかりは言う通りだと言わんばかりにライゼルが1歩前に踏み出す。

黙れと言っているようだ。

 

「…え、えっとですねベレス。わ、私は本当に彼に対して危害を加えたいと考えている訳ではなく…」

 

「良いから答えて。自分でも驚くくらい、今日の私は少し獰猛だ。

いくら迎え入れてくれているからと言えども、兄さんに何かをする気なら私はその先を実行する覚悟がある」

 

無表情。されど殺気を充満させた眼光で対象を射抜く。どんなミステリアスに保とうとしたレアであっても、これには狼狽える他無い。

番犬は当然噛み付こうとしたが、それもまた同じ目を持つものが制す。

 

この場に置いて、大司教側、という立場は用意されていない。

ただ殺意に囚われた者達による静かな拷問である。

 

「…安心して下さいベレス。 次は、この様な真似は一切ありません。王国領に出向き、賊を討伐していただきたいのです」

 

「…賊?」

 

「…その族は、ファーガス貴族のゴーティエ家から、英雄の遺産 破裂の槍を盗み出した。そして、その頭目の名は…マイクラン。廃嫡されたゴーティエ家の子息だという」

 

「…要はその破裂の槍を回収しろということか? …貴様ら、我が主を雑用か何かと勘違いしているのか?」

 

「あぁ? アンタはアンタで何言ってんだ? 重要物の回収を任されてるんだぞ。アタシは信頼の証だと思うけどね。…非常に不服だけど」

 

睨まれてもなお、番犬はイレギュラーに噛み付く。幾ら警戒している男に肩入れする者だからといって、此処まで嫌うものなのだろうか。

ベレスはそれらを無いものとして扱う様に、要件を続けるようにレアへ促す。

 

「…続きは?」

 

「…英雄の遺産は、紋章を持たぬ者には危険すぎる代物です。そしてマイクランは、紋章を持たぬが故に廃嫡されたと…

 

この意味が分かりますね?」

 

「…あぁ」

 

「本来であれば、騎士団が挑むべき難題ではある。が、女神再誕の儀の際に襲来した西方教会の背教者共を粛清すべく、大修道院を離れている最中だ。そこで、英雄の遺産に対抗する武器の一つ、天帝の剣を所持した君と…

 

…魔術に非常に長けているエリスこそが適任であると考えたのだ」

 

苦虫を潰したような表情を浮かべながら、言い分を述べるが如くの切り出し方で説明を行っていくセテス。その仕草全てから、彼が如何にエリスを警戒しているかが伺えるが、彼はあくまでも頭の側近的存在。

露骨に出す訳にも行かないらしい。もう無理だとは思うが。

 

「…英雄の遺産は説明の通り、かなりの代物です。貴方達二人の力があれば、大抵の苦難は退けられると思いますが」

 

「…話は分かった…ならレア。私から一つ願いがある」

 

「えぇ。何でも仰ってください」

 

 

 

 

「今回の課題には兄さんは参加させないでもらえるか。何か、もっと危険に身を出さないような課題に当てて欲しい」

 

再び、しんとする音が響いた。それも、数分前よりもかなり重厚的な。

 

「…今、なんと?」

 

「兄さんはこの討伐課題には繰り出させないでくれ。

 

 

 

 

 

この課題には、私が行く」

 

妹の願いが、心情が、爆発した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

side エリス

 

微かな希望を持ち、リシテアが完全なマトモになったと喜びながら、俺はゆらりと変わる風景と空を楽しんでいた。

…少し気持ちが柔らかくなったから見てみたが、背負われながら見る空ってのもなかなかにいいかも知れない。

今度、ベレスに背負われながら一緒に見ようかな。きっとアイツの事だ。兄さんと一緒に見る景色はより輝いて見える…的な口説き文句を言うに違いない。…ははっ。本当にあいつは兄離れが難しそうだ。

 

「…先生。何か、よからぬ事を考えてませんか?」

 

「…ん? 何もよからぬことは考えてねぇけど? ただ、背負われながら見る空もいいかなーってな。

 

 

…悪ぃ。大変なのに浮かれちまって」

 

「うぇ!?いえいえそんな気にしなくていいんですよ! 私が好きでやってる事なんですから!むしろ、私の背中でそういう風に思ってくれた事が嬉しいと言いますか

 

「…ん? なんて?」

 

「い、いえ? 私だって頼れるお姉さんなんですから、そんな事いちいち気にしなくていいって事です!」

 

「…そうか。お姉さんか。ははっ、それは確かに頼ってもいいかもな」

 

「えぇぇちょっと笑わないで下さいよ〜! 先生も私を子供扱いするんですか〜!?」

 

俺の少し洒落気味た笑い声に過剰に反応すると、少し意地悪に揺らしながら、リシテアはぷくっと顔をふくらませる。

…お姉さんは無闇矢鱈にそんな顔はしないのでは無いかと思ったのは心の中に留めておくとするか。リシテアの名誉の為にも。

 

『僕には筒抜けだけどね』

 

「そんな顔するなって。お姉さんならもっと堂々としてろ。姉さん? なんつって」

 

「! も、もうしょうがないですね先生は! 私はお姉さんなんですから堂々としてますよ!」

 

ははは…。やべ、多分これバレたらベレスにめっちゃ怒られるな。

アイツそういった所でめっちゃ厳しいからな…。

 

「さ、着きましたよ先生。やっとゆっくり休めますね」

 

俺が心境の中で怯えてると、目の前には見慣れた扉があった。

周りにいるヤツらは物珍しい目で俺達を見ているが、お構い無しにリシテアは扉を開けて俺を休めさせる。

 

「さ、先生。ベッドに横になって下さい。私が眠くなるまで付きっきりでお世話しますから」

 

「あぁ。ありがとうリシテア…ん? 付きっきり?」

 

「えぇ。そうですよ? あの二人が居ないんです。私がついてるしかないじゃないですか」

 

「…待て。お前はまさか…それを見越して…?」

 

「全く…大変でしたよ。私もあの争いに参加しようとしたのを我慢して、あくまで大人な対応で場をやり過ごそうとするのは。そうして流れを作らないと、ライゼルって人はまだ分からないですけど頑固じゃないですか。

…本当は私だってどれだけ先生の生徒だってことを伝えたかった事か!」

 

黒だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

何がリシテアが真面目になっただ数分前の俺!! バリバリ策士じゃねぇかコノヤロウ!! 2人を出し抜くために嘘まで着く悪い子になっちまったじゃねぇか!!

 

「それに、先生に邪魔と言われる筋合いはありませんよ?

…どれだけ私が胸を痛めたと思ってるんですか」

 

「う…それを言われると俺も何とも言えない…」

 

「私が課題から帰ってきた時、先生が意識不明と聞いて…地面が崩れたのかと思った私の気持ち…

 

本当に…苦しかったんですよ?」

 

「申し訳ございませんでした」

 

看病をせっせと行い、時々悲しそうに手を止めながらリシテアは俺に説教をし始める。普通なら反論になるところだが、完全に俺が悪く、心配をかけさせてしまったので何も言わずに彼女の気持ちを受け止める。

 

少し吐き出しただけでは彼女の苦しみは消えることは無く、リシテアは暫くにかけてどれだけの事をしたのかを訴えてくる。

 

元々体力がないのに、あそこまで身体を酷使したらどうなるか分かったんじゃないか。

どうしてあの時一人で行動したのか。いくらあの司教の言う事だからって一人で出来る事には限界がある。

理由があるとはいえ、あんな血だらけで、ボロボロになるまで戦って、他の人達がなんとも思わないと思うのですか、と。

 

確かに自分で言うのもなんだが、俺の行動原理は何もおかしいことはない。ないのだが、それでも彼女に不快感を抱かせる行動だったのは間違いない事だった。

 

「…このご時世ですから。そのような事が起こることは避けられないとは分かっています。けれど…我儘でも、私は先生が傷付く所は見たくないんです…」

 

「…」

 

あの時は、生きるのに必死だったから皆の事に頭が回らなかった。けれど、よくよく考えてみれば俺のあの時の行動は、自己犠牲から行える行動だった。

もし次同じ事をすれば、今度は泣かれるだけでは済まされないかもしれない。

 

我ながら、信頼されると過保護に囲まれやすいな、と苦笑してしまう。いや、俺が危ならしいから、みんなをそうさせてしまうのだろうか。

 

「ごめん。リシテア。俺もあの時はそうするしかないと思っていたが、あれはいくら何でもやり過ぎた。…気をつける」

 

「…はい。本当に気をつけて下さいね。…もしあの時助かってなかったら、私は…

 

リシテアはまだあの時の事を怖く思っているのか、暗い顔をしながら俺を横にさせる。俺の体に触れる時の手が、服からもわかるようにブルブルと震えていた。

よく見ると顔も青ざめていて、今にも彼女が倒れてしまいそうだ。

…どうやら心配を掛けすぎたらしい。目にはうっすらと黒みが帯びている。

 

その様子に、複雑な気持ちに駆られた俺は、すっと彼女の頭に手を乗っける。まるで、ベレスを宥める時のように。

 

「大丈夫。俺は大丈夫だから。安心してくれリシテア。

俺は此処に居る。不安になるな」

 

「っ…はいっ…此処に居ます…此処に…」

 

リシテアは、俺の手を握り返して何度も、何度も俺の手の感触を確かめる様にふにふにとする。可愛らしさというものは一切なく、どこか必死に縋り付く様に見えてしまい、俺は言葉を発せなくなる。

 

「…あの、先生」

 

「…ん?」

 

「…先生は、生徒がどんな思いで先生に教えを乞うていたとしても、味方でいてくれますか?」

 

俺の手に押されるように、顔が見えなくなるまで俯いてしまったリシテアは、顔の様子が見れないまま、意図の含まれている質問を投げる。

声の調子からは、不安いっぱいになっていることだけは読み取れた。

が、肝心な顔からは何も読み取れない。見えないから。

 

「…どういう事だ?」

 

「…この大修道院には、身分の違いもあれど、殆どの人達が過酷な過去を歩んで来ている。と、耳にした事があります。そういった人達が居るのであれば、一人くらいは利用目的として教えを乞うていたり、友好関係を望んでいたりする者が居たりしても可笑しくはありません。

 

…先生は、そんな人達の事をどう思いますか?」

 

全体を例えとして質問をしてくる場合には、三つの理由に分けられる。

一つは、その通りの理由。

二つは、知人の悩みの為の誤魔化し。

そして三つは、自分の悩みを誤魔化して解決へと導こうとするもの。

 

彼女が果たしてどの理由なのかは分かりはしないが、この反応からして、自分に関わる事なのだろう。だとすれば…過度な甘さと厳しさは要らないかもしれないな…。

 

「…そいつの行動原理の全てを肯定するわけじゃない。行き過ぎだと思うこともあるし、弱すぎるというものもある」

 

「っ…」

 

きゅっと俺の手に被せる手の力が強まる。この反応から、明らかにはなったが、それをいきなり根掘り葉掘り聞くのはあまりにもこの子を傷付けるにほかならない。

 

「…だが、俺を利用するからとか、その程度でそいつ全てを否定して敵に回る、なんて事はしたくねぇな。それがワケありなら尚更だ。

怒ったり、注意する事はあれど、愛想をつかしたりなんかはしねぇよ。

 

その重い過去はそいつだけの物だし、俺らがグチグチ悪く言うような軽軽しいものじゃねぇからな。それを先生がやっちゃ行けねぇだろ」

 

「…!!」

 

「…第一、利用うんぬんなら俺もそうだしな。生徒をダシにして魔術の特訓をしてるようになっちまうし…

大体師弟って言うのはそう言うもんじゃねぇのかと思うしな。自分の為に相手から知識をもらう。自分の為に相手に知識をあげる。

目的のために他人に教えを乞うたり配ったりするのに悪い事なんてそうそうないと…思うけどな」

 

「…け、けど…」

 

…うーん。コイツもなんだか頑固な奴だな。…ならば、少しバレない程度にやるか。

 

「…例えばリシテアがその子だったとしよう」

 

「!」

 

「利用する為だけに、傷を負った俺を此処まで怒って、心配して、胸を痛める必要があるのか? 利害関係で満足するのなら、そんな感情は一切持ち合わせねぇだろ。

 

安心しろ。思いやる気持ちがある限り、おまえの疑問のようにはならねぇよ」

 

大体、それで言ったら大修道院の連中とかもうオワコンもいい所だろ…。俺の事1つの戦力としてか見てない奴ら居そうだしなぁ…。

そうだとしたらリシテアの疑問の対象の子達は可愛いもんだろ。

 

「…先生っ…」

 

リシテアの手の力が一段と強くなる。しかし、決定的に違うことは強くも弱々しく握るのではなく、少しの強さを取り戻した力と言えようか。

 

うん、何言ってるんだ俺?

 

『…』

 

「…先生。じゃあ、もう1つ聞いてもいいでしょうか」

 

「? ああ、俺に答えられそうなものならバ!?」

 

瞬間、ベッドの上へと飛び乗られ、俺は馬乗りになったリシテアに軽く座られる形へとなってしまう。ん? これ少し不味くね? 腹の上だからまだしも…。

 

「…最近、私の友人が、心の中で密かに何かが囁くと言うんです。

その子が言うには、条件はたった一人の男性に話しかける時、心の中に想う時…だと言います」

 

「…お? おお…それがこの馬乗りとなんの関係ごぉ!?」

 

ずりずりと、でも力は弱く腹から胸にかけて移動される。そして、少し腰を屈められれば顔と顔がくっつきそうな距離へと体を持っていくと、その行動を実施し始める。

 

「…問題はその囁く内容なのですが…欲しい、と頭の中がいっぱい埋め尽くされると言いました…。それも、背中に乗せている時、とかには尚強く…」

 

な、な、な、なんだ!? 今日の後半のリシテアはテンションが定まらないぞ!? 真面目になったかと思いきや怒りんぼになり、悲しい顔になれば思い詰めた顔になり、今度は妖艶な顔つきだと…!?

何が起こっている!? ほわぁ!?

 

「特に…こうやって体に少しでも触れると、頭が壊れてしまいそうになると言いました…ふぅ…」

 

何処でこういう事を教わった? なんかすっごい手つきが滑らかァなんだけど…? シルヴァンか? シルヴァンなのか? でも俺この後の展開全く分からないんだけど? え? 何? 何されるの?

 

「…悩みが吹っ切れてからは、体の急激な火照りと、心拍が激しくなるとも言っていました…

 

あの…先生…」

 

俺は、顔を両手でがっちり捕まれ、目と目がバッチリと会う距離まで詰められる。その瞳は妖しく潤んでおり、ドキッとしたが同時に少しばかり恐怖を感じた。

 

「その子に、その原因がなんであるか教える為に…

 

 

 

私に確かめさせてくれませんか…? この、様子の可笑しさを…」

 

 

 

 

 

誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



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微かな不穏~後編

ま、不味い…。非常に不味い。

 

「…あ…先生の鼓動も…早くなってますね…こう言った事をすると心臓は早く動くのでしょうか…?」

 

そりゃあね? 人にいきなり馬乗りにされたらドギマギするでしょう。しかも年頃の異性だぞ…? 不可抗力でそうなるのは仕方が無いとは言える。まだ言うて好きな人もいないのに…。

 

「ふふ…なんかリード? してるみたいで嬉しいです。まぁ、お姉さんですから当然かと思われますが」

 

クスクスと、少し赤らめた頬を隠す気も無く彼女は笑う。俺は青ざめる。まさか数ヶ月の間に2度3度と貞操の危機が迫るとは思ってもなかった。…1回皆の頭の中でレアに汚されたけど…。

 

「…先生? 今、私の顔どうなってますか? 余り良い顔はしてないと思うのですが…見苦しい顔もしてないと思います。体全部が熱いので、少し赤いかもしれませんけど。ふふっ」

 

…これは…マジでどう切り抜けるのが正解なの? イージスはさっきから黙ったままだし。なんで肝心な時はいないんだアイツ!? 今こそ口煩くするべきだろう!?

 

「あの、先生。1回私の事も触って見てください。どんな感覚になるのか教えてあげないと…」

 

…えこれ、楽しんでない? え、どっち? 弄ばれてるの? それとも本当の厚意? え、え?

 

俺の焦燥とは逆に、もはや止まるという動作を忘れたようにリシテアは俺の手を自らの腹部へと当てる。…なぜ腹部?

 

「…! あ…こ…これは…ん…」

 

「…無心無心無心無心」

 

俺は無心、無心…。当てられた瞬間に柔らかい感触と共に、僅かに悶える声が耳に入ってきたなんて俺は知らない…!

 

「…中々に…心地良いですね…ふふ…あ、あまり撫で回さないでくださいね…? 触らせておいてなんだと思いますけど、あまり自慢出来る体つきでは無いですし…何より…

 

あ、あまり強いとその…まだどうなるか分からないので…///」

 

ほんのり紅に染まっていた頬から、全身へと赤みが強くなり、広がる。

まるで恋人との一時を楽しむかのように、俺の全身をいじり、自身の体をいじらせる。

リシテアは恥ずかしながらも楽しんでるとは思うが、俺はちっとも思考が働かない。動かしたら意識が飛びそうだからである。

 

仕方ねぇだろこんな事に耐性あんまねぇんだから…。ベレスだって一線は引いてたよ。あんな過剰なやつでも。

 

でも彼女は違う。恐らくこのまま止めずにいると、親父が言う最後まで、という所までされる可能性がある。内容はよく分からないんだけど、とりあえず何か危機が迫ってる事だけは確かだ。

 

「…先生…

 

別のところも…触れてみますか…?」

 

あ…これはダメだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不安で早く来てみれば、やはりか…」

 

「あ…」

 

「っ…何時も何時もいい所で…」

 

俺の心の中の悲鳴に応えるように、部屋の扉が豪勢に開けられる。そこから顔を表したのは、ベレスのみであった。

 

余程焦ってきた様だが、その顔には一切の疲労のそれは見られなかった。…体力的には右に出るものは居ないのだろうか。

 

「お、おうベレス。もう話は終わったのか?」

 

「あぁ。あまり長居をする訳にも行かなかったのでな。兄さんが寂しい思いをする前に抜け出したかったのだが、何とか間に合ったようだな」

 

「…別に私が居るのですから寂しい思いはさせないと思いますが」

 

「…危険が伴うのだから寂しいを通り越して任せてられないだろう」

 

はい、奮闘記恒例、修羅場のお時間がやってまいりました。

…1回入れないと気が済まないのかな本当。

 

『それは言っちゃダメなやつだエリス』

 

お前はなぜこのタイミングで復活する!? 急に無言になるのマジでやめろ!!

 

『あ、あぁすまない。少し彼女に罪悪感が出てきてね』

 

は? …お前、頭でも打ったのか? お前とアイツは話したこと一度もないだろ?

 

『直接的じゃないさ。…君があまりにも鈍すぎるからこっちが恥ずかしいんだよ』

 

酷くね!? その罵倒はちょっと頂けないわ!

分かると思うけど俺物凄く狙われてるからね!? それで鈍いってどういう事よ!

 

『…意味を履き違えてる』

 

…?

 

「 …取り敢えず、もう私が来たから大丈夫だ。リシテアは帰っていいぞ」

 

「いえ? 先程エリス先生と寝るまでつ き っ き り で看病すると約束しました。なので私は帰ることが出来ません」

 

「…兄さん?」

 

「いや言ってねぇよ!? 言っ、ては無いけどなんというか、心配かけ過ぎたのもあって俺も何も言えなかったというか…」

 

「…だったら私もそうだ。リシテア。今日は申し訳ないが2人で看病するか。迷惑をかけられた者同士、協力しよう」

 

「…そうですね。乗り気ではありませんが、口車に乗りましょう」

 

…感覚覚えたなコイツら…。そしてお前は早く胸から降りろ…。

それだけ納得してないだろベレスも。

 

 

 

 

 

その後は当然の過保護で時が過ぎていった。俺には罪悪感というものがある為に抵抗をする事が出来ず、食事も体を拭くのも全て2人のサポート付きになった。

 

「…兄さん。はい。スープだ。良く口を開けて」

 

「い、いや一人で食べれるから」

「…食べるの」

 

「…あ、あーん」

 

「…美味しい?」

 

「…うん。美味しいデス…」

 

「! 良かった。なるべく健康を考えて作ったから、いっぱい食べて。私が最後の一滴まで食べさせてあげるから」

 

「…ゑ。そ、それはちょっと…」

 

「…駄目なの?」

 

「ゔぐっ…わ、わかったよ…」

 

 

 

「さ、先生。次はお肉ですよ。 食べやすいようにちゃんと細かく切ってあるので、ゆっくり食べていきましょうね」

 

「…なあ。これもう介護なんじゃないの?」

 

「…むぅ…ベレス先生のはあーんしたのに私にはしてくれないんですね…。私はなんでもいいんですか…?」

 

「あむうん美味いさすがリシテアだな良い子だ」

 

「! そ、そうですか! なら良かったです。じゃあお腹いっぱいになるまで食べましょうね! まだまだいっぱいありますから!」

 

「…おー」

 

 

 

 

「い、いやいやいやいや!! 服は自分で脱げるから!! 体は自分でやれるから!!」

 

「だめです。こんな魅力的な身体目に焼き付けたゲフンゲフン。

過度な動きは身体に悪いんですよ。さ、タオルを寄越してください」

 

「今目に焼きつけるとか何とか言ってたよな!? 誤魔化せてないからというかこんなガッリガリな身体の何処に魅力を感じんだ!!」

 

実際に俺の体はとても健康的とは言えない体つきだ。腕や足も骨に少しばかりの皮が付いているように細く、お腹周りも鎖骨が出ていてとても魅力を感じるようには見えない。

 

「…? 兄さんは何を言っているんだ? こんなにも美味しそ…華奢で可愛い体を見て魅力を感じないわけないじゃないか」

 

「そうですよ先生。瞳に映るだけで身体が壊れそうになるくらいの破壊力があるんですから」

 

「それ駄目なやつじゃないの!? あ、止めろ近づくなぁ!! 身体くらい一人で拭けるってあ、あ、ァァァァァァァヤメテェェェェェ!!」

 

右と左を挟まれ、俺はあられも無い姿にされて頭やら足やらをもみくちゃにされながら拭かれた。…さりげなく大事な場所をソフトタッチされた気がしなくもないんだが…。目を瞑るか。

 

「…拭けたよ。兄さん。隅から隅まで。…ふにふに…」

 

確信犯かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

止めろ此処健全を売りにしてるんだぞ!! いやどこ触ってるかこれじゃ伝わらないし多分俺の勘違いかもしれないけど!!

 

「…せ、先生どうしましょう…。触れてからずっと頭の中に友人の言っていた囁きが止まらないんです…!!」

 

止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 二つの意味で止めろォォォォォォォ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…散々だった…。世話を建前にしてやりたい放題された…。

俺、婿に行く時なんと言えば良いんだろうか…。

 

「そんな時はこない。と言うか、私がさせない」

 

「…なんでしょう先生。今物凄く胸の辺りがグツグツと煮えたぎっている感覚です。特にベレス先生を見ると物凄くいやーになります」

 

お二人共反応おかしくないですか!?

 

『君がおかしいんだいい加減この一通りのやつよしてくれないか!?』

 

そんな事を言われましても私にどうしろと!? 完全に振り回されてたの俺じゃないか!!

 

 

 

 

 

…はぁ。全く。二人同時に来られると疲労も2倍になるのか…。

俺をもみくちゃにした2人は、慌ただしく俺の世話をする事が一通り済んだのか、椅子に座りながら俺の様子を伺っている。

眠れるまで見守っているつもりなのだろうが、そんな獲物を狙う獣のような鋭い眼光で見てくるものだから目を閉じれるもんじゃない。

 

「…そんなにじっくりと見られても休めないんだが」

 

「兄さんに危険が迫った時にすぐ対処出来るように準備してるだけだ。気にしないでくれ」

 

「それを気にしないでいられるのは親父くらいなんだが?」

 

…そういえば、昔のベレスも良くベッドに横になってた俺の事を飽きもせずに見続けてたっけ…。

自分が眠くなるのも考えずに今のコイツらみたいに俺の世話をすることだけを考えてる所とか…あの頃のまんまじゃねぇか。

 

…いや、まさかな…。

 

「…そういや、ベレス」

 

「なに、兄さん。膝枕の方が寝やすかった?」

 

「いや、そういう訳じゃなくてな…ただ、レアの連絡事項について話して欲しいだけなんだが…」

 

「…レア?」

 

俺の疲労に振り回される視線を必死にベレスへと向けると、彼女はらしくもなく目を極端に細めて俺に対峙していた。

 

俺はこの目を、知っている。コイツが俺の質問にこの目で返してくる時は、大体周りのヤツら経由で俺に何か関連していることだと言うことを。

 

まぁ、何時もはアイツが何も訳を話さない時はなるべく触れないようにはしてるのだが、今回に至っては俺も知っておくべき事だからな…。

それに、明らかに先程までリシテアと啀み合いながら俺の世話をうきうきとやっていた時とは雰囲気が変わった。何かしら納得のいかないことかなにかがあったのは目に見えてる。

 

「別に俺はアイツらに何をお願いされようが構わねぇけどな。あ、でもそうしたらまた周りに心配かけちまうか…。あ、でも俺は」

「うん。そうだね。お願いだったよ。いつもと同じ、課題についてだった」

 

「…そっか。それで、何て?」

 

珍しい事もあるものだ、と心の奥でイージスと頷き合う。ベレスが俺の真面目な言葉を遮って自分の言葉を言ったことなんて、ここ最近なかった筈だ。

 

「…レアも大分反省してたみたい。今回兄さんには余り危ない事はやらせないって言ってた。修道院周辺の族の討伐だって」

 

「…レアが? ふぅん。珍しい事もあるものだな」

 

「そうなんですか。何か複雑ですけど、危険すぎる課題じゃなかった事はなんというか、ほっとしたような気がします」

 

まぁ、司教様も思う所があったんだろうよ。ロナートの件は甘かったけど、実際にせいほうきょーかい? の奴等に対して無慈悲なまでの裁きをやってたやつだぞ? いくら気にいられてるとはいえ、ただで俺の課題だけ軽くする、とか無さそうだしな…。

 

「…取り敢えずはこんな感じだよ。ほら、暫く兄さんは休んだ方がいい。私、タオル濡らしてくるから少し待ってて」

 

『…』

 

「…あぁ」

 

まぁ、そうだな。まだまだ病み上がりだし、傷の治りが意外と早かったのは助かったけどまだ身体に怠さはあるしな…。

ベレスが立ち上がる音と同時動作として、俺はしっかり定位置に身体を固定する。気を叩く音を耳に受けいれながら、俺は休みの為にその意識を…

 

 

 

 

 

 

「と、いけばお前は理想だったんだろうなベレス」

 

彼女を引き止める手へと集中させた。

 

「っ…?」

 

「ど、どうしたんですか先生? いきなりそんな起き上がったら…」

 

2人は目を見開いて行動者の俺を見る。行動は大した変化はない。が、

驚いた理由については全くの別物の筈だ。

 

「…話の中の幾つか変だとは思ったんだよ。あのアッシュに対しても遠回しに対処を仕向けたアイツが、俺の印象優先であの様な無茶振りをやったやつが、いくら反省したとはいえそんな余所余所しい課題なんか出すのか…? とかな」

 

「…でも、それも憶測だろう? 第一ジェラルトも言ってた通り、あの人は何を考えてるかわからない人だ。気が変わったりすることもおかしくは無いはず…」

 

「ま、そうだな。その線も有り得ることは有り得る…」

 

「…じゃあ」

「お前がやたらと俺との会話の主導権を持ちたがる時ってよ、大体俺に聞かれると不味い事があるっていうお前の癖忘れたわけじゃねぇよな?」

 

「っ!」

 

「…えっと、2人とも…?」

 

俺の急な切り替えについていけていない様だが、此処で何も言わないと本当に何も進展がないままで終わってしまう。そうなると俺が得するのではなく、何もかもが良くない方向へ向かうからだ。

 

俺がベレスの癖に対して鎌をかけたのは別にデタラメでもなんでもない。事実である事だし、何せあれはあの子の性格と、俺に対しての心情等からああなる事は必然であると既に断定してるからだ。

 

実際に傭兵時代もそうだったからだ。恐らく今回は、俺の事に頭が回りすぎて、自分の発言やら癖何やらに構っている暇がなかった結果なのだろう。

 

「…大方、またなにか重要任務を任されてたんだろ。けど、前回のようになる事に恐怖を覚えたから俺を外すように訴えた。…当たりだろ?」

 

「…何でそこまで…」

 

「ばーかお前コレが初回な訳ねぇからだろ? 同じような事あって俺と大喧嘩したの覚えてねぇのかよ」

 

そう。俺がここまでベレスの行動を把握しているのは、何もかもが数年前の出来事と同じ事が行われているからである。

勘違いしないで欲しいのが、ベレスは普段、ここまで単純な訳では無い。…俺とのスキンシップ?の時はかなり単純ではあるのだが、それはあくまで休憩としてであり、重要任務の際にはここまで単純な返答は無ぇけどな。

 

「懐かしいな。前はあれだっけか。そもそも敵と戦うこと自体に反対して親父に直談判しに行ってたっけな。あれよりはマシだけど、ここまで一緒なら俺の意見だって同じなこと分かってるだろ?

つい最近までは、一緒に行きたいって駄々こねてたばっかりなのに…反抗期少し早すぎるんじゃねぇの?」

 

「…確かに一緒に戦いたいのは変わらない。けど、兄さんは昔から無茶をする所、やっぱり変わってなかった。…次私が間に合わなくて、この前みたいな事になったら…私は今度こそ耐えられる自信が無い」

 

…。

 

「…だから兄さんは」

「…まっったくお前はよ…兄離れ出来ねぇくらいベッタリだなーと思ってたのに昔の事すっっかり抜け落ちてんのな…嫌な記憶はいっぱい覚えてんのに」

 

「…え?」

 

…参ったな。完全に一点を考えすぎて他のことに目が付けられなくなってる。過保護になるのはまだ分かるとして、ここまでになっちまうと次の話のステップへ進めるのが中々に厳しくなってきたぞ…。

 

「…私は、兄さんとの記憶で忘れてることなんか無い」

 

「…ベレス。お前こそ今日は帰って休め。話はそれからだ」

 

「! で、でも兄さんが」

 

「最近のお前は俺の事ばっかりなんだよ。少しは自分の事も見つめ直してみろ。

 

…そしたら、多分俺が頑なにお前の話に乗らないのにも気が付くだろうな」

 

俺がそう言うと、何処か腑に落ちない顔をしながら、ベレスはとぼとぼと扉に手をかけた。

 

「…本当に大丈夫…?」

 

「はいはい分かったから。1回お前は俺の事を頭から離しなさいな!」

 

後ろ髪引かれる様に帰るその姿に、罪悪感しか浮かばないがここで引き止めれば彼女の過保護に拍車をかけてしまうため、今回はここでお開きにすることにした。

 

「…さて、リシテアもそろそろ…」

 

「今の先生を1人に出来ると思いますか?」

 

「…まぁ、そうだよな…」

 

まるでシルヴァンに説教をするイングリットの様な笑顔を振りまきながら、リシテアは俺の部屋から出て行くことを拒否する。

…まぁ、付きっきりで看病すると言われちまったからな。眠るまでお世話になるとしよう。

 

「…先生、なんで今更ながらベレス先生にあんな事を言ったのですか? …そこまで優先にされることに悪い気は感じてなかったはずですが…」

 

「…ん? あー…まぁ、普段のアレはあの子のスキンシップとして捉えてるし、あのままでいいんだけどよ…。休暇中だけに限った話じゃねぇからだな。まぁ、察してくれ」

 

「…成程、確かに四六時中の話ですからね。納得しました」

 

『まぁそうなのだろうけど、今の君はかなり矛盾しているよ? それは自覚してるのかい?』

 

…まぁな。我儘だと捉えられても仕方ないとは思う。けど、明らかに今のままだとベレスは前の状態に戻っちまうと考えたからな…。

だから、少しだけ、アイツには兄離れと記憶巡りを体験してもらうつもりで…な?

 

『…あんまり自重しないと父親に蹴り飛ばされるよ…?』

 

…まぁ、親父には間違いなくドヤされるだろうが…。納得はしてくれる筈だ。あの人はずっと俺達を見守ってきたし、関わっても来たからな。…多分俺が親父なら納得する。

 

「…じゃ、おれはそろそろ寝るわ。良さそうだったらお前も寝ていいからな。自分の部屋で」

 

「はい。おやすみなさい先生。朝食はとびきり美味しいのを御用意しておきますね」

 

「…居座る気なのは分かったのでもう突っ込まねぇ。おやすみ」

 

 

突っ込む気も失せた俺は、イージスの声も濁るまでに意識を夢へと誘い、明日への準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その明日にはまた騒動が構えている事になるのだが、それをどう進めるのかはエリス達次第となる。

 




こういう展開になると大体ギクシャクしてしばらく顔を合わせないのですが、エリス君もなんやかんや言って妹を大事にしているので、なるべく刺激せずに休む事を要請してます。(あれ? 意外と酷いような…)


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